法制審議会信託法部会第35回会議 議事録





 
 
第1 日 時  平成28年11月1日(火)   自 午後1時30分
                        至 午後5時08分
 
第2 場 所  法務省第1会議室
 
第3 議 題    公益信託法の見直しに関する論点の検討
 
第4 議 事 (次のとおり)
 
議        事
○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第35回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。
  本日は,小川委員,稲垣幹事,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席でいらっしゃいます。
  まず,本日の会議資料の確認を事務当局からお願いします。
○中辻幹事 お手元の資料について御確認いただければと存じます。前回,部会資料34「公益信託法の見直しに関する論点の検討(3)」を配布しておりますが,本日はそれを用いて,前回積み残しとなった部会資料34の21ページ「公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」の項目以降について御審議いただくことを予定しております。
  それから,今回新たに配布する資料として,部会資料35「公益信託法の見直しに関する論点の検討(4)」を事前に送付させていただきました。
  また,本日は,内閣府の明渡関係官から,公益法人制度における不可欠特定財産の認定基準の認定基準の運用状況について御説明を頂けるということで,そのための資料を机上配布しております。
  以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  本日は,前回積み残しになりました部会資料34の第4の3及び4,並びに部会資料35について御審議いただく予定です。まず,部会資料34のうちの第4の3と4を御審議いただき,続いて部会資料35の第1から順に御審議いただきまして,午後3時頃をめどに,適宜休憩をとることを予定しています。その後,部会資料35の残りの部分を御審議いただきたいと思います。
  そこで,本日の審議に入りますが,前回御審議いただきました部会資料34の第1の4の「不可欠特定信託財産の処分制限等」に関しまして,ただいま御紹介のありましたように,明渡関係官から公益法人制度における不可欠特定財産の認定基準の運用状況について御説明していただけると伺っています。明渡関係官,お願いいたします。
○明渡関係官 お手元にお配りしております横紙,青が入っている紙でございます。「公益法人制度における不可欠特定財産について」というペーパーに基づきまして簡潔に説明いたします。
  改めてでございますけれども,上段の青枠に公益法人制度における不可欠特定財産について記載しております。認定基準の一つとして掲載しておりまして,具体的な例としては,美術品,文化的価値がある建造物等がこれに当たるという形になっております。
  中段の左側でございますけれども,目的といたしまして,設立者・寄附者の意思を尊重する観点から,公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産の安易な処分を防止するためのものになっております。下に字の大きさを変えて書いておりますけれども,目的は安易な処分の防止というようなことでありますので,必要な手続を踏めば,不可欠特定財産の方から外すことは可能という形になっております。
  1ページおめくりいただきますと,「定款における不可欠特定財産の定め(例)」という資料を付けております。こちらの方は典型的な例として,定款を挙げているものでありますけれども,2項の一番最後の部分,「基本財産から除外しようとする時は,あらかじめ理事会及び評議員会の承認を要する。」と,こういうふうな規定が設けられているというのが一般的なものかと考えております。
  お戻りいたしまして,1ページ目の中段の右側,効果というところでございます。不可欠特定財産の効果の大きなものとしては,公益認定が取り消された場合に影響してくるものでございます。公益認定が取り消された場合には,公益目的取得財産残額に相当する財産を他の公益法人等に贈与する必要があるというような規定になっております。しかしながら,この財産残額を計算する際には公益認定前に取得した不可欠特定財産については除外するという形になっておりますので,例えば一般財団法人○○美術館という時代に取得した財産については,その後,公益認定を受けて,しばらくたってから取り消されるというようなことがあっても,当該財産を残せる可能性は高いというような形になるのだろうと思っております。
  一番最後,下のところですけれども,認定審査時の現状ということでありますけれども,一般に審査するのは,本当に不可欠特定財産に当たるのか,そちらの方に記載されているものが不可欠特定財産に当たるのかというのを確認するというのが基本となっているかと思います。時たま,ただのという言い方は変ですけれども,通常の土地等がこちらの方に掲載されていたりすると,これが本当に不可欠特定財産に当たるのかというのを見ていくというふうなことが中心になっていると認識しております。この問題につきまして,内閣府の公益認定等委員会における審査であったり,各都道府県の審議会がございますけれども,そういった中での議論においても,大きな問題となっているというようなことはあまり耳にしてはおりません。
  実際に書類上どうなっているのかというのが3枚目でございます。こちらの方は財産目録というような書類がありまして,そちらの方に載ってくるというふうなことになっています。不可欠特定財産という場合は,固定資産の基本財産というところに掲載されるのが通常であります。美術品だからといって,全てをこちらの方に計上しなくてはいけないというようにはなっておりません。それ以外の美術品については下の特定資産というところにもありまして,こちらの方に分類されているというようなものも多数ございます。
  実際の法人の方を見てみますと,よく名前を聞く有名な法人ですけれども,美術品の点数でいいますと,基本財産として挙げているものよりも特定資産の方に挙げているものが圧倒的に多いというような形で,二,三,例を見ますとなっておりました。ある法人においては基本財産になっているものが200点程度,特定資産になっているものは7,000点程度ございました。もう一つ見ますと,基本財産は80点程度,特定資産の方は1,200点程度というような形でなっておりまして,美術品だからといって全てを基本財産,不可欠特定財産の方に入れるというような運用にもなっていないというような現状でございます。
  私からの報告は以上でございます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  引き続いての御審議の参考にしていただければと存じます。今の時点で御質問などはございますでしょうか。
○沖野幹事 御説明をありがとうございます。
  十分な基礎知識がないものですから教えていただきたいということがあります。審査時の現状として不可欠特定財産として記載されたものが本当にそれに当たるのかの確認が基本的に問題になるということなんですけれども,逆のことはないのでしょうか。ここに記載されていない,例えば特定資産の方に分類されているんだけれども,これは不可欠特定財産の方に入るべきではないのかというような形で問題になることはないのかというのが一つ目です。
  二つ目ですけれども,効果のところで公益認定前に取得した,ですので,一般法人の段階で取得したような不可欠特定財産は,他の公益法人等に贈与する算定額から外すことができると理解したのですけれども,としますと,特定資産の方はこの残額に入ってき,それに相当するものは他の公益法人に贈与等をする必要があるということになるのでしょうか。そうだとしますと,考え方ですけれども,不可欠特定財産というイメージからは公益目的事業を行うために不可欠な財産であると考え,認定が取り消された場合に公益事業のためにはそれが不可欠な財産であると考えられるものは手元に置いておけて,そうでない財産は他の法人への贈与の額に入ってくるという扱いになりそうなんですけれども,そういうことなのでしょうか。以上です。
○明渡関係官 まず,1点目でございますけれども,逆の方はないのか,こちらの方の特定資産に入っているものを不可欠特定財産の方に入れるべきではないかというふうな議論がないのかといいますと,それは聞いたことがないというのが正確なところです。全国47都道府県に審議会がありますので,こういった観点について押しなべて調べているというふうなデータがありませんので,そういった意味では正確なものではないんですけれども,特定資産の方に変えるというふうなことで問題になったり,困っているというような話を聞いたことはないというのが現状でございます。
  後者ですが,残りの二つの点につきましては,特定資産というような形の方に計上されますと,計算上は公益目的財産残額から除外することにはならないということですので,そこの部分というのは金額としては残るといいますか,移さなければいけない金額の方に計算されるというような形になります。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
○道垣内委員 同じ質問なのですが,公益法人のときの『一問一答』とかを見ますと,そこには不可欠特定財産がある場合に,その安易な処分を認めると当該事業の実施に支障が生じるおそれがある,だから,不可欠特定財産という制度を制定するのだと説明されているわけですが,運用の方としては,どちらかというと,当該公益目的の実施に不可欠であるというよりも,終了時の処理等の観点から考えるという運用がされているということでしょうか。
○明渡関係官 どちらかというと,その財産を不可欠特定財産に含めるのかどうかというのはむしろ法人側がどうしたいのかというのが実態だろうと思います。どこまでが本当に当該法人の事業の運営に不可欠かというふうなものを,なかなか,行政の方で,こうしろ,ああしろというふうな形にはなっていないだろうと思います。ただ,元々の趣旨からいうと,いかにもこれを不可欠特定財産として入れておくのはいかがかというふうなものが見受けられた場合に,それはどうなのでしょうかと審査しているというようなことになっているのだろうと考えております。
○中田部会長 まだ,御質問等があるかもしれませんけれども,今日の審議がたくさんありますので,この程度で先に進めさせていただいてよろしいでしょうか。
  それでは,部会資料34の「第4 公益信託と目的信託との関係」の3と4につきまして御審議をお願いいたします。前回,事務当局からの御説明を伺っていますので,直接御意見を頂くことにしたいと思います。まず,「3 公益信託の設定前に目的信託の設定の前置を必要とするか否か」について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○平川委員 前回申し上げましたとおり,公益信託は目的信託の一類型ではないという整理の論理的帰結としても,目的信託の前置は不必要であると考えます。
○道垣内委員 私は,公益信託は目的信託の一類型であるという理解の下で,前置は不要だと思います。
○林幹事 弁護士会の議論では,理解の仕方はさておき,前置を不要というのに賛成でした。専ら一類型だという前提の下に議論したとは思いますけれども,いずれにせよということです。
○中田部会長 ありがとうございました。
  いずれも前置は不要だという御意見が続きましたが,前置が必要だという方はいらっしゃいますでしょうか。
  それでは,この点につきましては前置不要ということで取りまとめさせていただきます。
  続きまして,「4 既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうか」についてはいかがでしょうか。
○沖野幹事 質問ですけれども,この問題なんですけれども,既存の他の信託が公益信託の認定を受けることを許容するかどうかというのは,仮に新しい立法になったときのその後の問題として,まず,公益信託以外で作っておいて,それを更に公益信託にする,あるいは最初は別のもので作っておいて,ある段階から認定を受けるようにすることを最初から組み込んでおくという,新しい規律の中で切り替えを可能にするというもの,最初は目的信託でその後に公益信託にするとか,最初は私益で後に公益にするとか,そういう一種,ハイブリッド的なものを認めるかどうかが問われているのか,それとも,経過措置的に,今いろいろあるものがあって,それについて認定を受けることを認めるかということが問われているのかというのが気になりまして,これは前者なのでしょうか。
○中辻幹事 事務局としては前者で考えておりました。現在は,公益信託法2条1項が存在することにより,公益を目的とする信託は,主務官庁の許可を受けなければ無効であるという解釈があり得るのですが,部会資料34のこの部分では,仮に公益信託法2条1項を廃止した場合において,新たな制度の下で設定された,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする他の信託が公益信託成りすることを可能とするか否かという観点から主に検討しております。もっとも,後者のように,現在ある既存の信託について経過措置的に公益信託の認定を受けられるようにすることも検討していく必要はあると思います。
○能見委員 今の沖野幹事の御意見を誤解しているかもしれませんけれども,私も二つの場合があると思うのですが,一つは最初から計画的に当初は私益信託を設定して,一定の段階から公益信託に変えるというもので,そういう計画の下で私益信託が公益信託に変わるというタイプと,それから,もう一つは,そういう計画的なものではなくて,ずっと私益信託で実質的に公益的な活動をすることをしてきたけれども,今度,公益信託に変えたいと考えるようになって,いわば偶発的な契機で公益信託に変更したいというタイプです。この二つは大分違う問題なんだと思うのです。この部分に関する部会資料の説明を前回は読んできたんですが,今回は読んでこなかったので,内容を詳しく覚えていませんけれども,最初から計画的に私益信託から公益信託に変更するという問題は,逆のパターン,公益信託から私益信託へ変更するというパターンもあるでしょうし,これらはもう1つのタイプとは区別して別の問題として考えるのがよいと思います。
  そこで,ここでは,そういう計画的な変更で公益信託に変える場合ではなくて,偶発的な事情で公益信託に変えたいという場合に,このような変更を認めることができるかという場合を考えるべきかと思います。このような問題として考えたときにどうするかということですけれども,私としてはいろいろ手当は必要なんでしょうけれども,甲・乙いずれも認めるということになると,丙になるのでしょうか,この立場がよろしいのではないかと思います。
  それから,どんな手当を設ける必要があるかという点については,これを認めるという方針が決まってからいろいろ考えればよいと思います。それから,公益信託への移行という点についてもう一つ述べておきたいことがあります。話がいろいろとごちゃごちゃしますけれども,現在,ここで議論しているのは,既存の私益信託あるいは目的信託が,ある意味で同一の信託であることを継続しながら,公益信託の認定を受けて公益信託に変わるというタイプを考えていると思いますが,これと異なり,現在ある私益信託などが公益信託に変わろうと考えた段階で,この私益信託を残したままで,別に公益信託を作ってしまい,今までの私益信託から別に設立された公益信託に,信託財産を移転し,その上で私益信託は終了させるという方法が考えられます。アメリカで検討されているデカンタと言う方法です。これを私益信託から公益信託への移行にも応用するわけです。このように既存の信託からの公益信託への移行にはいろいろなタイプのものがあるので,どういうタイプをここで検討するのかということを整理した方がいいだろうと思います。その上で,私としてはできれば移行は認めるという方針でいくのがいいのではないかと思います。
○深山委員 私も,移行については柔軟に可能性を認める,ゴシックの提案の中でいえば丙案を支持したいと思います。既に能見委員あるいは沖野幹事が御指摘のように,いろいろな場面があって,確かに多少,考慮すべきことが違う要素もあるような気は私もするんですが,しかし,途中から公益信託への移行の可能性を認めるという立場を採るのであれば,結論としては同じような一つの規律で整理できるのではないかと基本的には考えています。能見委員が御指摘のように,最初から計画的なものと後にその気になった場合があり得るというのはそのとおりだと思うんですが,しかし,その限界というのは非常に微妙でして,当初から可能性としてはあり得るけれども,当面は考えていないというような,その中間的なものもあろうかと思いますので,最初から計画していたかどうかによってまるっきり区別する必要はないのではないか,あるいはそれは難しいのではないかと思います。
  途中から変えることを制限的に考えるのであれば,最初から計画していたときだけは切り替えを認めるというようなルールもあるのでしょうけれども,私はそこまで厳しくする必要はなくて,計画的な場合であれ,その後その気になった場合であれ,今回,ここで議論している公益認定の要件ないし認定基準を満たすのであれば,いずれにしても移行を認めていいだろうと考えます。沖野幹事が御指摘の,現行法の信託からの移行はどうかという点は,これも,要は新しい公益信託の規律における公益認定の要件を満たすのであれば,それは認められるということだろうと思います。
  更に残る問題を考えるとしたら,既存の公益信託と新しいルールの下での公益信託とが,認定要件がずれてきたときに,既存の公益信託はどうなるのかという問題は残るような気がいたします。これを同じように新しいルールができたのだから,新しいルールで認定を受けなければいけないとすると厳しいところが出てくるのかもしれない。そこは経過措置的に何か手当をする必要があるのかもしれないなと思っております。
○樋口委員 今の議論を聞いていて,アメリカで認められている信託について考えました。私益と公益をミックスしたタイプの信託のことですが,こういうものはアメリカでは認められていても,日本ではそもそも議論になることはないんだなと勝手に思っていたのがそうでないのかもしれない。それは私の誤解かもしれないということなんですけれども,アメリカではチャリタブル・リード・トラストというのとチャリタブル・リメインダー・トラストというのがあるわけです。
  チャリタブル・リード・トラストというのはチャリタブルの方が先にくるというわけなので,例えば私が大きい空地を持っていて,私自身はその空地を今のところ,使う予定もないから,それを公園で,あるいは遊び場で誰にでもとにかく使ってもらいたいという形で,しかし,ずっとというわけにはいかない。だから,10年とか20年はそういう形で公益的に使ってもらいたいけれども,20年がたったらまた元へ戻って私の子どもか孫か何かがそれを使って何とかというようなこと,これは一番初めから計画してやるタイプのチャリタブル・リード・トラストというものなんですけれども,逆にチャリタブル・リメインダー・トラストというのは,初めに私益信託で10年間だけはここから自分の子どものために実益を上げておきたい,しかし,子どもも10年たてば大きくなるので,その後はこの財産を公益のために使うというようなものが認められているわけです。
  それで,税法上は公益に充てられた部分だけ税法上の効果を付けてあげようということになります。それによって,そういうインセンティブを,つまり,そんな中途半端なことはやるなよと言われそうなんですけれども,私的な利益というのと公的な利益と両方をとにかく実現したいという人もいるという話で,今日の今の話はどうも何かそういうことが日本でももしかしたら可能性があるのかなという感じがしたんですけれども,誤解でなければいいと思っているんです。
○新井委員 結論的には丙案を支持したいと思います。公益を目的とする目的信託というのは,今回は無効にはしない,有効という扱いになりますので,そういう公益を目的とする目的信託が公益信託の要件を満たすのであれば,それは公益信託として承認していいだろうと思います。それで,私益信託であっても公益の要件を満たした場合には公益と認定するというのは私益信託から公益信託の転換が非常に重要であろうという意味もありますので,これもいいだろうということで丙案を支持したいと思います。
  それで,一度,公益信託になったものが再び目的信託なり,私益信託に転換できるか。今,正に樋口委員の御指摘になった点ですが,私はこれは認めない方がいいと思います。なぜかというと,一度,公益信託になった以上は社会全体に出えんしたと考えた方がいいでしょうし,更に公益信託がまた目的信託になったり,公益信託が私益信託になったときの法律関係が非常に複雑になるということで,目的信託から公益信託への転換,それから,私益信託から目的信託への転換は可能ですけれども,一度,公益信託になったものは更なる転換は認めないと私は考えたいと思います。
○中田部会長 ほかに。
○林幹事 弁護士会の意見としては,深山委員が述べたように丙案ですが,参考までに,弁護士会の議論で出た具体例として,特定の病気に罹患しているAさんのために私益信託を設定していたけれども,一定の時期以後には,Aさんだけではなくて,ほかの同じ病気の人たちに対する信託としたいので,公益信託に移行するというものがありました。こうした事例はこの論点に適した事案だと思います。
  それから,ここでは私益信託から公益信託への場合を専ら議論していますけれども,その逆はどうなるのかという議論が弁護士会でもありました。それで質問ですが,その論点は,後に別のところで議論するという前提なのか,確認させていただければと思います。
○中辻幹事 公益から私益への転換というのは,別にまた議論させていただければと思っております。
○中田部会長 24ページの下の方にあるのがそれですかね。
○中辻幹事 そうです。
○吉谷委員 私益信託や目的信託から公益信託に転換するということに異議を唱えるつもりはないのですけれども,結論としては丁案であるということです。今,お話を聞いておりましても,どうして信託を終了して再度,公益信託を設定しないといけないのかという理由が私には全く分からなかったんです。実務的な考え方からいうと,変更手続というものをするよりも終了して新規のものを作ることに,何かプラスアルファの手間があるとは余り思えなく,制度にいろいろな道を設けるということが利便性を向上させるかというと,必ずしもそんなことはなくて,逆に使う側はどれを使うんだろうと迷ってしまうと思うんです。ですので,終了して新規という方法を採ることができないような類型があるのであれば,それのためにこのような制度を認めてあげてもいいのかも知れないんですけれども,そのような例を思い付きませんでしたので,丁案賛成とさせていただきます。
○道垣内委員 どれに賛成というわけではありませんが,乙案について一言だけ申し上げたいと思います。信託目的の変更というものは,委託者,受託者,受益者の合意があればできるわけですよね。そうすると,それが「実質的に公益」というのは本当はよく分かりませんで,特定の受益者がいるのに,なぜ,実質的に公益になり得るのかというのがよく分からないんですけれども,技術的には,どんな私益信託であっても公益に目的を変更するとともに,信託法258条3項に関わらず,受益者の定めというものを廃止でき,かつ公益認定の申請ができるという制度を考えることになるのかなという気がしております。したがって,乙案が実質的に公益を目的とするということの意味もよく分かりませんし,また,公益信託の認定を受けることと同時に,受益者の定めを廃止するということが258条3項の例外として認められると,技術的には整理されるのではないかと思います。乙案だけですと具体的にどういう手続なのかが分かりにくいかなと思いました。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私も深山委員とほぼ同じで丙案に賛成します。公益信託法は多様な公益への取組を許容して柔軟に対応することにより,公益活動の促進を図ることが望ましいと考えますので,入口は自由で,甲案のような公益を目的として設定された認定を受けていない公益信託や,乙案のような実質的公益目的の私益信託も,信託行為の変更と公益認定基準を満たす信託とした上で公益信託認定を受けることを許容するのが,柔軟な公益活動の促進につながると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほどの吉谷委員の終了すればよいという点ですが,終了することがふさわしい場合もあるかもしれませんが,また敢えて私が申し上げる必要もないのかもしれませんけれども,当初信託設定の目的が,先ほど幾つか林幹事が挙げた事例の中には,当初私益といいますか,ある特定のがん患者のためで,その後,公益という事例がありましたが,それは気持ちが変ったというよりも,当初から信託設定の目的だったと思います。またその後,委託者たるその方が亡くなっているということも考えられ,そのときは再度信託を設定することは難しく,さらに委託者が存命しているか,していないかということにかかわらず,そういう信託というのはあり得ると思います。
○神田委員 確認的というか,今の点とも関連するのですが,先ほど樋口委員がおっしゃった例というか,能見委員が最初におっしゃった言葉でいうと偶発的でないというか,当初,委託者が10年間私益で,あと,10年たったら公益,あるいは逆に先に10年間公益で,あと,私益というものは,一番最初に設定するときに認定してもらわないと困るのではないでしょうか。10年たってから認定を求めなさいと言われたって生きている保証はありませんし,逆に公益から入った場合も10年たってやめればいいでしょうといっても,やめるときに自分はいないかもしれないわけですから。そういうことでいうと,入口で全部一括して一部公益というのですかね,何というのかよく分かりませんけれども,設定する時点で認定をしてもらわないと困ると思います。そういうものも認めないということなのか,何らかの条件の下で認めるのかということは,はっきりさせた方がいいと思います。
○樋口委員 吉谷委員の言う実務的な観点というのは,私も理解できるところなんですけれども,2点あって,一番初めに,結局,決めておくということが,ある場合に重要なことがあるわけです。変更あるいは終了で対処すればいいではないかといったって,10年先には先ほど小野委員も言っておられたように,自分は生きているかどうかも分からないわけです。この時点でこういう仕組みを作っておきたい。これは現時点で確定するわけです,その意味では。10年間の公益とか,あるいは10年間の私益とか,その後はという形で,そういうものを認めるかどうかというのは一つの考え,どういう態度をとるのかということで,そういうのはアメリカでは認められているという紹介を申し上げただけです。
  それから,終了すればいいかというのは,つまり,10年後に生きているかどうかは分からないというのと,もう一つ,終了するというのはすごく私はコストが掛かると思うんです。信託財産をその段階で何らかの形で処分せざるを得ないかもしれないし,今まで運用していたものを何かでやめないといけないのかもしれないから,実務的に考えても,そうではなくて運用はそのまま流しておいて,目的が今度は変わったんですよという形のものにするという実務的利益はあるんじゃないかなと,終了すればいいではないかということではないのではないかと,実務家でない私が言うのも説得力がないんですけれども,そう感じました。
○能見委員 今,樋口委員が言われたことを私も言いたかったのですが,私の言葉で言い換えますと,既存の信託がそのまま公益信託に変わる場合と,一旦,終了させて新たに公益信託を立ち上げる場合とで一番違うのは信託を清算するかどうかというところだと思います。今までの信託,助成型の公益信託の場合には債務を負っているということは余りないでしょうけれども,事業型の公益信託というのが出てくるとなると,英米などで現実にどの程度,そういうものがあるか分かりませんけれども,事業を行う上でいろいろ債務を負担している場合もあるのではないかという気がいたします。行政機関等による監督がある公益信託の場合には債務超過になることはあまりなく,債務はあっても積極財産の方も多いのでしょうけれども,他のタイプの信託に変更するためには,一旦,これを清算しろということになると,今,樋口委員が言われたように積極財産を処分しなければいけないことになる。これをしなくても既存の信託を公益信託に,あるいはその逆に変えられるという方法があるということは非常に重要なメリットではないかと思います。
○吉谷委員 樋口委員がおっしゃった事例というのは,そういうこともあるのかなとは思ったんですけれども,そうすると,逆に10年先の公益認定を今のうちにできるのかというような問題が出てくるのではないかなと,まず,思いました。ですので,そういう問題をクリアする必要があるということかと思いました。あと,清算の手続のところなんですけれども,必ずしも資産とか債務とかを処分したりする必要もないのではないかなとは思っております。そういうものは私どもの経験では,それほどにはないのではないかと思っておりますので,実際に事業型でどういう場合にはそういうことが必要なんだということをもうちょっと突き詰めて検討した方がいいのではないかなと思います。ですので,私どもの考え方は余り必要でない制度を作ってしまうことは無駄なので,法的に同じ信託でないとできないということなのであれば許容すべきかもしれないけれども,そういうニーズが本当にあるんだろうかということをお聞きしているということでございます。
○中田部会長 関連する御意見がもしないようでしたら,山本委員,お願いしたいと思います。
○山本委員 少し戻って,道垣内委員がおっしゃられたことでおそらく示されているのだろうと思うのですが,乙案の内容について確認させていただければと思います。この考え方に従って規定を設ける場合に,実質的に公益を目的とする私益信託であることが,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることの要件になるように見えるわけなのですけれども,そのような意図でこれは書かれているのか。それとも,信託の変更を経て公益信託の認定を受けることができるようなものは,元々,実質的に公益を目的とする私益信託だったのだろうということを表現しているだけなのか。この点が少し分からなかったものですので,確認をさせていただければと思います。
○中田部会長 先ほど道垣内委員から御指摘いただいた点,信託法258条3項の例外規定を設けることになるのかどうかという点も併せて御説明いただけますでしょうか。
○中辻幹事 事務局としましては,乙案を採る場合には信託法258条3項の例外規定を公益信託について設けた上で,受益者の定めはあるが実質的に公益を目的とする私益信託を受益者の定めのない信託に変更すると同時に,その時点で公益信託の認定を受けることを可能にするということを考えておりました。実質的に公益を目的とするという言葉の外縁は不明確で認定時における判断が難しいかもしれませんので,道垣内委員と山本委員の御指摘を踏まえて,引き続き検討したいと思います。なお,私どもとしては,全ての私益信託が公益信託成りできるようにすることまでは想定しておりませんでした。先ほど林幹事が例として挙げられた一人の患者の方のために私益信託を設定したような場合は,公益に近いケースもあるのでしょうけれども,純粋私益の信託が公益信託の認定を受けることを可能とすることまでは想定していなかったということです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 今の山本委員の質問と中辻幹事の最後の説明は,何となくずれを生じたような気がするんですが。結局,実際問題としては全ての私益信託が公益信託になり得るわけではないということを言っているだけで,最初から実質的な公益信託であることを言わば要件として,そのようなものについての転換のことだけを想定しているわけではないということでいいのだろうと私は思っているんです。お答えの趣旨なんですけれども,結果としてそうなるということであって,元々,実質的に公益を目的としたということを要件にはしていないということでよろしいんですよね。多分,そういう御質問だったと思うんですけれども。
○中辻幹事 そのような理解もありうるとは思いますけれども,私どもが事前に検討している段階では純粋私益の信託が公益信託成りすることまでを認めるニーズというのはないが,実質的に公益を目的とする私益信託が公益信託成りするニーズはあるかもしれないと,そうであるならば,実質的に公益を目的とするか否かまでを含めて,公益信託の認定の段階で認定機関が判断して公益信託成りを許容することもあり得るのかなと考えておりました。ただし,なかなか,そこまで含めて公益信託の認定機関が判断を行うのは現実的には難しいということであれば,信託の変更を経て公益信託の認定を受けられた信託が,結果的に見れば,後戻りしてもともと実質的に公益を目的とする私益信託だったということになり,実質的に公益を目的としていたか否かは転換の要件としては不要になるという理解もあり得るということなのだろうかと思います。
○深山委員 しつこくてすみません。例えば先ほど林幹事が言ったように,最初は自分の息子,がんにかかった息子のために使うために財産を拠出し,それを例えば亡くなった後はがん患者一般のために使うというのは,元々は確かに純粋に私益といえば私益なんだと思います。そういう純粋私益のものであっても,今までは私益でしたけれども,明日からは純粋公益にしますというような,そういう移行を考えたときには,元々が私益であったとしても,明日から純粋公益になるということでその要件を満たすのであれば,狭き門かどうかはともかくとして,理論的には純粋私益から純粋公益への転換もあり得るという制度でいいのではないかなと私は思っていますので,要件ではないですよねという確認をしたかったんです。
○中辻幹事 深山委員の御意見はよく分かりました。ただ,事務局で乙案を事前に検討していた段階では,部会資料34の24ページの中ほどにも例として挙げておりますけれども,委託者が受益者を兼ねている歴史的建造物の保存を目的とする私益信託,例えば京町屋の保存を目的とする私益信託が公益信託成りすることを想定しており,林幹事が例として挙げられた一人の患者の方のための私益信託が公益信託成りすることまでは考えていなかったということです。ですから,林幹事と深山委員の御意見を否定しようとは全く思っておりませんけれども,実質的に公益を目的としていた私益信託であることを公益信託への転換の要件とするかも含めて引き続き検討させていただければと思います。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。では,この点につきましては様々な御意見を頂きました。また,乙案の言う公益的私益信託よりももっと広げるという案も出たところですけれども,それらも含めて更に検討を進めたいと思います。
  それでは,部会資料35に進みます。第1の「公益信託の監督・ガバナンスの全体像」と「第2 公益信託の受託者」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  まず,「第1 公益信託の監督・ガバナンスの全体像」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託関係人による自立的な監督・ガバナンスの仕組みを確保した上で,それを公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関が監督するものとすることでどうか。」という提案をしております。
  公益信託の監督について,公益法人制度改革の趣旨を踏まえて公益信託を民間による自律的な公益活動と位置付けてこれを促進しようとするのであれば,まずは公益信託内部の信託関係人による自律的な監督・ガバナンスの仕組みを確保することになると考えられます。他方で,公益信託の認定の実効性を確保するためには,公益信託の認定を行う外部の第三者機関が認定後引き続き公益信託の監督を行う必要性が認められることから,現在の公益法人の仕組みも参考として,公益信託の監督に関する権限を公益信託の認定を行う行政庁等の外部の第三者機関に持たせることを提案しております。
  続いて,「第2 公益信託の受託者」について御説明いたします。本文では,「公益信託の受託者の権限・義務・責任は,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とすることでどうか。」という提案をしております。
  受託者は,信託の定義上必須の信託関係人に位置付けられるところ,その位置付けは受益者の定めの有無により異なるものではございませんので,受益者の定めのある信託に関する信託法の規律は,基本的には公益信託の受託者にも適用されるべきであると考えられます。また,信託法第260条第1項は,目的信託の受託者の義務を受益者の定めのある信託よりも加重しておりますが,公益信託を目的信託の一類型として位置付けるか否かにかかわらず,受益者が存在しないために受託者に対する監督が十分に機能しないおそれがあるという点では,公益信託と目的信託とで共通するところがございますので,目的信託の受託者に関する信託法第260条第1項の特例も,公益信託の受託者に適用すべきであると考えまして,このような提案をしております。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきたいと思います。まず,第1,これは概要のようなものですけれども,これについていかがでしょうか。
○平川委員 基本的に賛成いたします。すなわち,民間による公益活動の受け皿とするために公益信託制度を活用するという観点から,信託関係人による自律的な監督やガバナンスの仕組みを構築しつつ,公益信託の立上げにおいて認定を行う外部の第三者機関が補足的に公益信託の監督の一部を担うということにより,公益信託のガバナンスを揺るぎないものにするという考え方に賛成するものです。特に公益法人同様の税制整備を目指す観点から,税制に耐えられるような自律的な規律を念頭に置くべきであると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 公益信託の関係による内部的,自律的なガバナンスの仕組みを確保するという提案に賛成いたします。更に今回の全体の議論にも係るところかとは思っておるんですけれども,資料でいいますと3ページの(注)のところに,助成型と事業型の区別あるいは受託者の属性によって認定や監督の取扱いが区別される可能性があると書かれているところについて,まず,コメントしたいと思います。現状の公益信託では信託銀行が受託者となることによりまして,主務官庁の強い監督権限が現実には行使されていなくても成り立っているということがございますので,それをまず改めて御認識いただければと思います。
  その上で,信託兼営法という金融規制の枠組みにより活動している信託銀行が受託者であると,信託目的に沿った運営であることが受託者の内部で重層的にチェックをされている。それによって運営委員会の助言によって助成を実施し,信託管理人が事後的な検証をするということで十分であると主務官庁からも考えられているんだと理解しております。ですので,今後も助成型の公益信託を信託銀行が行う場合には,同様の体制で十分であると考えております。これがいたずらに重装備になることは望ましくないと考えておりますので,(注)の考え方というのはあり得るものだと考えております。
  この後の議論で,信託協会としては,信託管理人が監督を行い,委託者の監督は任意のものであって,運営委員会は助言機関として任意に設置するということを主張していくつもりでありますけれども,気になっておりますのは,本日議論されていることがガバナンスとして最低限の必要な枠組みでありまして,受託者の属性や公益事業の内容によっては信託管理人などが財産の使用や管理の状況を厳しくチェックするということが必要な場合もあるだろうと考えます。そのような場合には,例えば現状のようにボランティア的な信託管理人が一人というようなもので足りるのかどうかということも問題になってくると思います。ですので,それぞれの公益信託の受託者が自律的なガバナンス体制というのを構築して,それが機能するということを証明して,第三者機関が納得できるようにしていくという必要があるのではないかと考える次第です。
○中田部会長 個別的な論点についてはまた御検討いただくことにしまして,第1につきましてはこの程度でよろしいでしょうか。
  それでは,第2に進ませていただきます。「第2 公益信託の受託者」について御意見を頂きたいと思います。
○小野委員 細かい各論の前の議論として,専門家たる個人が受託者になるという場合を考えてのことでありますが,限定責任信託の場合ということも考慮してよろしいのかと思います。とはいっても,信託法上,限定責任信託における受託者の義務はそうでない一般の信託と異なる義務になっているという趣旨ではありませんけれども,今までの論点にはなかったような気がしましたので,一言,添えたということです。
  また,専門家が受託者になるうんぬんという議論から離れますけれども,今の目的信託は自己信託の目的信託というのは制度上,法律上できませんけれども,公益信託の場合ですと自己信託の目的信託を排除する理由はないと思います。これも立法論ですけれども,その場合の受託者の義務,自己信託だからといって受託者の義務は違うところがないと理解しておりますけれども,そういう意味においても,論点としてそういう観点もあるということを申し添えたいと思います。あと,前も発言したことですけれども,受託者の義務は任意法規化されておりますけれども,ここでいう受託者の義務が同じということは,そこも含めてなのか,そういうような議論はまた別途するという趣旨なのかというような制度の立て付けの議論もあるかとも思います。
○平川委員 公益信託の受託者の権限・義務・責任については,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とするという考え方に対しては,結果的に公益信託の受託者の権限・義務・責任が目的信託の受託者のそれと信託法に定められているものと同様,類似のものになるという意味においては賛成しますけれども,しかし,目的信託の信託法261条1項の読み替えを経て公益信託の受託者にも適用されるとした上で,それゆえ,信託法260条1項の特例も公益信託の受託者に適用されるという考え方には反対します。目的信託からスタートして公益信託の受託者の権限・義務・責任を考えるべきではなく,信託法の一般規定における受託者の権限・義務・責任をそれぞれ検討して,公益信託における受託者の権限・義務・責任を検討し,適宜,必要な読み替えをすべきであると考えます。
  その理由は,そもそも,第34回会議で述べましたとおり,公益信託は目的信託の一類型であると位置付けることに反対であり,目的信託において定められた受託者の権限・義務・責任を出発点として,公益信託の受託者の権限・義務・責任を議論するといたずらに議論を複雑にします。なぜなら,さきの項目でも論じられましたとおり,公益信託には公益信託内部の受託者を含めた信託関係人による自律的な監督やガバナンスの仕組みが欠かせないのに対して,必ずしも公益を目的としない目的信託,例えば永代供養とか,ペットや植物の世話などの信託においては,受託者に対する他の信託関係人の監督の在り方や関わり方も異なってきますので,目的信託に適用のある条文からスタートして,公益信託への適用や読み替えを考える必要も実益もなく,かえって事を複雑にすると思います。
  一例を挙げますと,信託法260条の目的信託においては,委託者に受託者に対する一定の監督機能を与えて一般規定を強化していますけれども,公益信託では委託者の権能は極力制限すべきであると考えます。委託者の権利を公益信託において強化することは,公益法人制度において,財団法人において,出えん者の権利がほとんどないことに比較しますと,その均衡を失します。また,公益信託の期間は永久であることもある一方,自然人である委託者については永久存続はあり得ませんし,また,その相続人に権限が相続されたりすることを考えますと,委託者を前提とした制度は実務的に実行が不可能であると考えます。
  具体的には,4ページの1の(2)の直前にあります委託者と信託管理人の合意による信託終了のうち,例えば委託者を外すべきで,特に相続人に承継されると解する場合には問題が多いと思います。また,1の(2),同じ4ページですけれども,委託者に対する通知・報告義務等,これも一般規定の信託法145条4項各号を読み替えるものですけれども,これも相続人にまで適用されると解する場合には,事実上,非常に実務的に不可能であると考えます。そういうふうなものですから,目的信託の規定の読み替えをもって受託者の権限・義務・責任を考えるという考え方には反対いたします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  必ずしもここでの提案は読み替えをしようということではなくて,最初に平川委員がおっしゃったように結果として同様のものになるということが今回の太字で書いていることだと思います。それから,委託者の権限や義務につきましてはまた後ほど別途,項目がございますので,そこで議論いただければと存じます。
  ほかにいかがでしょうか。
○新井委員 7ページに公平義務についての言及があります。それで,ここではそこのパラグラフの一番最後,公平義務と類似の義務を観念すべきかどうかが問題となるのですが,利益を受ける人を受給権者というかどうかは別にして,同時に複数の受給権者がいる場合は,当然,公平義務が働くわけです。目的信託と同一の義務と考えるから,こういう問題が出てくるので,実質的なアプローチをすべきだと思いますので,今,中田部会長がおっしゃいましたけれども,目的信託の受託者の権限・義務・責任と同一とするということよりも,公益信託の実質を捉えて受託者のいろいろな権限を規定していくというアプローチの方がいいと思います。その一つの例として公平義務の問題を捉えたらどうかなと思います。
○道垣内委員 ゴシックのところを主に議論するんでしょうから,別に解説のところにいろいろ言及する必要はないのかもしれませんが,先ほどの公平義務なんですけれども,なぜ,わざわざ,公平義務は忠実義務違反ではないとこの部分に書かなければいけないのかがよく分かりません。こういう解釈論にわたる問題に言及すべきではないと思います。
○中田部会長 公平義務を忠実義務と関連付けるのか,善管注意義務とするのか,これは一つの解釈論にすぎないではないか,一つの立場を前提とすべきではないのではないかという御指摘だったと思います。
○道垣内委員 前提にもなっていないような気がするんですよね。新井委員がおっしゃるような問題が実質論としてはあるわけであって,それが何義務の範囲なのかということは,余りここでは関係ない話ではないかという気がします。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○樋口委員 先ほど小野委員がおっしゃった最後の点だと思うんですが,一番気になるのは公益信託の受託者で権限・義務・責任の話,特に義務のところなんですけれども,今,ここで言っているのは,その義務について信託法は一般に任意規定だという話にしているのが公益信託ではどうなのかというのは,ここで正に議論すべきことなのではないかなと思うんですが,いかがなものなんでしょうか。
○中田部会長 それについて更にもし御意見があれば。今の点を含めて御議論いただければと思いますけれども。
○小野委員 法律論としてお伺いしたいんですけれども,目的信託において既に存在している問題ですが,受益者がいない場合に受託者の義務,すなわち債務の相手方たる債権者というものをどう観念するか,いずれ,信託管理人の議論が出てきて,これが必置になれば信託管理人と考えることが可能で,その点,後の議論かもしれません。しかし,現在の目的信託ですと必置ではないので,多分,委託者に対する債務として認識して,とは言っても,履行対象は信託財産ということになるのではないかと思います。この点について,公益信託において,果たして目的信託とパラレルに考えることができるのか。理屈っぽい議論で申し訳ないんですけれども,債権者は誰なのかという辺りも,せっかく研究者の方が多くいる場なので議論の対象としていただければと思います。
○中田部会長 今の点について。
○道垣内委員 今の点ではなくて,1個戻って樋口委員のおっしゃったことに関係するんですが,非常に重要な御指摘だろうと思います。つまり,例えば受託者の利益相反行為というものがあって,そして,それは信託行為の定めで許容されていればよい。受託者だって受益者の一人になれるわけだし,そういうふうなスキームとして出来上がって,受託者の関係会社を使ってもよいとなっているのならば,それはそういうふうな信託として存在し得るというのはわかります。
  しかし,受託者が現実に一定の利益を得られるような仕組みが,利益相反行為の例えば信託行為における定めという中で出来上がってしまっていれば,それは公益認定できないのだろうと思うんです。そうなると,もし,認定基準と同時に規定するという前提を採りますと,かなり丁寧に一つ一つを検討していかなければ,やっていかなければならないと思いますし,善管注意義務の話だってそうかもしれません。受託者が大変だから下げてもいいよという場合も一般にはあるでしょうけれども,公益信託はそれでいいんですかという問題はあります。原則形態として目的信託の受託者と大体一緒だよねというのは分からないではないんですけれども,1個1個についてはかなり丁寧な検討が必要だろうと思います。
○能見委員 小野委員が前から言われていた,公益信託におけるいろいろな受託者の義務の強行規定化は考えられないのかという問題については,私も前からその問題提起を受けて気にはなっていたところなんですけれども,ただ,非常に簡単に割り切って,公益信託では受託者の善管注意義務と忠実義務を強行規定にするということは考えられるかもしれませんけれども,公益目的の信託だからという理由だけでこれら義務の強行規定化を正当化することが私の内部ではしっくりきません。公益信託だからという点を強調すればするほど,道垣内委員の観点に近くなるかもしれませんけれども,何か公法的な規制が加わってくることはわかりますが,それを信託の,ここは公益信託といっても恐らく信託の私法的な仕組みのところを問題にしていると思いますので,そこに持ち込むのがなかなか難しいかなと思っています。そういうことでどう考えるべきか悩んでいるのですが,公益認定の際に,今の点も含めて,つまり,信託法上は任意規定であるということで善管注意義務や忠実義務を信託行為で変えてしまった場合には,変えられた状態を対象として公益認定の判断をするという形で対処するのが一番落ち付き所としてはいいのかなという感じを持っております。
○小野委員 強行法規化すべきという意見を持っているわけではありません。イメージとしては恐らく信託法と信託業法の関係に近いものがあって,信託法上,任意法規化されていても,信託業法上は強行法規化されています。信託業法上の規定が私法的効果のあるものが中にはあるのかどうかというと,その辺は解釈論に委ねられているかと思います。ですから,今,能見委員がおっしゃられたように認定基準の方で幾つかきちんと義務を立てていくということで,私法的な規律は本来の信託法の姿で考える。ということで,強行法規化が必要という議論ではなくて,論点として必要な議論かなと思って申し上げたわけでございます。
○小幡委員 議論の順番がよく分からないのですが,今の強行法規化の議論は,違反した場合の私法上の効力がどうなるかといった話の文脈ですよね。
○小野委員 そうでございます。
○小幡委員 ここにいろいろ書いてあるのですが,7ページの(7)の仮に公益信託の認定基準というところですが,ここも私法上の効力がどうなるかという話があって,これについてもおっしゃるように丁寧に見ていく必要があると思いますので,直ちにそれが強行法規化という話ではないと思うのですが,第1のところで「公益信託の監督・ガバナンスの全体像」というところについては,後でまたゆっくり議論しますからという話でしたが,そこでは,公益信託の制度の中での自律的なガバナンスをまずしっかりと仕組んで,更に,それでも必要であれば,第三者機関が監督するというのはよろしいですねという話なのかと思っていたのですが,そのときに第三者の監督というのは,一体,どのぐらいのイメージなのかということです。この点については,これから更に議論すればよいのかなと思っていたのですが,今の(7)のところでもある程度出てきています。ここで認定基準だけなのか,はっきりしませんが,監督権限についても,もしその機関が認定権限を持っていれば取り消すということになるのですが,例えば7ページのところに検査,勧告,命令等の措置を採り,そのような措置で足りない場合は,最終的に取り消すことができるという監督の内容が書かれていますが,これはまた後で議論するという理解ですね。
  というのは,どの程度のことを監督としてやるか。最終的には認定の取消しというのはあり得ると思うのですが,それ以外に,どのぐらい第三者機関が監督としての措置をとることを考えるのかというのが,例えば差止めのようなこと,あるいは立入検査をどのぐらいするかとか,その辺りは制度設計でとして,結構大変かと思います。後での議論ですねという確認ですが。
○中辻幹事 今回の部会資料では,公益信託内部の信託関係人の権限や義務について取り上げておりますが,次回の部会資料では,公益信託外部の第三者機関の監督権限,すなわち,新たな公益信託の認定を行う行政庁等や,裁判所の監督権限を具体的な権限の内容を含めて取り上げる予定です。なお,受託者と信託管理人の辞任・解任・新選任や情報公開についても次回の部会資料の項目として取り上げようと思っています。
○小幡委員 分かりました。
○平川委員 受託者の義務についての各論的な質問というか,確認なんですけれども,忠実義務について6ページの(4)にあるんですが,自己取引又は信託財産間取引をした場合に無効という信託法31条4項については,信託法31条2項2号に,受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たときは,自己取引や信託財産間取引ができるとしていることから,公益信託においても受益者の承認を信託管理人の承認などと読み替えるなどして,可能とすべきなのではないか,無効とまでしないで信託管理人の承認があったときには可能とすべきではないかと思いました。公益法人の場合は理事会承認で可能としていることの均衡からもそのように考えます。
  また,7ページの(6)で信託事務の処理を第三者に委託した受託者の責任についての確認なんですけれども,第三者への委託に当たり,選任,監督につき,善管注意義務違反や忠実義務違反があり,信託財産が損失が生じた場合には,受託者に信託法40条で損失填補義務や原状回復義務があると理解しますけれども,それで正しいでしょうか。例えば美術展示を目的とする公益信託で,受託者が展示等,事務委託された美術館が第三者の管理の失当により,美術品に損害を与えたような場合で,監督責任を問われるような場合です。それからまた,委託先の支出とか,受託者と特定関係のある者ではないとか,そういうような委託先の要件等については,別途,今後,検討する機会があると考えてよろしいでしょうか。
○中辻幹事 道垣内委員からも御指摘がありましたが,部会資料34で記載しました,公益信託の受託者の具体的な義務についての解釈論をこの場で議論していただくことは考えておりませんでした。ゴシックの部分で公益信託の受託者の権限・義務・責任を目的信託の受託者のそれと同一とすることを提案した上で,敢えて5頁以降に個別の権限・義務等の具体的な内容まで記載した趣旨は,これから受託者以外の信託関係人の権限・義務等を議論していただく前に,まずは実際に公益信託事務を行う主体である受託者がどのような権限・義務等を有しているかのイメージを共有していただいた方が良いと考えたことによるものですので,条文の解釈論に深入りしていただく必要はないのかなと考えています。そういうことでよろしいでしょうか。
○平川委員 了解しました。委託先の資格とか,そういうのはまた今後の項目に出てくるということでよろしいですか。
○中辻幹事 受託者から第三者への信託事務の委託について,委託先の資格などを今後の項目として取り上げるべきであるという御指摘として承りました。事務局としては受託者から第三者への委託について,一般の私益信託と公益信託とで異なる規律を設ける必要性があるとまでは考えておりませんが,御指摘は引き取って検討させていただければと存じます。
○平川委員 分かりました。
○中田部会長 目的信託との関係をどうするかということですが,最終的にどういう義務を設定するのが適当かを考える際には,どうしても既にある規律を参考にして検討するのが効率的だということで,ここに検討の結果が出ていると思います。これらの義務について個別に今,御指摘いただいたようなことも含めまして,こういう点にもっと注意すべきだということがもしあればお出しいただいて,更に検討を進めることにしたいと思います。今までも幾つか出していただいておりますけれども,ほかにございますでしょうか。
  それでは,もし更にお気付きの点があったら御指摘いただくことにいたしまして,今日,お出しいただきましたような指摘を踏まえて,一つ一つの義務について更に詰めて検討するということを進めたいと思います。
  ほかに,「第2 受託者」についてはございませんでしょうか。
  それでは,予定よりも早いですけれども,次の信託管理人についてはかなりボリュームがありますので,ここで一旦,休憩にさせていただきます。3時5分まで休憩にいたします。
          (休     憩)
 
○中田部会長 それでは,再開します。
  部会資料35の「第3 公益信託の信託管理人」と「第4 公益信託の委託者」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  第3の「1 公益信託における信託管理人の必置」について御説明いたします。本文では,「公益信託をするときは,信託管理人を指定する定めを設けなければならないとすることでどうか。」という提案をしております。現行法では,遺言による目的信託の場合には信託管理人が必置とされている一方,信託契約による目的信託の設定時には信託管理人は必置とされておりません。しかし,公益信託については,許可審査基準において,いずれの方法による場合でも信託管理人が必置とされています。新たな公益信託制度においては,目的信託よりも委託者の監督権限が狭められ,かつ,従前の主務官庁による監督権限よりも外部の第三者機関による監督権限が縮小される可能性があり,その場合,公益信託の受託者の監督機能を期待される信託管理人の重要性は現在よりも高くなると考えられます。そうすると,信託契約による場合と遺言による場合とを区別せずに信託管理人を必置とすべきであると考えまして,このような提案をしております。
  第3の「2 公益信託の信託管理人の権限」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人は,目的信託の信託管理人が有している権限と同等の権限を有するとすることでどうか。」という提案をしております。まず,公益信託を目的信託の一類型と位置付け,公益信託において受益者及び受益権は存在しないとの前提を採用する場合において,信託法第125条第1項に基づく信託管理人の権限のうち,受益者又は受益権の存在を前提とする権限については,目的信託の信託管理人と同じく,公益信託の信託管理人の権限とする必要はないと考えられます。
  ただし,そのような受益者の定めのない信託の性質上除外される権限を除いては,信託法第125条第1項に基づく信託管理人の権限は,裁判所に対する申立権限を含め,原則として公益信託の信託管理人にも与えることが相当であると考えられます。もっとも,公益信託の受託者の辞任の同意権や受託者の解任の合意,信託の変更,信託の終了などについては,外部の第三者機関の関与の方法を含めて,目的信託とは異なった仕組みとする可能性もあり得ると考えております。
  第3の「3 信託行為の定めによる権限の制限の可否」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託行為の定めによって公益信託の信託管理人の権限のうち信託法第145条第2項各号の権限を制限することはできないものとする。」,乙案として,「信託行為の定めによって公益信託の信託管理人の権限を制限することは全てできないものとする。」という提案をしております。
  信託法第125条第1項ただし書は,信託管理人の権限を信託行為の定めによって制限することを認めております。しかし,新たな公益信託の監督・ガバナンスにおいては,先ほど述べたとおり,信託管理人の果たす役割が重要であることに鑑みると,遺言による目的信託の信託管理人の権限について,同法第258条第4項が同法第145条第2項各号(第6号を除く。)に掲げられた権限の制限を認めないことを参考として,これらの権限を信託行為で制限することはできないものとすべきであるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。他方,新たな公益信託の監督・ガバナンスにおいて,公益信託の信託管理人が果たす役割を更に重視する観点から,信託行為の定めによって信託管理人の権限を制限することは全て禁止すべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として提示しております。
  第3の「4 公益信託の信託管理人の義務」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人の義務は,目的信託の信託管理人の義務と同一のものとすることでどうか。」という提案をしております。公益信託の信託管理人は,信託目的の達成のためにその役割を果たすことが期待されているという点では,目的信託の信託管理人と共通します。そして,公益信託の監督・ガバナンスにおける信託管理人の役割の重要性に鑑みますと,公益信託の信託管理人も信託法第126条第1項の善管注意義務及び第2項の誠実・公平義務を負うものとすべきと考えられることから,このような提案をしております。なお,公益信託の信託管理人について,信託法第59条第4項のような規定を設けるべきか否か,また,信託法第40条第1項の損失填補責任を負うものとすべきか否かについては,これらを否定する提案をしておりますが,これらの点についても併せて御意見を頂ければと存じます。
  第3の「5 公益信託の信託管理人の資格要件」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託法第124条の信託管理人の欠格事由に該当しないこととする。」,乙1案として,「【甲案】の欠格事由に加え,公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないこととする。」,乙2案として,「【甲案】の欠格事由に加え,委託者又は受託者及びこれらの者の親族,使用人等の委託者又は受託者と特別の関係を有する者に該当しないこととする。」,乙3案として,「【甲案】の欠格事由に加え,当該公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学識,経験及び信用を有する者であることとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託の信託管理人も信託行為で適切な者を選任することで足り,公益信託の信託管理人について信託法第124条の信託管理人の欠格事由のほかに資格要件を法律上加重することは不要であるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。
  他方,公益性の確保の観点から,公益信託の信託管理人については信託法第124条の欠格事由よりも資格要件を加重すべきであるとの考え方があり得ることから,これを乙案として示しています。
  乙案としましては,乙1案から乙3案まで三つの案を御提案させていただいております。具体的には,公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないことを公益信託の信託管理人の資格要件とします乙1案,現行の許可審査基準6(2)イ②と同様に,委託者又は受託者及びこれらの者の親族,使用人等の特別の関係を有する者に該当しないことを信託管理人の資格要件とします乙2案,許可審査基準6(2)イ①と同様に,公益信託の目的に照らして,これにふさわしい学識,経験及び信用を有することを信託管理人の資格要件とします乙3案の3案を提案しております。
  なお,部会資料16ページの(注1)に記載しておりますが,これらのうちの複数を資格要件とすることもあり得ると考えております。また,(注2)に記載しておりますとおり,これらは公益信託の認定基準とすることも含めて検討する可能性があるものです。他方で,現行の許可審査基準6(2)イ③には,「公益信託の信託管理人が原則として個人であること」という資格要件がございますけれども,信託管理人に法人が就任すること自体は信託法上許容されておりますし,公益信託の信託管理人に法人が就任することにより効果的な監督が期待できる場合もあり得ると考えられますことから,信託管理人が原則として個人であることを資格要件とすることは,提案からは外しております。
  なお,公益信託の信託管理人が事後的に資格要件を喪失した場合には,当該信託が無効となるのではなく信託管理人の任務終了事由とすること,また,公益信託の信託管理人について任期制を法律上義務付けることはしないことも提案しておりますので,併せて御意見を頂ければと存じます。
  第3の「6 公益信託の信託管理人の報酬」について御説明いたします。本文では,「公益信託の信託管理人の報酬について,当該信託管理事務の内容,当該信託の経理の状況等を考慮して,不当に高額とならない範囲の額又は算定方法が信託行為で明確に定められていることを必要とするものとすることでどうか。」という提案をしております。公益信託の信託管理人の報酬は,公益信託の信託財産から支出されますから,その報酬が不当に高額になることは適切ではない一方,信託管理人が実効的にその監督権限を行使することを確保するためには,報酬面でのインセンティブを与えることも必要であると考えられますことから,このような提案をしている次第でございます。
  第4の「公益信託の委託者」について御説明いたします。本文では,甲案として,「信託の利害関係人が有する権限のみを行使できるものとする。」,乙案として,「【甲案】の権限に加えて,受益者の定めのある信託の委託者が有する権限を行使できるものとする。」,丙案として,「【甲案】及び【乙案】の権限に加えて,目的信託の委託者が有する権限を行使できるものとする。」という提案をしております。
  まず,公益信託の公平な運営を確保する見地から,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される状況はできるだけ排除することが望ましいことに加え,現行信託法は原則として委託者が信託に関する各種の権利義務を有しないとの前提を採っていることを理由として,公益信託の委託者には,原則として信託の利害関係人が有する権限の行使を認めれば足りるとの考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。他方,公益信託の委託者が一定の監督権限を行使することはむしろ望ましいという観点に立った上で,信託管理人との重複を避ける観点から,原則として受益者の定めのある信託の委託者が有する権限の行使を認めれば足りるとの考え方もあり得ることから,これを乙案として示しております。さらに,乙案の基本的な考え方を採用しつつ,公益信託の信託管理人に契約による目的信託の委託者が有している監督権限を持たせるとしても,それと重複する形で公益信託の委託者が契約による目的信託の委託者が有する権限を行使することを認めるべきであるとの考え方もあり得ることから,これを丙案として示しております。
  以上の点について御審議いただければと思います。
○中田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。
  まず,「第3 公益信託の信託管理人」ですが,これは大部のものですので幾つかに分けて御審議いただければと思います。まず,1,信託管理人の必置について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論は異論なく賛成でございました。自律的なガバナンスという観点からも,信託管理人を設置して,それにしかるべき権限を与えガバナンスを行っていくということについて異論はありませんでした。
○中田部会長 ほかに。
○平川委員 私も賛成します。公益信託の自律的ガバナンスを確立する上で,受託者に対する監督の担い手として欠かせない信託関係人であると思います。資産の拠出者である委託者は,信託が設定された後の関与は極力避けるべきと考えておりますので,この意味でも受託者の監督者として信託管理人の存在は欠かせないものと思います。
○中田部会長 今,お二人から必置に賛成という御意見を頂きましたが。
○山田委員 必置に私も賛成ですが,発言したい点はその点ではなくて,ゴシックでないところについて発言したいんですが,9ページの第3の1の補足説明の中の下から二つ目の段落ですが,ここに書いてあるのは信託法258条4項前段の規定の仕方を拡張して,認定基準とはしないという考え方を示されていると思います。ゴシックではないので,事務当局としては,今,こういうことで準備していますという性格のものかと思いますが,なぜ,認定基準にしないのかなというところがよく分からないというのが発言の趣旨です。
  少し敷衍します。遺言信託で受益者の定めのない信託をした場合には,信託管理人を置かなければならないと。確かに258条4項はそう定めているのですが,これは認定という手続がその後にないので,そこで止まってしまっていて,そして,もし遺言の中に信託管理人の定めがなかった場合にはどうしたらいいかということが5項と6項で補足的なというか,補充的な手続が定められているものと思います。それに対して,ここで考えている公益信託は遺言の場合もあるでしょうが,契約の場合もあって,そうすると,信託管理人を指定する定めを設けなければならないというのを契約に基づいて成立する公益信託について考えると,もし信託管理人について定めがなかったらどうなるのかということを考えました。
  しかし,それだけでその信託契約を無効にするというのはやや効果が大きすぎるなと思います。認定基準のところでそれを備えていなければ,あるいは信託管理人を置くための信託契約の中に定めを置いていなければ,認定するための要件を満たさないと,そういう仕組みにしてよいのではないかなと思うのですが,積極的に認定基準にはしないという理由があるようであれば教えていただきたいと思います。今,御説明いただいた後ろの方には,ゴシックのところの(注)として認定基準に含めることも可能性として考えるというのが複数ありまして,それと同じような性格のものではないかなと考えたところであります。
○中田部会長 関連する御意見はございますでしょうか。
○中辻幹事 山田委員におかれては,御指摘をありがとうございました。私どもとしては,部会資料35の9ページに書いてあるとおり,信託法258条4項には遺言による目的信託における実体法上の規律として信託管理人の必置が定められていることからすると,信託法の方から実体法的に規律するというのが素直な選択肢ではないかと考えておりました。ただ,遺言による目的信託ではその後の5項とか6項の手続があるのと異なり,公益信託は契約により設定されるものもあるので,少し異なる観点からこの問題を見た場合には,信託管理人の必置を公益信託の認定基準とする選択肢もあり得るのではないかという御指摘であると受けとめましたので,引き取って検討させていただきます。
○山田委員 信託法に書く方がより大きい,強いという,そういうイメージがあるのでしょうか,あるいは必ずしもそうではないんでしょうかね。
○中辻幹事 恐らく受託者が欠格事由に該当した場合と似ている話なのかもしれませんけれども,信託管理人が存在しない場合に実体法上公益信託が直ちに無効になるとするまでの必要はなくて,信託管理人が辞任などで存在しなくなったときには,新たな信託管理人を選任するなどの方法により対処し,公益信託自体は存続させるという考え方が十分あり得ると思います。それが信託管理人の必置を実体法上の規律とするか,認定基準とするかにより変わるものかどうかというのはまた考え込む必要があるように感じております。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  それでは,1につきましては必置とするということについては御異論がございませんので,その方向で取りまとめさせていただき,それを信託法の中で書くのか,それとも認定基準とするのかについては御指摘を踏まえて,更に検討するということにしたいと存じます。
  続きまして,第3の2から4,これは信託管理人の権限と義務に関するもので相互に関連いたしますので,この三つについて併せて御意見を頂きたいと思います。
○能見委員 権限と義務と両方に関係する問題なんですが,基本的にはここに書いてありますように,権限に関しては目的信託の信託管理人が有している権限と同等ということでよろしいと思いますけれども,先ほど平川委員から言及がありましたけれども,例えば利益相反行為があるときに,受益者がそれを承諾すれば,受益者は信託の利益を受ける人間ですから,それ以上の問題は生じないと思いますけれども,信託管理人がそれをする場合は少し異なるように思います。信託管理人も信託法125条によってですかね,受益者に代わって利益相反行為を同意するということができるのだと思いますが,信託管理人の同意は,私益信託において受益者自身が同意したときとは違う点があるように思います。
  公益信託の財産の管理は受託者が基本的にやっていますけれども,信託管理人は,その受託者を更に監督するという立場から,いろいろの権限が与えられていますので,利益相反行為への同意について言えば,その同意が不適切であったというときには,信託管理人の責任が生じる。恐らく善管注意義務違反ということになるのだと思います。先ほど言いましたように,それが受益者自身の同意であれば,それが不適当であったとしても,受益者自身の利益に影響するだけで,それ以上の問題は生じない。このように信託管理人の権限は,受益者の権限と同じもののように見えますが,それが持つ意味などは全く同じではないということをきちっと押さえておくことが必要であろうと思います。
  このように考えますと,信託管理人の行為が責任につながってきたときに,その責任というものもそれなりにきちんとした責任でなくてはいけない。例えば,善管注意義務違反の責任,その効果は何なのかが,一般の信託の信託管理人のところの規定でも余りはっきりしていません。恐らく信託財産に対する損害賠償義務は,最低限,認められるでしょう。それが更に信託法40条の責任に結び付くのかどうかというところは,難しい問題があると思いますけれども,私としては,信託管理人というものが公益信託の健全さを担保する上で重要な役割を果たすことを考えると,他方において委託者の権限が比較的制限されている,そういう中で,信託管理人の重要性というものが大きいことを考えますと,信託管理人の義務違反による責任については,むしろ40条の責任につなげた方がいいのではないかという感じを持っております。
 ○平川委員 これもまた,目的信託との関係の話が関連するんですけれども,目的信託との関連を断ち,公益信託における信託管理人の在り方から議論をすべきであると考えます。そして,結論的には配っていただきました別表に,信託管理人の権限として丸で示された権限のみならず,三角で示された権限についても信託管理人に認めるべきであると考えます。
  具体的には別表に丸で示されたものは,検査役の選任申立権,受託者の解任申立権,新受託者の選任申立権,信託財産管理命令の申立権,信託財産管理者の選任申立権については,公益信託の信託管理人の権限とすべきであることに異論はありません。別表に三角で示されました受託者の辞任の同意権,受託者の解任の合意,新受託者の選任の合意についても,公益信託の信託管理人の権限とすべきであると考えます。信託管理人は信託財産のガバナンスの重要な担い手と位置付けるからであります。また,信託の変更,合併,分割についてですけれども,これは受託者と信託管理人の合意によるとすべきであり,目的信託の場合のように合意の当事者に委託者を入れるべきではないと思います。
  これは各論の話になって,ここで議論すべきではないと言われるのかもしれないんですけれども,述べさせていただきますと,信託財産の拠出者である委託者は,一旦,財産を託した後は私益的利害をもって関与し得る利害関係人とも言えますので,委託者としての権限は極力制限されるべきで,委託者及び受託者の合意とすることには反対です。また,永久的であり得る公益信託の場合は,委託者が自然人である場合,委託者死亡で不存在とするか,又は相続するとして関係が複雑になるか,いずれにしても不都合が生じ,妥当ではないと考えます。そして,その上で信託の変更,合併,分割のように公益信託の認定条件に該当すると思料される事項についての変更は,外部の第三者機関の許可や承認が必要とすべきであると考えます。
○中田部会長 ありがとうございました。
  三角についても含めるべきだという御意見をいただきましたが,最後の信託の終了の合意については言及がありませんでしたが,それも含めるということでよろしいでしょうか。
○平川委員 はい。
○中田部会長 ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論を踏まえて申し上げますと,信託管理人の権限については目的信託の管理人と同様にということで賛成です。補足説明の中に書かれているとおりでして,受益者又は受益権の存在を前提とするものは除外し,検査役等の,丸の部分は認め,三角の部分についても平川委員と同様で,これも信託管理人の権限とした方がいいという意見が占めていたと思います。ただ,三角の論点につきましては,どちらかというと第三者機関であったり,委託者あるいは裁判所の関わり方の方に論点として目がいっているところでしたので,後に議論させていただけたらと思います。
  それから,信託行為の定める権限の制限につきましては乙案が賛成です。信託法145条2項以外の権限でも重要なものはそれなりに多いと思っていますので,乙案のとおり,信託行為の定めによっては制限できないとする意見が大半でありました。
  それから,信託管理人の義務につきましても,目的信託と同一ということには賛成で,補足説明の中にあった論点につきましては,信託管理人の任務が終了した場合には,前信託管理人には,新信託管理人が選任されるまでの間には権利義務を有するとする必要はないとの点も賛成ですし,信託法40条の関係の損失填補責任については,弁護士会の議論としては,それを必ずしも負わせる必要はなく,善管注意義務違反による損害賠償で足りるのではないかという議論でした。
○中田部会長 ありがとうございました。
○深山委員 これまでの御発言と基本的には同じ立場ですが,信託管理人の権限も,それから義務も,基本的には目的信託の信託管理人と同一とするものでどうかというゴシックの提案に賛成いたします。基本的に公益信託の内部的なガバナンスの中心的な機関といいますか存在として,信託管理人の立場を位置付け,これに重要な権限と義務を与えるということが,制度全体の設計の基本的な考え方として,それがよろしいと思うところです。そういう観点からしますと,3の信託行為の定めによる権限の制限について,甲案,乙案と二つが提案されていますが,乙案を支持したいと思います。基本的には十分な権限を信託管理人に与えることによって,ガバナンスの中心的役割を果たしてもらうという仕組みがよろしいという趣旨です。
  その上でということなんですが,先ほど能見委員の御発言の中で信託法40条の責任,すなわち,損失填補責任まで結び付けてもいいのではないかという御趣旨の発言をされました。私は,ここについてだけは40条の責任をストレートに当てはめるのは行きすぎなのかなと思います。つまり,受託者は正に直接,事務を行う言わばプレーヤーですから,そこに何か問題があれば損失を填補させるという責任が付いて回るわけですが,信託管理人は重要なガバナンスの役割を負っているとはいえ,あくまで監督責任ですから,プレーヤーと同じ責任をストレートに当てはめるのは行きすぎのような気がして,40条の責任については及ぼさないという方がよろしいと思います。もちろん,著しい判断の誤りとか,監督の懈怠とかがあって損害が発生したということになれば,善管注意義務違反という規律を通じて損害賠償という問題にはなるので,それで,そういう例外的な場合には対応できるので,40条の責任は外してもいいだろうということでございます。
○平川委員 先ほど3と4について意見を述べなかったので,それについて述べたいと思います。
  3については乙案に賛成します。その理由は,ガバナンスにおいては私的自治の観点もさることながら,制度的な担保が必要であり,公益信託においては信託管理人がその中心の一つを占めるべきと考えるため,信託管理人の権限を制限するべきではないと思います。甲案では別表左欄に記載されているもの以外の丸印,三角印のものは信託行為により制限可能となってしまいます。これらの権利のない信託管理人は,受託者を監督する機能が著しく減殺されてしまうことになると思います。したがって,乙案に賛成します。
  4番の「公益信託の信託管理人の義務」についてですが,基本的は賛成しますけれども,再び目的信託の信託管理人の義務と同一とするものとするという必要はなく,公益信託の独自性を検討した結果,信託管理人の義務を検討していただきたいと思います。15ページの3にある信託管理人の任務終了の事態となった場合,旧信託管理人は新信託管理人就任のときまで事務を遂行すべき権利義務があるとすべきであると考えます。その理由は,信託管理人を必ず置くべき信託関係人とし,受託者監督の重要な担い手であると位置付ける以上,係る任務を遂行する者が不存在となる期間があることは不適当であるからです。
  16ページ,4の信託管理人に財産補填義務を負わせるかについてですけれども,私も深山委員と同意見で,信託管理人に損害補填義務まで負わせる必要はないと考えます。善管注意義務違反に基づき信託財産に損害が生じた場合には,義務違反と損害に因果関係があるのであれば,その範囲で信託管理人に債務不履行責任に基づく損害賠償責任が生じますので,信託財産を受託し,信託事務を遂行すべき受託者の場合には,別途,補償義務を負うことは妥当性があると考えますけれども,監督責任にとどまる信託管理人にまで補償責任まで負わせる必要はなく,引き受け手確保の意味からも一般的な義務違反に基づく損害賠償責任で十分であると考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○吉谷委員 まず,2番につきましては総論賛成です。3番につきましては条件付きで乙案に賛成,4番につきましては賛成です。
  話すことが多くて一遍にしゃべれるかどうか分からないんですけれども,まず,委託者との関係については平川委員と近い立場であると考えました。委託者は財産を出えんする方ですので,興味を持たれるというのはある程度,あってしかるべきかなとは思いますが,過度の介入があると公益性について疑義を持たれる場合があると思いますので,余り過度な権限を持たせるべきではないのではないかと考えております。そうしますと,信託管理人が乙案のような全面的な権限を持つべきであろうと考えます。
  ただ,例えば11ページ辺りから始まる辞任,解任,変更,終了等のところ,後ろの別表でいいますと三角が付いている項目については,全て信託管理人の同意を要件とすると,実務の障害になる可能性があると思われますので,ここについてはまた次回以降に検討されるとは思いますけれども,信託管理人の権限を弱めることがあってもいいのではないかと考えております。例えば変更につきましては,元々,一般的な信託あるいは目的信託におきましても,信託管理人の同意がなくても受託者の意思表示によって変更できる場合というのがございます。目的信託では信託管理人の権限が狭まっておるんですけれども,軽微な事務手続などの変更に係るようなものについては,受託者単独でできるような仕組みを残しておいた方が事務的な手間という点でも軽減できるのではないかと考えております。重要なものについては主務官庁の許可,最も軽微なものについては受託者の意思表示という三つの段階があっていいのではないかと思います。
  それ以外のところで,まず,信託管理人の信託財産のてん補の義務でございますけれども,これは損害賠償請求で足りるのではないかと考えております。受託者,同じ受託者ではなく,資料にありますとおり,後任の受託者ということになると思いますが,後任の受託者が請求するとしたら,別に信託財産へのてん補請求でなくて,損害賠償請求で足りると思いますので,損失てん補をするような場合としては,仮に考えるとしたら後任の信託管理人による請求ぐらいしかないのではないかと思うんですが,そのような場合まで考えて重たい責任にする必要はないのではないかと考えております。
  あと,任務の終了のときに継続すべきかどうかという点につきましては,すべきではないと考えております。そこまでやると,信託管理人にとっては重すぎるのではないかと。なり手の問題もあると思います。ですので,不存在にならないような体制を整備していただく方がむしろいいのではないかと思うところです。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
  2については三角も含めるという御意見が多かったように思いますが,今,吉谷委員から全てをそうするのではなくて,主務官庁の許可などとの関係で検討すべきだという御指摘を頂きました。それから,3については乙案が多数であったと思います。吉谷委員は条件付きで乙案とおっしゃいましたでしょうか。
○吉谷委員 変更などの場合には弱められるということも定めることはできると。
○中田部会長 分かりました。
  それから,4については任務終了後の継続は不要とされる方が多数でいらっしゃいましたが,必要という平川委員の御意見もありました。それから,信託法40条1項の損失填補責任については,加重はしないという御意見が多くありましたが,能見委員から,これは考えてもいいのではないかという御指摘を頂いたかと存じます。ほかによろしいでしょうか。
  それでは,次に進んでよろしいでしょうか。続きまして,第3の5,信託管理人の資格要件について御意見をお願いいたします。
○平川委員 私は乙1案に乙2案を足したものを信託管理人の資格要件とすべきと考えます。すなわち,信託法124条の信託管理人の欠格事由に該当しないこと及び公益法人認定法第6条第1号と同様の欠格事由に該当しないこと並びに委託者,受託者,これには受託者から信託事務の委任を受けた第三者を含みますけれども,又はその他の信託関係人,後に議論されます運営委員を置く場合など,これらの信託関係人及びこれらの者の関連会社,親族,使用人等の特定関係者に該当しないことを複合的に要件にするという趣旨です。
  理由は,公益法人認定法6条1号の要件をいれることについては,公益法人制度との均衡を図る意味で同様の資格要件を置くことが妥当であると考えますし,また,公益信託のガバナンス確保の観点から,委託者や受託者等の信託関係人及びその特定関係者から独立的地位を確保した者が信託管理人であるべきと考えるからです。
  また,法人が信託管理人になり得るかについては,法人であることも妨げないと考えますが,この場合は特に乙3案に記載されるような役員,重要な使用人に信託事務の管理監督をするにふさわしい経験と信用を有するものを要しているか否かについて,許可又は認定審査基準の一要件として定めるべきであると考えます。信託管理人は受託者の監督,公益性の担保のためのガバナンスの保持という重要な役割を担う者ですが,当該法人が信任を置くにふさわしい法人であるか否かは,結局,その法人内部に信任に置くにふさわしい人物がいるか否かに掛かってきますので,法人が信託管理人となった場合には継続性がある点は利点であるとしても,継続的に経験値,能力,信用が保たれているかは外からは計り知れず,このような実質要件を審査基準に置き,役員や重要な使用人について係る要件が継続的に保たれることを担保することが望ましいと考えます。
  一方,信託管理人が個人である場合については,さきに述べた資格要件が備わってさえいれば,個人という個性に着目して個人的信任により選ばれるものですから,特に審査要件として経験値や能力,信用といった判断に難しい要件を付加する必要はないと考えます。
  次に,公益信託の信託管理人が事後的に資格要件を喪失した場合ですけれども,信託を無効とするのではなく,信託管理人の任務終了事由が生じたとすることに賛成します。また,信託管理人の任期については,任期を4年ないし6年で定めるべきであると考えます。現状ですけれども,本人から辞任を申し出ない限り,言わば永代任期となっています。実際,ほとんど判断能力がなくなっている人に対して辞任を要請したり,又は資格要件を失っているということを告げることが事実上できないため,そのまま職にあるという事例が散見されます。これまでの実務の現状を検討に置きますと,4年から6年程度の任期があった方がよいと思います。
○新井委員 私も平川委員と同じに乙1案と乙2案を合体したような案に賛成します。乙3案ですけれども,学識,経験及び信用を有するものというのは,これは後で議論する運営委員会の任務ではないかと私は考えますので,こちらの機能は運営委員会に譲ったらよろしいのではないでしょうか。乙2案のここに掲げられているものについては,最近,ライフ協会の問題があって,公益認定されていても一定の親族の関与が非常に問題になったということもありますので,ここのところは欠かせないという気がします。
  それと,法人が信託管理人になれるかということですけれども,法人が信託管理人になった場合の意思決定がスムーズにできるのかというところが少し心配です。緊急に対応しなければならないいろいろなことがあったときに,法人の内部で意思決定するというようなことを考えると,その辺りをどう考えたらいいかというのが一つポイントで,質問ですけれども,現行の公益信託の運用の中で法人が信託管理人になっているという例はあるのでしょうか。
○中田部会長 吉谷委員,御存じでしたら。
○吉谷委員 私どもではそういう例は捉えておりません。
○能見委員 信託管理人の資格要件のところですけれども,委託者の問題とも関連するんですが,結論としては私は乙2案でいいと思いますけれども,私自身は委託者についてそれほど否定的なイメージを持っているわけではありませんで,むしろ,委託者は信託管理人以上に信託の目的に関しては,それが遂行されることについて一番利害関係を持っていて,いろいろ,公益信託のガバナンスにおいて役割を果たすことができるのだろうと思うのです。そういう意味で,否定的なイメージを持っているわけではありませんけれども,信託管理人を何人置くかという問題とも関係がありますけれども,場合によっては一人ということもあるかもしれません。そういうときに,委託者が一人の信託管理人になるというのは余り適当ではないとも言えますので,結論としては乙2案でいいのだろうと思います。
  ただ,今も言いましたように委託者についてそれほど否定的なイメージを持つべきでないと思います。公益財団法人では財産を拠出した者が理事になるのは構わないとされていると思うんです。理事の一人として,理事会を構成するメンバーの一人として,公益財団法人が設立目的どおり運営されることについて,意見を述べたり,決議に関わることはむしろ望ましいと思っています,けれども,先ほど言いましたように,信託の場合には信託管理人が一人という場合があるかもしれませんので,人数をどうするかの問題はありますけれども,そういう意味で,結論としては乙2というのでいいのではないかということでございます。
○中田部会長 乙2というのは,委託者,受託者等は除くという案ですね。
○能見委員 そういうことです。
○中田部会長 乙1はいかがですか。有罪判決を受けた人ですとか。
○能見委員 これも同じ並びで。
○中田部会長 そうしますと,今まで出た乙1プラス乙2案というのと大体同じ。
○能見委員 結論は同じなんだと思いますけれども,今,言いましたように委託者が除かれるということの意味について,ほかの方とは違いますということを強調したいと思います。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会での議論としては,乙1,2,3といずれも資格要件としてよいという結論であったと思います。乙1については当然ですし,2については委託者は信託管理人には含めるべきではないということでした。乙3に関しては曖昧さという点もあるのでしょうけれども,この理念というか,内容としては当然のことだとは思いますので,そういう認識においては賛成をします。信託管理人に法人がなれるかというのについても賛成ですし,事後的に資格を失ったときは任務終了事由とする点にも賛成でした。補足説明にもある任期制については,不要という意見でした。
○深山委員 今の意見とほぼ重なってしまいますけれども,資格要件としては乙1案プラス乙2案という何人かの方が発言された消極要件といいますか,欠格事由としてこれを定めることに賛成します。乙3のところも結論としてはあっていいだろうと思いますが,ここは言わば積極要件ですので,性質が違うといえば違う問題だと思います。積極要件として,学識,経験,信用というものを掲げても,どれほど実質的に機能するかと考えると,あるいはどう判断するのかということになると問題なしとはしないんですけれども,考え方,理念としては,そういう学識,経験,信用のある人に資格を与えるという考え方は当然といえば当然ですが,要件として課してよいと思います。
  法人であっても実質的には役員を見ながら,こういうことを判断するということもできますし,法人が信託管理人になることも排除する必要は全くないとは考えていますので,その場合も含めて乙3の要件も積極要件としてあっていいだろうと思います。先ほど新井委員は,そこは運営委員会等の役割ではないかという御意見でしたが,私は運営委員会自体の存在に消極だということもあり,学識,経験,信用というものも信託管理人に期待すべきだと考えております。
○道垣内委員 私は先ほどの深山委員の意見とは違って,新井委員の見解の方が妥当なのではないかと乙3に関して思います。
○中田部会長 運営委員会に委ねる方がよいということで。
○道垣内委員 だから,信託管理人の役目をどう考えるかという話として,こちらよりもこちらに助成すべきだったよねという判断について,信託管理人が受託者を監督すべき立場にはいないのだろうと思います。そこで,乙3は除いた方がいいのではないかと思います。
○中田部会長 乙1と2はあった方がよいという御意見ですか。
○道垣内委員 はい。それは言ってなかっただけです。乙3についてだけ申し上げたわけで,あえて言えとおっしゃられれば,乙1プラス乙2でよろしいのではないでしょうか。
○中田部会長 ありがとうございました。
○小野委員 私は皆さんが乙3を強く支持されるのかなと思って発言しなかったんですけれども,必ずしもそうではないようなので,発言致します。ただいま道垣内委員が信託管理人の役割という話をされていましたけれども,既に本日の議論のところで必置ということになり,受益者はいませんから,立て付けにおいて信託管理人というのは非常に重要なガバナンスの役割を果たすわけです。その中で犯罪を犯していないとか,ある意味では,それ以外はその辺の人を連れてくればいいという議論で制度を立て付けるよりも,学識,経験,信用というような定性的な要件を加えて,それぞれの信託の公益目的に沿って判断していくと考えるのがふさわしいのではないかと思います。
  立法例でも既に同じような基準として,こういう定性的な要件が入っていると補足説明で書かれておりますし,サービサー法上,同じ文言が扱われております。決してこの表現があるからといって,またこうした規定があるからといって判断が難しいというようなことはないはずです。
  それともう1点,委託者が信託管理人になれるか,なれないか。これも一概にノーというわけではなくて,乙3の要件が入って,委託者が学識,経験,信用においてふさわしいということであれば,委託者はいつまでも口を挟む良からぬ人と性悪説に立つ必要はなくて,この定性的要件に沿って委託者が信託管理人になれるかどうかを判断すればよいわけでして,その意味において乙2が委託者を初めから排除しているというのは必ずしもそうではないのではと。要するに乙3が最も重要な要件であって,それに付随して乙1の部分が加わっていくのではないのかなと考えております。
○山田委員 乙2について発言させてください。能見委員がおっしゃった前半まで私は同意見であります。委託者というのは,その財産がどう公益のために使われるかということについて,ある意味では最も関心のあるものだと思います。ただ,ここで委託者を信託管理人から外すという考え方の背後にあるだろうと私が考えるのは,委託者は外形上,形式的には自分の財産から外に出したけれども,実質的に委託者あるいはその家族の利益のために,信託管理人を通してコントロールしているのではないかという疑いがあるということかなと思います。ただ,そこは受託者がそうしない義務を負っているのかなと思います。
  そうしますと,能見委員がおっしゃった一人しか信託管理人がいないときに,委託者とか,委託者の親族が信託管理人をしていると,受託者も重要なことについては,信託管理人の承諾とか承認とかを経なくてはいけないというところで問題がありそうだというようにも思います。そうすると,制度が細かくなって恐縮なんですが,信託管理人を複数置くときには,そのうちの一部は委託者又は委託者の親族,使用人等,委託者と特別の関係を有する者であっても構わないと,そういうルールがあるといいなと思いました。ただ,信託管理人を複数置いたときに,その意思決定方法をどうするのかという問題が出てきて,まだ,準備をしていないところであるとすると,作業を増やしてしまって申し訳なく,それほど大きな問題ではないかなと思うのですが,一番のスタートライン,ここが能見委員がおっしゃったところですが,委託者が一番,その財産がどう使われるかということについては関心があるだろうなというところは少し重く見たいと思います。
○新井委員 今,山田委員がおっしゃったことを私も言いたかったのです。つまり,信託管理人は複数でも可能なのかということです。実務では私の知っている限り,これは単数だと思います。しかし,ここの議論で複数が可能だとするということになったときに,正に意思決定の問題をどうするのかということがあります。更に法人も可能だとすると,複数の法人になったときの意思決定はもっと複雑になるということで,法律に書く必要はないかもしれませんけれども,何となくある程度の合意みたいなものがこの解釈の背後にはあった方がよろしいのではないかと思います。私は信託管理人は単数でいくべきだと思います。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 乙1,2,3に賛成でございます。根拠は余り付け加えるところはないように思われました。法人を信託管理人にすることについては,認める方が実務上の利益が大きいのではないかと考えました。信託管理人の交代という問題が起きにくいので,能力が維持されるかどうかというような議論はあるのかもしれないですけれども,利益の方が大きいように思われます。あと,資料の中で乙1案,乙3案を信託管理人の任務終了事由とする,信託の終了事由にはしないというようなことが書かれていたと思いますが,その考え方には賛成いたします。
  あと,任期を設けるべきかとどうかというところですが,これもむしろ信託管理人が不適格になったら,今でも解任できるとは思っているんですけれども,それを明確にさえしておけば,任期は設けなくてもよいのではないかと思います。むしろ,ボランティア的な方なのか,職業的な方なのかというところでインセンティブの違いはあるのかもしれないんですけれども,ボランティア的な方に引き続き信託管理人の任務をお願いするという点においては,任期は特に設けない方が引き続きやっていただけるのではないかと考えております。
○中田部会長 ほかにありますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○小野委員 単なる質問なんですけれども,イメージとしては当初の信託契約の中で信託管理人の恐らく特定の名前が挙がって,認定のときにこの特定された方が信託管理人としてふわしいかという辺りを審査するのかなと思うんですけれども,いかがでしょうか。その場合,公益信託がどの程度,継続するものかという議論にもよりますし,千差万別かもしれませんけれども,恐らく一つのイメージとしては軽装備のものということで,比較的,数年で終了するというようなものが多いということであれば,それ以上に信託管理人を交代し新たな信託管理人を選任する手続等まで考える必要までないのではないかと思います。何人かの委員の方の御意見で任期を設けるとか,そういう議論もございましたが,その場合に,どういう形で新たな信託管理人を,信託行為から離れて,選任していくのか,どんなイメージでいらっしゃるのか。そこも含めて信託行為の中で,任期満了においてはどうこうするところまで書くというようなイメージなんでしょうか。その辺を教えていただきたいと思います。
○中辻幹事 新たな信託管理人の選任につきまして,現在の主務官庁制のもとでは,継続中の公益信託で信託管理人が欠ける場合には,新たな信託管理人の候補者を,利害関係人,実際には公益信託を運営する受託者の側で探してきて,その新たな信託管理人の選任を主務官庁に請求するという立て付けになっていますが,それが新たな公益信託制度でどのようになるべきであるのかは,次回の部会で本格的に御審議いただくことを予定しております。
○中田部会長 大体,よろしいでしょうか。
  乙1案はこれでいいだろうという御意見が多かったように思います。乙2案についても結論としてはこれでいいだろうけれども,しかし,委託者の位置付けについて両様の御意見を頂きました。更に委託者については,乙2から排除すべきであるという御意見も頂きました。乙3については御意見が分かれたと存じます。それから,法人については法人もなり得るという御意見が多くありましたが,法人の場合には意思決定に時間が掛かるという御指摘も頂きました。それから,信託管理人の資格要件の喪失が任務終了事由になるということについては,御意見を頂いた方全て,それに賛成だということでございました。信託管理人の任期制については,平川委員から任期制を設けるべきであるという御意見を頂きましたが,それに対し,不要であるという御意見を複数頂いたと存じます。なお,新しい信託管理人の選任については,次回にまた御審議いただくということでございます。
  それでは,続きまして第3の6,信託管理人の報酬について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○小野委員 この規定の趣旨で賛成なんですけれども,確認をしたい点としまして信託法は費用と報酬ということを明確に分けております。ただ,一般的な言葉の使い方として費用といったときに報酬も入っていることがありますけれども,飽くまで信託法の議論ですから,ここで言っている報酬というものは報酬であって,費用は別途という理解でよろしいかと思うんですけれども,その辺の確認をさせていただきたいと思います。
○中辻幹事 この部会資料では,費用と報酬の概念について信託法上の概念をそのまま用いております。
○中田部会長 信託法127条に費用と報酬と書いていて,それの使い分けが前提となっているということですね。
○中辻幹事 そのとおりです。
○中田部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 基本的に賛成します。公益信託の透明性あるガバナンスを確保するという観点から,信託管理人に報酬を支払う場合には,信託行為に報酬の額又は報酬額を算定し得る算定方法を明示すべきであると考えます。認定基準としては,係る報酬の基準が信託行為に定められていることを要件とすればよく,これが不当に高額かどうかの判断を行政庁に委ねる必要はないものと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,基本的にはこういうことでよいと承ってよろしいでしょうか。それでは,そのようにさせていただきます。
  続きまして,「第4 公益信託の委託者」について御意見を頂きたいと思います。既に何人かの方から御発言いただいておりますけれども,ここでまとめて御議論いただければと存じます。
○平川委員 甲案に賛成します。その理由は,公益財団法人における出えん者との均衡等から考えて,委託者に特別の権限を与えるべきではないと考えるからです。委託者の出えんした信託金は,税法上,寄附金として公益法人への寄附金同様の取扱いをするよう要望するものです。かかる観点からすれば,信託設定後,委託者が信託運営への発言権を保有することは認められないと考えます。公益信託の公平かつ公益的運営を確保する観点から,委託者の関与によって公益信託の運営が左右される事態はできるだけ排除すべきであると考えます。したがって,別表3の利害関係人としての権利のうち,丸印にとどめるべきです。三角印の権利は付与しないという立場を採ります。この点,公益信託は委託者の権利権能を信託法260条1項でむしろ強化している目的信託とは根本的に軸を異にするものであり,この点からも公益信託が目的信託の一類型であるという考え方から決別すべきであると考えます。
○中田部会長 別表3につきまして,甲案のところで三角が付いている部分もありますけれども,先ほど甲案を御支持とおっしゃいましたが,その甲案の中の三角については外すという御意見でございましょうか。
○平川委員 利害関係人としての権利だけ持っているということにするんだけれども,その利害関係人としての権利のうち,三角印の付いているものも与えないという考え方です。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○深山委員 委託者の権限については基本的に乙案がよろしいと思います。公益信託における委託者の立場をどのように捉えるかというのは,既にいろいろ議論が出ておるところで,一方では財産拠出者でもあり,そもそも,公益信託を作る言わば創設者でもある人に,創設後も一定の権限を認めるべきだという考えにも理解ができます。ただ,他方で,目的信託においては,受益者がいないということで,それを補充する意味もあって委託者の権限を強めていますが,普通の目的信託とは違って公益信託の場合に委託者の権限を通常よりも強めるのはふさわしくないだろうと思います。その結果,消去法というわけではないんですが,通常の受益者の定めのある信託の委託者と同様という乙案をベースに考えたらよろしいのではないかなと思います。
  なお,乙案を採った場合でも三角のところが幾つかありますが,ここは一つ一つ個別に考えていく必要があると思います。基本的に裁判所に対する申立権については認めてもいいのかなと思います。それ以外のことについてはなお慎重に考えたらいいかなと考えます。どちらかといえばやや消極に考えてもいいのかなと思っております。
○能見委員 基本的な考え方は先ほど申し上げたとおり,信託財産を拠出した者として,その信託が信託目的どおり,公益の目的ですが,信託が行われることについて一番の利害関係を持っているだろう委託者に,それなりに役割を与えるべきだという考え方に基づいて,こういう問題も考えるべきだと思います。そういう観点からは,甲案のところの利害関係人としてのいろいろな権限,これは最低限,認められるということのようで,それはあえて反対いたしません。
  乙案のところが争点になっているようですけれども,私もここに書いてある乙案で基本的にいいと思いますが,ただ,私の考え方からすると委託者が信託の運営について,それほど細かいことについていろいろな権限を持っている必要は本来ないのだろうと思います。大きなところといいますか,信託の目的のところに関連する,目的が遂行されると全てが関係するのかもしれませんが,目的が遂行される大きなところについての権限があればいいということになるのだろうと思うのです。そういう観点から乙案のところを見ますと,十分,検討していませんけれども,三角のところの信託の併合とか終了とか,そういうところについてはそれなりに財産を拠出した出えんしたものとしての利害関係が大きいだろうと思いますので,こういうところの権限というのは認められるべきかなと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○林幹事 弁護士会の議論としては,要するに委託者は財産を拠出したのだから,それ以上は関与すべきではないというような観点から,甲案に賛成する意見もあったのですが,一方で,公益信託においては,公益信託に最も関心を有する委託者の考え方や意思も一定,反映してさせたほうがよいという観点から,乙案に親和性のある意見もありました。ただ,結局,乙案的に考えるとしても,深山委員も述べたように,結局,個々の条文ごとに一つ一つ検討してどうなるかによるところと思います。辞任とか解任についてはこの後でも議論されるようですので,ここの論点の在り方に従って辞任解任を議論していくのかと思いました。
○中田部会長 ほかに。
○道垣内委員 私は信託管理人の適格性に関しましては,能見委員の意見に同調しないのですが,この委託者の権利ということに関しては,私は乙案でも丙案でもいいのではないかという気がいたします。と申しますのは,私が前半部分で能見委員の意見に同調しないのは,委託者が,個々の受託者の行為とか,そういうものに対して目を光らせる権限を有しているということにしますと,逆に受託者の権限行使に対して委託者の意向が個々的に反映してしまう可能性があって,それはよくないと思うからです。
  それに対して,今回,問題となっている委託者の権限という問題は,例えば委託者がこのような目的で公益信託を設定したいと考えたときに,その目的を変えてほかのものと併合してしまうのかとか,あるいは分割してしまうのかといった,そういうふうな話であって,委託者がどのような内容の信託を作るかという,その実現に掛かっている問題だろうと思うからです。したがって,能見委員の意見は一体化しているんですが,こっちは分割可能であると考えておりまして,この問題につきましては能見委員がおっしゃったところに賛成いたします。
○中田部会長 ほかに。
○吉谷委員 委託者の役割として,余り大きなものを期待するべきではないとまず考えます。個人の委託者の方であったりすると限界があると思いますので,そういう意味では,受託者と信託管理人による内部ガバナンスというものを重視すべきであって,委託者の権限は重視すべきではないと考えます。その上で,甲,乙,丙案につきましては甲案に賛成です。ただ,これは任意規定であると書いてありますので,任意規定であるということについて賛成いたします。ただ,委託者の意向が個々に反映されるようなことは望ましくないと思いますので,任意規定であるとしても過度に強い権限を与えることはよくないと思います。
  甲案と乙案の違いの中で,甲案の方が新任のほうの申立てがあって,乙案の方には解任の方の申立ての権限があるということになっておりますので,甲案だけだと新任はできるけれども,解任はできないということになりますので,解任と新任の申立てはセットになっていてもおかしくはないのかなと思いましたので,そこら辺は甲案と乙案のどちらがいいのかというところの考慮材料になるのではないかと考えました。ただ,一方で様々な合意をするというところの権限を与えるということには疑問を持っておりまして,委託者の合意がないと何らかの変更の認可申請ができないというような事態は避けるべきであると考えております。
○小野委員 先ほど信託管理人の議論がございましたけれども,そのときに次回の審議の課題ということではありますが,関連するので一言述べたいと思います。任期制のときにですが,信託管理人は受託者を監督する立場ですから,先ほど深山委員もおっしゃられたように,裁判所が介在する,裁判所を通して信託管理人の新たな選任とか,そういうことをするときの大事なステークホルダーとして,委託者というものは必要ではないかと思います。結論としては乙案ということになるかと思うんですけれども,ステークホルダーが非常に限られている中で,特に受託者と信託管理人というところで,一応,ガバナンスが成り立つ。その二者が機能しないときに,又はその交代が必要なときに,もう一人,ステークホルダーが必要かと思いますし,そこで委託者が自分が出したお金だからといって何か必要以上に介入するという意味ではなくて,裁判所の発動を促すという意味においては,委託者がいて何ら問題はないのではないかと思います。
○神田委員 何人かの先生方がおっしゃったことと同じ趣旨だとは思うのですけれども,委託者の権利という場合に,機能に応じて考えるべきだと思います。すなわち,信託の運営に参加,参与する権利なのか,それとも受託者を監督する権利なのかで全然違うので。確かに出えんをして財産を拠出したわけですから,前者の運営に参与,参加していくという権利はなくていいと思うのですけれども,受託者を監督する権利というのは専ら信託管理人だけが有するということでいいのかということになれば,委託者も一緒に監督しますということはあっていいように思います。そういうことからいうと,表をきちんと見ていませんけれども,別表1にある信託管理人に与えられる受託者の監督に係る権利というものは,委託者にも付与されてもいいのではないかと思います。
○新井委員 私は甲案を支持します。公益信託というのは委託者が財産を公益目的のために出えんして,自分のコントロールから離れるということがポイントだと思いますので,利害関係人が有する権限を持っていれば,それで十分だと思います。公益信託の場合にも場合によっては税法上の優遇もあるということも考えると,委託者に余り強い権限が与えられるというのは少し問題ではないかと思います。それで,乙案は,公益信託が目的信託だということを非常に強調していながら,ここで受益者の定めのある信託を持ってくるのは私には非常に違和感があるので,これは甲案でいったらいいと私は考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  甲案と乙案とそれぞれ支持される御意見がありました。特に委託者の位置付けについて両様の御意見を頂いたと思いますが,更に一般的に決めるよりも,幾つかの切り口をお示しいただきましたけれども,どういう権能あるいは機能に即して考えるのかという分析がより必要ではないかというご指摘も頂きました。これらを踏まえて更に検討を続けたいと思います。
  ほかに。
○山田委員 甲,乙,丙の具体的にどれを指し示すという意見にならないのですが,第4で委託者の権利を認めますと,相続をするのではないかと思います。公益信託においては公益目的と委託者の相続人というのは,利害が反する場合が想定できるかなと思います。遺産の中から出ていってしまうということです。そうしますと,公益信託の委託者に与えた権限,権利が相続されるということを,すみません,私の理解が十分ではないんですが,仮に前提にすると,余り委託者に与える権利,権限は大きくすべきではないのではないかと思います。そうすると,先ほどの私の信託管理人についての発言とどういう関係になるのかということになりますが,仮に委託者を信託管理人にできるとした場合にも,それは一身専属であって相続はしないだろうと思いますので,今の問題は生じないかと考えるところであります。第4にまた戻りますが,22ページで,そうすると,私が今,考えていることは甲案に近いのかなと思うのですが,そこを十分には点検せずに,今,発言させていただいております。
○中田部会長 ほかに第4,委託者についてありますでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○能見委員 今の山田委員のご指摘の点が,私も同じことが気にはなっているのですけれども,委託者に与えられる権限の意味,なぜ,委託者に一定の権限が与えられるかという理由から考えると,それは公益信託のための財産を出えんした者として最も利害関係があるということですから,相続人は委託者と必ずしも同じ立場ではないことになります。そこで,私はむしろ委託者にいろいろな権限を認めても,相続人まではいかないように考えるべきだと思います。委託者限りで,そこで切れてしまうというのも一つの考え方かと思います。乙案をとった上で,以上のように考えたいと思います。
○山田委員 実質的には私も同じになります。どう仕組むかというところはよく分かっておりません。
○中田部会長 ありがとうございました。それでは,先に進んでよろしいでしょうか。
  では,続きまして部会資料35の第5と第6について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。
○佐藤関係官 私の方から御説明いたします。
  「第5 受給権者」について御説明いたします。本文では,「受給権者による監督・ガバナンスに関する規律は設けないものとすることでどうか。」という提案をしております。受益者の定めのある信託における受益者は,当該信託の設定当初から受益権を有することが予定されているのに対し,公益信託の受給権者は,現在の助成型を前提としても,当該信託の設定段階では助成金を支給する権利を有することは確定していないこと,公益信託には様々な類型があり得るのであって,例えば助成型における受託者から一定の期間,奨学金の支給を受けることが確定した学生と事業型における美術館の利用者とでは,その信託への利害の強弱,関心の程度には大きな違いがあると言えますので,これらを受給権者として一律に扱うことは困難ではないかということで,そういった理由から,このような提案をしている次第でございます。
  最後に,「第6 運営委員会等」について御説明いたします。本文では,甲案として,「公益信託をするときは,受託者に対する助言的な役割を果たす運営委員会を設けることを信託行為で定めなければならないとする規律を設ける。」,乙案として,「公益信託をするときは,受託者に対する監督の役割を果たす信託管理人以外の主体を設けることを信託行為で定めなければならないとする規律を設ける。」,丙案として,「上記の各規律を設けない。」との提案をしております。
  現行の許可審査基準と同様に,新たな公益信託においても,公益信託の受託者に対する助言的な役割を果たす諮問機関として運営委員会を必置とすべきであるという考え方があり得ることから,これを甲案として示しております。また,新たな公益信託において公益信託内部の監督・ガバナンスを強化するためには,信託管理人以外の新たな監督の主体の設置を義務付けるべきであるとの考え方もあり得ることから,これを乙案として示しております。他方,公益信託において一般の信託と異なる機関の設置を一律に義務付けることは柔軟性を欠き,利用者にとって使いづらい制度となる可能性があること,公益法人制度に比べ,軽量・軽装備であるという公益信託のメリットを生かすのであれば,複数の構成員の選任に伴う時間,費用等のコストを要する会議体の信託管理人を新たに諮問機関又は監督機関として設けることは避けるべきであるという理由から,甲案や乙案のような規律を設けるべきではないという考え方があり得ますので,これを丙案として示しております。これらの点について御審議いただければと存じます。
○中田部会長 ただいま御説明のありました部分について御審議いただきます。まず,第5,公益信託の受給権者について御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○小野委員 意見を申し上げる前に確認なんですけれども,第4のところで脚注のところで信託法上の利害関係人ということで,典型的には信託債権者であるという記載がございましたけれども,ということは,受給権者という概念からのガバナンス規律は設けないけれども,第4のところでいう信託の利害関係人には含まれるということになるのかなと思います。その場合,先ほどの第4の補足説明を見ますと閲覧謄写権とか,信託財産管理命令申立権とか,結構,強い権限を持っているようにも思うんですけれども,ということで確認ですが,受給権者は信託債権者ではあるけれども,第4で議論したような権限を持つようなものではないという理解なんでしょうか。飽くまで債権者になる前の受給権者は何も権限を持っていない。とはいっても,恐らく将来債権の債権者であるような気もするんですけれども,何か権限はないと言いながらも,結構,第4のところの甲案ではそれなりの権限があるのがバランスを欠いているのかなと感じたものですから,それについて確認させていただければと思います。
○中辻幹事 私どもとしては,受給権者が全て信託法上の利害関係人に当たるとは考えておりません。受給権者の中にも具体的な受給権が発生している信託債権者のような方と,まだ,研究助成費とか奨学金の支給の対象となっていない不特定多数の段階にある方々も含めて,ここでは受給権者と表現しておりまして,いわゆる事業型における美術館の利用者のような方も受給権者と捉えているわけですけれども,それらが全て公益信託の利害関係人になるというわけではなくて,飽くまで受給権者が信託債権者の地位を取得したような場合に利害関係人に該当するということを考えております。
○小野委員 説明としては理解しましたけれども,受給権者という言葉そのものからして恐らく将来債権的な権利は持っている特定又は場合によっては不特定,不特定だと本人は行使できませんけれども,今の将来債権の非常に幅広い理解からすると該当してしまうのは,それはそれで,整理としてはそういうものだという理解ですか。債権者になれば民法的に,私法的に債権者として観念できれば,それは利害関係者としての権利を持ち得るという理解でよろしいんでしょうか。
○中辻幹事 将来債権を有する者が公益信託の利害関係人としての権利を持ち得るとは余り考えておりませんでした。部会資料では受給権者と表現しておりますが,物の本では「権」を抜かして受給者と表現しているものもございます。後者の表現を採ることも考えたのですが,研究会段階からの継続性ということで受給権者という表現を部会資料で使っているだけで,事務局としては,受託者に対する債権が現実に発生した受給権者が信託債権者になり,その結果公益信託の利害関係人に入ってくるという理解でおります。
○新井委員 今の小野委員の発言と関連します。26ページの説明の中に私としては気になる点があります。下から大体10行目ぐらいでしょうか。「そもそも,助成金の支給先に選定されたことが通知された受給権者と受託者との間の法律関係が贈与契約であるか否かは措くとしても」と書いてあるのですけれども,私としてはこの点は曖昧にしておくことはできません。ここははっきりしてもらわないと困ると思っておりまして,私の見るところ,文献上,贈与契約以外の説明はありません。そうだとすれば,これは受給権者ではなくて受贈者と明確にすべきではないかと思います。
  それで,私の問題意識としては,これからの信託というのは福祉型の公益信託というのが増えてくると思うのです。そうすると,受給者でも受益権者でも意思能力のない方が受益権といいますか,受給するということがあるわけです。何が問題かというと,88条で一般の他益信託であれば受益者と指定されると,当然に受益権が発生するわけです。しかし,こういう構成を採ると,それが全くできなくなるという大きなデメリットを負うわけです。そうすると障害者の権利条約とか,差別解消法の合理的配慮ということを考えると,立法上,合理的配慮を欠いたことになるのではないかという気がします。
  ですから,私は今まですごく精緻な議論をしながら,ここはぽかっと何か理論的な空白状態みたいになっている気がします。もう少しここのところは詰めてきっちりした理論構築をされた方がいいのではないかと私は思います。それで,私は受益債権と考えたらどうかと提案します。共益権的なものがなくても信託法上の受益債権と考えたらどうかと思っていますけれども,それはいろいろな御意見があるので,私の問題意識からすると,ここのところの説明は何か非常に偏っているような感じがします。
○中田部会長 法律関係の契約の性質決定という問題と,それから,更に債権者になるという問題があり,債権者となった場合にどのような監督・ガバナンスに関する規律を与えるのかというのは,最終的な論点であるわけですけれども,最終的な論点について一般に利害関係人に認められているような権能に加えて,更に何かを設けるべきだということも含むのでしょうか。
○新井委員 私は特に規律は必要ないと思います。それ以前のまず性質決定の問題と理論的な中身,そこのところをきっちりしていただきたい。だから,前提の議論かもしれませんけれども。
○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。
  ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 受給権者による監督・ガバナンスに関する規律というのは,特に設ける必要はないと思います。公益信託の受給権者は,受給権があると確定して初めて受給を受ける権利を有することとなり,公益信託に対して受給請求債権を行使することができると理解しますが,特に監督・ガバナンスに関する規律は設けなくても,受給権を得た時点以降,信託法上は利害関係として権利,民法上は債権者としての権利を認められれば,それでよいと考えます。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体,よろしいでしょうか。
○道垣内委員 結論として全く異存はないのですけれども,中辻幹事がおっしゃったことで若干,気になっていることがございまして,つまり,受給権者という言葉は広い意味で使っているとおっしゃったような気がしまして,つまり,ポテンシャルに受給権を取得する可能性がある人と,確定的に選任されて受給権を債権として取得した人の両方を含んでいるとおっしゃったんですが,私が資料を読んだときにはポテンシャルな人を含んでいるとは読めませんでしたし,それはかなり性質の違う者ですので,もし仮に両方を含んでいるということで書いていらっしゃるのならば,それは言葉を変えられた方がいいのではないかという気がいたします。
○中辻幹事 御指摘ありがとうございます。
○中田部会長 
  それでは,今の御指摘も踏まえまして,更にその概念を明確にしていくということを検討したいと思います。結論的には特別の監督やガバナンスに関する規律は設けないという御意見を頂いたと理解いたしました。
  それでは,最後になりますが,「第6 運営委員会等」についてはいかがでしょうか。
○深山委員 先ほども少し触れましたけれども,甲案は助言的な役割を果たす運営委員会というものを提案し,乙案は監督の役割を果たす主体ということなので,その意味するところは違うんだろうと思いますが,いずれにしろ,いずれも,つまり助言的な役割を果たす主体にしろ,監督の役割を果たす主体にしろ,必置の機関として置く必要はないし,むしろ置くべきではないだろうと考えています。そういう意味で丙案に賛成いたします。
  もちろん,言わずもがなですけれども,必置の機関であることに反対しているのであって,個々の公益信託において必要なときに助言的な役割を果たす機関,それを運営委員会と呼ぶかどうかはともかくとして,そういう主体を設けることや,あるいは監督の役割を果たす信託管理人以外の主体を設けることを否定するつもりは全くございません。それは必要に応じて定めればいいことであって,あくまで必置の機関としては必要ないということです。新しい公益信託制度を,いわゆる軽量・軽装備で,ローコストで可能にするという趣旨からも,最低限必要な機関ではないだろうと考えております。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○平川委員 私は運営委員会は,委託者の関与を排除して,そこで信託関係人が一人いなくて,受託者と信託管理人しかいない状態では,受託者,信託管理人の選・解任の場面で最低,第三者の信託関係者が必要になるという意味で,運営委員会を,甲案と乙案の複合型として必須の機関とすべきであると考えます。つまり,運営委員会の役割としては受託者に対する助言的な役割を果たすとともに,委託者の関与を排除した結果,権限を行使するものが漏れた権限について,最低,運営委員会に委ねるべきであると考えますので,便宜的に運営委員会と呼びますけれども,名称は実態に合わせて別の名称も考えられると思います。
  運営委員会に与える権能としては,具体的に別表3に記載の利害関係人としての委託者の権能として列記された権能のうち,先ほど三角で記載されたものについて委託者の利害関係人としての関与を排除すべきであると申しましたけれども,その権限については運営委員会に係る権能を与えるということが妥当であると考えます。また,別表3に記載される委託者としての権利の中で,このうち,最低,受託者,信託管理人の選任・解任の合意や同意権が与えられないと,係る事項について公益信託の自律的ガバナンスが保てないことになってしまいます。
  具体的には別表3に挙げる事項のうち,受託者の辞任に対する同意権,受託者の解任の合意,新受託者の選任の合意,信託管理人の辞任に対する同意権,信託管理人の解任,別表3では信託管理人の解任の合意とありますけれども,信託管理人に監督される受託者が信託管理人の解任を申し出ることはできないと考えますので,ここは信託管理人の解任と読み替えます,新受託者の選任の合意,新信託管理人の選任,これらが該当すると考えます。
  また,これらの権利の前提として,運営委員会は信託法36条の信託事務の処理の状況等に関する報告請求権,38条1項の信託財産に係る帳簿等及び信託事務の処理に関する書類等の閲覧謄写請求権,38条6項の財産目録の閲覧等請求権,172条の信託財産の保全処分に関する資料の閲覧等請求権を有するとすることも必要であると考えます。これらの権利は,運営委員会が有する権能の最低ラインとして必要であると考えますが,それ以外にも運営委員会に税制優遇を受けるにふさわしい自律的ガバナンスの確保の観点から,定款変更,信託終了,財産帰属など信託事務の根幹に関わる事項についても,運営委員会の関与が必要と考えますので,何らかの関与を考えていただきたいと考えます。
○能見委員 結論としては深山委員が言われた案に賛成ですが,まず,甲案というのは内容的に矛盾とまでは言いませんけれども,運営委員会が助言的な役割を担うのだとすると,そういう役割の機関を必置とするというのは,十分な説明ができないだろうと思います。そういう揚げ足取りはともかく,助言的な機関というものを必須にするということは,実質的に考えても適当ではないと思います。乙案は,ガバナンスの観点から考えると,この案の前提には,受託者を監督するものとしては信託管理人というものを設けるが,それだけでは不十分であるということを言っていることになると思います。しかし,それならば,信託管理人の制度のところで,ガバナンスの観点から十分となるように,その形を変えるべきなのだろうと思います。
  それは,具体的には先ほどから議論にも出ていますけれども,信託管理人というのは一人ではなくて,複数,設けるという形でガバナンスを強化するというのが一つであります。そうすれば,複数の信託管理人の間で相互の監督ということが生じます。これに対して,信託管理人とは別の機関を設けて,受託者,信託管理人及び第三の機関の間の,ある意味で三つどもえの形にするというのは適当ではないだろうと思います。ガバナンスに関しては,委託者ということも考えられますけれども,私は,財産を拠出した委託者がいるときには,それなりに役割をある程度,求めてもいいと思いますけれども,先ほど言いましたように,委託者が死亡した後に相続人が監督に関わるというのは適当ではないと思いますので,委託者では十分なガバナンスという意味では限度があります。そこで,信託管理人を複数化する形で対応するのがいいのではないかと思います。
○新井委員 深山委員,能見委員のおっしゃったことは,公益信託は軽装備の方が望ましいだろうという観点からはよく分かります。ただ,現実の公益信託の実務を見ていると,信託銀行がいろいろな種類の公益信託を受託しているわけです。公益信託としては信託目的に沿った受給権者を選定しなければいけない。信託銀行は財産管理のプロですけれども,ある特定の公益信託の目的に沿った受給権者を選ぶということのプロではないのです。例えばある特殊な医学研究という目的を達成するための受給権者を選ぶということになったら,信託銀行にノウハウはないと思います。今後,受託者の担い手を拡大して,信託銀行以外の担い手が反復継続して公益信託を行うということを考えても同じだと思います。
  それで,今までの実務の中で運営委員会というのがあって,受給権者を選定するという役割を果たしてきたというのも事実ですので,これをどう位置付けるかは別にして,能見委員の案のように信託管理人という形で機能を与えるというのも一つの案かとは思いますけれども,私としては運営委員会的なものがないと多分,現実の公益信託は機能しないのではないかと思っておりますので,甲案を主体に少し内容を精査していただく辺りが実務的な対応としても妥当ではないかなと考えます。
○能見委員 新井委員のおっしゃることはよく分かるんですが,私の考え方が必ずしも正確に伝わっていなかったので,その点だけ補足したいと思います。甲案というのは,正に新井委員が言われたように,誰に受給するかと,そういうようなところで助言をするために運営委員会が役割を担うということですが,これはガバナンスという意味で関わるというのとは違うのだと思うのです。乙案は正にガバナンスを問題にしていまして,甲と乙というのは全然違う観点に基づく案ということになります。私が複数化など信託管理人の制度自体を強化すべきだというのは,ガバナンスの観点からの話でして,乙案における具体的な対応として,そういう形で対応すべきだと思います。そして,以上は,運営委員会という制度にガバナンスを期待するのは適当ではないだろうという考えに基づいています。助言的な役割についての運営委員会であっても,実際上いろいろ付加的な機能を果たしているし,そういうことがあっていいとは思います。ただ,やはり運営委員会は監督機関としては向いていないし,助言的な機関である運営委員会を必置にすべきかというと,それは適当でない。この点が新井委員と違うんだと思います。
○吉谷委員 結論としては丙案賛成です。運営委員会の位置付けとして,まず,助言をする機関であると考えております。その上で,甲案か,丙案かというところでいいますと,信託銀行が従来,同様の助成を行う場合においては,間違いなく運営委員会というものを設置するということになると思います。しかしながら,信託銀行以外の主体がされる場合,あるいは信託銀行が助成でないことをする場合におきまして,運営委員会が必要でない場合というのも想定できるのではないかなと考えております。そのために丙案がいいと思っております。ただ,本日の冒頭に申し上げましたように,受託者がどのように公益事務というのを運営できるのかと,そして監督してもらえるのかという,このガバナンスの問題については受託者が申請をするときに証明をしなければならないと思いますので,運営委員会というものがないのであれば,運営委員会がなくてもできる能力があるということを証明するべきであると考えます。
○林幹事 先生方と同じになりますが,基本的には丙案です。甲案につきましては,助言的な役割については,確かに実務的にはそういうこともあるのでしょうけれども,これは必ずしもパラレルの論点ではないかもしれませんが,私益信託で指図権者を法に取り込むかという論点があり,今のところは別に必ずしも法に取り込む必要はないという前提だと思いますので,公益信託において,誰にどう助成するのか決められないという場面はありえても,それにおいては必ずしも法に取り込む必要はないと考えます。乙案に関しては,結局,屋上屋のようになって,また,その次の人を誰が監督するのかのような議論をしても意味がないように思いますし,能見委員がおっしゃったように,信託管理人についてしっかり権限を与えてガバナンスできればいいのではないかと考えますので,丙案が妥当と考えます。
○沖野幹事 運営委員会については私も丙案が妥当ではないかと思っております。信託の類型によって例えば環境保全のために土地を保有するとか,そういうようなタイプなども考えられ,助言のための運営委員会を必ずしも必要としないものもあるのではないかと思っています。それはそれとして,むしろ確認させていただきたいんですけれども,ここでの「運営委員会等」というタイトルは,飽くまでガバナンスの問題として,受託者に対して助言をする機関を設けることもある意味,受託者がきちんとやるかということを間接的に適正化するという意味もあるのかと思われますが,そのような観点から,これを取り上げるということなのでしょうか。
  考えておりますのは,必置にする必要はないと思うんですけれども,任意的に置くことができるときのモデルとして用意するということは考えられないのかということです。信託法ですと例えば受益者集会などの規律は,用意はしてあるけれども,使うかどうかはそれぞれ次第というものであり,そのようなものもあり得るかと思います。そういうような規律を置くことは,別途,考えられるのでしょうか。それとも,ここで置かないというのは,およそ何ら規定もどの観点からも置かないということなのでしょうか。
○中辻幹事 事務局の方で部会資料を作っていたときには,受益者集会みたいな制度を作ることまでは考えておりませんで,丙案を採るのであれば,モデルとしても法律には規定を設けないとことになるのかなと考えておりました。もっとも,公益信託の個別の必要に応じて信託行為の中で運営委員会を任意で設置することまで不可能にすべきであるとは全く考えておりません。そして,受益者集会のようにモデル的なものを法律で定めるのか,ガイドラインのような形で定めるのか,いろいろやりようはあると思いますので,御指摘も踏まえて検討させていただきます。
○沖野幹事 ご検討いただければと思います。
○中田部会長 よろしいでしょうか。沖野幹事は法律の中で定めるというところまでおっしゃっているわけではない。
○沖野幹事 ガイドラインということは余り念頭には置いていませんでした。選択できるモデルとしてあった方がいいのではないかという感覚を持っていたものですから,申し上げました。更に言えば,甲案で設けることを信託行為で定めなければならないという場合の法律の規定の内容について,設けることだけを定めるのか,それとも法律に運営委員会とはこういうものだというより詳細が示されて,それを定めなければいけないのかという点も甲案については検討課題としてあると思うのですが,任意の機関として設けるというようなときに,法律にある程度,モデルとなる制度の中身を書くのか,それともガイドラインで書くのかというのは,可能性としてはいろいろあるのだろうと思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
○小野委員 先ほども議論しました信託法上の利害関係人,私は丙案に賛成なんですが,運営委員会を設けること自体は反対しません。そこでいずれにしても設けた場合には利害関係人に該当するというような立て付けまで考えていらっしゃるのかどうか。そこまでガバナンスに運営委員会が踏み込む必要はないのではないかというのが私の考えなんですけれども,事務局としてはその辺の,甲案,乙案を採れば利害関係人なんでしょうけれども,という点を確認できればと思います。
○中辻幹事 乙案を採るのであれば,運営委員会の委員は公益信託内部の監督・ガバナンスに直接権利義務を有するという意味で,公益信託の利害関係人に入ってくると思います。甲案を採る場合には,運営委員会の委員は受託者に対し奨学金の支給等について助言的な役割を果たすことになりますが,それを前提として委員が利害関係人に当たる場合もあるかもしれませんし,信託事務の内容に応じて異なってくる場合もあるように思います。
○中田部会長 御質問は,丙案を採ったとして,それで任意に設けた場合に運営委員会に利害関係人としての役割も付与することを考えているかということも含んでいたかと。
○中辻幹事 丙案を採った場合について,任意に設けた場合の運営委員会の委員であれば,基本的には公益信託事務について直接に利害関係を有する利害関係人には入ってこないように思いますが,ガイドラインのように公的な立て付けのもとで運営委員会が設定されるのであれば,それぞれの信託における運営委員会の役割にもよりますが,甲案と同様に運営委員会の委員が公益信託の利害関係人に入ってくる可能性はあり得るように思います。
○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。
  丙案を支持される方がかなり多くいらっしゃいまして,あとは甲案あるいは甲プラス乙案という方がお一人ずついらしたと思います。ただ,丙案にしたとしても任意的な機関である運営委員会というものを何らかの形で位置付けることはできないだろうかという御指摘を頂いたと理解いたしました。
  ほかに第6について。
○平川委員 能見委員のように信託管理人を複数置くという案であれば,例えば信託管理人の選・解任を自薦でやるということが考えられるんですけれども,単独である場合で運営委員会を設けないで選・解任の権限を与えないとすると,誰が信託管理人の選・解任をするということになるのか,何かお考えをお持ちの方がおられたら教えていただきたい。
○中辻幹事 信託管理人の辞任,解任,新選任につきましては,受託者のそれと合わせて次回に御審議いただく予定にしております。
○平川委員 分かりました。了解しました。
○中田部会長 ほかにございませんでしょうか。
  ございませんようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。
  最後に,次回の議事,日程等について事務当局から説明してもらいます。
○中辻幹事 次回は公益信託の監督・ガバナンスの残りの部分,公益信託外部の第三者機関として公益信託の認定を行う行政庁や裁判所による監督について御審議いただくほか,受託者及び信託管理人の辞任・解任・新選任,情報公開を御審議いただく予定です。
  次回の日程は,12月6日(火曜日)午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は現時点では未定ですので,後日,開催通知と共にお知らせいたします。
○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了いたします。
  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。
-了-
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