民事信託手続準則案3

 

3 高齢者本人ではなく親族の利益のための親族間信託の組成に加担しない事

司法書士は、信託登記代理の付随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは、簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策等を信託の目的とする親族間信託の組成を支援する場合、そのような信託目的と受託者等の実質的意図の齟齬(権限濫用)を生じさせないため、高齢者である委託者兼受の利益のための信託ではない、高齢者である委託者兼受益者以外の親族の利益のための信託ではないこと、そして、実質的にも受託者の利益のための信託であること、そして、信託の目的に記載された通りの実質を有する高齢者の福祉のための適法で適切な信託が維持されるしくみを有すること、などを確認し、司法書士は、その確認方法・内容・結果を調書化したうえ、信託組成関係者に対して、これに反する場合の効果や制裁の可能性等を説明、理解したことの署名捺印を得るものとする。

その場合、当該司法書士は、当該高齢者の親族または親族の一部に対して、親族の側の利益を図るために当該親族間信託を悪用することはできないこと、それに違反した場合の法的効果や犯罪成立の可能性その他の危険性などを助言し、高齢の委託者兼受益者の保護を犠牲にして、それ以外の者の利益を図るための違法または不適切な親族間信託の組成に加担してはならない。

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―司法書士は、信託登記代理の付随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは、簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策等を信託の目的とする親族間信託の組成を支援する場合―

ここまでは、司法書士が民事信託に関わる場合の前提と思われます。
目的
―信託目的と受託者等の実質的意図の齟齬(権限濫用)を生じさせないため―

方法
1、 高齢者である委託者兼受益者の利益のための信託であること
2、 高齢者である委託者兼受益者以外の親族の利益のための信託ではないこと
3、 実質的にも受託者の利益のための信託ではないこと
4、 そして、信託の目的に記載された通りの実質を有する高齢者の福祉のための適法で適切な信託が維持されるしくみを有すること
5、 などを確認して書面化

1,2,3は、内容としては同じだけど、2,3を説明しておかないと、分からなくなってしまう受託者がいる可能性があるので、必要だと思います。

4、は司法書士の能力の問題。間違ったら駄目、というわけではなくて、間違っても変更できるような仕組みを作ることが大切です。ただし、信託の目的(契約書の信託の目的条項だけではなく、総合的に解釈される目的)がずれると、全てがずれて変更で対処出来なくなるので、目的だけは気を付けて、分からなければ信託銀行を参考に必要最低限を書いておくことが必要。
追加する変更は割とやりやすいですが、削る変更は他の契約条項とも関わることが多いので、収拾がつかなくなる可能性があります。

5、などの例としては、受託者に対する成年後見制度についての確認などを挙げることが出来ると考えます。(任意・成年)後見人に受託者が就任するのかに関わらず、成年後見開始の審判申立て、成年後見監督人選任審判の申立てについては、委託者兼受益者の近くにいると思われる受託者が行う場合も多いと思います。

―当該司法書士は、当該高齢者の親族または親族の一部に対して、親族の側の利益を図るために当該親族間信託を悪用することはできないこと、それに違反した場合の法的効果や犯罪成立の可能性その他の危険性などを助言し、高齢の委託者兼受益者の保護を犠牲にして、それ以外の者の利益を図るための違法または不適切な親族間信託の組成に加担してはならない。―

ここは司法書士法とその関連法令、倫理規定と守るという当然の規定だと思います。

 

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

民事信託手続準則案3

4 親族受託者等の権限乱用や不正への対策

司法書士は、信託登記代理の附随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策を目的とする親族間信託の組成を支援する場合、高齢者である委託者兼受益者の利益を擁護するため、信託当事者および当該信託に関係する親族に対して、受託者の権限乱用や不正を防止するためのしくみを備えるべきことの助言を行うものとする。また、受託者の権限乱用や不正を防止するための助言を行うものとする。


また、受託者の権限乱用や不正が、背任罪や横領罪などの犯罪の構成要件に該当する可能性について警告しなければならない。そして、司法書士は、法律家としての法令順守確認義務の観点から、受託者や受益者代理人等の権限濫用や不正が生じないよう、受託者に対する牽制や監督が可能な信託が組成されるよう支援するものとする。


なお、当該司法書士は、自らが組成を支援した親族間信託に対しては、特段の事由がない限り、信託開始以降も適法かつ適切に受託者の信託事務が遂行されていることの確認に努めるとともに、現に、受託者等の権限濫用や不正の危険を生じ、受益者の利益が害されるような急迫性を生じた場合、これを当該司法書士が知ったときは、速やかに、受益者の利益を守るため、司法書士の法令順守義務の履行として、信託当事者に対して助言、警告するものとして、現に不正等に至ったことを当該司法書士が知った場合、捜査機関等への相談、届出や告発その他、委託者兼受益者または受益者の損害を最小化するためのしかるべき措置をとるものとする。
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―高齢者である委託者兼受益者の利益を擁護するため、信託当事者および当該信託に関係する親族に対して、受託者の権限乱用や不正を防止するためのしくみを備えるべきことの助言を行うものとする。―

例えば、任意後見契約にならって信託監督人を就ける、高齢者である委託者兼受益者が信託契約に加えて任意後見契約も締結しておき、任意後見契約書の中の代理権目録に、受託者に対する監督権を明示して持たせる、などを考えることが出来ます。


―また、受託者の権限乱用や不正を防止するための助言を行うものとする。―

信託契約書作成時、終了時は司法書士が関わるので助言できる(する義務がある)のに対して、何もない時でも(何もないからこそ)受託者や受益者と定期的に連絡を取って様子を聞く必要があります。

―なお、当該司法書士は、自らが組成を支援した親族間信託に対しては、特段の事由がない限り、信託開始以降も適法かつ適切に受託者の信託事務が遂行されていることの確認に努める―

特段の事由としては、受託者とともに受益者(またはその成年後見人)と支援業務契約の解除を行った場合を挙げることが出来ます。

―とともに、現に、受託者等の権限濫用や不正の危険を生じ、受益者の利益が害されるような急迫性を生じた場合、これを当該司法書士が知ったときは、速やかに、受益者の利益を守るため、司法書士の法令順守義務の履行として、信託当事者に対して助言、警告するものとして、現に不正等に至ったことを当該司法書士が知った場合、捜査機関等への相談、届出や告発その他、委託者兼受益者または受益者の損害を最小化するためのしかるべき措置をとるものとする。―

この部分は、司法書士が法定後見人、(任意)後見監督人に就任する場合の業務に近く、注意していれば比較的馴染みやすいのではないかと思います。
親族間信託支援業務だけが特別ではない、という意味で記載がされていると理解しています。

 

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

民事信託手続準則案3

5 司法書士の品位保持義務

司法書士は、自己の経済的利益を図る目的で親族間信託組成支援業務を不当に誘致するため、利用者に対して、あたかも親族間信託が万能であり、デメリットがないかのように誤認させ、また、親族間信託を利用すれば成年後見制度が全く不要となると誤認させ、あるいは、一方的に成年後見制度を批判し、専門職後見人を貶め、自らの親族間信託の組成支援報酬金額を不当に成年後見人報酬が高額であると誤認させることで、成年後見制度のネガティブなイメージを世間あるいは利用者に流布し、公益制度である成年後見制度の運営を阻害し、成年後見離れのごとき風潮を助長することのなきように配慮し、法律家としての品位を保持し、他分野の専門業務や公益業務を尊重しなければならない。

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整理してみます。
司法書士が親族間信託支援業務を誘致するために、やったらダメなこと
1、 利用者に対して、あたかも親族間信託が万能であり、デメリットがないか
のように誤認させること

2.利用者に対して、親族間信託を利用すれば成年後見制度が全く不要となると誤認させること

3.一方的に成年後見制度を批判し、専門職後見人を貶め、自らの親族間信託の組成支援報酬金額を不当に成年後見人報酬が高額であると誤認させることで、成年後見制度のネガティブなイメージを世間あるいは利用者に流布すること

守ること
1. 公益制度である成年後見制度の運営を阻害し、成年後見離れのごとき風潮を助長することのなきように配慮し、法律家としての品位を保持し、他分野の専門業務や公益業務を尊重すること。
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やったらダメなこと、1に関してはセミナーなどでメリットなどを話しておいて、相談、受任の直前位にデメリットを言うことです。説明はした、と言い張ることも出来るかもしれませんが、後で言わなくてもいいのにと利用者は思うかもしれません。また、デメリットが原因で全て白紙になるかもしれません。
それなら、最初から言っておいた方が、私達司法書士にとっても時間の無駄が少なくなります。

やったらダメなこと、2に関しては成年後見制度と比較することはよくあります。相談する人が成年後見制度を知っている場合です。
知らない場合は、成年後見制度の説明から始めることが必要です。
違いと共通点などを説明していきますが、私は、お金(最初にかかる費用と運転資金など)については、あまり変わらないと伝えています。
あまり変わらないというのは、先のことは分からないというところがあまり変わらないということです。

やったらダメなこと、3に関しては成年後見人に就任したことがない人や、たくさん就任して嫌な思いをしてきた人、不動産登記を主にしていて成年後見制度が原因で決済が出来なかった人などが多いような気がします。
成年後見制度に関しては、2019年の改正後も批判があるのは事実です。

これは専門職のみではなく、市民の間でも批判的な立場で後見制度を取られる方がいます。
完璧な制度はなく、禁治産・純禁治産制度から少しでも進んでいる点をみながら説明する必要があります。
私も成年後見制度に関しては思うところがありますが、可能な限りどのような制度なのかの事実に絞って話すようにしています。

守ること1、に関しては自分で敵を増やすことになるのであまりお勧め出来ません。

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

法制審議会 民法(相続関係)部会


法制審議会
民法(相続関係)部会
第1回会議 議事録


第1 日 時  平成27年4月21日(火)自 午後1時32分
                     至 午後3時25分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の規律の見直しについて

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○堂薗幹事 それでは,予定の時刻が参りましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第1回会議を開会いたします。
  本日は,御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  私は,官房参事官の堂薗と申します。部会長の選出があるまで,議事の進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
  法制審議会は法務大臣の諮問機関でございますが,その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができるということになっております。この民法(相続関係)部会は,先の2月24日に開催されました法制審議会第174回会議において法務大臣から相続法制の見直しに関する諮問--第100号になりますが--がされ,これを受けまして,その調査審議のために設置することが決定されたもので,その諮問事項は以下のとおりでございます。
  以下,読み上げますと,「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでございます。
  それでは,審議に先立ちまして,当省深山民事局長より一言御挨拶を申し上げます。
○深山民事局長 民事局長の深山でございます。部会の調査審議を開始するに当たりまして,事務当局を代表して一言御挨拶を申し上げます。
  まず,皆様にはそれぞれ御多忙の中,法制審議会民法(相続関係)部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。
  民法が規律している相続法制につきましては,配偶者の法定相続分の引上げ,寄与分制度の新設等を行った昭和55年の改正以来,約35年間にわたって大きな見直しはされておりません。
  しかしながら,その間にも我が国の平均寿命は伸び,社会の高齢化が進展するとともに,晩婚化,非婚化が進む一方で,再婚家庭が増加するなど,相続を取り巻く社会情勢には大きな変化が生じております。このような変化を踏まえて,現行の相続に関する規律を見直すべき時期に来ているものと考えられます。
  さらに,平成25年9月に,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた民法900条4号ただし書前半部分の規定が憲法に違反するとの最高裁の決定が出されたことを受け,同年12月に,この規定を削除して嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にすることを内容とする民法の一部を改正する法律が成立いたしましたけれども,その過程で各方面から,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から相続法制を見直すべきではないかといった問題提起がされました。
  そこで,法務省では,相続法制の在り方について検討を行うため,民法の研究者や一般有識者の方々の御協力を得て,平成26年1月に相続法制検討ワーキングチームを設置し,本年1月28日にその結果を報告書に取りまとめたところでございます。
  しかしながら,相続法制の見直しは国民生活に与える影響が極めて大きく,見直しをする場合の方向性についても様々な考え方があり得ることから,今後の検討は開かれた場で,より多くの関係者から意見を聴取して進めていくのが相当であると考えられます。
  そこで,高齢化社会の進展等の相続を取り巻く社会情勢の変化に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直すことについて法制審議会で御検討いただきたく,今回の諮問がされたものでございます。
  委員,幹事の皆様方には,適切な規律の整備のために御協力賜りますよう,何とぞよろしくお願い申し上げます。
  以上でございます。
○堂薗幹事 それでは,本日は第1回目の会議でございますので,委員,幹事及び関係官の方々に簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。所属と氏名等の自己紹介をお願いしたいと思います。
  それでは,恐れ入りますが,着席順で高橋法制審議会長からよろしくお願いいたします。
○高橋会長 親委員会の法制審議会の会長をしております高橋宏志でございます。民事訴訟法を専門にしており,現在,中央大学に勤めております。
○浅田委員 三井住友銀行の浅田でございます。よろしくお願いします。
○大村委員 東京大学法学部で民法を担当しております大村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○沖野委員 同じく東京大学法学政治学研究科で民法を専攻担当しております沖野と申します。どうかよろしくお願いいたします。
○窪田委員 神戸大学の窪田でございます。やはり民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○潮見委員 京都大学の潮見と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田委員 東京大学の中田と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○南部委員 初めまして。労働組合の連合から参りました南部と申します。よろしくお願いいたします。
○藤野委員 初めまして。主婦連合会常任幹事の藤野と申します。市民の立場で初めて参加いたしております。どうぞよろしくお願いいたします。
○増田委員 弁護士の増田と申します。大阪弁護士会に所属しております。よろしくお願いします。
○石井幹事 最高裁事務総局家庭局で第二課長をしております石井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○岡田幹事 内閣法制局から参りました岡田と申します。よろしくお願いいたします。
○垣内幹事 東京大学の垣内と申します。民事訴訟法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○金澄幹事 弁護士の金澄と申します。東京弁護士会所属です。どうぞよろしくお願いいたします。
○西幹事 慶應義塾大学の西希代子と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○餘多分幹事 最高裁事務総局民事局第二課長をしております餘多分と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○水野(紀)委員 東北大学の水野と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○水野(有)委員 東京地方裁判所の,こちらも水野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○村上委員 明治大学で日本の近代家族法史を専攻しております村上と申します。よろしくお願いいたします。
○村田委員 最高裁判所事務総局で家庭局長をしております村田斉志と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○森委員 東京家裁家事部の森でございます。どうぞよろしくお願いします。
○八木委員 麗澤大学の八木と申します。専攻は憲法ですが,民法,家族法にも多少興味がございます。ワーキングチームで1年,議論してまいりました。よろしくお願いいたします。
○山田委員 弁護士の山田でございます。第一東京弁護士会所属です。よろしくお願いいたします。
○山本(和)委員 一橋大学の山本和彦でございます。民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○山本(克)委員 京都大学の山本克己です。同じく民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○米村委員 千葉大学の文学部から参りました米村と申します。皆様,法学の専門家なのですけれども,私は社会学で,家族社会学,歴史社会学を専攻にしております。どうぞよろしくお願いいたします。
○下山関係官 法務省民事局付の下山と申します。よろしくお願いいたします。
○大塚関係官 同じく法務省民事局付の大塚でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○渡辺関係官 同じく法務省民事局付の渡辺と申します。よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 法務省で官房参事官をしております堂薗でございます。改めまして,どうぞよろしくお願いいたします。
○深山委員 先ほど既にご挨拶致しましたが,法務省の民事局長の深山です。よろしくお願いいたします。
○金子委員 法務省民事局担当の官房審議官の金子でございます。よろしくお願いいたします。
○筒井幹事 法務省民事局民事法制管理官の筒井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,どうもありがとうございました。
  なお,上西委員におかれましては,本日は所用により御欠席でございます。
  併せて,この機会に関係官について補足して御説明いたします。
  法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は会議に出席し,意見等述べることができるとされておりまして,この規定に基づき御参加いただく方を関係官と呼んでおりますが,この部会におきましても,当省の事務当局のほかに最高裁判所事務総局家庭局の依田局付に関係官として御参加いただくことになっておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
  依田局付,先ほど自己紹介をちょっと御遠慮されていたようです。もしあれでしたらどうぞ。
○依田関係官 最高裁事務総局家庭局で局付をしております依田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 では,よろしくお願いいたします。
  それでは,次に部会長の選任に移りたいと存じます。
  法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき会長が指名することとされております。当部会は本日が第1回会議であり,部会長が指名されていない状態でございますので,まず初めに部会長の互選の手続を行いたいと思います。
  それでは,皆様から部会長の推薦をしていただきたいと思いますけれども,御意見はございますでしょうか。
  では,窪田委員,お願いいたします。
○窪田委員 部会長についてでございますが,私からは大村敦志委員を御推薦させていただきたいと考えております。
  本部会に付託されたテーマは相続制度の見直しに係るものですが,そうした相続制度については,いわゆる家族法についての見識と,また,いわゆる財産法についての識見を踏まえての検討が求められるところだと理解しております。大村委員は,改めて申し上げるまでもないところでございますが,正しくこうした民法全般にわたって研究をしてこられ,卓越した御業績を上げてこられました。
  また,大村委員は法制審議会児童虐待関連親権制度部会の委員,法制審議会民法(債権関係)部会幹事を始めとして,様々な立法に携わってこられています。さらに,本日の資料として配布されております相続法制検討ワーキングチームにつきましても座長を務められてきたということを踏まえましても,大村委員に是非,部会長を引き受けていただけたらと私は考えております。
  以上,大村委員を推薦させていただく次第です。
○堂薗幹事 どうもありがとうございました。
  それでは,ほかに御意見ございますでしょうか。
  潮見委員,お願いいたします。
○潮見委員 私も同様の理由で,大村委員を部会長として推薦したいと思います。
○堂薗幹事 ありがとうございます。
  ほかに御意見ございますでしょうか。
  それでは,ただいま,窪田委員と潮見委員から部会長として大村委員を推薦する旨の御発言がございました。ほかに御意見がないようでございますので,部会長には大村委員が互選されたということでよろしいでしょうか。
  では,高橋会長,よろしいでしょうか。
○高橋会長 先ほど御説明がありましたように,部会長につきましては互選に基づき会長が指名するということになっております。ただいま互選されました大村敦志委員を部会長に指名いたします。
  では,大村部会長,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 ただいま高橋会長に大村委員を部会長に御指名いただきましたので,以後の進行は大村部会長にお願いしたいと思います。
  どうぞ,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ただいま部会長に御指名を頂きました大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。非力ではございますけれども,本部会の議事が円滑に進みますよう努力をして運営をしてまいりたいと存じますので,御出席の皆様方には御協力のほどをお願い申し上げます。
  ここで,高橋法制審議会会長は,所用のために退席されると伺っております。どうもありがとうございました。
○高橋会長 失礼いたします。
○大村部会長 それでは,まず最初に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者の取扱いについてお諮りをさせていただきたいと存じます。
  まず,現在の法制審議会における議事録の作成方法につきまして,事務当局から説明をしていただきます。
○堂薗幹事 それでは,法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。
  法制審議会の部会での議事録における発言者の取扱いにつきましては,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,次のような決定がされております。
  以下,読み上げますと,「それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とする。」というものでございます。
  若干,分かりにくい文章になっているような気もいたしますが,要は審議過程の透明化という公益的要請の観点から,原則として議事録を顕名とするとした上で,ただ,それを明らかにすることによって自由な議論が妨げられるおそれがあるという場合には,例外的に顕名としないことができるという趣旨ではないかと思います。
  したがいまして,皆様には,当部会の議事録につきましても発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを,この決定に沿って御判断いただく必要があるものと存じます。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,ただいまの事務当局からの説明につきまして,まず質問等がございましたら御発言お願いいたします。
  特になければ,御意見等,もしございましたら。
  特にございませんでしょうか。
  それでは,当部会につきましては,部会長の私といたしましては,諮問事項の内容等に鑑みまして,発言者名を明らかにした議事録を作成するという方針で臨みたいと存じますが,いかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  では,当部会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにさせていただきます。
  それでは,続きまして,配布されている資料につきまして事務当局から説明をしてもらいます。
○堂薗幹事 それでは,配布資料について確認をさせていただきます。
  まず,部会資料でございますが,事前に送付させていただいたものとして,資料番号1「相続法制の見直しに当たっての検討課題」という書面がございます。次に参考資料でございますが,これも事前に送付させていただきましたが,「相続法制検討ワーキングチーム報告書」と,それから,「これまでの改正の経緯」と題する書面でございます。お手元にございますでしょうか。
○大村部会長 それでは,資料を御確認いただきましたので,次に事務当局に相続法制の見直しの意義や今後の審議スケジュール等についての説明をしていただきます。
○堂薗幹事 それでは,相続法制の見直しの意義について簡単に御説明いたします。
  法務省において相続法制の見直しを検討するに至った直接のきっかけとなったのは,先ほどの深山局長の御挨拶にもありましたとおり,平成25年に最高裁判所において,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた規定が憲法に違反するとの決定がされたことにあります。
  これを受けて,法務省ではこの規定を削除することを内容とする法律案を作成いたしましたが,これを国会に提出する過程で各方面から,この改正が及ぼす社会的影響について懸念が示されました。
  取り分け,この規定は法律婚の尊重を趣旨とするものであったことから,これを削除することに伴い,法律婚の尊重を図るための措置を別途検討し,バランスをとるべきであるという指摘がされたところでございます。
  また,相続法制につきましては,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ等をして以来,大きな改正はされていない状況にございます。
  しかし,その間にも我が国の平均寿命は男女ともに7歳から8歳程度伸長しております。これに伴いまして,相続開始時における配偶者の年齢が70代,80代に達している場合が多くなっており,配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まっている反面,相続開始時における子の年齢は40代,50代に達しており,既に親から独立して安定した生活を営んでいる場合が多くなっていることから,子の生活保障の必要性は相対的に低下しているのではないかといった指摘もされているところでございます。
  他方で,高齢者の再婚が増加するなど家族形態にも変化が見られることから,法定相続分に従った遺産の分配では実質的な公平を図れない場合が増えてきているといった指摘もされているところでございます。
  また,高齢化社会の進展に伴いまして,要介護高齢者や独居老人の増加など,様々な社会問題も生じております。これらの問題の解決を相続法制に期待するのは,必ずしも相当でないと思いますが,例えば遺産分割において被相続人に献身的な介護を行ってきた者の貢献をいかに反映すべきかといった問題点を検討するに当たっては,これらの社会情勢の変化も十分に踏まえた上で議論を進めていくことが必要になるものと思います。
  これらの点を考慮して,法務省においては,平成26年1月に省内に相続法制検討ワーキングチームを立ち上げ,相続法制に関する現状の問題点や考えられる見直しの方向性等につきまして議論を整理し,本年1月にワーキングチームとしての取りまとめをしたところでございます。
  このワーキングチームでは,ただいま御説明したような諸事情を考慮して,主に以下の4点,すなわち配偶者の居住権の保護,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現,寄与分制度の見直し,遺留分制度の見直しといった4点について検討を行いました。
  そこで,当部会においても,これらの論点を中心に御議論いただくことが考えられるところではございますが,この点の当否を含め,本日はフリートーキングという形で皆様から忌憚のない御意見を頂戴したいと考えているところでございます。
  次回以降の具体的な検討の内容につきましては,本日の御議論によるところもございますので,ここで確定的なことは申し上げられませんが,次回会議から個別の論点について御審議いただき,中間的な取りまとめをした後にパブリックコメントに付すことを考えております。相続法制につきましては,国民の間にも様々な御意見があると思われますので,パブリックコメントの期間も相当程度確保する必要があるものと考えております。
  現時点では,どの範囲で見直しをするのか不透明な部分が多く,この部会でどの程度の期間御審議いただく必要があるかという点につきましては確たることは申し上げられませんが,おおむね1年半程度は掛かるのではないかと考えているところでございます。
  私からの説明は以上でございます。
○大村部会長 ただいまの事務当局の説明につきまして,御質問がございましたら伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,また何かありましたら後でフリーディスカッションの際に伺うということにいたしまして,本日の具体的な検討,審議に入りたいと思います。
  本日は,事務当局から相続法制の見直しに当たっての検討課題につきまして御説明を頂いた上で,相続法制の見直しにつき,今申し上げましたように皆様にフリーディスカッションをしていただくということを考えております。
  それでは,まず事務当局から,相続法制の見直しに当たっての検討課題につきまして説明を頂きます。
○渡辺関係官 それでは関係官,私,渡辺のほうから事前にお配りいたしました部会資料の1について説明させていただきます。
  本日は,相続法制の見直しについてフリーディスカッションをしていただきたいと考えておりますので,そのための材料という趣旨で部会資料1を作成させていただきました。この部会資料1というのは,大きく分けて二つの構成からなっております。
  一つ目は,第1「相続法制の見直しにおける基本的な視点」という部分でございまして,これは言わば総論に当たる部分かと思います。ここで,相続法制を見直すに当たっての大局的な視点につきまして,委員の皆様方の御議論をお願いしたいと考えておるところでございます。
  そして,二つ目は,第2「考えられる検討項目」という部分でございまして,ここでは考えられる論点ごとに問題点を整理させていただいたというところでございます。各論点における詳細な御議論は次回以降にお願いすることになるかと思いますが,その前提として,基本的な方向性について皆様の御意見を頂戴することができましたら幸いに存じます。
  では,第1の「相続法制の見直しにおける基本的な視点」というところでございますが,事前にお配りさせていただいた参考資料2,「これまでの改正の経緯」でも少し記載をさせていただいておるところでございますが,相続法制につきましては,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ,それから,寄与分制度の導入等の改正がされて以来,大きな見直しというものはされておりません。
  しかしながら,その間にも高齢化社会というのは更に進展をしておりまして,その結果,相続開始時点での相続人,特に配偶者の年齢が従前より相対的に高齢化していると思われることに伴い,配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まっていると思われますが,それに対しまして,既に経済的に自立しているであろう子の生活保障の必要性は相対的に低下しているというような指摘がされているところでございます。
  また,要介護高齢者が増加し,相続の際にもその療養看護の在り方が問題となることがありますでしょうし,また,高齢者の再婚が増加し,長年連れ添った配偶者と子のみが相続人になるといった典型的なケースばかりではなくなっているようにも思われるところでございまして,このように相続を取り巻く社会情勢にも変化が見られるのではないかと考えているところです。
  このような社会情勢の変化等に応じ,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続法制を見直すべき時期が来ているものとも考えられるところでございますが,皆様の御意見を賜れればと考えております。
  次に,第2の「考えられる検討項目」というところでございます。ここでは,検討項目といたしまして,1として「配偶者の居住権の保護」,2「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」,3「寄与分制度の見直し」,4「遺留分制度の見直し」,5「相続人以外の者の貢献の考慮」,6「預貯金等の可分債権の取扱い」,7「遺言」,これを掲げさせていただきました。
  また,本日はフリートーキングでございますので,検討の対象はただいま申し上げた7点に限られるものでは当然ございませんので,最後に8「その他」として,この七つ以外にも検討すべき論点がございましたら御指摘を頂ければと考えております。
  では,順番に御説明してまいりたいと思います。
  まず,1の「配偶者の居住権の保護」でございます。
  配偶者の一方が死亡した場合に,他の配偶者がそれまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常かとは思われますが,特にその配偶者が高齢者である場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を始めるということは,精神的にも肉体的にも大きな負担があるのではないかと考えられます。
  また,高齢化社会の進展により,相続開始の時点では配偶者が高齢のため,自ら生活の糧を得ることが困難である場合も多くなってきているものと思われます。
  こうしたことから,配偶者につきましては,その居住権を保護しつつ将来の生活のために一定の財産を確保させる必要性が高まっているものとも考えられるところでございますが,このような観点から,残された配偶者の居住権を保護するための方策,これを検討すべきであるという御指摘がございますので,この点を検討項目として提示をさせていただきました。
  次に,2の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」というところでございます。
  相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長期間にわたり,被相続人の財産の形成又は維持に貢献している者もいれば,反対に,高齢になった後に再婚をした場合のように,婚姻期間も短く,被相続人の財産の形成又は維持にほとんど貢献していないというような者も想定されます。
  しかしながら,現行法上は,配偶者の法定相続分,これは一律に定められておりまして,個別具体的な事情は寄与分において考慮されるにすぎないということになっておりますので,必ずしも当事者間の実質的公平が図れていないといった指摘もされているところでございます。
  また,離婚における財産分与においては,配偶者に実質的夫婦共有財産,すなわち夫婦が婚姻中に協力して得た財産,これの2分の1を取得する取扱いが実務上原則化しつつあることからいたしますと,遺産の多くが実質的夫婦共有財産である場合には,配偶者は遺産分割において自己の実質的な持ち分,これを取り戻したにすぎず,被相続人の実質的な持ち分,すなわち名実ともに被相続人の財産となる部分から何ら財産を承継していないことになっているのではないかというような指摘もあるところでございます。
  このような観点から,遺産分割におきましても,財産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度をより実質的に考慮し,その貢献の程度に応じて配偶者の取得額が変わるようにすべきであるとの指摘がされているところでございます。
  他方で,個々の遺産分割に関する紛争におきまして,遺産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度を実質的に考慮するということになりますと,この点をめぐって当事者間で主張立証が繰り返され,相続に関する紛争がより一層複雑化,長期化するということが予想されるところでございます。
  また,相続の場合には,離婚における財産分与の場合とは異なり,婚姻関係の当事者ではない他の相続人がこの点について主張立証しなければならなくなるため,これを適切に行うことができるのかどうかというような疑問がございまして,また,さらには結果に対する予測可能性,これの低下を招くというような御指摘もございます。
  このように,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現につきましては様々な指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたというところでございます。
  続きまして,3の「寄与分制度の見直し」というところでございます。
  高齢化社会の進展に伴いまして,要介護高齢者も増加しているものと思われますが,例えば被相続人に複数の子がいる場合のように,被相続人に対して扶助義務を負う者が複数おりまして,療養看護についても同等の役割を果たすことが法律上は求められているにもかかわらず,実際にはそのうちの一部の相続人のみが専ら療養看護を行うなど,貢献の程度に顕著な偏りがある場合も多いと言われておるところでございます。
  しかし,寄与分の要件である特別の寄与というのは,一般に被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったことを意味すると解されておりますので,扶助義務を負う者がした療養看護につきましては,寄与分が認められにくいという指摘もされておるところでございます。
  このため,療養看護についての貢献については,高齢者に対する療養看護の重要性が増していること等を踏まえ,寄与分の要件を緩和すべきであるというような御指摘もございます。
  他方で,このような見直しを仮にいたしますと,寄与分を認めるか否かの判断のために,寄与分を主張する相続人だけではなく,寄与分を主張していない他の相続人の貢献の程度についても裁判所が資料収集する必要が生じてくるなど,寄与分を定める事件の紛争の複雑化,長期化のおそれがあるという御指摘もされているところでございます。
  このように,寄与分の程度の見直しにつきましても様々な御指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたというところでございます。
  続きまして,4の「遺留分制度の見直し」というところでございます。
  明治時代に制定された旧民法では,単独相続である家督相続が中心とされていたのですが,戦後の改正で家督相続制度は廃止されております。
  しかし,遺留分に関する規定につきましては最小限の修正を加えたのみで,ほとんどが旧民法の規定を踏襲したものであるため,現行民法のとる共同相続,これを前提として共同相続人間で生じ得る問題について十分な配慮がされていないのではないかというような御指摘があるところでございます。条文上では,受遺者又は受贈者,これが相続人であるか,それ以外の第三者であるかによる区別はされておりませんが,判例上では,例えば次のような整理がされているところです。
  民法第1030条は,贈与は相続開始前の1年間にしたものに限り遺留分算定の基礎となると定めているのですが,このような定めがあるにもかかわらず,受贈者が相続人である場合には,原則として遺留分算定の基礎となる財産についての時期的な制限は設けないということに判例上解されておりまして,また,遺留分の減殺割合について定める民法第1034条の目的物の価額,この規定がございますが,その算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額,これを超える部分のみがこの目的物の価額に当たるというような解釈が判例上されているというところでございます。このように,判例によって遺留分に関する規律の補充がされているという状況にあると言えるかと思います。
  このように,現行の遺留分制度につきましては,戦後の昭和22年の民法改正の際に現行の共同相続制度を踏まえた十分な検討がされなかったために,分かりにくく複雑なものになっているのではないか,このような御指摘がされているところでございます。
  また,続きまして,現行の遺留分制度の趣旨,目的につきましては,学説上も様々な考え方があるようでございますが,一般的には,遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持ち分の清算等が挙げられているところでございます。
  もっとも,これらの点につきましては,高齢化社会の進展に伴いまして,相続が開始した時点で相続人である子も既に経済的に自立していることが多く,その生活を遺留分によって保障する必要性が少なくなってきたとの指摘や,核家族化に伴い経済的に一体性を保つ家族が減少した結果,財産形成に対する相続人の寄与の割合が相対的に低下し,相続人が寄与した分を取り戻すという遺留分の機能,これが必ずしも妥当しなくなっているとの指摘もされているところでございます。
  このような観点から,遺留分制度の在り方そのものを見直すべき時期に来ているのではないかといったような御指摘もされているところでございます。
  さらに,現行法の下では,遺産分割事件は家庭裁判所における家事事件の手続で解決されるのに対しまして,遺留分減殺請求事件は地方裁判所の訴訟手続で解決され,紛争解決手続が異なっているということから,これらの法律関係を柔軟かつ一回的に解決することが困難になっているとの御指摘もございます。
  また,現行の遺留分制度におきましては,受遺者又は受贈者等の財産形成に対する貢献を寄与分として考慮することはできないと解されておりますが,これでは当事者間の実質的な公平を図ることができないといった御指摘もございます。
  そこで,このような事態を解消するため,遺留分減殺請求事件を家庭裁判所で取り扱うこととした上で,遺留分制度におきましても寄与分を考慮することができるようにすべきであるとの御指摘も一方ではございます。
  しかしながら,他方で,このような見直しをいたしますと,当事者が寄与分に関する主張立証を繰り返し,又は家庭裁判所による裁量権の行使の在り方を巡って争うなど,紛争が複雑化する可能性は否定することができませんし,また,訴訟手続によることなく受遺者又は受贈者の財産権の一部を喪失させることの当否についても慎重に検討すべきであるという御指摘もございます。
  以上のように,遺留分制度につきましても様々な御指摘がされているところでございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたということでございます。
  続きまして,5の「相続人以外の者の貢献の考慮」というところでございます。
  現行法上,寄与分は相続人にのみ認められているものでございますので,相続人以外の者,例えば相続人の配偶者等が考えられるところでございますが,そのような者が遺産の形成又は維持に多大な貢献をしている場合であっても,遺産の分配を受けるということはできません。このような結論につきましては,実質的公平に反するとの御指摘がされているところでございます。
  そこで,この点を改め,相続人以外の者であっても一定の貢献をした場合には遺産の分配を求めることができるようにすべきであるという指摘が一方ではございます。しかしながら,他方で,遺産分割におきまして相続人以外の者の貢献を考慮することにつきましては,相続人以外の者にも一定の範囲で権利行使の機会を付与する必要があるため,実際には評価するに足りる貢献をしていない者が遺産分割手続に参加して遺産の分配を求め,そのために遺産分割に関する紛争が長期化するなど,相続人の利益を不当に害するおそれがあるのではないかといった御指摘もございます。
  このように,相続人以外の者の貢献の考慮につきましても様々な御指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたという次第でございます。
  続きまして,6の「預貯金等の可分債権の取扱い」というところでございます。
  現行法上,預金債権等の可分債権は,相続によって当然に分割され,原則として遺産分割の対象にはならないと解されております。しかしながら,預貯金等の可分債権は,各自の相続分に応じて遺産を分配する際の調整手段としても有用でございまして,これを遺産分割の対象から除外するのは相当ではないのではないかというような御指摘もされているところでございます。こういった点を踏まえまして,検討項目として提示をさせていただきました。
  最後に,7の「遺言」というところでございます。
  この点につきましては,特に具体的な問題点を掲げているものではございませんが,現行の遺言制度,例えば遺言の方式,遺言能力,遺言事項等について見直すべきところがないのかどうか,皆様の御意見を広く賜ることができればと思い,検討項目とさせていただきました。
  そのほか,本日はフリートーキングでございますので,先ほどの7点以外の項目につきましても相続法制について見直しを検討すべき事項がございましたら,御指摘を賜れればと思っております。
  資料の説明につきましては,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,御意見を承る前に,ただいまの事務当局の御説明につきまして何か御質問がありましたら,お伺いしたいと思います。
  いかがでしょうか。相続法制全般についての説明と,それから,検討課題についての説明を一遍にしていただきましたので,なかなか難しいところもあることはございますが。
○浅田委員 まず確認しておきたいことですけれども,今回は七つの議題に加えて「その他」というものも含まれており,フリートーキングの場としていろいろな提案ができ得るものと理解しております。ただ,時間の制約もあり,例えば業界の中での検討が不十分なものもございまして,本日この場で提案ができない場合もあります。その後の審議の場で,もちろん時期を逸しないようにはいたしますが,御提案を差し上げるかもしれませんけれども,そのときにはよろしく御審議を頂けるかということを確認させていただきたいです。
○堂薗幹事 今回の諮問事項の関係で申し上げますと,まず昭和55年からの社会情勢の変化に対応する必要があるということと,それから法律婚の尊重,あるいは配偶者保護の必要性が高まっているのではないかという観点から諮問がされたという経緯がございます。ただ,昭和55年以来の社会情勢の変化というものの中には,様々なものが含まれてくると思いますので,そういった事項について御提案があるような場合には,御提示いただければ,こちらの方で検討させていただきます。
  その関係で申し上げますと,もちろん今日ということではないんですけれども,できるだけ早い時期に御提案いただけると,事務当局としては助かりますので,よろしくお願いいたします。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかに質問,いかがでしょうか。
○増田委員 先ほどのお話で, ここに書かれている検討課題にかかわらず,相続関係全般について議論をすることはできるということは理解できましたが,民法以外,例えば手続法である民事訴訟法や家事事件手続法などの改正が必要な分野で,この提案の中に入っている遺留分関係以外についても,議論してよろしいのでしょうか。
  つまり,今回は民法部会ということなので,他の法律には手をつけない,という前提で立法の検討がなされる場合もありますが,今回はそういう制約はないと考えていいのかどうかということをお伺いしたいです。
○堂薗幹事 基本的に諮問事項の関係で言いますと,相続に関する規律についての見直しということになりますので,もちろん民法が中心だとは思いますが,先ほど御指摘がありましたように,例えば遺留分事件については家庭裁判所でできないかというようなところも検討対象に含まれてくると思いますので,相続に関する規律に含まれるものであれば,手続法であっても検討対象にはなり得ると考えております。
○増田委員 相続に関わるもの,遺産の分割に関わる手続ならば構わないということですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 民法(相続関係)部会ということでございますけれども,しかし実体法を変えると手続法に及ぶこともあるので,それを排除する趣旨ではないということですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  では,そのほか御質問,いかがでしょうか。
○潮見委員 確認のための質問をさせてください。
  諮問のところで,堂薗幹事がおっしゃったように,昭和55年以降の社会情勢の変化というのと,それからもう一つの柱で,配偶者の保護の可能性を探るという,この2点を挙げられておりましたが,これは「又は」でつながっているわけでしょうか。
  昭和55年以降の社会情勢の変化については,先般の民法の債権関係に関する改正を巡っても,いろいろな議論があったと思います。そうした中で,債権関係部会では何回か申し上げたのですが,その部会での改正の考え方が相続法制にも及ぶ,あるいは及ぶべきであるという部分が多々ございました。そうした部分についてもここで検討をするに値するということなのでしょうか。債権関係法の改正の方も今いろいろ動いているところがございますから,その動きを見ながら,場合によればそちらについても,それなりの審議をここでしても構わないという御趣旨なのでしょうか。それとも,今回の検討課題に挙げられている部分がむしろメインであって,その部分について主として検討するということなのでしょうか。
  非常に一般的なお尋ねで申し訳ありませんけれども,何かお考えになるようなところがあれば御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 それでは,ただいまの点ですが,社会情勢の変化あるいは配偶者の生活への配慮というのは,必ずしも「かつ」でなければならないということではないと理解しております。ただ,社会情勢の変化の例示として,諮問事項の中にも高齢化社会の進展,あるいは家族の在り方に対する国民意識の変化が挙げられてはおりますので,主に考慮すべき事項はこれらのものであろうということは言えると思います。
  それから,その見直しの方向性についても,一応,「配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等」となっておりますので,それに限られるものではないわけですが,相続法制全般について無制限にというところまでは想定されていないように思われます。もっとも,先程も申し上げたとおり,改正すべき点について御指摘いただければ,事務当局の方で検討させていただきたいと考えております。
○潮見委員 今のお答えで了解しました。どうもありがとうございました。
○大村部会長 そのほかは,質問はいかがでございましょうか。
  それでは,また質問がございましたら後で出していただくということも妨げませんので,ここから相続法制の見直しについてのフリーディスカッションに移らせていただきたいと存じます。
  先ほどの事務当局からの御説明を伺うと,資料第1で,第1の「相続法制の見直しにおける基本的な視点」という総論的な事柄と,それから第2の「考えられる検討項目」というのがございます。検討項目は1から7まで具体的な項目が挙がっているものと,今直前に話題になっていました「その他」の点というのがございまして,本日の資料は,大きく分けると三つに分かれるように思います。
  ただ,フリーディスカッションということでございますので,皆様から御自由に,この3点のどれにわたるものであっても結構ですので,御発言を頂きたいと思います。
  なお,細かい技術的な点につきましては,この後,個別の問題に即した形で検討を進めていくということになろうかと思いますけれども,本日は初回でございますので,この先の審議全般に関わるような大きな観点からの御意見を頂ければと思います。これは全体についても,それから個別の論点についても,そのように思っております。委員,幹事,どなたからでも結構でございます。
○中田委員 基本的な視点についての意見というよりも,むしろ御質問になるんですけれども,二つございます。
  一つは社会情勢の変化ということに関しまして,相続開始時点での相続人の高齢化という御指摘がございました。他方で,具体的な検討項目を拝見してみますと,配偶者の貢献ということが一つの重要なテーマになっていると思います。そうしますと婚姻期間の長期化という現象があるのかどうかを,もし分かれば教えていただきたいと思います。
  と申しますのは,一方で高齢化があるわけですが,他方で晩婚化ですとか,あるいは熟年離婚の増加というようなことがありますと,必ずしも婚姻期間の長期化というのがあるのかどうかがよく分からないものですから,そこを教えていただきたいというのが一つです。
  もう一点は,それとも関係するんですけれども,全体を通じて相続債務の問題というのが重要だと思うのですが,それが相続人の高齢化ということと何か関係があるかどうかということです。つまり,若いうちですと住宅ローンなんかを抱えていることがありますが,高齢になってくると,だんだんそういうのが少なくなるというようなことがあるのかどうかです。以上の2点についてお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 それでは,最初の点でございますが,配偶者の貢献の程度につきまして,婚姻期間が長期化しているという統計は把握しておりませんけれども,高齢者の再婚が増加しているというようなところはございまして,特に60歳以上の方の再婚の割合というのは,昭和55年当時と比較しますと,かなり増加しているという統計資料がございます。
  そういった観点から,婚姻形態につきましても様々なものがありますので,昭和55年当時にも議論の対象になりましたけれども,今のように一律に法定相続分で取り分を決めるというようなことがいいのかどうかという辺りは,高齢化との関係でもかなり問題になってくるのではないかという気がいたしております。
  それから,2点目の相続人の高齢化と債務との関係については,申し訳ございませんが,正直なところよく分からないところがございますので,もしこの点について何か御存じの方がいらっしゃるのであれば教えていただきたいなと思っているところでございます。
○大村部会長 中田委員,よろしゅうございますか。
○中田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 社会情勢の変化ということと検討課題の関係に関する御質問だったかと思いますけれども,基本的な視点について,ほかにどなたかございませんでしょうか。今の御発言と関わる形,あるいは関わらない形,どちらでも結構です。
○山田委員 昭和55年当時も,既に高齢化社会へ向かってということで,かなり当時,議論があったかと思います。この改正時に想定していた家族像と,今般,先ほど再婚が増えたというお話がございましたけれども,それに加えて何か大きな変化があるということかどうか,55年当時に2分の1に引き上げた際に想定していた家族像について,分かる範囲でお話を伺えればと思っております。
○堂薗幹事 現行法は,全ての事案について法定相続分は一律に定められておりますので,配偶者の法定相続分を定めるに当たっては,恐らく典型的な家族モデルというのを想定して,それを前提に決めているということはあるんだろうと思います。
  実は昭和55年当時も,婚姻期間によって配偶者の貢献がかなり異なることから,婚姻期間によって法定相続分の割合を変えることが検討されました。その当時の部会資料などを見ますと,婚姻期間が20年を超えるようなものについて現行と同じく法定相続分を2分の1にするという案も提案されておりますので,現行の配偶者の法定相続分は,やはり婚姻期間が相当長期間に及ぶ場合を想定して定められたのではないかという推測がされるところでございます。
  ただ,それからかなり家族も多様化して,いろいろなパターンがある中で,現行のままでいいのかどうかというところが正に今問われているのかなと認識しているところでございます。
○山田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにこの三十数年の間の社会の変化といったことについて,この際,発言をしておきたいという委員や幹事,いらっしゃいませんでしょうか。
○南部委員 55年以降の家族情勢というのは,かなり変わっていると考えております。配偶者の居住権の保護というのは,この間の変化を踏まえると必要かなとは考えます。しかし,現在,家族の在り方というのはかなり変わってきておりまして,配偶者だけに今回限定されて検討されるのかどうかというのが質問です。例えば今,話題になっております同性婚であったり,事実婚に対して,どのように考えていくかということも含めた議論を,今後この場でするのかどうかというのが1点目の質問でございます。
  もう一つ,今マイクを持たせていただいたので,よろしいでしょうか。
  配偶者の貢献に応じた遺産分割についてという項がございます。実際どれくらいのニーズがあるか,救済すべき事例はどれくらいあるのかということを,今日でなくて次回で結構ですので,具体的にデータなどが示せたらお出しいただきたいということでございます。
○堂薗幹事 まず,第1点目でございますが,当然,配偶者の保護を図るという観点から仮に見直しをいたしますと,当然,事実婚の場合はどうなるんだという議論は出てくるんだろうと思います。そういった意味で,この場でそういった点を含めて御議論いただくことになるんだろうと考えておりますが,他方で,この諮問事項にもありますとおり,「配偶者の生活への配慮等の観点から」という,この「配偶者」は法律上婚姻している者を予定しているというところはあると思います。
  それから,配偶者の貢献に応じた遺産分割実現に関して,統計上の根拠をお示しするのは難しいところがあるんですけれども,そういった観点から何か御説明できることがないかどうかという点については,引き続き検討したいと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。そのほか,いかがでしょうか。
○潮見委員 最初ですから,御検討いただけるのであればというお願いです。
  遺留分のところですけれども,今回の検討課題のところの文章にしても,先ほど増田さんがおっしゃられたような部分もありますと同時に,今の遺留分制度というのは,基本的に現物返還というものが原則になっていて,価額賠償あるいは価額返還というのは例外というスキームになっているのですが,果たしてそういうスキーム自体がいいのか。遺留分の減殺請求権あるいは遺留分自体の価値権化という考え方は前からございますし,私自身もそういう方向がある意味では正しい方向ではないのかとも思っているところがあります。
  それはともかくとして,そうした観点からの捉え方が今回の配偶者の保護等との関係でどういうふうに枠付けられてくるのかとか,あるいはそれが望ましい方向なのか,あるいは現状の形がまだなお維持されるべきなのか,さらにそれが手続法的な側面でどういうふうに影響を及ぼしてくるのかといったような観点から,法務省事務当局におかれましても少し整理をしていただければ有り難いところです。要するに,現物返還,原状回復それ自体を所与のものとして考えるのではないという方向で,検討いただきたいというお願いです。
○大村部会長 御意見,御要望として承りました。
  そのほかに,いかがでございましょうか。
○増田委員 要望なんですが,比較法的見地からの検討も必要だと思いますので,事務当局のほうで,できれば諸外国の相続制度について資料を作ってお教えいただければ,大変有り難いと思います。
○堂薗幹事 次回から個別の論点に入っていければと考えておりますが,その際には,できる範囲で参考になりそうな外国法制などについても御紹介できればとは思っております。
  ただ何分,外国法制については我々は非常に不得手な部分がございますので,先生方にもいろいろ教えていただきながら,御議論させていただければと思いますので,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 比較法的な資料を可能な範囲で準備いただけるということでございますけれども,ほかにはいかがでございましょうか。
○八木委員 ちょっと卑近な話になりますけれども,昨年来の事件といいますか,社会問題としては,一つはいわゆる後妻業と言われておりますけれども,金持ちの高齢者を狙って結婚して,それで遺産の大部分を持っていくと,こういうのが一つです。
  これはワーキングチームで検討した配偶者の貢献をどう評価するのかという部分で一応解決ができるかもしれませんけれども,この辺り,一からまたここで検討していただくことになるかと思います。もう一つは,これまたここのところ問題になっているのは,高齢者の養子縁組ですね。これまたお金持ちの,どちらかというと身寄りのない方を狙った形で,しかも認知症及び認知症の寸前ぐらいのそういう意思能力を持った方を狙った形で養子縁組をして,その財産を持っていく。こういうのも社会問題になっているようであります。
  この辺り,国民の多くが関心があると思いますので,この辺もワーキングチームの検討課題にはなってなかったと思いますので,この辺も押さえていただければと思っています。
○堂薗幹事 今の点も恐らく高齢者の再婚と同じように,現行の配偶者の法定相続分が婚姻期間の長短にかかわらず2分の1となっていることに伴う問題点だろうと思いますので,御指摘の点を含めて検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○浅田委員 最初ですから,全般的な意見を申し上げたいと思います。
  私は銀行界におるものですが,この部会委員の中には他に経済団体の委員はいないという理解です。その立場,視点から一言お話し申し上げたいと思います。
  相続法制については,主には,市民社会,国民社会として法制度がどうあるべきなのかという観点から議論されるべき問題だと思います。
  一方で,例えば私ども銀行でありますと,相続に際しては金融商品,預金という相続財産の重要な部分を占める資産をお預かりしている立場でございます。また,最近においては遺言信託など資産づくりのお手伝いや助言をしているという立場でもございます。また,信託併営業務のいては遺言執行者になるという場合もございます。加えて,例えば個人様宛てに住宅ローンとかの取組をすることもございまして,そうした場合には,私どもは相続人に対する債権者としての立場も有することもございます。
  こうした場合に相続財産,積極財産と消極財産の両方含みますけれども,それの帰趨については,銀行は非常に大きな関心を持っているということでございます。私どもとしては,その帰趨に非常に大きな関心を持っているのに加えて,その内容がどういうふうに確定するのかということにも非常に関心を持つということでございます。
  またその確定の過程において,今回,事務局説明にもありましたように,紛争が長期化,複雑化するということになりますと,つれて取引相手方,例えば銀行にも,その紛争につき合っていかなければならないという状況も生じるわけであります。典型的な例としては,預金の帰属を巡る紛争というのは,日常茶飯事のものです。
  今回の提案を見ますと,配偶者を含めて,いろいろな関係者の利害関係をどちらかというと柔軟に設計していこうと看て取れるわけでありますけれども,その設計においては,取引相手方に対する配慮,権利関係がどう確定するのか,どう確知できるのかということも御配慮いただければと思うわけでございます。
  加えて,今回の提案の中で第2の6「預貯金等の可分債権の取扱い」は,銀行としても非常に関心のある提案項目でございます。
  この点につきましては,業界の中でもまだ議論は十分でございませんので,この場で賛成,反対とかいう意見を申し上げる段階にはございません。ただ,先ほど触れましたとおり,預金をめぐる紛争というのは多いわけでありまして,その中でやはり当然,遺産分割協議をしていても預金は分割承継であるということから来る紛争というのもありますので,この提案というのは非常に私どもとしては関心があると思っています。
  考えてみますに,御案内のとおり,個人向け国債,投資信託,一部の郵便貯金について,不分割債権であるというようなことが判例上言われています。預金に関しては,その性質については一部先ほどの債権法改正の審議で議論されたということもありますので,その点も見ながら,預金の性質,また相続に関する取扱いということも,本席で御議論いただければと思います。
  長くなりましたけれども,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。御意見,重要な点だと思います。承りました。
  先ほど中田委員からも債務の問題についての御発言がありましたけれども,相続財産中の債務債権双方について検討が必要であるという御趣旨かと思いますが,事務局の方から何かありますか。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,昭和55年の際にも,婚姻期間で法定相続分を分けるという考え方について議論がされましたが,その際には,対債権者との関係で非常に困難な問題が生じるということから断念したという経緯がございますので,債権者との関係で法律関係を明確にするという観点は,この手の見直しをするに当たって非常に重要なところだろうと思います。
  それから,預金債権の取扱いにつきましても,例えば仮にこの「6」で書いてあるような方向で見直しをする場合には,遺産分割までの間の法律関係がどうなるのか,個々の相続人による処分といいますか,預金の引出しを認めるのかどうかという辺りを含めて,慎重に検討する必要があると思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
 そのほか御意見,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 東北大学の水野でございます。
  先ほど外国法との比較,相続法について比較をという御意見がありましたけれども,比較をするときの難しさを,一言だけ家族法学者の観点から申し上げたいと思います。
  つまり,相続法という小さな,小さなというと語弊がありますね,すごく大きな枠ではありますが,でも相続法という枠だけで比較しますと,間違ってしまうリスクがございます。つまり,家族法全体を通してみる必要があると思います。先ほど八木委員から後妻業があるというお話がありましたけれども,それも日本法ゆえというところがございます。日本の家族法は明治民法の家制度を引き継いでおります。そして,これは非常に特殊な家族法でございまして,家の自治を最大限に認める形で設計されておりました。つまり婚姻とか養子縁組は,言わば家のメンバーの家同士のやり取りでございまして,そのやり取りは極端な私的自治,家の自由にまかせて,単にそれを届け出るだけという形になっておりました。そして,それは戦後の改正でも,家の自治が当事者の自治に変わっただけで,基本的に変わっておりません。もちろん家制度を廃止はいたしましたけれども,そういう我が国の家族法の基本的な特徴を維持したまま,最低限の改正をしただけです。外国の場合には,婚姻の手続にしろ養子縁組の手続にしろ,もっとはるかに重い手続で,それを日本は届出だけでできるという問題があります。
  それから,特別受益を考えるときにも贈与などが問題になるわけですが,贈与であるとかあるいは遺言の場合もそうですけれども,日本では,まったく私的に行われるのが前提です。日本法の基になったフランス法の場合には公証人,ドイツ法の場合には公証人ではなくて相続裁判所などの公的な機関が関わります。フランスの場合ですと公証人がこの特別受益の贈与にも,あるいは夫婦財産制にも関わり,それから遺産分割に当たっても,不動産があったり遺言があったりする場合には,必ず公証人が関わるということになっております。つまり基本的に,日本のようにもめない遺産分割は全部私的自治に任されているという制度にはなっておりません。
  日本で特別受益を主張しますと,相続人すべてが過去にさかのぼって主張をはじめて何が特別受益に当たるかという争いから,すさまじい紛争になってしまいますが,母法のフランスでは,贈与も全部,公証人のところで把握できておりますので,特別受益の計算も,そういうことにならずに機械的に行われるという仕組みになっています。
  そういうふうに公証人慣行が関わる,あるいは裁判所が関わるという重い手続で,夫婦財産制についても事前の関与があり,要所要所が押さえられた結果,夫婦の間のことは夫婦財産制の精算で決着がついて,被相続人個人の財産について遺産分割することになりますが,日本ではその辺りのことが全部まとめて相続紛争となり,そうなった相続の場合には非常に決着が難しいことになっております。
  ただ,人間の身体が複雑系であるのと同じように社会も複雑系ですので,日本の場合にも,何らかのそのような不備を補完するようなものが働いていて,それは例えば私の僅かに知る範囲ですと戸籍のシステムであるとか,あるいは住民登録,それに印鑑証明などで個人の本人意思の確認がかなりしやすい仕組みが出来上がっていて,そういうものに依存する形で相続が運営され,相続財産取引なども行われてきたのだろうと思います。
  もっとも,戦後の改正が家督相続から共同相続に変わったにもかかわらず,それに必要な様々な手続を手当しておりませんでしたので,よくこんなぼろぼろの形で戦後70年間もやれてきたというような相続法の実情であることは確かです。
  申し上げたいのは,相続法の外国法との比較といったときに,相当に構造的な,様々な日本固有の問題を抱えておりますので,そういうものについての目配りもしながら今回の議論をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。関連する制度を見ながら,実質的に比較せよという御指摘かと思います。
  そのほかには,いかがでございましょうか。初回でございますので,是非,検討のための様々な観点,あるいは要検討事項をお挙げいただければと思います。今,検討事項として挙がっているものについての検討の視点も御指摘いただければと思います。いかがでございましょうか。
○沖野委員 検討の視点ではなくて,むしろ範囲についての質問事項です。配偶者の保護であるのか,実質に応じた対応であるのか,その定式化はともあれ,その財産関係に関連するとなりますと,夫婦財産制の在り方ですとか財産分与をどうするかという問題と密接に絡んでくると思います。夫婦財産制や財産分与は,所与のものとして考えていくのか,それとも,それらについても見直しの余地はあると考えてよろしいのかというのが範囲の問題です。
  それから,ちょっと個別の問題かもしれませんし,浅田委員の御指摘で大分分かってきたところもあるんですけれども,一方でのキーワードは多様性とそれに応じた柔軟性,あるいは具体性,具体的な考慮ということかと思うんですが,常にそこにはそれに伴う紛争の多発や複雑化,長期化,あるいは証明等の困難ということが指摘されていて,さらに幾つかの項目については,結果に対する予測可能性の低下ということも挙げられています。そして,特に最後の予測可能性という点なんですけれども,関係者全員にとって予測可能性という問題はあると思うんですが,取り分け誰の予測可能性をこの分野は問題にすべきなんだろうかというのが,あるいは財産法の場合とは違ってきたり,個別の問題で違ってくる面があるかと思いますので,現時点でこのような整理だということがあれば教えていただければと思います。もちろん,むしろそれ自体を検討していくべきだということかとは思います。
  繰り返しですが,先ほど浅田委員から債権者の視点とあるいは対第三者の視点ということがあるというのを御指摘いただきましたので,一部疑問は氷解しております。
○堂薗幹事 まず,夫婦財産制との関係でございますが,当然配偶者の法定相続分などについて検討する際には,夫婦財産制との関係というのは非常に密接に関わってきますので,そこをどう整理するのかという辺りは,この諮問事項にも含まれ得るのではないかと思います。
  例えばでございますが,死別による婚姻関係の終了の場合にも,別産制自体は維持しながら,財産分与と同じように相続の前に夫婦財産を清算する手続を設けるべきであるという御指摘もされているところでございますが,そのような見直しは,要するに相続の対象となる範囲を現行法よりも狭めて,その前の段階で,相続とは別の清算手続を設けるということになるわけでございますけれども,現行法を前提としますと,やはり相続に関する規律の変更ということになると思います。したがって,そういった意味で,夫婦財産制につきましても,正に相続に関する規律の見直しと言えるものについては,検討対象に含まれ得るというのが,一応こちらの理解でございます。
  それから,御指摘いただきました家族形態の多様性とそれに応じた柔軟性の問題と,紛争の複雑化,長期化,あるいは予測可能性の問題,これは正に二律背反のところがございますので,ここをどういう形で調整するのか,どこでバランスをとるのかというのが今回の見直しの最も難しいところであり,重要なところではないかとこちらでも認識しているところでございます。
  相続の場面では,誰にとっての予測可能性を重視すべきかという点については,こちらでは全く定見もございませんので,その点についても御議論を頂ければと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  ほかの御意見,いただけますでしょうか。
○水野(紀)委員 先ほど申し上げるべきことだったように思うんですが,今の沖野委員の御発言で,一言また付け足したいことを思い出しました。
  先ほど申し上げた大体重い手続になっていると申し上げたものの一つは,被相続人が取引社会の中で取引の主体として様々な活動をしておりまして,責任財産を持ってそれに応じて,債権者たちと取引をしているわけですけれども,その主体が消えてしまうということになりますと,その主体の喪失について何らかの整理が必要になります。それは,我々の市民社会の中では非常に必要な作業ですし,それにふさわしい一定の手続が諸外国の場合には組まれているのですが,日本の場合には,先ほど申しましたけれども,家督相続でございましたので,その主体が自動的に次の一人に1対1に引き継がれるということで,かなりその手間を省いても余り困らないということがございました。
  その結果,この部分が非常に後れておりまして,言わば放置されたまま何十年もたっているというふうなことがございます。それは,第三者が絡んできたときには,その途端に銀行業界などにも御苦労を掛けているわけですが,難しいことになるんですが,そうではなくて紛争が生じない限り長々とそのままになっていて,私の大学は被災地にございますけれども,今度の大震災でたくさんの被災地の整理をしなければならないということになりますと,その土地の1筆の土地に一体何十人,何百人の方々の承諾を得なければならないのかということで,非常に現場も困るということになっております。
  そういうふうに,ずっと放置されている限り,いつまでも遺産分割がはっきりしないというふうな形で回ってきてしまったという日本の相続法の戦後の改正の問題点というのも,これも構造的な問題の一つでございます。
  家族法学会,学説自体,相続財産の議論をするときに,誰にどれだけ取らせるかというふうな形の議論は比較的進んでやってまいりましたけれども,その相続の清算の過程について,いかにしてこれを素早くきれいにし,第三者に対する関係でも安定したものにするかという観点からの研究というのは比較的後れていたように思います。
  そういう意味では,家族法学者たち,民法学者たちの力不足を,この部会でいろいろと御迷惑を掛けることになるのかなという気がいたしますけれども,そういう問題も抱えておりますということを申し上げたいと思います。
  民法の先生方が異論がおありでしたら,どうぞ御訂正ください。
○大村部会長 ありがとうございました。民法の先生方に限りませんが,皆さん何かございましたら,御発言を頂きたいと思います。
  今,手続に関するお話がございましたけれども,手続法関係の御専門の方も少なからずいらっしゃると思いますが,何かこういう点に注意すべきだといった御指摘がもしこの段階でございましたら,伺えればと思いますが,いかがでしょうか。
  ほかに御発言ございませんでしょうか。事務局のほうでは,こういう点について伺っておきたいというようなことはありませんか。
○堂薗幹事 この資料では,遺言については,具体的な見直しの方向性を示すことができておりません。現行の遺言制度がどの程度利用されているかという点につきまして明確な統計はないんですけれども,公正証書遺言の作成件数ですとか,あるいは遺言の検認手続の件数などを見ましても,やはり全体の相続に占める遺言相続の割合というのは,まだかなり低いというところがございまして,そういった観点から,もう少し遺言相続が増えるようにすべきではないかという御指摘もございます。
  他方,遺言による相続が増えますと,今度は遺言能力についての争いというのが増える可能性もございますので,遺言能力に関する争いはなるべく生じないようにしながら,遺言相続が増えるような方策はないかと,こちらでも考えてはいるんですが,なかなか妙案がない状況でございます。
  このような観点から,遺言制度の見直しについて何か御意見やご示唆をいただけると,大変助かりますが,何かございますでしょうか。
○窪田委員 遺言そのものが増えるほうがいいのか,そうではないのか,それはやはりよく分からないところがあるだろうと思います。遺言という制度を知らないので利用しないわけではなくて,遺言というのが場合によってはかえって紛争を巻き起こすということがあるからこそ,法定相続に委ねるという選択もあるのだろうと思います。
  その意味では,遺言全般を全部見直すかどうかというのは所与の問題として扱う必要はないと思いますが,ただ,今回の扱う材料との関係で言いますと,ある種の遺言に関しては少し検討を加えた方がいいのではないかもしれないと考えています。
  具体的には後継ぎ遺贈と呼ばれる領域です。後継ぎ遺贈に関しましては,そういった将来の所有権の帰属について,処分することができるのかどうなのかといった抽象的な議論もあるのですが,恐らくは生存中,配偶者に居住権を与えるという一つの方策として使われてきたという側面もあると思います。そうだとすると,今回の相続制度の見直しとの関係では,ある種,目的を共通にするような部分もある。そうだとすると,そうした遺言について一定の手当をする,どのような場合に,どのような範囲で有効とするのかといった点は,検討の対象になるのかなと思います。
  その上で,恐らく先ほどからちょっと出ていた点にも関わることですし,また,どこまで範囲を広げるのかについては難しい部分があるだろうと思いますが,恐らく信託との関係についても,その点ではやはり全く検討せずには済まないだろうなという気がいたしております。限られた範囲でということにはなりますが,そうした点は検討対象になるのかなと感じている次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  沖野委員からも手が挙がっていたと思いますので,続けてお願いいたします。
○沖野委員 遺言に関してなんですけれども,今回の諮問の問題意識というのを十分に理解していないところがありますので,それからはずれるのかもしれませんが,遺言自体については,現行法の下で一体何が遺言でできるのかということが非常に不透明であると感じております。窪田委員のおっしゃった後継ぎ遺贈もそうですし,先ほど例えば債務の関係ですとか,あるいは主体の消滅に伴う清算ということを考えたときに,例えば遺言でこの財産を売却して,そうして弁済をして,それから分けるというような形ですとか,あるいは単純に売却して分けるようにというような遺言というのは,恐らく現在もあるのではないかと理解しておりますし,遺言執行者が付いていれば遺言執行者がやるということになるんですけれども,そもそもなぜそんなことができるのか,例えば売却せよというような遺言ができるのかということを,改めて考えると,なぜできるのかがよく分からないということがあります。財産処分の範疇として何でもできるのであれば,どのような処分もできるのかもしれません。オプションを与えるということなのかもしれません。大元から現行法の下で一体どういうことができるのかと,それがまたどういうことが必要であるのかというのと,両方は絡んでいるんだと思うのですけれども,なかなか制度的な根拠も十分でないまま動いているというところがあちこちにあるように思われます。
  そういったもののうちどこまでを今回対象とするのかという,その線引きが,私自身ちょっとよく分からないところがあります。言い出したら切りがないというところもありまして,遺言執行者の権限だとか,その地位というのを改めて考え直す必要もあるように思います。そういったことを言っていくと,どんどん相続法のいろいろなところを検討していく必要が出てくると思うのですけれども,今回の検討対象とすべき問題としては,様々に波及的に検討課題が生じうる中で,諮問事項の問題意識によってどこで線を引くのかということだとは思うんですけれども。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。遺言事項の明確化という点も,遺言をもう少し積極的に活用すべきだという方向で考えるのであれば,それに資する面があろうかと思いますので,そういった点も含めて,検討させていただきたいと思います。
  どうもありがとうございました。
○沖野委員 先ほどの発言の補足を少しだけさせてください。遺言の活性化自体が,それ自体追求すべき価値なのかどうかということは分からないんですけれども,他方で多様な家族関係に対応するということの一つの方策はあるいは遺言ということかもしれない。ただ,遺言者の濫用ということもあり得ますので,それを抑えながらだということだと思いますけれども,そういう観点から,遺言の手法の一定の活用ということはあるのかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 制度の見直しにおいては,立法事実の確認が必要だとは思います。その点私はデータ等は持ち合わせておりませんが,日頃銀行実務で経験して感じたことをお話し申し上げますと,特に自筆証書遺言に関してはトラブルが多いということでございます。後日,その有効性をめぐって紛争に発展するのは日常的なことかと思っております。
  紛争の原因には,もちろん遺言能力とか,そういう根本的な議論もありますけれども,一つ気付きますのは,遺言には一定の方式を整えなければならない。方式違背の場合には無効になる懸念があるということであります。例えば日付の記入漏れであるとか,一部パソコンで作ったとか,押印漏れだとかいうことの例に接することが多いわけです。もちろん偽造防止の観点から言ってこれは確保しなければならないということもあるわけですけれども,ただ,このようなパソコンがはやっている時代において,それが必須なのかどうかということは疑問に思うことがあります。
  リテラシーの向上で対応すべきということもあるかもしれませんけれども,常識に照らして,これでいいと思ったものが形式要件の点で後に引っくり返される懸念があり,そのときにはその当人はいないという状況にも鑑みれば,遺言の形式要件については今一度見直したほうがいいのかなとは思います。
  次に,公正証書遺言に関しても,これはもちろん公証人の関与の下,作成されるものですから,法的安定性があると一般的には思われているところでありますけれども,これも例は少ないながら,やはり紛争が生じることがあります。遺言能力をめぐる紛争が後日起こるということもあるわけでございます。
  これは私が考えるに,遺言作成上の運用ということもあるのかもしれないなと思っております。原則どおりの遺言者が口授をして,公証人が作成して,それを遺言者に読み聞かせるというプロセスを経ているというものであれば,その遺言能力が問われる,疑問に思われるということは,遺言の作成時に遺言者がそういうことができたわけですから,事実上ないのかなとは思います。一方で,そういう事例があると仄聞するのですけれども,なかなかそういうことができない高齢の方については,一定の書面をあらかじめ用意して事実上それを口授したという形にして,公証人が読み聞かせ,それに遺言者が「はい」と言って,それで遺言が作成されるというようなことも運用として行われているやに聞いております。こうした場合においては,特に遺言能力をめぐる紛争が多いのかなと思っております。
  公証人が関与して作成した遺言については遺言能力についてチャレンジする場合の要件を厳しくするとか,ないしは有効とみなすとか,さらには銀行に関していえば免責の要件を低めるとか,いろいろなやり方はあるとは思いますけれども,公正証書遺言という一定の方式のものであれば,法的安定性が維持されるような運用制度というのが望まれると思います。
○大村部会長 ありがとうございました。遺言につきましては,今回の具体的な検討課題との関係でも問題になるのではないかというのが窪田委員からの御発言だったかと思います。複数の委員が御指摘になっているかと思いますけれども,柔軟な多様な選択肢をあつらえるということになりますと,それに伴って不安定さが出でくる。遺言についてもそうした不安定さの解消が求められるのではないかという御意見を伺ったと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  様々な要請に応えることになると,制度は複雑になってトラブルが増える可能性がある。ならば,こういうトラブルを塞いでおいたら,よりよい制度少になるのではないかということも,それぞれの場面で皆さまお感じになっているのではないかと思いますけれども,そのような御指摘もあれば承りたいと思います。
  他にご発言がなければ,今日のところは,この辺りでよろしいでしょうか。
  本日頂いた意見につきましては事務局の方で検討していただき,次回以降の審議に反映させていただけるかと思います。
  また,今後の審議の中で御意見,あるいは御疑問等も生ずることがあろうかと思いますけれども,そうしたものにつきましては審議会の席上はもちろんですが,あるいは事務局宛に個別にもご連絡を頂ければと思っております。
  ほかに,何かございますでしょうか。
  では,本日はこの程度にさせていただきたいと存じます。
  最後になりますけれども,事務当局に次回の議事日程等についての御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 それでは,ありがとうございました。
  次回の議事日程でございますが,次回は5月19日火曜日の午後1時半から5時半までを予定してございます。場所は本日と同じ20階の第1会議室でございます。
  次回の議題は「生存配偶者の居住権を法律上保護するための措置」を今のところ予定しております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 それでは,民法(相続関係)部会を閉会させていただきます。
  本日は御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第2回会議 議事録


第1 日 時  平成27年5月19日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時17分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,予定の時刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第2回会合を開催いたします。
  議事に入ります前に,本日初出席の委員がおられますので,自己紹介をお願いしたいと存じます。
  上西委員,お願いいたします。
○上西委員 税理士の上西でございます。日本税理士会連合会の常務理事をしております。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  それでは,本日の配布資料をまず事務局の方で確認していただきたいと存じます。
○大塚関係官 法務省民事局付の大塚でございます。
  まず,資料につきまして,御確認をお願いいたしたいと存じます。
  まず一つ目が,両面で13ページの右肩に資料2と書いてあります,「相続法制の見直しに当たっての検討課題(1)」でございます。後ほど,これにつきまして,主なところを御説明いたします。それから,机上に配布させていただいております緑のファイルは,各国の相続法制についての調査研究をまとめた「各国の相続法制に関する調査研究業務報告書」でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  では,資料2に基づいて,説明の方をお願いいたします。
○大塚関係官 最初に御紹介いたしました資料2の内容につきまして,主なところを御説明いたします。
  第1の「問題の所在等」からですけれども,配偶者の一方が死亡した場合でも,他方の配偶者は,それまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常と考えられます。特に,相続人である他方の配偶者が高齢者であるような場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を立ち上げるということは,精神的にも,肉体的にも大きな負担となると考えられますことから,高齢化社会の進展に伴って,このような居住権,つまり居住建物の使用を認めることを内容とする権利を保護する必要性は,高まっているのではないかと考えられるところでございます。
  このような相続に伴う居住権の保護に関しましては,平成8年12月17日の最高裁判決ございまして,その内容は,共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居をしていたときは,特段の事情のない限り,被相続人と当該相続人との間で,相続開始時を始期とし,遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されるというものでございました。この判例によりますと,この要件に該当する限りは,相続人である配偶者は遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権が確保されるということになります。
  ただ,この判例法理は,飽くまでも当事者間の合理的意思解釈に基づくものであるため,被相続人が明確にこれとは異なる意思を表示していた場合には,保護の対象とされないという事態が生じ得ることになります。
  また,国民の平均寿命が延びたことにより,被相続人の死亡後も,配偶者が長期間,生活を継続するということも少なくないように思われます。このような現状を踏まえますと,生活保障を強化する観点からは,配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続したいと希望される場合に,その意向に沿った遺産の分配を実現するための方策につきましても検討が必要と考えられます。
  現行法の下におきまして,そのような希望に沿う方策を考えた場合には,配偶者がその建物の所有権を取得するか,あるいは所有権を取得したほかの相続人との間で賃貸借契約などを締結するということが考えられるところではございますが,前者の所有権を取得するという方法を採った場合には,評価額が高額となって,配偶者がそれ以外の遺産を取得することができなくなり,その後の生活に支障を来すという場合も生じ得ます。また,後者である賃貸借契約を締結しようとしても,例えば相手との折り合いがつかなくて契約成立に至らないということになりますと,やはり居住権は確保されないということになります。
  このような問題の所在を踏まえまして,今回は配偶者の居住権を法律上,保護するための措置として,遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権と遺産分割終了後の長期的な居住権につきまして,それぞれ検討をしております。これら二つの方策につきましては,内容的に両立しますので,両方併せて採用するということも可能でございます。
  まず,第2の遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権,短期居住権につきましては,  次のような方策を講ずることが考えられます。
  2ページの①から順に読んでまいりますが,配偶者は,相続開始のときに遺産に属する建物に居住をしていた場合には,遺産分割が終了するまでの間,引き続き無償でその建物を使用することができる。
  ②,この短期居住権を取得したことによって得た利益については,配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)には含めない。これはつまり,短期居住権は相続における配偶者の取り分とは別個に与えられるという位置付けでございます。
  ③ですが,①のような場合には,被相続人が遺言等で配偶者以外の者に,その建物を取得させる旨定めていたときであっても,配偶者は一定期間,例えば1年間は無償でその建物を使用することができる。
  ④,配偶者は,短期居住権を第三者に譲り渡し,又は建物を転貸することはできない。
  ⑤として,短期居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が建物の占有を喪失し,又は配偶者が死亡した場合には消滅すると,このような方策を考えておるところでございます。
  この「基本的な考え方」についてですが,この方策は,最高裁の判例ですとか,あるいはフランス法を参考にして,相続開始から遺産分割終了までの比較的短期間につき,配偶者がその居住建物に無償で居住するということを認めることとするものでございます。
  先ほど御説明した判例では,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかな場合には,居住権は保護されないということになりますが,この方策によりますと,このような場合であっても,一定期間は居住権が保護されるということになります。
  少し飛びまして,3ページ目の「検討課題」,「法的性質等」に移らせていただきます。
  短期居住権を有する配偶者は,法定の期間,無償でその居住建物を使用する権利を有しますけれども,その法的性質をどのように位置付けるかということにつきましては,大きく二つ,法定の債権,これは法定の使用借権等が考えられますが,このような構成,あるいは新たな用益物権とすることが考えられるところでございます。
  この方策は,配偶者の居住権保護の観点から,③のように,被相続人が配偶者に短期居住権を取得させる意思を有していなかったことが遺言等によって明らかである場合にも,当然に一定期間の短期居住権を配偶者が取得することとし,その点については強行法規性を持たせるということとしております。その場合,いかなる根拠でそれを認めるのかということが問題となりますが,考えられる説明といたしましては,配偶者双方,例えばAさんとBさんが相互に同居・協力・扶助義務を負っており,この義務が一方の配偶者,例えばAさんの死亡によって消滅するものの,このAさんは,自らの死亡後に,他方の配偶者であるBさんが直ちに建物からの退去を求められるような事態が生ずることがないように配慮をすべき義務を負うと,このように解することが可能と考えられ,このような観点から,被相続人であるAさんの財産処分権に一定の制約を課すということが是認されるのではないかと,このような説明が考えられるところでございます。
  他方,短期居住権は,配偶者に一身専属的に帰属するものとし,他人に譲渡することはできず,配偶者の死亡によって消滅することとしております。
  次の(2)の配偶者の具体的相続分との関係につきましては,結論的に②で御紹介したとおり,短期居住権は相続における配偶者の取り分とは別個に与えられることとしております。
  次のページにある(3)の短期居住権の取得要件についてでございますけれども,先ほど紹介しました判例は,使用貸借契約を推認する要件として,共同相続人の一人が「被相続人の許諾を得て建物に同居していたこと」を挙げております。これに対しまして,今回の短期居住権というものは,被相続人の意思に反する場合にも配偶者の居住権を保護するということとしておりますため,必ずしも,短期居住権の取得要件として被相続人の許諾を得ていたということを要求する必要はないように考えられます。
  また,例えば,被相続人が自宅から離れた所で単身赴任をしていたため,相続開始時には配偶者が被相続人と同居をしていなかったという場合についても,配偶者の居住権保護の必要性は,同居していた場合とさほど変わりはないと考えられるところでございます。
  そこで,①では,短期居住権の取得要件としては,「相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合」としまして,被相続人の許諾を得ていたことですとか,あるいは被相続人と同居していたということまでは要件としておりません。
  次に,イの「短期居住権の存続要件について」でございますが,相続が開始した時点で,①の要件を満たしていた場合であっても,配偶者がその後自らその居住建物から退去した場合についてまで,あえて特別の保護を付与する必要性までは認め難いと考えられますことから,⑤のとおり,居住建物の占有の継続を存続要件としております。
  次に,4ページ(4)の効力等ですけれども,短期居住権の法的性質をどのように見るかにもよるところではございますが,いずれにしても短期居住権は法定の権利ですので,その権利義務の内容は法定するという必要がございます。具体的には,居住建物について,配偶者に無償での使用権限を認める一方で,居住建物の使用や保管について,配偶者に善管注意義務を負わせるということが考えられるところでございます。
  他方で,所有者側につきましては,仮に短期居住権の法的性質を用益物権と見た場合,居住建物の所有者である各相続人に配偶者に対する義務を認めるのは,なかなか困難ではないかとも考えられるところでございます。これに対して,法定の債権と見た場合には,配偶者に対する義務の内容をどのように定めるかが問題となります。この点につきましては,配偶者が無償で建物を使用することなどに鑑みて,使用貸借の貸主と同じように,所有者は修繕義務などは負わずに,基本的には,所有者は配偶者による居住建物の使用を受忍すれば足りるとすることが考えられるところでございます。
  また,短期居住権は,飽くまでも配偶者の短期的な居住の利益を確保することを目的としておりますので,短期居住権を有する配偶者に居住建物の収益権限を付与するということまでは想定をしておりません。
  この下の(注)について簡潔に触れますが,公租公課につきましては,短期居住権の存続期間中は所有者ではなくて,実際に建物を使用する配偶者が固定資産税などを負担するのが相当ではないかと考えているところでございます。
  次に,イの存続期間につきましては,①でも触れましたとおり,相続開始時から遺産分割の終了までの間としております。
  また,被相続人が相続させる旨の遺言などによりまして,配偶者以外の者に居住建物を取得させる旨,定めておったという場合には,居住建物について遺産分割を行う必要がないということになります。そうしますと,短期居住権が遺産分割終了までの権利だとしますと,この場合は配偶者が短期居住権を取得する余地がないということになってしまいかねませんので,その対策として,③で述べましたとおり,このような場合にも一定期間,例えば1年間については,配偶者に短期居住権を付与することとしております。
  他方で,当該建物の帰属を含めた遺産分割の協議が長期間に及んだ場合には,その間も配偶者が無償で住み続けられることになりますため,例えば配偶者が遺産分割の協議をあえて引き延ばすなどした場合には,他の相続人の利益を不当に害することになるおそれがあるところでございます。
  そこで,短期居住権の存続期間については,上限を設けることにつき検討が必要と考えられるところでございます。
  次に,ウの「第三者対抗力について」ですが,短期居住権にこのような対抗力を付与する必要性があるかどうかは,やや疑問もあるところではございますが,仮にこの後紹介します長期居住権について占有を第三者対抗要件としますと,短期居住権についても同様に居住建物の占有を第三者対抗要件とすることが考えられます。
  ただ,短期居住権について第三者対抗力を付与することとしますと,配偶者は被相続人の死亡と同時に短期居住権の第三者対抗力を取得し,その後に建物を差し押さえた一般債権者に優先するということになろうかと思います。このため,一般債権者の側としましては,履行遅滞にある債務者が高齢であるような場合には,例えば相続開始を避けるために早めに差押えをしてしまって債権を保全するといったようなことが考えられ,その結果,かえって配偶者が早期に家から追い出されるということにもなりかねないのではないかと懸念されるところでもあります。この点につきましては,なお検討が必要と考えているところでございます。
  最後に,(5)の消滅事由につきましてですが,短期居住権の主な消滅事由としては,消滅期間の満了のほか,占有の喪失,あるいは配偶者御自身の死亡が考えられるところでございます。このほかに,配偶者が居住建物の使用,保管について善管注意義務に違反をしたような場合,例えば建物を著しく汚した場合には,ほかの相続人に短期居住権の消滅請求権や解除権を認めるということが考えられるところでございます。
  ここまでが,短期居住権についての御説明でございました。
  次に,6ページの第3と記載しております,長期的な居住権の保護としての方策でございますが,これにつきましては①から⑥に記載しております。
  以下,読み上げますけれども,①配偶者が相続開始のときに居住をしていた被相続人所有の建物を対象として,遺産分割終了後にも配偶者にその建物の使用を認めることを内容とする法定の権利,以下,これを長期居住権と呼びますが,これを新設し,配偶者は遺産分割の協議又は審判等において,終身又は一定期間,効力を有する長期居住権を取得することができるようにする。
  ②,配偶者が長期居住権を取得した場合には,配偶者はその財産的価値に相当する金額を相続したものと扱う。
  ③,配偶者は,これは法的性質にもよりますが,①の建物を占有しているとき又は長期居住権の登記を備えたときは,長期居住権を第三者に対抗することができる。
  ④,配偶者は,所有者の承諾を得なければ長期居住権を第三者に譲り渡し,あるいは①の建物を転貸することができない。
  ⑤,長期居住権は,①の存続期間の満了前であっても,配偶者が死亡した場合には消滅する。
  ⑥,被相続人は,遺言又は死因贈与によって,配偶者に長期居住権を取得させることができる。このような方策を考えているところでございます。
  この方策の基本的な考え方でございますが,この方策は,遺産分割において配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続することを希望する場合に,その意向に沿った遺産分割を実現するための措置を講ずるものでございます。配偶者に居住建物の使用を認めることを内容とする長期居住権を今回新設して,建物の財産的価値を居住権の部分と,その残りの部分とに二つに分け,これによって,配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも安い価格で建物に居住する権利を取得することができるようになると考えているところでございます。
  もっとも,長期居住権の存続期間が相当長期に及ぶ場合には,結局のところ居住権の評価額も,所有権を取得する場合とほとんど変わりがないということにもなると考えられます。したがって,長期居住権は,例えば遺産分割時に配偶者が既に高齢に達している場合などにおいて,より有効性を発揮するものと考えられます。
  また,現行法の下では,例えば配偶者の一方である被相続人が,他方の配偶者の居住権を保護するとした上で,その死亡後には,確実に自分の子供が建物を相続できるようにしたいと,このように思っても,遺言等によってこれを実現するというのは,現行法上,困難でございますが,今回の方策を講じた場合には,例えば遺言によって配偶者には居住建物の長期居住権を,子には居住建物の所有権をそれぞれ取得させるということが可能になるものと考えられます。
  次に,長期居住権の法的性質につきましては,法定の債権,例えば法定の賃借権等と構成することや,新たな用益物権と構成するということが考えられます。
  この点につきましては,長期居住権を有する配偶者と建物の所有者との間に一定の債権債務の発生を認めるか否かというところにも関わりますが,例えば建物の一部が損傷したような場合に,その所有にその部分の修繕義務を認めるのでありましたら,少なくともその部分は法定の債権・債務関係ということになると考えられます。
  これに対して,建物の所有者が長期居住権の存続期間中は建物の使用権限がないにすぎず,配偶者に対して義務を負うものではないということにしますと,あえて法定の債権と位置付ける必要はないとも考えられます。特に長期居住権につきまして,占有をもって第三者対抗要件としますと,長期居住権は,通常,発生と同時に常に物権的効力を有することになりますので,その点では用益物権と説明をした方が,実態には合致するのではないかと考えられるところでございます。もっとも,長期居住権を用益物権と仮に位置付けますと,特段の定めを置くのでない限り登記が第三者対抗要件になると考えられますので,新たな登記制度を設けるまでの必要性があるかどうかについては,なお検討の余地があるかと思います。
  次に,「配偶者の具体的相続分との関係」ですけれども,この方策は,ほかの相続人への影響も考慮しまして,②で御紹介しましたように,配偶者は長期居住権の財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うこととしております。その結果,配偶者は,居住建物以外の遺産からは,自分の具体的相続分から長期居住権の財産評価額を控除した残額について財産を取得することになり,配偶者が長期居住権を取得しても,ほかの相続人の具体的相続分は変わらないということになります。
  続きまして,(3)の「取得要件」でございますが,長期居住権の発生原因については,全て法定する必要があると考えております。この点につきましては,例えば遺産分割の協議,調停又は審判,あるいは被相続人の遺言,そして死因贈与を発生原因とすることが考えられます。
  イの「相続開始時に配偶者が居住していたことを要件とすべきか否かについて」でございますが,長期居住権は,配偶者の居住権保護の観点から新設する権利でありますところ,その権利主体を配偶者に限定していることに鑑みて,①のとおり,その保護要件として,配偶者が相続開始の時に,その建物に居住をしていたことを要求しているところでございます。
  ただ,配偶者が長期居住権を取得した場合でも,ほかの相続人の具体的相続分には影響を及ぼさないとしていることに照らしますと,配偶者に特段の保護要件まで課さずに,被相続人所有の建物でありさえすれば長期居住権を設定することができるとすることも考えられます。
  なお,長期居住権につきましては,短期居住権と異なりまして,占有を存続要件とすることは想定をしておりません。
  続きまして,長期居住権の内容でございますが,長期居住権は,配偶者にその居住建物の使用を認めるものですが,その財産評価を適切に行うことができるのであれば,制度上は,建物使用の対価について,有償,無償のいずれとすることも可能であり,また事案に応じてそのいずれかを選択することができるということも可能ではないかと考えております。
  他方,長期居住権は,飽くまでも配偶者の居住の利益を確保することを目的とするものでありますので,配偶者がその建物から収益を上げるということまでは想定をしておりません。ただ,例えば遺産分割において,配偶者が終身の長期居住権を取得したものの,その後に御本人の体調が悪化して養護施設に入所する必要が生じてしまったという場合のように,遺産分割の後になって事情変更が生じた場合の対応策として,配偶者に長期居住権の譲渡を認めるかどうかというところにつきましては,別途検討する必要があろうかと思います。
  この点につきましては,居住建物の所有者は建物の使用者がどのようなものであるかについて重大な利害関係を有していること,それから民法上は使用貸借,あるいは賃貸借のいずれにおいても貸主の承諾を得ずに,その権利を譲渡,あるいは転貸することはできないとされていることに照らしますと,配偶者が長期居住権を第三者に譲渡,あるいは転貸するには,建物所有者の承諾を要件とするのが相当と考えられるところでございます。
  10ページのイ,「存続期間」に移らせていただきます。
  長期居住権の存続期間につきましては,基本的には配偶者の具体的相続分の範囲内で,例えば終身期間とすることも含めて,配偶者の希望に応じて定めることになると考えられるところでございます。
  もっとも,所有権を取得する方の相続人は,長期居住権の存続期間中はその建物の使用,収益を自ら行う権限がないということになりますため,できる限り長期間にわたって長期居住権を取得したいという配偶者と,これをできる限り短期間にとどめたいほかの相続人との間で利害が対立することも想定されるところでございます。
  したがって,このような場合に,配偶者とほかの相続人の利害の調整をどうするべきかという点を検討する必要があると考えております。
  次に,ウの「第三者対抗要件について」でございますが,長期居住権は,存続期間が長期に及ぶことが想定されますので,その分,建物所有者によって建物の処分が存続期間中にされるというおそれが高まると思われますことから,このような場合でも,居住権を保護するために,第三者対抗力を付与するのが相当ではないかと考えておるところでございます。
  では,何をもって第三者対抗要件とするかにつきましては,法的性質をどのように考えるかにもよると思われます。
  まず,長期居住権を新たな用益物権と位置付けた場合には,登記を第三者対抗要件とすることになると考えられます。また,配偶者が簡易に第三者対抗要件を取得することができるようにするために,登記だけでなくて占有についても第三者対抗要件とするということも考えられるところでございます。
  これに対しまして,長期居住権を法定の債権と位置付けた場合には,登記を第三者対抗要件とすることも考えられるところではございますが,賃借権と同様に,居住建物の占有をもって第三者対抗力を付与することにも相応の合理性があると考えられます。また,居住建物の占有のほかに登記も第三者対抗要件とすることも併せて考えられるところでございます。
  次に,(5)の「長期居住権の財産評価」でございますが,このような長期居住権を新設するとした場合には,遺産分割において,この財産評価が必ず必要になりますので,では,どうやって財産評価を行うのかというところが問題となります。
  この点につきましては,仮に長期居住権を有する配偶者が無償でその建物を使用できるとするのでありましたらば,この財産評価については遺産分割時に配偶者が自らの相続分によって賃借権類似の権利を取得するとともに,存続期間全体について賃料相当額の全部前払いをしたのと同様の評価をすること,すなわち,建物賃借権の評価額に,存続期間分の賃料総額から中間利息を控除したものを加算するという方法が考えられます。
  これに対して,長期居住権を有する配偶者が,その存続期間中に建物所有者に対して賃料相当額をずっと支払い続けるということを前提としますと,その財産評価は,賃借権自体の評価とほぼ同様の方法によることになるものと考えられるところでございます。
  次に,(6)の「消滅事由」でございますが,これは存続期間の満了と,それから配偶者の死亡が考えられるところでございます。
  このほか,配偶者が使用,保管について善管注意義務に違反している場合ですとか,あるいは勝手に譲渡,転貸をしたという場合には,この義務違反を理由として,長期居住権の消滅請求権,あるいは解除権を建物所有者に認めるということが考えられるところでございます。
  12ページの「その他の検討課題」でございますが,まず,「他の共同相続人との関係(長期居住権の優先取得について)」でございます。
  現行法の下では,遺産分割において,どの相続人がどの財産を取得するかということについて相続人間の協議が成立しない場合には,裁判所が審判においてこれを定めるとされておりますけれども,長期居住権については,配偶者が長期居住権の取得を希望した場合に,他の相続人に優先してその取得を認めることとすべきではないかというところが問題となります。
  この点につきましては,配偶者の保護を十全のものとするために,何らかの優先権を認めるということも考えられますが,他方で,これを無条件に認めてしまいますと,居住建物の所有権を取得するほかの相続人の利益との衝突が問題となり得ますので,優先権を認めるとしても,その範囲を限定するのが相当と考えられます。
  具体的には,こちらの㋐,㋑のような方策を講ずることが考えられるところでございます。
  ㋐は,配偶者が,例えば10年間について,ほかの相続人に優先して居住権を取得できるけれども,この10年なら10年を超える期間の長期居住権の取得を希望した場合には,家庭裁判所の方で,その当否を決するという方策です。
  他方,㋑は,原則として配偶者に優先権を認めるとする一方で,家庭裁判所の方で各種の事情を考慮し,このような優先権を認めるのは著しく不当だと認められる特段の事情があるという場合には,長期居住権の取得を認めない,あるいは存続期間の制限をするということができるようにすると,このような方策が考えられるのではないかと思っておるところでございます。
  次に,イ,「敷地所有者との関係について」ですが,被相続人が建物とその敷地を所有していた場合を想定すると,第三者からの建物退去請求に対して,配偶者がそれを拒むということは可能であると考えておりますけれども,遺産分割により建物とその敷地の所有権を取得したほかの相続人が,その建物のための敷地利用権を設定しないでその敷地を第三者に売却してしまったという場合には,配偶者は,この第三者に対して,敷地の占有権原を主張することができない結果,原則として第三者からの建物退去請求を拒むことができないことになってしまうと考えられるところでございます。
  そこで,このような事態が生ずることがないようにするために,配偶者の居住建物だけでなくて,その敷地についても,例えば新たな用益物権ですとか法定の債権を創設するといったことも考えられるところでございます。
  ここまでが,長期居住権についての御説明でございました。
  最後に,第4の「その他」でございますが,まず,賃貸物件である場合の保護方策について申し上げます。
  ここまで申し述べてきました短期居住権と長期居住権,二つの方策は,いずれも配偶者の居住建物が被相続人の所有だった場合を前提としておりますが,このような場合だけではなくて,配偶者の居住建物が第三者から賃借をしていた建物であった場合も十分考えられるところでございますので,こういう場合についても配偶者保護のための措置を講ずる必要があるのかどうかという点が問題となります。
  このような観点から,例えば,「遺産分割において,配偶者は居住建物の賃借権を優先的に取得することができる」とすることも考えられるところでございますが,他方で,あえてそのような方策までは講じないということも考えられるところでございます。
  その他,配偶者の居住権の保護方策として,ここまで御紹介したほかに考えられる方策がありましたら,併せて皆様方にお伺いしたいと考えております。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 どうもありがとうございました。
  御説明いただいたものは,最後に触れられたその他というのを除きますと,第2で扱われています短期居住権についての御提案と,第3で扱われております長期居住権についての御提案に分かれるかと思いますけれども,まず,第2で扱われている短期の居住権の方について,御質問ないし御意見を承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○増田委員 すみません,今,第2と言われましたけれども,その前の第1のところでちょっと質問があります。
  現在の判例の到達点について,最判平成8年12月17日で居住権が確保されているという御説明だったと思うんですけれども,共同相続人の一人の居住権,すなわち占有権自体は,既に最判昭和41年5月19日以来,判例はほかの物権法上の共有と同じように認めていて,一部でも共有持分があれば,全体についての利用権があるというのが,確立された判例理論だと考えています。したがって,共同相続人の利用権に関しては,当事者間の合意的意思解釈うんぬんではなくて,現行法上は,共有の理屈上そうなるんだということだと思うんです。ご指摘の最高裁平成8年12月17日判決は,事件自体も不動産の明渡請求事件ではなくて,相続財産を利用している共同相続人に対する賃料相当損害金ないし不当利得の請求事件であって,利用の無償性を明らかにした判例だと思うんですね。
  つまり,確かに判例は,無償性については,当事者間の合意的意思解釈を根拠としてはおりますが,居住権それ自体については当事者の意思解釈でも何でもなく,持分がある以上,当然だというのが,判例法理だろうと思っているんですが,いかがでしょうかというのが一つ目です。
  もう一つは,建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結する方法による場合には,賃貸借契約等を成立することが前提となる,すなわち契約が成立しなければ確保されないといわれておりますが,実際の審判例で,賃借権を設定している事例もあるのではないかと思います。例えば東京高裁の平成22年9月13日決定などは,2年間の短期ではありますが,一時使用のための賃借権を設定しています。これは賃借人が,配偶者ではなくて子なんですけれども,共同相続人の一人のために設定をしている,そういう例もありますし,遺産分割ではないですが,財産分与として賃借権を設定したという裁判例もありますので,現行法を前提にしても,他の相続人の意思にかかわらず居住権を確保する方法はあるのではないかと思います。
  その2点について,取りあえず共通認識があるのかどうか,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 それでは,私の方から御説明いたします。
  まず,1点目ですけれども,基本的に,法定相続で配偶者が少なくとも2分の1の持分を持っているという場合には,第三者から明渡しを請求されることはないのではないかというのは,そのとおりではないかと思います。ただ,ここで考えているのは,例えば,被相続人が相続人の誰か1人に建物の所有権を遺贈した場合も含め,一定期間については例外なく居住権を保護する必要がないかということでございますので,共有についての判例理論だけで全てが保護されているということにはならないのではないかという点があると思います。
  それから,二つ目の賃貸借契約の設定によって,使用権限を設定することができるのではないかという点でございますが,これについても,なぜ遺産分割の審判で契約を成立させることができるのかということが問題になると思います。そもそも契約ですので,本来は,当事者間の合意がないと成立させられないということになりますので,御指摘のような裁判例があることはこちらも承知はしておりますが,理論的な説明が難しいところがあるのではないかと思います。したがって,これらの現在の裁判実務,あるいは判例理論を前提としても,保護が十分ではない部分があるのではないかというのが,こちらの問題意識でございます。
○大村部会長 よろしゅうございますか。更にもし何かあれば,どうぞ。よろしいですか。
○増田委員 前提となる判例理論は,それでよろしいということですね。③はちょっとほかのと異質だと,私は考えていますので,また後で,これについての意見を申し上げますけれども,今回の議論の前提としての判例の考え方は,私が先ほど述べたような考え方でいいということですね。
○堂薗幹事 ただ,御指摘の判例も,「多数持分権者は当然には明渡しを請求することができない」という説示がされているかと思いますが,その「当然には」というのがどういう意味なのかという点については,必ずしも明確にはなっていないように思います。
  したがって,共有に関して,仮に,誰が使用するのかというのが管理に関する事項だということになりますと,共有者間の協議によって多数決で決めることはできることになります。その点については,法定相続分を前提とすれば,配偶者は少なくとも半分は持っていますので,過半数で使用方法を決めるということになったとしても保護されますけれども,相続分の指定がされているような場合を含めて考えますと,現行法の解釈上も,不明な部分はなお残っているのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
  それでは,そのほかいかがでしょうか。
○中田委員 やはり第1なんですけれども,2ページの上から5行目に,二つの方策は内容的に両立するもので,両者を併せて採用できるとあるんですが,この二つの方策の関係について,どう理解したらいいかということです。
  私が拝見して思ったのは,両者は根拠付けも,規律の在り方も随分違っているなということでした。短期の方は,婚姻から導かれる配慮義務に基づいて強行法的な規律をかけるということであり,それに対して長期の方は,生存配偶者の居住保障という,どちらかというと政策的な配慮から新しいメニューを提供するということであるように思いました。そうすると,それぞれにおいて出てくる問題点も違っていると思うんですが,この二つを統一的に考え,根拠付けるということを目指すのか,それとも二つの制度を併存させるという方向でいくのか,あるいはどちらか一方だけでも設けるということを考えるのか,その辺り,この二つの方策の関係といいますか,内容的に両立するということの意味について,お考えをお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 ここで両立するというのは,二つ方策があって,どちらも併せて採用することが可能だという意味でございますが,基本的には,目的や趣旨は全く異なるものと考えております。短期居住権の方は,どちらかというと相続によって急に出ていかなければいけなくなるような事態がないように,明渡猶予期間的な発想で,少なくとも一定期間は住めるようにしましょうというものです。したがって,短期居住権は一定の要件を満たせば,当然に効力が発生するというものであるのに対しまして,長期居住権の方は,現行法上,建物の使用権限だけを配偶者に取得させて,そのほかの部分については,他の相続人に取得させるという形で遺産分割をすることが,なかなか理論的にも難しい面があるので,それを解消するための制度として新たなオプション,選択肢を設けるという趣旨でございます。
○大村部会長 よろしいですか。ありがとうございました。
  先ほど,ちょっと言い方が不適切だったかもしれませんが,第2と第3の間で分かれますので,第2までをまずやるということで,第1についてもどうぞ,もしまだございましたら併せて御質問,御意見を頂ければと思います。
○南部委員 ありがとうございます。南部です。
  第1のところですけれども,裁判の現状ということをお聞きしたいと思います。立法事実として,こういったニーズがどれくらいあり,そしてトラブルになっている事例がもしあれば,お聞かせいただきたいと思っています。
  というのは,例えば父親が死亡して,母親と子供が相続するというときに,ほとんどの場合,母親が高齢であれば,そこに最後まで大体住まわれるのが普通ではないかなというふうに私は思っております。ですので,どういった事例でこういうトラブルが起こるか知りたいと思います。こういう根拠があるので,この法律をどう変えていくかと考えないと,少しポイントがずれていくのかと思います。実態等々,お分かりの先生方がたくさんいらっしゃると思いますので,教えていただけたらと思っております。
○堂薗幹事 まず短期居住権の方は,先ほども御指摘がありましたように,現行の判例によりかなりの部分は,既に保護されているものと思います。ですから,このような規律を設ける意義というのは,その点を法律上も明確にし,更に現行の判例理論によりますと,一部,保護の対象から外れる部分があるので,そこも含めて,保護の対象にしようというところにございます。
  長期居住権の方につきましても,何かこういった事例で困っているというのが具体的にあるというよりは,先ほども申し上げましたように,制度上,所有権を,使用権の部分とそれ以外の部分に分けて分割するというのが難しいので,それを解消するためのものとして考えているところでございます。
○上西委員 上西でございます。
  相続税の申告実務をしている観点から申し上げますと,短期居住権でもめた事案というのは未見です。また,相続事案を手広くやっている同業者と意見交換する中でも,短期居住権について新たに積極的に保護しなくても,事実上の居住権というのは保護されていると思います。
  ただ,長期の居住権につきましては,所有権に至らない居住権--適切な言い方ではないですが,所有権とは違う,もう少し手前の段階の居住権を創設することは,実態から見ると非常に有り難いものになると考えております。
○窪田委員 一つ前に御質問があった関係で,発言させて頂きます。特に短期利用権に関してどういうニーズがあるのかという御質問,これは,さきほどの増田委員の御発言にも関わるのかなというふうに思いますが,少なくとも2分の1の相続分があるので,取りあえずそこから追い出されることはないというのは確かですし,実際にそのまま妻が,あるいは夫が住み続けるということがあるというのも確かなのだろうと思います。ただ,恐らくこの部分というのは,短期居住権を認めて居住できるようにしようという部分と同時に,短期居住権に関しては無償であるという部分を明確にするということが,特に重要な意味があるのではないかと理解しています。
  そういう意味では,増田委員の御発言にあったように,単に利用権を認めるということだけではなくて,これは無償の利用権であるということを含むという意味で,やはり最高裁の判決を受けたという点が重要なのかなと思います。もちろん,どの程度の数の事件があるのかという点について私は存じ上げませんが,現に判例でもそういうふうに登場しているということ,そしてここで示された判例のルールというのが,必ずしもそれほど明確なものではない。当事者の合理的な意思の解釈だというふうには言うわけですけれども,どうも非常によりどころが余り確かなものではないということは言えると思いますので,その意味ではやはり,ちょっと今,短期居住権の話に限ってということになりますが,一定のニーズはあるのではないかと私は理解しております。
○沖野委員 ありがとうございます。
  短期居住権の方ですけれども,これが入ると,現行法下とどう違うのかという点についてです。一つのポイントは強行性と言われましたけれども,例えば相続させる遺言ですとか,あるいは第三者への遺贈などがあったときも,この1年の限りでは無償で居住が確保されるとなりますと,例えば子供に相続させるという遺言をしていて,事実上,そのまま居住を継続していたけれども,1年内にトラブルが起こったというようなことが仮にあったとすると,現行法とは違ってきますし,第三者に遺贈したような例というのは,やはりかなり現行法と違ってくると思うんですけれども,そういうことはない,基本的に変更を生じさせるような事態が現在はないと考えていいのかということが一つです。
  もう一つに,気になっておりますのが抵当権との関係です。抵当不動産であるという場合に,抵当権が実行されるというようなことはありそうに思います。提案では,一般債権者の差押えとの関係が書かれていますけれども,既に抵当権がついている不動産について抵当権が実行されたときも,明渡猶予期間ということで,その猶予は受けられるという前提で理解したらいいのか。そうだとすると,実際,現行法とはかなり違ってくる場合が生じると思うのですけれども,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 まず,抵当権との関係でございますが,短期居住権の③で書いてあるのは,基本的には被相続人による処分を制限するという限度で強行法規性を持たせるということを考えておりますので,短期居住権に優先する抵当権が既に設定されていて,それに基づいて処分がされ,所有権者が変わったという場合についてまで,明渡猶予期間を認めることは考えておりません。
○浅田委員 先ほど沖野委員から抵当権の話がありましたので,銀行の立場から状況について概論をお話ししたいと思います。
  特に私が統計的な数値を持っているわけではないので,経験的な側面からお話しすることになると思うんですけれども,まず銀行が行う住宅ローン,典型的なもの,に関しては,通常,団体信用保険が付保されてます。そうしますと,被相続人の死亡に伴ってローンが弁済されるということになりますので,その債権者との関係ということでは,一旦切れるということになるので,そういう典型的な処理に関しては,それほど問題が生じるかというと,そうではないようにも思えます。
  ただ,これはそういう特定の商品のことでありまして,その他の一般的な商品については沖野委員の問題提起というのは当てはまり得るということだと思います。簡単に言いますと,例えば自宅を担保にしたフリーローンと言われるものとか,あと個人事業者で借入れのために自宅に担保権を設定しているとか,また債権法改正でいろいろ議論がありましたけれども,中小企業に対する貸金に関して,代表者を保証人として,その保証に関しての担保,抵当を入れるということや,また近時開発,検討がされていますリバースモーゲージについては,抵当権者として,また一般債権者として,賃借権との相克というものが問題になり得ると思います。
  したがって,この賃借権と抵当権との相克,対抗関係に関しては,銀行界としても非常に大きく関心を持っているわけでございます。具体的にどういう関心を持っているかということについては,縷々述べたいところはあるわけですけれども,第2の第三者対抗要件というところで議論をさせていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 よろしいでしょうか。
  短期居住権の方について,あるいは長期居住権の方も同じ部分が気になる部分があるのですが,期間に関して若干気になっている点がありますので,それについてお尋ねさせていただきたいと思います。
  基本的には,短期居住権,遺産分割までという形の,多分,組立てになっていると思いますし,遺産分割時というのは,恐らくそこから長期居住権が始まるという意味では,すみ分けの基準時としては分かりやすいとは思うのですが,一方で,例えば相続させる旨の遺言があるというような場合,要するに遺産分割が不要であるようなタイプのものについては,例えば1年間といった一定期間の利用を認めるということを言うのであれば,遺産分割がある場合であったとしても,例えば1年間といったような利用権を認めるというような,言わば遺産分割にかかわらず下限があるのかという問題です。そして,もう一つの問題は,遺産分割がいつであるかということにかかわらず,上限があるのかという問題もあり得ると思いますが,特に下限の方について少し気になっています。
  このような質問をしておいて,自分自身の考えは迷っているという部分だけ,お話ししても仕方がないと思うのですが,一方で,恐らく相続させる旨の遺言があったとしても,1年間の利用権は認めるということから言うのであれば,遺産分割があったとしても1年間は認めましょうというのは一つの在り方なのだろうと思います。
  ただ一方で,そうは言いつつ,遺産分割というのは生存配偶者も関わってなされるものですから,むしろ,遺産分割時を基準時としてもいいという考え方もあります。また,政策的に言うと,遺産分割があっても結局1年間は短期居住権を排除できないということになれば,むしろ何か遺産分割をさっさとやるということに対するマイナスのファクターになりかねない部分もあるようにも思われます。これは場合によっては,できるだけ速やかにやはり遺産分割をして,最終的な財産の帰属を決めた方が望ましいのではないか,マクロの視点から見ると,マイナスのものとして働く可能性もあるのかなという気もいたします。
  その意味で,どちらがいいのかということを自分の中で決めた上でお尋ねをしているわけではないのですが,現時点で法務省の側で何か考えているというようなことがあったら,教えていただければと思います。
○堂薗幹事 確かにこの資料上は,存続期間について上限を定めるという方しか触れておりませんが,御指摘のとおり,例えば③の期間を1年とした場合に,遺産分割が1年未満で終わった場合はどうするかというのは検討課題であって,その場合でも1年は居住できるようにするのかどうかという問題はあろうかと思います。
  そういった問題は,特に③の一定期間をどの程度の期間にするのかというところと,密接に関わってくるのではないかと考えておりまして,この期間を長いものにいたしますと,そういった問題は生じると思いますし,この期間をかなり短いものにすれば,基本的にはそれほど問題にはならないのかなという気もいたします。この一定期間をどの程度にするのか,あるいは窪田委員に御指摘いただいたようなデメリットの点をどう考えるのか,短期間で遺産分割が終了する場合というのは,基本的には生存配偶者も同意をして協議で成立している場合が多いのでしょうから,そういった場合にも例外を設けるまでの必要があるのかどうかといった点について,検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○森委員 さきほど南部委員から実務の実情について御質問がありましたので,少しコメントをしておきたいと思います。
  これは全体の感覚ではありませんし,具体的なところは後で家庭局の幹事の方から補足していただければと思うんですけれども,被相続人の配偶者が高齢の方ですと,施設入所を予定しているため従前の居住建物での生活を望まれない場合も少なくないように思います。そのため,配偶者の居住建物の取得をめぐって相続人間で争われる事案というのは,それほど多くはないように思います。すごく雑駁ですけど,例えば東京家裁とか大阪家裁ですと,遺産分割担当の裁判官は1年間で数百件ほどの事件を担当していると思いますが,その中で,配偶者の居住建物の取得をめぐって相続人間で争わる事案というのは,せいぜい1件か2件ある程度といった感覚です。
  それから,生存配偶者が居住を継続することに対して,被相続人が明確な反対の意思表示をしていたために,平成8年の法理が使われなかった事案があるかどうかというのは,直ちにはちょっと分からないですが,家庭局の方から補足していただけることがあればお願いします。
○石井幹事 今の後段の方のところにつきましては,事務当局としても特に統計的に資料を持っているわけではございませんので,被相続人が反対の意思を表示していたために平成8年の最高裁判例の射程が及ばなかった事案というのがどのぐらいあるかということにつきましては,直ちにはお答えできないというのが実情でございます。
  それからもう1点,先ほど期間をどのように設けるかというような御議論がありましたけれども,仮1年なりの上限を設けた場合には,その期間までに遺産分割が終了しない場合も当然出てくるだろうと思います。先ほどの御議論などを聞いておりますと,その場合には,平成8年の最高裁の判例の枠組みではなく,期限が来たら短期居住権も消滅することを前提に御議論がされていたように聞こえたんですけれども,平成8年の最高裁判例との関係について,そのような前提で御議論していくのか,あるいは期限が来ても,遺産分割が終わるまでの間は,平成8年の最高裁判例の枠組みで使用貸借権を認める余地があるとするのかは,考え方が分かれるところだと思いますので,こうした点についても,もう少し御議論を頂ければというふうに思っております。
○大村部会長 八木委員からも手が上がっていますので,八木委員の御意見を伺って,事務局にまとめて答えていただきますか。
○八木委員 御意見というか,南部委員の御質問を受けまして,森委員からお答えがあったんですけれども,私なりの補足でもないのですが述べたいと思います。
  この部会のミッションにも関わることだと思うのですけれども,例えばということですが,相続人の子供の中に非嫡出子がいた場合,これを想定せざるを得ないということですね。そして相続財産が,夫婦が住んでいた土地と家だけというケースは都会では結構多いと思います。その際,相続の際に,嫡出子の場合は,おじいちゃんが亡くなった場合,おばあちゃん,つまりお母さんがそこに住み続けるということを承諾すると思いますけれども,非嫡出子については,自分の相続財産を得たいということで,夫婦が住んでいた家屋敷を売らざるを得ないというケースが出てくると思います。そういったときに,配偶者をどう保護していくのかというのがここでの趣旨だと思うんですね。それを短期で,その居住権を認めるのか,長期で認めるのか,そこの違い,またその法的な取扱いの違い,あるいはその妥当性というのが,ここでの課題というふうに私は理解をしております。
○大村部会長 短期,長期について,どういう必要があるのかということにつき,何人かの方々から御発言を頂きましたけれども,森委員,ごく少ないけれども,紛争はあるというお話だったと思いますが,もしよろしければ,どういう紛争なのかということを教えていただけますと,今の八木委員の御発言との関係で少し議論が深まるかなと思いますが。
○森委員 さきほど,配偶者の居住権をめぐる紛争は少ないと申し上げましたが,それは,ワーキングチームで御議論されていたときに,東京家裁と大阪家裁の遺産分割事件の実情を聞く機会がありまして,その際,さきほど述べたような感触が得られたということで申し上げた次第です。そのときの感じでは,年間300件程度担当している裁判官が配偶者の居住権をめぐり争いのある事案を担当した件数は,2年間で,多い方で2件,少ない方は0件ぐらいとのことでした。具体的な事案の内容までは御紹介することができず,申し訳ないと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  長期について,こんな紛争がある,あるいはあり得るということについて,何かほかに御発言ありましたら,どうぞ。上西委員からは,先ほど長期について,ここで提案されているようなものができると有り難いという御発言があったと思いますが。
○上西委員 今の八木委員のお話ですけれども,東京や大阪等で,土地建物がほぼ唯一の財産であるような事例の場合は,所有権一本だけですと非常にもめやすいです。代償分割という形で代償金を準備する手法がありますが,借入れをしなくてはいけないというケースも出てきます。所有権から見れば評価額の小さい長期居住権というのを一旦確定させて,その長期居住権を控除した残りの部分を他の相続人で分けるという形で可能であれば,解決はしやすくなることは確実です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 先ほどの石井幹事からの御発言,私の発言が分かりにくかったのかと思いますが,私自身は,1年間にするという固定的イメージではなくて,むしろ今提出されている案でも,遺産分割時というのが基準になると思うのですが,遺産分割時というふうに言った場合,遺産分割がずっとなされない場合もあるけれども,ものすごく早くになされた場合,例えば3か月ぐらいで遺産分割の協議はすぐ成立してしまった。そうすると,もうそこで本当に短期居住権というのは終わってしまうのかどうかという,言わば下限の話というのを伺ったということだけです。恐らく法務省の方のこの提案でも,1年間というのでもう切ってしまうという趣旨では,多分ないだろうと思います。私の方が発言すべきことであったかどうかもよく分かりませんが。
○堂薗幹事 御指摘のとおりでございまして,短期居住権は,原則として,遺産分割終了時までを想定しており,例外的に存続期間の上限と下限をそれぞれ定めるかという問題があるということでございます。このうち下限については,遺産分割が早めに終わってしまった場合,ですから判例の基準によると,その時から保護されないことになるわけですけれども,その場合でも,少なくとも一定期間は保護をするかどうかということでございます。
○増田委員 先ほどの実態の話なんですけれども,私,家事調停委員を10年以上やっていた経験もあるんですけれども,生存配偶者の居住権を奪う,要するに配偶者を追い出そうという事例には一度も遭いませんでした。
  それと,先ほど八木委員が非嫡出子対配偶者という対立構図をおっしゃいましたけれども,そういう構図もほとんどがないんですね。実は非嫡出子というのは実際には遠慮する人が多いので,そういう構図はなく,むしろ嫡出子であるけれども,その人の子ではない人と生存配偶者とが激しく対立する事例の方は結構あります。だから,嫡出子か非嫡出子かということ自体は余り関係がないというのが,実感です。
○大村部会長 今の御発言,興味深く伺いましたが,嫡出子で,もちろん親が違うというケースをおっしゃったと思いますけれども,そういう紛争が,居住権をめぐって存在するという認識ですか。
○増田委員 居住権の問題としては,多分なかったです。自分の親である前配偶者と生存配偶者との対立関係を潜在的に引きずっているために遺産紛争が激烈化しやすいケースとして挙げたまでで,非嫡出子は何となく引け目があるのか,遠慮する人が多いですね。
○山田委員 先ほど,極めて短期に遺産分割ができたという事例のお話がありましたけれども,そういう事例は当事者間で円満に合意ができたということで,その先についても,例えば居住権の設定等についても合意ができるような事案かと思います。
  一方,裁判所にお世話になる事件というのは,どれぐらい掛かるかというと,大きな事件では10年掛かる案件もあり,非常に裁判所に頑張っていただいても,2年,3年掛かる事例はざらかなというふうに思っています。
  同時に,今度,相続税の申告は,上西先生,今,10か月でしたか。
○上西委員 相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内です。
○山田委員 そうですね。10か月程度で,できれば遺産分割が完了して申告したい。それが間に合わなければ,法定相続分で申告するというのが実務でありますけれども,私どもが御相談を受ける中で,やはり当事者間で争っていると,相続税の部分で非常に後々問題が生じてしまうというようなケースもございます。
  例えば,相続財産を換価して納税しなければならないような場合,ちょっと記憶が定かでないんですけれども,2年以内に処分すれば譲渡所得税の問題が生じない。長期になってしまうと,今度,相続税を支払った上で譲渡所得の支払が生じてしまうとか,何かいろいろ問題があるケースも出てくる中で,税金の問題というのは実務的には非常に大きく,それとの絡みで,やはり期間等も御検討いただく必要があるのかなということをちょっと感じておるところです。
  定かでない知識のところで,中身にそごがあるかもしれませんが。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 実態の詳細を把握しているわけではないので教えていただきたいのですけれども,例えば贈与などですと,家屋を子供に贈与する場合に,親の扶養を条件として負担付贈与を行う,しかし,その後,仲が悪くなって追い出すというような例も,かつての判例などで目にするところです。そういった事象は現在でも生じそうにも思うのですけれども,そういう懸念は,もう今はないと考えられるのかというのが一つです。もう一つは,高齢社会に伴って再婚の事例というのが増えてきますと,先ほど出ました子供の親ではない生存配偶者があり,居住ですとか,財産の承継などその後をめぐって争いになるというのは,報道などもされているところです。そのような場合に問題がありそうにも感じていたのですが,実際はそういった紛争はあまり起こっていないと理解してよろしいんでしょうか。
○大村部会長 今のような場合があり得るのではないかという御発言ですけれども,なかなか具体的な統計等があるわけではないので,確認は難しいでしょうね。
○村田委員 先ほど申し上げたとおり,最高裁の方でもきちんと統計を取っているわけではありませんけれども,いろいろなところからお聞きしているところの感じと,今の御議論を総合してみたときに,例えば前妻の子と後妻との間で遺産分割の争いが起きて,八木委員がおっしゃったような,対象となる財産が居住不動産しかないといったケースは,それなりにあるんだろうと思うんですね。
  ただ,その場合でも,居住用不動産から出ていけというところまでおっしゃる方々がどのぐらいの割合いるかというのは,必ずしもよく分からないところがありますが,仮にそこまで真剣に争うということになった場合には,先ほどもお話が出ていたとおりですけれども,代償金の問題が出てきて,高齢の配偶者では借入れ能力がないということになると,いずれにせよ,その居住不動産をそのまま維持するということは現実的には難しくて,結局売却して代金を分けるというのが現実的な解決になる場合が多いのではないかと思います。そうすると,配偶者に居住権を設定するという話は飛んでしまうということかなと。
  仮に,その問題もクリアして,所有権と何がしかの居住権とに分割できたとしても,要はそこまで真剣に争っている前妻グループ対後妻グループを,大家と店子の関係にすることが果たしていい解決なのかといった問題が別の次元の問題としてあるのではないかなというふうに思っております。
○大村部会長 上西委員から先ほど御指摘がありましたけれども,金額の問題,金銭で処理するときに,どのぐらいの金額で処理できるかという問題があるだろうけれども,しかし,利用権が残るというのがいいかどうかも分からないという御指摘だったかと思います。
○上西委員 期間の件についてです。相続税の納税資金を確保するために,相続財産を譲渡した場合に,取得費--譲渡した資産の原価のことを取得費というのですけれども,取得費の加算の特例というのが認められております。これは相続の開始のあった日の翌日から申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に譲渡した場合,簡単にいえば,相続の開始から3年10か月の間に売った場合については,相続税額のうちの一定金額を取得費とする特典があります。これは通常,分割が終わったことを前提とした規定でございます。これはいい制度だと思います。
  次に,申告期限までに間に合わない場合,3年間延長することが認められます。3年間延長してもらうことによって,何が保留できるかといいますと,配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。通常は2分の1の法定相続分と1億6000万円の多い方の軽減が後からでも使えるということ。正しくは評価減ではないんですけれども,小規模宅地の課税価格の計算特例という,事業用土地や居住用土地についての特例が認められることです。これらは3年間の猶予なんです。税務署長の承認を得ることによって,更に延長することもできます。元々は実態を見て3年という期間ができていたかと理解しておりますけれども,一旦この制度ができると分割協議をゆっくりしようというマイナスのインセンティブが発生するという実態もあります。取りあえず「3年以内の分割見込書」を提出しておけばオーケーなんだから,3年間ゆっくり考えようではないかということを,納税者に我々も助言するわけです。今回の検討事例では,例えば1年の上限を設けることとしてはどうかということや再延長的なことも示唆するような提案がなされていますけれども,いたずらに延ばすことはマイナスになる危険性があると考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1についていろいろな御意見が出ましたが,期間の問題は第2についての御意見かと思います。第2の中身についても御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○山本(和)委員 ちょっと細かいあれになるかもしれませんが,資料の6ページの一番上の方,「他方で」というふうに書かれているところで,先ほども若干議論が出てきました,居住建物が差し押さえられた場合,一般債権者に差し押さえられた場合で,ここに書かれてあるとおり,確かに第三者対抗力を占有を要件として認めると,一般債権者の差押えに対しても対抗できるということになるというのは,書かれているとおりかなと思います。
  それはやはり,私から見ると変な感じはします。この相続が開始する前に差押えがなされれば,その配偶者は占有補助者ということになるのかどうか,とにかく退去する義務を,当然その執行手続では負うということになるはずで,この短期居住権というのを認めるにしても,それは飽くまでも相続人内部というか,そのグループの中で保護しようという話ですから,債権者にとっては関係ない話なので,そこが保護される結果になるというのはおかしいだろうと思います。
  あるいはまた,相続財産破産の破産との関係でも,対抗力を認めると,破産手続の中でも対抗できる,管財人も解除できないということになりそうですけれども,それもやはり非常におかしい感じがします。そういうことからすれば,第三者対抗力をそもそも認めないということであれば,その問題は発生しないと思うんですが,認めるとすれば,やはり消滅原因のところで,現在は配偶者の占有喪失とか死亡が基本的となっていますが,その建物の差押え,売却とか,あるいは相続財産破産の開始とか,そういうのも消滅原因にしないと,おかしな結論になるかなというふうに思っています。
○大村部会長 御指摘,どうもありがとうございました。
  そのほかにいかがでしょうか。
○浅田委員 先ほどの山本委員の御指摘の点に関連してということであります。
  まさしく部会資料の6ページに書いてある問題意識を,銀行は債権者としても有するということを話したいと思います。担保権がない一般債権者である場合には,長期居住権,短期居住権,いずれの制度設計においても,居住権について対抗要件を具備されてしまえば,一般債権者としては,その引当てとなる財産が減少するということになります。死亡時は債権者にとっては予想不可能でありますし,かつ相続が発生したときに,相続人が対抗要件を登記など何らかの形で具備をする時点と,債権者がそれに気付いて,慌てて抵当権を設定するということの前者の方が早いということになりますと,債権者の一般的な行動様式としては,そういう不測の事態を避けるべく,何らかの対応を迫られるということになると思います。
  まず考えられますのは,当然のことながら,本来ならば担保を設定する必要がないものを,そういう事態を想定して,抵当権設定をお願いするということになるという可能性が増えるかなと思います。また,そうでなかったとしても,対抗要件を有しない一般債権者からすると,何らかの形で相続発生の可能性を探知しただけで,不動産を差押えまたは仮差押えをしておこうというインセンティブが働き得るということになります。
  そうしますと,制度設計いかんにもよると思いますけれども,結果として,本来ここで考えようとしていた配偶者の居住権の保護を追求していこうという制度設計とは,若干のずれが出てくるかもしれないと思っております。つまり,一般債権者からすると,居住権の対抗要件具備の時点が予想できないということで疑心暗鬼ということもありますので,早期の保全を行うというインセンティブが生じるということであります。これをまず指摘したいと思います。
  せっかくですのでちょっと付言いたしますと,居住権の対抗要件具備時がいつになるのかということを改めて考えますと,第一に,対抗要件を占有とした場合においては,配偶者居住の物件については,短期居住権は相続の発生と同時に対抗要件を具備するということに,この案ではなりそうであります。また,長期居住権のことを考えてみますと,この提案から最速の事態を考えると,遺言や死因贈与を用いるケースについては,やはり相続発生時に対抗要件を具備できるということになりそうであります。
  また,ちょっとこれは考えすぎなのかもしれませんけれども,例えば対抗要件を登記とした場合においても,先ほど申し上げたとおり,相続発生時点の探知については,債権者は遅れますから,疑心暗鬼になるということはあります。加えて,ちょっとこれも先の議論で恐縮ですけれども,仮に請求保全効のための1号仮登記みたいなものを認めるという,また認められるという制度設計になるのであれば,実体法上の居住権の発生,不発生にかかわらず,順位保全効が仮登記の時点で認められることもあり得るかもしれない。そうすると,一般債権者としては正式な担保権の取得,登記の実行ということに傾かざるを得ないのかなということを恐れるということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 私も基本的に山本和彦委員のご意見に大賛成です。
  そもそも論なんですけれども,この短期居住権というものを共同相続人間だけではなくて,対第三者間で効力を有するということにすること自体に疑問を感じております。共同相続人間の紛争において居住権が保護されるということは比較的分かりやすい議論なのですが,対第三者間ということになりますと,もともと被相続人が持っていなかった権利を相続という偶然の事情によって相続人が新たに取得し,それが不動産の一つの負担となるという,そういうことはちょっとあり得ないのではないかという気がしております。
  ほかのことでもいいんですか,あと。
○大村部会長 ひとまずそこで終わっていただいて,残りは後ほどお願いいたします。浅田委員から御発言があったうちの長期居住権に関する問題も,また後で議論をしたいと思いますけれども,短期の居住権について,その対抗力の問題について否定的な意見が続けて出ておりますけれども,何かそれについて他にご発言はありませんか。
○水野(有)委員 すいません。私もこれを読んだとき,山本委員と全く同じ疑問を持ったのですが,ただきっと,もしかしたら第三者といっても2種類あって,被相続人の一般債権,被相続人関係グループと,もしかしたら,あと,元々での③で想定して譲り受けた人がまた売る場合という,③でよかったですかね,遺贈でその権利を譲り受けた人が売るときの第三者と,何か2種類,第三者がいるような気がいたしまして,その二つを同列に議論していいのかどうかが,これを読んだときよく分からないなと思ったということです。ただ,私は整理できていなかったのですが,今の議論で大分分かりましたので,どうもありがとうございます。それを踏まえて,いろいろ御教示いただければなと思っております。
○山本(和)委員 私の先ほどの発言の趣旨は,もし今,水野委員が言われた後者の場合,③の特定承継人のような者に対する関係では,やはり保護する必要があるというふうに,実体法上,御判断なされるのであれば,第三者対抗という制度は必要であるかもしれないというふうに思いましたので,それで必要であれば,しかし,被相続人の一般債権者による差押え,あるいは相続財産破産の場合に,なお対抗力を認めるというのは相当ではないので,その場合には,⑤の短期居住権の消滅事由を拡大すると。第三者対抗力は認めながら,消滅事由を今のような場合に拡大するという方向で対処するということも,考えられるのではないかという趣旨の発言でした。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点につきまして,更に御意見がありましたら承りたいと思います。
○山本(克)委員 今,水野委員から,二つに分かれるのではないかというお話がありましたけれども,私は三つに分かれるのではないかなと思っていまして,他の共同相続人が持分を譲渡した場合,あるいはその他の共同相続人の持分を共同相続人の固有債権者が差し押さえた場合という辺りも,その三つぐらいに分けてきっちり整理しないと,まずいのではないか。私も今日,相続人破産のとき,こんなのでいいのかなという気はしておりまして,ちょっと第三者対抗力を認めるにしても,どういう範囲で何の目的のために認めるのかというのをもう少し詰めていった方が,生産的な議論ができるのではないかと思います。
  それと,1点お伺いしたいんですが,第2の1の①ですが,遺産に属する建物というのは,これは遺産に建物の共有持分が属する場合は含まないということでよろしいんでしょうか。つまり,2分の1の共有持分が遺産に属していたと。で,被相続人と生存配偶者がそこで同居していたというような場合は,これの適用対象なのか,適用対象外なのか,その辺りも少しお教えいただければと。
○堂薗幹事 共有の場合については余り詰めた検討ができておりません。資料では,短期居住権においても,第三者対抗力について触れていますが,御指摘のとおり,基本的には共同相続人間でどうするかという話でございますので,共有の場合であっても,配偶者以外の相続人が相続によって共有持分を取得したことを理由として,配偶者に明渡しを求めることはできないということにはなるのだろうと思います。他方で,被相続人が持っていた共有部分以外の共有権者が明渡しを求めてきた場合に,配偶者が短期居住権を対抗できるとか,そういったことまでは考えておりません。
○大村部会長 今,その他の問題について,対抗要件そのものの問題以外の問題も出ましたけれども,増田委員から先ほどもう一つ問題があるということでしたが。
○増田委員 もうちょっと元に戻って,第2の短期居住権は,遺産分割が終了するまでの間と,第3の長期賃借権は遺産分割終了後ということですが,その遺産分割の前後が本当に截然と分かれるのかどうかという疑問もあるんです。
 ただ,それとは別に,今は,遺産分割の前後で,共有の性質が変わるという理屈を採られるのかどうかということをお伺いしたいと思います。
  現行法には,遺産分割の前と後で遺産の管理方法などが変わるというものはないわけです。判例上も,遺産分割前の遺産共有は,物権法上の共有と何ら性質は変わらないという法理が確立されております。そのような中で,こういう非常に限定された,端っこの法律関係について,遺産分割の前後で変わるというような法制度を採ることにどういう意味があるのかということを聞きたかったのです。遺産分割の前後で法律関係を変えるという提案があるんだったら,遺産の管理方法とか,遺産の果実の帰属とか,そんな問題の方が,先に検討すべきものなのではないかということが,この質問の伏線にはあるんですけれども,取りあえず質問としては,遺産分割の前後で共有の性質が変わるということを前提にされているのか,それとも変わらないのかということをお伺いします。
○大村部会長 遺産分割の後の共有というのは,どういう状況を想定されておられますか。
○増田委員 ごめんなさい。遺産分割の後の共有というのは,よくある共有分割,すなわち遺産分割の方法として共有のまま遺産分割の審判がなされたとか,そういうケースのことです。共有として確定的に帰属している状態を想定しています。
○大村部会長 遺産分割の前は相続財産が共有状態になっているけれども,遺産分割後に共有状態が残った形で分割がされているときに,その前後で性質が変わるのかという問題意識ですか。
○増田委員 端的に言うと,遺産分割前の共有状態が,物権法上の共有状態と違うということを意識しておられるのかどうかということです。
○堂薗幹事 それはしていません。判例の理解に従って,遺産分割前も,通常の物権法上の共有と基本的には変わらないという前提で考えております。遺産分割の前後で共有の性質が変わることによってどういう問題が生じるのかというのは,今一つ理解できていないところがございますが,どの辺りが問題だという御認識でしょうか。
○大村部会長 増田委員がおっしゃるのは,遺産分割後も共有状態が残っているとして,その共有状態について何らかの対応策を採らずに,遺産分割前だけ対応策を採るということにアンバランスがあるという御趣旨ですか。
○増田委員 いや,違います。遺産分割前後で共有の性質が変わらないのであれば,短期,長期を,遺産分割というその時点で分けるということがまずよく分からないということです。
  それと,今,部会長がおっしゃった話にくっつければ,遺産分割前の状態というのが浮動的状態であるにもかかわらず,共有の性質が物権法上の共有と変わらないということになっているのが,立法としては問題であるという認識があって,遺産分割前の遺産の管理方法とか,あるいは先ほどもちょっと言いましたけれども,果実の帰属など,広い意味では,居住の利益だって一つの果実に類するようなものですが,そういうものと引っ掛けて考えると,もっと先に検討すべきことがあるのではないかということです。遺産分割前と後とを区別するという発想をするのであれば,根本的に遺産分割前を合有というものにするのか,あるいは相続開始時から共有という従来の概念で進むのかということ自体から考えていくべきではないかということを申し上げているんです。
○堂薗幹事 遺産共有が合有なのか,物権法上の共有と同じなのかという辺りが,そもそも今回の諮問事項に入っているかどうかというところも問題になってくるとは思いますが,仮にその点について検討するということになりますと,それこそ相続法制の根幹について大きく変更することになろうかと思いますので,居住権のところではそこまでは考えていないということでございます。
  それと,遺産分割の前後で共有状態が続くという場合は,基本的には例外的な場合なのだろうと思います。本来,遺産分割というのは,遺産共有状態を解消して,財産をどう分けるかを最終的に決めるという話であるはずなので,法律の建前からすると,そういう共有状態を残した,しかも法定相続分どおりで遺産分割を終わらせるというのは,例外的な事象なのではないかと思います。
  そういった例外的な分け方がされた場合も,基本的には遺産分割で,最終的にそういう形で遺産を分けるということが決まったのであれば,少なくとも相続を原因として若干不安定な遺産共有の状態になっていたのが解消するわけでございます。飽くまで短期居住権というのは,遺産分割が終了するまでの暫定的な権利関係が生じている期間については,特別に配偶者を保護してもそれほど問題は生じないのではないかという問題意識に基づくものでございますので,遺産分割終了後も共有状態が続く場合があるとしても,通常の場合と同様の取扱いをする,すなわち短期居住権は消滅するというのが,こちらの整理ということになります。
○大村部会長 増田委員,今の件はよろしいですか。
○増田委員 ここで止まっていては前に進まないので,そういうものだという前提で考えることとします。ただ,共有分割が遺産分割方法として非常に例外的だということについては,若干異論があります。結局協議では決まらない場合に共有の形で残すということは,それが望ましいものかどうかという点は別としまして,実務上例外的に数少ないかと言われると,それは少なくはないだろうということだけ申し上げておきます。
○中田委員 山本和彦委員の提起された問題について,お伺いしたいんですけれども,被相続人,あるいは相続人たちが賃貸借契約をして,賃借人に引き渡した場合に,賃借人がその後の差押債権者に対抗できるということは問題ないと思うんですけれども,そうすると,ここで問題なのは何なんでしょうか。つまり,法定の賃借権類似の権利を付与して対抗力を与えることと,任意の賃貸借契約でもって対抗力を取得するということとの違いなんですけれども。
○山本(和)委員 私が答えるべきかどうなのかよく分かりませんが,今,議論しているのは第2というふうに理解してよろしいですね。
  私の理解では,これは判例が認めているような使用貸借を停止条件付きで設定するというようなものがあるけれども,それではなかなかカバーできないものがあって,そういう法定で,そういう類似の権利を設定しようという構想だというふうに理解をしておりまして,そうだとすれば,これは使用貸借が設定された場合には,当然,差押債権者には対抗できないわけですよね。それで,そもそも使用貸借が設定されない場合は,先ほど申し上げたように占有補助者という位置付けになると思いますので,これは当然に退去義務を,相続開始前に差し押さえられた場合には退去義務を負うような占有者だというふうに理解をしておりまして,それを差押えに対抗できるようなものにまで強化するという趣旨が含まれている提案なのかというふうに考えると,先ほど申し上げたように,それはそういう趣旨までも含んだ提案ではないのではないかというのが,私の理解であるということですけれども。
○中田委員 そうしますと,これは賃貸借であれば問題はないけれども,使用貸借という性質を持っているから,たとえ法定で占有権原を認めたとしても,その本質が無償であるからいけないということになるんでしょうか。
○山本(和)委員 確かに賃貸借を設定する,法定で設定してということであれば,問題はないのかもしれませんね,それは確かに。
○中田委員 ごめんなさい。私の疑問は,賃貸借契約を被相続人,又は相続人が締結した場合には,賃借人が引渡しを受けていれば対抗できることは問題がないわけですね。それで,法定で対抗できる使用権限を認めるのがよくない,疑問であるというのは,それは結局その本質が使用貸借的なものであって,本来は第三者に対抗し得ないものであるからということだろうというふうに,今,伺いましたが,そうすると,法定しても,使用貸借類似のものであれば駄目だと,こういうことになるんでしょうか。
○山本(和)委員 だから,この制度で一体何を目的としているかということだと思うんですけれども,差押債権者とか,要するに相続債権者グループに対してまで対抗できる,それは当然,先ほど浅田委員が言われたように,そうすると,相続債権者の取り分が,それほど大したことはないかもしれませんが,1年ぐらいだと。しかし,減るという部分を含んでいるわけですよね。そういう,言わば相続債権者に迷惑をかけてまで,この配偶者を保護するような制度なのかといえば,そういう制度ではないのではないかと。だから賃貸借であれば,確かにそれは対抗できるという制度にすることは可能なんだろうというふうには思いますけれども,可能なんだというか,そうなるんだろうというふうには思いますけれども,そんなことを目的とした制度ではないのではないですか。
○大村部会長 問題の整理としては,よろしいですか。
○中田委員 はい,理解しました。
  そうすると,やはりこの制度がそもそも何に基づくものかというところに戻ってくると思うんですが,それとの関連で一つお伺いしたいんですが,婚姻関係が破綻していた場合に,かつ遺言で配偶者以外の者に不動産を与えるとした場合にも,やはりこの規律は及ぶと考えてよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,最終的には解釈に委ねることにならざるを得ないように思いますけれども,基本的には法律上の婚姻関係にあれば,ここに書いてある要件を満たす限り,短期的な居住権は保護されるという前提です。もっとも,完全に婚姻関係が破綻している場合にまで,こういった特別な保護を与える必要があるのかという問題意識で,そういった場合はこの保護の対象から外れるんだというような解釈の余地は残るのだろうと思います。
○西幹事 今,中田先生のおっしゃったことは,先ほどから私も気になっておりました。非常に効果の大きな権利だとは思いますけれども,そこの説明の中で,ワーキングチームのときに申し上げたことと矛盾するようで恐縮ですけれども,被相続人の許諾を得ていたことを要件から外して,更に同居をしていたことも外してしまうということになりますと,論理的には婚姻破綻,直前の状態でも入るということになろうかと思います。そうであるにもかかわらず,居住権の根拠が婚姻の効果の一つである同居・協力・扶助義務に求められているというのは若干違和感があると申しますか,婚姻破綻の場合には同居・協力・扶助義務は消えるということになっていることを考えますと,難しいのかなという気がいたします。
  恐らくこの婚姻の効果としての居住権という説明は,フランス法を参考にしたものと思われますけれども,フランス法の場合には同居がやはり要件になっております。そもそも背景にあるフランスの短期と長期という分け方,今回もそれを参考にされたと思いますけれども,短期,長期という分け方というのは,恐らく短期の段階では公証人が入って債務の清算をする,そこの辺りを恐らく短期としてフランスは念頭に置いていて,それを超える部分が長期ということなのではないでしょうか。日本の場合には,相続開始後に公証人のような方が入って債務の清算をして,ある程度まとまった段階で安定的な状況に入るということには必ずしもなっていませんので,その意味でフランス法を参考にする,どこまでも参考にするというのは,やはり無理があるのではないかと。
  それよりも,今,遺産分割が終了するまでの短期的なというお話になっていますけれども,むしろ明渡猶予期間的な発想の方が日本にはなじむのかなという気がいたします。そうなりますと,フランスよりはむしろドイツ的なものの方が,公証人の動きなどを考えると分かりやすいような気がいたしました。
○大村部会長 今の西幹事の御発言は,中田委員の御指摘との関連で言うと,どういうことになりましょうか。
○西幹事 婚姻破綻している場合を含める場合はもちろんのこと,仮に含めないとしても,それに近い状況は,同居しておらず被相続人の同意がないという場合でも入るのであれば入ってしまう。その場合に,居住権を婚姻の効果として説明するのは難しいのではないかという,そういう発想です。ですから,同居・協力・扶助義務ということで根拠付けようとせずに,単純に明渡猶予期間ということにしてしまった方が,いろいろ説明が楽なのではないかということです。
  あるいは反対に,婚姻破綻とか,それに近い状態を外すということであれば,解釈に委ねるだけでなく,フランスのように,例えば同居要件,あるいは単身赴任の場合も入るような潜在的な同居要件を残しておくとか,そういうことをしないと,ちょっと婚姻の効果という説明は難しいのかなと思います。
○大村部会長 第一次的には,破綻していても保護はされるという方向で考えるということでしょうか。
○西幹事 そういう場合には,婚姻の効果という説明は…。
○大村部会長 説明を変える必要があるのではないかということですね。
○西幹事 あるいは,破綻していた場合には除外するということにしてしまって,婚姻の効果というのを説明,根拠として残すというか,どちらかと。
○中田委員 私も,同居・協力・扶助義務との関係がどうなるかということが,一つ気になっておりました。
  それからもう一つは,仮に遺言にもかかわらずというか,正に破綻しているから遺言するのではないかなと思うんですけれども,遺言にもかかわらず,短期居住権を優先するんだとすると,生前に処分するという方向にインセンティブが働くのではないかなという気もします。そこで,根拠付けの点と,実際上の影響の点と,両面から検討する必要があるかと思いました。
○大村部会長 今の御意見は,むしろ遺言がされている場合についてまで,強行規定的なものを認めるのには疑問があるという方向ですか。
○中田委員 飽くまで今回の御提案をベースにして考えてみると,どんな問題があるかということを考えてみた次第です。冒頭に申しましたとおり,短期と長期とはかなり性質が違っていて,短期については婚姻の効果から強行規定性を導いているということですが,それに伴う問題がいろいろあるのではないかということです。
○堂薗幹事 問題点は御指摘のとおりかと思いますが,基本的には,この同居・協力・扶助義務との関係で言いますと,例えば不貞行為の慰謝料請求の事案で,婚姻関係が破綻しているというような主張がよく被告側から出てきますが,そういった場合でも,実際に婚姻関係が破綻していて,損害賠償義務は負わない場合というのは極めて少ないのではないかと思います。これを踏まえますと,婚姻関係がかなり悪化していても,実際には,こういった民法上の義務がなくなっているというところまでいく事案というのは,それほど多くないということになりますので,この同居・協力・扶助義務から,ある程度の部分は説明ができるのではないかと考えております。仮に婚姻関係が完全に破綻していたという場合には,解釈上,保護の対象から外れる余地があるのではないかというのが,先ほど申し上げた趣旨でございます。
  ただ,あえてこういった同居・協力・扶助義務から説明しなければいけないかというと,必ずしもそうではないと思いますし,明渡猶予期間という観点から説明する方が妥当なのかどうかという辺りを含めて,更に検討してみたいと思います。
○窪田委員 確たる意見があって申し上げるのではないのですが,先ほどから破綻ということが出ていて,恐らく破綻というのは,今,堂薗幹事からもあったような形で,不貞行為に基づく損害賠償の場合というのを念頭に置いて,例外に当たるのではないかという議論とも接点があるのかなと思うのですが,私自身は,不貞行為に基づく損害賠償の話とこの場面は,完全に切り離した方がいいのではないかと感じております。
  というのは,不貞行為に基づく損害賠償の場合については,そこで婚姻生活というのが保護法益となっているとされるわけですが,それは法的な形式でもあると同時に,法的な形式を通じた上での実体的な関係というのが保護法益になっていると思います。他方,恐らくここで問題となっているのは,婚姻に基づいて,例えば配偶者名義の不動産に住んでいたという婚姻関係に基づく事実なわけですよね。幾ら破綻していても,要するに他人の家に当然に住むということはあり得ないわけですから,それを支えるとしたら婚姻関係しかないです。それに基づいていたという居住の事実というのが,一体どこまで保護されるのか,例外的なものであるのだけれども,短期居住権という形で保護されるのかという問題なのだろうと思います。
  その意味では,同居・協力・扶助義務からストレートに説明するというよりは,やはり何かもう少し婚姻の,ちょっと漠然とした言い方ですが,婚姻の予後効であるとか,また西幹事の御発言では,猶予期間ということに触れていたのだと思いますが,生存配偶者の生存権というのはちょっとまた行きすぎなのかもしれませんが,でも,ニュアンスとしては,何かそういうタイプのものなのかなというふうな気がいたします。だから,その意味では,私自身はやはり破綻しているかどうかというよりは,そこでの生前の状況というのが,どういう法律関係によって制度化されているのかということだけで,形式的に判断すべきではないかと思います。
  ただ,そうはいいましても,先ほどから出ている問題の,つまり積極的には配偶者の承認を得てというようなことを要件としないとしても,でも,追い出せなかったのだから,現にそれは承認を得ているのと同じ状態だよねという説明はできるとは思うのですが,しかし,他人に遺贈するというふうなことをした場合には,そこでは被相続人の意思は明確になっているわけです。にもかかわらず,なお一定の期間はそこに居住することができるのだという説明は,何か最終的にそういうことを政策判断として認めるということはあるのだろうとは思いますが,かなり説明としては難しいことは確かなのではないか思います。
○村田委員 紛争が生じたときにいろいろな意味で解釈の余地が残らざるを得ないのはそのとおりですし,そのために基本的な原理,理屈をどうお考えになるかという観点から,いろいろ御発言があったと思いますので,そこは更に詰めていただければと思うんですけれども,全然違う次元からの視点として,短期の居住権の問題を議論するのにすごく解釈の余地が広くなると,そこをめぐっての争いが長期化するという非常に本末転倒の状態が生じかねない。そういうことをできれば避けて,分かりやすい,簡明な制度を目指すべきではないかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 ③の関係なんですけれども,同居・協力・扶助義務を根拠とするとなると,全く同一の義務を負う内縁はなぜ保護されないのかという話になってきます。しかし,発想を変えると,基本的にこの③はほかのと違って,相続の問題ではなくて,一時的な生活の保護の問題に帰着させることができるのかなと思ったりはします。で,最初に感じた違和感から言うと,遺贈だと,相続人は遺贈義務者として履行義務を負う立場ではないのか,引渡義務を負っている方の立場の遺贈義務者が,その権利者の権利を制限するような権利はあるのかということです。そこが非常に違和感を感じたところですので,ここは権利というのではなくて,多分,明渡猶予,それも3か月とか6か月とか短期のもの,そういうような話で落ち着けた方がよろしいのかなと。だから,③以外の短期居住権の問題とは切り離して考えた方がいいのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。それは,遺贈の場合についてということですね。
○増田委員 そうですね,遺贈の場合ですね。
○浅田委員 ちょっと話は戻るかもしれませんけれども,先ほどの山本和彦委員からの,この制度は一体何なのかということについての銀行界からの考えについて改めて整理させていただきたいことと,加えて今問題になっている③についての意見ないしは疑問提起をしたいと思います。
  まず,この制度の基本的な部分に関して言いますと,私としては,相続間の利害調整を考えているということでありますが,この場合,その外部にある第三者,取引債権者も含みますけれども,に対しては,この制度設計においてネガティブな影響がない,すなわち中立的であるということが望ましいと思っております。したがって,今回の短期居住権に関しても,現在の判例理論によると使用貸借だと言われているものが,賃貸借等のいわゆる一般債権者に対抗できるようなものに変容してしまうということであれば,それは問題なのかなということをまずは申し上げたいと思います。
  その上で,これは長期居住権にも関係するわけですけれども,仮に対抗要件ということになるというのであれば,まず最低限押さえておきたいこととして,銀行が抵当権設定登記を経た場合においては,その登記時点において,抵当権者としては対抗要件を具備しており,基本的にはその後の相続発生等において,いわゆる対抗力が失われないという制度を望むものであります。
  その上で,新たな疑問点として③のところでありますけれども,この部会資料の3ページの3,(1)法的性質等の3段落目のところで,その点についての強行法規性ということが書かれているわけでありますけれども,これに関しては非常に,銀行取引独自の特異な論点なのかもしれませんが,例えば銀行としては,抵当権設定契約はするけれども,登記は留保している場合,被相続人,所有者との契約において,その抵当物件について処分をしない,賃貸に出さないというような処分禁止を債権的契約として結んでいるということがあると思います。抵当権設定契約を結ばなくても,俗にネガティブプレッジと言いますけれども,債権保全のために一般資産,引当資産を維持するために,債務者に対して,自己の資産に対して処分をするなということを約諾させるということがあります。
  こうした場合に,議論はあるとは思いますけれども,約諾者について相続が発生した場合においては,その契約上の地位が相続されるというふうに理解することができると思っております。そうした場合に,可能性としてですが,相続人が新たな賃借権を設定するということは,債権者との間の契約において約定違反を主張でき,ないしは履行請求ができるという地位にあるのかなと思っております。それが強行法規ということになれば,そういう約定というか権利が,現状での法的効果の議論はさておき,基本的に否定されることになろうかと思います。
  したがって,この観点からしても,ちょっと現行法から劣後するのかなという懸念を持っています。
○堂薗幹事 ③の点ですけれども,私の先程の御説明が不十分であったと思いますが,ここで考えているのは,被相続人の処分権を一定の範囲で制限するという趣旨なんですけれども,ここで遺贈あるいは死因贈与を例として挙げているのは,被相続人が無償で処分をした場合については,短期的な居住権に劣後してもやむを得ないのではないかという点にその趣旨がありますので,被相続人の処分であっても,何らかの経済的な合理性があってやっているもの,有償の処分などについては,強行法規性の対象にはならないという前提です。ですので,今,浅田委員が言われたように,抵当権の設定契約の中で,何かの約定がされたような場合に,それに優先させるということまでは考えておりません。
○大村部会長 御議論は,先ほど山本和彦委員がおっしゃった第三者というのをどのように整理するのかということにつながるかと思いますけれども,その辺りはまた少し整理していただければと思います。
  ほかにも御議論があるかもしれませんが,ちょうど中間ぐらいの時間になりましたので,もし今までの話と続けて是非ここで,という御発言があれば,それを承りますが,よろしければ,ここで少し休んで後半の議論に移りたいと思います。特に,何かございますか。
  よろしいでしょうか。
  では,今,3時30分ちょっと前ですので,3時40分まで休ませていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは再開させていただきたいと思います。
  長期の問題も残っているのですけれども,短期の方について,今日の段階で言っておきたいという御意見がありましたら,まず伺いたいと思います。
○水野(有)委員 1点だけお尋ねしたいのですが,短期の居住権というものに関しては,遺留分減殺のときはゼロと評価するという御認識で作られているのでしょうか。それともその件については特に何も考えてられないんでしょうか。
  それと関連して,譲渡はできないと書かれているということは当然,差押えなどもできないという御認識で書かれているんでしょうかというのが,そこは御質問したいところでございます。
○堂薗幹事 当然,遺留分減殺請求権との関係でも,短期居住権を取得したからといって,その分,配偶者が一定の価値を取得したという前提で算定することは考えていません。
  それから,4で譲渡転貸禁止ということにしておりますので,当然,短期居住権自体を差し押さえるということもできないことになると思います。もっとも,短期居住権は,長期と違って,占有を喪失すると権利が消滅するという前提ですので,4がなくても,基本的には他人に譲り渡したり転貸をしても意味がないということになろうかと思います。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○垣内幹事 大勢に影響はないところだと思いますので,大変細かい質問で恐縮なのですけれども,存続要件と申しますか,消滅事由に関する⑤のところで,占有を喪失しということが要件になっているんですけれども,ここでいう占有を喪失というのは任意に占有をやめた場合だけでなく,占有を奪われた場合も含んでいる概念なんでしょうか。
○堂薗幹事 理論的には占有回収の訴えをして占有を回復すれば,その間は占有が継続していたことになるので,権利は喪失していないという扱いになるのではないかと思いますが,建物ですので,実際にはそういった場面は想定し難くて,基本的には任意に明け渡した場合を想定しております。
○上西委員 差押えとの関連で,長期居住権のところで質問しようとしたことです。短期居住権のところ,5ページに注書きで,公租公課について言及されておられます。短期居住権の存続期間中は配偶者が公租公課を負担するのが相当と考えられると。また,9ページの下から5行目の注1でも,公租公課については短期居住権と同様に配偶者が負担するのが相当と考えられるとあります。負担するということと納税義務者になるということは別でして,御案内のとおり,1月1日が賦課期日でその時点の所有者に課せられるわけです。所有者が納税する金額について負担するという位置付けにしないと,地方税を巻き込んだ大改正になります。また,滞納処分の手続も含めますと大変なことになりますので,現行の枠組の中で,納税義務者としてではなく,結果としての負担する者になるという位置付けであるべきだと思います。その考え方でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい。ここは,基本的には相続人間で,短期の方ですと相続人間でどう負担するかという問題ですし,長期の方ですと建物所有者と長期居住権者の内部関係として,どちらがどう負担するかという問題になるものと思います。
  したがって,建物所有者が納税した場合にその求償関係をどうするかという点を定める趣旨でございまして,納税義務者を変えるという趣旨ではございません。
○上西委員 了解いたしました。
○石井幹事 占有の話が出たので,それとの関係で一点申し上げさせていただきたいと思います。遺産分割の場面ですと御高齢の方が多いので,施設に入所されたりするような方も多いのではないかなと思いますが,一口に施設への入所といっても,短期の入所から帰宅を予定しないようなものまでいろいろあると思います。基本的には事実認定の問題なのかもしれませんけれども,施設への入所という事情が占有の有無の判断にどのような影響を及ぼすのかについても御議論いただき,要件を明確にしていただくということも一つの方策かなというふうには考えております。
○大村部会長 長期の方でもホームへの入居などの問題が出ておりましたけれども,用語をどうするかという問題はありますけれども,区別の基準をどのように考えているのかということについて,少し明らかにする必要はあろうかと思います。
  そのほか,よろしければ,第3から後,第4も含めて,御質問,御意見等をいただければと思います。
○窪田委員 長期居住権に関して,先ほど,短期でも長期でも期間の点が気になると申し上げた,その期間の点についてですが,長期的な居住権の保護ということで資料2の6ページのところに①として,終身又は一定期間という形で定められていますが,ただ,実際に意義を持つのは恐らく終身の方なのかなという気がいたします。もちろん比較的若い生存配偶者が5年間だけかというのも可能性としてはあり得ないわけではないですが,余りリアリティーがないだろうと。
  そうすると終身ということを定めざるを得ないし,それに対して,この場合には一定の対価に当たるような,財産価値に当たるようなものを支払わなければいけないということで,それをどうやって算定するのかという問題が出てくるのだろうと思います。
  一定期間でも終身ということでも,全く同じように年数なり月数掛ける負担額という計算は可能なのだろうと思いますが,一方で,恐らくここで示されているものは終身というふうに言って,それを算定するという場合には,現に終身の期間が何年だったかという話ではなくて,予想される期間ということを前提として計算するということが正しく11ページの計算式の中にも示されているのかなと思います。
  したがって,早く実はその関係は終了しても,それが更に長く続いても,それに関して,何か不当利得の問題だとかそういうことは生じないということなのだろうと思います。ご質問したい点は2点あるのですが,まず,その点はそれでよろしいということでしょうか。
○堂薗幹事 そういう理解です。
○窪田委員 その上で私,ちょっと気になりますのは,比較的,高齢の人という場合で,平均余命までの残余期間とするというふうなことが出ていて,これは逸失利益の計算でもよく使う式ではあるのですが,本当にこれで合理的な計算というのができるのかなというのが気になっている部分がございました。
  というのは,つまり非常に若い年齢ですと,平均余命というのがそのまま生存可能年数ということになると思うのですが,60歳,70歳の人に対しても同じように計算するのかと。あるいは平均余命を超えておられる,正しくここで一番保護しなければいけない生存配偶者ということになるのですが,こんなのは些細な問題なのかもしれませんが,実はここで示されたほど,その期間の計算というのは単純ではないだろうなと。単純ではないとすると,その期間というのを基にして,短くても長くても動かさないというときに,十分にいろいろな議論に耐え得るものになるのかというのが少し気になりましたので,その点,御質問ということになるのかもしれませんが,お尋ねさせていただきました。
○堂薗幹事 逸失利益の場合も含めて,例えば平均余命を超えている場合にどうするかとかいうのは,問題としてはあるわけでございますが,確かに終身ということにしますと,その期間が本当にどの程度あるのかというのが予測になりますので,そういった意味で長期居住権を取得する側にもリスクになりますし,建物所有権を取得する側にもリスクになるので,そこのリスクをどう評価するのか。リスクがあるからその分を考慮して財産評価額を減じるということは考えられると思うんですけれども,ただ,その場合にどちらから減額するのかという辺りが問題になるのではないかと思っておりまして,その点については今後も詰めて検討していきたいと思います。
○窪田委員 特にこの部分にそれほどこだわるつもりはないのですが,今言ったリスクというのが実は双方向に平等に働くリスクではなくて,一方向により強く働くリスクなのではないかという点が気になっています。つまり,本当にここで保護しなければいけない高齢者ということになりますと,余り縁起でもない言葉なのかもしれませんが,予定していたよりは早くに亡くなってしまったというのは実は比較的,短期間の差しかもたらしません。ところが,幸い,非常に長生きしたということになりますと,そこでは非常に長い期間になるということもあり得るわけですよね。
  そうなった場合に,所有者側の負担というのは実は大変に大きなものになるのかという点です。それが蓋然性に基づいて計算した式で,全部,正当化されるのかということでご質問した点の背景です。ただし,対案があるわけでは全然ございません。
○上西委員 平均余命についてです。これは割り切りだと思います。相続税には未成年者控除というのがあります。相続開始の年齢と二十歳との差額について,27年1月1日以降でしたら1年当たり10万円の控除額になります。障害者控除でしたら85歳と相続開始時の年齢との差額について1年当たり10万円です。この85歳というのも平均寿命の伸長等に応じて変更になるので,年数の設定については,ある意味,割り切りかなという気はいたします。
  ただ,問題となるのが評価額です。11ページで建物賃借権の評価額というのは,各国税局が出している借家権割合によります。原則30%になっていまして,これは分かりやすい数字です。このように,何らかの割合を持ってくれば,建物賃借権の評価額は出ます。しかし,建物適正賃料額はなかなか難しいんです。
 例えば通常の借地権でしたら,借地権割合を単純に掛けるという形になりますし,定期借地権でしたら存続期間に応じた年金複利現価率を乗じるという形になります。ところが,存続期間については,一種の割り切りで解決したとしても,建物適正賃料額は土地のようには簡単ではありません。土地については路線価が全国的に示され,他の評価方法もありますが,大体,評価額は固まります。他の要素を考慮することが余りないんです。不整形地等についてもルールがほぼ決まっております。
  これに対して,建物については固定資産評価額以外に公的な尺度がなくて,なかなか難しいです。実務の観点から見ますと,建物の中の家具や据付けの家具等の建物の一部になっているものもあります。建物の固定資産評価額とかなりかい離している事例も見当たります。ですから,どのような尺度を持ってくるのかです。別の尺度がないとすれば,固定資産評価額となるのですけれども,そのままダイレクトに使うのか,一定の評価の加減算を当事者で行うのかですね。
  当事者で評価を行う方法についてです。一定の評価額を決める方法は,経営承継円滑化法における自社株式について固定合意と除外合意があります。そのうちの固定合意は,弁護士,税理士,公認会計士が証明した金額でやりなさいというものです。そういう余地を残しておくのかどうかについても,御審議いただければなと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  11ページの5の長期居住権の財産評価の部分ですが,この中に式が出ているわけですけれども,そこに入るべき数字というのがどういうものになるかということについて御意見を頂いておりますけれども,この点についてほかに御意見ございませんでしょうか。
○垣内幹事 全く単純な内容の確認なんですけれども,11ページの(注)で書かれております平均余命ですが,これは例えば配偶者が現在75歳であれば,75歳の方の平均余命を想定しているものと私は理解していたんですけれども,そういう理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 はい,そういうものです。先ほど,既に配偶者が平均余命を超えている場合も一定の考慮をした上で……
○垣内幹事 つまり75歳の方は平均して,あと普通に生きる。
○堂薗幹事 ええ,そこはそうです。
○山本(克)委員 平均寿命と平均余命の違いを今,お答えになっているので,平均余命を超えることはあり得ないのではないですか。
○堂薗幹事 すみません。平均余命はそうですね。
○大村部会長 御質問は,年齢ごとの平均余命というのを想定しているのかということかと思いますけれども,それはそういう前提ですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 そのほか。
○増田委員 そもそも論ですみません。
  そもそもこれは単なるオプションなんですか,それとも形成権的に生存配偶者がくれと言ったらもらえるものなんですか。
○堂薗幹事 資料12ページの(7)の「その他の検討課題」アのところで書いておりますが,配偶者の優先取得を認めるのか,あるいは完全に遺産分割のオプションとしてそういった分け方ができるということにとどめるのかという辺りが大きな問題ではないかと思います。
  優先取得まで認めるということになりますと,他の相続人との利益をどう調整するのかという辺りが非常に難しい問題として存在するのだろうという認識でございます。
○増田委員 オプションということであれば,冒頭で言ったように今でもやろうと思えばできるんだろうと思いますし,かえってこういうものを明文化することによって,保護にならない場合もあり得るのかもしれません。居住権を確保する代わりに現預金はわずかしか取得できないような分割であれば,単に住む家があってもお金がないので生きていくには不都合であるということもあると思います。
  これを明文化する意味がよく分からないわけですね。協議であれば,どんな内容の協議でもできるわけであって,具体的相続分の計算も余り必要ないだろうし,審判でやる場合だったら,式を別に法定しなくても,裁判所が具体的な事案によって具体的相続分を定められるでしょうし,明文化のメリットは端的に何なんでしょうか。
○窪田委員 ここに定められているような内容については,先ほど,堂薗さんからも御説明があったかと思うのですが,ここに定められているような内容というのを現行法でもできるというのは本当にそうなのかという点については,少し気になります。
  つまり,当事者間で賃貸借契約を結んで,そしてそれを踏まえた上である1人の人が全部,まるごと,名義だけを取るというようなことは,遺産分割協議のレベルであればできると思うのですが,遺産分割審判において,裁判所が介入をする中でそうした処理をするということは可能なのでしょうか。
  可能なのだとすれば,この制度の必要性は確かにそれほどないということになるのかもしれないのですが,その点について教えていただければと思います。
○大村部会長 いかがでしょうか。どなたか。
○石井幹事 十分なお答えになっていないかもしれませんが,一般的にはこういった遺産分割審判の中で居住権を設定するような例というのは,さほど多くなく,建物なら建物,不動産なら不動産を取得させるという例がやはり多いのではないかなというふうに思っております。
  逆に私の方でお伺いしたかったのは,優先取得というのは,裁判所が一切の事情を考慮して遺産を分割する上で,裁判所の裁量に一定の制約を定めるようなものと理解してよろしいんでしょうか。
  事案によっては,例えば居住権の価格を算定すると非常に低額になってしまって,自分の具体的な相続分との兼ね合いで見ると,本当だったら建物自体を取得できるんだけれども,短期居住権とお金でもらいたいというような希望を述べられる方もいると思うんですが,そういった場合でも,裁判所は希望通りに分割をしなければならないということなのでしょうか。
○堂薗幹事 仮に優先取得権を認めた場合に,どういった形でそれを実現するかという点については,詰めて検討できているわけではありませんが,一つ,イメージとして考えられるのは,配偶者が長期居住権の取得を希望すれば,自分の具体的相続分の範囲内である限り,配偶者は当然に長期居住権を取得し,その部分については誰も何も言えなくなるということがあり得ると思います。
  その場合には,配偶者は,長期居住権を取得した残りの部分について,ほかの財産を取得するということになりますが,残りの部分については従前の遺産分割と同じように,協議ができなければ,裁判所が裁量の下で分けるということになりますので,そういった意味で優先取得権を認めるということになると,裁判所の裁量権に一定の制約を課すということになるのではないかと思います。
○大村部会長 裁量に対する制約の度合いは幾つかの案を考えているということなのではないかと思いますが。
  ほかに何か。
○南部委員 長期居住権の方が短期よりかかなり問題があるというようなイメージでして,皆さんの御意見もそうであったかと思います。私も,期間の問題があると思います。質問が二つあります。かなり高齢化になってきておりますので,例えば父親が亡くなる寸前に再婚されて,法律的には子供と親子関係はあるけれども,実質,血縁関係はないというふうなパターンもあるかと思います。そうすると,自分と血のつながっていないお母さんのために家を取られ,そしてずっと固定資産税だけ払わなければいけないということもあり得るのでしょうか。もう一つは,実のお母さんであったとしても,途中で再婚なさるということがあったときには,この居住権という考え方では再婚なさった方もそこに住むことはできるんでしょうか。
○堂薗幹事 再婚した場合も長期居住権の場合は,それをどう利用するかというのは,長期居住権を取得した配偶者の自由で決められるということになりますので,そこは再婚した人を住まわせるということも当然できるという前提でございます。
○南部委員 仮に再婚した後,母親が先に亡くなって夫だけになった場合は。
○堂薗幹事 長期居住権の場合は,それを設定した場合に残りの所有権は他の相続人が取得するという前提になっていますから,配偶者が亡くなった時点で,その建物所有権を取得した人が使用権限も有することになります。したがって,その場合には,再婚した後に住んでいた人は明渡しをしなければならなくなるということになります。
○南部委員 分かりました。
○窪田委員 今の点に関連して1点,第2の方に戻ってしまうのですが,ご質問させてください。再婚の問題というのが長期居住権の方で再婚が終了原因にならないというのは正しく対価を払ってその利用権を取得している,遺産分割は一つの形態だからというふうに説明することができるとは思うのですが,短期居住権に関して再婚が終了原因になるという可能性については,検討はする必要はないのでしょうか。短期の方です。
  つまり,長期の方は正しく対価を払った利用権なので,これは再婚しようが何しようが関係ないけれども,短期利用権というのは言わば無償で,婚姻の言わば予後効として認められるものなのだとすると,再婚というのは場合によっては終了原因になるのかなと今,御質問を伺いながら,ふと気になったものですから。
○堂薗幹事 終了原因としてそういったものを含めるかどうかというのは,検討の余地があると思いますので,こちらでも検討したいと思います。
○大村部会長 選択肢としてはありえますね。いいかどうかは別として。
○窪田委員 余り深刻に考えることではないのだろうと思います。
○大村部会長 長期の方に戻っていただきまして,御意見あるいは御質問,ほかにありましたら是非頂きたいと思います。
○中田委員 長期について今,再婚の話題も出たところですけれども,長期間ですからいろいろなことが起こり得る,しかし,終身だという制約がついている,そういう立法例として,既に高齢者居住安定確保法があると思います。そこでやはり当該賃借人が亡くなった場合,どうするかとか幾つかの問題点が検討されていると思います。それから期間付きの場合についても別の規定があるんですが,それとの比較ということも,もし検討しておられたらお聞かせいただきたいですし,まだであれば,今後,した方がいいのではないかと思います。
  もう一つ,11ページの算式のところなんですけれども,2種類の方程式が書かれているのですが,第1の方は無償で使用する場合ですけれども,ここで存続期間の定めがある場合もあり得ると思うんですが,その場合には途中で死亡するリスクを減価しなければいけないことになるのではないかと思います。
  それからもう一つの有償で利用する場合には,賃借権が含まれる場合とほぼ同様というふうに書かかれているんですが,これはしかし,やはり通常の賃借権ではなくて,期間の定めがある場合には多分,更新がなくて,かつ終身だという制約がついてる,先ほど申し上げた法律に出てきているようなタイプのものですから,やはり普通とはちょっと違うんではないかなと思います。
○大村部会長 この計算の部分は,基本的な方向性を示しているということで,もう少し詰めて考える必要があるかと思いますけれども,最初の高齢者の住宅とのことについてはいかがですか。
○堂薗幹事 それとの比較についても今後,更に検討を進めていきたいと思います。
○金澄幹事 ⑤のところなんですけれども,これは長期居住権ということで期間を定めるなり,平均余命なりということにするんですけれども,そうすると,残存期間の居住部分,設定期間よりももっと短いときに亡くなったときに,その残存部分というのを今度,またお子さんが相続をするということになるんだろうと思うんですけれども,そのときの経済的な価値の評価の仕方というのがまた非常に難しくなるということが一つと,逆に平均余命より長生きした場合についても,今度,やはり完全な使用権というのを相続するということになると思うんですけれども,そのときには全然,評価をしないで,そのまま完全な所有権を取得するということになるのか,短くなったときには残存期間の経済価値をまた子供が相続するということになるので,そこのところの再度の相続のときに非常にバランスというか,考え方が難しくなるのではないかなということを心配をしております。
  それともう一つ,先ほど,増田委員がおっしゃったことなんですけれども,用益権の設定の方法による遺産分割の可否ということについて,非常に昔の裁判例なんですけれども,富山家裁の昭和42年1月27日,家月の審判例などでやはり用益権を設定した事例というものがあったり,東京家裁でも昭和52年1月28日にやはり用益権,22年間の土地の賃借権を設定した事例というものもあるので,そういうものをうまく活用することによって,こういう新しいものを特に作らなくても解決ができるということもあるのではないかということを補足させていただきます。
○大村部会長 2点,御質問ありましたけれども,1点目から順にお願いします。
○堂薗幹事 まず,基本的には長期居住権も死亡すれば消滅するということで,一身専属的な権利という理解ですから,相続の対象にはならないという前提です。ですから存続期間満了前に亡くなった場合も,その分は建物所有者が利益を得るわけですが,それは仕方がないと,そもそもそういう権利だという前提でございます。ですので,再度の相続というのは想定しておりません。
  それからもう一つ,遺産分割の審判で用益権の設定ができるかという点については,正にこの制度が必要かどうかに関わってくるところだと思いますが,少なくとも建物については,物権として,用益物権が用意されていないという点が問題だろうと思っております。用益物権の設定による分割ができない以上,あとは賃貸借契約なり使用貸借契約で使用権を設定するということになりますけれども,通常,契約について当事者間の合意以外で成立を認める場合には,それは法律できちんと書いてありますので,法定の賃借権なり何なりということで書いてありますので,現行法の下でそういった規定がない中で,本当に遺産分割の審判で,裁判所が当事者間の合意もないのに賃貸借契約なり使用貸借契約の成立を認められるのかという点については,こちらとしては極めて疑問に思っているところです。
  現行法ではこういったことをしたくても,受け皿となる権利がないのではないかということで,今回の方策をお示ししているということでございます。
○大村部会長 先ほど,増田委員も御指摘になられたところだと思いますけれども,どこまでのことをやるのかということがあるだろうと思います。今のような選択肢を作る必要があるかどうかということが一つと,それからそれを遺言等で被相続人があらかじめアレンジをすることができるのかというのがもう一つ。何段階かあるかと思いますけれども,最初の点については,堂薗幹事がお答えになったように,現にやっているものはあるかもしれないけれども,より安定した基礎付けが必要ではないか。そういう御趣旨だったかと思います。
○浅田委員 また第三者から見た話でありますけれども,長期居住権に関しても,対抗との関係については短期のところでお話ししましたとおりのことがございまして,ここでは改めて繰り返しはしませんけれども,やはり対抗の関係で問題になり得るので,その制度設計についてはご配慮いただきたいということがあります。
  そのほかに,新たな権利を設定するかということについて,第三者から見て,若干細かい問題提起でありますけれども,例えば賃貸借であれば,抵当権が優先していた場合には,賃料に対して物上代位で賃料差押えができると思います。
  今回提案されている居住権というのは,基本的に賃料相当分というのは相続分において計算されるということなので,期中において掛かる賃料の受け払いがなされるということは想定されていないということになろうかと思います。
  そうしますと,抵当権者という非常に限定された立場からではありますけれども,そういう賃料相当分に対して何らかの権利を主張するということが阻害されるのか,ないしはそれに相当するような代替手段というのを検討されているのか,ということが気になるということであります。
  それに関連して,もうちょっと細かい話をしますと,例えば競売を行った場合においても,例えば賃貸借であれば,現行の民法395条において,買受人が出現しても,6か月間の猶予があるということがありまして,こういう猶予期間を置くということは,長期居住権の制度設計に関しても十分参考になり得ると思います。
  ただ,その一方で395条の2項を見ますと,基本的に賃料の支払いという期待というのは失われていないという制度設計だというふうに思っておりますので,そういう395条類似の検討をすることにおいても,やはり賃料に対する債権者の期待というのをご配慮いただければと思います。
○堂薗幹事 長期居住権については,第三者対抗力まで付与する必要があるのではないかというように考えておりまして,その場合に抵当権者との関係をどう考えるかというのは非常に難しい問題だと思います。ただ,現行法上も,例えば,被相続人が自分の死亡を効力の発生時期として,第三者と賃貸借契約を締結し,賃料の前払いもしていたというような場合であっても,基本的には被相続人の死亡後に第三者が対抗要件を取得すれば,その後に設定された抵当権には優先するということになるのだろうと思います。長期居住権の場合には,基本的には,遺産分割などでこれを取得した時点で第三者対抗力を取得することになりますから,その時期と抵当権の登記時との前後関係で,優劣を決めるということにならざるを得ないのではないかと思います。
  したがいまして,長期居住権を取得した配偶者は,無償で建物を使用することができるということにしますと,賃貸借契約で賃料を全て前払いしているのと同じ状態になりますが,そういった問題は現行法上もあって,そこはやむを得ないのでないかというのが現段階での整理です。
○浅田委員 抵当権設定の登記が先にあって,その後,相続が発生したことによって,その時点において長期居住権が発生,及び占有によって対抗要件が具備されたという場合においては,私も検討の余地があるという理解です。ありがとうございました。
○増田委員 オプションだということになると,それほどうるさく言う必要はないのかもしれませんが,少し懸念材料だけ列挙させていただきます。
  まず,具体的相続分として居住権を取得することによって,手元にお金がないという状況になった場合,後発的事情によって引っ越す必要が出た場合,現行だと,家を売って小さいマンションに引っ越すと,家を売って施設へ,より充実した高い施設へ行くというようなことが考えられるけれども,お金が手元になければ,それができなくなる。
  相続の際に相続税の支払いのために換価が必要な場合,家を処分しなければいけないのに,生存配偶者が居住権を主張して頑張ったら困るのではないかという問題がある。
 社会経済的に見て,長期にわたって不動産の流動性が阻害されるという問題がある。その不動産に関しても,不動産といっても不動産マイナス居住権になってしまって,非常に価値が低くなり,ひいては,その不動産を担保に取ろうとする場合には,将来の担保価値が下がるリスクがある。無担保債権者にとっても,債務者の責任財産の価値を予測しにくくなる。
  ちょっと笑い話みたいになるけれども,今は同居している配偶者がいる人の方が与信する上では信用があるんですけれども,この制度ができると逆に信用がなくなるのではないか,相続が起これば責任財産減少のリスクが高まるという意味でなくなるのではないかという懸念がある。あと,先ほど,再婚の話が出ましたけれども,再婚の相手には承継されないということになると,再婚しにくくなるかもしれない。
  それから,審判においてもそういう選択肢を作るということなんですけれども,先ほど申し上げた共有分割の審判というのは理論的にはできるだけ避けるべきだとされていて,それは後日,共有者である共同相続人間の紛争が残るからだと言われています。それなのに協議で賃借権など利用権を設定できないような仲の悪い共同相続人間で仮にこういう審判ができるとしても,同様に紛争が後日に残るので,そのような審判が相当かどうかということについてはかなり慎重な考慮をしなければならないので,結局適用される事案はかなり特殊な場合に限られる,そういう問題もあるようにと思います。
 散漫になって恐縮ですが,一通り,懸念材料を並べさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。幾つか御指摘があったかと思いますけれども,一番最初におっしゃった,所有権ならば換価の余地があるけれども,この長期利用権の場合にはその点はどうなるのかという点は,御説明の中に入っていたとは思いますけれども,改めてお答えいただいた方がよいかと思います。
○堂薗幹事 長期居住権の場合は,そういう事情の変更,例えば終身そこに住むつもりで長期居住権を取得したけれども,施設に入らなければいけなくなったという場合でも,換価は難しいというのは御指摘のとおりだろうと思います。
  ですから,そういった点も踏まえて,配偶者はその選択をしなければならないということになろうかと思います。仮にこれを換価できるようにしようということになりますと,手段としては,例えば,建物所有者に対する買取請求権のようなものを設けることが考えられなくはないんですが,そうすると建物所有者の負担というのは更に大きくなりますので,なかなか難しいのではないかと考えています。
  したがいまして,ここで考えているのは,基本的には建物所有者に長期居住権を買い取ってもらって明け渡すか,あるいは建物所有者の承諾を得て,それを第三者に譲り渡したり,転貸するということです。ただ,この手段も,長期居住権の場合は配偶者の死亡によって消滅しますので,なかなか換価は難しいという面があるのは御指摘のとおりかと思います。
○大村部会長 ほかにも幾つかの御指摘がありましたけれども,利用権がついているという状態は所有権単独の状態に比べれば,複雑な権利関係が生ずるということになりますので,それに伴って不動産流通はマイナスを被るでしょうし,紛争もそれに伴って増える可能性があるという御指摘かと思います。そういう面は確かにあるでしょうね。
  そのほかいかがでしょうか。
○中田委員 長期の方は遺言で排除できるという理解でよろしいでしょうか。相続させる遺言ですとか第三者への遺贈とか。
○堂薗幹事 そういった形で遺言がされれば,その後,配偶者は長期居住権は取得できなくなりますので,短期とはその点は違うという前提です。
○中田委員 分かりました。そうだとしますと長期居住権の根拠付けは公序ではなくて,政策的な判断になるのかと思いました。そうだとすると,要件の方にも跳ね返ってきて,例えば高齢配偶者の保護ということですと,対象となる方の年齢要件を定めるとか,先ほどの高齢者居住安定確保法ですと60歳以上というふうになっておりますけれども,あるいは配偶者の潜在的共有持分の保護ということですと,ある程度の婚姻期間があったことを求めるとか,あるいは居住保護ですとある程度の居住期間があったことを求めるとか,いろいろな政策判断に応じた要件設定ということはできると思うんですけれども,多分,そうなってくると非常に特殊な制度になってくるのだろうと思います。そうではなくて一般ルールとして認めるとすると,一体,根拠は何なのかということがまた元に戻ってきて,はっきりしないなということが問題点かと思います。
○大村部会長 今,おっしゃったのは優先取得を想定されてですね。
○中田委員 はい。取り分け優先取得との関係でも遺言の方が更にそれよりも優先するということのようですので。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,長期の場合に保護要件としてどういったものを設けるのかというのは非常に難しい問題であると思っております。この資料では,単に相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたという点だけを保護要件として挙げておりますが,それだけの理由で配偶者だけが権利主体とされている点について合理的な説明が可能かという問題はあろうかと思っております。
  ただ,なかなかこれを年齢で区切るというのも難しいところがありますし,また,長期居住権の場合には,若い配偶者が終身の権利を取得しても,その評価額は所有権を取得した場合とあまり変わらなくなると思いますので,仮に年齢要件を定めなくても,一般的に,この制度を利用するメリットがあるのは高齢の配偶者となるのではないかと思います。
  そういった観点から,高齢になればなるほど,転居が肉体的にも精神的にも困難になるので,そういったことがないように選択肢をより広げたという説明ができないかと考えているところでございます。
○山本(克)委員 私は居住要件が必要なのかどうか,それ自体,問題のような気がするんですが。例えば本宅と別宅を持っていて,夫婦で本宅に住んでいたけれども,本宅を売り払わないことには相続税を払えないというんで,別宅にこういう長期居住権を設定してあげるという選択肢だってあり得るのではないでしょうか。なぜ同じ場所に住むということが必ず必要なのか,そこがよく分からないんですが。
○堂薗幹事 特に他の相続人の具体的相続分には影響を及ぼさないこととし,さらに優先取得権も認めないということを前提にしますと,そもそも保護要件は必要なくなるのではないかということは十分考えられるのではないかと思いますが,逆にそこまでいくと,今度は何で配偶者にだけ権利取得を認めるのかという問題があるように思います。
○山本(克)委員 違います。私が言っているのは居住要件は保護要件ではなくて,ほかに保護要件があるのではないかということを申し上げたつもりです。つまり,単独では生計を維持する手段を持たないので,一般の賃貸住宅には入居できないような人とか場合とか,そういうような場合を念頭に置いて保護してやるべきであって,何かそういう財産的な要件で画すべきであって,当該建物に居住していたかどうかというのは余り大した話ではないのではないかということを申し上げた。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえ検討したいと思います。
○山本(和)委員 先ほどの換価がどうかという話なんですけれども,これもやはり相続債権者の立場から見たときに,こういう形で分割がされると結局,長期居住権はほとんど換価できない,差し押さえても換価できないということになり,他方,建物の方は,これは配偶者がいつまで生きるか分からないので,買う側は最大のリスクを考えますから,ほとんど値段が付かないようなものでしか売れないような気がするんですね。
  そうすると,こういう分割がされることによって,事実上,債権者側から見れば,一種の差押え禁止財産に近いようなものができてしまうような気もしていまして,それで直ちにもちろんいけないということではないと思うんですけれども,そういう観点からするとかなり問題はありそうかなという印象は受けました。
○堂薗幹事 そういう問題はあるのだろうと思いますが,ただ,賃貸借でも,同じように非常に長期の賃貸借を締結し,賃料を全て前払いしてしまったという場合ですと,同じような問題が生じるのではないかと思います。ただ,御指摘の問題点については引き続き検討したいと思います。
○窪田委員 あまり中身のある発言ではないのですが,今まで議論を伺っていて,弁護士の先生方から今までの遺産分割だってそれはできたのではないかというご発言がありましたが,私自身は先ほどの堂薗さんの認識と同じで,遺産分割協議ではできたとしても,遺産分割審判で本当にできたのかという点については,その根拠がよく分からないなという気がしています。ただ,仮にそれを前提としても,今回の話というのは短期居住権,長期居住権という二つの居住権を設定するというイメージなのですが,実は長期居住権については,今,山本和彦委員からお話があったとおりなのだろうと思うのですが,実は遺産分割の方法を定めているだけなのではないかと。つまり,遺産分割の方法として今までいろいろな方法があった中に,長期居住権という形での遺産分割の方法を定め,したがって,遺産分割協議ではもちろん,遺産分割審判においてもそういう選択をすれば処理することができるという枠組みなのではないかと。
  仮にそういうふうに理解した場合には,現金がない場合にも一定の合理的な遺産分割ができることになります。不動産を換価処分しなくても分割ができるということで,それ自体としての制度の合理性を説明できるのではないかという気がします。その上で,むしろ2段階目で出てくるのがこうした長期居住権を配偶者が選択した場合に,それに優先権を認めるかどうか,これは次の別の問題として政策判断としてあるのかなと。
  そういうふうに2段階に構成して考える,あるいは長期的な居住権の保護,第3という形で挙がっていますと何か新しい権利が生まれるというイメージなのですが,実は単に遺産分割の方法を定めたという理解で考えていった方が議論をしやすいのではないかなという,これは感想めいたもので恐縮なのですが,印象を受けました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほどからオプションが増えるだけなのかという御指摘もされていましたけれども,オプションが増えるということと,そのオプションを選択する生存配偶者にどの程度の権利を認めるかという,2段の問題になっているという御指摘だったかと思います。さらに,被相続人がどうするかという問題もありますので,三つ問題はあるかと思いますけれども,そういうものの組み合わせとして,どれを認め,どこまでいくのかということが検討の対象になるという御指摘だったと思います。
○垣内幹事 今の窪田先生のお話に関連するかと思うんですけれども,私もこれは遺産分割方法について一つのオプションを加えるものであるように思いまして,そうだとしますと,オプションの内容として今,御提案になっているのはかなり特殊な長期居住権という内容の権利で,生存中のみしか存続しないとかその他の内容を持っているわけですけれども,端的に通常の賃借権を設定することができるというオプションを導入するという選択肢が採られてはならない理由というのはどこにあるのかということについて御質問したいのと,もしそういうふうに考えた場合には,もし仮にそういうものがあり得るとした場合,窪田先生も2段階と言われたわけですが,私の角度からしますと次の段階として,賃料を受け取るべき相続分で前払いをすることができるという遺産分割をすることはできるかという次のステップがまたあろうかというふうに思うんですけれども,そのような選択肢についてはどういうふうにお考えでしょうかということをお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 長期居住権の内容をどう設定するかという点については,資料ですと9ページの(4)のアのところで書いているわけですけれども,ここで①から⑥で書いている内容はどちらかというと無償で,賃料を払わないという前提で書いております。もっとも,必ずしもそれに限られるわけではなくて,制度設計としては,法定賃借権のような有償のものにするということも考えられますし,無償と有償,どちらも選択することができるとすることも考えられるのではないかとは思います。
  ただ,仮に有償だけにして,法定の賃借権ということにしますと,資料の6ページで書いてあるもののうち,⑥の「被相続人が遺言で配偶者には長期居住権を取得させ,建物所有権は他の相続人に相続させる」というようなやり方は難しくなるのかなと思います。すなわち,そもそも,遺言によって権利を取得する人に有償の義務を負わせることが可能かという辺りが問題になってくるのではないかと思います。
○山本(克)委員 今の点と関連するんですが,仮にこれを賃貸借というふうに構成された場合に,借地借家法の第2主張の適用関係はどういうふうになるというふうにお考えなんでしょうか。
  私の関心はむしろ現在,審判によって設定されている賃借権の中身が借地借家法に拘束されているのかどうかという方が関心があって,法定の犠牲的な賃借権を設定するんであれば,借地借家法の適用関係についてはその権利の内容として定めることが可能であると思われますけれども,現行の今やっていることは,その辺のこと,リスク。例えば10年と定めた後に更新の問題はどういうふうに処理されるとお考えになっているのか私には理解ができませんので,私はむしろ作った方がいいという立場なので,仮にオプションを増やすのでは,現行でいけているというのは私は必ずしも納得できないところがありますので,その辺のお見通しについてお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 仮に法定の賃借権のような形で認めた場合も,そこはきちんと財産評価をした上で,賃料を払うにしても払わないにしても,その存続期間に応じた財産評価をすることを前提としておりますので,基本的には期間の更新というような形で借地借家法の適用を認めるのは難しいのではないかと考えております。
  もちろん法定の賃借権でも有償だということにすれば,場合によっては可能なのかもしれませんが,今,ここで考えているのは基本的には期間限定で,期間が満了すれば更新もされずに終了するというようなものを念頭に置いております。
○山本(克)委員 仮に期間を定めたら,定期賃貸借のようなものを借地借家法で定めているというのは別の方式ないし要件の下に認めるということを意味するんだということでよろしいですか。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 賃貸借の場合と比較しながら検討するというのは必要なことなんだろうと思います。
  この制度を新しい権利を作るという形で考えるときに,賃貸借と比較してどこを変えたのかというように考えていくのか,あるいは法定賃借権のようなものを考えて,それで不都合があるところをどうやって直していくのか,二つの方向があるだろうと思いますけれども,いずれにしましても垣内幹事の御発言から始まった議論は,賃借権並びで考えたときにどんな問題があるかということを検討せよという御指摘として受け止めさせていただきます。
  そのほかいかがですか。
○米村委員 専門外なので素朴な質問ですが,先ほどから遺産分割のオプションとしてというお話ですとか,それから,中田先生から高齢者居住安定確保というお話がありました。超高齢社会になってくると子供も高齢者に近かったり,すでに高齢者であったり,居住権の保護という意味で,生活保障の観点から,住み続けることが必要な人が配偶者以外にもいるかと思います。オプションというような形にしたときに,それは配偶者だけ優先的にということになるのか,必要に応じて,ほかの相続人にも適用されるのかというところはどうなのでしょうか,教えてください。
○堂薗幹事 そこも,この制度をどう説明するかというところに関わってくるのですが,現行法上使用権の設定という形で遺産分割をするのが難しいことから,遺産分割のオプションとしてこういう制度を設けたというだけであれば,それは,対象を配偶者に限定する必要がなくなってきますので,その権利主体を他の相続人にまで広げることも,選択肢としてはあり得るんだろうとは思います。
  ただ,そもそもそこまでいくと,今度は逆に相続の場面でだけ,使用権の設定ができるようにする理由もなくて,例えば,建物についても用益物権を認めればいいではないかとかいう議論にもつながっていきますので,現時点では,配偶者に限って,しかも相続の場面だけで,使用権の設定を認めるということを考えておりますが,ただ,その点の説明の仕方については工夫が必要であろうと思っております。
○大村部会長 米村委員,今の説明で,よろしいですか。
○米村委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがでしょうか。
○水野(有)委員 これも質問なんですが,6のところの被相続人は,遺言又は死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させることができるという規定があるのですが,これに対する遺留分減殺請求というのは想定されているんでしょうか,されていないのでしょうか。
○堂薗幹事 この場合は当然,無償で長期居住権を取得しているという前提ですので,その部分については財産的評価をして,遺留分減殺請求の計算の中でもそこは考慮するということを考えております。
○大村部会長 ほかにいかがでございますか。
○西幹事 思いきり原点に戻る話になってしまいますけれども,この長期居住権がフランスにおいて非常に重要な制度だというのは私もよく分かります。ただ,日本において今,それほど魅力的な制度に仕上がるのかというのが今一つ,まだ十分に理解できていないところがあります。
  と申しますのは,日本は,フランスが今,どうなのか分かりませんけれども,死ぬまで自宅に居続けるというのが必ずしも一般的ではない時代になってきていると思います。また,持家比率というのも都市部では既に50%を切っているというのが現状ですので,次のところに賃貸物件である場合の保護方策というのがありましてそれは重要だと思いますけれども,そういう状況の中で持家についてこのような相続分に含められてしまう長期居住権が作られて,喜んでそれを選択する配偶者がどれほどいるのかというのが私はまだ分からないところがあります。最初の段階では,相続の段階では確かによさそうに思えるかもしれませんけれども,古くなって,ある程度,死ぬ段階で古いと思いますけれども,更にその古い家にあと何十年か住み続けるということを前提にそれを選択するという人がどれほどいるのかというのがやはり疑問です。制度の魅力を上げるためには,先ほど,途中で換価ができないというお話がありましたけれども,転貸の可能性以外にも,例えばその段階から終身定期金に変えるというか,つまり,支払った前払い賃料を取り戻すというようなイメージになるかもしれませんけれども,途中から定期金のようなものに変えられるとか,何らかのそういうものがあれば非常に魅力的だと思いますけれども。今の日本の状況を考えると,必ずしもフランスにおける長期居住権と同じだけの意味を持つ長期居住権が必要なのか分からないところもありますので,その辺りの立法事実というほど,大げさなものではありませんけれども,立法の背景をどういうふうにお考えになったのかというのを教えていただければと思います。
○大塚関係官 一般的なデータにつきまして御説明いたします。これは内閣府が出しております平成26年版の高齢社会白書から取ったデータでございますけれども,高齢者の方が介護を受ける場所としてどういうところを望むのかという調査事項について,自宅を望むという方が一番多いという結果になっていまして,男性が42.2%,女性が30.2%となっています。最期を迎える場所としてどういうところを望むのかということについても,自宅を望む方が54.6%で最も多いという結果になっております。
  それから,現在の住居についても,それぞれいろいろな住居があり得るかと思いますけれども,高齢者のうち89.3%の方は現在の住居に満足していらして,たとえ体が弱っても自宅に住みたいと考えていらっしゃる方が66.4%を占めているということもございますので,古くなったにせよ,現在の住居に住み続けたいというニーズはある程度存在するのではないかと認識しております。
○西幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 もちろん現金がいいという方もいらっしゃるかと思いますけれども,住宅を望む人も一定数いるということですね。
○堂薗幹事 高齢者の再婚が増えているというデータはあるんですけれども,前回,窪田委員からも御指摘がありましたが,後継ぎ遺贈的なものとして,現行法ですと,例えば,再婚した高齢者に居住権は確保したいけれども,配偶者が亡くなった後は配偶者の連れ子ではなくて,自分の子供に所有権を取得させたいという場合に,相続においてそれを実現するのは難しいところがあると思います。この制度を設けた場合にはそういったことも可能になりますので,そういった意味で高齢者の再婚が増えている現状を踏まえて,こういった選択肢を設けるということには一定の意味はあるのではないかと思っております。
○西幹事 ありがとうございます。
○窪田委員 今の点に関連して,後ほど,その他というところで申し上げようかなと思っていたことなのですが,遺言の扱いに関してです。第3の6で,被相続人は,遺言又は死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させることができるという形で,短期居住権の方では,遺言というのは配偶者に不利な遺言があった場合の扱いを書いていましたが,むしろごく自然なケースとして,配偶者に積極的に終身の利用権を与えたいというタイプの遺言はあるのだろうと思います。
  それを正しく第3の6で書かれているということではあると思うのですが,ただ,ちょっと気になりますのは,長期居住権という制度が認められないと,こうしたことが本当にできないのかというと,現行は後継ぎ遺贈については随分,議論がありますが,正しくそうした居住権を与えるということを目的としているようなタイプのもの,これは負担付き遺贈でもできるとは思うのですが,こうしたものについてきちんと効力があって,なおかつ実効性も担保できるというような制度を立てるというのは,これとは両立するものとしてあり得るのではないかと思います。もちろん長期居住権という制度が設定できた場合には,より簡単に遺言に組み込むことができるのかもしれませんが,その正否とは一応切り離してでも,その部分はなお検討していただければ有り難いなというふうに思っております。
○大村部会長 今の御指摘は,この制度によって後継ぎ遺贈,配偶者なら配偶者に終身の利用権を認めた上で,配偶者の死亡後は別の相続人に承継されるという遺言と同様の結果が実現されるけれども,正面から後継ぎ遺贈を認めるような遺言を考えてもよいという,こういう御指摘ですね。
○窪田委員 本当は後継ぎ遺贈にする必要はなく,つまり,Aのところに行った後,Bにというふうにする必要はなくて,本当は最初からBのところに所有権を移転した上で,Aに終身の利用権を与えるというようなタイプの遺言の効力,それが負担付き遺贈であったとしても,そうした遺言の実効性を担保できるようなものとして作れば,少なくとも⑥の部分というのは長期居住権の正否に関わりなく,実現できるのかなというふうな気がしました。
  というのと,一番最後のその他の方策として,何があるのかといったときに,やはり被相続人が積極的に生存配偶者の保護を図るような遺言を残した場合には,それをよりサポートしていくような仕組みというのを考えるということはできるのではないか思ったということです。
○大村部会長 今,その他のところについての御発言がありましたけれども,その他のところの1で,居住建物が賃貸物件である場合というのが挙がっております。これも含めまして御意見を頂ければと思います。もちろん長期の居住権について引き続き御意見を頂いても結構です。
○森委員 遺産分割の審判によって賃借権を設定できるのかということについては,増田委員が御紹介された例,あるいは金澄幹事が御紹介された例があることは私も存じ上げております。
  ただ,実務家としての感覚を申し上げますと,そのような事案は,将来にわたって債権債務が発生し続けることに関して相続人間で基本的な合意ができているものの,賃貸借期間等の点で合意ができていないような場合に,そこを審判で示したという例ではないかと思いますし,将来的な債権債務を形成するような審判は,そうした場合でなければ難しいのではないかと思っております。
  また,今日の議論では優先権の問題,期間の問題,評価の問題等が出ておりますが,遺産分割の審判をする立場からいたしますと,これらの問題を議論する際には,どのような事項について,どこまで裁判所の裁量を認めるのかという点を明確にしていただければと思っております。
○大村部会長 御要望として承って,事務局の方で御検討いただきたいと思います。
  ほかにいかがでございましょう。あるいは先ほど,長期を議論しなければなるまいと思って,短期の方の議論をあるところで打ち切って進ませていただきましたけれども,短期の方についてさらに御意見があれば,それも含めて伺いたいと思いますが。
○窪田委員 御検討いただきたいと言うだけのことでございますけれども,2ページのところで第2,考えられる方策で①から⑤まで挙がっております。先ほど,特に③の部分が議論になって,これは例えば退去についての猶予なのではないかということで西幹事からもお話がありましたが,それに対して,①,②というのは現在の判例からでも一定の説明はできるところだろうと思いますので,実は随分,性格の違うものが入り込んでいるのかという気がします。ですから,①,②,③と並べて,短期賃借権の保護とすると,どうも性格の違うものが入ってしまうのではないか。場合によっては切り分けがうまく分かるような形で整理していただいて,そして検討するという方がいいのかなというふうに思いましたので,御検討いただければということです。
○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの森委員の御発言もそうかもしれませんけれども,一体として出ているものを少し分節化して,どこまで認められるのか,何を定めることになるのかを明らかにした方がいいという御指摘として受け止めさせていただきます。
○増田委員 先ほど,米村委員から御指摘がありましたが,保護の必要性は配偶者には限らないはずなんですね。高齢,障害,その他の理由で保護が必要な子というのは一定程度いるわけで,長期の方は特にオプションということであれば,個別事情によって,当然,子の方に居住権を与えるというのはあって然るべきだし,そこで配偶者という限定を法律上の要件としてつけてしまうと,反対解釈として子は駄目だというような,変な解釈もあり得ないわけではないので,保護の対象とすべきは配偶者だけではないということは御考慮いただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。先ほど,堂薗幹事からお答えがありましたけれども,どこまで認めるかということによって,どの範囲の人に選択を認めるかということも違ってくるのかもしれませんが,御指摘も踏まえて,事務局には御検討いただければと思います。
  そのほかはいかがでございますか。
○浅田委員 銀行としては余り考えてはいないことですけれども,第4の1で,賃貸物件である場合の保護方策ということが書いてあります。このような観点から,例えば遺産分割において,配偶者は居住建物の賃借権を優先的に取得することができるかという意味合いでありますけれども,賃貸人,不動産のオーナーの立場からは当然,賃借権の相手方を選ぶ権利というのは一定程度あろうかと思うわけですけれども,この規律を作った場合に,賃貸人との関係でどういう整理がなされるのかと。この制度は配偶者が賃貸人に対して,自分が住むことができるということを主張する権利を創設的に作るのかどうかということのようにも見えるわけなんですけれども,その検討の内容について教えていただければと思います。
○堂薗幹事 相続の場合には基本的には包括承継になりますので,賃借権の譲渡,転貸には当たらず,相続人が引き続き権利を取得できるという前提であり,相続財産の中に賃借権がある場合には,それも含めて遺産分割をするわけですけれども,その場合に配偶者にそれを優先取得させるということは考えられるのではないかと思います。
  ですから,配偶者が優先取得した場合には,賃貸人としては配偶者を賃借人として認めざるを得ないという前提で,ここでは書いているということでございます。
○浅田委員 ここは私自身も整理していないところでありますけれども,包括承継として,共有持分を各相続人が持っていて,一義的には相続人が居住することができると。共有持分ですから,誰がどういうふうに住むのかということについてはケース・バイ・ケースだとは思いますけれども,私が住みたいと配偶者が言った場合には,その他の相続人を排斥して居住することができるということであって,それは現行法,相続法の観点からも言えると。ただ,相続人間の関係において,あなたは住むことはできないということの権利が主張できるということを今回,明記すると,そういうことですか。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  今の賃貸物件の件,何かほかに御意見,御質問ございますか。
  ここでは付随的に第4の1というのがあって,こういうことも問題になり得るという形で出ておりますけれども,今回,これを積極的に取り上げるかどうかということについて,何か御意見等がありましたら伺えればと思います。
  特にございませんか。所有権の場合については一定の選択肢ないし保護というのを与えようということを検討しているわけですけれども,賃貸の場合について,それならば同じように対応しようという考え方と,賃貸借にはまた別の考慮が必要であり直ちに同じような対応はできないという考え方の両方あろうかと思いますけれども。特にその点については強い御意見があるというわけではないということでしょうか。
○沖野委員 強い意見があるわけではないですけれども,高齢であって,なかなか一般的には賃貸借もできないという場合を考えますと,今ある賃借権を,もちろん賃料支払義務を負うわけですけれども,そのまま継続できるという要請は所有権以上に強いのではないかというふうに思われますし,所有権の方ですと,賃借権にすればまた別かもしれませんけれども,新たな権利創設によってかなり複雑な問題も生じますし,所有権を取得する者の不利益とその調整ということもありますので,そういった問題もあるということを考えますと,賃借権の方がより問題が少なく,制度趣旨を達成しやすいという面もあるので,併せてこういう方策を考えるというのをむしろ積極的に検討した方がいいのではないかと思っておりますけれども。
○大村部会長 賃貸についても考えた方がよいのではないかという御意見だったかと思いますけれども,ほかに何かございますか。あるいは第4の2にその他の方策ということで,先ほど窪田委員からこれに関わる御発言がありましたけれども,この点についても何か御意見があれば承ります。もちろん第3に戻っていただいて長期でも構いませんし,あるいは更に遡っていただいて短期についての御意見でも構いません。
○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。敷地,土地のことを確認したいんですけれども,12ページに敷地所有者との関係というのがありますが,前提として,短期も長期もなんですけれども,相続人間でもめるという場合と相続税を払うのに何かを売らなければならないという場合が二つあって,それは分けて考えていただきたいというのがあります。
  それと同時に,相続税を払わなければならない場合になるのかもしれませんが,土地というものが非常に高価なものに,特に都会でなってしまっていて,それこそ住む以外に何も生まないわけですよね,そこの土地は。住んでいるだけで,貸していれば多少,お金が入ってきたりするんですけれども,余りにも土地が高いために相続税がとてもかかって,どうしても売らなければならないというときに,要するに今の賃貸とも関わるのかもしれませんけれども,土地は自分のものではない,又は被相続人のものではない場合等に,でも高齢の残された者が住み続けなければならないというときにどんな方策があるのかというのがやはり分からないんですね。
  私は専門は建築の設計でして,相続が発生するたびに土地が小さくなっていくということ自身がそもそも問題ではないかと思っていまして,相続で土地が大きくなることは決してないではないですか。それで,小さくなった土地というのが先ほど,増田委員からも土地の流通が妨げられるということが一つ,負の要因だとおっしゃったけれども,小さくなって流通することが本当に社会にとっていいことかというと,違うのではないのと思うこともありまして,やはりある程度の規模を確保していかないと適正な居住環境というのが保たれないというのもありまして,相続がきちんと行われることによって,敷地が分割されていってしまうということもすごく大きな問題ではないかと思うし,かつそこに住み続けることができなくなるということも大きな問題だと思っているんです。
  私は,だから前提にこの土地を分割していくことを止める方策はないのかということは本当に考えてもらいたいなと思っているんですけれども。この委員会ではないのかとは思いますが,敷地所有者との関係というか,土地のことをもう少しきちんと,相続のときにどうなるかということは考えないと,ただ誰がどれだけの権利を有するとか住み続けられるということだけではないのではないかなと思っていまして,その点,何か少し私に理解できるような話はないんでしょうか。
○大村部会長 遺産分割をして,単独の所有権の形になって土地が流通するということがいいことだという前提で話しているけれども,そうではない価値観というのもあるのではないかという御指摘として伺いました。
  もちろん不動産を分割しないでもとのままの所有権という形で誰かが相続して,それで流通するということもありうるわけですけれども,しかし,分割せざるを得ないことがあるわけですね。そのときに所有権だけで考えて分割するのではなくて,所有権と利用権という形に差し当たりは分けておくという選択肢を設けておくことには,今の御指摘にもかなうところもある。そんなふうに整理できるように思いますが,いかがでしょうか。
○藤野委員 座長がおっしゃるとおりでございます。12ページから13ページにかけて土地のことを一生懸命書いてくださっていますよね。だけど,もう少し本気で考えないと。ただ,それは付いて回る問題だという程度ではなくて,もう少し大きな問題として考えておかないと本当にまずいのではないかなと思っているということなんですけれども。
○大村部会長 非常に大きな問題を提起していただいたと思います。基本的な問題は,土地に限らないわけですけれども,相続によって様々な財産が分割されていくということがマイナスの面を持つことがあるのではないかということですね。
○藤野委員 そうです。リバースモーゲージではないですけれども,相続税等も,要するにここに一緒に住んでいる方が亡くなった後に初めて払えばいいとか,土地の価値を借りていく形で賃料として払っていったことにして,一緒に住んでいた方が亡くなったときに初めてそれを精算するとか,要するに分割しないでも済むような方策というのを何か考えた方がいいのんではないかという意味です。
○大村部会長 御指摘はよく分かりました。正面から何かできるかどうかはなかなか難しいですけれども,どういう制度を採ると,御指摘があったようなことを目指している関係者にとってプラスになるのかということは考えられる。常に分割するという方向ではなくて,財産をあるまとまった形で残したい。しかし,相続人の利益には一定の配慮をしたいという相続人たちのために,何か選択肢を設けることはできないかという形で考える。ここでの問題との関係で言うとそういう位置づけになるかと思って伺いました。
  それから,今の御指摘との関係で12ページの敷地所有者との関係というところについて,事務局の方で何かございますか。
○堂薗幹事 ここについて御意見を頂ければと思います。
○大村部会長 この問題について今まで御意見を頂いておりませんので,もしありましたら御意見を頂けると幸いです。
  これはかなり悩ましい問題で,手当を何かするかどうかということかと思いますけれども。御意見あるいは御示唆を頂ければと思います。どなたか御発言ございませんか。
○堂薗幹事 この敷地利用権についても何らかの権利の創設を考えた方がいいのか,あるいはそこまでは考えなくていいのかという問題でして,こちらでは,実務上どのような問題が生じているのかよく分からないところがありますので,何か御意見があれば頂ければと思います。
○沖野委員 問題を分かっていないと思いますので確認させていただきたいんですけれども,敷地と建物が同じ相続人が有しているところを敷地だけを売却し,売却にあたって利用権限を設定されていないという前提ですね。建物自体の利用権がついているけれども,建物自体がもはや敷地を利用できないので建物収去になると。建物を収去してしまえば,もう長期利用権はいずれにせよ,消滅原因の中には当然,目的物滅失は入るわけですね。そのときに長期利用権の保持者が敷地利用について主張できるということは,その限りで建物も維持されて,建物所有者は反射的に収去を免れるというような法律関係をここに入れるべきではないかということなんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,建物に関しては,長期居住権に第三者対抗力を認めれば,建物から出てくださいと言われても,それは出ていかなくていいという状態が作れるわけですが,土地と建物が被相続人の所有である場合には,長期居住権を有する配偶者は,建物所有者の敷地利用権を援用できるにすぎませんので,そうすると,ここに書いてあるような事例では,結局,長期居住権を取得したけれども,建物収去を求められた場合にそれが維持できないという事態が生じ得ます。したがって,そういった事態も生じないように,敷地利用権についても,例えば長期居住権の取得を目的とした地上権を設定できるようにするとか,そういった手当まで必要なのか,あるいはそこまでは考えなくてよいのかという問題意識です。
○浅田委員 一応,今回コメントだけしておきたいと思います。余りこの点についてはしっかりと検討しておりませんでしたけれども,ただ,聞いていますと,法定地上権における抵当権との相克と似たような問題が出てくるのかなと思います。

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  したがって,いろいろなケースを分析して,関係当事者の予測可能性に反した結果が起こらないかどうかと思います。典型的な例としますと,更地に抵当権を設定し。その上に建物を建てたといった場合に,その抵当権を実行したとき,その法定地上権みたいなものが本制度において出て,かつ対抗ができないといったときには結局,更地の抵当権者からすると,事実上借地減価がされてしまうということも反射的に生じるのかなと思った次第であります。
  したがって,この点についてはよく検討をこちらでもしたいと思いますけれども,その分析的な検討というのも併せてお願いできればと思います。
○大村部会長 今の段階ではここまで考える必要があるかどうかという問題提起がされているということかと思いますが,御指摘のような問題との関連で,更に詰めて整理をしていただくということにしたいと思います。
  そのほか,いかがでございますか。
○中田委員 ただいまの敷地との関係,それから先ほど出ておりました居住建物が賃貸物件である場合,両方を通じてなんですけれども,そこで配偶者を保護する制度を作るとすると,それが所有権の場合と目的が違ってくるのではないかなという気がいたしました。所有権の場合には遺産分割の方法の多様化,安定化で,2番目に配偶者を優先することの根拠,この2段階あったわけですが,賃借物件について言うと,むしろ居住の保護ということが正面に出てきますし,敷地の利用権についてはどっちに寄せるかということが問題になるかと思います。それぞれ目的が違ってくる。そこを整理する必要があるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。垣内幹事からも手が挙がっていましたけれども。
○垣内幹事 賃貸物件である場合の保護方策ということに関しまして,先ほど,沖野先生が言われたことは全てそのとおりではないかというふうに思って拝聴しました。反面,現行法から見て,ジャンプしなければいけないところは少ないわけですが,ということは,逆に現行法の下でも裁判所で遺産分割審判をする際に,現に居住している配偶者に借地権を渡すというようなことは十分できることであるような感じもいたしまして,そういう面から見ると,新たな制度を設ける必要性は相対的には少ないという面もあるのではないかという感じがいたします。
  他面で,増田先生から御指摘があった点にも関わりますけれども,具体の事案において,誰に居住を継続させるのがよいのかということに関しては,障害のある子供とかそういうものが問題になることもあり得そうに思えますので,その辺りを法律で,一律配偶者に優先権を与えるというような規律の仕方をすることが適切かどうかというのは,慎重に考慮を要する面があるのかなという印象を持ちました。
○大村部会長 ありがとうございます。確かに賃借権は今でもやれるではないかという面はあるだろうと思いますので,そのことも含めて,検討していく必要があろうかと思います。
  そのほか,何か御指摘ございますでしょうか。
  それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,次回につきまして事務局の方から御案内をお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,次回の日程について御連絡いたします。
  次回は既に御案内のとおり,6月16日,火曜日の午後1時半から5時半までを予定しておりまして,場所は本日と同じく20階第1会議室ということになります。
  次回は,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現などについて御議論いただくことを予定しておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  では,本日はこれで閉会したいと思います。
  熱心な御議論,ありがとうございました。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第3回会議 議事録


第1 日 時  平成27年6月16日(火)自 午後1時29分
                     至 午後5時31分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第3回会合を開催いたします。
  まず最初に,配布資料等につきまして事務局の御説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,私の方から,今回の部会の資料の説明をさせていただきます。
  今回の配布資料は,事前に送付させていただきました「民法相続関係部会資料3 相続法制の見直しに当たっての検討課題(2)」となっております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,本日は,お手元の部会資料3「相続法制の見直しに当たっての検討課題(2)~相続人等の貢献に応じた遺産分割の実現~」,この資料に基づきまして御審議をお願いしたいと存じます。
  この資料は,第1の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」という項目から始まりまして,第2が「寄与分制度の見直し」,そして第3が「相続人以外の者の貢献の考慮」となっております。それぞれ少し性質が違うことを話題にしておりますので,一つずつ分けて御説明を頂き,かつ御意見を頂戴できればと思います。
  まず,前半で「第1」を扱いまして,途中で休みまして第2,第3と進むということを予定しております。
  それでは,事務当局の方から,第1の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」という部分について御説明を頂きたいと思います。
○下山関係官 それでは,御説明させていただきます。
  まず,第1「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」ということですが,相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長く,被相続人の財産の形成又は維持に多大な寄与をしたという者もいれば,老齢になった後に再婚した場合など,婚姻期間が短く,被相続人の財産の形成又は維持に対する寄与がほとんど認められない者もいるなど,被相続人の財産の形成又は維持に対する貢献の程度は様々であると考えられます。近時の高齢化社会の進展,高齢者の再婚の増加に伴い,このような財産形成に対する寄与の程度に関する差異は,拡大する傾向にあるものと考えられます。
  もっとも,現行法上,配偶者の具体的な貢献の程度は寄与分の中で考慮され得るにすぎず,基本的には一律に定められた法定相続分による画一的な処理が行われることとされているため,実質的な公平を欠く場合があるとの指摘がございます。
  また,離婚における財産分与においては,配偶者の貢献の程度を実質的に考慮して財産の分配を行うこととされているため,現行の相続制度は,離婚における財産分与制度との整合性がとれていないのではないかとの指摘もされているところです。
  これらの指摘を踏まえまして,相続の場面においても,配偶者の相続分を定めるに当たって配偶者の貢献の程度をより具体的に考慮する方策として,本資料においては二つの方策を取り上げております。
  これらの方策は,いずれも遺産を実質的な夫婦共有財産,すなわち夫婦の一方がその婚姻中に他方の配偶者の協力を得て形成又は維持した財産と,固有財産,すなわち当該夫婦の婚姻以前に形成された財産や被相続人が相続によって取得した財産のような,その形成又は維持に他方の配偶者の協力が認められない財産,この二類型に区別した上で,実質的夫婦共有財産については配偶者の取得割合を現行法よりも高くすることによって,遺産全体に占める実質的夫婦共有財産の割合が高い場合には,配偶者の取り分を現行法よりも増やすということを意図したものになっております。
  資料2ページの3を御覧ください。ここでは,遺産分割の手続に先行して,離婚における財産分与同様の実質的夫婦共有財産の清算を行う考え方として,次の①,②,③といったものを御紹介しております。
  すなわち,
  ①配偶者は,遺産分割に先立って,相続人に対し,実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる。
  ②実質的夫婦共有財産に属するか否かが明らかでない財産は実質的夫婦共有財産に属するものと推定し,実質的夫婦共有財産の形成又は維持に対する配偶者の寄与の割合は2分の1であるものと推定する。
  ③配偶者は,実質的夫婦共有財産を清算した後の遺産(被相続人の固有財産及び実質的夫婦共有財産の残余部分)については,現行の法定相続分より減少した相続分を取得する。
  こういった内容を想定しております。
  ここでの実質的夫婦共有財産の清算手続というのは,離婚における財産分与と同様のものを想定しており,被相続人の積極財産だけではなく,被相続人の債務のうち実質的夫婦共同債務,すなわち実質的夫婦共有財産の形成・維持に起因して負担した債務や夫婦の共同生活を営む上で負担した債務をも考慮して,清算を行うということになります。また,被相続人名義の財産のみならず,配偶者名義の財産についても,その清算における考慮の対象に含まれるということになろうかと考えております。
  このような計算によって,実質的夫婦共有財産の形成についての配偶者の貢献の程度を具体的に考慮することが可能になるとともに,離婚の場合と死別の場合とを統一的に理解することが可能になるものと考えられますが,他方,現行の遺産分割においては考慮する必要がない被相続人の債務についても清算対象に含まれることとなる上,特定の積極財産や債務が清算対象に含まれるか否かといった点や,その財産の形成又は維持に対する貢献の有無及び程度について主張・立証が繰り返されるおそれがあるなど,相続に関する紛争の複雑化,長期化が懸念されるところであります。
  ②の推定規定は,このような紛争の複雑化,長期化を少しでも軽減するためのものですが,このような方策のみで紛争の複雑化,長期化に十分対処することが可能かどうかは疑問があるところでございますので,この方策を採用する場合に,具体的にどのような制度設計をするのかといった点につきましては,慎重な検討が必要であろうと考えております。
  次に,資料4ページの4を御覧ください。ここでは,遺産分割に先行する清算手続を設けるのではなく,飽くまでも遺産分割手続の中で,遺産の属性に応じて計算した一定の金額,これを配偶者加算額と呼んでおりますが,これを配偶者の具体的相続分に上乗せするといった考え方を提案させていただいております。
  具体的には,
  ①一定の計算式により算出された額,すなわち配偶者加算額が積極財産の法定相続分に相当する額を超過する場合には,配偶者の相続分にその超過額を加算した額をもって,配偶者の具体的相続分とする。
  ②遺産のうち被相続人の固有財産を除いたものを実質的夫婦共有財産とする。
  ③被相続人の固有財産は,被相続人が婚姻前に有していた財産,被相続人が婚姻後に相続又は贈与等によって無償で取得した財産に限る。
  ④配偶者は,配偶者加算額の主張をする場合には,寄与分の主張をすることができない。
  こういった制度を提案させていただいております。
  これは,先ほど申し上げた3の方策を採用した場合に生じる問題点を多少なりとも軽減するといった観点から,実質的夫婦共有財産の形成又は維持に対する配偶者の貢献の程度を2分の1と法定するとともに,配偶者名義の財産を清算対象として考慮しない。これが①の部分でございます。
  また,被相続人の固有財産を限定列挙することとして,それ以外の財産は全て実質的夫婦共有財産とみなすこととしており,これが②及び③の部分でございます。
  更に,配偶者が配偶者加算額の主張をする場合には,別途,現行の寄与分の主張をすることはできない。これが④でございます。
  この方策を採用する場合に検討すべき課題といたしましては,まず,配偶者加算額の計算式をどのようなものにすべきかといった点が考えられるかと思います。
  考えられる計算式の一例といたしましては,資料6ページの下の方に記載しておりますけれども,これは積極財産を実質的夫婦共有財産と固有財産とに区別するのと同様に,相続債務につきましてもこれを実質的夫婦共同債務と固有債務,この二つに区別した上で,この計算式にありますα,ここで財産の属性を考慮した配偶者の最終的な取り分を算出し,これが法定相続分に従った場合の最終的な取り分と考えられるβを上回る場合には,配偶者加算額が生ずるというものでございます。この考え方によりますと,夫婦の財産形成に対する配偶者の貢献の程度を,より実質的に考慮することが可能になるということができますが,他方,ある積極財産が実質的夫婦共有財産なのか固有財産なのかという点のみならず,ある相続債務が実質的夫婦共同債務なのか固有債務なのかという点も審理の対象にしなければならないことになるため,この点をめぐって紛争が複雑化,長期化するおそれがあるところでございます。
  そこで,配偶者加算額の算出に当たりましては,積極財産のみを考慮して相続債務については考慮しないことも考えられるところでありますが,このような計算式によると,実質的夫婦共同債務が多額に存する場合には,配偶者加算額が当該配偶者の実際の貢献よりも過大になる事態が生じ得ることになりますので,かえって実質的な公平を害する結果になりかねないといった問題点が生じます。
  また,この方策におきましては,遺産が実質的夫婦共有財産と固有財産のいずれに該当するかという点を巡って紛争が複雑化することを極力軽減するために,②及び③のように固有財産を限定列挙し,それ以外の財産は実質的夫婦共有財産とみなすことにしております。
  このような紛争の複雑困難化の防止という考え方を更に進めるとすれば,固有財産の価額は婚姻前に取得した財産の婚姻時の評価額と,無償で取得した財産の取得時の評価額の合計額に固定した上で,それらの財産がその後どのように変遷したかといった点は一切考慮しないということや,更には,遺産の中に実質的夫婦共有財産と固有財産の両方の性質が含まれる財産がある場合には,その財産の全体を実質的夫婦共有財産とみなしてしまうといった措置を講ずることも考えられるところであります。
  ただ,このように,紛争の複雑化,長期化を避けるために割り切った考え方を採用すれば,その分だけ精緻な計算方法で計算した場合との差異が大きくなる。そうすると,かえって実質的公平を害する結果となり,そもそもの趣旨が没却されてしまうことになりかねません。結局のところ,この問題は,実質的公平をどの程度図るかという要請と,紛争の複雑化,長期化を避けるという要請,この両者のバランスをどこでとるべきかということ,この点にあると考えられます。
  資料についての説明は,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  1の「問題の所在」から始まりまして,2が「考えられる方策」ということで,その後に3と4との二つのモデルが試案として提案されている,そういう構造になっているかと思います。
  この3も4もなかなか複雑な内容になっておりますので,御説明を伺い,資料を見ただけでは,なかなかイメージできないところもおありかと思います。それぞれについて,後で御質問を頂き,またその上で御意見を頂きたいと思いますが,3,4はそれぞれ案として出ておりますので,これらの前に,まず,問題の所在と考えられる方策の部分,言わば総論部分について御質問ないし御意見を頂く。その上で3,4それぞれについて御質問,御意見を頂くという順序で進めさせていただきたいと思います。
  一番最初の「問題の所在」及び「考えられる方策」という,この総論部分につきまして,まず伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○沖野委員 寄与分との関係なんですけれども,総論の部分では寄与の程度が様々になっているために,現行の寄与分の活用では難しいという考え方が示されております。しかし,この後,寄与分制度の見直しも提案されています。寄与分制度の見直しによって,その柔軟化や拡充が図られるとしますと,それでも寄与分の活用ではやはり無理だということがあるのか,それとも,寄与分の制度がこのような形で見直されるならば大半はカバーされると考えてよいのか,その点について,もしお考えがありましたら,お聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 現行制度については,恐らく二つの問題があるのではないかと考えておりまして,一つが,婚姻期間が非常に長くて遺産の形成に貢献がある人とそうでない人のバランスの問題,それからもう一つが離婚の財産分与とのバランスの問題です。まず婚姻期間の長短によるバランスの問題については,特に老齢になって再婚したような場合が問題になり,現行の寄与分ですと,期待されている程度以上に貢献をした場合にはその分増えるというところがございますが,逆に,期待されているところに達していないという理由で減らすということは基本的にありませんので,寄与分制度の見直しだけでは,必ずしもその問題点を解消することはできないのではないかと思います。ただ,そこは老齢になった後に婚姻した配偶者について,現行の法定相続分を下回るような取扱いをすることが相当かという問題とも絡みますので,そこを変える必要がないということであれば,寄与分だけで調整できるというところはあるのかもしれません。
  それから,離婚の場合とのバランスの問題についてですが,現行法上は,離婚の場合と相続の場合でいいますと,相続の場合の方が配偶者にとっては取り分が多くなるといいますか,より保護されているということがいえると思います。すなわち,相続の場合には,夫婦が協力して形成した財産であろうとなかろうと,基本的に2分の1の持ち分があるのに対しまして,財産分与の場合には,基本的には夫婦で協力して形成した財産のみが対象財産となりますので,そういった点で,相続の方がより有利になっており,その点には相応の合理性があるのではないかと思います。ただ,昭和55年当時ですと,財産分与における2分の1ルールというのは厳格に適用されていなかったのではないかと思うんですけれども,今はかなりそれが浸透してきて,離婚の場合も基本的には2分の1の取り分があるということになりますと,特に婚姻期間が長い夫婦の場合には,離婚であっても財産分与でも取り分が余り変わらなくなってきているということがいえると思います。他方,婚姻期間が短い人については,その差はかなり大きいというようなところもありますので,やはりこれらの2つの問題を解決しようと致しますと,寄与分による調整だけでは難しいのではないかということで,ここに挙げたような考え方を提案したところでございます。
○沖野委員 そういたしますと,現行法よりもその実質に応じて,むしろ取り分を減らすというか,減少させることができるという点に特色のある提案となりますか。
○堂薗幹事 ですから,離婚の場合とのバランスの問題については,仮に相続による清算の方が離婚の場合よりも多く取れていいはずだということになると,婚姻期間が長い人については,今の法定相続分よりむしろ増やす方向で考えないと,バランスを欠くことになるのではないかと思いますが,ただ,そういう形で法定相続分を増やしますと,今度は婚姻期間が長い人と短い人のアンバランスが更に広がることになるので,その両者を解決するためには,法定相続分の上乗せだけでは駄目だし,寄与分の見直しだけでも駄目ということで,今回取り上げたような方策を考えないと難しいのではないかというのがこちらの問題意識です。
○大村部会長 今,財産分与との対比で御説明がございましたけれども,財産分与の場合には,婚姻期間が長くなると,夫婦の共同によって形成された財産というのが増えるだろう。それが後で清算されることになるけれども,相続については必ずしもそうなっていないということで,実質的に見て財産分与と整合的な考え方を導入する必要はないだろうかというのが,多分この第1の部分の基本的な発想なんだろうと伺いました。
  寄与分の方は,これは堂薗幹事から御発言がありましたけれども,特別な寄与としてさらにどういうものを認めていくかということなので,取りあえず別のものとして区別しているという御理解かと思いますが,沖野委員,よろしいですか。
○沖野委員 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○増田委員 2点ございます。
  1点目は,配偶者の貢献に応じた遺産の分割を実現する観点ということですが,配偶者の取り分を現行法より増やすことを意図するとなっております。先ほどからの御説明及び多様な家族関係があるということから考えますと,婚姻期間の短い人,あるいは俗に玉の輿といって,元々お金を持っている人と結婚した人については,取り分が少なくならないと配偶者の貢献に応じたということにはならないと思うんですが,引き下げる方向での提案が出てこないのはなぜかということが1点です。
  もう1点は,財産分与との対比と言われておりますが,財産分与の場合には,夫婦双方の財産の総和の原則2分の1ということになりますが,相続の場合は,生存配偶者の方は,自分の名義で持っているものはそのまま持っているわけで,そこが全く違うわけですよね。その点は,なぜ考慮するという方向にならなかったのかという,要するに,財産分与との対比と言われるならば,生存配偶者名義財産の清算も本来は考慮すべきところなんですが,なぜそうならなかったのかという2点をお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 まず,婚姻期間が短い人については,むしろ現行法よりも少なくなる場合があっていいのではないかということですが,我々としてもそういう考え方は十分あり得るだろうと思っております。その点について,是非御議論いただきたいと思っているところでございまして,まず,2ページの3の財産分与的な手続を遺産分割手続の前に置いて,その後,遺産分割をするという方策をとった場合には,これをこのまま適用いたしますと,実質的夫婦共有財産が非常に少ない人については,その財産分与的な手続の中では余り取れないことになり,しかも,その後の遺産分割における法定相続分は,現行の法定相続分より下げることを念頭に置いておりますので,現行より取り分が減る場合が生じることになるだろうと思います。
  それから,この4の配偶者加算額の考え方,これ自体は,御指摘のとおり,配偶者の取り分が現行より減ることは想定しておりませんが,ただ,考え方としては,資料6ページの(注2)にある「配偶者加算額が負の数値になる場合について」というのが増田委員の問題意識に沿ったものでございまして,7ページの冒頭にありますとおり,負の数値になるような場合は配偶者の貢献は本来少ないはずですので,そのような場合も含め,この計算式に従って取得額を決めるというのは考えられるのではないかと思います。
  更に,生存配偶者名義の財産を考慮しないのかという点は,こちらも問題意識を持っており,資料の3の考え方,これは基本的には離婚における財産分与と同じような考え方で最初に清算することを想定しておりますので,これは生存配偶者名義の財産も一応考慮した上で清算をするということを前提にしております。
○大村部会長 2点について御質問いただきましたけれども,いずれについても,増田委員御指摘のように,財産分与並びで考えるのならば現状より配偶者の取り分が減ることもあるであろう。また,その被相続人だけではなくて,相続人の財産状態も考慮に入れなければならないということもあり得るであろう。そういうことになる。それが出発点であるけれども,しかし,そうでない考え方というのもあり得るということで提案がなされている。それに対して御意見を承れればということですね。
  増田委員,何か更に。
○増田委員 この時点では結構です。
○大村部会長 取りあえずよろしいですか。
  そのほかいかがでございましょうか。
  3や4にわたるような御質問もあろうかと思いますけれども,1,2の一般的な議論について何かございましたら,そちらもどうぞ。
○水野(紀)委員 一点だけ申し上げます。財産分与についてある種の寄与分の清算であると強調されましたり,配偶者相続権につきましても,寄与分の清算とかなり言われました。昔の非常に低額な手切れ金感覚の財産分与を増額させる論拠として,あるいは,そもそも戦後立法されるまで配偶者相続権はなかったわけですから,配偶者相続権を認めるべきだという論拠として,いわゆる内助の功ということ,内助の功の清算ということが言われました。私は内助の功をあまり強調するのはおかしいと思っております。配偶者相続分につきましても,それから夫婦財産制につきましても,この1ページの最初に書いてありますように,取り分の清算と並んで,生活保障が入っております。つまり婚姻というものは生涯にわたる2人の結び付きを保障するものであって,一方配偶者が結婚した途端に病んでしまって財産を形成するに資することが全然なかったとしても,それでもやはり相手方はその配偶者を守り続けなくてはならないという義務があります。そういう2人の生涯にわたる結び付きを保障する側面が婚姻制度の中にあって,それが故にある程度の生活保障をお互いに認め合うということが夫婦財産制の中にも発想として入っているでしょうし,配偶者相続分の中にも入っているのだろうと思います。年をとって十分に働いて2人で財産を作ってきたという場合と,そうではなく,結婚したての場合とは違うということを,まったく否定するつもりはありません。この両者の相違にある程度配慮することは,法制度の中に組み込んでいいのだろうと思いますけれども,逆に寄与分だけでこの制度を全部きれいに整理しようというのは,婚姻制度に対するある種の挑戦になってしまうのではないかと思います。完全に寄与分だけで,内助の功的なものの正当性だけで構築するのだとすると,それは婚姻ではなくて,赤の他人の2人がただ協力して暮らすことにした組合的なものと同じことになり,そういうものと婚姻というのは違うはずだろうと思います。
○大村部会長 具体的な特別な寄与ということとは別の要素によって財産分与ないし配偶者相続権は説明されるべきだという御意見ですね。
  ほかにいかがでございましょうか。
○潮見委員 今までのような実質的な話ではなく,資料の整理の仕方等も含めてのことですけれども,よろしいでしょうか。
○大村部会長 はい,どうぞ。
○潮見委員 1点目は中身に関わるのかもしれませんが,拝見していて,実質的公平という言葉がマジックワードになっているという印象を強く受けます。今回の相続法制の見直しということを考えるに当たって,実質的公平を確保しなければいけないということが,これまで言われてきたところでは主にその1ページ目の配偶者の貢献,こういうものが現在の法定相続制度の中で十分に考慮されていない。その部分を考慮していないことが,公平に反するといいますか,実質的公平に反するなる言葉で表現されているところがあったと思います。
  ところが,その一方で,これは前回,前々回の資料等もいろいろ見ていて感じるところなんですけれども,他方で,法定相続制を考えるときには,今申し上げたような配偶者の貢献以外の,それぞれの相続の場における,例えばその婚姻期間だとか,年齢とか,そうした様々な要素を考慮に入れて法定相続制度を組み立て,柔軟に対応することができるようなものでなければ,在るべき法定相続制度の姿とはかけ離れたものになる。そういう観点から「実質的公平」ということが言われているような向きもあるのではないかと思います。つまり,様々なファクターというものを考慮に入れた形での,いろいろな場面に対応できる,そういう法定相続制度が望ましいと。それは何か,しかも,その上でその典型的なものを何か作った上で,それをどう修正していくのかという観点から論じている嫌いがあるので,本当にそれでいいのかということについて,個人的には,特に後者の方向について疑問を持っているということを一言申し上げておきたいと思います。
  それから,もう一つは,これから先の議論に関わるのかもしれませんけれども,この後の2とか3の整理の仕方について,ちょっとだけ御質問あるいは御確認させていただきたいということも込めて発言をさせていただきたいと思います。
  2と3というもので,この二つだけ挙げておられますけれども,論理的な整理ではないですね。また,それ以外の方法もありますよね。その辺りのところを,なぜこの2と3に絞ったのかというところを御質問させてください。
  例えば,配偶者の法定相続分について,今2分の1を単純に増やすという,シンプルに考えればそれもあるはずです。今の2分の1というところでは,先ほど申し上げましたような配偶者の貢献というものが典型的には評価されていない,あるいは不十分にしか評価されていないし,先ほどの沖野委員のお話ではないけれども,寄与分というところでは十分対応できないから,単純に法定相続分というものをプラスしましょうと考えることによって対応するということもあり得ると思うのですが,そういうものがないというのは意図的に落とされたんでしょうね。なぜかという辺りのところを御質問させていただきたいところですし,更に,3ですけれども,遺産分割の手続に先行して実質的夫婦共有財産の清算とありますが,これは要するに,夫婦共有財産の清算を遺産分割の前に切り出してという,先ほどの御説明のところだったと思いますけれども,例えば,その中でも,ここにお書きになっているようなこともあろうし,あるいは,実質的夫婦共有財産についての2分の1を法定するとか,固有財産について一定のものを限定列挙するというような形をとることによって紛争の長期化とかそういうことを避けるということも,私が取るとか取らないということは別としてあり得るはずなのに,そのような部分が完全に,この部分の説明からは落ちているというのはなぜなのでしょうか。
  4の方もそうなのであって,では,この枠組みを取った場合に,タイトルを見れば,「遺産の属性に応じて計算した一定の金額(配偶者加算額)を配偶者の具体的相続分に上乗せする」ということで,これはまた遺産分割手続の中で,しかも,その相続分ということを何らかの形で操作しようという趣旨に出たものだと思いますけれども,例えば,今日,席上配布していただいた比較法的な傾向を見たところでは,単純に一定の金額を加算とか定額加算みたいなことも考えようによってはあるわけですよね。でも,そういうことは余り出ない形で,その中に書かれているところを見れば,どうも加算の部分についてどういうロジックを使っているのかといったら,結局は3のところと同じように実質的夫婦共有財産と固有財産というものを分けて考えていくと。単にその3の手続が遺産分割の中に入ってきているという,だから,それだけとも,言いすぎかもしれませんけれども,それだけかもしれないような,そういう提案がされています。なぜこれに限られたのかというようなところもまた少し御説明を頂ければ有り難いですし,更に,仮にこの枠組みでいった場合でも,先ほどの夫婦の実質的共有財産についての2分の1の法定あるいはその固有財産の列挙というのは,4の枠組みを取ることと論理的には直結しないにもかかわらず,ここだけその部分について説明をされているというのは一体いかがなものなのかと思います。いずれも形式的なところについての確認の質問ですけれども,もしお考えのあるところがあったらお教えいただければ有り難いところです。
○堂薗幹事 法定相続分自体を引き上げるということも当然検討の対象に入ってくるんだろうと思います。ただ,ここでその考え方を挙げなかったのは,資料の問題の所在でも触れておりますとおり,高齢者の再婚が非常に増えている反面,高齢化社会によって婚姻期間が長くなるケースも非常に増えてきており,婚姻形態にも様々な態様がある中で,法定相続分を一律に引き上げるということになりますと,先ほどの婚姻期間の長短によるアンバランスが更に広がることになりますので,現行以上に法定相続分を引き上げるというのは難しい面があるのではないかと考えたためです。ただ,そういった方向性についても検討すべきであるということであれば,当然検討したいと思います。
  それから,この3と4の考え方でございますが,この点については,確かにいろいろな考え方がほかにもあるんだろうと思います。この3と4の考え方は,いずれも配偶者の貢献を実質的に考慮することを意図したものですが,3の考え方にある問題点を踏まえ,これを若干発展させたものが4の考え方ということでございます。
  これは,昭和55年当時の検討にも関わってくる問題なんですけれども,昭和55年当時の検討の際には,法定相続分を引き上げるという考え方と,夫婦財産制を変えて夫婦共有制にするという二つの考え方が検討されたと聞いておりますが,どちらかというと,この3と4の考え方は,その中間的な類型を探っているという趣旨でございます。資料では,その中でも好対照な考え方を取り上げたという趣旨でございまして,この3の考え方は財産分与に近付けた考え方であり,最も実質的な貢献を考慮に入れたものでございます。そういった意味では,結果的には,最も配偶者の貢献に応じた形で遺産の分配がされるというところはあると思いますが,他方で,デメリットとしては,非常に紛争が複雑・困難化するという面があるのではないかと思います。
  それに対して,4の考え方は,配偶者の実質的な貢献を考慮するんですが,できるだけ紛争が複雑化しないように,紛争が複雑化しそうなところについては,一定の割り切りをしてしまうというものです。配偶者の貢献分を2分の1に固定するというところもそうですし,固有財産を限定列挙するというのもそのような趣旨に基づくもので,最も割り切った考え方をすると,こういう考え方もあるのではないかということで,ご提案したものです。この3と4の考え方以外にも,その中間形態としていろいろな考え方があり得ると思いますし,また,それとは全く別の発想から別の方策を考えるということもあるんだろうと思いますが,取りあえず議論の叩き台として3と4の考え方を取り上げたということでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
  具体的な案として,3と4の二つが出ていますけれども,今,事務当局から御説明がございましたが,昭和55年の改正の際に,一方で検討されたのは夫婦財産制を共有制にするという方策でしたが,非常に複雑なものを抱え込むことになるということで断念されたという経緯があろうかと思います。そこで,相続分を一律に引き上げるということで対応したわけですけれども,その二つの選択肢の間で手続の簡明さを保持しつつ,しかし,従前よりは実質を考慮したものを考えられないかということで3と4が出ているという御説明だったかと思います。3と4の間で幾つかの組合せというのはあり得るだろうというのも潮見委員の御質問のとおりだったのではないかと思います。
  例えば,御指摘があった相続分の一律引上げというようなことについて,もし皆様の方から御意見があれば,それについても伺いたいと思います。ただ,御質問はもう一つあったように思いますが。一番最初の,用語の問題をいいですか。
○潮見委員 今日のところは結構です。
○堂薗幹事 検討させていただきます。
○大村部会長 実質的な,一つの言葉でいろいろなことを含ませるよりは,含まれているものを具体的に示して明確にした方がよいという御指摘かと思いますので,そこは御注意をいただきたいと思います。
  相続分引上げだという解決もあり得ないわけではないという御指摘がありましたけれども,何かこの3,4の外にある方策について,今の段階で3,4だけではなくて,選択肢として加えて検討すべきではないかといった御意見がございましたら伺えればと思います。
○八木委員 前提の問題なのですけれども,これまでの議論とも関係するんですが,概念規定の問題です。固有財産と実質的夫婦共有財産に分けると,ここはいいんですけれども,固有財産について,婚姻以前に形成された財産と,被相続人が相続によって取得した財産,ここまではいいんだと思います。問題は,実質的夫婦共有財産でして,これを説明するに当たって,婚姻期間中に配偶者が財産の形成あるいは維持について貢献したとか協力したとか内助の功があるとか,こういった話になっているのですが,そうなりますと,では,それはどの程度なのかというところで紛争が起きるという指摘かと思うのです。ここで,やはり割り切り方というのが必要になってくると思うのですけれども,実質的というのかどうか分かりませんが,夫婦共有財産とは婚姻期間中に形成した財産というようにすっぱり割り切って,すなわち,相続時に被相続人が持っていた財産の中で固有財産を除くという割り切り方もあるのではないのかなと考えてきたのですけれども,その辺いかがなものなのかということです。
○堂薗幹事 この4の考え方がどちらかというと八木先生が言われた方向性で考えたものです。資料5ページの③のところで固有財産をこの二つに限定しておりますが,八木先生のお考えですと,③のアだけでいいのではないかという御趣旨でしょうか。
○八木委員 いや,イも入ります。婚姻期間中に,婚姻期間中って実態というのはもう人それぞれですから,別居していたのにとか,全然協力してくれなかったのにとか,そういうところで恐らく紛争になるという指摘だと思うんですね。ですから,具体的に言うと,これ以外にあるのかどうか分かりませんが,例えば,自分の小遣いで株を買って,その株でたまたま儲かったとか,これをどう考えるのかとか,それは離婚時の財産分与の問題でも発生すると思うのですけれども,その辺,どこかですっぱりと割り切る必要があるのではないかという指摘です。
○大村部会長 事務局の御説明ございましたけれども,資料5ページの②,③が八木委員が御指摘になったような考え方に立って切り分けをしてはどうかという御提案かと思います。これは4の方の案について付けられておりまして,3の方には付いておりませんけれども,この考え方は4ではなくて3にも使うことは可能だろうと思われますので,仮に3を取るとしても,ここだけは,やはりこういう切り分けをしたらどうかというような御意見はあり得るだろうと思います。そういうことを考えた方がよろしいのではないかという御指摘として承りました。
○中田委員 3と4以外の一般的なこともという部会長のお話でしたので,昭和55年改正との関係で御質問と,それから御提案とがございます。
  昭和55年改正で配偶者相続分を引き上げたわけですが,現在更にそれを改正する必要があるということは,配偶者をより保護しようとするという,先ほどの潮見委員のご発言にもありましたように,相続分を更に上げるというのと,それから,多様な婚姻の実質をより反映するのが望ましいというのと,二つの方向があると思います。どちらかというと,事務局はむしろ実質の反映の方を強調しておられるのではないかと思ったんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。これが1点です。
  もう一つは,相続分の話ではないんですけれども,やはり昭和55年改正で,遺産分割の基準を示す906条の改正もあったかと存じます。そこで新たに入った部分は,各相続人の年齢ですとか心身の状態ですとか生活の状況といったことであり,これは必ずしも現在の問題を考慮しているものばかりではなく,例えば,未成熟子の保護というのも入っていたとは思うんですが,これを高齢の配偶者など現在の問題にも非常に有効に使い得るのではないだろうかと思います。ただ,906条自体が,特に協議分割の場合には法的拘束力を持たないというので,余り意味がないということで検討の対象になっていないのかもしれませんけれども,906条の拘束力をもう少し強めるという方向での対応というのもあるのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。2点,御指摘を頂きました。
○堂薗幹事 まず,方向性としては,単純に配偶者の保護をより図るというものと,多様な婚姻形態についてそれに応じた遺産の分配を実現し,実質的な公平を図るというものの二つがあろうかと思います。事務局として,そのいずれかの方向を目指しているということではございませんので,正にその点をこの場でも御議論いただきたいと考えているところでございます。ただ,今回の法制審の諮問事項の中には,配偶者の保護が入っておりますので,そのような観点からの見直しというのは必要になりますけれども,配偶者の保護といっても,配偶者を一律に保護するのが妥当なのか,あるいは婚姻関係を長期にわたって継続し,遺産の形成に貢献のある配偶者をより手厚く保護するという方向が妥当なのかという点についてはいろいろな考え方があろうかと思います。
  それから,906条のところは,こちらとしては検討が十分にできておりませんので,御指摘を踏まえ検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか,中田委員。
○中田委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 2点目の御指摘は,多分,潮見委員の先ほどの一番最初の御指摘とも関わっていて,実質的な公平というときに,言わば定型的な考慮を要するものと,個別具体的な考慮を要するものとが含まれていはしまいかという,そういう御指摘であろうと思って伺いました。今回の案は,どちらかというと定型的な公平さを確保するというところに重点が置かれていますけれども,中田委員の御指摘は,もっと具体的なものについて906条の線で考えるという道もあるのではないかという御指摘であると理解しましたが,よろしいでしょうか。
○中田委員 はい,ありがとうございます。
  例えば前回のテーマですけれども,居住権の保護というのも,「生活の状況」という中に55年当時は盛り込まれていたのではないかと思います。ですから,そういう意味で906条について,もう一度現代的に検討する余地があるのではないかということでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
○南部委員 質問なんですが,聞いていれば聞いているほど複雑になってきて,よく分からないところがたくさんあります。
  まず,実質的夫婦共有財産や共同債務を考慮するということです。計算方法等,書かれているんですけれども,実際にこれができるのかどうかというのが一般的な市民としての疑問です。というのも,かなり高齢になってこられた方が多いかと思います。その上で,例えば痴呆になった方であれば,夫婦共有財産がどれで,固有財産がどれというのを誰が見分けるかという問題があると思います。そういったことを踏まえてどういう計算をし,公平に考えていくかの方向性がもし分かれば教えていただきたいと思っております。その立証の難しさがあるかと思います。また,実質的夫婦共有財産がほとんどない高齢者であっても,生存する配偶者が介護などで寄与貢献した場合,もうどうにもならないという答えなのかどうかということを含めて,もし現時点のお考えがあれば教えていただきたい。できる限り一般の市民が見て分かりやすいものを作っていくべきだと思いますので,その辺も考慮に入れて先生方のお話を深化させていただけたらと思います。
○堂薗幹事 まず,債務,特に実質的夫婦共同債務と固有の債務を現実的に区別することができるのかという点は非常に大きな問題でございまして,御指摘のとおり,それが実際に実務で機能するような形で区別できるのかというところが,正にこのような考え方を採る上で最も難しい問題ではないかと,こちらとしても認識しているところでございます。
  この資料では,取りあえず積極財産についてのみ固有財産を限定列挙して,それ以外については実質的夫婦共有財産とみなすというような考え方を4の中で示しているところでございます。この考え方において債務を考慮すべきかどうかというのが,極めて大きな問題だと思いますけれども,仮に債務についても考慮するとした場合には,やはりそのどちらに当たるかという紛争ができるだけ生じないように,例えば,固有債務についても積極財産とパラレルのような形で限定列挙し,それ以外のものについては,相続の場面では実質的夫婦共同債務とみなすというような方策をとることも必要になってくるのではないかと考えているところでございます。
○下山関係官 2番目の御質問につきましては,まず,第1で書かれている方策につきましては,実質的夫婦共有財産がなければ,この方策を採用した場合には,その取り分,具体的な相続分は,その分減少する可能性はあります。ただ,別途,療養看護などで貢献があるという場合には,寄与分として具体的な相続分が増えるという場合がございますので,こちらの方で手当がされるという可能性は考えられます。
○大村部会長 よろしいですか。
○浅田委員 総論のところ,2について第三者の観点からのコメントと,それから質問があります。
  従前から申し上げていることの延長線にある話ですが,ここでも第三者の観点からということで,2ページの2段目以降でご検討いただいておりまして,有り難いことだと思っております。
  その中で,昭和55年の民法改正の際に検討された夫婦共有財産制というのは,深く承知はしておりませんけれども,なかなか,制度的には第三者として受け入れるのが困難な制度だったのかなと思っております。その観点からは,ここに書いてあります3,4の提案というのは,それよりは簡易な制度になり得る可能性を秘めているのかなと思っております。
  その上で申し上げるわけでありますけれども,財産の承継に関して,例えば,銀行取引でいきますと預金ということになりますけれども,分与,すなわち相続財産の割合が複雑になるということ,それから早期解決が難しくなるということは,第三者にとってはなかなか辛いことなのかなと思います。
  遺産分割が成立する時期がある程度明確になるということであるとしても,それまでの間に相続人がその財産の使用を希望した場合の,当該相続人の利益ということも勘案する必要があります。預金であれば,生活費用に充てるためにを払戻を受けたいということはあり得る話です。紛争の長期化・複雑化というのは,やはり公平という,先ほどの議論から出てきます実質的な公平とかいうような価値ということも併せて考慮すべきではないのかなと思っております。
  預金に関しては,従前から申し上げていますように,一つの提案として,第1回の審議の際にもコメントいたしましたが,預金の性質または相続の際の取扱いを法定することによって解決の道があるのかもしれないとは思っております。それは,そのテーマを審議するときに,議論していただければ有り難いと思っています。
  一方で,先ほどご指摘もありました相続債務の話に関して言いますと,従前の議論と,この資料を拝見しますと,どちらかというと,相続人間の分担をどう決めるのかという提案のように見受けられるところであります。一方で,債権者の,例えば銀行の立場からすると,誰が債務者なのかということは,いわば回収の宛先ということになり重要でありますので,相続人間の任意の話合いで債務者が誰なのかということを決められてしまうというのは余り望ましくないと思っております。現行法は,ご案内のとおり,債務については当然分割承継説ですので,法定相続分によって承継されるということになっており,相続人間でそれを変更するときには現行の銀行実務上は,債権者の同意をもって,債務引受契約等をすることによって調整されることになります。この方法は,債権者の同意,承諾が前提でありますけれども,これが今般の制度設計変更の中で,勝手に変えられてしまうということになれば困るなと思っています。
  そこで質問でございますけれども,この3,4の提案の中で書かれているものについて,その債権者に対する効果といいましょうか,拘束というのはどうなのかということを改めて確認したいと思います。
○堂薗幹事 それでは,まず遺産分割成立までの間の権利関係をどうするかというような辺りでございますが,これは3でも4でも,こういった考え方を採った場合には遺産分割が成立するまでの期間が長期化するおそれがありますので,特にその間の権利関係がどうなるか,現行法のままでいいのかどうかという点については慎重に検討する必要があると考えております。預金債権については,現行法の下では,原則としては遺産分割の対象財産に含まれないとされていて,当然分割されるようになっているわけですけれども,それが妥当なのかどうかという辺りについては,今後この場でも御議論いただければと考えているところでございます。
  次に,債務がどうなるかというところでございますが,この3の考え方も4の考え方も基本的には債務の承継自体は変わらないという前提で考えております。基本的に3の考え方は,離婚における財産分与と同じように,プラス財産とマイナス財産を考慮しますけれども,その結果プラスがあるという場合に,そのプラス部分をどう分けるかという話ですので,債務自体は法定相続分に従って承継するということになるのではないかと考えております。
  それから,4の考え方は,基本的には,配偶者加算額については現行の寄与分と同様の取扱いをすることを考えておりますので,そういった意味で,配偶者加算額の計算をする際に,債務を考慮するかどうかと関わりなく,債務については法定相続分どおりに承継されるということを前提に制度設計しております。そういった意味で,債権者の方から見て,遺産分割が成立するまで,誰が幾らの債務を負っているのか分からないという状態にはならないようにする必要があるというのは,こちらも認識しているところでございます。
○潮見委員 細かいことの質問。3の考え方を採った場合の今の債務の承継,法定相続分とおっしゃられましたが,それは2ページ目の(1)の③に書いてある,この法定相続分を指しておられるんですか。つまり,実質的な夫婦共有財産というものがあって,それを清算して,残った共有財産について,その現行の法定相続分が減少した相続分というものを採用しようと。この法定相続分に従って債務というものが仮に分割される場合には分割承継だという御理解をされているのか,それとも,実質的な夫婦共有財産の在り方も含めた形で考えているのか,多分後者ではないと思うんですけれども,そこだけ確認させてください。
○堂薗幹事 基本的には前者のような考え方になってしまうのではないかと思います。その場合に,3の考え方によると,現行よりも配偶者の取り分が増えるにもかかわらず承継する債務の額が少なくなってしまうという問題があるかなという気はしているんですが,ただ,少なくとも先行する手続の中では,積極財産と債務を比較し,プラス財産がどれだけあるかということを計算した上で取り分を決めますので,そうなってもやむを得ない面があるのではないか考えております。ただ,確かに,3の考え方を採った場合に,債務が当然にこの3の法定相続分を前提に承継されるということでいいのかどうかというのは,こちらも疑問には思っているところでございます。
○大村部会長 浅田委員も,先ほどのお答えでよろしゅうございましょうか。
  皆さんから既に3,4に関わる御質問や御意見も出ておりますので,3,4に移った方がよいと思います。ただ,1,2につきまして,婚姻の状況が多様化していて,夫婦の婚姻期間などがかなりいろいろなものがあるという状況になっている。にもかかわらず,配偶者相続分が2分の1ということでよいのかというのがここの今回の御提案の出発点になっているかと思いますけれども,この認識について何か御意見がある方がいらっしゃれば,それを伺った上で3,4に進みたいと思います。この点について何か御意見ございますか。
  いろいろな夫婦の在り方が出てきていて,それに対する対応が可能であれば考えようというのがここでの提案ですが,しかし,それによって様々な不確定要因も抱え込むことになるので,どの辺りでバランスをとるべきかという形で提案されていると思います。その枠組みは取りあえず共有されているということで先に進ませていただいてよろしゅうございましょうか。
  では,村田委員から順番に伺います。
○村田委員 1点質問なんですけれども,先ほど八木委員からお話があったところに若干絡むかと思うんですが,1の総論的なところで,いろいろな態様の婚姻生活があるということの御指摘の中に,別居期間が長く実質的な婚姻生活はそれほどなかったような者もいるのではないかという御指摘があります。この部分の問題意識は各論のどこかで受けているのでしょうか。それとも,なかなか難しい問題だと思いますので,そこはあえて外して考えるということなのでしょうか。
○堂薗幹事 まず,3の考え方については,基本的に離婚における財産分与と同じように考えていますので,そういった意味では,別居が長期化して婚姻関係が完全に破綻しているというような場合には,それ以降のものについては実質的夫婦共有財産としては考慮しないと,そういう解釈は十分あるんだろうと思います。
  4においても同じようにそういった解釈をとることはあると思いますし,ただ,その辺の紛争をできるだけ生じないようにするというのが4の基本的なコンセプトではありますので,そこを含めて争点化しないということも,そこは形式的に見てしまうということもあり得ると思います。
○大村部会長 あとはよろしゅうございますか。
○金澄幹事 1ページ目のところに,離婚における財産分与制度と相続制度の整合性ということがずっと書かれているところがございまして,現実に今,離婚の場合は,内縁配偶者に関していえば準婚理論ということで,実質財産分与のようなことがなされているわけなんですけれども,そこで,一方,相続になりますと,内縁配偶者には相続権がないということになっております。ここでも非常に大きく,財産分与と相続に関して大きな乖離があるわけなんですけれども,今回のこの考え方で実質的夫婦共有財産の清算ということになりますと,そうすると,内縁の配偶者でもずっと長い間連れ添ってくればそれなりの財産ができるということになりますので,この考え方の中には,内縁の配偶者に対しても何らかの手当がされるということも視野に入っているのかどうかというところについて,お考えがあれば教えていただきたいと思います。
○堂薗幹事 この種の問題を議論する場合に,特に法律婚について一定の保護をするという場合に内縁の配偶者をどうするのかというのは必ず問題になるところだろうとは思います。ですから,その点も含めて御議論いただく必要があるとは考えておりますが,ただ,そもそも今回の諮問の趣旨として配偶者の保護というのがあるわけですが,そこでは法律上の配偶者を念頭に置いているところがございますし,それから,そもそも相続の場合は,こういう形である程度実質的な面を考慮するにせよ,その身分関係についてはある程度形式的に考えて相続人を決めているところがありますので,相続制度の中に法律上の身分関係がない人を入れるということについては,非常にハードルが高い面があるのではないかと考えているところでございます。
○金澄幹事 そういたしますと,3ページのところの(2)の基本的な考え方のところに,「婚姻の効果として」と書かれておりまして,すなわち相続の枠外でということになっているんですが,やはり基本的には婚姻の効果というよりは相続でというお考えで,内縁配偶者は相続人でないのでここには入らないというお考えでしょうか。
○堂薗幹事 はい,基本的には,こちらとしてはそういう考えですけれども,ただ,特に3の考え方で,相続の前に別途財産分与的な手続を置くこととした場合には,先ほどのように,相続の場面では法律の身分関係に従って形式的に判断するというところがそのまま妥当するのか,別途解釈上問題にはなり得るのではないかと思います。ですから,そういった意味では,3と4の方策を比べた場合は,3の方策をとった方が,その点がより問題になるのではないかという印象は持っております。
○大村部会長 先ほど村田委員からの御質問もありましたけれども,3と4で,4は相続制度の中に包摂されるものを想定していますので,割合画一的なものを念頭に置いて御提案がなされたかと思います。しかし,3は必ずしもそうではありませんので,別居後の処理とか,今の内縁配偶者の処理とかについて柔軟な対応ができるかもしれない。ただし,柔軟になる分だけ処理も難しくなるということかと思いますけれども,よろしゅうございましょうか。
○金澄幹事 ありがとうございます。
○垣内幹事 今の御発言にも若干関連するかと思うんですけれども,1ページの,先ほど村田委員からも御指摘のあった点にも若干関連いたしますが,事例として,形式的には婚姻期間が長期にわたる場合で,しかし,別居期間が長く実質的な婚姻生活はそれほどなかった場合というのが挙げられているんですけれども,他方,事実婚との関係で申しますと,形式的には婚姻期間は短いんだけれども,長期にわたって事実婚が先行しているような事例というのも,どれほど実例があるかという点はともかくとして,考えることはできるように思います。そのような場合に,最終的には法律婚をしているということで,相続人たる地位はもちろんあるということになるかと思いますけれども,その法律婚に入る前の期間に実質的に実質的共有財産的な貢献があったというような部分を考慮するというようなことも併せて念頭に置いておられるのかどうなのかという点について少し教えていただければと思いまして,御質問させていただきました。
○堂薗幹事 その点につきましては,4のところで関連する問題があるのではないかと考えておりまして,この4の方策を採った場合に,寄与分を認めるかどうか,配偶者に寄与分の主張を認めるかどうかというところは今の垣内幹事の問題意識に近いところがあるのではないかと考えております。資料では,5ページの(注)の下のところでございますが,配偶者加算額の主張と併せて通常の寄与分を主張することは認めないということにしております。ただ,こういう考え方を採ると,ご指摘のとおり,事実婚が長いような場合に,本来ですと寄与分の主張をすれば,そこでかなり認められた可能性があるにもかかわらず,結局その主張は認められないということになりますので,この考え方を採った場合には,今申し上げたような事案については,配偶者加算額を主張するのではなくて,現行の寄与分の主張をする必要があることになるのではないかと思っております。
○垣内幹事 今のお答えにも関係するかと思いますので,本来4のお話になってしまうかもしれませんけれども,5ページの固有財産の範囲に関する御提案の中で,㋐のところで,「被相続人が婚姻前に有していた財産」というカテゴリーが設けられておりますけれども,ここでいう婚姻というのはやはり法律婚であって,そこはもう解釈の余地がない明確なものであるという理解を前提にしてよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 はい,こちらとしてはそういう理解です。
○潮見委員 すみません,2点あったんですけれども,2点目は今の点で了解しました。
  もう1点,総論的なところで,先ほど部会長がおまとめになられようとした部分ですけれども,こういう背景事情を前提にしたとき,妻と子の場合は2分の1ですが,そういうルールというものでよいのか,何らかの形でそれを変えていくような方向で議論していくという方向でよろしいのかという御趣旨の発言でもあったと思いますので,一言だけ申し上げますと,今回の御提案されている内容等について議論すること自体については,私は大いに進めていって,いい解決策があれば,それはそれでいいのではないかとは思うのですが,その一方で,先ほどからも幾つか出ておりましたが,例えば,実質的夫婦共有財産,これが一体何なのかということがどうも分かりにくい。あるいは債務の承継というものがどうなるのかが分からない。あるいは紛争が長期化するおそれが極めて高い,手続も複雑化するであろう。そういうふうな状況を前にしたときに,現行の例えば法定相続分の考え方というものを基本的に維持した上で,ここに書いている背景事情を実現するために,先ほど,これは沖野委員もおっしゃったところですけれども,今日も出てきますが寄与分の制度を改良していくとか,あるいは,これは中田委員がおっしゃられた906条の部分について遺産分割の基準あるいは方向性というものを示す中で,こうした背景事情を反映させるような形で示していって,それであとは実務的な運用に任せるというようなこともあってもいいのではないでしょうか。かえって席上配布の資料に挙げられているような制度を立てることによって,背景事情を解決するがために,かえってあらぬ紛争を相当数生じさせたり,あるいは本来紛争にならないようなタイプの問題の処理に対して何かマイナスの影響を与えることにもなりかねない。そういう意見があるということだけは申し上げておきたいと思います。お答えは要りません。
○大村部会長 今の御意見は,配偶者相続分,画一的なものを出発点としていてよいのかという問題はあるだろう。しかし,解決策はこれに限られないのではないかということですね。
○潮見委員 はい。
○大村部会長 他の解決策というのも,是非何か御提案がありましたら,早い段階で出していただけますと,立ち入った検討というのができるのではないかと思います。
  もしよろしいようであれば,3,4,具体的な提案についても既にかなり御意見いただいておりますけれども,それぞれに固有の問題もあろうかと思います。最初3について伺いますけれども,3,4双方に関わるという御質問もあろうと思いますので,4にまたがっても構いませんので,御意見を頂ければと思います。
○上西委員 まず,2ページの3(1)の①に,「配偶者は,遺産分割に先立って,相続人に対し,実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる」とあります。方向性は賛成です。次の②に,「実質的夫婦共有財産に属するか否かが明らかでない財産は実質的夫婦共有財産に属するものと推定」とあります。両者がリンクしないという考えもありますが,相当リンクするであろうと思います。そして,5ページの③に書いてあることは,まず固有財産を確定するという考え方ですね。きっとこういうことになると思いますが,固有財産というのは意外に多くないような気もいたします。
  特に婚姻前に有した財産は,相続,遺贈,贈与,自分で稼いだもの等であると思いますが,明確に立証できるものというのは相続,遺贈,そして住宅資金の贈与です。これらはお互いが記録を残している贈与です。しかし,以前は60万,今は110万の非課税枠ですが,この範囲でこまめに贈与しているのは,あまり記録は残っていないのです。申告も不要ということもありますので。2ページの下の注書きに,固有財産の割合が高い場合について記載されていますが,おそらく多数の場合は,実質的夫婦共有財産が多くなる可能性が高い。そうした大きなバスケットの中に何でも入れてしまうと,事業承継がしにくくなります。例えば,子供の誰かが一緒に事業をしているような場合については,個人経営では事業用資産をどうするのか,法人形態でしたら自社株式をどうするのかということがあります。配偶者が遺産分割に先立って清算を求めることになりますと,固有財産以外の全てのものを実質的夫婦共有財産のバスケットに入れることに疑問です。場合によってはもう一つフィルターがあってもいいのかなと。すなわち,事業関連性の有無です。
  それと,3ページ(2)に「実質的夫婦共同債務」とありますが,要は,積極財産と紐付きになっているかどうかが一番のポイントかと思います。所得税では,アパート,マンションを相続したときに,それと紐付きとなっている借入金も一緒であった場合は,その部分の利息については必要経費となりますが,全く関係のない債務でしたら必要経費になりません。ですから,こういうふうに紐付きとなっているものについては相当程度リンクした形で特定できます。特定できないのは運転資金などで借りたものなのです。ですから,この実質的夫婦共同債務については,積極財産と確実に関連性があるものと,それ以外という分け方になるのかなという気がしております。
  それと,5ページの固有財産の個所ですが,配偶者の親族からの贈与というのも事実あります。事業を支援するために自分の子ではなくて,その子の配偶者に対する支援ということも多いわけです。これは全体から見れば本質的な議論ではないでしょうが,そういう事例もあるということを実務家の視点から指摘しておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。今の財産の切り分けの点について何かありますか。
○堂薗幹事 確かにこういう形で固有財産を限定列挙し,それ以外を実質的夫婦共有財産とみなすということにしますと,御指摘のような問題がやはり出てくるんだろうと思います。特に,この4の方策でもそうですが,むしろ固有財産があることによって利益を受けるのは配偶者以外の相続人になりますので,そうすると,立証責任も基本的には他の相続人の方で固有財産がこれだけありましたということを立証しない限り,遺産全てが実質的夫婦共有財産であるという前提で取得割合を決めるということにもなりかねませんので,そういった意味では,こういった考え方を採る場合には,その辺りをどう考えるのかというのは非常に難しい問題があるのではないかと思っております。
○大村部会長 具体的な指摘をたくさんいただきましたけれども,今のような包括的なお答えということでよろしゅうございますか,細かい点は後で詰めるということで。
  ほかにいかがでございましょうか。
○増田委員 理屈の問題なんですけれども,3のご提案を素直に読みますと,前回おっしゃった,遺産未分割の場合の法律関係は,現在の判例理論である物権法上の共有と変わらないという認識を維持することを前提にすると,まず相続開始当初の財産の帰属基準としての法定相続分というのがあり得るのかどうかというのが最初の疑問ですね。
  次に,素直に読むと,法定相続分による合有関係がまずあって,そこから実質的夫婦共有財産が分離される。分離されて,実質的夫婦共有財産については,恐らく生存配偶者に確定的に帰属した2分の1とほかの相続人との合有関係になる2分の1になるのかなと。合有というのは物権法上の共有と変わらないとこの間おっしゃったけれども,そういう関係になるのかなと。固有財産の方は固有財産の方で,また別の割合による合有関係になるという理解でいいのかなと,この提案ではそういう関係になるのかなと思っているんですけれども,そういう認識でいいのかどうか。
  このようなものが権利承継なのかは,それは後にします。ややこしいから。
  このルールでいくと,まず合有関係から実質的夫婦共有財産が離脱して,残りのものが遺産となる。その遺産が遺産分割の対象になるということになりそうなんですね。実質的夫婦共有財産も半分が配偶者に行って,残りの半分は固有財産と合体して遺産となって遺産分割手続になるということだという理解でいいのかどうか。
  あと,手続論に入ると,どこまで訴訟事項になるのかどうかですね。法定相続分の問題に関しては,多分今まででも訴訟事項だと理解されてきた。具体的相続分に関しては,訴訟事項ではなくて審判で決めるものだと理解されてきた。そういうことになると,ここでは,遺産確認訴訟の範囲が変わるのかも知れないけれども,別に実質的夫婦財産確認訴訟というのもあるのかどうか,その必要性を前提されているのかどうか。
  可分債権が,これもどうなるか議論してくれと言われるのかもしれないけれども,今のままであるならば,可分債権に対して相続後直ちに訴訟を起こすことができるんだけれども,もし可分債権もこのルールに属するとしたら,どういう手続によって行使できるのかという問題があります。これは後で可分債権のところを議論するときでもいいです。それまでに,そこまでの法律関係について今の理解でいいのか,どういうお考えなのか,要するに,どこからどこまでが当然の権利承継であって,どこからが新たに形成されるものなのか,それは同時に,どこまでが訴訟事項で,どこからが審判事項なのかという話と連結すると思うんです。その辺りを御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 今のは3の考え方を前提にした御質問ということでよろしいでしょうか。
○増田委員 4はまた後でうかがいます。
○堂薗幹事 分かりました。3の考え方は,基本的には,遺産分割の前に,財産分与的な手続を設けるということですので,最初の手続で清算した残りの財産,それが正に遺産分割の対象財産になるということですが,その点に関する法律関係は,基本的には現行法と同じになるのではないかと思います。したがいまして,遺産分割が成立するまでは,物権法上の共有と同じ状態になるということだろうと思いますし,その場合の共有持分は法定相続分に従うことになりますが,先ほど申し上げましたように,配偶者の法定相続分は現行よりも下がりますので,それを前提に共有持分が決まることになると思います。また,具体的相続分の定め方などについても,基本的には何ら現行法と変わりはない,したがって,具体的相続分については訴訟事項にもならないということだろうと思います。実質的夫婦共有財産であることの確認を求めることができるかどうかという点についても,離婚における財産分与の前提問題としてそういった訴訟が認められるのかという問題と同じであって,難しいのではないかと思いますが,特にその点は,この制度を新たに設けることによって生じる問題ではないのではないかと考えているところでございます。
○増田委員 離婚の財産分与で共有財産確認訴訟はありません。しかし,遺産分割の前提問題としての遺産確認訴訟というのは当然あるわけですね。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 そうすると,実質的夫婦共有財産は遺産ではないという考え方になってきますが,それは違うんですか。
○堂薗幹事 財産分与的な手続の中では,それは遺産ではないという扱いです。まず,夫婦財産を清算する手続を新たに設けるわけですので,その対象財産は遺産分割の対象財産とは異なるという前提であり,そこで清算した後の残りの部分と固有財産が正に遺産分割の対象財産になるという理解です。
○山本(克)委員 財産分与の方法については,実質的共有財産からしか給付がされないという前提なんですか。今のお話だと,そう聞こえましたけれども。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 相続開始によって,例えば実質的共有財産の持ち分が2分の1であるとすれば,妻はまず2分の1取った上で,更にその後,法定相続分プラスアルファを取るということになるんですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 物権的にも,そこの時点で財産分与の形でという仕組みで,物権的にも権利を取得してしまうという仕組みですか。
○堂薗幹事 そこはいろいろ考え方があるのではないかと思いますが,この3で考えているのは,夫婦財産の清算としてまず帰属も含めて分けてしまうという前提です。
○山本(克)委員 そうなんですか。そうすると,家だとすると,まず2分の1。夫が死んだとしますね,被相続人です。妻が財産分与分として2分の1取ってしまうと。それは遺産ではないから,遺産分割の対象は残りの2分の1の共有持ち分についてのみ遺産分割の対象になると。
○堂薗幹事 そういう理解です。
○山本(克)委員 そうですか。そうすると,また共有物分割を別途やらないと,その共有状態を解消する道はないわけですね。遺産分割の中で当該不動産の共有状態を解消する道はなくなりますよね。
○堂薗幹事 いや,財産分与的な手続で,共有が残らないような形で財産を分けるということも可能ですし。
○山本(克)委員 そこは,だから物権的,財産分与ができるかどうかというのは後の裁判によって形成されるわけですね。私が聞いているのは,相続開始と同時に,当然に2分の1取るようにも聞こえるし,財産分与によって何らかの形をするんだとも聞こえるし。だから,増田さんが聞いておられたのはそこなんだと思うんですよ。当然に2分の1分を相続か,被相続人死亡時に取ってしまうのか,それとも形成的に後の財産分与の裁判によって何らか変わってしまうのかということを聞かれて,もしそれで後の方だとすると,浅田委員がおっしゃった点については,銀行は財産分与の手続が終わるまでは払い戻しできない可能性が高いということになりますよね。違いますでしょうか。
○堂薗幹事 この3の考え方を採った場合にも,当事者は遺産分割と同じなので,もう一個の手続として併せてやってしまうと。そういう考え方を採ると……
○山本(克)委員 いや,そういうことは言ってなくて,財産分与を先行するんだけれども,財産分与の裁判をして,それによって形成された後の財産状態を前提に遺産分割をするというのがあり得るわけですよね。3通りあるわけです。だから,いきなり物権的に財産分与分が帰属してしまうと,実質的共有財産についてはという考え方と,まず財産分与の裁判で形成して,その後の結果を前提に遺産分割をするという選択肢と全部丼勘定でぐじゃぐじゃやってしまうという考え方と3通りあると思うんですが,どれなんでしょうということです。
○堂薗幹事 ここで挙げているのは財産分与と同じように,当事者間の協議が調うか審判が成立して初めて物権的な効果も生じると。したがって,それによって配偶者の取得分とされたもの以外のものが正に遺産として遺産分割の対象となるという考え方です。ここでは飽くまでも財産分与と同じものを手続的に先行させるという考え方を挙げていますが,ただ,そこは,そうではなくて,遺産分割と一体化したような手続を置くこともあり得るのではないかとは思います。
○山本(和)委員 その場合,仮に財産分与的なものを先行させるとしても,死亡後,その手続が終わるまでの実質的夫婦共有財産はどういう法律関係になっているんですか。
○堂薗幹事 ですから,その場合は,恐らく法定相続分で共有しているという状況にならざるを得ないのではないかと思います。ただ,そうすると,実際の取得額と法定相続分との乖離が非常に大きくなって,そこをどうするかという問題はあると思います。
○増田委員 そこで法定相続分と言われているけれども,その法定相続分というのは,修正された法定相続分なんですか。
○堂薗幹事 はい,そうです。
○増田委員 相続開始当初から修正された法定相続分で,つまり,実質的夫婦共有財産であっても,固有財産における法定相続分での共有関係が当初は発生しているということなんですか。
○堂薗幹事 ええ,そういうことになりますね。
○増田委員 そういうことになるの。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 かりにそれでいいとして,最初に,夫婦共有財産については分離するんですよね。分離されたときに,例えばある家が夫婦共有財産として半分が確定的に配偶者に帰属しました。残りの分は遺産共有状態です。このときには,どういう手続で共有関係を解消するんですか。
○堂薗幹事 それは遺産の中に共有財産が含まれている場合と同じ扱いをせざるを得ないとは思いますけれども。
○増田委員 残りの持分2分の1についての遺産分割手続をしろと。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 ただ,自分の持分は売れるんです。そういう考え方でいいですね。そうすると,この段階では自分の持分は確定的に取得しているから自由に処分できる,2段階目での実質的夫婦共有財産はそういう状態で,遺産分割手続の対象となるということですね。
○堂薗幹事 そうなるとは思いますが,ただ,先ほどから申し上げておりますように,仮にそういう手続を別個の手続として設けるとしても,相続の場面では,両手続の紛争当事者は同じになりますので,そこを常に別の手続として行う必要もないわけですので,全体として一個の手続の中でその二つを併せてやってしまうということもあり得るんだろうとは思っております。
○大村部会長 問題がなかなか皆さんに共有されにくいのではないと思いますが,3の問題は夫婦の財産関係を清算した後で,そして相続の遺産分割を行うという二段構えの手続を想定している。それが瞬時に行われていくということであれば,観念上の問題は存在するけれども計算はできていくわけですけれども,実際には財産分与のための期間,遺産分割のための期間というのが存在する。その間,財産関係はどうなるのですかということについて,いろいろな方から御質問が出ているというのが今の状況だと思いますが,その上で,潮見さんどうぞ。
○潮見委員 ちょっとだけ確認ですが,手続を一体的に処理することを義務づけるというのは,それは本当なんですかというのはありますけれども,夫がAで妻がBで子が2人,C,Dといるとします。Aが死亡したという場合に,先ほどの堂薗さんがおっしゃったことの確認なんですが,その場合に3の考え方を採ったら,実質的夫婦共有財産なるものと,それ以外の固有財産なるものとがあります。実質的夫婦共有財産なるものは,遺産分割とは違う手続によってその清算ということを行うことになる。具体的には,離婚の際の財産分与と同様のものをそこで考えるのだ,そういう立て付けだったと思うのですが,理屈の話で申し訳ありませんが,Aが死亡した段階で,実質的夫婦共有財産に当たるものは遺産に含まれると捉えて,そして,実質的夫婦共有財産に当たるものについての持ち分は法定相続分によって決まるという御理解ですか。
○堂薗幹事 そこは,必ず先に夫婦財産の清算をするという形で制度設計をした場合は,夫婦財産の清算が終了しない限り,遺産は確定しないと。
○潮見委員 そうだったら,死亡した段階での夫婦共同財産の帰属主体って誰ですか。今の例でいったらB,C,Dですか,それともBのみですか。Bのみって変ですよね。
○堂薗幹事 それはB,C,Dです。
○潮見委員 B,C,Dですか。
○堂薗幹事 はい。ですので,妻としては,現行法よりも減少した法定相続分で共有しているわけですが,一応その清算が済むまでは,その法定相続分を前提として,それぞれ財産を共有しているものと見ざるを得ないのではないかとは思っています。ただ,実際には,今のような形ですと,法定相続分は,例えば3分の1ということになって,配偶者の取り分は少ないように見えるんですが,実際に両手続が終了した後は,配偶者が過半数以上を取得するということになりますので,最終的に清算が終わるまでの権利関係と実際の取得額とがかなり齟齬してしまうという問題はあるんだろうとは思っております。
○潮見委員 清算が全て終わった段階は何とか説明できると思うんですが,その間の,つまり死亡してから実際に最後の清算が,広い意味での清算ですけれども,それが終了するまでの間の権利関係というものがはっきりしないと,制度として立ち行かなくなるのではないですかということを申し上げたかったのです。
○堂薗幹事 ですから,今申し上げたのは,その修正した後の法定相続分を前提に,それまでの間の法律関係を確定させるということですが,そうではなくて,こういった複雑な手続をとるわけですから,それまでの間の暫定的な権利関係は,例えば現行法と同じような割合で取得したことにするとか,あるいはその間の処分は許さないようにするとか,いろいろ考えなければいけないのではないかとは思っております。
○窪田委員 今,最後にお話を頂いたことで若干確認はしていただいたのかと思うのですが,まだよく分からない部分があります。先ほどから,この手続が確定するまでについては減少した新たな法定相続分という話は出てくるんですが,これは配偶者遺産分割に先立って実質的夫婦共有財産の清算を求めることができるという仕組みになっていて,先ほどの堂薗幹事の御説明にもあったように,常に清算をしなければいけないというわけのものではありません。だからこそ,遺産という全体の枠組みの中で考えることができるとなっていたのではないかと思うんですが,最後の点について確認したいのは,清算を求めることもできるとなっていますが,求めなかった場合に一体どうなるのかという点です。先ほどからのお話だと,3分の1という相続分になるのかなという感じもするんですが,しかし,3分の1になるというのは,清算を求めるという手続を最初に置いた場合の法律関係では,そうした減少した法定相続分になるんだというふうにすると,むしろ求めなかった場合には違う法定相続分という方が筋が通るのではないかと思います。そうだとすると,何もない,最後には清算を求めるのかもしれませんけれども,その清算手続が完了するまでの法律関係というのは,むしろ当然に3分の1になるわけではないのではないかと思うんですが,その点ちょっと確認をしていただけますでしょうか。
○堂薗幹事 資料4ページの①から④までの考え方自体,あまり明確になっていない部分があるんですが,窪田先生が言われるように,2ページの①で「実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる」ということで,これは飽くまで配偶者の選択でできるんだいう制度にするのであれば,今おっしゃられたように,配偶者がこちらを選択すればその方向で手続が進んでいきますし,逆に,そのような選択はせずに現行の手続を選択した場合には,現行法の規律に従って手続が進んでいきますし,その選択をどちらにしたかによって権利関係も変わってくるということになるのではないかという気がしております。
○増田委員 どちらか選択するということであれば,どちらも選択しないということもあり得るわけです,一つはね。かりにどちらも選択しない場合の意思の擬制を定めたとしても,そういう個人の権利行使の有無や随意の選択によって相続開始時からの権利関係が変わるというのは,理論的に既に破綻しているように思うんですよね。相続開始の時点で,すなわち死んだ瞬間にその時点での権利関係というのは確定していなければいけないわけでしょう。
○堂薗幹事 いや,ですから,基本的にオプションとして,この3の考え方を選択することができるということであれば,それは,選択するまでの間は現行法と同じということになると思います。
○増田委員 先ほどからの話だと,現行法ではなくて,修正された3分の1ということですね。
○堂薗幹事 その点については,制度の仕組み方としてはいろいろあるわけですが,夫婦の場合には常に財産分与的な手続を先行させるということになれば,先程のような説明になるのではないかと申し上げたわけで,仮にこの①のところで配偶者の選択に委ねるということになると,それはまた権利関係が大分変わってくるんだろうと思います。すなわち,手続が多少複雑になっても多くの取り分を確保したいという配偶者のために,手続の選択を認めることとするのであれば,そういう選択をするまでの間は飽くまで現行の法定相続分で権利関係を承継しているということになるのではないかと思います。当事者の意思によって権利関係が変わるのはおかしいというのは確かにあると思いますが,配偶者の選択に委ねる場合でも,例えば相続の放棄承認における熟慮期間内にそういう選択をしない限りは,現行法と同じ規律になるという形にすれば,それは現行でも相続の放棄をすれば権利関係は変わるわけですので,それと同じような形で,権利関係を確定させるということはあり得るのではないかと考えているところでございます。
○増田委員 3段階が選択が入ることによって4段階になると,こういうことでいいんですかね。詳しくは言いませんけれども,可分債権はどうこうというのもありますし,例えば株式などでは,そこで権利行使方法などがいろいろと問題になりそうな気がしますね。ほかにも第三者の関連する場面ではかなり複雑な法律関係を生むという感じはします。
○大村部会長 ありがとうございます。今の御議論は,3の1自体は,当面,選択を想定しないで作られた案かと思いますけれども,御意見が出て,選択を考えるとするとどうなるかということについて事務当局は述べられたのではないかと思います。
  皆さんの御質問は相続の手続の中で夫婦財産制の清算的なものを組み込むという仕組みなのか,そうではなくて,まず最初に夫婦財産制の清算があって,その後に相続の手続,遺産分割があるという仕組みなのか,どちらで仕組まれているのかを明確にしてほしいという,こういう御質問なのかと思いました。ちょっと整理を要する点もあるようですので,今の点について何か補足の質問がありましたら頂きまして,更に検討いただくということにしたいと思います。
○上西委員 実質的夫婦共有財産の清算と遺産分割の関係は,同様に疑問に思いました。税制は後から検討することなので別問題としまして,民法としては,どちらであるのかということを明確にされた方がよいと考えます。
  そして,実質的夫婦共有財産の範囲を決めることについて,できるかできないかということを判断することのほか,2分の1の数字は別にフィックスではなくてあくまでも推定と書いてありますので,変動し得るわけですよね。そうであれば,2分の1であるかどうかについても,他の相続人との協議が必要になってくることになります。実質的に遺産分割というものは,範囲と割合の2回協議するわけです。そうすると,フィックスした数字でない方が私はいいと思いますが,この制度を選択すると,協議の場が増えるという気がいたします。
  そして,もめるケースともめないケースがありますが,もめないケースの場合,この実質的夫婦共有財産の清算とそれ以外の残りの通常の遺産分割について,それぞれの税率を見ながら,我々は相当複雑な計算をして有利・不利を判定することになると思います。
○堂薗幹事 今の点は御指摘のとおりかと思いまして,この②については,当事者間の協議かあるいは裁判所の審判でその寄与の割合を決めるということになりますので,その分だけ紛争が非常に複雑化することになろうかと思います。3については,これを制度として実現しようとすると非常に難しい問題があるということを踏まえ,更に4のような考え方も考えてみたというところがございます。今いろいろな御指摘を頂いて,3のような考え方で制度を仕組むというのは非常に難しいということが改めて実感としてよく分かったところでございますが,引き続き御指摘を踏まえて検討してみたいと考えております。
○窪田委員 関連して検討していただきたいということで,あるいは3はもう放棄されたのかもしれませんが,私が先ほど現行法どおりの法定相続分でと申し上げたのは,もちろんそれによってかえって複雑になるという部分はあるのだろうとは思いますが,債務との関係を考えた場合に考えられるのではないのかなと思いました。
  先ほど,この清算というのをどのように位置付けるのかが手続との関係でも問題になるのではないかということがあったと思うのですが,これは全体としてどう仕組むのか,あるいはこういった選択がなされなかった場合にどういう法律関係が生じるのかというのは,おそらく債務との関係では,大きな意味があるのではないかなという気がします。
  現行の法定相続分という発想が残るのであれば,それを手掛かりとすることができますが,最初からまず清算をする,そして,その後にそれ以外の部分について相続が生じるといった場合には,被相続人の債務について一体どういうふうな処理をするのかというのはかなり深刻な問題になるのだろうと思いますので,その点も併せて御検討いただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  沖野委員,潮見委員の順で,お願いいたします。
○沖野委員 関連性は遠いんですけれども,いいですか。
○大村部会長 そうですか。では,潮見委員。
○潮見委員 私も関連性はかなり遠いので。
○大村部会長 では,戻って,沖野委員,潮見委員の順で。
○沖野委員 気になっております点が二つございます。一つは,上西委員がおっしゃった点の繰り返しですが,事業用財産というのを別立てにした方がいいのではないかという点です。もちろん事業用財産といっても夫婦で形成してきた場合もあれば,親子で形成してきた場合もあり,夫婦と子でという場合もあるというようにいろいろな場合がありますけれども。事業用財産の話は,むしろ4において,より深刻になるかと思います。
  もう一つは,遺留分との関係がどうなるのかというのが気になっております。相続の前段階として清算をする,財産もきれいに切り分けるとしたときに,自由に被相続人が処分できるような範囲とできない範囲というようなものが財産の性格によって変わってくるのかですとか,今,法定相続分が2種のものが想定されるような形で話がされています。現行の2分の1と,それから修正された3分の1というものですが,例えば遺留分などでどう働いてくるのかにも影響が出るのではないかという感じがしていまして,出なければいいのですが,そこも考える必要があるのではないかと思ったものですから,更に案を詰めていくときには御考慮いただければと思います。
○潮見委員 後者は全く同じことを言おうと思っていたところてす。遺留分制度自体の捉え方にも関わってまいりますから,是非お願いします。
○大村部会長 それでは,御意見として承って,更に検討をしていただくということにしたいと思います。
  4の方について御意見を頂きますが,関連で3に戻ることもあるべしということで御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○水野(有)委員 東京地裁の水野でございます。
  4と3と両方にまたがる問題かと思うのですが,生存配偶者の財産も対象とした場合に,先ほど来問題となっている問題が,それは遺産制なのか,夫婦共有財産制なのか,その両面なのか,やや分からないのですが,そうだとすると,例えばそれも対象,正直それを対象にしないと実質的公平は図れないものの,それを対象としてしまうと,亡くなった瞬間,生きている人の財産も共有になってしまうというとても複雑な法律関係になるような気がいたしまして,それがとても難しいなとは感じております。
○大村部会長 御指摘の点はそのとおりで,多分それを前提に3と4とを対比しているということだろうと思いますが。
  ほかはいかがでございましょうか。
○増田委員 今現在は,相続による物権変動に関しては対抗要件は要らないという理解であって,遺産分割で初めて対抗要件が必要であるということになっているんですけれども,相続に関して,そもそも財産の種類によって分け方,相続分と言ってはいけないんですね,帰属先が変わるというようなことが,元々その承継時から予定されているということになると,相続にも対抗要件が必要になるとした方がいいという可能性も残るのではないかと思いますので,その対抗要件の関係についても検討すべきではないかと思います。
○堂薗幹事 今のは4の考え方に立った場合でしょうか,両方でしょうか。
○増田委員 両方ですね。
○堂薗幹事 まず,4の考え方について言いますと,配偶者加算額という形で書いておりますけれども,これは先ほども申し上げましたとおり,取扱いとしては寄与分と同じように扱うという前提でございまして,現行の寄与分は,その貢献の実質面を考慮して上乗せすることを認めるということにしているのに対し,一定の計算式で形式的に算出された額を基に寄与分的な取扱いをするということを考えております。そういった意味では,現行の寄与分と同じような取扱いをする以上,対抗要件についても特に変えるまでの必要はないのではないかというのがこちらの整理でございます。
  3の考え方につきましても,同じような問題は離婚における財産分与にもあり,それとパラレルに考えるということでございまして,現時点では,この場面で対抗要件に関する規律を変えるというところまでは考えておりません。
○増田委員 この問題は,相続開始時の権利関係をどう組むかという問題と一緒に考えるべき問題だと思います。4については,具体的相続分ということで遺産分割時の問題と,それはいいんですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 そうですね。今の御質問ですけれども,実質的夫婦共有財産というものと固有財産というものがここに出ておりますので,それぞれ性質の違う財産なので帰属も違うのかという御疑問が生ずるわけなんですけれども,少なくとも4については,計算の中でこの財産の違い,性質の違いは考慮されはするけれども,最終的には,相続分の加算額に反映されますので,その後は従来の処理に乗せることができるというのが今の事務当局のお答えかと思います。
○山本(克)委員 3の場合でも同じなのかもしれませんが,4の場合に可分な債権が相続財産に含まれているという,かつ,それが実質的夫婦共有財産であることはあり得るわけですね。しかし,それは分割時には現行の考え方を前提とすると,分割の対象ではなくなるということ,そこの乖離はやむを得ないと。あるいは,むしろ可分債権の方を遺産分割の対象に取り込むことによって解消するか,どちらかでいくということでよろしいんですか。
○堂薗幹事 正に御指摘のとおりで,次々回ぐらいに取り上げたいと思いますが,可分債権を遺産分割の対象財産に含める必要がないかという点についても御議論をしていただく必要があるのではないかと考えております。可分債権については,寄与分の対象にもならないというような問題があって,その点の相当性については議論があるんだろうと思います。特にこういった考え方を採った場合には,その問題がよりクローズアップされることになりますので,遺産分割の対象に可分債権まで含めないと,相続人の実質的な貢献が考慮できていないということになるのではないかとは思っております。
○大村部会長 山本克己委員,よろしいですか。
○山本(克)委員 はい。
○垣内幹事 5ページの④のところで,「配偶者加算額の主張をする場合には,寄与分の主張をすることができない。」という御提案が書かれておりまして,このことの意味について少し教えていただきたいんですけれども,この④の御提案の趣旨としては,下の基本的な考え方の(注)というところの直前のところでしょうか,「紛争の複雑化,長期化という問題は多少なりとも軽減しよう」ということに主眼がある御提案と理解したんですけれども,この「主張をすることができない」というのは,最終的に実体法的な問題として配偶者加算額と寄与分の両方を認めて加算することはできないということにとどまるのか,それとも,手続的な規律として,例えば寄与分の審判の申立てをしたら,もう配偶者加算額の主張は主張自体が不適法であって主張しても何も取り上げてもらえないということなのか,あるいはその予備的主張としてならできるということなのか。仮に予備的主張としてなら両方言えるというようなことになりますと,紛争の複雑化,長期化という観点からは余り併存禁止と言っても始まらないような感じもいたしまして,その辺りどういうお考えでいらっしゃるのか,少しお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 今の点は,基本的には紛争を複雑化しないために,配偶者に選択してもらうということを考えておりますので,基本的にはどちらかが選択されればそちらしか主張できない。したがって,その選択した結果が,実際には他方を選択した場合より不利益な結果になっても,それはやむを得ないという整理をしておりますので,配偶者加算額の主張をした場合は,その後に寄与分の主張をしたとしても,それは不適法却下だという理解でございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○垣内幹事 そうしますと,今,現行法でも寄与分については申立期間の指定といったような規律が一部ありますけれども,そういう手続の初期段階に,どっちでいくのか決めなさいという期間か何かを設けて選ばせるというようなイメージになるということでしょうか。
○堂薗幹事 その辺りの部分も検討する必要があると思います。
○潮見委員 今のやり取りの確認なんですが,寄与分の主張をすれば配偶者加算額の主張は認めないということですか。配偶者加算額の中には寄与分で考慮されている以外の要素は入っていないという御理解で,つまりイコールだという理解ですか。そうではないですよね。
○堂薗幹事 ええ,イコールではないと思います。理論的には両立し得る関係にありますので両方認めるのが本来は筋なのかもしれませんが,そうすると,配偶者加算額の主張もし,それで駄目な場合に備えて寄与分の主張もするということで更に紛争が複雑化するので,そこまでは認めずに,配偶者の選択に委ねてはどうかというのがここで挙げた考え方です。ただ,5ページの下のところの(注)で書いてありますように,主張制限は設けないということも考えられるとは思います。
  また,先ほど申し上げましたように,配偶者加算額では,事実婚が先行しており,その間の貢献が大きい場合には,そこは考慮できないことになりますので,そういった問題はあるのではないかとは思っております。
○垣内幹事 御提案の趣旨は理解したつもりでおるんですけれども,そのような規律を導入する趣旨というのが専ら紛争の複雑化,長期化の防止ということであるとしますと,かなりその効果が実体的にラディカルなような気がいたしまして,手続の初期段階でかなり射倖的な選択をさせるといいますか,後で,あっちでいけばもっとずっとよかったのにというようなことが起きないとも限らないように思われますので,もう少し実体法的な理由付けができるのであれば分かるのかなという気もしないでもないんですが,専ら手続的な規律だけでそこまでの規律をとることができるのかということについて若干心配な感じを,印象を持ちましたので発言させていただきました。
○大村部会長 今の何人かの委員・幹事の方々の御指摘は,理屈としては,むしろ併存を出発点に考えるべきなのではないか,それが手続的な煩雑さをもたらすということであれば,どちらか選択というのではない形で解決するということを目指すべきではないかということになりましょうか。
○潮見委員 大村部会長の整理でいいとは思うのですが,恐らく,それは垣内幹事がおっしゃられたところにも関わるんですけれども,配偶者加算額というものの中身と,これが何を内容としているのかということと,それから寄与分がどういう内容のものなのかというところの整理をする必要があるのではないかということなんだと思います。
○窪田委員 私も基本的に同じ趣旨の発言をしようと思っておりました。特に寄与分の方ですが,寄与分は清算なのだということになりますと,配偶者加算額というのは清算の内容を含んでおりますので,その中で,つまりより上位の枠組みの中に取り込むことが可能なのだろうと思います。しかし,寄与分の方をどう構成するかということにもよりますが,共同相続人間での公平を考慮した上でのものなのだという位置づけをすると,随分性格が違うものになるだろうと思います。したがって,その点を抜きにして両者の関係を決めることはできないのではないかと思いました。また,両者が重なる場合においても,先ほど潮見委員からの御質問は多分そういう趣旨だったのだろうと思いますが,配偶者加算額の方が多分大きくて寄与分の方が小さいという関係はあるとしても,逆はないのだとすると,寄与分を取った途端に配偶者加算額は一切アウトになるというのは,やはり実体法上もかなりラディカルなものだということになると思います。
○大村部会長 実体法的な関係の整理をまず行って,その上で手続関係の調整をするという方向で,再整理をお願いしたいと思います。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 4について,そのほか。
○石井幹事 今の議論との関係なんですけれども,配偶者加算額の主張というのは,恐らく遺産分割の場面では,具体的相続分の主張として出てくるのかなと思っておったところなんですが,そうした具体的相続分の主張と寄与分の主張とのいずれか一方しか主張できないとした場合には,いずれの主張をするかについて,手続上,どのような形で選択をしてもらい,どの段階で,どのような形でそのうちの一方の主張を却下するのかといったことについて,制度の組み方が難しいのかなという印象を持ちましたので,その辺りについても御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 ちょっと細かいコメントが二つあります。一つは,4で取り上げられている制度を見ますと,確かに3の問題点であった,実質的夫婦共有財産の範囲の不明確さということについては一定の配慮がなされていると思います。ただ,ここにも書いてありますように,たとえその5ページの③のような限定をしたとしても,問題はそこの点の挙証がどうなるのかと。昔のことですから,そういう証拠が残っているかどうかということを含めて事実上の争いになり得る可能性があるということが一つです。
  それからも,7ページにも書いてあるところでありますけれども,その当時の婚姻前に有した財産というのが,その評価自体がどうであるのかということを子細に確定しておかないと,例えば,株が値上がりしたとか土地が値上がりしたとか,そういうことがありますから,そこははっきりさせておかなければならない。要は,きめの細かい制度設計が必要だと思いました。
  二つ目に,銀行から,債権者としてのコメントでありますけれども,6ページの(3)の検討課題等の配偶者加算額の計算式について,「積極財産を実質的夫婦共有財産と固有財産に区別するのみならず,相続債務ついてもこれを実質的夫婦共同債務と固有債務とに区別することが考えられる」うんぬんという部分の後段の「そこで,」以下のところに,積極財産のみを考慮するという提案が書いてあります。ここに書かれている問題点,すなわち「実質的公平を害する結果になりかねない。」というところは,そのとおりだと思います。それに加えて,債権者の立場からは,ここで挙げられている場合,すなわち不動産取得のための借り入れ等によって配偶者の取り分が多くなったというケースにおいては,配偶者加算額が多くなるということになります。そうしますと,債務を含めて配偶者加算額を計算する制度にしないと,この加算額の結果どうなるかというと,配偶者以外の相続債務者の資産が目減りするということになります。債権者からすると,その引当財産の状況が債権に見合った,先ほども確認しましたが,当然承継債務分割説との間でずれが生じてしまうということになりますので,当事者間の実質的公平を害することだけにとどまらず,その債権者も害する制度設計になりはしないかというところが危惧されます。
○大村部会長 今の御指摘の2点も含めて,更に御検討いただくということにさせていただきたいと存じます。
  ほかに4について,いかがでございましょうか。
○八木委員 基本的なところがよく分からないところがあって,趣旨としては離婚時の財産分与との整合性を図ろうということが全体としてはあると思うのです。この財産分与の制度の趣旨は恐らく,違ったら教えていただきたいんですけれども,元々自らの財産であったが故に離婚時に幾分かはそれが自分のところに移転する,あるいは生活保障という意味合いがあると思うんですね。財産分与の場合は,これは税金は非課税になるんですか,この辺教えていただきたいんですけれども,ということだと思うんですね。
  この夫婦共有財産の場合は,これも本来は恐らく大体2分の1ぐらいは自分のものであるという前提で,その死亡時にそれが清算できるということだと思うのですね。しかし,この場合は相続税が課税されていますよと。ですから,ここを制度の趣旨が本来は違うのではないのかなということを今思っておりまして,今日の議論の全体にも関わるのですけれども,果たしてその辺りはどうなのかなと思っているのですが,その辺,教えていただくと幸いです。
○堂薗幹事 まず,財産分与の制度趣旨でございますが,この点についてもいろいろな考え方があるのではないかと思いますけれども,一般的に言われているのは,八木委員の方で言われたように,一方配偶者の潜在的な持分について清算するという意味合いと,配偶者の離婚後の生活保障というようなところで,そういった意味では,ここで挙げている方策は,その制度趣旨において財産分与と非常に類似性があるのではないかと思います。
  税金の点につきましては上西委員にご説明いただければという感じもいたしますが,仮にこのような制度を設けた場合に,それをどういうふうに税金として仕組むかですね。特に3のような考え方を採りますと,財産分与との類似性がより明確になってきますので,どのように課税するのかというのは別途問題になると思いますが,ただ,それはこの場で議論する問題ではなく,別のところで議論をするということになるのではないかと思います。
○上西委員 4の場合は,当然のことながら,これは相続財産です。3の場合に,実質的共有財産について課税される遺産から外すことが妥当かについては,例えば,これが10億でも20億でもいいのかという話になりますと,課税はまた別の考え方をしてもいいのかなと思います。課税することも当然かなという気はしておりますが,それは後の制度設計だと思います。
  離婚の場合は,慰謝料債務の対価の消滅という考え方なので,もらう側については非課税です。現金を渡す側については,現金を渡すことについては現金の移動だけです。資産の移転ということになりますと,居住用の財産とかになりましたら,元々の原価があり,税法では取得費といいますけれども,譲渡益が出ることもあり得ます。ですから,所得税課税は起こり得るわけですが,もらった側について基本的に贈与税課税はありません。
○大村部会長 よろしいでしょうか,八木委員。
○八木委員 はい。
○大村部会長 ほかに。
○増田委員 この4というのは,3に比べれば非常にシンプルであって,一つの,どうやって分けるかということについてはかなり整理がされていると思うんですが,ただ,逆にそれが一般の人の目から見た場合に,現行法とどちらが割り切りやすいかという問題が出てくる。実質的な公平を図る,図ると言いながら,本当に公平になっているのか。例えば,先ほども出ましたけれども,配偶者名義の財産を清算対象から除外しているところとか,あるいは婚姻前に有していた財産,これは内縁(事実婚)当時のものは実質的夫婦共有財産に含まないとおっしゃっていたと思うんですが,そういう問題もあるし,あるいは財産分与でもよく問題になるんですけれども,婚姻前に有していた財産でも,例えば田舎で代々住んでいる家屋であっても,それがすでにぼろぼろになっておれば婚姻後にいろいろ修復をして価値を高めていっているというようなものもあるし,逆に,取得したのは共同生活をしている間であっても,これも先ほども出ていましたが,ローンを払っているのは破綻した後だというようなケースもある。そういうケースについては,この4の考え方を採ったとしても,シンプルにしたが故に実質的公平という観点からはやはり外れるわけですね。だから現行法の,いかなる財産であろうと配偶者だったら2分の1だと,子供はその残りを分けるんだという考え方も一つの割り切りなら,この4も実質的公平からずれている部分では一般人にとっては一つの割り切りがやはり必要なんですよね。そうすると,どっちが割り切りやすいかというような問題に関わってくるのかなと思います。それを避けるには,この固有財産と実質的夫婦共有財産との中身をもうちょっといろいろな場合を想定するということになるけれども,これはまだ想定し切れていないということになると思うので,その辺り,よく検討していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。今の点は御指摘のとおりだろうと思いますので,より具体的に案を詰めていただきたいと思っております。
  ほかに,いかがでございましょうか。
  それでは,休憩いたしまして,4時に再開させていただきたいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,後半の審議に入らせていただきたいと存じます。
  資料の7ページ,第2「寄与分制度の見直し」というところにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○下山関係官 それでは,第2「寄与分制度の見直し」について御説明させていただきます。
  現行の寄与分制度におきましては,「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」ことが寄与分の要件とされており,ここで,「特別の寄与」とは,一般に,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったことを意味すると解されております。
  例えば,被相続人に複数の子供がいる場合に,そのうちの一部の者のみが療養看護を行ったような場合であっても,寄与分の少なくとも文言上は,貢献の程度について他の相続人との相対的な比較を行うことは予定されていないこと,また,被相続人に対して扶助義務ないし扶養義務を負う者が行った貢献については通常期待される程度を超える貢献があったと判断することに困難な面があることなどから,寄与分が認められにくいといった指摘がされているところです。
  また,現行の寄与分制度は,「被相続人の財産の維持又は増加」について特別の寄与があった場合に寄与分を認めることとしており,基本的には,相続人の寄与を財産的に評価することを前提としているものと考えられます。しかしながら,療養看護に例をとりますと,それ自体,被相続人の財産の維持又は増加を直接の目的としてした行為ではないということなどを踏まえますと,「被相続人の財産の維持又は増加」の有無によって寄与分を認めるか否かを決定し,更にその程度によって寄与分の額を算定するということは,必ずしも相当ではないといった指摘もされているところです。
  そこで,相続人間の実質的な公平を図るという観点から,寄与分制度について,「現行の寄与分の規定に該当する場合のほか,共同相続人の間で,被相続人の療養看護〔及び扶養〕についての寄与の程度に著しい差異がある場合にも,共同相続人間の協議又は家庭裁判所の審判により,寄与分を認めることができる。」と,このような見直しをすることが考えられます。これは,現行の寄与分の要件であるところの「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」と言えない場合であっても,他の共同相続人との比較において,被相続人の療養看護についての寄与の程度に「著しい差異」があった場合には,端的にそれを理由として寄与分を認めることとして,相続人間の実質的公平を図ろうとするものでございます。
  この方策を採用する場合には,この特則の対象となる行為類型をどの範囲のものとするかが問題となります。この点は,寄与分の要件を緩和する根拠をどこに求めるかにもよるものと考えられますが,扶助義務ないし扶養義務を負っている者が行った貢献については,ほかの類型に属する貢献に比して,「通常期待される程度を超える貢献」があったとの認定をするのが困難であるといったことを根拠とするのであれば,その対象となる行為類型は療養看護型のほか,類似した扶養型も含まれてくるということが考えられます。他方,家業従事型,金銭出資型,財産管理型の寄与とは異なって,寄与行為自体が経済活動と密接に関連するものではない,被相続人の財産の維持又は増加を直接の目的としてされた行為ではないといった点に着目して,それに見合った要件を追加したという説明をするのであれば,対象となる行為類型を療養看護型に限定するといったことも考えられるかと思います。
  次に,「被相続人の財産の維持又は増加」の要件の取扱いについてでございますけれども,寄与行為によって被相続人の財産が維持又は増加したかどうかを問わないこととした場合には,寄与分の額を定める際の基準が現行法と比較して不明確なものになることが考えられるところです。そこで,「被相続人の財産の維持又は増加」を寄与分の要件としない場合であっても,この点が寄与分の額を定める際の重要な考慮要素となることを明示することも考えられます。
  他方,遺産分割は,被相続人の財産をどのように分配するかを定める手続であるということを考えれば,財産的な貢献とは無関係に相続人の取得額を増減させるのは相当ではないことから,「特別の寄与」の要件は不要とするとしても,「被相続人の財産の維持又は増加」の要件は残すことも考えられるところかと思います。
  次に,紛争の複雑化,長期化についてです。現行の寄与分制度におきましては,相続人が寄与分の主張をした場合には,当該相続人の貢献度合いが寄与分の要件を満たすものかどうか,この点のみを検討すれば足りることになります。しかしながら,この方策を採用した場合には,寄与分を主張する相続人のみならず,他の相続人の貢献の程度までも検討しなければならないことになるため,寄与分を定める事件の紛争性が増大するおそれがあるところです。
  したがって,これらの問題点について御意見を賜りたいと思っております。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  これは一般論から始まりまして,具体的な要件の設定の問題までございますけれども,全体につきまして一括して御意見を承りたいと存じます。いかがでございましょうか。
○窪田委員 寄与分の部分について御説明を頂いたところなのですが,これは私自身の意見というより,ワーキンググループの報告書が出たときに,ある同僚の研究者から指摘をされた意見で,大変に印象に残りましたので,ここでお話をしておきたいと思います。基本的には,特に療養看護型,財産の維持や増加には直結はしないとしても,そこでの公平の実現を図るということで,こうしたものについて寄与分を認めるという考え方,御説明だったと思いますし,私自身もそういう立場でこれまで積極的に発言をしてきたのですが,それに対して問題提起としてありましたのは,これはある意味では無償で近親者が介護するということにインセンティブを与えるようなものになってしまうのではないかという指摘でした。一生懸命やるということに対して,それに対して対価としては十分ではないかもしれませんが,そうした方向にリードするようなものだということになりますが,それは本来あるべき姿なのか,社会の在るべき姿として求められているものなのだろうかといういう疑問です。それ自体は問題提起としては十分にあるのかもしれないという気がしています。私自身は今,自分の立場が固まっているわけではないのですが,そういう見方もあるということも大事な点かと思いましたので,お話をさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。これを認めることがどういうメッセージを社会に向けて発することになるのか,あるいはどういうインセンティブを生じさせることになるのかという御指摘だったかと思います。
  そのほかには,いかがでございましょうか。
○石井幹事 既に資料等でも指摘されているところですが,提案では,共同相続人間に貢献の程度について著しい差異があれば寄与分を認めるとされておりますけれども,具体的にどの程度の差異があれば寄与分が認められるのかということや,それをどのように金銭評価するのかということはなかなか難しいという指摘はできるのかなと思っております。現在でも,寄与分の主張がされた事案の審理は長期化する傾向がございますので,これらの点が審理に与える影響については,やはり一定の懸念はあるのかなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。現行法の下でも寄与分はかなり難しい問題を抱えておりますので,それが拡大することになりはしまいかという御指摘かと思います。
○南部委員 まず,寄与分を認めるということ自体がどうなのかというのはこれからの議論になろうかと思うんですけれども,基準をどう作るかというのは非常に難しいと思います。大きく声を出した人が得するような内容になっては決していけないと思いますし,現在,この寄与分に関わって裁判例というのがあるんでしょうか。結果として,ここまで作る必要があるのかなと少し疑問に思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。直前に石井幹事から現状について御発言ありましたけれども,裁判所関係の方々から,現在の寄与分に関する実務について御感触等を伺えればと思いますけれども,いかがでございましょうか。
○石井幹事 療養看護型の寄与分が主張された事件数については,統計自体がございませんので,分かりませんけれども,寄与分を定める処分の審判事件につきましては,既済事件のうち,寄与分の主張が認められた事件はおおむね2割前後ございます。実務の感触としては,寄与分として認められない療養看護というのは,その行われた期間,専従の程度,対価の有無等からして,いまだ特別の寄与として認められるだけの貢献とはいえないと判断されているものが多いように思います。
○大村部会長 ありがとうございます。南部委員,よろしいですか。
  ほかにいかがでございますか。
○水野(紀)委員 第1のところで発言させていただいたのと少し関連するかと思いますが,寄与分を配偶者も主張できる可能性を含んだ形で先ほどから議論がされております。療養看護と考えたときに,配偶者の寄与分と,子供たちのうちの誰かが特に療養看護に尽くした場合を,同じ寄与分という形で捉えることができるのかという点で,そもそも論として,少し危惧しております。やはり配偶者の場合には,婚姻制度の中にある,運命共同体的な手厚い保護故に,たくさんのことが自動的に相互義務として認められるという枠組みがある。その中には,老老介護になるかもしれませんけれども,配偶者がお互いに療養介護しながら運命共同体として生きることが相当入っているのだろうと思います。そういう配偶者の寄与と,子供たちのうちの誰かが療養看護に努めたという場合の寄与を,同じ寄与分の中で考えることに相当の難しさを感じます。子供については寄与はあり得るけれども配偶者の寄与はないとするのも,一つの筋のように思います。寄与分自体を認めるかどうかということとはまた別の論点になりますけれども,もし寄与分,あるいは配偶者の加算分というような形で重ねて配偶者の寄与をお考えになるのだとすると,その辺りの御説明もしていただければと思います。
○大村部会長 水野委員は,むしろ先ほど話題になった配偶者加算分との関係でいうと,あちらでカウントされるのならば,もうこちらは要らないのではないかという立場だということですね。
○堂薗幹事 今の点につきましては,こちらも若干問題意識を持っているところがございまして,9ページの(注)のところで触れておりますが,特にこの新たな類型を設ける場合に,配偶者と子供との間に著しい差異があるかどうかというのを判断するのは非常に難しいのではないかと。元々配偶者と子供では,通常期待される程度といっても,その程度は全然違いますので,元々の基準が違うところの二つを比較するというのは非常に難しい面があると思いますので,こういった類型を新たに設ける場合にも,同一の身分関係,子供なら子供同士で違いがある場合に限るという方が理論的には一貫するのかなという印象は持っております。
○増田委員 私は,こういう療養看護・介護について,相続の枠組みで処理すべきかどうかというところに疑問を持っております。財産の維持・増殖というところを外すと,遺産分配上の問題ではなくなるのではないかと考えていて,療養介護の労力に対してどうやって報いるかということについては,どっちかというと扶養に近いものとして,そちらの方を拡張する方向というのはどうだろうかと思っている次第です。
  なぜかというと,同じ労力を掛けて,その労力について金銭評価できると考えたとしても,寄与分とした場合は,はっきり言って遺産に資力がある場合でないと,報われないわけですね。仮に遺産がある程度あったとしても,債務超過だったら駄目だし,可分債権の処理の問題は別に処理を考えるのかもしれないけれども相続財産が可分債権だけだったら,現行法ではこれも駄目だしというような,寄与分を認めたところでやはり公平でない場合というのは相当数出てくるということを考えると,どっちかというと,自分がつぎ込んだ労力に対して何らかの債権,全相続財産に対する債権があるという形の処理の方がよいのではないか。それをすると,次の第3の問題もひょっとすると解決する。要するに,相続法の枠内で考えているから,寄与分という発想になるんだけれども,寄与分ということになると相続人以外の者が手続に入ってくることに対する懸念は避けられない。しかしながら,療養介護に対する労力に対する対価というのを何らかの形で法定債権として設定すると,極端に言えば誰でもいいという話になるのではないかと思います。
  実質的公平ということを考えた場合には寄与分というか,相続の枠内で,寄与分の枠内で考えるよりも,そちらの方向かなと思っています。
○大村部会長 外で考えるということで,扶養との対比でおっしゃいましたけれども,過去の扶養料の清算のようなイメージですか。
○増田委員 現在の扶養だと非常に要件が厳しくて,要扶養状態でなければ過去の扶養料も何も請求できないわけです。だけど,そこをちょっといじって,扶養法の方を改正するというのはどうかなという発想です。
○大村部会長 発想としては,そういうイメージなのですね。
○増田委員 はい。
○山本(克)委員 増田委員に質問ですが,今,その清算の債務者は誰だという前提ですか。
○増田委員 相続人と考えています。
○山本(克)委員 相続人だとすると,抽象的な扶養義務者の範囲と相続人の範囲が違うという問題が生じるのではないのかなという気がするんですが。
○増田委員 相続人の中にも扶養義務を負っていない人がいるということですね。
○山本(克)委員 逆の場合もある。
○増田委員 確かに逆のこともありますよね。だから,その点をいじらないといけないですけれどもね。何か法定債権にして先取特権にするとか,そういう何か報われる策は必要とは思うけれども,寄与分に入れるのはちょっと違うかなというのが。
○大村部会長 潮見委員,その関連ですね。
○潮見委員 私は増田委員がおっしゃっていた方向には賛成なんです。これを寄与分で扱うことはおかしいとも思います。共感はいたします。
  その上で,先ほどの山本克己委員の質問との関係で言うと,むしろ私は,今,増田委員がおっしゃったのは,例えば療養看護型の貢献について,それを対価という観点で捉え,かつ,これを相続の枠組みから外して,純粋なピュアな債権債務の関係という形で捉えていくという方向を示唆されたのかなと思ったんです。そういう意味では,その債務者というところについて見たら,相続人という形の限定はせずに,むしろ誰というところをその財産関係,債権関係という観点で捉えていけば足りるのかなとも思ったところです。
○山本(克)委員 私も今,潮見委員がおっしゃったような方向の方が法制的には,現行の民法の考え方に親和的なのではないのかなという気がいたしました。相続に限られるところがちょっと疑問であったので,むしろ抽象的な扶養義務者の間での清算問題として捉えるべきだと。相続法から外した方がいいのではないかといった観点については同感でございます。
○大村部会長 今のを踏まえて,中田委員どうぞ。
○中田委員 私も過去の扶養料請求の問題と,扶養型の寄与分との関係を整理しておく必要があるだろうと考えています。一方で,著しい差異という要件で寄与分の方が限定されているわけですが,他方で,過去の扶養料請求が必ずしも認められない場合であっても寄与分に含めることができるというので,大小がある。更に,その債務者が誰かということとのずれもあると思いますが,ただ,実質的には,扶養型の寄与分の中で過去の扶養料請求も解決しようという発想はあるのかもしれません。ただ,前提としてやはりどこが違っているのかということは明確にしておいた方が議論が進むのではないかと思います。
○大村部会長 対比されるべき手続として,過去の扶養料請求のバリエーションを想定してみて,それと比較対照して考えるべきではないかというのが皆さんの御指摘だと承りましたが,その点に関して何かほかにございますか。
  それは,では,そういう論点が出たということで。
○堂薗幹事 そういった方向で考える場合に,療養看護のような事実行為についても,扶養義務の範疇に含まれるのかどうかという辺りが非常に問題になるのではないかと思います。学説上も非常に議論が分かれていて,むしろ事実行為については扶養義務の範疇に含まれないという見解もかなり有力であるようですし,また,過去の扶養料の清算のような形であれば,当然,要扶養状態にあることとか,あるいは扶養料を支払う側の財産状況とか,その辺りも踏まえた上で請求が認められるかどうかが決まるわけですが,この点について内部で検討した際にも,その辺りの要件をどう設定するのかとか,やはりいろいろと難しい問題があって,なかなかそういった形で新たな法定債権を作るというのは難しいなという印象を受けたものですから,その辺りについて,特に扶養義務と身体的介護との関係などについて何か御意見があればお聞かせいただければと思います。
○大村部会長 今の事務当局からの御発言について,いかがでございましょうか。
○山本(克)委員 ちょっと確認です。例えば,3人の子供がいて,3人の子供の間で親の介護について方針を立てて,親はお金は持っているんだけれども,一人暮らしでどうしたらいいか。一番近い人は直接介護,スウェットエクイティですね,汗をかくと。あとの2人は応分のお金を支払いますという協議をしたというときに,その汗をかいた人は扶養していないことになるということなんですかね。
○堂薗幹事 そもそも身体的介護が法律上の義務としてやっているのか,飽くまでも任意に倫理上やっているのかという辺りで議論があるようでございます。
○山本(克)委員 義務でなくても事務管理的に考えれば,その清算ということでいいのではないのかなという感じがしますけれども。ほかの人が介護,お父さんは他人の介護を受け付けないので子供でないと嫌だと言っていると。だからやりましたと。ほかの子供には,その分得しているんだから,その事務管理的費用が,事務管理的なものができるというので,この場合だっていけるような気がするんですけれども。
○堂薗幹事 検討したいと思いますが,ただ,その場合も,ほかの子供が療養看護の義務を負っていると言えないと,他人の事務とも言えませんので,その辺りはどのように要件設定をしたらいいのか,非常に難しいという印象を受けたところでございます。
○山本(克)委員 分かりました。
○大村部会長 山本委員がおっしゃった,子供たちの間で協議ができていて,そこに契約関係を認めることができる場合には多分それで処理できるだろうと思います。そこで,それ以外の場合にどうするのかということかと思いますけれども。
  先ほどの扶養義務と介護の関係について,何か御発言があれば承りますけれども。
○中田委員 その点について,まとまった見解を出すということは難しいのではないかと思います。今,堂薗幹事が挙げられた,事実行為をどう評価するかという問題もありますし,それから,扶養可能性が要件になっているということについては,むしろ親に対する扶養義務をどのようなレベルのものと見るかについての意見の対立もあるということから,統一的な方針というのは難しいと思います。ただ,その問題点を明らかにするという意味はあるのではないかと思います。
○大村部会長 今の点との関連で何か御発言ございますか。確かに非常に難しい問題で,どれかの見解で,それに従って整理できるということにはなかなかなりにくいように思いますけれども,しかし対比してお考えいただくということは必要だろうという御指摘として承りました。
  ほかに,この第2の寄与分制度の見直しにつきまして,御意見いただけますでしょうか。特にございませんでしょうか。
○増田委員 誰からも出ないので,少し実態についてお話ししておきます。実際には寄与分の争いというのは,かなり激しいものがあって,特に療養看護が問題となっているときというのは,非常に感情的な紛争が多いです。だから,私は余り寄与分の範囲を拡張したくないというのが感想です。本当にきちんと療養介護した人には,先ほど言ったように何らかの形で報いる必要はあるかと思いますが,寄与分が問題となるケースで複数経験しているところで,今までいた他の兄弟姉妹の家から死期が迫った親を強引に引き取ってきて,その親の意思とか余り関係なく一生懸命介護しているぞというポーズをとるとか,そのときには,ほかの子供,兄弟たちには親を会わせないとか,そういう取り込み型というのが少なからずあるということです。必ずしもきれいごとだけでは捉え切れないというところは,実状としてお話ししておきます。
○大村部会長 全体として,相続法の中で,新たな寄与分ということで認めていくのにネガティブな御発言が多いように思いますけれども,いや,こういうメリットもあるんだというような御発言が,もしあれば承りたいと思います。
○八木委員 基本的なことですけれども,現行法とどう変わるかということですか。扶養をこの中に入れるという趣旨なのですか。療養看護は現行法に,入っていますよね。それに加えて扶養若しくは,更に家事従事とか金銭出資とか一杯並んでいますけれども,そういったものを入れてはどうかという御提案なのですか。
○大村部会長 実質的にどこが変わってくるのかという御質問ですね。
○八木委員 ええ,そうです。
○堂薗幹事 まず,現行の寄与分におきましても,療養看護について特別の寄与があったと認められれば,寄与分は認められるということになってございます。ただ,ここにも書いてありますように,現行の寄与分の要件である特別の寄与というのは,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったということで,この定義からすると,どちらかというと絶対的な基準で考えているところがあって,特に扶養義務,あるいは扶助義務のような形で民法上も一定のことが期待されている身分関係にある人については,その期待されている程度を超えるというのはなかなか難しい面もあるのではないかという問題意識から,絶対的な基準ではなくて,同じように期待される人が何人もいるときに,一人の人がしていない,あるいは一人の人だけがしているというような場合に,絶対的基準によれば特別な寄与と言えない場合でも,相対的な基準で寄与分を認めて,その貢献に報いるということがあってもいいのではないかという観点から,このような考え方を取り上げたということでございます。
○八木委員 ハードルを下げるということ。
○堂薗幹事 はい,そういう方向性になると思います。
○潮見委員 そういう見方があるのも分かりますけれども,むしろ,従来の寄与分の制度というのは,資料を使えば,9ページのところにある「被相続人の財産の維持又は増加」,ここに結び付くものでなければ寄与分としての考慮はしない。つまり,財産相続というものが前提ですから,その部分に関係をしないような,いわゆる広い意味での寄与というものがあったとしても,それは相続制度の下では考慮しない,すべきではないというところがまず一つの柱ではないかと思います。そういう意味では,今回の議論の中でこういう財産の維持又は増加ということと直結しない,あるいは関連性を持たせられないような形での扶養だとか,あるいは療養看護型の寄与がされたときに,それに対して,寄与分という形で評価をすることにより何らかの対価を与える。しかも,それを相続制度の中で認めるというところまでいくかどうかというのが一つの大きな転換点だと思います。その上で,それがあって次に,堂薗幹事がおっしゃられたような,そういう場合に従来とは違えて,レベル的に少し下げる形で療養看護等について何らかの形でその対価付与に結び付くような考慮をするというところまで進むかどうかという問題があり,後者の場合については,それは本当にそれでいいんですかという問題があるとともに,先ほどから若干議論がありましたけれども,一方で扶養型の場合には扶養義務が課されていますから,そういう範囲内のものなのか,それを超えるものなのか,その線引きとして,従来言われていた特別の寄与,通常期待される程度を超える寄与,そういう基準というものができるかどうかということが争点として登場してくる,こういう整理ではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。
○森委員 八木委員の御質問に対するお答えになるかどうか分からないんですけれども,実務的な感覚では,ここで具体的な判断に悩んでいる裁判官も多いと思うのですが,今,潮見委員がおっしゃったように,現行制度の下では,相続財産の増加・維持に結び付くものでなければ寄与分として認められないんですね。今回出てきている案というのは,相続財産の増加・維持との結び付きがない貢献でも寄与分として認めるというものであり,判断に当たって,いろいろな人たちの療養看護の足跡をずっと追っていくことになるので,相続の問題とは違うのではないかという意見もあれば,争う人も争いの対象もどんどん広がってしまうのではないかという意見もあるということになるんだと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 先ほどご質問があったこの特則の整理のところでございますが,こちらとしては,例えば治療を要するような方,あるいは介護を要するような方であれば,療養看護型であっても基本的には財産の維持増加に対する寄与はあるのだろうと考えております。ですから,その要件は,なお維持するということは十分考えられるのではないかと思います。ただ,現行の寄与分の要件につきましては,財産の維持又は増加について特別の寄与があることという非常に高い要件が設定されていますので,そこまでいかなくても,財産の維持増加に対する貢献があり,更に,相続人間で大きな差異があるというような場合には,現行の要件に当たらない場合でも寄与分を認めていい場合があるのではないかということで,このような考え方を取り上げたところでございます。
○窪田委員 寄与の部分,いろいろな問題が多いということでネガティブなお話も多かったと思うのですが,必ずしもそれだけではないのではないかということについて少しお話をさせていただきたいと思います。
  今,堂薗幹事のお話の中にも出てきたことなのですが,現行法の規定は特別の寄与としか言っていませんが,この特別の寄与ということと,財産の維持又は増加ということをセットにした構成になっている。
  財産の維持又は増加の部分についても,制度設計としてはいろいろあるのだろうと思いますが,森委員からお話があったように,ここを一つの手掛かりとして切るという方法はあると思うのですね。ただ,現在の実務だと,それプラス特別の寄与というもう一つハードルがあって,一般的にはということで,ここで書かれているとおりなのですが,被相続人との身分関係に基づいて,通常期待される程度を超える貢献と言われるのですが,これは真面目に考えるとよく分からない基準なのではないかと思います。つまり,通常の扶養義務の範囲を超えるとかといったことが言われるのですが,扶養義務の範囲を超えたら一体何なんだろうかとか,それを真面目に考えたとき,あるいは身分関係について通常期待される程度の貢献というのが本当に基準として機能しているのかというと,著しく疑わしいのではないかなと感じています。
  実際には,特別の寄与という要件は,いろいろなものを切っていくために機能してきただけなのではないかと思いますが,そうだとすると,そこでやはり問題とされていたのは,何か絶対的な判断基準に基づいて,この寄与がどれぐらいの程度のものなのかというよりは,やはり共同相続人間で見て,ちょっとでも差があれば足りるということではなく,やはり評価に値するような著しい差異が必要であるし,それを示したものなのだと理解する可能性はあるのかもしれません。その場合には,実は,療養看護型だけではなくて,ほかの部分についてだってそういうふうな見方というのはあってもいいのではないかなという気もします。もちろんこの点は,大変に議論があり得るところなのだろうと思いますが,そういう見方もあるかもしれないということで申し上げました。
○山本(克)委員 今の窪田委員のおっしゃることはもっともだなと思う面もあるんですが,ハードルを下げるということは,今度は別の面で,むしろ先ほども石井幹事がおっしゃったとおりであって,寄与度の金銭評価をどうするのかということについて,そっちの方の難しい問題が頻度高く現れるということであって,必ずしも,そこでまた争いが納得は誰もいかないわけですね。ですから,これは相続法では基本的に誰も,全ての人を満足させる相続法はあり得ないので,どこで切るかという問題なんだろうと思うわけですけれども,しかし,そういうことで手続コストをどんどん高めていくことが果たしていいんだろうかということは,やはり考えておかなければいけない問題ではないかと思います。
○村田委員 若干,私が混乱しているかもしれないので質問させていただきたいんですけれども,今の実務で特別の寄与が認められるために,どういう要素を考慮しているかというときに,もちろんその療養看護の必要性だとか,どのくらいの期間やっていたかとか,専らといえるぐらいそれに従事していたかというようなことが出てくるんですが,それ以外にもう一つ,なかなか難しい要素として,無償性というものがあり,実務上,無償性が問題となる事案は多いように思います。例えば,被相続人のお子さんのうち,この人は療養看護に努めたけれども,実は,被相続人の家に無償で住まわせてもらっているとか,被相続人から家をもらったり,相当額の学費を出してもらったりしていたなどの事情があると,そのぐらいの療養看護はやって当たり前だろうということで結果的に寄与分として認められないという例は意外に数あるんです。今回御提案されている特則を設けたときにも,寄与分の判断要素として,無償性は入ってくるのか,入ってこないのかというのが,ちょっと私自身うまく整理ができていなくて,単に療養看護に努めた程度の差だけ比べればいいのか,その前提として,やはり寄与の無償性を考えなければいけなくなるかによって大分審理する中身が変わってくるのではないかなという気がするものですから,そこの今の段階のお考えを教えていただきたいんですが。
○堂薗幹事 その点は十分に詰めた検討ができていないのかもしれませんが,基本的には親族間における療養看護は,無償で行うということが期待されているんだろうと。したがって,実際に経済的な利益を受けており,無償とは言えない場合については,この類型であっても,やはり寄与分は認められないということになるのではないかと考えております。
  基本的に,一定の親族については無償で療養看護を行うことが期待されている中で,一部の者だけがこれを行い,一切そういったことをしていない者がいるという場合に適用することを想定しているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○村田委員 はい。
○窪田委員 山本委員に反論というわけでは全然なくて,紛争の処理のコストということを考えたときにちょっと気になる点が一つあったものですから,発言させてください。以前に出たお話とも関連するのですが,扶養義務者が複数いる場合に,実際になされた扶養の程度が著しく違うという場合について,過去の扶養料の清算,現行法よりはもう少し緩やかな形で何らかの仕組みで考えるというのは十分にあり得る制度設計なのではないかと思います。ただ,恐らく問題になるのが,そのときに現行法でも取り込む可能性がある財産の維持又は増加に関係するような寄与分として評価されるような療養看護は,一体どっちで扱われるのかという点が問題となると思います。療養看護の問題は,全て扶養義務者間の清算の問題だとしてしまえば恐らく簡単なのだろうと思いますが,仮にそれが寄与分の方に残るのだとすると,一体どう制度設計したらいいのかというのは,実はそれなりに結構大変なのかなという印象を受けました。
○大村部会長 これまでの議論の中では,相続制度の外で清算がされるべきだという御意見が多かったですけれども,実は,既に現行の寄与分の中で,外で清算されるべきものが清算されているという現実があるではないかということですね。
○窪田委員 はい。
○大村部会長 その点についての整理が必要ではないかという御指摘かと思いますけれども。
○窪田委員 更に一点申し上げますと,実は,今までの寄与分に関しても,本来これは財産法上の法律関係として解決するべきではないか,雇用を認めたり,契約で解決したり,あるいは事務管理で処理したりするのが合理的ではないかということは,一般論としては言われつつ,では,財産法上の制度というのがうまく機能するのかというと,どうもうまく機能しない。そうした状況の中で,寄与分が使われてきたという側面があるのだろうと思います。ですから,それに比べると扶養義務者間の清算というのは,もう少し対象も絞られていますので,うまく作れば機能しやすいものにはなると思うのですが,実際にそれが機能するかどうかは,重要な点なのだろうと思います。
○潮見委員 議論がいろいろぐるぐる回っているような感じがするんですけれども,これから整理していただく際に,被相続人の財産の維持又は増加,この要件を維持したままで進むのか,それとも,この要件を外した形で,これは9ページのところに書かれていますけれども,外した形で療養看護等の場合について処理するのか,これはかなり大きな分かれ目になると思うんです。窪田委員が先ほど直前におっしゃられた考え方というのは,ある一つの立場からおっしゃっておられるわけですけれども,ここを維持するのであれば,そうしたら,それで十分カバーできるものについて,あえてなぜそれ以外の部分についてのその寄与というものを,しかも,その相続の枠の中で考えなければいけないのかという形で議論をしていただいた方がいいのかなと思いました。
  むしろ今回の資料というものは,どっちかといえば,そもそも被相続人の財産の維持又は増加の要件をどうするかということはちょっと置いておいて,むしろ扶養型だとか,あるいは療養看護という場合についての寄与を相続の中で考慮すべきか否かというところから進めているような印象を受けましたものですから,そうなると,むしろ本来,先ほど八木委員がおっしゃった,現在の規定でどこまでできるのか,あるいは現在の規定を前提にした場合に,どこを修正していったらいいのか,先ほども特別の寄与だったそうですけれども,その辺りを修正する必要があるのかという観点からの議論に進んでいくはずなので,これから先考えられるときに,ちょっと整理をしていただく際に考えてください。
○大村部会長 御指摘は,むしろ現行法ベースで何ができて何ができないのかを整理せよということですね。
○潮見委員 はい。
○大村部会長 分かりました。
  そのほか,この点についてはよろしゅうございますか。
  それでは,更に事務局の方で検討していただくことにしまして,第3の「相続人以外の者の貢献の考慮」という論点に入りたいと思います。御説明の方をお願いいたします。
○下山関係官 それでは,資料の10ページ,第3の「相続人以外の者の貢献の考慮」というところについて御説明させていただきます。
  現行法上,寄与分というのは相続人にのみ認められているため,例えば,相続人の妻が,被相続人である夫の父の療養看護に努めた場合であっても,遺産分割手続において相続人でない妻が寄与分を主張したり,あるいは何らかの財産の分配を請求するということはできないとされています。この点につきましては,夫の寄与分の中で妻の寄与を考慮するということを認める裁判例もありますが,このような取扱いに対しては,なぜ寄与した妻ではなく夫がその寄与分を取得できるのかといった指摘もされているところです。また,先ほど申し上げた例では,夫が既に死亡している場合には,配偶者の貢献を考慮することはできないことになりますけれども,このような結論は実質的公平に反するのではないかといった指摘もあるところです。
  このような問題は,本来,契約の締結,養子縁組あるいは遺贈などの法的手段によって解決することが可能であり,望ましいのかもしれませんが,相続人以外の者と被相続人との人的関係等によっては,相続人以外の者が被相続人に対して,これらの法的手段を取るということを依頼することはなかなか心情的に困難な場合も多いものと考えられるところですので,結局のところ,相続人以外の者がその貢献に応じた遺産の分配を受けることができるか否かという点は,被相続人の意向次第にならざるを得ないものと考えることができます。
  そこで,遺産分割において相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として,例えば,被相続人の子の配偶者など,相続人ではないが被相続人との間に一定の身分関係を有する者については,「被相続人の療養看護〔又は扶養〕について一定の貢献をしたこと」などを要件として,遺産の分配を求める権利を認め,又は相続人に対する法定の債権を認めるといった見直しを行うことが考えられるところです。
  仮に,このような制度を導入することとした場合には,その制度趣旨及び法的性質をどのように考えるかという点が最も問題になるものと考えられます。
  まず,一つ目としては,夫婦間の協力・扶助義務に根拠を求めることが考えられるかと思います。一般に,要介護状態にある高齢者の療養看護を親族が行った場合には,その相続人が婚姻している場合には,その夫婦が分担して療養看護を行うことが多いものと考えられます。法律上も,夫婦には協力・扶助義務があり,実際にも相互に補完し合う関係にあることに照らすと,このような場合には,当該夫婦の貢献を考慮して寄与分の額を定めることが公平に資するのではないかと考えられます。
  次に,寄与分の主張権者を広げるという考え方があり得ます。被相続人の療養看護を相続人でない親族が行った場合に,被相続人の親族として被相続人の療養看護に努めた者が相続人でなかったという一事をもって,遺産分割においてその貢献を考慮することができなくなることによる不公平を解消するという観点から,寄与分の主張権者を相続人の範囲よりも若干広げ,民法第887条から第890条までの規定によって相続人になり得る地位を有する者とすることも考えられます。このような考え方によれば,その法的性質は,言わば「法定相続分がゼロの者の寄与分」ということになり,基本的には,現行の寄与分と同様の性質を有することになるものと考えられます。
  更に,事務管理又は不当利得類似の権利と捉えることも考えられるかと思います。現行法上,相続人以外の者が被相続人に対して行った療養看護などの貢献に関して,相続人に対して何らかの権利行使をしようとすれば,事務管理や不当利得に基づく請求が考えられるところですが,個々の事案によって,これらの請求権の要件を満たすか否かという点は必ずしも明確ではございません。
  そこで,被相続人との身分関係に照らし,同人との間で契約等を締結することが事実上困難であると考えられる場合については,事務管理や不当利得のような法定債権の発生要件を欠くことに伴う不公平を解消するという観点から,事務管理又は不当利得の特則ないしこれに類する制度を設けて,家事審判の手続の中でその権利の実現を認めるといった説明をすることも考えられると思われます。
  次に,12ページからの権利行使を認める者の要件についてですが,  この方策は,相続人以外の者に遺産の分配を求める権利を認めるものですけれども,これに伴う紛争の複雑化,長期化は避けられないところでございますので,これを極力回避するために,権利行使を認める者を一定の範囲の者に限定することが不可欠であろう思われます。
  具体的に,どの範囲の者に権利行使を認めるかという点につきましては,この権利の制度趣旨及び法的性質をどのように考えるかという点によるかと思われますけれども,例えば,夫婦間の協力扶助義務に根拠を求める考え方によった場合には,新たに権利行使を認める者は,相続人の配偶者に限られることになるものと考えられるのに対して,寄与分の主張権者を広げる考え方によった場合には,被相続人の直系血族や兄弟姉妹などにまでその範囲を広げることになるものと考えられます。
  もっとも,権利行使を認める者の範囲を広げれば,その分,遺産分割が紛糾するおそれがある上,これらの者には,少なくとも権利行使の機会を与える必要が生ずるため,遺産分割の手続が非常に煩雑になることが予想されます。そのため,権利行使を認める者の範囲を考えるに当たっては,法的性質のほか,実質的公平を図ることの利益と紛争の複雑困難化防止のバランスを考慮することも重要であろうと考えられます。
  また,権利行使を認めるに足りる貢献の程度をどのように考えるかも問題となろうかと思います。この点は,この権利の法的性質をどのように考えるのか,また,どの範囲の者に権利行使を認めるかといった点に影響を受けるものと考えられ,例えば,夫婦間の協力扶助義務に根拠を求める考え方によった場合には,相続人とその配偶者が行った貢献を一体のものと評価した上で,その貢献が通常の寄与分の要件に該当すれば足りるとすることも考えられるのに対して,寄与分の主張権者を広げる考え方によった場合には,権利行使を認める者の範囲が非常に広がることに応じて,遺産分割の紛糾の防止の観点から,貢献の程度による要件の限定の必要性がより高まると考えられます。そのため,例えば,その者の貢献が他の相続人よりも著しく大きい場合や,専らその者が被相続人の療養看護に努めていた場合など,この要件を厳しく解することも考えられるところです。
  もっとも,いずれについても理論上又は運用上様々な問題があると考えられるため,貢献の程度に関する要件をいかに定めるかについても,慎重な検討を要するものと考えられます。
  次に,相続人以外の者がこの権利を行使する手続についてですけれども,これを遺産分割手続の中で行うという考え方と,遺産分割手続とは別の手続を創設して,その相続人に対して請求することを認めるという考え方があり得るかと思います。この点も,この権利の法的性質等をどのように考えるかが関係するものと考えられますが,仮に,遺産分割手続の中で権利行使を認めることとした場合には,遺産分割の一回的解決が可能となる反面,相続人間では遺産分割の内容について合意が成立していても,相続人以外の者が合意しない場合には,遺産分割協議が全体として成立しないことになるおそれがあり,相続人の利益を不当に害することもあり得ます。他方,遺産分割とは別の手続の中で権利行使を認めることとした場合には,新たな制度の要件及び効果などをどのように規律すべきかという点を一から検討する必要があることになり,また,被相続人に対する貢献を巡る紛争が遺産分割手続とこの手続,二度にわたって繰り広げられるということになり得るため,相互の調整をどのように図るかといった点も問題になるということが考えられます。
  いずれにせよ,このような制度の創設を検討する場合には,現行の相続制度に比較して遺産の分配を巡る紛争が複雑化,長期化することは避け難いものと考えられますので,これらの弊害を多少なりとも軽減することができる制度設計を検討する必要があるものと考えられます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  相続人以外の者の貢献の考慮ということで,登場し得る人は,相続人の配偶者と,それから相続人と一定の親族関係にある人と,全く関係ない人と,幾つか段階はあると思いますけれども,それらについて,もし考慮するとしたら,どのように考えるかということについての御提案だったかと思います。
○上西委員 要件をいろいろ定める必要はあるかと思いますが,相続人の配偶者である場合,相続人の子で代襲関係が生じていない場合,他人の場合,と一つ一つ決めても,これは相当難しく,かえって複雑になるなということは直感で思います。また,療養看護であれ,それ以外の場合であれ,その算定式も先ほどの第2のところで答えが出なかったので難しかろうと思います。実務の現場では,相続人が分割協議の話をしているときに,例えばその中の一人の相続人の配偶者が実質的に療養看護している場合などは,その方も遺産分割に入ってもらってもいいのかなという感触を思うところは多いです。相続人全員が了解をすれば,その相続人の配偶者であれ,一定の親族であれ,他人であれ,相続,遺贈あるいは別の形なのかは別として,通常に分割協議に参加してもよいのではないかと思います。ですから,相続人が了解すれば誰であっても分割協議に参加するというのが,民法的にはどうかは別として,現場を考えると一番シンプルです。
○堂薗幹事 相続人間で,そういった形で協議がまとまって,相続人以外の人にも一定の財産を分与するという形でまとまるのが一番望ましいのだろうとは思いますが,そういった形で話がまとまらない場合に,被相続人の介護の面倒などを非常に見ていた方が相続人ではなかったというだけで,その人に遺産の分配が全くされなくていいのかどうかというのがここでの問題意識でございます。
○上西委員 今まで出た議論は,なかなかまとまらないという現状が既にあるわけですよね。そうすると,この第3のところの議論も基本は同じかなと思います。
○堂薗幹事 基本的には第3のところは第2以上に難しい問題だろうと思っておりますので,その点はおっしゃるとおりだと思います。こちらもそういった認識は当然持っておりますが,ただ,どういった制度設計が考えられ,それにどういった問題があるのかという点について御議論いただいた上で,最終的にどうするかというところをお決めいただければと考えているところでございます。
○潮見委員 全く別のことなんですけれども,資料の中について分からないというか,確認というか,意見というか,2点ほど申し上げたいと思います。
  一つは,この第3のところで療養看護と扶養の場合を主に説明しておられるのですが,先ほども別のところで出ていましたが,事業について相続人以外の者が貢献したという場合を抜きにして,ここの枠組みを論じていいのかというところについて,若干不安を覚えました。むしろ,そのようなものも想定しながらルールを立てていく必要がありませんかという意見なり確認です。
  それから,もう一つは,これは意見の方になってくるのかもしれませんが,12ページのウの事務管理又は不当利得類似の権利と捉える考え方,これがさっぱり分からないというか,これも大きく分けると二つぐらいになるんでしょうか。事務管理とか不当利得の要件を満たさないのに,別のこういう特則という名の下でその費用償還請求あるいは利得返還請求というものを認めるということをどうやって正当化するのか,評価矛盾を来さないのかという危惧を覚えます。それと同時に,もし仮にこういうものを作ったとして,そういう費用の額とか利得額というものは算定困難ですから,訴訟手続の中で確定することはできませんから,だから審判の方に行って,裁判所の方で裁量的にこの内容は形成していくという枠組みを多分考えておられるのではないかと思いますけれども,では,そういう不当利得,事務管理類似のものの費用とか利得,損失,これを裁判官のそういう形成的な役割に全て委ねるような制度設計というものが果たして適切なのかということについては,私は大いに疑問を感じるところです。
  そういう意味では,端的にその事務管理,不当利得類似の権利というか,事務管理,不当利得の枠組みの中でこれは処理したら,それで必要にして十分ではないかと。それで足りないものがあるんだったら,それは仕方がないと,こういう割り切りもあるいはあっていいのではないかと思いまして,意見みたいなことですけれども,2点目も発言させていただきました。
○大村部会長 続けて。窪田委員,関連しますか。
○窪田委員 続けてというのは,多分全く逆方向の件なのかもしれませんので,出発点だけは共有していたということですが,私自身は,むしろ第2の問題でこれを相続法の枠組みの中でやるということは難しいとすれば,第3ではより一層難しいだろうということになりますので,相続法の外側で何らかの形での手当をするということが考えられるということなのだろうと思います。
  その上でということになりますが,夫の寄与分の中で妻の寄与を考慮することを認める裁判例,これは更に夫が死亡した後は母親の寄与を子供の寄与分としてカウントしたものだったと思いますが,その妻自体は最後まで相続人にはならないわけですから,このような手段を講じた。これは,事案の結論から言うと賛否両論あったんだろうと思いますが,一切こうした寄与分を認めないよりは,つまり,認めないことによって無関係の相続人たちが普通に相続するよりはましだったという意味で,やはり実質的な正当性はあった事案なのだろうと思います。
  では,この問題というのはほかで解決できるのかというと,事務管理や不当利得でいけるのかというと,多分難しかったのではないかなという気がいたします。できるのであれば,むしろそれで端的に行っていたということなのだろうと思いますが,そうした問題が第三者の寄与分をどうするのかということで,何かほかの人の相続人の寄与分の中に組み入れて処理をするというような次善の策として現れていたのではないかという気がします。
  そうだとすると,事務管理,不当利得で拾えないものについては諦めるしかない,そんなのは拾い上げる必要はないという潮見委員の立場も一つの考え方なのだろうと思いますが,従前の措置として,そういうふうな次善の策がとられてきたということを積極的に評価するのであれば,それに対応できるだけのものを財産法上の仕組みとして用意するという選択肢も十分にあり得るのではないかという気がします。特に扶養義務というのは多分,事務管理,不当利得に乗りにくいというのは,その義務の性質自体がぼんやりとしたものですし,金銭的な債務を前提とするような権利義務関係と違って,そこの部分で事務管理か不当利得というのを考えること自体もそれほど容易ではないだろうと思います。そこの部分に対する手当として,こういうふうな相続外での扶養関係についての事後的な清算の仕組みというのを作るということはあり得るのかなと思いました。多分,最終的に考えている方向としては,まったく反対なのかもしれませんが。
○大村部会長 中田委員,関連のご質問ですか。
○中田委員 はい。別の方法がないかということなんですが,契約構成はできないだろうかということを考えております。今回12ページでは,被相続人との間で契約が締結されないという場合を前提に検討しておられるんですが,例えば,使用貸借契約を後に認めるということが可能であるとすると,同様に被相続人との契約を想定することもありうるのではないでしょうか。その中には,療養看護については事務処理契約のようなものも考えられるし,潮見委員がおっしゃった事業型の契約について言うと,もっと雇用に近いものかもしれません。そのような契約による処理というのは,実務の運用によって対応することができるのか,それで十分なのか,それとも,それを超えて更に一定の場合にその契約の成立をみなすというようなルールを設けることが必要なのかどうかという分析もあり得るかなと考えました。
○堂薗幹事 ここも非常に難しい問題だと思っておりますけれども,まず,「事務管理又は不当利得類似の権利」と一応ここでは書いておりますが,どちらかというと事務管理,不当利得に引き付けてというよりは,新たな法定の債権を創設するというイメージで考えているところでございます。
  例えば,扶養料について言えば,扶養義務者間での求償が可能であり,家事事件手続法の中でも,それを前提とした制度設計がされているわけですけれども,先ほども申し上げました身体的な介護などについては,そういった手続がおよそない状況でございますので,何かそういったものを作れないのかとか,あるいは,契約構成と若干考え方は近いのかもしれませんが,本来,被相続人としては,自分が生きている間は無償でやってもらう前提だけれども,自分が死んだ場合にはその貢献に報いたいと通常は考えるだろうというような場合に,何らかの形でそれを算定して法定の債権という形で認められないかとか,具体的な内容はまだ詰めておりませんけれども,制度設計としては様々なものが考えられるところだと思います。こういった制度設計をする場合には,遺産分割の中でやるのか,そこから外に出すのかということが問題になりますが,外に出すという場合には,説明としては新たに法定の債権を創設するということになるのではないかという趣旨で,この資料は作っておりまして,この場で,そのどちらがいいのか,遺産分割の中でやるのがいいのか,外に出すのがいいのかという辺りについて御議論を頂き,それを踏まえてもう少し具体的に検討していければと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 今,御発言された中田委員とほとんど結論的には同じことなのですが,この間の経緯についてお話しようと思います。昭和55年に議論されていたときに,主に長男の嫁の負担を何とかしようというのがやはり一番大きな動機であったと当時議論した先生方から直接伺ったことがございます。それから時代は大分変わりまして,長男の嫁が自動的に看るものだとみんなが思っていた時代というのは過ぎ去ってしまって,介護保険が導入される直前頃には,誰が看るか,多くのそれぞれ正当化できる考え方が家族の中で対立していました。嫁が看るという「家」の論理の他にも,夫も妻も平等なのだからどちらが看てもいいとか,あるいはむしろ愛情によって介護する者,つまり嫁より娘がいいだろうとか,様々なそれに代わる正当化の理屈ができるようになっていて,たまたま見かねて手を挙げて引き受けた者が,ものすごく大きな負担を結果として負うことになります。そして,ほかの兄弟たちは,何らかの論理によって,その手を挙げた人に押し付けることを正当化できるという状況がありました。実際には高度障害者になった老人の介護労働というのはものすごい負担で,個人が私的に負担できるものではなくて,介護保険で介護の社会化が導入されてきたわけです。この介護保険の導入によって国民意識が大きく変わりました。つまり,家族の誰かに全面的に面倒を見てもらわなければ,自分の老後は生きていけないというのではなくなって,自分のお金で何とか自分の老後を設計できるかもしれないと思う人の数が世論調査のパーセンテージとしても随分増えて,変化をしてきています。ですから,これからの制度設計を考えるときには,昭和55年のときに前提としていたものではないものを考えた方がいいと思います。
  そういう意味では,遺言の習慣も変わりました。以前は日本人は遺言を遺さない民族だと言われたのが,これだけ遺すようになりましたし,嫁養子などという養子縁組の使い方が,それがいいかどうかはともかくとして,ともかくそういう便利な養子縁組の使い方もある程度増えてきています。成年後見のところでもいろいろな工夫がされるようになっていて,55年の段階ではこの寄与分でせめて長男の嫁の負担に報いたいという議論があったわけですが,今はもっと様々なバリエーションがありえます。そして,この介護労働の負担問題を何らかの形で制度設計して解消したいということですと,先ほどから議論のあるような契約類型に落とし込んでいって,双方が納得の上で,それなりの対価を払って契約するという方向にむしろ誘導するような法制度の設計がいいのではないでしょうか。
○大村部会長 窪田委員,今のことについてですね。
○窪田委員 複数の制度設計があり得るということについても,その中で契約,本当の契約を考えるのか,契約関係を見直すのか,いろいろなアプローチがあるのだろうと思いますが,それが一つの手段としてあるということは,よく理解できます。ただ,その上でちょっと気になるのは,契約といった場合に多分イメージしているのは,被相続人と特定の相続人との間の契約合意なのかなという気もするのですが,実際には,例えば被相続人がそういう趣旨とは全く別の遺言を残した場合とかといった場面を考えると,もちろん明確な契約関係があって,納得ずくでそういうことがなされてということで本当の契約を認めることができる場合はいいのですが,そうではない場合については更に一定の手当が必要であるというのは,いずれにしても,やはり避けられないのではないかと思います。
○山本(克)委員 多分,手続的な話をしろというので委員に選ばれたと思うんですが,従来全然してきませんでしたので,ここでひとつ手続法的な話をさせていただきたいと思います。
  一つは,12ページの昭和42年判決のサイテーションなんですが,これは適切なんでしょうか。私は必ずしも適切ではないと思います。というのは,これも具体的扶養義務の設定が家事審判事項として法律上定められていることを前提に,最高裁はこういう判示をしたと読むべきであって,今から制度設計するのにこれが前提になるということには必ずしもならない。先ほど潮見さんがおっしゃったように,訴訟事項でやれる範囲だけでやるという選択肢だって十分あり得ると思いますので,私はこのサイテーションについては疑問を持っております。
  それから,第三者に寄与分を認めるということになると,家事事件手続法で193条1項の寄与分の申立処分を求める申立てをする期間設定はどうするんでしょうか。これは従来,法定相続人だけが遺産分割審判の当事者であるという前提ですので,遺産分割審判の当事者として法定相続人全員がそろっているということを前提にこれを考えているはずなのに,第三者も入れ込むと,遺産分割審判をやったけれども,後から出てくるときどうするのかと,あるいは裁判所はしかるべき人を全部探し出して,全員に対してこの一月内の申立てをしなさいという催告か督促か何かをしなければいけないことになるのか,その辺り非常に難しいなという気がしています。寄与分の審判が先に確定して初めて遺産分割審判をすべきだという仕組みがとられているからこういう規定があるんですが,そこの順序を守れる保障はどこにもないという気がします。
  それと,最後にもう1点ですが,遺産確認の訴えの当事者適格についての最高裁の平成元年判決では,原告又は被告に共同相続人の全員が当事者となってなければいけないというふうに判示しておりますが,その前提として,その人たちは遺産分割の審判の当事者なんだから,あるいは協議の当事者なんだから,その人たちの間で遺産の範囲を決める必要がある。だから,そうやるんだという判示を一部含んでいます。全部がそういう,全てをそれでジャスティファイしているわけではありませんが,そうなりますと,例えばAとBが共同相続人で,AがBについて,ある特定の財産について遺産に属するという確認の訴えを起こしているというときに,その属している請求認容でも逆でもいいんですが,その判決が確定した後に,第三者の寄与分申立てをしたとき,前の訴訟の結果はどう扱われるのかという問題が生じます。あるいは,訴訟の係属中に第三者が寄与分の申立てをした場合に,被告を追加しなければいけないのかどうかという問題が生じます。被告の追加について,必ずしも判例ははっきりしません,こういう場合についての,学説では追加できると言っていますが,追加できるかどうかよく分からない。そういうことを踏まえると,かなり手続的にしんどい問題が,飯の種が増えていいのかもしれませんが,手続的にしんどいことがいろいろと出てきてかなり難しい,仕組むのが相当難しいのではないのかなという印象を持っています。
○大村部会長 浅田委員も,今の関連ですか。
○浅田委員 先ほど山本先生が指摘された第2の論点と類似の話を致します。遺産分割協議というのは全員で参加するという話であります。この部会資料の14ページに縷々書いてあることをもうちょっと敷衍して申し上げますと,例えば,銀行に対して,遺産分割協議がなされたということをもって預金の払戻請求をするという場合には,銀行は戸籍の記載をもって相続人の範囲を確認して,相続人全員の押印をもらえれば,それで払い戻しに応じて終わりという話です。もし,この提案が採用されることになりますと,相続人全員の遺産分割協議があったとしても,ひょっとしたらほかに権利を主張する者が出てくるかもしれないということになる。そういうことになりますと,実務が非常に困難になり得る可能性があると思います。
  もちろん,銀行の場合には民法478条に基づく免責がありますので,かかる主張がないということを知らない等で一定の要件に当てはまるのであれば免責されるということを理由に実務を無理やり動かすことも可能なのかもしれませんがやはり問題もあるし,また,登記制度などを考えますと,一体どういう手続で相続登記を実行するのかというのもまた問題になりそうだと思います。外観制度ということについても整理していかなければならないと思います。したがって,もしこういう制度を導入するとしても,例えば,一種の除斥期間的なもの,つまり,「この期間までに権利を主張する者は主張せよ」というな話になるのかもしれません。そうすると,先ほどの私の発言と同じように,その間の取引というのはいわば停止させなければならないということにしないと,取引安全の観点から問題になり得るということになります。そう考えますと,このア,イというのは,なかなかハードルが高いのではないのかなと思いました。
  ウのように,この事務管理とか不当利得類似の権利については,理論的な話は私はよく分からないところはありますけれども,もし仮に,当該権利者が被相続人に対する権利を何らかの形で持っていて,かつそれが相続によって承継されると。そして,その権利というのは,その権利者が相続人に対して個別に請求権として持つということであれば,相手方の取引安全確保の観点からは中立的になると思いますので,そういう制度設計ならば,その方がましなのかなと,個人的には思いました。
○大村部会長 ありがとうございました。
○堂薗幹事 まず,資料12ページの昭和42年の判例ですけれども,こちらの書き方がまずかったところはあると思うんですが,趣旨としては,先ほど申し上げましたように,扶養料については家事審判の手続を利用することによって,扶養義務者間の求償ができるようになっているのですが,療養看護のような事実行為についてはそういったものがないので,別途何か制度を設けることが考えられないかという趣旨でございます。
  それから,寄与分の主張をいつまでさせるかというのは,非常に難しい問題だろうと思っておりまして,少なくとも御指摘いただいた家事事件手続法193条のように,基本的には権利行使について期間制限はないんだけれども,裁判所の方で,制限できるという形では持たないだろうと考えております。したがいまして,第三者が入ってくる場合には,相続開始後一定期間という形で限定をし,その期間に申立てがなければ,遺産分割の手続から外れるという形にしないと,制度としては持たないだろうと思っています。ただ,そういった時期的な制限を設ける場合に相続人全員に対して通知しなければいけないのかといった,いろいろと難しい問題が出てくると思いますし,まだその点について十分に詰めた検討はできていないという状況でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第三者が相続プロセスに入ってくることに伴う困難が多くの方から指摘されたかと思います。それをクリアしませんと,あるいは緩和しませんと,なかなか先には進めないということになろうかと思います。
  それと,途中で潮見委員から御指摘があった件ですけれども,第2の問題は既に寄与分というのが存在して,財産的なものについては処理されている。その外に何か作るかという話であった。こちらは,それとの並びで第三者について同じようなものは要りませんかということになっているけれども,それ以前に,財産的なものについて処理する仕組みというのを考えるというのが順序だろうという御指摘を多分頂いたんだんだろうと思います。それも制度全体を組み立てていくときのバランスの問題として目配りをすべきことかと思いますので,考慮に入れて更に検討をお願いしたいと思います。
  その他について,この第3の,相続人以外の者の貢献の考慮,御発言ございますでしょうか。
○八木委員 具体的な制度設計は別として,特に先ほど水野先生がおっしゃったような,長男の嫁が嫁ぎ先の両親の老後を面倒見るということについて,私はワーキングチームのときから,ほかの問題はともあれ,この問題が一番多くの人の関心が高く,要望が強いんですね。あちこちでこういうことを実現してくれという声が聞かれました。ただ,今日皆さんお話しのように,相続の制度の中では実現が難しいのかもしれないなと思います。では,ほかの相続制度の外で,例えば,先ほども出ましたが,養子制度を活用するだとか,あるいは契約という形とか,そういうやり方もあるんだということをあらかじめ国民に知らせるというのも一つのやり方ではないのかと思って聞いていました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 先ほどの部会長のおまとめに若干絡むんですけれども,今回の第2と第3の問題の関連性について質問させていただきたいと思います。
  今回,この第3のところについて,制度趣旨,法的性質をア,イ,ウと三つに分けて整理をしていただいて,非常に考えやすくなったというところで有り難いと思っているんですけれども,資料の全体の作りから見たときに,この考え方が分かれるうちのアの夫婦間の協力・扶助義務に根拠を求める考え方は,推し進めると第2の提案に必ずしも乗っかる必要はないのではないかといいますか,第2の寄与分の見直しがないとしても成り立ち得るのではないかなと思える一方で,イの寄与分の主張権者を広げる考え方は,論理的には別に第2とくっつく必要はないんですけれども,第2に乗っかっているような印象を受けたところです。他方,ウの事務管理,不当利得類似の権利と捉える考え方は,先ほどから委員の御発言がたくさん出ているとおり,独立独歩でも歩み得る考え方かなという印象で受け取ったんですけれども,この第2と第3の関係のところで,もし何かお考えのところがあれば教えていただければと思ったのですが。
○堂薗幹事 今,正に整理していただいたとおりではないかと思います。必ずしも第2と第3は関連するものでもなくて,それぞれ別々にどちらかだけを採用するということは十分考えられるのではないかと考えております。
  それから,八木委員の御指摘との関係で1点,是非今日皆さんの御意見をお伺いしたいのが,この第3のところで一番小さく制度を作ろうとすると,相続人の配偶者だけをその寄与分の主張権者にして,基本的には相続人である配偶者が生きている場合には,その夫婦の貢献を正に一体のものとして見て寄与分を認めると。その場合に,寄与分が認められる財産を夫婦の共有財産にするのか,あるいは夫婦間で分けるのか,そういう難しい問題は別途ありますが,そういったことも考えられますし,その相続人が被相続人よりも先に死んでしまった場合も,その相続人の配偶者は,相続人ではないけれども,その夫婦で寄与した分については寄与分を別途主張できるというような,言わば寄与分に関する部分についてだけ代襲相続を認めるのに近いような形になるのではないかと思いますが,そういった制度であれば,ここに書いてあるものに比べますと,手続的にもさほど,むろん複雑にはなりますが,それほど複雑にならずに済むのではないかという気も若干しているものですから,そういった制度について,今後検討することについての御意見を頂ければと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 だんだん私も年寄りになってきたなと思うのですが,過去の事実関係についてだけ発言いたします。昭和55年の改正のとき,この長男の嫁を救出したいという意欲に対して実務家が一斉にやはり反対された理由が,相続人以外を入れての遺産分割など不可能だということでした。この実務家の反対によって,非常に有力な民法学者たちがこれを願っていらしたのですが,封じられました。また,配偶者の代襲相続類似という構成も,嫁が長男を代襲相続するというシチュエーションではない逆の場合,つまり娘の亭主が亡くなった娘を代襲相続するという場合もありうるということになり,男女の場合を平等に書かなくてはならないということになると,それは難しいことになるという議論になって,進まなかったようです。
○大村部会長 今,水野委員から御意見頂きましたけれども,ほかの委員,何か御発言がありましたら承りたいと思いますが,いかがでしょうか。
  ア,イ,ウというのがありましたけれども,切り離して考えられるのではないかという御指摘があって,アだけということについて事務当局の方から御発言がありましたけれども,水野委員はアだけでも問題があるのではないかという御趣旨だったかと思いますが。
○窪田委員 自分の考えがまとまっているわけではないのですが,アとイは全然性格が違うものだと思いますので,イを認めるかどうかとは切り離した議論というのはできるのだろうと思います。ただ,そのときに,先ほど堂薗幹事からお話を頂いたのが望ましい制度設計の議論の仕方なのかなというのはちょっと気になる部分がありました。過去の実務において,配偶者の寄与分を夫の寄与分にカウントしてというようなのも,先ほども申し上げたように,多分,次善の策としてやっただけではないかと思います。そうだとすると,せっかく新しい制度を作るときに,わざわざ夫婦の寄与分というような形で曖昧にしてしまうよりは,もう妻の寄与分というのを仮に認めるのであれば認めるということで考えればいいだろうという気がします。ただ,恐らくそれを貫いていくと,相続の枠組みの中でやるのは難しいということが否応なしに出てきて,そのときには,実はイの問題とかと同じように,やはり相続人ではない者の寄与,貢献についてどういうふうに清算するのかという問題がやはり全面に出ざるを得ないのではないかなという感じです。その点では,ちょっと消極的ということになるかもしれませんが。
  ただ,消極的というのは,一切作らなくてもいいというより,私自身は,相続の枠外のものとして制度設計するということは十分に考えられるし,それは,できたら検討することが望ましいのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほか何か,この点について御発言ございますか。
○増田委員 深い考えがあってのことではないんですが,寄与分を認めるぐらいなら代襲相続の方がましかなと。それは,寄与分の代襲相続ではなくて,そもそも本来的な代襲相続です。死亡の順序が違って,順次相続であれば,子の配偶者は親の遺産を相続するし,遺産分割の当事者でもあるわけですから,先に死んだか後で死んだかで何ほど違うのかなという気はするので,寄与分の紛争を拡大するぐらいだったらそっちの方がましかなという,すみません,直感的な話で申し訳ないです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○垣内幹事 すみません,細かい点の理解の確認にとどまるんですけれども,この11ページのアの構成で考えたという場合に,その問題となる例として,相続人となるはずであった被相続人の子が先に死亡した場合というのが出ているんですけれども,この場合に,夫婦の協力扶助義務に根拠を求めてということになりますと,子が死亡する以前に寄与したものについては認めるけれども,それ以後も夫の実家にいて面倒を見ましたというのは,これはカウントしないという帰結を想定されているということになるんでしょうか。
○堂薗幹事 そうですね,完全に夫婦の協力扶助義務だけを根拠に求めると,確かにおっしゃるとおりになるのかなとは思いますが,それをどう説明するかは別にして,やはりこちらでは,相続人が死亡した後の寄与分を含めて配偶者に寄与分の主張を認めるというものを念頭には置いております。
○大村部会長 今のようなものを考えるということになりますと,もう少し理由を膨らませる必要があるかもしれないということかと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。
  いろいろ難問があるということが御指摘されたかと思いますけれども,それらを踏まえまして更に御検討いただきたいと思います。
  本日予定しておりました項目についてはこれで御意見を承りましたので,次回の議事日程等についての御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 本日はどうもありがとうございました。
  次回の議事日程ですけれども,御案内のとおり,7月14日火曜日の午後1時半から5時半まで予定をしており,場所は本日と同じ20階第1会議室ということになります。
  次回の議題は,遺留分制度の見直しを予定してございます。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 本日は大変熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
  これをもちまして,法制審議会民法(相続関係)部会第3回会合を閉会いたします。ありがとうございます。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第4回会議 議事録


第1 日 時  平成27年7月14日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時30分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第4回会議を開催させていただきます。
  初めに,事務局の方から資料の確認をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,資料の確認をさせていただきます。
  本日の資料といたしましては,事前に配布をさせていただきました「相続法制の見直しに当たっての検討課題(3)~遺留分制度の見直し~」という資料がございます。お手元にないという方,おられますでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,部会資料の4「相続法制の見直しに当たっての検討課題(3)~遺留分制度の見直し~」という資料に即して検討をお願いしたいと思います。
  では,事務局の方から御説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,説明をさせていただきます。
  まず,1ページ目の「第1 問題の所在」の「1 一般に指摘されている問題点」でございます。
  まず1点目は,「制度の内容が分かりにくく複雑になっていること」ということでございます。
  遺留分に関する規定は,単独相続である家督相続制度を中心とした戦前の旧民法の規定に最小限度の修正を加えただけであったため,現行民法のとる共同相続制度において生ずる問題について十分な配慮がされていないとの指摘がございます。
  戦前でございますと,家督相続制度といって,家督相続人が一人で全財産を相続するということが行われていたのですが,戦後はそのような制度は廃止され,配偶者や子がそれぞれの法定相続分に応じて共同して相続人になるという制度に変わりました。この点は非常に大きな改正であったと思われますが,他方で遺留分制度はというと,必要最小限度の修正にとどまっており,配偶者や子らが共同して相続するという現行の制度に十分対応し切れていないのではないかという問題点がございます。
  例えば,条文上では,受遺者又は受贈者が相続人であるか,それ以外の第三者であるかによる区別はされていないのですけれども,判例ではこれらの区別がされているということがございます。
  まず,民法第1030条によりますと,贈与は,原則として1年以内のものだけが遺留分において考慮されることとされているのに対し,受贈者が相続人である場合には,民法第1030条の規定にかかわらず,原則として遺留分算定の基礎となる財産について時期的な制限を設けない,このように判例上区別されております。
  また,遺留の減殺割合について定める民法第1034条の「目的の価額」の算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額を超える部分のみがこれに当たるという解釈が判例によってされておりまして,このように,判例によって遺留分に関する規律の補充がされているという状況にございます。
  このように,現行の遺留分制度につきましては,制度の内容が分かりにくく複雑なものになっているという指摘がされているところでございます。
  なお,注を御覧いただきたいのですけれども,公正証書遺言の件数というのは年々増加しておりまして,遺言に対する需要は高まっていると考えられるところです。遺留分制度は,遺言の内容を一部無効にする効力を有するものでございますから,遺言をしようとされる方々のためにも,遺留分制度をより分かりやすい制度に見直す必要があるという御指摘もあるところでございます。
  2点目は,「遺留分制度の趣旨・目的が妥当する場面が減少していること」ということでございます。
  現行の遺留分制度の趣旨・目的につきましては,学説上も様々な考え方がございますが,一般的には遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等が挙げられております。もっとも,これらの点につきましては,高齢化社会の進展に伴いまして,相続が開始した時点では相続人である子も既に経済的に独立していることが多く,その生活を遺留分によって保障する必要性が少なくなってきたとの指摘や,核家族化等に伴い経済的に一体性を保つ家族が減少した結果,財産形成に対する相続人の寄与の割合が相対的に低下しているといった指摘もされているところでございます。
  3点目は,「具体的な貢献が考慮されないこと」ということでございます。
  配偶者等の相続人が被相続人の財産形成に対して具体的にどの程度貢献したのかという個別的な事情につきましては,遺産分割事件におきましては寄与分として考慮することができますけれども,遺留分減殺請求事件においては寄与分を考慮することはできないと解されております。
  そのため,遺贈の対象とされた財産の形成又は維持について受遺者又は受贈者に相応の寄与分が認められるべき場合であったとしても,遺留分減殺請求事件においては,これらの者の貢献を考慮することができず,その結果,実質的公平を確保することはできないといった指摘もされているところでございます。
  4点目は,「相続に関する紛争を一回的に解決することができない」というところでございます。
  減殺の対象となる遺贈の目的財産が複数ある場合には,遺留分減殺請求権の行使の結果,通常はそれぞれの財産について共有関係が生ずることになります。例えば,遺贈によって自宅を取得した配偶者や事業用財産を取得した当該事業の承継者は,他の相続人から遺留分減殺請求権を行使されますと,その者と共にこれらの財産を共有することとなるということが多くの事案であり得るところでございます。そして,この共有関係を解消するためには,別途,共有物の分割の手続,これを経なければならないということになります。
  また,現行法では,遺産分割は家庭裁判所による家事事件の手続で解決されることになるのに対しまして,遺留分減殺請求事件は地方裁判所の訴訟手続で解決されるということになり,紛争解決手段が異なりますので,これらの法律関係を柔軟かつ一回的に解決することが困難となっているという指摘もされているところでございます。
  5点目は,「事業承継の障害となり得ること」というところでございます。
  例えば,被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため,株式や店舗等の事業用の財産をその者に相続させる旨の遺言をしても,遺留分減殺請求権の行使により株式や事業用財産が他の相続人との共有となってしまう結果,円滑な事業承継の障害となる場合があるという御指摘がございます。
  次に,資料の2の「主な検討内容」というところでございますが,この資料においては,遺留分減殺請求権の法的性質や遺留分の範囲等について見直しの方向性を検討しております。
  各論点は,基本的にはそれぞれ独立したものでございまして,最終的には様々な組合せが考えられるとは思いますが,例えば遺留分減殺請求権の法的性質をどのようなものと捉えるかによって,他の論点においては採用することができなくなる方策が生ずるなど,相互に論理的な関連性があるという場合もございます。
  また,これまでの資料1ないし3で提示した論点との関係が問題となるところもございます。そういった点につきましては,それぞれのところで個別に説明を加えさせていただいております。
  以上が第1の「問題の所在」の説明でございます。
  引き続き,3ページの第2の「遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」について御説明いたします。
  まず,「考えられる方策」ですけれども,遺留分減殺請求権の効果について,遺留分権利者の意思表示によって,当然に物権的な効力を生ずるとされている点を改めるということを前提に,甲案と乙案の二つを提案させていただいております。
  「物権的な効力」というのは,遺留分権利者の減殺請求により,直ちに遺贈又は贈与が失効し,その目的財産の所有権又は共有持分権が遺留分権利者に帰属するという効果のことでございます。遺留分権利者が受遺者又は受贈者に対して減殺する旨の意思表示をすれば,裁判所の判決や当事者の協議といったものを待つまでもなく,直ちに所有権や共有持分権が遺留分権利者に帰属するということでございます。この効果につきましては,最高裁の判例によっても認められているというところでございます。
  そして,今回の提案というのは,この「物権的な効力」を否定するということを前提に,まず甲案ですけれども,遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができるものとする,それから,受遺者又は受贈者は,金銭の支払に代えて,減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還することができるものとする,というものでございます。
  乙案は,遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分を保全するのに必要な限度で財産の分与を請求することができるが,その具体的な権利は,当事者間の協議又は審判等において分与の方法を具体的に定めることによって初めて形成されるというものでございます。
  次に,「基本的な考え方」でございますけれども,まず「甲案及び乙案に共通の考え方」でございますが,これは先ほどの「物権的な効力」を否定するというところでございます。
  現行法上は,先ほど申し上げましたとおり,遺留分減殺請求により当然に物権的な効力が生ずることとされているため,減殺された遺贈又は贈与の目的財産は,受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多いものと思われます。しかし,このような帰結は事業承継を困難にするものであり,また,共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生ずることになるという指摘がされているところでございます。
  また,戦前の明治民法が採用していた家督相続制度の下では,遺留分制度は家産の維持を目的とする制度であったため,その目的を達成するためには物権的な効力を認める必要性が高かったものと思われますが,現行の遺留分制度は,遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっており,その目的を達成するためには,必ずしも物権的効力まで認める必要はなく,遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を,現物という形にこだわるのではなく,何らかの方法で返還させることで十分なのではないかという指摘もされているところでございます。
  甲案と乙案は,これらの指摘を踏まえ,物権的な効力を否定する,すなわち遺留分減殺請求権の効果を見直し,遺留分に関する権利行使がされても,受遺者又は受贈者が取得した権利が当然には遺留分権利者に帰属しないこととするものでございます。
  続きまして,4ページの「甲案について」の基本的な考え方でございますが,甲案は,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権に改めるというものでございます。現行法上,受遺者又は受贈者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還しなければならないというのが原則でございまして,例外的に,減殺を受けるべき限度において,その価額を弁償して遺贈又は贈与の目的財産の返還を免れることができるということとされておりますが,甲案は,基本的にはこの現行法上の原則と例外を逆にした上で,金銭債権を取得させることを原則とするものでございます。
  なお,甲案につきましては,一定の計算式によって算出された金額について遺留分権利者に金銭債権を取得させるというものでございますから,乙案とは異なりまして,遺留分に関する紛争は,現行法と同様に,訴訟事項として取り扱われるということを前提としております。
  次に,「乙案について」の基本的な考え方ですけれども,乙案は,遺留分を侵害された者は遺留分を保全するのに必要な限度で財産の分与を請求することができるが,その具体的な分与の方法につきましては当事者間の協議又は家庭裁判所の家事審判によって初めて定まるというものでございます。すなわち,遺留分権利者の意思表示だけでは遺留分権利者が取得する権利の内容は定まらず,遺留分権利者が取得する権利というのは,それが物権であるか,債権であるかを含めて,当事者間の協議又は家庭裁判所の家事審判によって初めて具体的に定まることになるというものでございます。
  引き続きまして,「検討課題」のところに移りたいと思います。
  まず,「甲案の課題」でございますが,「現物返還を認める範囲」,これが問題となると思われます。すなわち,甲案は,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とするものでございますが,受遺者又は受贈者が遺留分権利者に支払うべき金銭を用意することができない場合など,受遺者又は受贈者がむしろ現物返還を希望する場合も考えられるところでございます。そこで,このような場合に備えて,金銭債務の履行に代えて現物返還をすることも可能とすることが考えられるのですが,その場合には現物返還の対象となる範囲をどのように定めるべきかという点が問題となるように思われます。
  考え方といたしましては,㋐として,現行法上現物返還の対象となる財産についてのみ現物返還を認めるという考え方,それから,㋑でございますけれども,減殺された遺贈又は贈与の目的財産であれば,現行法上現物返還の対象となる部分を超えても現物返還をすることを認めるという考え方,この二つがあり得るように思われます。
  これだけでは少し分かりにくいかと思いますので,具体例を用いて御説明いたしますと,5ページの注のところを御覧いただければと思います。
  例えば,受遺者がA不動産とB不動産の二つの遺贈を受け,現行法の規律によりますと,遺留分権利者に対してA不動産の4分の1の持分,B不動産の4分の1の持分をそれぞれ返還しなければならないという事案を想定いたします。
  ㋐の考え方によりますと,現物返還の範囲は現行法と同じということになりますので,受遺者といたしましては,A不動産については4分の1の持分,Bの不動産についても同じく4分の1の持分の限度でしか現物返還をすることができず,例えば現物返還の対象をA不動産とB不動産のどちらかに集中させるということはできないということになります。
  これに対しまして,㋑の考え方によりますと,受遺者は現物返還の対象を遺贈の対象となったA不動産とB不動産のどちらかに集中させるということができますので,例えばA不動産は返還せずに,B不動産の2分の1の持分のみを返還する,これによって金銭債務を免れるということもできるということになります。
  この㋐の考え方というのは,受遺者又は受贈者の恣意的な選択を許さないということを意図したものでございますが,その反面,現物返還が実際に選択されるとなりますと,現行法と同じように,多くの事案において共有関係が残るというところが難点かと思われます。
  3ページに掲げた「考えられる方策」の②というのは,㋑の考え方に立つものでございますが,これは現物返還の対象となる財産を減殺された遺贈又は贈与の目的財産に限れば,恣意的な選択がされる余地は少なく,また,遺留分権利者は結果的に被相続人の財産から遺留分に相当する財産を取得したということになりますから,現物返還の対象とすることも許容されるのではないかという考え方に基づくものでございます。もっとも,㋑の考え方による場合には,受遺者が選択した財産の評価額が遺留分権利者の遺留分侵害額を上回る場合や,逆に下回る場合,これらの処理についても更に検討していく必要があるように思われます。
  引き続きまして,「遺留分権利者の地位」というところでございますが,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とすることによって,遺留分権利者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産の所有権,あるいは共有持分権,これを主張することができなくなります。したがって,例えば受遺者又は受贈者につきまして破産手続開始決定などがされた場合には,現行法で申しますと,遺留分権利者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産について取戻権というものを行使することができるのに対し,甲案をそのまま採用したという場合には,特段の手当てをしない限りは,遺留分権利者は破産債権として配当に参加するしかないということになります。遺留分権利者が取得する権利を金銭債権化するということは,遺留分権利者の地位を弱めることにつながり得るということになります。
  したがいまして,このような点を考慮して,遺留分権利者が取得する権利を原則として金銭債権としつつも,受遺者又は受贈者の資力等が原因で遺留分権利者が金銭債権の満足を受けられない場合には,遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産について何らかの権利を認めるといったところも考えられるのではないかというところでございます。
  続きまして,「乙案の課題」でございます。
  乙案につきましては,まず「憲法上の問題点」というのがございます。乙案は,遺留分減殺請求権の法的性質を変更し,遺留分に関する事件を家事事件として取り扱うとするものでございます。現行法上は,遺留分減殺請求権の存否及び範囲につきましては,訴訟手続において判断されるということになるわけですけれども,乙案は,遺留分に関する事件を公開の訴訟手続ではなく,非公開の家事事件の手続で審理,裁判することとするものでございます。したがって,乙案につきましては,憲法の定める公開原則との関係を検討する必要がございます。
  この点につきまして,最高裁は,裁判所が当事者の意思如何にかかわらず,終局的に事実を確定し,当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件については,憲法第82条第1項の裁判の公開の対象となる旨の解釈を示しているというところでございます。
  このような判例の考え方は,裁判所が終局的に事実を確定すれば,これによって当事者の主張する実体的権利義務の存否について判断することが可能となり,その点について裁判所の裁量の入る余地がないもの,これが純然たる訴訟事件に当たるという理解がその前提にあるものと考えられます。
  このような理解を前提に乙案について検討いたしますと,乙案は,一定の要件が充足されれば当然に具体的な権利義務関係が発生することとされている現行法の遺留分制度,これを改めて,裁判所がその後見的判断に基づいて家事審判をすることによって初めて具体的な権利が形成されるというものでございますから,判例がいうところの純然たる訴訟事件には当たらないのではないかと考えられます。したがって,乙案を採用いたしましても,憲法上の問題点は生じないのではないかとも考えられるところでございます。
  もっとも,遺留分権利者から請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分に関する家事審判によって,自己が有していた財産の全部又は一部を喪失し,これを遺留分権利者に引き渡すなどの義務を負うことになるわけですから,このような受遺者又は受贈者の立場を考慮いたしますと,憲法適合性につきましてはなお慎重な検討を要するとも考えられるところでございます。
  次に,「遺留分権利者の地位」でございますけれども,ここは甲案と同じ問題意識でございます。乙案によりますと,遺留分権利者が取得する権利の具体的内容は,当事者間の協議又は家事審判によって定まることになりますから,遺留分権利者は必ずしも遺贈又は贈与の対象とされた財産の所有権や共有持分権を取得するとは限らず,場合によっては金銭債権のみを取得するということもあり得るところでございます。いかなる場合に現物返還以外の方法による分与を認めるかにもよりますが,甲案と同様,遺留分権利者の地位を弱めることにもつながり得るというところでございます。
  最後に,「紛争の複雑化」でございますが,乙案は,当事者間で協議が成立し,又は家庭裁判所が後見的な見地から裁量権を行使することによって遺留分減殺請求権の具体的内容が形成されるというものでございます。したがって,当事者が遺留分権利者に分与する財産の内容等をめぐって争うなど,紛争が複雑化するという側面は否定することができないように思われます。もっとも,この点につきましては,乙案については事案に応じた適切な解決を期待することができるだけではなく,家庭裁判所の適切な裁量権の行使によって過度に複雑な共有関係の発生を防ぐなど,その後の紛争の発生を予防するという効用もあるものと考えられますので,これらのメリット・デメリットを考慮に入れて検討すべき問題ではないかと考えているところでございます。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第1と第2をまとめて御説明いただきましたが,本日の資料は第1から第4までに分かれております。順次御意見を伺ってまいりたいと思います。
  第1と第2のうち,まず第1の「一般に指摘されている問題点」等について,皆さんの方から御質問ないし御意見を伺えればと思います。いかがでございましょうか。
○村上委員 今日の議題と関係があるのかどうかというのはちょっとよく分からないのですけれども,1週間ほど前に私,新聞報道で見ただけですけれども,与党の方から遺言控除を導入するという案が出ていると。これを具体的に2017年度の導入を目指しているのだという報道があったかと思うんですね。この遺言控除の問題というのは,この遺留分とある程度関係があるのか,ないのか,その点についてもし事務局である程度把握していらっしゃれば,少し御説明を頂ければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 遺言控除の点につきましては,正に相続税制の話になりますので,法務省の所管外ということにはなるんですけれども,当省の副大臣が一国会議員として,自民党のある委員会の中で,そういったことが考えられるのではないかという御提案をされて,それについて自民党内で議論がされたと,それが報道されたというふうに承知しております。もちろん最終的に相続法制を直した場合に,相続税制をどうするのかというのは密接な関連がある問題としてございますけれども,飽くまでここで議論するのは相続法制であって,相続税制は含まないということになりますので,直接こちらに関連するということではないのではないかと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかいかがでございますか。第1の現状認識にかかわる部分でございますけれども。
○西幹事 まだ十分に頭が整理できていないのですけれども,1ページ目の第1の1の(2)のところに遺留分制度の趣旨が書かれています。この趣旨の中の2行目にありますように,遺族の生活保障というのは,これが遺留分の趣旨であるということは広く認識されていると思います。他方,その次の「遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算」という趣旨は,窪田委員の教科書も含めて,最近の教科書に比較的よく見られる記述ですけれども,これは一般にどの程度のコンセンサスを得られているのかというのが,少し気になります。むしろ,それよりは,最近ですと相続人間の平等とか,そういうことが遺留分制度の趣旨として挙げられることが多くなっているように感じます。
  余り大したことではないのかもしれませんけれども,6ページ以下のところの,次に御説明あるところかと思いますけれども,遺留分の範囲のところで,この趣旨との関係で議論が展開されているように感じますので,この「遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算」という趣旨が,どの程度広くコンセンサスを得られているのか,教えていただければと思います。
○堂薗幹事 どの程度広くコンセンサスを得られているかというのは,正直なところ,よく分からないところがございますが,基本的に現行の遺留分制度につきましては,総体的遺留分を決めて,その総体的遺留分の分配の仕方については法定相続分によるということになっております。そして,法定相続の根拠についても様々な見解がありますが,例えば配偶者については,一般に潜在的持分の清算というものがあるといわれておりますので,遺留分制度においても,そういった趣旨があること自体は否定できないのではないかと考えております。
  もちろん,遺留分制度の趣旨については,様々な見解があって,必ずしも統一的な見方がされていないというのは承知しておりますが,こちらとしては代表的なものを挙げたつもりです。
○中田委員 今の西幹事の御質問の後半の部分との関係なんですけれども,相続人間の平等の保障という観点は,最近ももちろんありますし,戦後も,割とあった考え方ではないかと思います。それを遺留分を自由分以外のものと位置付ける外国の法制度と直結させる考え方と,それとは切り離す考え方とがあると思うんですけれども,やはり相続人間の公平というのが考慮されている。それをこの第1,1,(2)で触れていないのが,やや結論を先取りしているように読めないだろうかというおそれを感じます。それはいかがでしょうか。
○堂薗幹事 あえてここで相続人間の平等ということを入れてないのは,要するにそういった平等を図るべき実質的な理由として,相続人の生活保障としてある程度の財産は確保すべきという点や,遺産の形成に対して貢献がある場合にはそれを反映すべきという点があるのではないかということで,どちらかというと,実質的なところを書いたつもりです。また,相続人間の平等といいましても,完全に平等を図るわけでもないというところがありますので,あえて(2)のところでは挙げていないということでございます。ただ,一定の限度で相続人間の不平等を是正するという機能があるということについてはほかのところでは触れておりますし,そのこと自体を否定するつもりは全くございません。
○上西委員 税法の世界から民法を見ている者からすると,ある方の説明が非常に分かりやすかったことがあります。財産というのは本来は自由に処分できるのだという考え方に対するアンチテーゼ的なものとして,遺留分制度は親に愛されない子供を守るためだという説明です。ここにおられる先生からも聞いたことがあります。今回は,遺留分について大きく変えるわけですので,見解についてはもう少し─濃淡はあるのでしょうけれども─示した上で議論した方がよいと思います。
○堂薗幹事 その点は,今後資料を作成する場合に注意したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点は,ここでは遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の持分の清算という,これらの目的については必要度が下がっているだろうということを示すという文脈で書かれているんだろうと思いますけれども,御指摘のように,遺留分制度の目的については様々な意見がありますので,それらに目配りをした形で,今後,記載を整えていただくということにしたいと思います。この点はよろしゅうございますでしょうか。
  ほかの点,いかがでございましょうか。
○米村委員 いろいろな考え方があるということですが,社会学者としては,社会の方から見ると,遺留分制度とはどのようなものだろうかというのを,やはり大づかみにして考えるような順番を採ります。いろいろな考え方がある中で,それらを踏まえながら,でも,そこを一つに統一はしないで検討を進めていくということになるのでしょうか。
○堂薗幹事 遺留分制度の趣旨については,いろいろな考え方はあり,ある意味では説明の仕方にすぎないようなところもございますが,ここに書かれているもの以外では,先ほど出ました相続人間の平等を確保するとか,あるいは親が偏愛をしている場合に,それによって生じる結果の不当性を是正するとか,そういったことが言われているわけです。遺留分制度を見直すに際しては,制度趣旨をどのようなものとして捉えるのか検討する必要があるというのは御指摘のとおりかと思いますけれども,これだけいろいろな意見がある中で,今回の見直しではこういう趣旨の下でこういう見直しをしますというところまでコンセンサスが得られるかどうかは,今後の御議論によるところが大きいのではないと思っておりまして,現段階の資料としてはこの程度にさせていただいたというところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○南部委員 ありがとうございます。遺留分制度をめぐる年間の調停というのはどれくらいあって,成立した分がどれくらいあるかという現状をお聞かせいただきたいと思います。
○大村部会長 遺留分に関する紛争の状況ということですね。
○南部委員 はい。
○大村部会長 何かもしデータをお持ちでしたら。
○堂薗幹事 最高裁の方で何かございますでしょうか。
○石井幹事 遺留分についての調停ということですけれども,遺留分だけの統計数値というのをとってございませんので,それについてはお答えが難しいところでございます。
○水野(有)委員 東京地裁の水野でございます。前任庁が東京家裁であったので,たまたま持っていた数字の一部のものなのですが,東京家裁の裁判官が部内で調査した結果によりますと,遺留分減殺調停事件の成立率は平成22年で56.9%,平成23年で51.3%,平成24年で54.8%であり,一般的な調停よりもむしろ成立率が高いという結果になっております。今,理解している情報はこの程度でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。成立率の統計があるということなので,数量の統計もどこかにはあるのかもしれないですね。少しまた探していただいて,見付かりましたら御披露いただければと思います。
  ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。
  特にございませんでしょうか。
  よろしければ,第1の「問題の所在」につきましては,御意見を頂いたということにいたしまして,次の第2の「遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」に進ませていただきたいと存じます。
  甲案,乙案という二つの案が示されておりまして,それについての基本的な考え方,共通の基本的な考え方である部分と違っている部分につき御説明あったかと思いますけれども,甲案,乙案双方含めまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○増田委員 どなたからも御意見がないようなので,口火を切ります。
  甲案,乙案のみならず,中間的な案も含めて,いろいろな案がここは考えられるのではないかと思います。
  まず,甲案というのは,純粋価値権説と考えてもいいと思います。迅速な解決が可能だし,遺言執行については遺留分減殺請求と無関係ですから,早期に執行が完了するという利点を持っていると思います。
  挙げられている論点の中の倒産との関係ですけれども,これについては,立法的に目的財産に特別の先取特権を新たに創設して別除権処理をするということで,価値権の保護としては十分ではないかと考えられます。
  ただ,特に②については,若干問題があるのではないかと思いますので,幾つか甲案プラスαの考え方を挙げてみます。一つは,調停前置にすべきだということです。金銭債権をいきなり請求するのではなく,物が必要な方もおられるであろうことを考慮して,その辺は一度調停で話合いをして,利害調整を図るべきであろうかと。これは現行法も一応調停前置主義ではあるんですけれども,民訴事件については,運用は必ずしも厳格ではないので,人訴事件並みの厳格な運用を前提とした調停前置主義をここでは考えています。
  二つ目の考え方として,物件の返還については,減殺請求者側で選択することもできるようにすべきであるという考え方もあります。現行の物権的請求権ではなくて,債権的な返還請求権とした上で,物件が必要な人はこちらを選択するということもできるようにすべきだという考え方です。
  それから,三つ目ですが,甲案の②だと,平たく言えば,要らないものを受け取らなければならないということもあり得ますが,物を所有するということは,価額だけで価値を判断できる問題でなくて,コストもあるし,リスクも伴うものですから,要らないものを受け取る義務は幾ら何でもないのではないかということを考えると,代物弁済と同様に,減殺請求者の同意の下に物件の返還を選択することができるということでどうかという考え方もあります。
  要は,物を売却するコストとか,売れない場合のリスクは誰が負担するかという問題だろうと思うんですけれども,オプションということになれば,物の遺贈を受けることを選択した受贈者側が負担すべきなのではないかという考え方につながると思います。
  それからもう一つ,私はこれはどうかなと思っているんですけれども,どうしても物が必要な人について,目的物の返還を請求しうる場合を類型的に設ける。例えば,目的物が居住不動産であった場合の居住者,目的物が事業用財産であった場合の事業者,こういう人が減殺請求者であった場合には,目的物の返還を請求できてもよいのではないかと。これは,基本的に甲案を採った上で,例外的に目的物の返還を求める必要性が高い場合というのを類型化する方向の考え方です。
  このように,甲案でもいろいろなバリエーションがあると思います。私自身は,基本的に価値権という考え方にはひかれるところがあります。
  一方,乙案を基本に考えるという考え方もやはりあるだろうと思います。これは,遺産分割との間の一回的解決に資するということだと思います。特に,相続人間の紛争の場合には,感覚的にも適合する考え方です。ただ,第三者が受贈者だった場合には妥当するのかという疑問はあります。
  それから,乙案の問題点としては,憲法上の問題もさることながら,かなり減殺請求者側の権利が弱くなるという問題があると思います。これでは,当初からの具体的権利として発生しないことになりますので,まず第一に民事保全ができません。家事事件の中で形成される権利ということになり,家事事件手続法上の審判前保全処分しかできないということです。
  それから,第二に,通常この遺留分減殺請求権が訴訟になる場合は,単独で訴訟になることよりも,遺贈や贈与などの原因行為の無効を主張する中で予備的請求として出てくることがかなり多いです。つまり,主位的請求が遺言無効,予備的請求が遺留分減殺というパターンはかなり多いのですが,このような予備的請求という方法では使えなくなりますので,かえって早期解決を妨げることになるという問題点があります。
  それから,三つ目ですが,これは言うまでもなく,既判力がないことで,紛争が蒸し返される危険が避けられないことです。現行法は訴訟ですから,仮に前提である遺産性の問題について争いがあっても紛争を蒸し返すことはできないわけですが,乙案だとその意味では一回的解決ができなくなって,かえって現行よりも解決のスピードが遅くなる場合も生じるのではないかという問題があって,この点は,実務感覚としては大きな問題点ではないかと考えられます。
  ただ,あくまで相続人間の場合に限っていえば,相続人間の公平という観点からいって乙案もある程度魅力のある制度であろうと思います。ですから,私自身は個人的には甲案プラスαという,何らかの手当てを付けた上での甲案がいいのではないかと思っておりますけれども,ここはいろいろなアイデアが出せるのではないかと考えております。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。いろいろな御指摘を頂きましたけれども,現行法ではかなり強い効力が認められているところから出発して,どのくらい減殺請求権の効力を弱めていくかということで甲,乙両案が出ておりますけれども,増田委員は基本的には甲案をベースとしつつ,しかし,もう少し現行法寄りの選択肢が幾つか考えられるのではないか,こういう御意見だと整理させていただいてよろしいでしょうか。
○増田委員 はい,結構です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのような意見を頂いておりますけれども,いかがでございましょうか。
○石井幹事 意見というより,甲案の考え方について少し確認をさせていただきたいんですが,現在の遺留分減殺請求権は形成権と考えられておりますので,権利行使をして初めて物権的な効力が生じるということになろうかと思うんですけれども,提案されている甲案というのは,そこの点については変えずに,何らかの意思表示というか,請求権の行使をして初めて債権を発生させるという考え方として理解してよろしいんでしょうか。訴訟物などを考える上で,何かお考えになっているところがあれば確認させていただければと思います。
○堂薗幹事 その点につきましては,遺留分減殺請求権は,判例上も行使上の一身専属性があると言われており,その点を変えるという趣旨ではございませんので,基本的に権利行使するかどうかについては遺留分権利者の判断によるということかと思います。したがって,金銭債権化した場合にも,遺留分権利者の意思表示があって初めて金銭債権として発生するということを考えており,そういった意味では形成権というところは変わらないのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしゅうございますか,石井幹事。
○石井幹事 そうすると,現行法上,権利行使は訴訟上でも訴訟外でもできるということになっていますので,そういった点は変わらず,意思表示によって金銭債権が発生して,それが訴訟物として提示されてくるという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい,そういう理解で結構かと思います。
○窪田委員 まだ自分の考えもよくまとまっているわけではないんですが,先ほど増田委員からの御指摘あった点は,私自身も強く共感する部分がありました。つまり,もともと遺留分減殺が訴訟事項だされていたのは,贈与の対象が相続人であるとは限らないという状況を前提としており,家事審判手続という枠の中に乗ってこないというのはそういうことだったのだろうと思います。
  また,西幹事から最初に御発言があった遺留分制度の目的は何なのかという点,共同相続人間の平等というのを含めるかどうかという問題は,どの局面を念頭に置くかで随分違ってくるということなのだろうと思います。現行の制度は必ずしも相続人ではない者も相手として機能する仕組みとして,一般的なものとして作られたのだけれども,しかし,現に遺留分が機能している場面というのは,多くの場合には共同相続人間の紛争であるということなのだろうと思います。
  この甲案,乙案それぞれ十分にあり得る考え方なんだろうと思うんですが,取り分け乙案というのは,共同相続人間の場面において考えると,具体的相続分というのはまだ確定した具体的な権利ではないのだけれども,それをベースとした上で遺産分割がなされるというような発想と比較的近いところで,遺留分減殺という仕組みを考えるものだと思います。その点で,それが一定の手続を経て初めて確定されるというのは,共同相続人間を想定すると比較的理解しやすいのではないかと思います。ただ,それでは,相続人でない者を相手にしたときにこれがうまく機能するのかというと,やはりちょっとよく分からないという気がします。
  そうだとすると,甲案,乙案については,相続人,相続人以外の者を全部ひっくるめて,共通のものとして遺留分制度というのを維持するという前提に立って二者択一で考えるというよりは,場合によっては,誰を相手方とする紛争であるかということに応じて区別する形で制度設計するという可能性もあるのではないかという気がします。今後,御検討いただくのでも結構ですし,あるいは,その点について既に何かお考えがあるということであればお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 御指摘の点は,第3の2のところで書いてある遺留分の算定方法の見直しとも若干関連するのではないかと思います。資料では,遺留分の算定方法の見直しのところでⅠとⅡというのを挙げておりますが,Ⅱで書いてあるところは遺留分が共同相続人間で問題となっている場合に,遺産分割と一体的な処理ができないかという問題意識で検討しているところがございますので,仮にあのような形でできるのであれば,遺留分についても正に遺産分割と一体のものとして,対象となっている財産から一定の価値を返還するという処理ができるのではないかと思います。ただ,やはり受遺者等が第三者の場合と相続人の場合とを切り分けて,きちんとした制度設計ができるかという点については,正直なところ非常に難しい問題があるなというのが現時点での感想でございます。
○浅田委員 銀行の中での預金受入者としての立場の意見については後回しにさせていただきます。
  まず,この制度の理解をしたいと思います。といいますのは,銀行,信託銀行の場合は特にそうなんですけれども,遺言執行者の立場から相続に関与することがあります。御提案の制度において,遺言執行者がどういう立場になるのか,現状と変わるのかということを確認したいと思います。
  そこで,質問ですけれども,現行判例法理のもとでは,遺留分減殺請求権というのは,遺言執行者を相手方として行使するというのも認められていると認識しております。この甲案,乙案が採用された場合に,遺言執行者が遺留分請求権の行使に当たってどういう立場になるのか,ないしは,ならないのかということをお聞かせいただければと思います。この文章だけを見ると,例えば甲案では,相続人間の中で請求権のやり取りがされるのかなというふうにも見えます。そうすると,遺言執行者はこれに関与しないのかなと。乙案の場合にも,協議とか審判等において遺言執行者がどのように関与するのだろうかということがちょっとよく分かりません。何か整理があるのであればお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 この点についてはまだ十分な検討ができておりませんが,純粋な金銭債権の請求に関しては,遺言執行者が関与せずにすることができるのではないかと思いますけれども,例えば乙案のような考え方を採った場合にどうなるのかという辺りにつきましては,御指摘を踏まえ検討したいと思います。
○渡辺関係官 先ほど申し上げましたとおり,まだそこの点については十分検討はできていないんですけれども,ただ,基本的には遺贈又は贈与が全部又は一部失効するというところも否定してしまうというところから出発しておりますので,遺言執行者が関与する可能性というのは低くはなるとは思います。詳細はまた後日検討させていただければと考えております。
○浅田委員 後で全体像を見て,遺言執行者の役割がどのようなものになるのかということを評価した上で,それが本当に相続の円滑化につながるかどうかということをあらためて検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  少し戻りますけれども,増田委員と,それから窪田委員から,乙案も共同相続人間では魅力的な案であるという御指摘がありました。後の方で,共同相続人間であるか,あるいは第三者が混じるかということで区別して考えるというような御提案もあるようでございますので,またそちらも含めまして,分けて考えることが可能であるかということについて御意見をいただきたいと思います。
  これまでのところ,甲案,乙案それぞれについて御意見を頂いておりますが,前提としては,現状を動かして甲案あるいは乙案を採用するということを考えるという方向の御意見かと思います。そういう御意見が更にありますれば頂きますし,いや,現行法をベースにするということでよろしいのだという意見もおありかもしれません。どちらでも結構でございますので,御意見を頂ければと思います。
○村田委員 乙案についての半分質問で,半分意見になるんですけれども,先ほど増田委員が乙案についての問題点の指摘をされた部分,特に既判力や紛争の蒸し返しということで言われたことに若干絡みます。
  乙案によれば,具体的な権利は協議又は審判によって形成されるということになっています。そうすると,その前提となる抽象的な部分というのがあるのではないかと考えられまして,そういう遺留分侵害の有無や範囲といったものが抽象的な権利あるいは地位として争われるとすると,それは訴訟事項として残ることになるのではないかと思うんですが,そういう理解でよろしいかというのが質問であります。
 ここから先が意見なんですが,もしそういう理解でよいとすると,何がしか権利侵害の有無・範囲については訴訟で確定するという部分がないと,憲法適合性の問題が出てくるように思います。他方で,結局,訴訟で確定しなければならない部分が残るというのであれば,現行法の下では遺留分減殺請求訴訟としてある種1本の手続で解決できていた紛争のうち,抽象的な権利の確定については地裁の訴訟でやり,具体的な権利の形成については家裁の審判等でやることになって,紛争解決手続が分断されてしまいます。乙案というは,そういう要素を持った提案かなというふうに受け止めました。そうであるとすると,部会資料の第1「問題の所在」のところでも触れられているように,ある局面においては相続に関する紛争を一回的に解決しようという要請を前提に提案がされておきながら,乙案については,逆に,紛争分断の要素があるということになり,その点をどう評価するかということについても,慎重な御意見を頂きながら考える必要があるのではないかなというふうに思います。
  以上です。
○堂薗幹事 御指摘の点につきましては,乙案において,どういった点を考慮して最終的にその分与の仕方を決めるかというところにも関わってくると思います。例えばですけれども,これを家事事件にした上で,寄与分まで考慮するということになりますと,要件のところからして,裁判所の裁量が入らないと権利の内容が定まらないということにもなりますので,そういった意味で非訟的な要素を持つということになると思いますし,仮に寄与分を考慮しないという場合でも,ここでは具体的にどの財産を誰に渡すかという点については裁判所の裁量に委ねるということなので,その意味で非訟的な要素があるということだろうと考えております。乙案は,基本的には財産分与を参考にしたものでございますので,財産分与の関係でも,その前提となる身分関係があるかどうかとか,そういった点については当然訴訟の対象になるんだと思いますけれども,今御指摘があった,例えば遺留分侵害があるかどうかという点については,具体的相続分が訴訟事項とならないのと同じように,訴訟事項にはならない可能性もあるのではないかという感じもしておりまして,その点は今後詰めて検討していきたいと考えております。
○上西委員 1ページに,「公正証書遺言の件数が年々増加しており,遺言に対する需要は高まっている」とありますが,増やすことは社会的な要請であると思います。
  ところが,公正証書遺言の場合は適式の書類にはなるものの,遺留分まで算定し切れているかどうかです。この財産についてはこの人にとするわけですけれども,全体像まできっちりと評価した上でできているかどうか分からないですし,過去の贈与等についても考慮されていないケースの方が多いと思います。そうすると,全体のテーマとして,遺留分制度をより分かりやすい制度として見直す必要があると同時に,より解決しやすい制度にするということもここでの議論だと思います。
  そこで,甲案,乙案についてです。4ページに「甲案の課題について」の中にアの考え方とイの考え方があります。中長期的に考えて,共有物はなるべく増やさないようにした方がよいという趣旨から,アの考え方のほかにイの考え方を出して,現物返還の対象となる部分を超えて現物返還することを認める,すなわち集中させると,先ほど御説明されました。別の言い方をすれば,片寄せするということになろうかと思います。この考え方の方が当事者間で解決しやすくなると感じました。分かりやすい制度になっても遺留分減殺の請求の問題は生じ得ると同時に,増えていくと思います。そうすると,解決しやすい方法で,共有関係を避けるためには,イの考え方がよいと考えます。
  そして,5ページに,集中させて,片寄せさせて清算をして,遺留分減殺請求に応じても,遺留分侵害額を上回る場合もあれば,下回る場合もあります。上回る場合は,請求を受けた側である受遺者や受贈者が納得して差し出すのですから,それは一つの解決策と思います。しかし,下回る場合については,大半が解決しておれば,残りは現金等での清算ということも主たる選択肢で置いておく必要があります。下回る部分をめぐって共有関係を増やすというのは,社会的な要請からも外れていくという気がします。どの程度が解決すれば残りの部分を現金清算にするかという問題はあるかもしれませんが,なるべく集中させる,片寄せする考え方をメーンに出した方がよいと考えます。
○大村部会長 御意見ありがとうございます。
○山本(克)委員 先ほどの多分浅田委員のおっしゃったこととも少し関係するんだと思うんですが,甲案の②の場合の受遺者又は受贈者の側の意思表示があったときの効果というのは,従来どおり物権的効果なんでしょうか。
○堂薗幹事 ここでは,基本的にはそのようなものを考えております。
○山本(克)委員 それと,それはそれで結構なんですが,仮に今,上西委員がおっしゃったような,次の4ページのアとかイを採ったときに,予備的請求としてどういう請求を立てたらいいんでしょうか,遺留分減殺請求権者としては。
○堂薗幹事 遺留分減殺請求権者としては,基本的に金銭債権として請求をし,それに対し受遺者,受贈者側でこういった抗弁が出された場合には,それを金銭的に評価して,その額が遺留分侵害額に達していないときには,その残額部分に限り金銭請求を認めることになると思います。
○山本(克)委員 しかし,それだけでは,不動産登記の問題は処理し切れないので。受遺者の方に登記が移すためには,別途登記請求を立てなければいけないですよね。
○堂薗幹事 そうですね。
○山本(克)委員 では,その場合の登記請求を予備的請求として立てる場合に,特にイの場合にはどうしたらいいんでしょう。
○渡辺関係官 今の御質問は,最初に請求するときに請求者は困るのではないかということでしょうか。
○山本(克)委員 抗弁が出た段階で予備的請求を追加するにしても,その請求内容をどうするかというのはもう一つよく分からないなという気がしたのでお伺いしたんですが,適切に,例えば5,000分の4,800なんぼとか,そういうのまで出さなければいけないのか,それともですね。でないと,やはり給付請求として立たないですね,形成訴訟になってしまうので。給付訴訟にするのであれば,そこのところはきっちり,原告が予備的請求を立てるときの指針となるような明確なものがないと駄目なんだろうと思うんですが,こういうふうに割合的権利を渡すというときには,それはかなり難しい問題が生ずるのではないのかなという気がしたのでお伺いしました。
○堂薗幹事 御指摘の点は十分に検討したいと思いますが,元々は,飽くまでも抗弁が出れば,その段階で現物が遺留分権利者に帰属するというような制度を考えておりましたので,抗弁が出た後に予備的請求を再度立て直してということは考えておりませんでした。もっとも,抗弁を出しただけでは,登記まで取得させることはできないではないかというのはおっしゃるとおりかと思いますので,その点をどういう形で手当てするのかという辺りも含めて,検討したいと思います。
○沖野委員 今のこととも若干関わるかもしれませんが,1点だけ申し上げます。甲案の場合に,現行法とどこが違うのかなというふうに考えていたんですけれども,取り分け㋑を採ると特に違いが出るというのと,それから相手方の倒産の場合に違いが出ると考えておるんですけれども,㋑を採ることについて,私は,現行法のように,全ての財産に一律に割合で物権的効果が生じるというのは,複数の財産があるときには余り適切ではないのではないかと考えておりましたので,㋑のような形で寄せるということができる方策は入れた方がいいと思っています。
  ただ,㋑の提案ですと,その部分が必ずしも保障されないという形になっておりまして,受遺者や贈与を受けた受贈者の選択になりますので,確かに注によれば,A,Bがあるときに4分の1ずつだとなるのが,Bで2分の1になるというのはきれいなんですけれども,場合によってはA,B,Cとあって,それを更に割合を全部分けるようなこともできることになってしまうのは非常に問題ではないかと考えておりますので,㋑にするにしても制約は要るのではないか。その制約の仕方が,増田委員のお考えを一部取り入れますと,例えば相手方の同意を得てとかというふうにするというのは一つの案かと思います。
  そして,そうだとしますと,これも複雑になるんですが,㋐になるところを同意を得るならば寄せることができるとか,そういうふうにすることも考えられるのかと思います。ただ,そうしますと,今おっしゃった予備的な請求とかは一層複雑になってくるような感じがしますので,十分対応ができるのかどうか分かりませんけれども,問題点としては,全く相手方が自由にできるのは問題ではないかということです。
○堂薗幹事 この点については,そもそも受遺者側の利益を考慮して,こういった形で現物返還できるようにする必要があるかどうかというところと関わってくると思うんですが,原則として金銭債権化した上で,債権者が同意している場合だけ現物返還が可能ということであれば,特段の手当てをしなくても代物弁済として可能ではないかとも思われますので,そういった意味では,仮に甲案のような形で考えていく場合には,完全に金銭債権化してしまって,それによる受遺者側の不都合については,何かほかの方策で解決するということも考えられるように思います。
○中田委員 甲案について,二つ教えてください。
  甲案を採る場合の現行法との違いなんですけれども,遺留分権利者は幾ら払えという,金額を請求するということになると思うんですけれども,それに伴う権利者の負担,あるいはリスクというものがどの程度考えられるかということをお教えください。それが第1点です。
  第2点は,包括遺贈の場合にどうなるのかということです。全部包括遺贈は,特定遺贈の総体だというふうにもし考えるのであれば,この規律が及ぶんだろうと思うんですけれども,割合的包括遺贈の場合を相続分指定とパラレルに考えるとすると,そちらは金銭にならない可能性があると思います。
  相続分の指定については,15ページでなお検討するということになっておりますけれども,割合的包括遺贈ないし相続分指定の場合を金銭返還から外すのか,外さないのかによって,相当制度設計は変わってくると思いますので,その辺りについて御検討されていればお教えいただければと思います。
○渡辺関係官 ただいまの2番目の点につきましては,正に検討中というところでございまして,割合的包括遺贈の場合ですと,恐らく今の実務では相続分を変えるという形で処理をしているのではないかと思っているんですけれども,果たしてそういった実務でいいのかどうかというところも含めて,整理することができるのであればしたいと考えておりますし,そういった形で整理ができるということになりましたら,金銭請求できるような形にするのか,相続分として幾らか取得するという形にするのか,どちらがいいのかというところも含めて,お知恵を拝借できればと思って問題提起をさせていただいているところでございます。
○堂薗幹事 1点目のリスクについてこちらで考えているのは,基本的に金銭債権化することによって,受遺者側の資力に問題がある場合に全額回収できなくなるおそれがあるのではないかという点ぐらいです。ただ,その場合に,先ほど増田委員が言われましたように,その目的財産について,法定の担保権,特別の先取特権のようなものを認めれば,そのリスクはかなり減ると思いますし,更に言えば,そういった場合には現物返還を認めるということにすれば更にリスクは減るんだろうと思います。それ以外にこういったリスクがあるということでございましたら,是非お教えいただきたいと思います。
○中田委員 私がリスクという言葉を使ったので,そちらに問題が行ってしまって申し訳ありませんでした。今の受遺者等の無資力のリスクということ以外に,訴え提起の段階でどのような負担が遺留分権利者に新たに加わるのか,加わらないのかということをお教えいただければということです。
○山本(克)委員 過少請求をした場合で,全部認容されたけれども,更に本来は取れたという場合をどういうふうに考えるかというのは一番大きな問題として,恐らく中田委員はお考えなのではないのかなと思うわけで,それは黙示の一部請求として扱われるのか,明示の一部請求として扱われるのかというのが,恐らく一番大きな問題点で,黙示の一部請求として扱われると,過少請求をした場合については上乗せ分は取れないというのが判例法理になってしまうと,そこのところをどう考えるかというのが一つ大きな問題ではないですか。
○渡辺関係官 ただいまの御指摘なんですけれども,ちょっと私の理解が間違っているかもしれませんが,現行法でも生じる問題でございまして,現行法でも遺留分というのは,例えば訴状レベルでは8分の1とかざっくり来るものが結構あるような気がしていますけれども,実際に計算してみると,かなり複雑な数字になって,そこというのはやはりどうしても原告側がきちんと計算しなければならなくなります。実際に認容できる金額と請求の趣旨を比べるとそごが生じるというようなことは,現行法の下でも起きている問題ですので,この甲案を採ったからといって殊更出てくる問題というよりは,計算方法の問題なのかなという気はしております。
○増田委員 現行法でどうやっているかという話ですが,判決に行く場合には鑑定が入ることが多いと思います。鑑定が終わった段階で,原告がもっと取れると思えば,請求の趣旨を変更して,訴えを拡張するというのが通例になっていると思いますし,それについて訴訟の現場で,時期に遅れているなどとやかく言われることは現実にもないだろうと思われます。それは,甲案を採った場合も同じことだと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今まで出た甲案に関する問題ですけれども,現物返還を認めるということについては,財産を集中するのはメリットをもたらすこともあるけれども,しかし,それによって紛争が増えることもあるので,メリットが大きくなるような方向で,何らかの制約を設けるべきではないかという意見があったかと思います。それから,これに伴う手続的な問題について,現行法上も存在するという問題も確かにあるけれども,新たに生ずる問題もあるのではないかということで,その辺りの整理が必要なのではないかという御指摘を頂いたかと思います。
○浅田委員 預金受入銀行としての考え方を述べさせていただきたいと思います。
  業界内でも議論いたしましたけれども,遺留分減殺請求権の物権的効力を見直すこと自体には異論がございませんでした。私としては,その検討自体は賛成したいと思います。
  次に,甲案,乙案どうなのかということについては,まだ十分な議論ができていないと私は思っておりまして,まだ考えあぐねているところでありますけれども,甲案に関しては,直接紛争に巻き込まれることは少なくなるのではないのかなと思っております。といいますのは,現行制度であれば,遺留分減殺請求権が物権的効力を持っているということを前提に,店頭の現場では例えばお客様ないしは関係者から遺留分請求権の行使があったということを仄聞しただけで,預金の支払いが適正にできなくなってしまうという弊害があるわけです。甲案の場合には基本的に,特に①の場合は銀行との問題というよりは,受遺者と遺留分請求権者との間の調整で解決されるというふうに理解できますので,銀行は紛争の当事者から外れるということになると認識できますので,その意味において歓迎できるのかなと思います。
  ②に関しては,制度設計如何によっては,ちょっと留保させていただきたいところもあるかもしれません。
  乙案に関しては,これも銀行が遺留分請求があったということを認識した場合であったとしても,協議,また,審判等が終了するということを待って手続をすれば,基本的には紛争が顕在化することがないという制度に見えますから,銀行にとっては現状よりは望ましいと思います。
  それで,甲案,乙案いずれがベターなのかということはなかなか難しい話だと思います。一つの局面だけ見ますと,先ほど増田委員からありましたように,乙案であれば,具体的な民事保全の手続ができないと。私の理解するところによれば,遺留分減殺請求権者は具体的な権利取得ができないものですから,それを基に仮差押手続をすることができないと思います。そうすると,仮差押えがあれば,銀行も債務者ですので,それなりに紛争の当事者となりますが,そのことから解放されるという意味では,乙案の方がベターだという評価も可能なのかもしれません。ただ,これは次回以降議論されるだろう預金債権の分割の問題にも絡んでくると思いますから,それも併せて考えてみたいと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
○山本(和)委員 3点コメントです。
  まず,甲案のイの点で,先ほど増田委員が言われて,あるいは堂薗幹事の指摘あった特別の先取特権というのが,どの程度フィージビリティーのある話なのかということです。恐らく,対象が不動産であるということを考えると,登記請求権まで与えないと,恐らく実質的には意味がないということになります。
  これは,債権法改正のときに,詐害行為取消権の関係で,受益者の反対給付請求権を保全するために,詐害行為の対象になった者に対して特別の先取特権を付与するという提案が,中間論点整理から中間試案までずっと残っていて,沖野委員などが提案をされていたところですけれども,結局,なかなかそれは実現できなかった。いろいろな理由があったんだろうと思いますけれども,同じような理由がこちらにも妥当する可能性はあり得るのではないかと思っていまして,そう考えるのであれば,できるだけ早い段階から具体的な多分提案として考えていく必要があるのかなというのが第1点です。
  第2点は乙案ですが,アの憲法適合性の問題は,私自身は,ここの資料に書かれてあるとおりで,少なくとも現在の最高裁判例を前提にすればこうなるのかなということで,むしろ,6ページのところの「もっとも」の段落に書かれてあることが,私にはよく理解できなくてですね,先ほど村田委員からも御指摘がありました,抽象的な権利というのは多分,遺留分権利者が何というか,減殺請求というのを行使すれば,そこでも抽象的な権利は発生していると。あとは,その権利の範囲とか内容等について,家事審判等によって形成していくということだと思いますので,家事審判によって財産権が喪失するというのが私にはよく分かりませんでした。もちろん,具体的にはそうなんですけれども,一般的にはもうその前の段階で抽象的な権利としては,そういう権利義務関係が存在しているということなのではないかと思っています。その点は,正に財産分与をモデルにしたという,財産分与と同じことではないかなと思っていまして,ここが,「憲法適合性についてなお慎重な検討を要する」というのは,私は理解はちょっとできなかったところです。
  それから,イの点ですが,この点は確かに,破産した場合を考えて財産分与と同じと考えると,財産分与の場合は,やはり一般的には判例は破産債権だというふうに捉えていて,これは倒産法改正のときも,何とかならないかという話があったわけですけれども,そこはやはりなかなか難しいということになっておりますので,財産分与と同じような形でこれを捉えるとすると,現在では取戻権が認められる場合が,単なる破産債権になってしまうと。そのままにしておけばなってしまうということで,権利は弱くなってしまうということはあるんだろうということで,ただ,財産分与についても批判はありますので,全部合わせてここで手を付けるというのは一つの考え方かなと思いますけれども,相当大規模な事業になりそうな気はするということです。
○堂薗幹事 憲法適合性の,6ページの「もっとも」以下ですけれども,我々としては,その前の段落までのところで一応憲法上の問題はクリアしているのではないかとは考えているんですが,財産権の全部又は一部を奪われる側から見て,訴訟によらずに権利が奪われることに問題はないのかという御指摘もございましたので,その旨の記載をしたということでございます。もっとも,その点は,現在の判例からすると,裁判公開の問題ではなくて,正に財産権の制約として,そういったものが認められるかどうかという限度で問題になるにすぎないのではないかというのが,こちらの理解でございます。
  それから,遺留分権利者の地位については,確かに財産分与並びで考えれば,同じようにするということなんだろうと思いますが,元々,遺留分減殺請求に物権的効力が認めているところを弱めるというところがございますので,遺留分の権利性を弱める場合に破産債権とするというところまでいってしまっていいのか,あるいはもう少し中間的なところを探るのかというところで,出発点が現行法にあるものですから,やはり財産分与以上により問題になるのかなという認識です。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  遺留分権利者の地位を何らかの形で保護するための方策は簡単ではないように思いますが,その方向でいくのならば,更に検討するということが必要かと思いますので,準備をしていただきたいと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 私も現状がいいとは思っておりません。本来,遺留分の減殺請求は遺産分割と一体的に考えられなくてはならないものですし,そもそも具体的相続分がはっきりしないと,遺留分の計算というのもできないはずです。それなのに,具体的相続分は家裁で,そして遺留分は地裁で行われる現状はおかしいと思っておりました。
  そして,訴訟と審判を使い分けなければいけないことになりますと,当事者の負担は非常に大きいですし,全体の手続としても整合的なものではありません。つまり,遺産分割との一体性というのは,非常に乙案に魅力を感じるのですが,ただ,同時に,不安を覚えます。日本の家庭裁判所の手続は,法をまんべんなく適用することによって解決する司法裁判所としては,かなり特殊な性格をもちます。家庭裁判所では,,まず調停で当事者間で話し合い,互譲が推奨されて,緩やかに解決をすることが追求されます。合意さえ成立すれば,財産分与でも遺産分割でも法の定めた基準と全く違う結論でも合法的な結論となりますし,合意がどうしても成立しないときだけ,後見的に裁判所が判断をすることになります。そのようなイメージのある裁判所ゆえに,また権利の存否判断をしてよいのかという憲法問題が出てくるのでしょう。そういう遺産分割手続の中に入れ込んでしまうと,やはり権利性が弱まってしまう気がしてなりません。
  遺留分減殺請求権というのは今まで,このカードを切ると,管轄は地裁に移ってしまいますが,同時に非常に強力なオールマイティーカードとして権利性が認められてきました。遺産分割との一体性の中で扱ったとしても,実質的には従来通り権利性が強いものとして計算されるという保障があるのであればよいと思うのです。
  現状の家庭裁判所と地方裁判所の分断は問題が多く,様々な御意見が出ましたように,分断という前提で,本来は全部まとめて行われるべき手続がばらばらになっている,要がなくなった扇のような形の相続手続です。それを今まで苦労して運用してこられた実務の,あちこちとの衝突はあると思うのですけれども,でも,何とか一体的に,かつ権利性を弱めないという形で制度設計ができればいいなと思っております。
  それでは具体的にどうすればいいのかという案が,提案できればいいのですが,申し訳ありません,まだ詰めて考えておりません。乙案までいってしまったときに一遍に権利性が弱くなりすぎるような危惧がありますが,甲案であったときに,その一体性をどういう形で担保できる制度設計ができるのか,具体的にこうすればそれが可能だというアイデアまでは言えないのですけれども,権利性を弱めない形で,かつ一体性を担保できるような制度設計がいいなと思っております。すみません,感想めいたことで,お許しください。
○大村部会長 ありがとうございました。御意見として伺って,御検討いただきたいと思います。
  そのほかにいかがでございましょうか。
○西幹事 すみません。自分の専門分野であるにもかかわらず,先ほどから初心者的な質問ばかりで恐縮ですけれども,2点教えていただきたいと思います。
  1点目は,話を蒸し返すようで大変恐縮ですけれども,現在,乙の現物減殺が原則ではありますが,一定の場合には被減殺者の選択によって価額弁償も認められています。それでは駄目だと,足りないという理由がどこにあるのかが,今一つ私にはよく分かりません。
  遺留分権利者の側からの選択権は認めないという裁判例がありますので,それを修正するというのはもしかしたらあり得るのかもしれませんけれども,現行法を大きく変えて,遺留分権利者の権利を弱めて,なおそのような改正をするだけの現行法の不備があるのかというのを教えていただきたいのが1点目です。
  2点目は,非常に細かい話ですけれども,4ページ目の3の(1)「甲案の課題について」のところです。アの「現物返還を認める範囲」のところで関係するのかもしれませんけれども,下から6行目のところに「恣意的な選択」という言葉がありますが,現行法では一部価額弁償が認められています。つまり,現物返還が原則だけれども,任意のものについては価額弁償するということで,遺産の一部つまみ食い的独占というような表現が使われることもあります。今回,甲案のようにした場合,一部現物返還という,今の逆のようなことを認めるおつもりなのか,その2点教えていただきたいと思います。
○堂薗幹事 まず,現行法の規律のうち,原則として物権的効力が生じ,例外的に価額弁償で対応するという点を見直す必要があるのかという点につきましては,価額弁償でやればいいではないかというのは一つあるんですけれども,ただ,現実問題として,遺留分減殺請求権が行使されますと,基本的には共有状態が生じてしまうと。しかも,現行の計算方法によりますと,共有持分の割合も,何といいますか,非常に大きな数字になって,当事者もどういった持分割合になるのか,およそ予測がつかないような取扱いになっているのではないかと思います。
  そして,そういった点が,事業承継の障害となっていることはやはり否定はできないのではないかという点もございますし,また,当然に物権的効力が生じると,そこで基本的には終わりというのが現行法の建前だと思いますので,そういった意味では,後に共有物分割までしないと,最終的には紛争は解決しないという面があるのではないかと思います。
  他方,現行の遺留分制度の趣旨からいって,物権的効力まで認めないとその趣旨が貫徹できないのかという観点から見た場合に,基本的には一定の価値,特に金銭であれば,その金銭債権を取得させて,それが満足できるのであれば,それで十分ではないかというところがございまして,こちらとしてはこのような考え方を提示させていただいたというところでございます。
  それから,一部現物返還のようなものが認められるかどうかというところでございますが,甲案の②のところで書いておりますのは,基本的には受遺者側で財産を選べるわけですけれども,その財産,要するに現物返還をする財産が遺留分侵害額に満たないと,要するに請求額に満たないというような場合には,その差額分についてはなお金銭債権として認められるという前提でございますので,そういった意味では一部現物返還,一部金銭ということは想定しております。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほかに御発言ありますでしょうか。
○八木委員 甲案,乙案の趣旨は大体理解できたんですけれども,その前提となる,ではなぜ見直しをしなければならないのかということについてでありますが,1ページから2ページ目に書かれている,まず1ページの下の(2)の「遺留分制度の趣旨・目的が妥当する場面が減少していること」と,こうあるんですけれども,これはそもそもの趣旨に当てはまらない社会的な状況になっているということから考えると,遺留分制度の趣旨・目的の見直しという,そこになりますよね。
  それから,2ページ目の(3)の「具体的な貢献が考慮されないこと」というここの部分が,甲案,乙案のところにどういうふうに反映されているのかがさっぱり分からないんですね。むしろ,これは要らないのではないのかなと。(4),(5)は十分甲案,乙案の中に反映されていると思うんですけれども,(3)とさっき申しました(2),この辺りの記述が余り全体として整合しないと,ずっと話を聞いてきて思いましたので申し上げました。
○堂薗幹事 その点につきましては,まず(2)のところは,第2のところで問題にしているというよりは,第3の1ですとか,そちらの方で問題にしております。といいますのは,現在の状況からすると,子については相続開始時点でそれなりの年齢になっていて,生活保障の必要性は昔よりは低くなっているのではないかということがあり,他方,配偶者については,現行の遺留分制度ですと,離婚の場合に取得できる実質的な持分についても取得できない場合もあるので,その辺りについて見直しをする必要がないかという点が問題となり得るように思いますが,その点については,第3の1のところで取り上げております。
  それから,(3)の具体的な貢献につきましては,寄与分を遺留分制度においても認めるかどうかというところで取り上げております。この点については余り明確には書いていないのですけれども,12ページのウのところで,Ⅱのような制度を採った場合には,具体的相続分の算定の仕方と遺留分の算定の仕方が基本的に同じになりますので,こういった制度を採れば寄与分についても考慮することができるようになるのではないかと思います。
  そういった意味では,御指摘のとおり,第2のところではその辺りについては余り考慮されていないということだろうと思います。
○大村部会長 第1のところは全体についての総論という位置付けになっているという御説明があったと思いますが。
○渡辺関係官 1点補足なんですけれども,乙案を採用いたしますと,遺留分を家庭裁判所で処理をするということになりますので,遺留分の中でも寄与分を考慮することがより可能になるという方向性はあるのではないかと思っております。
○大村部会長 今,お答えを頂きましたが,もう一つ,八木委員の御質問の中で1の(2)の制度趣旨の議論を根本的にやる必要があるのではないかというお話がありました。先ほどの米村委員の御発言も同様の趣旨だったかもしれません。ただ,遺留分に限りませんけれども,親族相続法上の諸制度については,制度が変遷してきているわけですが,それについて様々な説明が与えられてきて,制度の変遷の中で説明の重点も変わってきているということだろうと思います。民法の場合には,ある明確な政策目的があって,それを実現するために立法がされているということでは必ずしもないので,今回,何らかの立法することによって,今後の制度趣旨の理解は少しずつ動かしていくことになる。そんな位置付けではないかと思っております。
○増田委員 これは本当に思い付きで,あるいは何らかの欠陥があるのかもしれませんが,乙案の憲法適合性や既判力の不存在などの弱点をカバーするという意味で,乙案のバリエーションとして,乙案プラス形成訴訟という考え方も,これから検討する上での選択肢としてあり得るのかなと思いましたので,一言述べさせていただきます。
  ただ,やはり第三者が受贈者である場合にはどうかという疑問は残っていますので,私としては余り推すつもりはないんですが,乙案の弱点を若干なりともカバーできるという案として考えられるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙案でいきたいが,いろいろ問題があるという御指摘が複数出ておりますけれども,乙案でやりつつ,何か突破口があるのかどうかということについては,更にもう少し検討していただくということかと思います。
  よろしいでしょうか。
  よろしければ,次の項目に進ませていただきたいと存じます。
  「第3 遺留分の範囲等についての見直し」というところの御説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,6ページの最終行から始まります「第3 遺留分の範囲等についての見直し」から御説明をさせていただきます。
  ここでは,現行制度の枠組み自体を見直す考え方,それから現行制度の基本的枠組みは維持しつつ,遺留分の算定方法等を一部見直し,共同相続にも配慮したものとする考え方の二つの方向性から検討を加えております。
  まず,1つ目の「1 現行制度の枠組み自体を見直す考え方」でございます。
  ここでは,①として,配偶者は,遺留分として,実質的夫婦共有財産,これは遺留分算定の基礎となる財産のうち被相続人の固有財産を除いたものでございますが,これの2分の1に相当する額を受ける。②といたしまして,子は,遺留分として,被相続人の固有財産の2分の1に相当する額を受ける,という考え方を掲げさせていただいております。
  この案の「基本的な考え方」でございますが,この方策は,前回御議論いただいたところと共通いたしますけれども,遺留分算定の基礎となる財産を実質的夫婦共有財産と被相続人の固有財産とに分けた上で,その財産の属性に応じて遺留分の範囲を決めることとするというものでございます。すなわち,実質的夫婦共有財産につきましては,その形成又は維持について,配偶者に相応の貢献があるのが通常であること等を考慮して,配偶者にその一定割合について遺留分を認めることとし,他方,被相続人の固有財産については,配偶者の貢献とは無関係に形成された財産であること等を考慮して,被相続人と血縁関係にある子及び直系尊属に遺留分を認めることとするものでございます。
  そして,配偶者の遺留分については,実質的夫婦共有財産における通常の貢献分を確保させるという趣旨で,子と相続する場合にはその2分の1を遺留分としております。
  このような考え方を前提といたしますと,実質的夫婦共有財産の残余部分というのは,名実共に被相続人に帰属すべき財産ということになりますので,この部分につきましては被相続人が自由に処分することができるということになります。
  なお,この方策は,配偶者の貢献をできる限り実質的に考慮するということをその目的の一つとしておりますので,実質的夫婦共有財産という概念を用いております。したがいまして,先ほど少し申し上げましたけれども,前回御議論いただいた部会資料3に記載されている配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現のために考えられる方策,これのいずれかを採用する場合には,ここで挙げた方策,あるいはそれに類するものを採用することが自然なのではないかと考えておるところでございます。
  次に,この考え方の「検討課題」でございますけれども,おおむね前回の御議論と重複するところが多いかと思いますので,ごく簡単に御説明させていただきます。
  まず,「紛争の複雑困難化」というところでございます。
  この案を採用する場合には,他の共同相続人,受遺者又は受贈者との関係で,実質的夫婦共有財産と固有財産のいずれであるかをめぐって争われるということになりますので,紛争が複雑困難化するおそれがございます。
  次に,「相続債務の取扱い」でございますが,現行法では,遺留分は被相続人が相続開始の時において有していた財産の価額にその贈与した財産の額を加えた額,そこから相続債務の全額を控除して算定するということとされております。ですので,この案においても同じように考えるというのであれば,相続債務についても実質的夫婦共同債務と固有債務の2類型に分類する必要があるということになるため,そのいずれに該当するかという点をめぐって,更に紛争は複雑困難化するということになると思われます。そういたしますと,この考え方を採用する場合には,紛争の複雑困難化を軽減するという観点から,相続債務の取扱いを現行法と同じにする必要があるかどうかといった点を含めて検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
  引き続きまして,8ページの「2 遺留分の算定方法等を見直すとともに,受遺者又は受贈者が相続人である場合の特則を設ける考え方」でございます。
  ここでは,遺留分の算定方法について2種類の方法を提示しております。まず,「Ⅰ 遺留分の算定方法等の見直し」のところを御覧ください。
  ①は,遺留分侵害額は,次の㋐から㋒までの計算によって算出された額とするものということでございます。
  ㋐で「遺留分算定の基礎となる財産」を算定するわけでございますが,ここでは,被相続人が相続開始時に有していた財産の価額,これに相続開始前1年間にされた贈与の目的財産の価額,これを足しまして,最後に相続債務の額を控除することとしております。ここで,現行法との違いを申し上げますと,贈与等から相続開始時までの期間が1年を超えるものにつきましては,遺留分算定の基礎となる財産には含めないという点にまず違いがございます。それから,民法1030条後段に相当する規律,すなわち,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与については,1年前よりも前のものであっても遺留分算定の基礎とするという規定は設けないというところに違いがございます。
  次に,㋑の「遺留分額」でございますが,ここでは㋐で算定した額に個別的遺留分の割合,例えば配偶者ということでございましたら,遺留分率の2分の1と法定相続分の2分の1を掛けた4分の1ということになりますが,これを掛けるということになります。ここにつきましては現行法と変更はございません。
  そして,㋒の「遺留分侵害額」の算定ですけれども,ここでは㋑で算定された額から遺留分権利者が被相続人から取得した財産が別にあればそれを引き,さらにその後に遺留分権利者が相続債務から負担する額,これを加算するということによって算定しております。この点につきましても現行の判例法理等から認められている考え方と同様の規律ということになってございます。
  次に,考え方の②のところでございます。減殺の順序に関するものでございますが,「受遺者又は受贈者は,遺留分権利者に対し,その受けた遺贈又は贈与の価額の割合に応じて①の遺留分侵害額について責任を負う。」ということにいたしております。この点については,現行法では,受遺者又は受贈者が複数いる場合の順序に関する規律がございますが,②はそのような順序は設けないということにしたというものでございます。
  次に,2種類目の算定方法でございますが,9ページの「Ⅱ 受遺者又は受贈者が相続人である場合の特則」,ここを御覧ください。
  ③は,遺留分権利者は,他の相続人に対して主張することができる遺留分侵害額,この計算方法を定めるものでございます。
  まず,これまでと同様に,㋐のところで「遺留分算定の基礎となる財産の額」を算定いたしますが,この案では,「遺産分割におけるみなし相続財産の額」と同じとするというものでございます。具体的には,被相続人が相続開始時に有していた財産,ただし,第三者に対して遺贈した部分,これは除きます。それに特別受益の価額,これを足すということにしております。現行法とどこが違うかということでございますが,一つ目は,遺留分の算定において相続債務を引いたり,後から足したりということはしないというところでございます。それから,二つ目は,第三者に対する遺贈又は贈与の目的財産,これは遺留分算定の基礎となる財産に含めないというところに違いがございます。
  次に,㋑の「遺留分額」でございますが,ここでは,㋐で算定した額に個別的遺留分の割合を掛けるというところですが,この点につきましては,現行法やⅠの方法と同じということでございます。
  そして,㋒の「遺留分侵害額の算定」ですが,ここでは,㋑で算定された金額から遺留分権利者が被相続人から取得した財産がほかにあればそれを引くということにいたしております。この点につきましては,最後に「遺留分権利者の相続債務負担額」,これを加算しないというところが,現行法あるいはⅠの方法と違うというところでございます。
  次に,④ですけれども,「他の相続人は,遺留分権利者に対し,各自が受けた遺贈又は贈与の額から法定相続分に相当する額を控除した額(法定相続分超過額)の割合に応じて③の遺留分侵害額について責任を負う。」ということにいたしております。現行法では,受遺者又は受贈者が複数いる場合の順序に関する規律は,先ほど申し上げたとおり規律があるわけですけれども,④につきましてはそのような順位は特に設けないということにいたしております。
  また,後で少し触れますけれども,相続人である受遺者又は受贈者が負う責任の範囲を計算する場合には,現行法下の判例では,減殺される側の遺留分を確保するために,遺留分超過額というものを考慮しているのに対し,ここでは相続分超過額というものを考慮するということとしております。
  以上がⅠとⅡの内容の御説明です。
  次に,9ページの(2)の「基本的な考え方」でございますが,この案は,受遺者又は受贈者が第三者である場合と相続人である場合とでは,問題状況がかなり異なるのではないかとの問題意識に基づきまして,遺留分の算定方法等を一部見直すとともに,受遺者又は受贈者が相続人である場合についての特則を設け,遺産分割における具体的相続分の算定方法に倣った計算式により,遺留分額等を算定しようというものでございます。
  現行法におきましては,相続債務の全額を控除した上で,最後に自己が負担する分を加算するということとしておるわけですけれども,それはどうしてかというと,遺留分権利者が被相続人から承継した相続債務を弁済した後にも遺留分権利者に一定の財産が残るようにする趣旨だというふうに言われております。
  このように,相続債務の弁済後も遺留分権利者に一定の財産を確保させることが許容されているのは,積極財産が消極財産を上回っている場合に限られるでしょうから,遺留分制度は基本的には純資産が存在する場合に機能するものとして設定された制度であると考えられます。
  そして,その資産超過という概念は,特定の一時点における財産状態,これを示すものでございまして,遺留分制度において問題とすべきは相続開始時の財産状態であると考えられることから,遺留分算定の基礎となる積極財産も消極財産と同様,本来は相続開始時の財産に限られるはずですけれども,積極財産を相続開始時の財産に限定してしまうと,遺留分制度の潜脱が容易となってしまうため,相続開始時に近接する時点でされた贈与等については相続開始時の財産とみなして,遺留分算定の基礎となる財産に含めるということにしたのではないかと考えられるところでございます。
  しかし,相続人に対する特別受益につきましては,判例上,相続開始の何十年も前のものであっても,遺留分算定の基礎となる財産に含まれ得ることとされております。随分前の特別受益の額が積極財産に加算される結果,相続開始時には明らかな債務超過の状態であった場合であっても,遺留分算定の基礎となる財産の算定においては,逆に資産超過の状態が生じることとなります。そういたしますと,相続開始時に債務超過の状態であるにもかかわらず,遺留分権利者は被相続人から承継した相続債務を弁済した後にも,同人の手元に一定の財産が残る事態が生ずることになりますが,これは遺留分制度の趣旨とは整合しないようにも思われるところでございます。
  また,受遺者又は受贈者としては,遺贈又は贈与を受けた当時の被相続人の財産状況によって,その効力の一部が覆滅されることになってもやむを得ない面があるとしても,その当時の財産状況とはおよそ無関係の事情によって減殺される財産の範囲が大きく変動し得るというのは,遺贈又は贈与の無償性を考慮いたしましても,その合理性にはなお疑問があるとも思われるところでございます。
  もっとも,判例が先ほどのように解釈している理由はどういうところにあるかというと,このような解釈を採らないと,各相続人が被相続人から受け取った財産の額に極めて大きな格差がある場合に,特別受益の時期如何によってはこれを是正することができなくなる,こういった点を考慮したものであると考えられます。
  そこで,これらの点を踏まえまして,今回の案におきましては,遺留分権利者に純資産の一定割合に相当する額を確保させるという要請,それから相続人間の不平等を是正するという要請という二つの要請を,別の制度で実現しようと考えているものでございます。すなわち,遺留分権利者に純資産の一定割合に相当する財産を確保させるという要請につきましてはⅠの制度により,相続人間の不平等を是正するという要請につきましてはⅡの制度により,それぞれ実現を図ろうと考えているものでございます。
  また,Ⅱの制度につきましては,「遺留分算定の基礎となる財産」の範囲を「遺産分割における具体的相続分算定の基礎となる財産」の範囲と一致させておりますので,遺留分に関する事件と遺産分割に関する事件の一回的解決を可能とすることも意図しているところでございます。
  なお,Ⅰの②でございますが,ここでは,受遺者又は受贈者が負担する責任に順位を設けないということにしておりますが,相続開始前1年間にされた贈与というのは,被相続人においても遺産の前渡しの趣旨で行う場合が多いものと考えられ,その時間的な先後関係によってその効果に極めて大きな差異を生じさせるということが公平と言えるだろうかという疑問もあること,対象贈与をこの期間にされたものに限定すれば,受贈者の法的地位の不安定もそれほど問題にならないと考えられることなどを考慮したものでございます。
  同様に,被相続人が各相続人に対して複数にわたって特別受益となる贈与をした場合につきましても,被相続人においては,その時間的な先後関係によって法的効果に差異が生ずるとの認識がない場合が多いと考えられること,あるいは遺産分割における特別受益については,時間的な先後関係によってその効果に差異は設けられていないことなどを考慮して,Ⅱの④の部分におきましても,受贈者又は受遺者が負担する責任に順位を設けないということにいたしております。
  以上が基本的な考え方の御説明でございます。
  次に,11ページの(3)の「検討課題」でございますが,まず,「受遺者又は受贈者が相続人である場合の両制度の関係について」問題となると考えられます。
  受遺者又は受贈者が第三者である場合につきましては,Ⅰの制度のみが適用されることになりますが,受遺者又は受贈者が相続人である場合には,いずれの制度も対象となりますので,両者の関係をどのように規律するのかというところが問題になります。この点につきましては,両制度の職分管轄をどの裁判所にするのか,訴訟手続及び家事事件のいずれにおいて取り扱うこととするのかといった点にも関連するところかと思われます。
  両制度を同じ手続で取り扱うこととする場合には,これを同一の訴訟物と見た上で,そのいずれか多い額を請求することができるということも考えられますが,別の手続で取り扱うという場合には,両請求の優先関係等を明確にしておく必要があり,その場合には,例えば,遺留分権利者は,相続人に対しては,Ⅱの制度ではⅠの遺留分額を確保することができない場合に限り,Ⅰの制度によってその差額を請求することができるといったことなどが考えられるところでございます。
  なお,単純にⅠの制度は第三者である場合を,Ⅱの制度は相続人である場合をそれぞれ規律することができるというのであれば極めて明確でございますし,複雑な法律関係が生じないとも考えられます。しかし,Ⅱの制度ですと債務を考慮しないということとしておりますので,遺留分権利者が法定相続分の割合によって負担する債務の額が遺留分額を上回るという事態が生じることになってしまいます。したがって,そのような明確な整理は難しいのではないかと考えまして,Ⅰの制度につきましては第三者の場合だけではなく,相続人の場合にも適用対象というふうにしているところでございます。
  続きまして,12ページの「特別受益となる贈与を受けた相続人の地位について」でございます。
  特別受益は,遺産分割におきましては,飽くまでも具体的相続分の算定の際に考慮されるにすぎず,実際に返還しなければいけないという事態は生じません。
  また,現行の遺留分制度につきましては,新しいものから減殺するということになりますので,例えば何十年前もの特別受益については,これが減殺されるという事態は通常では考えにくいかと思われます。
  これに対して,Ⅱの制度を採用いたしますと,特別受益となる贈与を受けた相続人に一定の範囲でその価値の返還を求めるということになりますため,その法的地位が不安定になるということも考えられるところでございます。
  このため,Ⅱの制度におきましては,家事事件で処理することとした上で,分割払等を認めることができるようにしたり,あるいは遺留分算定の基礎となる特別受益についても,時期的な限定を付すことなどが考えられるところでございます。
  引き続きまして,「遺産分割との一回的解決及び寄与分との関係」でございますが,Ⅱの制度における遺留分算定の基礎となる財産は,遺産分割における具体的相続分の算定の基礎となる財産と同じということにしてございますので,これを家事事件として扱うこととすれば,遺産分割の一回的解決が可能になるものと考えられます。もっとも,この場合の処理の方法につきましては,現行法の実務処理等を踏まえて,更に検討する必要があるのではないかと思われます。
  また,Ⅱの制度は,基本的には相続人間の不平等を一定の限度で是正するものでございますが,遺贈や贈与によって被相続人から多額の財産を受け取った者は,現にその財産の形成又は維持に相応の貢献をしているという場合も多いと考えられますことから,Ⅱの制度に関する事件を家事事件で扱うことにする場合には,遺留分算定においても寄与分を考慮することができるようにすることなども考えられるのではないかと思われます。
  最後に,「遺留分の算定方法の明確化」についてでございます。
  現行の遺留分制度におきましては,遺言によって遺留分が侵害される場合であっても,被相続人の財産の一部について帰属が定められていない場合や,相続分の指定によって遺留分が侵害されている場合など,遺留分に関する事件処理とは別に,遺産分割をする必要がある場合が生じ得ますが,このような場合に遺留分侵害額をどのように計算するのかにつきましては,学説上も争いがあるところでございますし,最高裁の確立した判例もないという状況でございます。
  また,先ほど申し上げましたとおり,判例によれば,遺贈の減殺割合について定める民法第1034条の「目的の価額」の算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額を超える部分のみがこれに当たるというふうな解釈がされておるところでございます。
  もっとも,現行法上このような解釈が採られているのは,遺贈は贈与よりも先に減殺されていることとされているため,自己の遺留分額を超える額の遺贈を受けた相続人が減殺請求を受けることにより,逆に,その相続人の遺留分が侵害される事態が生じ得ることを理由とするというものでございますが,減殺に関する順序に関する規律を見直し,受遺者又は受贈者が負担する責任について順位を設けないこととする場合には,この判例の規律につきましても,併せてその見直しを検討する必要があると言えるのではないかと思われます。
  この案の②及び④は,このような観点から,先ほど申し上げた判例が採用する遺留分超過額説,これを見直すというものでございます。
  このように,遺留分の算定方法についての見直しをする場合におきましては,現行制度においてその解釈が明確でない部分について,立法的な解決を図るということも含めて検討を行う必要があると考えられるところでございます。
  第3の説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第3の中は幾つかに分かれておりまして,御意見を伺いたいんですけれども,その前に,多分御質問を寄せていただくということになろうかと思います。相当数の御質問が出るのではないかと思いますので,中途半端なんですけれども,御説明を頂いたという,ここで休憩をさせていただきまして,再開の後に御質問を頂き,問題を分けて御意見を頂くということにさせていただきたいと思います。
  3時45分まで休憩させていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開をさせていただきたいと思います。
  第3の「遺留分の範囲等についての見直し」について事務当局から説明をしていただいところでございますけれども,この部分は7ページの1の「現行制度の枠組み自体を見直す考え方」という部分と2の遺留分の算定方法等を見直すとともに,相続人について別扱いのルールを設けるという部分の二つの部分からなっております。後で順次御意見を伺いたいと思いますけれども,それに先立ちまして,特に2の部分は,かなり込み入った計算になっておりまして,直ちには理解が難しいところもあろうかと思います。そこで,この点に限りませんけれども,御質問等をまず頂いて,それについてお答えをしてから御意見を伺いたいと思います。どうぞ,御質問等ございましたら。
○窪田委員 少し実質的な判断に関わる部分ということで教えていただきたいのですが,Ⅰ,Ⅱでもそうなのかなと思いますが,Ⅰの方で見たときに,8ページの受遺者又は受贈者間の関係ということで,②のⅲで「受遺者又は受贈者が負担する責任について順位を設けない。」というふうに書かれています。考え方としては,御説明があったとおり,非相続分の死亡の前の1年以内ということであれば,相続の前渡しというニュアンスなんだろうということではあったのですが,誰もかれもがみんな,自分がいつ死ぬかということを分かりつつ生前贈与しているわけではなく,遺産の前渡しのつもりであったけれど,その後も延々と生きているということは幾らでもあるのだろうと思います。
  この部分に関してよく分からなかったのは,一方でこの提案では,1年以上も前のものは全て切るという形になっています。それはそれで十分にあり得る制度だし,例外も設けないというのも分かりやすいということだとは思うのですが,それについては,相続時と離れた贈与に関しては,正しく生前の処分なんだからそれを尊重するといった考え方など,いろいろな説明の仕方があると思います。それとの関連で見たときに,生前の贈与であっても1年前のものは遺贈と同じに扱うというふうな仕組みは,本当に十分に整合的に説明できるのかなというのは,ちょっと気になります。つまり,やはり遺贈であるとか,死後に法律効果が生じるものに関しては,死後の財産処分という意味では,やはり特殊なものなのではないかという気がするからです。それに対して,処分してからすぐに死んでしまったとしても,やはり生前贈与というのは自己の財産管理権の一部として,本来の財産権の実現なのだと考えることができ,何かかなり性格が違うのかなという気もします。ですから,その点について少し補足的な御説明を頂けたらと思います。
○堂薗幹事 資料では,遺贈や生前贈与も含めて,順位を設けないということにしておりますが,御指摘のように,少なくとも遺贈と生前贈与だけは順位を付けるという考え方も十分にあり得ると思います。資料でこういう考え方を取り上げた理由の一つとしましては,例えば,被相続人において,遺産の一部について生前贈与をし,残りの財産は全て特定の人に遺贈するという遺言をすることもあるかと思いますけれども,そういった場合に,被相続人の意思としては,受遺者にできるだけ多くの財産を残してあげたいという意図がある場合も多いのではないかと思います。そういった場合に,遺贈が先に減殺されるということになりますと,結果的には遺贈が全て減殺されて,生前贈与を受けていた方は減殺を受けないという事態も生じるように思いますので,そういったことも踏まえて,資料では,遺贈や生前贈与を含めて同順位にするという考え方を取り上げておりますが,そこはいろいろな考え方があるのではないかと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○沖野委員 ありがとうございます。1030条後段に相当する規律を設けないという,この趣旨が十分説明されていないような気がしたものですから,その点を補足していただけないでしょうか。
○堂薗幹事 資料では十分に説明できていないんですけれども,基本的には,現行の1030条後段というのは,両当事者が遺留分侵害について悪意である場合ですけれども,判例の考え方を前提としますと,両方が悪意という事態は,実際上はなかなか生じにくい,将来的に財産関係がどうなるかというところの予測も含めて,悪意と言える場合でないといけないということだと思いますので,両方が悪意という事態は生じにくいというところがあるのに対しまして,実際にこの規定があることによって,贈与を受けた側の法的地位は,かなり不安定になる面があるのではないかと。すなわち,これが完全に1年で切れるということになれば,贈与を受けてから1年経てば,目的財産を取り戻されることはないわけですけれども,結局,あの規定があるために死亡するまで,例えば遺贈の2年後に遺言者が死亡したという場合でも,その後に,遺留分減殺請求がされる可能性もありますし,また,遺留分減殺請求の行使期間もそこから更に1年,それもその1年というのも主観的要件が入っていますので,必ずしも1年経てばもう行使されないというわけではないので,そういった意味で,かなり法的に不安定な地位に置かれるということがあって,特に事業承継で贈与を受けたというような場合については,その財産の処分などについて萎縮的効果が生じることもあるのではないかという辺りを考慮したものです。
  それから,今回の提案ですと,相続人については,1年を超える贈与についてもⅡの方で考慮するということになっておりますが,現行法の場合は,1年を超える贈与があった場合には,基本的に1030条後段の要件で争わなくても,遺留分算定の基礎となる財産になりますので,そこで争う必要は全くないわけですが,このように,ⅠとⅡという形で分けますと,相続人にとってはⅠの方の対象になった方が有利になりますので,そういった意味で1年超の規定を残しますと,相続人はこのⅠのところでもその点を争い,そこで認められない場合に,Ⅱで更に請求をするということにもなって,更に紛争が複雑化するのではないかという辺りを考慮しまして,1030条後段に相当する規定は設けないという考え方を取り上げたところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○沖野委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがですか。
○増田委員 ⅠとⅡなんですけれども,第三者と相続人がいずれも同じ遺言書の中で遺贈を受けている場合というのは普通にあるわけなんですが,その場合にはどちらが適用されるのかという質問です。
  ひょっとすると,遺留分額が異なるということもあり得るのか,同じ価額の遺贈を受けていても,一方は侵害していないが,一方は侵害しているという場合や,減殺の割合が異なる場合もあり得るわけですが,そういうことが前提の話なのかということをお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 この点については,基本的には受遺者又は受贈者が第三者の場合であろうと,相続人だけの場合であろうと,相続人と第三者の両方が含まれている場合であろうと,基本的には第三者についてはⅠの算定方式で計算した方法を請求することができることになります。相続人については,ⅠとⅡの制度をどのように仕組むかというところにもよるんですけれども,仮に同一の手続で請求するということにしますと,ⅠとⅡの算定方法で計算された額のいずれか多い額について請求することができることになります。
  したがいまして,Ⅰの方では遺留分侵害がないけれども,そういった場合でも相続人との関係ではⅡの制度で遺留分侵害が生じるということがあり得ることになります。
○大村部会長 よろしいですか,増田委員。
○増田委員 はい。
○大村部会長 そのほか御質問ありましたら伺いますが,いかがでしょうか。
○餘多分幹事 今のⅠとⅡの関係についてお伺いしたい。資料11ページを拝見すると,両制度を同一の手続で扱うというのは今,堂薗幹事がおっしゃったようなことなのかと思ったのですが,別の手続で取り扱う場合というのがよく分からず,その前の部分の記載を見ますと,職分管轄をどの裁判所にするかとか,訴訟手続は家事手続かというようなことが書いてありますので,別の手続というのは家事手続と訴訟手続ということを念頭に置かれているのではないかと思ったのですが,そうだとすると,「例えば」のところに書いてある,Ⅱの制度ではⅠの遺留分額を確保することができない場合に限ってⅠの制度で請求するというのは,例えば家事審判をまず申し立てた上で,そこで請求できない金額について訴訟手続で請求するというようなことを想定されているのでしょうか。
○堂薗幹事 そこはですね,必ずしもそういうふうには考えておりませんで,仮にここに書いてあるような制度にする場合,そもそもⅠとⅡを違う手続でやるというのは難しいとは思っているんですが,仮にそうすることとした場合に,Ⅰの制度から先に請求された場合には,Ⅱの制度で取得できる額は遺留分侵害額のところで控除するということを考えています。  要するに,受遺者等が相続人である場合には,Ⅱの制度で十分に保障されない場合だけⅠの制度で更に請求できるということですが,Ⅱの制度で請求できる額というのは計算上はっきりしますから,その額については,まだその手続を踏んでいない段階でも控除することとして,更に余りがある場合だけ請求を認容するというようなことを考えております。
○大村部会長 論理的にはⅡが先行するけれども,手続的にはⅠが先でもいいという,そういうことですかね。
○堂薗幹事 ええ,そういうことになります。
○水野(有)委員 関連してなんですけれども,東京地裁の水野でございますが,Ⅱの制度が家裁で,Ⅰの制度が地裁に分かれることが一般的には多いのかな─分けた場合ですね。そうなると,Ⅱの制度において,例えば寄与分とかですね。あと,ちょっと入れるかどうかについては,もちろん疑義が,いろいろな御意見もあるので,入れると決まっているわけではないのですが,夫婦の実質共有財産とか,そういう形成的なものだといいますと,なかなか計算上出るとも限らない制度設計なのかなと思ってもみたりして。
  そうなると,前もって控除するというのが果たしてできるのかと。結局,前もって控除するにしても,Ⅰをやった後,結局Ⅱをしなければいけないという御趣旨でしょうかという質問に関してはいかがでしょうか。
○堂薗幹事 Ⅱの制度で寄与分まで考慮するということだと,それは御指摘のとおりだと思います。ですから,そういう場合には制度として成り立たないのではないかと思います。ここに書いてあるものは,基本的にはⅡの方からいって,Ⅱで取れない場合にⅠで取るということを一応想定はしているんですが,先にⅠからいくことも否定はしませんので,Ⅰの制度で請求をし,さらに,その後にⅡの制度で請求するということも否定はしない,禁止はしないということを考えております。
  ただ,先ほども申し上げましたように,このⅠとⅡを設ける場合も,別の手続でやるというのは非常に難しいだろうと思っており,基本的には,同一の手続の中でいずれか多い額を請求するという形でやるほかはないのではないかと思っております。
○大村部会長 今の件については,御意見はいろいろあろうかと思いますが,一応の御説明としてはよろしいでしょうか。
  そのほか御質問いかがですか。
○垣内幹事 遺留分の制度について全く素人で,完全に議論から取り残されている感があるんですけれども,この御提案のⅠとⅡという制度は,少なくとも素人目に見て,極めて複雑な制度のように見受けられるわけですけれども,現行法に代えてこの制度を導入する必要があると考える場合の,その現行法の下における問題点,弊害として,最も大きなものというのは,10ページの第3段落というんでしょうか,「しかし」というところの段落で書かれている問題,つまり判例上,相続人に対する特別受益については時期の制限がないということの結果として,何十年も相続開始の前にされた贈与があり,かつそれが非常に大きなものであって,その贈与がなければ資産超過であったようなところを,それがあったために債務超過になってですね,結果的に,相続開始時には債務超過であるような場合があり,そのときに,しかし,現行のやり方で計算をすると,遺留分権利者の方に何がしか積極財産が残る。その分については,遺留分減殺請求の相手方,受贈者たる相続人が負担をするということになり,しかし,それでも贈与はたくさん受けているということですから,それをプラス・マイナスすればプラスにはなるのでしょうけれども,しかし,公平の観点から見て,贈与を受けた相続人と遺留分を請求した相続人との関係が公平でないという事態を是正する必要があるので,このⅠとⅡという制度を設けたらどうかという御提案になっているということでしょうか。
  仮にそうだといたしますと,そういう事態というのは現在,かなり目に付く程度に出現していて,裁判所等でそれに苦慮しておられるという事情があるのかどうかという辺りについて,もしお分かりでしたら教えていただければと思います。
○堂薗幹事 現行法上,遺留分算定の基礎となる財産については,原則1年内の贈与に限ると,両方悪意のときは1年超のものも含まれるということで,規定上はそうなっているわけですが,判例で,特別受益についてはその例外で,原則としてどこまでも遡れるということなんですけれども,昭和22年の現行の遺留分制度を作ったときに,本当にそこまで考えていたんだろうかというのがそもそもの疑問としてあります。
  もう少し具体的に申し上げますと,例えば,今の規律を前提にしますと,相続開始の直近にされた生前贈与については,当然,債務超過であれば,詐害行為取消権の対象になるんだと思うんですけれども,そういった場合についても,要するに1年を超える特別受益がたくさんあることによって,遺留分の計算では純資産額があることになってしまい,相続債権者と遺留分権利者が生前贈与された財産について,言わば対抗関係のような形で相争うことになるのではないかと思います。しかし,基本的には,本来相続債権者の引当財産となるべき財産について,債務者の包括承継人との間で相争う関係になるというのは,財産法秩序の観点からいっても問題なのではないかというところがございまして,そういった意味で,特別受益を無限定に積極財産のところに加算するという扱い自体,問題なのではないかというのがまず出発点です。
  ですから,本来はⅠの制度だけで済ませるということであれば非常に明快なんですが,ただ,そうすると,判例が問題にしているような,相続人間でかなり取得額にアンバランスがあるような場合に,このⅠの制度だけでは是正ができませんので,それについて別途,Ⅱの制度で調整することを考えたというところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○垣内委員 はい。
○大村部会長 そのほかに御質問ございますでしょうか。
  では,後でまた質問していただいても結構でございますけれども,次に御意見を頂きたいと思います。
  資料は6ページから始まりますけれども,最初に,7ページの1の「現行制度の枠組み自体を見直す考え方」という部分について御意見を頂ければと思います。配偶者と子とで遺留分についての考え方を変えるという御提案ですが,これは前回検討した問題と関連しているわけですけれども,この部分についいての御意見をまず伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○浅田委員 従前,同様の意見を述べたことがありますので簡単に申し上げます。やはりこの枠組みを変える考え方というのは,実質的夫婦共有財産の概念を使っています。それ自体の当否というのは別として,やはり,実務的な問題としては,その区分けというのは非常に難しいのではないのかと思います。
  したがって,銀行のような取引相手方もそうですが,例えば,相続を考えられる個人にとっても,遺言をどうしようかとかというようなことを考える際に,非常に複雑な計算というのも求められるのではないのかなと思います。したがって,各々の社会コストが出てくるということを指摘したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御指摘いただきましたように,これは前回に御議論いただいたところで出た問題がここに現れるということになりますので,先ほど事務当局からもお話しありましたけれども,前回の問題について,ある考え方をとるのであれば,こういった考え方が出てくるかもしれない,そういうことかと思います。
  今,実務上生じるであろうという困難について御指摘を頂きましたけれども,基本的な考え方についても,もし御意見があれば頂きたいと思います。どちらでも構いません。御意見を賜ればと思います。
○増田委員 これは,それでいいという考え方なのかもしれないんですけれども,ちょっとした違和感があるところとして,この案だと,子は,先祖代々の財産については遺留分があるんですけれども,親の作った財産には遺留分はないということになります。
  あと,親は無一文から夫婦で財産を形成していったという場合に,それを全部第三者に贈与ないし遺贈されたというケースを考えると,配偶者が減殺請求しない限り,子の方には全く来ないということになります。これも,それでいいという考え方もあるかもしれませんけれども,私はちょっと違和感があると思います。
  夫婦共有財産と固有財産の区別が問題であるということについては,前回も申し上げましたように,そのとおりだと思います。
  あと,この資料に書いてない点ですけれども,気になっているのは,直系尊属の遺留分は必要なんだろうかという疑問が前々からありましてですね。直系尊属というのは,本来,相続によって自分のところに財産が入ってくることを期待する利益はないはずなんですけれども,そこの方はちょっと手直ししていただいてもいいのかなとも思っています。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1点は,このように分けてしまうということが,分けられるかどうかということとは別に,問題を含むのではないかということかと思います。第2点の,直系尊属について何かありますか。
○堂薗幹事 その点は全く検討はしておりませんので,御指摘を踏まえ,検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 増田委員は,直系尊属を考え直した方がいいという方向の御意見ですか。
○増田委員 私は遺留分は不要ではないかと思っております。
○大村部会長 わかりました。ほかにいかがでございましょうか。
○石井幹事 前回も御議論があったところではございますけれども,やはり実質的夫婦共有財産と固有財産とを区別するというのは,実務上も難しいところかと思います。この後,御議論していただくように,遺留分侵害額の算定に当たっていろいろ複雑な計算なども控えておりますし,遺留分については債務も必ず考慮しなければならないということも考えますと,遺留分額の算定の段階から複雑な仕組みを取り入れてしまうと,全体として,紛争が非常に複雑困難化してしまうのではないかと懸念されるところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 ただいまの部分に関連する部分なのですが,これは一般的に相続分を決定するという,前回までのテーマでも少し気になっていた部分なのですが,実質的夫婦共有財産と固有財産とを分けるという話と,債務に関して実質的夫婦共同債務と固有債務とを分けなければいけないのかどうかという話は,当然には関連しないのではないかなという気はいたします。
  不動産がある,その不動産を買うためのローンであるというのは,イメージとしては大変に分かりやすいのですが,常にほかの債務に関してそういうふうに実質的な関連性があるかどうかというと,必ずしもそうでないのではないか。債務に関しては,そもそも全然別の観点として債権者保護という視点が入ってきますので,分ける必要がないという考え方もあるのだろうと思います。これは相続分にも関連する部分なのですが,ここのところについて何か補足的な御説明というのがあったら,少し教えていただきたいという思いします。
○堂薗幹事 御指摘の点はこちらも考えてはいるんですが,まず現行の制度とパラレルに考えた場合に,少なくとも純資産額があるかどうかという点について,要するに実質的夫婦共有財産と実質的夫婦共同債務の多寡を見てプラスが多いと言えるかどうかという点はやはり見る必要性があるのではないかと考えており,他方,最終的に遺留分侵害額を計算する際に,配偶者が負担している債務分を加算する取扱いについては二つに分ける必要はないんだろうと思っております。ですから,最初の点について,債務を考慮しないで,実質的に公平が図れるような方策があればいいなとは思っているんですけれども,現時点では妙案がないという状況でございますので,何かいいお考えがあれば教えていただきたいと思っております。
○大村部会長 この問題については,皆さんの御感触からすると,前回の,元になる部分がどうなるかによる,あちらが突破できればまたこちらも考えられるのかもしれない,そういう御感触だと受け止めておりますけれども,ほかに何か御発言があれば伺いますが。
○西幹事 整理してお話しできるか分からないのですが,先ほどから全部改正案に反対ばかりしているような印象を与えるかもしれませんけれども,今回も少し気になる点がありまして。
  遺留分というのは,比較法的に見ると,相続財産あるいは相続分と何らかの関係があるというのが一般的な法制だと思います。例えば,フランスとか日本の場合には,相続財産の一部が総体的遺留分になって,それを法定相続人で分けるという形になっておりますし,遺留分の債権的構成を採っているドイツの場合には,法定相続分の2分の1が遺留分という扱いになっています。
  そのような中で,今回の御提案では,相続分あるいは相続財産と遺留分との関係が見えないように感じます。全く別物として考えるのであれば,例えば完全に扶養債権として考えるのであれば,それはそれであり得るのかもしれませんけれども,その関係が見えないのは珍しい法制というか,ちょっと違和感がありますので,その辺りをどういうふうにお考えなのか,教えていただければと思います。
○堂薗幹事 その点につきましては,前回やった配偶者の貢献に応じた遺産分割をどうするかというところと関わってくるんだろうと思います。現行法上,総体的遺留分をどう分けるかという点については,正に法定相続分で分けることとされているわけでございますが,ここで挙げている考え方は,前回取り上げた考え方と同じように,配偶者の実質的な貢献を考慮して総体的遺留分を分けるというのが基本にあります。そういった意味では,法定相続の方をそういうふうに変えるのであれば,それに関連して,総体的遺留分についてもそういう分け方をするということでございますので,法定相続の場合と遺留分とで全く違う考え方を採っているということではないのではないかというふうに理解しているところです。
○大村部会長 よろしいですか。
○西幹事 そうなりますと,遺留分の趣旨としても,先ほどの遺族の潜在的持分の清算というのが結構趣旨として効いてくるということになりますか。
○堂薗幹事 基本的にこの考え方は,特に①が大きなところで,要するに配偶者は実質的な持分,離婚であれば取れる分については,少なくとも遺留分として確保しましょうというのが基本的な考え方で,仮にこの考え方を採って,総体的遺留分を今と同じように変えないということにしますと,それは結果として子供の遺留分は固有財産の2分の1になってしまうというところがあって,②はそうしているということです。ただ,それについては,先ほど増田委員からも御指摘があったような問題はあるんだろうと思います。
  ですから,この考え方は,遺産の形成に対する貢献をかなり前面に押し出した考え方ということになるのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,次の問題に進みたいと思います。
  8ページの2では,遺留分の算定方法等を見直すとともに,相続人間の場合については特則を設けるということで,ⅠとⅡというのが出ているというところでございますけれども,いかがでしょうか。
○窪田委員 先ほどから,計算方法に関してはかなり複雑になるという御指摘もあったのですが,ただ,私自身もⅠとⅡを,両方ともいわば並行的に用いるというような場面を考えると,確かにものすごく複雑になるなという気がするのですが,特に共同相続人間の問題に絞って考えると,実はこれはかなりシンプルな仕組みを提案しているのではないかという気もいたします。つまり,現行法ですと,共同相続人間であったとしても,遺産分割とは全く別の手続として処理をしなければいけないわけですが,これだと基本的には遺産分割の延長のような仕組みで,手続的にも処理することができるのではないかと思います。
  現在でも,私自身も正確には分かっていないのですが,遺留分減殺という場合でも,全て物権的な効果は直接出るというわけではなく,相続分の指定のような場合には,そもそも減殺の対象になるのかどうか自体の問題があり,私は肯定してよいと思いますが,減殺をするということを認めたとしても,結局,そこで決まったことを前提に遺産分割手続をせざるを得ないというような場面もあります。その意味では,こうした仕組みを導入するということは,一つの在り方としては考えられるのではないかと思います。
  ただ,その上で2点申し上げたいのですが,そうした場合に,果たしてⅠとⅡというのを本当に選択的に,場合によっては行使するという仕組みを考えていいのかどうかという問題が一つです。
  そして,あるいはその前提になる問題ということになるのかもしれませんが,こういうふうにⅠとⅡを分けて考えるという場合には,実は共同相続人間における遺留分というのは,固有の意味を持った問題として扱われるべきものなのではないか。仮にそうだとすると,無理にⅠとつなげる必要はないのではないかという点です。その意味では,共同相続人間の問題というのを別個の仕組みで考えるということになるのかもしれませんが,そこまで割り切って考えるという行き方があってもいいのではないかという気がします。
  なお,ちょっとだけ補足しますと,西先生のおっしゃったことに反論するつもりまったくはないのですが,私自身の教科書に書いてあるのはとおっしゃられたのですが,私自身は,それに続けて,この説明はあんまり説得力はないとも書いておりますので,そうした理由づけを肯定的に書いているわけではないのですが,共同相続人間の公平というのは,恐らく共同相続人間の問題ではすごく分かりやすい。でも,共同相続人間の公平については,具体的相続分も共同相続人間の公平という説明がされますよね。そうだとすると,共同相続人間における遺留分というのはその延長なのだという位置付けもできるのではないかと思いますし,そうだとすると,遺留分というのは,具体的相続分に対して,いわば共同相続人間における最少の相続分なのだという説明の仕方はあるのかなという気はいたします。
  あんまり話を大きくすると事務局の方でも大変なのだろうと思いますが,印象めいた意見ということになりますが,こうした考え方自体はあり得るのではないかと思います。
○堂薗幹事 御指摘いただいた点のうち,ⅠとⅡを必ずしも選択的にする必要はないのではないかという点なんですけれども,実は我々もそうしたいと考えているのですが,その場合に,相続人についてはⅠのような請求自体を認める必要がないということでいいのかどうか,その辺りについて,もし何かございましたら御意見をいただければと思います。
○窪田委員 もちろん,相続人ではない者に贈与がされている場合だったらⅠの問題になるわけですけれども,共同相続人間の贈与の問題であるとすると,Ⅱだけで対応するというのもあり得るのではないかなという気はします。そうすると,権利が弱まるという考え方はあるかもしれませんが,具体的相続分の延長としての最小限の相続分として確保される部分が実現されれば,この問題は共同相続人間の問題としては解消されたのだという説明はあり得るのでないかという気はいたします。
○堂薗幹事 分かりました。
  実は,我々も,基本的にはこのⅠの制度は第三者に対してする場合,Ⅱの方は共同相続人間の問題として位置付けられないかということで検討自体は始めたんですが,やはり一番気になっている点は,11ページの注のところで書いているんですけれども,Ⅱの制度というのは基本的に債務を考慮しませんので,相続開始時にプラス財産がある場合でも,Ⅱの制度だけでいくと,結局,相続人は持ち出しになってしまうというか,自分が払う弁済の額の方がもらう額よりも大きくなってしまうという事態がどうしても生じてしまうのではないかと。ここを何とか解決しないと,なかなかそういう形でうまく切り分けることはできないのではないかというところがございまして,我々としてもここを何とかうまく解決できないかというところは今後も検討していきたいと思いますし,何かこの点についてアイデアがありましたら是非教えていただきたいと思っております。
○窪田委員 すみません。それはもう1点質問したい点にも関係するのですが,Ⅱの考え方を採ると,どうして債務を度外視するのかという点については,一応説明はされているのですが,何か一読してもすっと入ってこない説明のように思います。共同相続人間のⅡの問題であったとしても,飽くまで債務を控除して,実質的に得られるものを確認してというやり方はあるのではないでしょうか。
○堂薗幹事 確かに,そういうやり方はあるのかなと思いますし,確かにそういうやり方を採れば,今,私が申し上げたような問題は生じないんだろうと思います。
  ここで,あえて債務を考慮しないとしているのは,正に遺産分割と一体的な処理をするためには,遺産分割の中ではそういう形で計算されておりませんので,具体的相続分は,債務を考慮せずに計算されていますので,そこと同じような計算方法を採ることによって,遺留分に関する事件と遺産分割に関する事件を一体的に処理したいということでございます。現行法上も,遺留分制度は法定相続分の半分を相続人に確保する制度だということが言われるわけですが,実際には計算方法が全く異なるためにそうはなっていないわけです。Ⅱの制度は,計算方法を合わせることによって,言わば本当に,遺産分割の中で法定相続分の半分は相続人に確保させましょうと,そういった状態を作るために,このⅡの制度を新たに設けたというイメージでおります。
○窪田委員 すみません,あともう1点だけで。
  なるほど具体的相続分のときには寄与分が考慮されるのに,遺留分では寄与分はカウントされないというのは,これはやはりおかしいのだろうなという気がします。整合性が問題になるのではないかと。ところが,具体的相続分のときには債務は考慮しないけれども,遺留分の方では実質的に承継できるものについて,最小限のものを得させるためのものなのだから,債務も計算に入れましょうというのは,別にそれほど変な仕組みではないのではないか,必ずしも不整合ではないのではないかという印象を持っていますが,見落としている問題もあるのかもしれません。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 そのほか,このⅠとⅡについて。
○水野(紀)委員 まず,窪田委員の御質問と,それから前の垣内幹事の御質問と重なるのですけれども,大前提として,具体的相続分のときに債務を計算に入れていないということ自体が相当変なことではあるのです。遺産分割の前提となる遺産総額を決定するときに,本来は,債務を計算に入れた上で積極財産としての遺産総額を計算し,それに基づいて具体的相続分を計算するという形になるはずでした。でも,日本法では債権・債務は頭割りだという判例法があって,それ以外の財産で具体的相続分を考えるという前提をとるがために,何かすごくますます難しくなっている気がしております。
  そして,垣内幹事がおっしゃった10ページの「しかし」以降のところですね。ここのところも,それほど変なことだろうかという気がしてならないわけです。つまり,被相続人としては,長期計画で順番に,子供たちに,生前贈与,いわば生前相続という形で,娘が嫁に行くときには高価な嫁入り支度を整え,息子が独立するときにはそれなりの資産を渡してという形で,分けていって,そして,最後に残ったものは,自分と最後に暮らしていた子供にやりたいと思ったというときに,過去の部分は全部昔のだから消えるというよりは,むしろ過去の生前贈与を考慮するのが自然でしょう。特別受益の発想がそのように生前相続的な発想で渡したものを考慮するという発想です。そうすると,過去の遺留分を計算するときに,むしろ1030条でそれらまで遡って考える方が自然かと思えます。それはそれほど不合理な結論を導くようにも思えなくて,最初のところでちょっとつまずいているのですけれども。
○堂薗幹事 そこはですね,基本的に相続開始時点で債務超過でなければ,私も特に問題ないと思っているんですが,問題になるのは,やはり相続開始時点では債務超過だと。その場合,結局,過去の特別受益を加算することによって,遺留分権利者の手元に,要するに自分が承継した債務全部を払った後にも財産を残すという結果になるので,それは結果として,相続債権者は自己の債権について完全な満足を得られないにもかかわらず,債務者の包括承継人の立場にあるにすぎない遺留分権利者の手元には財産が残ってしまうということになりますので,やはりそのような事態は,財産法秩序の観点からいっても問題なのではないかというのが問題の出発点であります。
  遺産分割で債務を考慮すべきかどうかというところになると,更に大きな問題になってしまいますので,こちらとしてはそこまでの検討はできていないというところでございます。
○中田委員 債務については,第4の中でも出てきますので,そちらの方が適切かもしれないんですけれども,相続分の指定があった場合には,債権者は法定相続分の範囲か,指定相続分の範囲か選べるというわけですね。そうすると,遺留分には加算される相続債務はないという判例の立場を採ると,弁済資金の前渡しという問題はそもそも生じないのではないかと思うんです。
  そうすると,むしろここは遺言の効力ということですと,平成21年の判例も取り込む形で合体できるのではないかと思うんですが,やはり難しいですか。
○堂薗幹事 御指摘の点については十分に検討できておりませんので,考えてみたいと思います。
○渡辺関係官 今の御指摘につきましては,恐らく債務についてどのように承継していくのかというところに絡んでくる問題なのかなというふうに思うんですけれども,その点につきましては,次回に債権関係と債務関係を一緒に検討できるところがあればやりたいというふうに思っております。そこでどういう形で承継されていくのかというところのある程度のルールがもしきちんとできるということであれば,それを遺留分侵害額で計算するときに反映させていくというような形でクリアできる部分というのはあり得るかもしれないと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ちょっと債権・債務の問題は,この問題全体として考えていくときに,かなり大きな問題としてありますので,今,事務局の方からお話しございましたけれども,その方向性について少し議論いただきまして,こちらにも反映させていくということなのかと思います。
○上西委員 遺留分制度をより分かりやすくするということですが,遺産の分割のときには債務を考慮し,遺留分減殺の請求のときには考慮しないということも案としてはあります。これどうやって関係者に理解させるのかです。通常の相続事案が発生した一般の方たちに,説明を工夫しないと,なかなか理解はしてもらえないのかなという気がしております。
  それと,確かに過去の贈与分等々も考慮するという趣旨は十分に分かった上での話です。前にも申し上げましたが,以前のものについての贈与額について,どうやって当事者で認識し合うのかということです。古いものを持ち出せば持ち出すほど紛争の複雑化,長期化ということにもなりかねません。1年がよいのかどうかは別としまして,一定の短い年数で区切るというのも一つの考え方であると考えています。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 先ほどの窪田委員の御指摘については非常になるほどなと思うところがありました。今回のⅠとⅡの提案は,何といいますか,それぞれを別々に見ると,現行の制度よりはかなりいろいろなことをシンプルにするための工夫が盛り込まれていると思うんです。それはそれでよい検討ではないかと思うんですけれども,ⅠとⅡを両方一遍に考えなければいけないという局面が生じたときに,途端に頭が混乱してしまうという点が,この問題を難しく感じさせる一番のところかなと思っております。
  裁判所の立場としては,裁判所はプロなんだから,それぐらいちゃんとやれよと言われれば,それはやらざるを得ないということにはなるんですけれども,他方で,遺留分に関する紛争は,家事調停事件においても扱われており,一般市民の代表である調停委員に,このⅠとⅡを両方,しかも1本の遺言でも両方出てくる場面があるということを理解していただくのは非常に厳しいのではないかなという点が危惧されるところです。
  そうしたことを考えると,先ほど窪田委員のお話があったように,ⅠとⅡとで適用される局面を完全に切り分けるというのは,ある種魅力的な御提案ではないかなと思います。受遺者又は受贈者が「第三者」である局面ではⅠを適用し,「相続人」である局面ではⅡを適用するという切り分けをする場合には,部会資料の11ページの下から12ページにかけて書かれている問題が生じますが,それは,Ⅱの方式では債務を考慮しないとすることによって生ずる問題であり,なぜ債務を考慮しないのかというと,それは遺産分割との連続性を考えるからだということだと思うんですね。だとすれば,Ⅱの中身について,もうちょっとそこをオープンに考えられないのかなと思います。この点については,先ほど,第2のところで,私の発言に対して堂薗幹事の方からあった御説明のように,遺留分の権利性をものすごく弱めてしまおうというところまで踏み込んでお考えになるのであれば,例えばですけれども,相続分の指定の割合を変更する場面においてしか遺留分による修正を認めないというような,かなりドラスティックな割り切りをするのであれば,ⅠとⅡとが適用される局面というのは完全に切り分けられるのではないかというふうに思われるわけでして,そのくらいのところも視野に入れて一度議論をしてもいいのではないかなと思ったところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかの問題については,例えば相続財産を二つに分けるとかという考え方が出ているわけですけれども,窪田委員の御提案は,遺留分という同じ言葉は使われておりますけれども,違う制度なんだと割り切って,二つの方向で展開したらいいのではないかということかと思います。村田委員は,それを具体化された形で,Ⅱについてこういうものとして扱うといことをおっしゃったかと思います。こんな形でⅡを生かすことはできないだろうかという御意見が出ているという状況かと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
○垣内幹事 同じところをぐるぐる回っているようで大変申し訳ないんですけれども,先ほどの水野委員の御質問に対するお答えの中で,遺留分権利者の手元に積極財産が残るにもかかわらず,相続債権者は満足を得られないような事態が生ずることが問題であるということで,確かにそういうことが生ずるとすれば,それは問題であるように思われるんですけれども,そこで想定されている事案というのは,どういう場合にそうなるのかということなのですが,例えば相続人AとBといて,Aの方は生前にたくさん贈与を受けていると,しかし,それは1年以上前であると。Bの方は,それによって遺留分を侵害されている関係になるというときに,遺留分権利者であるBが何かいち早く遺留分減殺請求をして,Aの財産を取ってきてしまうことによってAが無資力になったりする場合を想定されているということでしょうか。
○堂薗幹事 どちらかというと,Aが無資力になることが問題というよりは,例えば,Aが相続開始の直前に贈与を受けた相続財産について,本来は詐害行為取消権を行使することによって,相続債権者の責任財産となり得るものについて,債務者の包括承継人である遺留分権利者がその財産の価値を取得することができるということ自体が問題ではないかと。そういう場面が現に生じているのかと言われますと,具体的にそういう事件があるというのは承知しておりませんけれども,そもそもの問題として,やはり特別受益を無制限に含めることにはそのような問題があるのではないかということです。
  特に,遺贈であれば,財産分離を利用することによって,相続債権者の利益を守ることは可能なんだろうと思いますけれども,例えば相続開始の直近にされた生前贈与のようなものについては,詐害行為取消権を行使しない限りは責任財産になりませんので,それと遺留分権利者の遺留分減殺請求権の行使とが競合すると,物権的に相争う関係になるというところが問題なのではないかということです。
○垣内幹事 そうしますと,物権的に相争うというのは,現行法の遺留分減殺請求の効果を前提とした場合にということで。詐害行為取消権を行使しなければ,被相続人の財産として扱われることにはならないというのはそうなんですけれども,相続人A,Bがいれば,相続債務としてAとBはそれを一定の割合でそれぞれ承継するということにはなるので,問題が顕在化するのは,Bは遺留分減殺請求を行使して,それで戻ってきた分もあるので,自分が承継した部分は十分に弁済ができると。しかし,何かの理由でAの方が資力がないので,もうその超過部分についてAに掛かっていくことができないというような場合に限定されるのかなという感じもいたしまして,仮にそうだとすると,減殺請求との競合というか,正にある種の対抗問題というか,早く権利行使をした方が得をするという話にはなるのかもしれないなという感じはしております。それは,問題としては残るのかなという感じはしているんですけれども,その点そのものについてはそういう理解でよろしいでしょうか,あるいはもっといろいろあるということでしょうか。
○堂薗幹事 基本的にはそういうことだと思います。例えば,AとBの二人が相続人である場合に,それぞれ2分の1で債務を承継するわけですが,少なくともBの方については,遺留分減殺請求権を行使することによって,自分が承継した債務を全部弁済した後に一定の財産が残るということ自体が問題なのではないかということなんですけれども。
○大村部会長 もう一つ,その前提として,先ほど事務局がおっしゃっていたのは,かつてなされた生前贈与は,特別受益では計算上は持ち戻されますけれども,現実に取り戻されることはない,しかし,これだと現実に取り戻されることがある,その差が今のようなところに現れるということかと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
○山本(克)委員 今の話を聞いていてよく分からなくなったんですが,第2の甲案で①だけを採った場合,②は入れないというときにも今の話は妥当するという前提でしょうか。つまり,遺留分権利者と相続債権者は金銭債権者同士だというときも,やはり遺留分権利者の方が先に取ってしまうのはけしからんという話になるんでしょうか。
○堂薗幹事 3ページの甲案を採って金銭債権化して,計算方法については現行と全く同じ計算方法を採って,それを金銭的に単に評価するということになった場合は,同じ問題は残るのではないかと思っております。
○山本(克)委員 同じ問題になると。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 先に取ってしまうから。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 先に取ってしまう保証はどこにもないのではないですか。
○堂薗幹事 私の理解では,相続債権者とその債務者の包括承継人が,本来相続債権者の責任財産となるべき財産について取り合うということ自体が問題だろうと思いますし,もちろんそれはどっちが先に取るかは分からないわけですが,ただ,詐害行為取消権の場合には,何らかの形で裁判所の関与がないと,対抗力を取得できませんし,受遺者側からすると,相続債権者に持っていかれるぐらいなら,遺留分権利者にあげた方がましだということもあるのではないかと思いますので,やはり問題としてはあるのではないかと考えているところです。
○山本(克)委員 いや,そこで仮に問題だとして,先ほどの垣内幹事の例でいえば,Aが破産させて,管財人に否認権行使をさせるというのでは対応できないんでしょうか。つまり,遺留分の制度というのは,責任財産としての相続財産の枠を超えていますよね。そもそも遺留分の,判例の立場でというか,もう1年前を入れている段階で超えているわけですよね。超えているんだからしようがないとなぜ言えないのかというのが,そもそもよく分からないんですけれども。
○堂薗幹事 基本的に,条文上は相続開始前の1年に限定して,もちろん1年を超える場合も想定はされるわけですが,その1年,あるいは1年を少し超えた期間の中で,もともと資産超過だったのが債務超過になるという事態はそれほど多くはないのだろうと思うのですが,特別受益で期間を無限定に入れるということになると,正にそういった事態が十分に起こり得ることになるので,やはりそこには大分違いがあるのではないかと思います。現行法は,飽くまでも本来は相続開始時点での財産状況を問題にすべきところを,遺留分制度の潜脱ができないように短期間での期間制限を設け,さらに,双方が悪意の場合はそこから少しはみ出してもそれは仕方ないでしょうということで制度設計がされていたのではないかという疑問を持っているということでございます。
○山本(克)委員 大分分かってきたんですけれども,でも,それはですね,基本的に相続債権者の方がプライオリティーが高いというふうにしていないこと自体が問題ではないんですかね。つまり,相続債権者の方がプライオリティー高くて,遺留分権利者とか受遺者とか劣後するんだという法制をして,相続債務をまず完済してから次の相続人間の分配に移るべきだという法制を採っていない以上,それはもうしようがないような気もしないではないんですが。
○堂薗幹事 ただ,財産分離とか限定承認の場面では,相続債権者に弁済した後でないと受遺者には弁済できないというふうになっておりますので,そことも均衡はとれていないのではないかという感じが致します。
○山本(克)委員 いや,均衡をとらなければいけないのだとすると,もう単純承認制度はやめてしまうというぐらいにいかないと均衡はとれないのではないかなという気がしているということです。
○大村部会長 かなり根本的な価値判断にも関わるところかと思いますけれども,御指摘はよく分かりましたので,御検討いただきたいと思います。
○増田委員 今の点は,確かにプライオリティーは相続債権者の方が高くないとおかしいのではないかとは思うんですが,そのことはさておいても,ⅰで1030条の適用はないという部分を排除すると,相続人に対する贈与も1年以内に─1年以内というのはどうかと思うんですけれども,一定の範囲に限定するという考え方自体は,それはそれでいいのではないかというふうに私は思っていまして,大昔のものを減殺の対象にまでするということは,やはりおかしいのではないかと考えています。
  先ほどの水野委員の御意見は,一定のものをAにBにCにと分け与えるという発想だったと思うんですけれども,現実には,被相続人の方の資産状態というのは一定ではなく,常に変動しているわけです。何十年も前からだったら,いいときもあれば悪いときもある。その中で,Aが結婚したとき,Bが結婚したとき,Cが結婚したとき,それぞれ資産状態がよかったり,悪かったりするわけで,その時々で公平に配慮したとしても,実際にもらっている額は違うかもしれない。そういうものを全て持戻しの対象として,それを遺留分の基礎にするというのは,どうも私には違和感があります。その時々で公平かつ相当であったものを,後の評価で判断するのはどうかというのが基本的な考え方です。
  ただ,相続人に関しても1年で切ってしまうということになりますと,自分の本当の死期は分からないですから,余命宣告を受けたりして死期が近づいたことを自覚した時点で特定の相続人に対して生前贈与したりするようなこともあり得るわけですので,そういうものについてはやはり減殺対象に含まれるべきだろうと考えると,例えば3年とか5年とか,相続人に対する贈与については,第三者に対するものよりも少し遡った形で,一定の年限を設けて減殺の対象にするというのはどうかと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。違う線を引くことによってバランスをとるという御意見かと思いますけれども。
○水野(紀)委員 母法,つまりフランス法では,制度の社会的条件が違っています。特別受益になる贈与などはみんな公証人が関与して行う要式行為になっておりますので,遺産分割のときに特別受益を計上することは難しくないのです。そういう国の条文を,そうなっていない国が継受してしまったということです。
  それからフランスでは,遺産分割の在り方も,相続開始から間もない時点で,債権債務の整理もしつつ,特別受益などもすべて心得ている公証人が遺産分割するものですし,遺言があったときにはその手続の中で公証人が遺留分の減殺請求もさせる制度になっています。そういう制度の下ででき上がった条文を,全然違う日本で,公証人の関与という条件がないところで運用していますので,もちろん問題は山積しています。御提案はこの問題をいくらかすっきりさせるようには見えます。でも,やはりまだ10ページに書かれたことについて今一つよくわかりません。債権者はそのときの被相続人の現存財産というものを当てにして貸金をしていたはずです。それで見込み違いで取り切れなかった。一方,遺留分権利者は,昔,兄弟のうちで,お父さんが裕福であったときにたくさんもらった兄弟がいて,その人から少し余分にもらう,それが公平だというのは,それはそれで何か理屈が付くような気がしてならないのですが,やはりおかしいでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,この制度だと,Ⅱの制度で実現すればいいのではないかということで,Ⅱの制度であれば,ほかの相続人がたくさんもらっていれば,それはもらいすぎだということで,返してくださいということが言えますので,相続人間のアンバランスの調整というのは,全てⅡの方でやって,Ⅰの方は飽くまでも相続開始時にプラスの財産がある場合に,そのうちの一定の財産を遺留分権利者に確保させると,そういう趣旨の違うものとして切り分けられないかということでございます。
○増田委員 先ほどの意見は,一般的な遺留分の算定方法として考えたわけで,Ⅰ,Ⅱの区別をした上で,Ⅱで補完するという意味ではありません。村田委員がおっしゃっていたように,やはりこのⅠ,Ⅱの区別は,ⅠとⅡが同時に存在する場合の解決方法を何か考えないと,デッドロックに乗り上げると私も思っています。ただ,ⅠとⅡの区別の発想自体が相続人間紛争と対第三者紛争では紛争の実態そのものが全く違うということから来ている点については私も共感を持っていますので,窪田委員がおっしゃるように,Ⅱは遺留分の問題ではもう既にないのかな,という発想で進めていくことについては特に異論のないところですが,遺留分という形で今と同じようなことでいくと,やはり同時に存在する場合について何か仕切りを付けないといけないと思っています。
○大村部会長 多分,水野委員は,このⅡのような制度を考えたとして,その中で遺留分の減殺請求権に相応の,一定の強さというか,そうしたもののを確保しておかなければいけないというお立場であろうと思います。価値判断について御意見が分かれているところがあるかと思いますので,その辺りも明らかにしながら議論を続けていく必要があろうかと思います。ほかに,いかがでしょうか。
○石井幹事 遺留分算定の基礎となる財産に含まれる生前贈与の範囲については,先ほど上西委員からも御指摘があったと思うんですが,あんまり古いものは立証が難しいと思いますので,そのような立証の難しいものを算定対象に入れることができるとしたからといって,実際に相続人間の公平が図られるかということについては検討の余地があると思います。むしろ,一定の期限を区切って,当事者になる方を限定していくというのも一つの考え方ではないかなと思います。
  あともう1点,算定方式のⅡの考え方というのは,遺産分割との一回的解決という要請を非常に意識したものであり,遺留分算定の基礎となる財産について,遺産分割におけるみなし相続財産と同じように考えるものと理解しているんですけれども,可分債権のことを考えますと,これは,遺留分の算定の基礎となる財産には含まれる一方で,現行の法の理解を前提とすると,遺産分割におけるみなし相続財産には原則として含まれないことになると思います。そのため,この点をクリアしないと,なかなか一回的解決というのは難しいように思います。そういうことであれば,先ほど来幾つか御指摘もあったと思うんですが,もう少しドラスティックなというか,思い切った考え方で全体の仕組みを考えていくといったこともあるのかなと思っておりました。
○堂薗幹事 可分債権については次回,御議論いただければと思っておりまして,そこでこの両者の整合性をどう保つかという点も含めて,検討したいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 補足だけなんですけれども,村田委員の先ほどの御発言の最後のところで,Ⅱにおいては相続分の指定の変更しか認めないという制度設計もあり得るのではないかということをおっしゃいましたが,仮にそれを採る場合に,私がさっき提起した債務について相続分の指定があったときの処理と結び付けることができるのではないかと思います。その場合に,法定相続分によって,債権者に対して,負担を負っている人たちについて何らかの手当てをしておけば,全てが一遍に解決できるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  このⅠ,Ⅱにつきまして,ほかに御発言ございませんか。よろしいでしょうか。
  それでは,最後の問題になりますけれども,13ページの「第4 その他」の部分について,事務局からの御説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,最後に,13ページの「第4 その他」について御説明いたします。
  ここでは,1として「円滑な事業承継等の障害となり得る点を緩和する方策について」,2として「特殊な類型における事件処理の明確化について」の二つの観点から論点を整理させていただいております。
  まず,1の「円滑な事業承継等の障害となり得る点を緩和する方策」でございますけれども,現行の遺留分制度につきましては,円滑な事業承継の障害になっているとの指摘がされておりまして,この点につきましては,いわゆる中小企業経営承継円滑化法というものがございまして,遺留分制度の特例が既に設けられているというところでございますが,その適用場面以外でも,例えば農家の場合のように,遺留分制度のために後継者が農地を一括して取得することが困難となり,それが農業経営の零細化,競争力の低下につながっていると,こういった御指摘もされているところでございます。
  そこで,事業承継の円滑化等の観点から,14ページにございます(1)として「遺留分の放棄等に関する規定の明確化」,(2)として「遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱い」に関する規律を設けることが考えられるように思われます。
  なお,これらの考え方につきましては,円滑な事業承継の実現を目的とするものではございますが,相続財産に事業用財産が含まれる場合のみ適用されるというのではなく,一般的な規律とすることを想定しているところでございます。
  まず,(1)の「遺留分の放棄等に関する規定の明確化」についてでございますが,現行法上,遺留分の放棄には特定の遺贈又は贈与に対する減殺請求権の放棄を含むと解されているようでございますけれども,規定上はどの範囲で遺留分の放棄が可能かどうか,必ずしも明らかではないということでございます。
  また,中小企業経営承継円滑化法では,中小企業の事業承継の円滑化を図るために,一定の要件の下で株式等の財産を遺留分算定の基礎となる財産から除外する,一般に除外合意と言われておりますけれども,それができるというふうにされておりまして,一般的には除外合意がされた場合には,その対象とされた株式等については減殺請求をすることができないというふうに解されているようでございます。
  そこで,遺留分請求によって当然に物権的効力が生ずる点を見直すという場合には,遺留分権利者と受遺者又は受贈者との間の合意,遺留分権利者の単独行為によって除外行為に類する効力を一般的に認めるということも可能になるのではないかというふうに考えられるところでございます。
  また,これらの点を踏まえ,遺留分権利者がその権利の全部又は一部の放棄ないしこれに類する処分をすることができる場合やその要件を整理し,これを法律上明確化するということも考えられるのではないかと思われます。
  次に,(2)の「遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱いについて」でございます。
  先ほど御説明申し上げましたとおり,現行法上,遺留分侵害額の算定におきましては,遺留分権利者が承継する相続債務の額,これを加算するという取扱いがされております。これは,遺留分権利者が相続債務を弁済した後,遺留分権利者に一定の財産が残るようにするためというふうに考えられますけれども,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とする場合には,相続債務の額の加算というのは受遺者又は受贈者が遺留分権利者の弁済資金を事前に提供したのと同じ状態を生じさせるということになるかと思います。
  例えば,15ページの注を御覧いただきたいのですけれども,遺留分算定の基礎となる積極財産が1億円,相続債務が6,000万円,被相続人の配偶者及び子2人が相続人という場合におきましては,現行法上,子である相続人に最終的に残る財産,これは遺留分額でございますが,500万円ということになるわけです。そして,加算される相続債務負担額,言わば弁済資金の前渡し分ということになるわけですけれども,それが1,500万円ということになり,実に遺留分侵害額の4分の3を占めるということになります。
  しかし,例えば受遺者又は受贈者が被相続人の経営する法人を承継し,相続債務のほとんどがその法人が負う債務を主債務とする連帯保証債務であったという場合を想定いたしますと,主債務者が弁済を行う限り,遺留分権利者は債務を弁済する必要はないということになりますし,また,受遺者又は受贈者が個人経営者である場合にも,遺留分権利者がその承継する相続債務の支払をしないからといって,その分の支払を怠ることが事実上できないような場合も多いと考えられます。そのような場合に,受遺者又は受贈者がその分を上乗せして遺留分の支払をし,その後,遺留分権利者に対してこれを求償するというのは迂遠であると考えられるところでございます。
  また,そもそも事業を承継する受遺者又は受贈者にとりましては,遺留分権利者に弁済資金の前渡しをするくらいであれば,むしろ期限の利益を放棄して,相続債権者に直接弁済したいという場合も多いように思われます。
  このような観点から,遺留分権利者が承継した相続債務の全部又は一部について,受遺者又は受贈者が相続債権者の同意を得て免責的債務引受けをしたような場合,重畳的債務引受けをして受遺者又は受贈者が引き受けた債務について相当の担保を供したような場合,遺留分権利者が承継した債務について相続債権者に第三者弁済をしたような場合などにつきましては,遺留分侵害額の算定におきまして,遺留分権利者が承継する債務の額を加算しないというような取扱いをするようなことも考えられるように思われるところでございますが,この点につきましても御議論いただければと考えております。
  最後に,2の「特殊な類型における事件処理の明確化」でございます。
  この点につきましては,具体的な御提案というものが現時点であるというわけではなく,単なる問題提起にとどまるという側面がございますけれども,現行法上,減殺の対象となることが条文上明らかであるのは,遺贈と贈与のみということでございまして,相続分の指定であるとか,持戻し免除の意思表示,こういったものにつきましては遺留分に関する規定に違反することができないというような規定はございますけれども,実際に減殺の対象になるのかどうかについては,必ずしも明らかではありませんし,仮に減殺の対象になるといたしましても,その場合の減殺の順序や減殺された場合の効果等につきましては,依然として解釈に委ねられているという状況でございます。
  判例等を見ますと,相続分の指定や持戻し免除の意思表示に対しても減殺することができるというような理解が前提とされているようでございますし,その効果についても一定の判断が示されているという面はございますけれども,全ての問題が実務上解消されているわけではないのではないかと思われます。
  そこで,この機会にこれらの点につきましても,その法律上の取扱いを明確にするということが考えられるところでございますが,もっとも,このような方向での見直しというのも,遺留分制度の原則形態をどのように見直していくかというところに関わってまいりますので,その部分が確定しないとなかなかその点について議論することが困難なところはあるのかなと思っておるところでございます。したがいまして,遺留分制度の原則形態をどのようにしていくのかというところの議論を先行させるということになるのではないかと思っているところでございますが,こういった問題点,これについての検討を加えることの当否やその方向性につきまして御議論いただければと考えているところでございます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他ということで,1と2につき今御説明を頂きました。1の方はかなり具体的な内容でございますけれども,2はこういう問題もありますねという御指摘で,これを更に検討するということについて御意見を伺いたいということでございます。1,2,区切りませんので,どちらについてでも御意見を頂ければと思います。どうぞお願いいたします。
○水野(紀)委員 中小企業の承継円滑化等に関する法律につきまして,立法の際に少しお手伝いをいたしましたので,その経緯を少しだけお話ししておこうと思います。
  立法の際には,基本的には承継でもめることは中小企業のエネルギーをひどくそいでしまいますので,それを防ぎたいということが念頭にはありましたけれども,均分相続を変更して後継ぎにたくさん上げたいという判断では実はなかったのです。後継者はできるだけ会社の資産を多くしたいと思いますので,本来自分が受けるべき社長としての手当なども抑え込んで,その分を全部会社の資産に入れてしまい,その後継者の労力が事実上,株式価値に反映されることになりがちです。でも株式自体の名義人は被相続人,つまり引退した先代であるという状態であったときに,後継者の労力と能力の成果である株式がそのまま相続分に従って分配されることになると,むしろ実質的には不公平が生じます。その不公平の是正が基本的な問題の発想でした。
  そして,遺留分は大きな権利ですので,きちんとした事前の放棄がないといけないだろうということで,円滑化法の組み方にしたのですが,余り使われていないと聞いております。なぜ使われないのかというと,これは口頭で伺っただけなのですが,多くの会社経営者は,できれば兄弟たちには遺産分割のときに放棄してもらうこと,遺留分の減殺請求などはされないことを期待していて,こういう遺留分の事前の放棄を持ち掛けると,兄弟たちが自分に遺留分があるということを知ってしまう。それは困るのでという理由で,この手続を取りたがらないということでした。遺留分があることは,みんなすぐ分かると思うのですけれども,事実上はそういうことで,余りうまくいっていないということです。
  今回,遺留分について,中小企業の承継円滑化法を超える形で,大きく設定をされることになりますと,そこで論じられたものとは違う一歩を踏み出すことにはなると思いますので,そのことについての説明は必要だろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  円滑化法のときの経緯とその後の使われ方について情報提供していただきました。
  ほかに何か御意見,御指摘ございますでしょうか。
○浅田委員 中小企業経営承継円滑化法の関連で,かつ,本議事には直接関係しないかもしれませんが,事業承継にしろ,通常の資産承継にしろ,信託を使うことがあり得ると思います。そうした場合に,信託の設定とそれからそれによる遺留分侵害の問題というのは,必ずしも整理がされていないと認識しております。この点について,この審議会でもいいですし,ほかの場でもいいんですけれども,何らかの調整が図られる可能性があるのかどうかということについてお尋ねしたいと思います。
○堂薗幹事 信託との関係で,どういった問題が生じているかという点を把握した上で,検討すべきものがあれば検討したいと考えておりますが,現時点で具体的に何か検討をしているという状況にはございません。
○大村部会長 分かりました。
  信託について何か御発言があれば承りますけれども。
○山本(克)委員 今おっしゃったのは,共同相続人がいる場合に,受益権を一部の相続人にだけ与えるような信託を設定するというやつですよね。そのような信託の設定が遺留分侵害になるかどうかについて整理をしなければいけないという話ですね。私は脱法行為のような気がしています。
○堂薗幹事 その点は検討したいと思います。
○沖野委員 理論的にはかなりの問題があり,余り議論は多くありませんけれども,見解が分かれている問題ですので,それだけに実務的にははっきりした方がいいという要請はあるのだと思いますし,取り分け株式しか財産がないような場合というのは,深刻になると思いますが,そもそも何が対象になるのか,相手方はどうか,行使の結果どうなるのか,さらに,今回の第2の甲案,乙案になったような場合にどうかといったように,問題がかなり出てくる事項ではあります。そういった状況ではあるということは確認したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  これもなかなか難しい問題を含んでいるということのようですので,どこまで考えられるかは分かりませんけれども,視野に入れていただくということかと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。
  石井幹事,お願いします。
○石井幹事 遺留分の放棄等に関する規定の明確化として,合意ないしは単独行為によって特定の財産を遺留分遺留分算定の基礎となる財産から除外できるということが提案されていますけれども,現行の民法1043条で規定されている家裁の許可という規律は維持されるのか,あるいは全く別のものを今後考えていくのかという辺りについては,どのようにお考えでしょうか。 
○堂薗幹事 私の理解が正確ではないのかもしれませんが,現行法で遺留分の一部放棄といわれているものについては,減殺の対象となる財産があって,その減殺自体を放棄するというようなことが考えられているのではないかと思うんですけれども,現行法上は,基本的には減殺の対象となる財産については,どういう順序で減殺がされるのかということも全て法定されていますから,この財産を減殺の対象から外したいという要望があったとしても,なかなか受遺者あるいは遺留分権利者側でそこを調整するのは難しいところがあるんですけれども,ここで考えているのは,遺留分権利者が,少なくともこの贈与については全面的に効力を認めますと。そうすると,それについては遺留分算定の基礎の財産からも外れますし,減殺の対象にもならないと。そういうことにしますと,一部第三者の利益との調整が必要になりますので,恐らくは,その財産についての受遺者の負担部分については,贈与を承認することによってその負担部分に相当する財産を取得したのと同じような取扱いにしないといけないのかなとは思いますが,そういった調整をすることによって,特定の遺贈とか贈与についても完全に効力を承認するというような制度が考えられないかということでございます。
○石井幹事 家裁による事前の許可が必要かどうかというところについては,まだ特に明確なお考えがあるわけではないということなんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には事前にそういった形で遺贈又は贈与の承認をするという場合には,現行法と同じように考えれば,やはり事前の場合には家庭裁判所の許可を得る必要があると考えるのが自然だと思いますが,その辺りについて御議論いただく必要があるのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。
  そのほかに御発言ございますでしょうか。
○八木委員 先ほどの水野先生の指摘は,ここの根本の問題だと思ったんですけれども,中小企業の経営承継円滑化法というのが余り活用されていないということであれば,ここに農業経営の話が出ていますが,これはどの程度ニーズが今あるのか,あるいは日本の農業を強くするという視点から見て,この遺留分の放棄ですか,そのアイデアがどの程度意味があるのかと,そもそも論ですけれども。
  これ,特例ではなくて,一般的な規律を設けるという,非常に大きな制度改革ということになると思うんですけれども,全体として,果たしてニーズがあるのかという点をお聞きしたいと思います。
○堂薗幹事 その点は,何か具体的なニーズがあってということよりも,我々としては,現行法の下では,遺留分全体について放棄ができる,もちろん事前にやる場合には家庭裁判所の許可が要るわけですが,許可を得れば遺留分全体の放棄ができることになっているのに対し,ここで取り上げた特定の遺贈又は贈与の承認は,一部放棄に近いものですから,全体ができるのであれば,一部についてもできていいのではないかと。具体的にどの程度そういうニーズがあるかというのは,こちらでも十分把握できていないんですけれども,事業承継が現在よりも円滑にいく場合はあるのではないかという程度の認識です。今後,これを具体化するのであれば,その辺りの立法事実を含め,更に詰めて検討する必要があると思います。
○大村部会長 よろしいですか。ありがとうございます。
○山本(克)委員 今の八木委員の御質問の続きみたいなんですけれども,これは一般法化するというのは,対象財産についても限定を掛けないということです。というと,事業承継には関係のない場合にも使えるということも含めてやるわけですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 でも,これはかなり,この手のものって強制の契機が入るから,本当に家庭裁判所の許可だけでいけるのかどうか自体も問題なんではないのかなと思いますし,被相続人の生前にやるわけです。
  生前にやるのでないと,基本的には意味がない場合が多いですから,遺贈でやる場合だとか,相続分の指定なり何なりの場合を除けばあれですよね。一般法化するのだったら,生前のやつは外さないとかなり,後でまたそのトラブルが,不満がものすごく出てくるのではないですか。無理やりあのときは放棄させられましたというような話が出てきて,かえって円滑でなくなる可能性もあるのではないのかなと思って,慎重に検討していただかないと,あれがあるから一般化できるという話に簡単になるような気はしないんですけれども。
○堂薗幹事 山本先生が御指摘のような問題はあるのかもしれませんが,それは遺留分の全部を放棄する場合にも同じように生じる問題ではありますので。
○山本(克)委員 確かに遺留分全部の放棄はできるんですが,本当に機能しているんですかね。真正の確保とか何なりというのは,私はかなり,現行法の建前自体がかなり後々遺恨を残すようなことで,こういうことをまた制度化していくと,それが現実になされた後で裁判所が苦労されるというようなことが,あるいは相続人同士の間でのトラブルが増えるというようなことにもなりかねないのではないかなと,むしろ現行法自体がおかしいのかなという気もするんですけれども,そこはもっときっちりした方式とか,あるいは年齢の問題であるとか,親権者によるこれは代理できないとか,そういうようなことまで含めて考えていかないとね。親が勝手にやって,成人したら私遺留分なかったというような話で納得するんでしょうか。私はその辺りすごく微妙だと思う,少なくとも生前の分についてはそうだと思うんですけれども。
○水野(有)委員 今のお話し伺って,実務を御紹介したらいいかなと思うのですが,まず親権者が代理できるかというと,確か利益相反行為に該当するのでできないこととなり,特別代理人を選任した上で子の代理をさせることになるので,そこは御心配されなくていいと。一応家裁では,遺留分放棄の申立てがございましたら,真意を確かめる調査はした上で判断はしております。ただ,その真意の確かめの過程で何か問題がございましたら,相続放棄などと同様,無効確認訴訟も可能で,同種の事件と同じレベルで手当もありますし,真意を確認するシステムにはなっております。
  あともう1点ですが,審判の取消しという制度がございまして,一旦そういう遺留分放棄するという審判が出た後でも,御本人が翻意して,やはり遺留分放棄が嫌だということで,真意が変わりましたら,やはりそれはやめます─やめますというのは正確でないんですけれども,審判の取消しということがなされる裁判例もございますので,御本人の真意の確保の期待,何といいますか,機会はある程度設けられておりますので,少なくとも御心配の点がそのまま全て当てはまるという制度や実務の運用にはなっていないかと思いますので。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほどの八木委員の御発言と山本克己委員の御発言とは,裏表のところがあろうかと思います。遺留分の放棄の規定は戦後,実質的な単独相続を招くのではないかと危惧された制度であったわけですけれども,実際にはそれほど使われていないということだった。水野委員から先ほど御紹介もありましたけれども,円滑化法のときにも同様にいろいろと危惧はあったのですけれども,しかし,これも余り使われていないというようです。
  今回,一般的な制度を導入することによってそれが画期的に使われるようになると,山本委員がおっしゃるような乱用というような可能性も出てくるわけですけれども,しかし,依然として余り使われないということだとすると,八木委員がおっしゃるように,作ってもどうなんだろうというような話にもなってまいります。家裁実務の御紹介ございましたけれども,実態につきましてもデータ等を少しお調べいただきまして,更に詰めていただくというのがよろしいかと思います。
○上西委員 円滑化法のとき水野紀子先生が座長をされました委員会でも発言させてもらったことです。通常は,遺留分権利者と受遺者,受贈者の関係は分かっているのです。しかし,生前の贈与を考えますと,誰が遺留分権利者となるか分からないこともあるのです。どの段階でするのか,あるいは個別ごとにするのかということになるのですが,もしお互いに主張し合わないようにするのであれば,全員が同時にするということも一つの方法かなと思います。
  非上場株式の納税猶予制度のように,事業承継の基礎となる制度でも余り使われていないわけです。感覚としては,生活用財産,学校教育の費用,いわゆる嫁入り道具などについて個別に請求することは,通常はないであろうと思いますので,お互いにある段階,例えば成人してから包括的にするというのが一つの方法と考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御指摘も踏まえまして,更に御検討いただきたいと思います。
  今,遺留分の放棄について御発言が集まっておりますけれども,そのほかの点について何か御発言がありましたら頂きたいと思います。
○浅田委員 14ページの(2)の相続債務額を加算する取扱いについてのことでございますけれども,銀行の立場からすると,この問題設定というのは非常に理解できるところでございますし,私個人としてもこのような方向性で検討していただければと思っています。
  また,翻ってみますと,経営者として連帯保証を負っている方にとっても,実質的な衡平性が保たれる方向ではないのかなと思っております。
  ただ,細部の制度設計に関しては,もう少し詰める必要があるのかなと思っておりまして,具体的には15ページの「このような観点から」というところで,①から③というのがありますが,銀行では大体こういうときに免責的債務引受による処理をするということが多いです。ですから,①に関してはそのとおりだとは思っております。もっとも,例えば②に関しては「相当の担保を供」するということになっており,これは実質的な配慮ということで方向性については理解できるところでありますけれども,ただ,相当な担保というときに,その相当とは幾らぐらいなのとかということになりますと,実務において迷うこともあるのかなとも思いました。
  また,③に関してその範囲でありますけれども,例えば相続人が会社の債務を連帯保証している場合に,例えば明日とか明後日でも倒産しそうで,具体的な弁済が見えているというときにおいては,まだ弁済してなくても,カウントできるようにした方が実質的には衡平だと思います。ただ,形式的な判断が難しいというところもありますので,ここら辺の制度設計というのは詰めていただければと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかいかがでございますか。
○増田委員 特殊な類型における事件処理の明確化ですが,これは是非,お願いしたいと思います。特殊類型とありますが,実務上はどれが特殊類型といえないほど,非常にいろいろなものがあって,特に遺留分に関しては,御承知のとおり平成になってからの判例が多数あるように,解釈上分からないことが非常に多いわけです。
  少し戻って恐縮ですけれども,遺留分減殺請求をして,かつ残りの物について遺産分割をしなければならないというような事案の処理方法は,まだ確立された判例もなければ,定説も見ないという状況にありますので,その辺りのところは,せっかくの機会ですから立法した方がいいだろうと思います。これは,我々実務家は遺言を作る方でもありますので,遺言を作ったがために余計もめて,時間がかかったという笑い話も,これは冗談ではなく,結構普通に聞きます。ですので,ここは是非特殊な類型も含めて,法律上の取扱いを明確にする作業はこの機会にやっていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかにいかがでしょうか。
  では,今,御意見を頂きました点を踏まえまして,更に検討をしていただきたいと思います。
  本日予定しておりました審議は以上でございます。
  最後に,次回の予定等につきまして,事務局の方からお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,次回でございますが,次回の日程は,御案内のとおり,9月8日火曜日の午後1時半から5時半までで,場所は本日と同じこの20階大会議室を予定してございます。
  次回で一応第一読を終えるということを考えておりまして,次回はこれまでに取り上げていないその他の事項を取り上げることを予定しております。具体的には,遺言に関する事項,あるいは可分債権の取扱い等について御議論いただければと考えておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  本日は大変活発な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
  これで閉会いたします。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第6回会議 議事録


第1 日 時  平成27年10月20日(火)自 午後1時30分
                      至 午後5時25分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第6回会合を開催いたします。
  議事に先立ちまして,委員の交代がございましたので,まず新しく民事局長になられました小川局長から一言御挨拶を頂きます。
○小川委員 10月2日付で民事局長になりました小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  それから,本日は,席上の配布資料はないということでございますので,早速,事前配布の資料に従いまして審議に入らせていただきたいと存じます。
  本日の審議の資料は,「民法(相続関係)部会 資料6」というもので,「配偶者の居住権を法律上保護するための方策等」という見出しが付いたものでございます。これは,第1から第4の「その他」までに分かれております。4項目ございますので,第2項目が終わった辺りで休息するという目安で進めさせていただきたいと存じます。
  それでは,事務当局の方から,まず第1の「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」という部分について,御説明をお願いいたします。
○大塚関係官 民事局付,大塚でございます。
  第1の,いわゆる短期居住権につきまして御説明申し上げます。
  今回は二読に入ったということでもございますので,変更点を中心に簡潔な御説明とさせていただきます。
  早速,2ページ目の上から4行目に入っていただければと思いますが,部会資料2,つまり一読の時の資料では,短期居住権の原則的な終期を遺産分割の終了時としておったところでございますが,遺産分割の全体が終了していなかった場合でも,配偶者の居住建物の帰属に関する協議が成立したような場合につきましては,少なくとも当該建物については,相続開始に伴う暫定的な権利関係が解消されて,短期居住権を認める前提を欠くということになると考えられます。
  そこで,今回の部会資料におきましては,該当部分は①でございますが,①の短期居住権の原則的な終期につきましては,遺産分割により当該建物の帰属が確定するまでの間としております。
  次に,⑧,⑨についてでございます。(2)でございますが,平成8年の最高裁の判例におきましては,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかな場合には,居住権は保護されないということになりますが,⑧と⑨は,配偶者以外の者が配偶者の居住建物の所有権を遺言又は死因贈与によって取得した場合には,配偶者は相続開始時から一定期間(例えば6か月間)に限ってその建物を無償で使用することができるとするものでございます。
  なお,部会資料2におきましては,この期間を「例えば1年間」というような形にしておりましたが,この時の議論におきまして,⑧,⑨のような規律を設けること自体に疑問を呈する御意見もあったことなどを踏まえまして,この期間を「例えば6か月間」として,存続期間をより短期に限定した考え方を御提示申し上げておるところでございます。これによりまして,明渡猶予期間としての意味合いがより強まることと考えられます。
  次に,個別の論点の法的性質等でございますが,一読の議論におきましては,短期居住権に第三者対抗力を認めた場合には,相続債権者などの第三者に不測の損害を与え,取引の安全が害されるおそれがあるとの指摘などがされたところでございます。
  3ページになりますが,そこで,本部会資料におきましては,これらの議論の結果を踏まえまして,①と⑧のいずれにつきましても,短期居住権には第三者対抗力は付与しないということとしております。
  このような考え方を前提といたしますと,短期居住権の法的性質は,法定の債権と構成するのが相当と考えられます。
  一読と同様の部分は飛ばしまして,「(4)短期居住権の効力等」でございますが,アの2行目になります。前記方策におきましては,配偶者にその居住建物を無償で使用する権利を認める反面としまして,この建物について用法遵守義務あるいは善管注意義務を負わせることとしております。
  他方,建物の所有者としては,基本的には配偶者による居住建物の使用を受忍すれば足りることとしております。
  次に,5ページ以下の「(5)他の相続人及び第三者との関係について」でございますが,一読からの大きな変更は,「エ 抵当権者等との関係」,6ページ目の上から5行目でございますが,本方策は,先ほど申し上げたとおり,短期居住権に第三者対抗力を与えないということにしましたため,建物の抵当権者との関係では,相続開始後に設定及び登記がされた抵当権にも劣後することになり,その抵当権が実行されますと,配偶者は買受人からの明渡請求を拒むことはできないと考えられます。
  また,被相続人の一般債権者が相続開始後に建物を差し押さえた場合も,同様となるものと考えられます。
  簡潔でございましたが,以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  一読の際の御提案と変わっている部分を中心に御説明を頂きました。
  今,御説明があった点,あるいはそうでない点も含めまして,御質問,御意見等があれば承りたいと存じます。いかがでございましょうか。
○南部委員 ありがとうございます。質問をお願いします。
  5ページのウ「敷地所有者との関係」について。,この当該敷地につきまして,相続開始前の敷地所有者が第三者であった場合,借地権と地上権といった利用権に伴う賃貸料が発生した場合を考えたときに,配偶者と建物所有者,どちらの方が賃料を払うことになるかということを疑問に思っておりますので,そのお答えをしていただきたいなと思います。
  それと,合わせまして,6ページのエです。手続の期間の件です。通常と抵当権が実施された場合,どのくらいの期間で手続が行われるのかということで,本来でしたらもう手続が行われたらすぐ出ていかなければならないというような状況に陥りますと,やはり一般人としましては非常に困難かなと思います。これは短期の中に入らないとは思いますが,数か月ぐらいの余裕が欲しいと思います。そういったことが法律でどう規定されているか分からないのですが,ここでどのような手続になっていくのかというのを教えていただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。では,事務当局から。
○堂薗幹事 まず,敷地の地代について,配偶者と建物所有者のいずれの負担とすべきかという点でが,短期居住権につきましては,通常の必要費は配偶者の負担とするということにしておりますので,この敷地の地代が通常の必要費に当たるかどうかという問題だと思いますが,建物を使用する場合には当然敷地の利用は必要になりますので,通常の必要費に当たるということになるのではないかと思います。ただ,この点は,一応解釈ということにはなろうかと思います。
  それから,抵当権との関係ですが,抵当権実行の申立てがされて,実際に買受人が確定し,その代金が支払われるまでの間にどの程度の時間がかかるかという点についての統計は手元にはありませんが,基本的には物件の調査をし,その評価をしてから買受人を募って,それで入札をするということになりますので,それなりの期間は掛かることになろうかと思います。
  ただ,御指摘のように,基本的には短期居住権の場合には対抗力がありませんので,買受人に明渡しを請求されれば,すぐに出ていかなければならないと,法律的にはそういうことになります。この点については,例えば抵当権に対抗できない賃貸借については明渡猶予期間があるわけですが,短期居住権の場合には,やはり無償で使えるということが前提になっておりますので,明渡猶予期間のようなものを設けるのも難しいところがあるのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○南部委員 はい。
○沖野委員 細部ですけれども,幾つか分からない点がありますので教えていただきたいと思います。
  一読の点と重複するかもしれませんけれども,一つは,第1の場合の法律関係についてです。3ページの(2)の上のところで,(注)の箇所ですと,法定の債権であるとした上で,債務者は当該建物の所有者になると。したがって,遺産分割を行う必要がある場合にはというのは,共同相続の場合にはという趣旨と思いますけれども,基本的には配偶者以外の相続人が債務者となるんだと書かれています。しかし,建物自体は共同相続ですから,配偶者も所有者です。
  そして,例えば組合の場合で,組合の財産を一部の組合員に使わせるとか,あるいは組合と組合,一部の組合員との債権債務関係ですと,組合側はその組合員も含めた合有であるとか,合有的な債権債務という処理になると思うのです。法定の債権だから,別に扱うということはあり得るのかもしれません。ただ,注記のようにするとかえって複雑な話にならないかと思います。むしろ,所有者は配偶者を含めており,共有する財産について,一部の者との間で債権債務関係が立っているという説明をするのではないかと思います。
  そうでないと,例えばなんですが,権利が消滅したときに,原状に復する義務を負うとあります。誰に対して負うのかというとそれもはっきりとはしておりませんが,これは所有者ないし債務者との関係でだとすると,配偶者は除かれていいのかという問題がありますし,配偶者が死亡したときの原状回復というのもよく分かりませんけれども,そのときには遺産分割前に生じているわけですから,配偶者の相続人が更に入ってくることになると思うんですが,そういうものは全部除外されることにもなりかねなくて,この法律構成はいささか問題ではなかろうかと思います。説明だけの話かもしれません。
  それから,もう少し個別の問題ですけれども,今,既に申し上げましたが,原状回復です。一般的にここの考え方というのは,ある程度の特殊性があるものの,基本的には使用借権を与えるのと変わりはないと。しかし,それが法定で付いてくるということで,それとその前後に相続関係が来るので,そのための特殊性があるということかと思います。
  ほかの点は,用法の話ですとか,第三者に対して使用収益させてはいけないとか,終了時に原状回復するとかというのは使用借権と同じだと思うんですけれども,配偶者死亡によって終了したときの原状回復というのは,何を考えたらいいんだろうか。形式的にそういうのが問題になるだけで,実際は何もないということなのか,よく分からないなということがありまして,非常に細かいところですけれども,それが1点あります。
  それから,前にも問題になったかもしれませんけれども,占有の喪失が消滅ないし終了の原因になっているという点につきまして,遺産分割まで長期にわたるというようなことも珍しくはないといたしますと,例えば一旦ホームに入居するというような場合もあって,そしてホームへの入居というのは,入ってはみたものの,サービスが違っているとか,思いのほか自分が元気であったとか,いろいろなことで戻ってくるという可能性もあります。そういったときの占有の喪失というのをどう見るのかということですが,意図的にもう自分は要らないというような,そういうような場合だけを指すのであって,取りあえず空き家にしておいて,ほかに移っているというようなことでは占有の喪失にはなお当たらないという理解でよろしいかどうか,中身を確認したいと思っております。
  あと幾つかあるのですけれども言ってしまってよろしいですか。
○大村部会長 まだたくさんありますか。
○沖野委員 若干あります。
○大村部会長 どうぞ,続けてください。
○沖野委員 ありがとうございます。
  それから,第三者との関係という点です。第三者としてどういう人を考えたらいいのかというのは,いろいろ出てくるので難しいと思っております。既にいる第三者,具体的には被相続人の関係の抵当権者であるとか,あるいは被相続人の債権者であるとかは分かりやすいと思うんですけれども,相続人の債権者ですとか,あるいは受遺者の債権者などとの関係をどう考えたらいいのかということです。
  相続人からの譲受人については記述がございまして,5ページに,まず(5)のイのところで,第三者に当たり,かつ対抗できないという基本的な考え方が出された上で,しかし,占有権原は喪失しないということなので,占有はそのまま主張できると書かれているのですが,これは,第三者に対抗はできないけれども,占有権原は対抗できるという考え方なのか,それとも所詮持ち分であるので,2分の1は配偶者が有しているはずだから,現状を変えることはできないから結果的にそうなるだけだということであるのか。それが,それ以外の相続人側の第三者,例えば相続人の債権者が持ち分を差し押さえてというような場合にはどうなるかといった問題にも関わってきますので,占有権原だけは対抗できるという御趣旨なのか,結果的に持ち分との関係で変えられないだけだということなのかというのを,もう一つ確認したいと思います。
  それから,もう1点,第三者の関係では,受遺者の債権者というのが登場するかと思います。また,受遺者からの譲受人というのも登場すると思うのですけれども,そのときに相続人が処分をするような場合には,第三者が登場することによって対抗できないので,そこでこの権利関係というのは失われてしまうというか,主張できなくなると。そうしたときに,では,受遺者から第三者が登場するような場合も同じに考えてよいのか,それとも受遺者については,実質的に明渡猶予期間になるところがありますので,この明渡猶予期間は生きてくるのかどうかというところなのですけれども,あと,敷地の関係がありますが,取りあえずはそこまでです。
○大村部会長 ありがとうございます。4点ないし5点,御説明いただいたと思いますが,お答えをお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,まず,3ページの(2)の(注)でございますが,この点に関する御指摘については十分な検討ができておりませんので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。
  それから,配偶者が死亡した場合の原状回復義務ですけれども,基本的には配偶者の相続人が負担するということを考えております。その場合に,被相続人の相続人と配偶者の相続人が重なる場合もあるんだと思いますが,一致しない場合もありますので,一応その場合には配偶者の相続人が,通常損耗以外の損耗について,原状回復義務を負うという前提でございます。
  それから,占有喪失ですね,これを短期居住権の消滅原因としているところでございますが,例えば,建物に荷物を置いたままで施設に移ったというような場合には当然占有はありますので,その場合には短期居住権は消滅しないという前提ですが,完全に空き家にして引っ越したというような場合には,占有自体は喪失することになるのではないかと思います。もちろん,空き家にしても,例えば建物の鍵は自分で持っているとか,そういう事情があれば別なのかもしれませんが,もうここには住まないということで空き家にした場合には,短期居住権は消滅するというのが現時点での整理ということになります。
  それから,受遺者の関係ですけれども,この⑧に書いてあるような場合には,本来的には配偶者は無権利になるわけですが,建物を取得した者も基本的には無償で取得したのだから,一定期間は待ってあげてもいいのではないかと,そういった許容性があることを踏まえた規律でございます。そう致しますと,受遺者からの譲受人,あるいは受遺者の債権者については特にそういった事情もありませんので,特に受遺者からの譲受人というのは,基本的には相当価格での買受人も含まれますので,そのような場合にまで短期居住権を主張することができるということは考えておりません。
  ですから,ここは,建物の譲受人が受遺者と受贈者である場合に限って,特別に短期間の居住権を認めたという趣旨でございます。
○大村部会長 もう1点ありましたか,持ち分の問題が。
○堂薗幹事 それから,占有権原の喪失の理由ですけれども,この5ページで書いているのは,短期居住権が消滅したとしても,持分はありますので,その持分に応じて建物の全部を使用することができると,その限度で占有権原はあるのではないかという趣旨でございます。
○大村部会長 以上でよろしいですか。
○沖野委員 はい,今のところ結構です。
○大村部会長 分かりました。では,その他の方々いかがでございましょうか。
○石井幹事 手続的なことで確認をさせていただきたいんですけれども,短期居住権の消滅のところで,善管注意違反等の場合は消滅請求というのがございます。これは手続としては遺産分割の手続とは別の手続であって,仮に消滅請求の手続が継続していても,遺産分割のところで決着がついてしまえば,それで短期居住権としては消滅するという整理でよろしいんでしょうか。
  今回,全体について解決しなくても,一部,建物の帰すうについてだけでも決着がつけば,その時点で短期居住権は消滅するという御提案ですので,短期居住権が消滅する場面というのは増えるのかなと思うんですけれども,整理としては,今申し上げたようなことで間違いないでしょうか。
○堂薗幹事 こちらでもそのような整理でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。御質問,御意見等ございましたら,どうぞお願いいたします。
○八木委員 後ほどの長期居住権との関係もあるのですけれども,6ページの「(6)消滅事由」の中の,一つは,建物の滅失によって短期居住権が消滅すると。後で長期のところでまた伺おうと思いますけれども。それとともに,再婚ですね。再婚が,一読のときは,消滅事由とすることの当否について検討すべきという意見が出たけれども,今回はそれを採用しなかったと。これは,1年という期間が6か月というふうに短縮されたので,6か月であればそれほど問題はないということで,消滅事由としていないという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 この6か月というのは,現在の再婚禁止期間と同じになっておりますが,⑧において6か月としたのは,再婚の場合を除外する必要はないというところまで考えたわけではございません。遺産分割が行われる場合には,例えば2年程度掛かることが当然想定されるわけですが,ただ,その場合も,再婚したという一事をもって短期居住権を必ず消滅させなければいけないかというと,そこまでの必要性はないのではないかということで,このような提案をさせていただいておりますが,この点については,再婚を消滅事由とすべきであるという考え方も当然成り立ち得ると思いますので,その辺りについては,この場で御議論いただければと考えております。
○大村部会長 よろしゅうございますか。
  ほかにいかがでございましょう。
○山本(和)委員 先ほどの第三者との関係のところに戻るんですけれども,5ページのイの一番最後のところで,短期居住権が侵害されて損害賠償ができるという,損害賠償の根拠にもよると思うんですけれども,これは譲渡した場合について書かれていると思うんですが,配偶者の債権者が差押えをして売却されてしまったとか,あるいは配偶者が破産してしまったという場合も,恐らくこの短期居住権が対抗できなくなるのではないかと思うんですけれども,その場合も損害賠償請求というのは発生するというふうに理解していいんでしょうか。
○堂薗幹事 ここで考えているのは,基本的には他の相続人は配偶者の使用を妨害しないという消極的な義務があるんだろうと,それを前提として,その義務に自ら違反して任意に譲渡した場合ですので,元々,他の相続人が債務を負担していて,それに基づいて譲渡がされた,あるいは換価がされたという場合まで,当然に損害賠償請求が認められるということにはならないのではないかと考えております。
○山本(和)委員 そうすると,配偶者にとってみれば,勝手に譲り渡したか,差し押さえられたかというのは,あんまり何というか,関係ないというか,いずれにしても,いわば他の相続人の責任で自分が短期居住権を失ったということには変わりはないような気がするんですけれども,やはり任意で譲り渡した場合とそういう差押え等で強制的に譲り渡した場合とでは,かなり違ってくるという。
○堂薗幹事 今のような事案というのは,短期居住権が成立した時点で他の相続人は既に債務を負っていたということになろうかと思いますので,やはり任意で譲り渡した場合とは違うのではないかと。基本的には短期居住権は,相続人間の内部関係でのみ主張することができ,第三者には効力が及ばないというのが今回の整理ですので,そういった観点からも,その点の違いを説明できるのではないかと思いますが,御指摘の点は,引き続き検討したいと思います。
○大村部会長 むしろ,損害賠償請求ができる場合もあるであろうということでしょうか,ここで書かれているのは。
○堂薗幹事 ここで書いたのは,基本的には任意に譲り渡した場合を前提としたものです。
○大村部会長 そういう場合を中心に,損害賠償ができる場合もあるであろうということだと思いますが。
○窪田委員 確認だけさせていただけたらと思うんですけれども,任意に持ち分を譲渡した場合に,別途損害賠償請求ができるというのは,何となく感じとしては分かるのですが,根拠は何なんでしょうか。債務不履行という形になるのでしょうか。
  それをお聞きしますのは,つまり任意で売却した場合であろうがそうではなく強制執行を受けた場合であっても,客観的には義務が履行されていないという状況は生ずると思いますので,もし債務不履行という観点から損害賠償を認めるのだとすると,両者の区別は本当に可能なのかと考えたからです。一方で,不法行為で特に主観的な要件をここで維持するのであればあり得る区別かもしれないのですが,その場合でもその根拠はそもそも何なのかなというのが少し分からなかったので,教えていただけたらと思います。
○堂薗幹事 その点は,正に短期居住権が法定の債権なのかどうかというところとも絡んでくるんだろうと思うんですが,この資料では法定の債権という形にしていますので,そういった意味では,債務不履行ということになるのではないかと思います。ただ,短期居住権については,法定の債権という理解のほかに,共有について定めた民法の規定ですと,変更する場合には全員の同意が必要であり,管理の場合には過半数で決するという規律があるわけですが,その規律について特則を設けたという整理も可能ではないかと考えておりまして,仮にそちらの説明を採るのであれば,それは債務不履行というよりは,不法行為ということになるのではないかという気もいたします。ここでの損害賠償の法的根拠については,もう少し詰めて検討したいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。解釈論の余地が残るところかと思いますが。
○山田委員 遺言で遺産分割の禁止の期間を定めました場合,その期間というのは,短期居住権保護の期間に当たると考えてよろしいでしょうか。確認のため伺わせていただきます。
○堂薗幹事 部会資料⑧の遺言は,基本的には遺言で居住建物の処分が既にされている場合,すなわち,本来ですと居住建物の帰属が確定している場合を考えております。遺産分割を禁止するということであれば,最終的には遺産分割が必要になってくるということだと思いますので,その場合に,この上の方の原則的な規律を適用するのか,この下の方の例外的な規律を適用するのかという辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
○大村部会長 山田委員の御質問は,分割禁止の場合に……
○山田委員 最長5年の期間禁止できるという規定を遺言で使われた場合,どのように考えたらいいのかということで質問させていただきました。
○堂薗幹事 確かに,その期間が非常に長いような場合は問題になると思いますので,その辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
  今まで,幾つか御指摘を頂いておりますけれども,当該建物の帰属が確定するまでの間という形で期間を限るということと,それから権利の性質について,債権構成でいって対抗力を認めないということが提案されておりますけれども,それについては,皆様、大筋としてはそれでよろしいという考えでございましょうか。
○増田委員 確認的な質問なんですけれども,配偶者以外の共同相続人,昭和41年判例とか平成8年判例で居住が認められたのは子の事例だと思うんですが,子などに関してはこの新しい規定は適用されないけれども,従来の判例の解釈がそのまま維持されるという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 子については,従前の判例がそのまま及んでくるのではないかと考えております。したがって,子については,短期居住権の規律の適用対象外ですが,使用貸借の成立を推認すること等によって一定の限度で保護されるということになるのではないかと考えております。
○増田委員 それで,実務的には,やはり子が居住継続する場合の方が紛争が起きやすいんだろうということがあるのと,今の相続だと,高齢化社会ですので子も結構な年であることが多いということを考えると,新たな立法の対象を子まで広げたところでどうということはないのではないかと。むしろ,配偶者のみに限定する方が少し奇異な印象を与えるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 平成8年の判例は特に配偶者に限った話ではありませんので,そこは御指摘のとおりだと思いますが,ただ,他方で,短期居住権を認める根拠として,配偶者の場合には,一般的に配偶者相互で協力・扶助義務を負うことになるのに対しまして,子の場合は,特に既に成人して,自ら経済活動を営んでいるというような場合には,特に親から扶助を受けるという関係にはないという違いがあるように思います。基本的に短期居住権は,婚姻の効力の余後効的なものとして,婚姻が死亡によって消滅した場合にも一定の範囲では居住を認めることには相応の合理性があるのではないかというのを一つの根拠としており,そのような観点から,ここでは,配偶者に限ってこういった規律を設けることとしております。
  特に,配偶者というのは,被相続人から見ますと,法律上は最も親しい関係といいますか,基本的に,親等というのは,親族間の親疎遠近の度合いを図るものですが,配偶者というのは1親等ですらないということで,少なくとも法律上は被相続人と最も近い関係にあるというところもございますので,そういった意味で,配偶者に限ってこういった特別の保護をするということにも,一応の理由はあるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 増田委員,いかがですか,よろしゅうございますか。
○増田委員 第一読会のときに,婚姻の余後効理論というのが出ていまして,婚姻の余後効の話であれば,内縁などに拡張する話も出ていたかと思うんですが,今回,そのような拡張を否定するのであれば,婚姻の余後効の話はもうないのかなと思っておったんですけれども,それをまだやはり援用しなければいけないのですかね。援用する必要性がちょっとよく分からないんですが……。
○堂薗幹事 今回の資料でも2ページの(2)の2段落目のところで,前回と違って,同居,協力,扶助義務というのを正面から出してはおりませんけれども,婚姻の余後効というのは根拠の一つになるのではないかという前提で資料は作成しております。また,内縁の配偶者について,法律上の配偶者と正に同じ保護を与えるかどうかというのは,それぞれの規定の趣旨によって変わってくるんだろうと思いますし,法律上の配偶者と内縁の配偶者で取扱いが全く同じだということになりますと,それは現行法が法律婚主義を採っている意味がそもそもなくなってしまうというところもございますので,少なくとも相続の場面では,配偶者と内縁の配偶者においてそういった違いを設けるということにも,一応の説明ができるのではないかと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 その点について私もお伺いしようかと思っておりました。昭和39年10月13日の最高裁の判決は、内縁の配偶者に対して,相続人が所有権に基づいて明渡請求をしたのを権利濫用で封じて,結果的に内縁配偶者の居住権を認めています。この昭和39年の判決と比べますと,今度の法律婚配偶者の居住権はずっと弱くなっている印象を持つのですが,最高裁の従来の内縁配偶者の居住権に対する判例との関係では,今回の提案はどのような御説明になるのでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘の事案で保護された理由は権利濫用ということになりますので,飽くまで一般条項で救済したにすぎないということでございますので,その判例の射程がどこまで及ぶかという問題はあろうかと思いますが,こちらとしては,従前の判例による内縁配偶者の保護よりも短期居住権による保護の方が弱いというようには考えておりません。具体的に,こういった点についてより保護すべきではないかという点がもしあるのであれば,御教示いただければと思います。
○大村部会長 水野委員,従前より弱くなっているとおっしゃったのは,具体的にはどの部分を指されてですか。
○水野(紀)委員 この昭和39年の最高裁の判例の理解自体,議論のあるところだとは思います。この判例がどこまで居住権を認めたと考えるのか。今,御説明いただいたとおり,権利濫用という一般条項で,この事案限りという判決を下したという理解ももちろんあり得るでしょう。しかし,この事案限りの特殊判断と言うより、従前は,内縁配偶者であればその居住権を認められる判例理論として理解されることが多かったように思います。
  また平成8年判決は,共同相続人間の間でも使用貸借という性質決定で,相当に長く,遺産分割が決着するまではただで住めることを認めております。法律婚の生存配偶者はそれより更に長く住めるという感覚が強かったように思います。私自身は、この御提案自体に反対とまで申し上げるつもりはないのですが,6か月ということになると,従来の感覚よりは保護される範囲がかなり狭くなったと受け止める方がむしろ一般的ではないでしょうか。
  従来は,たとえ内縁配偶者であったとしても、そのまま住み続けられて、共同相続人間でも、もめている間はともかくそのまま住ませてあげようという理解で,紛争の決着がつくまではかなり保護されていたのではないか。そういう印象を持っていたものですから。そのこと自体を肯定的に見るべきかというと,また話は別なのですけれども。
○堂薗幹事 ただいまの点ですけれども,⑧の6か月というのは,飽くまでも遺言で居住建物が遺贈された,あるいは特定の相続人に相続させたという場合を念頭に置いておりまして,遺産分割で建物の帰属が確定するまでの間につきましては,従前どおり,基本的には遺産分割が終了するまで無償で使用できるということでございまして,前回の部会ではその点について,期間の上限を設けるべきではないかという御指摘もあったわけですが,ここではその上限も設けないという考え方に立っておりますので,少なくとも平成8年の判例との関係で,それよりも弱くなっているということはなくて,むしろこの⑧,⑨のところは,平成8年の判例よりも保護の程度が強まっているということになるのではないかと考えているところです。
○水野(紀)委員 昭和39年の事件では,所有権は完全に原告である明渡しを請求する側にありました。内縁の配偶者で所有権はゼロだった事案に,権利濫用で居住権を結果的には認めたものですので,少し通うものがあるかと思った次第です。
○増田委員 私もこの案に根本から反対するわけではないのですが,説明の仕方として,相続の方から説明するのであれば,他の共同相続人,例えば子との整合性が問題となり,婚姻の余後効で説明されるのであれば,内縁配偶者との整合性が問題になるのではないかという疑問を呈した次第です。
  それから,もう一つ,細かい質問で恐縮なんですけれども,⑧のケースで6か月間無償ということになっていますが,この場合と配偶者が遺留分減殺請求権を行使して一部を取得した場合との整合性の話なんですが,⑧の場合は権利者対無権利者の関係にあるのにもかかわらず,6か月間は無償であるということであるのに,遺留分減殺請求権を行使して一部持分を取得してしまうと,権利者であるにもかかわらず,自分以外の持分に対しては賃料を払わなければならないのではないかという疑問が生じるのですが,その辺りの整合性はいかがなんでしょうか。
○堂薗幹事 ただいまのは,配偶者が受遺者に対して遺留分減殺請求をした場合という理解でよろしいですか。
  その場合につきましては,当然,受遺者の持ち分については,引き続き⑧の規律によって,6か月間は無償で建物を使用できると。したがって,一部共有持ち分を取得したからといって,⑧の規律の適用対象外になるわけではないというのが,こちらの整理でございます。
  したがいまして,自分が取得した持ち分については無償で使用できるのは当たり前ですので,御指摘のような遺留分減殺請求権が行使された場合であっても,なお6か月間については無償で建物を使用することができるというのが,こちらの整理ということでございます。
○窪田委員 一つ前の話に戻ってしまうのかもしれませんが,増田委員からの御指摘,あるいは水野委員からの御指摘もありましたが,私自身は,このような規律を配偶者に関する規律として置くということについては,一定の説明は可能なのではないかと思っています。内縁について明示するかどうかというのは,解釈論に委ねるという方法もあると思います。平成8年の判決の関係で,子供の場合にも広げるべきかどうかという問題になると,子供でたまたま同居していた者には短期居住権という権利が与えられ,そうでない者には与えられないということを,上手に説明するのはかなり難しいのかもしれません。ただ,配偶者については,一定の法的地位にある者という観点から,この規定を説明することはできるのかもしれない,積極的にそうしなければいけないということではないですが,理解することはできるのかなと思っています。
  ただ,その上で若干気になる部分というのは,あるいは増田委員の御質問の背景にもそれがあったのではないかと思いますし,また,水野委員の御意見の中にもそれがあったのではないかと思うのですが,従前の判例法理との関係というのが必ずしも明確ではないような気がいたします。
  多くの人は,この規定を見たときに,従来,使用貸借の判例があったけれども,そうした判例をこの規定に置き換えるのだと理解する可能性がありそうです。そうだとした場合,従前は別に配偶者に限っていなかったのに,そうした可能性が排除されて,配偶者だけの権利になってしまった。こういう見方をすると,従前の法律関係より大変に限定的なものになったということになるのだろうと思います。
  もちろん,今日の御説明の中でも,従前の判例は生きているということではあったのですが,もしそれが生きているということであるならば,こうした配偶者についての居住権,短期居住権の規定を作る以上,従来,判例でほぼ確立した形で実現されている使用貸借について,何か明示的なルールにすることはできないのか,そして,明示的なルールにした上で,それと短期居住権との関係を明確に説明した方がいいのではないかなという気がします。私自身はこうした方向はあり得るのだろうと思うのですが,その点を御検討いただけたら有り難いと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
  皆様の方からは,今,窪田委員が直前におっしゃいましたけれども,従前の判例との関係について,何か書き込むかどうかは別にして,一定の整理が必要であろうということ、それから,第三者が現れたときの後始末について,解釈論に委ねるべき問題点もあると思いますけれども,その辺りについての整理が更に必要ではないかということが指摘されたかと思いますけれども,全体としてはおおむねこのような方向で検討を進めるということについて,御賛同を頂いたと理解しておりますが,そのような整理で先に進ませていただいてよろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,引き続きまして第2の点に進みたいと思います。6ページ以下でございます。
  資料の第2で「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」,この部分につきまして事務当局から御説明を頂きます。
○大塚関係官 同様に簡潔に御説明申し上げます。
  7ページの「(補足説明)」に早速入りますが,制度の必要性についてでございます。
  一読の議論におきましては,現行法の下でも賃借権の設定などが可能であるとして,制度の必要性自体に疑問が呈されたところではございます。ですが,現行法上,建物を目的とする用益物件は存在しませんので,建物所有権をその用益物件とその余の部分に分割するということはできないことになろうかと存じます。
  また,現行法の下では,例えば配偶者の一方が他方の配偶者の居住権を保護しながら,他方の配偶者の死亡後には確実に自分の子がその建物を相続できるようにしたいと考えても,遺言によってこれを実現するというのは困難と考えられます。
  したがいまして,長期居住権は,配偶者の居住建物の所有権を,使用権に関する部分とそのような部分とに分割するのに必要な受皿となる権利を新たに創設することを目的とするものとこちらでは位置付けておるところでございます。
  次に,個別の論点に移りたいと思いますが,「法的性質等」でございます。
  長期居住権につきましては,その存続期間が長期に及ぶということが想定されますので,その保護のためには,端的に第三者対抗力を付与するのが相当と,現時点で整理しているところでございます。
  また,今回の方策におきましては,建物所有者には配偶者の使用を受忍する義務以外には特段の義務を負わせないといったことを想定しておるところでございます。
  これらの点を踏まえますと,長期居住権の法的性質につきましては,用益物権と構成することを想定している次第でございます。
  次に,「取得要件」など,(3)でございますが,9ページ目の冒頭からとなります。
  部会資料2におきましては,遺産分割などといった発生原因事実以外の要件としては,配偶者が相続開始のときに被相続人所有の建物に居住していたことのみを上げておったところでございますが,一読の議論におきましては,居住要件を必須の要件とする必然性はなく,むしろその他の保護要件を設けるべきではないかといった指摘などがされたところでございました。
  この取得要件をどのように定めるかというのは,制度趣旨とも絡むところですが,この点につきまして,例えば配偶者の現在の居住利益の維持に重点を置くということでありましたらば,この居住要件以外の要件は設けないとすることは考えられます。ただ,このような考え方によりますと,相続人である配偶者が比較的若年であるといった場合には,長期間にわたる継続が見込まれますので,建物の流通が阻害されることになるとの指摘もされたところでございます。
  長期居住権の制度は元々,高齢の配偶者が新たに居住建物を借りることに困難が伴うことなどを考慮したものでございまして,その点を強調いたしました場合には,いわゆる高齢者住まい法などと同様に考え,相続人である配偶者について,例えば60歳以上といった年齢要件を設けることが考えられるところでございます。その場合には,この年齢要件と居住要件の両方を要求することとするのか,あるいは居住要件は不要として年齢要件のみとするのかといった点についての検討が必要と考えられるところでございます。
  さらには,9ページの一番下でございますが,(注3)として,例えば被相続人との婚姻期間が一定期間(例えば10年)以上継続したこと等の要件を加重するといったところも,一つの選択肢として考えられるところではございます。
  続いて,(4)の「長期居住権の効力等」についてですが,この方策におきましては,後ろの財産評価のところで出てくる二つの方式のことを指しますけれども,配偶者が長期居住権を相続分による全額前払いで取得する方式と,存続期間中に対価を支払い続ける方式のいずれも許容することを想定しております。これは,配偶者の希望に応じた柔軟な権利の設定を可能にする趣旨でありますが,ただ,対価を払い続けるといった後者の方式での使用権限の設定を認め,かつ遺言においてもこれをできるとした場合には,私的自治との関係で問題がないか,慎重な検討が必要であろうと考えられるところでございます。
  今触れました財産評価の話に移らせていただければと思いますが,11ページの下の方の(5)でございます。
  計算式自体は,前回触れさせていただいたところと大筋変わるものではございませんが,以下二つの方式を想定しているところでございます。
  ㋐が(全額前払方式)として,要は最初に支払ってしまった上で,後ほどの対価は支払わないという形式,この場合はこのような計算式での評価が想定されるところでございます。詳しい計算につきましては,今後も検討が必要とは存じますが,例えばこのような方式が考えられるところでございます。
  次頁の㋑,これは「賃料支払方式」と記載しておりますように,存続期間中に建物使用の対価を支払い続けるという場合でございます。この場合は,例えば遺産分割のときに相続財産に賃借権が含まれる場合と類似した方法で財産評価を行うことが想定されるところでございます。
  続きまして,(6)の「長期居住権の優先取得を認めるかどうか」というところでございます。
  一読の議論におきましては,仮に優先権を認めるとした場合には,遺産分割に関する紛争の柔軟な解決を阻害するのではないかといった指摘などがされまして,優先権を認めることについて否定的な意見が多かったところでございます。
  そこで,今回の資料におきましては,配偶者に長期居住権の優先取得権までは認めないという内容にいたしております。
  次に,(7)の「第三者との関係について」でございます。
  先ほど申し上げたとおり,第三者対抗力を認めるということにしましたので,例えばアの「建物所有者との関係」におきましては,対抗要件を具備している限りは,譲受人に対しても配偶者は長期居住権を対抗することができるということになろうかと存じます。
  次に,13ページの「抵当権者との関係」につきましても,要は登記の先後で優劣が決せられるということになろうかと存じます。
  長期居住権につきましては以上でございますが,続いて,第3の「賃貸物件である場合の保護方策」についても,併せて若干御説明申し上げたく思います。
  この点につきましては,一読の議論におきまして,何らかの措置を講ずることを積極的に検討すべきとの指摘もされたところではございますが,他方で,あえて特段の措置を講ずる必要はないという指摘もそれなりに多かったところでございます。
  そこで,当方としてももう一度検討したところでございますが,この点につきましては,先ほどの長期居住権で優先取得権を認めないとしたことなども踏まえまして,基本的に現行法の規律を維持するのが相当ではないかと考えておるところでございます。その点につきましても,併せて御意見を賜れればと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第3の,配偶者の居住建物が賃貸物件である場合も含めて御説明を頂きましたので,それも含めまして,御質問ないし御意見を頂戴できればと思います。
○浅田委員 9ページ辺りですけれども,長期居住権を設定する際に関してというのを意見として申し上げるのが一つと,それから御質問が一つございます。
  部会資料9ページ3段目に,「建物の流通が阻害されることになるとの指摘」ということが書いてございますけれども,その同様の認識を申し上げたいと存じます。
  これは,第2回の会議でも申し上げたことでございますけれども,長期居住権が第三者対抗力を有するとなると,相続債権者としては対抗力を備えた長期居住権の出現により,回収期待が阻害されることを念頭に置いて行動することになろうかと思います。債権者は,遺言の内容はもちろん,遺言分割協議の行方も把握できませんから,ある意味,疑心暗鬼に駆られてしまいます。
  そこで,仮にここで議論されているような長期居住権が強固,かつ長期な権利として立法された場合には,極端な話,相続が開始する前に,取りあえず仮差押えを行うという行動に出ざるを得ないということもあり得るのではないかと思います。
  また,長期居住権は,当該配偶者の死亡により消滅するということですから,その存続期間を予測することは困難です。そうしますと,当該建物について,長期居住権に劣後する抵当権の設定を受けた債権者としては,いつ長期居住権が消滅するか判断し難いため,その担保評価は保守的なものにならざるを得ないと思われます。
  もっとも,この点,現行法でも,抵当権に優先する賃借権がある場合と同じではないかという,そういう整理もされているかとは思います。ただし,繰り返しになりますけれども,本長期居住権が不相当に強固であれば,不動産を活用した金融の促進円滑化という観点から,ネガティブな要因があることは否定できない点を,念のために指摘しておきたいと思います。特に,私が思いますに,賃料が生じないようなタイプの不動産が出てくることになり,配偶者が固定資産税の負担だけするということになるとすると,その流通というのがどうなのかということは,ちょっと問題になるかと思います。
  したがって,本長期居住権の強度,すなわちその具体的な内容,要件の設計が重要になると思います。この点,部会資料9ページの中ほど,とりわけ(注2)・(注3)等において,配偶者の保護とのバランスを考慮した検討がなされております。この内容で妥当,十分であるのかということについては,現時点では銀行界としての結論はまだ出ておりませんけれども,この点につきましては,何とぞよくご検討を深めていただければと存じます。
  それから,質問ですけれども,これも確認ということになるかと思いますけれども,抵当権に基づく物上代位の賃料差押えができるかどうかということであります。とりわけ全額前払方式ですか,11ページの下の(5)のアで書かれているようなものである場合には,これはもう賃料の前払いがされているということでありますので,現行の判例に鑑みますと,差押え前にもう払い渡しがされているということになってしまいますので,これはもう賃料差押えもできなくなってしまうということになろうかと思いますけれども,念のために,賃料差押えの件について御検討があれば教えていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第1点は,この問題について考える際の一般的な留意事項を御指摘いただいたものと伺いました。
  第2点については,事務当局の方からお答えいただきます。
○堂薗幹事 建物の抵当権に基づく物上代位の点でございますが,御指摘のとおり,全額前払方式の場合には,既に差押え等は不可能な状態にありますので,物上代位はできないということになろうかと思いますが,賃料を支払う方式の場合につきましては,債務不履行があれば抵当不動産の果実にも抵当権の効力が及ぶことになりますので,賃貸借契約がある場合と同様に,長期居住権の対価についても物上代位は可能ということになると思います。
○浅田委員 ありがとうございました。
  部会長がおっしゃったとおり,現時点で賛成とか反対とか,意見を陳述するものではございませんので,あくまでも検討における一般論というのを前段で述べさせていただいた次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
○南部委員 ありがとうございます。
  まず,7ページの「長期居住権の制度を設ける必要性について」ですが,この間,私の方から,この議論の中で,より複雑にならないようにということで,何度も申し上げてまいりました。
  この7ページの最後の方の3行に書かれています「例えば」の箇所ですが,ここで挙げられているような問題は,そもそも普通の親子関係であれば起こり得る可能性が低いかなと考えております。遺言を書く側からすれば,選択できる手段の一つとして有効な面もあるかも分かりませんが,一方で,やはり問題を複雑化することの懸念もかなりしております。今回,長期の制度を設けるか,設けないかはこれからの検討になっていくかと思いますが,一度設けてしまうと,また戻るということはできないということになりますので,是非,専門家の先生方の方で慎重な御議論をしていただいて,より私たち一般の者が使いやすいものになるようにしていただきたいと思っております。
  特に,長期のメリットが,私がこの議論に入ってから余りよく見えないというのもございますので,そういった点も具体的に御議論いただけたらと思います。これは要望です。
  もう一つ,9ページでございます。9ページの配偶者の年齢要件についてですが,父親が高齢で例えば再婚した場合,義理の母が子供などほかの相続者と年齢が余り変わらない例も,40歳の差などいろいろなケースが最近見受けられます。そういった場合に配偶者の長期居住権の優先取得を認めてしまうと,他の相続権との関係が逆に公平性に欠ける可能性があると考えますので,長期制度を設ける場合には,更に検討を深めていただきたいということで要望を申し上げたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  何かお答えがあれば。
○堂薗幹事 その点については,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  今,これを設けるとすると,要件の方で一定の枠を掛ける必要があるのではないかという発言が複数ございましたけれども,その点,あるいは他の点についてでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。
○村田委員 今,要件について慎重な検討をという御発言が続いたので,それと関連する趣旨で申し上げたいんですけれども,9ページの一番下の(注3)のところでは,保護の必要性を基礎付ける要件として,婚姻が一定期間継続したことを要件とすることも考えられるという御指摘があります。政策的に長期居住権をつくろうということですので,そういう要件を設定するということはあり得ると思うんですけれども,他方で,この要件に関して,婚姻期間の実質が争われるということは容易に想定されます。このように要件が実質判断を含むものになると,紛争が非常に難しいものになるということもあり得て,実務において困るという事態も生じ得るかなと思います。
  そういう意味では,居住要件ですとか,年齢要件ですとか,そういう明確な,客観的に判断できるもので要件が設定される分には基本的に問題はございませんけれども,実質判断を要し,紛争を招くことになるような要件の設定は避けていただきたいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承って,検討をしていただきたいと思います。
  ほかにはいかかでございましょうか。
○増田委員 前回,第一読会のときには,この長期居住権というのは,審判により賃借権を設定できるか,できないかという論点において,解釈論としてはできないという考え方もあり得るということから,ほかに方法がない場合のぎりぎりのオプションとしての選択ということで検討を進めるという理解をしていたのですが,今回,用益物権というかなり重い形で登場したように思いますので,改めて少し意見を述べさせていただきたいと思います。
  まず一つは,本当に生存配偶者の利益になるのかどうかということです。これは,換価性がない権利を取得するということになって,本来であれば,少なくともその不動産の2分の1の価値は換価処分できる形で取得する権利を持っているのにもかかわらず,実際に取得するのが,単に住んでいることができるだけで,換価性のない権利であるということによる問題です。
  以前にも指摘しましたが,これでは後に状況が変わったときに,売却して,便利なマンションや,小さい家へ移るとか,あるいは施設に入るとかということもできなくなる。あるいは増改築とか,用途変更とか,そういうのも困難になるということで,本当に配偶者の保護になるのかというところから,まず疑問を呈したいと思います。
  それから,先ほど浅田委員も指摘されたところですが,対象不動産について,継続的な利用対価の支払いがない不動産であり,しかも存続期間が不確定という用益物権が付いているという物件は,資産価値が著しく低いものと考えざるを得ないということです。そうなれば,資産の流動性を阻害するし,所有者が何かの資金が必要になったときにも資金の調達ができない,これを担保にしてお金を借りるということも非常に難しいということになります。これは,社会経済的にも大きな損失だろうと考えられます。
  それから,相続債権者の方から見ると,配偶者は債務の2分の1を相続することになるんですが,その配偶者が換価性のない資産を保有することになってしまうことになります。これは,相続債権者にとっては,実質的に詐害されることになると考えます。配偶者が取得する資産の実価が総財産の2分の1にならないということは,相続する負債とのバランスがとれないことになります。
  相続関係を取り巻く関係者の資産状態だとか,健康状態や社会経済情勢だとかいろいろな要因を含めた環境が,相続開始から生存配偶者の死亡まで変わらないということが前提であれば,それぞれリスク計算が可能になってくるわけですけれども,実際には,仮に配偶者が60歳であったとしても,地上権の残存期間は20年ぐらい想定できるわけで,誰も20年後の社会環境は想定できないわけですから,誰にとってもやはりリスクが大きすぎる制度であろうと思います。
  第一読会のときも出ていましたけれども,配偶者の居住を確保するという方法としては,通常は配偶者が居住不動産の所有権を取得させるとか,あるいは持分を幾らかでも取得させるとかというような方法が使われており,圧倒的多数はそれで解決しているわけです。代償金支払能力がないというときには,今はリバースモーゲージ,要するにお金を借りて死亡したときに,不動産を売って返すといった商品もありますし,ほかにも工夫すれば,もうちょっと不動産の価値を活用できるような方法も考えられるだろうと思います。
  第一読会で出ましたように,ぎりぎりのオプションとして問題になるのであれば,民法ではなくて,家事法195条の一類型として,裁判所が審判でなし得る分割方法の一つとして,賃借権を設定するという方法を明文化するという方法もあり得るのではないか。家事法194条は換価処分を可能にしていますから,強制的に所有権を奪う換価が可能である以上は,所有権に制限を加えるという,それより小さい処分を立法化するということも不可能ではないのではないかと考えます。その辺りも含めて御検討いただきたいと思いまして,用益物権というような効力が強い割には価値が低いようなものを持たせるという方向は疑問です。
  それから,ついでですが,⑨の任意処分は,多分配偶者の保護ではないだろうと思います。配偶者の保護をするのであれば,居住権なんか取得させずに,所有権若しくは持分を取得させるのが一般的であろうかと思います。
  任意処分にしても,先ほどから申し上げているように,財産全体の価値を下落させるような処分というのを許すのかどうかという問題がありますし,遺留分の計算においても結構難しいことになります。また,居住権の評価が高く出るようなことになれば,生存配偶者にかえって不利益な結果になることもあるかもしれません。
  以上,いろいろ問題点を申し上げましたけれども,やはり長期の方は,今までにない制度を正面から作るということですから,多方面からの検討が必要だと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  1点確認ですけれども,増田委員がおっしゃった個々の問題の御指摘はそれぞれあり得ることなのかと思いますけれども,用益物権であるか,賃借権であるかということについてですが,増田委員が想定されている賃借権というのは,期間が定まった,死亡によって消滅するのではない賃借権を想定されているという理解でよろしいでしょうか。
○増田委員 そう考えています。ある程度,やはり配偶者の保護に必要な期間と,通常考えられるような一定の期間です。更新は,当事者の合意によってはあり得ることが前提です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは。
○堂薗幹事 御指摘につきましては,いずれも根本的な問題だろうとは思っております。資産の流動性の点につきましては,御指摘のような問題はあるだろうと思いますので,その点は,配偶者の居住権保護と不動産の流動性の問題の調和をどこで図るかという問題であり,正に長期居住権を認めるための要件をどのように定めるかという点と関連する問題だろうと思いますので,十分な検討をしていきたいと思います。この点についても何か御意見がございましたら,是非教えていただければと思います。
  それから,換価性のない物件を取得させることが配偶者の保護になるのかという点でございますが,ここで考えているのは,飽くまでも一部そういった需要があるのではないかと。一般的に相続の場面で,こういった形で換価性のない用益物権を取得させることが配偶者の保護になるのかどうかというのは,別途問題になろうかと思いますが,ただ,一部の方においては,居住建物を換価するつもりはなく,非常に高齢で,短期間に限って居住権だけは確保したいという需要がある場合に,現行法ですと,その需要に応えることが難しいと。そこで,そういった限定されたニーズに対応できるような制度があってもいいのではないかということでございますので,そこは,一般的に配偶者の保護になるかどうかという問題とは別問題ではないかと。
  ですから,⑨のところも同じような話でございますが,取りあえず配偶者の居住権を確保しつつ,最終的には自分の子供に建物の所有権を取得させたいという一定のニーズがあって,そのニーズに応えるものとして,こういった制度があってもいいのではないかということでございますので,一般的に相続の場面で使われるようなものとして考えているというわけではございません。
  それから,家事事件手続法の194条との関係についても御指摘がございましたが,この点につきましても,家事事件手続法上は,特別な事情がある場合に債務負担をさせることができるということになっているわけですが,ここでいう特別の事情というのは,通常は債務を負担する相続人に現在資力があるというのが前提になっているんだろうと思います。しかし,賃貸借のような形で長期にわたって配偶者が他の相続人に支払をするという場合につきましては,配偶者の資力というのは非常に長期間にわたって問題になりますので,そういった意味で,194条の適用場面とは異なり,例えば10年後に資力不足に陥った場合に,他の相続人に求償できるようにするのかどうかとか,そういった問題も生じてきますので,なかなか家事事件手続法の194条のような形でこの問題を解決するというのも,難しい面はあるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかに御発言ございませんでしょうか。
○金澄幹事 すみません。質問なんですけれども,11ページのところの配偶者の居住期間の財産的評価のところなんですけれども,これが,まず評価が非常に難しいだろうと思います。現実の調停なり審判なりというときも,どうやって評価をするのかというところが問題になってくると思います。借地権以上に借家権は個性が強いですし,評価が難しいと言われているので,これをどういうふうにきちんと評価をすることができるのか,調停や審判の中でも問題がありますとともに,それを,では遺言で書くときに,一体遺言を書く人が評価を考えて書くことができるのかどうかという問題がまた出てくるかと思います。そのために,鑑定とかいろいろなことが必要になって,結局,これが遺言でできるのかというところの問題が一つです。
  あとは,この長期居住権の評価が,配偶者の相続分を超える場合というのも,また長期の場合だと出てくるのではないかと思います。例えば,60歳であれば,平均余命までに三十何年か女性の場合でしたらありますので,月々10万の家賃と考えても,120万の3,600万ぐらいになるんだろうと思いますけれども,中間利息を控除したとしても,今度,債権法の改正で利率が下がれば,もうちょっと中間控除の額が減るかとは思いますけれども,そんなことを考えると,配偶者の相続分を超えたときにどうなるのか,遺留分減殺をされたときとかなんか,いろいろなことを考えると,なかなかそこら辺が難しいのかなと思っているところです。
  あとは,10ページの配偶者の負担についてですが、通常の必要費とか臨時費については,これは配偶者が負担をするということになっているんですが,全額前払方式とか賃料支払方式ということになると,有償で結局は借りているわけです。にもかかわらず、その場でその場で必要費や臨時費を払うことになっているので,通常の賃貸借に比べると,やはり配偶者の負担が重いのではないのかという気がするんですけれども,いかがでしょうかというところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 長期居住権の財産評価をどうするかというのは非常に難しい問題だとこちらでも思っておりまして,この点については,別の機会に,不動産鑑定士のような専門家にも入っていただいて,財産評価が適切にできるのかという辺りの検証をした上で,それをこの部会にもお諮りしたいと考えております。
  それから,相続分を超える場合の処理ですが,長期居住権は配偶者の具体的相続分の範囲内でのみ取得可能という整理ですので,配偶者の具体的相続分が長期居住権の財産評価を超えるような場合には,そもそも長期居住権は取得できないという前提で制度設計をしております。
  いずれにしても,御指摘のとおり,長期居住権については,最初の段階で自分の具体的相続分の中で賃料相当分を支払いをするのか,あるいは遺産分割後に払い続けていくのかと,いずれにしても有償の義務を負担しているというのは御指摘のとおりですので,この必要費--建物所有者からしますと,自分は全然使えないのに通常の必要費まで負担しなければいけないということだと,非常に建物所有者の負担が重くなりますので,ここはやむを得ないかなと思いますが,臨時の必要費,非常の必要費ですね。これにつきましては,ほかの考え方もあり得るのかなとは思います。ただ,ここでは一応,地上権と同じように用益物権ということで考えておりますので,地上権と同じように,基本的には所有者に対して所有に適する状態に置くように求めることはできないという前提で制度設計はしておりますので,そういった意味で,必要費については通常のものであっても臨時のものであっても,配偶者の負担という前提で考えているところでございます。
○大村部会長 遺言を使うのは難しいのではないかと御質問もありましたが。
○堂薗幹事 ああ,そうですね。その点も,具体的にこの財産評価をどうするのかというところ次第だと思いますが,いずれにしても,遺言の場合には,長期居住権の財産的評価はおおむねこのぐらいだろうという予測の下に遺言をするというのは,難しい面があるように思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○金澄幹事 制度に反対するわけではないのですが、オプション等の一つとして使いたいと希望している人,特に後継ぎ遺贈がなかなか論理的にも難しいという中で,こういう選択肢があっていいのかなとは思います。一般的に,では例えば今お話ししたように,遺言でやるとなると,ちょっと荷が重いのかなという気はしております。
  あと,先ほど,相続分を超えることがある場合は,もうこれは設定できないということでしたが,水野先生にもちょっとお伺いしたいんですけれども,フランス法だと,こういう場合は別に,設定を認めるというような法律もあるようで,何かもうちょっとこれを工夫して,うまく使えるような,身軽でいながらフレキシビリティがあるような制度に何とかできないものかなという,お知恵を頂ければと思っています。
○大村部会長 水野委員,何かございますでしょうか。
○水野(紀)委員 恐らくモデルにされているものと従来の日本法との体系があまりにも違うことが,一番悩ましいゆえんなのだろうと思います。今の御発言にありましたように,後継ぎ遺贈とか順次相続とかいうもののニーズを,フランス法の場合には実質的にはある程度実現しています。一番伝統的には、用益権の利用です。生存配偶者に広い用益権を与えて,生存配偶者の老後の生活を守った上で,その底地価格としての所有権が血族相続人のところへ行く。つまり,生存配偶者の死後、用益権がなくなるだけで、遺産は生存配偶者の血族の方には流れていかない形でこの問題を処理してきました。そういうひとつの伝統的な発想が7ページの下の方のところには流れ込んできています。
  それから,第三者との関係でも,先ほど浅田委員からも,現行業務への弊害がいろいろあるという御発言がありましたけれども,フランスの場合には家族の居住財産というものは,家族がそこに住んでいるというだけでかなりほかの不動産とは違う保護があります。子供たちを育てるための環境を守るなどの配慮から,家族の居住財産そのものが,そこに家族が住んでいるということだけで,債権者たちに対してかなりの力を持つような全体の制度設計になっております。そしてそれらの背景には、不動産登記はすべて公証人が管轄するという制度的担保があります。私人の自由な登記申請に任せてきた日本の従来の不動産業務の流れとは、相当に根本的に違っていると思います。そういう非常に大きな全体の相違の下で,それでも何とかこの制度を入れようと,事務方の方で御苦労なさったのですが、それに対して,日本の制度設計というのはそういうことになっていないという,実務全体からの様々な御批判があるのだと思います。
  ただ,そもそものこの審議会が開かれることになった経緯の最初は,非嫡出子の相続分が増えた場合の危惧,つまり嫡出子であれば自分たちの意思によって,自分の親である生存配偶者を老後,最期まで居住家屋にそのまま住ませる形で遺産分割するか,あるいは遺産分割を先送りするか,おそらくそういう形で進めるだろうけれども,非嫡出子は直ちに自分の持ち分を要求することになるだろうという問題でした。非嫡出子に限らず、前婚の嫡出子がいた場合も同じ問題を抱えていますけれど、そういう場合は、配偶者は自分の老後をその家屋に住み続けたいと思ったとしても,それがかなわない、つまり僅かな年金とその家屋の自分の相続分しかない生存配偶者は,その家屋を売ることによって遺産分割せざるを得ないという問題があります。この問題を何とかしようというのが,そもそものこの相続法見直しのきっかけであったことを考えますと,やはり大変な御苦労があることは分かるのですが,何とか配偶者の長期居住権の制度を,何らかの形で日本法の中にも入れていただければと思います。
  そのときに,従来の銀行業務であるとか,先ほど増田委員から御議論もありましたように,遺留分の減殺請求によって共有持ち分になるという従来の論理などとの均衡を考えなくてはならないということで,大変な御苦労があることは分かります。御苦労の多いこのような御提案について,私は感謝しておりますし,何とかこの方向で頑張っていっていただきたいと思っております。
  ただ,先ほど申しましたように,従来の伝統にない制度を入れようとしておりますので,それが従来の日本の不動産についての実務全体とあちこちで齟齬を起こしてしまうということは,これはもう間違いのないことだと思います。それでも,不動産実務を扱っておられる方々に,そういう問題を解決しようという工夫なのだということで,むしろお知恵を拝借する形で,全体の整合性の中でなんとかとり組んでいただければ有り難く存じます。
○大村部会長 ありがとうございました。御意見として承りました。
  そのほかいかがでございましょうか。
○石井幹事 既に御意見として出ているところと重複する部分もございますけれども,長期居住権の財産評価が非常に難しいという点は一読でも申し上げたとおりであり,鑑定を要するなどして審理が長期化しないか懸念しております。また,今日の御議論を伺っていると,そもそも当事者の方が長期居住権の取得を希望されないこともあるのかなと思います。こうしたことからすると,仮に,審判において,長期居住権を設定するということになったとしても,うまく使えるのかということについては懸念があるところでございます。
  他方,調停であれば,合意の中で長期居住権を柔軟に取り込む形で活用できる余地はあるのかなとも思います。もっとも,この点は,長期居住権の財産評価の方法についてどのような規律を設けるかにも関わってくるように思います。この点については,不動産鑑定士の方にも入っていただいて,別途御検討いただけるということであって,明確な評価の方法が確立されれば,それは実務的に非常にありがたいなと思うんですけれども,他方,余りかちっとされてしまうと,かえって柔軟な使い方ができなくなるおそれもあるのかなと思います。現時点で,この点に関して,事務局の方でお考えになっていることがあれば,伺えればと思っております。
○堂薗幹事 その点につきましては,適切な財産評価が可能なのかどうかというところで,専門家のお知恵を拝借して検討していきたいということでございまして,法制度上,何らかの形でその結果を反映させるというところまでは考えておりません。
○大村部会長 石井幹事,よろしいでしょうか。
○石井幹事 資料の記載についての確認なんですけれども,例えば12ページの上の方の(注)の中で,「このような事態が生じないようにするためには,長期居住権の評価額を算定する際に前記リスクを考慮しないこととすることが考えられるが」という記載があります。これは,飽くまでこうした考え方に従って財産評価を行うという限度の意味ということでしょうか。
○堂薗幹事 ええ,ここはそういう理解でございまして,一読の議論で,長期居住権の場合には不確定要素があるので,そのリスクを考慮した上で財産評価をすることになるのではないかという御指摘がありましたので,その点についてこちらでも検討したんですけれども,ここに書いてあるような問題があるので,なかなかその点のリスクを評価してというのは難しいのではないかと思います。したがいまして,この点について法律上規定を設けるということは考えておりません。
○村田委員 今の石井幹事の質問と同じところをお聞きしようかと思ったところだったんですけれども,今の御説明を聞くと,長期居住権の財産評価に当たっては,長期居住権について市場価値のようなものが一般的に成立し得るという想定で,それを不動産鑑定などによってどのように算定するかという辺りについて,専門の方の御意見を聴くというようなことをお考えになっているんでしょうか。
  規定を設けられるかどうかは別として,財産評価の方法をある種法定してしまうというのは,一つの考え方であると思うんですけれども,他方で,健全な市場形成に委ねるという考え方もあり得ると思うんですね。それらの考え方の間に何か考慮事項を明記するとか,いろいろなやり方は立法の仕方としてはあり得ると思うんですけれども,現時点で,どのぐらいのことまでイメージしておられるのかお聞きしたかったんですけれども。
○堂薗幹事 御指摘の点は,今後具体的に考えなければいけないと思っておりますが,基本的には,審判でやる場合には鑑定をお願いして,鑑定でどんな評価をするかということになるかと思いますが,そもそも財産評価が鑑定において可能なのかどうかという辺りを含めて検討する必要があると思います。長期居住権の場合は,基本的には一身専属的な権利と考えておりますので,基本的にはその評価をする際には,配偶者が取得する居住利益をどのように財産評価するのかというところに尽きてしまうのかなと思いますので,市場価格でということになるのかどうか,こちらもよく分からないところはありますが,そういった辺りについてもう少し検討を深めていきたいと考えているところでございます。
○村田委員 仮に不動産鑑定士の方などの御意見を頂くのであれば,どういう前提条件で御意見を頂くかということが多分大事になってくるのかなと思います。単に市場に流通している建物賃借権の価格を一旦出して,それを前提にこういう計算をしろということであれば,多分そう難なくできるんだろうと思うんですけれども,そうではなくて,長期居住権なるものが将来できるとして,それが市場に流通したらいくらと評価できますかというような形で御意見を頂くということになると,なかなか難しい要素が出てくるのかなという気もしております。御意見を頂く際の前提条件をどのように設定するかについては,いろいろなパターンを考えて御意見をお聴きする必要もあるように思いましたので,その点,指摘させていただきます。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,検討したいと思います。
○上西委員 一身専属的であるか否か、用益物権であるか否かといった考え方のほか、相続開始時点における建物の評価額を上回ることがあるのかというと,通常はないと考えます。多くのもめない事案を想定すると,相続開始時点における時価は,固定資産税の評価額がそのメルクマールになるかと思います。その評価額の100%とか80%を上限にするということが可能であるとすれば,遺言を書くときであれ,当事者で分割協議するときであれ、その上限額が参考になります。しかし、全てこういう算式で行うと,かえってもめる事例も発生するかもしれませんので、原則としつつも,当事者が別の価格による場合については差し支えないという,実務上ののり代を置いておいていただく必要があると考えます。
○堂薗幹事 その点につきましては,御指摘のとおり,当事者間の協議で行う場合には当事者間で評価額について合意がされれば,それを前提に遺産の分配をして問題ないと思いますので,御指摘のような形になるのではないかと考えております。
○沖野委員 ありがとうございます。第2の方策全般については,基本的には選択肢を増やすというのが基本になる観点ですので,多くの場合これでいきましょうということではなくて,現行法ではなかなかできない,ひょっとしたらニッチかもしれませんけれども,そこの部分を何とか対応できないかという制度として考えるというわけですので,そのような選択肢を一つ用意するというのは,結果的に余り使われず,低調であるということであったとしてもよろしいのではないかというふうに考えております。ただ,それだけのコストを掛けていろいろな調整が十分にできるかという問題はあるかとは思うんですけれども,基本的な姿勢としては,選択肢を一つ増やすという観点から検討をするべきではないかと思っております。
  そうしたときに,現行法でできないことをどこをやっているのかという問題がありまして,例えば終身の利用というようなことが現行法でできるのかというと,こういったところはなかなか難しいだろうと思いますし,遺言で設定できるのかという辺りも難しい。それから,登記の手続なんかも,ちょっと特殊な登記になるのかもしれませんので,今,例えば何々によって賃借権を設定することができるとか,あるいは賃借権の規定を準用するとか,そういうものでできないところはどこなのかなと,その辺りを入れる必要があるのかという視点も,あるいは一つ可能なのかと思っております。
  私は,この制度自体もさりながら,遺言でできるということはかなり大きいのではないかと考えておりまして,評価も難しくて,遺言で本当に使われるのかということですが,十分に財産があるような場合にこの建物については使用させたいというようなことであれば十分考えられるでしょうし,そういった利用が考えられますので,確かに困難な場合はあるとは思いますけれども,そうでない場合も十分あるのではないかということです。
  それから,遺言による設定ができるということは大きいのではないかと申し上げたんですけれども,そうしたときに,遺言による設定の場合と分割の協議等による場合とが全く同じなのかどうかということも気になっておりまして,例えば現時の居住という要件ですとか,あるいは先ほどの具体的相続を超えるかという点についても,遺言時にはよく分からないというところもあるかと思います。設定,遺言による場合には,取りあえずそこはセーフでということも十分考えられるのではないかと思いますので,両者でどこが違い得るかということも考えておく必要があるのかなと思っております。
  今度は細かいところですけれども,譲渡・転貸関係です。これは所有者の承諾を得て譲渡・転貸というのは賃貸借と同じように見えますけれども,ただ,結果的には,一定期間たっていても死亡によって終了する,しかも当該配偶者の死亡によって終了するということなので,当該配偶者はどこかにいても,突然亡くなれば終了するというもので,やや奇妙とは言いませんけれども,そういう権利を譲渡する。転貸はまだ分かりますけれども,譲渡するということがどういうような意味を持つのかという辺りがあります。
  ただ,他方で,もう既に相続の際の相続分で対価を払っているというところがありますので,利用しないときに少しでも換価の手法というか,そういうことを用意するためにこれが設けられているのかと思いました。
  そして,そうだとすると,これが現実的かどうかちょっと分からないんですが,取りあえずアイデアレベルなんですけれども,今,評価の困難ということが言われていますが,相続開始時にも一定の評価ができるのであれば,途中でも残りどのくらいになったというようなことで評価ができるんだとすると,それを買い取るというか,そういうふうなことができないだろうか。もちろん,合意で放棄しますと,その対価としてもらいますということで,合意ベースでできるのはあると思うんですが,それが調わないようなときに,何か算定をする手法だとか,あるいは分割して支払うとか,何かそういうようなことはできないだろうか。もし,換価の点が非常に困難というか,その手法を用意するということを考えるならば,そういうことは考えられないだろうかということを思っております。
  更に細かなところにいって恐縮ですけれども,「敷地所有者との関係」というところで,13ページの敷地と建物所有が元々同じであったところ,建物だけ売却するとか,敷地だけ売却するとかというような場合に手当をするかと。具体的には,敷地だけを売ったというような場合が想定されて,建物は持っているんだけれども,利用権を取らなかったために,このままでは建物収去,明渡しになってしまうという局面において,物権的な保護が与えられるという前提なのにそういう形で,地震売買でもないですけれども,飛ばしてしまうというのはやはり問題ではないかと思っております。
  ただ,そのときに,敷地利用についての物権を取得するというのが適切なのかということは大きすぎるような気もしますし,そのとき建物の所有関係はどうなるんだろうかとか,それから建物所有者に対して収去,明渡請求をし,また,長期居住権者に対して土地明渡請求をしたときは一体どういうことになるんだろうかというようなことを考えていきますと,余り変わらないのかもしれませんけれども,逆に,建物所有の方について敷地利用権を認めるといいますか,それを長期居住者との関係では設定されたものとみなすとか,そういう方向もあるのかもしれません。それで,どのようなことになるか,かなり細かい法律関係を明らかにしていかないとできないですし,そうやっていくと,結果そこまでやるのかということになるかもしれませんけれども,方策としてはそのような方向もあるのかなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  幾つかの御指摘をいただきましたけれども,前回も出ておりました評価の点につきましては,今回の御提案は何か実務を拘束するようなものではなくて,むしろガイドラインを示す,他の解決も妨げないということだったかと思います。
  それから,沖野委員からは,こういうものを作ることを考えるにあたっては,これがないとすると,できないことは何であるのかをはっきりさせるべきだし,あるいは遺産分割と遺言でどこが同じで,どこが違うのかということを整理する必要があるという御指摘を頂きましたが,これは整理をしていただきたいと思います。
  具体的な御質問としては,このような権利を認めたとして,買取りというか,換価というか,そのようなものについて何か考える必要はないのかという御質問ないし御指摘が一つ。それから,敷地利用権が失われるという事態を避ける必要があるのではないか、そのための仕掛けとして,建物の使用者の利用権を一定の要件の下で認めるというような方策はどうかという御指摘を頂いたと思いますが,最後の2点につきまして何かお答えがあれば。
○堂薗幹事 従前から,長期居住権については,必要がなくなった場合に換価できないという点が問題であるという御指摘は頂いておりまして,長期居住権を買い取ってもらうとすれば,その相手方は建物所有者ということになるんだろうと思いますが,賃料を前払いしたような形で評価をするとしますと,残存期間に応じて現時点での長期居住権の評価額というのは一応出せるのかなとも思うんですけれども,その場合に,建物所有者に買取義務のような形で認めるということが制度上どうなのかと。特に,長期居住権の制度というのは配偶者保護のための制度ですので,基本的には配偶者の方が希望しなければ,こういった長期居住権は設定されないということになるわけですが,建物所有者の方は必ずしもそうではなくて,希望していないにもかかわらず,長期居住権の負担付きの所有権を取得することになるというところがございます。そうすると,それにプラスして,更にいつの時点で買取請求があるか分からないということになりますと,かなり建物所有者の負担というのは増えることになりますので,ちょっとそういった制度も置くことはなかなか難しいかなというのが正直なところでございます。
  その点については,御指摘いただきましたように,建物所有者との間で任意に何らかの合意をして,一定の要件が満たされた場合にはこういう形で買い取るとか,そういった合意をするということも可能だと思いますが,いずれにしても,その辺りについてはある程度配偶者の方の自己責任といいますか,そういったリスクを背負ってでも取得したいという場合に,利用場面というのは限定せざるを得ないのではないかというのが,こちらの現時点での整理ということになります。
  それから,敷地につきましては,御指摘のような問題はあるかと思いますので,建物所有者の方の敷地利用権の設定を法律上みなして,それを配偶者が援用できるという点につきましては,こちらでは全く考えておりませんでしたので,御指摘を踏まえて,その辺りも検討してみたいと思います。
○沖野委員 1点目といいますか,買取りについては,お考えはよく分かったつもりですけれども,他方で,これがあることによって流通が妨げられ,非常な減価が起こっているということであれば,それを解消できるというのはそれなりにメリットはあるところなのかなという気も一方ではしたということです。
  それから,買取りというときに,常に形成権にしなければいけないのかという問題もあるかとは思っております。
  それから,後の方については,地代を誰が払うのかとかといったような問題ももちろん出てくるかと思いますので,もちろん既にお考えのことだと思いますけれども,補足しました。
○大村部会長 ありがとうございました。
○浅田委員 先ほどの沖野委員の発言及び第1の議題における沖野委員の質問に触発されて質問するわけなんですが,長期居住権消滅後の後始末についての細かい三つの質問です。
  すなわち,長期居住権が配偶者の死亡により消滅した場合には,通常の不動産に戻るわけですけれども,その戻す過程において円滑にいくかどうかという問題に関してです。まず登記でございますけれども,例えば配偶者が死亡したときの登記,抹消登記になると思いますけれども,その抹消登記はやはり所有者の単独申請でなければうまくいかないと思います。例えば,相続人等の共同申請ということであれば,協力が得られるとは考え難いので,これは単独申請であるべきだというふうには思います。その点についてはどうお考えかというのが第1問の質問です。
  二つ目に,原状回復義務でありますけれども,これも配偶者の相続人に負担,承継されるということだと思います。ただ,当該相続人にとってみれば,長期居住権という権利自体は承継されないものですから,言えば義務ないしは負担だけが承継されるということであります。そういう理解でいいのか。だとすると,その人は本当にやってくれるのかどうかという疑問があるという話です。
  三つ目に,これらが合わさった話ですけれども,長期居住権が譲渡された場合であります。そうしますと,先ほどのご指摘にあったように,結局,その期間というのは当該配偶者の死亡までということになろうとは思いますけれども,その配偶者が行方不明とか,死んだか,よく分からないといったときには,誰が,終了時点を決めて,抹消登記まで持ち込むのかどうかというのが分からなくなりますし,また,消滅したときの原状回復義務というのは誰が負うのか,当該配偶者の相続人が負うのか,それとも長期居住権の譲受人が負うのか,これによっても請求が変わってくるのかと思いますので,ご質問する次第であります。
○堂薗幹事 まず,配偶者が死亡したことによって長期居住権が消滅した場合の取扱いでございますが,ここでは,配偶者が死亡すれば長期居住権は常に消滅するということで考えておりますので,そういった意味では,死亡の事実さえ明らかになればその権利が消滅したことが分かるわけですので,不動産登記においても,建物所有者が配偶者の死亡の事実を証明するだけで単独申請を認めることができないかどうか,この点は検討したいと思います。
  それから,原状回復義務ですけれども,この点については,基本的には通常損耗については原状回復義務の対象から外すという前提ですので,通常損耗の程度を超える場合に必要になってくるわけですが,その場合には相続人が義務者ということにならざるを得ないのかと思います。ただ,かなりの事例では,建物所有者が配偶者の相続人であるという場合もあろうかと思いますので,そういった場合については,自分で原状回復をして他の相続人に求償するということになろうかと思いますし,建物所有者が配偶者の相続人でなかった場合には,そこは自分で原状回復をしてしまって費用の請求をするのか,あるいは原状回復を請求するのかという辺りは,建物所有者の選択ということになるのではないかと考えております。
  それから,長期居住権が譲渡された場合に,配偶者が行方不明になってしまったというような場合ですと,法律上は失踪宣告の申立てをする必要があるということになるのかもしれませんが,その辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
  原状回復義務については,基本的に長期居住権の譲渡がされた場合には,もちろん建物所有者の承諾は得ているわけですし,譲受人の方が原状回復義務というのは負うことになるのではないかと思いますし,そこは譲渡の承諾をする際に,建物所有者としては誰に,どういう形で原状回復をさせるのかという辺りは,承諾の前提として合意を得ておくということはできるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○八木委員 若干関連する質問かもしれませんが,一つは,やはり消滅事由のことですけれども,短期のところで,再婚が除外されておりましたが,長期のところでも再婚が除外されております。果たして,こういう再婚した生存配偶者を他の相続人に比較して保護する必要があるのだろうかという,素朴な疑問があります。
  また,不動産の流通のことを考えても,先ほどから随分流通を阻害するような,そういったものになるというような御指摘もありましたし,その辺りどう考えるのかというのが一つです。
  もう一つ,細かい点なのですけれども,建物が滅失した場合に,それも生存配偶者の責任でないところで滅失した場合に,建物の建て替えや代わりのところに住む,その費用の負担は誰が行うのか,その辺り教えていただければと思います。
○大村部会長 では,お願いします。
○堂薗幹事 まず,再婚した場合でございますが,特に長期居住権は,配偶者も自分の具体的相続分の中でそれを取得するという前提にしておりますので,配偶者以外に長期居住権を取得できる人はいないわけで,その意味では,その現状では配偶者だけを保護しているということにはなりますが,少なくとも財産的には自分の相続分の範囲内で取得しているので,その後どのような事情が生じても,当該配偶者の財産権として保護されるということでよいのではないかというのが,こちらの整理ということになります。
  それから,居住建物が滅失した場合でございますが,長期居住権というのは建物を目的とする権利ですので,建物が滅失してしまえば当然,長期居住権も消滅するということにならざるを得ないわけですけれども,生存配偶者に帰責事由はなくて,誰かの過失によって建物が滅失したという場合には不法行為に基づく損害賠償請求をすることが可能であると思います。
○大村部会長 八木委員,よろしいですか。
○八木委員 先ほど水野先生の御指摘があったように,例えば非嫡出子がいる場合に,生存配偶者の相続分が小さくて,それでも建物に居住をしたいという場合に,それをどう保護していくのかという問題だと思うのですけれども,その場合に--それとはちょっと違うのですかね。高齢者と結婚したというような場合に,また新たな相手と再婚するという場合に,果たして,例えば相続財産が土地・建物に限定されるような場合に,そこまで保護する必要があるのかと,ということを思ったわけです。
○大村部会長 先ほどの事務当局の御説明は,仮に長期居住権ではなくて,所有権で相続したという場合には,やはり再婚したとしてもその所有権が失われることはないので,それよりも小さな権利である長期居住権を取得したという場合にも,それは維持されるのではないかという御説明だったかと思いますけれども,八木委員,よろしいですか。
○八木委員 はい。
○上西委員 12ページから13ページの「敷地所有者との関係」の箇所です。整理してみます。建物と敷地の所有権を取得した他の相続人が第三者に売却した場合に,配偶者は第三者からの建物退去請求を拒むことができないようにしたい。その解決方法として,別途損害賠償請求できるとしつつも、そのようなことを避けたいから,新たな用益物権や法定の債権を創設してはどうかということですね。
  配偶者が長期居住権を取得し,かつ登記する場合には,敷地に地上権を自動的に設定することが趣旨にかなうと考えます。むしろ,敷地に地上権を設定しない場合だけ、設定しないという選択をするということも可能かなと思うのです。やはり,ここでは長期居住権を保護するということを第一に考えれば,流通の阻害の問題もあるかもしれませんが,長期居住権と地上権の設定をセットで行うということを選択肢として御検討いただきたいと思います。
○堂薗幹事 その点は,先ほどの点と併せまして,再度検討したいと思います。
○垣内幹事 2点ほど御質問があるんですけれども,1点目は,先ほど八木委員が御質問された点とちょっと関係するかと思うんですけれども,長期居住権の終期について,例えば遺言の中で再婚までの間とか,あるいは遺産分割協議においてそういう形で終期を設定するというのは,御提案の中の「一定期間」という概念に含まれているのかどうかということが第1点です。
  それからもう1点なんですけれども,これはもう少し先の段階で考えればいいことなのかもしれませんけれども,例えば遺言で終身の長期居住権を設定して,かつ対価付きのものを仮に設定したというような場合に,終身ですとかなり長期にわたって場合によっては続くということがあり得るわけですけれども,その間,これからの日本でそういうことがあるのかどうか,ちょっとよく分かりませんが,社会経済状況の変化によって,その対価の額が非常に不相当になるに至ったというような場合には,増減請求というようなことを検討されることになるのか。仮にその場面でそういった検討があり得るとすると,前払方式の場合について,同様の修正を行う余地を考えるべきなのかどうか,あるいは仮にそういう余地があるとすれば,そのための手続についてはどう考えるのかということについて,もし既に御検討されている点がありましたら御教示いただければと思います。
○堂薗幹事 まず,例えば,再婚の場合には長期居住権は消滅するというような遺言が可能かどうかということですが,具体的に検討していたわけではありませんけれども,再婚ということになりますと,期限にも当たらないということだろうと思いますので,基本的にはそういったものは想定しておりませんでした。
  それから,遺言で対価を支払う形の長期居住権の設定が可能かという辺りは,遺言でそもそもそういったことを認めていいのかというそもそも論があるのではないかというふうに思っておりまして,個人的にはややそこは難しい面があるのではないかなというふうにも思っておりますので,そこは是非,この場で民法の研究者の方のご意見をお聞きしたいと思っていたところでございます。
  それから,仮にそういったことを認めるとしても,結局,遺産分割の対象となっている財産の中にそういう不確定な要素が含まれるものというのはほかにもいろいろありまして,例えば停止条件付債権ですとか,いろいろそういったものがありますので,事後的に何か事情が変わったことによって,それを修正するというようなことは,相続の場合には難しいのではないかと考えておりますので,長期居住権の対価について増減請求を認めるとか,そういったことはこちらでは考えておりません。
○大村部会長 垣内幹事,よろしいですか。
○垣内幹事 はい。
○大村部会長 民法の委員のご意見をという御発言がありましたけれども,その点につきましては,もし何かあれば後で伺うということにいたしまして,山本克己委員の方からまず御発言を頂きたいと思います。
○山本(克)委員 すみません。私,更に先走った質問をしてしまうことになるんだと思うんですけれども,不動産上の用益物権だとした場合に,かつ一身専属的とはいえ,所有者の承諾があれば譲渡可能であるということを考えると,もうこれは差押可能財産であると,当該物件がですね。長期居住権という用益物権は差押可能財産であるということになるのではないかと思うんですが,その際に,民事執行法の43条2項に挙げられております「登記された地上権及び永小作権」というところに横並びで長期居住権というものが入るのであろうかという点をお伺いしたいと思います。それは,仮に長期居住権を有する配偶者が破産した場合に,破産財団に属するかという問題とも絡む問題ですので,ちょっとお教えいただきたい。
  仮に43条2項に入れるんだとすると,強制競売の対象になるとしますと,そのときの所有者の承諾をどういうふうに手当てするかという問題が出てきて,これは借地借家法の20条と似たような話をするのかどうか。しかし,その場合に,先ほどちょっと垣内幹事からお話がありましたように,条件の変更というものを組み込んでいいのだろうかという問題が出てくるのではないかと思います。
  換価,全く差押え不可能な,しかし,結構不動産の価値に,当該建物の価値に等しいような権利を設定して,それが換価不可能だというのは,やはりおかしな理屈になるのではないかと思うんですが,私はやはりそういうところまで手当てして,私もネガティブでありませんので,ポジティブに考えつつ,そういうところまで手当てした立法をした方がいいのではないかなという気がしております。もし今までで,御検討で何かお考えであればお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 基本的には,御指摘を踏まえて今後,検討したいと思いますが,基本的には賃借権について差押えが可能なのかどうか,あるいはその場合にどういった形で換価するのかというのと同じような問題が生じるのかなとは思っておりましたけれども,その点については,賃借権の場合は差押え自体は可能だけれども,賃貸人の承諾がない限りは,実際に換価まではできないというような形になっているのではないかというのがこちらの理解です。そうすると,長期居住権の方も,差押え自体は認めるのかもしれませんが,最終的に換価する場合には建物所有者の承諾を取らなければならないということになろうかと思いますので,実際には換価は難しいのではないかと思っております。その点につきましては,具体的な検討はできておりませんので,御指摘を踏まえまして,引き続き検討したいと思います。
○大村部会長 山本委員,よろしゅうございますか。
○山本(克)委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでございますか。
○沖野委員 すみません。3点あります。
  一つ目が,遺言によって有償の処分が可能かという点でして,基本的には難しいんだろうと思いますけれども,受遺者側といいますか,遺贈については,その放棄で対応できると思いますけれども,相続放棄までしないとどうしようもないような地位に置かれるというのは,やはり無理ではないかと思っております。
  それから,これは調査しておりませんけれども,旧民法で賃借権の遺贈があったのではなかったかと思います。それは遺言書に記載された項目や条件に従って相続人が受遺者と賃貸借契約をするという形での処理が想定されていたようですので,既存の賃借権というより新たに賃借権を設定するもので,内容のある部分は相続人と受遺者の契約に委ねますというようなタイプなのかと思います。
  そうすると,対価を含めて,内容は協議によるけれども,設定を受けることができる権利というか,それを交渉できる権利というような形で構想することはあるいは可能なのかもしれないと,そのような感覚を持っております。それが1点目です。
  もう1点は,また細かいことですけれども,存続期間に関しまして,先ほど申し上げるのを忘れておりました。期間の更新は認めないこととしている点です。基本的にはそれで結構かと思います。けれども,他方で,現行の例えば定期借地などについて,制度上は更新がないのですけれども,合意による存続という話は議論がありますので,認めないということの含意が,もちろん協議をして,その後継続するなら構わないということなのか,あるいはそれとも長期居住権である限りは無理で,あとは賃貸借でやってくださいということなのかということもありますので,少し定期借地の議論なども踏まえながら,これが何を意味しているのかというは詰めておいた方がいいのかなと思っております。私は,合意によるなら,もちろん存続は可能というようなことで考えておりますが,ただ,長期居住権として存続できるのかという辺りが難しいのかなと思っております。
  それから,三つ目が,賃貸物件のケースです。賃貸物件について,基本的にここに書かれたような形で結構ではないかと思っております。私が以前から気にしておりますのは,所有財産である場合と賃借財産である場合とで,居住に対しての保護がかなりアンバランスが生じるということであると問題ではないかと思っております。具体的には,例えば所有の場合ですと優先的に居住が確保されるのに,賃貸の方になるとそうではないというようなことではアンバランスではないかということを感じておりました。ですので,両者の比較でほぼ遜色ないと--遜色ないというか,特にどちらであるかによって大きく態度決定が変わるということではない,中立的であるというのが確保されるのであればよろしいのではないかと思っております。
  そうしたときに,そうすると,分割協議まで使えるということが本当に確保されているんだろうかとかということは,ちょっと確認をした方がいいのかなとは思っております。といいますのは,現行法でもある程度できるのではないですかという部分がそれで大丈夫なんだろうかということで,ほかにも同居している者があるような場合にどうかというような話は,ひょっとしたら出てくるかもしれません。
  そういうことを考えますと,分割協議まではなお配偶者が使えて,かつその賃料については内部的には配偶者が負担するとか,そういった辺りだけ明確にしておくぐらいのことも考えられるのかとは思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  3点御指摘ないし御意見を頂きましたけれども,最初の点は,先ほど事務当局の方から御発言があった負担付きの処分を遺言でなし得るかということについての御見解であると承りました。
○沖野委員 有償の処分の点です。
○大村部会長 有償の処分ということですね。
○沖野委員 はい。
○大村部会長 対価支払いについて,難しいのではないかという基本線を共有されつつ,幾つかの可能性は残るかもしれないという御指摘だったかと思います。
  2点目は,更新の問題も,更新は認めないとして,それとは別に合意による存続はあり得るのでないか。ただ,法的性質がどういうものになるか分からないという御指摘、それから,3点目は,今まで御意見を頂いておりませんでしたけれども,14ページの賃貸物件の場合について,基本的にはこの考え方でよいけれども,分割協議までの取扱いについて若干手当が要るのではないかという御指摘だったと思いますが,何か事務当局の方からありますか。
○堂薗幹事 合意による存続を認めるかどうかという辺りにつきましては,特に対価を支払わない形で長期居住権の設定を認めて,その場合に合意で更に存続するということになりますと,それは第三者との関係等で問題が大きくなって,流通性がさらに害されるというようなこともありますので,場合によっては,先ほどの差押えが可能かどうかというところと絡んで,執行妨害目的でそういうことも可能になるというような問題もあろうかと思います。したがいまして,長期居住権で,しかも特に無償でありながら対抗要件を認める形で存続を認めるというのは難しい面があるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本(克)委員 補足なんですが,先ほど私の質問に対して堂薗幹事の御説明は,何か賃借権と並びでお答えになったと思うんですけれども,私が問題にしたのは用益物権だと言い切ったことによる問題点があるのではないかという趣旨でございまして,補足で申し上げますと,国税徴収法の68条1項で,不動産上の物件は全部不動産とみなされて,国税徴収上は。滞納処分による差押え,公売の対象になるとされていますので,借地借家法20条のような規定は不可避ではないかということを申し上げたかったということでございます。
○堂薗幹事 すみません。御指摘を踏まえて検討させていただきます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他御発言。
○窪田委員 ちょっと周回遅れみたいな話題になってしまうのですが,先ほどの負担付きのものについて遺言をすることができるかどうかということについて発現させて頂きます。既に沖野委員からもお話がありましたし,特に付け加えることはないのかもしれませんが,私自身,ずっと伺っていながら気になっていた部分とも少し関わるような気がします。気になっていたのは,結局,長期居住権というのは一体どういうものとして構想するのかという点ですし,そこで有償だということの意味はどういう意味なのかという点です。
  正しく賃料のような形で債務を負担して,それを払っていくのだという形式で捉えるのであれば,そんなこと遺言でできるのかということになると思います。しかし,これは基本的には遺産の分割という局面で問題となるものであり,分割方法の一つの選択肢にしかすぎないのではないかと考え,自己の相続分の範囲内で,一定の利用権という形でそれを実現するものなのだと捉えるのであれば,その利用権の価値に相当する部分について,他から得る相続分が減るというのは当たり前のことだということになりますし,それを遺言で設定するということもできるのかなという気もします。
  ですから,要は結局,分割方法の指定の一つの方法なのだと割り切るのであれば,その中で利用権として得た分だけ,他からは得られる分は減るのだということを,単に有償という言葉で言い換えているにしかすぎないのかということになると思います。そうではなくて,やはり正しく用益物権的なものとして関連するというところから出発するのか,単に説明の仕方の違いだけなのかもしれませんが,その捉え方によって,先ほどの遺言でできるかどうかという問題についての説明のしかたも異なるのではないかという気がいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他御発言を頂きたいと思いますが,特に第3の配偶者の居住建物が賃貸物件である場合について,沖野委員から御発言ありましたけれども,他の委員の御感触等も伺えればと思います。
○村田委員 今,窪田委員から御指摘のあった点は,ひょっとすると,長期居住権の賃料といいますか,対価の設定のところの考え方に関わってくるかなという気がしております。どういう評価といいますか,賃料設定があり得るのかというところは,場合によっては不動産鑑定士の方の御意見なども頂く必要もあり得るかなと思っておりますので,御検討いただければありがたいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
  よろしいでしょうか。
  この第2点につきましては,長期の利用権は,一方で新しい選択肢を相続人に開くことになるので認めてほしいという御意見がある。しかし,同時に,ある程度取引を阻害することも確かである。したがって,バランスをとりながら認めるべきだ,あるいは認めるならば相応の実効性があるものを考える必要がある。こうした様々な御意見が出ていたかと思います。
  全体として,どのようなバランスをとるかということによって,皆さんの態度が最終的には決まるのかと思いますけれども,頂きました御意見を踏まえまして,更に事務当局には御検討いただきたいと思います。
  それから,配偶者の居住建物が賃貸物件である場合につきましては,基本的にはここに示された考え方でよいのではないかという御意見があり,他に特段の御意見は出なかったとまとめさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
  では,第3まで終わりましたので,ここで10分ほど休憩させていただきまして,4時から残った問題を御議論いただきたいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,4時になりましたので,再開させていただきたいと存じます。
  残りは14ページの「第4 その他(前回の部会で指摘があった新たな論点について)」という部分でございますけれども,一括して事務当局の方から説明を頂きます。
○大塚関係官 ここでは,2点につきまして,前回の部会での御指摘を踏まえての新たな論点として御提示申し上げているものでございます。
  一つ目が,「自筆証書遺言を保管する制度の創設について」でございます。
  「問題の所在」からまいりますが,自筆証書遺言は,作成後に遺言書が紛失したり,あるいは相続人によって隠匿,変造されるおそれがあるところでございます。また,相続人が遺言書の存在を把握できなかったり,あるいは複数の遺言書が出てきたり,さらには遺言書の作成の真正をめぐっての深刻な紛争が生じたりといったところがあり得るところでございます。
  これらの問題は,自筆証書遺言を確実に保管し,相続人がその存在を把握することができる仕組みが確立されていないということが一因になっているのではないかと考えられるところでございまして,前回の部会でも何らかの措置を講ずる必要があるとの指摘がされたところでございます。そこで,考えられる方策というものを御提示申し上げる次第です。
  ①でございますが,自筆証書遺言を作成した者は,一定の公的機関,例えば全国に存在するような公的機関にその保管を委ねることができるようにすると。
  ②として,相続人は,相続開始後に所定の手続をすることにより,被相続人の自筆証書遺言がこの公的機関に保管されているかどうかを検索することができるようにするという方策でございます。
  公的機関としてどのようなものが考えられるかというのは非常に問題となり得るところですが,例えば市区町村の役場,あるいは法務省の中で申せば法務局,更には前回の部会では,公証役場という御指摘もあったかと思いますが,例えばそういったところを考えているところでございます。
  (3)の「遺言保管制度を設けるメリット」でございますが,このような方策を講じた場合には,公的機関において遺言が確実に保管されることとなりますので,作成後の紛失,偽造又は変造を防止することができ,また,相続人が遺言の存在を容易に把握することが可能になると考えられます。
  また,保管を行う公的機関におきまして,手続のときに本人確認を行うこととしますと,そのことが遺言の真正な成立を基礎付ける間接事実となり,遺言の有効性をめぐる紛争の抑止にもつながり得ると考えられるところでございます。
  次に,(4)の「検討課題」ですが,アでございます。
  公正証書遺言につきましては,全国の公証役場に保管された公正証書遺言を検索することができるシステムが既に導入されているところです。そこで,自筆証書遺言を保管する公的機関ができた場合には,公正証書遺言を保管する公証役場との間でそれぞれ保管する遺言の情報を共有することによりまして,この遺言の存否につきまして一括して検索することができるようにするということも考えられようかと存じます。
  このような検索システムを更に進めるということになりますと,相続人が相続に伴う諸手続をする際に,保管をしている機関から一定の者に対して,遺言がありますという旨の通知をする制度を設けるといったところも,一案としては考えられようかと存じます。
  次に,イでございますが,今回の方策につきましては,遺言者以外の者による偽造などを防止する観点から,基本的には遺言者自身が公的機関に赴いて保管手続をするということを想定しているところでございます。
  この点につきましては,遺言者が入院をしている場合など,自ら公的機関に赴くのが困難な場合も想定されますので,このような場合は例外的に他の者による保管申出,あるいは郵送での申出を認めることも考えられるところでございます。ただ,これらを認めますと,遺言者以外の者が偽造した遺言を公的機関に持ち込むなどの事態も特に懸念されるところですので,この点は慎重な検討を要すると考えられるところでございます。
  次のウの「撤回について」でございますが,今回の方策によって,遺言者が自筆証書遺言を公的機関に保管する手続を仮にしたとした場合でありましても,現行法上,遺言者は新たな自筆証書遺言を作成するなどして,容易に前の遺言を撤回することができますので,公的機関の保管に係る遺言が最終の遺言であるとは限らず,複数の遺言書が存在することによる紛争を回避することはできないということにこのままではなります。この点につきましては,前回の部会におきまして,公正証書遺言についても同様の問題がある旨の御指摘を頂いたところでございます。
  そこで,例えば公正証書遺言や公的機関が保管しているところの自筆証書遺言について,これらの遺言の全部又は一部を撤回するのに,新たに自筆証書遺言を作成して,当該公的機関に保管するか,又は公正証書遺言を作成することを要するとすることも,一つの案としては考えられようかと存じます。
  ただ,このような撤回についての制約を設けるといたしますと,遺言者の最終意思の尊重という遺言制度の趣旨との関係では,慎重な検討を要するものとも考えられるところでございます。
  ここまで,遺言保管制度についての話でございました。
  次が,2つ目の「遺言執行者の権限の明確化等について」でございます。
  「問題の所在」のアでございますが,現行法上「遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とされていますが,個別具体的な事案で,遺言執行者にどのような権限が付与されているのかというのは必ずしも明確ではないため,遺言執行者の権限の範囲を法律上明確化すべきではないかという指摘がされておるところでございます。
  次に,イの「復任権について」でございますが,現行法上,遺言執行者は,遺言者がその遺言に反対の意思を表示した場合を除いて,やむを得ない事情がなければ,第三者にその任務を行わせることができないとされているところでございますが,このような復任権の要件を緩和すべきであるとの指摘もされておるところでございます。
  このような御指摘を踏まえまして,こちらの17ページの下から18ページにかけて記載しておりますような規律を設けることが考えられようかと存じます。
  ①はそのまま読み上げたく存じますが,遺言執行者は,就職の後直ちに,被相続人が相続開始時に現に占有していた財産の管理に着手しなければならないというところを検討俎上に上げてみました。
  ②以下は,補足説明等におきまして,説明をいたします。
  ②に関する部分が18ページ中段のアでございます。「特定物の遺贈等がされた場合における遺言執行者の権限の範囲について」というところでございます。
  これは,様々な考え方もあり得るところでありますが,②のアにおきましては,目的財産の引渡しについては,相続開始時に目的財産を被相続人が現に占有(直接占有)していた場合に限り,遺言執行者の権限に含めることとし,相続開始時に被相続人以外の者がその目的財産を現に占有していた場合には権限に含めないという形にしております。これは,相続開始時に被相続人が管理をしていた財産については一旦,遺言執行者の管理下に置き,遺言執行者の責任においてその引渡しを行うこととし,受益者の自力執行を認めないというのが相当と考えられることですとか,あるいは相続開始時に第三者が目的財産を管理していた場合まで遺言執行者の権限に含めることとしますと,遺言執行者の負担が過大になるおそれがあるということなどを考慮しての方策ということでございます。
  19ページの2行目以下となりますが,これに対しまして②㋑のとおり,対抗要件の具備行為につきましては,原則として遺言執行者の権限に含めることとしております。これは,対抗要件具備行為は,受益者にその権利を完全に移転させるために必要な行為であることなどを考慮したものでございます。
  もっとも,この㋑のただし書のとおり,遺贈等の目的財産が動産だったような場合には,遺言執行者の権限を㋐と同じ範囲,つまり被相続人が現にその財産を占有していた場合に限定することとしております。これは,動産に関する物権につきましてはそもそも公示機能が弱く,即時取得制度などもありますことから,対抗要件具備行為を遺言執行者の権限とする必要性は必ずしも大きくないと考えられることなどを考慮したところでございます。
  ページをめくっていただきまして,20ページの㋑でございますが,これが③に当たる部分になります。不特定物が遺贈の目的とされた場合でございますが,この場合には③,④のとおり,遺言執行者は,遺言に別段の定めがない限りは,目的物を特定した上で,これを受遺者に引き渡し,かつ対抗要件を具備するのに必要な行為をする権限を有することとしております。
  続いて,ウの「遺言執行者の処分権限について」というのが⑤に対応するものでございます。
  端的に説明しますが,⑤は,遺言執行者が相続財産に属する特定の権利を処分することができる場合を明確化するものでございます。処分すべきことを遺言において定めた場合は含まれるが,そうでなければ当然にその権限は有しないということを明らかにする趣旨でございます。
  続きまして,エ,21ページの中段になりますが,「遺言執行者がその任務を行うことが困難な場合等の処理方法について」ですが,これは方策の⑥に対応するところでございます。この⑥は,遺言執行者がその任務に属する特定の行為をすることが困難な事情がある場合に,遺言執行を円滑に進めるために,家庭裁判所に対して,当該行為の代理権のみを有する代理人の選任を求めることができるとするものでございます。
  次に,オ「復任権について」というのが⑦でございます。現行法上,遺言執行者には,先ほども述べましたが,原則として復任権が認められていないところでありますが,22ページに移りまして,「この点については,」以下でございますが,遺言執行者も,内容如何によっては職務が広範に及ぶこともあり得,遺言執行を適切に行うために,相応の法律知識を有していることが必要となる場合があるなど,専門家に一任をした方が適切な処理が期待できる場合もあろうかと考えられます。
  このような事情を考慮いたしまして,⑦におきましては,遺言執行者につきましても,他の法定相続人と同様の要件で復任権を認めることとしたものでございます。
  これらにつきまして御意見を賜れればと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  大きく分けまして,自筆証書遺言の保管に関する制度に関する問題と,それから遺言執行者の権限に関する問題がございます。性質が違うものを含んでおりますので,まず最初に,自筆証書遺言の保管制度の創設について,御意見を賜れればと存じます。
○浅田委員 私の方から,まず感謝と,それから意見を二つと,質問を一つ差し上げたいと思います。
  前回の第5回会議において私から,「遺言に関する銀行実務の観点からの検討」というタイトルで銀行界の意見として提出したペーパーで,いろいろ検討を御依頼していたところでございますけれども,今回,ご検討を賜りましたこと,まず御礼を申し上げたいと思います。
  そして,この項目についても,遺言の撤回という項目で,最新の遺言がどれであるのかをめぐる紛争に銀行が巻き込まれることがあることを紹介させていただいたことを受けてのご検討でありますので,これも誠にありがたいことだと存じております。
  その中で,自筆証書遺言の登録制度や公正証書遺言の撤回方法の制限を提案したわけですけれども,今回の部会資料6において,改めてこの指摘を正式な論点として取り上げていただいたことにも,重ねて感謝を申し上げたいと思います。
  本制度においては,周知の必要性であるとか,その他社会的なコストなど様々な角度からの検討が必要で,今後検討されるべきだと承知はしておりますけれども,各位におかれましてはよろしく前向きにご検討いただければと存じます。
  これから意見です。まず保管に関してでありますが,そういった提案をした立場にかかわらず,具体的な制度設計における更なる意見で恐縮でございますけれども,銀行界の一部の意見としましては,こういうものがございます。すなわち、せっかく自筆証書遺言を保管する制度を創設するのであれば,保管の義務付けをして,保管されていない自筆証書遺言は無効ということにしないと,遺言の紛失や偽造・変造など真正性をめぐる紛争や,遺言が発見されなかったことによる遺産分割のやり直しなどの問題が解決しないではないのかという意見があったということをお伝えいたします。
  なかなか難しいとは認識しておりますけれども,それくらい,銀行実務においては,遺言の真正性をめぐる紛争に出会うことが日常茶飯事であるということを指摘したいと思います。
  もちろん,本論点におきましては,部会資料の16ページのウの最終段落に,「遺言書の最終意思の尊重」と記載されている点を始め,当該保管システムへのアクセス可能性,特に体の自由が利かない高齢者や入院中の場合など,遺言者本人に関する様々な制約条件がある場合の利用可能性を勘案しなければならないと承知していますので,いろいろ検討を積み重ねていかなければならないとは思います。
  ただ,一般論として,それも含めて考えますと,保管された遺言の真正性を高める工夫,それから遺言の撤回の制約について,何らかの方策が講じられることを望みたいと思います。
  それから,2番目でございますが,検索システムの実効性の確保についての意見でございます。
  保管の制度の利用が可能となるということのみでは,現行の実務上の問題点として,部会資料で指摘されている自筆証書遺言の確実な保管,相続人がその存在を把握できる仕組みがないことが解決されるのか,やや疑問が残ります。
  例えば,部会資料15ページ以下では,公正証書遺言の検索システムとのリンク付けが提案されていますが,そもそも公正証書遺言については,全国の公証役場で検索できることが一般国民に知られているのか,疑問なしとはしません。そこで,自筆証書遺言の保管制度を導入するに当たり,相続人や受遺者が能動的に遺言の有無を検索できるような手当も必要となるのではないのかと存じます。あわせて,周知ということも必要であるのではないかと思います。
  部会資料16ページの上から4行目以降に,その問題意識が示されているとおりでありますけれども,このような通知システムと,例えば遺言があるということの情報の通知システムというのは有益なものと考えます。更に言えば,被相続人との間で預金や金融商品,貸金庫契約があり,遺言に基づく払戻しなどを求められる銀行としては,この遺言が公的機関に保管されている中では最新であることの証明がなければ,取引の安全が大幅に確保されないと思います。
  そこで,相続人や利害関係人からの請求に応じて,保管機関がそのような証明を発行できるような制度設計,つまりこの遺言が最新であることの証明ができるような制度設計が望ましいと考えます。
  また,現在の公正証書遺言の検索システムの利用者は,相続人,受遺者,遺言執行者に限定されているようですが,利害関係人の範囲を幅広く,例えば債権者,債務者にも広げていただければ,取引の安全確保につながるのではないかと思います。もちろん,この点については,プライバシーの問題とか,いろいろな角度からの検討が必要だということでありますけれども,検討していただければと思います。
  最後に,質問といいましょうか,意見でもありますけれども,遺言保管をする場合に,何らかの要件チェックをしていただいた方がよいのではないかということであります。自筆証書遺言を保管する場合には,形式的な有効性の確認をするということが前提となっているのでしょうか。市町村役場はともかく,法務局や公証人役場が保管機関となるのであれば,法的な専門性の見地から,形式的有効性の審査をすることは可能であると思います。
  もし,形式的有効性を確認することができるのであれば,公的機関で保管されている自筆証書遺言が無効である可能性がかなり低くなるのではないでしょうか。紛争防止の観点からも,いい制度になると思いますけれども,いかがでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございます。
  制度をより強化するという観点からの御意見と御質問を頂いたかと思いますけれども,事務当局の方,いかがでしょうか。
○大塚関係官 では,私の方から,最後の点につきましてまずお話しいたしたいと思います。
  御意見として賜りました保管をする公的機関で受理をする際に,何らかのチェックを働かせるべきではないかというのは,一つの考え方であろうとは思います。そのときにどのくらいの手間が掛かるのか,あるいはその判断をどこまでするのか,あるいはそこで瑕疵があったときの責任は誰が負うのかといった非常に難しい問題もあるところかと存じます。
  あるいは,そういった中身にまで関わるところを公的機関がチェックすることに,かえって抵抗感を覚える方も多数いらっしゃるようにも思いますので,そういった兼ね合いの中でどこまで見るのか。事務当局で考えておりましたのは,封印されているものをそのまま預かるということですと,中に何が入っているか分からないというところでもございますので,例えば開封をさせていただくなりして,内容についてきちんとデータ化するなど,こういったものであるということをはっきりと残していくという,検認に似たような手続というものが一つの案として考えられようかと存じますが,そこから更に進むことについては慎重な検討が必要ではないかと考えているところでございます。
  あとは,先ほど保管の義務付けということも進んだところとして考えられるのではないかという御指摘もありましたが,そこについては,どのような制度設計をするのかというところにも関わりますけれども,やはり先ほど申したとおり,公的な機関がどこまで関わるのか,あるいはそういった機関に行くこと自体,公的機関に見られること自体に抵抗感を覚える方がいらっしゃるということも考えますと,そういった公的機関の関与なしに作ることはできないという固い制度を作ることについては,極めて慎重になるべきではないかと考えています。
  基本的には,こういう制度も基本的には選択肢としてできますよということが着地点とは思いますが,余り何も効力を認めないということになると,コストとしてどうかという問題も反面あろうかと思いますので,その点については引き続き検討していきたいと思っております。
○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますでしょうか。
○浅田委員 はい。
○大村部会長 そのほか御意見を伺えればと思いますが。
○八木委員 今の大塚さんの指摘,非常に重要だと思ったのですね。マイナンバー制度もそうなのですけれども,この保管も極めて合理的だとは思うのですが,私としては若干のちゅうちょがあるということです。これは,そもそも私的自治とか自由とは何なのかということになるかと思うのですけれども,いわば自分の財産をどう処分するのかに関わることですが,これについては,可能な限り公権力はタッチしないというところが恐らく自筆証書遺言の趣旨だろうと思うのです。ですから,公権力が関わらないところに自由が確保されるという,ヨーロッパの考え方もあるようですし,その辺もし外国法制が遺言の保管についてどうなっているのかということを御存じの方がいらっしゃれば教えていただきたいと思います。
  今のところ保管ということにとどまっておりますけれども,ここでの内容は。しかし,義務付けということになってくると,かなり大きくハードルが高くなるということだと思いますし,その辺の検討は必要だと思います。慎重に考えるべきだというのが私の意見です。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承りました。
○窪田委員 2点,特に自筆証書遺言自体をめぐる問題は難しいと思いますので,今,どの立場というわけではないのですが,あり得る組合せということについて,少しお話をさせていただきたいと思います。基本的にはこういうふうに預ける形ではない形での自筆証書遺言も有効だという前提を採りつつ,預けた場合には,一旦預けてしまうと,その後の撤回は届出方式でしかできないというのは,ちょっとやはり筋としてはなかなか通らないのではないかという気がします。やはり,撤回について届け出なくても,今まで書いた届け出た遺言を撤回するという遺言を手元に残りしたら,その撤回は有効だというのはあり得るのではないのかと思います。その点で,組合せの問題としては,そういうこともあり得ると考えています。
  その上で,第2点ということになるのですが,実は最初の御指摘の中にもあったかと思うのですが,こういうふうに公的機関に預けたということが一体どういう意味を持つのかというの点が明確にならないとインセンティブも働かないし,この制度がうまく機能しないということなのだろうと思います。例えば銀行が預金の払い戻しをする場合にも,公的機関に預けられたものに基づいて支払えばそれは免責されるというのは,恐らく現在でも478条を使って同じような説明ができるとは思うのですが,より明確にできるのかなという気がします。あるいは公的機関に預けられた遺言に基づいて遺産分割がなされた場合において,その後,公的機関に預けられていない遺言が出てきた場合,これを全部無効にするという形になるのかどうかはちょっとよく分からないですが,そこのところで何かやはり一定のグレードを付けるというか,遺産分割協議を完全にはひっくり返さないような形で何か工夫するとか,なにかそういう方法もあるのではないかなという気もします。
  あとから出てきた遺言の中に遺産分割方法の指定か何かがあったりすると,遺産分割協議より,遺産分割方法の指定の方がたぶん優先するのではないかと思いますが,しかし,遺言が発見される以前の段階で公的機関に預けられた遺言書を基にして遺産分割がなされたら,それを優先させるということもあり得るのではないかなという気もします。そうした可能性については,検討の余地があるのではないかという気がいたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 自筆証書遺言については,保管を委ねることができるというのが適切です。しかし、公的な機関に預けるに際して,遺言者以外の第三者を経由する方法による保管申出については反対したいと思っております。
  公証人が病院へ出向く場合と異なる点があります。入院している者を想定した場合,例えば自治体であるとすれば,一定の職員が公証人と同じ役割をするのではなく,遺言書を預かった上,封入,封緘をして持ち帰るという程度のものに限るのではないかなと思います。もっとも、特にこの要望がないのであれば,制度の定着後,様子を見てから検討してもいいのかなという気はいたします。
  それと,新たな自筆証書遺言を作成して当該公的機関に保管するとか,公正証書を作成しないと、撤回することができないという点は,財産の処分を自由にするという考え方からすれば,今回は、検討はしたけれども,見送ってもいいのかなという気はしております。
  それと,全国に存在する機関が望ましいとあります。この保管する公的機関ですが,前も少し申し上げたことですけれども,全ての自治体がマンパワー的にできるかどうかどうかです。また、小規模なところであれば,お互いに顔見知りということもあります。そこで、その点については範囲を広げて、居住しているところと限らずに幅広く選択肢を設けるようなことも考えていいのかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 すみません。この保管制度ですけれども,一つは,やはり保管料は掛かるということでよろしいのでしょうか。そうすると,その保管料の仕組み次第でもあるかと思いますけれども,義務付けるというのは,新たな負担になるということがあるかと思います。
  それから,逆に,義務付けなくて,特に遺言の最終意思の尊重という部分,あるいは自由の部分に制約を掛けると,逆に預けない方がいいということにもなりかねませんので,余り大きな効果をもたらせない方がいいのではないかと思います。ただ,安定性ということであれば,窪田委員がおっしゃったような形の効果はあり得るのかもしれませんけれども,ただ,最新のものさえ見れば,当然に保護されるということまでいくのはやや行きすぎかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 すみません。ちょっと気になる点があるので,あと1点補足をさせてください。
  途中で御説明がありましたが,開封した上で中身はざっと確認してということであれば,まずそれに対して,恐らくすごく強い抵抗があるのだろうと思います。ただ,恐らく大変悩ましい問題があるのではないかと思いますのは,中身を読んで実質的判断をしなくても,開封した上でデータをとってPDF化し,電子データとして保管するということであれば,現物以外にもバックアップは容易にとることが可能だということになると思うのですが,封緘されたままの書類を遺言として預かったという場合には,こういう遺言を預かっているということのデータは電子データですぐ確認できるのですが,現物はずっと保管せざるを得ないことになります。その1点しかないということで,それが真正に保管されたものかどうかも確認するということは必ずしも容易ではないという問題が生ずるようにも思います。その点については,制度設計を考える場合に深刻な問題になるのかなという点は思いました。
○大村部会長 では,増田委員,水野委員まで伺って,事務当局の方からお答えいただきます。
○増田委員 遺言というものがそもそもどういうものであるべきかという話なんですけれども,やはり遺言者の最終意思を尊重するということだと思うんですね。しかも,できるだけやりやすくしようと,特に方式については法定の最低限の方式を守ってさえおれば,できるだけ広く自由にしようというのが,恐らく世界的な考え方ではないかと思います。
  したがって,私は,結論として,こういう制度自体があってもいいとは思うんですけれども,それに撤回制限を含めた法的効力を付与することについてはやはり反対だし,撤回を遺言と同じ方式でできないと,例えば外国に居住していたり,いくら何でもこれは例外にするのかもしれませんけれども,危急時遺言をしなければならない事態というのは当然あるわけで,必然的に一定程度の例外は考えざるを得ないし,結果的に紛争を完全に除去することはできないわけなので,あとで法的効力に問題が生じるようなことはできるだけ避けた方がいいのではないかと思います。
  事実的効力として幾らか信用性が高まるだろうというのは,そのとおりなのかもしれません。だから,そういう事実上の効力で我慢しておくというか,そういう程度のものであれば,誰が保管しようと,これは自由ですので,それに対して特に反対するものではありません。
  それから,ちょっと余計な話なんですけれども,先ほどからの話で気になったんですが,後から遺言が見つかった場合の処理は,ここでは問題になっていませんけれども,確かに遺産分割が完了した後,後から遺言が出てきた場合とか,あるいは遺言にしたがって全て分け終わった後で遺言の無効の判決が確定したとか,そういう事例も実際にはありますので,そういう場合の処理については,別途何らかの方策が考えられてもしかるべきかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○水野(紀)委員 遺言の部分まで今回の改正の対象を広げるのだとすると、遺言の全体像をどのように制度設計するかは、ものすごく難しいところだろうと思います。母法であるフランス法では,遺言がある場合,あるいは遺産に不動産がある場合は,全部、公証人が遺産分割をするという前提です。そのシステムがある国から条文だけをもらっています。特に気になりますのは1013条です。次の問題でお話しした方がよかったのかもしれませんが,遺言執行者が付いているときには,相続人の処分権を奪うという条文で,この条文は,例えば我妻先生なども取引安全を害するので一刻も早く何とか削除したほうがいいという立法論をもう何十年も前に言っておられました。それが今までそのままになっていたのは,遺言を残す人々が余りいなかったから何とかなっていたのでしょう。今はもう遺言が御存じのようにどんどんふえてきていますから,この1013条辺りも,考える必要があるでしょう。相続人がこういう遺産分割をしましたといって,それを完全に信用して相続人から買ったら,後で遺言執行者付きの遺言で第三者に全部行っていたというようなこともあり得てしまうという事態になっています。遺言執行者のない遺言の場合の遺贈と登記の判例では救えませんし、94条2項でどこまでカバーして救えることができるのか,それもかなり心もとないところがあります。遺言の問題を扱われるのだとすると,遺言の存在の周知の問題と1013条の問題なども絡めて,お考えいただければ有り難く存じます。
○大村部会長 では,事務当局の方で。
○大塚関係官 先ほどから御指摘いただいた点も含めながら幾つか,ざっと5点ほど御説明申し上げたく思います。
  まず,八木委員から御指摘がありました他国の法制ですが,当方で把握できている限りで,フランスはもう御指摘いただいたとおりかと思いますけれども,ドイツでは自筆証書遺言の保管につきまして,遺言者が区裁判所に対して自筆証書遺言の保管を求めることができるとの規定はあるようです。当方で把握しているのは以上になります。
  次ですが,撤回の制限につきましては,いろいろと御指摘のとおりの点が多いかと思いますので,慎重に検討をしたいと思っております。
  それから,インセンティブをどこに持たせるのかという点についての御指摘がございました。これは,沖野委員の御指摘にも対応するところでございますけれども,安価なサービスということで比較的気軽に利用できるといったところは一つ考えられようかと思いますし,その観点からしますと,手数料は安くしなければいけないということにはなろうかと思います。
  あとは,検索をすることができる,こちらに聞けば,遺言があるかどうかというのが分かるといったところは,インセンティブの一つとして考え得るのではないかというふうに思うんです。
  それから,自筆証書遺言を公的機関に預けることを義務付けるという点については,先ほどから反対の議論も幾つか出されているところでございますが,若干余談になりますけれども,実はこれ,明治民法の制定時の法典調査会というところで検討された経緯があるようです。議事録を拝見していますと,裁判所に預けることとして,そうしない限りは無効としてはどうかということが,自筆証書遺言について提案された経緯がございますが,それはちょっとねということで,そのまま採用には至らなかったという経緯があるようでございます。
  そこから現在に至るまでの100年の間に,実現のコスト的なもの,あるいは保管についての技術,それから検索についての技術といったものも大きく変わってきているところはありますので,その当時とは違って,インセンティブを持たせるという形での保管制度を設けるということは一つ考えられるかと思います。
  それから,先ほど御指摘いただいたところの,保管に係る自筆証書遺言に基づいて遺産分割が終わったけれども,後で別な遺言が見付かったときにどうするかという処理について考えるべきではないかという指摘につきましては,今後,また改めて検討してまいりたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 若干補足ですが,水野委員から御指摘がありました1013条と関係につきましては,当然,保管との関係でも問題になるとは思いますけれども,法定相続分による譲渡については,登記を備えなければ第三者に対抗できないという規律を設けるということを前回御議論いただきましたけれども,そういった規律を設ける場合には,当然この1013条との抵触関係が生じると思いますし,また,遺言執行者の権限のところでも,今回,かなり遺言執行者の処分権限を限定する方向で考えております。そういった意味でも,御指摘の1013条との関係をどういうふうに整理するのかというのは,重要な検討課題ではないかと認識しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  これは,まだ前回に出たばかりの案でございまして,今回,事務当局からは仮の提案がされているということでございます。できるだけ早い時期に御意見を賜って,次の案をお示ししたいということで,今日ここに出ているということかと思います。ですから,幅広い観点から御意見を賜れればと思いますが,何かほかに御指摘等ございますでしょうか。
○金澄幹事 聞き逃したのかもしれないんですけれども,検認との関係はどうなっているのかということを教えていただけますでしょうか。
○大塚関係官 そこにつきましては,どちらも考え得るとは思っているのですが,例えば最初の保管手続の受理の段階で,内容がどういったものになっているのか,要件を満たすかどうかの判断は別として,保管の手続を取る中で,中身を確認するということが伴うのであれば,それをもって検認が足りるということで,後の検認を不要とすることもあり得ようかとは思いますが,必ずそうするというところまで意思決定をしているものではございません。その点につきましては,御意見を伺いながら検討していきたいと思っています。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  どのくらいの効果を認めるかということ等の見合いで入口の厳格さも決まってくるだろうと思いますけれども,効果の方につきましては様々な御指摘があったと理解しております。
  ほかに,今日の段階でという御意見がありましたら,是非伺いたいと存じます。
○沖野委員 もう既に出た御意見の繰り返しではあるんですけれども,私は,16ページのイの第三者が持ち込むという点については,これは本当に慎重に考えた方がいいと思っておりまして,かえって紛争を多発するというようなことにもなりかねないと思います。ただ,そういたしますと,自分で持ち込めないという場合が出てまいりますので,もちろん赴くということもありますけれども,それでも問題が多いという点からすると,やはり全面義務付けというのはやや行きすぎではないかと考えておりますし,撤回の制約についても行きすぎではないだろうかと思います。
  撤回につきましては,本当にきれいに対応して撤回するものばかりでもないと思います。新たに書いた部分があり,ある部分は解釈によって実は撤回になっているとかというようなこともあり得るとすると,そういった判断も含めて,きっちり対応するということはなかなか難しいのではないか。
  それから,途中で出た御意見の中で,段階的に発展させていくということもあり得るかと思います。つまり,もう保管をする,預けるのが当然であるというような意識になってきたときには,更に制度をもう少し拡大していくとか,例えば最近の例では動産・債権の譲渡登記なども段階的に拡張していっているというようなこともありますので,同じ話では全然ないんですけれども,全て一気にやってしまうということではなくて,まずはこの辺りから生んでみるということも十分考えられていいのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  段階的に徐々にという御意見は,先ほど上西委員からも承ったところですので,事務当局の方でも御勘案をいただきたいと思います。
  その他よろしゅうございますでしょうか。
  では,この点につきましては,更に本日頂きました御議論を踏まえまして,事務当局の方で御検討いただきたいと思います。
  残りが16ページ以下の「遺言執行者の権限の明確化等について」という部分でございます。
  この部分についての御発言を賜れればと存じます。
○浅田委員 この点も,前回の会議において私どもが要望させていただいた点でございまして,そのペーパーでは相続させる遺言等における遺言者の権限とか,遺言執行者が第三者に遺言執行を任せることの可否ということの検討を要望しました。これもいろいろ検討を賜りまして,誠にありがとうございます。各位におかれましては,是非とも前向きに検討していただければと思います。
  その中で,これは銀行,預金に関わることでありますのですけれども,申し上げたい意見が一つございます。それは,預金は通常の金銭債権と違って,やはり現金と同等のものでありまして,そこでの遺言執行に係る実質上の処分というのは,単なる対抗要件具備,いわゆる債権譲渡の対抗要件具備にとどまるのでなくて,実際に預金を解約するとか,名義を書き換えるとか,そういうことが多くて,かつ遺産の中での主要な財産を占めていると。そういう意味で,もう一歩突っ込んだ権限設定というのができないのかどうかということでございます。
  例えば,銀行実務上よくある例としては,例えば三井住友銀行の預金を長男に相続させるというシンプルな文言だけあった場合に,取立権限とか換価権限とか何も付されていないということが見られる遺言であります。このタイプの遺言について,遺言執行者の払戻権限が問題となっているということがありまして,それを踏まえて前回会議でペーパーを提出させていただいたわけでございます。この点,今回の部会資料の20ページのウでは,「遺言において,相続財産に属する特定の権利を受益者に取得させることが定められた場合には,遺言執行者は必要な範囲でこれを受益者に引き渡し,対抗要件を具備させるのに必要な行為をすることができれば足り,それ以上に遺言執行者にその目的財産の処分権限まで認める必要は乏しい」とありますので,そうしますと,処分権限が示されていない遺言では,執行者に払戻権限は認められないことになります。
  しかしながら,やはり実態を見ますと,そして遺言者の真意を図ろうとしますと,このような場合でも遺言者は遺言執行者に,預金の取りまとめであるとか,預金の解約回収,資産の取りまとめというのを依頼しているということが多いのではないかと思います。したがいまして,金銭債権全体というカテゴリーについてはといった整理になるかとも思いますけれども,預金に関しましては,そういう処分権限までお認めいただくような立付けということをご検討いただけないかというのが意見でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 その点についてはこちらでも検討したのですが,特に預金のような可分債権でも対抗要件を具備しなければ債務者としては支払わなくていいという規律を設けたことを前提として,さらに今,御説明があったような相続人の一人に相続させる旨の遺言があった場合に,ほかの相続人が遺言執行者として指定されているという事案で,その遺言執行者に預金の払戻権限を認めて,全額引き出せるということまで認める必要があるのか。そういったことを認めますと,それは不正に流用するおそれというのも当然出てまいりますので,そういった権限まで本当に認めていいだろうかという点については,かなり疑問に思っているところでございます。
  したがって,遺言者の方でそういった財産を処分させることが遺言の中から明らかである場合には,ここに書いてある方策でも,遺言執行者はそれを引き出すことができるということになるわけですが,そういったところが表れていない場合には基本的にはできないと。ただ,この部会資料でも(注)で書いてありますが,遺言執行に必要な費用ですとか,あるいは報酬などについては,相続財産の中から遺言執行者は取れるということになっておりますので,そういった範囲であれば,預金債権の中からそれを回収するということはあり得ると思いますけれども,基本的に一定の財産,権利を移転させるというだけの遺言がされている場合に,それについての処分権限を一律に遺言執行者に認めるということについては,かなり大きな問題があるのではないかと考えているところでございます。
○浅田委員 おっしゃることは分かりますけれども,その点については実態を踏まえて,私どもも問題整理をしたいとは思いますが,引き続きご検討いただきたいと思っています。
  なお,先ほどご指摘があった部会資料20ページの(注1)の,言えば遺言執行者が任意の相続財産を換価,取立てが可能であるという点についてのコメントです。つまりそれは,執行費用を回収するために行うときということでありますけれども,ただ,現実においては,執行費用というのは多分,全体額からすると微々たるものでありますので,それがために預金を全部処分することを認めるという構成は,ちょっと躊躇するような感じもすることを指摘しておきたいと思います。いずれにしても,検討していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 遺言執行者の復任権についてです。ここに書かれていますとおり,「遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。」ということに賛成です。
  18ページの該当箇所に,「この場合において,やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う」と書いてあります。このやむを得ない事由とは,どのような場合を想定されているのか教えていただきたいのです。場合によっては,これは要らないのかなという気もいたしましたので。
  17ページに戻りまして,遺言執行者の権限の明確化についてですが、賛成です。就職後,直ちに財産の管理等々に着手するわけですが,現実に分割協議で行うケースもあります。全く違う内容ですることもあれば,遺言の内容にほぼ即して,部分的に違うだけということもあります。いずれであっても、遺言執行者が就職したということについての通知義務は,民法上なかったかと思うのです。
  相続財産の目録の作成については1011条に書いてあり,遺言執行者に対する就職の催告というのは,相続人サイドからできるという規定がありますが、遺言執行者から就職の通知をすることによって,この遺言どおりやってよろしいですか,それとも別途協議されますかという機会を相続人に与えるといいますか,熟慮するチャンスを設けることができます。権限を明確化するのであれば通知義務ということもなじむのではないでしょうか。法的に御検討いただきたいと考えます。これは,遺言執行者に義務を課するという意味よりも,むしろ遺言の存在を知らなかった者に検討する機会を与えるという意味で検討すべきものと思います。
  就職するに当たっての承諾についてです。就職したということについての方法ですが、通知を義務とした場合に,口頭と書面のいずれでするのか,あるいは書かない方がいいのかについても検討課題になるのかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 まず,18ページの⑦のところで,やむを得ない事由とありますのは,基本的に法定代理人が復代理をする場合の規定を参考にして,ここでも同じように考えたというものでございまして,具体的にどういう場合がこれに当たるかという点は十分に調べられておりませんけれども,例えば遺言執行者が病気になって入院しなければいけなくなったとか,そういったような事情がある場合,要するに自分で遺言執行事務をできなくなってしまったことについてやむを得ない事由がある場合には,監督についてだけ責任を負うけれども,そうではない場合,自分は本来できるんだけれども,第三者に委ねるという場合には,その遺言執行者の自己責任ということを記述をしているものでございます。
  それから,遺言執行者の就職についての通知義務でございますが,この点については今回初めて御指摘をいただきまして,こちらでは全く検討できておりませんので,今後,検討させていただければと思います。
○水野(有)委員 浅田委員のおっしゃったところと重なるところでございますが,債権についてどのようにお考えかを,まとめてご説明いただけると有り難いと思います。
 第1点目は,①のところで現に占有していた財産というとき,債権の場合はどういう状態のものを占有していた財産とするのかという点です。
  第2点目は,例えば不動産を母親,一切の預貯金を含む金銭債権は長男と次男というような遺言があったときに,②でいう特定の権利を,相続人その他の者に取得させたことが定められた場合に当たるとするのかという点です。
  3点目は,債権といった場合,浅田委員もちらっとお触れになったのですが,存在も内容も明確な預貯金債権から,相続人間の被相続人財産の横領を巡る損害賠償請求債権など被相続人自体の請求の意思の有無さえ争われる存在も内容も明確でない債権など,本当に様々なものがありますが,それらの債権を一律にこの規律で規定するというご趣旨かという点です。
  4点目は,浅田委員ご指摘のとおり,今回のご提案だと従前の実務との変更点が多いのかもしれませんので,対抗要件の問題も含め,実務への影響という観点でいろいろご検討いただけると有り難いというお願いでございます。
  今,お聞きいたしましたことに,何かございましたら,お教えいただけるとと思います。
 よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 御指摘の点は,引き続き検討したいと思いますけれども,基本的に債権については,債権を取得させるという遺言がされた場合には,遺言執行者としては,対抗要件を具備させるということでも足りて,それによって基本的には債務者の方は譲受人の方に払わなければいけなくなるという状態がつくれるのではないかと。
  ここで基本的に考えているのは,①ですとか②の方は,動産ですとか不動産ですとか,実際に引渡しをしなければいけないようなものを念頭に置いておりまして,ここで考えているのは,この引渡しについて,基本的には被相続人が有していた権利状態といいますか,事実状態も含めて,それをそのまま受遺者に承継させると。すなわち,第三者が占有をもともと,被相続人が生きているときから第三者が占有していたものについては,そのままの状態で引き継げばいいと。ただ,被相続人が自分で占有管理していたものについては,それは被相続人と同じような状態をつくり出すためには,受遺者に対してそれを引き渡さないといけないということになりますので,その引渡義務まで遺言執行者の事務とするというようなイメージでございまして,引渡義務については今のような考え方で規律を設けたということでございます。
  それに対して,対抗要件具備行為については,ここで挙げているのは,基本的には対抗要件具備行為は全て遺言執行者の権限であるということなんですけれども,ただ,対抗要件具備行為についても同じように,被相続人が有していた状態と同じような状態にすればいいというふうに限定すれば,被相続人が自分のところに登記を持っていた場合は,それを受遺者の方に移転させなければいけないけれども,第三者がその登記を持っていた場合は,もうそれは遺言執行者ではなくて,本人に回復はさせるというようなことも考えられるのではないかというところでございまして,まだ検討は不十分ですので,いろいろ細部を検討する必要はあると思いますけれども,基本的には,今申し上げたような考え方を前提としております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
○増田委員 水野委員の質問されたことに近い質問を一つだけさせていただいた後で,五つほど方向性について意見を述べさせていただきたいと思います。
  質問は,2のアで,相続開始時に被相続人が現にその財産を占有していなかったときはこの限りでないということですが,遺言者が当該財産の引渡請求権を有していた場合に,その引渡請求権を遺言執行者は行使できないのかということと,もし,引渡請求訴訟中に遺言者が死んだら,それは誰が受継するのかというのが質問です。まず,それをお答えいただけますか。
○堂薗幹事 基本的に②のアの考え方というのは,要するに第三者が占有している場合に引渡しを求めるのかどうか,あるいはどういった形でその紛争を解決するのかというのは,遺言執行者の判断によるのではなくて,正に権利者である受遺者あるいは受益相続人の方で判断すべき事項ではないかということで,その部分は除外しているというところがございますので,引渡請求権が発生している場合であっても,その引渡請求権を行使する権限は遺言執行者にはないという前提でございます。
  したがいまして,訴訟継続中に被相続人が亡くなった場合に受継すべき者というのは,遺言執行者ではなくて,その受遺者なり受益相続人となるのではないかというのが,こちらの整理ということになります。
○増田委員 ダイレクトに受遺者に行くのかどうかね。ちょっと検討の余地があるとは思うんですけれども,今のお答えを踏まえて,方向性について五つほど述べさせていただきます。
  まず,遺言執行者の法的性格を明確にしていただきたいということです。遺言執行者というのは,恐らく遺言者の意思を死後に実現するための機関であると考えられます。現在,1015条では相続人の代理人となっておりますが,相続人とは本来利益相反の関係にあって,相続人の利益のために行動するということは現実にもありません。1015条は,相続人への効果帰属といったような表現に改められるべきだと考えております。
  それから,2番目ですけれども,遺言執行者が遺言者の意思を実現するという目的を達するためには,堂園幹事のご意見とは異なり,遺言の対象財産についての排他的財産管理処分権が認められるべきであろうと考えております。例えば,遺贈の目的不動産について,その賃料の収受は相続人がするといった解釈で,結果的に不当利得が生じるようなことを認めているのは,私はおかしいと思います。
  それから,第3に,遺言執行者の権限規定ですけれども,先ほども少し触れましたが,訴訟の当事者適格ということをも念頭に置いて整理すべきだろうと思います。それは,遺言者が訴訟継続中に死亡したときに誰が受継するかという問題になります。先ほどの質問のケースで,対抗要件を具備しないうちに受遺者が直接受継するというのはどうかなと私は疑問に思っておりますが,ただ,自らが取得できないことが分かっているような相続人に受継させても,適切な訴訟追行は期待できないわけですから,先ほどの例の引渡請求訴訟中であれば,その物を受遺者に引き渡す義務を負っているというか,義務を負っているという点の見解は異なるのでしょうが,少なくとも受遺者に引き渡す権限を有している遺言執行者が受継するというのが適切であろうかと思っております。
  あと,当事者適格に関しては,御承知のように,遺贈の履行請求や,遺留分減殺請求の被告適格については問題がある,これらは既に学説・裁判例で議論されている問題ですが,この辺も明確にしていただきたいと思います。
  四つ目ですけれども,相続債権者との関係も少し整理していただきたいと思います。日本の遺言執行者は,現行法では清算人的性格はないということになっていて,それについては維持でいいんだろうと思うんですが,執行対象財産を占有している状態であれば,債権者が相続人に対する債務名義でこの遺言執行者の持っている財産に対して執行できるのかどうか,あるいはその逆の問題があります。
  この点学説上は,相続人に対する債務名義では,遺言執行者の所有している財産には執行できないというような解釈もあるように思われます。ただ,その実体的な根拠は明らかではないですので,その辺りを含んで,債権者の関係でも執行者の権限を整理していただきたいということです。
  五つ目ですけれども,遺言執行に関して,類型的に利益が相反する者については,遺言執行者の欠格事由とすべきだと考えています。典型的なのは相続人,受遺者。巷では,よくこういう人が遺言で遺言執行者として指定されている例が見られます。
  先ほど浅田委員の御質問に対してお答えがあったように,債権者として債権を取得しない相続人が遺言執行者に指定されている場合には,また別の困った問題が起こるだろうと思います。
  相続人,受遺者は当然に,その親族まで入れるかどうかはともかくとして,一定範囲の者について遺言執行者の欠格事由とすべきだと考えております。ちなみに,弁護士は,相続人の代理人が遺言執行者になると,懲戒事由になり得ます。この点からも,利益相反する者が執行者に就任するというのはおかしいだろうと思います。
  以上,五つの方向性という形で御要望申し上げました。この点については,また弁護士会の方でもいろいろと細かい点について,現行法の問題点などを提出したいと考えております。
○堂薗幹事 基本的に今,御指摘いただいた点につきましては,こちらで検討したいと思いますけれども,ただ,排他的な財産処分権限を与えるということについては,それはどういう根拠で遺言執行者にそこまで広い権限を認めるのか。特に,不動産を誰々に相続させるとした場合に,不動産をなぜ換価できるのか。債権もそうですけれども,債権のままその権利を取得したいという相続人もいると思いますけれども,そういった場合にも遺言執行者の判断でそれを換価できるというようにすることについては,なぜそういう強大な権限が遺言執行者に付与されるのかという辺りが非常に問題になるのではないかと考えております。
  特に,先ほどの利益相反との関係で問題になるのかもしれませんけれども,現行は相続人に遺言執行者を指定しているという場合も一定程度ありますので,そういった場合に,その相続人に包括的な財産処分権限を与えることについては,非常に大きな問題があるのではないかと考えているところでございます。
  それから,御指摘いただいた当事者適格,被告適格の問題については,基本的には実体法上の管理処分権限が誰に帰属するのかという辺りを確定させれば,ある程度のところはそれによって解決ができるのではないかというところもございまして,今回,その辺りの整理を試みてみたというところでございますが,ほかにもいろいろな問題があると思いますので,その点については引き続き検討してみたいと思います。
  それから,類型的に利益相反となる場合に,相続人を遺言執行者の欠格事由とすべきであるという点につきましては,これも検討したいとは思いますけれども,恐らく現行法上,相続人が利益相反になる場合であっても,特に権限の制限がされていないのは,遺言によって遺言執行者が行うべき事務がもう確定されていると。したがって,例えば双方代理,あるいは利益相反の代理人であっても,債務の履行はできるというのと同じような理屈でそうなっているのではないかと思いますので,民法の利益相反,あるいは双方代理の規定との整合性をどう考えるのかという問題もあろうかと思いますので,その辺りも含めて,先生方の御意見をお伺いしながら,引き続き検討してみたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 すみません。時間を取ってしまって恐縮なんですけれども,遺言執行者の権限というものが,これが正に権限として固定するということなのか,いわばミニマムのデフォルトルールなのかという,その扱いの問題があろうかと思っておりまして,例えば妨害排除なども含めてこの人にやっていただきたい,わざわざ弁護士の方を遺言執行者にしているのはそういう趣旨なんだとか,そういうようなこともあるかと思いますが,そういうものをどこまで入れてくるのかという問題があるかと思います。
  その際に,今回はかなり権限を縮減された提案だと思うのですけれども,その際の出発点ないし支える考慮は三つぐらいでしょうか。一つは遺言執行者に過度の負担にならないようにという点と,そもそもそのような権限を持つ根拠はどうかと言われた点で,そこまでの権限を与えるだけの十分な正当化ができるのかという点,そして三つ目が,誰がこれについて意思決定をすべきなのかという点で,むしろ受遺者であるとか,実質的な受益者ではないのかという点かと思います。
  ただ,いずれにつきましても,関係者が望んでいるときにどうかという問題が一つはあろうかと思います。そうすると,一方では,遺言において別段の定めがあるような場合は,もう少し広げてよいのかということが出てくるかと思います。19ページの(注2)に書かれているものですけれども。
  それから,関連して二つ目なんですけれども,最終的な意思決定なり,意向で決定的な意向を貫けるのは誰かというときに,相続人ではないと思うんですけれども,被相続人なのか,受遺者なのかというその調整の問題も出てこようかと思いますが,ここでは,基本的に最後はやはり受遺者,受益者であるという想定を考えておられるようにも思うんですけれども,そうした場合,増田委員が御指摘になった1点目との関係で,今,やはり相続人の代理人として扱うというのが本来は効果帰属だけであるところを,過度の制約になっている可能性もあるのかなと思いまして,その観点での見直しが必要ではないかと。
  関連してなんですけれども,細かいところで恐縮ですが,18ページの復任権のところの,本人に対して選任,監督についての責任のみを負うという箇所につきまして,本人とは誰かという問題でして,1015条との関係では相続人のようだけれども,これはむしろ受遺者等ではないかという気がいたしますものですから,その点明確にする必要があるのではないかということです。
  それから,18ページの半ばで書かれております和解等の,紛争があるような場合で,紛争がない場合は権限として認めていいのではないかという感じはしているんですけれども,紛争があるような場合について,最終的にどのように決着するかということは受益者本人に決めさせるべきだという点ですけれども,その場合に遺言執行者には権限がないとすることが唯一の方法なのかという点でして,例えば遺言で書かれているような場合は認めてよいという可能性が一つですし,さらには遺言で書かれている場合も,受益者の意向を聞かなければならないとか,受益者の指図に従わなければならないとか,そういうような規律を設けるということはあり得るかと思います。
  ただ,もう一つの可能性としては,遺言執行者もミニマムなものに固定してしまって,あとは任意に,その人にお願いするなら受遺者頼めばよいというやり方もあろうかと思いますけれども,そこまでのことを本当に要請していいのかというのは気になるところです。
  そしてあと,時間がないところ本当に申し訳ありません。表記だけの問題です。お話を伺って分かってきたのですけれども,17ページの②の㋑のところでただし書は,動産に関する物件であるときはアの範囲に限るということなんですが,登録自動車とかそういうことはありますので,そうすると,ここでは一体,引渡しのことをいっておられるのか,およそ動産についてはということをおっしゃっているのかちょっと分からなかったもので,御説明からすると,対抗要件具備であればいいということですから,書き方はいろいろあると思いますけれども,あるいは㋑の括弧の中に動産の引渡しについては㋐の範囲に限るとか,そんな書き方もあろうかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 基本的には,今,御指摘の点も検討させていただきたいと思いますが,1点,基本的には②,③の規定は,特に遺言に特段の定めがない場合はこうなるということで,④に書いているんですが,遺言において別段の定めがされている場合には適用しないことになりますので,遺言者の方でそういう指定がされている,引渡権限まで遺言執行者の権限として認めているというような場合には当然,遺言執行者の権限になりますし,明確に書いていない場合でも,全体の趣旨からして遺言者の合理的意思としては,そういう別段の定めをしているのだろうと思われる場合については,遺言執行者の権限になるという前提で考えているところではあります。
  それから,登録自動車の点は,御指摘のとおり,それは,ここでは考えておりませんで,仮に登録自動車のようなものがあれば,それは通常の対抗要件具備行為と同じ話になるという前提でございます。その点については,表現等を工夫したいと思います。その余の点については十分な検討ができておりませんので,検討の上で次回に考えをお示しできればと思います。
○山本(克)委員 増田委員と堂薗幹事の間のやり取りのうち,訴訟法的な点について2点コメントをさせていただきます。御返答は不要ですので。
  1点目は,遺言者が所有権に基づいてだと思うんですが,第三者が占有している物件が私のものだというので引渡請求をしているというときに,その訴訟継続中に死亡した場合の誰が次原告になるべきかという問題ですが,民訴法124条1項1号の解釈問題になると思うんですけれども,そこでは,普通考えているのは包括的に実体的な権利を承継した者か,包括的に管理処分権を承継した者のどちらかと考えていると思いますので,特定受遺者はそれには含まれないので,特定受遺者が仮に何かその訴訟に関与できるとしても,それは49条参加しかあり得ないのではないかと思いますので,そこはちょっと御再考いただいた方がよろしいのではないかというのが私の見解です。
  それからもう1点は,実体法の職務権限と当事者適格との関係ですが,増田さん,当事者適格を念頭に先に考えろということですが,それはちょっと,私はそれは理屈が通らないのではないかと思います。もちろん,当事者適格の点を念頭に置きながら議論しなければならないのは当然ですけれども,今,堂薗幹事がおっしゃったように,実体法の職務権限というものの範囲で当事者となるという前提で議論をすべき事項だと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。御指摘に従って,更に検討をお願いしたいと思います。
  そのほかいかがでございますか。
○浅田委員 遺言執行を行う者としての立場から若干のコメントないしは質問,確認めいたものも申し上げたいと思います。
  遺言執行者の責任に係ることであります。これは原則としては民法1012条2項の受任者の義務と,善管注意義務を中核として義務を負っていると考えているところです。そこで,17ページの②のア,イの,動産は,相続開始時に被相続人が占有する物だけについて引渡義務があるとする提案について,こういう意見がございました。
  相続開始時の被相続人による占有の有無をもって遺言執行者の権限の有無が決まるとすれば,遺言執行者としては,就任に当たり,相続開始時の同遺産の占有状態を調査する必要があると思われます。実務上,相続開始から相当な期間が経過してから,執行者に対して死亡通知がなされることもあるようで,そうすると,占有状態が調査不能であるために遺言の執行が滞りかねないことや,調査に時間を要したために執行が遅延して遺言執行の責任が問われかねなくなるということを懸念する意見がありました。併せて,相続人の一部等が相続開始前又は後に遺産の占有状態を恣意的に移転することにより,遺言執行を妨害しようとすることを懸念するという意見もありました。
  それから,同じような文脈のコメント等ですけれども,相続させる遺言における登記権限と責任,部会資料の19ページの(注1)辺りのところだと思いますけれども,相続させる遺言において遺言執行者に不動産の所有権移転登記申請権限があるとする制度と,前回会議の部会資料5で示されていた相続による物件変動も全て対抗要件の具備の先後で優劣を決するという制度を組み合わせるとすると,遺言執行者が適時に登記申請をしなかったということで,受益者から損害賠償請求を追及される可能性があるかということを懸念する意見がございました。
  というのは,銀行は遺言信託業務を提供していますが,相続させる遺言で不動産の帰属を決めている場合には,現行判例では受益者だけが登記権限を有するので,執行者は係る登記実現の義務を免れています。今回の制度改正によって登記権限まで有するということになると,損害賠償リスクが出てくるのかなということでございます。これは,ある意味当然なのかもしれませんが,ただ,余り過度なもの,適時にせねばならないとかいうことになりますと,遺言執行者としては遺言者の死亡の認識まで時間が掛かるということもありますので,なかなかこの義務を果たせないということもあり得ます。義務の内容というのは解釈問題になるとは思いますけれども,そこについては柔軟かつ実務的な考えで内容を決定していただきたいところであります。この点について,ご提案の事務当局等において何かご見解があれば承りたいと思います。
○堂薗幹事 まず,①の基準時を相続開始時にしている点でございますが,基本的には最終的にどう制度設計するかというところに関わりますけれども,ここで考えているのは,遺言執行者が就任した時点で,被相続人が占有しているものについては当然引渡しなどをするということですけれども,それが分からない場合は,基本的には遺言執行者はそれについて引渡しをする必要はない。第三者が占有していて,それが相続開始時よりも前なのか,後なのか分からない場合は,基本的には権限の範囲外であるという前提で一応考えております。
  ただ,相続開始時に占有していたんだけれども,それを妨害する意図で占有移転がされた場合には,遺言執行者の権限に含めるということでございますが,この点については,必ずしも相続開始時を基準時にする必然性はないと思いますので,その基準時をどこに定めるかという点については,引き続き検討したいと思います。
  それから,相続させる旨の遺言がされた場合の登記権限でございますけれども,ここでは遺言執行者にも権限を認めるということではございますので,先ほど御指摘があったような問題は生じるかと思いますが,ただ,他方で受遺者側でも自分で単独で登記申請ができるという点は変わらないということでございますので,それによって何か損害が生じた場合に,自分でもできたわけでございますので,自分で損害を回避する手段があったということで,損害賠償請求は認められない,あるいは責任の範囲が限定されるということは十分に考えられるのではないかと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか御発言ございますでしょうか。
○村田委員 資料18ページの⑥で,遺言執行者が任務に属する特定の行為をすることが困難な事情があるときに,家庭裁判所に代理人の選任を求めることが書いてありまして,その説明が21ページのところに書いてあります。21ページの説明では,遺言執行者の権限の範囲が必ずしも明確でなくて執行が円滑に進まない場合が記載されていますが,それ以外にも,遺言執行者が任務に属する特定の行為をすることが困難な類型が幾つかあるのではないかと思われて,その類型ごとに多分,裁判所が判断すべき内容が違うような気がするんですね。権限の範囲内か,範囲外か分からなくてもめているようなケースは,正にそれを判断すればいいかと思うんですけれども,権限の範囲内であることは明確なんだけれども,例えば遺言の執行に専門的な知見を要するために,その遺言執行者ではなくて別の代理人が必要だというようなケースもあれば,それ以外にも幾つかパターンがあるような気がして,それぞれのケースにおいて裁判所が何を判断すべきかということや代理人としては類型に応じてどういった者が考えられるのかという辺りを分けて分析していただけるとありがたいなと思います。
  また,例示されているところの権限の範囲が必ずしも明確でないために執行が進まないというときは,問題となっている特定の行為は遺言執行者の権限の範囲内ですよという判断ができたら,当該行為をする権限を更に遺言執行者以外の代理人に与える必要があるのか,それとも,当該行為をすることは遺言執行者の権限に属するということについてお墨付きを与えるだけでいいのか,ちょっとその辺りもよく分からないところがあるので,更に検討していただけたらありがたいなと思います。
○大村部会長 それは,更に検討していただくということで引き取らせていただきたいと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,御指摘いただいた点につき,事務当局におかれましては更に御検討をお願いするということにさせていただきたいと存じます。
  本日予定しておりました審議事項は以上でございます。
  次回以降の日程等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと存じます。
○堂薗幹事 それでは,次回の日程でございますが,次回は,既に御案内のとおり,11月17日火曜日の午後1時半から午後5時半頃までを予定しておりまして,場所も本日と同じこちらの20階第1会議室ということになります。
  次回は,一読の際,大変白熱した議論を頂きました配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現などを取り上げたいと思っておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ということでございますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
  本日も熱心に御審議を頂きまして,誠にありがとうございました。
  これをもって閉会させていただきます。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第7回会議 議事録


第1 日 時  平成27年11月17日(火)自 午後1時29分
                      至 午後5時26分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,時間になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第7回会議を開催いたします。
  本日は,席上の配布資料は特にないということでございますので,早速審議の方に入らせていただきたいと存じます。
  事前配布のお手元の資料7というもの,「相続人等の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策」というものについて,御審議を頂きたく存じます。
  この資料は,中を御覧いただきますと,第1という項目がちょうど真ん中の10ページまでございます。その後に第2,第3という二つの項目が出てまいります。本日は,前半でこの第1につきまして御意見を伺いまして,休憩の後,第2,第3につき順次御意見を賜りたいと存じます。
  それでは,まず第1の「配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策」という部分につきまして,事務当局より御説明を頂きます。
○合田関係官 それでは,関係官の合田より,部会資料7の「第1 配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策」について,御説明いたします。
  第3回部会においてお配りしました部会資料3では,配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するという観点から,遺産を実質的夫婦共有財産と固有財産とに分けた上で,実質的夫婦共有財産については,配偶者の取得割合を現行の法定相続分よりも高い割合とする二つの考え方を提案しておりました。
  前回の案に対しては,配偶者加算額と現行の寄与分との関係や,遺留分制度に与える影響等についても整理検討する必要があること,実質的夫婦共有財産と固有財産の両方を原資として取得した財産や,実質的夫婦共有財産と固有財産の両方の性質を含む財産をどのように扱うべきかといった困難な問題が生ずること,配偶者の実質的貢献の程度を具体的に考慮すると言いながら,紛争の複雑化を避けるために,実際にはかなり割り切った考え方を採っているため,必ずしも配偶者の実質的貢献に応じた分配とは言えず,事案によっては,かえって相続人間の公平を害する場合が生じ得ることなどが問題点として指摘されました。
  今回の部会資料で取り上げております甲案は,前回取り上げた二つの案のうち,遺産の属性に応じて計算した一定の金額を配偶者の具体的相続分に上乗せするという考え方を前提としつつ,御指摘のあった問題点を踏まえ,紛争の複雑化,長期化を避ける観点から,更に一定の修正を加えたものです。
  まず,甲案においては,配偶者の具体的相続分に加算される部分の法的性質を,配偶者固有の寄与分と整理し,現行の寄与分の特則と位置付けております。また,前回案の実質的夫婦共有財産の額に相当するものとして,新たに婚姻後増加額という概念を用い,配偶者の具体的相続分に加算する額の算定を簡易にするという観点から,婚姻時の固有財産の価額や,相続及び贈与によって取得した財産の価額については,これを固定し,これらの財産の価値がその後相続開始時までの間にどのように変容したかという点は考慮しないこととしております。
  もっとも,甲案は紛争の複雑化,長期化を避けるという観点から,前回の案よりも更に割り切った考え方を採っているため,事案によっては,かえって相続人間の公平を害する場合が生じ得るという前回御指摘のあった問題点を解消することはできておりません。紛争の複雑化,長期化の回避という要請と個別具体的な事案における結果の妥当性の確保という要請は,両立し難い関係にあるため,この両者をともに解決することは困難であると考えられます。
  次に,乙1案について御説明いたします。
  資料の2ページを御覧ください。
  乙1案は,婚姻成立の日から20年又は30年という一定の年数を経過した後に,その夫婦の間で法定相続分を引き上げる旨の合意があり,法定の方式によってその旨の届出がされた場合には,その合意に基づき,配偶者の法定相続分を引き上げることを認めるという考え方です。
  一般に,婚姻期間が長期に及ぶ場合には,一方の配偶者の財産形成について,他方の配偶者の寄与の程度が高い場合が多く,また,相続開始の時点で配偶者がともに高齢となっており,その生活保障を図る必要性が高い場合が多いと考えられます。そこで,婚姻成立の日から一定の年数が経過した場合には,一律に配偶者の法定相続分を引き上げるという方策を講ずることが考えられます。
  もっとも,一定の年数の経過によって当然に法定相続分が変動するということにしますと,例えば婚姻関係が実質的に破綻しているのに形式的に婚姻関係を継続し,その夫婦の別居期間が長期に及んでいる場合など,被相続人の財産形成に対する配偶者の貢献の程度が低い事案においても,一律に引き上げられた法定相続分が適用されることとなり,かえって相続人間の公平を損ない,財産分与の場合との整合性を欠く結果となるおそれがあります。
  そこで,乙1案では,形式的に婚姻期間だけで法定相続分を変動させることの問題点を回避する観点から,①に記載しました婚姻期間経過後に法定相続分の引上げについて,夫婦間の合意があったことを要件とし,夫婦間の合意に婚姻期間が形式的なものではなく,夫婦のいずれにおいても引上げ後の法定相続分に見合う貢献があったことを相互に承認する意味合いを持たせております。
  ①の婚姻期間をどの程度とすべきかについては,様々な考え方があり得ると思いますので,乙1案では,これを20年とする考え方のほか,30年とする考え方を併記しております。
  乙1案では,引き上げ後の配偶者の法定相続分について,子とともに相続する場合は3分の2,直系尊属とともに相続する場合は4分の3,兄弟姉妹とともに相続する場合は5分の4とすることとしております。
  もっとも,婚姻期間が長期にわたる場合には,遺産の形成に対する配偶者の貢献の程度が大きく,その後の生活保障の要請が強い場合も多いと考えられますので,配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合には,兄弟姉妹に法定相続分を認めないという考え方もあり得ると思われます。
  次に,乙2案について御説明いたします。
  乙2案は,被相続人が法定の方式により配偶者の法定相続分を引き上げる旨の届出をしたこと,その婚姻時から一定の年数を経過した後に相続が開始されたことを要件として,配偶者の法定相続分の引上げを認める考え方です。すなわち,乙2案は,配偶者の法定相続分の引上げの要件として,夫婦間の合意までは要件とせず,被相続人の単独の意思表示で足りるとしております。
  また,乙2案では,法定の期間経過後でも,単独の意思表示によって届出を撤回することができるとすることによって,実質的には婚姻関係が破綻しているにもかかわらず,形式的にこれが継続しているような事案に対応することとしております。
  乙1,乙2案につきましては,これらの考え方に対する御意見と併せて,法定の婚姻期間を何年とするのが適切か,また,引き上げ後の法定相続分をどのように定めるべきか,特に配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合に,兄弟姉妹に法定相続分を認めないという考え方についても,御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  前回の審議の際に出ました御意見を踏まえて,甲案につきましては,よりシンプルな計算の仕方を御提案いただいたと理解いたしました。乙1,乙2というのは,それを更に単純化しようという発想に立っていると承りました。
  この部会での審議の初めの方で,一律に現在の法定相続分を引き上げるということについては,これに賛成する御意見はなかったと認識しております。今回のものは一定の場合に,一定の要件の下に引上げを認めるということを考えてみてはどうかという趣旨だと理解しております。
  甲,それから乙1,乙2,それからさらに906条の見直しによって,配偶者の貢献を考慮する考え方も,前回出ておりましたけれども,それらを含めて,皆様の御意見を伺えればと存じます。
○増田委員 私,どこかで道を間違えたのか,最近算数が苦手になっていますので,ちょっと教えていただきたいと思い,簡単な具体例を設定してみました。
  AB夫婦のAが死亡して,相続人は配偶者のBと子供のC,2人だけとして,婚姻時の資産は純資産ゼロ,現在,遺産が1億5,000万あって,債務はない。Bが3,000万の生前贈与を受けているという例で教えていただきたいんですが,まず現行法でのBの具体的相続分を計算しますと,1億5,000万で3,000万の生前贈与ですから,1億8,000万の半分の9,000万から3,000万の生前贈与を引いて,6,000万となります。つまり,現行の具体的相続分が6,000万という前提で,次に甲案で計算すると,aは多分これは特別受益を含めた遺産総額からで幾らというものだろうと思いますので,9,000万ですね。全てが婚姻後増加額なので,これでいいですね。
○堂薗幹事 計算式のaということですか。
○増田委員 はい,計算式のaです。
  計算式のaは,婚姻後増加額×2分の1で9,000万ですね。bは,「法定相続分より低い割合」を3分の1と仮定しますと,残りの9,000万の3分の1で3,000万となり,a+bが1億2,000万で,これから具体的相続分の6,000万を引きますから,配偶者Bの寄与分が6,000万,これでいいかと思うんですね。
  それはいいですか。とりあえずここまでで,お答えいただけますか。
○堂薗幹事 基本的に,この甲案では,婚姻後増加額を基に計算した額と,現行の配偶者の具体的相続分とを比較するわけですが,当然,現行の配偶者の具体的相続分を算定する際には,特別受益も相続財産とみなして計算をするということになりますが,この婚姻後増加額は,正に相続開始時と婚姻時を比較して,どれだけ財産が増えているかということで,その増えている分について,高い取得割合を認めようというものですので,特別受益として婚姻期間中に配偶者が何らかの財産を受け取っているとしても,そこは基本的には考慮しないという前提で考えております。そこは,いろいろな考え方があるんだろうとは思いますが,婚姻後にどれだけ増えたかという観点からすると,過去に処分しているものは考慮しないという方が自然ではないかと考えております。
  そうすると,配偶者に特別受益があるときには,配偶者の取り分が非常に増えるわけですが,ただその場合は,特別受益を考慮しても,今の例で言うと,1億5,000万増えているわけですから,そこについて高い取得割合を認めても,さほど不合理ではないのではないかと考えており,そういった意味で,婚姻後増加額の計算をする場合と,現行の具体的相続分を計算する場合とで,基礎となる対象財産は違うという前提で,ここでは考えております。
○増田委員 そうすると,先ほどの計算だとaとbの値がおかしい,婚姻後増加額で計算しましょうということなんですね。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 すみません。私はその点を無視して計算してしまったんですけれども,その計算でいくと,特別受益の額によって,最終的な取り分の額が違ってきてしまったんですよ,特別受益を3,000万で計算した場合と2,000万で計算した場合で,被相続人Aの残した財産額が同じであっても,特別受益の額が違うというだけで,最終的な生存配偶者Bの取り分の額が違ってきてしまったんですけれども,今堂薗幹事が言われた計算でやれば,そこは必ず同額になりますか。
○堂薗幹事 今配偶者の取り分と言われたのが,婚姻後増加額で計算した額プラス特別受益を足した額という意味であれば,それは変わってきます。ただそこは,今の例でいきますと,例えば1億5,000万増えていると。その点について,例えば3分の2の取り分を認めるということになりますと1億円になるわけですが,その1億円にプラスして,例えば特別受益で3,000万あれば,当然1億3,000万になりますし,特別受益が2,000万であれば,1億2,000万になるわけですが,ただその特別受益を含めても1億5,000万のプラスになっているという点を考慮して今のような計算をしますので,そういう計算になってもおかしくはないのではないかというのがこちらの整理です。
○増田委員 確認ですが,特別受益の額と現在残っている遺産の額を足した額が同じであっても,その内訳である特別受益の額が違うことによって,その中での配偶者Bの取り分,すなわち甲案により計算した具体的相続分プラス特別受益額は変わってくる,そういうことでよろしいのですか。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 分かりました。
○窪田委員 私が十分理解できなかっただけなのかもしれませんが,先ほどのお話ですと,婚姻後増加額は増田委員の設例だと1億5,000万円増えているわけですから,それを前提にして計算し,具体的相続分の計算の話とは別に,特別受益は加えずにaとbを計算できるということになるかと思います。そのように計算できるということであれば,今の増田委員の御質問との関係では,特別受益が1億円あろうが5,000万円あろうが,全く無関係にこの額は決まることになるのではないか思います。
  問題としたいのは,本当にそれでいいのかという点です。つまり具体的相続分を計算するときには,寄与分と同時に特別受益も考慮して計算をするのに,それと対比で,加算額としての寄与分を計算するときには,特別受益に当たるものは一切どこにも考慮されないということになります。この後別のところで扱うのかというと,多分それは難しいのではないかと思います。そうだとすると,寄与分に当たる計算の部分をこの加算額の計算の中に組み込まないと,説明がつかないのではないかと思います。つまり寄与分を,特別受益を含んだ上で具体的相続分を計算した,でも非常に婚姻後増加額とかというものを踏まえて考えてみると,実際の配偶者,生存配偶者の貢献というのは,これだけ大きいのだから,これだけの差額を認めてもいいという場面において,具立的相続分では考慮されていた特別受益が,加算額というか,ここでの計算をする場合には入ってこないというのは,やはり説明はつかないのではないかなという気がします。
  あるいは,入ってこなくてもいいのかもしれませんが,後で特別受益がもし入る可能性があるのだとすると,それがどうなるのかなということを,ちょっと確認させていただきたいと思います。前提となる私の理解が間違っているかもしれませんので。
○堂薗幹事 基本的には,この婚姻後増加額で計算した場合が,現行の具体的相続分の額よりも超える場合は,そちらを前提に具体的相続分は決めますので,その後,寄与分による調整というのはあり得ると思いますが,少なくともこの甲案を採った場合に,婚姻後増加額の方が現行の具体的相続分の額よりも多いという場合は,基本的には特別受益については考慮しないというのが,一応のこちらの考えです。
  それは,そもそもこの場合に特別受益の額も含めて,婚姻後増加額を計算するんだということになりますと,それは過去の分の,過去に処分したものも含めて計算することになりますから,婚姻成立後から相続開始時までの間にどれだけ財産が増えたかというような話とは,違ってきてしまうのではないかということと,さらに,遺産分割の対象財産を前提に,例えばその3分の2を計算した上で,だけれども,後から特別受益だけは引くというのも,考え方としてはあり得るのかもしれませんが,基礎となる財産に含めないのに最終的な計算のところで特別受益の額を控除するというのも,理論的には一貫しないのではないかというようなところもあり,この点についていろいろと難しい問題があることは認識しておりますが,ここでは,婚姻後増加額の方が高い場合には特別受益については一切考慮しないということで考えているところです。
  その点については,いろいろ御意見があろうかと思いますので,引き続き様々な事案を検討するなどして,更に精査する必要があるものと考えております。
○窪田委員 半分分かって半分分からないような感じもするのですが,私自身,第1について,甲案というのは十分に魅力的な考え方だと思っています。甲案に反対するという趣旨ではなく,その内容を確認するという趣旨で,もう一点,同じことになってしまうのかもしれませんが,確認させていただきたいなと思います。特別受益に当たる部分については,流出をしていたとしても,婚姻後増加した額という評価をすることは可能なのではないかと。ですから,そこの部分で考慮せずに,最後引くところだけ引くというのは,それは一貫していないのはそうなのかもしれませんが,この同じ計算の立て方で特別受益に当たるものを,私自身は計算式の中に組み込むことはできるのではないのかなと思いましたので,一度御検討いただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  増田委員が最初に想定された考え方は,その考え方だったと理解してよろしいでしょうか。
○増田委員 私はその考え方を想定していたんですが,それでも特別受益の額によって,最終的な取り分は変わってきます。なぜそれを言おうとしているかというと,全く同じ夫婦,同じ寄与度を想定したとしても,特別受益の額だけで寄与分の額が変わり,最終的な取り分の額が変わるというのは,いかがなものかということを示そうとした次第です。そこはやはり何か合理的な説明が,私は必要だと思います。
○堂薗幹事 ただ,結局遺産分割の対象財産から取れる額は変わらないわけです,先ほどの私の考えでいくと。それにプラスして特別受益の額がどれだけあるかによって,最終的な取り分が決まるわけですが,ただそこは,特別受益に当たる贈与等があったにもかかわらず,更に1億5,000万財産が増えているわけですから,特別受益がなかった場合と比べて,全体の取り分が増えたとしても,そこは問題ないのではないかというのが,こちらの考えなんですけれども。
○大村部会長 ありがとうございました。
  まず水野委員から,多分今の点に関連する御発言があると思いますので,それを伺いたいと思います。
○水野(有)委員 すみません,質問なのですが,配偶者の方の特別受益は,今考慮しないとおっしゃったのですけれども,それ以外の方の特別受益は足すことを想定されているのか,足さないことを想定されているのか,どちらなのでしょうか。
○堂薗幹事 それも過去に処分したものですから,足さないという前提です。
○潮見委員 配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策というので,こういう形で改めて出してこられたことに対しては,ある程度私は評価したいと思います。
  ただ,その上でですけれども,理論的に果たしてこの枠組みが説明できるのかというところについては,なお御検討を頂きたいと多々思うところがあります。今日の議論を聞いていても,そうです。特に例えば今のところに引きつけて申し上げますと,通常の寄与分の場合については,いろいろお話があるように特別の受益は考慮するということで,その特別の受益の中には,相続開始後に配偶者に対して行われた贈与等も含まれるわけですよね,しかし,いわゆる配偶者の寄与分方では,そういう特別受益は考慮しない。それはなぜかという部分の説明について,今の堂薗幹事がおっしゃったところで,半分程度は納得しているんですけれども,それ以上は納得をすることができません。
  それから,債配偶者の寄与分を考えるときに,今ここで書かれているところから言うと,債務というものも考慮するということをおっしゃっているようです。ところが,通常の寄与分,従来の寄与分を考えるときには,債務というものは考慮の外にあるということになりますが,一体この違いは何なのか。
  さらには,現行の法定相続分,あるいはそれに依拠したところの具体的相続分を考えるときに,債務というのは考慮しませんよね。ここでは,配偶者の貢献を考慮するんです,それで公平の観点からそのようにしたのですと言うと,聞こえはいいんですけれども,しかしそもそも相続分という制度は一体なのか,具体的相続分を計算するときに,今言ったようなところの矛盾は避けられるのか。矛盾をさけようとしたならば,今回は使われていませんけれども,実質的夫婦共同財産の清算という側面は,何か従来の法定相続制度とは異質なものではないかというような考慮が働いているのではないか,そうした事柄,要するにこれは礎理論に関わることなんですけれども,多々これで本当に理論的に正当化できるのか,説得できるのかというところについて,疑問を禁じ得ないところがあります。
  もちろん,反対しているわけではございませんが,なおこの後,少し今申し上げたこと,あるいは窪田委員,あるいは増田委員がおっしゃられたようなことも含めて,少し,これは具体的な数字がどうなるかということではなくて,理論的に果たして耐えられるのかという趣旨で,更に御検討を頂ければと思います。
○大村部会長 理論的な詰めをという御指摘でしたけれども,挙げられていた問題の中で,債務の問題については,ちょっとお答えをいただけますか。あるいは,ここに書いているとおりだということになるかもしれませんが。
○堂薗幹事 基本的に債務のことに関して言いますと,現行法上は,遺産分割に際して債務を考慮せずに計算をしているわけですが,それがどうなのかという問題とも関連してくるように思いますので,非常に難しい問題ですし,それとの整合性ということになりますと,非常に大きな話になるのではないかと考えております。
  ですから,そういった意味で,遺産分割において債務を考慮する必要がないのかというところまで踏み込みますと,それは検討としてはかなり大かがりなものになりますので,現時点では,そこまでは考えておりません。それはそのままにした上で,ここについてだけ債務を考慮するという説明が可能かどうかという点については,こちらでも更に検討したいと思います。
○潮見委員 1点だけ簡単に申し上げます。通常の寄与分を考えるときに,その方の債務,承継する債務ということを考慮に入れなくていいのかどうかだけでも,御検討ください。
○堂薗幹事 はい,承知しました。
○大村部会長 ありがとうございました。その他,いかがでございましょうか。
○石井幹事 前回の御提案と比べて,大分割り切った御提案をしていただいたと受け止めておりますけれども,それでも,今回の御提案の中にある婚姻時の資産額,あるいはその後の増加額といったものを算定することは,一般的に婚姻時から相続開始時までかなり長期間が経過していることを踏まえると,実際上,困難な作業になるんだろうと思います。
  その上で,御提案では,実際上の算定が困難となる場合を見据えて,計算式で算定される額を上限として,裁判所が裁量で相当額を定めるといったことについても言及されているところですけれども,そのような上限額自体の算定が難しい中で,裁判所としては,どういったところをよりどころにして相当額を定めるのかという点は,なかなか難しい問題ではないかなと認識しているところであります。
  そもそも論かもしれませんけれども,2分の1という現行の配偶者の法定相続分というのは,配偶者一般に期待されている通常の貢献を一定程度考慮した上で,設定されているんだと思うんですけれども,今回の御提案では,そうした通常の貢献を法定相続分にプラスする事情として考慮しております。そういった建て付けになっている中で,相当額というのを考慮する際に,配偶者一般に期待されている通常の貢献というのをどのように考慮するのかというのは,なかなか裁判実務的には難しい問題になり得るのではないかなと考えております。
○大村部会長 御指摘ありがとうございました。
○増田委員 今の点との関連なんですけれども,現在熟年離婚などで財産分与が問題になることが多いですが,婚姻当時の特有財産がどれだけあったかという証明をすることは,非常に困難です。金融資産などは長い期間の経過により全て記録が廃棄されています。これは金融資産だけの問題ではなく,不動産があったとしても,その取得原資が問題になる場合には客観的な資金の流れが問題になりますが,その証明も非常に難しいです。相続等により取得した財産であっても,その相続等からの期間が10年以上経っておれば,これも同じことであって,相続等でどれだけ取得したかということを証明するのは難しいわけです。
  加えて,そういうものを証明する利益,つまり甲案ではy=0,z=0のときが一番配偶者の取り分が多くなるときなので,特有財産を証明する利益は子の方にあるわけですね。ところが,子が自分が生まれる前の婚姻時の特有財産を証明するというのは,これは本当に極めてというか,不可能に近い,より難しい話になろうかと思いますので,結果として相続人に無理を強いることになるのではないかと考えております。
○大村部会長 今のような困難を勘案して,その相当額を定めてほしいという,そうした提案がされているのかと思いますけれども,そのように問題を投げられると,それもなかなか難しいという御意見が出ていると了解いたしました。
○浅田委員 取引にかかわる第三者の観点から,甲案,乙案を通じて,ちょっと長くなりますけれども,コメントを差し上げたいと思います。
  そもそもこの制度をどちらにするかということについては,どちらかというと社会的なニーズとか家庭の在り方とか,そういうところを考えるべきであって,その際,実務の運用として先ほど増田委員がおっしゃったように,事実上きちんと計算ができるのかということもありますし,例えば乙案にいきましたときに,家庭の内部がどう影響を受けるのかと,例えば結婚から20年目になった夫婦間でどういう会話がなされるんだろうかなど考えると,いろいろ思うところはあるわけなんですが,私からは,第三者の立場から,どういうふうに見えるのかということを御案内したいと思います。
  まず,全体的な話でありますけれども,前回,部会資料第3で示された各案に比べると,今回の案というのは,おおむね第三者への影響は小さくなっていると評価できると思います。よって,相対的な話ではありますけが,支持しやすいものになっているなとは考えております。
  現段階で,甲案,乙案の是非であるとか,どちらがよいかという考えや,判断を持っているわけではありませんけれども,若干考えたことをお話ししたいと思います。
  甲案に関してお話ししますと,第三者への影響というのは,比較的中立になっているのではないかと思われます。もっとも,相続関係者間の紛争が増加,長期化する,これは結果的にそうなることは予想されると思いますけれども,その結果として,銀行がそれに巻き込まれるということもあり得ると思います。ゆえに,改めて申し上げるまでもありませんけれども,制度設計はきちんとしていただきたいという意見でございます。
  それに対して,乙案については,幾つか分類してお話ししたいと思います。別に乙案がどうこうというお話をするわけではありません。
  まず,相続債権者の立場,いわゆる貸金債権者等の立場からすると,事後的に法定相続割合が変動することになることについては,一見しますと,さほど影響が大きくないとも思われます。まず現行法のもとでも,プラス財産については遺言でいかようにも変更できます。債務の相続については,遺言による相続分の指定は共同相続人間の内部関係にとどまって債権者を拘束しないと考えられております。この点,乙案は債務の相続割合変更を債権者に対抗できる点で,現行の制度と大きな違いがあるようにも思われます。もっとも,実際的なことを考えますと,配偶者の相続割合が増えたからといって,実務対応としては銀行は相続人との間で債務引受契約をするなどして,一部の相続人に債務を寄せるという処理をしているわけでございますから,それが可能な限りにおいては,与信上それほど大きな不測の事態が生じるとは言えないと考えられそうです。
  一方で,二つの懸念があるのかなと思っております。
  一つは,理論的には詐害的な合意や意思表示による弊害が生じ得るのかなという点でございます。例えば,債務超過の被相続人の推定相続人として,資力の乏しい配偶者と,資力の豊かな子がいると仮定します。このとき,あえて資力の乏しい配偶者の法定相続分を引き上げれば,結果として資力のある子の法定相続分が引き下げられることになりますので,子については,本来の法定相続分による債務の請求を免れるという効果が生じそうであります。このような場合を考えますと,相続債権者,すなわち銀行等は,結果として本来の法定相続分による債権回収を図れなくなる可能性があるのではないかと考えられるわけであります。
  そもそも現行法でも,法定相続分は離婚,再婚,相続人の誕生,死亡等によって変化し得るものでありまして,銀行など債権者がコントロールできるものではない,債権者はそれを前提とした対応をする,このように相続分が変化するということを甘受しているということはあります。
  それに対して,本提案のように,本人又は夫婦がその時々の財産状況を勘案して,債権者を害する目的で恣意的に相続分を変更することがあるかもしれないということになりますと,そういう甘受の範囲を超えて,どうなのかなということであります。個人的に考えますと,実際に死ぬまでの相続財産の変化を見越して,そのようなことが本当に起こるのだろうかとか,又はこの案であったとしても,相続分の変更の選択肢が一つしかないことから,どれぐらい影響があるのかなということはわからないということもありますが,検証の必要があるかとは思います。
  しかし,理論上は,先ほども述べた問題もありますので,法定相続分を変更する合意,又は意思表示については,相続債務への適用は慎重に検討すべきだと思います。そういう意見があったことを指摘したいと思います。
  債権者の立場からの二つ目の御指摘ですけれども,乙案,特に乙1案については,次のような問題も踏まえて,慎重に検討すべきであるという意見もございました。
  銀行実務の経験則からは,被相続人に子がなく,配偶者の兄弟が相続人である場合には,実際問題として紛争が起こりやすい類型であると考えられています。それは,配偶者と義理の兄弟は疎遠であることが多いからだろうと思います。そうすると,特に乙案の2の(注)にあるように,兄弟姉妹の法定相続分を認めないとした場合には,兄弟が事実上有していた相続への期待を損なうことになってしまいます。そうなりますと,兄弟が法定相続分の引上げ合意の無効を主張して,当否は別としてですが,事実上,争うことも想定されるのではないかなと。そういう側面もあるということを認識していただければなと思います。
  続きまして,預金を受け入れる銀行など,相続債務者の立場としてのコメントでございますけれども,三つございます。
  一つは,まず戸籍等の公示資料により,法定相続分の引上げが行われていないかを確認する必要が生じ得るということを指摘したいと思います。戸籍であれば,現行法のもとでも相続人から徴求しているものでありますので,余り追加的な負担はないかもしれないと思いますけれども,仮にこの制度によって戸籍とは別の公示方法がされるなどとすると,相続人にとっても銀行にとっても多少の負担が増えるかもしれないという点を御認識いただければと思います。したがって,分かりやすい見やすく公示方法が必要ではないのかなと思います。
  二つ目に,これは実務運用の問題かもしれませんけれども,乙案における引上げの合意,届出,撤回の有効性という新たな紛争の種が発生するということになろうと思います。銀行がそれに巻き込まれないことにならないように,届出の撤回においては,行政等において十分な意思確認等の手段が講じられる必要があると思われます。
  三つ目は,細かい話になるかもしれませんけれども,問題の指摘と若干のアイデアでございます。
  まず現状の銀行実務をお話ししますと,相続預金の払戻しに当たり,銀行はできるだけ最新の戸籍謄本を確認する必要があるとされております。とはいえ,実際の取扱いは,銀行によって異なると思いますし,最新といっても直近3か月とか,それより古いものでも許容する銀行もあるかもしれませんし,幅があるかとは思います。
  どのような戸籍謄本を徴求すれば,民法478条の準占有者に対する弁済として保護されるかどうかという目線には各銀行で違いがあるかもしれませんけれども,いずれにしても現行法の下では,相続人の死亡など相続人の範囲が変更される事象は,そう頻繁には起こらない,つまり,当事者がその発生事由や時期をコントロールすることが難しいので,実際に戸籍謄本が銀行に提示された場合に,その戸籍謄本がその時点における実態を反映していないという可能性は,事実上は小さいのではないかなと思われるところであります。
  一方で,乙案を採用したときのことを考えますと,届出等のタイミングは,当事者がコントロール可能であると思います。したがって,届出と戸籍の記録の間に生じるタイムラグを勘案すれば,戸籍謄本が真実を表示していない可能性があり得ると思います。たとえば,被相続人の死亡直前に引上げ合意がなされていたが,届出は死亡後になされたために,被相続人の除籍謄本には引上げ合意が記載されていない場合などが考えられるのではないかなと思います。この場合でも,法定相続分を判断する資料として銀行に提出された戸籍謄本が,たとえ3か月前に取得されたものであったとしても,準占有者に対する弁済で救済されると考えております。もしそうでなければ,法定相続分の払戻請求の実務には少なからず影響が生じ得るということを指摘しておきたいと思います。
  ただ,ちょっとしたアイデアですけれども,仮に届出は効力要件であるとして,そして被相続人の死亡が記録された以降は合意の届出等を受理しないと設計するのであれば,銀行は少なくとも相続発生後の戸籍を見るわけですので,戸籍に反映されていない届出による相続分変更は生じないということになりますので,係る問題が多少とも減少するのではないかなと思います。
  最後に,銀行の遺言執行関連業務の観点からも,意見を申し上げたいと思います。
  銀行が遺言作成のアドバイスをする際には,必ず遺留分侵害の有無を検討します。しかし,乙案のように,届出によって事後的に遺留分の割合が変わるとなれば,追加的に適切な管理が必要になるのではないかと思います。
  もちろん,被相続人自身から係る告知を受けられれば良いのですけれども,それがないままに相続が開始してしまうと,スムーズな遺言執行ができなくなる可能性があるのではないかと思います。斯様な場合には,実務的な対応ができるかどうか,今後考え方を整理することが必要ではないかと思います。
  以上,いろいろ申し上げましたけれども,実務的な問題があるということを,細かいものも含めて御紹介いたしました。
○大村部会長 どうもありがとうございました。貴重な御指摘を多々頂いたと思いますけれども,今の時点で,何かお答えいただくことがあれば。
○堂薗幹事 基本的には御指摘を踏まえて,更に検討したいと思いますけれども,基本的に公示手段としては,戸籍を念頭に置いているところがありますが,そもそも戸籍にこういった事項を記載できるのかと,要するに元々身分関係を公証するのが戸籍ということになりますので,そもそもこういった記載ができるのかという大きな問題もございますので,こちらで考えているのは,戸籍のほかに,夫婦財産契約の登記のような形でできないかとか,いろいろ手段としてはあり得るのではないかと思っております。ただいずれにしても,そういった登記なり戸籍なりで,届出をしたり,あるいは登記ができて初めて効力が生じるというような形にする必要があるのではないかと考えているところです。
  したがいまして,死亡後に届出をして,それによって法定相続分が上がるとか,そういったことはないようにする必要があるのではないかと考えているところでございまして,その辺も含めて乙1案,乙2案の方向で考える場合には,更に詰めて検討していきたいと思います。
○浅田委員 ありがとうございました。
○窪田委員 今,お話があった部分,浅田委員のご発言にも含まれていたのかと思うのですが,ちょっと乙案について質問をさせてください。
  事前に資料を受け取って読んだときに,乙案についてはある種のショックを受けるところがありました。というのは,大変に分かりやすいことは分かりやすいのですが,一方で私は最後まで読んでいて,やはりよく分からなかったのが,乙案による立法をすることに,どういう制度的なメリットがあるのだろうという,大変に素朴な疑問です。
  つまり,長期間連れ添った配偶者を保護しようということであるとするならば,恐らくそれは被相続人の意思とは無関係に,一定の保護がなければいけないわけですが,ここでは合意であったり,被相続人の専断的意思であったりということによって決まるわけですから,ハードルを20年,30年という部分で高める部分はあるのですが,本当にそうした制度として機能するのかという点です。
  それからもう1点は,結局これは合意の撤回ができるかどうか,届出の撤回ができるかどうかという点についての検討はなされているのですが,相続分の指定による遺言による上書きというのは可能な仕組みになっていますので,そうだとすると,そういうふうに上書きをされる程度の法定相続分の変更の仕組みというのに,一体どういう意味があるのだろうということで,私自身は,これが機能する場面というのを余り具体的にイメージすることができませんでした。かりにイメージすると,浅田委員からも少しお話があった20年,30年を迎えた夫婦が,夫婦の間でどういう会話をするかという程度なのかもしれませんが。甲案の方は,今までの議論の連続性でも,こういうプロセスを経て出てきたということは分かるのですが,乙案はやや唐突な感じを受けたものですから,その辺りについて御説明いただけたらと思いました。
○堂薗幹事 乙案は,前回の議論の際に,配偶者の実質的な貢献について相続財産を二つに分けることによって考慮するとか,そういうものではなくて,いろいろほかの方向性もあるのではないかという御指摘を受けたのを踏まえ,考えたものでございまして,その際には,昭和55年の際に検討された案なども参考にしたところでございます。
  この乙案を考えた場合に,遺言での上書きを認めるかどうかという辺りが,非常に難しいところで,本来はおっしゃるように,このような届出をして,それを公示までするわけですので,その後にそれに抵触するような遺言をしても,それは無効であるということにすれば,それなりの意義が出てくるのではないかと思います。実際当初はそういう形で検討していたんですが,仮にそういう形にしますと,遺言で例えば遺産分割方法の指定として,この財産は誰,この財産は誰という形で分けた場合に,結局引き上げられた法定相続分を侵害するような遺言になってないかどうかというのが問題になってまいります。現行法ですと遺留分を侵害しない限りは,遺言どおりに解決すれば足りるわけですが,引き上げられた法定相続分を侵害していないかどうかというところが,非常に大きな争いとなり,結局遺産の財産評価までしないと,その遺言どおりに分けていいかどうかが分からなくなるということで,遺言の紛争解決機能が極めて低下することになるのではないかという問題があり,やはり遺言で上書きを認めないというのは,難しいのではないかということで,こういった案に落ち着いているというところがございます。
  更に言いますと,そういう形で遺言での上書きを認めるのであれば,合意とか届出とかを要件とせずに,一定の期間が経過すれば当然に引き上がるということでもいいのかもしれませんが,そこは,形式的に婚姻期間が継続しているような場合もあるので,そのような考え方は採らなかったところでございます。
  その辺りについて,是非御意見をお伺いできればと思っているところでございます。
○窪田委員 すみません,ちょっと補足したいのですが,私自身は,飽くまで質問をしたということであって,乙案を前提にして,期間が経過すれば自動的に法で相続分が変わるという仕組みを採るのが適切だという趣旨で発言したわけでは全くありませんので,その点だけ確認をさせてください。
  あともう一つ,浅田委員から出たお話に関連するのですが,恐らくこの制度を作った場合には,当初からある法定相続分,修正された法定相続分,指定相続分という三つのものが同居することになるのですね。修正された法定相続分が,指定相続分と違って機能する場面というのは,債務の承継の部分ということになるのだろうと思いますが,本当にそういう形で機能させるということが適切なものなのかということは,かなりきちんと検討しないといけないように思います。結局,指定相続分によって上書きされるようなものにしかすぎないのだとすると,にもかかわらず債務の承継だけ機能する合意とかというのは,やはり何か変だなという感じがしますので,御検討をお願いしたいと思います。
○大村部会長 むしろ窪田委員が最初におっしゃった,これを作ることにどういうメリットがあるのかということについて,もう少し補足していただくとよろしいでしょうか。つまり,これの意義は,どこにあるのかということですが。
○堂薗幹事 これ自体は,元々は,配偶者の場合には婚姻期間の長短が非常に幅が大きくて,基本的には婚姻期間が長い場合には,通常の貢献しかしていない場合であっても,財産形成に対する貢献が非常に大きい場合があると。婚姻期間が一定程度を超えた場合には,通常の貢献の積み重ねであっても,それなりに財産形成に対する貢献が多い場合が多いだろうという考えの下に作ったものでございます。
○大村部会長 例えば相続分指定と,どう違うのかというような御質問があったと思うんですけれども。
○堂薗幹事 この制度によって法定相続分が引き上がりますと,仮にその後に遺言がされて上書きされたことになるとしても,遺留分を算定する際の基本となる割合が,引上げ後の割合になりますので,その分遺留分が増えることになります。他方,被相続人が自由に処分できる財産が減ることになり,その分だけ配偶者の最低限の取り分が確保されるという意味合いがあるのではないかということでございます。
○西幹事 まだ十分に頭が整理できてないのですけれども,乙案は1案,2案とも,非常に理解しやすいという点で大変魅力的な制度だと思います。魅力的な制度なのですけれども,幾つか疑問に思うことなどがございますので,意見を2点と質問2点と全体的な感想を1点述べさせていただきます。
  まず意見ですけれども,今のお話を伺っていて,乙1案と乙2案の実益は,結局死因贈与や遺贈とは違って,債務承継が比較的明確化しやすいということに加えて,遺留分の増加という点にあることが分かりました。ただ,これを本当に「法定」相続分と言ってしまってよいのですかという根本的な疑問です。
  それとも関係しますけれども,特にこの乙1案というのは,法定相続というよりドイツの相続契約に非常に近い印象を受けました。相続分だけを変えるということではありますけれども,相続契約というものは,日本民法が想定していないものですし,フランスのように一応建前だけでも明確に禁止している国もあります。今回ここをきっかけに,相続契約のようなものが解禁されるということになりますと,これから先いろいろな形で広がっていく可能性もあると思いますので,この相続契約への道を開くようなそういう一歩を踏み出すには,かなり慎重であるべきだと思いました。
  ここまでが意見です。次に,質問です。乙1案のところで,先ほど窪田先生からも御質問,御意見がありましたけれども,これは合意が成立するということが一応条件になっていますが,貢献があったのに合意が成立しないという場合に,配偶者の方から請求,例えば裁判所に対して調停の申立てなどができるのかというのが,一つ目の質問です。
  もう1点,今回この合意の中に,配偶者の貢献があったことを承認する意味があるということで,事実上合意にそれを担保する意味があるのかもしれませんが,例えば貢献はないけれども,でも上げるということが運用面では可能なのでしょうか。例えばどういう場面を想定しているかと申しますと,婚姻家庭はあるけれども,それは形骸化していて,ほかに家庭を持ってしまったという場合に,ある種のお詫びの気持ちを込めてということで,こういう選択をする人もいるような気がしますので,それは排除しないのかという趣旨です。
  最後,全体を通しての感想ですけれども,3ページの第1段落の終わりの辺りに,「相続人間の公平」という言葉がありますし,4ページの第2段落の4行目から,「実質的公平」という言葉あったり,6ページの上から4行目に,「相続人間の公平」という言葉があったり,全体的に相続人間の公平とか実質的公平という言葉が多く使われているように感じます。そのときの「公平」の何との関係での公平かということが,全体を通してかなり曖昧になっているように感じます。
  今回,最初から配偶者の相続分の趣旨,配偶者の法定相続分の趣旨は,潜在的持分の清算,生活保障というお話がありましたけれども,今回ここで公平という話が出てくるからには,ほかの相続人の趣旨をどう考えているのかということを確認する必要があると思います。つまり,ほかの相続人の法定相続分の趣旨も同じと考えているのかと。もしこれが違うということになりますと,単純に公平という言葉で割り切ることができない問題が出てくるように思いますので,その法定相続分一般の趣旨と配偶者の相続権の相続分の趣旨との関係を,少し明確にしておいた方がいいのかなという気がいたしました。
  すみません,まとまらないままですけれども,質問2点についてお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。第1点とそれから第3点は,留意すべきことがあるとして,御意見として伺うということで,第2点については,お答えをいただけたらと思いますけれども。
○堂薗幹事 乙1案は,基本的には貢献があるかどうかの判断を当該夫婦に委ねるということですので,実際には貢献があるんだけれども合意をしないという場合も当然あり得ますし,貢献がさほどないにもかかわらず合意をすると,それは制度上あり得るという前提でございまして,合意が成立しないからといって,調停を申し立てて,そこで合意の形成を図るということは想定しておりません。さらに,貢献がなくても合意が成立した以上は,実際の貢献の有無にかかわらず,法定相続分としては引き上がるということになるのではないかと思います。
  さらに,実質的公平うんぬんというお話につきましては,従前から御指摘いただいているところではございますが,基本的にはやはり配偶者の場合は遺産の形成に対する貢献,それに対する清算という意味合いが,少なくともほかの相続人よりは強いのではないかと思いますので,そこが現行の法定相続分のように一律に法定相続分を決めますと,配偶者の貢献が十分に考慮されないことによる不公平が生じているのではないかという問題意識の下に,こういった案を考えているというところでございまして,ただそれが今言ったような形で,単に配偶者の合意だけで担保しようというところがありますので,実態と食い違うことがあるのはやむを得ないところではないかと思います。
○潮見委員 今のやり取りを聞いていて感じたことを一言申し上げますと,乙案というのは,配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策というよりは,むしろ西さんが的確におっしゃったように,これは相続分というものを誰が決めるのか,何によって決めるのかというところで,当事者の意思,特に乙1の場合には,配偶者,2人の配偶者の合意,意思に基づいて決める。乙2の方は,それは被相続人の一方的意思に基づいて決める。その合意,あるいは一方的意思の効果として,法定相続分なるものが決定されるのだという,そういう考え方で出来上がっているわけですよね。
  そのときには,基本的に先ほどの御質問に対するお答えではありませんけれども,では,配偶者間の合意を捉えた場合に,その合意をどういう理由で,なぜやったのかという,いわゆる動機に係るようなことなんていうのは一切関係ないということになりましょうか。仮に配偶者の貢献があったとしても,それを考慮しないという形,あるいは合意をしないという判断をした以上は,それは考慮されないということになってしまいますと,基本的に今回の理論の出発点とは違ったスタンスで,法定相続制度を構築しようとしているようにも感じ取られるわけです。
  そういう意味で,先ほど甲の方については,反対しているわけではございませんと申し上げましたが,乙については1にせよ2にせよ,若干以上に危惧を感じるところがございます。
  先ほど窪田委員が少し御指摘になったいわゆる相続分指定,指定相続分制度の関係で申しても,確かに遺留分というところで,法定相続分を増やしたということで,遺留分が増えてよいですねということはあるのかもしれませんけれども,しかし例えば仮にこの乙の基本的な枠組みに立って,乙1案で例えば考えた場合に,配偶者が合意をしていると,そこでこういうふうに相続分というものを捉えようとしているにもかかわらず,その後で被相続人が一方的意思によって,それを上書きしてしまうと,これが指定相続分なんだということにして,その当初の合意というものを尊重しないという制度があってよいものかというような感じがいたしますし,乙2の方について言えば,ますます一方的な被相続人の意思によって相続分が決まるということですから,結果的に指定相続分と違うところはどこかと言ったら,債務の問題はもちろんありましょうけれども,先ほどの遺留分当たりでの考慮というものが中心になってくるのではないかと思います。
  では,そうしたら乙2のときに,相続分指定という制度と同時に,二つ並べてこういうものを導入するということについて,一体どういう意味があるのかというようなことについても,多々疑問があるところでございます。
  ついでながら,遺留分の割合を増やせというのであれば,甲案の枠組みを採ることによって,それなりの対応は可能なのではないかと,それ以上に無理をして乙案のような考え方を採るということについては,解せないし,やるのであれば,現在の指定相続分の制度というものの見直しとセットでお出しいただければ有り難いなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  西幹事からも御発言がありましたけれども,関係者の意思表示に係る制度というのを,どのように説明するのかということについて,御検討いただくということなのかと思います。相続契約という御発言がありましたけれども,内容が自由に決められるようなものではないんだろうと思いますので,どんな説明になるのかということについて,更に御検討いただければと思います。
○沖野委員 ありがとうございます。
  私自身のこの案の理解が正確なのかというのをお伺いしたいということと,それから若干細部について分からないところがあるので,教えていただきたいと思います。
  それで,私の理解するところですが,今回の案は,甲案,乙案ともにですけれども,貢献に応じた分割を実現するための方策ということで,基本的な考え方は,しかし個々具体的な貢献というのも決められないという発想に出ており,類型的に決めるしかないだろうと。その類型化が一番端的に表れているのが,この率のところで,これは法律で決めてしまう。しかし,ある程度具体的な夫婦の財産状況だとか,これまでの生活具合ですとか,そういうものを考慮した指標をどこかに求めるということで,甲案は,婚姻後増加した財産がどのくらいあるのかと,そこにも寄与は本当はいろいろあるけれども,配偶者であるというその地位によって,個々の夫婦の関係はともかくとして,類型的に寄与があったとしてしまうという,そういう扱いが甲案ではないかと思っております。
  一方,乙案の方は,財産ではなく年数で決めるということで,これぐらい貢献があったというのは,本当は年々歳々変わっていくはずですけれども,そこは切り捨てるというか,あるところでリープがあるというか,えいやっと飛ぶ部分があると。その年数が20年がいいのか30年がいいのかと問われている。他方で,意思に係らしめられているというところも,夫婦の状況ということを考えてのことであるという面があって,合意というのも何かという問題はありますけれども。例えば貢献自体も,本当に財産形成にどういう貢献があるかというのは,実際のところは分からないわけですよね。ずっと寝たきりだけれども,精神的な支えになっていて,この人がいるから頑張れるというようなところもあるわけですけれども,本当にどのような貢献があるのかといったことは全然決められないので,とにかくどこかで定型で切らなくてはいけない。そうすると,年数とともに当事者がそういう貢献があると認識しているということにかけているのが,乙案の1,2ではないかと理解しました。
  その上で,それを合意にするか,一方的意思表示にするかというのは,一方的意思表示にするというのは,被相続人自身が多年の貢献も含めて考慮判断するということかもしれませんけれども,ただそれは時期との関係で言うと,いろいろそのような多年の貢献もない段階で意思表示をするということかもしれないので,その時期も問題かもしれませんが,逆に撤回しないということが多年の貢献を考慮するものとも言えます。つまり,多年の貢献をみてこのくらいになってもいいのではないかという自分の財産関係についての判断権を被相続人が一番持っているという発想に立っているのが,乙2案ではないかと理解しています。
  乙1案の合意というのが,ちょっとよく分からないところがありまして,説明がやや難しいんですけれども,夫婦ともにそのような形の財産関係であると認識をし,合意をしているのならということかと思いましたけれども,恐らくむしろ機能的な方が大きいのではないかと思っています。つまり一旦それを選択したならば,相手方の同意を取らない限りは,やめられないと,そういう仕組みにするというところに,むしろ乙1案の眼目があるのかなと。その意味では,合意というのはなかなか説明が難しいけれども,眼目がそこにあるならば,そういうところを考えている案なのかなと理解しました。
  ですので,貢献という観点からすると,もちろん本当に様々な夫婦関係がある中で,これらの案が,個々具体的な貢献と本当に連動しているのかというのは,言えないことがあるけれども,ある程度割り切りで,このような形で決めてしまうというのは,一応の説明はできるのではないかとは思っております。難しいということも承知はしておりますけれども,そのような案ではないかと理解しました。
  その上で,間違っているなら間違っているとご指摘いただいたらと思うんですけれども,一方では乙1案,乙2案について出ておりますのは,遺言との関係ですとか,意思表示による指定相続分等との関係ということですが,これも機能的に見れば,やはり遺留分のところが大きく,その部分も手当できる,それから遺言の要式を採らなくても,別の形で,しかも遺言の前の段階で,生前に法律関係を安定させられるというような,そういうものを用意しているということなのかなと思いました。そういった制度を別途用意するということに,どのくらいの意味があるのかということを,併せて考えていくことになるのかと思います。
  そして,ここから質問ですけれども,甲案につきましては,これは既に言われていることで,確かに算定が非常に難しいんだと思います。特に婚姻時の財産状況は,例えば離婚の財産分与であれば,本人がいらっしゃるので,本人がいろいろ言うことができるのですけれども,相続の場合は,一番肝心の本人がいなくて誰も婚姻時の状況について詳述できない状態になることが想定されますので,本当にこの算定は難しいように思っております。
  それで,こういう制度がほかにあるのかどうかというのは,私は承知していないんですけれども,もし何かそういう制度が他の国であるとかいうようなことであれば,どこどこにあるというのを教えていただければ,その運用などを含めた調査の端緒になるかと思いますので,もし御存じであれば教えていただければと思います。
  2点目は,甲案につきましては,異例の事態なのかもしれませんけれども,やはり事業をやっているという場合の扱いが,非常に気になっております。今回は事業用の財産については,特に区別しないとしまして,その理由としては二つ挙げられております。4ページですけれども,一つは財産の区別が容易でないという点です。もう一つは,事業用の財産の形成に非常に関わったような者があった場合については,その人自身については寄与分制度で対応できるからということです。1点目の事業用の財産の区別というのが難しいというなら,そうだと思うんですけれども,果たしてそれほど難しいものなんだろうかというのが,よく分かりません。これは実務の方の御感触を,もしできたら伺えればと思うところです。もちろん家族の目的にも事業用にも車を使っているとか,そんな話はあるかと思いますけれども,そういうのは常にいろいろな場面であるわけですので,主たる目的はどちらかとかいった形での区別は可能なように思います。事業用の財産というのは,本当にそう区別しにくいものなのだろうかというのが一つです。
  もう一つは,これも余り通例とはいえないのかもしれません。実例もあるのかどうかというのは承知していないんですけれども,例えば一番冒頭で増田委員が出してくださった例を借りますと,数値は入れてないんですが,例えばABの夫婦で子供Cがいると。ABはそれぞれ働いている。配偶者Aは事業を行っている,個人事業者であって,子供Cがそれに非常に寄与しているという場合で,別に婚姻関係が破綻しているわけではないのですが,BはAの事業には寄与していなくて,自分の収入があるという場合です。しかもAは今までの財産全てに近い分を事業につぎ込んでいて,ほとんどが事業用の財産である。Aの財産の形成は専らAと子供Cで財産を形成しているというような場合に,この規律はどういうふうに働いていくのかということです。しかもその事業はAが婚姻後に起こしたものであるというような,あるいは大半が婚姻後の増加財産であるとすると,基本的にはほとんどの相続財産の3分の2が配偶者の寄与分,特別寄与分ということになるのでしょうか。その財産は基本的に事業用の財産なので,大半が子供の貢献によって形成されている。取り分け最後はAは病気がちで専らCが事業を行っているというようなことになりますと,甲案はどのように働いてくるのでしょうか。この点を教えていただければと思います。
  それから乙案についてなんですが,これは具体的な質問というよりは,考慮点として申し上げたいと思います。乙1案と乙2案は合意と意思表示とで違っているのですけれども,基本的に細部は全て同じ扱いを想定されているように思われます。それがそれでいいのかというのも,よく分からないところで,合意の形で相手方が関与しているというような場合がどうかというのが一つです。あと一方的な意思表示によると,やはり遺言による場合とかなり似てくるということがありますので,例えば遺言による指定相続分によって撤回の意思を含んでいるとかいうことにならないのかとか,もちろん,届出の要式を満たさないと駄目だとすれば,もちろんそうではないんですけれども,考え方として,撤回はいつでもできて,あとは届出1本だとすると,要式行為である遺言で,それと矛盾したような意思表示がされていたら,当然に撤回というふうな考え方もありそうですので,例えばそういったことも内容として考えていく必要があるのではないかと思います。合意によるのと意思表示によるかのとで,本当に同じ規律でいいのかということが気になるものですから,抽象的な話で恐縮ですが,その点の考慮はもう少しあるのかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。甲案及び乙案の考え方についての御理解を示していただいた上で,甲案について2点と,それから乙案について1点,御質問を頂きました。
  甲案については,婚姻時の財産の算定というのは,なかなか難しい問題であろうけれども,このような処理の参考になる比較法的な例はないかという御質問,それから事業用財産について,別建てにしないという考え方に立っているけれども,果たして別建てにすることがそれほど難しいのかということと,別建てにしないことの結果が妥当か。こういった御質問を頂いたかと思います。
  それから,乙案については,意思表示というものの扱いについて,どのように考えるのかと,特に一方的な意思表示ということであると,遺言の場合との切り分けという問題が出てくるであろうという御指摘だったと思います。
○堂薗幹事 甲案については,何か外国法制を参考にしてということではございません。基本的には従前からの流れで考えており,離婚における財産分与から発想を得たものですが,それを簡略化していった結果こういう形になったということでございます。
  事業用財産について更に分けるというのは,もちろん考えられるんだろうと思いますが,恐らくこの甲案であっても,先ほどから御指摘が出ておりますように,こういった規律で実務にたえられるのかと,特に婚姻時にどれだけ財産を持っていたのかを,どうやって立証するのかという問題があり,やはり現行法に比べますと,紛争が複雑になるのではないかという御指摘があろうかと思いますので,これにプラスして,更に事業財産について別途の規律を設けるということになりますと,紛争の複雑化という問題は更に大きくなるのではないかと思います。
  次に,事業用財産を区別するのは,どの程度難しいのかという辺りについては,実務家の先生に御意見をお伺いしたいとは思います。
  それから,甲案についてお子さんの貢献が非常に大きい場合はどうなるかというところでございますが,これは基本的には婚姻後増加額で増えた分については,定型的に,子供よりも配偶者の貢献が大きいだろうという考え方の下に割合を決めてしまっていますので,基本的にはそのような場合であっても,奥さんの取り分が非常に増えるということになるのではないかと思います。
  ただ,子供については別途子供の寄与分として,そこは一定程度評価されることにはなると思いますが,その場合に配偶者の寄与分と現行法の寄与分の要するに優先関係といいますか,どちらを優先的に認めるかという辺りが問題になってくるのではないかと思います。
  それから,乙1案の合意と乙2案の単独の意思表示のところでございますが,基本的には,乙1案は合意が要件となりますので,一定の拘束力を認めたいということで,内部的な検討を始めたわけですが,先ほど申し上げたように,相続分の指定を排除するような効力まで認めると,それはまたそれで非常に紛争が複雑化するので,そこまでは認められないだろうと,ただ遺留分の関係がございますので,乙1案であれば元々の最初の届出は合意であったので,撤回についても合意がないと認められないということにしたということでございますし,乙2案については,これも様式行為で,届出までして,法定相続分の引上げという効果を生じさせたわけですので,相続分の指定とは違って,それを撤回する場合にも届出を要件としたと。もちろん遺言によって相続分の指定がされた場合には,その効力が弱まるわけですが,届出までしないと,遺留分の関係ではなお効力が残るということで,相続分の指定と一応の違いを設けているというところでございます。
○大村部会長 よろしゅうございますか。
○沖野委員 ありがとうございます。もう既に申し上げたところですけれども,寄与分との関係だけ,確認させてください。事業用の財産について申し上げたのですけれども,もちろんそれに限らない話だと思います。寄与分がかなり大きくなるという場合というのは,一般的にあり得ますよね。そうではないですか,相続の場合に。
○堂薗幹事 はい。
○沖野委員 配偶者の方が,これによりますと,かつ全部が婚姻後増加額の部分であるとすると,3分の2は配偶者の方になるのですよね。他の相続人の寄与分が3分の1に限定されるとは限らないですよね。限りますかね。それともそもそも問題を誤解しているんでしょうか。
○堂薗幹事 こちらで考えているのは,配偶者の寄与分をまず先に決めて,その残りについて現行の寄与分を考慮するというものですので,そうすると,先ほど沖野先生が言われたような子供に非常に大きな貢献がある場合については,不都合な結果になる可能性があります。そこで,その順番を変えて,現行の寄与分で先にその分を確保した上で,その残りについて配偶者の寄与分を認めるという規律にすれば,子供の貢献が大きい場合の問題は生じないのかもしれませんが,またそれはそれで,いろいろな問題があるのではないかと思いますので,現行の寄与分とこの配偶者の寄与分との関係をどう考えるかというのは,非常に難しい問題ではないかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 関連で。
○大村部会長 増田委員,もう少しお待ちください。関連する話だということですので。
○上西委員 関連する部分だけ申し上げます。沖野先生がおっしゃいましたように,甲案は婚姻後増加額を確定しなければなりません。そのためには婚姻時における純資産価額が必要となりますが,婚姻時の純資産価額を今までの相続実務の中で,確定できるのかというと,相当に困難です。
  次に,事業の財産又は事業に起因する債務の区分についての判断です。この区分は比較的容易です。事業の債務については,まず分かります。もちろん,事業用の債務で,実際に事業に使わなかったケースはあるかもしれませんが,少なくとも債務の発生時には分かるわけですし,その後のことについては,お金の流れを追えば,相当確実に把握できます。
  そして,事業用の財産についてです。例えば共用している建物でしたら,例えば1階の一部が事業用で,奥の部分と2階が自宅の場合などです。使っているところの面積等に応じて分けることもできますし,機械とか備品等については,事業用のものはそのまま事業用のものです。共用して使われているのは,車両が比較的多いですけれども,どの程度の割合で使っているかということを見れば,そう大きくぶれるものではありません。ですから,事業用の財産と家庭用の財産を区分することはできるとみてよいかと思います。
  それと,事業用の財産の形成維持に関して,相続人が貢献したことについて寄与分制度で対応する点についてです。果たしてどの程度,今まで認められた事例があるのかというと,私の認識では,それほど多いものではありません。寄与分を認めないとする反対する側から見れば,貢献に対応する分は,今までお給料でもらっているではないかとの主張があります。この寄与分制度については,紛争といいますか,争点になりますので,寄与分制度で対応できるかどうかについては,疑問を持っております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  では,事業用の財産それから債務については,もう少しまた御意見を伺った上で,御検討いただくということでよろしいですか。
  増田委員,ずっとお待たせして,すみませんでした。
○増田委員 かなり議論が出尽くした感もあるんですけれども,甲案に関しては,第3回部会の案よりはかなりシンプルになって,計算しやすくなったけれども,まだやはり先ほどのように計算が2段階になるという辺りから,非常に難しい面が残っていると。
 それと,形式的になったために,実質的夫婦共有財産の清算の観点とは完全に乖離したものになっていると言わざるを得ないと思います。その原因は大きいところで2点あって,1つ目は共同生活の事実ではなくて,形式的な婚姻期間で定めているということです。財産分与の場合は内縁期間を入れたり,長期別居期間を除外したりということがあるんですけれども,そういう配慮をしていないということです。2つ目は,生存配偶者が自分自身の名義で取得した婚姻後の財産を考慮していないことだと思います。
  乙案についても,すでにいろいろと出たとおりなんですけれども,生前贈与,死因贈与,包括遺贈,その他いろいろな手段がある中で,乙案の手段を選択するメリットは法定相続分を動かすことですが,法定相続分を動かす効果は,既に出ていますように,具体的には債務の問題と遺留分の問題になります。
  遺留分に関して,先ほどからは配偶者自身の遺留分の話が出ていますが,乙案では他の相続人,特に子の遺留分を下げるということになります。これがちょっと引っ掛かっておりまして,遺留分というのは,財産処分の自由の限界を画するであり,一方では他の相続人に対する最低保障であると考えられているわけで,法が認めた最低保障を他の者の意思で動かすということについて,それがいかがなものかということです。遺留分を動かす場合,現行法では推定相続人の廃除か遺留分の放棄かということになるんですけれども,いずれも家庭裁判所の手続が要求されており,特に遺留分権利者が自分で放棄する場合ですら,家庭裁判所が真意を担保するための手続を踏むということになっております。
  このように比較的厳格な手続が予定されているにもかかわらず,それを遺留分権利者でない者が一方的に奪っていいとする乙案については,その辺りの整合性について,お伺いするとともに,十分に検討していただきたいと思います。
  それと,本当に遺留分を変えるといっても,現行法でも4分の3までは自由に譲渡できるわけです。包括遺贈にしても,生前贈与にしても。それが乙案で変わったところで,6分の5に変わるだけで,その差は僅か12分の1です。これでどれほどメリットがあるのかどうかというところがあって,それも少し気になっております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,検討させていただきます。
○大村部会長 では,垣内幹事,山本委員,八木委員という順番でお願いします。
○垣内幹事 すみません,私のは本当に素朴な質問で恐縮なんですけれども,乙1案と乙2案の関係の理解について,私の理解が正しいかどうかを教えていただきたいという趣旨です。
  先ほど沖野委員の御発言にもありましたけれども,乙1案は合意で乙2案は単独の意思表示に基づく届出ということで,合意と単独行為という違いがあるという,性質上の違いがまずあると思うんですけれども,そのことと行為の内容についての違いがどう関係しているのかということについて,もしかすると御説明を聞き落としているのかもしれないんですが,ちょっと私の中で十分理解できていない部分がありましたので,確認をさせていただきたいということなのですが,乙1案の合意の内容というのは,これは読みますと,夫婦が配偶者の法定相続分を引き上げるということですので,AとBという夫婦がいたときに,Aが先に亡くなったときはBの法定相続分が大きくなるし,Bが先に亡くなった場合には,Aの法定相続分が大きくなるという合意を想定されていて,一種双務的になっているということであって,専らそれに尽きると。Aが先に亡くなったときだけ,Bの方で相続分を増やすという合意は考えていないという理解でよろしいかどうか。
  仮にそうだとすると,そういった双方向的な規律を持ち込むものだという内容の点で,乙1案と飽くまで片面的なものである乙2案というのは,相当に異なるということかと思うんですけれども,そうだとしたときに,乙1案というものが持っている配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策という側面というのは,特に一方,例えばAの財産の増加に対して,Bが寄与していて,専らBの方は余り増えないでAがたくさん増えていると,名義の面では,というときに,Aが先に亡くなればBに行くというのはいいんですけれども,Bが先に亡くなったときに,Bの財産について,遺産についてAの相続分を増やすというところについては,どういう位置付けになるのだろうかというところが,やや私の中で整理がなかなか難しいと感じるところがありましたので,その辺りについて何か御説明いただける点がありましたら,お教えいただければということでございます。
○堂薗幹事 乙1案と乙2案の違いにつきましては,こちらも御指摘いただいたとおりと考えておりまして,乙1案の方は,合意をすれば,どちらが先に死んでも法定相続分は引き上がると。これに対しまして,乙2案は,その意思表示をした人の配偶者の法定相続分だけが引き上がるという理解です。
  配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現という目的と,この合意との関係につきましては,明確な関連性はないのかもしれませんが,その夫婦がどちらも財産の形成に貢献したかどうかというところまで見るのは難しいと思います。むしろ,乙案は,20年,30年という期間を設けているんですが,夫婦の合意は,実質的な婚姻関係が存続していて,形式的に婚姻関係が続いているというようなものではないというところを担保するにすぎないものでございまして,そういった意味では,先ほど垣内先生の方が言われたような一方は貢献しているけれども,他方は貢献していないというような場合であっても,やはり法定相続分としては,どちらも引き上がってしまうというところはあろうかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本(克)委員 乙1案について,2点お伺いしたかったんですが,1点目はもう既に垣内幹事が今おっしゃいましたので,もう1点だけですが,これは浅田委員がおっしゃったところと関係するんですが,合意をするときに,単に届出上だけ合意があるという形ではなくするのか,それとも合意というものをより様式行為として何らかの方式に服せしめて,更に意思確認を趣旨を明確にして,事後的な紛争に備えるというようなことはお考えになっておられるかどうか,そこだけ教えていただければと。
○堂薗幹事 ここは,婚姻届と同じように,基本的にはそういった定型の書式を出すということで考えてはおりますが,先ほど申し上げましたように,戸籍ではなくて,例えば夫婦財産契約の登記によってそこを公示するということに致しますと,現行法を前提にする限り公正証書が必要になってきますし,そういったことも考えられるんだろうとは思います。
  ただ,ここでは,基本的には,簡易な届出で法定相続分の引上げができるというところにメリットがあるのではないかと思っています。
○山本(克)委員 ハードルを下げるというのは,一つのニーズであることは認めるんですが,ハードルを下げたゆえに,お子さんと配偶者の間の仲が悪くなるというようなことは,もうリスクも取らなければいけないので,そこはやはり少しもうちょっと慎重に考えた方がいいのではないかなという気がします。
○大村部会長 ありがとうございます。
○八木委員 乙案の分がちょっと悪いようなんですけれども,私は何かシンプルで魅力的だなと読みました。もちろん,意思表示の問題があるとは思うんですけれども,これは理論的にはどうか分かりませんが,単純に年数だけを要件にするというのも一つの考えかなと思います。それから,政策論的に見ても,少子化の中で婚姻に人々を導いて,それも長期の婚姻を促していくという,そこはインセンティブになるかなと。それと,婚姻共同体を保護するという部分も非常に大きい,意義としては大きいなというように思います。
  質問なんですけれども,離婚の際の財産分与との整合性はどうなっているのかなということですね。例えば20年あるいは30年経過した後に離婚した場合に,その際の財産分与と,この法定相続分との関係はどうなっているのかと,そういうちょっと細かい点ですが,教えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  では,お願いします。
○堂薗幹事 離婚の場合には,それぞれの財産を全て考慮しますし,婚姻中に財産がどれだけ増えて,実際に貢献がどの程度あったのかというところまで実質的に考慮して決めますので,そういった意味では,乙1案,乙2案ともに,離婚における財産分与と比べますと,その貢献が十分に反映されていない場合も出てきますし,そこはある程度形式的に割り切らざるを得ないのではないかということで,離婚の場合の財産分与と整合性がとれていない場合は,どうしても生じてしまうのではないかと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○上西委員 甲案と乙案を比較しますと,甲案には評価の難しさが伴います。乙案は,甲案と比較の上では明快で分かりやすいし,四捨五入した言い方をすれば,法定相続分の割合を変えることによって,寄与分をその中に押し込んでしまっているという見方もできるのではないかと思います。
  それと乙1案,乙2案のいずれにも,アイウのうちのウでは兄弟姉妹の法定相続分が5分の1になっています。兄弟姉妹には遺留分はありませんし,婚姻成立から20年又は30年経過したときに,5分の1が果たして必要かどうかです。なくしてもよいというのが実感です。どうしても兄弟姉妹に残したい場合は,遺言を書けばよいのです。この部分は,配偶者が5分の4で兄弟姉妹が5分の1としないで,配偶者に片寄せして配偶者が5分の5となってもよいと考えます。
  三点目は,期間についてです。20年と30年が併記されており,贈与税の配偶者控除が例に挙がっております。御案内のとおり,昭和41年度税制改正でこの制度が創設されたときは,25年でした。その後,20年に短縮されたのが,昭和46年度の税制改正です。そのときの理由が,経済成長に伴って個人の財産形成のテンポが速まったこと,妻の座についての税制上の評価が高まったことが理由とされているのです。
  ダイレクトにこの理由が当てはまらないものの,実務上,20年たったときに,片方の配偶者から他方の配偶者に,今まで貢献してくれたとか,いろいろな理由はあると思いますけれども,居住用財産の贈与は比較的一般に行われている事例の一つであります。整合性とまでは言いませんが,この乙1案,2案とも30年にせずに,20年でそろえた方が理解しやすいと考えます。
  それと,乙2案の場合についてです。これは被相続人が自分だけの判断で届け出ができ,撤回についても届出をした配偶者が法定の方式により撤回できるとなっています。一旦保護された配偶者の割合が,単独の意思表示で撤回されるのもいかがなものかと感じます。この場合に,撤回について両者の合意の必要性が理論的に成り立つのかどうかですけれども,配偶者の立場に立てば,そういった点も検討していただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  事務当局の最初の御説明で,この乙1,乙2については,20年ないし30年という期間についてどう考えるか,それから血族相続人が兄弟姉妹の場合に,その相続分をなくすという考えについてどうかということもお尋ねがあったかと思いますが,上西委員からその点につきまして,20年と30年については,20年の方がよろしいのではないかと,それから兄弟姉妹の相続分というのはないということでもよろしいのではないかという御意見を頂きました。
  この点につきまして,もし関連の御発言がありましたら一括して伺って,その他の御意見をその後に伺うとしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 関連するといえば関連する程度の発言になってしまうかもしれませんけれども,まず甲案につきまして,ついでにそれ以外の点の感想も少し述べさせていただきます。
  甲案につきましては,夫婦財産制と相続分という二つの概念で整理をする発想の下で,これまでできるだけ詰めてきてくださったことに感謝したいと思いますし,それが本来の整理の仕方であるとは私も思います。ただ先ほどから御意見がありますように,夫婦財産制や離婚にしても贈与や遺産分割にしても,民法の母法国ではもっと制度的にきちんとしているのですが,日本はそれがありません。その前提では,離婚のときには両当事者に主張させることによって決まってくるけれども,片一方が死んでいるときには,算定が難しいというのは,確かにおっしゃるとおりだと思います。
  ですから,実務が果たして甲案を採れるかどうか,かなり難しいところです。筋としては魅力的なのですが,実務がこれを本当に運営できるかどうかは,日本の制度的文脈の中でお考えいただく必要があるように思います。
  それから乙案につきまして,これまでも御意見がいろいろ出ておりましたけれども,やはりこの届出とか合意とかいうものに関わらせることが,問題を複雑にしているように思います。そして,その理由としても,別居しているような夫婦の場合には,それがないはずだからということですが,別居している夫婦のような場合はむしろ廃除とか,遺言とかによって,被相続人が自衛をすることができます。それなのに,そういう合意をなぜ必須にされたのでしょうか。それによって法定相続分が変わるということですから,法定相続分の性質に意思性が入ってきますので,議論が難しくなるように思います。
  それから,先ほど八木委員の御意見にもありましたけれども,これはある程度,形式的に考えることに意味があるのではないでしょうか。つまり夫婦であることの意味を重く考えるという八木委員の御意見に,私は共感するところがございます。財産分与の実務について議論がされましたけれども,日本法の財産分与は,諸外国の離婚給付と比べますと,非常に異質で,要するにあまりにも安いのですね。配偶者が現存財産の形成に貢献していたかどうかという観点から,本当にきりきりと計算して,別居していたときにはその貢献はないなどと言うわけですが,そういう形で離婚給付を計算するという西欧諸国はないでしょう。英米法のアリモニーにしましても,フランスの補償給付にしましても,離婚後の生活保障という概念の内容で,はるかに高額です。それは婚姻という生涯の運命共同体に入る約束をした二人が,その共同体が壊れてしまったことのある種の補償的なものになります。そういう保障があるので子供も落ち着いて育てられるし婚姻中の平等も確保されると考えられています。どれだけ財産形成に貢献したか等によらずに,夫婦であったということの効果として手厚いものが規定されています。
  財産分与にも,配偶者相続権にも,そういう側面があっていいと思います。夫婦であったことの効果として,ある程度形式的に決まった取り分が増えるということでも,いいのではないでしょうか。
  そのような意味で,20年ないし25年という年数で,かちっと相続分が上がるという選択肢も,ちょっと諸外国には見られない法制度ではありますけれども,日本法の様々な諸条件を考えますと,あり得る選択肢なのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。意思に係らしめないで一律にどこかの時点で相続分が変動するという御意見で,簡明さという点では簡明なお考えだろうと思います。
  20年ないし30年とか,それから兄弟姉妹の相続分については,何か御意見がおありというわけではなかったと理解してよろしいですか。
○水野(紀)委員 そこまで積極的にはっきりした線の主張はございません。
○大村部会長 そうですか。分かりました。
○窪田委員 すみません,水野委員に1点だけ教えていただきたいのですが,20年,30年の要件は満たすけれども,別居している夫婦の場合には,遺言で対応できるということでしたけれども,それは相続分の指定であるとか,そういうことで対応するということであって,この規定はこの規定として機能するということでしょうか。
  私はその前提が本当にそれだけで考えていいのかどうかもよく分からないのですが,遺留分はこによった割合で増えたので,もういくということですね。
  はい,分かりました。
○大村部会長 ほかに御意見いかがでございましょうか。
○石井幹事 先ほどの事業用財産の議論のところで,区別するのは容易ではないかという御指摘もあったんですけれども,裁判所の立場からすると,必ずしもそうではないかなという懸念もあります。理論的には区別できるとしても,争点がその分,増えることになるため,実務的には,それなりの影響があるように思いますので,指摘させていただきます。
○山田委員 難しい案件が裁判所に行くので,やはり一般論としては,個人の私的な財産関係よりも,少なくとも事業用に関しては,税務申告関連の資料とかペーパーベースで比較的整っているケースが多いのではないかという気はいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,この第1の論点につきまして,いかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  では,甲案,乙案につきまして,様々な御意見を頂きましたので,更に事務当局の方で御検討いただければと存じます。
  第2,第3ございますけれども,ここで少し休憩いたしまして,3時25分から再開させていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは再開したいと思います。
  第2と第3,二つ論点が残っております。10ページでございますが,第2の「被相続人の療養看護等に努めた者に寄与分を認めるための方策」という点につきまして,事務当局より御説明いただきます。
○合田関係官 それでは,第2,被相続人の療養看護等に努めた者に寄与分を認めるための方策について御説明いたします。
  資料10ページを御覧ください。今回,取り上げております考え方は,被相続人の療養看護又は扶養による寄与について,寄与者と他の相続人との間で寄与の程度に著しい差異がある場合には,その寄与が特別の寄与と言えない場合でも寄与分を認めるというものであり,基本的には部会資料3に記載した考え方と同様のものです。
  前回の案からの修正点を御説明いたします。第3回部会においては,相続人の寄与の定義について相対的な比較を行う場合に,子同士や兄弟姉妹同士のように同一の身分関係にある相続人間であれば比較は容易であるが,配偶者の負う扶助義務や婚姻費用の分担義務と直系血族及び兄弟姉妹の負う扶養義務とでは,通常,期待される程度が大きく異なるため,身分関係が異なる相続人間での比較は容易ではないとの指摘がされました。
  そこで今回の案では,同一の身分関係を有する相続人間で寄与の程度に著しい差異があることを要件としております。また,前回の案では寄与分の要件のみを記載し,この類型による寄与分が認められた場合の効果については特段記載をしておりませんでしたが,今回はこの点についても②において一定の考え方を提示しております。
  現行の寄与分制度においては,被相続人の財産の維持又は増加があったことが寄与分の要件とされておりますが,第3回部会では新たな制度においてもこの要件を維持するかどうかによって制度趣旨が変わることになるので,この点については慎重に検討すべきであるとの指摘がありました。
  今回の案においては,寄与分の要件として被相続人が療養看護又は扶養を要する状態にあったこと,及び相続人が無償で被相続人の療養看護をし,又は被相続人を扶養したことを掲げることによって,被相続人の財産の維持又は増加と無関係な寄与は,寄与分の対象とはならないことを明らかにしております。
  寄与分が認められた場合の効果等について,現行の寄与分制度では寄与分が認められると,相続財産からその寄与分が一旦控除され,その控除後の見なし相続財産の額を基準にして法定相続分等の割合に従い,各相続人の相続分を算定した後,寄与分が認められたものについてはあらかじめ控除されていた寄与分をその相続分に加算するという扱いがされております。
  しかし,今回の案において,これと同じような取扱いをすると,例えば被相続人の子としてA,B,Cの3名がおり,Aの寄与の程度が最も高く,Cの寄与の程度が最も低い場合において,A,C間には寄与の程度について著しい差異があるが,A,B間及びB,C間にはそこまでの差異はないという事案では,現行法と同様の取扱いをすると,A,C間の寄与の程度に著しい差異があることによって,Aについてのみ寄与分が加算される結果,A,B間には寄与の程度にそこまでの差異はないにもかかわらず,Bの具体的相続分はAよりも少なくなり,しかもCと同額になります。このような結果はBの利益を不当に害するものと考えられます。
  そこで今回の案においては,相対的な比較を行った相続人間についてのみ相続分の調整をすることとし,この寄与分については比較対象の相手方である相続人の相続分からこれを控除することとしております。
  もっとも第3回部会では,前回の案について無償で近親者が療養看護等をすることについてインセンティブを与えることにつながり,あるいはそのようなメッセージを社会に発することになり得るが,このような方向性が高齢化社会を迎えた我が国において目指すべき姿と言えるのかという点については慎重な検討が必要であるとの御指摘がありました。
  寄与分が認められた場合の効果について,今回の案のような考え方を採った場合は,療養看護を余りしなかった相続人を法的に非難しているかのように受け取られ,よりメッセージ性が強まるとも考えられます。
  例えば相続人間の相対評価をするのではなく,相続人の中で被相続人の療養看護に最も貢献した者であって,その者の貢献と他の相続人の貢献との間に一定の差異がある場合には,その寄与が特別の寄与に該当しなくても寄与分を認めることとし,寄与分が認められた場合の効果は現行法と同様にすることも考えられますが,その場合にはその差異がどの程度あることを要件とすべきかという困難な問題が生ずるほか,そもそも現行法の下でも寄与分を認めることができる場合が多いと考えられ,新たな制度を設けることにどれだけの意義があるのか疑問もあります。この点についても本日は御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  前回からの修正点を中心に御説明いただきましたけれども,どの点でも結構でございますので,御意見をいただければと思います。
  いかがでございましょうか。
○増田委員 質問から幾つかさせていただきたいと思います。
  まず確認的な質問なんですけれども,配偶者の具体的相続分には影響しないのかというのが1点目です。それから,2点目も確認的なものですけれども,配偶者の療養看護による寄与は現在も実務上,ほとんど認められませんが,今後は明らかに認めないという考え方でしょうかということです。それから3点目ですが,寄与分が二つ,要するに現行法の「民法第904条の2第1項に加え,新たに次のような規定を設ける」と記載されていますので,併存する現行法の寄与分と新たな寄与分の2種類の寄与分請求はどういう関係なのでしょうかという質問です。つまり,同一の手続の中で同時に請求できるのか,請求した場合,二つの請求はどのような関係になるのかということです。
  それから次に,実務上よく問題になる居住の利益についてです。これは,居住の利益があれば,無償ではないとよく言われるんですが,これは有償であるという理解でいいかということです,
  それから次ですが,他の相続人との比較という相対評価となった場合,療養看護をしなかった,あるいはできなかった方の相続人の個別具体的な事情というのは考慮しないのかということです。例えば被相続人の住居との距離とか,あるいは相続人の方の経済状態とか,あるいは相続人が健康を害しているとか障害があるとか,そういう身体的要因でできないなどといったようなことは相対評価の中で考慮されるのかされないのか。やはり介護したくてもできないという方は結構おられるので,その点についてお伺いしたいと思います。
  その次ですが,同一の身分関係の中で比較するということですから,子と代襲の孫がいた場合,これは相対評価の対象となるのかならないのか。同一身分関係で順位は一緒でも身分関係は違うので,これは対象にならないとも読めるんですが,どうなのかということです。
  それから7点目ぐらいになりますかね。無償ということなんですけれども,被相続人が生きているときには無償とされるものが,何で死んだ途端に対価が発生するのかという疑問があります。次の第3にも関わってくるんですけれども,死んで新しく請求が認められるということであれば,将来的には対価を請求できるという行為となり,それが無償と言えるのかどうかということですね。以上,たくさんありますが,お願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。7点,御質問いただきました。最後の点は基礎理論に関わる御質問のように思いますけれども,その点も含めまして,幾つかおまとめいただいても結構ですので,お答えをいただければと思います。
○堂薗幹事 まず配偶者の具体的相続分には全く影響しない,この第2の寄与分が認められても配偶者の具体的相続分には影響しないという前提です。
  それから配偶者が療養看護した場合については,現行の規律のみが適用され,この第2の寄与分の対象にはならないという前提です。
  それから現行の寄与分と今回の寄与分との関係ですが,これはいろいろな考え方があると思いますが,要件として重複する場合もあると思いますので,現行の寄与分の要件を満たし,かつ,こちらの要件も満たすというような場合は当然あると思いますので,その調整をきちんとやろうとしますと,そこは同一の手続でやるということにならざるを得ないではないかと思います。したがって,必要的な併合のような条文を設ける必要があるかどうかについて検討する必要があると思いますが,こちらとしては,両方ある場合は,やはり一つの手続でやった方がいいのではないかと考えております。
  次に,居住の利益との関係ですが,ここで無償というのは基本的には療養看護の対価としてもらっているかどうかという意味で,対価としてもらっていれば有償,対価がなければ無償という前提ですので,居住の利益があったとしても,それが療養看護の対価といえるようなものでなければ,この要件との関係では無償ということになるのではないかと思います。ただ,その場合でも,居住の利益を得ているような場合については,寄与分の有無及び額を定めるに当たって考慮されることになるのではないかと考えております。
  それから療養看護しなかった相続人の個別具体的な事情を考慮するかというところですが,これは確かにもう少し検討する必要があると思いますが,一応,ここでは要件としては必ずしもそこは考慮しないような形になっておりますが,少なくとも寄与分の額,要するに③のところでは考慮要素になりますので,そういった事情も考慮した上でどの程度の寄与分を認めるのが相当かという判断をすることになると思います。そういったやむを得ない事情がある場合に,そもそも①の要件から除外する必要がないかどうかという点については,引き続き検討したいと考えております。
  それから子供と孫,代襲相続があった場合の関係ですが,ここもいろいろな考え方があると思いますが,基本的に代襲相続人は親である子の法的地位を引き継いでいるということだとしますと,そこでほかの子供と代襲相続した被相続人の孫を比較するということも考えられるのではないかと。ただ,その場合は亡くなったお子さんの貢献も含めて,その亡くなった子供の貢献とその孫の貢献を合わせる形で,ほかの子供と比較することになるのかなと。そこはまだ十分に詰めて検討はできておりません。
  それから何で死亡したら,無償だったものが有償になるのかというところですが,現行の寄与分も,基本的には療養看護を被相続人との関係では無償でやっていても,寄与分としては認められるという前提ですので,そのこと自体は特に不合理なことではないのではないかと。そこは,そもそも相続の根拠をどのように考えるかというところとも関わってくると思います。相続の根拠については,被相続人の意思ですとか,あるいは財産の形成に対する貢献とか,いろいろ言われていますが,結局,相続財産をどう分けるかということですから,生前,被相続人に対して何らかの具体的な請求ができなかったとしても,相続財産をどう分けるかという場面では,その貢献を考慮するということについては特段の問題はないのではないかと考えているところでございます。
○水野(有)委員 今,おっしゃったことの中で質問が出てきてしまったのですけれども,必要的併合などを検討するとおっしゃったということは,逆に言えば,元々違う事件類型として寄与分を二つ作ることを想定されているということですか。
○堂薗幹事 類型としては別の類型にはなりますので。
○水野(有)委員 そうなりますと,相対的評価の方の寄与分に関しての当事者はどういうことを御想定されているのですか。
○堂薗幹事 当事者は基本的には二当事者です。
○水野(有)委員 どうもありがとうございました。
○大村部会長 ほかはいかがでございましょうか。
○潮見委員 素朴なことですけれども,2当事者間での相対的なものと,従来の寄与分の判断を併合してできるんですか。
○堂薗幹事 基本的には現行の寄与分が原則的なもので,そこで特別な寄与が認められれば,通常はこういう調整型のものは要らないんではないかと思います。ただ,現行の寄与分における特別の寄与もあり,なおかつ相続人間に非常に差がある場合に,現行の寄与分で認められたものに更にプラスして,特定の相続人との間だけ調整をするということがあり得るんだとすると,それは一緒にやって,なおかつ両方認められるという場合もあり得るのではないかということですが,いずれにしても両方,事件としてある以上は,両者の関係を含め,現行の寄与分を優先的に適用するのかどうかという辺りも決める必要があるのではないかと思いますので,いずれにしても併合は必要になってくるのではないかと考えているところです。
○大村部会長 よろしいですか。ほかにはいかがでございましょうか。
○石井幹事 今のところに若干関連するのかもしれませんけれども,現行の寄与分の審理では,通常の寄与とは質的に異なる寄与があることを認めた上で,それを金銭に換算すると幾らになるかといった形で判断しているんではないかと思うんですけれども,御提案の枠組みですと,個々の療養看護なりにかかっている支出のようなものを積み上げていって,相続人間で支出額にどれだけの差異があるかといったことを判断することが想定されているように思われます。そうしますと,御提案に係る新しい寄与分の審理では,現行の寄与分におけるのとはかなり質的に違う判断をすることになると思われまして,そうすると,なかなか現行の寄与分と御提案に係る新しい寄与分とを一緒に審理するというのは想像つかないなというところもございます。
  また,個々の支出を積み上げて判断していくということですと,算定が難しいなという感じもいたしまして,そういった困難な算定を前提とした制度設計をするに当たり,公平性とか合理性が十分担保できるのかということについては,慎重に検討していただく必要があるのかなとも感じております。
○堂薗幹事 今の点につきましては,第2で挙げている寄与分の算定,どういう形で寄与分を反映させるかという点については,必ずしもかかった費用ですとかそういったものを積み上げて計算するということを考えているわけではありませんで,どちらかというと,これは相続人間の調整的なものですから,寄与分の定め方としても,全相続財産の何%とかそういった割合的に算定する方になじむのではないかと。つまり,財産の増加に貢献した額が幾らあるから,幾らの寄与分を認めるというように金額で定めるというよりは,むしろ割合的に調整するような形で寄与分を定めるという方になじむのではないかと思っております。
  そういった意味では,現行の寄与分についても貢献分の清算という考え方と相続人の調整という考え方,両方あり得るんだと思いますが,現行のものがどちらかというと,貢献に対する清算的な割合が強いんだとしますと,ここで挙げているものは調整型の側面が強いということになり,その結果,現行の寄与分は貢献に対する清算型のもので,こちらの方が調整型のものというようなすみ分けがされていくのではないかと思います。
  そうだといたしますと,基本的には現行の寄与分によって貢献分に対する清算がされれば,それで基本的には足りていて,その後,更に相続人間で調整をしなければいけない場面というのは,実際にはそれほどないのではないかと考えているところでございます。
○窪田委員 これを拝見していきながら,私自身が十分に正確に理解できているか,御提案の趣旨を理解できているかどうか,余り自信がありませんが,私自身は同順位の血族相続人間で相対的に判断して寄与分を認めるというのはあり得る方向だと思っておりました。寄与分制度自体について賛否両論あるというのは承知しておりますけれども,こうした方向はあるのかなという気はいたします。
  ただ,それでもやはり気になりますのは,第2の②のところで提案されている内容でして,特にイの部分です。他の相続人の相続分は,現行の規律により算定した相続分から①の寄与分を控除した額になるとされています。つまりこれは従来の904条の2とは全く違う仕組みを採ることになるのではないかと思います。今までの寄与分ですと,これだけの貢献があるんだから,本来,遺産からはそこの部分は先に取れるはずだとして,遺産との関係を考えていたのに対して,ここでは相続人間の問題として考えるということになるのだろうと思います。
  先ほど,A,B,Cという難しい例がありましたが,Aだけを認めた場合にはB,Cの部分は減るんだという形になるのだと思いますですが,これは単に調整というのではなくて,別途検討されるとなっていた扶養料の清算であるとか,むしろそうしたものとの形の上での相似性,あるいは類似性といったものが出てくるのではないかという気がします。
  ですから,現行の寄与分がむしろ清算的な要素を含んでいて,これは調整型なのだといっても,ここにはある種大変に強く財産法的な発想というのが入ってきているのではないかなという気がいたします。
  ここまでする必要があるのかなというのはちょっと気になる部分だということと,先ほど,メッセージとしても,これは必ず貢献しなければいけないのだと,兄弟は手を取り合っていかなければいけない。1人,ベルリンにいる,そんなこと知ったものかという話にもなりかねないのかもしれません。私自身は,遠くにいるから貢献しなくてもいいのだという理屈にはならないと思うのですが,しかし,それによって負の要素までを与えるというのは,やはりかなり強い意味を持っているのではないかなという気がいたします。この点については御検討いただけると有り難いなと思います。先ほど,水野先生,潮見先生からも出てきた第2の部分というのは,従来の904条の寄与分との関係で,どう考えるのかという問題にも関わってくるのかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 検討させていただきますが,今のお考えですと,我々が問題点にして挙げているA,B,Cで貢献の程度が違って,ただAとCとの間だけこの要件を満たすという場合に,現行と同じようにAの部分だけ取り分けて,その残りをほかの相続人で分けるという取扱いをすることの当否についてはどのように考えることになるのでしょうか。
○窪田委員 結局,具体例のところでどういうふうに判断できるのかというのは分からないのですが,例えば今のケースでも,Aに2,Bに1という形での寄与分を認めるという計算方法もあるのだろうと思いますし,Aについてだけ寄与分を認めて,Bは中間ぐらいかもしれないけれども,やはり一定の数字には達しなかったよねという形で考慮しないというのはあると思いますし,相対的評価だというのが全部,きれいに順位を並べて,このラインまでいったらこうする,といったところまでがちがちには詰められないのではないかなという感じがします。私自身は相対的評価だといいつつも,かなりざっくりとしたものにならざるを得ないのではないかなという感じを持っていますので,先ほどのA,B,Cについてはそう考えるということではどうでしょうかということです。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○堂薗幹事 分かりました。
○山本(克)委員 話を聞いていて,審判の当事者がよく分からなくなったんですが,Aが私は寄与分があるというときに,2当事者ということはCだけを相手にするとかBだけを相手にするということができるということを前提にお話しになったんでしょうか。それで本当に相対的評価は可能なんでしょうか。
○堂薗幹事 といいますと,どういうことでしょうか。
○山本(克)委員 つまり,Bとの関係で,Bの方が明らかにCより貢献しているのにBだけへこますということを許すということですよね。それでもいいという。そうすると,Bは今度,Cに対してやればいいというお考えですか。
○堂薗幹事 いや,ここでの考え方はBはへこまさないというものです。
○山本(克)委員 でもA,B,Cの間で明らかに差があるわけです。A,B,C,それぞれの間で。Aが1番,Bが2番,Cが3番であるときに,Bだけを相手に,私の寄与分はこれだけありますと言って認められたら,Bの分はへこむわけですよね。そしてCはへこまないということを許すんですかということを聞いているんです。
○堂薗幹事 第2の(注)でも若干触れているんですが,A,B,Cがいて,AとB,AとCともに著しい差異がある場合は,仮にAがBだけを相手に寄与分の申立てをしてきた場合も,BとしてはCを当事者として引き込んで,Aに認められた寄与分の額をBとCとで按分するというようなことを考えておりますので,要するにここでいう寄与者は基本的に1人であることを前提にしているんですが,その相手方については複数の場合もあり得て,複数を相手にした場合は,当然,その間で調整をしますし,仮にそのうちの1人だけを選択して,審判の申立てがされた場合も,その義務者は他の,同じように同程度のことしかしていない人を引き込んで,責任を負担させることができると。
○山本(克)委員 そういう引込みまで。現行審判,家事事件手続でもありましたか,そういう引込みが。
○堂薗幹事 引込みによる当事者参加を考えております。
○大村部会長 相対的に考えるというのは,Bは関係していないのでBは当事者にならなくて済むという,その限度でということですね。
○堂薗幹事 ですから,AとBとの間で著しい差異がなければ入ってこない。そこがA,B,Cとあっても,AとBとの間も著しい差異があれば入ってくる。
○山本(克)委員 しかし,著しい差異があるかどうかは審判の結果として,審理の結果,分かるので,あらかじめ想定されているというのがおかしいのではないですか。 AとB,AとC,それぞれについて著しい差異があるということが審理の結果,分かったら,Bだけを相手にするときにCを誰のイニシアティブで引き込むんですか。
○堂薗幹事 まず,AがBともCとも著しい差異があると思えば,B,Cの両方を相手にすることになります。
○山本(克)委員 いや,でもそれは必ずしなければいけないことにはならないはずなのではないですか。だからBだけを相手にしたときにという前提で。
○堂薗幹事 だからBだけを相手にしたときは,Bが何もアクションをとらなければ,Bとの間だけで決められることになりますし,Bはそれでは不利益を受けると,ほかにも負担者がいるはずだということであればその者を引き込むということになります。
○山本(克)委員 Bのイニシアティブで引き込むわけですね。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 それでそのときに審判事項,申立事項の拘束力とかその辺りはクリアを完全にできるんですかね。
○堂薗幹事 基本的にここは,仮に著しい差異があった人が複数いようと,Aの寄与分として認められた額は一定なのではないかという前提です。
○山本(克)委員 そうなんですか。そうすると,Bとしては,裁判所はしかしBの言い分だけを聞いて,AがCにも勝っているというところまで決めなければいけないということですね。仮にBだけを相手にして申し立てた場合には,AがBだけを相手に申し立てた場合は,Bに勝っているだけではなくて,AはCとの間でも勝っているということまで判断しないと,Aの請求というか,申立てを認めることはできないということですよね。
○堂薗幹事 いえ,そこはそうは考えておりません。そこはA,B間で著しい……
○山本(克)委員 そこはA,B間なんですか。Cが入らない限りはCのことは無視すると。
○堂薗幹事 はい,そういうことです。
○山本(克)委員 Bがそこでミスるとひどく気の毒という気がしますし,では,Cは自分の方がAより勝っていると思っているときはどうなるんでしょうか。
○堂薗幹事 その場合はCが誰を相手方にするかによりますが,CがBに対してやれば。
○山本(克)委員 申し立てて,それで両方確定したら別個に。それを必要的併合で処理すると。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 それが,必要的併合が必ずうまく機能するんでしょうか。そこ自体が非常に問題のような気がしますが。
○大村部会長 実体的な価値判断の問題と,それをどのように手続に乗せていくかという問題と二つあろうかと思いますけれども,事務当局のお考えは,今の例でいうと,A,B,Cと3段階あるとすると,AとCの間に貢献の度合いの差があるというときに,その影響がBに及ぶのは望ましくないのではないかという,その実質判断が前提になっているかと思いますけれども,そんなことはないのだということであれば,相対的に決める必要はないということになろうかと思いますけれども。
○山本(克)委員 何度も発言して恐縮です。それはBが影響を及ぼしていいかどうか,審理の結果,分かることなので,あらかじめばっと網をかけて,同順位の全員を相手にしなければいけないとしておいた方がかえってシンプルであるという可能性もあるんではないのかな。私もまた考えてみますけれども。
○大村部会長 今の御発言は,実態的な判断が仮に事務当局のような価値判断に立つとしても,手続的には全員を入れておいた方が柔軟に判断できるのではないかと,こういうことですね。
○山本(克)委員 はい。
○大村部会長 ほかにこれにつきまして,何かございましたら。
○藤野委員 今のお話を確認させていただきたいんですが,まずは配偶者がいた場合は2分の1は置いておくということですよね,先ほどの堂薗さんの御回答だと配偶者の取り分は変わらないということなので。配偶者の分は置いておくと。残りの2分の1に対して兄弟が仮に3人いたら,3人のうちの割合を普通にやった人は置いておいて,著しく差異のある2人の間で決めるということですよね。
  そのやり方のほかに,今の御意見のように残りの2分の1を10にしたときに,例えば5対3対2に分けるようなやり方もあるわけですよね。この中での割合として。そういうことは考えていないんですね。
○堂薗幹事 そこはもちろんそういう考え方もあり得ると思うんですが,そうすると基本的には療養看護の点に違いがあれば,そこは寄与分としてそういった割合を決めて調整するということになってしまいますが,当然,子が何人かいる場合に療養看護の貢献の程度が同じということはあり得ませんから,そのような形で細かくやっていくと,非常に多くの事件で寄与分の申立てがされることになって紛争が複雑化することになります。それを避けるために,ここでは要件としては著しい差異がある場合だけ調整をすることにしていますので,その結果,先ほどのような形になるのではないかというのがこちらの考え方です。
○藤野委員 もう一つなんですけれども,仮に子供さんの療養介護というか,貢献度が配偶者より著しく多くても,最初に配偶者の2分の1を取ることは変わらないということでよろしいんですね。
○堂薗幹事 そこはそうなります。
○藤野委員 分かりました。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○藤野委員 私としては,子供が何人いようと子供の中で割合を決めた方がいいように思いました。
○窪田委員 今の点,確認させてください。904条の2の第1項に加えて次のような規定を作るということであって,ある特定の子供の貢献が極めて大きくて,財産上も評価できる場合には当然,配偶者の具体的相続分に影響を与えるということで,その点については変わりがないということはよろしいですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 従前の寄与分でカバーされないものについて,ここで新たな寄与分を考える。それについては同一カテゴリーのものの間での比較を行うにとどめる。配偶者は1人なので同一カテゴリーということはないので,血族相続人の間で相対的な寄与について,一定のレベルに達した者については考慮する。一定のレベルに達した人が1人いるが,あとの人たちの間に差があるときに,その差がないかのように扱ってよいのか,それともその差は比較対象を固定するという形で考慮に入れられるのか。こうした点が,今の分かれ目になっているかと思いますが。
  ほかにいかがでございましょうか。
○浅田委員 第三者の立場からコメントを申し上げますけれども,このように案が加わりますと,考慮要素が増えるということでありますので,実質的な公平性が保たれる一方で,いわゆるいろいろ調整のプロセスの時間,コストが掛かるという面はあろうかと思います。ただ,銀行実務という観点だけ見ますと,寄与分に関しましては従前から分割協議の中での議論をもって判断するという話ですから,考慮要素として新たに特殊なものが増えるというわけではないという観点からは,直接的な影響があるかといえば,中立的なものとも評価できそうな気がいたします。
  ただ,繰り返しになりますけれども,先ほどの議論を伺って感じたところでもありますけれども,見直しによって相続人間の紛争が増加,長期化するということになるのであれば,第三者が巻き込まれるということも増えると思います。制度設計というのは分かりやすく,また明確に解決できるようにきちんと検討していただきたいと思います。
  その点で確認のための質問でありますけれども,取引関係の明確化という観点からは,銀行としては預金に適用される規律がどうなるのかということに関心を抱かざるを得ないと思います。この点は,部会資料5の「可分債権の遺産分割における取扱いについて」の論点の中で甲案,乙案が提示されて議論がされたところです。
  その論点がまた審議されるときに議論されることだろうと思いますが,仮にこの寄与分の提案が導入された場合において,例えば部会資料5の甲案,つまり相続開始とともに預金債権は分割承継されるとした上で,債務者との関係は基本的に対抗要件で律するということを併せて考えた場合には,この寄与分引上げの規律が入ったとしても,最終的には債務者に対する通知の対抗要件の有無に従って債務者は行動すればいいということになりますので,この規律の導入によって新たに債務者としての考慮要素が増えると,性質的に増えるというものではないということをここで確認させていただければと思います。
○大村部会長 どうもありがとうございました。
  そのほか,この第2の論点についていかがでございましょうか。事務当局,よろしいですか。
○堂薗幹事 今の点は御指摘のとおりではないかと思います。
○大村部会長 それでは,もう一つ,論点がございますので……。
○増田委員 以前にも申し上げましたけれども,何で療養看護とが相続財産の分け前につながるのかという点に根本的な疑問があって,療養看護の対価は労働の時間とかその質によって評価されるべきであって,相続財産が多いとか少ないとか,ほかの相続人に比べてやったとかやらなかったとか,そんなことで評価が決まるということには,やはり根本的に疑問がありまして,何らかの形で生きている間に報酬請求権を付与した方がスマートだろうと思うんですね。
  だから,例えば財産法レベルでは事務管理とかいった形で,事務管理の中で報酬請求権を決めるとかいう形も採れるだろうし,くしくも資料には「療養看護又は扶養」と記載されているように,財産のない者については扶養の制度があるわけですけれども,身体能力がない者については何も今,ないわけですよ。親族間扶助の一環としてこれをパラレルに考えることは可能だから,介護に関する何らかの求償規定を親族法の中に新設するということもできないことはないと思うんですね。
  また,財産管理能力の欠如の場合には後見だとか保佐だとか補助だとか,管理能力によってこれを補完する制度があって,いずれも報酬請求ができるわけですから,身体能力が欠如している者についても同じような制度というのは考えられないわけではないんではないかと思うんですね。
  わざわざ何で,先ほど言ったように無償のものが死んだ途端に対価が発生するとか,あるいはほかの寄与分,すなわち家業に従事したとか仕送りをしたとか,そういうものとは別途,性質の異なるものを同じ紛争の中に巻き込んでやらなければいけないのかというのが今一つ,分からないところがあります。だから,どうしても寄与の枠組みということでいくんだったら,今,療養看護について一番ネックになっているのは「特別の」という要件なので,そこだけを外したら,何とかなるのではないかなという気もしています。
  何かこの狙い撃ちとかいうのは,兄弟げんかを促進する法律のようにしか思えないですよね。生きているうちは別にそれでもさほど争いもなく,仲良くやっていたのが突然,自分が介護をやったから,やっていないあんたを狙ってというようなことをやった場合には,どうも人格的非難とかそういうものも出たりして,要らぬ紛争が激化するような気がしますし,先ほど,山本克己委員も言われたけれども,寄与分の紛争というのはなかなか結果が読めないというか,予測可能性が低いものですから,何を主張,立証するかというのもよく分からないところもあるし,間に挟まれた人もどういう主張,立証してもいいのか立証課題も分からないというような問題もありますし,それで紛争が長期化するということは十分考えられますので,余り私としては積極的に賛成はできないと思っています。
○大村部会長 第1点は寄与分という制度を広げること自体に対する根本的な御議論と承りましたけれども,仮に作るとしても,相対的に考えるというのは紛争を増やすことになるのではないかというのが2番目の御意見だと承りました。何か。
○堂薗幹事 2点目について御指摘のような問題点があるというのはこちらも認識しておりまして,むしろ前回は効果について余り十分な検討ができていなかったんですが,仮にこういう形で相対的に評価するということにしますと,どうしても御指摘のような問題が出てくるのではないかと思います。
  身体的能力の欠如があった場合に,介護した人について,例えば事務管理とかそういった他の権利の行使を認めればいいではないかという点については,こちらも第3の最初のところで検討したわけですが,基本的には介護の必要性はあるけれども,資力も十分あるというような場合に,少なくとも他の親族に求償請求をすることはできないのではないかと思います。
  そうしますと,あり得るのは本人に対して請求するということなんだろうと思いますが,基本的に介護しているような場合というのは,介護している方も介護されている方も当然分かってやっているわけですので,通常の場合は,少なくとも生きている間にその分について報酬を請求したり,あるいは費用を請求すると,費用は分かりませんが,少なくとも報酬を請求するとという意思はないと思います。介護される側も,少なくとも生きている間は当然,無償でやってもらうという前提なのではないかと思いますので,そういった共通の認識がある場合に果たして事務管理のような形で当然に請求権を認めるということができるのだろうかと。
  仮に理論的にあり得るとしても,そういった形で,これまで無償でやってきたところを,本人が生きている間も,その労務の提供について,本人に対して報酬請求をすることができるというような制度を作ることが受け入れられるんだろうかというような疑問がありまして,そういった意味では生前はできないけれども,被相続人が亡くなって,一定の財産がある場合に,その財産に対して権利行使を認めるというのはあり得るのではないかということで,第3の制度を考えたところでございます。
○増田委員 一言だけ。死んでから紛争が生じるということを本当にみんな望んでいるんでしょうかという話なんですよ。生きているうちにきちんとお金を払ってから片を付けるんだったら,その方がいいのではないでしょうか。そういうことを考えると,契約するという方向をむしろ促進するようなメッセージを送るべきだろうと思っています。
○大村部会長 ありがとうございました。
○潮見委員 精神論は別として,堂薗幹事が先ほどおっしゃった意味がよく分からなかったんです。生前に合意があって,報酬請求権がその合意から出てくるのではないのですか。生前は請求できないけれども,当該合意なるものから報酬請求権というものが発生すると言って,どこが悪いのでしょうか。
  それからもう一つは,事務管理でどうして構成できないのかというのが分からなかったんで。もちろん事務管理でいった場合に,有益費用の償還請求止まりです。報酬というのは難しいですよねということはまた別の議論としてはあるのかもしれませんけれども,今おっしゃられた趣旨が正直言って,まだ頭の中で整理できませんでした。
  今,おっしゃられた例の場合には,身体の能力が欠如しているというか,不足しているから,それでやっている,やられている方も分かっているという場合については,そこに何らかの身体の介護等に関することを内容とする合意というものが成立している,つまり契約がそこで成立しているとお考えなのか否かです。
  それから,その契約に基づいて,今,申し上げたような対価請求権というものは出てこないとお考えなのか否かです。
  それから,そのような合意というものが私はそれほど簡単に認められるとは思いませんけれども,もし認められなかったような場合に事務管理という枠組みで構成をすることによって,少なくとも有益費用の償還請求まではいけるのではないか。その相続ということは考えられるのではないか。以上の3点についてお話をお聞かせいただけないでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には介護ですから,事実行為について,介護される側は要請をし,それに応じて,黙示的かもしれませんけれども,実際に介護をしているわけですので,そこには一種の準委任契約的なものがあるのではないかと。少なくとも一般的に事務管理で想定されているのはそういった要請などがないにもかかわらず,第三者が労務の提供をしたというような場合に費用請求できるかどうかというところですので,特に家族間で介護をしているような場合に,本当に報酬についてまで支払うという前提で介護を依頼しているのかという点については,こちらとしては極めて疑問に思っているところです。
  更に言いますと……
○潮見委員 ということは,無償の準委任契約というものがそこで成立するとお考えになっておられるということですか。
○堂薗幹事 委任ですからもともと原則無償なんだと思いますが,特に親族間でやっているような場合は,当事者間の合理的意思としてもそういう前提でやっているものが多いのではないかと思います。ここで問題となっている事案の多くは,少なくとも生きている間は労務の提供について支払請求をするということは考えていないけれども,相続になった場合にはやはり取り分は主張したいというものではないかと思います。しかし,相続人ではないために,それは第3の方ですけれども,請求できないというところがやはり問題で,更に言いますと,先ほど,御指摘がありましたように,少なくとも介護の場合は基本的には労務を提供しているわけですが,それに対して報酬請求ができないという点で,現行の事務管理には限界があるのではないかということです。
○大村部会長 増田委員あるいは潮見委員から御指摘をいただいた問題はあるのだろうと思います。寄与分を認める前の問題として,生前の当事者の関係をどのように理解するのかということがまず前提問題になるだろう。寄与分という制度を設けるとすると,生前の関係が寄与分によってどのように受け止められることになるのか。そこについて整理する必要があるのではないかという御指摘を頂いているのだろうと思います。
  今,お答えの中で堂薗さんの方から第3の項目の話が挙がっております。第3の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」というこの項目の中で,類似の問題が現れてくると思います。両委員,大変恐縮なんですけれども,そこで多分,同じ議論を繰り返すことになると思いますので,こちらについて事務当局の方から御説明を頂いた上で,この論点に舞台を変えて,更に議論を続けたいと思いますが,増田委員,潮見委員,よろしいでしょうか。
  では,そのようにさせていただきます。では,第3について事務当局の方から。
○合田関係官 それでは「第3 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明いたします。資料の13ページを御覧ください。
  第3回部会では,相続人以外の者の貢献を考慮するための新たな制度を設けるかどうかを検討するに当たっては,まずその前提として,現行法上,親族に対して扶養又は療養看護をした者がどのような法的手段を採ることが可能なのかを整理する必要があるとの御指摘がありました。
  この問題は元々,一定の親族が被相続人の療養看護等をしたにもかかわらず,その者が相続人でないために遺産の分配を受けることができないことによる不公平を解消しようとするものですが,このような問題の多くは通常,被相続人が要扶養状態にはないが,要介護状態にある場合に生ずるものと考えられ,扶養制度の見直しだけでは問題の多くが解決されないまま残ることになるものと考えられます。
  他方で,療養看護等の事実行為をしたものが相続人である場合には,被相続人の死亡後に寄与分の申立てをすることが可能ですが,療養看護等の事実行為をした者が相続人ではない場合には,これに相当する手段はありません。そのため,相続人でない親族が被相続人に対して療養看護等の事実行為を行った場合を対象として,相続財産について権利行使を求める新たな制度を設ける必要性があると考えられます。
  部会資料に記載しました二つの考え方のうち,本案は被相続人の直系血族,若しくはその配偶者又は兄弟姉妹で相続人でない者が,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に,相続人に対して金銭の支払いを請求する権利を認めるというものです。
  部会資料3では,相続人以外の第三者が療養看護又は扶養による貢献をした場合を対象として,新たな制度を設けることを検討しておりましたが,第3回部会では療養看護と扶養の場合のみならず,事業に関する労務の提供等で貢献した場合も想定した規律を検討すべきであるとの指摘がされました。
  そこで,本案では現行の寄与分制度と同様に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与があったことを要件として,相続人に対する権利行使を認めることとしております。
  権利行使の主体について,本案は相続人と近い身分関係の者が相続財産の形成に貢献し,又は被相続人の療養看護に尽くす事案を対象として,現行の相続制度が形式的に相続人を定めていることに伴う不都合を修正する制度としての意義を有するものです。ですので,権利行使の主体について基本的には相続人に準ずる法的地位にあるもの,すなわち現行の相続人と近い身分関係の者に限定することが相当であると考えられます。
  他方,本案は寄与の類型を現行の寄与分と同様としており,特に被相続人の事業に関する貢献は被相続人の兄弟姉妹にも認められる場合が相当程度あるものと考えられます。そこで本案では,権利行使の主体を被相続人の直系血族若しくはその配偶者又は兄弟姉妹であって相続人でない者としております。
  権利行使の相手方について,本案では遺産分割手続との併合を強制することによる不都合を回避する観点から,これとは別個,独立の手続において権利行使を認めることとしており,必ずしも相続人全員を相手方とする必要はないため,各相続人に対する個別の権利行使を認めることとしております。
  権利行使の手続について,本案ではこの手続における紛争を遺産分割に関する紛争とは分離して解決することを前提としております。もっともこの手続の相手方は遺産分割事件の当事者に含まれますので,家庭裁判所の裁量的判断により,遺産分割事件と併合することは当然に可能であり,これによって遺産分割事件との一回的な解決を図ることもできると考えられます。
  また,相続人にとっても相続人以外の親族からの請求があるかどうかによって遺産分割協議の内容も変わってくると考えられますので,紛争の長期化を回避するためには本案による権利行使が可能な期間を限定する必要性があると考えられます。
  この期間をどの程度とすべきかについては様々な考え方があり得ますが,被相続人の財産の維持,形成に特別の寄与をした者であれば,比較的,容易に被相続人の死亡を知ることができる場合が多いと考えられることなどからすれば,権利行使の機会の保障としては比較的短い期間でも足りると考えられます。
  そこで本案では,請求権を行使することができる期間を相続開始を知ったときから6か月あるいは1年以内としております。各相続人に対する請求金額について,現行の寄与分は被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができないこととされており,遺贈された財産について寄与分を認めることはできないこととされております。
  本案は相続人以外の者についても現行の寄与分と同様の要件の下で権利行使を求めるものですので,少なくとも寄与分が認められる相続人よりも有利な地位を認めるのは相当ではありませんが,相続人以外の者は相続債務は一切承継しないことになるため,権利行使の範囲を検討するに当たっては,この点を十分に考慮する必要があることになります。
  すなわち,本案においても現行の寄与分と同様の制限しか設けないこととすると,例えば相続財産が債務超過である場合には,相続人は寄与分が認められる場合でも相続債務を弁済した場合には,自分の手元に財産が残らない事態が生ずるのに対し,相続人以外の者については相続債務を承継しない結果,寄与分に相当する額が手元に残ることになり,結果的に相続人よりも有利な地位に置かれることになって,相当ではないと考えられます。
  このため,本案による場合には相続人以外の者の寄与分は,相続開始時における純資産額,これは積極財産から相続債務を控除した残額となりますが,この範囲で定めることとするか,相続人の遺留分を侵害しない範囲で定めることとするなどの方策を講ずる必要があるものと考えられます。
  次に別案について御説明いたします。別案は現行法の下では,相続人以外の第三者が要介護状態にある被相続人に対して療養看護等の事実行為をした場合に採り得る法的手段がないこと等を踏まえ,直系血族又はその配偶者がこれらの行為をしたことを要件として,相続人に対する権利行使を認めるという考え方です。
  別案においては,寄与の対象となる行為を療養看護等に限っていることから,請求権の範囲についても一般に療養看護等の事実行為を無償で行うことが多く,有償契約の締結等の手段を用いることが困難な者に限定する必要があるものと考えられます。そこで別案では,直系血族又はその配偶者に限って,権利行使を認めることとしております。
  その他の点については,基本的には本案で検討したことがそのまま当てはまるものと考えられます。本日は本案,別案,それぞれの考え方について御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の御説明の中で本案,別案という言葉を使われておりましたけれども,16ページの考えられる方策というところで①から④まで挙げられているものが先ほどの本案というもので,その下に別案と書かれているものがおっしゃった別案になるということかと思います。先ほど,途中で議論を打ち切って,大変恐縮でしたけれども,先ほどの議論というか,ここでの第2,第3の議論というのは,相続人に特別な寄与があれば現行法の下で寄与分というのが認められることが前提になっている。
  相続人の寄与であるけれども,特別でないというものについてどうするかというのが先ほどの議論だったと位置付けられるかと思いますが,今の第3の論点というのは,非相続人の寄与で,それは特別なものだと言えるかもしれないけれども,相続人の寄与でないものをどのように扱うのかということで御議論を頂くということかと思います。
  増田委員や潮見委員から御発言がありましたけれども,従来,認められているような寄与分というようなものに乗せる以前に考えるべき事柄というのがあるのではないかという御指摘を,先ほど頂いていたところだと了解しております。
  ということで,もしよろしければ,続けてどうぞ。
○潮見委員 意見として聞いておいていただければと思います。恐らく増田委員の基本にしている発想と同じだと思うですが,二つ申し上げます。
  一つは,被相続人が生きている間は何も財産的な請求権を有しないと。それが相続開始と同時にといいますか,それ以降は相続財産から自らが行った行為に対する対価,あるいは対価以上のものを取ることができるようになるということを,どのように正当化することができるのかということがよく分からない。
  それからもう一つは,先ほどの堂薗幹事の答えの中にもあり,若干,私も少し言ったかもしれませんけれども,仮にここで,今おっしゃった意味での準委任契約というものが成立している場合に,しかもそれが生前には何も請求できず,亡くなったら何らかの形で相続財産あるいは相続財産を超えて,引き出すことができるというようなことになるという,そのような契約というものを果たして無償契約と言ってよいものでしょうか。
  それが仮に無償とは言い切れないようなものであるならば,生前の場合に返って考えた場合に,これは2点目の続きになりますけれども,それを単に財産的な請求権がないというような形で説明してよいものでしょうか。むしろ,そこまで考えていったら,これは相続という枠組みは超えてしまいますけれども,本来考えるべきなのは介護だとか,あるいはそれに類するような事柄に関する報酬請求権の制度,対価を与える制度をどのように組み込んでいくのかというところがむしろ本来の姿ではないのかと感じた次第です。
  それから先ほど,準委任契約というのはそれほど簡単に認められるんですかということを申し上げましたが,準委任が認められない場合に,先ほども言いましたが,事務管理という枠もあるわけですよね。黙示的な合意というものが認められないということであれば,やはり事務管理という枠組みは残るはずなんですよね。
  これは繰り返しになりますけれども,事務管理の制度ですと有益費用は取れます。それに加えて,報酬請求権まで認めるべきなのかどうか,そしてまた,介護が問題となるような事務管理については報酬的なものまで踏み込んでいいのかという辺りを少し詰めて考えていただかないといけないのではないでしょうか。意見としてお聞きいただければということです。
○窪田委員 増田委員の先ほどのお話の続きでもいいのかもしれませんが,増田委員,それから潮見委員の御発言も踏まえた上で確認をさせていただきたいのですが,第3の部分,つまり第2の部分では寄与分という枠組みの中で扱っていたものですから,まさしく相続という仕組みの中で今のことを扱うことになっています。それに対して,第3では基本的には生前にいろいろな形で貢献をしたという人が相続人に対して金銭の支払いを求めることができる。こここでイメージとして想定されているのは,場合によってはまさしく事務管理に基づく有益費用償還請求権を具体的な局面に特別法として引き直したという説明も可能なのかなと思って聞いておりました。ですから,その意味ではお二人からの問題提起というのは,第3は第3で,また第2の部分とは違う答え方があるのかなと思いました。
  ただ,私の理解の前提が正しいのかどうかも分からないのですが,仮にそういう理解をしますと,なぜ請求権者が被相続人の直系血族若しくはその配偶者又は兄弟姉妹であって相続人でない者に限定されるのかよく分かりません。これは相続人でない者で構わないのではないのかなと。むしろ正しく相続人でないけれども,きちんとそういうふうな形で特別なことをやったことに対して,相続人はやはりきちんと清算をしなければいけないよと。清算というのは財産法的な意味ではないかもしれませんが,そういうニュアンスだとすると,ここで絞る理由というのが,ちょっとあとの方に書かれている理由を見ていてもよく分からなかったので,少し御説明を頂けたらなと思いました。
○堂薗幹事 今の点のお答えと潮見先生の御疑問に対する回答が若干かぶるところがあるんですが,こちらで考えているのは,要するに生前,無償でやっている,それが仮に準委任契約だとして,準委任契約の効果として,死亡した後に相続財産に対して何らかの権利が発生するということを考えているわけではありません。
  ですので,ここでは飽くまでも,本来的には相続,要するに被相続人の財産をどう分配するのが適切なのかという観点から考えた場合に,相続の根拠にはいろいろあるとは思いますが,被相続人の意思ですとか,あるいは財産形成に対する貢献あるいは相続に伴う財産関係の清算として,どういったものが法秩序として望ましいのか。そういったいろいろな観点から考えた場合に,相続人に近い親族がこういった療養看護などについて相当の貢献をしている場合には,相続の実質的な根拠から考えても,相続人以外の者に対して相続財産の分け前を与えることについては説明が付くのではないかと。
  そうであるにもかかわらず,現行法において,その人に対して分け前が与えられていないのは,それは形式的に身分関係だけで相続人を画しているからであって,そこの相続人の画し方というのは別に現行法の規律に限られるわけではありませんから,,その点について,相続人を形式的に決めていることに伴う不都合を一定程度解消するものとして,この第3の制度を考えたというところでございます。
  したがいまして,本来は遺産分割の中でこれも請求できるとした方が素直なんだと思いますけれども,そういうことにしますと,遺産分割の手続が非常に複雑化するということで,それは手続的な観点からあえて分けることにしたというにすぎないわけでございます。ですから,ここで考えているのは,飽くまでも本来は相続財産をどう分配するかという観点で考えているわけですので,契約構成を考えているわけでもありませんし,事務管理の特則という形で考えているわけでもありません。
○潮見委員 今の考慮は分かりますけれども,それだったらどうして生前の請求権に反映しないのかが私は分からない。
○大村部会長 生前ですか。
○潮見委員 生前です。生前に同じような行為をやっているわけです。そのやった行為をした人に対して一定の利益を分配しようというわけです。分配の理念というものは,恐らく今,相続というところでおっしゃられた事柄と同じような考慮がそこでも働くはずだと思います。そのような考慮が働かないというんだったら,なぜかということは示していただかなければいけないと思います。であるならば,少なくともこの問題を生前の問題から切り離して,相続独自の世界で財の分配という形で処理することに対しては,納得はできないということです。
○窪田委員 私の質問は,単純です。今のお話を伺って,堂薗さんが相続法の枠組みの中で解決しようとしてこの問題を捉えられているということは分かるのですが,16ページの考えられる方策を見ている限り,別に相続法の規律ではないのではないかということです。
  つまり,被相続人が受けた利益に関して,相続人に対して一定の金銭を求めることができるということだけだとすれば,別に相続人の範囲をもう少し広げましょうとか,そういうレベルで議論しなくてもいいのではないかということです。
  実質的にもこうした立て方は,例えば息子の嫁であるとか従来からも言われてきた相続人ではない者の寄与という問題に対して,あえて道を塞ぐわけですが,それほど頑張って,こういうふうに直系血族であるとか兄弟姉妹に絞らなければいけないという理由がやはり私にはよく見えないという。これは意見ということになってしまうかもしれませんが,確認だけさせていただけたらと思います。
○大村部会長 増田委員もずっとお待たせしていますので,増田委員に御発言いただいて,それで堂薗さんにまとめてお答えいただきます。
○増田委員 お2人のご意見に付け加えることは特にないのですが,やはり第3の方が第2よりもっと先鋭化していると思うんですよね。金銭的な請求権ですから,被相続人になかったものが何で相続人に発生するのかというのが分からない。要するに被相続人からある義務を承継したということだったら説明が付くんですが,自分は何も利益を受けていないのに,そこで義務が発生するというのが分からんわけですよね。
  第三者というか,相続人以外の人たちがやっている権利よりも相続人の相続分の確保の方が今の話だと優先するという感じですよね。プライオリティーからいっても,相続人の方が優先するというのは,遺留分を侵害しないとかそういう話になっているわけだから,それもどうかと思います。
  それからもう一つは,請求権者の範囲なんですけれども,相続人不存在の場合は特別縁故者に対する財産分与になって,誰でもいいわけですね。療養看護しましたという人は特別縁故者の範囲に入っています。この場合は誰でもいいのに,たまたま相続人がいることによって一部の人に限られるというのも,これもよく私には分からないところがあります。
  根本的にやはり分からないのは,同じことをやって,同じように一生懸命介護しながら,相続人と相続人の周りの一定範囲の人と全くの第三者とどうして違うんだろうかというのは一番分からないところです。
○窪田委員 すみません,発言の訂正をさせてください。先ほどの発言で触れた息子の嫁は,考えられる方策の中でその配偶者ということで入っておりますので,その部分については発言を撤回させていただきます。ただ,その点を除くと,質問の趣旨は同じです。
○沖野委員 増田委員と潮見委員に教えていただきたいことがありまして,生前か死亡後かで大きく法律関係が変わることを十分に正当化できないのではないか。逆に言うと,相続だけの問題ではないではないかということの意味は,生前からも具体的な請求権として立っているのであって,請求できると。したがって,例えば療養看護している者の債権者が差し押さえることもできる。そういうような権利として既に確立しているという御理解なのでしょうか。それともその段階では抽象的なというか,潜在的なものにとどまっていて,具体的に請求できるのは死亡してからとかいうようなことをお考えなのか,生前,完全に普通の債権として立っているという御主張なのかどうかというのを教えていただけたらと思います。
○潮見委員 違っていることを考えているかもしれません。私は前者で考えています。
○沖野委員 普通の債権として立っているということですね。
○潮見委員 はい。どう組み立てるのかということを考えた場合には,そういうふうに考えて。
○大村部会長 潮見委員がおっしゃっているのは,生前から債権が立っているのならば,その債権を行使すればいいし,立っていないのならば何もできないでしょうと。どうして性質が変わってしまうのですかという,そういう御趣旨ですよね。
  沖野委員がおっしゃっているのは,それとは違う理解の仕方がありませんかということを含んでいますか。
○沖野委員 そういうことを含んでのお考えだったのかなと考えておりました。つまり,性格としては法的な性質は事務管理等の性格を持っているのだけれども,端的に請求できないか,あるいは生前はむしろ請求しないというのが当事者の意思だというような説明ではないかと。そうしたときに,それを普通の債権だとか,あるいは相続債権者として扱ってよいのかという正にもやもやとしたものをここで受けようとしているという考え方もあるのではないかと思っております。
  場面は違いますが,夫婦の実質的な財産の清算の話では,寄与があるけれども,そこは債権としては端的には立っていなかったり,所有権としては認められていなかったり,しかし,ある段階で具体化して清算しようというような話がありますので,それと似たような構造をここに見ているというのが事務局提案だと考えております。事務管理という場合に,性格的にはそういった性格を持っているという説明もありうると思われたものですから,うかがいました。
○潮見委員 ちょっとだけ言いますと,債権は具体化しているかどうかということであれば,具体化していると思います。そのときに今,沖野委員がおっしゃった最後の部分ですけれども,恐らくそこに生前は請求しないという特約が付いていると考えれば,事務局提案で言っているようなことを言わなくても足りるんではないのかとの感じはしています。
○山本(克)委員 今の沖野委員と潮見委員のやり取りを聞いていてよく分からなくなったんですが,相続人が限定承認をした場合に,相続財産の限度で支払えというのが相続債務の場合にはあり得るんだけれども,この金銭債権に係る義務,債務との関係ではそういうことは生じないということなんでしょうか。つまり限定承認の場合の扱いを教えていただきたいと思います。
○堂薗幹事 こちらは債権としては成立していないという前提ですので,限定承認のような場合には請求できないことになり,相続債権者に劣後することになると思います。
○潮見委員 それは違うでしょう。
○山本(克)委員 それはおかしいんではないでしょうか。なぜ相続債務,劣後するという話は。それよりもむしろ固有債務になるのではないか。相続人の固有債務であるような説明をされたような気がするんですが。
○堂薗幹事 この制度は,プラスの財産がある場合に分け前として与えるような性質のものと考えています。
○山本(克)委員 その問題と額をいかにして決定するかという問題と,それが限定承認の対象となる債務になるかというのはまた別問題だと説明しないと多分,崩壊するんではないでしょうか。
  つまり潮見委員がおっしゃっているのは,立場で金銭が具体化していないけれども,生前から存在するという立場もあり得るわけですよね,潮見委員がおっしゃるのと堂薗さんがおっしゃるものの中間として。それを具体的な額を形成する裁判として家事審判が入りますと。でも,相続債務としての性質を失わないと,そういうふうにおっしゃれば,限定承認の場合に相続債務の限度で支払えという主文になるはずなんですよね。
  ところが,堂薗さんの御意見は,それは全く生前にはなかったものをこの審判によって生み出すんだとおっしゃっている以上は,固有債務なので額の決め方についてはおっしゃるとおり,純資産額で限定を加えるかもしれないけれども,やはり固有債務なのではないかなという気がする。でないと,限定承認で対象になるのは飽くまでも相続された債務ではないですか。相続された債務でないとおっしゃっていて,相続された債務ですと今,おっしゃるのはやはり矛盾しているような気がしますけれども。
○堂薗幹事 十分に理解できていないのかもしれませんが,飽くまで第3の請求権者には,この要件の下に基本的に相続人と同様の地位を与えます。その場合の相続分としては,その者の貢献の程度を考慮して裁判所で決めますというだけですので,具体的に何らかの債権を持っていて,それを行使するという前提ではないということです。
○山本(克)委員 しかし,審判が出れば,債務名義化されるわけですよね。
○堂薗幹事 ですから,そこは基本的にはプラスの財産がないような場合は認められないという前提です。
○山本(克)委員 限定承認をするかどうかというのは,プラスがあるかないかではなくて,仮にマイナスだったときに備えて限定承認するわけで,債務超過であるということは前提としていないはずですよね,限定承認には。だから資産超過であって限定承認した場合に,相続財産の限度でという留保を付けた審判をすべきかどうかということを伺っているわけです。
○山本(和)委員 それは債権と,一応,被相続人の資産と債務が確定するということを前提として,プラスのところの範囲内でどれぐらいかということを裁判所が審判で決めるということなので,相続財産の範囲でということは要らないという前提を採られている。そこは決まっているという。
○山本(克)委員 相続財産の範囲でというのを,つまり差押え可能財産の範囲を限定する効力があるかどうかというところと関連するので,差押え可能財産が保有財産まで,当然にその場合でもいけるんだという立場を採れば別ですが,そこが問題。
○山本(和)委員 それはいけるという前提なんではないでしょうか。金額のところであれするという前提を採られているんだと。
○山本(克)委員 それでもう1点,それとの関連で。資産超過だと思って審判を出して確定してしまいましたと。後に債務超過であるということが何らかのことによって,資産が毀損するとかあって,相続財産破産になってしまいましたというときに,届出はできるんでしょうか。
○堂薗幹事 相続財産破産だとできないということになるのではないでしょうか。
○山本(和)委員 それは恐らく審判が実態的に見て誤っていたということなので,だから取消しができるんであればあれですけれども,再審事由がなければ。
○山本(克)委員 ただ,債務超過の発生というのは必ずしも相続時に,開始時に資産超過であっても,立派な豪邸があったのに焼けてしまったということで,それで保険が掛かっていなかったというようなことで減ることもあり得ますよね。
○堂薗幹事 そもそも今の場合は相続債権ではないという理解です。
○山本(克)委員 ですから,今のは和彦委員に対する反論ですが,実態的に間違っていなくても,基準時の取り方次第では債務超過になるということがあり得るんではないかという前提でお尋ねしたという。
○山本(和)委員 それは相続開始のときに相続共有が発生しているので,だからそれはそれで仕方がないという理解ですかね。
○堂薗幹事 先ほど言ったのは破産債権ではないという。相続開始前の原因に基づいて生じたものではないので,そもそも相続財産破産で債権者たる地位は与えられないのではないかという趣旨です。
○山本(克)委員 すみません,しつこく言って。結局,そうすると理念的には限定承認の対象になる債務ではないということとパラレルでないとおかしいはずなので,そこは。それだけを確認したかっただけです。
○堂薗幹事 1点,御質問させていただいてよろしいですか。潮見先生のお考えによる場合に,例えばボランティアなどで労務の提供をした場合に,それは事務管理として請求できることにならないですか。
○潮見委員 有益費用はできるでしょう。事務管理だと主張するんであれば。
○堂薗幹事 そうすると,費用だけであれば事務管理ということになると思いますが,ここで問題となっているのは介護をした場合の対価ということになりますので,逆に言うと,何で療養看護をしたときだけ報酬まで請求できるようになるのかと。
○潮見委員 そこまでの部分についての何らかの補填ということをしたいということで今回の議論は出ているのではないのですか。そこが違うというのだったら,それはそれで構いませんけれども。こういうものについては,何らの報酬等については払う必要はないとまでは言っていないのです。
○大村部会長 潮見さんがおっしゃっているのは,相続が始まって,このような形で処理をするということを考えるならば,論理的な前提として,生前にも請求権が立つはずである。そちらをまず対処すべきではないかという,そういう御発言ですね。
  相続法の中で問題を捉えなければいけないというのは,介護についての一定の給付というのを介護を行った人に認めてやろうという,そういう前提に立っているのだろうから,正面からそれを認める方向で考えるべきではないかと。増田委員も多分,そういう御趣旨の発言だったと思いますが,沖野委員は違うスタンスだったように思いましたが。
○沖野委員 自分のスタンスとして確固たるものはないんですけれども。それぞれの考え方がどういう立場に立っているのかというのを解明したいということです。
  ただ,あるいは堂薗さんがおっしゃっているのは,基本的にはできないところを,それは相続財産があるから,積極財産である意味,所詮,棚ぼたではないかというようなものがあるときには,今おっしゃったような本当は報酬まで取れないというようなものでも,ここは広げましょうと。ほかでは報酬までは取れないのに,なぜここだけ取ろうというのかというなら,およそ最初から事務管理も全部,報酬も取れるしということにすべきではないのかということになるのでしょうけれど,何か特別なことを入れているのは,やはり相続だからということを入れざるを得ないのではないかという御説明なのではないかと伺ったんですけれども。
○堂薗幹事 そういう趣旨です。ありがとうございます。
○増田委員 相続だからというのではなくて,そういう介護という事務を行ったからということができないかということを考えているわけなんですね。事務管理であっても,お医者さんは報酬を取れるんですよ。死にかけの人を治療して報酬を取れないなんて,そんなばかなことはないわけですね。
  かりに健康保険法などの特則が適用されなくても,それが取れるのは,通常は有償で行う業務の範囲だからだろうと思うんですね。それを考えると,現行法の解釈としても,介護行為に対しても同じように考えていいんではないかと。
  また,これは立法の議論をしているわけですから,何も現行法に明文の報酬請求権がないからといって,それに縛られる必要はないと考えます。現行民法制定時とは違って,介護保険制度があるように,介護というのが通常有償でなされるべき行為として浮かび上がってきているわけだから,その現状を背景にして立法できないかという話をしているわけです。
○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かりましたが,そうすると一応,制度としては生前も本人に請求自体はできると。だけど,実際には余り生前に請求することはなくて,通常は死亡した場合に使われることが多いのではないかという前提で制度を作った方がいいのではないかという御趣旨ということでよろしいでしょうか。
  仮にそうだとすると,生前に請求できるということ自体がかなりご批判を呼ぶことは間違いなくて,家族間でありながら生前本人に対して介護の請求をできるような制度を作ったのかという批判がされることは十分に予想されるところなので,なかなか難しいのではないかなというのが正直な印象ですが,ご指摘の点も含めて,どういった方法が考えられるのか,さらに検討はしたいと思います。
○増田委員 一生懸命介護をやっていたのに,ある日突然意思能力がなくなって,お前なんか寄せつけへんというようなことになったとき,どうなるのかという話もあるのではないですか。生きているうちに請求できても私はいいように思いますけれども。
○大村部会長 村田委員から手が挙がっていましたので,まず伺ってからにさせてもらってもいいですか。
○村田委員 潮見委員,増田委員のおっしゃるところは一法律家として非常によく分かる御意見で納得できるところがあるんですけれども,他方で,今回のテーマにしても,この部会でやっている一連の議論の中で,事務局の方でいろいろ御提案されているのは相続の実質化というか,実質的公平を図ろうという一貫した趣旨に基づくものであり,別の言い方をすると,その枠の中で何ができるかということをいろいろ御提案されているんではないかとも思うんですね。
  確かに在るべき姿からしたときに,相続と全然違うアプローチから考えられるのではないかという御指摘については,立法論としてはあり得るとは思うんですけれども,だからといって,相続という切り口から何かできないかと考えることが否定されるのかというと,そのようなことにはならないのではないかと思うんですね。ほかに確固たる手段があるから,ここで考えていることの立法事実がないんだというところまでおっしゃられるんであれば,それは突き詰めるべきかと思いますけれども,そうでなくて,オプションを幾つか広げようということであれば,この相続の場面に限定して,取りあえず何が考えられるかという議論をした方が,議論が集約していくんではないかと考えられるんですけれども。
  ここで言われている請求権者についても,相続の実質化という観点からある程度,類型化して枠をはめないと,相続という中では説明できないということで限定をされたのではないかと考えていたので,それはそれなりにお考えになられた提案ではないかなと受け止めました。
○潮見委員 村田委員がおっしゃるのは,非常によく分かるんです。法制審でも最後の段階辺りでしたら私は同じことを申し上げると思います。ただ,今の段階で,相続という観点からどういう切り口があるのかを考えていくことについても,私は異を唱えたつもりは今のところはございません。
  むしろ言いたかったのは,今の段階で,しかも相続の実質化という観点からどういう切り口があるのかを考えていくときに,隣接するような問題とかあるいは相続には絡まないけれども,しかしそれに関わるような,しかも特に密接に関連するような事項があるのであれば,それをはなから検討せずに,ここでの説明の中で「できません」という一言だけで片付けて,それでこういう議論をするということ自体に対する違和感というものを少なくとも私は感じて,発言をしたところです。
  恐らく増田委員の背後にも同じ理解があるのではないかという感じはいたしました。取り分けこの問題では,介護行為,営業用看護行為というものに対してどういう評価を与え,その行為をしたものに対してどのような報酬とか対価とか,あるいは出捐した費用を償還させるのかということがメインの問題の一つとしてなってくるわけであって,その部分のスキームを考えずに相続からの切り口だけで問題を処理する方向を一生懸命考えましょうというのは,ある意味では片落ちではないかと思いますし,もちろん堂薗幹事がおっしゃられたとおりで,そこまで広げて,生前の問題の介護についてまで制度をざっくりと変えましょうといったような場合には,恐らくそんなところまでという反発が来るというのは,私も当然,それはあると思いますけれども,しかし,その反発がもちろんあるということも踏まえながらも,しかし,現在のところではここまでできますと,あるいはこういう問題がありますというところぐらいまでは,法制審の部会ですから,せめて最初の段階辺りあるいは中盤段階では議論をしておいた方が,あるいは検討しておいた方がいいのではないかと思って発言をした次第です。
  その結果として,先ほど,沖野委員がおっしゃられたような問題とか,あるいは審判上の問題というのも出てきたわけですから,そういう部分の成果というものを踏まえて,次の段階にまた進んでいただくのであれば進んでいただければと思います。少し気になりましたので発言させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。村田委員のおっしゃったことと潮見委員がおっしゃったことは多分,両立しているのだろうと思いますので,この部会の中で議論できる問題とできない問題とあろうかと思いますけれども,枠を絞るとしても,周辺との関連付けは必要であろうという御趣旨での発言だと理解させていただきたいと思います。
○八木委員 関連すると思うんですけれども,このテーマは社会的なニーズもあって,目指す方向には大賛成なんですけれども,確認なんですが,寄与分の法的性質についてですね。これは相続権の一部と考えなければならないと思うんですけれども,相続人でない者に果たして寄与分が認められるのかという基本的な確認なんですが,その辺はいかがでしょうか。
○堂薗幹事 そういう問題はあるわけですが,現行の相続人自体が一定の判断の下で一定の身分関係の者にのみ認められているというところがありますので,そこは必ずしも絶対的なものではないと思います。法定相続分という形で割合的に常にもらえるような相続人ではないんですが,一定の貢献をしている場合にはそれを要件として,相続人に準ずる身分関係を有する者についても相続人とほぼ同様の法的地位を与えるということはあり得るんではないかというのがこちらで提案した内容ということになります。
○八木委員 そうだとすると,この904条の2だけをいじるだけで解決する問題なのかどうかと。ほかのところに波及しませんかと。そもそも相続とは何なのかという部分の考え方が変わってくるのではないかという疑問です。
○堂薗幹事 今の御指摘も先ほどの潮見先生の御指摘も同じように,こういった制度を新たに設けることによって,ほかの制度あるいは現行の制度にどういった影響を与えるかという点の検討をもう少しすべきではないかという御意見だと思いますので,その点は検討したいと思います。
○山本(克)委員 本案と別案という言い方なんですが,これは非両立ではないわけですよね。両立はするように思ったんですが。
○堂薗幹事 別案は基本的に貢献の対象を療養看護だけに絞ったということです。
○山本(克)委員 そうですか。しかし,これは本案は財産の維持,増加が要件で,後者は要件ではないというんで,どうも非両立するように思ったんですけれども。
○堂薗幹事 そこは療養看護だけに寄与の対象を限定した場合に,財産の維持又は増加についての特別な寄与という書き方がいいのかどうかというところが若干あって,こういうような表現をしていますが,こちらの意図としては飽くまで寄与の対象を限定したという趣旨です。
○山本(克)委員 そうですか。一応,非両立だとお考えになっているということですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 でも両方,一度,立法化することも可能なようではないのかなと思うんですが,その場合に第2の方と別案の関係なんですが,片方が具体的な金額化された主文で給付命令を出すというのと,片方は寄与分の割合を宣言するという審判をするということを想定していることがうまく説明できるのかなという気がしたんですが。
○大村部会長 第2というのは先ほどの論点の第2ということですね。
○山本(克)委員 はい。
○堂薗幹事 ですから,こちらで考えているのは,別案も飽くまでも財産上の特別な寄与があって,それについて金銭請求しか認めないという趣旨ですので,そういった意味では第2とは全然,性質が違うということになるかと思います。
○山本(克)委員 何か同じように見えたんですが,それは違うんですか。また結局,潮見さんや増田さんが提起された問題につながるんですが,なぜ相続。本当の狭い意味の相続の範囲だったら,割合的な問題になり,本来,相続人ではない人のところにいくと金銭債権になるのかと。それは相続法だと言えるのかなという気がするということです。
○藤野委員 私は一つ教えてほしいんですけれども,堂薗さんの御発言の中で,家族だからという意見がありまして,相続人という考え方と親族というんですか,姻戚も含めた考え方と,あと同居人という考え方があると思うんですけれども,家族と今おっしゃったのは一緒に住んでいるということを指しておられるんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には一定の身分関係にある親族という趣旨です。
○藤野委員 相続人ではないけれども,一定の身分関係にある親族ということですか。
○堂薗幹事 はい。親族が介護した場合は,特に基本的には無償で行うことを考えているんではないかと申し上げたのは,基本的には相続人も含めてですけれども,そういう御本人と近い身分関係にある者については,一般的にはそういうふうに考えておられる方が多いんではないかという趣旨で申し上げたと。
○藤野委員 分かりました。例えば現行法の中でも遺言とか養子縁組とか,そういう方にも何らかの遺産がいく法立てはありますよね。そこにもう一つ加えて,今,契約というお話があるんだと思うんですけれども,現行法を活用することでうまくいくことと,今の現行法を変えなければならないということが今一つ,よく分からなくて,先ほど,窪田先生が親族の関係のところを取ってしまって,これを適用するとしてもいいのではないかとおっしゃったんですけれども,その辺りがやはり家族というか,今,堂薗さんがおっしゃる定義に限って,この法律を変えようとしているところが何か意図というか,家族に介護をさせるというのを感じるんですけれども。
○堂薗幹事 そういった御批判は当然あり得るだろうと思います。ただ,こちらで考えているのは,この制度については,やはり相続の枠内で考えざるを得ないのではないかという前提がありましたので,その場合に余り権利行使できる人を広げすぎると,非常に紛争が複雑化することになるので,そこはできるだけ限定すべきではないかという考えの下に,このような説明をしているということでございます。
  ただ,相続とは完全に離れて,事務管理の特則になるのかよく分かりませんが,そういった制度を設けるということであれば,あえて請求権者の範囲に限定する必要はなくなるのではないかという気がいたします。
  それから先ほどの山本克己先生の御指摘とも絡むんですが,ここは繰り返しになりますが,こちらの考えとしては,本来は遺産分割の中で清算すべき問題ではないかという整理だったんですが,前回の御議論で遺産分割の中で一遍にやると非常に紛争が複雑化して,それは実務的にももたないだろうということで,そこは飽くまで手続的な観点から手続を分けたという説明ですので,そういった意味で,例えば民法910条ですか,後から認知されて相続人が出てきた場合には,金銭的に解決するという規定がありますが,あれと若干似たような趣旨で,この場合には金銭請求しか認めないようにして,そういう紛争の複雑化を回避しようとしたというのが一応,こちらの考えということになります。
○窪田委員 コウモリみたいにあっちに行ったりこっちに来たりということで申し訳ないのですが,少し戻りますが,潮見委員から問題提起があったことというのは私もそのとおりだろうと思います。村田委員からもすでにお話をいただいたところですが,基本的には正しくこの中にも挙がっている農家の嫁というようなものについては,ずっと貢献していたにもかかわらず,それを相続という枠組みに反映させる方法がないために,相続人である夫の寄与分の中に組み込み,そして,夫の死亡後は代襲相続人である子供の寄与分という形で組み込んでというような,かなり無理な形で今までは解決してきたということがあるのだろうと思います。
  その意味では,本来,これは相続人ではない者についての貢献の問題ですので,本来,相続法の枠組みの外である問題であるということは当然なのですが,にもかかわらず,そういうふうに解決をしてきたということについては,今回,法務省だけがそういう問題について財産法的な請求は難しいと考えているわけではなくて,恐らく家族法の世界では財産法は十分にはこの問題を受け止められないんではないかという認識で来たのではないかと思います。その意味では私自身は今回,こういうふうな問題の立て方をしているということについて,十分に理解はできると思いました。
  ただ,その上で繰り返しということになってしまうのですが,そうだとすると,なぜ更に相続という枠組みにこだわらなければいけないのかという点が問題となります。また,そこで相続に関わるということの意味なのですが,先ほど,沖野委員からもちょうど触れられた点かと思うのですが,要は相続というのは棚ぼたでぽとんと落ちてきた。落ちてきたものが残っているのだったら,そこに対して請求しようというものを認める。この実態は一体何なのかというと,本来は恐らくやはり事務管理としての性格を持っているものなのだろうけれども,それが言わば相続という局面において,相続財産に対する処理という枠組みの中で具体化されて,特別法として特別のルールによって規定されたという位置付けを考えることはできるのではないかと思いますし,生前からあったものに対してこの部分で行使するのだというと,恐らく時効の問題とかも出てくると思いますので,そうした点でもこういう方向というのは十分にあり得るのだろうと思います。
  そこから後は繰り返しになってしまうのですが,だとすると,こうした権利を認める者を限定する必要はないんではないかという気がします。私は最初,案を見たときに全然違う分野ですが,民法711条,近親者の慰謝料請求権を想起しました。あれは両親,配偶者,子供と限定されていますが,少しずつ広がってきた。ただ,あれはある意味で精神的苦痛を受ける人を近親関係で絞ろうということがありますので,まだ一定の範囲に区切るとかということも理解できるのですが,この局面においては限定することについて合理的な説明というのがやはり難しいのかなという気がします。
  ある意味で近親者であれば,一定の法的な義務はあるのではないか。あるのだとすれば,それに基づいて履行している以上,むしろ請求できないのではないか。より遠い人はそういう義務がないにもかかわらず,やっていた場合には何ら手当がなくて,それは財産法でいってくださいと。しかし,その場合には財産法は本当に受け止められるのという問題に直面することになると思いますので,この点だけは是非御検討いただけたらと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○米村委員 議論なされたことを法律論の外側から要望として申し上げますと,介護ストレスや負担が特定の個人に集中していることについての負担感や不公平感は広く社会に広がっています。そうした現状に相続という枠組みからどのようにこたえることができるのかという関心は,社会的に大きくあると思います。何ができて,誰が救われて,誰が救われないかということが説得的でないと,かえって新しい不公平感を助長するのではないかという懸念もあります。広く人々が了解できるような制度設計を是非お願いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。様々な御意見を頂いておりますけれども,相続が開始することによって既存の権利関係が変化するのかしないのか。変化するとしたときに,それは相続人の権利が変化するにとどまるのか,それともそうではなく,およそ相続財産を引当てとする権利については同様に変化すると考えるべきなのか,というようなところで各委員の御意見が対立しているように思いますけれども,なかなか決着をつけるのは難しいところです。どういう整理でこの制度を構築するのかということについて,皆さんの方から,どれになるかはともかく,もう少し検討する必要があるのではないかと,こういう御指摘を頂いたと受け止めております。
  取りあえず今の点につきましては,そのようなまとめで引き取らせていただきたいと思いますけれども,さらにこの問題につきまして御発言がありましたら伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○西幹事 このような場でこのようなことを申し上げるのはどうかという気はしますけれども,実際に今,先生方がおっしゃったような法的構成,財産法的な,できれば生前の処理をすべきだというのはよく分かります。もちろん当事者が両方生きていますので,実際,どの程度の寄与があったのかというのも分かりますし,その法的処理の意義は非常によく分かるのですけれども,社会の実態として見たときに,例えば私は,祖父母の介護をしなければいけなくなったとき法定相続人ではない私が行くということになった場合,そのときに報酬を自分は請求できる権利があると分かっていたとしても,絶対に請求しないと思うのです。多くの人がみんな,そういうふうに動いていると思います。それでもし相続のときにまとめてもらえるのであれば有り難いという。
  そういう人を救いたいという気持ちがやはりあって,そうなりますと,実際に契約構成でもらってこなかった以上,貢献した人に何とか報いるために今の相続の段階で何とかしたいという気持ちになります。他方,先生方からお話がありましたように,それを一度認めてしまうと,制度としてそれができてしまうと,今,介護したらいずれ相続のときに報われるのだからということで,介護の無償性とか家庭内化が固定し,介護の社会化が進まないという問題が非常に大きいものとしてあります。
  ただ,そうなったときに,だから生前でみんな処理するようにして,相続のときには駄目だから早目にみんなやりましょうと言うことで回るのかというと,やはり今,目の前にいる貢献したけれど何ももらっていない人を救いたいという思いもあってジレンマが続くと思うのです。そのジレンマはどこかで断ち切る必要があると思いますけれども,ただ,ある時点でぱたっと切られてしまうと,やはり国民としては非常に裏切られたという気がすると思います。
  今の履行補助者構成では無理であるとかいろいろな問題があって,生前の処理に移すのであれば,何らかの受け皿をしばらく過渡的なものとして用意しておいていただきたいと思います。その過渡的な制度としてどういうようなものが考えられるのかと言われますと,全然,何も思い付かないのですけれども,例えば意識の面では黙示の遺贈というイメージでしょうか。遺贈というともちろん要式行為性の問題がありますので,それを黙示でできるかという話はありますけれども。つまり相続債権者にはもちろん劣後しますけれども,何らかの形で余ればもらえるという,そういう辺りなのかなという気もします。
 あるいは生前に請求するという発想はないとしても,もらえるものならやはりもらいたいという気持ちがあると思いますので,贈与を促すような何らかの仕組みを作っていただくと非常にうれしいのですけれども,その仕組みとしては,例えばもちろん皆さん,早目に財産をあげましょうということを言うのもあるかもしれませんが,税制をそのような方への生前贈与について非課税にするとか,法律の外でできることもあるのではないかなという気がします。いずれにいたしましても,何らかの受け皿を過渡的に用意していただきたくて,ただ,それは固定化するものであってはいけないと思いますので,このような相続の枠内でというのはどうかなという感想です。
○大村部会長 ありがとうございます。幾つかの考え方があると先ほど申し上げましたけれども,どれかを採るということではないだろうという御意見だと伺いました。仮に契約的な構成が我々の社会の進むべき方向だとしても,現状で何か受け皿が必要ではないかというようなお話だろうと思います。
  反対に相続時に清算がされるのだとしても,生前に契約をするということを阻害する必要もないので,それはそれでそういうこともあり得るというようなことを併せてメッセージとして発することもありえます。先ほど,委員の方々の御理解は幾つかありましたけれども,その中で択一的な解決を採らなくてもいいかもしれないという御指摘として承りました。
  ほかにいかがでございましょうか。
○森委員 基本的には先ほど,村田委員が指摘したことに賛成なんですけれども,今回,御提案になっている新しい寄与分に似た制度として,特別縁故者の制度がございます。特別縁故者の制度が創設されたときも当然,潮見先生,その他の方が御指摘になった点が議論されていたんだろうと思うんです。それがどう収れんしたのかということは,今回の議論にも役立つのではないかと思います。
  実務上,相続財産管理人が選任されている事件では,特別縁故者からいろいろと申立てがされることがありますが,主張を分析して請求権として立つ場合には,生前の被相続人に対する債権者として扱うこともオプションとしてはあり得ます。もっとも,請求権としての立証が難しい場合にはそうしたことはできないわけですが,御提案に係る新しい寄与分の制度についても,被相続人の息子の配偶者のような方が寄与分の立証をできないときにどういうオプションで救済するのかということが議論のスタートにあったように思うんですね。
  そうした議論をする際には,例えば特別縁故者の制度が創設されたときの議論の背景を参照するなどして,一歩でも二歩でも議論を進めていただければなと思った次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。大変貴重な御指摘をいただいたと思います。これまでに我々が作ってきた制度の中でどんなふうに考えられていたのかということを振り返って,参照できるものは参照していくということは非常に重要だと思います。
  ほかに。
○水野(紀)委員 今の森委員の御発言をうかがって,少し付け加えたいことがございます。特別縁故者を考えた当時,念頭にあったのは内縁の夫婦とか事実上の親子ということでした。それはやはり家族ということを考えたのだと思います。家族はその中にケアをされないと生きていけない弱い存在,あるいはお金を稼げない弱い存在を抱えています。そして家族は,財とケアを持ち合って生存を支え合う最小の単位です。
  必ずしも法的な家族とは一致しなくても,そういう支え合う義務感で支え合ってきた事実上の家族がいたときに,相続にあたって,それにふさわしい一定の財産権を与えるべきだという発想がありました。また,事実上の家族は法的な家族と同じように扱うべきだという中川先生の当時の通説的な考え方も,その背景にあったのだろうと思います。
  私は内縁準婚理論に代表される,このかつての通説的な考え方には反対の立場ですが,ただ,そこからやはり酌み上げるべきものはあると思います。つまり,家族とはそういう義務を負い合うものであるという考え方は,そう簡単に吹っ切れるものではないと思うのです。もちろん,私自身,老親介護の対価を相続時に与えるからということで,ケア役割を事実上,家族に,ことに嫁に強制することに対しては非常に批判的で,何とか介護労働を財産法的なもので整序していけないかと思います。そしてケア役割の法的義務づけは,夫婦間と幼い子供を育てるときだけに限るべきではないかという発想で,基本的には家族法の解釈をしてきました。ですから,潮見委員たちの言われることもよく分かるのですが,ただ,やはり事実としてそういう家族ゆえの義務感を持って行うケアの場合と,赤の他人がボランティアでやってみようという場合とでは,ケアを行った者の救済の必要性において違いがあり,一線を画しているように思います。そういう義務観念をもって義務を果たした事実があったときに,一定の割合でそれに対して配慮することも必要でしょう。結論的には局長がおっしゃったことと同じようなことになるわけですが。
○大村部会長 ありがとうございました。本日の議論はなかなか難しくて,非常に手続的な細かな議論から原理的な大きな議論まで出てまいりましたけれども,相続法の問題というのはそういう問題が多いのだろうと思います。それで事務当局としても準備は非常に大変だと思いますけれども,本日頂きました御意見を踏まえまして,更にまた案を練っていただきたいと思います。
  この辺で本日のところは閉会ということにしたいんですけれども,よろしゅうございますか。
  それでは,次回の予定等につきまして,事務局の方からお願いいたします。
○堂薗幹事 どうもありがとうございました。
  では,次回ですが,次回日程は御案内のとおり,12月15日,火曜日の午後1時半から5時半ぐらいまでということで,場所はこちらの20階,大会議室ということになります。次回は遺留分制度の見直しについて二読を行うということを予定しておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。
○大村部会長 本日も熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
  これをもって閉会させていただきます。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第8回会議 議事録

第1 日 時  平成27年12月15日(火)自 午後1時29分
                      至 午後5時26分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第8回会議を開催いたします。
  初めに,配布資料の確認を事務当局の方からお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,関係官の渡辺から,本日の資料について確認をさせていただきます。
  今回の配付資料は,事前に送付させていただきました部会資料8「遺留分制度の見直し」でございます。お手元にない方,いらっしゃいますでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございました。それでは,今御説明いただきました部会資料8に基づきまして,本日は遺留分制度の見直しにつきまして御検討いただきたいと存じます。中身は,御覧いただきますと,「第1 遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」という項目から始まりまして,4ページに「第2 遺留分の算定方法等の見直し」という項目がございます。そして,最後が15ページになりますけれども,「第3 その他」となっております。都合3項目ございますけれども,これを三つに分けまして御審議を頂きたいと思います。第2の審議の途中で休憩を入れさせていただこうと考えております。
  それでは,「第1 遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」という部分につきまして,まず,事務当局から御説明を頂きます。
○渡辺関係官 それでは,御説明させていただきます。遺留分につきましては,複雑で技術的なところがかなり多うございますので,いつもより少し丁寧に御説明をさせていただければと考えております。
  まず1ページを御覧いただきたいと思いますけれども,今回は甲,乙,丙の3案を掲げさせていただいております。まずはその概略から御説明をさせていただきたいと思います。
  まず,甲案でございますが,①から⑦まで規律を用意させていただいておりますが,大きく分けると三つの部分になります。まず,一つ目でございますけれども,これは①でございまして,「遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,相当の期間を定めて,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができる。」という部分でございます。これは,遺留分を金銭債権化するというものでございまして,甲案の中核となる部分でございます。
  次に,二つ目でございますけれども,⑤と⑦の組合せでございます。まず,⑤で「①で定めた期間内に履行がなかったときは,遺留分を侵害された者は,民法第1033条から第1035条までの規定に従い,遺贈及び贈与の減殺を請求することができる。」としております。これは,遺留分を金銭債権化した場合であっても,遺留分の弱体化を防ぐための手当てとして,現物返還の道を残すというものでございます。そして,⑦として,「⑤による減殺請求がされたときは,①の金銭債務は消滅する。」としまして,現物返還と金銭債務との関係を定めたというものでございます。
  最後に,三つ目でございますけれども,②,③,④,⑥の組合せでございます。②は,受遺者又は受贈者側から全部又は一部について現物返還の主張を認めるというものでございまして,③は,今度は反対に,遺留分権利者側からも同様の主張を認めるというものであり,そして,④は,現物返還の範囲や対象について,当事者間の協議が調わない場合には,裁判所がこれを定めるというものでございます。これは,現物返還を認める場合であっても,複数の物件に共有関係が発生するといった複雑な法律関係にならないような解決を図ることを目指すものでございます。そして,⑥として,②から④までの規律に従って遺贈又は贈与の目的財産が返還されたときは,①の金銭債務は消滅するということとしております。
  続きまして,乙案でございますけれども,乙案につきましては前回と変更した点はございませんで,遺留分についての具体的な権利は,当事者間の協議又は審判等において分与の方法を具体的に定めることによって初めて形成されるということにするものでございます。
  最後に,丙案でございますが,これは相手が誰かによって甲案と乙案を使い分けるというものでございます。すなわち,受遺者又は受贈者が第三者である場合には甲案により,受遺者又は受贈者が相続人である場合には乙案によるというものでございます。
  続きまして,補足説明に入らせていただきます。2ページを御覧ください。
  まず,甲案です。部会資料4からの変更点でございますが,今回の甲案は,遺留分減殺請求権の行使による物権的効果を改め,遺留分権利者が取得する権利を原則として金銭債権化するというものであり,基本的には部会資料4の甲案の考え方と同様でございます。
  もっとも,前回の部会の御議論におきましては,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権化することは遺留分権利者の地位を弱めることになるため,それに対する手当てが必要であるという御指摘,それから,例外的に現物返還を認める場合には,その要件及び効果を明確にする必要があり,また,多数の財産について共有関係が発生するなどの複雑な法律関係が生ずることがないような配慮をすべきといった御指摘がございました。これらの御指摘を踏まえまして,先ほどの⑤,⑦の組合せによる修正,それから,②,③,④,⑥の組合せによる修正をそれぞれ加えさせていただいたというものでございます。
  続きまして,先取特権についてでございます。第4回の部会におきましては,遺留分権利者に特別の先取特権を取得させることが考えられるといった御指摘を頂きました。ただ,そのようにいたしますと,例えば,遺贈又は贈与の目的財産が不動産である場合には,登記請求権に関する規律を置く必要がございますが,その規律を設けたとしても,どの程度実効的なものとして機能するかは疑問がないわけではございません。現に不動産保存の先取特権や不動産工事の先取特権においても,その効力を保存するためには登記が必要とされておりますけれども,余り利用されていないとも言われております。こういった点を考慮いたしまして,今回は特別の先取特権という形ではなくて,一定の場合には現行法と同様に現物返還を求めることができるという形にさせていただいたものでございます。
  続きまして,3ページを御覧いただきたいのですが,現物返還の対象についてでございます。ここでは,複数の財産についての共有等の複雑な法律関係を避けることを考える必要がございますが,部会資料4では,そのような観点から,受遺者又は受贈者のみに限定的な選択権を与えるというような方策を掲げておりました。しかし,これにつきましては先ほどのような御指摘を頂きましたので,今回は遺留分権利者と受遺者又は受贈者のいずれか一方に選択権を与えるということはせずに,最終的には裁判所が後見的な見地から裁量権を行使することによって現物返還の範囲を定めることができるという形にしております。
  具体的には,まず,受遺者又は受贈者が金銭請求をする者に対して,その支払に代えて遺贈又は贈与の目的財産の一部を返還する旨の抗弁を主張することができ,遺留分権利者側も,定められた期間内に金銭債務の履行がない場合には同様の請求をすることができることとしております。そして,当事者間に協議が調わないといった場合には,裁判所がこれを定めるという形にさせていただいております。これにより,裁判所は,現行法の規定に従って減殺される遺贈及び贈与の目的財産,これは各財産の共有持分となることが多いかと思われますが,そこからだけではなく,遺留分算定の基礎となる遺贈又は贈与の目的財産の全部,これを対象に現物返還の対象財産を選択するという,言わば片寄せのようなことをすることができ,結果として,複雑な法律関係の発生を避けることができるようになるものと思われます。
  最後に,その他のところでございますが,第4回部会では,調停前置主義を採用すべきであるというような御指摘を頂きました。現行法上も,遺留分については調停前置主義が妥当するところではございますが,仮に調停前置主義に違反して判決がなされても,その効力に影響はないと解されているため,更に強制力を持たせるような形で規律をするということも考えられなくはないところかと思います。しかし,遺留分についてのみ,より強力な形での調停前置主義を採用することにつきましては,合理的な説明をすることが困難であると考えられますし,遺留分につきましては,複雑な法律上の争点が複数存在するといったことも想定されますので,いかなる場合においても家事調停の手続を経なければならないといたしますと,かえって紛争の解決が長期化する事案もあり得なくはないように思われます。
  続きまして,乙案についてでございます。乙案については,部会資料4から変更した点はございません。乙案につきましては,前回の部会におきまして,民事保全手続は利用できない,あるいは既判力が生じない,更に,主位的に遺言無効確認,予備的に遺留分減殺請求権といった形での訴えを提起することができなくなるなどの問題点が指摘されたところでございます。
  仮にこれらの問題点を解消しようとするのであれば,その手続を家事審判ではなく訴訟手続によるものとするほかはないと考えられますが,乙案は裁判所の裁量的判断によるところに特徴がございまして,非訟的な要素が強いため,訴訟手続による解決が適切かというような疑問もございます。いずれにしても,最終的には乙案を採用することよるメリットと,先ほどのような問題点,これを勘案して判断するしかないのかと考えておるところでございます。
  なお,調停前置主義の関係もございますが,乙案においても甲案と同様に,より強力な形での調停前置主義を採用することは,やはり困難であると考えられますが,家事審判事項となりますので,より積極的に付調停が活用されることを期待することができるものではないかと思われます。
  最後に,丙案でございますが,前回の部会におきましては,乙案について様々な問題点が指摘されましたけれども,他方で,相続人間における遺留分減殺請求の場合に限ればメリットがあるといった御指摘や,相手が相続人であるか,それ以外の第三者であるかに応じて手続を変えることも考えられるのではないかといった御指摘を頂きました。これらの御指摘を踏まえまして,丙案は,相続人でない受遺者又は受贈者に対する減殺の請求につきましては甲案により,相続人である受遺者又は受贈者に対する減殺請求につきましては乙案によるというものでございます。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  遺留分減殺に係る紛争の解決を柔軟にするという観点から,これまで甲案,乙案を検討してまいりましたけれども,今回は甲案につきまして,前回の検討の際に寄せられた御議論を踏まえた形で更に調整をしていただいたということと,甲,乙の両案を相手方に応じて使い分けるという形で丙案を加えていただいたというのが主なところかと思います。甲,乙,丙と特に限りませんので,全体につきまして,御意見あるいは御質問等を頂ければと思います。
○南部委員 どうもありがとうございます。南部です。
  以前からお願いをしているところでございますが,今の法律をより分かりやすくしようという御努力は十分承知しておりますけれども,まず,遺留分が発生するかどうかということ自体まだ知らない人がたくさんいる中での改正ということですので,是非とも様々な人の観点に立って,できる限りシンプルで分かりやすい内容で是非お願いしたいと思います。その点だけは重々お願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  事務当局の最初の御説明にもございましたけれども,なかなか分かりにくい制度でございますので,広報あるいは説明等については留意をしていただけるようにお願いしたいと思います。増田委員,それと関連ですか。
○増田委員 第1読会の際,甲案が比較的いいのではないかというお話をしたのですが,すごく複雑で,分かりにくいものになってしまったように思いますので,まず,甲案について幾つか質問したいと思います。大きく分けて四つぐらいあるのですけれども,その中でも幾つかあります。
  一つ目は,遺留分減殺請求権の行使時期に関してですが,恐らく①で行使の効果が発生するという意味で,これを1年以内にやればいいということなのだろうと思いますが,この場合に金額の特定は要るのか,要らないのかということです。仮に不要だとすれば,その相当の期間というものの効果が問題となります。常識的には,金額を特定しないと相当の期間を定めた支払請求はできないわけなので,不要だとすると,相当の期間を定める意味についてお教え下さい。ここは相当の期間以内に履行がなかった場合に一定の法的効果が発生するという組み立てになっていますので,直ちに払える状況でないといけないということも考慮して,お答えいただければと思います。
  ここで一旦切りますか。
○堂薗幹事 それでは,私の方から御説明いたしますが,まず,行使時期につきましては,基本的にはこの①で書いているものは,金額の特定をして請求するというものを想定しております。したがいまして,この相当の期間というのは,そういった意味では,支払までの猶予期間的なものということになります。それから,更に言いますと,この相当の期間というのは,②から④の制度とセットで考えますと,結局,受遺者側にとっては,金銭で財産を返すのか,あるいは,裁判所に決めてもらって,一部金銭,一部現物のような形で返すのかという選択をするための期間ということも言えるかと思いますので,そういった意味では,この期間内は金銭請求をされても遅延損害金は生じませんし,仮にこの②によって現物返還の主張をした場合には,裁判所がその内容を確定するまでの間は,金銭債権も含めて履行遅滞の状態には陥らないという趣旨でございます。
○増田委員 一応そのように伺っておきますが,金額の特定を想定されているのであれば,そもそも相続開始を知ったときから1年以内の行使というのが困難な場合が生じるのではないかということと,相当期間というのが遅延損害金の発生時期という趣旨であるならば,別途,履行期の規定をどこかに置くというような対処方法も考え得るのではないかという疑問を呈して,次の質問です。
  ②で抗弁とお書きになっておられますけれども,これは,後のところを見ますと,恐らくこの段階では金銭債権は消滅しないということでしょうから,形成権,すなわち直ちに権利の性質を変更するものではないのだろうと思います。そうすると,留置権とか同時履行の抗弁みたいな権利阻止抗弁に類するものになると考えていいのでしょうかというのが次の質問です。
○堂薗幹事 基本的には,ここで考えているのは,代物弁済的なものの内容を裁判所に決めてもらうことができ,受遺者又は受贈者は,それを抗弁として主張することができるというものです。通常は,代物弁済ですと,債権者の同意を得ないとその内容は決まらないわけですが,この場合は,本来は元々現物を返すべきところを,一定の政策判断の下に金銭化したわけですので,金銭請求が厳しい場合の代物弁済の内容については,裁判所に決めてもらうという趣旨でございます。したがって,飽くまでも代物の弁済がされるまでの間は金銭債権としては残るという趣旨でございます。
○増田委員 ということは,先ほどの話と組み合せると,この段階では履行遅滞に陥らないという意味であるということですね。
○堂薗幹事 はい。現行の価額弁償の抗弁につきましては,御承知のとおり,裁判所に価額弁償の価額を決めてもらいたいという主張がされた場合に,裁判所はどのような判決をすべきかという点について判示した判例があるかと思います。その判例では,一定額の金銭を支払わないときは現物を返せという主文にすべきであるという判示がされたかと思いますが,それを言わば逆転させたような形のものを考えております。具体的には,金銭を払わない場合には,現物を返還せよというような主文を想定しているということでございます。
○増田委員 平成20年1月24日のことをおっしゃっているのでしょうか。
○堂薗幹事 いや,平成9年の判例です。
○増田委員 平成9年ですか。被減殺者側から価額弁償請求をすると言った時点が遅延損害金発生時期というのではなく。
○堂薗幹事 いえ,その判例ではありませんで,受遺者側で,価額弁償の金額は自分では決められないけれども,裁判所が決めた金額を返還します,要するに価額弁償に応じますが,ただ,その金額は裁判所の方で決めてくださいというような主張をした場合に,裁判所は,どのような判決をすべきかという点について判示をしたものです。その判例は,裁判所が定めた金額を支払わないことを条件として,現物の返還を命じるというようなものであったかと思いますが,それと,現物返還と金銭を逆転させたようなものを考えているということでございます。
○増田委員 すみません,次の質問は,手続に関してです。④の手続なのですけれども,これは訴訟手続なのか非訟手続なのか,どちらでしょうかということと,それは,②,③が,裁判外のものである場合と裁判上のものである場合と,どちらもあると思うのですけれども,そのいずれかで,違うのかどうか,2点お伺いします。
  つまり,②の前に遺留分減殺請求訴訟を起こしておれば,恐らく次の②,③,④も当該訴訟の中で行われることが想定できるわけです。抗弁が出た途端に,では,家裁移送だとか審判だとかいうことにはまずならないだろうと考えます。ただ,裁判外で①,②,③まで来たときに,では,話がまとまらないから裁判だといったときには,どういう手続を予定されているのだろうかということです。その段階で,実体法上,④の請求権というのは一体何なのだろうということを伺いたいのです。仮に訴訟でやるとしたら,それはどういう性格の訴訟なのか,普通の民事訴訟のように処分権主義とか弁論主義とかいうのがあるのかないのかという点,加えて,判決は,先ほどのお話だと条件付き判決になるのかなと思いますが,その辺も確認のためにお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 やや繰り返しになりますが,②の抗弁を主張したからといって,急に訴訟だったものが審判に変わって管轄が変わるとか,そういったものではございませんので,現行の遺留分減殺の現物返還と価額賠償を入れ換えたようなものという理解ですので,引き続きその訴訟の中で審理をするという前提です。②も③も,当事者間で合意が成立すれば,基本的には代物弁済の合意のような形になりますので,あえて別途制度を設ける必要はないことになります。したがって,この②,③は基本的には裁判所で決める場合の規律を書いたものです。②の方は,受遺者側から代物弁済の内容を決めてくださいという請求であるのに対して,③は遺留分権利者の方から,一部金銭,一部現物のような形で返還を求めますというもので,こちらは形成訴訟のような形になるのかもしれません。④は,その返還内容について協議が調わない場合に裁判所が定める,要するに,②,③の当然の前提を一応書いているという趣旨でございます。
○増田委員 それだと,②,③まで訴訟外で来ましたと,協議が調いませんという場合には,減殺者は条件付き判決を求める訴訟を提起するのですか,それとも単純な金銭請求を求める訴訟を提起するのですか。飽くまで訴訟なのですよね。
○堂薗幹事 はい。遺留分権利者が金銭の支払を求めたければ,まず①で請求すればいいわけです。それに対して,受遺者,受贈者側で②の抗弁を出せるということになるわけですが,遺留分権利者側で,裁判外でそういった金銭の支払を求めたが,その支払がされなかったという場合には,③か,あるいは⑤で,現物返還の請求をするという趣旨でございます。
○増田委員 選択に応じてということですね。そうすると,先ほどの訴訟手続の性格に戻るのですけれども,処分権主義,弁論主義などが妥当する領域なのかどうかというところ,返還の対象は選択したものに限られるのかどうかという問題がまた浮上してきますよね。遺贈等の目的財産の中から適当なものを裁判所が選ぶことができるのか,あるいは,それは当事者が主張するものに限られるのかといったような問題が出てきますが,その辺の問題はどうお考えでしょうか。
○堂薗幹事 現物返還の仕方については,裁判所の裁量がありますので,そういった意味では,性質としては純然たる訴訟事件ではないのだろうと思いますが,ただ,基本的には地裁の民事訴訟でやることを前提としているものでございます。言わば共有物分割などと同じような形で,その返還内容を定めるということを想定したものです。
  更に申し上げますと,①から⑦で書いておりますが,必ずしもこれを全部,こういった形で規律を設ける必要はないのではないかと考えておりまして,基本的に②から④までの制度は,受遺者,受贈者側の利益を考慮して,金銭でいきなり全額返せと言われても難しいような場合に現物でも返せるようにするという趣旨であり,③は少し違いますが,②,④はそういう趣旨でございますし,⑤は,前回,遺留分権利者の権利が金銭債権化することによって弱体化するのではないかという指摘があったので,そのようなリスクを回避するための措置として,現物返還も求めることができるようにしたというものでございますが,ただ,⑤のような権利まで遺留分権利者に本当に認める必要があるのかという点については議論があろうかと思いますので,是非この点についてはご意見をいただければと思います。
○増田委員 すみません,あと一つだけ質問です。丙案についてなのですけれども,包括受遺者はどっちになるでしょうか。990条があるので,乙案になりそうな気もするのですが,いかがでしょうか。
○渡辺関係官 詳細はこれから詰めていきたいと思っておりますけれども,基本的には乙案の方に行くという方向でいいのではないかと現時点では考えております。
○増田委員 ありがとうございました。一応終わります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  少なくとも見掛け上は複雑な制度になっておりますので,どういうことになるのかということで,増田委員が出されたような様々な御質問があろうかと思います。更にそういう性質の質問もございましょうし,それと関連する形で,こういう枠組みを作るということ自体について,基本的にどう考えるかというところについても御意見を頂ければと思います。どちらでも結構ですので,お願いいたします。
○垣内幹事 すみません,私も複雑で理解が十分及んでいない口でありまして,若干,理解のための質問をさせていただければと考えております。甲案について,③の規律と⑤の規律の関係について,今,御回答の最後の辺りにも少し出てきたお話かと思いますけれども,これはいずれも①で定めた期間内に金銭の支払はなされなかったという場合に発動される規律であり,③の方は,基本的には金銭請求権の性質は残っていつつ,場合によっては裁判所が物を特定することによって,その代物弁済的なものに変わる可能性が出てくる。⑤の方は,直ちにこの請求をした段階で物権的な効果が生じるということ,そこに違いがあるという,オプションを二つ設けているということと理解したのですけれども,⑤の規律を設けることのメリットといいますか,狙いとして,前の議論でありました,遺留分権利者の地位の弱体化に対する対応ということが言われていたかと思うのですけれども,いずれにしても,①の規律が一旦介在した上で⑤の規律が入ってくるということですので,遺贈の目的物等について,それが財産的価値があるということであれば,現行法ですと,減殺請求をすればそれで物権的効果ということになるかと思うのですが,相当の期間というのがどの程度ということにもよるかとは思いますけれども,一旦,相当期間を定めて催告のようなことをして,その後でないと物権的効果は発生しないということですので,これはかなり弱体化するということは否定できないのではないかとも感じたのですけれども,それでもなおこの種の規律を設けた方がいいということなのかどうか,どういう根拠でどういうことをお考えなのかということが一つです。
  他方で,③のような規律に関しては,その後で複雑な共有関係等が残ってしまうということを防げるという点に一つの利点があると拝見したのですけれども,しかし,これも⑤の方が有利だということで⑤に行ってしまえば,そうはならないということなのかなとも感じまして,結局,遺留分権利者の選択というものに多くを委ねているという規律の枠組みなのだろうと思うのですけれども,ちょっと誤解があるかもしれませんので,そういう理解でよろしいのかどうかということと,それぞれのメリットがなかなかスムーズな形では貫徹されないような規律になっているような気もいたしますので,その辺りについてお考えを少しお示しいただければと思いまして,御質問させていただきました。
○堂薗幹事 まず,⑤のような規律を設ける趣旨でございますが,これは,遺留分権利者の地位の弱体化を防ぐと,したがって,この相当期間を1か月にするのか,どの程度の期間にするのかという問題はありますし,法律で期間を定めてしまうのか,あるいは最低期間だけを定めるのかとか,いろいろな問題はありますが,いずれにしても,その期間が経過すれば,意思表示だけで物権的効果が生じますので,それによって一定の権利の保全が図られるという趣旨のものでございます。
  それに対しまして,②から④は,基本的には遺留分権利者というのは,金銭的な満足,あるいは一部金銭,一部現物のような形でその価値が保全されれば,それでその者の保護としては十分ではないかと。ただ,この③によりますと,裁判所の判決が確定するまでは物権的効果も生じないということになりますので,当然,⑤に比べますと遺留分権利者の権利というのは弱体化するわけですけれども,元々遺留分減殺請求の権利というのは,遺産について相続人が有する遺産の分配を求める権利と同程度の権利だろうと思いますので,そういった意味で,必ず現物で返す,あるいは,受遺者,受贈者がたまたま破産したような場合に破産債権とならないように保護すべき性質のものなのだろうかと,そこまでの性質のものではないのではないかというのがこちらの考え方でありまして,このような規律にしますと現行法よりは権利の内容が弱体化しますが,その点については合理的な説明が付くのではないかと考えております。
○渡辺関係官 少し補足させていただきたいと思うのですけれども,垣内幹事からの御指摘の1番目のところというのは,⑤の規律を置いてもなお弱体化したままではないかというような御趣旨の御指摘だったかと思います。この点につきましては,そもそも遺留分を金銭債権化することがいいのかどうかというところが出発点かと思っておりまして,現行法上は,例えば遺贈の対象財産がかなりたくさんあるときであれば,全てについて共有関係が生じてしまい,これはなかなかその解消に複雑なものを要するのではないかという問題点が根本にございまして,そういったところはできるだけシンプルにしたいという思いで,金銭債権化をまず原則にしたいと考えたというところでございます。特に,事業承継の場合などを考えますと,そういった要請は一定程度あるのではないかと思っております。
  ただ,そうはいいましても,⑤のようなものをそのまま入れてしまうと,相当期間の定め方にもよりますけれども,結局すぐに元に戻ってしまうではないか,こういったところがあると思います。この点につきましては,⑤のような規律が本当に,なお金銭債権化した場合であっても要るのかどうかというところにつきまして,皆様の御意見を賜ることができればと思っております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○山田委員 私も理解できているかどうか甚だ不安でございますけれども,①で現行法下の当然物権的効果を生ずるという現行法を金銭債権化するという選択をした時点で,もう遺留分の権利というのはある意味,弱体化するということを選択したということに,まず,なるのではないかと思うのです。
  問題点をいろいろ工夫して,②以下,御提案いただいておりますけれども,同列に書かれていることで非常に理解がしにくくなっておりまして,現行法下での私どもの仕事を考えますと,訴訟の中で,②以下の辺りを和解とか調停で合意解決できないだろうかということで,当事者で話し合って合意ができればよし,そうでなければというのが現状かと思います。
  できなかった場合に,多数の物件について共有状態のまま何らの解決に至らずということを何とかしようというところで,金銭債権化という甲案,大いに魅力があると感じておりまして,ただ,その分かりにくいところの理解が,私もこの時点で理解できているかどうか甚だ難しいというところは,冒頭,南部さんが御発言くださったことと併せて,実体法の改正ですから,やはり分かりやすく,どういう形がいいのかということを,いろいろな方の御意見を伺って,知恵を絞らせていただければと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,垣内幹事,それから山田委員から御指摘がございましたけれども,甲案は前回の審議で,金銭債権化するということを中心に立てた案であったわけですけれども,皆様からの御意見等を踏まえて,それと両立しない幾つかの要請を入れてバランスをとるということにしたために,三つの要素に分かれた,こういうことになっているのだろうと思います。そこのところは,更によく分かりやすく説明をしていただくとともに,手続的なところも詰めていただく必要があろうかと思います。
○浅田委員 本件についてはいろいろ御質問等もあるわけなのですけれども,まず,今,議論になっています金銭債権化について,どう思うかということについてお話ししたいと思います。
  そもそもの話として,本論点というのは,本日の議題である第2の遺留分の算定方法についての制度設計や,第5回会議の議題にあがりました「可分債権の遺産分割における取扱い」における制度設計と相互に関連するものでありまして,全体像を見ないとなかなか是非を判断できないと思いますけれども,その点に留意した上で,いつものとおり,取引債権者ないしは取引債務者という第三者の立場から発言したいと思います。
  第4回会議で私が発言したことと一部重複する点がありますけれども,そもそも遺留分減殺請求権に物権的効果を認めるという現行法理というのは,少なからず第三者を相続関係者間の紛争に巻き込んでいるので,見直すべきではないかと考えております。現在でも銀行は,遺留分権利者から,相続預金の権利を主張されたり,受遺者・受贈者への相続預金の払戻しを行わないように依頼されたりする一方で,受遺者・受贈者からは遺言に従った相続預金の払戻しを請求され,対応に苦慮しているという事実があります。また,遺留分の有無やその額というのは第三者には検証のしようがないものであります。ケース・バイ・ケースになりますが,民法478条の免責の有無の判断ができる場合もありましょうけれども,それは必ずしも容易なことではありません。したがいまして,遺留分減殺請求権行使があったことを知った預金債務者としては,一体誰に預金を支払えばよいのか非常に困惑するということがございます。その結果,実務では多くの場合,受遺者と遺留分権利者,双方の同意を得ない限り支払えないということになってしまいまして,みんなが困るという状況が生じるわけであります。したがって,物権的効果を改めるという方向について,つまり今回の甲案の方向性については賛成できるということでございます。
  一方で,ちょっと敷衍させていただきますが,今回お示しいただきました甲案についても,一部に物権的な効果が残っているという問題までお話ししたいと思います。第4回会議の際に,部会資料4の「第2」の甲案で示された,受遺者が現物返還を選択できるという提案について,そのとき私は,賛否は制度設計いかんによるもので留保するという旨の発言をしたことがありました。この点,今回の部会資料8の提案でも,「第1」の甲案,丙案においては,物権的効果で規律される部分が残るようであります。この場合は,先ほど申し上げました問題が残ると考えています。この物権的効果で規律される局面というのは,例外的な局面であると位置付けられているかもしれません。ただ,実際を見ますと,第三者にとってみれば,例えば,甲案の②の現物返還の抗弁の主張,③の期間の経過及び請求,④の協議や裁判所の決定についてそれぞれ,第三者がその有無及び内容について探知したり,エビデンスを取得したりして確認できるとは限らないと思っております。そう考えますと,物権的な効果の規律が一部にとどまるとしても,こういう物権的な権利の規律が残るとすれば,やはり現在と同様の問題が多くの場面で残るのではないのかなと考えております。
  以上,乙案,丙案について,別に反対しているとかそういうわけではございませんけれども,甲案についての金銭化と一部に物権的な権利が残るということについて,コメントいたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  では,お答えを。
○堂薗幹事 ただいま御指摘の点については検討させていただきたいと思いますが,⑤については特に,意思表示だけで物権的効果が生じて,その内容が明らかでないという面は非常に大きいかと思いますが,②,③,④の場合は,繰り返しになりますが,裁判所が内容を確定するか,あるいはその当事者間で合意ができる場合ですので,現行法上も,当事者間で合意がされれば,それは代物弁済ということで物権的効果が生じることになりますし,裁判の内容については,そこを確認していただければということだろうと思いますので,そういった意味では,②,③,④については,もちろん物権的効果が生じることによって第三者に影響を与えることはあろうかと思いますが,⑤に比べると,程度としては小さいのではないかと思いますので,その点だけ指摘させていただければと思います。
○浅田委員 具体的な質問もありますけれども,後で申し上げたいと思います。
○大村部会長 わかりました。
○山本(克)委員 私も,⑤についてはない方がいいのかなという気がしておりますが,それは別として,2点質問させていただきます。
  1点,多分,増田委員の御質問に対してお答えになったことなのだろうと思うのですが,私はちょっとまだペースが出てこない段階で頭に入らなかったので,もう一度お教えいただきたいのですが,②だけがあって③はないという場合に,①の金銭請求を受けた受訴裁判所が,②の抗弁が出てきたときに,裁判所自らが何をどれぐらい返すかということを判断した場合の主文はどうなるのかという点をお教えいただきたいと思います。
  それとともに,もう一つは①の金銭債権ですが,これは差押え可能債権だと考えるのかどうか,差押え可能債権だと考えた場合に,その換価方法としてはどういうことを考えるのか。恐らく転付命令は無理だろうと思いますが,単に旧法でいう取り立て命令の効果だけでいくのか,それとも,あるいは譲渡命令や売却命令も可能なのか,その辺りはどういうふうにお考えなのでしょうか。これは,そういうことを考えておかないと,遺留分権利者が権利をまだ行使する前にでも破産手続開始決定を受けた場合の扱い等にも関わりますので,お教えいただければと思います。
○大村部会長 では,お願いします。
○堂薗幹事 主文については,この段階で,こういう形になりますということを明確にお答えするのは難しいのですが,基本的には,先ほど申し上げましたとおり,現在の価額弁償の場合の裏返しで考えておりますので,受遺者又は受贈者は,何々を返還しないときは幾ら幾らを支払えというような形になるのではないかと考えております。
  それから,差押えの行使方法でございますが,この点については検討できておりませんので,こちらで引き取って検討した上で,この次の機会にお答えさせていただければと思います。
○山本(克)委員 すみません,よろしいですか。最初の方の御質問についてのお答えについてですが,そうすると,その現物の部分の返還については債務名義はとれないと,②ではとれなくて,③に行って初めて債務名義がとれるという考え方だということでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 はい,一応そのように考えております。
○山本(克)委員 そうすると,②だけあった場合の破産債権としての扱いとかがすごく難しいなという気がしますけれども。
○堂薗幹事 その辺りは,山本先生のお知恵を拝借しながら検討してまいりたいと思います。
○水野(有)委員 すみません,ちょっと私が今まで皆さんから聞いたことから理解した制度があるのですが,そういう理解でいいのかどうか。甲案は民事訴訟だけを御想定されているということは理解できまして,甲案では,いずれにしても,今までと同様,遺留分減殺請求権を行使する前は権利は発生していなくて,行使した後,権利が発生するという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○水野(有)委員  権利を行使した後,①の形で権利行使した場合は,金銭債権がもう具体的請求権として発生するという御理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○水野(有)委員  それに対して,②は抗弁になるということですから,②は,ともかく判決が出るまでは金銭債権がともかくずっと存続していて,判決に従って履行がされたときに初めて消えるということを御想定されている。
  ③につきましては,判決が出て確定したら,物の具体的請求権プラス金銭債権に変わるというのでよろしいのでしょうか。判決によって形成されるという。
○堂薗幹事 そうですね,そういった意味では,⑥の書き方が,②の場合と③の場合のいずれも,返還されたときはと書いておりますので,表現が不正確になっているかと思います。
○水野(有)委員 まだそこは検討途中であると。
○堂薗幹事 ええ,十分な詰めた検討はできておりませんが。
○水野(有)委員 分かりました,検討途中という御趣旨であれば。そうなりますと,③はもしかしたら形式的形成訴訟的な面も出るのではないかという御指摘でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 ええ,それも十分考えられると思います。
○水野(有)委員 ②は抗弁だから,今の遺留分減殺と同じ性質のままではないかというお考えで,一つの訴訟の中にちょっと性質が変わるものが存在している訴訟というものを御想定されているという。
○堂薗幹事 そうですね,ただ,遺留分権利者側が③を選択した場合は,基本的にはもうそちらで判断すればいいのではないかと思います。
○水野(有)委員 ということは,訴訟が途中の段階で形式的形成訴訟に変わることも御想定されているという御趣旨でしょうか。
○堂薗幹事 そうです。元々金銭請求をして,例えば,相手方から②の代物弁済的な抗弁が出されたといたしますと,先ほど山本克己先生から御指摘があったような問題が生じますので,別途③の請求を遺留分権利者側からするということは考えられるかなとは思いますが,正直なところ,具体的な制度設計については,これから詰めていかなければいけない点が多々あるかと思います。
○水野(有)委員 あともう1点は,代償金というものは御想定されているのでしょうか,されていないのでしょうか。例えば,遺留分で計算したら800万円なのだけれども1000万円の物権があって,それを返して200万円返すとかいうことも,もちろん合意ができたらいいのですけれども,主文で御想定されているのか,されていないのかはいかがでしょうか。
○渡辺関係官 そこまでは正直なところ,想定はしておりませんでしたけれども,そういうニーズがあるのであれば,それを組み込んで検討する余地はあるのかもしれないなと今,すみません,思いました。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございました。
○山本(克)委員 まだ②と③の違いがもう一つよく分からないので,しつこいようですが,お伺いさせていただきます。③の場合は形式的形成訴訟的なものが考えられるので,多分その判断,何らかの物を返すという判断をするときに,その裁判の効力として物権の変動が生ずると,そして,それに応じた形で何らかの給付を命ずるという形になるのだろうということは想定できるのですが,②の場合に物権はどうやって動くのでしょうか。
○堂薗幹事 ですから,実際に返還しないと所有権は移転しないと。
○山本(克)委員 つまり,単なる物の引渡しを命じているのではなくて,物権を,その物の所有権なり支配権なりを譲渡しなさいという内容も含むものとして条件が設定されるということですか。
○堂薗幹事 それをすれば,金銭債務の支払を免れられますということです。
○山本(克)委員 いや,免れるのだけれども,物はどうやって移るのですか,所有権は。
○堂薗幹事 所有権は実際に現物を返還しないと移らないので。
○山本(克)委員 いや,返還するだけでは,それは占有の問題で,本権の問題ではないのではないかということをお伺いしているわけです。
○堂薗幹事 いや,そこは……
○山本(克)委員 いや,現行法で,先ほど代償請求の話をされましたが,あのときは物権が,払うのは金銭ですから金銭,占有と一緒に移るのだという前提を採れば,それで占有に本権が付いていくという形になるわけですけれども,この場合,金銭とは限らないわけですよね。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 どうやって移るのかというのが,そこが裁判を,その条件の裁判に形式的訴訟性を何か考えなければいけないのだけれども,そうした場合に,どこで物が移るかというタイミングが分からないと,結局,物の帰属が分からなくなってきてややこしいことになるのではないのかと,そこが②のときの規律がもう一つよく分からないのですが。
○堂薗幹事 現行法上も,代物弁済のときにいつその所有権が移転するのかという点については,代物弁済の契約が成立した時点という考え方と,現実に物を引き渡した時点という考え方があるわけです。判例は,代物弁済の場合は合意が成立すれば所有権が移転するということだとは思いますが,ここでの条件付きの主文の場合には,債務者側が金銭を支払えば所有権を移転させなくてもいいわけですので,そこは飽くまでも受遺者側に選択権があって,受遺者側において現物で返しますということで,その引渡しをしたときに所有権が移るという理解です。
○山本(克)委員 では,引き渡すことを条件にするのではなくて,代物弁済をすることを条件にしてということですね。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 それで,条件執行文の付与の問題だから,執行機関が判断しなくてよくなるので,それならいけぬことはないということになるのですかね。
○渡辺関係官 すみません,一言補足をさせていただきますと,②につきましては,今,抗弁という形でこちらの方で御説明させていただいているわけですけれども,この点につきましては,まだ十分検討ができていないというところでございまして,可能性としては②についても,反訴的な意味で形成の訴えを起こさせるというような仕組みということも考える余地はあるのかなと思っております。その辺につきましては,これから細部をこちらの方でも詰めていきたいなということは思っているところでございますけれども,それよりも何よりも,まず,②とか③とか④のような,こういう裁判所に解決を委ねるというような仕組みを,この金銭債権化した場合に,そういう仕組みを残しておくということが必要かどうかというところの皆様の御感触を頂けますと,有り難いなというところを感じております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  手続について更に質問があろうかと思いますけれども,先ほどから窪田委員をお待たせしていますので,窪田さん,お願いします。
○窪田委員 すみません,渡辺関係官の方からは,②,③,④について検討せよということですので,⑤の話を出すのは反則なのだろうと思うのですが,前提として,大枠のところで,やはりまだ十分理解できていないところがありますので,賛成,反対というのではなくて,理解のために教えてください。従来は基本的には減殺という形で物権的効果が当然生ずるということを原則としていたが,ただし,例外として価額弁償という形での金銭による措置というのが補助的にあった。それに対して,原則として金銭債権化するという形で,原則と例外というのがむしろ逆転しているというのが①と⑤の関係なのだろうと思うのですが,そのときに,ただ,やはりちょっと気になりますのが,これは⑤も,実は私は③と⑤の関係もちょっとよく分からない部分があるのですが,①で定めた期間内に履行がなかったときはとなっていますよね。⑤の場合について,①で定めた期間というのは,相当の期間を定めて金銭の支払を求めることができるということで,当然,支払を前提とした期間であるということではあったのですが,この場合の相当の期間というのは,例えば,家賃を元々払わなければいけない場合に相当の期間を定めて催告するというのとは随分違って,不動産所有権の移転によって遺留分侵害が生じており,それが1000万円だと,では,キャッシュで1000万円払えというような話になったときに,すぐ払えるのかというと,それほど簡単な話ではないのだろうと思うのですね。そうだとすると,①の形で金銭の支払を求めるといっても,結局履行がなかったということになって,すぐ⑤に移行してしまうのではないかと。恐らく,この①,⑤の立て方からすると,更に⑤の例外としての価額弁償というのは想定されていないのではないかと思うのですが,そうだとすると,本当にこれを金銭債権化するという形で問題を解決することができるのかという点が気になります。結局は,相当の期間を定めての相当の期間次第ということで,渡辺関係官が先ほどおっしゃった話でも,そのようなものだと思うのですが,この辺りをどういうふうにお考えなのかなというのが,まだちょっと私自身がわかっていません。仮に不動産の贈与を受けたというケースで①を考えたときに,一体どうやって払うのだろうというのはそう簡単な話ではないと思いますので,①がうまくワークするのかどうか。実際に①をうまくワークさせようとするのだとすると,ある程度長い期間で,場合によっては分割で支払わせるとか,いろいろな方法を考えないと,ぽんと払えというのはなかなか難しいのではないかなと思うのですが,これはどうでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,元々②,④の制度は,受遺者側,受贈者側が,今御指摘があったように,いきなり金銭で払えと言われて,全額金銭で払わないと遅延損害金まで請求されるということになるのは非常に酷なので,まず,①で一定の猶予期間を置き,さらに②,④の規定を置いたのは,そこでやはり金銭の準備が難しいという場合に,現物でも返還できるという手段を受遺者側にも与えると。したがって,裁判所において,受遺者側がどの程度金銭が準備できて,現物をどの程度返還するのかという辺りについて裁量的な判断をした上で,適切な解決をしていくということでございますので,そういった意味で,御指摘の①の相当の期間というのも,それなりの期間が必要になるのではないかと思います。特に②,④とセットの場合には,その期間でどちらを選択するかを決めるという,言わば熟慮期間的な要素も含んでくるかと思いますが,②,④の制度とセットにすることによって,受遺者側の不利益というのは一定程度解消されるのではないかという趣旨でございます。
○窪田委員 すみません,ちょっと幾つか教えてください。だんだん分からなくなってきてしまったのですが,②の形で取りあえず現物返還の抗弁を主張したという場合には,こちらのルートに乗ると思うのですが,何も言わなかったら当然⑤になるということですよね。
○堂薗幹事 受遺者側ですか。
○窪田委員 はい,受遺者側の方。
○堂薗幹事 いや,遺留分権利者側からの請求がない限り⑤にはなりませんので。
○窪田委員 でも,遺留分権利者側の方がそう言ったら,当然⑤になるわけですよね。
○堂薗幹事 ええ,ですから,それが全部現物返還するのは嫌だということであれば,それはその相当の期間内に受遺者側も②の請求をしてもらうしかないと。
○窪田委員 恐らく,②,③,④というルートと,⑤を両方とも立てる必要があるのかどうなのかという問題とも関係すると思うのですが,私自身がちょっとまだよく見えてこないのは,②の抗弁を主張したと,抗弁を主張したのだけれども,遺留分権利者側の方は何も言ってこなかったという形でぐずぐずしている場合には,①で定めた期間内に履行がなかったときには当たらないということになるわけですか。
○堂薗幹事 はい,②の抗弁を提出すれば,協議で成立するか裁判所で内容を決めるまでは,履行遅滞責任は負わないという前提です。
○窪田委員 そうしますと,更にもう少し教えていただきたいのですけれども,③と⑤の関係というのがやはり,先ほどちょっとよく分からないと申し上げたのですが,③でいっている一部を返還するよう請求することができるというのは,実は⑤の減殺と大して変わらないことを規定しているのではないのかなと。そうだとすると,⑤を別建てで置く必要というのはあるのだろうかというのが,ちょっとよく分からないなという気がするのですが。
○堂薗幹事 いや,ですから,冒頭にも申し上げましたとおり,我々も⑤まで必要かというところは疑問に思っているのですが,ただ,③と⑤の違いは,いつの時点で物権的効力が生じるかというところで,③だと裁判確定するまで効力が生じませんので,③だけだと更に弱体化するわけですが,⑤があると,意思表示だけで一応,物権的効果が生じますので,③だけの場合に比べれば弱体化の程度が小さくなるという理解です。
○窪田委員 最初の質問にループして戻ってしまうのかもしれませんが,結局,⑤を置くと,弱体化を防ぐといいながら,結局,現行法とほとんど変わらない事態になる可能性があるのではないか。特に,①で定めた期間内に履行がなかったときというのは,当然これは全部の履行をしないと駄目ですよね。一部履行では駄目ですよね。そうだとすると,割合に⑤番というのは強力だなという感じがしますので,金銭の支払を求めることができるというのが,実は形式的には置かれるのだけれども,うまくワークしない可能性を残してしまうのかなという感じがしました。
○堂薗幹事 分かりました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のようなことも踏まえて,②,③,④というサブシステムと,それから⑤というサブシステムをどのように置くのかということについて,他の委員の皆様の御意見も伺えればと思います。浅田委員,何か関連してございますか。
○浅田委員 先ほどの質問の続きですけれども,今の議論を聞いておりまして,所有権に関しての議論ということでもこれだけのいろいろな議論があるとすれば,債権に関する帰属,及びその対抗要件という概念を入れるかどうかということについては,なおさら整理が必要だなと思った次第であります。
  私なりの理解でいきますと,①に関しての段階では,債務者たる銀行というのは別にそれほど心配する必要がないと,専ら相続人等らの間の調整であるということであり,②に関しても基本的にはそのような状況であるけれども,ただ,その抗弁を主張し,その代物弁済がなされた場合,ないしは⑤番に飛んだ場合には,結局は物権的な権利ということになり得ると。③についても同様な,一部返還請求があったときにそのようになる場合がある,④においても,裁判の決定があれば現物返還されるということになりますと,⑤に行くまでの間において債務者がどういうふうにすればいいのかということについては,ちょっとまだ整理が付かないところであります。一つには,民法478条の免責が得られるだろうということで実務的な対応をするということもあろうかとは思いますが,先ほど申し上げたとおり,なかなか整理ができない上に,事実上の探知ということは完全にはできないものですので,債務者としては苦境に陥る可能性もあると思うわけです。そこで,この点について現段階での事務当局としての整理があれば,是非ともお聞かせいただきたいというのが一つであります。
  二つ目は,同様の話でありますけれども,⑤番目の段階に行った場合には,なおさら物権的な権利ということが顕在化するということになります。遺留分権利者が債務者たる銀行に預金の支払を請求する場合には,実務的にいうと,相当な期間内に遺留分侵害者から遺留分権利者に対する金銭債務の履行がないことということを言う必要があるとは思うのですけれども,立証責任は誰にあるのだろうか。債務者たる銀行が,請求者に対してそれを主張する,その権利というのがあるのかどうか,そういった,実際に物権的な権利主張がされた場合に債務者としてどういう行動をすればいいのだろうかということについて,何か整理をされたものがあればお聞かせいただきたいと思います。
  三つ目の質問です。⑤番目の段階で,この⑤番目の場合にはもう請求するということですので,幾ら請求するかとか,その金額については,一義的には主張する側が言うだけでありましょうから,それが本当に,この次に議論される遺留分請求権の範囲内におさまっているかどうかという確証もないという段階で,第三債務者として,どのように確認すればいいのかということであります。
  以上を考えますと,何らかの法的な手当て,ないしは十分な整理がない限りにおいては,立法の段階においては何かしらの債務者の行動規範,ないしは免責というものを明文化していただくことの検討の余地がないかどうかということについて,要望したいと思っております。また,アイデアの一つとして,免責という考え方ではなくて,例えば,第5回会議で出ました「可分債権の遺産分割における取扱い」の論点で,あれは遺言がない通常の分割の場合の規律を検討ですが,その際,対抗要件という概念で規律するというアイデアを示されたと思います。今回の遺言がある場合においても,対抗要件という考え方で規律できないかどうかということも併せて御検討いただければと思います。
  長くなりましたが,今の段階での何かしらの整理があれば,お聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 ただいまの点につきましては,こちらで検討させていただければと思いますが,ただ,御指摘がありましたように,前回ご議論いただいた相続に関係する債権の移転などにつきましても,基本的には債務者対抗要件で規律するという点につきましては,遺留分制度を含めて全てにおいてそういった形でできませんと,結局第三債務者としては安心して払えないということになるのではないかと思います。その辺りについては,御指摘を踏まえて,次回以降にまた取り上げたいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○増田委員 今度は意見なのですけれども,私はこのような複雑な手続を組むことを想定したのでは,金銭債権とした意味がないだろうと思います。金銭債権とするのは,遺言者の意思をできるだけ尊重し,遺留分というのは最低限度の保証で足りるという観点から,物事を単純化するために考えられたことであるのに,そこで今回の案のように複雑な手続が権利行使後で出てくるというのでは現行法よりも余計に複雑になるので,それは避けた方がよろしいかと思います。
  あと,代物弁済を強制するような形ですけれども,物の所有にはコストもリスクもあるわけです。これは前のときにも申し上げたと思うのですけれども,要らないものを押し付けられるような制度というのは,恐らくほかにないだろうと思うのですね。もちろん,代物弁済という形でもらう方の同意があれば,そういう解決というのは当然可能だろうと思いますけれども,裁判所がそういう形で,物権は移転しないと先ほどおっしゃったけれども,裁判所が対象を自ら決めて減殺者に渡すような形の裁判というのは望ましくないのではないかと思っております。
  とはいえ,物を返すという選択肢を設けたいというお気持ちはよく分かっていて,実務でも物を返した方が解決しやすいということもあり得るのかもしれないので,そういう契機が欲しいということであれば,受遺者側から,裁判外で,つまりカウンターとして何らかの,これで返すからというような一定の期間を設けた催告みたいなものをして,一定の期間までに確答しなければ,今度はそれに応じたものとみなすとかいうような裁判外のやり取りができるようなことを仕組むことで,それが端緒になって,その時点から話合いが始まるということも考えられます。つまり,単純な金銭債権としたのでは,金をくれというだけで,あとは裁判の中で和解するぐらいしか方法はないし,受遺者側から金ではなくて物で返したい場合に何も手段がないということを懸念されているのだろうと想像しますが,そうであるならば,そういう実体法上の手段も考えられるのではないかと。今回のご提案のような重装備な制度では,金銭債権とした意味がないと考えております。
  それから,倒産のときのことですが,先取特権というのは私が前回,余計なことを言ったためだと思いますけれども,元々受遺者が倒産するというのは非常にレアなことだと思います。私も一遍も経験したことがないくらいのもので,遺留分減殺を受けるほどの財産をもらっておって,なおかつ倒産するということは非常に少ないだろうと思いますし,それを想定してわざわざ重い規定を設ける必要はないだろうと思います。万一倒産があったとしても,そこで遺留分減殺請求権者に対して一般債権者より強力な優先性を与える根拠もないと思いますので,軽い制度だったら置いていいと思いますけれども,先取特権程度のものが無理だったら,あえて重い制度を設ける必要はないのではないかと思います。
  結論的には,基本,甲案を採るのだったら①だけでいいと,後のところで何らかのカウンターの配慮をするのだったら,裁判外でやり取りが可能な制度,そういう方向でどうだろうかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 その点については,御指摘を踏まえて検討させていただきます。
○中田委員 遺留分権利者の権利を弱めるという方向で検討されているわけですが,その場合に,弱める理由と,弱める方法の妥当性と,両方考える必要があると思います。
  弱める理由の方は,例えば,事業承継をやりやすくするというような比較的政策的なことから,遺言自由をより強調するとか,あるいは,そもそも遺留分制度の理解を変えていくのだとか,いろいろなレベルがあると思います。もちろん制度設計の際には一旦それは棚上げして具体的な制度を考えてみるというのがプラクティカルだとは思いますが,常にそこに立ち戻りませんと,技術論だけが先行する可能性があると思います。そこが垣内幹事が御指摘になられたことだと思います。
  方法論の方なのですけれども,御提案のあった,価額弁償と現物についての最高裁判決を言わば逆転するような形で考えてみると,その方向は非常に魅力的だなと感じてはおります。ただ,その場合には,うまく仕組みませんと,窪田委員のおっしゃったような問題が出てくると思います。
  ところが,今日問題となっていますのは,遺留分権利者の権利を弱めるのが,もうちょっと別のレベルで出ているのではないかという点が問題となっていると思います。具体的に言うと,複雑化することによって遺留分権利者が権利を行使しにくくなるというような,壁を設けることで弱くするというようにも見えるのですが,それはやはり本来の筋ではないのではないかという気がいたします。
  取り分け,当初増田委員のおっしゃったことなのですけれども,訴訟外で①以下の流れがあるときに,幾ら啓発しても,必ず当事者は間違うと思うのです。間違った場合にどのような効果が発生するのかということまで考えておく必要があるのですけれども,複雑化してハードルを高めることによって権利を弱めるのではなくて,むしろ,その本来的な趣旨にあったような,シンプルで,かつ適正な強度にするということを求めるべきではないかと思います。
  最後に,一定の期間を置くことによっても遺留分権利者の権利が弱まるわけですが,その間に受遺者が自由に処分できるとか,あるいは受遺者が破産するとか,あるいは受遺者の債権者が差し押えるとかというようなことが出てくるわけなのですけれども,それも副次的なことのような感じがいたしまして,結局は,価額弁償と現物との順番を逆転するということを中心に,もう少しシンプルな制度が設けられればいいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  基本的な考え方をどうするかということについて御意見を承ったと受け止めました。本日,垣内さんは全体の仕組みについて留保されていたように思いますけれども,多くの委員からは,①の考え方を採るのならば⑤はやはり問題があるのではないか,②,③,④についても,もう少し何とかならないかという御意見が出されたかと思います。中田委員は,今のような,具体的な問題との関係でいうと,直前にお述べになった基本的なスタンスからは,どのような方向を指向されているのでしょうか。
○中田委員 仮に①だけを残すとすると,遺留分制度について一定の見方を非常に強く出すという方向になるのではないかと思います。ただ,そこにはやはりためらいがあるのではないかと思いますし,私自身もそこはためらいを持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○石井幹事 仮に④のような形で,裁判所が裁量権を行使して受遺者又は受贈者が返還すべき財産を定めるということになりますと,例えば,その際に代償金を定めることができるのかとか,現行法でいうところの減殺対象以外の財産からも返還すべき財産を選択できるのかといった点について,ある程度明確にしていただかないと,なかなか裁判所としても審理がしにくいというところがございますし,当事者の方も予測の可能性が付きにくいといったこともあるかと思います。そのような点について法文化するかどうかということはともかくとして,ある程度,考え方が明らかになると有り難いなと思っています。
  また,今日の御議論を聞いていてちょっと感じたことを申し上げますと,事務局の御説明ですと,訴訟の中で請求内容を①から③に変更する際には,訴えの変更のような手続をすることが想定されているのかなという印象を持ったのですけれども,金銭の支払を求める給付訴訟と形式的形成訴訟とはかなり性質が違うので,訴えの変更として仕組めるのかといったことについても,あるいは検討が必要なのではないかなと思いました。
  それから,もう1点,これは確認なのですけれども,例えば,①の請求に係る訴訟で,金銭の支払を命じる給付判決が確定した場合には,恐らく②以下の手続はとれないとお考えなのかなと思うのですけれども,それはそのような理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 それは,そういう理解です。
○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。そのほか,いかがでございますか。
○西幹事 まだ十分頭が整理できておりませんけれども,全体として見たときに,金銭債権化するということ,それを原則とするということは,思われている以上に,法体系上非常に大きな意味を持つと思います。具体的にどのような影響が及ぶのかというのは直ちには思い付きませんけれども,遺留分制度には,ゲルマン型,ローマ型という非常に古くからの二大体系がありまして,日本はその中で一定の選択をして現在のような法制度になっております。相続分の一部としての現物返還が原則となっておりまして,理論上それでやってきたという経緯があります。
  それが遺留分権利者の範囲,遺産分割,法定相続主義とかあらゆる面に影響しているのは御存じのとおりでして,それを今回,大きく変えるということになりますと,ほかにどのような影響が生じるのか分かりませんけれども,かなり大きな意味を持つことだけは確かです。その場合に,例えば趣旨を,ローマ法のように遺留分制度については生活保障だけに限定するということであれば,恐らくあり得る選択だとは思いますけれども,今までの御議論を伺っていますと,必ずしもそういうわけではなくて,潜在的な持分の精算とかいうお話も出てきましたし,かなり曖昧なまま進めようとしている気がいたします。そうであるとするならば,曖昧なまま進めるのに適した法制度の選択というのがやはりあり得るように思います。
  もちろん,実務的に大きな問題が今のままであることは分かりますので,それについては,例えば連続性に一定程度配慮する方法として,遺留分権利者は金銭返還あるいは現物返還を求めることができるというような選択方式にして,それに対して,返還を求められた受遺者,受贈者たちは,異なる方法によることを主張することができるとか,あるいは,債権者のことを考えるのでしたら,利害関係者も主張することができるという形で,そこに人を足すというようなことをすることにして,そこでもめて協議が調わない場合には,裁判所に何らかの手助けを求めることができるというのはあり得るかもしれませんけれども,そのような形で少し現在との連続性を残したまま行かないと,現在の学界では,遺留分制度の趣旨とか根本を変えるほど,まだ議論が熟していないように思いますので,大きな転換は非常に危険なように感じました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  皆様の中には,金銭債権化を進めるという方向で考えるべきだという方と,それに一定の歯止めが必要だというお考えの方と,やはりいらっしゃるようで,事務当局が今回準備された案が複雑なものになっているのは,その二つの御意見を調整するという趣旨でこのようなものが出された結果であると理解しております。調整するときに,過度な複雑さが生じますと,それ自体がまた問題を生じさせるという御指摘があったところでありますけれども,幾つかの要請があるということは,まだ,それが一本化できるという状況ではないということかと思います。何らかの形で調整をし,問題が少ないものを考えていこうというのが現在の皆様のお考えかと思いますけれども,この状況認識について何か御発言がありましたら伺いたいと思います。いかがでしょうか。
○水野(紀)委員 西幹事の御発言に沿っての発言になります。今までの遺留分減殺請求訴訟において,現物の一部を物理的に帰属させることが,当事者にとっては事態の解決にまったくならないことは,明らかであろうと思います。遺産分割紛争を総合的・一回的・全面的に解決するのではなく,争点ごとに,一部は訴訟に委ね,家庭裁判所でも調停や審判ごとに細切れに細分化して部分的解決をするのでは,当事者は何度も申し立てなくてはなりません。たしかに家庭裁判所の手続きでは,柔軟な対応が出来ますし,調停ではもっとすべてを解決できますが,それゆえに調停で妥協を強いて合意を形成することには問題があるように思います。遺産分割も遺留分も一度に公平に,かつその実現方法は金銭精算などで柔軟に設計できればよいのですけれども。
○大村部会長 ありがとうございます。
  案については更に検討すべきことが多々指摘されていますが。
○増田委員 乙案とか丙案についての言及がどこにもなかったと思うのですが,乙案は甲案よりも遺留分請求権をもっと弱体化するというものなので難しいかと思うのですけれども,冒頭で少し包括遺贈の話をしたのは,ひょっとすると包括遺贈だけは乙案的にできないかなという思いがあったためです。包括遺贈の場合は全体を割合的に贈与しているわけですから,遺産分割と似たような状況が発生します。要は,特定のものを遺言者が誰かに渡しているという場合には,それには明確な意思があって,それを尊重するという見地からは,金銭債権という方法がいいのではないかと思うのですが,包括遺贈の場合は,相続分を動かして,そこに別の誰かを引き込んでというような面があるので,乙案も検討の余地があるのではないかと思いますので,ちょっと一言申し上げておきます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 私も類似のことを申し上げようかなと思っていたのですが,増田委員の御指摘,大変に説得的なのではないかと思いますし,恐らく,増田委員の御指摘というのは,包括遺贈の場合にだけ乙案という形もありますが,遺産分割を含む相続人間の問題に関しては乙案を使うという枠組みの中で,包括遺贈の場合には,包括受遺者は相続人に準じて扱われますので,そういう枠組みで行くという可能性があるのかなと思いました。
  包括遺贈もそうなのですが,相続分の指定による遺留分侵害のようなケースというのは,どうしても遺産分割手続を最後しないと帰属が決まらないということがあります。もちろん特定物の遺贈の場合にはそうではないのですが,絶対にこの方向がいいという自信はないのですが,相続人間に関しては,やはり乙案みたいな形で対応するというのは十分にあり得るのではないか。また,従来からも,相続人間の遺留分侵害の問題と相続人ではない者に対する遺留分侵害の問題というのは,基本的に異なる性格の問題ではないかと理解されてきたと思いますので,この方向はあってもいいのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙案,丙案につきまして,何かほかに御発言がありましたら,承りたいと思います。
○浅田委員 いつものように,第三者の立場からということでございます。技術的な話になるかもしれませんけれども,質問が三つございます。
  一つは,対債務者の効力ということであります。乙案を拝見しますと,遺産分割協議又は審判等において初めて形成されるものとするということになっております。したがいまして,遺留分についての協議又は審判が調うまでは,債務者は遺言者からの請求に応じて支払えば足りると,遺留分権利者と称する者からの請求というのは,その時点においては何ら権利がないということですので,そのようなものとして考えていいのかということの確認であります。
  二つ目は,そうした場合に考えられる遺留分権利者の対抗策ということを想像したときに考えられることでございますけれども,協議又は審判が調うまで遺留分権利者に何の権利もないとされることであれば,遺留分権利者というのは,民事保全手続等により預金債務等の流出を何とか止めようと思うでしょう。それを可能にするような手続というのを具体的にお考えでしょうか。仮にもし可能ということであれば,それが発動された場合,例えば仮差押えとかいうことがあった場合には,銀行としてはそれに応じれば足りるかとも思うのですけれども,その整理でいいのかどうかという質問でございます。
  三つ目の御質問は,この協議,審判と,遺産全体の遺産分割審判との関係であります。この論点で乙案を採り遺留分減殺請求権について協議・審判となって,別途,残りのものについての遺産分割協議,審判が個別に進行するということが許されるとすれば,両者の関係が問題になり得ると思います。遺留分減殺請求権の事件が先に決着した場合に,どのようになるのでしょうかということです。債務者からすれば,弁済先が不明のままになる可能性があるということになろうかと思いますけれども,それについて何かしらの整理があるのでしょうか。
  考えますに,この点は,次回の会議で議論される可分債権の取扱いの論点の中で整理されるのかもしれないとは思っております。その点,第5回会議の部会資料5で提案されました乙案をとれば,原則として,遺産については分割協議を行うとされた場合には,遺留分事件のほうが決着しても,全体の遺産分割事件が決着するまでは預金の返還請求権が生じないと理解されるような気がいたします。この点についてどう考えられるのか,ないしは,その点については次回議論されるのかということでございます。
  さらに敷衍しますと,仮に第5回会議の可分債権の取扱いに関する提案における甲案,すなわち,当然分割承継説かつ対抗要件との組合せが採用された場合には,遺留分事件が決着するまでは受遺者からの請求のみに応じて支払えばよいという整理になろうかと思います。その点をどうお考えなのかということについて,若干の問題提起,次回会議への問題提起も含めて,申し上げました。
○堂薗幹事 御質問の点ですが,まず,基本的に乙案の場合は,協議が成立するか,あるいは審判が確定するまでは権利変動は生じないということですので,債務者としてはそれまでの間は受遺者又は受贈者に弁済すれば,それで当然に有効であって,免責とかの問題ではなく,そもそも有効だということでございます。
  それから,乙案をとった場合に,遺留分権利者の方で何か保全処置を,保全処分のような形で受遺者側の処分を制限するというような方策を考えているかどうかという点ですけれども,乙案について,例えば家庭裁判所の審判事項にするということであれば,現行法を前提にしますと,審判前の保全処分とかそういったことになりますので,その辺りについては引き続き検討していく必要があろうかと思います。
  乙案と遺産分割の関係等につきましては,先ほどと同じでございまして,次回に併せて検討させていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  非常に多様な御指摘を頂きまして,また検討すべき点も多いということが分かりましたけれども,本日のうちに更に指摘しておきたいという御指摘がありましたら,いただきたいと思います。あるいは,事務当局の方で,この点を伺っておきたいことがあれば,どうぞ。
○渡辺関係官 すみません,先ほどの甲案の金銭債権化の関係について,もし御知見があれば教えていただければなという点が1点ございます。フランス法は,2006年に現物返還の原則をやめて金銭賠償を原則化したというような改正がされたというようなことでございまして,ただ,一定の例外的な場合にはもちろん現物返還の余地が残っていると,こういうような改正をしたということがあるようでございます。
  先ほど西幹事の方からも,そういった原則を変えると非常に大きな問題があるというような御指摘もございましたけれども,私どもの方では,母法とも言われているフランス法でこういった改正ができているので,金銭債権を原則化することもできるのかなというような考えでやっておりまして,もちろん遺留分の趣旨の中でも,例えば家産の返還みたいな,そういった趣旨がもしあるとすれば,そこはもう金銭債権化してしまえば当然,消えてしまうのかなとは思っているところなのですが,なかなか,どれほど大きな影響があるのかというところはちょっと想像が付きにくいところもございまして,このフランス法の改正との関係で,何か有益な御指摘をもしいただけるのであれば,お願いできればと思ってございます。
○大村部会長 もし何かございましたら。
○水野(紀)委員 私よりも西幹事の方が,フランス法については基本的に正確な知識をお持ちだと思いますけれども,フランス法と比較しますと,日本の状況とフランス法の状況とは余りにも違います。フランス法では,浅田委員が指摘されるような問題は生じないといえます。相続人は,処分できないとして,アンタッチャブルにしておいて,債権債務の処分もそのまま,公証人の行う遺産分割手続きでまとめて行い,その中で遺留分の行使もされますから,遺産分割手続の中で全て決着がつけられます。その条文の改正は,そういう前提のもとでということになります。そして公証人は,遺産分割においては,法の定める正義を体現する存在として相続人たちに権限をふるいます。
  日本のように,基本はなんでもありの家族の私的自治に任せられた手続きで,争うとなると遺産分割手続と遺留分権利行使が別々で,管轄裁判所も違うというシチュエーションで,言わば最後に与えられた,しかし余りにも強力なオールマイティカードという遺留分減殺請求と,フランスの公証人にコントロールされた遺産分割手続きの中で使われる一枚のカードである遺留分減殺請求との相違があります。フランス法の改正の背景には,歴史的には農業国だったフランスにおいて相続人の生存保障を意味した現物返還が,時代とともに意味が変わっていったことはあると思いますけれども,その改正の1点をとって,日本法の言わば唯一にして変な使われ方をしているオールマイティカードが性格を一変させることと同視は出来ないでしょう。フランス法の遺留分請求権の改正を参照されるのでしたら,その前提となっている仕組み全体が余りにも日本と違うということまでお考えの上で,御理解を頂ければと思います。
○大村部会長 主として今,手続の面について御指摘を頂いたかと思いますけれども,実体面というか原理の点について何かあれば。
○西幹事 水野先生のおっしゃったとおりですので,フランスは今までは現物返還が原則だったのが急に変わったという点についてだけ,一言申し上げます。実はフランスは必ずしもそうではなくて,すでに2006年改正の一段階前で,相続人間での贈与に関しては価額返還を原則とする改正がなされていました。つまり,2006年改正の段階で必ずしも常に現物返還が原則だったというわけではなくて,対相続人間,対第三者間で非常に細かい分け方がされていたのです。したがって,価額弁償原則の経験がなかったというわけではなくて,既に一定の蓄積があったと思います。日本に関しても,現物を返すということは,今の御議論では,ほとんど物権的効果が生じるということが前提になっているように感じますけれども,昔は,現物を返すという場合であっても,物権的効果ではなくて債権的効果しかないという学説ももちろんありましたので,そこの原点に戻れば,価額返還と現物返還を同レベルで考えて議論を組み立てていく方法もあるのかなという気はいたしました。
○大村部会長 よろしいですか。
○渡辺関係官 どうもありがとうございました。
○大村部会長 御指摘を踏まえて,更に検討していただくということにさせていただきたいと存じます。
  次の第2の遺留分の算定方法等の見直しというのも第1に劣らずに込み入った話で時間がかかりそうですので,もし特別な御発言がなければ,この項目に移りたいと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。
  では,事務当局の方から第2についての説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 では,引き続きまして「第2 遺留分の算定方法等の見直し」について御説明をさせていただきます。資料で申しますと4ページ以降でございます。
  今回はA案として,相続人に対する請求と第三者に対する請求を分ける考え方,それから,B案といたしまして,遺留分減殺請求によって遺贈等の目的財産が遺産に復帰するものとし,相続人間の取得額の調整は遺産分割手続によって行うこととする考え方,この二つを掲げてございます。両案の詳細を御説明する前に,まず両案の概要を御説明させていただきたいと思います。資料の7ページを御覧ください。
  A案とB案は,いずれも遺留分の算定方法を見直すことによって,遺留分に関する紛争を合理的に解決しようとするものでございますが,その方向性が異なります。すなわち,A案は,受遺者又は受贈者が第三者である場合と相続人である場合とを区別しようとするものであるのに対しまして,B案は,総体的遺留分を侵害する財産を遺産に復帰させた上で,遺産分割の手続において相続人間の調整を図るというものでございます。
  A案とB案の特徴を簡潔に申し上げますと,まず,A案は,受遺者又は受贈者が第三者である場合と相続人である場合,これを完全に分離することができるものの,遺留分の算定方法が複雑になるといった難点がございます。これに対しまして,B案は,遺留分の算定方法が現行よりも簡易なものになり,予測可能性が高まるというところはございますが,遺留分減殺請求によって遺産に復帰した財産について別途遺産分割の手続が必要となるため,遺留分に関する手続と遺産分割事件とを同一の手続において合理的に解決することができるかという点が課題になるかと思われます。
  A案とB案における技術的な問題点につきましては,先ほどの第1の法的性質と同じでございまして,様々な問題点があるということはこちらの方も認識はしているところでございますが,まずは大まかな方向性につきまして御議論いただければ大変有り難いと考えております。
  それでは,両案について詳しく御説明申し上げたいと思います。まず,A案についてですが,4ページを御覧ください。
  Ⅰの「第三者に対する請求」とⅡの「相続人に対する請求」とで異なる規律がございますが,まずⅠの方から参ります。
  ①として,遺留分権利者は,相続人以外の第三者に対しては,以下の計算式によって算出された額を遺留分侵害額として主張することができるとし,計算式を記載しております。
  ㋐は,遺留分算定の基礎となる財産でございますけれども,「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」に「相続開始前1年間にされた贈与の目的財産の価額」を加え,そこから「相続債務の額」を控除するということにしております。
  ㋑は,個別的遺留分額ということでございますが,㋐で出した金額に個別的遺留分の割合,例えば配偶者ということであれば4分の1になることが多いかと思いますが,それを掛けるということになります。
  ㋒は,遺留分侵害額ですけれども,㋑の価額から「遺留分権利者が被相続人から遺贈又は贈与を受けた財産の額」,それから「民法第903条の規定によって算定した相続分の額」,これは遺産分割における具体的相続分とほぼイコールのものと思っていただければと思います。それから,Ⅱで出てきた「③の遺留分侵害額」,これを控除して,最後に「遺留分権利者が負担する相続債務の額」を加えます。いろいろと書いてございますが,ごく簡単に言ってしまえば,自分が取得する分を引き,自分が負担する債務を加えるということでございます。後ほど御説明いたしますが,ここではⅡの「③の遺留分侵害額」,これを控除するということがポイントになります。これにより,第三者の場合と相続人の場合とを独立した規律にすることができる反面,計算を複雑にするという副作用もございます。
  次,②でございますが,相続人以外の第三者は,民法第1033条から第1035条までと同様の規律に従って責任を負うということにいたしております。要するにここは,新しいものから順番に減殺されるという現行法の規律と同じということでございます。
  引き続き,Ⅱ「相続人に対する請求」でございます。
  ③といたしまして,遺留分権利者は,他の相続人に対しては,以下の計算式によって算出された額を遺留分侵害額として主張することができるとし,計算式を記載しております。
  ㋐は遺留分算定の基礎となる財産でございますが,「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」,ただし,これは第三者に遺贈されたものを除きますが,これに「特別受益の価額」を加え,最後に「相続債務の額」を控除いたします。相続債務の額を控除するという以外は,遺産分割におけるみなし相続財産と同じということでございます。
  ㋑は,個別的遺留分額ですが,㋐の額に個別的遺留分の割合,例えば配偶者であれば4分の1になることが多いと思いますが,それを掛けます。
  ㋒は遺留分侵害額ですけれども,㋑の額から「遺留分権利者が被相続人から遺贈又は贈与を受けた財産の額」,「民法第903条の規定によって算定した相続分の額」,これを控除し,最後に「遺留分権利者が負担する債務の額」を加えます。ここでも,言ってしまえば,自分が取得する部分を引き,負担する部分を加えるということでございます。
  次に,④でございますが,相続人は法定相続分超過額の割合に応じてそれぞれ責任を負うということにいたしております。
  以上がA案の内容でございますが,次に補足説明に参りたいと思います。8ページを御覧ください。
  まず,(1)の部会資料4からの変更点でございますが,部会資料4では,受遺者又は受贈者が相続人である場合と第三者である場合とで規律を完全には分けていないというものでございました。この点につきましては,前回の部会において,受遺者又は受贈者に相続人と第三者の双方が含まれる場合の規律が複雑になり,分かりにくい制度となるため,両者を完全に分けて規律することを検討すべきであるといった御指摘を頂いたところでございます。A案は,このような御指摘を踏まえて,受遺者又は受贈者が相続人である場合と第三者である場合とを完全に分けて規律することとしたものでございまして,主な変更点は次のとおりになります。
  まず,Ⅰですけれども,対象を第三者に限定すること,それから,遺留分侵害額を算定するに当たって,Ⅱで算定される遺留分侵害額を控除するということにいたしております。このような変更をすることによって,受遺者又は受贈者が第三者である場合と相続人である場合とを,それぞれ独立した制度とすることができるということになるかと思います。
  次に,Ⅱでございますけれども,今回は現行法と同様,相続債務を考慮することとしております。前回は,ここでは相続債務を考慮しないということにしておりましたので,相当額の相続債務がある場合にはⅡの制度だけでは不足が生じ得るということとなり,それを解消するために,受遺者又は受贈者が相続人である場合でも,Ⅰの制度の対象とせざるを得なかったという事情がございました。しかし,今回はⅡの制度におきましても相続債務を考慮するということにいたしておりますので,相続人間の紛争につきましてはⅡの制度の中で完結することが可能になるのではないかと考えております。
  なお,この点につきましては別の方法で問題を解消することも考えられるかと思っております。8ページから9ページにかけての(注3)を御覧いただきたいと思うのですけれども,例えば,遺留分算定の段階では相続債務は考慮しないということにいたしますが,遺留分による調整後のみなし相続財産の最終的な取得額に応じて相続債務の内部的負担割合が定まるというような考え方を仮に採用するといたしますと,同じように前回の部会資料で問題とされていた点を解消することができるように思われます。ただ,この考え方は,積極財産の取得割合に応じて消極財産の負担割合を定めるというものでございまして,相続人間の公平には資するという利点はございますが,他方で,相続人間の求償問題を頻発させるという難点もございます。
  次に,9ページの(2)のⅠの制度についてですけれども,まずはアの特別受益の取扱いでございます。相続人に対する特別受益につきましては,判例上,原則として,何十年も前のものであっても遺留分算定の基礎となると解されております。しかし,受遺者又は受贈者が第三者である場合には,自らの知り得ない特別受益の存在によって,予想を超える遺留分減殺請求を受けるといったことにもなりかねず,そのような結論は,遺贈又は贈与の無償制を考慮してもなおその合理性には疑問が残るところでございます。そこで,今回は前回と同じように,特別受益につきましても,民法第1030条前段が適用され,相続開始前の1年間にしたものに限定するということとしております。
  なお,(注)にも記載してございますが,特別受益に限らず,第三者への贈与にも共通する問題でございますが,ここでは,相続開始から1年よりも前のものについては,当事者の主観にかかわらず対象から外すということを想定しております。これは,受遺者又は受贈者が法的に不安定な地位に置かれてしまうということと,特別受益についても相続開始前の1年間にしたものに限定いたしますと,当事者の主観面についての争いが増えるのではないかといった点を懸念したところでございます。この点につきましては,後ほど御説明させていただくB案についても同様でございます。
  続きまして,10ページのイの算定上の問題点についてでございます。先ほども少し御説明いたしましたが,Ⅰの遺留分侵害額の算定に当たっては,Ⅱの遺留分侵害額を控除するということになりますが,この点で算定上の困難が生ずる可能性がございます。もっとも,Ⅱの遺留分侵害額というのは,その前提となる財産関係,例えば,被相続人が相続開始の時において有していた財産であるとか,贈与した財産の価額,債務の額といったものが確定すれば,客観的に算定することができるものでございまして,この点につきましては,現行法上においても考慮しなければなりません。したがって,A案を採用したからといって,現行法の規律と比較して遺留分の算定が非常に困難になるというわけではないのではないかと考えております。
  続きまして,(3)のⅡの制度ですけれども,まずアの遺産分割との関係でございます。Ⅱの遺留分につきましては,遺留分算定の基礎となる財産を,相続債務を考慮する点を除けば,遺産分割におけるみなし相続財産と同じという形にしておりますので,第1の乙案と組み合わせることによって,遺留分を遺産分割と同一の手続で処理することが可能になるかと思われます。もっとも,事案によっては,遺産分割と遺留分を一緒の手続でやるということは,かえって紛争を複雑化させるという面もあり得ると思いますので,両手続の併合を必要的なものとするかについては慎重な検討が必要ではないかと思っております。
  次に,イの寄与分との関係でございます。今回のA案は,相続人間の遺留分は寄与分による影響を受けないということとしております。これは,寄与分による貢献よりも最低限保証すべき遺留分を優先させるという価値判断に基づくものでございます。この考え方によりますと,寄与分は,現行法と同様,被相続人が相続開始の時において有していた財産の価額から遺贈の価額を考慮した残額を超えては認められず,遺産分割における具体的相続分を修正するという以上の意味を持たないということになります。
  もっとも,これに対しましては,寄与分による貢献を相続人間の遺留分に優先させるという考え方もあり得るところかと思っております。その場合には,みなし相続財産又は被相続人が相続開始時において有していた財産,これは遺贈されたものも含みますけれども,その中から寄与分を認定し,そこから寄与分を控除した上で,その残額について遺留分等を検討するということになるかと思われます。ただ,その場合であっても,第三者に対する遺留分を検討する場合には,手続上,寄与分はないものとして算定せざるを得ないのではないかというところがございまして,手続的には工夫を凝らす必要があるのかなと思っております。
  最後に,(4)の第1の考え方,遺留分減殺請求権の法的性質との関係でございます。A案をとった場合であっても,遺留分減殺請求権の法的性質における,先ほどの甲案,乙案,丙案のいずれの考え方も組み合わせることは理屈の上では可能かと思いますが,A案は丙案とより親和性のある考え方ではないかと思っております。A案と丙案を組み合わせた場合には,受遺者又は受贈者が第三者である場合は地方裁判所における民事訴訟手続で,これが相続人である場合には家庭裁判所における家事事件手続でこれを行うことが可能であるため,手続上の問題は少なくなるのではないかと考えております。
  続きまして,B案について御説明をしたいと思います。6ページを御覧いただきたいのですが,Ⅰの「遺留分減殺請求の効果等の見直し」と,Ⅱの「相続人間における具体的相続分の調整」の二つがございます。
  まず,Ⅰからでございますが,①は,遺留分権利者の総体的遺留分侵害額についての計算式を定めるものでございます。
  ㋐は,遺留分算定の基礎となる財産ですけれども,「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」に「相続開始前1年間にされた贈与の目的財産の価額」を加え,そこから「相続債務の額」を控除するということにしております。ここはA案と同様でございます。
  ㋑は,総体的遺留分額ですが,㋐の額に総体的遺留分の割合を掛けることにしております。総体的遺留分の割合につきましては,現行法と同様のものを想定しておりまして,直系尊属のみが相続人である場合を除き,2分の1ということになります。
  ㋒は総体的遺留分侵害額ですが,㋑の額に「相続債務の額」を加え,そこから「遺産分割の対象財産の額」を控除し,更に「相続人が受けた遺贈又は贈与の額」に,その相続人の法定相続分,これを掛けたものを控除するということにしております。
  続いて,②ですが,遺留分権利者が遺留分減殺請求をした場合には,受遺者又は受贈者が受けた遺贈又は贈与のうち遺留分侵害額に相当する部分は無効となり,遺産に復帰するということとしております。
  そして,③ですが,減殺の順序及び割合については現行法と同様の規律,すなわち新しいものから減殺されるということとしております。
  最後,④ですけれども,復帰した遺産は遺産分割によって分割することとし,遺産分割における具体的相続分の算定方法につきましては現行法と同じとしております。
  続きまして,Ⅱでございますが,⑤は,「最低相続分額」というものを新たに定め,遺留分権利者が取得した財産の額が最低相続分額に達しない場合には,遺産分割において,他の相続人に対し,その差額の支払又はこれに相当する財産の返還を求めることができることとしております。そして,その最低相続分額の計算式を定めておりますが,まず,㋐は,遺産分割におけるみなし相続財産の額でございますけれども,「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」,これは(注5)にありますとおり,第三者に対する遺贈の目的財産の額を除きますし,また,Ⅰの制度により遺産に復帰した財産がある場合には,その額を加算することを前提としておりますが,それに特別受益の額を加えるというものでございます。
  そして,㋑が最低相続分額ですけれども,これは㋐の額に法定相続分の2分の1を掛けることによって算定いたします。ここでいう2分の1というのは,現行の総体的遺留分と同じ割合を想定しておりまして,原則として2分の1ということになるかと思います。
  その上で,⑥として,他の相続人は,遺留分権利者に対し,法定相続分超過額の割合に応じて,その差額について責任を負うということといたしております。
  以上がB案の内容ですが,次に補足説明に参りたいと思いますので,11ページを御覧ください。
  まず,(1)の部会資料4からの変更点でございますが,B案は,現行の遺留分制度は,遺留分権利者に相続財産等の純資産額の一定割合に相当する財産を留保するという要請と,被相続人から受領した財産額に関する相続人間の不平等を是正するという要請を実現するためのものと捉えた上で,この二つの要請を別の制度によって実現するという部会資料4の考え方,これを前提とするものでございます。その上で,Ⅰの制度につきましては,総体的遺留分を侵害する部分を無効として,これを遺産に復帰させることにとどめ,遺産に復帰した財産の分配につきましては,通常の遺産分割において処理することとしており,Ⅱの制度につきましては,遺留分権利者が被相続人から取得した財産の額が具体的相続分の2分の1に満たない場合に,その差額の取り戻しを認めるということとしております。
  次に,Ⅰの制度の検討事項でございますが,12ページの(2)を見ていただければと思います。
  まず,アの請求者でございますが,現行の遺留分制度は,遺留分権利者のうち,現にその遺留分を侵害された者のみが請求者ということになりますが,Ⅰの制度は,遺留分権利者であれば誰でも保存行為として請求をすることができることとしております。このため,現行の遺留分制度よりも請求権者の範囲が広がることになりますが,実際には,この請求をする者の多くは特別受益の額が少ない相続人になると考えられるところでございます。
  また,特別受益の取扱いにつきましては,先ほどA案において御説明したとおりでございまして,過去の特別受益の有無及びその額によって減殺される範囲が大きく変わるということがなくなりまして,現行法の規律よりも,減殺される範囲に関する予測可能性が高まるのではないかと考えております。
  次に,イの減殺の対象となる被相続人の処分行為についてでございます。B案は,被相続人の処分行為のうち,総体的遺留分を侵害する部分を無効とするものでありますが,処分行為の相手が相続人である場合には,その相続人の法定相続分に相当する部分については,その処分行為がなかったとしても当該相続人に帰属することになりますので,その法定相続分を超過する部分のみを減殺の対象とすることを想定しております。
  続きまして,ウの遺産復帰の効果についてです。12ページから13ページを御覧いただければと思います。
  まず,(ア)でございますが,遺産に復帰した財産が受遺者又は受贈者に対する金銭債権となる場合の処理が問題となります。すなわち,遺贈又は贈与の一部が遺産に復帰するとした場合において,復帰する財産が受遺者又は受贈者に対する金銭債権となるときは,その扱いをどうするかという点が問題になります。何ら手当てを致しませんと,法定相続分に従って当然分割ということになりますが,ここでは遺留分権利者が保存行為として行うものとしておりますので,各遺留分権利者がその全額を行使することができるようにする必要があるものと考えております。
  次に,(イ)の遺産分割との関係でございますが,ここでは場合を分けて検討しております。まず,㋐の「遺留分減殺請求がされる前に遺産分割協議等が成立していた場合」でございますが,B案は,遺留分減殺請求によって遺贈又は贈与の目的財産の一部が遺産に復帰するというものではありますが,遡って効力を認めるというものではございませんので,遺留分減殺の前に遺産分割協議等が既に成立していたのであれば,その効力には影響は生じないものと考えられますので,特段の手当ては必要ないと考えられるところでございます。
  次に,㋑の「遺産分割協議等が成立する前に遺留分減殺請求がされた場合」でございます。この場合は,遺留分減殺請求によって復帰した遺産と元々あった遺産を合わせて遺産分割を行うべきでありますが,遺留分侵害の有無やその範囲等について争いがあり,その確定に相当程度の期間を要するということも想定されるような場合には,遺留分減殺請求によって遺産に復帰すべき財産を除外して,遺産分割を行うということを可能とする方策を講ずる必要があるものと考えられます。
  この点につきましては,(注)で触れておりますけれども,可分債権を遺産分割の対象とする見直しをした場合に,不法行為に基づく損害賠償請求権のように,その債権の有無及び額につき当事者間で争いがある債権が含まれる場合と同様の問題があるのではないかと考えております。この問題につきましては,一部分割を可能とする要件の明確化,柔軟化を図るとともに,残部の遺産分割における規律の明確化を図る必要があると考えられますが,その点につきましては,次回の部会資料において検討していきたいと考えております。
  最後に,㋒の「他に遺産分割すべき財産がない場合の処理」でございますけれども,実際の事案では,Ⅰの制度の請求者が遺産に復帰した財産の全てを取得すべき場合が現実には多いように思われるところです。そのような場合につきましては,例えば,Ⅰの制度の請求者が他の相続人に対して相当の期間を定めて遺産に復帰した財産についての分配を求めるかどうかを催告を致しまして,その期間内にその求めがなかった場合には,その請求者が復帰した遺産の全てを取得するという内容の遺産分割協議が成立したものとみなすなどの方策を講ずることも考えられるのではないかと思っているところです。
  続きまして,14ページの(3)のⅡの制度の検討事項でございますが,Ⅱの制度は,遺留分権利者が取得した財産の額が具体的相続分額の2分の1に満たない場合に,多額の特別受益がある他の相続人に金銭債務を負担させるなどして,その差額を填補させることを目的としたものでございます。現行の規律ですと,相続人の中に遺贈や贈与を受けた者がいる場合には,これを特別受益とすることによって,相続人間の取得額における不平等を是正することができるとされておりますが,特別受益の制度は,多額の特別受益が現実に返還されるということまでは想定しておらず,その者の具体的相続分をゼロにするにとどまります。すなわち,特別受益が具体的相続分額を上回る場合にも,これを返還するというところまでは要しないとされておりまして,この超過部分は,講学上,超過特別受益などと呼ばれておりますけれども,B案のⅡの制度は,遺留分権利者の取得額が具体的相続分額の2分の1に満たない場合に,その超過特別受益がある者からその一部を現実に返還させるといったものでございます。
  このⅡの制度は,必ずしもⅠの制度の利用を前提としたものではございませんので,Ⅰの制度の要件を満たさない場合であっても,Ⅱの要件を満たすということがあり得るかと思われます。
  なお,寄与分につきましては,A案と同様,最低限相続分額を算定するに当たっては考慮しないということとしております。
  続きまして,(4)のⅠの事件と遺産分割事件を一体的に処理する方策についてでございます。
  B案によりますと,Ⅰの事件では,遺贈等の目的財産の一部が遺産に復帰するだけであり,その後,その財産については別途遺産分割協議なり審判を行う必要があることになりますので,Ⅰの事件と遺産分割事件を一体的に処理することができるようにすべき必要性が高いものと思われます。
  他方で,Ⅰの事件は,基本的には一定の要件を満たせば当然に遺産への復帰の効果が生じ,実体的な権利義務の内容について裁判所の裁量の入る余地がないと考えられますので,基本的にはその手続は,現行法の遺留分減殺請求と同様,弁論主義等が妥当する民事訴訟手続になじむものかと思われます。
  そういたしますと,Ⅰの事件と遺産分割事件とを一体的に処理するためには,Ⅰの事件の管轄を家庭裁判所とした上で,遺産分割事件との併合処理を可能とする方策を講ずる必要があるということになります。この点につきましては,弁論主義等が妥当する民事訴訟事件と職権探知主義等が妥当する家事事件手続の併合を認めた場合に,適切に事件処理ができるのかといった点が問題になりますけれども,現行の人事訴訟法におきましても,離婚に伴う財産分与であるとか慰謝料請求,こういったものが併合的に処理されているということがありますので,このような場合と同じような,類似する面があるのではないかと考えております。もちろん具体的な制度設計については慎重な検討が必要となりますけれども,Ⅰの事件と遺産分割事件を併合して行うことも可能ではないかと考えておるところでございます。
  最後に,15ページの(5)の第1の考え方,遺留分減殺請求権の法的性質との関係でございますが,B案につきましては,Ⅰの事件が遺留分に関する事件ということになりますが,遺留分減殺請求権の法的性質における甲案,乙案,丙案のいずれとも組み合わせることが可能であると考えております。
  説明は,以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  4ページ,「第2 遺留分の算定方法等の見直し」という見出しが付いておりますけれども,算定方法という一見すると技術的な問題のように見える事柄でありますけれども,どのような形で何を計算の中に入れていくのが合理的なのかということで,現状に問題があるのではないかという認識から出発して議論をしているわけでございます。
  今回,A案とB案というのが二つ出ておりますけれども,A案は相続人に対する請求と第三者に対する請求を分けると,前回までの審議では,この区別が十分に分かれていないということで,より複雑な問題が生ずるのではないかという御指摘がありましたので,それを仕分けるための工夫をしたという御説明であったかと思います。B案の方は,今のが言わば横割りであるのに対して,遺留分の問題と遺産相続の問題と,言わば縦割りで区別をすることによって処理しようという案が提案されているということかと思います。
  御説明の中には,基本的な制度設計の問題と,その中で個別の問題についてどのような決断をしていくのかという問題と,更に,生じ得るであろう不都合に対する手当てと,幾つかのレベルのものが含まれていたかと思います。これを議論するのはなかなか大変なことだと思いますので,そろそろ休憩をしたいのですけれども,今せっかく説明を頂きましたので,ここで休憩しますと,皆さん,先ほどの説明は何を聞いたのかなと思われるところもあると思いますので,内容を明確にするというような比較的大きな御質問を頂いて,それにお答えを頂いたというところで,少し中断をしたいと思います。いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 かなり思い切ったご提案で,勘違いするといけませんので,申し訳ありませんが,確認させて下さい。9ページの「ア 特別受益について」というところで,「受遺者又は受贈者が第三者である場合には,自らの知り得ない特別受益の存在によって,予想を超える遺留分減殺請求を受ける」と書かれてあるのですが,自らが知り得ない特別受益があるということは,つまり,ほかの相続人にたくさん行っていて,その特別受益がみなし相続財産に加わるということですから,むしろ予想を減ずる遺留分減殺請求になるということはないのでしょうか。
○堂薗幹事 この点は,要するに第三者ですので,特に何十年も前に特別受益がたくさんあるということは全然知らなかったと,そうすると,遺留分算定の基礎となる財産が予想よりはるかに大きかったということになります。その場合に,遺留分を侵害する部分についてどういう形で減殺されていくかというと,まず遺贈からということになりますので,そういった意味で,第三者が相続開始時あるいはその直前に遺贈ないし贈与を受けていたという場合に,およそ知り得ない何十年も前の特別受益の存在によって大きく減殺されてしまうというのは,おかしいのではないかという趣旨でございます。
○水野(紀)委員 分かりました,ありがとうございました。
  それと,もう一点。平成10年の最高裁判決の判断を否定しておられて,かつ,A案ですと,害意があったとしても,相続人に対する贈与の目的物も全部外すという御提案なのですけれども,そうすると,配偶者の地位を守ろうという発想からかなり遠い場面が出てこないでしょうか。具体的には,死期が近くなったと考えた被相続人が,跡取りだと考える子供,それは婚外子の場合もあるでしょうし,前婚の子供であることもあると思うのですけれども,そういう子供に,お前が跡取りだからというので,多額の財産を移転して,そして,自分の妻については,お前が跡取りだからよろしく頼むね,もちろんだよ,お父さんという,そういうやり取りがあったとします。被相続人が,そういう発想で跡取りに全部名義を集めてから,案外余命があって1年以上たった段階で相続が開始し,そして,跡取りに妻のことをまかせて安心して被相続人は死んだのだけれども,死んだとたんにその跡取りがもう配偶者については知ったことではないと判断した場合には,配偶者の地位は非常にもろいものになるような気がするのですが,そういうシチュエーションは生じますでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,現行の1030条の適用を否定することによって,第三者の方は,基本的に余り悪意ということもないでしょうから,そもそもそういった1年以上前の遺贈などが本来は取り消される可能性は低いにもかかわらず,いつまでも法的地位が確定しないのはおかしいのではないかというところが問題意識としてあります。他方,相続人間の問題については,御指摘のような問題が生じることはあるかと思いますが,ただ,相続人間のものについては,A案でもB案でも,基本的にⅡの制度の方で一定の措置をとっておりますので,特にA案のⅡの制度ですと,相続人に対する遺留分の関係ではこういった時間的な制限を設けないということになりますので,そこで十分な救済が図られるのではないかというところでございます。
○大村部会長 水野委員,よろしゅうございますか。
○水野(紀)委員 はい。跡取りが娘婿のように相続人ではない場合もありうるかもしれませんが,いまだにちょっと全体像の理解がよくできておりませんので,ゆっくり考えてみます。申し訳ありません。
○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。全体像の理解がしにくいというお話でしたけれども,全体像を理解するためのご質問を出していただけますと幸いです。
○窪田委員 小さなことで,すみません。確認をしたいということだけなのですけれども,12ページの一番下の部分,「減殺の対象となる被相続人の処分行為」という部分で,この部分はさらっと書かれてはいるのですが,恐らく現在の最高裁の判例とは異なる立場で,むしろ法定相続分を超えるもののみが遺言による処分なのであって,その処分を取り消すのだということなのだろうと思いますが,それはそういう理解でよろしいのかということと,そういう理解でよろしいのであれば,私自身はそちらの方が合理的であると思いますので,そのことだけ確認させていただこうかなと思いました。
○堂薗幹事 この点は,実は資料の6ページの2のⅠの㋒とも関係するのですけれども,ここも御指摘のとおりで,基本的には受遺者又は贈与の相手方が相続人である場合には,法定相続分は元々その処分がなかったとしても,その人に帰属していたのだから,そこを超える部分のみが,基本的には無償で取得した財産として取り扱うのが,むしろ遺留分の関係では適切なのではないかと。その点につきましては,窪田先生の論文などを踏まえて考えたところでございます。
○大村部会長 それでよろしゅうございますか。
○窪田委員 結構です。
○大村部会長 発言内容を制限すると皆さん発言しにくいかと思いますが,しかし,オープンでやりますとまだまだ質問が出るのではないかと思います。ここで一旦,中断させていただきまして,10分お休みいただいて,4時から再開したいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。
  「第2 遺留分の算定方法等の見直し」というところにつきまして,事務局から御説明を頂き,若干の質問を頂いたというところまでまいりました。では,垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 これは,すみません,本来,先ほどの時間帯に御質問させていただくべきだったのかもしれませんけれども,全体像の理解というところに関しまして,こちらの論点につきましては私,第1の方にも増して十分にフォローできていないというところがありまして,確認のための御質問ということでございます。
  お尋ねしたいところは大きく言って2点なのですけれども,いずれもA案とB案の関係に関する御質問なのですが,私は御説明あるいは資料を拝見いたしまして,A案とB案とでは使っている道具立てがまず異なると。A案の方は相続人に対する請求と第三者に対する請求を分けて規律をするということであり,B案の方は効果の方について異なる工夫をされていると拝見したのですけれども,A案とB案とで目指している実質的な遺留分に関する規律というのは大筋では一致するということなのか,それとも何か実質的に違う実質的な規律を目指しているのかと。何かずれが生ずるとすれば,それはどういう点で,それはどういう根拠でA案であればこうだしB案であればこうだしということになっているのかという大変抽象的な質問で恐縮なのですけれども,それが1点目です。
  2点目は,A案とB案の区別というのは,使っている道具立てはまず違うということは表面から分かるのですけれども,この違いというのは何かA案でなければ必ずB案,B案でなければA案というような二者択一的なものであるのか,それともそれぞれの手法を組み合わせるということも可能であるところ,その組合せの一つとしてこういうものを御提案されているということなのか,その辺りについて,大まかな質問で恐縮なのですけれども,教えていただければ幸いです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  では,お願いします。
○堂薗幹事 まず1点目ですけれども,A案は,まず相続人に対して請求をして,足りない部分があった場合に第三者に請求するというような制度になっておりますので,そういった意味では現行法と比べまして,より相続人間の公平を図るというところに重点が置かれることになるのではないかと思います。
  これに対しまして,B案の方は基本的には遺留分減殺請求の効果としては遺産に復帰するというだけですので,その復帰した遺産から遺留分権利者も分配を受けて,それでもなお相続人間の取得額に大きな開きがあるような場合に,その具体的相続分のところで調整をするということになりますので,遺留分制度の趣旨としては,一定のプラス財産のうち,一定範囲の財産を遺留分権者全体に残すというところに重点が置かれることになるのではないかと思います。ですから,その辺りについては,遺留分制度の趣旨についてどこに重点を置くのかというところと密接に関連するのではないかと思います。
  それから,二者択一的なのかというところでございますが,例えばB案におきましても,現状は完全に遺産に復帰して,その後は遺産分割で清算するということにしておりますが,まず一定の財産を取り戻した上で,遺留分制度の中で分配までしてしまうということにした上で,それでも足りない場合に相続人間で調整をすると。要するにA案と順番を逆転するということは,制度としてはあり得ると思います。
  ただ,B案は,基本的には現行の遺留分というのは遺贈又は贈与の一部を無効にしただけでなくて,その無効になった部分の分配までしてしまおうという制度なのだと思うのですが,遺産分割でも同じようなことをしますので,遺産分割との調整が必要になってくると。それをなくすようにするために,遺留分については遺産に復帰するというところにとどめて,その分配については遺産分割で統一的にやるという趣旨ということになります。
○大村部会長 垣内幹事,よろしいでしょうか。
○垣内幹事 はい。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○窪田委員 これは意見とか質問ということではないのですが,今お話しになったことからも,A案に関してなのですが,描き方の問題で,これは「Ⅰ 第三者に対する請求」「Ⅱ 相続人に対する請求」となっていて,実際の話としては相続人に対する請求をまずして,それで足りなかった部分が第三者に行くというのが恐らく数式の中で,5ページの㋒の5行目の「-(Ⅱ③の遺留分侵害額)」というのを控除するというところでだけ示されているものですから,かえって分かりにくいのかと思います。
  もちろん従来の遺留分減殺請求権というのは一般的なものだったので,それを踏まえてということだったと思うのですが,むしろこの趣旨を明確にするためには,ⅠとⅡを入れ替えて御説明いただいた方がより分かりやすいのかなという気がいたしました。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○増田委員 先ほどの水野委員の御質問に対するお答えで出ていた部分かと思いますが,確認的な話で,今回の案では,相続人に対する請求が論理的に先行するのだろうなとは思っているのですけれども,時期的な面については飽くまで遺贈から,手前からということでいいということですよね。
  つまり相続人であろうと第三者であろうと,時期的には手前の方から請求するということについては,変わらないということでよろしいですか。
○堂薗幹事 いや,A案のⅡの相続人に対する請求は,減殺の順序は基本的に付けないという前提になりますので,この算定式で出された遺留分侵害額について,他の相続人が金銭を払うなり,その取得した財産を返還するなりするということになります。
  ですから,A案のⅡの制度だけは減殺の順序について現行法と異なる取扱いをしているということでございます。
○増田委員 すみません。私の質問の趣旨は,手前の方に第三者に対する贈与があって,古い方に相続人に対する贈与がある場合にどちらから減殺するのかということで,それは現行法と変わらず手前の方の第三者に対する贈与から減殺するということでいいのかという趣旨だったのです。
○渡辺関係官 今の点ですけれども,まずA案の場合ですと,相続人に対する請求という処理を先にいたしますので,そこで一定の遺留分侵害額が出ると思います。それで足りない部分を第三者に対して行くわけですけれども,第三者に対して行く場合は,第三者に幾つか,多数の第三者に対して遺贈とか贈与がされておりましたら,それは新しいものから順にということになりますけれども,Ⅰの請求における減殺につきましては相続人は相手になりませんので,そこは単純に第三者,先ほどのケースで,第三者のものが最新であれば,第三者から行って,その次に相続人という形に必ずしもなるとは限らないのかなと思っております。
○窪田委員 確認だけさせていただきたいのですけれども,先ほど,水野先生の例が単純でわかりやすかったと思いますが,半年前に第三者への贈与があって,10年前に相続人に対する大きな贈与があった。現在の方法だと全然,第三者は知らなかったのに,全体としては遺留分侵害が生じてしまって,その場合,新しい方から減殺されるので第三者は大変迷惑を被るということだったのですが,この提案だと,まずⅡをやりますので,ほかに特別受益がなかったとすれば,まず10年前の相続人に対するものが減殺の対象となって,それでも足りない部分が今度は第三者に対して行くということですから,むしろ問題は減るのかなと理解しています。
○渡辺関係官 今,窪田委員のおっしゃられたとおりと整理しております。
○大村部会長 よろしいですか。
○増田委員 それでは,先ほど水野委員がおっしゃっていたように,特別受益の大きいものが過去にあると,第三者の減殺額は減るのですね。
○渡辺関係官 はい,そうなりまして,A案の場合ですと,ⅠとⅡでそれぞれ考慮する財産が若干違いますので,必ずしも単純に減るという関係にはならないかもしれませんけれども,ただ,先ほどの例のように,直近には第三者に対する遺贈とか贈与があって,大昔に相続人に対する大きな特別受益があったような場合ですと,まずⅡの方策から考えますので,そこでかなりの遺留分侵害額というのが恐らく発生するかと思われます。
  そして,次にⅠの制度を考えるわけですが,そこでは大昔の特別受益というのを遺留分算定の基礎となる財産に入れないのですけれども,最後にⅡの制度で出てきた遺留分侵害額を引きますから,結果として,Ⅰの制度における遺留分侵害額は,ゼロあるいは極めて少ない金額ということになるのかなと思っております。
○増田委員 それを前提にお伺いしたいのですけれども,過去に大きな特別受益があれば,第三者に対する遺留分侵害額が減るという前提で考えた場合,第三者は過去の特別受益というのは多分知らない,多くの場合は知らないと思うのですよね。遺留分減殺者の側はわかっていても,それを言うと減殺額が減るから恐らく主張しないと思われるのですが,この点に関しての主張立証責任はどちらにあるのでしょうか。
○渡辺関係官 減る場合ですと,基本的な考え方からすると,それによって利益を得る方が主張立証責任を負うということにはなるのかなとは思います。
○大村部会長 増田委員,取りあえずよろしいですか。
○増田委員 はい。
○大村部会長 そのほか御質問等ございましたら,どうぞ。
○浅田委員 確認ですけれども,ここの点については債務者の観点からは次回のところで,債務者としてはどうしたらいいのかということについて併せて御検討いただければと思っております。
  1点だけ御質問があるのですけれども,12ページの「ウ 遺産復帰の効果について」です。先ほど御説明があったのを聞き漏らしたのかもしれませんけれども,復帰した財産については,保存行為として,どの遺留分減殺請求権者も行使することができるということなのですけれども,それが権利行使の結果として遺産に戻った場合には,共有という考えになるのですか。
  その場合には,また次回の議論になりますけれども,可分債権の共有というのを,ここで認める共有と,それから全体の共有か,それか個別的にできるかとかという前回の議論との関係というのが何か問題になりそうな気がいたします。御質問というよりも,その点の御指摘だけしておきたいと思います。
○大村部会長 御指摘として承ります。
  そのほかいかがでございますか。もちろん御意見でも構いません。いかがでしょうか。
○垣内幹事 これは大きなデザインの問題というよりも,ちょっと細かい点のお尋ねになるかもしれませんけれども,12ページのB案のところで,遺留分権利者が各自保存行為として減殺請求ができ,これは複数出てくる場合には類似必要的共同訴訟となるという御説明になっているのですけれども,これは何か判決効の拡張がその遺留分権利者相互間にあるという前提だということなのでしょうか。
○堂薗幹事 この点につきましては,B案によると遺産に復帰して遺産共有の状態になりますので,本来は遺産確認と同じような話になってくるのではないかと思うのですが,遺産確認のように相続人全員でやらなければいけないということではなくて,この場合は遺留分権利者と受遺者又は受贈者の間で訴訟をさせるということでいいのではないかと考えております。
  ただ,その場合の判決効はやはり相続人全員に拡張して,それが遺産に復帰したという点については,ほかの相続人が争えなくする必要があるのではないかという趣旨でございます。
○垣内幹事 そうしますと,その場合の判決効拡張の根拠としては,提訴したい遺留分権利者が他の相続人のための訴訟担当者として訴訟追行するという御趣旨なのでしょうか。
○堂薗幹事 その辺りの趣旨については,更に詰めて検討させていただければと思います。
○山本(和)委員 まだこんな細かい話をする段階ではないとは思うのですが,判決効を及ぼして類似必要的共同訴訟にするというのは,遺産に戻ってきた場合には当然,そうしないと区々になれば困るということですけれども,そうすると,恐らく請求棄却の場合も判決効を及ぼすということになると思うのですけれども,その一部の相続人がやった。それも余り利害関係がなさそうな人間がやった訴訟で請求棄却になると,極端な場合にはなれ合い的なもので請求棄却になってしまって,ほかの人間に拡張していいのかと。何か通知みたいな制度,訴訟告知みたいな制度は要らないのかというような議論は出てくる可能性はあるのだろうと。
○堂薗幹事 ええ,正にそのとおりだと思います。この請求権者については,現段階では遺留分権利者であれば誰でもできるという前提ではあるのですが,そもそも,遺産と相続開始前1年の財産について,法定相続分を超えるような財産をもらっている人についてまで認める必要があるのかどうかとか,そういった問題が出てこようかと思います。ここでなぜ全員に対して認めたかというと,復帰した財産が最終的に誰に分配されるかというのは,遺産分割の中での特別受益の額などによって変わってきますので,そこはやむを得ないのではないかという前提ではあるのですが,今の制度設計だと濫用的に使われる可能性は否定できないと思いますので,その点に関する手当ては必要になってくるのではないかと考えております。
○増田委員 すみません,そもそも論にまた戻ってしまうのですけれども,一部の相続人が他人である他の相続人の権利を行使できる根拠とは何なのかというのをお伺いしたいのですが,従前の考え方でいえば,最高裁判例にあるように行使上の一身専属権ということになっていて,例えば債権者代位の目的にはならないというようなことが言われていますよね。
  何でこのときに行使できるのかという根拠を教えていただきたいというのと,それと,行使できる人だけの遺産共有にはできないのかというのも追加して。なぜ行使しない者を巻き込む必要があるのかということも併せてお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 B案の制度は,おそらく現行の遺留分制度とは異なる趣旨に基づくものということになるのだと思いますが,基本的には総遺留分権者のために一定の財産を確保すると。そういう意味では明治民法下の家産の維持に近い考え方なのかもしれませんが,総体としての遺留分権利者に一定の財産を確保するというところにも重点を置くということでございます。現行の遺留分減殺請求訴訟では,個々の遺留分権利者にどのような財産を返還するかというところまで決めるわけですから,当然,それについて行使するかどうかというのは遺留分権利者の判断,一身専属的な判断に委ねられるべき性質のものだと思いますが,ここは飽くまでも遺産に復帰するという効果をとどめるだけですので,そういった意味では遺留分権利者全員の利益のために行うもので,保存行為的な側面があるので,各遺留分権利者ができることになるのではないかということでございます。
○増田委員 多少,意見にわたるかもしれませんけれども,従前来,遺言者の意思の尊重ということが言われている中で,減殺する意思のない人の分まで遺言者の処分の自由を制限するということがそれと整合しているのかどうかは大変疑問です。
  それと,遺留分減殺をしない人には,遺留分減殺をしないという理由がそれぞれにあるわけであって,いろいろなケースが考えられます。人間関係的に受贈者側に近いということもあるだろうし,遺言者であるお父さんなりお母さんがそう言ったのであれば,それを尊重しようと思っている場合もあるし,単純に自分は要らない,あるいは紛争に巻き込まれたくないと思っているケースもあるだろうし,それぞれそれはそれなりに尊重されるべき意思であって,他の人が権利を行使して取ってきてくれればいいというものではないのではないかなと思ったりするのですがね。これは意見です。
○堂薗幹事 御指摘はよく分かるのですけれども,まず被相続人の意思ということからいいますと,基本的にはこの考え方は遺留分減殺の基礎となる財産のうち,純資産額の半分を超えるようなものについては被相続人の処分を制限すると,一定の範囲を超えたものは制限するという趣旨なので,そういった意味で被相続人の意思が制限されてもやむを得ないのではないかという考え方に立っており,かつ,遺留分権利者の中で,自分は被相続人の意思を尊重したいという人については,基本的には最終的に遺産に復帰した財産については遺産分割で分けることになりますので,その中で被相続人の意思を尊重して分配をすることも可能ではないかと思います。
  ですから,他の遺留分権利者が遺留分減殺請求をしたにもかかわらず,遺産分割において遺産に復帰した分についての取り分は要らないということになれば,基本的にはその人は何ら関わり合いを持つことなく,最終的な遺産の清算ができるということにはなろうかと思いますので,その限度で我慢していただくということではないかと思います。
○大村部会長 増田委員,よろしいですか。これまでの考え方とあるところを変えるということですが。
○増田委員 先ほどのは意見ですので結構です。
○山田委員 ただ今の点ですが,私も増田委員と現段階で同じ意見です。取り分が増えなくてもいいからその分割の場面でということと,あの人に持っていてほしいということとはちょっとステージが違うように思いまして,現行法の考え方と大きく違うところですので,重々御検討いただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  総体的な遺留分を実体化するということについて抵抗があるという御意見だったかと思いますけれども,更に検討していただきたいと思います。
○石井幹事 B案では遺留分減殺請求権が行使された後に遺産分割の手続が予定されていますが,遺留分減殺請求権を行使しなかった相続人の中には,相続をめぐる親族間紛争に一切関わりたくないと思っている方もおられるんだろうと思います。そうした相続人についても,B案によれば,遺留分減殺請求後の遺産分割の手続に,少なくとも冒頭の段階には関与してもらわざるを得ないのかなと思います。裁判所から通知が来るというだけで心理的な抵抗を感じる方もおられると思いますので,そのような相続人のご理解を得られるかという点でも,B案にはなかなか難しい面があるのかなと思っておるところです。
  またもう一つ,B案によると,遺留分減殺の対象財産は遺産に復帰するということですが,その場合には,遺産分割をするまでの間,どなたがどういう形でその財産を管理するのでしょうか。後日,財産の管理の適否等をめぐって争いになる可能性もあることを考慮すると,この点が明らかにされる必要もあるのではないかと思います。
○堂薗幹事 遺留分権者が関与したくない場合にも遺産分割には関わらざるを得ない場合があるのではないかというのはそのとおりだと思いまして,要するに,ほかに分割すべき財産がある場合はそれと一体で分配しますから,基本的にはその場合には関わらざるを得ないわけですが,ただ,復帰した財産からはもらわなくていいというようなことが言えるにとどまるわけです。これに対し,ほかに遺産分割の対象となるような財産がない場合には,それだけが目的財産になりますので,そういったときには実質的には関与しなくても足りるのではないかという趣旨でございます。ただ,もちろんその手続において裁判所から呼び出されるということは当然あろうかと思いますけれども。
  それから,復帰した遺産の管理については当然,その請求権者の方で管理をするということではないかと思いますので,処分がされる前と同じように遺産分割がされるまでの間は相続人の誰かが管理するという前提だろうとは思います。
○大村部会長 石井幹事,よろしいですか。
○山本(克)委員 1点は御質問で,1点は意見ですけれども,恐らく垣内幹事がおっしゃったのは一般にここでいう保存行為は,共有者の保存行為という趣旨の保存行為でおっしゃっているわけですよね。その場合について,判決効の保存行為に属するとされる訴訟の判決効は他の共有者に及ばないというのが一般的な判例法理だと理解されている現状で,そういうことが類似必要的共同訴訟性を基礎付けることができるのだろうかということだったのではないかなと思いますので,そこはやはりドイツ法でありませんので,ドイツ法なら保存行為に属する訴訟の確定判決の効力は他の共有者に及ぶという明文の規定がドイツ民法にありますけれども,日本にはないので,それは難しいのではないのかなというので,そこをどうお考えなのかというのが1点。
  それとともに,恐らく増田委員からお話があった以降の話は,私は第1のところの遺留分制度の性格の変更なんていうのは大したことがなくて,正にB案の方がよほど遺留分制度の性格を変える,減殺請求権というものの性格を変えるものになるので,こちらの方でもう少しそういう議論をきちんとしないとまずいので,民法の先生方に是非その辺りを議論していただきたいなという問題提起です。
○堂薗幹事 1点目は,この点についてもお知恵を拝借できればと思いますが,もともと,遺留分減殺請求自体は意思表示だけでできるということですので,減殺請求をすると言わば本来的な遺産共有の状態になるわけです。ですから,現行の遺産確認訴訟が必要的共同訴訟であることを前提にすれば,本来は必要的共同訴訟ということになるのではないかと思うのですが,ただ,この場面で,減殺請求を行使した人以外も手続に参加しないと訴訟はできませんということだと,それはさすがにいきすぎではないかということで,類似必要的共同訴訟にとどめるのはどうだろうかと考えた次第です。
○山本(克)委員 よろしいですか。その場合の請求の趣旨はどうなる。請求の趣旨というか,主文はどういうふうになるのでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には遺産確認と同じような形になると思います。
○山本(克)委員 遺産確認というと,何々の財産は被相続人誰々の遺産に属するということを確認するということになるのですか。
○堂薗幹事 そうですね。遺留分減殺請求を行使した後にするので,基本的にはそうなるのではないかと思います。
○山本(克)委員 そうですか。それで,それを前提に。ただ,遺産確認の訴えで,第三者に対する遺産確認の訴えというのは,今のところ,判例上は少なくとも明確に認めるとも認めないとも言っていなくて,その辺りと遺留分減殺の相手方が相続人である場合はいいのですが,相続人以外の場合にうまくそれが説明できるのかどうかというのもありますし,確認ですか。確認請求だとは余り考えていなかったのですが,登記が移った場合はどうする。登記が既に移されている場合とかは,そのときはその限度で移転登記を抹消する。
○堂薗幹事 遺産に復帰しますので,それに基づいて所有権移転登記を求めることになると思います。
○山本(克)委員 移転登記を求める。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 その場合には名義は共同相続人名義になるわけですよね,共同相続の場合ですと。それを保存行為で説明するのはすごく難しいと思いますけれども。
  つまり,自分たちの名義に移せというときに保存行為だといった判例は,私の知る限りはない,最高裁で。だから,そこを保存行為で説明するのはすごく難しいような気がしますが,細かい話にどんどん入っていますので,またお考えを頂くということで結構です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  手続的には難しい問題があるということが分かったように思いますけれども,実態についてそれとは別に十分な議論が必要ではないかというのが山本克己委員の御指摘だったかと思います。これにつきまして何か。
○窪田委員 B案についてきちんと議論しろということではあったのですが,今,B案についていろいろな技術的な問題は出ていましたが,私の理解が正しいのかどうかという点も含めて確認させていただいて,意見を申し上げさせていただきたいと思います。まず,B案というのは恐らく発想としては被相続人が持っていた財産が自由分と処分禁止の遺留分とに二分されて,遺留分対象の財産に関しては他のところに処分がなされたとしても,それについては本来,自由なものではなかったので取り戻されるという発想なのかなと思いました。
  自由分と遺留分ということについては,そうした発想で日本の遺留分制度も説明できるという考え方もおっしゃられる方もおられますし,学説としてはあると思うのですが,それでもそこで説明されてきた日本の遺留分制度というのは,当然にそうした処分が無効になるわけではなくて,遺留分権利者が権利を行使したときに,その範囲内で減殺されるというものにしかすぎません。だからその意味では,やはり絶対的に処分可能性を制限したものとか,そうしたものではなかったわけですね。
  この理解が正しいという前提に立った上で,B案がそういった側面を持っているのだとすると,B案は正しくそうした自由分と遺留分というものを実体化するという側面があるのだろうと思います。そうなってくると,最初の垣内さんの御説明にも関わるのですが,コンセプトの問題として,B案というのは全く違う性格を持っているものだということになるように思います。
  そのときに問題になるのは,では一体なぜそれを今,採用しなければいけないのかということなのだろうと思うのですね。それ自体がやはり十分に説明されないと説得力はないだろうと。私自身は本来,生前においては自由に処分できるという原則はそれほど制限されているものではなくて,我々は当然にそれができるという前提で考えてきたものに対して,生前であったとしてもその自由分というのは2分の1に限定されるのだというのは,財産の処分権に関する何かものすごく大きなコンセプトの変更を求めるものであって,相続法の範囲にとどまらないのではないかなという気もします。そういう意味では,やはりB案を採ることに対しては慎重であるべきではないかなと考えています。
○堂薗幹事 基本的な理解は御指摘のとおりです。今回はその全体財産について復帰するというふうにしたのは後の遺産分割との一体的処理がしやすくなるのではないかということですが,B案的な考え方を採って,やはり遺留分権者の個々の権利の範囲内で無効にするということになりますと,後の遺産分割の調整というのはやはりA案と同じように必要になってきます。そういったB案の更にオプションのような考え方もあり得るとは思いますが,今,出しているB案は正に御指摘のような趣旨で提案したところでございます。
○沖野委員 私もちょっと,まだ理解が十分にできていないものですから,B案の特にⅠの方でしょうか,総体的遺留分を具体化するというのがこの方法によってどこまでできているのかということなのですけれども,遺留分を侵害している主体が複数あるときに,そのうちの1人だけに対してこの請求を掛けるということは可能なのでしょうか。
○堂薗幹事 はい,相手方は各自が請求を受けるという前提で,その責任の分担割合については,B案の③のところで現行法と同じような規律になりますので,そこは客観的に算定できますから,相手方は選べることになります。したがって,全ての財産を一度に返還してもらう必要はなくて,相手方は選べるのですが,ただ,その場合の効果というのは遺産全体の復帰になってしまうということです。
○沖野委員 相手方を選べるということについてなのですが,例えば侵害の主体が3人あるという場合に,その三者のうちのどれから先にというのは順番が決まっているのでしょうか。それは請求者の選択で請求を掛けていけばいいのでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,相続開始に近いものから減殺していきますので,無効となる範囲は決まるわけです。それについてどの範囲で取り戻すかということについて選択はできるということになります。
○沖野委員 そうしたとき,現行法でもそうなのですけれども,その実体法の順番を違って請求したら私より先に行くべきだということが言えて,それは請求が棄却されるということですか。
○堂薗幹事 いや,要するに……
○沖野委員 総体を取り戻すのだから,その順番は関係ないということになりますよね。
○堂薗幹事 はい,関係ないという理解です。
○沖野委員 順番は一応,付いていたとしても,全てを取り戻すということだから。
○堂薗幹事 はい。
○沖野委員 ただ,具体的に請求しないという可能性はあるので,その意味では全部を取り戻すということは必ず実現される制度ではないということですね。
○堂薗幹事 ないです,はい。
○沖野委員 そうすると,結局,請求する人が選ぶわけですよね,どの人から取り戻す,どの範囲で取り戻すということは。
○堂薗幹事 はい。
○沖野委員 そういう制度だということですね。一つは分かりました。
  もう一つは,請求権者の範囲です。私はこの制度から詐害行為取消権を想起してしまうのですが,詐害行為取消権の場合,現行法は詐害行為より前あるいは以前に,少なくとも改正法だと原因ですか,少なくとも何らかの基礎がある債権者がイニシアティブをとれるけれども,その効果は強制執行に乗せる形で全ての債権者が享受するという考え方がとられていると思います。ですから,全ての債権者が享受することになるからといって,したがって保存行為として誰でもできてよいということには必ずしもならないのかなと思います。
  詐害行為取消権とはもちろん場面は異なるのですが,遺留分減殺請求の場面ですと相対的遺留分を実現するからといって,侵害のない遺留分権利者も保存行為として請求できるとは,必ずそうなるのかというと,必ずしもそうではないのではないかと考えられます。
  また,そもそも言えば,総体的遺留分を実現するといっても全部は実現できないわけで,しかも返させる人というのを選べる制度になっているということですから,いっそうのように思います。
  一方では,誰の分を戻してくるかという選択権があり,他方では,被相続人の意思を打ち砕くという選択肢をなぜ侵害されていない人に認めるのだろうかというのは,やはり何か適切ではないのではないかという感じがするものですから,そういう感じがするということを申し上げたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 A案の場合は,遺留分権利者で遺留分が侵害されたとする者が他の相続人又は第三者に対して請求するものですが,請求しなかった者は何も変わらないわけです。
  これに対して,B案の場合は,遺贈等による目的財産が財産に復帰することによって分割協議の内容が変わってくることは普通に,現実に行われていることです。また,特に第三者に対する減殺請求の場合でしたら,相続人代表が行うことも現実にはあるわけです。これらの点を考えると,B案には一定の効果があると考えます。
  このB案の算定方法のシンプルさとA案の複雑さを考えますと,A案は相当難しいものであろうと思います。もちろん事例として多いものではありませんので,こういう事案が出てきたときにA案のような複雑な計算式を使うのはやむを得ないという考え方もあるかもしれませんが,多くの当事者の方にとって,理解しにくいものです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,御意見があれば,是非伺いたいと思います。A案,B案あるいはA案の内容については特に今まで御発言がございませんけれども,その点でも結構でございます。
○上西委員 追加です。6ページの(注2)についてです。遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とし,その価値相当額を返還させることも考えられるとあります。先ほどの第1のところで,金銭債権を原則とするものであるとしていますので,平仄を合わせるために,この(注2)においても金銭債権を原則とした方がよいと考えます。
○水野(紀)委員 私は,まだ全貌がなかなか把握できておりませんので不用意な発言になるかと心配なのですが,A案とB案だと,B案の方が何となく筋のような気はしております。B案に賛成する実体法学者が少なくとも1人ぐらいはいた方がいいかと思い,あえて申します。
  先ほどの私の質問に,Ⅱの方策があるからその跡取りに全部あげても大丈夫だとお答え頂いたのですけれども,どうしてそんな初歩的な確認をさせていただこうと考え付いたかといいますと,やはり害意があっても大丈夫だというのが非常にショックだったからでした。具体的には,この問題を出してしまうと議論が錯綜してしまっていけないと思って,今まで自制してきたのですが,信託の場面ではどうなるのでしょうか。信託を設定して,受託者に全財産の名義を移し,そしてそこから受益権を全部,跡取りへということをしたときに,もちろんその害意があるわけです。改正信託法は,遺留分の攻撃を受けることを前提にしていましたが,相続法でこのような改正をしますと,事実上,信託をすると遺留分の攻撃を受けないことになりかねない気がいたしますが,その点はいかがでしょうか。
○堂薗幹事 ご指摘のような問題があろうかと思いますので,その点は慎重に検討したいとは思います。
○渡辺関係官 今,御指摘いただきましたように,例えば第三者に対して大分前に贈与があったり,あるいは信託がされたりしたというケースですと,正に拾えないということになってしまいます。ただ,ここでの害意ある場合も基本的に全部,考慮しないというのは,ある意味,一つのオプションということでございまして,別にここを現行法のままという形でA案,B案を組むことは可能であると考えております。A案,B案全体の大局的な議論というよりは,それぞれの細部について現行法を維持するかという問題と考えられるかと思いますので,その点につきましては引き続き検討させていただきたいと考えております。
○沖野委員 2点あります。先ほどのB案についてですけれども,B案自体に反対しているというわけではなくて,請求権者について疑問に思うということですので,その点を補充させていただきます。
  次に,水野委員がおっしゃった信託の話については,その信託自体をどちらと決定するかという問題は出てくるのかと思います。受益権の方を捉えるのか信託財産の処分の方を捉えるのか,更にはこの場面においてどう捉えるのかという問題があるかと思います。
○大村部会長 ほかに御意見,いかがでございましょうか。
○村田委員 中身についての意見ではなくて恐縮ですけれども,議論の仕方というか,進め方の点で感じたところを申し上げたいと思います。事務局の側で部会資料4をベースにして,そのときにされた議論を踏まえていろいろと修正を図ってこられて,現在の提案になっているのは理解できますし,個別のいろいろなアイデアで,その場合のメリット,デメリットを出されているとは思うのですけれども,上西委員がおっしゃったように,いかんせんこのままの状態で各提案を比較検討することは難しいのではないかと思います。個々の部分それぞれが難しいのですけれども,お話が出ていたようにA案とB案とでコンセプトが全然違うということも検討作業を難しくしているように思います。
  我々の能力の問題もあるかもしれませんが,もしこれを更に詰めていこうと思ったら,例えばですけれども,いろいろ論点が出てきそうな典型事例を幾つか作って,そのような事例において,A案,B案それからⅠ,Ⅱというような各提案によった場合にどのように結論が導かれていくのかということについて,現行法によった場合とどういう違いが出て,ここが正に肝になる違いですというのが分かるようなものが出ると,もう少しこっちがいいですねという議論ができるような気がします。ちょっと多くを望みすぎかもしれませんが,御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  最初に申し上げましたようにかなり難しい問題でございますので,今のような御指摘を踏まえて,できるだけ皆様に実質的に議論していただけるように事務当局には御配慮を頂きたいと思います。
○中田委員 今との関連なのですが,A案を採ったときにⅠとⅡが独立した制度になるということなのですが,実際の紛争解決の流れとしてはどういうふうになるのでしょうか。
○渡辺関係官 その点につきましては特段,どちらかを先にしなければいけないということではなくて,別にⅠをやっていただいて,その中でⅡの計算を考慮していただくということも当然できますし,Ⅱを先にやってⅠに行くということもできまして,手続的には全く独立しているので,どっちを先にやっても,あるいは両方やっても構わないということを考えております。
○中田委員 ありがとうございます。実際に調停なり訴訟になったりする場合を考えると,どういうふうになるのでしょうか。
○渡辺関係官 例えば相続人が相手だったりいたしますと,Ⅱの制度と,遺産分割なんかがもし残っていればですけれども,残っている遺産分割と一緒にすることもある程度考えておりますので,そこら辺は調停から,あるいは審判に流れていく,ここはちょっと法的性質とも絡みますけれども,そういった流れになると思います。第三者が相手の場合はやはりこれは,恐らくこれもまた第1の法的性質と絡みますけれども,訴訟になるということになりますので,手続が変わるということが想定されます。ですので,例えば今の制度ですと,相手方が複数いて相続人と第三者がいる場合でも,訴訟で全員を一遍に相手にするということはできるかもしれませんけれども,そういった解決はA案を採るとちょっと難しくなる方向にはなるかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかはいかがでございますか。
○金澄幹事 今,別々の訴訟なり調停なりというお話が出たのですけれども,そうすると,結論の機序というのはもちろん進め方によって非常に変わってくるわけですので,結局は総体としての遺留分は確保できないということもまま生じるのではないかなと思うのです。その場合の調整などは,それは代理人が下手だったと言われればそれまでなのかもしれませんけれども,そこのところはやむなしということなのでございましょうか。
○渡辺関係官 一応,現時点ではそういう考えでおります。もちろんそれぞれの事件で別々に掛かるということが想定される制度ですので,例えば先行する事件にはこの財産が落ちていたとか,そういったことというのはあり得るとは思っております。ただ,前提として,事実認定でそれほど複雑な問題があるというよりは,基礎となる財産というのは現行法もさして変わりはないということがありますので,それほど問題は多くないのかなとは現時点では思っておりますけれども,ただ,事実上,一方では考慮されたものがあるけれども,他方では考慮されなかったということがあり得るということは前提とした制度となっております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○西幹事 意見1点と質問1点,お願いいたします。意見の方ですけれども,私もB案を拝見したときには,これはフランス法かなと思ってしまったのですけれども,ただ,日本でこれを導入した場合,自分が遺留分減殺を掛けた結果がほかの人にも及ぶということになると,かえって遺留分減殺請求を抑制することにならないのかという気がしましたので,それは若干危惧いたします。
  質問は,A案の方で,今も金澄先生の方からちょっとお話がありましたけれども,遺留分の計算方法が異なってくるということになりますけれども,遺留分の額がそもそもⅠの方とⅡの方で変わってくるということになりますよね。そういう理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 そうです。
○西幹事 その場合,現行法では,遺留分額が請求する相手によって変わってくるというのは想定し難いのですけれども,そうなったときに遺留分とは一体何であると説明するのでしょうか。
  つまり,遺留分の金銭化を前提に考えますと,遺留分は生活保障のためだということになりそうですが,そうなりますと,請求する相手が第三者の場合と相続人間の場合で,生活に必要な額が変わってくるというふうに考えればよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 必ずしもそういうことではないのではないかと思います。ただ,A案の場合ですと,Ⅰの制度は現行制度と同じような趣旨になってくると思いますので,今,現にある財産から一定程度を取るというところが主な趣旨になってくるのだろうと思います。第三者に対する請求については相続開始から1年内にされた贈与までに限りますから,そういった趣旨がより強くなるのだろうということです。Ⅰの制度に関していえば,共同相続人間の平等というのではなくて,むしろそういった現にある財産から一定程度を確保する,すなわちその財産の形成について一定の寄与があるだろうし,そのところから生活保障が受けられるようにするという趣旨が強調されるのに対しまして,Ⅱの相続人に対する請求の方になりますと,それは取得時期にかかわらず,全体として遺留分減殺請求の基礎となる財産になりますから,それはむしろどちらかというと,相続人間の平等,実質的に生じている不平等を一定の限度で是正するという趣旨の方がより強くなってくるのだろうと思います。第三者と相続人とで二つの制度に分けますので,遺留分の制度趣旨も違ってくるということになるのではないかと思います。
○大村部会長 遺留分についての性質が変わるかどうかということもあるかと思いますけれども,手続の中で重視される要素の重点というのが違ってくるという御説明かと思います。
○渡辺関係官 今の点で,ほとんど今,堂薗の方が申し上げたことと同じになるのですけれども,確かに西幹事が言われるとおり,相手が誰かによって遺留分の基礎となる財産が変わるのはおかしいのではないかという基本的な御疑問があるのはごもっともかなと思っておりまして,例えば遺留分の趣旨として生活保障であるとか潜在的持分の精算とかというものを考えたときに,相手が誰かによってなぜそれが変わるのだというところは正直あるのかなとは思っているところです。ただ,他方で最初のフリートーキングのときにも御指摘を頂いたかと記憶しておりますけれども,相続人間の平等というのも,遺留分の趣旨なのか機能なのかというところはあるかと思いますけれども,そういったものを考慮したときに,若干そこの部分が修正されるということは我々としてはあり得るのかなとは思っておりまして,ただ,こういう考え方を採りますと,相続人間の平等というところがやはりかなり遺留分の趣旨として大きく前面に出てくるというところがあり,そういった意味で遺留分の本質が少し変わってくるということはあり得るかと思っているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○山本(克)委員 今の御説明はある程度,納得できるのですが,そうしたときに窪田委員が最初の方で指摘された5ページの上から7行目辺りの「-(Ⅱ③遺留分侵害額)」を差し引くということが,趣旨が違うものになぜ差し引けるのかという問題を説明できるのかというところが相当大きな問題になってくるような気がするのですけれども,違いますでしょうか。
○渡辺関係官 そこは基本的には取得したものは減らすと。Ⅱの制度で取れる分は,それは自分が取得できるものは取って,残りをいけるということは,それはあり得るのではないかなと思っているところです。もちろん,なぜⅡを先にするかという問題はあるかとは思いますけれども。
○山本(克)委員 平等を回復するために取った分がⅠの方の趣旨の中に含まれていないと引けないのではないのですか。
○渡辺関係官 ここで引くことにしておりますのは,要は遺留分侵害されたと主張するものが,ほかから取ってこられたものは全部,それは引いて,残りだけをその……
○山本(克)委員 分かりますけれども,なぜ引けるのかという説明にはなっていないのではないのかなと思ったということです。
○窪田委員 別に堂薗さんが同じことを考えているかどうか分からないのですが,西さんの御質問の趣旨は非常によく分かりますし,同じ遺留分という言葉を使いながら多分違うことを実現しているのだとすると,本当は避けた方がいいのだろうなという気はいたします。ただ,私自身はやはりお話を伺っていながら,これはA案の中のⅠとⅡというのがあるのだとすると,Ⅰが本来の遺留分なのではないのかなと。Ⅱの方は言葉を探すのだとすると,最少具体的相続分とか最低具体的相続分というような形で,具体的相続分として一定の範囲は必ず相続人間で確保するものなのではないかという気がします。これは恐らく従来の相続人間の遺留分の問題と相続人間の公平の実現といった問題を多分,両方とも取り込んだものなのだと。そうだとすると,従来の遺留分の性格も取り込んだものなので,そこから手当された部分については,もう第三者の方には掛かっていかないようにさっさとその中で片付けてくださいよという趣旨なのだとすれば,一応,山本委員からの御質問についても一つの答えになるのかなと。
  ただ,いずれにしてもそれが明確になるようにした方が,確かに遺留分というのは2種類あって,相手方によって計算方法というか,中身まで変わるというのはやはりちょっと奇妙だなという感じはするだろうと思います。
○大村部会長 質問もう1点,どうぞ。
○窪田委員 すみません,先ほど,渡辺関係官からお話があったことで,確かに,これは計算上の問題なのでⅠを先にやってもⅡを先にやってもいいというのはそうなのだろうと思いますけれども,しかしコンセプトとしてはやはりⅡが先なのだろうと思いますので,その点は明確にされた方がよいように思います。というのは,やはり相続人間でまず問題解決しましょうよというのは一つの大きな選択だろうと思いますので,その点は明確にした方がむしろ説得的なのではないかなと思います。
○山本(克)委員 今の窪田委員のお考えを具体化するのであったら,検索の抗弁権とか催告の抗弁権に似たような制度を入れ込んで,第三者の方からそういう抗弁が出たら,そちらは止まってしまうというような,止め方が手続的に止めるのか実体的に止めるのかという問題はありますけれども,そういう形で処理するということになるのではないかと思います。
○大村部会長 ほかに御発言,いかがでございましょうか。
  A案の場合にはⅠとⅡで性質が完全には同じではありませんので,そのことについて何らかの説明をする必要はあるだろうと思いますけれども,これまで遺留分についての御提案の中に,従来と違う説明をして類型化をするというような御提案もありましたので,遺留分という一つの言葉でくくられているとしても,中に性質が違うものが含まれているというような説明はしていただくことは可能かと思うのですが。
  そのほか,いかがでございましょうか。事務当局の方から,この点はというのはございますか。よろしいですか。
  繰り返しになりますけれども,なかなか難しいもので,今日,この資料を見ただけで十分な議論は必ずしもできないところはございますけれども,先ほど村田委員の御指摘もございましたけれども,典型例を想定して違いが際立つような資料を次の審議の機会には,もし可能ならば用意していただくということで,更に具体化した議論をしていきたいと思いますが,今日のところはよろしゅうございますでしょうか。
○山本(克)委員 1点だけ。B案を採った場合の家裁移管の話ですが,本当にそれができるのかなという気がしています。形成訴訟として組むんなら家裁移管はできると思いますけれども,実体法上の形成権を前提とするのである,実体法上,普通の単独行為として行使できる形成権として構成するのであると,それは難しいのではないでしょうか。
  例えば遺言自体が無効であったという主張で遺産に属するということは基礎付けられますよね。遺留分減殺請求でも基礎付けられます。これは一部認容,全部が遺産に属する場合と一部が属するという違いはあるけれども,大は小を兼ねるわけで,一般民事の事件の一部でしかないものを家裁になぜうまく切り分けることができるのかというのは,つまり管轄のかけ方,つまり請求原因事実で管轄を切り分けるということは従来ちょっとは例はあるのですが,本来やっていないはずなのですよね。そこをクリアしないで家裁移管というのは簡単にはいかないのではないでしょうか。
○堂薗幹事 あくまでも趣旨の確認ですが,そこは逆に言うと,手続的には,例えば前提問題について,遺産確認について家裁でやるということであれば,そこは説明は付くということにはなるのでしょうか,それともそもそもこういった遺産確認と遺産分割を家裁で……
○山本(克)委員 いや,そういう壮大な構想ならともかく,今回それほど壮大な話をしているのではないと理解しているのですけれども,それは完全にそうなると家裁と地裁の職分管轄をどう考えるかという大問題になってしまいますので,ここだけちょっとやるというのはなかなか難しいような気がしますけれども。
○堂薗幹事 分かりました。ありがとうございます。
○大村部会長 御指摘を踏まえて検討していただきたいと思います。
  そのほかいかがでしょうか。
○増田委員 今の点だけですけれども,前も申し上げたように訴訟物が遺言に関わるものである遺言無効と遺留分減殺とは通常ワンセットなのですね。ワンセットであるからには,予備的請求の方に引きずられるというのはちょっと変なのですけれども,関連紛争,関連請求管轄みたいな発想もあり得るのかなと思っていますので,一言だけ申し上げておきます。
○山本(克)委員 念のために。有名な最高裁判決がありますけれども,遺産共有をめぐるですね。単独で事前に自分が売買で不動産を買い受けたと共同相続人の1人がという,で,自分が単独所有だという主張,請求をするが,それはそもそもなかったのだけれども共同相続しているという場合について,一部認容で遺産共有持分を確認できるという最高裁判例がありますから,遺産確認の場合だけを,遺産無効確認と遺留分減殺の場合とをペアにするだけでは本当は足りないので,民事上の法律関係はもっと広いバリエーションがあって,それを一部分割して家裁に持って来るのはおかしいというのが私が言っていることで,増田さんが言っておられる場合だけを念頭に置いて言っているわけではありません。
○増田委員 その点については全く異論ございませんが,全部,広く家裁に持っていくという考えがあってもいいと考えています。
○山本(克)委員 それは難しい。
○大村部会長 なかなか議論が尽きないところはございますけれども,持ち帰っていただいて,御検討いただきたいと思います。
  ほかはよろしゅうございますでしょうか。
  それでは,残りの時間で「その他」というところにつきまして,4点,項目が挙がっておりますけれども,ごく簡単に御説明を頂いて,それで全体について御意見を賜れればと思います。
○渡辺関係官 それでは「第3 その他」について御説明させていただきます。資料では15ページ以下ということになります。
  ここでは四つのテーマを取り扱っておりますけれども,まず一つ目の「円滑な事務局承継等の障害になり得る点を緩和する方策」でございます。従前の部会資料4では,遺留分放棄等に関する規定の明確化ということも一つ挙げておりましたけれども,こちらにつきましては今回は入れていないということでございます。その理由につきましては資料の方を御覧いただければと思います。
  今回は遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱いという観点からの修正でございますけれども,受遺者又は受贈者が遺留分権利者の承継した相続債務について弁済をし,又は免責的債務引受をするなど,その債務を消滅させる行為をした場合には,遺留分権利者の権利はその消滅した債務額の限度で減縮するというものでございます。
  続きまして,2の16ページを見ていただきまして,「遺産の属性に応じて遺留分の範囲を定める考え方」でございますけれども,こちらにつきましては,実質的夫婦共有財産と固有財産を分ける考え方というのが前回,部会資料4には入れておりましたけれども,部会資料7につきましても,その点については記載を改めておりますので,遺留分につきましても部会資料4の記載はそのままを維持するということはしておりません。
  次,3の「直系尊属の遺留分」,17ページでございます。第4回の部会におきましては,直系尊属の遺留分を廃止すべきであるという御指摘もございました。一般的には配偶者や子が扶養を受けるのと比べますと,直系尊属がその子から扶養を受けるということは少ないものと考えられますし,民法上の扶養義務の程度についても差があるということを考えますと,遺留分において直系尊属の生活補助を考慮する必要は高くないということもできるかと思われます。また,直系尊属が遺産の形成に貢献したということも一般的にはそう多くはないのではないかとも考えられるところでございます。
  他方で,そうはいっても,例えば被相続人が父母から多額の生前贈与を受けていた場合には,父母にも遺留分を認めるべきとも考えられますし,例えば父が死亡した際に母がその相続を放棄したことによって,被相続人が父の遺産を全て相続したという場合におきましても,母にも遺留分を認めるべきとも考えられるところでございますが,直系尊属の遺留分につきましては,こういった点も踏まえて,皆様の御見解を賜れればと思っております。
  最後,4,「特殊な類型」の問題でございますけれども,こちらについては第2との絡みが大きく問題になりますので,第2を採用すれば基本的に問題はなくなるのかなと思っておるところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  4点御説明を頂きましたけれども,第1で遺留分の放棄について特段の対応をしない,別途ここに書かれているような限度で対応するということと,第3の直系尊属の遺留分についてどうするかということが比較的重要な問題かと思います。この2点につきまして,何か特別な御意見がありましたら是非伺えればと思います。いかがでございましょうか。
○浅田委員 第3の1番目についての意見と技術的な質問であります。前回の議論において,私から,例えば受遺者自身が保証人である場合で,その弁済について,債務者が苦境に陥っている場合で保証履行が現実化している場合とそうでない場合とに区別して取扱いを精緻化したらどうかということを述べた記憶がございます。その点,今回の資料では実際に弁済をした場合又は免責債務引受を受けた場合を除いて,提案から落ちていると認識しております。
  現時点では,先ほど申し上げた事象を精緻に区分して立案化していくというのはなかなか難しいなと思うところであります。ただ,実質的に考えますと,そういう場合を拾ってあげる必要性もあるのかなと思いますので,ある程度,致し方ないということではありますけれども,それをすっかりこの時点で落としてしまうというよりは,パブコメ等の段階で,たとえば「注」として,その可能性について何か意見があるかということで,何かよい工夫があるかどうかということを世に問うてもいいのかなと思った次第であります。
  続いて,その点についての技術的な質問であります。ここでは,相続債務について弁済をし,又は免責的債務引受をするなどと書いてありますが,この相続債務というのは具体的にどういう債務を想定しているのかということであります。借入金そのものであれば分かりやすいと思うのですけれども,世の中にある典型的なパターンというのは,中小企業で社長が保証人になっているというケースで,保証債務の処理をするという場合だと思います。
  もちろん実務的には,社長が死亡した場合の対応の一つとしては,前保証人の債務を解除,つまり保証債務を免責をした上で,新社長を保証人として別途徴求しており,ここで挙げられているような弁済をし又は免責債務引受をするという処理はしないことが多いかと思いますけれども,仮にこの規律が設定されるとすると,当該連帯保証債務を免責的債務引受をするということであれば,これもこの規律の中に入ってしまいます。
  だとすると,冒頭申し上げたように企業の債務,すなわち主債務の弁済可能性がどうであれ,連帯保証債務を免責的債務引受すればこの規律が適用されてしまいます。会社がぴんぴんしているので連帯保証債務は実質的には余り履行を迫られる可能性はないのにもかかわらず,形式的に債務引受すれば,この規律が適用されるということにもなりそうなわけなのですけれども,そのような場合も想定されているのかどうかということをお尋ねしたいと思います。
○堂薗幹事 基本的にはここで考えているのは,遺留分権利者が受遺者側から承継した債務についての弁済資金を遺留分減殺請求という形で受け取っている場合に,それを受遺者側が消滅させた場合には不当利得になるのではないかと思いますので,遺留分減殺請求が発生する前に受遺者側が弁済をしたときには算定根拠から外しますし,発生した後にそういったことがあれば,その部分はその限度で消滅するという取扱いをするということでございますので,仮に遺留分権利者が負っていた債務が連帯保証とかそういった性質のものであったとしても,一応,受遺者側からそういった形で弁済資金として受け取っている以上は,それについてほかの人が結局払ったということですから,その部分について保有する実質的な理由はないはずになるので,基本的には同じような取扱いになるのではないかと現時点では考えております。もっとも,この点については,浅田委員の問題意識を十分に把握できていない面もあるかと思いますので,御指摘を踏まえて再度検討はしたいと思います。
○浅田委員 引き続き検討いただきたいのですけれども,先ほど,その弁済ないしは引受けをする条件ないしは前提として,何か受け取っているということがこの規律の前提となっているわけですか。そうとは限らないわけですよね。先ほどの御説明の中で,求償権と構成するのかともかくとして,何か受け取っているという,対価を受け取っていることが前提だというような御説明だったというふうに私は聞こえたものですので。
○堂薗幹事 そこは,要するに遺留分侵害額の算定のところで,結局その遺留分権利者が承継する債務分については最終的に加算されますので,現行の計算方法によるますと,結局,受遺者側からそれは,その分の弁済資金を言わばあらかじめ受け取っているような形になっています。そうであるにもかかわらず,結局,その分を弁済しなかったということになると,その遺留分侵害額として加算した分については一種の不当利得のような形になりますので,そういった場合については遺留分の権利自体を減縮させていいのではないかという趣旨でございます。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○増田委員 3のことも,言っていいのですね。
○大村部会長 はい,どうぞ。
○増田委員 直系尊属の遺留分なのですけれども,私は必要がないものだと考えております。17ページの「もっとも」以下に二つぐらいの例が書かれていますが,こういった例というのは普通にある話ではないし,特に二つ目の例なんていうのは実例を聞いたこともないです。むしろ普通は母親の方に相続財産を集中させることが一般的に行われていると思いますし,かつこれらの例というのは合理的でもないわけですから,このような例があるからといって,遺留分を積極的に認めるべきだということにはならないのではないかと思いますし,現実に立法をすれば,そういうリスクがあるということを考えて,それを回避するような行動をとると考えられますから,直系尊属の遺留分は筋としては廃止していいのではないかと思います。
○大村部会長 今の点につきまして,何か御発言があれば。
○上西委員 同意見です。このような事例は私も聞いたことがありません。直系尊属の遺留分は,私も完全廃止でいいと考えます。どうしても残すのであれば,(注)にあるように「直系尊属から受けた贈与又は相続の限度」というのがぎりぎりかなという気がいたします。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(有)委員 ちょっとこれは質問なのですけれども,18ページの第4の「もっとも」以下のところを私が完全に理解できていないのですが,これは「別途検討する必要はない」という御趣旨は,第2の中で検討するのだという御趣旨でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 基本的に第2のような考え方を採っていくと,そこでこの問題についての考え方は基本的に決まっていくのではないかという趣旨です。
○水野(有)委員 具体的に言えば,どのように決まるのかが私が理解できていないのですが,といいますのは,相続分の指定があった場合には,従前では遺留分の意思表示があった場合には相続分の割合が遺留分の割合に従って変わるということで,むしろ全体遺産であるという遺産分割の一環として処理するという方法であったという理解ですが,それでよろしいですか。それがまた性格が変わるという御趣旨なのかどうかがよく分からなくて,教えていただきたいのですが。
○堂薗幹事 まず第2のA案を採った場合は,基本的にこの相続分の指定とか持戻しの免除というのは相続人間でのみ問題になるわけですが,A案の第2というのは減殺の順序とかは付けませんので,A案に書いてある計算方法によって自動的に処理されることになるのではないかと。
  更にB案の場合は,基本的には例えば相続分の指定ですと,その相続分の指定という処分行為の一部を減殺させると。特にB案によりますと,相続分の指定のうち法定相続分を超える部分が実際上,被相続人の処分だと見ますので,そこの部分が無効ということになりますと,その範囲で法定相続分は減縮されるという扱いになるのではないかと。それを基に後の遺産分割でやることになるのではないかという前提で,いずれにしてもそういった形で規律が決まってくるのではないかという趣旨ですが,こう書いておきながらこのようなことを申し上げるのも何ですけれども,いろいろ問題が生じる可能性はありますので,その点は引き続き検討はしたいと思います。
○水野(有)委員 ありがとうございます。
○大村部会長 4については今ここで決めるというのではなくて,第2で片付く問題も多かろうと思いますので,もし残るようであれば,更に問題を絞り出して検討するということでよろしいですね。
  ほかはよろしゅうございますでしょうか。
○中田委員 二つ御質問があります。まず1の方ですけれども,ここで想定されている遺留分権利者の権利というのは,金銭債権であることが前提になっているのでしょうか。部会資料4では,金銭債権とする場合というようになっておりまして,そうでないと,この記述だけだと足りないと思いますが。
○堂薗幹事 基本的に,そういう前提でございます。
○中田委員 ありがとうございました。
  それから,3の直系尊属の方なのですけれども,配偶者の相続権の保護ということと,(注)で挙げられている場合が想定されるのですけれども,ここでの直系尊属の遺留分の廃止ということとが整合するのかどうかがちょっと分からなかったのですが,いかがでしょうか。
○渡辺関係官 そこは配偶者の保護だからといって,直ちに直系尊属の遺留分を外すということとはダイレクトには結び付かないのかなとは思っております。ただ,事案によっては当然そういうことがあり得るとは思いまして,配偶者に全財産を譲るというような遺言がされ,そして子供もいないというようなときに親が出てきて,それを減殺するというような場面も想定いたしますと,配偶者の保護に資するということはあり得るのかもしれませんが,基本的にはそれほど関連はないのかなと思っております。
○中田委員 私が考えておりましたのは,17ページの3の第2段落の「もっとも」というところで挙げられている,父が死亡した際に母が相続放棄をしたという場合なのですけれども,その相続放棄をした母といいますか,父の配偶者という意味なのです。
  事実上,相続放棄を強いられていて,その息子に相続させたのだけれども,その息子が自分の配偶者なり第三者に全額遺贈したというときに,当てにしていた母親が保護されなくなるということと配偶者の相続分の保護ということとの関係です。
○渡辺関係官 それはおっしゃるとおり,ここでいう母を配偶者と見た場合には,その保護が図れなくなるということは直系尊属の遺留分を廃止した場合にはございますので,そういった点も含めて,どう考えましょうかというところの皆様の御意見を今日,賜れればと考えていたところでございます。
○大村部会長 御指摘ありがとうございます。
○藤野委員 今のところなのですけれども,「家を継ぐ」こともあると思うのですが,例えば仮にですけれども,私と弟がいて,父が死んだときに弟が家を継ぐからということで,ほとんど弟が相続して,母はほとんどもらわない。私自身は相続しなかったような場合に,でも,その弟が母より先に死んでしまったときに,弟の分が全部お嫁さんにいってしまうと,お嫁さんは全部売り払って東京へ帰るわとか言われてしまったときに,それが母に戻れば私なりほかの兄弟なりがもらえ「家を継ぐ」ことができるのに,なくなってしまうということを意味していますよね,そういう場合。
  私が一番知りたいのは,この直系尊属の遺留分が現実にはどのぐらい請求されているのかということなのですね。そのお父さん,お母さんが,息子なり娘が死んでしまったときの遺留分です。そういう数字があると,もう少しこういう問題がはっきり目に見えてくるのかなと思うのですけれども。
○堂薗幹事 今,そういった点についての資料はありませんので,そうしたものがあるかどうかを含めて検討したいと思います。
○大村部会長 今の御発言も含めて,中田委員が先ほどおっしゃった直系尊属が前の相続のときに配偶者のポジションにあったということをどう考えるかということも含めて,更に検討していただきたいと思います。
  よろしゅうございますでしょうか。ほかに,もし御発言あれば承ります。
  それでは,今日はこの程度にさせていただきますが,事務当局の方からスケジュールにつきまして,御説明をさせていただきます。
○堂薗幹事 次回でございますが,次回は1月19日,火曜日の午後1時半から5時半までということで,場所は本日と同じ20階第1会議室ということになります。次回はその他の論点といたしまして,先ほどから出ております可分債権の取扱いのほか,遺言に関するものとして,自筆証書遺言の方式,遺言保管,遺言執行者の権限,遺言事項の整理などについて二読を行うことを予定しておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,これで閉会させていただきます。
  本日も熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
-了-

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
法制審議会
民法(相続関係)部会
第9回会議 議事録

第1 日 時  平成28年1月19日(火)自 午後1時29分
                     至 午後5時35分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)
議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第9回会議を開会させていただきます。
  最初に,お手元の配布資料の確認を事務当局の方からお願いいたします。
○合田関係官 それでは,配布資料の確認をさせていただきます。本日の資料としましては,まず,事前に送付させていただきました部会資料9「その他の見直しについて」というものがございます。また,席上に配布させていただきました資料として,浅田委員から御提供いただきました資料が3点,一つ目が「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」と題するもの,2点目が「相続預金に関する各国法令・制度」と題するもの,3点目が「相続預金に関する参考資料」というもの,それから,もう一つ,金澄幹事,増田委員,山田委員,3名から提出いただきました「遺言執行者の権限の明確化等」と題する資料が1部,全部で席上配布の資料としましては4点ございます。
○大村部会長 ありがとうございます。席上配布の資料が4点あるということですので,御確認を頂ければと思います。
  早速,本日の議事でございますけれども,本日は「その他の見直しについて」ということで,第1の「可分債権の遺産分割における取扱い」という項目から始まりまして第6まで六つのテーマが用意されております。このうち,第1と第2が遺産分割に関わるものでございますので,この二つにつきましては,まとめて御説明を頂きまして,御意見を賜りたいと思っております。その後,第3以下は,個別に御説明を頂いて,御意見を賜るという形で進めさせていただきたいと存じます。
  第3が終わったぐらいのところで休憩を入れたいと思っております。その他は全て今日検討する予定になってますので,やや盛りだくさんですけれども,どうぞ審議の方に御協力を頂ければ幸いでございます。
  それでは,早速,第1と第2につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○合田関係官 それでは,部会資料の,まず「第1 可分債権の遺産分割における取扱い」について御説明いたします。
  第5回部会においてお配りしました部会資料5では,可分債権を遺産分割の対象に含めることとした上で,まず甲案として,可分債権は法定相続分に応じて分割承継され,各相続人は原則として分割された債権を行使することができ,遺産分割前に弁済を受けた額がその具体的相続分を超過する場合には,遺産分割において,その超過額につき,その相続人に金銭支払債務を負担させることとする考え方,それから,乙案として,相続人は遺産分割が終了するまでの間は,相続人全員の同意がある場合を除き,可分債権を行使することができないという考え方が示されておりました。
  今回の部会資料9における提案は,甲案,乙案,いずれも部会資料5の考え方を基本的に踏襲した上で,対抗要件具備の方法等について,より具体的に記載しております。
  まず,甲案について御説明いたします。甲案によれば,可分債権のうち法定相続分に相当する部分の支払請求について債務者対抗要件は不要ですが,遺産分割によって法定相続分を超える割合の可分債権を取得した相続人がその支払請求をするためには,債務者対抗要件を具備する必要があるこということとしております。したがって,相続人が法定相続分を超える支払請求をするためには,譲渡人からの通知又は債務者の承諾が必要となりますが,遺産分割による可分債権の取得においては,契約による場合等と異なり,どの相続人が譲渡人かということを判断することが必ずしも容易ではなく,譲渡人となる相続人の判断を誤ったために譲渡の通知が無効となるような事態が生じないよう,通知すべき者の範囲を明確に定める必要があると考えられます。そこで,甲案では,対抗要件としての債権譲渡の通知は相続人全員で行う必要があることとしております。
  甲案については,債務者の過誤弁済のリスクについてどのように対処するかが課題であると考えられますが,今回の提案については,過誤弁済のリスクの対処として適切か否かについても御意見を頂戴したいと考えております。
  それから,甲案においては,相続人が遺産分割前に弁済を受けた額がその具体的相続分を超過する場合に,遺産分割において,その超過額につき相続人に金銭支払債務を負担させることとしておりますが,第5回部会では,可分債権は換価や消費がされやすく,相続人に金銭支払債務を負担させたとしても無資力の危険があることから,これを防止するための方策が必要であるとの指摘がありました。この問題への対応策としては,審判前の保全処分を活用することが考えられます。
  もっとも,審判前の保全処分による場合は遺産分割の審判又は調停の申立てが必要となりますが,遺産分割前の処分さえ禁止すれば,遺産分割の協議自体はまとまる可能性が高く,審判又は調停の申立てをする必要はないという場合もあり得ると考えられることから,この場合の保全処分については,本案係属要件を不要とすることについても検討の余地があると考えられます。
  次に,乙案について御説明いたします。相続開始後遺産分割までの間の相続財産の法律関係について,現在の判例実務の考え方は,遺産共有を一般の共有と区別せず,相続人は持分を自由に譲渡することができるという立場を採っておりますが,乙案は,可分債権については,遺産分割が終了するまでの間,原則としてその処分を認めない考え方ですので,仮に可分債権について乙案を採りつつ,その他の遺産については従前と同様の取扱いをするという場合には,その理論的な整合性をどのように説明することが可能かということが問題になると考えられます。
  また,乙案に対しては,第5回部会において,一定の場合には遺産分割前の権利行使を認める必要があることから,仮払いの制度を設けるべきであるとの指摘がありました。現行法の下では,遺産分割の対象となる財産を遺産分割前に行使する必要がある場合には,審判前の保全処分として仮分割の仮処分を行うことができるとされております。この仮処分が認められるためには,本案の審判において,具体的権利義務が形成される高度の蓋然性があることと保全の必要性があることが必要ですが,保全の必要性の要件については,一般に,申立てに係る遺産と金額について,仮に分割を受けなければならない緊急の必要性があることを具体的に疎明する必要があると解されております。したがって,乙案を採りつつ新たな仮払い制度を設けないこととすれば,相続人にとって,現状よりもかなり負担が重くなると考えられます。
  他方で,現行の仮分割の仮処分よりも緩やかな要件で仮払いを受けられる制度を新たに設けることとした場合には,その要件をどのように設定し,現行の審判前の保全処分との関係をどのように整理すべきかが問題となると考えられます。この点についても,本日御意見を頂戴できればと思います。
  次に,一部の可分債権を除外して遺産分割を行うための方策について御説明いたします。部会資料の4ページを御覧ください。
  第5回部会では,甲案,乙案,いずれの考え方についても,不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権など,その存否や額について当事者間で争いがある可分債権については,遺産分割をめぐる紛争の長期化を避けるため,分割の対象から除外できるようにすべきであるとの指摘がされました。
  一般に遺産分割においては,遺産の範囲を確定させた上で,遺産の全部について一回的解決を図ることが望ましいと考えられますが,実務上,遺産分割を一回的に行うことに支障があるなど一部分割の必要性があり,民法第906条に定める基準に基づいて,最終的に遺産の全部について公平な分配が実現できる場合には,審判,調停又は協議のいずれにおいても,遺産の一部を除外して分割をすることができると解されております。
  可分債権を遺産分割の対象に含める考え方を採る場合には,手続の長期化を避けるために,一部の可分債権を分割の対象から除外することができるようにする必要性が高いと考えられます。そこで,部会資料9の5ページ目,第2の部分において,一部分割に関する規律を設けることを提案しております。
  現在の実務上は,全部分割をする場合の遺産分割終了の見通しや,早期に分割を受ける必要性が高い当事者の有無,当事者の意向,残部分割の合理的処理の可能性など諸事情を総合的に考慮して,家庭裁判所が一部分割をすべきか否かを判断することになると考えられます。
  第2の①の部分は,現行の実務の取扱いを踏まえ,一部分割ができる場合の要件を定めたものですが,抽象的な要件となっていることから,より具体的で適切な要件設定ができないか検討する必要があると考えられます。
  次に,一部分割と残部の分割の関係について御説明いたします。遺産分割を2回に分けて行うこととする場合には,残部の分割をする場合においても,一部分割の結果を考慮することなく,遺産の分割方法を定めることができるようにすることが望ましく,そうでないと,遺産分割を2回に分けて行うこととしたことによって,かえって紛争が複雑化・困難化するおそれがあると考えられます。この点については,特に残部分割における特別受益と寄与分の取扱いが問題になると考えられます。
  まず,特別受益については,一部分割の中でその全てについて考慮することが可能であり,残部分割においては,これを考慮する必要がない場合が多いものと考えられます。そして,このような場合には,一部分割をすることに相当性が認められる場合が多いと考えられます。
  これに対して,一部分割において,いわゆる超過特別受益があるため,相続人の中に民法第903条に定める具体的相続分を取得することができなかった者がいる場合には,残部分割において,その超過分について再度調整をする必要があるものと考えられます。また,例えば,被相続人の預金について,相続人の一人が被相続人の生前に行った引き出しが被相続人に無断で行われたものであるかどうかが争われ,その相続人に対して,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟が提起された場合に,その債権を除外して一部分割をしたところ,その訴訟において,その相続人が引き出した預金の一部が被相続人からの贈与であったとの認定がされた場合には,一部分割の際にはその贈与を特別受益として考慮することができないことから,相続人間の公平を図るため,残部分割において,これを特別受益として取り扱う必要があると考えられます。
  そこで,②の本文において,一部分割がされた場合には,原則として残部分割の審判においては特別受益を考慮しないこととしつつ,例外的に②の㋐及び㋑の場合には,残部分割において特別受益を考慮することとしています。
  また,一部分割が相続人間の協議によって行われた場合には,特別受益の計算などを厳密に行っていない事案も一定程度存在するものと思われますが,相続人間で一部分割の合意がされ,その中で残部分割における遺産の分配方法について別段の定めがない場合には,一部分割の中で特別受益の処理を含めた清算が終了したことを前提としている場合が多いものと考えられます。そこで,一部分割の協議が成立した場合についても,原則として残部分割においては特別受益を考慮しないこととしつつ,一部分割協議において,相続人の中に別段の意思表示をした者がいる場合には,残部分割においても特別受益を考慮し得ることとしています。
  他方で,寄与分については,一部分割と残部分割のいずれにおいても,それぞれ分割の対象とされた遺産に対する寄与を考慮すれば足りると考えられることから,基本的には一部分割と残部分割とを切り離すことが可能であり,残部分割においては,一部分割における寄与分の有無等について考慮する必要はないものと考えられます。
  一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化については,今回の部会資料に記載した規律の適否について,本日御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  可分債権の遺産分割における取扱いにつきましては,これを遺産分割の対象に含めるという点では,甲案,乙案,いずれも共通でございますけれども,その取扱いにつき,甲案,乙案,双方の考え方が今まで出されております。分割前に債権を行使することができるかできないかということで後始末も変わってくるだろうということで,そのそれぞれについて,更に残っている問題を詰めた御提案がなされたものと理解しております。そして,このような案を採用すると,遺産分割が長期化することがあり得るだろうということで,一部分割に対する対応を明確化する必要があるのではないかということで,第2の論点が出てきているということかと思います。
  この第1,第2につきまして,浅田委員の方から資料が出ておりますので,これにつきまして御説明を頂けると伺っております。
○浅田委員 早速発言の機会を与えていただき,ありがとうございます。
  さて,今回の部会資料で対象となる論点の多くは,銀行実務にとって重要なものでございまして,銀行界からの意見や提案も多岐にわたります。そこで,可分債権の典型例たる預金債権を念頭に,私どもにおいて資料を作成し,お手元に配布させていただき,その上で,少々お時間を頂戴して意見を申し上げたいと思います。
  資料は大きく分けて三つです。メインとなるのが「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」という資料,この場で内容を説明いたします。
  もう一つのパワーポイントは,「相続預金に関する各国法令・制度」という題名のものですけれども,これは,併せて配布しております論文集に掲載のフランス,ドイツ,アメリカ,韓国の相続預金法制に関する議論を整理したものでございます。すなわち,韓国以外の3か国においては,相続預金の権利者や払い戻し可能額について,債務者たる金融機関が独自に判断しなければならないということはなく,我が国の相続預金についての判例法理のように,債務者 ―すなわち金融機関を念頭にしますが―,と相続人の双方に負担を強いるものではないということ,これらの国はそのために,近時様々な法令改正や制度導入を行ってきたということ等を御案内し,もって,本部会での審議の御参考のためになればと存じます。
  論文集ですけれども,執筆者各位等の御承諾を得て,ここにフランス,ドイツ,アメリカ,韓国,4か国の相続預金法制に関する論考とともに,第5回での可分債権の取扱いに関して私から提案させていただいた案1,案2について解説する私自身の論考を載せております。私の論考については,前回審議,第5回時点の銀行界提案に関するもので,単に御参考という位置付けでございます。
  では,先ず,横長の「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」とのタイトルのパワーポイントの資料を御覧ください。
  おめくりいただきまして1ページですけれども,ここで取り上げる銀行界の意見は,①「甲案における相続開始後出金の規律のあり方」,②「乙案の実現可能性および仮払い制度の規律」,③「対抗要件主義を預金に適用する場合の規律」,④「遺言執行者が債権を取立換価する権限」の四つですが,ここでは①から③までが可分債権の取扱いに関連するものですので,この場で今説明を申し上げ,④は後ほどに申し上げたいと思います。
  第5回会議において,可分債権,なかんずく,その代表格である預金の取扱いについて,案1,案2と称する銀行界独自の提案を行ったものですけれども,その後の審議の展開や当局提案の変化等を踏まえ,甲案及び乙案の内容に即した形に修正した上で再度の提案を行うものが,この①,②項でございます。
  1点目の「甲案における相続開始後出金の規律のあり方」から説明します。2ページを御覧ください。
  甲案は現行,近時の実務を大きく変えるわけではなく,また,対抗要件が具備されるまでは法定相続分に応じて支払えばよいので,遺産分割の結果は預金分配の割合が遡及的に変更されないという点で,銀行としても一定のメリットがあるものです。前回指摘したとおり,本案は取引の動的安全性を目指したものと言えます。しかし,2ページの設例のような問題がなお残っています。
  相続開始後の預金が60万円,相続人A,B,Cの法定相続分が各3分の1という前提,そういう設例を設けたときに,相続開始後に相続人の1人が預金者の死亡の事実を銀行に秘したまま,ATMで40万円を出金したため,残額が20万円に減少してしまいました,銀行には出金者が誰かは分かりません,こういう事例です。その後,他の相続人が自己の法定相続分の額の20万円の支払を銀行に求めてきたときに,銀行はどのように対処すべきかという問題であり,実務ではよく生じている事案です。
  この場合の考え方として,3ページのとおり,三つの考え方があり得ますが,定説はないと思います。定説がない中,銀行は相続人間の紛争に巻き込まれていくことになります。そして,甲案の下でも,この問題への解決は与えられていないと私は考えます。
  続いて,4ページは,直近の「判例タイムズ」今年の1月号において,勝手に払い戻しされた預金の処理は遺産分割調停や審判における一大関心事であるものの,遺産分割調停や審判のテーブルにのせられるものは一部にすぎないということが,東京家裁の裁判官によって述べられた論考を御紹介するものです。
  この問題については,第5回会議では案2として,私から5ページのような提案をしたところです。この考え方ですと,債務者は請求を受けた時点の残高に応じて支払えばよいので,債務者の負担は大幅に軽減されるわけですが,第5回会議において堂薗幹事より,民法478条の特則を設けることは困難であるとの説明を受けています。
  そこで,新たな提案として,6ページのような案を御提案いたします。コンセプトとしては,6ページの下にございますとおり,相続開始後出金のリスクは相続開始後の事実を債務者に告知しなかった相続人の負担とし,遺産分割で調整を図る仕組みとすることにより,問題の解決を図るというものです。こうして,公平な遺産分割の実現と債務者が紛争に巻き込まれるという弊害の回避,もって動的取引安全性の確保を一挙に解決しようとするアイデアです。
  具体的な提案は真ん中の囲みになります。2ページ記載の事案設例の下で,一つ目の,相続人A,B,Cは相続開始の事実を債務者に告知していない限り,死後に出金された40万円については支払を求めることができないという原則を立てます。そして,先に弁済を受けた相続人については,自己の相続分を上回っている部分を遺産分割で吐き出す義務を負わせるという内容です。
  一方,相続人以外の者の出金については,遺産分割で調整できませんから,本則に戻り民法478条の問題にするというのが,真ん中二つ目の箇条書きの提案です。ただ,債務者には誰が出金したかは分からないのですから,まずは相続人において,出金者は相続人のうちの1名ではないということを立証しなくてはならないという要件を課しています。これは,相続開始の事実を債務者に告知しなかったがゆえに負う立証責任と考えてもよいと思います。
  以上が甲案に付加すべきと考える提案でございます。
  続いて,おめくりいただきまして,7ページの「乙案の実現可能性および仮払い制度の規律」という項目に移ります。
  乙案は銀行にとっては,対応が簡明である上,紛争に巻き込まれるリスクも大きく減少するというメリットがあります。第5回の会議で私が申し上げた取引の静的安全性といったアプローチを採るものだと考えています。また,第5回会議での堂薗幹事の御説明によれば,遺産分割成立前でも債権者との関係では相殺や差押えも可能であるとのことで,その点でも賛同できる内容でございます。しかし,部会資料9では,理論上の困難さと仮払い制度の設計,特に裁判所の関与を必須とする場合の相続人の負担について疑問が呈されています。
  この7ページでは,理論上の困難さはあるかもしれないが,やはり相応の合理性のある御提案であるということと,まだ銀行界としては,両案のいずれがよいと判断しているわけではないものの,少なくとも現時点で乙案を諦めるのはまだ早いということを,3点の理由を挙げて説明しています。
  1点目ですが,甲案では相続人が金銭を費消してしまえば,可分債権を調整手段に使い,公平な遺産分割を実現する,といった立法目的が果たせなくなる可能性があります。現在でも私ども銀行は,相続人の1人から,これから預金を含めた遺産分割を行いたいので,他の相続人からの払い戻しの請求に応じないでほしいとの要望を受けることが大変多く,対応に悩むことがあります。このことから分かるように,他の相続人による費消防止は大変関心が高い問題であろうと考えます。
  2点目は,預金を代表とする可分債権について,遺産分割を経ずに各相続人が法定相続分で権利行使できるという意識が国民にどれだけ広がっているかという疑問です。遺産分割を経て具体的相続分に従った適切な配分がなされるように誘導し,一方で困窮する相続人に負担を掛けない仮払い制度を設ける方が,国民一般の意識にかなうという考え方もあると思われます。
  3点目は,理論的には最も重要な問題であり,銀行実務からも大変重大な問題提起です。投資信託受益権から分配金や償還金が生じた場合,それは名義人が販売会社に有する口座に一旦入る,すなわち預金ないしは預り金になることは皆様も御存じかと存じます。平成26年12月12日の最高裁判決は,共同相続された投資信託受益権から相続開始後に分配金や償還金が生じて預り金になった場合,その預り金は他の部分と異なり,当然分割されないと判断しました。つまり,預金には,当然分割される部分と,遺産分割を経ないと相続人に支払えないものの二つが生まれたことになりますが,これらを銀行が分別管理するのは困難なことです。乙案であれば,全ての預金について相続人個別の権利行使が認められませんから,この理論的問題がクリアされます。
  8ページ以降は,事務当局が提示されたもう一つの疑問点,裁判所の判断を経なければ仮払いを受けられない相続人の負担を軽減できるかという問題意識への一つの回答です。仮払いで保護されるべき利益は,この①,②のとおり,被相続人の負担に帰すべき費用の回収と被相続人に扶養されていた者の生活保障が考えられます。
  次の9ページでは,①,②について,仮払いを受けられる理由とその立証方法を法律で明示的に決めることにより,裁判所が関与しなくても金融機関が迅速に仮払いに応じられる方法を提示しています。これはまだ銀行界全体のコンセンサスを得られたものではなく,相続人の負担解消という宿題に対して一つの試み,アイデアとして提示するものでございまして,もう一つのパワーポイントの3ページで紹介しておりますフランスにおける5000ユーロ以下の少額預金払い戻し制度に着想を得ています。
  お戻りいただきまして,具体的には①の費用回収については,葬儀費用,医療費などの目的を明確に法律で定め,立証方法も法定化します。葬儀業者や病院の請求書を立証方法と定め,金融機関はその請求書に従って葬儀業者や病院に支払えば,もしその請求書が偽造であったとしても免責されるという立て付けです。
  続いて,②の被相続人に扶養されていた者の保護については,定額,例えば100万円については,被扶養者であったことを立証すれば仮払いを求めることができるものとし,その立証方法も法律で定めるという制度です。最後の箇条書きのように,定額ではなくて,その相続人の生活状況に照らして柔軟な額を決めるという考え方もありますが,これは金融機関には幾らか等は判断できませんから,この案を採るならば裁判所の関与が必要になると思われます。
  以上が乙案に関する意見と提案でございます。
  続きまして,3点目の「対抗要件主義を預金債権に適用する場合の規律」という項目に移ります。10ページになります。
  部会資料9では,可分債権については,部会資料1ページの甲案⑥,⑦のとおり,遺産分割による取得も,部会資料9ページの第4の1のとおり,遺言による取得も,遺産分割も遺言も,通知又は債務者の承諾という対抗要件を具備しなければ,債務者その他の第三者に対抗できないという提案がされています。遺産分割の場合は通知義務者は相続人全員,遺言の場合は遺贈義務者たる相続人全員か,遺言執行者がいれば執行者になると考えられます。
  まず,パワポ資料の10ページの提案1は,預金は勘定ごとに独立して管理されているので,他の支店に通知がされても銀行は適時に対応するのが困難であるから,通知はその勘定店を特定して行うべきという提案です。
  提案2は,預金には動きがありますから,遺言が作成された時点から実際の払い戻しを行うまでに変動があることは日常茶飯事です。遺産分割協議書や審判にしても,最新の預金残高を確認せずに協議や審判が進んだ結果,実態を反映しない分割結果となることもよくあるようです。したがって,金融機関において,その範囲が相続人間の協議や訴訟などによって債務者に明らかにならない限りは履行遅滞責任を負わないとするか,供託を可能にすべきという提案です。
  11ページは,対抗要件主義について,預金実務の観点からより広範囲な問題意識を延べたものです。①,②は,果たして通知が相続人全員からのものか,要するに有効な通知と言えるかをどう立証するかという点です。
  銀行としては,有効な通知であると判断できない限り,預金の払い戻しに応じることは困難と思われます。現行実務では対抗要件を意識することは余りないのですが,これは債権譲渡禁止特約があるため,可分債権の預金については,包括承継とか,今回の部会資料9の2ページの(注)にも一部書いてあります,それを除いたものについてですけれども,一部の遺言や遺産分割による取得については,銀行は譲渡禁止特約を対抗でき,結局のところ,債務者たる銀行が遺言や遺産分割協議書の内容を確認し,それらによる取得を承諾して払い戻しているからです。
  しかし,対抗要件主義を採ることが法文上明らかとなり,かつ,相続の場合には譲渡禁止特約を対抗できないため,通知による対抗要件の具備も可能だとされた場合には,相続預金の承継に係る通知が行われることが増え,それに対応する銀行の負担が増えることになります。例えば,通知から実際の払い戻し請求までに時間が掛かり,その間に相続人の債権者から法定相続分の預金について差押えがあったときは,通知の効力を前提に差押え処理をする必要があると考えられますが,このような新たな論点が発生します。また,通知に関する知識や方式が十分に確立されなければ,要件を満たさない通知や,銀行が預金の承継について判断ができないような通知,―例えば戸籍や遺言等の判断材料が不足している通知だと思いますけれども―,が続出し,混乱を招く可能性もあります。したがって,対抗要件主義を採る場合には,方法等について具体的な手当てが必要と考えます。
  ③は,最も問題と思われる点です。通知による対抗要件具備が難しければ,結局,受益相続人は銀行に承諾を求めてくることとなると思われます。これはすなわち,現行判例法理の下で銀行がリスクを負って,裁判所のように遺言や遺産分割協議書の真偽や,それらによる権利承継の帰結を判断するという役目を負わされます。すると,部会資料5に記されているように,債務者の過誤弁済の危険を減少させようとする立法目的が十分に果たされないということになりかねないと思います。
  これは,窪田委員が第5回会議で指摘されたことと同じですけれども,したがって,対抗要件主義を相続預金について適用する場合には,通知方法を債権譲渡一般と比して明定することが必要となると考えられますし,相続財産の含まれる債権の多くが預金債権であることに照らせば,そのような特別な規律を置くことも合理性があると言えると考えます。
  ④は,民法の定めにもある包括的な相続分の譲渡が行われ,その相続分譲渡証明書をエビデンスとして預金の払い戻しを求めるということが実務上まま見受けられるわけですが,そのような包括譲渡のときも個別債権について対抗要件具備を求めるかどうかという整理をお伺いしたいという趣旨です。
  以上で,この資料に関する説明を終わらせていただきます。長時間御清聴いただき,ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  事務当局からの説明に続きまして,浅田委員の方から,甲案,乙案のそれぞれにつきまして問題提起と,それから御提案を頂いたと理解しております。
  それでは,今の事務当局と,それから浅田委員の御発言を踏まえまして,委員,幹事の方々の御意見を伺えればと存じます。いかがでございましょうか。
○南部委員 ありがとうございます。甲案と乙案について意見を述べさせていただきます。
  乙案に比べて甲案の方が,一般的に見ると,柔軟性があるように感じられます。例えば,乙案の場合ですと,先ほど浅田委員の御指摘もあった通り,一時的にお葬式の費用とか一時的な生活費などが必要なとき,すぐに預貯金が引き出せないという状況が考えられます。相続開始後に現金がすぐ必要になる場合も多くありますので,融通が利く方が使い勝手がよいかと思います。
  乙案については仮払い制度が提案されておりますが,裁判所の申立てという手続は一般的に非常に困難だと感じております。一般の方にとって,一時的な費用がすぐ出せないということ,そして裁判所の申立てのような複雑な手続が必要になるということは,かなりハードルが高いように感じるため,仮払い制度をもし創設される場合には,スムーズに申請が行えるような仕組みに是非お願いしたいと思っております。
  そして,これまでも申し上げてきたように,私たち一般の者が理解してすぐ使える制度に,よりよいものになるように,重ねて皆さんに御議論をお願いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 前回の議論の中でも,可分債権といっても様々な種類があり,不法行為に基づく損害賠償債権や,いわゆる取り込みによる不当利得返還請求権などは分割の対象から除外すべきではないかという意見があったところです。私の方でも,検討した結果,やはり分割の対象とする必要性が高いのは金融機関に対する債権であろうということで,端的に預貯金債権のみを遺産分割の対象とするということでいかがかと考えました。
  浅田委員からの紹介にもありましたが,民法改正法案466条の5では「預貯金債権」が定義されていて,他の債権と異なる取扱いができることが民法では初めて認められています。このことを踏まえますと,可分債権のうち預貯金債権だけを区別することも法技術的に不可能ではないだろうと思います。
  理由ですが,まず,金融機関に対する預貯金債権は,一般市民の意識の中では現金とほぼ同視されている。つまり,常に引き出し得る,手元にあるものと同じような感覚があるということが挙げられます。金融機関に対する債権の中でも,預貯金債権以外の国債だとか投資信託などの金融商品については,判例上,不可分債権とされていて,預貯金債権だけが可分債権として当然分割という解釈が残っているという状況があります。
  それから,除外すべきと思われる債権については,前回述べました不法行為や不当利得以外に,同族会社に対する貸付金債権といったようなものもあって,相続人間において,それを行使するかどうかについて利害が対立するものがかなりの程度あると考えられます。このようなものについて,例えば第2の一部分割ということで対応するとしても,他の相続人の法定相続分まで行使を認めるということになると,多数相続人の不利益になる場合も考えられると思います。
  さらに,これら存否や額の見通しが立たない債権を遺産分割の対象に入れてくると,最終結果としての取得価額の予測可能性がないので,合意形成が困難になってきます。つまり,審判に行く前の調停での解決というのも,なかなか難しくなってくると思います。
  それと,第2の一部分割での解決方法についてですが,不法行為や不当利得などの債権については,法定相続分に応じて権利を行使した者が全額を確保できるということでよいのではないかと考えます。前回の議論でもそういう話だったと思いますが,ここで一部の相続人が自分のリスクとコストでもって回収してきた債権について,更に具体的相続分による清算義務を認めることは,逆にかえって不公平なのではないかと考えられるわけです。
  したがって,理論面からも,実務上の必要性という点からも,預貯金債権だけを遺産分割の対象として,その他の可分債権は従来どおり,合意があるものは対象に含めるとし,合意がなければ,それぞれの相続人の分割債権としての行使に任せるということでよいのではないかという意見を申し上げます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほど南部委員からは,できれば甲案で考えていただきたいと,乙案の場合には仮払いが簡単に行われるような工夫をしていただきたいという御発言がありました。浅田委員からは,それに対応するような御提案もあったかと思います。さらに,皆様の方から御意見があれば伺いたいと思います。
  それから,増田委員からは,遺産分割の対象に含める可分債権を仕分けて考える,預金債権に限るというのはいかがかという御提案がありました。これについては,いろいろな御意見があろうかと思います。いずれも含めまして,皆さんの御意見を頂ければと思います。
○窪田委員 最後の点の増田委員から御発言があった点に関して,同じことを多分違う観点からお話しすることだけになるのではないかと思いますが,最終的な結論は,増田委員のお考えというのは十分あり得るのかなと思うのですが,今回,不法行為に基づく損害賠償請求債権,不当利得に基づく返還請求権に関しては,その存否及び額が必ずしも明確ではないことから別扱いとして,一部分割という形で後回しにするという御提案であったと思いますし,それでうまく対応できる場合もあるのだろうと思います。
  ただ,私自身が以前から気になっておりましたのは,死亡事故における損害賠償請求権に関してです。特に死亡による損害賠償請求権と呼ばれているものは,本当にあれは遺産なのだろうかという点が大変気になっております。少し前置きが長くなってしまいますがが,以前からもう,この点について,理論的には説明がつかないのではないかということは,不法行為法学の世界では指摘されてきたのではないかと思います。ただ,死後の逸失利益というものを,そもそも死亡した被害者が取得して,それが相続されるということについては,説明はまったくつかないのだけれども,そうしないと金額が少なくなるしという実質的な理由も背景にあって,認められてきたのではないかと思います。そうだとすると,死亡後の逸失利益の相続については大変フィクションとしての性格が強く,本当に被相続人が自分で処分できるものを,その処分権の延長として何か相続されるんだという説明がうまく成り立たないのではないかなと感じておりました。
  その意味で,今回の存否及び額が必ずしもはっきりしないのでというのとは違うレベルで,もっと本質的なレベルで,そもそも遺産分割の対象とされるべきではない損害賠償請求権があるのではないかなと考えておりました。
  ただ,その上で,もう少し考えていたのですが,死亡による損害賠償請求権というのか,いや,死亡後の逸失利益も含めて,生前に全て金銭的評価される債権を取得しているのかというのは,説明の問題だという可能性もあります。どちらの説明も可能なのだとすると,死亡による損害賠償請求権だけを除外するというのは実はかなり難しくて,死亡による損害賠償請求権というのが定義,概念規定として,うまく機能しないのかなという気もしております。
  その点では,大変困ったなと思っておりました。逆に言うと,不法行為に基づく損害賠償請求権を切り分けることができないのだとすると,やや乱暴なやり方なのかもしれないのですが,遺産分割の対象となる債権を預金債権に限定してしまうというのは,資産について分けるという意味では,比較的簡明な方法としてあり得るのかもしれないと感じました。現時点での,まだ十分考え抜いた考えではありませんが,増田委員の御提案というのは,その点では,一つのあり得る方法なのかなと思って伺っておりました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点に関連して,何か御発言ございますか。
○山田委員 御発言がないので。
  これまで不動産,他の分割対象財産の価額の調整,柔軟な解決を実現するために,預貯金等を遺産分割の対象に含めるということができたらということで検討してまいりました中,預貯金だけを切り分けることが立法技術的に難しいのではないかという思い込みもありまして,可分債権一般ということで議論してまいったところでございますけれども,改正民法の条項中にちょっと利用できるような定義規定があるということでございまして,債権法の方でそういうことであるならば,相続の民法改正の部分でも十分検討できるのではないかということで考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかに,いかがでございましょうか。
○潮見委員 定見はないのですが,この問題は,甲案,乙案という形で,最終的にはまとめなければいけないと思いますけれども,どの観点を重視するかということをもう一度確認しておいた方がいいのではないかと思います。先ほどの合田関係官からの発言もありましたし,それ以外の方々もいろいろおっしゃっておりましたけれども,恐らくこの問題というのは,背後にある観点が三つぐらいあるのではないかと思います。
  一つは,先ほどもありましたが,金銭債権,可分債権というものは,これは相続の場合に遺産に属すのであり,それは,共有あるいは共同帰属という状態がそこで認められているのであって,個々人に相続を理由として解体されるものではないという意識を重視すべきであるというものです。
  二つ目は,これは浅田委員の今日の御発言にもございましたけれども,可分であるがゆえに債務者が過誤弁済をするというリスクがあるときに,その過誤弁済のリスクというものをいかにして回避あるいは最小化するかという観点というものがあろうかと思います。
  三つ目には,これは前から言われていることですけれども,預金というものについては,あるいは預金以外もそうかもしれませんけれども,先ほどもどなたかおっしゃいましたが,増田委員ですかね,金銭と類似という意識があるから,そういう意味では,お財布代わりではありませんけれども,可分債権たる預金債権については,これは相続人の側から見ても,遺産分割を待たずに早期に払い戻しを受けたり,あるいは引き出したりしてもらえることについての利益があるというものです。
  この三つの観点というものをどこまで重視して規律を設けていくのかということによって,甲案を採るのか,乙案を採るのか,さらには現行法で言っているような当然分割構成を採るのかというところの落としどころが決まってくるのではないかという感じがいたします。
  窪田委員が直前におっしゃったことにも関わってきますし,基本的には同じようなことも考えているわけですけれども,考え方としては,今三つ申し上げたニーズというものが一番的確に反映できるのは,恐らく乙案ではなかろうかと思います。ただ,乙案の場合に,浅田メモにもございましたが,簡易な仮払い制度というものを本当にうまく組み立てることができるのかということについて,一抹の不安があります。ただ,これも預金というものの特殊性を考慮に入れて,特別なルールを立てることができるということであるのならば,それを前提とすれば,私は預金債権については乙案の方が基本的にはいいのではないかと思います。それ以外の金銭債権については,乙案をそのまま貫いていったらいいのかということに関しては,まだ若干,なおちゅうちょするところがございますので,また,もう少し部会もございますから,少し私自身も考えてみたいと思います。
  甲案を支持するという御発言もございましたが,甲案を採った場合に,仮に浅田委員のPDFの6ページにあるようなケースをどう考えるのかという点を,お聞きしたいところがあります。ついでに申し訳ありません,浅田委員が長くしゃべったので,私も同じぐらいになるかもしれませんけれども,浅田委員御自身にむしろお伺いしたいのは,6ページのところで,仮に甲案を採った場合,浅田委員の考え方は乙案だというのはある程度分かりますけれども,仮に甲案を採った場合,PDFの6ページにある真ん中のケースで,甲案を採った場合に,40万円部分について払い戻しは求めることができないとした場合に,それにもかかわらず,40万円の弁済をある相続人が受けてしまった場合,例えばAが受けた場合には,その弁済は有効なのですか。478条の要件を満たさないと無効ですよね。そうではなくて,40万円を告知しないにもかかわらず払い戻すということ自体について,これはどうお考えなのか。それから,不当利得返還義務を負うといいますが,相続人が誰に対して不当利得返還義務を負うのかという点は,一体どうなるのか。それから,浅田メモでいうところの最初の問題提起といいますか,事案での発問というものは,銀行はB及びCに幾ら払い戻すべきかということでございましたが,この6ページのケースでいったら,Bは幾ら払い戻しを求めることができるのか,あるいは払い戻しを求めることができないのか。その辺りは一体どうなるんだろうというあたりがちょっと気になりました。
  でも,これは私が気になったということでございますから,もし御教示いただければ有り難いという程度のものとして受け止めていただいても結構です。
○大村部会長 潮見委員からは,この問題を検討する際の検討のポイントを御指摘を頂いた上で,甲乙両案のうちでは,基本的には乙案支持だというお考えをお述べいただきました。しかし,甲案を採るとした場合,浅田委員が示されている6ページの問題はどうなるのか。こうした問題が適切に解決できないのだとすると,なかなか甲案は難しいかもしれない。そういうニュアンスの発言だったと伺いましたけれども,浅田委員の方で何か補足説明はございますか。
○浅田委員 まず前提ですけれども,甲案,乙案,どちらの支持なのかという立場については,現時点のところ,私の立場としてはどちらでもない,これは皆様の御議論を踏まえてということになると思います。
  それで,甲案,6ページの提案の意図というのは,基本的には前回第2案でお示しした免責方式というものを一義的には意図しているということでありまして,要は免責後の処理というのは,相続人間ないしは実際に引き出した者との間で対応するものだということを考えております。ただ,それについては,なかなか難しいということでありましたので,違う方法を考えてみたものでして,飽くまでも次善の策ということであります。
  ちなみに,別途御参照いただければと思いますけれども,直接的に免責を図るという法制度というのは,もちろん国によって全然法制度の基礎が違うわけですから,比較対象にはなりませんが,アメリカの一部の州においては,そういう支払があった場合には,例えば言葉とすると,コンスティチュート・コンプリート・リリースであるとか,銀行はノット・ライアブルとかいう規定文言にて,明確化するという制度があるということでございます。
  いずれにしても,この6ページの趣旨でありますけれども,ちょっと潮見委員の問題が受け止められていないというところもありますけれども,40万円について支払を受けたという場合ですね。
○潮見委員 はい。例えば,ATMとかで40万円をカードで払い戻してしまったと。もちろん,その場合には別の問題がありますけれども。
○浅田委員 民法478条というのは,銀行の債務が弁済というかたちで免責されるかという規律です。それに加えて,今回は,仮にこの条文で免責が図れない部分について,本事例でいう相続人A,B,Cから権利主張が,その預金に関してできるかどうかという部分について,新たな立案によって,払戻しを求めることができないという規律を加えることを企図しています。
  いろいろなアプローチ,やり方がある中で,こういう考え方もあるということで御提示しているわけで,別にこの方法にこだわっているというわけではありませんけれども,前回,民法478条がありながら,これに加え別途の追加的な免責を設けることは過重であり立法が難しいということであったので,この案を御提示したものです。すなわち,民法478条は置いておき,それに加えて,銀行が心配する部分について,今度は債権者の方から,又は潜在的な債権者の方から主張することができないという別のアプローチの立法方法により規定化すれば,478条とこの規定が合わさって,円滑な払い戻し手続ができるのではないかと,こういう着想でございます。
○中田委員 先ほど潮見委員から,論点が三つあるという的確な御発言がありまして,その三つ,確かにそうだなと思います。更に付け加えるとしますと,取り分け金銭債権の場合には,債務者が無資力になるという危険がある,あるいは債権の価値が変動するという可能性がある。その中で権利保全あるいは回収の可能性を保護すべきではないかという論点が,もう一つあるのではないかと思います。
  それから,更にもう一つ,預金契約について特別扱いするということの根底には,契約で何を作り出すことができるのかという問題があるのではないかと思います。例えば,預金の中でも,ここで念頭に置かれているのは普通預金が主だと思いますが,定期預金の場合はどうなのかという問題もあろうかと思います。ですので,潮見委員のおっしゃった3点に,重なるかもしれませんけれども,2点を付け加えてはどうかと思います。
  その上で,一部の債権について別扱いにするという御提案が何人かの方からありまして,それは魅力的だと思いますが,別扱いするレベルを分割対象とするのかどうかというのと,それから行使を個々に認めるかどうかというのと,二つの問題があると思います。
  私は,分割対象にするかどうかについては,これは一律にそうした方がいいのではないかと考えております。行使について区別するとすれば,区別の正当化の根拠を示す必要があるだろうと思います。預金についていうと,債務者が無資力になる危険が小さいということは言えると思います。不法行為に基づく損害賠償債権などに比べてですね。ただ,それでも一定額以上については,やはりその問題がありますので,完全に白か黒かということでもないのではないかと思います。
  それから,潮見委員が問題提起されました,浅田委員の御意見の6ページの「甲案における相続開始後出金の規律のあり方」という論点,これは非常に実務的に重要な論点だと思います。ただ,この問題は,言わば,本来在るべきでない無権限者による払い戻しの問題でありまして,可分債権について分割対象にするかどうか,行使可能とするかどうかという本来の問題とは,少し次元が違うのではないかと思います。実務的な問題として重要なのはそうなんですが,制度設計の上では,ちょっと段階を区別して考えた方がいいのではないかと思います。
○大村部会長 御指摘ありがとうございました。
○堂薗幹事 いろいろ御指摘を頂きまして,ありがとうございました。
  可分債権の中でも預金債権だけを遺産分割の対象とするということが考えられるのではないかという御指摘を頂きましたので,その点については,更に検討していきたいと思います。可分債権を遺産分割の対象にする趣旨でございますが,従前から言われているのは,可分債権の形成等に非常に寄与があるような相続人がいる場合に寄与分の調整ができない,あるいは,特別受益が非常に多いような場合もその調整ができなくて,相続人間の公平を図ることができないという点であり,それを解消する手段として可分債権を遺産分割の対象とするというところが大きいのかなと考えておりまして,仮にそう考えた場合に,預金債権だけに限定することについてうまく説明ができるかというところが気になっておりまして,特に預金を無断で誰かが引き出してしまった場合に生ずる不法行為に基づく損害賠償請求権や,不当利得返還請求権というのは,正に預金の価値代替物のような性質のものですので,その点について,元々の預金について寄与分がある場合にそれを考慮できないとか,あるいは,遺産が元々は預金ぐらいしかなくて,それが引き出されてしまった場合に特別受益が考慮できないとか,そういった問題が生じるのではないかと思います。
  確かに,債権法改正で預貯金債権については定義付け等もされておりますので,法技術的には別に取り扱うということは可能であると思いますが,この問題を取り扱うに当たって,その辺りについて,どのように考えるべきかという問題があるように思いますので,その点についても御意見を賜れればと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 1点,堂薗幹事に確認させていただきたいのですが,第2のところにも出てきたのですが,今の御説明の中にも,預金債権とか可分債権について貢献した者があった場合にということで,寄与分を特定の財産との関係で位置付けられているのかなという御説明がありました。後ろの方でも,そうした説明があり,ちょっと気になってはいたのですが,その点については,その前提自体が多分,完全には共有されていないのではないかという気がいたしました。その点だけちょっと確認させていただけたらと思います。
○堂薗幹事 その点については,この部会資料の説明もやや不十分なところがあるのではないかと思っているんですが,基本的には寄与分は,特にそれぞれ個別の財産についての寄与ということではなくて,全体財産の形成について寄与があったというところで見るんだろうとは思うんですけれども,ただ,例えば,争いとなっている債権が遺産に含まれれば寄与分は認められるけれども,仮に遺産に含まれない場合には,そのほかの財産の形成には何ら寄与がないという場合も例外的にはあるのではないかと。そういった場合は,一部分割でその財産を取り除いて分割をした場合には,寄与分は考慮されないことになりますが,その争いになっている財産について,それが遺産と認められれば寄与分は認められるという場合は,やはり例外的にはあるのではないかというところでございまして,必ずしも特定の財産についての寄与がないと寄与分が認められないということを考えているわけではございません。
○大村部会長 窪田委員の今の御発言は,第2の一部分割の規律に際して,特別受益と,それから寄与分をどう扱うかというのに関わっていると思います。
  今の点以外も含めまして,何かその点につきまして御意見がありましたら,頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。
○石井幹事 今,窪田委員から御指摘を頂いたところにつきましては,私も同様の認識を持っております。特に療養看護型の寄与分が主張された場合には,通常,遺産全体に対する寄与が問題になると思われますので,一部分割の対象となる遺産に対する寄与とそれ以外の財産に対する寄与とに切り分けて考えていくというのは,なかなか難しいのかなという印象を持っております。
  それから,もう一点,やや技術的なことになりますけれども,一部分割の審判の中で考慮することができた特別受益を残部分割で考慮することを制限するという御提案も頂いております。しかし,現状の仕組みを前提としますと,遺産分割の審判の中で,当該審判において考慮できた特別受益の額や内容が明確な形で示されるわけでは必ずしもありません。この点については調停に代わる審判の場合に特に問題になるのかもしれませんけれども,もし御提案のような形で手続を仕組むということになりますと,一部分割の審判の中で当該審判において考慮できた特別受益の額や内容が明確な形で示されるような立法的な手当てを検討していただく必要もあるのではないかなと考えております。
○堂薗幹事 御指摘の点はこちらもそのとおりだと思います。ですから,第2の④の寄与分のところは,このような形で書いておりますが,基本的には,一部分割の方で通常は考慮されることになるのだろうと思います。療養看護型の寄与につきましては,一部分割の対象財産よりもその寄与分の額が大きいというのは通常考えられないと思いますので,逆に言うと,一部分割の対象財産よりも寄与分の額が大きいような場合は,むしろ一部分割すべきでないということになるのではないかと思います。したがって,基本的には,寄与分については一部分割の中で全て評価がされ,したがって,残部分割の方では考慮する必要はないのではないかと。
  同様に,特別受益につきましても,基本的には,②の㋑は例外的な場合であり,通常は超過特別受益がない限りは,一部分割のところで全て評価されるということであるとしますと,一部分割の審判において,それぞれの相続人に少なくとも一定額の財産が分配されているという場合には,それをもって超過特別受益はないという取扱いをすることもできるのではないかと考えており,こういった形で,第2のところで一部分割の要件を明確化する,あるいは残余分割において,どういう計算でそれをやったらいいかというところを明確にすることによって,基本的には特別受益も寄与分も,ほとんどの場合は,むしろ考慮しなくてよくなるのではないかと思います。
  そうしますと,基本的には,残部の債権があるとしても,その残部の債権については法定相続分で分配をすれば足りるということになりますので,こういった規律を明確化することによって,結果的に一部分割をせずに,すなわち,争いがある財産についても,法定相続分に従って分けますと,裁判所で認定された額を法定相続分で分けますという取扱いをすることが可能になってくるのではないかということで,この第2のところは提案させていただいているところです。
○潮見委員 ちょっと進行上のことだけなんですが,もう第2の論点に入っているということですか。堂薗幹事が先ほどおっしゃったのは,むしろ第1のところで,預金債権以外のほかの金銭債権,可分債権も同じように扱うべきだということで,寄与分だとか特別受益の話をされたと。第1の方もまだ残っている……
○大村部会長 もちろん,第1についてはもう終わったというわけではありません。
○潮見委員 分かりました。
○大村部会長 それでは,潮見委員,御発言があれば。
○潮見委員 あることはあるんですけれども,対抗要件の方なんですけれども。そうでなければ……
○大村部会長 増田委員,浅田委員は,今の御議論との関係での御発言ですか。
○増田委員 私は,堂薗幹事が問題提起された話に対してです。
○大村部会長 浅田委員の御発言の内容は。
○浅田委員 乙案に関する質問です。
○大村部会長 そうですか。それでは,増田委員からまず御発言を頂きまして,それから潮見委員,浅田委員という順番で御発言をと思います。
○増田委員 堂薗幹事の疑問について,必ずしも回答になっているかどうか分からないんですが,基本的に遺産分割というのは,遺産として認識されている,要するに被相続人が持っていたことについて,ある程度共通の基盤に立ったものについてなされるというのが,非訟的な解決になじむのではないかと考えるところでして,預貯金というのは,それは恐らく,被相続人が有していたことについて争いがないものであろうし,それについて,特別受益や寄与分などの判断を入れていって具体的相続分を決めていくということは,それはそれで望ましいことではないかと考えているわけですが,一旦,被相続人の生前に取り込みが起こったということで,それが不当利得だということになると,全く紛争類型が異なってくる。つまり,相続人間の債権債務として,それは対立する相続人間で決着を付けるべき,要するに裁判上の紛争として決着を付けるべき事柄になってくるので,訴訟的解決の方がむしろ望ましいのではないかと思われるわけです。
  ただ,言われるように,特別受益性について争いがなくて,それについて,特別受益であるという処理を全ての共同相続人が合意できるのであれば,それは遺産分割の中に従来と同じで取り込んでいいことだけれども,紛争性が残る以上は,最終的には訴訟で解決すべき事柄ではないかと考えられます。もちろん死後の取り込みは,これは当然,いかなる意味でも遺産ではないわけですから,やはり訴訟的解決になろうかと思います。
○堂薗幹事 御指摘はよく分かりますが,ただ,相続人間で争いがあると,正に遺産の該当性について争いがあるということで,当然遺産分割でも,可分債権以外の財産については,遺産該当性について争いがあれば,訴訟で決着を付けた上で遺産分割をするということでございますので,今御指摘を頂いたような理由で説明が付くのかという点については疑問もあるように思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,御検討を頂くということにします。潮見委員,どうぞ。
○潮見委員 全く違う論点で申し訳ありません。対抗要件のところ,1ページ目の,甲案でも乙案でも⑥と⑦になるんですけれども,簡単な確認のお尋ねが二つと,それから,こういうことではどうですかというのが一つです。
  お尋ねの一つは,これは本当に形式的なことですけれども,⑦のところで,⑥の対抗要件はといろいろ書いておられますよね。⑥のところに戻りますと,対抗要件が備えられなければ債務者はその他の第三者に対抗することができないと。この枠組み自体は,部会資料の確か5だったと思いますけれども,債務者対抗要件と第三者対抗要件とは基本的に分けて考えるという意味で理解していいんでしょうね。債権関係部会の部会資料では出ていましたが,今回そこは出ておりませんでしたので,ちょっとだけ確認のための質問です。
  そうなると,⑦の,⑥の対抗要件は相続人全員が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をすることにより具備されることとするというのは,これは債務者対抗要件に類するものについては,類するといいますか,そちらは単なる通知承諾でよろしいと。その代わり,こういう場合に,甲案,乙案,いずれにしても,第三者との関係での対抗要件については,確定日付ある証書,しかも全員が証書の中で通知をするという形をとらなければいけないということなのでしょうか。これが1点目の簡単な確認です。
  それから,二つ目の簡単な確認は,債務者が承諾をする場合ですが,これは,相続人全員に対して承諾をするということをイメージされているのでしょうか。相続人全員が債務者に通知をし,こちらは「全員が通知を」と書かれているのですが,その後のは,債務者が承諾をするとさらっと書いておられるものですから,やはりこれは全員に対してですよねという,そういう趣旨をここに入れておられるのかという確認です。
  それから,三つ目は,こういうのはどうですかということですけれども,これは浅田委員のメモにもありましたが,例えば遺産分割調停が調って調停証書が作られたような場合には,別に先ほどのような確定日付ある証書だ何だとか,あるいはこういう⑥とか⑦という,この仕組みにきちんとのせる必要があるのだろうかと。遺言の場合には,浅田委員のメモにはありましたが,若干私は首をかしげるところがありますが,せめてそういう分割調停の辺りのところについては少し,公的といいますか,法的に確認されたような文書でございますから,別扱いを考える必要もあるのではないかという感じがしたと,いかがでしょうかということです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御質問2点と,それに対する回答を想起されて,御提案を頂いたと思いますが,事務当局の方で。
○堂薗幹事 まず,最初の御質問の点ですが,これは御指摘のとおり,今回の部会資料で,第三者のところの書き方がやや不正確だと思いますが,第三者については,確定日付ある通知又は承諾を要するという前提でございます。したがって,⑦では,債務者に対する通知を誰が行うかというところについて特則を設けるという趣旨でございまして,そういった意味では,対第三者との関係でもこの⑦の規律は及ぶんですが,ただ,いずれにしても確定日付ある証書で行う必要があるということです。
○潮見委員 承諾の方はどうですか。
○堂薗幹事 承諾も含めてです。
○潮見委員 全員に対して。そこは違いますか。
○堂薗幹事 承諾の相手方ですが,同じ一つの債権を複数の債権者が取得した場合については,まだ十分詰められていませんが,基本的には,遺産分割でその債権を取得した当該債権者に対して承諾をすれば足りるのではないかというのが現段階での整理です。もっとも,債権者が複数いる場合にそれでいいかどうかという点は,更に検討したいと思います。
  それから,調停などが成立した場合ですけれども,これは遺産分割のときも含めて,こういう形で規律を設ける場合は,例えば遺産分割のときも,その意思表示の擬制を遺産分割の審判の中でしてもらうと。家事事件手続法の給付命令を利用するといった方法で,通知をしたことを擬制して,その審判に持って行けば,全員の通知があったという取扱いができるような仕組みを考える必要があるのではないかと思っております。
○大村部会長 今の関連でですか。
○窪田委員 すみません。今の関連で,もう少しだけ確認をさせていただきたいのですが,審判のお話がありましたけれども,遺産分割協議が成立した場合の協議書でも同じことが言えるのかということと,もう一つ,先ほどの潮見委員からの御質問にもその点が含まれていたのだろうと思いますが,その場合に,遺産分割によって法定相続分を超える部分を取得したということと,それに対抗するという問題を2段階で構成しなければいけないのか,遺産分割によってこれこれのものを取得したということで,その権限を示して行使しているのだとすると,遺産分割協議書なり審判書を示す,そして,その中で更に債権譲渡についての意思表示を見いだすなどという2段階をとらなくてもいいのかなという気もします。逆に言うと,そこの2段階にこだわる理由は何なんだろうということをお聞きしたいと思います。
○堂薗幹事 すみません,2段階というのは。
○窪田委員 つまり,遺産分割によって権利の所属が決まるわけですよね。なおかつ,⑦の方では全員による,それによる変動に関しての通知が必要だと,これが対抗要件だとしているわけです。遺産分割の審判書があるとすれば,その中で債権譲渡の通知に相当するものを見いだすというか,読み込むということだったのですが,遺産分割協議によって最終的な債権の帰属がはっきりしたわけですから,その証拠をもって,自分が権利者であるということを言えばいいだけではないのかなという気もしたものですから,遺産分割による権利の確定ということと対抗ということを本当に2段階に分けなければいけないのかどうかということの理由をお聞きしたかったということです。そのことをお聞きしている背景には,先ほど浅田委員からも御指摘あったと思うのですが,債権譲渡に関しての通知承諾という枠組みを使いますと,通知だけではなくて承諾が入ってくるのですが,本当にそれが適切なのかなということもあって御質問している次第です。
○堂薗幹事 基本的には,債権譲渡とパラレルの方が分かりやすいかなという程度のものなんですが,例えば遺産分割協議書を持って行けば,それで債務者にも対抗できるというような形にした場合に,対抗要件として必要な遺産分割協議書というのはどういったものになるのかといった辺りについて,きちんと整理をする必要が出てくるのではないかと。
  ただ,御指摘のように,遺産分割の場面で,通常の債権譲渡の枠組みを使って債務者対抗要件を考えることが本当に妥当なのかというところはあるかと思いますので,遺産分割の場面に限って,こういったものを示せば債務者にも対抗できるという仕組みを作るというのは十分考えられるのではないかと思います。
  それから,遺産分割協議の場合も,基本的には協議ですので,その協議が成立する際に,それぞれ他の相続人から通知についての委任を受けるなり何なりをして,併せて通知をするということが,協議の場合は可能になるのではないかと。それに対して,審判の場合はなかなか協力が得られないという場合があるので,先ほど申し上げたような,審判書の中で通知を擬制してそれを送れば,それで対抗要件が具備したことになるという取扱いをする必要があるのではないかというところでございます。
○窪田委員 ちょっと1点だけ。遺産分割協議書の場合であっても,遺産分割協議書には相続人全員の署名捺印があるわけですよね,それを示す以外に,通知について,委託を受けてという構成が本当に必要なのだろうかという点はちょっと気になりました。それだけです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その点は更に御検討いただくということにいたしまして,浅田委員の方からも御発言があるということでしたが。
○浅田委員 乙案の御解説に関する質問でございます。3ページになります。
  甲案,乙案,繰り返しになりますけれども,銀行界ではいろいろな意見がありまして,まだ決めかねているというところでありますし,またパブ・コメ等を含めて,いろいろな意見を受け入れた上で決定されるべきことだと思います。繰り返しになりますけれども,乙案について,ここで断念するというのはまだ早いという観点からの質問なのですけれども,まず1点目です。
  部会資料の2(2)の1段落目の最後に,「仮に可分債権については乙案を採りつつ,その余の遺産については従前と同様の取扱いをする場合には,その理論的整合性をどのように説明することが可能かという問題がある」と記されています。しかし,乙案は,可分債権が可分であることは維持しつつ,単に遺産分割成立までは各相続人の権利行使を禁止するものですから,やはり可分債権についても,理論的には従前と同様というレベルではないでしょうか。それは,第5回会議において堂薗幹事より,債権者の相殺や差押えは現行判例法理同様に可能であると述べたことからも明らかだと思います。したがって,理論的整合性の点から問題があるという点はどういう趣旨であるのかということを今一度,整理のためにお伺いしたいと存じます。
  二つ目でございますけれども,同じく2(2)の(注)には,「現行の判例実務によれば,可分債権は,相続開始と同時に当然に法定相続分に応じて分割され,不動産等の遺産とは異なり,遺産分割前の権利行使に何らの制約もないのに対し,乙案を採った場合には,不動産等の遺産よりも,権利行使につき重い制約が課されることとなるが,この点を正当化することができるかという問題もある。」とございます。しかしながら,重い制約というのは,必ずしも当たらないのではないかと感じているところでございます。
  従前から私が指摘していますとおり,相続財産に含まれる金融資産のうち代表的なものと言える株式,投資信託受益権,個人向け国債については,いずれも判例により,共同相続されたときは相続人間の準共有になり,相続人個別の権利行使は許されていないとされています。また,先ほど申し上げたとおり,判例によれば,預金の中にも当然分割されない部分もあります。そういたしますと,可分債権,その代表たる預金について,権利行使について重い制約が課されるというのは,制度の評価としては必ずしも妥当しないのではないかとも考えますけれども,この点について御説明を頂ければと思います。
○堂薗幹事 まず,御質問のあった理論的整合性の点でございますが,これについては,乙案は必ずしも合有説を採るというものではありませんで,今御指摘を頂きましたように,本来的には当然分割される可分債権であると。したがって,本来は権利行使可能なんだけれども,相続の場面では政策的に権利行使を原則として認めませんというような説明をすることは可能なんだろうと思います。
  ただ,結果として,合有説を採った場合とほぼ同様の取扱いをするということになりますので,可分債権以外の財産ではそのような考え方を採らないにもかかわらず,可分債権についてだけ本来権利行使可能なものについてそれを否定するのか,どういう理由で違いを設けたのかという点については,やはり説明ができないと,なかなか法制上は難しい面があるのではないかというところでございます。
  それから,(注)の点につきましては,これは飽くまで現行の実務における取扱いとの違いを記載したという趣旨でございまして,権利行使の容易性という観点からいうと,現行は不動産等の遺産,もちろん不可分債権もあるではないかという御指摘はそのとおりかと思いますが,例えば不動産と比較した場合に,現行法は可分債権の方が権利行使がしやすいのに対しまして,乙案を採った場合には,それが逆転しますので,変化としては甲案を採るよりも急激な変化になるという趣旨でございまして,この点は特に理論上の問題というわけではありません。
  ただ,乙案を採りますと,やはり原則的には権利行使は禁止されるということになりますので,仮払いの制度を設けたとしても,やはり権利行使が難しくなる面は出てくるのではないかと。それは,生活費等で必要な場合ですとか,葬式費用とか,そういったものについては払戻しができるとしても,例えば,相続人間で遺産に関する紛争があって,弁護士を頼む際の費用などについて仮払いができるかとか,そういったいろいろ問題が生じてきまして,やはり甲案に比べますと,融通が利かないという問題があるのではないかということで,なかなか乙案はハードルが高いなという趣旨でございます。
○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますか。
○浅田委員 いろいろな問題があるということは当然ありますけれども,パブ・コメ等に記載される場合には,評価ということについては正確に書いていただいた方がよろしいかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 第1について,3点を申し上げたいと思います。1点目は,対抗要件と言われる問題について,先ほど窪田委員が,承諾を入れることはどうなのかという疑問を呈されました。その問題がどこにあるのかというのをもう少し説明しておいていただくと,今後のためにいいのではないかと思います。これはむしろ窪田委員に質問になります。
  あるいは,第1,甲案の⑥,⑦というのは,基本的に遺産分割によって法定相続分を超える割合を取得したということを,ある程度公的なというか,書面等によって示せればいいのであって,債権譲渡の対抗要件にのせるということ自体が,債務者との関係では必要ないと。それ以外の第三者との関係では,一般の対抗の問題だけれども,ということであるのか,あるいはそうではないところに,むしろ承諾ということに問題があるのかというのをお聞かせいただければと思うというのが第1点目です。
  2点目,3点目は,違うところですけれども,一通り申し上げてもよろしいでしょうか。
  それから,預金の別扱いというアイデアについて,これは非常に魅力的なアイデアだと感じております。その別扱いの意味ですけれども,先ほど堂園幹事が,別扱いとするという点について,預金については分割対象に含めてくるという意味での別扱いと言われたかと思います。中田委員からは,分割対象とするかということと,行使の方法をどうするかの区別が指摘されました。さらには免責をどうするかという問題も少し分けて考えられるのかなと思っております。仮に預金を特別な扱いをするとしても,どの部分でかというのは,もう一つ考える余地があると思います。
  既に議論の中で明らかになっていると思いますけれども,一つの考え方は堂園幹事が言われたような考え方だと思いますけれども,むしろ免責ですとか行使方法,特に免責のところで別扱いをするという考え方も十分あるのかなと思っておりまして,取り分け,潮見委員がおっしゃったことですけれども,預金の現金類似性というものですとか,それと関連するのかもしれませんけれども,特に普通預金のような場合,あるいは定期も実質的にはそうかもしれませんが,要求払いで大量処理をせざるを得ないというような性格というものをどう見るかというのは,むしろ免責の方につながってくるのではないかと思います。私自身は,対象とするよりは,行使とか免責の方で特別扱いをするという方が,他の貸金ですとか,いろいろなものを考えたときには,適切ではないかと思っております。
  3点目が,これも潮見委員が浅田委員への御質問という形で言われた,浅田委員のパワーポイントの6ページについてです。御議論の中で,潮見委員,中田委員から,無権限の払い戻しの問題なので,そういう問題として別扱いで考えるべきではないかという御指摘がありました。
  確かに無権限でなく,権限がある者で払い戻していれば問題はない,だけれども,権限者なのか無権限なのか分からないということから,債務者の安定性というか,安心して払い戻しに応じられるというのをどう確保するかという問題ではあると思います。無権限の問題ではあると思いますけれども,ここでは,潮見委員が御指摘になった,可分ゆえの過誤払いに代表される債務者のリスクの回避,減少ということを考えますと,ここで,相続によって法律上当然の可分になるということに伴うリスク減少というものをどう考えるかという点からは,やはり相続の場合に特有の問題として考えるということではあるのだと思います。
  それで,ちょっと細かいことですけれども,この6ページで,一体どうなっているのだろうかということをつらつらと考えていたんですけれども,暫定的な御提案なので,それの法律構成がどうなるのかということを考えることは余り意味がないのかもしれませんけれども,浅田委員のような御説明や御提案になりますと,相続開始の事実を債務者に告知するまでは相続によって可分債権になっているということを主張できないという構成であり,しかも,プラスアルファとして,その告知がされるまでの間に引き出されたものについては適切な管理者によって引き出されたものと推定するというようなことが絡んで構成されることになるのではないかと理解しております。告知された後は可分になっていますので,残りの部分は推定が及ばないので,20万円について法定相続分に応じて払うというようなことになり,推定を崩すためには,無権限者に対して第三者に払い戻しましたというような話をしていくと。しかも,相続人間では一種の権限みたいなものが更に推定されていると,そういうような構造かと思います。その理解が正しいとしますと,こうやって説明していきますと,かなり特殊な,かつ478条から,かなり超えた保護だという感じがします。それが相続によって法律上当然に可分になっていることに伴って債務者が不安定になるということだけで十分に説明できるかというと,やはり預金だから,取り分け要求払いで普通で大量でというようなものだからこそということではないかと考えまして,これが本当に実務上,非常に必要であって,これに類する規律を入れるとすると,やはりこの部分を預金ゆえの特殊性ということで持ってくることになるのではないかと感じております。
○大村部会長 ありがとうございます。預金について,幾つかのレベルで特別扱いをするかしないか考える余地があるだろうということで,具体的な御指摘を頂いたと思っております。
  何か関連でございますか。
○窪田委員 先ほどのことを多分,繰り返すだけにはなるのだろうと思うのですが,債務者が承諾するということに関して,私が若干違和感を持ちましたのは,一つは結局,通常の債権譲渡と違って,このケースというのは,そもそも誰が譲渡者かも分からないということを前提として,相続人全員と言っているのではないかということです。その状況において,債務者の方が,その譲渡について承諾しましたというのは,何か場面として想定しにくいような気がします。
  つまり,遺産分割協議書は全然知らないのだけれども,これは何となく承諾したというものを考えるのだとすると,これは浅田委員から御指摘があった点ですが,例えば,支払側に大変にリスクを負わせることになるのだろうと思います。結局そこで問題になっているのは,遺産分割協議が適正に成立しているかどうかということだけなのだとすると,わざわざ2段階で対抗要件という考え方を持ってきて,なおかつそこでも,通知だけではなくて,承諾というのも一方であるからということまで用いなくてもいいのではないかなというのが先ほどの御質問の趣旨でした。
○堂薗幹事 実は今の点に若干関連するんですが,遺産分割の場面での通知にしましても,結局,通常の債権譲渡の場合は,債務者は譲渡人が誰かというのを分かっているのに対しまして,ですから,自分が認識している譲渡人から通知があれば,それは払っていいんだなということになるのに対しまして,遺産分割の場面では,相続人らしき人から通知が来ても,本当にその人が相続人なのか分からないというところが問題ではないかと感じておりまして,ですから,先ほどの過誤払いの点とも関連するんですが,こういった相続包括承継の場面では,当然債務者は誰が相続人かというところも含めて分からないので,少なくとも被相続人が死亡したことと,その相続人の範囲が分かる資料については債務者の方に提出しなければいけないというような規律を設けるということも考えられるのかなというような印象も持っておりまして,その辺りも含めて,更に検討したいとは思います。
  浅田委員が資料の6ページで提起されている問題については,今のような,相続人の範囲を明確にする義務のようなものを契約上盛り込むことができるのであれば,あえて免責とか,そういうことに踏み込まなくても,それに対する義務違反の効果として解決するという方法もあるのではないかということも考えているところでございますので,その辺りも含めて,更に何か御意見があれば,お聞かせいただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点に関連する御発言があれば,まず伺います。
○浅田委員 先ほどの堂薗幹事の最後のところで,いろいろな考え方があると,その中に契約的な構成ということの解決法もちょっとあるということで,非常に私自身も魅力的な話ではあります。
  ただ,御説明しておきますと,銀行の預金約款において,例えば,死亡時においてどうなるということについては明確な定めはございません。なぜならば,それは約款自体が,死亡したときに相続人に承継されるかどうかということについては余りはっきりしていないからであります。
  もっとも,今回お配りした資料,他国の制度を見ますと,どうやら,例えば韓国とかドイツとかというのは,一部承継するという判例ないしは制度というのがあるようでありまして,そういう契約の承継ということが理論的に確立されているのであれば,そういう預金約款の手当てによって,一定のこの問題の解決が図れるのかなとは思っております。ただ,我が国では,現状の解釈状況,学説等の議論の状況において,契約により解決が図れるかというのは,私は,なお検討作業が必要なのかなとも思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1の論点,それから第2の論点も含めまして,ほかに御発言があれば承りたいと思います。
  事務当局の方から,この点はいかがかという御質問などがございましたら,どうぞ。
○森委員 一部分割について質問があります。御提案になっている一部分割というのは,分割対象以外にも遺産があるかどうか分からない状態で行われ,後日,残余の遺産が判明したという場合の当初の分割を指しているのでしょうか。それとも,あらかじめ分割対象以外の遺産があることが分かった上で行われる分割を指すのでしょうか。いずれの場合でも,審判や調停の場面で,分割対象以外に今回分割すべき遺産はないということで事件を終局させることは可能なのでしょうか。その辺はどのようにイメージしておられるのかという点について,ちょっと質問したいんですが。
○堂薗幹事 基本的には,ここで念頭に置いているのは,遺産性に争いがある場合に,争いがあるもの以外の財産を対象として一部分割をするというものでございますので,結果として遺産性に争いがあるものについて,遺産ではなかったということになると,本来的には一部でなかったことにはなりますが,ここで念頭に置いているのはそういったものです。
  ただ,必ずしもそれに限定する必要はないのではないかというところがありまして,ここの要件は例示を挙げていることからいろいろ書いているように見えますが,実質的には,一部分割をする必要性があって相当と認めるときということしか書いていませんので,基本的にはその点について裁判所に判断をしていただくという前提でございます。
○森委員 典型的な調停条項を想像していただくと,まず,相続人は誰々であるということを第1項にうたいます。第2項では別紙遺産目録を引用して,本件遺産分割の対象を確認します。第3項以降では分割方法等を取り決め,最終項では第1項でうたった相続人間において第2項で確認した遺産に関する一切の分割が完了したという文言を入れて当該事件全部を終局させるんですね。これとの対比で考えた場合に,御提案の一部分割をするときは,分割対象とされていない残部の存在が前提とされているということなのでしょうか。
○堂薗幹事 ここでは基本的に,民訴の一部請求,残部請求と似たようなところを考えておりまして,要するに一部分割だと,当事者がそういう前提で,あるいは裁判所の方で,そういう前提で行う場合を念頭に置いておりまして,だから,結果として,後から遺産が実はあったとか,そういったものは,ここでいう一部分割では当然ありませんし,争いがあるものについて明確に除外する,要するに,一部分割のところで対象とされていない財産,それが最終的に認められるかどうかは別にして,そういった残余財産があるという前提で行うものを想定しております。したがって,通常の場合は,遺産分割の審判のところで対象財産が書いてあれば,基本的にはそれが全部なんだろうという趣旨で,基本的にはされていると思いますし,仮に後から遺産が見付かった場合の処理についても,もちろん規定として置く場合はあるのかもしれませんが,ここで言う一部分割は,明確に,まだ遺産分割の対象とされていない財産があると,もちろん,最終的に訴訟で認められない場合は,ないことになりますが,それを除きますと,基本的には,遺産分割の対象がまだ残っているということを認識した上で行うものを想定しているということでございます。
○大村部会長 森委員,よろしゅうございますか。
○森委員 はい。
○垣内幹事 すみません,これは全く理解のための基礎的な質問なんですけれども,現在の実務における一部分割というものについても,必ずしもよく理解が及んでおりませんので,第2のところで想定されている規律のイメージについて,ちょっと確認させていただきたいと思います。
  あるいは,今の森委員の御発言にも若干関係するのかもしれませんけれども,ここで想定されている,私の質問の対象は遺産分割の審判についてですけれども,一部分割の審判というものがあった場合には,その遺産分割手続はそれによって終了するということなのか。それとも,訴訟の場合の一部判決ですと,残部については当然訴訟が係属しておりますので,残部について引き続き審理を遂げて判決をするということになるかと思うんですけれども,今の御説明で,残部があることを意識しつつする分割であるという場合には,手続としては,残部についてなお係属していくということを想定されていらっしゃるのか,それとも一応,全体についての終局的な審判だということなのかということについて,確認のためにお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 そこは一応,考え方としては両方あるんだろうと思いますが,一応こちらとしては,遺産分割事件があった場合に,一部だけ除外して遺産分割をすることができ,それによって当該事件は基本的には終了すると。したがって,残部について更に必要があれば,再度申立てをしてもらうということを想定はしております。
○大村部会長 垣内幹事,よろしいですか。
○垣内幹事 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,この第2について,いかがでございますか。
○増田委員 先ほど第1のところで一緒に話してしまったことと若干重複するんですけれども,預貯金以外の可分債権が除外された場合に,一部の相続人のみが自己の法定相続分だけを行使した時も,具体的相続分による調整を働かせるという提案に,第1と併せて読むと,そう読めるんですが,そういう趣旨でいいのかどうか。つまり,自分が自分の分を,自らのコストとリスクの下で回収してきたものについて,他の相続人が,場合によってはただ乗りすることが許されるのかどうかと。その辺りについてお伺いしたい。
○堂薗幹事 まず,権利行使については,第1の②のところで書いてありますように,基本的には,遺産分割前は法定相続分でしかできないということになりますので,実際に弁済の受領行為などについては法定相続分の範囲内でないとできないと。ただ,債権についての遺産該当性について争いがあるということに通常なりますので,存否及び額について争いがあるということになりますので,相続人がその債権の法定相続分を超える部分についても,少なくとも債権存在の確認請求,通常で言う遺産確認請求に匹敵するものだと思いますが,そういったものは認める必要があるのではないかと。そういった形で,全体の債権として幾らあるかということが分かった場合には,それに基づいて具体的相続分が算定されるということになりますので,そうすると,債権の存否及び額については,全ての相続人が利害関係を有するということになりますので,仮に,遺産確認請求について,第三者を相手方とする場合も固有必要的共同訴訟だと考えるのであれば,そこは同じような規律になるのかなと考えておりますが,正直なところ,ちょっとその辺りは,まだ十分に詰めた検討はできていないというところでございます。
○増田委員 今のが遺産確認だとするならば,恐らくは債務者と全相続人とを含めた固有必要的共同訴訟になるのではないかなと推測いたしますが,そうではなくて,私が質問したのは,給付訴訟をして自分の相続分,法定相続分だけを回収してきた場合の処理について質問したということなんですけれども。
○堂薗幹事 いや,そこは,この第1のところで書いてある処理をするということになりますので,基本的には,実際に法定相続分に相当する部分は回収できるわけですが,仮に残部の遺産分割において,特別受益なり寄与分で調整しなければいけないというときには,場合によっては,第1の⑤で書いてあるような債務を負担させる方法での遺産分割もあり得るということにはなると思います。
  ただ,先ほども申し上げましたように,この第2のような規律を前提にすると,原則として,残部分割においては特別受益も寄与分も考慮しなくてもいいという場合が,事案としてはほとんどではないかと思いますので,仮にそうだとすると,結果としては,法定相続分で残部の債権については分割していいということになりますので,その場合は,他の相続人とは無関係に,自分の法定相続分に相当するものだけ取得して,権利行使すればいいということで,個別に対応が可能になるのではないかということでございます。
○窪田委員 すみません,周辺的な事柄になると思うのですが,1点だけ御質問させてください。後ろの方にも出てくることなのかもしれないのですが,遺言があった場合に,例えば相続分の指定の遺言があった場合,あるいは,ある預金債権については全てAに相続させるものとするという,いわば分割方法の指定があった場合については,現在の考え方でいうと,それが相続分指定を伴うものだったとすると,法定相続分との関係でも置き換わるのではないかという問題,あるいは分割方法の指定があったとすると,そもそも遺産分割の対象とならずに直接帰属するといったようなことがあるのですが,その点,何か御検討されている部分があったら,少し教えていただけますでしょうか。ひょっとすると,第1の部分に戻ってしまうのかもしれないと思うのですが。
○堂薗幹事 対抗要件との関係でしょうか。そうではなくて。
○窪田委員 そうではなくて,単純に相続分の指定や分割方法の指定があった場合に,第1のところで示された規律はどうなるのかなという点が,少し気になったものですから。
○堂薗幹事 そこは,例えば相続分の指定であれば,相続分の指定を前提に,具体的相続分は算定することになると思いますし,特定の財産について遺産分割方法の指定がされた場合は,その分割方法の趣旨が,その余の財産について法定相続分で分けるという趣旨なのか,あるいは,この財産は相続人Aに渡すけれども,全体としては法定相続分で取得させるという趣旨なのかによって変わってくるのではないかと。
○窪田委員 すごく単純で,まず甲案の方を前提とすると,相続分の指定があったときに,法定相続分に応じてというのは指定相続分に変わるのですかという疑問と,乙案の方に関しては,可分債権を遺産分割の対象に含めるものとして,遺産分割が終了するまでは行使できないとするわけですが,当該預金債権についてはAに相続させるものとするという遺言があった場合にはどうなるのかなという質問です。後ろの方で遺言の対象についてはありますが,多分第1との関係でも問題となると思ったものですから,ちょっと確認をさせていただけますでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,特に②については,債務者との関係も含めて考えておりまして,債務者としては通常,遺言の内容は分からないので,基本的には,法定相続分に応じて請求がされた場合に,それに応じて払えば,当然債務の弁済として有効だということで考えておりますので,相続分の指定があった場合も,②の規律は原則として生きるという前提でございます。
  逆に,乙案の場合は,可分債権について,例えばAに相続させるというような遺言がされた場合に,⑥,⑦の規律は及ぶという前提ですので,その点について対抗要件を備えれば,法定相続分を超える権利行使も可能になるという前提になります。
  遺言の場合は,例えば遺言執行者が対抗要件具備行為もできるということになっておりますので,必ずしも相続人の全員が行う必要はなくて,遺言執行者がそういう形で対抗要件具備行為をすれば,それに基づいて,受益相続人あるいは受遺者は権利行使が可能になるという前提でございます。
○大村部会長 窪田委員,よろしゅうございますか。
○窪田委員 私としては,恐らく相続させる旨の遺言について,それを前提として考えなければいけないということではなくて,場合によっては分割方法の指定に関しての遺言に関しては,無条件に遺産分割の外に置くのだという点について,見直しをするということも十分にあり得るのだろうなと思いますので,その点については幅広く,むしろ検討していただいたらよろしいのかなという趣旨でお伺いしただけのことです。
○水野(有)委員 すみません,今の点の質問です。乙案の方の御回答のときには,遺言によって指定された相続分と読み直して,あと対抗要件で修正とおっしゃったのに,甲案についてはむしろ,元々が②が生きるとおっしゃったのですが,ちょっと私,これを読んだときに,もしかしたら甲案も,②も指定相続分に修正されるんだけれども,対抗ができないとなるのかなとも読んだのですが,どちらの御趣旨か,ちょっともう1回御教示いただけませんか。
○堂薗幹事 その点はまだ十分に詰められていないのかもしれませんが,一応こちらで考えているのは,原則は法定相続分で,ただ,法定相続分を超える部分について,甲案でも,遺言執行者等が通知をするなどして対抗要件を備えた場合は,法定相続分を超える部分も対抗できるという趣旨です。ですから,②,⑥で法定相続分と明確に書いているのは,指定相続分ではないという趣旨も一応含んでいるということです。
○水野(有)委員 そうであると,内部的にもという趣旨になってしまうのかがちょっとよく分からなくて。
○堂薗幹事 内部的にといいますと。
○水野(有)委員 内部的にも法定相続分に応じてになるけれども,対抗要件を備えたら内部的にも外部的にも変わるというのが,ちょっと気持ち悪い感じがしまして,対外的にはという趣旨だけで書かれているならとてもよく分かるのですが,ちょっとそこら辺が。
○堂薗幹事 基本的には対外,対第三者,あるいは債務者との関係です。
○水野(有)委員 どうもありがとうございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかの点,いかがでございましょうか。
○金澄幹事 すみません,本来第1のところで伺うべきだったのかもしれないのですけれども,実務として考えると,遺産分割の申立てについてですが,遺産が預金しかない場合,分割の申立ての前までに,それを全部,法定相続人が法定相続分によって引き出してしまっていたような場合,遺産としては申立時点では何も残っていないわけです。ところが,その後に寄与分とか生前贈与とか特別受益とかがあることが分かった場合に,遺産分割の申立てを行い,⑤に書いてあるような金銭支払債務を負担させるような遺産分割の申立てというのができるのでしょうか。甲案ですと可能なように思えるのですが,これから遺産分割の申立てをするときに疑問になってきたんですけれども,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 それは基本的にできるという前提でございまして,その場合は,既に一部の人が実際の具体的相続分を超えるような形で取っていますので,遺産分割方法としては,いわゆる価額分割というんでしょうか,基本的に,ここに書いてあるように債務を負担させる方法で分割するしかないことにはなりますが,それは特別受益がどの程度あるかとか,寄与分がどの程度認められるかというのは,遺産分割の中でないと判断できませんので,それはそういった,今御指摘のあったような申立ても一応認めるという前提です。
  ただ,余りそこを無条件に認めると,やはりそういった形で,債務を負担させる方法での分割ということになってしまいますので,そこを事前に権利行使を否定するような措置というのも別途必要ではないかということで,補足説明の中では触れさせていただいていると。ただ,現行の審判前の保全処分は,審判あるいは調停の申立てがないと,保全処分をすることができませんので,現行の審判での保全処分を前提とした場合に,相続人の権利行使を的確に抑制できるかという問題はあるのではないかと。
○金澄幹事 そうすると,代償金を求めるような遺産分割というのもできるようになるということになるわけですか。
○堂薗幹事 はい。
○金澄幹事 となりますと,次の疑問として,不動産の持分のときに,相続人が不動産に法定相続分の持分を持っていて,相続登記をして,それぞれをみんな自分の持分を売ってしまったような場合も,やはり同じようにいろいろな,生前贈与とか寄与分などが後からわかった場合は,それも遺産分割を今度もう1回やるということになるわけでしょうか。
○堂薗幹事 今のお答えと同じように考えれば,基本的にはそうなるということではないかと思いますが,その辺りについては,まだ十分には詰めて検討できていませんので,引き続き検討はしたいと思います。ただ,一応現段階では,そうなるのではないかと思いますけれども。
○金澄幹事 ありがとうございます。
○増田委員 今の点は,前回この議論をしたとき,不動産については従前どおりとおっしゃったような記憶があるんですが,そうなってくると,それは変えられても構わないと思うんですけれども,今のお答えどおりだと,何が遺産なのかというところに話が戻ってしまうんですよね。どの程度のものが遺産の変形物として,遺産と同様に取り扱われるのか,あるいは,変形物というのが残っていなくても,それは遺産とみなすのかなど,ちょっと複雑な問題が,もっと根本的な問題として生じてくるように思います。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 今の点はもう一度検討していただくということにいたしまして,そのほか,いかがでございましょうか。
○西幹事 今回だけに関わることではなく,全体に関わることなのかもしれませんけれども,特に今日の第1のところで感じましたので,1点伺いたいと思います。
  今回の改正は,民法の改正ということで始まったように記憶しておりますけれども,特別法を作るという可能性もあるのでしょうか。と申しますのは,今日,浅田委員の方から,フランスの法制度として乙案的な制度の御説明がありましたけれども,フランス法全体としては甲案的な制度で動いているのではないでしょうか。2006年改正前の法律がちょうど甲案のような形です。その上で,預金などについてだけ,今日御紹介があったような特別法を作って対応しているということではないでしょうか。しかも,その特別法も,民事法の特別法かどうか必ずしも明らかではないところもあるように思います。特別法での対応も今回,ここで審議できる中に入るということであれば,またちょっと別の選択肢もあるのかなと思いましたので,確認させていただきたいと思いました。
○堂薗幹事 こちらでは民法の改正ということしか考えていませんでしたが,この法制審との関係でいいますと,法形式に何か限定があるわけではありませんので,相続法制に関する見直しであって,特別法を作る必要があるのであれば,それはそういった処理も可能だとは思います。ただ,現段階でそこまでは考えてはおりませんでした。
○西幹事 ありがとうございました。
○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,遺産分割に関する二つの論点については,更に事務当局で御検討いただきたいと思います。第3まで進んだところで休憩しようと思っていましたが,かなり御意見を頂きましたので,ここでちょっと休憩させていただきまして,遺言に関する問題を後半で扱いたいと思います。休憩しまして,45分に再開したいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,遺言の問題に入らせていただきたいと存じます。
  まず最初に,「第3 自筆証書遺言の方式の見直し」という点につきまして,事務当局より御説明を頂きます。
○大塚関係官 「自筆証書遺言の方式の見直し」,第3でございまして,資料の7ページ以下ということになります。1から順次説明してまいります。中心としましては,部会資料5からの変更点を主に説明申し上げたいと思います。
  1の自署を要求する範囲についてでございますが,①の遺贈等の対象となる財産の特定に関する事項については,例外的に自署でなくてもよいものとすると,これは前回と同様でございます。新たに加えましたのが②でございまして,「財産の特定に関する事項を自署以外の方法により記載したときは,遺言者はその事項が記載された全てのページにその氏名を自署し,」の後に括弧書きでこれに押印をしなければならない旨を加えたということでございます。
  それから,2の加除訂正の方式につきましては,変更箇所に「署名及び押印」が必要とされている点を改め,「署名又は押印」のいずれかがあれば足りるものとすると,このような提案をさせていただいているところでございます。
  変更点について,まず,自署の要件の緩和から御説明いたします。
  これにつきましては,第5回の部会におきまして,基本的な方向性に賛成していただける意見も複数ありました一方,遺言の厳格な方式は,死後に自ら証言できない遺言者が自己の真意を遺産相続に反映させるための担保として設けられたものであるから,遺言者は一定の煩雑さは甘受すべきであると,このような指摘もされました。確かに自筆証書遺言が安易に作成されたり,それによって,かえって相続をめぐる紛争が増加するといったことは避けるべきです。ただ,近年の高齢化社会の進展などに鑑みますと,手の障害などによりまして,作りたくてもなかなか作れない,あるいは事実上作れないという方も増えてくるのではないかと予想されるところでございますので,そういった社会情勢の中では,全文の自署に代わる柔軟な遺言作成方法の必要性は更に高まっていくところもあるのではないかと考えられるところでございます。
  そこで,本部会資料におきましては,部会資料5の考え方を基本的には踏襲しつつ,前の部会におきまして,自署以外の記載があるページに遺言者の署名を要求してはどうかと。これは増田委員からの御指摘だったかと思いますが,このような御指摘などを踏まえまして,遺言書のうち自署でない部分があるページには,その全てに遺言者の署名,あるいは署名及び押印,この辺りは御意見を賜れればと思いますが,これを要求することによって,方式緩和による紛争の防止に配慮したところでございます。
  また,加除訂正の方式につきましては,部会資料5におきましては,変更箇所に署名及び押印が必要とされる点を改め,押印のみで足りると。要は署名を落とすということとしておりましたが,第5回部会におきましては,必ず押印を要求する必要はなく,署名又は押印のいずれかがあれば足りるのではないかと。これは沖野委員の御指摘だったかと思いますが,このような指摘がされたことなどを踏まえまして,署名又は押印のいずれかがあれば足りるものと案を変更いたしております。このような考え方によりますと,遺言者において署名又は押印のうち便宜な方法を選択することができ,実務上の混乱も生じにくいと考えられます。
  なお,部会資料5におきましては,これらの提案のほかに,自筆証書遺言の方式のうち押印を不要とすることも提案いたしておりましたが,この点につきましては,押印は遺言書の下書きと完成品を区別する上で重要な機能があると。したがって,これを不要とすることは必ずしも相当でないのではないかといった御指摘がされたことも踏まえまして,本部会資料におきましては,押印を一律に不要とする考え方は採らないこととしております。
  最後に,3の(注)の部分につきまして,加除訂正の方式についての歴史的な経緯を若干補足させていただければと思います。該当箇所は資料8ページの下から5行目以下の(注)でございますが,現行民法の加除訂正方式は,明治31年制定の旧民法に定められた方式をそのまま引き継いだものですが,この方式につきましては,旧民法の草案段階から,厳格に過ぎるといった強い反対意見が出されておりました。また,戦前の相続法の改正作業におきましても,こちらに記載しております㋐や㋑のような緩和方策が検討されていたという経緯がございます。しかしながら,その後の戦争の激化によって改正作業が頓挫して,改正が見送られてしまったという経緯もございますので,本方策の緩和の方向性というのは,このような経緯にも沿うところはあるのではないかと考えておるところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今御説明がありましたように,前回部会資料5につきまして頂きました御意見を踏まえて,緩和の範囲について調整をした上で再提案を頂いているというものでございます。御意見がございましたら承りたいと存じます。
○増田委員 まず,質問なのですが,③の加除訂正のとき,「署名又は押印」とありますが,この押印というのは,遺言書になされた印鑑に限るのかどうなのかという点をお伺いしたいと思います。
○大塚関係官 そこは基本的に,限ったものとまでは認識はしていませんが,場合によっては一つの押印でなければいけないということもあり得ようかとは思います。
○増田委員 それであれば,押印のみというのは非常にリスクが大きいと考えますので,意見として申し上げておきたいと思います。遺言について利害関係のある人には,同じ氏を持つ人がかなり多いと思われますので,斜線で消して自分の判子を押しておいても,その場合に,本人の意思が入っているかどうか判別することは非常に困難であると思いますので,異なる印鑑による押印を認める前提であれば,押印のみというのはかなり危険ではないかなと思います。
○大村部会長 御意見として承りたいと思います。
○水野(紀)委員 なぜこのように自筆証書遺言を簡便にしなくてはいけないのか,今一つよくのみ込めていないところがございます。自署が困難な者につきましては,公正証書遺言という手段もあるように思います。たしかに費用はかかりますが,自筆証書遺言はとても危うい手段ですし,遺言がある場合には必ず公証人が遺産分割をしなければならないフランス法等と異なり,日本ではなおさら危険性は高いだろうと思います。
  少し,背景の話になってしまいますけれども,先ほど明治31年の民法のこと,8ページのこともおっしゃいました。相続法のこの辺りにつきましては,起草者が余りよく分かっていなかった点が少なくないように思われます。例えば遺言執行のあたりはドイツ法を参照していますが,ドイツの遺産裁判所の働きや,公証人が遺産分割を行うフランス等は,相続の過程に,手を掛けて面倒を見るという社会的制度が背景になっておりますのに,起草者にはその前提の自覚がなかったように思います。そういう制度的背景がない日本で,遺言様式の1点だけもらってきて,そこを更に簡便にすることに危惧がございます。
  日本の社会は日本の社会なりに,ドイツやフランスのような制度的背景は持っていないのですけれども,代わりに代替的にあった制度的背景があります。つまり,戸籍を基盤とした人間についての完璧な登録システムと,不動産についての完璧な登録システム,この二つがあったことです。戸籍と住民登録は制度的には連結していて一体ですから,住民登録を基礎に印鑑証明を取ることによって,その人間がその契約意思を持っていることを立証できるようにしています。そういう母法の社会にはない登録システムがあるお陰で,何とか今まで取引社会を動かしてきたわけですが,その結果,ある種の土地本位制みたいなものが出来上がっています。相続財産の規律が曖昧でも,何となく土地本位制のお陰で何とかなってきました。でも,これらの登録システムは,後でまた遺言の登録システムのところでもお伺いした方がいいと思うのですけれども,基本的に届け出てくるのを受け取るという形で記載をするシステムで,公証人の遺産分割のような中立のプロフェッショナルが関与して中身を確認しながら行うものとはかなり違っています。
  例えば戸籍についてもそうで,当事者から出てきた届出を受け取るという家族の私的自治に任されています。遺言よりももっと重大な身分行為でもそうです。養子縁組でも,これはもうあまりに無防備で,御遺族が知らないうちに独り暮らしの被相続人が養子を取っていて,その養子が相続人として名乗りを上げてくる事態があります。後見に付しても身分行為は1人でできるとされていますが,それは母法では,身分行為は重い要式行為だからです。例えば市役所で挙式をするときに,それについて後見人にいろいろ言わせないとか,あるいは養子縁組も全部裁判所でやるとか,そういう前提があるのです。それがない日本で,身分行為意思は行為能力がなくてもできるという民法は,どう考えればいいのか。届出だけで何のチェックもなく,実態の保障がないときに,ともかく受け付けるという制度的前提は,構造的な困難をかかえているように思います。
  そういう大きな制度的相違があるときに,31年の議論でそうだったからというのは,どうでしょうか。31年の議論では,日本人はもともと遺言を残さない民族でしたし,起草者たちは,遺言がどういうものかと言うことも,あまり分かっていなかったろうと思います。印鑑そのものは江戸期以降の社会でずっと力をもっておりましたので,こういう議論もあったかと思うのですが,今の民法のシステムの中では,その全体像を視野に入れて相当に慎重に考えないといけないでしょう。怪しげな養子縁組がいっぱいやられてしまう事態の,遺言版みたいなことにならないでしょうか。もちろんそれは,現在の自筆証書遺言自体が抱えている問題でもあるのですけれども,そういう危険性を内在的に抱えているところで,更に簡易にいくよりは,公正証書遺言の方へ誘導する方がいいのではないかという気がしてなりません。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに御意見いかがでしょうか。
○大塚関係官 先ほどの御指摘につきまして,若干申し上げたいところがございます。
  大変示唆に富む御指摘だったと思います。確かに公正証書遺言をより活用すべきではないかというのは,全くごもっともかと思いますし,実際にもその活用は,かなりの急ピッチで進んでいるところかとは思います。ただ,自筆証書遺言という制度が実際に定められている中で,しかも近時の状況で,それを事実上使うことができない人が増えてきている,あるいは,それがかなりの部分を占めているということがもしあるのであれば,それはその障害というものを除くということも方向性としてはあり得るのではないかと,こういった問題意識に基づくものでございますので,それは,どちらかというよりは,両立し得る考え方ではないかとは思います。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○窪田委員 自分自身の立場も全然まだ固まっていないのですが,特に高齢の方々で,自筆証書遺言を作るのが大変だということだったのですが,この新しい仕組みによって救済される,救済という言葉が適当かどうか分からないですが,新たに自筆証書遺言が,今までは書けなかったのに書けるようになる人たちというのは,どういうカテゴリーの人を考えているのでしょうか。
  つまり,本当に認知症で,いろいろなことが判断できないということであれば,むしろここの部分だけ簡単に印刷したものをぽんと渡して,おじいちゃん,ここに名前書けばいいんだからねということでやるのは,多分適当ではないのだろうと思うのですね。そうだとすると,むしろ,はっきりとした判断はできるのだけれども,しかし,不動産の表示とかまで細かいことまで書くのは,わしは嫌だという層なのかなとも思ったのですが,ちょっとその辺りが,具体的にまだイメージがうまくつかまえられなかったものですから,教えていただければと思いました。
○大塚関係官 具体的にどのように利用されるかについて,明示的に予測を示すというのは難しい面もあるとは思いますが,確かに判断能力のない方がふわっと遺言書を作ってしまって,何となく紙として残ると。あるいは,何かチェックリストのような,確か前回のときにも御指摘を頂いたかと思いますが,非常に簡単に安易に遺言を作れてしまってということをこちらが志向しているわけでは全くございません。
  若干話はそれますが,相続税の基礎控除が下がった,あるいは相続をめぐる終活と申しましょうか,そういったところについて関心を持ち,なおかつ判断能力もあり,そして自分の身支度というんでしょうか,そういったものをきちんとしておこうという中で,公正証書遺言に行かれる人は,もちろんそれはそれでよしと。ただ,それ以外の選択肢というものを用意するということも,それは一つあり得るのではないかと。その中に,弁護士等に相談しながら,あるいは自分で作るといった層が,ある程度考え得るのではないかとイメージをしております。
○上西委員 まず,公証役場に行かなくても済むというメリットは非常に大きいと考えます。公証役場に行くことについては,心理的な抵抗がまだ残っていると思うからです。また,土地の筆数が多い場合については,自筆証書遺言を作成することを,その段階で諦めてしまうことも出てきます。この二つの提案のうちの,財産の特定に関する事項についてワープロ打ち等を可能にすることは,この方向で賛成いたします。
  次に,署名及び押印か,署名又は押印かについてです。財産の特定の部分について簡便な方法が採られた以上は,この加除訂正の方式については厳格さを残していても,それほどのデメリットなく,むしろ問題が発生しにくくなると考えます。
○大村部会長 御意見ありがとうございました。
  賛否両論出ておりますけれども,他の委員の方々の御感触をお聞かせいただければと思いますが,いかがでございましょうか。
○西幹事 加除訂正の方法について,又は押印でいいということになりますと,変造の可能性が非常に高まるのではないかと感じました。全体として,先ほど水野委員もおっしゃっていましたけれども,むしろ公正証書遺言をもう少し使われるようにする方向は考えられないのでしょうか。
  周りを見ておりますと,公正証書遺言を避けて自筆証書遺言という人は,大体費用のことをおっしゃいますし,そのほか,公証役場に行かなければいけない手間,負担感など様々なデメリットがあるということはよく聞きます。例えば,その公正証書遺言作成の費用の援助制度,出張の公正証書遺言作成のための費用の援助など,何らかの形でそのような方面からの支援というのも,もちろん民法の問題ではありませんけれども,考えていただけると,もう少し,自筆証書遺言に掛かっている,あるいは期待されている役割の重さが軽減されるのかなという気がしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 多くのサンプルを持っているわけではありませんが,相続税の申告が必要であり,かつ税理士関与であるというグループを考えた場合は,費用のことは余りおっしゃらないと思います。財産をそれなりにお持ちですので。ただ,公証役場に行くことをおっくうに感じられる方は,高齢の方には相当おられると思います。私の関与している方については,費用面で行きたくないという方はおりません。行くのが面倒なので,公証人が来てくれるのであれば,作成しようという方はいます。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○八木委員 要するに,利便性は非常に高まるということですから自筆遺言しようかという人は増えるとは思うのですけれども,その問題と,やはり変造の危険性も同時に高まるわけですから,そのバランスをどう図るか,変造の危険性をいかになくすかというところに尽きるんだと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  署名及び押印を署名又は押印に変えるというのについては,反対意見が多いように思いますけれども。
○堂薗幹事 基本的に,1で様式を緩和するのであれば,加除訂正の方式についてはむしろ厳格にした方がいいのではないかというのは,非常に示唆に富む御指摘だと思いますので検討したいと思いますが,自筆証書遺言の方式緩和のところで,一つ思いますのが,当然,全て自筆を要求している趣旨というのは,偽造等の不正な作成を防止するという点が大きいんだろうと思いますけれども,具体的な財産を特定せずに,例えば全財産を誰々に相続させるというような遺言がされた場合でも,それが有効だということであれば,こういった個々の財産の特定に関する事項を自署させることによって,どれだけそういった不正な遺言の作成を防止できるのかという点は,やや疑問があるのではないかというところもございまして,自筆証書遺言の方式の緩和についてその必要性があるという点はいろいろなところから聞きますし,厳格な方式を要求している趣旨との関係からいっても,現行の方式というのは厳格に過ぎるのではないかという問題意識もありまして,御提案をさせていただいているというところでございます。
○窪田委員 まだ立場は全然決まってはいないのですが,私自身は,やはり本当に,先ほど水野委員から御指摘があった部分なのですが,そこまでして自筆証書遺言を活用できるようにするということが,本来今望まれている方向なのかなという点は,やはり気になります。
  それと,もう一つは,全ての財産を誰々に譲るという遺言は大変に分かりやすい遺言です。だから,書いている本人も意味は分かるだろうと。それに対して,添付書類が多くなれば多くなるほど複雑なものになって,本文と添付書類との間というのは,一定の知的判断ができないとうまくリンクできないというようなことが出てくるということを考えると,むしろやはり,そうしたものに固有の危険性はあるのではないかという感じはいたします。
  特に,来てくれるのだったらいいけれども,行くのは嫌だという人たちのニーズにこたえる必要があるのかなというのと,ちょっと言葉を返すようですが,やはり,特に非常に不動産について筆数が多いような場合,それだけたくさん不動産を持たれているんだったら,やはり公正証書遺言で扱った方がよろしいのではないか,それが本来のあるべき姿なのではないかという感じは一応いたします。ただ,先ほどニーズはあるということだったので,そういうことはあるのかもしれないのですが。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに,この点について御発言のある方はいらっしゃいますか。
○藤野委員 一般の者の感覚ですけれども,私も,プロがいるものはプロに任せるということは非常に大事なことではないかと思うので,水野委員がおっしゃったような公正証書遺言を推進していく方法を考えることは,一つすごく大事だと思います。遺言があることで紛争が防げるというのも思っていますので,遺言はもっともっと広まっていった方がいいのではないかという立場において,そう思います。
  ただ,自筆証書遺言もあってしかるべきと思いまして,そのときに書き方が,例えばフォームがしっかり与えられるとか,ワープロで打たなくても簡便に内容はきちんと書けるような,多分,御本も一杯出ているんでしょうけれども,そういう方法も残しつつ,これは無効ではないという書き方が,もう少し普通のものができるようになりつつ,やはりプロにお任せするということを進めていっていただきたいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 基本的に,公正証書遺言の利用も促進し,なおかつ,自筆証書遺言も促進できればいいなという考え方の下にやっておりますが,御指摘があったように,公正証書遺言の方で利用促進策を設けようとしますと,それは民法以外のところで何か策を講じないと難しいという面もありますので,この法制審の中では,そこはなかなか取り上げにくいところがございます。方向性としては,一体として,遺言の利用をもう少し進めるようにできないかと。そのうちの一つとして,自筆証書遺言についても,方式を緩和することによって利用を促進できないかという趣旨でございますので,引き続き御指摘を踏まえて検討していきたいと思います。
○沖野委員 念のための確認ですけれども,②で,特定に関する事項を自署以外の方法により記載したときというときの財産の特定に関する事項が,非常な細目だけであるのか,そうはいっても自筆で書かなければいけない部分はあるということなのか,およそ不動産とかいうことも含めてワープロ打ちでいいのかというのは,大分印象が違うと思います。
  それで,前回示していただいたのは非常に詳細なもので,ここまで全部書かないと駄目なのかという印象を与え,しかし,それに対しては,これはフルに書けばこうなるということであって,実際にはここまで書かなくてもいいんだというか,許容されているんだという御指摘もあったと思います。そうすると,それによっても随分印象が違うと思います。ですから,きれいに切り分けはできないと思いますけれども,ちょっとそこの,どこまでを自署し,どういうものをワープロなりでいいというイメージとして,②が提案されているのかというのは,もう少し明らかにする必要があるのではないでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,基本的にこちらで考えているのは,その記載だけから当該財産が正に特定できる,その記載によって,どの不動産なのか,どの預貯金なのかというのがきちんと特定できるようなものについて,ワープロでも可ということですので,例えば,どこどこの不動産とだけ書いてあって,その記載のみでその不動産がどのものを指しているのか必ずしも判明しないとか,そういったものまで手書きでなくていいという趣旨ではありません。正に7頁の(注1)で書いてあるような,その記載が明らかになればどの財産かが明確になるという場合のみを手書きでなくていいということにするという趣旨でございますので,そこは,条文でどう書くかという問題はあるんですけれども,こちらで考えているのは,基本的にはそういったものでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。手書きでない部分に何を書くかということと,そこに何か書いたとして,手書きで書くべき部分はないかという御指摘もあったかと思いますので,その辺りも含めまして,遺言の利用を促進するために,どんなことが民法の改正として考えられるか,更に御検討いただくということにしたいと思います。
  第3につきましては,そのようなところでよろしゅうございましょうか。
  それでは,次の第4に進ませていただきます。
  資料9ページ以下でございますが,「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という項目でございます。事務当局の方から御説明を頂きます。
○渡辺関係官 それでは御説明いたします。
  9ページを御覧ください。
  今回は,1の積極財産に関する規律と2の相続債務に関する規律に分けて記載しております。①から③までは,若干表現を改めたところはございますが,内容的には部会資料5と変更はございません。変更点がございますのは④から⑦ということでございます。
  部会資料5では,債権者の承認によって指定相続分等に応じた債務の承継を認めることや,債務者の債権者に対する催告権を認めることも考えられる旨の記載をしておりましたが,第5回部会では,そのような考え方を採用する場合には,債権者及び債務者となる相続人がそれぞれ複数いる場合も想定して制度設計すべきである旨の御指摘がございました。
  これを受けまして,今回の資料では,債権者が承諾したときは,各相続人は相続分の指定又は包括遺贈によって定められた割合に応じて相続債務を承継することとし,さらに,相続人は債権者に対して承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ,債権者がその期間内に確答しないときは承諾しなかったものとみなすこととした上で,債務者となる相続人が複数いる場合を想定して規律を整備するということとしております。
  この点につきましては,10ページの補足説明の2を御覧ください。
  まず,(1)「債権者の承諾の効果」でございますけれども,債権者が承諾をした場合には,法律関係の複雑化を防ぐという観点から,その効力は全ての相続人に生ずることとしております。もっとも,承継割合の変動を全ての相続人に確知させる観点から,承諾の相手方につきましては全ての相続人とすることも考えられるところではございますが,そのようにした場合には,一部の相続人に対して承諾の意思表示が到達しなかった場合の取扱い等についても規律を設ける必要があるということになってしまいます。若干細かい問題ではございますが,この点についての考え方を(注)のところで記載しておりますので,御参考にしていただければと思います。
  続きまして,(2)「債権者に対する催告の制度」でございます。相続分の指定又は包括遺贈により,積極財産につき,法定相続分とは異なる割合で遺産を分配することを定めた場合には,相続債務につきましても,これと同様の割合で承継させることに一定の必要性及び合理性があると言えますし,各相続人の内部負担割合は相続分の指定等による承継割合によるものとしていることを踏まえますと,相続人間の求償問題の発生を防ぐというためにも,できるだけ催告権の行使は広く認めるのが相当であると考えられます。それゆえ,催告権は相続人の1人が行使することができるということといたしております。
  続きまして,「3 その他」を御覧ください。
  ここでは,いろいろな問題があって,なかなか難しいのではないかと思われる論点を二つほど取り上げてございます。まず,(1)「相続分の指定,遺産分割方法の指定及び遺贈の整理」でございます。部会資料5では,相続分の指定・遺産分割方法の指定及び遺贈について,それぞれの適用場面等を整理することが考えられるのではないかといった問題提起をし,考えられる方向性といたしまして,相続分の指定や遺産分割方法の指定を遺贈に統合するということ,それから,相続分の指定や遺産分割方法の指定は相続人が相手方である場合,遺贈は相続人以外の第三者が相手方である場合に,それぞれ適用されるものと整理するという方向性を掲げておりました。
  第5回の部会におきましては,このような整理を行うのであれば,後者の方向性がよいのではないかとの御意見がございましたが,いずれの方向性もそれぞれ問題点がございますので,整理の要否も含めて,改めて御意見を賜れればと考えております。
  まず,最初に申し上げた前者の方向性についてでございますが,現在の登記実務におきましては,遺産分割方法の指定がされた場合には,相続人が単独で移転登記の申請をすることができるとされておりますが,遺贈の場合には,受遺者と相続人全員又は遺言執行者とが共同で移転登記の申請をしなければならないとされておりますので,相続分の指定や遺産分割方法の指定を遺贈に統合した場合には,相続人が単独で移転登記の申請をするということができなくなってしまいます。相続人に対する遺贈についてのみ単独申請を認めるというように改めるということも考えられなくはないというところでございますが,遺贈という意思表示によって権利変動が生ずる場合であるにもかかわらず,相続による権利変動に準じて,相続人である受遺者が単独で移転登記の申請をすることができるとする根拠を合理的に説明することは困難であるように思われるところでございます。
  続きまして,後者の方向性についてでございますが,この場合には,相続分の指定及び遺産分割の方法の指定についても,遺贈に関する規定と同様の規律を置くか否かが問題になるかと思われます。例えば,遺贈の放棄に関する規定につきまして,相続分の指定や遺産分割方法の指定についても同様の規律を置くということも考えられるところでございますが,そういたしますと,これまで相続分の指定や遺産分割方法の指定として行われていたものについても個別に放棄することを認めるということになりまして,その分,遺産分割手続が複雑になるおそれがございます。反対に,相続分の指定や遺産分割方法の指定については個別に放棄することができないとすることも考えられますが,そういたしますと,個別に放棄することができることを前提にした相続人に対する遺贈が個別に放棄することができなくなってしまうということになりますので,このように遺贈に関する規定と同様の規定を置く場合であっても,そうでない場合であっても,現行法とは異なる規律になる部分がございますが,そこまでして整理する必要があるのかというところも疑問があるようにも思われますので,皆様の御意見を賜れればと考えておるところでございます。
  続きまして,11ページの(2)「後継ぎ遺贈について」でございます。
  部会資料5では,甲案として使用収益権と所有権の分割遺贈型の規律を掲げ,乙案として不確定期限付遺贈型の規律をそれぞれ掲げておりました。しかしながら,第5回の部会では,いずれについても多くの問題点の御指摘を頂きまして,消極的な意見も多かったところであろうかと考えております。
  甲案につきましては,長期居住権についても多くの問題点が指摘されている中,対象財産を更に広げ,使用収益権とその余の所有権の分属を認めることにつながる見直しをすることにつきましては,その必要性及び合理性のいずれにも疑問があるといった御指摘がございました。
  また,乙案に対しましては,所有権の絶対性に抵触するおそれがあるとの御指摘や,第一受遺者が用益権や担保権を設定した場合等に,第三者に不測の不利益を生じさせるおそれがあるといった御指摘等もございました。
  さらに,両案に共通するものといたしましては,そもそも被相続人が第一受遺者の処分権を拘束することができるとすること自体に疑問がある,相続開始前に第一受遺者が死亡した場合など,想定される数多くの場面について明確なルールを定めることは困難であり,かえって複雑な紛争を生じさせるおそれがあるといった御指摘もございました。
  これらの御指摘を踏まえまして,今回は後継ぎ遺贈について,具体的な方策を掲げるということはいたしていないということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」ということで,1と2につきましては,具体的な提案を更に精密にするという方向で御提案を頂いているところでございます。それに対して,3ではその他ということで,二つの問題が取り上げられておりますけれども,これらについては,規律を置くことについて疑問があるのではないかというまとめになっているかと思います。
  まず,1,2について,規律を置こうという方につきまして御意見を伺いまして,その後で,その他について御意見を伺えればと思います。御意見あるいは御質問も含めまして,何かございましたら,お願いいたします。
○浅田委員 中心的なことではないのかもしれませんけれども,催告権に関して,主に銀行,債権者の観点からお話ししたいと思います。この件に関しては,先般の会において一応の考えを述べたところでありますが,その点について,確か森委員から問題点の御指摘があって,その一部が今回の整理というものにつながっていると理解しております。
  銀行界内の議論状況としては,10ページの2の(1)のいろいろな分類,別案とかいろいろ出ておりますけれども,そこまで議論が及んでおりませんので,この段階,現時点でどの案がいいとか,そういうことの確答を申し上げるのには至っておりません。
  基本的な考え方を繰り返し申し上げますと,一定の催告権はある程度仕方がないと思いつつも,現実的な制度設計のときに,いろいろな状況,複数の当事者の存在も含めて,いるといったときに,その不到達のリスクというのをどう考えるのかということが今回の検討の中心課題だと思います。その点を私が考えますに,そのリスクを債権者側に寄せるのか,相続人側に寄せるのかというところの,言わば綱引きの問題だと思っています。
  銀行だけの独自の観点から述べますと,銀行のオプションとか判断をしたからには,あとは相続人間での通知で対応して頂きたいということです。その際,効果もそれに沿うものができるということになれば,そういう債権者の判断というのが,与信判断ができるということを前提とするのであれば,いいようにも見えるわけです。もちろん,繰り返しになりますけれども,これは相続人側,債務者サイドのバランスの問題だと思いますので,引き続き検討すべき問題だと思っております。
  ただ,そのときの考え方のもう一つの柱,いわゆるデフォルト規定といいましょうか,最終的に確答がなかった場合に一体どうなってしまうかということについては,前回も申し上げましたとおり,この提案にありますように,承諾しなかったものとみなすということであれば,言わば原状復帰ということであるので,それほど債権者にとって過度な不利益になっているものではないということだと思っています。また,こういうみなし規定が発動されたとしても,後に当事者間で合意ないしは引受け契約をする等の処理をするのであれば,事務的な対応ということも可能であると思っています。
  そういう現状の認識を,私見を踏まえ述べた上で,質問が1点ございます。相当の期間を定めてということがありますけれども,債権者からすれば,今まで取引がなかった相続人の方に対して信用供与できるのかどうかということの審査が必要となる場合が多いと思います。そうすると,相当の期間が債権者側に必要だと思います。この相当の期間というのが,どちらサイドの事情に鑑みて相当の期間と解釈されるかどうかという論点は別として,一義的には相続人が相当の期間を定めて催告をするということですから,相続人サイドがイニシアチブをとるということになりますが,基本的には相続人において債権者の審査能力であるとか状況ということをそんたくして行うということは難しいと思います。
  そうしますと,過度に期間が短い催告を出された場合には,結局,債権者側で審査の時間切れになってしまって,そうすると,ドボンといいましょうか,遺言に基づく債務の承認を認めないという結果になることもあると思いますがこれは,両当事者にとっても不幸なことになるかと思います。そこで,制度設計に当たっては,最短期間というのを法定化するというような考え方があるのかとも思うわけです。その可能性についていかがかということを御質問したいと思います。
  ちなみに,銀行界の内部の議論では,まだそれほど成熟した議論ではありませんけれども,1か月では短いなというような意見があったことを御紹介いたします。
○堂薗幹事 この⑥の相当の期間については,ここでお示ししているものは特に法律上,最低期間を定めるとか,そういうことは考えていませんが,もちろんそういったことも考えられるんだろうとは思います。
  ただ,債権者の立場から見ますと,基本的には,相当の期間内に承諾できない,十分な審査ができなくて承諾するという判断までは至らないという場合も,原則どおりの取扱いになるのに対しまして,特定の債務者側からしますと,法定相続分で債務を負担するのか,指定相続分で債務を負担するのか,通常,催告する相続人というのは,指定相続分の方が有利な者なのではないかと思うんですが,そこで相当の期間,債権者の方で判断をして,その間,遅延損害金が生じないというのであれば問題ないのかもしれませんが,なかなかそうはいかないんだとしますと,やはり相当の期間を長期に定めることの不利益というのは,どちらかというと債務者側に生じてしまうのではないかと。
  逆に言いますと,債務者側は,本当に指定相続分での承継をお願いしたいという場合は,それは通常は,債権者側で十分な判断ができるような期間を設定して催告するという場合が多いのではないかと思いますので,そういったことをいろいろ考えますと,相当の期間について最低限の期間を法定するとかいうことについては,難しい問題もあるのではないかなという印象でございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○浅田委員 ありがとうございました。
○沖野委員 今のやり取りを伺っていて,相続の熟慮期間との関係が気になりました。一つは今のような最低限の,1か月は短いということで,2か月以上のということになったときに,熟慮期間との関係がどうなるのか。さらには,催告をするということが単純承認と扱われるということはないという理解でよろしいのかというのが,伺っていて気になりました。
○堂薗幹事 今,沖野委員から御指摘を頂いた点につきましては,こちらで十分検討できておりませんので,内部で更に検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 何かございますか。
○中田委員 2の④で,承諾によって相続債務を承継するという意味なんですけれども,それは法定相続分よりも少なくなる人についていうと,その人の債務を免除するというか,あるいはその人の債務を免責的に引き受けると,こういう構成になるんでしょうか。そういう理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 その人の債務が減る分は,ほかの相続人が負担するということにはなりますので,そういう意味では,免責的債務引受けをしたのと同じような状態にはなろうかと思いますけれども。
○中田委員 仮にそうだとしますと,改正民法の法案の中では,免責的債務引受けについて,誰が誰に通知するかというルールがありますから,それとの整合性も考える必要があるのではないかと思います。
○堂薗幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 先ほどの窪田委員の御指摘とも絡んでいる点かと思いますけれども,債権譲渡ですとか債務引受けというようなこととそろえて考える必要があるのかどうかということも含めて,御検討いただければと思います。
  ほかにいかがでしょうか。
○垣内幹事 先ほど浅田委員と堂園幹事のやり取りを伺っていて,少し感じたことなんですけれども,催告の相当期間に関して,御提案ですと,その催告は各相続人が全ての相続人のためにすることができるということになっているわけですが,催告した結果,承諾されるかどうかによって,一方で利益を受ける相続人と不利益を被る相続人とがいて,いずれの相続人が催告をするかによって,どの期間を定めて催告をするのかということについては利害が相反しているところがあって,そうすると,この相当の期間の解釈というのは,なかなか難しい問題をはらんでくるような感じもします。あるいは,催告権者を限定するということはよくないのかもしれませんけれども,その辺りについても少し考慮に入れた上で,今後検討いただく必要があるのかなという感想を少し抱いた次第です。
○堂薗幹事 御指摘は非常にごもっともかと思いますので,そういった不利益を受ける相続人が短い期間を定めて催告するということは,確かに十分にあり得るような気がいたしますので,それは催告の制度の根本に関わるような問題で,基本的には,債権者と協議をしながらやっていくということでしょうから,こういった催告の制度まで本当に認める必要があるのかというところは元々あるんですけれども,今のような問題点もあるということになりますと,更に慎重に検討していく必要があろうかと思います。
○渡辺関係官 今の点,ちょっと補足させていただきますと,元々ここは判例法理を明確化したいなという思いでやっておるところでございまして,判例の方は承認という表現だったかと思いますけれども,承諾に相当するところはあるんですが,催告の部分はそういう判例法理からすると,ややはみ出た部分ではございますので,必ずしもそれをここでやらなければいけないという問題では当然ございませんので,うまく仕組めるかどうかも含めて,今後の課題とさせていただければと思います。
○大村部会長 ほかに,いかがでございましょうか。
○潮見委員 今までの議論とは違って,非常に単純な簡単なことなのですが,2点ほど確認です。
  積極財産に関する規律のところですけれども,ここのところで二つあって,一つは,先ほどの休憩前の話にも関わりますが,金銭債権,可分債権の場合に相続分指定されたときに,ここで書いているのは第三者対抗要件ですよね。債務者との関係では,これは対抗問題ではない,つまり,法定相続から指定相続分への変更というものは,そういうものとしては捉えないんだという,そのような理解でよろしいんですか。
○堂薗幹事 ここの第三者には債務者も含める……
○潮見委員 468条1項の意味での債務者だという御趣旨ですか。
○堂薗幹事 はい。
○潮見委員 もう一つは,これは本当の確認だけですけれども,1の①のところに書かれているところですが,相続分指定がされて,法定相続分に相当する割合を超える部分については,これは対抗構成ですよね。現在の判例法理は一つ,平成何年かにあったと思いますけれども,法定相続分よりも小さい相続分指定というものがされた場合には,これは無権利で構成して,対抗構成をとっていませんよね。ということは,今回の御提案というものは,超える場合と,それから,減るといいますか,小さい指定をした場合とでは,法律構成は分けて考えるという御趣旨ですか。つまり,上積みの部分,足した部分については対抗だと,減った部分については,これは対抗問題とは捉えないということでしょうか。
○堂薗幹事 基本的にはここは,相続分の指定のような権利承継原因が包括承継の場合であっても,要するに遺言による意思表示によって本来の法定相続分よりも超える場合には,対抗要件が必要だという整理ですので,逆に言いますと,法定相続分より下回る,要するに法定相続分までは何ら対抗要件なくして主張できると。それは第三者に対しても,そこは主張できるという前提ですので,そういった意味では,超える部分だけについては対抗要件がないと,第三者には対抗できなくなるという整理でございます。
○潮見委員 要するに積極財産の場合には,法定相続分についての価値というものは当該者に対して保証してあるんだと。法定相続原則論と言ったら言いすぎかもしれませんが,そのような立場を基本に据えているんだと。だから,減った部分は,そこは無権利でいいんだと,こういう御理解ですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  まだ御意見はおありかもしれませんけれども,項目の中に,その他というのもございます。前の方に戻って御発言をいただく機会を封ずるわけではございませんが,その他の(1),(2)につきましても御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 その他の(1)のところですけれども,私は,どちらが筋かといいますと,遺贈の方が本当は筋だろうとは思っております。遺留分の規定をみても,相続分を変更するのは遺贈によるという母法の構造を継受していますから。相続分の指定は,明治民法の起草者が思い付きでひょいと入れてしまった条文にすぎません。遺産分割方法の指定も,これは母法の規定は,その指定によって相続分割合が変わってはいけないという大前提の下で入っていた条文です。それを,日本法がそうではない形に使ってきてしまいました。なぜ相続する旨の遺言がそれだけ活用されてきたかというと,11ページに書いてある㋐の方向性についての,単独でできるというメリットが大きかったのだと思います。母法の場合には,遺産分割も遺贈の執行も公証人のところで行いますから,相続人たちに強制できてしまうわけですが,日本の場合には,その前提が違います。遺贈を実行するにしても,他の相続人に一緒に登記の申請をしてもらわねばならず,そのときに判子代が取れるということになります。拒絶する権利はなくても,強制するためには,裁判沙汰というものすごい敷居の高いことになってしまいます。相続させる旨の遺言は,その問題をクリアして,遺言の受益者の側に有利な形でとりあえず現状を作ることができますから,そういうニーズがあったということでしょう。
  余計な連想ですけれども,例えば再婚禁止期間や離婚後300日問題でも,私は母親による非嫡出子出生届を認めるべきだという説なのですが,それはやはり,そういう現状を作る権利を母親に認めないと無戸籍児が出てしまうという弊害があるからです。それと同じ発想で,現状をどちらに作らせるべきかという視点で考えることになるのだと思います。何しろ日本では裁判沙汰というのはすごく負荷が高いものですから,現状を誰に作らせるかが決定的になります。
  ですから,根拠を合理的に説明することは困難とありますけれども,そういう国なのだということで説明してしまえば,この㋐の方向性については,それほど難しいことではないような気も致します。一方,㋑の方向性については,これは遺贈についてしか,遺留分の減殺請求なども全部手当てがありませんから,全く新しいものを全部それぞれ作らなければいけないことになって,ちょっと民法的にも困難なことになるかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  この点については,いろいろ御意見あろうかと思いますけれども,ほかにいかがでございましょうか。
○潮見委員 一言だけで,すみません。
  基本的には,制度全体を変えていくということであれば,相続分の指定とか遺産分割方法の指定という枠組み自体を見直すのが私は望ましいと思っておりますし,そのような学会報告をしたこともございます。ただ今回,実際にこういう形での諮問が来て,何を今回改正の対象にするのかということも示されている中で,しかも時間も非常に限られている中で,大掛かりな修正というものは難しいのではないのか。余り早く急いで変なことになるのもいかがかと思いますから,改正を考えることに意味がないというわけではなくて,今回この時期に,この時間帯で立法を行うに適した事実か,事項かということになれば,ちょっと難しいということであれば,この判断は受け入れたいと思います。同じことは後継ぎ遺贈についても言えることです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,後継ぎ遺贈についても御発言ありましたけれども,その点も含めまして,ほかに御意見,御質問があれば頂きたいと思います。
○沖野委員 後継ぎ遺贈についてなんですけれども,問題点が多いということも改めてよく分かりました。
  ただ,長期居住権についても多くの問題点が指摘されているということですけれども,仮に長期居住権というものが制度としてきっちり仕組めた場合に,同様の権利を法定の権利者がいないときに,遺言によってもすることができるというような規律にすることは考えられるように思いました。全く新しく後継ぎ遺贈だけで仕組むというのは非常に大変ですし,所有権については前回も指摘されたような,非常に大きな理論的な問題もあるのですけれども,そういう接合というのは,他方で,なぜこの場合だけが法定の長期居住権なのかということへの回答にもなり得るかなと思うものですから,ただ,時間がないというのは非常に大きな抗弁だと思いますけれども,その狭いルートは,この段階ではもう少し残し得るのかなという感触を持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 今の御指摘について,長期居住権との関連で,もう少し対象を広げるということで残すということはあり得るとは思いますので,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。
○潮見委員 1点,ここで言うべきなのか,後で言うべきなのか,まだ迷っているところはあるんですが,ここは遺言の効力だとか遺贈ということが出ていますので,ここで少しだけ検討の依頼をさせていただきたいと思います。
  何かというと,後の遺言執行者のところにも出てきています遺贈の担保責任の辺りの規定です。例えば不特定物遺贈で売主の担保責任に関する規定を使うだとか,あるいはそれ以外の規定もございます。997条とか998条だったと思います。今回,債権法の改正という形で改正法案も出ておりますし,実際にその中で,担保責任という概念を使うか使わないかは別として,枠組み自体が従前とは違うものが採用されております。そうした中で,例えば売主の担保責任の規定を適用するとか使うとか,従うとか,そういうことを書いただけでは,恐らくこの先の解釈をどうしていったらいいのかということについて,若干迷いが出てくるのではないかと思うところがあります。
  加えて申し上げましたならば,相続法の多くの先生方の解説を批判するつもりは毛頭ございませんが,担保責任に関する理解というものは,今回債権法の改正のときに基礎にした,基本的には責任論,契約責任とか,あるいは特定物ドグマの規定とか,そういうものとは全く逆方向の,いわゆる古典的な法定責任説をどうもベースにして,解説等をお書きになられている方々がたくさんいらっしゃいます。そういう中で,少しでも分かりやすくというか,誤解のないような形で書き下すということがもしできるのであれば,やっていただきたいなとも思うところです。
  せっかくのことですから,時間があればという。こっちは立法事実があると思いますから,余力があればお願いいたします。
○大村部会長 御検討いただくということで引き取らせていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。その他以外の1,2に戻っていただいても結構でございます。よろしゅうございますか。
  そういたしましたら,催告権の問題は更に御検討いただくということで,また,その他の問題のうち,時間の制約がありますけれども,なお検討すべきものがあるかどうかという点につきまして,更に事務当局の方で御検討いただきたいとまとめさせていただきたいと思います。
  それでは,先に進みたいと思いますが,「第5 自筆証書遺言を保管する制度の創設」についてという項目につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○大塚関係官 資料12ページの中段やや下,「自筆証書遺言を保管する制度の創設について」でございます。
  ①,②の方策として記載しているものにつきましては,基本的に第6回の部会資料と同様でございます。もう一度確認をさせていただきますと,自筆証書遺言を作成した者は,自ら希望する場合には一定の公的機関にその保管を委ねることができるようにした上で,②として,相続人は相続開始後に所定の手続をすることにより,被相続人の自筆証書遺言が当該公的機関に保管されているかどうかを確認できるようにするというものであります。
  ここで前提として申し述べておきますと,この方策は,自筆証書遺言に紛失あるいは偽造,変造のおそれが多いといったデメリットが指摘されていることに鑑みまして,確実に公的機関で保管することにより,そのデメリットの解消を目的としたものということで出発したものでございました。
  なお,この方策は,飽くまで遺言の作成者が公的機関での保管を自ら希望されるという場合に利用するというものを想定していますので,当然ながら,そのような希望がないというときにはこれまでどおり,遺言者自身,あるいはほかの人において保管するということは可能という前提でございます。
  それから,補足説明に移りますけれども,保管を行う際の手続についてということでございます。遺言の保管手続の際には,公的機関において本人確認を行うといったことを想定しておるところでございます。この徹底によりまして,遺言者自らが保管手続を行ったということが遺言の真正な成立を基礎付ける間接事実となりまして,最初に申し述べました制度の目的といった有効性をめぐる紛争の抑止につながるものと考えられるところでございます。
  それから,(2)「遺言の方式の審査」についてでございます。
  第6回部会におきましては,自筆証書遺言を保管する場合には,当該遺言が無効とされることを防止するために,担当官において遺言の方式について審査を行うべきではないかといった指摘がされたところでございました。これを踏まえまして,事務当局としても具体的方策を検討したのではございますが,ただ,個々の遺言に方式違背があるか否かというのを正確に判断するというのは,必ずしも容易ではないということもございますし,この点を含めました遺言の有効性というのは,最終的には訴訟で確定すべき事項ということもありますので,保管申請を受けた担当官においてこの審査を網羅的に行うというのは,なかなか難しいものがあると考えられます。
  ただ,他方で,例えば遺言書に日付あるいは署名がないというのが一見して明らかであるといった場合には,担当官において事実上,その旨を指摘するという扱いは可能ではないかと考えておるところでございます。
  それから,具体的にどのように遺言を保管するのかということについて(3)で記載しております。保管方法としましては,滅失のおそれもございますので,それを配慮しまして,例えば保管の際に,戸籍などと同様に遺言書を画像データ化したものを別個に保管するといったことが考えられようかと存じます。このようなデータ化をするとした場合には,仮に封緘をされていたという場合であっても,ここは本人の御了解を頂いて開封するものとせざるを得ないと考えられます。
  (4)「遺言書正本の交付」についてでございますが,このような保管手続を行った場合には,公正証書遺言におけると同様に,公的機関において遺言の正本を作成して交付するといったことが考えられます。これは,遺言者本人が預けてしまった後は手元にないということになりますので,内容確認には必要と考えられるところでございます。
  次に,(5)「第三者による保管申出の可否」でございますが,この点は既に御議論いただいていまして,第6回部会におきましては,遺言者以外の者による成り済まし事案などを防止するためにも,申出資格というのはやはり本人に限定すべきであるといった指摘を多数頂いたところでございました。これを踏まえまして,基本的には,第三者による保管申出は認めないということが相当と考えているところでございます。
  次に,2でございますが,「相続人等が遺言保管情報を知るための方法について」でございます。
  保管された遺言の内容を実現するためには,相続人あるいは受遺者が遺言の存在そのものをまず把握しなければいけないということになります。このために,相続開始後に相続人が公的機関で遺言が保管されているか否かというのを確認することができる仕組みを設ける必要があると考えられます。具体的には更に検討してまいりたいと考えております。
  3として,「保管手続後における自筆証書遺言の撤回等について」でございます。
  前回の案におきましては,考えられるオプションの一つとして,例えば遺言の全部又は一部を保管後に撤回するには,新たに遺言を作成して保管するか,あるいは公正証書遺言を作成することを要するといった,撤回を制限するという方策も提示したところでございますが,これにつきましては御議論の中で,遺言者の最終意思の尊重という遺言制度の趣旨からは反対という意見がかなり多数出されたところでございました。これを踏まえまして,このような制限は設けないということとしております。
  それから,「4 検認手続の省略について」でございます。
  遺言書の検認の目的といいますのは,遺言書の偽造などを防止し,その保存を確実にすることにあると,一般に言われておるところでございます。そうしますと,今回の方策に基づいて,遺言を公的機関で確実に保管するということによりまして,その目的はほぼ達成することができるものと考えられます。そうしますと,例えば本方策に基づいて保管された自筆証書遺言につきましては,検認を不要とするといったことが考えられようかと存じます。もっとも,仮に検認を不要とした場合には,推定相続人等の利害関係人に遺言の内容を知る機会を与える措置としまして,例えば,保管している公的機関に対する閲覧請求権の確保などを検討する必要があると考えられます。
  5でございますが,これは,考えられるオプションとして記載したという趣旨でございますけれども,例えば,この保管制度を利用した遺言につきましては,真正であることについて事実上の推定が働くということを考えますと,一定の方式緩和というものも考えられるのではないかと。それによって,特定の方式をたまたま当該遺言が満たしていなかった場合でも,直ちに無効とはしてしまわないという救済は考え得るのではないかといったことを御提示申し上げている次第でございます。㋐が,遺言書に日付の記載がなくてもよいと。これは,公的機関における保管開始日というのははっきりしますので,それをもって作成日とみなすということはあり得るかと存じます。㋑は,押印を不要とするということでございます。これは,更に次に進むという問題でもございますので,飽くまでもオプションという位置付けかと思料いたします。
  最後に,「保管をする公的機関について」ということでございますが,保管業務を行う公的機関というのは,今回新たに構築される制度に基づく業務を担うことが可能な人的・物的体制を有するものである必要があります。また,利便性の観点から,全国に存在する機関,例えば法務局,公証役場,市区町村の役場などが望ましいとは考えられますけれども,この点につきましては,本方策の内容を更に具体化させていく中で,どの機関が保管業務に適しているかなどの観点から検討していく必要があると考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  資料12ページの第5の①,②が具体的な御提案として出ておりますけれども,それに付随する,更に付け足すものとして,幾つかのオプションについての御説明もあったかと思います。この点につきましていかがでしょうか。
○窪田委員 恐らく,単純にオプションの例として挙げられた部分だろうと思いますから,さほど深刻になる必要はないのかもしれませんが,15ページの上に5のところで,㋐日付というのが挙がっております。こういうものですから,むしろ日付というのを,保管開始日をもって扱うというのは,よく分かるような気もするのですが,これについては,日付はなくてもいいというだけであって,日付があった場合にはどうなるのかなというのは当然出てくる疑問なのだろうと思います。特に,二つ遺言が預けられた場合に,保管開始日と中に書かれている日付の順番が逆転するというような場面もあるだろうと思いますし,その点,また検討していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。では,検討していただくということにしたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 本人確認はどのようになさるおつもりでしょうか。通常の取引の場合ですと,実印を持って来てもらって確認するわけですけれども,こういう場合には,実印を取れるひとが利害関係人であることが多いので,どういう形で本人確認をなさるのでしょうか。
○大塚関係官 そこはいろいろ考えられると思いますが,少なくとも,当然ながら身分証明書は必要かと思いますし,場合によってはマイナンバーとの連携も考えられるのかもしれません。さらには,戸籍も持ってきてくださいねということも考えられようかと思いますし,その他,更に要求するということも十分考えられるとは思っています。
  いずれにしましても,本人確認はかなり厳密に行うということが,制度の趣旨自体からも必要になってくるとは考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○水野(紀)委員 はい。
○大村部会長 そのほかにいかがでございましょうか。
○浅田委員 第5の制度の設計については,私どもからも要望したところということもございますけれども,例えば御検討いただいた保管する際の遺言の方式の審査とかのチェックとか,自筆証書の遺言の撤回について,何らかの規律が入ればよいのかなとは思ってはおりました。ただ,前回の議論を聞いて,ここにも書いてありますように,いろいろな問題点が実際上あるということですので,そういう困難性があるということを認識しました。
  一方で,そういう問題はさておくとしても,こういう保管制度を設置するということについては,遺言者の選択肢を増やすということも併せ考えれば,大きな一歩だと評価できるのかなと思いました。
  その上で,債権者ないしは債務者の立場から,遺言保管情報を知ることができる者の範囲についての意見を申し上げます。御提案では,部会資料14ページの2を見ますと,相続人(受遺者)とされています。第6回会議でも申し上げたとおり,この範囲を債権者や債務者に広げていただければ,取引の安全に大いに資するものではないかと考えております。
  もちろん,プライバシーとの関係をどう整理するのかという難問がございますけれども,遺言の中身を債権者や債務者が勝手に知るということではなく,保管されている範囲で最後の遺言の日付を知るということは,取引関係者においては重要なことでありますし,プライバシー侵害の程度は高くはないと考えておりますので,この点どういう御見解なのかということと,もし御検討いただけるのであれば,前向きに御検討いただければと思います。
○大塚関係官 前回も同様の御指摘を頂きまして,それも踏まえて,内部でいろいろと検討してみました。やはり御指摘にもありましたとおり,プライバシーの問題というのは非常に大きいかと思います。
  検討段階で一つ浮上したものとしましては,遺言があるかないかだけは債権者等も検索できるといったものもあり得るのかとは思いましたが,ただ,それはそれとしても,遺言があるかどうか自体も大きなプライバシーの情報であるという見方もできますので,なかなかそこはハードルが高いところもあるという御意見もあり,現状ではなかなか難しいところもあります。実際,公正証書遺言におきましても,現状は相続人等以外の利害関係人には閲覧等を認める取扱いをしていないと伺っていますので,そこと合わせていく必要は,少なくともあるのではないかと思います。
○大村部会長 浅田委員,よろしいですか。
○浅田委員 はい。
○山田委員 日弁連の中でいろいろ御意見を伺いましたところ,比較的,消極的な意見が多くございました。やはり,これだけのシステムを構築し,担当官という表現になっていますけれども,人員を配置するということになりますと,それなりの出捐があると思うのに対しての,ニーズがどれだけあるかという点,そして漏えい問題,役所であれば安心感はあるんですけれども,そうはいっても,やはり人事が回っていく中で,どなたが担当されるのかという中での懸念,そして,データ化ということでデータ流出の問題,いろいろ心配がある中で,それでも選択肢として,ニーズが高ければ推進いただきたいところでありますけれども,どの程度なのかという部分についての実務的な感覚としては,例えば機関として公証役場ということになれば,公正証書遺言をされてもいいのではないかということになるのではないかとか,それから,市町村役場という生活に密着したところに,内容も開示して預けたいと思われる方がどの程度いらっしゃるのかというようなことを考えますと,それほどニーズは高くないのではないかというような御意見が比較的多くございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに何か。
○増田委員 質問なんですが,検認手続の省略ということで,検認手続を不要とする場合の代替措置について,14ページの下の方に書かれていますが,どういうシステムをお考えなんでしょうか。具体的に言うと,原本を見る機会を持つのは誰ということになるのかということをお伺いしたいと思います。
○大塚関係官 そこは,公正証書遺言の場合の取扱いというものが参考になろうかと思いますが,相続開始前と後とでは,当然ながら,かなり取扱いは異なると思います。
  現状,公正証書遺言におきましては,伺っているところですと,相続開始後には相続人は原本を見ることができると,あるいは正本の交付を受けることもあり得るということは伺っております。ですが,逆に相続開始前ということになりますと,相続人であってもそれはできないということになりますので,それと違う取り方をするということも考えられなくはないとは思いますが,基本的には同様な考え方によるものとイメージをしております。
○増田委員 公正証書遺言というのは,そこに記載されている内容,つまりデータ自身だけが重要なのであって,それがどのような紙に書かれているのかとか,自書されたのかどうかというところは全く問題にはならないはずです。ここでは,自筆証書遺言ですから,それが自筆であるということを確認するためには,やはり相続人全員に原本を確認する機会が必要であるだろうと考えられます。
  我々が検討したところでも,裁判所の検認手続によって,非常に精巧なコピーに署名押印しただけのものであるということが判明したという例が,比較的最近の例として報告されています。ですから,そういうものを防ぐためには,検認を不要とする以上は,裁判所における検認と同様の機会を設ける必要があるのではないかと思います。
  それから,ついでに日付の点ですが,先ほど窪田委員からもお話がありましたように,遺言書の作成の前後を示す上で,遺言書撤回の問題などもありますので,これは省略するのはちょっと難しいのではないかと。意思能力の基準を示す意味でもありますし,作成時と提出時とは別で,提出したときは意思がしっかりしておっても,作ったときはどうだったのかというのは問題になり得るので,日付はなくてもよいというのは少し危険であろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  資料14ページから15ページにかけての4とか5については,慎重論が続いたかと思いますけれども,本体の部分について山田委員から,これは費用もかかる話なので,どのぐらい需要があるかということとの見合いで考えるべきだという御指摘がございました。ごもっとも御指摘と思いますけれども,その他,第5の①,②につきまして,何か御指摘ございますでしょうか。
  そのほかには,特にはないということでよろしいでしょうか。
○窪田委員 今出たばかりのことなのでありますけれども,結果,この制度を構築するときに,結局,封印したままで保管するという仕組みを認めるのか,そうではないというので,全く違う仕組みになるのだろうなという気がしますので,そこの部分がはっきりしないことには,ちょっとそれ以上議論ができないのかなという気がいたします。
  私自身は,恐らく戸籍のデータと連携して保管するような仕組みが適当なのではないのかなと思いますし,その意味では,戸籍に関しても,実際上は市町村役場が戸籍事務代行という形でやっていますので,そうしたことが考えられるのですが,しかし,比較的小さい市町村を考えた場合に,遺言書の中身が全部分かるような形で,最終的にそこのところにデータがいくという状況を考えると,ためらうのが当たり前だろうという気もします。他方で,封印していたという場合には,今度は別の問題も出てくるかもしれないと思いますので,そこのところを決めないと先に進まないのかなという気がいたします。
○大塚関係官 その点につきましては,基本的には,封印したままで預かるということは難しいと思っています。と申しますのは,余りないかもしれませんが,封印をして提出されたけれども,実際あけてみたら中身が空っぽだったというときに誰が責任を負うべきかとか,そのような非常に大きな問題もありますので,やはり保管の開始時期に中身を確認すると。データ化の問題は次の問題かと思いますが,中身の確認は不可欠ではないかと考えております。
  それから,戸籍との連携につきましては,相続開始の把握という意味におきましても非常に大事かと思っていますし,有益な御示唆を頂いたと思います。それを今後実現していくときに,どのような機関が保管機関として適切かということも考慮要素として入ってくると思います。
○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。御指摘を頂いた点も含めて,更に御検討いただきたいと思います。本日のところ,更に御発言がなければ先に進ませていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。
  最後,残っているのが「遺言執行者の権限の明確化等」でございますが,残り時間が限られてきましたので,全部は終わらないのではないかと思います。後で事務当局から御説明がありますが,残った部分につきましては次回に更に御検討いただくということを前提にいたしまして,まず御説明を頂き,本日のところは,御意見を頂ける範囲で御意見を伺うというところまで進めたいと思います。
  ということで,「第6 遺言執行者の権限の明確化等」という点につきまして,事務当局から御説明を頂きます。
○大塚関係官 「遺言執行者の権限の明確化等」でございまして,資料の15ページ以下でございます。
  部会資料6からの変更点を中心に御説明申し上げます。部会資料6におきましては,遺贈がされた場合と相続させる旨の遺言がされた場合について,同一の規律を設けておりましたけれども,両者では法的性質が異なることなどを考慮いたしまして,この部会資料ではそれぞれ別個に規律を設けております。また,第6回部会における議論の内容などを踏まえまして,遺言執行者の復任権のほか,家庭裁判所の選任権及び解任権等について規律を設けることとしました。
  次に,「2 遺言執行者の法的地位について」でございますが,遺言執行者の制度趣旨は,遺言の適正かつ迅速な執行の実現を可能とすることにあると考えられます。このような制度趣旨に照らしますと,遺言執行者は遺言者の意思を実現することを任務とするものであって,本来は代理人としての立場を有するものではありますが,この権限が現実化する時点では,既に遺言者が死者となっていますので,被相続人の法的地位を包括的に承継した相続人の代理人とみなすこととされているにすぎないと考えられます。
  このような遺言執行者の位置付けに照らしますと,遺言執行者は必ずしも中立的な立場において任務を執行するということが期待されているわけではなく,例えば遺留分減殺請求の場合のように,遺言者の意思と相続人の意思とが対立する場面でも,遺言執行者としては遺言者の意思を実現するために任務を遂行すれば足ると考えられまして,それを阻止するという必要がある場合には,阻止しようとする者において,その措置を講ずる必要があるものと考えられるところでございます。
  次に,「3 特定遺贈がされた場合における遺言執行者の権限について」でございます。
  二つ目のパラグラフですが,本部会資料におきましては,遺贈がされた場合に遺言執行者の定めがある場合には,遺言執行者が遺贈義務者となる旨のみを定めることとしております。これによりまして,遺言執行者は,遺贈の目的が特定の物又は債権,その他の財産権である場合には,受遺者が対抗要件を備えるために必要な行為をする権限を有すること,それから,不特定物である場合には,給付をするのに必要な行為として,これを受遺者に引き渡し,かつ対抗要件を備えるために必要な行為を権限を有することが明らかになるものと考えられます。
  次に,「4 相続させる旨の遺言がされた場合における遺言執行者の権限について」でございますが,結論から申しますと,まず対抗要件具備行為につきましては,部会資料6と同様に,遺言執行者の権限に含めることとしてございます。他方で,相続させる旨の遺言の目的とされた特定物の引渡しにつきましては,第6回部会での議論を踏まえまして,原則として遺言執行者の権限に含めないこととしております。
  次に,「5 遺言執行の妨害行為に対する権限」でございますが,妨害行為がされた場合の取扱いにつきまして,民法1013条におきましては,遺言執行者がある場合は,相続人は相続財産の処分その他,遺言の執行を妨げる行為をすることができないとされておりまして,相続人がこれに違反する行為をした場合の効果は,判例上は絶対無効とされております。この点につきましては,取引の安全を害するおそれがあるという指摘がされておりまして,第6回の部会におきましても見直しの必要がある旨の指摘がされたところでございます。これを踏まえまして,本部会資料におきましては,遺言執行者がある場合でも相続人の処分権限は喪失しないということを前提としつつ,遺言執行の妨害行為への対応策として,遺言執行者に既にされた妨害行為を排除する権限を認めるとともに,それを予防するために保全処分等を行う権限を認めることとしております。
  次に,「6 遺言執行者がある場合の当事者適格について」でございますが,第6回部会におきましては,遺言執行者がある場合には,訴訟の当事者適格を誰に認めるのが相当か明確でなく,その点が争いになるので,遺言執行者の権限の内容を明確にすることにより,当事者適格の所在もおのずと明らかになるようにすべきといった御指摘がされました。実務上,遺言執行者がある場合に当事者適格の所在が問題となる事件類型としましては,様々ありますけれども,本方策を採った場合の当事者適格の所在は,こちら19ページ以下の記載のとおりになるものと考えてございます。
  続きまして,資料20ページの「遺言執行者の復任権等について」でございます。
  三つ目の段落でございますが,本部会資料におきましては,遺言執行者の任務が円滑に遂行されない場合として,遺言の執行に専門的な法律知識等が必要な場合であるにもかかわらず,遺言執行者にそのような知見がない場合。次に,遺言執行者と相続人の利益が相反するなどの理由で,遺言執行者がその任務を全般的に怠り,又はその任務の一部を怠っている場合,更には遺言執行者の権限の内容が不明確なために相手方が取引等に応じない場合を想定しまして,類型ごとに対応策の検討を致しました。
  まず,㋐に対する措置としましては,遺言執行者が復任権を行使して,自ら弁護士等に遺言の執行を委任するだけでなく,正当な事由があるときは全部又は一部を辞任することもできるとしております。これは,現行民法第1019条第2項に規定する場面に加えて,新たに遺言執行者がその任務の一部だけを辞任することもできるようにするという趣旨でございます。
  また,㋑の場合に対する措置としましては,遺言執行者がその任務を全般的に怠っているといった場合には,現行の第1019条第1項と同様に,家庭裁判所がその遺言執行者を解任することができるとした上で,新たに遺言執行者が任務の一部のみを怠っている場合においても,その任務についての権限を喪失させた上で,それぞれ家庭裁判所が必要に応じて,新たな遺言執行者,特定の行為についての代理人を選任することができるとしております。
  これに対し,㋒の場合に対する措置としましては,例えば家庭裁判所に対して,遺言執行者の権限の内容を証明する文書の交付を求めることができるとすることなどが考えられますが,仮にそのような権限を家庭裁判所に付与したとしても,その証明文書にいかなる法的効果を認めることが可能かという困難な問題を生じますため,この本部会資料におきましては,㋒の場合に対する措置について,具体的方策を掲げることはいたしておりません。
  なお,相続人と利益相反の関係にある者を遺言執行者の欠格事由とすることの当否につきましても検討はいたしましたけれども,欠格事由とした場合には,遺言の実務にも大きな影響を及ぼすこと等を考慮いたしまして,この部会資料におきましては,相続人等を一律に欠格事由とはせずに,それによって不都合が生じた場合について,⑨から⑪までの規律によって対応するといったことを想定している次第でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  多岐にわたる論点を含んでおりますけれども,それらにつきまして,弁護士の3人の委員・幹事の方々から,「遺言執行者の権限の明確化等」という文書を頂いております。これにつきまして御説明を頂けますでしょうか。
○増田委員 ありがとうございます。
  弁護士の間で検討した結果を基にペーパーを作成いたしましたので,御説明いたします。
  まずは,遺言執行者の地位につきましては,基本的に今日の部会資料と軌を一にするものです。遺言者の意思を実現することを任務とするものです。
  次の,就職時の通知という点についてですが,現行法では明文規定がないのですが,通知がないまま遺言執行者が預金を解約したり,いろいろな処分行為をするということについて,トラブルが生じることがかなり見られるということから,遺言の執行について利害関係を有する者である全ての相続人に通知しなければならないものとするということを提案しております。これは,もちろん住所が分からない,所在不明の者については当然通知する必要はないし,また,通知といっても到達主義ではなくて,細かいことを言えば発信主義でたりるとし,かつ,通知の有無と遺言執行の効力とは基本的に関係がないということで考えております。
  それから,欠格事由ですが,先ほど来,欠格事由とまでする必要はないという話がありましたが,遺言執行者は本来,特定の相続人ないし受遺者の立場ではなく,中立的な立場で任務を遂行するものであって,もちろん弁護士が特定の相続人の代理人と遺言執行者を兼ねることはできない,これは懲戒事由に当たるとされています。
  したがって,職務の性質上,必然的に利益相反の関係があるものですから,相続人や受遺者などが遺言執行者等に就任するのはふさわしくないと考えられます。民法974条で遺言執行者より立場的には軽いと思われる公正証書遺言や秘密証書遺言の証人,立会人にも欠格事由が定められているわけですから,それらよりも,相続人らに対する利害に重大な影響を与える遺言執行者については,欠格者とするのが相当であろうと考えられます。
  財産目録の作成,交付ですが,これは,記載すべき財産の範囲,それから相続人の範囲について明記をした方がいいということです。従前,財産目録の趣旨については,いろいろな見解がありまして,中には遺留分減殺請求権を担保するためという見解もあって,その場合には,遺留分のない相続人に対しては交付する必要がないとか,逆に財産については,全ての財産を知り得る限り記載すべきであるという見解もあったかと思いますが,今回は明文化して,交付の対象は全ての相続人,記載すべき財産は遺言の執行の対象財産に限定するということを明確にしていただきたいということです。
  それから,権限の明確化ですが,1,2は,ほぼ部会資料と同じです。遺産分割方法の指定の場合には遺贈の場合と異なり,対抗要件を具備させるために必要な行為を行えば足り,ただ,動産に関しては対抗要件が引渡しですので,引渡しまでする必要があるということになります。不動産については,第三者が占有しているものにつきを占有排除する必要まではないと考えられます。
  預貯金について,これが部会資料とは異なる点ですが,預貯金については,基本的にそれ以後,その預貯金債権がそのままの形で継続するということは予定されていません。権利者が死亡すれば,原則としてそれは解約をして,そのお金を引き継ぐという形で処理されているのが一般です。そのことを考えると,預貯金債権については他の債権と異なり,遺言執行者がそれを払い戻して受益者に引き渡すということが遺言者の通常の意思に沿うものであろうと考えられます。
  この点については,裁判例では払い戻し権限を認めたものと否定するものとがありますが,それでは債務者の立場も不安定ですので,遺言執行者の払い戻し権限を明記することが妥当ではないかと考えられます。預貯金債権だけを他の可分債権と分けて特別扱いするということについては,先ほど第1のところで議論されたとおりで,それは法技術的にも可能であるという前提です。
  それから,(4)に書きましたが,遺留分減殺請求に対応する権限,義務はないということも,明確にすべきであると考えております。先ほどの大塚関係官の御説明にもございましたとおり,遺言執行者というのは遺言すなわち,遺言者の意思を実現するという職務を持っている者でして,遺留分減殺請求があっても,それに対して対応する必要は,基本的にはないのだろうと思います。ただ,遺留分減殺請求を受けたときに,そのまま遺言を執行することによるトラブルは,これもかなり頻繁に起こっています。実際に,減殺請求を受領することができるといった裁判例もあるために,遺留分減殺請求を受けてしまうと,実行するのもためらわれ,行くも地獄戻るも地獄ということになります。つまり,執行しないと,受贈者の方から文句を言われるし,執行すると減殺者の方から文句を言われると,こういう事態になるので,そこは明確にすべきだと考えております。
  清算型遺言の債務弁済権限と処分権限については,これは現在の実務もそうだと思いますが,遺言の定めがない限りは,債務を弁済する権限,義務まではないということは明確にすべきだということです。
  次の妨害行為の禁止なんですけれども,これは部会資料では,絶対無効という効果を改めるという手段として,妨害排除,予防のために必要な行為をする権限を有するということになっていますが,そこまでは想定していなくて,ただ,絶対無効とした場合には,取引の安全を害するというならば,効果を無効とした上で,善意者保護を図るということで対応すべきだという提案になっております。
  最後は1015条の関係ですが,これは部会資料が削除する前提なのかどうか明確ではないですが,相続人の代理人という表現はやはり非常に具合が悪い。一般の市民の方がこれを読んだときに,相続人のためにする人だと,相続人の利益を図って動く者だという誤解を与える可能性があるので,ここは単に効果帰属だけということで,例えば,遺言執行者が行った意思表示は相続人に対して効力を生じるというような規定にすることなどが考えられると思いますので,是非御検討をお願いします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  部会資料とほぼ同様の御提案をされている部分と,それから部会資料にない御提案の部分と,部会資料の内容と異なる御提案の部分,3種類のものが含まれていたかと思います。
  先ほども申し上げましたように,この問題につきましては次回も引き続き検討したいと思いますけれども,部会資料に関する御説明と,それから今の御説明等を伺った上で,今日のうちに御発言をしておいた方がいいということがございましたら,伺いたいと思います。特に,次回までに事務当局の方で検討していただく方がよろしいだろうというような御指摘があれば,お願いいたします。
○浅田委員 配布資料としてお配りしているものですから,次回お持ちいただくのは御面倒もと思いますので,今お時間頂ければと思います。
  「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」の12ページから,この論点第6についての意見を述べておりますので,この機会にお話しできればと思います。
  この論点については,先ほど増田委員からお話がありましたペーパーの4の3の提案と軌を一にするものだと思います。検討の項目について,例えば遺留分減殺請求権等の論点とかいうのは,こちらでは議論,検討はしておりませんけれども,大分重複するところがありますけれども,念のために御説明したいと思います。
  第6回及び今回の部会資料では,遺贈,相続させる遺言のいずれにおいても,遺言執行者は債権について,遺言において取立て等を許す特段の定めがない限り,対抗要件具備までしかできないという整理が提示されています。しかし,私どもから,遺言執行者の権限を論点として取り上げて欲しいと要望しましたのは,実は逆の方向の整理のものでありました。
  私どもの資料の13ページの銀行実務からの問題意識を御覧ください。
  一般の遺言者は通常,預金や金融資産については,遺言執行者に取立て及び換価をさせ,分配まですることを望んでいるのではないかと思われます。また,遺言執行者や受益相続人も,そのような手続を当然の前提として行動しており,多くの銀行でもその前提に沿うよう,遺言の書きぶりを問わず,遺言執行者による預金の解約や金融商品の解約に応じている実務を行っておりまして,これを今般,法律上も明らかにしたいという思いでございます。
  また,平成15年には,日本公証人連合会様から全国銀行協会に対し,遺言執行者による預金の払い戻し請求に応じるべきとの要望を受けたこともあります。かように,遺言執行者に預金を払い戻すことは社会的ニーズがあると思われるところです。
  そこで,当方からの提案でございますが,債権が特定遺贈や相続される旨の遺言の対象となっている場合には,遺言執行者は,遺言において別段の定めがされている場合を除き,その取り立て及び換価を行う権限を有するとしてはどうか,すなわち,部会資料9の原則と例外を逆転させてはどうかということです。もしこれを遺言執行者対象財産全般に適用させることが困難であれば,銀行実務に見られる立法事実に照らし,預金や金融商品の特則として定めることも是非御検討いただければと思います。以上がこの資料の説明でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  弁護士会の御意見と重なるところ,同じ方向のところ,双方が含まれているかと思います。
  そのほか,本日のうちにという御発言がございましたら承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○沖野委員 持ち越すほどのことではないので確認だけさせてください。
  部会資料17ページのところの「特定遺贈がされた場合における遺言執行者の権限について」という項目の2段落目に「そこで」とありまして,「遺贈がされた場合に遺言執行者の定めがある場合には」と書かれており,ゴシックの方は「遺言執行者があるときは」となっておりまして,この書き方の違いに意味があるようにも思われ,単純に誤記にも思われるので,この記載に関しまして今日のうちに教えておいていただけるでしょうか。
○堂薗幹事 基本的に同じ意味で使っております。あえて区別しているわけではございませんので,基本的に遺贈がされた場合に,遺言の中で遺言執行者の定めがある場合,要するに遺言執行者がいる場合には,遺言執行者が遺贈義務者となる。逆に言いますと,御指摘は,裁判所から選任されたような場合も同じではないかということかと思いますが,それは裁判所から遺言執行者に選任された場合も,それは当然,遺贈義務者になるという理解ですので,そういった意味では,15ページの①の表現の方が正確ということかと思います。
○沖野委員 ありがとうございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  それでは,この点につきましては,本日頂きました御意見も含めまして,更に次回に持ち越して検討させていただきたいと存じます。
  私の不手際で,予定していたところを全て終えることができませんでしたけれども,次回のスケジュールにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 それでは,次回に,本日残りました遺言執行者のところをやるとともに,従前ですと,次回ぐらいに中間試案の叩き台的をお示ししてということもお話ししていたかと思いますが,二読の議論がほぼ終わりまして,ただ,中間試案の叩き台をお示しする前に,もう少し議論を詰めた方がよいのではないかという論点が幾つかございますので,次回は遺言執行者の権限について御議論いただくとともに,そのような論点をピックアップして,その点に限って議論していただき,その上で,次々回に中間試案の叩き台をお示しするということでお願いしたいと考えているところでございます。
  次回の日時,場所なんですが,日時は御案内のとおり,2月16日火曜日の午後1時半から5時半までということですが,場所が次回は変更になりまして,東京地検の15階にある1531号室というところになります。隣の建物の15階ということになりますので,よろしくお願いいたします。
  それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ということで,次回は更に検討いただきたいものをピックアップして御議論いただくということをお願いしたいと存じます。
  本日はこれで閉会とさせていただきたいと存じます。
  熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第10回会議 議事録


第1 日 時  平成28年2月16日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時41分

第2 場 所  東京地検第1531号室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第10回会議を開会させていただきます。
  まず,議事に入ります前に委員の交代がございますので,御紹介をさせていただきたいと思います。従前の森委員に替わりまして,東京家庭裁判所から石栗委員にお越しいただいております。どうぞ。
○石栗委員 東京家裁の石栗でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  それから続きまして,資料の確認を事務当局の方にお願いします。
○渡辺関係官 それでは,資料の確認をさせていただきます。本日の資料といたしましては,部会資料10「相続法制の見直しに関する各論点の補充的な検討」,事前にお送りさせていただいているものでございますが,こちらの方を使用させていただきたいと思います。
  それから,あと遺留分に関する事例と計算過程を示した紙を机上に配布させていただいております。こちらの方は,遺留分につきまして,現行法,A案,B案,それぞれの見解を採った場合にどのような計算になるのかというイメージをおつかみいただければということで配布をさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御紹介がございましたが,本日は部会資料10「相続法制の見直しに関する各論点の補充的な検討」ということで,四つの項目につきまして御意見を頂きたいと思っております。
  ただ,その前に前回の分,部会資料9「その他の見直しについて」の最後の項目,6番目の項目になりますけれども,資料で申しますと15ページ以下の「遺言執行者の権限の明確化等」につきまして,引き続き御意見を賜りたいと存じます。説明の方は前回,事務当局の方から頂いておりまして,これに対して意見があるということであらかじめ資料等をお出しいただきました委員の方々から御発言を頂いたところでございますけれども,なお十分な検討ができておりませんので,引き続き御意見を賜ればと思います。
  ということで,前の資料9の「第6 遺言執行者の権限の明確化等」というところにつきまして,御質問,御意見等を頂きたいと存じます。
○浅田委員 前回の会議にお手元の可分債権の取扱い等に関する意見の12ページ以降に記載いたしました「4.遺言執行者が債権を取立換価する権限」という項目について御説明を差し上げる機会を頂戴いたしましたが,もう一度,その内容の説明を簡単に申し上げた後,若干の補足事項がございますので,御説明申し上げたいと思います。
  私の主張の要点は,部会資料9のような整理をすると,円滑な預金の払戻しや,ひいては円滑な遺産の分配が困難になるということです。これは第5回の会議において私から,遺言執行者の権限を本部会の論点として取り上げてほしいという要望を申し上げた際からの一貫して述べていることでもございます。
  そして私の資料の13ページに関連する事実を申し上げますと,このたび,全国銀行協会におきまして都市銀行,地銀,信託銀行を含む14行の実務をアンケートいたしました。その結果ですけれども,弁護士などの専門家や金融機関が遺言執行者である場合は,遺言執行者の解約払戻し権限が遺言に明記されていなくとも,執行者による解約払戻しを認める銀行がほとんどでありました。また,専門家や金融機関が執行者であれば,相続させる遺言であったとしても,執行者による解約払戻しを認めるとした銀行がほとんどでした。
  かように遺言執行者においては遺言の書きぶりを問わず,遺言執行者に預金の解約権限があると考えられており,このような要請に銀行は応じているという事実があるということを指摘したいと思います。
  なお,部会資料9の事務当局の御整理では,遺言執行者は対抗要件具備しかできないのですが,これを預金や金融商品に当てはめますと,金融機関に対して受遺者や受益相続人への名義変更を請求することまでしかできないという帰結になろうかと思われます。
  この点,先ほどのアンケートによりますと,預金についてはそもそも遺言執行者には名義変更を認めていない銀行も複数,実務としてありました。これは推測するに,長期間連続する取引である預金契約において,当事者が複数にまたがるという事態が複雑な権利関係を招いて妥当ではないと考えられることや,本人確認手続上の問題などが理由と思われます。
  更には銀行が取り扱う金融商品,例えば投資信託や公共債については,金融商品取引法上の契約前締結書面の交付や説明義務の問題もあり,遺言執行者単独での名義変更には応じないとする銀行が多数派です。預金のうちでも外貨預金やデリバティブ組込み預金はこちらの部類に入ると思われます。
  したがいまして,名義変更請求しかできないという整理では結局,遺言の内容を実現することはできないことになると思われます。よって,預金や金融商品につきましては,遺言執行者に広く解約,払戻しの権限を認めないと実務はワークしないと思われる次第でございます。以上,補足申し上げました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 ただいま御指摘の点ですが,問題状況は非常によく分かりました。遺言執行者の権限のところは,基本的には任意規定で,遺言者は通常どのような意思を有しているのかというところを推測して一定の規律を設けるというところがございますので,ここでお示ししている分については,基本的に処分権限を不動産等も含めて全般的に認めるのは相当ではないのではないかというのは当然あるわけですけれども,今,御指摘がありましたように,例えば預金債権あるいはその他の金融商品などの一部につきまして,遺言者の合理的意思解釈として,むしろ遺言執行者に解約権限を認めて,現金で相続人あるいは第三者に分配するというのが通常の意思だろうと思われるのであれば,そういう事実があるのであれば,それを原則的なルールとして設けるということは考えられるのではないかと思います。ですので,その辺については実務の状況等を御紹介いただきましたけれども,そういった点も踏まえて,引き続き検討したいと思います。
  また,第一読のときにお出しした資料では,遺言執行者の処分権限については,遺言の中にそういう定めがある場合に限り処分できるとしていたわけですが,今回の資料では,処分権限について明確には規定しておりませんで,特定遺贈の場合にはこういうことができる,相続させる旨の遺言がされた場合にはこういうことができるということが書いてあるだけで,処分権限については明確には書いておりませんので,この点は解釈に委ねるという前提でございます。もっとも,こういったできることが書いてありますと,その反対解釈として,書かれていないことは原則としてできないという,そういう解釈がされる可能性はありますので,その辺りも御指摘を踏まえて,引き続き検討していきたいと思います。
○浅田委員 一言。趣旨は理解いたしましたけれども,私の主張としては,明文化されるデフォルトルールの内容を変えていただきたいということです。このままでのデフォルトルールだと,金融商品等に関しても,処分権限まで遺言執行者に与えたいときは遺言にその旨を記載しろということになりますが,現実的には, それはなかなかなされないだろうと思います。よって混乱が生じるのではないかという問題意識でありますので,ここは政策的な判断が必要ではないかということでございます。
○堂薗幹事 私もそういう前提でございまして,ここでの問題は,遺言者の通常の意思はどうなのか,不動産の場合と預金の場合とでは,処分権限に関する遺言者の通常の意思は異なるのではないかというところですので,可分債権に関する前回の論点に比べますとまだ整理はしやすいのではないかという印象を持っております。
○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますか。
○浅田委員 はい。
○大村部会長 ありがとうございます。そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 遺言執行者の権限について話されていることの言わば前提について,お伺いいたします。心配になりますのは,母法のフランス法では,遺言がある場合は全部,公証人が遺言の実行を致しますので,遺言執行者の権限を強くしておいても問題はないのですが,日本の場合には,全てが私人に委ねられていますから,怪しい遺言へのそういう安全弁がありません。たとえば自筆遺言証書に遺言執行者が書かれているということで,その遺言執行者が銀行などに行って,全てのことができるという前提になりますが,後で自筆遺言証書が偽造であると判断される事態が起こる可能性は相当にあります。
  つまり,遺言の執行全体が日本の場合にはとても危うい構造になっていますので,不安がつのります。そういうトラブルが起きた場合についてはどのような措置をお考えでしょうか。あるいはまだ熟慮しておりませんが,事前に公正証書でかなり堅い手続で遺言執行者が命じられた場合だけ遺言執行者にそのような権限を与えるという仕組みにする可能性もあるかとは思うのです。そういう構造的問題を抱えている点について,遺言執行者の権限を考えられる際に当たって,何か御配慮がありましたらお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 無効な遺言がされた場合にどうするかというのは,非常に大きな問題であろうと思いますが,ここは基本的には遺言がされた場合に,遺言者の通常の意思を推測して権限を明確化しようということでございます。したがって,現行法に比べて遺言執行者の権限を強化しようとか,必ずしもそういうことではありませんで,現行法上は,遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるという一般的に規定が置かれているだけで,特定遺贈ですとか相続させる旨の遺言について,個別に権限の内容を定める規定を置いていないことから,その権限の内容が不明確ではないかという指摘がされていることを踏まえ,そこを明確化するという趣旨でございますので,そういった意味では今,水野先生が御指摘いただいたような問題点について何か検討をしているという状況にはございません。
○水野(紀)委員 もちろん現行法そのものが現に抱えている問題ですので,それについて特に新たに変えるものではないという御説明はよく分かるのですが,今回の会議でかなり遺言を活用しやすくする方向で改正が提案されておりますので,そういう根本的な問題を抱えている日本における遺言という制度の動かし方について,できれば何かお考えいただければと思います。ありがとうございました。
○大村部会長 よろしゅうございますか。
○中田委員 今の水野委員の御発言とも少し関連するかもしれないのですけれども,遺言執行者の義務について整理する必要はないだろうかということです。善管注意義務があることは委任の規定の準用ということから出てくると思うのですが,忠実義務をどう考えるかということです。特に処分権限を認める,あるいは広げるという方向ですと,その問題が出てくるのではないだろうかと。特に法人が遺言執行者になるということが増えてきますと,規律を明確化しておく方がいいのではないかと思います。遺言執行者の場合には,その代理関係が必ずしも明確でもないということもありますので,検討する必要があるのではないかと思います。
○堂薗幹事 御指摘の点は検討できておりませんので,検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○増田委員 まず,前回,我々からも意見を出したところでありますが,遺言執行者の権限についての包括的規定である現行1012条1項,これは私たちも削るという趣旨ではなかったところ,部会資料ではそこは明確になっていないのですが,この条項は存続するという前提で考えてよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 はい,そこは遺言全体の総則的な規定として残しつつ,特に特定遺贈ですとか遺産分割方法の指定がされた場合の規律を個別に置くということを考えております。現行法でも1012条のほかに,こういった場合には遺言執行者はこういう権限があるというような規定がございますので,それと同じような規律を特定遺贈などについても設けるという趣旨でございます。
○増田委員 ありがとうございます。そこで次の1013条の問題なのですが,これについては部会資料と私たちの意見とでは少しニュアンスが異なります。部会資料では現在の1013条が相続人が処分その他の妨害行為はできないとしているのを改めて,遺言執行者の方がそれを差し止めるなど,妨害排除予防の権限を有するという形になっています。
  ここのところは相続人の行為の効果に関わってくるだろうと思うのですが,我々の意見の方では,そこは相続人の遺言執行者の処分権限に反する行為の効果は原則として無効というのを維持すべきだということにしております。
  そこのところで,もし有効だということになれば,つまり遺言の対象財産について相続人が遺言に反して他の者に譲渡するというようなことをした場合も有効だと解されるのであれば,対抗要件で処理されるわけですが,我々の意見では現行法維持として原則として無効で,もし善意者保護等の必要があるならば,善意者保護の規定を置くべきであるということになっています。そこのところの優劣は是非御検討いただきたいなと思っております。
  遺言執行者がせっかくいるにもかかわらず,つまり遺言者が遺言執行者に後を託したにもかかわらず,相続人がそれに反する行為をしたときに,それは有効であって,それで取得した人は悪意であっても対抗できるというような結論が妥当なのかどうか,そこは少し御検討いただきたいなと思っております。
○堂薗幹事 御指摘のような問題点はこちらとしても非常によく分かるところなのですが,他方で,今回の部会資料でお示ししたとおり,9ページのところで「積極財産に関する規律」というのがございまして,遺言によって相続財産に属する権利を取得した場合であっても,対抗要件を備えなければ第三者に対抗することはできないという規律を置くということにしておりまして,この点についてはそれほど異論はなかったかと思いますけれども,こういう規律を置きながら現行の1013条を維持いたしますと,結局,遺言執行者の定めがあれば,この9ページの①の規律はほとんど意味がないということになりまして,結局,第三者としては遺言の中身を確認しない限りは相続人を相手に取引をしていいかどうかも分からなくなるという面がございます。今回お示ししている考え方は,どちらかというと,そういう意味で取引の安全を重視した考え方であるのに対しまして,今,増田委員から御指摘いただいた考え方というのは,遺言者の意思をむしろ重視するというところかと思いますし,正にそこは政策的な判断が必要なところだと思いますので,是非その点について御意見を頂ければと思うところでございます。
○大村部会長 増田委員,よろしゅうございますか。
  他の委員の御意見ももちろん伺いますが,今のような考え方に基づいて,その提案がされている。この御説明の部分はよろしいですか。
○水野(紀)委員 戦後の相続法改正で,家督相続という一対一対応の相続が廃止されて,多数人に相続される共同相続になったときに,本当は遺産分割についてのきちんとした手続を定めなくてはならなかったところ,それを立法しなかったというところに一番根本的な問題があるのでしょう。でも,そういう形で長年運営してきている間に,最高裁の判例は,戸籍と登記という制度がありますので,戸籍と登記に依存する形で,法定相続人から法定相続分を買う分には安心できるというルールをずっと作り上げてきて,それで長年取引社会は動いてまいりました。遺言が増えてきたために,またその遺言に遺言執行者が付くケースが増えたために,このルールは,非常に危うくなりましたし,指定相続分と相続させる旨の遺言がある場合に,最高裁判例は従来の法定相続分を買う分には安心できるという枠組みを壊してしまったわけですが,でも,だからといって,いきなり遺言があると相続人の処分権を全て奪うというのは,これは相当ドラスティックな改革になるように思います。
  遺贈と登記についての最高裁判例は,取引相手方から相続人の存在はよく分かるけれども,遺言の存在は分からないことを前提に,当時の学説も,遺贈の受遺者が登記を信頼した第三者に負けてしまうという最高裁の判例に賛成する評釈を書いておりました。時代は変わりましたし,それから遺言も増えてまいりましたし,これからは変わっていくのかもしれません。また私自身も,従来の判例法理での運用が,共同相続人と取引相手にリスクを負担させていますから,いいものだとも思ってはおりません。そういう意味では,私もアンビバレントで,これを期に抜本的な改革がされるのであれば,遺産分割前や遺言があったときには,相続人の処分権を奪うのが本来の筋のようにも思います。ただそれに代わるためには,遺言執行についての制度的担保を構築することが必要であり,相続手続を全体的に手当てしなくてはなりません。それがない現状では,やはり遺言の存在が取引相手から分からないという事態は変わらないように思いますので,遺言があった場合に全て相続人の権限が奪われるというのは,やはりあまりにドラスティックで,不安が残ります。
○大村部会長 今のような御意見が出ましたけれども,ほかの委員ももし何か御発言がありましたら伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○増田委員 今,水野委員からの御意見はありましたが,確か現在の判例は,むしろ遺言執行者がある場合に,相続人がそれに反する行為をしたという場合には無効としているのであって,これに対して今回の改正はこの場合に取引の相手方の保護を図るということが考えられているわけで,私たちが決してドラスティックなことを言っているわけではなくて,多分,法務省の部会資料の方がむしろドラスティックなのかなと思う次第なのですけれども,遺言執行者がいるときの第三者保護という点については,その第三者が悪意であっても保護されるのか,あるいは今までのように絶対無効として,善意者も含めて保護されないというのかという両極端にとらわれず,中間的な規定があってもいいかなとこちらは考えている次第です。
○水野(紀)委員 増田委員のおっしゃることに反対するわけではなく,また事実として現にずっと1013条があったことを否定するわけでもございません。ただ,かつては,そもそも遺言が少なく,かつ遺言執行者を付す遺言が少なかったという前提の下で取引が動いていたという趣旨でございます。1013条については我妻先生以来,これは非常に危険なので,一刻も早く立法的に何とかするようにと,学説が昔から強く主張してきておりました。その1013条がいよいよ遺言が増え,遺言執行者が増えてきた現在,問題になっていて,それを受けてお考えいただいているという状況なのだと思っております。ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点につきまして賛否両論が出ているわけでございますけれども,特にこの点についての御発言,浅田委員,何かございますか。
○浅田委員 違った観点からの質問,1013条に関する質問ですけれども,主に銀行が遺言執行者になる場合の観点からの質問です。今回この第6の⑥というのは新たな提案というふうに理解しておりますけれども,遺言執行者に妨害排除権を与えて,現行法の1013条の遺言執行を妨げる行為を絶対無効とする規律を改めるという提案だと理解しています。見直し案によると,遺言執行者は妨害排除権等を有するということが明確化されるということです。
  遺言執行者が業務を開始する前に遺言執行の妨害行為が行われて,相当程度そういう妨害行為が進んでしまっている場合,遺言執行が困難になり,遺言者の意思の実現,遺言による遺産処分が骨抜きになりかねないということが懸念されると思います。遺言執行者は,相続人から連絡を受けなければ執行を開始し得ないからです。
  そうしますと,適時に遺言執行を開始して妨害排除権を行使しなかったという見方をされる可能性もありまして,そうなった場合に受遺者から遺言執行者に対して損害賠償請求を受けるという可能性もあるのではないかと思ったわけです。権限を規定すると,それに対応する責任という問題もできますから,その責任の範囲ということも併せ御検討いただければと思います。
  なお,現行民法の1013条の規律を支持する意見としまして,新版の「注釈民法」の28巻の356ページでは,遺言による遺産処分と相続人による処分の関係の問題を,例えば民法177条,すなわち対抗要件の平面で処理するとの見解が紹介されています。この見解に対しては,そのような構成を前提にすると,遺言執行者は,処分禁止の処分をするなどの方法により,全面的に保全処分をしなければならなくなる,というような大きな無理が伴うとの批判がなされており,要するにその対抗要件の処理は遺言による遺産処分を骨抜きにしてしまうという問題意識が記されているということを付言したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  この1013条につきましては,今いろいろな御意見があり,あるいはここに出ている以外の選択肢も含めて更に検討すべしという御意見も出ておりますけれども,さらに御発言はありますか。
○村田委員 確認ですけれども,先ほど堂薗幹事から9ページの対抗要件に関する規律について御説明を頂いたところからすると,今回の1013条の見直しによって,遺言執行者は妨害の排除等ができるということなので,遺言執行者において,遺言と矛盾する事実行為や対抗要件具備行為といったものを排除することが想定されているのかなと思います。
  もっとも,相続人は元々の自分の法定相続分の範囲内では有効に処分ができ,第三者との関係でもそこは対抗要件なしでも有効に処分できることからすると,遺言執行者としては,相続人による対抗要件具備行為等のうち,その法定相続分を超える部分について,適時にこれを妨害と捉えて排除するということになるのでしょうか。
○堂薗幹事 ここは,例えば特定の不動産を相続人の一人に遺贈する,あるいは相続させる旨の遺言がされたという場合,当然,遺言執行者は1の①や③の規定で,対抗要件具備の権限がありますので,それについて対抗要件を具備すれば当然,その受益相続人が確定的にその不動産を取得できるわけですが,ここで念頭に置いているのは,その前に他の相続人が第三者に法定相続分の処分をして登記までしてしまったという場合には,第三者が背信的悪意者ではない限り,その第三者が法定相続分に相当する部分を確定的に取得するということです。
  それ以外の部分については当然,遺言で定められた受益相続人が権利を取得するということになろうかと思いますので,そういった意味で対抗問題との関係で言いますと,あえてこの⑥を使わなくても対抗要件具備行為については権限がありますので,基本的には特定遺贈の場合はその受遺者との共同でやればいいわけですし,相続させる旨の遺言であれば単独でできるという前提ですので,基本的にはそこで十分な手当ができるのではないかということでございまして,それに加えて更に必要な場合に,ここで書いてあるような妨害排除等の権限を付与しているという趣旨でございます。
○村田委員 わかりました。
○大村部会長 ほかにこの点についての御発言ございますか。
○潮見委員 頭が全然整理できていないのですけれども,今の現行法の1013条とそれから今回の御提案,具体的にどこが違うのですか。レトリックとしては処分権限というものが相続人にもあって,その上でこういう妨害状態があり,しかもその遺言内容についての妨害があれば,それはその部分については然るべき権限を遺言執行者が持つというところは違うのかもしれませんが,結論的にどこがどう違うのかというのが,私は,さっぱり分からないのです。
  今回の御提案のところでは取引の安全の保護ということを言っておりますけれども,でも,これは正に先ほど村田委員がおっしゃったとおりで,妨害状態と,それから正にその権利侵害といいましょうか,権限侵害というものがあれば,それでもうその処分行為自体は,あるいはその対抗要件具備行為自体は,その部分に限って効力を失うわけですよね。そうでもないのですか。その辺りがちょっと分からなくなってきました。分かりやすい例で教えていただけませんでしょうか。
○堂薗幹事 現行法の規律ですと,例えば被相続人Aが相続人の1人であるBに不動産を相続させるという遺言をしている場合は,そのB以外の相続人C,Dが仮にほかの人に処分をしても元々権限がない,要するに処分権限がないわけですので,それは無権利者からの譲受人で何ら権利は取得しないということになります。
  これに対しまして,ここで書いてある考え方は遺言執行者が選任されているだけでは当然には相続人の処分権限は失わないということですので,今のCとかD,例えばお子さんが3人いるような場合であれば,それぞれ3分の1ずつの処分権限が残りますので,その分については第三者にそこを譲渡した場合は,その限度で有効になると。
  したがって,その3分の1については正に対抗問題で処理することになるのに対しまして,現行法ですと,そもそも対抗問題になりませんので,そこに違いがあるのではないかということでございます。
○大村部会長 今の御説明はわかりましたが,その上で,先ほど触れられた9ページの第4の権限があるので,実際上,問題の生じる場面というのは限られてくるのかという,先ほどの村田委員からの御発言についてはいかがですか。
○堂薗幹事 そうですね。実際に妨害排除が必要になる場面は限られるのではないかということですね。
○沖野委員 今の御説明ですが,前提としては特定の不動産について特定の者に相続させる遺言があったという前提ですよね。
○堂薗幹事 はい。
○沖野委員 そうすると,その特定の不動産について他のというか,およそ相続人がというか,他の者が3人でそれぞれ3分の1ずつ権利を持っているという御説明だったのですが,それは現行法上,そうなのですか。
○堂薗幹事 いや,現行法は違います。現行法は違いますが,相続させる旨の遺言について,部会資料9の9ページの①の規律を新たに設けることによって,そこも変えるという前提ですので。
○沖野委員 分かりました。そちらでまず相続させる遺言の効力が変わることを前提にですね。
○堂薗幹事 そうです,はい。
○増田委員 すみません,誤解のないように。相続させる遺言だけではなくて,遺贈も全てそうなるのですよね。だから違いは1013条があることによって遺言執行者がいれば,その遺贈の目的物等に対して相続人がした処分は無効になっていると。けれども,今回の部会資料の案では相続人の処分権限を奪わないということによって,処分は有効になると,したがって対抗要件になるという御説明だと思うのですよね。それに対して,我々はそれは違うのではないかというところを言っているわけで,そこが違うのです。
○堂薗幹事 御指摘のとおりなのですが,9ページの①は,先ほどの遺贈に関して言えば,判例の規律を変更するものではなくて,正に相続させる旨の遺言がされた場合について判例を変更するものです。それを踏まえると,結局,遺言によって権利変動があった場合には,基本的には法定相続分を超える部分は登記がないと対抗できないということになるので,1013条があると,9ページの①のような規律を設ける意義が減少するのではないかという趣旨でございます。
○窪田委員 質問というのではなくて,私の理解が正しいかどうかだけを確認させてください。現在の判例ですと相続させる旨の遺言の場合には特定の相続人に直接に帰属してしまうので,もう他の相続人に処分権限なんか何にもない。だから,そもそも1013条の問題になんかならない。しかし,そうではないタイプのものにおいては,1013条というのがあり,それによって無効という効果をもたらしてという2段階の形の問題になっているということなのかなと思います。
  ところが,今のお話ですと,相続させる旨の遺言に関しては,もう提案されたような形で解決するわけだから,相続させる旨の遺言によって直接帰属するわけではなく,そもそも1013条の問題にまではたどり着かないというか,1013条を持ち出さなくても,もうそこで対抗問題で片付く。だから,現行の1013条のような問題を扱う必要はないということで,よろしいですか。
  というのは1013条の話をしているのか,相続させる旨の遺言の実体法上の話をしているのか,ちょっと私自身も分からなくなってきてしまったものですから,当初は分かったような気がしていたのですが。
○堂薗幹事 相続させる旨の遺言について,9ページに書いてあるような見直しをしますので,少なくとも遺言執行者が選任されていない場面を考えますと,それは常に対抗問題になるわけです。だけれども,そういう規律を設けておきながら,1013条を現行法のまま維持し,遺言執行者が置かれている場合には相続人には一切の処分権限がないということにしますと,結局,遺言執行者が選任されている場面では対抗問題が生じないことになりますので……
○潮見委員 それは違うのではないですか。先決問題は9ページに書かれていることであって,ここをクリアした場合には,1013条の問題は起こらないのではないのというのが窪田委員の御発言であり,私もそれなら分かるのですけれども,でも当初の説明は堂薗委員がおっしゃったのはちょっと違うような感じがします。
  要するに,遺言執行者がいる場合でも9ページの問題であり,そこのルールで片が付くわけですよね。1013条を作ることによって,これも崩れるわけですか。
○堂薗幹事 9ページの①の規律を設ければ,1013条があっても相続人はその法定相続分の範囲内では当然に処分できるということになるのであれば,1013条を見直す必要はないのではないかと思いますが,この規律を設けることによって,当然に1013条に関する判例が変更されることになるのかという点については,必ずしも論理必然ではないのではないかと思ったという次第でございますが。
○大村部会長 この第4の1のルールと,それから,1013条の関係について,あり得る考え方を整理していただくということですね。それでないと議論が進まない状況になっているわけです。
○窪田委員 お願いとして,それで結構なのですけれども,相続させる旨の遺言,それから特定遺贈とか,それぞれの場面で具体的にどうなるのかというのをやはり,先ほど村田委員からの御質問もその部分だったのではないのかなと思うのですが,結局それでどうなるのか,1013条の問題とかが残るのか残らないのかも含めて,ちょっとクリアにしていただいた方が議論しやすいかなという気がいたします。
○大村部会長 今の御指摘を踏まえまして,再度整理をして次の機会に案をまとめていただくということで引き取らせていただきたいと思いますが,この点につきましてはよろしいですか。
  それでは,そのほかの問題もあろうかと思いますので,更にこの遺言執行者の権限につきまして,御指摘を頂ければと思います。
○浅田委員 遺言執行者の立場から細かい点を2点御質問したいと思います。まずは部会資料第9の16ページの⑨解任事由ですが,遺言執行者の任務に適さない事由があるときと書いてありますけれども,これはどのような場合が含まれるのかということがよく分からないということです。濫用的な解任申立てにより遺言執行者に支障が生じるのではないかという懸念があるということがその質問の背景であります。現行法,1019条の第1項の内容を見ますと,その任務を怠ったとき,その他正当な事由があるときと書いてありますけれども,この文言でも十分に柔軟な運用が可能であるのではないかと思っております。現に部会資料の20ページを見ますと,下から2段落目でありますけれども,その任務の一部を怠っている場合には等々と書いてありますので,その文言を変える意図というのをお伺いしたいということです。
  2点目でありますけれども,同じくその部会資料16ページの⑩家庭裁判所による遺言執行者の権限喪失規定の新設についてです。遺言執行者の権限喪失事由として「相当と認めるとき」は広範すぎ,濫用的な申立てにより遺言執行者に支障が生じかねないのかなという懸念があります。遺言執行者が任務に属する特定の行為を行わない又は行えない場合には,相続人間において遺言の有効性等に争いがある,ないしは相続人の一部が執行妨害行為を行っている等の様々な理由があるわけでありまして,不必要に申立てが行われないように検討されたいと執行者になり得る立場からは考えますけれども,この点,何らかの手当を御検討されているのか,お尋ねしたいということです。
○堂薗幹事 まず1点目につきましては,確かに現行法どおりという考え方も十分あり得るのだろうと思いますが,ここで任務に適しない事由と挙げましたのは,従前から御指摘があります遺言執行者の欠格事由との関係で,例えば相続人が遺言執行者になった場合に,利益相反の関係があって,その相続人に遺言執行をさせるのは相当でない場合もあるのではないかというような御指摘があったわけですが,欠格事由として定めることまではなかなか難しいのではないかと思うわけですが,そういった利益相反の関係があることなどによって,当該事案においてその相続人に遺言執行させるのは相当でないという場合には,この規定を基に解任するということもできるのではないか。
  そういった意味で,そういった利益相反的な関係がある場合にも場合によっては解任できるという趣旨を明らかにするためには,任務に適しない事由という方がより表現できているのではないかと思って御提案をしたところではございますが,現行の方が明確だということであれば,現行法のままということも十分あるとは思っております。
  それから⑩の相当性のところでございますが,これは任務の一部についてだけ権利を喪失させるということになりますと,そもそも遺言の内容が明確であれば特に問題はないのかもしれないのですが,必ずしもその内容が明確でないという場合に,家庭裁判所が権限の内容について判断をした上でそのうちの一部について権限を喪失させるというのはなかなか難しい面もあろうかと思いまして,そのような場合には,権限の一部だけを喪失させることはむしろ相当ではないのではないかと。そういった意味で,単にその任務の一部について特定の行為をしないというだけではなくて,一部の権限を喪失させることが相当であると認められる場合に限って,裁判所は権限喪失の裁判をすることができるというようにした方がいいのではないかという観点から,相当と認めるときはという要件を設けたということでございます。
  更に言いますと,遺言の場合にはそれぞれの条項が関連している場合もございますので,その一部についてだけ権限を喪失させることが相当でない場合もあろうかと思いますので,そういった意味も含めまして,ここでは相当と認めるときはという要件を付け加えたということでございます。
○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますか。
○垣内幹事 別の点ですけれども,よろしいでしょうか。あるいは前回,御説明の中で触れられていたのかもしれないのですけれども,ちょっと初歩的な点の確認で恐縮なのですけれども,前回の部会資料9の15ページ,第6の2のところの遺産分割方法の指定がされた場合における執行者の権限に関しまして,③の内容と④の内容との関係について1点だけ確認をいただければと思いまして。③では対抗要件具備のために必要な行為ができるということで,④で特定物の引渡しの権利義務はないということになっておりますけれども,その引渡しが対抗要件になるような特定動産に関して,その遺産分割方法の指定がされているという場合についての執行者の権限というのは,これはどういうふうに理解をすればよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 この点については,③の特定の財産のところに動産と書いてありますように,動産の場合は引渡しが対抗要件になりますので,動産について相続させる旨の遺言がされた場合には,引渡しまでしなければいけないと。それは正に対抗要件として必要だからそういった権限があるということでございまして,その意味で,④は,逆に言いますと,対抗要件にならない場合については引き渡す権利義務はないということを定めたというものでございます。
○垣内幹事 それで理解できたように思うのですが,合わせて19ページの当事者適格との関係で,ⅳのところの動産引渡請求訴訟等というところについても同様で,対抗要件の具備行為として引渡しが権限だという場合については,動産の引渡請求訴訟の被告にもなり得るということになりますでしょうか。
○堂薗幹事 すみません。今の御説明とは若干矛盾しているのかもしれませんが,動産の場合ですので,ここはそうなると思います。
○垣内幹事 ありがとうございました。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  最初に浅田委員から出された権限の明確化について,特に新たな規定を設けていただきたいという点,それから相続人の処分権限をどうするかという点,それから中田委員から出ておりましたけれども義務の点,それから解任や権限喪失等についてどうするかという点などが今までに出ているかと思いますけれども,そのほかの点につきまして,何か御指摘がございましたらお願いいたします。
○村田委員 やや細かいところですけれども,⑪では,家庭裁判所が一定の場合に新たな遺言執行者を選任したり代理人を選任したりすることができるとされています。実際上どのぐらいあるかは正直分からないのですが,仮に遺言で遺言執行者はこの人だという指定をして,かつその人以外は駄目だよというようなことまで念には念を押して意思表示がされているようなケースがあった場合には,遺言で指定された方が解任されない限り,家庭裁判所としては,他の者を新たな遺言執行者として選任することはできないことになるのでしょうか。また,そのような場合でも,家庭裁判所としては,代理人の選任をすることはできるのでしょうか。今の段階でイメージがあれば教えていただきたいのですが,仮にまだそこまではということであれば,今後もしこの方向で検討が進むということになった場合には,そういった点についても御検討いただければ有り難いなと思います。
○堂薗幹事 今の点は検討したいと思いますが,ここでは⑧や⑨はこういう正当な事由がある,あるいは任務に適しない事由がある場合は遺言でどういう定めがされていようと辞任を認め,解任を認めるということになろうかと思いますので,むしろ遺言の中で非常に強い意思が表れている場合というのは,⑩の相当性の要件のところでは考慮要素になると思いますが,基本的にはそれ以外のところでは,必ずしも考慮要素にはならないのではないかという印象を持っております。
○大村部会長 よろしゅうございましょうか。そのほかいかがでございましょうか。
○浅田委員 第9ではないのですけれども,二読が終わる前に一言申し上げたいと思います。
○大村部会長 はい。
  それでは,遺言執行者の権限につきましては本日いただきました御意見を踏まえまして,更に検討していただくということをお願いしたいと思います。
  残りの時間で資料10の方の相続法制の見直しに関する各論点の補充的な検討ということで,既に御検討いただいております論点ですけれども,更に御意見を頂きたいということを4点に分けて準備を頂いております。
  それでは,まず第1について事務当局の方から御説明を頂きます。
○渡辺関係官 それでは,関係官の渡辺の方から第1について御説明いたします。
  今回の提案は,部会資料8の甲案について第8回部会での御議論を踏まえて修正をしたというものでございます。内容的には遺留分を金銭債権化するという①,②の部分と,現物返還の方法を定める③,④あるいは③′という二つの部分に大別されます。
  まず補足説明の1の「部会資料8からの変更点」を御覧ください。部会資料8では,遺留分権利者は金銭債務の履行がない場合には,現物返還を求めることができるものとしておりましたけれども,第8回部会では,このような規律があることによって制度が複雑化するといった御意見が多かったところでございます。また,部会資料8では例外的に現物返還となる場合の手続についても提案をしておりましたけれども,手続の詳細についての疑問であったり,遺留分制度が複雑化することへの懸念などが第8回部会において示されたところでございます。
  そこで本部会資料におきましては,これらの御指摘を踏まえまして,例外的に現物返還となる場合の手続やその具体的内容について改めて検討を加えさせていただきました。③,④あるいは③′がこの部分に当たります。
  そのほかにも金銭債権の行使期間に関する規律等についても若干の修正をさせていただいておりまして,それが①,②に当たる部分でございます。
  次に2ページの2の「遺留分権利者の権利行使について」でございます。
  部会資料8では,「遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,相当の期間を定めて,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができる」こととしておりました。前回の提案も,遺留分減殺請求が行使上の一身専属性があるという点を見直すという趣旨ではございませんで,遺留分権利者の権利行使の意思表示があって,初めて金銭債権が発生するということを前提としておりましたけれども,この点が明確ではございませんでしたので,本部会資料では,遺留分権利者の権利行使の意思表示とそれに基づく金銭請求,これを分けて記載するということにしております。
  なお,当初から金額を特定して金銭の支払を求めた場合には,これらの意思表示が含まれているということになりますので,実際の手続が煩雑になるということはないものと考えているところでございます。
  続きまして,3の「一定期間について」でございます。
  今回は遺留分減殺請求によって金銭債権が発生しますが,遺留分権利者が実際にその金銭債権を行使するためには,一定の期間を定めて遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めなければならないということとしております。これによって受遺者又は受贈者は,その期間中は金銭債務の支払をしなくても履行遅滞責任を負わないということになります。また,案-1を採用した場合には受遺者又は受贈者はその期間内に所定の手続をとることによって,遺留分権利者に対し,金銭の支払に代えて現物を返還する旨の主張をすることができることになりますが,その旨が主張された場合にも受遺者又受贈者は,その内容が確定するまでの間,履行遅滞責任を負わないということを想定しているところでございます。
  このように②の一定の期間というのは,受遺者又は受贈者にとりましては金銭を準備する期間であるとともに,案-1を採用した場合には現物返還によることとするか否かの選択をするための熟慮期間としての性格も併せ有することになるものと考えられますので,相応の期間を設ける必要があるように考えられます。この点につきましては部会資料では,相続の承認又は放棄すべき期間を定めた民法の規定を参考に3か月を下ることができないということに一応させていただいております。
  以上が金銭債権に関する部分でございまして,引き続きまして現物返還の方法に関する部分,提案で申しますと③以降についての補足説明に入りたいと思います。
  4の「例外的に現物返還となる場合の手続について」を御覧ください。
  遺留分権利者が取得する権利を金銭債権といたしますと,受遺者又は受贈者としては遺留分権利者に支払うべき金銭を用意することができず,現物で返還することを希望することも想定されますので,金銭の支払に代えて現物返還をすることを可能とすることが考えられるところでございます。
  もっともその方向性につきましては,減殺対象財産に限定せず,合理的に定めることができるようにするという方向性と,減殺対象財産に限定した上で,現行法上の価額弁償の抗弁のように受遺者又は受贈者の選択に委ねるという方向性が考えられるところでございます。
  案-1につきましては,前者の方向性を指向するものでありまして,返還すべき財産を合理的に定めることができるというメリットがある反面,返還すべき財産を定める手続,これを新たに構築する必要があるという点に課題が残るというものでございます。
  案-2は後者の方向性を指向するものでありまして,返還すべき財産を合理的に定めることができない場合が生じ得ますが,手続的には簡略になり得るのではないかというところでございます。
  それでは,3ページの5の「案-1について」御説明を致したいと思います。
  受遺者又は受贈者から遺贈又は贈与の目的財産を返還する旨の主張がされた場合には,まず当事者間で協議をしていただくということになります。そして当事者間の協議が調わない場合には遺留分を侵害された者又は受遺者若しくは受贈者の請求により,裁判所でその内容が定められるということになります。
  この場合には,裁判所は遺留分侵害額を確定させた上で受遺者又は受贈者に対し,金銭の支払を命じ,又はその支払に代えて遺贈又は贈与の目的財産を返還するように命ずることになるということを想定いたしております。なお,この手続につきましては共有物分割請求同様に,地方裁判所における形式的形成訴訟といったものを現時点では考えておるところでございます。
  更に,金銭の支払を命ずる場合に分割払いの定めをするということや,あるいは第8回の部会においても御指摘を頂きましたけれども,遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産を全部取得させて,遺留分侵害額を超える部分について代償金の支払を命ずるといったことができるようにするといったところも考えられるところかと思います。
  次に,4ページの6の「案-2について」でございます。
  現行法の遺留分制度では,受遺者又は受贈者は原則として現物を返還すべき義務を負い,例外的に目的物の価額を弁償することによって現物返還を免れることができることとされておりますが,案-2はこの原則と例外を単純に逆転させるというものでございます。
  案-2によりますと,受遺者又は受贈者の選択によっては現行法と同様に共有等の複雑な法律関係が生ずることになり,その場合には別途,共有物分割等によって解決をしなければならないということにもなりかねません。もっとも,案-2を採用することにより,遺留分権利者の意思表示によって直ちに共有等の複雑な法律関係が生ずるといった事態は回避することができますし,最終的に共有等の法律関係を受け入れるか否かについては,受遺者又は受贈者側の選択に委ねられるということになりますので,事業承継等の場合においてはそれなりの意義を有するということも考えられるところでございます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  前回の部会資料8で示された案につき頂いた御意見を踏まえて,再度御提案いただいたということでございます。前回は,遺留分権利者の側から金銭債務の履行がない場合に現物返還を求めることができるという趣旨の御提案がされておりましたけれども,これについて否定的な意見も多かったということで,今回のような形で整理をされ,かつ現物返還の方法につきまして選択肢を示しておられるということかと思います。
  御意見あるいは御質問等ございましたら,お願いいたします。
○上西委員 「一定の期間」についてです。今回の資料では相続の承認又は放棄をすべき期間を定めた民法915条1項の規定を参考に,3か月を下ることはできないとなっています。ということは,3か月をもって期限となるわけです。現実に3か月という熟慮期間で,前提となる財産の調査が十分に終えることができるかどうか疑問です。百か日が終わるまで動かないというような家もあるかもしれませんし,それに915条のただし書で,この期間は利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長することができるとありますので,今回の3か月を期限とすることについても一定の伸長期間を想定されておられるのかどうかです。あった方がよいと私は思います。その点について教えていただければと思います。
○堂薗幹事 一定の期間をどう定めるかというのは,これから詰めて検討すべきところだろうと思っておりまして,民法915条参照といいましても,飽くまで参考にしたという程度でございまして,全く問題状況は違いますので,この期間についてはいろいろな考え方があり得るのだろうと思います。ただ,ここでは915条とは異なり,3か月を更に伸長するとかそういったところは特に考えておりませんで,むしろもっと期間が必要なのであれば,この3か月というのをもう少し長い期間にした方が基準としては明確になるのではないかという気はいたしますけれども。
○上西委員 伸長することができるとの規定を想定されていないのでしたら,もう少し期間が長い方がいいのかなと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○石井幹事 確認をさせていただきたいのですけれども,今回の御提案ですと,遺留分権利者が①の減殺請求をすることで金銭債権が発生するが,②の期間内にこれを行使することはできないという理解でよろしいでしょうか。また,②の期間内に協議を行ったものの,協議が調わなかった場合には改めて金銭請求をすることはできるのでしょうか。
○堂薗幹事 前者の点は御指摘のとおりです。後者の協議というのは,この③の請求があったという前提でしょうか。
○石井幹事 ③の請求があって協議をした結果,協議が調わなかった場合を想定しています。
○堂薗幹事 ③の方に移行しますと,協議が調わない場合には裁判所の方で定めるということで,裁判所の方でそれを定めて,裁判が確定した時点で,その権利の具体的内容は定まるということになります。その場合に,その遡及効を認めるかどうかは検討の余地はあるかと思いますが,現行の遺留分減殺請求権について,例えば価額弁償の抗弁が出された場合に判例の考え方からすると,実際に弁償されれば遡ってそもそも遺贈又は贈与は取り消されなかったという扱いをするということだと思いますので,ここも同じように考えれば,裁判によって権利が定められたことにより,この③の請求をした時点からそういう権利関係だったという前提で,あと果実の返還とかそういった必要な処理をしていくことになるのではないかと思います。
○石井幹事 ③の請求というのは訴訟外でもできると理解をしたのですけれども,③の請求がされた以上,協議が調わなければ④の訴訟手続に進むしかないということなのでしょうか。
○堂薗幹事 もちろん協議で,当事者間で金銭請求一本でというのは可能だと思いますので,③の現物返還の抗弁が出たとしても,話合いではいかようにでも定められると思いますが,基本的にはそういった抗弁が提出されれば,話合いがまとまらない以上は裁判所で決めてもらうしかないということではないかと思います。
○大村部会長 石井幹事,よろしいですか。
○石井幹事 はい。
○増田委員 今の石井幹事がされた質問をしようと思っていたのですが,それに加えて金銭債権が③の段階で消滅すると考えた場合,そのときの金銭債権の価値というのは権利として生きているのかどうかということを質問させていただきます。というのは,③の段階以降は,一旦,具体的権利として発生した金銭の請求権が裁判所が決める抽象的な請求権に変わってしまうという理解になるとすると,物の価値が滅失したり毀損したりすることによって財産全体の価値が下がった場合に,裁判所はいかなる価値をその減殺者に与えるということを目指して判断すべきかどうかという点,これが一つです。
  もう一つはちょっと別の話なのですけれども,この④の裁判において,裁判所はどのような基準でもってその物を選択するのかということです。例えば受遺者の方が③のときに,Aというものを渡しますと言ったと。そうすると減殺者はAは要らないからBをくれと言ったと。そのときに裁判所がCを返せということもできるという内容だと思うのですよね。その場合にどのような基準で決めるのか,そういう基準を定立することが果たしてそもそもできるのかどうかというところも含めて,お願いしたいと思います。
○堂薗幹事 まず最初の点ですけれども,基本的には①,②の段階で金銭請求権が発生するということになりますが,受遺者又は受贈者の方で③の抗弁を出すことによって,その金銭請求権が変容し,一定の価値を有する物や金銭を返還すれば足りるというものに変わることになるのではないかと思いますので,そこについて当事者間の協議が調わなければ,最終的には裁判所で定めることになりますが,その一定の価値,要するに金銭とその余の財産を合わせた総体的な価値を幾ら返せばいいのかという点については,基本的にその遺留分減殺請求をした時点で定まるということになるのではないかと思います。
  その辺りについてはまだ十分に詰めて検討できておりませんので,今後案-1の方向でいく場合には詰めて検討していきたいと思いますが,現時点ではそのように考えております。
  それから選択の基準でございますが,これは仮にこういった形で規定を設ける場合には,やはり裁判所がそれを決めるに当たって考慮すべき事情はある程度条文に書く必要があるのではないかと思いますが,その場合に基本的には遺言者の意思ということもあるでしょうし,受遺者側あるいは遺留分権者側でその財産を必要とする理由ですとか,あるいは元々現行法ですと,返還すべき財産というのは決まっておりますので,仮に案-1のような形で規律を設けた場合にも,基本的には現物を返す場合には新しいものから返していく方が受遺者側,受贈者側の受ける不利益というのは少ないのではないかというところもありましょうし,そういったある程度の基準を定めるということはできるのではないかと思います。
  ただ,最終的には共有物分割などでも同じですけれども,その決め方にはいろいろなやり方がありますので,最終的には裁判所の裁量で決めていただくほかはないということになります。ですから,遺留分権利者側でAが欲しいと言い,受遺者側で例えばBが欲しいと言った場合には,もちろん当事者の意思というのも考慮要素にはなるでしょうけれども,そういった当事者の意思とは異なる財産を裁判所が決めていいかというのはかなり問題だとは思いますが,必ずしも当事者の主張には拘束されないということになるのではないかと思います。
○渡辺関係官 今の点,ちょっと補足させていただきますと,3ページの一番下の注2のところを御覧いただければと思いまして,一応,現時点で何か基準的なものなりを書くとしたら,こんなことが考えられるのではないでしょうかということで,例えばという形で入れさせていただいておりまして,これは現行法の906条をちょっとリニューアルした程度というものでございまして,これで十分書き切れているかどうかというところにつきましても御議論等,御見解等を頂ければなと思っているところでございます。
○村田委員 ①の遺留分減殺請求の意思表示で金銭債権自体は発生し,②は遅延損害金の起算点を定めたようなものと考えていたのですけれども,仮にそうした理解が正しいとした場合には,①の遺留分減殺請求をした段階で,当該金銭債権を被保全債権として仮差押えをすることができるのでしょうか。仮に,そのような理解で間違っていないとしますと,その後,受遺者,受贈者の方から③のような現物返還の主張があったときには,当該仮差押えの被保全債権とされている金銭債権の消長はどうなるのでしょうか。頭の整理のために教えていただければと思うのですが。
○堂薗幹事 一応,①で金銭債権が発生しますので,しかも客観的には金額が決まっているということになりますので,仮差押えは可能なのだろうと思いますが,ただ,この金銭債権は受遺者,受贈者側に抗弁権が付着した金銭債権ということになりますので,受遺者,受贈者側でそういった現物返還の抗弁を出した場合には,その部分,すなわち現物で返還すべき部分については空振りということになろうかと思います。
○山本(和)委員 今の一連のお話との関係なのですが,この3ページに書かれてある代償金の支払というのはまだ分かるのですが,支払時期の定めとか分割払いの定めもできると書かれているのですけれども,今のお話でも,金銭債権が一旦は発生して,しかし③の抗弁で一旦,それは消滅し,それで④の裁判で新たに金銭債権が再び発生し,それについて分割払いの定めをすることを認めるということになるとは思うのですけれども,そうすると,③の抗弁というのは物で返しますという抗弁をしているのだけれども,裁判所はやはり物ではなくて,お金で返すのが相当だと。ただ分割払いを認めますということができるということだと思うのですけれども,そうすれば,この③の抗弁というのが自分はお金で返すのは結構だけれども,直ちには返せないので分割払いにしてくださいと言ったときには,それはできないのですよね。
○堂薗幹事 この3ページの分割払いや期限の猶予については,オプションとしてあり得るのではないかという程度で,まだこの第1で挙げている方策の中には組み込んでいないという前提なのですけれども,仮にこういったものまで含める場合には,それは金銭で返すのはいいけれども,すぐには返せないので分割でお願いしたいというような主張が出た場合に,それに応じて裁判所が定めることができるということは考えられるのではないかと思います。
○山本(和)委員 前回の提案は,物で返すと言った場合に物がどれかを裁判所が定めることができるというような提案だった。それは何か形式的形成訴訟というか,一種のそこは非訟的な,その部分を非訟的に処理するというのは理解ができるところがあったのですが,今,堂薗さんが言われたところまでやるとなると,一旦発生した金銭請求権について,今お金は返せないですと言ったら,それがもう,その権利が非訟的な処理の対象になる。それが消滅して非訟的な処理の対象になるというのはなかなか,それを果たして理論的に説明できるのだろうかということは率直に言って疑問があります。そこまでやる必要が果たしてあるのかなとは思います。
○堂薗幹事 今のところはまだ詰めた検討はできていませんが,ただ,金銭請求が発生するとしても,いきなり全額返せと言われますと,受遺者,受贈者側は,特に善悪を問わずに遺留分減殺請求の相手方になりますので,不利益を受けるということもあろうかと思います。元々,遺留分の制度趣旨が遺留分権利者の生活保障等にあるとしますと,一定の価値がある財産を遺留分権利者に返さなければならないとしても,その弁済期についてはある程度柔軟に定めてもよいのではないか,そのような制度設計をしても遺留分制度の趣旨には必ずしも反しないのではないかというところもございまして,こういった考え方を取り上げているところでございます。ただ,御指摘のような理論上の問題点はあろうかと思いますし,遺留分減殺請求権については,現段階では現行法と同じように地裁の訴訟手続で行うという前提ですので,そういった場合にこんなことまでできるのかというのは非常に大きな問題としてあるのではないかとは思っております。
○大村部会長 よろしいですか。
○垣内幹事 先ほどの村田委員の御質問とも関係する点で重なるところがあるかと思うのですけれども,今回の御提案の第1の①と②のところでは同時にやることも妨げないということでありますが,一応,①の意思表示と②の催告というか請求というか,これは別個のものだと理解をされているということだと思うのですけれども,そのように解しなければならない,両者区別して別個の行為としてもできるというふうにする必然性がどこまであるのか,という点についての御質問が一つと,それからもう一つは,仮に分けて考えたときの帰結として,先ほどのやり取りを拝聴いたしますと,基本的には①の意思表示の時点で,行使上の一身専属性が失われるという理解を前提とされているのかなと理解したのですけれども,そのように解する必然性があるのかどうか,というのが2点目でございます。
  と申しますのは,例えば①の意思表示だけがあって,まだその特定的な請求はされていないという段階で債権者代位なり,あるいはその破産手続が開始されるということがあったときには,行使上の一身専属性がないということになりますと,これは破産財団に含まれて,管財人が②の請求もするし,その後,協議があれば,それも管財人がやるといった解釈論もあり得るところかと思うのですけれども,それで本当によいのかということと,若干,別の局面と申しますか,性質のものになりますけれども,例えば名誉棄損に基づく慰謝料の請求に関しては,これは基本的には行使上の一身専属性があるとされておりますけれども,関連的にはあれは不法行為があって,不法行為の時点で抽象的には金額も定まったものとして発生しているという理解はできなくもないものではないかと思いますが,しかし,一身専属性との関係では正に慰謝料の金額が争われる訴訟の当事者適格は破産管財人にはないというのが判例の立場ですので,その金額が債務名義等で客観的に確定すれば,それは一身専属性が失われるのだけれども,そこまでの間は一身専属性がある種,存続するというような考え方もそちらではされているということがあるようですから,そういうことを考えますと,こちらの遺留分権利者の権利行使に関しても,どの段階がそれに当たるのかというのはそれ自体,幾つかの選択肢があろうかと思います。ある程度,金額がきちっと決まったとか返還すべきものが特定されたとかいった段階で,一身専属性が失われるというような考え方も全くあり得ないものではないのかなという感じもいたしまして,その辺りについて御検討されている点がありましたら,お教えいただければと思います。
○堂薗幹事 まず①と②を分ける意義として,遺留分減殺請求権の場合には権利行使の期間が比較的短期間でございますので,金額を特定しなくても減殺の意思表示をすれば,そこはクリアできるという面が一つあろうかと思います。
  この①の意思を表示しただけでそういった行使上の一身専属性を失わせていいかという点については,確かにいろいろな考え方はあるかと思いますが,例えば名誉棄損に基づく損害賠償請求権については,正に本人がどう感じるかとか,本人の慰謝料的なところがありますので,その権利行使について本人の意思を尊重するというところはあろうかと思いますが,遺留分減殺請求権の場合にはある程度客観的に算定できますので,遺留分権利者の方で権利行使の意思表示をした場合には,そこで行使上の一身専属性をなくすということにもそれなりの合理性はあるのではないかと思っております。
  ただ,この点については特に定見があるわけではございませんので,更に御意見を頂ければと思いますけれども。
○餘多分幹事 御質問ですけれども,協議が調わなかった場合については形式的形成訴訟というようにお考えのようですが,その請求とか主張の拘束力ということについてどのようにお考えなのでしょうか。遺留分減殺請求権者が幾ら請求すると言ったときに,その請求とか主張に拘束されるのかというところについては,形式的形成訴訟だということになると,そこも分け方だけではなくて,どのぐらいの金額を認めるかとか,どういう根拠に基づくかというところも含めて,裁判所の裁量的な判断になるというお考えなのでしょうか。
○堂薗幹事 まず,この金銭債権の①,②の段階ですけれども,その場合に客観的な金額というのは財産の価値等で決まるという前提ですので,この部分については基本的には当事者の処分に委ねていいところではないかと。したがって,要するに遺留分権利者が例えば500万ということで請求しているにもかかわらず,計算をしてみたら600万あったので裁判所が600万を認めていいかというと,そこは必ずしもそうではないのではないかなとは思っております。
  ただ,500万円の価値返還請求権があるとした場合に,その価値をどういう形で返還するかという点については,特に実体法上,決まったものがあるわけではございませんので,そこについては裁判所が裁量で決めると。したがって,その点については裁判所は必ずしも当事者の主張には拘束されないということになるのではないかと現段階では整理しておりますが,余りほかの訴訟でそういったものは見当たらないような気もしますので,そういった考え方で問題ないかどうかという点については慎重に検討する必要があると思っております。
○餘多分幹事 今,堂薗幹事がおっしゃったように,多分,共有物分割訴訟とはまた違う類型の訴訟のようにも思うので,もしこういう形で進めるのであれば,この訴訟の内容についてはよく詰めていただけると実務をやる上では有り難いと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 2点あります。一つは,①と②を独立した二つとする必要が本当にあるのかということです。既に繰り返し御指摘が出ていることだと思うのですけれども,意思表示がないと駄目だということと,遺留分減殺の請求をされたときに何が回復されるかという中身が金銭をもって回復するということ,さらに,それが遅滞に陥るのはいつからであるということを書けば,二つの意思表示だとか二つの請求のような構成をする必要はなくて,むしろおっしゃることにはそちらの方がかなうのではないかと思うものですから,そのような考え方もあるのではないかということで,一つの考え方として更に御検討していただければと思っております。
  それから,もう一つは,これも石井幹事や増田委員が御指摘になって,質問の形で御提案になったことなのではないかと思うのですけれども,いつまで金銭で返せるかという方なのですけれども,案自体はこの現物返還の抗弁と言われる抗弁を行使すれば,もはやその金銭返還の方は消えてしまって,一種,更改的な効果が生じるという考え方だと理解しています。しかし,これも代物弁済の合意があったときにどうなるか。いつまで,例えば金銭債権だけれども,代物弁済の合意をしたとき金銭債権として返せなくなるのはいつかというのは,当然に代物弁済の合意で返せなくなるわけではないと思いますし,可能性としては幾つかの可能性がありますので,いつまでなら,なお金銭で返せるのかは検討の余地があると思います。もちろん最初,金銭で返せないから現物にという抗弁を出したのだけれども,協議が調わないということであるならば,何とか工面して金銭でいった方がまだいいという場合はあり得ると思われます。それから,この構造自体としては,説明は飽くまで金銭が原則で,例外的に現物返還をするときの各種の手続であるということならば,原則が可能であるならば,なるべく後まで原則ができたらいいという考え方もできると思います。ただ,弱体化するのは問題なので,やはり金銭にしますというのでは駄目で,現に提供しなければいけないとか,何かその弱体化しないようにというところの調整はできると思うのですけれども,原案が唯一の考え方ではないように思いました。
  そして御質問の趣旨として,それが唯一ではないのではないですかというか,そういう考え方の方があるいは望ましいかもしれないではないのですかという御意見を含意していたようにも思うのですけれども,そのような考え方では非常に問題があるという点があるのでしょうか。更改的にこの段階でもう金銭のルートは消してしまうべきだということを積極的に基礎付けている考慮はあるのでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,一旦③の主張をしたからといって,金銭で返せるのであれば,それほど問題はないようにも思われますので,その点については御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
○浅田委員 預金債務者の立場から意見と質問を申し上げます。そもそもの話ですけれども,現行法の下では預金が遺贈されたとしても,相続人の遺留分減殺請求権行使とともに遺贈されたはずの預金の一部が請求者に復帰するということになります。すると,銀行とすれば誰を払戻しの相手方にしてよいのか分からなくなるという点で困ることがあります。
  その点,今,議論されています遺留分の金銭債権化という方向性は従来から申し上げているとおり,債務者が抱えている問題の解決につながるものであり,基本的に賛成できるものであります。
  その上で本案を検討したところ,案-1に関しましては協議又は裁判所の決定を経ない限り遺贈された預金の帰属は変わらない,変わることはないわけですから,原則としては預金債務者としては比較的安定的な制度であると評価できると思います。
  一方で,案-2では,受遺者は請求者に目的財産を返還して金銭債務を免れるとあります。また案-1でも裁判所の判断次第では目的財産の返還ということになると思います。そうしますと,これらの案ではどの時点で目的財産が請求者に復帰すると考えてよろしいかという質問があります。
  といいますのは,現行法のように銀行が知らないうちに預金の帰属が変わってしまうということになれば,債務者としては余りこの問題が解決していないように思いますものですから,そのような問題意識からの御質問を差し上げたいと思います。
○堂薗幹事 まず,前提として遺贈なり贈与がされた,特に預貯金債権等について遺贈がされた場合でも,法定相続分を超える部分については対抗要件が必要だという規律を前提にいたしますと,そもそも受遺者,受贈者側でそういった点の対抗要件を具備しない限りは,その目的となる預金債権全体については債務者にも対抗できないということになります。他方,受遺者側が対抗要件を具備していない段階で遺留分減殺請求がされた場合については,遺留分権利者の側から見ますと,遺留分減殺請求をしたとしても,その預金債権を請求する額が法定相続分の範囲内であれば,それは債務者に対しては対抗要件を具備しなくても請求できるということにはなるのではないかと思います。
  ただ,遺贈や贈与については減殺の順序が定められておりますので,減殺された結果,預金債権全部についてその遺留分権者が取得する,したがって法定相続分を超える部分も含めて取得するということになりますと,法定相続分を超過する部分については対抗要件が必要となるということではないかなと思います。
○浅田委員 対抗要件の具備というのは一つの方法だと理解はしております。ただ,一方で前回の会議では,遺産分割による変動について債権譲渡通知を銀行に送る意味が乏しいという指摘もあったわけですので,全体の制度の設計を見た上で,ここも調整する必要があるのかなと思いました。
○大村部会長 では,それは更に御検討いただきたいと思います。
  そのほかはいかがでございますか。
○中田委員 先ほど来,何人かの方から出ております①,②の関係ですが,私もこれを分ける必要がどこまであるのかという気はしています。多分,分ける理由は二つあって,行使上の一身専属性を確保するということと,当初は金額を特定することは不要であるということだろうと思います。この2面あると思うのですが,行使上の一身専属性を保つためには必ずしも分けなくていい。これは何人もの方がおっしゃったとおりでして,例えば遺留分を侵害されたものは遺留分減殺請求をして,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができると言えば,それで済むわけですね。そうすると,専ら当初は金額の特定が不要だということのメリットをどこまで重視するかです。それに対するデメリットは二つあって,一つは,①と②の間の法律関係が不明確になるということです。もう一つは,①が非常に簡単にできてしまうのではないかということです。金額も,対象となる財産も特定が不要で,単に遺留分減殺請求をしますといえば,それで済む。他方で②についていうと,後のことを考えると過大な請求をする可能性があるのではないかと思います。ですので,分けることによるメリットに対して,今言ったようなマイナスがどのくらいあるのかということの比較が必要かと思います。
  もう一つは,②と③′との関係が余り出ていなかったのですけれども,これはどう考えたらよろしいのでしょうか。先ほどの②から③に行くルートとは違って,②から③′に行く場合には,特に金銭債権の性質は変わらないで残るのではないかなと思ったのですけれども,そうするとこちらもシンプルで,むしろ案-2というのもなかなかいいなと思ったのですが,今の②と③′との理解はそれでよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 これは現行の規律をまた逆にするということですので,返還するまでは引き続き金銭支払義務としては残っていて,現実に返還するなり,その提供するまではそういうような状態になるのではないかと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでございましょうか。
○浅田委員 今度は銀行が行う遺言信託業務の立場,銀行の執行者としての立場から御質問いたします。今回の部会資料では,遺留分減殺請求権の行使の相手方に遺言執行者がなるかどうかという点についてははっきりしていないように見えますが,この点についてはどのように考えるべきでしょうか。
○堂薗幹事 少なくとも金銭債権にした場合には,その受遺者又は受贈者にそれを請求するだけで,遺贈や贈与はそのまま効力を有するということになるかと思いますので,遺言執行者は相手方にならないのではないかと。現物返還の場合も,それは飽くまでも一定の価値を遺留分権利者に返すということであって,その点について遺言執行者を相手にする必要はないのではないかと思っております。
○大村部会長 よろしいですか。
○浅田委員 はい。
○増田委員 今の点は多分,案-2で③′が出たときにのみ,きっと問題になるのではないかなと。要するに現在と同じ状況になりますので,そこで遺言執行者に対して行使するかどうかという点が問題になってくるのかなと思います。
  取りあえずそれで,次の質問は第2のA案を採った場合に,このA案では相続人に対する請求は遺留分でなくて,最低限相続分という形になっていますが,これも同じ処理になるのかどうかというのをお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 それは遺言執行者との関係ですか。
○増田委員 いや,そうではなく,そもそもの第1の遺留分減殺請求権の法的性質についての見直しの,金銭債権化というのが,第2のA案を採った場合の最低限相続分にも適用されるのかどうかという質問です。
○渡辺関係官 それは後ほど御説明しようかと思っているところではありますけれども,A案を採った場合の最低限相続分制度につきましては,一応こちらの方で現時点で想定しているのは,基本的に家事事件としてやってしまおうと考えておりますので,ここで言っている第1そのものとは違うものを現時点では想定しておりますけれども,ただ,そこは組合せとして,それが駄目だと,できないというわけではないと思います。
○大村部会長 第2のA案につきましては,またそこのところで更に御質問があるようでしたら出していただきたいと思いますけれども,増田委員,今のお答えで一応よろしいですね。
○増田委員 先に意見を申し上げておきますと,せっかく金銭債権化をして単純明快にするのに,相続人間では家事事件として残すということについては,余りよろしくはないのではないかと,せっかく単純化したものがまた複雑な世界に放り込まれるのではないかという懸念があります。
  それともう一つ,案-1,案-2の問題についての私の意見としては,案-1というのは,うまくいけば魅力的な制度だと思いますけれども,途中の手続についてはかなり難しい問題があるのではないかと思いますので,手続がうまく組めれば案-1がいいかなと。ただ,そこで支障を来すようだと単純金銭債権にしてしまうか,案-2になるのかというところかなと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承ります。
○上西委員 増田先生の御意見と重なるのですけれども,この4ページの案-2についてです。最後のところで,その共有等の複雑な法律関係が生ずる可能性を示唆された上で,最終的には共有等の法律関係を受け入れるか否かについては受遺者又は受贈者の選択に委ねられることから,特に事業承継等の場面では,相応の意義を有すると書いてあります。しかし,財産に選択肢が少ない場合は,共有関係が発生しやすいことが懸念されます。
  その点,案-1は手続的には確かに煩雑になる面があり,その点と比較考慮することになりますが,その手続が多少複雑になる程度で解決するのであれば,案-1にした方が共有関係はより回避しやすいことになります。事業承継の観点から見れば案-1を推奨したいと思っているところであります。
○大村部会長 ありがとうございます。今,案-1,案-2につきまして御意見が出ておりますけれども,その点につきまして何かございますか。
○水野(紀)委員 時効のことを考えております。先ほどの中田委員の御意見にもありましたけれども,現状では,取りあえず減殺請求しておいて後でその中身を考える,つまりゆっくり計算できるというメリットがあったように思います。遺留分の減殺請求権は1年という短い期間です。それは変更しないという前提ですね。
  どうも自分は遺留分を侵害されているらしいということに気付くまでの期間として,1年はかなり短いという気がいたします。いつもこの話で申し訳ないのですけれども,フランス法では全部,公証人のところで,6か月以内に相続手続をやってしまうという前提です。特別受益などの計算も,遺言についての把握や実行も,公証人のところでされていて,その上で,あなたは遺留分が侵害されているので減殺請求できますよ,では遺留分減殺しますということになる仕組みです。日本法は,そういう仕組みの条文をばらばらともらってきているのに肝心の公証人慣行がないまま動かしていますので,遺留分減殺請求者の方で全ての事情を察知して,自分で行動を起こさないといけない状況にあります。
  そういうことまで考えますと,やはり1年以内にきっちりと請求するのは相当厳しい。取りあえず遺留分侵害があるらしいので減殺請求をしたいことを言っておくというのと,結局それが幾らに当たるのかというところまで詰めて請求するというのは,違ってくるのではないでしょうか。後者は,もう少し,主張するための,計算するための時間を与えてやる必要があるように思います。
  それから,これは質問なのですけれども,遺言執行者が遺言実行に取り掛かるのには,時間的な制限はないですね。そうすると,そのことと遺留分減殺請求権者がどの時点まで減殺請求できるかということとの連動性は,図られないことになっている前提でしょうか。
○堂薗幹事 要するに遺留分減殺請求がされるような場面で,遺言執行者がどういう対応を採るべきかというところは一つ問題になるかと思うのですが,こちらの整理では,遺言執行者というのは飽くまで遺言者の意思を実現するために行動すればいいということで,遺留分減殺の恐れがあろうと,就任後,直ちに基本的には遺言に沿って行動すればいいと。したがって,遺贈がされていればその目的物全部について登記をするという前提で考えておりますので,それに対して仮にそこを止めたいのであれば,遺留分権者の方で何らかのアクションをとらなければならないということで考えております。
○大村部会長 水野委員,よろしいですか。
○水野(紀)委員 はい。
○窪田委員 すみません,ごく小さな点なのですが,今の点に関連して1点だけ確認をさせてください。現行の1年の期間制限は維持する方向でということではあったのですが,1年の期間制限の中で行使すればいいのは①だけなのですか。
○堂薗幹事 一応こちらの整理ではそうで,その場合に①だけ1年でやった後,あとは一切そういう期間制限がなくていいのかというところは問題としてあろうと思います。
○窪田委員 あるいは一般の債権の消滅時効に関わるということかもしれませんが,ただ,遺留分減殺請求権というのは金銭債権化されるとしても,既に自分なりにもうもらったと思っていたもの,そうしたものについてひっくり返すという意味もありますので,もちろん自分が遺留分を侵害されているかどうか分からないから,じっくり時間を掛けたいというのもあると思います。相手方の立場からすると随分不安定な状況をもたらすのではないのかなと思いますので,本当に①だけで大丈夫なのかなという点は気になります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今まで,①,②を分けるということについて,別の考え方もあるのではないか,あるいはこれには不都合があるのではないかという御指摘と,それから現物返還の方法につきましては案-1,案-2につき,案-1がうまく組めるならば,それはそれがいいかもしれないけれども,金銭で処理できるのがどこまでなのかということも含めてなかなか難しい問題もあるかもしれない,そうすると案-2が簡明かもしれないという趣旨の御意見が出ているかと思いますが,そのほか何か御指摘ございますでしょうか。
○西幹事 すみません,前回のこの部分の審議の時に欠席してしまいまして,まだ私は今回のこの案の現行法との違いと申しますか,意義が十分に理解できていないところがありますので,その観点から比較的大きい問題の確認ないし質問2点と,小さい質問が1点ございます。
  1点目ですけれども,今回の遺留分の価額弁償を原則化するという案の意図は,最初に御説明があったところでは事業承継の妨げになるのを避けたいということであったように記憶しております。事業承継の妨げになることを避けるという意味では,現行法の下でも現物減殺された場合に価額弁償を受恵者が選択することはできます。今回の案に新しいと申しますか,大きい意義があるとすれば,そもそも遺留分権利者の方から現物減殺の請求をすることが絶対にできなくなるということなのかもしれません。サブ的な意義は,受恵者の意思表示がなくても,遺留分権利者の方から価額の弁償を請求できるという,あわせて恐らくその2点だと思いますけれども,それでよいのか,それが本当に今回の改正の意義ということでよいのかということを確認させて下さい。
  2点目は,今回の案では金銭債権化というふうに先ほどから一言で言われていますけれども,恐らく金銭債権の中にも幾つかランクがあって,扶養債権とか貸金債権とかいろいろあると思いますけれども,今回,今までのお話のニュアンスでは,普通の貸金債権などと同じように一般債権扱いというような印象を受けました。そうなりますと,①の減殺請求をした後に,例えば受恵者の財産状況が悪化して,場合によっては破産するとかいうようなことがあった場合,扶養債権などは特別扱いされることがあっても,今回の遺留分の価額弁償請求権というのは通常の貸金債権とかと同じような扱いになってしまうのでしょうか。他国では,そこは少し違う扱いがされているようですので,金銭債権ということで制度を仕組んでいく場合には,もう少しその細かい考慮が必要なのかなという気もしますけれども,もしその辺り,現在どのように考えているかということがあれば教えていただきたいです。
  最後の3点目の細かいことですけれども,先ほどから1ページの第1の①と②の関係について,いろいろお話が出ていまして,①の後,②をするまでのその期間が制限は要るのかという論点もございましたけれども,その期間制限と併せて,その金額の算定基準時を現行法と全く同じように考えてよいのかということも気になりました。その3点を教えていただければと思います。
○堂薗幹事 この金銭債権化の目的としては,ほぼ御指摘のとおりかと思いますが,更に言いますと,特に案-1のような形とセットにいたしますと,現行の規律とは違って,共有持分の割合が非常に大きくなるという事態は避けやすくなるという面はあろうかと思います。
  それから金銭債権化した場合の優先順位ですが,それは受遺者,受贈者側の責任財産に対する優先順位という理解でよろしいですか。
○西幹事 はい。
○堂薗幹事 そこは一般債権になるのだと思います。そこが権利の弱体化になるのではないかという御趣旨だと思いますが,ここは遺留分減殺請求権の法的性質にも関わるところかと思います。基本的に遺留分権利者というのはどういう権利を持っているかというところなのですけれども,仮に遺贈とか贈与がなければ,遺留分権利者は飽くまでも相続人としてその相続財産の中から一定の財産を取得できたにすぎない立場ですので,そういった意味で言いますと,相続財産における優先順位としては,一般債権者や受遺者よりもむしろ劣後するような法的地位にあるのではないかと思っております。
  したがいまして,飽くまでもその相続財産,遺留分算定の基礎となる財産が資産超過にあるような場合に初めて権利行使できるような性質のもので,受遺者にすら劣後するということであるとすると,それがたまたまその財産が受遺者なり受贈者のところに行ったからといって,遺留分権利者に強い法的地位を付与する必要があるのだろうかというところが疑問としてありまして,今のような法的地位を前提にしますと,一般債権,ほかの貸金返還請求権などと同じような一般債権者として扱ったとしても,特に問題はないのではないかと。そういった意味で,元々,現行法上は物権的効果が生じますから,破産になった場合は取戻権を行使できるわけですが,それに代わるものとして,例えば別除権者の地位を付与するとかいうようなことも検討いたしましたけれども,そういった強い権利を与える必要はそもそもないのではないかというのがこちらの整理でございまして,その辺りについては御意見を頂ければと考えているところでございます。
  それから3点目の金額の基準時ですけれども,これについては減殺請求権を行使した時点を基準に考えるということで考えております。
○渡辺関係官 少し補足させていただきますと,一般債権化の問題につきましては御指摘の部分はかなりあるかなとこちらも考えておりまして,幾つかこれまでも問題提起をさせていただいておりまして,その中で先取特権という御意見も頂いていたところでございまして,ただ,そこはなかなか技術的に難しいところがあるかなとこちらの方としても思っておりまして,そういう代わりになるものとして前回の部会資料8のところで,遺留分権利者側から物を取れるというような仕組みもあってもいいのではないかというような提案をさせていただいたところではあるのですけれども,やはりそういうものが入ってしまうと,全体的に相当複雑なものになってしまうと,そういった御意見が多かったかなというふうにこちらとしては理解しておりまして,なかなかここにつきましては,仮にやるとしてもいろいろ難しいところがあるのかなと考えているというところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。西幹事が一番最初に指摘された点が,多分今回の提案の一番大きな点だったろうと思いますが,ほかによろしゅうございますでしょうか。
  それでは,御指摘を頂いた点を踏まえて,更に整理していただきたいと思います。
  それでは,第2の「遺留分の算定方法等の見直し」に入らせていただきまして,説明をしていただいたところで休憩したいと思います。
○渡辺関係官 では,御説明をさせていただきます。4ページの第2の「遺留分の算定方法等の見直し」について御覧ください。
  今回も部会資料8と同様にA案とB案の二つの考え方を提示させていただいております。A案は,相続人に対する請求と第三者に対する請求を分ける考え方でございますが,こちらの方は実は大きく変更した点は余りございませんで,第8回部会におきまして,相続人に対する請求と第三者に対する請求,それを同じ遺留分という用語で整理するのでいいのだろうかという御指摘を頂きましたので,本部会資料におきましては相続人に対する請求について最低限相続分,それから第三者に対する請求について遺留分というふうにそれぞれ呼称することとして,その区別を明確にしたというところがございます。なお,この最低限相続分というのは飽くまでも仮称ということでございまして,何かもっとよいネーミングがございましたら,御指摘を頂ければ幸いに存じます。
  このように整理したことに伴いまして,それぞれの制度趣旨がどうなるのかというところを中心に部会資料の方は書かせていただいておりまして,内容的に特に大きく変わるというところはございません。ただ,実は内容的に変わる部分があるといたしますと,最低限相続分を有する相続人に対して,他の相続人が負う責任の割合というところでございます。
  ここが内容的に唯一変わったところかと思っておりますけれども,部会資料8では,法定相続分を超える部分のみが遺言による処分であるという考え方を前提に,他の相続人が責任を負う範囲を法定相続分超過額に応じて定めるということにしておりました。これに対しまして,本部会資料におきましては,この相続人間の請求というものの制度を相続人間で生ずる不均衡の是正というところを目的とする制度というふうに捉えるという考え方との整合性を考慮いたしますと,それぞれの最低限相続分の超過額に応じて責任を負うとするのが素直ではないかということで整理を致しております。
  もっともこの点につきましては注でも書かせていただいておりますけれども,部会資料8と同様の考え方を採ることも理論的には可能かとは思っておりますので,そこはいずれでもあり得るとは思っておるところでございます。
  続きまして,7ページの「第三者の立証の困難性を緩和する方策について」を御覧いただきたいと思います。
  このA案というのは,遺留分侵害額を算定する際に,当該遺留分権利者の最低限相続分侵害額,これを控除するということにしておりますので,例えば遺留分権利者以外のほかの相続人に対して,相続開始の1年よりも前に多額の特別受益に該当する贈与がされていたというような場合には,当該遺留分権利者の最低限相続分侵害額,これが増加することになりますので,受遺者又は受贈者側が抗弁として当該贈与の事実を主張,立証しなければならないということになるのではないかと考えられるところでございます。
  しかしながら,受遺者又は受贈者がそのような贈与の事実を的確に主張,立証するというのは困難でありましょうから,遺留分侵害額が適切に算定されなくなる可能性がありまして,第8回の部会におきましてもそのような問題意識に基づく御指摘を頂いたのではないかと理解しているところでございます。
  このような問題にもし対応するといたしましたら,例えば民事執行法上の陳述催告の制度などを参考に,これと似たようなものを入れるということも考えられるところではございますが,他方で民事訴訟事件におきまして,当事者が自己に直接関係のない事実について主張,立証責任を負う結果,その立証が類型的に困難な事件類型というものはほかにもあるわけでございますので,遺留分に関する事件にのみ,このような制度を設けるというところが合理的に説明することができるのだろうかというところは慎重に検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
  A案の最後ですけれども,8ページの4の「想定される手続」についてでございます。
  先ほど御質問いただいたところに関連するところでございますが,相続人間に関する請求をどのような手続で行うかというのは様々な考え方があり得るところでございますけれども,第三者も対象としていた従前の遺留分制度とは異なり,純然たる親族間の紛争ということになるわけですので,家事審判事項とする考え方が親和的ではないかと考えておるところでございます。また,そうすることによって,分割すべき財産がまだあるというような場合には,遺産分割手続と一回的に解決することが容易になるというメリットもあるのではないかと考えておりますので,こういった観点から最低限相続分の制度に関する手続については,基本的には家事事件で行うのがよいのではないかと現時点では考えているところでございます。
  他方で,Ⅱの制度につきましては,基本的には現行の遺留分制度と同様でございますので,地方裁判所の訴訟手続によることを想定しているところでございます。
  続きまして,B案について御説明させていただきます。8ページと9ページを御覧ください。時間の関係もあるのですけれども,B案は変わっている部分が多うございますので,少し丁寧目に御説明をさせていただければと思っております。
  提案のところですけれども,大きく分けると三つございまして,①は総体的遺留分についての規律,②は個別的遺留分についての規律,③は受遺者又は受贈者の責任の割合についての規律ということになります。
  まず①の総体的遺留分の規律でございますけれども,㋐で遺留分算定の基礎となる財産の額を被相続人が相続開始時に有していた財産の価額,これに相続開始前の一定期間,例えば1年以内に贈与された目的財産の価額,これを加えまして,更にそこから相続債務を引くということによって計算をしております。
  そして,その額に総体的遺留分の割合,通常ですと2分の1になることが多いかと思いますが,それを掛けることによって総体的遺留分額というものを計算します。最後に総体的遺留分額から遺産分割の対象となる財産,これを引くことによりまして総体的遺留分侵害額,これを算出するということにしております。
  次に②の個別的遺留分の規律でございますが,①の㋒で計算いたしました総体的遺留分侵害額,これに各遺留分権利者の法定相続分,これを掛けることによりまして,個別的遺留分額を計算いたします。
  そして,その額から当該遺留分権利者が受けた遺贈の額,当該遺留分権利者が相続開始前の一定期間内,これは①の㋐と同じ期間を想定しておりますが,その期間内に受けた贈与の額,これを引きまして,最後に当該遺留分権利者が負担する相続債務の額,これを加えることによって個別的遺留分侵害額を計算いたします。この個別的遺留分侵害額というのが当該遺留分権利者が実際に請求することができる金額ということになります。
  最後に,③受遺者又は受贈者の責任の割合についての規律でございますが,現行法と同様の規律,すなわち民法第1033条から第1035条までの順序に従うということとしております。ただし,受遺者又は受贈者が相続人である場合には,遺贈又は贈与の目的とされた財産の価額のうち,当該相続人の法定相続分を超える部分,これを法定相続分超過額というふうに言いたいと思いますが,これのみを減殺の対象とし,民法第1034条に言う目的の価額も法定相続分の超過額,これを基準とすることとしております。以上が提案部分でございます。
  続きまして,補足説明に入りたいと思います。9ページの1の「部会資料8からの変更点」を御覧ください。
  部会資料8のB案では,遺留分減殺請求によって遺贈等の目的財産が遺産に復帰するものとし,相続人間の取得額の調整は遺産分割手続によって行うとする考え方を提示しておりましたが,この点につきましては,遺留分減殺請求をする意思がある相続人がその意思のない相続人のためにも減殺請求をし遺贈又は贈与を無効とすることができるとするのは合理性に欠けるなどの御指摘を頂きましたので,これらの御指摘を踏まえまして,本部会資料では現行法と同様,各遺留分権利者は自己の遺留分を保全する限度で遺贈又は贈与の減殺を請求することができるということにしております。
  また,本部会資料のB案では,遺留分算定の基礎となる財産を遺贈又は相続開始前の一定期間内にされた贈与に限定するとともに,遺留分侵害額の算定をする上で考慮される遺留分権利者が受けた贈与,これにつきましても相続開始前の一定期間のものに限定するということとしております。
  次に2の「B案の基本的な考え方」についてでございます。現行の遺留分制度の趣旨については様々な考え方がございますが,B案は,遺言者が死亡時又はその直前に財産の大半を無償で譲渡することを制限することにより,遺留分権利者の生活保障を図ることに重点を置きつつ,相続人間の公平につきましては,法定相続の対象となる財産を一定の範囲内で相続人に留保することによって実現することを意図しているというものでございます。
  まず,遺留分算定の基礎となる財産を相続開始前の一定期間内に限定する趣旨につきましては,部会資料4で記載させていただいたとおりでございます。
  次に,遺留分侵害額を算定するに当たり差し引かれることになる遺留分権利者が受けた贈与につきましても,同様に時期的限定をするということにしております。遺留分制度の趣旨につきましては,遺留分権利者の生活保障を挙げる見解が多いわけでございますが,現行制度の下では遺留分侵害額を算定するに当たり考慮される遺留分権利者が受けた贈与については時期的な制限は設けられていないと解されております。
  しかし,例えば遺留分権利者が相続開始時の何十年もの前に相当額の贈与を受けていたとしても,相続開始の時点でその財産の価値が現存しているとは限らないものと考えられ,その意味では,そのような場合にも遺留分権利者の生活保障を図る必要性が高い場合はあり得るものと考えられるところでございます。
  また,遺留分算定の基礎となる財産については時期的な限定を付しておきながら,遺留分侵害額の算定において考慮される遺留分権利者が受けた贈与については,その取得時期に限定がないというのは理論的にも一貫しないように思われますので,このような観点から,B案におきましては遺留分算定の基礎となる財産だけではなく,遺留分侵害額の算定をする上で考慮される贈与についても,相続開始前の一定期間内のものに限定するということとしたものでございます。
  また,B案では総体的遺留分を法定相続分に従って分配される財産,すなわち相続人間で公平に分配すべき財産の総額と位置付けておりまして,これを相続人に留保することとしております。このような考え方を前提といたしますと,遺言によって帰属が定められていない被相続人の財産があり,相続開始後に遺産分割がされるというような場合には,その部分は基本的には法定相続分に従った分配がされることになりますから,総体的遺留分を侵害しないものとして取り扱うべきことになると考えられるところでございます。したがいまして,提案部分の①の㋒では総体的遺留分侵害額の算定において,総体的遺留分の額から遺産分割の対象となる財産の額,これを控除するということとしております。
  また,このようにすることによって,遺留分に関する事件と遺産分割事件の両方が問題となる事案におきましても,遺産分割における取得額を考慮することなく,遺留分侵害額を算定することが可能となりますので,このような事案における規律が明確になるものと考えられます。
  続きまして,10ページの3の「相続人に対する遺贈又は贈与が減殺の対象となる範囲について」でございます。
  B案は,総体的遺留分を法定相続分に従って分配される財産の総額という整理をするものでございますが,総体的遺留分の分配の仕方につきましては,遺言者によって処分がされた遺贈又は贈与のうち,総体的遺留分を侵害する部分については,単純に法定相続分に従った分割をするのに対し,遺産分割の対象となる財産につきましては,特別受益や寄与分を考慮に入れた上で法定相続分に従った分配をするということになるわけでございます。
  このような考え方を前提といたしますと,相続人に対して遺贈又は贈与がされた場合には,必ずしもその全額が総体的遺留分を侵害するものとして取り扱う必要はなく,法定相続分を超過する部分が総体的遺留分を侵害するものとして取り扱えば足りるものと考えられます。このため,B案では相続人に対する遺贈又は贈与については減殺の対象となる財産を法定相続分超過分に限定するということとしております。
  このような考え方を採りますと,遺贈又は贈与を受けた第三者が減殺を受ける範囲にも影響を及ぼすことにもなりますが,受遺者又は受贈者が第三者である場合には,その遺言がなければその全部が相続人に帰属することになるのに対し,受遺者又は受贈者が相続人である場合にはその遺言がなくても,その相続人は法定相続分に相当する部分を取得することができたわけでありますから,このような考え方を採ったとしても,第三者に不当な不利益を与えるものではないと考えられます。
  次に4の「相続開始前の一定期間」でございます。
  B案は,遺言者が死亡時又はその直前に,その財産の大半を無償で譲渡することを制限することにより,遺留分権利者の生活保障を図ること等を意図するものでございますが,このような観点から遺留分権利者に一定の財産を確保させることが許容されるのは,基本的には被相続人の積極財産が消極財産が上回っている場合に限られるものと思われます。
  また,受遺者又は受贈者の法的安定性の観点から被相続人が相続開始時の何十年もの前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者が受ける減殺の範囲が大きく変わることになることにつきましては問題があるものと考えられます。このような考え方を重視いたしますと,遺留分制度の潜脱を防止するためには,一定の限度で相続開始前にされた贈与を遺留分算定の基礎となる財産に含めることにするとしても,その期間につきましては比較的短期間に限定すべきものと考えられるところでございます。
  他方で,現行の判例につきましては,相続人の特別受益については民法第1030条の適用を否定しておりますが,このような解釈が採られているのは,そうしないと各相続人が被相続人から受けた財産の額に大きな格差がある場合にも,特別受益の時期如何によって,これを是正することができなくなるといった自体を考慮したものであると考えられます。
  今回のB案では,部会資料8とは異なり,遺留分とは別に相続人間の公平を図るための制度を新たに設けるということはしておりませんので,このような観点を重視するのであれば,相続開始前の一定期間を余り短期間にするのは相当でないということになるかと思います。
  これらの点を考慮いたしますと,この一定の期間につきましては1年,あるいは3年,5年とする考え方などが考えられるところでございますが,この点につきましては皆様の御見解を賜れればと考えているところでございます。
  次に5の「遺産分割手続との関係」でございますが,B案によりますと,遺留分に関する事件と遺産分割事件の両方が問題となる事案においても,遺留分に関する事件を解決する際に遺産分割事件の帰趨を考慮する必要はありません。この点についてはB案のメリットの一つではないかと思われます。
  他方で,遺留分減殺請求の結果,相続人に対する遺贈又は贈与が減殺された場合には,その後で行われる遺産分割手続においては,その部分に相当する額を当該受遺者又は受贈者の特別受益の額から控除するとともに,その部分については遺留分権利者が被相続人から遺贈又は贈与を受けたものとして取り扱うこととするのが相当であるようにも考えられるところでございます。
  もっとも,このような考え方を採りますと,遺留分減殺請求がされるかどうかが確定するまでの間は遺産分割を終了することができないということになりますので,そのような場合には併せて遺産分割手続の遅延を防止するための手続的な工夫などについても検討の必要があるのではないかと考えられるところでございます。
  最後に「想定される手続」でございますが,B案は基本的には第1の方策,すなわち遺留分の金銭債権化の方策と組み合せるということを想定しておりまして,その手続につきましては現行法と同様に地方裁判所の訴訟手続によることを想定しているところでございます。
  説明は以上ですけれども,最後に,先ほど資料確認のときに紹介させていただきました遺留分の事例と計算表について御説明いたします。こちらにつきましては先ほど申し上げましたとおり,現行法であるとかA案であるとかB案,それらを採用した場合にどのような計算になるのかというイメージを持っていただくために作らせていただいた資料でございますけれども,1点だけ注意喚起というか,御指摘させていただきたい部分がございまして,例えば5ページのところを御覧いただきまして,現行法の遺留分のところに※印を付けまして,遺留分侵害額の算定に当たっては具体的相続分を控除するという方法によって計算していると注意書きをさせていただいているところですけれども,ここは実は現行法上もいろいろな考え方があるところでございまして,法定相続分説というのもあるところでございますので,この考え方が一般的であるとかこういう考え方がいいのではないかということをここで申し上げたいという趣旨ではございません。
  一応,こういう形で書かせていただきましたのは,実はA案というのがこの考え方を基本的に採っておりますので,現行法もこの考え方に合わせることによりまして,現行法とA案との違いというのがより表れるのではないかという趣旨で,こういう記載をさせていただいているというだけでございます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  A案については前回の案と大きな部分では変化がないということですけれども,B案につきましてはいろいろ御意見を頂いておりますので,それを参酌した形でかなりの点が修正されているということで御説明を頂きました。また,この計算式につきましても御質問等あろうかと思いますけれども,少し休憩させていただきまして,後で御質問,御意見を頂ければと思います。
  4時5分前まで休憩ということにさせていただきます。では,休憩にします。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきます。
  先ほど第2の「遺留分の算定方法等の見直し」につきまして,A案,B案についての説明を頂いたところでございます。質問あるいは御意見等を頂ければ幸いです。
○窪田委員 ちょっと前提を確認させていただきたいと思います。先ほどの第1の部分で増田委員が質問になられたこととも関係があるのだろうと思うのですが,現行制度というのは,もちろん遺贈,それから贈与,それが遺留分減殺の対象になるということであると思いますし,しかし遺留分のところには規定されておりませんけれども,相続分の指定,それから持ち戻しの免除,これも遺留分の保護の対象になるということだろうと思うのですが,この前提は今回全く変更していないと理解してよろしいのでしょうか。
  というふうにちょっとお聞きしましたのは,ある意味で遺留分減殺という現行制度というのは,被相続人の処分行為,遺贈であるとか贈与であるとか,あるいは相続分の指定であるとか,そういった行為を無効にするという意味で減殺するということであるのだろうと思いますが,今回示されているものが一体何を減殺するのかなという点について,必ずしもよく見えていない部分というのがございました。
  そのことをお聞きしましたのは,具体的な部分では多分,第2のA案の1,最低限相続分の部分で一つ顕在化するのではないかなと思うのですが,今挙げたような被相続人の行為以外でも,この最低分相続分が侵害される場合というのはあるのではないかと思います。それは何なのかというと,寄与分が非常に大きいということで,具体的相続分は寄与分の大きかった者に全て行くというようなケースにおいては,一方では最低限相続分の計算においては寄与分を考慮しておりませんので,その結果として遺留分が侵害された状態が発生するということがあり得るのではないかなと思います。
  現在の制度というのは,何か大変分かりにくいように思いますが,法定相続分を指定相続分でひっくり返すことができる,被相続人の意思が勝つということにはなるわけですが,しかしその被相続人の意思に対しても遺留分が勝つという構成かと思います。ただ,遺留分と具体的相続分,寄与分等々の関係で言うと,寄与分は余り大きくすると遺留分を侵害する可能性があるわけですが,現行法はそれについて何も規定していないということだろうと思います。
  もちろん,家裁実務等では遺留分を尊重してというような運用もあるとは伺っておりますが,民法典自体はむしろ寄与分によって遺留分が侵害されるような状況はあり得るし,それに対する手当は置いていないということだろうと思います。仮にA案のようなものを置いたとすると,そこで減殺の対象となるものが一体何なのかということを考えると,ひょっとしたらそういう事態が生じるのではないかということをお聞きしたいなと思った次第です。
  更にもう少しだけ触れておきますと,もし相続人間の公平ということを徹底するのであれば,寄与分も含めて相続人間の問題に関しては,そうした公平に応じた処理をするということも一つ考えられるだろうと思いますし,その場合には,今申し上げたような問題は回避できるかとは思うのですが,ちょっと細かい話になりますので,今ただちに答えて頂くのは無理かもしれませんが,すでに検討されている部分があれば教えていただきたいと思います。
○渡辺関係官 現時点で考えておりますのは,まず寄与分については最低限相続分においては考慮しないということで,現時点では考えております。ただ,そのようにした場合に,遺留分とか寄与分とか,そういったものの関係を全体として見たときに果たしてそれでいいのだろうかというところは,再度検討しなければいけないところかなとは思っております。
  ただ,寄与分をここに入れるということになると,かなりまた計算が非常に難しくなったりするという問題点もありますので,そこら辺も踏まえながら考える必要があるかと思っております。
  それから,減殺の対象としてどういったものがあるのかという最初の方に御指摘を頂いた部分でございますけれども,基本的にはここで計算式で書いてある例えば遺贈であるとか贈与,これに基本的に限定していいのではないかと考えております。このような計算をすることによりまして,相続分の指定がされている場合であっても,あるいは持戻し免除の意思表示がされている場合であっても,金額としては一定のものが算出されるということになりますので,これらについて特に減殺の対象にするということは,A案においては必要がないと考えております。
○堂薗幹事 今の説明のとおりなのですが,要するに寄与分で認められる分についても減殺がされてしまうのではないかという問題意識かと思いますが,ここで挙げているA案は,基本的には最低限相続分の方をむしろ結果として優先させるということになろうかと思いますので,基本的には最低限遺留分は相続人に行ってしまって,寄与分については,そこを侵害しない限度でしか認められないということになるのではないかと思います。
  この最低限相続分と寄与分の関係をどう考えるかというのは,いろいろな考え方があると思いますけれども,寄与分を優先させるということになりますと,また更に計算が複雑になるというところもあって,現段階では最低限相続分の方を優先させているという整理でございます。
○窪田委員 状況はよく理解できました。ただ,ちょっと気になりましたのは,潮見委員は退席されてしまいましたけれども,相続法の枠外での財産法的な請求権で,清算に関わる請求というのが本当に不当利得で処理できるのであれば,この問題はさほど深刻ではないのだろうと思いますが,本当に不当利得でいけるのかどうか,ちょっとよく分からない部分もあります。
  仮に不当利得でいけないのだとすると,現在の寄与分については,確かに遺留分を考慮して比較的小さな範囲で認めたものもありますが,他方で清算の要素を重視して,大きな寄与分を認めた審判例というのもありますので,そうだとすると,現在では寄与分というのは必ずしも遺留分に負ける形にはなっていないのが,明らかに負ける形になるということになります。そういう選択をするということは考えられるとは思いますが,その場合には,少なくともやはりそれ以外での財産法上の手当というのを考えておかないと,大丈夫なのかなという感じが,感想めいたことになりますが,いたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。寄与分の性質をどう考えるかということだろうと思いますけれども,御意見として承って,最終的にどう調整するかということを御検討いただきたいと思います。
○水野(紀)委員 今の窪田委員の御説明,御質問と少し問題意識は重なると思うのですが,やはり不当利得というのは非常に難しいということなのだろうと思います。そして,将来の方向性としてどのように誘導することがいいのかも考える必要があるでしょう。特別受益は,本来は生前贈与や遺産分割方法の指定で例えば農業などの経営承継を移すようなことを前提として考えて出来上がっていた条文だろうと思います。生前贈与というのはつまり生前の相続で,その形でしかるべきものを後継者に渡して,そして高齢者が自分の老後保障を定期金契約で受領するというような設計制度を基にしている条文でした。だからこそ,生前贈与をいつまでも特別受益として減殺請求の対象にするという仕組みになっているのだと思います。
  それが日本の場合には,そういう形で事前にきちんと将来の相続人と被相続人とが契約をして,生前贈与で財産の処理をする習慣になっていなかったので,昭和55年の改正は,事実上の経営承継の負担者にせめて寄与分ぐらいで調整をしてあげましょうという配慮だったと思います。今回,寄与分は余り強くないという設計にするのだとすると,生前贈与の方へ誘導するということになるかと思うのですが,そうなりますと,今度はB案の方が不安になってきます。生前贈与という形で,この人のお世話になりたいとまとまった事前の贈与契約をして,その後,その期待が裏切られた場合です。日本法は明治の起草者が忘恩行為による贈与の撤回を入れませんでしたから,その贈与の見えない対価を受贈者が払わなかったときに,その贈与を壊すという仕組みがありません。生前贈与で,例えば長男がたくさんもらったが,彼は被相続人のその期待に応えなかった場合でも,その贈与は,遺留分の減殺請求の対象にすらならないということになってきます。それでは,制度設計の誘導のバランスが相当に欠けるような気がいたします。あちらを立てるとこちらが立たないというようなことにはなるのですが,どういう形でこの家族間の公平の問題を設計されるでしょうか。方向性として誘導する方向がある程度もし見えておられるのだとすると,ちょっと説明が付かないところもあるように思います。
○堂薗幹事 A案もB案も,どこでバランスをとるかという問題があろうかと思いますので,今の点については,こちらとして何かこういった方向で考えた方がいいのではないかという定見があるわけではございません。その辺りも含めて,御議論いただければと思っているところでございます。
○大村部会長 今の点についてでも結構ですし,その他の点も含めまして,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○石井幹事 遺留分の算定方法等について,相手方が相続人の場合とそうでない場合とに分けて考えていくというA案の試み自体は理解できるのですけれども,提案されている具体的な算定方式を拝見しますと,例えば,相続人以外の者との関係で遺留分侵害額を算定するに当たり,結局,相続人間の最低限相続分侵害額を算定しておかなければならないなど,やはり複雑かなというところがございます。A案の狙いは,従来,相続人間の遺留分の問題として扱われていた法律関係の処理を,できるだけ遺産分割と同じ土俵に近付けて,両者を一回的に解決することにあると思うのですけれども,A案で提案されている最低限相続分と遺産分割における具体的相続分とでは算定方法にそれなりの差異がありますので,A案の内容とその狙いとは必ずしも十分に対応していないのではないかなという感じがいたします。また,対相続人との関係と対第三者との関係で算定方法を異ならせることについては,制度利用者の方にとって,なかなか理解が難しいのではないかなというところがやはり懸念されるところです。そのため,A案というのは,実務的にはいろいろと懸念が多い案ではないかなという感じがしておるところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。貴重な御意見を頂いたと思います。
○増田委員 A案についての質問なのですが,相続を放棄した者については,どちらになるのか,第三者になるとしたら,例えば相続人とみなすみたいなことは考えておられるのかどうかという質問をしたいのですが。
○渡辺関係官 十分に検討はできてないのですけれども,基本的には第三者になるのではないかと考えております。
○増田委員 そうすると,多くの遺贈をもらったり,多額の特別受益を持った者は相続放棄すると非常にお得だという結論があり得るかなと思うのですが,その点の手当はあり得るという理解でいいですか。
○渡辺関係官 確かに,要は自分が相続人であるとして,最低限相続分の制度の相手方になる場合と,第三者として遺留分の相手方になる場合とで金額が変わってくるということは十分あり得ますので,それを見越して選択して放棄するということが御指摘のとおり,あり得るように思います。その場合どうするのかということにつきましては,ちょっとすみません,そこに問題意識がなかったものですから,このままでいいというのか,あるいは何かしらの手立てをするのかというのは,ちょっと考えたいと思います。
○増田委員 ついでに,すみません,A案を採る場合に,今の相続放棄者の処遇の問題以外に,若干やはり問題があるなと思っているのは,一つは減殺の順序で,A案が相続人については減殺順序は現行法と違って手前からという形にはなっていないということになると,いつまでたっても古い贈与まで減殺の対象となってしまう。そのことによって,その財産をめぐる法的安定性が失われるのではないかと思われるので,仮にA案を採るとしても,減殺順序は手前からにして,第三者との関係でも手前からにして,第三者に対する遺留分侵害額から控除する額は,それより手前のもの,相続人に対する最低限相続分侵害額ですか,それを控除するという方がいいのではないかと思いますが,恐らくその辺は考慮されているのかなとは一応思っているのですけれどもね。
  それから,あとA案は,先ほど申し上げたような手続の問題はやはり大きいと。というのは,第三者と相続人というのは必ずしも固定しているものではないというか,死んだ時点での第三者と相続人というのははっきりしているのですけれども,遺言したときの第三者が相続人になったり,遺言したときに相続人であった人が第三者になっていることもあるので,その算定について差は設けたとしても余り大きな違い,手続まで含めた形での大きな違いを設けるのは望ましくはなかろうかなと思うのと,第三者といっても,相続人に近い第三者,例えば子の配偶者だとか子の子,孫ですね,という方がこの第三者に現れることも少なくないので,そういう場合に全く手続が分断されてしまうと一括での解決というのは困難になって,かえって遅れてしまうということがあるので,仮にA案を採るとしても,余り極端な差を設けるのは望ましくないだろうなと思っています。
○渡辺関係官 A案の方は,考え方といたしましては,これは相続人と第三者を完全に分断するという意味で,ある意味かなり極端な考え方ではあるのかなと思っておりまして,そういう極端なモデルを示すという意味合いもございまして,例えば減殺の順序につきましては基本的に設けずに,これは全て遺産分割と同じような家事審判手続でやってしまおうということを一つの発想としてやっているものですので,当然その全てを貫かなければいけないというものでもないという面はあると思いますので,その一つ一つをばらして,その分断を一部徹底しないというような選択というのは,あり得るのではないかとは思っているところでございます。
○堂薗幹事 若干補足ですが,特にA案の方は,相続人に対する請求と第三者に分けることによって,相続人のみが相手方になっているような場合に,遺産分割と一体的に処理できるようにすると。そういった意味で,算定の基礎となる財産も,基本的には遺産分割と合わせています。
  その減殺の順序を設けていないというところももちろんあるのですが,そこは遺産分割では特別受益に該当する贈与については同じような取扱いをしていて,特に時期的に後だから前だからということで取扱いを変えていませんので,そことも平仄を合わせていると。
  もちろん,具体的相続分の場合は,現実にその贈与の方から価値を返還するということはありませんので,そこに遺留分の場合とは大きな違いがあるかとは思いますが,そういった意味で,元々の発想としては,相続人と第三者を分けることによって,むしろその遺産分割の対象となる財産があるような場合に,そちらと一体的な処理ができるようにする。したがって,規律も具体的相続分と似たような計算式にもしておりますし,その減殺の順序などについても特に設けていない。相続人の公平という観点から言うと,そこは必ずしも新しいものから減殺すべきということにはならないのではないかというようなことがあって,一応こういうような規律にしているというところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。A案について疑問を提起する意見が複数出ておりますけれども,今,堂薗幹事から御説明がありましたように,B案もある意味では,やはり遺産分割の中でやれるものはそれで処理しようというので,どちらの案も根のところにある発想には共通の点はあるのではないかなと思います。
  ほかの皆様,いかがでしょうか。
○垣内幹事 大変,制度が素人にはかなり複雑に見えるところもありまして,本当に基本的な御質問で恥ずかしいのですけれども,お示しいただいている事例の計算表に関してですが,先ほどの相続放棄の関係での御発言もありましたけれども,事例1と事例2ではA案においてその第三者Aの取り分が一番多いと。事例の1ですと,現行法ではAは137万5000円のところが,A案ですと325万円になるということで,かなり結果として違いが出てくるというのが分かりやすく示されているなというふうに拝見したのですけれども,現行法と,仮にA案というものを採用したときに,A案との結果の違いが,どういった制度趣旨といいますか,一種の広い意味での政策的な考慮によって裏付けられているのか。
  計算式等を拝見いたしますと,A案のこの帰結に,事例1で大きく効いているのは,恐らくその遺留分侵害額というのか,今回の用語ですと第三者に対する請求に関しては最低相続分侵害額を引いて遺留分侵害額を算出すると,それが差し引かれているので,請求額が少なくなって最終的な取り分が増えているのかなというふうに拝見したのですけれども,そうすると,この最低限相続分侵害額を差し引くという操作が非常に大きな意味を持つ局面というのが幾つかあるのかなと思いまして,この最低限相続分侵害額を第三者に対する侵害額算定の場合に差し引くというやり方の持っている意味について,資料等では相続人間と対第三者との手続,両者間の調整を行うというような説明が今回資料でもありますし,前回以前のものでも同様の説明があったかと思うのですが,そこで意図されている調整の実質というのは一体どういう性質のものなのか,どういう不都合をどういう形に調整しようとしているのかという,その実体的な考慮について必ずしも私はよくフォローできていないところがありまして,ちょっとその点について教えていただければ有り難いと思います。
○堂薗幹事 A案の考え方は,基本的には最低限相続分や遺留分が侵害されているような事案においても,まず相続人間で調整をした上で,それでもなお十分な財産が得られていないという場合に第三者に請求できるというところで,相続人間で調整ができるのであれば,そちらで調整した方がいいのではないかという価値判断に立っております。
  A案は,このような価値判断に立っているもので,A案の特徴は正にそこにあります。それに対しまして,B案は必ずしもそういう価値観には立っておりませんので,その点の政策判断も含めて,是非この場で御議論していただければというところがございます。
  したがいまして,事例1のように,第三者に対する遺贈がされていて,しかも現行法ですと第一順位で減殺されるような場合であっても,A案では,相続人間で調整して,そこで足りない分について第三者に請求するということになりますので,こういった結果の違いが出てくるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。実質的に非常に大きな影響の出る点だろうと思いますので,どのような考え方をとるのがいいかということにつきまして,お考えが分かれるのではないかと思いますけれども。
○渡辺関係官 あと1点だけ,事例1と2の違いについて補足をさせていただきますと,事例1と2で共通なのは,大分昔の特別受益というものが入っているというところが特徴かと思われます。この昔の特別受益につきましては,基本的には最低限相続分だけで考慮して,遺留分では考慮しないということにしておりますので,これによる影響というのは,第三者はかなり受けにくいということになりますので,その結果として,第三者の取り分がA案の方が現行法よりも大きくなっているということは言えるかと思います。
○垣内幹事 この表について御質問を始めたついでに,もう1点,事例3におきましてはA案の方が逆に第三者Aの取り分は現行法よりも,更にB案によりも少ないという結果になっておりまして,この事例3というのは相続人Yに対する遺贈が450万ということで,かなり大きいわけですけれども,A案にするとかえって第三者の取り分が減ってしまうというのは,これはどの辺りが効いているという分析になるのでしょうか。
○渡辺関係官 こちらにつきましては,先ほど申し上げたような特別受益というものの影響はありませんので,基本的に第三者が直ちに有利になるというわけではないわけでございまして,あとは基本的に割り付けの問題で差が出てくるということになるのかと思います。
  この割り付けの問題については,多分一義的に絶対こちらの方が有利になるというわけではなくて,多分金額によって有利になったり不利になったりということが恐らくあるのかなと思っているところでございます。
○垣内幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 ほか,いかがでございますか。なかなか得失についての判断は難しいところなのですけれども。
  事務当局の方から,この部分について意見を聞きたいというところがあれば伺います。特にないですか。
  あるいは,B案につきまして,前回の御提案と大分違う御提案が含まれていたと思いますけれども,その辺りについて何か御意見等ございませんでしょうか。
○村田委員 A案で相手方が相続人の場合と第三者の場合とに分けて,相続人間の問題については遺産分割手続との一体性をなるべく確保しようとする御趣旨はよく分かるのですけれども,他方で,遺産分割における具体的相続分の算定方法が現行のままですと,A案でいう最低限相続分の算定と遺産分割でいう具体的相続分の算定との間には基礎となる財産の範囲等において,なお違いが残ることになりますが,そのことについてはどういうふうに評価しておられるのでしょうか。そのような違いについては大して問題にならないのだと見ておられるのか,違いはあるのだけれども,A案の趣旨からしてそこはしようがないと見ておられるのか,その辺りお考えのところがあれば教えていただければと思うのですけれども。
○渡辺関係官 典型的にはっきり申し上げられるのは,相続債務などというものは遺産分割では考えないですけれども,このA案のⅠの制度では考えなければいけないというところになりますので,もちろん,これはできるだけ全部統一させることができればいいのかなとは思った反面,なかなか考えてみますと全て一致させるというのはちょっと難しいかなというところで,どうしてもこういう部分が残ってしまったというところが現実的なところでございます。
  なので,遺産分割と一緒にやれるというところは,A案の一つのメリットではあるかと思いますが,それが100%果たされていないということは正に御指摘のとおりでございまして,そこのところも踏まえて,なおA案にメリットがあるのかどうかというところを最終的には御判断いただくことになるのかなと考えておるところでございます。
○村田委員 ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○増田委員 感想めいた話なのですけれども,先ほどいろいろと申し上げましたけれども,A案というのは遺留分について相続人に対する侵害を先に考慮するということ,第三者については古い生前贈与について算定の基礎に入れないこと,この二つは私は大きなメリットではないかと思います。
  ただ,先ほどの3点,相続放棄者の問題と,それから減殺の順序の問題と手続の分断,この三つはちょっとクリアしていただかないとA案には賛成できないなと思っています。
  B案についてなのですけれども,本当に感想めいたことで恐縮なのですけれども,これが現行法と比べて,あえて改正するメリットがどれほどあるのだろうかという素朴な感想がありまして,場合によってはかなり大きな違いが出てくる場合もあるのでしょうけれども,資料に挙げられた事例を見ましてもそれほど大きくない,現行法との違いはそれほど顕著ではないように思うんですね。
  それを考えると,あえて複雑な計算をする必要があるのかなというのが率直なところです。
○大村部会長 ありがとうございました。先ほど事務当局の方からも,A案は言わばモデルとして出されているので,様々な調整というのはあり得るという御発言がありましたけれども,増田委員御指摘の幾つかの点が乗り越えられるものなのかどうなのかということについて,更に詰めていただきたいと思います。
  今のようなA案,B案についての総体的な評価をお示しいただける方がほかにもいらっしゃいましたら,御発言を頂きたいと思いますけれども,いかがでしょうか。
  それでは,特に追加的な御発言はないということでございますので,本日頂きました御意見を踏まえまして,更にこの点についても検討をしていただくということにさせていただきたいと存じます。
  それでは,その次になりますが,12ページの「第3 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」という部分につきまして,事務当局の方から説明を頂きます。
○合田関係官 それでは,「第3 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について,御説明いたします。
  部会資料の12ページを御覧ください。
  前回この論点を取り上げました第7回部会では,検討の前提として,被相続人の生前における当事者間の法律関係を整理しておく必要があるとの御意見を頂きましたので,今回の部会資料13ページの1の部分で,まずこの点について検討を加えております。
  療養看護等の寄与行為について,当事者間に役務の提供に関する合意があると認められる場合には,基本的に準委任契約が成立することになると考えられます。準委任契約は,無償が原則ですので,報酬に関する特約がない場合には,療養看護等を行った者は委任者に対して報酬の支払を求めることはできませんが,事務を処理するに当たって支出した費用については償還を請求することができ,委任者の死亡後は,その相続人に対してこれを請求することができることになると考えられます。
  もっとも,親族間など親しい間柄においては,療養看護等の寄与行為に関して,契約書等の証拠が欠けていたり,合意の内容が不明確であったりする場合も多く,実体的には準委任契約の成立が認められる事案でありながら,それを証拠上明確にすることができない場合があると思われます。
  また,親族間など親しい間柄における自発的な無償行為においては,当事者間において費用も含めて金銭的な請求をする意思がなく,その点について黙示的な意思の合致が認められる場合も多いように思われます。このような場合には,受任者は委任者に対し,費用償還請求もすることができないことになると考えられます。
  更に,仮に社会的事実として寄与行為をすることについて意思の合致があり,形式的には準委任契約の要件を満たしているように見える事案であっても,親族や知人など親しい間柄における好意に基づく寄与行為については,常に準委任契約として法的保護を受けるというわけではなく,法的な効果を伴わない合意がされたにすぎないと解釈すべき場合もあると考えられます。
  すなわち,親族や知人など親しい間柄における事務の委託においては,両当事者がいずれも事務を行う者に善管注意義務や損害賠償義務などの法的な義務を相手方に負わせることを想定しておらず,合意内容の履行が法的に保障されるとは考えていない場合も多いように思われます。そのような場合には,合意内容は当事者の良心や道徳等に従って実現が図られるべきであり,その合意に法律上の効果は発生しないという考え方もあり得ると考えられます。
  また,第7回部会では,療養看護等の役務の提供について,契約関係が認められない場合であっても,事務管理が成立するのではないかとの御指摘もありました。しかしながら,事務管理制度は,私的自治の原則の例外として,本来は違法とされるべき他人の事務への干渉を例外的に許容する制度ですので,この点を重視して,その適用範囲を謙抑的に考える見解に立てば,親族間における通常の療養看護のように,一定の事務をすることについて,当事者間に意思の合致がある場合には,基本的に事務管理の成立は否定すべきであるという考え方もあり得るところであり,当然に事務管理が成立するということにはならないとも考えられます。
  以上によれば,療養看護等の寄与行為について,準委任契約や事務管理の成立が認められる場合には,受任者や管理者は,その相手方又は相続人に対し,費用の償還請求をすることができますが,当事者間の合理的意思解釈によれば,実際には費用償還請求権のない準委任契約類似の無名契約や法的効果を伴わない単なる合意に当たると解すべき事案も多いと考えられ,現行法を前提とする限り,親族が療養看護等を行った場合に,報酬や費用の償還を請求することができるとは限らないと考えられます。
  これに対し,療養看護等の行為について報酬等の請求権を認める制度を新たに設けるという考え方もあり得るところですが,一般的な国民感情としては,親族間の介護について,その報酬等を要介護者に請求し,裁判手続等によって強制的にこれを実現するといったことまでは望んでいない場合が多いと考えられます。また,そのような制度を設け,親族間における療養看護等の行為を有償化することについては,親族間の助け合いの精神を阻害することになりかねないとの批判も考えられるところです。
  そもそもこの問題は,被相続人の生前には親族としての愛情や義務感に基づいて無償かつ自発的に寄与行為をすることを前提としていたものの,相続の場面においては,療養看護等を全く行わなかった者が相続人として遺産の分割を受ける一方で,実際に療養看護等に努めた者は,相続人ではないという理由で,その分配にあずかれないことに不公平感を覚える者が多いことに端を発するものです。すなわち,この問題の背景には,被相続人の面倒をよく見た者には,その者が相続人であるかどうかにかかわらず,それに見合う財産を取得させるのが公平であるという価値観があるものと考えられます。このような価値観を前提とすれば,相続の場面において,相続人でない者にも非訟手続により一定の権利行使を認める必要があるものと考えられます。
  今回,部会資料の12ページで提示しております考え方は,基本的に部会資料7の考え方を踏襲したものですが,第7回会議では,金銭の支払を請求し得る者の範囲について様々な御意見があったことから,今回の案においては請求権者の範囲を特定することはせず,部会資料の15ページの3の部分,15ページの3のところで,あり得る選択肢について一応の考え方を示しております。具体的には,一定の親族に限るという幾つかの考え方と,請求権者の範囲に限定を設けないという考え方を,あり得る選択肢としてお示ししております。
  また,請求権者の範囲をどのように定めるかは,考え方の④の権利行使の期間制限をどの程度とするのが適切かという点にも影響することから,④の期間制限についても,部会資料の16ページの4のところで,あり得る選択肢について考え方を示すにとどめております。
  更に,寄与の対象となる行為の類型については,特段の限定は設けておらず,現行の寄与分の制度と同様,必ずしも療養看護型に限るわけではなく,いわゆる家事従事型,金銭等出資型,扶養型及び財産管理型などの各類型に属する行為を寄与の対象とすることを想定しております。
  もっとも,長年にわたって被相続人に対する療養看護等の貢献をしてきた者が,相続財産の分配にあずかれないことに対する不公平感が強いという指摘があることから,政策的に療養看護型に限って,新たな制度を設けるということも考えられるところですので,今回の案では,「注」の部分でこのような考え方を併記しております。
  本日は,部会資料において示しております考え方について御審議いただきたいと思います。特に,権利行使をすることができる者の範囲と,権利行使の期間制限についてどのように考えるべきかについて,御意見を頂戴できればと思います。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今御説明がありましたように,前回この問題について検討した際に,被相続人の生前における法律関係について,もう少し整理をする必要があるのではないかという御指摘がありましたので,それを踏まえて先ほど冒頭にその御説明があったものと理解いたしました。
  その上で,第3の中身自体は基本的には前回の提案が踏襲されておりますけれども,①の被相続人の一定の親族であってという要件をどういうふうに具体化するかと,それに関連する形で,④の一定の期間というのをどうするのかということがブランクになっております。このような方策を採るのだとしたら,ここのところをどうするかということについても併せて御意見を頂きたいということだったかと思います。
  それでは,御意見等を頂ければと思います。
○増田委員 質問なのですけれども,生前における被相続人との関係についていろいろ検討がなされていますが,この方策で請求できるのは,そうすると,いずれも成立しない場合に限るという理解でいいのかということですね。
  生前については,契約,黙示を含む契約がまず第一であって,次は事務管理を検討し,最後に多分不当利得を検討することになるのだと思います。不当利得が成立しない場合というのは非常に少ないのではないかと思いますが,そのどれでも救済ができない場合に限り,この第3の方策が用いられるということでいいのかということです。
  不当利得に関して言うならば,どういう場合に成立しないのかというのがよく分からないのですが,被相続人の財産の維持又は増加という要件が残っている以上は利得がありますし,それに対して労務の提供との間に因果関係があれば,労務の提供という損失と,それに利得との間の因果関係が認められることになっているだろうと思われますし,これは昭和55年の改正時の解説書,法務省参事官室が書かれている現在の一問一答に相当するものには,相続人以外には認めない理由の一つとして,不当利得返還請求権を持つことが少なくないというのが挙げられているわけですね。
  こういう点を考えると,最悪でも不当利得では救済されるのではないかと思っているのですけれども,それはともかくとして,どれでも救済されない場合に限るという話なのかどうかというのを伺いたいです。
○堂薗幹事 その点は,資料でいきますと17ページの5の財産法上の請求権との関係というところに記載がございまして,現行の寄与分にも同じような問題があるわけですが,基本的にはほかの財産法上の請求権が認められる場合であっても,この制度の利用は否定しないということですので,この制度を利用する前提として,不当利得は成立しないとか事務管理は成立しないとか,そういったことを確認する必要はないという前提でございます。
  それから,不当利得との関係ですが,前回は事務管理との関係についてご指摘をいただいたので,今回の部会資料では事務管理との関係を検討したのですが,不当利得との関係につきましても,当事者間でお互いに無償であることを前提として療養看護をした場合には,不当利得は認められないことになるのではないかというのがこちらの整理でございまして,相続人以外の人が療養看護をしている場合に相続の場面で一切請求できないのは不公平ではないかというような問題点の指摘がされているわけですが,現実問題として,そういう相続人以外の者が不当利得の返還請求をして実際に認められているかというと,必ずしもそうではないのではないかというのがこちらの問題意識としてはございます。
○増田委員 それに対しては,無償だという前提だったら飽くまで無償ではないかと,無償という合意をしているにもかかわらず死んだら請求できるのはやはりおかしいのではないかというのがあるのですけれども,それはともかくとして競合するという前提であるなら,異なる手続で請求される権利が請求権競合の関係にある場合には,既判力の抵触とか二重訴訟とか,いろいろ問題があり得ると思うのですけれども,その辺についてはどうお考えなのですか。つまり,両方請求できるという場合には。
○堂薗幹事 例えば不当利得の関係で言いますと,仮に不当利得が認められる場面であっても,この制度を使って一定の金銭の支払がされている場合には,その限度で損失等がなくなりますので,そういった意味で調整は可能なのではないかということでございまして,具体的にどういった場面で問題に……
○増田委員 訴訟物は別なのでしょうけれども,請求権競合ですからね。普通,請求権競合の場合は同じ手続の中でやらないと,一回的解決にならないし,別の手続をやっても二重起訴になりますし,一方で,一方が終われば他の一方は既判力で制限される,そういう関係になるという理解でいいのですか。
○堂薗幹事 ただ,そこは,この制度を新たに設けることによって生じているというよりは,同じような問題は現行の寄与分でも,仮に相続人が寄与行為をした場合に寄与分の請求はできるけれども,別途財産法上の請求ができる場合は当然あり得るわけで,その関係と同じように考えればいいのではないかというのがこちらの整理でございまして,現行の寄与分と財産法上の請求権の両方が成立する場合に具体的にどういう形でそこを調整しているのかというところについては,まだ十分な検討はできておりませんが,基本的には,御指摘のような問題は現行法上もあるのではないかと思います。
  更に申し上げますと,なぜ生前には無償であったものが死んだ途端に有償になるのかという点についても,基本的にはこの考え方は現行法上の寄与分の対象となる人を,もう少しそれ以外にも広げましょうということですので,そこは現行法上の寄与分と同じような関係に立つのではないかということでございまして,生前は無償だからといって,その人の財産,その人が亡くなった場合に,その財産をどう分けるかという場面で,その分配にはあずかれないということにはならないのではないかというのがこちらの考えということになります。
○大村部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。
○八木委員 趣旨は全く賛成なのですけれども,寄与分の規定との整合性があるのかなと思うのですね。というのは,家庭裁判所に訴え出ると,請求するということですけれども,国民感情としては家庭裁判所もやはり裁判所という,訴訟というような捉え方をしますので,寄与分の規定はまず当事者で協議をして,それが調わない場合に家庭裁判所にという手続になっておりますが,いきなり家庭裁判所にということではなくて,まず当事者間の協議というか,その辺りのルール化をした方が受け入れられやすいのではないのかなと思いますが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 そうですね。そういった意味では,この場合も基本的には,まずは当事者間で協議をした上で,その協議が調わない場合に裁判所にその申立てをするということを想定しておりますが,寄与分の規定とは違って,そこは第3のところには出ていないというところがございますので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 そのほかに御意見いかがでございましょうか。
○石井幹事 請求権者の範囲のところですけれども,寄与の評価というのは相続人間で対立が生じやすいようなところですので,余りいろいろな方が入ってくるとなると,そうした方の寄与の評価をめぐる対立が遺産分割手続に影響しないかということが懸念されるところでございます。
  また,寄与の評価それ自体についても,生前の被相続人との関わり方には様々なものがあり得ることなどからすると,被相続人と一定の近しい関係を念頭に置かないと,明確な基準で適切に評価することは難しいのではないかなという感じもしております。
  寄与の評価に当たっては,相続財産との関係が非常に重要な要素になってくると思いますので,請求権者の範囲については,そういった観点からも,ある程度限定的に定めていく必要もあるのではないかなという感じがしているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。事務当局の方から問題提起のあった請求権者の範囲について,一定程度は少なくとも限定的に考えるべきだという御意見として伺いました。
  ほか,いかがでございましょう。
○中田委員 私は第7回部会に欠席しておりまして,議論を十分理解していないかもしれないのですけれども,資料を拝見しますと二つの観点があるように思いました。
  一つは無償の労務提供者に対する報酬や費用相当額の実質的清算という観点,もう一つは,被相続人の財産の維持,増加に寄与した者に対する相続財産の分与,この両者が混じっているような気がしまして,それで分かりにくくなっていると思いました。
  療養看護型というのは,比較的,報酬や費用の清算ということかと思うのです。これに対し,例えば被相続人の財産状況が窮境にあったときに助けてあげた,そのために,その財産の維持に非常に大きな貢献をした,しかしそれだけだというときに,それをどういうふうに評価するのかということが出てくると思うのです。そのどちらに焦点を当てるかによって,請求権者の範囲にしても随分変わってくるのではないかと思います。そうすると,立法事実あるいは政策判断として,一体どういう人に対して,どういうコンセプトで与えるのかということが詰められないと,なかなか決まらないかと思います。
  身分要件について申しますと,先ほど石井幹事のおっしゃったことと同じだと思いますけれども,適切な人を取り込めるように広げるというのと,不適切な人を排除するというのと両面あると思うのですね。それもやはり,その目的が若干違ってくるように思いますので,その辺りを整理する必要があるかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。正にそういうことなのだろうと思いますが,それを踏まえて,具体的にどういう線を引くのがよろしいのかという点について,御意見を伺えればと思います。
○金澄幹事 この御提案がある一番の問題点というのは,やはり形式的に相続人を定めているというところで問題が生じているというところだと思っています。療養看護を全く行わなかった者が相続人だからということで遺産をもらい,そうではなくて療養看護をしている人がもらえないことの不平等というところが一番の基本であるならば,やはりそれを何親等とか,そういうことに限ることなく,現実に療養看護したという人に対してきちんと財産が行くように,請求権が認められるようにすべきではないかと思っています。やはり,そこの一番の目的というところを見失うということは,この制度をせっかく作るのであれば,その制度趣旨を没却することになるだろうなと思っています。
  そうなると,どんな人が入ってくるかということで,不適切な人を排除するというところでしたけれども,そのために②があるのだろうと思います。家庭裁判所できちんと寄与した者の請求によって,いろいろ一切の事情を考慮して支払うべき金額を決めるというのであれば,家庭裁判所に来るというところで,まず八木委員がおっしゃったようにハードルもございますし,きちんとした主張をできる人だけが恐らく家庭裁判所に来るのだろうというように思いますので,請求できる人の範囲はあらかじめ限定しておく必要はないのだろうと思っています。
  あと一つ,すみません,③のところなのですけれども,「法定相続分に応じてその責任を負う」と書いてあるのですけれども,そうなりますと,実際に相続人が取得した遺産の多寡にかかわらず,これを負担するということになると思うのですね。相続人であれば,負債についても負担することになるのですけれども,相続人以外の貢献した者は,そういう相続債務は負担しないで請求ができるということになるのですけれども,ここのところの調整というのは何かお考えがあるのでしょうか。
  資料7のときには何か,あとトータルとして何か上限を設けるような規定があったと思うのですけれども,そこのところのお考えをお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 まず,最初に中田委員から御指摘があった点ですが,この制度の目的として無償行為についての費用,あるいは報酬の清算なのか,あるいは財産の維持,増加があったことに対する寄与の取得なのかというところで,事務局としては従前から後者の方で考えていて,飽くまで本来的には相続の枠組みの中で清算すべきところを,現行法を前提と致しますと寄与分の申立権者が相続人に限定されるので,そこを若干広げた方がいいのではないかという考え方の下に御提案しているところなのですが,それに対してはいろいろ御批判があるので,今回はある程度いろいろな考え方を取り入れてお示ししていることから,かえって分かりにくくなってしまった面があるのではないかと思います。今申し上げましたように,飽くまで本来は相続の中でこれを処理するということでありますと,本来は第三者がこれに入ってくる場合も当然,本来積極財産からその債務を引いて,その残りの正に純資産額としてあるものから一部取るということに本来はすべきなのだろうと思います。ただ,そういう形にしますと,結局この手続の中で相続債務の額とかもきちんと確定した上で,その寄与の額を定めなければいけないというようなことにもなり,紛争が複雑化するのではないかということで,ここではそういった上限は設けていないと。
  ただ,この②の「相続財産の額その他一切の事情を考慮して」という中には当然,相続債務の額としてどの程度あるのかとかいう辺りも考慮した上で,その寄与の額を定めるという前提でございますので,今御指摘があったように,第三者の場合には相続債務は承継しませんので,そういったことも踏まえますと,基本的には第三者の場合には限定的に請求を認めることになるのではないかということでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○金澄幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 ほかに,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 なかなかまだイメージがつかめなくて,御教示をお願いいたします。一方では例えば長男の未亡人がずっと療養看護をした,でも,その相続分は全然介護に手を出さなかった亡き夫の兄弟がみんな持っていったというシチュエーションがあります。他方では,被相続人が自転車操業の企業を動かしていて,そこにすごく大金持ちの親族がお金を貸した。でも,結局事業はうまくいかなかったので借金が一杯あったため,破産という形で清算をしたのだけれども,その共同相続人になっていた方たちもかなり借金を負担したというときに,その大金持ちの親戚が寄与したといって取立てを要求してくるというシチュエーションがあります。それらは,全部,条文的には入り込むという形にはなっているわけですね。そうすると,いろいろなシチュエーションが出てきますが,そこはあえて家庭裁判所の判事の裁量に委ねるという仕組みの条文なのでしょうか。
○堂薗幹事 今挙げているこの①から④については,御指摘のとおりだと思います。ただ,元々の発想は,若干繰り返しになりますが,本来は遺産分割の手続で,そこに当事者として入ってもらって,その財産を分ける際に一定の取り分を与えるということで手続としては仕組むべきところを,そうすると遺産分割の手続が複雑になってしまうので,そこは政策的に完全に切り離すことにしたということでございますので,先ほど水野委員が御紹介いただいた事例のうち後半のような場合,いろいろと支援はしたけれども最終的には債務がたくさん残ってしまったという場合には,この制度では請求できないということになるのではないかと考えております。ただ,その点がこの規律で十分に書けているのかという問題なのではないかと思います。
○村田委員 請求権者の範囲を限定するか否かというところについてなのですけれども,仮に限定をしないで,かつ先頃の議論にあったように,ほかの請求権との関係では請求権競合だという整理をすると,例えば,極端な例にはなりますが,介護を専門にやっている業者が介護契約に基づいて療養看護したのだけれども,契約書など証拠を出すのは面倒であるとして,この今書いてある方策の枠組みに則って請求してくることも認めなくてはならなくなるようにも思われます。そのような場合も含めて家庭裁判所で一切の事情を考慮してやれと言われても,それはそういうものではないだろうという気がしますし,今相続の場面では,やはり一定の身分関係か,それに準ずるような何がしかのものを前提としているからこそ,家庭裁判所において,諸事情を考慮して判断するということになるのかなと思うので,この方策の枠組みから除外すべき部分というのは何がしかあるような気がするのですね。それを適切に表現できるかというのは,非常に難しい問題だとは思うのですけれども,限定しなくてもいいのではないかということに関しては,かなり違和感を覚えるところではあります。
○堂薗幹事 ですから,こちらは元々,前回お示ししていたように,広げるとしても相続人に準ずるような法的地位にある人に限るべきであって,無償行為をしたことに対する費用とか報酬の清算を一般的に認めるのではないという前提で考えておりました。そういった意味では,この一定の親族はある程度限定すべきではないかとは思っておりますが,ただ,他方で先ほどのような御意見もありますので,そこをどういうふうに調整したらいいのかというところで非常に悩んでいるということでございます。
○増田委員 一つの考え方としては,例えば特別縁故者となり得るような資格のある人間ぐらいかなと思うのですけれどもね。親族に限定するというのは,親族の扶助義務みたいなものとの関係がありそうで何か気持ちが悪いところもありますし,それから今,村田委員が言われたような業者はそれは駄目だろうと思いますので,そこのところはなかなか家庭裁判所で処理することが適切な適格者ということに仮にこの制度を入れるとすればなろうかとは思いますが,そこの限定はなかなか難しいかなと。ただ,はっきりとした外延というのは,比較的見えているような外延が必要かなとは思いますが。
○大村部会長 一定の制限は課すけれども,しかし親族というのではない基準もあり得るという御意見ということですね。
○増田委員 それは,あり得ると思います。親族でないけれども,常に身近にいて密接な関係を持って世話をしていた人というのは,あり得るだろうと思います。
○大村部会長 ほかに御意見いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 特別縁故者という基準で,ある程度区切れるかもしれないという増田委員の御発言だったのですけれども,特別縁故者は現状では,すごくいろいろな場合が認められています。相続人がいなくて宙に浮いた遺産ですから,特別縁故を主張する者がいれば,裁判所も広範に認める傾向があるようです。それこそ先ほど御発言があったように,療養看護した施設なども主張することがあるようですので,特別縁故者という区切りは余りいい基準にはならないだろうと思います。
○増田委員 要は,特別縁故者は相続人がいない場合にその財産を引き継ぐという場合ですので,業務として行っていたということもあり得るかもしれないですが,ここでは,その当事者間の人的関係に基づいてということだと思うので,たとえば実子ではないのだけれども,子供のように一緒に生活し面倒を見てきた人とか,あるいは内縁の配偶者とか,こういうのは当然入ってくるのではないかなと思っています。それを一定の親族という要件で限定するのは,ちょっと問題かなと思っている次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○石井幹事 被相続人の面倒をよく見た方にこそきちんとした分配がされるべきだというのはそのとおりかなと思うのですが,この御提案というのは,そのような方には,財産法上の請求権が認められるかもしれないけれども,親族の情から被相続人の面倒を見ていたということを踏まえ,これとは別に請求権を認めていくという考え方に基づくもののように思われます。そうした財産法上の請求をしない方からすると,明確な基準を定めてあげた方が自分としては権利があるのだなということが分かりやすく,御提案の制度を利用しやすいのかなというような感じもしております。
  あと,1点,質問なのですけれども,御提案の③のところで,相続人は法定相続分に応じて責任を負うということになっているのですが,相続放棄等がされた場合には,相続放棄等によって変動した後の相続分に従って責任を負うという理解でよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 はい,それはそういう前提です。
○中田委員 一つ質問なのですが,大分前に水野委員が挙げられた例の中で,お金持ちの親族が窮境のときにお金を貸したけれども,うまくいかなかったというお話があったのですが,うまくいった場合はどうなるのでしょうか。うまくいって,それで貸したお金も完全に返ってきた。でも,そのお金があったがために持ち直して非常に大きな財産を残すことができたというときに,それは入るのでしょうか。
○堂薗幹事 いや,今お示ししている案だと必ずしもその無償性というのは出てきていないようには思いますが,こちらで考えているのは,例えば,有償でお金を貸した場合に,それによって事業が維持,継続できたとしても,それは対象に含めないという前提です。
  ただ,この要件,この書き方でそこが的確に排除されているかという問題はあろうかと思いますが,こちらで考えているのは,基本的には貢献に相当する対価はもらっていない,ですから,多少対価をもらっていても,本来もらうべき対価よりも非常に少ない額で,それによって財産の維持,増加に貢献しているという場合はもちろん含まれ得るわけですが,ただ,その場合でも,その貢献というのは,もらった対価を差し引いた分について評価をして,その分に限って認めるということで考えているところでございます。
○中田委員 ごめんなさい,無利息で貸したという前提で考えています。
○堂薗幹事 無利息で貸した場合はどうなのか。そうですね,基本的には,貸したお金が返ってきている場合については,これに含めることは考えていないのですが,その辺りをどういう形で排除するのか,あるいは排除するのが相当なのかという辺りは十分な検討ができておりませんので,検討したいと思います。
  その点について,何らかのお考えがあれば,お聞かせいただきたいと思います。
○中田委員 それは先ほど申しましたとおり,一体どういう人に対してこの制度を作るのかということを詰めていかないと,どうも人によって持っているイメージが違うなと感じております。今の堂薗幹事のおっしゃったこととも重なるのですが,対価を受けていたということですね。つまり,生前に代償を受けていたとか,あるいは放棄していたということが一つ考慮要素になるのかなというふうな印象を受けました。
○堂薗幹事 この要件は現行の寄与分と同じにしておりますので,基本的には寄与分のところとパラレルに考えるという前提です。ですから,相続人がそのような行為をしたときに寄与分が認められるのであればこちらでも認められますし,相続人がそのような行為をしても,寄与分は認められないということであれば,こちらでも認められないという前提でございます。
  先ほど御指摘いただいたような事案については,恐らく現行の寄与分の制度では認められないのではないかという前提で,先ほどのようなお答えをしたということでございます。
○大村部会長 先ほどどなたかから寄与の類型による制限を設けるべきではないか--金澄幹事でしたか--というようなお話がありましたけれども,中田委員の今のお話は,そういうことともつながるのでしょうか。その制度趣旨の理解によっては,現在の寄与分と並びではなくて,別の形でその要件を画するという考え方もあり得るという御指摘かと思ったのですが。
○中田委員 それは最初に申し上げた二つの観点が混じっているというところです。もしも,長男の未亡人が,という水野委員が挙げられた例に絞るのであれば,そういうことになるのでしょうし,その上で更に広げていくという方法はあると思うのですけれども,最初から寄与分とパラレルと決めてしまうと,かえって詰めにくいかなという印象も受けました。
○大村部会長 ほかに,いかがでございましょうか。
○西幹事 私自身がどう考えるかということではないのですけれども,御説明を伺っていますと,今回のこの御提案は相続人の範囲を広げる,つまり,相続の枠内でみなし相続人とでも申しますか,準相続人を作るという発想のような印象を受けました。
  そうなりますと,恐らく範囲は比較的絞れますし,期間も,相続人に関して出てくる期間,例えば,放棄などが3か月で相続人の捜索になると6か月ですので,大体その3か6かに合わせるということも考えられるかと思います。
  他方,この第3の①から④を見ただけですと,御説明を聞く前にということですけれども,これだけを見ると,場合によっては被相続人に対する債権者というような位置付けとして受け取られる方もいると思います。
  今回はそれを排除する,必ずしもそうではないということでしたけれども,仮に,もしこのように位置付けるとすれば,範囲は無制限でよいと思いますし,期間についても,相続債権者に関して出てくる限定承認などの2か月とか,そのような数字を使うことも考えられるのではないかと思いました。その方が読みやすいとも思いました。
  今回の御提案では前者の相続人を作ると申しますか,みなし相続人のような人を増やすということのことですが,そうなりますと,範囲は比較的絞るということで,先ほどから特別受益者に準ずるようなというような話が出ていますけれども,そのようになるのかもしれません。ただ,範囲を絞ることに私は直感的に怖さを感じております。範囲を絞ることによって,結局その範囲の人は優先的に被相続人の療養看護などに当たることが予定されている人というような誤ったイメージをもしその法律が流してしまうようなことがあれば,それはこれからの目指すべき社会の方向性に少し反するのかなと思いました。感想です。
○中田委員 度々申し訳ありません。今のお話とも関係するのですけれども,どういう類型化をするのかによって,身分要件の意味が変わってくるような印象を受けました。
  無償の労務提供者に対する清算という観点から言うと,契約することが期待しにくいということが出てくると思うのですね。それに対して,財産上の支援をしてあげて財産が残ったという場合ですと,ビジネスに基づく支援とは別の親族による支援だということが,身分ということで効いてくると思うのですね。
  ですから,最終的に類型化するかどうかは別にして,その類型ごとにやはり身分要件の持ってくる意味が違ってくるのかなということを感じました。
○上西委員 寄与の類型についてです。実際に争われた事例を見ると,家事従事型や金銭等出資型に分類してされていますが,多くの場合は,扶養型も療養看護型も重なっていると思います。そうしますと,分類して契約ができるのかどうかという問題があります。もちろん,療養看護のようなものでありましたら,その部分だけに限った契約をすることはやりやすいかもしれませんが,全ての類型を縦割りにして決めることは難しいものと考えます。
  次に,16ページの最初の1パラのところです。被相続人と親族関係にない者については,有償契約とするという考え方はなるほどと思うのですけれども,親族を一括りで見ることができるのかどうかです。親族でも例えば四親等以上の者になると余り交流のないケースもある一方で,兄弟姉妹のように仲よく一緒に住んでいる従兄弟もいますので,線引きは難しいと思います。
  ですから,三親等がいいのか四親等がいいのかといった線引きは,なかなか難しいのですが,当事者を拡大しないという意味では,被相続人の直系血族若しくはその配偶者または兄弟姉妹とした上で,一定の者,例えば内縁関係者とかについては別途の救済という措置もあると考えます。
  そうすると,枠を決めたことの意味がないのではないかという指摘もあるかもしれませんが,拡大すれば親族とそれ以外となります。親族の中でもいろいろな類型がありますので,かえって困難になるかと感じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  線引きにつきましては,一定の範囲の人についてなぜ特別の処遇を認めるのかという理由との関係で,様々な考え方があるだろうという御指摘を頂いたかと思います。そのそれぞれを捉えて,類型化して,それを整理するというようなことができるものなのかどうなのかというのはなかなか難しいところかと思いますけれども,委員,幹事の皆様の御意見は今申し上げたものの諸側面を指摘されているのではないかと思いますので,かなり困難,なかなか大変な作業だと思いますけれども,更に御意見を踏まえて検討していただければと思います。
  この点につきましては,更にもしこの場で御発言がありましたら伺いますけれども,よろしゅうございますか。
  では,最後の話題に進ませていただきたいと思います。最後,17ページでございますが,遺贈の担保責任につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○合田関係官 それでは,「第4 遺贈の担保責任」について御説明いたします。部会資料の17ページを御覧ください。
  前回の部会において,法制審議会において答申がされた「民法(債権関係)の改正に関する要綱」,以下この説明の中において,債権法改正の要綱と申し上げますが,これにおいて売買等の担保責任に関する規律の見直しがされたことを踏まえ,遺贈の担保責任についても見直しを行う必要性があるとの指摘がございました。
  債権法改正の要綱では,売買等の担保責任に関する規律について,いわゆる法定責任説の考え方を否定し,買主等は目的物が特定物であるか不特定物であるかを問わず,その種類及び品質等において契約内容に適合するものを引き渡す義務を負い,引き渡したものが契約内容に適合しない場合には,売主等に対し追完請求などをすることができることとされております。そして,無償行為である贈与においても,贈与者は契約内容に適合する目的物を引き渡す義務を負うことを前提としつつ,その契約において贈与の目的として特定したときの状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定することとされています。
  遺贈は贈与と同じく無償行為ですが,遺贈の担保責任については,相続の場面における特殊性を考慮すべきか否か等について検討する必要があるなどとして,債権法改正の要綱に基づき作成された民法等の一部改正法案では,改正の対象とはされませんでした。
  今回提案しております考え方の①は,要綱における贈与の担保責任に関する規律を参照し,遺贈の無償性を考慮して,遺贈の目的となるもの又は権利が相続財産に属するものであった場合には,遺贈義務者は原則としてそのもの,又は権利を相続が開始したとき,その後に遺贈の目的であるもの又は権利を確定すべきときは,その確定の時の状態で引き渡し,又は移転する義務を負うこととするものです。
  もっともこの規律は,飽くまでも遺言者の通常の意思を前提とするものですので,遺言において,遺言者がこれとは異なる意思を表示していた場合には,遺贈義務者は,その意思に従った履行をすべき義務を負うこととしております。これが①のただし書の部分になります。
  この規律は,遺贈の目的となるものが特定物であるか不特定物であるかにかかわらず適用されるものですが,遺言者が相続財産に属するもの,又は権利を遺贈の目的とした場合に関する規律を定めたものですので,目的物が不特定物である場合には,遺言者が相続財産に属する不特定物を遺贈の目的とした場合に限って適用されることになります。そして,相続財産に属する不特定物を遺贈の目的とした場合には,制限種類物と同様,遺言義務者は相続財産に属する不特定物の中から目的物を特定すれば足りることになると考えられます。
  これに対し,遺言者が相続財産に属しない不特定物を遺贈の目的とした場合には,遺贈義務者は,基本的には不特定物売買における売買と同様の責任を負うことになると考えられます。したがって,この場合には,遺贈義務者は遺言者の意思に従って不特定物を調達し,目的物を特定した上で,これを受遺者に引き渡すべき義務を負うことになります。
  これに対し,遺言書の中で目的物の品質等について特段の意思が表示されておらず,遺言者の意思によってこれを定めることができないときは,遺贈義務者は中等の品質を有するものを引き渡すべき義務を負うことになると考えられます。
  次に,部会資料19ページの「3 遺贈義務者の担保責任について」,御説明いたします。
  現行の民法998条は,不特定物の遺贈義務者の担保責任を定めておりますが,先ほど申し上げたとおり,債権法改正の要綱では,目的物が特定物であるか不特定物であるかにかかわらず,買主は追完請求権を行使し得ることとされております。債権法改正の要綱では,無償行為である贈与についても,基本的にはこのような考え方を維持していることを考慮すれば,遺贈においても同様の考え方を採用すべきことになるものと考えられます。
  遺贈の場合に,その無償性を考慮して,遺贈義務者の追完義務について特則を設け,その責任を軽減するという考え方もあり得るところですが,このような観点から特則を設けるのであれば,必ずしもその対象は不特定物に限られないと考えられますし,同じく無償行為である贈与については,そのような特則は設けられていないことを考慮すれば,遺贈についてのみ特則を設けるのはバランスを失するようにも思われます。そこで,今回提示した考え方では,不特定物の遺贈の担保責任を定めた現行の民法998条を削除することとしております。
  同様に他人物遺贈に関する遺贈義務者の責任を定めた民法997条2項についても,贈与においてこれに相当する規定が設けられていないことから,その削除の要否について検討する必要があると考えられます。もっとも,遺贈の場合には,基本的には遺言書の記載のみから遺言の内容を確定する必要があるため,遺言者の意思が明確でない場合の規律を設ける必要性が贈与の場合よりも高いと考えられます。他人物遺贈がされた場合に関する現行の規律も,このような観点から独自の異議を見いだすことが可能であるように思われます。すなわち,この点に関する現行の規律は,他人物遺贈を原則として無効としつつ,例外的にこれが有効となる場合には,その他人からその権利を取得して受遺者に移転する義務を遺贈義務者に負わせることとした上で,その義務が履行できない場合の責任を軽減したものと位置付けることが可能ですが,このような規律は債権法改正の要綱を前提としても,なお相応の合理性を有するものと考えられます。このため,今回提示した考え方では,民法997条2項については,これを維持することとしております。
  本日は,このような考え方の当否について,御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。この担保責任の問題につきましては,債権法改正の方で担保責任について一定の考え方がとられたのに対応して考える必要があるけれども,相続法に固有の問題があるのではないかということで,こちらで検討をする必要があろう,そういう経緯で,ここへ出てきている問題だと認識しております。御説明がありましたけれども,遺贈についての特殊性の観点から,維持すべき規定と削除すべき規定があるのではないかというのが基本的な御提案だったと思います。
  御意見を頂ければ幸いです。
○中田委員 今の御説明の中で,1点まず確認したいのですけれども,不特定物遺贈の場合には,相続財産に属するものの中から特定すれば足りるという御説明だったわけですが,相続財産に属する不特定物の中に瑕疵のあるものが含まれていて,それを提供したというときに,その場合には取り換えろということが言えるのかどうかです。
  現在の規定ですと,それは条文上,取り換えることが請求できる。それを削除したときに,その後の法律関係はどうなるのかなのです。
○堂薗幹事 基本的には,不特定物を遺贈の目的とした場合については,基本的に相続財産に属するものでなければ原則として無効で,遺言者の方で特段の意思を表示した場合には有効になるわけですが,そういった意味で,相続財産に属する不特定物を遺贈の目的とした場合は,その相続財産に属する限定された不特定物の中から特定をすれば足りると。したがって,その不特定物の中に瑕疵があるような場合には,その限定された不特定物の中から中等の程度,特に品質が定められていなければ中等の程度ということになると思いますので,そもそもそういった瑕疵があるものが中等の程度であれば当然取換えは必要ないということになりますし,そうでなくて,中等の程度のものは瑕疵がないということであれば,追完請求ができるということになるのではないかと考えております。
○中田委員 ちょっと言葉が足りなかったのですが,相続財産に含まれている不特定物の中に,瑕疵のあるものとないものとがあったという前提です。潮見委員の教科書ですと,自動車商が所有するワゴン車60台のうち20台を遺贈するというケースで,その提供した20台に瑕疵があったときに,別の良いワゴン車と取り換えろということが言えるという例を出しておられるのですね。そういう場合,どうなるのでしょうか。
○堂薗幹事 ですから,その不特定物は限定されますので,その限定された不特定物の中で,中等の品質というのはどの程度のものか,瑕疵があるものが大半を占めているような場合は,瑕疵があるものが中等のものということになるのではないかなと思いますが,その辺りは,むしろ先生方の御意見を頂戴できればとも思いますが,こちらではそういう整理をしております。
○中田委員 分かりました。その辺りをまた考えてみたいと思いますけれども,仮に追完請求権を認めないということであれば,そこで話は済むのですけれども,もし追完請求権を認めるのだとすると,それをどこから導くのかということが問題になると思うのです。売主の担保責任の規定を準用なり類推適用するのか,それとも追完請求権というのは,そもそも履行請求権と近いものであるから,そこから導くというのか。仮に後者のような導き方をすると,今度は売主の場合にはあるところの期間制限が外れることになるけれども,それでいいのかといった問題が出てくると思います。
  ですから,追完請求を認めるかどうか,認める場合に998条2項を削除するということで混乱が生じないのかという問題があろうと思います。更に今,私は瑕疵という言葉を使ったわけですが,瑕疵という言葉を使わないとすると,売主の場合は契約不適合という言葉を使っているのですけれども,これは遺贈ですから,その言葉は使えない。そうするとどういう概念を持ってきたらいいのかということで,そう簡単に一般原則に送ることもしにくいかなと思いますので,場合によっては遺贈における契約不適合に相当する概念を持ってきて,特定物,不特定物を問わず追完義務を認めるというような規律もあり得るかなと思いました。
  最後ですけれども,それとの関連で,今度は遺産分割における共同相続人間の担保責任が売主と同様だとなっているわけですけれども,それも売買の方が変わってしまっているのに対して,仮に遺贈の方を変えるのだとすると,そこだけ浮いてしまわないだろうかということも課題かなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。問題点の御指摘を頂いたということで,もう少し今の点について御検討いただくということでよろしいですか。
○堂薗幹事 はい,検討したいと思いますが,基本的に御指摘のような問題は贈与の場面でも生じるのではないかと思うのですが,債権法改正の際には,贈与の点については必ずしもその点について明確に規定が設けられていないというところもありますので,遺贈の方だけ追完請求の内容を規定するというのは難しい面があるのではないかと思います。
  998条に代わるものを書くのであれば,それは特定物,不特定物を問わず,こういった場合にはこういった追完請求ができますという,その内容を書くのだと思いますが,その点について遺贈の方だけ規定を置くというのは,なかなか難しいのではないかというのがこちらの印象でございます。
  ただ,他方で,遺贈の場合は,基本的には遺言の記載内容からその内容を定めるというところがございますので,贈与の場合よりも原則的なルール,デフォルトルールを定める必要性が高いという面はあろうかと思いますので,そういった点を含めて,引き続き検討したいと思います。
  それから,遺産分割の場合の他の相続人の担保責任については今回検討できていませんので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。基本的には今御説明がありましたけれども,贈与並びで考えたいということだと思うのですが,贈与の方の状況が必ずしも明らかでないところもあるわけで,それをそのまま踏襲するということでよいのか,それとも,堂薗幹事がおっしゃったように,遺言の場合には特にやはりルールを明らかにする必要があるということを重視するのかという点も含めて,更に御検討いただければと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,最後に,浅田委員から先ほど御発言の御希望がございましたので。
○浅田委員 ありがとうございます。二読が終わるということでございますので,改めて銀行界の意見を述べさせていただきたいのですけれども。第5回の会議の際に,私ども遺言に関する銀行実務の観点からの検討というペーパーを配布しまして,公正証書遺言の安定性の確保ということについて,審議対象としていただきたいという要望を述べさせていただいたことがございます。
  先刻も遺言の活用化ということをこの機に考えるべきではないかという御指摘もあったわけでございまして,その同様の問題認識から,現在の公正証書の遺言というものの信頼性を高めればいいのではないかという認識からの問題提起でございます。
  残念ながら,今までいろいろ私どもの問題提起に対して御検討いただいておりますけれども,この点に関しては取り上げていただいていないというのが認識であります。なかなか難しい論点だということは承知しておりますけれども,最近幾つか公正証書遺言について無効であるという事例に二つ接しましたので,この場で参考までに紹介させていただきたい例だと思っております。
  一つは,これは直近の「金融法務事情」の2月10日号78ページにも実務家による解説がされているわけでありますけれども,平成26年11月28日の大阪高裁の判決であります。これは数億円もの財産を複数の相続人に分ける複雑な遺言について,公証人が事前に長男から示された遺言案が遺言者の意思に一致しているかどうか直接確認したことがないこと,公証人が,長男があらかじめ作成した遺言書の案を病室で横になっていた遺言者に見せながら説明し,遺言者が頷いたり「はい」と述べたりしただけで,遺言の内容について一言も発していない等の理由で,口授要件が欠如しており無効と判断した事例です。
  もう一つは,公刊されていない地裁の裁判例なので詳細な説明は控えたいと思いますけれども,銀行が当事者となった訴訟で,現在は控訴審に係属中のものでありますけれども,これは1年前にした公正証書遺言を全部撤回するというシンプルな公正証書遺言であり,書き換えされた遺言と新しい遺言は同じ公証人の面前で行われているわけです。裁判所は,遺言者は意思能力が低下していたとし,難聴であるにもかかわらず補聴器を付けずに公正証書の作成に臨んでいたという理由で,遺言能力なしとして遺言が無効であると判断しました。この背景には,法定相続人でない親族者が遺言者を取り込み,同人たちの言うがままになっていたという事情があるようであります。
  前にも述べましたように,遺言に関しては遺言をめぐる,特に遺言能力をめぐる問題にいろいろありまして,昨今の高齢化に伴う認知症,取り分け,まだら認知症ということでありまして,公証人の面前では遺言能力があったかもしれませんけれども,事後的にその周辺の時間における諸事情から後日,無効とされる例もあろうと思います。
  こういうような無効事案というのが増えていることは,私どもの経験則としても事実というふうに認識しております。そうしますと,銀行としては,公正証書遺言であっても相続人に対して紛争の有無を一応問い合わせるという方向にもなるかもしれないということでありまして,そうであれば,公証人遺言の信頼性というのも実務上,若干使いづらいものになるというものかもしれません。
  したがいまして,公証人において,遺言能力の判断を正確に行う手当というもの,ないしは公正証書遺言の内容を信用した第三者,これは預金受入銀行であるとか,不動産が譲渡された場合には,その財産取得者ということもあるかもしれませんけれども,それに対する救済,免責規定等を置くというような改正も検討に値するのではないかと思っております。
  本部会では,政策的に公正証書遺言の作成を誘導するということであれば,かような第三者の保護をするなどのインセンティブが必要だというふうな意見も出ておりましたし,是非検討していただきたいと思います。
  なかなかこの時間軸において難しいということになる可能性もあるかもしれません。そうした場合に,後日の検討のために,本事案に関するその問題に対する一応の整理もしていただいた方がいいのかなとも思います。例えば,そもそも私どもが提起したものについて,まだ立法事実として熟していないという判断もあるかもしれません。また,本件の問題というのは,そもそも運用の問題であると,それは公証人の遺言能力の探知の確認の問題であるとか,ないしは民法478条も含めた諸制度の第三者保護との適用の問題であるという整理なのかもしれません。また,いや,そうではないかもしれないけれども,この審議では時間軸の問題からなかなかその問題解決が難しいということであれば,将来,来たるべきときの問題として委員・幹事の皆様に認識していただくということは非常に有意義だとは思っておりますので,何らかの御検討を頂ければ有り難いと思います。
○大村部会長 では,御意見承って,御検討お願いしたいと思います。
  本日予定しておりました議事は以上ですけれども,何か御発言ございますでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  では,次回の予定等につきまして,事務当局から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,次回の日程ですが,次回は御案内のとおり,4月12日火曜日の午後1時半から午後5時半頃までを予定しております。場所は現時点で未定ですので,決まり次第,御連絡するようにいたします。
  次回は,前回御説明しましたとおり,中間試案のたたき台のようなものをお示しして,御議論いただくことを予定しております。したがいまして,これまでの御審議の結果を踏まえまして,全ての論点を取り上げた資料を作成したいと考えております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  本日も熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。これで閉会をさせていただきます。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第11回会議 議事録


第1 日 時  平成28年4月12日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時51分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第11回会議を開催いたします。
  新年度になりましたのでので,まず,新しい幹事の方あるいは関係官の方々の御紹介させていただきたいと思います。
  山本幹事から自己紹介をお願いいたします。
○山本幹事 このたび,幹事を仰せつかりました最高裁民事局第二課長の山本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
  それでは,関係官の方に移りますが,下山関係官。
○下山関係官 関係官の下山でございます。昨年9月から半年間,在外研究に出ておりましたが,先月末に帰国いたしまして,今回からまた参加させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  満田関係官。
○満田関係官 合田関係官の代わりに異動になりました満田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そして,羽生関係官。
○羽生関係官 このたび,調査員を仰せつかりました上智大学の羽生でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 よろしくお願いいたします。
  もう一人,神吉関係官がいらっしゃいますが,次の機会に自己紹介をお願いしたいと思っております。
  それでは,本日の議事に入りますが,本日から中間試案の取りまとめに向けた議論に入らせていただくことになります。それに先立ち,部会資料の説明をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
○大塚関係官 机上に配布させていただきました資料について御説明申し上げます。1枚物が三つございます。1枚目が議事次第,2枚目が配布資料目録,3枚目が今回,新たにお配りするもので,「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例」というものです。これにつきましては第3の「遺言制度の見直し」のときに詳しく御説明申し上げます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  部会資料11「中間試案の取りまとめに向けた議論のための叩き台」,この資料に基づきまして本日は御審議を賜りたいと存じます。この中を御覧いただきますと,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から始まりまして,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」まで,それに最後に「その余の検討課題について」が加わって,都合6項目に分かれております。全体で30ページほどございます。本日はこれの全体について御意見を頂戴するということを考えております。
  これまで各方策の内容について様々な御意見を頂戴してまいりました。本日からの中間試案の取りまとめに向けた議論におきましては,中間試案として何を掲げることが妥当であるか,中間試案についてはパブリックコメントをお願いすることになりますけれども,パブリックコメントで意見を聴取すべき項目として,どのようなものを掲げることが適当であるかという観点から御意見を頂戴できればと存じます。実質についての議論まだ多々あろうかと思いますけれども,それはまた次の段階でお伺いするということにいたしまして,このような観点で御議論いただければと存じます。
  先ほど申し上げましたように,第1から第5,これに「その余の検討課題について」を加えますと6項目がございますが,項目ごとに御意見を伺ってまいりたいと思います。第3の「遺言制度の見直し」という項目の途中ぐらいで,休憩を挟ませていただきたいと考えております。
  それでは,早速,第1の第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」というところから始めたいと思います。この点につきまして事務当局より御説明を頂きます。
○大塚関係官 では,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,変更点を中心に簡潔に御説明申し上げます。内容といたしましては,1が短期居住権,2が長期居住権でございます。1の短期居住権につきましては,従前,お示しておりました案からの実質的な変更はございませんので,内容の説明は割愛させていただきます。
  2ページにお進みいただきまして,長期居住権についてでございますが,こちらについては変更点が2点ほどございます。一つは2ページ目にお戻りいただきまして②でございますが,こちらでは長期居住権をどのような場合に取得することができるかというのを明記したというところが変更でございます。具体的には,アは相続人間で合意が成立した場合,イは裁判所が配偶者の長期居住権を取得させるのを相当と認めた場合,ウは被相続人の遺言がある場合,エは被相続人と配偶者との間に死因贈与契約がある場合ということになっております。
  もう一つの変更点は次ページの⑨以下の記載ということになります。こちらは配偶者が長期居住権を取得した後に,例えば介護施設への入所を余儀なくされるなど,当該建物を使用することができなくなったことについてやむを得ない事由がある場合には,配偶者が建物所有者に対して残りの期間の長期居住権の買取りを求めることができるとしたものでございます。これを新たに加えております。
  続けて⑩でございますが,こちらでは買取りについて当事者間で協議がまとまらなかった場合にも,裁判所で適宜の買取り金額を定めて買取りを認めることができるとしてございます。
  次に⑪では,長期居住権の残存期間が例えば余りに長いといった場合におきましては,その分,買取金額も通常は高くなるということが想定され,建物所有者の負担となることも考えられますことから,そういった場合に裁判所が買取金額を定めるという場合には,買取り金額に反映させるのは一定の期間,例えば5年間に限定するというものを提案してございます。このような限定を設けること自体,あるいは5年という期間の相当性につきましても御意見を伺えればと存じます。
  次に⑫におきましては,長期居住権の買取りに際して建物所有者からの分割払などを可能とするものでございます。
  次に⑬におきましては,裁判所が買取り金額等を定めるに当たり,こちらに記載されておりますような建物の状況などの一切の事情を考慮するものということを定めたものでございます。
  続きまして,資料4ページの下の方にあります2の「(1)法的性質」についてでございます。こちらについては,従前は長期居住権を用益物権という位置付けをしておったところでございましたが,これに対しましては,例えば不動産の流通を阻害するおそれがあるといった御指摘などを頂いたということがございましたので,それを踏まえまして今回は長期居住権を賃借権類似の法定の債権と位置付けることを御提案申し上げております。
  5ページにお進みいただきまして,(2)の「長期居住権の財産評価」について最後に申し添えます。財産評価に当たりましては,相続税制との整合性も考慮する必要があると考えられます。そのような財産評価を長期居住権についてするに際しましては,例えば相続税の課税実務を参考にして,長期居住権自体の評価額はゼロとした上で,当該建物の適正賃料額から評価額を算定することも考えられるのではないかと,そういった旨を記載しておるところでございます。
  御説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  資料の訂正がございましたが,その上で,第1点につきましては短期居住権保護と長期居住権保護の二つに分かれていますが,前者,すなわち短期の保護方策についてはこれまでの議論をまとめたもので,特に変更はないという御説明でした。後者につきましては,具体的な提案部分について二つ大きな変更があるという御説明があったかと思います。2の②で次に掲げる場合という形で,長期居住権を取得することができる場合を具体的に列挙しているということと,⑨以下で買取りについてのかなり詳しい規定を置いているということかと思います。その他,4ページ以降の法的性質に関する取扱い,あるいは財産評価についての考え方などについても説明を頂いたと理解しております。以上につきまして,皆様の方から御意見を賜れればと思います。
  先ほど中間試案として何を提案するのかという点に重点を置いていただきたいとお願いいたしましたけれども,当然ながら,その際に内容に関わる問題も出てまいりますので,今のような観点から,もちろん,内容について触れていただくということもあるべしということで,御意見を頂戴できれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
○窪田委員 それでは1点,内容に係る実質的な話ではないと思いますが,一つ質問させてください。
  2ページ目の配偶者の長期居住権に関して②のアの部分なのですが,私自身意味がよく理解できないところがあります。「遺産分割(遺産分割の審判を含む。)において,配偶者に長期居住権を取得させることについて,配偶者と①の建物を取得する相続人との間で合意が成立した場合」となっているのですが,読んでよく分からないのは,これは遺産分割において,そういうふうな合意が成立したのか,遺産分割に際して,遺産分割自体とは別のものとして配偶者と建物を取得する相続人との間で合意があるのかという点が,これだけを読むとよく分からないなという気がします。本来,遺産分割それ自体は相続人全員の合意によるものですから,そうであるならば,遺産分割の合意で説明することもできるではないかという気もします。ただ,一方で審判を含むとなっていますから,審判の場合には合意というプロセスは入ってこないのだろうと思うのですが,そこの部分がこれだけを読むとよく分からないものですから,この点について御説明いただけたらと思います。
○堂薗幹事 この点は,遺産分割の中で合意をするということで,遺産分割に際してというわけではないという理解でございます。基本的に,遺産分割協議の成立には相続人全員の同意が必要になりますので,その中に配偶者と建物所有者の合意も含まれてくるんだと思いますけれども,全体について相続人間で協議が成立しない場合であっても,建物を所有することになる人と配偶者との間で長期居住権を設定することについて合意が得られているという場合はあるのではないかと思いますので,そういった場合には,イのような加重した要件によらずに,裁判所としても長期居住権を遺産分割審判の中で認めていいのではないかという観点から,こういった記載にしているということでございます。
○窪田委員 余り頑張るような話ではないのだろうと思いますが,①の建物を取得する相続人という部分は,多分,遺産分割から出てこざるを得ないですよね。ですから,遺産分割の合意は成立していないのだけれど,こういう合意はできるという場面というのはよく分からないような気がします。
○堂薗幹事 裁判所が遺産分割の審判をするに当たり,長期居住権が設定された建物の所有権を取得してもいいという相続人がいる場合に,裁判所がその相続人に建物の所有権を取得させる形で遺産分割の審判をするのであれば,生活の維持を図るために必要があるという要件を満たしていなくてもよいのではないかという考え方に基づくものでございます。
○窪田委員 まだ十分に理解できていないような気がするのですが,以上で結構です。
○大村部会長 今の点でほかに何か御意見はございますか。
○石栗委員 そうすると,実際に不動産を誰が取得するかが分からない段階で,仮定的な合意があったら,その合意の時点で長期居住権が成立するんですか。それとも,その後の遺産分割が成立したときに長期居住権が成立するということですか。
○堂薗幹事 建物を取得することになる人と配偶者がどちらも,自分は長期居住権付の所有権を取得してもいいし,配偶者も長期居住権の取得を希望するというような場合には,緩やかな要件の下での取得を認めるということですが,飽くまでも相続人の一人が建物の所有権を取得し,あるいは配偶者が長期居住権を取得することになるのは,審判の確定によってということになります。
○石栗委員 アは審判の場合を想定しているんですね,調停が成立する場合ではなくて。
○堂薗幹事 調停や協議の場合も念頭に置いております。調停や協議の場合は,相続人全員の合意が成立しているわけですので,当然この要件も満たすことになるわけですが,遺産分割審判のうち,このアの要件を満たしているものについては,イの要件を満たしていなくても遺産分割の審判で長期居住権の取得を認めてもいいのではないかという,そういう趣旨でございます。
○垣内幹事 今の御説明は理解したように思うんですけれども,整理の仕方として,そうだといたしますとアの内容のうち,配偶者と①の建物を取得する相続人との間で合意が成立した場合というのは,専ら裁判所が分割審判の中で合意があるので,居住権を認める場合だということかと思いますので,そうしますと,この部分はアに規定するよりも,イの一つとして,取得する相続人と合意がある場合,それから,必要性が高い場合ということで,裁判所が審判で長期居住権を認めることができるという整理もあり得るかなという感じがいたしました。
○大村部会長 実質は,今,皆さんから御意見を出していただいて,明らかになってきたと思いますけれども,あとは整理の仕方を更に考えていただくということで,窪田さん,よろしいですね。
  それでは,その件につきましては今のように整理していただくことにいたしまして,浅田委員,どうぞ。
○浅田委員 意見が一つと照会が1点です。
  意見は長期居住権の法的性質について,部会資料で5ページの上段で,その性質についてどのように考えるかという御照会がありますので,私どもの意見を述べさせていただきたいと思います。この点につきましては従前から私どもが申し上げておりますように,抵当権者の立場からすると対抗力の面で抵当権者が先行優先していた場合において,その地位の法的安定性を維持するという観点から,この案のとおり,用益物権ではなくて債権的な位置付けとするという案,すなわち,登記を対抗要件とするという案に賛成です。
  それから,御質問でありますけれども,第6回の部会でもお伺いしたところで,細かい話ですが,配偶者が死亡したときの居住権の消滅の場合の登記上の取扱いについて,所有者の単独申請で足りるのか,それとも,相続人等の共同申請まで必要なのかどうかということについては,実務上,重要な点でもありますものですから,この場でお教えいただくか,それか,補足説明の段において何らかの方向性を示していただければと思います。
○大村部会長 第1点は御意見として承るということで,第2点につきまして事務当局から。
○堂薗幹事 第2点につきましては,まだ,現段階で具体的な考え方をお示しすることはできないのですが,3ページの(注3)のところで,長期居住権に関する登記手続をどのように定めるかについては,なお検討するという記載をしており,ここで今後の検討課題であることを明らかにする趣旨でございます。したがいまして,そもそも,対抗要件具備のための登記手続において単独申請を認めるかどうかということと併せて,消滅の場合,特に死亡した場合には客観的に消滅事由が明らかになっていますので,単独申請を認めることができるかどうか引き続き検討していきたいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  では,そのほか,いかがでございましょうか。
○増田委員 若干,気付いた点を申し上げますので,本文もしくは補足説明で御検討いただきたいと思います。
  まず,1(1)の③ですけれども,善管注意義務となっておりますが,1(1)の場合は共有者の一人が共有物を占有している場合なので,ここでは一般的に善管注意義務まで要らないのではないかと思いますので少し御検討をお願いします。
  それから,⑦ですが,ここは原状回復義務のところが前回の資料までと表現が変わっていまして,恐らく民法改正案599条3項ないし621条の表現に変えられたのだと思いますが,599条1,2項に当たる附属物の収去義務が消えています。これについては賃貸借にも622条で準用されていますので消す理由はないと思いますので,ここは元に戻された方がいいのではないかと思います。
  それから,必要費について誰が負担するかという点は明記されていませんが,1の短期居住権の方については恐らく居住者の負担であるということで,従来からそういう議論だったかと思いますが,これも法定債権ということですので,債権債務の内容は契約規範が働かない以上は,法で定める必要があるかと思いますので,明記していただいた方がよいのかなと思います。
  それから,2の長期居住権の方です。
  長期居住権の2の②のイですけれども,要件と言われていますが,配偶者の生活の維持を図るために配偶者に長期居住権を取得させる必要性が高い場合においてというのが,要件としての絞込み機能があるのかどうかというはかなり疑問ですので,ここは何か工夫いただくか,例えばやむを得ない場合とか,持分を取得することが相当でない場合とか,そういう形の何か絞込み文言を入れていただくか,あるいは要件については引き続き検討するとか,そういう聴き方にするかというのがいいかと思います。
  それから,⑤で承諾を得た譲渡は認められるわけですが,その場合も恐らく⑦で死亡した場合には,要するに前権利者が死亡した場合には消滅するという話だったと思いますので,これは補足説明でもいいので補充していただいた方がいいと思います。
  それから,買取請求権なんですが,私はこの手続とか,法的な権利がどう動くのかというのが直ちには分からなかったのですが,普通は建物買取請求権とか,株式買取請求権などでは,買取りの意思表示をした段階で売買契約が成立する形成権という構成を採って,株式などではその対価について裁判所が判断するという仕組みになっています。ここでは裁判所が対価だけではなくて,先ほどの御説明だと認めるかどうかも裁判所が判断するということだったと思いますので,少し,それはほかの類似の買取請求権とは性質が違うのではないかと思います。したがって,私はこれを認めるのであれば,ほかのと合わせた方がよいのではないかと思いますし,この点手続も含めて御検討いただければと思います。
  それとともに⑬のような考慮要素というのは,この種の権利の中では見たことがないもので,当事者の年齢,職業とか,心身の状態とか,そういう要素が権利の実価を算定する基準として,妥当なのかどうかというのをお考えいただきたいと思います。私は,そもそも,この買取請求権までは必要ないとは思っていますが,とりあえず聴いてみるとしても,抽象的に(注)で買取請求権を設けるという考えがあるが,どうかというような聴き方というのも考えられるのかなと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
  短期の方について3点,それから,長期の方についていくつか御指摘をいただきましたが,特に,最後の買取請求権を一まとめにするという点につき,御指摘・御意見を頂いたと思います。特に買取請求権については今回,こういう形でまとまった規定を置いて,増田委員がおっしゃったように皆さんの意見を伺ってみようということを御提案いただいているかと思います。これは,これまでの審議で買取請求権を認めるべきではないかという御意見があったのを受けて,このような形になっているかと思います。増田委員からはこの点について必ずしも賛成ではないという御意見をいただき,また,聴くとしてももう少しシンプルに聴いてもいいのではないかという御指摘もいただきました。事務当局から今の御質問についてお答えを頂きますけれども,その後で,他の方々から買取請求権をどうするかということにつきましても,御感触を伺えればと思います。
○堂薗幹事 それでは,お答えいたしますが,まず,短期居住権の善管注意義務ですが,共有者間で共有者が目的物の全部を使う場合に,善管注意義務なのか,通常の自己の財産と同様の義務なのかというのは,必ずしもはっきりしないところがあるのですが,ただ,少なくとも短期居住権の場合は共有物の使用の場合とは異なりまして,使用の対価を共有持分者に払わなくていいと,要するに共有物の全部を使用する場合には,通常は持分権者にその分の使用の対価を支払うという前提だと思いますけれども,ここでは無償で使えるという前提ですから,そういった意味では,使用貸借と同じように善管注意義務を課すことにも合理性があるのではないかというのがこちらの整理でございます。
  それから,2点目の原状回復義務につきましては御指摘のとおりでございまして,今回の案は債権法改正で条文になっているものを参考にしたものですが,使用貸借の規定の準用部分が抜けておりますので,ここについては,従前のような形で,ざっくりと原状回復義務を負うというような形に戻したいと考えております。
  3点目の必要費につきましては,従前どおり,こちらとしては短期居住権の方は使用貸借並びで考えておりまして,通常の必要費は配偶者の負担ですが,臨時の必要費については相続人が負担するということを考えております。長期の方は,前回は用益物権であることを前提として,地上権と同じような規律にしており,必要費についても配偶者が負担するということで考えておりましたが,今回,法的性質のところは若干変えておりますけれども,長期居住権の方も必要費を建物所有者が負担しなければならないということになりますと負担が重くなりますので,その点は従前どおりでいいのではないかと考えているところでございます。その点についても中間試案の中で取り上げた方がいいということであれば,そういった方向で考えたいと思います。
  それから,次に長期居住権の方でございますが,まず,②の要件のところですけれども,②のイは,基本的には遺産分割でどう財産を分けるかというところの判断基準を示したもので,通常の遺産分割の判断基準に加えて,長期居住権の場合には更にこのようなことも考慮してくださいという趣旨のものです。現在の案は,若干抽象的な表現になっておりますが,この辺りの要件をどのように定めるかというのは今後の検討課題だと思いますので,その旨を(注)で示すなど,何らかの工夫をしたいと思います。
  それから,⑤のところは補足説明の中で説明をしたいと考えております。
  買取請求権の話ですけれども,御指摘のとおり,通常の建物買取請求権ですとか,株式買取請求権の場合は形成権の行使時に権利が移転するということだと思いますが,ここでは少なくとも買取価格の判断基準時については裁判時にすべきではないかというのがこちらの考えでございます。といいますのは,御指摘の建物買取請求権などは要件がかなり明確になっているわけですが,この場合は使用できなくなったことについてやむを得ない場合ということで,かなり抽象的な要件であり,実際に買取りが認められるかどうかというところは,裁判所の判断を待たないと建物所有者としても分からないというところがあると思います。長期居住権の買取価格については,基本的には残存期間の賃料相当額が基準になってくると思いますので,買取請求権の行使時でその価格を決めてしまいますと,裁判確定時までの間のリスクを建物所有者の方で負担しなければいけなくなります。
  要するに建物所有者としては要件を満たしていないと考える場合は,その建物は使わないということになるわけですが,最終的に買取りが認められた場合には,その間の使用利益も負担しなければいけないということになりますので,そういった意味で,建物買取請求権とは違って少なくとも買取価格の基準時については,裁判時にしなければいけないのではないかと考えております。そうしますと,買取りによる権利移転の時期も別に裁判時でも問題ないのではないかということで,ここでは御指摘のあった買取請求権とは違う枠組みにしているということでございます。
  それから,⑬の考慮要素のところですけれども,これも基本的に各当事者の年齢とか職業,心身の状況あるいは生活の状況などにつきましては,対価というよりは支払方法を定めるに当たって考慮すべき要素だと考えておりまして,建物所有者の方としては,いきなり買取請求権を行使されることになりますので,一括でいきなり買い取れと言われても難しい面があるのではないかと思います。その点を踏まえて,⑫で分割払などを認めておりますので,分割払で支払わせるかどうかという辺りの考慮要素として挙げているという趣旨でございます。
  私の方からは以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  増田委員が御指摘のとおり,通常の買取請求権のモデルからは離れたものが提案されているけれども,むしろ,そういうものが妥当なのではないかということで,御提案がなされているという御説明だったかと思います。増田委員,今のお答えにつきまして何かありましたら。
○増田委員 今回,いきなり出てきたものですので,まだ,中間試案にこれを盛り込むには内容についての議論が不足しているのではないかと思います。
○大村部会長 買取請求権についてですね。その他の点についてはよろしいですか。
○増田委員 その他の点は今のお答えで結構です。
○大村部会長 分かりました。今,御指摘がありましたように,買取請求権については今回,このような形で御提案いただいているところでございます。先ほども申しましたように,買取請求権については賛成論,反対論があろうかと思います。どちらの立場にも配慮した形で事務当局からは御提案がされたものと理解しておりますけれども,委員,幹事におかれましては,様々なお考えがあろうと思います。提案の仕方をどうするかということに集約されるような形で御意見を頂戴できればと思いますが,いかがでしょうか。
○南部委員 まず,短期居住権の件につきまして,これについてはこの間,議論された中で判例もあるということですので,私たち市民というか,一般人にとっても必要であるかなということで,中身の細かなところは皆さんで御議論いただいたらいいかと思うんですけれども,短期居住権についてはしっかりとパブリックコメントのときに出していった方がよいと思います。
  ただ,長期なんですが,ここまで複雑に書かれますと非常に長期居住権がそもそも何かということの理解が一般国民には難しいのかなということですので,まず,最初に2番の初めには書かれているんですけれども,ここをもう少し分かりやすく,是非,書いていただきたいなということです。その上で,どれくらいのニーズがあるかということも知っておく必要があるかと思いますので,それも考慮いただけたらと思います。
  また,今,議論になっております買取請求につきましては,更にややこしくなるかと思います。例えば終身の長期ということで権利を発生された方が途中で施設に入ると,いつまでか分からないのに5年というのも想定ができないし,5年になるかどうか分からないんですけれども,そういったことを考えますと,買取請求についてはもう少し慎重な議論が必要かなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 短期居住権については記載のとおりでよろしいかと思います。
  長期居住権についてです。南部先生の御指摘のとおり,複雑にすぎるのもいかがなものかと思います。そして,この部分についての論点は,長期居住権の財産評価をどうするかということと買取請求権を認めるかどうかの2点であると考えます。
  まず,長期居住権の財産評価ですが,第三者に建物を賃貸する場合とは相当に異なります。通常は親族間が想定され,親子であるのがほとんどであろうと思います。そうした場合に,第三者に賃貸する場合の建物賃借権の評価額と同様の金額とすることには疑問です。例えば,通常の評価額の2分の1にするなどの一定の割り切りで簡素な方法も検討してはどうかと思います。
  そして,その評価については,相続税制との整合性を考慮する必要があります。そして,第三者に賃貸借を行う場合には,土地の部分については賃借人の有する権利部分を土地の評価額から控除することになります。すなわち,借地権割合と借家権割合を用いて算術的に,土地所有者の土地の評価額,建物所有者の建物の評価額,賃借人が有するとして計算される建物と土地の評価額を計算することになります。長期居住権の場合は,第三者への賃貸借と違いますので,土地部分には影響を及ぼさずに建物部分だけで考えるという簡便な方法もあります。それと長期居住権を生存配偶者に取得させずに,そのまま居住を認めるケースも想定されますが,その場合と個別の部分の評価額が変わることについては説明が必要となります。
  次に,長期居住権の買取りについてです。買い取るとしても長期居住権を有する者がノーと言えば取引が成立しないわけですので,価格を設定する必要があるのかどうか疑問です。当事者間で合意をすれば足りるかと考えます。ただし,長期居住権について評価を認めるのであれば,その金額をベースに譲渡することになりますが,その点は積極的に書かなくてもよいのではないでしょうか。実際に何らかの形で長期居住権を消滅する行為があった場合に金銭が動いたりしたときは,税については税の分野で考えればよいので,余りここをルール漬けにすると実態から離れる危険性もあります。
○大村部会長 ありがとうございました。
  南部委員と,それから,上西委員とが共通に,余り複雑な制度を作るのは理解あるいは普及の観点から望ましくないという御注意・御意見を頂いたものと認識いたしました。条文を作るときにはもう少しめり張りを付けて,原則部分と手続部分とに分けて書くということになりますが,現状では⑬まで列挙されている形になっておりますので,分かりにくくなっているという面もあろうかと思います。さはさりながら,シンプルな制度ができるのであれば,それに越したことはないということで,上西委員からは余り立ち入った制度を作らずに余裕を残しておいた方がよろしいのではないかという意見を,買取請求権について頂きました。それから,財産評価の方法については,ここに書かれているのとは違う可能性について御示唆を頂いたと理解しております。この点についてはなお御意見を参考に検討するということかと思います。
  その他,御意見はいかがでございましょうか。
○山本(和)委員 買取請求権の部分ですけれども,この買取請求権を認めるかどうかについては特段,定見はないんですが,手続について増田委員から通常の買取請求の法律構成とはやや違ったものになっているということで,私自身はこれは基本的には政策判断の問題で,どの時点で売買契約を成立させ,代金をどの時点を基準時にするかというのは,判断の問題かなと思っています。
  実質的には,事務当局が先ほど説明されたことは理解できるような気がしますし,売買契約自体が請求時に成立してしまうということになりますと,その時点で配偶者は不法占有の状態になるのではないかと思いますけれども,その後,実際に代金額が確定して代金を取得するまで一定の時間が経過する,その間,不法占有状態になっているというような法律構成というのもいかがなものかなという観点もしますので,建物買取請求とかとは法律構成が違うのかもしれませんけれども,それを実体法的にどう説明するのか,停止条件付きの売買が成立すると説明するのか,あるいは裁判所の裁判あるいは協議で代金が確定したときに初めて売買契約が成立するのかとか,いろいろな説明の仕方はあるのではないかと思いますけれども,そういうやり方というのは十分あり得るのかなと思いました。
  中間試案としての提示の仕方ですけれども,何人かの委員の御指摘のように一つの項目で⑬まであるというのは,そもそも,それ自体,いかがなものかという感じがしなくもありませんし,買取請求については今までの御議論を伺っている限りでは,そもそも,入れること自体にかなり賛否のあれがあるようなので,ただ,全部,単に買取請求権を入れますかみたいな形で聴いても,入れないというのが多数の意見であれば,それはそれで問題ないと思うんですが,入れるという意見が多いような場合に,一からどういう手続をまた考えてくるか,その手続の作り方にも恐らくいろいろな意見の分かれがあると思いますので,一応,中間試案提示としては入れるとすればこういう手続が考えられますよと,入れるという場合には手続の組み方についても意見をお願いしますというような提示の仕方をした方が,より中間試案後の審議が充実するのではないかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 今の建物買取請求権のところです。私自身はこういう制度があってもいいのではないかという考え方を持っておりまして,中間試案では是非聴いていただいたらと思っております。それで,今,不法占有にいつからなるかというお話がありましたが,そのほかに,対価の遅延損害金がいつから発生するのかとか,そういったことも関係してまいりますので,明らかにできるものなら補足説明などで,それらの点も明らかにしていただいたらと思います。
  それから,提示の仕方ですけれども,1項目について13まで付いているうちの,そのうちの五つが買取請求だと,非常に何か,これが重い制度で,3分の1ぐらいはこれで占めるというような感覚を持ちますが,それもどうかという感じが致しますので,例えば,一つはゴチックで見出しを付けまして,成立の要件とか権利義務とか,あるいは買取請求とかぐらいにするとしてはどうでしょうか。そのようにしますと,意見も(1)についてとか,2についてとかいう形で出しやすいと思います。それでも13のうちの五つを占めてしまうということを考えますと,例えば柱としては,これこれ請求することができるものとする,買取請求権と呼ぶとかして,その細目は次のとおりということで,補足説明のところで,こういった制度であって通常のものとは違うと,こういった諸点についても意見を出されたいというような説明の仕方もあるかと思います。
  確かにこのままだと,ここがものすごく厚いという感じがするのが少し嫌みなところもあるのかなと思われ,意見としてもどうかなと。ここままだと1について,2についてとかいうのも意見も出しにくいようにも思いますので,説明のところの見出しがあれば,それで十分かもしれませんけれども,提示の仕方は工夫があるように思っております。
  それから,あと1点はやや別の点です。短期の方策と長期の方策との関係に関しまして,資料を訂正されたところと関わるのですが,例えば遺言によりまして所有権は子どもに,しかし,長期居住権は配偶者に与えるという遺言をしたときには,どのように発動するのかということです。特定の遺贈ないし相続させる旨の遺言の両方あるかと思いますけれども,短期居住権がまずは例えば6か月は働いて,その後,長期居住権ということになるのか,最初から長期居住権ということになるのかというのが一つです。
  そして,いずれの場合にあっても訂正された2の⑧は遺産分割後にはならないのではないかと思われまして,所有権は端的に子どもに行ってしまって,長期居住権は配偶者に行っているとなると,ここは長期居住権の発生のときからとか,そっちになるのではないかという感じがしますので,訂正の趣旨がそれでいいのかということも気になりましたものですから,併せて御説明いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  最初の方の御指摘についてですけれども,山本委員からも御指摘がありましたけれども,可能ならば2の中を少し区切っていただく方向で分節化していただくというのが皆さんの御意見ではないかと思います。それから,⑨以下の買取請求権については,一定程度の内容を持ったものを提案した方がよろしいのではないかという御意見を頂いたと理解しました。ただ,余り詳しすぎるのも適切ではないので,もう少し整理が必要なのではないかというのが,皆様の平均的な御感触なのかと思って伺いました。
  第2点についてはお答えをお願いします。
○堂薗幹事 まず,短期居住権と長期居住権の関係については,まだ,十分整理ができていないところがあるかと思いますけれども,基本的に短期の1の(2)のところは,明渡猶予期間的なものとして考えていますので,遺言で長期居住権を取得させるということであれば,この規律を発動させる必要はないということになるのではないかと考えております。
  それから,⑧のところはおっしゃるとおりで,ここは,基本的に遺産分割で配偶者が長期居住権を取得した場合を想定しており,その場合には遺産分割後の損傷ということだと思いますが,②ではそれ以外の発生根拠も書いていますから,それを包含するような形で書く必要があるかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,では,中田委員,石井幹事の順番で伺います。
○中田委員 3点あります。
  第1点は短期の1の(1)の⑤の消滅請求ですが,配偶者以外の相続人とありますが,これは相続人のうちの単独なのか,過半数なのか,全員なのかというのがいずれもあり得ると思うんですけれども,そこは説明を付加していただいた方がいいのではないかと思いました。
  次に長期居住権ですが,上西委員,沖野委員からも関連する御意見,御質問があったんですが,長期居住権の認定をどうするのかということです。ほかの法律関係,例えば契約による賃貸借ということもあり得ると思うんですが,契約による賃貸借と長期居住権とでは効果が相当違ってくるのですけれども,そのために紛争が生じる可能性がある。そうすると,長期居住権であるということの決定をどのようにしてするのかということで,もしお考えがおありでしたらば,何らかの形でお示しいただいたらいいのではないかと思います。
  3点目は買取請求権ですけれども,細部はともかくとして,こういったアイデアについて中間試案で広く聴いてみるというのは結構なことかと思います。その際に,余り細部に立ち入らないでというのもそうだと思うんですが,この請求権の基本的な性質がよく分かっておりませんので,御説明いただければと思います。つまり,形成権ではないのかということです。建物所有者の承諾がない限りは成立しないというような御理解の御意見もあったように思ったんですが,そうではないのではないかと思うのです。
  そうすると今度は契約がいつ成立するのか。これも先ほど山本委員でしたか,全て後になるんだと,裁判時になるんだということだったんですが,そこは必ずしもはっきりしていなくて,契約が成立して,その後,対価だとか権利移転時期が決まるということもあり得ると思います。不法占拠になるということについても,例えば留置権みたいなものを認めれば,クリアできると思います。そこのコンセプトが人によって理解が違うようですので,できれば何らかの形で御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 まず,最後の点ですが,こちらで考えているのは形成権ではなくて,形成の裁判によって買取りの効果が生ずるということでございます。すなわち,裁判による場合には裁判の確定によって長期居住権が移転するということで考えておりますので,買取請求によって権利自体が移転するということまでは考えていない。そこは要件もかなり不明確ですので,そうした方がいいのではないかと考えているところでございます。
  それから,長期居住権と類似の権利との区別という点については,今後,検討していかなければいけないと思っておりますが,この点については長期居住権について使用の対価を支払うような形での設定を認めるかどうかというところにもよってくると思いますが,そこを認めないということに致しますと,相続財産の中で使用の対価は支払済みであるということになり,存続期間中は無償で使用することになりますが,それにもかかわらず第三者に対抗できるというような内容になりますので,その辺りでほかの権利との区別が付けられるのではないかと考えております。もっとも,その辺りについては引き続き検討したいと思います。
  それから,短期の⑤の消滅請求のところは,相続人が各自できるという理解ですので,その辺りについても明確にしたいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○石井幹事 長期居住権の買取請求については余り複雑な規律にしないでほしいという御指摘もあったところですが,具体的にどのような手続が想定されているのかということについて,ある程度,明確にしていただくと,意見が言いやすいかなと思いますので,そこはお願いということで申し上げておきます。
  あわせて,買取請求が認められる場合として,部会資料でいくと⑨のところで,「建物を使用することができなかったことについてやむを得ない事由がある場合」とされておりまして,資料などを拝見すると,施設に入居した場合というのが念頭に置かれているのかなと思うんですが,「やむを得ない事由」として,これ以外に具体的にどのような場合が想定されるのかというところについても,補足説明等で明らかにしていただけると有り難いなと思っております。
○大村部会長 御指摘を踏まえて,更に検討していただきたいと思います。
  ほかはよろしいでしょうか。
○西幹事 質問ないし確認3点とお願いが1点ございます。
  1点目の質問は,先ほどの建物買取請求のところですけれども,「建物所有者」の中には,建物所有者が相続人である場合も,相続人でない場合も含まれるのでしょうか。恐らくこの書きぶりでは,相続人でない場合も入るということだと思いますけれども,その場合に⑩以下の規律が相続人である場合と全く同じになるのかという点を確認させていただきたいと思います。海外では建物所有者に対する買取請求についても,建物所有者が相続人である場合という限定を付しているところもあるようですので,そこをどのように考えるのかというのが買取請求を認めるべきかどうかを考える上でも少し関係するような気がしました。
  2点目の質問です。3ページの(注1)に「長期居住権を取得した場合には,配偶者はその財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うことを前提としている」と書かれていますけれども,配偶者が長期居住権を取得する場合,飽くまでも法定相続分の範囲内でというのが前提になっているということなのでしょうか。2ページの②のアのように,合意によって長期居住権を認める場合やウ,エのような場合には,特に法定相続分というのは問題にならないのかもしれませんけれども,イのような裁判所の審判でということになりますと,法定相続分を超える分を取得して代償金を支払う方法もありうるのでしょうか。
  3点目の質問は,短期,長期の両方に関わることです。今まで賃貸物件である場合の扱いについていろいろ御議論がありましたが,今回の書き方では賃貸物件である場合については,特に考慮しないということかと思います。ただ,都市部では50%以上が賃貸物件という現実もありますので,なぜ,考慮しなくていいのか,それについては除外するのかということを中間試案の中で説明を入れていただくわけにはいかないでしょうか。居住が保護されるから問題ないというのは分かるのですけれども,居住が保護されるとしても,ずっと賃料は配偶者の負担になるわけで,その点,配偶者が支払うべき賃料の一部の相続財産での負担について多少,考慮している法制もあるようですので,それについては日本は考慮しないということでよろしいのでしょうか。
  お願いですけれども,長期居住権について一見しただけでは,これは賃借権「類似」というよりも賃借権の一部ではないか,一類型ではないかという気がしてしまいました。恐らくそう思う方もいらっしゃると思いますので,賃借権とどう違うのか,どのようなメリットがあるのかというのをもう少し分かりやすく書いて説明していただきたいと思います。算定額が安くなるとか,合意がない場合でも成立しうるとか,その程度のことは分かるのですけれども,それ以上にどういうメリットがあるのかというのがよく分からないと使いにくいと思いました。と申しますのは,海外では長期居住権を死亡後に認めている国では,離婚後についてもそのような居住権保護制度があったり,婚姻中についても居住不動産については特別な扱いがなされていたりということがありますので,日本にとって,こういう初めての制度を入れる場合には,その必要性やメリットがあるのかという疑問が当然,出てくると思いますので。御配慮をお願いできたらと思います。
○大村部会長 最後の御説明については御工夫を頂くということでお願いしたいと思いますが,御質問について,さらに検討するということ以外にお答えがあれば伺います。
○堂薗幹事 相続人だけに限るか,相続人以外の者も含めるかというのは検討したいと思います。3ページの(注2)のところは,基本的には当然,配偶者の具体的相続分の中でそこを考慮するという前提です。具体的相続分の中で取れるものを取るということですので,そういう前提でございます。その辺りも補足説明などで触れたいと考えております。
○大村部会長 賃借権の場合の扱いも併せて御検討いただくということで,お願いいたします。
○八木委員 基本的には西幹事の第1の御質問と同じことをお聞きしようと思っておりました。つまり,被相続人から第三者に所有権が移転された後,そこに設定されている長期居住権を買い取らせることを想定しているのかどうか,それとも長期居住権を設定した場合には,被相続人の所有の建物の売却自体ができなくなるという意味なのかどうか,そこをお聞きしようとしていたということです。
○堂薗幹事 基本的に長期居住権があっても,長期居住権が設定されているものとして売却すること自体はできます。売却した場合に建物の所有権を取得した第三者に対しても買取請求を認めるというのは難しい面があろうかと思いますので,基本的には相続人を念頭に置いておりますが,その辺りも今後検討したいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○水野(紀)委員 今まで用益物権のようなものとして考えてきたのですが,賃借権類似の法定の債権と設定されることになりました。その結論を前提とすると,説明が今ひとつよく分からないところがございます。2ページの②のウとエの書きぶりです。配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺言がある場合は,そういう債権を取得させる旨の遺言がある場合と解釈されることになるかと思うのです。そうすると,エの場合に被相続人と配偶者との間に,配偶者にその債権を取得させる旨の死因贈与契約という書きぶりですが,法定債権を贈与するというのはやや違和感があります。むしろ,典型的に考えられるのは死因贈与契約で所有権をほかの者に与えるときに,負担付きという形で配偶者の法定債権を設定するというようなケースでしょう。そのような場合をお考えなのか,それとは全然違うパターンなのでしょうか,いずれにせよ,この書きぶりですと足りないものがあるような気がします。また,贈与という性質決定にふさわしい場合があるのか,ないのか,その辺りも気になります。その点を少し説明いただければ,あるいは整除していただければと思います。
  それから,配偶者が長期の療養で施設に入ってしまうような場合,この説明ですと,転貸してその代金で施設に入ることは難しくなるように思います。買取請求権の代金で施設に入るということは駄目なのだろうかという疑問が出てきそうです。もし用益権的に考えれば,そういうこともあり得ると思いますが,転貸を封じることになりますと,当然,出てくる質問だろうと思われます。これは選択肢に入れないということをどう説明になさるのか,伺わせていただければと思いました。
○大村部会長 書きぶりについては御検討いただくということで,転貸なのか,それとも転貸で回収するのか,それとも買取りなのかというところについては,お考え方はいろいろあろうかと思いますけれども,少なくとも一定の説明をすることは必要であろうという御意見だと承りましたが,何かありますか。
○堂薗幹事 ここでは基本的には長期居住権の譲渡の相手方を建物所有者に限っていると,強制的に買い取らせる場合には建物所有者に限っているという趣旨でございます。
○大村部会長 様々な御意見を頂戴いたしましたが,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,短期の方についてはおおむねこのようなことでよいが,細部について更に補足説明を工夫する必要があろうということだったかと思います。2の長期の方につきましては,全体をもう少し分節化する必要があるのではないかという御指摘がございました。それから,2の②の次に掲げる場合ということにつきまして,その表現に更に工夫を要する点があるのではないか,そして,買取請求権につきましてはある程度の具体性を持ちつつ,しかし,ここに書かれているのよりは少し簡略化した形で再度,整理をする必要があるのではないか。このような御意見を伺ったかと思います。その他にも補足説明で対応すべきことの御指摘がありましたけれども,取りあえず,今のようにまとめさせていただきまして,御意見を承ったものをまた次回に御提案を頂くということにしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,同様に次の項目についても御意見を賜りたいと思います。次は資料の6ページ以下,「第2 遺産分割に関する見直し」という項目ですが,事務当局より御説明を頂きます。
○下山関係官 では,資料の御説明をさせていただきます。
  まず,1点,訂正がございまして資料の6ページ,甲案の計算式のうち,aとbの数値を求めるbの方の式,「b=(遺産分割の対象財産の総額-a)」とありますが,このaというのは婚姻後増加額の誤記でございますので訂正させていただきます。大変申し訳ございません。
  では,資料の説明をさせていただきます。
  6ページ,「1 配偶者の相続分の見直し」につきましては,甲案として配偶者固有の寄与分の制度を新設する考え方を,乙案として婚姻成立後,一定の期間が経過した後に法定相続分の変更を認めるという考え方をそれぞれ紹介させていただいております。甲案につきましては,第7回会議において提案させていただきました案から特段の変更はございません。なお,計算式にあります被相続人が婚姻時に有していた純資産の額につきましては,婚姻後,長期間が経過している場合に,これを立証することは困難であるという御指摘を頂いたことを踏まえまして,例えば婚姻後,一定期間を経過した場合には,これを0円とみなして,婚姻後増加額の算定をするということも考えられるところでありまして,この点を(注4)に記載してございます。
  なお,甲案につきましては第7回会議におきまして,配偶者固有の寄与分を算定する際に相続債務の額を考慮するのであれば,現行の寄与分において相続債務の額を考慮していないということとの関係を整理すべきであるなどの御指摘を頂きました。この点につきましては,配偶者固有の寄与分について寄与分という名称を用いている理由としましては,その額が決められた場合には現行の寄与分と同様の取扱いをするという点にありまして,その法的性質といたしましては現行の寄与分とは相当程度,異なるというものを考えております。そして,配偶者固有の寄与分は配偶者の貢献を実質的に考慮して,その額を決めるのは困難であるということから,ある程度の割り切りをして形式的にこれを算定するということとした結果,相続債務の額を計算式に組み込むということとしたものでございます。
  他方,現行の寄与分におきましては,裁判所は寄与分の額を定めるに当たり,配偶者の実質的な貢献の程度のほか,相続財産の額など一切の事情を考慮すべきということとされていることから,この中で相続債務の額も当然に考慮され,相続債務が債務超過になっているような場合には,基本的には寄与分は認められないということになるのではないかと考えられるところです。
  続きまして,乙案について御説明いたしますが,乙-1案及び乙-2案は第7回会議における案を踏襲したものとなっております。ただ,第7回会議におきまして,被相続人や配偶者の意思によって相続債務の承継割合の変更を認めるのは相当ではないという御指摘を頂いたことなどを踏まえまして,前回の案を一部修正いたしまして,一旦,法定相続分を変更した場合には,その後,これを撤回することは認めないということとしております。乙-3案,これは乙-1案及び乙-2案と異なりまして,婚姻成立の日から一定期間が経過した場合には,当然に配偶者の法定相続分が引き上げられるというものとなっておりまして,これは第7回会議における御議論を反映したものとなっております。
  続きまして,資料9ページの最下段,「可分債権の遺産分割における取扱い」についてでございます。第9回部会におきましては,相続の開始によって可分債権が当然に分割承継されるということを前提としつつ,これを遺産分割の対象に含めることとする考え方として甲案を,可分債権を遺産分割の対象に含めることとしつつ,かつ遺産分割が終了するまでの間,可分債権の行使を禁止する考え方として乙案を,それぞれ提案させていただきました。
  この甲案及び乙案につきましては,それぞれに対してこれを支持する御意見とともに問題点についての御指摘もありましたことから,本部会資料におきましては要は折衷的な考え方といたしまして,相続開始により可分債権は法定相続分に応じて分割承継されるが,各相続人は分割された債権のうち一定割合,例えば法定相続分の2分の1を超える部分については,原則として遺産分割の場合には,これを行使することはできないこととするといった考え方を提案させていただいております。
  もっとも,この論点につきましては従前の甲案及び乙案を併記という形で,中間試案としてお諮りするということも十分に考えられると思っておりますので,この点について中間試案としての出し方について御意見を賜れればと思っております。また,対抗要件につきましては第9回会議における御指摘を踏まえて,対抗要件を具備する場合ということを整理いたしまして,これを⑦の部分に記載しております。
  なお,遺産分割の対象とすべき可分債権の範囲をどのように考えるべきかにつきましては,これを現金類似の性質を有する預貯金債権に限定すべきであると,こういった御指摘を頂いたところであります。ただ,この点につきましては,資料の12ページ上部に記載されているような問題点があると思われること,また,その後,3に書いてあります一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等の問題,これをどのように考えるかという点も関連する問題であると思われるため,本部会資料におきましては,この点は引き続き検討すべき課題であるという整理をさせていただいております。
  次に資料の12ページ中段,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」について御説明いたします。第9回会議におきましては,特別受益については原則として一部分活の中で,その全てについて考慮することとする一方で,寄与分につきましては一部分割と残部分割とを切り離すという考え方,これを提案させていただきました。この点につきましては,一部分割においても残部分割の対象となる財産の維持又は増加についての寄与を考慮することも可能であるといった御指摘等がありましたことから,これらの御指摘を踏まえまして残部分割において寄与分を考慮しなければならない場合,これをより具体的に規定するなどの変更を行っております。
  次に「(2)遺産分割の対象財産に争いのある可分債権が含まれる場合の特則」,これにつきまして仮に一部分割の要件及び残部分割における規律について部会資料(1)のように整理いたしますと,一部分割が可能かつ相当である事案の多くというのは,残部分割において特別受益及び寄与分を考慮する必要がない事案,すなわち,残部分割を法定相続分に従って行うこととなる事案ということになるものと思われます。そういたしますと,遺産分割の対象となる可分債権の有無及び額について争いがあるために,全部分割をすることができない場合であっても一部分割をすることが可能,かつ相当である事案においては,結局のところ,残部分割たる可分債権の分割というのは法定相続分によって行うこととなりますので,あえて残部分割を別個に行うまでもなく,可分債権を法定相続分に従って分割する旨の審判をすると,こういったことを認めてもよいものと考えられます。
  資料(2)の特則は,このような考え方に基づいて設けたものでございます。また,仮にこのような考え方を採用することができるのであれば,遺産分割の対象となる可分債権について,その範囲を預貯金債権に限定しなくとも争いがある不当利得返還請求権等については,法定相続分において分割をするといった形での対処が可能となると思われますので,遺産分割の遅延等についての問題点もある程度,解消することができるのではないかと,このように考えております。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  従前,別個の項目として検討してきましたものを,今回,「第2 遺産分割に関する見直し」ということで一括した結果,ここには三つの問題が含まれております。一つ目は「配偶者の相続分の見直し」と題されておりますけれども,このうちの甲案は基本的には,従前,議論してきた配偶者固有の寄与分の制度を新設するという考え方を表したものである。乙案につきましは,前回,出た二つの選択肢について一定の修正を加えるとともに,乙-3を新たに加えたという御説明だったかと思います。
  2番目の大きな項目である「可分債権の遺産分割における取扱い」,9ページでございますが,これは従前,甲案,乙案というのが併記だったものを一つの,先ほど御説明がありましたけれども,折衷的な案として取りまとめたというものです。このような形で折衷案を出すのがよいのか,それとも甲・乙併記に戻して意見と問うた方がいいのかという点につきまして御意見を賜りたいと思います。
  そして,最後に3番目,一部分割の点につきましては,(1)につきまして従前の議論を踏まえて修正を加えたということがございますが,(2)で特則を設けることが今回,提案されております。これは可分債権の取扱いとも関連するということで,このようなものの当否について御意見を伺いたいということかと思います。
  1,2,3の性質は違いますけれども,皆様から御意見を頂ければと思います。
○浅田委員 まず,一つ目の「配偶者の相続分の見直し」から意見を述べたいと思います。中間試案における案の見せ方といいますか,表示の仕方といいましょうか,絞込みということと,それから,補足説明で書いていただきたいことのお願いということであります。すなわち,特に(2)の乙案になりますと,その中の枝分かれが多く,一見して分からないというのがありまして,かつ,ア,イ,ウについては恐らく同じことが書いてあると思います。これを読んだ人はどこが違うのかということが分かりづらいと思いますので,そこがよく分かるように,取捨選択していただければ分かりやすいのではないかと思います。例えばア,イ,ウについては以下同じとするとか,そういう見せ方の問題であります。
  次に中身の話で,補足説明にも書いていただきたいことですので申し上げますと,乙-1案,乙-2案,乙-3案の差異というのがどこにあるのかということを明記される方が良いだろうと思います。これは二つの視点,つまり,国民の立場からしてどれがいいのかという視点これはある程度,分かりやすいことだとは思いますけれども,それに加えて取引第三者から見てどういう違いがあるのかという視点からの検討に有用と考えます。そこで,差異につきまして,ここでの議論を踏まえて補足説明等で分かりやすく整理していただければと思います。
  差異を整理する際の視点としては,取引第三者に対する公示手段との関係で,それぞれが一体どうなるのかということ,それから,特に乙-1案,乙-2案に関しては届出というのがありますけれども,その場合における問題点として,意思能力の問題をめぐって争われるのではないかということが指摘できるかと思います。こういったデメリットがあることからすると,乙-3案になると,多分,そこは解消されていると思いますので,取引第三者からすると乙-3案が一番安定的なものだと評価されるとは思います。こういった整理というのをしていただければ,パブコメする方々にとってもよりよい適切な意見発出ができるのではないのかと思いました。
  あと,乙案に関してありますけれども,これも若干,私の理解不足であるところもあるわけですが,先ほどの寄与分に関しては法的性質については通常の寄与分とは違いながらも,計算においては同じもの……。
○大村部会長 甲案に関してですね。
○浅田委員 甲案に関してです。甲案に関しての話ですけれども,これも見せ方の問題でありますが,現行の寄与分とは違いがありながら,計算上の関係から寄与分という言葉を使うということがあります。そうであれば,(1)の甲案の配偶者固有の寄与分の制度を新設する考え方の寄与分という言葉は,若干,そこを変えるか,ないしは9ページの説明にあるように「寄与分」というふうな表示をしていただいて,一見,違うものだということを分かりやすいようにしていただくという工夫も必要ではないのかなと思います。もちろん,補足説明において法的性質がどう違うのかということも記載していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲・乙,それぞれについてプレゼンテーションの仕方について御注意を頂いたと思います。寄与分という言葉については先ほど事務当局から説明がありましたけれども,これを使いたいという要請もあるということでしたので,しかし,どこが違うかということを分かりやすく示す必要があるとの御指摘だったかと思います。乙は三つ並んでいて,それでいいかという御意見もあったと思いますけれども,並べるのであれば,どこが同じで,どこが違うのかということを明確にしてほしいという御要望だったかと思います。御意見として伺いたいと思います。
  ほかにいかがでしょうか。
○増田委員 まず,1の乙案についてです。前回にあった撤回の話が消えているという,その御説明として今回の資料に書かれているのは,要は意思によって変更を認めるのは相当でないということだと思うんですが,その論理だと,元々,法定相続分を意思により変更するということ自体が相当でないことになって,案自体が成り立たないと思うんです。撤回を認めるかどうかについても聴いてみたらいかがかと考えます。
  それから,先ほど浅田委員のお話にもありましたが,公示の問題ですが,これは少なくとも相続開始後はどこの誰でもそれを見ることができるようなものでなければならないだろうと思いますので,具体的にどういう方法をお考えなのかということは,是非,示していただく必要があるかと思います。
  それから,乙-3なんですけれども,今回,これも初めて出てきた案でして,理屈の上では余り問題はないだろうけれども,価値判断としてどうかという問題はかなりあるだろうと思いますし,若干,意見にわたりますけれども,長期別居の場合,財産形成に全く寄与していないとか,長期にわたって寄与していない人も法定相続分が上がるということになりますので,これは離婚法が完全破綻主義になっていない以上は少し難しいのではないかと思っています。
  もう一つは,仮にこういうのを認めるとして,20年,30年という期間について考えてみたんですが,高齢化社会で,男62歳,女68歳で平均余命は20年を上回ってしまいます。これを30年に設定しても,男50歳,女57歳で平均余命は30年を上回っています。
  ということになると,50歳になれば普通は大半の財産が形成されていて,人生一発大逆転という可能性は残るとしても,一般的にはそのぐらいの年齢で結婚すると婚姻後増加額の方の少ないだろうと思いますので,20年,30年は乙-3については特に短すぎるのかなと思います。だから,例示としてもう少し長いのも入れていただいたらどうかと。例えば50年ぐらいだったら,結構,若い頃から結婚していて,夫婦で一緒に財産を形成してきたというイメージにはなるかと思います。50歳からともに財産を形成してきたというのは一般の考え方からしてもずれが出るのかなと思いますので,たとえば婚姻期間50年というのもひとつ御検討いただければ。2,3についての意見は後で述べることにします。
○大村部会長 では,いったん,ここで切っていただきたいと思います。
  撤回をもう一度選択肢に加えたらいかがかということと,公示について御意見がありました。それから,期間も違う選択肢を示してみたらどうかということでしたけれども,事務当局の方で,何かありますか。
○堂薗幹事 撤回を認めないのであれば,そもそも,乙-1や乙-2は成り立たないのではないかという点につきましては,乙-1,乙-2というのは,基本的には一定期間の経過で法定相続分を引き上げるだけの実態はあるんだけれども,従前どおりの法定相続分で構わないと言っている人や,あるいは,むしろ従前どおりの方がいいと言っている人との関係でも,自動的に上がるというのは,やや問題があるのではないかということで,その点について選択権を認める,要するに従前どおりの法定相続分でいいのか,あるいは一定期間が経過したので引き上げるのかという点については選択権を認めるもので,その限度で配偶者あるいは夫婦の意思を尊重するということですので,撤回について認めないというのも制度としてはあり得るのではないかとは思っております。ただ,中間試案としてはその点についても聴いた方がいいのではないかというのはよく分かりますので,そういった点を(注)で書くのか,あるいは,そのような案を復活させるのかという点につきましては検討したいと思います。それ以外の点についても,検討して次回にお示ししたいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,今,三つの項目のうち,第1点について御意見が出ておりますので,まず,第1点について御意見を伺ってしまいたいと思いますが,窪田委員,南部委員の順番でお願いいたします。
○窪田委員 まず,一つは本当に小さいことなのですが,先ほどから出ていることですが,乙-1,乙-2,乙-3については,何でここまで細かく分けて示すのかなという感じがします。基本的には乙-1,乙-2というのは当事者の一方的であるか,合意であるかはともかく,選択によってこういう変更を認めるというもので,一まとめにしてしまえばいいのではないかという気がします。それに対して乙-3というのは時間の経過によって機械的にということですので,性格が違うということで区別するということでよろしいのかなと思います。
  ただ,その上で別のところで正しくこうした案について少し議論することがあったときに出ていた議論だったのですが,乙-3のような考え方を採った場合に,適用除外についてのルールを全く設けなくて構わないのかどうかというのは,かなり深刻な問題なのではないのかなという感じが致します。もちろん,乙-3の考え方を貫くのであれば,本当はそんな例外は認めずに規律するのがきれいではあるのですが,しかし,本当にそれでいいのかと思われるような事案が出てくるのではないかという気も致します。案に加えてくれということではないのですが,適用除外のルールを組み込むかどうかというのは,少なくとも論点の一つにはなるのかなという気が致します。
○大村部会長 ありがとうございます。
  整理が必要だという点については御検討いただきたいと思います。それから,選択肢を更に加えるかということも御検討いただけるかと思います。
○南部委員 まず,すごく国民の関心が高いということだと思いますので,慎重に検討が必要かと思っております。その上で甲案なんですけれども,いろいろ,議論があってこういうふうにシンプルにされたのは理解できるんですけれども,これそのものが計算式が複雑というのもありまして,パブリックコメントで聴くのはいいと思うんですけれども,まず,最初に持ってくる方がいいかどうかと,並びの順番を少し工夫されたらいかがかということでございます。
  その上で,乙案は先ほど窪田委員がおっしゃったように,もう少し整理をしていただけたらということと乙-3なんですけれども,これも別居中であったとしても,例えばこれが自動的に発生するということは非常に問題のある御夫婦もいらっしゃると思います。そういったことを考えると,自動的というのは非常に問題が残るかと思いますので,適用除外という案もありましたので,そういったことの検討も必要になるかなと思います。
  乙-1,乙-2に戻るんですけれども,これについても裏に撤回ができないということで書かれておりました。これについても途中で意思が変わることも多分,あるかと思いますので,撤回ができないということも少し柔軟にお聴きになった方がいいかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙-3案につきましては,先ほどの増田委員の発言以降,シンプルであるけれども,これでよいかどうかということについては疑問があるという御発言が続いているかと思います。乙-1,乙-2と対照する意味で,乙-3が出てきているという面もあろうかと思います。具体的な妥当性を追求すると,ある程度の不安定さを抱え込むことになるのに対して,簡明なものを作ると,実際上の問題が生ずることもあるかもしれない,そのバランスの中でどうするかというところもあろうかと思いますが,頂いた御意見を踏まえて,更に調整をしていただきたいと思います。
  それから,南部委員から御指摘があった,この順番がいいかどうかということけれども,これまでの審議の経緯に基づいて,このような形になっているということかと思います。ただ,甲案については様々な経緯があって,今,こうして取りまとめられているわけですけれども,その経緯を知らずに甲案だけを見ますと,なかなか,理解が難しいところがありますので,順序がどうするかということにつきましては事務当局にお任せするとして,甲案についてより分かりやすくするという工夫をしていただくということが必要かと思いますが,そのようなことでよろしいですか。
○上西委員 乙-3案につきまして,窪田先生を始め何人かの先生がおっしゃったように,適用除外の要件の要否については検討すべきだと思いますが,実務上,適用除外の要件への該当性をどうやってそれを判断するのでしょうか。これも本人からの申立てや届出にならざるを得ないとなれば,乙-1,乙-2に吸収されるのかなと,こう思いますので,手続についてどうするのかについても考えていただければと思います。
○大村部会長 水野委員。
○水野(紀)委員 その議論が出たときにも申し上げた記憶があるのですが,一律にした場合も,それなりに説得力がある,一つの説明ができると思います。つまり,そういう場合には遺言で対処する,そして,配偶者の相続分については,配偶者という地位そのものを根拠として一定の取り分を決めてしまうという考え方も,それなりに合理的なものだろうと思います。財産形成に寄与したというだけが配偶者相続分の存在意義の理由ではありません。難しい新しい適用除外を設定するよりも,遺言で対応するという考え方の下に,乙-3を提案するという説明ぶりもありうると思います。
○窪田委員 よく分かります。よく分かるのですが,法的相続分を変更していますよね。そうすると,その影響で当然,遺留分も変更されることになりますよね。3分の2の法定相続分が認められると,3分の1の遺留分が認められるということになり,遺言ではその部分は修正できませんよね。これは実際上も大きい意味を持っているのではないのかなという気がします。一方で適用除外の点については,私自身も適用除外をそれほど簡単に定めることができるとは思っていません。思っていないからこそ,実は乙-3というのは大変難しいのではないかなということは思っているのです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙-3については様々なお考えがあるということが分かりましたので,それらを勘案した説明をお考えいただくということになろうかと思いますが,その他,1の「配偶者の相続分の見直し」につきまして御意見はございますでしょうか。
○西幹事 乙-3案が余り人気がないようですので,私は乙-3案が意外とよいと思うということを一言だけ,申し上げたいと思います。乙-1案と乙-2案は当事者に法定相続分の選択を認めるということで,実際上の妥当性という点では妥当な結論が導けるのかもしれません。ただ,法定相続分というのは飽くまでも法律が定めるもので,遺言のように当事者の意思が入らないからこそ,「法定」相続分なのだと考えますと,乙-1案,乙-2案が法定相続分の意思表示による選択を認めるという表現を使う時点で,既に概念矛盾なのではないかという気が致します。そうなりますと,乙-3案の方が法体系の安定性という意味ではよいのではないかと思いました。
  先ほど水野先生からも御意見が出ましたけれども,今,適用除外を設けるかというような話が出てくるということにも示されていますように,結局,今回の改正では配偶者の相続分は潜在的持分の清算という側面が非常に強く出ていると思います。ただ,本当にそうなのかというのは一度,御検討いただいた方がよいのではないかと思います。生存配偶者の生活保障というのもありますし,いろいろな側面があると思います。現行法でも例えずっと別居していても長年連れ添えば,それだけで2分の1をもらえるというのが一定の合理性があるものとして国民に受け入れられている以上,今回も潜在的持分の清算という側面を強く打ち出しすぎるのはどうなのかなという気が致しました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙-3について,配偶者の寄与の勘案というのとは違う形で理由付けることもできるという御意見だったかと思います。法定相続分という言葉遣いの問題については,二つあっても法律で定まっていれば,それは法定相続分だということも言えるかもしれませんが,なお検討いただきたいと思います。
  その他はいかがでしょうか。
○窪田委員 既に先ほど座長からも御指摘があった部分ではあるのですが,甲案,乙案の見せ方の問題についてです。ずっとこの議論に携わってきますと,甲案を見るとなるほどなと思うのですが,そうした前提になしに,これを見たら何と分かりにくいのが最初に示されて,その後に分かりやすい乙案が三つ並んでいるというイメージなんだろうと思います。甲案に至るまで確か三つ案があったと思いますけれども,いずれも基本的なコンセプトの点では基本的には配偶者の具体的な貢献というのを踏まえて,実質的夫婦共有財産の清算という,そういう性格を有するものをどうやって実現するのかということに向けてのアプローチだったと思います。ですから,配偶者固有の寄与分の制度を新設すると急に言われてもぴんとこないわけですが,甲案は具体的な配偶者の貢献を踏まえて,その清算という要素を取り込んだ案というのを示すことによって,当事者の合意によって,あるいは時間の経緯によって法定相続分が機械的に変わるんだという枠組みとは違うのだということ,その点をきちんと示す必要があるのかなという気は致します。
○大村部会長 ありがとうございます。
  具体的な貢献の考慮からだんだん離れて,乙-1,乙-2というのが出てきて,乙-3になるとそれが非常に希薄になるというのが,今の皆さんの御意見かと思いますけれども,そうしたことが伝わるような見せ方をするということが必要なのではないかという御指摘として承りました。
  ほかに「配偶者の相続分の見直し」につきましていかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,特に案の示し方につきましては,かなり工夫が必要なようでございますので,その点は御検討いただきまして,再度,御提案を頂くということにさせていただきたいと思います。
  それでは,続きまして「可分債権の遺産分割における取扱い」ですけれども,これと3番目の一部分割の問題は関連するところがございますので,併せて御意見を頂戴したいと思います。
○浅田委員 2番目の「可分債権の遺産分割における取扱い」について,折衷案が今回,出たわけでありますけれども,折衷案のみ提示することについての意見を述べたいと思います。従前来,私はこの論点については,銀行界からの提案として2つの案,これを「案1」,「案2」と呼んでおりますが,これは甲案,乙案に類しているものだとは評価できると思っていますが,そういう2案を,提案させていただいたところであります。今回の事務当局の提案というのは,甲案,乙案の折衷案ということでありますけれども,一見,両案の利点を取り込む形でいい案が出ると見えるかもしれませんけれども,逆に見ると,両案の問題点というべきものが内包されたまま,一つに合わさってしまうようにも見えると思います。
  この点についてはなお検討する必要があろうかと思いますけれども,ただ,私としては折衷案を見まして以下の五つの問題点が指摘できると思っています。一つ目として,相続事案の最終解決まで当該預金に関する情報を銀行としては管理し続けるコストを負う結果になるのではないかということです。二つ目に,銀行としては,常に一定の割合を,例えば2分の1ということでありますけれども,超える支払いになっていないか管理し続けるコストも更に負い続けるという懸念があると思われます。三つ目に,一部の相続人が一定の割合を超える払戻しを他の相続人に無断で行ってしまった場合など,甲案の問題として指摘した,いわゆる勝手払いの問題もなお解決されないまま残り続けるのではないかと思います。四つ目として,他方で例えば一定の割合,例えば払戻し可能な金額を法定相続分の2分の1に限定してしまいますと,被相続人の預金が少額であったときに,十分な相続費用の払戻しに対応できるのかどうかという,国民一般生活に影響を与えうる問題も惹起されると思います。加えて,五つ目として,一部払戻し可という,2分の1とかという制度自体が国民にとって分かりやすい制度なのかどうかという意見も,銀行界にはあったということを付言いたします。
  したがいまして,今回,提案されています折衷案というのが,この時点で限定するのはどうなのかと,少なくとも従来から私が申し上げていますように,当該提案は,国民一般にも大きな影響を与えるということでありますので,この時点で一つの案に限定するのではなくて,引き続き甲案,乙案の両論併記等としてパブリックコメントにおいて国民に諮るべきということを強く要望したいと思います。また,その際に甲案,乙案で論点とされていました仮払いの制度,それから,銀行界からも要望しています免責制度の立案の可否,ないしはその問題点というものについて,一応,私としてはこれらにつき示したつもりではありますけれども,もし,そういう問題の整理が事務当局にあるということであれば,その内容を補足説明等で丁寧に御説明いただきまして,国民にどの案でいいのかということの検討材料を十分に与えていただければと思います。
  それから,時間を頂きまして補足説明をさせて頂きたく存じます。若干,意見に関係することであります。第9回会合において私が「相続預金に関する各国法令・制度」と題する参考資料とともに,相続預金の各国の制度を紹介しました。その際,我が国の仮払い制度への示唆として,フランスにおいては5,000ユーロの少額払戻し制度があると記載して説明いたしました。その後,当方でフランスの制度を更に調査いたしましたところ,当該少額払戻し制度においては,公正証書又は相続人全員による相続人たる地位の証明が必要であるということが判明いたしました。そして,公正証書を選択された場合においては,法令上,必ずしも全相続人の同意が必要とされていないということでありますが,実務上,公証人は公正証書作成に際して全相続人の署名等を要求しているとのことです。したがいまして,一部相続人が協力しない場合において,公正証書を作成するというのは例外なケースだということが分かりました。
  また,他方で,公正証書でなく,相続人全員の証明書であっても払戻しは可能ですけれども,それは我が国においては一部分割協議と同様の取扱いであって,私が述べていた一部相続人からの払戻しができるという仮払いとは若干異なるということでございます。法制度の運用面を勘案すると,前回,ミスリーディングな説明を与えたかもしれませんので,この点を補足して説明差し上げたいと思います。ただ,ここで申し上げたいのは,慎重な手続による全相続人の保護と,簡便な手続の費用を低廉化するという,相反する二つの要素をいかに調整するかということが検討された結果が先ほど申し上げた制度だということでありまして,このような困難な利害調整を図る議論が必要であるということは,正しく本法制審議会で我々が経験しているところだと認識するわけであります。
  先般,御紹介したとおり,フランスでは細かな法制度を導入したということには変わりがありませんので,引き続きこの点については他国の知恵,経験も参考にしつつ,よく検討する必要があろうかと思います。長く述べましたけれども,甲案,乙案も引き続き残していただいた上で,いろいろな案があると思いますので,パブリックコメントの意見も参考にしつつ,検討をお願いしたいというところでございます。
  今のが意見でございますけれども,若干の質問を2点,お聞きしたいと思います。
  一つは今回,提示された折衷案でありますけれども,繰り返しの論点でもありますけれども,相続人は法定相続分の債権のうち,一部割合を超える部分について遺産分割前にこれを行使することができないとされております。この折衷案では,当該権利行使制限は飽くまでも相続人を対象とするものと考えてよろしいのでしょうか。私どもが従前から関心がありますのは,銀行が被相続人に対して貸金等の債権を有するときに,法定相続分の預金と法定相続分の貸金債権を対当額で相殺することがあります。このような債権回収上の権利が妨げられることにならないかどうかということについて,従前は差押え等ができるというお答えを頂いたと記憶しておりますけれども,この折衷案においても,このような認識でいいのかどうかということについて念のために確認させていただきたいのが一つでございます。
  二つ目は若干の関心事でありますけれども,3月24日の報道だと思いますが,預金の相続財産該当性に関する遺産分割審判が大法廷に回付されたという報道に接しました。この報道自体はパブリックコメントを行う我々も知るところであると思いますけれども,私自身はどういう事案で,どういう方向で議論するのかというのは承知してはおりません。しかしながら,最高裁の動向とこの法制審議での議論というのは,どのような影響を与えるのかどうかというのは多分,皆さんの関心があるところだろうと思います。関係するのか,関係しないのか,それか,分からないか,いろいろあると思いますけれども,この点について事務当局の方で何かお考え等分析があれば,御示唆を賜れればと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御意見と御質問を頂いたかと思いますけれども,御意見の方は現在の折衷案の難点の御指摘がありましたけれども,結論としては甲案,乙案の両論併記で意見を問うのがよろしいのではないかというだったかと思います。それに伴って生ずる仮払いにつきまして,フランスの制度を以前に御紹介いただきましたけれども,それにはフランスの特有の制度的な背景があるという御指摘をいただき,それを勘案した上で,具体的な制度はどのようなものかというのを細かく検討する必要があるのではないかという御意見をいただいたものと承りました。
  質問の2点につきまして,何かございましたらお答えをお願いします。
○堂薗幹事 まず,1点目ですけれども,②は飽くまで相続人側からの権利行使を禁止するということでございますので,債権者側の相殺権の行使とか,そういったものは一切妨げられない。これは飽くまで遺産分割を円滑に行うために,一定の範囲で相続人の権利行使を制限するという趣旨のものでございます。
  それから,大法廷に回付された事件との関係につきましては,最高裁で正にどういう判断がされるか次第でございますので,何とも言えないところはあるんですけれども,ただ,どのような判断がされても,ここで御指摘いただいているように,全て権利行使を認めると問題があるし,かといって,全く権利行使できないということだと,また,それはそれで困るという問題はあろうかと思いますので,どういった判断がされても,その点について立法的に手当をするということは,十分に考えられるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほか,第2項目,第3項目につきまして。
○水野(有)委員 従前も多少,同じようなことをお聞きしたかもしれないのですが,細かいことかもしれませんが,訴訟中に当事者が亡くなった場合の帰すうというのが職業上,とても興味のあるところでして,それはひいて言えば,元々,誰が訴訟の訴えができるのかとか,執行の申立てができるのか,破産において債権届出ができるのかとか,あらゆるところで多分,問題になることとパラレルに考えるべきかどうかというところの問題があるのかなと思いまして,従前ございました甲案ですと多分,分割債権として行使できるということになるんですけれども,乙案のときにどうなるのか,よく理解ができないなと思っていたところ,折衷案になりますと,ますます,理解が難しくなりますので,その辺りについてどういうお考えかについて,是非,補足説明か何かには書いていただかないと,なかなか,意見自体が出しづらいのかなと思いましたので,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 正に御指摘のとおりだと思いますので,そこは十分考えたいと思いますが,一応,ここでお示ししているのは,②で書いてありますように,原則として分割して承継されるんですが,一定の範囲で権利行使は禁止されるという理解でございまして,ですから,ここの部分に限っていうと,甲案的なことになるのではないかと思いますが,十分にまだ詰めた検討ができておりませんので,検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 同じことになるのですが,基本的には浅田委員から御指摘があったとおり,甲案,乙案を維持していただいた方がよろしいのではないかなという気が致します。甲案,乙案の考え方は基本的には遺産共有の段階でどういうふうな法律関係が成り立つのかという部分で,かなり基本的な立場で異なっているのだろうと思います。もちろん,立場の違いを前提としても,甲案を採った場合に,そこで生ずる問題をどう修正するのか,乙案を採った場合に,どう修正していくのかというのは,それぞれ,考えられるとは思うのですが,その場面で折衷説というのを出すと,かえっていろいろなことがよく分からなくなるのではないかという気がします。私自身は分割承継されるとしつつ,権利行使は制限する,それも2分の1に限るというのは,一体,どう説明するのだろうという点が気になります。最後の落ち着き所としてはあるのかもしれませんが,理論的な説明はかなり困難ではないかと思います。それよりはむしろ,甲案,乙案というのを考え方としては出して,それで御意見を伺う方がいいのかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  経緯が見えた方がよろしいのではないかという御指摘かと思いますが,浅田委員,それから,窪田委員から,甲・乙併記の方がよいのではないかという御意見が出ております。これは事務当局の方もそういう御意見はあるべしということで,意見を伺いたいということでしたけれども,他の委員・幹事の方々はいかがでございましょうか。
○増田委員 今回の案なんですけれども,多分,いずれにしても欠点を引き継いでしまうと,保全処分をする場面は事実上,少なくなるかもしれませんが,誰かに対して債権の行使を差し止める場合も,あるいは仮払いが必要になる場合も,どちらも残ってしまうということになりますので,我々の中でも検討したけれども,今回の案の支持者というのはいなかったように思います。甲案,乙案はそれぞれに理屈の上であると思うんですが,そこは前に戻して,甲案,乙案の両論で聴かれるのがいいかと思います。
  ほかのことはいいですか。後にしますか。
○大村部会長 どうぞ,おっしゃってください。
○増田委員 2なんですけれども,私は預貯金債権に限定した方がいいと思っています。というのは,ほかの債権について遺産分割の対象に含めるというニーズがない,これは余り聞いたことがないです。預貯金につきましては前にも出ていますが,一般の方からいえば,現金と同じようなものという意識を持っているということと,それから,客観的に見て存否とか,額の争いがない,それから,債務者の資力のリスクが少ないということで,債権の実質上の価値,実価の算定が容易であるという特徴があるので,これは遺産分割の中に入れるということに合理性があると思うんですが,その他の債権,つまり額も争いがある,あるいは債務者の資力も頼りない,全額が返ってくるかどうか分からない,そのような債権一切を含めて,遺産分割の中に入れようとすると,債権の評価の問題等が出てきてかえって遺産分割がしにくくなるし,長期化する。それについては後の3(2)という手当もあるんですが,これとて遺産分割の審判においてと書かれているので,なかなか,それでは使いにくかろうと思います。
  3についてはまた後で申し上げますが,取りあえず,2については以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  上西委員,関係の発言ですね。どうぞ。
○上西委員 乙案は可分債権の行使を禁止するので疑問に思います。もっとも,両方の意見があったかと記憶しておりますので,両案を併記してはどうでしょうか。また,折衷案である丙案も付記してはどうかと思います。それと,現金類似性ということで預貯金債権と広げておられますけれども,預貯金債権を限定的に捉えるのか,更に類似の金融商品もどこまで入れるかについても議論が必要です。よろしくお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲・乙につきましては皆様のお考え方はおおむね今のところ,甲案・乙案併記に戻した方がいいのではないかということかと思います。その上で,今,上西委員が丙案とおっしゃったのは,ここにあるようなものを丙案とするという御趣旨ですね。中間的な考え方もあり得るかもしれないことをどこかに書くことはあってもよいのではないかという御指摘かと思いました。
  この点についてはどうですか。折衷案がよいというサポートがなければ,甲・乙に戻していただくという方向で整理したいと思いますけれども,よろしいでしょうか。そうしましたら,これは甲・乙に戻した上でないと,それ以上,議論しにくいところもございますので,これにつきましては甲・乙に戻していただいて,その上で改めて議論をするということにさせていただきたいと思います。
  もう一つ出ました可分債権の範囲につきましては,預貯金に限るべきだという御意見があり,限るとして,それに類するものがあるかもしれないという御指摘があったかと思います。その御意見自体は従前からあるところで,この中にも取り込まれているのですけれども,増田委員は,書き方としてもう少し書いた方がいいという御趣旨でしょうか。現在は10ページの補足説明のすぐ上に,(注)の形になっておりますけれども,ここをもう少し詳しく書いた方がいいというような提案に結び付きますでしょうか。
○増田委員 ということなんですが,つまり,「預金債権等の可分債権」というのが冒頭にありますと,みんな,預金債権をイメージすると思うんです。しかしながら,実際にはほかの可分債権というのもたくさんあるのはあるわけです。だから,ほかの可分債権にも目を向けて,ほかの可分債権も一緒でいいのかなという論点が分かるような書き方を望んでおります。
○大村部会長 分かりました。預貯金等の等の中身が見えにくいので,そこに意識がいくような見せ方をして,そこについて意見が出てくるような形が望ましいという御意見であると受け止めましたけれども,そういうことですね。そのような配慮をしていただきたいと思いますが,そのほかはいかがでございましょうか。
  先ほど3の(2)についての言及もありましたけれども,2は先ほど申し上げましたように,甲・乙併記の形でまた整理していただきますので,3の一部分割につきまして御意見を頂ければと思います。
○増田委員 プロ的な話なのかもしれませんが,もう少し一部分割審判の性質について補足説明でもいいんですが,明らかにしていただければと思います。遺産分割というのは審判物は1個だと理解するのが一般的な考え方だろうと思いますが,そうなってくると,これは一部審判ということではなくて全部審判になるわけです。全部審判なんだけれども,申立ての範囲に含まれているものが除外された上での審判になってきます。これを終局裁判として行うのであれば,除外されたものについてはどういう判断が終局審判でなされるのか,そこに明示されるのかどうなのかというのがまず分からない。恐らく中間決定ということではなく,これは終局だとされるのだろうと思っているんですけれども,例えば一部分割の要件について争う場合の不服申立ての方法というのはどうなるのかといった辺りも,この案を見ているだけでは分からないので,その辺りは何らかの形で示していただければと思います。
  それから,(2)については先ほど申し上げましたけれども,遺産分割の審判において,それは取得させるということですが,こういうものについて,例えば不法行為に基づく損害賠償債権などについて遺産分割の審判を待っていなければいけないのか,その辺りを疑問に思ったもので,遺産分割の審判においてと決め付けるのはどうかと。何らかの形で除外するような決定を早目に出せるような方策も考えられるので,その辺りは少し柔軟に示していただけた方がいいかと思います。
○堂薗幹事 2点目のところですが,当然,遺産分割協議でやる分には,それを否定する趣旨ではないんですけれども,ここでは,遺産分割の審判において,額が決まっていない可分債権も含め,遺産全体の分配をすることを認めるということを考えておりますが,その前の段階というと,中間的にその部分を排除できるようにすべきではないかという御趣旨ですか。
○増田委員 そういう考え方もあるのではないかということです。
○堂薗幹事 どちらかというと,最初の質問と関係するのかもしれませんが,この一部分割で考えているものは,申し立てられた審判事項のうち,一部についてはまだ額等が決まっていないので,未だ遺産分割の判断をするに熟していないということで,その部分を除外して,その余のものについて判断できるということでございまして,現行の一部分割だと残部について更に判断しなければならないということになるのかもしれませんが,ここで考えているのは一部を除外して,その事件についてはそれで終結させることができるというものです。その後,除外されたものについて権利内容が確定した場合には,その段階で改めて必要があれば遺産分割の申立てをしていただくというようなものを考えております。ですから,(1)の方があらかじめ除外するパターンでございまして,(2)の方がまだ額が確定していない時点で,一括して全体について遺産分割をしてしまうということを考えているということでございます。
○増田委員 イメージとして遺産分割の審判をする前の段階で,一部の財産を除外するなどの裁判があるということなんでしょうか。そこが大きくイメージとして変わってくるんですよね。
○堂薗幹事 こちらで考えているのは,(1)も(2)も中間的に判断をするのではなくて,全体について判断をするというものです。ですから,一部分割をする場合も一部の財産を除外した上で,その余の財産についての分配方法を定める審判をするわけですので,遺産の一部が除外されたことについて不服があるとして不服申立てがされた場合でも,それによってその事件全体が移審するということにならざるを得ないのではないかと考えているところです。
○増田委員 それであるならば,その旨を補足説明で明確にしていただくとともに,途中で除外するというような選択肢はないでしょうかね。少し検討していただいて,私も余りまだ詰めて検討したわけではありませんので,その点は考えたいと思います。
○堂薗幹事 中間確認的なものはあり得るのではないかと思いますので,そこは将来の検討課題ということにさせていただければと思います。
○大村部会長 今の点も含めまして,第3につきまして御意見がありましたら,更に承りたいと思いますが,いかがでしょうか。
○石井幹事 今,御提案されている一部分割の主な活用場面としては,残部分割の中で特別受益や寄与分について考慮する必要がない場合が想定されているのかなと読んでおったんですけれども,仮にその場合以外は一部分割を活用できないということになれば,一部分割を活用することによって存否又は範囲等に争いのある可分債権を遺産分割の対象から適切に除外し切れるのかという懸念が出てまいりますので,そうではないということであれば,その旨を補足説明の中で記載していただけば有り難いなと考えております。
  また,今回,新たに御提案いただいた(2)のところにつきましても,対象となる債権については,何らかの形で特定する必要があると思うんですけれども,どの程度,特定が必要で,どういった主文になって,審判がなされた後にどういった形で権利行使がされるのかといったことについてもある程度,補足説明等で明らかにしていただくと,より意見が申し上げやすいのかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  補足説明の方で工夫をしていただきたいと思いますが,その他,御意見,御要望はございませんでしょうか。
○垣内幹事 (2)の部分の説明の仕方についてのお願いということになるかと思うんですけれども,私が理解しましたところでは,(2)が活用される事例というのは,結局,タイトルにある一部分割,それから,残部分割がされるのではなくて,最初の審判で全て分割したことになるという,ですから,全部分割をするということかと思いますので,今,現状での14ページの御説明を拝見しますと,1行目の全部分割をすることができない場合とか,あるいは2段落目のところの4行目の,このような取扱いは残部分割の対象財産がうんぬんとなっておりまして,これだけ卒然と読むと,この場合でも全部分割はできないので,残部分割はあるんだけれども,その残部分割の対象が可分債権であるというような場合を,何かそういう規律を想定されているようにとれなくもないような感じが致しまして,仮にこの制度がなかったとすれば全部分割ができない場合とか,この制度がなかったとすれば残部分割の対象として可分債権等がある場合という御趣旨かなと思いまして,その辺りを少し説明を工夫していただくとよいのではないかという感じが致しました。
○大村部会長 御指摘を承って,工夫をお願いしたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  それでは,この点につきましては,主として補足説明の方を工夫していただくということで,更に御検討いただきたいと思います。
  続きまして,第3という大きな項目の「遺言制度の見直し」という部分になります。資料では14ページ以下です。ここには4項目がございますけれども,一括して説明を頂きまして,説明を頂いたところで休憩を挟ませていただきたいと思います。では,事務当局の方から説明をお願いいたします。
○大塚関係官 「第3 遺言制度の見直し」についてでございます。大きな柱が四つございまして,一つ目が14ページ以下の「自筆証書遺言の方式緩和」,二つ目が15ページ以下の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」,三つ目が17ページ以下にあります「自筆証書遺言の保管制度の創設」,そして,四つ目が18ページ以下の「遺言執行者の権限の明確化等」ということでございます。順次,御説明申し上げます。
  14ページ以下でございますが,「自筆証書遺言の方式緩和」についてであります。(1)の自書を要求する範囲の緩和についてでございますが,これは従前の考え方を踏襲しつつ,新たに②の中で押印をしなければならないというところが変更箇所なんですけれども,遺言書のうち,自書でない部分があるページには,その全てに遺言者の署名だけでなく,押印をも必ず要求するということにしたという変更でございます。
  次に,冒頭で配布資料として御説明いたしました裏表で記載しております「自筆証書遺言の方式の緩和方策として考えられる例」を取り出していただけますでしょうか。こちらについて若干,御説明申し上げます。こちらは,この方策を講ずるとした場合に,具体的にどのような遺言書となり得るかについて一つのイメージを御提示申し上げたものでございます。
  まず,1ページ目の遺言書本文につきましては,従前どおり,全て自書を要求するものとしております。その中で例えば1項におきまして,別紙目録第1記載の不動産を長男,甲野一郎に相続させると記載しておりますけれども,ここの別紙目録というものに対応するのを裏面の2ページとして添付するということを想定しているものでございます。この物件等目録につきましては,こちらは基本的に自書でなくても例えばパソコンで作成してもよいとした上で,右下にある署名につきましては自書を要求すると,そして,押印をするということを想定しているものでございます。なお,1ページと2ページ,今回は裏表ということになっておりますけれども,どのように結合させるのかということにつきましては,明確には記載しているものではございませんが,基本的には従前の実務運用と同様に一つにとじて契印,押捺するなりということを想定しているものでございます。(1)は以上です。
  (2)の加除訂正の方式につきましては,特段の変更はございません。
  続きまして,15ページ以下,資料の方にお戻りいただきまして,「2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」でございます。(1)の「権利の承継に関する規律」におきましては,お進みいただきまして16ページの②におきまして,上から3行目ですが,こちらで遺言によって法定相続分を超える債権を取得した相続人につきまして,債務者及び第三者対抗要件の定めを加えてございます。内容としては遺産分割における可分債権の債務者,あるいは第三者対抗要件と基本的には同じでございますが,遺産分割の場合と異なり,権利者が単独で対抗要件を具備できるようにはしておりませんで,これに代わるものとして,遺言執行者が選任されている遺言執行者が遺言の内容を明らかにする書面を示して債務者に通知する方法によりまして,債務者等の対抗要件を具備し得るということとしてございます。
  (2)の「義務承継に関する規律」についてですが,以前の部会資料9におきましては,相続人から債権者に対しての催告の定めを盛り込んでおりましたけれども,これにつきましては濫用的な利用のおそれがあるといった御指摘を頂いたところでもございますので,今回はその記載は削除させていただいております。
  2についての御説明は以上でございまして,続いて17ページ中段の「3 自筆証書遺言の保管制度の創設」についてでございます。こちらも基本的は従前の部会資料の内容を踏襲しておるものでございますが,これまで頂きました御指摘を踏まえて,新たに②と④を明文で加えてございます。②と申しますのは,遺言の保管の申出を遺言者本人に限りすることができるとしたものでございます。④の方は相続人であれば,相続開始後に公的機関に保管されている遺言書の原本を閲覧することができるとしたものでございます。なお,公的機関をどこにするか,あるいは公的機関に保管された遺言について検認を不要とするか否かにつきましては,今回の段階では今後も引き続き検討ということにさせていただいております。
  3についての御説明は以上で,続いて18ページ目以下でございますが,「4 遺言執行者の権限の明確化等」でございます。
  (1)の「遺言執行者の一般的な権限及び義務等」の項目は,新たに設けたものでございます。これは前回までの会議におきまして,遺言執行者は相続人の代理人としてではなく,専ら遺言者の遺志の実現のために職務をすべきであるといった御指摘を頂いたことを踏まえたものでございます。具体的には,①におきましては民法第1015条を削除し,その代わりとして,こちらの遺言執行者は遺言の内容を実現することを職務とし,その行為の効果は相続人に帰属という規律を盛り込んだものでございます。また,従前の御指摘で相続人が遺言執行者の存在あるいは遺言の内容を認識することができるようにすべしという御指摘もあったことも踏まえまして,②としてその通知に関する定めを設けてございます。
  次に,(2)の「個別の類型における権限の内容」についてですが,こちらはこれまでの会議におきまして,例えば預金債権が遺贈されるなどした場合に,現行の銀行実務では遺言執行者に払戻し権限を認めるという取扱いがされているので,その旨を明文化すべきといった御指摘がございました。これを踏まえましてイの③,これは19ページ目になりますが,こちらを新たに設けてございます。他方,前回の会議では預金の引出しに関して遺言執行者が引き出した預金を不適切に処理することによって,受贈者などが損害を受けるおそれは否定できないといった懸念も示されたところでございますので,それに配慮いたしまして,③におきましては,括弧書きではございますが,遺言執行者が利益相反的な相続人の場合には,これを認めないものとするということも考えられる旨をお示ししてございます。
  それから,20ページにお進みいただきまして,下の方にございます2の「第10回会議で受けたその他の指摘について」でございます。前回におきまして,仮に,15ページの①の方策,具体的には遺言によって権利取得した相続人は,その法定相続分に相当する場合を超える部分については,対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないものとするという方策を講ずるのであれば,18ページの③の案1の方策をあえて講ずる必要はないのではないかと,こういった御指摘を頂いたところでございます。
  しかしながら,例えば同一の不動産について遺贈と相続人による売却等の処分がされた場合につきましては,判例によりますと原則として受遺者と相続人からの譲受人とは対抗関係に立つことになりますが,遺言執行者がいる場合には対抗関係は生じないとされてございます。そうしますと,15ページの①の方策によって対抗問題として一般的に処理する旨,明確にしたとしましても,1013条の規定が存続する限りは遺言執行者がいる場合について対抗関係は生じないという判断がされる可能性は,いまだ否定はできないのではないかと思われます。そこで,今回の18ページの③の案1は遺言執行者の有無にかかわらず,全てを対抗問題として処理することを明確にする趣旨から,民法1013条の見直しを御提案申し上げているものでございます。
  この下の案2でございますが,こちらは前回,複数の委員から相続人の譲受人が悪意であるような場合まで,遺言に反した権利取得を認める必要はないのではないかという御指摘を頂いたことも踏まえまして,こちらは1013条の枠組みは残しつつ,善意者保護の規定を創設するとしたものでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,先ほど申し上げましたように,ここで一旦,休憩させていただきまして,4時から再開いたしまして,その後に御意見を伺いたいと思います。一旦,休憩いたします。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,4時になりましたので再開させていただきたいと思います。
  14ページ以下の「第3 遺言制度の見直し」という点につきまして,先ほど事務当局から御説明を頂いたところでございます。四つの項目が立っておりますので,順次,御意見を頂ければと思います。
  まず,一つ目が「自筆証書遺言の方式緩和」ですけれども,この点につきましては参考資料として遺言書のひな形が配布されているかと思いますが,1の(1)の②で,遺言者は,その事項が記載された全てのページにその氏名を自書し,これに押印しなければならないものとするということ,それから,(2)で変更箇所に署名及び押印が必要とされていた点を改め,署名又は押印のいずれかがあれば足りるものとするということ,これらの点が主要な変更点かと思いますが,これらにつきまして御意見を頂ければ幸いです。
○南部委員 まず,遺言の書面ですが,これはこれでよいかということで思っております。その上で,(2)の加除訂正の方式でございます。実はこのときの議論に私は少し中座させていただきましたので,参加できていないということも含めて意見を言わせていただきます。簡素化されるはよいかと思いますが,署名又は押印ということで,署名は必ずしも本人がしなければならないのはよく分かると。でも,押印というのはいろいろな形が今,あると思いますので,ここは署名を重視した形がよいかということの意見が一つです。その上で,パブリックコメントでここを選択肢として聴くのはいかがなものかとは思うんですけれども,もし仮に署名又は押印ということで,ここで決め打ちでパブリックコメントをするか,それとも選択肢の中にいろいろなものを入れて,パブリックコメントをするかということも含めた議論を深めていただければと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  (2)について御意見を頂きました。慎重に考える必要があるのではないか,それを選択肢の中に含めた方がよいのではないかという御指摘だったかと思います。
  そのほかの皆様,いかがでしょうか。
○垣内幹事 提示に関する御質問が1点と,あと,それから,若干の感想が1点ということなんですけれども,この論点そのものについて私は必ずしも定見等があるわけではないんですけれども,提示の仕方に関して御質問というのは,今日,お配りいただいている遺言書の書式というのがございますけれども,これも何か補足説明の添付資料みたいな形でお付けになるのかどうかということ,あった方が分かりやすいという考慮はあるかと思いますけれども,その点のお尋ねが一つで,あと,関連いたしまして,この書式例を拝見して思ったのですけれども,14ページのところで自書以外の方法で記載できる事項というのが対象となる財産の特定に関する事項だと。(注1)で不動産の表示,預貯金の表示等となっております。
  この書式例ですと,遺言書の第1項で別紙目録第1記載の不動産と不動産が表示されておりまして,裏の目録で,土地,建物,区分所有権と並んでいて,この書式例を見ますと,自書の遺言書の本文では別紙目録何とか記載の不動産と書いておけば,自書でない目録で不動産が何百個も並んでいても,それはそれで別に構わないという趣旨なのかなと読めますけれども,その辺りが自書の遺言書本文でどの辺りまで特定するか,例えば別紙目録第1記載の不動産1,2,3,4とか,そう書かなければいけないのかどうかといった,細かい点かもしれませんけれども,問題点もあろうかと思いますので,もし,こういうものをお示しになるようであれば,その点についても若干の考慮を要するのかなと思います。それによって大分,制度のイメージが変わってくるところがあろうかという気が致しました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点について,いかがですか。
○堂薗幹事 中間試案の補足説明で,どのようなものを載せるかという点について,まだ,全く検討ができておりませんので,今後検討していきたいと思いますが,この部分については,なかなか,文字だけを見てもイメージがしにくいという御意見は従前からあったかと思いますので,こういった形でイメージを持っていただけるような形に工夫をするということは十分に考えられるのではないかと思います。その辺りは検討していきたいと思います。
○大村部会長 第2点として御指摘された点は,別紙というものがどのくらいの規模になるのかということにも関わっているかと思いますけれども,提案の中では,その事項が記載された全てのページに氏名を自書する,押印するということになっていますので,ページのごとに署名,押印がされるという形で区切られていくのだろうと思いますけれども,垣内幹事がおっしゃった問題はなお残っていると思いますので,その点もさらに整理していただきたいと思います。
  ほかに何かございますか。
○中田委員 今の点なんですけれども,二つあります。
  まず,1(1)の②で全てのページにその氏名を自書しとあるんですが,氏名を自書するということと署名とが同じなのか,違うのかということです。説明の中では署名と書いておられて,ほかのところでも署名という表現があるものですから,氏名を自書しというのが何か別のものであるかのように読めてしまうかもしれませんので,御検討いただければと思います。
  それから,もう一つはこれによって改ざん等が防げるということだと思うんですけれども,複数の目録があるときに,一部が欠けてしまうということについては,どのようにして防げるのだろうかということについてお考えがあれば教えてください。
○大村部会長 第1点は表現の問題として検討していただくということで,第2点について何かありましたらお願いします。
○堂薗幹事 その点は御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。
○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。
○増田委員 ほかではなく,先ほどの南部委員の御意見と同じなんですけれども,前回の議論では,押印のみは偽造防止の観点から避けた方がいいという意見が複数あったと思います。ですから,聴くときには署名又は押印ではスルーしてしまう可能性があるので,押印のみ,署名のみでもいいのかというような形で意識的に書き分けていただければと思います。
○大村部会長 その点につきましては,事務当局の方で御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  その他の点についていかがでしょうか。
○上西委員 15ページの注書きで加除訂正のために押印する場合について,印の同一性が書かれてあります。加除訂正は遺言書作成時にする場合も,後日にする場合もあります。作成時についての加除訂正は同じ印であるべきですが,後日に加除訂正する場合について,その印を紛失していることもあります。そうした場合については実印に限るといったような考え方もあります。
○大村部会長 その点も御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  そのほかについてはいかがでしょうか。
  それでは,この件につきましては,皆様,(1)の大筋については御異論はないということで,しかし,1の②につきましては,細かい点が幾つか不明瞭になっているようなので,そこにつきましては説明を工夫していただく,それから,(2)につきましては,選択肢はこれでよいかどうかということにつき複数の御意見がありました。また,従来の議論の経緯も含めまして,もう少し,ここのところを膨らませていただくという方向で御検討いただく。以上のようにまとめたいと思いますが,よろしいでしょうか。では,この点につきましては,そのようにさせていただきます。
  では,引き続きまして,2の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という部分について御意見を伺いたいと思います。16ページの(1)の②で,対抗要件につき整理したということ,それから,補足説明に出てまいりますけれども,催告制度というのが,従前,取り上げられておりましたけれども,これを今回は削除しているといった修正がなされておりますけれども,「2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という項目につきまして御意見を頂ければと思います。
○浅田委員 今回,整除された2点についての意見と,それから,それに関連する質問ないしは御依頼事項を申し上げたいと思います。
  まず,(1)②でありますけれども,遺言によって権利を取得した場合でも,法定相続分を超える部分について,対抗要件を具備するまで第三者対抗力を有しないという整理になったということについては特に異論はありませんので,この見せ方でよろしいかと思います。また,催告制度に関しても議論が若干ありましたけれども,私どもとしてはこういう形で削除したということであっても別に異論はございませんので,この提案ということについてはこれでよろしいかと思います。
  一方で,質問でありますけれども,(1)②に関することで,新たにウとして規律される債務者の承諾についてです。これは単なる事実を確認するにとどまらず,正に債務者としての銀行が承諾の可否を決するものということでありますけれども,承諾するかしないかというのは当該債務者の裁量によるべきものと思われます。つまり,承諾する義務があるとか,そういうものではなくて,するかしないかという裁量権を持った債務者が承諾した場合という理解でいますけれども,その理解でよいかということであります。
  なぜ,そのような意見を申し上げる,ないしは質問するかということを申し上げますと,例えば銀行窓口を考えますと,銀行窓口において当該承諾を行う場面が出てくるものと思いますけれども,その是非をめぐって相続人等との間で何らかのトラブルが生じないかということが懸念されるわけであります。実務にも配慮し,承諾の対象が何なのかと,これは銀行実務サイドの問題でもありますが,今回の立案の趣旨として,どのような書類等が提示されるのか,また,どのような場合に承諾すべきなのか等について,できる限り明確化を補足説明でしていただければと思います。
  それを受けまして銀行窓口でも預金払戻しを念頭に,今後,細かな点で詰めておく必要もあろうかと思います。一例を挙げますと,銀行預金というのは支店毎に取引がされているというのが実情でありますけれども,したがって,預金債権も支店毎に発生する立て付けで管理しているということであります。すると,支店毎に当該支店にある預金について承諾するという場合もあろうかと思います。A支店では承諾するけれども,B支店は管轄外ですので知りませんというようなこともあります。このような一部承諾というものが許容されるかどうかということについては,この立案の趣旨等を確認しながら,それを受けて銀行でも議論しなければならないという状況も出てくるということも御勘案の上,補足説明については十分,御留意いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  全体についてはこれでよろしいのではないかという御意見だと承りました。それから,(1)の②のウの承諾について,補足説明の中で一定の説明をしてほしいという御要望だと承りましたけれども,検討するということでよろしゅうございますか。今,先ほど御質問というのもございましたけれども。
○浅田委員 もし御回答があれば,ここでお願いしたいと。
○堂薗幹事 この承諾につきましては,債務者の裁量で承諾するかどうかが決められるということでございまして,ですから,債務者が承諾しない場合は権利者側としては,アかイの形で対抗要件を備えない限りは第三者には対抗できない,あるいは債務者には対抗できないという整理でございます。
○浅田委員 お願いですが,簡単でいいので,その点について補足説明で書いていただければ有り難いと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○南部委員 少し今の意見とは逆になるかも分からないんですけれども,相続人が登記しなければ法定相続分を超える部分について第三者に対抗することができないこととすることについてなんですが,一般的な感覚というか,今の現状の法律でいくと,相続になれば登記をすぐにしなくても,そのままというように聞きました。なので,今,もし仮にすぐに登記が必要であるということの法律を変えることが必要であれば,その周知というのがすごく必要になるかと思います。なので,パブリックコメントをする際に当たってはできれば,ここに現行法であればこうだけれども,今回,こういう変更も考えられるというような併記で書いていただければ,非常に私たち一般人にとって分かりやすいのではないかということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御意見として承りました。今回の資料には補足説明がございますけれども,これは委員・幹事の先生方に宛てた補足説明でございますので,これまでの議論の経緯を御存じであるいうのが前提で,その上で,前回,議論したときの資料とどこが違うかという説明になっているかと思います。パブリックコメントに当たりましては,現行法との違いから始まりまして,これまでの議論の経緯も一定の形でまとめて記載していただくことになろうかと思います。今,御指摘の点は,その中で勘案していただくということになろうかと思いますが,それでよろしゅうございましょうか。
  その他,いかがでしょうか。
○中田委員 (1)(2)以外でもよろしいでしょうか。(3)についてですが,内容はこれで結構なんですけれども,確定という言葉が使われております。これは贈与についての551条の改正に当たって,民法(債権関係)部会の方では途中まで確定という言葉が使われていたんですけれども,最後の段階で特定という言葉に統一するようになったと思いますので,御検討いただければと思います。
  それから,今,申し上げた551条については債権関係部会ではどのような性質のものかということが結構,議論になりまして,最終的に推定するという表現になっているわけですが,(3)の①もコンセプトは新しい551条と同じようなものだという理解でよろしいんですね。つまり,特定物ドグマを前提とはしていないという理解でよろしいかという確認ですけれども。
○堂薗幹事 基本的に御指摘のとおりでございまして,ここで推定すると書かなかったのは,現行法の下でも,遺言については基本的に原則な規律を設けた上で,ただし書において,遺言者がその点について別段の意思を表示しているときは,その意思に従うというような規定ぶりになっているので,それに合わせたということでございまして,基本的には贈与と同じ並びでこちらも考えているということでございます。したがって,特定物に限るとか,そういうものではないという理解です。
○中田委員 分かりました。
○大村部会長 文言の点は御指摘を踏まえて検討していただくということにしたいと思います。
  そのほか。
○窪田委員 大変小さいところなのですが,少しだけ言葉が気になったものですから。16ページの「(2)義務の承継に関する規律」の①の部分なのですが,2行目から「遺言により相続債務について各相続人の承継割合が定められたときであっても」という言葉が入っております。そういうふうな割合を定めてあって,基本的には法定相続分で承継するのだとした上で,②の方で更に遺言による場合であったとしても,相続分の指定,包括遺贈の場合にのみ,言わばそれが負担部分を決定することにつながるという枠組みなのだろうと思いますが,その意味では,遺言による相続債務について各相続人の承継割合が定められたときであってもというのは大変に居心地の悪い,なくてもいいのではないかという感じが致します。つまり,相続分の指定にも包括遺贈にも当たらなくて,お前,債務だけはこれを引き受けろというような遺言なんていうのは,そもそも,意味があるのかという点を考えたときに,こうした規定を置くとかえって疑義を生じさせるような気がします。このことはとってしまった方が分かりやすいのかなという気が致しました。この点は,意見です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  御指摘を踏まえて整理をしていただきたいと思います。
  ほかにいかがでしょうか。
  それでは,今のような御指摘を踏まえて少し修正をしていただくということで,先に進ませていただきたいと存じます。3番目は17ページの「自筆証書遺言の保管制度の創設」という項目でございます。これにつきましては,②と③を明確化したという御説明があったかと思いますけれども,御意見を頂ければと思います。
○上西委員 検認手続を不要とすることが考えられるという書きぶりです。元々は検認手続きをなくすための制度の設計だったので,これでよいと思います。
  公証役場では謄本を作成してもらえます。今回の場合は自筆証書遺言ですので,謄本は普通ないわけです。閲覧することができることになるかと思いますが,閲覧の次にくる要望は謄写できるかどうかなんです。コピーをして謄本である旨を記載することになるかと思います。その理由は,自筆証書遺言であるがゆえに,記載がされている内容を確認すると同時に,どのような書きぶりであるのかを当事者が見たいということもあるからです。閲覧だけではなく,謄写等を認めることは,現場に負担を掛けることは重々承知していますが,検討していただきたいと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  検討いただくということにさせていただきたいと思います。
○水野(紀)委員 実は先ほどの「権利の承継に関する規律」の①のところで発言しようかと思ったのですが,全体の制度設計のイメージの問題をお伺いしたいと思います。今の自筆証書の保管制度の創設も,これによって遺言の存否がどれくらい分かるようになるかが,後の全体の制度設計に影響してくるように思います。つまり,第三者が遺言の存在を簡単に知ることができるのか,第三者本人は分からなくても相続人に確認しないといけない義務をどの程度,第三者に,取引相手に負わせるのか,そんなことのイメージも,全部,絡んでくるように思うのです。
  そして,相続人が遺言によって取得しても対抗要件を設定しなければ,第三者に対抗できないという,先ほどの制度設計そのものの評価にも,また影響してくるように思います。相続法改正の範囲がどんどん余りにも広くなっておりまして,私の非力ゆえではあるのですが,なかなか追い付けておりません。民法学者がこれまで十分に相続法の議論をしてこなかったことがあり,その一員としての責めも十分感じつつなのですけれども,少し大きな話をさせていただきます。その次の遺言執行者の1013条そのものを削除する,あるいは1013条をどのように見直すかという議論にも絡んでくるのですが,1013条というのは本来,遺産分割とか,遺言執行をどのように設計するかによって,その重要度は全然違ってくるものだと思います。現状の相続法運営では,削除した方がよいだろうとは思うのですが,全体に手を入れるとなると,評価も揺れてきます。
  フランス法の場合には公証人が,そして,ドイツ法の場合は遺言執行者や遺産裁判所が,公的アクターとして関与して遺産分割の手続を束ねているわけですが,日本はそこのところが完全に遺族に委ねられていて,家族の私的自治に任され切っている国です。その代わりに戸籍と不動産登記がある国なので,この両者を利用して,最高裁判例が法定相続を中心にした形の取引安全を図ってきました。そして,21ページに最高裁の判例を挙げてありますけれども,これらもそういう遺産分割や遺言執行がきちんとなっていない中で,最高裁が,登記と戸籍に依存しながら,言わば場当たり的にじたばたやってきたということなのでしょう。そして,このような全体をどちらの方向に整除しようとされておられるのか,そのイメージをお伺いしたいなと思います。
  もし,これから本当に遺言をどんどん活発化させるということですと,本当は相続の過程を改革する必要があろうと思います。取引相手としては遺言の有無を確認し,そして,遺言の実行を相続開始後,ある程度,早期に安定した形で行わせ,それに伴う遺産分割まで行わせるというイメージだったとすると,遺言執行者がいる場合には相続人の処分権を奪う1013条は重要な規定になってくるだろうと思います。そして,それを本来の在るべき姿として設計しておいて,そちらの方向へ誘導していきながら,ただ日本はこれまでそういう姿ではなかったので,そのギャップの弥縫策をとっていくという,そういう制度設計になるのでしょうか。それとも,そうではなくて従来の私的自治に完全に任せておいて,戸籍と登記で法定相続中心に回ってきた最高裁の判例の線を少し微調整しながらいくのでしょうか。そのどちらのほうをイメージとして抱いて設計しておられるのでしょうか。
  これはもっと先のところで申し上げるべきことなのかもしれないのですが,遺言執行者の復任権・選任・解任等のところも,これも遺言を活用するとなると,本当はすごく議論が必要なはずです。このあたりはドイツ法の影響を受けた条文ですが,日本でこんなことができるのかと私はかねてから疑問でした。現在の数字はわかりませんが,「注釈民法」では,大体,年間数十件のオーダーで選任・解任と書かれています。これから遺言を盛んにして使いやすくするのなら,遺言執行者はもちろん付くでしょう。遺言執行の内容がよく分からない人が親族から頼まれたので引き受けたが,引き受けてみたらものすごく大変だった,でも,家庭裁判所へ行かないと辞任できないことになると,困ったことになるでしょうし,家庭裁判所がそれだけの負担に耐えられるのかも,また,考えなくてはならないだろうと思います。
  この辺りまで手を加えることになると,また,本来は手を加えなければいけないとは思うのですけれども,母法国と日本とでは,日本の裁判官の数が圧倒的に少ないという司法インフラの違いがあり,その前提の相異という難題も考慮に入れた上で,設計しなくてはいけません。そういう制度設計全体についてのイメージは,細部の議論にもかかわってくるだろうと考えております。なんだか非常に大きな話になって申し訳ありませんが,こちらの方向で整序したいというイメージがおありでしたら,御教示いただければと思うのですが。
○大村部会長 非常に大きな問題で,今,イメージを示してほしいということでしたが,水野委員がお持ちになっている対照軸というのでしょうか,こういう方向にいくのか,あういう方向にいくのかという対照軸があると思います。私的自治という言葉も使われましたけれども,何と何を対比されているのかというのをもう少し特定していただくと,その間にあってこの提案のポジションはここですとお答えいただけるかもしれないと思うんですけれども,その辺りはいかがでしょうか。
○水野(紀)委員 法定相続分通りの法定相続を原則にして,かつ,法定相続分で基本的に取引安全を維持するという方向になりますと,遺言という存在は,それに例外的に加わるものなので,遺言の受益者の側で,一生懸命,自衛しないと実現できないようなものであって,第三者は法定相続を頼りにして取引をしていけばいいというのが,昭和時代の最高裁判所が築き上げてきた日本の戸籍と登記に依存した形の制度設計でした。指定相続分や相続させる旨の遺言についての判例は,この設計を一部壊してしまいましたが。いずれにせよ,この制度設計はリスクを抱えていて,そのリスクはときとして受益者が,あるいは場合によって共同相続人や第三者が負うのです。ですから,このような制度設計がよいとは私は実は思っていません。本当は1013条が体現しているような,遺産分割や遺言実行前の取引を禁止して,遺産分割や遺言実行がきちんとまんべんなく安定的に行われる制度設計の方が本来の筋だとは思っているのですが,そちらを目指すというのは本当に大改革になり,相当の力業であることは確かだと思います。現状からの大改革になりますので,難しいでしょう。
  でも今回の改正が,自筆遺言証書も簡単にできるようにして,遺言執行者の権限なども整除して遺言を実行しやすくし,遺言をこれから活用してもらう方向に舵を切るのなら,1013条を手がかりに,法定相続を漫然と信頼した人は必ずしも救出されないという方向で制度設計を組むという方向はありうると思います。つまり全体として相続開始から間もない時期に遺言も実行され,遺産分割も実行されるべきだという方向に誘導するような,そういう制度設計をお考えなのでしょうか。そちらの方が本筋だとは思っているのですが,そうだとすると,相当にあちこち手当が必要になることは間違いありません。
○大村部会長 ありがとうございます。
  現行の制度がどういう前提に立っていて,それに修正を加えたときに,それがどういう判断をしたことになるのかという問題設定については,計画に基づいて設計できるようなことがらなのかという問題はあろうかと思います。その点は留保した上で,もし,今の点につきまして事務当局の方から何かお答えがあれば頂きたいと思います。
○堂薗幹事 基本的に今回の方策の中で遺言をできるだけ使いやすくしようですとか,第三者にも閲覧を認めようとかいうのはあるんですが,ただ,制度として,それできちんと問題なくできるような制度を仕組めるというところまではいかないだろうと思います。この遺言保管制度につきましても,どの程度利用されるかというのは未知数ですので,結局,遺言があるかどうかが分からないために第三者の取引の安全が害される場面というのはどうしても出てくるものと思います。そうだとすると,1013条のような形で遺言があれば,基本的には遺言どおりに清算をするというところまではなかなかいかないのでないかと。したがって,ここで考えているのは,第三者からしますと,遺言によって法定相続分を超える権利移転があったかどうかを把握することは通常できないので,そこは対抗問題として処理してしまった方がいいのではないかということでございます。
  現行の判例では,相続させる旨の遺言と遺贈とで取扱いを変えており,両者は承継原因が包括承継なのか,特定承継なのかという点で違いがあるとは思いますが,相続させる旨の遺言については対抗関係に立たない,遺贈については対抗関係に立つということになっているんですけれども,少なくとも法定相続を超える部分については,意思表示によって権利変動が生じるので,そこについては同じように対抗関係で決してしまうという方がいいのではないかという前提で考えておりまして,したがって,この遺産分割のところもそうですし,遺言のところもそうですが,原則としては法定相続分を超える部分については全て対抗要件で決するということで整理しているというところでございます。
○大村部会長 水野委員,いかがでしょうか。
○水野(紀)委員 1013条がかなり大きな意味を持ってくるのだろうと思います。1013条が生きていれば,こういう対抗問題も遺言執行者を付けると,全て飛んでしまうということになります。
○大村部会長 今の御指摘のとおりだと思いますので,ここの問題は後ろに跳ねるというか,後ろが本丸であるとも言えますので,そちらで改めて御議論いただくということで進めさせていただいてよろしいでしょうか。
○八木委員 遺言制度見直しと,タイトルはなっているのですけれども,前の配偶者居住権だとか,遺産分割の見直しという点については,何のための見直しなのかということが大体分かるわけです。すなわち,配偶者保護というところが出ているのだと思うのですけれども,パブリックコメントということになってくると,ここも何のための見直しなのかという部分が問われると思うんです。これは方式の緩和,それから,保管制度の創設,遺言執行者の権限明確化と並んでくると,遺言相続を政策的に促していると一般的にはとられると思うのです。しかし,今のお話を聞いていますと,その辺は価値中立的な感じがするので,その辺の表現を工夫された方がいいのではないかと思いました。
○大村部会長 御指摘を踏まえて表現は考えていただきたいと思います。確かに全体として,遺言というものを使いやすい制度にしようという,そういう志向性がここにはあると思うのですけれども,では,遺言で全てをやれるかという先ほどの水野委員の根本的な御質問との関係でいうと,それでできるとは事務当局としては考えていないということだろうと思います。ですから,遺言制度を見直して,従来よりは遺言を使いやすいようにしようという方向に一歩を踏み出すというのがこの提案かと思いますけれども,そうした趣旨が十分に伝わるような形で説明していただくということにしたいと思います。
○浅田委員 先ほどの点に関連して意見を述べたいと思います。そもそも,自筆証書遺言の保管制度の創設というのは,銀行界から提案させていただいたものと認識しております。これにはいろいろな論点等があるかと思います。また,水野先生から御提起されました,そもそも,相続法規全体像の中でどういう位置付けになるのかということも大きな議論だと思います。ただ,私どもとしては,基本的に実務を取り扱う者として,今ある遺言というものの信頼性を,また,利便性を向上していく観点から,有益ではないかという問題意識で提案しているわけです。従前,申し上げていることの繰り返しになるかもしれませんけれども,現在の遺言というものをなるべく簡易に探知できるように,また,保存できるようにする制度は,例えば一人きりの老人ということが多くなっているという社会情勢に鑑みても,非常に有益ではないのかなと思います。
  それに加えて,私どもとして希望しているのは,このような保管された自筆遺言に対して何らかの法的な信頼性を向上するための一定の推認力であるとか,あとは受理するときの形式要件のチェックであるとか,そういうことは検討点として御依頼したところであります。これはなかなか難しいという話でありますが,ただ,私は現在の提案というのは,それを今後,検討することができるための第一歩だと思っております。したがって,取りあえず小さく始めて,今後,言わば実質的な,または事実上の遺言に対する信用力というのが高まってきて,それによって遺言が活性化するということになれば,更なる法政策というのも考え得るのではないかと,その一歩として,この制度というのを考えればいいと思っているわけであります。
  もちろん,この制度を導入するからには,相応のコストというのも掛かるということは認識しておりますので,国民にてかかるコストを負担してまで,その利便性を享受することを選択するかということについて,是非ともパブコメで諮っていただきたいな,というのが意見でございます。
  あと,別の観点からのコメントでありますけれども,18ページの上のところで検認の不要の是非について問題提起がされているところであります。若干,上西委員の発言の趣旨とずれるところがあるかもしれませんけれども,私としては現状の検認制度というのは,相続人の範囲を確定させる手続を経るというものでありますので,保管制度を利用する遺言についても,相続人間で遺言に争いがないことに対する一定の牽制効果というのは残ると思われます。だからといって,直ちにマルか,ペケかということではないわけですけれども,この点も踏まえ,検認を不要としていいかどうかということは,慎重に検討していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  最後の点,検認につきましては御意見が分かれ得るということで,それも踏まえまして補足説明を検討していただきたいと思います。
○南部委員 質問です。ここの(注)に書いてある公的機関は,どこをイメージされているかという質問が1点です。例えば市町村が全国に点在する公的機関の一つであると思うんですけれども,そこをイメージされているのであれば,保管,セキュリティの問題で例えば転居したときの問題等々をどう考えていらっしゃるかということ,例えばマイナンバーの活用も含めて今後,検討されるのかということも含めてお聞きしたいのが2点目です。そして,3点目は先ほども出ましたように,閲覧だけではなかなか厳しいものがあるかと思います。となれば,複写コピーということについてのお考えはどうなのかということと,あと,相続人本心だけではなくて,遺言執行者との関係をどのように,これからここの創設の中に入れていくかというお考えがもしあれば,お聞きしたいということの質問ばかりで申し訳ございませんが,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  謄写の件は先ほど御検討いただくということでしたので,そのほかの点につきまして。
○堂薗幹事 公的機関につきましては,正にこれから検討するということでございます。候補としては御指摘のあった市町村ですとか,あるいは法務局ですとか,あるいは今,現に保管を行っている公証役場などが考えられるように思いますけれども,それをどこにするかという点も含めまして,パブリックコメントにかけるということで考えているところでございます。したがいまして,結局,そこが決まりませんと,管理方法をどうするかという辺りは決まってきませんので,その点については将来の検討課題であると考えております。
  遺言執行者とのリンクにつきましては,こういった制度がありますと自筆証書遺言があるかどうかというのはある程度分かりやすくはなるかと思いますし,そういった意味で,遺言があるにもかかわらず,相続人が遺言執行者の職務を妨害するような形で相続財産の処分をするという事態は少なくなってくるのではないかと思いますし,遺言執行者がこの制度を利用して,どういう形で効率よく事務を進めていけるようにするかという辺りについても,引き続き検討していきたいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○増田委員 制度の設計について3点,お伺いします。まず,いつまで保管するのですか。それから,二つ目は誰が遺言書原本を受領するんですか。三つ目は,その受領権と④の閲覧権との関係です。閲覧しようと思ったら,誰かが持っていってしまっていたというような事態もあるかもしれません。その3点を解決しないと制度自体が完結していないと思いますので,よろしくお願いします。
○大塚関係官 お答えいたします。
  いつまで保管するのかということについては,今のところ,こちらとして腹決めしているものではございませんが,少なくとも御本人が通常は生きていらっしゃるであろう平均寿命前後のところを大きく超えるような保管年数は必要ではないかと思っております。定め方としては,例えば,遺言者が120歳に達する時までとする,あるいは保管のときから50年あるいはその他の年数とするなど,いろいろ,定め方はあろうかと思いますが,イメージとしては,そういったものを考えております。
  それから,原本を受領するのか,誰がするのかといった問題は,御指摘のように非常に重大な問題と考えています。ここにつきましても,そもそも,原本をお返しすることを認めるのかどうかも含めて,ひとつの検討課題かとは思っていますし,公証役場ですと公正証書遺言を基本的にはお返ししないのではないかという認識もあり得るところですので,特に相続人が多数いらっしゃるときに,そのうち一人に返すことについての公平性の問題ということも考えると,原本を返してよいのかというのは慎重に検討する必要があると思います。返すとしても誰に返すのか,返すときにどういった書類を要求するのかといったところも,次の問題として出てこようかと思います。
○大村部会長 制度の具体化については,なお検討しなければいけない問題は多そうですけれども,今ここで何かあればどうぞ。
○増田委員 原本が返還されないとすれば,それを受遺者等が執行するときに,つまり,預金の払戻し一つにしても何か遺言内容の証明が必要なんですよね,登記をするにしても。だから,その辺の制度設計も考えていただかないと,意見が述べられないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。
○大塚関係官 その点もはっきりと腹決めしたものではございませんが,名前をこのように呼ぶかどうかはさておき,正本,あるいはそれに類似するものを原本の代わりに交付するのか,そして,交付するとした場合に,それをそのまま登記手続の書類として使うことができるのかといったところが次の問題として出てくるかとは思います。
○大村部会長 よろしいですか,増田委員。更にいろいろあるかと思いますけれども,この段階では,今,増田委員がおっしゃったように,基本的な骨格として,こういう方向のものを作ることがいいかどうかということが判断できる程度のものを提示して,細部については以後,詰めていくということになろうかと思います。御指摘いただいたもののうち,この段階で触れておかないと意見の言いようがないというようなものにつきましては,もう少し詰めていただくということで,また,次回に御提案いただくということにさせていただきたいと思っております。
○金澄幹事 今,部会長がおっしゃってくださったように,初めて作る制度ですので,もう少し制度が具体的に詰まっていかないと意見の言いようがないかというように思っています。審議会の最初の頃に議論になりましたとおり,物としての遺言を保管するか,データとしてなのかというところがそもそもの問題になってきますし,それもきちんと書いていただかないと意見が述べられないかなと思っていますし,あとは相続人が被相続人の死後,遺言の保管の有無を自ら保管機関に問い合わせるのか,若しくは保管機関から通知が来るのかということも大きな問題で,自ら問合せをするというのであれば,公正証書遺言の検索のシステムとリンクさせる可能性があるのではないかと思います。一方で,保管機関から通知が来るというのであれば,遺言者が亡くなったことが分かるような機関を想定しているのではないかと思いますが,そうであれば,そのように明示していただきたいと思います。あとは相続人全員に遺言の保管についての通知が来るのであれば,結局は保管機関が相続人調査をやっていただけるようなものだと思うのですけれども,そのようなことまでお考えになっていらっしゃるのかということ。さらに,検認の要不要のところなですけれども,今は遺言書で遺贈がなされていると裁判所から受遺者に対して検認済み通知書というのが送られて,遺言書にあなたが受遺者として書かれていますよというような通知が送られてきたりするんですけれども,今回の制度であれば,そういうことまで公的機関にやっていただけるようなことまで考えているのかというのも,また,大きな問題になってくるかと思います。
  家庭裁判所が検認をすることによってきちんと遺言が実効性あるものになっているということが,検認の意義ですので,保管制度と検認の関係というのも大きな問題になってくると思います。あとは増田委員がおっしゃったように,原本を誰に返すのかというのも本当に争いになるところだと思いますので,その辺りのもうちょっと制度を書き込んでいただけないと,なかなか,意見は言えないかなと思っているところでお願いでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御指摘の諸点,それから,増田委員が御指摘の諸点も含めまして,どのくらいのことをどのくらいの責任を持ってしてくれる制度なのかということによって,先ほど水野紀子委員がおっしゃった問題に対するスタンスも分かれてくることになるのかと思いますが,今日の段階で今の御質問に答えるのは難しいのではないかと思いますので,事務当局に持ち帰っていただきまして,もう少し具体化したものを次回に御提案いただくということにしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
○堂薗幹事 ただ,一定の公的機関がどこかが決まらないと,どこまでのサービスが可能かというところは決まりませんので,次回にどの程度,具体化できるかというのはこちらでも検討いたしますが,ほかのところと違って,この点について詳細に書くというのは難しい面があるのは御理解いただければと思います。
○大村部会長 そういう事情もありますけれども,それを踏まえつつ,再度,御提案いただくということでよろしゅうございますか。
  では,先に進ませていただきます。18ページ,4の「遺言執行者の権限の明確化等」ということでございます。これは2ページにわたって御提案がありますけれども,(1)の①で原則を明示するということ,それから,③につきまして先ほどから話題になっておりますけれども,現行の1013条に関わる問題をどうするかということにつきまして,両案併記の形になっております。そして,(2)の③で預貯金の場合に遺言執行者にその債権の行使の権限を認めるということが出てきている。こうしたところが主な点かと思いますが,この点につきまして御意見を伺えればと思います。
○村田委員 質問とそれに付随しての意見なんですけれども,18ページの4(1)の③には,案1,案2という二つの案が記載されています。そこでの記載の仕方からすると,両案は前提とする根本の思想を異にする二者択一の関係にあるようにも読めますが,他方で,後で出てくる補足説明を踏まえると,例えば,案2に従い,遺言執行者がある場合には相続人の処分は無効であるとしつつ,それと相反する外観なり,事実行為が積み重なっていって,それを排除する必要が生じた場合には,案1に従って,遺言執行者はそうした外観なり事実行為を排除できるとすることも十分あり得るところであり,その意味で,両案は両立する関係にあるようにも思うんです。
  ですので,規律の仕方としては両案を両立するものとして併記することだって考えられなくはないように思うものですから,両者の関係をどのようにお考えになっているのかというのをお聞きしたいと思います。また,それに付随した意見なのですが,案1と案2の関係性をより説明した上で意見を求めた方が分かりやすいようにも思いますので,見せ方については工夫をしていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ③の併記についてはいろいろ御意見があろうかと思いますが,今の点についてお答えを。
○堂薗幹事 こちらでも御指摘のような問題があるのではないかと思っておりまして,案1の方は現行の1013条を削除するというのが基本的な考え方でして,ただ,完全に削除するのではなくて,この程度残すというところに趣旨があるんですけれども,③のような規律を必ず残さなければいけないかといえばそうでもないと思います。その意味では,対比を明らかにする観点から,1013条を完全に削除するという案,すなわち,1013条を完全に削除しますと遺言事項のところで書いてある規律が適用になることになりますので,遺言執行者がいてもいなくても,対抗関係で決することになりますが,そのような考え方と,案2のように遺言執行者がいる場合には対抗関係ではなくて善意者保護の規定で対応するという考え方,比較としては恐らくその二つを比較した方が分かりやすいのかなという気がしますので,そういう形で整理したいと思います。
○大村部会長 今のような整理をということですけれども,それも踏まえまして,この点につきまして御意見がありましたら伺いたいと思います。あるいは,ほかの点でも結構です。
○浅田委員 違う点でございますけれども,4の(2)のイの③預貯金債権に関する点について意見を二つと,それから,その前の(2)イの②について質問を一つしたいと思います。
  まず,前者の③の点でありますけれども,まず,第一にですが,この提案において預貯金債権について遺言執行者に払戻し権限,解約権限が認められた点は,従前の銀行界の提案をお聞きいただいたものと理解しておりまして感謝をしております。もっとも,括弧というところで,ただし,遺言執行者が相続人である場合は,この限りではないものとする,という括弧付きの提案となっております。この点,趣旨は理解するところでありますけれども,実務を考えますと,このような権限を遺言執行者が相続人である場合に限る必要はないように思われます。
  すなわち,公正証書を含め,遺言を作成する者が増加している今日,例えば夫婦がそれぞれ遺言を作成し,互いを遺言執行者としている場合や,費用節約を機とした場合など相続人が遺言執行者に選任されている事例は相当数あると理解しています。このような場合,銀行の対応は個別行によって異なると思いますけれども,私が理解するところでは遺言執行者兼相続人に対する払戻しを許容している銀行が多いと聞いておりますし,また,信託銀行等が受任する遺産整理業務においても,信託銀行や弁護士,司法書士等が遺言執行者の履行補助者として払戻し,解約手続等を行っているのが実情と思われます。これらの遺産整理業務において,預金払戻しや解約手続が許容されないとすると,相続手続を円滑に行いたいという国民のニーズに応じられないのではないかと思います。
  考えますに,遺言者は第三者を遺言執行者に指名することができるわけですから,それにもかかわらず,あえて相続人を遺言執行者に指名しているわけなのでありますので,遺言者の意思の尊重という観点からも,相続人を遺言執行者に選定する場面は通常,一般の利益相反事象とは状況を異にするのであり,厳格な規律になじまないという説明も十分,合理性があるのではないかと思いました。
  それから,意見の二つ目として同じく③のところで(注2)として③により遺言執行者に権利行使を認める債権の範囲については,なお検討するものとすると書いてありますけれども,それについての意見でございます。預貯金の特則を従前から示唆しておきながら,追加的な提案で恐縮でありますけれども,投資信託や株式などの預貯金以外の債権も,経済的な機能や遺言者の一般的な意思においては,預貯金と同様の財産ではないかと思います。よって,このような金融商品の現金化に関する権利行使まで,遺言執行者の権限に含めるニーズもあるのではないかと考えられるところであります。
  もちろん,細かいところを詰めますと,例えば,金融商品取引法上の観点から考慮した相続人への説明義務などの規律との関係であるとか,また,債権法改正で民法条文上,預貯金の文言は加わりましたけれども,投資信託とかの金融商品は加えられていませんので,これらを法制上,どのように扱うかという検討はあるとは思います。しかしながら,先の実務上のニーズを踏まえ,検討していただければと存じます。したがいまして,(注2)ということについては存置していただければと,パブコメの対象にしていただければと思います。これが意見でございます。
  続きまして,質問でありますけれども,「遺言執行者の権限の明確化等」の(2)イ②に関してです。19ページでありますけれども,遺言執行者は,受益相続人に対してその特定物を引き渡す権利及び義務を有しないものとすると,ただし,その特定物の引渡しが対抗要件となる場合は,この限りではないと記載してあります。お尋ねしたいのは,ここでいう「この限りでない」という部分が具体的にどういうことを意味しているかということであります。この意味するところが例えば,引渡しが対抗要件である場合,遺言執行者は引き渡す義務を負うということになりますと,実務上,全ての物の所在を遺言執行者が確知することは困難でありますので,信託銀行のように遺言保管,遺言執行者への就任業務を行う銀行においては,遺言執行者への就任時の判断,是非の判断において,非常に重い制約になりかねないと思います。そこで,引渡しは義務でないということが確認されることを望みますけれども,この点について事務当局の御見解をお尋ねしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  2点の御意見は御意見として承りたいと思います。最後の御質問につきましてお答えを。
○堂薗幹事 ここは特定の財産について相続させる旨の遺言をされた場合に,遺言執行者がどういう権限を有するかということですので,このただし書は基本的には動産を念頭に置いておりますが,動産の場合は引渡しが対抗要件になるので,②の規律ではなくて①の規律が適用されるという趣旨でございまして,したがって,この動産については誰々に相続させるという遺言がされた場合には,その中で動産は特定されているはずですので,遺言執行者はそれを相続人に引き渡す義務があるということになります。
○浅田委員 義務があるということであるということですか。それは正に執行者としての義務であると,善管注意義務の一環としてではなく,正しく本旨たる義務であるという理解で。
○堂薗幹事 ①でいう対抗要件具備行為に必要な権限ということですが,この権限行使に当たっては当然,善管注意義務を課されるということですので,そういった意味では一定の義務を伴うということだと思います。
○浅田委員 私としては,先ほど申し上げた意見を持っているところでありますけれども,本規定の趣旨につき事務当局の意見は理解いたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 4の(1)の①ですが,これと現在の1012条,遺言執行者の権利義務の規定との関係がどうなのかを知りたいと思います。また,それについて説明する方が親切なのではないかと思います。①について今の浅田委員の御発言とも関係するんですが,遺産の換価や処分の権限が一般的な権限の中に入っているのかどうかということも,明らかな方がいいのではないかと思います。
  次に同じ①の効果のところなんですが,行為の効果が相続人に帰属するということですが,遺言で財団を設立する場合ですとか,遺言信託の場合に,この規律との関係をどう理解したらいいのかということの説明があればいいなと思います。
  最後に,1015条を削除するということですが,そうしますと,ますます,委任における本人に形式的にも該当するのが誰かというのが不明確になってきまして,従来から言われていることですけれども,遺言執行者がむしろ信託の受託者に近いという存在になるように思います。そうすると,信託法にあるような忠実義務ですとか,公平義務のようなものを課するかどうかについて,聴いてみるのはどうでしょうかということです。それは先ほどの財産の換価・処分権限があるかないかということとも関係してくることです。
○堂薗幹事 まず,1012条との関係ですが,似たような規定にはなるかと思いますけれども,1012条の方は権利義務を定めているものであるのに対しまして,4(1)①はどちらかというと1015条に対応するもので,遺言執行者がどういう法的地位を有しているかということを定めたものです。かねてより,弁護士委員の方から,この規定があることによって,遺言執行者は相続人全体の利益に配慮して,公平に職務を執行する義務を負っているという誤解を与えているとの御指摘がありましたので,遺言執行者というのはあくまでも遺言者の意思を実現することを職務とするものであり,例えば,遺留分減殺請求がされたような場合も,基本的には遺言執行者の立場としては,遺言の内容を実現するという観点から行動すれば足りるという点を明らかにしたということになります。
  そういった意味で,相続人の代理人とみなすという規定がなくなりますと,正にここでいう本人の立場に立つ者が誰であるかというのが必ずしも明確でなくなってしまいますので,それに代わるものとして,その行為の効果は相続人に帰属するという規定を置くことによって,1015条と同じ内容を明らかにしているという趣旨でございます。信託との関係などにつきましては,十分な検討ができておりませんので,事務当局において検討したいと思います。また,忠実義務についても十分な検討はできておりませんが,基本的には,ただ今御説明したとおり,遺言の内容を実現するという観点から職務を行えば足りるということであるとすれば,別途忠実義務について規定する必要があるのか,その必要性について疑問を持っているところでございます。その点について何かございましたら,御教示いただければと思います。
○中田委員 1点目については,1012条と4(1)①が両立てになるということであれば,そこを示しておいていただいた方がよろしいのではないかと思います。
  それから,3点目で先ほど忠実義務,公平義務と並べて言いましたけれども,確かに公平義務というのは難しいかもしれませんが,忠実義務というのは財産の換価・処分権限を持つのだとすると,自分で買い取るという場面があり得るわけです。それをどう考えるのかということです。
○堂薗幹事 財産換価・処分権限につきましては,明確にはこの中に書いていないんですけれども,基本的には預金債権の場合を除き,そこまでの権限は認めないという前提です。もちろん,遺言者がそういう権限を付与することはできるんですが,原則としては認めないということです。ここで取り上げた考え方は,その例外として預金債権については別の取扱いをするということでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○中田委員 ただ今の御説明は理解しましたが,ただなお,忠実義務については問題となり得る場面があるのではないかと思いますので,私の方でも考えてみますけれども,御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  これは先ほど来の水野紀子委員の御指摘とも関わりますけれども,遺言執行者の制度を現在あるものをスタートラインとして,どのくらい作り込むかということにも関わっているのだろうと思います。現在は現在の制度の下で運用しているわけなんですけれども,出てくるであろう様々な疑義に立ち入った,整った制度を作るということは一つの方向に踏み出すということかと思いますが,そうしたことの当否も含めて,更に御検討いただきたいと思います。
○増田委員 我々が提出した意見をおおむね取り入れていただきましてどうもありがとうございます。
  1点ですが,相続人等を欠格事由にするという話は落ちているんですけれども,この点については一般の方からもアンフェアではないかという意見を多く聞くところですので,(注)で結構ですので,一般の方の御意見を聴いてみたいなと思っております。検討しますというお答えで結構です。
○大村部会長 今のところは考え方は分かれ得るところなので,だから,意見を聴いてみようという御趣旨かと思いますけれども,御検討いただきたいと思います。増田委員,それでよろしいですね。
  そのほか,御発言はございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,今,頂きました御意見を踏まえまして,更にこの点についても御検討いただくということにいたします。
○浅田委員 第4に移る前に,ここに書かれなかったことについて御質問を差し上げたいと思います。従前来,銀行界からの提案として,公正証書遺言の撤回は公正証書のみとする規律や,公正証書遺言について,公証人という言わば公的機関が関与した手続ゆえに法的な安定性を付与する,ということが考えられるのではないかということを申し上げています。前回の第10回会合においては,この法制審では無理にしろ,将来の改正議論にも関係し得るので,この点についての事務当局における現在の検討というのをお聞かせいただきたいと申し上げました。本資料に言わば書かれていないということで,パブコメには付さないということだと理解しておりますけれども,この点について何らかの整理があるのであれば,この場でないしは補足説明でお聞かせいただければ大変助かります。
○堂薗幹事 この点につきましては御指摘を踏まえて,こちらでも何らかの方策が考えられるか検討したんですけれども,法的安定性の付与という観点から問題になるのは,遺言能力がなかった場合に遺言が無効になってしまうので,その信用性をどう担保するかという辺りかとは思いますが,現行法の下でも,遺言能力を争う場合には,争う側において,その当時意思能力がなかったということを主張立証しなければならないということになっておりますので,それについてこういった行為をした場合には法律上の推定を及ぼすとか,そういった形で解決することはできないという面がございます。
  それから,民法478条や480条のように,公正証書遺言を信用して弁済するなどした場合に,免責規定を設けるということは考えられるのだろうとは思うんですけれども,逆に公正証書遺言についてだけ,そういった形で規定を設けますと,そのほかの遺言を信用して弁済等をしたような場合に,解釈としては免責を認めにくくなる方向につながっていくおそれがあるのではないかという問題もございます。したがいまして,こちらとしては問題点の御指摘は非常によく分かるんですけれども,それに対応するような形で何らかの方策を講ずるのは難しい面があるということでございます。したがって,今回の部会資料にもその点については取り上げられなかったということでございます。
○浅田委員 説明は分かりました。ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,第3の「遺言制度の見直し」について御意見を伺ったということで,先に進みたいと思いますが,予定していた時刻が近付いている一方で,まだ,御意見を頂くべき項目がかなり残っております。それで,お許しを頂けば次のようにさせていただきたいと思います。まず,最後の「(後注)その余の検討課題について」は,次回に改めて御意見を頂くということにさせていただき,残った第4の「遺留分制度の見直し」につきまして30分程度,そして,第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして15分程度,御意見を頂くということで,30分ほど延長させていただくことをお願いできれば幸いです。よろしゅうございますか。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。
  第4の「遺留分制度の見直し」につきまして,事務当局より御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第4の「遺留分制度の見直し」について御説明させていただきます。
  まず,1の法的性質について御説明いたします。従前の部会資料からの変更点につきましては,部会資料の22ページの補足説明に記載させていただきましたとおりでございますが,2点ございまして,1点目といたしましては遺留分減殺請求とそれに基づく金銭支払請求について別個の規律を設けていた点を改めた点,2点目といたしましては現物返還の抗弁がなされた場合に,いつまで金銭支払義務の履行を認めるかという点を明確にした点でございます。
  まず,遺留分減殺請求とそれに基づく金銭支払請求につきましては,複数の委員から必ずしも分ける必要はないのではないか,分けることのメリットと比較するとデメリットの方が大きいのではないかという御指摘を頂きましたので,それらの御指摘を踏まえまして,遺留分減殺請求とそれに基づく金銭支払請求を分ける規律を改め,遺留分減殺請求をすることにより,受贈者又は受遺者に金銭債務が当然に発生するが,これについて履行遅滞責任が発生するのは,減殺請求をしたときから3か月を経過した後としております。
  引き続きまして,現物返還の抗弁がなされた場合に,いつまで金銭支払義務の履行を認めるかとの点についてでございますが,この点につきましても前回の部会におきまして,例外的に現物返還を認める場合にも現実に現物の返還義務を履行するまでの間は,受遺者等に金銭支払義務の履行を認めてよいのではないかとの御指摘を頂いたところでございます。本点は部会資料で申し上げますと,(1)の⑤の部分に当たりますが,前回部会における御指摘を踏まえまして,受遺者等が現物の返還を希望する場合には,その旨を抗弁として主張することはできるが,現物返還は飽くまで代物弁済として行うものであり,受遺者等が現実的に現物返還をするまでの間は,金銭支払債務をすることはできることとしてあります。
  また,部会資料の22ページの末尾から23ページにかけて記載してありますとおり,上記のような提案に対しまして現物返還の目的物の協議が成立し,又は裁判が確定した場合には,それによって金銭支払債務は消滅し,その後は現物での返還しか認められないというような規律もあろうかと思いますが,併せて各委員の御意見を賜れればと存じます。乙案につきましては前回からの変更点は特段ございません。
  併せまして部会資料23ページ目の2の遺留分の算定方法につきまして御説明させていただきます。基本的には前回の部会資料で提示させていただきましたA案,B案と今回の部会資料で提示させていただきます甲案と乙案は対応しておりまして,内容としてもほぼ同じということでございますが,前回部会における御議論を踏まえまして若干の修正を加えております。
  まず,甲案についてですが,部会資料25ページの補足説明に記載させていただいたとおりでございますが,前回の部会におきまして相続法規がされた場合の規律や包括受遺者について最低限相続分の規律が適用されるのか,若しくは遺留分の規律が適用されるのか,明確にすべきではないかという御指摘を頂きました。そこで,本提案では相続や遺贈の法規の有無にかかわらず,それぞれの制度の対象となる者を固定するため,相続の放棄をした者は最低限相続分制度の規律が適用されることと致しまして,また,相続の放棄によって相続人となった者及び包括受遺者については,遺留分制度の対象に含めることと致しました。
  もっとも,このような考え方を採用いたしますと,相続の法規がされた場合や割合的包括遺贈がされた場合につきましては,医療分と遺産分割に関する紛争を柔軟かつ一回的に解決することは困難となりまして,甲案のアで目指していた理念が若干,後退することになりますが,この点につきましてどのように考えるべきか,併せて御議論いただきたいと思います。
  引き続きまして,乙案について簡単に御説明いたします。乙案は前回の部会資料のB案と対応するものですが,前回案とは異なりまして,遺留分算定の基礎となる財産に含まれる贈与につきましては,第三者に対するものと相続人に対するものとで,その対象となる期間を変えることを前提とした記載にしております。すなわち,第三者に対する贈与につきましては現行法と同様,民法1030条の規律に負うこととしているのに対しまして,相続人に対する贈与につきましては現行の判例の考え方とは異なる規律を採用し,その対象となる機関につきましては民法1030条よりも長い期間にすることを想定しております。
  なお,乙案の基本的な考え方は現行法をベースとしつつ,判例によって規律が補充されている点などにつきまして,部分的に見直しをするものですが,前回の部会におきまして委員から現行法とどれだけ違うのかという御指摘がございましたので,現行の規律を変更する部分に限定して記載させていただいております。なお,見直しを提案させていただいております各論点は,別個に採用することが可能なものですので,セットで採用することの是非及び各論点ごとに採用することの是非,若しくは前回部会において委員から御指摘がありましたとおり,算定方法についてはあえて改正する必要はないのではないか,現行法の規律で十分だという見解もあろうかと思いますので,この点につきましても併せて御議論いただければと思います。
  なお,26ページの3につきましては,部会資料8からの変更点は特段ございません。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「遺留分制度の見直し」には3項目がございます。1の「遺留分減殺請求権の法的性質の見直し」には,甲案,乙案がございますが,乙案については変更なしということでございました。甲案につきましては,前回,指摘された何点かについて対応する修正をしているという御説明だったかと思います。2の「遺留分の算定方法の見直し」につきましても,甲案,乙案は基本的には従前はA,Bとなっておりましたけれども,これらの案を踏襲しているということでした。ただ,甲案については若干,修正がされている,乙案については贈与の取扱いにつき修正の提案がされている,なお,3は変更はない。以上のようなことかと思います。
  それぞれの制度はかなり複雑なものでありまして,先ほどから出ておりますけれども,パブコメに当たりましては丁寧な説明をして,何が問題であるのかということを理解していただくということが前提になろうと思います。そのこと踏まえた上で,今の修正点を含めまして御意見を頂戴できればと思います。いかがでしょうか。
○山本幹事 意見というよりはお尋ねしたい点が1点ございます。1の甲案について,部会資料22ページの④を見ますと,裁判所が返還すべき目的財産を定めるものとするという記載があります。この部分につきましては,従前,形式的形成訴訟であるという御説明があったと記憶しているところですが,今回の御提案の③を見ますと,遺留分侵害額を請求する訴訟ということで,これは普通の給付訴訟というように見えるのですけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。仮にそうだとしますと,④で裁判所が当該訴訟において目的財産を定めるというのがどういう位置付けになるのか,あるいは定めた場合にどういう主文の裁判をすることになるのかといった点がよく分からないところで,お尋ねしたいと思います。
  この点,補足説明を拝見しますと,現物返還を希望するというのが抗弁であるということで,かつ現物返還というのは代物弁済であるという御説明になっております。これは当該訴訟の外で協議ができて現物が返還された場合は,恐らく代物弁済ということで,それに対応する部分の金銭債権は消滅するということで,これを抗弁として主張すれば一部棄却の判決になるという説明ができそうな気がしているのですけれども,訴訟において当該裁判所が裁量的に目的物を定めた場合には,この点はどう説明されるのかというところを明らかにしていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 御質問の点につきましては,確かに現行法上これに類似する制度があるのかという問題はあるんですけれども,基本的には③で遺留分侵害額請求訴訟,本来的にはここの遺留分侵害額請求訴訟は,遺留分侵害額に相当する一定の価値を遺留分権者に返せばいいんですが,それを原則金銭債権にしている結果,③の場面では金銭債務の履行になるということでございまして,現物返還の内容を裁判所が定めるという点と今の金銭債権の関係ですけれども,要するに裁判所が現物返還の内容を定めれば,それによって金銭債務は当然に一部消滅するということであれば主文も比較的単純なものになり,金銭として幾ら返せ,現物としてこれこれを返せという形になると思うのですが,前回の御議論の中で,少なくとも現物返還するまでの間は,金銭債務として弁済できてもいいではないかという御意見が多かったので,今回の部会資料では,このような記述にしたものです。その結果として裁判所で定める内容としては,代物弁済としてこういうものを引き渡せば金銭債務を免れられますよと。  要するに代物弁済でいう債権者の承諾に代わるものとして,こういったものであれば代物弁済が可能だということをお示しすることになるわけですが,その場合の主文につきましては,現行法の下で,価額弁償の主張がされ,裁判所が決めた額を弁済するという主張を当事者がした場合に,どのような主文になるかという点に関する判例が平成9年に出ているかと思いますが,それを逆転させたような主文になるのではないかと考えております。具体的には,現物返還として裁判所が定めた財産を返還しないときは,幾ら幾らを支払えというような形の主文になるのではないかと今のところは考えておりますが,この辺りは今後,更に慎重に検討したいと思います。そういった意味では裁判所は現物返還の内容を定めた場合には,その部分はそれでしか返還できないとした方が規律としてはすっきりするのではないかなと,こちらでは考えているというところでございます。
○山本幹事 ありがとうございました。
  いずれにしてもパブコメの時点では,どういう具体的なイメージの訴訟になるかという辺りを明らかにしていただければと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○増田委員 まず,甲案,乙案ともに金銭請求ということになっておりますが,2の「遺留分の算定方法の見直し」で甲案を採った場合に,相続人に対する請求はどうなるのか。それは金銭請求なのかどうなのかという点を明らかにしていただきたい。今回の案では2(1)④というのが入っていますので,多分,金銭請求ではないのだろうと考えておりますが,それを入れるかどうか,それが妥当かどうかはまた後で意見を申し上げますけれども,もし仮に甲案で分けた場合には,そこは必然的に金銭債権にはしないことになるのかどうかというのを明らかにしてほしいというのが1点です。
  それから,2点目ですけれども,私は基本線としては甲案でいいと思っているんですけれども,この裁判手続については疑問に思っていまして,そういう観点から,甲案で受遺者側から抗弁が出た場合には,裁判所はその抗弁の当否,つまり,その物件をもって返還するのが相当かどうかだけを判断すれば足りると。代わりに別の物件を,この目的物を返還せよとまでは決める必要はないというような手続はどうかと。つまり,当事者が主張していないような物件の返還を命ずるような裁判は,民事訴訟という枠組みにはなじまないのではないかと思いますので,そういう仕組みも甲案のバリエーションとして入れていただいたらどうかということです。つまり,被告側が抗弁を出して,裁判所がその物の返還が相当であると判断すれば,当該物件の引渡等を命ずる判決をすればいいし,相当でないと判断すれば,もとどおり,金銭の請求を認容すると。その二者択一というようなシンプルな制度も考えられるのではないかということです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  2点,御質問がありましたけれども,お願いします。
○堂薗幹事 まず,2の甲案を採った場合ですけれども,相続人に対する請求は④に書いてあるとおり,基本的には最低限相続分侵害額に相当する価値をどのようにして返すかという点を裁判所が決めるということになりますので,当然に金銭債権ということにはならない。実はこの甲案というのは,従前,1の法的性質の見直しのところで従前丙案として書いていたものに近い考え方なのですが,相続人に対するものについては,そういった形で裁判所が内容を定めて初めて返還する内容が定まると。第三者については金銭請求ということを考えておりますので,第1点目につきましては,④は必ずしも金銭債権になるものではないと考えております。
  それから,2点目の御質問ですが,御趣旨はよく分かりまして,要するに代物弁済の内容については受遺者側で特定すればいいではないかと。そうしますと,正に裁判所が判断すべきことは,債権者に代わる代諾をするかどうかという点に限られますので,そういった意味で制度としては非常にすっきりするのだろうとは思います。もっとも,現行法の下でも基本的には受遺者又は受贈者は現物を返せばいいということになっているところ,要するに代物として適当なものを選択したかどうかという点についてのリスクを受遺者側,受贈者側に負わせるのは酷なのではないかという問題があるように感じておりまして,その内容として受遺者側が示したものが不適切な場合には,裁判所がその内容を定めるという形にしているものでございます。ただ,もちろん,増田先生が言われたような考え方を採ることもあり得るのだろうと思いますが,その場合には受遺者側,受贈者側に酷な結果にならないかどうかという辺りについて慎重な検討が必要となるように思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2点につきましては,今,御説明がありましたけれども,増田委員のような考え方もあり得るということで,説明の中で何らかの対応をしていただくかどうか,御検討いただきたいと思います。第1点についてはお答えがあった後に,増田委員から意見を申し述べるという御発言があったように思いますけれども,いかがですか。
○増田委員 それは2の④を入れるかどうかについてです。2のところでお話しします。
○大村部会長 2の(1)の④についてですね。それも今おっしゃっていただいて結構ですけれども。
○増田委員 2の④が甲案の提案の中で必須のものなのかどうなのかということです。前の部会での提案のときにはこれはなかったと思うんですが,つまり,甲案というものについて実体法上の要件を相続人と第三者とで分けるということと,手続を分けるということは全く別の問題だと思うんです。ここで④を必須のものとして放り込んでしまうと,早い訴訟手続よりも遅い審判手続の方が先行することになり,第三者になる受贈者の地位が不安定になるなどの弊害がありますし,更に前も申し上げましたけれども,1個の遺言で相続人に対する請求と相続人に対する遺贈と第三者に対する遺贈があった場合に,紛争が一回的に解決できないというような弊害もありますので,実体法上の要件の変更と手続を変えるということとは分けて考えていいのではないかと思っております。したがって,甲案のアから④を除外して,別途,④については聴くというのでどうかというのが意見です。
○堂薗幹事 検討いたします。
○大村部会長 今の点については御検討いただくということにしたいと思います。
  1と2と両方について,今,御意見を伺っております。両方を含めまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○山本(和)委員 余りこの段階で申し上げても仕方ないのかもしれません。先ほどの甲案で訴訟手続をどうするかということですけれども,確かに抗弁のところで,こういう裁判所が一切の事情を考慮して定めるという一種の非訟的な手続構造にするというのは,かなり異例であるということは恐らく確かで,これでできないかどうかというのは考え方はあるのかなと思いますが,もう一つ,選択肢としては,もちろん,増田委員が言われたような形にすれば弁論主義ではっきりする通常の訴訟になるわけですけれども,これをもし維持する必要があるのだとすれば,これ自体を反訴的なものにして,最初からずっと言われた形式的形成訴訟のような形で代償物確定の訴えみたいなものを反訴として定め,それを本訴と連携させて考えていくというような選択肢もあり得るかもしれません。もし,補足説明等でその辺りをあれされるのであれば,いろいろな選択肢があり得るということを示していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承りました。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 1(1)の①ですが,遺留分減殺請求と金銭支払請求を一本化した今回の案は結構なことだと思います。ただ,その上で,この文章ですと遺留分減殺請求をしたということが一見すると明らかではないので,それは入れておく必要があるのではないかなと思いました。
もう一つは訴訟との関係にもなるんですけれども,金銭請求訴訟で現物返還の抗弁を出したとしても,遅延損害金自体は発生し続けるわけですよね。それで,最終的に返還の時点で元本プラス非常に膨れ上がった遅延損害金が一挙に消えてしまうと,こういう仕組みだと思うんですが,ちょっと不安定な印象を受けます。 裁判が長期化すればするほど,膨れ上がった遅延損害金と現物とのバランスがずれてくるような感じがします。先ほどの主文の記載の仕方でも現物を返還しないときは○○円を支払えというお話だったんですが,恐らく○○円プラス年何%ということになると思うんです。そうすると,その主文も何か気持ちが悪くて,むしろ,山本委員がおっしゃったような反訴のようにすれば,ひょっとしたら,その問題はクリアされるのかなとも思ったんですが,いずれにしても遅延損害金の扱いについてもうちょっと検討する必要があると思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  では,それも含めまして訴訟の仕組み方を更に検討していただく,それから,第1点,御指摘の点は表現を見直していただくということにしていただきたいと思います。
○増田委員 2のその他の点です。まず,前回,参考資料としてお付けいただいたような具体例を補足説明で入れていただきたいというのが1点です。
  それから,これも前回の話であったんですけれども,甲案については減殺の順序,1033条から1035条のところを変えるということだったと思いますので,その点も明確にしていただきたいということです。
  それから,遺留分を変えるという場合に,経過措置を一緒に議論する必要があるのではないかと思っていまして,遺言時法が適用されるのか,相続開始時法,つまり,遺言であれば効力発生時法が適用されるのかというのは,一つ重大な問題であろうかと。それも聴いてみないといけないのかなと思っています。普通と違うのは遺言は撤回できない場合があるんです。既に能力を喪失していれば撤回できないので,そこのところも考慮した上で考えなければいけない問題かと思います。
  もう一つは,先ほど関係官の方でもおっしゃいましたように乙案の方ですが,1,2,3というのはそれぞれ独立に聴いていい話だと思うんです。乙案として全部まとめて聴く必要はないのかなと思いましたので,その点は工夫いただいたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  幾つの問題を御指摘いただきましたが,最後の聴き方の点は事務当局の方も意識されている点ですので,工夫をしていただきたいと思います。それから,補足説明の内容としては,この制度もかなり難しい制度ですので,増田委員がおっしゃるように例を挙げて分かりやすい説明をしていただくことが必要かと思います。八木委員が先ほどおっしゃっていた,なぜこういう変更を加える必要があるのかというところから説き起こして,順次,説明していただくという必要があろうかと思います。そして,経過措置はいろいろなことに関わる問題ですけれども,この段階で聴いておくべきものがあれば,それは聴いていただくということで,いずれにしてもどこかで対応するということになろうかと思います。
  2の乙案の中で前回の案に修正が加えられた部分がございます。それから,3については前回どおりで特に変更点はないということですけれども,これらにつきまして,このままでよろしいかということにつきまして何か御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。
○水野(紀)委員 その部分ではなくて申し訳ありません。乙案の部分ではなくて甲案の部分について確認をさせていただければと思います。24ページのイの「第三者に対する請求(遺留分)」で,1030条の現行法は害意がある場合は,それ以前のものでも加えられるということになっていますが,それは削除されるということでしょうか。
○堂薗幹事 そこは従前から御指摘いただいているところで,こちらとしては削除してもいいのではないかと考えておりますが,その点については表現ぶりも含めて検討したいと思います。
○水野(紀)委員 具体的には娘婿を跡取りにと考えて,全財産を娘婿に贈与してしまったという場合,これだと1年以上たっていると,遺留分の対象にならないということになりますので,それはかなり思い切った改革で,遺留分の意義を相当に失わせるだろうと思います。それから,これまでの減殺の順序は,まず,フランス法的に自由分を贈与ないし遺贈に充てていって,自由分が終わって遺留分まで侵害しながら遺贈や贈与を始めたときに,それを減殺するという発想を受けたものでした。その減殺の順序を変えられる場合には,それなりの説明は必要かと思っております。
○堂薗幹事 従前は,その点を見直す考え方をお示ししておりましたが,甲案の②は現行と同じ規律ですし,乙案もそこは現行と同じ規律にしておりますので,今回の部会資料では,その点は触れていないということでございます。
○水野(紀)委員 分かりました。ありがとうございました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

○大村部会長 よろしゅうございましょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○石井幹事 乙案の①~③はそれぞれ独立のものということですけれども,現行法と組み合わせることが容易なものとそうでないものとが混在しているように思いますので,その辺が分かるように記載していただけると,これらの案を採用した場合に現行法の規律をどの程度変える必要があるのかといった観点からの検討がしやすくなり,より意見が述べやすいのかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御指摘を踏まえてと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
  それでは,「遺留分制度の見直し」につきましては,今,頂きました御意見を踏まえまして,更に検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  本日の最後になります。進行の手際が悪くて申し訳ありませんが,第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」ということで,資料26ページ以下でございますが,事務当局より説明を頂きます。
○下山関係官 では,資料26ページ以下の「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして御説明させていただきます。
  部会資料10では,本部会資料の甲案とほぼ同様の考え方を提示しつつ,請求権者の範囲については様々な考え方を取り上げておりましたが,前回の部会では請求権者の範囲について,その範囲を相続人に準ずる身分関係を有する者に限定すべきであるとする意見と,請求権者の範囲を限定する合理性に欠けるとして,請求権者の範囲には特段の制限を設けるべきではないとの御意見や,請求権者の範囲については相続人以外の者に請求権を認める法的根拠と密接な関連を有するので,その点の検討を詰めるべきであるとの御指摘もありました。
  そこで,本部会資料におきましては,これらの御指摘を踏まえ,まず,甲案として請求権者の範囲を二親等内の親族に限定し,かつ相続人に対する請求を認める要件については現行の寄与分を参考にした考え方,これを取り上げております。甲案は飽くまでも相続財産の分配の在り方として,相続人に準ずる身分関係を有する者については,例え現行の相続人の要件を満たさない場合であっても,相続財産の維持又は増加について特別の寄与があったときには,その限度でその分配を認めるのが相当であるという考え方に基づくものであります。
  ただし,これらの者を遺産分割の当事者とすると,遺産分割に関する紛争が一層複雑困難化することを考慮して,政策的に遺産分割手続とは切り離して,相続人に対する金銭請求を認めることとしております。このような考え方によれば,この制度に基づく請求権は実質的には遺産について相続人が有する権利と同等の法的地位に立つと見るのが相当であって,相続財産が債務超過となっており,又はそのおそれがある場合には,相続債権者や受遺者の権利よりも劣後すべきものであると考えられます。そこで,本部会資料におきましては,このような趣旨を明らかにするために,限定承認,財産分離及び相続財産破産の各手続が開始された場合には,これらの手続の終了後に相続財産が残存する場合,すなわち,相続財産が債務超過の状態になかった場合を除いて,この制度に基づく請求をすることはできないこととしております。
  なお,本文の②におきまして,本提案では①の金額についてまずは協議をし,協議が調わないとき,又はできないときは,家庭裁判所がこれを定めるとしております。これは前回の部会におきまして御指摘がありましたとおり,まずは当事者間の協議を行い,その協議が調わなかったとき,又は協議ができなかったときに家庭裁判所の手続に乗せるということで,現行の寄与分と同様の規律を想定しております。
  次に乙案について,乙案は前回部会における議論を踏まえ,請求権者の範囲に限定を加えないこととしつつ,相続人に対する請求を認める要件を無償の労務の提供により,相続財産の維持又は増加に特別な寄与があった場合に限定することとしております。乙案は無償の労務の提供に限り,相続開始後にその清算を認めるものであり,請求権者の範囲には限定を加えておりませんが,一般に被相続人との間に密接な関係がある者でなれば,この要件を満たすことは考えにくいと考えております。その他の点については基本的には甲案と同じでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」ということで,今回は甲案,乙案を併記という形で御提案を頂いております。甲案は二親等内の親族という形で人の方で線を引くと,乙案は人の方では線を引かないけれども,無償の労務提供に限るという形で対象の方に線を引くということで制度を仕組むというものかと思います。②以下は共通の制度として提案されておりますけれども,⑤のようなものが具体的に示されております。基本的なポリシー,甲案,乙案のどちらにするのかという点は意見が分かれるところかと思います。これについて今は決着が付かないと思いますが,このような形で甲・乙両案を示すということにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○中田委員 甲案について二親等内の親族で相続人でない者というのは,具体例を挙げていただいた方が分かりやすいのではないかと思います。例えば妻子を残して亡くなった人の父親だとか,あるいはきょうだいですとか,あるいは被相続人の息子の妻ですとかというのがあると思います。それぞれにおいて考えられる貢献というのはあると思うんですが,例えばお父さんが被相続人の商売が危ないときに援助した,財産上の給付だというようなことですが,それぞれについていいこともあるんですが,課題もあるのではないかと思うんです。例えば今の例で父親が被相続人の妻と子どもの遺産分割に対して口を出していくことになるのではないかですとか,あるいは被相続人の息子の妻に療養看護ということで事実上,それを強制するきっかけにならないかとか,いろいろな懸念もあります。具体例を挙げた上で課題とされている問題といいますか,懸念についてもお示しいただいたらいいのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  補足説明の中で,今,御指摘のような具体的な状況について一定程度の説明をしていただくというのが適切かと思いますけれども,その方向でお考えいただけるかと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
○山本(和)委員 今回の補足説明を読んで,よく分からなくなったんですけれども,⑤に関する補足説明ですけれども,相続債権者あるいは受遺者に後れるということはそのとおりだと思いまして,補足説明では相続人が有する権利,多分,寄与分の権利だと思いますが,と同等の法的地位と書かれているんですが,現在の構成だと各相続人に対して請求するので,相続人の中に債務超過の相続人がいた場合には,結局,全額を回収できない場合というのがあるように思うんですけれども,相続人であれば他の相続人が債務超過でも,寄与分には全く関係ないはずなので,そこは全額を回収できるわけですよね。
  それとの関係で,何となく普通に考えれば相続人の債権者というのは,その分,棚ぼたなので,①のように寄与した人がいるのであれば,寄与した分は相続人の債権者より先に持っていけてもしかるべき感じもするんですが,いずれにしろ,政策判断でそうするというのは構わないと思うんですけれども,補足説明等でその辺りの考え方は示した方がいいのかなと思います。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,その辺りについて何か手当をする必要があるかどうか検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,この件につきましては,甲・乙両案で基本的な考え方としてどちらを採るかという形で聴くと,そのイメージが伝わるような説明をしていただくということと,⑤のような規律につきましてなお検討する余地がないかということを更に事務当局には御検討いただくということにさせていただきたいと存じます。
  (後注)は先ほど申しましたように,次回以降の検討の中でまたお諮りしたいと考えております。
  そこで,本日はここまでということにさせていただきまして,最後に,次回の議事内容あるいは日程につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,次回ですけれども,次回は御案内のとおり,5月17日,火曜日の午後1時半から5時半までということで,場所は東京地検を予定しております。次回は隣の建物の15階の1501号室で行う予定ですので,場所をお間違えにならないよう,お願いいたします。
  次回は本日の議論を踏まえて修正した案をお示しして御議論いただき,可能であれば中間試案の取りまとめまでできればとも考えておりますが,本日も多数の問題点の指摘を頂きましたので,次回に取りまとめることが難しい場合には,お忙しい中,恐縮ですけれども,6月にもう一度,部会を開かせていただいて,できれば6月には取りまとめたいと考えているところでございます。
  それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 本日は私の進行の不手際で時間を超過してしまいまして大変申し訳ございませんでした。皆様には非常に活発に御議論いただきましたことに改めてお礼を申し上げます。本日はこれで閉会いたします。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第12回会議 議事録


第1 日 時  平成28年5月17日(火)自 午後1時29分
                     至 午後5時49分

第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第12回会議を開催いたします。
  本日は,まず,最初に新しい関係官の方がおられますので,自己紹介をお願いしたいと思います。
○神吉関係官 関係官の神吉でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  続きまして,本日の配布資料の確認をお願いしたいと思います。事務当局の方からお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,本日の配布資料ですけれども,まず,事前に部会資料12「中間試案のたたき台」と,それから,もう1点,「遺留分の算定方法の見直しに関する参考資料」というものをお配りしているかと思います。
  それから,前回の会議の最後に,場合によっては今回の会議で中間試案の取りまとめをすることもあり得るというようなお話をさせていただきましたが,前回の会議の後,事務当局の内部で検討しましたところ,更にいろいろな問題点が見付かりまして,特に遺留分の見直しにつきましては様々な事例を基に検討いたしましたところ,それぞれの案についての問題点がより明らかになったところもございます。
  本日は,そういった問題がある案をこのまま中間試案に上げていいかというところにつきましても,御議論いただく必要があろうかと思いますし,前回の部会資料では可分債権のところにつきまして,一つの案に絞った案を提示しておりましたけれども,今回は,前回の御議論を踏まえまして従前の甲案,乙案という形に戻させていただいたわけですが,その関係で特に乙案の仮払いの制度につきましては,具体的な中身についてまだ全く議論がされていないという状況でございます。したがいまして,本日はその具体的な中身についても御議論いただく必要があるのではないかと考えているところでございます。そのような状況でございますので,本日,中間試案を取りまとめるというのは難しいのではないかと考えております。本日はそういう前提で御議論いただければと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  なお御意見を賜りたい点があるということで,本日,御議論いただいた上で,次回以降に取りまとめをさせていただきたいということでございます。そういうことで,本日は先ほど御説明がありました資料12に従いまして,全体につき前回の修正点を中心に御意見を頂いていきたいと思います。それから,前回,積み残しになっておりました「その余の検討課題について」がございますけれども,これは本日の一番最後に扱わせていただきます。できるだけ,そこまで行き着きたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
  そこで,資料でございますけれども,第1から第5までに分かれておりまして,それに「その余の検討課題について」が付いているという形になっております。順番に,「その余」を入れますと六つに分けまして御意見を賜りたいと思います。
  まず,最初の「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」という点につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○大塚関係官 「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,前回からの変更点を簡潔に御説明申し上げます。
  早速ですが,1の短期居住権についてでございます。こちらにつきましては,形式的に各項目に見出しを付したという変更を施しましたほか,前回会議における御指摘を踏まえまして,必要費及び有益費の支払義務についての記述を整序したというところでございます。また,短期居住権の消滅請求につきまして,各相続人が単独で消滅請求をするということができる旨を,御指摘を踏まえて明示したというところでございます。
  短期居住権については以上です。
  続いて,2の長期居住権でございますが,まず,5ページ下段の「法的性質について」でございます。長期居住権の法的性質を賃借権類似の法定の債権と位置付ける場合には,長期居住権の設定をする際には,そちらの債務者も併せて確定する必要があると考えられますことから,遺言や死因贈与によりまして配偶者に長期居住権を取得させるという場合には,これと合わせて居住建物の所有者,債務者に当たる側を定めることを要することとしたものでございます。
  次に,⑵の「裁判所が遺産分割の審判によって配偶者に長期居住権を取得させる場合について」でございます。こちらは前回会議における御指摘を踏まえまして,結論として遺産分割の審判によって配偶者に長期居住権を取得させることができる場合の要件についての記載を改めたところでございます。
  続いて,⑶の「必要費及び有益費について」でございます。長期居住権につきましては,費用の負担は結論として建物について生じた必要費は配偶者が負担するとし,有益費については民法第196条第2項本文と同様の規律によるものという旨を方策で改めて修正を施したということでございます。
  ⑷の「長期居住権の買取請求権について」ですが,これは設けること自体についても賛否の御意見が分かれたところでございましたので,それを踏まえまして,買取請求権については後ろの(注)で取り上げるという扱いにいたしまして,その中である程度,具体的な考え方を示すこととしたということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  長期居住権の法的性質に関連して,実質的に規律が改められている点があるようですけれども,その他,頂いた御指摘に応じて修正を加えていただいているということかと思います。御質問,御意見等を頂ければ幸いです。
○増田委員 前回の意見を踏まえて御修正いただいてありがとうございます。
  1点,ワーディングの問題ですが,この第1のところの「第三者」というのは配偶者以外の者全て,相続人を含むということなんですが,資料のほかのところでは違った意味で「第三者」が使われている場合もあります。もちろん,民法自体,「第三者」の示す範囲が統一されているわけではなくて,条文ごとの趣旨に従った解釈問題ではあるんですけれども,中間試案とする場合には,ここでの「第三者」は相続人を含む配偶者以外の全ての者というぐらいの注釈を入れていただく方が適切かと思います。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて修正したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他,いかがでございましょうか。
○中田委員 短期,長期を通じてですけれども,配偶者の原状回復義務の規定の内容が資料11に比べて簡潔になっています。しかし,その趣旨は変わらないのではないかと理解しておりますけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。もし,よろしければ補足説明の方では,そのことを書いておいた方が疑義が出ないのではないかと思いますけれども。
○堂薗幹事 従前の書きぶりは,現在国会に提出されている債権法改正法案の条文に合わせたものですが,債権法改正法案では,目的物を毀損した場合の原状回復と,物などを取り付けた場合の原状回復の二つの場合について規定が設けられているのですが,それを二つともここに盛り込むと,若干,長くなってしまうということもあって,今回の部会資料では,元の記載に戻しております。その点については補足説明において説明したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○石井幹事 長期居住権について2点ほど,御質問と意見のようなことを申し上げさせていただきます。
  まず,1点目は裁判所が審判で長期居住権を設定するときの要件に関することでございます。資料の2⑵②では,配偶者が長期居住権の取得を希望した場合であっても,「建物の所有権を取得することとなる相続人」の意思に反するときは,特に必要と認められる場合に限り,裁判所は審判で長期居住権を設定できると書かれております。このような規律自体はあり得るのかもしれませんが,どなたが建物の所有者になるかは審判がされるまで分かりませんので,審判に先立って「建物の所有権を取得することとなる相続人」に長期居住権の設定についての意思を確認するといっても,具体的に誰に対してどのような形で確認すればいいのか分かりにくく,その点をもう少し明確にしていただけると有り難いのかなと思っておるところでございます。
  それから,もう1点は買取請求に関することでございます。(後注)では,例えばという形で規律のイメージを㋐から㋔という形で書かれているところですが,従前の部会での議論ですと,買取請求を認めるかどうかというところも含めて,裁判所が判断するというような議論がされていたと認識しておったんですけれども,今の案ですと,裁判所は基本的には価格のみを定めるといった規律のようにも読めるように思います。いずれかの制度設計もあり得るということであれば,(後注)でいずれかの制度設計によった具体的な規律内容まで書くのが良いのか,あるいは(後注)ではそこまでは書かずに,具体的な規律内容については補足説明での記載にとどめる方が良いのかといったことも含めて,見せ方というか,出し方についてはなお検討していただく余地もあるのかなと思っております。
○堂薗幹事 まず,4ページの②の裁判所がどのようにして意思を確認するのかという点ですが,基本的には裁判所が審判で遺産を分ける場合には,各相続人の意向なども聴くことになるのではないかと。特に長期居住権を取得させる場合には,他の相続人に対して,それについての意見を聴いて,それに反対していない人がいるのであれば,その人に建物所有権を与えるということも十分考えられるように思います。このように,裁判所は,基本的には他の相続人の意見も聴いた上で,最終的に長期居住権を取得させるかどうかを判断することになるのではないかと考えております。その点について手続法上,必ず聴かなければいけないことにするかどうかという辺りは,今後の検討課題ではないかと思います。
  それから,買取請求権につきましてはある程度,中身も(後注)の中では挙げた上で,それについて御意見を伺う方がいいのではないかというご指摘が前回の部会でございましたので,それを踏まえたものです。ほかの考え方もあり得るということであれば,それを更に(注)の中で書くということはあるのだろうとは思いますが,事務当局としても,買取請求権についてはなお検討するというだけではなくて,中身についても記載した上でパブリックコメントに付したいと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○石井幹事 ある程度具体的な内容を案で示すことについては反対することはございませんけれども,いろいろ,選択肢があり得るということについては明確にした方がいいのかなという趣旨でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 資料の5ページの長期居住権というのを死因贈与ないし遺言で定める際の所有者となる者についても確定させるという点ですけれども,法律関係を安定させるためにという点からはそうかなと思う反面,このような契約や遺言をした場合に,所有権を取得するべきとされた主体が被相続人より先に死亡したというような場合については,死因贈与の効力あるいは長期居住権取得の効力や,遺言についての効力には影響しないという趣旨でしょうか。また,贈与については亡くなった者の相続人にいくのか,それとも,それは所有者がいないということで,その部分は遺産分割にいくのかといったような問題も出てこようかと思いますけれども,それはそれぞれの解釈等を通じて解決されるのであって,当初の意思決定のときにさえ決めていれば,実際に効力が発動するときに所有権取得者として指定された主体は存在しなくてもいいと,そういう理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘のような問題はあるかと思いますが,基本的には併せて決める必要があって,その後,その建物について贈与を受けた人が亡くなった場合の取扱いについては,更に検討する必要があると思いますが,そこで先に所有者が亡くなった場合に遺贈そのものが無効になるとか,そういったことはないようにする必要があるのではないかとは思っております。その辺りは更に検討したいと思います。
○沖野委員 これが入ることによって,一方ではかえって複雑になることがあるかもしれないという点が気にかかっておりますが,例外的な事情かもしれません。
○堂薗幹事 今回は法定の債権という性質決定をした上で,こういう形にしているわけですが,論理必然的に法定の債権だからこうだということではないと思いますので,前回お示ししていたように,取りあえず,配偶者に長期居住権を渡すということだけ決めていればそれはそれで有効で,その場合に建物所有者が決まっていなければ,遺産分割なり何なりで決めてもらい,決まった段階で債権者,債務者が確定するというような仕組み方もあり得るんだと思いますので,そのどちらがいいのかという辺りについて,是非,御意見をお伺いしたいと思っているところでございます。
○大村部会長 沖野委員,何か,今の点についてございますか。
○沖野委員 私自身は,建物所有者を併せて決めることがどのくらい法律関係を安定させることにつながるのか疑念を持っております。逆に,決めなかった場合とか,あるいは遺贈で受遺者が放棄をした場合だとか,そういう派生的に出てくる問題がかえって多くならないかなと。そして三者で決めるならば,それはもちろん決められるわけで同じような問題は出るわけなんですけれども。そうはいっても,どのくらいその趣旨として,このような形で要求することが趣旨にかなうのだろうかという気がしておりますものですから,強い意見ではないのですけれども,前の案でも良かったのではないかなという印象は持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにもし,今の点につきまして御意見がありましたら承りたいと思います。前回の案から改めた点でございますので,今の沖野委員のように前の方が良かったという御意見の方もいらっしゃるかと思います。
○窪田委員 今,沖野委員から出たことで尽きているとは思いますが,こういうふうな形で居住建物の所有者をあらかじめ定めておかなければいけないとしますと,仮にこれを定めていないと,長期居住権を設定するという遺言自体が全体として無効になってしまう可能性があるのだろうと思います。ある意味で誰のところにその建物がいこうが,その建物についてはそういう負担を負っているのだというのが真意であると考えるのであれば,そこまで強い形で縛る必要はないのか,実質的にもそうなのではないのかなという気がいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  沖野委員と窪田委員から,御意見を承りました。今の点でも結構ですし,それ以外の点でも結構ですので,更に御意見があったら承りたいと存じます。
○西幹事 ほかの点になりますけれども,質問ないし疑問2点と確認させていただきたいこと2点がございます。
  非常に細かいことばかりで恐縮ですが,1点目の疑問は,短期居住権の消滅のところで,1ページの下から4行目になりますけれども,配偶者以外の相続人が消滅請求できると書かれていまして,これが2ページの⑵の②で,配偶者以外の者が居住建物を取得した場合にも準用されるという形になっていますけれども,ここでも相続人が消滅請求できるという理解でよいのか,あるいはこの場合には建物所有者が消滅請求できるということになるのかという点です。
  2点目は,長期居住権の価値に関する5ページの一番上の(注1)のところで,長期居住権が相続分の中に含まれるということが書かれていますけれども,これが(注1)で書かれているのに対して,短期居住権の方は1の⑴のアの②のところで,つまり(注)ではなくて本文の中に,相続分に含まれないということが書いてありますが,バランス的にはこれでよいのでしょうか。
  確認させていただきたいことの1点目は,既に出てきたような気もいたしますが,2ページの上から4行目の③のところ,配偶者が原状回復義務を負うというところで,これは配偶者が死亡によって居住権を失った場合には,配偶者の相続人が原状回復義務を負うという理解でよろしいのでしょうか。これは長期居住権のところでも同じです。
  あと,もう1点はその少し上です。②の「占有を喪失し」というところで,前にも確認させていただいたかもしれませんが,例えば入院したとか,そういう事情で一時的に占有状態がなくなったという場合は当然含まれないという理解でよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 ただいまの点ですが,まず,2ページの⑵の②のところですけれども,その余の規律は同じと書いてしまっておりますが,当然,この場合は建物所有者が決まっておりますので,消滅請求できるのは建物所有者という前提です。
  それから,短期居住権と長期居住権で相続分に入れるかどうかの記載について平仄がとれていないのではないかという点でございますが,長期の方は遺産分割においてそういう権利を取得させることができるということですので,通常,何も書かなければ相続分でその分を取得するということになるのではないか,逆に言うと,短期の方は,これによって得た利益を相続分に含めないということですので,その点は明示的に書かないと,そのような規律にはならないのではないかという理解の下にこうしているんですが,ただ,分かりやすさとかいう観点もありますので,中間試案の段階では,長期の方も,(注1)の記載を本文に持ってくるということは十分に考えられるのではないかと思います。
  それから,配偶者が死亡した場合に誰が原状回復義務を負うかという点ですが,これは相続人が負うという前提でございます。
  それから,短期の場合の占有の喪失ですけれども,例えば,配偶者がほかの施設に移っていても従前の居住建物に荷物を置いているというような場合には,占有の喪失はないということになるのだと思います。また,占有訴権により占有の回復がされれば,当然,短期居住権も消滅しなかったという扱いにはなるのだろうとは思いますけれども,ただ,実際にはそのようなことはほとんどないのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。
○西幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,第1の項目につきまして何かございましたら伺います。
○上西委員 教えていただきたい点があります。4ページの第三者対抗要件の箇所です。「配偶者は,長期居住権について登記をしたときは,長期居住権を第三者に対抗することができるものとする」とあります。登記の本質からすれば,これでよいと思います。ただし,同じ建物について所有権と長期居住権があることになり,登記が任意であることは重々,承知しておりますが,今まで議論がなかったので,義務化することの是非について検討していただきたいのです。未登記の長期居住権が増えると,紛糾事例が増えるのではないかと懸念するからです。それと,念のためですけれども,1ページで⑴の②で,「短期居住権の取得によって得た利益は,配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)に算入しないもの」とあります。算入しないということと評価の有無は全く別ですので,注釈的に5ページの上の(注1)(注2)のように,短期居住権の財産については評価しないとか,登記対象となるものではないという注釈があってもいいのかなと感じました。御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 長期居住権の登記ですけれども,この点については賃借権とは異なって,配偶者からの登記請求権を認めると,ですから,配偶者の方で登記を備えようとすれば,備えることができるようにする必要があるのではないかと考えておりまして,その辺の手続についてはまだ具体的に記載していないんですけれども,5ページの(注2)で「長期居住権に関する登記手続をどのように定めるかについては,なお検討する」と,ここで検討課題として挙げているという認識でございます。義務化と言われたのはそういう趣旨でよろしいでしょうか。
○上西委員 そういう趣旨でもあり,また,一つのものに複数の権利が併存するわけですので,将来的な紛糾防止のためにも何らかの明示があってもいいのかなという趣旨です。
○堂薗幹事 分かりました。
  それから,短期居住権の点につきましては,御指摘の点を補足説明で説明するのか,あるいは(注)に記載するのかという辺りについては検討させていただければと思います。
○大村部会長 上西委員,よろしいでしょうか。
○上西委員 ありがとうございます。
○大村部会長 御質問が出ましたけれども,具体的な登記手続をどうするかという問題はなお検討を要するかと思いますが,登記請求権があるのかないのかということについては考え方をお示しいただいて,御意見を聴いていただいた方がいいかと思います。
○堂薗幹事 分かりました。
○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第1点につきましては,今,頂いた御意見を踏まえまして,取りまとめをさせていただくということで事務当局の方にお願いをしたいと思います。
  続きまして,第2の「遺産分割に関する見直し」というところに進ませていただきます。資料6ページでございます。事務局の方からの説明をお願いいたします。
○満田関係官 関係官の満田の方から説明をさせていただきます。資料6ページ,「第2 遺産分割に関する見直し」ということになります。
  まず,「1 配偶者の相続分の見直し」につきましては,甲案については前回会議における御指摘を踏まえ,表現ぶりを一部修正いたしましたけれども,実質的な変更点はございません。
  乙案についてですが,前回会議におきまして乙案について乙-1から乙-3までの三つの案を提案しておりましたけれども,中間試案として乙案のみで三つの案を提示するのは適切ではないとの御指摘を頂きましたので,前回資料における乙-1案と乙-2案を本部会資料における乙-1案として整理しました。乙-1案については届出の有無についての公示方法として,例えば戸籍にその旨を記載することなどが考えられますけれども,身分関係を公証する手段である戸籍にこのような記載をすることが可能かといった理論上の問題点もありますし,現時点でその手段を明記することは困難と考えましたので,本部会資料では今後の検討課題である旨を注記するにとどめております。また,前回会議では乙-1案について撤回を認めるか否かについても,パブリックコメントで意見を聴くべきであるという御指摘を頂きましたので,届出の撤回を認めるかどうかは今後の検討課題である旨を(注)に記載しております。
  乙-2案については前回会議におきまして,例えば夫婦が長期間別居していた場合など,配偶者が夫婦の財産形成に貢献したとは言えないような場合に,当然に法定相続分を引き上げることの相当性について疑問が呈され,適用除外を定める必要があるのではないかという御指摘も頂きました。他方,配偶者の生活保障という観点を重視しますと,一定の期間の経過をもって配偶者の法定相続分を引き上げるということにも一定の合理性があるという指摘も頂きました。また,乙-2案は乙-1案とは異なり,一定の期間の経過だけで当然に法定相続分が引き上げられるという基準の明確性がメリットであると考えられますので,これに適用除外を設けるとしますと,そのメリットが相当程度減少することになり,乙-1案よりもむしろ基準が不明確になるという不都合性があると考えられます。また,適用除外を認めることとした場合には,その要件をどのように設定するかという点も問題になります。
  ①の規律の適用を除外する場合を適切に判断しようとしますと,別居中の婚姻関係が実質的に破綻していたか否かといった実質的な要件を付加しなければならないことになるとも考えられますが,このような実質的要件を設ければ,その有無をめぐって配偶者と他の相続人と間で主張立証が繰り返され,遺産分割の手続が長期化,複雑困難化するおそれがありますし,適用除外の有無につきまして裁判が確定しない限り,法定相続分が定まらないということになりまして,相続債権者の利益を害することにもなるのではないかと考えられます。このため,本部会資料では適用除外事由を具体的に示すことはせず,問題点のみを注記することといたしました。
  続きまして,2番,10ページになりますけれども,「可分債権の遺産分割における取扱い」について説明させていただきます。部会資料11では,部会資料9において提案した甲案と乙案との折衷的な案を提案させていただきましたけれども,これに対しては甲案と乙案双方の問題点を引き継いでしまうというおそれがあるなどの御意見がありましたので,本部会資料では従前の甲案と乙案を基本にした案を再度,提案させていただいております。
  まず,甲案につきましては第9回会議での御指摘を踏まえまして,相続人が遺産分割により法定相続分を超える割合の可分債権を取得した場合に,対抗要件を具備する場合を整理いたしました。また,甲案を採用した場合には多額の特別受益がある相続人が遺産分割前に可分債権の弁済を受け,その弁済受領額が当該相続人の具体的相続分を上回ることがあり得ます。甲案は,このような場合には遺産分割において当該相続人に金銭支払債務を負担させることとしております。ただし,それ以外にも審判前の保全処分を活用することも考えられます。もっとも,現行法の審判前の保全処分では本案事件の係属が要件とされておりますので,この場合には遺産分割前の処分さえ禁止すれば,遺産分割の協議がまとまる可能性も高く,本案の申立てをする必要はない場合もあり得るのではないかと考えられましたので,本部会資料では可分債権の権利行使を禁止する仮処分につきましては,本案係属要件を不要とする考え方を提示させていただいております。
  続きまして,乙案についての説明ですが,乙案については従前から預金債権等の可分債権は,相続によって当然に分割承継されるという判例理論を前提としながら,例外的にその権利行使を制限する制度を設けるという前提で議論してきたところです。ただ,この判例理論につきましては,今後,最高裁大法廷において変更される可能性がございますので,その内容次第では当部会における見直しの内容も変わる可能性がございます。
  そこで,最高裁の判断を注視する必要があるものと考えております。例えば可分債権であっても相続の場合には当然に分割承継されるわけではなく,遺産分割が終了するまでの間は準共有の状態になるという考え方が最高裁で示された場合には,乙案に示されている①及び②はその点の確認規定にすぎず,仮払い制度がそれに対する例外を設けるものという位置付けに変わることになり,遺産分割が終了するまでの間の法律関係,例えば可分債権を有する者が死亡した場合の受継の方法や,相続債権者による差押えの対象も変わることになるのではないかと考えられます。これに対し,例えば預金契約上の地位が不可分であることを理由に,預金債権の当然分割を否定するという判断が示されたような場合には,遺産分割の対象に含める可分債権の範囲を検討するに当たり,その判断を十分に考慮する必要が生じることになるものと考えております。
  更に乙案についての仮払い制度についても御説明いたします。乙案を採用する場合には,例外的に可分債権の一部行使を認める制度を設けるべきであるとの指摘が従前からされておりますので,この点について検討しました。預金債権を個別に行使する場合に,必ず裁判所の判断を経なければいけないこととしますと迅速な払戻しが困難となり,相続人に大きな負担を強いることになり,相当ではないという指摘もされております。そこで,裁判所の判断を経ることなく,預金の払戻しを受けることができる場合の要件設定をする必要がございますが,この点,まず,㋐として払戻しを受ける目的に応じて払戻しを認める金額を定めることも考えられます。ここでいう目的及び金額については一義的に明確な基準を定立することは困難であると考えます。そうすると,金融機関としましても払戻し請求が正当なものであるか否かについて慎重に審査せざるを得ないこととなり,結局,相続人が迅速に必要な払戻しを受けることが困難になるおそれがあると考えております。
  そこで,㋑としまして払戻しを受ける目的を問わずに,一定の金額について当然に払戻しを認めることとすることが考えられます。その場合には一定の金額について,例えば相続開始時点における口座残高に払戻しを求める相続人の法定相続分を乗じた額以下であれば,当然に払戻しを認めることとするという制度も考えられるところであり,このような要件であれば先ほどの払戻しの目的に応じて払うという㋐と比較しまして,払戻しを認める要件が明確となり,相続人も迅速な払戻しを受けることができることになると考えられます。そこで,これらの点についても御意見を頂ければと存じます。
  もっとも,前記の規律によりましては,例えば相続人の一人が被相続人から扶養を受けていて,遺産分割が終了するまでの間,生計を維持することができない場合などに対処することは困難であると考えられます。この点に関して現行法上は,審判前の保全処分としまして,申立人が当該遺産を取得する蓋然性があり,申立人が当該遺産を緊急に取得する必要性がある場合には,遺産の仮分割を行うことが可能とされておりますが,この特則として預金債権の仮分割に本案係属要件を不要とするということも考えられます。
  また,現行法上,家庭裁判所が審判前の保全処分として財産の管理のため必要があるときには,財産管理者を選任することができるとされておりますので,財産管理者制度について特則を設け,家庭裁判所が財産に関する預金を管理する権限を有する者,ここでは預金管理者と言わせていただきますけれども,この預金管理者を選任した場合には,預金管理者が家庭裁判所の許可を得ることなく預金の払戻しを受け,又は預金管理者の名義の口座において管理し,相続債務の弁済や相続人の生計維持のための支出をすることができるという方法も考えられます。これらの点について御意見を賜れればと存じます。
  最後に3番,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」についても説明をさせていただきます。前回会議では本部会資料3⑴及び⑵記載の各審判の法的性質や不服申立ての方法をどのように考えるべきか,整理する必要があるとの御指摘を頂きました。
  この点,⑴の審判は一部分割の対象となる遺産については通常の遺産分割と同様に分割することとしながら,残余の遺産については当該遺産分割の対象から除外するが,分割禁止の効力までは生じさせないことを想定しておりまして,その意味では遺産該当性について争いがある財産につきましては,遺産分割の審判をするのに熟した状態になっていないとして,その部分を却下するという性質のものと見ることも可能であると考えられます。他方で,⑵の審判につきましては,争いがある可分債権についても法定相続分に従って各相続人に取得させることを認めることによりまして,全ての遺産についての分割を終えるということを想定しております。
  以上のとおり,⑴及び⑵のそれぞれの審判はいずれも遺産分割の申立てに対する全部審判であり,一部分割をすること又は争いのある可分債権を法定相続分で分割することの相当性に関する不服申立てについては,即時抗告によって行うことを想定しております。このような見解に対しては,遺産の一部を遺産分割の対象から除外し,又は争いのある可分債権を法定相続分で分割することについて,分割禁止の審判と同様,独立の審判であって,その判断のみを対象として不服申立てをすることができるとすることも考えられるところではございますけれども,これらの事項のみを早期に確定させる必要性がどれだけあるかについては疑問があるように思われますので,この点についても御意見を頂ければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  三つの項目がございますので,順次,御意見を頂ければと思います。最初に,「配偶者の相続分の見直し」についてでございますけれども,甲案については特に変更はないということでございました。乙案につきましては,前回は,三つの案が提案されておりましたけれども,そのうちの二つを乙-1という形でまとめて,その中に選択部分が残るという形でまとめている。乙-2はいろいろな御意見がございましたけれども,ここにお示ししたような形でまとめさせていただいているということかと思います。この点につきましていかがでございましょうか。
○増田委員 乙-1と乙-2をまとめて乙-1にされていますが,非常に分かりにくくなっております。この部会にずっと参加していた者にとっては,前回の乙-1と乙-2をまとめたんだなというのは分かりますが,これでは括弧の書き方が分かりにくくなっておりますので,要は意思表示による場合の中に,合意による場合と単独行為による場合との二つの考え方があるということが,分かるような書き方にしていただければと思います。「その夫婦〔一方の配偶者〕が配偶者〔他方の配偶者〕」という,それで読み切れるかどうかというのは非常に疑問がありますので,よろしくお願いします。
○堂薗幹事 その点については,こちらも気になっているところなんですが,乙-1案のどちらの考え方も本文に上げて,もう一つの考え方を(注)で挙げるということもあり得るのではないかなとは思っているんですが,その辺りについて御意見を頂ければとは思います。
○増田委員 それであれば,旧乙-2,つまり自分のものを自分で処分するというのが恐らく原則だと思いますので,単独行為の方を本文にして,合意の方を(注)にした方がいいと思いますが,仮に併存させる場合でも括弧のところをもう少し長くとって,「その夫婦が配偶者の法定相続分を引き上げる旨〔一方の配偶者が他方の配偶者の法定相続分を引き上げる旨〕を」とか,そういう書き方もあるかと思います。先ほどのように本文と(注)というと,また,この部会の中でもいろいろな議論があるかと思いますので,私個人は旧乙-2の方が原則であるべきであろうと思っておりますが,そこの辺りはこだわりません。
○大村部会長 増田委員から,今,二つの御提案を頂きましたけれども,最初の方はおっしゃるように,これを議論するとまたいろいろなお考えがあるような気もいたします。他方,括弧の幅を広くとって,何と何が対比されているかということをより明らかにするという点につきましては,多分,御異論はないのではないかと思いますので,そちらで処理していただく方が良いように思いますけれども,いかがでしょうか。
○沖野委員 それで結構だと思います。その際にタイトルの方ですが,今もちょうど御指摘があったように,合意により,又は一方的な意思表示によりというようなものがタイトルに入ると,一層,分かりやすくなるかなと思いますので,それも御検討いただければと思います。
○大村部会長 では,それも含めて御検討いただくということでお願いしたいと思います。
  その他,第2の1の「配偶者の相続分の見直し」につきまして御意見等はございますでしょうか。
○石井幹事 案の示し方についての意見になりますが,乙-2案については,前回までの議論を踏まえて(注)の適用除外について記載されたという御説明があったところです。しかし,先ほどの御説明の中でもありましたとおり,乙-2案の長所は,言ってみれば割り切りが非常に良いところにあるのだろうと思います。そのため,(注)の適用除外が案本体と一緒に記載されると,乙-2案の長所が分かりにくくなってしまうように思います。そうであれば,案の示し方としては,まず,乙-2案は割り切った案であるということを示した上で,適用除外については本文に記載せず,補足説明の中で説明することにとどめるということもあるのかなとも思いますので,御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 そこは,もちろん,そういう考え方もあるのだろうと思いますが,ここで(注)を設けたのは,乙-2案についてそのような問題点の指摘があるということは(注)の中で記載した方がいいのではないかという前回部会での御議論を踏まえたものです。この点の取扱いを変えた方がよいのではないかというご趣旨であれば,ほかの方の御意見も聴いて考えたいとは思いますけれども,ただ,乙-2案の最大のメリットとしては,今,御指摘があったように基準が明確であるというところかとは思いますが,逆にその点が問題点を含んでいるということだろうとも思いますので,その点を本文の中で明らかにするということには,それなりの意義はあるのではないかと考えているところでございます。ただ,そこはこの場での御議論に従いたいと思いますので,ほかの方の御意見をお伺いしたいと思います。
○大村部会長 今の点につきましては何か特別な御意見はございますでしょうか。
○沖野委員 提案自体についての意見ではないのですが,試案として聞いたときに意見が出やすいかという観点を考えると,割り切り型でやってしまうよりは(注)のところにある程度このような記述でもあった方が,例えば,乙-2がいいけれども,適用除外のこういうことを設けるべきだというような意見が出やすいのではないかという感じがします。それを考えると今のような形で更にブラッシュアップしていくというのが,聞き方としてはよろしいのかなと思っております。その場合に(注)にあるように,適用除外事由を設けるべきか否か,設けるとすれば,その内容について,という辺りまで書いた方がより意見は出やすいかもしれないと思います。
○大村部会長 そのほか,今の点について何か。
○南部委員 (注)の取扱いが分かりませんでしたが,今,議論になったので参加させていただきます。どの項目についてもなお検討するということで終わっています。ここについての意見を聴くのであれば,そのような書きぶりにされた方が良いかと思っております。(注)についても意見を聴くのかどうか,というのは皆さんの御意見なので,決めていただければいいと思いますけれども,今のままだと(注)が聴かれたと思われないのではないかという心配があります。私としては明らかに,これも聴くか,聴かないかも含めて決めていった方がいいのではないかということでございます。
○大村部会長 本文にと南部委員がおっしゃったのは,説明の方にということですか。
○南部委員 このまま見ていると(注)は例えばパブリックコメントで意見を聴かれているかどうかということが分かりにくいと思っております。例えば(注)で残してもいいとは思いますけれども,残すのであればもう少し問うような書きぶりで,(注)については例えば本文についてのこういう注意点については,こういう問題点も考えられるので,それについてどのように考えるかというような聴き方を是非していただいた方が分かりやすいのではないかという意味でございます。それを本文に取り込んでもらっても構わないし,書き方は工夫が必要かと思います。
○大村部会長 分かりました。部会での検討状況を論点整理という形でお示しして,それについてパブリックコメントを行うということなので,こういう書き方になっている。しかし,(注)についても意見を求められているということがなかなか分かりにくいという御指摘だったかと思います。「」という表現はこの文書の性質としてなかなか変えるのが難しいところがあるのかもしれませんが,この部分も質問の対象になっているというのを,可能ならばどこかに書いていただくというように工夫してほしいということですね。それはまた御検討いただくということにしたいと思います。
  先ほどの乙-2案に付いている(注)をどうするかということですけれども,石井幹事の御趣旨は,乙-2のメリットがよく分かるような形で示す必要があるということかと思いますので,(注)が付いていることによって,そのメリットはどういう影響を受けるのかということにつきまして,もし(注)を残すのであれば補足説明の中で,そのコントラストが際立つように説明をしていただくということで更に検討いただく。こういうことでよろしゅうございますか。
○石井幹事 そのようにしていただければと思います。
○大村部会長 それでは,そのようにさせていただきます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他の点はいかがでございましょうか。
○中田委員 甲案の方なのですが,甲案の(注4),7ページにございますけれども,婚姻後一定期間が経過すると,婚姻時の純資産額をゼロとみなすという点についてです。これによりますと,例えば先祖伝来の田畑がある場合も,その対象になるのだろうと思います。他方で,その次の(注5)ですけれども,婚姻後に相続によって財産を取得した場合については期間制限がないのだろうと思います。そうしますと,父親が所有していた田畑を相続した息子が婚姻をして20年が経過した場合と,父親の存命中に息子が婚姻して,その後に父親が死亡して相続した場合とで大きく結果が違ってくることになります。そうしますと,(注4)の規律の在り方について,もう少し詰めた検討の余地があるように思われます。こういった留保を補足説明で示すか,あるいは(注4)をむしろ補足説明の方に移すか,いずれにしても,もう少し検討を要するのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。(注)とするか補足説明とするかということも含めて,再度,御検討いただくということでお願いしたいと思います。
  そのほか,1の「配偶者の相続分の見直し」につきまして御意見等はいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,次へ進ませていただきますが,2の「可分債権の遺産分割における取扱い」についてでございます。これは事務当局の方から御説明がございましたけれども,前回,甲案と乙案を折衷するような案が出ましたけれども,委員の皆様から,従前の甲案,乙案の方が良かったという声が多数寄せられましたので,甲・乙併記という形で,再度,書いていただいたものでございます。これは元に戻しましたので,この内容につきまして御意見を頂きたいというお話が先ほどございました。乙案の仮払いをどうするかということについて,幾つかの選択肢があるわけですけれども,そうした点も含めまして御意見を賜れればと思います。
○浅田委員 まず,前回,当方から提案させていただいたことを踏まえまして,今回,甲案,乙案の両論併記としていただいた点について御礼を申し上げます。更に乙案につきましては仮払いを可能とする考え方について,複数,具体的な案の記載を頂いており,広くパブコメを付すに当たり,とても有意義なものになっていると認識しており,重ねて御礼を申し上げたいと思います。
  一方で,補足説明において追記していただきたいこと等について,大きく2点ばかり意見を申し上げたいと思います。
  まず,第1点目でございますけれども,甲案に関して,第9回会合でも述べさせていただいたとおり,甲案においてはいわゆる勝手払いのリスクが残ると思っております。これは同会合において配布させていただいた「可分債権の取扱い等に関する意見」を御想起いただきたいと思いますけれども,簡単に再度,申し上げますと,相続開始後,ある相続人が銀行に当該事実を通知する前に,むしろ,それを秘して払戻しを受ける事例において,その後,当該相続人の各人が勝手払い後の現在残高基準ではなく,甲案に基づいて相続開始時残高を基準に法的相続分の払戻しを求めることになれば,係る場合の弁済ルールの確立がない限りにおいては,銀行側とすれば二重払いを負うリスクが生じたり,そのために支払いを拒絶せざるを得なくなったり,また,早い者勝ちになったりするような弊害が想起されるということでございます。そのために,第5回,第9回において提案させていただいた経緯もございました。
  本点においては,パブコメにおいても甲案,乙案の選択,甲案選択時の制度設計や解釈形成において重要な考慮要素であると思います。したがいまして,私どもとしては可能であれば,これら当方案をパブコメ等に掲載していただくのが私どものベストなものでございますけれども,現時点の議論状況に鑑み,それが難しいのであれば,今,述べました考慮要素について補足説明等に記載していただき,広く国民の声の対象に付け加えていただければと考えております。是非とも御検討いただきたいと思います。
  次に,第2点でございますけれども,乙案に関してのことでございます。部会資料13ページ,14ページの3⑵ア,イにそれぞれ,これらについてどのように考えるかと記載しておられますので,パブコメ案の記載方法に加えて内容について若干,意見を申し上げたいと思います。前者アにつきましては,仮払い制度について具体的な2案をお示しいただいたことによって,今後の議論が進展することが期待できると思います。本点は相続人の保護,利便性や,また,他の相続人の資産保護とのバランスをどう図るかといった社会的な観点と,他面で,預金受入れ銀行の事務対応の可能性という両面を考慮する必要があると考えています。
  ここでは銀行の立場から,後者について述べさせていただきたいと思いますけれども,銀行としましては事務処理が明快で画一的に処理できる内容であれば有り難いと考えております。その観点からは,現時点で2案をいずれも排するというわけではございませんけれども,補足説明にもありますとおり,比較においては仮払い金額が明確な㋑案,一定金額の方がベターということになるのかもしれません。
  もっとも,いずれにしろ,この制度については例えば仮払いの基準単位に考えますと,政策的には1口座とするのか,支店ごとに考えるのか,金融機関ごとに考えるのかという選択肢も考えられます。また,法制度上はもとより,銀行実務対応の可能性や,特に仮払いが一部金額にとどまる場合は,仮払い実行後の管理コストなど,事務面,技術面の検討が必要となります。
  その際には仮払い払戻し後の処理は,具体的相続分において処理するものと考えますけれども,複数の相続人から多様な名目で複数にわたって,事後的に払戻し請求があり得るということも想定しなければならないと思います。要はいろいろ実務面の実態面も鑑みた検討が必要だと思います。これらの詳細な検討は,パブコメ案策定時点ではできないと思いますけれども,今後の検討事項と思いまして,その検討課題の所在の指摘と,その際に銀行の管理コストや管理可能性についても御考慮いただきたいと思いまして付言する次第であります。
  また,イの裁判所の仮分割の決定の要件緩和や預金管理者の提案については,更に詰める点が多々あろうかと思いますけれども,相続人の経営維持等を実質的,柔軟に対応する制度として,また,預金払戻し等の実務を行う銀行にとって十分考えられる制度だと思います。ただし,銀行としては円滑,迅速な払戻しのために払戻し手続において,手続実施者に権限があることが明確になる必要があると思います。例えば仮分割決定であれば,誰に,どの口座から,幾ら払戻しがあるのか,明確であること,また,預金管理者であれば,当該払戻しが同人の権限内であることが明確になるよう,できれば包括的な権限を授権する制度や運用になるように御顧慮いただければと思います。
  なお,制度設計における今後の検討事項になろうかと思いますけれども,預金管理者につきましては社会的見地からも,その制度の適正運用の観点から,担い手の信頼性担保の要否のための就任要件の有無とか,家庭裁判所に対する定期報告義務の設置や解任権限時における金融機関等の制度や,善意の金融機関の免責の制度も併せて検討いただければと思います。
  加えて,補足説明記載上での御検討のお願いなのですが,乙案については行方不明者が出た場合に処理できず,問題ではないかという懸念にしばしば接することがあります。この点については今後の検討事項なのかもしれませんけれども,少なくとも現行制度では不在者管理人の選任を得て,同人との間で分割協議を行っていると認識しておりますので,これと同様の対処により解決することが可能ではないかと思っております。また,可能であるかは別途確認する必要があろうと存じますが,審判を公示催告によって行うとか,その他の法制度の利用創設によって解決する方法もあるかもしれません。いずれにせよ,取りあえず,先ほど述べた懸念に対しては,かような不在者財産管理人の制度の活用等による解決策があるという点を補足説明で記載していただければ,より深まったパブコメの意見が期待できると思いますので,記載の御検討をお願いしたいと存じます。
  後で細かい質問をさせて頂こうかと存じますが,意見としては以上でございます。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。1点ですが,甲案を採った場合に従前から問題が生じると言われている勝手払いの点なんですが,この点は,例えば,預金者の生前に権限がない人に預金の払戻しがされた場合については,基本的に478条の準占有者に対する弁済で処理されているんだろうと思います。そうだとしますと,預金契約上,死亡した場合に金融機関に通知が行くまでの間は,相続人は勝手に引き出せないということにした上で,通知をせずに払い出した場合には,権限なく払い出したということになろうかと思いますので,その点については生前に勝手に引き出された場合と同様,準占有者に対する弁済で処理をするということが考えられるのではないかと。
  そして,それが弁済としては免責されるということになりますと,通知後の残高しか,結局,債務としては残っていないという状況になりますので,法定相続分に従って弁済に応じれば,基本的には有効な弁済になるということになるのではないかというようにも考えられるところでございまして,その辺りについては,そちらでも御検討いただいた上で,最終的にどういう形で解決するのが妥当なのかという辺りについて,この場でも御議論いただければと考えているところでございます。その余の点については検討させていただければと思います。
○浅田委員 繰り返しになりますけれども,そのようないわゆる準占有者に対する弁済のルールが解釈上も明確にならない限りにおいては,実務上,相続預金の払戻しの場面では判断に困る場合がありますので,解決が図られるのであれば,その問題の所在及びその解釈による解決を補足説明で書いていただくということが,パブコメに対する意見の参考に資するのではないかと思った次第でございます。
○大村部会長 浅田委員,その他の御質問も,あわせてどうぞ。
○浅田委員 細かい話ですが,預金管理者なんですけれども,財産管理者,家事事件手続法に基づくものを想定されているのだと思いますので,遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合に,必要に応じて選任されるものだと思います。すなわちこれは,概念上は遺言がない場合の制度と思われ,預金に関する遺言があり,遺言執行者がいるという場合には利用されない制度ではないかと思いました。ですから,預金管理者と遺言執行者というものは,併存することはないと概念整理されているのですかという質問です。
○堂薗幹事 ここで考える預金管理者の方は遺産分割をする前提として,仮払い等に対応する権限を持つ人を別途設けるということでございまして,基本的には遺言執行者とは違って,それこそ,中立的な立場で権限を行使することを想定していますので,適用場面も違いますし,その法的性質は大分異なるのではないかと考えているところでございます。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○南部委員 今の預金管理者についてですが,イメージができないので,遺言執行者とは別ということですが,例えばどういった人を預金管理者としてイメージしているのかということが一つと,預金管理者を選任するということは誰かが亡くなった後に選任するのか,それともその前に決めておくのか,それには報酬などが発生するのかとか,そういったところをお聞かせいただけたらと思います。
○堂薗幹事 この辺りについては,こちらの検討もまだ不十分で,十分な御説明ができる段階にはないんですけれども,預金管理者は遺産分割が終了するまでの間,預金を管理して必要な人に仮払いができるようにするという前提でございますので,そういった意味では,預金管理者を選任するような場合には,そういった法律にある程度詳しい方になっていただく必要があるのではないかという感じはしております。したがいまして,そういった意味で第三者が預金管理者に選任されるということになるといたしますと,報酬もお支払いするということにはならざるを得ないと思いますので,そういったコストがかかるところをどう見るかという問題はあろうかと思います。
○大村部会長 よろしいですか。
○南部委員 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○山本(和)委員 この段階で伺う必要はないかもしれませんけれども,可分債権の行使を禁止する仮処分の性質ですけれども,本案係属要件を不要とするということが書かれているんですが,本案係属要件のない審判前の保全処分というように理解すればいいのか,あるいは何か全く異なる性質の仮処分がイメージされているのかということをお伺いできればと思ったんですが。
○堂薗幹事 ですから,この場合は必ずしも審判前に何か保全するというものではなくて,遺産分割協議を円滑に進めるためにも利用できるということだと思いますので,そういう意味では,審判前の保全処分ということでは必ずしもないのかなという感じもしておりますが,いずれにしても本案あるいは調停の申立てをすることなく,こういった申立てをして権利行使を禁止するというものを想定しております。
○山本(和)委員 ただ,本案が全く想定されないということは多分,あり得ないと思うので,保全処分である以上は,ですから,どういう形で取り消すかとか,何が本案になって,それについて例えば起訴命令的なものがあり得るのかとか,かなり手続的には恐らく詰めないといけない問題はあるのだろうなとは思いますが,そういう本案係属要件がないような家事事件上の保全処分を認めること自体は私は賛成ですので,今後,詰めていただければとは思いますが。
○堂薗幹事 もちろん,話合いがまとまらなければ最終的には遺産分割の審判になりますので,全く本案が想定できないということではないんですけれども,ただ,遺産分割協議がまとまれば,そこで終わるということにはなりますので,本案係属要件を不要とすることも考えられるのではないかという問題意識を持っているということでございます。御指摘のような問題点については,今後,検討してまいりたいと思います。
○大村部会長 山本委員,よろしいでしょうか。
  そのほか,この可分債権の取扱いにつきまして。
○石井幹事 今の仮処分の点についてですけれども,甲案,乙案のいずれの制度設計を採るかというところは御議論いただくとして,例えば,甲案で検討されているような仮処分について,これを簡易に認めるとなると,甲案自体が乙案に接近することになりますし,逆に仮処分の審理の中で本案と同じような判断まで要するということになりますと,本案係属要件を外したところで,さほど要件が緩和されることにはならないように思います。このように,仮処分の要件立てや審理のイメージによっては制度設計全体に大きな影響を及ぼすことになると思いますので,そういったことも補足説明で記載していただくなり,今後の検討課題ということで御認識いただければなと思っているところであります。
  もう1点,乙案の関係で預金管理人について御指摘があったところですけれども,この制度については私も預金管理人の権限や義務が必ずしも明確にはなっていないと思っております。現状では,預金管理人になる方がどういう行動指針に基づいて行動するのか分かりませんので,このままの状態でパブコメに付すということは,適当ではないのではないかなとも思っているところでございます。
○堂薗幹事 まず,甲案の仮処分の方ですが,要件によっては乙案を採ったのとほぼ同じ形になるのではないかということでございますけれども,少なくとも相続人が相続分を保全するために必要があるときという要件がございますので,甲案では,各相続人の具体的相続分を超えて権利行使がされるようなおそれがある場合に権利行使を禁止できるという前提でございます。ただ,要件については更に検討したいと思います。
  それから,預金管理者の方は,まだ,こちらも十分な検討ができていないところがございますので,少なくとも次回の部会資料では,もう少し具体的にこちらの考え方をお示しした上で,最終的に(注)で残すことが相当かどうか御議論いただければと考えております。
○大村部会長 預金管理人についてはいろいろ御質問もありましたけれども,今のような対応でよろしゅうございますでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 一般的なことなんですけれども,二つあります。
  一つは最高裁判決との関係ですが,12ページの御説明の書きぶりだけなんですけれども,最高裁判決があれば当然にここでの内容は変わるというのは行きすぎではないかという気がします。立法しようとしているわけですので。最高裁判決を,十分,考慮すべきことは当然なんですけれども,表現に御注意いただければと思いました。
  それから,もう一つは先ほどの浅田委員の御発言についてですが,銀行の観点からの検討は,非常に貴重で重要なものだと思いました。ただ,ここでは例えば不法行為債権なども含めた可分債権一般について,より広い観点から検討しておりますので,何か預金だけに絞って検討するというのは,少し狭くなってしまうのではないかと思います。バランスの良い書きぶりにしていただければと思います。
○大村部会長 御指摘の2点は御考慮いただくということでお願いしたいと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 実は可分債権のところにつきまして,本日,御欠席されておりますが,潮見委員の方からこの場で御議論いただいた方がいいのではないかということで,御意見を頂いていることがございます。具体的には,甲案あるいは乙案を採った場合に,差押えがどうなるのかという辺りでございます。元々の御疑問は,乙案を採った場合には相続人は権利行使が原則としてできないことになるわけですが,そうであるにもかかわらず,差押えができるというのは理論的に整合しないのではないかという点でございます。
  その点につきましては,従前は現行の判例を前提にしていて,本来的には可分債権については当然に分割されると,ただ,遺産分割を円滑に行うという政策目的のために,遺産分割がまとまるまでの間は権利行使を制限したということで,政策的に相続人による権利行使だけを禁止するという考え方をとっていたところでございますが,その点については最高裁の判決で従前の判例の考え方が変更になった場合には,これまで御説明していた内容とは異なる形になるのではないかとも考えているところでございまして,補足説明の中でも若干書いておりますが,例えば可分債権であっても相続の場合には準共有の状態になるとかいうことになりますと,飽くまでも差押えができるのは持分に相当する部分ということになろうかと思いますし,仮に不可分債権のような形で,要するに預金契約上の地位が不可分なので,不可分債権と同様に取り扱うということになりますと,今度は逆に全額について相続人の債権者が差し押さえることができることになるのかとか,そういう議論になってくる可能性がございまして,その辺りについて部会の中でもう少し御議論を頂いた方がいいのではないかという御提案でございます。その辺りにつきまして,何か御意見がございましたらお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  潮見委員が欠席ということで今のような御意見を承っております。差押えとの関係について,もう少し議論をしておいた方がよろしくないかということでございましたけれども,何か御意見があれば伺いたいと存じます。
○増田委員 分かりにくいんですけれども,債権の行使をすることと債権自体を処分することとは全く別の話だと思うんです。だから,差押えの対象が分割された債権から債権の持分に変わる可能性はあるかもしれないけれども,差押え自体が制限されることはないだろうと思います。譲渡禁止債権でも差押えすることは可能ですから。自分が行使できないということと,その債権の帰属者が自分になるというのは全く別の話だと思うので,問題意識がいまいち分からないところがあります。債権者は当然,差押えができると考えていますけれども。
○大村部会長 処分禁止がされていても,差押え等はできるという考え方で特に問題はないという,そういう御意見ですね。
○浅田委員 学理的な解決を思っているわけではないのですけれども,問題提起だけでありますが,従前から申し上げているとおり,この問題は,差押えに加えて相殺可否についても,関係し得ると思っております。銀行界としては,被相続人の債務と相続預金とを相殺できるようにしていただきたいということは当然ございます。その考え方としては,相続分の範囲で相殺すること,ないしは不可分債権との構成で全額相殺ということも,あり得るのではないかという認識を持っておりまして,こちらも検討を頂きたいと思います。
○大村部会長 そのほか,今の点につきまして何かございましたら承りたいと存じます。処分は禁止されているけれども,差押えはできるという状態はあるのだろうと思いますけれども,そうなっているということで本当によいのかということを問いたい,そういう御趣旨なのかもしれませんけれども。
○山本(和)委員 今,聞いた瞬間なので自分で全く分からないんですが,増田先生が言われた遺産分割の当事者はその相続人であるということでいいということなんですか。差し押さえられた債権も遺産分割の対象にはなるという前提ですね。
○増田委員 遺産分割手続の当事者は相続人ですよね。差し押さえした債権者とは関係がないわけです。差し押さえされてしまえば遺産分割ですから,差押えの処分禁止行為によって処分することはできなくなるのではないですか。
○山本(和)委員 処分することができなくなるということの意味は,その相続人に帰属させるしかなくなるという。
○増田委員 私はそう思いますけれども。正確には,帰属をどのように決めても対抗できない,ということですが。
○大村部会長 山本委員がおっしゃっているのは,そういう問題も含めて問題提起がされているのではないかという受け止め方ですか。
○山本(和)委員 私も御趣旨は必ずしも分かりませんけれども,確かに問題が全くないわけではなさそうな感じもしますけれども。
○増田委員 遺産の不動産の持分を差し押さえた場合に,遺産分割でそれに反する処分をしたって差押債権者には対抗できないわけです。それと全く同じ話だろうと思っているんですけれども,いかがでしょうか。
○窪田委員 私も正確に問題状況が理解できているかどうか分かりませんが,増田委員のおっしゃるのはそのとおりなのだろうとは思いますが,恐らく今回,預金債権について法定相続分に当たる部分であったとしても,行使できないというのは,遺産共有の不動産の場合であれば持分も処分できないというのに近いイメージなのではないかと思います。要するに遺産分割をきちんと実現させるためには,それまでの処分を許さない,それまでに遺産分割の対象となる遺産が流出することを許さないという理念があるのだとすると,それと実質的に抵触してしまうということだろうと思います。山本委員から御指摘があったように,結局,そこの部分の処分を許してしまうと,その者に属させるしかないし,実質的に遺産分割の対象とすることができないということになるということだろうと思います。
  ただ,恐らくその問題は遺産共有における不動産も含めての問題一般に関わる問題なのだろうと思いますが。その点では仮にそういう理解ができるのだとすると,問題の指摘はよく分かるのですが,この中でこの問題に限って扱うことができる問題なのかという点については,よく分からないなという気がいたします。その意味では債権をどう扱うかという問題だけではなくて,遺産共有の問題一般なのではないかなという気がいたします。
○水野(有)委員 従前に再々,お聞きしていたことと今の御質問と関連すると思ったので,前提を確認したいのですが,今の増田委員の御発言とか,窪田委員の御発言は,従前の遺産共有のときにされていた議論は前提とした上で,それを可分債権についてどの程度,修正するかですから,従前の議論を前提とすると,もちろん,処分は逆に言えば不動産と同じようにできて,ただ,中でどう分けるかとかいう話だったので,問題となるのは行使だけの問題ではないかという御指摘かなと思ったのですが,そこで私は前提として,実は従前からお聞きしたかったのがうまく聞けていなかったんですけれども,これは従前の遺産全体に対する遺産共有の考え方は変えないことを前提としてという議論でよろしいのですよね。
○堂薗幹事 可分債権のところですか。
○水野(有)委員 はい。ですから,乙案についても言ってみれば,乙案,甲案というのは当然分割になるのか,遺産の準共有になるのかという,そのいずれかだということで,遺産の準共有以上に強くするということは,御想定されていないのかどうかが前からよく分からないなと個人的に思っていたのですけれども,ここら辺は。
○堂薗幹事 従前は可分債権は当然に分割されるという判例の考え方を前提にしつつ,ただ,先ほど申し上げたように一定の政策目的から権利行使を禁止すると,そういう前提です。ですから,そういった意味では,遺産分割の対象財産に共有状態でないものも含まれることにはなるんですけれども,こういった見直しをすると,被相続人の死亡によって暫定的に生じた権利関係を清算するのが,確定的な権利関係にするのが遺産分割だという整理で考えておりました。もっとも,その前提自体が今後変更になりますと,それに従って甲案とか乙案の背景となるものも変ってくるので,その場合には判例との整合性などについても検討していく必要が出てきているのではないかということでございます。
  それと,基本的には準共有より強くてというのはどういうことでしょうか。
○水野(有)委員 もうちょっと言えば,差押えの場合の債権の特定をどうするかとかなんですけれども,法定の割合で特定するのですか,債務者はとか,そういう基本的なところなのですけれども,ですから,形としては従前と同じ形を採るけれども,ただ,行使がある程度,制限されるとか,そういう発想でよろしいかどうかという,そういうことでよろしいんですか。
○堂薗幹事 基本的にはそういうことで考えてきたということです。
○水野(有)委員 そうだとすると,増田委員や窪田委員がおっしゃったように,差押えとかはできるということに当然なるのかなと,今,ちらっと思ったのですが,そういう理解でよろしいかどうかなんですが。
○堂薗幹事 こちらはそういう認識でございます。潮見先生のそういった御疑問に対して,こちらとしては差押えと遺産分割の関係は対抗問題として処理するということを考えていると。特に今回の見直しでは,債権についても法的相続分を超えるものについては,対抗要件がなければ第三者に対抗できないという規律を設ける前提ですので,そういう御説明をしたところ,それであれば考え方は分かったというような御回答を頂いたところです。
○水野(有)委員 ありがとうございました。とてもよく分かりました。
○中田委員 潮見委員の御提案の内容がまだ十分よく理解できていないのですけれども,今の水野委員の御発言との関係からいうと,遺産共有の状態について共有説とか合有説とか,そこは関係がなくて,今の議論は,その上で金銭債権について株式と同じように準共有とするのか,それとも分割債権が遺産分割の対象になっているにすぎないのかというところが変わってきて,それについて差押えをする場合には対象が変わってき得るだろうということが(注)で書かれているのだと思います。潮見委員の問題意識を反映するとすれば,12ページの(注)とある部分について,それを反映するような形で若干,補充するということもあり得るのかなと,その程度かと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の中田委員の御指摘は,遺産の状態について全体に影響を及ぼすというようなことが意図されているわけではないということは確認しておいた方がいいという御趣旨でしたね。
  そのほか,いかがでしょうか。
  それでは,今の点,もしどこかで対応があり得るということでしたら,お考えいただくということで,先に進みたいと思います。「可分債権の遺産分割における取扱い」はよろしいでしょうか。それでは,3番目になりますが,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」という部分についてですが,御意見を頂ければと思います。
○増田委員 前回も申し上げたところではあるんですが,この案は遺産分割の手続を迅速化しようという考え方に出たものだろうと思いますし,その方向性については私もそうすべきだろうと思います。ただ,終局決定において初めて除外されるということでは,分割の審理の中で,なお,当該対象物が遺産であるかどうかという主張立証が行われる可能性があります。つまり,必ず終局決定で判断するということになりますと,迅速性が必ずしも確保されるかどうか分からないと思います。したがって,基本的には中間審判等,審理中の何らかの裁判で除外すると,あるいは合意ができた場合に除外できるかどうかがこの案では明確ではないんですが,合意ないし中間審判で除外するという方向を作っていただかないと,つまり,特定の対象物については,ここの手続ではやりませんと,別のステージでやるということが手続的に明確にならないと駄目だと思うんです。そういう方法も,この中で(注)とかいう形で提案していただきたいと思うんです。
  最初は当該物は除外してやろうということで進んでおっても,途中で別の裁判官に代われば心証が変わるということもありますし,裁判所としてはほぼ除外の方向で考えていても遺産性を主張する側が訴訟を起こさないで,相変わらず,審判の中で一緒にやってくれという内容の主張立証を繰り返している可能性もあります。そうなると,せっかく新しい手続を作っても収拾がつかないわけで,繰り返しになりますが,特定の財産については当該遺産分割手続を離れて,取りあえず,別の手続でやりましょうということが明確になるような手続がないと,実質化は望めないのではないかと思っておりますので,御検討いただきたいと思います。
○堂薗幹事 従前から御指摘を頂いていたところだと思いますので,最終的に(注)で載せることを含めて検討したいと思いますが,その場合は中間的に行った裁判について,それを対象として不服申立て等もできるという前提でお考えでしょうか。
○増田委員 私は独立にはできないと考えてもいいのかなとは思っています。それに対する不服申立ては,終局審判に対する不服申立てで一緒に行うという形でもいいのかなと思っていますが,取りあえず,当該手続からは除外されますから,それで当事者の選択に従って別のステージに進むということが可能になると思うんです。
○堂薗幹事 分かりました。今の増田先生の御意見について何か更に御意見などがございましたら,御指摘いただければとは思いますが。
○石井幹事 増田委員の御意見の中で,迅速に手続を進めるような手法を設けておくべきだというところについては,意見を同じくするところです。他方で,今の御発言の中には,中間審判による除外について不服があれば,終局審判に対する不服申立てを認めるという御提案もあったんですけれども,そうした制度設計をするとなると,抗告審において,分割対象から除外する旨の判断が覆った場合には,遺産分割の対象財産は何かといったところから審理を全面的にやり直す必要が出てくる可能性もあり,迅速な審判という要請からはずれてくるような気もいたします。
  特定の遺産を分割対象から除外しても,除外された遺産については,いつでも遺産分割の申立てをすることができることも考えますと,特定の遺産を分割対象から除外するという判断を不服申立ての対象自体から外すというような考え方もあり得るのではないかなとは思うので,御検討いただければなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○山本(和)委員 今の石井幹事のあれは,対象にしないという裁判の性質は何なんですかね。不服申立てを認めないというのは,やや理解が難しいところで。
○石井幹事 裁判所の判断である以上,一種の審判になるのかなとは思います。他方で,理論的に詰めて考えたわけではないのですが,先ほども申し上げたとおり,分割対象から除外された遺産については別途の遺産分割手続で審判を受ける機会が常に保障されていることからしますと,除外前の手続の中で審判を受ける機会が常に保障されなければならないわけでもないように思えたため,除外されたこと自体については不服申立ての対象にはしないという考え方もあり得ないではないかなと考えた次第でございます。
○山本(和)委員 私も理論的に詰めているわけではないですが,係属はそのまま残るということなんですか。裁判を受ける権利というか,審判をしてもらうという申立権が認められている以上,審判をしないという裁判に対して,それがされたら何の手も出せないというのは,やや理解が難しいような感じはするという印象です。
○増田委員 私も不服申立ては何らかの形で必要かと思うんです。本当に実務的に考えた場合には,独立の不服申立てというのがあるのが一番いいのかなとは思っているんですが,理論的に考えると,この除外の裁判は手続上の裁判ではなくて申し立てられた審判物の一部を除外するという裁判になってしまうので,それで独立の不服申立てを認めることが理論上,可能なのかなというのが引っ掛かっております。もし諸先生方で独立の不服申立てでもできるではないかという御意見をいただけるのであれば,独立の不服申立てをするというのが一番いいのかなと思っております。
○大村部会長 何か今の点につきまして御意見をいただけるでしょうか。幾つかの御指摘がありましたので,また,各委員の御意見を踏まえて更に検討いただくということで,この場は引き取らせていただきたいと思いますが,増田委員,よろしいでしょうか。
○窪田委員 今の大きな話ではなくて小さな話で,今,このような質問をすること自体が大変にお恥ずかしいのですが,14ページの3⑴の②の㋐の部分について,私はまだ十分に理解できていない部分があります。㋑の方は②の柱書きでいうと一部審判をしたときは,残余の遺産分割に関しては特別受益に関する規定を適用しないと,一部分割の審判の中で特別受益に該当するものを考慮することができなかった場合という㋑については大変によく分かるんですが,㋐の「一部分割において,相続人の中に民法第903条第1項の相続分(具体的相続分)に相当する額を取得することができなかった者がいる場合」というのは,十分,理解できません。というのは,具体的相続分を取得することができない者がいるのは,ある意味で一部分割だったら当たり前なのではないかという気もするので,㋐の趣旨についての説明をお願いできますでしょうか。
○堂薗幹事 一部分割の対象財産を前提に具体的相続分を算定する際に相続人の中に超過特別受益になっている人がいて,それに伴って相続人の一部が具体的相続分に相当する額をとれないという場合を想定しておりますが。
○窪田委員 一部分割の財産を前提とした上で超過特別受益をということですね。分かりました。
○増田委員 先ほどのとは別の話なんですけれども,⑴③で,②本文の規律は,協議のときにも適用されると書かれているんですが,ただし書の部分は協議のときには適用されないという理解でいいのか,そうだとすると,審判の場合に比べて厳しくなっているのはなぜなのかというのをまず,お伺いしたい。それと,これも多分,協議のうちに入るのかと思いますが,調停の場合は協議のうちに入るのか,審判の規律になるのかというのを伺いたいとともに,どこかに明示していただければと思います。
○堂薗幹事 こちらの前提としては,調停の場合は③の方の規律を適用すべきではないかと考えております。要するに調停あるいは協議でやる場合は,特別受益の取扱いについて必ずしも明確になっていない場合も多いかと思いますので,②のような形で書くことは難しいわけですが,ただ,一般的にはそういう形で一部分割の協議が成立したということは,②の㋐とか㋑のような事情がない場合が多いのだろうと。逆に言うと,そこについて㋐とか㋑のような状態が生じていることを前提に,協議とか調停がされた場合は,当然,相続人間でそういった意思が表示されているだろうと思いますので,そういった場合には②の規律を適用しないという趣旨でございます。
○増田委員 完全に相続人の私的自治の中に委ねるというのは,それはそれで理解できるのですが,協議に弁護士が入れば状況により別段の意思表示を入れておくのは当然としても,一般の方だけで分割している場合に,残りの遺産がどれだけあるのかとか,当該遺産に関する寄与とか,特別受益とかいうことを必ずしも意識せずに,一部だけ,取りあえず,これだけを分割しておこうねという形でされる場合もあるのかなと思いますので,必ずただし書の適用がないということまで言う必要があるのかどうか,疑問に思った次第です。
○堂薗幹事 その点は御指摘を踏まえて検討したいとは思いますが,相続人間の協議あるいは調停で行う場合の規律として,特別受益に関する規律が残部の分割の際に適用すべき場合を具体的に書くのは難しい面がございますので,現段階ではこういう形になっているわけでございます。
○増田委員 必ずしも僅かなものを残すというばかりではないんですよ,一般の方がする場合は。取りあえず,必要に迫られて一部の分だけ分割するというケースというのはあり得るんです。例えばゴルフ会員権のように権利については分割しないと行使できないということで,それだけ取りあえず,分割して,残りのものは別途やるということだけを決めておくということがあり,その場合に必ずしもこのただし書を意識した反対の意思表示が表示されるかどうかは疑問に思いますので,その点も踏まえてよろしくお願いします。
○窪田委員 増田委員のような大きな話ではなくて,細かいところをもう一回だけ確認させていただきたいと思います。先ほどの御説明で㋐の意味は分かったんですが,だとすると,㋑のところで一部分割の審判の中で,特別受益に該当する特定の遺贈又は贈与の価額の全部又は一部を考慮することができなかった場合と書けば,実は同じなのではないかなという気がします。つまり,一部分割だから超過特別受益の話が出てきてしまう。しかし,それを後ろの方まで入れていったら処理ができるということは,要するに特別受益の一部を考慮することができなかったという問題にしかすぎないのだとすると,㋑は全部が考慮できない場合,一部が考慮できないという場合と書けば,かえって趣旨が分かるのかという気がします。他方,何も説明なしに見て分かる人はそんなにいないのかなという気もするものですから,それについては御検討いただいたらと思います。
○堂薗幹事 確かにその点はおっしゃるとおりかなという感じもしますので検討します。
  また,③のただし書の別段の意思なんですが,これは当然,黙示的な意思でも構わないので,一応,こちらの理解としてはほんの一部の財産について分割しただけであるということであれば,当事者の合理的意思としては,ただし書に当たるという認定はできるのではないかということでございまして,ただ,そこは最終的には裁判所の判断ということにはなってしまいますので,もう少し明確にすべきではないかという御指摘かとは思いますので,その点は検討したいと思います。
○水野(有)委員 すごく技術的なことを聞かせていただくので恐縮なのですが,3の⑴の②の㋐,㋑の要件は,実体的要件ということでよろしいのでしょうか。実体的要件だということになりますと,一部分割の審判をしたときの最初の審判で何がどこまで考慮されているかというところを後の審判をする人が,一から実体的に判断すればいいということでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 一部分割の審判についても特に拘束力はないことになると思いますので,もちろん,それを前提にはするんだと思いますが,後の審判を行う裁判官がそれに法的に拘束されるというわけではないという理解です。
○水野(有)委員 というのは,ただ,制度の作り方としては一部分割と残部分割というものを手続的に連動したものとして,その前提とされた判断は前提としなければいけないという形もあり得なくもないと思うのですが,ここで書かれているのはそうではなくて,普通の実体的要件という形にされたものを御想定されているという御趣旨でしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○水野(有)委員 どうもありがとうございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  それでは,この一部分割の問題につきましては,御指摘があった点を更に検討していただくということにしたいと思います。水野委員,何かありますか。
○水野(紀)委員 どうも基本的なところがよく飲み込めていなくてお恥ずかしいのですが,ご教示ください。特別受益性が争われているときに,前提となる遺産の一部分割をすると,遺産の中の具体的相続分そのものが全く分からないことになりますね。考えておられるのは,ある財産の遺産性が争われて,その財産が長男の所有物なのか,それとも,遺産に含まれるのかが争いになって,ともかく地裁に行ってその財産について,遺産確認の訴えで決着をつけようとなったときに,残りの部分だけでも一部分割したいという場面でしょうか。そういう場面のニーズは実際に多いだろうと思います。この問題はそもそも家裁の審判に既判力がないのがいけないせいだと思うのですけれども,そんなことをここで言ってもしようがありません。その場合に一部分割をするとなると,一部分割であってもその基準は具体的相続分になると思いますが,みなし相続財産の範囲が決まらないと,具体的相続分は決まってこないのではないでしょうか。争われている財産は,遺産に含めないで,仮のみなし相続財産を算定して一部分割をするのか,あるいは遺産に含めて一部分割をするのか,いずれにせよ,遺産性の決着が付いたら,残りの分割をするときに,その計算をし直さなくてはならないと思われます。それにもかかわらず,残りの分割をするときには具体的相続分を決めるに当たっての903条,904条の適用がないという,この書きぶりが,構造的によく分からないのですが。一部分割をどういう基準でなさるのだろうというところから,そもそも分からないものですから,御教示頂けると幸いです。
○堂薗幹事 基本的には,今,水野先生がおっしゃったように,争いがある部分があって,それが債権としてあるのかどうか分からないというもの以外は,一部分割のところで特別受益が幾らなのかという点も全て判断した上で具体的相続分を定め,それに従って一部分割を行うという前提ですので,②の㋑で特別受益を残部分割で考慮すべき場合というのは,争いがあった債権に関するものに限られるという理解ではあるんですが,ただ,そこがこういう書き方できちんと書けているのかという点は問題だと思いますので,そこはまた検討したいとは思います。
○大村部会長 では,その点を更に検討していただくということでよろしいでしょうか。
  それでは,次の第3の「遺言制度に関する見直し」につきまして,事務当局の御説明を頂きたいと思います。
○大塚関係官 「第3 遺言制度に関する見直し」,ページでいいますと16ページ以下ということになります。
  順にまいりますが,「1 自筆証書遺言の方式緩和」についてでございます。⑴の自書を要求する範囲の緩和につきましては,方策の本体そのものは前回とほぼ同じということになります。加わりましたのは(注3)でございまして,この方策を講ずる場合に,これに加えて遺言書に押印する際には,全て同一の印を押捺しなければならないものとすることも考えられる旨を付記したということでございます。
  次に,⑵の「加除訂正の方式について」でございますが,こちらにつきましては前回会議におきまして,押印は遺言者以外の者によっても押捺することができてしまうので,署名を外して押印のみで足りるということには慎重であるべきとの御指摘を頂いたところでもありますので,署名及び押印を署名のみで足りるものとするという内容とした,つまり,押印だけで良いというものは削ったということでございます。
  なお,前回会議におきまして,若干,戻りますが,第3の表題,今回は「遺言制度に関する見直し」としておりますけれども,これにつきまして見直しの方向性が分かるように,表現ぶりを検討する必要があるのではないかという御指摘を頂いて,当方で検討してみたところなのですけれども,資料全体を御覧いただいてお分かりのとおり,第3の中には1の遺言書に関するものから,後に出てきます遺言執行の実務に関するものまで,かなり幅広い内容の方策が含まれているということがございましたので,なかなか,これを包括して一定の方向で共通する表現というものは難しいところもあったものですから,今回は「遺言制度に関する見直し」という微修正にとどめさせていただいております。
  次に,2の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」でございます。17ページの下段になりますけれども,こちらについては一部文言を修正いたしましたけれども,実質的な変更はございません。
  更に,続きまして18ページの一番下から19ページにかけての「3 自筆証書遺言の保管制度の創設」でございます。こちらにつきましては,具体的な方策を幾つか追加してございますので,内容について御説明を申し上げます。
  まず,⑴の「保管の対象等について」でございますが,これは方策の①に遺言書の原本を保管すること,これを明記した上で,災害等による滅失のおそれというものは,保管の際にはつきものでございますので,原本に加えて原本の画像データを別途保管するということを(注2)として記載させていただいたというところでございます。
  続いて,⑵の「遺言書の保管の有無の確認について」でございますが,該当部分は方策の③でございまして,確認することができるものを従前,相続人としておりましたけれども,これだけではなくて,受遺者と遺言執行者にも広げたということでございます。
  更に⑶の「遺言書の原本の閲覧等について」でございますけれども,これにつきましては,前回会議におきまして,遺言書原本の閲覧だけではなくて,謄写をも認めるべきであるという御指摘を複数頂いたことも踏まえまして,方策の④におきましては原本の閲覧だけでなくて,遺言書の正本の交付を受けることができるということを加えてございます。また,相続開始後に遺言書原本を相続人等に交付するか否かという点についてでございますけれども,仮に交付を認めるとしますと,複数の相続人がいる場合には誰に原本を交付するのかという判断が相当難しいところがございましたことなどから,今回の方策の(注4)におきましては,原本を相続人などには交付せず,当該公的機関で引き続き一定期間,保管するということを想定している旨,新たに記載をしたというところでございます。
  続きまして,⑷の「検認手続の省略等について」でございます。本部会資料では方策の⑤でございますが,こちらで公的機関に保管された遺言書については,検認手続は不要とする旨を新たに記載しております。これは遺言書の原本を相続人等に交付しないという先ほどのお話を前提としますと,現行法のように相続人等が家庭裁判所に原本を提出して検認手続を請求するというのは,事実上,難しいということとなるためでございます。ただ,現行の検認手続におきましては,家庭裁判所が相続人,受遺者その他の利害関係人の検認の事実などを通知すると,これによって利害関係人が遺言書の存在を知る機会というものが事実上,与えられているという状況にあるようでございます。
  そうしますと,本方策を講じました場合にも,これと同様の機会を確保するという必要はあるのではないかと,ついては,新たに⑥で,公的機関が相続人等から遺言書の閲覧等の請求を受けた場合には,他の相続人及び受遺者等に対して遺言書の保管事実を通知すると,こういう規律を新たに設けたところでございます。ただ,前回の会議におきましては,そもそも,検認手続を省略するか否かというところについて意見が分かれたという経緯もございますので,新たにこの旨,記載はしてございますけれども,是非,御意見を拝聴したいと考えているところでございます。
  ここまでが遺言保管制度についてでございました。
  続きまして,21ページ以下ということになりますけれども,「4 遺言執行者の権限の明確化等」についての御説明に移らせていただきます。
  まず,⑴の「遺言執行者の一般的な権限及び義務等」につきましては,前回会議の御指摘を踏まえまして表現ぶりを一部変更したほか,①につきましては遺言執行者の一般的な権限の例示を変更し,⑵については民法第1013条との関係に絞りまして,整理を加えさせていただいたということでございます。
  なお,これとは別に前回会議におきましては,遺言執行者の義務に関して,信託法における受託者と同様の忠実義務を定めるということが考えられるのではないかという御指摘を頂いたところではございますが,今回,結論としてはその明文化には至ってはございません。当方としても検討させていただいたところではございますけれども,理由としては,遺言執行者が本来的には遺言者の代理人であって,通常は遺言の中で遺言執行者がすべき行為の内容が具体的に定められていて,その権限の行使について遺言執行者に裁量の余地がない場合が多いことなどを考慮したというところにございます。この点につきまして,なお御意見をお伺いできればと思います。
  次に,預貯金債権について遺産分割方法の指定がされた場合の規律についてでございますが,前回の部会資料におきましては,遺言執行者にその行使権限を認めるとしつつ,括弧書きがございました。これは相続人が遺言執行者となる場合を除外するという考え方を提示しておったところでございますが,これは今回削除してございます。前回の会議で現実には相続人が遺言施行者となる例が多いと,銀行実務でも払戻しに,そういった場合でも応じているという御指摘があったことなどを踏まえたものでございます。
  更に前回会議におきましては,遺言執行者に原則的に権利行使の権限を認めるべき債権の範囲,先ほど預貯金債権のお話をしましたが,預貯金債権に限られず,投資信託などの金融商品に基づく債権についても同様の取扱いをするべきではないかといった御指摘を頂きました。ただ,金融商品に基づく債権を逐一列挙していくというのは法制上も難しい面があるように思われます。
  そこで,例えばということで新たに御提示を申し上げているのが,24ページの中段,「また」の段落の少し下に下がっていただいて,「例えば」でかぎ括弧で始まっているところなのですけれども,読みますと,「遺産に属する債権について遺産分割方法の指定がされた場合において,その債権が継続的に取引を行うことを内容とする契約に基づいて生じたものであって,遺言者がその契約を解約することができ,又は遺言者の死亡がその契約の解約事由となっているときは,遺言執行者は,その解約に関する手続をする権限を有する」と,こういうような規定を設けて,解約に関する手続の一環として払戻しを受けることができることとすることも,考えられるのではないかということを御提示いたしたものでございます。この点につきましても御議論いただければと存じます。
  なお,遺言執行者の復任権,選任・解任等につきましては,変更点は特にございません。
○大村部会長 ありがとうございました。
  4項目に分かれておりますけれども,第1項目の「自筆証書遺言の方式緩和」,それから,第2項目の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」につきましては,(注)に若干の修正がございますが,おおむね,前回の資料どおりということでございますので,ここまで1と2を一まとめにして御意見を伺います。それが済んだところで休憩ということにさせていただきたいと思いますが,1,2につきまして御意見を頂けますでしょうか。よろしいでしょうか。
○大村部会長 1,2には,特に御異論はないということでよろしゅうございますか。
  それでは,1,2については特に御意見はないということで,3以降につきまして休憩の後に御意見を賜りたいと思います。現在,この部屋の時計で3時35分を少し回ったところですので,3時45分に再開させていただきたいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開をさせていただきたいと存じます。
  先ほど18ページの3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」という前まで御意見を伺いました。3と,それから,4の「遺言執行者の権限の明確化等」というところが第3の中では残っております。まず,最初に3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」というところについて御意見を伺いたいと思います。
○南部委員 19ページにあります公的機関でございますが,これは一般の方々が見ると,市町村が一番身近な公的機関というイメージがどうしてもあるかと思います。その点も含めて,今後の議論になるかと思いますが,パブリックコメントを行うときにこれだけの表記だと色々想像を膨らまされて,結果として想像と異なっていたということになってもよろしくないかと思いますので,ここはもう少し丁寧な議論が必要かと思います。
  併せまして遺言制度について以前,他の委員から発言がございましたが,本当にどの方向に向かわすのかという根本的な議論があってこそ,保管の期間がどこまで要るかとかいう議論が発展するのかと思います。遺言制度をもっともっと日本の国として進めていくという方向でやるのか,それとも,今回の全体の見直しの中でより活用しやすいものにとどめておくのか,その辺りがまだ参加していて分からないところですので,教えていただけたらと思っています。また,保管制度を創設するということになりますと,費用面とか,そういった細かなことが出てくるかと思いますが,それについて,今,お考えがもしございましたら,教えていただけたらと思います。
○堂薗幹事 正に全体の方向性については,この場で御議論いただければとは考えているところですけれども,こちらといたしましては遺言制度に関する見直しのうち,①の自筆証書遺言の方式緩和ですとか,③の保管制度は正に遺言の利用を促進するという方向性を志向するものであると思いますが,この場でも御議論がありましたように,自筆証書遺言の利用を促進するというだけでいいのかという御議論はあろうかと思います。
  それから,費用の点については大塚の方からご説明いたします。
○大塚関係官 二つの面があろうかと思いまして,設置あるいは保管に係る公的機関側の費用が一つと,もう一つは利用者側から見たときの,保管をお願いするときにどのくらいの費用が掛かるのかというところの二面があろうかと思います。一つ目については確かに御指摘のとおり,全国規模で整備をするということになりますと,保管施設等の設備投資というものは相当な額が発生するであろうとは思います。
  他方で,利用者面からしますと,公正証書遺言という別のインフラがある中で自筆証書遺言の保管ということになりますと,その利用料が公正証書遺言より高いということですと,それが果たして適切なのかというのは相当な疑問がありますので,そういう意味からすると,より気軽に,むしろ,身近に使える制度という意味では,公正証書遺言と比べて安価なものが方向性としては志向されるのではないかというぐらいのイメージはありますけれども,公的機関のコスト面としていう点は,パブリックコメントにおける御意見も踏まえながら,具体的なイメージを今後,持っていきたいと,このように考えております。
○大村部会長 一番最初に御質問があった市町村というのが一般的な認識になるのではないかという点と,そのことの書き方がこれで適切かという点については,いかがですか。
○堂薗幹事 その点は微妙な問題もありますので,この場で次回の部会資料ではこのように書きますということは申し上げられないんですが,御指摘の趣旨は非常によく分かりますので,その辺の誤解が生じないような書きぶりになるように工夫したいと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょう。3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」についてでございます。
○西幹事 単純な質問が1点と,教えていただきたいことが1点ございます。一つは,もう少し早い段階で伺えば良かったのですが,タイトルに「自筆証書遺言」と付いていますが,秘密証書遺言は適用対象でしょうか。
  もう一つは,今回の(注2)などを拝見していますと,かなり手厚い保管ではないかという気がいたします。オンラインで結ばれていない点などは公正証書遺言を公証役場で保管する場合と違うのかもしれませんけれども,先ほどの費用のところで公正証書よりも安価なというお答えがございました。公正証書は確か今,保管自体は無料でしょうか,もちろん,作成にはお金が掛かりますけれども。そうなりますと,この制度も無料ということになるのかもしれませんが,その場合,位置付けとしては,この制度は公共サービスの一環と考えてよろしいのでしょうか。今回のこの制度がどういう意味を持つのか気になりましたので教えていただければと思います。
○大塚関係官 一つ目の秘密証書遺言への適用ということについては,結論としては,否定せざるを得ないと思います。というのも,現状では秘密証書遺言は公証役場に行かなければいけないというのがあったり,あるいは封印をするということ,あるいは誰にも知られないということにメリットがあるということがあるかと思いますので,そこを踏まえると,最初には秘密証書遺言も含めることを考えてみたこともあったのですが,なかなか,そこは難しいところもあるのかなというのが現状の理解です。もし,秘密証書遺言も含めた方がいいのではないかという御示唆があるようであれば,是非,お伺いできればと思っています。それが1点目です。
  もう1点は,公正証書遺言との違いを見た上での位置付けということでございますが,基本的には御指摘のとおり,新たな公共サービスという位置付けになるのではないかとは思います。ただ,公正証書遺言の中で保管の機能のみを取り出して,それを無料というのが適切なのかどうかというのはいろいろ考える余地がありまして,公証人が関与して専門的な知見を述べ,公証人の判断と責任において公正証書遺言を作り,その結果として保管というものがあるわけでございますので,それはそれなりの費用が掛かると。それと比べたところで自筆証書遺言の保管制度を見たときに,どういう費用が妥当なのかという,ある意味では別の観点からの検討が必要になるのかなと,今の時点ではそのように考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○西幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほかはいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  具体的な制度を仕組むということなりますと,更に検討すべきことが多々残されていると思いますけれども,論点整理の段階でということで,この程度で先に進ませていただきたいと存じます。
  次は4の「遺言執行者の権限の明確化等」,21ページ以下です。
○水野(紀)委員 今の御発言にもありましたように方針として遺言の利用をしやすく勧めていくということになりますと,相当,いろいろと考えなくてはならないと思います。特に23ページの「遺言執行者の復任権・選任・解任等」のところですが,遺言執行者に関しましては,ドイツ法の影響をかなり受けて起草されています。そして,日本人は遺言を余り残さない民族だったから何とかなってきたところがあるのですけれども,遺産裁判所が基本的に幅広く相続や遺産分割に関与するという前提のドイツ法の影響を受けて,こういう書きぶりになっておりますが,遺言執行者が復任,選任,解任等のときに家庭裁判所に行かないといけない,たとえば辞めることもできないというのは,少し手続きとして重すぎるような気がしてなりません。
  遺言執行者と指名される方は,素人の親族であることも多いと思うのですけれども,あなたが執行者だからと言われて,そうかと思って承知したものの,いよいよ執行が始まってみますととても大変で,こんなことを僕はとてもできないと思ったときに,しかし執行者を辞めるためには家庭裁判所に行かなくてはならないことになります。これは,相当,御本人に負担が大きいのではないかと思うのです。そして,家庭裁判所の方でも大変ではないでしょうか。家庭裁判所は今,成年後見などでパンク状態ですから,こういうことで全部来られても困るだろうと思います。だから,遺言の利用を増やすという方針でしたら,遺言執行者の復任,選任,解任等についての手続が全部,家庭裁判所を経由するは少し重すぎるように思いますので,お考えいただけないかと思うのですが。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思いますが,まず,復任のところは自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるということですので,家庭裁判所に行く必要はないということかと思います。これに対しまして辞任をする場合には,家庭裁判所の許可が必要ということでございますので,この点の手続が重いのではないかという御指摘かと思いますが,仮にこの点について家庭裁判所の許可を不要ということにいたしますと,それに代わる要件としてどういったものが考えられるのか,この点につきまして何かお考えがございましたら,教えていただければと思いますが。
○水野(紀)委員 にわかには思いつかないのですけれども,相続人の同意を得るとか,今度できる予定の保管機関に登録するとか,いろいろな可能性があり得るように思います。
  裁判官の数が母法国より圧倒的に少ない日本では,裁判所の関与を定める民法の手続きが重すぎるという問題は,いろいろあって,たとえば相続財産管理人のところでも,最近,マスコミが取り上げて報道しておりました。あまり価値のない遺産があるだけというよくある場面で,相続人がいないとか,さらに相続人がいても面倒なので放置しているという状況のときに,それを処分するためについに市町村が動かざるを得ないことがあります。本来の手続だと,相続財産管理人を家庭裁判所に頼んで選んでもらって,処分をしなければならないわけですが,そんな費用はとてもかけていられないので,市町村限りで後見的にやってしまったことを,ある種のスキャンダルとして,マスコミが取り上げていました。それはスキャンダルとして取り上げる方が酷だと思いながら,そのニュースを読んでおりました。民法が家庭裁判所を必ず経なければならないとしていることが,現在の日本の実際実用にとっては重すぎるということが幾つかあり,これもその一つのように思いますので,この際,もし手を入れられるのならばお考えいただければと思います。
  民法の手続きが重すぎて,相続財産管理人選任の手続きを,事実上,省略しているようなことは,ほかにもあるのだろうと思います。今回はそれを変える機会ですので,お考えいただければ有り難く存じます。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
○大村部会長 そのほか,この第4項目につきましていかがでございましょうか。
○増田委員 ⑵のイの乙案のところが「善意の第三者に対抗することができないものとする」となっていますが,先般の民法改正の流れからいくと,善意者保護は善意無過失者保護という流れになっていますので,善意無過失の方が民法改正と平仄を合わせる意味ではいいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 検討したいと思いますが,もし,この点について御意見がございましたら,この場で御指摘いただければとは思いますけれども。
○窪田委員 一般的な表見法理で善意無過失保護という説明をする場合もあるとは思いますが,民法94条を含めて善意者,善意要件だけれども,保護というパターンは残っているのだろうと思います。このパターンに関していうと,遺言執行者はあるけれども,相続人がやった行為でその相手方になった者,つまり,善意無過失というのを要求すると相手方が相続人ということを分かっているだけではなくて,相続人であるけれども,更にほかに遺言執行者がいるのではないかということの調査義務を課すことになるのだろうと思います。それはちょっと重いのではないかなという気がしますし,一般的な表見法理から当然にはそうなるわけではないようにも思います。
○大村部会長 今の点につきまして何かほかに。
○増田委員 (注)として「無過失を要件とするかどうかはなお検討する」でいかがですか。
○大村部会長 では,(注)にするか補足説明にするかを含めて,御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  ほかはいかがでしょうか。
○浅田委員 4の論点については大きく分けまして,一つ目,遺言執行者の義務に関する御提案の内容確認と,二つ目に部会資料の24ページで,どのように考えるかという問題提起についての意見があります。二つ目遺言執行者の払戻し権限に関する対象財産の範囲については,更に大きく二つに分けて申し上げたいと思います。
  第1の点の遺言執行者の義務に関してですが,前回,私が質問した点の続きの関連で恐縮でございますけれども,パブコメ案の内容の確認のためにも三つの質問がございます。まず,今回の部会資料で修正点があるようでございまして,4の⑴の①であるとか,⑶の②ですけれども,遺言執行者の権利及び義務ということが権限という文言に変わっておりますけれども,この変更の理由は何なのか。とりわけ,権限という内容に遺言執行者の義務というものが含まれるのか,含まれるとするならば,その内容の変容というのがあるのかどうかということをまずはお尋ねしたいと思います。
  その上で,⑶イの②,22ページですけれども,読み上げますと,「遺言執行者は,受益相続人に対してその特定物を引き渡す権限を有しないものとする。ただし,その特定物の引渡しが対抗要件となる場合は,この限りでないものとする」との規律が設けられています。二つ目の質問ですが,この点については前回会合で私から,この限りでないものとする,というのは遺言執行者に引渡しの義務を課すものかという質問をさせていただき,事務当局から,課すものであるとの御回答を得たものと認識しております。追加質問で恐縮ですけれども,ここでいう引渡しの義務とは現実の引渡しを意図しておられるのか,これが二つ目でございます。
  なお,付言させていただきますと,仮にそのような意図があるのであれば,実務上,相続の場面で物の所在が不明な事態はしばしばあることでございますので,それに鑑みますと,かような現物の引渡しを行う義務というのは遺言執行者にとって過大なものになりかねないと存じます。そうすると,ひいては利用促進への阻害要因になりかねないと思いまして,実務上,重要な点ですので申し上げました。
  三つ目の御質問でありますけれども,引渡しの義務について現実の引渡しまでは求めない趣旨,すなわち,対抗要件としての引渡しのみを義務化するものだとされる場合には,そもそもの話でありますけれども,相続開始とともに占有権が移転すると解されることに鑑みますと,当該条項が適用される場面は余り観念されないものとも思えます。具体的にどのような場面をお考えか,教えていただければと思います。
  まず,前半について,以上の3点について御回答いただければと思います。
○堂薗幹事 まず,今回の部会資料で修正をさせていただいた趣旨ですが,従前,この点について権限と書いているものと権利及び義務と書いているところが混在しておりまして,平仄がとれていないというところがございましたので,権限でという形で統一をさせていただいたということでございます。基本的に権限という場合には,権限の行使について一定の義務を伴うということではないかと,具体的には善管注意義務等を負うわけですので,そういった意味で,ここでは基本的に同じ意味として使っているということでございまして,実質的に何か変更したということではございません。
  それから,2番目の動産の対抗要件のところでございますが,22ページのイの②のところですけれども,原則として引渡しの権限はないと,ただ,その特定物の引渡しが対抗要件となる場合は,この限りでないということですので,②の本文の規律は適用されませんと。その場合にどういった規律が適用されるのかという点については,前回,申し上げましたが,①のところが適用になるという前提でございまして,動産について対抗要件を具備させるために必要な行為をすれば足り,必ず現実の引渡しをしなければいけないということではございません。
  具体的には例えば第三者が占有しているような場合ですと,もちろん,第三者から実際に返還を受けて相続人に渡してもいいわけですが,指図による占有移転による方法で対抗要件さえ具備できれば,それで遺言執行者としては義務を果たしたということになりますので,民法の対抗要件具備の方法として書いてある四つの方法があるかと思いますが,そのいずれかをすればいいということでございます。ただ,現実に誰が占有しているか分からないという場合も当然あろうかと思いますが,それは善管注意義務の範囲内できちんと調査して,ただ,それでも分からないという場合はやろうと思ってもできないわけですので,そういったときにはやむを得ないということになるのではないかということでございます。
○浅田委員 占有が相続によって当然承継される場合には,あえてする必要はないということですか。
○堂薗幹事 死亡によって相続人に当然に移転したと見られるような場合は,それで終わっているということだと思いますので。
○浅田委員 どこにあるか分からないものについての善管注意義務につきどこまで高度な注意義務を求められるかというのは,多分,解釈問題だと思いますけれども,どこまで引渡し義務を履行すべきかは,実務上,善管注意義務の範囲の議論になるという点は,分かりました。
  引き続きまして,大きく分けて二つ目の意見でございますけれども,払戻しの権限の範囲でございます。資料でいきますと24ページの第1行目の2のところでございますけれども,まず,前回,当方から提案させていただきましたことを踏まえ,預貯金債権等から広い方向で検討を行っていただいておりまして,御礼を申し上げたいと思います。明確化のために補足説明に記載していただきたいことに関連して,2点,質問と意見がございます。
  一点目は補足説明における権限の定義案では,「遺言者がその契約を解約することができ」と記載されております。これについて,1点,確認したいと思っております。といいますのも,とりわけ,デリバティブ組込み預金など運用承認においては,中途解約を禁止する取引類型の商品が散見されるということでございます。本定義により,本定義といいますのは24ページの2段落目の「また」の「例えば」というところのかぎ括弧の中にあるものでありますけれども,この定義により,預金者が解約請求をし,相手方がこれを認めたときは解約される類型も,中途解約を禁止するようなデリバティブ預金も含まれるという意図でお考えなのかということについて,まずは確認したいと思います。
  すなわち,前回は預貯金というものに限定されていましたけれども,私どもから投信とか,そういうものに広げていただきたいという御提案をしまして,その結果として「例えば」という文言に修正,御提案を頂いたということでございますけれども,そうした場合に今度は中途解約禁止型のデリバティブ預金みたいなものが入るかどうかということが論点になり得るということです。まず,御提案の意図として,そういう中途解約禁止のものも入るかどうかということをお尋ねする次第です。ちなみに中途解約禁止条項があったとしても,通常であれば約款の中に,中途解約はできません,ただし,銀行がこれを必要と認める場合には,特定の清算条項が必要かもしれませんけれども,解約することができるものとするという定めがありまして,実際上は解約できる場合が多いけれども,一応,建前としては原則,中途解約禁止,例外として解約できるというものが実際に多いとの認識でございます。
○堂薗幹事 ここで念頭に置いているのは遺言者の方で一方的に解約することができる場合,この前段で書いてあるのはそういったものを想定しておりまして,それ以外で遺言者が一方的に解約できないような場合は,遺言者の死亡が解約事由となっている,この解約事由となっているというのは,遺言者が死亡すると当然に解約されるという場合だけではなくて,どちらかが解約することができるという場合を想定していますので,後半の部分は遺言者の相続人あるいは遺言執行者が一方的に解約できるというような状態になっているかどうか,あるいはその契約の相手方から一方的に解約できる場合も含むわけですが,いずれにしても合意で解約する場合は,ここでは想定していないということになりますので,そうだといたしますと,今,浅田委員が言われたようなものについては,ここには入ってこないのではないかということでございます。
  この点については検討が十分にできておりませんので,そもそも,これらの債権について,ここにも書いてありますが,権利行使を認める必要性が高い理由がどこにあるのかという辺りも含めて検討した上で,それに対応する要件を設ける必要があるのではないかと思っておりますので,その辺りの必要性につきましては,今後もいろいろ教えていただければと考えているところでございます。
○浅田委員 承知しました。その点について意見を含めて述べさせていただきたいと思います。実務的なニーズとしては,遺産の円滑な分配ということの必要性から,たとえ一定の期間の運用等を予定しているものだとしても,途中で全部現金化して分配するというのが遺言執行者に対する要請の一つだと思います。そうした要請を踏まえますと,形式上,中途解約が禁止されているのが原則である商品についても,銀行はそれを認めて解約するという約定になっている,又は実際上もそうなっているものについては,対象にしていただきたいというのがあります。
  その是非,それから,そうした場合の法制度上の条文文言の在り方というのは今後の検討だと思いますけれども,その点で1点,御提案というか,御参考にしていただきたいということで申し上げますけれども,現在の国会に提出済みの債権法関連の民法改正に附則33条というのがございます。これは定型約款の経過措置を定める条項ということでございますけれども,その中に,読み上げますと「契約又は法律の規定により解除権を行使することができる」という条文がございます。
  これは私どもとしては,解除権を行使できるというものが,解除を申し出て相手が解約に応じる場合を含むものを意図しているものと理解しております。したがって,こういう文言を使うということであれば,先般,申し上げた中途解約禁止条項付きの商品であったとしても,かように銀行が認める場合には解除できるというものでありまして,それは解除権が遺言者に設定されているということでございますので,本件の条文にも使えるのではないかと思っております。また,もしそういう文言というのがいろいろな理由で難しいということであれば,例えば直裁に遺言者が契約の解約,中途換金の請求その他の方法により現金化できる債権といった表現ぶりもあるのではないかということでございまして,併せて御検討していただければと思います。これが一つ目でございます。
  二点目の意見といいますか,お願いでございますけれども,遺言執行者の払戻し権限のパブコメ案に関するものでありますけれども,現状,補足説明において遺言執行者の行使できる権限の一つとして払戻しというのがありますけれども,払戻しに加えて解約に関する手続を例示いただいていると思います。これは有り難いことだと思いますけれども,解約する手続には解約の申込み,指示をする権限のみではなくて,解約金を受領する権限も含まれていると認識しております。そうでなければ,実際上,遺言執行者の業務が遂行できないと思っております。そうであれば,明確化の観点からパブコメに付す場合には補足説明において,解約金を受領する権限も解釈上,含まれるんだということを記載,検討いただければと思います。
○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かりましたけれども,他方で,逆にこういう形でかなり広く書いた場合に,本来,遺言執行者に権限行使を認めると問題がある事案も含まれてくる可能性がございますので,その辺りについては慎重に検討する必要があるのではないかと考えております。逆に言いますと,なぜ,こういうものについては遺言執行者に権利行使が認められるかということだと思うんですが,それについては遺言者の通常の意思として,こういうようなものについては,これを誰かに相続させるという遺言をした場合に,その契約を引き継がせるのではなくて,それを清算した上で,解約した上でそれに基づいて生じた財産を受遺者なり,相続人に渡す趣旨であろうと思われるものにしなければいけませんので,そういった意味で,その要件をどう設定するかというのは非常に難しいと考えております。中間試案に具体的にどこまで盛り込めるかという点も非常に問題だと思いますので,その辺りについて内部でももう少し詰めて検討した上で,更に具体的な御提案ができるかどうか,考えてみたいと思います。
○浅田委員 よろしくお願いしたいと思います。遺言者の意思ということを基準に御提案を申し上げたとおりでございますけれども,いろいろな問題点があるということで,この時点ではそれについては十分,議論する時間もないと思いますけれども,そうであるのであれば,例えばそういう一つの提案をした上で,また,議論が分かれているところについては議論の余地がある,ないしはその別案という形で御提案いただくということも御検討いただければと思います。
○沖野委員 今の部分ですが,もちろん,より良い表現があれば,それで聞いていただいたらいいと思いますし,対案がないので,このような形で聞いていただければ,こういうような表現があり得るということで意見も出やすいかと思います。ただ,少し気になっておりますのは,例として挙げられているのが投資信託等の金融商品に基づく債権となっている点です。投資信託というと,直ちには受益権が思い浮かぶわけで,受益権の共同相続などのところでも債権だけではなくて,それを含めた受益権なので当然分割とはならないというような性質決定がされているかと思います。
  そうしたときに遺産に属する債権について遺産分割方法の指定がされた場合というのが,これを働かせようと思ったら,受益権は誰々にということではなくて,当該受益権から発生する受益債権は誰々にと書くことになるのか,受益権は誰々にと書いておけば,この規定の解釈としては債権について指定がされたという趣旨なのか。ただ,そうしますと元々の受益権の性質決定などと少しずれてきたりするような気がしまして,非常に悩ましいという感じがしているところです。だから,どう書けということではないのですけれども,なかなか,妙案はないのかなという感じが一方でしているというところだけ申し上げたいと思います。
○堂薗幹事 御指摘をありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 忠実義務について御検討くださいましてどうもありがとうございました。意見を申し上げる前に,二,三,確認的な御質問をしたいんです。
  一つは現行規定との関係ですが,1012条,1014条,1016条は,それぞれ,どうなるのかということを教えてください。1012条については21ページの4の⑴の①の規律との関係がどうかということです。それから,1016条は多分,23ページの⑷との関係で改正される対象になるのではないかと思うんですけれども,ほかでは書いているのに書いていないのはなぜかということです。以上が第1点です。
  第2点は,先ほど大塚関係官から遺言執行者は遺言者の代理人であるというような御説明があり,また,資料にもそう書いてあるんですが,これはどこから導くことになるのかということです。
  それから,3点目はちょっとずれた話なんですが,22ページの⑶イ②,先ほど浅田委員との間でお話のありました特定物の引渡しについて,「特定物を引き渡す権限を有しない」という表現になっているんですけれども,そうすると,事実として引き渡した場合には,それはどういう法的効果を持つのでしょうか。
  以上,3点についてまずお教えください。
○堂薗幹事 まず,1012条につきましては,21ページ4⑴の①のような形にするということでございます。それから,1016条につきましても御指摘のとおり,23ページの⑷の①のような規律に見直すということでございます。ほかのところで,例えば⑵では「民法第1013条の見直し」という見出しを付けておりますが,ここはこの点に限った見直しなので,こういう形で書いておりますが,部会資料でも,例えば乙案については,見直しの内容から当然に1013条を見直すことが分かるのではないかということで1013条自体については言及しておりません。それと同じような趣旨で1012条,1016条を見直すという点は明示していないということでございます。もっとも,この点については,補足説明などで説明したいと考えております。
  それから,遺言者の代理人というのは飽くまでも誰のために行動すべき人なのかという意味で使っているものでございまして,もちろん,その時点では遺言者は既に亡くなっていますので,理論上,遺言者の代理人ということはあり得ないわけですが,ただ,実質的には飽くまでも相続人のために活動する者ではなくて,遺言者の意思を実現するために活動すべき者だという趣旨で,こういう形で表現をさせていただいているということでございます。
  それから,引き渡してしまった場合は,遺言執行者の事務としてやったのではなくて,他人の事務としてやったのかどうかというところが問題になるかと思いますが,少なくとも遺言で明確に書いてあれば別ですが,そうでない以上は仮に引渡しをしたとしても,遺言執行者の事務としてやったということにはならないのではないかと思います。
○中田委員 ありがとうございました。
  それでは,今の御回答を踏まえて,2点,申し上げたいと思います。
  第1点は1012条が21ページの4⑴の①のようになるということですと,現在の1012条にあります義務の規範が落ちてしまうのではないだろうかという気がします。もちろん,権限に義務が伴うということはよく分かるんですけれども,もしそうするのであれば,義務についても含めて1012条をこう変えるんだ,あるいは1012条のうち,これは残すんだということをはっきりさせていただいた方が明確になるのではないかと思いました。
  それから,忠実義務について遺言執行者の権限行使に裁量の余地が余りないということと,それから,事実上,遺言者の代理人であるというようなことでの御説明で理解はしたんですけれども,実際にどのくらいあるかどうか知らないんですが,清算型の包括遺贈や不特定物遺贈で執行のために財産の換価を要する場合があって,その場合に遺言執行者が相続財産を処分すべき場合があると,この指摘があるわけでございます。先ほどの浅田委員の御発言の中でも,遺言執行者が処分あるいは換価するというような例も挙げられていたと思います。
  そうしますと,相続財産の処分や管理について利益相反の問題が生じるということがあるわけで,特に1015条の削除に伴って遺言執行者が誰かの代理人であるということが余りはっきりしなくなる,先ほどの遺言者の代理人というのも比喩的な表現のように思いますので。そうしますと,例えば民法108条という現行法ですと自己取引,双方代理の規定で,改正法案ですともっと広くなるわけですけれども,それが当然に適用されるかどうかも余りはっきりしないような感じもいたします。そこで,仮に忠実義務を書かないのだとしても,例えば民法108条が及ぶというようなことを明らかにするか,あるいは先ほどの1012条も併せて遺言執行者の義務についてもう一度,整理するということもあり得るのかなと思いました。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。1012条のところは,中間試案としては権利・義務と書くよりは権限と書いた方が分かりやすいのではないかということで権限に統一したんですが,条文にする場合にどちらを使うかというのはまた別問題だと思います。
  それから,忠実義務のところですけれども,確かに誰の代理人というのは明確には書いていないことにはなるんですけれども,ただ,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属すると書くことによって,現行の1015条と同じことを規定しているという前提ではあります。
  それから,遺言執行者の場合にはいろいろな事務があるので,相続人の利益を図るような形で事務を行う必要がある場面もあれば,相続人の一人を廃除する場合もあるので,その辺を具体的に書くのは難しいようなところもあって,明確に忠実義務という形で規定を設けるということにはしなかったというところがございます。他方で,108条との関係などを明確にすることによって,その辺を明確にするということもあるのではないかというご指摘を頂きましたので,その辺りについては検討させていただければと思います。
○中田委員 是非,御検討いただければと思います。と申しますのは,復任権については総則の規定と別の規定を別途設けることになりますので,そうすると,108条が当然に適用されるかどうかというのはより不明確になると思いますので,御検討いただければと思います。私が一番考えていますのは,遺言執行者が自己取引などをして自分あるいは第三者の利益を図るという場面です。それはまずいということを明らかにした方がいいのではないかということです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに御意見がありましたら伺いますが,よろしいでしょうか。
  それでは,次の項目に移らせていただきます。次は第4の「遺留分制度に関する見直し」ということになりますが,最初に事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第4の「遺留分制度に関する見直し」について御説明させていただきます。
  まず,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」について御説明させていただきます。本文では,甲案,乙案,丙案と御紹介させていただいておりますが,本文につきましては甲案と丙案,これは従前の乙案になりますが,こちらは変更はございません。新たに付け加えたのが乙案ということになります。
  乙案について御説明する前に甲案について若干,補足して御説明させていただきます。詳細につきましては補足説明に記載したとおりですが,前回会議におきまして受遺者又は受贈者から代物弁済の主張がされた場合に,どのような訴訟形態となるのか,明確にする必要があるとの指摘がございました。この点,代物弁済の主張は金銭請求に対する抗弁と言う位置付けを想定しておりまして,代物弁済の具体的内容は裁判所の裁量により定めるということを想定しております。これによれば,抗弁につきましては非訟的な審理を行うこととなりますが,このような訴訟形態はほかに例を見ない特殊なものであるため,法制上の問題点も含めて,今後,更に慎重に検討する必要があるものと考えております。
  なお,委員から御提案がありましたように,受遺者又は受贈者が代物弁済の主張をしたい場合には,対象物確定訴訟を提起することができることとすることも考えられます。この場合,甲案のように金銭債務は実際に代物弁済がされるまでの間,又は裁判が確定するまでの間は消滅をしないという規律を採用いたしますと,金銭請求も対象物確定請求もいずれも認容され,その調整は執行段階で行うことになるものと考えられます。
  引き続きまして,乙案について御説明させていただきます。甲案は受遺者又は受贈者が訴訟において現物での返還を希望する旨の主張をし,裁判所がこれに応じてその内容を定めた場合においても,その後に金銭での弁済を許容する規律ということになりますが,これはある意味,受遺者又は受贈者の意思によって裁判所の判断内容を意味のないものにすることを認めることになりまして,訴訟経済等の観点から問題がないとは言えないように思われます。そこで,受遺者又は受贈者が現物の返還を希望し,裁判所がその内容を判断し,その内容が確定した場合には,それによって受遺者又は受贈者が返還すべき財産はそれで確定いたしまして,現物返還に代えて金銭による返還をすることは当然には認められないとすることも考えられます。これが今回の乙案の提案ということになります。
  なお,甲案,乙案を採用した場合の判決主文の在り方ですが,こちらは今後,更なる見当が必要になるかとは思われますが,部会資料の27ページの(注)で記載したような主文が考えられるのではないかと思われます。このように甲案を採用した場合には,金銭債務に遅延損害金が発生するため,かなり特殊な主文にならざるを得ないように思われます。
  以上が第4の1に関する主な説明となります。
  引き続きまして,第4の2の「遺留分の算定方法の見直し」について御説明させていただきます。
  まず,甲案につきまして御説明させていただきます。甲案の本文そのものは従前の部会資料からの変更はございませんが,幾つか(注)で考え方の補足をしております。まず,30ページの(注2)でございますが,こちらは遺留分侵害額の計算におきまして,最低限相続分侵害額の請求を受けたものにつきましては,民法第903条の規定によって算定した相続分の額から,最低限相続分において請求を受けた額を控除する必要がある旨の記載を追記しております。こちらは言葉で言われるとなかなか難しいかと思いますので,参考資料を御用意いたしました。本日,机上で席上に配布しているものでございますが,そちらを見ながら説明をお聞きいただければと思いますが,参考資料の事例Ⅰを御覧ください。
  こちらは(注2)のような調整規定を置かないと,被相続人が第三者に多額の遺贈又は贈与をし,更に相続人のうちの一人だけに少額の遺贈又は贈与をしたという事案では,遺贈又は贈与を受けた相続人が遺贈等を受けていない相続人より最終的な取得額が少ないという逆転現象が生じてしまうことを考慮したものです。参考資料の事例Ⅰでは,1,000万円の遺贈を受けていたYが,何も遺贈を受けていないZよりも最終的な取得額は少ないという逆転現象が生じてしまっております。
  もっとも,このような調整は最低限相続分の処理が確定した場合に可能となりますが,最低限相続分の手続と遺留分の手続は別個独立で行うことを想定しておりまして,必ずしも最低限相続分の手続が先に終わることが担保されたものはないこと,また,係る調整があり得るとすると,少なくとも最低限相続分の請求をするかどうかが確定するまでの間は,遺留分の手続を集結することができなくなる,そういったことも予想されます。
  甲案につきましては,これまでの部会におきまして計算が複雑であり,分かりにくいという指摘がされているところではございますが,このような調整規定を置く場合には更に計算が複雑となること等を考慮いたしますと,中間試案の段階で甲案を維持すべきかどうかにつきましても疑問が残るところでございます。本部会におきましては,委員等の皆様に甲案について維持すべきかどうか,特に御議論いただければと思います。なお,仮に甲案を維持する場合ですが,前回部会における委員からの御指摘を踏まえまして,本文の(注1)及び32ページの補足説明におきまして,更なる検討課題がある旨の記載は付記しております。
  引き続きまして,乙案について御説明させていただきます。乙案については前回会議におきまして,乙案の各提案が独立のものであり,それぞれ,現行法とどのように異なるのか,明示すべきであるとの指摘がされたことを踏まえ,それぞれの項目に見出しを付けたほか,幾つか修正を加えております。順に御説明いたします。
  まず,本文アの規律ですが,遺留分算定の基礎となる財産の範囲に関する規律でございまして,これに相続人に対する生前贈与をどこまで含めるべきかを問題とするものでございます。この点につきまして,現行法の下では判例によって規律が補充され,相続人に対する贈与は原則として全て遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入するものとして扱われておりますが,これを相続開始前の一定期間,例えば5年間などに限定するものでございます。なお,この期間をより短い期間,例えば1年間などに限定した上で相続人間の不公平を是正する観点から,遺産分割の手続等におきまして,いわゆる超過特別受益の一部を現実に返還させる制度を設けることも考えられる旨を(注)として記載しております。
  次に,本文イの規律について御説明いたします。これは遺留分減殺の対象に関する規律でありまして,この点,現行法の下では遺留分減殺の対象となる財産については特段の限定はされておりませんが,本提案は遺贈又は贈与された目的財産のうち,当該相続人の法定相続分を超える部分のみを減殺の対象とするものでございます。もっとも,このような考え方に立ちますと,遺贈等を受けていた相続人の方が遺贈等を受けていない相続人よりも最終的な取得額が少ないという逆転現象が生じることを考慮いたしまして,本文ただし書におきまして,その者の遺留分を侵害することはできないとの規律を設けることとしております。
  こちらも具体的にどのような事案の逆転現象が生じるのか,具体的な事案を見ていただいた方が分かりやすいかと思いますので,参考資料の事例Ⅱを御覧ください。こちらも調整規定を置かない場合,遺贈を受けているYの方が遺贈を受けていないZよりも,最終的な取得額は少なくなるという逆転現象が生じてしまっております。なお,厳密に申し上げれば,遺留分減殺を受けたYが更にAに対して遺留分減殺請求をすることにより,最終的な不足額は調整され得ることになりますが,こちらも求償の循環が生ずるということになりまして,相続をめぐる紛争の拡大,長期化につながるおそれがあるように思われます。
  引き続きまして,本文ウの規律について御説明いたします。こちらは「遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律」で,三つの考え方を御紹介しております。最初の考え方と残り二つの二つの考え方は,後に説明するように考え方の発想が異なるため,A案,B案という形で御紹介させていただいております。すなわち,現行法の下では遺産分割に関する手続と遺留分減殺請求に関する手続とは,それぞれ,別個独立に進行させることができ,一方の手続が終わるまで他方の手続を終わらせることができないという関係にはありませんが,両手続における取得額を調整する必要があることから,論理的には両手続の先後関係を決める必要がありまして,それに従って後の手続における取得額を算定する際に,前の手続における取得額を控除するということが必要となるものと思われます。
  現行法上,遺産分割に関する手続と遺留分減殺請求に関する手続の論理的な先後関係は必ずしも明確にされておりませんが,学説及び実務上は,遺産分割に関する手続が遺留分減殺請求に関する手続に先行することが当然の前提とされておりまして,したがいまして,遺留分減殺請求に関する手続におきまして遺留分侵害額の算定をする際に,遺産分割における取得額を控除する取扱いがされているようでありまして,B案,こちらは従前の実務慣行を前提とした考え方ということになります。
  これに対しましてA案は,総体的遺留分の意義につきまして遺留分権利者に残すべき財産の総額であるという理解を前提としまして,遺産分割の対象財産がある場合には,その限度では総体的遺留分は侵害されていないものと見まして,総体的遺留分の計算過程で遺産分割の対象財産の総額を控除するという考え方で,両手続における論理的な先後関係としましては,遺留分減殺請求に関する手続が遺産分割に関する手続に先行するという考え方に立つものでございます。したがいまして,A案,この考え方に立つ場合には,遺産分割の手続におきまして,遺留分減殺請求に関する手続の結果を反映させる必要があることになりまして,その結果,遺産分割の手続において特別受益の算定をする際に,遺留分権利者については減殺請求によって取得した財産をこれに計上し,減殺請求を受けたものについては,その特別受益額から減殺請求によって効力が否定された部分の価額を控除することが必要となります。
  具体的な調整規定につきましては,本文の(注1)で記載したとおりですが,こちらも具体的な事例を御覧いただいた方が分かりやすいかと思いますので,参考資料を御用意いたしました。参考資料の事例Ⅲを見ていただければと思います。こちらはA案を採用した場合に,調整規定を設けない場合と調整規定を設けた場合の比較をしたものでございますが,調整規定を設けない場合には,これまでの事例と同じように遺贈を受けているYが遺贈を受けていないZよりも最終的な取得額が少ないと,そういった逆転現象が生じてしまうこととなります。このようにA案を採用した場合には,(注1)のような調整規定を設ける必要がありますが,遺留分の計算につきましては比較的計算が容易になる一方で,遺産分割の手続において遺留分減殺請求の結果を反映させなければならず,かなり計算が煩雑になる,そういったデメリットがあるように思われます。
  B案について御説明いたしますが,こちらはこれまで講学上,法定相続分説,具体的相続分説などと呼ばれてきたものでございます。
  まず,B-1案,こちらは法定相続分説ですが,こちらは遺産分割の対象財産がある場合には個別的遺留分侵害額の計算におきまして,法定相続分に応じた遺産額を控除するという考え方でございます。遺産分割,遺留分の各手続における計算は比較的容易なものでございますが,論理上の先後関係として遺産分割に関する手続を先行させるにもかかわらず,遺留分減殺請求事件における計算では法定相続分を前提として遺産分割における取得額を計算し,特別受益の額を考慮に入れないということになるため,遺産分割における実際の取得額と計算の取得額との間に大きな差異が生じ得ることになりまして,結果的に遺贈等を受けていた相続人の方が遺贈等を受けていない相続人よりも最終的な取得額が少ない,そういった事例も生じることになります。
  次にB-2案でございますが,こちらは具体的相続分説ということですが,こちらは遺産分割の対象財産がある場合には,個別的遺留分侵害額の計算におきまして,寄与分による修正を考慮しない具体的相続分に応じた遺産額を控除する,そういった考え方でございます。なお,この考え方に立った場合,遺産分割が既に終了している場合に,現実の遺産分割における取得額を控除するのか,それとも,計算上,算定される具体的相続分を控除するのか,考え方が分かれ得るところでございますが,遺産分割が終了していない場合との差異を生じさせないためには,遺産分割が既に終了している場合であっても,計算上,算定される具体的相続分を控除する方が良いように思われますし,手続としてもすっきりするような気もいたします。
  こちらも事例を見ていただければと思いますが,参考資料の事例Ⅳを御覧ください。こちらはB-1案とB-2案の比較ということになりますが,法定相続分説を採用すると,最終的な取得額が遺贈をもらっているYの方がもらっていないZよりも少ない,そういった逆転現象が生じる事例ということになるかと思います。
  なお,35ページの3の「遺留分侵害額の算定における債務の取扱い」,こちらにつきましてはこれまでの部会資料と変更点はございません。
  第4の御説明は以上となります。
○大村部会長 ありがとうございました。
  3点ございますので,順次,御意見を頂いてまいりたいと存じます。最初は「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」でございまして,甲案,乙案,丙案と3案が併記されております。案そのものが変わったのは乙案で,あとは補足説明で,前回,挙げられた様々な御疑問に対する応答がされているということだと伺いました。これにつきまして御意見を頂ければと思います。
○垣内幹事 甲案について幾つかお伺いないし若干の意見を述べさせていただきたいと思うんですけれども,まず,第1点ですけれども,当日配布の方の資料で申しますと26ページのところで,代物弁済の主張があった場合に代償物確定訴訟の提起が考えられるということとの関係で,「金銭請求も代償物確定請求も認容され,その調整は執行段階(請求異議)で行うこととなる」という記述に関してなんですけれども,ここでおっしゃっていることの内容というのは,金銭請求の方は給付判決がされて債務名義ができるわけですけれども,代償物確定請求の方は形成ないし実質確認的なものであって,いずれにせよ,給付の訴えではないと思いますので,債務名義ができるということではないので,二重に債務名義があって,両方執行できてしまうという問題の調整を言われているのではないと理解いたしました。そうすると,ここで言われているのは,結局,代償物が確定されて,かつ,それが実際に返還というか,引渡しがされたにもかかわらず,金銭請求の債務名義に基づいて強制執行するということを止めるためには,請求異議の訴えを提起しなければいけないはずであるという問題を指摘されていると理解したんですけれども,そういう理解でよろしいかというのが1点目です。
 それから,2点目なんですけれども,先ほどの例はそういうことで債務名義は二つということではなかったんですが,受遺者の方が代物弁済というか,現物で返還すると言っていて,しかし,遺留分権利者の方は金銭請求の訴えを提起したと。そこで,現物は返しますという主張をしているというときに,遺留分権利者の方に例えば不動産であれば移転登記手続請求権のような実体法上の権利が成立するのかどうか。するとすれば,どの段階で成立するということなのかということで,例えば現物返還ということであれば,移転登記してくれれば,それでも自分は構わないといって,それを求める意思を表示したときに,そういう請求権を遺留分権利者の方で取得するというようなことだとしますと,今度は訴えを金銭請求から追加的に変更して移転登記手続請求も立てて,ということが考えられるかと思います。
  この場合には,甲案の前提からいきますと両請求とも一応,認容ということで,ただし,金銭請求の方については移転登記手続がされないときはというような主文を書くことが考えられるかと思います。ただ,この主文は執行手続上は余り意味がない主文で,専ら既判力との関係だけで,そういう解除権付きの請求権だということが確定されるということになるのかもしれませんので,そういう主文にしたところで,金銭執行を止めるのに請求異議の訴えが必要になるという自体は変わらないのかなと理解しておりまして,他方,移転登記手続請求の方については,従来,価額償還が認められる場合とほぼ似たような金銭が幾ら幾ら払われないときは,その移転登記手続をせよというようなことにすることが考えられるように思いまして,そうすると,そちらの方は執行手続的な処理が可能だということになるかと思いますが,いずれにしても,金銭請求の方の債務名義は請求異議が立たないと執行力を排除できないということになりそうで,そうなりますと,甲案というのは現物返還を申し出て,しかし,実際に現物が返されるまでは金銭支払もできるというオプションを何か受遺者等の側に与えているという点では,受遺者等にメリットのある制度のようにも見える面がありつつ,他方,実際訴訟でどうなるかということを考えますと,何か受遺者には請求異議の提訴の負担を課すというような面もあるように感じられます。その辺りが実体法上,こういう制度を仕組む強い理由があるのであれば,それはやむを得ないということがあるのかもしれませんけれども,特にそういう強い理由があるということでないのであれば,あえて,こういう制度設計をすることの合理性というのが問題になり得るところかなというような考えを持った次第です。
○堂薗幹事 それでは,御質問についてお答えしますが,まず,1点目に御指摘いただいた点は,部会資料でいいますと26ページですけれども,今,垣内先生からご指摘いただいたとおりの理解でございまして,いずれにしても,金銭請求で執行してきた場合には,こういった形で請求異議を提起しない限り,それは止められないことになるのではないかという趣旨でございます。だから,代償物確定の内容を反映させようとすれば,そういった手続が別途必要になってくるという趣旨でございます。
  それから,甲案を採った場合に,受遺者側から移転登記請求ができるかという点でございますは,これはできないことになるのではないかという点が一つ問題点としてはあるのではないかと考えております。遺留分権利者側としては,強制執行でできるのはあくまでも金銭請求の履行であって,向こうで現物返還をしてきた場合には現物を受け取ることになるわけですが,少なくとも,甲案を前提とする限り,遺留分権利者側から積極的に現物の返還を請求して,それについて債務名義を取得するということは,①から⑤の中には出てこないと。
  ただ,現行にも同じような問題があるわけですけれども,現行の遺留分においても遺留分権利者の方が金銭での請求を求めて,受遺者あるいは受贈者側もそれに応じるというような場合は,金銭請求をすることができるかと思いますので,それとパラレルに考えますと,双方とも現物での返還を希望しているというような場合には,甲案のような規律を採った場合にも,そういった請求が認められるという解釈がされる余地はあるのではないかとは思っておりますが,少なくとも①から⑤のような規律で,これを前提とした27ページの判決主文を前提とする限りは,現物についての債務名義とはならないということになるのではないかと思います。
  今回,乙案を出した理由ですけれども,甲案にはいろいろと問題があって,主文も非常に複雑になりますし,前回,御指摘いただいた遅延損害金の関係でも非常に権利関係が複雑になるというようなところがございまして,なおかつ,現物での返還を受遺者側が希望しておきながら,それで裁判までやって,そこで内容が決まったにもかかわらず,金銭債務での弁済を認める必要性があるのかという疑問もありますので,今回,乙案を提案させていただいたということでございます。もっとも,基本的に甲案と乙案というのは非常に近い考え方で,違いは現物の内容が確定した後にも金銭での弁済を当然に認めるかどうかという,そこだけの違いですので,可能であれば中間試案に盛り込むのはそのどちらかという方がいいのではないかという印象を持っておりますので,是非,この場でその辺りについて御議論を頂ければと考えているところでございます。
○大村部会長 垣内幹事,いかがですか。
○垣内幹事 私は,甲案の前提を必ずしも共有していなかったことが分かったんですけれども,何らかの段階で移転登記手続請求権というのは成立するのかなと考えていたもので,そうでないといたしますと,飽くまで代物弁済的な効果というのは現物が実際に返ってきたときに生ずるのであるということなんですね。それはそれで理論的にはすっきりしている面があり,乙案ですと返ってきてはいないんだけれども,何を返すべきかが確定した時点で金銭請求権の方は消滅してしまうということになるわけです。
  この場合に,実際にそういうことがあるのかよく分からないですけれども,27ページの乙案を前提とした場合の主文で,これは一部が現物で一部が金銭という形になっていますけれども,全部が現物ということになりますと,現物のこれこれの移転登記手続をせよというのだけが主文としてされるということになるのだろうと思いますけれども,それはそれでシンプルで魅力的だという感じがしたのですけれども,他方,何かの理由でその登記が実際にされないような場合というのが絶対にあり得ないとも言い切れない。教室設例かもしれませんけれども,そのときに,それに備えて代償請求的な損害賠償請求なのか分かりませんけれども,そういう金銭請求も併合するとか,そういった話もあり得なくもないようにも感じまして,そうすると,乙案でいってもいろいろ複雑な問題というのは,それはそれで生ずるところもあるのかなというような感想を持ちました。
○大村部会長 事務当局からは,甲,乙が絞れれば,という話でしたけれども,今の御発言は必ずしもそう容易ではなさそうだということですね。
○増田委員 乙案については,かなり問題があるだろうと私は考えておりまして,乙案では現実に履行を受けないうちに金銭債権を失ってしまうということになります。今,垣内幹事のお話にもありましたように,現物が履行を受けるまでに滅失,毀損してしまうとか,あるいはもっと悪い話で言えば,現物を他に譲渡してしまうとか,所有権移転登記をしてしまうというようなことがあったときに,改めてまた損害賠償請求訴訟を起こすというようなことにもなりかねないわけで,飽くまで代物弁済というのであれば,履行が完了した段階で金銭債権は消滅するのが原則と考えます。民法改正案は代物弁済契約というのを認めて要物性を外しておりますが,それは飽くまで契約であって,その中で債権の消滅時期については私的自治に委ねるということになっており,なおかつデフォルトは代物給付時の債権消滅となっている(482条)ので,遺留分減殺の場合に,当事者の意思と関係なく履行前に金銭債権を消してしまうというのは問題があろうかと思います。どちらかということであれば,是非,甲案の方を残していただきたいと考えます。
○大村部会長 この点についてほかに御意見を伺えますでしょうか。
○山本幹事 今の増田委員との御発言とも若干,関連するかもしれませんが,乙案の前提として,物で返す場合は,目的財産の価額の限度で金銭債務が消滅するということですけれども,この場合の目的財産の価額はどうやって決まるのか,特に協議で一部を返しますといったときに,それで幾ら消えたのかが問題となることはないのかについてお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 乙案の場合は,元々,基本的には遺留分権利者は一定の価値を有する財産を取得できるということでございますので,協議であっても最終的には,一部現物,一部金銭というような場合は,金銭として幾ら,現物として幾らという形で協議がまとまるという前提ですので,逆に言うと,遺留分減殺請求権について,それで終了させるという前提で協議が成立していれば,金銭債務として幾ら消滅したかということについては,特段,問題にならずに,結局,金銭として幾らの支払義務を負い,現物としてどういう返還義務を負うのかということだけ確定すれば良いのではないかという前提です。
○山本幹事 一部だけ合意が成立したという状態は想定しなくて,いずれにせよ,現物と金銭で全部解決したという合意が成立しないと消滅しないということでしょうか。
○堂薗幹事 仮に一部だけやるのであれば,その場合は当然,現物の返還によって幾らの金銭債務が消滅するかというところまで決めないと,最終的に解決しないということになるかと思いますが,通常は全体として解決することになるでしょうから,その場合は飽くまでも金銭幾ら,現物として何ということさえ決めれば,特に現物の返還によって幾らの金銭債務が消滅したとか,そういう点まで決める必要はないのではないかということです。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本(和)委員 私も定見があるわけではないんですけれども,中でも甲案は先ほど堂薗さんの説明で裁判所がかなり苦労されて,どの財産が適当かということをいろいろ審理して,相手方もその審理に応じて,この財産でというのが決まった後で代物弁済はしませんと,結局,金銭で支払いますということになると,その審理は一体何だったんだという,どうもそこは気になるところです。そういう意味で,乙案はその意味では単純になるのではないかという感じがしておりまして,そういう意味では,確かにその履行がされない場合にどうなのかということはあるわけですけれども,この場合,判決主文としては,だから,不動産の移転登記手続請求というのも主文に掲げながら,それが履行されない場合には金銭の給付請求も併せて掲げておくと。不動産の登記がされた場合には,金銭の部分は消滅するというような,そういう形の工夫というのは,だから,垣内さんが最初に言われたような理解の制度みたいなものはできないのかなというのを思ったんですけれども。
○堂薗幹事 代償請求的なものも併せてできるというような形にするというのも考えられると思いますので,その辺りも含めて,それぞれ,甲案,乙案についてなかなか絞るのは難しいようでございますので,更に問題点を整理したいと思います。ただ,甲案を採った場合に遅延損害金との関係をどう整理するかとか,その辺りは非常に難しいなというのが正直なところでございまして,その辺りについて何かご示唆等がございましたらご教示いただきたいと思っております。
  今,山本先生が言われたように,現物を確定したにもかかわらず,金銭での返還を認めますと,遅延損害金の損害を免れるために,現物返還の主張をするということがあり得るため,それを防ぐために一定の遅延損害金は発生させざるを得ないと。ただ,遅延損害金が発生するということになりますと,一部現物,一部金銭で返すような場合に,そこをどう調整するかというのは非常に難しい問題でございまして,27ページの判決主文のところでも,遅延損害金については別途規定して,実際に返す200万円とは別に1,000万円について遅延損害金について支払を命じた上で,その調整をする必要があるというようなところがございますので,その辺が非常に複雑になってしまうのではないかという点がこちらの問題意識でございます。
○石栗委員 甲案のときの主文の書き方についてお聞きしたいんですけれども,部会資料27頁の主文例では,①所要の移転登記手続をせず,「かつ」200万円等を支払わないときは,②1,000万円等を支払えということになっているので,所要の移転登記手続しかされず,200万円等の支払に不履行があっても,②については一切強制執行できなくなってしまいますが,それでよいのでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘の趣旨はよく分かりました。書かなければいけない内容は,御指摘いただいたとおり,両方をした場合を除いて,1000万円支払えと。
○石栗委員 他方で,片方の履行はしているのに,1,000万円の執行を全く止められなかったら,それはそれで,困ると思うんですよね。
○堂薗幹事 ですから,そのような条件付の判決主文になってしまって,なおかつ,現物と金銭の両方が出てきてしまうので,非常に難しいのではないかというのがこちらの考えです。
○石栗委員 非常に複雑な主文を書かなくてはいけないような気がするので,御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 正におっしゃるとおりかなと思いまして,乙案を考えてみたというところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○垣内幹事 主文の書き方は,確かに非常に難しいところがあるのだろうと思いまして,そこがネックなのだろうと思います。ただ,現行法の価額弁償についても平成9年の最判があり,あの最判の趣旨を考えてこの主文を読めば,こういうことなんだと理解はできるところでしょうけれども,普通にあの文章を読んで当然にみんながそう理解するかというのは,よく分からないところもありますので,仮に甲案を採る場合には,その辺りはきちんと認識を共有する努力というのが何らかの形で必要なのだろうという感じがいたします。そういう意味では,追加的なコストが掛かるということなのかもしれません。遅延損害金がネックというのは全くそのとおりで,仮に甲案を採ったときにはお示しのように遅延損害金の部分については,別に金銭請求としての債務名義を必ず付けるということにならざるを得ないのではないかと,その限りで複雑になるということかと思います。
  それから,訴訟経済の点について山本先生からも御指摘がありましたけれども,確かにそういう面はあると思いますが,ただ,その点は平成21年の最判で弁償すべき価額の確定の訴えの利益を認めたということがあるわけですけれども,あちらの方も額が決まっても,結局,現物で返してしまうと,その点については無駄になったということがあり得ないではないことで,それに関して確認の利益を認める前提として,時期的にすぐにその金額の支払いが期待できるというような附随的な事情を幾つか述べた上で,確認の利益を認めているということかと思いますので,問題はそういった,これができるだけ無駄にならないような条件というものを例えば条文に書くということが容易にできるのか,それが難しいとすると,問題はやや21年最判に比較しても大きいと。その辺りをどう評価するのかというところが甲案を評価する際に問題になるのかなと感じております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  様々な意見を頂きまして,甲,乙の両論がまだあるように思いますので,頂いた意見を勘案していただきまして,再度,整理させていただくということにさせていただくということで,よろしいですか。
  ほかに1の点につきまして御意見はございますでしょうか。
○水野(有)委員 丙案についてもお話ししてよろしいんでしょうか。丙案につきまして,もし前半については甲案と同じというところを書いていただいているかと思うのですが,そうだとすると,甲案で生ずる主文が難しいとか,遅延損害金をどうするのかとか,そういう問題も全て丙案にも残っているという理解でよろしいのか,それとも,丙案にしたら,そこは解決しているということになるのか,そこはいかがなんでしょうか。
○堂薗幹事 丙案の場合は,現物での返還を求めた場合は現物だけで,しかも現物は現行と同じような規律で決まるので,甲案のような問題は生じないのではないかということです。
○水野(有)委員 どうもありがとうございました。
○山本幹事 今の点についてなんですが,丙案では遅延損害金は甲案と同じ規律ということなので,3か月経過後は現物で返すまで発生する前提と考えていたのですけれども,更に前の部会資料では,遺贈等が複数ある場合には,それぞれについて選択し得るというような御説明があったように記憶しておりまして,もし,そうだとすると,正に一部が金銭で一部が現物というようなことがあり得て,甲案と同じ問題を引き継いでしまうのではないかなという気もしていました。その辺りはいかがでしょうか。
○堂薗幹事 丙案の場合は3か月の間に,現物にするのか,金銭にするのかを決めてもらうという前提なので,3か月が経過したら現物返還の抗弁は出せなくなるという前提です。したがいまして,一部現物,一部金銭ということは想定してないということになりますので,この3か月間は遅延損害金が生じませんから,甲案で生じたような問題は生じないのではないか。そういう意味では,②の3か月を経過するまでの間に,現物返還を申し出るなら申し出てくださいと,現物返還の申出をした場合には,現行の遺留分と同じ規律で物権的効果が生じて,それだけの返還ということになりますので,甲案で生じる問題は生じないのではないかというのがこちらの理解ということになります。
○山本幹事 内容としては理解いたしました。
○大村部会長 案自体とそれから説明と,更に整理をしていただく必要があろうかと思います。
  よろしいでしょうか。次に進ませていただいていいでしょうか。では,次の2の28ページ以下の「遺留分の算定方法の見直し」について御意見を賜りたいと思います。事務当局からは甲案について30ページの(注2)を加えて,調整をしているというお話がありました。しかし,甲案全体としてこれを加えると,一層複雑な案になるのではないかという指摘もありました。他方,乙案につきましては挙げられているそれぞれの規律が独立のものであるということを明らかにした上で,それぞれについて更に詰められたということだろうと理解しております。直前に,甲案,乙案の併記の状態をどうするかということが1で問題になりましたけれども,2につきまして事務当局の方からは,甲案を削除するということが考えられないかという問題提起もございました。この点も含めて御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○石井幹事 甲案については,従前から非常に処理が複雑になって,甲案の考え方に則った実務というのはなかなか困難が多いということを申し上げておったところですけれども,今回の御提案で更に調整が入るということになりますと,ますます困難な面が増長されてしまうように思われます。また,相続人を相手方とする手続と相続人以外の者を相手方とする手続とを分離することに甲案のメリットがあったように思いますので,両者の間で調整が必要になるということになると,甲案のメリットがかなりの程度,減殺されてしまうように思います。そうしますと,もはや,甲案を維持しておく必要性自体が大分なくなってきているのかなというふうに思いますので,部会資料にもございますように,この際,甲案については検討対象から落とすという選択もあり得るのではないかなと認識しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御意見を頂きましたけれども,いかがでございましょうか。
○石栗委員 裁判実務的に申し上げましても,ここまで複雑になりますと調停手続の運営が極めて困難になる可能性があります。また,調停委員の先生方に規律内容を理解していただくことも難しいかもしれません。
○大村部会長 削除論が二つ続きましたけれども,他の委員,いかがでございましょうか。
○西幹事 実務的な観点からのご発言が続いておりますので,違う観点から一言申し上げたいと思います。ずっと議論を聞いてきた我々はどのような流れで甲案がでてきたのか分かっておりますので,その意図もよく理解できるのですが,ぱっとこれを見たときに多くの人は,相続人間では遺留分がなくなると思うわけで,実際そのとおりなのですけれども,最低限相続分という概念が理解されずに,その事実だけが一人歩きして何らかの誤ったメッセージとして伝わる可能性もあるのではないでしょうか。それは望ましくないと思いますので,その意味では削除論に賛成です。ただ一応,今回の遺留分の算定方法の見直しが一体何のために求められて,一体何を目的としているのかということをもう一度,確認させていただければと思います。
○堂薗幹事 元々の問題意識は,相続人が受遺者,受贈者になっている場合に第三者の場合とは違う規律になっている部分があり,そのために非常に計算方法が複雑になっているというところがあるので,第三者と相続人を分けることによってきれいに分けられないかと,なおかつ,相続人間の遺留分については遺産分割との関係がありますので,どちらかというと遺産分割とも一体的に解決できるようにするために,第三者のものと相続人のものを分けられないかということで,検討を始めたわけですが,結果としては逆に今よりも難しくなっているという面があるので,今回の部会資料にそのような記載をさせていただいたということでございます。現行制度も,遺留分の手続と遺産分割の手続が別になっていて,そこの調整をどうするかというのが非常に問題を複雑にしている原因ではないかと思うんですが,結局,甲案の場合,第三者と相続人を分けたんですけれども,この間の調整が必要だということになると,それに更に遺産分割もありますので,三つの手続の調整が必要になってしまうというようなところがあります。受遺者等が相続人の場合と第三者の場合の両手続を完全に切り分けることができるのであればメリットがあるかなとは思っていたんですが,両手続の調整をする必要があるというところで,なかなか,初期の目的が達成できていないというところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  西幹事も結論は削除論のように伺いましたので,やはり乙案だけということになるのかもしれません。その場合にも,今のやり取りにあったように,なぜ,こういうことが考えられたかという経緯については補足説明に残していただいた方がよいでしょうね。ある方向で考えてみたけれども,しかし,そのような考え方は様々な困難を抱え込むので,最終的に提案できるのはこの案なのだということを説明していただくことは必要でしょうし,甲案が難しいということ,我々はこの案を検討した上で,乙案にたどり着いたということもどこかに残した方がいいのではないかと思います。そのようなことを補足説明に書いていただくことを含めて,甲案を削除するという方向で,今,意見がまとまりそうな気配ですが,何か御発言はございますでしょうか。よろしいですか。
○窪田委員 最初から反対だったというのではなくて,ある時期まではむしろ甲案はよいのではないかと思っていた人間が多分,やめると言った方が話がまとまりやすいのかもしれませんので,一つだけ発言させていただきます。
  私自身は遺留分制度というのはよく分からない制度だなと感じています。現実に第三者との関係で問題となる遺留分と,共同相続人間の問題となる遺留分とは全く性格が違うような紛争ではないか,また,審判の中でどう扱われるのかという点でも遺産分割の関係も違うし,ということで分けてみるというのは一定の分かりやすさにつながるのかなと思っておりました。ただ,結果として出てきたものは収拾がつかない状況をもたらすということだったと思いますし,特にまだ現在の甲案だったらともかく,これまでも許容できないという人は大勢いるんだろうと思うんですが,これに修正を加えてしまったら,もはや説明がつかない制度になってしまうのだろうと思います。その意味でも維持はできないということだろうと思います。ただ,今,申し上げたような出発点となる問題というのは,ある程度までは共有されているということではないかと思いますし,それでやってみたのだけれども,駄目だったということは記録としてはむしろ残して,何も検討せずに乙案が残ったのではないよという趣旨の形にしていただければ十分ではないかなと思います。
○大村部会長 では,甲,乙問題につきましては,今のような趣旨が分かる形で乙案に統一するということにさせていただきたいと存じます。乙案そのものについてもいろいろ御意見があろうかと思いますので,それにつきましても何かございましたら承りたいと存じます。
○増田委員 ここは,裁判所の方にお伺いしたいんですが,B-1案の考え方は現在も実務上,採られているのかどうかということです。判例タイムズで裁判所の方が立て続けにB-2案で実務は動いているという論文を書かれております。かつては多分,B-1案が多数説だったように思うんですけれども,現在では多分,B-2案で裁判実務は動いているのではないかと想像しているんですけれども,いかがでしょうか。もし,そうであるならばB-1案は削除してもいいのかなと思っているんですが。
○大村部会長 今のような御意見が出ておりますけれども,いかがでございましょうか。
○石井幹事 B-2案の考え方を支持する実務家の文献があるというのは承知しておりますけれども,B-1案の考え方を支持する実務家の文献もあるところであり,この点については実務において議論が分かれているものと承知しております。そのため,現時点で,B-1案を検討対象自体から落とすということまでは必要ないのかなと思っております。
○増田委員 であれば維持で結構です。
○大村部会長 分かりました。
  そのほか,いかがでしょうか。事務当局の方から何か乙案の方について,特にここを聞いておきたいということはございますか。
○堂薗幹事 乙案の方もウのところでございますが,ここも一応,A案とB案ということで書いているところですが,A案を採ると遺留分の方は,実はB-1案と同じ結論になるんですけれども,他方でA案の考え方を採る場合は,遺産分割のところで,減殺がされた部分についてはその評価額を特別受益の額から控除し,新たに遺留分減殺請求により財産を取得した人については,それを特別受益として考慮するということが必要になりますので,そういった意味で,ここも現行の手続に比べて複雑になる面があるのかなという問題がございます。ここも先ほどの甲案と同じように,中間試案にこの案を残すかどうかという点について御議論を頂いた方がいいのかなという気がしているところでございます。
○大村部会長 今の点につきまして何か御発言があれば承ります。いかがでしょうか。
○石井幹事 ウのA案というのは,遺産分割手続と遺留分の手続を明確に分けるというところにメリットを見いだしていた案だと認識しているんですけれども,今,堂薗幹事の御説明にあったように両者間で調整をする必要が出てくるということであれば,A案のメリットというはかなりの程度減殺されてしまうように思います。それにもかかわらず,総体的遺留分に特別に意味を持たせるという,必ずしも現在の実務で採られているわけではない考え方を採ってまでA案を採用することの意義はどこにあるのかというのは,実務をやっている者からすると,若干,疑問が残るところです。A案の結論がB案と余り変わってこないということであれば,A案を検討対象に残しておく意義というのは相当に小さくなっているのかなと認識はしておるところであります。
○大村部会長 今のような御意見もあるということで,更にお考えいただいて次回に御提案いただくということにさせていただきたいと思います。乙案につきましてほかはよろしいでしょうか。
  それでは,第4の最後になりますけれども,35ページの「3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」ですが,これは変更点なしということでございますので,特に御意見がなければ先に進みたいと思いますが,いかがでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,定刻に近付いているのですけれども,残りは第5と(後注)だけですので,15分ほど延長させていただきたいと存じます。第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして事務当局の御説明を頂きます。
○神吉関係官 第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,前回の部会資料から特段の変更点はございませんが,補足説明におきまして,前回の部会において委員から御指摘がありました事項について説明をしております。具体的には本文の⑤の規律に関しまして,本方策の請求権者と相続人の債権者の優先順位についてどのように考えるべきか,検討すべきであるとの指摘がございました。本方策は政策的にその請求権者を遺産分割の当事者に含めない代わりに,相続人に対する金銭請求を認めるものでございますが,委員からの御指摘は相続人の中に無資力者がいる場合に,遺産分割の当事者とする場合に比して,本方策の請求権者が不利な地位に置かれることになる点に疑問を呈するものでございました。
  このような疑問を解消しようとすれば,本方策の請求権者に無資力の相続人が遺産分割で取得した財産に優先権を認めることなどが考えられますが,本方策は,現行法の下では一切,権利行使が認められていないものについて新たな権利行使を認めるものでございまして,相続人の寄与分と全く同一の法的地位を付与すべき必然性まではないと考えられることから,これらの規律を設けることとはしておりません。
  以上,第5についての御説明を申し上げました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第5の提案部分は,前回の資料と変わらないということでございましたけれども,前回の会議において出された御疑問について検討し,それについての説明が補足説明というところに書かれているということでございます。いかがでございましょうか。
○増田委員 純粋に質問なんですが,甲案と乙案の要件の書きぶりなんですけれども,違っているのは,乙案の場合は無償性が要件になっているということと,財産上の給付による財産の維持又は増加が除外されていること,この2点が違っているという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 当然,寄与行為の対象も違いますけれども,甲案の場合は現行の寄与分と同じものが寄与行為の対象として挙がっているのに対しまして,乙案の方はそのうちの事業に関する労務の提供,あるいは療養看護が対象となっていて,それを無償で行った場合が対象となっているというところで,対象となる寄与行為がまず違うと。それから,当然のことながら,請求権者の範囲も違うということでございます。
○増田委員 寄与行為の対象というのが,私が今,言ったこととどう違うのかがよく分からなかったのですが。
○堂薗幹事 事業に関する財産上の給付を除外し,甲案の方はその他の方法により財産の維持又は増加について特別の寄与というのがあるんですが,そこも除いていますので,それを除いた部分で,なおかつ,先生が御指摘のように乙案の方は無償性を要件としているということでございます。
○増田委員 了解しました。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほか,この第5について。
○南部委員 「無償で労務を提供」と記載がありますが,何となく意味は分かりますけれども,具体的にその内容を明らかにしておく方がパブリックコメントのときによろしいかと思いますので,もし,今,お考えがあればお聞かせいただきたいなと思います。
○堂薗幹事 ここで無償の労務の提供と言っているのは,甲案でいいますと事業に関する労務の提供,ですから,例えば農作業を無償で手伝った場合ですとか,あるいは療養看護を典型例として考えておりまして,それを無償で行った場合ということでございますので,確かに甲案と乙案を比較した場合に,療養看護が入ってくるのかどうかといった点など,若干,分かりにくいところがあるのではないかと思いますので,その辺りの表現については本文で工夫するか,あるいは補足説明できちんと説明をしたいと考えているところでございます。
○南部委員 もう一つですけれども,例えば甲案でいえば,子どもの配偶者,孫,乙案でいえば内縁関係や,いわゆるLGBTのパートナーについても,その範囲に入っているとした上で問うのかどうかということも御議論いただけたら有り難いかなと思います。
○堂薗幹事 乙案については請求権者の範囲を限定していませんので,特に身分関係があろうとなかろうと入ってくるということですが,甲案は法律上の身分関係で区切っていますので,そこは限定があるというのがこちらの理解ですが。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでしょうか。
○中田委員 今の南部委員の御発言とも関連するんですけれども,前回,私は甲案について具体的な例を補足説明で挙げていただいたらいいのではないかと申し上げましたが,乙案についても同じでございます。今,挙げられた例のほかに例えばお隣の人が療養看護をしたというのも多分,入るんでしょうね。様々な例を挙げられた上で,そのメリットと課題といいますか,両方を示していただければいいかなと思います。
○大村部会長 南部委員,中田委員が御指摘の具体的な例を補足説明で書いていただくということで御対応いただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 本当に純粋な質問なのですが,甲案では財産上の給付が入っていて,乙案では抜けているということですが,財産上の給付は割合と明確な形になるのだろうと思うのです。例えば創業資金のために1,000万円を渡したとします。そういう場合には乙案では入ってないけれども,それは返せという請求が不当利得で別に立つという前提で抜かれたのでしょうか。
○堂薗幹事 通常は完全に贈与で金銭の供与をしたということであれば,返せとは言えないという前提だと思いますので,逆に言うと,少なくとも請求権者の範囲を限定しませんので,そういう財産上の給付などについては,回収したいのであれば契約等で手当てしてくださいという前提でございます。ですので,あえてこの制度の対象とする必要はないのではないかということです。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかに,何か。
○窪田委員 今,水野委員から御指摘があった部分は,より詳しく書いていただいた方がいいのではないかという気がします。つまり,乙案と甲案の違いというのは,甲案は今までもあった息子の妻とか嫁とか,そういったタイプのものに対応するものに対して,乙案というのは多分,もう少し射程が広くて,不当利得とか,事務管理に対するある種,特則みたいな形で入ってくるという点にあるのだろうと思います。ただ,これは潮見委員からの御指摘も何度もあった点にも関わると思いますが,本来,財産法で処理できる部分であれば,財産法で処理するというのが筋なのだろうと思います。
  ただ,無償で労務を提供して親切でやったというようなことについて,本当に事務管理の費用償還請求権によって対価に当たるようなものとかというのを請求できるのかというのは,必ずしもはっきりしていないだろうと思います。その意味で仮に介入するとしたら,その部分に限られているのだという意味で説明していただいた方がいいと思いますし,そうだとすると,今,水野委員からあった財産上の給付というのは,本来,財産法上の問題なんだからということもクリアになるのかなと思いました。これは感想です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  以前の資料には,御指摘の点についての補足説明があったかと思いますけれども,今回のものは前回出された御指摘を取り上げて,それに説明を付けているというものですので,このようになっているのだろうと思います。全体として中間試案の補足説明を付けていただくときには,従来,話題になったこと全てを対象として,それを集約した形で御説明いただくことになろうかと思います。その中で,今,水野委員や窪田委員が御指摘になった点,あるいは中田委員がおっしゃった例示の点などについての御対応いただくということになろうかと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。よろしいですか。
  それでは,最後になりますけれども,前回からの積み残しですが,「(後注)その余の検討課題について」ということにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 最後に資料の37ページ,「その余の検討課題」について御説明いたします。
  まず,寄与分制度の見直しにつきましては,現行の寄与分制度の特則といたしまして,被相続人の療養看護や扶養による寄与につきまして,寄与者とほかの相続人との間でその程度に著しい差異がある場合には,その寄与が特別の寄与と言えない場合であっても,寄与分を認める制度を提案させていただいておりました。しかしながら,この点につきましては,実際には相続人全員の寄与の程度が審理の対象とならざるを得ないのではないかなどの問題点の御指摘をいただいたところ,これらの問題点を解消ないし軽減する方策を見いだすのは困難であったことから,本部会資料におきましては,寄与分制度の見直しに関する方策を削除させていただいております。
  次に,遺産分割における相続人の担保責任について御説明いたします。この点は第10回会議におきまして,遺贈の担保責任と併せて検討すべき事項として御指摘いただいたところでございます。もっとも,民法911条によりまして売主の担保責任を定める民法560条から572条までの規定のうち,どの規定が実際に準用されるかという点につきましては,学説上も見解が一致していないように思われ,また,この点を明確に判示した判例も見当たりません。
  他方,仮に民法911条が民法560条から572条までの規定を準用する趣旨であるとすると,遺産分割の対象に瑕疵等があった場合には,それを取得した相続人は他の相続人に対し,損害賠償請求や遺産分割の解除ができることになりますが,遺産分割の対象財産に瑕疵等があったことに気付かなかったことについては,これを取得した相続人も他の相続人と同様の立場にあったと考えられることなどを考慮すれば,民法912条,913条と同様に,瑕疵などが存在する財産を取得した相続人が受けた損失について,各相続人にその相続分に応じた責任を負わせることで足り,その余の損害賠償や解除まで認める必要はないように思われます。民法911条において売主と同じくと規定したのは,売主の担保責任に関する規定をそのまま準用することまで意図したものではなく,このような趣旨を明らかにしたものにすぎないとも考えられるところでございます。
  そういたしますと,今後,法制審議会の答申に基づき,売主の担保責任に関する規定の見直しがされたとしても,民法911条の解釈に直接影響を及ぼすものではないことから,今回の相続法制の見直しにおいても,民法911条については特段の手当はしないこととし,現行法と同様,相続人が負う具体的な責任の内容については,解釈に委ねることが考えられます。この点につきましても御意見をいただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「(後注)その余の検討課題について」は,今まで話題になった二つの事柄について規定を置くことは提案しないということを記して,それについて御意見を頂くという趣旨かと思います。こういう形で,「その余の検討課題について」を掲げるということについて,皆様の御意見を頂戴するということになりますが,内容も含めて何か,今,ございましたら承りたいと存じます。
○増田委員 (後注)にも書かれていないことなんですが,直系尊属の遺留分を廃止するということについては,以前,話題になったときに,それほど異論はなかったように思うんですけれども,今,(後注)にも書かれていないので,これは何らかの形で,私は(後注)ではなく試案の中に入れていただきたいぐらいなんですけれども,何でなのかというのをお伺いしたい。遺留分の廃止に積極的な理由としては,前から申し上げていたように,本来自分の子の財産というのを期待すべき地位にはない,それから,配偶者の保護という本来の目的からすれば,それには反することになるということですよね。それから,もう一つ,最近,気付いたんですけども,以前,DINKSという生き方が流行った時代があって,その世代の方が今は60代だと思うんです。ということは,そろそろ,これが問題になってきそうな感じがします。高齢化社会でその親が生きているという可能性がありますので,そういう点からも直系尊属の遺留分の廃止というのは,ある意味,現実にもう少しきちんと検討して良かった話題だと思うんです。
○堂薗幹事 特に非常に問題があって載せなかったということではありませんので,載せる場所も含めて検討させていただいて,次回にお示ししたいと思います。
○大村部会長 増田委員,よろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 911条の改正の要否について検討してくださいましてありがとうございました。結論として手直しをしないということでよろしいかと存じます。ただ,理由付けとして38ページの第2パラグラフに,仮に911条がこれこれを準用する趣旨であるとすると,という文章がありますが,これは一つの説明の仕方として十分あり得ると思うんですが,これで決めたというのも決めすぎかなという気もします。結論として,売主の担保責任の規定を共同相続人の担保責任にそのまま準用するのではなくて,遺産分割の性質に照らして必要な変更を加えた上で及ぼすと,こういうことだと思いまして,そこは異論はございませんので,余り理由を限定しない方がいいのではないかと思います。と申しますのは,911条自体,非常に古い沿革のある規定ですし,それから,261条という共有物の分割の場合の担保責任の規定を今回,債権法改正に関する整備法でも対象としなかったということもございますので,様々な理由があって,こういう結論に至ると思いますので,説明の部分を少しやわらかくしていただければと思います。
○大村部会長 今の点は更に再考していただいて適切な説明に改めていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
○南部委員 寄与分制度の見直しについての部分を削除していますが,パブリックコメントでは全く載せないという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 こちらはそういう前提です。
○南部委員 そもそも,この部分が議論のスタートだったような気もしますので,例えばパブリックコメントで何か意見を聴くということをお考えになっていないのでしょうか。
○堂薗幹事 特に具体的に考え方を示さずに,例えば寄与分制度について見直しをすべき点があるかという注記をすることは考えられるのかもしれませんが,こちらとしては具体的な案もなく,そういう形で抽象的に聴いてもどうかというところがありますので,事務当局としては中間試案に載せることは考えていなかったというところでございます。その辺りについても御議論いただければとは思いますけれども。
○南部委員 分かりました。
○沖野委員 中身ではないのですけれども,補足説明にどこまで載っていくのかという点です。例えば今の寄与分については具体的な提案も,あるいは個別の問題として(後注)の形でも聞くことはしないんだけれども,そういう問題を全く扱わなかったわけではなくて,こういう判断の下で,このようになったというのはあちこちにあると思うんですが,その記載は残るし,また,残すべきだと思うのですけれども,そういう理解でよろしいですか。
○堂薗幹事 それは十分考えられると思います。今,申し上げたのは飽くまでも本文には記載しないということでございますので,遺留分の甲案もそうですけれども,本文に載せなかったものについて,こういう経緯で提案から落ちたという辺りについて,必要な説明をすることは可能ではないかと考えております。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,本日,頂きました御意見を踏まえまして,更に事務当局にはこのたたき台の改めたものを次回に御用意いただくということにしたいと思います。次回以降の予定等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 次回は既に御案内のとおり,6月21日(火曜日)の午後1時半から5時半までを予定しておりまして,場所は法務省20階第1会議室というところになります。次回は本日の議論を踏まえて修正した案について御議論いただき,できれば,中間試案の取りまとめまでしたいと考えております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 本日は,予定した時間を超過いたしましたけれども,非常に熱心な御議論を頂きまして誠にありがとうございました。これで法制審議会民法(相続関係)部会第12回会合を閉会させていただきます。どうもありがとうございました。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第13回会議 議事録


第1 日 時  平成28年6月21日(火)自 午後1時33分
                     至 午後4時23分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,法制審議会民法(相続関係)部会第13回会議を開会いたします。
  まず,最初に新しい関係官の御紹介をさせていただきたいと思います。
○小川関係官 法務省民事局付の小川敦と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  続きまして,本日の配布資料についての説明をお願いいたします。
○満田関係官 関係官の満田から,配布資料の確認をさせていただきます。
  本日,机上に配布しました資料としましては,まず,参考資料といたしまして,1枚ものの表がございます。これはA4サイズのものでございますが,表題が「遺言による権利移転に関する対抗要件の要否等の整理表」となっております。詳細については後ほど御説明いたします。
  また,A4サイズの表紙が青い,カラーで印刷された資料がございますが,これは後ほど浅田委員の方から御説明があろうかと存じますが,「可分債権の取扱い等に関する意見の補足」となっております。
  机上に配布した資料は,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,本日は今御説明がございました部会資料13,「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案(案)」につきまして御議論を賜り,取りまとめをさせていただきたいと考えております。
  資料は,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」から始まりまして,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」まで,5点に分かれております。この第1から第5につきまして,五つに分けまして順次御意見を伺ってまいりたいと存じます。第3の途中で休憩を入れることを予定しております。
  それでは,まず「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○小川関係官 それでは,部会資料の「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」について御説明いたします。
  まず,1の短期居住権ですが,本文につきましては若干表現を改めたところはございますが,内容的には部会資料12からの変更はございません。
  なお,注におきまして,配偶者以外の者が居住建物を取得した場合における短期居住権の消滅請求権者などについての記載を付加しております。
  続いて,2の長期居住権について御説明いたします。部会資料12では,遺言や死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させる場合には,併せて,その居住建物の所有者を定めることも要するものとしておりました。
  しかしながら,この点につきましては前回の会議において,仮に遺言で配偶者に長期居住権を取得させる旨定めていても,居住建物の所有者を定めていない場合には遺言が無効となるおそれがあることや,所有者の定めがあった場合でも,当該所有者が遺言者より先に死亡した場合等について別途規律を設ける必要があるところ,そうした規律を設けてまで遺言時に居住建物の所有者を定めることを要求する意義に乏しいのではないかとの指摘がされました。
  そこで,本部会資料におきましては,居住建物の所有者を定めることについての記載を削除して,遺言や死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させる場合にも,必ずしもその居住建物の所有者を定める必要はないこととしました。
  また,配偶者が支出した有益費の償還について,短期居住権におけるものと同様に,裁判所が相当の期限を許与することができる旨の記載を加えるなどの変更がございます。
  そのほか,後注の長期居住権の買取請求権などにつきまして,前回会議における御指摘を踏まえ,表現ぶりを修正しております。
  第1についての御説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」は,短期の居住権と,それから長期の居住権に分かれておりますけれども,短期については大きな修正はないということでした。長期につきましては,主として前回御指摘がありました点,4ページの補足説明の冒頭に出ている点でございますけれども,この点につきまして御意見に従って改めたというのが中心的な修正かと思います。
  この修正の点を中心に,その他も含めまして,御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○増田委員 今回修正の入った点について,まず,「居住の目的及び」という文言が加えられたことの意味。それから,従来「転貸」となっていたところを,「第三者に使用又は収益させる」と変更されたことの意味について,お伺いしたいと思います。
  まず,居住の目的については,これが入ったことによって事業を営むことはできなくなるのかどうかということです。
  特に「居住の目的及び」がなければ,以前から店舗であった所で居住している,店舗兼居宅の場合には引き続きその店舗を店舗として使用する,元からと同じ種類のものであるか別のものであるかにかかわらず,店舗として使用することは差し支えないものだろうと考えられるわけですが,「居住の目的及び」が入ったことによって,店舗としての使用はできないという解釈も成り立ち得ると思います。
  それから,後の方の転貸についてですが,転貸というためには第三者が独立して占有を行うということが必要であって,単に使用・収益をしているだけでは足りないと理解されております。今度,「転貸」という文言が「第三者の使用又は収益」に変わったことによって,独立の使用・収益に至らないものでも禁止されるのかという点について,お伺いしたいと思います。
  それからもう1点は,今さらと言われるかもしれませんが,短期居住権の消滅の効果に関してです。短期居住権に関しては,少なくとも(1)の場合に限って言えば,配偶者は少なくとも2分の1の持分権を有していて,その持分権に基づく占有は妨げられないと,これは物権法の解釈として変わらないと思うのですが,それを前提とすると消滅させるということの意味がどれだけあるのか,その消滅の効果はどうなるのかというのをお伺いしたいと思います。
  以上3点,お願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 それでは,御説明いたします。
  御指摘の点は,確かに若干実質的な修正が含まれているかと思います。まず,「居住の目的」のところですが,現行の使用貸借や賃貸借では,契約又はその目的物の性質に従った用法となっているのに対し,短期居住権では,従前はそのうちの目的物の性質の方だけを書いていたわけでございますけれども,そうすると,元々ずっと居住用で使っていた場合に,それこそ,この短期居住権取得後に店舗にするとか,そういった管理方法の変更があるような場合も用法遵守義務違反にはならないことになりますが,そこまで認める必要はないのではないかということで,こういった修正をしたということでございます。
  ただ,元々短期居住権,あるいは長期もそうですけれども,その成立要件の中に相続開始の時に居住していたことというのがありますので,その意味で居住の目的というのを入れているわけですが,従前から店舗兼居住建物として利用していたという場合で,その従前からの利用方法に変更がないような場合までこれに違反するというところまで想定しているものではないのですが,その点がこういった表現で書けているかどうかという辺りは検討したいとは思います。
  それから,転貸を修正した理由ですけれども,短期居住権の場合,賃貸しているわけではないので,そういった意味で転貸ではないのではないかということで,ここは使用貸借契約に関する条文を参考にしてこういう形に修正したわけでございますが,ただ,ここでの第三者の使用・収益には,占有補助者として行うものは含まれないという理解ですので,独立にそういった使用・収益をさせた場合を念頭に置いたものということでございます。
  それから,短期居住権の消滅の効果でございますが,この点については,確かに御指摘のとおり,通常は配偶者であれば短期居住権がなくなっても2分の1の持分はありますので,それに基づく使用はできるということだろうと思いますが,少なくとも短期居住権が消滅しますと,通常の共有状態と同じように,その持分権者に対してはその持分に応じた対価を支払わなければならないと。要するに,相続分の指定などでその実際の相続分が変わっているような場合はそれに基づく使用しかできないということにもなりますので,実際に明渡し請求までできる事案がどの程度あるのかというのは別にいたしまして,一応の効果はあるのではないかと考えております。
  特に,短期のうち(1)の場合は御指摘のように余り実益がない場合が多いのですけれども,(2)については,明渡し請求ができるようになると,明渡しまでの間の賃料相当損害金も発生するということになるので,一定の効果があるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 増田委員,よろしゅうございますか。
○増田委員 ということは,転貸に関しては従来と表現が変わっただけで,実質的に変わるものではないということですね。
  居住の目的の方は,これは変わったという理解でいいのですか。
○堂薗幹事 従前から,元々住んでいる状態のままで使用を続けるということで考えていたのですが,そこが建物の性質により定まった用法というだけだと,少なくともそこは読めないのではないかということで「居住の目的」を加えたものですので,こちらが元々想定していたものとは変わってはいないのですが,先ほど申し上げたとおり,従前の案だと,管理形態が変わった場合でも用法遵守義務違反にならないというような解釈がされてしまうことになるのではないかという懸念があり,そういった解釈を前提にしますと,実質的な中身を変えたということにはなろうかと思います。
○増田委員 それと,最後の点なのですけれども,共有持分権による場合でも賃料は払わなければならなくなるということですが,平成8年の最判の射程は今後は配偶者には及ばないという理解でいいのでしょうか。
  というのは,以前,配偶者以外のその他の相続人に関しては,その平成8年判例の到達点を変えないということだったと思いますが,配偶者にそれが及ばないということになると,配偶者がその他の相続人より逆に不利益な立場になる可能性もあるのですが,そういう案だという理解でよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 元々の判例は御承知のとおり,被相続人の通常の意思としては,元々被相続人所有の建物に住んでいた場合には,その死亡時点で使用貸借契約を成立させるという意思だろうということで解釈がされているわけですが,短期居住権という権利が創設されますと,基本的にはそこで実現できていた内容というのはこの短期居住権によって実現できることになりますので,そうすると,被相続人の通常の意思としても,こういった場合に使用貸借契約の成立を推認するというところまではいかなくなるのではないかと。その意味では,配偶者との関係では,従前の判例が変更されることにつながるのではないかと考えております。
  他方,御指摘のとおり,短期居住権を設けても,それ以外の相続人は適用対象外ですので,従前の判例の考え方がそのまま妥当するのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほか,いかがでしょうか。
○中田委員 ただいまの続きの確認的なことなのですけれども,まず,1(1)イの(ア),「居住の目的及び」というところですが,これを読んだときの印象ですと,居住の目的にも幾つかの態様があって,それによって定まった用法とも表現上は読めてしまうので,少し分かりにくいかなという気がしました。居住の用に供するために,かつ,建物の性質により定まった用法に従ってとするとクリアだと思いますが,その分,増田委員の御指摘になられた変更というのは余計際立つことにはなると思います。それも併せて表現を検討いただければと思います。
  それから,同じイの(ウ),これも増田委員御指摘のところですが,ここでの第三者というのは占有補助者のようなものは含まれないということを,補足説明などで書いておいていただくとよろしいのではないかと思います。と申しますのは,元々配偶者が他の子供たちと一緒に住んでいた場合であるとか,あるいは新たにその介護のために誰かを同居させるというような場合は入らないのだということを,はっきりさせた方がいいのではないかと思いました。
  この(ウ)の見出しを「賃貸等」と変えられたのですが,これもちょっと分かりにくいかなという感じはしますが,これは別にこのままでもいいかもしれません。
  それから,長期の方も併せて申し上げてよろしいでしょうか。
  2の(4)の③ですが,以前は「長期居住権を取得した時の原状に復する」となっていたのが,今回,「相続開始時の原状に復する」と変わっています。ちょっと私はどういう議論があったか記憶していないのですけれども,長期居住権を取得するのは相続開始の後しばらくたってからという場合もあり得るわけですね,遺産分割協議などによって。そうしますと,相続開始時からその取得時までの間に目的物に損傷などが生じた場合も,このままですと,その配偶者はその前の状態に戻さなければいけないということになってしまうのですが,それは余り適当ではないように思うのですが,そこはどうでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,実は,短期居住権のウの③で(注2)を付けたところと若干関係するのですが,ここは事務当局における検討の結果このような形に修正させていただいたのですが,基本的に短期居住権から長期居住権に移行するような場合,その場合には短期居住権が消滅した場合でも,その時点で原状に回復させる必要はないのではないかと。少なくとも消滅した時点で直ちに原状回復義務を負わせる必要はなくて,結局そういった場合は長期居住権が消滅したときに原状回復請求権を負わせれば足りるのではないかという理解の下に,そういたしますと,長期居住権の発生根拠のうち,遺言によるものは相続開始によって長期居住権を取得することになりますので,いずれにしてもその原状回復の時点は相続開始時となりますし,遺産分割によって取得するような場合は,基本的には短期からの移行になるのではないかと思います。したがって,その場合は相続開始時から短期居住権者として住んでいるという場合が通常想定されるので,そういった意味で結果的に相続開始時になるのではないかという理解の下に,このような形に修正させていただいているということでございます。
○中田委員 分かりました。ありがとうございます。
  そうすると,例外的にその隙間があいているような場合については,解釈運用で補うという趣旨でございますね。
○堂薗幹事 はい。
○中田委員 では,それも何か説明をしていただいたらいいかもしれません。
○大村部会長 ほか,いかがでございましょうか。
○沖野委員 今の点ですけれども,説明でも結構かと思いますけれども,本文のほうに書いてもいいのではないかと思います。短期居住権から継続する場合はこちらとかいうことは,割と簡単に書けそうな気がしますので。
  それから,もう一つ,2ページの(注2)なのですけれども,2か所に同じ(注2)が付いておりまして,(注2)は「配偶者が遺言又は死因贈与により」取得した場合を除くということになっておりますので,(1)の(ウ)の③に付いている方は,分割によって長期居住権を取得した場合は,短期居住権消滅によって一旦,原状に復する義務が発動してしまうというふうに読めてしまいますが。
○堂薗幹事 それは趣旨としては逆で,この短期居住権が消滅した時のうち,遺産分割で長期居住権を取得したことによって短期居住権が消滅したときを除くという趣旨ではあるのですが。
○沖野委員 遺言又は死因贈与の場合には,そもそも原状に復する必要は,短期居住権というのがそもそも生じないから除くということで,これは,除かれている趣旨が(注2)の二つの付き方で違っているのかなと思ったものですから。
○堂薗幹事 御指摘は分かりましたので,検討させていただきます。
○沖野委員 もう一度考えてみますが,念のため確認していただければと思います。形式的なことですので。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 中田委員,沖野委員の御指摘の点は,実質はおそらく差はないと思いますので,紛れがない形でもう少し字句については修正をお願いをする,具体的な修文はお任せするということにさせていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。前回の御指摘を受けて削除された部分がございますけれども,これにつきましては特に御意見はないということで,よろしいでしょうか。
  「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」という点につきまして,今,中田委員,沖野委員から御指摘があった点につきましては,事務当局に字句の修正をお任せいただきたいと思いますけれども,そのほかの点につきましては,いかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。
○沖野委員 本当に今さらながらなのですけれども,念のため確認をしておきたいところとして,長期居住権の買取請求の権利ということで,これ自体は一定の対価をもって長期居住権を取得しているはずなので,その回収を図る手法として入れるということで,この効果は,買い取るという話ですけれども,所有権と一体になるので結局は消滅するということでよろしいですよね。それだけ確認をさせてください。
○堂薗幹事 はい。
○沖野委員 ありがとうございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  それでは,第1点につきましては,先ほど申し上げましたような修正をさせていただくということで,先に進ませていただきたいと存じます。
  「第2 遺産分割に関する見直し」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,関係官の下山の方から,「第2 遺産分割に関する見直し」について御説明させていただきます。
  まず,資料の5ページ,「配偶者の相続分の見直し」についてでございますけれども,前回会議において頂戴した御意見を踏まえて,特に乙案について記載内容を整理したというものでございます。
  次に,資料の6ページ最下段から,可分債権の遺産分割における取扱いについてでございます。
  甲案につきましては,前回資料から特段の変更はございません。
  乙案につきましては,相続人に例外的に可分債権の行使を認める方策について,前回会議の結果を踏まえて検討をしております。
  まず,預貯金債権について一定の管理処分権限を有する預貯金管理者を通じて相続人に預貯金債権の行使を認める制度,これを提案しておりますが,これは現行の遺産管理人,この制度の特則として位置付けるということを想定しております。すなわち,預貯金管理者は民法第103条に定める保存行為等を行う権限を有し,預貯金の管理に際して生じた費用の償還請求権,また報酬請求権を有することになりますが,預貯金管理者制度,これを設けた趣旨に鑑みますと,預貯金管理者が選任された場合には,預貯金管理者に預貯金債権の行使について一定の裁量を認め,その判断に基づいて預貯金の払戻しを受け,生計の維持等のためにこれを相続人に交付,あるいは相続債務を弁済することができることとする必要があるものと考えられますため,預貯金管理者には民法第28条を適用しないこととして,法律上預貯金債権についての包括的な処分権限を付与することとすることや,預貯金管理者を選任する際に,家庭裁判所が事案に応じて一定範囲の権限を付与することとするといったことが考えられるかと思われます。
  また,預貯金管理者の義務といたしましては,遺産管理人と同様に,預金の管理についての善管注意義務や預金目録の調製義務,相続人及び家庭裁判所に対する報告・管理計算義務を課し,家庭裁判所による監督に服することとすることが考えられます。
  ところで,このような預貯金管理者の制度を設けた場合には,相続人は,その都度裁判所の判断を求めることなく,必要に応じて預貯金の仮払を受けることが可能になりますが,他方,預貯金管理者の権限や家庭裁判所の監督権限の範囲,この要件の定め方次第では,かえって相続人間の公平を図ることができなくなるほか,預貯金管理者及びこれを監督する家庭裁判所に過大な負担が掛かり,制度の適切な運用が困難となるといったことも考えられるところです。
  そこで,預貯金債権につきましては,乙案(注2)㋐記載の銀行窓口における仮払の制度を設けました上で,これによって対処することが困難な場合につきましては,現行の仮分割の制度における「事件の関係人の急迫の危険を防止するために必要があるとき」といった厳格な要件を緩和して,ある程度柔軟に仮分割を認めるといった方策によって対処することも考えられます。これらの点についても,御議論いただければと考えております。
  最後に,資料の9ページ,一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等についてでございます。
  前回会議では,一部分割をする場合に審理の迅速化を図る観点から,中間決定によって遺産の一部を除外することができるようにすべきではないかとの御指摘がございました。この点については,一部分割の要件を明確化した場合に,一部分割をすることが許容される場合かどうかについて当事者間に争いがあるときには,この争いは家事事件手続法第80条に規定しています「審判の前提となる法律関係の争いその他中間の争い」に該当することになるものと考えられます。したがって,特段の手当てをしなくとも,家庭裁判所は争点を整理するために必要がある場合等には,中間決定をすることによって審理の迅速化を図ることができるものと考えられるところです。
  なお,この中間決定につきましては,取消し又は変更の対象になることなどから,争点整理としての効果は限定的なものではないかといった御指摘もございます。ただ,中間決定がされた場合には,通常はその判断に従って終局審判がされることから,なお争点整理としての事実上の効果を期待することができるのではないかと考えております。
  他方,現行法の中間決定とは異なり,遺産の一部を審判の対象から除外する法的効果を有する決定の制度を新たに設けるということも考えられますけれども,このような制度を設けた場合には,当事者の手続保障の観点から,当該決定に対する不服申立てを認める必要があるものと考えられます。そういたしますと,遺産の一部を審判の対象から除外する旨の決定がされた場合に,これに対する不服申立てが提起されたときには,上級審の判断がされるまでの間,事実上遺産分割の手続を行うことができないといった場合も考えられ,かえって審理の迅速化の要請に反する事態を招くおそれもあると考えられるところです。
  こういった点につきましても御意見を頂ければと存じます。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「第2 遺産分割に関する見直し」につきましては,3項目がございます。そのうちの一つ目の「配偶者の相続分の見直し」につきましては,字句の修正等はなされておりますけれども,実質的な内容には変更はないという御説明でございました。
  「2 可分債権の遺産分割における取扱い」につきましては,甲案については特に変更はない,乙案につきまして,預貯金管理者制度等による手当てにつきまして,御説明があったわけでございます。
  そして,3番目の「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」につきましては,前回出ました手続上の疑義につきまして,一定の御説明があったと承りました。
  この「第2 遺産分割に関する見直し」につきましては,浅田委員の方から資料が提出されておりまして,これにつきまして御発言があると伺っております。
○浅田委員 ありがとうございます。本日は中間試案の取りまとめの段階であることを認識しつつ,その上で,恐縮ながら少々お時間を頂戴しまして,私どもにおいて作成し手元に配布させていただいた資料に沿いまして,説明させていただきたいと存じます。
  すなわち,2の可分債権の取扱いに関し,今回修正がなかった甲案でございますけれども,従前の会合でも申し上げた,いわゆる勝手払い問題について,再度意見を申し上げたいと思います。
  なお,今回の資料では,乙案については,前回の検討に加えて更に仮払制度等につき検討を進めていただいた点は有り難く受け止めております。乙案になった場合には,銀行界としても実務対応が可能となるよう検討をしてまいりたいと思います。
  それでは,お手元に配布しました「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見の補足」という資料を御覧ください。
  1枚おめくりいただきまして,2枚目から3枚目は,第9回会合において私が配布しました資料を再度お付けしたものです。繰り返しとなり恐縮ですが,本論点は甲案の目指す預金の円滑な払戻しを実現するために重要な論点であります。そのため,銀行界が従前来主張しています別途の免責規定の設置が可能である場合は別として,本中間試案作成に当たり,その前提となる本論点に係る解釈について,その問題関心を改めてここで申し上げ,委員の皆様,事務当局,ひいてはパブコメを頂く方々の間に,この問題関心,及び,可能であればこの解釈論について共有していただければ有り難いと考えております。
  それでは,1枚おめくりいただいた右下1ページ目を御覧ください。
  本論点は,具体的ケースを想定しなければ分かりづらいと思いますので,第9回会議で御説明したものと同じ想定事例にて御説明いたします。すなわち,A,B,Cと3名,かつ相続分が均分の相続人がいる相続事例を想定いたします。
  相続人のうち1名たるAが,その相続開始の事実を秘して,被相続人のキャッシュカードを用いてATMで被相続人の預金60万円のうち40万円を引き出したとします。一方,BとCは被相続人の死亡時の残高60万円の3分の1である20万円の払戻しを請求したとします。ここでBとCからの請求時においては,預金残高は20万円しかありませんので,銀行としてはBとCに対して幾ら払い戻せばいいのかという問題に直面することになります。
  ページをおめくりください。今申し上げたケースにおいては,BとCの請求時の預金残高を法定相続分で分ける方法など,三つの考え方があります。ここに①,②,③があるわけですけれども,この点,定説はないと考えておりまして,銀行は相続人間の紛争に巻き込まれ,また二重払いリスクを回避するため,円滑な払戻しができなくなるということになります。
  そこで,これまで私どもは,請求時残高で払戻しを行う限り免責される旨の規定の創設や,銀行に相続の事実を告知しない間に行われた払戻しの部分については支払いを求めることができない旨の規定を設けることを提案してまいった次第です。
  これに対しては,前回の会合におきまして事務当局より,本問題については立法措置による必要はないということを前提だと認識しておりますけれども,要約いたしますと,勝手払い事案においては,銀行側に民法478条の免責が適用される限り,実際には請求時の債務残高でのみ弁済義務を負うこととなると考えられるのではないかとの御見解が示されたという認識でございます。
  そこで,ページをおめくりください。ここからが今回意見を述べさせていただきたいところです。
  前回の事務当局の見解については,結論として異論はありません。ただし,それを一般化することで将来の解釈リスクを減らし法的安定性を高めるという観点からは,その法的構成について整理を行っておくことが有用ではないかと考えております。
  そこで,先日の事務当局の御見解を敷衍して,今回,問題意識を整理してまいりました。そこで,今から,まずは私どもが整理したところを述べさせていただき,その議論が御異論なく広く共有され得るものなのか,この場で皆様にできれば確認させていただきたいところでございます。また,共有され得るものであれば,事務当局において,補足説明等においてその旨,御解説を頂くことを御検討いただければ幸いでございます。
  それでは,整理したところを述べさせていただきます。
  この問題を検討するに当たっては,詰まるところ,銀行が相続開始の事実を知らない間になした被相続人の名義預金の払戻しが相続人間の関係でどのように充当されるのかという問題に帰着すると理解しています。
  判例理論によれば,相続開始とともに預金債権は当然に分割され,法定相続人に帰属することになります。先の事例で言えば,下の図のように,A,B,Cにそれぞれ20万円帰属することになります。この黒字で書いてあるところですね。左も右も同じです。ここで銀行が40万円払戻しをしたときに,その払戻しがどの相続人のどの部分に対するものとして充当されるのかというのが問題であると思います。
  ここでは図のとおり二つのパターン,すなわち左のパターンαにおける緑太字のように按分して,すなわち40万円割る3の13.3万円ずつ充当される考え方が一つあります。それと,真実はAの払戻しなので,パターンβのように,右側でありますけれども,黄色い点線のように充当される考え方があり得るのではないかと思いました。
  これは,言わば分割複数債権における準占有者に対する免責の充当方法に関する問題ですが,この点については私が思うに,判例もなく,また従前,学説も見受けられない論点だと思います。この点,私は,銀行側が相続開始の事実を知らずになされた払戻しは,言わば概念的に被相続人の預金についての払戻しとみなされ,民法478条の対象も被相続人の預金への払戻しとなるのが合理的ではないかと考えます。むしろ,こういった見方をするほかないのではないかと思います。
  そして,これを可分債権の理論に引き戻した場合,考えてみますと,各可分債権に充当されなければならないのですが,この点を考えるに,パターンαの緑太字のように按分されて払戻しがなされ弁済充当がなされることになるものが妥当ではないか。まず,このように考えるほかないと考えます。
  そして,このような整理を前提としますと,銀行は残額20万円の払戻し請求があった際に,A,B,Cそれぞれに20万円から13.3万円を引いた6.7万円を払い戻すことになります。
  なお,民法478条の効果については,御案内のとおり,判例は弁済の効果が確定的なものであると判示しておりますけれども,学説では相対的効力と捉え,抗弁権的に解するものが有力とされています。しかしながら,弁済の対象及び範囲を,弁済後に判明した事実関係に従って,弁済者すなわち銀行がその裁量で変更することの可否についての議論は見当たらないと思っております。この点,私は裁量で変更することは合理的ではなく,不可と考えております。
  したがって,本事案において,当初ATMでの払戻しの際には認識していなかった銀行が,その後にAによる払戻しとの事実を認識するに至ったとしても,Aには6.7万円を支払うことになるとの解釈になると思います。
  ちなみに,最近の東京高判平成27年11月26日判決において,本資料4ページ下段のパターンαに沿った結論が判示されております。この判決は,店頭払戻し事案における下級審判決であり,また,判決文において本論点についての詳細な理由は見当たらないものなのですが,本論点に関する数少ない高判された判決例であり,参考になるかと思います。
  この結論につきましては,本資料3ページで挙げた3案のうち①,一番上の考え方と同じになります。この考え方でよいとすると,銀行は同じページの記載の②,③とするか迷ってしまうことなく,準占有者弁済が主張可能で,かつ,銀行がその主張を行う場合においては一義的に①の処理を行い円滑に払戻しが可能となることになります。そして,勝手払いによりAが不当に利得した部分は,不当利得の返還請求等により終局的な解決を図ることになると思われます。
  以上,述べさせていただいた考えに違和感がないか事務当局にお伺いしたいと同時に,また,可能であれば委員の皆様のお考えを伺うことができれば有り難く存じます。
  私からは以上です。お時間を頂戴しまして,ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,今のような御発言がありましたので,まず事務当局の方から。
○堂薗幹事 前回は,基本的に預金契約上の工夫をすることによって,要するに,相続開始の事実,被相続人が亡くなったということを金融機関に知らせずに権利行使をした場合には,死亡前に,被相続人の生存中に払い戻された場合と同じような取扱いをするという約定を設けた上で,そのような取扱いをするということが考えられるのではないかということで,お答えさせていただいたところでございます。
  特段,それ以上更に付け加えて申し上げることはございません。
○浅田委員 約款上の手当てにつきましては,もちろんそれが必要,有用ということであれば,今後における検討の一つとなりますけれども,今回の説明資料からは落としています。この約款上の手当てについては,そもそも民法的にどうなのか,またその預金約款上の位置付け,さらにそれは免責のための前提となるような銀行の善意,無過失を推定するのに有用なのかも併せて検討していく必要があろうと考えます。ないしは,いわゆるその充当の方法における特約として,その約定が必要なのかということも,多分議論になろうとは思いますのでその点も併せて必要であれば検討していきたいとは思っております。まずは,今回御説明した資料に沿って,充当の点についての皆様の御意見が伺えれば大変有り難く思っております。
○沖野委員 立法をするという前提ではなくて,取りあえず当面は現行法の解釈として,複数の考え方のうち,提示された解釈についてどのように考えるかということと思われ,その点をどこかで明らかにする,あるいは確立できれば,非常に実務的にも円滑に進むということと理解しました。
  それで,今回の問題の前段階というか場面設定といいますのは,銀行なり債務者は相続の事実を知らず,そのためにあたかも被相続人による権利行使という形で払出しがされたというときに,その後,相続が判明し,その際に共同相続人からの請求に対してどのような支払いをすべきかという場面の問題である。更に,その前提としましては,相続の開始を知らないでなされた払出し自体については,478条による準占有者弁済によって有効な弁済とされるという前提ですので,金融機関の支払い義務は残額のみについてあるところ,その残額をいかにして支払うのが金融機関の義務なり債務者の義務なのかという問題だと理解しました。
  そして,これはもちろん全く個人的な見解ですけれども,私は,解釈としては浅田委員がおっしゃった考え方が説得的ではないかと考えております。
  478条によって免責されることの意味ですけれども,飽くまで被相続人,実際には権利能力はなくなっているわけですので,形式としては被相続人に対するということにならないのかもしれませんが,もし被相続人に対するのでないならば,例えば相続人全員を代表してとか,相続のための費用ですとか,あるいは葬儀費用とかは費用負担者はよく分かりませんけれども,そういったものに必要であるという場合の払出しである場合や,あるいは相続債権者が預金の一部について権利行使をしたような,その被相続人が負担する,被相続人が死亡している時点では相続財産全体で負担する部分というか,その部分として正当な権利行使がされる場合と同様に考えられるのではないかと考えられ,それがしかし,実は権限を欠いたことによって準占有者弁済になってしまうのだけれども,有効なものとなるという場合に比して考えられるのだと思います。被相続人があたかも権利行使しているかのような形で有効になるのだとすると,それは相続財産全体なり相続人全体でその部分は払い戻されたというふうに,債務者との関係ではなるのではないか。そうすると,残っている残額については相続分によって払い出されるということで,①の解釈になるのではなかろうかというように現在は考えております。
  細かく言えば,2ページの(注2)も,そうすると,「出金者がAと特定できていれば」と書かれていますが,それも,Aがどういう地位において払出しを受けているかということによるということかと思います。私個人はそのように考えております。
○大村部会長 何かほかに御発言ございますか。
  浅田委員の御趣旨は,甲案をとったときに,その後の取扱いの安定性を確保したいという趣旨ですね。特別な規定を置かずに解釈で対応するという場合に,解釈についてどのくらいの幅があるのかということに関心をお持ちでおられると理解しました。478条が何らかの形で適用されたとして,その後の債権の状態がどうなるのかということについて御意見を伺いたいという御趣旨だったかと思います。
  沖野委員からは,478条が適用される際の考え方をてこにして,その後の債権の状況について一つの考え方をお示しいただいたわけですが,委員の皆様に解釈論を伺って,だからどうなるのだというものでもありません。しかし,何かこの場で御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
○潮見委員 現行法の解釈としては,Aが被相続人の預金として払い戻したということであれば,沖野委員がおっしゃられたとおりではないかと,私も思います。
  ただ,問題なのは,浅田委員が出された例はATMで払い戻しているのですよね。そのときに被相続人の預金だという形で払い戻した,自分はその何らかの関係者だといって払い戻した場合と,いや,自分にはもうこれだけの持分があるのだという形で,共同相続人の一人であるAとして払い戻したという場合かというところが,なかなかその具体的な事案において,確認ができないのではないかと思うのです。窓口に出てくればまた別かもしれませんが,設例で出しておられるようなATMの場合には難しいので,そういうこともあって,堂薗幹事の先ほどの発言にもつながっていっているのではないかというような感じもいたしました。
  そういう意味では,具体的に478条とか現行法の下での解釈がどうかということをもちろん踏まえた上で,その上で,更に銀行業界としても何か対策なり,あるいはその思案をするところを更に深めていっていただいた方がいいのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。解釈論として沖野委員がおっしゃっているのと一致する御意見を頂いたと思いますけれども,しかし実際の事案の出方によって,その解釈論が妥当するかどうかということが分かれてくる場合があるので,その辺りについては手当てが必要なのではないかという御意見だったかと思いますが,ほかに何か御指摘ございますでしょうか。
  浅田委員,差し当たり,今のようなことでよろしゅうございますか。
○浅田委員 はい,ありがとうございます。この論点について解釈論で処理するからにおいては,別に判例がない限り終局的な解決とはならないということだと思います。そこで,立法論での解決も一法かと思われますけれども,これを行わないということであれば,どこまでその解釈によって実務上の論点を乗り越えられるのかどうかということについて,銀行界としても判断することだと認識しております。今回の御議論により,その許容度を,ちょっと感触をある程度つかめたのかなと思っております。
  この点については私どもも,もちろん自らの問題として検討してまいりたいと思いますけれども,ひいては国民にとって非常に利便性に関わることでございますので,御意見等がございましたら引き続きお寄せいただければとは思っております。
  また,繰り返しになりますけれども,もしこの議論の中で書けるものがあるのであれば,補足説明等で反映していただければ,私どもとしては有り難いと思います。
  以上でございます。ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  今の可分債権の取扱いも含めまして,この「第2 遺産分割に関する見直し」につきまして,他の御意見を伺えればと思います。いかがでございましょうか。
○潮見委員 甲案の(1)の⑦の㋒ですが,⑥の相続人とあるのですが,以前のものであれば,⑥を見れば,「相続人が遺産分割により法定相続分を超える割合の可分債権を取得したときは,その相続人は」ということでしたよね。今回は,その「法定相続分を超える割合」を消していますよね。ということは,法定相続分を超えない割合で可分債権を取得した相続人,それもこの⑥の相続人に入るのかどうかということだけ,ちょっとだけ教えてください。
○堂薗幹事 この⑥を修正した趣旨は,第3の,遺言による権利変動のところでも同じような規律を設けているのですけれども,そこと表現の平仄をとったという趣旨でありまして,実質を変えるつもりはありませんでした。
  したがいまして,この⑥の相続人というのは,本来は法定相続分を超える割合の可分債権を取得した者を指している趣旨だったのですけれども,そのような趣旨で修文をした関係で,そこが読みにくくなっているところはあるかと思いますので,表現については工夫させていただければと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○村田委員 預金管理者の関係なのですけれども,ここの資料にも今回お書きいただいたとおり,なかなか預金管理者の制度を正面から定めようということになると課題も多いところですので,これを本文からは落としていただくということには賛成ですし,そういう意味で,預金管理者の制度は今回,意見を広くお聞きする主たる対象ではなくなるということだと理解を致しましたが。他方で,預金管理者の制度については補足説明に記載されておりまして,補足説明に記載されることによって意見を出しても構わないという位置付けになるのであれば,預金管理者の持つ裁量の性質なり範囲なりということについて,もう少しイメージを持ちやすいような説明をしていただけたら有り難いなと思っております。
  この点,補足説明では,預金管理者の制度について,遺産管理人の制度に近づけて規定するという考え方が示されているのですけれども,財産管理を目的とする既存の法制度のうち,どういったものに近づけたらイメージしやすいかということを考えたときに,遺産管理人の制度や相続財産管理人の制度と言われているようなものにおいては,基本的に財産を使わせないで保全しておくということが想定されている一方で,預金管理者の制度では,むしろ,ある程度の裁量を預金管理者に与え,その裁量の範囲内で預金管理者をして預金の払戻しを受けさせるなど目的財産を使わせることが一定程度想定されているように思われます。このように目的財産を使わせるという前提で考えると,遺産管理者の制度というのは,むしろ成年後見制度ですとか,一部代理権を与えられる保佐,補助の制度など,ある意味,財産をいかに有効に使ってくかという観点から財産を管理する制度に近いと考えることもできるように思われます。
  預金管理者の制度については,まだ詰められていないところも多く,既存の法制度のうちどれに近づけた方がイメージしやすいのかというのは,なかなか難しい問題ですけれども,単に遺産管理人の規定がある程度使えるのではないかというだけで預金管理者の制度を遺産管理人の制度に近づけて考えるというのは,ややミスリーディングかなという気もするものですから,この点については慎重に検討して頂ければ有り難いかなと思います。
  また,制度を運用する裁判所の立場からしましても,預金管理者に一定の代理権を付与する,あるいはその裁量を認め,その行使について監督をしていくということになったときには,そもそもどういう範囲のことができる人として預金管理者が想定されているのかということをイメージできないと,適切な代理権付与や監督ができませんので,その点についても,もう少し御説明を頂けたら有り難いなと思ったところです。
○堂薗幹事 はい,検討させていただきます。そこは正にこの預金管理者をどういった場合に選任できるようにするのか,どういう目的で選任できるようにするのかというところと密接に関連するものと思いますが,正直なところ,まだそこが十分に詰め切れておらず,具体的に書くことが難しい面がございます。もっとも,もう少しイメージがしやすいようにという御趣旨を踏まえて,少し考えてみたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。よろしゅうございますか。
○村田委員 はい,結構です。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょう。
○石井幹事 資料の10ページの3の(1)②の「一部分割の審判において,特別受益に該当する遺贈又は贈与の全部又は一部を考慮することができなかった場合はこの限りでない」という部分については,記載ぶりが従前のものから変更されております。
  前回の部会の際,この要件の位置付けについて,実体法的な概念であるというような御説明もあったかと思うのですけれども,この書きぶりからすると,必ずしもどのような場合が想定されているのか明らかでないようにも思われるので,補足説明等では,この意味するところを少し明確にしていただければなと思っています。
  例えば,一部審判がされた手続において,客観的に主張はできたのだけれど主張しなかった特別受益等や主張はしたけれども認められなかった特別受益等を残部審判の手続の際に主張することができるのか,できないかとかいった点等をもう少し明確にしていただけますと有り難いなと思います。
○堂薗幹事 検討いたします。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  「第2 遺産分割に関する見直し」について,字句の修正と,それから補足説明の中での記載について御意見ありましたけれども,そのほかの点につきまして,いかがでしょうか。
○村田委員 中間決定については,今回,補足説明をしていただいているのですけれども,一部除外はしないという中間決定がされれば,遺産として認められる財産全体が分割対象になることをその後の手続の前提にできますので,それはそれで意味があることだと思います。他方で,一部除外をするという中間決定をすることがその後の手続にどのような意味を持つことになるのかということを考えたときには,少し分からないところがあります。この点に関しては,前提として,一部除外をするという中間決定をしたとしても,そのことによって審判対象からの除外という効果が直ちに生じるわけではなく,審判対象から一部を除外することが最終的な判断の中で改めて示されるという理解でよろしいのでしょうか。
  すなわち,その最終的な判断のところで,改めてこの部分が除外されるという判断が出ることによって,はじめて審判対象からの除外という効果が生じ,その点についての不服は最終的な判断に対する不服として申し立てられるという構造になるのか,それとも,そうではなくて,中間決定により直ちに審判対象からの除外という効果が生じ,それ自体が独立して不服申立ての対象にされるということまで含めて言っておられるのかというところを確認させていただきたいのですけれども。
○堂薗幹事 基本的には後者の方で考えておりまして,ただ,中間決定で,この部分は除外するという判断をしても,その後,裁判所がそれに拘束されるわけではないという面が家事事件の場合にはありますので,先ほどのような説明をさせていただいたところです。中間決定においては,除外すべき財産を特定せずに一部分割し得るとか,そういったことは想定しておらず,基本的には除外すべき財産を全部特定することを想定しておりますが,そのような前提の下で,争点整理の目的のために中間決定が利用できるのではないかという趣旨でございます。
○村田委員 今おっしゃられたとおり,正に争点整理で,言ってみれば民事訴訟で弁論を制限するような位置付けのものと理解するとなると,そのこと自体にも不服があるときには,それはもう最終的な終局決定の中で併せてといいますか,不服申立てができるという形で不服申立権を確保すると理解すればよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○村田委員 分かりました。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  それでは,「第2 遺産分割に関する見直し」につきましても,表現につきましては所与の修正を加えていただきまして,この内容で取りまとめをさせていただくということにいたします。
  続きまして,「第3 遺言制度の見直し」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,関係官の満田から,「第3 遺言制度の見直し」について御説明させていただきます。
  まず,「1 自筆証書遺言の方式緩和」につきましては,前回の部会資料からの変更点はございません。
  続きまして,「2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」につきまして,前回会議では特段の異論はございませんでしたが,債券取得の対抗要件の具備に関し,より簡易な通知方法の要否について今回,補足説明に記載させていただきました。これは部会資料12ページの(1)②アに記載されております「相続人全員による通知」に代えて,「権利を取得した相続人が,遺言の内容を明らかにする書面を示してする通知」という方法を設けること。このことが可能かつ適切なのか検討したいというのが,その趣旨でございます。
  この点につきましては,本日机上に配布しました1枚紙の表,「遺言による権利移転に関する対抗要件の要否の整理表」というものを御覧ください。
  この表は,不動産と債権について,相続分の指定,遺産分割方法の指定,これは相続させる旨の遺言でございますが,それと遺贈等の遺言による権利取得において,現行法上の対抗要件の要否とその方法がどうなっているか,今回新たに規律する改正後の対抗要件の要否及び方法,これをどうなるかというところを整理したものでございます。
  これまでは遺言による権利の承継に関する,部会では規律として特定承継,これは遺贈でございますが,遺贈であるか,相続分の指定や遺産分割方法の指定のような包括承継であるかを問わず,法定相続分を超える部分の権利取得については一律に対抗要件の具備を要求することとした上で,債権を取得した場合の対抗要件の方法について特則を設けるということとしておりました。これは,その表の債権というところの改正というところの一番下に記載されてあるものでございます。
  しかし,この点については,現行法上は相続分の指定や遺産分割方法の指定等の相続による債権の取得については,対抗要件が不要と解されているにもかかわらず,改正後はそのいずれについても対抗要件の具備が必要となることになりますし,その場合に,その方法として,相続人全員による通知か遺言執行者による通知かしかないことになりますと,このような通知方法では権利の取得者の負担が相当重くなるのではないかという点が気になったというところでございます。
  また,不動産の権利取得につきましては,その表の参考というところに書いてありますように,対抗要件の具備については権利取得者による単独での登記申請を認めることとされている部分もございますので,その場合や,その表の一番下の米印に書いてありますとおり,遺産分割協議による債権の取得については,権利取得者による単独での通知を今回の中間試案でも認めているということとの関係で,遺言による債権の取得についてもそのような権利取得者単独での対抗要件の具備を認めることがどうかと,これを認めないことはこれらのほかの規律との整合性とどのように整理すればいいかという点も問題になるように思われましたので,このような権利取得者による単独での通知を認めることができるのかどうかに関し,中間試案の補足説明に記載することの是非について,是非御議論いただければと存じます。
  続きまして,3番の「自筆証書遺言の保管制度の創設」につきまして,説明をさせていただきます。
  この方策の内容に実質的な変更はございませんが,表現ぶりの修正等を施しております。
  前回会議におきましては,遺言保管業務を行う公的機関について,今後も議論が必要であるとしても,現時点で既に特定の機関,例えば市区町村を想定しているのではないかといった誤解を招かれないように,中間試案においても丁寧な説明が必要であるとの御指摘がなされました。また,仮に市区町村で保管業務を行うとした場合には,情報漏えいのリスクや転居時における対応の困難さ等の問題がございますので,難しい面があるのではないかという御指摘も頂いたところでございます。
  そこで,このような御指摘を踏まえまして,本部会資料では(注1)のところに記載がありますとおり,保管業務を行う公的機関については,設備や実務の面において,全国で統一的な対応が可能な機関を想定している旨を記載しております。
  なお,従前記載しておりました(注5)の部分につきましては,内容がやや細かいところに及びますため,こちらからは削除しておりますが,この点は中間試案の補足説明において同様の記載をする予定でございます。
  更に,4番の「遺言執行者の権限の明確化」に関して,更に説明をさせていただきます。
  まず,遺言執行者が負う一般的な義務の内容に関して,従前から遺言執行者が忠実義務を負うことを明示することが考えられるのではないかとの御指摘を頂いていたほか,少なくとも民法第108条が適用されることを明確にすべきであるなどの指摘も頂いておりました。
  この点については,遺言執行者は現行法の下でも法定代理人であると解されておりますところ,一般的な権限の見直しはこれらの考え方を変更するものではございませんので,民法第108条が適用されることを当然の前提とするものでございます。
  もっとも,この点を条文上どのように明確化するかに関しましては,法制上の問題もございますので,忠実義務の明文化も含め,遺言執行者の一般的な義務,この内容の定め方については今後の検討課題である旨を注記することといたしました。
  更に,預貯金債権につきましては,その行使権限に関して,従前から遺言執行者に原則的に権利行使の権限を認めるべきものは預貯金債権に限られないのではないかなどの御指摘も頂いておりましたので,前回の部会資料では,継続的契約から生じる遺産に属する権利につきましても,解約事由に着目した上で一般化できないかという考え方を取り上げさせていただいたところでございます。
  このような考え方については特段問題点の指摘はございませんでしたが,遺言執行者に対して,その遺産についての処分権限を付与すること,これが濫用の危険性があるのではないかという懸念が従前から示されたところでもございますので,この点については,遺言執行者に処分権限を付与する場合がどういう場合にあるのか,どういう場合に正当化されるのかといった観点から慎重な検討が今後とも不可欠であると思われますので,今後の検討課題であるとの注記を致しました。
  最後に,遺言執行者の復任権・選任・解任等につきましては,前回会議におきまして,遺言執行者に相続人全員の同意を得て辞任することを認めるなど辞任の要件についても緩和すべきではないかとの御指摘を頂きましたが,現行法上,代理人の復任権と辞任の要件については一定の関連性があると思われますし,復任権と辞任の要件のいずれにおいても一定の制限が課されていること,遺言執行者の自由な辞任を認めますと,遺言執行者の存否に関し家庭裁判所の判断が困難になるおそれがあることなどがありますので,その復任権に関する要件の緩和に加えて,更に裁判所の許可を得ずに辞任を認めることについては,必要性及び相当性になお疑問があると思われましたので,今回の辞任要件の緩和については注記をしないことといたしました。
  なお,この点につきましては,中間試案の補足説明においては記載する予定でございます。この点についても御指摘等を頂ければと存じます。
  以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  遺言制度の見直しにつきましては,4項目がございます。
  1点目の「自筆証書遺言の方式緩和」については,特に変更はないということでございました。
  2点目の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」につきましては,債権についての対抗要件の具備について,補足説明の中で問題提起をしたいという御趣旨だったかと思います。
  それから,3点目の「自筆証書遺言の保管制度の創設」,これは13ページの(注1)で保管を行う公的機関について一定の記載をしたというのが中心かと思います。
  4点目,「遺言執行者の権限の明確化等」につきましては,15ページの(注1)で,「遺言執行者が負う一般的な義務の内容をどのように定めるかについては,なお検討する」という記載をするということが中心的な修正だったかと思います。
  あわせて,16ページの(3)の(注2)に,「遺言執行者に権利行使を認める債権の範囲については,なお検討する」という記載を加えるということだったかと思います。
  以上の点,あるいはその他の点も含めまして,御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。何か御指摘ございませんでしょうか。
○浅田委員 それでは,幾つかあるのですが,まず,2の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」に関して,意見というほどでもないのですけれども,感想を申し上げておきたいと思います。
  この中で,「簡易な通知方法」ということが今,御検討されるということでございます。この点に関しては,銀行預金も含めて関心を持つところでありますけれども,どれがいいのかということについては,銀行界としてまだ確定的な意見を述べる段階にはありません。ただ,私見としては,簡易な通知の方法が盛り込まれることについては前向きに検討できるのでないかと,相続人又は受遺者の負担感にも鑑みて,思っております。
  ただ,やはり悩みどころというのは,全員からということで,権利義務関係が明確であったことが,それが簡易化されるわけですから,その確認の確実性というのがいかに担保されるのかということであろうと思います。
  これは,この表でお示ししていただいたとおり,ある意味,確認というのは非常にまだら模様になっているわけですから,そもそも全て確認するのかというところのバランスの問題だと思っております。この点について,引き続き検討していきたいと思っております。
  ただ,現状は多分に中間的なところがあるかと思いまして,簡易な方法ということを追加する場合でも,何らかの留保といいましょうか,例えばその相続開始の事実や,自ら受遺者であるということを示す資料とともに通知した場合とか,何かそういう条件というものの追加を今後検討する必要があるのかなと思っております。これは意見でございます。
○堂薗幹事 どうもありがとうございました。
  こちらで是非,今日御意見をお伺いしたい点といたしましては,先ほど満田の方から御説明したとおりなのですけれども,遺産分割の場合の対抗要件具備につきましては,その権利を取得した人が遺産分割の調停調書,あるいは審判書,あるいはその遺産分割協議書と,その相続人の範囲を明らかにする書面を示して通知すれば,対抗要件の具備を認めるということにしておりますので,それとパラレルに考えますと,こちらの遺言の方も,その遺言書なり,あるいは自分の身分を明らかにするような書面を添付することによる対抗要件の具備を認めることが必要かどうか,あるいはそれが相当かどうかという点について,何らかの御意見がございましたらお伺いできればと考えております。場合によっては中間試案の補足説明に書くことも考えたいと思いますし,今後我々の方で検討を進めていく上でも,もしこの段階で何か御意見がございましたらお聞かせいただければと考えている次第でございます。
○浅田委員 認識を明確にしたいための確認なのですけれども,パラレルということにつき,こういう問題認識があるのではないかということを指摘させて頂きます。両者は,理念的にはパラレルに考えられるとは思います。ただ,現実的な信頼性のレベルということからすると,遺産分割は,その分割協議が成立して全員合意しているわけですから,印鑑証明とかによる確認ということも事実上は安易に取られるという状況です。他方で,この場面は,遺言でありますから,遺言に関連しては様々な無効とか偽造とか信頼性に対する疑義が呈されるものに関してあるわけです。そこで,それを同列に論じていいのかどうかというところは,これはどちらかというと実証的な観点から検討されるべきではないかなとは,今,思いました。
○堂薗幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 御意見として承ります。
  そのほか,いかがでございましょうか。今の点について何かございましたら,是非お聞かせいただきたいと思いますし,その他の点でも結構出ございます。
○山本(克)委員 私もちょっと公務,本部の関係でなかなか出席できずに乗り遅れていますので,場合によってはもう既に議論済みのことをお伺いすることになるかもしれませんけれども,遺言執行者の権限の15ページの(1)の②は,「遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属する」というのは,これは代理的なことを考えているということですよね。
  それで,16ページの(3)のアの①で,ここは「遺言執行者が遺贈義務者となる」というのは,何か矛盾しているような気がする。実体法的な義務者になるということになっているように思って,何か矛盾するような気がするのですが,そこはちょっと私の勘違いでしょうか。
○堂薗幹事 遺言執行者の場合,基本的に相続人の代理人的な立場で行為をするということにはなるわけですが,ただ,実際に遺言執行者が何らかの法律行為をする場合に,本人の代理人になることを示してというよりは,遺言執行者の身分を示して法律行為をするということだと思います。そういった意味において,特定遺贈がされた場合には,当然,遺言執行者がいなければ相続人が遺贈義務者になるわけですけれども,遺言執行者がいる場合は,遺言執行者が言わば独立の立場で遺贈義務者になりますが,その行為の効果は本人に帰属するということだと思います。したがって,遺言執行が終了した後に何か問題が生じた場合には,効果としては本人に帰属し,本人に対して責任追及をするということになると理解しております。もっとも,御指摘のような問題はあるように思いますので,もしよろしければ,民法の実体法の先生の方から何か補足がございましたら,是非お願いしたいと思います。
○大村部会長 どなたか,何か,ありますか。いかがでしょうか,今の点につきまして。あるところは言葉遣いの問題なのだろうと思うのですけれども。
○沖野委員 私も余り考えていないので誤ったことを言うのかもしれませんけれども,遺贈義務者の意味ですけれども,これはその義務履行責任を負うということが主眼で,登記などをするときも遺言執行者が義務者として登記をするということで,では,そのときに財産はどうなっているのかという,遺贈で直接行くとすれば,被相続人から直接行っているわけですが,その権利の帰属の主体がどうかといった話と,履行責任を負うかというところを一応区別し,その義務者としての責任を負うかという観点から「遺贈義務者となる」という言葉が使われているのではないかと理解しているのですけれども。そういうふうに考えますと,そのした行為の効果というか,それが帰属していくという,した効果が帰属するという話と,義務者としてそのような履行義務を負うというのは,一応は両立し得るのかなと思っておりますが。
○山本(克)委員 それに気になったのは,13ページの上の方の(3)の「遺贈義務者」というもの,ここで「遺贈義務者」と使っている言葉の内容と,16ページの方の(3)アの①の「遺贈義務者」という言葉がイコールなのかどうかというのが気になって,16ページの方は,恐らく遺言の執行の一環として特定遺贈の履行行為をする義務を負うと,職務上の義務だという趣旨ですよね。ところが,13ページの(3)の①の遺贈義務は別の意味で使われているような気がしたので,正に部会長がおっしゃったように言葉遣いの問題なのですね。
  ですから,私が言いたいのは,16ページの方をちょっと表現をお変えになった方が望ましいのではないかということなのですが。
○堂薗幹事 御趣旨はよく分かりましたが,この13ページの方も恐らく,遺言執行者がまだ職務を終えていない段階では,遺言執行者が履行義務を負い,ただ,その行為の効果は相続人に帰属するのだと思いますが,その後,遺言執行者がその職務を終了した後に担保責任を負うような場合には,相続人が責任を負うのではないかという気がいたします。また,16ページの方は,正に遺言執行者がいるときに遺言執行者が遺贈義務者となるというところがこの肝となる部分ですので,変えるとすると,どちらかというとその13ページの方を,誤解がないように変えた方がいいのかなという気もしているのですけれども。
○大村部会長 いずれにいたしましても,言葉の使い方として,紛れが生じるのではないかという御指摘がされているので,実質をよく表すような形で表現を調整するか,同じ言葉を使うのであれば,少なくとも補足説明の中で明確な区別をする必要があるのではないかと,こういうことでよろしゅうございますでしょうか。
○山本(克)委員 あとはお任せいたしますので。
○大村部会長 今の点,よろしいですか。
○潮見委員 変えるのであれば,やはり今おっしゃったように13ページの遺贈義務者という表現がまずいのではないかという感じがします。
○大村部会長 最終的には事務当局の方で御検討いただくということにしたいと思いますけれども,今の御指摘もありますので,変えるとすれば見え消し版で13ページの方を考えていただいてはどうかという,御意見として承ります。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○浅田委員 遺言執行者の権限の明確化ということで,部会資料の15ページの(3)「個別の類型における権限の内容」に関して,再度御質問させていただきたいと思います。
  遺言執行者の権限の明確化に関連しましては,従来,何回か御質問を差し上げており,この点についても繰り返しになって恐縮なのですが,遺言執行業務の観点から重要だと考えておりますので,従前私どもが関心を有していた事項について,今回の中間試案の内容を明確化するということの観点から,更に大きく2問,質問させていただきたいと思います。
  大きな1問目としまして,この同じページ,4の(3)のイの②で適用があるところの,その①ですね。遺産分割方法等の指定がされた場合における特定財産について,特定の相続人に取得させる旨の遺言がある場合,遺言執行者は対抗要件具備のための必要な行為をする権限を有するとされていますということでありますけれども,この点について細かく2点質問します。
  なお,この質問については,一般的な遺言執行者に関する議論に関しては,15ページの一番上の(注1)で「なお検討する」とは書いてありますけれども,個別の事案についてどこまで今後検討を予定されているのかということがちょっと分からなかったものですので,今この機会で質問させていただきたいという趣旨でございます。
  その細かな1点目というのは,遺言執行者は受益相続人が対抗要件取得を行わないことが判明した場合において,初めて,遺言執行者による対抗要件取得が必要なときに就任後の合理的期間内に当該権限を行使し登記を行えば,注意義務を果たしているものと考えてよいかという点です。
  すなわち,遺言執行者は本案のとおり,対抗要件具備を行う権限を有するということでありますけれども,受益相続人がその対抗要件具備を一義的に行うべきものと考えて,その遺言執行者の注意義務の発生というのは,同人が,受益相続人が行わないことが判明した場合に,言わば二義的に発生するものだと考えてよいかということであります。
  細かな2点目というのは,遺言執行者の登記前に共同法定相続人が遺言の存在を秘するなどして,その持分を勝手に処分するなどによって受益相続人に損害が発生した場合であったとしても,受益相続人には,そもそも単独で登記申請をすることにより自分で当該処分を回避する手段があったため,受益相続人等から遺言執行者に対する損害賠償請求権は原則として認められないということでよいかということであります。
  まず,この大きな1点目,遺言執行者の義務の,ないしは責任の二義的か一義的なものなのかどうかということについて,お答えいただければ有り難いと思います。
○堂薗幹事 御質問の点につきましては,若干この点は,現在は判例の考え方を変えている面はあろうかと思いますが,遺言執行者に対抗要件具備についても権限を認めていますので,その点については当然,善管注意義務を負うということになり,必ずしも受益相続人がしない場合に義務を負うということを考えているわけではありません。こちらとしてはそういう認識です。
  ただ,対抗要件具備が遅れたことによって何らかの損害が生じ,損害賠償請求がされた場合に,当然に遺言執行者がその責任を負うかどうかという点については,受益相続人の方でもそういった手段がとれたということが考慮されるのではないかということで,ここは従前からそういう御説明をさせていただいているかと思います。したがって,その場合には損害賠償は認められない,あるいは責任の範囲が縮減されるということの理由にはなるのではないかと考えているところでございます。
○浅田委員 ありがとうございます。
  続きまして,大きな2問目を挙げたいと思いますけれども,同じく4の(3)のイの②の特定物の引渡しが対抗要件となる場合です。その特定物の引き渡す権限を有する点についての御質問であります。
  ここも細かな2点の質問があります。すなわち,この点もお尋ねしたところでありますけれども,その点について,事務当局からは,本規定案というのは,第三者が占有しているケースにおいて,指図による占有移転を行うことを想定しているとおっしゃったと私は記憶しているのですが,ちょっと私の記憶間違いかもしれませんけれども,この点について,提案内容の明確化のために,もう少し確認をさせていただきたいと思います。
  細かい1点目は,こういうケース,つまり被相続人が占有していた特定物について相続させる遺言がなされた場合は,受益相続人は相続により被相続人の占有を取得し対抗要件を備えることができるため,相続人が対抗要件を備えるために必要な行為はないと理解してよいかということです。直接占有の場合には,相続によって対抗要件が承継されるから,改めて遺言執行者が何かをする必要がないということと考えていいかどうかということであります。
  そして,このことは,例えば,第三者が占有権限に基づき倉庫で保管している等の場合を考えますと,この場合であったとしても,受益相続人というのは被相続人の占有権たる間接占有を相続するため,相続人が対抗要件を備えるために必要な行為はないということと理解してよろしいかという話であります。第三者の倉庫等に入っている場合であったとしても,間接占有というのは相続で承継されるから,改めて遺言執行者が何かする必要はないのではないかということになります。
  次に,細かい2点目でありますけれども,今回その試案で,4の(3)のイの②のただし書で,同①の規定を適用すべしとしていますけれども,この同①の規律が想定しているのは,結局は指図による占有移転を行う必要な場合,すなわち第三者が権限なくして被相続人の財産を占有するケースに限られるのではないか。その場合においてのみ,遺言執行者は第三者から引渡しを受け受益相続人に引き渡す権限を有するということと理解していいのかということについて,ちょっとケースとして入り組んでいるかもしれませんけれども,について明確化のためにお尋ねしたいと思います。
  質問は以上です。
○堂薗幹事 ただいまの点ですが,前回の私の説明が不十分だったのかもしれませんが,私としては,ここで言う引渡しは,要するに動産の対抗要件としての引渡しをしなければならないということですので,基本的には民法で書いてある四つの類型のいずれかの方法で引渡しが必要だという前提です。
  ただ,被相続人が現実にその目的物を支配していたというような場合につきましては,判例があったかと思うのですが,相続によって観念的に相続人がその占有を取得すると。占有は事実状態を示す概念なので,それが承継されるかどうかというのは争いがあるかと思うのですが,先ほどの判例によって引渡しがされていると見られるのであれば,それで足りているのではないかということを前回は申し上げたつもりでございまして,間接占有の場合に同じようなことが言えるかというと少し難しい面があるのではないかと考えております。その点については十分に検討できておりませんが,必ずしも被相続人が現実に支配していた場合と同様ということにはならないのかなというのが現時点での印象ということになります。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○増田委員 直接この中間試案に関わることではないのかもしれないのですけれど,恐らく整備法において,不動産登記法が若干いじられるのかなと思っているのですが,その場合に,いわゆる遺産分割方法の指定,遺言に関する単独申請というのは,それを維持されるのかどうか。
  それから,今のイのところなどを見ると,遺言執行者がある場合には,遺言執行者が登記義務者になるというような立て付けも考えられるのではないかと思いますので,その辺どうお考えなのかということと,先ほどちょっと山本克己委員などからお話があった遺贈義務者に関してですが,従前,相続人の代理人という構成の下に,遺言執行者が相続登記をした上で移転登記をしていたところ,それが相続人の代理人ではなく遺贈義務者となることによって,その辺りの,変更をお考えなのか。つまり,遺言者から直接,受贈者に対して登記をできるようにするのか,あるいは,遺言執行者にその相続登記をするための何らかの権限を認めた上で従前と同じような移転をするのかという,その辺り,ちょっと,直接これに関係なくて不動産登記の関係なのですけれど,今の段階でどのようにお考えなのかという点だけ,お伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 まず,遺言による権利変動についても対抗要件が必要だということをした場合に,相続させる旨の遺言の場合には,現行制度の下でも単独申請になっているわけですが,そこを変更する必要はないのではないかと考えております。むしろそこを変更しなければならないということになりますと,現行よりかなり手続的に負担が増えることになりますので,こういった改正をすることも難しくなるのではないかと考えておりますし,このような改正をすることと,単独申請なのか共同申請なのかというのは,もちろん関連性はないとは言いませんけれども,このような見直しをするのであれば,共同申請にしないと理論的に整合性がとれないとか,そういったものではないのではないかというのが現時点でのこちらの整理です。
  それから,すみません,2点目の御質問についてもう一度おっしゃっていただいてよろしいでしょうか。
○増田委員 遺言執行者は,今は相続人の代理人として相続登記をした上で,それを受贈者に対して移転登記をしているわけです。登記義務者の代理人として移転登記をしているわけですね。今度,相続人の代理人ではなく遺贈義務者ということになった場合に,直接の移転登記になるのか,従前どおりとしたらいかなる権限を持って相続登記をするのかという辺りのことです。
○堂薗幹事 その点は,現行のやり方についても十分な検討ができていませんので,今後検討したいと思います。事務当局としては,遺贈義務者になるので,直接移転登記ができてもいいのではないかという問題意識は持っているのですが,その辺りの手続をどうするかというのは,正に不動産登記を所管する民事二課と共に検討しなければいけない事項ですので,現時点では,確たることは申し上げられないという状況でございます。
○増田委員 私も直接,移転登記ができる方が実体法上の物権変動を反映するものと思います。よろしく御検討をお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。今の点は御意見として承って,更に事務当局の方で御検討いただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 具体的な,こうすればいいという提案ではないのですが,不安だけを少しお話しておきたいと思います。
  建設的な提案が出来ないのは,日本相続法では,遺産分割手続に関与する公的な主体がおらず,それを全部,私人である相続人たちに委ねてきたという構造的な困難を抱えているためです。そういう相続法であるにもかかわらず,なんとなくやりくりしてきたのは,戸籍と住民登録と登記のおかげでしょう。印鑑証明で意思確認ができることと,相続人がわかることから法定相続分を頼りに,なんとか動かしてきたわけですが,実際には相続人の濫用や放置という危険があって,そのリスクは取引相手方あるいは共同相続人に負担させてきました。このたび遺言をかなり活性化するという提案になっていて,日本の相続法は,遺産分割を管掌する,先ほどの預貯金管理者的な発想の存在がないのですが,条文上は,遺言執行者が置かれたときには,遺言執行者と裁判所が共同する形で,ある種それに代わるような存在として動く仕組みになっています。
  これからもし遺言を活発化して,例えば銀行実務がこの遺言活性化を利用して,遺言執行者が付いている遺言相続が一般に相当数存在するということになりますと,民法の条文通りに動き始めたときに,それだけの負担,動かす負担について,家庭裁判所の実務の方で対応できるのか,いささか不安です。前回,遺言執行者の復任権・選任・解任などについて,もう一度お考えいただく必要はないのでしょうかと発言しましたのは,そういう趣旨がありました。家庭裁判所が成年後見の管理監督義務を課せられて,その負担に耐えられない体制規模なのに国賠請求が認められてしまったので,慌てて信託銀行と協力して管理体制を作り,監督できないから親族後見人を選べなくなってしまう,という動きに似たようなことが,この遺言執行者の管理についても起きてしまうのではないかという不安感がございます。
  具体的に建設的な提案をできなくて申し訳ないのですが,遺産分割を管轄する公証人というような要を欠いたため,構造的な困難を抱えている日本法の中で,遺言がなされたときだけ,遺言執行者と家庭裁判所のタッグによって遺産分割手続が動かされるという構造になったときのリスクや負担を,もう少しお考えいただく必要があるように思いました。
  先ほどから議論されている債権取得の対抗要件問題なども,これも同じ構造であるように思います。つまり,基本的には法定相続分を信用して取引した相手方を守るという形で,それが守り切れなくなった部分については今度の改正で手当てしましょうという改正です。公的な遺産分割手続関与者がいない中で日本法が何とかやってきた従来の手法を重視する改正をなさったので,それに伴って,債権の方で若干の齟齬が出たということなのだろうと思うのです。その手法で行かれるのであれば,行くべきだと思っているわけではありませんが,どこまで手当てが可能かは判断で,もう債権については切るという判断もあり得るかもしれません。でも個別の法定相続分で決定するのであれば,債権についても手当てをする必要があろうと思います。
  漠然とした不安を述べるばかりで申し訳ありませんが,個別の論点の背景にそういう構造的な困難があって,そして今回の改正が大きく,遺言の活用の方向に,遺言執行者と家庭裁判所が関与して動くという方向にかじを切られたように思うので,十分にそこの手当てをお考えいただく必要があるように思います。
○堂薗幹事 今後の検討においても,御指摘を踏まえた検討をしたいと思います。1点,遺言執行者の法的地位につきましては,弁護士委員からの問題提起を受けて検討を始めたところですが,基本的には遺言者の意思を実現するということですので,後見人のように公的な立場で財産を管理する人とは違って,家庭裁判所が遺言執行者に対して後見人と同じような監督をしなければならないとか,そういったものではないのではないかというのがこちらの考えでございます。
  ですから,この遺言執行者の見直し,選任や解任の辺りにつきまして見直しの提案をしておりますので,その点について家庭裁判所の負担がどうかというところは慎重に検討していく必要があるかと思いますが,遺言執行者の監督を現行法よりも強化するとか,そういったところまでは想定していないというところでございます。
○大村部会長 水野委員の御意見ないし御質問と,堂薗幹事の答えの中で,遺言執行者の位置付けについて,多分,認識の重点の差があるように思いますけれども,水野委員の御発言は,堂薗幹事がおっしゃったような観点とともに,遺言執行者の公的な職分についても考えていただきたいという御要望として受け止めさせていただくということで,よろしゅうございますでしょうか。
○水野(紀)委員 はい。
○中田委員 今,水野委員が最後の方におっしゃったことで,戻れるのですけれども,部会資料12ページの補足説明にあります債権取得の対抗要件具備に関する簡易な通知の方法について,途中で切れてしまったように思うものですから,2,3申し上げたいと思います。
  ここでの問題は,債務者対抗要件であるということが,まず押さえておくべきことだと思います。
  それから,2番目に,利益を受ける当事者からの通知ということに伴う不安定さがあるのだろうと思います。これは事実上の問題として,例えば古い遺言書を使うインセンティブを与えるとか,あるいは債務者に対して通知をした上で,直ちに弁済を受けてしまうということで,事実上,他に比べると問題が生じやすいということがあると思います。
  それから,もう一つ,法制上の問題として,民法の債権譲渡の通知は譲渡人がしなければいけないというのは,これは損失を被る側からの通知だというところに真実性の担保があるのだろうと思いますが,他方で,動産・債権譲渡特例法では,譲受人からもできるのは,登記事項証明書という公的なものがあるからだと思います。そうすると,この場合に,受益相続人がする通知の真実性の担保として,遺言書があるということで十分だと評価するかどうかという問題なのだろうと思います。遺言書があるということで登記事項証明書と同じレベルとみるのか,あるいはまた,遺言執行者のする通知と同じレベルなのかという,そこをどう評価するか。仮にそこに差があるとすると,その差を埋める方法がないだろうかというのが検討課題かと思います。
  3点目として,これは債権一般についての規律ですので,金銭債権以外の場合も含まれると思いますので,その場合にどうなるかということが検討対象かと思います。
  今,それぞれについて具体的な解決方法を持っているわけではないのですけれども,補足説明で御検討されるということですので,一応考えられる検討事項,思いついたことを申し上げた次第です。
○堂薗幹事 どうもありがとうございました。
○大村部会長 補足説明の中で御検討いただきたいと思います。
○浅田委員 先ほどの中田委員の意見と,それから従前の私が申し上げたことに,ちょっと併せて,1点だけ,その遺言書の簡易な通知の方法に関するコメントでございます。遺言書の真正性については先ほど申し上げたとおりでございますけれども,他方で,その真性でない遺言書に基づいた預金債権の弁済に関しては,また民法478条の問題で処理されるというところです。銀行においては,その遺言が真実,複数あった場合であったとしても,最初に持ってきた人に払うということで,原則準占有者に対する弁済の要件は満たされているということで処理されているという現実があるわけです。
  その利益考慮ないしはその割り切りというのが,この本制度においてもどうワークするのかということについて,改めてちょっと整理が必要だとは思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承りたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  それでは,第3の遺言執行の見直しにつきまして,補足説明で整理すべき事柄について,一定数の御指摘を頂きましたけれども,それらにつきまして事務当局の方で御対応いただくということで,この内容で取りまとめをするということにさせていただきたいと存じます。
  第4と第5がございますが,ここで休憩を入れさせていただきたいと思います。現在,3時25分を少し回ったところですので,3時40分に再開ということにさせていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきたいと存じます。
  第3まで終わりましたので,「第4 遺留分制度の見直し」につきまして,まず事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から,「第4 遺留分制度の見直し」について御説明させていただきます。
  まず,「1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」について,従前の部会資料からの変更点を中心に御説明させていただきます。
  基本的には第4の1の補足説明に記載したとおりですが,部会資料12でお示しした甲案と乙案を整理いたしまして,従前の乙案を本文に,従前の甲案を(注2)で取り上げさせていただきました。
  なお,(注2)の考え方を採用した場合の判決主文についてですが,前回,委員から十分な記載ができていないのではないかとの御指摘を頂きましたので,その御意見の内容を踏まえ,補足説明の(注1)で想定される判決主文を記載させていただきました。今回も十分な記載ができているかどうか若干自信がないところではございますが,いずれにせよ,(注2)の考え方を採用した場合には相当複雑な主文にならざるを得ないものと思われます。
  また,今回の乙案につきましては,受遺者又は受贈者がすることができる現物返還の主張を,金銭請求のときから3か月までとすることを明らかにするため,②の規律を付加するとともに,金銭債務の消滅時期については現物返還の意思表示がされたときであることを明確にすることといたしました。
  引き続きまして,第4の「2 遺留分の算定方法の見直し」につきまして,御説明いたします。
  まず,補足説明の1の部分ですが,従前の甲案につきましては,前回の会議におきまして,中間試案として維持するのは相当ではないとの意見が大勢を占めましたことから,本部会資料では従前の甲案は削除することといたしました。
  次に,補足説明の2の部分になりますが,部会資料12では(3)の遺産分割の対象財産がある場合の規律につきまして,A案,B-1案及びB-2案の三つの考え方を提示しておりましたが,A案及びB-1案につきましてはそれぞれ問題があるという議論を踏まえまして,本部会資料ではB-2案(具体的相続分説)を中心に取り上げることといたしました。
  第4の3につきましては,特段の変更点はございません。
  後注も併せて御説明させていただきます。
  後注の1につきましては,これまでの会議におきまして委員から御指摘がありましたので,遺留分権利者の範囲につきまして,直系尊属には遺留分を認めないことの検討を提案するものでございます。委員の皆様から特段の御異論がなければ,こちらにつきましても中間試案に盛り込み,パブリックコメントに付したいと考えております。
  また,後注の2についてですが,少し細かい論点となりますので,この段階で皆様に御提示するかどうか少し悩んだのですが,遺留分の法的性質の見直しに伴い,いずれは検討しなければいけない項目であり,また,これまで学説上も議論が余りなく,裁判例も少ない論点となりますので,併せてパブリックコメントに付し,国民の御意見を伺いたいと考え,今回,後注として付け加えさせていただきました。
  簡単に御説明いたしますと,現行法の1038条に負担付贈与がある場合の規律がございますが,この条文の解釈として,遺留分算定の基礎となる財産の価額を算定するに当たって,負担部分を控除するかどうか,学説上も見解が分かれているようでありまして,この際これを明確にする規律を設けたらどうかということを提案するものでございます。
  また,同様に,民法1039条に不相当な対価による有償行為がある場合の規律がございますが,遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を原則金銭債権化することに伴い,同条に関する規律も改めたらどうかということを提案するものでございます。
  これらの論点は本日新しく御提示する論点であり,本日できれば中間試案の取りまとめを行いたいと考えておりますので,本日は,これらの論点は今後部会で検討したらどうかという問題提起にとどめたいと思いますが,中間試案の後注として載せるに当たり,特に配慮すべき点等があれば御意見を頂戴できればと考えております。
  以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「第4 遺留分制度の見直し」につきましては,1から3まで,三つの項目がございますが,それに後注が2点加わっております。
  まず,第4の「1 遺留分減殺請求権の法的性質の見直し」という点につきましては,前回までは甲,乙,丙の3案が併記されていたという状態でございましたが,今回のものは甲案,乙案をまとめ,乙案を本案とし,甲案を(注)とする,従前の丙案を乙案という形で,三つあったものを二つにまとめるという形で整理がされております。それに伴いまして,判決主文の書き方について一定の説明が加えられているということかと思います。
  それから,2番目の「遺留分の算定方法の見直し」につきましては,前回までは甲案,乙案の併記になっておりましたけれども,甲案は削除することに前回決しましたので,今回の案では乙案を本案として掲げて,これに必要な補正を加えているということであるかと思います。
  第3点,「遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」については,特に修正はございません。
  そして,後注として二つのものが加えられておりますけれども,かなり性質が異なるものでございます。後注の1は,委員の方から御指摘があった問題につきまして,これを後注という形で取り上げて意見を求めるという趣旨であると承りました。2の方は,これに対してかなり細かい問題でございます。現行の1038条と1039条につきまして,この際,一定の整理をすることができないだろうかということでございます。
  関係官の方から御説明がございましたけれども,この補足説明の2につきましては今回初めて資料にお出しするものでありまして,なお,これから議論をする必要があろうかと思いますけれども,これを中間試案の後注の補足説明という形で提示するということにつきまして御意見を頂き,もしこの段階で補正すべき点がありましたら,それも御指摘いただければと思います。
  以上につきまして,御意見を頂ければ幸いでございます。いかがでしょうか。
○増田委員 1の甲案に関してなのですが,私自身もいまだに,手続について理解が十分ではないように思います。
  判決主文等については明らかにしていただいていますが,それまでに至る権利関係がどのように変動しているのかというところもお書きいただけたら,その方が有り難いです。
  ②の段階で,このままだと遺留分減殺請求者としてはどういう手段がとり得るのだろうかということを考えてみても,なかなかよく分からない。
  例えば,この段階で何か財産の保全手段がとれるのかということを考えたときに,減殺者は金銭債権をこの段階では少なくとも有していると。ただし,それが相手方から何らかの目的財産を返還するという主張がされている以上は,金銭債権を持っていても,多分,仮差押えということはできないのではないかとも思われるし,逆に,この段階ではまだ具体的な物の引渡請求権とか登記手続請求権なども有していないわけですから,処分禁止仮処分という形で権利を保全することもできないだろうと思われます。
  また,この段階で,ここまでは保全の話でしたが,今度は訴訟を提起する場合に,恐らく請求の趣旨は金銭を支払えということになろうかと思いますが,抗弁が出た場合にどういう形で訴えを変更するのか。それもかなり複雑なことが予想されまして,例えば受遺者側が別紙物件目録1の物件で返還するという主張をした場合には,その物件そのものが要らないという場合には,予備的請求として別紙物件目録2の物件について引き渡せとか,移転登記手続をせよというようなことになるのかなと思ったり,あるいは,その受遺者側が提示したものの価額について争いがある場合には,その別紙物件目録1の物件についての引渡しなり移転登記手続の請求に加えて,幾らか支払えという金銭請求をするのかと思ったりするのですが,そこのところが実体法上の権利関係として,どうなっているのかというのが非常に分かりにくいように思います。できれば補足説明を付けていただければと考えております。
  いずれにしても,裁判所は請求に拘束されないというようなことですので,そこのところも申立てに拘束されないことと,拘束されない範囲はどの範囲なのかというようなことも明示していただかないと,裁判所が自由に物を選択できるようにも見える。一定範囲でやはり拘束を認めないと,要らないものを渡したりもらっても困るだろうし,予想もしないことを引き渡せと言われても困るだろうしと思いますので,何らかの形の拘束力を認めるのであれば,その範囲についても明らかにしていただきたいなと思います。
  いずれにしても,余りまだ練れていないのかなとは思っているのですけれども,時間も時間ですので,これを中間試案として載せること自体には異論はありませんが,今後もいろいろな検討が必要だという点は付け加えていただかないといけないのかなと思います。
○堂薗幹事 御指摘は今後検討する上で参考にしたいと思いますけれども,現時点でどういうことを考えているかということにつきまして,若干説明を補足させていただければと思います。基本的には,遺留分権利者の請求の性質としては,遺留分侵害額に相当する価値の返還を求めるというものだろうと考えており,ただ,遺留分権利者の方にこの財産が欲しいとかそういう選択権を認める必要はないのではないかということで,基本的には遺留分権利者の側からは金銭請求しか選択できないということでございます。したがって,他方,受遺者あるいは受贈者側は金銭請求がされた場合にも,いや,現物で返したいということで,その選択権を認めるわけですが,例えば,受遺者又は受贈者側で,一部は金銭で支払いますと,それ以外の部分について現物で返しますという主張がされ場合には,その金銭で払うといった部分については,権利者も義務者も意見が一致していますので,その額で基本的には確定するのだろうと。
  そうすると,その余の価値についてどういう形で返すのかというところが問題になるわけですが,それについては,当事者間の協議が調わない場合には最終的には裁判所が決めるということでございまして,ですから,本来的には元々の訴訟の性質としては,やはり形式的形成訴訟なのではないかということで考えております。
  もちろん訴え提起をする時点では幾ら幾らの金銭を支払えということになるわけですが,それについて抗弁が出てきた場合には,その金銭に相当する価値を有する現物を支払えというような形になります。共有物分割において,訴えを提起する場合にはある程度抽象的な請求に応じて,裁判所が最終的にその人に取得させる財産を選ぶわけですが,それと同様の性質を有しているのではないかというのが,現時点でのこちらの整理ということになります。
  他方,現物で返す場合にどういう基準で裁判所がそれを判断するのかという点につきましては,もちろん現行法と同じように決めるわけではありませんが,その点については④のところで考慮要素として書いております。その中で考慮要素を幾つか挙げておりますが,「遺贈又は贈与がされた時期のほか」ということで,この部分を言わば特出ししているということでございまして,この特出しをすることによって,考慮要素としては遺贈又は贈与がされた時期が最も重要な考慮要素であることを示しているという趣旨でございます。
  この意図するところといたしましては,現行法と同じように,できるだけ新しいものから減殺する方が受遺者あるいは受贈者の法的安定性には資するという面がありますので,その点が一番重要な考慮要素であることを示すことによって,裁判所の自由裁量ではなく,考慮要素について優劣を付けているという趣旨でございます。
  ただ,最終的にはもちろん裁判所の判断で返還する物が決まるわけですが,ただ,遺留分権利者というのは飽くまでも相続人と同等の地位にあるわけですので,相続人であっても,遺産分割の場合に自分の希望どおりに財産が取得できない場合はあるわけですので,そういった形で必ずしもその意に沿わないもので価値の返還を受けるということになったとしても,それはやむを得ない面があるのではないかということでございます。
  したがって,受遺者あるいは受贈者から抗弁が出されたことによって,必ずしも訴えの変更が必要になるというものではないのではないかと,この点はもう少し検討する必要がありますが,こちらとしてはそのようなことを考えているというところでございます。
○大村部会長 更に検討していただくということでございますけれども,差し当たりのお答えとして今のようなことですが,増田委員,何か,よろしいですか,取りあえず。
○増田委員 そういうお答えはお答えとしていいかと思うのですけれども,それが本当に適切な手続として機能するかどうかとは別の問題ですので,そういう辺りは今後の検討で含みを持たせて,幾つか,やはり選択肢を考えていかねばならないのだろうなと思っています。
○大村部会長 では,今の点につきましては更に検討していただきたいと思いますが,何か。
○山本(克)委員 今の点は私も関心があって,形式的形成訴訟だとした場合に,裁判所が給付命令ができるのかどうかという点が非常に私は疑問だなと思って,債務名義性を作ることができるのかどうかと,あるいは意思表示に代わる裁判というものになり得るような主文を書けるのかどうかという点が非常に疑問だなと思いますので,そこは御検討いただきたいのですが,それとは違うことをお伺いしたいと思います。
  この同じところで,「主張」という言葉が,「受遺者又は受贈者が主張する」という言葉が使われているのは,なぜ「主張」なのかというのは私はちょっと理解ができなくて,これは実体法上の意思表示ではないのですか。先ほど堂薗幹事は選択と,選択権を行使するということをおっしゃいましたので,これは意思表示,相手方に対する意思表示ではないのでしょうか。そういう,なぜ「主張」という言葉をわざわざここで使われているのかというのがよく分からないなと思いましたので,その点ちょっと御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 確かに,訴訟法的な言葉の使い回しかと思いますけれども,今御指摘がありましたとおり,こちらとしては実体法上の意思表示,現行法の価額弁償の抗弁などと同じような形で考えておりますので,表現については検討させていただきたいと思います。
  それから,形式的形成訴訟とする場合の問題点についても,引き続き検討させていただければと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○垣内幹事 今の点にも若干関連するかと思うのですけれども,その見え消しの資料ですと19ページの,今,山本克己委員から御指摘のあった「主張」という表現は②のところだったかと思いますが,関連しまして,その協議が調わない場合について,③のところで,受遺者又は受贈者はその目的財産を定めることを求めることができるというふうになっておりますので,これは物で返すという意思表示なり主張なりがあったとしても,それが協議できない場合に,裁判所に誰が目的財産の決定を求めることができるかというと,これは受遺者又は受贈者ということであり,これは意思表示があったからといって,その請求者の方が決めることを求めるというわけにはいかないという立て付けなのだろうと思いまして,「主張」という表現は何かその辺りと,つまり,一種の権利抗弁というのか分かりませんけれども,意思表示があっただけで十全の効果が生ずるというものとも違うというニュアンスが込められているのかなとも従前は理解していたところで,その辺りも含めて整理を頂けるとよいのではないかと思います。
○堂薗幹事 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 では,今の点も併せて整理をしていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
○潮見委員 別のところで構いませんか。見え消し版の20ページの下から6行目の「また」の段落のところで,「今回の乙案については」と,②を追加するとともにとあり,「金銭債務の消滅時期については現物返還の意思表示がされた時であることを明確にしている」というふうに書かれているのですが,どこで明確になっているのですか。
○神吉関係官 事務当局から説明します。乙案の③で,受遺者又は受贈者が②の主張をした場合には,目的財産が1033条から35条までの規定に従って減殺されて,金銭債務が消滅をすると,現物返還の主張がされたときに減殺の効果が生じ,かつ,その金銭債務が消滅をすると,整理させていただいております。
○潮見委員 それは,この文章では読めないのではないですか。別にこだわりませんけれども,要するに,その主張した場合にこうこうこうで消滅するというのと,それから,いつ消滅するのかということは,論理的には直結しない。御検討いただければと思います。
○神吉関係官 御意見を踏まえて表現ぶりは検討させていただきます。
○堂薗幹事 要するに,条件節しか書いていないのでという御趣旨だと思いますので,そこは検討したいと思います。
○大村部会長 今の点は表現を,あるいは説明を御検討いただくということにしたいと思いますけれども,ほかにいかがでしょうか。
  今回新たに後注という形で付け加えられた点もございますけれども,それにつきまして何かございましたら,御指摘を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。
  特にこの点につきましては,このような形で意見を聴取するということについて。
○石井幹事 見え消し版の21ページの(3)では,遺留分侵害額の算定において遺産分割による取得額として控除する額を遺留分権利者の具体的相続分に相当する額とする案が採用されており,(注)のところでは,この控除する額を遺留分権利者の法定相続分に相当する額とする案が記載されております。その上で,後者の案の抱える問題について補足説明で御説明いただいているのですけれども,前者の案で遺産分割による取得額とされている具体的相続分相当額と実際の遺産分割による取得額とは必ずしも一致するわけではなく,実際の遺産分割による取得額との間で齟齬が生じるという意味では,両案の差というのは相対的なもののように思われます。また,前者の案では具体的相続分相当額を算定するに当たって相当以前の特別受益も考慮することになるため,前者の案を採用したならば,遺留分算定の基礎財産として加算する特別受益の時的範囲を一定限度に制限するという(1)の御提案のメリットを減殺することになるようにも思われます。両案の差異を補足説明で御説明いただく際には,これらの点についても少し詳し目に記載していただければなと思っております。
○堂薗幹事 その点も検討したいと思いますが,ただ,具体的相続分説では,寄与分は考慮しないわけですが,その点についてはそれなりに合理的な説明ができるのではないかと思われるのに対しまして,法定相続分説の場合には,その逆転現象について合理的な説明をするのは難しいのではないかというのがこちらの整理でございまして,そういった関係でこういうような書き方にしているというところがございます。したがいまして,そのこと自体について何か御意見があるのであれば更におっしゃっていただければとは思いますが,一応,御指摘を踏まえて補足説明をどう書くかというのは検討いたしますけれども,こちらとして具体的相続分説と法定相続分説について違いを設ける形でお示しした趣旨は,今のような考え方に基づくものでございます。
○大村部会長 いいでしょうか。
○沖野委員 後注の1の方なのですけれども,直系尊属に遺留分を認めないということについて,意見を問うことは,していただいたらいいと思います。ただ,補足説明での記載ですが,例えば一致してこの考え方が支持されたとか,恐らくそういうことは必ずしもないという認識でおりまして,むしろ余り議論がされていなくて,確かに直系尊属に遺留分を認める必要はないという事情も分かるようにも思いますけれども,他方で,血族の方に一部はとどめておくということが現実には家産的なものがあったり,上の世代に一旦とどめることによって,兄弟姉妹等を通じた形でその後の相続を予定しているというようなこともありますので,そういったことも含めて今後,慎重な検討が要ると思っております。繰り返しですけれども,こういう形で聞いていただくのは結構なことと思いますけれども,補足説明の書き方については少し考慮していただければと思います。
○大村部会長 その点は説明の際に工夫をしていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございますか。
  後注2については,よろしゅうございますか。何か御指摘があれば伺いたいと思いますが。
  後注2も更に検討しなければいけないという問題であろうと思いますけれども,今回は後注2そのものはこのような形で,なお検討するという形で提示し,補足説明の中で一定の考え方を示す。それも留保付きで,こういう考え方があり得るのではないかという形で御意見を伺うということにはなろうと思いますが,そういう形でよろしゅうございますでしょうか。
○石栗委員 1の遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直しについて,甲案を採用した場合の判決の主文を考えていただいたのですけれども,この主文であったとしましても,問題は残るように思います。すなわち,部会資料20頁の(注1)の例でいいますと,遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をするという条件と200万円等を支払うという条件のいずれもが満たされたときには1000万円等の執行ができないということしか主文は言っておりませんので,そのうちの片方の条件は満たされていても,双方の条件が満たされていない限り,依然として1000万円等の強制執行ができてしまうことになります。そのような強制執行が申し立てられた場合には,その後,片方の条件が満たされていることを理由として,請求異議訴訟が提起されることになると思うのですが,その場合に,どの時点で請求異議訴訟が裁判所に提起されることになるのかというようなことも含めて,お考えいただかなければいけないことがたくさんあるように思われます。甲案を採用した場合の主文に関しては,このような問題があることも記載していただけると有り難いかなと思いますので,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 今の御指摘を踏まえて,御検討いただくということにしたいと思います。
  そのほかは,いかがでございましょうか。
  それでは,この「第4 遺留分制度の見直し」につきましても,表現ぶりにつきましては幾つかの指摘を頂きました。それらにつきましては所要の修正をすることにして,これもお認めいただくということで,よろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,最後の点になりますけれども,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 関係官の満田の方から説明させていただきます。
  第5については,部会資料に記載のとおり,実質的な変更点はございませんので,そのような説明になるかと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第5につきましては,前回資料から特に修正はないということでございますが,この点につきまして御意見を頂ければと思います。
○増田委員 甲案についてなのですけれど,ちょっとこれまで見落としていたのかもしれないのですけれども,「二親等内の親族で相続人でない者」ということになると,親とか配偶者の親が入ってくるわけですよね。そこで財産上の給付について,金銭の支払いを請求することができるということになると,子や子の配偶者のために不動産の購入資金を贈与したものを後で返せというような話になりかねないのですけれども,余りそういう想定はしていなかったように思うのですが,そのような財産上の給付を本当に入れていいのかどうかということと,もし入れるのであれば,そういう場面もあり得るということをどこかに書いた方がいいのかなと思っているのですが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘のとおりだと思いますが, その点については,そういったものをうまく控除できるような形にするかどうかを含めて,今後検討するということにさせていただければと思います。
○大村部会長 増田委員,よろしゅうございますか。
○増田委員 はい。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,この点につきまして御意見があれば伺います。よろしゅうございますか。
  それでは,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,御指摘がありました点につき,補足説明で対応していただくということで,このままの形ということにさせていただきたいと存じます。
  以上で,この部会資料13,「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案(案)」につきまして,御検討を頂き,御意見を賜ったということになります。御指摘がありました点につきまして,表現につきましては修正をする必要がある部分がございますけれども,その点につきましては部会長に御一任を頂くということで,本日この中間試案について御決定を頂くということで,よろしゅうございますでしょうか。
○垣内幹事 今さらのことで恐縮ですが,内容についてちょっと発言をさせていただいてもよろしいでしょうか。最後に全体について何かまだあればという機会があるかなと思っておったのですけれども。よろしいですか。大変申し訳ありません。
  最初の方に戻ってしまうのですけれども,見え消しの方,いずれもそうかと思いますが,2ページのところの長期居住権のところの書きぶりに関して,今,「長期居住権の内容」という(1)のところで,「配偶者が相続開始の時に居住していた被相続人所有の建物」ということが書かれているのですけれども,これが恐らくその成立要件の一部をなしているということではないかと理解しているのですが,他方,(2)のところの成立要件のところでは,この点が必ずしも明確でないようにも思われまして,そこはどうでしょうか。ちょっと成立要件のところだけを拝見しますと,今一つ,その当初の相続開始時に居住していたということが必ずしも明瞭でないような感じもして,その点が少し気になるということと,仮に,そういう理解だと思うのですけれども,元々居住しているということが要件だというときに,短期居住の方では,1ページの(1)のアの①のところで,「相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた」とあるのですけれども,こちらについてはその無償性うんぬんということは問題になるのか,ならないのかといったような,両方並べて要件という形で考えてみたときに,若干分かりにくいところがあるようにも感じますので,その点についても,併せてその表記の仕方の御工夫をお願いできたらという印象を持ちました。
  すみません,以上です。
○大村部会長 では,今の点につきましても,表記につきまして見直しをしていただくということにしたいと思います。
  全体を通じてということで,もし何かございましたらお伺いいたしますけれども,ほかにございませんでしょうか。
○沖野委員 大変申し訳ありません。今,垣内幹事の御指摘を受けて,先ほど中田委員から御指摘のありました,4ページの長期居住権が消滅したときの原状回復の基準の時点なのですけれども,その間があるというような場合がどうかというようなことでして,本文に簡単に書けるのではないか,そのときには長期居住権を取得したときとして,括弧をして,短期居住権が先行するときは相続開始時とか,そういうことを書けるのではないかと考えていたのですけれど,ちょっと今御指摘の点なども含めると,そう簡単に書けるのかどうかが,いささか細かい場合分けもあり得るかと思いましたので,撤回させていただいて,どういう形で書くかも含めて事務局にお任せしたいと思います。
  すみません,失礼しました。
○大村部会長 御意見として伺って,可能性は検討していただくということにしていただきたいと思います。
○沖野委員 拘束するものではないということで御検討いただければと思います。
○大村部会長 はい,分かりました。
  そのほか,何かございますでしょうか。よろしゅうございますか。
  では,もう一度確認させていただきますが,表現ぶりにつきましては,部会長に一任いただくということで,本日,民法(相続関係)等の改正に関する中間試案につきまして,お決め頂くということにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございます。それでは,そのように決めさせていただいたということにさせていただきます。
  それで,今後のスケジュール等につきまして,事務当局から御説明を頂きたいと思いますが,それに先立ちまして,1点お諮りしたい点がございます。それは,部会長代理の指名についてでございます。
  法制審議会令第6条というのがございまして,これによりますと,部会長に支障があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくことができるとされております。
  本来であれば第1回の会議の際にこの指名を行うべきであったとも思われますけれども,これまで指名をしておりませんでした。そこで本日,審議の一区切りがついたこの段階で,指名を行っておきたいと思います。
  以下,具体的な提案でございますけれども,窪田委員に部会長代理をお願いしたいと思います。窪田委員におかれましては,法制審議会の児童虐待関連親権部会の委員も務められ,民法の分野における優れた御業績,御経歴をお持ちでありますので,窪田委員に是非お願いをしたいと思っておりますけれども,よろしゅうございますか,窪田委員。
○窪田委員 はい。
○大村部会長 ありがとうございます。それでは,部会長代理は窪田委員にお願いさせていただくということにいたします。
  先ほど申しましたように,今後のスケジュール等につきまして,事務当局より御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,本日は中間試案の取りまとめをしていただきまして,ありがとうございました。
  今後の予定でございますが,まず部会長に一任を頂いた修正点につきまして,部会長の御了解を得た後,事務当局の責任において作成する中間試案の補足説明とともに,中間試案を公表いたしまして,パブリックコメントの手続に付すことを予定しております。
  補足説明の性質なのですけれども,飽くまでもこれまでの部会における御議論を踏まえまして,国民の皆様に中間試案の内容を適切に理解していただくということを目的として,事務当局の責任において試案の各項目の内容を補足的に説明するというものでございます。
  これまでの審議においても度々御指摘を頂きましたとおり,補足説明につきましては,これまでの議論の経過ですとか,そういったことを含め,なるべく分かりやすい内容にするよう努力いたしますし,補足説明で触れるように御要望がありました事項につきましては,可能な範囲で御要望に沿えるよう努力したいと思いますけれども,先ほど申し上げましたような補足説明の目的等を踏まえますと,余り分量が多くなりすぎますと,かえって国民の皆様に読んでいただけないというようなことにもなりかねませんので,場合によっては御要望に沿えないこともあろうかと思いますが,その点は御理解を賜れれば幸いでございます。
  次に,パブリックコメントの期間でございますが,中間試案の公表のために若干時間を要しますので,7月上旬頃に公表した上で,9月末頃までパブリックコメントの期間を設けることを考えております。相続法制の見直しにつきましては,国民の生活に直接影響するものですので,通常の場合よりも多少長目に期間を取る必要があるのではないかと考えまして,今のような期間を考えているということでございます。
  それから,パブリックコメントの期間中につきましては,この部会の方はお休みさせていただき,次回は10月から審議を再開させていただければと考えております。
  次回以降の日程でございますが,これはまだ確定しているものではございませんけれども,10月18日火曜日を予定しております。
  次回の場所につきましては,現時点では未定でございますので,追って御連絡をさせていただければと思います。
  それでは,次回以降も,どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  本日,中間試案の取りまとめを頂きましたので,補足説明等を付してパブリックコメントを行うということで,この部会の再開は10月18日ということでございました。先ほど繰り返し御案内がありましたけれども,10月18日,11月22日,12月20日,1月24日の4回を御予定いただければ幸いでございます。
  補足説明につきましては,皆様から様々な要望が寄せられたところでございますが,堂薗幹事の御発言の中にもありましたが,この中間試案は国民の生活に直接影響するものでございますので,多方面の関心の対象になることと思います。
  他方,相続法に関するということで,かなり技術的な制度が含まれておりますので,なかなか一読して理解するというのは難しいところがあろうかと思います。分量の問題は確かにありますけれども,その辺り,事務当局において工夫をしていただくということになろうかと思いますが,どうぞよろしくお願い申し上げます。
  以上でございます。本日も非常に活発な御意見を頂きまして,ありがとうございました。これで閉会をさせていただきたいと存じます。
-了-

1 民法(相続関係)等の改正に関する中間試案 第1 配偶者の居住権を保護するための方策 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策 ⑴ 遺産分割が行われる場合の規律 ア 短期居住権の内容 ① 配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた 場合には,遺産分割(協議,調停又は審判)により当該建物の帰属が確 定するまでの間,引き続きその建物を無償で使用することができるもの とする(以下では,この権利を「短期居住権」という。)。 ② 短期居住権の取得によって得た利益は,配偶者が遺産分割において取 得すべき財産の額(具体的相続分額)に算入しないものとする。 イ 短期居住権の効力 (ア) 用法遵守義務及び善管注意義務 配偶者は,居住の目的及び建物の性質により定まった用法に従ってア ①の建物を使用し,善良な管理者の注意をもってア①の建物を保存しな ければならないものとする。 (イ) 必要費及び有益費の負担 ① 配偶者は,ア①の建物の通常の必要費を負担するものとする。 ② 配偶者がア①の建物について通常の必要費以外の費用を支出したと きは,各相続人は,民法第196条の規定に従い,その法定相続分に 応じてその償還をしなければならないものとする。ただし,有益費に ついては,裁判所は,各相続人の請求により,その償還について相当 の期限を許与することができるものとする。 (ウ) 短期居住権の譲渡及び賃貸等の制限 配偶者は,短期居住権を第三者(注1)に譲り渡し,又はア①の建物を 第三者に使用又は収益させることができないものとする。 ウ 短期居住権の消滅 ① 次に掲げる場合には,配偶者以外の相続人は,単独で短期居住権の消 滅を請求することができるものとする。 ㋐ 配偶者がイ(ア)の規定に違反したとき。 ㋑ 配偶者がイ(ウ)の規定に違反して第三者にア①の建物の使用又は収 益をさせたとき。 ② 短期居住権は,配偶者がア①の建物の占有を喪失し,又は配偶者が死 2 亡したときは,消滅するものとする。 ③ 配偶者は,短期居住権が消滅したときは,ア①の建物を相続開始時の 原状に復する義務を負うものとする。ただし,短期居住権に引き続き, 長期居住権が成立する場合はこの限りでないものとする。 ⑵ 配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則 ① 配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合 において,配偶者以外の者が遺言(遺贈,遺産分割方法の指定)又は死因 贈与により相続財産に属する建物の所有権を取得したとき(注2)は,配偶 者は,相続開始の時から一定期間(例えば6か月間)は,無償でその建物 を使用することができるものとする。 ② その余の規律は,⑴イ及びウに同じ(注3)。 (注1)ここでの「第三者」は,配偶者以外の者をいう(⑴ウ①㋑においても同じ。)。 (注2)配偶者が遺言又は死因贈与により前記建物についての長期居住権(後記)を取得 した場合を除く。 (注3)もっとも,この場合に,短期居住権の消滅請求(⑴ウ)をすることができるのは, ①の建物の所有権を取得した者に限られる。 2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 ⑴ 長期居住権の内容 配偶者が相続開始の時に居住していた被相続人所有の建物を対象として, 終身又は一定期間,配偶者にその建物の使用を認めることを内容とする法定 の権利(以下「長期居住権」という。)を新設するものとする。 ⑵ 長期居住権の成立要件 ① 相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者は,次に掲げ る場合に長期居住権を取得するものとし,その財産的価値に相当する金額 を相続したものと扱うものとする(注1)。 ㋐ 配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺産分割協議が成立し,又は遺 産分割の審判が確定した場合 ㋑ 配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺言(遺贈,遺産分割方法の指 定)がある場合において,被相続人が死亡したとき。 ㋒ 被相続人と配偶者との間に,配偶者に長期居住権を取得させる旨の死 因贈与契約がある場合において,被相続人が死亡したとき。 ② 配偶者が長期居住権の取得を希望した場合であっても,⑴の建物の所有 権を取得することとなる相続人の意思に反するときは,裁判所は,配偶者 の生活を維持するために長期居住権を取得させることが特に必要と認めら 3 れる場合に限り,①㋐の審判をすることができるものとする。 ⑶ 長期居住権の効力 ア 用法遵守義務及び善管注意義務 配偶者は,居住の目的及び建物の性質により定まった用法に従って⑴の 建物を使用し,善良な管理者の注意をもって⑴の建物を保存しなければな らないものとする。 イ 必要費及び有益費の負担 ① ⑴の建物の必要費は,配偶者が負担するものとする。 ② 配偶者が⑴の建物について有益費を支出したときは,⑴の建物の所有 者は,長期居住権が消滅した時に,その価格の増加が現存する場合に限 り,その選択に従い,その支出した金額又は増価額を償還しなければな らないものとする。ただし,裁判所は,各相続人の請求により,その償 還について相当の期限を許与することができるものとする。 ウ 長期居住権の譲渡及び賃貸等の制限 配偶者は,⑴の建物の所有者の承諾を得なければ,長期居住権を第三者 (注2)に譲り渡し,又は⑴の建物を第三者に使用又は収益させることがで きないものとする。 エ 第三者対抗要件 配偶者は,長期居住権について登記をしたときは,長期居住権を第三者 に対抗することができるものとする(注3)。 ⑷ 長期居住権の消滅 ① 次に掲げる場合には,⑴の建物の所有者は,長期居住権の消滅を請求す ることができるものとする。 ㋐ 配偶者が⑶アの規定に違反したとき。 ㋑ 配偶者が⑶ウの規定に違反して第三者に⑴の建物の使用又は収益をさ せたとき。 ② 長期居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が死亡したと きは,消滅するものとする。 ③ 配偶者は,長期居住権が消滅したときは,長期居住権を取得した時の原 状に復する義務を負うものとする。ただし,前記1⑴ウ③ただし書の場合 には,相続開始時の原状に復する義務を負うものとする。 (注1)長期居住権の財産評価方法については,なお検討する。 (注2)ここでの「第三者」は,配偶者以外の者をいう(⑷①㋑においても同じ。)。 (注3)長期居住権を取得した配偶者に登記請求権を付与することを前提としている。長 期居住権に関する登記手続をどのように定めるかについては,なお検討する。 4 (後注)配偶者が⑴の建物の所有者に長期居住権の買取りを請求する権利を設けるか否か, 設けるとした場合にどのような規律を設けるかについては,なお検討する。なお,仮 にこのような規律を設けることとする場合には,例えば,以下のような規律にするこ とが考えられる。 ㋐ 配偶者が⑴の建物を使用することができなくなったことについてやむを得ない事 由がある場合には,配偶者は,⑴の建物の所有者に対し,相当の対価で長期居住権を 買い取るべきことを請求することができるものとする。 ㋑ ㋐の要件を満たす場合において,㋐の対価及び支払方法について当事者間に協議が 調わないとき,又は協議をすることができないときは,㋐の対価及び支払方法は,配 偶者の申立てにより,裁判所がこれを定めるものとする。 ㋒ 裁判所は,㋑の裁判をする時点で長期居住権の存続期間が「一定の期間」(例えば 5年間)を超える場合には,その存続期間が「一定の期間」であるものとみなして, ㋐の対価を定めるものとする。 ㋓ 裁判所は,㋑の裁判をする場合において,⑴の建物の所有者の資力その他の事情を 考慮して必要があると認めるときは,その裁判の日から「一定の期間」(注)を超え ない範囲内において,長期居住権の譲渡の対価の支払について,その時期の定め又は 分割払の定めをすることができるものとする。 ㋔ 裁判所は,㋑の申立てがあった場合には,両当事者の関係,各当事者の生活の状況 その他一切の事情を考慮して,㋑の支払方法を定めるものとする。 (注)㋒の「一定の期間」と同じ期間にすることを想定している。 第2 遺産分割に関する見直し 1 配偶者の相続分の見直し ⑴ 甲案(被相続人の財産が婚姻後に一定の割合以上増加した場合に,その割 合に応じて配偶者の具体的相続分を増やす考え方) ○ 次の計算式(a+b)により算出された額が,現行の配偶者の具体的相 続分を超える場合には,配偶者の申立てにより,配偶者の具体的相続分を 算定する際にその超過額を加算することができるものとする(注1)。 (計算式) a=(婚姻後増加額)×(法定相続分より高い割合(注2)) b=(遺産分割の対象財産の総額-婚姻後増加額)×(法定相続分より低 い割合(注3)) 婚姻後増加額= x-(y+z) x= 被相続人が相続開始時に有していた純資産の額 5 y= 被相続人が婚姻時に有していた純資産の額 z= 被相続人が婚姻後に相続,遺贈又は贈与によって取得した財産の 額(注4) 純資産の額=(積極財産の額)-(消極財産の額) (注1)この超過額については,配偶者の具体的相続分を算定する際に現行の寄与分と 同様の取扱いをすることを前提としているが,現行の寄与分との関係については, なお検討する。 (注2)例えば,配偶者が①子と共に相続する場合には3分の2,②直系尊属と共に相 続する場合には4分の3,③兄弟姉妹と共に相続する場合には5分の4とすること 等が考えられる。 (注3)例えば,配偶者が①子と共に相続する場合には3分の1,②直系尊属と共に相 続する場合には2分の1,③兄弟姉妹と共に相続する場合には3分の2とすること 等が考えられる。 (注4)「相続によって取得した財産の額」とは,被相続人が相続によって取得した積 極財産の額から被相続人が承継した相続債務の額を控除した額をいう。 ⑵ 乙-1案(婚姻成立後一定期間が経過した場合に,その夫婦の合意により 〔被相続人となる一方の配偶者の意思表示により他方の〕配偶者の法定相続 分を引き上げることを認める考え方) ○ 民法第900条の規定にかかわらず,配偶者が相続人となる場合におい て,その婚姻成立の日から20年〔30年〕が経過した後に,その夫婦が 協議により配偶者の法定相続分を引き上げる旨〔被相続人となる一方の配 偶者が他方の配偶者の法定相続分を引き上げる旨〕を法定の方式により届 け出たときは,相続人の法定相続分は,次のとおりとするものとする(注 1,2)。 ア 子及び配偶者が相続人であるときは,配偶者の相続分は3分の2とし, 子の相続分は3分の1とする。 イ 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は4分の 3とし,直系尊属の相続分は4分の1とする。 ウ 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は5分の 4とし,兄弟姉妹の相続分は5分の1とする(注3)。 (注1)法定相続分の引上げの有無に関する公示方法については,なお検討する。 (注2)この届出がされた後に届出の撤回を認めるかどうかについては,なお検討する。 (注3)配偶者が兄弟姉妹と共に相続する場合には,兄弟姉妹に法定相続分を認めない ものとすることも考えられる。 ⑶ 乙-2案(婚姻成立後一定期間の経過により当然に配偶者の法定相続分が 6 引き上げられるとする考え方) ○ 民法第900条の規定にかかわらず,配偶者が相続人となる場合におい て,相続開始の時点で,その婚姻成立の日から20年〔30年〕が経過し ているときは,相続人の法定相続分は,次のとおりとするものとする(注)。 乙-1案のアからウまでと同じ。 (注)被相続人と配偶者の婚姻関係が破綻していた場合等を考慮して,前記規律の適用 除外事由を設けるべきか否か,設ける場合にどのような適用除外事由が考えられる かについては,なお検討する。 2 可分債権の遺産分割における取扱い ⑴ 甲案(可分債権は相続の開始により当然に分割されることを前提としつつ, これを遺産分割の対象に含める考え方) ① 預貯金債権等の可分債権(注1)を遺産分割の対象に含めるものとする。 ② 相続の開始により可分債権は法定相続分に応じて分割承継され,各相続 人は,原則として,遺産分割前でも,分割された債権を行使することがで きるものとする。 ③ 遺産分割において各相続人の具体的相続分を算定する際には,可分債権 の相続開始時の金額を相続財産の額に含めるものとする。 ④ 相続開始後遺産分割終了時までの間に,可分債権の弁済を受けた相続人 については,その弁済を受けた金額を具体的相続分から控除するものとす る。 ⑤ 相続人が遺産分割前に弁済を受けた額がその具体的相続分を超過する場 合には,遺産分割において,その超過額につきその相続人に金銭支払債務 を負担させるものとする。 ⑥ 相続人が遺産分割により法定相続分を超える割合の可分債権を取得した 場合には,その相続人は,その法定相続分を超える部分の取得については, 対抗要件を備えなければ,債務者その他の第三者に対抗することができな いものとする。 ⑦ ⑥の対抗要件は,次に掲げる場合に具備されるものとする。 ㋐ 相続人全員が相続人の範囲を明らかにする書面を示して債務者に通知 をした場合 ㋑ 相続人の一人が次のⅰ及びⅱに掲げる場合に応じ,それぞれその後段 に定める書類を示して債務者に通知をしたとき。 ⅰ 調停又は審判により遺産分割がされた場合 調停調書又は確定した 審判書の謄本 7 ⅱ 遺産分割協議が調った場合 遺産分割協議の内容及び相続人の範囲 を明らかにする書面 ㋒ 債務者が⑥の相続人に対して承諾をした場合 ⑧ ⑦の通知又は承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,債務者 以外の第三者に対抗することができないものとする。 ⑨ 相続人は,その相続分を保全するため必要があるときは,家庭裁判所に 対し,遺産に属する可分債権の行使を禁止する仮処分を求めることができ るものとする(注2)。 (注1)預貯金債権以外の可分債権,例えば不法行為に基づく損害賠償請求権について も遺産分割の対象に含めるか否かについては,なお検討する。 (注2)この場合には,遺産分割の審判又は調停の申立てをすることなく保全処分の申 立てを認めること(いわゆる本案係属要件を不要とすること)も併せて検討するこ とを想定している。 ⑵ 乙案(可分債権を遺産分割の対象に含めることとし,かつ,遺産分割が終 了するまでの間,可分債権の行使を禁止する考え方) ① 預貯金債権等の可分債権(注1)を遺産分割の対象に含めるものとする。 ② 相続人は,遺産分割が終了するまでの間は,相続人全員の同意がある場 合を除き,原則として,可分債権を行使することができないものとする(注 2)。 ③ 甲案の③から⑧までと同じ。 (注1)甲案の(注1)に同じ。 (注2)相続人全員の同意がある場合以外に,相続人に遺産分割前の権利行使を認め る方策については,なお検討する。この点については,例えば,㋐各預金口座の 相続開始時の残高(一口座当たりの上限を設けることが考えられる。)に一定割合 を乗じた額に満つるまでは,相続人に権利行使を認めるものとすることや,㋑現 行の審判前の保全処分(仮分割や遺産管理人の選任等)について,その特則を設 け,発令要件を緩和するなどの措置を講ずること等が考えられる。 3 一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等 ⑴ 一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化 ① 家庭裁判所は,遺産の範囲について相続人間で争いがあり,その確定を 待っていてはその余の財産の分割が著しく遅延するおそれがあるなど,遺 産の一部について先に分割をする必要がある場合において,相当と認める ときは,遺産の一部についてのみ,分割の審判をすることができるものと する。 8 ② 一部分割の審判をしたときは,残余の遺産の分割(以下「残部分割」と いう。)においては,民法第903条及び第904条の規定(特別受益者 の相続分に関する規定)を適用しないものとする。ただし,一部分割の審 判において,特別受益に該当する遺贈又は贈与の全部又は一部を考慮する ことができなかった場合はこの限りでないものとする。 ③ ②本文の規律は,相続人間の協議により一部分割がされた場合(注)に も適用するものとする。ただし,当該協議において相続人が別段の意思を 表示したときはこの限りでないものとする。 ④ 一部分割の審判をしたときは,残部分割においては,民法第904条の 2の規定(寄与分に関する規定)は適用しないものとする。ただし,相続 人中に,残部分割の対象とされた遺産の維持又は増加について特別の寄与 をした者がある場合において,一部分割の審判の中で,その寄与を考慮す ることができなかったときは,この限りでないものとする。 ⑤ ④本文の規律は,相続人間の協議により一部分割がされた場合にも適用 するものとする。ただし,当該協議において相続人が別段の意思を表示し たときはこの限りでないものとする。 (注)調停により一部分割がされた場合も同様の取扱いをすることを想定している(⑤に おいても同じ。)。 ⑵ 遺産分割の対象財産に争いのある可分債権が含まれる場合の特則 ○ 家庭裁判所は,相続人間で可分債権の有無及び額について争いがある場 合であっても,相当と認めるときは,遺産分割の審判において,その可分 債権を法定相続分に従って各相続人に取得させる旨を定めることができる ものとする。 第3 遺言制度に関する見直し 1 自筆証書遺言の方式緩和 ⑴ 自書を要求する範囲 ① 自筆証書遺言においても,遺贈等の対象となる財産の特定に関する事項 (注1)については,自書でなくてもよいものとする(注2)。 ② ①に基づき財産の特定に関する事項を自書以外の方法により記載した ときは,遺言者は,その事項が記載された全ての頁に署名し,これに押印 (注3)をしなければならないものとする。 (注1)「財産の特定に関する事項」としては, ⓐ 不動産の表示(土地であれば所在,地番,地目及び地積/建物であれば所 在,家屋番号,種類,構造及び床面積) 9 ⓑ 預貯金の表示(銀行名,口座の種類,口座番号及び口座名義人等) 等を想定している。 (注2)ただし,加除訂正をする場合には,当該加除訂正部分等の自書を要求する点 を含め,通常の加除訂正の方式によるものとする。 (注3)これに加え,②に基づき押印をする際には,全て同一の印を押捺しなければ ならないものとすることも考えられる。 ⑵ 加除訂正の方式(注) 変更箇所に「署名及び押印」が必要とされている点を改め,署名のみで足 りるものとする。 (注)⑴及び⑵の方策は両立し得るものであるが,偽造又は変造のリスクを考慮し,⑴の 方策を講ずる場合には⑵につき現行の規律を維持するものとすることも考えられる。 2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し ⑴ 権利の承継に関する規律 ① 相続人が遺言(相続分の指定,遺贈,遺産分割方法の指定)により相続 財産に属する財産を取得した場合には,その相続人は,その法定相続分を 超える部分の取得については,登記,登録その他の第三者に対抗すること ができる要件を備えなければ,第三者に対抗することができないものとす る。 ② ①の相続財産に属する財産が債権である場合には,債務者その他の第三 者に対する対抗要件は,次に掲げる場合に具備されるものとする。 ア 相続人全員が債務者に相続人の範囲を明らかにする書面を示して債務 者に通知をした場合 イ 遺言執行者がその資格を明らかにする書面を示して債務者に通知をし た場合 ウ 債務者が①の相続人に対して承諾をした場合 ③ ②の通知又は承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,債務者 以外の第三者に対抗することができないものとする。 ⑵ 義務の承継に関する規律 ① 被相続人が相続開始時に負担していた債務が可分債務である場合には, 各相続人は,その法定相続分に応じてその債務を承継するものとする。 ② ①の場合において,相続分の指定又は包括遺贈によって各相続人の承継 割合が定められたときは,各相続人の負担部分は,その承継割合によるも のとする。 ③ ①にかかわらず,債権者が相続分の指定又は包括遺贈によって定められ 10 た割合に応じてその債務を承継することを承諾したときは,各相続人は, その割合によってその債務を承継するものとする。 ④ 債権者が相続人の一人に対して③の承諾をしたときは,すべての相続人 に対してその効力を生ずるものとする。 ⑶ 遺贈の担保責任 ① 遺言者が相続財産に属する物又は権利を遺贈の目的とした場合には,遺 贈義務者は,相続が開始した時(その後に遺贈の目的である物又は権利を 特定すべき場合にあっては,その特定の時)の状態で,その物若しくは権 利を引き渡し,又は移転する義務を負うものとする。ただし,遺言者がそ の遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従うものとする。 ② 民法第998条を削除するものとする。 3 自筆証書遺言の保管制度の創設 ① 自筆証書遺言(以下「遺言書」という。)を作成した者が一定の公的機関(注 1)に遺言書の原本の保管(注2)を委ねることができる制度を創設するもの とする。 ② ①の保管の申出は,遺言者本人に限り,することができるものとする。 ③ 相続人,受遺者及び遺言執行者(以下「相続人等」という。)は,相続開始 後に,①に基づく保管の有無を確認することができるものとする(注3)。 ④ 相続人等は,相続開始後に,①に基づき保管されている遺言書の原本を閲 覧し,又は正本の交付を受けることができるものとする(注4)。 ⑤ ①に基づき保管された遺言書については,検認を要しないものとする。 ⑥ ①の公的機関は,相続人等から④に基づく申出がされた場合には,申出人 以外の相続人等に対し,遺言書を保管している旨を通知しなければならない ものとする。 (注1)保管を行う公的機関としては,保管施設の整備等の必要性,転居時等における 国民の利便性及びプライバシー保護の重要性を考慮し,全国で統一的な対応をする ことが可能な機関を想定しているが,この点については,なお検討する。 (注2)原本を保管する際,災害等による滅失のおそれを考慮し,遺言書の内容を画像 データにしたものを別個に保管することを想定している。このため,公的機関で保 管をするに当たっては,仮に遺言書が封緘されていた場合であっても,遺言者本人 の了解を得てこれを開封した上,画像データを作成することを想定している。なお, 遺言書の保管をする際には,遺言者に遺言書の謄本を交付することが考えられる。 (注3)相続人が①に基づく保管の有無の確認をするときは,戸籍謄本等の提出を受け て,相続人であることを証明させることを想定している。 11 (注4)遺言書の原本は,相続開始後も,相続人等には交付せず,①の公的機関で一定 期間保管することを想定している。 4 遺言執行者の権限の明確化等 ⑴ 遺言執行者の一般的な権限等 ① 遺言執行者は,遺言の内容を実現することを職務とし,遺言の執行の妨 害の排除その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するものと する(注1)。 ② 遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属するものとする(注2)。 ③ 遺言執行者が就職を承諾し,又は家庭裁判所に選任されたときは,その 遺言執行者は,遅滞なくその旨及び遺言の内容を相続人に通知しなければ ならないものとする。 (注1)遺言執行者が負う一般的な義務の内容をどのように定めるかについては,な お検討する。 (注2)現行の民法第1015条は削除するものとする。 ⑵ 民法第1013条の見直し ア 甲案 民法第1013条を削除するものとする(注)。 イ 乙案 遺言執行者がある場合には,相続人がした相続財産の処分その他遺言の 執行を妨げる行為は,無効とするものとする。ただし,これをもって善意 の第三者に対抗することができないものとする。 (注)甲案によれば,遺言による権利変動については,遺言執行者がある場合である かどうかにかかわらず,前記2⑴①の規律が適用されることになる。 ⑶ 個別の類型における権限の内容 ア 特定遺贈がされた場合 ① 特定遺贈がされた場合において,遺言執行者があるときは,遺言執行 者が遺贈の履行をする権限を有するものとする。 ② ①の規律は,遺言者がその遺言に別段の意思を表示した場合には適用 しないものとする。 イ 遺産分割方法の指定がされた場合 ① 遺言者が遺産分割方法の指定により遺産に属する特定の財産(動産, 不動産,債権等)を特定の相続人に取得させる旨の遺言をした場合にお いて,遺言執行者があるときは,遺言執行者は,その相続人(以下「受益 相続人」という。)が対抗要件(注1)を備えるために必要な行為をする 12 権限を有するものとする。 ② ①の財産が特定物である場合においても,遺言執行者は,受益相続人 に対してその特定物を引き渡す権限を有しないものとする。ただし,そ の特定物の引渡しが対抗要件となる場合には,①の規律を適用するもの とする。 ③ ①の財産が預貯金債権(注2)である場合には,遺言執行者は,その預 貯金債権を行使することができるものとする。 ④ ①から③までの規律は,遺言者がその遺言に別段の意思を表示した場 合には適用しないものとする。 (注1)特定の財産が債権である場合には,債務者対抗要件を含む。 (注2)③により遺言執行者に権利行使を認める債権の範囲については,なお検討す る。 ⑷ 遺言執行者の復任権・選任・解任等 ① 遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる ものとする。この場合において,やむを得ない事由があるときは,相続人 に対してその選任及び監督についての責任のみを負うものとする。 ② 遺言執行者は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,そ の任務の全部又は一部を辞することができるものとする。 ③ 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは,家 庭裁判所は,受遺者又は相続人の申立てにより,遺言執行者を解任するこ とができるものとする。 ④ 遺言者が選任した遺言執行者が相当の期間内にその任務に属する特定の 行為をしない場合において,相当と認めるときは,家庭裁判所は,受遺者 又は相続人の申立てにより,当該行為について遺言執行者の権限を喪失さ せることができるものとする。 ⑤ 家庭裁判所は,②から④までの場合において必要があると認めるときは, 受遺者又は相続人の申立てにより(注),新たに遺言執行者を選任し(②又 は③の場合),又は特定の行為について権限を有する代理人を選任すること ができるものとする(②又は④の場合)。 (注)②の辞任によって新たに遺言執行者を選任する必要がある場合については,従 前の遺言執行者にも申立権を認めることが考えられる。 第4 遺留分制度に関する見直し 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し 以下のとおり,遺留分減殺請求によって当然に物権的効果が生ずるとされて 13 いる現行の規律を改め,遺留分減殺請求によって原則として金銭債権が発生す るものとしつつ,受遺者又は受贈者において,遺贈又は贈与の目的財産による 返還を求めることができる制度を設けるものとする。 ⑴ 甲案(受遺者等が金銭債務の全部又は一部の支払に代えて現物での返還を 求めた場合には,裁判所が返還すべき財産の内容を定めるとする考え方) ① 遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分減殺請求を することにより,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができ るものとする。この場合には,減殺の請求を受けた受遺者又は受贈者は, その請求の時から3箇月を経過するまでの間は,遅滞の責任を負わないも のとする。 ② ①の請求を受けた受遺者又は受贈者は,その請求者に対し,その請求の 時から3箇月を経過するまでは,①により負う金銭債務の全部又は一部の 支払に代えて,遺贈又は贈与の目的財産を返還する旨の意思表示をするこ とができ,その内容を当事者間の協議によって定めることを求めることが できるものとする。この場合には,受遺者又は受贈者は,この協議が調い, 又は後記④の裁判が確定するまでの間は,遅滞の責任を負わないものとす る。 ③ ②の協議が調わない場合には,受遺者又は受贈者は,裁判所に対し,① により負う金銭債務の全部又は一部の支払に代えて返還すべき遺贈又は贈 与の目的財産を定めることを求めることができるものとする(注1)。 ④ ③の場合には,裁判所は,遺贈又は贈与がされた時期のほか,遺贈又は 贈与の対象となった財産の種類及び性質,遺留分権利者及び受遺者又は受 贈者の生活の状況その他一切の事情を考慮して,①により負う金銭債務の 全部又は一部の支払に代えて返還すべき遺贈又は贈与の目的財産を定める ものとする。 ⑤ ②の協議が調い,又は④の裁判が確定した場合には,①の請求をした者 に返還すべき遺贈又は贈与の目的財産の価額の限度で,①により負う金銭 債務は消滅するものとする(注2)。 (注1)受遺者又は受贈者は,遺留分権利者が提起した訴訟において②の意思表示を 抗弁として主張することができるほか,自ら遺留分権利者に返還すべき財産の確 定を求める訴訟を提起することができることとするものである。 (注2)①の金銭債務の消滅時期については,⑤のような考え方のほか,受遺者又は 受贈者が②の協議又は④の裁判によって定められた遺贈又は贈与の目的財産を 現に返還した時点で金銭債務が消滅するものとし,それまでの間は金銭債務の弁 済を認める考え方があり得る。 14 ⑵ 乙案(現物返還の主張がされた場合には,現行法と同様の規律で物権的効 果が生ずるという考え方) ① 甲案①に同じ。 ② ①の請求を受けた受遺者又は受贈者は,その請求者に対し,その請求の 時から3箇月を経過するまでは,①の金銭債務の全部の支払に代えて,遺 贈又は贈与の目的財産を返還する旨の意思表示をすることができる。 ③ 受遺者又は受贈者が②の意思表示をしたときは,民法第1033条から 第1035条までの規定に従って遺贈又は贈与の目的財産が減殺され,① の金銭債務は消滅するものとする。 2 遺留分の算定方法の見直し 遺贈又は贈与が相続人に対してされた場合について,遺留分の算定方法の特 則を設ける(後記⑴及び⑵)とともに,遺産分割の対象財産がある場合におけ る遺留分侵害額の算定方法を明確にする規律を設ける(後記⑶)ものとする(注)。 (注)後記⑴から⑶までの規律は,それぞれ独立に採用することが可能である。 ⑴ 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき相続人に対する生前贈与の範囲 に関する規律 民法第1030条の規定にかかわらず,相続人に対する贈与は,相続開始 前の一定期間(例えば5年間)(注)にされたものについて,遺留分算定の基 礎となる財産の価額に算入するものとする。 (注)この期間をより短い期間(例えば1年間)にした上で,遺産分割の手続等にお いて,一定の要件の下で,多額の特別受益がある相続人に超過特別受益の一部を 現実に返還させることができるようにすることも考えられる。 ⑵ 遺留分減殺の対象に関する規律 相続人に対して遺贈又は贈与がされた場合には,その目的財産のうち当該 相続人の法定相続分を超える部分を減殺の対象とするものとする。ただし, これによってその者の遺留分を侵害することができないものとする。 ⑶ 遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律 遺産分割の対象となる財産がある場合(既に遺産分割が終了している場合 を含む。)に個別的遺留分侵害額の算定において控除すべき「遺留分権利者が 相続によって得た積極財産の額」は,具体的相続分に相当する額(ただし, 寄与分による修正は考慮しない。)とするものとする(注)。 (注)この点については,法定相続分に相当する額を控除するという考え方もあり得る が,このような考え方によると,遺贈等を受けた相続人の方がそうでない相続人より も最終的な取得額(遺産分割における取得額や遺留分減殺請求による増減額を反映さ 15 せた額。)が少ないという逆転現象が生じ得るため,仮にこのような考え方を採る場 合には何らかの調整規定を設ける必要がある。 3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し ○ 遺留分権利者が承継した相続債務について,受遺者又は受贈者が弁済をし, 又は免責的債務引受をするなど,その債務を消滅させる行為をした場合には, 遺留分権利者の権利は,その消滅した債務額の限度で減縮するものとする。 (後注) 1 遺留分権利者の範囲(民法第1028条)に関し,直系尊属には遺留分を認めないものと する考え方があるが,その当否については,なお検討する。 2 負担付贈与や不相当な対価による有償行為がある場合における遺留分の算定方法について は,なお検討する。 第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策 1 甲案(請求権者の範囲を限定する考え方) ① 二親等内の親族で相続人でない者は,被相続人の事業に関する労務の提供 又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産 の維持又は増加について特別の寄与をしたときは,相続が開始した後,相続 人に対し,金銭の支払を請求することができるものとする。 ② ①の金銭の額について,①の請求をした者と相続人との間で協議が調わな いとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所がこれを定める ものとする。 ③ ②の場合には,家庭裁判所は,①の請求をした者の寄与の時期,方法及び 程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,①の請求をした者に支払 うべき金額を定めるものとする。 ④ 各相続人は,③の額について,法定相続分に応じてその責任を負うものと する。 ⑤ ①の請求は,限定承認,財産分離及び相続財産破産の各手続が開始された 場合には,することができないものとする。ただし,これらの手続が終了し た後に相続財産が残存する場合は,この限りでないものとする。 ⑥ ①の請求権は,相続開始を知った時から一定期間(例えば6箇月間)行使 しないときは,時効によって消滅するものとする。〔相続開始の時から一定期 間(例えば1年)を経過したときも,同様とするものとする。〕 2 乙案(貢献の対象となる行為を無償の労務の提供に限定する考え方) 16 ① 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をし,これにより被 相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者(相続人を除く。) があるときは,その寄与をした者は,相続が開始した後,相続人に対し,金 銭の支払を請求することができるものとする。 ② 甲案の②から⑥までに同じ。

民法(相続関係)等の改正に関する 中間試案の補足説明 平成28年7月 法務省民事局参事官室 目 次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第1 配偶者の居住権を保護するための方策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策・・・・・・・・・・・・・・・・・7 3 配偶者の居住建物が賃貸物件である場合の保護方策・・・・・・・・・・・・・14 第2 遺産分割に関する見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 1 配偶者の相続分の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2 可分債権の遺産分割における取扱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 3 一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等・・・・・32 第3 遺言制度に関する見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 1 自筆証書遺言の方式緩和・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 ⑴ 権利の承継に関する規律・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 ⑵ 義務の承継に関する規律・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 ⑶ 遺贈の担保責任・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 3 自筆証書遺言の保管制度の創設・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 4 遺言執行者の権限の明確化等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 ⑴ 遺言執行者の一般的な権限等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 ⑵ 民法第1013条の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 ⑶ 個別の類型における権限の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 ⑷ 遺言執行者の復任権・選任・解任等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 第4 遺留分制度に関する見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・55 2 遺留分の算定方法の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 ⑴ 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき相続人に対する生前贈与の 範囲に関する規律・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 ⑵ 遺留分減殺の対象に関する規律・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 ⑶ 遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律・・・・・・・・・・・70 ⑷ 本部会において検討されたその余の方策について・・・・・・・・・・・・・74 3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し・・・・・・・75 4 その他について(「後注」)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 ⑴ 遺留分権利者の範囲について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 ⑵ 負担付贈与及び不相当な対価による有償行為がある場合における遺留 分の算定方法について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 1 はじめに (審議の経緯) 相続法制については,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度 の創設等の見直しがされて以来,30年以上実質的な見直しはされていない状況 にあるが,我が国においては,その間にも高齢化社会が更に進展し,家族の在り 方に関する国民意識にも変化が見られるところである。このため,これらの社会 情勢等を踏まえ,平成27年2月,法制審議会第174回会議において,法務大 臣により,相続法制の見直しについて諮問がされ(諮問第100号),その調査審 議のため,民法(相続関係)部会(以下「本部会」という。)(部会長・大村敦志 東京大学大学院教授)が設置された。 本部会では,平成27年4月から平成28年6月までの間,概ね1か月に1回 の割合で審議を重ね,平成28年6月21日の第13回会議において,「民法(相 続関係)等の改正に関する中間試案」(以下「本試案」という。)を取りまとめる とともに,これを事務当局において公表し,意見募集手続を行うことが了承され た。 相続法制は,国民生活一般に深く関わるものであって,その見直しに当たって は幅広く意見を求める必要があると考えられる。本部会では,今後は,本試案に 対して寄せられた意見等を踏まえ,引き続き精力的に審議を行うことが予定され ている。 なお,この補足説明は,これまでの本部会での審議を踏まえ,本試案の内容の 理解に資するため,本試案の各項目について,その趣旨等を事務当局である法務 省民事局(参事官室)の責任において補足的に説明する目的で作成したものであ り,その文責は法務省民事局(参事官室)にある。このように,この補足説明は, あくまでも意見募集の対象である本試案の内容について検討を加える際の参考資 料として作成したものであって,それ以上の意味を持つものではない。 2 第1 配偶者の居住権を保護するための方策 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策 【見直しの要点】 ⑴ 遺言等がなく遺産分割が行われる場合の規律 被相続人の配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住し ていた場合には,遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間,引き 続き無償でその建物を使用することができるものとする。 ⑵ 遺言等により配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の 特則 被相続人の配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住して いた場合において,配偶者以外の者が遺言等によりその建物の所有権を取得 したときでも,被相続人の配偶者は,相続開始の時から一定期間(例えば6 か月間)は,無償でその建物を使用することができるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 配偶者の一方(被相続人)が死亡した場合でも,他方の配偶者(生存配偶 者)は,それまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが 通常である。特に,相続人である配偶者が高齢者である場合には,住み慣れ た居住建物を離れて新たな生活を立ち上げることは精神的にも肉体的にも大 きな負担となると考えられることから,高齢化社会の進展(注)に伴い,配 偶者の居住権を保護する必要性は高まっているものと考えられる。 相続に伴う配偶者の居住権の保護に関しては,かつては以下のような問題 が議論されていた。すなわち,相続人である配偶者が被相続人の許諾を得て 被相続人所有の建物に居住していた場合には,その配偶者は,相続開始前に は,被相続人の占有補助者としてその建物に居住していることになるが,被 相続人の死亡によりその占有補助者としての資格を失うことになるため,こ のような場合に,いかにして配偶者の居住権保護を図るべきかという問題で ある。この点について,判例(最高裁平成8年12月17日判決民集50巻 10号2778頁。以下「平成8年判例」という。)は,相続人の1人が被相 続人の許諾を得て被相続人所有の建物に同居していた場合には,特段の事情 のない限り,被相続人とその相続人との間で,相続開始時を始期とし,遺産 分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されるとの判断 を示した。これにより,この要件に該当する限り,相続人である配偶者は, 遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権が確保されることとなった。 3 平成8年判例は,現行法の下で,前記の問題を解決するために苦心して考 えられた法的構成であるとの評価もされているが,あくまでも当事者間の合 理的意思解釈に基づくものであるため,被相続人が明確にこれとは異なる意 思を表示していた場合等には,配偶者の居住権が短期的にも保護されない事 態が生じ得る。例えば,被相続人が配偶者の居住建物を第三者に遺贈した場 合には,被相続人の死亡によって建物の所有権を取得した当該第三者からの 退去請求を拒むことができないことになる。 このため,本部会では,これらの場合を含め,配偶者の短期的な居住権を 保護する方策について検討を行った。 (注)平成25年(2013年)における国民の平均寿命は男女とも80年を超えており(男 性80.21年,女性86.61年),配偶者の相続分の見直し等がされた昭和55年(1 980年)当時と比較すると,男性は6.86年,女性は7.85年延びている(厚生労 働省「平成25年簡易生命表」より)。 2 見直しの内容 ⑴ 遺産分割が行われる場合の規律 「⑴」は,平成8年判例や外国法制(フランス法)(注1)等を参考にし て,相続開始から遺産分割により配偶者の居住建物の帰属が確定するまで の間の比較的短期間につき,配偶者がその居住建物に無償で居住すること を認めることとするものである。このように,配偶者に限って短期的な居 住権を保護することについては,その根拠が問題となり得るが,前記のと おり,高齢化社会の進展に伴い,配偶者の居住権保護の必要性が高まって いることに加え,夫婦は相互に同居・協力・扶助義務を負うなど(民法第 752条),法律上最も緊密な関係にある親族であるとされていること(注 2)等を考慮すれば,配偶者に限り,このような保護を与えることにも相 応の理由があるものと考えられる。 このように,短期居住権は,比較的短期間の居住利益を保護するために, 配偶者に無償での使用を認める権利であるため,後記の長期居住権とは異 なり,第三者対抗力まで付与することとはしていない。 このような考え方を前提とすれば,短期居住権は,使用借権類似の法定 の債権(注3)ということになるものと考えられるが,この場合の債務者は 当該建物の所有者とすることを想定しており,「⑴」の場合には,当該建 物を共有する相続人が債務者になる(注4)。 (注1)フランス法では,配偶者は,法律上当然に,相続開始時に居住していた住居とそ こに備えられた動産(家具等)を1年間無償で使用収益する権利を有するとされてい る。 4 (注2)民法上「親等」は,親族関係の親疎遠近の度合いを示す概念であり,親族間の世 代数を数えて定めるものであるが,配偶者は,一親等ですらないことからすれば,法 律上最も緊密な関係にある親族であるといえる。 (注3)したがって,短期居住権の内容や効力については全て法定する必要があるものと 考えられる。 (注4)これに対し,遺言等があるため遺産分割を行う必要がない場合(「⑵」の場合) には,遺贈等により当該建物の所有権を取得した者が債務者になる。 ア 短期居住権の内容 「①」は,短期居住権の発生要件や存続期間等の基本的な内容を定め るものであり,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住してい たことを要件として,遺産分割終了時までの間,その建物を無償で使用 することができることとするものである。このうち,存続期間について は,本部会において,配偶者が遺産分割協議を意図的に引き延ばすなど した場合には,他の相続人の利益を不当に害することになるのではない かとの指摘がされ,その上限を設けることについても検討がされた。し かし,存続期間の上限を設けると平成8年判例による場合よりも配偶者 の保護が弱くなるおそれがあることや,配偶者が意図的に遺産分割協議 を引き延ばしているような場合については,権利濫用等の一般条項によ る解決もあり得ること等を考慮し,「①」では,存続期間に上限を設ける ことはしていない。 「②」は,平成8年判例との整合性や他の相続人の負担の程度等を考 慮し,配偶者が短期居住権の取得によって得た利益については,配偶者 の具体的相続分に含めないこととするものである(注)。 なお,このように短期居住権を取得した配偶者に無償での建物使用を 認めることとする場合には,短期居住権と平成8年判例との関係が問題 となるが,この点については,次のように考えられる。前記のとおり, 平成8年判例は被相続人とその配偶者の合理的意思解釈として使用貸借 契約の成立を推認するものであるが,本方策のような見直しをした場合 には,これにより使用貸借契約が締結された場合とほぼ同様の状態が確 保されることになるから,被相続人とその配偶者の通常の意思としては, それとは別に使用貸借契約を締結する意思まではないと考えるのが自然 ではないかと思われ,その限りで使用貸借契約の成立を推認する従前の 判例は変更されることになるのではないかと考えられる。他方,配偶者 以外の相続人については,基本的には,本方策による影響を受けること 5 なく,従前と同様に,平成8年判例等によってその居住権が保護される ことになるものと考えられる。 (注)この点は,平成8年判例の枠組みでも同じ結論になるものと考えられる。すなわ ち,平成8年判例は,配偶者等の相続人が被相続人の死亡後も無償で居住建物を使 用することができる法的根拠を被相続人と配偶者との間の使用貸借契約に求めてい るが,配偶者は従前の契約により被相続人の死亡を始期とする使用借権を取得した にすぎず,相続によって何らかの権利を承継したものではなく,また,使用借権の 取得は生前贈与にも当たらないと解されることからすれば,平成8年判例では,使 用貸借契約によって得られた利益を配偶者の具体的相続分から控除することは予定 されていないものと考えられる。 イ 短期居住権の効力 「イ」は,短期居住権の効力に関する規律を定めるものであるが,短 期居住権と使用借権の類似性を考慮し,その効力については,概ね使用 借権と同様の規律を設けている。 「(ア)」は,使用貸借契約における借主と同様,配偶者に当該建物につ いて用法遵守義務及び善管注意義務を負わせることとするものである。 なお,建物所有者が配偶者に対して負う義務については,使用貸借契 約における貸主と同様,配偶者が建物を使用するのに適した状態にすべ き義務(修繕義務等)までは負わず,基本的には,配偶者による居住建 物の使用を受忍すれば足りるとすることを想定している。 「(イ)」は,必要費と有益費の負担について,使用貸借契約の場合と同 様の規律を設けることとするものである。すなわち,通常の必要費(固 定資産税及び通常の修繕費)は配偶者の負担とする一方,臨時の必要費 (例えば,不慮の風水害により家屋が損傷した場合の修繕費)及び有益 費(例えば,リフォームの工事をした場合の費用)については建物所有 者の負担とした上で,これを配偶者が支出した場合には,建物所有者に 対し,民法第196条の規律に従って,その償還を求めることができる こととしている。もっとも,償還すべき有益費が高額の場合には,建物 所有者による一括償還が困難となるおそれもあることに配慮し,「②」 ただし書において,有益費の償還については,裁判所が相当の期限を与 えることができることとしている。 「(ウ)」は,使用貸借契約の場合と同様,配偶者は短期居住権を第三者 に譲渡し,又は建物を第三者に使用若しくは収益をさせることができな いこととするものである。これは,短期居住権があくまでも配偶者の短 6 期的な居住権を保護するために新設する権利であり,このような目的に 照らすと,配偶者にその収益権限や処分権限まで認める必要はないこと 等を考慮したものである。 ウ 短期居住権の消滅 「ウ」は,短期居住権の消滅事由やその場合の効果に関する規律であ る。 「①」は,配偶者が「イ」の義務に違反した場合,すなわち用法遵守 義務等に違反した場合(「㋐」)や,第三者(注)に居住建物を使用さ せた場合(「㋑」)に,配偶者以外の相続人に短期居住権の消滅請求権 を認めるものである。この消滅請求について,本試案では,配偶者以外 の相続人が各自単独で行使することができることとしているが,この点 については,配偶者以外の相続人の共有持分の過半数をもって決するこ ととすることも考えられる。 「②」は,配偶者が居住建物の占有を喪失し,又は配偶者が死亡した 場合には,短期居住権は消滅することとするものである。短期居住権は, 配偶者が相続開始によってそれまで居住していた建物から直ちに退去し なければならなくなる事態を生じさせないようにするために設けるもの であるから,配偶者が自ら居住建物から退去し,又は死亡した場合には, 短期居住権を存続させる意義がなくなること等を考慮したものである。 なお,ここにいう「占有の喪失」は,居住建物に対する事実上の支配を 喪失することを意味するものであるから,配偶者が入院等により一時的 に当該建物を離れた場合でも,建物に荷物を残しており,その鍵を保有 しているなど,建物に対する事実上の支配を継続しているとみられる場 合には,未だ占有を喪失したことにはならず,短期居住権は消滅しない。 これ以外にも,短期居住権は,遺産分割により当該建物の帰属が確定 した時(「ア・①」)や,短期居住権の目的とされた建物が滅失した時に も消滅することになる。 「③」は,短期居住権が消滅したときは,配偶者は原状回復義務を負 うこととするものである。原則として相続開始時の原状に復すべき義務 があるとしつつ,ただし書において,短期居住権に引き続き,長期居住 権が成立する場合には,短期居住権消滅時には原状回復義務は負わない こととしている(この場合には,「2・⑷・③」ただし書のとおり,長 期居住権消滅時に原状回復義務を負うことになる。)。また,配偶者の 死亡によって短期居住権が消滅した場合には,配偶者の相続人が原状回 7 復義務を負うことを想定している。 (注)ここでの「第三者」は,配偶者以外の者をいうが,履行補助者は含まれない(な お,民法第594条第2項の「第三者」についても,一般に同様の解釈がされている。)。 したがって,例えば,配偶者を介護するために,その親族が新たに配偶者と同居を始 めた場合は,「第三者に居住建物を使用させた場合」には該当しないことになる。 ⑵ 配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則 「⑵」は,配偶者以外の者が遺言等により配偶者の居住建物の所有権を 取得した場合に関する特則を定めるものである。平成8年判例によれば, 被相続人が遺言により配偶者以外の者に配偶者の居住建物を遺贈した場合 など,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を締結する意思を有し ていなかったことが明らかな場合には,配偶者の居住権は保護されないこ とになるが,「⑵」は,このような場合にも配偶者の短期的な居住の利益 を保護するために,「一定期間(例えば6か月間)」に限り,配偶者に無償 で居住建物の使用を認めることとするものである。 このような規律は,被相続人の財産処分権を一部制限するものではある が,一方の配偶者はその死亡後に他方の配偶者が直ちに建物からの退去を 求められるような事態が生ずることがないよう配慮すべき義務を負うと解 することが可能であるものと考えられ(婚姻の余後効),配偶者の短期的 な居住の利益を確保するために,その限度で被相続人の処分権限を制約す ることには相応の合理性があるものと考えられる。他方,この規律は,配 偶者以外の者が遺言又は死因贈与により「無償で」建物を取得した場合に 適用されるものであり,かつ,その存続期間も6か月間程度の短期間にす ることを想定しているため,配偶者の居住建物の所有権を取得した者の利 益を不当に害することにもならないと考えられる。 「①」は,「⑵」の特則が適用される要件やその基本的な効果を定める ものであるが,「⑵」により短期居住権が発生した場合の効力や消滅事由 等については,「⑴」の短期居住権とほぼ同様であるため,「②」におい てその旨を明らかにしている。なお,「⑵」の場合に短期居住権の消滅請 求をすることができるのは,配偶者以外の相続人ではなく,配偶者の居住 建物の所有権を取得した者となる。 2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 【見直しの要点】 配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として,終身 8 又は一定期間,配偶者にその使用を認めることを内容とする法定の権利(以下 「長期居住権」という。)を新設し,遺産分割における選択肢の一つとして,配 偶者に長期居住権を取得させることができるものとするほか,被相続人が遺言 等によって配偶者に長期居住権を取得させることができるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 近年の高齢化社会の進展により,相続開始時点で配偶者が既に高齢となっ ている事案が増加しているが,平均寿命の伸長に伴い,そのような場合でも, その配偶者がその後長期間にわたって生活を継続することも少なくない。こ のような場合には,その配偶者としては,住み慣れた居住環境での生活を継 続するために居住権を確保しつつ,その後の生活資金としてそれ以外の財産 についても一定程度確保したいという希望を有する場合も多いと考えられる。 現行法の下では,配偶者が従前居住していた建物に住み続けたいという希 望を有する場合には,配偶者がその建物の所有権を取得するか,又は,その 建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結することが 考えられる。 しかし,前者の方法による場合には,居住建物の評価額が高額となり,配 偶者がそれ以外の遺産を取得することができなくなってその後の生活に支障 を来す場合も生じ得ることになる。また,後者の方法による場合には,その 建物の所有権を取得する者との間で賃貸借契約等が成立することが前提とな るため,契約が成立しなければ,配偶者の居住権は確保されないことになる (注)。 (注)現行法の下で,遺産分割の審判等の中で賃借権等の権利を設定することにより,配偶 者の居住建物の所有権を使用権に関する部分とその余の部分に分けた上で,相続人の1人 に使用権に関する部分のみを分与することができるかどうかについては争いがあるよう である。 しかしながら,現行法上,建物を目的とする用益物権は存在しないため,用益物権の 設定により建物所有権をその用益物権とその余の部分に分割することはできない。した がって,現行法の下で,前記のような分割をしようとすれば,賃貸借や使用貸借といっ た契約関係を設定する必要があるが,当事者間の合意によらずに賃貸借や使用貸借とい った契約関係の設定を認めるのであれば,その旨の根拠規定が必要になるものと考えら れる。他の法令においても,当事者間の合意によらずに賃借権の成立を認める場合には, その旨の根拠規定が設けられている(仮登記担保契約に関する法律第10条等)。 以上の理解を前提とすれば,現行法の下で,前記のような分割方法を用いることは困 難であるものと考えられる。 9 2 見直しの趣旨及び内容 長期居住権の制度は,配偶者に居住建物の使用のみを認め,収益権限や処 分権限のない権利を創設することによって(これにより,建物の財産的価値 を居住権部分とその残余部分とに二分することが可能となる。),遺産分割の 際に,配偶者が居住建物の所有権を取得する場合よりも低廉な価額で居住権 を確保することができるようにすることを意図したものである。すなわち, 相続人は,遺産分割において,各自その具体的相続分に相当する額の財産を 取得することになるが,例えば,配偶者の具体的相続分が3000万円であ る事案において,その居住建物の評価額が2500万円である場合には,配 偶者がその建物の所有権を取得すると,配偶者は,それ以外には500万円 に相当する財産しか取得することができないが,長期居住権の評価額が20 00万円である場合(注1)には,配偶者が長期居住権を取得すれば,そのほ かに1000万円に相当する財産を取得することができることになり,老後 の生活の安定を図ることが可能となる場合が生じ得るものと考えられる。 もっとも,配偶者が長期居住権を取得した場合には,居住建物の所有権を 取得した場合とは異なり,原則として,その建物を賃貸して利益を得たり, これを処分したりすることはできない。このように,長期居住権の制度は, あくまでもその居住建物を使用することができれば足り,それ以外の権限行 使は必要がないという一部のニーズに応えるものとして構想したものであっ て,必ずしも配偶者が被相続人所有の建物に居住している場合に一般的に使 われるものとして構想したものではない。また,長期居住権の存続期間が相 当長期に及ぶ場合には,長期居住権の評価額は,配偶者が居住建物の所有権 を取得する場合とさほど変わらなくなるものと考えられる。したがって,長 期居住権は,例えば,遺産分割時に配偶者が既に高齢に達している場合に, 新たな遺産分割方法の選択肢として,より有効性を発揮するものと考えられ る。 また,長期居住権の活用場面は遺産分割がされる場合に限られるものでは なく,後記のとおり,建物を所有する者が遺言によって配偶者にこれを取得 させることができることとしている。これによって,例えば,それぞれ子ど もがいる高齢者同士が再婚した場合に,自宅建物を所有する者は,遺言によ って,その配偶者に長期居住権を取得させてその居住権を確保しつつ,自宅 建物の所有権を自分の子どもに取得させることができることとなる(注2)。 このように,長期居住権は,遺産分割等の場面で配偶者の居住権を確保す るための新たな選択肢として,配偶者の居住建物の所有権を使用権に関する 10 部分とその余の部分とに分割するのに必要な受け皿となる権利を創設するも のである。 (注1)長期居住権の財産評価方法については,後記のとおり,今後検討することになる が,基本的には,その存続期間の長短によってその評価額も上下することになると考え られるから,配偶者が遺産分割によって長期居住権を取得しようとする場合には,長期 居住権の存続期間を調整することによって,その評価額もある程度調整することが可能 になると考えられる。なお,長期居住権は,あくまでも配偶者を保護するための方策で あるから,遺産分割において,配偶者が希望する期間を超えて長期居住権を設定するこ とは想定していない。 (注2)このような事例において,Aが遺言によってその所有する自宅をその配偶者Bに 取得させた場合には,Bが死亡したときにはBの子がこれを相続することになるが,A が遺言によってBに長期居住権を,Aの子にその所有権を取得させることとすれば,A の子は,Bが死亡した後は,何ら制約のない完全な所有権を取得することになる。 ⑴ 長期居住権の内容 「⑴」は,長期居住権の内容を定めるものである。長期居住権は,配偶 者がその居住建物を使用することができる権利としているため,その法的 性質については,用益物権とする考え方と法定の債権とする考え方があり 得る。この点について,本部会では,配偶者の居住権保護のために新たな 用益物権を創設するまでの必要はないのではないかといった意見が多かっ たため,長期居住権の法的性質については,賃借権類似の法定の債権と位 置づけている。もっとも,後記のとおり,賃借権とは異なり,対抗要件を 登記のみとし,建物の占有をもって対抗要件とすることとはしていない (注)。 (注)これは,長期居住権においては,相続開始時に配偶者がその建物に居住していたこ とがその成立要件とされており,占有を対抗要件として認めると,ほぼすべての事案で 長期居住権の成立と同時に対抗要件を取得することになること,このため,占有を対抗 要件として認めると,被相続人の債権者が相続開始前に差押え等の債権保全手段を講ず るなどして,かえって配偶者の居住権が保護されない事態が生じ得ること,賃借権の場 合には,その目的建物の所有権を取得した者が賃借権の存在を知らなかった場合でも, その後の賃料を取得することができるのに対し,長期居住権の場合には,その存続期間 中賃料収入すら得られないことになるため,第三者に権利の内容を適切に公示すべき必 要性がより高いと考えられること等を考慮したものである。 ⑵ 長期居住権の成立要件 「⑵」は,長期居住権の成立要件を定めるものであり,「①」で一般的な 11 発生事由を,「②」でそのうち遺産分割の審判により配偶者に長期居住権を 取得させる場合に必要となる要件を定めるものである。 長期居住権は,「⑴」のとおり,配偶者が相続開始の時に居住していた被 相続人所有の建物を対象とする権利であるから,「相続開始の時に被相続人 所有の建物に居住していたこと」が成立要件となる。その上で,「①」では, その発生事由として,「㋐」遺産分割による場合,「㋑」遺言による場合, 「㋒」死因贈与契約の締結による場合を挙げている。「㋐」のうち,遺産分 割協議が成立した場合には,配偶者に長期居住権を取得させることに問題 はなく,「㋑」及び「㋒」の場合も,被相続人の処分によるものであるから, 居住要件以外に特段の要件は設けていないが,「㋐」のうち遺産分割の審判 によって配偶者に長期居住権を取得させる場合には,「②」の要件を満たす ことが必要であることとしている。これは,配偶者に長期居住権を取得さ せる場合には,その建物の所有権を取得する相続人はその存続期間中これ を使用することができず,建物所有者と配偶者との間で紛争が生ずるおそ れもあるため,その建物の所有権を取得することとなる相続人の意思に反 して裁判所が配偶者に長期居住権を取得させることができる場合を,配偶 者の居住権保護の必要性が特に高い場合に限定したものである。 「①」では,配偶者が長期居住権を取得した場合の他の相続人への影響 等を考慮し,配偶者は長期居住権の財産的価値に相当する金額(財産評価 額)を相続したものと扱うこととしている。その結果,配偶者は,居住建 物以外の遺産からは,自己の具体的相続分から長期居住権の財産評価額を 控除した残額について財産を取得することになり,配偶者が長期居住権を 取得しても他の相続人の具体的相続分は変わらないことになる。 このような考え方を採った場合には,長期居住権の財産評価をいかにし て行うかが重要となるが,その算定方法についてはなお検討する必要があ るため,「(注1)」において,その点は今後の検討課題である旨を注記して いる。 なお,この点について,本部会では,長期居住権の財産評価方法として, 以下のような算定をすることが検討された(注1)。 (計算式) 長期居住権の評価額 =建物賃借権の評価額+(建物の賃料相当額×存続期間-中間利息額) もっとも,建物所有権を長期居住権とその余の権利に分けるものとした 場合には,これに付随して,相続税の課税対象をどのように定めるべきか 12 という重要な問題が生ずることから,長期居住権の財産評価方法を定める に当たっては,相続税制との整合性を考慮する必要があると考えられる。 このような観点からは,長期居住権を賃借権類似の法定の権利と位置づ ける場合には,例えば,相続税の課税実務(注2)と同様に,その権利自体 の評価額を0円とすることも考えられる。このような考え方を採用すれば, 当該建物の適正賃料額から長期居住権の評価額を算定することができるよ うになり,財産評価がより容易になると考えられる。 (注1)本試案における長期居住権は,基本的には,その存続期間中,配偶者が建物使用 の対価を支払わないこととすることを念頭に置いているが,仮に対価を支払う方式のも のも認めることとする場合には,その財産評価については更に慎重な検討が必要になる ものと考えられる。 (注2)相続税の課税実務上,借家権が権利金等の名称で取引される慣行のある地域を除 き,借家権については相続税を課さない取扱いがされている(財産評価基本通達94た だし書)。 ⑶ 長期居住権の効力 「⑶」は,長期居住権の効力に関する規律を定めるものであるが,長期 居住権と賃借権の類似性を考慮して,その内容については,おおむね賃借 権と同様の規律を設けることとするものである。 「ア」は,配偶者にその居住建物を使用する権利を認める反面として, 当該建物について用法遵守義務や善管注意義務(保存義務)等を負わせる こととするものである。 「イ・①」は,通常の必要費及び臨時費については,いずれも配偶者の 負担とすることとするものである(臨時費についての規律が短期居住権と 異なることになる。)。この点は,賃貸借契約とは異なる規律であるが, 建物所有者の負担等を考慮し,必要費についてはすべて配偶者の負担とす ることとしている。 「イ・②」は,有益費については,これを建物所有者の負担とした上で, 配偶者がこれを支出した場合には,長期居住権が消滅した時に,民法第1 96条の規律に従ってその償還を求めることができることとするものであ る。 「ウ」は,配偶者は,建物所有者の承諾を得なければ,長期居住権を第 三者に譲渡し,又は当該建物を他の者に賃貸等することができないことと するものである。これは,建物所有者は誰が建物を使用するかについて重 大な利害関係を有していることを考慮したものであり,民法上の賃貸借(第 13 612条第1項)と同様の規律を設けることとするものである。 「エ」は,長期居住権の対抗要件に関する規律を定めるものであり,配 偶者が長期居住権の登記をしたときは,第三者にこれを対抗することがで きることとするものである。長期居住権については,賃借権とは異なり, これを取得した配偶者に登記請求権を付与することを前提としているが, 「(注3)」において,その登記手続をどのように定めるかについては,今 後の検討課題である旨を注記している。 ⑷ 長期居住権の消滅 「⑷」は,長期居住権の消滅事由を規定するものである。 「①」は,「㋐」配偶者が用法遵守義務等に違反した場合及び「㋑」配 偶者が建物所有者の承諾を得ずに第三者に居住建物を使用させた場合には, 建物所有者が配偶者に対して長期居住権の消滅を請求することができるこ ととするものである。 「②」は,配偶者が死亡した場合には,長期居住権はその設定時に定め られた存続期間内であっても消滅することとするものである。長期居住権 はあくまで配偶者の居住権を保護するための権利であることから,これを 相続の対象とはしないこととしている。したがって,配偶者が建物所有者 の承諾を得て長期居住権を第三者に譲渡していた場合であっても,その後 に配偶者が死亡したときは,これにより長期居住権は消滅することになる。 「③」は,長期居住権が消滅したときは,配偶者は原状回復義務を負う こととするものである。配偶者の死亡によって長期居住権が消滅した場合 には,短期居住権の場合と同様,配偶者の相続人が原状回復義務を負うこ とを想定している。なお,この原状回復義務は,配偶者が長期居住権を取 得した時点の原状に復させることとするものであるが,短期居住権からそ のまま長期居住権に移行した場合については,短期居住権の消滅時には配 偶者に原状回復義務を負わせないこととしているため(「1・⑴・ウ・③」 ただし書),相続開始時の原状に復させることとしている。 ⑸ 長期居住権の買取請求について 「(後注)」は,長期居住権について,配偶者に買取請求権を認めるこ ととするかどうかは,今後の検討課題である旨を注記するものである。 本部会では,配偶者が長期居住権を取得した後,介護施設入所等の事情 変更により居住建物から退去せざるを得なくなった場合について,建物所 有者に対する買取請求権等を認めるなどの柔軟な制度設計をする必要があ るのではないかとの指摘がされた。その一方で,買取請求権を設けるとか 14 えって長期居住権に関する規律が複雑化するとして,これを設けることに 慎重な意見も出された。 そこで,本試案においては,本文の中でこれを掲げることとはせずに, 仮に買取請求権を認めることとする場合に考えられる規律を「(後注)」 において記載することとしたものである。 「㋐」は,配偶者に長期居住権の買取請求権を認める場合の要件を定め たものであり,ここでは,配偶者が居住建物を使用することができなくな ったことについてやむを得ない事由がある場合にこれを認めることとして いる。 「㋑」は,「㋐」の要件を満たす場合に,その買取価格について配偶者 と建物所有者との間で協議が調わない場合や協議をすることができない場 合には,配偶者の申立てに基づき,裁判所がこれを定めることとするもの である。 「㋒」は,配偶者が買取りを求めた時点における長期居住権の残存期間 が「一定期間」(例えば5年間)を超える場合であっても,裁判所が買取 価格(建物所有者が配偶者に支払うべき金額)を定めるに当たっては,残 存期間を「一定期間」であるものとみなしてその評価をすることとするも のである。これは,存続期間について上限を設けることにより,買取価格 が高額となって建物所有者の負担が過大にならないよう配慮したものであ る。 「㋓」は,裁判所が長期居住権の買取請求を認める場合に,建物所有者 の資力等を考慮し,対価の支払につき一定の猶予期間を設け,又は分割払 の定めをすることを可能とするものである。 「㋔」は,「㋓」の支払方法を定めるに当たり考慮すべき事情を定めた ものである。 なお,仮にこのような制度を設ける場合には,買取請求の相手方(相続 人から建物所有権を譲り受けた第三者をも含むか否か)等についても,検 討する必要がある。 3 配偶者の居住建物が賃借物件である場合の保護方策 前記「1」及び「2」の方策は,いずれも配偶者の居住建物が被相続人所有 であった場合に関するものであるため,本部会では,これらとは別に,配偶者 の居住建物が第三者から賃借していた建物であった場合についても配偶者保護 のための措置を講ずる必要があるか否かについても検討がされた。 15 本部会では,配偶者の居住建物が賃借物件である場合についても何らかの措 置を講ずることを積極的に検討すべきであるとの指摘がされた一方で,現行法 の規律を前提とする限り,配偶者は,少なくとも2分の1の法定相続分を有す るため,他の相続人が配偶者の同意を得ることなく賃貸借契約を解除すること はできず,遺産分割が終了するまでの間は当該建物に居住することができると 考えられることから,特段の措置を講ずる必要はないのではないかとの指摘も された。また,配偶者の居住建物が賃借物件である場合については,配偶者が 建物賃借権の取得を希望する場合には配偶者に優先的な取得を認めることも考 えられるが,配偶者にこのような優先取得権を認めることについては,遺産分 割に関する紛争の柔軟な解決を阻害するおそれがあるとの指摘もされた(なお, 長期居住権についても,配偶者にこのような意味での優先取得権を認めること とはしていない。)。 これらの議論の結果を踏まえ,本部会においては,配偶者の居住建物が賃借 物件である場合については特段の措置を講じないこととされた。 第2 遺産分割に関する見直し 1 配偶者の相続分の見直し 【見直しの要点】 婚姻期間が長期間にわたる場合等,被相続人の財産の形成に対する配偶者の貢 献が類型的に大きいと考えられる場合に,配偶者の相続分を増加させるものとす る。 【説明】 1 見直しの必要性 相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長く,被相続人と同居してその日 常生活を支えてきたような者もいれば,老齢になった後に再婚した場合(注) 等婚姻期間が短い者もおり,また,形式的には婚姻期間が長期にわたる場合で あっても,別居期間が長く実質的な婚姻生活はそれほどなかったような者もい るなど,被相続人の財産の形成又は維持に対する寄与の程度は様々であると考 えられる。近時の高齢化社会の進展や,高齢者の再婚の増加に伴い,寄与の程 度に関するこれらの差異は拡大する傾向にあるものと考えられる。 配偶者の相続権の根拠については様々な見解があるが,一般には,実質的夫 婦共有財産(夫婦の一方がその婚姻中に他方の配偶者の協力を得て形成又は維 持した財産をいう。以下同じ。)の清算と配偶者の生活保障が挙げられており, その意味では,配偶者の相続権と離婚における財産分与は,その根拠に共通性 16 があるといわれている。 もっとも,相続の場面では,被相続人の債権者等第三者の利益にも配慮する 必要があり,また,一般に紛争当事者が離婚の場合よりも多くなることから, 権利関係を画一的に処理する必要性が高いものといえる。このため,現行の相 続制度では,配偶者の具体的な貢献の程度は寄与分の中で考慮され得るにすぎ ず,基本的には法定相続分によって形式的・画一的に遺産の分配を行うことと されているが,前記のような社会情勢の変化に伴い,実質的公平を欠く場合が 増えてきているとの指摘もされている。 これに対し,離婚における財産分与では,配偶者の貢献の程度を実質的に考 慮して財産の分配を行うこととされており,制度上,前記のような実質的公平 を欠く事態は生じにくいものといえる。このため,現行の相続制度は,離婚に おける財産分与制度との整合性がとれていないのではないかとの指摘もされて いる。 このため,本部会では,配偶者の相続分を定めるに当たり,配偶者の貢献の 程度を現行制度以上に反映させることを可能にする方策について検討を行っ た。 (注)平成24年(2012年)における65歳以上の再婚数は6,373人(男性4,2 74人,女性2,099人)となっており,昭和55年(1980年)に1,537人(男 性1,321人,女性216人)であったのに比べて,4倍以上に増加している(国立社 会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」より)。 2 本部会における検討の経緯 本部会では,前記1のような問題意識に基づき,遺産分割の場面において, 配偶者の貢献をより実質的に考慮するための方策として,遺産を実質的夫婦共 有財産と固有財産(当該夫婦の婚姻以前に形成された財産や被相続人が相続に よって取得した財産のように,一般に,その形成又は維持に他方の配偶者の協 力が認められない財産)とに区別した上で,実質的夫婦共有財産の形成又は維 持については一般に配偶者に相応の貢献が認められることに鑑み,実質的夫婦 共有財産における配偶者の取得割合を現行法よりも高くすることによって,遺 産全体に占める実質的夫婦共有財産の割合が高い場合に,配偶者の取り分を現 行法よりも増やすことを意図した考え方について検討を行った。具体的には, (ⅰ)遺産分割の手続に先行して,実質的夫婦共有財産について,離婚におけ る財産分与と同様の清算を行った後,その残額について遺産分割を行うとする 考え方と,(ⅱ)実質的夫婦共有財産と固有財産という遺産の属性に応じて計算 した額(注)と,現行の配偶者の具体的相続分とを比較して,前者の額の方が 17 高い場合には,前者の額を配偶者の具体的相続分とするという考え方について, それぞれ検討を行った。 しかしながら,これらの考え方に対しては,遺産が実質的夫婦共有財産と固 有財産のいずれに該当するかという点をめぐって相続に関する紛争が複雑化・ 長期化することを強く懸念する意見が多かったことから,本試案では,これら の考え方は採用しないこととし,これに代わるものとして,後記の【甲案】及 び【乙案】を提示することとしたものである。 (注)(計算式) 実質的夫婦共有財産×2分の1+その余の遺産(被相続人の固有財産及び実質的夫婦共 有財産の残余部分)の一定割合(法定相続分より低い割合。例えば子と共に相続する場合 は3分の1等) = 実質的夫婦共有財産×(法定相続分より高い割合)+被相続人の固有財産×(法定相続 分より低い割合) 3 【甲案】について ⑴ 見直しの趣旨及び内容 ア 基本的な考え方 【甲案】は,被相続人の財産が,婚姻後に一定の割合以上増加した場合に, その割合に応じて配偶者の具体的相続分を増やすという考え方であり,前 記2(ⅱ)の考え方を一部修正したものである(注1)。 すなわち,相続開始時における純資産額(x)から被相続人が婚姻時に 有していた純資産額(y)を控除した額(x-y)を,婚姻後に増加した 純資産の額(婚姻後増加額)とみて,婚姻後増加額については,類型的に 配偶者の貢献が大きいと考えられること等に鑑み,遺産に占める婚姻後増 加額の割合が高い場合に,一定の要件の下で,配偶者に現行の具体的相続 分を超える取り分を認めるというものである(注2)。 これは,離婚における財産分与では,婚姻後に一方の配偶者の財産が増 加した場合には,他方の配偶者がその身分関係に応じて通常期待される程 度の貢献しかしていない場合であっても,その増加額に応じて分与の額が 増えるのが通常であるのに対し,配偶者の場合には,他の相続人とは異な り,極めて長期間にわたって遺産の維持又は増加に貢献することも想定さ れるが,配偶者の貢献がその身分関係に応じて通常期待される程度のもの にとどまる場合には寄与分の要件を満たさないものと考えられていること から,寄与分による調整だけではその貢献を十分に反映させることができ ないこと(注3)等を考慮したものである。 (注1)前記2(ⅱ)の考え方は,遺産に属する個々の財産に着目し,これを実質的夫婦 18 共有財産と被相続人の固有財産に分けるものであったが,本部会では,例えば,婚姻中 に形成された財産でも,その代金の原資の一部に被相続人の固有財産が含まれている場 合など,被相続人の固有財産の価値が形を変えて存在しているような場合に,これをど のように評価すべきかが問題となり,この点の評価をめぐって紛争が長期化,複雑化す るおそれがあるとの指摘がされた。 これらの指摘や,離婚に伴う財産分与においてもしばしば実質的夫婦共有財産か固有財 産に当たるかで紛争が長期化することがあるとの指摘がされていること等を踏まえ,【甲 案】では,「実質的夫婦共有財産」に代わる概念として「婚姻後増加額」を用いること としたものである。すなわち,前記2(ⅱ)の考え方のように,遺産に属する個々の財 産に着目するのではなく,基本的には,婚姻後増加額を「(被相続人が相続開始時に有 していた純資産の額)―(被相続人が婚姻時に有していた純資産の額)」で算定するこ ととし,相続開始時及び婚姻時の純資産をいずれも総額として捉えることによって,前 記のような紛争が生じないようにしたものである。 (注2)前記(注1)のとおり,【甲案】では,相続をめぐる紛争が複雑化,長期化する ことをできるだけ回避する観点から,被相続人の固有財産が婚姻後に売却等によって財産 の性質を変えた場合にも,その価値が残存しているかどうかといった点は考慮しないこと としているが,婚姻成立時から相続開始時までの期間が相当長期に及ぶことも想定される ことから,その間の物価変動だけは考慮すること(婚姻成立時に存在した財産や相続によ って取得した財産の価値を現在価値に引き直すこと)が考えられる。また,婚姻期間が長 期に及ぶ場合には,婚姻時における純資産額を証明することが困難な事案も想定されるこ と等を考慮すると,婚姻後一定期間(例えば20年間)が経過した場合には,婚姻時にお ける純資産額を0円とみなすこと等も考えられる。 (注3)現行法上,寄与分が認められるためには,被相続人の財産の維持又は増加につい て「特別の寄与」をしたことが必要とされているところ,この「特別の寄与」とは,一 般に,被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献をいう と解されている。 イ 計算式の概要 具体的には,後記(計算式)のとおり,遺産分割の対象となる財産のう ち,婚姻後増加額については,類型的に配偶者の貢献が高いものとみて, 法定相続分よりも高い割合(例えば,子と共に相続する場合には3分の2) を乗じ,婚姻後増加額を除く部分については,類型的に配偶者の貢献は低 いものとみて,法定相続分よりも少ない割合(例えば,子と共に相続する 場合には3分の1)を乗じて計算した額(A)と,現行の配偶者の具体的 相続分(B)とを比較して,Aの額がBの額を上回る場合には,Aの額を 19 配偶者の具体的相続分とするものである。 (計算式) A=a+b a=(婚姻後増加額)×(法定相続分より高い割合) b=(遺産分割の対象財産の総額-婚姻後増加額)×(法定相続分よりも 低い割合) ウ 計算式の細目 (ア) 婚姻後増加額 前記のとおり,婚姻後増加額は,類型的に配偶者の貢献が高いものと みて,法定相続分よりも高い割合を乗ずることにするものであるが,婚 姻後に増加した財産であっても,被相続人が婚姻後に相続によって取得 した財産や,遺贈又は贈与によって取得した財産については,類型的に 被相続人の配偶者の貢献はないのが通常であると考えられる。このため, 後記(計算式)のとおり,婚姻後に相続,遺贈又は贈与によって財産が 増加したとしても,これらの財産の額については婚姻後増加額に含めな いこととしている。 (計算式) 婚姻後増加額= x-(y+z) x= 被相続人が相続開始時に有していた純資産の額 y= 被相続人が婚姻時に有していた純資産の額 z= 被相続人が婚姻後に相続,遺贈又は贈与によって取得した財産 の額 (イ) 純資産の額 婚姻後増加額を算出するに当たっては,被相続人の債務額を考慮する か否かが問題となり得るが,本試案では,被相続人の債務額を考慮する こととしている。これは,被相続人の債務額を考慮しないこととすると, 積極財産の取得原資の大半が借入資金であるような事案では,配偶者の 相続分が実際の貢献よりも過大なものとなり,かえって実質的公平を害 する場合が生ずること,相続債権者にとっても,配偶者以外の相続人が 取得する積極財産がその承継する債務に比して減少することになり,そ の利益が害されるおそれがあること等を考慮したものである。 このため,相続開始時に有していた財産の額と婚姻時に有していた財 産の額とを比較する場合には,後記(計算式)のとおり,その積極財産 の額から消極財産の額を控除した額(純資産の額)を基準にすることと 20 している。 (計算式) 純資産の額=(積極財産の額)-(消極財産の額) (ウ) 婚姻後増加額等に乗ずる割合について 前記イのとおり,【甲案】は,遺産分割の対象となる財産のうち,婚 姻後増加額については「法定相続分よりも高い割合」を乗じ,その余の 部分については「法定相続分よりも低い割合」を乗ずることを前提とす るものであるが,その割合については,例えば「(注2)」及び「(注 3)」のような考え方を採用することが考えられる。 例えば,配偶者が子と共に相続人となる場合に,「法定相続分よりも 高い割合」を3分の2とし,「法定相続分よりも低い割合」を3分の1 としたときには,遺産分割の対象となる財産に占める婚姻後増加額の割 合が2分の1を超える場合に,配偶者の具体的相続分は,現行の具体的 相続分よりも増えることになる(注1)(注2)。 (注1)もっとも,これは特別受益や寄与分がない場合を念頭に置いたものであり,特別 受益や寄与分がある場合には,このような単純な比較は困難である。 (注2)なお,婚姻後増加額の割合が2分の1以下となる場合には,本方策の計算式によ って算出された額(前記イのAの額)は,現行の具体的相続分(特別受益がない場合は 法定相続分の2分の1となる。)よりも少なくなるが(例えば,高齢者が再婚した場合 などが考えられるが,婚姻後増加額が3分の1に過ぎない場合は,この額は遺産の9分 の4(1 3 × 2 3 +2 3 × 1 3 =4 9 )に相当する額となる。),その場合には「超過額の加算」はさ れないこととなる。 ⑵ 本部会において指摘された問題点 【甲案】は,本部会における検討の経緯(その内容は前記2のとおり) 等を踏まえ,紛争の複雑化を避けるために,超過額を算定するための計算 式については,かなり割り切った考え方を採ったものである。そのため, 本部会においても,【甲案】の算定方法によって配偶者の具体的相続分を 算定することとした場合に,必ずしも配偶者の実質的貢献に応じた分配と はいえない場合もあり得ることになり,事案によってはかえって相続人間 の公平を害するおそれがあるとの指摘がされた。この点は,最終的には, 現行の規律よりも配偶者の貢献を実質的に考慮すべきであるという要請 と,このような制度を採用することによる紛争の複雑化,長期化を回避す べきであるという要請のバランスをいかにして図るかという問題に帰着 するものと考えられる。 21 4 【乙案】について ⑴ 【乙-1案】及び【乙-2案】に共通する事項 ア 基本的な考え方 一般に,婚姻期間が長期間にわたる場合には,一方の配偶者の財産の維 持又は増加に他方の配偶者の寄与の程度が高い場合が多く,また,相続開 始の時点で配偶者がともに高齢となっており,その生活保障を図る必要性 が高い場合が多いと考えられる。このような場合にも一律に現行の法定相 続分を適用することについては,離婚に伴う財産分与の場合と比較して不 均衡な結果になるとの指摘がされている。すなわち,配偶者が子と共に相 続人になる場合では,配偶者の法定相続分は2分の1となるが,例えば, 婚姻期間が長期間にわたり,相続財産のほとんどが婚姻後に形成されたも のである場合には,相続における配偶者の取り分が離婚に伴う財産分与の 場合とほとんど変わらないことになり,結果的に配偶者の生活保障という 要素が十分に考慮されていないことになるのではないかとの指摘がされて いる(注)。 【乙案】は,このような指摘を踏まえた上で,婚姻成立の日から一定期 間(例えば20年)が経過した場合に,一定の要件の下で(【乙-1案】), 又は当然に(【乙-2案】),配偶者の法定相続分を引き上げることとす るものである。 (注)配偶者の相続権と離婚における財産分与の趣旨ないし根拠については,一般に,そ のいずれについても配偶者の潜在的持分の清算とその生活保障が挙げられるが,配偶者 の生活保障の程度については,離婚の場合には,離婚解消後の比較的短期間の生活保障 が念頭に置かれているものと考えられるのに対し,相続の場合にはそれよりも長期間の 生活保障が念頭に置かれているものと考えられ,一般的には,相続の場合の方が離婚の 場合よりもより手厚い保護が必要になるものと考えられる。 イ 婚姻期間について 法定相続分の引上げの要件となる婚姻期間をどの程度とすべきかについ ては様々な考え方があり得るが,【乙案】では,これを20年とする考え方 のほか,30年とする考え方もあるので,その趣旨を〔 〕で併記するこ とにより表している(注)。 (注)婚姻期間が長期にわたる場合に,配偶者の地位を評価し,その生活を保護しようと する方策は,贈与税の配偶者控除制度においても見られるが(相続税法第21条の6第 1項参照),同制度では,婚姻期間が20年以上の場合について特例を設けている。 また,平成26年人口動態統計(厚生労働省)によれば,平均初婚年齢は夫31.1 歳,妻29.4歳となっている。他方,平成26年分の民間給与実態統計調査(国税庁) 22 によれば,年齢階層別の平均給与について,女性は年齢による較差はあまり顕著ではな いが,男性では50~54歳の階層が最も高くなっている。さらに,平成26年就労条 件総合調査(厚生労働省)における定年制に関する調査結果によれば,定年制を定めて いる企業の割合は93.8パーセントであり,そのうち一律に定年制を定めている企業 の割合は98.9パーセント,一律に定年制を定めている企業のうち60歳を定年年齢 とする企業の割合は81.8パーセントとなっている。これらの調査結果を踏まえると, 概ね婚姻後20年から30年までの間が夫婦の財産形成における中心的な時期であると 考えられる。 【乙案】は,これらの点を考慮して,「①」の婚姻期間を20年〔又は30年〕とした ものである。 ウ 引上げ後の法定相続分について 【乙案】では,引き上げ後の配偶者の法定相続分について,子と共に相 続する場合は3分の2,直系尊属と共に相続する場合は4分の3,兄弟姉 妹と共に相続する場合は5分の4とすることとしている。もっとも,この 点については,「(注3)」のとおり,配偶者が兄弟姉妹と共に相続する場 合には,兄弟姉妹に法定相続分を認めないという考え方もあり得る(注)。 (注)なお,【乙案】のような考え方については,配偶者が子と共に相続する場合には適用せ ず,配偶者が直系尊属又は兄弟姉妹と共に相続する場合に限って適用するということも 考えられる。 ⑵ 【乙-1案】について ア 基本的な考え方 【乙-1案】は,婚姻成立の日から一定期間が経過した後に,夫婦の間 で法定相続分を引き上げる旨の協議が調い,法定の方式によりその旨の届 出がされた場合には,その合意に基づき配偶者の法定相続分を引き上げる ことを認めるものである。 これに対し,【乙-1案】の〔 〕内は,配偶者の法定相続分を引き上 げる要件として,当該夫婦の合意の成立までは要求せずに,被相続人の単 独の意思表示で足りるとするものである。 なお,【乙-1案】は,夫婦又は被相続人となる一方の配偶者に法定相 続分の選択を認める考え方であるが,法定相続分の引上げは他の相続人や 相続債権者等の第三者にも大きな影響を与える事柄であることに鑑み,法 定相続分の割合を自由に定めることはできないこととし,引上げ後の割合 は法定することとしている。 また,【乙-1案】における夫婦間の協議に基づく届出又は夫婦の一方 23 による届出には,同規律が定める一定の婚姻期間が形骸化したものではな く,法定相続分を増加させるに見合った実質的なものであったことを担保 する意味合いをもたせているため,その届出の時期は,婚姻成立後一定期 間が経過した後としている。 イ 届出の有無に関する公示手段について(「(注1)」) 【乙-1案】では,法定相続分引上げの届出がされた場合には,相続債 務についても引上げ後の法定相続分によって承継することとしていること から,相続債権者など法定相続分の変動について利害関係を有する者を保 護するために,前記届出がされた場合には,その届出の有無を公示する手 段を設ける必要があるものと考えられる。 この点については,例えば戸籍にその旨を記載すること等が考えられる が,身分関係を公証する手段である戸籍にこのような記載をすることが可 能かといった理論上の問題点もあるため,「(注1)」において,今後の検討 課題である旨を注記している。 ウ 届出の撤回について(「(注2)」) 【乙-1案】は,夫婦あるいはその一方の届出による法定相続分の引上 げを認めるものであるが,届出後に意思が変わった場合等に届出の撤回を 認めるか否かが問題となり得る。 この点について,本部会では,届出後に意思が変わった場合や婚姻関係 が形骸化した場合を念頭において撤回を認めるべきであるとする意見と, 法定相続分の変動が当該夫婦のみならず他の相続人や相続債権者にも重大 な影響を与える事柄であることから,一旦法定相続分の引上げを選択した 場合には,その後に撤回を認めるべきではないという意見に分かれた。そ のため,撤回の可否については,「(注2)」において,今後の検討課題 である旨を注記している。 エ 遺言との関係について 現行法の下でも,遺言(相続分の指定)によって配偶者の法定相続分を 修正することは可能であるが,本方策は,相続債権者との関係を含め,相 続債務の承継割合が引上げ後の法定相続分になる点において,相続分の指 定とは異なるものである。 また,法定相続分の引上げの届出がされた後,一方の配偶者が遺言(相 続分の指定等)によって他方の配偶者の相続分を修正することを認めるか どうかも問題となるが,【乙-1案】は,あくまでも「法定相続分の引上 げ」という効果を認めることを意図したものであり,前記届出にそれを超 24 える強い拘束力を認めることまでは想定していない(注)。したがって,配 偶者は,法定相続分の引上げの届出をした後も,遺言によってこれを修正 することができるが,ただ,配偶者の法定相続分が引き上げられたことに 伴い配偶者の遺留分は増えることになるため,その限度で被相続人が自由 に処分することのできる財産の範囲が縮小されることになる。 なお,【乙-1案】を採用することとしつつ,夫婦の一方による単独の 意思表示による法定相続分の引き上げを認めることとすると,その効果は 遺言による相続分の指定と極めて類似することになるため,その存在意義 が問題となる。もっとも,前記のとおり,配偶者の遺留分も増えることに なること,相続債務の承継割合も引上げ後の法定相続分になること,法定 の方式による届出のみで足り,遺言によるよりも簡易な方法で法定相続分 の修正が可能となることの3点において,相続分の指定とは異なる意義を 有することになる。 (注)届出の効力に強い拘束力を認め,遺言による相続分の変更を認めないこととするこ とも考えられるが,このような考え方を採ると,例えば,遺言によって遺産分割方法の 指定がされた場合にも,相続人は,その分配方法が引上げ後の法定相続分を侵害してい ないかどうかについて争うことが可能となり,遺言の紛争予防機能が低下することにな ると考えられることから,このような考え方は採らなかったものである。 ⑶ 【乙-2案】について 【乙-2案】は,【乙-1案】と異なり,夫婦の合意又は被相続人となる 一方の配偶者の意思によって配偶者の法定相続分の変更を認めるのではな く,婚姻成立の日から一定期間が経過した場合には,当然に配偶者の法定相 続分が引き上げられることとするものである。 本部会では,【乙-2案】について,例えば,夫婦関係が破綻して長期間 別居していた場合など,配偶者が夫婦の財産形成に貢献したとはいえないよ うな場合にも,当然に法定相続分を引き上げることとするのは相当性に欠け るのではないかとの疑問が呈され,この規律の適用除外事由を設けるべきで はないかとの指摘がされた。他方で,このような指摘に対しては,配偶者の 相続分の根拠として遺産の形成に対する貢献のみを強調するのは必ずしも 相当でなく,配偶者の生活保障という観点を重視すれば,一定の期間の経過 をもって配偶者の法定相続分を引き上げることにも一定の合理性があると の指摘もされた。また,【乙-2案】は,【乙-1案】とは異なり,一定期間 の経過だけで当然に法定相続分が引き上げられ,基準が明確である点にメリ ットがあるものと考えられるが,これに適用除外事由を設けるとすると,そ 25 のメリットが相当程度減少することになり,【乙-1案】よりもむしろ基準 が不明確になり,その要件該当性をめぐって配偶者と他の相続人との間で主 張立証が繰り返され,遺産分割の手続が長期化・複雑困難化するおそれがあ り,また,適用除外の有無についての裁判が確定しない限り,法定相続分が 定まらないことになって,相続債権者等の利益を害することになるといった 指摘もあった。 そこで,本試案では,適用除外事由を設ける必要性及び設けることとした 場合にどのような適用除外事由を設けるかについては,今後の検討課題であ る旨を注記している(「(注)」)。 2 可分債権の遺産分割における取扱い 【見直しの要点】 預貯金債権等の可分債権を遺産分割の対象に含めるものとする。 なお,本試案においては,遺産分割がされるまでの間も原則として各相続人の 権利行使を認める【甲案】と,遺産分割がされるまでの間は原則として各相続人 の権利行使を禁止する【乙案】の2案を提示している。 【説明】 1 見直しの必要性 金銭債権等の可分債権は,判例上(最判昭和29年4月8日民集8巻4号8 19頁),相続の開始により当然に分割され,各相続人が相続分に応じて権利 を承継することとされているため(注),現行の実務においても,原則として遺 産分割の対象から除外され,例外的に,相続人全員の合意がある場合に限り, 遺産分割の対象とするという取扱いがされている。 しかし,前記判例の考え方によると,例えば,遺産の全てあるいは大部分が 可分債権である場合にも,可分債権については特別受益や寄与分を考慮するこ となく形式的に法定相続分に従って分割承継される結果,相続人間の実質的公 平を図ることができないとの指摘がされている。また,可分債権は,遺産分割 を行う際の調整手段としても有用であるとして,可分債権を遺産分割の対象に 含めるべきであるとの指摘もされている。 本部会では,これらの指摘を踏まえ,預貯金債権等の可分債権を遺産分割の 対象に含める方向で検討を行った。 (注)なお,現在,被相続人の預金債権が相続の開始により当然に分割されるかどうかが 争点となっている訴訟が最高裁大法廷に係属している。 2 【甲案】について 26 ⑴ 見直しの内容 「①」から「③」までは,【甲案】の基本的な考え方を示したものである。 すなわち,可分債権は,相続の開始によって法定相続分に応じて当然に分割 承継され,各相続人は,原則として,遺産分割前であっても分割された債権 を行使することができることとしつつ,相続開始時の可分債権の金額を具体 的相続分算定の基礎となる財産に含め,かつ,可分債権が遺産分割時にも弁 済されずに残っている場合には,これを遺産分割の対象とすることとするも のである。現行の遺産分割手続は,遺産共有の状態にある財産を分割するも のであり,共有物分割手続と同様の性質を有するものであるが,現行の判例 理論を前提とする限り,可分債権は既に分割されており,(準)共有状態には ないため,このような見直しをすると遺産分割の性質を若干変容させること になり,遺産分割は相続開始によって生じた暫定的な権利関係を確定させる 手続という位置付けになるものと考えられる(注1)。 「④」及び「⑤」は,遺産分割までの間に,各相続人が分割された可分債 権を行使し,弁済を受けた場合の効果に関する規律であり,可分債権を行使 した相続人については,遺産分割において具体的相続分を算定する際に,弁 済を受けた金額を控除することとし(「④」),弁済を受けた額が具体的相続分 を超過する場合には,遺産分割において,その超過額につきその相続人に金 銭支払債務を負担させることとするものである(「⑤」)。 「⑥」は,預貯金債権等の可分債権を遺産分割の対象とすることに伴い, どのような場合に遺産分割の結果を債務者その他の第三者に対抗することが できるかを定めたものであり,相続人は,遺産分割によって法定相続分を超 える割合の可分債権を取得した場合であっても,対抗要件を備えなければ, 債務者その他の第三者に法定相続分を超える部分の取得を対抗することがで きないこととしている。これは,可分債権の債務者は一般に遺産分割の成否 やその内容を把握することが困難であり,相続の開始という債務者に無関係 の事情で,遅延損害金発生等のリスクを負う債務者にその点の調査義務を課 すことには疑問があること等を考慮したものである。 なお,「⑥」の規律によっても,相続人は,法定相続分に相当する部分の取 得については,債務者その他の第三者に対し,対抗要件を具備することなく その取得を主張することができる。したがって,遺産分割前に債務者が相続 人に対して分割された債権を弁済したときは,この弁済は有効であり,民法 第909条ただし書によるまでもなく,その弁済が無効になることはないも のと考えられる。また,遺産分割前に相続人からその法定相続分に相当する 27 債権を取得した第三者は,遺産分割の結果,当該法定相続分に相当する債権 が他の相続人に帰属することとなった場合でも,民法第909条ただし書に よって保護されることになるものと考えられる(注2)。 「⑦」は,どのような要件を満たせば「⑥」の対抗要件となるかを定める ものである。この点について,通常の債権譲渡の場面では,譲渡人からの通 知又は債務者の承諾が債務者対抗要件とされている(民法第467条第1項)。 このように,通常の債権譲渡の場面では,譲渡人による通知があればそれだ けで債務者に債権譲渡の事実を対抗することができるとされているが,これ は,債務者は譲渡人が誰であるかを把握していることが前提となっていると 考えられる。これに対し,遺産分割によって債権を取得した場合には,元々 その債権を有していた被相続人は既に死亡しており,その相続人が譲渡人の 地位を承継することになるが,債務者は,相続開始の事実及びその相続人の 範囲を通常知り得ないため,客観的に相続人全員からの通知があったとして も,それだけではその相続人が譲渡人の地位を承継した者であるかどうか, あるいは通知をした者が相続人全員であるかどうかを判断することは困難で ある。そこで,「⑦・㋐」では,債務者対抗要件として相続人全員が債務者 に通知をする場合には,通知の事実に加えて,債務者に相続人の範囲を明ら かにする書面を示すことを要求することとしている(注3)。 他方,相続人全員の通知か,債務者の承諾がなければ,遺産分割による債 権全部の取得を債務者に対抗することができないとすると,相続人の中に非 協力的な者がいる場合に債務者対抗要件を具備することが困難になるため, 相続人全員による通知に加え,権利を取得した者からの通知についても,一 定の要件の下に対抗要件として認めることにしている。すなわち,調停又は 審判によって遺産分割がされた場合には調停調書又は確定した審判書の謄本, 遺産分割協議が調った場合には遺産分割協議の内容及び相続人の範囲を明ら かにする書面を相続人の一人が示して,債権者に通知すれば対抗要件として 認めることとしている(「㋑」)。 このほか,通常の債権譲渡の場合と同様,債務者が承諾した場合も対抗要 件となることとしている(「㋒」)。 「⑧」は,通常の債権譲渡の場合と同様,「⑦」の通知又は承諾は,確定 日付のある証書によってしなければ,債務者以外の第三者に対抗することが できないこととするものである。なお,ここで確定日付のある証書が要求さ れるのは,あくまでも「⑦」のうち通知又は承諾に係る部分であって,相続 人の範囲を明らかにする書面等の債務者に示す書類についてまで確定日付を 28 要求する趣旨ではない。 「⑨」は,遺産分割前に相続人が分割された可分債権を行使することによ り,他の相続人の具体的相続分を侵害するおそれがある場合に,家庭裁判所 は,申立てにより,その可分債権の行使を禁止する仮処分をすることができ ることとするものである。【甲案】は,相続人が遺産分割前に弁済を受けた 額がその具体的相続分を超過する場合には,遺産分割において,その超過額 につきその相続人に金銭支払債務を負担させることとしているが,可分債権 は換価・費消されやすく,相続人に金銭支払債務を負担させたとしても無資 力の危険があることから,これを防止するための方策を別途設けることとし たものである。 この点については,現行法の下でも,審判前の保全処分(家事事件手続法 第105条,第200条第2項)によって対処することが可能である。 もっとも,審判前の保全処分による場合には,遺産分割の審判ないし調停 の申立てが必要となるが(本案係属要件),「⑨」の保全処分については,遺 産分割前の処分さえ禁止すれば遺産分割の協議がまとまる可能性が高く,特 に審判又は調停の申立てをする必要はないという場合も相当数あるものと考 えられること,遺産分割の審判は,相続開始により生じた暫定的な権利関係 を変更して遡及的にこれを確定させることを内容とするものであり,その意 味では,裁判の確定によって初めて権利が発生する他の家事審判とは若干異 なる性質を有すると考えられること,遺産分割審判の申立ては相続人であれ ば誰でもすることができ,必ずしも保全処分の債権者にその申立てをさせる 必要はないこと等を考慮し,本案係属要件を不要とすることについても検討 することとしている(「(注2)」)。 (注1)民法第909条本文を前提とすれば,少なくとも相続人間においては,遺産分割 前の権利関係は暫定的なものであり,遺産分割によって遡及的に確定的な権利変動が 生ずることになるものと考えられる。 (注2)この場合も債権の二重譲渡がされた場合と同様の処理をすべきであるとの見解に よれば,遺産分割前に相続人からその法定相続分に相当する債権を取得した第三者と 遺産分割によってその債権を取得した他の相続人との関係は,いわゆる対抗問題とし て処理されることになるものと考えられる。 (注3)債権譲渡の対抗要件として書面の提示を求めている例としては,動産及び債権の 譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第2項がある。 ⑵ 今後検討すべき課題(遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲)につい て(「(注1)」) 29 可分債権には,預貯金債権や売買代金債権などのように,その存否及び 金額が比較的明確なものだけでなく,不法行為に基づく損害賠償請求権や 不当利得返還請求権など,当事者間でその存否及び金額について争いにな ることが多いものも含まれる。これら全てが遺産分割の対象に含まれると すれば,その存否及び金額が定まらない限り,遺産分割を終了することが できないことになり,遺産分割に関する紛争が極めて長期化するおそれが ある。 この点について,本部会では,遺産分割の対象となる可分債権の範囲を 預貯金債権に限定することが考えられるのではないかとの指摘がされた。 もっとも,このような考え方を採った場合には,例えば,預貯金債権であ れば,遺産分割において特別受益等による調整が可能であったのに,相続 開始前に相続人又は第三者が無権限でこれを払い戻した場合には,それに よって生じた不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権が遺 産分割の対象とならず,特別受益等による調整がされないこととなって一 部の相続人が不利益を受けることになり,ひいては多額の特別受益がある 相続人が相続開始前に不当に預金の引出しをすることを誘発することにも なりかねないといった指摘があった。 可分債権を遺産分割の対象に含めることとする場合には,これらの問題 を解消ないし軽減する方策を検討することが必要となるため,「(注1)」に おいて,遺産分割の対象に含める可分債権の範囲については今後の検討課 題であることを注記している。 3 【乙案】について ⑴ 見直しの内容 「①」及び「②」は,【乙案】の基本的な考え方を示したものであり,預貯 金債権等の可分債権を遺産分割の対象に含めることとしつつ,遺産分割が終 了するまでの間は,原則として相続人による個別的な権利行使を禁止するこ ととするものである。 「③」は,遺産分割終了までの間に可分債権が行使された場合の取扱い等 について定めるものであり,【甲案】の「③」から「⑧」までと同様の規律を 設けることとするものである。【乙案】も,相続人全員の合意がある場合や後 記の仮払が認められる場合には,例外的に遺産分割前の権利行使を認めるこ とを想定しており,その場合の調整規定等として【甲案】と同様の規律を設 けることとしたものである。 ⑵ 今後検討すべき課題 30 ア 遺産分割の対象に含める可分債権の範囲について(「(注1)」) 遺産分割の対象に含める可分債権の範囲が検討課題であることは【甲案】 と同様である。 イ 遺産分割前の権利行使を認める方策について(「(注2)」) (ア) 裁判所の関与なしに預貯金の払戻しを認める制度について 【乙案】によれば,遺産分割前には,各相続人による権利行使が原則 として認められない結果,【甲案】よりも遺産分割における処理は簡明 になる。もっとも,【乙案】によると,例えば,被相続人名義の医療費 を支払う必要がある場合にも,相続人は預貯金債権を行使することがで きないことになる。また,例えば,相続人の中に被相続人から扶養を受 けていた者がいる場合にも,遺産分割が終了するまでの間は可分債権の 行使が禁止される結果,その相続人が生活に困窮する事態が生ずること にもなりかねない。このことは,資金に余裕のある相続人が遺産分割協 議を引き延ばすことによって自己に有利な条件で遺産分割協議を成立 させようとし,又は被相続人の死期が迫った場合に相続人の一部の者に よる預貯金の引出しを招くなどの問題を生じさせるおそれもある。 現行法の下では,遺産分割の対象となる財産を遺産分割前に行使する 必要がある場合には,審判前の保全処分として,仮分割の仮処分を行う ことができることとされている。この仮処分が認められるためには,㋐ 本案の審判において具体的権利義務が形成される高度の蓋然性がある ことと,㋑保全の必要性があることが必要である。遺産分割の場合には, 相続人であれば通常㋐の要件は満たすと考えられるが,㋑の要件につい ては,遺産分割において取得できると見込まれる財産の額や,仮に分割 を受けなければならない緊急の必要性等について疎明する必要がある と解されている。したがって,【乙案】を採りつつ,遺産分割前の預貯 金債権の行使を認める制度を新たに設けないこととすれば,相続人にと って,現状よりもかなり負担が重くなるといった点も考慮する必要があ るとの指摘が本部会においてされた。また,遺産分割前に預貯金債権を 行使する必要がある事案は相当数あるものと考えられるが,これらの事 案について全て裁判所に申立てをしなければ預貯金の払戻しが受けら れないとすることの相当性も問題になるものと思われる。 そこで,一定の場合には,裁判所の関与なしに,預貯金の払戻しを受 けることができるようにする必要があると考えられるが,その要件をど のように設定するかが問題となる。 31 まず,払戻しを受ける目的に応じて払戻しを認める金額を定めること (例えば,未払の医療費や税金を支払う必要があることや,相続人の生 活のために必要があることを要件として,それぞれの場合に払戻しを認 める金額やその計算方法を定めること)が考えられるが,この点につい ては,本部会においても,いかなる目的の場合に払戻しを認め,その金 額をどのように定めるかについて一義的に明確な基準を定立すること は困難であるとの指摘がされた。 次に,払戻しを受ける目的を問わずに,一定の金額については当然に 払戻しを認めることとすることも考えられる。その場合には,「一定の 金額」(例えば,相続開始時点における口座残高(ただし,一口座あた りの上限(例えば100万円)を設ける。)に,払戻しを求める相続人 の法定相続分(あるいはその一定割合)を乗じた額)以下であれば,当 然に払戻しを認めるとすること等が考えられるように思われる。 (イ) 裁判所の関与の下で預金の払戻しを認める方策について 前記(ア)の規律は,裁判所の関与なしに預金の払戻しを認めるもので あり,その範囲は相当程度限定する必要があることから,例えば,相続 人の一人が被相続人から扶養を受けており,遺産分割が終了するまでの 間生計を維持することができない場合等に適切に対処することが困難 な場合もあり得るものと考えられる。本部会では,このような場合に, 裁判所の関与の下で預貯金の払戻しを受けることができるようにする ために,相続財産に属する預貯金債権について一定の管理処分権限を有 する者(預貯金管理者)を,裁判所が選任することができることとする ことについても検討を行った。 預貯金管理者の性質,権限等については,例えば,次のようなことが 考えられる。基本的には遺産管理人の規定を適用することを想定し,民 法第103条に定める保存行為等を行う権限を有し,預貯金の管理に際 して生じた費用の償還請求権と報酬請求権を有することになる。ここで, 遺産管理人は,民法第103条に定める行為を超える行為を行う場合に は家庭裁判所の許可を得なければならないこととされている(家事事件 手続法第200条第3項,民法第28条)が,このような制度を設ける 趣旨に鑑みると,預貯金管理者が選任された場合には,逐一家庭裁判所 の許可を得ることなく,預貯金管理者の判断に基づいて,預貯金を相続 人に適宜分配し,あるいは相続債務を弁済することができることとする 必要がある。そこで,預貯金管理者は,遺産管理人と異なり,相続人の 32 生計の維持等のために預貯金債権の中から相続人に分配する権限を有 するとともに,預貯金債権を用いて被相続人の債務を弁済する権限も有 することとすることが考えられる。 また,預貯金管理者は,相続人の生計を維持するために必要な場合に は,当該相続人に金員を交付する権限を有するところ,この権限を行使 するに当たっては,一部の相続人の利益のみに偏ることなく,相続人間 の公平に配慮する必要があると考えられる。そこで,預貯金管理者には, その職務を行うに際して,一定の公平義務を課することが考えられる。 このほか,預貯金管理者は家庭裁判所に対して報告・管理計算義務を負 い,家庭裁判所はこの報告を通じて預貯金管理者を監督し,相続財産に 属する預貯金債権の保全に必要と認める処分を命ずることができるこ ととすること等が考えられる(民法第27条第3項参照)。 (ウ) 考えられるその他の制度について 預貯金管理者の制度を設けることとした場合には,その都度裁判所の 判断を求めることなく,相続人が必要に応じて預貯金の払戻しを受ける ことが可能になるものと考えられるが,他方で,前記のとおり,預貯金 管理者の権限及び義務の範囲を適切に定める必要があるとともに,その 職務執行について家庭裁判所が適切に監督することができるような制 度設計をする必要があるところ,これらの要件の定め方次第では,かえ って相続人間の公平を図ることができなくなるおそれがあるとともに, 預貯金管理者及びこれを監督する家庭裁判所に過大な負担がかかり,制 度の適切な運用が困難となることも考えられる。 そこで,例えば,預貯金債権については,前記の銀行窓口における仮 払の制度を設けた上で,これによって対処することができない場合には, 現行法の審判前の保全処分として認められる遺産の仮分割の特則を設 け,ある程度柔軟に仮分割を認めることで対処することも考えられる。 3 一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等 【見直しの要点】 ⑴ 遺産の範囲について相続人間で争いがある場合など一定の場合には,遺産 の一部のみを分割する旨の審判,調停又は協議をすることができるものとし, その場合には,原則として,残余の遺産分割においては特別受益及び寄与分 に関する規定を適用しないものとする。 ⑵ 家庭裁判所は,相続人間で争いのある遺産が可分債権である場合であって 33 も,相当と認めるときは,その可分債権を法定相続分に従って各相続人に取 得させる旨を定めることができるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 一般に,遺産分割においては,遺産の範囲を確定させた上で,遺産の全部に ついて一回的解決を図ることが望ましいと考えられるが,実務上,遺産分割を 一回的に行うことに支障があるなど一部分割の必要性があり,民法第906条 に定める基準に基づき最終的に遺産の全部について公平な分配を実現すること ができる場合には,審判,調停又は協議のいずれにおいても,遺産の一部を除 外して分割することができると解されているが,どのような場合に一部分割が 可能であるかは,条文上必ずしも明らかでない。また,本部会では,可分債権 を遺産分割の対象に含めることとするのであれば,比較的柔軟に一部分割を認 めることとする必要があるとの指摘がされた。すなわち,可分債権の中には, 預金債権のようにその存否及び額の把握が容易なものと,被相続人の生前に相 続人が被相続人名義の預金を無断で払い戻したとして不法行為に基づき損害賠 償請求がされた場合のように,その存否及び額の把握が必ずしも容易でないも のとがあるが,後者の債権についてもその存否及び額が確定しない限り,遺産 分割の手続を進めることができないとすると,遺産分割事件の解決が著しく遅 滞するおそれがあるため,その可分債権を遺産分割の対象から除外することが できるようにするなどの措置を講ずる必要があるとの指摘がされたところであ る。このため,本部会では,これらの問題に対処するため,一部分割に関する 規律を明確化することについて検討を行った。 2 見直しの趣旨及び内容 ⑴ 一部分割の要件及び残部分割における規律の明確化 「①」は,一部分割をすることができる要件を定めるものである。現行の 実務において,遺産の範囲に相続人間で争いがあるなど,一部分割をするこ とについて合理的な理由があり,民法第906条の分割基準に照らし,残余 遺産も含めた全遺産について公平な分配を実現することができる場合には, 一部分割の審判をすることができると解されていること等を踏まえ,その要 件を具体化したものである。「①」の要件のうち,一部分割をすることの相当 性については,現行の実務と同様,全部分割をする場合の遺産分割終了の見 通し,早期に分割を受ける必要性が高い当事者の有無,当事者の意向,残余 の遺産分割の合理的処理の可能性等の諸事情を総合的に考慮して判断するこ とになるものと考えられる。 34 「②」本文又は「④」本文は,一部分割の審判をした場合には,残余の遺 産分割(以下「残部分割」という。)においては,原則として特別受益及び寄 与分に関する規定を適用しないこととするものである。これは,「①」におい て一部分割をするのが相当であると認められる場合の多くは,一部分割の審 判の中で特別受益や寄与分に関する調整が全て終わっている場合であると考 えられること等を考慮したものである。もっとも,一部分割の中で特別受益 や寄与分に関する調整が終わっていない場合であっても,例外的に「①」の 要件を満たす場合もあり得ると考えられる。そこで,「②」ただし書又は「④」 ただし書において,一部分割の審判の中で特別受益を全て考慮することがで きずに超過特別受益が生じた場合等(注)や寄与分による調整が一部未了で ある場合(注)については,「②」本文又は「④」本文の規律が適用されない 旨を明らかにしている。なお,「②」ただし書又は「④」ただし書における「考 慮することができなかった」との要件は,いずれも客観的にこれらの事情を 考慮することができなかった場合であることを要し,当事者がこの点につい て主張をしていたかどうかによって結論が変わるものではない。 「③」本文又は「⑤」本文は,一部分割が相続人間の協議によって行われ た場合についても,原則として「②」本文又は「④」本文の規律を適用する ことを明らかにしたものである。一部分割が相続人間の協議によって行われ た場合には,特別受益の計算や寄与分による調整等を厳密に行っていない事 案も相当程度存するものと思われるが,相続人間で一部分割の協議が成立し, その中で残部分割における遺産の分配方法について別段の定めがない場合に は,残部分割の中で,特別受益や寄与分に関する調整をすることは想定して いない場合が多いと考えられる。そこで,一部分割の協議が成立した場合に ついても,原則として,「②」本文又は「④」本文の規律を適用することとし つつ,「③」ただし書又は「⑤」ただし書の中で,当該協議において,相続人 の中に別段の意思表示(黙示の意思表示を含む。)をした者がいる場合には, 残部分割においても特別受益や寄与分を考慮し得ることを明らかにしている。 (注)一部分割をすると超過特別受益が生ずるような事案では,一般に,一部分割をする ことに相当性が認められない場合が多いと考えられるが,一部分割において超過特別受 益の額等を示すことによって,残部分割における特別受益の取扱いがさほど複雑になら ないことが見込まれる場合には,一部分割をすることが許容されると考えられる。した がって,前記方策では,一部分割をすると超過特別受益が生ずる場合についても,一律 に一部分割を禁止することとはしていない。 ⑵ 遺産分割の対象財産に可分債権が含まれる場合の特則について 35 「⑵」は,遺産分割の対象財産に可分債権が含まれる場合の特則として, 相続人間で可分債権の有無及び額に争いがあり,これが確定していない場合 であっても,法定相続分に従って分割の審判をすることを認めることとする ものである。 これは,以下のような点を考慮したものである。 すなわち,可分債権を遺産分割の対象に含める意義は,主として特別受益 や寄与分による調整を可能とする点にあるが,前記⑴のとおり,一部分割が 可能かつ相当である事案の多くは,残部分割において特別受益及び寄与分を 考慮する必要がない場合であると考えられる。そのような場合については, 可分債権の有無及び額が確定した後に残部分割をするとしても,結局,法定 相続分に従って分割することになるから,残部分割を別個に行う必要性に乏 しいと考えられる。 そこで,「⑵」では,このような場合を念頭に置いて,相続人間で可分債権 の有無及び額に争いがあり,これが確定していない場合(このような場合に は,通常,各相続人と可分債権の債務者との間でも争いがある場合が多いも のと考えられる。)であっても,法定相続分に従って分割の審判をすることを 認めることとしたものである。したがって,ここでの審判は,「⑴」のような 一部分割の審判ではなく,遺産分割の対象財産の全てを対象としたものであ る。なお,この特則に従って分割がされた場合には,各相続人が個別に各自 の相続分に相当する部分について訴訟提起等の手段を講ずるかどうかを判断 することになり,その訴訟の結果も他の相続人に影響を及ぼさないことにな ると考えられる。 ⑶ 「⑴」及び「⑵」の各審判の法的性質等について 「⑴」の審判は,一部分割の対象となる遺産については通常の遺産分割と 同様に分割することとしつつ,残余の遺産については当該遺産分割の対象か ら除外することを内容とする審判とすることを想定している。残余の遺産に 関する取扱いは,現行の分割禁止の審判に類似するものである。もっとも, 分割禁止の審判がされると,その禁止期間中,相続人はその対象財産を分割 することができなくなるが,遺産該当性について争いがある場合でも,相続 人間の協議でその分割方法を決めることを禁止するまでの必要はない場合も 多いと考えられる。これらの点を考慮し,「⑴」の審判は,遺産該当性につい て争いがある財産を遺産分割の対象から除外するという効果のみを生じさせ るもので,分割禁止の効力までは生じさせないことを想定している。その意 味では,遺産該当性について争いがある財産については,遺産分割の審判を 36 するのに熟した状態になっていないとして,その部分を却下するという性質 のものと見ることも可能であると考えられる。 これに対し,「⑵」の審判は,争いがある可分債権についても法定相続分 に従って各相続人に取得させることを認めることによって,全ての遺産につ いての分割を終えることを想定している。 以上のとおり,「⑴」及び「⑵」の審判は,いずれも遺産分割の申立てに 対する全部審判であり,一部分割をすること又は争いのある可分債権を法定 相続分で分割することの相当性に関する不服申立ては即時抗告によって行 うことを想定している。そのため,その点について不服申立てがされると, 当該事件の全部が抗告審に移審することになる。 このような考え方に対し,遺産の一部を遺産分割の対象から除外し,又は 争いのある可分債権を法定相続分で分割することについては,これを独立の 審判として取り扱い,分割禁止の審判と同様,その判断のみを対象として不 服申立てをすることができるようにすることも考えられ,この点については, 今後検討する必要がある(注)。 (注)本部会では,一部分割をする場合に審理の迅速化を図る観点から,中間決定によって 遺産の一部を除外することができるようにすべきではないかとの指摘がされた。この点に ついては,一部分割の要件を明確化した場合に,一部分割をすることが許容される場合か どうかについて当事者間に争いがあるときは,この争いは,家事事件手続法第80条に規 定する「審判の前提となる法律関係の争いその他中間の争い」に該当することになるもの と考えられる。したがって,特段の手当てをしなくても,家庭裁判所は,争点を整理する ために必要がある場合等には,中間決定をすることによって審理の迅速化を図ることがで きるものと考えられる。この場合の中間決定については,独自に即時抗告を認めることと するまでの必要はないものと考えられる(なお,現行の家事事件手続法では,中間決定に ついて即時抗告をすることはできない。)。 第3 遺言制度に関する見直し 1 自筆証書遺言の方式緩和 【見直しの要点】 現行の自筆証書遺言の方式を緩和し,全文の自書を要求している点を見直し, 遺贈等の対象となる財産の特定に関する事項については自書でなくてもよいも のとする。 【説明】 1 見直しの必要性 37 家庭裁判所における遺言書(自筆証書遺言及び秘密証書遺言等)の検認件数 (新受件数)は,昭和60年は3,301件であったのが,平成10年には8, 825件,平成25年には16,708件に増加しており,自筆証書遺言の利 用は年々増加しているものと考えられる。 もっとも,現行法の下では,自筆証書遺言は「全文,日付及び氏名」を全て 自書しなければならないとされている(民法第968条第1項)が,高齢者等 にとって全文を自書することはかなりの労力を伴うものであり,この点が自筆 証書遺言の利用を妨げる要因になっているとの指摘がされている。 さらに,遺言内容の加除訂正についても,「自筆証書中の加除その他の変更は, 遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し, かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない」とされてお り(民法第968条第2項),他の文書と比べてもかなり厳格な方式がとられて いることから,その方式違反により被相続人の最終意思が遺言に反映されない おそれがあるとの指摘もされている。 このため,本部会では,自筆証書遺言の方式を緩和することについて検討を 行った。 2 見直しの趣旨及び内容 ⑴ 自書を要求する範囲 「①」は,現行法上,全文自書(民法第968条第1項)が要求されてい る自筆証書遺言の方式を緩和し,例外的に,遺贈等の対象となる財産の特定 に関する事項については自書でなくてもよいこととするものである。「財産の 特定に関する事項」には,「(注1)」のとおり,対象財産が不動産である場合 にはその地番,面積等が,対象財産が預貯金債権である場合には金融機関名, 口座番号等がこれに当たるものと考えられる。これらの記載事項は,全て自 書することが相当に煩雑であり,しかも,対象を特定するための形式的な事 項であることから,必ずしも自書でなくてもよいこととしたものである。こ れにより,遺言書の末尾に添付されることが多いいわゆる遺産目録について は,パソコン等による作成が可能となるほか,遺言者以外の者による代筆も 認められることになる。 なお,これとは異なり,遺言書の加除訂正をする場合には,「財産の特定に 関する事項」であっても,通常の加除訂正の方式(民法第968条第2項) によることとしており,当該加除訂正部分については自書が必要である旨を 「(注2)」に記載している。 「②」は,「①」に基づいて財産の特定に関する事項を自書以外の方法によ 38 り記載した場合には,その事項が記載された全ての頁に遺言者の署名及び押 印を要求することとするものである。これは,「①」の見直しをすることによ り現行の規律よりも偽造や変造が容易になるのではないかとの懸念があるた め,これに配慮したものである。このような観点から,これに加えて,「(注 3)」において,遺言書に押印する際には全て同一の印を押捺しなければなら ないとすることも考えられる旨を注記している。 なお,「①」に基づいて作成される自筆証書遺言の例は,別添(参考資料5 「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例」)のとお りである。 ⑵ 加除訂正の方式 本方策は,加除訂正の際に署名及び押印が要求されている現行の方式(民 法第968条第2項)を緩和し,押印を不要とする(=署名のみでよいもの とする)ものである。この点について,本部会では,署名を不要とする(= 押印のみでよいものとする)案や,署名又は押印のいずれかでよいものとす る案が検討されたが,これらの案に対しては,署名は遺言者本人によるもの か否かがある程度判別可能であるのに対し,押印は遺言者以外の者によって も容易に押捺することができるため,署名の要件を外して押印のみで足りる とすることは相当でないとの指摘がされた。このため,署名の要件はそのま ま維持し,押印のみを不要とすることとしている。 なお,「⑵」は,「⑴」と両立し得るものであるが,「⑴」及び「⑵」の方策 をいずれも講じた場合には現行法よりも偽造又は変造のリスクが高まるので はないかとの懸念もあることから,「(注)」において,仮に「⑴」の方策を講 ずることとする場合には,「⑵」については現行法の規律を維持することも考 えられる旨を注記している。 2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し ⑴ 権利の承継に関する規律 【見直しの要点】 相続人は,遺言(相続分の指定,遺贈,遺産分割方法の指定)によって相続 財産に属する財産を取得した場合には,その法定相続分に相当する割合を超え る部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対 抗することができないものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 39 遺言で定めることができる事項は法定されているが,現行法上,遺言による 財産処分の方法としては,相続分の指定,遺産分割方法の指定,遺贈(特定遺 贈及び包括遺贈)等がある。 もっとも,これらの方法により財産処分がされた場合に,第三者との関係で どのような法的効果が生ずるかは規定上必ずしも明確でない。 この点に関し,判例は,①相続分の指定による不動産の権利の取得について は,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとしているほか(最 判平成5年7月19日家月46巻5号23頁等),②いわゆる「相続させる」 旨の遺言についても,特段の事情がない限り,「遺産分割方法の指定」(民法 第908条)に当たるとした上で,遺産分割方法の指定そのものに遺産分割の 効果を認め,当該遺言によって不動産を取得した者は,登記なくしてその権利 を第三者に対抗することができるとしている(最判平成14年6月10日家月 55巻1号77頁等)。 他方で,判例は,遺贈による不動産の取得については,登記をしなければ, これを第三者に対抗することはできないとしている(最判昭和39年3月6日 民集18巻3号437頁等)。 これらの判例の考え方は,相続分の指定や遺産分割方法の指定は相続を原因 とする包括承継であるため,民法第177条の「第三者」に当たらないが,遺 贈は意思表示による物権変動であって特定承継であることから,同条の「第三 者」に当たると解しているものと考えられる(注)。 もっとも,このような考え方を貫くと,相続人はいつまでも登記なくして第 三者にその所有権を対抗することができることになりかねず,法定相続分によ る権利の承継があったと信頼した第三者が不測の損害を被るなど,取引の安全 を害するおそれがあり,ひいては登記制度に対する信頼が損なわれるといった 指摘がされている。 本部会では,これらの指摘を踏まえ,遺言による権利変動と第三者との関係 について検討を行った。 (注)判例(大連判明治41年12月15日民録14巻1276頁等)は,民法第177条 の「第三者」とは,当事者又はその包括承継人以外の者であって,登記の欠缺を主張する 正当な利益を有する者をいうと判示している。 2 見直しの趣旨及び内容 「①」は,遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を図る観点から,遺 言によって相続人が相続財産に属する財産を取得した場合であっても,その相 続人の法定相続分を超える部分については,登記等の対抗要件を備えなければ 40 第三者に対抗することができないこととするものである。前記1のとおり,遺 言による権利変動については,判例上,遺産分割方法の指定(相続させる旨の 遺言)等の場合と遺贈の場合とで取扱いが異なるが,遺産分割方法の指定等に よる権利変動の場合にも,法定相続分を超える部分については,遺言という意 思表示がなければこれを取得することができなかったこと等を考慮し,遺贈の 場合と同様,対抗要件を備えなければ第三者には対抗することができないこと としたものである。 「②」は,「①」の相続財産に属する財産が債権である場合の対抗要件につ いて定めるものである。通常の債権譲渡では,譲渡人による通知があればそれ だけで債務者に債権譲渡の事実を対抗することができるとされているが,これ は,債務者は譲渡人が誰であるかを把握していることが前提となっていると考 えられる。これに対し,遺言によって債権を取得した場合には,譲渡人である 遺言者は既に死亡しているため,その相続人が譲渡人の地位を承継することに なるが,債務者は,相続開始の事実及びその相続人の範囲を通常知り得ないた め,相続人全員から通知があっても,それだけではその相続人が譲渡人の地位 を承継した者であるかどうか分からないことになる。このため,「ア」では, 債務者対抗要件として相続人全員が債務者に通知をする場合には,通知の事実 に加えて,債務者に相続人の範囲を明らかにする書面を示すことを要求するこ ととしている(注1)。他方,相続人全員の通知か,債務者の承諾がなければ, 遺言による債権全部の取得を債務者に対抗することができないとすると,相続 人の中に非協力的な者がいる場合に債務者対抗要件を具備することが困難にな るため,相続人全員による通知に加え,遺言執行者による通知でも,債務者対 抗要件となることとしている(注2)(注3)。また,その場合についても,債 務者にとっては,その者が遺言執行者の地位を有する者であるかどうか通常知 り得ないため,遺言執行者による通知の場合には,遺言執行者の資格を証明す る書類として,遺言の内容を明らかにする書面等(裁判所により選任された遺 言執行者についてはその旨を示す裁判書)を示すことを要求している。 「③」は,通常の債権譲渡の場合と同様,「②」の通知又は承諾は,確定日 付のある証書によってしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができ ないこととするものである。 (注1)債権譲渡の対抗要件として書面の提示を求めている例としては,動産及び債権の譲渡 の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第4条第2項がある。 (注2)遺言執行者については,「第3・4・⑶・イ・①」において,対抗要件を備えるため に必要な行為をする権限を有することを明確化することとしている。 (注3)なお,遺言執行者がない場合には,家庭裁判所に選任を求めることができるため(民 41 法第1010条),相続人の中に非協力的な者がいる場合には,遺言執行者の選任を求め, 同人から通知をしてもらうことが考えられる。 ⑵ 義務の承継に関する規律 【見直しの要点】 相続債務(消極財産)については,遺言によって相続分の指定等がされた場 合でも,債権者との関係では,原則として法定相続分に応じて承継されるが, 例外的に相続債権者の承諾があれば相続分の指定等の割合によって承継される こと,他方,相続人間の内部的な負担割合については相続分の指定等による承 継割合によることをそれぞれ明確化するものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 遺言で相続分の指定や包括遺贈がされた場合には,規定上は,相続債務につ いても積極財産と同じ割合で承継されるようにも読めるが(民法第902条, 第990条),判例(最判平成21年3月24日民集63巻3号427頁)は, 相続債務の承継割合についてまで遺言者にこれを変更する権限を認めるのは相 当でないとして,相続分の指定等がされた場合でも,相続人は,原則として法 定相続分に応じて相続債務を承継するとの考え方を採っている。 本部会では,これらの判例を踏まえ,相続債務の承継割合に関する規律を明確 化することについて検討を行った。 2 見直しの趣旨及び内容 「①」は,相続債務の性質上,債務者である被相続人にその処分権限を認め るのは合理性に欠けることから,前記1の判例の考え方を採用し,相続債務(消 極財産)については遺言において法定相続分と異なる承継割合が定められた場 合であっても,原則として法定相続分に応じて承継されることを明確化するも のである。 「②」は,相続分の指定又は包括遺贈により,積極財産につき法定相続分と は異なる割合で遺産を分配することを定めた場合には,相続債務における相続 人間の内部的な負担割合については,積極財産と同様の割合とするのが遺言者 の通常の意思に合致するものと考えられ,また,相続人間の内部的な求償関係 の問題に限定すれば特段の問題は生じないことから,その旨を明らかにする規 律を設けるものである。なお,法定相続分よりも少ない相続分の指定を受けた 相続人がその内部的な負担割合を超えて弁済をしたような場合には,その相続 人は,他の相続人に対し,その超過部分について求償をすることができること 42 になる。 「③」は,債務の引当財産を確保する観点から,相続債権者にとっても指定 相続分等に応じた債務の承継の方が望ましいという場合もあり得ること等を考 慮し,相続債権者が指定相続分等による債務の承継を承諾した場合には,当該 相続債権者との関係においても,指定相続分等に応じた債務の承継がされるこ ととするものである。 「④」は,債権者が「③」の承諾をする場合の規律を定めるものであり,相 続人が複数いる場合であっても,債権者が相続人の一人に対して「③」の承諾 をした場合には,すべての相続人に対してその効力を生ずることとしている。 ⑶ 遺贈の担保責任 【見直しの要点】 遺贈の目的となる物又は権利が相続財産に属するものであった場合には,遺贈 義務者は,原則として,その物又は権利を,相続が開始した時の状態で引き渡し, 又は移転する義務を負うものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 法制審議会で答申がされた「民法(債権関係)の改正に関する要綱」(以下「債 権法改正に関する要綱」という。)では,売買等の担保責任に関する規律につい て見直しがされている。そこでは,いわゆる法定責任説の考え方を否定し,買 主等は,目的物が特定物であるか,不特定物であるかを問わず,その種類及び 品質等に関して契約内容に適合する物を引き渡す義務を負い,引き渡した物が 契約内容に適合しない場合には,売主等に対し,追完請求等をすることができ ることとされている。そして,無償行為である贈与においても,贈与者は,契 約内容に適合する目的物を引き渡す義務を負うことを前提としつつ,その契約 において,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,又は移転すること を約したものと推定することとされている。 このため,本部会では,債権法改正に関する要綱における見直しの内容を踏 まえ,遺贈の担保責任の見直しについて検討を行った。 2 見直しの趣旨及び内容 「①」は,債権法改正に関する要綱における贈与の担保責任に関する規律を 踏まえ,遺贈の無償性を考慮して,遺贈の目的となる物又は権利が相続財産に 属するものであった場合には,遺贈義務者は,原則として,その物又は権利を, 相続が開始した時(その後に遺贈の目的である物又は権利を特定すべきときは 43 その特定の時)の状態で引き渡し,又は移転する義務を負うこととするもので ある。 もっとも,この規律は,あくまでも遺言者の通常の意思を前提としたものに すぎないから,その遺言において,遺言者がこれとは異なる意思を表示してい た場合には,遺贈義務者はその意思に従った履行をすべき義務を負うこととし ている(「①」ただし書)。 「②」は,民法第998条を削除することとするものであるが,このような 見直しをする理由は,以下のとおりである。 すなわち,民法第998条は,不特定物の遺贈義務者の担保責任を定めてい るが,前記のとおり,債権法改正に関する要綱では,売買等の有償契約におけ るいわゆる特定物ドグマを否定し,目的物が特定物であるか,不特定物である かにかかわらず,買主は,追完請求権を有することとされている。債権法改正 に関する要綱では,無償行為である贈与においても,基本的にはこのような考 え方を採用していることを考慮すれば,遺贈においても,同様の考え方を採用 すべきことになるものと考えられる。そして,このような考え方を採用しつつ, 現行の民法第998条を維持しようとすれば,同条は,不特定物について遺贈 義務者の追完義務に関する特則を設けたものという整理をすることになると考 えられる。 もっとも,遺贈の場合にその無償性を考慮して遺贈義務者の追完義務につい て特則を設け,その責任を軽減することは考えられるところであるが,このよ うな観点から特則を設けるのであれば,必ずしもその対象は不特定物に限られ ないのではないかと考えられる。また,同じく無償行為である贈与については そのような特則は設けられていないことを考慮すると,遺贈についてのみ特則 を設けるのはバランスを失するようにも思われる。 このような点を考慮して,「②」では,不特定物の遺贈の担保責任を定めた現 行の民法第998条を削除することとしている。 3 自筆証書遺言の保管制度の創設 【見直しの要点】 自筆証書遺言を作成した者が一定の公的機関に遺言書の原本の保管を委ねる ことができる制度を創設するものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 自筆証書遺言は,遺言証書原本が公証役場で厳重に保管される公正証書遺言 44 とは異なり,作成後に遺言書が紛失し,又は相続人によって隠匿若しくは変造 されるおそれがあり,実際に,自筆証書遺言が相続人の一人により破棄又は隠 匿されたために裁判手続に提出されなかったとの事実認定がされた裁判例(東 京高判平成9年12月15日判例タイムズ987号227頁)があるほか,自 筆証書遺言の有効性が争われた裁判例は多数存在する(例えば,東京高判平成 12年10月26日判例タイムズ1094号242頁)。また,相続人は,「自 己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に相続を承認 するか,放棄するかを決めなければならないが(民法第915条第1項),相続 開始後速やかに遺言の有無及び内容を確認することができなければ,その判断 を適切に行うことは困難である。さらに,被相続人が自筆証書遺言を作成して いた場合であっても,相続人が遺言書の存在を把握することができないまま遺 産分割が終了し,あるいは遺言書が存在しないものとして進められた遺産分割 協議が遺言書の発見により無駄になるおそれもある。このほかにも,複数の遺 言書が発見された場合や,一部の相続人が遺言書の偽造又は変造を主張した場 合には,遺言書の作成の真正等をめぐって深刻な紛争が生ずることになる。 これらの問題は,自筆証書遺言を確実に保管し,相続人がその存在を把握す ることのできる仕組みが確立されていないことがその一因になっているものと の指摘がされている。 このため,本部会では,自筆証書遺言を保管する制度の創設について検討を 行った。 2 見直しの趣旨及び内容 「①」は,前記1の問題点を踏まえ,自筆証書遺言(以下「遺言書」という。) を作成した者が一定の公的機関に遺言書の原本の保管を委ねることができる制 度を創設することとするものである。 この「一定の公的機関」は,新たに構築される制度に基づく業務を担うこと が可能な人的物的体制を有するものである必要があり,また,利便性の観点か ら,全国に存在する機関(例えば,法務局,公証役場,市区町村等)が望まし いと考えられる。また,この点について,本部会では,例えば市区町村におい て前記業務を行うとした場合には,特に地方部では職員と住民が顔見知りであ ることも珍しくないため,秘密保持が困難な面もあるほか,保管開始後に転居 した場合の対応が難しくなるおそれもあるとの指摘がされた。これらの指摘を 踏まえると,保管業務を行う公的機関は,遺言書の保管に関するデータを安全 に管理しつつ,遺言書の保管の有無の確認,正本や謄本の請求等について全国 で統一的に対応することが可能な機関であることを要するものと考えられる。 45 遺言書の保管を行う公的機関については,これらの点を踏まえた上で,国民の 意見を広く聴取しながら慎重に検討する必要があることから,「(注1)」におい て,その旨を注記している。 また,「(注2)」のとおり,遺言書の原本を保管する際には,災害等による滅 失のおそれを考慮し,遺言書の内容を画像データにしたものを別途保管するこ とを想定している。 「②」は,遺言書の保管の申出は,遺言者本人に限りすることができるもの とし,それ以外の者による保管申出は認めないこととするものである。これは, 本部会において,遺言者以外の者による偽造及び変造をできる限り防止するた めには,保管手続の申出資格は遺言者本人に限定する必要性が高いとの意見が 多かったことを踏まえたものである。 「③」及び「④」は,遺言書の保管の有無の確認請求及び保管されている遺 言書の原本の閲覧請求等をすることができる者を相続人,受遺者及び遺言執行 者(以下「相続人等」という。)とするものである。相続人が「③」に基づく確 認請求をする場合には,「(注3)」のとおり,戸籍謄本等の提出を受けて相続人 であることを証明させることを想定しているが,「③」及び「④」の具体的な手 続については,今後更に検討する必要がある。 他方,「(注4)」のとおり,公的機関が保管する遺言書の原本は相続開始後も 相続人等に交付せず,相続開始後も当該公的機関で一定期間保管することを想 定している。これは,例えば,相続人が複数いる場合には,いずれの相続人に 原本を交付するかについて適切な判断基準を設けることが困難である上,交付 を受けた者がその遺言書を隠匿するなどして新たな紛争を生ずるおそれもある こと等を考慮したものである。 「⑤」は,「①」に基づく保管された遺言書については,検認(民法第100 4条)を要しないこととするものである。これは,この制度に基づき遺言書を 保管する場合には,前記のとおり,遺言書の内容を画像データにしたものを別 途保管することを想定しているため,相続開始後に検認手続を行い,遺言書の 状態を確定し,その現状を明確にする必要性は相当程度低下すると考えられる こと等を考慮したものである。 「⑥」は,相続人等から「④」に基づく申出がされた場合には,公的機関は 申出人以外の相続人等に対して遺言書の保管の事実を通知しなければならない とするものである。現行法上,自筆証書遺言の検認の申立てがされた場合には, 裁判所書記官は検認期日を定めて申立人及び相続人に通知しなければならず, また,遺言書の検認がされたときは,裁判所書記官は,遺言書の検認の期日に 46 立ち会わなかった相続人,受遺者その他の利害関係人(前記通知を受けた者を 除く。)にその旨を通知しなければならないとされており(家事事件手続規則第 115条),これにより他の相続人及び受遺者が遺言書の存在を知る機会が事実 上与えられている。そこで,本試案では,このような現行法上の取扱いと同様 の機会を確保する観点から,「⑥」の規律を設けることとしたものである。 4 遺言執行者の権限の明確化等 ⑴ 遺言執行者の一般的な権限等 【見直しの要点】 遺言執行者は,遺言の内容を実現することを職務とするものであり,その行 為の効果は相続人に帰属することを明らかにするものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 遺言の内容の実現は,本来,遺言者の権利義務の承継人である相続人がこれ をすべきものであるが,遺言の内容によっては,相続人との利害対立,相続人 間の意見の不一致,一部の相続人の非協力などによって,公正な執行が期待で きない場合がある。遺言執行者制度の趣旨は,このような場合に,遺言の執行 を遺言執行者に委ねることにより,遺言の適正かつ迅速な執行の実現を可能と することにあると考えられる。 このような趣旨に照らすと,遺言執行者は,遺言者の意思を実現することを 職務とする者であって,本来は遺言者の代理人としての立場を有するものであ る(注)。 したがって,遺言執行者は,必ずしも破産管財人のように中立的な立場にお いて職務を遂行することが期待されているわけではなく,例えば,遺留分減殺 請求がされた場合のように,遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場面で も,遺言執行者としてはあくまでも遺言者の意思を実現するために職務を行え ば足りるものと考えられ,それを阻止する必要がある場合には,それを阻止し ようとする者においてそのための措置を講ずる必要があるものと考えられる。 もっとも,現行法上,遺言執行者の法的地位については,「相続人の代理人 とみなす」とする規定(民法第1015条)があるのみであり,前記のような 遺言執行者の法的地位が必ずしも規定上明確になっていないために,遺言者の 意思と相続人の利益とが対立する場合に,遺言執行者と相続人との間でトラブ ルが生ずることがあるとの指摘がされている。また,遺言執行者がいる場合に, 遺言執行者と相続人のいずれに当事者適格が認められるかが争われた判例や裁 47 判例が多数存在する(例えば,最判昭和31年9月18日民集10巻9号11 60頁)が,このような紛争が生ずるのも遺言執行者の法的地位やその権限の 内容が規定上明確になっていないことがその一因になっているとの指摘もされ ている。 このため,本部会では,遺言執行者の法的地位及び一般的な権限を明確にす る方向で検討を行った。 (注)もっとも,遺言の効力が生じた時点では,遺言者は既に死者となっていることから,被 相続人の法的地位を包括的に承継した「相続人」の代理人とみなすこととされているものと 考えられる(民法第1015条)。 2 見直しの趣旨及び内容 「①」は,遺言執行者の法的地位を明確にする観点から,遺言の内容を実現 することを職務とするもので,必ずしも相続人の利益のために職務を行うもの ではないことを明らかにするものである(最判昭和30年5月10日民集9巻 6号657頁参照)。これによって,遺留分減殺請求がされた場合など,遺言者 の意思と相続人の利益とが対立する場面においても,遺言執行者はあくまでも 遺言者の意思に従って職務を行えばよいことが明確になるものと考えられる。 また,遺言執行者の一般的な権限について,民法第1012条は,「相続財産 の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と規定 しているが,「①」では,「相続財産の管理」に代えて,「遺言の執行の妨害の排 除」を一般的な権限としてあげている。これは,前記のような遺言執行者の法 的地位に照らすと,遺言執行者は,遺言において特段の定めがされている場合 を除き,遺言の目的となっている相続財産について包括的な管理処分権を有す るものではないと考えられるところ,民法第1012条の規定を形式的に文言 解釈すると,常に相続財産の包括的な管理権限があるようにも読めることから, この部分の規定ぶりを見直すこととしたものである。なお,判例においても, かつては,遺言執行者には相続財産について包括的な管理権限があることを前 提にして,遺言執行者に広く当事者適格を認める傾向があったが,平成10年 の判例(最判平成10年2月27日民集52巻1号299頁)において,特定 の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がされた場合には,遺言書に当 該不動産の管理等を遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情 のない限り,遺言執行者は原則としてその目的財産の管理権を有するものでは ないとの判示がされ,この判例により,遺言執行者がどのような権限を有する かは遺言の内容によって異なることが明確にされたといわれている。 なお,「(注1)」において,遺言執行者が負う一般的な義務の内容をどのよう 48 に定めるかについては,今後の検討課題である旨を注記している。これは,本 部会において,遺言執行者については,信託法における受託者と同様,忠実義 務に関する規律を設けることを検討すべきであるとの指摘や,民法第108条 との関係を整理すべきであるとの指摘等がされたことを踏まえたものである。 なお,「①」は,民法第1012条第1項の見直しを内容とするものであるが, 同条第2項に関する規律を見直すことは想定していない。 「②」は,前記の遺言執行者の法的地位に照らし,民法第1015条の「相 続人の代理人とみなす」という部分の実質的な意味を明らかにすることを意図 したものであり,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属することとしたもの である。なお,これに伴い,民法第1015条は削除することとしている(「(注 2)」)。 「③」は,遺言執行者が就職を承諾し,又は家庭裁判所に選任された場合に, 遺言執行者は,相続人に対し,遅滞なくその旨及び遺言の内容を通知しなけれ ばならないこととするものである。前記のとおり,遺言の内容の実現は,遺言 執行者がない場合には相続人が,遺言執行者がある場合には遺言執行者がすべ きことになるため,相続人としては,遺言の内容及び遺言執行者の有無につい て重大な利害関係を有することになるが,現行法上,遺言執行者がいる場合に, 相続人がこれを知る手段が確保されていないため,「③」の規律を設けることと したものである。 ⑵ 民法第1013条の見直し 【見直しの要点】 遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を図る観点から,遺言執行者があ る場合に相続人がした相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為の効力を見 直すものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法上,遺言執行の妨害行為がされた場合の取扱いについては,民法第1 013条で,「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺 言の執行を妨げる行為をすることができない」とされているが,相続人がこれ に違反する行為をした場合の効果について,判例は絶対無効であるとしている (大判昭和5年6月16日民集9巻550頁)。 他方で,判例は,例えば,遺言者が不動産を第三者に遺贈して死亡した後に, 相続人の債権者が当該不動産の差押えをした事案について,受遺者と相続人の 49 債権者とは対抗関係に立つとしている(最判昭和39年3月6日民集18巻3 号437頁)。 これらの判例の考え方によると,例えば,遺贈がされた場合については,遺 言執行者があれば遺贈が絶対的に優先し,対抗関係は生じないのに対し,遺言 執行者がなければ対抗関係に立つことになるが,この点については,遺言の存 否及び内容を知り得ない第三者に不測の損害を与え,取引の安全を害するおそ れがあるとの指摘がされている。 そこで,本部会では,このような問題を解消するための方策について検討を 行った。 2 見直しの趣旨及び内容 【甲案】は,民法第1013条を削除することとするものであるが,【甲案】 は,遺言による権利変動と相続人による処分が抵触する場合については,一律 に前記「2・⑴・①」の規律に従い,対抗問題としてその優劣を決することを 前提としている。 これに対し,【乙案】は,現行の規律と【甲案】の折衷的な考え方であり,現 行法と同様,遺言執行者がある場合には,それに抵触する相続人の行為は無効 であるとしつつ,遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を図る観点から, 善意者保護規定を設けるというものである。そして,この場合の保護要件につ いては,第三者に遺言の内容に関する調査義務を負わせるのは相当でないこと から,善意であれば足り,無過失は要求しないこととしている。 ⑶ 個別の類型における権限の内容 【見直しの要点】 特定遺贈がされた場合及び遺産分割方法の指定がされた場合に関する遺言執 行者の権限の内容を明確化するものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するとされ ているため(民法第1012条第1項),遺言執行者の権限の内容は,結局 のところ遺言の内容によることになるが,遺言の記載内容からだけでは,遺 言者が遺言執行者にどこまでの権限を付与する趣旨であったのかその意思が 必ずしも明確でない場合も多く,そのために,遺言執行者の権限の内容をめ ぐって争いになる場合があるとの指摘がされている。とりわけ,遺言執行者 の権限が取引行為に係るものである場合には,第三者の取引の安全を図る観 50 点から,遺言執行者の権限の内容を明確にする必要性が高いとの指摘がされ ている。 このような観点から,本部会では,被相続人による財産の処分として実務 上もしばしば用いられる遺贈及び遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言) について,その原則的な権限の内容を法定する方向で検討を行った。 2 見直しの内容及び趣旨 ⑴ 特定遺贈がされた場合 前記の遺言執行者制度の趣旨に照らすと,遺言の内容が遺贈である場合に は,遺言執行者の権限の範囲は遺贈の履行をするのに必要な行為全般に及ぶ ものと考えられる。「①」は,このような観点から,遺贈がされ,遺言執行者 の定めがある場合には,遺言執行者が遺贈の履行をする権限を有することと している。なお,より具体的に遺言執行者の権限を規定することも考えられ るが,この場合の遺言執行者の権限の内容は,遺贈義務者が負う履行義務の 内容によって定まるものと考えられる(仮にその点が不明確であれば,遺言 執行者の権限を明らかにするのではなく,遺贈義務者の履行義務の内容を明 らかにする必要があることになるが,この点については,遺贈の担保責任に 関する規定の整備(「2・⑶」参照)等によってある程度明確化されることに なるものと考えられる。)から,遺言執行者の権限に関する規定の中でこれを 明確化することはしていない。 ⑵ 遺産分割方法の指定がされた場合 前記⑴の遺贈の場合とは異なり,遺産分割方法の指定(いわゆる相続させ る旨の遺言)については,民法上は第908条に根拠規定があるのみで,そ の効果についても学説上争いがあること等に照らすと,遺言執行者の権限の 内容を明確化すべき必要性が高いと考えられる。 「①」から「③」までの規律は,このような観点から,遺産分割方法の指 定がされた場合の遺言執行者の権限の内容を明らかにしたものである。 「①」は,対抗要件具備行為については原則として遺言執行者の権限に含 めることとするものである。これは,判例(最判平成11年12月16日民 集53巻9号1989頁)の考え方等を参考にしたものであるが,対抗要件 具備行為は,受益相続人にその権利を完全に移転させるために必要な行為で あり,遺言の執行に必要な行為といえること,特に「2・⑴」のような見直 しをし,遺産分割方法の指定による権利変動についても受益相続人の法定相 続分を超える部分については対抗問題として処理することとする場合には, これを遺言執行者の権限に含める必要性が高まること等を考慮したものであ 51 る。なお,前記判例は,遺産分割方法の指定の対象財産が不動産であった事 案に関するものであるが,遺言執行者の権限について,「不動産取引における 登記の重要性に鑑み,受益相続人に登記を取得させることは遺言執行者の職 務権限に属する」とした上で,登記実務上,相続させる遺言については不動 産登記法第63条第2項により受益相続人が単独で登記申請することができ ることとされているから,当該不動産が被相続人名義である限りは,遺言執 行者の職務が顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有し ない旨判示している。このような判例の考え方に照らせば,遺産分割方法の 指定の対象とされた財産が動産や債権である場合のように,受益相続人が単 独で対抗要件を取得することができない場合には,遺言執行者に対抗要件具 備行為をする権限を認めるべきことになると考えられる。これに対し,対象 財産が不動産である場合には,前記判例が指摘するとおり,受益相続人が単 独で対抗要件を具備することができるため,遺言執行者にその権限を付与す る必要はないとも考えられるが,近時,相続時に相続財産に属する不動産に ついて登記がされないために,その所有者が不明確になっている不動産が多 数存在することが社会問題となっていること等に鑑みると,遺産分割方法の 指定がされた場合に,遺言執行者による単独申請によって登記を認めること ができないかについても検討の余地があるものと考えられる。そのため,「①」 においては,不動産を除外することとはしていない。 「②」は,遺産分割方法の指定の対象財産が特定物である場合においても, 遺言執行者は,原則として,受益相続人に対してその特定物を引き渡す権限 を有しないこととするものである。これは,判例(最判平成10年2月27 日民集52巻1号299頁)の考え方等を参考にしたものであり,特定物を 目的として遺産分割方法の指定がされた場合であっても,目的物の引渡しは, これが対抗要件となっている場合を除き,その所有権を移転させるために必 要な行為とはいえないこと等を考慮したものである。もっとも,遺産分割方 法の指定の対象とされた財産が動産である場合には,その引渡しが対抗要件 となるため,「②」ただし書において,そのような場合には,「①」の規律が 適用されることとしている。 なお,ここでの動産の引渡しは,対抗要件具備行為として必要となるもの であるから,必ずしも現実の引渡しを要するものではなく,占有改定(民法 第183条)や指図による占有移転(民法第184条)の方法によることで も足りると考えられる。また,被相続人が対象動産を現に占有していた場合 についても,判例(最判昭和44年10月30日民集23巻10号1881 52 頁)の考え方を前提とする限り,相続の開始により被相続人が有していた占 有は,原則として受益相続人に移転することになるものと考えられる。した がって,このような場合には,受益相続人は,相続の開始により対象動産の 対抗要件を具備することになるため,遺言執行者が現実の引渡しをする必要 はないものと考えられる。 「③」は,遺産分割方法の指定の対象財産が預貯金債権である場合に,遺 言執行者にその行使権限を認めることとするものである。 このような規律を設けるに至った経緯は,以下のとおりである。すなわち, 現行の銀行実務においては,遺言執行者が預金の解約及びその払戻しを求め てきた場合には,これに応じている金融機関が多いといわれているが,本部 会において,特定の財産について遺産分割方法の指定がされた場合における 遺言執行者の権限として,「①」及び「②」のみを規定することとすると,そ の反対解釈としてこのような実務運用が否定されるおそれがあるとの指摘が されたことを踏まえ,この場合の取扱いについて検討した。そして,「③」の 規律は,現行の銀行実務においては,預金債権について遺贈や相続させる旨 の遺言がされた場合には,受遺者等に名義変更をした上で,その預金口座を 維持する取扱いはほとんどされていないといわれていること,遺言執行者が いる場合にも,受遺者等に当該預金債権の対抗要件を具備させた上で,受遺 者等が自ら預金債権を行使することとするよりは,遺言執行者に預金債権の 払戻権限を認め,遺言執行者に引き出した預金の分配まで委ねる方が手続と して簡便であり,また,遺言者の通常の意思に合致する場合が多いと考えら れること等を考慮して設けられたものである。 「③」の規律は,預貯金債権が社会において現金に類似する機能を果たし ていること,預貯金契約においては,一般に譲渡禁止特約が設けられており, 預貯金の名義人を変更してその預貯金債権を存続させることは通常予定され ていないこと等を考慮し,対象財産が預貯金債権である場合の規律を設けた ものであるが,それ以外の債権についても遺言執行者に権利行使を認めるべ きかどうかについては,なお検討するものとしている(「(注2)」)。 「④」は,「①」から「③」までの規律は遺言執行者の権限に関する原則的 なルールを定めたものにすぎず,遺言において遺言者が別段の意思を表示し た場合には,適用しないことを明らかにしたものである。 ⑷ 遺言執行者の復任権・選任・解任等 【見直しの要点】 53 遺言執行者についても,他の法定代理人と同様の要件の下で,復任権を認め ることとするほか,遺言執行者の選任,辞任及び解任について,その要件を見 直し,申立権者を明確化するなどの措置を講ずるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法上,遺言執行者は,遺言者がその遺言に反対の意思を表示した場合 を除き,やむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることがで きないとされている(民法第1016条)。しかし,一般に,遺言において 遺言執行者の指定がされる場合には,相続人など必ずしも十分な法律知識を 有していない者が指定される場合も多く,遺言執行者の職務が広範に及ぶ場 合や難しい法律問題を含むような場合には,その遺言執行者において適切に 遺言を執行することが困難な場合もあり得ることから,遺言執行者の復任権 の要件を緩和すべきであるとの指摘がされている。 そのほか,現在の実務においては,相続人が遺言執行者に選任されること も多いといわれているが,遺言の内容によっては,遺言執行者の職務とされ た行為のうち,その一部については利益相反の関係に立つため,その相続人 に遺言執行者の職務を行わせるのが相当でない場合や,遺言執行者が一部の 相続人と対立関係にあるために,その相続人の利益となる行為を適切に行う ことを期待することができない場合があるとの指摘もされている。 本部会では,これらの指摘等を踏まえ,遺言執行者の復任権,選任,解任 等の要件及び効果等の見直しについて検討を行った。 2 見直しの趣旨及び内容 「①」は,遺言執行者に,他の法定代理人と同様の要件の下で,復任権を 認めることとするものである。遺言執行者は,一般に,法定代理人であると 解されているが,法定代理人は,原則として,その責任において復代理人を 選任することができるとされている(民法第106条)。これは,法定代理 人の職務は広範に及ぶため単独では処理し得ない場合も多いこと,法定代理 人については任意に辞任することが認められていないこと,法定代理人が選 任される場合の本人は制限行為能力者,不在者など,復代理についての許諾 能力に欠ける場合が多いこと等を考慮したものであるといわれている。これ に対し,現行制度の下では,遺言執行者は,原則として,やむを得ない事由 がなければ第三者にその任務を行わせることができないこととされており, 復任権が制限されている(注)。しかし,遺言執行者についても,遺言の内 容如何によっては,その職務が非常に広範に及ぶこともあり得,また,遺言 54 の執行を適切に行うためには相応の法律知識等を有していることが必要とな る場合があるなど,事案によっては弁護士等の法律専門家にこれを一任した 方が適切な処理を期待することができる場合もあると考えられる。さらに, 遺言執行者は,実質的には既に死亡した遺言者の代理人として,その意思を 実現することが任務とされており,その意味では,復代理を許諾すべき本人 もない状況にあるため,遺言執行者の復任権の要件は,任意代理人による復 代理人選任の要件(民法第104条)よりもさらに狭く,このことが遺言執 行者の任務の遂行を困難にしている面があると考えられる。そこで,遺言執 行者についても,他の法定代理人と同様の要件で,復任権を認めることとし たものである。 「②」は,遺言執行者は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を 得て,その任務の一部を辞任することができることとするものである。前記 1のとおり,相続人が遺言執行者となった場合等においては,遺言の内容の 一部については,専門的な法的知識等が必要であるためこれを行うことが困 難であり,あるいは感情的な対立等からこれを行いたくないという場合もあ り得ると考えられるが,とりわけ,「2・⑴・①」のような見直しを行う場合 には,対抗要件具備行為だけでも速やかにその職務を行う必要性が高いとい う場合も生じ得るものと考えられる。このため,「②」において,遺言執行者 にその任務の一部についての辞任を認めることとしたものである。 「③」は,遺言執行者の解任の申立権者を受遺者又は相続人とするもので ある。この点について,民法第1019条第1項では,「利害関係人」とされ ているが,一般に,この「利害関係人」には,相続人,受遺者,相続債権者, 受遺者又は相続人の債権者等が含まれると解されている。しかし,遺言執行 者の法的地位について前記のような整理をするのであれば,解任の申立権者 についても,遺言執行者の職務懈怠について受遺者に対して責任を負う立場 にある相続人と,遺言によって直接利益を受ける立場にある受遺者に認めれ ば足りるものと考えられる。そこで,「③」では,遺言執行者の解任の申立権 者を受遺者又は相続人に限定することとしたものである。 「④」は,遺言者が選任した遺言執行者が相当の期間内にその任務に属す る特定の行為をしない場合に,家庭裁判所がその行為について遺言執行者の 権限を喪失させることができることとするものである。これも,「②」の見直 しと同様の趣旨であり,対抗要件具備行為等迅速な職務執行が求められる場 合もあり得ること等を踏まえ,解任するまでの事由がない場合でも,その権 限の一部のみを喪失させることができるようにしたものである。この申立権 55 者を受遺者及び相続人に限定した理由は,「③」の解任の申立権者を受遺者及 び相続人に限定した理由と同じである。 「⑤」は,「②」から「④」までの見直しを踏まえ,遺言執行者の辞任,解 任又は権限の一部喪失を原因として,その任務を行う者がいなくなった場合 に,受遺者又は相続人の申立てにより,家庭裁判所が新たに遺言執行者を選 任し,又は特定の行為について権限を有する代理人を選任することができる こととするものである。なお,「②」の辞任によって新たに遺言執行者を選任 する必要がある場合には,従前の遺言執行者にも申立権を認めることも考え られることから,その旨を「(注)」に記載している。 (注)復任権の制限の点について,判例は,遺言執行者の任務の一部を委任することは民法 第1016条に違反しないとの判断を示しているが(大決昭和2年9月17日民集6巻5 01頁),前記のとおり,遺言執行者は法律上包括的な権限が付与されている者ではなく, 遺言の執行をするのに必要な範囲で権限が付与されているのにすぎないこと等に照らす と,任務の一部について委任することはできるが,任務の全部を委任することはできない こととするのは,合理性に欠けるものと考えられる。 第4 遺留分制度に関する見直し 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し 【見直しの要点】 遺留分減殺請求(以下「減殺請求」という。)によって当然に物権的効果が生ず るとされている現行の規律を見直し,減殺請求によって原則として金銭債権が発 生するものとしつつ,受遺者又は受贈者において,遺贈又は贈与の目的財産によ る返還を求めることができる制度を設けるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法上は,減殺請求により当然に物権的効果が生ずること(注)とされて いるため,減殺請求の結果,遺贈又は贈与の目的財産は受遺者又は受贈者と遺 留分権利者との共有になることが多いが,このような帰結は,円滑な事業承継 を困難にするものであり,また,共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じ させることになるとの指摘がされている。例えば,被相続人が特定の相続人に 家業を継がせるため,株式や店舗等の事業用の財産をその者に遺贈するなどし ても,減殺請求により株式や事業用の財産が他の相続人との共有となる結果こ れらの財産の処分が困難になるなど,事業承継後の経営の支障になる場合があ るとの指摘もされている。 56 また,明治民法が採用していた家督相続制度の下では,遺留分制度は家産の 維持を目的とする制度であり,家督を相続する遺留分権利者に遺贈又は贈与の 目的財産の所有権等を帰属させる必要があったため,物権的効果を認める必要 性が高かった(特に相続人以外の第三者に遺贈又は贈与された場合にはそのよ うな必要性が高かったといえる。)が,現行の遺留分制度は,遺留分権利者の生 活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とす る制度となっており,その目的を達成するために,必ずしも物権的効果まで認 める必要性はなく,遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させる ことで十分ではないかとの指摘もされている。 本部会では,これらの指摘を踏まえ,遺留分減殺請求権の効力及び法的性質 の見直しについて検討を行った。 (注)「物権的効果」の具体的意義について 遺贈又は贈与の目的財産が特定物である場合には, 減殺請求によって,遺贈又は贈与は遺留分を侵害する限度において失効し,受遺者又は受贈 者が取得した権利は,その限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属する(最判昭和 51年8月30日民集30巻7号768頁)。このように,現行法の下では,減殺請求によっ て当然に遺留分権利者に所有権等の権利が帰属することとされているが,「1」の物権的効果 は,このような効果を意味するものである。 2 【甲案】及び【乙案】の主な相違点 本方策については,【甲案】及び【乙案】の2案を提示しているが,いずれも, 減殺請求によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の規律を見直し, 減殺請求によって原則として金銭債権が発生するものとしつつ,受遺者又は受 贈者において,遺贈又は贈与の目的財産による返還(以下では,遺贈又は贈与 の目的財産による返還のことを「現物返還」などという。)を求めることができ る制度を設けることを内容とするものである。 両案の主な相違点は,受遺者又は受贈者が現物返還を求めた場合の効果の点 にあり,【甲案】は,裁判所が現物返還の内容を定めることとするものであるの に対し,【乙案】は,現行法と同様の規律で当然に現物返還の内容が定まること とするものである。 3 【甲案】について 「①前段」は,減殺請求によって当然に物権的効果が生ずるとされている現 行の規律を見直し,遺留分権利者は,減殺請求をすることにより,受遺者又は 受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができること とするものである。なお,現行法上,遺留分減殺請求権は形成権であるとされ ているが,本方策は,その点の見直しまで意図するものではなく,ここでの金 57 銭請求権は,遺留分権利者が減殺請求をして初めて発生するものとすることを 前提にしている。 「①後段」は,減殺請求により発生した金銭債務について,受遺者又は受贈 者は減殺請求をした時から3箇月を経過するまでの間は遅滞の責任を負わない こととするものである。これにより,この3箇月の期間は,受遺者又は受贈者 にとっては,遺留分権利者に支払う金銭の準備期間となるだけでなく,現物返 還の意思表示をするか否かを選択するための熟慮期間としての性格を併せ有す ることになる(後記「②」参照)。 「②前段」は,減殺請求を受けた受遺者又は受贈者は,これによって発生し た金銭債務の全部又は一部の支払に代えて現物返還をする旨の意思表示をする ことができ,遺留分権利者に対し,その内容を協議によって定めることを求め ることができることとするものである。受遺者又は受贈者に金銭の支払に代え て現物返還を認めることとした理由は,以下のとおりである。すなわち,現行 制度の下では,遺留分権利者は,受遺者又は受贈者が遺留分侵害の事実を知っ ているか否かにかかわらず,これらの者に対して権利行使をすることが認めら れており,かつ,善意の受遺者又は受贈者が受けた利益を返還する場合にその 範囲を現存利益に限定するなどの措置も講じられていない(本試案でも,この 点の見直しは予定されていない。)。しかるに,受遺者又は受贈者に金銭での支 払しか認めないこととすると,受遺者又は受贈者としては,遺留分権利者に支 払うべき金銭を直ちに用意することができない場合には,自己の財産を売却す るなどして金銭を用意する必要があることになるが,受遺者又は受贈者として は,このような事態になるのであれば,遺贈の放棄をするなどしてその目的財 産を取得しない方が良かったということにもなりかねない(なお,一旦遺贈を 承認した場合には,その後にそれを撤回することはできない(民法第989条 第1項)。)。これらの点を考慮し,受遺者又は受贈者が現物返還を希望する場合 には,これを認めることとしたものである。 「②後段」は,受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示をした場合には,受 遺者又は受贈者は,その内容が確定するまでの間は,履行遅滞の責任を負わな いこととするものである。本方策による見直しをした場合には,遺留分減殺請 求権は本来的には価値返還請求権としての性質を有することになるものと考え られるが,【甲案】では,現物返還の意思表示がされた場合には,裁判所が遺留 分権利者に返還すべき価値の内容を定めることとしており,それまでの間は, 返還すべき財産の内容が確定しないことになるため,履行遅滞の責任を負わな いこととしたものである。 58 「③」は,当事者間において現物返還の内容に関する協議が調わない場合に は,裁判所に対してその内容を定めるよう求めることができることとするもの である。なお,受遺者又は受贈者は,遺留分権利者が提起した訴訟において現 物返還の抗弁を提出することができるほか(注1),受遺者又は受贈者の側から 遺留分権利者に返還すべき財産の確定を求める訴訟を提起することができるよ うにすることを想定している(「(注1)」)。後者の点は,現行法上も,一定の要 件の下で,受遺者又は受贈者の側から価額弁償額確認訴訟を提起することが認 められており(最判平成21年12月18日民集63巻10号2900頁),こ れとパラレルに考えることができるように思われる。 「④」は,裁判所が現物返還の内容を定めるに当たって考慮すべき事情を定 めるものであり,裁判所は,現物返還の内容を定めるに当たり,遺贈又は贈与 がされた時期のほか,遺贈又は贈与の対象となった財産の種類及び性質,遺留 分権利者及び受遺者又は受贈者の生活の状況等を考慮すべきこととしている。 このうち,「遺贈又は贈与がされた時期のほか,」としているのは,これらの考 慮事情のうち,「遺贈又は贈与がされた時期」が最も重要な考慮事情であること を示す趣旨である。この点について,現行法では,民法第1033条から第1 035条までの規定において減殺の順序が定められており,贈与に先立って遺 贈を減殺し,遺贈の減殺だけで不十分な場合には新しい贈与から古い贈与の順 に減殺することとされている。その理由については,一般に,遺留分制度は遺 言者の財産処分権を制約するものであるが,その制約が正当化されるのは遺留 分権利者の遺留分が現実に侵害される状態となった後の財産処分であること, 受遺者又は受贈者にとっても,古い時期にされた贈与を減殺される方がその影 響が大きく,その法的安定性を図る必要性が高いこと等を考慮したものである と説明されている。本方策のような見直しを行う場合にも,このような趣旨自 体はなお妥当すると考えられることから,裁判所が現物返還の内容を定めるに 当たっては,遺贈又は贈与がされた時期を中心に考慮すべきこととしたもので ある。そのほか,遺贈又は贈与の対象となった財産の種類及び性質,遺留分権 利者及び受遺者又は受贈者の生活状況等を考慮すべきこととしている。 「⑤」は,減殺請求により発生した金銭債務の消滅に関する規律であり,「①」 の金銭債務は,返還すべき財産に関する協議が成立し,又はそれを定める裁判 が確定した時点で,現物返還の目的財産の価額の限度で消滅することとするも のである。これは,当事者間での協議が成立し,又は裁判が確定した場合には, 返還すべき財産はそれで確定し,それ以後は,現物返還に代えて金銭での弁済 をすることは原則として認めないこととすること(金銭での弁済をする場合に 59 は,代物弁済の要件を満たす必要がある。)を前提とするものである。このよう な考え方に対しては,現実に現物返還がされるまでの間に,その目的物が滅失・ 毀損され,又は第三者に譲渡される場合があり得ることからすれば,当事者間 での協議成立又は裁判確定によって当然に金銭債務が消滅すると解するのは相 当でなく,現実に現物返還がされた時点で金銭債務が消滅することとすべきで あるとの指摘もされており,このような考え方を「(注2)」に取り上げている。 もっとも,このような考え方に対しては,受遺者又は受贈者の現物返還の意思 表示を受けて,裁判所がその内容を定めた場合でも金銭による弁済を認め,結 果的に裁判所の判断を意味のないものにすることを認めるのは訴訟経済等の観 点から問題があるとの批判があり得るところである。また,このような考え方 を採った場合には,判決主文及びその後の手続が相当複雑なものとならざるを 得ないものと考えられる(注2)。他方,本文のような考え方を採った場合に生 ずる前記問題点については,仮処分や将来請求として代償請求を認めること等 によって対処することも可能であると考えられる。 (注1)本方策を採用した場合には,現物返還の具体的内容は裁判所の裁量により定めること になるので,現物返還の抗弁に係る審理については非訟的な審理を行うことになるものと思 われる。このような訴訟形態は特殊なものであるため,当事者の主張の拘束力(例えば,金 銭債務の一部に代えて現物返還の主張をした場合に,裁判所がその債務の額を超えて現物返 還を命ずることができるかといった問題)や訴訟構造等の法制上の問題点も含めて,更に検 討をしていく必要がある。 (注2)判決の主文について 例えば,遺留分侵害額が1000万円である事案において,裁判所が800万円を不動産(持 分)の返還によって,残額の200万円を金銭で返還させることとした場合の判決の主文は, 以下のようなものになるものと考えられる(もっとも,この点については,今後更に検討を要 する。)。 1 「⑤」本文の考え方を採用した場合 ⑴ 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の不動産の○分の○の持分につき遺留分減殺を 原因とする所有権移転登記手続をせよ。 ⑵ 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対するこの判決の確定の日の翌日から支払 済みまで年○パーセントの割合による金員を支払え。 2 「(注2)」の考え方を採用した場合 ⑴ 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の不動産の○分の○の持分につき遺留分減殺を 原因とする所有権移転登記手続をしなかった場合には,800万円を支払え。 ⑵ 被告は,原告に対し,800万円に対するこの判決の確定の日の翌日から前記⑴の所有 権移転登記手続をするまでの間年5パーセントの割合による金員を支払え。 60 ⑶ 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対するこの判決の確定の日の翌日から支払 済みまで年○パーセントの割合による金員を支払え。 なお,実際に現物返還がされるまでの間は金銭での支払を認めるという規律を採用する以 上,前記1⑴のような登記手続を命じる給付判決は困難であると思われる。また,現行法上, 登記手続を命ずる判決が確定した場合には,登記義務者の意思表示が擬制され(民事執行法 第174条第1項),その後は登記義務者の協力なく登記権利者のみで登記手続をすることが できるが,前記主文では,登記権利者と登記義務者が共同して登記手続をしなければ登記を することはできないし,また,受遺者又は受贈者側が金銭債務につき遅延損害金の発生を免 れるためには,実際に登記手続をするか,弁済の提供に該当する行為をする必要があるとい える(例えば,○月○日に法務局に行くので一緒に来てほしいと通知をし,登記手続に必要 な書類を持参して法務局に行くことが必要になると考えられる。)。このように,「(注2)」の 考え方をとった場合には,遺留分権利者並びに受遺者及び受贈者に手続的な負担も課すこと になるものと思われる。 4 【乙案】について 【乙案】は,前記のとおり,受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示をした 場合には,現行法と同様の規律でその内容が定まるという考え方であり,現物 返還の意思表示をすることにより,その時点で当然に物権的効果が生ずること とするものである。 現行の遺留分制度では,受遺者又は受贈者は原則として遺贈又は贈与の目的 財産を返還すべき義務を負い,例外的に目的財産の価額を弁償することによっ てその返還を免れることができることとされているが(民法第1041条), 【乙案】は,この原則と例外を逆転させるものである。なお,【乙案】によれ ば,受遺者又は受贈者の意思表示によって,共有等の複雑な法律関係が生じる ことになり,その場合には,別途共有物分割の手続等によって解決を図らなけ ればならないことになるため,前記1の問題点を解消することはできないこと になる。もっとも,【乙案】を採用することにより,遺留分権利者の意思表示 によって直ちに共有等の複雑な法律関係が生ずるといった事態は回避するこ とができるし,最終的に共有等の法律関係を受け入れるか否かについては,受 遺者又は受贈者の選択に委ねられることから,特に事業承継等の場面では,相 応の意義を有するものと考えられる。 「①」は,【甲案】の「①」と同じ内容である(前記3の該当箇所の説明を 参照されたい。)。 「②」は,現物返還の意思表示は,遺留分減殺請求を受けた時から3箇月以 内に行わなければならないこととするものであり,その趣旨は【甲案】の「②」 61 と同様である。なお,【甲案】では,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて 現物返還の意思表示をすることを認めることとしているが,【乙案】では,金 銭債務の全部の支払に代えて現物返還をすることのみを認めることとし,一部 の支払に代えて現物返還をすることを認めることとはしていない。これは,【乙 案】では,現物返還の意思表示をすることにより当然に物権的効果が生ずるこ ととしているところ,金銭債務の一部の支払に代えて現物返還をすることを認 めると,どの範囲で物権的効果が生じているのか判然としなくなるためである。 「③」は,現物返還の意思表示をすることによって,当然に物権的効果が生 ずること,また,減殺の順序については現行法と同様に民法第1033条から 第1035条までの規律によること,減殺請求によって発生した金銭債務はそ の時点で消滅することとするものである。 なお,【乙案】においても,【甲案】の「(注2)」の考え方のように,実際に 現物返還がされた時に金銭債務が消滅するという考え方,すなわち,現物返還 の意思表示のみでは当然には物権的効果が生じず,実際に現物返還がされた時 に代物弁済の効果が生じ,金銭債務も消滅するという考え方があり得る。しか しながら,このような考え方を採った場合には,金銭債務の遅延損害金が累積 することになり,判決時に遅延損害金を含めた金銭債務の全てについて現物返 還の範囲を定めることが理論的に困難となるため,このような考え方は採用し ていない。 2 遺留分の算定方法の見直し 本方策は,本試案の本文に記載したとおり,現行法の規律をベースに遺贈又 は贈与が相続人に対してされた場合について,遺留分の算定方法の特則を設け る(「⑴」及び「⑵」)とともに,遺産分割の対象財産がある場合における遺留 分侵害額の算定方法について,その規律を明確化する(「⑶」)ものである。な お,「⑴」から「⑶」までの各規律は,それぞれ独立に採用することが可能であ る。 ⑴ 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき相続人に対する生前 贈与の範囲に関する規律 【見直しの要点】 遺留分算定の基礎となる財産の範囲を見直し,相続人に対する生前贈与につ いては,相続開始前の一定期間(例えば5年間)にされたものに限り,遺留分 算定の基礎となる財産に含めることとし,それよりも前にされた生前贈与はこ れに含めないものとする。 62 【説明】 1 見直しの必要性 民法第1030条は,遺留分算定の基礎となる財産に含める生前贈与につ いては,「相続開始前の一年間にしたものに限り」その価額を算入するものと 規定しているが,判例(最判平成10年3月24日民集52巻2号433頁) 及び実務は,この規定は相続人以外の第三者に対して贈与がされた場合に適 用されるものであり,相続人に対して生前贈与がされた場合には,その時期 を問わず原則としてその全てが遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入さ れるとの考え方に立っているものと解されている。 しかしながら,このような考え方によると,被相続人が相続開始時の何十 年も前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者である受遺者又は 受贈者が受ける減殺の範囲が大きく変わることになり得るが,第三者である 受遺者又は受贈者は,相続人に対する古い贈与の存在を知り得ないのが通常 であるため,第三者である受遺者又は受贈者に不測の損害を与え,その法的 安定性を害するおそれがある(注1)。 また,民法第1030条の規定の趣旨に照らすと,受遺者又は受贈者が相 続人である場合には同条の適用がなく,相続人に対する生前贈与については 法律上時期的な限定が設けられていないとする前記判例の考え方には問題 があるとの指摘もされている。すなわち,遺留分の算定方法を定める民法第 1029条第1項において,遺留分算定の基礎となる積極財産の総額から相 続債務の総額を控除することとされているのは,遺留分制度によって遺留分 権利者に一定の財産を確保するのが許容されるのは相続財産が債務超過の 状態にない場合に限られることを前提とするものであると考えられる(注2)。 このような考え方を徹底すれば,遺留分算定の基礎となる財産は相続開始時 の財産に限定すべきことになるが,このような規律によると遺留分制度の潜 脱が容易になることから,民法第1030条において,相続開始時に近接す る時点でされた贈与等については相続開始時の財産とみなして遺留分算定 の基礎となる財産に含めたものと考えられる。民法第1030条の趣旨がこ のようなものであるにもかかわらず,生前贈与が相続人に対してされたこと を理由にこれを無限定に遺留分算定の基礎となる財産に算入すると,相続開 始時の財産(「相続開始時の積極財産」-「相続債務」)が債務超過の場合で あっても,過去何十年にもわたる生前贈与がこの基礎財産に算入され,積極 財産のみが加算される結果,遺留分の算定(「遺留分算定の基礎となる積極 財産」-「相続債務」)をする際には容易に資産超過の状態に変わり得るこ 63 とになり,遺留分制度の潜脱防止の観点から短期間に限って生前贈与を遺留 分算定の基礎となる財産に含めることとした民法第1030条の趣旨を没 却するのではないかとの指摘がある。 このような問題点の指摘を踏まえ,本部会では,遺留分算定の基礎となる 財産の範囲の見直しについて検討を行った。 2 見直しの内容 本方策は,相続人に対する生前贈与については,相続開始前の一定期間(例 えば5年間)にされたものに限り,遺留分算定の基礎となる財産に含めるこ ととするものである。 前記1の問題点を重視すれば,相続開始前にされた贈与を一定の範囲で遺 留分算定の基礎となる財産に含めることにするとしても,その期間は比較的 短期間に限定すべきものと考えられる。 他方,前記判例(最判平成10年3月24日民集52巻2号433頁)が 相続人の特別受益について民法第1030条の適用を否定した実質的根拠 (注3)は,このような解釈をとらないと,各相続人が被相続人から受けた財 産の額に大きな格差がある場合にも特別受益の時期如何によってこれを是正 することができなくなることを考慮したものであると考えられる。 この点を重視すれば,「⑴」の「相続開始前の一定期間」をあまりに短期間 に限定することは相当でないことになる。 本試案では,「一定期間」の例示としてこれを「5年間」とする考え方を提 示しているが,この期間をどの程度にすべきかについては慎重な検討が必要 になるものと考えられる。 なお,「(注)」では,「一定期間」を1年間程度の短期間に限定した上で, 相続人間の不公平を是正する観点から,遺産分割の手続において,いわゆる 超過特別受益(注4)の一部を現実に返還させる制度を設けるとの考え方を取 り上げている。もっとも,仮にこのような方向で検討する場合には,どのよ うな要件を満たす場合に超過特別受益を返還させることにするのか,その算 定方法をどのように定めるのか,その制度と遺留分制度との関係をどのよう に整理するのかなど,検討すべき課題は多いものと考えられる。 (注1)具体的には,以下のような事例が考えられる。 【事例】 相続人は,X(法定相続分1/2),Y(法定相続分1/4),Z(法定相続分1/4)の 3名で,被相続人が相続開始時に有していた財産(遺贈分については除く。)は0円,相続人 Yに対する30年前の生前贈与が1億円,第三者Aに対する遺贈が6000万円あったもの とする。 64 【検討】 ○ 現行法の規律を採用した場合 (遺産分割) なし (遺留分) ・ Xの遺留分侵害額=(6000万円+1億円)×1 2 × 1 2 =4000万円 ・ Yの遺留分侵害額=(6000万円+1億円)×1 2 × 1 4―1億円=-8000万円 ・ Zの遺留分侵害額=(6000万円+1億円)×1 2 ×1 4=2000万円 (まとめ) ・ Xの最終的な取得額=4000万円 (なお,ここでいう「最終的な取得額」とは,遺産分割で取得することのできる額,遺贈 又は贈与によって取得した額,遺留分減殺請求によって取得することのできる又は負担す ることとなる額を合算(又は控除)した額をいう。以下同じ。) ・ Yの最終的な取得額=1億円(減殺なし) ・ Zの最終的な取得額=2000万円 ・ Aの最終的な取得額=0円(すべて減殺) ○ 相続人Yに対する生前贈与を遺留分算定の基礎に算入しない場合 (遺産分割) なし (遺留分) ・ Xの遺留分侵害額=6000万円×1 2 × 1 2 =1500万円 ・ Yの遺留分侵害額=6000万円×1 2 × 1 4-1億円=-9250万円 ・ Zの遺留分侵害額=6000万円×1 2 ×1 4=750万円 (まとめ) ・ Xの最終的な取得額=1500万円 ・ Yの最終的な取得額=1億円(減殺なし) ・ Zの最終的な取得額=750万円 ・ Aの最終的な取得額=3750万円(一部減殺) (注2)遺留分侵害額の算定において,遺留分権利者が承継する相続債務の額を加算すること とされているのも,遺留分権利者がその承継した相続債務を全額弁済した後にも遺留分権 利者に一定の財産が残るようにすることを意図したものであり,このような趣旨に照らし ても,遺留分制度は,相続財産が債務超過の状態にない場合に機能するものとして設計さ れた制度であると考えられる。 65 (注3)前記判例が相続人に対する生前贈与について前記のような解釈を採った条文上の根拠 は,民法第1044条が第903条を準用していることにある。もっとも,この点に関し ては,民法第1044条が第903条を準用したのは,遺留分侵害額の算定において,遺 留分権利者に特別受益がある場合にその価額を控除することを意図したものであって,特 別受益の目的とされた財産を一律に遺留分算定の基礎となる財産に含めることまで意図し たものではなかったとの指摘もされている。 (注4)具体的相続分の計算においては,遺産分割の対象財産に,相続人全員に対する生前贈 与の価額を加算して,みなし相続財産の価額を算定し,これに相続人の法定相続分の割合 を乗じ,同人が得た特別受益の額を控除することになる(民法第903条)。そして,多額 の特別受益がある相続人については,計算上具体的相続分がマイナスとなる場合があり, 講学上,このマイナス分は「超過特別受益」と呼ばれることが多い。現行法の下では,超 過特別受益がある場合には,その相続人は,遺産分割の手続において何らの財産も取得す ることができないが,マイナス分を実際に返還する必要はない。ここでの提案は,遺産分 割手続の中で,超過特別受益のある相続人に,そのマイナス分の一部を現実に返還させる (金銭債務を負担させる)ことを想定したものである。 ⑵ 遺留分減殺の対象に関する規律 【見直しの要点】 相続人に対して遺贈又は贈与がされた場合には,その目的財産のうち当該相 続人の法定相続分を超える部分(法定相続分超過部分)のみを減殺の対象とす るものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法の下では,相続人に対して遺贈又は贈与がされ,これらの目的財産 が減殺の対象となる場合について,減殺の対象は特段限定されておらず,目 的財産の全体が減殺の対象となり得る。 しかしながら,被相続人が生前何らの意思表示をしなかった場合には,各 相続人は,被相続人の財産のうち法定相続分に相当する部分は取得すること になるのであるから,被相続人による財産処分を事後的に制限するという性 質を有する遺留分減殺請求権の行使によって否定されるべき被相続人の財産 処分については,目的財産のうち法定相続分を超える部分に限定すべきでは ないかとの指摘がされている。 このため,本部会では,遺留分減殺の対象に関する規律の見直しについて 検討を行った。 66 2 見直しの内容 本方策は,相続人に対して遺贈又は贈与がされ,これらの目的財産が減殺 の対象となる場合には,遺贈又は贈与された目的財産のうち当該相続人の法 定相続分を超える部分(以下「法定相続分超過部分」という。)のみを減殺の 対象とするものである。 すなわち,本方策は,被相続人の処分行為が遺留分権利者の遺留分を侵害 する場合であっても,その相手方が相続人であるか,第三者であるかによっ てその意味合いが異なるとして,その相手方が相続人である場合には,その 目的財産のうち法定相続分超過部分のみが被相続人による財産処分に当たる とみるものである(注1)(注2)。 もっとも,「⑵」本文の規律のみでは,遺贈等を受けていた相続人の方が遺 贈等を受けていない相続人よりも最終的な取得額が少ないという逆転現象が 生じ得ること等を考慮し,「⑵」ただし書において,「その者の遺留分を侵害 することができない」との規律を設けることを提案している(注3)(注4)。 (注1)具体的には,以下のような事例においては,以下のとおりに計算することとなる。 【事例】相続人は,X(法定相続分1/2),Y(法定相続分1/4),Z(法定相続分1/4) の3名で,被相続人が相続開始時に有していた財産(遺贈分については除く。)が0円,相続 人Yに対する遺贈が1000万円,相続人Zに対する生前贈与(1年前)が2000万円あっ たものとする。 【検討】 (遺産分割) 対象財産なし (遺留分) ・ Xの遺留分侵害額=(1000万円+2000万円)×1 2 × 1 2 =750万円 ・ Yの遺留分侵害額=(1000万円+2000万円)×1 2 × 1 4 -1000万円 =-625万円 ・ Zの遺留分侵害額=(1000万円+2000万円)×1 2 × 1 4 -2000万円 =-1625万円 まず,Yに対する遺贈から減殺されることになるが,Yの遺留分額は375万円((100 0万円+2000万円)×1 2 × 1 4 )であり遺留分超過額は625万円(1000万円―375 万円),法定相続分超過額は750万円(1000万円×(1-1 4 ))であるから,「⑵」ただ し書の規律によって,Yの遺贈は625万円減殺されることになる。 次に,Zに対する生前贈与が減殺されることになるが,Zの遺留分額はYと同じで375 万円であり,遺留分超過額は1625万円(2000万円―375万円),法定相続分超過額 67 は1500万円(2000万円×(1-1 4 ))であり,「⑵」本文の規律によって1500万円 が減殺対象となる。ただし,XがYの遺贈に対する減殺によって満足を受けていない額は1 25万円(750万円―625万円)なので,結局,Zに対する減殺は125万円にとどま ることとなる。 (まとめ) Xの最終的な取得額=625万円+125万円=750万円 Yの最終的な取得額=1000万円―625万円=375万円 Zの最終的な取得額=2000万円―125万円=1875万円 (注2)本方策を採用すると,例えば,3人の子(A,B,C)が相続人であり,被相続人が 遺言により「Aの相続分を3分の1,Bの相続分を3分の2とする。」という相続分の指定をし ていた事案については,法定相続分どおりの指定を受けたAはCから減殺請求をされることが なくなることになる。 これに対し,判例(最判平成10年2月26日民集52巻1号274頁,平成24年1月2 6日家月64巻7号100頁)によれば,この場合には,Cは,Aに対する相続分指定のうち 24分の1に相当する部分を減殺することができることになり(各人の遺留分は6分の1であ るところ,Aの遺留分超過額は6分の1(1 3 – 1 6 ),Bの遺留分超過額は6分の3(2 3 – 1 6 )となり, Cの遺留分侵害額6分の1を,AとBの遺留分超過額の割合で負担額の割付をすると,Aの負 担割合は24分の1(1 6 × 1 1+3 )となる。),Aは,結果的に法定相続分よりも少ない相続分( 7 24= 1 3 - 1 24)を基準に遺産分割をすることになる。 (注3)もっとも,法定相続分超過部分を算定する際に基礎となる財産をどのように規律する かについて慎重な検討を要するものと考えられる。例えば,被相続人が,相続人Aに対して1 000万円,相続人Bに対して2000万円の遺贈をした場合には(相続人Cには遺贈等の特 別受益はなく,その他遺産はないものとする。また,A,B,C間の相続分は等分とする。),「⑵」 の規律をそのまま採用すると,Aに対する遺贈に係る減殺対象は500万円(Aの遺留分は5 00万円。したがって,1000万円―500万円=500万円<1000万円×(1-1 3 )= 667万円),Bに対する遺贈に係る減殺対象は1333万円(2000万円×(1-1 3 ))とな り,相続分の指定に係る本文の結論とは異なる結果となる。相続分の指定か遺贈かという法形 式の違いのみで結論が大きく異なるのは相当ではないと考えられる。 したがって,複数人に対して遺贈がされた場合にも,これを被相続人による一個の財産処分 とみて,遺贈の目的とされた財産全体(前記の事例では,1000万円+2000万円=30 00万円)に対する法定相続分超過部分を減殺の対象とすることにするなど,一定の手当てが 必要になるものと考えられる。 (注4)具体的には,以下のような事例において逆転現象が生ずることとなる。 【事例】 相続人は,X(法定相続分1/2),Y(法定相続分1/4),Z(法定相続分1/4)の3名 68 で,被相続人が相続開始時に有していた財産(遺贈分については除く。)が3000万円,相続 人Yに対する遺贈が3000万円,第三者Aに対する生前贈与(死亡6か月前)が1億円あった ものとする。 【検討】 ○ 現行法 (遺産分割) ・ Xの具体的相続分=(3000万円+3000万円)×1 2=3000万円 ・ Yの具体的相続分=(3000万円+3000万円)×1 4-3000万円=−1500万円 ・ Zの具体的相続分=(3000万円+3000万円)×1 4=1500万円 遺産分割の対象財産は3000万円しかないから,結局,遺産分割における取得分は, ・ X=3000万円× 3000万 3000万+1500万=2000万円 ・ Z=3000万円× 1500万 3000万+1500万=1000万円 ・ Y=0円 (遺留分) ・ Xの遺留分侵害額=(3000万円+3000万円+1億円)×1 2 × 1 2 -2000万円 =2000万円 ・ Yの遺留分侵害額=1億6000万円×1 2 × 1 4-3000万円=-1000万円 ・ Zの遺留分侵害額=1億6000万円×1 2 × 1 4-1000万円=1000万円 まず,Yへの遺贈が減殺請求の対象となるが,Yへの遺贈については,民法1034条の解 釈によりYの遺留分超過額(3000万円-1億6000万円×1 2 ×1 4=1000万円)のみ減 殺対象となる。 したがって, ・ XからYに対し,1000万円× 2000万 2000万+1000万=667万円 ・ ZからYに対し,1000万円× 1000万 2000万+1000万=333万円 それぞれ請求することができる。 69 次に,なお,侵害されている分をAに対して減殺請求することになり, ・ XからAに対し,2000万円−667万円=1333万円 ・ ZからAに対し,1000万円−333万円=667万円 それぞれ請求することができる。 (まとめ) ・ Xの最終的な取得額=2000万円+667万円+1333万円 =4000万円 ・ Yの最終的な取得額=3000万円-667万円―333万円 =2000万円 ・ Zの最終的な取得額=1000万円+333万円+667万円 =2000万円 ・ Aの最終的な取得額=1億円-1333万円―667万円 =8000万円 ○ 本方策の規律を採用し,本文ただし書のような調整規定を置かない場合 (遺産分割) 現行法と同じ。 (遺留分) 各人の遺留分侵害額の計算は,現行法と同じ。 ただし,Yへの遺贈については,「(2)」本文の規律によりYの法定相続分を超える分である 2250万円(3000万円×(1-1 4)=2250万円)が減殺対象となる。 したがって, ・ XからYに対し,2250万円× 2000万 2000万+1000万=1500万円 ・ ZからYに対し,2250万円× 1000万 2000万+1000万=750万円 ・ XからAに対し,2000万円−1500万円=500万円 ・ ZからAに対し,1000万円−750万円=250万円 それぞれ請求することができる。 (まとめ) ・ Xの取得額=2000万円+1500万円+500万円 =4000万円 ・ Yの取得額=3000万円―1500万円―750万円 =750万円 ・ Zの取得額=1000万円+750万円+250万円 70 =2000万円 ・ Aの取得額=1億円―500万円―250万円 =9250万円 ※ このように,遺贈を受けたYの取得額が遺贈を受けていないZの取得額よりも少ないとい う現象が生じる(なお,この後,YがAに対して遺留分減殺請求をすれば,現行法と同じ 結論になるが,求償の循環が生ずることとなる。)。 ○ 本方策の規律を採用し,本文ただし書のような調整規定を置いた場合 (遺産分割) 現行法と同じ。 (遺留分) 各人の遺留分侵害額の計算は,現行法と同じ。 ただし,Yへの遺贈については,「⑵」本文の規律によりYの法定相続分を超える分である2 250万円が減殺対象となるが,同ただし書の規定によりYの遺留分を侵害しない1000万 円のみが減殺対象となる。 したがって,以下の計算は現行法と同じになる。 (まとめ) 現行法と同じ。 ⑶ 遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律 【見直しの要点】 遺産分割の対象となる財産がある場合(既に遺産分割が終了している場合も含 む。)に遺留分侵害額の算定において控除すべき「遺留分権利者が相続によって得 た積極財産の額」は,具体的相続分(ただし,寄与分による修正は考慮しない。) に相当する額とする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法上,遺留分侵害額の計算は,遺留分算定の基礎となる財産を確定し, それに遺留分の割合を乗じ,遺留分権利者が特別受益を得ているときはその額 を控除して遺留分の額を算定した上,同遺留分の額から,遺留分権利者が相続 によって得た財産がある場合はその額を控除し,また,同人が負担すべき相続 債務がある場合はその額を加算して求めることとされている(最判平成8年1 1月26日民集50巻10号2747頁)。 これを計算式で示すと,以下のとおりとなる。 (計算式) 71 遺留分侵害額=(遺留分算定の基礎となる財産の額)×(総体的遺留分率) ×(法定相続分率)-(遺留分権利者の特別受益の額)-(遺留分権利者が相 続によって得た積極財産の額)+(遺留分権利者が相続によって負担する債務 の額) ところで,未分割の遺産がある場合に,「遺留分権利者が相続によって得た積 極財産」の価額をどのように算定すべきかについては,学説及び実務上,いわ ゆる法定相続分を前提に算定すべきという見解(以下「法定相続分説」という。) と,具体的相続分(ただし,寄与分による修正は考慮しない。)を前提に算定す べきという見解(以下「具体的相続分説」という。)に分かれている。 また,遺留分侵害額の算定をする時点で既に遺産分割が終了している場合の 算定方法についても,実際に行われた遺産分割の結果を前提として算定すべき という考え方と,未分割の遺産がある場合と同様の算定方法によるべきという 考え方に分かれている。 そこで,本部会では,遺留分侵害額の算定方法を明確化する観点から,実務 上見解が分かれている論点について立法的に解決する方向で検討を行った。 2 見直しの内容 本方策は,遺産分割の対象財産がある場合に遺留分侵害額を算定するに当た っては,その時点で既に遺産分割が終了しているか否かにかかわらず,前記の 具体的相続分説に立って算定することとするものである。 このような考え方を採った理由は,以下のとおりである。 まず,未分割の遺産がある場合についてであるが,前記のとおり,法定相続 分説と具体的相続分説の対立がある。この点について,法定相続分説を支持す る立場は,遺留分侵害額は相続開始時に算定することができるものでなければ ならないが,具体的相続分は実体法上の権利関係によって当然に定まるもので はなく,相続開始時には確定していないものであるため,これを基準にするの は相当でないとする。そして,その時点で考慮することができるのは,未分割 の遺産に対して遺留分権利者が有する権利であるが,遺留分権利者は,その時 点では,未分割の遺産につき法定相続分の割合による共有持分等を有している のであるから,法定相続分に相当する額を控除すべきであるとする。 他方,具体的相続分説は,いわゆる特別受益の有無は,相続開始時までに生 じた事実であり,その価額を考慮して算出された具体的相続分は相続開始時に も観念しうるものであるとして,具体的相続分に相当する額を控除すべきであ るとする。もっとも,具体的相続分説においても,寄与分の有無及び額は,相 続開始時には確定していないため,寄与分による修正は考慮しないこととされ 72 ている。 本部会では,遺留分の侵害が問題となる事案においては多くの特別受益が存 する場合が多いにもかかわらず,「相続によって得た積極財産の額」を算定する 際に特別受益の存在を考慮しない考え方(法定相続分説)を採用すると,その 後に行われる遺産分割の結果との齟齬が大きくなり,事案によっては,遺贈を 受けている相続人が,遺贈を受けていない相続人に比して最終的な取得額が少 ないという逆転現象が生ずる場合があること(注1)等を考慮して,具体的相続 分説を前提とした見直しをすべきであるとの意見があり,これに対して強く反 対する意見はなかった。 次に,遺産分割が終了している場合の取扱いについてであるが,前記のとお り,実務的には,現実に分割された内容を前提に控除すべきという見解と,計 算上算定される相続分を前提に控除すべきであるという見解が存在する。前者 の見解に対しては,遺留分減殺請求の効果は,減殺請求によって当然に生じ, かつ,その内容は相続開始時に存在する諸要因(相続開始時の積極・消極財産 の額,特別受益の有無及び額等)により定まるというべきであり,遺産分割手 続の進行状況如何によって遺留分侵害額が変動し,これによって遺留分権利者 に帰属した権利の内容が変動するというのは理論的にも説明が困難ではないか との指摘や,遺産が未分割の場合と既分割の場合で最終的な取得額が異なるこ ととなるのは相当でないのではないかとの指摘がされた。 「⑶」は,これらの点を考慮して,遺産分割の対象財産がある場合には,遺 産分割が終了しているか否かにかかわらず,具体的相続分に相当する額を控除 することとしたものである(注2)。もっとも,寄与分は,寄与分権者が遺産に 対する自己の実質的な持分を取得したものと評価することが可能であり,被相 続人の処分によって生じた特別受益とはその性質が異なること,遺留分減殺請 求権は当事者間に争いがあれば,通常の訴訟によって行使される権利であるの に対し,寄与分は家庭裁判所の審判によりはじめてその有無及び額が決定され るものであり,権利の性質及びそれを実現するための手続が異なること等を考 慮し,「寄与分による修正は考慮しない」こととしている。 (注1)具体的には,以下のような事例において逆転現象が生じることとなる。 【事例】 相続人は,X(法定相続分1/2),Y(法定相続分1/4),Z(法定相続分1/4)の3 名で,被相続人が相続開始時に有していた財産(遺贈分については除く。)が1000万円, 相続人Yに対する遺贈が1000万円,第三者Aに対する遺贈が8000万円あったものとす る。 【検討】 73 ○ 法定相続分説を採用した場合 (遺産分割) ・ Xの具体的相続分=(1000万円+1000万円)×1 2=1000万円 ・ Yの具体的相続分=(1000万円+1000万円)×1 4-1000万=-500万円 ・ Zの具体的相続分=(1000万円+1000万円)×1 4=500万円 ・ Xの取得額=1000万円× 1000万 500万+1000万=666万6667円 ・ Zの取得額=1000万円× 500万 500万+1000万=333万3333円 (遺留分) ・ Xの遺留分侵害額=(1000万円+1000万円+8000万円)×1 2 ×1 2-1000 万円×1 2(遺産分割の対象残余財産のうちXの法定相続分) =2000万円 ・ Yの遺留分侵害額=1億円×1 2 ×1 4-1000万円×1 4-1000万円=0円 ・ Zの遺留分侵害額=1億円×1 2 ×1 4-1000万円×1 4=1000万円 ・ Yの遺贈については,Yの遺留分額の範囲内なので,0円として計算。 ・ したがって,XはAに対して2000万円,ZはAに対して1000万円,それぞれ遺留 分減殺請求することができる。 (まとめ) ・ Xの最終的な取得額=2000万円+666万6667円=2666万6667円 ・ Yの最終的な取得額=1000万円 ・ Zの最終的な取得額=1333万3333円 ・ Aの最終的な取得額=5000万円 このように,遺贈を受けたYの最終的な取得額の方が,遺贈を受けていないZの最終 的な取得額よりも少ないという逆転現象が生ずる。 ○ 具体的相続分説を採用した場合 (遺産分割) 遺産分割の計算は同じ。 74 (遺留分) ・ Xの個別的遺留分侵害額=(1000万円+1000万円+8000万円)×1 2 ×1 2 -666万6667円(遺産分割の対象残余財産のうちXの具体的相続分) =1833万3333円 ・ Yの個別的遺留分侵害額=1億円×1 2 ×1 4-0-1000万円=250万円 ・ Zの個別的遺留分侵害額=1億円×1 2 ×1 4-333万3333円=916万6667円 ・ したがって,XはAに対して1833万3333円,YはAに対して250万円,ZはA に対して916万6667円,それぞれ遺留分減殺請求することができる。 (まとめ) ・ Xの最終的な取得額=1833万3333円+666万6667円=2500万円 ・ Yの最終的な取得額=250万円+1000万円=1250万円 ・ Zの最終的な取得額=916万6667円+333万3333円=1250万円 ・ Aの最終的な取得額=5000万円 (注2)仮に法定相続分説を採用する場合には,前記(注1)で検討したような逆転現象が生じ ないよう何らかの調整規定を設ける必要がある。 ⑷ 本部会において検討されたその余の方策について 遺留分の算定方法については,前記のとおり,条文上は,受遺者又は受贈者 が相続人であるかそれ以外の第三者であるかによる区別はされていないが,判 例上その規律が修正・補充されているため,制度の内容が分かりにくく,複雑 になっているという指摘がされているほか,遺産分割の対象財産がある場合に 遺産分割の手続と遺留分減殺請求に関する手続とを一回的に解決することがで きないとの問題点等が指摘されている。このため,本部会では,遺留分の算定 方法について,受遺者又は受贈者が相続人である場合と,それ以外の第三者で ある場合とで異なる規律を設けた上で,受遺者又は受贈者が相続人である場合 には遺産分割の手続と遺留分減殺請求に関する手続を併合して一回的に解決す ることができるようにできないかという問題意識から,これを実現するための 方策についても検討がされた(本部会の第4回,第8回,第10回及び第11 回の部会資料等参照)。しかしながら,このように新たに2つの規律を設けると 計算が煩瑣となり,現行法よりかえって複雑な仕組みとならざるを得なかった ため,本試案の中では採用しないこととされた。 75 3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し 【見直しの要点】 遺留分権利者が承継した相続債務について,受遺者又は受贈者が弁済をし,又 は免責的債務引受をするなど,その債務を消滅させる行為をした場合には,遺留 分権利者の権利は,その消滅した債務額の限度で減縮するものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法上,遺留分侵害額は,前記のとおり,以下の計算式で求めることとされ ている。 (計算式) 遺留分侵害額=(遺留分算定の基礎となる財産の額)×(総体的遺留分率)× (法定相続分率)-(遺留分権利者の特別受益の額)-(遺留分権利者が相続に よって得た積極財産の額)+(遺留分権利者が相続によって負担する債務の額) このうち,遺留分侵害額の算定において遺留分権利者が承継する相続債務の額 を加算する取扱いがされているのは,遺留分権利者が相続債務を弁済した後にも, 遺留分権利者に一定の財産が残るようにするためであるが,遺留分権利者が取得 する権利を金銭債権とする場合には,相続債務額の加算は,文字通り,受遺者又 は受贈者が遺留分権利者の弁済資金を事前に提供したのと同様の状態を生じさせ ることになる。 しかしながら,例えば,被相続人が個人事業を営んでおり,事業に関連して多 額の債務を負担していたところ,被相続人の死亡に伴い受遺者又は受贈者が当該 事業を承継したという事案では,遺留分権利者がその承継する相続債務の支払を しないからといって,その分の支払を怠ることができない場合が多いと考えられ る(特に受遺者又は受贈者が連帯保証人となっている場合や,事業用不動産に担 保が付されている場合等)。そのような場合に,受遺者又は受贈者がその分の支 払をした上で遺留分権利者にこれを求償するというのは迂遠である。また,そも そも,事業を承継する受遺者又は受贈者にとっては,遺留分権利者に弁済資金の 前渡しをするくらいであれば,むしろ期限の利益を放棄してでも相続債権者に直 接弁済したいという場合もあるものと考えられる。 このような点を踏まえ,本部会では,遺留分侵害額の算定における債務の取扱 いの見直しについて検討を行った(注)。 (注)例えば,相続人がX(法定相続分1/2),Y(法定相続分1/4)及びZ(法定相続 分1/4)の3名で,被相続人が相続開始時に有していた財産(遺贈分は除く。)が0円,Y に対する遺贈が1億円,相続債務が6000万円あるという事案においては,現行法上,Zの 76 遺留分額は500万円となる一方,遺留分侵害額は2000万円となることから(Zの遺留分 額=(1億円―6000万円)× 1 2 × 1 4 =500万円,Zの遺留分侵害額=500万円+600 0万円×1 4 =2000万円),弁済資金の前渡し分は1500万円となり,遺留分侵害額の4 分の3を弁済資金の前渡し分が占める計算となる。 2 見直しの内容 「3」は,遺留分権利者が承継した相続債務について,受遺者又は受贈者が弁 済をし,又は免責的債務引受をするなど,その債務を消滅させる行為をした場合 には,遺留分権利者の権利は,その消滅した債務額の限度で減縮することとする ものである(注)。前記1のとおり,現行法の下で,遺留分侵害額を算定する場 合に相続債務額を加算する取扱いをしているのは,遺留分権利者が相続債務を弁 済した後にも,遺留分権利者に一定の財産が残るようにするためであるが,遺留 分権利者が相続によって承継した債務についてその責任を免れた場合にまで,相 続債務分の加算をする必要はないことから,「3」のとおりの取扱いをすること としたものである。 (注)なお,遺留分権利者の金銭請求に対し,受遺者又は受贈者が現物返還の主張をした場合 に,当然に物権的効果が生ずるという考え方(「1」の【乙案】)を採用し,かつ,本方策 (「3」)の考え方を採用すると,遺留分減殺請求後に生じた弁済等の事情により,物権的 効果が生ずる範囲を変動させることとなる。現行法の下では,遺留分減殺請求権に対する相 殺は原則として認められないとの見解も有力であり,「1」においていずれの立場を採用す るかも踏まえて,今後更に検討する必要がある。 4 その他について(「後注」) ⑴ 遺留分権利者の範囲について 「(後注)1」では,直系尊属が相続人である場合に,直系尊属に遺留分を 認めている現行法の規律を見直し,直系尊属には遺留分を認めないこととす る考え方を取り上げている。 現行法において直系尊属に遺留分が認められている理由は必ずしも明らか ではないが,明治民法時代からの規律をそのまま引き継いだものと考えられ る。立法当初に想定された遺留分制度の趣旨・目的が,現代の我が国社会に 必ずしも適合しないとの指摘があることは前記「1」(遺留分減殺請求権の効 力及び法的性質の見直し)の【説明】1で述べたとおりであり,現行法の規 律を見直し,直系尊属には遺留分を認めないこととすることも考えられるこ とから,「(後注)1」において,このような考え方を取り上げることとした ものである。 77 ⑵ 負担付贈与及び不相当な対価による有償行為がある場合におけ る遺留分の算定方法について 「(後注)2」では,負担付贈与や不相当な対価による有償行為がある場合 における遺留分の算定方法について,その見直しをするかどうかは,今後の 検討課題である旨を注記している。 ア 負担付贈与がある場合について 現行法上,負担付贈与がされた場合については,その目的財産の価額か ら負担の価額を控除したものについて減殺を請求することができるとされ ているが(民法第1038条),この規定が遺留分算定の基礎となる財産の 額を算定するに当たっても同様の取扱いをすることを意図したものなのか (一部算入説),遺留分算定の基礎となる財産の額を算定する際には,その 目的財産の価額を全額算入しつつ,減殺の対象を前記控除後の残額に限定 した趣旨なのか(全額算入説)について,学説上見解が分かれている。 しかしながら,例えば,相続人がX,Yの2名(法定相続分各2分の1) であり,被相続人が第三者Aに対して6000万円を遺贈し(その余の遺 産はない),相続人Xに対して相続開始の5年前に被相続人の債務2000 万円を引き受ける代わりに(重畳的債務引受)4000万円を交付し(X は相続開始時までに債務を完済),Yが遺留分減殺請求をしたという事例を 想定すると,全額算入説には以下のような問題があるように思われる。 すなわち,前記事例では,Xに対する4000万円の交付の法的性質が 問題となるが,仮にこれが負担付贈与であるとすると,全額算入説によれ ば,Yは,Aに対しては2500万円を請求できることになる結果,贈与 を受けたXの最終的な取得額の方が,贈与を受けていないYの最終的な取 得額よりも少ないという逆転現象が生ずることになる。これに対し,一部 算入説においては,YはAに対して2000万円請求できるにとどまり, 前記のような逆転現象は生じない(注1)。 他方,Xに対する4000万円の交付のうち,2000万円の部分は費 用の前払であり,その残り(2000万円)が贈与であるとすると,いず れの説を前提としても,YはAに対して2000万円請求することができ ることになる(注2)。 このように,全額算入説を採用すると,Xに対する4000万円の交付 のうち,2000万円の部分を負担付贈与の負担部分とみるか,費用の前 払とみるかで,大きく結論が変わることになるが,実際の事案においては そのいずれに当たるか微妙なケースも多く,その認定如何によって大きく 78 結論が変わるという問題があるようにも思われる。 いずれにしても,この点については,なお検討する必要がある。 (注1)負担付贈与とみた場合における計算 ① 全部算入説を採用した場合 遺留分算定の基礎財産 6000万円+4000万円=1億円 Yの遺留分侵害額 1億円×1 2 × 1 2 =2500万円 最終的な取得額 A 6000万円―2500万円=3500万円 X 4000万円―2000万円=2000万円 Y 2500万円 ② 一部算入説を採用した場合 遺留分算定の基礎財産 6000万円+(4000万円―2000万円) =8000万円 Yの遺留分侵害額 8000万円×1 2 × 1 2 =2000万円 最終的な取得額 A 6000万円―2000万円=4000万円 X 4000万円―2000万円=2000万円 Y 2000万円 (注2)費用の前払とみた場合における計算 遺留分算定の基礎財産 6000万円+2000万円=8000万円 Yの遺留分侵害額 8000万円×1 2 × 1 2 =2000万円 最終的な取得額 A 6000万円―2000万円=4000万円 X 4000万円―2000万円=2000万円 Y 2000万円 イ 不相当な対価による有償行為がある場合について 不相当な対価による有償行為がある場合における遺留分の算定方法について は民法第1039条に規定があるが,同条については,一般に,遺留分の算定 の基礎となる財産の額を算定する際には対価を控除した残額部分が加算される が,減殺の対象となるのはその全額である(その代わりに遺留分権利者は対価 を償還する。)と解されているようである。 このような解釈を前提とすると,例えば,相続人がX,Yの2名(法定相続 分各2分の1)であり,被相続人が,第三者Aに対して死亡半年前に1000 万円の価値がある土地(以下「本件土地」という。)を代金200万円で売却し, 相続人X(法定相続分2分の1)に対して死亡3年前に3200万円贈与した という事例(相続開始時の財産はないものとする)において,Yが減殺請求を した場合を想定すると,Yの遺留分侵害額は1000万円となるから,①Yは 79 まずAに対して本件土地全部の減殺を請求できるが,200万円は償還しなけ ればならないこととなり,②YはAに200万円償還した結果,遺留分侵害額 につき200万円(1000万円-(1000万円―200万円)=200万 円)は満足を得られていないから,次にXに対して,更に200万円を減殺請 求することができることとなる(注1)。 しかしながら,遺留分権利者に,本来権利行使できる価額を超えて減殺を認 める必要性は乏しいとも考えられ,特に,遺留分減殺請求権の行使によって生 ずる権利を原則金銭債権化する場合には,目的財産全部に対する減殺を認めつ つ対価を償還させるというスキームを採用する合理性に欠けることになるもの とも考えられる。 いずれにしても,不相当な対価による有償行為がある場合について,民法第 1039条の規律を見直すか否かについて,なお検討する必要がある(注2)。 (注1)本文の現行法における解釈を前提とした場合の処理について 遺留分算定の基礎財産 (1000万円―200万円)+3200万円 =4000万円 Yの遺留分侵害額 4000万円×1 2 × 1 2 =1000万円 したがって,前記のような処理をする結果,最終的な財産の帰属は A 対価の償還200万円 X 3000万円(3200万円-200万円) Y 本件土地全部+200万円(Xからの取得額)-200万円(Aへの償還) となる。 (注2)不相当な対価を控除した残額のみを減殺対象とし,対価については償還しないことと した場合の処理について Yは,遺留分侵害額である1000万円について,Aに対して800万円の支払を,X に対して200万円の支払を求めることができることになる。 その結果,最終的な財産の帰属は, A 本件土地全部-800万円 X 3000万円(3200万円―200万円) Y 800万円(Aからの取得額)+200万円(Xからの取得額) となる。 第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策 【見直しの要点】 相続人以外の者が,被相続人の療養看護等を行った場合には,相続開始後,一 80 定の要件の下で,相続人に対して金銭請求をすることができるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 現行法上,寄与分は,相続人にのみ認められているため,例えば,相続人の 妻が,被相続人(夫の父)の療養看護に努め,被相続人の財産の維持又は増加 に寄与した場合(療養看護を外注した場合に要する費用が節減されることとな り,特に長年にわたり療養看護をした場合には,被相続人の財産の維持又は増 加に寄与したと認められる場合が多いと考えられる。)であっても,遺産分割 手続において,相続人でない妻が寄与分を主張したり,あるいは何らかの財産 の分配を請求したりすることはできない。この点については,夫の寄与分の中 で妻の寄与を考慮することを認める裁判例も存在するが(東京家審平成12年 3月8日家月52巻8号35頁等),このような取扱いに対しては,寄与行為 をした妻ではなく夫に寄与分を認める法的根拠が明らかでないといった指摘が されている。また,前記事例において,推定相続人である夫が被相続人よりも 先に死亡した場合には,前記裁判例のような考え方によっても,妻の寄与行為 を考慮することができないことになるが,このような結論は実質的公平に反す るのではないかとの指摘もされている。 さらに,被相続人の生前には親族としての愛情や義務感に基づき無償で自発 的に療養看護等の寄与行為をしていた場合でも,被相続人が死亡した場合にそ の相続の場面で,療養看護等を全く行わなかった相続人が遺産の分配を受ける 一方で,実際に療養看護等に努めた者が相続人でないという理由でその分配に 与れないことについては,不公平感を覚える者が多いとの指摘がされている。 本部会では,このような指摘を踏まえ,相続人以外の者が被相続人の療養看 護をした場合等を念頭に置いて,そのような貢献をした者に一定の財産を取得 させる方策について検討を行った(注)。 (注)新たな規律を設ける必要性 前記のとおり,本方策は,相続の場面において,相続人以外の者の貢献を考慮するため に新たな制度を設けるものであるが,その前提として,現行法上,相続人以外の者が被相 続人の療養看護等を行った場合に,どのような手段をとり得るのかについて整理する必要 がある。この点については,以下の⑴から⑷までの手段が考えられるが,これらの手段で は,前記の問題点を全て解消することは困難である。 ⑴ 特別縁故者制度 特別縁故者制度は,被相続人の相続人が存在しない場合に,一定の要件の下で,被相続 人の療養看護に努めた者など被相続人と特別な縁故があった者に対し,被相続人の財産の 全部又は一部を家庭裁判所の審判により分与する制度である(民法第958条の3)。 81 しかし,特別縁故者制度は,あくまでも被相続人の相続人が不在の場合のみに用いるこ とができる制度であり,相続人が存在する場合には用いることができない。 ⑵ 準委任契約に基づく請求 療養看護等の寄与行為について,当事者間に役務の提供に関する合意があると認められ る場合には,基本的には,準委任契約(民法第656条,第643条)が成立することに なると考えられる。 準委任契約は無償が原則であることから(同法第648条第1項),報酬に関する特約が ない場合には,療養看護等を行った者は,委任者に対し,報酬の支払を求めることはでき ないが,事務を処理するに当たって支出した費用については,その償還を請求することが でき(同法第650条第1項),委任者の死亡後は,その相続人に対してこれを請求するこ とができる。もっとも,親族間などの親しい間柄においては,療養看護等の寄与行為に関 し,契約書等の証拠が欠けていたり,合意の内容が不明確であったりする場合も多く,実 体的には準委任契約の成立が認められる事案でありながら,それを証明することができな い場合もあるように思われる。 また,親族間などの親しい間柄における自発的な行為については,当事者間では費用を 含め金銭的な清算をする意思がなく,その点について黙示の合意や費用償還請求権の放棄 の意思表示が認められる場合も多いように思われる。このような場合には,当事者間にお いて準委任契約が成立するとしても,費用の償還を請求することはできないものと考えら れる。 以上のとおり,現行法を前提とする限り,相続人以外の者が被相続人の療養看護等を行 った場合に,準委任契約に基づき,その相手方やその相続人に対し,報酬や費用の償還を 請求することができるとは限らないと考えられる。 ⑶ 事務管理 療養看護等の役務の提供について契約関係が認められない場合であっても,事務管理(民 法第697条)が成立するのではないかとも考えられる。その場合に,管理者(相続人以 外の者)は,本人(被相続人)のために有益な費用を支出したときは,本人(被相続人) に対しその費用の償還を請求することができ(同法第702条),また,費用償還請求権に 係る債務を承継した相続人に対し,その支払を求めることができることとなる。 しかしながら,事務管理制度は,私的自治の原則の例外として,本来は違法とされるべ き他人の事務への干渉を例外的に許容する制度であるため,これを重視してその適用範囲 を謙抑的に考える見解に立てば,親族間における通常の療養看護のように,一定の事務を することについて当事者間に意思の合致がある場合には,基本的に事務管理の成立は否定 すべきであるという考え方もあり得るところであり,当然に事務管理が成立することには ならないものと考えられる。また,事務管理が成立する場合でも,償還することができる のは,管理者が支出した有益な費用に限られ,原則として労務に対する対価である報酬の 82 請求権は生じないものとされている。 したがって,相続人以外の者が,被相続人の療養看護等を行った場合に,事務管理に基 づく費用償還請求といった手段では,十分な救済が得られるとは限らないと考えられる。 ⑷ 不当利得返還請求 相続人以外の者が,被相続人を療養看護等することにより,被相続人の財産の維持又は 増加について特別の寄与をしているといえる場合には,被相続人又はその相続人に対し, 不当利得返還請求(民法第703条等)をするということも考えられる。しかしながら, 前記⑵で述べたように,親族間などの親しい間柄における自発的な行為においては,当事 者間では費用を含め金銭的な清算をする意思がなく,その点について黙示の合意が認めら れる場合も多いものと考えられるが,そのような場合には,準委任契約の成立が認められ るなど,法律上の原因がないとはいえず,不当利得が成立しない場合も多いものと考えら れる。 そうすると,相続人以外の者が被相続人の療養看護等を行った場合に,不当利得返還請 求といった手段でも,十分な救済が得られるとは限らないと考えられる。 2 両案の基本的な考え方 本試案では,相続人以外の者が被相続人の療養看護等を行った場合における 貢献を考慮する方策として,【甲案】及び【乙案】の2つの考え方を提示してい る。 本部会では,前記1の問題を解消する方策を講ずるとしても,その要件を適 切に定めないと,相続をめぐる紛争がより一層複雑化,長期化するおそれがあ るため,その要件を限定する必要があるという問題意識についてはほぼ共通の 認識が得られており,このような観点から,請求権者の範囲を限定するという 考え方と,寄与行為の態様を限定するという考え方を取り上げて検討を行った。 【甲案】は前者の方向性を採用し,請求権者の範囲を二親等以内の親族に限 定するものであるのに対し,【乙案】は後者の方向性を採用し,寄与行為の態様 を無償の労務提供に限定するものである(なお,【甲案】の方向性と,【乙案】 の方向性は,排他的なものではなく,両者の考え方を組み合わせるという方向 性も十分に考えられるところである。)。なお,本方策は,相続財産の維持又は 増加に貢献した者に相続財産の分配にあずかる権利を認めるという実質を有す るものであることからすれば,そのような貢献をした者に遺産分割手続の当事 者として関与させることも考えられる。しかし,そうすると,相続財産から分 配を受けることのできる要件を満たす者と認められるか否かによって,遺産分 割手続の当事者であるかどうかが左右され,その点をめぐる認定のため遺産分 割手続そのものが容易に進められなくなることが懸念される。そこで,本方策 83 においては,相続人に対する金銭請求権を認めることとしている。 3 【甲案】について 「①」は,㋐二親等内の親族で相続人でない者が,㋑被相続人の事業に関す る労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により,被 相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたときは,㋒相続が開始 した後,相続人に対し,金銭の支払を請求することができることとするもので ある。 ㋐は,相続財産の分配は被相続人と一定の身分関係にある者の間で行うとい う考え方自体は維持しつつ,現行の相続人に準ずる身分関係にある二親等以内 の親族については,相続財産の維持又は増加に特別の寄与がある場合に限り, それに見合う財産の取得を認めることとするものである。なお,療養看護等の 労務を提供した者が,それに見合う対価の取得を希望するのであれば,本来は, 有償の準委任契約を締結するなど,契約関係でこれを処理するのが原則である が,前記1のような問題が生ずるのは,被相続人との身分関係等に照らし,こ れらの契約等を締結するのが事実上困難な場合が多いためであると考えられる (特に,二親等以内の親族のように親族関係が近い者については,被相続人と の間で有償の準委任契約を締結することは通常想定しがたいように思われる。)。 ㋑は,本方策の対象となる寄与行為の範囲を定めるものである。その内容は, 現行の寄与分制度(民法第904条の2第1項)と同様であり,その解釈を前 提としている。 ㋒は,本方策に基づく請求は相続開始後に相続人に対する金銭請求として行 うこととするものである。 「②」は,「①」の金銭の額については,まず,「①」の請求権者と相続人と の間の協議によって定めることとし,その協議が調わないとき,又は協議をす ることができないときは,家庭裁判所がこれを定めることとするものである。 これは,現行の寄与分(民法第904条第1項,第2項)や財産分与(民法第 768条第1項,第2項)と同様の規律を設けるものである。 「③」は,「②」により,家庭裁判所が金額を定める場合には,「①」の請求 権者が行った寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考 慮して,「①」の金銭の額を定めることとするものである。本方策は,現行の寄 与分の制度とその趣旨が共通することから,民法第904条の2第2項を参考 にしたものである。 「④」は,家庭裁判所によって「①」の金銭の額が定められた場合には,各 相続人は,法定相続分に応じてその負担をすることとするものである。本方策 84 は, 前記1のとおり,被相続人に対して貢献をした相続人以外の者が,相続人 でないという理由で遺産分割にあずかれないことの不公平感を解消することを 目的とするものであり,本来は,相続財産に対して認められるべき性質のもの であって,これとは無関係に相続人に請求できる性質のものではないこと,仮 に,本方策とは異なり,相続財産に対する直接の権利行使を認めることとした 場合には,その負担は相続人が公平に分担することになると考えられること等 を踏まえ,「①」の金銭の額についても相続人が法定相続分に応じて負担するこ ととしたものである。 「⑤」は,限定承認,財産分離又は相続財産破産の各手続が開始された場合 には,その手続の終了後に相続財産が残存するときを除き,「①」の請求をす ることができないこととするものであるが,その趣旨は以下のとおりである。 すなわち,相続財産の分配の在り方として,現行の相続人に準ずる身分関係を 有する者については,相続財産の維持又は増加について特別の寄与があったこ とを要件として,それに見合う財産の分配を認めるという趣旨に照らすと,こ の請求権は,実質的には,遺産について相続人が有する権利と同等の法的地位 に立つとみるのが相当であると考えられる。そうであるとすれば,限定承認等 がされる場合,すなわち相続財産が債務超過又はそのおそれがある場合には, 相続債権者や受遺者の権利よりも劣後すべきものと考えられる(民法第931 条,第947条第3項,第950条第2項,破産法第231条第2項参照)。 そこで,「⑤」では,このような趣旨を明らかにするため,限定承認,財産分 離及び相続財産破産の各手続が開始された場合には,これらの手続の終了後に 相続財産が残存する場合(結果からみて,実は相続財産が債務超過の状態にな かった場合)を除き,本方策に基づく請求をすることはできないこととしたも のである。 「⑥」は,「①」による請求権に係る時効期間を,相続開始を知った時から 一定期間(例えば6箇月間)に限定するとともに,その除斥期間を相続開始か ら一定期間(例えば1年間)に限定することとするものである。本方策に係る 請求権者は,比較的容易に被相続人の死亡を知ることができる場合が多いと考 えられ,また,金銭の支払請求を受ける可能性がある相続人の立場を考慮すれ ば,できるだけ早期に法律関係を確定させる必要があると考えられる。このた め,「⑥」では,「①」による請求権に係る時効期間を,相続開始を知った時か ら一定期間(例えば6箇月間)に限定することとしている。もっとも,事案に よっては,請求権者が被相続人の死亡を知ることができるとは限らず,「相続 開始を知った時」から起算される時効期間がなかなか進行しないという事態が 85 生じ得るが,早期に法律関係を確定させたい相続人の立場を考慮すれば,「相 続開始の時」から起算される一定の除斥期間を設け,請求権者の主観にかかわ らず,「①」による請求権の終期を明確にする必要があるようにも思われる。 そこで,「⑥」では,〔 〕において,「①」による請求に除斥期間を設ける考 え方を提示している。 4 【乙案】について 「①」は,㋐相続人以外の者が,㋑被相続人に対して無償で労務を提供した ことにより,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたときは, ㋒相続が開始した後,相続人に対し,金銭の支払を請求することができること とするものである。 【乙案】は,請求権者の範囲については特に限定を設けない一方で(㋐), 寄与行為の態様については,被相続人に対して無償で労務を提供した場合に限 定することとするものである。寄与行為の態様を無償の労務の提供に限定した のは,現行の寄与分制度が定める寄与行為の類型の中でも,特に被相続人の療 養看護や被相続人の事業を無償で手伝った場合など,無償で労務の提供がされ た類型については,相続人でないという形式的な理由で相続財産の分配にあず かれないことに対する不公平感が強いとの指摘があること等を踏まえたもの である。また,「①」の請求権者を遺産分割手続の当事者とはせずに,相続人 に対する金銭請求を認めることとする点は【甲案】と同様である(㋒)。 「②」は,その他の規律については【甲案】の「②」から「⑥」までと同様 の規律を設けることとするものである。


法制審議会
民法(相続関係)部会
第14回会議 議事録


第1 日 時  平成28年10月18日(火)自 午後1時29分
                      至 午後5時10分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第14回会議を開催させていただきます。
  まず,最初に本日の配布資料等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,本日の資料について御説明いたします。まず,事前に部会資料14,「今後の検討の方向性について」と題するものをお配りしているかと思います。それから,本日,席上に配布した資料として参考資料7と8がございます。こちらは,いずれもパブリックコメントの結果をまとめたものでございます。参考資料8の方を御覧いただければと思いますが,意見募集につきましては167件の団体あるいは個人の方から御意見を頂きまして,法制審における他のパブリックコメントと比べましても,非常に多くの意見を頂いたところでございます。参考資料7につきましては,各検討事項に関する賛成,反対の状況や主要な指摘などをまとめたものでございまして,参考資料8がその概要をポンチ絵1枚にまとめたものでございます。
  なお,部会資料等におきましても,何々の意見が大勢を占めたですとか,何々の意見が多数を占めたなどと表現ぶりを若干変えているところでございますが,この点についてもちろん厳密な区別ができているわけではないんですけれども,基本的な整理といたしましては,パブリックコメントに寄せられた意見の数だけで,そういった表現にしているわけではございませんで,何々の意見が大勢を占めたというような場合には,数的にも過半数を優に超えておりますし,また,業種別等の観点から見ましても,基本的に満遍なく賛成意見なら賛成意見が多数を占めているような場合に,大勢を占めたという表現を使わせていただいておりまして,そこまでいっていないような場合については,賛成意見が多数を占めたという表現を用いているということでございます。
  それから,パブリックコメントに寄せられた意見そのものについては,皆様にお配りはしていないんですけれども,本日,ファイルにまとめたものを持参しておりますので,適宜,御参照いただければと思っております。
  資料についての御説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御説明がございましたけれども,パブリックコメントの結果を取りまとめていただいておりますので,本日はこれを踏まえまして今後の検討の方向性について皆様から御意見を頂きたいと考えております。お手元の部会資料14に,「今後の検討の方向性について」という表題が付いたものが配布されているかと思いますけれども,この中が第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から,第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」まで,五つの項目に分かれております。それぞれ,パブリックコメントの結果の概要から話が始まりまして,今後の方向性について一応の考え方が示されているという作りになっております。これを五つに分けまして,第1から順次,事務当局の方から御説明を頂いた上で,意見を頂くということをお願いしたいと思います。
  まず,最初が第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」ということになります。これにつきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○大塚関係官 では,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」について部会資料の御説明を申し上げます。
  1の「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」,いわゆる短期居住権からまいります。(1)の「パブリックコメントの結果の概要」を御覧ください。まず,遺産分割が行われる場合の規律ですが,こちらにつきましては一部に反対意見はございましたけれども,内容としては現在の判例実務を反映したもので,配偶者の居住の安定に資するとして賛成の意見が大勢を占めたところでございます。もっとも,短期居住権の消滅請求につきましては,中間試案の規律では他の相続人が単独でできるとしておりますけれども,これに賛成する意見があった一方で,配偶者以外の相続人の持分の過半数によることとすべきであるという意見も複数寄せられたところでございます。なお,短期居住権の創設自体には賛成をしつつ,配偶者以外の相続人等にも認めるべきであるという意見もございました。
  次に,配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則ですが,こちらにつきましても一部に反対意見はございましたが,全体としては賛成意見が大勢を占めたところでございます。もっとも,この場合の短期居住権の存続期間,中間試案におきましては例えば6か月間と記載をしておったところでございますが,この期間につきましては,このとおりの6か月間が相当であるとの意見があった一方で,残された配偶者が高齢の場合には速やかな転居が難しいということなどを踏まえて,例えば1年間とすべきではないかといった意見も頂いているところでございます。
  次に,(2)の「今後の方向性について」でございますが,このようなパブリックコメントの結果を踏まえて,今後は,例えば中間試案の考え方を基本として,指摘された問題点を中心に検討を進めていくということが考えられるところではございますが,この場で御議論いただければと思います。
  次に,2の「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」,いわゆる長期居住権についてでございます。(1)の「パブリックコメントの結果の概要」ですが,長期居住権の創設につきましては,配偶者の居住権保護の観点から賛成するという意見が相当数,寄せられました一方で,例えばそれほどのニーズが見込めない,財産評価が困難である,新たな紛争を招くおそれがあるなどとして反対する意見も相当数,寄せられたところでして,賛否が相当拮抗しているという状況にございます。これとは別に,長期居住権の内容そのものがいまだ明確ではないのではないかということを指摘される意見もございました。なお,第三者対抗要件を登記のみとすることにつきましては,賛成意見が多数を占めたところでございます。
  次に,パブリックコメントで御指摘のあった個別の問題点に移りますけれども,まず,アの成立要件についてですが,特に遺言による長期居住権の設定につきまして,遺産分割方法の指定がされた場合には,配偶者が長期居住権の取得を放棄できずに,長期居住権の取得を強いられることになりかねないのではないかといった御意見ですとか,あるいは配偶者が長期居住権の取得を希望するけれども,他の相続人が反対をしているといった場合には,審判によって配偶者に長期居住権を取得させるということよりも,配偶者に共有持分を取得させた方がむしろ適切ではないか,よって,このような場合に長期居住権の設定を認めるのは,特に問題が多いのではないかという指摘も寄せられたところでございます。
  次に,イの「長期居住権の財産評価方法について」でございます。パブリックコメントにおきましては,財産評価方法が不明確であるといったことを反対の理由に挙げる意見が相当数あったところでございます。他方で,これは第11回部会で検討された案でございますが,これと同様に建物賃借権自体の評価額は0円とした上で,「賃料相当額×存続期間」をベースに算定することを提案する意見も寄せられたところでございます。これに加えまして,長期居住権が必要費等の負担を配偶者がするという権利であることなどを考慮しまして,例えば「賃料相当額×存続期間×0.8」とすることなどを提案される意見も寄せられたところでございます。この財産評価の関係につきましては,後ほど(4)におきまして別途,具体的な検討を加えているところでございますので,また,御説明申し上げます。
  次に,ウの「長期居住権の買取請求権について」でございます。この買取請求権を認めるか否かというところにつきましては,例えば予期に反して短期間で長期居住権が不要となった配偶者を保護するために,賛成するという御意見があった一方で,争いとなった場合に裁判所での審理が複雑困難化するおそれがあるのではないかという理由の下に反対される意見もございまして,賛否が分かれたところでございます。
  今後の方向性につきましては,このように長期居住権の創設自体について賛否が分かれておりまして,反対意見も相当数あることを踏まえますと,例えばでございますが,長期居住権創設のメリットを減殺しないように配慮しつつも,問題点を軽減する方向で検討を進め,その上で判断するということも考えられるところでございますが,この点につきまして,是非,御意見を頂戴できればと思います。
  続きまして,(4)の財産評価方法についてでございます。財産評価方法としましては,基本的なものとして,アの計算式を今回,御提示申し上げているものでございます。計算式としては,長期居住権の評価額=建物の賃料相当額×存続期間,そこから中間利息額を差し引くと,こういったものでございます。この計算式は,長期居住権を賃借権類似の法定の債権と位置付けていることを踏まえまして,その財産的価値を存続期間中の賃料相当額ということで,賃料総額として評価をするものでございます。計算式では先ほども御意見があったとおり,権利自体の価値は0としておりますけれども,この点は算定方法そのものの簡素化の視点に加えまして,相続税の課税実務上,一部の例外を除いては借家権について相続税を課さない扱いがされていることを参考にしたものでございます。
  また,長期居住権の存続期間を終身とする場合には,例えば配偶者の年齢を基準として算出される平均余命の年数を用いることを想定しているところでございます。このような算定方法ですと,基本的には当該建物の適正賃料額を目安として評価額を算定することができ,比較的簡明ではないかとも考えられるところでございます。ただ,長期居住権は対抗要件あるいは費用負担,更には消滅原因などの点で賃借権と異なる点もございますので,算定に当たりましては,これらの差異を考慮する必要があるものと考えられます。
  次に,イの「協議による設定の場合」でございます。遺産分割協議で長期居住権を設定するという場合には,必ずしも法定相続分を前提に分割をする必要はないと考えられますので,先ほど述べました計算式が必ずしも必要ではないということになります。また,相続人間で法定相続分を前提として分割することとされた場合におきましても,長期居住権の評価は相続人間の協議で定めれば足りることになりますが,その場合には先ほど述べました計算式を参考にすることが考えられるところでございます。
  次に,ウの「遺言による設定の場合」についてでございます。一般に,被相続人は遺留分を侵害するのでない限りは,自由に財産処分ができますことから,被相続人が配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺言をする場合には,原則としてはその価格を評価する必要はないものと考えられます。もっとも,ほかに遺産分割の対象となる財産がある場合,あるいは相続開始後に配偶者以外の相続人から遺留分減殺請求がされた場合には,長期居住権の価格評価が必要となりますので,その場合にはアで申し上げた価格算定方式が必要になる場合があろうかと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,今,御説明がございましたように,いわゆる短期居住権と長期居住権との二つに分けまして検討してまいりましたけれども,このうちの短期居住権についてはパブリックコメントにおいて賛成する意見が大勢を占めたのに対して,長期居住権の方につきましては,賛否が拮抗している状態であるということで,長期の方につきまして幾つかの問題点,特に財産的な評価方法についての考え方を整理して御説明を頂いたと理解しております。
  短期,長期のそれぞれにつきまして,今後の方向性について提案がされておりますけれども,本日は皆様から広い視点からの御意見を頂戴いたしまして,御感触を伺った上で次回以降,それぞれの問題について具体的な提案を事務当局の方からお願いするということにさせていただきたいと思います。必ずしも方向性について賛否を明らかにするという形でなくて結構ですので,広く御意見を賜れればと思います。
  短期,長期,どちらでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。
○水野(紀)委員 では,短期について一つ質問させていただきます。短期の場合,判例で認められているから不要だというパブリックコメントがあったようですけれども,確かに使用貸借と認定して居住権を保護する判例が固まっております。そして,配偶者以外の場合にも使用貸借だと性質決定するのが現在の判例ですが,短期賃貸借を配偶者について立法することになりますと,配偶者以外の場合,例えば長男がずっと一緒に住んでいたような場合については,どのような波及効果が考えられるでしょうか。
  また,長期居住権の方ですが,こちらについては本当に雑な感想になるのですけれども,一言申し上げます。西欧諸外国の場合は,配偶者の居住権は,一般に婚姻の効果か夫婦財産制の一環として,自動的に婚姻中から付与される扱いになっております。そして,その家族の居住権の存在を見込んだ形で様々な取引が動いているわけですが,日本の場合にはそうではありません。基本的には登記が主になっていて,かつ不動産売買のときに関与する公証人慣行もなく,私人が勝手に登記を行いますから,反対意見の多くは,長期居住権が取引の邪魔になることを危惧しておられるように思います。
  ただ,家族法学者としては,どちらの方向性がいいかといいますと,配偶者や家族の居住権は大切なものだと思います。配偶者や子どもたちの家族の生活が営まれている住居は,居住権が自動的に配慮されなければならないという欧米風の方向へシフトできれば,その方がいいのではないでしょうか。今回も家族の居住権より取引安全が重視されるという,日本の常識からのリアクションが大きかったわけですけれども,むしろ家族の住まいになっているところを取引の対象にするときは,居住権の危険に配慮しなくてはならないという方向にシフトする可能性はありうるように思います。そのような発想をいくらかでも入れていただける可能性はあるのでしょうか。
○堂薗幹事 まず,短期居住権の点でございますが,この点は以前にも御説明したことがあったかもしれませんけれども,事務当局といたしましては,配偶者のみを対象としてこのような新たな規律を設けますので,従前の判例で保護されていたもののうち,配偶者については,こういった制度が新たに設けられることによって,当事者の合理的意思としても使用貸借契約を更にそれに付け加える形で締結する意思までは認められなくなるのではないかということで,配偶者については従前の判例の対象外になるのではないかと考えております。これに対し,それ以外の相続人につきましては,従前の判例と同じように一般的な当事者の意思といたしましては,従前から建物に無償で居住していたという場合に,遺産分割が終了するまでの間は引き続き無償での使用を認める意思であっただろうというところは,変更がないのではないかと考えているところでございます。
  それから,長期居住権のところで配偶者の居住権の保護と取引の安全をどう調和させるかという御指摘かと思いますけれども,この点は確かに今回の中間試案の考え方,配偶者の居住権に限って特別な保護を致しておりますので,そういった意味では,これまでの制度にない特殊なものという理解はできるかと思いますけれども,他方で,長期居住権を第三者に対抗するためには必ず登記が必要であると,通常の建物賃貸借とは違って占有だけでは駄目で,きちんと明確な形で公示がされた場合に限って第三者には対抗できるという形にしておりますので,そういった意味では,取引の安全にも一定の配慮をしつつ,配偶者の居住権も保護するという形にはなっているのではないかとは考えているところでございます。
○大村部会長 水野委員,よろしいですか。
  そのほか,いかがですか。御意見あるいは御質問等でも結構でございます。
○石栗委員 長期居住権の財産評価の方法についてですが,通常,遺産分割をする場合には不動産は鑑定をするんですけれども,その場合,長期居住権の負担のある不動産を取得することによる遺産の取得額というのは,鑑定額マイナス長期居住権の評価額ということになるんでしょうか。
○堂薗幹事 そこはかねてから問題があるところではあるんですけれども,基本的にはそのように考えております。ただ,そうしますと,建物を取得する人がリスクを負ってしまって,不利益を受けるのではないかという問題はあろうかと思いますけれども,そこで,どちらについて,あるいはその両者についてそういったリスクを考慮して一定割合を減額することにしますと,長期居住権の価格とそれ以外の建物所有権部分の価格の合計額が建物全体の価格になりませんので,全体として遺産の額が減ってしまうという問題がありまして,そこは一定のリスクはあるんですけれども,基本的にはそうせざるを得ないのではないかと,先ほど石栗委員の方が御指摘になったような計算にせざるを得ないのではないだろうとかと考えております。
  そこも今回の中間試案のパブリックコメントの中でも,特に建物所有者と配偶者の間で長期居住権の設定について争いがあるような場合にまで,審判で認めるというのは相当ではないのではないかという意見も出されておりますので,そこは適用範囲を見直し,例えば争いがない場合に限って長期居住権を認めるとか,そういった修正をすれば問題は少なくなると思いますし,その辺りについて今後,検討していきたいと考えているところでございます。
○石栗委員 よろしくお願いいたします。
○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。
○増田委員 細かいことはさておき,長期居住権については持分を取得する場合と比較して,どちらが有利なのだろうかということをもう少し検討してみるべきではないかと思います。今回の資料に沿って長期居住権の評価額というのを考えてみると,存続期間が平均余命となっていますので,仮に70歳女性を例にとると平均余命が19.81になるので,それをライプニッツ方式で中間利息控除すると12.085,これは現在の法定利率ですので,民法が改正されるともう少し高くなるはずです。これを前提に,仮に賃料を月10万として計算しますと約1,440万です。1,440万を出せば同程度の不動産の持分の多くを確保できるのではないか,とも思います。
  確かに持分の場合だと,ほかの人の持分について賃料を支払わなければなりませんが,それは不動産全体の賃料ではなくて,持分に相当する分だけです。しかも,共有物である場合には将来的に投下資本の回収ができるという形になります。長期居住権だと,買取請求権が認められるかどうかというのは今後の検討なんでしょうけれども,認められたとしても,それほど高い金額になるはずはないので,投下資本を回収することはまずできないだろうと思います。という点を考えると,本当に配偶者のためになるのかどうかというのは,今後,十分に検討すべきだろうと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 その点については,パブリックコメントでも意見が出されたところでありますので,検討させていただければと思いますけれども,こちらで,従前,考えていたのは持分を取得させる場合との比較でいいますと,そもそも論といたしまして,遺産分割というのは遺産共有状態を解消するというところに大きな目的がありますので,相続に起因して共有関係が生じた場合に,それをそのままにして,共有状態を一定期間継続させるというのがそもそも相当なのかという問題は,あるのではないかと思っております。
  この点につきましては,今も遺産に伴う共有状態を解消しないことによって,二次相続とか,三次相続が起きた場合に,非常に持分権者が増えてしまって,権利関係が複雑になることから,いろいろな問題が生じているという面がございますので,その辺りとの関係でそれぞれ,メリット,デメリットはあるのではないかという点がございますし,共有状態のままにしますと基本的には共有物分割請求をされた場合には,共有物の分割がされるということになりますので,その辺りで配偶者の保護が十分といえるかという問題はあろうかと思いますので,その辺りのメリット,デメリット,長期居住権の場合との比較を整理した上で,更に引き続き検討させていただければと考えているところでございます。
○増田委員 共有関係を存続させることが不適当だと,通常,言われるのは,複雑な権利関係を生じることが理由ですよね。しかし,長期居住権がある場合も,この問題は解消されず,複数の関係者が一つの物件に関与することになって,やはり複雑な権利関係が生じると考えられます。要するに,仲のよくない人が一つの物件を共有するのと同じように,仲のよくない人が貸主と借主という関係になっても,紛争が継続するということになりますので,その辺り,今後の課題なんですけれども,よく考えていかないといけないなと思っている次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  大きな観点から,今,御意見を頂いたと思いますが,他の委員・幹事におかれましても,全体としてどうかという御感触等をお聞かせいただければと思いますが,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 重ねて発言して申し訳ありません。ただ,昔の証言だけでございますが,平成8年の婚姻法改正要綱を議論したときも,寸前に高裁で非嫡出子の相続分の意見が出ましたので,慌てて入れることになりましたが,そのときの議論は今のように完璧に記録が残っている時代ではございませんので,私の記憶で御紹介いたしますと,配偶者の居住権を何とかしなくてはならない,それだけの手当はした上で平等にしようという議論が行われました。
  ただ,この評価の問題で,一方ではそれは完全に無償とすべきだという,配偶者であればずっと使用貸借として居住権が在るべきであるという議論に対して,それは余りにも過大ではないかという議論が行われて,そして,過大だという議論は今回,御提案のように本当に市場価値でという算定案が出ました。そうなりましたら,一遍に配偶者に居住権を認めることの意味がほとんどないし,全くなくなってしまうという反対論が出まして,結局,その手当をする間もなく平等化だけを入れるという,そういう議論の流れでございました。
  算定をすることによって,市場価値で算定すること,0.8掛けも出ておりますけれども,もっとぐっと低くするということでないと,なかなか,意味はないという当時の議論の流れでございましたので,今回も恐らくそういう反応はきっと出るだろうと,御提案のようだと出るだろうと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの論点とは別の論点ですね。分かりました。
  ほかにいかがでございましょうか。
○西幹事 まとまりのない話になってしまいますが,2点申し上げたいと思います。今回,パブリックコメントの中の御指摘にもありましたように,資料では2ページの(2)のアのところにありますけれども,配偶者居住権というものができたために,要らないのに与えられてしまって,かえってほかの遺産,例えば現金などがもらえなくなって困るという配偶者が出てきてしまいますと,配偶者のために作ったはずのものが配偶者のためにならないということになりますので,そういうことがあまりあってはならないと思います。また,以前から指摘されていることのように思いますが,今までは登記簿上は子どもと共有状態でも何となく無償で住めていたのが,配偶者居住権というものができて居住の利益が金銭評価されることによって,かえって配偶者の実質的,実感としての取得相続分という点では切り下げになるということも,あり得る気がします。
  他方で,先ほど水野委員の方からも少しお話がございましたけれども,ヨーロッパではそもそも配偶者居住権というものが婚姻成立の段階から離婚のときまでずっと保護されていて,その延長線上に配偶者の死亡による相続のときの居住権というものが出てくるわけです。日本のように離婚のときの居住権の保護などもない中で,急に相続の場面でだけ配偶者居住権の保護というものを入れたとき,果たしてなじむのか,慣れていないのに使いこなせるのかという問題もあるように思います。国民が慣れていない状況の中で,遺言による設定を認めるというようなことになりますと,そもそも,使う方も使い方がよく分からないし,使われる方も分からないということになるのではないでしょうか。ただ,水野委員がおっしゃったように長期的に見ると配偶者の居住権を保護するという方向が求められていると思いますので,何らかの形で過渡的な段階というものを用意できないのかと思いました。
  過渡的な段階として適当なものが直ちには思い付かないのですが,例えば今回は遺言による設定なども全て認めるということになっていまして,個人が自由に使える一つの権利を新設するということになりますけれども,そうではなく,例えば配偶者の方から相続人あるいは受遺者に対して請求できる権利を有するというような形で,裁判所によって認められることによって,初めて権利が発生するというような。もちろん,法的には問題があるということはよく分かりますけれども,何らかの過渡的な段階を少し用意していただくという方向は考えられないのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  弊害が生じないようにという御指摘と,それから,婚姻中も含めて居住の保護を図るという大きな流れの中で,それに向けての制度を考えていただきたいと,こういう御指摘だったかと思います。
○堂薗幹事 検討させていただければと思いますが,確かにパブリックコメントの意見にもありましたけれども,配偶者の意思に反して長期居住権を取得させるというような事態が生じないようする必要があるというのは御指摘のとおりだと思います。中間試案の考え方ですと,特に遺産分割方法の指定という形で長期居住権の設定がされた場合に,長期居住権部分だけを放棄することはできないということになろうかと思いますので,その辺りについては慎重に検討する必要があるといいますか,そういった事態が生じないような手当を講ずる必要があるのではないかという問題意識を持っておりますが,更に今回の中間試案とは異なる過渡的な制度については,こちらとしてはまだ全く検討できておりませんので,時間も限られておりますが,そういった制度設計が可能かどうかについて検討はしてみたいと思います。
○沖野委員 確認をさせていただきたいのですけれども,配偶者が長期居住権は不要だというときに,直ちに買取請求というのはできないんでしょうか。
○堂薗幹事 買取請求権を認めた場合に,その要件をどうするかとかいうことになってきますので,例えば,その取得の当時から事情変更があったことを要件としますと,御指摘の場合は要件を満たさないということになるかもしれませんし,放棄がされた場合に,買取請求権を使うということも考えられるとは思いますが,そもそもの問題として,こういった買取請求権のような重い制度を入れることについては,懸念を示す意見もありますので,そこら辺をどう考えるかということだとは思います。
○沖野委員 長期居住権の点ですけれども,これを導入するのは生涯の居住確保のためであり,しかも積極的な経済的負担なく,将来の賃料負担とかをせずに,相続の際に,その部分を込みにした形である程度考慮をして,生涯の居住は確保できるという制度を新たに用意するということですので,私はそれは非常に意義のあることだと考えております。パブリックコメントは賛否が拮抗しているということですけれども,反対という中身は,むしろ問題点というか,もう少し,この辺りを配慮できないかということで,乗り越えるのがおよそ困難ではないのではないかと,もう少し,検討してはどうかと思っております。
  それから,持分を認める形で共有にする方が望ましければ,それは,それが排除されるわけではありませんので,そういった現在利用可能なものに加えて,もう一つの道を用意するということで評価していくべきではないかと思います。そういたしますと,問題として残りますのは,遺言で遺産分割方法の指定として,これが使われたときです。今までこういう制度がなければより明確なといいますか,持分になっていたか,あるいは何ももらえないかだと思うんですけれども,そのときの問題とされる点については,例えば買取請求権の制度を工夫することによって,不要であるなら直ちに消滅させると,完全な所有権にしてしまって一定の経済的対価で清算するということがあり得るのではないか。
  これ自体は確かに長期居住権を入れたことによって,長期居住権なんて要らないのにというので一つ要らないものをもらう可能性が増えるのはそうですが,それは他の不動産ですとか,物でも同じ状態で不必要なもの,本当は欲しいものではないものが来たときに,何らかの手法,その後の交渉なり,あるいは第三者への売買により換価してしまうなどといった手法が後に控えているというのが今でもあるんだと思いますので,それに近いような制度を用意することで緩和できるのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○潮見委員 私も沖野委員がおっしゃったところと基本的に同じことを考えておりました。長期居住権という制度を設けるということについては一つの選択肢が加わるわけですから,積極的に使いやすいように制度化する方向へ向けて進んでいっていただければと思うところです。恐らくいろいろ疑問が出ているのは,私が理解している限りでは,一般の市民の方々に対する情報が不足しているといいますか,この制度を使った場合に,どういうふうな形で遺産分割がされ,それぞれがどういう遺産をどのぐらい取得するのか,長期居住権とは異なる構成,例えば共有構成や,あるいはリバースモゲージという手法を採った場合にどうなのかというようなことを,遺留分減殺でおやりになったように,こういう枠組みで,このような例であるとこうなる,別だとこうなりますという形で示すと,普通の方にも分かりやすいようなものをお示しするのがいいのではないかと思うところです。
  それと併せてといえば,ここから先が質問を兼ねてなんですけれども,そうなりますと,先ほどから問題になっている基本的な財産評価方法というのがかなり大きな意味を持ってくると思うんです。水野委員がおっしゃっていることにも関わるのですが,この数式は基本的に財産的な価値というものを前提として立てておられる。それはそれで相続人間の遺産の公平な分割というところでは意味を持つのかもしれませんけれども,公平というところにそうした財産的な評価だけで全てを盛り込んでいいのかというところもありますと同時に,ここからが質問なのですが,この式というのは家庭裁判所の審判における裁判官を拘束する,そういう公式として想定されておられるんですか。それとも,これは一つの指針といいますか,ソフトロー的なものであり,今回,算定式が分からないとか,こういう算定方法の提案をしたいとかいうような意見があったものだから,それを踏まえて,そのような指針的なものなるものという趣旨で立てられているものでしょうか。
  併せて1点,お願いなのですが,これとは全く別件ですけれども,長期居住権を審議される際に,できれば早い時期にどういうふうな形で登記がされるのか,あるいは登記制度というものがどうなるのかというのを示していただければ有り難いなと思っているところで,最後は,お願いでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  一番最後の点はメニューを一つ付け加えるとして,そのメニューの中身を明らかにせよという御意見の一環として伺うということにしまして,御質問があった点についてお願いします。
○堂薗幹事 その点につきましては,潮見委員が言われた後者の方で考えておりまして,当然,この数式のようなものを何か法令で規律するとか,そういうことは一切考えておりませんが,こういった見直しをする以上,事務当局としては基本的にこういうことを想定しているという基本的な考え方は,お示しする必要があるのではないかということでございます。最終的には,審判などで争いになった場合には,鑑定等に基づいて裁判所が判断するということになろうかと思っております。
○水野(有)委員 今の件について,そういうお考えであればお聞きしたんですが,最終的な判断を裁判所でするためには,時価でいいかどうかは決めておいていただかないと,時価となると,結局,取引でどのように評価されそうかということの予想になってしまいますので,例えばこういう算数になりますと挙げているものが時価とかけ離れた場合,裁判所はどう考えていいのか,それとあと,水野(紀)委員もおっしゃったようなこの制度の趣旨自体をむしろ無償で配偶者を保護するという面もあるということも考慮するとなると,全くきっと評価方法は変わってくるのではないかと思うので,裁判所は多分,何か方向性が決まれば,それとか条文とかで決まれば,それを前提として判断は多分できる,ないしはさせていただくのだろうと思うのですが,方向性がもしいろいろな方向を向いているものがいろいろ出ているものを判断するとなると,なかなか,難しい面も持っているということも御理解いただいた上でお考えいただければなと思いますので,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 御指摘の点は,長期居住権の制度趣旨をどう捉えるかというところによるように思われますが,先ほど水野(紀)委員から御指摘がありましたように,今回お示しした考え方というのは,純粋に長期居住権について賃貸借と同じように適正賃料額を出して,それで評価を決めるというものでございますので,長期居住権なので少し減価をするとか,そういったことは考えておりません。したがいまして,通常の適正賃料額について争いになった場合に,評価をしていただくものと同じような形で評価をしていただくというのが,こちらとしては想定しているところということになります。
○水野(有)委員 今の点で,水野(紀)委員の御意見に関するコメントは理解できたのですが,多分,時価評価になりますと一般的にはリスクがあると下がるのだと思います。ですから,今は時価評価という御見解,そうだとすると,正直,両方が下がると,それだけを別々に評価すると,全体評価とそれぞれ別個に評価したものの和が変わるということがもし本当の時価だと生じうるような気もするのですが,その辺りについては。
○堂薗幹事 その辺りは先ほども石栗委員の方からも御指摘がありましたが,そういう面があることは間違いないんですけれども,現段階でこちらで考えているのは,そこのリスクは評価をしないで計算をせざるを得ないんじゃないかというものです。ただ,そこは今後,パブリックコメントの結果を踏まえて,どういった場合に長期居住権の設定を認めるかという辺りを考えていきたいと思っているんですが,それとの関係で場合によっては問題点が少なくなるような形にもなり得るのではないかと思います。御指摘は非常によく分かりますので,その辺りも含めて検討させていただければと考えております。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  技術的な評価の問題と,それから,一定の幅がある場合に,方向付けの原理みたいなものがあるのか,ないのかというようなことが話題になっているかと思いますけれども,その点でも結構ですし,他の点につきましても更に御意見があれば伺いたいと思います。
○中田委員 パブリックコメントに対する回答の傾向というか,御質問なんですけれども,そもそも,どうして配偶者の居住権を保護するかということの理由として,高齢の配偶者の保護とか,配偶者の潜在的共有持分の保護とか,夫婦の同居義務の延長とか,使用貸借の拡張とか,いろいろな説明の仕方があると思うんですけれども,理念についての意見というのはあったでしょうか。
○大塚関係官 その点については,出された御意見の趨勢を網羅的に申し上げることは,現時点では難しいところがございますが,中間試案のように婚姻の予後効のような形で根拠付けることについて理解を示す意見もあった一方で,また,別の考えを提示されることもありましたし,更には,離婚法制も含めて手当を考えるべきではないかといった大きな視点からの御意見もありましたので,それは様々な御意見があったということになろうかと思います。
○大村部会長 中田委員,よろしいですか。
○中田委員 ありがとうございました。
○浅田委員 まとまった考え方はないわけですけれども,本件にも関係しますし,ほかのものにもそうですけれども,このような制度設計を考える場合に,この制度を立案したときに,それが社会生活ないしは家庭生活にどういう影響を及ぼすのかということを考えておかなければならないと思いました。先ほども,この制度が導入されたときに,いつ,どうすればいいのかというようなことの意見がありました。私も個人としては非常にその必要性を賛同するものであります。
  例えばこの長期居住権というのは,要件として分割協議とか遺言とか,贈与契約ということがありますので,そういう要件を満たす限りにおいて派生する選択肢が増えるという,そういうものであるわけです。なお,決して一概に押し付けられるものではないとは理解しておりますが,ただ,沖野委員からもありましたように,遺言という場合には一定,押し付けられるということもあり得,ただ,それを買取請求権でどうまた補填するかというふうなこともあろうと思います。
  そういう制度の選択肢があるとして,それぞれの選択肢に対して人々がどのように向き合うのか,又は技術的な又は具体的な工夫としてどういう対応をするのか。例えば遺産分割協議をするにしても,例えばその人の生活パターンからすると,多分,5年後には老人ホームに入るから全部は要らないとかいうふうなパターンもあろうと思います。そういうのが認められるのか,認められないのかとか,そうした場合の評価がどうなのかということもあろうかと思います。そういう選択肢を一度,概括して見てみた上で,それで,人々の生活がどのように変化するのか,それが制度の理念と整合するのかどうかというようなことが求められているのではないかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  買取請求権をどうするのかということで,大分イメージが違いますでしょうし,それから,適用範囲,どのような場合に限るのかということでも違ってくるかと思います。それを全て組み合わせて,こうなるというのを提案するのはなかなか難しいところがございますけれども,幾つかのパターンを定めて,制度イメージというのをもう少し明らかにし,影響をはかってはいかがかというのが複数の方の御意見かと思いますが,そのほかに何か御意見はございますでしょうか。事務当局の方はよろしいですか。
  それでは,第1点につきましては,今,頂きました御意見を踏まえまして,今後の議論の基本的な方向性を次回以降に改めてお示しいただき,具体的な御提案を頂くということにさせていただきたいと存じます。
  この第1点につきまして,すなわち「配偶者の居住権を保護するための方策」につき,今までの議論とは別に何か特に御発言しておきたいということがございましたら伺いますけれども,よろしいでしょうか。
  では,第1点につきましては今のように進めさせていただくということにいたしまして,第2点の「遺産分割に関する見直し」に進ませていただきたいと存じます。資料でいいますと4ページになりますけれども,この部分につきまして事務当局から御説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,関係官の下山から「第2 遺産分割に関する見直し」について御説明させていただきます。
  まず,パブリックコメントの結果についてですけれども,「1 配偶者の相続分の見直し」について,そもそも,配偶者の相続分を引き上げる方向で見直すことについて,その立法事実が明らかでないこと,被相続人の財産形成に貢献し得るのは配偶者だけではなく,配偶者の相続分のみを一律に増加させることは相当ではないこと,一律に配偶者の相続分を引き上げるのではなく,遺言や寄与分制度など,他の方法による方が妥当であることなどを理由として反対する意見が多数を占めていると,こういった状況でございます。
  また,甲案,乙案の個別の提案につきましても,いずれも賛成意見よりも反対意見の方が多数という状況でございます。
  まず,甲案につきましては,夫婦が別居している場合など配偶者の具体的な貢献が認められない場合であっても,被相続人の純資産額が増加していれば,配偶者の具体的相続分が増加するなど,この制度は,配偶者の貢献を実質的に評価して,相続人間の公平を図る制度には必ずしもなっていないという,こういう御指摘がございました。加えて,婚姻後増加額の算定が極めて困難であり,特に配偶者以外の相続人が適切にこれを主張・立証することは,事実上不可能ではないかといった御指摘や,婚姻後増加額の算定をめぐって紛争が極めて複雑化,長期化するおそれがあることなど,実務上の問題点を指摘して強く反対するという意見が多数寄せられております。
  次に,乙-1案についてでございますが,こちらは当事者の意思を根拠とする点において合理的であるとの御意見も頂きましたが,他方で,届出の有効性について被相続人や配偶者の意思能力の有無が問題とされ,紛争が複雑化・長期化するおそれがあること,また,当事者の意思によるのであれば,遺言や相続分の指定など現行の制度によれば十分であること,この制度によりますと,各相続人の債務の承継割合も変化するため,相続債権者に予期せぬ不利益を与えるおそれがあることなどを理由として,これも反対する意見が多数を占めている状況でございます。
  最後に,乙-2案につきましては,簡明であるということで中間試案において御提案した三つの方策の中では最も賛成する意見が多かったものですが,一定期間の経過のみを要件としているために,夫婦関係が破綻しているなど配偶者の貢献が認められないような場合であっても,配偶者の法定相続分及び遺留分が増加することとなり,相続人間の公平を害するという御意見がございました。また,このような結論を回避するために適用除外事由を設けるということになれば,この案の利点であった簡明性が減殺されてしまい,紛争の複雑化,長期化を招くことにもなると,こういった点から反対する意見が多数という状況でございます。
  なお,第2の1の(2)の(注3)において,配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合には兄弟姉妹に法定相続分を認めないものとする考え方を提案しておりますが,この考え方につきまして,賛成する御意見も複数頂いてはおりますが,兄弟姉妹の法定相続分を一律に否定する必要はなく,遺言によって全財産を配偶者に相続させることも可能ではないかといった御意見や,仮にこのような場合に兄弟姉妹に法定相続分を認めないこととすると,それぞれ兄弟姉妹がいる夫婦が順次死亡した場合に,夫婦のうちの後に死亡した者の兄弟姉妹が夫婦の全遺産を相続するという結果になってしまうが,これは不当ではないかということで,反対する意見も複数といった状況でございました。
  今後の方向性についてでございますけれども,このようにパブリックコメントにおきましては,中間試案の考え方の基本的な部分や制度設計について,根本的な疑問を呈する意見が多数寄せられたところでございます。したがいまして,中間試案の方向性自体についてもなかなか国民的なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあると,また,賛成する少数の御意見の中でも,中間試案において御提案した甲案,乙案の各方策のいずれが妥当であるかというところについては意見が分かれていると,こういった状況になっております。
  配偶者の相続分の見直しというのは国民生活に与える影響が極めて大きいことからすると,この法改正を行うためには,内容について国民的なコンセンサスを得ることが不可欠であろうと考えられます。しかしながら,パブリックコメントの結果を見ますと,今後,この点について検討を進めたとしても,なかなか,国民的なコンセンサスを得るということは難しいのかなという状況にあると考えております。今回はこの点についての皆様の御意見を頂戴できればと存じております。
  次に資料の7ページ,「可分債権の遺産分割における取扱い」について御説明いたします。パブリックコメントにおきましては,可分債権を遺産分割の対象とすることに賛成する意見が大勢を占めておりまして,積極的に反対する意見は見当たりませんでした。他方,遺産分割の対象となる可分債権に預貯金債権以外の債権を含めることについては,相続人間の公平を理由として賛成する意見も複数寄せられましたが,これを肯定してしまうと,調停が複雑化,長期化するおそれがあるとして,反対する意見の方が多数でございました。なお,この点につきましては,預貯金債権以外にも例えば契約に基づく債権については遺産分割の対象に含めるべきであるとの御意見も頂戴しております。
  次に,遺産分割終了までの間の可分債権の行使を原則として認めるか否かについて,これを認める甲案と認めない乙案との間では賛否が拮抗した状態でございます。
  甲案に賛成する意見は,相続人の資金需要に柔軟に対応することができること,当該相続人の具体的相続分を超える権利行使がされた場合には,遺産分割の際に調整すれば足りること,乙案において検討されている仮払いなどの制度を適切に設計することができるか疑問があることなどを理由とするものでございます。他方,乙案に賛成する意見は,遺産分割における処理が簡明になり,債務者の負担も軽減されること,甲案では遺産分割前に可分債権を行使した相続人の無資力の危険を他の相続人が負担することになって相当でないこと,甲案を採用した場合には仮処分の制度を設ける必要があるが,保全処分において具体的相続分を疎明するのは当事者にとって負担が重いことなどを理由とするものです。その他,現時点においては,甲案,乙案のいずれに賛成するとも言い難いが,いずれにせよ,制度を設計する際には債務者や相続人などが不当に不利益を受けることがないように慎重な検討が必要であると,こういった御趣旨の御意見も複数頂いております。
  なお,乙案を採用することとした場合には,仮払いの制度を設ける必要があるとの意見が多数を占めておりますが,具体的な制度設計については様々な御意見が寄せられているというところでございます。また,この点に関して,預貯金管理者の制度につきましては,これに賛成する御意見も複数頂いた一方で,この制度は預貯金管理者本人や当事者などにとって負担が大きいなどとして,反対する御意見も複数寄せられました。なお,この論点につきましては,現在,被相続人の預金債権が相続の開始により当然に分割されるかどうか,この点が正に争点となっている事件が最高裁大法廷に係属していることから,具体的な制度の枠組みについては,最高裁の当該判断を踏まえた上で検討されるべきではないかと,こういった御意見が複数寄せられております。
  そこで,今後の方向性についてでございますけれども,パブリックコメントの結果によれば,可分債権のうち,少なくとも預貯金債権については,これを遺産分割の対象に含める方向で検討を進めることが相当であると考えられるところです。他方,遺産分割の対象となる可分債権に預貯金債権以外のものを含めるか否かについては御意見が分かれており,また,可分債権の範囲を一定の範囲に限定するとしても,その対象を預貯金債権だけに限るのは相当でないと,こういった御意見も寄せられております。このようなことを踏まえると,遺産分割の対象に含める可分債権の範囲については,引き続き慎重に検討を進める必要があるものと考えております。また,遺産分割終了までの間の可分債権の行使の可否につきましては,甲案に賛成する御意見と乙案に賛成する御意見とが拮抗しており,それぞれについて問題点の指摘がございました。このような点を踏まえますと,現時点において,その方向性を一方に定めるということは難しいのかなと考えております。
  以上によれば,今後はパブリックコメントで指摘された問題点を中心に,更に検討を進めることが相当であると考えております。もっとも,中間試案の考え方は預金債権等の可分債権が相続の開始によって当然に分割されるという現在の判例の考え方を前提としているところ,先ほど申し上げた現在最高裁大法廷に係属中の事件における最高裁の判断は,この部会における議論の前提に影響を与える可能性がございます。こういった点を考えると,この論点につきましては,最高裁の当該決定を待った上で,その内容を踏まえて検討を進めるのが相当であると考えられますが,この点についても皆様の御意見を頂戴したいと存じております。
  次に資料の9ページ,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」について御説明いたします。一部分割の要件の明確化につきましては,現行の実務において行われていることを明文化するものであって,争いのない部分を優先的に解決することで紛争の早期解決につながるとして,賛成する御意見が多数を占めております。もっとも,一部分割の要件を民法上,明記いたしますと,預貯金など資産価値のある遺産のみについて遺産分割がされ,他の遺産は放置されることも考えられ,一部分割が濫用されるおそれがあるなどといった実務上の問題点を指摘する意見も複数寄せられております。
  残部分割における特別受益及び寄与分の取扱いに関する規律,これは中間試案本文(1)の②から⑤までの規律ですが,これにつきましては,当事者に将来の残部分割における特別受益と寄与分にまで配慮して遺産分割協議をすることを期待することは困難であることから,特に③と⑤について,これに反対する御意見が多数を占めておりますが,残部分割における調整を例外的なものとするという中間試案の考え方については,賛成する御意見も複数ありました。
  遺産分割の対象財産に争いのある可分債権が含まれる場合の特則,本文の(2)ですが,これにつきましては紛争の早期解決に資するとして賛成する意見が多数を占めております。ただ,このような審判をしても,争いのある点について結局は民事訴訟により解決が必要となるのであるから,余りメリットはないのではないかなどとして,反対する御意見も複数寄せられている状況です。また,これらの特則につきましては,可分債権の遺産分割における取扱いと関連するものであって,遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲を預貯金債権に限定することとした場合には,事実上,この特則を活用すべき場面は少なくなるのではないかといった御意見も寄せられております。
  今後の議論の方向性についてですが,この論点について積極的に反対する御意見が少なかったことなどを考えますと,今後も中間試案の考え方を基本としつつ,パブリックコメントで指摘された問題点などを中心として検討を進めるのが相当であると考えております。特に一部分割がされた場合における特別受益や寄与分の取扱い,これにつきましては各種の問題点の指摘がされているところ,今後も慎重に検討する必要があるものと考えられます。
  なお,この論点につきましては,可分債権を遺産分割の対象に含めることとした場合に,遺産分割をめぐる紛争の長期化・複雑化を回避するための一方策として検討されてきたという経緯から,可分債権の遺産分割における取扱いと密接な関連性を有していると考えております。そのため,この論点につきましても,可分債権の取扱いに関する最高裁の決定を待った上で,検討を進めるのが相当であると考えられ,この点につきましても御意見を頂戴できればと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2の「遺産分割に関する見直し」につきましては,ただいま御説明いただきましたように三つの項目に分けて検討しております。そのうちの1の「配偶者の相続分の見直し」につきましては,複数の案を提示いたしましたけれども,どれに対しても反対が多かったというお話でした。それから,2,3につきましては基本的な考え方については賛成が多いが,ただ,2の場合には対象の範囲,それから,甲案,乙案という選択肢のうちのどちらを採るかということについて意見が拮抗しているということでございました。この2と3につきましては,最高裁の決定が待たれるということでもあり,それを見てから更に検討したいというのが事務当局の御説明であったかと思います。
  三つございますけれども,性質上,2と3が関連いたしますので,まず,1につきまして御意見を伺いまして,その後,2と3につきましてまとめて御意見を伺うということにさせていただきたいと思います。まず,1の方につきましてお願いいたします。
○沖野委員 むしろ,質問です。1についてはいずれの案についても反対の方が多かったというおまとめなんですが,総論賛成,各論反対ということなのか,つまり,配偶者の相続分を広げるようなルートあるいはその具体的な財産状況などを反映するようなルートなりを入れるという,見直しの必要性はよく分かる,しかし,技法としてはいずれも難があるということなのか,そもそもの点でそのような必要はないという意見なのか,それはどうでしょうかというのが一つです。
  もう一つは,甲案ですけれども,甲案の最大の問題として指摘されているところは,実務上の問題点とされる婚姻後の増加財産の評価の仕方が非常に難しいと,それがかえって紛争を招き,紛争自体を長期化させるという御懸念が一番,ここでも示されています。私もその点は問題だろうと思っており,取り分け,一方当事者が亡くなっていますので難しいと思うんですが,他方で,同様の制度はほかの国でも採用しているものがあると伺っていますので,他国ではどうしているのだろうか,そのような問題を解決する方法があるならば,甲案の問題点はかなり減殺されるということがありますので,例えばパブリックコメントの中で,こういった方法があるというような御示唆なりはなかったのだろうか。それから,更に言うと,諦めるにはもう少し考えてからの方がよろしいのではないかというのは,今の点から思っているところであります。
○大村部会長 ありがとうございます。
○下山関係官 第1点の御質問に対するお答えですが,まず,そもそもの総論として配偶者の相続分を見直すという方向性自体について反対という御意見の方が多いという状況でございます。というのは,立法事実がそもそもないのではないか,例えば昭和55年に配偶者の法定相続分を引き上げましたけれども,その時点から比較して,更に現在,また,引き上げなければならないという事情が本当に何かあるのかといった御意見や,本当に配偶者が一律に財産の形成に貢献していて,それを相続分に反映させなければならないといった事情があるのかといった御意見,また,このように配偶者の相続分だけを見直すということは,時代のすうせいに逆行しているのではないかといった御意見などで,そもそも,配偶者の相続分を上げるという方向性自体について反対であるという御意見が多数という状況でございます。また,先ほど申し上げたように各論自体についても,いずれについても賛成よりも反対の方が多く,また,甲案,乙案のいずれについても反対であるという御意見も多数であったと,こういった状況になっております。御質問の2点目につきまして,甲案については,例えば計算方式が複雑ではあるけれども,例えば一定の計算,エクセルとか,そういった計算表のようなものを配布するといったことで対応があるいは可能なのではないかという御意見はありました。ただ,諸外国の法制と比較した上で,できるのではないかという御意見まではなかったように記憶しております。
○大村部会長 沖野委員,よろしいでしょうか。
○沖野委員 本当は自分で調べなければ,あなたはどういう資格でここに来ているのかと問われそうなのですけれども,何かエクセル表の中には,これとこれは婚姻後に増加したものだということが分かるものだけででも対象として算出するとか,そんな方法があるのかなと素人的には思ったのですが,調べた方がいいのではないかなと思います。総論のところで非常に反対が大きいとすると,それは一層問題だと思います。ただ,総論も甲案と乙案とでは少し総論的な方向も違う面がありますので,もう少し考えてはどうかというのが基礎にあるものですから,今のような質問になりました。
○大村部会長 沖野委員,今の甲案と乙案とでは方向が違うということと,先ほどのもう少し検討した方がいいというのは,どちらかというと,甲案の方向でなお考えてみた方がよろしいのではないかと,こういう御趣旨でしょうか。
○沖野委員 パブリックコメントの中身を見ますと,その辺りであればむしろ家族制度の在り方として,受け入れられる余地があり得るように思ったものですから,私は従来は必ずしも甲案に賛成していたというわけではないのですけれども,見いだすとしたら,その辺りはまだあるのかなという感覚を持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承ります。
  そのほかにいかがでございましょうか。
○潮見委員 配偶者の相続分を見直せという立法事実はないのかもしれませんが,ただ,今回の諮問等では幾つかの意見にも出ていますし,正にここの部会でもいろいろ議論してきましたけれども,婚姻中の夫婦が共同で形成した財産というものについて,それをどのように相続の場面で処理するのか,現行制度はそれをきちんと反映していないのではないか,何とかしなければいけないのではないかという立法事実はあったのではないかと思います。また,配偶者が高齢になって,その配偶者にとっての生活保護という要素を相続制度の枠組みの中で考慮しなければならないのではないかという立法事実もあったのではないかと思います。
  特に後者は先ほどの長期居住権等にも関わってまいりますが,そうなってきた場合に相続分の引上げということについてはやめましょうと,甲案も乙案もやめましょうというのは,いかがなものでしょうか。ここでこのように決断するのは,それはそれで構わないとは思いますけれども,当初議論の出発点になった事柄について,今回の相続制度の見直しを考える場面で何も対応しないということで大丈夫なのかなと思います。例えば,先ほどの夫婦共同財産の清算という辺り,あるいは婚姻後の増加分の考慮というようなことを別の枠組みで何らかの形で考慮していくような方向にルールを持っていくことはできないのか,例えば遺産分割の際の考慮要素としてでも,せめてこういうことも考慮要素,しかも重要な考慮要素として入れるという辺りを書き込むとかできないのでしょうか。あるいは,高齢配偶者の生活保障ということが問題になるということであるのならば,先ほどの夫婦共同財産の清算もそうなのですが,相続分の引上げなんてよろしくないと言っている意見を拝見したんですけれども,そこでは,寄与分制度の見直しで対応するのがいいのではないかとか,あるいは寄与分制度の枠の中で考慮できるのではないかというふうな意見も出ているものですから,寄与分制度について今回の中間試案のところでは全て落としましたけれども,むしろ,第1ラウンド,第2ラウンドで議論してきたような,そういう方向を何らかの形でいかす観点から考えていくということも,ある意味では今回の諮問に対するお答えということではあってもいいのではないかと思います。
  もちろん,それを踏まえて現行制度も例えば寄与分とか,遺産分割の基準ということで十分であるということであるなら,それをそれとして,この部会として示せばいいことでありますから,落としてしまうのは惜しいというのはありますけれども,落とすのであっても,せめて,その部分については検討をお願いしたいなと思うところです。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。こちらとしても中間試案で挙げた甲案,乙案を基本的にそのまま維持するような形で要綱に盛り込むというのは,難しいのではないかというのがまずありまして,正直,ここの論点について検討している過程で,我々としては万策尽きたという印象を持っておりましたが,今,いろいろ御示唆も頂きましたので,その辺りを踏まえてもう一度,検討させていただければと思います。どうもありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  最後の方で出た何らかの方策につきましては,この問題もそうですし,それから,先ほどの長期居住権の問題についても併せて,何らかの方向性を示すことがなおできないかということについて,事務当局でさらに御検討いただければと思います。
○八木委員 要望という性格の方が強いのですけれども,配偶者の相続分の引上げという部分は,先ほどの居住権の部分の保護とあいまって,多分に政策誘導的な性格が強いのだろうと思います。すなわち,婚姻制度の優位性をどう強化していくのかという部分だと思うのですけれども,現在の社会情勢からすると,婚姻制度の優位性は更に強化して保護する方がいいのではないかという立場なのですが,ただし,大変厳しい評価が多いものですから,何とか骨格でも残していただけるような,あるいはせめて居住権の部分だけでも残していただくような,そういった工夫を是非,お願いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御意見として承り,検討していただきたいと思います。
  そのほか,いかがでしょうか。
○西幹事 先ほどの潮見委員のお話にもありましたけれども,立法事実があることは否定できないと思いますし,今回の立法の理念自体は私は非常に正当なものであると考えます。配偶者の婚姻中の貢献の考慮と,死後の生活保障,この二つの理念については恐らくパブリックコメントで今回,反対と言われた方の中でも多くの方は,その重要性は理解されていると思います。ただ,それを相続という場面において行うことが適当かという問題意識を持っている方が多いのではないでしょうか。今回,パブリックコメントの女性,男性の比率は分かりませんけれども,私は女性ですので女性という観点から見ましても,最近の立法の方向性には疑問も感じます。
  まず民法学者として申しますと,疑問の1点目は外国法との比較という観点です。恐らく今,日本の配偶者相続権は諸外国の中で最も強力,最も手厚く保護されていると思います。夫婦財産制との関係がありますので,全体として見ると最終的な実質取り分はそれほど多くないのですけれども,日本の民法はパンデクテン方式ですので,夫婦財産制と相続が近くにない構造になっています。相続の部分だけを見ますと,日本は異常に配偶者相続分が大きい国ということになりますので,そういう観点からも相続分をこれ以上,引き上げるということは避けた方がよい気がいたします。
  2点目は,女性としてどう思うかということですけれども,今回の法案で配偶者を保護するのはどういう方法かというと,夫より長生きしなさい,長生きした結果,こんなにたくさんもらえることになるんですよ,夫より先に死亡した場合は報われませんけれども,と恐らくこういうことになるのだと思います。実際,一般的には女性の方が長生きですので,一応妻の保護にはなると思いますけれども,それで保護されるのは主に配偶者の老後の生活保障の部分だと思います。婚姻生活中の貢献というのは,死なないと評価されないものなのか,という疑問は残ります。配偶者が生きている間には評価されず,死亡したときに初めて評価されるということになりますと,妻としては配偶者が死んだときに自分も高齢になっているのに,そのときに大金を与えられても,正直,使いにくいかもしれません。
  それよりは,むしろ婚姻中に何らかの形で自分の自由に使える,夫の許可を得ないで使える財産を与えられた方が有り難く,保護されていると感じるのではないでしょうか。これは,今回の相続法制の見直しの枠の中の話ではないと思いますけれども,例えば現在,配偶者に与えられている2,000万円の贈与税の控除額をもう少し増やすとか,何らかの形で生前の財産移転というものを促してもらった方が,女性の立場からしてみれば有り難いと感じます。
  それとも関係しますけれども,3点目です。日本では,何かにつけて女性の保護とか,配偶者の保護と言われると,すぐ相続分を上げればよいという形で,何でも相続に持ってこられる傾向にありますけれども,それを続けていると,今回は昭和55年改正から30年以上たっていますけれども,更に30年後には,今度,配偶者の相続分も5分の4にしようかという話になるのかもしれませんので,これ以上,いつも相続で何とかしようというのは,そろそろ,見直した方がよいのかなという気がいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  配偶者の権利,利益を保護するというところは,原理として多くの支持は得られるであろうけれども,しかし,それをどのように実現するのかという方策で考えたときに,相続法の中で処理するのには限度があるだろうという御意見だと伺いました。
  ほか,いかがでございましょうか。
○沖野委員 西幹事に伺いたいのですが,相続分をこれ以上,引き上げる必要はないということと,それから,むしろ,婚姻法制を含めた検討の方が,あるいは婚姻法制の方での検討が望ましいというときに,先ほど申しましたように甲案と乙案では大分,問題意識は共通するとしても技法の方向が違うということで,甲案の方は西幹事がおっしゃるような関心に近い面を持っているのかなと思いながら伺っていたのですけれども,そういうことはないのでしょうか。
○西幹事 私がお答えすればよろしいのでしょうか。
○大村部会長 お願いします。
○西幹事 そうかもしれません。ただ,甲案は実際上難しそうでも,財産分与の応用版としてやるのであればできないわけではないという御指摘はもっともだと思いますが,個人的には少し煩雑すぎるかなと…。私が先ほど申し上げたのは何か新しい法制を作るということであれば,かなり労力が掛かりますので,むしろ,贈与を行いやすくして,配偶者へ贈与すると税制面で優遇しますよとか,そういう現行民法の大きな枠組みを動かさず,少し柔軟性のある制度で生前の財産移転を促すということを考えてもよいのではないかということです。
○大村部会長 沖野委員の御趣旨は,甲案は夫婦財産制の清算なので,婚姻法のレベルでの問題がたまたま相続法制に入っているということにすぎないのではないかという御指摘だったと思います。
  乙案も先ほど沖野委員から御質問が出ましたが,外国法制がどうかという問題はありますけれども,夫婦財産制の清算について相続分の増加という簡易な方法を採用している国もありますので,それは理屈の上ではあり得ると思います。ただ,西幹事がおっしゃっているのは,相続法がどこまで夫婦の財産関係を背負うことがよいのかを考えなければならないという御意見だと伺いました。
  ほかにこの点につきまして。
○山田委員 西幹事の御意見に賛成の部分が多うございます。夫婦財産制と相続でどのように配偶者が貢献も含めて確保するかというのは,セットで抜本的に時間を掛けて検討していただければ幸いだと思っております。
  もう1点,西幹事が御指摘された中で私も非常に共感するのは,我慢して頑張っていれば相続のときに報われるからねというのは,これはおかしいのではないかと思います。生前,夫婦で話し合って,あるいは介護等の問題についても家族兄弟間で話し合って,こう分担しましょうという中で,それぞれが納得して応分の分担をしながら前向きに生活していくのが望ましいのだろうと思います。相続のときに報われるからねというのは,ふたをあけてみないと分からないことであり,なおかつ,その時点では自分も高齢で,相当,エネルギーの枯渇しているというような状況です。家族の中で親族間で話し合って物事を解決して,合意の中で推移してきた事柄であれば,ある意味,契約法理等で解決でき,相続の法で手当てしなくてもいいというような問題も多かろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  西幹事の御発言について事務当局の方から御発言があるということですので,どうぞ。
○神吉関係官 西幹事にお伺いしたいのですが,御発言の御趣旨は相続ではなくて,贈与の方で処理できるような法制も考えるべきではないかという御発言だったと理解しております。ただ,生前贈与につきましては特別受益であるということで,遺産分割の場面で持戻し計算をされることもあろうかと思います。現行法のもとで贈与の方に誘導していく政策として,先ほど西幹事からお話がありました相続税法における贈与税の特例というものがあるかと思いますが,これは20年以上の夫婦の場合については居住用不動産の持分又は全部を贈与した場合には,2,000万円の控除があるという制度であろうかと思いますが,具体的にお伺いしたいのは,そういった贈与税の特例などを使った生前贈与があった場合については,遺産分割の場面で持戻しの免除の黙示の意思表示があったと,そういった形で理解できるのかどうかという点をお伺いできればと思います。そこが,持戻しの免除の黙示の意思表示があったとは理解できないとすると,最終的な遺産分割の場面で,修正されてしまって,最終的な取り分がなくなってしまう,生前贈与するメリットが余りなくなってしまうのかなという気がするのですが,その点についての民法の考え方というのがどうなのかなというのが,私も判例とかを調べてみたのですが,余りなさそうなので,一般的にどう理解したらよろしいのか,お伺いできればと思います。
○大村部会長 何かあれば。
○西幹事 持戻免除の意思表示があったとみなすというのは可能なのではないかと思います。そこに,例えば10年以上の夫婦の場合は,などの条件を入れることも可能かもしれません。配偶者に贈与するときは持戻免除の意思表示を必ずするようにというアドバイスをすることもできると思います。そうすることによって,遺産分割の場面で修正されてしまう可能性を減らすことはできます。残る問題は恐らく遺留分のところで出てくる問題で,持戻免除があっても遺留分算定のときには算入され,減殺の対象になり得てしまいますので,それを避けたければ,例えばフランスのように,配偶者のために特別の自由分を設けることも考えられます。配偶者に上げた場合には,遺留分算定の基礎から除き減殺されないというような制度にすることも考えられます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  この第1点は大分長くなりましたけれども,ほかに何か。
○潮見委員 直前の山田委員の御発言,西幹事にも絡んでくるのかもしれませんけれども,一言だけ申し上げたいことがあります。おっしゃることはごもっともだと思います。話合いで生前に解決するということができ,また,そこに契約法理というものが機能するというのは非常に望ましい世界だと思います。問題は,生前にそのような取決めとか話合いとか,いわゆる契約なるものがうまくいかなくて,それが相続の世界になだれ込んだときに,そこで配偶者あるいは法律婚をどのように保護するのか,どの程度,保護するのかにあって,このことが正に問われているのではないかと思います。その問題を抜きにして,生前の問題としてこれを処理するのが望ましいというだけでは,この問題は私は話がつかないと思います。
  確かに,生前の問題と,それから,相続の制度の枠組みを全体的に考慮して,全体的にいい形で処理するというのはこれでいいと思うんですが,ただ,今,申し上げたようなところで考えていました場合には,生前の問題も含めて議論しましょうということになると時間は掛かりますし,時間を掛けて慎重にやればいいのかもしれませんけれども,問題は現在の時点でも一杯生じているわけであって,それを処理するための相続制度という枠組みをどのように考えるのかということ自体は,私は独立に取り上げることに値するものではないかと思うところでございます。
  そうした中で,配偶者の相続分をどうするかという形で扱うのはちょっと変であるとか,誤解を招く,あるいは比較法的に問題があるというのは,それはそれとしてわかりますが,今回の諮問は相続制度の中でいかにそれをルールとして構築していくかというところを考えているわけでありますから,まずは相続制度の部分について意見を出し合っていくというのが個人的には望ましいのではないかと思う次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  相続法の中で何ができるのか,やるべきことがあるのではないかということをこの場では考えるべきではないか。より大きな問題は様々な形で残ると思いますけれども,やれることからやるべきではないか。こういう御意見だと承りました。
  ほかに,この第1点につきまして,いかがでしょうか。山田委員,何か御発言はございますか。
○山田委員 潮見委員の御指摘はごもっともでございます。感想めいたことということで発言させていただいたんですけれども,寄与分制度についての再検討も含めて相続の場面で何ができるかということで,ない知恵を絞らせていただきたいとは思っております。
  それとあと,なかなか,甲案が難しい背景としては,フランスの公証役場に行けば,どう財産が形成されてきたということが家族にとって分かるというようなお話を伺ったところでございますけれども,日本では,なかなか,そういう措置もなく,一方,若い家族などは収入共同,経費共同,それぞれであったり,これからは変わっていく部分もあろうかとは思います。また,地域によって,それぞれの事情も違うと思うので,法制度として何ができるかについて,背景的なところに目が向く次第です。
 生前に贈与の制度を使ってほしいと言いたいんだけれども,なかなか,言えなくてという御相談を受けたりすることもあるものですから,そういう環境が醸成されればいいなという思いも込めて先の発言をさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2の1につきましてほかにございますか。
○金澄幹事 甲案,乙案の両方とも全部残して検討するのかということについては異論がございます。実務の観点からしますと,相続は分かりやすく国民一般に,誰も経験することですので,きちんと分かりやすく単純明快であるということが必要だと思うのです。けれども,甲案は相続分の計算が非常に難しいことになってきて,パブコメでも皆さんがおっしゃっているとおり,不可能に近いのではないかという御意見もある中で,比較すれば甲案よりも乙案の方が分かりやすく,かつ,ある程度,問題点はあるにしても検討していく価値はあるのではないかと思います。甲案は理念としてはよく分かる部分もございますけれども,分かりにくく複雑すぎるという問題点があるので,実務をやっている立場からいたしますと,これを採用するとほとんど全ての事件がもしかしたら裁判所に来なければいけないような事案になるのではないかという懸念がございます。そういう中で考えますと,甲案も乙案と同じようにこれから検討課題として残すということではなく,配偶者の相続分について検討をするためにどちらかを残すというのであれば,乙案の方を残して検討した方がいいのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  パブリックコメントの結果を見て,第2の1については諦めようかという方向が,当初,事務当局の方から出されておりましたけれども,なお,もう少し頑張るべきではないかという意見が複数の委員・幹事から寄せられたと思います。そのときに一定の絞込みをしないと,検討が難しいのではないかという御意見として,今の金澄幹事の御意見を承りました。甲案にするとしても,大きな貢献だけを捉えてくるような部分的な制度で,より単純化されたものは考えられないのだろうかということを,沖野委員は先ほど示唆されたように思いますけれども,そんなものも含めて,より簡明な案で何か更に考えられるものはないかということをもう少し考えたいというのが皆さんの御感触かと思います。特に今,ここでまとめる必要もないのですけれども,そんなところで先に進ませていただいてよろしゅうございますか。御発言がなければ先に進ませていただきたいと思いますが,いいですか。ありがとうございます。
  それでは,第2の2と3につきましてまとめて御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○浅田委員 2の可分債権に関しましては,パブコメ前の審議において私どもの方から何回か,御意見を申し上げたところでございます。今回は最高裁大法廷の結論を待つという方向が提示されていると理解しております。申すまでもなく,司法と立法というのはまた別のものでございますので,大法廷の結論があったからといって,立案がそれに引きずられなければならないということではないと思います。必要性,有用性,妥当性の観点から,この審議会において議論すべきだとは思っております。
  ただ,司法の判断ということも重要なものでありますし,また,当該司法判断の中で,相続法以外の可分債権に関する規律の判断であったり,本審議では取り扱わないかもしれない判断がなされるかもしれないところだったりすることも併せて考えますと,大法廷の結論というのは重要な考慮要素だと理解しております。それらを考えますと,この審議に関して最高裁における判断を待つという点について異論はないと考えます。ただ,これまでの審議で述べましたとおり,銀行界として非常に対応を検討すべき多い論点でございますので,事務当局におかれましても,これまでの審議やパブコメに対する意見で述べられたものについては,引き続き検討いただければ有り難いと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。貴重な御意見として伺いました。
  ほかにいかがでございましょうか。議論しなければいけない点はたくさん残っているのですけれども,今,浅田委員からも御指摘がありましたけれども,前提に係る部分について重要な判断が下されるかもしれない。もちろん,立法する際に,それを上書きすることはできるわけですけれども,我々が考えている前提が変われば,我々の考え方も変わるかもしれないということかと思います。浅田委員の方からは,そういう意味で最高裁決定を待った上で,しかし,ここで適切な議論をするべきだという御意見を頂いたと思っております。
  そのほか,いかがでございましょうか。少し待ってみようということについては,なかなか,意見が出にくいかと思いますけれども,大法廷は大法廷,我々は我々でやるという意見もなかなか言いにくいところもあろうかと思います。浅田委員の御発言が全体の雰囲気を代表しているようにも思いますけれども,何かほかに特別な御発言がございましたら承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  では,この点につきましては今の御発言に代表されるような議論の状況であると認識いたしまして,先に進ませていただきたいと思います。
  次でございますが,次は第3の「遺言制度に関する見直し」ということになります。項目が四つございますが,一括して御説明を伺いまして,一つずつ順番に御意見を伺っていこうと思います。まず,事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から部会資料の「第3 遺産分割に関する見直し」について御説明させていただきます。ページとしましては11ページからになります。
  まず,1の「自筆証書遺言の方式緩和」につきましてですが,そのうち,全文自書の緩和につきましては偽造及び変造のリスクを懸念して反対する意見も相当数ありました。ただし,それは緩和によって遺言者の負担を軽減することができ,遺言の作成促進にもつながるとして賛成する意見があり,こちらの方が多数を占めております。なお,財産の特定に関する事項を自書以外の方法で記載した全てのページに同一の印の押捺を要求することの要否につきましては,偽造等を防止するために必要であるとの意見と,形式不備による無効の危険が増すことを考慮して不要とする意見とに分かれました。
  続きまして,加除訂正の方式緩和につきましては,賛成意見が出されました一方で,偽造・変造の懸念があること,加除訂正の場合も含めて署名及び押印の双方を要求するものとした方が分かりやすいなどとして反対する意見もあり,賛否が分かれました。
  以上のとおり,自筆証書遺言の方式緩和に関する方策のうち,全文自書の緩和につきましては賛成の意見が多数を占めたところであり,今後も中間試案の考え方を基本として検討を進めるのが相当と思われます。これに対し,加除訂正の方式緩和につきましては,偽造又は変造のリスクが高まるとして反対する意見が相当数寄せられたところ,全文自書の緩和と併せてこれを行うとすると,そのリスクがより高まるおそれがあることも考慮しますと,場合によってはこの段階で断念することも考えられます。これらの方向性についてどのように考えるか,御意見をお伺いできればと存じます。
  続きまして,資料の12ページ,2の「遺言事項及び遺言の効力に関する見直し」について御説明いたします。
  まず,「パブリックコメントの結果の概要」を御覧ください。(1)の「権利の承継に関する規律」のうち,①の遺言による権利変動にも対抗要件主義を採用することに関しましては,中間試案に賛成する意見が大勢を占めまして,これに反対する意見は少数でございました。賛成する意見の主な理由ですが,遺言の内容を知り得ない第三者の保護ですとか,遺産分割の場合と区別すべき理由はないというものがございました。他方,反対する主な理由としましては,対抗要件主義をこの遺言の場合に採用した場合には,相続開始の事実を知った相続人の債権者がいち早く法定相続分を差し押さえるなどして,遺言の実現が妨げられるというような不都合を指摘するものもございました。
  続きまして,②の債権を取得した場合の対抗要件の具備についてでございます。こちらについては,その方法として遺言執行者や相続人から通知を要求することとする中間試案の考え方に賛成する意見がほとんどでありましたが,可分債権に関する最高裁の判断を見た上で,再度,検討すべきであるという慎重な意見も一部寄せられました。もっとも,中間試案の考え方に賛成する意見の中におきましても,相続人全員による通知に関する部分につきましては,債務者保護の観点から相続人全員による通知が必要という意見が寄せられた一方で,遺言の内容に反対する相続人については,その協力を得ることは難しいのではないかなどとして,権利を取得した相続人による,より簡易な通知方法を検討すべきとの意見も複数寄せられたところでございます。
  そこで,今後の方向性についてですが,中間試案の考え方を基本としながら,パブリックコメントで指摘された問題点を中心に,引き続き検討を行うのが相当と考えております。
  続きまして,(2)の義務の承継に関する規律及び(3)の遺贈の担保責任に関する規律についてでございますが,これらについてはいずれも賛成する意見が大勢を占め,これに反対する意見は僅かでありました。これらについてはパブリックコメントの結果も踏まえまして,中間試案の考え方を要綱案に盛り込む方向で検討を進めたいと思っております。これらの方向性につきましても御意見を頂ければと存じます。
  続きまして,13ページを御覧ください。3番の「自筆証書遺言の保管制度の創設」の部分です。この点につきましては,遺言書の紛失や隠匿の防止につながり,遺言書の有無の検索が可能となることで相続人の利便性も向上するなどとして,賛成する意見が全体としては多数を占めましたが,他方で,システム構築のため,多額のコストが掛かるほか,紛争防止効果にも限界があるとして,反対する意見も相当数あったところでございます。また,賛否を留保した上で,保管機関の選定や運用面の様々な論点につきまして,更なる検討を求めるという意見もございました。
  次に,パブリックコメントで指摘された個々の問題点ですが,まず,保管業務を行う公的機関につきましては,全国に相当数存在し,利便性がある一方で,遺言者のプライバシー保護も確保できる機関として法務局が相当との意見が最も多く,これに続いて公正証書遺言の保管実績のある公証役場を挙げる意見が多かったというところでございます。このほか,利便性が最も高いことを理由に市区町村役場が望ましいとする意見も寄せられましたが,これに対してはプライバシー確保や秘密保持の観点から,問題があるという反対意見もあったところでございます。
  また,公的機関が保管することにより,利用者が遺言の有効性について誤解するおそれがあるという指摘が相当数あり,その対応策として保管手続を行う際に遺言書の形式的要件,日付ですとか押印等のチェックをし,無効であることが明らかなものについては,保管を拒絶すべきであるという意見も寄せられたところでございます。
  このように,自筆証書遺言の保管制度の創設については,反対意見もありましたものの,制度の創設に期待する意見も多く,制度の具体的内容について更なる検討を求める意見も相当数寄せられました。そこで,今後の方向性,方針ですが,自筆証書遺言の保管機関を具体的に選定するとともに,パブリックコメントで指摘された運用上の問題点を中心に制度の具体化に向けて引き続き検討した上で,最終的に制度創設の是非を判断するのが相当と思われます。この点についてもお考えをお伺いできればと思います。
  最後に,14ページの4番,「遺言執行者の権限の明確化等」についてでございます。
  まず,(1)の遺言執行者の一般的な権限等に関しましては,賛成する意見が大勢を占めまして,遺言執行者の一般的な権限を明確化すること自体に反対する意見はございませんでした。もっとも,この中間試案の考え方に賛成する意見の中でも,遺言執行者の法的地位をより明確にすべきであるとの意見があり,また,その一般的な権利義務の内容についても様々な指摘がございました。更に通知義務の有無及び範囲につきましては,相続人だけではなく,受遺者もこれに含めるべきであるとする意見など,多数の意見が寄せられたところでございます。
  そこで,今後の方向性についてですが,パブリックコメントの結果を踏まえまして,中間試案の考え方を基本としながらも,そこで指摘された問題点を中心に引き続き検討を行うのが相当と考えております。
  続きまして,(2)の「民法第1013条の見直しについて」ですが,結論としましては乙案に賛成するとの意見が多数を占め,甲案に賛成するとの意見は少数でした。なお,甲案,乙案のいずれについても反対するという意見も一部寄せられました。この結果を踏まえますと,今後の方向性としましては乙案を基本として検討を進めるのが相当であると考えております。
  (3)の「個別の類型における権限の内容」の「ア 特定遺贈がされた場合」についてでございますが,これについても結論としては中間試案の考え方に賛成するという意見が大勢を占めましたが,より権限を具体的に明確化すべきであるという意見も複数寄せられたところでございます。今後につきましては,中間試案の考え方を要綱案に盛り込む方向で検討を進めるのが相当と考えております。
  更にイの「遺産分割方法の指定がされた場合」でございますが,これについても結論としては基本的には中間試案の考え方に賛成する意見が大勢を占めました。ただし,個別の権限については様々な意見が寄せられました。
  具体的に申しますと,まず,対抗要件具備行為に関する権限についてですが,不動産を含め,遺言執行者の権限とすることに賛成するとする意見が多数を占めましたが,これに反対する意見も複数寄せられたところでございます。
  特定物の引渡権限については,こちらについても,原則としては遺言執行者の権限としないという中間試案の考え方に賛成する意見が大勢を占め,こちらに反対する意見は僅かということでございました。
  預貯金債権の行使権限につきましては,預貯金の行使権限自体を遺言執行者の権限とすることについては,これに反対するという意見はございませんでした。ただし,その範囲については預貯金債権に限って行使権限を認めるという考え方と,それ以外の例えば投資信託等の金融商品についても,広く行使権限を付与すべきであるという意見が分かれたところでございます。
  そこで,遺産分割方法の指定がされた場合の遺言執行者の権限の今後の方向性についてでございますが,遺言執行者に行使権限を認める権利の範囲については様々な意見が寄せられており,引き続き慎重な検討を要するものと考えられますが,その方向性自体については多数の賛成が得られましたので,中間試案の考え方を基本としつつ,パブリックコメントで指摘された問題点を中心に,引き続き検討を進めるということが相当であると考えております。
  (4)番の「遺言執行者の復任権・選任・解任等」についてでございます。
  まず,パブリックコメントの結果についてですが,中間試案の考え方に基本的に賛成する意見というのがこちらも多数を占めたというところでございます。もっとも,個々の規律の内容については,中間試案の考え方と異なる意見が複数寄せられました。少し具体的に説明しますと,まず,復任権,辞任,権限喪失等の規律についてでございますが,一部について復任権を行使した場合や,一部の辞任や一部権限喪失した場合につきましては,遺言執行者の権限の範囲が不明確となり,取引の安全を害するおそれがあるということで,これに反対するという意見がございました。その関係で,遺言執行者の権限の範囲を明確にする規律を設けるべきという意見が複数寄せられたところでございます。また,遺言執行者の一部辞任や一部の権限喪失につきましては,むしろ,こういう場合には全部を辞任させたり,全部の行為の権限を喪失ないし解任させる方が合理的ではないかという意見もございました。
  そのほか,遺言執行者の選任や解任の申立権者につきましては,現行法と同様,遺言の実現によって間接的に利益を受ける者についても認めるべきであるという意見も複数寄せられたところでございますし,遺言執行者の欠格事由についても,これを定めるべきという意見も少数ながら寄せられたところでございます。
  そこで,今後の方向性についてでございますけれども,基本的には中間試案の考え方を基本としつつ,パブリックコメントにおいて指摘された問題点を中心に,引き続き検討を進めるというのが相当であると考えております。以上,遺言執行者の権限についても,今後の方向性について御議論いただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御意見を賜りたいと思いますが,四つに分かれておりまして,多岐にわたりますので,まず,1の「自筆証書遺言の方式緩和」について御意見を伺いまして,そこで,一旦,休憩を挟ませていただきたいと思います。まず第3の1につきましては,全文自書についてはこの方向で検討してはどうかということが先ほど御説明にありましたけれども,加除訂正の方式緩和は反対が多いのではないか,なかなか,難しいのかもしれないという御説明だったかと思います。これらにつきまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。特に御指摘,御意見等はございませんでしょうか。
  加除訂正の方式緩和について,この段階で断念することも考えられるという方向性についての説明もありましたが,さらに考えた方がいいのではないかという御意見がありましたら伺いたいと思います。ほかの点でももちろん結構です。
○沖野委員 もう少し考えるといっても選択肢がなくて,先ほどの甲案,乙案であればもう少し工夫できないか,その余地があると思うのですが,この問題は,印鑑はなしにするけれども,別のものを加えるとかは考えられませんので,やりようがないのではないか。そうだとすると,こう賛否が分かれる中でリスクが高まることは確かだと思いますけれども,それでも,意思として署名まで書いていれば,こうではないかということを重視するのか,それは押印すれば済むことであるし,取り分け,国民意識としてリスクが高まることへの懸念も相当数示されているのであれば,そこの見直しはやや時期尚早として,ここでやめてしまうか,どちらかしかないのではないかと思われます。私は事務局の御提案でよろしいのではないかと,断固としてという感じではなく,そう自信があるわけではないんですけれども,事務局の御提案でいいのではないかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  工夫の余地が乏しいのではないかと,結論を先延ばしにしても余り変わらないという御趣旨かと思いますが,ほかにはいかがでございましょうか。
○大塚関係官 御提案の趣旨を若干敷衍させていただければと思うのですが,私どもは正直なところ,断念が望ましいということを考えているわけでは全くなくて,二つのメニューを今回,考えており,全文自書の緩和の方が非常に大きな見直しになるのであろうと考えているところでございまして,その中で,こちらの加除訂正方式の緩和まで二本立てでやってしまうところまで踏み込んでもよいのかどうか,それによって偽造変造のおそれは一つだけをやるよりも強まるという面はどうしても出てきてしまうので,そこまで踏み込んでよいのかどうかというところが躊躇としてはあると,他方で,加除訂正につきましても,それも含めてやってしまってもよいんだという賛成意見も,それなりに頂いているところでもございますので,ここですぱっと切ってしまうというところにも,やや躊躇があるというところがございましたので,御意見を頂戴できればと,こういった趣旨でございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  補足の説明を頂きましたけれども,何か皆様の方から御意見等があれば承りたいと思います。いかがでしょうか。次回の資料から直ちに落とせということでは必ずしもないけれども,どうしてもこれをやろうということでもないというまとめでよろしいですか。あるいは第1点の,全文自書の緩和ということと絡めた形で,全文自書の緩和自体が一定のリスクを抱え込むことになるので,更に緩和するということについてより慎重に考えるべきではないかというのが事務当局の説明だったかと思いますけれども,全文自書の方についても御意見があれば伺いたいと思いますが,よろしいですか。事務当局の方から何かありますか。
  それでは,御説明について特に大きな御異論はなかったということで,今日のところは引き取らせていただきたいと思います。
  残ります第3の三つの項目につきましては休憩を挟んで,更に御意見を承りたいと思います。3時40分まで休憩ということにさせていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,時間になりましたので再開させていただきたいと思います。
  先ほど第3の遺言制度の見直しのうちの1まで御意見を頂戴いたしましたので,2の「遺言事項及び遺言の効力に関する見直し」のところから,引き続き御意見を頂戴したいと存じます。この2につきましては,遺言による権利変動にも対抗要件主義を採用するということにつき,反対意見等もございましたけれども,全体として中間試案の考え方に賛成するという意見が大勢を占めているということで,その線で更に検討するということでよろしいかという御説明があったかと思います。何か御意見がありましたら承れればと思います。いかがでございましょうか。この点も御発言はございませんでしょうか。何かありますか。
○沖野委員 その方向で,つまり中間試案の考え方を基本に,指摘された問題点に取り組むということで結構だと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
  では,方向性については特に御異論がないということで,これにつきましては更に検討するということで進めさせていただきたいと存じます。
  その次は第3の3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」ということでございます。これにつきましては,先ほど資料についての訂正がございましたけれども,訂正された内容を基に御意見を頂戴できればと思います。賛成意見が多数であるけれども,反対意見も相当数あった,保管機関の在り方を具体化するということについて,意見等があるというお話であったかと思います。これにつきまして何かございますか。いかがでございましょうか。
  それでは,この点につきましても特別な御意見はないということで,先ほどの御説明の線に沿って,今後,更に検討を続けたいと思います。
  4番目の「遺言執行者の権限の明確化等」についてでございますが,遺言執行者の権限を明確化するということ自体については賛成が多かったということでありますけれども,具体的な問題については幾つかの問題があるということでした。1013条につきましては,甲・乙両案を示しておりましたけれども,乙案に賛成する意見の方が多かったということが先ほどのお話でございました。また,個別の類型に関する権限の内容につきましては,どこまでのものを認めるかということにつき,意見の分かれがなおあるということだったかと思います。この点につきましてはいかがでございましょうか。特にございませんでしょうか。
  第3の遺言制度の見直しということにつきまして,特段の御意見を頂いておりませんけれども,何か全体を通して御指摘等があれば承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 自筆証書遺言の簡易化と,それから,今度,保管制度を創設するというのは,今度の法制審でいきなり議論に入ってきたことで,ワーキングチームなどでの審議の結果もなかったので,何となくどきどきしているというのが私の本心なんですが,今度のパブリックコメントで指摘されたところでなるほどと思ったんですが,保管機関を具体的に考えて,保管機関でやれることというのをもう少し吟味していただくことによって,私のどきどき度合いは下がるような気がいたします。
  つまり,自筆証書遺言というのは,母法の場合にはほとんど公証人がみんなチェックしていますので余り危なくないわけですが,自筆証書遺言で書きやすいぞということになりますと公正証書と違いますので,いろいろなものがたくさん出てきかねない,しかも簡易化されるということになると出てきかねないんですが,保管機関のところである程度,何らかチェックができるということになりますと,安全性も高まるような気がいたします。そのチェック内容についてどきどき度合いが下がるような御検討を頂ければと思います。つまり,ここで形式的要件のチェックなんかが上がっておりましたけれども,私が念頭に置いておりましたのは本人確認です。本人確認をそこでしていただくということが入るか,入らないかで大分違ってくるだろうと思いますので,その点を,つまり,本人がそこに来られられないような場合は,公正証書遺言に流すということの方がよいかと思いますし,そこが入らないと,偽造変造の可能性がすごく高くなると思いますので,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほど事務当局の説明の中でも,その点についての御指摘がありましたけれども,うまく制度を仕組むことができれば意味のあるものになるかもしれないということで,そこのところを具体的にという御指摘として伺いました。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 今の御発言との関連でもあるんですが,弁護士会でかつて同種のことをやられたんだけれども,うまくいかなかったということがパブリックコメントで出ております。もしできれば,どういうふうな制度で,どのようにうまくいかなかったのかということを調査できれば,今後の制度設計に役立つのではないかという感想を持ちました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御指摘がありましたので,可能な範囲で調査をしていただければと思います。何か弁護士の先生方,今の点についてございますか。
○山田委員 複数の弁護士会で内容はそれぞれですが,手掛けたことはあるやに聞いております。やめた理由もそれぞれだと思いますので,不正確な発言より,取りまとめた上で御紹介できればと思います。大阪弁護士会の点は,増田委員。
○増田委員 私も正確な情報をつかんでからにしたいと思います。
○大村部会長 分かりました。今の点も含めまして,弁護士の先生方の御協力も得て,もう少し調査をするということにさせていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○西幹事 時間があるようでしたら教えていただきたいのですが,遺言執行者の権限のところで,預貯金債権の行使権限なども入っていますけれども,先日,施行された成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律によって,成年後見人が成年被後見人の債務を弁済するために預貯金の払戻しを受けたり,一定の場合に一定の死後事務ができる明文規定がおかれたように記憶しています。それと遺言執行者の権限との関係は特に問題にならないという理解でよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には成年後見に関する民法の改正部分は,後見人が行うことができる死後事務の範囲を明確にしたものですが,改正前も一定の特別な事情がある場合に,本人の死後に成年後見人が一定の行為をすることができる場面はありましたし,そのような場合に成年後見人が預貯金を引き出せるという場面もあったということだろうと思いますので,そこは今回の改正によって新たに生じた問題ということではなく,基本的には改正法に規定する要件を満たしていれば,基本的には管理している財産を引き継ぐまでの間は,成年後見人の方で引き出すことが可能になるということだろうとは思います。
○大塚関係官 御指摘の点に関しては一概には言いにくいところでございまして,というのも,時系列を含めて立体的に考える必要がどうしても出てきてしまいます。というのも,例えば,相続開始後に遺言が迅速に見つかっており,なおかつ,遺言執行者が直ちに業務を開始している場合であるのか,あるいは遺言があるのかないのか分からない場合であるのか,あるいは特に問題なく分割協議が進んでいる場合であるのか,それによってそれぞれ展開が違ってくると思います。
  初めに申し上げたような場合ですと,既に遺言執行者が業務を執行している限りは,死後事務としてそこに後見人がしゃしゃり出てくる余地は,余りないのではないかという感じがいたしますし,元々,相続財産である限りは相続人,有効な遺言があるのであればその遺言に書かれた方がその財産を承継するわけですので,その引継ぎがされているのであれば,基本的にはその方たちによって,成年被後見人であった被相続人の債務の支払等々がされるべきという立ち位置になるかと思います。それができない場合,例えば,相続人となる方との連絡がとれない場合にどうすべきかというところで初めて,成年後見人であった方による死後事務の問題が出てくることと思いますので,その前提がどのようになっているかを踏まえて,個別に検討する必要があるのではないかと現時点では考えています。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  それでは,第3の遺言制度の見直しにつきましては,基本的には事務当局から御説明があったような方向で,更に検討を進めるということにさせていただきたいと存じます。
  次の第4の項目,「遺留分制度に関する見直し」に入らせていただきます。この点に関しては,3点と(後注)がございますけれども,説明は一括して伺いたいと思います。事務当局の方からお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第4の「遺留分制度に関する見直し」について御説明をさせていただきます。
  まず,「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」に関するパブコメ結果ですが,減殺請求権の行使によって生ずる権利を原則,金銭債権とする点につきましては賛成する意見が多数を占めましたが,必ずしも現行法の問題点を解決することにはならない,あるいは中間試案の考え方を採用すると,むしろ,より問題が大きくなるなどとして反対する意見も複数寄せられました。また,受遺者又は受贈者の意思表示により,遺贈又は贈与の目的物による弁済を認める制度の創設については,いずれの案も反対という意見も相当数ありましたが,甲案と乙案で比較すると甲案に賛成する意見が多数を占めました。なお,甲案につきましては当事者間で不要な不動産の押し付け合いになるのではないか,また,訴訟法上の問題点があるのではないか,受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示を出すことにより,遅滞責任を免れるというのはおかしいのではないかなどの意見が寄せられております。
  そこで,今後の検討の方向性ですが,引き続き減殺請求権に物権的効力を付与している現行法の規律を見直し,これを原則として金銭債権化する方向で検討を行った上で,その検討結果を踏まえ,最終的に見直しの是非について判断することとするのが相当であるように思われますが,この点につきまして委員の皆様の御意見をお伺いしたいと思います。なお,先ほども申し上げたとおり,甲案と乙案で比較いたしますと甲案がパブコメにおいては多数意見ではあるものの,一方で,様々な問題が指摘されていることから,本部会資料では甲案を採用した場合の訴訟の流れにつきまして,パブコメ期間中に事務当局において検討しておりましたその整理を御説明させていただき,委員の皆様の御意見をお伺いできればと思います。
  そこで,(4)の甲案を採用した場合の訴訟の流れにつきまして御説明させていただきますが,具体例に基づきまして御議論いただいた方が分かりやすいかと考え,部会資料に記載のとおり,設例を用意させていただきました。
  事例といたしましては,被相続人が相続人Yに対し,全財産である3筆の土地及び現金を遺贈又は生前贈与し,ⅩがYに対して減殺請求をしたというものです。土地A及びBの価額に争いがあり,Xの計算によれば遺留分侵害額は1,000万円となり,また,Yの計算によれば遺留分侵害額は600万円となり,YはC土地による現物返還の意思表示を行いました。また,裁判所は審理の結果,遺留分侵害額はXの主張どおりであると認定した上で,現物返還としてC土地を返還させ,その余については金銭での支払を命ずるのが相当であると判断したものといたします。
  この場合,裁判所といたしましては部会資料に記載のとおり,㋐当初の金銭請求に対応する給付判決,また,㋑遺留分権利者の返還すべき財産の一部を金銭から遺贈等の目的物に変更し,その目的物の内容を定める形成判決,そして,㋒形成判決が確定することを条件とした給付判決,この三つの判決を行うことが当事者の希望に最もかなうのではないかと考えられます。
  この場合に,当事者にどのような請求をどの段階で立てさせるのかが問題となりますが,特に問題なのは㋑の形成判決をするためには,受遺者又は受贈者に反訴を提起させる必要があるかという点でございます。判決をするためには,それに対応した請求を立てる必要があるというのが従来の考え方でございまして,形成判決をするために反訴を提起させる必要があるということになろうかと思いますが,部会資料にも記載のとおり,このような考え方を前提とすると,本訴,反訴,反訴に対する反訴と三つの訴訟が継続するのが遺留分減殺請求訴訟のスタンダードの形態になるということになりまして,手続としてやや重すぎではないかというのが問題意識としてございます。
  そこで,これらの点を考慮いたしまして,裁判所は受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示をしたという事実を主張した場合には,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,返還すべき遺贈又は贈与の目的財産の内容を定めることができるなどの規定を設け,受遺者又は受贈者に別途,請求を立てさせることなく,裁判所が形成判決することを可能とする措置を講ずるということが考えられるように思われます。
  他方,㋒の給付判決につきましては,同じように法律上の根拠を設けて,当然に給付を命じることができるようにすることも考えられますが,そこまでする必要はないのではないか,その点については当事者の意思に委ねるべきではないかとも考えられます。三読目以降でも改めて議論していきたいとは思いますが,今後,手続の詳細を検討するに当たって委員の皆様の御意見,御感触をこの段階で御教示いただければと思います。
  引き続きまして,2の「遺留分の算定方法の見直し」につきまして御説明させていただきます。
  まず,生前贈与の範囲に関するパブコメの結果でございますが,反対意見も相当数寄せられたものの,中間試案の考え方に賛成する意見が多数を占めました。なお,限定すべき期間につきましては,中間試案の考え方に賛同する意見におきましても慎重に議論すべきとの意見が多く,10年程度が相当ではないかとの意見が複数寄せられました。
  今後の方向性ですが,部会資料に記載のとおり,遺留分減殺請求の制度を第三者に対するものと相続人に対するものを一つの制度として包含する現行法の規律を前提にする以上,相続人間の公平を徹底させ,第三者の法的地位の安定性を考慮する必要はないという考え方を採用することは必ずしも相当ではなく,いずれの要請も踏まえた調和のとれた制度とするのが好ましいように思われ,引き続き相続人間の公平の要請にも配慮しつつ,相続開始前の一定期間に限定するという考え方について検討を行っていくのが相当であると思われます。
  一方,減殺の対象に対する規律につきましては,パブコメにおきましても賛否が拮抗しており,中間試案の考え方を採用することに消極的な意見が多数寄せられたことや,合理的な制度設計をするためには各種の調整規定が必要となり,遺留分に関する計算がより複雑化するおそれがあることなどを考慮いたしますと,この点の見直しにつきましては,この段階で断念することが考えられるように思われます。また,遺産分割の対象財産がある場合に関する規律につきましては,パブコメにおきましては中間試案の考え方に賛成する意見が大勢を占め,積極的に法定相続分説に賛成する意見はほとんどありませんでした。そこで,今後の検討の方向性といたしましては,中間試案の考え方を基本といたしまして,引き続き検討を行うことが相当であるように思われます。
  また,3の「遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」につきましては,基本的には中間試案の考え方に賛成する意見が多数を占めましたので,今後の方向性につきましても中間試案の考え方を基本としつつ,引き続き細部についても検討を行うのが相当であるように思われます。
  また,そのほか,4の(後注)の点でございますが,部会資料に記載のとおり,(2)の負担付贈与や不相当な対価による有償行為がある場合の遺留分の算定方法につきましては,引き続き検討を行っていきたいと思いますが,(1)の遺留分権利者の範囲につきましては,遺留分権利者の範囲から直系尊属を除くという考え方に反対する意見も相当数寄せられておりまして,必ずしも十分な立法事実の調査ができているわけではないことからいたしますと,今回の相続法の見直しにおきましては,あえて今後の検討対象として残す必要はないのではないかとも考えられます。以上,遺留分につきましてはたくさんの論点がございますが,委員・幹事の皆様の忌憚のない御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  三つの項目と,それから,(後注)がございますが,一つずつ進めて,(後注)は最後の3とまとめて扱わせていただこうと思います。
  最初の「遺留分減殺請求権の効力及び法定性質の見直し」という点についてでございます。減殺請求権の行使によって生ずる権利を金銭債権化するということについては,賛成の意見が多数を占めたけれども,では,その後,どう制度を仕組むのかという点につきまして,甲案,乙案が提案されておりました。甲案,乙案には,いずれの意見もあるようですけれども,甲案に対する賛成の方が多かったということでございます。これにつきまして,甲案については訴訟がどうなるのかということが従前から非常に大きな懸案事項でございましたが,資料の18ページ以下に一つの考え方が提案されているかと思います。この点も含めまして第4の1につきまして,まず御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○増田委員 今の遺留分減殺請求権の訴訟構造をどうするかということにつきましては,我々でも検討を進めておるところでございまして,まだまだ,粗っぽいところはありますが,今日は試みに現在の検討状況をお話ししたいと思います。
  まず,基本的な訴訟がどのようなものとなるかということなんですが,協議が不調になった場合,減殺者側が起こす本訴は金銭請求とします。事前の交渉において減殺者が目的物について受け入れて協定がなされ,残る争いは評価だけだという場合には,目的物の登記又は引渡しプラス金銭という請求になることもあり得るわけですが,基本は金銭請求とします。これに対する受遺者側の反訴ですけれども,少しひねりまして,代物弁済の承諾請求としてはどうかと考えております。これは受遺者の申出の実体法上の意味が代物弁済の申出であると考えているからです。
  これが出たときにどうなるかというと,裁判所が当該代物弁済の承諾請求が相当であると判断した場合には,本訴では評価額との差額の認容をし,反訴で代物弁済の申出の承諾を認容するという結果になります。ただ,その場合に目的物の登記や引渡しについては原告は債務名義はとれませんから,債務名義をとろうと思えば訴えの予備的追加的変更をして目的物の登記,引渡し請求を行うということになろうかと思います。
  それで,一つの問題として,代物弁済の承諾請求権というのが債権法には存在しないことがあります。債権法上の代物弁済は債権者の同意を要する契約であり,かつ,目的物の履行がなされて,初めて債権が消滅するということになっております。ただ,この場合はもともと遺贈ないし贈与を目的とする減殺請求権が形を変えただけだと考えられることから,相当な物である限り,減殺者側は承諾義務を負い,金銭債権は判決確定で消滅するという理解でおります。つまり,通常の債権法上の考え方とは,その辺が少し異なるということになります。他の問題点として,代物を受遺者側が特定した物に限定することについて,その物が相当でない場合のリスクを受遺者側に負担させるということはどうかという疑問がかつてこの部会でも呈されていたと思いますが,この点は予備的請求を追加することによってリスクヘッジが可能であると考えられます。
  あと,問題点として,反訴は意思表示を求める給付訴訟になります。ただ,それが判決確定により,所有権を移転するという形成力を付け加えることができるのか,要するに給付訴訟なのか,形成訴訟なのかという話ですが,これは現行法下でも給付訴訟で法律関係の変動を認める類型として詐害行為取消訴訟がありますので,それは問題はないのだろうと考えております。
  こういう考え方にしている背景としては,遺留分減殺請求訴訟の性質上,処分権主義,弁論主義に服するのが相当であり,形式的形成訴訟というのは都合が悪いと思われることがあります。遺留分減殺というのは特に公益的要素もありませんし,原則として裁判所が後見的に判断する必要もないだろうと思います。例外的な話は後でしたいと思います。更には目的物の選択というのは当事者がするべきであって,少なくとも裁判所が少ない情報の中から目的物を選択して判断するということは難しいし,当事者にとって予測可能性のないものの所有権が移転されるという可能性もあって妥当ではないだろうと思います。
  この点,遺産分割との権衡というのが以前,指摘されておりますが,受遺者・受贈者が全くの第三者である場合も想定される遺留分減殺においては,遺産分割とは異なりまして,それまで生活していた人たち中での物の利用状況というものもなく,裁判所が遺産分割と同じような基準で目的物を選択するということは難しかろうと思います。
  反訴の必要性につき,必要かどうかという点が今回の資料では指摘されておりますが,抗弁が出ても反訴がないということになりますと,裁判所は金銭債権の成否しか判断できないと思います。ということになりますと,今回の資料に出ている例でいくと,400万円の認容ができるだけということになろうかと思います。この場合,別訴で原告側が後に物を引き渡せとか,移転登記手続などの請求は可能だと思いますが,棄却された部分は裁判所は当該物の移転が相当であると判断したものではあっても,それは理由中の判断になりますので,後の訴えを拘束しません。民訴法114条2項みたいな特別な規定がない限りは,理由中の判断だけで後訴に対する拘束力まで期待するのは無理だろうと思われます。
  それで,抗弁が認められた場合の目的物の所有権を確定させるために反訴が必要だと考えています。今回の資料で,反訴は煩雑であることを前提とする記載がありますが,実務的には反訴というのは既に訴訟が係属している当事者間で行われるわけですから,送達といっても当事者が指定した送達場所に送れば足り,多くは当事者が裁判に出てきたときに反訴状を受け取るだけの話です。それは大した負担ではないだろうと思いますし,印紙代に関しても本訴の訴訟物の価額の範囲内ということになりますので,反訴固有の貼用印紙は基本的には要らないように思っております。
  あと,残るのは裁判所が目的物を不相当と判断する場合があるのかどうかです。一般的には価額についての判断を基本とすべきだと思いますが,そもそもその物自体が不相当と判断される場合があるか。一つは減殺対象の財産の順位,現行1033,1035条の新しいものから古いものという原則を残すかどうかという問題なんですけれども,新しいものを出さずに古いものを渡すというのは妥当ではないだろうと思います。これは明文での立法ということも考えられると思います。
  そのほかになると一般条項的になってしまいますが,例えば換価が容易なほかの遺贈等の目的物を持っているにもかかわらず,換価の難しいようなものを渡すとか,渡せばそれだけで十分に遺留分に足りるものがあるにもかかわらず,持分で代物弁済をする,つまり共有状態が発生するような形で渡すとか,あるいはこれは不相当でないとの考え方もあると思うんですけれども,減殺者の生活基盤になっているような資産があるにもかかわらず,あえて嫌がらせ的に別のものを出す,というような場合が考えられるのではないかと思います。ただ,この辺は固まった話ではありません。
  あと,さらに検討すべき事項がありまして,猶予期間,熟考期間,あるいは遅滞の発生時期,すなわち遅延損害金の発生時期など,まだ,これからの検討課題と考えております。
  基本的な構造については以上ですので,また,皆さんの御批判を賜りたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  基本的な考え方を御承認された上で,手続の組み方につきましての御意見と,それから,問題の指摘を頂いたと思っております。今の点について何かございますか。
○堂薗幹事 御指摘の点は,具体案が固まった段階で,その詳細を含め検討させていただければと思いますけれども,幾つか確認をさせていただければと思います。代物弁済の承諾請求という話ですが,基本的には裁判の確定で目的物が定まるという話だといたしますと,基本的には今回の部会資料で取り上げた考え方を前提にしますと,要するに目的物の選択権が受遺者側あるいは受贈者側にあるということではないかと思います。
  原則として受遺者側が選択できるんですが,不相当な不要なものだけを押し付けたような場合にどうするかという問題はありますけれども,そういうものがない限りは,それで裁判所は相当なものと認めて,それを目的物として承認すると,それによって金銭債権が消滅し,現物の返還に代わるということなのかなという感じもしますので,そういった意味で,あえて代物弁済の承諾請求という形にしなくても,受遺者側に選択権を認めるということでも対応可能なのかなという感じもしますので,もし,そこは何か違いがあるのであれば教えていただければと思います。それから,反訴がないと反訴についての既判力等が生じないというのは,御指摘のとおりだと思いますが,ここで我々が考えていたのは,特に反訴を提起したものとみなすと書けばより正確なんですが,反訴の提起行為がなくても反訴がされたのと同じように取り扱って,したがって,そこでの判断については既判力が生じるし,形成力も生じるという前提です。
  我々としては,相続法制については,できるだけ分かりやすくという御意見が非常に強かったので,なるべく,本訴,反訴,さらにその反訴ということにならないように工夫をしてみたというところではありますが,特に実務上,そういった形で反訴を提起させて問題ないということであれば,この点については実際に反訴してもらうということでも問題ないだろうとは思いますので,その辺りの実情についても引き続き御意見をお伺いできればと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の段階で増田委員の方から特に何かございますか。
○増田委員 こちらもなお検討を進めたいと思います。
○大村部会長 分かりました。ありがとうございます。
  事務当局からの御説明と,それから,増田委員の御発言とがありましたけれども,これらにつきまして御意見を賜れればと思いますが。
○山本(和)委員 増田委員の御提案は,今,口頭で聞いて十分ついていけないところがありましたので,また,正式な御提案があれば若干のコメントをしたいと思いますが,ただ,受贈者の方に選択権を認めて,ただ,それに対して一定の歯止めをかけるというお話だったんですが,歯止めのところがうまく書き切れて,受贈者と減殺請求権者のバランスがとれるような要件がうまく書けるかどうかというところが,そこを原提案は裁判所の非訟的に裁量の委ねているということなんだろうと思いますけれども,そこの要件がうまく書けるかというのが一つの問題かなとは思いました。ただ,それはまた正式な御提案があるだろうと思います。
  この原案については,私自身はそれほど大きな違和感は感じないわけでありますけれども,今,堂薗幹事が言われたところの反訴というのを必ずしも求めずに,その主張だけ,あるいは反訴の提起を擬制して判決をするというところ,これは(注3)にも書かれていますように,民事訴訟の基本原則とされる処分権主義の例外ということなんですが,ここで書かれてある煩雑だという訴訟経済ということの抽象的なこれだけで,民事訴訟の基本的な原則を脇に置くことができるのかというのは,もちろん,立法でやれば憲法に違反するとは私も思いませんので,できるといえばできるんだろうとは思うんですけれども,説明としてはもう少しもしこれをやるのだったら工夫は必要かなというのを1点,感じました。
  それから,具体的な規律の仕方として9ページの真ん中辺り,「そこで」の段落のところで二つぐらいのことが書かれていて,反訴の提起を擬制するのか,それとも事実の主張に基づいて裁判所が内容を定めることができると,端的に書くのかということだろうと思います。若干の違いが私はあるのではないかと思っていて,途中で受遺者の側が現物返還をやめたいと思ったときに,反訴の提起だと訴えの取下げ,恐らく反訴の取下げということになるのだろうと思います。
  その場合は,相手方の同意が本案に入っていれば必要ということになるのだろうと思うんですが,前者のような規律をした場合,途中でやめたいといったらどうなるのかというのがはっきりしない。そもそも,やめられないのか,あるいはその意思表示をしたという事実の主張を撤回すれば,裁判所は定めることができなくなるという理解も可能だと思うんですが,主張の撤回というのは一方的な意思表示,一方的なあれでできると思いますので,相手方の同意というのは要らなくなって,かなり審理をした段階でやはりやめますということになるということはどうなのかというような気もいたします。いずれは,この辺りは具体的な規律を考える際には問題になってくるのではないかなと思いますけれども,少し規律の違いが出てくる可能性があるので,引き続き御検討いただければ。
  私が感じたのは大体以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 特に最後の点は,こちらも検討していなかった点でございますので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。どうもありがとうございました。
○増田委員 1点だけ。裁判所が相当でないと認める場合という類型については,実はいろいろ考えているけれども,大変難しい問題です。ただ,私はだからといって非訟にする必要はないと思っていて,借地借家関係の訴訟における正当事由とか,立退料の算定も処分権主義,弁論主義でやられているわけですから,ここで規範的な要素が入ってきたところで,手段の基本構造までいじる必要はないのではないかという基本的な理解に立っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○垣内幹事 まず,1点,増田委員の御説明に関しての御質問で,大体,大要は理解できたように感じているんですけれども,御説明の途中で代物弁済の承諾請求の反訴がなかった場合の取扱いについて,少し触れられていたように思うんですけれども,反訴がなかった場合に現物返還がされたことを前提にして,18ページの1項に相当する主文が書かれることがあるというような御趣旨のことを言われたように承ったのですが,そういうお話だったでしょうか。
○増田委員 そういうつもりだったんですが。
○垣内幹事 その場合は,協議が成立しているという状況を想定されているということでしょうか。
○増田委員 要は反訴がなければ反訴がなくてそのものが相当であれば,実体法上は承諾がある状態になっていると。
○垣内幹事 私が承諾請求について御説明を伺って理解したところでは,意思表示の請求ですので判決確定によって意思表示が擬制されて,それによって初めて現物返還の効果が生じ,金銭債権が消滅するというようなものかと思っておりましたので,そうすると,もし反訴の提起がなければ,協議が成立していれば別だと思いますけれども,判決確定によって強制執行されていない以上は承諾の効果も生じない,実体法上はそういう請求権があるかもしれませんが,しかし,意思表示を実際にしていないわけですので,そうすると,その場合は御説明のようにならないのかなという疑問を少し感じたところで,これはまた,細部の検討の際にと思います。
  あと,そちらの方については,私も今日,初めて御提案を伺ったところで,どの程度,結局,受遺者等の側の選択権を手続上,どういう形で尊重するかというところで,これは優れて実体法的な問題かなと感じておりますけれども,今日,お示しいただいた事務局の方で御説明のあった御提案については,山本和彦委員がおっしゃったように私も大筋でこういう手続が想定されるのではないかと考えております。
  幾つか念のための確認ということなんですけれども,まず,第1点といたしまして,ここでの御説明は専ら減殺を請求する側が訴訟を提起して,それに対して現物返還が主張される場合というのを想定しているわけですけれども,減殺権者の方が訴訟は提起していないんだけれども,現物返還したいと。その目的物を定めてほしいと義務者の方で考えることはあり得るわけですが,その場合には受遺者等の側で別訴というか,そういう独立の一種の形式的形成訴訟を提起するということを別途,想定しておられるという理解でよろしいのかというのが第1点でありまして,第2点は,これも言わずもがなのことの確認ということになるかと思いますけれども,19ページの第3段落,「そこで,これらの点を考慮し」というところで示されている規定の案ということで,「受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示をしたという事実を主張した場合には」とありますけれども,ここに「主張した場合」という言葉がありますが,この主体は飽くまで受遺者又は受贈者ということであって,例えば減殺請求をしている側が訴訟外で受遺者が現物返還をしたいと言っていると,そういう事実があるということを訴訟上,事実の主張としてしたとしても,この規定が発動されることはないという理解でよろしいのかどうかというのが第2点でございます。
  それから,もう1点,これも細かい話になるかと思います。先ほど山本先生が言われた点とも若干関連するかもしれませんけれども,現物返還の主張がなされた後に,C土地でいいということで両者の意向が訴訟の中で合致するというようなこともあり得るかと思いますが,その場合には協議が成立するということになるかと思いますので,恐らくこの規定に従った形での形成判決ということにはならないのかなとも思われますが,その辺り,規定上,どういう形で表現するかといったことも若干細かいことですけれども,あるのかなと思いまして,その3点についてお教えいただける点があればお願いしたいと思います。
○堂薗幹事 まず,第1点目ですが,受遺者側から目的物を特定してもらいたいという場合は,当然,みなし規定は適用にならず,別訴として訴えを提起していただくことが必要だろうと思います。ここで書いてあるのは,飽くまで抗弁的に反訴を提起する場合の規律という前提でございます。
  それから,減殺請求権者が現物返還の意思表示が訴訟外であったと主張することによって,この規律の適用を認めるというのは,処分権主義の観点から非常に大きな問題だろうと思います。このみなし規定は,訴訟の中で現物返還の抗弁を主張する場合には,受遺者側の通常の意思としては反訴の提起を含むものであろうということで,そのような場合にあえて更に反訴という訴訟行為をさせる必要はないのではないかという程度のものですので,それによって当然,この規律が適用になるということは考えていないところです。
  それから,協議が成立した場合は,このみなし規定のようなものはありますが,飽くまで訴えの提起がされたのと同じような扱いをしますので,逆に言うと,協議が成立すれば,その点について裁判所が目的物を定めるその利益はなくなったということになりますので,その場合には裁判所が定めるということにはならないのではないかということで考えております。
○神吉関係官 1点目について確認と補足ですが,受遺者等の側から目的物の確定訴訟の形成訴訟を起こすことはできる,中間試案においてもそのように整理をしておりますが,それとともに債務不存在確認訴訟も併せて起こさないと,金銭部分については既判力で確定しないかと思いますので,通常は現物返還の目的物確定訴訟とともに債務不存在確認訴訟も併せてセットとして提起することになるのかなと,思っております。
  3点目の御質問で,合意した場合なんですけれども,合意して実際に物として返還されたのかどうかということとも関連するのかなと思うんですけれども,実際,物として返還されたということであれば,債務の一部が消滅したという規律になるんだと思うんですけれども,されていない場合に,合意だけある場合に請求権が残っていると考えるのかどうかということは,また,検討していく必要があるのかなと思っているところでございます。
  一応,事務当局の回答としては以上なのですが,あと,事務当局の方から,委員・幹事の皆様の御意見を更にお伺いしたいのは,資料の20ページ目の(注2)で書いてある点なのですが,金銭債務につきましては裁判所の判決確定により消滅するという規律を採った場合ということですが,口頭弁論終結時におきましては金銭債務は消滅していないという形になりますので,一応,形式上は,この事例によりますと更なる600万円の金銭債務は残っているという位置付けになりますので,600万円分の主文が更に必要かどうかというのが悩ましいなと思っております。ただ,この点につきましては,資料でも最高裁の判例を御紹介しておりますが,もちろん事案としては若干異なるんですけれども,最終的には判決の確定によって消えるようなものについては,主文に掲げる必要はないと考えて整理してよいのかどうかというところで,よいということであれば,それが抗弁と位置付けられないのか,反訴の提起によってそれが本訴の請求権を消滅させる抗弁だと扱っていいのか,どういう理論的な整理をしていいのか,私もまだ整理がついてはいないんですけれども,その辺りについてのもしお知見があれば,教えていただければなと思っているところでございます。
○垣内幹事 その点は,私自身は(注2)で御説明いただいたところはもっともかなという感じがして思っておりまして,しかし,裁判実務上,主文の書き方等については専門家の裁判官の方々の御感触もあるかと思いますので,そちらの方で違和感があるということはもしかしたらあるのかもしれません。私自身は,判決が確定して既判力等を生ずるのは,確定したらそうなる,ということであり,そのときにおよそ意味を持たないようなことをあえて書いて,表現上もその方が分かりにくいというような主文の書き方がより適切かというと,そうではないかなとは感じるところであります。
  その前のところの御説明についてですが,協議が成立した場合は,中間試案ですと協議が整った場合には金銭債務は消滅するという整理であろうと思いますので,その場合は主文は金銭請求権は減縮されることになるのではないかと理解しております。それから,もう1点,別途債務不存在確認請求を併せてするということは,もちろん,考えられるかと思いますけれども,しかし,債務不存在確認請求が強制されるわけでもないと考えますと,目的物の特定だけを求める訴えというのも理屈としては考えられるような感じがいたします。その場合には今度は減殺請求者の方から金銭請求をしていくという訴えを提起することが考えられるところで,これは正に反訴型の例といいますか,権利抗弁型の例といいますか,資料で想定されている事例の場合には反訴の提起も必要ないとなれば,必ず同一の手続で審議判断がされるということが保証されるということになりますけれども,そうではなく反訴構成にした場合には分離が可能かどうかという問題が別途生じます。さらに,別訴が可能だという場合には,それに対して金銭請求の訴えが提起された場合に併合しなければいけないのかとか,反訴でなければ駄目なのかといったような問題が訴訟法的には生じてくるところかなと感じておりまして,その辺りは私自身も引き続き考えてみたいと思っております。
○山本(和)委員 (注2)は全く私も同意見で,ここに書かれてある二つの選択肢で単純な600万円の支払ということを命じてしまいますと,判決が確定した後,請求異議の訴えを起こさないと判決の執行力を潰せなくなりますので,それは恐らく全くナンセンスだと思いますし,判決が確定しなかったことを条件にというのは,結局,この判決が確定すればこの主文は無意味になりますし,確定しないというのはこの判決が取り消されることを意味していますので,その場合も無意味になるので,全く意味のない主文だと思いますので,私はこういう主文を掲げるべきでは恐らくなかろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点について何か補足的な御発言があれば伺いますが。
○堂薗幹事 先ほどの垣内先生の御指摘で,当事者間で協議が成立した場合ですが,当事者間で協議が成立すると目的物はそれで確定するということなんだと思うんですが,別途,金銭請求がされている場合に幾らの範囲でそれが消滅するのかというところが争いになり得ると,そこについては争いがあるのであれば,金銭請求の中でそこは判断されるということになるのではないかと思います。
○大村部会長 事務局が出されている案と,それから,増田委員からは,出発点のところで受贈者,受遺者の選択をより重視する案が出されているかと思いますが,事務局の今日の御提案でいった場合にどうなるのかということにつきまして,細部はなお残っておりますけれども,ここに書かれている説明は受け入れられる説明ではないかという御意見が多いように思いますけれども,何かございますか。
○山本幹事 増田委員の御提案につきましては,また,少し具体化した段階で検討させていただければと思います。事務局から御提案いただいている甲案については,理論的にいろいろ難しい問題があるようですが,裁判実務上の観点からは,裁判所が返還すべき現物を定めるという余地が認められているということにより,裁判所がどれを選ぶのかというところについて,当事者の主張立証がかなりされることが予想されるわけでございます。
  そうしますと,審理が非常に複雑化して,長期化してしまうのではないかといった懸念が裁判の現場からは多く意見として寄せられているところでございます。この点,現行法では,後で共有物分割の手続が必要にはなりますが,甲案では,返還すべき物の選択に関する不服により上訴がされる可能性もあること等を考えると,トータルとして本当に早くなるのかといった観点も含めて検討する必要があると考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  最も実質的な点について,今,御意見を頂いたと思いますけれども,ほかに委員・幹事の御発言はございますでしょうか。
○中田委員 御質問になるかと思うんですけれども,御検討いただいた三つの主文で,C土地の所有権はどのようなメカニズムでXに移転するんでしょうか。取り分け,2番目の形成判決によって形成される内容が何かということをもう少し具体的に教えていただければと思います。
  関連してですけれども,3番目の給付判決を求めるか,求めないかは自由にしてもいいんだという御指摘があるんですが,仮に三つ目の給付判決を求めないで,最初の二つの判決だけがある場合の法律関係はどうなるのかです。そのときに当事者が協議によって移転したらどうなるのか,更に対象を変更したらどうなるのか,その辺りをお教えいただければと思います。
○神吉関係官 事務当局から主文例として掲げている2の(1)の関係を御説明いたしますと,基本的に事務当局の整理といたしましては,この形成判決が確定するとC土地の所有権がXに移転すると。それによってYの債務が一部消滅すると,そういった前提で考えております。
  それから,登記の話でございますが,登記を特に求めなければ形成判決によって目的物の所有権だけが移転することになろうかと思います。そして,遺留分権利者の方が後ほど登記が欲しいと思った場合には,当事者間で協議をするか,協議ができなければ別途,所有権者がXであって登記を寄こせという訴訟を起こすことはできるのではないかなと,一応,そのようには考えておりました。
○中田委員 ありがとうございました。
  そうすると,2の(1)のC土地と定めるということの中には,判決確定によって600万円の金銭債務が消滅し,かつC土地の所有権が移転するという内容まで入っているということですね。それを最終的にはもう少し明確に表すと理解してよろしいでしょうか。
○神吉関係官 それを主文でどう書くかというのは,また,検討していきたいと思いますけれども,一応,法律上,そこは明確になるような形で考えていく必要があるのかなとは思っております。
○中田委員 分かりました。そうすると,所有権は判決確定によって移転しているという理解ですね。
○神吉関係官 そうです。甲案の原案についてはそのような理解でおります。
○中田委員 分かりました。ありがとうございました。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほか,いかがでございますか。
○水野(有)委員 いろいろ,御説明をありがとうございます。もう少し教えていただきたいんですが,金銭債権が反訴ないし被告の抗弁によって物に変わる部分があるとなりますと,例えば第三者が差押えしたときとか,破産したときなどはどのようになるようなことを今のところ,御想定されているのでしょうか,御教示いただけると。
○堂薗幹事 基本的に所有権移転については,当然,給付判決のところで移転登記を求めるということが……。
○水野(有)委員 すみません。私の質問が特定していなかったかもしれません。申し訳ありません。この訴訟が出る前に遺留分減殺請求だけが存在する時点で,それが実体的には金銭債権として発生しているのが前提で,ただ,後に何かに変わることがあるかもしれない権利ということでございますね。実体権のそれが差し押さえられた場合に,もうちょっと言えば,完全な金銭債権となるのか,それとも後に変わり得るものとして残るのかということを御想定されているのか,破産とか差押えがあったときに,そこを,すみません,質問が特定していなくて。
○堂薗幹事 要するに金銭債権の差押えがされた場合。
○水野(有)委員 そういうことです。
○堂薗幹事 検討したいと思いますが,基本的には,飽くまでも遺留分権利者の方には返還物について選択権がなくて,受遺者側で選べるという,要するに受遺者側で現物で返せるというところに意味があるわけで,金銭債権はそういった意味ではまだ不確定な状態にあると考えておりますので,差押え自体はできるんだと思いますが,その後,その性質が変わった場合にも差押えがあるので,そちらの方が優先して必ず金銭で払わなければいけないということにはならないようにする必要があるのではないかと考えております。要するに,この場合に発生する金銭債権は一般の金銭債権ではなくて,一種の停止条件ないし解除条件付きの金銭債権として,すなわち停止条件等が付着したものを差し押えたことになるではないかと考えているんですが,ただ,そこは破産の場合を含めて非常に難しい問題はあると思いますので,こちらでも十分検討したいと思います。
○水野(有)委員 よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかにいかがでございましょうか。
○垣内幹事 先ほど協議に関するやり取りをさせていただいたときに,私が後から考えてみますと,協議というものの内容についての理解が若干ずれているところがもしかしたらあったのかなという感じを持ちました。と申しますのは,普通に訴訟外で協議で全て解決するという場合には,ある目的物を現物返還の対象として特定し,それが幾らの債権債務関係を消滅させるのかということについても,併せて合意の上で決めるということが考えられるとともに,そうではなくて,これが幾らに相当するかについては争いがあるので,残額は幾らか出るだろうけれども,しかし,これについては現物返還の対象とする,というだけの協議ということも考えられるように思いまして,試案で言っている協議というのはどっちの意味だったのだろうかということが,両方の意味にとり得るのかもしれないですけれども,まずあり,そのことと併せて訴訟の過程で主張のやり取りの中で,そういう意思の合致ができたときに,しかし,それは目的物についてだけのことであって,金額には争いがあるというものが試案に言っている協議に相当すると考えるのか,しないのかということによっても,また,整理の仕方が変わってくるのかなと思われます。
  もし,協議の場合に金額まで含めてでなければ整ったとは言えないのであり,金銭債務が消滅するとも言えないという立場を仮に採ったとしますと,判決を目的物を特定する場合でも,金額も含めて何か形成するということを考えなければいけないようにも思われまして,取り分け,受遺者等が別訴を提起した場合に目的物だけを特定する主文を書くのか,それによって幾ら幾ら消滅するということまで主文ないし理由中になるのか分かりませんけれども,何らかの形で明示することを要するのかといったような問題も,先ほど御指摘の債務不存在等々が別途,必要かどうかというところとも絡めて検討する必要があるのかなという感じを持ちました。
○堂薗幹事 ありがとうございます。
  私が先ほどお答えしたのは,基本的には目的物を定めるだけの合意もできて,金銭について争いがある場合は,裁判所で判断してもらうということもあり得るのではないかという前提ではありましたが,そこも含めて検討させていただければと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
  御意見は,今日,御提案いただいたものをベースに,更に細かい点について詰めていただくとともに,増田委員の案も更に特定した形で次回以降,この問題を検討する際にお出しいただき,併せて検討するということかと思いますけれども,それでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,この点につきましては,そのように扱わせていただきます。
  第4で残っております次の項目は,2の「遺留分の算定方法の見直し」でございますけれども,この点につきましては,生前贈与の範囲につきましては期間をどうするのかということについて慎重に検討すべきだという意見が多かった,それから,22ページの「遺留分減殺の対象に関する規律」,これは法定相続分を超える部分を減殺の対象とするという考えを示したわけですけれども,これにつきましては賛否が拮抗していて制度設計が難しいのではないか,このような指摘がされたかと思います。
  この2の項目につきまして御意見を賜れればと思います。いかがでしょうか。特に御指摘等はございませんでしょうか。
  それでは,3と4についても併せて御意見を伺いたいと思います。3と4につきましては,第4の(1)の遺留分権利者の範囲について,直系尊属を除くという考え方,これは必要性がないという意見も寄せられているということで,これを積極的に支持する意見は必ずしも多くないという指摘がされております。この点を含めて,3,4についても御意見を賜れればと思います。その前の2についてのなお御意見があれば併せて伺いたいと思います。いかがでございましょうか。格別の御意見はないということで,ここに示されている方向を基本として,更に検討していくということでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,最後の「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」ということになりますが,これにつきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○小川関係官 関係官の小川から,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明いたします。
  まず,パブリックコメントの結果の概要を御報告いたします。相続人以外の者の貢献を考慮するための方策を設けることにつきましては,被相続人の療養看護などに努めた者等の保護を図る必要があるなどとして,その方向性に賛成する意見と,現行法上も一定の範囲では不当利得返還請求権等の成立が認められる場合があり,他方,このような方策を講ずると相続に関する紛争が複雑化,長期化するおそれがあるなどとして,これに反対する意見に分かれておりまして,賛否が拮抗している状況にあります。
  それから,(2)の見直しの方向性につきましては,乙案に賛成する意見が比較的多かったものですが,甲案に賛成する意見も相当数ございました。乙案に賛成する意見は,被相続人の療養看護等を行う者は親族に限られないものであり,乙案によれば内縁関係にある者なども対象に含めることができるなどを理由とするものでした。他方,甲案に賛成する意見は,請求権者を限定しないと,本方策が本来,想定していないような者を含め,相続人が広く第三者から金銭請求を受けることになり得るため,相続をめぐる紛争が複雑化,長期化するほか,相続人が不当な請求を受けるおそれがあることなどを懸念するものでございました。
  その他,請求権者の範囲及び寄与行為の態様につきましては,いずれも限定を加えるべきではないとの意見,反対にそのいずれにおいても限定を加えるべきであるとの意見,甲案又は乙案を基礎としつつ,請求権者の範囲又は寄与行為の態様について一定の変更を加えるべきであるとの意見など,多様な意見が寄せられました。
  それから,2の「パブリックコメントで指摘された個別の問題点等」ですが,中間試案の考え方に賛成する意見においても,複数の相続人がいる場合の負担割合について法定相続分においてその責任を負うとすると,相続人が具体的相続分がなくても金銭債務を負担することになり,相続人の利益が害されることになって相当でないですとか,請求権に係る時効・除斥期間について,中間試案で挙げています相続開始を知ったときから6か月間又は相続開始のときから1年とするのは,短すぎるなどの問題点を指摘するものがございました。
  以上を踏まえまして,今後の方向性についてですが,本方策の方向性に賛成する意見が相当数ありまして,特に個人から寄せられた意見については賛成が多かったものですが,中間試案の考え方には賛成できないとする意見の中にも,本方策のような規定を設ける必要性があること自体については理解を示すものが複数あり,これに反対する意見は相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が主たるものであったことなどに照らしますと,パブリックコメントにおいても立法の必要性についてはある程度の理解が得られたものと考えられます。また,中間試案の考え方は貢献をした者を遺産分割の当事者とするのではなくて,相続人に対する金銭請求を認めることとし,金銭請求を認める場合の要件について請求権者の範囲又は寄与行為の態様による限定をすることで,相続に関する紛争の複雑化,長期化を避けることを意図したものでありましたが,遺産分割の当事者に含めないこととした点については,問題点を指摘する意見は少ないものでありました。
  他方で,本方策に反致する意見は,相続人以外の者の貢献については遺産分割手続と別の手続で判断することにするとしても,金銭請求を受け得る相続人の立場からすると,金銭請求の有無や金額が確定するまでは遺産分割について検討又は判断することが困難になるとして,本方策に係る金銭請求の有無や金額が確定するまでの間,事実上,遺産分割手続が停滞することなどに懸念を示すものであり,こうした意味では,中間試案の考え方を前提としても,なお,紛争の複雑化,長期化に関する懸念を払拭することはできなかったものと言えます。
  こうしたパブリックコメントの結果を踏まえますと,今後も中間試案の考え方に対して寄せられた問題点の解消に向けた検討を行い,その検討結果を踏まえ,最終的に見直しの是非について判断することが相当であるように思われます。この点について御意見を頂ければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として,甲・乙両案,甲案は請求権者の範囲を限定する考え方,乙案は貢献の対象となる行為を限定する考え方ということであったわけですけれども,このような方策を設けるということ自体について賛否が拮抗している,設けるとした場合に,甲案なのか,乙案なのかということについては,乙案が比較的多いけれども,甲案を支持する意見もあるというのが現状であるということでありました。賛否両論が拮抗しているという場合の否定論は,先ほどの配偶者の相続分の見直しと共通のところもあるのですけれども,紛争の複雑化,長期化に対する懸念というのが中心的なものである,そうすると,必要性についてはある程度の賛成意見があるのではないかというのが事務当局の認識だろうと思います。そこで,問題点を解消することができるかどうかを更に検討し,最終的に見直しの是非について考えるという方向がここに示されているかと思います。
  この問題につきまして御意見を賜れればと幸いに存じます。いかがでございましょうか。
○米村委員 法律論の外側からですけれども,先ほどの配偶者の相続分の見直しのところで反対がそれなりに多かったということと,この点を重ね合わせて考えますと,多様な現実に対して相続法がどう応えてくれるのかというところは,非常に強い関心があると思いました。多様な現実に対応しようとすると,紛争が長期化,複雑化するというのは,ここに参加させていただいてよく学んできたことでございますが,是非,問題点を解消して着地点をよい形で見付けていただきたいと思います。残された人の生活の保障であるとか,実質的な貢献であるとか,療養看護に対して相続法がどう応えてくれるのかというのは広く社会的関心のあるところでありますので,是非,何かそれに対して応えていただけるものであってほしいと強く願っております。コメントのみで失礼いたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御意見を頂きましたけれども,他の委員・幹事,いかがでございましょうか。この問題はなかなか意見が割れている問題でもありますので,是非,委員・幹事の御感触をもう少し伺えればと思いますけれども,いかがでございましょうか。
○中田委員 パブリックコメントの結果に対する分析を御説明いただきたいんですけれども,賛否が拮抗しているという結論ですが,甲・乙のいずれにも反対というのが随分多いように思われました。詳細版の168ページに出ていますけれども,拮抗しているというのは,甲案に賛成という意見,プラス,乙案に賛成する意見に対して,いずれにも反対する意見が大体同じぐらいだということだと思います。ただ,甲案の立場に立って乙案に反対という人も,乙案の立場に立って甲案に反対するというのもあるようですね,意見分布を見ますと。そうすると,甲案について見れば甲案を支持するというのは比較的少数で,乙案についても乙案を支持するというのは相対的に少数だという,こういう認識に立ってよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,この結果をどう分析するかというところだと思うんですが,まず,制度創設の必要性自体についていいますと,甲案であれ,乙案であれ,どういう制度設計をするにしても,このような制度は必要であるという前提なんだろうと思いますので,そういった意味では,少なくとも見直しの方向性については御賛同頂いているのではないかと。その具体的な制度設計についていろいろ意見があるのではないかという理解をしております。
  それに対して,甲・乙ともに反対という意見の中には,先ほど中田委員からも御指摘がありましたが,そもそも,こういう見直しの必要はないという意見と,それから,見直しの必要性はあっても,甲案,乙案のどちらも制度設計としては不相当であるという意見があるかと思いますので,ここは厳密に分析できているわけではないんですけれども,事務当局の認識としては見直しの方向性自体について賛否が分かれており,なおかつ,具体的な制度設計については甲案と乙案を比較しますと,乙案の方が賛成が多いというような整理をしているというところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほどの配偶者の相続分の見直しについての意見分布をどう評価するのかということとも関わる問題かと思いますけれども,先ほど第2の1については反対が多いけれども,諦めずにもう少しやってみましょうかというところで一応,落ち着いたように思います。第5についても今の中田委員の御発言の中には,反対が多いという評価も可能なのではないかという含意もあるように思いますけれども,それでもなおもう少し検討するということは考えられるように思います。その点につきまして御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○潮見委員 検討を進めていただくことについては,別に止めようとするつもりは毛頭ございませんが,私もある特定の立場を前提にしているのかもしれませんが,今後の方向性のところで,本方策に反対する意見ということで手続面での煩雑さを強調してまとめられているように,私には見て取れました。他方,先ほど中田委員がおっしゃられた甲案,乙案のいずれにも反対というところに出ている意見をざっと見たところでは,確かにそういう手続面での煩雑さ,長期化に対する懸念ということももちろん示している意見は多々ございますが,他方で,私や増田委員もそうだったと思いますけれども,この間,いろいろな形で発言をさせてもらってきていた契約的な処理だとか,あるいは不当利得とか,事務管理とか,準事務管理とか,そうした制度を使って対応が可能であるのではないかとか,そういう御意見も多々含まれているように感じ取りました。
  そういう意味では,今後の方向性のところのまとめ方自体に対して,私は若干の不満があります。その辺りをある一定の方向に誘導しているのではないかという懸念もなくはありませんが,今申し上げた意見も出ておりますので,検討に当たりましては先ほどから少し出ているような,あるいはここの意見にも出ているような今回の方向を更にどう育てていくのか,あるいは寄与分とかも含めた形で,その辺りをどう調整していくのかということと並べて,こういう反対の意見で出てきている別の制度を使って処理してはどうかという,過去に出ながら中間試案では消された意見が出ている以上は,もう一度,俎上にのせていただきたいと思うところもないわけではありません。その部分も含めた形で,今後,更にこの点について検討していくということであるならば,私はそれに賛成したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の御意見は,先ほどの第2の1の配偶者の相続分の見直しについての御意見とも関連すると思いますけれども,相続法の外で何ができるのか,相続法が何を担うのかということをどう考えるのかということに関わっていると思います。あちらの問題について更に諦めずに見直すのと同様にこちらも見直すとして,その際にはもっと別の手段もあるかもしれないということも含めて検討していただきたいという御要望だと承りました。
○堂薗幹事 検討させていただきます。
○大村部会長 ほかにはいかがでございましょうか。この第5につきまして,他の委員・幹事,御発言はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,今,頂きましたような御注意を踏まえて,これについても今の段階ではなお諦めずに検討を続けてみるというのが皆様の御意見だということで,取りあえず,まとめさせていただきたいと思います。
  以上でございますが,これから,今日,示された今後の検討の方向性について,皆様の御意見を頂いて更に具体的な検討をするということになろうかと思いますけれども,今日の議論を終えた段階で何か御発言があれば承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。
○潮見委員 1点だけ,確認。先ほどの遺留分のところでのことで第4の部分ですが,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」,この部分です。確認だけなんですが,今日は甲案を中心に,そして,甲案の場合に問題として指摘されてきた訴訟構造,それをどのように考えたらいいのかということについて少し膨らませた御説明というのを頂戴したと私は伺っているんですが,今後の方向性ということを考えた場合に,三読ではこの部分については基本的に甲案をベースに,これから議論を進めていくというところまで今日の議論というは踏み込んでおるのか,乙案はここでやめるのか,あるいは何かのときには残しておくけれども,甲案をベースに少しもんでいこうというようなことなのかということだけ,もしお考え等があれば御教授いただきたいと思います。
○堂薗幹事 基本的には,乙案に対しましては現行制度で指摘されている問題点がかなり残るのではないかという御意見が多く,確かにそういう面はあるのではないかというところがありますので,もちろん,甲案が駄目だった場合に最終的にどうするかという問題はありますが,まず,こちらとしては甲案をベースに,更に増田先生の方から御提案いただいたような考え方も基本的な方向性は同じだと思いますので,そこを検討した上で,それで御了承が得られるような案が出れば,そちらの方がいいのではないかと考えているところです。
○潮見委員 ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,全体にわたる御発言はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,今日,頂きました御意見を踏まえまして,次回以降,更に検討を続けてまいりたいと思います。
  そこで,最後になりますけれども,今後の日程等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,今後の予定でございますが,次回以降は本日の御審議の結果を踏まえまして,もう一度,論点ごとに,そういった意味では三読ということになろうかと思いますが,中間試案の第1から第5までのそれぞれの論点について御審議いただき,その上で要綱案の取りまとめに向けた御審議を頂ければと考えているところでございます。
  次回の日程につきましては御案内のとおり,11月22日(火曜日),午後1時半からを予定しております。次回は配偶者の居住権を保護するための方策について御審議いただければと考えているところです。次々回以降の予定でございますが,可分債権の取扱いにつきましては,最高裁決定が出た後に御審議いただいた方がいいのではないかということでございましたので,順番としては最後にさせていただきまして,次々回,12月20日(火曜日)には遺留分制度の見直しを取り上げさせていただき,その次の1月24日には遺言制度の見直しを取り上げさせていただければと考えております。
  2月以降の日程については,正式にはこれから御連絡することになるかと思いますが,2月は28日(火曜日),3月も28日(火曜日)を予定しております。2月に遺産分割に関する見直しを取り上げ,3月に相続人以外の者の貢献について取り上げさせていただき,ここで三読を終了ということを考えております。
  4月以降の日程につきましては,現時点は未定でございますが,基本的には第3火曜日に行うことを予定しておりますので,日程の確保等につきまして御配慮いただけますと幸いでございます。
  次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 今,口頭で御案内がございましたけれども,日程につきましては11月は22日,12月は20日,そして,年が改まりまして来年1月は24日,ここまでは既に御案内済みということでございます。それに加えまして,2月が28日,3月が28日ということで,次回以降は三読ということになりますが,この5日間を御予定おきいただければと存じます。
  順序につきましても,今,御説明があったとおりでございますけれども,第1から第5の順番ではなくて,第2の遺産分割に関する見直しにつきましては,先ほどの御議論に従いまして,後の方の回に繰り下げさせていただく。そして,今日,御議論いただいて,なお,技術的な問題がかなり残っていると思われる第4の問題を早い段階でやるということで,次回が第1の配偶者の居住権,その次が第4の遺留分制度の見直し,そして,第3の遺言制度の見直しに進み,第2の遺産分割に関する見直しは2月で,3月が相続人以外の者の貢献を考慮するための方策,こういうことでしたね。
  ということでございますので,どうぞ,御予定の方をよろしくお願いいたします。
  このスケジュール等につきまして何か御質問等はございますか。よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,このように進めさせていただきたいと存じます。
  本日も活発な御議論を頂きまして誠にありがとうございます。
  これをもちまして,本日の第14回会議を閉会させていただきます。
  ありがとうございました。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第15回会議 議事録


第1 日 時  平成28年11月22日(火)自 午後1時30分
                      至 午後5時41分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第15回会議を開催させていただきます。
  まず,本日の議事に入るに先立ちまして,参加の委員について,一言,御紹介をさせていただきたいと思います。本日は法制審議会の総会委員である山根委員に御参加を頂いております。
○山根委員 よろしくお願いします。
○大村部会長 続きまして,配付資料の確認につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○大塚関係官 御説明を申し上げます。机上に配布しました参考資料等について,簡潔に御説明いたします。
  まず,一つ目が一番分厚いものでございまして,「「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要(詳細版)」,要するにパブコメの内容についてまとめたもので,前回は未定稿ということでお配りいたしましたけれども,今回,正式に配布をさせていただき,後日,公表させていただく予定となっているものでございます。
  それから,「長期居住権についての具体例」と題するものでございまして,こちらは従前から具体例を示した方が分かりやすいとの御要望を頂いていたところですので,遺産分割などにおいて長期居住権を設定した場合の一例を記載させていただいたものでございます。こちらにつきましては長期居住権の御議論を頂く際に御説明を申し上げたいと思います。
  配布資料の説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  前回,パブリックコメントを踏まえまして,五つの項目に分けて議論の方向性について御意見を賜りました。それに基づきまして今回から言わば第三読会に入るわけでございますけれども,本日は,その第1回目といたしまして配偶者の居住権を保護するための方策等ということについて御意見を賜れればと存じます。お手元に部会資料15というものがございますけれども,その資料の第1の部分が「配偶者の居住権を保護するための方策」となっております。一番大きい見出しの「等」の部分は,この資料の15ページ以下でございますけれども,第2といたしまして「配偶者に対する持戻しの免除の意思表示の推定規定について」という項目がございます。これは前回の御議論を踏まえて,新たにこのような案を事務当局の方からお出しいただいたというものでございます。初めてのものでございますので,早い段階で御意見を頂きたいということと,それから,本日の配偶者の居住権の保護のための方策と関わるものでもあるということで,本日,あわせて議題にさせていただくということでございます。
  第1についてまず御説明を頂き,御議論を賜りまして,切りのいいところで一度,休憩を挟ませていただきまして,残りを検討するという段取りにさせていただこうと存じます。そこで,まず,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」という部分につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○大塚関係官 短期居住権について,部会資料の御説明をいたします。
  総体としまして,短期居住権は従前の中間試案から大きな変更をしたということよりは,大筋はそのままとしつつも細かい規律について更に詰め,その結果,ゴシックの部分が分量として増えたという形になっているということでございます。内容を御説明いたします。
  3ページ目,本文にお進みいただきまして,(ア)とございます。配偶者が相続開始の建物の一部を居住用,残部を自らの事業用などとして使用していた場合の規律についてでございます。パブリックコメントにおきましては,短期居住権の対象となる建物について,例えば配偶者が居宅兼店舗として使用している場合にも,短期居住権の成立を認めるのか,明確にすべきであるという指摘がされたところでございます。
  この点につきましては,同一の建物について居住部分とそれ以外の部分とで費用負担の規律が変わると法律関係が複雑になり,成立範囲をめぐって新たに紛争が生ずるおそれがあることなどを考慮いたしますと,建物の一部が居住に使用されている場合には,それ以外の部分が居住以外の目的で使用されているときであっても,建物の全体について短期居住権の成立を認めるのが相当と考えられます。そこで,本部会資料におきましては短期居住権の成立要件を配偶者が相続開始のときに被相続人所有の建物を無償で使用していた場合としつつ,括弧書きで,その建物の全部又は一部を居住の用に供していた場合に限るとしてございます。
  次に,(イ)についてでございますが,こちらは例えば2階建ての建物について1階部分は被相続人の子,配偶者ではない人が店舗として使用し,2階部分を配偶者が自ら使用している場合ということでございますが,こういった場合に他の者が使用している1階部分についても短期居住権の効力が及ぶか否かが問題となります。そこで考えてみますと,短期居住権は飽くまで配偶者が相続開始時に享受をしていた居住利益をその後も一定期間,保護することを目的としたものでございますので,この事例に即して考えますと,配偶者はほかの相続人である子が使用していた1階部分まで新たに使用することができるようになるものではなく,飽くまでも,元々,自らが使用していた2階部分のみについて短期居住権の効力が生ずるものとするのが相当と考えられます。ただ,これらの点につきましてどのように考えられるか,御意見を賜れればと存じます。
  続いて,次のページのイでございまして,「他の相続人が持分を第三者に譲渡した場合の効力」についてでございます。短期居住権につきましては,第三者対抗力を付与しないことを前提としておりますので,ほかの相続人が遺産分割の前に自らの持分を第三者に譲渡したときは,配偶者はその第三者に対して短期居住権を対抗することはできないということになります。その結果,配偶者が引き続き居住をするという場合には,この第三者に対して持分割合に相当する使用利益を支払う必要があると考えられます。この点を明確にするとの観点から,この部会資料におきましては短期居住権は相続人の間においてのみ,その効力を有する旨を明記しておるところでございます。
  (2)の「短期居住権の効力(用法遵守義務の内容)」についてございますが,こちらにつきましては当部会あるいはパブリックコメントにおける御指摘を踏まえまして,相続開始前と同様の用法であれば,用法遵守義務に違反をしないということを明らかにする趣旨で,配偶者は従前の用法に従って建物を使用しなければならないということとしてございます。
  次に,(3)の「ア 短期居住権の消滅請求」についてございますが,パブリックコメントにおきましてはほかの相続人が短期居住権の消滅請求をするための要件について,単独での請求を認めるとした中間試案を支持する意見と,配偶者の持分を除いた持分のうち,過半数を有する者の請求を要件とすべきとの御意見に分かれたところでございます。この点につきましては,仮に配偶者が用法遵守義務に違反している場合は,その場合にまで短期居住権による保護を図る必要はなく,むしろ,遺産の一部である建物の資産価値の毀損を防止するとの観点から,短期居住権を早期に消滅させ,資産価値を保全する必要性が高いと考えられます。また,仮に持分の過半数を要求するとした場合には,相続人間で感情的な対立がある場合など,消滅請求の行使が事実上,困難となることも懸念されます。以上を踏まえまして,本部会資料におきましては中間試案と同様にほかの相続人が各自,短期居住権の消滅請求をすることができるとしているところでございます。
  次に,「原状回復義務の内容」,イでございますが,パブリックコメントにおきましては居住による建物価値の毀損について相続人は当然受忍すべきであり,配偶者は責任を負わないことを明示すべきであるという御指摘を頂いたところでございます。そこで,原状回復義務の対象にいわゆる通常損耗あるいは経年変化を含めるか否かが問題となります。この点につきましては,若干,飛びますが,通常,遺産分割の手続におきまして各相続人の現実の取得額を算定する際には,遺産分割時の財産評価額を前提にするものとされていることからしますと,相続開始時から遺産分割時までの経年変化等につきまして,あえて配偶者に原状回復をさせる必要性には乏しいものと考えられます。このようなことを考慮いたしまして,通常損耗あるいは経年変化につきましては,原状回復の対象に含めないこととしておりますが,この点につきましても御意見を頂戴できればと存じます。
  続いて,6ページ目の中段でございますが,「2 配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則」についてでございます。こちらにつきましては,中間試案ではこの特則に基づく短期居住権の存続期間を相続開始の時から一定期間,例えば6か月間と括弧書きで記載しておったところですが,パブリックコメントにおきましては残された配偶者が高齢の場合には,速やかな転居が特に難しいことなどを考慮して,1年間とすべきとの御意見も寄せられたところでございます。もっとも,この特則は基本的には配偶者が相続開始の直後に住み慣れた住居からの退去を余儀なくされることを防止し,転居先確保などのための明渡猶予期間を与えるものと考えられますことからしますと,その存続期間は民法第395条1項と同様に6か月間程度とするのが相当と思われます。
  他方で,短期居住権の存続期間の起算点につきましては,パブリックコメントにおきましても,受遺者から明渡請求を受けた時とすべきであるなどの御意見を頂いたところでございます。これは例えば相続開始から相当の期間が経過した後になって配偶者が受遺者などの建物明渡請求を受けることにより,初めて遺言等の存在を知るというケースもあることを考慮したものと考えられます。このような御意見を踏まえまして本部会資料におきましては,この特則に基づく短期居住権の存続期間につきましては6か月間としつつ,その起算点につきましては従前からありました相続開始の時とする考え方と,括弧書きで,その建物の所有権を取得した者から明渡しの催告を受けた時とする考え方を併記する形を採らせていただいておりますが,いずれの規律が相当かについても御意見を頂ければと存じます。
○大村部会長 それでは,御意見を承りたいと思いますが,皆様から御意見を頂くのに先立ちまして,南部委員の方から御発言があると伺っております。今日,途中退席されるということで,他の項目についても併せて意見をお述べになると伺っておりますので,今,御説明があった部分と,それから,その他の部分も併せてどうぞお願いいたします。
○南部委員 ありがとうございます,御配慮を頂きまして。
  今,ございました説明で1点,まず,7ページにありました短期居住権の起算の日付です。6か月若しくは催告を受けた日ということで書かれておりまして,一般的な意見としてお聞きいただけたらいいかと思いますが,6か月間で全てのことが整うかどうかというのは一般的にはかなり不安です。後に遺言が出てきたりということも考えられますので,できましたら後者の方が安心感があるかというような思いでございます。併せまして,長期居住権のところで2点,質問をさせていただきたいと思っております。1点目につきましては,「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」の(2)の「長期居住権の効力」で長期居住権の費用負担について,居住建物の必要費は配偶者が負担するものということになっておりますが,土地の固定資産税等は誰が負担するかというのが一つ,また,借地権付きの土地建物であっても長期居住権が発生するのか,その場合は地代は誰が負担するのかというのが質問でございます。
  もう1点につきましては,個別の論点の長期居住権の内容及び成立要件でございます。区分所有できない建物の相続開始時の一部のみの使用だけでも全体に長期居住権の成立を認めるということでございますが,短期と長期でその効力が及ぶ範囲を変える意味合いがまずよく分からないというのが質問でございます。例えば配偶者が同居しているのは所有権を持つ可能性の高い子どもだけとは限らず,被相続人の親とか兄弟などのケースも想定されます。その点,どう区分所有を考えるのかということです。そして,マンションですと1室だけを使っているという場合は,どのように考えるかということもでございます。
  また,遺言で配偶者に長期居住権を取得させる場合に個別で放棄可能な遺贈にすることということは,いいことだと思っておりますが,一般的には遺贈と遺言の違いというのはほとんど分からないと思いますので,これについてももし結論が出ましたら,しっかりと周知していく必要があるということで,ここは御意見でございます。
  全体的に長期居住権は何度見ても,説明を聞いても,分かりにくいということで,もし長期居住権をしっかりと明文化されるのであれば,もう少し分かりやすいものにしていただきたいと思っております。
  最後になります。第2のところでございますが,15ページの最初のところの〔案〕でございます。配偶者保護のための新たな方策ということで書かれているところでございますが,ここの婚姻期間が20年以上経過した後の贈与に限定されるかということです。例えば婚姻期間10年後に夫が妻に贈与を行い,その後,10年後に夫が亡くなった場合はどういうふうな処理が考えられるか,これに当たるのかどうかということが質問でございます。
  すみません,以上でございます。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 それでは,お答えいたします。
  まず,短期居住権の特則の方の存続期間でございますが,これにつきましては御指摘のとおり,相続開始時から6か月間ということにしますと,実際上は明渡請求を受けた時にはほとんどその期間が経過していることになり,余り保護にならないのではないかという御意見がパブリックコメントでもございまして,南部委員と同じような問題意識かと思いますが,そういったことを踏まえまして,今回は部会資料の方でも亀甲括弧として,明渡しの催告を受けた時から起算するという案を別途提示しているところでございます。この点については正にこの後,御議論を頂ければと考えております。
  ただ,現行法を前提としますと,遺産分割が行われる場合の規律につきましては,現行法上も判例による保護があるのに対しまして,(2)の特則につきましては,現行法上は保護されないところを保護するというところがありますので,(1)と(2)のバランスをとることが必要になってくるように思われますので,その辺りも含めて御議論いただければと考えております。
  それから,長期居住権の費用負担については,必要費は配偶者負担ということになっておりますので,基本的には建物の敷地部分の固定資産税も通常は必要費に当たるということで配偶者負担ということになるのではないかと思います。長期居住権の発生の要件については,敷地利用権が借地権であっても構わないという前提で考えており,特にその点については限定を設けておりませんので,借地権付きのものであっても長期居住権は成立し得ることになります。
  それから,長期居住権の成立範囲でございますが,1個の建物の一部について長期居住権の成立を認めるということが考えられるのではないかということだと思いますが,ここは理論的には両論あり得るのだろうとは思います。ただ,長期居住権の方は基本的に相続期間中,無償でその建物を利用できるとしつつ,対抗要件を備えれば排他的に使用できるというところに独自の意義がありますので,そういった意味でいきますと,建物の一部,しかも対抗要件を登記ということにしていますので,建物の一部についてのみ対抗要件を取得させるというのは技術的にも若干難しい面があるというのと,それから,仮に建物の一部について対抗要件の取得を認めますと,結局,それ以外の部分は明け渡すということになるわけですが,居住用の建物の一部分を第三者が使用し,その余の部分を配偶者が使用するというのは,実際上はなかなか難しい面があるのではないかと。
  そうしますと,建物の一部について長期居住権を認め,それについて対抗要件を取得できるということにしますと,その方が評価額としては低くなりますので,そういう形で設定をし,実際上は長期居住権が成立していない部分についてほかの人は使えないので,結果として建物全体について明渡しを免れると,若干,執行妨害的に使われるおそれもあるのではないかというようなところもございまして,この資料では建物の全体についてのみ成立を認めるということにしております。ただ,ここは両論があると思いますので,ここも正に御議論いただければと考えているところでございます。
  長期居住権につきまして,内容がいろいろ分かりにくいという御指摘もございますので,引き続きなるべく分かりやすくするように工夫したいと思いますが,実際には使用貸借や賃貸借の規定を準用したり,あるいは同じ規律を設けるということが考えられますので,条文化する際には,例えば賃貸借と長期居住権でどこが違うのかという辺りが比較的分かりやすくなるような形にすることが考えられるのではないかと思っているところです。
  それから,第2の持戻し免除の意思表示でございますが,取りあえず,ここでは遺贈とか,あるいは贈与をした時点での意思を推定するという前提でございますので,20年が経過した後に遺贈又は贈与があった場合に,この規律の適用があるという前提でございます。したがいまして,婚姻期間が10年経過した後に贈与があったという場合は,この規律の適用にはならないわけですが,現行法上もそういった場合には黙示の持戻免除の意思表示があったのかどうかが問題になりますので,その点については,このような規律ができた後も,同じようにその点を考慮することはできるということではないかと考えております。
  御説明としては以上でございます。
○南部委員 ありがとうございます。
  1点,長期居住権の費用負担のところで,借地権はオーケーということだったんですが,その土地代は配偶者が払うのか,相続人が払うのか,どちらなんでしょうか。
○堂薗幹事 配偶者が住んでいる建物の敷地部分に相当するものについては,配偶者負担の必要費ということになろうかと思います。
○南部委員 分かりました。ありがとうございます。
○大村部会長 南部委員,よろしいでしょうか。
○南部委員 ありがとうございました。
○大村部会長 今,出されました御質問と,それから,お答えにつきましては更に御議論もあろうかと思いますけれども,それぞれの箇所でまた改めて必要に応じて御議論いただくということで,一応,今のお答えを伺って先に進むということにさせていただきたいと存じます。それから,分かりやすい規律をという御指摘につきましては,この問題に限らず,全体を通じてできるだけのことを考えていただきたいと思います。
  それでは,先ほど御説明がありました第1の1の「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」について御意見を伺いたいと思います。基本的には従前の考え方を維持して,細かい修正の提案を頂いているということかと存じます。幾つかのことがございましたけれども,一部のみの使用の場合についてルールを明確化するということと,それから,南部委員からも御指摘がありましたが,存続期間の問題をどうするのかといった点が中心的な点と思いますが,その他の点も含めまして御意見を頂ければ幸いに存じます。
○窪田委員 今回,新しく出た部分ではなくて,以前から示されていた部分ですので,今から意見を申し上げるというのは適当ではないのかもしれませんが,自分の中で居心地の悪い部分がありますので,それについて少し御説明をさせていただけたらと思います。
  4ページのイの「他の相続人が持分を第三者に譲渡した場合の効力」ということで,これは第三者に対する対抗力はないのだから,その分の使用利益については負担しなければいけないということで,一般論としては分からないわけではありません。ただ,少し考えてみると居心地の悪い感じがします。それはなぜかというと,一般的に現在の判例を前提とすれば,個別の不動産についての持分を譲渡することができるし,譲渡した後は一般的な共有の法理によって遺産分割ではなく共有物分割によって処理されるのだから,それを一貫させると,多分,こういうことにはなるのだろうとは思います。
  ただ,一方で居心地が悪いという感じがしますのは,最初から被相続人が誰かに与えたという場合だったら,特別ルールの方で生存配偶者以外の者に付与された場合になりますので,6か月間はただで使うことができるということになりますし,あるいは相続分の指定をしたり,包括遺贈したりという場合,あるいは相続分を包括的に譲渡した場合であれば,この場合ですと相続人と同じ権利義務ということになると思いますので,短期居住権のルールが適用されるということになるのだろうと思います。その一方で,たかだかある不動産についての持分を譲渡したときだけ,こういう問題が顕在化して,そして,無償で使用することができなくなるというのは,全体として見ると非常に居心地が悪いなという感じがしております。
  更にその居心地の悪さというのは,相続開始後,比較的間もない時点において遺産分割のなされる前に,法定相続分を前提として当該不動産の持分を譲渡したという場合なのだとすると,譲り受けた者にとっても言わばそうした遺産分割前のものについて,そうした負担が付くということは,全く予想もできないようなものでもないのではないかという感じもするからです。多分,この問題の背景には一般的には遺産分割前に個別の不動産を処分することが,本当にできるのかどうのかという一般的な問題があるとは思うのですが,そこまで立ち入らないとしても,この問題を考える場合にこれしか本当に方法はないのだろうかという感じがいたします。
  遺産分割前に持分を処分した場合については,そういう負担が付いたものとしての持分を譲り受けたにしかすぎないのだから,その意味でのそうした負担は付いてくるという解決が考えられるのではないか,その上で譲受人は譲渡人に対して一定の担保責任を追及するというような方策もあるのかなと思いますし,他方で,もしここに書かれているように第三者に対して使用利益を負担しなければいけないとすると,その使用利益を配偶者に最終的に負担させるというのは適当ではないのだろうと思います。譲り渡した人間がいて,本来,短期居住権によって得られる利益というのを奪ってしまったという関係にあるわけですから,その者に求償できるとしなければおかしいだろうと。
  こうした求償が当然に一般法理でできるかというとよく分からない感じがします。特に最初の方に書いてある(1)のアの②で,①の権利は相続人の間においてのみ,その効力を有すると言い切った場合に,第三者に対して負担した使用利益を相続人間で本当に求償できるのかどうかというのはよく分からない気もします。もし,ここに示されたような形でいくのであれば,処分した者に対して求償できるというような仕組み,あるいは遺産分割において,それを考慮することができるという仕組みを作るか,若しくは単なる持分権の譲渡にしかすぎない場合については,短期賃貸借の効力を及ぼすというのもあり得るのではないかという気がします。その点では,第三者との関係のうち,恐らく抵当権や差押えとの関係と,建物所有権の譲受人との関係は場合によっては区別できるのかなという感じもしたものですから,今更,こういうことを申し上げるのは多分,余り適当ではないのだろうと思いますが,気になった点ということで申し上げさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 ありがとうございました。窪田先生の方で御指摘いただいたような考え方もあり得るのだろうとは思うんですけれども,特に相続人が自ら自分の持分を譲渡した場合については,譲受人にもその効力を及ぼすということは考えられるのかもしれないんですが,例えば相続人の債権者がその持分を差し押さえた場合でも同じように考えていいのかとか,いろいろな問題が生じるので,こちらで考えていたのは短期居住権については,そういった持分の譲渡を含めて第三者には基本的に対抗できないというものです。
  ただ,今回の資料でも1ページのアの②というのを今回,新たに付けたわけですが,①と②を合わせて読むことによって,配偶者は他の相続人に対して無償の使用権といいますか,要するに他の相続人にとっては,配偶者に対して無償での使用を受忍する義務があるということを明らかにしたつもりでございまして,それによって使用貸借と同じような規律が配偶者と他の相続人との間に生じ,例えば使用貸借のときに使用貸借の貸主が目的物を第三者に譲り渡してしまって借主が使用することができなくなったという場合は,債務不履行に基づく損害賠償ができるのだと思いますので,ここでも同じように持分を譲り受けた第三者に対しては請求できないけれども,譲渡しをした相続人に対しては債務不履行に基づく損害賠償ができるのではないかと考えております。したがって,最終的には配偶者の方は使用利益については回収さえできれば負担しなくてよくなるということを考えておりました。
  それから,(2)との平仄はどうなのかというところはあるんですけれども,(2)の方は飽くまでも被相続人が無償で建物を譲り渡した場合を念頭に置いておりますので,(1)で持分を例えば有償譲渡したような場合と,同じように考えていいのかという問題はあるのではないかと考えており,我々としては現在の案のようにしているというところでございます。
○窪田委員 少しだけ発言をよろしいでしょうか。半分,分かったような気もしますが,何となく居心地の悪さは自分の中ではまだ完全には解消していないので,もう少しだけ発言させて下さい。もちろん,自発的な譲渡の場合以外にも差押えとかがあるのではないかというのはそうなのですが,これはある意味で遺産分割前であったとしても,法定相続分に基づいてその持分を処分することができるとか,差押えをすることができるという判例を前提としての枠組みではあると思います。ただ,判例はできると言っているだけであって,何か積極的に遺産分割前であっても持分をどんどん自由に処分できるとか,それを推進しようとかということではないのだろうと私自身は理解しています。そうだとすると,遺産分割の関係では非常にイレギュラーな事態について,そこまで保護する必要があるのかなというのが前提としてよく分からないという感じがしているということがあります。
  それと,(1)と(2)の平仄については今の御説明で半分,分かったような気もするですが,ただ,(1)のアの②というのはものすごく強いことを言っているように思います。短期居住権というのは相続人間でしか意味を持たないということを言っていると。それに対して(2)というのは,無償の場合に限っているかもしれないけれども,言わば第三者との関係でも短期居住権に相当するような権利が実体法上のものとしてあるということを言っているように思えます。
  そのことにこだわりますのは,短期居住権というのが従来,使用貸借として判例上,認められてきたものを単に今回,条文にするのだということであれば,それだけのことで,それほど立ち入る必要はないのかもしれませんが,特に(2)のルールを見ますと,従前の使用貸借よりはもう少し強いものとして,実体法上の権利として構成しているのではないかという気もいたします。その点からも少し気になったということです。しつこい発言になってしまいましたが,そういう趣旨だということでございます。
○大村部会長 今の点について何かほかに御発言はございますでしょうか。
○水野(紀)委員 私も,窪田委員の感覚に近いものを感じております。恥ずかしながら,私は取引の実情はよく分かりませんけれども,家族が住んでいる家屋の持分について売買するというのは,相当,スムーズにいかないことを覚悟した譲受人ではないでしょうか。そして,欧米諸国の配偶者の居住権保護と比較しますと,このような相続の場面だけではなくて,家族が住んでいる家屋は,欧米諸国では,さまざまな場面で特別に保護されます。例えば所有者である被相続人が生きているうちに売却してしまおうとしても,そこに家族が住んでいるときには,当然,彼の処分権は制限されますので,妻子が住んでいる家屋についての取引は妻子の同意が得られているか,妻子の居住権保護にひっかからないかを,取引相手は考えなくてはなりません。
  日本でも,売主と異なる居住者のいる物件でしたら,取引相手は警戒するでしょう。居住者が売主の家族であるとしても,居住者本人の意思確認をする手間は,それほど大変なことではありません。これらを考えますと,現にまだ生存配偶者が住んでいるという場合に,一部の持分の売買についてかなり大きな制約を加えてもいいのではないでしょうか。遺産分割が済んできれいになっているものを買い取らなくてはならないという取引制限をかけても,譲受人へのそれほど大きな負担増にはならないだろうと思います。
○中田委員 今,挙げられた例は私もそうかなと思うんですが,先ほど堂薗幹事がおっしゃった差押えの場合をどう考えるのかというのは結構重要な問題だと思います。差押えに対抗できるようにするためには,引渡しなり,占有を対抗要件にしなければうまくいかないのではないか。そうすると,長期居住権の方もそれと合わせて占有を対抗要件にすると組み替えなければうまくいかないのではないかなと思いますので,差押えの場合をどう評価するかというのがかなりポイントかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  窪田委員の最初の御発言では,譲渡の場合と差押えの場合とを分けて考えるということを前提にされておられたと思いましたけれども,水野委員がグローバルスタンダードとおっしゃったのは,婚姻中の家族住宅の保護について制限がかかっているということを御指摘になったんだと思います。例えばフランス法では,名義人以外の者の承諾が必要だというような規律がされているかと思いますけれども,これについても差押えの場合をどうするのかという問題はあるのだろうと思います。水野委員がよく御存じのとおりですけれども,96年の民法改正のときにこのことが問題になりまして,差押えの問題がうまく処理できなかったこともあって規定が置けなかったという経緯もありますので,中田委員の御指摘の点は難しい問題として残るという印象を持ちます。
  窪田委員は二つ御指摘になられて処分を押さえるということのほかに,そうでないとしても実質的に費用負担が生存配偶者のところに回らないようにする工夫が必要なのではないか,これについて一定の規律を置く必要があるのではないかという御指摘があったかと思います。この点につきましては堂薗幹事の方から一定のお答えがあったように思いますけれども,そこはいかがでしょうか。
○窪田委員 債務不履行として構成するということですが,差押えがなされた場合でも同じように債務不履行構成ということでいけるという前提ですか。
○堂薗幹事 差押えも,要するに相続人が負っている債務が不履行になったので差押えを受けたということであれば,使用貸借の場合でも同じようなことは起こり得るんだと思いますが,そういった場合も含めて,債務不履行に基づく損害賠償というのは認められているのではないかと考えておりますので,そこは同じではないだろうかとは思っております。
○窪田委員 分かりました。今のような形で説明ができるというのは,そうなのかもしれないんですが,ただ,それほど自明でもないのではないかなという感じが私自身はしております。損害賠償なのか,不当利得なのかもよく分からないところがありますし,その点ではもしこの点をこういうふうな方向でいくのだとすると,最後,何らかの形で処理ができて,生存配偶者の短期居住権そのものの実質的な侵害とならないような形での手当は,可能であれば明示しておく方がいいのではないかなという気がいたします。これは意見ということです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の一連の御議論は,今回,1の(1)の②で短期居住権が相続人の間においてのみ効力を有するということを明記したことによって意識化された問題なのだろうと思います。それを明記するのならば,後始末まできちんと書くべきではないかというのが今の窪田委員の御指摘かと思います。何人かの委員からは,それを明記して背中を押す必要もないのではないかというような御発言もありましたので,この規定を明文化するのか,それとも解釈の余地もあるので明文化しないで,この提案以前のままにしておくのかというようなことを含めて,もう少し御検討いただきましょうか。
  何かこの点につきまして特に御指摘があれば伺いたいと思いますが。
○窪田委員 それと,申し訳ございません,しつこいようですが,恐らくこれは資料として公表される形になったときに,最終的な補足説明等でここに書かれている内容が示されるということなのだろうと思いますが,少なくとも4ページのところで先ほどのイのところなのですが,自ら持分を第三者に譲渡したときというのではなくて,もう少し別のケースにしていただいた方がいいのかなという気がいたします。
○大村部会長 問題状況はかなり明らかになってきたと思いますので,今の御指摘を踏まえて,この点につきましては更に御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  増田委員,今の点ですか。
○増田委員 今の話なんですけれども,他の相続人が持分を第三者に譲渡すると,その段階で当該不動産全体についての遺産分割というのはあり得ないわけなんです。ということは,そこで何らかの権利を配偶者に残すとするならば終期が分からないことになります。日本の民法が,遺産分割と共有物分割を別のものとしている以上は,何らかの権利を残すことは難しいのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として伺いまして,それも踏まえて更に御検討いただきたいと思います。
  今の点につきまして,ほかにいかがでございましょうか,
  それでは,そのほかの点につきまして,今,終期の問題,期間の問題も出ましたけれども,その点も含めまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。
○石井幹事 短期居住権の取得者に従前以上の居住の利益を与える必要はないのではないかという問題意識自体は,理解できるところではあるんですけれども,短期居住権の成立範囲が長期居住権のそれとは異なるという結論を解釈で導くというのはなかなか難しいところがあるのかなと思います。
  また,相続人間で紛争が生じている事案で短期居住権の成立範囲を建物の一部に限るという結論でいいのかというところについても御議論はあろうかなと思いますけれども,仮にそのような結論を採るということですと,それについては解釈に委ねるということでなくて,明確に法律で定めておくことが望ましいのではないのかなと思います。
  もう1点,前提の確認なんですけれども,今,部会資料で示されているような考え方に立ちますと,部会資料で例示されている「2階建て建物の2階に配偶者が住んでいて1階は第三者が使っている」という場合に,短期居住権に基づいて1階部分の明渡し等を求めることはできないけれども,長期居住権に基づけば,1階部分の明渡しを求めることはできるということになるという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 明渡しを求めるというのは配偶者の方がですか。
○石井幹事 配偶者がということです。
○堂薗幹事 短期の方は正に居住部分だけに効力が及びますので,従前から住んでいなかった部分については明渡しを求めることはできないということになるものと考えております。そこまで明渡しを求めることができるというのは,これまで説明してきた従前の居住の利益を守るということでは説明ができないのではないかと考えております。ですから,仮に短期と長期で規律を合わせるべきだというのであれば,建物の一部について両方とも成立し得るという方が理論的には説明がつくのだろうと思いますが,長期についてそもそも一部分についてのみ設定を認めるということにどれだけの意味があるのかということと,濫用的に使われるおそれがあるのではないかというところから,こちらとしては,今回は長期居住権については全部を対象としないとできないということにすべきではないかということで考えております。
  したがいまして,1階部分,2階部分があるような建物について,要するに2階部分が居住部分で,そこを独立の区分所有の対象とできるのであれば,そこにのみ長期居住権を設定するということは認めていいのではないかというのは(注)で書いてあるとおりなんですが,長期居住権の場合は,相続開始時に居住していたという点は保護要件にすぎず,自らの具体的相続分で長期居住権を取得するわけですから,今まで使っていない部分も含めて長期居住権の成立を認めても,問題はないのではないか。その点で短期と長期で違いがあるのではないかということで,今回のような考え方をお示ししたというところでございます。
○大村部会長 石井幹事,よろしいですか。
○石井幹事 短期居住権と長期居住権とで規律が分かれるということであれば,そこは明確に法定すべきではないかということで申し上げたところでございます。
○堂薗幹事 すみません,先ほどの補足ですが,例えば1階部分にほかの人が住んでいて,その人が賃借していると,要するに賃料を払って借りている場合は,その賃借権について対抗要件がありますので,そこはもちろん明渡請求はできないわけですが,そういう権限がなければ長期居住権を取得して,第三者が占有権限なくして使っていれば,明渡しは請求できるようになるのではないかということでございます。
○大村部会長 中田委員,御発言がありますか。
○中田委員 今の賃借権について,長期のところでお聞きするつもりだったんですが,今,出ましたのでお聞きしたいんですが,第三者が賃借権を持っているときは長期居住権というのは,そこには及ばないということになるんでしょうか,今のお話ですと。
○堂薗幹事 対抗関係に立ちますので,結局,長期居住権全体について登記を備えても,賃借権について占有の方が早ければ,そちらの方が優先する結果,明渡しは請求できなくなるのではないかということです。
○中田委員 分かりました。そうすると,飽くまで対抗関係としては全体に及んで当該第三者との間では先後により,第三者との関係では全体についての登記が優先すると,こういうことですか。分かりました。第三者,後の譲受人に対しては登記が優先すると,こういう意味ですね。
○浅田委員 議論の整理としてお尋ねしたいんですけれども,ここの短期に関しての事例,3ページに挙げられている,専ら他の者が使用していた場合についてです。これは飽くまでも事例の中の一つとして,こう解決されるということでありますけれども,実際の世の中には例えば1階部分の台所なんかは,親と子が共有して使うということもあるわけでありまして,そういう場合には当然,また,それに照らした解釈で短期に関しては例えば2階は単独での占有だけれども,1階は共有しているということになるというようなことも含み得るということで考えていいのかという話が1点です。それと同時に,長期のところでも議論になるかもしれませんけれども,もし,その対抗要件を登記ということをした場合に,これは現実的にどうするのかということもありますが,それは対抗という形ですので,言わば1か0かという判断が迫られるという場合もあるということを含んでいるということでしょうか。
○堂薗幹事 まず,最初の点につきましては3ページの(イ)で書いているところは,配偶者が全く使用していない部分がある場合にどうかということですので,ほかの家族と共有でも別にその場合は認めていいという前提です。それから,対抗要件のところは,若干,御趣旨がよく理解できなかったのですが。
○浅田委員 長期のときに議論するべきことかもしれませんけれども,長期に関しては登記によって対抗力を有するという話ですから,その登記の仕方に技術的な問題があるとはいえ,例えば先ほどの事例,2階は単独で占有,1階は共有ということになった場合に,1階部分については共有しているのが実態にもかかわらず,もし仮に1階部分までも全般的に登記をしてしまうということであれば,言わば配偶者は全部使えるわけですし,それの意味するところというのは,子どもというのは従前から仮に住居をともにしていたとしても,配偶者に対しては自らの利用権というのを主張できないと,住むことができないということを意味しているんでしょうかという話ですが。
○堂薗幹事 配偶者が長期居住権を取得して,その対抗要件を備えた場合に,それに先立って先ほどの賃借権の対抗要件があるような場合は別ですが,そうでなければ,配偶者が建物全体について排他的に使用権を有するということになります。その場合にお子さんを住まわせるかどうかは,正に配偶者の方で引き続き占有補助者として住まわせるのか,あるいはそこは認めないこととするのかという,配偶者の判断になろうかと思います。
○浅田委員 整理として理解しました。
○水野(有)委員 今のことと関連する質問で教えていただきたいんですけれども,短期居住権のところの1ページ目の(ウ)のところで,第三者に居住建物の使用又は収益をさせることはできないものとすると書いてあるのですが,第三者というのは占有補助者も含んでいるのか,含んでいないのか,読み切れなかったので,教えていただけるとと思いまして。
○堂薗幹事 ここは使用貸借の条文から採ってきておりますので,使用貸借のところも当然,占有補助者まで排除する趣旨ではありませんので,ここでの第三者に占有補助者は入らないという前提です。
○水野(有)委員 ありがとうございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。今の一部の場合の規律については,短期の場合にどうするのか,それから,その後で御議論いただく長期の場合にどうするのかということが実質的に議論になるかと思いますけれども,石井幹事から最初のところで御指摘がありましたけれども,これが違ってくるということになると,ある種の混乱を招くことになると思います。これは根拠も違いますし,対抗要件の問題も違いますので,一律に扱わないという選択肢には一定の合理的な理由はあるのだろうと思いますけれども,混乱が生ずるのはできるだけ避けるようにする必要があろうという御指摘はごもっともだと思いますので,その点については工夫を更にしていただきたいと思います。
  この点に関しまして,特に短期の方の一部の問題につきまして更に御発言があれば伺いたいと思いますが。
○石栗委員 短期居住権に基づいて妨害排除請求をすることができないということになっているんですけれども,相続人間でも,短期居住権に基づいて妨害排除請求をすることはできないのでしょうか。
○堂薗幹事 相続人に対しては,相続人が配偶者の意思に反してそこを使っていている場合に,明け渡せということは言えるのだろうとは思います。ここで考えているのは,第三者に対して妨害排除請求ができるかどうかという趣旨でございます。
○石栗委員 そうすると,配偶者は同居していた他の共同相続人に対し,短期居住権に基づいて,突然,自分が住んでいたところを侵害されているというようなことを主張して,明渡しの請求をすることも一応は可能ということになってしまうのでしょうか。
○堂薗幹事 まず,短期の方は占有を存続要件としていますので,少なくとも,一旦,自分が占有を喪失してしまうと,不法に喪失させられた場合も占有回復請求をしない限り,居住権は消滅するという前提です。配偶者が建物内に従前と同様に住んでいるときに,他の相続人がいきなり建物に入ってきて妨害しているというような場合は,妨害排除請求をすることができるのではないかということですけれども。
○石栗委員 もちろん,占有との関係はありますが,短期居住権に基づいて妨害排除請求としての明渡請求をすることはできないとお書きになっていることがどこまでのことをおっしゃっているのかと思いましたので,確認をさせていただいた次第です。
○堂薗幹事 ここで書いているのは,第三者対抗要件はないので,第三者に対して妨害排除まではできないのではないかという趣旨ですので,相続人に対してはそういうことは言えるのだろうと思います,短期居住権に基づいて。
○石栗委員 先ほどの確認ですけれども,共用部分については短期居住権が及ぶということでよろしいんですよね。例えば,二世帯住宅とかで玄関や台所が共用であるという場合には,そこでいう玄関とか台所といった共用部分は短期居住権の成立範囲に含まれるということでよろしいんですか。
○堂薗幹事 はい。更に言わせていただきますと,相続開始前から相続人も住んでいたような場合,基本的に従前の状態をそのまま保護するということですので,その場合は相続人に対してだけ,出ていけということは言えないのではないかとは思いますが,先ほど申し上げたのは相続開始後に新たに妨害を受けた場合という前提です。
○石栗委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。今の御指摘,あるいは大分前に窪田委員がおっしゃった他の相続人との関係で短期居住権者はどういう地位に立っているのかということを,もう少し明らかにする必要があるかもしれないということとも絡むようにも思います。それも含めて御検討いただきたいと思いますが,そのほかはいかがでございましょうか。
○上西委員 短期居住権の期間についてです。例えば2ページ(2)の①で配偶者が相続開始の時として併記する形で,建物の所有権を取得した者から明渡しの催告を受けた時となっているのですが,起算点は相続開始の時にしかないわけですよね。これは期間の終わりの時期,すなわち終期を定めるだけであると理解してよろしいですね。記載ぶりからすれば起算点についても併記されているような書き方なので,確認です。
○堂薗幹事 そういう意味では,本来的には相続開始の時から6か月という案と,明渡しの催告を受けた時から6か月という,そういう趣旨です。
○大村部会長 今の御確認は,権利の始期というのは相続開始時ですねという御確認ですね。
○堂薗幹事 そこは,おっしゃるとおりです。そういう意味では亀甲の付け方の位置が適切ではなかったのだろうと思います。
○大村部会長 今,期間の問題が出ておりますけれども,この点につきまして御発言があれば,是非,伺いたいと思いますが。
○増田委員 普通に考えると相続開始の時からということなのかと思いますが,この場合は実務的にも1年,2年たってから遺言が出てくるというようなケースが少なくないことから,遺言の内容がいつ明らかになるか分からないという問題があります。相続開始時から起算すると,遺言が出てきた時には直ちに不法占拠になっているというようなこともあり得るということを考えた場合には,少なくとも遺言により他の者が所有権を取得したことを知った時点を起算点とする必要があるだろうと思われます。明渡しの催告を受けた時とする考え方もありうると思いますが,それは別として,相続開始の時からというのは実情に合わないかと考えております。
○中田委員 今のお話がそうだと思いますし,この解説で書かれているのももっともで,後で分かったときにすぐ出ていけというのは気の毒ではないかというのはよく理解できます。ただ,その上で,若干,気になる点が2点あります。まず,今の増田委員の例でも出てきましたように,6か月が経過した後で遺言が出てくると,一旦,不法占拠状態になった後で,結果的にそれは不法ではなかったというようにひっくり返るということになるわけですよね。それが少し不安定かなという気がすることが一つあります。それから,もう一つは配偶者が住んでいる建物を第三者に遺贈するというのは,そもそも,配偶者間が非常にうまくいっていないときではないかと思うのですが,その場合の方がより配偶者にとって手厚い保護になるということをどのように説明したらいいのかという,その2点についてもしあればお聞かせいただきたいと思います。
○堂薗幹事 1点目は,遺言などがあった場合は客観的には相続開始時から不法占拠ではなかったのだけれども,それを配偶者が分からなかったということだろうとは思いますが,ただ,御指摘のように当事者の認識と,そういう客観的な権利状態との間にそごが生じるというところはあろうかと思います。ただ,その問題をうまく解決するというのはなかなか難しいのかなという感じもしております。
  (2)の場合というのは,中間試案の考え方ですと(ア)の本則の方に比べると期間等の点でより保護としては薄いという前提で,一応,制度設計はしていたところです。ただ,例えば,明渡しの催告があった時から6か月ということになりますと,遺産分割に要する期間より長い期間保護されるという場合がそれなりに出てくるのではないかということで,冒頭でそれぞれの平仄を考える必要があるのではないかという問題提起をさせていただいたところです。そういった観点から,例えば(1)の方について従前から議論は出ておりましたが,相続期間の下限を設けるとか,そういった配慮をすることによってバランスをとる必要があるのかどうかという辺りについて,是非,御議論いただければと思います。
○大村部会長 今の御提案は,(2)の場合には6か月の期間によって(1)との関係でいうと長くなることがあるべしということで作られているが,そのことの当否について御議論いただきたいということですね。
  今の点も含めまして,期間の点につきまして更に御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○窪田委員 今,まだ,十分に自分の中でも整理ができていないのですが,(1)で例えば下限を設けるということになって,例えば1年間といった下限を設けるとすると,遺産分割がなされようが,なされまいが,これだけは保護されているということになります。それを前提とすれば,(2)についても最初から処分はされているけれども,1年間はこうした権利があるのだということで,そこの部分は説明できるのだろうと思います。
  ただ,問題になるのは,私自身も先ほど増田委員からもお話があったように,実際に催告をされてから起算する方がいいだろうというのはよく分かるのですが,例えば1年3か月か4か月,たったところで催告された場合にどうなるのかというと,そこの場面の法律関係はよく分からないなという気がします。ひょっとすると最下限の話と催告をされてから立ち退くまでの間の一定の猶予期間の話というのは,切り分けた方がいいのかなという感じもいたしました。まとまっていない段階で申し上げるのは適当ではないのかもしれませんが,そういう分け方もあるのかなということです。
○大村部会長 着想自体には,猶予期間という考え方が入っているのだろうと思いますけれども,本体の短期居住権と,それから,明渡し猶予の問題は分けた方がいいということですか。
○窪田委員 恐らく最低1年はいられるというのは,(1)(2)共通しての問題ではないのかなという気がします。つまり,遺産分割がされると最終的な関係は帰属する,あるいは遺言があって相続させる旨の遺言があったら最初から帰属は決まっていると。でも,それとは無関係に1年間,保護しましょうとかという点については,多分,(1)(2)で共通してあるものなのだろうと思います。ただ,(2)の方では,一体,遺言があったかどうかも分からないとかというような状況を考えると,予想しない段階で催告がされる,出ていけと言われる可能性があると。そのときに最低限の1年間ということだけを基準にしてしまうと,1年間経過後は出ていけと言われた瞬間に出ていかなければいけないということになるわけですが,そのときの猶予期間というのは別途,考える必要があるのではないかということです。ただ,それが6か月である必要があるのかどうかはよく分かりません。逆に言うと,1年間は保証しているのであれば,もう少し短い3か月というのもあるのかもしれませんが,それを切り分けた方がよりうまく保護できるのかなという気がしたということです。
○沖野委員 考え方なのですけれども,確かに例えば1年とか6か月とか,1年というような形で切るとすると,相続といういつ起こるか分からない事象によっていきなり居住が奪われるということから1年は保護するという,そういう考え方だと思うんですけれども,他方で,元々の原案は相続がある限りにおいては,遺産分割によってその帰すうがはっきりするまでは暫定的にそのまま現状を維持させよう,配偶者については,という発想だと思いますので,随分と発想が違ってくるように思われます。
  それで,どちらがよいかということですけれども,遺産分割というのが1年できれいに切れるならいいですけれども,また,できればなるべく早くした方がいいんだけれども,事情によるということもあると思われます。居住について,一旦,出て,またやはりというようなことになるというのが果たして適切なのかということを考えると,遺産分割までとし,その間の事項も含めて遺産分割の中で相続人間ならば処理していくというのは,それなりに合理的なことではないかと思います。他方で,分割の対象ではなくて,その財産はほかに行ってしまうことが明らかであるというならば,それは明渡猶予期間として考えていくと。ですので,分割が行われる場合と,それから,遺贈などによって権利帰属が確定している場合とでは考え方が違うのは,それなりに合理的なことではないかと思っております。
  他方で,どちらの場面かが分からないということが遺言が後ほど出てきたようなときには出てくるわけで,そういったときの配慮をどうするかというのが7ページで聞かれているということだと思います。6か月では遺産分割が終わらなくて,それより後に遺言が出てくるというような場合には,それ以前に不法占拠だったということになり,その部分を払わなければならない。遺言の内容が分かっているならば,6か月の間に対応をしたのだけれども,分割で対象にするものだという前提でずっとやっていたということがあると,暫定的な居住を確保するという(1)型だと考えていたのに,実は(2)型だったというときには,それなりの保護が必要ではないかと思われますし,それに遺言によって遺贈を受けた側も自分がそれを知らなかったというようなときに,本当は有償で取れたかもしれないけれども,それほど期待すべき利益でもないのではないかと考えますと,知った時から6か月とか,明渡しの催告を受けた時から6か月というのがいいのではないかと思っております。
  それでさらに起算点としていずれが良いかですが,知った時からが理屈の上ではいいのかもしれません。それが分かったならば,せいぜい,6か月だという趣旨としては,わかるのですが,ただ,そうすると,いつ,知ったかということをめぐってかえって紛争になるということが懸念されます。そうであれば,明確に催告してもらうというのを基準にした方が法律関係も明らかになるのではないかと思っております。
  もうひとつは逆の場面で,6か月より前に遺産分割が終了し,遺産分割の中で長期居住権を取得したことになっていたのだけれども,その後,遺言が発見され特定遺贈対象であったことが判明したというような場合には,長期居住権はそもそも対象ではなかったので認められず,6か月を超えた部分が有償になると思われます。その場合も,受遺者との関係では同じで,先ほどの場面で明渡しの催告がされた時からとすれば,この場合も催告の時からということになるのかと思います。
○大村部会長 遺言が見つかったというときについて,一定の手当が必要であろうということについては,皆さん,多分,一致しているのだろうと思いますけれども,本則の場合と平仄がとれているのかということについて,これでいいのだというお考えと共通のものを置くべきではないかというお考えとがあったように思います。もう少しパターンを整理して,御議論いただけるようにするということでしょうか。
  これとの関連で何か御発言があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。
  今回,短期居住権について大筋はよいということで,細かい問題について手当をするために幾つかの提案がされているわけなのですけれども,細かい手当をすると,それに伴う解釈論上の問題が顕在化してきます。それを整理した上で細かい手当をするならばするということを考えなければいけないということかと思いますが,御指摘いただいた点を踏まえて,更に整理をさせていただくということでよろしいでしょうか。
  短期居住権につきまして,その他,何かございましたら承りますが,いかがでございましょうか。
  それでは,長期居住権の方に進ませていただきたいと存じます。また,長期との関係で短期についても改めて問題提起がされるということもあるべしということで先に進ませていただきます。長期につきましては7ページ以下になりますけれども,事務当局の方から御説明を頂きます。
○大塚関係官 長期居住権についてでございますが,まず,検討の方向性についてということで9ページ以下になります。長期居住権の創設につきましては,パブリックコメントにおきましても賛否が拮抗したところでございますが,特に反対の立場から,長期居住権の財産評価あるいは買取請求権などに関して新たな紛争が生ずることを懸念する意見など,様々な弊害の懸念が多く寄せられたところでございます。
  このような結果を踏まえまして,前回の部会で御議論いただいたところですけれども,長期居住権につきましては制度創設のメリットをできるだけ減殺しないように配慮しつつも,反対意見において指摘された問題点を軽減する方向で検討を進めることという結論に至ったものと認識しております。これを踏まえまして,今回の部会資料では以下のとおりの検討を行ったところでございますが,2の「個別の論点に関する検討」の(1)ア(ア)でございまして,短期居住権と同様の検討をしているところでございますが,長期居住権につきましても保護要件としましては短期居住権と同様に,建物の一部を居住の目的で使用していることで足りる旨を明らかにしているところでございます。
  続いて,(イ)でございまして,こちらは一部をほかの者が専ら使用している場合ということですが,長期居住権につきましては従前から占有による対抗要件の取得は認めないということにしておりまして,登記をしなければ第三者に対抗することはできないということになりますので,建物の一部についてのみ対抗要件を付与するというのは困難と考えられるところであります。そうしますと,長期居住権の成立を認める場合には,その効力が及ぶ範囲は建物全体とするのが相当と考えられます。これを前提としますと,(イ)の場合に配偶者が長期居住権を取得すると,配偶者は相続開始前には使用していなかった部分を含め,使用権を取得するということになります。これらの点について先ほども御意見を頂いたところですが,改めて御意見を賜りたいと思っております。
  次に,イの「遺産分割の審判により長期居住権を取得させる場合」についてでございます。パブリックコメントにおきましては,長期居住権の取得がほかの相続人の意思に反する場合にまで審判による設定を認めると,その存続期間中に建物の所有者と配偶者との間で更なる紛争が生ずるおそれがあるといった懸念が示されたところでございます。そこで,このような御指摘を踏まえまして,遺産分割の審判により,配偶者が長期居住権を取得することができる場面を現在のゴシックで書かれているところよりも限定し,例えば配偶者が長期居住権の取得を希望し,かつ,それが当該建物の所有権を取得することとなる者の意思に反しない場合に限るとすることも考えられるところでございます。このような限定をすることの適否について御意見を頂ければと存じます。
  次に,「ウ 遺言により配偶者に長期居住権を取得させる場合」についてでございます。パブリックコメントにおきましては,被相続人が遺言で配偶者に長期居住権を取得させる場合の問題点として,遺贈であれば配偶者は放棄できるのに対して,遺産分割方法の指定がされた場合には相続そのものを放棄しないと放棄はできないということになるので,かえって配偶者の保護に欠ける結果となるおそれがあるといった御指摘がございました。
  これも踏まえまして,先ほども御指摘があったところではございますが,本部会資料においては,遺言で配偶者に長期居住権を取得させる場合には,遺贈に限るということとしてございます。この場合には,例えば遺言において配偶者に長期居住権を相続させる旨の記載がされたときでも,通常は長期居住権の遺贈がされたものと解釈すべきことになると考えられるところでございます。また,民法第995条は遺贈が受遺者の放棄によってその効力を失った場合には,受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属するという規律になっておりますが,長期居住権を取得できるのは配偶者のみとなっておりますので,共同相続人の共有に属するとすることはできないことになります。このため,配偶者が長期居住権の遺贈を放棄した場合の効力をどのように考えるべきかを別途,検討する必要があることになります。
  この点につきましては,長期居住権が所有権の内容を制限する権利としての性質を有することに鑑みますと,配偶者が遺贈を放棄した場合には,居住建物の所有者が何ら制限のない所有権を取得したものと考えるのが遺言者の通常の意思に合致するようにも思われるところであります。これに対しまして,(注)に記載しておりますように配偶者が遺贈の放棄をした場合には,建物の所有権に関する部分を含め,効力を失うこととするということも理論上は考えられるように思われます。これについてどのように考えるか,御意見を賜れればと存じます。
  続いて12ページの(2)の「ア 用法遵守義務の内容」につきましては,短期居住権の場合と同様に従前の用法に従うべきものと修正したものでございます。
  次に,イの「必要費及び有益費の負担」でございますが,中間試案におきましては長期居住権の存続期間中,建物を使用することができない所有者の負担などを考慮しまして,必要費については先ほど御説明したとおり,全て配偶者の負担としております。もっとも,必要費の中でも災害などによって大規模な修繕が必要となった場合の修繕費など,特別の必要費につきましては使用貸借におきましても貸主の負担とされていることと比較して考えますと,長期居住権の場合も必要費及び有益費の負担について短期居住権と同様にするということも考えられるところでございますが,この点につきまして御意見を賜れればと存じます。
  それから,ウの「建物使用の対価」につきましては,これまでは一括前払方式と賃料支払方式の二つを提案していたという経緯がございましたが,ただ,賃料支払方式につきましては,パブリックコメントにおきましても,様々,問題点があるのではないかといった御指摘もございましたので,今回は長期居住権の対価の支払方法は,一括して前払いとするというような方式のみとすることを前提としているところでございます。
  (3)の「長期居住権の消滅」,13ページ以下に移りたいと思いますが,アの「用法遵守義務違反の場合の消滅請求」についてでございます。パブリックコメントにおきましては,長期居住権の消滅請求が配偶者に与える影響の大きさなどに鑑みると,この用法遵守義務違反を理由とする消滅請求については,賃貸借と同様に原則として催告を要求すべきではないかという御意見が寄せられたところでございます。これを踏まえまして,本部会資料におきましては,居住建物の所有者は原則として配偶者に対して用法遵守義務違反の是正を催告し,相当の期間内にその履行がされない場合に消滅を請求することができることとしたものでございます。
  次に,イの「原状回復義務の内容」につきましてですが,これにつきましては結論として短期居住権と同様に通常損耗と経年変化を除外するなどの修正をしたところでございます。
  なお,ここで本文には記載していない点を若干,補足申し上げますけれども,原状回復義務の起算点につきましては,中間試案におきましては本文の方では「長期居住権を取得した時の原状に復する義務を負う」とした上で,ただし書で「短期居住権を取得した後に遺産分割で長期居住権を取得した場合には,相続開始時の原状に復する」ということを記載していたところでありました。
  ただ,改めて検討してみますと,実際に適用する場面としては,むしろ,ただし書に規定する場面,つまり,短期居住権を取得し,遺産分割により長期居住権を取得するという場合がほとんどではないかと,逆に,本文で記載していた場面というのは,具体的に見ると,短期居住権が配偶者の用法遵守義務違反によって,社会的事実としては,一旦,消滅した後,改めて長期居住権を取得したというような極めて特殊な場面に限られるのではないかと考えられましたことから,本部会資料におきましては最終的に統一しまして,相続開始の後に生じた損傷を原状に復するというシンプルな記載にしたということでございます。
  ここまでが(3)でございます。
  続いて,13ページ下段の「(4)長期居住権の買取請求権について」でございます。パブリックコメントにおきましても,予期に反して施設等に入所しなければならなくなった配偶者を保護する観点から,買取請求権を設けることに賛成する意見があった一方で,紛争の複雑困難化を懸念して反対をするという意見も根強く,賛否が分かれたところでございました。また,長期居住権の創設により,紛争の増大を懸念する反対意見が相当数あったということを考慮しますと,仮に長期居住権を創設するとしても余り重く複雑な制度とならないようにする必要があろうかと考えられます。
  他方で,買取請求権を規律として定めることはしなくとも,例えば資産分割の協議あるいは遺贈等によって長期居住権を設定する場合には,当事者間の合意あるいは遺言においてあらかじめ買取りの条件,その額などを定めておくといった予防策を講ずることも可能と考えられます。これらを踏まえまして,本部会資料におきましては買取請求権に関する記載を本文に掲げることはしておりませんが,この点につきまして御意見を賜れればと存じます。
  (5)の「長期居住権の登記手続について」,14ページ以下でございますけれども,パブリックコメントにおきましては,第三者対抗要件を登記とすること自体には賛成が多数を占めたところですけれども,具体的な登記手続の在り方については問題点の御指摘があり,その検討を求める旨の指摘が前回の部会などにおいてもされたところでございます。この登記手続の在り方につきましては,基本的には長期居住権の取得原因ごとに検討する必要があるのではないかと考えられます。
  まず,遺産分割の審判により長期居住権を取得した場合には,判決による登記の場合と同様に単独申請が可能となるのではないかと考えられます。次に,遺産分割協議によって配偶者が長期居住権を取得した場合につきましても,配偶者が単独で申請できるものとすることも考えられるところではございますが,では,これをどのように根拠付けるのかというところについては,なお,検討が必要と考えられます。更に遺贈によりまして配偶者が長期居住権を取得した場合につきましては,現行法を前提としますと,所有権を取得した者と配偶者との共同申請とすることが考えられますが,この点は本部会で別途検討されているところの遺言事項及び遺言の効力等に関する見直しの状況にも関わるものと考えられます。これに対しまして,被相続人との死因贈与契約によって長期居住権を取得したという場合には,基本的には共同申請ということになるのではないかと考えられます。
  このほか,例えば確定期日を終期と定めて長期居住権が設定された後に当該確定期日が到来した場合ですとか,あるいは長期居住権が配偶者の死亡により消滅した場合には,これを速やかに公示するために,当該建物の所有者において単独で抹消登記を申請できるものとすることも考えられるところでございます。これらの点につきまして御意見を賜れればと思います。
  部会資料の御説明は以上なのですが,先ほど,後ほど説明しますと申しておった具体例の方の説明をここで最後に簡潔にしておきたいと存じます。参考資料を御覧いただければと思います。
  時間もございますので簡潔に御説明をするにとどめたいと思いますが,まず,事例1のマンションのケースについて御覧いただければと思います。例えば被相続人,相続人の例として夫が亡くなり,奥様と,それから,お子さん二人がいるというケースを想定しております。相続財産はマンションと預貯金の合計5,000万円ということにしてございます。
  (1)の現行法を前提とした代表的な遺産分割,法定相続分を目安としてということになりますけれども,そうした場合には乙はマンションを受け取り,そして,残りの取り分で預貯金を受け取るということになろうかと思います。Bは残った預貯金を二人で分けるということに,もちろん,一例ではございますが,そういうことが考えられようかと存じます。
  これに対して,(2)で遺産分割協議によって乙に長期居住権,例えば存続期間は終身として財産価値は当事者の合意の下で所有権の2分の1と設定したものと仮定しますと,乙さんはマンションの長期居住権を2,000万の半分の1,000万円,そして,残りの預貯金1,500万円を取得し,Aさんは長期居住権の負担が付いた所有権を1,000万円で取得し,残りの分で250万円の預貯金を取得すると。Bさんは同じということが考えられます。
  更に(3)で,これは例えば審判によって乙に長期居住権を取得させる場合ということになりますが,こちらでは違いを考えてみるために存続期間は15年とし,賃料相当額を仮に月6万円と考えた場合ということで記載しているものでございます。そうしますと,月6万円ということですと,米印のところですが,年にすると72万円,仮にライプニッツ係数で予定利率5%とし,15年で計算するとざっと750万円ということになりますので,マンションの長期居住権は750万円と算定され,残りの分は乙さんは現金を取得するということになろうかと思います。Bさんは同じということになります。
  2は同様の設定の例を記載したものですので割愛させていただき,事例3を最後に御覧いただければと思います。これは遺言で遺贈によって長期居住権を配偶者が取得する場合ということでございますけれども,被相続人と相続人の構成は先ほどと同じで,相続財産がマンション,土地建物,現金,国債ということにしてございますが,合計8,000万円ということになります。例えばということで遺言内容を考えてみたときに,一つ目として乙さんにマンションの長期居住権と現金2,000万円を遺贈し,子どものAにマンションの,これは長期居住権の負担付の所有権と国債を与え,そして,Bさんに別の方の土地建物を与えると,そういった遺言も考えられるのではないかということで,飽くまでも一つの例として御提示を申し上げたというところですが,何か御意見があれば伺えればと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  長期居住権につきましては,今,御説明いただきましたけれども,(1)から始まりまして(5)までございます。休憩の都合もございますので,今の具体例の関する御質問等も含めまして,差し当たり,(1)に関する部分について御意見を頂戴できればと思います。(1)の部分では,アは先ほど短期居住権について議論した問題とつながっている部分でございまして,アの(イ)の部分をどう考えるかといったようなことが問題になろうかと思います。それから,イとウにつきましては遺産分割の審判によるというのがどの限度で認められるか,ウについては長期居住権の放棄があった場合にどうするかといったような問題が提起されておりました。それとの関連で具体例について御質問いただくということでも結構かと思いますが,具体例も含めて(1)の部分について,差し当たり,御意見を頂ければと思います。
○増田委員 具体例についてなんですけれども,賃料相場をどのように想定して設定されたのかについてお伺いしたいと思います。つまり,前回,私が70歳女性の場合を例にとって,目的物を取得するのがいいのか,長期居住権を取得するのがいいのかという点を比較検討すべきだと申し上げたのは,通常は賃料額は目的物の価格を10年で回収する全体で,その上に固定資産税等の必要経費を上乗せして設定すると言われています。長期居住権の場合は必要費は配偶者の負担になりますので,経費の上乗せ部分は要らないとしても,10年ということを考えると,70歳女性の場合は平均余命のライプニッツ係数が12.462ですから,長期居住権を取得するより建物自体を取得する方が安いということになるのではないかと思います。
  これに対しては,10年で回収というのは都会のことだと考えられるというような意見もあろうかとは思いますが,賃貸住宅の需要が少ないところでも,恐らく12~13年で回収できるように賃料額は設定されているのであろうとかと思いますので,それを考えても70歳女性の場合でほぼ同じぐらいということになるのであれば,よくよく考えると,長期居住権を取得するだけの具体的相続分があるのであれば,建物所有権を取得できるはずだとなるのではないかと思って,前回,申し上げたんですが,そこで,今回,この具体例の賃料というのはどういう考えで設定されたんでしょうかという質問です。
○堂薗幹事 今回の具体例は,事務当局としては,前回の増田委員の御指摘に答えるものとして作ったというよりは,ある程度,具体例があった方がイメージがつきやすいのではないかという御指摘があったので,飽くまでその例として作ったというものですので,そういった意味で,例えば2,000万円のマンションについて適正賃料は大体どれぐらいなのかとか,一戸建ての場合はどうなのか,それは地域によっても大分違うと思いますし,契約内容によっても違うんでしょうけれども,そこの適正賃料を考慮して具体例を作るというところまでは考えておりませんでした。したがいまして,通常の賃料相場より安くなっているというところはあるのかもしれません。
  ただ,結局,従前から配偶者については具体的相続分で長期居住権を取得するとは申し上げてきてはおりますが,そこは具体的相続分に従って財産を分けなければならないのは,基本的には遺産分割の審判のときのみでございますので,遺産分割の審判のときについて適用範囲をかなり限定するということになりますと,基本的には遺産分割協議ですとか,あるいは遺言で使われる場合が多くなってくるということだと思いますし,その場合は当事者間で合意ができていれば,配偶者に本来の具体的相続分以上のものを与えてもいいわけですし,遺贈の場合も遺留分を侵害しない限りは有効と認められるわけですので,そういった意味では,長期居住権が使える場合というのは限定されたニーズだとは思いますけれども,なお,あるのではないかとは考えているところでございます。
○大村部会長 増田委員,よろしいでしょうか。計算の根拠のところで増田委員が御指摘のようなことが特に勘案されているわけではないということだったかと思います。長期居住権の評価の仕方によっては,所有権取得と変わらない場合がかなり出てくるのではないかというのが増田委員の御指摘かと思いますが,そういう場合は出てくるのかもしれませんけれども,なお,使えるところがあるのではないかというお答えだったかと思います。そのほか,いかがでしょうか。
○石井幹事 今の点にも関連するんですけれども,長期居住権の評価については,前回,資料で基本的な考え方のようなものはお示しいただいたところです。仮に長期居住権が立法化されて,これを運用していくことになりますと,評価の指針のようなものがないと,実務としてはなかなか前に進まないというところもありますので,そういったものが示される必要があるのかなと思っておるんですけれども,この辺りについて事務局の方で何かお考えになっているところがあればお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 この点については,事務当局の方で日本不動産鑑定士協会連合会の方に長期居住権については御相談をしているところでございまして,前回,お示しした考え方というのはかなりざくっとしたものではございますが,日本不動産鑑定士協会連合会との議論の中でいろいろと御示唆を頂いているところでございまして,最終的に長期居住権について制度化するという場合には,日本不動産鑑定士協会連合会の御協力も得て,一般的な評価基準として考えられるものをある程度お示しできるようにしたいと考えているところではございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○石井幹事 ありがとうございます。
○大塚関係官 若干,補足をさせていただければと思います。実際に今回,具体例を作ってみていろいろ思ったところなのですが,先ほども御指摘がありましたように,賃料相当額をどうするのかといったところもさることながら,今回,ライプニッツ係数の予定利率を5%として単純に掛け合わせておりますけれども,果たしてそれが5%でいいのかどうかというところもいろいろあり得ます。つまり,掛ける数を変える,あるいは掛ける前の数を変えることによって全く数値が異なってくるということがありますので,これは飽くまで一例ということで,そういった意味で受け止めていただければと存じます。
  日本不動産鑑定士協会連合会も含めて,専門家の方にお話をお伺いしたり,パブリックコメントで御意見を伺っていたりしますと,長期居住権の特性としまして,元々,市場性を有する物件であったのかどうかということで必ずしもそうではないという点,あるいは建物,特に一戸建てがそうかと思うのですが,土地としての最有効利用に沿った建物の形状になっているのかどうかという点,例えば現状は2階建ての一戸建てになっているけれども,8階建てのビルを建てた方が最有効利用に資するといった場合は,大分,評価が変わってくると思いますので,そういったときにどう評価するのかといった問題,更にはその還元利回りとして投下資本の回収方法を考えるとした場合に,その利回りをどう設定するかといったところは,先ほど申し上げたような要素も踏まえて,様々,特殊な要因が出てくるかと思いますので,そういったところについては今後も検討していく必要があるのかなと認識しているところでございます。
○水野(紀)委員 基本的なことでよく分からなくなってしまったところがございます。今の評価の問題とも絡むのですが,10ページのイのところで提案されている遺産分割の場合です。パブリックコメントで,これではむしろ長々もめてしまうだろう,むしろ,持分権を付与することにより解決するのが相当であるという意見がありました。この意見についても私はよく理解できないところがあるのですが,その結果,当該建物の所有権を取得することになる者の意思に反しない場合に限るということになりますと,私の理解が間違っていたのかも知れませんが,最初の立法事実,つまり配偶者の長期居住権を認めようという立法が目指していたところと,意味が合わない長期居住権になってしまいそうな気がいたします。
  つまり,最初に考えられていたのは,もっと強力な居住権だったのではないでしょうか。諸外国では,配偶者が居住していた不動産はそのまま配偶者に取らせる法制を採る国も多いです。日本の場合には夫婦別産制ですから,配偶者相続分は半分ではありますけれども,多くの国では,夫婦財産制の清算でこの半分は取れてしまいますから,夫婦財産制と配偶者相続権を合わせて考えると,日本の配偶者相続分は決して多くはないと考えられます。それから,非嫡出子の相続分が増加したことへの対応です。共同相続人が嫡出子であればお母さんが死ぬまではそのまま住んでもらって,それから,子どもたちで分けようという配慮をすることが多いけれども,非嫡出子の場合にはお父さんが死んだ段階で自分の持分をきちんと清算してもらいたいと望むために,生存配偶者はほとんど不動産だけが遺産であった場合には居住家屋を明け渡して売却し,非嫡出子の相続分を清算した上でアパートか何かに移るしかありません。その場合に,彼女が死ぬまで,居住権は守ってあげる必要があるのではないか,というのが,今回の改正の元々のきっかけであったように思います。
  相続人の間に反対する者がいた場合に,遺産分割審判によって,居住権を設定することはできないということになりますと,配偶者の長期居住権を認めることの大きな意味が減殺されてしまうような気がいたします。また,持分だけでいいではないかというご意見は,私の理解力の問題なのかも知れませんが,なぜ,紛争がそれで止まるのかというのもよく分からないところがございます。
  それから,今までの議論で出ていますように,本当に問題になりますのは,居住権の価格をどう設計するかということでしょう。それが致命的な問題になってくると思うのですが,相場からいって妥当な金額を一律に負担させることになりますと,配偶者の居住権を守るという目的といささか違ってくるように思います。
  また,906条に配偶者の居住権を保護するような一般的な文言を加えることで足りるのではないかというパブコメもありました。従来は,906条は裁判官の裁量権が大きいような書きぶりではあるのですが,実際には実務では法定相続分を変えるような裁量権の発揮を遺産分割審判ではしないという前提で動いてきたかと思います。
  もし,配偶者の居住権についてだけは,裁判官の裁量で法定相続分を変えてもいいというニュアンスを含み得るのだとすると,居住権の価格も判事の判断によって相場的な高い価格から,彼女が死ぬまで安心して住めるように非常に低価格なものまで異なり得るということになります。もし,906条の中に配偶者の居住権を守ることを配慮する文言を入れることによって,長期居住権の価格の設定において幅のある裁量権が認められるということになりますと,そういう形での解決もまたありうるかもしれません。この居住権価格をどう設計するかということと,それについて裁判官の裁量の幅があり得るのかどうかということについても,併せて御教授いただけると,大分,イメージが違ってくるように思うのですが,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 まず,先生の御趣旨を十分に理解しているかどうか,若干,不安もあるんですが,遺産分割の審判で配偶者に長期居住権を取得させる場合ですけれども,相続人の中に一人でも反対している者がいればできないということではなくて,むしろ,相続人の中に一人でもそれでいいと,自分は配偶者の居住権付きの建物の所有権を取得することでいいと言っている人がいれば取得できるということでございますので,そういう意味では,遺産分割の審判で配偶者の居住利益が保護される場合というのはあるのではないかと思います。
  例えば,他の相続人全員が長期居住権の設定に反対しているような場合に,無理やり,長期居住権を設定しても,それは,結局,存続期間中,用法遵守義務違反があったではないかとかいうことで消滅請求を受けたりして,必ずしも安定的な居住の確保はできないのではないかということで,要件を限定しているという趣旨です。
  それから,配偶者に居住権を確保させるために,法定相続分を超える形で取得させてもいいではないかという議論はかねてからあったところではありますが,ただ,その点については配偶者の相続分の引上げのところでもいろいろ御議論がありましたように,配偶者についてだけ,そこまで保護するのはどうなのかという御意見が強かったことから,中間試案では,そこまでは考えていないということでございます。したがいまして,906条で遺産分割の考慮要素について何か追加するということが考えられるんだとは思いますが,ただ,それをしただけでは現行の判例実務でも,飽くまでも法定相続の規律を前提とした持分で分けるという点は変わらないという前提ですので,仮に考慮要素としてそれを入れたとしても,それによって変更されるということにはならないのではないかと考えております。
  元々,長期居住権は,配偶者の居住権を一般的に保護するというよりは,一部のニーズに応えるものとして,新たな選択肢を設けるというところに意義があるものと考えておりますので,そういった意味では,遺産分割の審判の範囲を限定したとしても,当初の目的とかなり違ってくるということはないのではないかと考えております。
○大村部会長 水野委員,よろしいですか。
○水野(紀)委員 夫婦財産制が別産制であるがゆえに,配偶者相続分の中に,婚姻中に蓄積した財産の精算の部分と被相続人の世襲財産だった部分が混在してしまっています。そのことが基本的な問題として背景にあると思います。結婚して間もない,財産の寄与に貢献していない配偶者が配偶者相続分を得る場合と,配偶者と共同して構築したものだけが遺産であったという場合との間には,相当,実態として違うものがあるにもかかわらず,法定相続分で一律にしなくてはならないことが苦しいところです。でも,もし,906条の中で配偶者の居住権についてだけは,そういう実態を配慮する形で裁量の余地を認めて,夫婦で構築した財産であったときには無償ないしごく低額の居住権があるという解釈で配偶者の老後を守れるという立法も,私はこの問題限りではあり得るとは思っておりましたけれども,今の御説明だと,そういうことは考えていないという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 単に906条の中に配偶者の居住権保護という考慮要素を入れただけでは,そこは変わらないのではないかということです。それを超えて更に法定相続分を超えるような取得を認めるということにするのであれば,その部分をきちんと明確に規定しない限りは,そうはならないのではないかという趣旨でございます。
○大村部会長 堂薗幹事のお答えの中が二つに分かれていたように,水野委員の御質問の中には二つの方向のものが含まれていて,一つは遺産分割の審判による長期居住権取得をどの程度まで認めるかということで,この点について,ここに書かれている所有権を取得することになる者の意思に反しない場合に限るという限定が果たして妥当なのかどうなのかという問題です。
  これは,この問題として議論することが可能なのではないかと思いますが,それともう一つは,配偶者の貢献の度合いを相続に反映させるかどうかを別の論点として議論していて,選択肢を挙げて検討しているわけですけれども,その選択肢の一つとして居住用不動産について特別の扱いをすることを別途考えるかということをお話しになっているのではないかと思います。今まではその選択肢は考えられてこなかったと思いますけれども,居住利益について何かそのような配慮をすることはできないだろうかという問題提起だと受け止めました。
  その点は前回,御議論になったところでもありますけれども,本日,この後で御議論を頂くことになる第2の「配偶者に対する持戻しの免除の意思表示の推定規定について」という部分が,ある意味では関わってくる問題なのでないかと思いますので,第2点については,また,それとの関連で御議論いただければと思います。
  第1点のほうですが,遺産分割の審判による場合に当該建物の所有権を取得することとなる者の意思に反しない場合に限るという点について何か御意見があれば頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○石井幹事 先ほどの堂薗幹事の御説明を前提に述べさせていただくと,長期居住権の設定をめぐり紛争が生じるおそれがあるような場合については審判で長期居住権を設定すべきではないという考えを推し進めていきますと,長期居住権の設定が相続人全員の意思に反しない場合に限って審判で長期居住権を設定するというような限定もあり得るのかなと思います。
  その上で少し要望的なことを申し上げさせていただくと,審判の場面で相続人の意思を聴くということになりますと,長期居住権の負担付きの建物を取得するということ自体については構わないけれども,評価額次第だねというような意見を述べられることも想定されるわけですが,そのような場合は,長期居住権の設定は当該相続人の意思に反しないと考えることになるのでしょうか。それとも,評価額をめぐって紛争が続くおそれがある以上,評価額についても合意が形成されない限り,長期居住権の設定は当該相続人の意思に反すると考えることになるのでしょうか。その辺りの考え方みたいなのについては,何らかの形でお示しいただく方が安定的な運用に資するのかなと思っております。
○堂薗幹事 そこは条件付きの同意のようなものを認めるかどうかということだと思いますが,こういう条件であれば設定してもらっても構わないということで,この場面では居住建物の所有権を取得する者についてはかなりのリスクがありますので,そういう条件付きのものであってもいいのではないかと考えておりますが,その点については更に詰めて検討してみたいとは思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。そのほか。
○沖野委員 今の所有権を取得する者の意思をどこまで考慮するかという点ですけれども,それに賛成するような人を見出せないというときに,そのような設定をしてしまうのは,なかなか,かえって難しいという事情があることや,更にはそれの可能性があることによって,長期居住権を与えるべきかをめぐって協議がそもそも整わないといった懸念は,一方では分かるようには思うんですけれども,他方で,財産がほかになくて,年齢などを考えると居住をさせた方がいいと,特に必要があるというときに何とかなりませんかというような説得も含めて,そのためには余地は認めてもいいのではないかと考えます。いろいろな事情があり得るので,およそ家裁ではそれはできませんと切ってしまうことは,余り望ましくないのではないかという感覚を持ちます。もちろん,家裁の実務を分かっていないということがありますので見落としはしていると思いますけれども,今のようなことを考えますと,7ページの原案にあるような意思に反するかどうかということは一つ重要な点として考慮するにしても,特に必要があるという判断があるときには,なお,選択肢としては可能であるという余地を認めるという辺りが妥当ではないかと思っております。
○大村部会長 御意見は,絞り込みについて意思に反しない場合というのを入れてしまうと,誰も所有権を引き受けてくれる人がいないという場合に居住権の付与ができなくなるので,これはこれとして重要な要素であるけれども,他の考慮要因とのバランスで決まるような書き方にするのが望ましいのではないかというご意見だと伺いました。
○沖野委員 そのように考えます。また,そういう形にすることによって,もう少し考えてみたらどうですかといったような促しを生むなどの機能もあるかと思いますので。
○大村部会長 今のような御意見を頂きましたけれども,この点につきましていかがでございましょうか。
○窪田委員 2点,申し上げようと思ったのですが,1点は,今,沖野委員から出たのと全く同じ意見です。一人でも反対する人がいたら駄目といったときでも,どういう意味での反対なのか,価格まで含めてなのかどうなのかという話をし始めますと,石井幹事から御発言があった部分ですが,条件付きの同意というのは,結局,認めたって,その後,各項をめぐってずっと紛争が続くわけですから同じだろうと。原案にあるような形のものの方がむしろ望ましいのかなというのが1点でした。
  もう1点なのですが,気が抜けるような質問で大変に申し訳ないのですが,今の議論でもずっと長期居住権というのは終身又は一定の期間,配偶者がその建物を使う権利という前提で議論がなされてきたと思うのですが,今回の資料の中でその定義はありますでしょうか。というのは,中間試案のときには長期居住権の内容として終身又は一定期間,配偶者にその建物の使用を認めることを内容とする権利というのがあったのですが,今回,長期居住権の部分はその建物を使用する権利としか書かれていなくて,恐らく終身又は一定の期間というのを最初に規定しておかないと,その後の話が成り立たないのではないかなと思います。多分,今回,簡単にしようという趣旨があったのだろうと思うのですが,その点でもし確認を頂けたらと思ったということです。
○大村部会長 浅田委員,関連してですか。
○浅田委員 関連といいますか,もっと気の抜ける質問で恐縮なのでございますけれども,そもそも,ここでいう居住権は何かということについて,先ほどの私の質問に関係し,この居住権というのは排他的な使用権であることを指しているのかということでございます。10ページの半ばのところに,登記をして,かつ,その登記の技術的な理由から効力が及ぶのは建物全体ということになっております。その場合に本文では使用権を取得するということになっております。ただし,(注)のところについて区分所有権のことで区分して,分けて実務的に対応できるというとともに,そこに排他的使用権という言葉が書いてあります。したがって,居住権というのがどういうものなのかということを確認したいということなのでありますけれども,この論点というのは正に登記の効果ということもありますし,また,評価にも関係し得ることだと思います。
  先ほどの私の質問に対する御回答でありますと,居住権ということであれば,基本的には排他的なものだと私は認識したわけなんですけれども,そうすると,例えば相続が起きて配偶者とその子どもの一部だけが住みたいという場合には,先ほどの御回答では居住権を持っている配偶者から何らかの使用権を設定してもらうということの整理だと思います。そうすると,例えば同じ建物の中で所有権による使用,それから,賃借権による使用,それから,居住権による使用というのが言わば共存できないということが前提になっていると思います。
  こういう場でこういう固有名詞を出していいのかどうか分かりませんけれども,分かりやすい例として,サザエさんの家の設定でお話をしたいと思います。ああいう広い家において,波平さんがお亡くなりになって,おフネさんが長期居住権を設定すると,これは建物全部に及ぶといったときに,残りのサザエさんとかマスオさんとかは,おフネさんの長期居住権を前提に何らかの形で使用権の設定をしてもらうということになろうと思います。一方で,波平の長女たるサザエさんはあの広い家の所有権の一部を多分,相続によって承継したと思います。その後,仮にサザエさんがおフネさんより前に死んだときには,この第二次相続においてサザエさんの配偶者たるマスオさんの短期居住権が発生するかもしれないということもあるわけで,そうしたときにおフネさんの有するところの長期居住権の法的性質,その排他性というのが争点になるように思います。また,将来争点になることを理由として,そもそも,長期居住権の評価ということについて今までの議論では,どちらかというと通常の賃借権と類した評価ということになるように聞き及んでおりますけれども,もしかして他の権利と共存するということであれば,違う評価をしなければならないという問題性も含んでいるのかと思いまして御質問する次第であります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  窪田委員の第1点は先ほどの沖野委員の御発言と重なっているということで,第2点と,それから,今の浅田委員の御質問につきまして事務当局の方からお願いいたします。
○堂薗幹事 今回,このゴシックの部分につきましては,若干,条文化する場合にどうなるかという点も含めて検討していたところがあって,長期居住権の存続期間のところは,別途独立に設けた方がいいかなと思っていたんですが,その点がこの資料からは漏れておりますので,そこは従前と同じように終身又は一定期間というのは入れるという前提で,今後,考えていきたいと思います。失礼いたしました。
  それから,浅田委員の御質問のところですが,基本的には,長期居住権の設定について,例えばサザエさんの例でいきますと,フネさんとサザエさんは両方,相続人になりますので,お互いに話し合って決めるということになるわけですが,審判でも一定の場合にはそうなると。基本的にフネさんに長期居住権の設定をした場合は,法律上の権利としては建物全体について排他的な使用権を持つということになりますので,サザエさん一家をその家に住まわせるのであれば,それは飽くまで占有補助者として住むということになるのだろうと思います。ですから,そういう意味では,サザエさん一家の居住権は若干弱まるのかもしれませんが,元々,波平さんの家に占有補助者で住んでいたということだと思いますので,余り違いは生じないのではないかということで,基本的に長期居住権を設定して,ほかの人よりも早く対抗要件を備えれば,配偶者が建物全体について排他的に使用できるということで考えております。
○浅田委員 整理として分かります。そうしますと,評価のことに関していうと,おフネさんはあんな広い家の全部について居住権を取得することになりますが,この居住権につき高額な評価をし,それを前提に遺産分割をするというのは相当でないようにも思われます。即ち,占有補助者ということも認めたということであるのであれば,それなりの減価というのが必要になってくるとは思ったわけであります。これは特殊なケースで,ケース・バイ・ケースで考慮すべきなのかもしれませんけれども,そういう感想を持った次第であります。ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○水野(有)委員 今の件に関連して,実は私も分からないところがあるので教えていただきたいのですが,一部に賃借権が設定されていて,一部に後でそこに長期居住権ができるというパターンもありますが,そうなりますと,逆に言えば,元々,長期居住権は全体にあると言いながら,結局は一部だけ現実にはないということが想定されるという理解でまずいいのかというのが1点,それはそれでよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 結果的に賃借権に劣後する結果,そういうことが生じ得るということだと思います。
○水野(有)委員 あと,もう1点,従前のという条文が残っておりますよね,こちらも短期と一緒で。そうなりますと,前は一部しか使っていなかったことや,占有補助者を住まわせることが前提であったとなりますと,長期居住権が建物全体と言いながら,結局は従前と同じという言葉があるのであれば,ある意味,抗弁になるのだか,よく分かりませんけれども,従前の占有状態というもので制限されるというか,そういう形になっているという理解でいいのかが整理できていなかった,大体,そういう理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 まず,従前から全体を使っていなかった場合に,審判で全体について長期居住権を認めるべき場合というのは,数としては少ないのだろうと思いますし,余り相当ではないのかなという気はするんですが,ここで法定債権という場合には配偶者が債権者となり,債務者は建物所有者ということになるわけですが,そこで従前と違う使い方をするということで,例えば遺産分割協議の中で話合いがまとまったのであれば,その効力を認めていいと思います。つまり,このような規律を設けたとしても,そこは当然,合意ベースで変えられるという前提だと思いますので,そういった従前とは違う形で使うことを前提として長期居住権を設定するのであれば,そこは建物所有者との間で使い方も含めてある程度具体的に合意をする必要があるように思います。
○窪田委員 私自身も話がついていけなくなっている部分があるのですが,先ほどのサザエさんのケースなのですが,占有補助者として使わせることしかできないのでしょうか。というのは,短期居住権の場合ですと,配偶者は第三者に居住建物の使用又は収益をさせることはできないというのが一般的なルールとしてありますので,占有補助者という形にしないと駄目だということになると思うのですが,長期居住権の場合には8ページのウだと,居住建物の承諾を得なければ,これは多分,後ろの方にも係るのだろうと思いますが,長期居住権を譲り渡し,又は第三者に居住建物の使用又は収益をさせることはできないとなっているわけですが,相続人が所有者であって相続人全員が合意するのであれば,賃貸借という形で設定することもできるのではないかという気がしたからです。
  そのときに,恐らく水野委員から出てきた御質問と重なる部分があると思うのですが,建物全体について言わば賃借権相当のものを設定したと言いながら,そこの部分の費用は負担しなければいけないのだけれど,一部については賃貸借を設定させることで賃料に相当するものを得ることができるという形になると,実は負担しているのはその一部分なのではないかということです。先ほど水野委員から出た話とは順番が逆なのだろうと思いますが,同じような事態が考えられるのかなという気がしますが,その点はいかがでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,先ほどのサザエさんの事例でサザエさんが建物所有者だとすれば,フネさんとサザエさんとの間で賃貸借契約が成立すれば,所有者の承諾を得て使用収益をさせているということになりますので,今,御指摘になったような権利関係になるのではないかとは思います。
○沖野委員 一部に対抗力を備えた賃貸借があったときの法律関係です。長期居住権が設定された1階部分と2階部分があって,その一部分が賃貸借というときには,全体についての利用権というかは持つけれども,しかし,賃貸借については賃借人の方の権利の方が優先するので,相変わらず,そのまま使い続けさせなくてはいけないと。そのときの賃料収入は長期居住権者が賃料を取れるという理解でよろしいでしょうか。更には賃貸借に基づいて例えば使用収益をさせろというような話が修繕義務の履行などが出たときには,それは必要費でもあるので長期居住権者が負担すると。更に言うと,賃貸借が終了して賃借人が出ていってくれないというようなときの明渡請求は長期居住権者ができると。その意味では,期間限定,所有権・処分権なしの所有者というか,そういうようなイメージで捉えると一貫するのかなという感じもしたのですが,そのような理解でよろしいかということです。
○堂薗幹事 正直,その点は考えていませんでしたが,ただ,元々,長期居住権に優先する賃貸借契約があって,その場合,通常建物所有者が賃貸人になっていたんだろうと思いますが,それで,その後にそれに劣後する長期居住権が設定されたからといって,賃料については元々の契約の相手方である建物所有者に払うことになるのではないかという気がいたします。
○沖野委員 その部分も含めて排他的な利用権を持つけれども,しかし,そこには優先する権利が更に付いているということかと思っていたのですが。もし,そうだとすると賃料込みの使用収益,必要費の分担は賃貸借に出している部分は所有者の負担になるといったことになるかと思いますが。
○堂薗幹事 結局,飽くまで債権関係が二重にできている状態ですので,長期居住権が設定された場合は,建物所有者は本来全体について使用収益させるというか,使用を受忍すべき義務はあるわけですけれども,それが全体についてできていない状況になりますので,その部分の費用は必要費には当たらないのではないかと。ですから,何か,その部分について修繕なりを配偶者がした場合は,通常の場合と同じように建物所有者に請求ができるのではないかという気がします。先ほど長期居住権の場合,排他的な使用権を取得すると言いました。それは飽くまでもほかの人よりも早く対抗要件を備えた場合のことをこちらとしては念頭に置いておりましたので,ほかに長期居住権よりも先に取得した賃借権などがある場合は,全体として排他的な使用権は持っていない,飽くまでも排他的に使えるところは,それ以外の部分に限られるということではないかと考えております。
○沖野委員 賃貸借が終了したときに,その部分は使えるようになるというのは問題はないわけですね。ただ,そうすると評価もまた一層困難になってくるかと,つまり,賃貸借が途中で終了したようなときには,それ以降は全面的に使えるという,そういう可能性を考慮するかといった話などが生じるでしょうか。
○堂薗幹事 要するに優先する賃借権がある場合に,あえて建物全体についての排他的使用権があるというところにメリットがある長期居住権を設定するということ自体余り考えにくいといいますか,そういうニーズというのはほとんどないのではないかと思います。全体について使えて,それについて対抗力も備えられるので,安定的に居住の利益が確保できるというところがメリットではないかと思いますので,優先する賃借権があるような場合に長期居住権を設定しても,余りメリットはないのではないかという理解でありますけれども。
○窪田委員 どれが正しいのかというのは,いろいろな考え方があるのだろうと思うのですが,先ほど沖野委員から御指摘のあった期間限定の処分権なしの所有権というのは,大変に分かりやすい比喩なのかもしれないと思います。つまり,賃借権に劣後するということがあるとしても,所有権が移転した場合,言わば賃貸人たる地位が移る,通常だったら確定的に移るわけですが,期間限定で移ると考えれば,自らが長期居住権を有する建物全体についてですけれども,その一部について賃借権に劣後するので利用できない部分はあると。ただ,建物全体を評価の対象とした上で遺産分割をし,その代わり,そこで利用できない部分については賃料収入という形でカウンターバランスがとられるというのは,一つの説明の仕方としてはあり得るのかなと思いますので,先ほど堂薗幹事がおっしゃったように,契約関係は変わっていないのだから,所有者との関係の問題なのだというのは一つの答えではあるとは思います。両方ともあり得るのではないのかなと思いながら伺っておりました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のところは両論があり得るのかもしれませんが,一連の議論の前提になっていることとの関係でいうと,それらの問題を含めて長期居住権を評価するのはなかなか難しいのではないのか,この評価について一定の基準がないと,協議をするにしても審判で行うにしても,なかなか難しいところがあるのではないかというご意見が出てきているかと思います。指摘された個別の問題についてどう考えるかということと併せて,事務当局の方で御紹介いただいているということですけれども,評価の問題につきましてもある程度の指針を検討して,お出しいただくのがよいのかと思いますが,そのようなことで今の点につきましては取りあえず引き取らせていただいてよろしいでしょうか。
  それでは,あともう一つ,遺言の場合について御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。11ページに,「遺言により配偶者に長期居住権を取得させる場合」ということで,遺贈の場合と遺産分割方法の指定の場合とを区別して考える必要があるのではないかということと,それから,遺贈の放棄がされた場合の後始末をどうするのかということについて事務当局の方から問題提起があったかと思いますが,これにつきまして何か御意見がありましたら,お願いいたします。
○中田委員 今回の整理は非常に分かりやすいと思うんですが,一通の遺言の中で相続させるという表現があるものについては遺産分割方法の指定となり,長期居住権については遺贈となるという解釈がなかなか技術的だなという感じがします。他方で,遺贈だとしても995条は適用を除外しなければいけないということです。そうすると,規定の仕方になるだけかもしれませんけれども,法律的な性質を決定しなくて,長期居住権についてのみの規律ということも可能かと思うんですが,そういうのは遺贈と性質決定した上で特則を設けるという方が技術的には簡単なんでしょうか。
○堂薗幹事 法制的な説明として遺産分割方法の指定も含めてできるけれども,放棄としては長期居住権のみの放棄はできる。その場合の効果としてはこうなるというのを全て設けるのは,何で同じ遺産分割方法の指定でありながら,法的性質としては同じものでありながら,この場合だけ放棄の効果が違うのか,あるいはその一部だけ放棄ができるのかという辺りの説明が非常に難しいのではないかということでございます。
  最終的には遺贈と相続させる旨の遺言でどれだけの違いが生じるのかというところによって,相続させる旨の遺言がされた場合に全体として遺贈と解するのか,あるいは一部は遺贈で,一部は遺産分割方法の指定と考えるのかというところも変わってくるのかもしれないんですが,ただ,遺言の解釈の仕方として,できるだけ被相続人の意思を尊重して無効にならないように解釈するという解釈の仕方自体は,一般的に言われているところだと思いますので,そういった意味で,長期居住権の処分については遺贈でしかできないと規定すれば,少なくともその部分については被相続人の意思としては遺贈の趣旨だったのだろうということで,合理的な解釈がされることになるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。中田委員の御発言は,ここで示されている実質的な処理については特に反対ではない,作りをどうするかというところについて別の考え方はできないかと,こういう指摘だったと伺いました。
○水野(有)委員 今のことに関連してなんですが,私の個人的な見解なのですけれども,堂薗幹事のおっしゃるとおり,どちらとも読める場合により有効に解釈すれば,多分,一般にはおっしゃるとおりなのかなと裁判官として思うのですが,ただ,相続分の指定としか読めないというものがあったときは困るなというのが率直なところで,相続分の指定となった場合,こういう規定があった場合,どこまで遺言が無効になるのかが分かりづらいところもあるので,その点も御考慮いただいて,今後,条文の作りを御検討いただければなと思いますので,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 今のような事情もあるということで,先ほどの中田委員の御指摘も踏まえて,ここで書かれているような基本的な方向を実現するために,どういう作りがいいかということにつきまして更に検討いただきたいと思います。
  実質については今のところ,皆さん,これでよいという御意見だったかと思いますけれども,よろしゅうございますか。
○垣内幹事 内容について不勉強で理解のおぼつかないところがありまして,遺贈の放棄があった場合の効果について,11ページの本文の最後の段落の末尾のところで,居住建物の所有者が何ら制限のない所有権を取得したものとなるという御説明をされているかと思うんですけれども,ここで想定されている事例というのは,配偶者に対して長期居住権を取得させる旨の遺言があって,かつ,長期居住権の対象となる建物についての所有権も遺言ないしその他の方法で定まった段階で放棄がされたらそうなるという,そういうことをここでは想定されているということでよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 ここで想定しているのは,建物所有権についても遺言の中で所有者が決められている場合を想定しておりますが,仮に建物所有者が決まっていない場合,相続人の共有ということになりますけれども,その場合も結局,配偶者がそれを放棄すれば,相続人が何らの負担のない制限のない所有権を共有しているという状態になるのではないかと考えております。
○垣内幹事 今,最後におっしゃった場合については配偶者も相続人なので,配偶者も含めて共有の状態に戻ると。分かりました。ありがとうございます。
○大村部会長 その前提でよろしいですか。
  そのほか,この点につきまして。
○窪田委員 今の垣内幹事からの御質問と違うケースということになりますが,子どもと妻の二人だけがいて,子どもの方に唯一の財産である不動産を子どもに相続させ,遺贈でも相続させるでもいいんですけれども,妻に長期居住権を与えるという場面において,長期居住権の方の遺贈を放棄したら,子どもの方の相続させる旨の遺言のみが有効になる,負担付きではない形で有効になるということで,これはこれで構わないということでよろしいでしょうか。その点をご質問するのは,その種のものというのは,別に長期居住権ではなくても,恐らく負担付遺贈であるとか,条件付遺贈とかという形でも,従来,考えられてきたと思うのですが,条件だとか負担という部分だけがなくなり,そこの部分については権利を有している者が要らないと言ったのだから要らないと。そうすると,あとの部分はそれとは無関係に遺贈は遺贈として単独で生きるのだという,それはそれであり得る理解なのだろうと思いますが,それで構わない,そこまで含めてということでよろしいですか。
○堂薗幹事 一応,こちらで考えているのは共有のゴムまり理論と似たようなところはありますが,放棄することによってばっと広がると,したがって,先ほどの場合でいえば,子どもが建物所有権を取得するということでいいのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしいですか。別の考え方があり得るとは思いますけれども。
○沖野委員 それはデフォルトルールというか,遺言者の別段の意思が明らかであれば別であるという前提が付いているということでいいでしょうか。
○堂薗幹事 そういう理解です。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 別の話なんですが,長期居住権の成立要件として配偶者がその建物を有償又は無償で使用していたときになるのであって,それが短期居住権とは違うという御説明だったと思います。つまり,配偶者が有償で使用していた場合というのは,賃借権などの権利を持っていた場合になると思いますが,そういう場合にどうなるのかについて,先ほど長期居住権の財産評価の話がありましたが,その場合についても併せて御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 分かりました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  それでは,長期居住権のうちの(1)まで終わったということにさせていただきまして,休憩を挟みまして(2)以下につき,御意見を賜りたいと思います。今,4時5分ですので4時15分まで休憩させていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,残りの部分について再開させていただきたいと思います。
  12ページの「(2)長期居住権の効力」以下,14ページから15ページにかけての「(5)長期居住権の登記手続について」まで,この部分につきまして御意見を頂ければと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○浅田委員 細かい話ですけれども,感想です。12ページのウの「建物使用の対価」の最後の方に,長期居住権の支払方法は一括前払方式のみとするとあります。これについて賛成するも反対するも意見は特に持っておりませんけれども,こうなるんだろうという感想を申し上げます。すなわち,抵当権者からしますと抵当権設定があって,その後に長期居住権が発生し,登記を経たというような状況を考えますと,通常であれば,抵当物件であれば賃料差押えであったり,それから,担保の収益執行をしたりすることで回収ができるということになります。
  ところが,本制度によりますと,みなしといいましょうか,賃料の払渡しというのがどこかでなされてしまって,かつ,それが前払いになってしまうということになりますと,その後,賃料差押え等をしようと思っても,そのときは遅いという話になってしまいます。そうしますと,抵当権者からすると回収のためには,言わば競売で長期居住権を排した価格の回収に努めるというインセンティブが働くのではないかというようなことと思いました。そういうことになるのではないかという推測を申し上げたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点も含めまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。今の点は一括前払方式,この表現がいいかどうかはともかくとして,一括払方式と,それから,賃料支払方式,後払いというか追加払いというか,そういった二つがあったのを一つにしようということで,一つにすることに伴って,どういうことになるかというのが今の浅田委員の御指摘だったかと思いますが,今の点でも結構ですし,ほかの点でも結構です。
○増田委員 一括前払方式のみとなったということで,長期居住権が死亡以外の理由で中途で消滅した場合には,賃料を返してもらえるということになるんでしょうか。
○堂薗幹事 ここは従前から一括前払方式と一応,賃料支払方式と書いていたので,こう書いておりますが,飽くまで実質的には配偶者の具体的相続分の中で取得するという前提ですので,別に賃料の前払いを実際にしているわけではありませんから,そこは仮に相続期間が満了する前に長期居住権が消滅したとしても,その分に相当するものが返ってくるとか,そういうことは想定しておりません。飽くまでこれはどちらかというと比喩的に書いているところがございまして,特に先ほどから申し上げていますように,遺産分割の審判でやる場合は,当然,法定相続分に従った取得額で計算するわけですが,それ以外は必ずしもそうではないというところもありますので,そういった意味で,賃貸借において賃料を全部前払いした場合と全く同じかというと,そんなことはないという前提でございます。飽くまでも法律的には長期居住権というのは存続期間中,無償で使用できるという権利を具体的相続分によって取得するという前提です。
○大村部会長 増田委員が御指摘は,(4)の「長期居住権の買取請求権」にも関わってくるのだろうと思います。想定されていた終期に至らないときに,長期居住権が不要になるというような場合にはどうなるのか。賃料前払いの場合には,賃料の方を何らかの形で清算してもらえるのというお話になるのかもしれませんけれども,そうでなく買取請求はできるのかという話も出てくるのかと思います。今回は買取請求については特に何も定めることはしないということが提案されていますが,その点も含めまして御意見等を頂ければと思います。
○水野(有)委員 そうなりますと,これも確認なのですが,そのような権利であるということを前提として評価がされるということで,それをリスクと表現するかどうかは別として,保証されたものでないことを前提として評価されるので,問題ないというお考えで作られているという御趣旨でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 そういうことにはなります。
○水野(有)委員 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○窪田委員 今の水野委員からの御指摘があった部分にも関係するのですが,基本的には単に途中で死亡するというリスクがあるだけではなくて,それ以外の理由によっても消滅してしまう可能性がある。しかし,その場合にも手当はされないというものなのだから,その分,期待値としても一定の金額にとどめましょうということなのだろうと思います。
  それとの関係で,最初に資料を頂いて拝見したときによく分からなかったのが14ページの上の方から4行目でしょうか,更に長期居住権の買取請求権まで認めなくても,遺産分割協議とか,いろいろなことでいろいろな手当をすればいいではないかということなのですが,この話はある意味でそれとは関係ないというか,むしろ,最初からそういうものなのだと評価してしまって,一括して処理してしまえば済む話であって,言わばオプションとして,そういうことを当事者がやることはあり得るというだけなのかなと言う気がします。こういう書き方をすると本来は買取請求権まで認めるのが望ましいかもしれないけれども,それをするとややこしい,しかし,こういう対応策があるというニュアンスに読めてしまうのではないかと思います。多分,そうではなくて,先ほど水野委員から出たような形で言い切ってしまった方が制度設計としては単純なのではないかなという気がいたします。
○沖野委員 重複はするのですけれども,買取請求権につきまして元々の発想は一定の有償取得をしているのであれば,それを断念せざるを得ないときには,その部分の精算があってしかるべきではないかというのと,買取請求というと買い取れというようなイメージですが,要するに消滅させるということなので,そのときの精算をするという制度ではないかと考えておりました。ただ,そのことは一番の前提がそれなりの有償取得性があるということですので,そうではない,中途で居住をやめるときは手当のないようなものだということで,元々,その分も込みで評価がされるということであれば,必ずしもこの制度は要らなくてもよいのかとは思います。
  ただ,実際はこの現状で住めると思っていたところ,事情が変わって例えば別のところに住まざるを得ないときに,一括の金銭が必要な際にある程度,何とかならないかというようなことも考えてはいたのですけれども,元々,取得している権利の部分が非常に低い評価の権利であるということであれば,やむを得ないということも考えられるのかなと思います。ですので,評価の問題とかなり関わっているということは,そのとおりではないかと考えております。
  しかし,違ったことを言いますけれども,仮にそうではないとしても,ここの部分に対する反対が非常に強く,またこの制度のために,長期居住権なるものが理解不能な制度になってしまって,受け入れられないということになるようだと,それはそれで残念なことだと思いますので,仮にそうではないタイプのものとして作る場合にも,その辺りの処理はなるべく当事者が決めておくような形になるよう情報提供をして,買取請求権というのは今回は作らないということもあり得ると思います。制度の設計が二通りあるかと思われまして,後の方も可能な設計かと考えます。
  更に余計なことを言いますと,これに限らないことではありますけれども,最初から100作るのは難しいとすると,ある部分を作って動き出して,より要請が強まってくるならば,もう少し制度を考え直していこうということも考えられてしかるべきかと思いますので,そのようなことも考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  どの程度の重さというか,どの程度の保護のある長期居住権を想定するのかということかと思いますけれども,軽めの制度を作れば,それはそれにふさわしいものとして評価がされるだろうし,重いものを作れば重いものとして評価されることになるだろうというのが3人の委員の方々の御発言だったかと思います。もし,重いものがよいとしても軽いものから始めることも可能ではないかというのが沖野委員が最後におっしゃったことかと思いますが,ほかに買取請求について何か御発言があれば承ります。
○村田委員 長期居住権にどの程度の保護を与えるのかというところについての定見はないのですけれども,評価が余り難しくならないような制度設計にはすべきかなとは思っていて,仮に,長期居住権に対する保護を軽くしたとして,そのことが長期居住権の評価を難しくさせる要素になるのだとすると,それはそれで制度設計としてはどうなのだろうというところがあります。例えば,存続期間の途中で死亡以外の原因で長期居住権が消滅する可能性があるという点について,これを一種のリスクとして捉えて減価要素とみることも可能かもしれませんけれども,例えば,用法遵守義務違反を理由とする消滅請求がされた場合であれば,それについて催告を受けたりしてどうするかという態度決定を自分でできるわけで,きちんと対応しないと残りの期間に対応する賃料相当分の利益も含めて放棄したのと同じことになるのだなと覚悟を決めて対応すればいいだけの話ですし,存続期間の途中で居住の必要性がなくなった場合であれば,買取請求権がなくても,ここの資料にあるような別途の合意をすることでもって手当をしておけば足りますので,いずれについても減価要素とするまでもないと考えることもできるわけです。そういう意味では,長期居住権の保護を軽くしたとしても,長期居住権の評価としては,単純に賃料相当額に存続期間を乗じるといった算定方法をベースにして考えれば足り,それ以上は余り複雑なことを考えなくてもいいということでも,十分,説明はできるのではないかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。買取請求権を設けないとした場合に,死亡以外の原因でいつ終了するかということは様々あり得るけれども,それを全て評価のところに織り込むことは必ずしも必要ないのではないか,それによって評価の方も安定させるというのがむしろ重要なのではないかと,こういう御指摘として承りました。
  ほかにいかがでございましょうか。
○石栗委員 遺産分割の場面において,長期居住権の負担のある建物の取得額を建物自体の時価から長期居住権の評価額を控除した残額として評価することを前提にしますと,長期居住権を低めに評価した場合には,その負担のある不動産を取得する相続人の側は,すごく負担の重い権利を非常に高い評価額で取得させられることになってしまい,酷な結果も生じ得ます。その辺をどう評価するか点も,お考えいただければと思います。
○大塚関係官 その点は,先ほどからの御指摘は非常にごもっともと思って承っていたところですし,実際にリスクのある権利だと権利を取得する側が受け止めたとしても,長期居住権の負担があることによって,所有者がその建物あるいは敷地を使うことができないという負担は厳然として存在すると,その総和がどうなるのかということまで考えてくると,軽くなったからといって直ちに長期居住権の評価が例えば0.8掛けのように軽くなるとは限らないという面もあります。そうすると,ただ,リスクがあるからといって単純に評価を軽くしていいかというのは,それはそれで慎重に考える余地があるとは思っております。そういった面で非常に貴重な御意見と承りました。
○大村部会長 ありがとうございます。今日,議論されていることの相当部分は,この評価の制度をどうするのかということと関わっているということですね。
○八木委員 今の問題なんですけれども,参考資料の具体例を見ますと例えば事例1の(2),これは財産価値を所有権の2分の1としている場合なんです。これを例えば4分の1としたとしても,所有権はあるけれども,使えないということになるということです。仮に2分の1とした場合に,乙が亡くなった場合にAの所有権はこの場合,2,000万円の価値になるわけですね。そうすると,A,Bともに嫡出子であれば,ここに不公平が生ずるわけですから,この場合は特別受益として計算し直すのかどうか,そういった問題も出てくるのかなと思うんですが,この辺はいかがでしょうか。
○堂薗幹事 (2)の場合につきましては,遺産分割協議で話合いがまとまったという前提ですので,そこは長期居住権の評価額を含めて,そういう形で合意がされているということになりますので,遺産分割協議が成立した後にその当時とは事情が変わって,当初,思っていたほど長期居住権を利用できなかったという場合も,その後に精算するということは考えておりません。ですから,そこは,そういったリスクも込みで取得しているということにならざるを得ないのではないかと考えておりまして,先ほどの評価の仕方とも関連するんですけれども,私が水野委員の御質問の趣旨を若干,取り違えて答えている可能性はあるんですが,私としては従前から長期居住権を配偶者が取得する場合は,基本的にはそういったリスクも込みで,配偶者としてはその取得を希望するかどうかを決めていただくと。
  したがって,そこはある程度,不確定な要素があっても減価はできないのではないかという前提で考えております。これに対し,減価が必要ということになりますと,他の相続人の利益にも影響が出てきてしまいますので,要するに,そこを減価するということはかねてから申し上げているとおり,遺産の総額が変わってきてしまいます。長期居住権を設定する形で遺産分割する場合と,通常どおり,所有権を取得させる形で分割する場合と,遺産総額が変わってきてしまうという問題がありますので,この点についてはそのリスクも込みで,そういったリスクを負担するものとして取得するかどうかを検討するということになると思いますし,ただ,遺産分割協議などの場合は,そういったリスクについて全員で合意をすれば,そういったリスクがあることを踏まえて配偶者により多くの相続分を与えてもいいわけですので,その辺りの調整というのは事前に可能ではないかという趣旨で,事前に買取額を決めるということもあり得るのではないかということは記載をしていたというところでございます。
○大塚関係官 先ほどから御指摘いただいているように,厳密に客観的な財産評価をして関係者全員のコンセンサスを得られるような評価をするとなると,先ほどから御指摘を多数頂いているような問題に直面し,そこについてのノウハウを蓄積していくことが必要だろうということは,全くもって御指摘のとおりということになります。
  他方で,今回御提示申し上げているのは,そこは当事者間の合意でリスクをそれぞれの認識の下に置いて評価をし,例えば所有権価格の半分なら半分ということで一つの割り切りを持って評価し,それについて例えば買取請求権のオプションを設けるということももちろん考えられようかと思いますし,それをしないのであれば,そういったものとして受け止めると,そういった合意ベースでのシンプルな価格設定も考えられるのではないかということを含意したところでございますし,そういったやり方で家族円満にできるのであればよいのではないかという意味で,八木委員の御指摘を受け止めたというところでございます。
○大村部会長 水野委員,よろしいですか。
○水野(有)委員 丁寧に御説明を受けましたので,趣旨を理解しました。ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  八木委員の先ほどの御質問については,長期居住権自体が一定額で評価されるわけですけれども,どれだけ続くものなのか,分からない部分がある。死亡によって消滅するといっても,実際に幾つで死亡するか分かりませんので,個別のケースについていえば射倖的な要素というのでしょうか,ある場合には所有権を取得した人が得をするけれども,ある場合には損をするということを含んだ上で分割をしますので,後で最初に織り込まれていたアンバランスが顕在化したとしても,それを再調整することはしないというのが前提である。そういうお答えだったかと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
○中田委員 紛争解決をする方法なんですけれども,今の買取請求ですとか,あるいは場合によっては長期居住権を譲渡して処理するという解決もあり得ると思うんですが,そういうときに民事調停しかないんでしょうか。家庭裁判所の調停というのは不可能なんでしょうか。
○堂薗幹事 一般の家庭に関する紛争として調停の対象にするということが考えられるように思いますが,この辺りはこちらも十分に考えておりませんので,何かお考えがあるのであればご教示いただければと思います。
○村田委員 民事調停と家裁での一般調停のすみ分けというのはすっきりしないところが実際にありまして,同じような紛争でも家族間の紛争の側面があれば,恐らく家庭裁判所は一般調停として受け付けるだろうと思います。ですから,重なる部分はあると思うんですけれども,すき間で落ちこぼれるということは恐らくないかなと思います。
○中田委員 先ほど部会長がおっしゃいましたとおり,射倖的な要素もあるけれども,一応,最初に決まった上で再調整はしないというのはもっともだと思うんですが,ただ,実際には再調整が必要な場合が出てくるので,そのときにはどうも家庭裁判所でやっていただくのがいいのではないかなと思ったものですから,それは不可能でないというお話でしたので,結構なことだなと思いました。
○大村部会長 買取請求権を設けるというのは一つのやり方であるわけですけれども,その他の手段もあるのではないかという指摘がなされているかと思いますけれども,中田委員が御指摘の点も不確定さの緩和というか,調整のための一つのルートであるということかと思いますが。
○窪田委員 家裁での実務ということで,何か感触みたいなものを教えていただけたらと思います。紛争が起こってからというのもありますけれども,14ページに書かれていることだと遺産分割協議の際等に当事者間で相談しておいてから,思ったより早く死んでしまった場合にはこうしておこうねとか,途中で老人ホームに入るという形になったらこうしようねとかということがあるのですが,これを例えば審判事項という形で処理する場合に,家裁のイメージではこういうふうな条件を付けるとかというのはリアリティがある話なのでしょうか。あるのだとすると,そういう対応もあるのかなと思ったものですから,教えて頂けたらと思います。
○石井幹事 調停であれば当事者が合意することにより柔軟に調停条項を設けることができますけれども,審判ですと,そこで定めることができる事項にはおのずと限界も出てくるのかなという感じがいたします。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○窪田委員 ありがとうございます。
○大村部会長 御発言はありますか。
○石栗委員 審判をするということは調停ができなかったということですので,どなたかが反対しておられるということだと思うんです。反対しておられる方がおられるのに,調停条項のように場合分けをしたような主文を付加するのは,裁判所としてなかなか難しい部分があるのではないだろうかという感触がいたします。
○窪田委員 よく分かりました。こういう枠組みがほかの手当でできるのかなということで,感触を知りたいなということでございましたので,ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかにいかがでございましょうか。あと,登記の点につきましても幾つかの考え方が示されておりますけれども,こちらも含めて御発言があれば承りたいと思います。
○増田委員 登記については単独申請というのは行きすぎかなと。不動産登記で単独申請ができる場合というのは,基本的には相続のように登記義務者が死んで,すでに存在しないというようなケースであって,判決等による登記は単独申請とは言っていますが,共同申請の一方当事者の意思表示が判決によって擬制されている場合の強制執行としての単独申請ですので,それは場面が異なると考えます。長期居住権は登記義務者が存在するケースですから,せいぜい,登記請求権を認めるという程度が限度ではないかと,単独申請までいくとほかのところと整合しないと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○浅田委員 増田委員の意見の延長の確認なんですけれども,長期居住権がなくなるという方向に利益がある銀行の立場からの発言になるのかもしれませんが,増田委員からの意見からしても例えば15ページの最後の方の第2の一つ前の,例えば確定日付を終期と定めて長期居住権が設定された後に確定期日が到来した場合とか,配偶者の死亡という場合には客観的な事実ということがありますので,これについては単独申請が認められる類型があるということはあり得るのかなと思いました。
○大村部会長 登記につきましてよろしいでしょうか。今,頂きました御指摘を踏まえまして更に詰めていただきたいと思いますけれども,そのほか,全体につきまして,長期居住権につきまして御発言があれば承ります。
  ありがとうございます。それでは,御指摘いただいた点を踏まえて更に検討いただくということで先に進ませていただきたいと存じます。最後に残っておりますのが「第2 配偶者に対する持戻しの免除の意思表示の推定規定について」でございます。これにつきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,時間も押してまいりましたが,第2について入りたいと思います。関係官の神吉から部会資料15ページの第2につきまして御説明させていただきます。
  今回,皆様に御提案させていただく案は,1に記載いたしましたとおり,配偶者の相続分の引上げに代わる案として提案させていただくものでありますが,婚姻期間が20年以上の夫婦が配偶者に対し,居住用不動産を遺贈又は贈与した場合に,民法903条3項の持戻し免除の意思表示を推定する規定を設けたらどうかということでございます。
  御承知のとおり,配偶者の相続分の引上げにつきましては,パブリックコメントでは否定的な意見が多数を占めたものの,前回の部会においては今回の諮問の趣旨,すなわち,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活保障の必要性が高まっており,そのような観点から配偶者保護のための方策を検討すること自体は必要かつ有益であり,この段階で検討を断念するのは時期尚早ではないか,別案も含めて検討すべきではないかとの意見が相次いで出されたところであります。また,配偶者の貢献を相続という場面で評価するのは限界があり,生前贈与を促進する方向での検討もされるべきではないかとの指摘もされたところであります。
  ところで,現行法上,相続人に対する贈与につきましては,通常,特別受益に当たるものとして16ページの(注1)に具体例を記載させていただきましたが,相続の場面におきましては特別受益の持戻し計算を行うことになるところ,持戻し計算を行った場合には,通常は法定相続分を超える財産の取得をすることはできないということになります。もっとも,被相続人が特別受益の持戻し計算をする必要はないという,いわゆる持戻し免除の意思表示をした場合には,特別受益の持戻し計算をする必要はなくなる結果,17ページの(注2)に記載しましたとおり,生前贈与を受けた相続人は,より多くの財産を最終的に取得できることになります。
  現行法上,配偶者に対する贈与に対して特別な配慮をしているものとして,婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産等の贈与が行われた場合には,基礎控除のほかに最高2,000万円までの控除を認めるという相続税法上の贈与税の特例という制度が設けられております。これは夫婦の財産は夫婦の協力によって形成されたものであるという考え方から,夫婦間においては一般に贈与という認識が薄いこと,また,配偶者の老後の生活保障を意図して贈与される場合が多いことなどを考慮して設けられたものであると説明されており,この制度は高齢化社会の進展等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活について配慮するものと言えますが,民法上も配偶者に対して行われた一定の贈与について贈与税の特例と同様の観点から,一定の措置を講ずることは贈与税の特例とあいまって配偶者の生活保障をより厚くするものと言え,今回の諮問の趣旨に沿うものと考えられます。
  そこで,冒頭でも御説明いたしましたが,一定の婚姻期間を超える夫婦の一方配偶者が他方配偶者に対し,一定の財産を贈与した場合には,民法903条3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定する規定を設けることとし,このような贈与が行われた場合には,当該配偶者がより多くの財産を最終的に取得できるようにすることを提案するものであります。なお,贈与ではなく遺贈によってされた場合についても,この趣旨は当てはまるものと考えられるため,本方策においては遺贈も対象とすることとしております。
  引き続きまして,19ページの3の「検討すべき事項」に移りたいと思います。本方策に関連する細かい論点につきましては,17ページ,18ページの(注)にも記載しておりますとおり,いろいろあろうかと思いますが,ここでは本方策に関連する大きな論点三つを口頭で御説明させていただければと思います。
  まず,1点目といたしましては,婚姻期間の制限を設けるべきかどうかという点でございます。今回,御提案させていただいた案におきましては,婚姻期間が20年以上の夫婦という限定を設けておりますが,これは長期間,婚姻関係にある夫婦については,通常,一方配偶者が行った財産形成における他方配偶者の貢献,協力の度合いが高いものと考えられ,そのような状況にある夫婦が行った贈与については,類型的に当該配偶者の老後の生活保障を考慮して行われる場合が多いと言え,そのような贈与につきましては民法上の特段の配慮をする必要性があると言えるものと思われます。そこで,本方策におきましては贈与税の特例を参考に,婚姻期間が20年以上の夫婦を対象としておりますが,その期間についてどのように考えるべきか,皆様に御意見をお伺いしたと思います。
  また,2点目の論点は,贈与対象物を居住用不動産に限定すべきか,また,金額の限定をすべきかという点でございます。今回,御提案させていただいた案におきましては,贈与対象物を居住用不動産に限定し,また,金額につきましては特段の限定は設けておりません。これは,居住用不動産の全部又は一部を贈与した場合につきましては,類型的に相手方配偶者の老後の生活保障を考慮して行われる場合が多いと言え,そのような贈与につきましては民法上も特段の配慮をする必要があると言えるかと思います。なお,贈与税の特例と同様に,金額の上限を2,000万円とするなどの限定を設けることも考えられますが,民法上,特段の配慮をすべき必要性につきましては,贈与の対象物の金額の多寡により異なることはないと考えられることなどに鑑みますと,金額による制限を設けるのは適当ではないと思われます。
  また,相手方配偶者の老後の生活保障を考慮して行われる贈与につきましては,居住用不動産に限らないと思われますが,居住用不動産につきましては老後の生活保障という観点で特に重要なものであること,そのほかの財産も含めるとすると,配偶者以外の相続人に与える影響も大きいことなどを考慮しまして,本方策では居住用不動産に限定することとしております。この点につきまして皆様の御意見をお伺いできればと思います。
  三つ目の論点は,持戻し免除の意思表示の推定規定を設けることのみならず,例えば婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が遺産分割により,他方配偶者の所有に係る居住用不動産を取得した場合には,遺産分割における居住用不動産の評価額を減縮するなどということが考えられるかどうかということでございます。
  例えばということで(注9)に記載いたしましたが,このような事案におきましては,現行法におきましては配偶者は居住用不動産を相続いたしますと,これで全て配偶者の有する具体的相続分を使ってしまいまして,その余の財産を取得できないということになりますが,贈与税の特例と同様に配偶者が遺産分割において居住用不動産を取得した場合に,2,000万円をその評価額から控除するという方策を採用した場合には,居住用不動産は4,000万円と評価されることとなる結果,その余の財産を1,000万円分取得できるということになり,結論的には配偶者の具体的相続分が増えるということとなります。
  もっとも,そのような規定を設けた場合には,実質的にはパブリックコメントで否定的な意見が多数を占めた配偶者の相続分を引き上げることと変わりありませんし,居住用不動産であれば,どうしてその評価額を減縮できるのか,その理論的な根拠が不明であるという批判も考えられ,このような考え方を採用することは困難ではないか,とも思われます。この点につきましても御意見があればお伺いできればと思います。
  以上,簡単でございますが,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  今,御説明があったとおりですけれども,前回,配偶者の貢献を考慮する方策を諦めるのはまだ早いのではないかという御意見が出まして,それを受けて事務当局の方でさらに検討をして,出していただいたのが今回の案でございます。居住用不動産に対象を絞って現行法に置かれている持戻し免除の規定の特則として,推定規定を置くというのはいかがかというのが基本的な内容かと思います。期間の制限の問題ですとか,対象の限定の問題ですとか,あるいはそれ以上の効力を認めるべきかどうかといった論点も指摘されておりますけれども,それ以外の点も含めまして御意見を伺えればと思います。これは今回が初めてですから,具体的にどうするということではなくて,御意見を伺った上で配偶者の貢献に対する対応というのを検討する際に,また,改めて御検討をお願いしたいと思いますので,御自由に御発言を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○増田委員 方向性として特に賛成とか,反対とかいうわけではないですけれども,婚姻期間が20年以上というのは贈与時あるいは遺言作成時と見るのか,相続開始時なのか,同様に居住用という要件も贈与時若しくは遺言作成時なのか,死亡時なのかという点をまず確認的に質問したいと思うんですが,時間の関係もあるので,恐らく贈与時という答えが返ってくるものだろうと想定した上で,立法趣旨によっていろいろと検討すべきところがあるだろうという意見を述べます。
  まず,立法趣旨が配偶者の貢献の対価なのか,それとも居住を含めた生活保障なのかという疑問があって,仮に貢献だとするならば,なぜ,20年を贈与時にするのかというのが一つよく分からない。相続開始時で20年以上経過しておれば,それでいいのではないかなというようなことも思いますし,逆に実質的夫婦共有財産でなくて,先祖代々相続してきた居住用不動産を贈与した場合も持戻し免除が推定されるというのはどうなのかという問題もあるだろうと思います。逆に立法趣旨が居住の保護だとか生活保障ということであるならば,相続開始時に現実に住んでいなくてもよいというのはよく分からないという感じがします。
  先に私の考えを言ってしまうと,相続開始時において20年以上経過しており,かつ居住している不動産の贈与等についてのみ持戻し免除を原則とし,その場合に推定するという形が立法技術的にしんどいのだったらみなすこととして,遺留分の規定には反することができないという形にしておくというのも一つの方法かなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御質問は先ほど南部委員が出していかれた質問とも関わるところがございますけれども,増田委員からは一つの考え方も示されたかと思います。今の点につきまして他の委員・幹事もお考えがあろうと思いますけれども,いかがでございましょうか。
○増田委員 質問に対するお答えをいただきたいと思います。
○神吉関係官 関係官の神吉からお答えさせていただきます。
  まず,御質問の点につきましては増田先生が御自身で御回答いただいたとおり,贈与時ということでございます。婚姻期間の点につきましても居住用の点につきましても,基本的には贈与時にその要件を満たしている必要があろうと考えております。なぜ,そのように考えているのかということですが,この規定は,飽くまで持戻し免除の意思を推定する規定であるということでございますので,この推定規定の対象である財産の贈与を行った場合につきましては,通常は相手方配偶者の老後の生活保障を意図して行われる場合が多いだろうということが言えるだろうと。とすると,飽くまで贈与時を基準として婚姻期間の要件,そして居住用の要件についても考えるべきであろうと,今のところ考えているところでございます。ただ,先生が御指摘のとおり,推定規定ではなくてみなし規定とか,ほかの政策的な規定を設けるということであれば,相続時ということもあり得るのかもしれませんが,この点につきましても皆様に御議論いただければと思っているところでございます。
○大村部会長 失礼しました。増田委員が自問自答されたので,つい先にいってしまいましたが,事務当局の考え方は,今,申し上げたようなものだということでございます。
○窪田委員 私も特にこれに賛成,反対というのではなくて,幾つか考え方があるのだろうと思っています。前回,欠席をさせていただきましたので,どういう議論があったのかは十分踏まえないままの発言になることをお許しいただきたいのですが,増田委員のようなお考えというのは十分にあり得るのだろうと思います。生活保障であるとか,そうした点を貫くのであれば,20年という期間を要件とした上で持戻しをしないという,多分,持戻し免除の意思表示をみなすのではなくて,そもそも,持戻しをしないという法制度がそういう決定をするという仕組みなのだろうと思います。
  他方で,持戻し免除の意思表示というのを手掛かりとする限りは,今,お話があったようなものにならざるを得ないだろうと思います。持戻し免除の意思表示についての推定規定を置くというのは,少々気持ち悪い部分があるのですが,ただ,どういう場合に持戻し免除の意思表示があるのかというのを議論し始めると,際限なく広がっていくのだろうと思います。このときに,結局,手掛かりになるのが既にある相続税法上の仕組みなのだとすると,この範囲に絞らざるを得ないのではないかなという感じがします。それが適当なのかどうかはともかく,持戻し免除の意思表示という構成を採る限りは,そういうふうな制約をしないと困難なのではないのかなという気がいたします。
  ただ,私自身が最終的に気になりますのは,前回,相続分についての手当ができないということを踏まえた上で,何らかの措置が工夫できないかということであったということだと思いますし,法務省の方でもそれを前提として,非常に苦労していろいろなことを考えられて出た案なのだろうとは思うのですが,うまくその問題の解決として対応しているかどうかという点に関しては,対応しているような気もしつつ,非常に限定的なものではあるという感じはいたします。特に持戻し免除の意思表示の推定としますと,持戻しはさせるという意思表示があったら,もうアウトなわけですよね。
  ですから,その意味では生活保障としても弱いものということになりますし,増田委員のような組立て方をすると,相続分を増やすという方向にいくかどうかはともかく,恐らく短期居住権との連続性みたいなのが出てくるのかもしれないという気はします。つまり,被相続人の意思には関わりなく,そういったものを認めていくのだという制度設計にはなると思いますので,そういう説明はできるのかなと思いました。ただ,今はどちらであるということではなくて,自分自身として,問題状況についてそう理解しているというだけです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 今の窪田委員の御発言にも少し関連するところなのですが,配偶者への生前贈与の一部について持戻しを免除するということ自体については配偶者保護のための方策としてあり得る方策だなとは思うんですけれども,なぜ,対象が居住用不動産に限られるのかというところについては,もう少し頭の整理が必要ではないかなと思います。そして,窪田委員もおっしゃったとおり,持戻し免除の意思表示の推定という形を採るのであれば,推定の根拠というか,基礎がどこにあるのかというところを詰める必要があるのではないかと思います。
  また,感覚的なもので申し訳ないんですけれども,居住用不動産のみを生前贈与している事案というのは全体の中の割合としては余り大きくはなく,老後の生活保障ということであれば,どちらかというと,すぐに使えるものといいますか,流動性のある資産を生前贈与しておくことの方が多いのかなという気がいたします。そういう中で,なぜ,居住用不動産についてだけ持戻し免除の意思表示を推定するのかということを十分に整理しておかないと,居住用不動産以外の財産について持戻し免除の意思表示の有無が争われ,この推定規定を作ったことが事案の処理にどういう影響を及ぼすのかということを考えなければならなくなったときに,実務として判断に迷うということにもなりかねないように思いますので,そうしたことを未然に防ぐという意味でも,そこはもう少し掘り下げておく必要があるかなと思います。
○神吉関係官 少し補足して御説明させていただきます。村田委員からの御指摘,居住用不動産の生前贈与は余りないのではないかという御指摘がございました。手掛かりとしましては贈与税の特例がどれだけ現実にあるのかというのが一つヒントになるかと思いますので,そちらを調べました。その結果は,部会資料の17ページの(注3)のなお以下に記載してありますが,贈与税の特例につきましては,平成26年は1万6,660件,平成25年は1万5,474件,24年は1万3,538件となっておりまして,それなりの件数があるのかなと思います。ただ,裁判実務上,どれだけ出てきているのかというのはよく分かりませんが,贈与税の特例が設けられ,また,その要件が緩和されてきて,現在では,これだけの一応,件数はあるということが言えるのかと思います。
  もう一つ,推定の根拠もなぜ居住用不動産に限るのかということで,推定の根拠は何なのか,考えるべきではないかという御指摘を頂きました。窪田委員の御指摘とも関係するのですが,推定規定を設ける場合にも推定の根拠も考えなければいけないだろうということで,そのヒントになるのが贈与税の特例の趣旨ではないかと考えております。そこで言われているのが,部会資料の17頁の(注3)にも記載しましたが,婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与が行われる場合は,夫婦の財産というのは夫婦の協力によって形成されたものであるという考え方から,夫婦間において一般に贈与という認識が薄いということや,配偶者の老後の生活保障を意図して贈与される場合が多いということが,立法趣旨として説明されて,それが立法という形で承認されているということがありますので,そこは一つ根拠としては使えるのかなということで考えているところでございます。
○大村部会長 村田委員,いかがですか。よろしいですか。
  今の点について,何人かの方々から御指摘があった点に関わると思いますけれども,これは居住を保護するのか,それとも配偶者の貢献を保護するのか。両方の要素が含まれているために今のような御発言が出てくるのだろうと思います。それで,窪田委員が御指摘になりましたけれども,配偶者の貢献を考慮するということだとすると,これでは不十分ということになるけれども,居住の保護という面を重ねる形でこの限度で保護するということは考えられないか。そのような提案になっているのだろうと思います。しかし,それにしても,これでは効果が弱すぎるのでないかと考えると,増田委員や窪田委員がおっしゃったように,相続開始時を基準にし,効果についても推定ではなくてみなしにするといった選択肢が出てくる。こうした問題状況かと思いますが,更にこの点につきましての御意見を伺えればと思います。その他の委員・幹事の方々はいかがでございましょうか。
○村田委員 今の点に若干追加して,御説明はよく理解をするところではあるんですけれども,やや感覚的な物言いで恐縮なんですが,税法上の特例というのはある種,一定の政策的な価値判断に基づいて,望ましい結論に持っていくためになされる立法という側面があるかなという気がしております。相続法の分野でも,そうした税法上の政策的な価値判断に基づいた改正を行うということであれば,被相続人の意思の推定というよりは,政策的な価値判断に基づいて一定の類型の生前贈与については持戻しをしないという制度にするというのも,それなりに一貫した選択肢なのかなとは思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほど,これが推定であるということが及ぼす波及的な影響について御発言があったかと思いますけれども,事務当局は,この点について何か。
○堂薗幹事 先ほどから出ておりますように,ここは推定ではなくて,こういった場合には持戻しをしないということはもちろん十分考えられるとは思っているんですが,基本的にそうしますと,こちらで一番気になっているのは,居住用不動産があって,そういう点について贈与とか遺贈がされた場合には,実質的には,その場合には現行の法定相続よりもより多くの取得が配偶者はできるということになりますので,被相続人の意思でそうしたんだということで説明ができるのであれば,遺留分を侵害しない限りで,そこは尊重するということはあり得ると思うんですが,そこは一切,被相続人の意思にかかわらず,こういった場合にはほかの場合よりも多く配偶者に財産の取得を認めるという点について生活保障ですとか,そういったことだけで説明ができるのかと。
  逆に言うと,居住用不動産がない配偶者の方がより生活保障の必要性が高いという場合も当然ありますので,この要件を満たす場合だけ,通常の場合より配偶者の取得額が増えるという点について合理的に説明ができるのだろうかという点が,一番,こちらとしては気になっている点でございますので,その点についてお考えがあればお聞かせいただければと思います。
○増田委員 誤解があるといけないので申し上げますが,私の意見は被相続人の意思にかかわらずではなくて,そういう物件について贈与ないし遺贈があった場合に持戻しをしないということです。被相続人の意思は贈与とか,遺贈という形で入っているということです。
○堂薗幹事 持戻し免除をしないという意思の表示はできるんでしょうか。要するに,こういう条件を満たした遺贈とか贈与がされれば,必ず遺産の対象から外れるのか,そこについて,なお,例外的に遺産に含める余地を残すのかというところをお聞きできればと思いますが。
○増田委員 結論的には,遺産の対象から外すということです。
○堂薗幹事 要するに,一定の要件を満たす遺贈,贈与がされていれば常に外すということなんだと思うんですが,ですから,そうすると遺贈とか贈与があるというところで被相続人の意思を反映しているんだとは思いますが,ほかの場面では遺贈とか贈与をする場合も相続人の意思で遺産に含めたり,含めなかったりということができるわけで,そういった意味で,持戻し免除をした場合は被相続人の意思として,その人が法定の場合よりも多く上げる趣旨なんだから,多く上げていいではないかということなんだと思うんですけれども,その免除するかどうかについて被相続人の意思は考慮しないということになりますと,結果としてはそういう遺贈がされた場合には常に他の場合よりも配偶者の取分が増えることになりますので,そこを被相続人の意思以外の何らの理由で説明しなければいけなくなるのではないだろうかというところなんですが。
○増田委員 あえて言うなら,反対の意思表示を認めることにしてもいいと思うんですけれども,ただ,それは,ほかの推定の場合と整合しないという問題があります。
  すみません,それともう一ついいですか。今までの話と別の話なんですけれども,贈与だと問題は起こらないんですが,遺贈の場合に部会資料の案だと,持戻し免除の意思表示を遺言でしないということが,認められるということになります。(注6)とか(注7)のところに遺言との関係が書かれているんですけれども,要はこういう20年,居住用不動産という要件を満たす場合だけ,ほかのものとは解釈上,別扱いをするというのが(注6)(注7)だと思うんですよね。そうすると,なぜ,これについてだけ異なる解釈をするのか,という疑問が生じます。
  つまり,この規定を設けることによって,これまでの遺言の解釈に重大な影響が生じると思われます。そうなると,ほかの対象財産についてもここでいう遺言不要説になるのかという跳ね返りもあるだろうし,同じように「相続させる」という文言が使用されていても,この要件に該当する不動産だけを遺贈と解するというのだったら,遺言の作り方から根本的に考えなければいけないという事態も発生するので,どうも元の案でも遺贈で持戻し免除の推定を可能とするには少しハードルがあるように思います,
○大村部会長 今の御質問については,事務当局の方からお答えを頂きたいと思いますけれども,その前に増田委員の方から提起されたみなし規定にするのと推定規定にするのとの差についてなんですけれども,この点につきまして,他の委員・幹事から何かありましたら,お願いいたします。
○窪田委員 増田委員とは多分,違う意味で自分の立場を確認させてもらうということになると思いますけれども,私自身は考えられる仕組みとして,先ほどそういうのがあるのではないかと申し上げましたが,それが最終的に適当であるかどうかはまだ固まっていませんし,むしろ,堂薗幹事から出た点というのは極めて深刻な問題なのではないかなと思っています。つまり,生存権だとか生活権あるいは居住権の確保であり,だから,被相続人の意思とは関係なしに持戻し免除を認めるんだと言いましても,そもそも,それは贈与があっての話だという意味では被相続人の意思に関わっています。被相続人が贈与したときだけ,そういうふうな生存権保護のための,生活権保護のための仕組みが発動するというのは,考えてみると非常に変な制度だとは言えるのだろうと思います。
  ただ,その問題というのは同時にこのように持戻し免除の意思表示なのだ,推定なのだと言ってもある種,ある程度,共通する問題なのかなという気がしています。つまり,持戻しが問題となるような場面にならない限り,発動しないような仕組みであり,そこで意思の推定ということで説明するので,意思の推定なので,いろいろな説明ができるのだろうと思いますけれども,一般的な意味での生存配偶者の利益の保障という点から見てみると,出発点が被相続人の意思にあるという点では説明のつかない部分があるのではないかという気がします。それは堂薗幹事から増田委員に対する御質問として出たことでもあるとは思うのですが,実は原案の中にもそういう部分というのはあるのではないかという点が少し気になっているということで,申し上げさせていただきたいと思います。
○大村部会長 贈与がなされるというのが出発点になりますので,それがないと話が始まらない,保護はされないということになる。この提案を前提にする限り,これは避けられないことなのだろうと思いますけれども,贈与するときにどうするかということで,みなすということになると選択肢は一つしかなくなり,贈与した以上は,それは持戻し免除で帰属することになる。推定ならば一つではなく,贈与するが免除しないということも可能になる。そこには選択の余地が残るのではないかというのが,事務当局の御説明だったと伺いましたけれども,今の点につきまして,他の委員・幹事で御発言があれば伺いたいと思います。その上で,増田委員の提起された遺贈の方の話にいきたいと思います。
○沖野委員 持戻し免除について贈与者なりがどのくらい意識して贈与するんだろうかということも気になっており,一般的には余り考えていないのではないかという気もします。逆に,そうであれば政策的に決定をするということでもいいのかなとは思ってはいるのですけれども,と申しますのは,この狙いの一つに前回,生前の贈与などに対して,それを促進するような手当をするという今までになかった局面での手当というのも考えられないかという点が指摘されました。これがみなしというか,当然,そういう扱いになると,これからは税法の特例を受けるためにはやりましょう,ただし,そのときには持戻し免除ということになってしまいますので,それは注意しましょうというようなことになるのか,そうしたときに,それは留保しておこうというか,そのような行動に出るのかどうかということでして,今まで余り持戻し免除のことは考えていなかった上,かつ,免除しないという意向は余り普通はないのではないかということであれば,正に促進の方のそういう観点からこの制度を説明する面についても,その部分の目的を達成することは,みなしであろうと推定であろうとできると思うんですが,何かブレーキがかかるようだと,本当にその点が問題だと考える人は,別途の意思表示の余地がありますとした方がいいのかもしれないと思います。それは理論的にどう正当化できるかとかいうことではなくて,狙いとした行動がもたらさせるのかという観点から気になっている点ではあります。一応,申し上げるという趣旨です。
○上西委員 沖野先生の御発言に関連することです。贈与税の特例で夫婦間の居住用不動産を贈与するときに持戻し免除についての意思の有無を確認・説明をしたり,当事者が認識していたりすることは,実務感覚からしてほぼ皆無です。黙示の持戻し免除の意思表示が事実上,行われているというのが当事者の意思だと思います。それと,居住用不動産については,ここで老後の生活保障という観点で特に重要であるとして,成年後見制度の事例も引いておられます。税法と目的が近似しているようですが,一致しているかどうかも御検討いただきたいのが,居住することのみに着目して今回の制度を考えるのか,あるいは税法並びでいくのかの視点があるからです。
  税法の場合でしたら,居住用の建物と居住用の土地を一括して贈与する必要はありません。居住用の建物だけでも構いませんし,一定の要件を満たした場合は居住用の建物の敷地のみでも大丈夫なのです。一番分かりやすい例を示しますと,妻が居住用建物を持っていて,夫がその敷地を持っている場合に,夫から妻に敷地のみを贈与する場合であっても,この特例が認められるのです。今回の制度設計をするときに居住用建物に着目にするのであれば,居住用建物の範囲や定義も考えることになるのかなと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  制度を作ったときに,実際にどういうインセンティブが働くのかということについて更に検討が必要なのではないかということと,どこまでの不動産が対象になるのかということも確定していかなければいけないのではないかという御指摘だったかと思います。
○神吉関係官 最後の上西委員の御指摘につきまして,若干補足してご説明させていただきますが,今回,事務当局で御提案させていただいたものは,15ページの案のところにも記載させていただきましたけれども,居住の用に供する建物又はその敷地という形で記載しておりますので,必ずしも建物に限らないと,敷地部分のみでもよいということなので,その点については贈与税の特例の対象と変わりはないという理解でおります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございますか。
○垣内幹事 今後,この制度について検討を進めていくことになるとした場合に考えられる問題点の一つとして,先ほど来,趣旨に関して老後の生活保障ないし居住の保護という側面を含むものとして想定されているように思うんですけれども,そうなりますと,先ほど来,議論してきた短期・長期居住権の問題と重なるところが出てくるかと思います。この制度の対象に関して,現在,税法が前提になっておりますので,居住の用に供する建物・敷地ということになっておりますけれども,仮に例えば長期居住権の制度を設けたというときに,これを死因贈与又は遺贈で付与するということが今の案では考えられますので,それについても持戻し免除の推定の対象にするかどうかということが問題にはなり得る点かなとも思われます。もし,既に御検討のようでしたらあれですし,恐らく検討されていると思うんですけれども,何かお考えをお聞かせいただける点があれば,御教授いただければと思いまして質問させていただきました。
○神吉関係官 全体を贈与した場合については,持戻し免除の対象になるということですので,その一部分的なものである長期居住権を死因贈与した場合については,そこは解釈として,当然,含まれるべきなのではないかと思っております。ただ,もし,違う御意見があれば,実質的にそこは含めるべきではないという御意見があれば賜れればと思っております。
○大村部会長 垣内幹事,何か具体的な御意見はありますか。
○垣内幹事 私は現段階では特に意見はありません。ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,まだ,あるかもしれませんけれども,増田委員の御質問がずっと保留になっていますので,そちらに進みましょうか。
○金澄幹事 税法並びということであれば,税法では2,000万円の生前贈与というのは確か1回だけとなっていたと思います。しかし,今回のこちらの方法ですと,20年以上の贈与時に居住財産ということであれば,居住財産は引越しをすれば幾らでも変わっていくことができますので,何回もできるというようなことも可能なのか,特に持戻し免除とみなすということであれば,それが毎回も持ち戻し免除とみなされてしまうということも可能にもなるのかというところで,居住権の保護とは逆方向の悪用というところになってしまうことも考えられます。そういうことを考える人もいるかもしれないので,そこのところのお考えがあれば教えていただきたいと思います。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。確かに御指摘のとおり,贈与時を基準時としますと,転居を繰り返すことによって複数の不動産が推定規定の対象となり得るものと思われます。ただ,推定規定というのは被相続人の意思を推定するという規定でございますので,被相続人が持戻し免除をしないという意思表示をしている場合には,適用されないということになります。そこで考えてみますと,一般に一度,居住用不動産を贈与した者が転居して,その後,また,居住用不動産を贈与したという場合については,さきの贈与については老後の生活保障のためにしたものではないということが,後の贈与によって示されているとも考えられるのではないかなと。そうすると,さきの贈与についての持戻し免除の意思表示について撤回の意思表示があったと考えることもできるのではないかと。ただ,贈与税の特例につきましては,先ほど先生が御指摘のとおり,一生に一度しか使えないことになっておりまして,贈与税というのは比較的高い税率が課されておりますので,実際は何度も何度も転居をして贈与を繰り返すということは,余り考えられないのではないかなと思っております。
○大村部会長 今の例は,この規定を使うから問題になるわけですけれども,毎回,毎回,贈与して持戻し免除の意思表示をすれば,それはそういうことになりますよね。
○金澄幹事 やはりなるわけですね。それを止めるような本当に居住権の保護ということに特化したような形での何か決め方はないのかなと思ったんですけれども。
○堂薗幹事 今の部会長の御趣旨は,濫用しようと思えば,この規定がなくても何回も贈与して持戻し免除をすれば同じ結果になるので,別にこの規定があるから濫用が増えるということではないのではないでしょうかということだとは思いますし,推定するということにするからには,一定の経験則を踏まえて推定するという形にならざるを得ないと思いますので,贈与時あるいは贈与時における意思を推定するということだとすると,同じ前提事実であるにもかかわらず,こちらの方では推定をかけるけれども,こちらの方では推定をかけないと。事後的に転居があったかどうかという事実によって推定されるかどうかが変わってくるというのは,法制的にも説明が難しいところはあるのではないかという印象を持っているというところではございます。
○大村部会長 推定とするか,みなすとするかによって制度の出来上がりも機能の仕方もかなり違ってくるように思いますが,みなす説の方も複数いらっしゃいますので,それも含めて更に検討していただきたいと思います。これに関して更に御発言がなければ,増田委員に待っていただいている遺贈の点に移りたいと思いますが,事務当局の方からお答えをしていただければと思います。
○神吉関係官 その点につきましては,部会資料の18ページの(注6),(注7)で整理させていただいたところでございますが,簡単に御説明させていただきます。
  まず,(注6)につきまして御説明させていただきますと,遺贈に関する持戻し免除の意思表示につきましては,遺言によらなければならないと解する立場,こちらは遺言必要説と呼ばせていただきますけれども,こちらが多数説と言われておりますので,遺言でしなければいけないにもかかわらず,推定をするということは果たしてどうなんだという問題意識であろうかと思います。しかしながら,推定規定というものは持戻し免除の意思表示の有無に関する立証責任を転換するものにすぎないと,そういうことからすると,遺言必要説に立ったとしても本件推定規定と反対の意思を表示する場合には,遺言によることを要するということで,特に本件推定規定を設けること自体について理論的な問題があるとか,そういったことはないのではないかと今のところ,考えているところでございます。この点につきましても,もし先生方から御意見があれば頂戴できればと思います。
  もっとも,遺言必要説につきましては有力な反対説も幾つか示されているところでありますし,また,近時の裁判例におきましても遺言不要説に相当程度,親和的なものがございますので,そういったことからすると,遺言必要説というのが必ずしも実務上・学説上確定的な立場なのかというと,果たしてどうなのかなと。この点につきましても,もし,ほかの先生方の御意見があれば頂ければと思います。
  また,(注7)の相続させる旨の遺言との関係ということなんですけれども,恐らく一般的には配偶者誰々にこの不動産を相続させるという形で遺言することが多いかと思いますので,そして,相続させる旨の遺言につきましては,通常は遺産分割方法の指定であると解され,最高裁の判例でも言われておりますので,これとの関係をどう考えるべきなのかというのが一つ問題としてあり得るかと思います。この点に明確に言及した判例は見当たらないのですが,そもそも,遺産分割方法の指定につきまして,持戻し計算の対象とするのかどうかというのが一つ前提問題としてあろうかと思います。
  この点につきましては,最高裁の判例が出た後にいろいろな議論が多少はあるようでございまして,持戻し計算の対象とするという見解もそれなりに有力のようでございます。そうだとすると,持戻し計算の対象とするのであれば,持戻し免除の対象となり得るということも考えられるのではないかと思います。ただ,遺産であるから遺産分割方法の指定が可能であるのであって,遺産について遺産に持ち戻さないというのは,若干,理論的には気持ち悪いのではないかという御指摘もあろうかと思います。その点をどう考えるかということで考えてみたのですが,例えばとして最高裁の判例の趣旨も遺言書の記載から趣旨が遺贈であることが明らかであるか,又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,遺産分割方法の指定と解すべきだと言っておりますので,この推定規定の存在を根拠に遺贈と解すべき特段の事情があるんだとも,考えることもできるのではないかとも考えているところでございます。この点,まだまだ,詰められているところではありませんので,皆様の御意見を頂ければと思っております。
○増田委員 お答えは要らないんですけれども,1点だけ,大阪高裁の平成25年7月26日決定が遺言不要説に親和的という御見解のようですけれども,この判旨を読むと,仮に遺言不要説に立った場合でも,当該事案における様々な具体的な事情を考慮すれば持戻し免除は認められないとしたようなので,これは要するにどうせ結論に影響はないのだから,負ける方に一番有利な理論を採って,それでもこの事案では駄目ですよといった裁判例ですので,必ずしも遺言不要説と親和性はないのではないかなと,実務家としてはそう思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 今の論点とも若干,関連するかと思うんですけれども,この御提案の趣旨の理解に関して1点,確認させていただきたい点がありまして,と申しますのは,推定規定の効果に関してなんですけれども,意思表示があったものと推定するということなのですが,推定を破るためには何が必要かということで,(注6)で記載されているところでは,推定の排除の方法としては別段の意思表示をするということが想定されていると読めたんですけれども,これはこれに限るという御趣旨なのか,それとも別段の意思表示はないけれども,様々な周辺事情からして,そのような意思を持っていたとは認められないというような反証と申しますか,反対の立証の方法も許容される趣旨なのか,その点を教えていただけますでしょうか。
○神吉関係官 遺贈で遺言必要説に立った場合につきましては,遺言において排除の意思表示を明確にする必要があろうかなと思っております。そのほかの生前贈与の場合とか,遺贈でも遺言不要説に立った場合につきましては,もちろん,別段の意思表示を明確にするという場合のみならず,別段の意思表示というのが黙示で認められる場合というものも当然あろうかなと思いますので,それは幹事が御指摘のとおり,そのほかの周辺事情で黙示の別段の意思表示が認められる場合もあろうかな,立証が成功すればという話ですけれども,あろうかなと思います。
○垣内幹事 今の御説明は理解したように思うんですけれども,元来,遺言必要説とか不要説とかいう見解というのは,持戻し免除の意思表示について言われているもので,それが存在するというためには遺言でそういう意思表示がされている必要がある。それが存在しないというときに,別段の意思表示が遺言でされている必要があるということに論理必然的にはならないような感じもいたしまして,遺言ではもちろんないし,意思があったかといえば周辺事情からないのだから,そういう意思表示はないという判断をするということが絶対にあり得ないのかどうか,やや,そこが気になるところもありまして,その辺り,なお,推定構成を採る場合の理解として御検討いただく余地もあるのかなという感じがいたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,今回,初めて出ましたこの第2につきまして,今日の時点での御発言があれば頂きたいと思います。
○西幹事 時間が過ぎていますので,全体について思うことはともかく,1点だけ,今までの中で賛成意見しかなかったところについて,一言,申し上げることをお許しください。19ページの(2)の居住用不動産に限るべきかというところで,多くの御意見は賛成という方向のように伺いましたが,私はこれには反対です。なぜかと申しますと,持ち家のある人はこの制度を利用して贈与できるものがあるけれど,そうではない人は贈与できるものがないということになるからです。今回,長期居住権のところでも,短期居住権のところでも私はこだわりましたけれども,賃貸物件の場合には一切,保護されないということになりました。そして,ここの配偶者の相続分についても,賃貸物件に居住している人は一切,制度の恩恵をうけられませんということでよいのかという,そういう問題が出てくるのではないでしょうか。ここについてはほかの方向性も,つまり,限定しないという可能性もお考えいただければありがたいと思います。
○中田委員 この制度は,元々,相続分の引上げを断念する,しかし,何か別のものはないだろうかということから始まっていて,非常に御苦労されたんだと思うんです。ただ,この制度は今の西先生がおっしゃったような方向で,広くすればするほど相続分の引上げに近付いていってしまうというジレンマがある。他方で,居住権保護に特化していくと,短期・長期居住権とかぶさってしまうという問題があって,その谷間みたいなところに何か制度を設ける意義をどこに見いだすか,そこが重要なのだろうと思います。
  それはまた推定との関係にも影響していて,推定の根拠を事実に求めるのか,それとも,政策に求めるのかという問題で,事実に求めるとすると黙示の意思表示があったという認定に比べると緩いわけですね,このやり方は。その緩いところに政策が入っているんだというような理解で整理できるのかなと思います。結局は,この谷間みたいなところに制度を置くことの要否というところが判断の分かれ目になってくるのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。西幹事の御発言と,それから,中田委員の御発言と両方を合わせて,検討の際に参考にさせていただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  今日のところ,これに正面から反対という意見は特になかったと思いますので,今の適用範囲の問題もございますし,それから,推定かみなしかということもございますけれども,一つの選択肢として更に事務当局の方で御検討いただき,遺産分割について検討する際に配偶者の貢献をどう評価するかという問題に関する提案として,この案を検討の対象として改めてテーブルに上げさせていただくという扱いにさせていただきたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,時間が過ぎてしまって恐縮ですが,最後に次回の日程等について事務当局の方からお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,本日も熱心に御議論いただきましてありがとうございました。
  次回は既に御案内のとおりでございますが,12月20日(火)の午後1時半からを予定しておりまして,場所は今日と同じ20階第1会議室,こちらになります。次回は前回,御説明しましたとおり,若干,順番を変えまして遺留分制度の見直しについて御審議をお願いしたいと考えております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  時間を過ぎて大変恐縮ですけれども,本日も熱心に御議論いただきましたことに対しまして御礼を申し上げます。これにて第15回会議を閉会いたします。
  ありがとうございました。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第16回会議 議事録


第1 日 時  平成28年12月20日(火)自 午後1時30分
                      至 午後4時27分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第16回会議を開催いたします。
  議事に先立ちまして,まず,配布資料につきまして事務当局の方から説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,本日の配布資料につきまして御説明させていただきます。本日の資料は全部で3点となっております。まず,一つ目が事前に送付させていただいた資料番号16,「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」というものになっております。それから,参考資料といたしまして机上配布のものが2点ございます。1点目が横長のもので,「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」と書かれているものでございます。こちらは,本日の資料の説明の便宜のために取り急ぎ作成したもので,誤字・脱字等のチェックも十分ではない可能性もありますので,その取扱いには御留意いただきますようお願い申し上げます。それから,平成28年12月19日,昨日の最高裁大法廷決定,こちらは最高裁判所のホームページからダウンロードしたものとなっておりますが,これを本日,配布させていただきました。
  この点,既に報道などによって御存じの方も多いかとは思われますけれども,昨日,預貯金債権が遺産分割の対象となる財産に含まれるかが争われた裁判について,最高裁大法廷の決定が出されております。本日,机上にお配りしたのは,最高裁のホームページに掲載された当該決定ということになってございます。本日の会議の議題とは異なりますが,せっかくの機会ですので,本決定の内容についてごく簡単に御説明させていただきたいと思います。
  従前の最高裁判例によれば,相続財産中に可分債権があるときは,その債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,各共同相続人の分割単独債権となるものとされており,したがって,実務上の原則として遺産分割の対象に含まれないものとされておりました。これに対しまして今回の決定は,決定書の6ページにありますように,預貯金一般の性格,各種預貯金債権の内容及び性質から共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとして,これとは異なる従前の判例を変更すべきものであるとしたものとなっております。この考え方によりますと,可分債権のうち,預貯金債権については遺産分割終了までの間は,各共同相続人は単独でこれを行使することができないものと考えられることから,本決定は言わば中間試案における乙案,これに近い考え方に立っているものと考えられるところです。
  また,本決定におきましては,各裁判官による補足意見等が付されているところ,その中には多数意見の結論には賛成しつつ,多数意見が預貯金債権を準共有債権とすることには反対であると,こういった意見があったほか,補足意見といたしまして,本決定によれば預貯金債権については遺産分割までの間,共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなるが,これによる不都合については,現行法の下では遺産分割の審判事件を本案とする保全処分,これを活用することが考えられるといった意見,また,相続開始後に預貯金口座に入金された金員についても,遺産分割の対象に含まれることになるものと考えられるが,その際の具体的相続分の算定の基礎となる財産の考え方については,検討する必要があるであろうといった意見など,様々な意見が付されております。
  可分債権の遺産分割における取扱いにつきましては,来年開催予定の会議において御議論いただく予定となっております。もとより,本会議における議論の内容がこの決定に拘束されるものではないということは当然でございますけれども,特に遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲を預貯金債権に限定するのか,それ以外に可分債権を含めることとするのかという点につきましては,本決定の判断が他の可分債権とは異なる預貯金債権の特殊性,ここに着目してされたものであると考えられることから,その判断内容を踏まえた上で検討する必要があるものと考えられるところです。
  また,本決定によれば現行法上,少なくとも預貯金債権については,相続開始によって各相続人が個別に権利行使をすることはできないものと考えられることから,その対応策といたしましては,家事事件手続法に規定されている保全処分,これを用いることで足りるのか,当面の相続人の資金需要に対応する方策についても,検討する必要があるものと考えられます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  これは今日は御紹介だけということでよろしいですね。
  今,御紹介がありました大法廷決定は,私どもの審議の過程でも最高裁の判断が示されるのを待って,これを参照して更に議論することが予定されていたものでございます。今のお話の中にもありましたように,年が明けまして,この問題について検討する際に,改めてまた,そこで出てきている論点について御意見を伺うことになろうかと思いますが,本日のところは御紹介にとどめさせていただきたいと思います。
  それでは,本日の議事に入りたいと思いますが,本日は部会資料16,「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」というものに従いまして,御意見を賜れればと思います。第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という項目から始まりまして,13ページに第2の「遺留分の算定方法の見直し」というのが出てまいります。そして,18ページに「第3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いについて」という項目がございます。三つに分かれますので,第1が終わった辺りで休憩を入れさせていただくということを予定しております。
  それでは,まず,第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という部分につきまして,事務当局より御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。
  本日は「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」という部会資料16に基づき,御議論をいただきたいと思いますが,まず,第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」につきまして御説明させていただきます。
  部会資料のポイントでございますが,本日の部会資料におきましては,甲-1案から甲-3案まで三つの考え方をお示ししております。遺留分減殺請求権の行使により,そこから生ずる権利を原則金銭債権化すること,そして,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができるようにすること,これらの点はいずれの案も共通しております。どこが違うのかという点ですが,受遺者又は受贈者の現物による返還の請求の効果をどのように考えるかという点で,従前の甲案,こちらは甲-1案に対応するものでございますが,甲-1案から甲-3案まで三つの考え方を提示させていただいているということでございます。
  まず,その考え方の相違点を簡単に御説明させていただいた上で,それぞれの甲-1案から甲-3案までの考え方の骨子,それから,論点について順に御説明させていただきたいと思います。
 まず,考え方の相違点でございますが,現物による返還の請求がされた場合に,裁判所の判断により現物返還の効果が生ずると考えるのか,これが甲-1案と甲-2案の考え方ですが,それとも現物による返還の請求がされた時点で現物返還の効果が生ずると考えるのか,これが甲-3案の考え方となります。また,2点目の相違点ですが,現物返還の目的財産の指定権を裁判所に与えるのか,すなわち裁判所の裁量に委ねるのか,こちらが甲-1案の考え方ですが,それとも,受遺者又は受贈者側に与えるのか,こちらが甲-2案の考え方となります。
  それでは,順に甲―1案から甲―3案まで,それぞれの考え方の骨子,それから,それぞれの考え方に関連する論点につきまして御説明させていただきます。
  まず,甲-1案についての考え方の骨子でございますが,減殺請求権の行使により金銭債権が発生すること,そして,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができること,こちらは甲-1案から甲-3案まで共通しております。そして,当事者間で基本的には協議をまずしていただくことになりますが,当事者間に現物返還の目的物について協議が調わない場合,この場合には受遺者又は受贈者が訴えを提起し,裁判所がその内容を定めること,そして,その訴えの提起は金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時までに行わなければいけないこと,また,金銭請求訴訟と現物返還目的物確定訴訟,これが同時に係属する場合については,併合して審理しなければならないこと,また,裁判所がその内容を定める際の判断の考慮要素につきましては法律上,定めることを予定しております。また,現物返還目的物確定訴訟,この判決が確定した場合には,減殺請求時に遡って金銭債務が消滅し,また,目的財産の所有権,権利が移転すること,以上が甲―1案の考え方の骨子となります。
  それでは,甲-1案に関連する論点について見ていきたいと思います。ここでは4つの論点を提示しておりまして,1点目が減殺請求権の意思表示について,2点目が金銭債務の遅延損害金について,3点目が当事者の協議の内容をどのように考えるのかについて,4点目が現物返還目的物確定訴訟の訴訟構造等について,となります。それぞれ,順に各論点について御説明させていただきます。
  まず,1点目の論点,減殺請求権の意思表示について,これをどのように考えるのかということでございます。遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を原則金銭債権化した場合に,減殺請求権の意思表示の際に金額を明示して行う必要があるのか,また,金額を明示して行う必要があるとすると,時効中断効との関係をどのように考えるべきか,このような指摘がパブリックコメントにおいてなされたところでございます。
  この点につきましての基本的な考え方ですが,減殺請求権の意思表示と,それによって生ずる金銭債権に係る履行請求,これは観念的には別の意思表示であると整理しております。そういたしますと,遺留分減殺請求権の意思表示により客観的には1,000万円の金銭債権が発生している場合に,遺留分権利者が当初は相続財産の全体像が分からなくて500万とか,そういった少ない額を請求している場合のこともあろうかと思いますが,そのような場合につきましては,いわゆる一部請求の問題であると処理ができるかと思います。そういたしますと,これまでの最高裁の判例などに照らしますと,時効中断効につきましては金銭債権の全体に及ぶと考えることができます。
  次に,金銭債務の遅延損害金について御説明させていただきます。
  こちらは中間試案の考え方から変えた点ということでございますが,これまで中間試案におきましては,遺留分減殺請求権の行使から3か月間は遅延損害金は生じない,また,現物返還の意思表示があった場合については,その裁判等が確定するまでの間は遅延損害金は生じない,そのような規律を提案しておりました。
  この点につきましては,パブリックコメントにおきまして,一般の金銭債権との整合性に欠けるのではないか,また,中間試案のような考え方を採用すると,現物返還の意思表示が濫用的に使われるおそれがあるのではないか,そういった指摘がされたところでございます。
  そこで,今回の提案におきましては,一般の金銭債権と同様に請求時から履行遅滞に陥るものと整理いたしまして,中間試案における「①の後段」,「②の後段」の規律は削除することとしております。
  また,現物返還の効果につきましては,大きく分けると二つの考え方があろうかと思いますが,判決確定時に生じるという考え方と,減殺請求時など過去の一定時点に遡らせて生じさせるという考え方があろうかと思います。この点につきましては判決主文の簡明さ,また,執行段階における処理などを考えますと,一定の時期に遡らせて生じさせるべきではないかということで,今回の部会資料におきましては,減殺請求時に遡らせて現物返還の効果を生じさせるという考え方を採用しております。そのような考え方を採用いたしますと,現物返還の目的財産の価額に相当する金銭債務につきましては,減殺請求時に消滅することとなりますので,消滅する金銭債務については遅延損害金は生じないこととなり,一方で返還に係る目的財産について生じた果実につきましては,遺留分権利者が取得することとなる,そのような整理が可能ではないかと考えております。
  次に,部会資料6ページの当事者間の協議について御説明させていただきます。
  こちらは第14回の部会におきまして,委員から御指摘があった点に関係するものですが,現物返還の目的物につき,当事者間に協議が成立したときに金銭債務の全部又は一部が消滅する,そのような規律を採用しておりますが,その協議の内容をどのように考えるのかということでございます。考え方といたしましては,㋐目的物についての協議が調った段階で,ここにいう協議が調ったというのか,㋑目的物とその価額についての協議が調った段階で,ここにいう当事者間の協議が調ったというのか,考え方としては二つあろうかと思います。
  この点につきましては,立法論としては両論あり得るかとは思いますが,協議が調った段階で債務が消滅するという整理をしておりますので,㋐のような考え方を採用いたしますと,消滅する債務の範囲が明確にならないこととなり,そういたしますと,遺留分権利者の債権者などの立場に立ってみると,権利関係がやや不明確,不安定になるおそれがあるのではないかということで,㋑の考え方,目的物とその価額について協議が調った段階で債務が消滅する,ここでいう協議が調ったと扱うべきではないかということで,部会資料ではその考え方を提案しております。
  そういたしますと,判決主文につきましても消滅する金銭債務の範囲を明らかにした方がよいのではないかということで,例えば第14回の部会資料におきましては,18ページ目に,1,000万円の金銭債務があって,そのうち600万円分をC土地で弁済する場合ということで主文例を掲げておりましたが,この場合につきましては,主文例の2(1)の部分,「YがXに対して〔600万円の支払いに代えて〕返還すべき財産をC土地と定める」とありますが,ここでいう「600万円の支払いに代えて」ということは,明示して書いた方がよろしいのかなと考えているところでございます。
  引き続きまして,部会資料7ページ以下の現物返還目的物確定訴訟の訴訟構造等について御説明させていただきます。
  まず,⑷の受遺者又は受贈者に訴え又は反訴の提起をさせることについてということでございますが,こちらは部会資料14におきましては,受遺者又は受贈者が現物による返還を主張した場合については,反訴の提起を擬制するなどの規律を設けたらどうかという提案したところでございます。この点につきましては,部会におきまして皆様に御議論いただきましたところ,手続的に煩わしいという理由で民事訴訟法の大原則を変えるのは適当ではないのではないか,また,反訴という手続を踏ませること自体は大した手間ではないのではないか,そういった御指摘があったところでございますので,今回における部会資料におきましては,原則として受遺者又は受贈者に現物返還目的物確定訴訟を,訴え又は反訴という形で提起させることとしたらどうかという提案をしております。
  また,⑸の訴えの出訴期限についてですが,中間試案におきましては,現物返還の意思表示は減殺請求時から3か月という限定を設けていたところでございます。この点におきましては,パブリックコメントにおきまして相続財産の全体像が把握し難い時期に現物返還の判断は不可能ではないか,また,3か月という期間は不当に短いのではないか,そういった指摘がされたところでございます。
  今回,⑷で御説明したとおり現物返還目的物確定訴訟につきまして訴え又は反訴を提起させる,そのような規律を採用する場合につきましては,この訴えの出訴期限を設けるかどうかということが問題となってまいります。この点につきましてはパブリックコメントにおける指摘を踏まえまして,基本的には3か月という限定はなくすことといたしましたが,ただ,いつまでも訴えの提起ができるとすると,金銭請求訴訟が確定した後もできることとなり紛争が再燃し,長期化するおそれがあるということで,基本的には金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結までに限定するのが相当ではないかということで,今回の部会資料では提案しているところでございます。
  また,部会資料8ページ目の⑹,金銭請求訴訟との関係についてですが,金銭請求訴訟と現物返還目的物確定訴訟,こちらが同時に係属している場合につきましては,基本的には密接に関連した訴訟ということになりますし,また,金銭請求訴訟においては,現物返還目的物確定訴訟が確定したということは債務の消滅原因となりますので,実質的には抗弁と位置付けられるものでございますので,一緒の裁判所で審理した方が適当ではないかと考えられます。その方策として,一つとしては反訴を強制する,すなわち金銭請求訴訟が係属している間は現物返還目的物確定訴訟は反訴の方法によらなければならないこととするということが考えられるところですが,部会資料3ページの末尾以下でも検討しているとおり,金銭債権が差押えされた場合など,いろいろ事例を考えていきますと,必ずしも反訴ができない場合もあるのではないかということを考えますと,反訴強制ではなく,できる限り併合して審理をすべきという規律で対応すべきではないかということで,併合強制の規律を設けたらどうかということで提案しているところでございます。
  ただ,この場合のように密接に関連しているとか,訴訟経済の観点から併合すべきだというものは,遺留分に関する訴訟に限らないという批判も考えられますので,現行法どおり,裁判所の裁量権の行使による弁論の併合に委ねるのが適当ではないかとも考えられるところでございます。
  引き続きまして,部会資料9ページ以下の甲-2案について御説明させていただきます。こちらも考え方の骨子を御説明させていただいた上で,それぞれの論点につきまして御説明させていただきます。
  まず,考え方の骨子でございますが,遺留分減殺請求権の行使により金銭債権が発生すること,また,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができる点,こちらは甲-1案と同じでございます。そして,2点目,現物返還の目的物についての指定権ですが,甲-1案では裁判所の裁量に委ねていたところ,甲-2案では受遺者又は受贈者がその指定権を有することとしております。また,裁判所は指定権の行使が遺留分権利者の利益を害する目的でされた場合,そのほか当事者間の衡平を害することとなる特別の事情があると認める場合には,その請求を棄却できること,そのような規律を設けることも予定しております。そのほかの訴えの提起の時的限界や併合審理の規律,また,債務の消滅時期などにつきましては,甲-1案と同様でございます。
  それでは,甲-2案における論点について見ていきたいと思います。
  まず,⑴の受遺者又は受贈者に指定権を与えることについてどのように考えるべきかということですが,その必要性と理論的な許容性についてそれぞれ検討していきたいと思います。
  まず,受遺者又は受贈者に指定権を与える必要性ということですが,こちらは甲-1案について指摘されている問題点がそのまま当てはまりますが,甲-1案のように裁判所の裁量に委ねますと,一体,何が現物で返ってくるのか分からないということで,現物返還の内容につきまして予測可能性が低い,また,受遺者側はこれが欲しい,遺留分権利者はこれが欲しいという形で,当事者間に争いが生じる可能性があるので,紛争が長期化するおそれがある,そのような指摘がされているところでございます。
  また,理論面における許容性ということでございますが,受遺者が遺贈を放棄した場合には,遺留分権利者としてはそこから満足を得なければいけない地位にありますので,遺留分権利者が権利行使をした時点で再度,事後的な放棄を認めるのと同様の権利を付与したとしても,相応の合理性があるのではないかと考えられます。少し分かりにくいかと思いますので,部会資料の10ページの(注1)の事例を御覧ください。この事例におきましては,相続人がX,Yの2名で,被相続人が全財産,甲土地2,000万円,乙土地1,000万円,丙土地1,000万円,これをXに遺贈したという事例でございます。この場合,Yが遺留分減殺請求権を行使した場合に,Yの遺留分は1,000万円ということになりますが,この場合,Xが丙土地の遺贈を放棄した場合につきましては,Yとしてはそこからまずは満足を得なければいけないこととなりますので,そうすると,Yは丙土地の価値1,000万円で満足を得なければならず,その後は遺留分減殺請求をすることができないことになります。そういたしますと,Yとしてはほかの土地が欲しいと思ったとしても,丙土地で満足を受けなければいけない地位にあると,そういった意味で,受遺者が遺贈を放棄した場合には遺留分権利者としてはそこから満足を得なければならない地位にあるということでございます。
  次に,⑵の論点に移りたいと思います。このように受遺者又は受贈者に指定権を与えるとしても,一定の場合には指定権を与えるのが相当ではない場合もあるのではないかということでございます。例えば受遺者又は受贈者が遺留分権利者を害する目的で,嫌がらせの目的で価値のない山林を指定した場合や,また,環境汚染若しくは産業廃棄物などがある不動産を指定した場合,そういった場合には指定権の行使を認めない必要があろうかと思います。
  また,ほかにどのような事情が考えられるのかということですが,部会資料におきましては,例えばということで遺留分権利者が生活に困窮しており,流動資産,金銭を必要とする,そういった事情がある一方で,受遺者又は受贈者には指定した財産以外の目的財産を必要とする事情は特にない,ほかにもたくさん財産を持っている,そのような場合につきましては,そのような指定については認めないということも考えられるのではないかと思います。この点につきましては,裁判所の裁量をどこまで認めるのかということになりまして,また,その裁量の幅を広くいたしますと,甲-1案で指摘された問題点が再び生じてきますので,この点につきましては甲-2案を採用する必要性などを踏まえて,慎重に検討する必要があると考えられます。
 また,⑵の末尾でも言及しておりますが,甲-2案における規律におきましては,遺贈又は贈与の目的財産であれば,受遺者又は受贈者はいずれも指定できることとしておりますが,その指定権をもう少し狭めるということも考えられるのではないか,例えばとして現行法において減殺の対象となっている財産に限るとか,そういった限定もあり得るのではないかということで,本文とは異なる考え方も一応お示ししております。
  以上が甲-2案における論点ということでございます。
  続きまして,11ページ以下の甲-3案について,考え方の骨子及び各論点について御説明させていただきます。
  甲-3案につきましては,減殺請求権の行使により金銭債権が発生すること,また,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができること,また,現物返還の目的物についての指定権を受遺者又は受贈者が有すること,これらの点につきましては甲-2案と同様でございます。甲-2案との相違点ということですが,甲-2案では裁判所の判断により金銭債務が消滅することとしていましたが,甲-3案では,受遺者又は受贈者が指定権を行使したときに金銭債務が消滅し,また,目的財産の所有権,権利が移転することとしております。このように受遺者又は受贈者が目的物の指定をしたときに,実体法上の効果が生じるとすることによりまして,受遺者又は受贈者に現物返還の目的物確定を求める反訴などを提起させる必要がなくなりますので,規律自体は他の案と比べて非常に簡明になるかと思います。
  引き続き,甲-3案における論点について御説明させていただきます。
  まず,現物による返還を求める権利行使の時的限界についてということですが,こちらは受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができる時期をいつまでとすべきかという論点です。時的限界を設ける必要性自体につきましては,甲-1案,甲-2案と同じでございまして,いつまでも受遺者又は受贈者側に現物による返還を認めるとなると,紛争が再燃するおそれがあるということは同じとなりますので,甲-3案を採用する場合におきましても,金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時までには,この権利行使をさせるべきではないかと考えているところでございます。
  ただし,特別の規律を設ける必要性があるかどうかにつきましては,慎重な検討が必要と考えているところでして,こちらは金銭請求訴訟の既判力により,現物による返還を求める権利,その抗弁が遮断されるかどうかということで決まってくるものかと考えられます。詳しくは,部会資料の13ページ(注2)において検討しておりますが,検討に当たって参考になりますのが,これまでの取消権,解除権,相殺権,建物買取請求権についての最高裁の判例があり,これらの最高裁の判例に照らして,いずれの例に最も本件に近いのかということによりまして,特別の規律を設ける必要性があるのかどうかということが決まってくるかと思います。繰り返しになりますが,時的限界を設ける必要性があるという,実質論につきましては,甲-1案,甲-2案と同様に金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時までにさせる必要があるという点は共通でございます。
  また,甲-3案のデメリットとしては,指定権の行使に実体法上の効果を付与するとなると,現物返還の対象物を事後的に変更したい場合に対応することができなくなるのではないか,そのような問題があるのではないかとも考えられます。この点につきましては,訴訟外で協議をしているような段階におきましては,飽くまで協議の段階ですので,指定権を未だ行使していないと考えることもできますし,また,訴訟において指定権の行使がされた場合につきましては,こちらは訴訟における形成権の行使と私法上の効果についてどのように考えるべきかという論点と関連してきますが,多数説によれば,形成権の行使についての判断がされない場合には,実体法上の効果も生じないと解されておりますので,そういたしますと,裁判所の判断が出るまでの間は抗弁の撤回,変更も可能ではないかと考えられます。そういたしますと,目的物の指定権に実体法上の効果を与えたとしても,柔軟な対応が可能になる場合も多いのではないかと考えているところでございます。
  以上,甲-1案から甲-3案における考え方,それから,各論点について御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」につきまして,御説明を頂きました。今回は,甲案を中心に検討するということですけれども,そのうち,甲-1案から甲-3案までを出していただきまして,それぞれの主要な違いを御説明いただきました。これらにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○増田委員 前回,申し上げた内容を甲-2案として検討の対象に取り入れていただいて,ありがとうございます。
  そこで,まず,甲-2案を中心に質問しますが,まず,甲-2案の場合の受遺者側の権利の性質論なんですけれども,訴えによってのみ行使できる形成権という理解でよろしいのかどうか,そうなると,離婚請求権と同じような性質のものになると思うんですが,それでいいのかどうかというのが一つ目です。
  それから,二つ目は甲-1とも共通するんですが,遅滞の発生時点あるいは効果遡及の時点を減殺請求時とされていますが,これは減殺請求の二段階のうち,一般的に減殺請求するという意思表示ではなくて,具体的に金銭債権額を明示した請求時という理解でいいのかどうかというのが二つ目です。
 三つ目は,甲-1案では裁判所が目的物の選定に当たって,遺贈又は贈与がされた時期というのが最も重要な要素になっているので,まず,遺贈から選択し,贈与は新しいものからということになるんだと思うんですが,甲-2案の方の受遺者・受贈者側の選択の場合には,その原則は適用されないのか,また,適用されないとすればなぜなのか,つまり,古いものを出してもいいのかということです。
  それから,もう一つは,これも甲-1案と共通になるんでしょうけれども,遡及効を認めた場合に遅延損害金と果実をパラレルに考えることについてはそのとおりだと思うんですけれども,管理コストなんかはどうなるんだろうと,果実収集コストとか,そういうのも入ってくるのか,それはまた精算になるのかどうか,これも確認的な話なんですけれども,以上,お伺いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  甲-1に関わる問題もございましたけれども,主として甲-2についての御質問ということでございました。
○神吉関係官 では,事務当局の方から簡単に御説明させていただきます。
  まず,1点目の甲-2案の性質論ということでございますが,基本的には増田委員から御指摘があったとおり,離婚訴訟と同様に訴えをもって形成権を行使するものである,ただし,訴外で協議により効果が生じる場合もあり得るということになろうかと思います。
  2点目の遡及効を認める場合に,さきほども部会資料の説明の中でも簡単に触れましたが,いつまで遡及をさせるのか,すなわち減殺請求時なのか,金銭の履行請求時なのか,現物による返還請求時なのかという点でございます。ここはいろいろ考え方があろうかと思いますが,一番簡明なのは減殺請求時ではないかということで今回御提案しているところでございます。
  3点目の時期の関係でございますが,甲-1案では一つの考慮要素として⑥のような規律を設けていたところでございますが,この点につきましては,部会資料の11ページ目の(注2)で検討を加えておりまして,古い贈与であったとしても当該目的物に市場価値があって,金銭評価も可能なものであれば,現物返還を否定すべき理由はないのではないか,それが古くて価値がないという話であれば別だと思うんですけれども,価値があるものであれば,受遺者又は受贈者が指定してもよいとすべきではないかということで,今のところは考えていることでございます。ただ,時期が重要であるということであれば,先ほども説明の中で触れましたが,受遺者又は受贈者が返還することができる範囲を,現行法上減殺の対象となっているものに限るということも考えられるかと思います。
  最後の遡及効を認めた場合の管理コストがどうなるかということでございますが,こちらは詳しく検討しているわけではないのですが,現行法でどう扱われているのかということだと思います。現行法も1036条で,果実は遺留分権利者が取得することとなっておりますが,その場合に果実を返してくださいといったときに,果実の収集コストを差し引くかどうか,という現行法の解釈にかかわってくる点だと思いますので,そこは現行法どおりになるのかなと考えております。
○大村部会長 増田委員,よろしいでしょうか。
○増田委員 また,意見は後で述べさせていただきますけれども,2点目の点ですが,金銭債権の具体的な金額が示されていないのに遅滞に陥ることになると,遅滞に陥らずに払うということはあり得ないことになるわけで,それは違和感があるように思います。
○堂薗幹事 今の点は,結局,現物での返還をする場合に,遅延損害金と果実の差引きをしなくていいようにするということで,法律関係を明確にする観点から,その場合には減殺請求時に遡って最初から遅延損害金は発生せず,果実は元々遺留分権利者に帰属していたという取扱いをするだけでございますので,そういった取扱いをする時点は減殺請求時であって,それ以降の精算をしないということでございます。ただ,増田委員が言われるように,実際に金銭について遅延損害金が発生する時期は,金額の明示があって,その請求をした時ということになるものと思っていますが,その時点と遡及効が生じる時点とは必ずしも一緒でなくてもいいのではないかという理解です。
○増田委員 そうなると,目的物指定権を行使しなかった場合の遅延損害金の発生時点と,行使した場合の遅滞時とは違うということになるんですかね。
○堂薗幹事 ですから,権利を行使した場合に消滅した金銭債権部分については,そもそも,遅延損害金も含めて発生していなかったという取扱いをするということですので,実体法上は,金額を特定して請求した以上,一旦は遅延損害金が発生することになるわけですが,現物で返還する場合には,遡及的に最初からその部分については金銭債権が発生していなかったという取扱いをするということでございます。
○増田委員 目的物指定権を行使しなかった場合は,どうなりますか。
○堂薗幹事 行使しなかったら全額について遅延損害金が発生するということです。
○増田委員 どの時点から発生するということでしょうか。
○堂薗幹事 それは金額を特定して請求した時だと思いますけれども。
○大村部会長 今の点について何か。
○山本幹事 今の増田委員の御疑問は,そもそも,遅延損害金がいつから発生すべきなのかということで,可能性としては遺留分減殺請求をした時点と,それによって抽象的に発生した金銭債権を行使した時点という二つが考えられ,結論としてはどっちかにそろえて,それと平仄をそろえて消えるようにすればいいんだと思うんですけれども,どちらとお考えなんでしょうかという,そういう御質問だったのではないでしょうか。
○堂薗幹事 結論的には,遡及する時点を遅延損害金が発生する時点としても同じなのかもしれないんですが,果実の返還も含めて,減殺請求の時から返還すべき目的物が確定するまでの間の精算はしないということを明らかにする上では,遡及効が生じる時点はむしろ減殺請求時の方がいいのではないかということです。結局,遅延損害金が発生する時点,すなわち請求時まで遡ることとした場合でも,当然,それまでの間の果実も含めて返還させるということですので,結論は同じだと思います。ですから,法律でどう書くかというだけなのかもしれませんが,法律関係を明確にするという観点から遡及効を認めるということだとすると,減殺請求時まで遡るという方がより明確ではないかという印象を持っているということでございます。
○神吉関係官 1点,補足させていただきます。先ほど御説明したとおり,遺留分減殺請求権の意思表示と金銭債務の履行請求と二つの意思表示があると整理しております。そして,遺留分減殺請求権の行使によって金銭債権が発生する,それは民法412条3項でいう期限の定めのない債務であると考えられます。普通は,減殺請求とともに,金銭を払えという履行請求もするので,減殺請求時に履行遅滞に陥ることになる,そのように整理ができるかと思います。増田委員の御指摘は,遺留分減殺請求権の行使をまず一回すると,その後に金銭の履行請求をすると。そのときに金銭の履行請求をしたときから遅延損害金は発生するのだけれども,現物返還の効果を最初の時点に遡らせると,そこの時点から果実の収受権を取得することになるので,そこはおかしいのではないかと,そういう御疑問でしょうか。
○増田委員 それがおかしいと言っているのではなくて,返還目的物の指定をしたときと指定をしなかったときで履行遅滞に陥る時点が異なるのがおかしいと言っているわけです。
○堂薗幹事 ですから,履行遅滞が生じる時期は変わらないんですが,この遡及効は,現物で返還した部分については,最初から金銭債権が発生していなかったという取扱いをしようということでございます。この点は遺産分割などでも同様の取扱いがされているかと思いますが,法律上,最初から一部金銭,一部現物で返すということになっていたのと同様の取扱いをするという趣旨でございます。
○増田委員 余り本質的な部分ではないので次にいってください,細かい議論ですから。
○大村部会長 取りあえず,では,今のような御議論があるということで,更に説明等を詰めていただくことにしたいと思いますけれども,増田委員,ほかの点についてはよろしかったですか。
○増田委員 結構です。
○南部委員 議論が難しくなる前に発言させていただきたいと思います。一つは遺留分減殺請求権による共有状態の回避をするための方策として,金銭債権化することについてはよいかと思っております。甲-1,甲-2は手続というのが非常に煩雑かと思われますが,ただ,指定権を受遺者等が有するということで限定されていることはいかがなものかということで,甲-1の場合は裁判所の判断ということなので,一般的に見たときに答えがどうであろうが,最終的に納得がいくかなという気がします。甲-2,甲-3は受遺者等の希望が非常に高く出るので,それは遺留分権利者にとってはメリットがあるのか疑問に感じますので,公平性,納得性も踏まえた御議論を是非,先生方にお願いしたいなと思っておりますので,意見として取り上げていただけたらということでお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲-1と甲-2,甲-3で指定権をどこに帰属させるかということにつきまして,裁判所に判断をしていただいた方が納得できるのではないかという御意見を頂きました。これについていろいろお考えがあろうかと思いますけれども,何かございましたら伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
○垣内幹事 遺留分を侵害するような遺贈等がされた場合に,今回の御提案というのは基本的には金銭で解決をするということですので,何か特定の遺贈等の目的財産を返還することによって解決するのは本則ではないと,物が戻ってくるのは飽くまで遺贈等を受けた,ですから,減殺の義務を負っている者がその旨の意思を持っているだけであるというところで,出発点として現行法とは異なりまして,個別のこういう時期にされたこういうものについて,最初に返すべきであるというような出発点を採っていないということになると思います。
  それは受贈者等の意思に委ねられているという出発点であって,その上で,更にしかし現物でも返していいという意思があったときに,そこで,裁判所が公益的あるいは様々な事情を考慮して,どれが一番適切なのかというのを決めるという要請がこの遺留分の制度という観点から見て大きいのか,それとも,それについては基本的には受贈者等の意思を尊重するので,そちらの方での選択を第一次的なものとして尊重するということなのかというのは,優れて実体法的な政策判断だと思うんですけれども,私自身は後者のような受贈者側の意思を尊重するという考え方も十分あり得る選択肢なのではないかなと,仮にこういう制度を導入した場合にはあり得るのではないかなと感じております。
  関連して,手続法的な観点から申しますと,基本的には実体法はどうかということに従って,それで手続法を組み立てていくということになるかと思いますが,甲-1案のように非常に裁判所の裁量が大きいということですと,若干,文脈が違うかもしれませんが,部会資料の中でも言及がありましたように,手続進行上は釈明権の行使等について非常に配慮を要することになるだろうと思われますので,その辺りが手続進行としてはやや負担が大きい手続にはなるのかなという感じがしております。
  もう少し付け加えて申しますと,仮に受贈者側の返還目的財産選択権を尊重するという立場に立った場合に,そうすると甲-2案か甲-3案かという話が出てくるわけですけれども,この場合に甲-1案であれば,様々な事件において返還対象とすべき財産が一義的には定まらないので,それを裁判所の一種裁量的な判断で定めるということですから,これを形成的な裁判として構築することには必然性があると思われるわけですけれども,一度,目的物が受贈者側の選択で決まるという前提を採ったときに,なお,その協議が調わないときの効果発生を判決に委ねるということが必然的なのかどうか,形成訴訟構成を採ることが必要なのかというと,そこは必ずしもそうではないのかなという気もするところでありまして,局面は違いますけれども,例えば借地借家法で賃料額の増減請求等がありますが,あれも実体法上の形成権として増減請求があれば効果が発生すると,しかし,金額等について争いがあれば,それは訴訟において確認訴訟等の形で判断がされるということでありまして,甲-2案の場合にも専ら金額,それから,そういった形成権の要件が本当にあるのかどうかと,これはただし書等をどうするかというところと関係するかと思いますが,その辺りが審理の対象になるのであるとすれば,これは必ずしも形成訴訟と考える必然性もないのかなという気が私自身はしておりまして,そうなると甲-3案というのも非常に明快で魅力的な選択肢かなと現時点では考えております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  受遺者側に選択権,指定権があるというのには一定の合理性があるのではないかということを踏まえた上で,甲-3案を採る可能性について御意見の開陳があったと承りました。
  そのほか,この点についていかがでしょうか。
○山本幹事 主として甲-1及び甲-2案について申し上げたいと思います。まず,甲-1案についてですが,⑥という基準で裁判所が裁量的に判断するということになっているわけです。先ほど甲-2案との関係で遺贈の時期とかは特に問わなくてもいいのではないかという判断をされたこととの関係で,⑥が維持されるのか自体一つ疑問としてはあるところでありますが,いずれにしましても,最終的に裁判所が一切の事情を考慮し得るということになりますと,主張立証の範囲が非常に広範に及び得るということで,当事者の予期に反する指定についての不服申立てによって更に審理が長期化するおそれも否定できないと考えているところです。
  次に,甲-2案についてですが,先ほど御説明いただいたところでは,離婚訴訟と同じく訴えによってのみ行使し得る形成権というものを想定しておられるんだということでしたけれども,その場合の形成権の発生要件がよく分からないように思われます。特に⑤の棄却の要件というものがどう位置付けられるのか。あるいは離婚訴訟におけるいわゆる有責配偶者の主張のようなものとか裁量棄却の要件のようなものを考えておられるのかもしれませんけれども,この辺りの理論的な説明がどうなるのかというところが疑問としてございます。
  その上で,いずれにしても今回,⑤は,「遺留分権利者の利益を害する目的でされた場合その他当事者間の衡平を害することとなる特別な事情があると認めるとき」ということなんですけれども,これがどのような基準あるいは要素によって判断されるのかというところが疑問としてございます。これに様々な要素が含まれるということになりますと,先ほどの甲-1案と同じく主張立証の範囲が無限定となり,審理の長期化,複雑化といったような支障が生じることが懸念されるわけであります。特に部会資料の10ページの(2)の2段落で御紹介いただいているような事例になってきますと,現物返還を認めないことが衡平にかなうことについてコンセンサスがあるのか疑問があり得ると思っているところであります。
  更に甲-2案につきましては,現物返還を別訴によって求めることができるということですと,審級を異にしてしまっている場合のように必ずしも併合ができないこともあり得,そういった場合はそれぞれ判断が異なる可能性が出てくるということで,こういった場合も全て請求異議で事後的に調整すればよいという話で済むのかといったところが疑問としてあるように思われます。
  他方,甲-3案は意思表示によって所有権移転と金銭債権の消滅の効果が実体的に生じ,これは抗弁になるということで理屈的にも無理はないと思われるところであり,現物返還を認めた場合の不都合については,実体法上も権利濫用といった規律で対応することが可能と考えられるように思われまして,その辺りを考えますと,複雑でよく性質が分からない部分もある甲-2案を採るメリットというのがどれぐらいあるのかについては,慎重に御検討いただく必要があると考えているところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 質問ですけれども,2点あります。
  一つは,甲-2案の場合についてです。協議が調わないときの問題なので,相手方と争っているということだと思うんですけれども,受遺者等が指定した財産が例えば公平に反すると判断されるときに,別の財産であったならば公平に反しないのにということがあるのではないかと思われるんでけれども,そういったときは,結局,具体的にどのような経過をたどるのかということです。裁判所としては,このままだとただ棄却して終わるけれども,別のものにしてはどうかと示唆することになるでしょうか。これを言ってあげないともはやできなくなるということがあるので,結局,甲-2案の下でも一定の裁判所の何らかのアクションなりが考えられるのかというのが一つです。
  もう一つは,甲-2案で出されているところの衡平を害するのではないか等々の配慮は,甲-3案には掛からないのかということです。一般的には権利濫用ではないかという御指摘を受けて,そうかなとも思うんですが,単純な権利濫用とはかなり違うような性格があり,あるいはこの局面において具体的に判断すべき内容を含んでいるようにも思われるところで,そうだとすると,指定権の行使について,この局面において濫用と考えられるような具体的な基準というのは,結局,甲-2案で出されているようなものがここにも入ってくるのだろうかと思われまして,そうだとすると,そのような基準を明示しなくてもいいのかということのほかに甲-3案で,これもまた当事者が争っていることが前提になるでしょうから,当事者が争っていますと,その指定はおかしいというような話になって訴えになると,その指定権の行使が適切であるのかという判断をせざるを得なくなるように思われるのです。そうすると,甲-1,甲-2,甲-3で,とりわけ甲-2,甲-3でそこまで違うのだろうかと,性格はもちろん違うのですけれども,判断内容がそんなに違ってくるのだろうかというのが分からないものですから,そこをお聞かせ願えればと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  最初の南部委員の御発言は,直前に話題になった衡平を害するということについて,配慮する必要があるだろうというところから始まったのではないかと思いますが,裁判所の関与の仕方が甲-1,甲-2,甲-3で違うけれども,しかし考えてみると,その差は相対的なものなのではないかというのが今の沖野委員の御指摘だったかと思います。御発言は質問の形になっておりましたので,事務当局の方から。
○堂薗幹事 こちらも前回の増田委員の御指摘を踏まえて,まず,甲-2案を考えてみたところ,いろいろ,突き詰めていくと甲-3案のような考え方も十分あり得るのではないかということで,今回,甲-2案と甲-3案をお出ししたということでございます。ただ,甲-2案による場合には,受遺者等が指定したものについて裁判所が不適切だと思う場合は,当然,釈明権の行使ということも考えられますし,また,裁判が確定して初めて効力が生じますので,当事者としては第一順位としてはこれ,第二順位としてはこれという主張の仕方もできるという面があろうかと思います。考慮要素につきましても,こちらの考え方としては甲-2案の方が,裁判所が裁量で棄却できる場面が大きいのではないかという整理です。
  甲-2案に立った場合に,⑤というのは,一体,どういう性質のものなのかというところが問題になりますが,甲-2案につきましては,一応,受遺者側に指定権はあるんですけれども,その指定の効力について裁判をすれば,それを無効にできるといいますか,若干,詐害行為取消しに近いところがあるのかもしれませんが,受遺者側に指定権はあるけれども,⑤のような抽象的な要件の下で,裁判所がその効力を否定できるという点で,甲-3案とは違うのではないかということです。
  甲-3案の場合も当然,権利濫用に当たるような場合は元々無効なわけですが,甲-2案では,要するに権利濫用に当たらないような場合でも,すなわち単に当事者間の衡平を害するという場合でも効力を否定できますので,甲-3案よりは当事者間の指定権を無効にできる範囲が広くなるのではないかという整理でございまして,ただ,そういった意味で,甲-2案と甲-3案の違いは相対的なものにすぎないというのは御指摘のとおりかと思います。
○大村部会長 沖野委員,よろしいですか。
○沖野委員 内容は分かりました。甲-2案と甲-3案で,指定権の範囲というかが違うというところは想定していなかったものですから。しかし,そういうものだとして案は組んであるということは分かりました。
○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。
○山本(和)委員 手続的なところで質問と,若干,コメントも入るかもしれませんが,甲-1案,それから,甲-2案に共通のところですが,甲-1案の⑤の先ほど来,出ている併合強制ということで,先ほど山本幹事から審級が違ってくる場合は難しいではないかという御指摘があって,私もそうかなと思ったんですが,①の請求が既に控訴審に係属している場合には,仮にこの規律を置いたときにはどうなるという前提でお書きだったのかということを御質問したいと思います。
○神吉関係官 御質問にお答えいたします。基本的には⑤の併合強制の規律というのは,できる限り併合して審理をすべきということで,審級が違う場合,併合ができない場合までに強制するものではないということで考えております。会社法などでも併合強制の規律がありますけれども,訓示的な規定だと言われておりますので,どちらかというと,そちらに近いようなものとして考えているということでございます。
○山本(和)委員 分かりました。ただ,私も会社法あるいは倒産法の債権確定の規律で,同様のものがあると承知していますけれども,あれらは多くの場合は提訴期間の制限があり,かつ,管轄も専属管轄になっていて,基本的には大体同じ時期に同じ裁判所に来るということを前提として,こういうのを置いていて,それで,しかし,非常に例外的な場合にそうではないときは別々でもしようがありませんねという規定だと思っていますので,これは,しかし,そういう前提が余りない場面ですので,全く違う裁判所に行く可能性が,全然,時期も違う可能性もあるということですので,少し趣旨が違ってくるかなというのが一つです。
  それから,コメントですが,今,別々に裁判所に行く場合があり得るということを前提としたときに,④の規律,口頭弁論終結時までにしなければならないということなんですけれども,そうすると,①の方の訴えが控訴審とかで終わりかけているというところで③の訴えが提起されたと。すると,①の方が先に確定するということが当然,考えられると思うんですけれども,その場合に③の訴えというのは,どうなるということが前提になっているんでしょうか。
○堂薗幹事 甲-1,甲-2の場合は,結局,①の金銭請求訴訟の既判力で,それを遮断することはできないだろうという前提ですので,結局,実体法上の時期的な制限を掛けただけで,別訴は引き続き係属して,そこで判断が出された場合には,金銭請求訴訟と矛盾する場合は請求異議等で対応するということになろうかと思います。そういった意味で,事務当局としても,甲-1案,甲-2案を採った場合には,現物返還の権利行使の時的限界を金銭請求という別の手続のある一時点で切るという点について,理論的にうまく説明ができるのだろうかという疑問を持っております。これに対し,甲-3案を採用しますと,正に前訴の既判力で遮断したのと同じ効果がこれによって生じるというところがあろうかと思います。甲-1案,甲-2案だと若干説明が難しい点があるのではないかという印象は持っております。
○山本(和)委員 そういうことであればということなんですが,結局,今,請求異議と言われましたが,強制執行の前であれば,あるいは金銭が支払われる前であれば,請求異議ということになると思うんですが,支払われた後もなお係属し得るのか。これは遡及効を認めるということになっているので,仮にその後も③の訴訟が係属して,このものでということになった場合に,それが遡及的効果を生んで,金銭を支払っていたのが不当利得になるとか,そういうことまであり得るのかどうかということを考えると,なかなか,これの規律ではうまくやっていけるのかなというような印象は受けます。
○堂薗幹事 これでいくと遡及しますので,権利行使する以上は,普通は払わないということになろうかと思いますが,仮に払った場合は不当利得で解決するということになるのではないかと思います。ただ,御指摘のような難しい問題があるとは思いますので,そういった意味でも,甲-1案,甲-2案を採ると,手続を含め,難しい面がいろいろと出てくるかなという印象を持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  前回,増田委員からの御発言もありましたけれども,それも踏まえまして甲-2案を検討されたということだと思いますが,それならば甲-3案はどうかということで、さらに甲-3案が出てきているということかと思います。今,この席上では甲-3案がよいのではないかという御意見が複数出されておりますけれども,この辺りにつきまして他の委員・幹事から御発言を頂ければと思います。
○中田委員 私も甲-3がすっきりしていて分かりやすいなという気がいたします。ただ,他方で甲-3というのは現行法からの乖離という意味では,一番大きいのではないかと思います。とりわけ,遺留分権利者の立場を単に金銭債権化するだけではなくて,自分の求めないものを押し付けられる可能性が最も高くなる。それに対して権利濫用ということで対応しようということですが,果たしてそれで十分機能するだろうかということに実質的には不安を覚えておりまして,明快だから甲-3にいきたいんですけれども,そこにためらいがあるところでございます。そこで,実務的に甲-3を採った場合のあり得る紛争態様あるいは頻度といった辺りについてお教えいただければと思います
○大村部会長 今のような御発言がございますけれども,いかがでございましょうか。
○増田委員 私は甲-2案を提案していたのですが,さらに進んだ甲-3案は明快で魅力的だけれども,どうかなと,割り切り過ぎではないかなという気がしているのですが,その理由は,今,中田委員がおっしゃったように減殺者の権利が弱くなりすぎて,要らないものを押し付けられる可能性があるということです。実務的にと,今,言われましたので,要らないものはどんなものだろうと考えてみました。
  まず,明らかに要らないものは山崩れが起きそうな山林とか,崩壊寸前の建物が建っている土地やその建物など,これは危険が大きいし,第三者に対して損害を与えたときに賠償責任まで発生する可能性があるというものです。ただ,これは多分,価額を基準に考えたときに非常に価値の低いものとして算定されるから,こういうものを押し付けられる可能性というのはまだ少ないのではないかと思います。
  ただ,価額を基準に収れんできないもの,すなわち価額はゼロにならないが,要らないと思われるものがいろいろと存在する。一つは土壌汚染があるが,汚染物質を除去する先行投資をすれば価値が出てくるというような土地が考えられる。これは価額は間違いなくあるんですが,個人の力で先行投資をするのは非常に難しいというようなものです。また,今,建っている建物が古くなっていて再築ができない土地,行政上の規制,たとえば市街化調整区域であるとか,接道要件に欠けているとかいったことがあって,古い建物が建っていて今のところは使えるが,ただ,再築はできない,こういう物件。これも間違いなく価額は付きますが,余り欲しくはないだろうと。それから,在外資産,ハワイのコンドミニアムとか,こういうものは間違いなく価値はあるんですが,所有権を確保するのに特別な現地での手続が必要だろうし,売却に関しても非常に困難であろうと思われます。
 もう少し程度を下げると数多くあって,管理コストが掛かるとか,所有リスクがある物件は一般に要らない場合もあると思います。ただ,私は,これらのもの全部について,指定するのは駄目だと言っているわけではなくて,こういう要らない物件が存在することを前提にそれぞれの案の基準で,これらをどう判断するかを検討しておくべきだと思うんです。私見では,最後のコストだけというのはともかくとして,最初に言ったような例えば在外資産だとか汚染物質があるような物件は,甲-2だとはねられる可能性があるけれども,甲-3だと難しいというような話かなとは思っています。
  本当は,これらのコストとかリスクを加味したような価額算定方法が一般的にあるのだったら,全て価額の問題に収れんすることができるので,甲-3案の考え方は魅力的なんですけれども,しかし,現在,そういう不動産の鑑定方法というのは少なくともないんです。一般的には採られていない。そこで,裁判所の判断を入れた方がいいのではないかなというのが私の考えであるんです。裁判所の判断で棄却リスクがあるとすれば,受遺者側としても余り変な物件は指定しづらいだろうと思いますが,物件を指定すれば自動的に所有権が移ってしまうという甲-3案であれば,取りあえず,移してしまえと,押し付けてしまえというようなこともあり得るのかなと思っております。
  甲-3案というのは非常に割り切った考え方で,遡及効によるややこしい問題もないし,第三者,差押債権者とか,そういうものが出てくるときも非常に法律関係が明確になって魅力的だというのは,皆さん,おっしゃるとおりではあるんですが,しかし,現実を見たときに私としてはためらいがあると,そういう割り切り方をするのだったら,むしろ,純粋金銭債権にして,物での返還請求権は認めないという考え方もあるのかなと思ったりもしております。
○大村部会長 ありがとうございました。
○窪田委員 今,増田委員から御説明がありましたが,先ほど沖野委員からも御指摘があったと思うのですが,甲-3案を採ったとしても実体法上の要件として,甲-2案における⑤の部分でしょうか,これを反映させるような規定を置けば問題は対応できるのではないかと思います。ただ,その上で甲-2案の⑤自体がよく分からないところがありまして,今,要らないものを押し付けるというようなお話がありましたが,何でも自分が好きなもの,自分が持っているものを指定できるわけではなくて,贈与とか遺贈の対象になったものの範囲の中で,その指定ができるという意味かと思っております。
  その中で不要なものがあったときに,これは不要なものだから要らない,有用なものだったらもらうということについては,そうした主張がそれほど合理的なものなのかなというのが私自身はよく分からないところがあります。つまり,海外のコンドミニアムなんて面倒くさいから,もらったって仕方がないから要らないよと言ったとしても,受遺者とか受贈者の方でもそういう可能性はあるわけですよね。なぜ,そのときに受贈者の方があるいは受遺者の方がそういう指定をすると権利の濫用だとか,詐害的だとかというような評価をされてしまうのかというのは,必ずしもそれほど自明ではないのではないかという気がします。
  それから,部会資料に示されている中で先ほども御指摘があったんですが,10ページの中ほどに「また」ということで,遺留分権利者が生活に困窮しているとかの説明がありました。この話は確かに心を打つところはあるのですが,果たして遺留分という制度が目的とするものなのだろうかという気がいたします。つまり,遺産分割等において,言わば対等な共同相続人間でどう分けようかという場面では,こういうことを考慮するというのはあるとしても,言わば本来の相続分としてはなくなったけれども,最後のとりでのような形で法定相続分の最小限の法定相続分と言われるような形で権利を行使する,そのときに,今,生活に困っているのだから現金が欲しいとか,そういった話は,本来,遺留分に当然に組み込まれるようなものではないのではないかという気もします。最終的には,甲-1案を採った場合でも,裁判官の裁量をどういうふうな判断でやるのかという点などを考えると同様の問題がありそうですが,甲-2案で示された⑤の部分というのがうまく機能するのだろうかというような気がいたしております。
  極端なことを言うと,そういうふうな裁量ということを捨てるのであれば,現行法と同じように直近のものからだんだん遡っていくとかという形のことはあり得るのだろうと思うのですが,そうでなくて,もらったもの,遺贈されたもの,贈与されたものの中から特定のものを選んで返すということができるという仕組みを設計する際に,甲-2案の⑤のようなものを余り幅広く認めると,制度の全体の趣旨と整合するのかなという点が気になっております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  甲-2案の⑤は,一方で甲-3案にも設けることができるのではないか。他方で,しかし,甲-2案,甲-3案のいずれについても⑤のようなものを設けなければいけないというのは必然的な判断ではない。こういうような御指摘だったかと思います。
○浅田委員 銀行等の第三者の立場から,本点,つまり,甲-1案から甲-3案までに関する若干の意見と,それから,先ほど来から問題になっています財産の適格性に関するものについて幾つか質問をしたいと思います。
  まず,若干の意見ですけれども,銀行のように受遺者等や減殺請求権者ではない,直接の当事者でない者からすると,つまり,取引債権者からすると,今回,提示いただいている甲-1案から甲-3案までについては,いずれも従来から申し上げているとおりでありますけれども,現物返還について物権的効力ではなく,債権的効力として構成をいただいていると思っておりますので,そのような前提に立つ限りにおいては,どの案であっても違和感はないと思っております。もちろん,当事者にとって紛争解決のための社会経済的な,また,手続の重さ等との議論というのはあろうと思いますけれども,第三者から見ると,どれも違和感はないと思っております。
  その上で幾つかの質問であります。主に銀行預金を念頭に置いての御質問ですけれども,受遺者等が預貯金債権や投信受益権を目的財産として現物返還を行おうとする場面を想定するに,当該目的財産に関する第三債務者となり得る銀行としては,権利義務関係を明確にしておくべきだと考えますし,これはひいては当事者間における減殺対象の指定におけるメルクマールにもなり得ると思います。
  この観点から今回の御提案を見ますと,目的財産に関する権利が移転するというような言葉が書かれております。例えば甲-1案の⑦にありますけれども,その点について前提の質問として二つ御質問したいのですけれども,まず,一つ目の質問は,目的財産というのは預金債権等の金銭債権又は投信受益債権等も含まれるのかということです。これは多分,そのとおりだとは思っていますので,確認かもしれませんが。
  二つ目の質問は,本規律において目的財産の権利が移転すると記載されている点でございますけれども,この権利の移転の効力は当事者間においてのみの規律であって,したがって,遺留分権利者が第三者にその権利移転を主張するためには,これに加えて第三者対抗要件又は債務者対抗要件を具備する必要があるかという理解について,御確認させていただければと思います。また,その上で更に若干の御質問をさせていただければと思っています。
○神吉関係官 お答えいたします。預金債権は含まれるのかという御質問と,その権利移転の効力について,第三者に対抗するには対抗要件を要するのか,この2点の御質問を頂いたかと思うんですけれども,いずれもそのとおりと理解しているところでございます。
○浅田委員 ありがとうございます。
  それでは,これを前提に目的財産に関する権利に関して,更に4点,質問させていただきます。なお,預金債権が目的財産になる場合,現行は,受益者等としては払い戻した手元現金で金銭債権を弁済するというのが一般的なのかもしれません。けれども,ここでは規律を検討しているわけですから,この預金というかたちで減殺対象が指定された場合にどうなるのかというようなことを考えている上での御質問であります。
  まず,第1点目ですけれども,預金債権には譲渡禁止特約が付されているのが通常であります。ここでの権利移転の対象たる目的財産に,譲渡禁止特約が付されている場合にはどうなるのかということです。現行法であるということが前提ですけれども,すなわち,当該特約を主張して権利の移転を否定できるのかということです。この点,例えば遺贈等の対象に預金債権が含まれていた場合,実務上,銀行としては遺贈等については承諾をするという実務的な取扱いを行うことが多いという認識であり,この承諾には譲渡禁止特約を解くという意味も含まれているんだろうということになります。
  そうしますと,更にもう一度,相続とは直接関係ない,このような場面での承諾を行うことというのはまだ,もちろん,実例がないわけでありますので,一般的であるとは限らないわけですので,譲渡禁止特約を解くための承諾がないとした場合に,この規律における権利の移転というのがそもそも生じ得るのかどうかということが質問です。
  次に,第2点の質問ですけれども,遺留分権利者による減殺請求がなされた後で,かつ,目的財産に関する権利の移転がなされる前において,銀行が遺言に従って受遺者等に預金の払戻しを行うこともあろうかと思います。これは本規律とは余り関係ない話かもしれませんけれども,銀行実務にとって重要でありますから申し上げるわけです。この場合には銀行としては既に債務の本旨に従った弁済を行っていると私は理解するわけでありまして,そうしますと準占有者弁済等の議論を持ち出すまでもなく,免責されるという理解でよろしいのかということです。すなわち,そうならないと取引の円滑性というのが担保できないのではないかという話です。
  更に3点目ですけれども,甲-3案を前提とした質問でして,申し訳ありませんが,次の事例を設定します。まず,受遺者等が預金債権の遺贈を受けたとします。受遺者等が遺言に基づき銀行に当該預金債権が自らのものだと主張しながら,他方で,遺留分権利者に対しては当該預金債権を目的財産として現物返還の請求をしたとします。この場合,甲-3案によれば,当該現物返還の請求時点で当該預金の権利,債権の権利が遺留分権利者に移転することになりますが,受遺者等が現物返還を秘して,すなわち黙って銀行に対して払戻し請求を行った場合,銀行はそのような現物返還の事実を知りませんので,遺言に従って払い戻すことになると思われます。このような事例で銀行が払い戻した場合も,先ほどの債務者対抗要件の議論からしますと,同様に準占有者弁済の議論を持ち出すまでもなく,有効な弁済を行ったとして免責されるということでよろしいでしょうかということです。
  最後に4点目ですけれども,これはお願いであります。権利の移転に関しては,債務者対抗要件の具備が必要であるとのことでしたので,何らかの通知が銀行にも送付されるということとなろうかと存じます。この通知の場合に,可分債権の取扱いのところと同様の議論でありますけれども,遺産分割協議の内容を明らかにする書面等の添付の上,通知をするものとする規律などを設けるなどして,銀行にとって判別のしやすい規律にすることを検討していただければと存じます。
  以上,様々な意見等を申しましたけれども,要は預金債権という特殊な金銭債権かもしれませんけれども,譲渡禁止特約が付いていて,債務者対抗要件,第三者対抗要件というのが制度として権利の移転に関して必要な財産があると,これについて,この相続の規律だけで解決できるのか,その場合における第三者債務者の保護との関係はどうなるのかということについて,御検討いただいている点がありましたら,その範囲において御教授いただければと思います。ありがとうございました。
○堂薗幹事 今の御質問の点ですが,基本的には当事者間で権利移転の効果が生じるということだと思いますので,譲渡禁止特約がある場合に,当然に遺留分権利者が権利行使できるということにはならないのではないかということでございます。
  それから,減殺請求をした後,遺留分権利者側が余計な払戻しをしていた場合,これは当然,現物を指定する前に目的物がなくなっているということでございますので,債務者としては何ら問題なく,弁済によって消滅していると主張することができると思います。その場合には,本旨弁済によってその債務は消滅していることになりますので,当然,指定はできないということになるのではないかと思います。
  それから,受遺者が目的物として指定したにもかかわらず,まだ,自分が預金者だということで払戻し請求し,それに応じた場合ですが,それも御指摘のとおり,債務者対抗要件を備えない限りは準占有者弁済を持ち出すまでもなく,有効な弁済として消滅しているということだろうと思いますので,特段の問題は生じないのではないかと思います。
  それから,債務者対抗要件を具備するための要件について,遺産分割や遺言の場合と同じように検討した方がいいのではないかという点ですが,ただ,この場合は,一旦,受遺者側に権利が移転していますので,受遺者から通知があれば,銀行側としては元々権利者であった人から通知が来ているわけですので,それに従ってお支払いただくということで,特段の問題は生じないのではないかと思います。遺産分割ですとか,遺言の場合は,相続人が誰かが債務者にとって明らかでないので,通知が来ても,本当に元々権利を持っていた人からの通知なのかどうか分からないという問題があるので,あのような規律を設けておりますが,この場面ではそういった必要はないのではないかという印象を持っております。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○西幹事 1点,感想ないし意見を申し上げた上で,1点,質問させてください。
  まず,私は甲-3案が現行法との関係では,一番乖離が少ないと思います。その理由は,現行法でも,1041条において,現物減殺を原則としつつも,価額弁償を受贈者又は受遺者の側が一方的に選択できるということになっていまして,一部の財産についてだけ現物減殺ではなく,価額弁償にするということも認められています,判例で。それに対して,よい財産のつまみ食い的独占というような批判がありますけれども,現行法,判例はそれで動いているということになります。今回,改正によって現物減殺と価額弁償の原則と例外を逆にするという扱いにするのであれば,正にここも逆ということで,甲-3案のような考え方が一番素直に出てくるような気がいたしました。
  ただ,それは現行法の下で遺留分権利者に与えられた権利との関係では,ということです。先ほど南部委員から御指摘がありましたように,甲-3案は不公平だという印象を多くの人が受けるのであるとすれば,それは遺留分制度に対する一般的な共通認識がないことと,関係するのではないかと思います。
  つまり,遺留分制度というのは,本来は被相続人の意思に従った相続である遺言相続が原則だけれども,一定の場合に遺留分権利者の利益のために減殺するという形で制約を認める制度と考えるのであれば,今回のように受遺者と受贈者だけに選択権を与えるという考え方も素直に出てきます。反対に遺留分制度というのは飽くまでも前提というか,本来,原則に読み込まれるべきことで,遺留分制度をふまえた相続こそが本来の相続であると考えるのであるとすれば,それを侵害した恵与に対して遺留分権利者等の多くの関係者が平等な権利を持つという考え方の方が自然に感じられるのだと思います。国民一般が後者の考え方を採っているのであるとすれば,甲-3案の受恵者だけに選択権を与えるというのは,もしかしたら違和感があるのかもしれません。ですので,その辺りのことに対して,遺留分制度というものが現在,どのように認識されているのか見えないまま考えていくのは,不安だと思いました。
  もう1点は,単純な質問です。先ほど中田先生の方から金銭債権化ということだけでも,遺留分権利者の権利は弱まることになるのだからというお話がありましたけれども,現実の利用価値という意味では,そういうものなのかなということも最近,思っております。と申しますのは,不動産なんて要らない,田舎の土地なんてもらってもしようがないから,ということで今は遺留分減殺請求をしないけれども,お金をもらえるということになったら,多くの人は遺留分減殺をするようになりますよというお話をされている実務家の方もいらっしゃいましたので。そうであるとすれば,一概に遺留分権利者の権利を弱めるのが価額弁償の原則化だとも言えないような気がしてきましたので,今回の改正案で金銭債権化というのが遺留分権利者の権利を弱めるものとして位置付けられているのかという,その前提を教えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の第1点の御指摘は,なかなか判別するのは難しいことだろうと思いますけれども,公平感の観点から問題があるのではないかという考え方には,背景があるのかもしれないという御指摘だったと理解いたしました。それから,金銭債権化されることが遺留分権利者にとってどうかという点は,見方が分かれるところかと思いますけれども,中田委員,何かございますか。
○中田委員 特にございませんけれども,現物か金銭かという法律上の権利の評価の問題と,当事者にとって実際上どう考えられるのかということとのギャップが多分,あり得るということなのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○上西委員 質問と感想です。まず,甲-3案によった場合に,受遺者が指定した財産について,遺留分権利者がそれを減殺の対象として適切でないとすれば,当然のことながら拒否すると考えてよろしいでしょうか。そして,遺留分減殺請求はその段階で終わるという形になるのでしょうか。
○堂薗幹事 拒否するというのは,拒否した上でその分を……。
○上西委員 例えば山林が指定されたときに,それでは納得できないからと拒否すれば,この話は,一旦,終わるということになるのでしょうか。
○堂薗幹事 その場合に金銭請求はするという前提ですか。
○上西委員 つまり,金銭請求の方にまた戻ると考えてよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 これは指定した以上……。
○上西委員 そこで終わりですね。
○堂薗幹事 金銭債権が消滅することになります。
○上西委員 山林が指定された財産であったとした場合で,遺留分権利者が納得しないときは,当然に拒否できるとした方がよいのではないでしょうか。
○堂薗幹事 それは所有権を放棄するということですか。
○上西委員 そういうことです。
○堂薗幹事 ここでは,そこまで明確に規定はされていないということになるのではないかと思います。
○上西委員 押し付けられると困るケースが非常に多く出てくるかもしれません。甲-3案は非常にエッジが効いていて,分かりやすくて私もいいかなと思っています。しかし,もし甲-3案になれば,今後,どのような遺言実務が行われるのかといいますと,例えば,遠隔地である海外のリゾート施設であるとか,上に高圧線が通っている山林などのように固定資産税の評価額があるものの,実際の市場価値がほとんどないような物件を含めて,一人の人に片寄せした遺言を作りましょうと。そして,遺留分の減殺請求がされたら,それらの部分を差し出せばいいですよと。このような実務が一部で行われるかもしれないことを懸念します。そうなると,今度はその財産を指定された遺留分請求権者が受遺者に対して,その財産であれば要らないから減殺請求はなかったことにしたいというように,元に戻すようなことを保証しておかないと,不要な財産だけを押し付けられて終わってしまうような結果になる危険性があると感じました。
○窪田委員 今,おっしゃられたことはそのとおりなのだろうと思いますし,増田委員から御指摘があった背景にも,そうした問題というのがあったと思います。先ほどの西幹事の御発言にも関わるのですが,遺留分権利者が持つのは特定のものについての取消権ではなくて,金銭債権化されたものだというのは,恐らく物権的な権利に比べると弱まったという部分はあると思うのですが,金銭で得られるという点ではずっと有利になったという見方もあるわけです。邪魔になるようなものを押し付けられたというわけですけれども,邪魔になるようなものも例えば遺贈の場合,その人のところにいっているのだとすると,ある意味で押し付けられた人がいるわけですよね。
  それに対して遺留分権利者は,取りあえず,金銭債権という形で権利行使することができる。これはある意味ですごくニュートラルな形で,金銭債権ですから弱いかもしれないけれども,いろいろな厄介なものはくっ付いていないという点では有利なわけです。にもかかわらず,物というふうな形の問題が出てきたときに,厄介なものだったら遺留分権利者の方は拒むことができる,それに対して受遺者の方は,取りあえず,それが押し付けられた状態がデフォルトになって始まるということを考えると,先ほど既に申し上げた問題なのですが,結局,甲-2案における⑤の問題というのは,それほど簡単にどっちがいいというような話で言えるようなものではないのかなという気がいたします。もちろん,受遺者の方が厄介なものを選んだということで,そうすると,遺留分権利者の方としては文句を言いたいということになるのかもしれませんけれども,文句を言った場合には,また,金銭債権に戻るのだというのは,本当にそれが適切な解決で公平だということなのかという点も気になるなという気がいたします。
  なお,余計なことを1点,申し上げますと,甲-2案について細かいことなのですが,「衡平」という字を使われているのですが,これについては何か特別な意味はあるのでしょうか。多分,ここでは二人の間の単なる公平を問題としているのではないかと思ったものですから。
○堂薗幹事 ここは民事訴訟法の用例から採っており,余り十分に考えておりませんので,検討させていただきます。
 また,先ほどの上西委員の問題提起は,要らないものしかもらえないのであれば金銭も要らないし,現物も要らないという場合に,遺留分権利者にも放棄の機会を与えるべきではないかという御趣旨だろうと思います。受遺者側には,遺贈の放棄をするかどうかの選択権があるのに対し,遺留分権利者にそういった放棄の機会がないというところが問題ではないかという御趣旨だと思いますので,こちらでも検討させていただければと思います。
○上西委員 御指摘のとおりです。甲-3の場合は遺留分権利者に指定された財産を放棄する機会があるかどうかも検討していただきたいという趣旨です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  物をもらうということは,従来はプラスのことだと一般に考えていたわけですけれども,物がプラスではなくてマイナスで評価される場合だというのが,ここに出ている話題かと思います。それをどのくらい重視して考えるべきなのかということで,先ほど増田委員からは価額の計算に還元できるならば,それはそれでいいのではないかという御趣旨の御発言がありましたけれども,しかし,実際に押し付けられたものが更に負担を生み出すというようなこともあり得るという御指摘も,何人かの委員の御発言の中には入っていたように思います。これをどの程度,評価するのかということも,この選択に関わってくるように思いますけれども,その他,甲-1,甲-2,甲-3について、どのような選択をすればよいかということにつきまして,これまで出ていない論点も含めて御発言がございましたらお願いいたします。
○山本(和)委員 必ずしもどの案を選択するかということについて私は定見はないんですけれども,資料に出ている13ページの(注2)の甲-3案を採った場合の指定の時的限界の話ですけれども,資料に書かれてあるのはこのとおりで,形成権行使と既判力の時的限界の問題というのは,法科大学院で授業をやっていても非常に盛り上がるテーマで,それは判例が比較的個々に分かれていて,学説もその評価が非常に分かれて,判例をどう読むかについてもいろいろな意見があるということなので,そういう意味では,ここで一つの方向性を決め打ちをして規定を置くということはなかなか難しいのかなというのが私の印象であります。
  そうだとすれば,仮にこの指定には時的限界があるんだというルールを妥当させるということを前提にすれば,明文の規定を置くしかないのかなと思っています。その場合は既判力でも遮断されるかもしれないんですけれども,そうだとすれば,それは一種の確認規定という形の説明になると思いますし,遮断されないという見解も成り立ち得るとすれば,規定を設けるということにならざるを得ないのかなというのが私の印象です。
○堂薗幹事 甲-3を採った場合に,甲-1の④のような規律を設けますと,基準時より前に実体法上,権利行使している場合は,正に既判力で問題なく遮断されると思いますし,時的限界より後の時点では行使できないということになりますので,④のような規律を設けることで実質的には既判力で遮断されるのと同じ結論が得られるのではないかという印象を持っているところでございます。
○山本(和)委員 だから,恐らく甲-3案のような形成権の行使ということになった場合には,訴えの提起をここまでにしなければいけないというよりは,指定権の行使をしなければならないという趣旨になるのだろうと思います。それは実体権の時的限界を定めたものとして,あり得る話だろうと思っています。
○大村部会長 御指摘をありがとうございました。
○浅田委員 細かい話で恐縮ですけれども,遡及効に関する追加的な御質問です。甲-1案,甲-2案では減殺請求時に遡って効力を有するとされております。請求時以降に発生した果実についても,減殺請求権者に返還するということになりそうです。これに関して2点,質問させていただきたいのです。技術的な問題です。
  まず,1点目ですけれども,例えば株式とか投信受益権とか,それから,不動産の賃料とかが目的財産となっていて減殺請求権の行使がありましたと。相続開始以降に発生した配当金が既に受遺者等に支払われていたという場合は,それで遡及効が生じた場合は,解釈問題になると理解しているわけですけれども,これは,あと,不当利得返還請求権で処理されるというべきものなのかということが第1点目でございます。
  次に,2点目ですけれども,それに差押えがあった場合に,つまり,配当金に差押えがあったと,第三者が出てきたと。その第三者が取立権を行使して受領したという場合に,遡及効が発生しましたといったときの第三者保護規定というものが生じるのかどうか,訴求であって取立てが言わば原因がないので,不当利得返還請求権の対象となって返還しなければならないのか,それとも第三者保護規定を設置するないしは解釈上あると考えて,差押権者が受領のまま,抹消できるのかどうかということについて何か御検討があれば,教えていただければ幸いです。
○堂薗幹事 検討させていただきますが,基本的には果実について差押えがされるなどして返還できない,要するに債務者の方で返還できないという場合は,それに代えて価額賠償を認めることにすべきだとは思いますけれども,御指摘のように,ここでの遡及効に対して第三者保護規定のようなものを設ける必要があるかどうかという辺りについては慎重に検討したいと思っております。更に申し上げますと,実はここで遡及効を設ける趣旨は,飽くまでも遅延損害金と果実の精算方法を明確にして,法律関係を複雑にしないというところにあるんですけれども,それを実現するためにわざわざ遡及効という法技術を使う必要があるのかどうかという辺りについても検討したいと思います。特に第三者保護規定を設けなければいけないのであれば,なおさら,そこは慎重に検討する必要があると思います。
○浅田委員 ありがとうございました。
○神吉関係官 1点目の御質問についてもお答えします。株式の配当金があり,受遺者側に支払われた場合にも返金する必要があるのかという点につきましては,これは現行法における処理と同じかと思います。すなわち,減殺請求による株式について物権的効果が生じ,それについて配当が支払われた場合につきましては,基本的に遺留分権利者に果実の取得権限があるので,その配当の支払を受けた受遺者については,不当利得ということでこれを返す義務があると,そういった整理になるかと思います。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○山本幹事 今後,甲-2案と甲-3案を比較検討していく上での一つの視点ということで申し上げたいと思います。先ほどの窪田委員の御発言にも関係するところでありますけれども,甲-2案のいわゆる棄却要件のようなものを考えた場合に,この局面でいうところの当事者間の衡平というものが一体,どういうものを指しているのかが明らかではないように思います。このままですと,裁判所でどう裁量権を行使していいのかという指標自体がないことになりかねませんので,この辺りは一定のコンセンサスが得られることが必要であると思っているところです。
  他方で,甲-3案を前提に,別途の規律を設けるかどうかはともかくとして,少なくとも権利濫用のようなものが考えられるとすると,先ほどいろいろ不当な例として挙がっていたものについても,殊更,そうしたというような主観的要素がくっ付いているような事例ですと,権利濫用という余地もあるようにも思われるところで,不都合を防ぐためには,権利濫用の理屈だけでは足りないのかというところについても,整理していただきたいと思ったところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,山本幹事にまとめていただいたようになりましたけれども,甲-1から甲-3までありますが,甲-1が積極的によいという御意見は余りなかったように理解しております。甲-2か甲-3かということについては,特に甲-2の⑤の規律をどう考えるのかによって,甲-2でいくのか,甲-3にこれを付け加えることができるのかといったことが更に議論になろうかと思います。甲-2を支持する方からも,甲-3を支持する方からも,ここのところをより明らかにすべきだという御指摘が出ているように思いますので,この点について更に議論して,それで成案を探るというようなことになろうかと思います。事務当局の方で,この点について何か更にコメントはありますでしょうか。
○堂薗幹事 1点だけです。先ほどの甲-3案を採った上で⑤のような規律を設けるという考え方なんですが,実体法上の考慮規定としますと,裁判所の判断をかませずに,こうこう,こういった場合には指定権は無効であるというような形になるのではないかと思いますので,そういう規定を設ける場合にかなり明確な要件を設けないと難しいのかなと思います。あるいは,甲-3案であっても,裁判所の判断を経た上で効力を否定するということを考えておられるのであれば,その辺りについて是非御教示いただければと思いますけれども。
○窪田委員 私が発言するのが適当かどうか分からないですし,沖野先生に後でお尋ねいただいたらよろしいと思いますが,例えば極端なことを言って,それがいいかどうかはともかく,⑤のような形で,ただし,遺留分権利者の利益を害する目的でされた場合その他当事者間の衡平を著しく害することとなる特別の事情がある場合には,この限りではないといったようなただし書を付けた上で,それについて当事者が明らかに見て分かるわけではないので,最後,その点が争いになったら裁判所に判断を求めるしかないということにはなるのだろうと思います。ただ,その種の実体法上の要件というのはあり得ないわけではないので,不可能だというわけではないだろうと思います。
○大村部会長 沖野委員,何かございますか。
○沖野委員 同じ考え方でおります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点について更に御検討いただくということで,第1についてはよろしいでしょうか。その他,御指摘があれば承りたいと思いますが。
○増田委員 今の⑤の要件なんですが,当事者間の衡平というところが非常に強調されているようですけれども,基本的には価額の問題ではないかと私は思っていまして,価額の問題だけれども,価額の問題に収れんできないような先ほど言ったような事案をどう扱うかというような問題ではないかと思いますので,その点も表現等をお考えいただいたらどうかと思うんです。当事者間の衡平といっても,ひどい物件ばかりだったら,そういうものでしか渡せないわけですから,ここでの問題は鑑定価額という意味では同じ価額でありながら,換価性が大きく異なるものが同じように扱われるのはどうかという物的な話として考えることも可能ではないかと思いますので,その点を申し上げておきたいと思います。
○大村部会長 御指摘をありがとうございました。
  そのほかの点についていかがでございましょうか。
○村田委員 今の増田委員が御指摘された点を更に事務当局で御検討いただく際に,御検討いただければと思うんですけれども,甲-2案では,受贈者又は受遺者が指定した目的財産の価額については当事者間に争いがないものの,それを押し付けられるといいますか,受領させられるということについては,当事者間の衡平を害するとして遺留分権利者から異議が述べられて争いになるケースというのをどの程度想定しているのでしょうか。この点は「価額の問題に収れんできないような事案をどう扱うか」という増田委員の問題意識と関連するのかなと思います。そういう事案が仮にあり得るとした場合に,甲-2案ですと,③の文言からは,訴えの提起はできないように読めるんですけれども,甲-2案はそういう割り切りをした案ということでいいのかどうかということも御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  中田委員が先ほど途中でおっしゃっていましたけれども,どういう事例が問題になるのかということにつきまして,少し幅広く御検討いただきまして,それをうまく処理できるようなものを考えるということになろうかと思います。今日の時点で更に御指摘があれば承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,今の点を中心にいたしまして,第1につきましては事務当局の方で更に御検討いただきたいと思います。
  ちょうど,中間の時間ですので,10分ほど休憩させていただきまして,後半は35分から再開させていただきたいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。
  部会資料のうち,第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という部分について御意見を承りました。後半は、残る第2と第3について御議論いただきたいと思います。
  まず,事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,第2の「遺留分の算定方法の見直し」につきまして,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。
  第2の「遺留分の算定方法の見直し」につきましては,第1の論点にも増して複雑で,また,計算式も多く,大変恐縮をしているところですが,遺留分の計算方法におきましては二つの重要な計算式,1点目が遺留分侵害額の計算式,そして,2点目が遺留分の算定の基礎となる財産を求める計算式,この二つの重要な計算式がございます。すなわち,遺留分侵害額は,「(遺留分の算定の基礎となる財産の額)×(総体的遺留分率)×(法定相続分率)―(遺留分権利者の特別受益の額)―(遺留分権利者が相続によって得る積極財産の額)+(遺留分権利者が相続によって負担する債務の額)」によって求められ,また,遺留分の算定の基礎となる財産の額は,「(相続時における被相続人の積極財産の額)+(相続人に対する生前贈与の額)+(第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内))―(被相続人の債務の額)」によって求めることができますが,これから御議論いただく各論点につきましては,これらの計算式のいずれかの計算式のうち,いずれかの要素が問題となっておりますので,その点を明確に意識していただき,御議論いただくと分かりやすいのではないかなと思っておりますのでよろしくお願いいたします。では,早速,中身について御説明させていただきたいと思います。
  まず,部会資料の14ページ目の1,相続人に対する生前贈与の範囲に関する規律につきまして御説明させていただきます。この相続人に対する生前贈与に関する規律につきましては,遺留分の算定の基礎となる財産の計算式のうち,相続人に対する生前贈与の額,この要素を何年前までの生前贈与を算入するかという論点です。
  現行法は,第三者に対する生前贈与につきましては,相続開始1年前のものに限定するということになっておりますが,相続人に対する生前贈与につきましては原則,全て過去のものに遡って算入されると,そういったことになっております。この点につきましては,相続人に対する古い贈与が算入されることによって,その存在を知り得ない第三者である受遺者に対する減殺の範囲が変わり得るということで,第三者の法的安定性を害する,そういった問題点が指摘されているところでございます。
  このような問題点の指摘を踏まえまして,中間試案におきましては相続人に対する贈与につきましても一定の範囲,例えば5年間に限定する,そういった提案をしていたところでございます。この点につきましては,パブリックコメントにおきまして賛否両論の御意見が寄せられまして,反対する意見としましては,このような規律を採用すると相続人間の公平に反するのではないか,また,5年間は短すぎるではないか,そういった御意見が寄せられたところでございます。
  そこで,今回の提案につきましては第三者の法的安定性と相続人間の公平の要請,この二つの要請を踏まえまして,相続人に対する生前贈与の範囲は10年間に限定することとしたらどうか,そういった御提案をさせていただいているところでございます。
 また,民法第1030条後段,こちらは害意がある場合の規律でございますが,こちらの規律自体は維持することとしたらどうか,そういった御提案をさせていただいているところでございます。
  続きまして,15ページ目の2の負担付贈与に関する規律につきまして御説明させていただきます。こちらは,遺留分の算定の基礎となる財産を求める計算式のうち,「相続人に対する生前贈与」,または,「第三者に対する生前贈与」,これらが負担付贈与であった場合にどのように算定するかということに関する規律,ルールということでございます。
  現行法は,減殺の対象は負担部分を除いた部分に限定することとされておりますが,遺留分の算定の基礎となる財産を求める計算式に算入する遺留分の算定の基礎に加えるのが,負担部分も含めた全体なのか,それとも負担部分を控除した部分なのかということにつきましては,学説上,対立があるところでございます。この点につきましては,部会資料13におきまして詳しく検討したところでございますが,今回,改めて提案という形で,一部算入説を採用したらどうかということで提案させていただいております。
  その理由としましては,簡単に述べますと,全額算入説を採用いたしますと贈与をもらっている人の方が最終的な取得額が少ない,そういった逆転現象が生じること,また,負担部分とされる部分が負担付贈与でいう負担なのか,それとも費用の前払いとして考えられるのか,そういった微妙なケースにおける事実認定次第で結論が変わり得るということで,一部算入説を採用するのが相当ではないか,そういった提案をさせていただいているところでございます。
  負担付贈与における細かい問題点については,(注1)から(注3)までで検討しているところではありますが,本日は(注3)で記載している問題点につきまして口頭で御説明させていただきます。この問題は,特に一部算入説を採用すると顕著となるのでございますが,この負担部分の価額が大きい場合につきましては,遺留分の算定の基礎となる財産の価額が小さくなり,そういたしますと,遺留分権利者の遺留分額が計算上,小さくなる,そういった問題点がございます。
  例えば事例として見ていただくと分かりやすいのですが,相続人がXのみで,被相続人が第三者Aに対し,9,000万円を贈与した。ただ,その条件として8,000万円を第三者Bに対して渡すと,そういった負担付贈与をしたものといたします。そして,XがAに対して減殺請求したということで考えてみたいと思います。
  この点,一部算入説を採用いたしますと,Xの遺留分は「(9000万―8000万)×1/2」ということで500万円ということになりまして,XはAに対して500万円しか減殺請求することができないということになります。また,ちなみに全額算入説を採用した場合ですが,Xの遺留分は4,500万円ということになりますが,飽くまで減殺の対象は負担部分のみということですので,1,000万円しか減殺請求することができないこととなります。このように,一部算入説を採用した場合も全額算入説を採用した場合も,負担部分を大きくすることによって遺留分減殺請求の額を小さくすることができる,そうすると,遺留分制度を潜脱することとなるのではないかという問題意識でございます。
  このような場合につきましては,実質的な第三者Bも受贈者であると考え,計算することによって適切な解釈ができるのではないかということで考えているところでございまして,Bも受贈者であると考えた場合につきましては,Xの遺留分は4,500万円となりますので,XはAに対して500万円を請求できるとともに,Bに対して4,000万円を請求することができると,こういったように解釈できるのではないかということで考えているところでございます。
  続きまして,17ページの3の不相当な対価による有償行為に関する規律について御説明させていただきます。現行法は遺留分の算定の基礎となる財産には対価を控除したものを加算すると,ただし,減殺の対象は全額,その代わりに対価を償還する,そういったルールとなっております。
  問題点としましては,遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化する場合につきましては,全額を減殺の対象とし,対価を償還させる,そういった仕組みを採用する必要性は乏しいのではないかということで,今回の提案におきましては,遺留分の算定の基礎となる財産には対価を控除したものを加算,こちらは現行と同じですが,かつ,減殺の対象は控除した後のものとする,そういった提案をさせていただいているところでございます。
  18ページ目の4は,遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律ということでございます。こちらは遺留分侵害額の計算式のうち,遺留分権利者が相続によって得る積極財産の額,こちらをどのように算定するかに関する規律でございます。こちらは中間試案におきまして提案していたとおり,具体的相続分説を採用したらどうかということで,改めて今回の提案をしているところでございます。ただし,寄与分については考慮せず,また,既分割の場合も含むということで,こちらも従前のとおりということでございます。
  続きまして,第3の「遺留分侵害額の算定における債務の取扱い」につきまして御説明させていただきます。
  こちらは遺留分侵害額の計算式のうち,「遺留分権利者が相続によって負担する債務の額」,これをどのように定めるかに関するルールということでございます。遺留分権利者が相続によって負担する債務がある場合につきましては,遺留分侵害額の算定におきまして,その債務の額を加算するという取扱いをしておりますが,今回の提案はいずれもその加算の額をどう定めるかに関するルールということでございます。
  まず,1の受遺者又は受贈者が遺留分権利者の債務を消滅させる行為をした場合に関する規律につきまして御説明させていただきます。こちらは,中間試案におきましては遺留分権利者が承継した相続債務について受遺者又は受贈者が弁済をし,又は免責的債務引受をするなど,その債務を消滅させる行為をした場合には,遺留分権利者の権利は消滅した債務額の限度で減縮する,そういった提案をしていたところでございます。
  この点につきましては,特にパブリックコメントで大きな指摘があったところではございませんが,その後,事務当局において検討しましたところ,二つの問題点があることが判明いたしました。まず,1点目が,この中間試案の考え方を採用いたしますと,弁済など債務を消滅させる行為をした場合には,遺留分権利者の権利の内容が当然に減少されることとなること,また,2点目が,弁済等を行った受遺者又は受贈者以外の受遺者又は受贈者に対する金銭債権についても減縮されることになる点,このような結果,求償債権の処理につき困難な問題が生じるということが分かりました。この点は,詳しくは部会資料20ページの(注1)(注2)におきまして事例を掲げ,また,計算例を掲げておりますが,やや複雑でございますので,口頭での詳しい説明は割愛させていただきますが,要旨としましては,上記のような問題点がある結果,求償債権の処理につき困難な問題が生じるということでございます。
  このような問題点を解消するため,今回の提案におきましては,この2点の問題点に対応いたしまして,当然に権利の内容が減縮することとなる点を改めまして,受遺者又は受贈者の請求により減縮する,また,消滅する範囲につきましても弁済を行った受遺者又は受贈者に対する権利が減縮される,このような修正を加えているところでございます。
  そういたしますと,このような規律を設ける意義は何なのか,相殺との違いは何なのかということが問題となってくるかと思います。詳細につきましては,部会資料22ページの(注4)で場合分けをして検討しているところでございますが,まず,1点目の違いといたしましては,受遺者又は受贈者が免責的債務引受をした場合が上げられるかと思います。免責的債務引受をした場合につきましては,求償債権は発生しないと解されておりますので,相殺での処理はできないということとなります。ただ,免責的債務引受をして遺留分権利者が支払を要しないということになっておりますので,そのような債務について加算をする必要はないということが言えるかと思います。
  また,2点目として上げられるのが,減殺請求権を行使した後に弁済期未到来の相続債務を第三者弁済した場合というのが上げられるかと思います。この場合は弁済期未到来でございますので,相殺で処理することはできませんが,遺留分権利者が支払を要しない債務につき加算をする必要はない,その分につき加算する必要はないということになります。以上のとおり,相殺等によって処理することができない場合もありますので,今回の提案のような規律を設ける必要性自体は,認められるのではないかと考えているところでございます。
  最後に,部会資料24ページ目の2の相続分の指定や包括遺贈により,内部的な債務負担割合が定められた場合に関する規律につきまして御説明させていただきます。まず,この問題の所在といたしましては,相続分の指定又は包括遺贈があった場合につきましては,被相続人に債務がある場合につきましての債務の内部的な承継割合も変更されることとなります。こちらは判例のルールでございまして,また,中間試案の第3の2(2)で提案しているルールでございますが,相続分の指定や包括遺贈に伴って債務の内部的な承継割合が変更されることとなります。
  そういたしますと,遺留分侵害額の計算式のうち,遺留分権利者が相続によって負担する債務の額,こちらをどのように算定すべきなのか,対外的な負担割合で計算すべきなのか,対内的な負担割合で計算すべきなのかということが問題となってまいります。
  考え方といたしましては,三つ説を掲げておりますが,対内的な負担割合で計算するというA説,債権者の承諾があった場合は変更後の負担割合で加算し,承諾がない場合は法定相続分の割合で加算するというB説,そして法定相続分の割合で加算するというC説,三つの考え方があろうかと思います。
  今回の提案におきましては,A説,対内的な負担割合で計算するのが相当ではないかということを提案しております。その理由といたしましては,最高裁の平成21年3月24日の判決,こちらは全部相続させる旨の遺言があったケースにおきましてA説を採用したものでございますが,こちらの考え方や,また,B説及びC説を採用すると,指定相続分の少ない者の方が最終的な取得額が多いという逆転が生じるということがあり得るということでございます。
  以上,細かい論点もありますが,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  後半は三つの項目のうちの二つの項目,今,御説明いただいた遺留分の算定方式の見直しと,それから,遺留分侵害額の算定における債務の取扱いについてでございますけれども,これらについて御意見を頂きたいと思います。まず,第2の「遺留分の算定方法の見直し」の方から伺えればと思います。
○窪田委員 遺留分の算定方法の見直しということで,遺留分侵害額,それから,遺留分の算定の基礎となる財産ということでお示しいただいていて,これ自体は大変に分かりやすかったように思います。やや特殊な問題として負担付贈与とか,これとは異なる問題についてもこれで対応できるということが大変によく分かりました。この部分について何か異論があるというわけではございませんが,前提として私自身,まだ,十分,理解できていないところもありますし,あるいは全員で共有していた方がいいかなという気もいたしますので,一点,確認をさせてください。遺留分侵害をめぐる問題というのは,ある法定相続について遺留分侵害が発生しているかどうか,そして,遺留分侵害額が幾らであるかということもありますけれども,同時に誰に対して遺留分侵害の権利を行使するのかという問題が当然にあるのだろうと思います。
  この部分に関しては,必ずしも今まできちんとまとまった形では御説明を頂いていないのではないかと思います。現行法では新しい方からだんだん遡っていって,どの贈与が遺留分侵害を生じさせたかという問題の捉え方をしますから,同時に相手方も分かるという形になるわけですが,先ほどもお話があったように,むしろ,トータルとして四つの贈与があるのだったら,四つの贈与の中のどれについて現物で返還するかということを決められるという発想の前提として,そもそも,四つというのはどうやって決まったのかという問題があるのだろうと思います。
  現行法を前提としますと,例えば遺留分減殺の順序に関しての規定というのは多分,適用されないということになるのだろうと思いますけれども,どこまでが現行法と変わって,どこは維持されるのかというのが必ずしもまだ私自身で十分できていないところがあります。例えば具体的に言うと,民法1031条において,遺留分権利者は遺留分を保全するのに必要な限度で減殺を請求することができるということがあるのですが,減殺の順序についての規定は廃するとしても,この部分は生きるということでよろしいのかどうなのかということです。これは単なる確認ということなのですが,一度,伺っておいた方が先ほどの第1の論点にも関わるかなと思いますので,御説明いただけたらと思った次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 今の遺留分侵害額について誰に請求するかという点につきましては,現行法と同じように,新しい遺贈あるいは新しい贈与が遺留分を侵害しているという理解を前提として,現行法と同じ基準で請求の相手方を決めるということを考えております。ただ,今までは現物を返していたのが金銭でもよくなり,更に現物で返す場合も,遺留分を侵害している遺贈や贈与の目的物でなくてもよくするという御提案をさせていただいているということでございますので,そういった意味で,民法1031条につきましては,基本的にはこのまま維持するという理解でございます。
○窪田委員 今,聞き逃してしまったのですが,遺留分を侵害しているのではない贈与もとおっしゃいましたか。
○堂薗幹事 直接には遺留分侵害の原因となっていない贈与の目的物も,現物返還の選択の中には一応,含まれるという前提です。
○窪田委員 分かりました。
○堂薗幹事 そこは,ただ,部会資料の中ではどちらも考え方としてはあり得るのではないかということで,問題提起をさせていただいているというところです。
○大村部会長 今の点はよろしゅうございますか。
○窪田委員 今の堂薗参事官の御説明ですと,遺留分の算定の基礎となる財産に関していうと,相続人に対するものとしては過去10年間のものの贈与で,それ以外は1年間ということですが,その1年間あるいは10年間の範囲の中に入るものであれば,遡っていってから本当は遺留分減殺の話としては,遺留分侵害の話としては途中で終わっていたとしても,9年前の贈与の現物という形で対応してもいいという,そういう御説明だということですね。
○堂薗幹事 そういう趣旨でございます。
○窪田委員 承知しました。
○大村部会長 遺贈,贈与の対象になっているものの中で,その選択ができるという趣旨かと思いました。
○窪田委員 ちなみに,11年前のはもう駄目だということでよろしいですね。遺贈,贈与というと贈与だと入るのですが。
○堂薗幹事 そこはそういう趣旨です。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○石井幹事 遺留分の算定基礎となる生前贈与の範囲に関して民法1030条後段の規律を維持するという御提案がされておりますが,二読目までの議論では,相続人に対してされた生前贈与については1030条後段の規律は適用されないという前提で議論がされていたように受け止めておりました。もっとも,この点はこれまで明確になっていなかったところなのかもしれません。
  ただ,相続人に対してされた生前贈与について民法1030条後段の規律を維持して,害意があるものについては時期にかかわらず昔に遡って遺留分の算定基礎に含めるということになりますと,遺留分の算定基礎に含める生前贈与の範囲を時的に限定して法的安定性を維持するというメリットが減殺されてしまうのではないかと感じております。実際の問題としても,今回は10年ということで御提案があるんですけれども,相続開始から10年以上前にされた生前贈与について害意があるかどうかということを立証することは現実的には非常に困難だと思います。また,それほど前に遡った贈与ということになりますと,被相続人が,お亡くなりになることを見越して贈与がされたということも実際上,想定しにくくなってくると思いますので,そのような生前贈与を遺留分の算定基礎に含めることになるケースというのは現実的には余りないのかなと感じております。そういう意味では,少なくとも相続人に対してされた生前贈与について1030条後段の規律を維持する必要性は,それほど高くないのではないかなと感じているところでございます。
○神吉関係官 補足して御説明させていただきますが,その前提として,石井幹事の御提案は,第三者に対する贈与については,1030条後段の規律は維持するけれども,相続人に対する生前贈与については外すべきではないかと,そういった御提案ということでしょうか。
○石井幹事 少なくとも相続人に対する生前贈与については外してはどうかということでございます。
○神吉関係官 理論的にどうして相続人であれば外して,第三者であれば外せないのかというのは,なかなか,説明ができるかというと難しいかなと思ったりもいたします。これまでの部会におきまして,例えば全ての財産を上げるといった場合について,そこは10年以上前であっても救済できるような仕組みを設けた方がいいのではないかと,水野紀子委員から恐らく御指摘があったかと思うのですが,そういった御指摘を踏まえると,1030条後段の規律というのは一定の意味があるのではないかなと思っているところではあります。ただ,この点は,これまでそんなに議論がなかったところではございますので,せっかくの機会ですので皆様から御意見を頂ければと思っているところでございます。
○水野(紀)委員 名前を出していただいたので,発言いたします。遺留分権利者に害を与える自覚があって贈与するのは,むしろ相続人の場合の方が圧倒的に多いであろうと私は考えております。つまり,後継ぎへの継承,家督相続を贈与という形で再現する意図とニーズを持つ被相続人はまだまだ多くおられるだろうと思います。10年前に贈与という生前相続で後継ぎ遺贈を実現してしまえば,遺留分を潜脱できる形になるのはいかがなものかというのが私の従前の発言の趣旨でございました。
○大村部会長 今の点につきまして何かほかに御発言があれば、伺います。
○村田委員 遺留分の算定基礎となる財産に関する規律に関しては,今の時代に合わせて何が公平かという価値観を御議論いただいて,多数の考え方というのを確認していくというのが基本的な議論の方向性だとは思うんですけれども,他方で,冒頭の事務当局の御説明にもあったとおり,遺留分に関しては,解釈も含めて,現行法の規律が非常に複雑になっているため制度が思うように使われない,あるいは使われたとしても紛争として非常に長引くという問題もあるのだろうと思いますので,ここの検討の場においては,そうした問題をなるべく解決するということも一つの使命になっているのかなと考えられます。そして,この点は遺留分の算定基礎に含まれる生前贈与の範囲に検討を加える際にも重要な考慮要素になってくるのかなと思われます。
  先ほど窪田委員もおっしゃいましたとおり,現行法ですと減殺の順序の規律がありますので,新しいところから遡っていくと,実際上は,すごく昔にされた贈与まで遺留分の算定基礎に含まれるというケースは多くないのかなとも思うんですけれども,他方で,そこの順序のところを取っ払って,どこでも選べるというようなことになると,紛争解決の場において,すごく昔の話が持ち出される可能性が一気に高まり,争われる範囲がむしろ今よりも拡大する,あるいは解決が非常に難しくなるということも懸念されるところであります。
  もちろん,相続開始の10年以上前にされた贈与に害意があることなどおよそ立証できないのだから,このような贈与を遺留分の算定基礎に入れたからといって実際上の支障はないと考えることもできるかもしれないんですけれども,調停の場面では,証拠がどのぐらいあるか,ないかというよりも,とにかく昔話を聞いてくださいという類いの主張が延々と繰り広げられることもあるわけで,遺留分の算定基礎に含まれる生前贈与の範囲を広げれば,遺留分に関する調停でも,その分,こうした主張が繰り広げられることに伴って紛争解決が困難になるという実情もあることは,十分,御考慮いただきたいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点,ほかに御意見はありませんか。
○石栗委員 確かに受遺者・受贈者が相続人である場合の方が害意を認められる場合が多いというのは,おっしゃるとおりなのかもしれないんですけれども,相続人に対してされた生前贈与については,害意の有無を問わず,相続開始前10年間にされたものを遺留分の算定基礎に含めるというのであれば,それより前にされたものを一律に遺留分の算定基礎から外すと考えることも,一つのバランスの取り方としては十分あり得るのではないかという気がいたします。相続人以外の者に対する生前贈与については,遺留分の算定基礎に含める範囲を相続開始前1年間にされたものに限定しつつ,害意があるものについては,それ以前にされたものも算定基礎に含めるという規律が採られているわけですが,これとの関係でも,それほどバランスを欠いているわけではないのではないだろうという気もいたします。また,このように考えることができれば,今,村田委員がおっしゃった調停などの場合でも,相続開始から10年以上前の紛争については,一律に遺留分の算定基礎に含まれないことを理由に,昔話を打ち切って前に進んでいただけるという意味でもメリットはあるのかなと思います。こうしたことからしますと,相続人に対してされた生前贈与については民法1030条後段の規律を適用しないと考えることも,一応,検討の余地はあるのではないだろうかと思いますので,御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  実質的な公平ということと,それから,紛争の長期化,複雑化を避けるという二つの点について御発言があったかと思います。
○増田委員 害意を入れると,現在と変わらなくなるというのは賛同しかねるので,一言,申し上げますけれども,現在は大学の学費だとか,要するにおよそ遺留分を侵害するとは思えないような些細な特別受益も理屈の上で計算の中に入ってくるわけですが,それが今回,害意に限るということになると,10年以上前のものというのは,贈与当時も少なくとも全財産の2分の1を超え,かつ,その10年以上の後の将来においても2分の1を超えるだろうといったような贈与だけが対象になるわけですから,金銭的に低いものは全部省かれるということになるので,紛争になるケースは相当に減少することが考えられます。むしろ,水野委員が言われたように,あらかじめ全財産に近いものを贈与するようなケースでは,相続人間の方が害意がある場合が多い。したがって,残すべきかなとは思います。
○窪田委員 私はそれほど強い思い入れはないので,どちらもあるではないかと思って伺っていたのですが,ただ,私は死亡する10年前の害意というのはよく分からないところがあります。全ての財産を特定の者に上げたといったら,ほかの人がもらえなくなるのは確かですし,10年前のその時点ではそうなのですが,10年間も生きていれば身分関係が新たに発生するとか,再婚するとか,養子をもらうとか,いろいろなことがあり得るわけですよね。そうすると,相続分は変わるのだろうと思いますが,そういうことが別に対象になるわけではないだろうと思います。先ほど思い入れがないので,どちらでもいいだろうというのは,実際に,そうは思っているのですが,10年間というのは,それなりに長い期間なのではないのかなという感じがいたします。
  一番よく分からないのは,自分がいつ死ぬか分からないわけですから,10年前のときには明日の命も知れないと思って誰かに全部上げたのかもしれませんが,それから10年間,生き残っていたら,それはそれで構わないという考え方もあるのかなという気はいたします。増田委員の揚げ足を取るつもりではないのですが,大した問題にならないのだったら,こんなのは外してしまったらというのもあるというのはあるかなと思いました。ただ,残っても別にさほど差し支えがあるとは思っておりません。
○増田委員 その後,多分,積極財産が増えないだろうというような年齢の方が全財産を贈与する場合には害意があるのではないか。つまり,80歳から90歳の10年と,40歳から50歳の10年とは全然違う話であって,40歳の人が全財産を贈与したところで,その人はその後,死ぬまでには財産を積み重ねるだろうと思われるので,害意が認められるケースというのは非常に少ないだろうと思うんです。しかし,80歳の年金しか収入がないような人がほぼ全財産に近いのを贈与したというようなときは,その後はそれほど積極財産が増えないだろうと想定され,害意が認定されやすいということになるのではないかと思うので,その人が91歳とか100歳まで生きたとしても,それは遺留分侵害と見ていいのかなと思っているんですけれども。
○窪田委員 私は,そこの部分に関しては,90歳の人の人生はその時点で凍結してしまってというふうなことなのかという感じもしますし,その年になってみたら,配偶者がいる場合でもどっちが先に死ぬか分からないとか,相続の順序の問題だってあるわけですし,養子をもらったって構わないわけですし,いろいろなことを考えたときに増田委員のおっしゃることはよく分かります。30歳の人だったら,これからまた財産が増えるのだからというのが,90歳,80歳の人だったら違うだろうというのは,そうなのかもしれません。にもかかわらず,それを表に出して言えるのかというのは少し違和感はあるという気がします。この規定について,ただし,90歳以上の者に関してはとか書けるかというと書けないわけですよね。
  私が伺っていて思いましたのは,前提にあるのは恐らく害意の問題と同時に,遺留分権利者の権利をどのぐらい強いものとして思っているのかなということが潜在的にあるのではないかという感じがいたします。お話を伺っていると遺留分権というのを強い権利として考えていると,その侵害というのは深刻な問題だし,実際上の家督相続的な形で全財産を譲るというようなことは,許すべきではないということになっていくと思います。一方,そこまで強い権利なのだろうかという点で,先ほど西幹事が二つの考え方を御説明いただきましたけれども,例外的に認められた最小限の権利にしかすぎないのだとすると,言わば10年間の害意というのはすごく長い怨恨の歴史だと思うのですが,そんなものまで認めなくてもいいのかなという考え方が一方であるのではないかと思いました。
○大村部会長 今,窪田委員が御指摘のように,基本的なスタンスにも関わるところもございますし,それから,挙がっている例として,どういうものを主として想定するかによって,皆さんの判断が分かれてくるように思いますけれども。
○水野(紀)委員 贈与につきましては,本当は,もっと民法学の研究が深められていてしかるべきだったでしょう。旧民法の段階では,贈与も全部,公証人がすることになっておりました。そういう制度的な相違が意味することは大きくて,贈与契約は公証人が行う重い手続であることが,母法では前提とされています。母法では,遺産分割も公証人が行いますし,公証人は特別受益を計算するときに,全部,自分の手元にあらかじめ資料があるのです。日本民法の相続法もそういう前提で出来上がっています。民法の典型契約には日本ではまず使われない689条の終身定期金契約がありますが,被相続人が生前贈与を行った場合にその対価として受贈者が負担する一番典型的なものとしてフランスではよく用いられています。
  贈与については,公証人が遺留分を害さないかということを考慮しながら,贈与契約を公証人のところで締結するという仕組みになっていたものを,日本の場合にはその仕組みが,明治民法の段階で落ちてしまいました。戦後,遺産相続になった結果,特別受益を争い始めると,どれだけ介護をしたかとか,嫁入り支度をどれだけもらったとか,過去の全部の家族の歴史を掘り返すというおかしなことになっています。そういうおかしな構造ゆえの実務の御苦労から,こんなものは封じてしまいたいという要求も出てくるのだろうと思います。しかし,全財産を70歳,80歳で与えてしまう,あるいは60歳のリタイア時期に代替わりということで後継ぎに与えて隠居して,10年隠居生活を過ごしたら,それが全部,遺留分減殺請求の対象にならないというのは,この間まで家督相続だった国としては問題があるように思います。
  それから,もう一点,ついでにですが,贈与法の研究が非常に遅れておりますので,(注3)に挙げられたケースのような負担付贈与で,第三者に中抜きで渡してしまうものがそもそも負担付贈与と性質決定ができるのかというのも,大いに議論の余地があるところだろうと思います。また,最高裁が負担付死因贈与契約と性質決定したケースで,先に負担の先履行があるので,その結果,本体の贈与契約に拘束が及ぶという判例がありますけれども,あれもおかしな判例だと思います。贈与法の発想からいうと,まず,贈与の履行があって,それに負担が乗っているということでないとおかしいはずで,贈与物をもらう前に負担を先履行したために,贈与本体についての拘束力が生ずるというのは,本当はおかしい話であったように思います。でも,それも贈与法についての民法学の研究が足りなかったため,判例がたまたま,負担が乗せられていることから双務契約の規定を適用してしまったのでしょう。
 生前相続という観点から贈与法を考えると,遺言の自由な撤回と平仄をとった,忘恩行為による取消権という,母法にあった制度が落ちたことも考えなくてはなりません。贈与法についてはまだまだいろいろな議論をしなくてはならないことがあり,(注2)にも先に延ばすと書いてくださいましたけれども,(注3)についても,これも相当,注意深く書かないと,もしかすると将来の議論を拘束してしまう可能性があるような気がします。(注3)が書かれた価値判断に反対という意味では全くないのですが,これをそもそも贈与と性質決定できるかということから,かなり留保を付けた書きぶりにしていただく方が安心かと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  実質的な問題と,それから,今の(注)の書き方の問題,こちらは理論的な問題が入っているかと思いますけれども,御指摘を頂いたと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
○上西委員 14ページのところです。平均寿命の伸長や節税対策の普及と共に,10年くらい前から計画的に遺産分けを実施する例もあり,と記載されています。事業承継税制を用いての計画的に事業承継している事例や,特別な節税対策をしているような場合は別として,10年より前の時点からの財産の変動を適確に把握することは相当に困難です。私どもの実務の感覚からすれば,困難の程度は年数の2乗に比例するぐらいの感覚を持っております。
  中間試案として例示した5年間が短いのではないかという指摘が寄せられたところから,今回は10年を示されておられます。この10年は,確実な資料に基づいて交渉や訴訟をするに当たっての恐らく限界ラインに近いと思います。ですから,この後に20年間の記載もありますが,検証することは相当に困難ですので,上限は10年かなという気がしております。もっとも,5年と10年の間で適切な年数を出せるかというとアイデアは持っておりません。10年が限界であろうという意見です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  なかなか,数字は難しいですけれども,5年でなければ次は10年であろう,20年では意味がないという判断かと思います。ほかはいかがでございましょうか。先ほどの害意のところは,御意見が拮抗しているように思いましたけれども,その点でも結構ですし,他の点でも,御指摘を伺えればと思います。事務当局の方で,ここについて御意見を頂きたいというところはありませんか。いいですか。
  特に御発言がなければ,もう一つの債務の取扱いについて御意見を頂きまして,その過程でもし第2について何か出てきましたら,その段階で御発言を頂いても結構です。
○増田委員 かなり細かいですが,いいですか。
○大村部会長 第2ですね。
○増田委員 先ほどの1044条の準用規定はどうなるんですか。
○堂薗幹事 現行の遺留分に関する規定が分かりにくい原因の一つとして,1044条でいろいろな規定を準用しているというところがあるのではないかという気はしておりますので,最終的には条文化する際にどうするかという話ですので,我々の一存で決められる話ではないんですけれども,できる限り,必要なところは書き下ろすなどして分かりやすい形にしたいなと思っております。第2の1のところも,正に1044条で903条を準用している意味がどこにあるのかという解釈上の争いだと思いますので,その点は西先生の方でも詳しく論文等を書かれているかと思いますが,今回こういう形で見直しをする場合には,そこもきちんと分かるような形で規律を設ける必要があるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 中身ではなくて,個々の問題に応じて規律の内容を確認していくことになるだろうとのお返事を頂いたかと思いますけれども,増田委員,それでよろしゅうございますか。
  では,第3も含めまして御意見を頂ければと思いますけれども,いかがでございましょうか。
○増田委員 これも細かいことなんですが,第3の1の減縮請求,これの時的限界というのは,いつぐらいを想定されているのでしょうか。というのは,相殺だと相殺適状がある限り,いつでもできてしまうんですよね。その先,相殺の代わりというようなことで御説明があったかと思いますが,これはどうなのかということです。
○神吉関係官 十分に検討できているわけではないのですが,遺留分減殺請求権の行使により生ずる金銭債権を減縮させる形成権,抗弁ということになりますので,基本的には金銭請求の訴訟の口頭弁論終結時までにしなければいけないという整理になろうかとは思います。ただ,相殺権の行使自体は,金銭請求訴訟の既判力では遮断されませんので,いつまで行使できるのかという点については別途検討が必要になるかもしれません。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○中田委員 今のと若干,関連するかもしれないのですけれども,中間試案から今回の御提案で変わったのかどうかも理解できていないんですけれども,受遺者などの弁済や免責的債務引受がある場合に,当然に消滅ではなくて請求によって減縮するという規律ですが,これは遺留分侵害額の算定についてのみのことなのか,それとも,実体的に縮減するというのが中間試案の考えだったのかということを知りたいんです。と申しますのは,仮に実体的な問題だとしますと,今回の規律に改めることによって,遺留分減殺請求権の方が期間制限に掛かってしまったあと,求償権の方はまだ残っているので,それを請求することができてしまうのではないか。
  20ページの(注1)のケース,つまり,Bに生前贈与3,000万円があり,しかし,相続債務3,000万円があったので,Bが全部,済ませているだろうとAの方は思い込んでいて何もしなかった。ところが,1年たって1,500万円を請求されたら,どうもバランスが悪いようにも思います。他方で,今,増田委員もおっしゃったように,相殺ということがあるのかどうかなんですが,ただ,508条でしたか,相殺の時効にかかった債権でも相殺できるという規律がここで及ぶのだろうかと,遺留分減殺請求権によって金銭債権が発生するのだとすると,当然に及ぶかどうかということも若干,疑問に思いますので,その辺りをお教えいただければと思います。
○大村部会長 お願いします。
○神吉関係官 508条との関係ですけれども,時効にかかった債権であっても相殺に供することができるという条文かと思いますが,ただ,遺留分減殺請求権を行使していない場合には,そもそも,金銭債権は発生していないということになろうかと思います。その後に,遺留分減殺請求権の時効期間が過ぎてしまった後に,508条を適用又は類推適用して本来あったはずであろう遺留分減殺請求権から生じる金銭債権と相殺することはできないのではないか,求償だけを受ける関係にあるのではないかと,そのように考えているところです。部会資料の20ページ目の(注1)では,現行法における処理として,AがBの債務を弁済し,かつ,Aが減殺請求をしなかった場合については,Aは1,500万円の損をするという形になりますけれども,それはやむを得ないのではないかなと,そう考えていたところです。この点は現行法で素直に考えると,このようになるのではないかと思ったところですけれども,何か御示唆があれば頂けると有り難いと思います。
○中田委員 私は多分,508条は適用されないんだろうなと理解しておりました。ただ,このケースで先ほど申しましたように,Aは何もしないまま,終わったものだと考えていて,それが後になって請求されるとすると,どうも適当ではなくて,その場合に例えば期間制限の特則を置くなどして,求償権の行使があった場合には遺留分減殺請求権との間の相殺といいますか,消滅が生じ得るようにするという何らかの手当があったらいいかなと思いました。
○堂薗幹事 検討いたしますが,ただ,現行法でもそこは遺留分権利者が権利行使しないまま,受遺者などが第三者弁済した場合に,その後,求償権の行使を受けるのはやむを得ないという理解がされているのだと思いますので,金銭請求化することによって,その点を緩める必要があるのかという辺りについては,慎重な検討が必要なのかなという印象は持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  現行法の理解も含めて,更に検討していただければと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第2,第3について御意見を承りましたが,第2の最初の期間の問題について,害意の場合はどうするのかという点につきましては,両論があるという状態でありましたけれども,それを踏まえて更に事務当局の方で御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  そのほか,何か御発言がありましたら伺いますけれども,いかがでございましょうか。
○石栗委員 25ページの(注2)のところで,審判で債務の対内的な負担割合を変更する場合があるのかということをお尋ねになられているように思いますので一言申し上げますが,審判手続の中で,仮に債務について遺産分割の対象とするということを相続人間で合意していたとしても,債権者を拘束するものではございませんし,本来,可分債務であって遺産分割の対象ではないという法的な性質もございますので,基本的に債務について審判することはございません。審判手続における債務の取扱いの実務については,そういう御理解で御検討いただければと思います。
○神吉関係官 その点は,私どもも石栗委員と同じ理解ではあるのですが,この点に言及している文献もございましたので,こういう見解もあり得るけれどもどうかということで一応触れさせていただいた次第です。御指摘ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他,いかがでございましょうか。
  予定した時間よりも前に御意見を頂くことができたことになりますが,年末でもございますので,早く終わるということで結構かと思います。最後に,次回の日程等につきまして事務当局から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,本日もどうもありがとうございました。
  次回の日程でございますが,既に御案内のとおり,1月24日(火曜日)の午後1時半からを予定しておりまして,次回は遺言制度の見直しについて御審議をお願いしたいと考えております。可分債権の取扱いについては,2月の法制審で御議論いただければと考えているところでございます。次回の場所でございますが,次回は本日とは異なりまして地下1階の大会議室になりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  本日も大変熱心な御議論を頂きましてありがとうございました。これで閉会させていただきます。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第17回会議 議事録


第1 日 時  平成29年1月24日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時03分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第17回会合を開催いたします。
  本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
  本日は後ほど登記に関する話題がございますので,民事二課の方から関係官に御出席を頂いております。
  議事に先立ちまして,まず最初に自己紹介をお願いしたいと思います。
○宮﨑関係官 ただ今御紹介にあずかりました法務省民事局民事第二課の局付をしております宮﨑と申します。
  民事第二課では,不動産登記制度について所管しておりまして,今回の議論の中では,不動産登記の手続に関する議論が想定される箇所がありますので参加させていただくことになりました。登記手続に関する御質問等につきましては,何なりとお申し付けください。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  続きまして,配布資料等の確認につきまして事務当局にお願いいたします。
○大塚関係官 配布資料でございますが,部会資料17と,それから参考資料として「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例(2)」を事前に御送付申し上げているものでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。部会資料17につきましては修正版が机上配布されておりますので,そちらに基づいて御審議を頂くということでお願いできれば幸いです。
  本日は,この部会資料17「遺言制度に関する見直し」について御意見を賜りますが,この資料は「第1 自筆証書遺言の方式緩和」から始まりまして,第2が4ページでございますが,「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」,そして第3が14ページ,「自筆証書遺言の保管制度の創設」,最後が第4になりまして21ページでございますが,「遺言執行者の権限の明確化等」に分けられております。
  進行といたしましては,第2が終わった辺りで休憩を挟ませていただくということを予定しております。
  それでは,第1から順次御意見を賜りたいと思います。
  まず,第1の「自筆証書遺言の方式緩和」につきまして,事務当局の方から説明をお願いいたします。
○大塚関係官 「第1 自筆証書遺言の方式緩和」ということでございます。
  補足説明の部分でございますが,自筆証書遺言における全文自書の緩和方策につきまして,パブリックコメントでは賛成の意見が多数を占め,第14回部会におきましても,この考え方を基本として,更に検討を進めることとされたところでございます。
  これを踏まえまして,この部会資料におきましても,表現の一部修正を除きましては,中間試案と同様の規律としてございます。補足説明では,主にパブリックコメントで指摘された問題点等について記載をしておりますので,後ほど順次御意見を頂ければと存じます。
  次に,「1 遺言書本文と財産目録との一体性について」の「(1)契印の要否について」でございますが,パブリックコメントでは,遺言書本文と財産目録との一体性を確保し,偽造等を防止するとの観点から,例えば本文及び財産目録を一つに編てつ,とじた上で,全てのページに契印をすることを要求すべきであるという意見も寄せられたところでございます。
  確かに,実務上,遺言書が複数ページにわたる場合には,一つにとじて各ページに契印をするという取扱いそのものは広く行われているものと考えられます。ただ,他方で,契印という方法をとらずとも,例えば,封筒に入れて封印をするという方法なども相当数利用されているものとも思われます。また,現行法は自筆証書遺言につきまして契印を要求しているわけではございませんので,新たにこれを要求するとした場合にはかえって混乱を招くおそれも考えられるところでございます。
  これを踏まえまして,本部会資料におきましては,結論としては,従前と同様,各ページの契印を要求することとはしておりません。
  次に,「(2)一部の頁のみについて署名又は押印を欠く場合の遺言書の効力」についてでございます。
  パブリックコメントにおきましては,このような場合の遺言書の効力について検討すべきではないかという御意見が寄せられたところでございます。
  これにつきましては,例えば,複数ページにわたる財産目録のうち一部のページのみについて署名又は押印が欠けている場合には,基本的には当該ページのみが方式違反によって無効となるものと考えられますけれども,当該ページの記載を欠いてしまうと遺言全体の内容が成立しないといった例外的な場合には,遺言書の全体が無効となる場合もあり得るものと考えられます。
  いずれにしましても,この点は,遺言書の記載の趣旨を踏まえまして,個別に判断することにならざるを得ないのではないかと考えられるところでございます。
  続いて,「2 同一の印の押捺を要求することの適否について」でございます。
  中間試案におきましては,(注3)としまして,「②に基づき押印をする際には,全て同一の印を押捺しなければならないものとすることも考えられる。」旨記載をしておりましたけれども,この点につきまして,パブリックコメントでは賛否が分かれたところでございます。
  仮に同一の印の押捺を要求するとしますと,後日の偽造等の防止については一定の効果を有すると考えられますが,他方で,押捺をした印鑑を後で紛失したという場合には,その後に追加した目録に別の印を押捺しても追加部分が無効となるなど,やや厳格に過ぎる部分もあるようにも思われます。
  以上を踏まえまして,結論としましては,同一の印の押捺を要求することとはしておりませんが,この辺りにつきましても御意見を賜れればと思います。
  次に,「3 財産目録として登記事項証明書等を添付することの可否」,3ページでございますが,こちらについてでございます。
  パブリックコメントにおきましては,このような方策を講ずる場合には,目録として,登記事項証明書あるいは通帳の写しを利用することも認めるべきとする御意見が寄せられたところでございます。
  中間試案におきましては,この財産目録について特定の方式を規定するということは特に想定をしていなかったところ,仮に登記事項証明書などを利用する場合でありましても,遺言書の本文において財産目録との関係を自書により記載し,目録の方には遺言者本人の署名,押印を要求することとしますと,この資料の添付が遺言者の意思に基づくものであるということを担保することは可能と考えられますので,本部会資料におきましても同様にこれについては認めるということを考えております。
  この点で参考資料につきまして若干御説明申し上げたいと思いますけれども,1ページ目が遺言書の本文でございまして,今お手元におありでしょうか。「遺言書」と題するところから始まっているものでございます。
  1ページ目は行書体で記載をしておりますけれども,これは従前どおり,全文自書で書いていただくということでございます。
  2ページ目についてでございますが,こちらが,例えば建物の全部事項証明書を添付するとした場合にはこのような形になるのではないかという想定をしてお作りしたものです。
  この小さいフォントで記載されていますのが登記事項証明書のサンプルでございますけれども,その右下に行書体で「甲野太郎 印」としているのが遺言者本人の御署名,そして押印ということでございます。
  このような方法を使うことができるとしますと,利便性は高まるものと考えられますけれども,偽造等のおそれなどにつきまして,先ほどまで申し述べてきましたような防止策が必要かどうかにつき,後ほど御意見を頂ければと思います。
  では,部会資料に戻りまして,「4 遺言保管制度との連動性について」,3ページの真ん中辺りでございますが,こちらに戻りたいと思います。
  パブリックコメントにおきましては,財産目録を自書以外の方法で記載した場合には,遺言書の真正を担保するために遺言保管制度の利用を義務付けるべきとの御意見も複数寄せられたところではございますが,確かに考えようによっては考えられるのですけれども,そうしますと利便性がかなり減殺されるという点が気になりまして,当方といたしましては,結論として,遺言保管制度との連動性を持たせるというのは見送らせていただいております。
  次に,「5 加除訂正方式の緩和方策について」でございます。
  中間試案におきましては,加除訂正方式の緩和方策についても提案をしていたところでございますけれども,この点はパブリックコメントでも賛否が分かれたところですし,全文自書の方式緩和に加えてこちらまで緩和をすると,偽造等の懸念が相対的には大きくなるものと考えられます。
  そこで,今回の部会資料におきましては,加除訂正方式の緩和方策については削除させていただいております。
○大村部会長 ありがとうございました。この「第1 自筆証書遺言の方式緩和」につきましては,中間試案をもとにして更に検討するということでございましたけれども,今の説明の中にございましたように,多くの点について従前の考え方を維持していく。ただ,最後の「加除訂正方式の緩和方策について」は,この部分を削除するという御提案がなされているということかと思います。
  この第1の点につきまして御意見等を賜れればと思います。どなたからでもどうぞ。いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 3ページの最後に言われた遺言保管制度との連動性の点でございます。これまで自筆遺言証書は遺言保管制度なしに運用してきましたから,いきなりこういう形で遺言保管制度との連動性を設けることが大きな変換になることは確かです。もともと日本人は遺言を残さない民族だと言われておりましたけれども,相続させる旨の遺言という形で子どもたちの誰かに遺す相続人が増えてきて,特に公正証書遺言の利用が急速に増加しました。自筆証書遺言ですと,偽造とか変造という争いが起こりがちです。母法では,遺言がある場合には必ず公証人が資産分割に関与しますから,それによって担保されている遺言運用の安全性が,日本にはありません。遺言保管制度がどういう制度になるかはまだ見えておりませんけれども,もしそれほど難しいことでないのでしたら,ここに保管する際に遺言者本人の出頭と意思確認をさせることによって連動性を持たせるという形にした方が,より安定的な遺言の運用が行われるのではないでしょうか。もし可能性があるようでしたら御検討いただければと思います。
○大村部会長 今のような御意見を頂きましたけれども,この点について何かほかに御発言ありませんでしょうか。いかがでございましょう。
○中田委員 直接というわけではないんですけれども,自筆証書遺言をめぐるトラブルが増加しないだろうかということがございます。それを防止するために保管制度との連動性を持たせるというのは一つのアイデアだと思いますが,そもそも今回の新しい制度によってどの程度トラブルがあり得るのかということをお教えいただきたいと思います。
  一つは,契印が不要ということで,書いておられることはもっともだと思うんですけれども,例えば封筒に入っている場合もあるのではないかと思います。そうすると,クリップで留めた場合はどうかとか,机の中に入っていた場合はどうかとか,どんどん広がってくると思うのです。そうすると,1通の遺言書であるというか遺言書としての一体性というのが要件になってくると思うのですが,それが欠けることによってどの程度実際上のトラブルがあると見込まれるのかということをお教えいただければと思います。
  もう1点は,同じ印を押捺することの要否ということについて,2ページの下の方に,なくしてしまった場合に後で追加した財産目録に使えないから困るという御指摘があるんですけれども,後で財産目録を追加するということは遺言書の変更にならないのだろうかということが気になりまして,そうすると,変更の要式性との関係はどうなるのかということも問題になろうかと思います。そうしますと,今回の制度については更にいろいろとトラブルが増える可能性を十分詰める必要があると思いまして,水野委員の御提案は,どうしても拭いきれないトラブルを防ぐための連動性ということだと思いますが,少なくともトラブルがどの程度あるかということの予測は必要かと存じます。2点についてお教えいただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  では,事務当局の方から。
○大塚関係官 トラブルが増えることについて具体的に予測するのはなかなか難しい面もございますが,当方で考えておりましたのは,一体性があるかどうかという問題は,大きく見れば,現行法に基づいて複数ページある遺言書を全部自書したとしても,それが一つの遺言書なのか,そうでないのかという問題が生ずるのと同じなのではないか。つまりは,個別の遺言書の解釈による部分,例えば先ほど御言及がありましたような封書に入っているかどうか,ホチキスでとじているかどうか,保管場所が同じかどうかとか,そういったところから一体性の有無が総合的に判断されるという意味では,一部を自書でなくしたとしても同じではないかというところがございます。
  ただ,御指摘のように,一体性を判断する場合において現行法と全く同じかというと必ずしもそうではないなという部分はございまして,それは複数ページにわたる遺言書が紙としては別々になっていたとしても,各ページに記載された筆跡が全て同じであれば,確かに遺言者本人の一連の意思が化体されているということで一体性を認める方向につながりやすいというところはあろうかとは思いますが,例えば,財産目録がほとんど活字で構成されていて,そこに署名,押印があるというときに,それが遺言書本文と一緒にとじられていないような場合には,一体性を認めるか否かの判断に当たって,全文が自書されている場合よりも相対的にネガティブに働く場面は,それは確かに考えられると思います。そういう意味では,一体性の判断が困難となる場面は,全文自筆をしている場合よりも増えることはあり得るのかなとは思いまして,正直なところ,全部の印鑑を同じにするですとか,あるいは契印を要求することによってそれを抑止するということは当方としても十分に考えられるとは思っています。しかしながら,今回の方策によって遺言をより作りやすくするという最初の考え方からしたときに,新たに遺言書の要件を加重するとしたら,それによってかえって混乱をするという懸念も他方ではありますので,御提案の仕方としてはなるべくシンプルな形,つまりは中間試案で御提示申し上げたように,「財産目録には活字を使ってもよいけれども,署名と押印はしましょうね」という出し方をすると,その面での混乱はなるべく少ない形に抑えられるのではないかということで,迷った末に新たに要件を加えることはしなかったということでございます。ですので,やはりそれでは懸念があるということでしたら,是非御意見を賜れればと思っていたというところでございます。
  それから,もう1点の御質問,例えば財産目録が2ページまでしかなかった場合に,後で新たに3ページ目を増やすというときに,それは変更に当たるのではないかというのは非常に鋭い御指摘かと思いまして,余りそこは詰めて考えられていたわけではないので,今後検討させていただければと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○上西委員 形式的なことについては緩和する方向に賛成したいと思っております。
  1の「(1)契印の要否について」とか(2)の一部のページについて署名,押印を欠いた場合に方式違反になるかどうか,また同一の印を要求するかどうかという議論がありますが,そうしたことに仮に何らかの瑕疵があっても,保管制度と連動させることによって治癒されることもあると考えます。
  保管制度を義務付けるかどうかについてです。義務付けてはどうかという意見を持っております。もっとも,仮に義務付けなくても,遺言保管制度のもとで保管した場合については,一部の方式違反等については治癒されてもいいのかなと思っております。また,義務化されれば一部のページについて署名,押印を欠くかどうかという議論については,場合や程度によってはなくなるのかとも考えます。
  それと,封印して契印すればいいではないかという意見もあるのですけれども,そうしたことについても後日の偽造等で争いがあると聞いております,一番安全なのは保管制度であると考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。この方式の緩和によってどのぐらいのトラブルが生ずるのかというのはなかなか予想し難いところがございますけれども,もしそういうことが考えられるのであれば,保管制度との連動というのを考えた方がよいのではないかという意見が複数出ておりますけれども,ほかに御意見はございませんか。増田委員,どうぞ。
○増田委員 そもそも遺言を広く使いやすくするという制度趣旨からいくと,保管制度との連動というのはむしろ逆行ではないかと考えます。そういうことをするぐらいだったら,この第1の提案は,むしろ保管制度の利用を義務付けるということであれば,方式緩和はむしろしない方がいいのかなとは思っておりますが,保管制度を利用する意味としては,恐らく一体性の証明が容易である。とじていなくても,それは一体であるという証明はできるだろうと思いますが,その程度のメリットがあれば十分ではないか。保管制度を義務付けたり,保管制度を使わなければこういう方式緩和ルールは採用されないというようなことであれば,いずれかに反対せざるを得ないかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。遺言をより容易にという観点からは,むしろ保管制度と連動させない方がよいのではないかという御意見でしたけれども,ほかにはいかがでございましょうか。
○金澄幹事 保管制度との連動性ではないんですけれども,このままの制度でいく場合については,やはり同一の押印を要求するというふうにした方がいいのではないかと考えています。というのは,今は財産目録も自書でということで,本文と目録の一体性が確保されているというわけなんですが,それが今回の改正では結局自書ではなくとも財産目録の印と署名で本文と一体性が確保されることになります。さらに,それで今度は契印も不要とされ,おまけに本文の印と財産目録の印も違うということになれば,一体性を証明するものは結局署名しかなくなってしまうということになるわけです。すると,ずっと懸念が出ていますように,偽造とか変造,改変のおそれというのは非常に大きくなっていくわけで,遺言というのは,普通同じ時点で同一の機会に全部作られるものですので,同じ印を要求するとしてもさほど大きな負担ではないと思っています。
  そこで問題となっているのが,印鑑を紛失した場合に無効になってしまうという懸念がずっと書かれているんですけれども,印鑑をもし紛失してしまっているのならば,今度は新しくその時点で手元にある印鑑でまた全部押印すれば,それで一体性は確保できるということになるのではないかと思います。もちろん元の作ったときの印もあるとは思うんですけれども,別にそれがあるからといって無効になるということはないと思いますので,新しく手に入れた印鑑でまた同じように全部押印すれば,それで一体性は確保できると思うので,やはり署名と印は本文と同一のものをきちんと押すべきだと。そこでせめてこれだけ方式の緩和をするのであれば,偽造,変造とか改変のリスクを回避するという方法を採ったらどうかと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。契印,同一印の方を少し強化することによって,保管制度との連動を図らずに偽造,変造を防止するという御意見ですね。ありがとうございます。
  今両論出ております。このままでよいという意見もおありになるかもしれませんけれども,ほかの委員,幹事の方々いかがでございましょうか。
○大塚関係官 先ほどの金澄幹事の御意見について確認をさせていただければと思うのですが,同一の印を要求するとするのは,それは今回の緩和の対象となっている自書でない財産目録を付けたときにはそうする。従前の全文自書をしているものについては,それは従前どおりであるという前提ということでよろしいでしょうか。
○金澄幹事 はい。
○大塚関係官 分かりました。ありがとうございました。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。今ここで話題になっている点に限りませんけれども,「第1 自筆証書遺言の方式緩和」につきましてほかに何かございましたら御意見を頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  現状ではこれも賛否両論が分かれているという状況かと思いますけれども,いずれにしても何らかの形でトラブルを予防するための方策をもう少し考えるべきではないかというのが全体の御意見だということでしょうか。
  先ほどの増田委員の御発言は現状でよろしいということなのかをお伺いできればと思いますが。
○増田委員 私の発言は,この中間試案のとおりでいいのではないかということです。
○大村部会長 そうですね。
○増田委員 今質問しようとしたのは,参考資料のところにせっかく例が挙がっているんですが,非常に詰まらないことですけど,この「別紙」という言葉ですね,これは自書なんでしょうか,それとも,これもプリントしたものでいいんでしょうか。というのは,これ,たまたま参考資料に付いていない,不動産が一つだけなんですけれども,複数付けられる場合は,別紙財産目録1に書かれているものはAさんに,2に書かれているものはBさんにということが考えられる。その場合に,別紙財産目録1とか別財産件目録2という言葉が別紙の中に必ず入ってくるはず。それは自書なんでしょうか。
○大塚関係官 その点は現時点の規律を一貫させるならば,どちらでもよいということになります。この具体例で考えると,この登記事項証明書に後で活字を足すということが可能なのであれば活字で記載することも一応考えられるのかもしれませんが,通常は手書きで「別紙」と書くということになるのかもしれません。
  あと,実際に運用するとしたときには,正に増田委員がおっしゃったように,別紙1あるいは別紙2という形で,ひも付けと申しましょうか,そういった形で本文と目録との対応関係を明らかにしておくことが望ましかろうとは思います。
○増田委員 そこを手書きにするのであれば若干偽造の可能性は減るのかなとは思っております。活字を足すことは多分PDFを取れば可能だろうと思います。
○大村部会長 増田委員は,基本的にはこの中間試案の考え方でよろしいけれども,偽造,変造等に対する危惧があるようならば若干の手当てをすることは考えられるのではないかという御意見だと承りました。
  ほかにいかがでございましょうか。
○浅田委員 増田委員の点についてちょっと,テクニカルな話だと思うんですけれども,私は「別紙」というのはどちらでもいいとは思っています。むしろ,もちろん「別紙」というのは手書きで書いた方が真正性は高まるのでしょうけれども,手書きで書くことを要求するということは,これは逆にこの趣旨ということを滅失させてしまうということになると思います。いろいろな遺言の作成の仕方の中で,別紙というのは正しく別の紙だということで,別に「別紙」と書く必要もないと思いますし,又は「別添」,写しの預金明細ということであれば,あえて「預金明細」とか「別添」ということも書かないと思いますので,そういう意味で,この「別紙」というような奥書というのを必ずしも実務では使うとは限らない。それをあえて要件とするというのはかえって法的安定性を害すのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,この第1につきましてはいかがでございましょうか。
○西幹事 すみません,細かいことですけれども教えていただければと思います。
  2点あります。1点目は3のところで,財産目録として登記事項証明書等を使うことができるということですけれども,これは飽くまでも特定性のためだけかという質問でございます。
  何を申し上げたいかといいますと,所有権者であることを示すわけではない。つまり,今他人物の遺贈なども可能ですので,飽くまでも特定性だけということであれば,別に他人の名義になっていてもそれを添付してよいのかということです。
  2点目は,「4 遺言保管制度との連動性について」のところで4行目に,先ほど水野(紀)委員のお話にもありましたけれども,「遺言者の意思を確認」とあります。ここでいう意思というのはどこまでの意思なのか,後でほかのところで伺うべきかもしれませんけれども,今の段階でもしよろしければ教えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○大塚関係官 二つの御質問のうち一つ目についてですが,これは御質問のとおりで,財産の特定をするために使うということに限定したものということになります。
  二つ目の御質問は,「遺言者の意思を確認」ということについてですが,ここに特段の意味を持たせたつもりでは余りなかったのですけれども,考えられるとするならば,これは遺言保管制度において検討対象として入っているので先取りになってしまいますけれども,保管の申出がされた遺言書の方式について法務局から何らかの指摘をするということが申出の段階であり得るとするならば,その時に,例えば先ほどから問題となっていますような本文と別紙との一体性や対応関係についてその場で遺言者に疎明をしていただく,あるいは何らかの補正をしていただくということはあり得ると思います。
○大村部会長 ありがとうございます。遺言保管制度と連動する点につきましては,また改めてその項目のところでも御議論いただきたいと思います。
  そのほかにはどうですか。
○上西委員 質問です。3に「財産目録として登記事項証明書等を添付する」とありますが,この「等」には,例えば,固定資産評価証明書であるとか,インターネットでとれる登記情報提供サービスであっても財産が特定ができればよいと考えてよろしいでしょうか。
○大塚関係官 基本的にはおっしゃるとおりで,遺贈なりをする対象の財産が特定されている書面であればよく,特に書面の種類を限定する趣旨ではないということです。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
  現状でもよろしいという意見もございますけれども,危惧の念を表明された方々が少なからずおられて,何らかの措置をもう少し考えるべきではないかというのが全体の御意見の分布だと承りましたけれども,よろしいですか,何か事務当局の方でありますか。
○堂薗幹事 先ほどの同一の印鑑を要求するかどうかというところですが,確かに同一の印鑑を要求する方が手続としては厳格になり,そういった意味で偽造,変造のおそれが減少するのかなという気がする反面,特に印鑑について印鑑登録がされている必要はないということになりますと,別に同一の印鑑を要求されていたとしても,偽造や変造をしようとする人は同じように同一の印鑑で全て押印することができることになりますので,正直なところ,それでその懸念がどの程度減少するのかよく分からないところがあります。また,同一の印鑑を要求するということになりますと,それが欠けている場合,すなわち,それを知らずに遺言書を作成した場合には方式違反ということになりますので,遺言者の意思が十分に反映されないおそれがあるといいますか,遺言者本人が作ったにもかかわらず一部無効,あるいは場合によっては全部無効になるおそれがあるということになります。このように,同一の印鑑を要求することについてはメリット,デメリット両方あって,そこをどう考えるべきなのかというところは非常に悩ましいなと考えているところでございまして,この点の要否については,多くの方の御意見もお伺いしたいと考えておりますが,いかがでしょうか。
○大村部会長 今の点につきまして何か御指摘があれば是非承りたいと思いますが,いかがでしょうか。
○窪田委員 私自身は特に強い意見があるということではありませんが,堂薗幹事から御指摘があった部分については,多分,同一の印鑑を要求したとしても管理が悪かったらということはあるのだろうと思います。ただ,この問題の前提にあるのは一体性をめぐる問題なのではないかと思います。客観的に一体性を判断できるかどうかといったときに,後から差し替えた場合に同じ印鑑を使えなかったらどうするかという問題はあるにしても,通常であれば,遺言書を書いて,その際に別紙を作って,別紙に押す印鑑は通常は同一だろうと思います。今までの全部自書の場合にはそういう点を問題としなかったとしても,今回ある意味で要件を緩和するという中で一体性を要求するものとして考えるというのは十分にあり得るのかという気はします。また,それはさほど大きな負担ではないだろうとも思います。金澄幹事からも先ほどありましたけれども,本当になくしてしまったのならもう一度書けばいいだけの話で,本文を書くのは大して大変ではないわけですから,それでいいのではないかという感じがしております。
  そこから後は今お話があった部分を超えてしまうのかもしれませんが,気になっておりますのは,印鑑を誰でも勝手に使えるという状況だったらどうしようもないのですが,しかし,それでも同一の印鑑を要求することによって,基本的には差し替えられたり,後で追加されたりということに対しては一定の対応はできるのだろうと思います。
  しかし,金澄幹事の御指摘というのはまさしくそれに対応するものなのだと思いますが,一方で複数の別紙がある場合に,その複数の別紙の一部が抜き取られてしまうという場合には,適切に対応できないのではないでしょうか。例えば,その他は全て相続分に応じて分割するとか何かそういった内容があった場合,本来であれば別紙に含まれていたものが抜き取られてしまうということに対しては,同一の印鑑という要件では対応できないのだろうと思います。同一の印鑑を要件としていても,抜かれてしまえばおしまいです。そうすると,恐らくそれに対して対応できるのは契印であるとか,あるいは遺言保管制度だということになるのだろうと思います。問題の全体構造としては,そういう中でどこまでの負担であれば許容することができるのかという観点から議論せざるを得ないのかなというふうには感じています。
  最終的に遺言保管制度まで持っていけば,今言った一体性の問題というのは全く出てこなくなりますし,契印というのはどの程度実効性があるのかどうか厳密には分かりませんが,一応それに対する対応にはなるということで,その中でどの選択をするかという問題なのではないでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに何か御指摘あれば承りますが,いかがでしょうか。
  それでは,御指摘をいろいろ頂きましたので,それらを勘案しまして,生じ得るであろうトラブルにつき対応するということと,それから簡便化を図るということとのバランスを,どの辺りでとるのかということにつきまして更に事務当局の方で御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  それでは,次の項目に入らせていただきたいと思いますが,4ページの「第2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」でございます。事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から説明をいたします。
  まず,「1 権利の承継に関する規律」についてです。
  まず,①については,中間試案の考え方に対しては,パブリックコメントでも,大方の理解は得られたところではあります。ただ,現行の判例の考え方について,これは包括承継と特定承継を区別したものであり,一貫性があるなどとして,この点を見直す中間試案の考え方に対して反対する意見も寄せられました。また,②の債権を相続した場合の対抗要件具備に関する規律につきましても,受益相続人等による単独での通知を可能とする方策を検討すべきという意見もございました。
  そこで,本部会資料では,まず,①の相続を原因とする権利の取得につきましては,対抗要件主義を採用することに関し,理論的な観点からの検討を行っております。この点については,部会資料記載のとおりですので,説明は割愛させていただきます。
  「1・①」に関する中間試案からの変更点としましては,本規律の対象から,遺贈を除外することといたしました。この理由ですが,遺贈が特定承継であるため,既に現行法のもとにおいても,遺贈については民法第177条,178条及び467条等の対抗要件に関する規律の適用対象となっていることを理由とするものです。
  また,このように本規律から遺贈を除外することにいたしますと,この規律の位置付けにつきましては,相続を原因とする権利変動のうち,意思表示が介在するものについて,対抗要件主義の特則を定めるものという整理ができると考えております。そうしますと,遺産分割の場合につきましても,この規律の対象に含めるかどうかということも問題になると思われますので,この点についても御意見を頂ければと存じます。
  続きまして,「1・②」に関する変更点としましては,パブリックコメント等の指摘も踏まえまして,受益相続人などによる単独での対抗要件具備を可能とする方策を提案させていただいております。このような規律につきましては,既に不動産登記法におきまして,相続の場合には,単独での登記申請が認められていることとも整合性があるものと考えております。他方で,このような規律を設ける必要性や許容性について,特に詐称債権者からの虚偽の通知がされるおそれをどのように考えるべきかなどについても,部会資料の9ページの(注1)にも記載しておりますので,この点についても御意見等を頂ければと存じます。
  なお,受益相続人単独での通知につきましては,遺贈についても,これを認めるべきかどうかという点についても問題となると考えておりますので,この点についても御意見を頂ければと思います。
  さらに,部会資料10ページ以下では,特定の不動産について,遺産分割の方法の指定がされた場合における遺言執行者の権限,すなわち,遺言執行者による単独での登記申請の権限を認めるべきとする提案をしております。この点につきましても,不動産登記法との関係が問題となりますけれども,御意見を頂ければと思っておるところでございます。
  続きまして,「2 義務の承継に関する規律」について説明をいたします。
  この関係で,中間試案からの変更点としましては,「2・②」の規律の対象となる相続債務につきまして,これを可分債務に限らないものといたしました。これは,①の規律については,相続債権者との関係を定めるものでございますので,可分債務に限られることとなりますけれども,②の規律につきましては,相続人間の内部的な負担割合を定めるものでありますので,不可分債務等についても同様に問題となるためこのような変更を行いました。
  なお,②の規律から,包括遺贈を削除しておりますけれども,これは包括遺贈の適用を除外するという趣旨ではなく,ほかの相続の規定と同様,包括遺贈につきましては,民法第990条がございますので,ここにおいては削除させていただいたということになります。
  さらに,今回は,相続人の負担割合に関する遺言の効力についても新たな提案をしております。部会資料12ページの(2)を御覧ください。
  そもそも相続債務の承継につきましては,本来,その性質上被相続人には処分権限はなく,被相続人が自由にその内容を定めることができるものではないものと考えられますので,相続分の指定などによって,相続財産について,その承継割合が定められた場合には,各相続人の債務の負担割合についても,それと同様の割合とするのが相続人間の公平に資するものと考えられるためこのようにいたしました。そうしますと,被相続人が遺言において,相続分の指定の割合と異なる債務の承継割合を定めたとしても,それは原則として,その効力を認めるのは相当でないと考えられます。
  もっとも,相続債権者との関係では,相続人は,原則として法定相続分の割合で相続債務を承継いたしますので,このような考え方を貫きますと,相続人間での求償関係の紛争が多く生じるということも予想されます。そこで,被相続人におきまして,相続人間の求償関係を生じさせないようにするため,遺言において,相続人間内部の負担割合についても法定相続分の割合とすることを定めることについては,例外的にこれを認めることも許されると思われます。
  なお,このような別案の考え方を採用した場合には,求償関係は生じないことになりますけれども,他方で,遺留分減殺請求による調整等が必要になる場合も予想されますので,このような別案のような規律を設けること等の意義につきましても,是非御意見を頂ければと思います。
  「3 遺贈の担保責任」につきましては,本部会資料においても,特段の変更点はございません。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。「権利の承継に関する規律」,「義務の承継に関する規律」,「遺贈の担保責任」,この三つに分かれておりますけれども,「遺贈の担保責任」については特に変更はないということでございます。
  「1 権利の承継に関する規律」は,基本的には従前どおりですけれども,①については,規律の対象の範囲についてどう考えるか,②については,対抗要件具備について単独での通知等を認めるということについてどうかということについて御意見等を頂きたいということでございました。
  「2 義務の承継に関する規律」につきましては,②を可分債務に限定しないという修正をしているということと,相続人の負担割合についての遺言の効力についてどのように考えるかという点について御意見を頂ければということでございました。
  今の点に限りませんけれども,御意見等を頂ければ幸いです。
○浅田委員 「1 権利の承継に関する規律」について,対抗要件制度を設ける点について,債権,とりわけ預金を念頭にまずは1問質問させていただき,その後3点ほど意見等を述べさせていただきたいと思います。
  まず質問なのですが,今回提案いただいた規律では,遺贈を対象から除かれているとのことですが,ここで除外対象としているのは,いわゆる特定遺贈だと理解しております。そこで,いわゆる包括遺贈はどのような規律となるのか,まずはこの点を確認したいと思います。
○満田関係官 包括遺贈につきましては,そもそも前提としまして,遺贈であろうと相続分の指定ないし遺産分割方法の指定であろうと,今回の規律についてはどちらも法定相続分を超える部分については対抗要件が必要であるということになりますので,包括遺贈について,この①の規律が適用されるかどうかによって結論が分かれることはないと考えております。
○浅田委員 ありがとうございます。ただ今の点については,国民への分かりやすさの観点からも,明文化も含めて何らかの形で明らかになるように御検討いただければと思っております。
  続いて,意見等を三つ述べさせていただきます。
  一つ目ですが,本部会資料の9ページの「なお,」から始まる段落に関してです。中ほど下の方です。
  同段落では,遺贈についても,本規律①からは除外する一方で,本規律②は適用することも考えられるとあります。この点につき,銀行界としては統一的な対応の観点から,遺贈についても,本規律②を適用すべきと考えております。
  第三債務者たる銀行からすると,相続分の指定であれ,遺贈であれ,同じく遺言をもとに権利主張される方の取扱いは一律とされなければ事務負担が過大となり,また遺贈だけ異なる規律となると,銀行ごとに異なる取扱いを誘発することになり,ひいては国民に負担を強いることにもなりかねないと考えられるからです。
  意見の二つ目ですけれども,本部会資料9ページの(注1)に関しての意見です。
  そもそも銀行界として,受益相続人による通知を認めることについては異論はありません。その上で,(注1)では,詐称債権者からの通知を避ける方策として,ここでは公正証書遺言や検認済み自筆証書遺言等に限定する。又は,事前に他の相続人に通知することを要件として加重することも考えられるとされていますが,銀行界としては,この方向での検討に賛成いたします。今後は,第三債務者である銀行のところで,言わばインフォメーションセンター的な役割を負うということになるわけですけれども,そのような役割を適切に担うためには,正に権利の移転が行われたことを示す資料が明確である必要があるからと考えるからです。
  具体的にどの手段が最も適切かについてまでは,現状意見を持ち合わせていませんが,後の遺言が存在する蓋然性が高い自筆証書遺言は除外いただくのが望ましいのではないかと考えております。
  これに関連した要望でありますけれども,受益相続人であれ,遺言執行者であれ,本規律「②・ア」のその資格及び遺言の内容を明らかにする書面というのが具体的にどういった資料なのか,できる限り明らかにするということも御検討いただきたく存じます。
  続いて3点目ですけれども,これは意見といいましょうか,私も答えを持ち合わせていないので,ここでは問題提起で終わってしまうものですけれども,預金債権の譲渡禁止特約との関係であります。
  包括遺贈であれば,包括承継ということで,これまで譲渡禁止特約は働かないと整理された向きもあろうかと存じますが,特定遺贈であれば,逆にこの特約が働くはずです。今後,両者に対抗要件制度を設けたときに差が生じるように思いますし,少なくとも特定遺贈に関しての通知としての対抗要件は,銀行が承諾をしない限りは実質上意味をなさないのかもしれないと思いました。また,この点については,そもそも預金債権については,昨年12月19日の最高裁大法廷決定で遺産分割の対象となったわけですが,この決定の中に,預金契約上の地位の準共有という説明が出ております。そもそも遺言によってこの契約上の地位がどうなるのか,それほど対抗要件は必要なのかというところも本審議とは別の論点ではあろうかと思いますけれども,銀行実務上は重要な点だと,いずれ整理していかなければならないと認識している次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。9ページの後半に書かれていることに関わる御質問が2点,それから譲渡禁止特約等に関わる問題提起ということを頂きました。何か事務当局の方でありますか。
○堂薗幹事 譲渡禁止特約との関係につきましては,ここでは,相続の場面でも,法定相続分を超える部分については対抗要件主義を採るということにはしておりますが,その法的性質を変更するものではないという整理ですので,飽くまでも包括承継である以上,譲渡禁止特約は適用にならないものと考えております。逆に適用を認めてしまいますと,相続できないのに近い権利を認めることになってしまうということにもなりますので,譲渡禁止特約を相続の場面にも及ぼすというのは難しいのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○南部委員 1の①で質問でございますが,ここに書いてあるのを理解しますと,法定相続分を超える部分については登記を行わなければ,第三者に対抗することができないということになります。今現在はどのような方法でこれがされているのかというのをまずお聞きしたいです。
○堂薗幹事 現状は,ここに書いてある相続分の指定ですとか,遺産分割方法の指定については,登記をしなくても第三者に対抗できるというのが判例になっているわけですが,ここでの問題意識は,そういった遺言によって取得割合が変わるもの,あるいは遺言によって特定の相続人だけが財産を取得するものについては,第三者の目から見ると遺言があるかどうか,あるいは遺言がどういう内容になっているのか分からないという面がありますので,その権利関係を公示するためには,そういったものについても登記を要求する必要があるのではないかということでございます。
○南部委員 ありがとうございます。そうなると,例えば配偶者が家1軒しか遺産としてなくて,それを夫から妻に100%相続されたというときに,今までは何もしなくても第三者に対抗することができたかと思います。しかし,それが今回の見直しになりますと,法定相続分を超える部分については登記の手続をきっちりとしない限りは,他の相続人の方々が先に手続をしてしまうと,100%とはいかないというような実態が生まれるかと思います。どちらがよいかということは私自身では答えられませんけれども,パブリックコメントでは大半の方が理解されたというふうにありますが,そこも含めてここできっちりと御議論いただきたいことと,それと併せて,もし仮にこの改正がなされた場合は,パブリックコメントだけではなくて国民にどう周知していくかということも含めて御検討いただけたらということで御意見として申し上げます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 仮に規律が変わった場合の周知については,こちらもしっかりやっていきたいと思いますが,今御指摘の点で1点補足させていただきますと,飽くまでもここでの規律は,相続人以外の第三者との関係では,相続分の指定あるいは遺産分割方法の指定による財産の取得を主張するためには登記などの対抗要件が必要だということですので,先ほど御説明いただいた例でいきますと,相続人が先に手続をして,更にそれを第三者に譲渡した上で,第三者が先に登記まで備えたという場合に,その第三者が優先するということであって,相続人間ではこれまでどおり登記がなくても権利主張はできるということになります。
○南部委員 すみません,私の説明が足らなかったかと思いますが,その相続人が例えば借金を作っていて,その債権者からの請求ということもあり得ますよね。
○堂薗幹事 はい。それで,債権者の方で先に差押えまでしてしまいますと,劣後するということになりますので,その点をどう考えるかというところだと思います。
○南部委員 よろしくお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかにいかがでございましょうか。
○水野(有)委員 よろしくお願いいたします。
  義務の承継のところで少し教えていただきたいところがあるのですけれども,「2 義務の承継に関する規律」で,②で「相続分の指定により,相続財産に属する財産の承継割合が定められた場合」というときですが,ここでいう相続分の指定というのは,一般的に相続分の指定というと,例えば全体の2分の1をお母さん,2分の1を長男,次男はなしとか,そういうふうに割合で定めることが多いのかとも思うのですが,そうではなくて,A物件をお母さん,B物件を長男,C物件を次男というふうに物で定めるときもあろうかと思います。ここでいう②の「相続分の指定により,相続財産に属する財産の承継割合が定められた場合」というのは,前者の場合だけを指しているんでしょうか,それとも後者の場合も含めていらっしゃるんでしょうか。
○堂薗幹事 その点につきましては,正に現行法でも問題になるところだと思うんですけれども,判例の理解だと,遺産の全体について,遺産分割方法の指定がされているという場合には,遺産全体についての取得割合も定められているということになりますので,そういった意味で相続分の指定も伴っている,遺産分割の方法の指定をするとともに,相続分の指定もされているという理解だと思いますので,ここでもそのような理解を前提としており,特定の財産についての帰属について遺言が作成されている場合についても,相続分の指定に当たる場合というのはあり得るのではないかという理解でございます。
○水野(有)委員 そういたしますと,この規律でやや,何というかな,当事者に割合が分かりづらい事案が生じるのかなというのが少しだけ心配でして,例えばA物件,B物件,C物件のそのときの時価の割合ということにそうなるとなろうかと思いますが,物をもらうときには,それぞれの時価についての共通認識がその時点であるとは限らないかなと思います。そのようなときに,債務も客観的にはその割合で分かれるというのだと,結局後で,結局あれは幾ら自分が債務を負ったか自分にも分からないということも生じ得るとなりますと,ちょっと分かりづらいことが生じることもあり得るのかなと,これを見て少しだけ懸念が生じましたので,その点も含めて。ただ,一方で公平の観点というのもあろうかと思いますので,その両方を見てどのようにしていいかを考えていただけたらなと思いますので,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 正に御指摘のような問題があるのではないかとこちらでも考えておりますが,ただ,その点は今の判例を前提にしても,既にそういう問題があるのではないかという感じもしております。すなわち,全ての財産について遺産分割方法の指定がされた場合に,相続分の指定も伴うということになりますと,相続人間の内部の負担割合については,指定相続分の割合によるという判例がございますので,それを二つ併せて考えますと,現行法の下でも特に割合による指定がされていない場合でも,相続人間の求償関係は生じる場合というのはかなりあるのではないかと。ただ,実際にそういう形で訴訟が提起されているかというと余りないのかもしれませんが,そういった問題があるのではないかと思います。
  実は今回,遺言者の方で,相続人間の内部の負担割合を定めることができるかという点について問題提起をさせていただいたのは,その点の問題意識とも関係するところでございまして,遺言者の意思としても,特に遺産分割方法の指定として,特定の財産をそれぞれA,B,Cに取得させるという遺言がされた場合,すなわち,全ての遺産について,この財産はA,この財産はB,この財産はCという形で与えている場合に,債務の内部的な負担割合までその割合で負担してくださいという意思まで本当に持っているんだろうかという疑問があるように思います。そこは必ずしもそうではなくて,債務は法定相続分の割合で負担してもらって,積極財産だけそういう形で分けるという意思の場合がかなり多いのではないかという気がするんですが,現行の判例を前提にすると,先ほどのような結論になってしまうのではないかという気がいたしますので,その点も含めて今回問題提起をさせていただいたというところでございます。
○増田委員 すみません,初歩的な話で申し訳ないんですけれども。そもそも債務というのは,その負担割合というか債務の承継を遺言で定めることができないのかどうかということなんです。もちろん債権者に対して効力のある形で定めることはできないと思うんです。債権者は平等で請求できるとは思うんですけれども,債務の負担割合を,債務の帰属を定めること自体は可能なのではないかなと思ったりはしていましてね。例えば,今挙げられた判例がそうかどうか分からないけど,最高裁の平成21年3月24日ですかね,全部ある特定の人に全て遺産分割方法の指定で全部相続させたというもので,確か相続債務についての相続分全てをその人に対して指定したということが黙示の意思みたいな形で推定されるというような形だったと思うんですよね。ということは,その人に全部渡したということが当然に債務全部を渡したということではなしに,例えば,別途債務はほかの人にというようなこともできたということが,多分あの判例の前提にあると思われるんですよね。その点が一つです。
  それともう一つ,債務の承継を決めることができるのではないかと思うのは,ある物件と密接に不可分になっているような債務というのは存在する。例えば賃貸不動産を渡した場合には,敷金返還債務というのはそれに付いてくるのではないかとか,事業資産全部を渡した場合には,その事業によって生じた債務というのは付いてくるのではないか,それは多分疑われていないのではないかと思うのです。これを負担付き遺贈みたいに構成するという考え方もできるかもしれないんですが,そういう面からも債務を特定の人に帰属させるというような遺言は,債権者との対抗は別として,それ自体は可能なのではないかと思うのですが,その辺はいかがなのでしょうか。
○堂薗幹事 正にそこがよく分からないところですが,確かに御指摘の判例ですと,特段の事由があるような場合は,指定相続分の割合によらないということになりますので,そういった意味では遺言者が内部的な負担割合については決める余地があるということだろうとは思うのですが,ただ,他方,そこを無制限に遺言者の方でどんなものでも債務の負担割合について決められるのだろうかというところはかなり疑問があるように思われまして,特に積極財産の取得割合をはるかに超えるような内部的な債務の負担割合を定めるということまで本当に現行法上認められているのだろうかという辺りが正直なところよく分からないところでございまして,その辺りについて是非御教示いただければと考えているところでございます。御指摘のように,その物件に付着する債務や,敷金返還請求権のようなものについても,必ず指定相続分の割合で負担しなければならないということではないと思いますので,積極財産の取得割合の範囲内で,この債務についてはこの人に全部負わせるとかそういったことは可能だと思うのですが,先ほど申し上げましたように,積極財産全体の取得割合と債務全体の負担割合が大きく違うようなものまで本当に認められるのかどうかという辺りについて疑問を持っているというところでございます。
○水野(有)委員 先ほどのお話の続きなんですけど,すみません,私がちょっと勉強不足で,今おっしゃったような判例の理解,先ほどの前の前におっしゃったような判例の理解に必然的になるのかどうかについて余り理解できていないものですから。特に先ほどの増田委員の御指摘の裁判例を読みますと,私も,もしかしたら比較的最高裁は自由に債務の処分を認めているようにも読めるなとも思っていたものですから,その辺りの皆さんの御意見も含めいろいろ御検討いただければなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。その点は事務当局の方からも是非御意見を頂きたいと御発言があった点かと思いますけれども,何か御意見等頂ければ幸いですが。
○窪田委員 ここから後というのは私の個人的な理解ということになるかもしれませんが,債務を処分することができるかということに関しては,一般論としてはずっと否定されてきたのだろうと思います。債権を譲渡と同じように,債務引受けというのを債務者が勝手にできるのかというと,やはりそれはできない。そのことを前提とした上で,現在の状況というのは,相続分の指定があった場合には,債務もそれに応じて承継されるといったようなことはあるのですが,恐らくその限度でということなのではないかと思います。もちろんその場合でも,実は積極財産より消極財産の方が多い場合に,本当は債務の処分だということになるのではないかという問題はあると思いますけれども,恐らく積極財産と債務が,両方とも処分されるということによってようやく辛うじて説明されている。あるいは事業を承継させるという場合には,やはり事業というセットを考えることによって,一応その債務の部分を説明することができるのだろうと思います。それに対して,自分の積極財産はAに遺贈する。債務は全てBが引き受けるというような処分が本当にできるかというと,私自身はやはりできないし,できてはいけないのではないかという気がしています。できてはいけないという理由は,もちろん増田委員からも御指摘があったように,そんなものは債権者に対抗することができないだろうというのは当然ですが,それだけではなくて,相続人Bにとっては,残された選択肢というのは,その債務を全部引き受けるということで相続をするのか,相続放棄をするのかという二者択一になるのかというと,やはりそれは適切ではないのではないか。債務を引き受けさせられるということに対して拒絶しても,やはり法定相続をするということができないとおかしいのではないのかなという気がしますし,その意味で,単にやはり債権者との関係ということだけではなくて,この問題はやはり債務を処分することができるだろうという点にあり,それを肯定することについては,やはり若干違和感があるのではないかなという気がいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。債務だけを割り付けるということについては,やはり問題があるのではないかという御意見だったかと思いますけれども,ほかの委員,幹事の方々,いかがでございましょうか。
○増田委員 窪田委員に質問なんですけど,債務引受けって,債務者と引受人との間の契約でできるのではないですか。
○窪田委員 債務者と引受人ですよね。
○増田委員 はい。
○窪田委員 引受人は,債務を引き受けるのは嫌だという場合に,この場合にはどうしたらいいんですか。
○増田委員 ごめんなさい,一般論として,債務者と引受人との間の契約で債務引受けというのはできるわけで,処分不可能というわけではないのかなと思っていたのですが。
○窪田委員 ここで言う処分というのは,ちょうど債権譲渡のときの債権,債権譲渡のとき,基本的には権利者として処分することができるわけですよね。遺言者は,遺言という単独の意思表示によってできるというのはやはりおかしいのではないかという趣旨です。
  要するに,相続人が,いや,もうそれについて債務を引き受けましょうというのだったらあり得るかもしれませんが,それは通常の債務引受けとしてのものです。ところが,ここで問題となっているのは,遺言の効力の話として債務の引受けをさせることができるかどうかという話で,債務者の単独行為によって他人に債務を負担させることができるかという問題ですよね。
○増田委員 こじつければ,特定遺贈の負の遺贈だから,特定遺贈の放棄みたいなことはできないのでは。
○窪田委員 負の遺贈というのはないのではないかなと思います。前提として,積極財産だから処分できるのではないでしょうか。権利者だから,その権利を処分することができるのではないでしょうか。例えば,私は100万円の債務を負っています,それを増田委員に譲りますと言って,増田委員が,いいと言えばそこで債務引受けはあり得るかもしれませんが,重畳的債務引受か免責的債務引受かという点は問題として残りますが,しかし,増田委員は相続人であるという状態で,相続ということによって基礎付けられている中で,私が債務については全て増田委員に,積極財産については全て水野紀子委員にと言ったときに,増田委員の選択肢としては,恐らく今の法制度を前提とすると,相続放棄しかないのではないかと思います。
○増田委員 遺留分減殺はひょっとしたらあるかなというのはどうでしょうかね。
○窪田委員 遺留分減殺はあるんだろうと思いますけれども,しかし,遺留分減殺というのは債務を処分するということで,要するに,相続人の処分に対して遺留分減殺請求権を行使するわけですよね。出発点としては,私自身は,やはり債務を処分することはできないのではないかという考えが基本にあるからなのですが,そこで処分というのを観念することはできるのでしょうか。
○増田委員 私も本当に勉強不足で,では,債務について今の相続法の立場というのはどう考えているのかなというのがずっと疑問で,そうなってくると,現行法で債務について何も書いてなければ,どういう法律関係になるのかな。つまり,普通に法定相続分で常に分けられるということになるのかどうかということなんですけど。
○窪田委員 先ほど申し上げたとおり,基本的には現行の民法だと,被相続人が財産の処分をすることができるとなっているわけですから,財産は処分することができるのだろうと思います。その上で,債務は,私自身の理解の中では,処分できる財産の中に含まれていないのですが,恐らく相続分の指定という中には,相続分というのが,要するに相続分に応じて権利義務を承継するという形になっていますから,その規定を使うということにはなるのだろうと思いますが,その範囲では処分に当たるというか,積極財産とセットにすることによってその指定をすることができるというのが許容されているというのにとどまるのではないでしょうか。
○沖野委員 窪田委員と全く同じ考え方で賛成するところです。他方で,現行法上この扱いがどうなっているのかが不透明であるというのは,それは確かなんだろうと思います。ただ,私自身もマイナスの財産を「負の遺贈」のような形で自由に処分できる,あとは相手が取るか取らないかの選択があればいいんだというものとしてはやはり考えにくいのではないかと考えます。
  それから,相続分を指定することによって債務の承継割合を変えられることは変えられると思うんですけれども,それは積極財産と消極財産の全体として相続分指定をして権利義務を承継するということなのであって,権利の相続分はこれこれで,義務の方の相続分はこれこれという全くばらばらにそれができるということは,現行法は本来想定していないのではないでしょうか。
  確かに御指摘の最高裁判決中に言及があり,その表現からしますと最高裁はこれがずれる可能性を認めていると思うんですけれども,一体それがどういう場合なのか。例えば増田委員がおっしゃったような,権利義務とセットになって動いていくときに割合とずれるとか,そういうものはあり得るかもしれませんし,どこまで本当にその余地を認めているんだろうかという点はなお疑問ではないかと思われますし,仮に自由にそこは乖離し得るんだという考え方を取っているんだとすると,最高裁がおかしいのだと思います。
○水野(有)委員 すみません,私の聞き方が悪かったので混乱したような気もして,今ちょっと責任を感じているのですが,もう一回整理して聞かせていただきますと,私自身は,実は相続分の指定があったときの債務で,債務について何も書いていないときに,相続分の指定割合どおりになると考えられているのか,それとも法定相続分のままかですね。何も書いていないときというのがよく分からないなと思っていまして,特に窪田委員や沖野委員の御指摘のとおり,割合自体を2分の1とか変えてしまうときは,率直に言って債務も全部そういうふうに変えるというのが当事者の意思としては自然かなと思うのですが,例えばA物件をこれ,B物件をこれ,C物件をこれといったときに,当事者の意思として,Aは3,000万でBは2,000万でCは1,000万だから3対2対1に分けるという気持ちまで考えているだろうかと思った場合は,普通に考えると法定相続分のままだと思っているのではないかと,そういう疑問を前提としての質問だったのですが,ちょっと説明が足りないのでやや混乱したかと思って申し訳ありません。そうなってくると,その今の当事者の意思を前提とした場合,この規律で大丈夫なのかなというのと,あと,現実に自分の債務が内部で幾らか分からない状態というのは本当に困らないのかなという素朴な疑問のその2点でございます。
  あと,債務をどこまで処分できるかは,御案内のとおり,私なんかは法定相続が原則で,それをどこまで修正できるかがきっとどこまでかという論点の仕方なのではないかと私自身は理解しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  窪田委員,沖野委員から御発言ありましたが,債務だけ処分するということについて,それでよいという御意見は必ずしもないだろうと思います。しかし,債務が括弧付きで処分されているように見える場合が現行法上もあるのではないか。その限界がどこなのか,線引きはこれで十分なのだろうかということを,皆さん,気にされているのではないかと思って伺いました。増田委員,どうぞ。
○増田委員 今,部会長が言われたとおりで,私も別に債務を自由に処分するのがいいと思っているわけではないんですけれども,沖野委員と窪田委員に伺いたかったのは,例えば今の現行法で相続人2人で,子供2人として,積極財産の3分の2をA,3分の1をBに財産を特定して遺産分割方法の指定としてした場合に,債務はどうなるのかというのを端的にお伺いしたいんですが。
○窪田委員 分かりました。というか,水野(有)委員から御発言があったのは,私も似たような考えでおります。というのは,恐らくその部分も,実は法定相続をどの程度原則として考えるのかという考え方によって,実は相続法の研究者でも言うことがみんな違っているのではないかなという感じはするのですが,ただ,法定相続というのをデフォルトとして考えると,遺産分割方法の指定ではあるけれど,その遺産分割方法の指定が相続分の指定を伴うような場合については,やはり相続分の指定という側面を持つだろうと思います。だからこそ遺留分減殺の対象ともなるということであるんだろうと思います。しかし,増田委員のような例で,積極財産を処分してはいるけれど,消極財産に当たる部分について処分しているのかというと,実は本人もそう思っていなかったし,処分していないのではないかという場合が問題となるのだろうと思います。そのときに法定相続分というのが飽くまでデフォルトなのだと考えると,水野(有)委員からお話があったように,そのデフォルトを修正するという意思は持っていない以上,債務については法定相続分のままではないかということになります。そうすると,法定相続分と遺産分割方法の指定によって生じた積極財産についての相続分の指定がずれるのではないかということがあり得るのかもしれないというのは確かにそうだろうと思いますし,そのことについては必ずしも明確ではないのかなという気がいたします。
  例の最高裁の判決についても,恐らくずれる可能性があるとしたら,今のレベルでのずれ方なのではないかと思います。積極財産は全部こちらに上げるけど,消極財産は全部お前だよというようなずれ方を別に許容しているわけではないだろうと思います。もっとも,増田委員の挙げる例のようなケースの可能性があるということは確かですし,それに対してどうすべきなのかというのが必ずしも現行法では明確ではないので,考えなければいけないというのはそのとおりなのだろうと思います。
○大村部会長 増田委員の御質問に対するお答えも,今の中に含まれているということでよろしいですね。
○窪田委員 はい。つまり,ずれる可能性があるというのは,法定相続分と指定相続分がずれる。積極財産については処分したけれど,消極財産については処分しないという意味のずれ方というのがあり得るかもしれないということです。そういうことでよろしいでしょうか。
○増田委員 ということは,今の答えとしては,2分の1ずつになる。
 相続分指定だと,多分3分の2と3分の1になるんですよ,それは間違いないんですけど。
○窪田委員 最高裁の判決の読み方自体が非常に悩ましいのは,当事者間の関係では指定相続分によって,債権者との関係では原則法定相続分で,そして債権者が認めれば指定相続分になるという言い方をしています。あのときに一体何が決まったのかというのは,対内的効力と対外的効力どっちを優先させるかということだけなのですけど,何が起こっているのか,必ずしも説明の仕方としては明確にはできないのだろうと思います。それ以上は,私が別に判例について説明をする責任はないと思いますので,そこら辺で止めさせていただいたらと思います。
  ただ,先ほど申し上げたとおり,いろいろなパターンを考えて対応するというのは結構なのですけれども,やはり債務を処分することができるというニュアンスは残さない方がよろしいのではないかなという気はしています。
○大村部会長 ありがとうございます。事務当局が出されている案は,現行法について様々な御指摘がありましたけれども,不鮮明なところがありますので,ある考え方を定める。それで不都合がなければそれがよいのではないか,そういう含みだろうと思いますけど,水野(紀)委員,御発言がございますか,よろしいですか。
○水野(紀)委員 すみません,感想のようなものになってしまいますけれども,一番の困難をもたらしている根源は,はっきりしているように思います。つまり,被相続人が自分の責任財産で債務を担保していたわけですから,本来なら,遺産分割手続のときに最初にその債務を被相続人の持っている責任財産つまり遺産に対応させる形で清算をすることが,遺産分割手続の最初にあるべきものなのでしょう。でも,その手続が日本法の中には組み込まれていません。しかたなく,債務も法定相続分でそれぞれの相続人に引き継がれるとしました。被相続人の責任財産が,それぞれの法定相続分に従って相続人に帰属するだろう,それは戸籍で第三者からも分かるだろうと考えて,法定相続分を,言わば取引の安全に使ってきたわけです。そして,その法定相続分を取引の安全に使ってきたところと,それから責任財産にそれなりの安定した形での同等の債務が乗っかっているという,この二つがセットになっています。しかし,その相続分を902条で変えてしまうとか,あるいは遺産分割の指定で変えてしまうことになったときに,その法定相続分に依存した構造がぎくしゃくしてしまうということなのだと思います。
  これは死の時点から間もない時期に確実に行われる,債務の精算から始まる遺産分割手続が存在しないという,日本法の構造的な問題です。その前提を変更して遺産分割手続を構築するというのなら話は別ですけれども,現状の前提で考えると,先ほどから窪田委員たちがおっしゃっておられるお考えに私も賛成で,それなりの責任財産を引き継いだ人にその責任財産分の債務の負荷がかかるという形で日本法の不備を処理していく,それしかないのではないかと思います。我妻先生の頃は,もっと母法のルーツに近い形で,相続債務の債権者に不利になるような債務の分割帰属はそもそもおかしいから,債務の承継を責任財産つまり遺産全体に負わせる方法はないのかということで議論があったわけですけれども,そしてそれはまことにもっともな考え方だったのですけれども,結局,日本法の中ではその精算手続の仕組みがないのでどうしようもなく,判例はずっと法定相続分に依存する形で判例法を作ってきたのでした。今後も,その延長線上にしかないとなると,指定相続分の902条のような例外をどこまでどのように認めるかという形の議論になるのだろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 今のところの議論で大分論点自体は明らかになってきたかと思うんですけれども,その上で,相続の場面における債務と責任財産との関係については,今後,どういう方向にかじを切るべきかを決めていくことになるんだと思うんです。そのときに,今,水野紀子委員も言及されたように,責任財産の所在と債務とをなるべく一致させることが公平であろうと考えることもあり得るところであり,部会資料4ページの第2の2の②の提案というのは,正にそういう考え方に立っているように見えるところがあるわけです。
  他方で,こうした考え方に従って,例えば,債務の承継割合をその責任財産についてされた相続分の指定割合のとおりとした場合には,水野紀子委員も御指摘されたような,本当にそれでいいんだろうかという場面も出てくるように思うんです。それはなぜかというと,責任財産の所在と債務とを一致させようとすることの根底には,それが公平であろうという考え方のほかに,被相続人の合理的な意思解釈といいますか,被相続人の意思の推定として,責任財産をそう分けるんだったら,債務の方も同じように分けたいという意思があったのではないかという考え方もあるところ,先ほどの窪田委員のお話にもあったとおり,必ずしも債務のことまで考えて相続分の指定がされている場合だけではなく,そのような場合については,後者の考え方からすると,責任財産の所在と債務とを一致させる必要がないことになるからだと思うんです。
 このように,責任財産の所在と債務とを一致させようとすることの根底にある二つの考え方によって結論がずれるのだとすると,どちらの考え方に立ってここを整理していくかというのが重要になるのかなと思うのですけれども,恐らく一方の考え方だけでは規律し切れない部分が出てくるので,そういった場面をどう手当てするかという問題を解決する必要が出てくるように思います。この点については,堂薗幹事が言われたとおり,債務の承継について遺言等で述べさせるような方向に誘導するというのは一つの手だと思うんですけれども,何もないときには債務の方は法定相続による承継がデフォルトルールになりますよというのを始めから明示しておくという手当ての仕方というのもあると思うので,どちらの方向がいいかというのを今後,議論して決めていくということになるのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。問題を整理していただいたわけですけれども,御発言どうぞ。
○沖野委員 私も誤解していたことがよく分かったんですけれども,そうしますと,12ページの別案を採るかどうかということの問題にやはり帰着するということになりますでしょうか。すなわち,相続分の指定という形を採ったときに,それは債務を含めて一体的な指定しかできないのだとすると,たとえ被相続人としては積極財産だけを動かしたいと思っても,それは相続分の指定という制度ではできないというふうに考えるのか,債務については法定相続分にとどめる。積極財産の方は積極財産である以上処分ができるということで,遺贈ではなく,相続分の指定という方法を用いても積極財産だけで動かすことができる,また,その指定の中には物件ごとに特定することによって相続分の指定という形になっている場合もあり得るということを想定していますけれども,その限りでは相続分の指定という制度にそこまでの余地は認める。いずれがよいのかということを検討するという,正にこの資料で提示された問題をより検討していくということになるのかと思います。
○大村部会長 窪田委員,何か。
○窪田委員 全く同じことになってしまうのかもしれませんが,水野(有)委員から最初にあった御質問については,恐らく分割方法の指定が相続分の指定となるのかという問題が出発点にあったのだろうと思います。形としては,分割方法の指定が相続分の指定を伴う場合はあるということで,その後は相続分の指定の問題だという形で議論しているわけですが,恐らく,一つは,もしこのルールが相続分の指定としか書いていなかった場合に,誰が見ても分割方法の指定によって相続分の指定が生じる場合も含むというふうに理解することができるのかというと,それは多分議論の余地は残るということになってしまうかもしれません。分割方法の指定が相続分の指定を伴う場合についても,この適用はあると思いますが,分割方法の指定による場合に関しては,例えばこれこれであるという特則を置く可能性があるかどうかという形で議論をする余地はあるのかもしれません。特則というふうに言いましても自由にということではなく,債務については法定相続分を維持するとかそういったかなり限定的な例外だろうと思いますが,それは実践的な検討の可能性は十分にあるのではないかという気はいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。今の点については,問題の所在は随分明らかになってきて,選択肢はなお残ってはいるものの,議論の方向は出てきたように思いますけれども,この点につきまして更に何か御発言があれば伺います。もし,これについて特になければ,別の点についても御意見を頂きたいと思います。どちらでも結構です。お願いいたします。
○垣内幹事 別の点なんですけれども,よろしいでしょうか。
○大村部会長 はい。
○垣内幹事 今のような奥深いお話ではなくて大変技術的な細かい点についての御質問なんですけれども,対抗要件の点に関しまして,今日御提案の部会資料の4ページの第2の1の②のアのところ,債権譲渡通知のような形での対抗要件具備の主体について,「受益相続人又は遺言執行者」ということになっております。ここで遺言執行者が通知をするということの意味合いについて,これはいろいろな考え方が理論的にはあり得るかと思うんですけれども,例えば相続人全員の代理人として通知をするのか,あるいは受益相続人以外の相続人の代理人として通知をするのか,それとも代理人としてではなく遺言執行者固有の権限として通知をするのかといったようなことが考えられるのかなと思いまして,その点について,この資料でどういう前提に立っているのかということ。
  それから,その点と関連いたしまして,後の方で不動産の場合についてどう考えるのかということについて問題提起がされていたかと思うんですけれども,10ページから11ページにかけてのところですが,10ページでも11ページでも,不動産の登記申請に関しては,相続人の代理人として単独で登記申請をすることを認めるかどうかという形で議論が設定されており,こちらの方は代理人としてという構成をとっているように見えるんですけれども,こちらの方については代理構成が必然的であるという御理解であるのかという点について併せてお教えいただければと思いました。
○堂薗幹事 基本的には,現行の遺言執行者の法的地位がどういうものかというところにも関わるわけですが,その点については,従前から申し上げているとおり,実質的には遺言者の意思を実現するという意味で,遺言者の代理人的立場ではあるんですが,遺言者が亡くなっているので,それを包括的に承継した相続人の代理人的な立場にあるという理解であり,現行の1015条は,その点について,相続人の代理人とみなすというふうに規定しているわけです。その点について今回見直しをするとしても,それは飽くまでも相続人の代理人というふうに書くと,相続人の利益のために活動すべきものだという誤解が生じているという御指摘があって,それを踏まえて規定ぶりを変えるだけで,相続人の代理人的な地位を有するという点ですね,遺言を実現するためにそういった職務を負う者であるという点を変えるわけではございませんので,そういった意味では,ここでの遺言執行者というのも,正に遺言を実現するために相続人に代わって職務を行うということでございます。その点は,例えば現行法の下でも,遺言執行者が対抗要件を具備させるために不動産の登記の申請をするとか,不動産の場合は,現行法ですと権利者が単独でできるので,なかなか遺言執行者が活躍する場面というのはないのかもしれませんが,現行法でもそういった形で対抗要件を具備するために遺言執行者が事務を遂行するという場面はありますから,それと同じ位置付けであり,その点については特に変更はないということだと思います。
○山本(克)委員 説明でよく分からなかったんですが,受益相続人は単独で登記申請できるわけですね。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 その遺言執行者は誰の権利を行使していることになるのかというのは,今の説明では分からなくて,全相続人に帰属する権利を行使しているのか,受益相続人の権利を行使しているのか,どちらなんですか。
○堂薗幹事 対抗要件具備に関して言えば,要するに,対抗要件を具備させる義務を負っている相続人の立場として事務を行っているのであって,その権利を取得した受益相続人のために事務を行っているわけではないという位置付けだと思います。
  現行法の下では,不動産で遺言執行者の職務が顕在化しないのは,それは受益相続人が単独でできるから遺言執行者がやる必要がないということになっていますが,その点を見直し,ここでの規律は,受益者の側からも単独でできるし,義務者の立場にある遺言執行者の側からも単独でできるようにすると,そういう趣旨でございます。
○山本(克)委員 何か登記法の普通の考え方,私が習っていた登記法の考え方とは相当ずれるなという感じがしなくはないんですが,つまり,共同申請主義をとったときには,今の説明で受益相続人と遺言執行者が共同で申請するという説明にはすごく今なじむようなお話を伺ったんですが,登記義務者が単独登記できるということがどうも腑に落ちないんですけれども。
○堂薗幹事 ですから,そこは現行法の規律とは完全に異なるわけですが,相続の場面で義務者が複数いて,しかも,相続人がなかなか任意に義務を履行してもらえないという場合が多いわけですので,そういったことを考慮し,権利の移転があったことについて一定の証明をさせることによって,義務者側の単独申請を認める余地はあるのではないかというのがここでの御提案で,ただ,その点についてはかなりハードルが高い面はあろうかと思いますので,正にその点について御意見をお伺いできればということでございます。
○山本(克)委員 趣旨は分かりましたけれども,それで単独申請だというのがどうもやはりピンと来ないというか,特則を法律で設けてしまえば何でもできるので,従来の考え方にここで風穴を開けるという御趣旨であれば,それはそれで一つの選択肢だと思います。
○宮﨑関係官 すみません,今の点については,私どもとしましても,おっしゃるとおり,登記義務者による単独申請というのは,今の現行法の不動産登記法上ございませんので,それについては新しい考え方を取り入れるものになる。もしこの規律が設けられれば,そういうふうなことになろうかと認識しております。
  そしてまた,先ほど垣内幹事の方から御指摘のありました,どういう地位かというのでは,代理人としてする場合のほか,権利者の代理人,義務者の代理人,それからそれ以外の地位としてやる場合という言及もございましたが,今のところ,不動産登記法上の考え方ですと,権利者とか義務者が共同申請というのが原則になっていまして,一定の例外的な場合では,権利者の単独申請もできるということになっています。
  登記権利者,登記義務者ということの概念が,登記上の利益,登記上の不利益を受ける者として権利者,義務者というのが規定されておりますので,そのことの関係からすると,遺言執行者というのは,特にこの登記をすることによって何か登記簿上の権利を受けるですとか,不利益を受けるという地位にはないものだと考えられますので,そうすると,やはり権利者,義務者のどちらかに遺言執行者それ自身が当たるというふうに整理することはなかなか難しいのではないかと考えました。その上で,代理人として構成するということで,権利者と義務者とどちらの権限を行使しているというふうに見るのが相当かという考えで,現段階ではこのような整理が相当ではないかと考えるに至ったものでございます。それは,そこについてはいろいろな御意見あろうかと思いますので,賜れればと考えている次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  いかがでしょうか。
○増田委員 詰めて考えているわけではないんですが,何かやはり義務者側の承継人の単独申請というのは,山本克己委員がおっしゃっているように,少し違和感があって,引取請求を認めるぐらいでいいのかなと直感的には思っているんですが。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 引取請求権ですね。
○宮﨑関係官 現行法上でも,引取請求権自体は認められているんですけれども,それで引取請求権を行使して,その判決をとることができれば,当然その判決に基づく単独申請ということは現行法上の下でもできると考えております。ただ,一方で,そういう判決とかまで経なくとも,この遺言執行者という地位に着目して何らか単独でできる手立てを得られないかというのが今回の部会資料で考えているものでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 すみません,先般の私の発言の続きということで今さら恐縮でございますけれども,若干のコメントと,それから細かい質問でございます。
  4ページの第2の②のアですけれども,先ほど,包括遺贈に関しては譲渡禁止特約,預金を念頭にしておりますけれども,これが働かないというようなことの回答がございました。この意味合いを縷々考えていたわけなんですけれども。と申しますのは,先の債権法改正のときの譲渡禁止特約の議論において,金融界のそのときの関心事というのは,預金というのは全国各地にあるものですから,かかる通知がいろいろ来た場合にすぐに対応できない,管理ができないということでした。一方で,本件においてそれがどういう意味合いを持つのかということについては,確かに,必ずしも同一に考えるべきものではなく,かかる債権法の議論では,二重譲渡が頻繁に起こるかとか,一刻を争うのかということだったので,その点からは,今回は,譲渡禁止特約を必要とするというニーズまでは余りないのかなとも思えます。ただ,実務的にそこら辺はどういう問題が生じるかということは考えたいと思った次第です。
  そこで,ちょっとこのメカニズムの詳細を確認するために,細かい三つの質問を差し上げたいんですけれども,一つは,書面を示して通知した場合,通知は確定日付の証書ということになっています。通知は実務上は内容証明によって確定日付けがとられるということであります。そして,書面の交付が実際上は前後に追完されるということだと思っています。この仕組みは債権譲渡特例法に基づいた債務者対抗要件具備を基にした仕組みと思われますから,それと同様な実務になるのかなと思ってはいるわけですけれども,ともかく対抗要件が具備されたというのは,通知をした時点とは限らず,書面の交付がもし通知よりも後になった場合は,その書面を交付したときがその基準になるということになるのではないかということで,それが正しいかどうかということの確認です。
  二つ目なんですが,仮にその交付した書面が不完全であった場合には,やはりその書面が十分に明らかになるというものに満つるまでに至ったかどうかということで実態上決まるのではないかと思うわけです。それが2点です。
  意見としては,よって,先ほど申し上げたとおり,当該書面の様式というのは,公正証書遺言とか一定のものに限られるべきであるということでございます。
  三つ目は,仮に遺言が二つあった場合に,先の遺言によって通知がなされ,適式にその書面として先の遺言が交付された後に,後に作られた,つまり先の遺言は撤回されたわけでありますけれども,その後の遺言を書面として交付し,通知がなされたというときには,これは前者の通知というのは本来的に無効であると考えるべきように思われます。ただし,その間に支払いが起こってしまった場合には,民法478条の免責によって第三債務者は救済されると,こういうメカニズムになるのではないかと今考えたわけですけれども,この理解でいいかどうかというのを,すみません,確認させていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。浅田委員の今の御質問にお答えいただきますけれども,その前の登記の話ですが,現行法の状況からすると,提案されていることには違和感があるけれども,新しい手続としてこういうことを考える場合に,どんな問題が生ずるかを更に御検討いただくかということかと思います。この点についてさらに御意見があれば後で伺いたいと思いますが,それはそれといたしまして,浅田委員の今の御質問についてお願いいたします。
○満田関係官 質問は3点あったと思いますけれども,まず1点目ですけれども,これは書面と通知,両方備えないと,債務者の側として誰に払っていいかというのは確定しないと思いますので,これは両方必要ということでよろしいかと思います。
  2点目は,書面が不完全なときはどうなるかということでございますけれども,これは,書面が不完全であれば真の相続人が誰かということは確定できませんので,これについてもきちんとした書面が示されたときをもって対抗要件具備というふうになるかと思います。
  3点目についても,浅田委員の理解のとおりと思っております。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○垣内幹事 先ほどお尋ねした点との関係で,念のための御確認の質問なんですけれども,まず,債権の場合に関して申しますと,仮に4ページで提案されているような規律が導入された場合には,例えば受益相続人以外の相続人が全員で通知をするといったようなこともできるということになるのかどうか,あるいは不動産の場合に関して,遺言執行者による単独申請を認めるというような規律を仮に導入したというときに,ここでも受益相続人以外の相続人が申請をすることによって,受益相続人が関与しなくても登記ができるということになるのかどうか,その点について教えていただければと思います。
○堂薗幹事 その点につきましては,正に②の遺言の内容を明らかにする書面を限定するかどうかにもかかってくるのではないかと考えておりまして,例えばここでの書面について,(注)で書いてありますような限定を付すということになりますと,そういった要件を満たしていない遺言しかない場合には,受益相続人が単独ではできないということになりますので,そういった場合については,今までどおり受益相続人以外の相続人全員でやるか,遺言執行者を選任するかということにならざるを得ないのではないかと思います。ですが,ここでの書面について特に限定をしなければ,受益相続人が単独でできるということになりますので,それ以外の相続人全員で行う場合をあえて規定する必要はないのではないかということで,今回は一応このような形にしております。
  それから,基本的には,遺言執行者がいる場合には,遺言の実現に必要な行為は,遺言執行者に専属するということを考えておりますので,その場合には,受益相続人以外の相続人が対抗要件具備行為をするということはないという前提でございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○中田委員 別のことでもよろしいでしょうか。
○大村部会長 はい。
○中田委員 第2の1の①についてお伺いしたいのですけれども,7ページを拝見しますと,対抗要件主義を適用することについては,相続を原因とする権利変動のうち,意思表示が介在するものについては,177条の特則を設けるという記述でございます。この特則を設けることの理由は何かということが一つございます。
  先ほど,堂薗幹事から御説明があった中で,第三者から見ると遺言の存否や内容が不明なことがあるのだけれども,それを明確化する必要があるということで,遺言制度の安定化あるいは利用の促進ということが重要な理由ではないかと思います。
  そうすると,被相続人の意思については,この制度趣旨が当てはまるのですが,相続人の意思表示が関与する場合,つまり遺産分割ですとか相続放棄ですとか遺留分減殺とか,そこは別の話になるのではないかなという気がいたしますが,そのような理解でよろしいかどうかが第1点でございます。
  それから第2点は,6ページの(注)のところで,二重譲渡との比較で説明がなされているんですが,ここが私どうもよく分からなかったんですが,二重譲渡の場合には,譲渡人は第1譲渡をしたとしても,第1譲受人が登記するまでの間は,なお何らかの権限があるのだという説明だと思います。それと,法定相続分を下回る指定を受けた相続人の立場が似ているのではないかということなのかなと思ったんですが,二重譲渡の譲渡人の場合,元々所有権を持っていたわけなんですが,法定相続分を下回る指定を受けた相続人というのは,元々持っていたものが減るんじゃなくて,元々それだけしか取得しないのではないかなという気がします。分かりやすくするためゼロの指定を受けた人がいたといたしますと,その人の処分権限というのは一体何なのかということがよく分からなかったのです。ただ,全体としてゼロの指定を受けた人も処分権限は有するというのが,23ページにもそういった記述がありますので,基本的な考え方だと理解しておりますが,それがどこから来るのかということです。
  それから,3点目は関連する細かいことなんですが,対抗問題というときに,何と何との対抗かなんですけれども,一つは,指定相続による受益相続人の相続登記があり,他方で,法定相続による他の相続人の登記がある。その先後なのか,それぞれの相続人からの譲受人あるいは差押債権者なのか,組合せが何通りか出てくるかと思うんですけれども,そこを明確にしませんと,全体のメカニズムが分かりにくくなるのではないかと思いました。
  以上3点,別々のことなんですが,関連するかと思いますので,併せてお答えいただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 まず1点目でございますが,ここでは,基本的に被相続人の処分が介在する場合を考えておりますので,相続人の処分については元々考えていなかったわけですが,ただ,1の①のように,相続に関する規定の中で,そのような規律を設けた場合には,遺産分割の登記に関する判例の明確化を併せて規定するということが考えられるのではないかということを,この部会資料の中でも触れているところでございます。ただ,元々1の①で考えているのは,被相続人側の処分を前提としたものということでございます。
  次に,二重譲渡との関係なんですけれども,ここで考えているのは,基本的には,被相続人が遺贈した場合と同じように,遺産分割方法の指定や相続分の指定がされた場合も考えることが可能なのではないかということでございまして,それはむしろこういった規律を設けることによって,そういった説明が可能になるのではないかという趣旨なんですが,遺贈の場合については,被相続人が遺言書を作成して遺贈をした場合でも,その後,その被相続人が亡くなり,相続人が法定相続分に従って処分をするなり,あるいは相続人の法定相続分に相当する部分について差押えがされた場合は対抗関係に立つという判例があるかと思うんですけれども,それを前提にしますと,遺言者が遺言において遺贈した場合でも,やはりなお第三者との関係では,被相続人には処分権限が残っており,その処分権限が相続によって相続人に承継され,したがって,相続人は第三者との関係では有効に処分ができるという法律関係になるのではないかと考えております。
  現行の判例の考え方ですと,相続分の指定や遺産分割方法の指定の場合には,受益相続人以外の相続人は何ら権利を取得しない。したがって,処分権限がないという前提なんだと思うんですが,こういった規律を設けることによって,そこはそうではなくて,少なくとも第三者との関係では,やはり受益相続人以外の相続人も法定相続分に従った処分権限を相続するということになるのではないか。したがって,相続人がそれを処分した場合には,遺贈の場合と同じように二重譲渡類似の関係に立つという説明が可能になるのではないかというのが,この(注)で書いた趣旨でございます。
  ですから,そういった意味で,対抗関係に立つのはどういう場面かといいますと,それは相続人のもとに権利がある段階では,それは飽くまでも当事者間の関係ということですから,対抗関係には立ちませんが,その後に相続人が第三者に譲渡するなど,第三者が出てきた場合や,あるいは相続人の持分について差押えがされた場合について,対抗問題として処理することを考えているというところでございます。
○中田委員 ありがとうございました。
  第1点についてはよく理解できたのですが,そうすると,遺産分割についても及ぶかというのは別の話であって,この機会にといいますか,あるいは相続を原因とする権利変動のうち処理が介在するものという概念を広く捉えてそちらにも及ぼそうとしているのだと思いますが,その実質的な理由というのはちょっと違ってくるのかなという気がいたしました。
  第2点についても,おっしゃっている意味は分かるのですが,遺贈と同様にするというのが先にあるような気がしまして,処分権限を相続によって取得するということは,結局,分割方法の指定なり相続分の指定の効力を現行法と異なるものだと理解するということが前提になっていると思うんです。そこの当否あるいは問題点ということが根本の問題ではないかなと思います。
  3点目については,第三者との関係というんだとそうだと思うのですが,誰と誰との競合を考えているのかということを考えると,受益相続人の指定相続分による相続登記というのは何か規律として入ってくるような感じもしたものですから,御説明は分かりやすいんですけれども,もうちょっと前の段階ですね,第三者が現れる前の登記というものの意味も検討する必要があるのではないかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。3点御指摘いただきまして,それぞれ検討すべき点であると思いますけど,第2点が基本的な点で,この点についてどのように考えるのかという御指摘でした。ここで実質的にどう考えるかということと,法律論としてどのように説明するかという問題とがあろうかと思いますけど,中田委員,何か御意見がもしあれば。
○中田委員 意見というよりも,指定相続分の効力や遺産分割方法の指定の効力について従来考えられてきたことを,どの範囲で変更するのか,その変更について理由は説明できるのか,他に波及しないのかということを詰めるべきだという,現在はその程度の認識です。
○大村部会長 ありがとうございます。今の点につきまして何かほかの委員,幹事から御発言があれば是非伺いたいと思いますが。
○窪田委員 若干ずれるかもしれないのですが,一部重なっているかという程度で御容赦いただけたらと思うのですが,基本的に今回の考え方というのは,法定相続分をベースにしながら,そこからずれるものを処分だというふうに捉えるということで,それを前提として考えていく仕組みということで,私自身は十分に理解できるのかなとは思います。ただ,その上で,その問題そのものではないのですが,ちょっと関連して御意見というか御説明を伺えたらなと思いましたのは,従来から,相続分の範囲内では,要は,いわゆるそれを超える部分については無権利の法理が妥当してという話があった場合には,無権利の法理から説明するということもありますけれど,それと並んで,しばしば実質的な背景の事情として説明されたのが,相続分についてまず一旦登記したとしても,遺産分割を経て初めて最終的な財産の帰属が決まる。そうすると,その場合の登記というのは,言わば中間的なものにしかすぎず,それを要求するというのはやはり負担として大きいのではないかということがあったのではないかと思います。
  今回の問題に関して言うと,先ほど処分という観点から実質的に説明できるということではあったのですが,しかし,法定相続分であれ指定相続分であれ,結局,中間的な登記をせざるを得ないということは多分出てくるのだろうと思います。それでもたくさんもらうんだから,そのぐらいのプロセスは経なさいというふうになるのかもしれませんが,3分の2の相続分で登記をしたとしても,その不動産について最終的な帰属が決まるのは,やはり遺産分割協議を経なければいけない。その点について一定の説明は可能なのだろうとは思うのですが,やはり何らかの説明は必要なのかなと思います。その点についてお聞きしたいと思いました。
  もう少し付け加えると,その点では,やはり相続分の指定と遺産分割方法の指定でかなり違うのではないかと思います。相続分の指定を伴うとしても,遺産分割方法の指定だと,これで帰属が決まりますので,ちゃんと登記しなさい,登記しないと対抗できませんよというのは当たり前だろうと思うのですが,相続分の指定の場合には,そうではない。遺産分割をなお必要とする抽象的な相続分の指定のときも同じようなことが説明できるのかという点が若干気になりました。
  あるいは一部重なっているかなというふうに申し上げたのは,中田先生が最後おっしゃっていた,第三者が出てくる前の段階での登記ということの意味にも少し関わるかなと思いましたので御説明を伺えたらと思います。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,相続分の指定について,法定相続分を超える部分でも対抗要件がないと第三者に対抗できないということになりますと,特に差押債権者との関係では,相続分の指定の段階で登記をしないと差押債権者に劣後する,法定相続分を超える部分では負けてしまうということになりますので,そういった意味では,単に相続分の指定で割合が決められているだけの場合には,その後,遺産分割の協議や審判等が必要になってきますので,そういった中間的な状態であるにもかかわらず,登記がないと対抗できないという場面が生じるのはそのとおりだと思います。窪田先生が言われたように,特定の財産についての処分がされた場合と,まだ中間的な権利状態である相続分の指定の場合を分けるということはあり得るのかもしれませんが,仮にそういったことにしますと,相続分の指定の場合と遺産分割方法の指定を完全に峻別する必要があることになりますので,相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定というような概念はなくなるのではないかという気もしますし,その辺りをどう整理するのかという辺りが課題ではないかと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 先ほど増田委員も,二重譲渡の場合と違うではないかという議論をされましたが,そこまで遡って申し上げますと,昔から判例理論をきれいに説明することはできなかったのだろうと思います。共同相続と登記と言われる判例法に対して,我妻先生が登記ゴムまり論という解釈論で,登記を信用した第三者を救済しようとされたのですが,その我妻説は無権利の法理と合わないと批判されました。二重譲渡の場合の登記を信頼したときの救済手段を,もともと無権利だった部分を虚偽の遺産分割登記で増やした場合に使うというのは,無理だと批判されたのです。最高裁も,その後も我妻説を容れず,この判例は固まっています。しかし一方で,それでは遺贈の場合の判例理論はそれで説明できるかというと,遺贈は死の瞬間に受遺者にいってしまっているわけですから,法定相続人はそもそも無権利者だったはずです。それでも法定相続人名義の登記の信頼を守った,遺贈についての判例理論は,無権利の法理を採用していません。現在の判例理論の全体を,無権利の法理などの一貫した理論体系で整合的に説明することは非常に難しいのではないかと思います。
  そして,判例全体の理論的な整合性を説明することは難しいのだけれども,ある観点から考えたときに,昭和期に最高裁が作り上げてきた相続と登記に関する判例理論はそれなりに一貫した合理性はあったように思います。それは,相続財産を買おうとする第三者から見たときの基準です。相続放棄期間を過ぎて,法定相続分を法定相続人から買うときには,登記を確認していれば安心できる。でも,法定相続分より拡大したものを買うときには,他の共同相続人に一応一言確認してみなければ,安心できません。つまり,戸籍から分かる法定相続分に取引の安全を依拠する形での秩序を作ろうという意味では,ある種一貫した方針ができてきたように思います。
  指定相続分というのは明治民法の起草者が思い付きで入れてしまった制度なのですけれども,平成になってからの最高裁判例が,指定相続分の事案に,遺贈の判例法理ではなく法定相続分の共同相続と登記の判例法理を適用してしまったために,大きくこの取引安全のルールが崩れ,更に遺産分割方法の指定という遺言についてもそれを拡大しましたので,遺言によって取り分が大きく変わったものがそのまま法定相続分を信用した第三者よりも守られてしまう結論になりました。今度の御提案は,昭和期の判例が作り上げた,ある種の取引安全の秩序に近づけようという御尽力なのだろうと思います。そして,それはあちこちでは登記理論とのそごはあるかもしれないのですけれども,それもやむを得ないもので,結論的には合理的な線を狙っておられる解決であるように思います。それを無権利の法理などの登記理論とすべて整合的に説明せよという要求は,かなり酷なことを事務局に求めておられるような気もします。従来の判例理論すらきれいに説明はできなかったものではないかと思いますので。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 問題点がはっきりしてきました。ありがとうございました。
  遺贈の場合には,被相続人に処分権限がまだ残っていて,その処分権限が相続されるという理解ができるような気がするんですが,相続分指定のときに,そういうロジックが同じようにいくのかどうかというのは,結局は相続分指定なり分割方法の指定の効力をどう見るのかということに遡らざるを得ないのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。どうするかは非常に悩ましく影響の大きなところでありますけれども,何が問題であるかということについては御指摘によって相当程度明らかになったように思います。事務当局それでよろしいでしょうか。
  この点につきましては,水野(紀)委員がおっしゃるように,解けない問題も残るのかもしれませんけれども,理論上解けない問題は何なのかということも含めて,更に事務当局の方で御検討いただきたいと思います。
  その他,この第2につきまして御指摘があれば伺いますけれども,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,ここで休憩を挟ませていただきまして,3時55分再開ということにさせていただきます。一旦休憩いたします。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,時間になりましたので再開させていただきます。
  「第3 自筆証書遺言の保管制度の創設」から始めます。
  まず,事務当局の方から説明を頂きます。
○大塚関係官 部会資料14ページ以下ということになります。「自筆証書遺言の保管制度の創設」についてでございます。
  パブリックコメントにおきましては,御意見の趨勢としては,賛成が多数を占めたところでございますが,費用対効果などに疑問を呈して反対をされる意見も相当数ございましたほか,様々な論点について更なる検討を求める御意見も出されたところでございます。
  第14回部会においては,制度の具体化に向けて引き続き検討することとされたところでございましたので,これを踏まえまして,制度を具体化する方向で検討を加えてみたというところでございます。
  「1」以下に参ります。
  まず,「自筆証書遺言の保管機関」でございますが,15ページ以下となります。
  パブリックコメントにおきましては,この保管業務を行う公的機関につきましては,全国に相当数存在し,利便性があるなどとして,法務局が相当との御意見が最も多かったところでございます。
  遺言書という極めて重要な個人情報を含む文書を保管する機関としては高度の信頼性が要求されますところ,国の機関であります法務局を保管機関とすることにつきましては,十分検討に値するのではないかと考えられるところでございます。
  他方で,この制度を法務局で仮に実施するとしますと,今後,保管の在り方あるいはコスト面,更には物的・人的リソースの拡充などについての検討も必要となろうかと存じます。
  これらを踏まえまして,保管機関を法務局とすることについて御意見を賜れればと存じます。
  続いて,「2 遺言保管の申出」ですが,申出資格につきましては,中間試案と同様,遺言者本人に限ることとしておりまして,そのための本人確認を行うことを想定してございます。
  なお,民法上,遺言能力は,御承知のとおり15歳以上の方に認められておりますので,仮に遺言者が未成年者あるいは制限行為能力者でありましても,遺言能力があります限りは,遺言者本人が単独で遺言保管の申出をすることができるものとすることを現状では想定をしております。
  次に,3の「方式の審査」でございます。
  パブリックコメントにおきましては,保管手続を行う際に遺言書の形式的要件をチェックし,無効であることが明らかなものは保管を拒絶すべきではないかとの御意見があったところでございます。
  確かに,方式違反で無効であることが明らかな遺言書につきまして,これを見た法務局担当者としましては,その旨を伝えて補正を促す方が,遺言者の利益にもなるのではないかと考えられます。
  そこで,例えばこの担当官において,申出に係る遺言書につきまして,日付及び氏名の自書ですとか,あるいは押印の有無を審査しまして,不備がある場合にはその旨の補正を促す,補正がされないときは申出自体を却下するといった規律も考えられるところではございますが,あえてこのような規律とせずとも,事実上不備を指摘するという取扱いも可能ではないかとも考えられるところでございますので,この点について御意見を頂戴できればと存じます。
  続いて,16ページの「遺言書の保管方法」でございますが,これにつきましては,従前と同様,法務局におきまして遺言書原本を保管するとともに,その内容を画像データにしたものを別途保管することを想定しております。これは,万一の大規模災害などによって原本が滅失をしてしまったという場合であっても,法務局で保管している画像データを利用して遺言書正本を作成することができるものとすることを考慮したものでございます。
  続きまして,「5 遺言書原本の閲覧等」についてでございます。
  (1)の「原本の閲覧」につきましては,これは相続開始前と後に分かれようかと存じますが,まず開始前につきましては,遺言者御本人から原本の閲覧を求めることはできるのではないかと考えます。
  他方で,相続開始後につきましては,今度は相続人,受遺者,遺言執行者が法務局において原本の閲覧をすることができるものとすることを想定してございます。
  次に,「(2)遺言書の正本等の交付」でございますが,結論的には(1)と同様でございまして,相続開始前は,遺言者本人が写しの交付を受けることができるとしております。これは,遺言書の撤回あるいは今後の書換えに備えた手控えとして利用することなどを想定したものでございますので,原本と同様の効力をその写しに付与するということまでは想定をしておりません。
  これに対しまして,相続開始後に相続人等が交付を受けるものにつきましては,後にも出てまいりますが,遺言書原本の返還を認めないことを前提とします以上は,原本と同様の効力を有する,例えば正本とすることが相当ではないかと考えられるところでございます。
  続きまして,(3)の18ページ,「遺言書原本の返還」でございますが,本部会資料におきましては,保管手続をした遺言者は,法務局から遺言書原本の返還を受けることができるとしているところでございます。
  これに対しまして,相続開始後におきましては,相続人らが遺言書原本の返還を求めることはできないものとしております。これは,仮に返還を認めるとしますと,複数の相続人による返還請求が競合した場合の対応が困難となることなどを考慮したものでございますが,ただ,遺言執行者がいる場合につきましては,例えばこれとは異なって原本を返還することは,遺言執行者に対してはできるものとすることも考えられます。
  続いて,「(4)遺言書の存否照会」でございますが,この部会資料におきましては,相続人等が法務局において被相続人作成の遺言が保管されているか否かを照会することができるとしてございます。ただ,照会できる時期につきましては,プライバシーに配慮いたしまして,相続開始後に限定しております。
  次に,「(5)遺言書存在事実の通知先」についてでございますが,法務局は,相続人等から⑥の申出,これは正本の交付などの請求がされた場合でございますが,その場合には,その際に提出された戸籍などの必要書類を利用しまして,その申出をした方以外の相続人等に対して,遺言書を保管している旨を通知するものとしてございます。
  次に,「6 検認の省略」についてでございますが,この点につきましては,パブリックコメントで御意見が分かれたところではございますけれども,本部会資料で提案をしている規律を前提といたしますと,相続人等からの正本の交付請求などがあった場合には,ほかの相続人等に対しても,つい先ほど御説明したものですが,保管事実を通知するものとしているところでございますので,ここの手続をもちまして,検認手続と同様に,相続人等が遺言者の存在あるいは内容を知る機会を確保しているところでございます。
  これを踏まえまして,結論としては,検認を要しないこととしているところでございますが,これは運用上の問題として,当初は検認をすべきものとした上で,制度の運用定着後に改めて要否を検討するということも考えられなくはないと考えているところですが,その点についても御意見を賜れればと思います。
  次に,「7 相続開始後における遺言書保管事実の通知」でございますが,これは飽くまで今後の中長期的な検討課題ということでございますが,例えば,相続税法における規定を参考といたしまして,遺言保管制度を利用している方の死亡届が提出されたという場合に,法務局の方から相続人等に対して,相続の開始及び遺言書の存在を通知する仕組みを整備するということができましたらば,相続開始後の間もないうちに遺言書の存在がほぼ確実に相続人に通知されまして,利便性が高まるのではないかと,こういったところも将来的には考えられるのではないかと記載をしてございます。
  最後に,「8 遺言書作成事実のみの登録制度等」でございますが,紛失等を防止するという観点からしますと,先ほど御説明しましたとおり,遺言書の原本を保管することが望ましいと考えられるところですが,ただ,遺言者の中には,相続開始時に遺言の存在自体は相続人らに分かるようにしておきたいけれども,保管は望まないという方ですとか,あるいは中身を第三者に知られたくないと考える方もいらっしゃるのではないかと思われるところでございます。
  そこで,先ほど述べました保管制度の創設と併せる形で,遺言書自体は法務局には預けず,作成事実と保管者のみを登録して,相続開始後に相続人等が遺言書の存否を法務局で照会することができるようにすると,こういった選択肢を設けることが考えられようかと存じます。
  ただ,このような制度といたしますと,紛失のおそれは結局払拭できないということになりますので,その面でメリットは減殺されるということにもなります。
  このような選択肢を設けることについて併せて御意見を賜れればと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。この「自筆証書遺言の保管制度の創設」につきましては,制度の具体的なイメージがないとなかなか議論がしにくいということで,今回は一定程度立ち入った御提案を頂いております。項目でいいますと7とか8のようなものも含めて御提案を頂いているところでございます。
  他方,これについて検討するに当たっては,現在弁護士会等で行われている取組について知っておくことも必要ではないかという御指摘も頂いているところでございます。
  御意見を伺うに先立ちまして,金澄幹事の方から,この点について御発言を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○金澄幹事 ありがとうございます。今提案されているこの制度の設計に資するために,弁護士会の方で類似の制度を設けているという,若しくは過去に設けていたというところもございますので,その内容と現状,課題について簡単に御紹介したいと思っております。
  まず,全体で10に満たない単位会がこのような制度をやっております。若しくはやっておりました。しかし,現在継続しているところは数えるほどになっております。
  制度の廃止をした理由は,活用例が少なかったからとかいろいろな理由があるんですけれども,その前に制度の概要についてちょっと御紹介をしたいと思います。各単位会がやっていることですので,それぞれの単位会ごとに別で異なっていますけれども,おおよそのところを御紹介したいと思っております。
  まず保管の対象ですけれども,自筆証書,公正証書,秘密遺言の全てを対象としているところが多いということです。保管の申出は弁護士のみとするところもありますけれども,基本的には遺言者本人とするところが多かったということです。
  費用ですが,最大で大体3万円ぐらいというところです。
  生前の本人からの返還制度というのは設けているところが多かったです。
  問題は,遺言者死亡のときの返還なのですけれども,遺言者の死亡をどのように確認をするかというところが問題となります。しかし,弁護士会として,遺言者の死亡若しくは生存を確認するようなシステムを採っているというところはありませんでした。遺言執行者若しくは弁護士からの申出によって返還をするということで,遺言者の死亡をどのように確認して,どういうふうに返還するのかというのがシステマチックになっているというところはございませんでした。
  なぜこのような保管制度が多くの弁護士会で定着しなかったのかというところなんですけれども,まずニーズ,つまり利用者が少なかったからというのは一番でして,弁護士としては,もちろん弁護士会がやっているので,弁護士としては,やはり公正証書遺言をおすすめするというところが多かったのだろうと思っています。また,自筆証書遺言の作成者は基本的には費用をかけずに,人に知られずに遺言を書きたいと思っている人が多かったわけですから,弁護士に相談もなく,もちろん弁護士会の制度に余り関心を払っていただけるような人たちではなかったというところだと思います。ですので,今回こういう制度を作るに当たって,やはりニーズがあるのかというところが一番大きな問題になってくるのかなと考えます。若しくは広く制度を周知してニーズを掘り出すということができるのかというところが問題になってくるんだろうと思います。
  あと2番目には,預かる側の管理がなかなか大変であった。飽くまでも弁護士会というところで,公的なところではございませんので,どうやって預かってきちんと保管していくかということと,そこの管理が大変だったというところもあるかと思います。
  三つ目に,先ほども御紹介しましたが,保管後に遺言を書いた方の生存・死亡を確認するシステムの構築がなかなか困難だったために,弁護士としてもなかなか利用,若しくは本人も利用するということが難しかったのではないかと思っています。
  遺言者に弁護士会の方から連絡を取るということは,遺言を書いた人が秘密にしている場合は,それで周囲の人に分かってしまうということもありますので,そのようなこともできなかったということもあります。ですので,今回こういうシステムを作るに当たっては,先ほどのニーズの話もございましたけれども,あとは預かる側としての信頼されるような確実で安全で,かつプライバシーがきちんと守られるような制度ということがまず必要だろうなというふうには思っています。
  最後に,遺言者が死亡したとき,相続人自らが遺言の存在を検索に行くようなシステムではやはり限界があるのではないか。死亡したときに自動的に知らせてもらうとか,そういうようなシステムができないと定着するのは難しいのかなというふうに,弁護士会の経験から思いました。簡単ですけれども弁護士会で実施した若しくはしている制度を御紹介させていただいて,課題もお話しさせていただきました。ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございます。弁護士会での取組の状況と問題の指摘も頂きました。今の御発言も含めまして御意見,あるいはこの問題については御質問もあろうかと思います。併せて頂ければと思います。
○南部委員 ありがとうございます。保管制度を新たに作るに当たって,意見といいますか質問といいますか,ちょっと感想めいたことになるかも分かりませんけれども,発言させていただきます。
  まず,ここの14ページの補足説明にもありますように,やはり費用対効果のところが気になるところでございます。今ほど弁護士会からございましたように,どの程度ニーズがあるかということをやはり把握するべきであると考えております。
  一般的に私たち市民が遺言を作るということが当たり前にはまだなっていないような気がします。そのことを,この改正によってきっちりと周知し広げるということを前提に出してするというのであれば意義があるかと思います。もし仮に一つの例として挙げていただいています法務局をその拠点とするのであれば,今全国に400か所程度というふうにお聞きしております。自治体が1,700強ある中,それでそのニーズに応えることができるかということの検討も必要かなと思っております。また,今検討された公的機関が法務局以外にどちらがあったかということも少しお聞きしたいなと思っています。
  もう一つは,公正証書遺言が公証役場の方でお預かりになっている。この関係をどういうふうにするかということが一つ論点に挙げていただけたらと思います。というのは,一般的には公証役場と法務局の違いも余り分からない。両方で預かる場合,それぞれの遺言の性質はもちろん違うものの,普通の人にはそれはなかなか分かっていただけないかなと思います。仮に費用が,先ほど弁護士会で3万円とおっしゃっていましたけれども,その程度の費用で法務局で預かっていただき,公証役場ではもうちょっと高くなるとは思いますが,その辺は費用だけで考える一般の方々もいると思いますので,そういったところの周知も相当に必要かなと思っています。
  併せて,その2か所の検索のネットワークが繋がっていない場合,遺言者が亡くなったときに,遺族の方が2か所に出向いて確認するということも大変な労力になっていきますので,そういったネットワークがどうしていくかということも大事になろうかと思っています。
  本当に広げるのであれば,遺言に関する相談対応とかそういったことを地道にやっていかないとなかなか広がらないのではなかと思いますので,どうか具体的な検討の際に参考にしていただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  御質問も含まれていたかと思いますけれども,事務当局の方で。
○大塚関係官 御質問としては,まずパブリックコメントの中で法務局以外にどこがよいという御意見があったかということだったかと思いますが,御意見としてありましたのは,既に部会資料の中で挙がっておりました公証役場と市区町村だったかと記憶しています。ほかに具体的に別のところを提案する御意見は余りなかったように思います。
  それから,公証役場,公正証書遺言との関係をどのように整理するかということにつきまして,特に先ほどおっしゃっていただきましたように,公正証書遺言が公証役場にあり,法務局に自筆証書遺言が保管され,二本立てということになりますと,両方照会しなければいけないのかという面でデメリットともなり得るところですので,そこについては御指摘も踏まえながら何らか効率的に照会することができるようにできないかということも含めて考えていきたいと思います。公正証書遺言は公証役場で保管されているところもございますので,そちらの御理解も得ながらということが当然不可欠かとは思いますけれどもということになります。
  あとは,相談対応あるいは周知の必要性につきましては,今後,御指摘を踏まえて検討していきたいと思います。
○大村部会長 南部委員,よろしいでしょうか。
○南部委員 はい。
○浅田委員 本規律については,元々銀行界から提案したものでございますので,このたび更に詳細な制度設計を御検討いただいたことを御礼申し上げます。
  考えてみれば,この制度というのは市民サービスにも資するところもありますし,また銀行のように取引の相手方になる場合にも,より信頼できる遺言が一定限確保されるということで,利益があるのかと思っております。もっとも,費用等いろいろな課題があるということは,これは十分に検討なされなければならないということは従前から申し上げているところであります。
  その点,先ほどの弁護士会の取組の御紹介を頂いてちょっと感じたことでありますけれども,国がやる場合には,少なくとも2番目の預かる管理の問題であるとか,あとは生存・死亡のシステムについては,この提案でいきますと,10ページの7番ですか,直ちにできるかどうかというのは別として,将来それが可能になり得る基盤があるという意味では,可能性を秘めたものではないのかと思いました。
  ちなみに,銀行界でこの案について諮ったときに,その担い手について法務局であるということについて異論はございませんでした。
  あと,若干のコメントになりますけれども,更に細かいことも本件実現のためには検討しなければならないと思っております。
  例えば,被相続人が,全財産をどこかの公益的な法人に寄贈したいという場合,すなわち寄贈する相手方が不特定であった遺言があった場合にどうするか,その場合に誰に,また,どういうふうに通知するのかとか,相続人が存在しなかった場合にどうなるのかとか,あとは,いつまでこの原本を保管するのかというのも検討しなければならないと思っています。
  また,これは確認を求めたいところでありますけれども,本人が申請できるというふうに限定されていますけれども,これは,代理人は認めないということなのかということも制度設計上は明確化しておく必要があろうかと思います。
  また,個別論でありますけれども,問題提起されています19ページの6番で,検認の要否に関しましては,これは一応ここの検討はされておりますけれども,やはりより実態に合わせて現行の検認制度でどのような問題事例が回避できているのかということも含めて,もしこの制度において検認を省略した場合にどういう問題点が出てくるのかということも整理しておいた方が判断しやすいのかなと思います。また,その判断がなかなか困難ということであれば,この案に示唆されているように,取りあえず検認は必要だとして,将来の運用を見ながら検認を将来省略するということもあり得ると思いました。
  個人的な感想を申しますと,従前お話があったことの繰り返しになるかもしれませんけれども,やはりこれは本来求められる,望まれる制度という視点からは,重装備のものが信頼性という点で望ましいんですけれども,やはり最初の一歩ということで,可能なものを取りあえず設定していく。その上でニーズと,また普及,周知を見ながら,その後そのサービスを拡大していくということは考え方としてはあり得るのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見,御指摘のほかに御質問があったかと思いますけれども。
○大塚関係官 御指摘があった中で当方で考えているところを一部御説明いたしたいと思いますが,南部委員からも御指摘がありました費用につきましては,今回初めて法務局を保管機関として明示させていただいたところで,それについての御意見を踏まえての検討ということになるのですけれども,従前も申し上げたとおり,公正証書遺言を作成する場合には,もちろん財産によりけりですけれども,数万円から十数万円,あるいは更に高額となる場合があろうかと思います。当然の前提としてそれより更に高いものですと利用に値しない制度ということになろうかと思いますので,利用しやすいような金額とすることは必要になろうかと思います。他面で,余り安くしすぎると制度の運用としてやっていけるのかという問題もございますので,そことの兼ね合いを持ちまして利用しやすい金額というものがどれだけ設定できるのかという点は今後検討してまいりたいと思います。
  それから,相続開始時点で相続人がいない場合,あるいは遺言書上で相続人の住所が十分に特定されていなかったり,誤記のために相続人の住所が不明であったりという場合も考えられようかと思いますが,現状,検認等の際にどのようにしているかということを見てみますと,民事訴訟規則の第4条第5項が考えられるところかと思いまして,裁判所等から行う通知につきましては,これを受けるべき者の所在が明らかでないとき,又はその者が外国にあるときはすることを要しないと規定されておりまして,望ましいかどうかはさておいても,通知がそもそも不可能であるというときには,そのようにせざるを得ないということもどうしても出てくるかと思います。この規定は家事事件手続規則でも準用されていますので,検認の場面においてもそのような形になるのではないかと当方では考えているところでございます。
  他方で,先ほど御指摘がありましたように,仮に法務局が遺言者の死亡を積極的に把握していくとした場合に何らか別の方針が考えられるのかといったところは引き続き検討の余地はあろうかとは思います。
  それから,各手続において代理人がどのように関与することがあり得るのかといった御質問がございましたけれども,その点につきましては,それぞれの手続の性質によって規律が異なるものと思います。今の時点で記載をしております,あるいは考えておりますのは,最初の保管の申出の際には,これは本人でなければいけないのではないかと,ここは動かし難いのではないかと思っています。ただ,その後,相続開始後ですね,そのときに各手続を行うのが相続人本人でなければいけないのか,その代理人となる方でもよいのかということについては,そこは柔軟に考える余地があるのではないかと考えているところでもございますので,そこは御意見も頂きながら様々な可能性を考えていきたいと思っています。
  それから,最初は制度として可能なものを設定し,将来的に大きくしていくという御指摘につきましては,例えば大規模庁から始めてそこで運用がうまくいくかを確かめてから順次拡大していくといったことも選択肢としてはあり得るのかもしれませんが,そこは今後の検討課題と認識しているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかいかがでございましょうか。
○窪田委員 質問とか意見というより希望というのに近いものということになるのですが,先ほど,ニーズがどのぐらいあるかというお話がありましたけれど,ニーズがどれぐらいあるかというのは,どのぐらい使いやすいとか,あるいは意味のある制度になるのかということにかなり依拠するのではないかと思います。
  保管場所が法務局であるということ自体はいろいろな面を考えても十分にあり得るんだろうとは思います。ただ,一方で,やはりその都度問い合わせをしなければいけないというのが本当に適切な仕組みなのかと考えた場合に,現在でも戸籍に関しては基本的には国の事務なわけですけど,受託事務として市区町村が行っています。だからといって,市区町村をこの預かり先にするという必要はないとは思うのですが,少なくとも例えば死亡届が提出されたときに,将来的なオンライン化がなされているという状態を考えれば,その時点で少なくとも遺言がある,遺言が法務局に保管されているという情報が同時に伝わるというようなことが実現されると,やはり非常に意味のある制度ということになります。また,遺言者にとっても空振りにならないということになるのだろうと思います。この点は,恐らく将来的な戸籍制度ネットワークをどういうふうに進めていくのか,更にそのネットワークを法務局と市区町村との間でどういうふうに共有するのかということに係ると思うのですが,それを踏まえた上で将来の制度設計として十分に考えられるというものだと思いますし,現時点で仮に始めるとしても,将来的にはやはりそういう対応ができるものとして是非制度設計をしていただきたいなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本(克)委員 今の窪田委員の発言にも係わる点なんですが,これ率然と読むと,これ,イメージしている,ここで考えられている自筆証書遺言というのは,日本人が日本語で書いた遺言だというふうに思うんですが,日本は遺言の方式に関する準拠法条約に加盟していますから,日本で外国人が外国語で遺言しても,それは効力を認められる。自筆証書遺言として効力を認められることになるので,どこまでの範囲を保管するのかということを考えておかないと,戸籍とのリンクというのは正にうまくひも付けができれば非常にいい制度ができると思うんですが,ひも付けができない可能性のある人たちというのをどう取り扱っていくのかというのをちょっとお教えいただければと思います。
○大塚関係官 申し訳ありませんが,日本のことで手一杯でございまして,まだそこまで考えが及んでおりませんでした。御指摘を踏まえてその辺りのところは検討してまいりたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。特にございませんか。
  何か事務当局の方から,この点について御意見を伺いたいという点があれば。
○大塚関係官 今回,8という形で,原本は保管しないで登録だけをするという制度を選択肢として設けてはどうかということを御提示申し上げています。当方としては,選択肢がいろいろあってもよいのではという思いから記載をさせていただいたところですが,そこまでは不要というふうにおっしゃるのか,それはそれであってもよいというふうにお考えいただくのか,その辺りの感触をお聞かせいただければ幸いです。
○大村部会長 今の点につきましては,何かございましたら。
○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。
  今回の制度は,遺言というものがこれからもっと増えていくと思うんですね。先ほどの前半の水野(紀)委員の御意見の中にも,公正証書遺言が倍々と増えていくという御発言があったように,やはり増えていくのではないかと思います。そのときに公正証書遺言と自筆証書遺言とそれぞれ保管するところができ,また,多分個人的に保管をされたり,銀行等,弁護士さんに預ける等も選択ができるんだと理解しております。そんな中で,この8番は不要ではないかなと,一般の者としてはかえってややこしくなるのではないかと思っています。そこまでのところはいろいろ課題があるにせよ,特に先ほどの戸籍とのひも付けというのは,とても大事だと思います。せっかく預けてあったら,それが連絡されるということがしっかりできるようにしていただきたいと思います。法務局に預けられるというのはある意味ひとつ信頼が置けますが,市区町村に預けるとちょっと知っている人が見ちゃいそうな気もします。法務局程度の数のところにちょっと無理をしてでも預けに行くということが選択できることは有り難いことだと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。8の作成事実のみの登録制度までは不要ではないかという御意見だったと思いますけれども,この点につきましてほかの御意見があれば伺いたいと思います。
○上西委員 遺言書の存否の照会についてですが,現行の公正証書遺言についての検索システムはそれほど使われていないとの感じを持っております。そうすると,新しい保管制度を設けても,法務局に遺言書の存否を照会することが果たしてどれだけ行われるのか。先ほど窪田先生おっしゃいましたように,保管事実の通知を検討してはどうかと考えます。遺言の保管照会や存否の通知とは分野は違うのですけれども,相続税の申告の場合は,「相続税の申告等についてのご案内」という文書が,相続税の課税が見込まれる者に送られます。また,「相続税についてのお知らせ」という別の文書もありまして,これは相続税を申告しなければならない可能性がある者に送られます。このように基本的に2種類の文書があるのですが,税務署からこれらの文書を受けることによって申告に向けて動くという実態もあります。税理士関与の場合でしたら,ほぼ確実に相続税の申告の要否については御遺族には通知ができますけれども,課税ベースが広がっている中,通知を受けて初めてそうなのかと思う方もおられるわけです。制度の趣旨は違うものの,遺言書の保管をしている事実の通知というのはそれほどシステム的に難しいものではないと思いますので,保管制度の実効性をより確実なものとするために,あるいは相続人の利便性向上のためにも前向きに考えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。作成事実のみの登録制度についての賛成の御意見でしたけれども,それと併せて通知制度について,これを整備すべきだという御意見として承りました。
  そのほかいかがでしょうか。
○増田委員 先ほど,7の相続開始事実,遺言書保管事実の通知が,法務局から来るという,相続人のところに来るということであれば,何らかのメリットはあるのではないかと思いますが,原案であれば,恐らくは法務局が相続開始を知るのは⑥の相続人等の原本の閲覧及び正本の交付だろうと思われるんです。そのときに恐らく,それがなされた場合には……そうか,⑤か。⑤若しくは⑥ですよね。⑤若しくは⑥ですが,⑤の申出がされる場合には,⑧の手続を法務局がとらなければならないことになりますから,⑤の照会,⑥の申出等をする場合には,恐らくは相続人は相続を証明する書類,相続人を誰であるかということが分かる書類というものを全部そろえて法務局の方へ持っていかなければならないということになろうかと思います。そうなると,検認が仮に省略されたところで,手続を法務局にとるのか,裁判所にとるのかというぐらいの差しかないので,余りメリットはないのかなと思っていまして,7の相続人等の行為によらずに,何らかの形で法務局が相続開始の情報を知ることができるようなシステムができてから検討されてはいかがかなとも思っております。ただ,そのシステムができるかどうか,そのシステム自体についてのまた異論等はあるかもしれませんが,それがあって初めてメリットが出てくるのかなと思っております。
  8番の登録制度は,これは保管者とともに申請するという制度なんでしょうか,これ質問なんですけど。
○堂薗幹事 保管者が知らないところで登録されるということはないようにするという前提です。
○増田委員 その真実性というのは確認はしないと。要するに,遺言者と保管者が申請をすれば,それで登録,データベースに載せますよということなんですね。
○堂薗幹事 そうですね。
○増田委員 そういうことですよね。これを相続開始後に保管者が生きておれば,これも先ほどと同じように,保管者が生きておればこちらの方は機能するかもしれませんが,保管者が死んでいるとか法人が存在しなくなっているという可能性もありますので,これも何か法務局が独自に相続開始の情報を手に入れられるものがなければ何か機能しないような気はするんですが。感想のみです。
○大村部会長 ありがとうございます。8の作成事実のみの登録制度につきまして御意見を頂きましたが,7の「遺言書保管事実の通知」もかなり重要なものではないかという御意見を複数頂いております。どのくらいのものが考えられるのかということを含めまして,事務当局の方で更に御検討いただきたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。
  ほかに御発言ありますでしょうか。
  それでは最後の項目になりますが,21ページ以下,「第4 遺言執行者の権限の明確化等」に移らせていただきたいと存じます。この点につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,説明をさせていただきます。
  まず,「1 遺言執行者の一般的な権限等」についてです。
  中間試案からの大きな変更点といたしましては,①の規律につきまして,遺言執行者の一般的な権限に加え,民法第1013条の見直しについての乙案を踏まえたものとして記載しております。
  民法第1013条の見直しにつきましては,パブリックコメントにおいて,遺言の実現と取引の安全等を調和する観点から,乙案に賛成するという意見が多数を占めたところでもございますので,本部会資料においても,この観点からの検討を行っております。
  そもそも現在の判例上,相続させる旨の遺言等により権利を取得することとされた相続人は,相続により,相続開始後直ちに権利を取得するとされておりますが,他方で,権利を取得できないとされた相続人は,無権利者というふうにされております。この点については,第2の規律の見直しをすることによりまして,遺言執行者がいない場合には,受益相続人以外の相続人も,第三者との関係では,なお処分権限を有するということになります。
  このような場合に,乙案を採用いたしますと,遺言執行者がいると相続人は目的物の処分権限はないことになりますけれども,取引の安全を図る観点から,善意者保護規定を設けているということになります。ただし,仮に第三者が善意であれば,それだけで権利の取得を受益相続人等に対抗できるとなりますと,対抗要件の具備が不要になるということにもなりますので,甲案を採用する場合よりもかえって第三者が保護されることが多くなり,遺言執行者がその職務に支障を来すおそれがあるというふうにも考えられるところでございます。そこで,遺言執行者の職務の円滑な執行を確保しつつ,善意の第三者の保護を図ることにより,取引の安全を図るという要請の調和の観点からしますと,第三者が善意であることにより,治癒されますのは,遺言執行者がある場合には,相続人に処分権限がないことという点に限定し,第三者としては別途対抗要件の具備も必要とするという規律にすることが考えられます。
  本部会資料におきましては,この趣旨を明確にするために,①の本文におきまして,遺言執行者の権限を明確にするとともに,その場合に,相続人に処分権限がないこととし,①のただし書において,これをもって善意の第三者に対抗することができないものとしております。ただし,この①の書きぶりにつきましては,今のような趣旨は,この書きぶりでは読めないのではないかという御指摘もあろうかと思いますので,今後この点については更に検討する必要があると考えております。
  なお,善意の内容につきましては,パブリックコメントにおいては,遺言の存否及びその内容とする意見も相当寄せられたところではございますが,善意者保護規定によって治癒されますのは相続人の無権限であるという点にいたしますと,善意の内容も,その根拠となる遺言執行者がいることを知らないこととするのが相当と思われます。
  そのほか,「(1)遺言執行者の権利義務等」につきましては,民法第108条の規定を準用することについても明らかにしております。
  なお,通知の範囲につきましては,中間試案からの変更は特段ございません。
  続きまして,「2 個別の類型における権限の内容」についてでございます。
  特定遺贈がされた場合については,変更点はございません。
  遺産分割の方法の指定につきましては,権限行使を認める債権の範囲につきまして,変更点がございます。
  パブリックコメントにおきましては,預貯金債権について,遺言執行者にその払戻しをする権限を認めることに特段異論はございませんでしたが,他方で,遺言執行者に行使権限を認める債権の範囲については,預貯金債権に限られず,その範囲を広げるべきとする意見も相当数寄せられたところではございます。例えば,保険取引等におきましても,相続開始前にその保険期間が満了しているものですとか,遺言者の死亡後において,契約を存続させる余地がないものから生じる債権等については,遺言執行者の権限に含めるべきとする意見もございました。また,投資信託等につきまして,遺言執行者に基本契約から生じた個別の払戻しを受ける権限を付与すべきですとか,解約権限も認めるべきという意見もあり,他方で,その権限については認めるべきではないという意見など様々な意見が寄せられたところでございます。
  このような状況の中で,パブリックコメントにおいてほぼ異論がない預貯金債権についての行使権限についてのみ,その規定を設けることといたしますと,反対解釈がなされてしまい,現行の実務において,遺言執行者において問題なく払戻しを受けている債権につきましても,その受領権限を否定するという解釈がされるおそれもあり,他方で,預貯金債権以外の債権を含め,原則的な行使権限を認める範囲,これを網羅的に,明確かつ適切な規律を設けるということはなかなか困難とも思われます。そこで,遺言執行者の債権の行使権限を認めるかどうかについては,現行法と同様,解釈に委ねるのが相当と思われ,今回の提案といたしました。この点につきましては,是非何かよいお考え等があれば御意見を頂ければと存じます。
  最後に,「遺言執行者の復任権・選任・解任等について」ですけれども,変更点といたしましては,まず復任権につきましては,遺言者の意思の尊重の観点から,遺言者が別段の意思を表明した場合には,これに従うべきとする規律を新たに設けております。
  さらに,中間試案等におきましては,一部辞任や権限喪失等に関する規律も設けておりましたが,これについては削除することといたしました。その趣旨としましては,遺言執行者がある場合においても,受益相続人による単独での対抗要件具備を可能とする方策を設けるということについては既に御議論いただいたところでございますけれども,もしそういう規定を設けるのであれば,一部権限の喪失等の規定については,これを設ける必要性は相当程度低くなるのではないかと考えております。また,これらの件については,パブリックコメントでは反対意見自体は少数でありましたものの,遺言執行者の権限の範囲が不明確となり,取引の安全がむしろ害されるおそれがあるという意見ですとか,権限喪失につきまして濫用的申立てのおそれがあるということで,これらの規定を設けることに対して懸念する意見が寄せられたところでもございますので,これらの点も踏まえ削除するということといたしました。
  遺言執行者の選任又は解任の申立権者につきましても,中間試案におきましては,その範囲を限定しておりましたが,再度検討しましたところ,申立権者の範囲を限定する必要はないとする意見もパブリックコメントにおいては相当数ございました。また,これらの意見に賛成する意見におきましても,申立権者の範囲を積極的に限定した方がいいという点について言及する意見はむしろ少なかったという点もございましたので,これらの点を考慮し,この点につきましても現行法と同様,特に変更はしないということを提案させていただいております。これらの点につきまして御意見を頂ければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。「遺言執行者の一般的な権限等」につきましては,1013条を見直すに当たって乙案に立脚した考え方で検討する。その際に,第三者保護について一定の考え方をとるという御説明があったかと思います。
  それから,「個別の類型」に関しましては,遺言執行者の権限行使を認める債権の範囲について,預貯金の債権に限るかどうかということにつき幾つかの御議論があるわけですけれども,これについては特に定めずに解釈に委ねるということだったかと思います。
  それから3番目,「遺言執行者の復任権」につきましては幾つかの点を修正する,削除している部分もあるということだったかと思います。
  これらにつきまして御意見等を賜れれば幸いでございます。
○浅田委員 部会資料26ページの預貯金債権の行使権限について意見を述べさせていただきたいと思います。
  この点については,銀行界としては,まずは預貯金債権について払戻しができるということについて明確化を望んでいたところでありまして,繰り返しになりますけど,中間試案では,12ページの「4・(3)・③」では,現に①の財産が預貯金債権である場合には,遺言執行者はその預貯金債権を行使することができるものとするということとなっておりました。
  加えて,本部会資料26ページにありますとおり,この規律を設けることについては,この中間試案に対するパブリックコメントでも異論なく受け入れられているということと見受けられます。
  これは,現状の実務に照らして遺言執行者が預貯金債権を行使できるのは当然であると受け止められていることとの裏返しだと理解しておりまして,そうであれば,それを明確化することについて,抵抗はないものと考えております。
  今回御検討の中で,他の債権を考えたときに,確かに反対解釈の余地を生じさせるものかもしれませんが,その余地を生じさせない記載ぶりというのは法技術的に検討できるのではないかとは一応考えております。
  加えて,本点は解釈問題としても,従前のような解釈,現行法における解釈問題と異なり,この法案においては,遺言執行者というのは基本的な対抗要件具備をするということが職責だということが法律上明確化されるわけですが,そうすると,払戻しまでできるということの解釈論というのが現状よりは困難になるのではないかとも思われます。もちろんこの解釈論というのが,法解釈の問題になるのか,それとも遺言の解釈としてそうなるのかというようなこともあると思いますけれども,その点,例えば,本日机上配布の参考資料の遺言書の例によって,遺言書の2でシンプルに預貯金を相続させるというようなことで,いかなる解釈論が出てくるかというと,非常になかなか難しいかなと思ってしまったりするわけです。
  とはいえ,今私どもとして手元に明確な案というのがあるというわけではございません。これが,例えば契約書レベルであれば預貯金に限られないというような注書き的なものを書くということもあろうかと思いますけど,それは法技術的な制約があるということは理解しております。ただ,十分練られたものではないんですけれども,例えば,次回審議対象である預貯金債権の遺産分割性のところで,預貯金というのが特例として出てくるのであれば,これに加え仮払い制度であるとかいろいろな制度の設計と合わせ,相続に関する預貯金特則を一か所にまとめ,その中でこの規律も書くという対応もあり得るのではないか。そうであれば,その他の保険とかのものについてはオープンクエスチョンになる,というのもあるのではないのかと思いました。この点については,私どもも引き続き検討していきたいと思っておりますけれども,何とかしてこの支払い権限があるということは明確化していきたいと思っておりますので,引き続きよろしく御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御指摘として承りました。
  そのほかいかがでございましょうか。
○山本(克)委員 念のための確認ですが,先ほどの第2のときに,垣内幹事からの御質問でほぼ明確になっていると思うんですが,遺言執行者が当事者となって訴訟を起こし,あるいは起こされた場合の判決については,民事訴訟法115条1項2号の適用があるということをこの1の②は含んでいるんだと理解してよろしいでしょうか。訴訟担当の規定です。
○堂薗幹事 そういうことになるのではないかと思いますが。
○山本(克)委員 それなら結構です。
  それと,もう1点よろしいですか。
○大村部会長 はい。
○山本(克)委員 今,浅田委員のおっしゃった点ですけれども,相続財産に預貯金債権が含まれる場合には遺言執行者はそれを解約,払戻しを受ける権限を与えたものと推定するというような推定規定を置くというのであればそれほど反対解釈のおそれもないので,明示的に反対の意思を遺言書に書かれると払戻しができなくなりますけれども,それ以外の場合には推定されるんだということにしておけばかなりの部分,浅田委員のおっしゃった点は解消できるのではないのかなという気がしました。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえ検討したいと思いますが,その場合に,法制上の説明として,何で預貯金債権についてだけそのような推定が働くのかという辺りのですね……
○山本(克)委員 これは別の部会でも預貯金については議論に,こちらの方が部会長の部会ですが,それで道垣内弘人さんが委員でおられて,やはり預貯金の特殊性として現金に準ずるものということを強くあるコンテクストでおっしゃって,それを援用できるのではないか。
○堂薗幹事 そこは引き続き検討したいと思います。我々も法制上きちんと説明ができ,適切な規律ができるのであればそちらの方が望ましいとは思っておりますので,御指摘を踏まえ検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 私が言おうとしていたことを山本克己委員に今言われてしまったんですが,同じように,意思推定規定として置くことの合理性というのはあるのではないかと思います。
  更に言うならば,2の(2)の①,②の方法により執行することが不可能な場合であり,かつ譲渡制限債権であるという辺りがかなり特殊なケースであろうと思われますので,そもそも執行の方法が何ら定められていない,それを解釈に委ねるというのでは何か寂しい気がしますので,浅田委員,山本克己委員と同じ意見になりますが,是非何とかお考えいただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 御検討いただきたいと思いますが,先ほど山本克己委員のおっしゃった,現金に近い機能というのは確かにあると思うんですが,昨年末の最高裁決定は,その機能の面だけではなくて,契約や債権の性質,内容といいますか構造というか,そこに着目した特殊性を指摘しているわけですから,当然に同じようになるかどうかというのは別の問題かなと思います。また,遺産分割の対象になるかどうかということと,遺言執行者が行使できるかどうかということは別の局面ですので,他の類似の債権との切り分け方も違ってくるのではないかと思いますので,多面的に御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御指摘も踏まえて更に何か考えることができないかということについては御検討いただきたいと思いますけれども,その点に関して更に何か御指摘があれば伺っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。
  では,その他の点も含めまして一般的に御指摘を頂ければと思いますが。いかがでしょうか。
○水野(紀)委員 確認だけでございます。遺言執行者の辞任については相変わらず家庭裁判所の関与が必要であるという結論をとられたということでよろしいわけですね。
○満田関係官 はい,そうです。
○水野(紀)委員 ありがとうございます。相当大変な思いをする素人の遺言執行者が出てくるかもしれないという危惧は持っておりますが,その結論を確認いたしました。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○中田委員 細かいことなんですけれども,復任権について,民法改正法案の644条の2という復受任者と本人との関係についての規律が置かれているわけですが,それに対応する規定は特に必要ないということでしょうか。
○堂薗幹事 2項でしょうか。
○中田委員 はい,2項です。
○堂薗幹事 この部会資料ではそこまでは書いておりませんが,債権法の改正に沿った形で検討する必要があるのではないかとは思っております。
○大村部会長 御指摘ありがとうございました。
  そのほかいかがでございましょうか。
○山本(克)委員 復任権のところのただし書は,どこにかかっているのかがよく分からなかったんですが,前にある二つの文の両方にかかるのか,前者にのみかかるのか,どちらなんでしょうか。
○堂薗幹事 すみません,これは書き方が適切ではないと思いますが,最初の文ですね,第1文について例外を設ける趣旨です。
○山本(克)委員 そうだと思いました。第2文だとちょっと酷すぎるので。
○堂薗幹事 失礼いたしました。
○山本(克)委員 それと表見代理の可能性についてはどういうふうに考える,復任者が権限踰越した場合であるとかの表見代理の適用についてはどのように考えているんでしょうか。
○堂薗幹事 それは……
○山本(克)委員 一般によると。一般の任意代理と同じように考えると。
○堂薗幹事 同じように適用になるのではないかという気がいたしますが,検討させていただきます。
○大村部会長 よろしいですか。
  ほかにいかがでしょうか。この第4につきまして特に御発言ございませんでしょうか。
  事務当局の方はよろしいですか,何か。
  それでは,この第4につきましては,今頂きました御指摘を踏まえて更に御検討いただくということにさせていただこうと思います。
  これで本日の予定しておりました点につきましては御意見を頂くことができましたので,最後に事務当局の方から,今後の日程等につきまして御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 次回の日程でございますが,次回は,既に御案内のとおり2月28日火曜日の午後1時半からを予定しておりまして,次回は,先日の最高裁の決定を踏まえまして,可分債権の取扱いを含む遺産分割に関する見直しをテーマとして取り上げたいと考えております。場所は,本日と同じ,法務省地下1階の大会議室を予定してございます。それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞ御予定の方をよろしくお願い申し上げます。
  それでは,本日の審議これで終わらせていただきたいと思います。
  本日も御熱心な御討論を頂きまして誠にありがとうございました。
  閉会いたします。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第18回会議 議事録


第1 日 時  平成29年2月28日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時22分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第18回会議を開催いたします。
  まず,議事に先立ちまして関係官で新しい方がいらしておりますので,自己紹介をお願いいたします。
○宇野関係官 法務省民事局付をしております宇野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  次に,配布資料及び資料について,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○神吉関係官 関係官の神吉の方から配布資料の御説明をさせていただきます。
  まず,本日の配布資料でございますが,事前送付の部会資料18,「遺産分割に関する見直し等(中間試案の第2・三読)」と題する資料,それから,贈与税の特例に関する国会審議の抜粋をしたもの,こちらを事前に送付させていただいております。また,本日,机上配布の資料といたしまして,浅田委員から御提供を受けました資料といたしまして,「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見③」と題する資料を頂戴しておりますので御確認ください。
○大村部会長 ありがとうございました。
  本日はただいま御説明がありました部会資料18「遺産分割に関する見直し等」に基づいて御審議を頂くことを予定しておりますけれども,南部委員が早退をされるということで,最初に発言したいとの御希望を伺っておりますので,南部委員に御発言いただいてから具体的な審議に入りたいと思います。
○南部委員 ありがとうございます,御配慮いただきまして。1時間ばかりで早退しなければなりませんので発言させていただきます。
  第2の「遺産分割に関する見直し等」の3の仮払い制度等の創設についてでございます。これにつきましては,仮払い制度の創設ということで,16ページ,17ページです,甲案と乙案の2案を提案していただいております。甲案はまず家庭裁判所に申入れを行うことが必要となります。これは一般的に私たちが,なかなか,これは使いづらいのではないかいう思いはありますが,しかし,相続人の申立てによって生活費が必要であると裁判所に認められた場合には,一定額の支払いが認められるということで,預貯金を払い戻す必要に迫られた場合には有り難い制度かと感じます。
  また,乙案は家庭裁判所への申入れを経ずに払戻しができるということで,これは私たちにとって利便性が高いのですけれども,払戻額の問題がございます。預貯金債権額の一定程度ということで,更に限度額が定まっているということになりますので,例えば遺産分割が長引けば厳しくなるかなということも感じられます。そのため,できましたら,甲案,乙案の両方の併用ということも是非,御議論いただけたらと思っております。手続が現行より複雑化せずに,私たち一般人にとって使いやすくなる制度に是非していただくように今後の御議論をお願いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  今日は資料は四つに分かれておりまして,今,御指摘いただいたのは「仮払い制度等の創設・要件明確化」の部分でございます。甲・乙の両案が出ているけれども,どちらか一方ということではなくて両方を並存させるということも検討していただきたいという御要望として承りました。この点については後ほど,皆様の御意見を頂きたいと思います。
  以上が具体的な検討に入る前の案件でございますけれども,以下,この資料に基づきまして4項目の検討に入ります。最初が1ページの「配偶者保護のための方策」,その次が8ページの「可分債権等の遺産分割における取扱い」,そして,今,話題になっておりました16ページの「仮払い制度等の創設・要件明確化」,最後が,36ページの「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」という項目でございます。1項目ずつ御説明を頂きまして,皆様から御意見を頂くということで審議をしてまいりたいと思いますけれども,二つ目の「可分債権等の遺産分割における取扱い」が終わった辺りで休憩を入れようと思っております。
  ということで,まず,最初に「配偶者保護のための方策」につきまして,事務当局の方から資料の説明を頂きたいと思います。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から部会資料18につきまして御説明させていただきます。
  本日はお手元の部会資料のとおり,全部で39ページとなっておりまして,御議論いただくべき論点が多数ございます。事務当局からの説明はポイントを絞って簡潔にさせていただこうかと思っておりますが,説明が不十分な点があれば,遠慮なく御質問いただければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
  それでは,早速,1の「配偶者保護のための方策」につきまして御説明させていただきます。
  まず,ゴシックの提案部分ですが,甲案につきましては第15回部会におきましてお示ししたものと同じで,特に変更はございません。また,後ほど詳しく御説明いたしますが,乙案が今回,初めてお示しする案でして,一定の贈与等が行われた場合には,持戻し計算をしないという規定を設けたらどうかということを提案するものでございます。
  それでは,補足説明の部分につきましても簡単に御説明させていただきます。
  まず,甲案につきましては,持戻し免除の意思表示を推定するものですが,そのような推定規定を設ける根拠をどのように考えるべきかということを記載しております。基本的には,相続税法上の贈与税の特例を設けた趣旨に関する説明内容等を踏まえますと,婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与が行われた場合には,当該贈与を行った被相続人としては,当該居住用不動産については持戻し計算の対象としないという意思を有している場合が多いのではないかと考えられます。
  また,今回の諮問の趣旨にも示されているとおり,高齢化社会の進展等の社会情勢に鑑みますと,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活に配慮する必要性が認められるところ,贈与税の特例の対象と重なる長期間婚姻関係にあった配偶者間の居住用不動産の贈与につき,民法上も一定の措置を講ずることは配偶者の生活保障をより厚くするものと言えます。このように本方策のような贈与等が行われた場合に,持戻し免除の意思表示を推定する規定を設けることは,一般の経験則に合致するとともに,高齢配偶者の生活保障を図るといった政策的観点からもその合理性が認められるものであって,経験則及び政策的観点の双方から,その立法事実が根拠付けられるものであると言えるかとも思われます。
  5ページに移りまして,乙案の内容について補足して御説明いたします。乙案は一定の贈与が行われた場合に,持戻し計算をしないという規定を設けたらどうかという提案をするものでして,第15回部会におきまして委員の先生方から御指摘,御提案がありましたので,その内容を反映させたものでございます。
  もっとも,乙案につきましては贈与等を行う時点における被相続人の意思を前提としないものでございますので,贈与税の特例に関する説明をそのまま引用することは困難となります。そういたしますと,高齢配偶者の生活保障という政策的な理由のみでこれを根拠付ける必要があるところ,そのように考えると,どうして一定の贈与が行われた場合に,持戻し計算をしないという方法で高齢配偶者の生活保障を図る必要があるのかという疑問が生じることとなりまして,目的と手段との間の関連性,相当性について適切な説明を施すことができるか,なかなか,難しいのではないかと思われます。
  また,乙案を採用いたしますと,被相続人が居住用不動産を生前贈与したいが,遺産分割においてはこれを特別受益と扱ってほしいという意思を有していた場合に,これを実現することができず,その意味では,乙案は被相続人の財産処分権を制限する意味合いも有することになりますが,そこまでの効果を認めることに合理性があると言えるか,疑問があるようにも思われます。
  また,6ページの3の「配偶者の相続分の引上げについて」ですが,第14回部会において配偶者の相続分の見直しについては,パブリックコメントにおいて反対意見が多数を占めており,中間試案の方向性自体について国民的コンセンサスが得られているとは言い難い状況にあるとの御説明をさせていただきました。その点につきまして,委員等から「配偶者の相続分の見直し」の甲案については,婚姻期間中に増加した資産について清算を行うという基本的な考え方に合理性があるのではないか,また,婚姻後増加額の算定の困難性が指摘されているが,同様の制度を採用している他の国を参考に,指摘されている問題を解決することは考えられないのかなどの指摘がありましたので,フランス,ドイツの法制について事務当局が調査しました内容を記載しております。
  その内容につきましては,口頭での説明は割愛させていただきますが,要はフランスにおきましては,これまでも委員から御指摘いただいているとおり,公証人制度の存在によるところが大きく,我が国とは前提条件が大きく異なること,また,ドイツの法制については中間試案の乙案と類似しているところ,これは正しくパブリックコメントにおいて反対が多かった相続分を一律に引き上げるというもので,いずれもなかなか採用が難しいものと思われます。
  以上,1の「配偶者保護のための方策」につきまして御説明させていただきましたが,本日は,特に部会資料1ページのゴシック部分の甲案,乙案のいずれを採用すべきかの方向性につきまして,御意見を頂戴できればと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,お話がありましたけれども,甲案,乙案,二つの案が出ておりまして,それぞれの根拠についてどのように考えるかということを御説明いただいたものと思います。それと中間試案に至るまで議論しておりました配偶者の相続分の引上げに関する問題について,なお,検討の余地はないかという御指摘があったのを踏まえて,一定の検討をした結果が6ページ以下に書かれているということも御説明があったものと了解しております。甲案・乙案の当否ということを中心に御意見を賜れればと思います。どなたからでも結構ですのでお願いを申し上げます。いかがでございましょうか。前回,この問題をやったときに乙案のような考え方もあるのではないかという御指摘があり,それを踏まえて乙案を掲げて事務当局の方で検討した結果について御説明があったわけですけれども,いかがでしょうか。
○中田委員 私は甲案でいいのではないかと思います。乙案については御指摘のような根拠付けという意味で弱いということと,それから,効果がやや過大であるという印象がございます。他方で,甲案の根拠について,今回,詳しく検討していただきまして説得的だなと思いました。ただ,経験則という言葉の使い方が私にはよく理解できていませんで,聞けば持戻しの対象としないと答えるだろうというのを経験則というのかどうかがよく分からないのですが,こういった場合には定型的に意思の推定が可能であるというように理解いたしまして,それを経験則と呼ぶのであれば,そういうことだろうと思います。この案ですと,更に推定を覆す事実の認定による解決の余地もあって,それは具体的妥当性を図り得る余地を残しているということで,よろしいのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。説明の言葉遣いにつきましては,更に御検討いただくということにいたしまして,基本的には甲案の方向でよろしいのではないかという御意見として承りました。
  そのほかの委員・幹事の方々,いかがでございましょうか。
○窪田委員 今,中田先生から御説明いただいたとおり,甲案は今回の資料で説得的に説明がなされているのではないかと思います。特に相続税法との関係で,こう基礎付けることで制度も全体として非常にきれいに落ち着きが認められるということなのかなと思います。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。なお,乙案を検討すべきではないかという御意見がありましたら,是非,伺いたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。あるいは甲案・乙案の当否ということに限らず,どちらの案にしても生ずる問題というのもあろうかと思いますが,そうしたものも含めて何か御指摘があればと思いますけれども。
○石井幹事 今回の案ですと,いずれも対象は居住用不動産であると書かれているわけでございますけれども,前の居住権のところでも議論のありましたように,例えば一部が居住の用に供されていて,残り部分は居住以外の用に供されているといったような場合に,対象となる居住用不動産の範囲はどの部分かという点について,事務局としてイメージを持っておられるのであれば,差し支えない範囲でお伺いできればと思います。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。居宅兼店舗であった場合どうなるかというご質問になるかと思いますが,その点につきましては,部会資料15の20ページの(注8)で検討を加えております。詳しくはそちらをご覧いただければと思いますが,少なくとも居住用部分につきましては,この推定規定は当然働くのだと思うのですが,その余の部分についてまで及ぶというかどうかということにつきましては,居住用部分にこの規定が及ぶということを前提にその余の部分についても事実上の推定が働くと考えるのか,それとも,別途,検討を要するのかということにつきましては,不動産の構造や形態,また遺言の趣旨などによって判断が異なり得る可能性はあるかなと。
  ただ,一方で持戻し免除の意思表示というのは,一般に遺贈とか贈与された財産の全体について認められるかどうかが問題となりますので,一部について免除の意思表示が認定され,一部について認定されないという判断が実際にできるかどうかというのも,慎重に検討をする必要があるものと思われます。
○上西委員 そのときの部会資料でも御紹介があったかと思うのですけれども,税法の世界では居住用部分がおおむね90%以上の場合に全て居住用不動産として扱うことになっております。税法の場合はあくまでも課税上,要件を厳しくしておかないといけないということがあるので,90%基準が設けられていると理解しております。実際,対象となる家を考えた場合,元々,1階でお店をしていて,2階が居住用という場合なども,今回の居住用不動産の対象になるかと思います。何らかの形で居住用不動産を定義する場合,税法ほど要件を厳しくしない方がよいと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。非常に有益な指摘として承りました。居住用不動産の範囲をどのように画するかというのは,石井幹事の御指摘もありましたけれども,居住権の方とも関わってまいりますので,全体として最後はケース・バイ・ケースとならざるを得ないのかもしれませんけれども,一定の指針のようなものを更に考えることができるのであれば,考えていきたいと思いますが。
○増田委員 前回は乙案を提案したのですが,当時気になっていたのは,居住の保護を考えるのであれば,相続開始時に居住していなくても適用されるというのは不自然ではないかということでした。ただ,意思表示という構成をする以上,甲案でやむを得ないかなと今は思っております。その点で確認的な質問なんですけれども,甲案で適用される居住というのは,他方,つまり受贈者,受遺者側の居住という意味でいいということですね。
○神吉関係官 お答えいたします。今回の提案におきましても,「配偶者の一方が他方に対し,その居住の用に」という形で記載しておりまして,この「その」というのは「他方」に掛けているということになりますので,基本的には受遺者又は受贈者の居住の用に供しているものと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 遺産分割の持戻し免除の意思表示の推定規定という話とは少しずれてしまいますので,躊躇しながらですが,一言だけ申し上げます。日本の離婚法は自分の離婚意思に基づかずに離婚を強制されないという1点でだけ,配偶者保護や婚姻保護を図ってきたところがございます。離婚しないまま長期別居になっている不和な夫婦のケースで,夫名義の居住用不動産に妻子が住んでいた場合に,夫がそれを嫌がらせで売却してしまい,妻子の居住が危うくなってしまうことが,判例の事案でも間々,見られます。
  離婚給付も諸外国に比べると非常に低額ですので,そういう意味では,家族居住権の保護という全体の枠組みの中では,このような配偶者の,つまり,所有者の意思だけにその正当性を係らしめるという形で議論することには,やや,ためらいがあります。本当はそういう場合の家族居住権まで視野に入れた上で全体像を説明する方がいいように思うのですが,ここで何らかの画期的提案とか具体的な提案はもっておりません。ここまでいろいろ議論をした末,持戻し免除という点でだけ議論を絞ってくださっていますので,あえてそれに反対するつもりもございません。ただ配偶者や家族の居住権保護という意味では,日本法はとても貧弱であるのに,今回の改正がそういう現状を追認することになりはしないかと危惧するとともに,大枠ではもっと改善されるべき根本的な問題が横たわっているという問題意識を持っておりますので,そのことだけ,申し訳ございませんが,一言,発言させていただきます。
○大村部会長 ありがとうございました。本提案には御賛成だという前提での御発言と伺いましたけれども,配偶者の居住の利益の保護については,この場面以外にもたくさんの場面があろうかと思いますけれども,これを行うことによって,そういうものが封ぜられるということではなくて,それへの第一歩として位置付けられるかと思います。それから,政策的観点というのも短期的な政策というよりも,高齢者あるいは配偶者の居住の利益が重要になってきているという大きな流れとして捉えるならば,また,この先の展開もありうるのではないかと思いつつ,御意見を承りました。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○西幹事 すみません,また,前回の話の繰り返しになってしまいまして,大変恐縮ですけれども,居住用不動産だけに限るという限定を付された理由について幾つか述べられているのですが,どうも今一つ納得できないところがありますので教えていただければと思います。配偶者相続分の「一律」引上げには反対だというのが恐らくパブリックコメントの大勢だったと理解しておりますが,一律引上げに代わるものを考えるのであるとすれば,居住用不動産に限定しない方が素直なのではないかという気がいたします。
  今回,2ページの下のところから居住用不動産に限定する理由が書かれています。①では,その他の財産も含めるとすると配偶者以外に与える影響が大きいということが書かれていますけれども,配偶者以外の相続人にとって特に都心であれば一番重要な財産こそ不動産だと思いますので,むしろ,居住用不動産の方が影響が大きいのではないでしょうか。
  ②では居住用不動産以外の財産の贈与については持戻し免除の意思表示を有しているとは限らないと,一概には言えないと書かれていますけれども,一般の感覚では贈与したものは持ち戻すものだということ自体,むしろ,認識していない人の方が多いように感じます。つまり,上げたら上げたで相続はまた別だと思っている人も多いように思います。③のところでは,今は9割ぐらいの人が持ち家を有していると書かれているのですが,今,全世帯では表によりますと60%強が持ち家,高齢者の世帯が9割ぐらい持ち家ということが分かります。今は6割くらいの人しか持っていなくて,あと30年後に9割に達するとは,時代背景を考えると必ずしも言えることではないように思いますので,今の高齢者世帯の状況のみを基に制度設計するということでは数十年後はどうなのかなという気がいたしました。
  それで今一つ納得できなかったのですけれども,もう少し前回から申し上げたことを繰り返させていただくと,配偶者の居住用不動産の保護というのは居住権保護のところでも検討されていますので,今回,甲案でも乙案でもどうも居住権保護と重なるというか,趣旨の違いが説明しにくいところがあるように思います。利用権ではなく所有権として与えるという点は完全に違うのですけれども,ただ,目的と効果はそれぞれ一部,通じるところがあると思いますし,特に乙案のように,相続開始のときにおいて居住の用に供していたという限定が付きますと,より居住権保護に近付いて,その違いが見えにくいということがあると思います。
  更に一概には言えませんけれども,持ち家の夫婦よりも恐らく借家住まいの夫婦の方が他方配偶者の死後の生活保障の問題というのは深刻になるように思いますので,この観点からも,持ち家の場合に限定するというのがどうもまだ納得できないところがあります。もう少し居住権保護とのすみ分けとか,あるいは持ち家の場合に限る決定的な理由というのがあれば教えていただきたいと思います。
○大村部会長 西幹事の御意見は,居住用不動産に限らずに,こうした制度を導入したらよいのではないかという方向の御考えに立った上での御質問ということですね。
○西幹事 はい。もちろん,限定するのでも構いませんけれども,その理由が居住権保護との関係で今一つ納得できないということです。
○神吉関係官 御説明させていただきたいと思います。居住用不動産に限定する理由として,部会資料では様々なものを掲げておりますが,理論的には2ページの②の理由というのが一番大きいのではないかなと考えております。相続税法における贈与税の特例の立法趣旨の説明からすると,居住用不動産を生前贈与した場合には,通常は持戻し免除の意思表示を有していることが多いだろうとは言えるかと思うんですけれども,そのほかの財産を贈与した場合に持戻し免除を有しているかどうかというのは,これまでの説明からすると果たしてよく分からないだろうと思われます。
  先生の御意見のように,もしかしたら被相続人としては,そういう意思を有していたのかもしれないとは思うのですが,そこは民法の建前からすると違うのではないか,民法は基本的に持戻し免除の意思表示を有していないということを前提として,被相続人がそれを表した場合には持戻し免除をするという建付けをしているかと思います。民法を改正して,生前贈与があった場合は原則として全て持戻し免除をするんだと,ただし,被相続人が別段の意思を示した場合にはこの限りでないというような制度とすれば,そこまで含めて全部改正をするということであればあり得るかと思うんですけれども,なかなか,そこまではコンセンサスが得られるのは難しいのではないかなと思われます。そのようなことを考え,また,これまでの立法の説明からすると,持戻し免除の意思表示を推定するとしても,居住用不動産に限るのが相当なのではないかということで,居住用不動産に限った提案をさせていただいているというところでございます。
○垣内幹事 甲案が導入された場合の影響について,制度趣旨との関係で少し教えていただきたい点がございまして,と申しますのは,今回の御提案は乙案も含めてかと思いますけれども,基本的には相続税法上の贈与税の特例というものを非常に強く意識して,要件設定等がされているものかと思われます。ただ,税法上の特例というのは,適用するか,しないかのいずれかであって,20年というのはかなり一義的にそれを分けていくということになると思うんですけれども,甲案のように被相続人の推定的な意思のようなものに基礎の一端を置いている制度を考えた場合には,被相続人の意思が19年,婚姻から経ったところで贈与した場合と,21年たったところで贈与した場合とで,180度違うというようにはなかなか考えにくいところかと思われますので,そう考えますと,20年が経過していないものに関しても,この制度の類推ですとか,あるいは事実上,何かそういった意思が推認できるといったような考え方というものが出てき得るのかなという感じを少し持ったんですけれども,その点について何か御検討されているところがあれば,お教えいただければと思います。
○神吉関係官 御回答させていただきます。垣内幹事の御指摘のとおり,21年目に行われた生前贈与と18年目,19年目[m1]の生前贈与とは,それほど違わないのではないかということは正しくそのとおりかなと思っておりますので,このような制度を設けることによって,18年目,19年目に仮に生前贈与した場合についても,事実上の推定が及びやすくなるということは,そういった効果はあろうかと思っております。ただ,一方で4ページに税法上の現在の贈与税の税率を記載しておりますけれども,かなり高い税率が課されておりますので,1年,2年待てばこういった控除があるにもかかわらず,18年目,19年目にあえてするという人がどこまでいるかという問題はあろうかなと思っております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
○窪田委員 先ほどの西先生の御意見を正確に理解しているかどうか分かりませんし,また,今の段階でこういう問題提起をすること自体が適当かどうかもよく分からないのですが,西先生の御意見は恐らくここで示されている持戻し免除の話を居住用不動産以外にも広げましょうということよりは,むしろ,ここでの持戻し免除という話が,相続分の見直しというのがどうも見送られそうだという経緯の中で扱われたということを踏まえた上で位置付けられるものだとすると,何で居住用不動産に限定されるのか,もっと一般的な方法はないのかという問題提起だったのかなと私自身は理解しております。
  その上で,ここから後,本当に今の段階でこういうことを問題提起することが適当なのかどうなのか分からないのですが,確かに甲案,乙案とも相続分の見直しについてはパブコメの状況を見ていても非常に厳しそうな状況があるとなったことをふまえ,中間試案では積極的には取り上げられていなかったのですが,寄与分についての見直しをもう一度検討するという可能性はないのだろうかという点です。今の段階で,そういうことを申し上げるのが適当かどうか分からないと申し上げましたけれども,中間試案の段階では寄与分についての見直しは相続人以外の者に限る検討,相続人ではない者の貢献に限って,この問題を取り上げていたということがあります。
  確かに法制審で寄与分に関しては,非常に消極的な意見というのもありましたし,そうした状況の中で,配偶者の療養看護型であるとか,より一般的な寄与分の見直しは見送られたという経緯があります。ただ,一方では,恐らくあの段階では相続分の見直しの中で,事実上,そうしたものを反映させることが可能なのではないかということが前提となっていたのではないかという気がいたします。仮に相続分の見直しということを完全に見送るとなった場合に,寄与分の方は見送ったままで改めて検討しなくてもいいのかという点が問題となる余地があるように思います。恐らく西幹事の問題提起を正面から受け止めようとすると,それぐらいしか選択肢がないのではないかという気がしたものですから申し上げた次第です。ただ,かなり法制審もすでに終盤となっておりますので,今の段階でこうしたことを申し上げて,改めて絶対に検討してくださいという趣旨ではなくて,少し考えてもらう余地がないだろうかという点をお尋ねする趣旨の発言だと御理解ください。
○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かるんですが,御指摘のように寄与分で手当てをするということになりますと,どういう形で配偶者の寄与を考慮しやすくできるのかというところが非常に難しいところでございます。少なくとも現行法ですと,配偶者として通常期待される程度の貢献を超える場合に寄与分が認められるということですので,配偶者の通常程度の貢献が長期間に及んだからといって寄与分の要件に該当することにはならないように思われます。現行の寄与分制度では,その点がネックなのではないかということで,中間試案の甲案のような考え方もお示ししたところなんですが,実務的にワークする形で実質的に配偶者の貢献を考慮するのは難しいというところがございます。
  ただ,先ほどの西幹事の御意見にもございましたように,ここで居住用不動産に限定しておりますのは居住用不動産,そういう非常に価値のあるものを贈与したということであれば,それは特に配偶者の貢献に報いるという趣旨が強いのだろうと。しかも,居住用不動産というのは正に生活の基本となるものですので,配偶者の生活保障という観点からも,贈与者の意思としては本来の法定相続分より多く与える趣旨だったのだろうと。そのような経験則が成り立つのではないかいうことで,この場合に限っているわけですが,居住用不動産でなくても同様のことが言えるのであれば,先ほどと同じような形で,この規定を根拠に事実上の推定を働かせるという解釈があり得るのではないかというようにも考えております。今回の方策は,配偶者の貢献を実質的に考慮するのが難しいので,それに代わるものとして,被相続人の意思を根拠に実質的に配偶者の取り分を増やすような形にできないかということで検討したものです。
  寄与分についても,更に検討はしてみたいと思いますが,要件を緩和するとしても,具体的にどのような形で緩和するかというところは,なかなか難しいなという印象を持っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。外縁の明確なものを取り上げて,できる範囲で制度化しようということでお考えいただいたと思っております。その上で,先ほどの垣内幹事の御発言もありましたけれども,また,今の堂薗幹事の御発言にもありましたけれども,仮にこういう制度ができるということになりますと,これを基礎にして先ほど西幹事がおっしゃったように,一定の場合にはそもそも持戻し免除の意思があったと考えるべきではないかという解釈が広がってくるということも,期待できるかもしれないと思います。西幹事の御発言の中には,もう一つ,持ち家保護ばかりでよいのかというご意見,これは西幹事が以前からずっとおっしゃっていることもあろうかと思いますけれども,この点についても今のような形で実質的な配慮を及ぼしていくというのがこの案の考え方かと理解しております。
  ほかに何かございますでしょうか。
○八木委員 相続分の単純な引上げというものはなかなか困難だということで,対案として配偶者保護のための案を出されたと思うんですけれども,私は相続税法上の規定を民法でも確認するということに大きな意義があると思います。基本的に賛成です。書かれているところでありますけれども,2ページに立法事実の根拠付けとして,経験則と政策的観点ということが書かれていますが,特に政策的観点について高齢配偶者の生活保障を図るという点が挙げられているんですけれども,なぜ,そうしなければならないのかという点がここだけだと分かりにくいので,更に強調される方が一般には受け入れられやすいのかなと思います。意見です。[m2]
○大村部会長 ありがとうございます。今の点も含めまして,説明は十分に分かりやすいものを工夫していただきたいと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
  それでは,御意見を踏まえて甲案をベースに更に細かい点について御検討いただくことにしたいと思います。説明については,本日,ご指摘がありましたように,この先の展開を阻むことがないような形の説明を工夫していただくということにさせていただきたいと思いますけれども,今日のところはそれでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  それでは,次の項目に進ませていただきます。「可分債権等の遺産分割における取扱い」ということで8ページ以下になりますけれども,事務当局の方からまず説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,資料の8ページからについて御説明させていただきます。
  本部会資料の2「(1)遺産分割の対象に含まれる債権の範囲等に関する規律」の甲案及び乙案は,中間試案における甲案及び乙案にそれぞれ対応するものとなっております。他方,丙案ですが,これは平成28年12月19日の最高裁決定によって判例が変更され,預貯金債権が遺産分割の対象に含まれることとされたことを前提とした上で,遺産分割の対象に含まれる債権の範囲等については規律を設けず,他に相続を原因として債権を取得した場合についての対抗要件に関する規律,これのみを設けるものとする案となっております。なお,これに伴い,従前は甲案及び乙案の中で記載していた債務者その他の第三者に対する対抗要件に関する規律,これは別に(2)として記載しております。以下,順に御説明させていただきます。
  まず,「遺産分割の対象に含まれる債権の範囲等について」ですが,平成28年12月19日の最高裁大法廷決定は,従前の判例を変更し,預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示しました。本決定は,ある可分債権が遺産分割の対象に含まれるか否かを検討するに際し,当該債権を遺産分割における調整要素として遺産分割の対象に取り込むことの必要性及び相当性,当該可分債権の内容及び性質や,その発生原因となった契約の性質等を考慮して検討を加えているものと考えられます。そして,このような視点は,立法論として遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲を検討するに際しても参考になるものと思われます。
  中でも,当該債権を遺産分割における調整要素として遺産分割の対象に取り込むことの必要性や相当性は,このような可分債権は,これを遺産分割の対象に含めることにより,遺産分割における調整要素として機能することを期待することができるとともに,紛争の複雑困難化を招くおそれが少ないという点で,遺産分割の対象に含めるべき可分債権の範囲を検討する上で重要な視点であると考えられます。
  この点に関しまして,預貯金債権以外の可分債権で遺産分割の対象に含めることが考えられるものとしては,売買代金債権,貸金債権,賃料債権などの契約に基づく債権や,不法行為に基づく損害賠償請求権,不当利得返還請求権などが考えられますけれども,これらの債権は一般にその存否及び金額が争われることが少ないとは言えず,また,確実な支払いが見込めるとも言えないものであって,遺産分割における調整手段として有用であるとは必ずしも言い難いものと考えられます。
  また,可分債権を広く遺産分割の対象に取り込むことによって,特別受益や寄与分による調整が可能となり,相続人間の公平を図ることができるという一方で,その存否及び金額が争われることが類型的に多いと考えられるものまで遺産分割の対象に含めることについては,本部会においても,遺産分割事件の長期化を招くおそれが大きいとして反対する意見もあり,パブリックコメントにおいても同様の懸念が示されたところでございます。
  また,本決定におきましては,預貯金債権が遺産分割の対象となる根拠について,普通預金債権及び通常貯金債権と定期貯金債権とでは,異なる理由付けがされているものと解されます。そして,これ以前の判例におきましても,相続財産に属する株式,投資信託受益権,国債等について遺産分割の対象となる旨の判断が示されておりますが,その理由付けはそれぞれ微妙に異なっております。このように,判例におきましては,相続財産に含まれる権利が形式的には可分であると考えられるものにつきましても,その権利の内容や性質,その権利の発生原因となった契約内容等を子細に検討した上で,当該債権が相続の開始により当然に分割されるものであるか否か,ひいては遺産分割の対象となるか否かといった点を判断しているところでありまして,こういった要件を一般化,抽象化して法律上の要件として定立するということは,かなり困難であるものと考えられます。
  以上によれば,今回の見直しにおいても可分債権一般を遺産分割の対象に含めることはしないことが相当であると考えております。
  また,本決定を前提にいたしますと,相続財産に属する債権につきましては,形式的,観念的には相続開始時における各相続人の法定相続分相当額を算定することができるものにつきましても,当然に分割されて遺産分割の対象になるもの,また,当然に分割するのは相当ではなく,各相続人の準共有となり,遺産分割の対象とはならないものと,こういったものに分かれることと考えられますけれども,現時点において,遺産分割の対象財産に含まれるのか否かの判断基準を一般化,抽象化して法規範とすることは,困難であると考えられます。仮にこの点を立法化するのが相当であるといたしましても,更なる判例の集積,学説による理論的検討が成熟した段階で,再度,検討するのが相当ではないかと考えているところです。そうしますと,今回の法改正においては,遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲等については特段の規律は設けないこととすることが考えられます。
  なお,仮に丙案を採用することになるのであれば,預貯金債権以外の可分債権一般につきましては,現行法と同様に,相続開始と同時に当然に分割され,個別に権利行使が可能であるとの扱いをすることで足りるものと考えられます。
  他方,預貯金債権につきましては,相続開始後遺産分割終了までの間,これを行使することができなくなる相続人の不利益を回避するために,遺産分割終了までの間,権利行使を認めることも考えられるところです。もっとも,預貯金債権を遺産分割の対象に含める趣旨が,その現金類似性に着目し,遺産分割における調整機能を果たすことに期待することにあること等に鑑みますと,遺産分割終了までの間,預貯金債権の行使を原則として禁止することには,相応の合理性があるものと考えられます。そういたしますと,預貯金債権の行使を遺産分割終了までの間,原則として禁止することとした上で,相続人の資金需要に対しては,後ほど御議論いただきます仮払い制度,これによって対応することも考えられるところでございます。これらの点について御意見を頂ければと存じております。
  次に,「相続人が相続を原因として債権を取得した場合の規律」について,(2)の部分につきましては,中間試案から大きな変更はございません。ただ,中間試案におきましては,相続人が遺産分割により法定相続分を超える割合の可分債権を取得した場合を念頭に置いて規律を設けておりましたが,本部会資料におきましては,この規律の適用場面をこのような場面には限定しておらず,相続人が法定相続分に基づいて債権を行使する場合であっても,相続人の範囲及びその資格を明らかにする書面を交付することを要求することとしております。
  その理由といたしましては,このような規律を設けた趣旨というのは,相続による債権取得の場面では,債権譲渡の場面と異なって,債務者は通常相続人が誰かということを知らないということにありますけれども,このような事情は相続による債権の承継があった場合一般に妥当するものであるという点を考慮したことによるものです。また,債務者が一定の書面を示された場合に,その場でその内容を検討するのは困難であるということから,この点については書面の交付を必要とするということにしております。
  説明としては以上でございまして,以上の点について御意見を頂戴できればと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。従前,甲案,乙案を検討してまいりましたけれども,これまでにもこの部会で御紹介がありました最高裁判決が出ております。我々としても,この判決の内容を見た上で,更に検討するということにしていたところでございます。今回は,この判決についての一定の理解を示していただいた上で丙案が新たに提案されており,それについての御説明を頂いたと理解しております。
  この点につきましては,浅田委員の方から資料を出していただいておりますけれども,まず,御発言を頂くということでよろしいでしょうか。
○浅田委員 ありがとうございます。本日は,昨年末の最高裁大法廷決定を受け,可分債権の遺産分割における取扱いに関して,今後の審議の方向性を検討する場であるとのことですので,少々,お時間を頂戴しまして私どもにおいて作成し,お手元に配布させていただいた青いペーパーに従って意見を述べさせていただきたいと思います。
  結論から先に述べますと,私どもの意見は相続の場面における預金債権の重要性に鑑み,預金債権の遺産分割における取扱いを明確化することが望ましいということです。参考までですが,平成29年1月に内閣府が取りまとめた平成27年度の国民経済計算年次推計では,平成27年末の家計の資産残高2884.4兆円のうち,現金を含める数値ですが,現預金は920.2兆円となっており,土地の682.5兆円を超え,大きな割合を占めています。預金はこれほど国民経済上,重要な資産ですので,国民に分かりやすく,かつ明確な立法が必要だと思われます。
  それでは,お手元の「可分債権の取扱い等に関する意見③」という資料を御覧ください。1枚おめくりいただき,2枚目はさきに結論を述べた意見に関するものでして,3枚ものです。3枚目は明確化を求める理由としての現時点における実務上の課題を記載しているものです。
  まずは2枚目にて説明いたします。これまでの経緯は御認識のとおりでございますが,可分債権を遺産分割の対象とすることで,相続人間の実質的公平を図るものとの命題の下,甲案,乙案等を検討してきました。そして,この命題の下,公平な分割を円滑に実現するという観点も加味し,これまでの法制審議会における議論において,支払免責の考え方を含む預金の円滑な払戻しの実現方法など,各種方策についても明確化の方向で検討されてきたものと認識しています。すなわち,ここが重要なポイントと考えているものですけれども,これら議論の過程において実体的な法律関係や分割手続における権利関係についても検討し,議論を重ねたことで立法提案分のみならず,解釈論においても一定の明確化が期待でき,立法後の円滑な遺産分割の実現を可能とする土台ができてきたと認識しております。
  このような議論の中,最高裁大法廷に預貯金債権の遺産分割制に係る案件が係属したとの報に触れ,一旦,その判断を待ってから,今般,本論点を改めて検討する運びになったわけです。今般の最高裁大法廷決定は,預貯金債権に係る遺産分割制を肯定し,また,遺産分割までは単独行使できないと判示しています。これは結論において乙案と同じものを評価でき,すなわち,乙案の方向性を最高裁としても支持したものと言えると思います。ただ,残念ながら具体的な紛争事案解決のための法的判断のみを求められるという裁判所の役割からの制約で致し方ないものでありますけれども,当該最高裁大法廷決定では,結論は明瞭である一方で,実務運用面では不分明さが残っており,実務上の課題が生じたのも事実です。例えば鬼丸判事の補足意見にもありますとおり,相続関係後の入金分を念頭に具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価格をどう捉えるかという課題を含め,別途,御説明します3枚目のような課題が生じています。
  これら実務課題については,もちろん,私どもを含めて実務担当者において,克服するための努力をすることが求められておりますけれども,現実問題としては,その克服には時間が掛かるものと思われ,他方で,相続案件は待ってくれませんから,相続人間における公平な相続の円滑な実現が達成されるまでには相応に時間を要することになってしまわないかと考えます。かような危惧を前提にいたしまして,また,これまでのこの審議における議論の積み重ねを想起したとき,正にこれまで議論してきたことを基に,また,冒頭に申し上げた預金の重要性に鑑み,例えば乙案をベースとして最高裁大法廷決定やその補足意見を踏まえつつ,明文化することが正に公平性の円滑な実現の最も近道ではないかと考えます。
  なお,もう少しお時間を頂きまして,お手元資料の3枚目を用いまして,最高裁大法廷決定を受けた実務上の課題について簡単に御説明させていただきたいと存じます。
  まずは預金債権の位置付けとして,準共有か可分債権か,又はそれ以外の性質を有する債権かということであります。なお,この区分に関しては可分債権,不可分債権以外に学説では共同債権の区分等が提唱されている議論がありますけれども,ここではこの区分で話させてください。
  預金契約の地位は,準共有と,本決定では明記されている一方で,預金債権については補足意見や意見にて準共有とあるのみですので,法廷意見では不分明と存じます。今回の部会資料では準共有とのことですが,これまでの議論によると,この法的評価については意見が分かれ得るように感じます。この結果,被相続人が負っていた債務と相続預金との相殺の可否,相続に対する債権者が相続預金に対して差押えをすることができるのか,また,その対象は相続持分なのか,預金債権なのかといったところが実務上,課題となってきます。現に,私が所属する銀行には大法廷決定後に相続預金に対する差押命令が来ましたが,当該命令を発した裁判所も,その差押えが金銭債権の差押えか,その他財産に対するものなのか,特定せずに発したという事例が生じています。
  次に,②に書きました相続開始後の入金の取扱いです。最高裁大法廷決定では,預金債権は1個の債権として同一性を保持しながら常に残高が変動し得るものであり,これは預金者が死亡した場合でも異ならないと判示しており,相続開始後の入金も預金債権となることを明示していますが,その際の入金分についてはどのように取り扱われるか,さきの鬼丸判事の補足意見のとおり,判然としません。また,ここも最高裁で多数,補足意見で触れられていますが,葬儀費用や生活資金等の緊急の資金についてどうするかです。この点は次の論点でも議論されるので割愛します。更に最高裁大法廷決定の射程として,定期預金が含まれるのかといった点も不分明であり,実務上の課題となっています。
  お時間を頂きありがとうございます。あと,仮払い制度についてもは意見がございますけれども,ここでは私からは以上であります。
○大村部会長 ありがとうございました。2ページ目の最後のところにもありますけれども,明文化が必要ではないかという御意見として伺いました。
  その他の方々,この点につきましていかがでございましょうか。御質問等も含めて頂戴できればと思いますが。
○窪田委員 ごく形式的なことなのですが,前半部分で最高裁決定を受けて基本的には債権の範囲についてむしろ規律しないというのは,あり得る選択肢なのだろうと思います。ただ,その上で仮払い制度の規定を置くとすれば,その中では預貯金債権とかということを前提として,それについての規定を置くということになりますよね。その部分はそれでもいいのかなという気もいたします。一方で,預貯金債権についての規律を置かないで,仮払いの部分でだけ出てくるということに特に問題はないのか,それについては大丈夫でしょうか。
○大村部会長 後の点にも関わっているかと思いますけれども,今の段階での御説明を頂いておいた方がいいのではないかと思いますのでお願いします。
○堂薗幹事 確かに仮払いのところで,甲案であれ,乙案であれ,制度を設ける場合には,当然の前提として預貯金債権は遺産分割の対象となるということが法律上も明らかになるのだろうと思います。甲案の場合は家事事件手続法の特則として書くということになりますので,民法上は必ずしも明らかにはならないということかもしれませんが,仮に乙案のような制度を設けるということになりますと,恐らく民法に規定を置くということになりますので,そういった意味では,乙案を採用すれば民法上も預貯金債権が遺産分割の対象となることが明らかになるのではないかと考えております。
○大村部会長 今の堂薗幹事の説明は,仮払いの規定を置くことによって預貯金債権の取扱い自体は一定程度,明らかになるのではないかという御説明だったかと思いますけれども,窪田委員はむしろ何か齟齬が生じないかというニュアンスで発言されましたか。
○窪田委員 ご説明はあり得るのだろうという気はするのですが,ただ,一方で預貯金債権についてだけ規定を置くと反対解釈されるのではないか,だったら,規定を置かない方がいいのではないかということとの関係で全く問題はないのかなという点が,気になったという趣旨です。
○堂薗幹事 遺産分割の対象となる債権について,どういう基準でその範囲を画するのかというところを明確にするのは,その要件設定が難しいのではないかと思います。他方,預貯金債権が遺産分割の対象となるということを正面から書くと,それは反対解釈のおそれがあるということなのではないかと思うのですが,仮払いのところで書く分には,少なくとも預貯金債権が遺産分割の対象となるということが前提になるわけですが,それ以外については何も述べていないということになりますし,飽くまで裏から書いているにすぎませんので,表の部分については何ら明らかにしていないということになるのではないかということで,今回の部会資料ではそのような形にしているところでございます。
○大村部会長 窪田委員,よろしいですか。
○窪田委員 ちょっとだけ補足させて頂きます。私自身も預貯金債権以外の債権については,当然,分割承継されるというようなことを規定するのは,やめたほうがいいだろうと考えております。今後もまた例外が広がっていくかもしれませんから,いまの時点で可分債権についての原則を規定することは避けた方がよいと思います。ただ,そうは言いつつも,預貯金債権というのが多分,遺贈の中で占める位置というのはすごく大きいことも確かです。それに関してほぼ明確なルールが判例によって示されて,そして,今回の仮払いの仕組みをそれを前提として書いているんだということになると,反対解釈の危険性はあるのかもしれませんが,預貯金について明示的な規定を置くというニーズはそれなりにあるのではないかという気がいたします。ただ,絶対に設けろというほど確証を持って発言しているわけではありません。その点だけ意見として申し上げておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 反対解釈の御指摘がありましたので,部会資料であれば13ページでありますけれども,意見を述べさせていただきます。基本的には先ほど述べたとおりでありますけれども,そういう解釈の問題が出てくるということは認識しておりますし,ゆえに法制度上,難しいという点も理解するところではあります。しかし,繰り返しになりますけれども,預貯金債権における重要性というのが,債権法のときにも出てきたときのような国民に分かりやすい民法という観点からも,民法に明確化するということは意義があるのではないかということであります。
  その上で,技術的な話というのは私の能力を超えるところでもあるわけですけれども,例えばこれが契約実務であれば,民法にそぐわないかどうかは別として,これらに限らない,というような書き方で限定解釈されないような書き振りというのはあり得る話だと思います。考えるに,債権法の改正の場合においても,新しい用語というのが出てきたと思います。インターネットというような言葉も,初めて出てきたと私は認識しているわけなんですけれども,ゆえに必要であれば,そのような表現振りというのは考え得るのではないのかと思った次第であります。是非とも御検討いただければと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○窪田委員 1点だけ補足ということになりますけれども,恐らく預貯金債権は遺産分割の対象となるとか,そうしたかたちで書くと,その例外の話というのが大変問題になると思うのですが,相続における預貯金債権の扱いということで,仮払いまで含めた上での一つの規定として置くのであれば,比較的容易に,預貯金債権についての独立の規定という位置付けもできるのかなという気もします。これは御検討いただけたらということですが,それをお願いしたいと思います。
○浅田委員 単にテークノートしていただきたいということなのでありますけれども,先の債権法改正の案には預貯金という言葉が3か所,3条あると思います。その技術的な方法の一つとしては,預貯金の特則ということを集めて章か節か款か分かりませんけれども,こうすれば反対解釈リスクというのも,技術的には克服可能の余地もあるのではないかと思います。
○大村部会長 預貯金について明確化するのが望ましいのではないかという御意見が出ております。事務当局の方からは次の仮払いのところで規定を置くとすれば,それによって一定程度は明らかになるのではないか,そうでない形で書くと,どこまでを認めるかという問題について不安定な要素を残すことになるという趣旨の御説明があったかと思います。両方の立場があろうかと思いますけれども,他の皆様の御意見を伺えればと思いますが,いかがでございましょうか。
○増田委員 今の質問には対応していないんですが,今回の御提案の甲案,乙案というのは,現行法でも判例上預貯金は遺産分割の対象となるということを前提とした上で,一般的な可分債権についての御提案という理解でいいわけですか。
○堂薗幹事 今回の甲案,乙案は,中間試案の甲案,乙案をそのまま再度取り上げたものです。もちろん,中間試案でも,預貯金に限定すべきだという御意見もございましたが,それ以外の可分債権も含めて甲案,乙案という形で出させていただいておりましたので,それを今回の部会資料でももう一度お示ししたということでございます。
○増田委員 とすると,判例が預貯金以外にどの程度の射程を持つかということは,まだ,確定していないし,この判例を読んでも実はよく分からないところがあって,預貯金債権の法的な性質よりもむしろ現金類似の機能に着目したような書き方になっているのをどう読むか,性質論で射程を見るか,機能から射程を見るかによっても変わってくるという状況なので,一般的な規定を置くということは難しいのではないかと考えると,丙案になってくるわけなんですけれども,本来は預貯金だけを取り出して規定を置くかどうかというところに議論は集約されるのかなと思います。私は基本的に仮払い制度を置けば,その制度の前提として預貯金は遺産分割の対象になるということ解釈上は明らかだと思っていたんですが,窪田委員の御発言を聞きまして,預貯金債権の処理に関する特則みたいなものをまとめて設けるような形で対応するのがよりよいように思いました。
○堂薗幹事 検討させていただきます。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○西幹事 感覚的なことで大変恐縮ですけれども,先ほどの預貯金債権についての規定を民法に置くかということについてです。906条もそうですけれども,遺産分割の基準からして非常に日本の民法家族法は抽象的な規定が多く,それが問題になっている箇所がたくさんあるにもかかわらず,その抽象性のよさがそれなりに理解されて,そのままになっているという現状の中で,預貯金についてだけ規定が入るというのは非常に違和感があります。
  恐らく債権譲渡の場合には,不法行為に基づく損害賠償請求権の債権譲渡がどうなのだということは,余り考える必要はないかもしれませんけれども,相続の場合には預貯金債権もありますけれども,被相続人が加害行為によって死亡するということもありますので,不法行為に基づく損害賠償請求権の相続というのもない話ではないと思います。そういう意味で,債権譲渡の場面における預貯金債権の扱いと,相続の場面における預貯金債権の重さというのでしょうか,問題として占める割合のイメージというのが違うのではないかという気がいたします。仮払い制度と併せて家事事件手続法の中に規定をおくのは分かりやすいと思いますけれども,民法の中に入ると突出した印象を与えるように思います。
○大村部会長 ありがとうございます。浅田委員,窪田委員,増田委員からは預貯金の特則を考えるべきではないかという御意見でありましたけれども,西幹事は相続編に預貯金に関する特則を置くのには違和感を覚えるということですね。
  そのほか,いかがでございましょうか。他の委員・幹事,いかがでございましょうか。全体として先ほど増田委員が整理してくださいましたけれども,預貯金をどうするかということがここでの中心的な争点ということかと思います。皆さん,実質としては預貯金について一定の扱いがされるということは前提とされつつ,それをどう書くかということについて,複数の見解が出ていると理解しておりますけれども,それらと違う御意見もあれば,もちろん,是非,おっしゃっていただきたいと思います。かつ,今の点についてどうするかということも御意見をお持ちの方は,是非,御発言を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○水野(有)委員 質問なのですが,丙案は遺産分割の対象となる預貯金債権だけのことをおっしゃっているのか,一般の可分債権のこともおっしゃっているのかをよく聞き漏らして理解できていないのですが,どちらなのでしょうか。
○堂薗幹事 丙案は一般の可分債権,不法行為に基づく損害賠償請求権ですとか,不当利得返還請求権が遺産分割の対象になるかどうかということも含めて民法上に規定は設けないというものです。逆に言いますと,現行の判例どおりの運用を前提としたものということになります。
○水野(有)委員 対抗要件に関しての規定は,一般の可分債権と預貯金債権と両方を対象としたものを設けるという趣旨で書いていらっしゃるか。そういう理解でよろしいのですね。
○堂薗幹事 はい。
○水野(有)委員 どうもありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○堂薗幹事 ただ,対抗要件のところで,特に(2)の②は遺産分割によって法定相続分を超える割合の持分を取得した場合の規律になりますので,基本的には遺産分割の対象となるものを前提としたものという理解です。
○窪田委員 今の②の部分なのですが,法定相続分の持分を取得した場合というのは,遺産分割によって取得する場合ももちろんあると思うのですが,遺言によって取得する場合も含まれるということでよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 それは遺言の方で別途規律を設けておりますので,今回の部会資料にはありませんが,遺言の方は遺言書を交付して通知するとか,そういった規律を設けることを前提としておりますが,ここは飽くまで遺産分割を行う場合という前提でございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。どういう規定を置いたら,その後どういうことになるだろうといったことも含めて,検討する必要があろうかと思いますけれども,そうした点につきましても御意見や御指摘があれば承りたいと思います。
○石井幹事 甲案,乙案については,部会資料にもございますとおり,可分債権一般を幅広く遺産分割の対象としてしまうと,遺産分割事件の処理が複雑になるといった弊害があるというのは従前から指摘されておったところであり,これについては4のところの一部分割等を活用するといった方策も併せて検討されていたところですけれども,全ての事案において一部分割を活用することで円滑な解決が図れるかというと,必ずしもそうでもないように受け止めております。今回,大法廷決定が出まして,この部会でも遺産分割の対象に含めるべきであると特に主張されていた預貯金債権については,これが遺産分割の対象に含まれることが明確にされたところでもありますので,甲案と乙案と比較すると,丙案を採るということには一定の合理性があるのではないかなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  いかがでございましょうか。先ほど西幹事から御発言がありましたけれども,西幹事はここで言われている丙案であれば,それはそれでよろしいという御意見だということですね。
○西幹事 はい。
○大村部会長 丙案でよろしいという意見と,より明確に預金債権を表から書いていくべきだという御意見とございますけれども,いかがでございましょうか。御発言は特にございませんでしょうか。
  では,事務当局から意見を伺いたい点があるということなので,お願いします。
○堂薗幹事 今の御意見を踏まえますと,いずれにしても不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権は遺産分割の対象に含めないということでは,概ね御意見が一致しているのではないかと思うんですけれども,そこで,従前,事務当局から問題提起させていただいた点として,相続開始前に相続人が被相続人に無断で預貯金を払い戻してしまったというような場合には,被相続人はその時点でその相続人に対して不当利得返還請求権を取得することになるのだと思いますが,それが当然分割ということになりますと,多額の特別受益を持っている相続人が相続開始前に払い戻したような場合に,結局,特別受益による調整がされないという問題が生じるのではないかと思います。
  その点を何らかの形で克服しないと,丙案を採るのは難しいのではないかという気もしているのですが,その場合に被相続人が払戻しをした相続人に対して有する不当利得返還請求権は当然分割であるとしても,それとは別に,例えば相続人間で不当利得による調整をするとか,あるいは何かほかの方策でその点の問題点を解消するとか,そういった解釈上の工夫をすることにより,先程の問題を解消できないだろうかということで,いろいろ考えてはみたところなんですが,これといったものは見当たらない状況でございます。その辺りについてもし何かお考えなどがございましたら,是非,お聞かせいただきたいなと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。今の問題につきましては,そういう問題が出てくることはあり得るわけで,出てくれば何らかの形で対応するということになるのだろうと思いますけれども,制度を作った趣旨が生かされるような解決が図れるだろうかというのが事務当局の方からの問題提起であったかと思いますけれども,何か御示唆等があれば頂戴できればと思いますが,いかがでございましょうか。
○中田委員 今,生前に特に受益相続人が預金を払い戻した場合の問題の御指摘だと思うんですが,仮にその人が被相続人から預金について贈与を受けていたんだとすると,それは特別受益というような形で考慮されることになるのではないかと思うんです。下ろしてきてくれという委任を受けて,行って下ろして,現金で持っていたら,まだ被相続人の占有が及ぶということで,それも遺産の対象になる,あるいは分別管理していたら,それも対象になるという理屈は成り立ちそうなんですが,勝手に自分の口座に入れてしまうと駄目だということになる。それから,更にそもそも無断で下ろしてしまったら駄目だと。そうすると,贈与の場合は対象になるのに,無断で取ってしまうと対象にならないとは,何かバランスがよくないという気がします。
  それで,何らかの手当が必要だと思うのですが,今,堂薗幹事がおっしゃったような相続人間の不当利得というのも一つかなという気もしますが,それでうまくいくのかどうか。損失が生前の段階で認められるのかというような問題もあるかと思います。ただ,ほかの方法も余りぴんとこないんですけれども,例えば頼んだ場合であれば,預金の代わりのものが残っている,その変形物を遺産の対象にするというようなことも考えられますが,それも波及する問題が多いかもしれない。もう一つ考えられますのは,相続人間で合意によって遺産分割の対象にすることができるのだとすると,勝手に下ろしてしまった人が合意することに対して拒絶することは,信義則上,認められないというような理由で,遺産分割の対象に最終的には入れるというようなことも考えました。どれも課題があるとは思うんですけれども,何らかの解釈によって結論的には今のような問題についての手当をすべきだし,できる可能性があるのではないかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。幾つかの場合を分けて,かつ幾つかの可能性について御示唆を頂いたと思いますけれども,ほかに御意見あるいは御感想等がございましたらお聞かせいただければと思いますが,いかがでしょうか。
○石井幹事 問題意識は理解できるところがございますけれども,生前に特定の相続人の方が預金を下ろしていたかどうかということについては,誰がそういう引出しをしたかという自体が争われることも少なくありません。特定の方が下ろされているということが明確であることを前提にすれば,今,お話しいただいたように何がしかの制度あるいは規律を組むことはできるかもしれませんけれども,実際の紛争の場面を念頭に置くと,不当利得の形で処理をせざるを得ないのかなというような感じもしているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 プリミティブな質問で恐縮ですが,恥ずかしながら伺います。債権が遺産分割の対象になったことになりますが,債務の方はそのままが法定相続分どおり,帰属するという前提ですね。そうすると,預貯金債権とか,売掛代金債権でもいいですけれども,そういう債権を3人の息子が相続して,そのうち,1人だけがまともな商売人で,あとの2人は借金だらけの放蕩者だというときに,全ての債権をまともな相続人に遺産分割で帰属させたとします。そして,債務のほうは三等分ということになりますと,相続債権者は,被相続人の下にあったときには随分と貯金もあるし,売掛代金債権もあるし,大丈夫だと思っていたのが,いきなり,3分の1だけしか取れないということになるのでしょうか。
○堂薗幹事 原則は多分,そうなるんだと思います。要するに相続人の財産と相続財産を分離するために,そういう場合は財産分離を使うですとか,そういったことが必要になるのではないかと思います。
○水野(紀)委員 財産分離を使って手当をするしかないということですか。
○堂薗幹事 基本的にはそうなるのではないかと思います。ただ,相続財産に属する債権についても,法定相続分を超える部分について対抗要件が必要だということになりますと,対抗要件を備える前に差押え等をすれば,そちらの方が優先するということにはなりますが,それができていないような場合には財産分離等を使うほかはないのではないかという印象ですけれども。
○神吉関係官 まず,前提を確認させていただきたいと思います。水野委員のただ今の御質問の前提として,特に遺言も何もなくて法定相続分は3分の1ずつだけれども,当事者が勝手に遺産分割協議で1人に積極財産を集中させるという遺産分割をしたらどうなるかという話でしょうか。
○水野(紀)委員 はい,つまり,今までは全体として日本は遺産分割の手続が公的に設計されず,全部,無限定に相続人である私人に任されていて,そこで取引社会とのつじつま合わせを法定相続分でやってきたようなところがあるわけです。債権債務は常に相手方があることなので,判例は法定相続分でという形で回してきたわけですが,大法廷で債権については変更されました。遺産分割で分けるときに,債権という遺産だけがその対象外になるというのは,もちろんおかしなことですから,今までの実務に無理があったというのは分かるのですけれども,おかしいといえば債務も遺産分割の第一段階で清算されるのが本来ですのに,そちらはそのままになります。これまで債権も債務もどっちも対外的には法定相続分によるという形で,構造的不備をかかえる日本法を何とか回してきたのですが,債権の方がこうして形を変えたときに,債務の方の手当は考えなくていいのかと,漠然と不安になったということです。
○神吉関係官 私の質問の趣旨としましては,遺言があって特定の相続人に全て積極財産を承継させるとした場合には,相続分の指定が10,0,0にされたということで,債務についても恐らく10,0,0で帰属するという形になるのではないか,平成21年の最高裁の判例からするとそういう帰結になるのではないのかと考えております。一方で,遺言は特になくて法定相続分は3分の1ずつなんだけれども,勝手に遺産分割協議で1人に寄せるという協議をしたら,どうなるのかという話であれば,そもそも,そのような遺産分割協議ができるのかという話はあるのかなと思うのですが,仮にできるとしてもそれが詐害行為に当たる可能性はあり得るのではないかと思われます。少なくとも遺産分割審判ではそのような遺産分割はできないだろうと思います。
○水野(紀)委員 できないというのは,債権者が詐害行為取消権を使うからでしょうか。
○神吉関係官 飽くまで相続分が3分の1ずつなので,それに基づいて分割をするというのが遺産分割の審判なのではないのかなと私は理解しておるのですが。
○水野(紀)委員 遺産分割協議でしたら可能ですね。
○神吉関係官 協議で債権者を害する目的で1人に集めるという話になれば,先ほど申したあげたとおり,それは詐害行為になり得る余地はあるのではないかなと思います。
○水野(紀)委員 詐害行為にはもちろんなり得る余地はあると思いますが,そうすると,相続債権者としては,詐害行為取消権を使って対抗するしかないということですね。
○神吉関係官 若しくは財産分離という制度を用いるということもあり得るかと思います。
○水野(紀)委員 分かりました。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。水野委員の今の御発言は,だから,当然分割にせよという話ではないわけですね。
○水野(紀)委員 というわけではないのです。判例変更もあったことですし。ただ,遺産分割が債権を取り込んだときに,債務について何か手当はできないものだろうかと考えたのです。財産分離か,あるいは詐害行為取消権という使いにくい手段で,相続債権者が能動的に自衛をしないと救われないのではなく,相続債権者を巻き込むような何らかの手続を遺産分割の中に入れることはできないのだろうかと思ったものですから。難しいことをお願いしていることは十分分かっていますので,今回,それが無理だということでも,もちろん,致し方ないと思います。債権者としては,債務者の責任財産をあてにせずに,あらかじめ個別財産に担保を付けて自衛すると言うことにならざるを得ないのでしょう。
○増田委員 先ほどの話に戻って,相続開始直前の引出しの問題なんですけれども,結論的には遺産分割の中で解決するのは難しいのではないかと思っております。なぜかというと,まず,基本的に被相続人に対する返還請求権,被相続人の引き出した人に対する返還請求権というものが成立するかどうか,成立したとしてその金額はどうかについては,具体的な事実関係により様々でして,そこがまず確定しないという問題があり,また,それを家事手続の中で確定するということは実際にはできず,民事訴訟によらねばならないという問題もありますし,権利者側もそれを遺産に戻せと主張する相続人ばかりではない,つまり,行使するかどうかというのは,それぞれの相続人の選択による要素が極めて強いということもある。
  そうなってくると,実際に行使して一定分を取り返したとしても,それを更に遺産の中に入れて配分するという甲案的発想は,紛争の実体とはずれがあるのではないかと思いますし,乙案的に全員で共同行使するということになると,全員の足並みがそろわない場合もかなりの事案であり得るわけです。ということになると,結論的には行使したい人が行使する,自らの責任で不当利得なり,不法行為の成立要件について主張立証を行うという立て付けでしか,解決しようがないのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の問題につきまして,更に御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
  それでは,今の点につきましては幾つかの御意見を頂きましたので,更に事務当局の方でどういうことが考えられるのかということにつき,検討していただくということにしたいと思います。その前に議論しておりました丙案を出発点として,更により明確に預貯金について書き込むということを考えるかどうかということにつきまして両論がございましたので,これにつきましても両論があったことを踏まえて,さらにご検討をいただきたいと思います。浅田委員,何かございますか。
○浅田委員 繰り返し申し訳ありません。明文化を求めるという理由として繰り返しになりますけれども,今日,配ったペーパーの2ページの特に①,相殺と差押えというところについては,私は立法的な手当というのが必要ではないのかと思っています。
  特に差押えに関しては持分の差押えということが実務上,どう回収までいくのか。このまま通常の解釈でいくと,恐らく持分の差押えというのは取立てができないと思われますので,民事執行法161条1項によるのでしょうか。譲渡命令ないしは売却命令ということになったとして,現行の下でそれを実践すると,それによって銀行の預金の一部について譲渡するというのはどういうものか,よく分かりません。こういう方向での実務運用を確立していくという方法はあるのかもしれませんけれども,少なくとも,しばらくの間の混乱というのが少なくともそれで考えられるところです。そのために民法でないとしても何らかの,民事執行法でもいいんですけれども,立法化というのがよいのではないかというのが一つです。
  相殺に関して言いますと,これも一般解釈に委ねるところが多いと思います。ただ,考えてみますに,相殺適状が相続開始前に発生すれば,相殺の遡及効によって相殺ができるという考え方に合理性はあるかと思います。一方で,相続開始後に自働債権の期限が到来するなどして相殺適状が生じた場合には,相殺が本当にできるのかどうかという解釈問題がなかなか難しいと思う方向に働くのではないかと思います。
  この点は,相続又は本テーマではないと言われるのかもしれませんけれども,相続がなければ相殺ができるという状況で相続が発生した場合において,準共有だという大法廷決定の解釈ないしは丙案における解釈により,相殺ができなくなってしまうというのは,いささか合理性を欠くということになるのかなとも思いますので,この審議における議論で解決できるかどうかは別として,明文化するか,または,この場における議論によって解決できればより明確なルール作りになるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。御発言がございますか。
○中田委員 2点あります。ただいまの浅田委員の御発言の中で,預金債権について準共有であるということを前提の議論を組み立てておられまして,それは調査官の解説の中でも出てくるところでございますけれども,法廷意見自体には,これも浅田委員が前におっしゃったとおり,預金債権の準共有とは言っていないので,準共有という法理にあまり捉われてしまうと,かえってうまくいかない可能性があるのではないかと思いました。
  もう一つは,先ほど増田委員の御発言の中で,開始前の引出しの場合に被相続人の返還請求権がどういうものか,余りはっきりしないではないかとおっしゃったのは,趣旨を誤解しているかもしれませんけれども,理論的には委任している場合であれば受任者に対する受取物の引渡請求権であり,勝手に下ろされた場合であれば不法行為又は不当利得による請求権だと思います。ただ,恐らく増田委員のご趣旨は,そのような理論的な問題というよりも,事実として証明できないのではないかというようなことであるかもしれず,そこは大変よく理解できます。
○大村部会長 ありがとうございます。今,中田委員は2点について触れられましたけれども,一つは明文の規定を置くということにつきまして,複数の委員から賛成の意見が出ておりますが,どの程度の明文の規定を置くかということも一つ大きな問題になるのだろうと思いますので,その点も含めまして事務当局の方で更に御検討いただきたいと思います。それから,先ほどの引出しの議論につきましては理論上の整理と,それから,石井幹事もおっしゃっていましたけれども,実際上,使うときにどういうことになるのかということも併せて検討する必要があるという御指摘を頂いたものと思いますので,その点も含めて更に御検討いただきたいと思います。何かございますか。
○水野(有)委員 今の中田委員が最初におっしゃった最高裁の読み方なのですけれども,法廷意見が準共有とまで言っているかどうかのところが私もきちんとよく理解できなくて,それと関連して14ページの一番下の段の「なお」以下の部分のところが私は読み込めていないんですが,これは遺産分割が成立した後も,例えば遺産分割でこの人とこの人の2分の1ずつとしたときも下ろせないと書いてあると読んでよろしいのでしょうか,複数の人がいれば。それとも遺産分割前は下ろせないということが書いてあるのかが読み切れなかったのですが。
○堂薗幹事 遺産分割後も2分の1,2分の1で分けたのであれば,その2人の同意がないと払戻しはできないのではないかということです。
○水野(有)委員 そう読んでいらっしゃるのですか。あの最高裁決定はそう読むというふうな御理解なのでしょうか。
○堂薗幹事 そこは確かに中田委員が言われるように,法定意見の中で明確には書かれていないわけですが,ただ,補足意見,特に共同補足意見などを前提にすると,そういう理解になるのではないかと考えております。もっとも,そこはいろいろ議論が分かれ得るのかもしれません。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。最高裁の判決の理解については,いろいろな見方があろうかと思いますけれども,それも踏まえて説明の方を更に調整していただきたいと思います。
  この第2点につきまして,これで今日のところはよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。
  増田委員,ご発言がありますか。どうぞ。
○増田委員 次は3へ行くんですよね。すみません,今,2の(1)が終わったという理解だったのですけれども,2の(2)の①について違和感があるんです。対抗要件というのは,普通,相続のような法定の原因で包括承継がなされるというときには不要であり,対抗要件なくして誰に対しても対抗できると一般的には言われていると思うんです。不動産についても法定相続分どおりの持分取得であれば,対抗要件を経ずして誰に対しても対抗できるとされています。そこで何で債権だけ法定相続分どおり,取得しても対抗できないようになるのかというのがよく分からないわけです。
  確かに債務者としては,誰が債権者でないと分からないではないかということかもしれませんが,それは対抗ではなくて,当該債権の債権者であることの証明の問題だと思うんです。債権者であることが証明されなければ,請求者が何者か,分からないのに払うことはできない。これは理解できますが,それを対抗力というのは,一般的な用例から考えて疑問があります。
  債権譲渡なんかの場合は,債務者対抗要件の通知がなければ,債務者は元の債権者に払うことになるんだけれども,相続の場合には払う相手はいない,もし対抗力という言い方をするならば全く払う相手がいないということになって,対抗力がないのだったら遅延損害金の発生はその間停止するのか,その間は履行遅滞に陥らないのかなどという議論があり得ます。①に関して対抗できないという表現については違和感があります。
○堂薗幹事 この点については,基本的には債権譲渡の債務者対抗要件の規定を参考にしてこういう形にしているわけですが,債務者対抗要件のところも対抗要件という言葉は使っておりますが,対抗することはできないと規定上はなっておりますが,一般にはいわゆる対抗要件を定めたものではなくて,債務者に対する権利行使要件を定めたものという理解だと思いますので,ここでは,それと同じような趣旨で対抗という言葉を使っているということでございます。
  実際には,増田委員の方で言われたように,債務者としては本当にこの人が債権者なのかどうか分からないので,その点をきちんと証明してもらわないと権利行使はできませんという趣旨ですので,飽くまで権利を行使するための要件であって,相続開始前から既に履行遅滞に陥っているのであれば,このような証明をしなくても,当然,遅延損害金は発生するという前提でございます。そういった意味で,この表現がどうなのかというところはありますが,ここでは,今のような趣旨でここに記載させていただいたというところです。
  ただ,こういう形で①と②を分けるということになりますと,①の部分については今も実際上は契約においてそういった特約があるか,あるいはそういった特約がない場合でも契約当事者間の信義則等を根拠として,資料の提供を求めるということがされているのだろうと思いますので,①の部分を法律に盛り込む必要があるかというところは要検討であるという印象を持っているところでございます。
○浅田委員 ①に関して銀行界でまとめた意見ではございませんけれども,論点が出ましたので私の意見を申し述べたいと思います。確かに,対抗するという言葉が適切かどうかという議論については,先ほどの論点があるかと思いますけれども,その趣旨として,これらの一定の証明といいましょうか,そういう一定の書類の交付等がなければ債務者に対して主張することはできないという仕組みにすること自体は,実務上一定の明文化の要請はあると思っております。
  もちろん,現行法の下でも銀行実務において約款でも書いておりませんし,そこはいろいろな事例に応じて信義則も含めて実務運営しているところでありますけれども,例えば普通預金を想起したときに,解約権の行使も含めた払戻しの主張がなされたときに,その請求時において適法な請求かどうかが,遅延損害金の発生時期との関係で大きな実務上の論点になっております。この論点が生じる一番大きな原因というのは,目の前に現れた相続人と称する方が,そういう資格を持っていらっしゃるのかどうかということが確知できないというところがありますので,そういうことを民法典において明確化するということは,それなりの意義があると思います。
○大村部会長 ありがとうございました。表現の問題を含めて,更に御検討いただくということで引き取らせていただきたいと思いますが,増田委員,よろしいですか。それでは,そのようにさせていただきます。
  少し時間が掛かってしまいましたけれども,ここで10分ほど休憩いたしまして,3時半に再開したいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開したいと思います。
  16ページの3の「仮払い制度等の創設・要件明確化」という部分につきまして,事務当局の方から御説明をいただきます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から仮払い制度等の創設につきまして御説明させていただきます。
  仮払い制度につきましては,今回の部会で初めて具体的な提案をさせていただくものでございますので,複数の案を提示しております。委員等の皆様から様々な観点から忌憚のない御意見を頂戴できればと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
  まず,16ページ,17ページのゴシック部分につきまして簡単に御説明させていただいた後,各案の考え方につきまして詳しく御説明させていただこうかと思います。
  まず,甲案ですが,こちらは裁判所の判断を経て仮払いを行うという考え方でして,現行法上も家事事件手続法200条2項で審判前の仮分割の仮処分という制度がございますが,その要件を一定の資金需要がある場合に緩和することができるか,また,どのような要件の下で緩和すべきかという点で二つの考え方を示しております。また,乙案は裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める案でして,その理論構成,法的効果に応じて乙-1案から乙-3案まで三つの考え方を示しております。
  それでは,18ページ以下の補足説明を御覧ください。本最高裁決定によりまして,預貯金債権につきましては原則として遺産分割の対象となり,共同相続人の単独での権利行使は認められないこととなりますが,本最高裁決定の共同補足意見においても指摘されているとおり,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により,被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合に,不都合が生ずるおそれがあります。
  現行法上,このような場合には家事事件手続法200条2項の仮分割の仮処分を活用することが考えられます。もっとも,家事事件手続法の仮分割につきましては,仮分割の仮処分の前提といたしまして遺産分割の調停又は審判の本案が係属しているという,いわゆる本案係属要件が要求されておりまして,また,同条第2項は共同相続人の急迫の危険を防止する必要がある場合に仮処分ができるとしており,その文言上,厳格な要件を課していることからいたしますと,立法により,遺産分割における保全処分につきましては本案係属要件を撤廃すること,また,仮分割を必要とする類型を踏まえまして200条2項の要件を緩和することが考えられます。こちらが甲案となります。また,更には裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める制度を設けることも考えられます。こちらが乙案となります。なお,甲案と乙案につきましては内容的には両立し得るものであり,その両方を採用することも可能となります。以下,詳しく御説明いたします。
  19ページを御覧ください。こちらは本案係属要件の要否について論じてある箇所でございます。本部会におきましても,これまで本案係属要件を廃止することの当否につきまして議論してまいりましたが,一定の仮払いさえ実現すれば,その後の遺産分割につきましては相続人間の協議で終えることができる場合も多いと思われること,また,理論的に見ても遺産分割につきましては他の家事事件手続法上の手続とは異なり,調停や審判によって初めて相続人に権利義務関係が生じるわけではなく,相続開始という事実により,法定相続分又は指定相続分に応じた相続財産に係る権利義務関係は既に生じており,その意味では,遺産分割に係る保全は,民事訴訟を本案とする民事保全に近い性質を有しているとも言えることなどからいたしますと,本案係属要件を不要とすることも考えられるところでございます。
  もっとも,他の審判前の保全処分については,本案係属要件が要求されていることとの平仄に加え,遺産分割の調停の申立て自体は書式も家庭裁判所のホームページに掲載されており,また,申立費用も1,200円と低額であり,また,提出すべき添付資料につきましても,審判前の保全処分と本案とでさほど差異はなく,本案係属要件を要求したとしても当事者に過大な負担を課すわけではないと考えられることからすると,現行法どおり,本案係属要件は維持すべきとも考えられるところでございます。この点につきましては,いずれもあり得るように思われますが,どのように考えるべきか,その方向性につきまして委員の皆様から御意見を頂ければと思います。
  次に,部会資料の20ページ以下に記載しております甲案につきまして御説明させていただきます。甲案は家事事件手続法200条2項の仮分割についてその要件を緩和し,比較的容易に仮払いが受けられるようにすることを目指したものとなります。どのような要件の下で緩和するかにつきましては,幾つか考え方があり得るように思われますが,費目で限定するという考え方を甲-1案といたしまして,また,費目及び請求権者で限定するという考え方を甲-2案といたしましてお示ししております。
  なお,仮分割がされた場合における本案における遺産分割につきましては,民事事件における保全と本案訴訟との関係と同様に解することができるものと考えられ,原則として仮分割により申立人に預貯金の一部が給付されたとしても,本分割においてはそれを考慮すべきではなく,改めて仮分割をされた預貯金債権を含めて,遺産分割の調停又は審判をすべきものと考えられまして,具体的には(注3)で記載しておりますように処理することになると思われます。また,(注4)にも記載しておりますが,仮分割による支払いと金融機関との関係ですが,仮分割により特定の相続人に預貯金の支払いが行われた場合,第三債務者との関係では有効な弁済として扱われ,本分割において異なる判断が示されたとしても,第三債務者が行った弁済の有効性が事後的に問題となる余地はないものと思われます。
  続きまして,甲-1案につきまして御説明させていただきます。甲-1案の基本的な考え方ですが,共同補足意見でも示されているとおり,預貯金を払い戻す必要がある場合としては幾つかの類型があり得るところ,甲-1案は相続人が預貯金を払い戻す必要があると思われる典型的なケースとして,被相続人の債務の弁済,相続人の当面の生活費の支出に加え,被相続人の葬式費用を類型として書き出し,このような資金需要があると認められる場合にはその支出が相当と認められる限り,家庭裁判所が仮払いの仮処分を命じることができるとすることを提案するものであります。なお,後ほどの議論とも関係いたしますが,相当性の審査におきましては,仮払いによる預貯金の取得により,申立人が自己の具体的相続分を超えて,財産を取得する蓋然性が高くないか否かを審査することになると思われます。
  引き続きまして,各要件について御説明いたします。
  まず,①の相続財産に属する債務の弁済についてでございます。こちらは典型的な資金需要として考えられるものでございますが,例えば被相続人の医療費,入院費,光熱費等の公共料金,固定資産税等の税金などがありまして,これらの弁済のために仮払いを認めるということが考えられます。なお,仮払いの必要性及び相当性の判断につきましては,個々の事件における裁判官の判断によるものと考えられますが,他の共同相続人が負担すべき債務の弁済をするためにも仮払いを認めるのか,また,自己の法定相続分を超えて仮払いを認めることもできるのかなど,幾つか問題点があるように思われます。この点につきましては,23ページの(注1)及び(注2)に具体的に記載しておりますが,後ほど皆様から御意見を頂戴できればと思います。
  次に,②の葬式費用の弁済についてでございます。こちらも実務上,しばしば,仮払いの必要性が高いと指摘されるものでございまして,葬式費用とはその社会,その時代において相当と考えられる儀式を行って死者を埋葬等するのに直接に必要な費用であり,棺,葬具,葬祭場の費用などがこれに当たるものと考えられます。なお,葬式費用の負担者につきましては,学説,裁判例上,様々な見解が示されており,個別具体的な事案によって異なり得るものと思われますが,喪主である申立人が負担するということであれば,その相当性の審査も申立人の法定相続分の範囲内か否かという観点で審査することになりますし,例えば被相続人が自己の葬式の準備,手配を行っていた場合など,相続財産から支弁するということであれば,先ほど述べた被相続人の債務に準じて取り扱うことも考えられます。
  また,共同補足意見でも指摘されているように,相続人の生活費を支弁する場合にも仮払いを求めるニーズがあるものと考えられます。ところで,このような規律を採用いたしますと,被相続人の生前にその扶養等を受けていなかった相続人も,自己の生活費を支弁するために仮払いを求めることができることとなりますが,特に法定相続分の少ない相続人が請求権者となることによって,過払いとなるリスクも少なくないことから,ゴシックにおける提案において「〔 〕」で示させていただいているとおり,金額の条件を設けるということも考えられるかと思います。
  次に,甲-2案ですが,これは甲-1案をベースといたしまして,生活費を支弁するために仮払いを認めるのを,被相続人から扶養を受けていた者又は配偶者に限定するという考え方であります。被相続人から扶養を受けていた者につきましては保全の必要性が特に高いと認められること,また,配偶者は2分の1以上の相続分を有しており,過払いとなるリスクはさほど大きくないと考えられることなどを考慮いたしまして,この場合には金額の上限を設けないということも考えられるかと思います。
  以上,甲案につきまして御説明させていただきましたが,家事事件手続法200条2項の規律を緩和して,一定の場合に仮払いの要件を緩和すべきか否か,また,緩和するとしてもどのような要件設定が適当か,また,仮払いの必要性及び相当性の審査につき,どのように考えるべきかなどにつきまして,委員の皆様から忌憚のない御意見を頂戴できればと思います。
  引き続きまして,乙案についても御説明させていただきます。甲案は,家事事件手続法200条を改正し,保全処分の要件を緩和することを提案するものですが,裁判所への保全処分の申立てを常に要することとすれば,相続人にとっては大きな負担になるとも考えられ,また,パブリックコメントにおいても裁判所の判断を経ることなく,金融機関の窓口において預貯金の払戻しを受けることができる制度を設けるべきとの御指摘も多くありました。そこで,一定の場合に相続人が金融機関の窓口において,遺産に含まれる預貯金債権を行使又は仮払いを受けることができることとする制度について提案するのが乙案となります。
  その理論構成及び法的効果につきましては,様々な考え方があり得るように思われますが,今回の部会資料におきましては三つの考え方を示しております。後ほどそれぞれ詳しく御説明いたしますが,乙-1案は,相続開始により準共有状態となっている預貯金債権の一部について法律上,準共有状態を解除し,相続の開始により当然に分割されることとするものであり,基本的にはその精算を予定していないもの,また,乙-2案は,本来は全員で権利行使をしなければならない預貯金債権のうち,その一部については各相続人単独で権利行使できるものとし,また,その権利行使をした者は,その権利行使をした預貯金債権を含めて遺産分割の対象とする旨の合意をしたものとみなし,本案の審判において実質的にその精算を行うことを予定しているもの,また,乙-3案は,家庭裁判所の判断を経ていないものの,その効果については仮分割の保全処分がされた場合と同様の効果を認めるものとなります。
  相違点を改めてまとめますと,乙-1案が権利行使後の精算を予定していないのに対し,乙-2案及び乙-3案はその後の精算を予定している点,また,乙-2案は実体法上の権利行使を認めているのに対し,乙-3案は飽くまで仮払いにすぎず,実体法上の権利行使ではない点がそれぞれの相違点ということになります。
  それでは,各案について順に見てまいりたいと思います。
  まず,乙-1案ですが,基本的な考え方は,被相続人の死亡により共同相続人間で準共有の状態になっているものと考えられる預貯金債権のうち,一定割合については法律上,準共有状態を解除し,その部分については本決定による判例変更前と同様の状態となる,すなわち,その部分については法定相続分の割合で当然分割され,各相続人は他の共同相続人の同意を得ることなく,単独で権利行使することができることとしてはどうかという提案であります。
  なお,準共有状態を解除する割合,額についてですが,本最高裁決定の趣旨を踏まえますと,立法により預貯金債権の一部について準共有状態を解消するとしても,おのずとその範囲は限定的に解する必要があるといえ,例えばということでありますが,今回の提案ではその範囲を各預貯金債権の2割とし,かつ上限を100万円としております。
  この乙-1案の問題点としては,1個の預貯金債権を当然分割となる部分と準共有となる部分とに切り分けることになるため,利息等の関係で預貯金債権の一体的な処理が困難になるほか,差押えの場面でも前者については通常の債権差押えになるのに対し,後者については準共有持分の差押えとなると考えられ,その手続が分離するなど法律関係が複雑になるおそれがあるといった問題点があるように思われます。
  次に,29ページ,30ページの乙-2案につきまして御説明させていただきます。乙-2案は預貯金債権のうち,一定額については各相続人の単独による権利行使を認めるものとしつつ,その権利行使をした者は,権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とする旨の合意をしたものとみなし,本案の審判において具体的相続分を超えて権利行使をしていた場合には,代償金債務又は不当利得返還債務が発生するような審判を行うことを予定しております。
  すなわち,本決定によれば,預貯金債権は共同相続人による準共有となっており,単独での権利行使は認められることになりますが,他の共同相続人に重大な影響を及ぼさない限りは単独での権利行使を認め,小口の資金需要に対応できるようにする方が便利であると考えられることから,預貯金債権のうち,一定額については相続人の1人が単独で権利行使をすることができるようにするものであります。
  なお,31ページのイの「金額による上限額の算定方法について」ですが,こちらについては幾つか考え方があり得るところですが,例えば預貯金債権の口座ごとに上限額を定め,これを合算するという考え方,また,金融機関ごとに上限額を定め,これを合算するという考え方,また,預貯金債権全部を対象として上限額を定めるという考え方などがあり得るように思われます。最もシンプルな考え方は,口座ごとということになりますが,この点につきまして皆様から御意見があれば頂戴できればと思います。
  また,先ほども御説明したとおり,乙-2案には精算のルールを設けることを予定しております。すなわち,本来は遺産分割の対象ではないものについても,当事者の合意がある場合には遺産分割の対象に含めることができることから,乙-2案の後段においては,当該権利行使をした相続人は,当該権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とする旨を同意をしたものとみなすこととし,各相続人の権利行使によって,その具体的相続分を超える預貯金の払戻しがされた場合には,本案の審判において代金債務又は不当利得返還債務を発生させることとし,実質的にその精算を行うこととしております。
  なお,権利行使をした者の同意を擬制することにつきましては,本来は権利行使できないにもかかわらず,専ら権利行使者の利便を考慮して権利行使させるものであることから,遺産分割における精算の義務を課したとしても特に不利益を課すことにはならず,十分に許容性があるものと考えられます。なお,先ほどの中田委員の御指摘とも関係するところではございますが,理論的に問題があろうかなと思っている点を33ページの(注3)にも記載いたしました。本来は遺産の対象ではない財産につきまして合意で遺産分割の対象とすることができるとしましても,遺産分割当時,当該財産が費消され,消失していたとしても,合意さえあれば遺産分割の対象とすることができるかという問題はなお残るように思われますので,この点につきましても皆様から御意見を頂ければと思います。
  続きまして,34ページの乙-3案につきまして御説明させていただきます。乙-3案ですが,基本的な考え方は家庭裁判所の判断を経ないで仮払いを認めるものということでございますが,その効果としては家庭裁判所の保全処分に基づき,仮払いがされた場合と同様の効果を認めるものであります。この点につきましては,一般に裁判所が保全処分として仮地位仮処分を行う場合には,被保全権利の疎明のほか,保全の必要性として争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため,これを必要とするときという厳格な要件が設けられております。これは被保全権利の存否について当事者間に争いがあるにもかかわらず,これがあることを前提とした権利行使を認めることになるため,債務者の利益を害する危険性が高いことなどを考慮したものであると考えられるところであります。
  もっとも,預貯金債権につきましては,その存否及び額については当事者間で争いが生ずる余地は少ないことから,乙-3案のように各相続人による仮の権利行使を認める範囲を相当程度限定すれば,裁判所の判断を経なくても本案たる遺産分割において,その権利が認められる蓋然性が相当程度認められ,申立人に具体的相続分を超える権利行使を認めることとなる危険性は一般に低いものと考えられます。
  また,本決定では従前の判例を変更した理由の一つとして預貯金債権が現金類似の性質を有しており,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たり,その調整に資する財産を遺産分割の対象とする必要があるというある種,政策的な理由を挙げており,かつ現に従前の判例を前提とすれば,各相続人がその法定相続分に相当する部分を自由に権利行使することが認められていたことなどに照らせば,別の政策的観点から保全の必要性を緩やかに認めることも許容されるものと考えられます。そして,相続の場面では相続人が被相続人から扶養を受けていた場合など,被相続人の死亡に伴い,相続人が早急に資金を調達する必要が特に高い場合や葬儀費用の支出など,一定の金銭の支出が必要となる場合が類型的に認められることなどに照らすと,ごく一定範囲の預貯金債権に限り,保全の必要性を法律上擬制し,裁判所の判断を経ずに仮払いを認めることも,一応の合理性があるものと考えられます。
  乙-3案は,このような観点から家庭裁判所の判断を経ないで預貯金債権の一部につき,仮払いを認めるものでありますが,現行法上,ほかにこれと類似の制度は見当たらないことから,このような制度を設けることが可能かどうかにつきましては,なお,慎重に検討する必要があるものと考えられます。
  最後に,3の「預貯金管理者の制度」につきまして御説明させていただきます。預貯金管理者の制度につきましては,これまでこの部会におきましても預貯金管理者を裁判所が選任することができることとする制度について検討を行ってきたところでございますが,相続人の資金需要に対しては先ほど御説明いたしました仮払いの制度を設ければ,相当程度,対処することが可能であるように思われること,また,この制度を採用いたしますと,預貯金管理者及びこれを監督する家庭裁判所に負担が掛かるおそれがあることや,預貯金管理者に対して報酬を支払う必要が生じることなど,制度を設ける上で懸念や課題が指摘されていることからいたしますと,まずは1,2で検討した仮払いの制度等を設けることで問題を解決できるかどうかを検討すべきであり,それでもなお問題が解決できない場合に改めて検討することとしてはどうかと考えているところでございます。
  以上,長くなりましたが,3の仮払い制度等につきまして御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  仮払い制度を設ける必要があるだろうということを前提にして,甲案と乙案という二つの案を提示していただいております。御説明の中にもありましたけれども,甲案・乙案は両立も可能なものとして出されていると理解しております。別々の制度ですけれども,相互に関連するので,全体としてどういう制度を作るかということが問題になろうかと思いますので,甲案・乙案を併せて御議論を賜りたいと思います。それから,最後にありました預貯金管理者制度については,差し当たり,仮払い制度の方を先に考えようという御提案がされておりますけれども,これについてももし何かございましたら御意見等を賜りたいと思います。どの点からでも結構ですので。
○浅田委員 この点についても先ほどの規律の明確化と裏腹の関係にありますので,少しお時間を頂きたいと存じます。
  まず,事務当局におかれましては,従来,銀行界が検討を求めていた仮払い制度に関し,今回,詳細な検討と具体的な提案を策定いただきまして感謝を申し上げます。ただ,言い訳から始めなければならないわけですけれども,銀行界としてはこれまでの実務の前提,根本を変更する最高裁決定が出て,当該決定下での実務運用を開始してからまだ日が浅いこともあり,具体的な仮払い制度を考えるに当たり,十分な議論が煮詰まっているわけではありません。今般,事前に頂戴した部会資料を基に銀行界で急ぎ,意見集約を行ったところでも様々な意見があるところであります。ただ,少なくとも本日,この論点を考えるに当たっての銀行界としての考え方はおぼろげながらも見えておりますので,この考え方を意見として述べさせていただいた上で,各制度についてこれまで寄せられた要望につき,幾つか述べさせていただきたいと存じます。
  まず,そもそもの考え方でありますけれども,少なくとも最高裁大法廷決定の,遺産の分割が終わるまで払戻し請求はできない,というメッセージを真正面から受け止める必要があるというのが私どもの共通認識であります。そうしますと,我々金融機関としては全相続人の同意なくして払戻しをしない,すなわち,相続人間の公平を害するような払戻しは原則,してはならないということを求められているのではないか,と感じているところです。このような捉え方をしたとき,仮払い制度とは相続人間の公平を図る観点から,必要であるものに限って行うものではないかと考えております。このような考え方から,仮払い制度における甲案,乙案それぞれに意見を述べます。
  まず,甲案につきましては,裁判所において相続人の公平性という観点から判断がなされるという方向性に異論はございません。もっとも,相続人間の公平の観点から必要な仮払いを全て裁判所にて行うというのも,相続人の立場からするとややもすると過剰な面もあるということも確かだと思います。そこで,少し考えさせる面もあるものの,乙案のような裁判所外での仮払い制度を検討いただくことについても異論はございません。
  そして,今回,御提示いただいた具体案たる乙-1案から乙-3案については,総論をいえば,銀行業務の明確化の要請に対し,相応の御配慮を頂いているものと理解しております。ただし,いずれも金融機関側に一定の負担を課すものである一方,必ずしも相続人の公平に資する払戻しに限定されるわけではない点について,いささか再考の余地もあるようにも思われます。そこで,法制度の場面では難しい側面もあるかもしれませんけれども,一方で,弁済の当否の明確化,ひいては弁済の有効性を担保しつつ,例えば資金使途が真に相続人間の公平に合致するような場合には,銀行において払戻しができるといった制度を設ける余地はないものか,もう少し御検討いただければと存じます。
  以上が総論的な銀行界としての考え方です。
  続きまして,個々の御提示案についての意見を少し述べたいと思います。
  まず,乙-1案については銀行実務に照らし,対応が困難であるとの意見が銀行界から多数ございました。補足説明にもございましたように,複雑化するということもございますし,全ての預金債権を分割されたものと,それから,準共有のものと分けなければならないということになりますけれども,これでは預金種別によらずに一律,かような管理を求められるということになりまして,国民及び金融機関にとって管理が複雑となり得ますし,また,遺産分割終了後においても全ての預金口座について,かように分別して管理し続けるということは実務上,かなりの負担となります。
  次に,乙-2案を飛ばして先に乙-3案について述べますと,そもそも,仮に権利を行使するというのが銀行窓口で行われるのが,どうも想像しにくいという点から慎重な意見が多くありました。
  最後に,乙-2案について述べます。どの預金から払戻しを行うべきかという選択の場面における設計次第では,銀行側に大きな負担が掛かることも想定されるといった意見も寄せられています。
  以下,部会資料31ページの上の方,イに①から③まで書いてございますけれども,それぞれについて申し上げたいと思います。
  まず,乙-2案の①,すなわち,預金債権(口座)ごとの案でございますけれども,これにおいては通常の個人顧客においては普通預金口座と定期預金口座の両方を持つことが多く,顧客によっては複数の営業店にまたがって,更に多数の口座を保有していることもあります。①の口座単位案では,そのような複数の口座ごとに仮払金額の確認や支払い,その後の管理をしなければならず,金融機関の負担も大きいと言えます。また,③案,預貯金債権全部を対象とする案は,他の金融機関における払戻しについての確認義務が金融機関に課されることを想定しているのであれば,およそワーカブルと言えないのではないかと思います。
  すると,②案,金融機関ごと案が最も金融機関にとって応じやすいということになりそうです。それでも,複数ある預金口座のうち,どの口座から支払いに応じるべきなのかという問題が残ります。また,そもそも,一定の金額,また,一定の割合についてその必要性,つまり,資金使途を問うことなく,法定相続人に預金債権の払戻し権限を認めるという設計自体が,先の大法廷決定の趣旨に合致しているのかという問題も残るところであります。また,仮にとりあえず,限度額まで下ろしていこうという行動を誘発するという制度となれば,事案をいたずらに複雑化してしまうのではないかと,若干,感じるところであります。
  今後とも,この乙-1案ないし乙-3案について審議が進められる中で,参考にしていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。甲案・乙案それぞれについて御意見を頂きましたけれども,特に乙案について考えるときに31ページで上がっている金額による上限額の算定方法について,銀行の考え方をお示しいただいたものと理解いたしました。上西委員,どうぞ。
○上西委員 甲-1案と甲-2案がいずれも費目というのが入っております。その中に,相続財産に属する債務として,弁済期が到来しているものに限るとあります。まず,最初に確認なのですが,相続開始時点でと考えてよろしいでしょうか。あるいは申立て時点でよいのでしょうか。例えば相続開始時点で確実なものとして,22ページにありますように固定資産税等があります。また,賦課決定されて期限が到来したものとして住民税や事業税もありますが,更にその後に,つまり,相続開始の後に申告納税で行う準確定申告とか,相続税申告の租税債務についても,この申立ての対象になり得ると考えてよろしいのでしょうか。
○神吉関係官 御説明させていただきます。相続税というのは個々の相続人に掛かってくるものですので,「相続財産に属する債務」というこの文言からすると相続税の支払債務というものは入ってこないというのが素直な読み方かなと思っております。ただ,相続税の支払債務というものも含めた方がよい,資金需要として特に高いということであれば,そこも特出しとして書くということも考えられなくはないかなと考えているところでございます。
○上西委員 是非,検討課題にしていただきたいと思います。大法廷決定の補足意見のところで,「預貯金を払い戻す必要がある場合としてはいくつかの類型があり得るから,それぞれの類型に応じて保全の必要性等保全処分が認められるための要件やその疎明の在り方を検討する必要があり,今後,家庭裁判所の実務において,その適切な運営に向けた検討が行われることが望まれる」とあります。
  相続の開始後に発生する一番の多額になるものは相続税なんです。今回の決定によりまして,預貯金の払戻しが原則,認められずに分割財産になるとどうなるのか。また,乙案の方になった場合は,あくまでもここでは例えばとなっているのですが,金額が100万円,50万円,50万円とあるように,到底,多額の相続税の納税には及ばない金額だと思われますが,そうなるとどうなるか。自己資金で納税するか,借入れを起こすことになりますが,それもできない場合でしたら延滞税が課税されることになります。こうした新たな事態が生じますので,租税債務については広く検討された方がいいのかなと,要望として申し上げておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。費目として租税を加えた方がいいのではないかという御意見として伺いました。
○増田委員 公租公課を入れる必要があるという点は,上西委員のおっしゃるとおりだと思います。
  それで,別の質問なんですけれども,①の相続財産に属する債務というのは,今,弁済期については申立時でいいと言われましたが,発生原因は相続開始前にないといけないのか,つまり,こういう表現だと普通はそう読めるわけですが,いかがでしょうか。
○神吉関係官 具体的に何を想定されておっしゃっているのかというのが,我々は分からないので何とも言いようがないんですが,基本的にはそういう理解でいいかと思います。つまり,発生原因自体は相続開始前に生じているものということだろうとは思うのですが,例えばほかにどのようなものがあって,それも捕捉する必要があるということになれば,表現振りを改めて考えるということになろうかと思いますので,そこを教えていただければと思います。
○増田委員 それでは,費目の中に相続財産の保存管理費を入れていただきたいと考えております。発生原因が相続開始前のものに限らないということであれば,相続開始後に例えば不動産が損壊したとか,あるいは定期点検の費用が必要だとか,そういったもの,つまり,相続財産に対する共益的費用と考えられるものについて,これは遺産分割が完了するまでは,財産的価値を基本的には保全しておかなければならないという要請に対応するものだと考えられますので,そういったものについては加えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。それは御検討いただくということで,御意見として承りました。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○山本(和)委員 甲案について2点,コメントですけれども,第1に19ページに書かれてある本案係属要件の問題です。これは非訟家事の部会以来,議論のあったところで,私の理解では非訟家事では基本的にはオール・オア・ナッシングで,全ての保全処分を一体として考えてどちらかということを議論し,最終的には調停申立てを含めると,調停申立ても本案係属要件を満たすというところで決着が付いたということだと思いますが,その後,国際裁判管轄の部会のところでは,もう少し保全処分ごとに考えることができるのではないかと,考えるべきではないのかというような意見もかなり出され,しかし,結論的にはその部会のミッションとの関係で,そこまでは検討できないということで結着したと理解しております。私自身は個々の保全処分ごとに,この本案係属要件というのが本当に必要かどうかということを考えていく余地はある,そういう意味では,一定のものについては本案係属要件は外すという可能性はあるのだろうと思っています。
  具体的に,今回のものは19ページに書かれてある①,②の理由で基本的には,なぜ,本案係属要件が必要かというと,ここに書かれてあるような家事事件については,一定の具体的な権利義務が形成される蓋然性というものが,本案の調停審判の申立てによって初めて認められるという考え方によっているのだろうと理解しています。
  ただ,遺産分割については協議による分割というのがありますので,必ずしも調停等が申し立てられなくても,その権利関係が形成される蓋然性がある場合というのはあり得るようにも思いますし,それから,ここでの問題は後の方にも書かれていますけれども,仮分割した結果と最終的な本分割の結果が矛盾する,抵触するということができるだけないようにするということも,本案係属要件の趣旨かと思いますけれども,それは必ずしも本案係属がなくても,別の裁判所でも保全の中で考慮できる,後で相当と認めるときという要件でそれは書かれていますけれども,できることではないかと思っています。そういう意味では,必ずしも本案係属要件,この場合は必然的なものではないのではないかとは思っています。
  ただ,そう考えると,ここに書かれてある理由は遺産分割における保全処分に一般的に妥当する,つまり,200条2項も本案係属要件を外すのかという議論につながってくる部分があるような気がしまして,私個人は外してもいいのではないかという気もしているのですけれども,そこまでやるのかどうかというのは問題で,もしやらないとすればどこでディスティンギッシュするのかということは,問題になるのかなとは思っています。
  それから,第2点は先ほど申し上げた相当性要件というのが甲-1案,甲-2案ともに相当と認めるときという要件が入っていて,22ページに書かれてある22ページの上のほうの「なお」という段落で書かれてあることによれば,この相当性というのは,結局,自己の具体的相続分を超えて財産を取得することとなる蓋然性が高くないか否かの審査であると書かれていて,確かに私もこのような要件は必要だろうと思います。
  ただ,これも200条2項でも必要ではないのかと思うんですが,これは,ただ,200条2項の方は,それは明示的には書かれていないんです。本案係属要件でそれを代替しているという見方もあり得るのかもしれないですけれども,先ほど申し上げたように本案係属要件というのは,必ずしもここで書かれてあることとパラレルなものではないのではないかと思っていまして,その関係をどう捉えるのか,ここだけに相当性要件というのを置くのがいいのかという問題と,それから,これが要件の内容なんだとすれば,相当と認めるときというのは余りに抽象的な要件の書き方になっていて,もう少しスペシフィックに書く必要があるのかなと。相当と認めるときというのは,裁判所の要するに裁量に委ねたと文言としては読めるわけですけれども,ここに書かれてあることからすれば,それは趣旨としては必ずしもそういうことではないように思いますので,書くとすればもう少しスペシフィックに書くということが必要かなと思っています。
  それから,乙案についてもしよろしければ,乙案は基本的には実体法の問題だと私は思っているのですが,その関係で乙-3案というものが,ここでの整理の仕方は保全処分と同じような効果を認めるんだけれども,それを保全処分を経ないでできるのかという問題設定の仕方のように思いますけれども,私は必ずしもそう捉える必要はないのでないのでないかと。
  先ほど浅田委員から乙-3案というのは,仮にその権利を行使することができるということについての違和感が銀行界にはあるというお話だったんですが,ここで言いたいことは恐らく仮にその権利を行使することができるということではなくてというか,そう表現しなくても権利は行使できると,相続人と金融機関との間では権利は確定的に行使されると,ただ,そこでなされた弁済あるいはその財産というのが将来,遺産分割の対象になりますよということを言いたいのではないかと思っておりまして,そうであるとすれば,そういう一定の権利行使を遺産分割前に認めて,しかし,その財産も遺産分割の対象になるように法律で決めているということだけなのかなと思っていまして,必ずしも保全処分の効果を保全処分なしに認めるという問題の設定の仕方をしなくてもいいのではないかと。
  そういう意味では,これも実体法の規定の問題であって,乙-2案は実体法の規律を当事者の意思,相続人の同意というものによって基礎付けているということだと思いますが,単に法律でそう定めるということだってあり得るのではないかと,実質的な根拠は乙-2案のところで書かれているとおりだと思いますので,その実質的な根拠があれば法律でその部分も遺産分割に含めるという効果を帰属さす,そういう効果を認めているんだという説明をすれば足りるような気がしまして,そういう意味では,類似の制度が見当たらないから慎重に検討するという,そういうことをいう必要は,私は必ずしもないのではなかろうかという感じがしています。
  ただ,いずれにしても,その場合にはその対象は,私は,ですから,そういう意味では,法定のものと裁判所の判断によるもの,裁判所の判断によるものも甲案にあるように費目とかで非常に限定されたものと,更に200条2項に規定されているようなより一般的なものと,3層,3段階の規律になるのかなと,仮に甲・乙の両方を設ければ。そうすれば,乙案というのは要になる部分ですので,その必要性が非常にある種,高いというか,定型的にその必要性が認められる,裁判所の個別的判断を経ないでも,その必要性が認められる部分に限られるということになるのかなと思っていまして,そういう意味では,31ページの先ほど浅田委員が議論されていたところは,私自身は③になるのではないかという感じがしていて,つまり,相続人がいろいろな金融機関に預金を分散している結果として,多くの金額を相続人は権利行使できると。
  一つのところに1億円を預けている場合と,10個の銀行に1,000万ずつ預けている場合とで,相続人が処分できるのが10倍違うというのは,なかなか,制度として正当化するのは難しいのではなかろうかという感じがしておりまして,ただ,金融機関の方はそれで対応が大変になるという御指摘はごもっともで,ただ,31ページの(注)に書かれてあるような対応,金融機関の側は申告に従って払戻しをすれば,そこで効力は確定的に認められるとすれば,対応は可能なのかなという感じもしないでは,この辺りは,しかし,金融機関の実務は分かりませんのであれですけれども,私はそこはかなり限定的に制度は作る必要があるのかなという印象は持っているということです。
○大村部会長 ありがとうございました。甲案につきまして家事事件手続法の200条第2項まで含めて3層とおっしゃっておられましたが,そういう視野で問題を捉えるべきだという御指摘をいただいたものと理解しました。それから,先ほど浅田委員が御指摘になった上限額の算定方法について,別の考え方を採るべきではないかということだったかと思いますけれども,事務当局で,今の御意見について何かありますか。
○神吉関係官 山本委員からの御指摘で,甲案の相当性について,もう少しスペシフィックに書けないかという御指摘を頂いたところかと思います。この点は,部会資料23ページの(注2)の記載とも関わるところですけれども,(注2)記載の内容として,場合によっては法定相続分を超えて仮払いを受けることもできる場合もあるのではないか,事案によっては相続分を超えた支払いを認められる場合もあり得るというところで,「相当性」という抽象度のやや高い書き方で提案をさせていただきました。この点につきましては,相続分を超えた仮払いは認めない,飽くまで具体的相続分の範囲内でしか仮払いを認めませんということが確定的に皆さんの間でコンセンサスがとれれば,そういったスペシフィックに書くという考え方もあろうかと思います。この辺りの皆様の御意見も併せてお聞かせ願えればなと思っております。
○山本(和)委員 よろしいですか。確かにおっしゃるとおりで,23ページ(注2)のところはそうで,ただ,全体的に見れば,結局,それによって他の相続人に当該相続人の信用リスクを転嫁しない形でできるというところが言いたいことなのかなと思っていまして,それを相当という抽象的要件ではなくて,もう少し何か明確に書けないかなというぐらいの問題意識だと理解していただければと。
○堂薗幹事 ただいまの点につきましては,200条2項でも同じような問題があるのではないかと思うんですが,ここでいう相当性の要件は,被保全権利の疎明に相当するようなものではないかと思います。そういった意味で,仮に具体的相続分を超えるようなものであっても,代償金の支払が確実に履行されると,要するに相殺権の行使等により確実に履行されるということであれば,被保全権利の問題は余り生じないのだろうと思いますので,他の規定において,ここでいう相当性の要件については被保全権利の疎明のところで読んでいるということであれば,ここでもあえてその要件を規定しなくてもいいのかなという印象も持っているんですが,その辺りはいかがでしょうか。
○山本(和)委員 私もそれはそう思っていて,ただ,一般的には本案係属要件がある程度,民事保全にいう被保全,非訟の場合には権利がないという前提ですから,後から形成されるという前提なので,本案係属要件によって権利形成の蓋然性を担保して,そこで一種の被保全権利が吸収されるというような理解が採られている,ただ,先ほど申し上げたように厳密にはというか,そこはだからずれているような印象を私も持っていて,本案係属要件だけでは吸収できない,ただ,被保全権利はいろいろな保全処分の家事の保全処分では明確に書かれていないということだと思いますので,そこは解釈に委ねられているのだとすれば,ここも解釈に委ねるということは立法的にはあり得るかなとは思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 先ほど山本委員から31ページの(注)の③に関する御指摘の中で,金融機関としての負担という問題が出ました。その点も踏まえて逆に質問という形でお尋ねしたいんですけれども,先ほど私は③に関して,他の金融機関における払戻しについての確認義務を金融機関に課すということを想定しているのであれば,およそワーカブルではないと申し上げました。確かにこの案というのは非常によく考えられた案であると思います。非常に明確,要は単純な,払戻請求者に対する確認義務のみを負って,その説明の真偽については調査義務を負わないということであるのであれば,私の個人的な意見としてはワーカブルなような感じもいたします。ただ,例えばどう見てもほかの金融機関でも払戻しを受けているだろうというときとか,または,100万円といってもその実態を知っていた場合に,すなわち,本当は既に100万円の払戻しを受けているだろうという情報があった場合とか,調査義務とか注意義務とかいうものの射程というのが多分,判例法理等によって広がっていくということを多分,我々銀行界としては恐れると思っています。
  何度も申し上げて,この議論について深く詰めたというわけではありませんけれども,確認義務を負う内容と,それから,調査義務を負わないという意味合いというのがもうちょっと詳しく明確にならなければ,この案というのは不安な材料になっているということもありまして,調査義務を負わないということの意味合いについて,現在,検討されている点があれば,御教授いただければ有り難いと思います。
○堂薗幹事 この点は,まだ,(注)で書いている限度ですので,こちらも十分に詰めて検討できているわけではありませんが,ここで考えているのは,基本的には相続人の申告どおり,要するに相続人の方で20万円をほかの金融機関で行使しましたということであれば,それを前提として,例えば上限が50万ということであれば,30万の限度で払えば,それで免責されると。仮に実際には50万,上限ぎりぎりまで他の金融機関で払い戻していたとしても30万の弁済は有効で,その点については準占有者の弁済のように過失とか,そういった点を問題にせずに申告に従って払えば免責されるという前提で考えております。そういった規律を設けた場合でも,その後にどのような解釈がされるかというのはまた別の問題としてはあるかと思いますが,一応,ここでは他の金融機関で行使しているかどうかというのを金融機関に判断させるというのは酷だろうという前提ですので,そこについての調査義務は基本的には一切負わず,申告を信じて弁済すれば弁済としては有効だという前提で考えているところではあります。
○浅田委員 1点だけ,すみません,いろいろ,疑問はあるわけですけれども,一つの典型的な例として例えば窓口に来た相続人は,そんな払戻しをしたことがないと言っていると。ところが,違う相続人が,嫌がらせか,はたまた,うそをついているということかどうか分かりませんが,銀行に対して,あいつは幾らを下ろしたと,文書で言ってきたとか。そういう両方から銀行は異なる申入れを受けることがあるわけですけれども,つまり,銀行が悪意だった場合に,この調査義務を負わないということがどういう意味合いになるのか,免責が図られるのかどうかということについて御意見がございましたらお聞かせいただけますか。
○堂薗幹事 そこは,更に先の問題になるかとは思いますが,他の相続人から通知があった場合については,別途規律を設けるという考え方もあると思いますし,他の相続人としては,それを防止したいということであれば,逆に払戻しを禁止する保全処分の申立てをして,それを止めない限り,銀行としては免責されるという考え方もあるでしょうし,そこはいろいろな考え方があるのではないかと思います。その点については,まだ十分に詰めた検討はできていないという状況です。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○窪田委員 まだ,甲案,乙案自体についてはどういう立場がいいのかということも固まっていない段階なのですが,乙案について少し質問させていただければと思います。乙-1案ですが,17ページのところを見ると,「この場合においては,当該権利行使をした相続人は,当該権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とすることに同意したものとみなす」ということが入っているのですが,この部分は本当に必要なのかなというのを少し疑問に感じております。つまり,乙-1案ですと当然の分割承継というのは一部に取り込んでしまいますので,改めて遺産分割の対象となる財産にするということに一定の仕組みが必要なのですが,乙-2案の方は別にその部分は修正せずに単に権利行使を認めているということですから,別に遺産分割の対象から外れている財産となるわけではないのだろうと思います。
  そうだとすると,むしろ,単独で権利行使をすることができるということだけを規定するということもできるのではないのでしょうか。ただ,その上で精算について,特に具体的相続分を超えるような形で権利行使をしてしまった場合,不当利得返還請求権を認めるとか,そうしたことは必要なのかもしれませんけれども,遺産分割の対象とするための同意というのは別になくても,現在の預金債権についての判例を基礎とする法律関係,そして,ここでの仮払い制度の前提ともなっている法律関係を前提とすれば,不要なのではないかという気がいたします。
  それからもう一つ,実は山本和彦委員の先ほどの御発言と重なるのですが,そのように理解した場合,実は乙-2案と乙-3案というのは,それほど本質的な差はないのではないかという点です。つまり,遺産分割の対象とはなるけれども,その部分について権利行使は一旦は認めるということを別に仮払いだと言ってもいいし,実体法,権利行使だと言ってもいいし,そのような理解に立つと,乙案というのはもう少し整理ができるのかなという気がいたします。質問と意見と半ば混ざったような形ですが。
○神吉関係官 乙-2案の後段は要らないのかどうかというところは,この点は現行法上の解釈としてよく分からないところではあります。遺産分割の対象になる財産があって,例えば共同相続人の一部が自分の持分を処分した場合はどうなるのかということだと思うのですが,文献などでは,それは遺産分割の対象から外れるとした上で,その後にどう処理するのかということについては,それは不当利得で処理すると書いてある文献もありますし,一方で,それは具体的相続分で考慮すると書いてある文献もありますし,そこは余りよく分からない,定説というものが見当たらないという状況にあるという認識でいるところであります。この点につきましては,むしろ,ほかの先生方から,実務上,どうしているかということがあれば,教えていただけると非常に有り難いのですが,いかがでしょうか。
○窪田委員 別に実務上のことが分かっているわけではないのですが,一部の権利行使をしたとしても,例えば不動産についての持分を処分したとしても,それによって当該不動産が遺産分割の対象となる遺産から外れるわけではないですよね。それと同じというか,あるいはそのときにも同じように遺産分割の対象となるという意思表示をしないと,ここでいう遺産分割の対象となる財産というのは,遺産分割の前提としてみなし相続財産として計算される基礎財産という意味なんですが,その財産であるということは別に否定されないのではないでしょうか。
  権利行使を認めるということと,それを切り離していいのではないかというのは,実は以前からあった甲案,乙案でも,甲案というのは正しくそういう考え方だったわけですよね。遺産分割の対象となる遺産だけれども,権利行使はできる。それと同じだけなのだとすると,わざわざ,ここで何か先祖返りのように,一旦,預金債権については当事者の意思表示も不要で,遺産分割の対象の他の遺産だとルールが形成されたのに,改めて権利行使はできると。そこの部分については,改めて全員の同意があって初めて遺産分割の対象となる遺産となるのだというような構成を採る必要はないのではないかなという気がいたします。ただ,前提が分かっていない,あるいは誤解があるのかもしれませんが。
○堂薗幹事 確かに乙-2案は,中間試案の甲案でやろうとしていたところと似たようなところがあるんですが,ただ,遺産分割の対象になるといった場合は,基本的に分割時に分割の対象となる財産のことをいうのだろうと思いますので,そういった意味で,弁済でなくなっているものについては遺産分割の対象財産から外れてしまうのではないかというのが前提としてございます。先ほどの不動産の共有持分を処分した場合も,判例によれば,新たな共有者と他の相続人との関係は,基本的に共有物分割の方で精算し,残ったものだけが遺産分割の対象となるということだとすると,持分を処分した場合も最終的な分割の対象となる財産からは外れてしまうのではないかと思います。ただ,御指摘のとおり,具体的相続分を計算する上で,その算定の基礎となる財産には入るのかもしれないんですが,実際,相続開始後に持分の一部が処分された場合に,その後の遺産分割においてそれがどのように取り扱われるのかというのが必ずしも実務上はっきりしていないのではないかというところもございまして,その辺りも含め,更に考えていきたいと思っております。
○窪田委員 よろしいでしょうか。おっしゃる趣旨が分からないわけではないのですが,処分されてしまったものは遺産分割の対象にはできないということであれば,当該権利行使をして消えてしまった預貯金債権も含めて遺産分割とすることに同意するというのは,何かある種の論理矛盾に陥っているのではないかという気もします。むしろ,ここで言いたいことは,遺産分割の前提となる計算をした上で具体的相続分も導いて,しかし,それを超えて権利行使してしまった場合には不当利得返還請求権なり,償還請求権を認めるということに意味があるのだとすると,ストレートにそれを規定すれば足りるのではないのかなという気がするということです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 先ほどの山本委員の御発言に関連して,2点,申し上げたいと思います。
 1点目は費目の点です。甲-1案でも甲-2案でも費目に着目しており,そうした考え方というのはあり得る視点だとは思うんですけれども,この制度において,費目にどれほどの意味があるのかということは,本案との関係を検討する上で整理しておくことが必要ではないかと思います。費目のうち,例えば,葬式費用とか公租公課といったものは,本来,遺産分割の対象ではありませんので,遺産分割の本案の中では考慮する必要はないものですが,ここで提案されている制度の中では,これらの費目も保全の必要性の一要素として考慮することとされています。ここで,これらの費目を保全の必要性の例示にすぎないと整理するのであれば,遺産分割を本案とする保全処分としてこの制度を位置付けることについて特に違和感はないのですけれども,そうではなくて,これらの費目をこの制度の枠組みを決めるものとして特出しすることによって,この制度は葬式費用を払わせるための制度なんだ,あるいは公租公課を払わせるための制度なんだと整理するのであれば,この制度は本案と大分ずれたものになって,遺産分割を本案とする保全処分というよりも,ある種,遺産分割とは別の世界の特別な制度という位置付けが色濃くなり,本案との連続性という点が今一つ理論的によく分からなくなってくるように思うんです。それから,それに関連して,例えば葬式費用ですと,本来的な負担者は誰かとか,実際,幾ら掛かるのかとか,それが相当かとか,そういったところまで保全手続の中で本格的に確定しないといけない[m3]となると,緊急の資金需要に対応するという制度設計とかなりぶつかる面が出てくることになりますので,そういう意味からも,費目というのをどこまで全面に出すべきかというのは考えるべき点があるのではないかと思います。
  それから,2点目の方は先ほどの山本委員の意見とややぶつかるのかもしれないんですけれども,相当性の要件についてです。相当性の要件について,具体的相続分を超えないかという辺りをより明確に打ち出すべきではないかという考え方はもちろんあろうかと思う一方で,具体的相続分を超えそうかどうかというのを全事案において常に明確に考えろと言われると,これまた,判断の迅速性を阻害するところがあるということは容易に想定されるわけです。遺産総額が非常に大きくて,申立てで求められている額が非常に小さい場合には,仮に多額の特別受益があったりしても,本案で代償金の支払を命じるなどして何とでも調整できるのではないかという事案だってあると思うんです。そういうときにまで必ず具体的相続分の算定をかなりの程度まで念頭に置いて審理しなければならないということになると,疎明の範囲によるのかもしれませんけれども,なかなかつらい部分もあるかなという気がしていまして,相当性の要件について,どの程度,裁判所の裁量を認める要件にするのかというところは難しい点があるのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。理論上の問題と併せて,実務的に困難が生ずることがあるのではないかという御指摘を頂いたと思います。何かお答えはありますか。
○神吉関係官 補足して御説明いたします。甲案で費目を特出しして書いているわけですけれども,費目を限定しないことも考えられるのではないかという御指摘かと思います。この点はなお検討したいと思いますが,200条2項と要件の差を付けるところをどう説明できるのかということにかかってくるかと思います。200条2項は,現行は急迫の危険を防止するためというかなり厳格な文言を置いていますけれども,それを緩和するところとして,こういった費目であれば,急迫の危険がなくてもいいのではないかというところで,幾つか費目を特出しさせていただいたというところであります。
  また,なぜ,①,②,③という形で分けて書いているかというところなんですけれども,ここは相当性の審査の内容がそれぞれで少し異なるのではないかという問題意識がございます。すなわち,具体的相続分を超えて仮払いを受けられるかどうかというところとも関連しておりますが,相続財産に属する債務については,ほかの相続人も負担すべきというところもあると思うので,そういった場合には相続分を超えた支払いを受けられることもあるだろうという考え方もありうると。また,葬式費用については,被相続人が手配していた場合には同じように考えることもできるし,喪主が手配するという話であれば,③の自己の生活費と同じレベルで考えるべきということで,中間的なものとして位置付けられるだろうと。
  一方で,生活費についてはその人の生活費という話なので,相続分を超えることは基本的に許されないだろうと。そういったところで,相当性の審査においてグラデーションがあるのではないかというところで,①,②,③という形で要件を分けて,最初は提案させていただいたというとこであります。もっとも,先ほど来御説明しているとおり,そもそも,相続分を超えての支払いを認めるかどうかというところについては,もしかしたら御異論があるかもしれないので,その辺りも御意見を頂ければと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○垣内幹事 甲案に関してなんですけれども,まず,本案係属要件に関しては先ほど山本委員からも御指摘がありましたけれども,私自身も基本的には当該保全処分の性質ごとに個別に考えるというアプローチはあり得るものなのだろうと考えております。ただ,ここも山本委員の御発言と重なりますけれども,ここで書かれている御説明で区別するのだとすると,先ほど200条2項一般の場合も当てはまるのではないかというお話がありましたが,遺産分割以外の局面でも例えば財産分与とか,婚費の支払いとかいった場面でも当てはまる部分があるような感じもいたしまして,なぜ,この場合の仮払いだけがそうでない取扱いになるのかというところについて,なお,少し説明を加える必要があるのかなという印象を持っております。
  そのこととも関係するんですけれども,どうもこの制度の基本的な理解として,保全処分というのは基本的には権利者に,今,保全処分をしなければ何か害が生じるので,本案を待たずに迅速に処理するということかと思いますけれども,そういう発想と,それとは別に,元々,預金債権については当然分割の対象で一定額が使えるようになっていたという背景を踏まえて,何か合理的な理由があるのであれば,遺産分割を待たずに使えてもいいではないかといったような預貯金に特有の発想から,このような制度を設けるというようなことも考えられるのかなと思っておりまして,そうだとすると,これは本案という話とはかなり独立の特別の制度だということですから,必ずしも本案係属要件とは連動しないというような理解にもなるのかなという気がしております。
  そのこととも関係いたしますけれども,甲案における必要性の要件の内容に関して,いろいろな理解の幅があり得るところかと思いまして,今日の資料でも23ページのところで,相続財産に属する債務の弁済に関して,他の相続人が負担すべき債務の弁済も含めてよいかどうかということが論点として提示されておりますけれども,例えばこの点について,それも含めるというような解釈を採った場合には,これは権利者に害が生ずるからというよりは,何か,それが便宜であるので合理的に理由があれば,どんどん,認めていいという制度であるという色彩が濃くなるのかなと思われます。
  そのこととも関係しまして,今,甲-1案でも甲-2案でも必要がある場合という要件が掲げられているんですけれども,ここで指摘されている必要というのは,当該行為をする必要,例えば債務の弁済とか,葬式費用,葬式ですと葬式を強行するということかと思うんですけれども,保全的処分的な発想からいったときに,生活費については恐らく支弁がなければ生活に困るという伝統的な保全処分の考え方からいっても説明しやすい事例なんだと思うんですが,葬式費用とか,相続財産に属する債務の場合に,例えば相続人が無資力であって,預貯金を下ろさなければ払えないというような場合ですと,必要性というのは説明しやすいところがあるのかなと思われますが,別途,別に支払うことはできるんだけれども,元々,相続財産に関係するものなので,相続財産に属する預貯金から払うことが便宜ではないかというようなことであったとしますと,必要性という面では何か2段階,間接的な必要性というようなところがあるようにも思われますので,その辺りの基本的な制度の位置付けと申しますか,性格の理解をどうするのかということも一つ重要な論点なのかなという感じがしております。
○神吉関係官 その点に関連してですけれども,伝統的な保全の必要性の理解については先生がおっしゃるとおりだと思うんですけれども,自分の生活が非常に困っていないと葬式費用の仮払いを認めない方がいいのか,それともその仮払いを認めた方がいいのかという実質的な価値判断だとは思います。実質的な価値判断からすると,いずれもあり得るかと思うのですが,債務の弁済とか,葬式費用については自分がぎりぎりの生活をしていなくても,仮払いを認めてもいいのではないかというところが実務上,あるのではないかというところで,事務当局としてはこういった案を出したところではあります。
○増田委員 今,村田委員や垣内幹事は非常にやわらかくおっしゃったと思うんですけれども,私もこういう制度を作ることに反対するわけではなく,むしろ有意義だと思うんですけれども,遺産分割手続の保全処分としての枠は超えているのではないかと思います。遺産分割の保全処分というのは,遺産分割請求権を被保全権利と基本的に考えるわけだろうと思います。民事保全と違って,それほど厳格なものではないのかもしれませんが,そこでいう保全処分の目的は,遺産に属する財産が他に処分されたり,何らかの形で価値を毀損するような行為を防止するといったことが基本であって,部会資料の①,②,③のようなものとは少し性格が異なるのだろうと思います。
  要は,この場合の保全の必要性というのは,他の相続人や第三者による遺産分割請求権の侵害の可能性,蓋然性ではなくて,当該債権を帰属確定以前の早期に行使するという必要性であり,性質からいえば賃金の仮払いに似たようなものであろうかと思います。現在の遺産分割の手続に付随する保全処分という枠からは少し性格が異なるように思いますので,別途,何らかの実体法上の根拠を作るとか,あるいは裁判所の許可を得て権利を行使するという家事で言えば別表第1パターンの非訟手続を新たに作るとかいうようなことも,考えられていいのではないかと思います。
○堂薗幹事 確かに①や②を遺産分割の保全処分との関係でどう基礎付けるかというのは,なかなか難しいところがあるんですが,若干,こじつけにはなるかもしれませんけれども,例えば,相続財産に属する債務ですと,他の相続人の分も弁済しなければ,場合によっては,財産分離など,遺産分割とは別の手続が開始される可能性もあって,そうなると,自分が承継した相続債務についてはきちんと弁済した人についても,結局,遺産分割の手続をすることができずにほかの清算手続がされることによって,自分が欲しい遺産を取得することができなくなるということが考えられます。あるいは,葬儀費用につきましても,ここは解釈上,いろいろ争いはあるのかもしれませんが,一般的な考え方からすると,被相続人の葬式については遺産全体について先取特権があるということになりますので,その支払をしませんと,結局,自分が欲しい遺産が換価されるということにもなりかねませんので,そういった観点から,遺産分割を円滑に行う,遺産分割の対象となる財産の換価を免れるという目的のために,①や②についても保全の必要性を認めるという考え方は,あり得るのではないかとも考えているところです。
○大村部会長 よろしいでしょうか。甲案にしましても乙案にしましても,新しい制度を作るにあたって,すでに存在するものと接合する形で考えておられるということかと思いますが,しかし,従前のものと違うのではないかという御指摘が出ているというのが今の議論状況かと思います。乙案につきましても,説明ではなくて制度を作ってしまえばいいのではないかという御指摘もありましたけれども,確かに,制度は法律を作ればできるわけですけれども,根拠を問われたときに既存の制度と関連付けて説明することが一定程度は必要だろうという発想で説明がされているのだろうと思っております。御指摘がたくさんございましたので,それらを踏まえた形で更に調整が必要ですが,本日,更にこの甲案・乙案につきまして御意見を伺えれば,伺っておきたいと思います。
  それから,今まで伺ったところでは,基本的には甲案・乙案ともこうした制度を作るということ自体については反対の御意見はなく,制度を作るということは認めた上で,その内容をどうするかという御発言をされているように思いますけれども,賛否につきましても何かございましたら伺えればと思います。
○石井幹事 乙案は裁判所の関与を経ずに仮の支払いを受けられるというところで,非常に利便性が高い制度だと思っておるんですけれども,乙-2,乙-3案については,後にその精算が予定されているというところで,若干,懸念しているところがございます。といいますのは,後に清算するといっても,誰が幾ら仮払いを受けたのかということが明確になっていないと,その点に関して当事者間に争いがある場合には,精算のための手続が非常に紛糾してしまって,この制度を設けた意味が減殺されるおそれがあるように思います。また,仮に,遺産分割の審判の中で精算をしても,その前提となる事実関係について,これと違う判断が後に訴訟でできるというようなことになりますと,遺産分割の結果が覆ってしまいます。そのため,誰がいくら仮払いを受けたのかが後で明確になることが制度的に担保されていないと,円滑に制度を運用することはなかなか難しいのでないかなという気がしておりまして,その辺りについても,今後の検討課題としていただければと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。では,その点につきましても検討していただくということにさせていただきたいと思います。
○中田委員 この問題は,銀行が預金約款の中で何か対応するという方向の御検討も頂いてもいいのではないかなという気もしているんですけれども,仮に預金約款の中に対応措置を設けたとして,乙案がそれを妨げるということにはならないと理解しておりますけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 乙案のような規定を設けたとしても,それと矛盾しないような形で,別途約款などで規定するということは問題ないと思いますので,そういった理解でよろしいのではないかと考えております。
○村田委員 今の点に関連して,先ほど石井幹事からお話のあった点と今の話とが少し絡むかと思うんですけれども,乙-2案,乙-3案のような形で,いつ,誰に,どういう根拠から幾ら払ったかというのが記録化される必要があるというときに,そのような記録化を相続人に期待するというのは現実的に難しいところもあるのかなと思いますので,裁判所の立場からすると,そういう記録は金融機関でしておいていただけたら有り難いなと思うわけです。ただ,それは金融機関に相当の御負担をお掛けすることになると思いますし,約款をどう整理するのかという議論にもなり得ると思いますので,迅速な支払を認めるがために,制度全体として,かなり大がかりなインフラ整備が必要になる部分もひょっとしてあるのかなと,その辺りも気になるところではあります。
○浅田委員 一言だけ申し上げます。具体的にどれぐらいの負担になるのかという話はまだ検討しておりませんので分かりません。ただ,負担になるということだけ御承知おきいただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○石栗委員 乙-2案と乙-3案というのは,いずれも実体的な権利行使として預金の払戻しを受けることができるという提案のようですが,そうだとすると,遺産分割の時点では,既に実体的な権利行使をしてしまった部分については,預金債権がなくなっているということだと思うんです。それについて遺産分割の対象とするという合意をしたという説明をされていますけれども,一般的に言われている「遺産分割の対象とする合意」というのは,遺産分割の時点で存在する財産を対象とするものですので,ここでいう合意というのは一般的に言われている「遺産分割の対象とする合意」とは違う性質の合意を意味するものだと思います。
そのような合意があった場合の処理としては,既に実体的に権利行使された預貯金債権は権利行使をした当該相続人が取得したものとして,各相続人の取得分を算定するということは,特別受益があった場合などには通常行われるところですけれども,既に実体的に権利行使された額が当該相続人の具体的相続分を超えている場合に,主文において,他の相続人への代償金の支払いを命じるということまで想定されているということになりますと,特別受益などでは行っていない既に存在しない財産の取得を主文に表示するというだけでなく,さらに,そのことを理由に代償金の支払という新たな権利義務関係を設定するということになりますので,なかなか,難しい問題もあるような気がいたします。今後の御議論では,その点も含めて御検討いただけると有り難いかなと思います。
 次に,実務では,葬儀費用というのは非常に争われる部分でして,領収書がなく,支払の有無自体が争われるものもあれば,支払額が相当だったかどうかということが争われる場合もあるんですね。ですから,今までお話が出ていたと思うんですけれども,支払うべき葬儀費用の額を迅速に判断することは非常に難しいことだと思いますし,甲案の方であれば相続人全員が当事者になることが想定されていると思いますので,これらの点が審理の中で相当程度争われることもが予想されますから,そうしたことも踏まえて,規律の仕方についても御検討いただければと思います。
○神吉関係官 前者の点についてのみお答えいたしますが,乙-2案の後段の同意をどのように考えるべきかというご指摘かと思います。この点については委員から御指摘いただいたとおり理論的に問題になりうるかと思い,33ページで当事者の同意を根拠とすることについてどう考えるべきかということで,(注3)で記載しております。本来の遺産の対象ではない財産について,合意で遺産分割の対象とすることができるかという問題,これは恐らく判例上,クリアされているんだと思うんですけれども,更に御指摘のとおり,財産が費消されて消失している場合にも,同意でクリアできるのかという話があるかと思います。
  この点について特に明確に論じた文献とか,判例は見当たらないところですので,どう考えるかというところだと思うんですけれども,前者が同意で当事者の財産権の処分として許容している以上は,後者も一応,クリアできるのではないかなと思っているところであります。ただ,飽くまで遺産分割というのは遺産分割時にあったものを分ける手続であって,それ以外には駄目ですよという考え方ももちろんあるかとは思いますが,ただ,そうすると精算ができないという結論になりますので,それでもやむなしといえばいいとは思うんですけれども,その点の実質論をどうすべきなのか,精算すべきだとなったときにどういう理論構成を採るべきなのかというところで,もし,お考えがあれば御教示いただければと思います。
○石栗委員 今,申し上げたのは,通常の「遺産分割の対象とする合意」は,遺産分割の時点で既に費消された財産を遺産分割の対象にしたり,そうした財産を遺産分割で取得したことにする代わりに代償金の支払いに応じたりするということまで扱うものではないので,通常の「遺産分割の対象とする合意」とは異なる意味まで膨らませて考えないと,この提案でいうところの合意を理解することはできないのではないでしょうかということです。
○神吉関係官 ただ,その同意をどこまで含めるのかというところですけれども,自分の利便のために専ら権利行使をしたものですので,そういった精算の義務を課すということを含めて,代償金債務を負わせるといったことも含めて同意させたとしても,そこは特に問題ないのではないかなとは思っているところではあります。
○石栗委員 そういう制度設計をされるのであれば,それはそれでやむをえませんが,そこで用いられている合意という言葉は,これまでの遺産分割の実務で用いられていた「遺産分割の対象とする合意」とは性質の異なる合意であることを明確にしていただければということは申し上げさせていただきたいということです。
○神吉関係官 分かりました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 乙-3案の方なんですが,乙-3案は仮分割の仮処分がされた場合と同様の効果を生じさせるという前提ですので,飽くまで弁済を受けても仮のものとして取り扱い,遺産分割ではその預金はまだあるものとして審判をするという前提に立っております。ですから,乙-2案と乙-3案の違いは,金融機関の支払が実体法上,弁済として有効なのか,あるいは仮分割でされた場合のように飽くまで仮のもので,遺産分割の審判においては,まだそれがあるものとして判断をするのかというところに違いがあるということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
○水野(有)委員 今の3案なのですけれども,あるものであることを前提として審判をするといっても,金融機関との間では支払いは有効なわけですよね。ということは,預金債権が現実には存在しないのですよね。預金債権は例えばAさんが取得すると審判した場合の法律効果というのは,具体的にはそこの金融機関に行ってくださいといっても,もちろん,くれないわけですから,結局は代償金に転嫁させないといけないという御趣旨ということでよろしいのですよね。そうなると,結局,最終的な効果が乙-2とどう違うのかがよく分からないなというところが率直な疑問なのですが。
○堂薗幹事 ですから,やろうとしていることは,結局,乙-2も乙-3も変わらなくて,最終的には過払いになったら精算をするということなんですが,仮に甲案のような形で仮分割の仮処分をかなり柔軟に認めるのであれば,それがされた場合と同様の効果にして,主文においても同じ取扱いをした方がむしろ分かりやすいのではないかということで,乙-3案は考えたものですので,そういった意味では,実際には支払ってなくなっているものを遺産分割の対象とするというところはございますが,ただ,そこは甲案でも,あるいは現行法の下でも同じような問題が生じるのではないかということでございます。
○大村部会長 水野委員,よろしいですか。更にあればどうぞ。
○水野(有)委員 技術的なことですので結構です。
○浅田委員 先ほどの村田委員の記録化を金融機関でして頂けると有り難いという御指摘について,先ほど一言だけ反応してしまったんですけれども,もうちょっと詳しく申し上げます。実際に,銀行内部の議論の中で,誰が幾ら払ったのかということの確認手段ということをどう記録化するかということが議論の俎上になったことはあります。ただ,これは非常に技術的に難しい問題だと思っています。
  大きく分けて多分,二つのやり方があると思いまして,一つはどこかに情報を集中するということだと思うんですけれども,銀行ということであれば,結局,全国にある各銀行において,相続人と称する人が預金を下ろすということをどのように情報収集するかということになると思いますけれども,これは多分,システム的にもほぼ不可能な話だと思っております。また,守秘義務という銀行に課せられた論点からしても,クリアすべき問題も非常に大きいと思っています。
  二つ目は,お札方式的な方法で誰かが下ろしたら,誰かが何かを発行して,それで,バウチャーのように回していくというのも考えたわけですけれども,それは誰が発行するのだろうとかを考えたときに,なかなか,難しいと思っています。必要性は感じるところでありますけれども,実務運用という観点から見たときには非常に難しい課題があるかと思います。したがって,もし,あるとしても先ほど議論の俎上に上がりました31ページの(注)のところでも議論がありましたように,結局は免責というところで,それが確実なものとして確保されればという前提付きでありますけれども,支払いがなされて,その後の処理というのは,もちろん,紛争の可能性を含む制度になるわけでありますけれども,相続人間で調整してもらうぐらいしかないのではないかというのが私の今の考え方であります。御参考までに申し上げました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに第3の項目につきまして御発言があればいただきたいと思いますが。
○水野(紀)委員 非常にいろいろと御苦労いただいているのですけれども,基本的にこの問題は,遺産分割手続の中における,その途中の管理の問題なのだろうと思うのです。フランスだったら公証人が,あるいはドイツだったら遺産裁判所などが,遺産の管理をしながら債権債務の整理をしていきます。そして,そのような中立的な強力な権限をもつ主体が,相続人全体の対立を超越する形で監督していて,その主体がこういうことをやるのですが,その一部がここで問題になっていて,ところが,日本法にはそのような主体による手続きがすこんと抜けていますので,これまでのように相続人同士が対立する遺産分割紛争の中で,相続人の自己主張の中に,落とし込んでいくことになると,構造的な難しさが出てくるのだろうと思います。
  日本法は,清算や管理を伴う遺産分割手続きを私人である相続人に任せてしまっていますので,そのお陰で随分と社会としては安上りに付いているわけですが,それゆえに生じる大変な部分もあるわけで,そこを銀行に少し助けてもらおうかというのでは,銀行も悲鳴を上げられるだろうと思います。そういう構造的な問題をどのように解決するかというのは,私に知恵があるわけではないですけれども,これまでの経緯からいいますと,日本法のそういう構造の問題は,相続人が一定のリスクを抱え込んで私人で処理し,そして,銀行から引き出したときにきちんと証明書をとっていないと,その人が損をするとか,何か,そういう形で制度を組んでいくしかないでしょうか。本当にきちんと争う,遺産分割審判までいけば,確実なルートで,家庭裁判所が今,抱え込んでおられるよりも更に大変になるかもしれませんけれども,その確実なルートに乗せて保全でやれば安全,という道も作っておいて,そうではない限り,私人ですごくリスキーにやるという枠の中で,どこかで妥協点を見付けていかざるを得ない問題なのだろうと思います。
  すみません,具体的なアイデアではなくて感想でございます。つまり,そういう全体構造の中で,今,あるものの枠の中でどこからやっていこうかというと,必ずどこかで矛盾が出る問題だろうと理解しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 今の水野委員の御発言に関連して,本質的な問題に全て答えられる話ではないとは思うんですけれども,大法廷決定を受けて現行法の保全でどういう対応ができるかというところの一つのアイデアとしては,家事事件手続法200条1項の方の財産管理者の選任をすることによって相続債務の弁済ですとか,そういったところに対応できる部分も相当程度あるのではないかという考え方もありますので,現行法のそういう制度でどこまで対応できるのか,それで足りない部分についてどういう制度が必要なのかということも頭に置いて検討する必要があるのかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。200条2項との関連につきましては先ほど御指摘がございましたけれども,1項の方も含めてという御指摘として承りました。
  そのほか,いかがでございましょうか。この甲・乙両案につきましては,正面からの反対があったわけではないと認識しておりますけれども,実際に動かしていくということになると生じてくる問題が幾つもあるということで,それについて一定の見通しを付けるということが必要かなということが分かったように思います。更に御発言があれば伺いますが,いかがでしょうか。
  では,この点につきましては今のような理解に立ち,更に検討していただくことにいたしまして,本日の最後の検討項目に移りたいと思います。最後は36ページになりますけれども,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」という項目でございます。事務当局の方から説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,部会資料の36ページからの部分について御説明させていただきます。
  まず,ゴシック体の部分につきましては中間試案から特段の変更というものはございません。一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化という論点でございますが,これは,元々,可分債権一般を遺産分割の対象とすることに伴う不都合を軽減する目的で検討を開始したという経緯がございます。それで,仮に前記2の論点におきまして丙案を採用することとした場合には,このような規律を設ける必要性というのは相当程度減少するものと考えられます。
  また,パブリックコメントにおきましては,一部分割を明文で認めることによって基準が明確になるとして,これに賛成する御意見があった一方,これを明文化することによって,預貯金等の資産価値のあるもののみが分割され,田畑など財産的価値の低い遺産については放置されるなど,濫用的な一部分割が助長されるおそれがあるのではないかなどとして,これに反対する意見というのも複数寄せられたところです。これらの点を考慮いたしますと,仮に2において丙案を採用することとする場合には,本方策のような規律は設けないこととすることも考えられるように思われます。
  次に,ゴシック体の②から⑤までについてでございますけれども,残部分割においては特別受益及び寄与分の規定を原則として適用することができないこととする旨の規律につきましては,パブリックコメントにおいても特に③及び⑤の規律につきまして,相続人間の協議によって一部分割が行われる場合には,将来の残部分割における特別受益及び寄与分に配慮した協議をすることは事実上,困難であることから,残部分割においてこれらを原則として考慮することができないこととすれば,不合理な結果を招くおそれがあるという意見など,反対する意見が多数でございました。これらの意見等を踏まえますと,仮に一部分割に関する規律①を設けることとする場合であっても,③及び⑤につきましては設けないこととすることが考えられるところです。
  また,パブリックコメントにおきましては,一部分割の段階では遺産全体の範囲や評価が未確定であるため,特別受益や寄与分による調整を一部分割の際に十分に行うことは困難であって,むしろ,これらの調整は残部分割において行われることも多いとの御指摘がございました。仮にこのような運用が多いというのが事実でございますれば,残部分割において特別受益及び寄与分の規定を原則として適用することができないこととする規律を設けることは,このような実務運用を困難にすることになるものと思われるため,②及び④の規律を設けることの相当性についても,慎重に検討する必要があるものと考えられます。
  次に,(2)の特則についてでございますけれども,これは遺産分割の対象に不法行為に基づく損害賠償請求権など,その有無及び金額が争われる可能性が高い種類の可分債権を含めることとした場合に,これによる遺産分割の遅延等の弊害を可能な限り防止するために検討したという経緯がございます。したがいまして,仮に2において丙案を採用し,可分債権一般を遺産分割の対象に含めないこととする場合には,この手当も不要であるものと考えられます。以上の点について御議論いただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。一部分割に関する規定が必要なのではないかということで検討してきたわけですけれども,本日の2の「可分債権等の遺産分割における取扱い」で丙案を採用するということであれば,これを置く必要性というのは低いのではないかというのが基本的な御趣旨かと思いますが,この点につきまして御意見があれば伺いたいと思います。
○増田委員 可分債権についてどのような考え方を採るかにかかわらず,一部分割は明文で入れていただきたいと考えております。元々,遺産分割の事件の長期化については,かねてより非訟家事部会においても問題にしてきたところですし,その長期化を防ぐべきであるということについては異論がないものだと思われます。また,今回,預貯金が当然分割でなくなったということによって,かりに仮払い制度が設けられたとしても,早期に遺産分割を行う必要性は高まったと考えられます。
  そのような中で一部の遺産につき,争いがあることによって全体が遅延し,一部についても確定しないということであれば,当事者にとっても相当程度の大きな負担になります。現在でも一部分割は理論上,可能であるという見解もございますけれども,裁判所の一般的な運用としては原則として遺産の全部を明らかにし,争いのない遺産の範囲を確定した上で遺産分割を行うということになっておりますので,御存じのとおり,遺産分割の審判をする前にいろいろな訴訟を起こしたりしなければならない場合もあるわけです。そのようなことを防いで,遺産分割の事件を早期に解決するためにも,一部分割をして争いのある部分については,後ほど訴訟の結果を待って判断するというようなことは考えられていいと思いますし,明文の規定を置くことになれば,裁判所においても,そういう運用を安心して行えるということになるのではないかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。可分債権の取扱いにかかわらず,一部分割の規定は置いた方がよいという御意見と伺いましたけれども,①から⑤までございますけれども,①の原則のところのほか,個別の点については,増田委員,何かお考えがもしあれば。
○増田委員 ②以降の方は削除した方が使いやすいように思います。それは個別の事案ごとに審判の場合には裁判所により判断されれば足りることであり,調停や協議の場合は当事者間において,残すかどうかということは決めるべきことかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。原則規定のみを存置すべきだという御意見ということで承りました。
  そのほかの委員・幹事の方々,いかがでございましょうか。
○石井幹事 全体として今回,提案されている①から⑤までの案につきましては,部会資料にあるような問題点というのがあろうかと思いますし,遺産分割の対象になる可分債権の範囲について預貯金債権に限定するという考え方を採るのであれば,この一部分割についての規律を明文化するという必要性自体もさほど高くないのかなとは思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。明文化の必要性は余り高くないのではないかという御意見ですけれども,今,両論が出ておりますけれども,ほかの方々,いかがでしょうか。
○村田委員 増田委員がおっしゃるように,一部分割について根拠を与えるという意味において,特に①の部分を規定するのは,それはそれで確かに意味のあることだろうとは思うんですけれども,他方で,一部分割と全部分割というのがあって,そのどちらかを明確に意識して遺産分割事件を処理しなければならないとなると,現実には少し厳しい面もあるのかなという気がいたします。実際の遺産分割事件では当事者主義的運用というのがかなり行われていて,遺産分割の対象財産について当事者間で合意がとれると,神様の目からするとほかに遺産があるのかもしれないんですけれども,そこには触れないで,当事者が合意した財産に限定して遺産分割をやりましょうということで手続を進めていきます。そのため,本当は全部分割ではないのかもしれませんけれども,そこには余り関心を払わないということで進める事件というのも相当程度あるわけで,この規定を置くことによって一部分割がやりやすくなるという面もある一方で,そういう合意をベースにしてやっていっているある意味の柔軟な運用が抑制される面もあるのかなとも思うと,厳しいところもあるかなという感じがいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかの方々,いかがでしょうか。②以下の規定について,これを特に置かないということについて反対はないのですけれども,①の原則規定を置くことをプラスと見るか,弊害があると見るかというところで意見が分かれているかと思いますが,何かございましたら,是非,伺いたいと思います。
○堂薗幹事 1点,御意見があればお伺いしたいところがございます。①については,従前から,遺産の範囲について争いがある部分については分割の審判をせずに,争いがない部分についてのみ分割の審判をして,それで,事件としては終了させると。争いがある部分については訴訟などでそれが確定した段階で,再度,遺産分割の申立てをしていただくということを考えておりまして,そういった意味では,現行行われている一部分割とは異なる面があるのではないかと思います。このように,相続人間で遺産該当性について争いがあるからということで申立てがあるにもかかわらず,その部分については,その段階では分割しないという審判をすることについて手続法的な観点から見た場合に,問題がないかどうかという点につきまして,もし御意見がございましたら,お伺いしたいと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。
○垣内幹事 先ほど当事者主義的運用というお話もありましたけれども,当事者が申立てを維持しているにもかかわらず,遅延するおそれがあるという理由で却下してしまうというのは,かなり異例の扱いであることは間違いないだろうと思っておりまして,そういう意味では,問題がないとは言えないような感じが私はしております。従前,議論されていたように可分債権等の取扱いとの関係で,どうしてもそういった必要性があるということであれば,それはやむを得ないという政策判断はもしかするとあり得るのかもしれませんけれども,一般的に今の①のような形での規定ということになりますと,これはかなり突出した制度という感があるかなというのが私自身の個人的な印象です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 38ページのところでは,却下することを想定していると書かれています。適法な申立てがあるにかかわらず,一部を却下するというのは異例の制度かなと思いますが,却下ではなくて遺産分割はしない旨の審判もありうると考えます。従前から遺産分割禁止の審判というのは行われていたわけですけれども,あれも多分に便法的なところがあったように思われるわけで,この場合には禁止するということではなく,分割しないという判断を示すことで,現在は分割しないけれども,不適法ではないということを表示するというのはありかなと。確かに異例と言われたら異例ですけれども,遺産の範囲が確定すれば改めて分割を申し立ててくださいねという意味のメッセージを含めて,分割しない審判というのはありうると思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかの方々,もし,今の点につきまして御意見がありましたらお願いいたします。
  では,今の御意見を踏まえて事務当局に更に御検討いただくということで,①を残すかどうかということにつきましては,なお,検討するということにさせていただきたいと思います。ほかはよろしゅうございますでしょうか。それでは,この点につきましては今のように取扱いをさせていただきます。
  最後になりますけれども,今後の日程等につきまして事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 それでは,次回の日程でございますが,既に御案内のとおり,3月28日(火曜日)の午後1時半からを予定しております。次回は相続人以外の者の貢献,中間試案でいいますと第5を取り上げるほか,これまで御議論いただいた論点のうち,要綱案の全体的な検討に入る前に,更に詰めた検討を要する事項というのが幾つかあると思いますので,そのうち,準備ができたものを2,3取り上げて部会資料に載せ,それについて御議論いただくということを考えております。今のところ,長期居住権の財産評価に関する問題や,遺言がある場合の義務の承継に関する問題を取り上げることを考えておりますが,それは今後の検討状況次第というところがございますので,その点は御了承いただければと思います。次回の場所でございますが,次回は法務省20階の第1会議室になります。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  次回の予定は今,お話があったとおりでございますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
  本日も長時間にわたりまして熱心な御検討を頂きまして誠にありがとうございました。これで閉会させていただきます。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第19回会議 議事録


第1 日 時  平成29年3月28日(火)自 午後1時31分
                     至 午後5時14分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,法制審議会民法(相続関係)部会第19回会議を開催いたします。
  まず最初に,配布資料につきまして,事務当局の方より御説明を頂きます。
○大塚関係官 部会資料が二つと,それから参考資料,参考人提出資料がございます。部会資料の19-1及び19-2につきましては事前に御送付申し上げているものということになります。それから,参考資料「寄与分に関する裁判例」につきましても事前に御送付申し上げているものということになります。そして,今回机上に配布いたしましたのは,参考人提出資料「『長期居住権についての具体例』についての意見」と題するものでございまして,こちらは公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会から御提出を頂いたものでございまして,後ほど参考人となられる奥田先生から御説明を賜りたいと考えております。
○大村部会長 ありがとうございました。今御説明がありましたように,本日は長期居住権の財産評価方法について御議論いただく予定でございます。この機会に不動産鑑定の専門家の方の御知見を伺うというのは大変有益ではないかと考えております。そこで,日本不動産鑑定士協会連合会の常務理事,奥田かつ枝さんにお越しいただいております。奥田さんからは,当部会の参考人として不動産鑑定士の立場からの御意見を伺いたいと考えておりますけれども,そのようにさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,まず,奥田参考人から事前に御提出を頂いた資料の御説明を頂きまして,引き続いて事務局から部会資料を説明していただくという段取りにしたいと思います。本日の部会資料は資料番号19-1と19-2と2種類ございますが,19-1の方は三つの項目からなっております。長期居住権の内容及び成立要件はそのうちの第2項目ということになりますけれども,まずこの項目のうち長期居住権の簡易な評価方法について,資料19-2と併せて御議論いただきまして,その後資料19-1の残りの2項目を順次検討することにさせていただければと思っております。
  それでは,奥田参考人,どうぞよろしくお願い申し上げます。
○奥田参考人 御紹介いただきました奥田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
  本日配布をさせていただきましたこちらの資料ですが,主な指摘のポイントといたしましては,1の4行目にあります長期居住権付住宅価格を住宅価格から長期居住権価格を控除して求めるという,この考え方についての問題点を指摘させていただくという形になっております。
  長期居住権の価格を将来配偶者が支払うべき賃料から求めていくと,この考え方自体は鑑定評価の立場からも非常に分かりやすいやり方ではございますけれども,長期居住権付住宅の価格を住宅価格から控除して求めていくというやり方に関しては,この方法を採ってしまいますと長期居住権付住宅価格が過大な評価額になってしまうと,こういう問題点がございます。
  また,もしこの賃料から求める方法というやり方を残す場合,この場合には以下に記載してある問題点を考慮していただきたいということで,これについても触れている形になっております。
  2番ですが,こちらは現在の住宅市場において住宅の市場価格がどういうふうに形成をされているのかということについて触れたものです。結論といたしましては,賃料等から求める収益価格から市場価格が決まるということは極めて少ないということで,市場価格自体は収益価格を超えた価格で通常取引をされていると,こういう実態があるということについて触れております。
  めくっていただきまして,2ページですが,2ページの(2)のところは,これは長期居住権価格をもし賃料から求めるという方法を採用するのであれば,下の方にありますように,配偶者が負担する必要費ですね,これは控除をすべきではないかと。ここを控除しないと配偶者の方が費用を二重負担してしまうという形になってしまいますので,この点を考慮すべきではないかという点について触れています。
  次のページですが,(3)のところに長期居住権付住宅価格というところがございます。①ですが,長期居住権付住宅価格の考え方として,この価格は理論的には長期居住権の存続期間満了時の住宅価格の現在価値から,存続期間中に所有者が負担する臨時の必要費等の支出費用の現在価値を控除した価格となると,このように書かせていただいております。これは,長期居住権の価格を賃料から出していくという方法を採るのであれば,長期居住権付住宅価格も同じように収益性という観点から求めるというやり方を採る方が理論的には平仄が合ってくるということで,ここにはそういった平仄が合った理論的な考え方ということで記載をさせていただいております。
  以下,②,③は現在の住宅市場,空家率が高いということで非常に問題になっておりまして,今後も将来的に住宅市場が低迷していくと価格が下がっていくおそれがあると,そういったことを書かせていただいております。
  それに伴いまして,4ページの下の方の④の上のところにありますが,ライプニッツ係数に用いる利回りですが,これは鑑定評価の立場からは将来の不確実性を本来考慮すべきであるという考え方がございまして,理論的にはこういうことも考慮していく必要があるのではないかということを記載させていただきました。
  5ページでございますが,先ほど御説明いたしました理論的な考え方に従いますと,長期居住権付住宅価格というものは,ここに書いてあるような式で価格が出てくるという考え方になります。例えば戸建住宅の場合,インウッド式と書いておりますが,Cというのが所有者が負担する費用になります。これを毎年支出していくということでマイナスが付いているわけですね。これに,複利年金現価率,いわゆるライプニッツ係数を掛けたものが将来負担をする費用の現在価値合計ということになります。これにn年後建物と土地が戻ってきたときの価格の現在価値,一番右側に書いております項のPLn+PBnを(1+Y)nで割ったものですが,これが将来の価格の現在価値になります。戻ってくる資産の現在価値と,存続期間にわたってかかるコストのマイナスを引いて合計したものが,これが長期居住権付住宅価格ということになるのではないかと,こういう式で表しております。
  区分所有建物の場合も同じような形になります。
  このように理論的にこの価格を式で表しますと,次の6ページになりますけれども,長期居住権の価格,これは賃料の合計であると。これに先ほどの長期居住権付住宅価格,これらを二つ合計したものが住宅の価格になるという式になってまいります。それを表したものがこの6ページの3番の①の例えば戸建住宅の場合の四つ目の式,PR+PRo=a×複利年金現価率+将来の価値と,こういう式に変換できるものになります。
  この式は何を言っているかというと,住宅価格ですね,長期居住権とそれから長期居住権付住宅,両者一体となっている住宅価格を収益価格で求めているという形になります。先ほど冒頭に申し上げましたように,市場価格は収益価格では決まっていないのですが,この考え方を当てはめていきますと,住宅価格を収益価格で出しているのと同じことになるという形になります。
  そうすると,どういうことが起こるかということを試算したものがその後になってまいりまして,7ページの4番のところに,査定例ということを記載しております。世田谷区の小田急線祖師谷大蔵にあります戸建住宅とマンションについて,収益価格で計算をしてみたというものを以下に掲載をしております。
  8ページを御覧ください。真ん中にグラフが入っております。このグラフの下の方に5年,10年,15年,20年とありますが,これは存続期間を表しています。長期居住権が何年残っていくだろうかという年数を表しています。ピンクで表しております線,①の長期居住権価格というピンクの線がありますけれども,これは残存期間が長ければ長いほど高い価値になってくる。長期居住権の価格というのは残存期間が長ければ長いほど高くなってきます。
  一方で,長期居住権が付いた住宅価格に関してはそれと反対の動きをいたしますので,残存期間が長いほど価格は下がってくると,こういう関係にあります。
  この二つの価格を合計したのが紫の線でありまして,例えば20年のところでいくと3,721万,この金額になりますと。これが二つの価格を合計した住宅価格ということになります。すなわち,収益価格で出た住宅価格ということです。
  一方で,市場の価格は上の赤い点々にありますように,売買金額5,580万円と,こういった形で取引をされているわけです。収益価格で決まっておりませんので,より高い価格で市場は形成されていると。
  そうすると,何が起こるかと言いますと,その下のグラフで見ていただいたら分かりやすいのですが,ピンクの部分が長期居住権の価格になります。これを住宅価格から控除してしまいますと,緑色の部分とそれから白色の部分が長期居住権付住宅の価格という形で求められてしまいまして,本来は緑の部分だけの価値であるものが,この緑プラス白色の部分までの価格という形で計算されてしまいますので,過大な評価になってしまうのではないかと,そういう結果を示しております。
  次の9ページは,これはマンションの査定例でございまして,マンションの場合には建物の耐用年数が戸建住宅よりも長い結果になりますので,戸建の場合に比べれば差額分は小さくなってまいりますけれども,やはり控除方式でやってしまいますと,長期居住権が付いた住宅の方が大きな過大な評価になってしまうのではないかという結果になっております。
  以上が従前頂いております資料に基づきまして当連合会で検討した結果となります。ありがとうございます。
○大塚関係官 続きまして,事務局の方から部会資料の方について御説明を申し上げたく思います。
  まずは部会資料19-1の方を御覧ください。第2が長期居住権部分ということになりますので,該当部分は8ページ以下ということになります。8ページ以下を御覧いただけますでしょうか。「長期居住権の内容及び成立要件」ということで,ゴシックで規律を記載しておりますけれども,今回新たに変更を御提案申し上げるのは9ページの②の部分でございます。従前の部会資料15におきましては,裁判所が審判で長期居住権を設定することができる場合について,配偶者が長期居住権の取得を希望していても,それが当該建物の所有権を取得することとなる者の意思に反する場合には,裁判所は配偶者の生活を維持するために特に必要と認められる場合に限り,審判で長期居住権を設定することができると,このような規律としておりました。
  しかしながら,従前お示ししていた長期居住権の財産評価方法につきましては,正に今,参考人から御指摘を頂きましたとおり,長期居住権の算定結果と長期居住権の負担が付いた所有権の算定結果を合計したとしても,合計額が建物所有権全体の価格より低くなることがあるのではないかという御指摘を頂いたところでございます。
  そうしますと,特に審判で長期居住権を設定するという場合におきましては,居住建物の所有権を取得する相続人だけではなく,それ以外の相続人につきましてもその具体的相続分額が目減りするという不利益を生ずる場合があるというふうに考えられます。そこで,審判で長期居住権を設定することができる場合について,改めてこの機会に検討し,今回は9ページの②の㋐,そして㋑の規律を提案申し上げるというものでございます。
  まず,㋐についてでございますが,相続人全員の合意があるという場合ですけれども,このように合意があるということですとその不利益が生ずることも含めて合意があるというふうに見てもよろしいのではないかと考えられますので,特段の問題は生じないように思われます。問題は,㋐以外の場合ということになりますけれども,配偶者以外の相続人は通常は配偶者に対して扶養義務を負い,又は負い得る関係にあるというふうに考えられることなどを考慮しますと,配偶者の生活を維持するために長期居住権を取得させることが特に必要と認められる場合,こういった場合につきましては,他の相続人がある程度の不利益を受けることになったとしてもやむを得ないものというふうに考えられます。
  このような観点から,本部会資料におきましては,審判で長期居住権を設定することができる場合を②の㋐,そして㋑の場合に限定することとしております。
  次に,10ページ下の方にございます「2 長期居住権の簡易な評価方法について」でございます。従前の部会資料におきましては,財産評価の方法として,10ページの下にございます計算式のように,建物の賃料相当額をベースに算定することを御提示しておりました。もっとも,これに対しましては,国民にとって使い勝手のよいものとするためにはもっと分かりやすい財産評価方法が必要ではないかという御指摘を頂いたところでございます。確かに専門家による鑑定評価は別といたしまして,一定の数値を例えば一般人の方でも機械的に用いることで算出可能な評価方法がありましたらば,一般の方にとっても分かりやすく使いやすいものとなると考えられます。そこで,部会資料19-2におきまして,長期居住権の簡易な評価方法を今回検討申し上げた次第でございます。
  では,部会資料19-2を御覧いただけますでしょうか。「長期居住権の簡易な評価方法について」と題するものでございます。こちらにおきましては,相続人全員の合意がある場合に用いることのできる簡易な評価方法を提案しているものでございます。この簡易な評価方法は,建物自体の価格と敷地を利用する権利の価格の二つに分けて計算をし,これらを合算することで長期居住権の価額を算出するものとしております。
  なお,ちょっとこの部会資料ではやや記載が不明確あるいは不正確となった部分に後ほど気付きましたので,この点につきまして若干敷衍をいたしますと,長期居住権の対象というのは一般論としてマンションの場合と戸建ての場合の両方がございますけれども,マンションの場合につきましては,こちらの部会資料の記載ですと建物の方にしか明示的な言及がないわけなのですけれども,よくよく考えてみますと,マンションの方も固定資産税評価額は建物だけでなく土地の方にもございますので,そちらの方も正確性を期するのでありましたならば,結論として戸建てと同様に建物について評価し,敷地についても評価をするという同じやり方になるのではないかと考えられるところでございます。あるいは,当否は別としまして,マンションに限っては建物についても固定資産税評価額とそれから敷地となる部分についての固定資産税評価額を合算した上で1の建物の評価方法の計算式に代入するという方法も考えられるかとは思いますが,やや複雑になるという恨みはあろうかとは思います。
  では,部会資料に戻らせていただきまして,「1 建物の評価方法」から順次御説明をいたしたいと存じます。1ページ目でございますけれども,遺産分割及び相続税評価の実務におきまして,建物の評価方法として固定資産税評価額というのは広く利用されているところでございます。これを踏まえまして,長期居住権の対象となる建物につきましても,この固定資産税評価額をベースとして評価を行うという方法が考えられようかと存じます。具体的には,長期居住権の負担が付いた建物所有権の方に着目をしまして,長期居住権を設定した場合に,建物所有者が得ることとなる利益の現在価値をこの長期居住権付所有権の価額というふうにした上で,その価額を何らの制約がない建物の所有権の価額から差し引いて,長期居住権の価額を求めるということが考えられようかと存じます。
  2ページの計算式1を御覧いただければと思います。ゴシックで記載をしておりますけれども,このうち②の方を御覧いただければと存じます。長期居住権付所有権の価額につきまして算定方法をここで提示しているものでございますけれども,ここでは,法人税法などにおける減価償却の考え方を参考に,長期居住権の取得時点での建物の価値がその後に長期居住権が消滅をする時点でどれだけ減少したものになるかというのを真ん中にあります少し長めの分数で算出をすることとしております。
  ここで法定耐用年数とありますのは,下の(注2)に記載しておりますとおり,建物の構造や用途ごとに,これは当時の大蔵省令でございますが,それで定められた年数で,住宅についてみますと,木造なら22年,鉄筋コンクリートなら47年というふうになっております。そして,ここではライプニッツ係数というふうに記載しておりますが,これは要するに将来得られることになる利益を現在価値に引き直すために用いるものでございます。なお,この計算式の利用例が3ページ以下に続いておりますけれども,こちらでは債権法改正案の法定利率であります3%を用いて算出をしているところでございます。
  この評価方法を具体的に利用した場合の例を3ページ以下に記載しているところでございますが,ざっと御覧いただきますと,例えば(1)のマンションAに存続期間20年の長期居住権を設定した場合には,長期居住権付所有権の価額は,固定資産税評価額2,000万円について存続期間20年分の減価償却を行い,それを現在価値に引き直した508万円ということになります。長期居住権の方の価額は2,000万円からこれを差し引いた1,492万円という計算になろうかと存じます。
  続いて,4ページの下の方に進みますが,「2 敷地利用権の評価方法」につきましても御説明申し上げたいと思います。これは借地権等も含めて様々な権利形態があろうかと思いますが,敷地利用権の評価方法というふうに記載をしているものでございます。こちらにつきましても建物と同様に,固定資産税評価額をベースとしておりまして,5ページ以下で甲案と乙案の二つを提案申し上げております。ただし,固定資産税評価額というのは基本的には公示価格の7割というふうにされていることを考慮しますと,これを割り戻すということも考えられるという意味で,甲,乙両案の各計算式には括弧書きで「÷0.7」というものを記載しております。
  なお,今回固定資産税評価額をベースとしておりますが,こちらが土地の実勢価格と大きく異なるという場合などにおきましては,公示価格などをベースとして算定することも一応考えられるというふうには思います。
  続いて,それぞれの案について御説明をいたします。まず,甲案につきましては,これはライプニッツ係数を単純に掛け合わせるということで,長期居住権の存続期間満了時の敷地価格を割り出すというものでございます。甲案は,同じくライプニッツ係数を用いるという点で,建物の評価方法との親和性が高いということはあろうかと思います。
  次に,乙案の方は,長期居住権の存続期間に応じた敷地利用権割合というものを新たに策定をしてしまい,これを掛け合わせるということで評価額を算定するものでございます。こちらによった場合には,算定は容易であるというメリットはございますが,ただこのような敷地利用権割合なるものの策定をすることが相当なのかということも含めて,専門家を交えた慎重な検討が必要になろうかと考えられます。
  いずれにしましても,これらの案に基づきまして一戸建てに長期居住権を設定した場合の価格を算定した結果を甲案の場合は6ページ以下,乙案の場合は10ページ以下にそれぞれ記載しているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。参考人とそれから事務当局に続けて御説明を頂きましたが,両者併せまして委員,幹事の方から質問あるいは御意見を賜れればと思います。どなたからでもどうぞ。
○沖野委員 質問をさせていただきたいのですけれども,部会資料19-1の10ページの遺産分割の方法の(注)のところです。遺産分割の方法によって分割された個々の財産の総額が同じになるとは限らない,むしろ小さくなる可能性もあるような場合があるとして事例が挙がっておりまして,分筆の例が挙げられています。そのほかにも,例えば共有にする場合,共有持分で評価する場合と全体で評価する場合とで変わってきたりするのではないかということも思われるわけなのですけれども。そういった事例と比べたときに,この長期居住権の場合のその分の差額というのは,やはり大きさ,程度において圧倒的に違うというようなことになるのでしょうか。
○堂薗幹事 そこは物件にもよるので一概には申し上げられないところがあるかと思いますが,例えば,今日御提出いただいた不動産鑑定士協会連合会の資料の8ページを御覧いただければと思いますが,この赤い点線と緑の線の間の部分が正にその差額という理解だと思いますので,かなり大きなものになるということだと思います。分筆の場合もどういう形で分筆するかによって大分評価額が変わってくると思いますので,そういった意味でほかにも例はあるのだから,長期居住権の場合もその要件を限定する必要はないのではないかという考え方もあり得るとは思いますけれども,他方で,長期居住権の場合はかなり差が出るということもありますし,従前から審判で長期居住権を設定する場合についてはある程度要件を限定した方がいいのではないかという御意見をいただいていたところでもあり,そこはそのまま維持しているということでございます。
○沖野委員 ありがとうございます。
○奥田参考人 ただいま御指摘を頂きましたように,確かに遺産分割の方法によって分割の方法が経済的に不合理な分割がなされるケースで価値が下がってしまうということはあるというふうに私も見ております。ただ,一般には当事者が分割をする場合に,その分割を受けたものが売れる価格で皆さん分割されていて,いろいろ専門家の意見も聞きながらやられているケースが多いので,それほど不合理なケースを見かけるケースの方が少ないとむしろ思います。
  ただ,長期居住権の場合はやはりこういう形で評価の方法をどう決めてしまうのかというところによって大きく差が出てしまうということが問題ではないのかなという,そこに起因するがゆえの開差については改めることができるのであれば改めた方がよろしいのではないのかとは思います。
○大村部会長 ありがとうございます。問題は二つあるのだろうと思いますけれども,減価が生ずるのが計算方法によるならばよりよい計算方法を採った方がいいのではないかということと,いずれにしても減るということであるとすると,審判による分割について一定の制限をかける必要があるのではないかということが問題になっているかと思います。沖野委員の御質問は,しかし,価格が下がるということは先ほどの御指摘の資料の10ページの(注)の場合以外についてもやはりあるのではないか。そうだとすると,今回の長期居住権の場合が特別な場合なのだろうか。こういう御質問だったかと思いますけれども,この制度によって下がるということであれば,やはりそれについても一定の対応をすべきではないかというのが奥田参考人のお答えだったと理解いたしました。
  ほかにいかがでございましょうか。どうでしょうか。
○沖野委員 もう既に趣旨を酌み取っていただいたのですけれども,要件の方についてです。一つは,今回当該所有者となる者の意向というのが要件になるべきかという点です。この点については,実際はそれを非常に勘案せざるを得ないと思いますけれども,特別な必要のある場合というのはやはり設けておいた方がいいと思いますので,19-1の9ページの②の㋑のような形にするのが適切であると考えております。
  もう一つ気になりましたのは㋐の方で,先ほどの質問に関連しているわけなのですけれども,すなわち,所有者となる者と長期居住権を取得する配偶者の両者が合意している場合に,他の相続人の意向を反映させるべきなのかという点が気にはなっておりました。けれども,その評価の方法として適切な評価方法とされる方法によるときには乖離が大きいといいますか,他の相続人に与える影響が非常に無視できないほどに大きいということであるならば,㋐のような要件化というのも考えられるところだろうと思います。
  そして,長期居住権の話は,やはり今回初めてですので,やや慎重に歩み出して,これが利用可能性が高く,運用からするともう少し広げてもいいのではないかというようなことがありましたら,適時の見直しということも考えていいのではないかということも含みとしては思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。9ページの第2の②の㋐,㋑につきましてそれぞれ御意見を賜りました。
○中田委員 今の②の㋐,㋑ですけれども,今の沖野委員の御質問の中でも,所有者となるべき者との合意があればというお話がありまして,所有者となるべき者が決まっているということが前提であるようにも聞こえたのですが,確かに部会資料15ではそのような表現になっているのですけれども,今回はそこが出ていないのではないかと思います。そうしますと,所有権を誰が取得するかが決まっていない場合でも長期居住権の設定というのは可能と考えてよろしいのかどうかです。特に誰が取得するかについて争いがあるけれども,しかし,配偶者に長期居住権を設定しようというような中間的な解決ができるのかどうか。仮にできたとして,では今度はその登記はどうするのかという問題もありますが,その辺りについて御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 この②は審判で長期居住権を設定する場合ということになりますので,基本的には遺産の全部についてその帰属を決めるという前提で考えております。したがって,基本的には建物自体についても裁判所がその所有者を決めた上で長期居住権を設定するということを一応念頭には置いております。もっとも,可能性としては一部分割として長期居住権を配偶者に与えるけれども,その所有者については判断を留保するということもあり得なくはないのかもしれませんが,余りそういったことは想定されないのではないかと考えております。
○中田委員 長期居住権について相続人全員の合意があれば,それは審判を経なくてもその部分についてはもう設定できるのかなと思っておりまして,ここで審判によってというのはむしろ一部分割のような場合に意味があるのかなと思ったのですけれども,考えておられるのはそうではないということですね。
○堂薗幹事 補足説明にも書きましたが,長期居住権の取得について相続人全員の合意が形成されているけれども,他の財産の帰属について争いがあるので,全体として遺産分割協議が成立しないと,そのような場合に裁判所が審判で遺産分割をする場合には,長期居住権については㋑のような要件を満たしていなくても取得させていいのではないかと,そういうことを念頭に置いたものでございます。
○中田委員 分かりました。私の考えていたのは,非常にまれなケースであったということを理解しました。ありがとうございました。
○増田委員 同じ②の㋐についての質問なのですけれども,長期居住権を取得させることについて合意がある場合というのは,とにかく長期居住権を取得させること自体についてのみの合意で足りるのか,それともその評価ないし算定方法まで必要なのかという点です。つまり,前者でいくと予測できないような算定がされることがあり得るということになりますし,後者のように,この金額だったら合意できるというような条件のものは普通は合意とは考えられていないという問題があると思うのですね。よろしくお願いします。
○堂薗幹事 その点は,ここでは基本的には前者で考えておりまして,長期居住権を取得させることについて合意があれば足りるという理解です。
○増田委員 ということは,評価に関して言うならば,現在複数不動産の遺産分割などのときに行われているように,例えば全部固定資産税評価額でやりましょうとか,あるいは路線価を使いましょうとかいうような形のやり方というのは,当事者の考えている評価方法をも参考にしつつ裁判所が裁量により定めるということですね。
○堂薗幹事 基本的にはそのようなことを考えておりまして,ですから評価方法について合意がある場合は,基本的には裁判所もそれを前提に評価をする場合が多いのだと思いますが,飽くまでそこは裁量ということだとは思います。
○大村部会長 増田委員,よろしいですか。
○増田委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがでしょうか。
○上西委員 19-1の9ページの㋐,㋑に限定することに賛成いたします。そして,今議論のありました長期居住権付建物の所有者の合意をどこまで含めるかですけれども,これはあってもなくても両方あり得るかなと思います。といいますのが,算定方法が明らかで,額も明示できる場合でしたら,それを前提に話を進めることができます。したがって,余り限定を付けなくても,当事者での合意の方を優先した方がよいと考えます。
  それと,11ページに鑑定士の先生はじめとする専門家の鑑定を原則としつつも,資料19-2の方で簡易な評価というのも幅広に提示されておられますので,当事者においても解決し得る方法が明らかになったものとして賛成したいと思います。
  ところで,マンションの敷地をどうするかですが,非常に悩むところです。といいますのも,家屋部分に比べて評価が非常に小さくなるような限られた狭隘な土地に建てている場合がある一方で,土地の評価割合が高い部分もあります。ただ,全くゼロというわけにはいきませんので,たたき台として19-2の5ページにあります甲案と乙案のいずれも可能になるように当事者の選択に任せるというメニューを出してもいいのかなと思います。その選択肢も広げて幅広なメニューにしておくことの方が利用勝手がよくなると考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。簡易な評価方法につきましては様々な選択肢がある方が使い勝手がよいという御指摘だったかと思いますが,今回この簡易な評価方法が新たに出されております。これにつきまして何かほかの委員,幹事からも御意見がありましたら伺えればと思いますが,いかがでしょうか。
○南部委員 今の選択肢が多い方がいいという御意見に賛成でございます。今回,固定資産税評価額をベースにした評価方法ということで御提案いただいているのですけれども,今現在遺産分割の際,マンションなどは実勢価格で計算することが多いと聞いております。例えば田舎などに行きますと,固定資産税評価額より実勢価格の方が安いということもあると聞いております。この固定資産税評価額が本当に適当かどうかというのが一般的にいろいろな私たちとして疑問が残るところでございますので,これについての検討も是非していただけたらと思っております。
  また,長期居住権について,計算方法が簡単になってもやはり複雑な印象がありますので,根本的な議論も含めて先生方でお願いできたらと思っております。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。固定資産税評価額を基準にするという考え方は出されているけれども,それが必ずしも妥当しない場合もあるかもしれないということで,それのような場合についても御考慮いただきたいという御要望だったと思います。
  この点について何かもしございましたら。
○奥田参考人 すみません,参考人で恐縮ではありますけれども,若干補足をさせていただければと思います。
  今回資料19-2で示された方法は,これはまず長期居住権付住宅の価格を先に求めて,住宅価格から控除して長期居住権の価格を求めるという方法ですので,従前の方法とは逆の発想でやられていると思います。結果として,長期居住権の価格の方が大きな金額になるという結果ですので,私たちの感覚からすると,この大小関係の方が合っているとは考えています。何年かにわたって所有者は全く使えないという住宅になりますので,むしろ長期居住権の価格の方が大きく評価されるということはそのとおりではないかと考えるところではあります。
  あと,甲案と乙案というところがありますけれども,確かに選択肢が多い方が個別のケースがいろいろありますので,使い勝手はよくなるのではないかと思います。ただ,乙案のこの敷地利用権の割合の決め方なのですが,例えば相続税の路線価で,路線価のところに借地権割合ということでA,B,C,Dというふうに90%,80%というふうに付されておりますが,あれは毎年不動産鑑定士が評価なり意見書を作成して国税庁の方に提出をいたしまして,それを踏まえて決められているものです。一方で,この敷地利用権割合をどういうふうに決めていくのかということで,ある意味ざっくりと,という形で決めると,またそこが争いの種になっては,というところもありますし,相続税路線価の借地権割合を参考に決められるということであれば,借地権との関係をどう考えるのかというところが私たちの立場からは若干気になるところであります。
  あと,例えば土地の価格をこの0.7で戻すか戻さないかということに関しては,実勢価格は0.7で戻すということが原則ではありますが,先ほど御指摘いただいたように,この評価額と実勢価格の違いがどうかというところもあり,またさらに,これは将来の価格がこの固定資産税評価額で一定であるという前提に立っていると思いますので,今の市場環境から見て下落リスクもあるということであれば0.7で戻す必要は特段ないかもしれないと。
  あと,建物価格についても,補正をしないということであれば余り複雑な計算をしない方が分かりやすいのではないかとは思いました。
  すみません,印象です。
○大村部会長 ありがとうございました。この簡易な評価方法については,長期居住権の価値の方が大きな評価になることが多いということになるけれども,その方が実感に合っているという御指摘を頂いた上で,計算の可能性については,敷地利用権割合をどう決めるかというのはなかなか難しい問題を含むということと,0.7の問題についてもあまり複雑にしない方がいいかもしれない。こうした御指摘を頂きました。
  いかがでございましょうか。この評価の点だけに限りませんけれども,今扱っております長期居住権の内容及び成立要件,それから簡易な評価方法,併せましてその他の御意見,御質問等あれば伺いたいと思います。
○浅田委員 金融機関の立場からの素朴な質問であり,かつちょっと本件のメインテーマではないことですけれども,1点御質問をさせてください。
  従来も申し上げたかもしれませんけれども,長期居住権が発生した場合には,そもそもそれに賃料というのが将来的には払われないということ,かつその長期というのがいつになるのかというのが分からないという不確実性があることから,その不動産に対する担保評価というのはどうしても保守的にならざるを得ないのかなと思うわけです。そうした場合に,長期居住権が設定された不動産を基に,所有者ないしはその長期居住をする配偶者も同意してなのかもしれませんけれども,ファイナンスを受けたいと。ファイナンスを受けて,できれば配偶者は別のところに移って,老人ホーム等も含みますけれども,ということもやりたいこともあるかもしれません。そうした場合に,この御説明を聞きますと,余り大きなファイナンスというのはなかなか難しいかなとも思うわけです。第一に言えば,長期居住権が発生することによって,この参考人提出資料でいきますと,白い部分が出てくるということと,それから先ほど申した収益というのが発生しないということ,それから,居住権自体に担保権を設定するとしても,それはもちろん実行可能性がないと言いましょうか,処分しても第三者に譲渡できないということから,それ自体価値を得ないということになります。
  そうしますと,全ての事例で使えるというわけではないのですけれども,例えば長期居住権が登記された物件においても抵当権を設定する方法が考えられます。ただし,この場合,登記の順番を考えると,抵当権は劣後するというのが通常なのですけれども,これを,抵当権が長期居住権にあえて優先するような仕組みが考えられないか。もちろん配偶者保護を考えると,同意を要件とするとかが必要だと思いますけれども,こういう仕組みが可能かというふうな考えが思い浮かんだわけです。例えば順位の変更登記ということもありますし,また民法387条の逆のバージョンかもしれませんけれども,優先の同意みたいなものを民法実体法上に入れてしまうということもあろうかと思います。本論ではないものですが,御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。長期居住権付きの不動産の価値が下がることに伴って,それらを担保化することが困難になるだろうということで,場合によって居住権と抵当権の順位を入れ替えるというような仕組みを構想することはできないだろうかという御趣旨ですね。
○浅田委員 そうです。
○大村部会長 何かありますか。
○堂薗幹事 それは考えておりませんでしたので,何も設けなければ一旦長期居住権の登記を抹消した上で抵当権を設定するということしかないのかもしれませんが,御指摘を踏まえて検討はしてみたいと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 プリミティブな質問になってしまいます。19-1の9ページの②の㋑の場合についてです。配偶者が長期居住権の取得を希望した場合であって,配偶者の生活を維持するために長期居住権を取得させることが特に必要と認められる場合があります。具体的には,例えば非嫡出子と配偶者のみが相続人であって,配偶者は住み慣れた家にずっと長期居住権で住み続けたいと希望している。そして,その遺産の不動産は被相続人が親から継いだ財産ではなく夫婦二人で協力をして作った財産であり,他には資産はなく,年金収入でほそぼそと老後を暮らすことになる場合を考えます。そのような場合は,長期居住権を取得させることが特に必要と認められる場合に当たると思うのですが,そのときに,彼女がまだ相当の期間生きる余命があるとして,この長期居住権を計算しますと,配偶者相続権である2分の1よりもはるかに長期居住権の価格が高くなってしまうことになりそうです。このような場合には,非嫡出子の相続分は,底地価格といいますか,生存配偶者が死んだときにもらえるくらいで決着するのが妥当なことは多いと思うのですけれど,そして今回の相続法改正は,そもそもそういう決着を可能にすることがきっかけだったように思うのですが,長期居住権がこれほど高く評価されると,そういう決着が難しくならないでしょうか。彼女は住み続けたいけれども,それをカバーするような貯金は持っていないというシチュエーションです。そのようなシチュエーションであった場合に,この2の㋑のような審判をする可能性はあるのでしょうか。つまり,10ページの補足説明によりますと,877条2項で扶養の義務があり得るからということで,非嫡出子が生存配偶者にすぐ明け渡して売って半分くれと言っているときにでも,不利益になったとしてもやむを得ないと考えられるとあります。この不利益の度合いについてですが,不利益の度合いとして,ただすぐ売って分けないというだけではなく,このような居住権の価格を計算したときに,非嫡出子の取り分が実質的にも相続分より少ないものと計算されてしまうという場合であったとしても,この審判はするということなのでしょうか。そこの点をお伺いしたいのですが。
○堂薗幹事 基本的には従前から申し上げておりますとおり,配偶者は自分の具体的相続分でこれを取得するという前提です。具体的相続分を超える取得は認めないという前提ですので,具体的相続分を超える形で取得させようとする場合には,配偶者に代償金を支払わせるという形での遺産分割が認められるかどうかということだと思います。長期居住権を取得する配偶者だからといって,代償分割を認める要件を緩和するということは基本的に考えておりませんので,そうすると通常の価額賠償が認められる要件ですね,基本的には代償金の支払が確実であるというような状況でないと,それはできないのではないかというように考えているところでございます。
○大村部会長 水野(紀)委員,よろしいでしょうか。
○水野(紀)委員 その結論自体についてはこれまでも何度か申しておりましたように,私は,配偶者の居住権保護に特別の配慮があるべきだという立場ですので,賛成は出来ません。ただ,現段階で,ここまで詰めた議論になってきたところで,なんとしてもそれを元に戻すというところまで主張はいたしません。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。要件の問題,それから評価方法の問題,どちらでも結構でございますけれども。
○窪田委員 既に中田委員,それから増田委員から御発言があってお答えを頂いている部分だと理解しているのですが,まだ理解できない部分が残るものですから,もう一度同じ質問になるのかもしれませんが,御説明いただけたらと思います。
  資料19-1の9ページの②の㋐の部分なのですが,私自身,まだ一つ㋐が機能する場面というのがよく分からないところがございます。つまり,みんなが長期居住権を取得させていいよということに納得できるのであれば,これは残りの財産については了解は得られなくても,一部遺産分割を先行させるということは可能なのだろうと思います。したがって,8ページの①の㋐の前半部分の「協議が整い」で受け止めることができるのだろうと思います。それに対して,先ほどのお話だと,長期居住権を取得させることについては合意しているが,しかし,どういうふうな形で具体的になされるかについては審判に委ねるということだったのですが,それは白い部分,今日の参考資料の8ページのグラフで言うと白い部分というのがあるので,みんな利害関係を持っているということでした。だからこそ全員の同意が必要なのだということになるわけですが,この場合の同意というのはその白い部分が幾らになるかよく分からない,これは審判を経てみないとよく分からないということかと思います。しかし,長期居住権を取得させるということについては納得しているということだったので,そういう部分が本当にあるのかどうかというのがよく分からないという気がします。審判の結果,その金額では私は納得しないというようなことが出てきたときに,最初に長期居住権を取得させるということについても合意した以上は,その後具体的な金額のところで争うことは許さないというふうに簡単に言えるのかどうなのか。これは最後の9ページの最後の部分で,長期居住権の設定によって不利益を受ける者が全てこれに同意している以上,特段問題はないということなのですが,具体的な金額について別に示された上で納得しているわけではないという場合に,この説明がうまく機能するのかどうなのかという点が気になります。
  ②の㋐が駄目だという趣旨ではないのですが,どういう場面なのかなということがもう一つ私に十分に理解できなかったものですから,教えていただけたらという御質問です。
○堂薗幹事 まず,遺産のうちの一部について,これは誰々に取得させるという合意が相続人全員であった場合でも,ほかの財産について争いがある場合はそこだけ先に遺産分割協議を成立させて残りを審判で解決するというよりは,やはり全体として審判で解決するという場合の方が多いのではないかという気もいたしますので,少なくとも②の㋐のような状況であるからといって,それで①の方で解決できるということにはならないのではないかというように考えております。
  他方,相続人全員の合意がある場合にそれを取得させることができるというのはある意味当たり前のことで,仮に法律で②について㋑だけの要件を書いた場合も,そこは相続人全員が合意していればそれに当たらなくてもできるというのは解釈でも言えるような気もします。そういった意味では,あえて法律で㋐のような要件を書く必要があるのかという点については今後検討したいと思いますし,あえてここまで書く必要はないという御意見なのかもしれませんが,そこは両方あり得るのかなというように考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○窪田委員 はい,別に㋐を削れという趣旨ではなかったのですが,本当に素直によく分からなかったものですから御質問したというだけのことです。
○大村部会長 この2は,裁判所は次の場合に限り審判することができるものとするということで,㋐,㋑というのが具体的にどのような場合を想定しているのかにつき何人かの方から御質問出ていますけれども,これを運用することになる裁判所の方から何か御意見等ございますか。
○石栗委員 まだ制度が導入されておらず,運用がされていないので具体的なことは少し申し上げにくい面がございますけれども,個人的な意見ということで申し上げさせていただきます。裁判所の立場からすれば,長期居住権の設定自体に相続人全員が合意しているという場合であっても,単に相続人の間で長期居住権を設定した方がよいという程度の認識で合意をしただけでは,㋐の要件に該当するという扱いをするのは,なかなか難しいという感じがしております。裁判所としては,長期居住権を設定した上での不動産の価額につき,具体的な額まで常に合意をすることはできないとしても,予想される評価額についてある程度まで示した上で,例えば,長期居住権を設定することで評価が3割,4割は下がる可能性が高いというような程度までは示した上で,それでもなお配偶者に長期居住権を設定することについて特に必要な事情があるような事案において,相続人全員が状況を理解した上で合意をしているという場合でなければ㋐の要件に該当するという扱いをするのはなかなか難しいのかなという感じがしております。
  先ほどの発言にありましたとおり,配偶者にとって長期居住権が特に必要であって,相続人全員が,その不利益を甘受したとしてもなお長期居住権が必要ということに同意していたとしても,自分が不動産を取得するかどうかとか,それ以外の財産の分け方できちんとケアしてくれるのかというようなことがまとまらないと,おそらく全体についての遺産分割はできないと思いますので,長期居住権の部分だけ先に合意するというのも,実際問題としてなかなか難しいのではないかと思います。
 また,先ほど発言があったように,結論を出した後に話が違うというふうに言われた場合についてですが,それは不利益を甘受して合意をしたと言えるだけの情報を提供したかという観点から考えることになるのではないかと思います。そういう点から考えても,十分な情報提供をしていない状態であれば,同意があったとまで言い切れないと扱うことになるように思われます。少し堂々巡りのようなことを申し上げて恐縮ですが,そういうこともありますので,実際の運用としては相当程度の不利益が全員に及びますが,それでもいいでしょうかというようなことはお聞きすることになるのではないだろうかなと個人的には思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。今のような御感触をお示しいただいておりますけれども,いかがでしょうか。
○増田委員 先ほど㋐を場合によっては削るとおっしゃったように思いますが,私は㋐,㋑は両方ともあっていいのではないかと思います。㋐の方は客観的には特に必要がないのかもしれないけれども,当事者全員が合意しておれば,それは認めていいのではないかと思いますし,あるいは逆に㋑の方は,当事者の一部がそれに対して不満を持っていても,そこは特に必要がある場合ということで認めていいのではないかと思いますので,設けるならばこの二つの要件はやはり並列して設けるべきではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。やはり㋐があった方がよろしいだろうという御意見ですね。
  先ほど沖野委員からも御指摘ありましたけれども,②の㋐,㋑のようなものを設けると,どのように運用されることになるのか,裁判所としては最初はやはり慎重にやらざるを得ないということになりましょうが,これを認める必要性が大きい,あるいは思っていたほどトラブルにならないということであれば,次第に使われるようになるだろう。沖野委員の御発言の趣旨は,そうであれば立法の方も改めていくという余地もあるといった御趣旨でありましたけれども,そうした運用がされるであろうということも踏まえて考えますと,皆さん差し当たりはこれでよいかとお考えのようであると受け止めておりますけれども,何かほかに御発言ございますでしょうか。
○大塚関係官 事務局の方からでございますが,今回は部会資料19-2という形で簡易な評価方法を御提示申し上げております。これを作るに際しましては,本音を申し上げると非常に悩んだというところがございまして,元々は先ほど御説明しましたように,長期居住権の側から相当賃料額を考えて,そこから積算をするということを考えておりましたところ,そうすると賃料相当額なるものが鑑定評価として専門家が行われるには別としても,少なくとも一般の方からはブラックボックスになってしまうという問題があり,先ほどおっしゃっていただいたような乖離の問題もあり,そうすると,なかなかワークしない,あるいは分かりにくいという面もあるのではないかというところから,では裏返して,長期居住権の負担が付いた方の所有者で考えてみると,その価値を現在として引き直したときにどうかという発想をしてみたというところでございます。
  こちらはこちらとして悩んだ結果ということでございますが,考え方としてこれで一つの,もちろん合意ベースなのでこれ以外のものも排除されるわけではありませんし,これでお墨付きということでも必ずしもないとは思うのですけれども,考え方としてやはりそこは別の考え方の方がよいのではないかですとか,あるいはこういうこともあり得るのではないかといった御意見等がもしあるようであれば,この機会に是非頂戴したいと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。今のような御質問が出ておりますけれども,委員,幹事のお考えをお聞かせいただければと思いますが,いかがでしょう。
  先ほど上西委員からはいいのではないかという趣旨の御発言いただきましたけれども,他の方々何かございましたか。
  特に御異論があるというわけではないようにお見受けいたしますけれども,積極的にこれでよかろうという御発言も今いただけていないところなのですけれども,いかがでしょうか。
○大塚関係官 更に敷衍するとしますと,敷地の利用権の方,2の方では甲案,乙案,両案御提示申し上げていますが,先ほど御説明したように乙案,参考人の奥田先生からも御指摘ありましたけれども,新たな敷地利用権割合というものを提示することとした場合に,その割合をどうするのかの相当性はなかなか難しい技術的な問題もあろうかに思いますし,こういう何と言いましょうか,相続税評価の場面でも使われているものに類似はしているけれども,必ずしも相続税法上そのようになるとは決して限らないというものをここで作るということは余り相当でもないのではないかという考え方もあるので,ここは場合によってはもう甲案でライプニッツをベースとした,あるいはその固定資産税評価額をベースとしたやり方で一本化した形でシンプルにするということもあり得ようかとは思いますが,その点について何か御意見がありましたらばと思います。
○大村部会長 今の点につきましていかがでしょう。
○増田委員 何について意見を述べていいのか分からないというのが正直なところでして,別に算定方法を法律で決めるわけではなく,これまでなかった権利なので,当事者が長期居住権を設定する場合において何らかの算定方法が参考程度にあればというレベルの話なのだから,それは多分具体的な事案においては当事者が甲乙その他自分の有利なように主張するであろうし,裁判所では,どうしても算定方法について合意ができなければ最終的には不動産鑑定になるのだろうし。そこのところをここで議論する意味が何なのかというのがよく分からないので,多分誰も発言できないのだと思います。
○大村部会長 多分おっしゃるように最終的には当事者が決めることなのだろうと思いますけれども,例示の範囲をどうするかということについて,どこまで例示をしておくのが適切なのかということについて事務当局としては意見を聞きたい。そういう趣旨ですね。
○大塚関係官 はい,そうです。
○上西委員 私は参考人の奥田先生が付言されましたように,鑑定士協会さんの方で借地権割合も決めておられます。これはガイドラインという形で出るのか,別の形で出るのか分かりませんが,参考資料として,狭めるのではなく,広げる形で提示するのがよいと考えます。
○大村部会長 今のような御意見いただきましたけれども,ほかに何かございますでしょうか。
○大塚関係官 ということでありましたらば,もう先ほど増田委員から御指摘いただいたように,飽くまで一つの参考,上西委員からも御指摘いただいたような一つの示し方ということでありますので,そのような,この長期居住権をこのまま法制化するということになるかどうかはまた次の問題としまして,するとしたときには一つの例示としてお示しをするということは考えられるのではないかというような感触を頂いたということでもよろしいのでしょうか。
○大村部会長 今のような取りまとめでよろしいですか。
○浅田委員 個人的な意見ですけれども,方向性についてはそれでいいとは思います。ただ,甲案,乙案の特徴と言いましょうか,どういう場合に適切なのか。先ほどおっしゃられたように,またそのメリット,デメリットと言いましょうか,その算定が簡単だとかというのもありましたけれども,そういうのを是非ともそのときに併せて示していただければと思います。なんとならば,これは,まずは一般市民の方々が相続人として集まって協議をする場面で使うことが期待されるものであるからということであります。付言したいのは,複数の選択肢があった場合に,その優劣や特徴ということが明らかであれば,場合によってはその両方で価値を出してみて2で割るみたいな使い方も出てくるのではないかと思います。それが妥当なのかどうかということも,個人的には妥当だと思いますけれども,そういうことも見据えた上でお示しするということがよいのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。今のような使われ方があるかもしれないということも織り込んだ上で例示をするという扱いでいかがかという御意見として伺いました。
○中田委員 ちょっと細かいことなのですけれども,どの算定式も平均余命を使うということは一致しているのかなと思ったのですが,平均余命以外の数値を置くことはあり得るのでしょうか。余りこういうケースはないと思うのですが,高齢者の居住安定法でしたか,の中でやはり終身の賃借権を認めるというのがありますけれども,そういった場合の評価においても同じなのか。もうちょっと言うと,具体的な配偶者の状況によって個別的に違う可能性があると思うのですけれども,そういうことを考慮してはいけないということまで含意しているのかどうか,いかがでしょうか。
○大塚関係官 率直に申し上げると,これは定期的な存続期間を提示した場合ではなくて,終身を指定した場合のという前提でよろしいかと思いますけれども,その場合に平均余命以外に何らか適切なものを見出すということはできなかったということであります。
  先ほど御指摘のありましたいわゆる高齢者住まい法についてどのような仕切りかというのはちょっと今記憶が定かではないのですけれども,あちらにつきましては元々大きな仕切りとして,片方がプロ,つまりは認可を受けた業者さんがプレーヤーとなることが前提だったかに記憶しますので,なおかつ制度の仕切りとして最終的に終了した時点で一定の計算式を基に償還をするといったことも含まれていたかに思いますから,やや場面が異なるところがあろうかと思います。
  後段の御質問に関してはそのような率直なところでございますので,平均余命以外のものを排除する趣旨では何らございません。もし何かほかの適切な算定の仕方,例えば平均余命でいいますとだんだん90歳,100歳になるにつれて当然のことながら減っていきますので,極端な話120歳の方が設定しようとしたときにほかに設定の仕方があり得るのかといったところは議論の余地はあるかとは思っております。
○大村部会長 中田委員,よろしいですか。
○中田委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。せっかく奥田参考人にいらしていただいておりますので,御質問等あればと思いますけれども。
○奥田参考人 すみません,19-2の2ページにライプニッツ係数ということで3%の場合,5%の場合と例示がございますけれども,利回りが下がると価格は上がるという関係にございまして,どちらを使うのかということももし何かの争いの種になるのであれば例示として示すのはどちらか一つの方がよろしいのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。債権法改正案が通ればスタートはこうなるであろうということで挙がっているので,現在の資料としてはこうならざるを得ないところがあろうかと思いますけれども,後の資料になりますとまた書き方は違ってくるということだと思います。
  ほかに何か奥田参考人の方からこの際にという御指摘ございますか。
○奥田参考人 そうですね,この長期居住権の制度,私の立場から申し上げるのはどうかとは思いますけれども,不動産市場にはいろいろプレーヤーがいらっしゃいます。この権利,正に不動産に関する新しい権利ということですので,これができることのインパクトが若干計り知れないところがございまして,不適切な扱いが世の中に行われないように,先ほど来慎重な取扱いという御意見が出ておりますけれども,そこをやはり危惧するところでございます。
  あとは,やはりこの形で決定ということになりましたら,私ども不動産鑑定士協会連合会では鑑定評価が依頼された場合の評価の仕方,これについて簡易なものではなく理論的な考え方も踏まえたものを作成していきたいというふうに考えております。
○大村部会長 ありがとうございました。特に最初は慎重な扱いにならざるを得ないだろうというのがほぼ共通の認識なのではないかと思いますけれども,それを踏まえて取りあえず今日の御提案についてほぼ御了解を頂いたということでよろしいでしょうか。
  では,そのようにさせていただきたいと存じます。
  これで長期居住権の内容及び成立要件と,それから簡易な評価方法については検討を終えましたので,参考人には,ここで御退席を頂きます。どうもありがとうございました。
○奥田参考人 ありがとうございました。
○大村部会長 それでは,引き続きまして,資料19-1の「第1 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」という問題につきまして,まず事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。この項目の途中で,適宜休憩を入れさせていただきたいと思っております。では,お願いいたします。
○宇野関係官 それでは,部会資料19-1の1ページに戻っていただきまして,「第1 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について,御説明をいたします。
  相続人以外の者の貢献を考慮するための方策,中間試案では「第5」として掲げられていたテーマでございますけれども,この点については,パブリックコメントでは賛否が拮抗し,規律の創設に反対する立場から,主として相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が表明されたため,第14回部会において,反対意見において指摘された問題点を軽減する方向で検討を進めることとされたところです。
  中間試案では,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,請求権者の範囲を限定する甲案と,寄与行為の態様を限定する乙案とを併記していましたが,パブリックコメントでは乙案に賛成する意見が比較的多かったこと,本方策は相続人でないというある種形式的な理由で相続財産の分配にあずかれない不都合を解消するためのものであり,この場面で再度親族関係を要件とするのは不徹底な感を免れないと考えられること,現行法の下で相続人以外の者に相続財産の取得を認める特別縁故者制度においては,その主体について親族関係による限定は設けられていないことから,乙案を基本として更なる検討を進めることとしています。
  もっとも,パブリックコメントでも,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,甲案のように親族関係による限定を設けることに合理性があるとの意見も複数あったことから,ブラケットを付してその旨の規律も記載しています。
  その上で,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,まず,中間試案ではブラケットを付していた権利行使期間の制限について,その規律を設けることとしています。パブリックコメントではこの期間が短いという指摘もありましたが,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止するためには,その権利行使期間を短期間に制限する必要があること,相続の場面では現行法でも様々な短期の権利行使期間が定められている上,本方策で真に保護されるべき貢献が認められる者であれば,通常相続の開始を知り得ると考えられることから,規律を設ける合理性が認められるものと考えられます。
  なお,中間試案では,債務超過の場合の請求の制限として,限定承認などの手続が開始された場合にはすることができないというある種手続的な制限としていましたが,短期の期間制限を設けると,これらの手続中にその期間が経過する場合が多いと考えられることから,実体的な制限として,端的に相続財産が債務超過である場合には,本方策に基づく請求は求められないこととしております。
  もっとも,家庭裁判所の手続で明示的に債務を考慮要素とする場合には,その手続を複雑にする懸念もあることから,この点についてはブラケットを付した上で,このブラケット内の規律を設けないこととする場合には,本方策に基づく請求権の位置付けを規定上明確にすることが考えられるという旨を注記しております。
  また,本方策に基づく権利行使の手続については,遺産分割と同様に併合強制の規律を設けることも考えられますが,本方策に基づく主張の内容には様々なものがあり得るため,事案の内容に応じて家庭裁判所に柔軟な裁量を認めることが紛争全体の早期解決に資すると考えられることから,管轄についての特則のみを設け,遺産分割や寄与分の審判との併合強制の規律までは設けないこととしております。
  そのほか,個別の論点に関する修正として,元々相続人になり得た者を本方策で救済する必要性は乏しいと考えられるため,そのような者を請求権者から除外すること,被相続人の意思が遺言において明らかにされている場合にはそれに従うべきであると考えられるため,別段の遺言があればそれが優先することを明らかにするという修正をしております。
  最後に,本方策に関連しては,これまで契約法理や不当利得を始めとする財産法の枠内での対応を検討すべきである旨の指摘がされていますが,現行の財産法の枠内における解決が困難な場合があることは,これまでの部会資料等で記載したところでございます。
  この問題については,相続財産の形成又は維持に多大な貢献を行った相続人でない者が,相続の場面で何らの分配を受けられない一方で,特段の貢献をしていない相続人が全て相続財産を取得することが実質的公平に反するという点が根本にあるものと考えられるため,これを立法的に解決する場合には,被相続人の死後の相続の場面において,相続人でない者の相続人に対する請求権と構成して解決を志向することにも,相応の合理性があるものと考えられます。
  以上の点につきまして,御審議いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。相続人以外の者の貢献を考慮するための方策ということで,従前甲案,乙案,二つの案が検討されておりましたけれども,今回乙案をベースにしつつ,甲案の可能性もなおブラケットの形で残っているということです。それから,相続紛争の複雑化,長期化の防止策として,権利行使期間の制限についての規定を設ける一方,併合強制の規律までは設けないということだったかと思います。あとは細かい論点についてのお話がありましたけれども,最後に,相続法以外での対応ということについて考えられるのではないかという指摘がずっとされてきておりますけれども,それはそれとして相続法の中でも対応する必要がなおあるのではないか。こういうことであったかと思いますが,皆さんから御質問あるいは御意見を頂戴できればと思います。いかがでしょうか。
○増田委員 案の内容を確認するという意味で幾つか質問したいと思います。まず一つは,これは相続人固有の債務であって,相続債務ではないという理解でいいのかどうかということです。
  仮にそうだとして,事務管理や不当利得に基づく財産法上の請求権が成立する場合もあり得ると思うのですが,それに基づく請求権,これは相続債務の請求権になると思いますけれども,その請求権との関係はどうなるのか,要は両方行使できるのかどうなのかというところです。それが二つ目です。
  三つ目ですが,療養看護その他の労務の提供とありますが,現在の寄与分だと事業に関する労務の提供というのもあります。事業に関する労務の提供は含まれるのかどうか。
  さらに,逆に療養看護について,療養看護費を払ったなどの金銭給付は含まないのですよね,ということを確認したい。
  それから,もう一つは特別の寄与,これがかなり問題だろうと思うのですが,「特別の」という意味について,これまで寄与分の議論の中では当該身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える寄与ということが言われていて,その通常期待される寄与というのは夫婦間の協力扶助義務の752条とか,直系血族や同居の親族の助け合い義務の730条などが根拠として引用されていたというところなのですが,今回の提案では寄与者が第三者ですので,通常期待されるような程度というのがないわけです。それで,その程度は従来寄与分において言われてきたような程度なのか,それよりハードルが高いのか,あるいはハードルが低いのかという点です。これは一番重要だと思うので,よろしくお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。4点ないし5点質問いただいたかと思いますけれども,お願いいたします。
○堂薗幹事 被相続人は,生前は何ら債務を負っていないという前提ですので,相続債務ではないという理解です。したがいまして,基本的には相続人固有の債務という理解だろうと思います。ただ,説明の仕方はいろいろあるのかもしれませんが,要するに本来は遺産分割の当事者となるべきところを当事者にはしないという意味では,910条の死後認知を受けた者について価額での賠償を認める,あれは一種の代償請求を認めるということなのだと思いますが,若干それに近いような性質を持っていて,遺産の分配請求権を認めない代わりに相続人に対して金銭請求を認めるということですので,それに近い性質があるのではないかと思います。ただ,飽くまで被相続人が負っていた債務ではありませんので,そういう意味では相続人固有の債務という位置付けになるのかなというように思います。
  財産法上の請求権との関係につきましては,これは寄与分においても同様の問題があるところですので,基本的にはそれとパラレルに考えられるのではないかと思います。寄与分につきましては,寄与分の申立てがされた場合に相手方として財産法上の請求権が成立するということを抗弁として主張することはできないという整理になっていると思いますので,当然二重取りにはならないような調整は必要になりますが,財産法上の請求が成り立ち得るような場合でもこの申立てをすること自体は否定されない,そこは寄与分と同じような考え方に立つのではないかという整理でございます。
  それから,療養看護の点につきましては,飽くまで労務の提供の例示として挙げているだけですので,労務の提供があれば寄与行為の対象になるということでございます。したがって,事業に関する労務の提供も含まれるという理解です。ただ,通常事業に関する労務の提供をした場合は,①の㋐のように,その寄与について対価を得ているという場合が多いのではないかと思います。そういった意味で請求できないという場合は多くあるとは思いますが,労務の提供には含まれるということで,それについて対価を得ていない場合はこの申立てができるということになります。他方,介護費の支給は飽くまでも金銭上の給付になりますので,それは含めないという趣旨でございます。
  それから,特別の寄与につきましては,この表現ぶりを寄与分と全く同じにするのがどうかという問題はあるのですけれども,特に請求権者について限定を付けない場合には,そういった身分関係がない人でも特別の寄与があることを理由に金銭請求を認めるということになりますので,特別の寄与があるかどうかはある種絶対的な基準で考えるべきということになるのではないかと思います。要するに身分関係に応じてそれを超えるかどうかという相対的な基準ではなく,貢献の程度が著しい,正にそのような意味で特別の貢献をしたのだと言えるようなものを想定しております。したがって,そういった意味では,寄与分のところの特別の寄与の定義として一般的に言われているところとは若干違う意味になるのではないかという感じがしております。  
○大村部会長 増田委員,よろしいですか。
○増田委員 一番最後のところなのですけれども,それが微妙でして,第三者だったら全然義務がないわけだから,ちょっとでも何かしてあげたら特別の寄与だという解釈によりハードルを低くするのはやはり具合が悪いのかなと思う反面,自分の親だったらきちんとしてやって当たり前だけれども,人の親というか配偶者の親だったら特に何もしなくてもよいではないかというようなのが多分一般的な考え方だと思うので,そこのところをあえて配偶者の親に対していろいろしてあげたというようなことであれば低くてもいいのかもしれないという議論もあり得るということだと思うのですが。つまりは,程度が今まで考えられている寄与よりも低くても許容されるという趣旨なのかどうなのか,ということです。
○堂薗幹事 そこは,現行の寄与分においては,身分関係に応じて期待される程度を超えるかどうかということで判断がされておりますが,それは,身分関係に応じて期待される程度の貢献については法定相続分である程度既に評価がされているからという理解がその前提にあるものと思います。例えば配偶者がした貢献と兄弟姉妹がした貢献では,その理屈からいくと,兄弟姉妹の方が法定相続分は少ないので寄与分が認められる程度というのは低くていいという理解になるのかなと思うのですが,必ずしもそれだけで,要するに通常期待される程度を超えているからといって直ちに寄与分が認められるということにはなっていないのではないかという気もいたします。やはり寄与分においてもある程度絶対的な基準みたいなものもあって,特別の貢献ですねと,要するに財産の形成維持に特別の貢献がありましたねという場合に認められているのだろうと思います。特に本方策の場面では,相続人でない人を基本的に対象にしているにもかかわらず,あえて特別の寄与という要件を設けているわけですので,やはりそこは,ここまで貢献した人については何らかの報酬を与えないと不公平でしょうという場合に認めるということで考えております。ここも,今回の見直しで新たに制度を設けるということになりますので,まずはそういった意味でかなり限定した形で要件を設定する方が良いのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 なかなか運用は難しくなる点ですけれども,増田委員,今のお答えでよろしいですか。はい。
  ほかに何かございますか。今の点でも結構ですし,その他の点でも結構です。
○山本幹事 最後の特別の寄与に関してなのですけれども,部会資料の2ページの末行から次のページにかけての御説明を拝見すると,抽象的な権利が先にあって,それを協議又は家裁の審判によって具体化すると,こういう立て付けになっているようなのですが,抽象的な権利の点に争いがあれば,これは恐らく地裁で前提問題として存否を確認するということになると思われるのですが,この抽象的な権利の発生要件というのは一体何なのかというところはやや不明確のように思っております。仮にここに特別の寄与というものが入ってくるとすると,それは後で家裁でやるべきこととほぼ同じことをやるということになって,徹底的にやろうと思うと,まずは地裁で特別の寄与自体を争い,更にこの特別の寄与に関する審判で同じことを争い,その後更に遺産分割というフルコースをたどることになり,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を招くような感じもしてしまうわけでありまして,この辺りの整理はどのようにお考えなのかというところを教えていただければと思います。
○堂薗幹事 そこは抽象的な権利というところの意味合いだと思いますが,飽くまでも裁判の確定によって生ずるものと考えておりますので,特に裁判が確定していない段階で,地裁においてその地位を確認できるようなものではないという理解です。そこは,寄与分や財産分与などでも,相続人の地位があるかどうかというところや,婚姻関係にあるかどうかというところの確認の利益があればそれは認められるのかもしれませんが,そもそもそういう財産分与請求権があるかどうか,あるいは寄与分があるかどうかというその内容面については,特に地裁で確認請求ができるということではないと思いますので,その主体が限定されているかどうかと,地裁でそういう請求ができるかどうかというのは必ずしも関連しないのではないかというのがこちらの整理です。
  したがいまして,ここでは請求権者の範囲について主体に限定がないとしても,それは飽くまで家裁で審判がされ,それで確定した場合に初めて具体的な権利が認められるものであって,何か地裁でそういった確認請求ができるというような性質のものではないと考えております。
○大村部会長 よろしいですか。
○山本幹事 理屈の上でよく分からないところがあるのですが,御見解としては,地裁で前提問題として別途争いになることはないということですか。
○堂薗幹事 ええ,そういう理解ですけれども。
○大村部会長 ほかにございますか。
○石井幹事 山本幹事の発言に関連したことですが,御提案を見ると,②によれば,金額について協議が定まらないときは家庭裁判所がこれを定めることになっております。①で定められているような要件については例外要件の部分も含めて審判で判断されるということを事務局がお考えなのか,すなわち,この点については訴訟では争う余地がなく,審判で定めるということをお考えなのかについてまず教えていただけますでしょうか。
 また,御提案の④によれば,相続開始時において相続する財産から一定のものを控除した残額を超えることができないといった限定があるわけですけれども,手続としては恐らく各相続人に対して請求できるということになると思います。併合等については特に強制を設けないという御提案自体はよろしいのかと思いますが,そうしますと,当事者によって判断が区々に分かれるということもあり得るということになります。そこで,このような事態が生じても一定程度はやむを得ないということは前提としてお考えになっているのかということについて,お考えを伺っておきたいと思っております。
○堂薗幹事 まず,主体の点も,仮に乙案的な考え方を採っても,相続の放棄をした者や欠格事由に該当する者は除くということになりますので,仮に例えば相続放棄の効力について争いがあるとか,そういうことがあればその点については地裁で争う,確認の利益があればということですけれども,争うということはあり得るのだと思います。しかし,その要件である特別の寄与があるかどうかという点について地方裁判所で確認請求をするということは考えられないのではないかということです。それは財産分与や寄与分でも,同じように主体について何か争いがある場合に確認の訴えを提起するということはあり得るのだと思いますが,その要件該当性について確認の訴えを提起するということはないと思いますので,そこは同じように考えられるのではないかというのがこちらの整理です。
  それから,④についてはおっしゃるとおりで,判断が個々になるのは,それは相続人ごとの請求を認める以上は仕方がなくて,そこを避けたければ併合でやっていただくほかはないという理解です。要するに併合してまとめてやっていただければそういうことはないのでしょうけれども,制度上は,特別寄与者の貢献に見合う額は幾らかという点に関する判断が個々になることはあり得るという理解です。
  正にその金額をどう定めるかという点については裁判所に一定の裁量があるという前提ですので,その点に関する判断が分かれるということはあり得るというのがこちらの考え方ということになります。
○石井幹事 今の点に関連して確認ですが,④によれば,特別寄与者に支払うべき額は相続開始時において相続する財産から一定のものを控除した残額を超えることができないとされています。この規律の理解として,相続人ごとの総額が決まっていて,個々の請求者が複数いる場合に,その総額を分け合うという考えなのか,あるいは,個別の請求者ごとにその総額の範囲内なら取得ができるという考えなのか,どちらをイメージされているのかという点につき補足していただけると有り難いのですが。
○堂薗幹事 そこは若干分かりにくいところはあるかと思うのですが,ここで考えているのは,裁判所が裁量で定める額というのは,特別寄与者の貢献を考慮してその全体の金額を定めるということです。ただ,各相続人に対してそれぞれ請求を認めますので,実際の認容額はその全体の額からその人の相続分を掛けた額になるという前提です。ですから,その全体の金額を幾らにするかというところについては,それぞれの事件ごとに裁判所が判断することになりますので,そこでその金額についてずれが生じる結果,同じ法定相続分の人であっても認容額は異なるということが生じ得るという前提です。
○窪田委員 今のことに関連してです。山本幹事あるいは石井幹事からの御発言も同じ部分に重なるのかなと思うのですけれども,これだと,第1の②の文というのは①の金銭の額についてというふうになっていて,2項以降全部,金額だけを扱っているのですが,本当は,これ①は実体法上のルールとして示した上で,②において「①の支払請求権の有無並びにその額については」という形に規定すれば,正しく家庭裁判所の管轄としてそうした責任の有無並びに額を検討するということになりますし,責任が認められる場合には更に3項でとかというふうな構造にすれば疑義は生じないのではないでしょうか。今の形だと,確かに責任の有無の部分というのは家庭裁判所の判断事項ではないかのようにも見えますので,御検討いただけたらと思います。
○村田委員 今の点に関連して,相続人の側から特別寄与分の請求をしようとしている方に対して債務不存在確認の訴えを提起できる場合があるかどうかという辺りについても整理していただければと思います。先ほどの御説明だと,相続人に欠格事由があるということであれば争うことができるけれど,相続人に貢献がないからということであれば争うことができないというような切り分けをされているようにも聞こえました。切り分けの仕方によって地裁と家裁での争い方につき錯綜する可能性があるので,そこも整理をしていただければと思います。
○堂薗幹事 基本的には審判が確定しませんと債務が生じませんので,その前の段階で債務不存在ということは考えにくいのかなと思います。そういう整理をしておりますが,いろいろ御指摘いただきましたので,再度事務当局の方で検討したいと思います。
  もし可能ならば,手続法の先生方で,今のような整理について何か問題があるのであれば,御指摘いただければとは思いますけれども。
○山本(和)委員 今日は出席者が私しかいないですよね。私自身はこれを読ませていただいて,今の御指摘の部分については特段の違和感は感じませんでした。基本的には訴訟事項に残るところはなくて,非訟事項で全部判断して,そこで権利を形成する。確かに窪田委員から御指摘あったように,書きぶりでそれが表れているかというのはちょっとあれだったかもしれませんけれども,基本的にはそれで私自身は違和感はなかったということです。
  引き続きでよろしいですか。この1ページの(注2)に書かれてあることなのですけれども,特別寄与者の請求権が,相続債権者,受遺者の権利に劣後する旨の規律を設けるかどうかということで,ちょっと私この問題意識が増田委員の最初の御質問との関係でよく分からなかったところがあったのですが。それに対する堂薗幹事のお答えは,相続債権ではなくて相続人に対する債権であると,「基本的には」と言われたところがちょっとあれだったのですが,仮にそうだとすれば,相続人の債権者の地位というのは財産分離でも民法942条とか,あるいは相続財産破産だと破産法の233条でもう明確になっているところなので,特段新たに規定する必要はないと思ったのですが。ですから,この問題意識というのは,この特別寄与者の請求権というのが括弧付きの相続債権ということですかね,受遺者と並ぶような意味合いを持った債権ですね,だから,相続財産破産とか要するに遺産を引当てとするような請求権として整理されることを前提とした問題意識かなという印象を持っていたものですから,ちょっとその点についてもしクラリファイしていただければと思います。
○堂薗幹事 ですから,ここでの整理は,飽くまでも法的性質としては寄与分と同じようなものを相続人以外の者に認めたというものです。寄与分の場合は正に相続人が有する遺産の分配請求権と同じ性質であり,したがって,相続債権者や受遺者の権利には劣後するということになっていると思うのですけれども,性質としてはそれと同じようなものだろうと考えております。そういう意味で,先ほど民法910条の代償請求と似たような性質のものなのではないかということを申し上げたのですが,相続人固有の債務と同趣旨のものかというと,またそれも違うのではないかということでございまして,そこを明らかにするためにこの(注2)のような規律を別途置く必要があるのかどうかというところがよく分からないところです。そこは,補足説明でも書いておりますが,あえて書かなくても解釈で読めるのかどうかという辺りが気になっているというところでございます。
○山本(和)委員 端的にあれすると,そういう事案は余りないと思いますが,相続財産破産になった場合に,他方で協議なり審判でこの債権が確定したときに,破産債権者で入っていけるということを前提にするのかどうかということが一つの分かれ目のような感じがするのです。固有の相続人の債権者だとすれば,それは当然もう相続財産破産には入れないということなのだと思うのですが,受遺者並びのものであれば,受遺者に劣後するかもしれないけれども,相続財産破産に入っていけるというふうに考える可能性はあって。その寄与分というのは結局相続財産破産からやるとすれば,その破産債権者,受遺者に全部弁済した後,余りがあれば遺産分割をしてそこで取れるわけですね。相続人の債権者には優先するけれども,相続債権者には劣後するという地位に立つと,実質的にはですね,そういうものとして位置付けられると思うのですが,どういうものとしてこれを観念しているかということが必ずしもはっきりしていないということではないかと。
○堂薗幹事 中間試案では,相続財産破産があった場合には請求することができないこととした上で,ただ,残余財産があれば請求を認めることにしておりましたので,相続債権者には劣後するけれども,その相続財産に余剰が出た場合は事実上相続人の債権者よりも優先することにはなるのではないかと。
○山本(和)委員 そのときの債権者を優先するのですか。優先するのだとすれば何か書かないと優先する根拠は見出せないと思いますけれども。私は確か中間試案の前のときに説明して,この規律であれば実質的には寄与分を持つ相続人よりは劣後する形になるけれども,つまり寄与分で遺産分割がされた後,相続人に対して請求できるにすぎないので,例えば相続人が債務超過だとすれば回収できないですけれども,それでもいいのですかという質問をして,それはそういうことだろうという御回答を得たと理解しているのですけれども。その立場が変わらないのか,それともやはり相続人の債権者よりは優先するという寄与分並みの権利を認める,それを認めるためには,寄与分は遺産分割の中で請求できるのであれなのですけれども,債権者にしておきながら優先するということの明確な規定がなければそれは優先は無理だと思うので,それを目指されるのであれば何か規律が必要なのではないかと思います。
○堂薗幹事 すみません,この部会資料の規律だと,相続債権者には劣後するけれども,相続人の債権者とは同順位だという前提になっているかと思います。
○山本(和)委員 そういうことであるとすれば,恐らくこの(注2)の問題意識は不要というか,こういう規律はなくても当然,要するに普通の相続人の債権者ですから,当然相続財産破産では破産債権者になりませんし,財産分離では相続債権者や受遺者に劣後するというのは現行民法に書いていますから,それは書く必要はないのではないかと思いますけれども。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。大きく分けて二つのことを今議論していたと思いますけれども,山本和彦委員の御質問の前に出ていたのは,家裁,地裁の管轄が割れてしまうことはないのかということについて,そういうことは基本的にはないという前提であるが,そのことが書きぶりに表れるように,また疑義が生じないように更に検討をしていただくということかと思います。
  それから,山本和彦委員から御指摘があった点については,実質判断は委員の御指摘と事務当局の考え方とは一致しているようですけれども,規定が要らないのではないかという御指摘については更に御検討いただくということかと思います。
  増田委員,お待たせしました。どうぞ。
○増田委員 すみません,まず一つ目の地裁と家裁の話なのですけれども,憲法32条との関係はどうなのかという検討が抜けているのではないかと思います。仮に全部家裁の審判手続で請求権の有無までを判断するという場合ですね,それが憲法上可能なのかどうかということは検討に入れておかなければいけないのではないかと。
  それと,先ほどの山本和彦委員のおっしゃることは正に私はそのとおりだと思うのですけれども。その考え方でいくと,元々債務超過の場合は認めないというのが筋かなという気がしています。そうしておけば相続財産の破産などの影響というのはまるでないのではないかと。そもそもこれは財産の維持又は増加について特別の寄与をした者が,その財産の維持,増加に対する功績を認められるものですから,何らかの寄与にもかかわらず債務超過になっているということは,結果として意味がなかったわけで,分け前にあずかる権利というのはないのだという考えでいいのかなと思います。
○堂薗幹事 まず,憲法との関係につきましては,先ほど申し上げましたように,特別の寄与に対する対価の額について何か客観的なものがあるのではなくて,そこについては裁判所の裁量で定めるということなので,非訟事件でできるということで問題ないのではないかというのがこちらの整理です。その点について,もし問題があるのであれば,それは御指摘いただければとは思います。
  それから,実質的に債務超過の場合には認める必要はないというのは正におっしゃるとおりだと思うのですが,それは寄与分も同じなのではないかと思うのですが,寄与分についてはこの④の亀甲括弧がない形の制限しかなくて,債務超過の場合には認められないといった規定は設けられていないわけです。それは実質的にはそうだとしても,審理の対象として債務超過かどうかというのを厳密に判断する必要はないようにしたという趣旨のようでございまして,寄与分では,債務の点については「一切の事情」として考慮するという整理なのだと思います。それと同じように考えますと,この④についても債務の全額というところまで本当に書く必要があるのかどうか,逆に言うと,そこまで書いてしまいますと,債務超過になっていないかどうかが判断の対象として表から出てくるということになりますので,その点をどう考えるかという問題ではないかと思います。
○山本(和)委員 憲法32条との関係ですけれども,私の理解では,ここに書かれているように確かに事前に抽象的な請求権でもその請求権があるという説明をしてしまいますと,その請求権の基礎となる根拠,要件については,これはやはり裁判を受ける権利の範囲内の事柄ということになって,非訟事件で処理するということは困難になるのではないかと理解しています。私は,この点には先ほどの説明からむしろ特別縁故者のような事前に請求権は別にないと,この裁判所の裁判,審判なりあるいは協議なりでそこで形成されるようなものであるというふうに理解しましたので,そうであるとすれば,事前に権利はないので,裁判で形成されるようなものであるとすれば,訴訟手続を保障する,32条の保障する必然性は必ずしもないのではないかという理解の下に,先ほどのように違和感はないと申し上げたので。この説明であれば違和感はある,増田委員と多分共通したことかなと思います。
○金子委員 今のような山本先生の理解,多分事務当局もそういう理解だと思うのですけれども,そうしますと,相続人Aとの間でした裁判の効力ですね,形成力で説明するのかもしれませんが,それが他のB,Cにも及ばないとおかしいのではないかという気がして,そうすると,やはりきれいな姿は必要的共同審判というか相続人全員を相手に一回で合一確定するのが筋という方へ理屈の上では流れていくのではないかという気がするのですが,その辺の御感触はいかがでしょうか。
○山本(和)委員 ちょっとマニアックな議論になっているかもしれませんが。私自身はこの御提案を見たときそう思いました。この③ですか,総額をあえて決めると,それをあと法定相続分で割るというのが必要的共同審判にして,それで総額を決めて相続人で割るのだろうなと。ただ,協議で決めるということもできますので,協議で成立した者まで相手方にする必然性は必ずしもないような気がして,そこは除くということはあるのかもしれませんけれども,私自身は,手続としてはその必要的共同審判で全部を確定して,そこで権利が創設されるというのが制度としてきれいであろうというのは金子さんと同じ認識ですけれども。
○堂薗幹事 確かに,制度としてはそちらの方がきれいなのかもしれないのですが,特別の貢献をした人でも,例えば,子供の配偶者が介護をした場合に,その配偶者に対して請求しても意味がないので,そこは請求しないという選択肢を認める必要があるのではないかということで,このような規律にしています。金銭請求しか認めませんので,あえて必要的なものにする必要はないのではないかという整理です。飽くまでも,当該請求を受けた相続人との関係でのみ形成裁判の効力が生じ,それによって権利関係が形成されれば実体法上も他の相続人に効力が及ぶことになるわけですが,ただ他の相続人にとっては,自分には何ら利害関係がないということだと思います。必ずしも,形成裁判だからといって必要的なものにしなければいけないということではないのではないか。特別寄与者の意思を尊重して,この相続人については請求の対象から外すということは認めていいのではないかということで,このような提案をさせていただいたということでございます。
○山本(和)委員 そうだとすれば,審判で決めるのは個々の相手方相続人に対する請求権を決めればいいような気がして,なぜこの③のように支払うべき金額全体を決めるということになっているのかというのがやや理解できないところです。
○堂薗幹事 そこは,飽くまで主文に出てくるのは各相続人に対する請求額だけですので,実際にはそこしか決めないわけです。⑤は,最終的に認められる金額の算定方法を明示したものでありまして,飽くまでも,まずその人の貢献に応じた取り分を決めて,それを各相続人の相続分で分担し,そこで出た数字が最終的に主文で形成されるという制度を考えているということでございます。
○山本(和)委員 分かりました。そういうことであればあり得る制度ではあろうとは思います。
○大村部会長 ありがとうございました。今の点につきましては,権利の性質はじめもう少し整理をしていただく必要があろうかと思いますけれども,事務当局の基本的な考え方についてはある程度御理解いただけたのではないかと思います。
  更に御質問,御意見等あろうかと思いますけれども,3時半を回りましたので,10分ほど休憩させていただきまして,3時45分に再開し,この議論の続きをしたいと思います。一旦休憩します。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきます。
  部会資料19-1の「第1 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について,御意見を頂いていた途中でございます。引き続き御意見,御質問等を頂ければと思います。
○上西委員 1ページの特別寄与を請求できない場合として,㋐,㋑がただし書で書いてあります。この点に関して,8ページの(注2)で,「なお」として,一次的には被相続人において契約,遺言などへの対応と書いてありまして,その契約,遺言で対応した場合については,請求が認められる旨が書いてあります。「①ただし書㋐」とあるのですけれども,㋑の場合は含まれないと考えてよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 ここでは,㋐が対価を得た場合で,㋑がこの特別寄与者にはこういった請求は一切認めないという趣旨を被相続人が明らかにしている場合を念頭に置いております。
○上西委員 分かりました。
  その上での意見と質問です。対価を得たときの水準論についてです。契約に基づくのであればその金額となります。しかし,実際には契約に基づかない事例が多くあろうかと思います。そうした場合に,お小遣い程度であるのか,生活費の足しであるのか,ふさわしい対価があるのかということについては,やはり当事者においては大分,認識が違うと思うのです。対価を得たときについては,少額の対価であっても認められないというようになるのでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,寄与行為に対する対価という趣旨で支払われた場合は,被相続人の方でも当然,その限度で対価を与えるという意思だろうと思いますので,そこは被相続人の意思の方を優先させ,仮にこの制度であればもう少し高い額の請求が認められるという場合であっても,そこは認めないというのがここでの考え方です。
○上西委員 了解いたしました。
  1ページの⑤のところです。「各相続人は,③の額について,法定相続分に応じてその責任を負うものとする」というのは,これは当然であろうと思うのですが,通常の債務であっても,法定相続分以外の負担というのが現実に行われております。この③というのは,相続があったときは,一旦確定した上で,特別な寄与について家庭裁判所が決めることになります。その場合には,法定相続分以外の分け方が実際にあることを踏まえますと,法定相続分に応じてその責任を負うことを原則としつつも,他の負担割合で行うことについても,排除するものではないと考えてよろしいのでしょうか。実務を考えますと,実際には4人がいたとしまして,そのうちの1人が負担するということもあり得るかと思いますので,そのような理解でよろしいでしょうか。また,そうあってほしいと思うのですけれども。
○堂薗幹事 基本的には,当事者間で合意ができれば問題ないわけですが,合意ができない場合に審判で判断する場合には,各相続人の責任割合については,裁判所に裁量の余地はなく,そこは法定相続分に応じて決めるというのがここで考えているものですので,審判まで行ってしまった場合には,なかなかそういう形にはならないのではないかと思います。
○上西委員 了解いたしました。
○石井幹事 紛争の長期化を回避するための方策として,⑥という形で期間制限を設けていただいていること自体については,賛成したいと思っております。もっとも,提案されている期間制限を前提としますと,最大で1年間は特別寄与者からの請求がされ得ることになろうかと思います。権利関係という表現が適切か分かりませんけれども,先ほどの御説明ですと,個々に権利関係が確定していくことになりますので,その期間は相続人としては最大で幾らまで請求を受けるかということが,確定しないということになろうかと思います。そうしますと,やはり,本体ともいえる遺産分割の審判・調停の手続への影響という観点でみると,自分が最終的に幾ら請求を受けるかが不安定な状況ということですと,合意をすることがかなり阻害される又は影響が生じる面があるのではないかと懸念をしております。
  そういうところから考えますと,例えば,相続人の方が何らかのイニシアチブを取って,一定期間の経過後はもはや権利行使ができないなどといった形での権利制限を設けていくといった仕組みも一案として考えられるのではないかとも思います。また,このような権利制限を設けることを前提とすると,請求できる方の外延というのが決まらないと制度設計は難しいようにも思われます。①のブラケットにある二親等内の親族にこだわることはありませんけれども,やはり何らかの形で外延を定めていくことについても,検討の余地はあるのではないかなと思ったところでございます。
○堂薗幹事 正に,この請求権者を限定すべきかどうかというところは,従前からいろいろ御議論あるところで,今回の部会資料でも,そこは亀甲括弧を付して出しているところでございますので,その辺りについて御意見を頂ければと思います。相続人の方から特別寄与者に対する催告制度を設けて,それにより権利行使をするのかどうかを明らかにさせるということも考えられるとは思いますが,ただ,そうすると,やはり熟慮期間の意味がなくなるといいますか,相続人から催告をされてしまうと,短期間で判断しなければいけなくなるということになりますので,その辺りも含めて,どういう制度設計があり得るのか,御意見を頂戴できればと思います。
○大村部会長 石井幹事,よろしいですか。
  では,水野(紀)委員,すみません,お待たせしました。
○水野(紀)委員 特別寄与のイメージがちょっとよく分かりません。現行の寄与分との対比で,伺わせてください。現行の寄与分もおかしなものではあって,遺産分割の中の具体的相続分の中に落とし込む形でなんとかつじつまを合わせて設計したわけですけれども,それでも例えば遺留分との関係など,分からないことがたくさんあります。まあ日本相続法そのものが構造的なバグを抱えている,つまり,債権も債務も全部,総財産を確定した上で清算をして,それからきちんと行われる制度的に保障された遺産分割になっていないという前提があって,そもそも難しくはなっているのですけれども,そういう難しい相続法の構造に新たに入るこの特別寄与は,どういう位置付けになるのでしょうか。
  例えば,経過規定としては,どういうことになるのでしょうか。今までの現行の具体的相続分の中での寄与分は,例えば長男の嫁が介護労働で大きな寄与をした場合に,長男の取り分としてそれを含めるという形で担保して運営されることになっています。その従来の寄与分で動いている実務から,この特別寄与への移行はどうなるのでしょうか。
 それから,この①の㋐と㋑ですが,これで特別寄与者がその寄与について対価を得たときは除かれています。例えば,被相続人が,長男夫婦にお世話になるのだからと,多額の生前贈与を与えていたような場合でも,それは全部長男名義のものになっていて,そして,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときも,これも遺言で長男にたくさん与えると書き,実質的には長男夫婦に与えるつもりでいたときに,長男の嫁はどうなるでしょうか。これは移行の問題とまたちょっと違いますけれども,その辺りもよく分かりません。夫婦仲がよければ,それでもいいではないかということはあるかもしれませんが,舅,姑と長男の嫁は大変仲よかったけれども,長男夫婦の仲はしっくりいっておらず,両親を見送って老人問題が片付いたとたんに長男が希望して,遠からず離婚になったという場合には,どうなるのでしょうか。
  それから,現行の寄与分は遺産分割の具体的相続分の計算の中でということですから,それなりに使われる場ははっきりしているわけですけれども,これはその外でということになります。遺産分割の中でもないということになりますと,法定相続分に応じてその請求権を行使することになると,この請求権の行使と遺産分割の関係がどうなるのかというのもよく分かりません。確かに⑥で期間を制限してくださっているのですけれども,いったん請求を立ててしまいますと,その請求の結論が出るまでは,相当長くかかるだろうと思います。
  しかも,本当は日本の遺産分割がおかしいのですけれど,遺産分割は債務については考えなくていいという前提で行われています。しかし,この請求権は債務についても考えないと,残額が出るかどうかが分からないことになっています。そうすると,この請求権が立った途端に,債務も全て含めて,遺産の全貌を把握してからでないと,結論が出ないことになりそうです。それは,相当に時間が掛かってしまう,難しいものになりそうです。その上,そうして計算されるこの請求権と遺産分割手続の関係も,ちょっとよく分かりません。
  ですから,全体にこの請求権がどのような機能を持つもので,どのような働き方をするのかというのが,今一つよく見えないのですが,もう少し御説明いただけますでしょうか。
○堂薗幹事 まず,現行の実務で相続人以外の貢献を相続人の寄与分として認めているものがありますが,何でそういうことができるのかというのは,説明が難しいところはあるんだろうと思いますので,むしろそういう実務があるということが,こういった制度が必要な立法事実になるのではないかと,こちらでは考えております。逆に言いますと,こういった制度ができますと,そういったやや説明の難しい対応をする必要はなくなるのではないかと思います。
  次に,相続人に対価を与えているというような場合は,それは飽くまで特別寄与者と相続人が仮に夫婦だったとしても,それは別の法主体ですので,それは少なくとも①の㋐には当たらないということだろうと思います。あとは,そういった配偶者の一方に対して,そういった贈与なりをしたことが,これで全て解決する趣旨で,特別寄与者に対してはそういった請求を認めない趣旨だと見られるかどうかということで,この①の㋑に該当するかどうかが問題になるのではないかと考えております。そういった意味では,そこは意思解釈の問題になるのではないかと考えております。
  遺産分割との関係につきましては,先ほど御説明したとおり,一応,遺産分割の当事者に含めるわけではないんですが,民法910条の価額請求と同じように,一種の相続人に対する代償請求を認めたものだという整理もできるのではないかと考えておりまして,そういった意味では,実質的には,遺産の分配請求権を認めたのに等しいような取扱いになるのではないかということでございます。したがいまして,その辺りの法的性質については,現行の寄与分とほぼ同じように考えることができるのではないかと考えているところでございまして,こういった方策を創設することによって,債務の全体を把握した上で判断をしなければいけなくなるという点はもちろんあるとは思いますが,ただ,そこは,先ほども申し上げましたように,現行の寄与分でも本来的にはそういったことを考慮した上で,寄与分の額は決めるべきだと思いますので,その点ではこういった制度を設けたからといって,現行のやり方と劇的に何か変わってくるということではないのではないかと考えております。
○村田委員 今の水野(紀)委員の疑問にも関連し,④の規律の働き方につき教えていただければと思います。この点は,休憩前にも少し御説明があったかと思いますが,例えば,特別寄与者が複数いる場合に,④のキャップは実際にはどう働くのかを教えていただければと思います。
  特別寄与者のお一人から特定の相続人に対して請求があれば,まずは,④の上限の範囲内で請求を認めるとして,更に別途の請求があった場合には,お互いがいわば食べ合うような関係になるのかならないのか,また相続人は,特別寄与者の請求の帰趨を見届けなければ,結局どれだけ遺産が残るかが分からないので,事実上遺産分割を待つことになるという力が働く結果になるのかどうかという辺りを明確にするためにも,教えていただけますでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,ここは,資産超過でその超過部分でしか請求できないような性質の権利ではないかという趣旨で,こういった要件を設けていますので,そういった意味では,特別寄与者が複数いるような場合も,複数の特別寄与者の価額を合算して,この範囲で請求を認めるということだと思います。そういった意味では,特にバラバラの権利行使を認めるということになりますと,その点で,先に確定した裁判の内容を「一切の事情」として考慮し,それを踏まえた上で判断しなければいけなくなるという面はあろうかとは思います。
  ただ,基本的に,必要的併合としていないのは,必要的併合とするとおよそ請求が認められないような場合でも併合しなければならなくなって,かえって紛争が遅延するおそれがあるのではないかということを懸念したものにすぎませんので,御指摘のような事態を避けるのであれば,それは裁判所の方で適切に併合した上でまとめて判断をすれば,そういった問題は生じなくなりますので,基本的に,複数の特別寄与者の申立てがあり,それがともに認められるような事案であれば,それはむしろ併合してやっていただく方が,適切な判断はできるのではないかと思います。
○村田委員 確認のために,あえて極端な例でお聞きすると,特別寄与者間においては早い者勝ちになるケースがあり得て,例えば,財産額が比較的少ないにもかかわらず,貢献者は複数名おり,その方々が皆さん請求してきたような場合には,早い者勝ちになる余地があり,最終的に,相続人のもとに財産は残らないこともあり得るということでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 理論的には否定はされないんだと思います。ただ一応,権利行使期間が短期に限られていて,すぐに判断がされるような場合であれば,そういうことは生じ得るのかもしれないですけれども,この④の要件を満たすかどうか微妙な事案ですと,それなりに審理期間もかかるのではないかと思いますので,通常はそういった早い者勝ちになるというような事態は,生じないのではないかとは思っております。ただ,制度上否定はされていないということになります。
○村田委員 分かりました。
○窪田委員 すみません。ちょっと小さな点なのですが,先ほど水野(紀)委員からの御質問に対して,堂薗幹事からの御説明があった点に関係するのですが,例えば長男夫婦の貢献に対して,長男名義に不動産をするからというような形にした場合には,しかし,もらっているのは長男だけですから,㋐で拾うことはできない。しかし,もうこれ以上は別に対応しないよという意味では,㋑で拾えるというようなお話があったのかと思います。ただ,この㋑は,被相続人は遺言で別段の意思を表示したときというふうになっておりまして,結局はこれ,遺言でという要件が必要なのかどうなのかということになるのかなとも思います。先ほどの御説明だと,別段の意思表示はあったのだろうと思いますし,また,これを遺言でやらなければいけないという必然性もないのかなと思いますので,場合によってはその点を御検討いただいたらよろしいのかなと思います。
○堂薗幹事 遺言に限るべきかどうかというのは,内部で検討する際にも問題になったところではあるんですが,遺言に限定しないということになりますと,そこの別段の意思があったかどうかというところの判断が非常に難しくなるというところもありますし,先ほどのように,一種の法定相続の制度を新たに設けたという整理をいたしますと,遺言があれば遺言相続の方が優先するという意味で,ここは遺言に限るという方が相当なのではないかと考えたところです。正にこの方策を設ける上で一番懸念されている点を考慮しますと,余り別段の意思の方式を広げない方がいいのではないかということで,こちらとしては遺言に限ったという趣旨ではございます。
○窪田委員 その御説明は大変によく分かりますし,むやみに広げると大変だろうなというのも理解できます。ただ,そうすると,正しく先ほどのようなケースで,長男夫婦も,ここは被相続人の側から見ると,まとめて見て,これだけの財産を長男名義にしてやるというようなケースに対して,このケースはどういうふうに処理されることになるのでしょうか。ちょっと対応が困るなという感じがします。一つは,寄与について対価を得たときというので,それを広げて拾うというのもあるのかもしれないなと思いながら,御質問をしました。
○堂薗幹事 ですから,名義が長男になっているけれども,実質的に両方に与える趣旨だということで,実体法上も共有であるという整理ができるんであれば,①の㋐というのもあるのかもしれないんですが,そこはなかなか難しい問題があるのではないかと思います。いずれにしても,御指摘を踏まえて,検討させていただきます。
○中田委員 先ほどから出ている亀甲の中の二親等内の親族に限りというのは,これはそれぞれ検討課題があるような気がします。二親等内の親族に限りとした場合には,寄与分についての判例でもお示しいただきましたように,長男の嫁のケースが圧倒的に多くなってくると思います。そうすると,その場合,一番最初に増田委員のおっしゃったことですけれども,通常の貢献というんですか,通常の寄与が何かというのが結構,大きな問題になるのではないかと思います。つまり,亀甲の部分を外した場合の,例えば友人とか近隣の人だったらゼロからスタートするでしょうし,内縁の配偶者であれば配偶者をベースに考えることができると思うんですが,長男の嫁の場合に,通常をどこに設定するかというのは結構大きな問題で,場合によっては,今回の規定が強いメッセージ性を持ってしまう懸念を感じます。
  他方で,これを二親等内に限らないとすると,どんどん広がっていって,特に先ほど石井幹事のおっしゃった,紛争の長期化を防止する方策を講じにくいという問題があると思います。ですので,それぞれの課題というのを検討する必要があると思います。
  その上で,今回お配りいただいた判例を拝見しますと,最終的に分配されるのは,100万円とか200万円とか,その程度の額なんですね。その程度の額を認めるために,かなりコストの大きい制度を今作ろうとしているのではないかなという気がしまして,そういうコストの掛かる,かつ,先ほど申し上げた,場合によってはメッセージ性を持つ制度を作るのか,それとも従来のように相続人自身の寄与であるとか,あるいは契約上の処理であるとかという方法を採る場合との,結局は比較によって判断すべきことかなとは思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○南部委員 今の発言に関連してでございます。二親等内の親族に限るということでブラケットを付けられているのですけれども,長期化・複雑化を避けるということは十分承知の上なのですが,「相続人でないという形式的な理由で相続財産の分配にあずかることができないという不都合を解消」するという目的で,パブリックコメントにおいて乙案に多数,賛成された方がいらっしゃるのであれば,「二等親内の親族に限る」という文言を付けた乙案で検討するというのは,少し考え方が矛盾しているのではないかと思っております。例えば,同性のパートナーや内縁の関係も,このブラケット内の文言を付けることによって,対象から外されるということもあります。乙案を検討されるのであれば,そこも範囲に含め,検討をしていただけたらと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  何かございますか。
○堂薗幹事 その点も含めて検討させていただければと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○浅田委員 確認なのですけれども,①の㋐,対価を得たときということと,それから,3ページの(注1)の無償性の契約論の話ですけれども,この規律が強行法規なのかということにも関係するかもしれませんが,例えば,当該役務提供時に提供者と被相続人の間で,もう対価の関係はないからと,これはボランティアだからと,分かったというようなことで,その両者において,当時は無償性であるということを認識していたといった場合においても,死んだ後はこの①を使って,㋐でないから請求をするということが認められるのでしょうか。この点はいかがでしょうか。
○堂薗幹事 先ほど御説明しましたとおり,この制度は飽くまで被相続人の債務を相続人が引き継ぐというものではございませんので,基本的には被相続人と特別寄与者との間で無償だという合意をしていたとしても,それだけではこの除外事由には当たらないということだと思います。さらに,被相続人の方で,自分が債務を負わないというだけではなくて,遺産に対する分け前も一切与えない,すなわち,相続人に対する金銭請求も認めないという趣旨まで含んでいて,なおかつ,それが遺言でされていた場合に,請求できないということになりますが,そうでなければ,単に被相続人と特別寄与者の間で無償だという合意がされていたとしても,それを理由にこの請求は認められないということには,ならないのではないかと考えております。
○浅田委員 だから,つまり,放棄もできないということですね。それはまた別の話ですか。ボランティアをやっている人が……
○堂薗幹事 特別寄与者の方の放棄ですか。
○浅田委員 はい。
○堂薗幹事 それは特に生前には放棄ができないという規律は設けてないので,生前に放棄をすることは必ずしも否定されないように思います。ただ,放棄といっても,これは飽くまで裁判によって形成される権利であり,あるいは,協議が成立して形成される権利であるということもあって,事前の放棄を認めるかどうかという辺りは十分検討しておりません。その点は,御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○浅田委員 それはつまり,③の「一切の事情」の中に入れて,ゼロと判断することもあるということもあるかもしれないということかと,個人的に思いました。
○堂薗幹事 はい。そうですね。いずれにしても検討させていただきます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかはいかがですか。
  先ほど南部委員から御指摘がありましたけれども,ブラケットを付けるというのは,これは甲案の考え方なので,乙案の考え方とは相容れないところがあるわけですけれども,しかし,何人かの方から御指摘がありましたけれども,このままではやや問題があるということもあって,ブラケットの中に入れた形で付いているということかと思います。水野紀子委員の御発言もそういう趣旨だったと思いますし,より明確には中田委員から,この制度を作るということが果たして立法政策上,妥当なのかということについて,根本的な御疑問も投ぜられているように思います。どうするかということにつきましてはなかなか難しいところがあるように思いますけれども,本日は,更に御意見を頂くことができればと思います。他の委員,幹事の方々,いかがでございましょう。
○石栗委員 先ほど,特別寄与分の算定は現行の寄与分の算定ほぼ同じようなことをするだけというお話がありました。確かに,そういった面があるかもしれませんが,現在,相続人の家族がした療養看護については,相続人の寄与分として算定をしているケースがあります。そういうファジーなことをやめて,それぞれが固有の特別寄与を求めればよいということになると,例えば,長男の妻のみでなく,孫たちも含め,皆で療養看護を行っていたというような場合であっても,それぞれが固有の寄与についてのみ,自分が行った寄与の時期や内容を特定して申し立てることになり,固有の寄与しか請求できないことになると思われます。
 また,現在,寄与分の算定は,遺産分割手続内で一緒にやっており,当事者は,上訴審も含め,確定するまで手続に拘束されております。特別寄与の制度を導入するとすれば,まず最初に特別寄与についての手続で,遺産分割で行っている財産の確定や寄与の程度の算定のようなことを行う必要がある上,手続の帰趨を見なければ,ほかの相続人たちも,自らの相続分が残っているのかということが判断できず,事実上,特別寄与についての手続を待つことになるだろうというのは,先ほど村田委員がおっしゃったとおりだと思います。
  そうすると,特別寄与についての手続が確定した段階で,今度は長男の方が自分はこれだけ寄与をしたとして寄与分を求めたような場合には,再度同様のことをするということになって,遺産に関する紛争の解決が非常に長期化することを懸念しております。家裁としては,これまで,長期化を防ぐような工夫をやってきたつもりではありますが,仮に今回の制度を作られるのであれば,長期化を防ぐことができるような方策も御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 確かに,そういった意味で寄与分の場合と違いはあるわけですが,ただ,この事件と遺産分割事件の併合もできるという前提で考えておりますので,特別寄与者の申立てが認められるような事件については,それを併合した上で一体としてやれば,それは寄与分の場合と同じような事件処理ができるのではないかというところで,こちらとしては管轄の特則なども設けるということを考えたということでございます。ただ,寄与分との違いは,必要的併合にはしていないというだけですので,それは裁判所の方で必要に応じて併合すれば,一体的な審理は可能なのではないかと考えております。
○大村部会長 取りあえずよろしいですか。
○石栗委員 はい。
○大村部会長 ほかにいかがですか。
  かなり多くの問題点の御指摘がありましたので,持ち帰っていただきまして事務当局の方で更に御検討を頂くということにしたいと思いますけれども,特に付け加えで御発言がありましたら伺いますが,いかがでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,第3に進みたいと思います。部会資料19-1の11ページ以下になりますけれども,「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という部分でございます。
  事務当局の方からまず説明をお願いいたします。
○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から説明をさせていただきます。部会資料11ページを御覧ください。
  まず,このゴシック部分につきましては,これまでの部会資料から基本的には変更点はございません。債権の取得の通知につきましては,前回の部会資料を踏まえまして,「書面を交付して」という文言に統一いたしました。
  なお,12ページのところにゴシックで参考として提案しておりますのも,これも前回の部会資料において提案させていただいたものとなっております。
  それでは,12ページの1の補足説明について更に説明をさせていただきます。
  これは,本年1月に開催されました第17回の部会におきまして,対抗要件主義を適用するに当たりまして,相続分の指定と遺産分割方法の指定とでは,その意味合いが異なるんではないかという御指摘を頂きましたことを踏まえまして,相続分の指定につきまして,対抗要件主義を適用すること,この合理性について記載をさせていただいた部分となっております。
  まず,(1)として,相続債権者との関係でございますが,現行法上は,遺言によって相続分の指定がなされた場合には,相続人は,法定相続分を超える部分につきましても,これを登記なくして第三者に対抗できると考えられておりますので,相続債権者が法定相続分どおりの割合で仮に不動産を差し押さえたとしましても,その指定相続分を超える部分につきましては,差押えが無効となります。この場合,相続債権者は,当該不動産の全共有持分を差し押さえることが事実上できないという形になってしまいますので,これは相続開始前と比べ,相続債権者についてはかなりの不利益を被らせることになると考えております。
  また,仮に相続債権者が相続分の指定割合をこれを知っていたとしても,遺言書の原本を保管している相続人の協力が得られない限り,指定相続分に従った相続登記ということをすることはできませんので,最終的には訴訟を提起するという形になりますが,これについても迅速な権利行使の機会が奪われるという点がございますので,やはり相続債権者にとっては不利な立場に置かれるということになります。
  このように考えますと,相続債権者が債務者である被相続人の死亡という,自分の関知しない事情によってかなりの不利益を受けるということになりますが,そのいわれはありませんので,相続債権者との関係では,やはり相続分の指定におきましても,対抗要件主義を適用する必要があるのではないかと考えたところでございます。
  続きまして,14ページの(2)を御覧ください。相続人の債権者との関係でございます。
  相続人の債権者につきましては,相続開始前におきましては,その遺産については責任財産とはなり得なかったものでありますので,相続債権者の場合と比べますと,保護の必要性は乏しいことになりますが,他方で,相続開始後におきましては,基本的には相続債権者と相続人の債権者とは,相続の放棄や財産分離等がされない限りは,実体法では同順位ということになりますので,相続債権者と同様の取扱いをせざるを得ないものと思われます。
  さらに,共有持分の譲受人との関係でございますが,遺産分割未了の間に相続人から遺産についての共有持分の譲渡を受けた者につきましては,その取得を保護すべき必要性は,さほど高くはないとも思われますが,現行法上,遺産分割前の段階でありましても,共有持分については,その範囲内では差押え等が許容されているということになっておりますので,相続人からの譲受人のみをその対抗要件主義の適用の範囲外とすることは,困難というふうに思われましたので,そういうような記載をしておるというところでございます。
  続きまして,16ページの「2 義務の承継に関する規律」について御覧ください。
  義務の承継に関する規律としましては,これまでの案に加えまして,債権者が法定相続分に応じた債務の承継について承認をした場合の規律と,相続財産についての承継割合に応じて債務を承継することについて承諾をした場合の規律とを,新たに追加いたしました。
  まず,承認についての規律でございますが,③のただし書に記載されておる部分でございます。これは,法的安定性を確保する観点から,一旦債権者がその承認をした場合には,その後,指定相続分による債務の承継については,承諾をできなくするということを明らかにしたというものです。
  次に,相続債権者が相続分の指定割合に応じて債務を承継することを承諾した場合の記述ですが,これについては⑤と⑥の部分を新たに追加したということになります。これについては,債務の承継割合の変更について承諾があった場合には,相続人全員に効力が生ずることになりますので,これを知らない相続人が法定相続分を前提として支払うということがあり得ますので,その場合の二重払いの危険等を防止するために新たに規定したものでございます。ただ,この⑤,⑥についてはブラケットとなっておりますので,このような考え方を採用することについても,御審議いただければと思います。
  続きまして,ゴシック部分の3について説明をいたします。この3につきましては,相続分の指定と遺産分割方法の指定とについて,その関係を明確化するという関係から,三つの提案をさせていただいたところでございます。補足説明につきましては,18ページの2からとなっております。
  まず,これまで義務の承継につきましては,平成21年の最高裁の判例の立場を踏まえまして,相続分の指定がされた場合につきましては,各相続人の承継割合については,その指定の割合となるとの考え方を提示させていただいておりまして,この点につきましては,パブリックコメントにおいても多数の理解を得られたというところでございました。
  しかし,第17回の部会におきまして,これらの規律の適用範囲について意見が出されました。具体的に申しますと,法定相続分を超える遺産分割方法の指定がなされた場合におきましても,それを相続分の指定があるものとして,この義務の承継の規律の適用があるのかという指摘をいただいたところでございます。このような指摘は,被相続人の意思にも反するのではないかとか,相続分の指定の割合が明確ではなく,求償関係をめぐる紛争が生じるのではないかというような点を根拠とするものでございました。
  そこで,このような問題が生ずる背景について検討したところ,そもそも現行法上,相続分の指定や遺産分割方法の指定の意義及びその関係が,必ずしも明確にされていないということがあると考えられましたので,今回の部会資料におきましては,この点についての考え方を整理して,取り上げることといたしました。
  まず,甲案でございますが,これは現行法における一般的な考え方を前提としたものでありまして,遺産分割方法の指定があっても,法定相続分を超える場合には,相続分の指定を伴うものと理解し,さらに,その指定の効力は,積極財産のみならず,消極財産についても及ぶとする考え方でございます。
  これに対して,乙案は,相続分の指定については,積極財産の承継割合のみを指定することもできるとする考え方となっておりまして,甲案のように,遺産分割方法の指定があったとしても,それは法定相続分を超える場合には相続分の指定を伴うものとなりますけれども,それは積極財産の承継割合のみを指定したものと考えられるということになります。
  他方で,丙案についてですが,これは相続分の指定につきましては,遺言においてその割合が明示されている場合に限るとする考え方でございます。この考え方によれば,法定相続分を超える遺産分割方法の指定がなされたとしても,遺言において相続分の割合が明示されていない限り,相続分の指定を伴うものとは考えないということになります。
  この乙案,丙案を採用する場合には,甲案を採用する場合よりも,相続債権者の利益を害する可能性が高くなりますので,そのような場合には,詐害行為取消権等により,遺産分割方法の指定を取り消すという必要性が生じるということになります。
  以上の点について今回,御審議いただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第3の1の権利の承継に関する規律につきましては,補足説明で,相続分指定に対抗要件主義を適用するということについての御説明がありました。実質論に立脚した御説明だったかと思います。
  それから,16ページの2につきましては,法定相続分の割合に応じた債務の承認があった場合を例外扱いするということと,それから,承諾が生じたときの効果についてどうするのかということを,より詳しく書くという御提案があったかと思います。
  3については,相続分の指定と遺産分割方法の指定について現在の考え方でいくと甲案になるけれども,それと違う選択肢として,乙案,丙案の二つの考え方が提示されたということかと思います。
  以上につきまして,御意見,御質問等を伺えればと思います。
○浅田委員 まず,1の権利承継に関する規律について,いささかテクニカルな点ですけれども,一つ質問させていただき,また,一つ意見を述べさせていただきたいと存じます。
  まずは質問です。これは前回の18回の部会資料における対抗要件主義の考え方と今回の対抗要件主義の考え方との関係をお尋ねしたいということです。すなわち,前回提示され,また,本部会資料で参考として挙げられている,相続人が相続を原因として債権を取得した場合の規律との関係で,具体的にどのような通知を行えばよいのかについて,質問させていただきます。
  まず,具体事例として,Y銀行に300万円の預金を有するXが死亡し,AとBが2分の1ずつの法定相続分を有するという場合を考えています。そして,XがAに,このうち200万円を相続させる旨の遺言を残していたという事例を設定します。なお,補足ですけれども,去年の12月19日の最高裁大法廷決定の射程の関係で,この事例は大法廷の決定の射程に含まないと理解し,したがって,Aは単独で200万円の相続預金を行使できるということを前提としたいと思います。
  そうしますと,この事例について,今回の御提案の規律に当てはめて考えますと,当該遺言により相続分の指定があるので,法定相続分2分の1を超える部分について,AはY銀行に,書面の交付に加え,通知を行うことになろうと思います。
  一方で,前回部会,御提案の規律,第18回の8ページ,これにも付記されていると思いますけれども,相続を原因としての債権を取得した場合にも併せて本件は該当すると思いますので,この場合における規律の対抗要件具備も加えて行うことになるように思われます。この点をどのように考えたらよいのかということです。仮に,二つの対抗要件具備をしなければならないとき,その二つの対抗要件具備に関する書面の交付,通知は,具体的にどのようなものになるのか,一つにまとめて一つの通知でよいのか,それとも二つの通知を行う必要があるのか等について,教えていただければと存じます。まず,これらについて御回答いただければと存じます。
○堂薗幹事 こちらは,従前は参考の①も含める形で,対抗要件主義を採用した場合に必要な書面を提示しなければいけないということにしていたわけですが,前回,参考の①の記述については,法定相続分を超えない場合であってもやはり必要なものなので,それを切り分けたというだけでございます。したがって,御説明いただいた事案によりますと,両方の書面を提示する必要があるわけですが,それによって初めて債務者としてはこの人が新たな譲受人だということが分かるんだと思うんですけれども,それを別に二つの通知で行う必要はありませんので,当然,一つの通知の中でそれをやり,書面としてはこの両方を交付すれば,それで両方の要件を満たしているということになるという整理でございます。
○浅田委員 ありがとうございます。先ほどの質問については,概念的には二つであるけれども,実務的には一つにまとめることが可能だというふうに理解しました。
  続いて意見を述べさせていただきたいと思います。これも今回の提案の中にあるものではないもので,ちょっと恐縮ですけれども。
  遺言の内容を明らかにする書面というのが,具体的にどのようなものになるのか,引き続き御検討を頂いていると存じますけれども,そもそも本規律を見る限り,対抗要件のためには,通知に加え書面の交付が必要であるところ,実務上は必ず書面の交付が先行するとは限りませんので,対抗要件の具備時点が書面の交付時点となる場面もあろうかと存じます。こうしたとき,どのようなものが交付される書面として適切なのか,あらかじめ特定されている必要があると思います。そうでなければ,一義的には,例えば差押え等の優劣関係を判断しなければならない第三債務者--すなわち銀行となろうと存じますが--にとっては,その判断に困るからです。この問題意識は,従前より相続預金の払戻しに際し,解釈が一義的に困難な自筆証書遺言等の提示を受けることのある銀行として,対抗要件が具備されたことを直ちに覚知できるかという問題意識と,同様のものに基づくものです。したがいまして,これらの書面の特定についても,別途検討して御説明いただければと存じます。
  また,同じ問題意識の別の例を挙げるのですが,これもちょっとニッチな話で恐縮なのですが,かかる検討の際には,近時,外国の遺言による場合も検討の一つに加えていただければと存じます。遺言の方式の準拠に関する法律により,外国の例による遺言も適式なものと認められ,実務上,これは実際,時々見るわけですけれども,かかる遺言による相続払戻しの事案も散見されるところです。これも通常において見慣れない言語により,また,外国法が遺言準拠法になって作成した場合,銀行にとっては対抗要件が具備されたことを直ちに覚知できないということになりますので,そういう問題意識を持って意見を述べるものであります。
○堂薗幹事 検討をさせていただきます。
  前回,この参考のような考え方を提示したわけですが,その後,更に内部で検討いたしまして,特に差押えとの先後関係,優劣ですね,要するに,債務者以外の第三者との関係の優劣については,明確な基準で判断できるようにする必要が高いのではないかということもありますので,債務者対抗要件の規律と第三者対抗要件の規律を分けることも考えられるのではないかと思っております。具体的には,債権譲渡特例法では,債務者以外の第三者との関係では登記が対抗要件となり,債務者との関係では書面を交付した通知が対抗要件ということになりますので,それと同じように,債務者対抗要件とそれ以外の第三者対抗要件で分けて,第三者対抗要件の方はより明確な基準で判断できるような規律も考えられないかどうかという辺りも含めて,今,内部で検討しておりますので,御指摘を踏まえてその点については引き続き検討をしたいと思います。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 そのほかいかがでしょうか。債務の方も含めまして,御意見を頂ければと思いますが。
○中田委員 ちょっと御質問なんですけれども,債務の方で詐害行為取消権との関係についての御説明があります。23ページの(注2)にもありますし,それ以前にもあるんですけれども,遺言自体について詐害行為取消権が議論された例というのは,それほど今まではなかったのではないかと思うんです。遺産分割協議ですとか相続放棄についてはもちろんあるわけですけれども。ここで書いていらっしゃる例で,詐害意思の認定のことを書いているんですが,遺言書を作成した時点で,遺言者に対する債権を持っている債権者がまだ現れていない段階は,そもそも詐害行為取消権は行使できないと思いますし,それから,その時点で無資力でなければいいわけだと思いますし,そもそも詐害行為の効果が発生するのは,亡くなったときだということですので,余り今まで議論されてなかったと思うんですが,その辺りをお教えくださればと思います。
○堂薗幹事 特に,現行法の理解が,相続分の指定の関係について,甲案,乙案,丙案のどれなのかというところにも関わるとは思うんですが,甲案のような考え方によりますと,相続債権者が害される場合については,指定相続分,要するに,相続させる旨の遺言がされた場合でも,それが特定の相続人に過大なものが行っていると,それによって債権回収が難しいというような場合は,相続債権者側で指定相続分を承諾することによって,その取得した財産額に見合う権利行使ができるようになるので,余り詐害行為を問題にする必要はなかったのではないかと思います。実際にこちらでもある程度調べてみたんですが,そういった事案は特に見当たらないという状況でございます。
  ただ,今回,乙案とか丙案のような考え方を採りますと,特に丙案ですと,遺産分割方法の指定をした場合に,それは相続分の指定を伴うという形になりませんので,今のような処理ができなくなる結果,詐害行為取消権が必要になってくるのではないかと。そういう問題意識でございます。
○大村部会長 中田委員がおっしゃったのは,そうであるとしても,余り実際上,機能する場面が少ないのではないかという御指摘ですか。
○中田委員 はい。詐害行為になるためには,行為時に詐害行為の要件を満たしていないといけないと思うんですけれども,実際に亡くなったときに結果が生じるわけで,今までの考え方によると,行為時に詐害性を満たしていたとしても,途中で資力が回復したりすると,そこで消えるというようなこともありますし,それからもう一つは,この場合に相続財産分離制度によっての対応ということが,できるのかどうかということも考えまして,そうだとすると,詐害行為は,仮に丙案を採ったとしても,それほど出てくるのかなということが分からなかったんです。
○堂薗幹事 そこは御指摘のとおりだと思いまして,特に遺言時には必ずしも債務超過になっていないような場合は,詐害行為取消権は基本的にはできないのではないかと思いますし,それができないこと自体は,その遺言の時点では何ら問題のない財産処分だったわけですので,やむを得ないのではないかと思います。
  ですから,そういった意味では,詐害意思が認められるためには,遺言時もそうですが,相続開始時にこれによって債権者を害することになるというような場合ではないと,実際には認められないのではないかと思いますし,それよりもむしろ財産分離とか,そういったものを使った方が,合理的な場合が多いのではないかという感触は持っておりますが,ただ,少なくとも甲案を採った場合と比べると,その点ではかなり違いが生じることになります。要するに,債権者の方で指定相続分を選択できるという手段がなくなるというところを,どう考えるべきかというところが,こちらとしては一番気になっておりますので,そこについて一定の考え方をお示しさせていただいたということでございます。
○中田委員 ありがとうございました。
  御関心の所在はよく理解いたしました。ただ,今,詐害意思とおっしゃっているんですけれども,詐害行為の問題ではないかと,そもそも。詐害行為が成立するかどうかから考えるべきではないかと思いました。
  ついでにもう一つなんですが,甲案の②で,903条の適用については,遺贈を受けたものとみなすということになっておりまして,これが乙案でも丙案でも同様だということですので,共通のものだと思うんですが,これはこれで理解できるんですが,みなし贈与とすることについて,対抗要件との関係でもみなし贈与にしてしまうということはできないでしょうか。そうすると,説明がすごく楽になると思ったんですけれども。
○大村部会長 ほかにはいかがでございましょうか。
○山本(和)委員 今,中田委員の最初の質問,私も全くそうだと思って,この詐害行為取消しが機能する場面というのはそれほど多くなくて,本来であれば,これは結局,この22ページの事案の例でいえば,Cが債権回収できないのは,Bの資産,固有財産がやはり十分でない結果として債権回収できないということですので,財産分離での対応というのは,民法が想定しているものなのかなと思い,ただ,これまではというか,判例を前提にすれば,財産と債務が同じ割合で行くので,相続人が債務超過かどうかだけを債権者は見ていれば,基本的には大丈夫ということだったのが,そこが動かされるということになると,相続人が債務超過でなくても,場合によっては取れないという可能性が出てくるので,かなり予防的に財産分離をすべきだというか,しなければいけないということになる可能性があって,当然,債権者はその遺言というのは分からないことが多いと思いますので,どういう遺言になっているか分からないので,念のために財産分離をするということがあり得るのかなとは思いました。ただ,この乙案ないし丙案を採ってそういうふうにしろということであれば,それはそういうルールが作られたということなのかなと思います。
○浅田委員 甲案から丙案について意見を述べさせていただきたいと思いますけれども,その前に,この甲案,丙案の理解のために,細かい技術的な点でありますけれども,三つほど質問をさせていただきたいと思います。
  一つ目は,この甲案から丙案は,いずれも相続債権者との間では,法定相続分で債務承継されるのが前提であり,相続債権者が同意しない限り,これと異なる割合で債務承継がなされることはないという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 それはそういう理解です。
○浅田委員 ありがとうございます。
  二つ目は,甲案につき,民法第903条の適用については,その財産について遺贈を受けたものとみなすとありますが,持ち戻し免除の意思表示など,被相続人が別途の意思表示があった場合に,これは有効であると理解してよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 これもそういう前提で考えております。
○浅田委員 ありがとうございます。
  三つ目として,丙案における相続分の指定は,消極財産にも及ばないと理解していますが,それでよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 その及ばないという意味が,相続債権者が承諾しない限り及ばないという意味であれば,そのとおりですが,この丙案は基本的には相続分の指定がされた場合は,2の規律が適用になるという前提です。
○浅田委員 2の規律。
○堂薗幹事 はい。ですから,原則,①で法定相続分による承継ということになるわけですが,丙案で割合が明示されている場合には,相続債権者の方で指定相続分を選択することもできるということになります。
○浅田委員 分かりました。ありがとうございました。
  それでは,意見を述べさせていただきたいと思います。
  本点としては,中田委員,山本(和)委員から御意見があって,取消しあるいは詐害的取消しの程度について御意見があったところでありますけれども,本論点について,銀行界としては甲案が望ましいと考えております。これは銀行界において意見を諮りましたところ,少なくとも乙案,丙案を望ましいとした意見はなく,要は,消去法的に甲案のみが唯一望ましいということになったからであります。すなわち,甲案にしても,指定相続分の明記が求められない結果,乙案,丙案に比べますと,承継割合が不明確になるという問題はありますが,それでも乙案,丙案による不都合の方が大きいということです。
  乙案,丙案の不都合について敷衍しますに,現行実務は御提示の21年3月24日判決を前提に,相続分の指定があった場合には,それと同じ割合での義務の承継もあるものとして,相続債権者としての回収を考えているのが通常と思われます。これと異なる規律,すなわち乙案,丙案が採用されますと,正にここで御指摘のとおり,詐害行為取消しを検討せざるを得ないのではないか,また,これでは相続人に無用な訴訟リスク,負担を掛けるのではないかと存じます。
  また,先ほどの山本(和)委員のお話を聞きますと,そういう債権債務関係が変わり得るということであれば,その予防手段として,銀行としてあらかじめ被相続人の生前中に担保を設定するということに傾くのではないかと,個人的には思ったところであります。
  また,特定遺贈の場合と同じではないかとの御指摘もあるところですが,特定遺贈の場合には,銀行預金については,譲渡禁止特約等を理由として,実際には濫用的なものについては対応しておりますし,また,預金と貸付けとの相殺を用いた回収による決着も図っているところであります。ちなみに,かかる相殺については,前回,私から意見を述べたところでありますが,先の平成28年12月19日の最高裁大法廷決定後,相殺の可否が論点となっており,どうなるかも分からない状況であります。かような状況に鑑みますと,現時点で特定遺贈と同じだからよいという整理をすることは,困難ではないかと考えております。
  また,別の観点から,特に丙案については,遺言者において丙案を前提に遺言を適切に書き分けられるのか,この書き分けを求めるのは酷ではないのかという意見もあったところであります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲案に対して乙案,丙案が出ているわけですけれども,甲案に疑義が呈されたということで,事務当局の方で乙案,丙案を用意してみたということだと理解しております。しかし,銀行界としては甲案の方が望ましいという御意見として承りました。
  そのほかに,いかがでしょうか。
○増田委員 どれがというと,ちょっと迷うのですが,まず乙案のように相続分の指定をしておきながら,資産と負債とで承継割合を変えるということを,あえて認める必要はないんではないかと思いますし,2種類の相続分の指定を区別するというのも,余計な負担が増えるだけだろうと思いますので,乙案は除外していいのではないかと思います。残りは甲案と丙案なんですけれども,平成21年3月24日の判例が果たして本当に遺産分割方法の指定に相続分の指定が伴うと考えているのかどうかというのは,疑問の余地があるというのは,前々回ですか,述べたとおりなんですけれども。
  甲案は,現行実務だと言われるのであれば,それに沿っているのかもしれないが,ただ,今回の改正は,遺産分割方法の指定に関する遺言の効力を,特定遺贈の効力に近付けるというような意味が,ほかのところで,例えば対抗要件の要求などに入ってきていますので,それであれば,同様に,近付ける形で丙案というのもあり得るのかなと思っております。
○沖野委員 ありがとうございます。
  まず,質問からですけれども,乙案による場合に包括遺贈はどうなるのかということなのですけれども,包括遺贈の場合も積極分だけを動かすという方法を認めることになるのでしょうか。いろいろなものが用意された方がいいというのであれば,そちらも含めてということにもなりそうなのですが,もしお考えがあれば教えていただければと思います。
○堂薗幹事 そこは平仄を合わせて,包括遺贈も同じようにするということは,考えられるとは思っております。乙案を採用する場合には,その点も含めて検討する必要があるのではないかと考えております。
○沖野委員 ありがとうございます。
  それから,もう一つなのですけれども,ここで前提としてですが,とりわけ相続させるという遺言などが特定の財産についてされたところ,しかし,それが実際の価額ベースでは相続分を超えているというようなときには,相続分の指定を伴うというのが前提ですが,それに対して出されました,債務の方まで同様に相続分を変えるというところまでは遺言者は考えていなかったのではないかというときの可能性としては,それがなおしかし遺産分割方法の指定であるということを維持するという考え方と,それは相続分を超えた分割指定というのはできない以上は,遺贈であるか,分割するときにはこうしてほしいという願いを示しているか,いずれかであるという解釈も可能で,その場合には,遺言者が積極財産だけを動かす趣旨だということで,しかも特定の財産を取得させるということであれば,それは相続させるというような文言を使っていたとしても,遺贈であるという判断も,遺言者の意思解釈としては可能なように思われるのです。それは可能であるという前提なんでしょうか。
○堂薗幹事 それは意思解釈としては十分あり得ると思います。ただ,遺贈ということになりますと,今度は逆に登記の面ですとか,相続人や遺言執行者がどのような義務を負うかという点について,違いが生じますので,それでいいかどうかという問題が生じます。ここは,飽くまで立法論としては,遺贈でそういうことができるのであれば,遺産分割方法の指定でも同じようなことができていいのではないかという趣旨でございます。もちろん,遺贈と遺産分割方法の指定と両方置く必要があるのかという問題はありますが,当部会での議論でも,相続人や遺言執行者の義務の点で,なお違いがあるという前提ではありますので,一応そこを区別した上で,遺産分割方法の指定について,遺贈と同様な形で相続分を超える取得をさせるということも考えられるのではないかということで,丙案のようなものを考えてみたということでございます。
○沖野委員 では,若干の意見を申し上げたいと思います。
  丙案のところの説明ですけれども,とりわけ23ページの一番下の段落のところで,この規律を遺産分割方法の指定と見るのが相当かという問題があるということで,説明はこの後に書かれているものの,相続人間で合意をするならば違う形でできるということと,そのような合意がなくても,相続分と違う分割ができるということとは,大分やはり意味合いが違うのではないかと思われまして,そうだとすると,ここは新たな類型を創設していると考えざるを得ないのではないかとは思います。そういったものを創設する必要が乙案であれ丙案であれあるのかということで,特定の財産を渡すときの相続分の指定が伴うということの問題点というのは確かにありますが,それでもおよそ割合的にも積極財産だけの部分を動かせるというところまで用意する必要が果たしてあるんだろうかというのは,疑問に思っております。
  そうしたときに,特定の財産のところだけであれば,確かに遺贈との間では違いはあるのですけれども,その違いを勘案して,更に多様な制度を用意すべきなのかと。それから,対抗要件のところについては,対抗要件の具備の方法について考え直す必要があるかということは,最初にも言われたかと思います。それも踏まえて,どこまでそういうニーズに応える必要があるのかといったときに,私はそこまでは必要ないのではないかという感覚を持っておりまして,逆に相続人に対する遺贈というものが,相続人に対して特定の積極財産を,相続分というか,権利義務の承継を一体的に行わせるのとは別に特定の財産を与えるということについて,特殊な考慮が必要ならば,それは遺贈自体についても,相続人に対する遺贈については,別途の考慮を図るべきではないかと考えておりますので,その意味では甲案ベースでいいのではないかとは思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙案や丙案のようなものをわざわざ準備しないでも,遺贈の運用によって一定程度までは対応できるのではないかという御意見ですね。
  そのほかいかがでございましょうか。
○村田委員 基本的に,増田委員と同様の意見でありまして,丙案が望ましいと考えております。甲案の問題点につきましては,17回で御議論,御指摘されたとおりと思っています。すなわち,純粋に実体法上の問題のみであれば,今,各皆様方から御発言があった点は,理解ができるところではありますが,後々もめた際の紛争解決に携わる者の立場からすると,やはり遺産分割方法の指定が相続分の指定を伴うと考えることによって,実際の指定割合を算定しなければならないことになるのは,実務上,なかなか厄介な問題かなと思います。したがって,この点を明確な形で解決できる丙案というのは,魅力的に感じられるところであります。また,乙案の場合も,同じような問題意識を前提にしていただいているとは思うのですけれども,やはり指定の意思解釈の問題が出てきて,新たな紛争を呼ぶ余地があるという意味では,丙案の方が望ましいかなと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,甲案支持の方とそれから丙案支持の方と,両論があるという状況かと思いますけれども,ほかに御意見を伺えればと思いますが,いかがでしょうか。
  この甲案,丙案については両論があるということで,それ以上は特に御発言はないでしょうか。
  何かこの点について事務当局の方からは,いいですか。
○堂薗幹事 こちらの検討においてもそもそも現行の判例の理解が本当にどうなのかという辺りから,正直よく分からないところがありますので,そういった意味で,このいずれの案にするかということについて,皆さんの総意が得られるのであれば,そこを明確にするというのは十分あり得ると思うんですけれども,そこについて意見が分かれる中で,しかも現行の規律がどうなっているかというのが必ずしもはっきりしない中で,この義務の承継について明確な記述を設けることがどうなのかという感触も持っております。この点について,このどれかの案に意見が集約できるのであればいいんですけれども,できない場合についてどうするかという問題です。要するに,相続分の指定の要件等を含め,そこは明確化せずに,現行法と同じように解釈に委ねるかどうかというところも含めて,御議論を頂ければと考えているところでございます。
○水野(有)委員 私の方も,個人的なことで恐縮なんですが,20年ぐらい民事訴訟に携わっているのですが,ずっと来られる方は丙案的に考えていらっしゃったのではないかと思っていたのですが,今ここでお聞きしたら,むしろ銀行の方は甲案的に考えていらっしゃったしとか,いろんな御理解があったということに今,思いが至りまして,そうだとすると,余り方向性をどちらにしても決めてしまうと,混乱するのかなという気もいたしますので,もう少し状況を見るというのも,私が言うのも恐縮ですが,あり得るのかなとは個人的には思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御発言もありましたけれども,何か関連していかがでございましょうか。
  増田委員,どうぞ。
○増田委員 今おっしゃったのは,2の①から④辺りは残しておいて,3の方は決めないと,そういう理解でいいんですか。
○堂薗幹事 ただ,そこは結局,3の理解が前提となって2が出てきますので,仮にこの3の関係が明確ではないということになると,2を含めてどうなのかという問題は生じるのではないかと。この点は一応判例では出ていますが,どちらかというと傍論として述べられているところかとも思いますので,ここの2は,増田先生が疑問を呈された判例を前提とした規律ということになりますので,本当にそれでいいのかどうかという辺りが問題になってくるのではないかと考えております。
○増田委員 2の規律は,前は確か相続分の指定又は遺産分割方法の指定,いずれも含む形の規律だったと思うんですけれども。
○堂薗幹事 前は包括遺贈です。
○増田委員 すみません。そうでしたね。
  相続分の指定に関しては,つまり当該遺言が相続分の指定と性質決定できる場合には,この2の①から④まで辺りはほとんど異論はないのかなと思うんですね。問題は,前々回,窪田委員がおっしゃったように,遺産分割方法の指定が相続分の指定と見られる場合か見られない場合かの区別が,難しいという点にあるということにあるのであれば,3のところは解釈に委ねて,2の方は残すというのもあるのかなと思います。平成21年の判例のように,財産全部について特定の相続人に相続させる旨の遺言をした事案では,どの案を採っても結論は一緒です。したがって,その射程をどう考えるかというだけのことかなと思っていまして,3を解釈に委ねるということもあるんではないかということを申し上げた次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲案,丙案については対立があるということで,では記述を見送るかということを考えた場合に,しかし,2のあるところまでは記述できるのではないかという御意見を頂いたわけですけれども,いかがでしょうか。
  今のような選択肢を含めて,更に御検討いただくということでよろしいでしょうか。
  ほかに何か御発言ございますでしょうか。
○堂薗幹事 ⑤,⑥の記述が必要かどうかというのは,是非御意見を頂ければと思います
○大村部会長 今おっしゃったのは,2の⑤,⑥でブラケットに入っている部分ですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 これについてはいかがでしょうか。
  これを置いた方がより明らかになるのではないかという趣旨で置かれているのかと思いますけれども,かえって疑義が生ずるといったような御指摘があれば,是非承りたいと思いますが,いかがでしょうか。
○窪田委員 どちらでもということなのかもしれませんが,⑤,⑥に関して言うと,どうしても規定しなければいけないというほどのことはないのではないのかという気がします。つまり,④のところまででもう実体法上の法律関係は明確になっていますので,実際こういうふうな処理を行うのだとしても,この規定がないと何らかの形の手当てができないということにはならないだろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかにもし何かございましたら。
  先ほど,増田委員も①から④まででよろしいという御趣旨でしたか。
○増田委員 ⑤,⑥は実務上の必要を余り感じないというだけのことです。
○大村部会長 ほかはいかがでございましょう。
  積極的にあった方がいいという御意見は余りないということでよろしいでしょうか。
  それでは,これについてはなくてもよいという意見が多いと受け止めさせていただきたいと思います。
  そのほかに第3の全体につきまして,何かございますでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,第3につきましては,今のように扱わせていただきます。
  最後になりますけれども,今後の日程等につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,次回ですけれども,次回は御案内のとおり,4月25日(火曜日)の午後1時半からを予定しております。次回は,三読で御議論いただいたもののうち,更に詰めた検討を要する積み残しの課題を取り上げて,御審議いただくということを考えております。具体的には,今のところ,預貯金債権の仮払い制度の問題,それから遺留分の金銭債権化,あるいは遺言執行者などに関する論点を取り上げるということを考えております。場所につきましては,本日と同じ法務省20階の第1会議室ということになります。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,これで閉会をさせていただきたいと存じます。本日も御熱心な議論を頂きまして,どうもありがとうございました。閉会いたします。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第20回会議 議事録


第1 日 時  平成29年4月25日(火)自 午後1時29分
                     至 午後5時40分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,時間になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第20回会議を開催いたします。
  議事に先立ちまして,年度変わりでもございますので,関係官等,新任の方などがございますので御紹介からさせていただきます。では,倉重さんからどうぞ。
○倉重関係官 この度,法務省民事局付を拝命いたしました倉重と申します。以降,関係官として関与させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 それから,最高裁の草野さん。
○草野関係官 この4月に最高裁家庭局付を拝命いたしました草野と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それから,最後になりますけれども,法務省民事局民事第二課の佐藤さん。
○佐藤関係官 この4月から民事第二課の局付をしております佐藤と申します。本日は不動産登記に関する論点と関連してこちらに参りました。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  それから,今後のスケジュール,これも年度初めでございますので,スケジュールの見通しにつきまして事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 本日は,当部会における今後の審議についてお諮りしたい点がございます。当部会では,これまで本年9月の答申を目指して審議を進めてきたわけでございますが,現在の状況等を考慮いたしますと,9月の答申は難しい面があるのではないかと考えているところでございます。その理由につきましては幾つかございますが,一番大きな点は,中間試案をパブリックコメントに付し,その結果を踏まえて部会での調査・審議を再開したわけでございますが,中間試案では取り上げていなかった新たな方策について検討がされているという点でございます。
  通常,法制審議会では中間試案をパブリックコメントに付した後,その結果やその後の法制審での御議論を踏まえて,その内容を変更したとしても基本的には変更後の方策について再度,パブリックコメントに付すということはしてこなかったところでございます。しかし,この部会における御審議では,従前からの議論の状況やパブリックコメントの結果等を踏まえ,配偶者の相続分の見直しの実現が困難になったことを受けまして,新たに居住用不動産について生前贈与等がされた場合に,持戻し免除の意思表示があったものと推定するという考え方を取り上げ,これについて審議が進められているというところでございます。
  このように,この方策は配偶者の相続分の見直しに関するパブリックコメントの結果等に端を発して検討が始められたものではございますが,内容的には全く別の方策であり,配偶者の相続分の見直しの延長線上にあるものとは言えない内容になっているかと思われます。中間試案に対するパブリックコメントにおきましても,相続法制において配偶者の保護をどこまで図るかという点につきましては,様々な御意見が寄せられているところでございますので,事務当局といたしましては,この新たな方策についても国民の皆様の御意見をお伺いし,その結果やそこで出された問題点などを検討した上で,最終的な取りまとめを行う必要性が高いものと考えております。
  相続法制の見直しは,言うまでもなく国民生活に与える影響も大きいことから,見直しをするに当たってその意見を聴くことは,とりわけ重要な意義を有するものと思われますので,事務当局といたしましては,この点については慎重を期し,項目を絞った上で再度パブリックコメントを実施したいと考えております。具体的には,居住用不動産について生前贈与がされた場合の持戻し免除の意思表示の推定規定のほか,預貯金債権の仮払い等を対象とすることが考えられるのではないかと考えております。
  預貯金債権の仮払い等を認める方策につきましても,中間試案では何ら具体的な内容を示しておりませんでしたけれども,先の最高裁大法廷決定の補足意見での示唆などを踏まえまして,これを具体化する方策を検討しておりますので,これについても国民の皆様の御意見をお伺いする必要性があるものと考えているところでございます。したがいまして,今後のスケジュールでございますが,本年7月頃までに見直しの内容をおおむね固めた上で,夏頃に再度パブリックコメントを実施し,その結果を踏まえ,秋頃から部会を再開し,その後は来年2月の法制審総会での答申を目指して,必要に応じて部会を開催し,調査・審議を進めていただくということを考えているところでございます。
  以上,委員・幹事の皆様方には更なる御負担をお掛けすることになり,大変恐縮ではございますが,御理解,御協力を賜れれば幸いでございます。
○大村部会長 今,御説明がありましたように,7月以降に新たにパブリックコメントを行って,持戻し免除の意思表示あるいは仮払い等について意見を徴するということで,来年2月の法制審への答申ということを考えたスケジュールを御提案いただいたわけですけれども,これにつきまして,御質問,御意見等がございましたら伺えればと思いますが,いかがでございましょうか。
○増田委員 パブリックコメントに付す内容ですが,そのほかにも中間試案後に新たに議論していることがあると思います。例えばこの先まだ進める方向にあるのかどうかは分かりませんが,今日,御提案の相続開始後の共同相続人による財産処分についてという項目,あるいは遺留分制度に関する見直しのところでは,パブリックコメントに付した甲案,乙案とは異なる案が二つ提示されておりますので,この辺りについてもパブリックコメントに付すことを御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 その点は検討したいと思います。
○大村部会長 先ほど挙げていただいたのは,主要なものの例示ということだと思いますので,具体的にどこまでパブリックコメントの対象にするかということについては,更に事務当局の方で御検討いただくということかと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 立法の締切りが迫っていると思い,いろいろ,諦めていたことがあるのですけれども,もし,これを機会に少し時間的余裕ができるのでしたら,検討していただけないかと思うことがございます。今回の相続法の改正は,ワーキングチームの作業の段階では遺言の部分にこんなに手が入るとは思っておりませんでしたが,思いがけず,遺言が改正対象になりました。遺言には,本当はきちんと洗わなければいけない規定が一杯あると思っております。
  例えば,902条の指定相続分については明治民法の起草者が思い付きで入れたような条文で,包括遺贈があるのになぜこの条文が必要か,不要ではないかという議論が学界でずっとありました。それから,成年後見法と同時に行われた遺言法の改正は,障害者が口授できないために公正証書遺言を利用できないのはよくないという理由からの改正でしたが,拙速だったと思っています。通訳でできるようにしても,公正証書遺言は本人が目で内容を確認できますから障害者の害にはならないのですが,死亡危急時遺言とか,船舶遭難者遺言とかまで同様の改正を拡大してしまいました。これらの場合は,通訳者が正確に訳す保障はありませんから,本人の真意ではない遺言が有効になる可能性があり,かえって障害者のためにならない規定になってしまっています。また,この976条の死亡危急時遺言も明治民法の起草段階でも,梅博士を筆頭に,こんな遺言はおかしいと反対が強かったのですけれども,日本の伝統的な遺言発想から入ってしまった条文です。この条文は,江戸時代の名残と申しますか,武士の家が断絶するとたくさん浪人が出て,皆が不幸になり,かつ死亡率が高かった時代に,当主が亡くなっても周囲の家老たちがそういう遺言があったということにして,家がお取り潰しにならないようにした時代の慣行を再現したものでした。そんな江戸時代の遺物の976条がそのまま残っておりまして,本人の真意を確保する要件が何一つない条文ですので,立法論的には非常に問題だと思っております。
  洗い始めるとたくさんあるように思うのですけれども,そういう条文を洗う余裕は,延びてもないということでしょうか。
○堂薗幹事 最終答申時期が来年2月になったとしても,既に取り上げられている論点だけでもまだかなり詰めるべきところがあると,皆さんも思っておられるのではないかと思いますので,それほど時間的な余裕はないというのと,現在認められている方式の遺言をなくす方向で見直しをすることについては,その影響等を含め,かなり慎重に検討する必要があるのではないかというところもありますので,御指摘を踏まえて検討いたしますが,これから,そういった点について新たに取り上げることについては,難しい面があるのではないかというのが正直な感想でございます。
○水野(紀)委員 遺言がもっと活発に使われる方向に議論が進んできてしまいましたので,少なくともその弊害が見えてきた段階では,新たに改正を立ち上げることをお考えいただければ,と思います。改正を考え続ける機会を与えていただきたいと,かなり心配しております。死亡危急時遺言につきましては,本人が亡くなってしまっていて周囲の力のある者たちがそういう遺言があったことにするものですから,文句は出にくい遺言なのだろうとは思うのですが,でも,子どものような力のない者の利益が損なわれる危険や,本人の真意が確認できないという意味では非常に危ういものだと思います。遺言を活用しようという方向で改正が進んでまいりましたが,母法のように遺言がある場合は必ず公証人が遺産分割に関与するような制度保障がない日本では,この類型に限らず,遺言のもたらす弊害がどう出てくるか,不安になっております。そのような弊害に,臨機応変に対応できることをお考えいただければと思います。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 御指摘を踏まえて,今後,更に検討しなければならない課題もあるという形で,事務当局の方で記録にとどめていただきたいと思っております。今日のところはよろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  それでは,スケジュールにつきましては,事務当局の御提案のようにさせていただくということで,パブリックコメントの項目等につきましては,また,改めてということにさせていただきたいと存じます。
  続きまして,本日の配布資料につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,本日の配布資料について御説明させていただきます。配布資料目録のとおり,本日の配布資料は2点ございます。事前に送付させていただいた部会資料20,「積残しの論点(1)」と題する資料と,あと,浅田委員の方において作成いただきました「仮払い制度に関する意見」,こちらは本日の机上配布の資料となります。後者の浅田委員作成資料につきましては,後ほど浅田委員の方から御説明いただけるものと伺っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御説明がありましたけれども,本日は部会資料20の「積残しの論点(1)」に基づきまして御審議をお願いいたします。中身は第2の「遺産分割に関する見直し等」,それから,第3が25ページから始まりますけれども,第3の「遺言執行者の権限の明確化等」,そして,第4は37ページからでございますが,「遺留分制度に関する見直し」というのが大項目でございまして,その中の幾つかの問題につきまして,再度,御検討いただくということでございます。第2,第3,第4と順番に進めますけれども,第3の途中で休憩を入れさせていただくということを予定しております。
  まず,では,第2の「遺産分割に関する見直し等」につき,最初に事務当局の方から御説明を頂きまして,その後,浅田委員の方から資料についての説明を頂きたいと思います。では,よろしくお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から部会資料20につきまして御説明させていただきます。
  まず,「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきまして御説明させていただきます。
  まず,甲案についてですが,これは裁判所の判断を経た仮払いを認めるという案でございますが,第18回部会でお示しした案からの変更点は,仮払いを認める費目を限定列挙としていたのを例示列挙とした点,また,相当性の要件を他の共同相続人の利益を害しないという要件に置き換えた点となります。それぞれ,簡潔に御説明いたします。
  まず,費目を例示列挙とした点でございますが,部会資料18におきましては仮払いを認める費目につきまして限定列挙としておりましたところ,委員からそのほかの費目についても付け加えるよう,御要望が出されました。しかしながら,費目を限定列挙とする場合,必要かつ十分に書き切れるかという問題に直面いたしまして,今回の部会資料におきましては限定列挙とすることはやめ,例示列挙とすることといたしまして,その必要性の判断につきましては裁判所の裁量に委ねることとしております。
  次に,他の共同相続人の利益を害しないという要件について御説明いたします。これは,従前の部会資料におきましては特定の資金需要がある場合に,裁判所が相当と認めるときは預貯金債権の仮払いを受けられるという案を提案しておりましたところ,委員から相当性の審査の内容が分かるよう,もう少し規律を明確化できないかという御指摘がございましたことから,その内容が分かるよう記載ぶりを改めさせていただきました。具体的な内容につきましては,部会資料4ページの①から③までに記載のとおりでして,部会資料18において,これまで説明してきた内容とほぼ同じということでございます。
  また,「(3)その他」の部分でございますが,こちらは本案係属要件の論点について記載しております。部会資料18におきましては,本案係属要件を不要とする考え方も記載いたしましたが,これに積極的に賛意を示す意見がなかった一方で,理論的な問題があることや本案係属要件を要求したとしても,必ずしも当事者に過大な負担を課すわけではないということから,本案係属要件については現行法どおり,維持することでどうかということを記載しております。
  次に,乙案につきまして御説明させていただきます。乙案は裁判所の判断を経ない仮払いを認める制度ということになりますが,従前の部会資料で掲げていた三つの案のうち,乙-2案をベースに今回の部会資料における御提案とさせていただいております。
  ところで,第18回部会でも御検討いただいたとおり,乙案を採用した場合には金額による上限額をどのように定めるのかという問題がございます。この点,①預貯金債権ごとに定めるという考え方,②金融機関ごとに定めるという考え方,③預貯金債権全部を対象として上限額を定めるという考え方があります。裁判所の個別的判断を経ないで定型的に預貯金の払戻しの必要性が認められる額に限定するという観点からは,③の預貯金債権全部を対象として上限額を定めるという考え方が適当ではないかという御指摘もございましたが,この考え方を採用した場合には,金融機関に一定の調査義務を課すことにつながり,そうすると裁判所の判断を経ることなく,簡易かつ迅速にごく一部の預貯金の払戻しを受けることを阻害しかねないと考えられます。
  これらの点を考慮いたしますと,裁判所の個別的判断を経ないでも預貯金の払戻しの必要性が認められる部分に限定すべきという要請と,簡易かつ迅速に預貯金の払戻しを受けられるようにするという要請,この両方の要請を満たすものとしては,金融機関ごとに上限額を定めるという②の考え方を採用するのが適当であると考えられ,今回の部会資料におきましては,預貯金債権の債務者ごとに100万円を限度とするという御提案をさせていただいております。
  次に,7ページに移りまして「相続開始後の共同相続人による財産処分について」という論点につきまして御説明させていただきます。これは,今回の部会資料において初めて正式に提案する考え方とはなりますが,第18回部会におきまして仮払い制度の乙-2案について検討を行った際,共同相続人の一人が預貯金債権の一部について権利行使をした場合に,精算を義務付けるルールとして,当該権利行使をした相続人は,当該権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とすることに同意したものとみなすという規律を設ける必要が本当にあるのか,委員から問題提起があったところでありました。この点は,遺産分割前に共同相続人の一人によって自己の共有持分の処分がされた場合と同様の取扱いをすべきことになるものと考えられますが,この点についての明文上の規律はなく,また,明確にこれに言及した最高裁判例も見当たらないことから,今回の部会資料において取り上げさせていただいたということでございます。
  この点,学説上も定説もない状況でございまして,どのように考えるべきかということになります。8ページ目の末尾から9ページ目の冒頭に,具体的相続分を求める計算式と遺産分割における取得額を求める計算式を掲げておりますが,これらの計算式のうち,相続開始のときにおいて有していた財産の価額に相続開始後に処分された遺産の価額も含めるのか否か,また,遺産分割の対象財産の価額に相続開始後に処分された遺産の価額も含めるのか否かにより,理論上は4通りの考え方があり得るところ,実際上,あり得る考え方として8ページ目の表でもお示ししたとおり,α,β,γの三つの考え方があり得るものと考えられます。それぞれの考え方を採用した場合に,具体的な事例でどのような結論となるかということを9ページ以下の「2 具体的な事例における検討」においてお示ししております。
  次に,12ページ目に移っていただきまして,「〔検討〕」においてその分析・検討結果を記載しておりますが,α説及びβ説を採用いたしますと,特別受益のある者が遺産の一部又は全部を処分した場合,これがなかった場合と比べて最終的な取得額が多くなるという不公平が生じることになりまして,解釈又は立法的な解決により,その不当な結果を是正する必要があるように思われます。
  そして,その方向性といたしましては,①遺産分割は遺産分割当時に残存している財産で行うという点は堅持しつつ,α説又はβ説を前提とした上で,具体的相続分で調整する,そして,具体的相続分を超える権利行使がされた場合には,不当利得又は償金請求をできる旨の規定を設けるという考え方と,②相続開始後の出金についても遺産分割の対象財産に含め,遺産分割において精算を行うという考え方が,こちらがγ説ということになりますが,前者の考え方につきましては,【事例2】のように遺産分割前に具体的相続分を超える権利行使がされた場合には,具体的相続分で調整することができず,また,そのような場合に不当利得又は償金請求ができる旨の規定を設けるとしても,その審理は地方裁判所で行わざるを得ず,一回的解決を図ることは不可能となります。したがって,基本的にはγ説,②の考え方を前提に検討するのが相当ではないかということで検討を進めております。
  13ページ以下の「3 今回の提案について」ということでございますが,まず,冒頭でγ説を採用する場合の規律の設け方,また,理論的な許容性について検討しております。
  次に,14ページ以下で幾つかの派生論点について検討を加えております。
  まず,「(1)不動産の共有持分について売却された場合」についてですが,共同相続人の一人が不動産の共有持分を第三者に譲渡した場合についても本提案の規律は該当する,すなわち,譲渡された持分についても遺産分割の対象とし,遺産分割の中で精算を義務付けるものと整理しております。
  次に,16ページの「(2)不動産の共有持分が差し押さえられた場合」についてですが,遺産に属する不動産の共有持分が相続債権者又は相続人の債権者によって差し押さえられた場合につきましても,実質的には遺産から逸失したものと考え,本提案の規律の対象に含めるということも考えられます。しかしながら,差押えの処分禁止効の内容や所有権移転の時期を考慮いたしますと,差押えがされたとしても遺産から逸失していないものと考えられ,差し押さえされた持分を含めて遺産分割をすればよく,また,売却決定がされ,代金が納付された場合には,本提案の規律の適用又は類推適用により,処理することもできるように思われることから,単に差押えがされた段階においては,本提案の規律の対象とすることとはしておりません。
  次に,17ページの「(3)共同相続人の一人によって,その共有持分を超える財産処分が行われた場合について」ですが,本提案の規律は,このような場合も含めて規律の対象とすることとしております。
  ところで,共同相続人の一人によって,他の相続人の同意なくして自己の共有持分以上の財産処分が行われた場合につきましては,他の相続人はその処分を行った相続人に対して,その法定相続分に応じた不法行為による損害賠償請求権を分割取得するという考え方もありまして,共同相続人の一人が遺産を処分した場合の規律を設けるとしても,自己の暫定的な持分を処分した場合に限るべき,それ以上の持分処分の場合につきましては,不法行為又は不当利得による処理に委ねるべきという考え方もあるように思われます。
  しかしながら,特別受益がある場合などには,このような考え方に基づき処理を行いますと,(注1)(注2)で具体的な事例に基づき計算例をお示ししておりますが,相続人間の実質的な公平を貫徹できませんし,また,自己の持分を処分した場合には相続人間の公平を図り,他人の持分を処分した場合には,相続人間の公平を図らなくてもよいという実質的な理由も見当たらないことから,このような場合も含めて本提案における規律の対象に含めることとしております。
  なお,21ページ目の(注3)を御覧ください。こちらには本提案の規律を採用することは,共同相続人の一人が他の共同相続人の持分を処分した場合に,相続開始により暫定的に生じた法定相続分の割合による持分の侵害があったとして,不法行為又は不当利得が成立するという従前の理解は,変更することを意味するものではないということを記載しております。そういたしますと,相互の関係をどう整理するのかということが問題となりますが,遺産分割が先行する場合には,基本的には遺産分割の遡及効により,不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権は消滅すると整理でき,また,損害賠償請求等が先行した場合には,審判の内容を工夫すれば公平な遺産分割が実現することができるのではないかということも記載しております。なお,両者の手続が併存している場合につきましては,裁判所としては適切に釈明権を行使し,どちらの手続を先行させるのかと当事者の意向を確認した上で,その手続を進めるということになろうかと考えられます。
  最後に問題となりますのが22ページの「(4)共同相続人の一人によって,遺産の全部が処分された場合について」でございます。7ページ目のゴシック部分の提案では,亀甲を付けてはおりますが,共同相続人の一人によって遺産の一部が処分されたのみならず,遺産の全部が処分された場合も,本提案の規律の対象としております。
  これは,遺産の全部が処分された場合にも,これを精算の対象としないと共同相続人間の実質的な公平が図れないことから,共同相続人の一人によって遺産が全部処分された場合につきましても本提案の規律の対象としておりますが,遺産分割の時点では,実際には分割すべき遺産が全くない場合についても,遺産分割事件として処理することは理論的に問題があるという批判も考えられます。また,遺産分割の審判事件は遺産の分割方法について裁判所に裁量が認められることから,これを審判事件で取り扱うことが許容されているものと考えられますが,遺産の全部が処分された場合には金銭的に調整するほかはなく,この点に裁判所の裁量を認める余地はないとも考えられ,これを審判により行うことができるかという問題もあるように思われます。
  もっとも,この点につきましては処分された遺産が相続人の手元に残っている場合,例えば譲渡契約が解除又は取り消された場合などには本規律を適用することにより,遺産から一度逸失した財産についても遺産分割の対象とすることができ,このような観点からすると,遺産の全部が処分された場合についても,必ずしも金銭的に調整するほかはないとまでは言い切れないようにも思われます。
  以上の点につきどのように考えるべきか,委員・幹事の皆様の御意見を頂戴できればと思います。なお,後半の第2の論点につきましては,新しく御提示する論点でございますし,かなり今までの実務とは違う御提案となります。ですので,委員の皆様からいろいろな御意見が出るかと思われますが,議論の順番といたしまして,不公平が生じるということについてまずどう考えるべきなのか,次に,この点について解消する方策として遺産分割でやるのか,それとも,償金請求の地方裁判所の方に委ねるべきなのか,その辺りで恐らく御意見が分かれてくるかと思いますので,段階的に御議論いただければ有り難いかなと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第2の「遺産分割に関する見直し等」につき御説明を頂きましたけれども,中は1ページ,1の「仮払い制度等の創設・要件明確化」と,それから,7ページ,2の「相続開始後の共同相続人による財産処分について」とに分かれております。2番目の方は,今,直前に御説明がありましたけれども,仮払い制度から端を発した話ではありますけれども,今回,初めて出るものでございますので,別途,切り離して後で段階を追って御議論いただきたいと思っております。
  そこで,まず,最初に「仮払い制度等の創設・要件の明確化」という点につきまして,甲案,乙案につき,それぞれ,一定の修正をされたものが提案されておりますけれども,これにつきまして浅田委員の方から御発言があると承っておりますので,浅田委員にお願いしたいと思います。
○浅田委員 ありがとうございます。
  仮払い制度は銀行界にとって,とても重要なものですので,恐縮ながら今回も少しお時間を頂きまして,銀行界の意見についてお手元の資料を利用させていただきながら述べさせていただきます。
  まず,事務当局におかれましては,これまでの銀行界からの各種要請について真摯に御検討いただき,御提案いただきましたことにまずは御礼を申し上げたいと思います。ただ,この点は銀行界でも種々,議論させていただいたものでございますけれども,結論として今回御提案の乙案について,御提示いただいている案では銀行における窓口実務として対処が煩雑であり,困難ではないかと考えており,また,相続人間の協議が調うまでは払戻し不可であるという原則の例外として,相続人にとって真に必要なものを支払うというコンセプトが国民にとっても有益な制度と考えるところ,この案ではそのコンセプトに十分に応えることができないのではないかとも考えられるところであります。そこで,第18回部会においても同様のことを私から述べさせていただいたことでありますけれども,改めてその理由についてまた簡単に述べさせていただきたいと思います。
  まずは,昨年末の最高裁大法廷決定との関係です。同決定が相続人間の公平性という観点から,預貯金債権について遺産分割の対象と判断した点に鑑みますと,費目等を限定せずに一律,一定額まで払戻しを受けられるという制度というのは,その趣旨に沿わないのではないか,すなわち,相続人間の公平性を害してしまうケースがあるのではないかと思います。次に,元々,裁判所外での仮払いというのは,裁判所の手続として甲案では本案係属要件を必要とするなど,手続面での負担が相応にあるため,一般国民からは簡易に裁判所外で払戻しを受けたいニーズも出てくることが想定されるところ,このニーズに応えるという観点から乙案が提案されているものと認識しています。
  しかしながら,御提案の乙案では,そのニーズに必ずしも応えていないのではないか,すなわち,相続人の葬儀費用等の緊急性の高い資金需要に,適時にかつ簡易な方法で応えることができないのではないかとも思われるところです。
 更に銀行側の都合となってしまいますが,これまで述べたようにニーズに合致すると言い切れない制度であるのにもかかわらず,本制度が適用されると銀行窓口にとって対処が煩雑であり,対応が困難となることがあるのではないかとも思っています。
  他方で,そのような事情を踏まえますと,銀行界としては費目で限定した形での仮払い制度がなお望ましいのではないか,そう考えております。そこで,私どもなりの提案を少し具体的に作成したものがお手元資料,「仮払い制度に関する意見」と題したものでございます。これを御覧いただければと思います。
  1枚おめくりいただいて2枚目を御覧ください。現行の銀行窓口実務において,一部の相続人から払戻し要請があるもののうち,裁判所での仮払い制度ではスケジュール的に間に合わないと思われる事案は葬儀費用の支払分です。葬儀費用の支払については,相続発生直後に発生するものですから,当然ながら相続人間の各種調整も終わらないまま,支払期限が到来します。こういった事情もあり,少なくとも昨年末の大法廷決定前において,多くの銀行では相続費用については便宜払いをしていたものと思われます。そうであれば,その実務を仮払い制度として設計できないか,そう思いまして,この仮払い制度案を試みに作成しております。
  何分,法制度に関する技術的なことについて知見が乏しいものですから,つたないものとなっていることは重々承知の上でありますが,作成者の意図を申し上げますと以下のとおりです。一つは,相続費用等の債務については仮払いを受けることができる,二つ目に,ただし,それには要件があり,一つにはきちんと相続費用が発生しているエビデンスを用意していただく必要がある,三つ目は,また,もう一つの要件として葬儀社等の債権者の口座に直接送金する形でお支払させていただく,すなわち,相続人には現金を渡さないということです。これが今の銀行の実務だと理解しています。こういった観点から本案を作成しております。是非とも事務当局等におかれましては,係る案の採用について御検討いただければ幸いです。
○大村部会長 ありがとうございました。
  本日は,甲案と乙案のそれぞれについて事務当局の方から御提案を頂いておりまして,そのうちの乙案につきまして浅田委員の方から言わば別案が提案されているということかと思います。甲案につきましては先ほど御説明がありましたけれども,仮払いを認める費目を限定列挙としていたのを例示列挙にしたということと,相当性の要件を他の相続人の利益を害しないという要件に変えたということが挙げられておりました。乙案につきましては乙-2の考え方をベースにしつつ,上限額を金融機関ごとに定めるというのが事務当局の方の御提案でございました。浅田委員の方からは費目を限定するということと,支払の仕方についても一定の制約を加えるという御提案を頂いたと理解しております。御意見を頂ければと思いますけれども,事務当局の方から何かありますか,今の浅田委員の御発言について。いいですか。では,皆様からの御発言を頂きたいと思います。
○潮見委員 浅田委員にちょっとだけ確認の質問をします。御提示になられた部分については,私はそれほど違和感は覚えません。ただ,この間の議論で出てきているような生活費の支弁をする必要があるときとか,あるいは,相続税の支払,共益費用の支払,そういうものについてはどうしたらいいとお考えになっておられるのか。乙案については,このように修正した上で甲案的なもの,つまり,裁判所の介入による仮払いというか,何らかの形での支払を認めるという考え方を採用すべきだというお考えなのか,それとも,ここに上がっていないような費目については現行法のままでいいし,しかも,そこに大法廷決定の枠組みがかぶさってくるんだというお考えで,御説明をされたのか。その辺りはいかがなものでしょうか。
○浅田委員 基本的には,ここに書いていないものについては甲案の方で対応いただくのが適当ではないのかと考えております。もちろん,いろいろな考え方があると思いますし,甲案で拾うべき項目というのを乙案で何らかの技術的な明確性も含めて対処できるのであれば,乙案で拾うということも可能だと思います。ただ,考えてみますに,基本的な発想としますと乙案というのはどちらかというと緊急性の高い費用を支払うと,その代表例としては相続費用であり,この観点から(1)の②で挙げていますのはすぐ払えと,弁済期が到来している債務ということを挙げているという話です。その他の費目,例えば扶養者の生活費等に関しては,もちろん,緊急性があるという一定のものはあるのかもしれませんけれども,継続的な全体の長期的な観点から,公平性の観点も含めて判断されるべきと考えますので,どちらかというと,甲案,裁判所の判断を待って対応するというのが適当ではないかと,こういう発想で作成したつもりであります。
○潮見委員 ということは,甲案があって甲案の特則として,今日,お示しになられた葬儀費用と相続財産に属する債務についてのルールを設けていただきたいという,そういうお考えですね。
○浅田委員 私どもとしては,甲案があるということを基本的には念頭に置いていると,それに加えて乙案をこれであればと考えている次第であります。
○潮見委員 分かりました。ありがとうございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○石井幹事 甲案についてですけれども,今回の御提案では費目を例示列挙にされたということで,従前の限定列挙とどちらがいいかと検討したのですが,結論としては例示列挙とすることで裁判所は柔軟な判断ができ,限定列挙になりますと,そこに費目に当たるのかというところについて判断が複雑になる可能性もありますので,例示列挙としていただくという方向で進めていただくことが適切と考えております。
  その上で,要件の立て方について更に御検討いただければなというところがございます。まず,現在の御提案ですと必要がある場合にということになってございますけれども,例えば債務の支払について必要があるというところで債務の存否,本当にあるのかとか,金額などについて具体的に認定をしなければいけないと解される恐れもあると思います。飽くまで保全処分というところですので,保全的な審理,判断でよいということが明確になるような要件立てをしていただけると,実務的には有り難いのかなと思っております。
  同様の観点から,御提案のありました他の共同相続人の利益を害しない限りという要件につきましては,考え方としては,今回,御提案いただいたような方向性で進めていただければよろしいのかなと思いますけれども,利益を害しない限りといいますと,特別受益ですとか,そういったものの判断をある程度,具体的にしていかないといけないということになって,そこがどこまでも厳密にやらなければいけないというような解釈になる可能性もありますので,そこについても一定の幅というか,概括的な保全の認定で許容されるといったことがより明確になるような要件立てを御検討いただければ,有り難いなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○神吉関係官 要件立てについて御意見をいただきましたが,これ以上,どう書いたらいいのかというのは余りアイデアがないので,もしあれば教えていただければと思います。そもそも,保全処分,仮分割の仮処分という形になりますので,疎明でいいということになるかと思いますが,その点の審査については疎明資料によって行うということで,審判で通常行っているような審査とは違うのではないか,ある程度緩やかな審査でいいんだろうと思います。その上で,法文上の要件としてそこを反映させるとなると,なかなか,アイデアが余りありませんので,もしあれば教えていただければなと思っているところでございます。
○石井幹事 例えば,今の案ですと他の共同相続人の利益を害しない限りとなっておりますけれども,利益を害することが明らかでない限りとか,あるいは必要性の方も必要があるということではなくて,必要があると認められるとか見えるとか,疎明だということが分かるような書きぶりを御検討いただけるとなお有り難いかなと思っております。
○神吉関係官 家事事件手続法200条2項との平仄の問題はありますが,検討させていただきます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 まず,浅田委員に対してよろしいでしょうか。前回,甲案に対してした質問と同じことになるんですが,相続財産に属する債務というのは,相続開始以前に発生原因のあるものに限られるのか,弁済期が到来しているものというのは,相続開始以前に既に弁済期が到来しているものに限られるのかという点をお伺いしたいと思います。
○浅田委員 この点については具体的に詰めておりません。ただ,私の考えでは相続財産に属する債務,いわゆる被相続人が負担していた債務に限定され,したがって,相続人が従前から負っていた債務は含めない,という方向で考えております。また,弁済期の到来というのはどちらでも設計の仕方だとは思いますけれども,支払当時において弁済が到来しているという考え方でも,すなわち相続開始以前に弁済期が到来している必要はない,という方向での運用もできるかと思います。これについては詰めて議論しておりませんので,今,申し上げたのは私個人の意見だということで御理解いただければと思います
○増田委員 質問の仕方が悪かったように思います。相続財産に属する債務と発生原因との前後関係を質問したのは,具体的に言えば,相続開始後に発生した相続財産の固定資産税ですとか,相続財産の修繕費用ですとか,そういったものが含まれるのかどうかということをお伺いしたかったんです。
○浅田委員 詰めた明確な議論はされていませんので,個人的な意見にとどまりますけれども,私の個人的な考えでいいますと,先ほど増田委員が御指摘されたものは入ると考えております。すなわち,基本的には相続人がその時点において相続財産に属する債務として負担すべきものについて仮払いを認めるという制度ですので,必ずしも相続発生時において債務が発生している必要はないかと思います。ただ,これについては制度設計の仕方だと思いますし,また,その間の債務について認めるということが波及する債務の範囲の特定性の問題であるとか,議論が出てくると思いますので,そこは詰めたいと思います。
○増田委員 ありがとうございます。
  それで,今度は甲案についていいですか。
○大村部会長 今の点はよろしいですか。
○増田委員 今の点は以上でございます。
  甲案については,私は前回,別の非訟事件として立てられないかということも申し上げたんですが,今回も遺産分割事件の保全処分という方向になっています。遺産分割の保全処分と構成した場合には,当該保全処分の申立人が当該債権を将来的に取得する蓋然性が要件になると思われるんですが,それでよろしいんでしょうかということと,その場合には将来取得する蓋然性までを疎明しないと,共益費用なども支払を受けられないのかという点をお伺いしたいんですが。
○大村部会長 では,お願いします。
○堂薗幹事 保全処分ですので,本案の遺産分割でどういう権利を取得できるかという点は判断の対象になるのだろうと思います。他方,例えば,保存行為として,ほかの相続人の負担部分まで弁済をした場合には,他の相続人に対する求償請求権が発生することになるわけですけれども,そういった求償請求権があるということになりますと,後の遺産分割でその権利行使をした相続人に例えば代償金の支払義務を負わせることとした場合にも,相殺によってそこは処理ができますので,代償金の支払義務を負う者の支払能力の問題は生じにくくなるというところはあろうかと思います。したがって,基本的には代償分割がやりやすくなると思いますので,そういった意味では,ほかの相続人に対して求償債権が発生するかどうかという辺りについても,考慮されることになるのではないかと考えているところではございます。
○神吉関係官 補足で御説明させていただきますけれども,先ほどの増田委員の御指摘は,遺産の中に預貯金債権以外にほかの何かの遺産財産があった場合に,当該預貯金債権を取得するという蓋然性の立証・疎明まで必要なのかという御質問だったのかもしれないんですけれども,その点については,そこまでの疎明は必要ないのではないかと考えております。部会資料の3ページ目から4ページまでで,整理しておりますが,基本的に最初に言うべきこととしては,遺産の総額と,申立人の相続分の割合,それから,仮払いを受ける必要性について疎明をすれば基本的にはよいと。次に,他の共同相続人の利益を害しない限りという要件で,どのように考えていくのかという話になりますが,基本的には遺産の総額に法定相続分を乗じた額の範囲内であれば,他の共同相続人の利益は害しないということで,仮払いは認められると。
  ただ,一方で預貯金債権以外にある財産というのが非常に市場流通性が低い財産で,他の共同相続人もその預貯金債権が欲しいということが想定されるような,そういった事案については,預貯金債権のうちの法定相続分ということもあり得るのではないか,このような場合に遺産の総額に法定相続分を乗じた範囲内の額であったとしても当該預貯金債権を申立人に仮に取得させるということは他の共同相続人の利益を害することになるのではないか,ということが4ページ目の③というところで整理しております。
○大村部会長 増田委員,いかがでしょうか。
○増田委員 私は甲案に別に反対するわけではないんですが,制度として遺産分割事件の保全処分であり,しかも,本案係属要件を今回,必要とされるということになっているので,全体が見えない段階で,つまり遺産の総体すらまだ見えない段階で申し立てた場合に,仮払いが認められないのではないかという危惧を感じますので,そういうことがないような制度であればと思っている次第です。
○堂薗幹事 まず,こういう制度を設ける場合に,なぜ,そもそも,預貯金債権についてだけ200条2項の厳格な要件ではなくて,少し緩和された要件で仮払いが認められるのかというところが問題になるんだと思いますが,基本的に預貯金債権の場合はほかの財産と違って,一部分割や,あるいは仮分割をしても,後に遺産分割をする際に,適正な分配が困難になるという事態が生じにくいという面があるのではないかと思います。すなわち,預貯金債権ですので現金類似の性質を有しており,換価が容易であって,金銭で分配できるという性質がありますので,預貯金債権全部の仮払い等認めることになりますと問題になるかもしれませんが,一部について特定の相続人に仮払いをしたとしても,残部の遺産分割では,ほかの預貯金債権で調整をすることもできますし,また,基本的には預貯金債権については,例えばほぼ全ての相続人に同額ずつ分配するというようなことも十分可能ですし,かつ,その方が公平な場合も多いのだろうと思います。そういった意味で,預貯金債権について要件を緩和することが可能であるとしますと,先ほど増田先生が言われたように,まだ,遺産分割についての協議ないし手続が進行しておらず,全体が見えていない段階でも,預貯金債権については比較的容易に仮分割を認めることが可能になるのではないかと思います。要するに,預貯金債権について仮払いの要件を緩和する趣旨からいっても,御指摘のような取扱いはできるのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○窪田委員 今の論点とは違うところになってしまいますけれども,よろしいですか。
○大村部会長 では,ちょっと待って下さい。今の点については保全処分という形を採っているけれども,本案との関係でこれが使いにくいということになりはしまいかというのが増田委員の危惧かと思いますけれども,それはそうならない運用が期待される基盤があるだろうというのが堂薗幹事の御返事だったと思います。取りあえず,増田委員,それはよろしいですか。
○増田委員 はい。
○窪田委員 一つ戻ってしまうのですが,浅田委員から御提案もあった部分に関して,浅田委員に対してというよりは,むしろ,法務省に対する御質問ということになるのかもしれないのですが,甲案が出た段階で,限定列挙か,例示列挙かはともかく,葬儀費用が入っていなかったのは,葬儀費用の位置付けというのは随分,議論があってからということだったかと記憶しております。正確には覚えておりませんけれども,葬儀費用についての債務者というのは相続人なのか,喪主なのかというような議論もありますし,それが一旦,債務を負担する形で承継したものから払うのか,むしろ,遺産,それ自体が直接払うべきものなのか等々に関しても議論があるところだろうと思います。
  御質問というか,検討していただけたらと思いますのは,恐らく甲案,乙案というのとは別の性格のものとして,葬儀費用についてのルールというのを立てることができるのかどうなのかという点です。つまり,浅田委員からの御提案にあったのも,葬儀費用に関しては,むしろ,本来,被相続人が持っていた財産から直接支払うというイメージでルールを立てるということだろうと思いますし,そのときに例えば乙案でも債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額とかという枠が本当に入るのかどうなのか,これは要するに葬儀費用を誰が負担するのかという点にも関わるのですが,なじみにくい部分があるのかなという気がいたします。
  先ほど申し上げたように,学説上はいろいろな議論もありますし,裁判例でもいろいろな説明をしているものもあるようですが,しかし,かと言って,これでなければいけないという意味で,原理的なところで何か非常に学説が対立していてというような性格の問題でもなくて,みんな,何となくはっきりしないよねということでぼんやりきているだけなのかなという気もいたします。そうだとすると,甲案,乙案とは別立てに何らかの形での葬儀費用に関してのルールを立てるということは,必ずしもそれほど不合理なことではないのかなという気もしましたので,既に御検討がなされているのであれば,その点も含めて教えていただきたいということです。
○神吉関係官 葬儀費用をどういうふうに誰が負担するのかという点ですけれども,委員の御指摘のとおり,様々な見解がありまして,裁判例上も幾つかの見解があるという状況にあります。すなわち,喪主が負担するのか,それとも,相続人全員で負担するのか,それとも,相続財産が負担すべきものなのかといういろいろな見解があるようでございまして,どのように考えるべきかは事案によってかなり異なるのではないかという気がしております。
  相続人全員でまず葬儀をしようということになれば,相続人全員の負担という形になるでしょうし,喪主が自分の家のためにやるんだとか,そういう考えに基づいてほかの相続人との協議なしに葬儀を行うという話であれば,喪主が負担するということになるでしょうし,被相続人が生前自ら葬儀を準備していたという話であれば,相続財産から支弁するということで相続債務的に扱うということもあるでしょうし,そこはかなり事案によって違ってくるというところで,一つの見解で統一するということがそもそも可能なのか,問題があろうかなと思っているところでございます。特に葬儀費用については,裁判実務上,かなり紛争が生じることもあって,相続人間の仲が悪いと2回,葬儀をやるというようなこともあると聞いておりますので,そういったところでルールの明確化になじむのかどうかという点は,若干,危惧しているところでございます。
○窪田委員 ちょっとだけ補足させていただいてよろしいでしょうか。今,御説明いただいたところは非常によく理解できることですし,当然にこれが例外で扱えると考えているわけではありませんが,ただ,喪主が費用を負担するといった場合に,実際にそれを例えば相続した預金債権の中から支出した場合には,それを喪主が相続したことになるのかとか,そういうレベルの話まで含めたときに,本当に今の状況というのが喪主が債務を負担する,イコール,喪主が債務を負担する以上は,預金債権からそれを支払ったとしても,それは既に喪主のところに分配されたのと同じだというふうなところまでを含んでいるのかどうなのか,よく分からないなという感じを私自身はしております。
  ただ,そうは言いつつも,無制限にそれを認めてしまいますと,上限なしで葬儀をやって,預金債権しか相続財産がなかったのに,それを全部使ってしまっても構わないのかということになると,多分,それはそれで妥当ではないだろうなとは思いつつ,浅田委員からの御提案があった部分というのは,結局,それに対して答えない限りは,葬儀費用についてのルールというのは立てられないのかなという気もしたものですから,お尋ねしたということです。
  その上で,浅田委員に少し実務について教えていただけたらと思うのですが,実際には仮払いという葬儀費用の債権者宛ての振込みによって便宜払いを実施しているということなのですが,このときには預金債権額との一定の割合の範囲だとか,そういう制限はあるのでしょうか。
○浅田委員 お答えいたします。これは,基本的に実務で一般的に行われているということで私が認識しているところでありまして,各銀行によって取扱いが違うということは留保させていただきたいんですけれども,まず,第一に葬儀費用に関しては緊急性が高く,ある程度,理解できるものでありますので,そういう意味で,銀行としてはできる限り応じたいという考えを持っておりますが,一方で,トラブルも多いということでありますので,それをどう極小化するかということで実務が決まっているわけです。
  そこで,二つのクライテリアがあると思います。一つは真に葬儀費用であるのかということでありまして,これは,ここでの提案にも書きましたとおり,エビデンスといいましょうか,葬儀費用であるということの請求書等のエビデンスを拝見させていただくということ,それに加えて,実際に弁済としては葬儀社に対して振込みで行うということで,これによって金額の多寡はあるかもしれませんけれども,基本的には葬儀費用で支払っているということを確保するというのが多分,大きなクライテリアだと思います。二つ目に金額の条件ということでありますけれども,これも銀行によって違うと思いますけれども,一つは例の大法廷決定前までは,トラブルが生じたとしても,従前の判例理論によれば法定相続分までは預金が可分されて帰属するということでしたので,その範囲であれば払いやすいと,それを理由に,その可分されて帰属する範囲で払うという判断をしていた銀行というのも多いと思います。
  あとは,もちろん,常識的に葬儀費用というのはいろいろ多寡がございますので,一般的に認められる金額かどうかというのは,本当にまちまちであるわけですけれども,そこは常識でトラブルにならないような範囲で銀行の窓口職員が判断して,高いようであれば,そこはまた,別途,検討するということになろうかと思います。
  余談ながら,統計の話でありますけれども,ある統計によれば,大体,葬儀費用というのは200万ぐらいだという統計を見たことがあります。統計の仕方によるものですから,いろいろ,違い得るかもしれませんけれども,一方で,葬儀費用は先ほど議論がありましたようにトラブルも多いわけでして,いろいろな考えを持つ相続人の方がいらっしゃるわけですし,また,費用の掛け方にもいろいろあるわけですので,そういう意味で,これはなかなか一律的な,演繹的な議論というのは非常に難しいかなとは思っておりますが,ただ,さりとて,繰り返しになりますけれども,一定のルールを大法廷決定後に作らないと,葬儀費用をめぐって相続人は困るということですので,こういう提案をしているということでございます。
○大村部会長 窪田委員,よろしいですか。
○窪田委員 分かりました。今のお話ですと,ただ,要するに300万円ぐらいしか預金債権がない場合でも,場合によっては200万円の支払というのが,それほど不条理なものでなければ払うということも,銀行の仕組みとしてあるかどうかはともかく,一定のニーズはあるということなのだろうと思います。また,そうだとすると,甲案,乙案とは違うタイプのものになるのだろうという気がします。ただ,それを本当に貫いて制度設計できるかどうかというのは,私自身もよく分からない感じがしているものですから,悩ましいなということだけで終わりますけれども。
○堂薗幹事 まず,今回の甲案で例示の中に葬儀費用の支払というのは入っていないわけですけれども,甲案で葬儀費用の支払のために仮分割を認めることは当然あり得るという前提です。その上で,誰がその費用を負担するのかという問題は取りあえず置いておいて,そういう形で仮分割をし,その人が本来負担すべき費用であれば,当然その人が負担するということですし,相続人に求償できるようなものであれば,それを踏まえて求償するということですので,基本的には甲案を採用して,裁判所がその点を判断するということにした方が,葬儀費用が過大なものでないかどうか,その人の身分にふさわしいものかどうかという辺りの判断もできるので,一律に葬儀費用であれば払戻しを認めるよりは,相続人間の公平が図れるのではないかと考えているところでございます。
○潮見委員 今の堂薗幹事の話ではないですが,甲案で考えるか,あるいは先ほど浅田委員に確認したお答えでよいとするならば甲案をベースに特則として,しかも,その特則というのは甲案の方は基本的に仮分割,仮処分の枠組みだけれども,特則の方は預貯金債権に関する弁済であり,そのあとの遺産分割のところで調整は残っているという意味で似ていて違うということを受け入れた上で,今回御提案のものを入れるという枠組みか,どちらかで考えていただければと思うところです。それで制度設計ができるかどうかという話は残りますけれども,そうすることによって先ほどから話が出ていた葬儀費用の債務者は誰かとかというややこしい問題は回避することができて,実際の便宜にも供することができるというのであれば,それはそれでよろしいのではないかと個人的には思います。
  ただ,その上でのことですが,仮に浅田さんが提案されているようなことでいった場合には,額のところ辺りは法務省令で定めるという形に丸括弧書きで柱書きに書かれておりますが,こういう形が採れるのかという辺りは,個人的には悩ましいなというところは思うところでございますし,相続財産の属する債務と,先ほど増田さんの話にありましたが,これを卒然と読めば,正に相続財産のうちの消極財産ということだから,被相続人が負担していた債務ということであって,単に相続財産が引当てとなっているようなものを想定しているとは到底読めない。
  だからこそ,相続税負担はどうだとか,あるいは先ほど増田さんがおっしゃったような相続財産について後で修理した修理代金債務はどうなるんだという議論が別枠で出てきたのではないかと思います。そんなところから考えても,相続財産に属する債務というのは極めて限定的かなという感じがいたします。
  逆にそうであれば,そういうふうに限定したというか,限定するということが先ほどの浅田さんの提案になるところの,ここにいう相続財産に属する債務というものと合致しているのか,それとも,相続財産に属する債務は検討させていただきますというお答えがございましたが,先ほど増田さんが言われていたような,それ以外の広いものも全部含めていくのかという辺りは,少し詰めていただきたいと思います。と同時に,法務省の方も浅田さんの提案というもので酌み取るべき価値があるところがございましたら,そこの相続財産に属する債務というのは何なのかというところはパブコメに出すということでございましたから,そのときに,これはこういうものを言って,こんなのも入るんですよとか,あるいはこれは入らないとか,その辺りを誤解のないような形でお示しいただければと思うところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御意見は,浅田委員の御提案ですと(1)の①,②が列挙されているわけですが,それを適切に限定していくということが必要になる,上限額だとか,債務の範囲というような問題がありますけれども,そういうことをどう考えるのかという御指摘だったかと思います。他方,事務当局が用意している案の方は,そうしたことを言わずに金額で決めてしまおうということであったと思います。浅田委員の御提案は,(1)①,②のようなものの方が明確ではないかという御趣旨なのだろうと思いますけれども,それが難しければ,元に戻って金額でというような話になる。そうした関係に立っているようにも思いますけれども,その辺りの得失について何か御意見等がありましたら伺えればと思いますが,いかがでしょうか。
○神吉関係官 事務当局の方から,浅田委員の御提案について1点だけ質問させていただきたいと思います。今日,御提案いただいた案では,仮払いを認める費目として,葬儀費用と相続財産に属する債務に限定しているということで,それについては仮払いの申請をさせる際に疎明資料を出させるという形になっているかと思うのですが,その疎明資料を出させるということの効果についてお伺いしたいと思います。提出を受けた書類を見て審査をして,それで,実際にあるなと判断できた場合に支払うということを想定されているんだとは思うんですけれども,もし,客観的に見て提出書類が不十分だったとか,よく分からないという中で支払ってしまった場合に,それは有効な弁済ではないという理解でいいのかどうかというのが,資料を出させるということの効果をどう考えるのかというところを教えていただければと思います。
○浅田委員 そこには議論があろうかと思います。つまり,銀行員が書面を見たときに,それがどこまで真実であるのかについて確認する義務を認めるのかという論点はあると思います。その点について直裁に答えているかどうかというのは別として,私どもの考え方としては(4)のところでありまして,前3項に従いなされた弁済は,有効なものとみなすものとするということです。それでは(3)の弁済というのが,一体,どういう場面での弁済なのかということに戻ってしまうわけなんですけれども,ある意味では,準占有者に対する弁済と同様の一定の注意義務はあるのかもしれないということは認識しつつも,私としては,その書面の一定の確からしさを前提に,銀行がそれを弁済した場合を想定しています。すなわち,(4)に従って,準占有者の弁済とみなすのか,(4)に伴う有効な弁済とみなすのかという違いはあろうかと思いますけれども,少なくとも銀行にとっては,その書面の真実性にかかわらず,(3)に従って弁済をすれば,第三債務者に対しては効果が生じるというふうな立て付けを考えております。
○大村部会長 よろしいですか。
○神吉関係官 そういたしますと,明らかに書類が客観的に不十分だったという場合には,弁済としては無効になると読むのかどうか,そこがよく分かりませんでして,もし,仮にそうなると金融機関の負担が結構,逆に大きくなってしまうのではないかなと,危惧をしております。もし,書類の交付に効果をそれほど持たせないということであればですが,例えば権利行使をする際に一定の資料を出させたり,弁済方法を一定のものに限定するというのは,契約法理で,約款とかで限定するという方向であれば,詰めて検討したわけではないんですけれども,考えられなくはないかなという気はしております。要件と効果が結び付かない形で書類の審査をするというのが少し違和感はあるかなというところでございます。
○浅田委員 この点についても,今回,まずは枠組みをお示ししたわけでありますので,そこの効果に至るまでの書面の真実性に関するレベルの高さの可否の内容については,今後,しかるべき検討をしなければならないとは認識しております。
○中田委員 確認なんですけれども,(4)の弁済というのは預金債務の弁済という面と,それから,例えば相続財産に属する債務の弁済という面と2通りあると思うんですが,どちらを指しているのでしょうか。
○浅田委員 基本的な発想としては,預金債務の弁済についての有効性だと考えております。それに加えて,当該原債権に対する債務の弁済が有効かどうかというのは,もちろん,当該原契約の内容であるとか,また,その抗弁の有無であるとかいうことの問題が出てくると思いますけれども,そこは,銀行以外の当事者間で決せられる問題だと理解しております。この規律において,その相続財産に属する債務の弁済の有効性まで規律することというのは,一応は考えられ得ると思いますけれども,この提案した規律というのは,そこまでは考えておりません。この提案の文章として読み取れないということであれば,書き方をもう一度,見直す必要があろうかとは思います。
○中田委員 分かりました。ありがとうございました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。甲乙の両案が出ておりますけれども,これは両立しないわけではない,乙案が無理だということになってしまえば甲案だけということになりますが,乙案を一定の範囲で認めるということであれば,先ほど潮見委員も乙案を特則としてという言い方をされましたけれども,二つのものが成り立つということはある。そういう前提で審議をしてきたかと思います。本日のところ,甲案については質問等を頂きましたけれども,大きな異論はないという状況かと認識しております。乙案につきましては事務当局が示された案に対して,浅田委員から出された費目を絞るという案につき,この費目の絞り方を適切なものにできるのだろうかといった点について御意見を頂戴している。こういう状況かと思いますけれども,ほかにこの際,御指摘,御意見等があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。
○石栗委員 乙案の場合には,払い戻された額がそのまま遺産分割の対象になるということですが,金融機関に対して調査嘱託をすれば,どなたに幾ら払われたのかというのは,明らかになるということは前提になっているということでよろしいのでしょうか。
○神吉関係官 事務当局からお答えいたしますと,乙案に基づいて請求する場合には,債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額が権利行使できるということですので,当然に金融機関に対して自分は法定相続人で,自分の法定相続分はこれだけですよということを証明しなければいけませんので,当然,戸籍なりを提出することになるんだと思います。そこの中で,誰に対していくら渡したということは記録されるのかどうか,当然,記録されることにはなるのではないかとは思っていますが,もし制度改正後にどうなるのか,現時点で検討をされていることがあれば,浅田委員から教えていただければと思います。
○浅田委員 現行実務を一般論として申し上げますと,まず,相続財産の開示に関しましては,相続人であれば開示しております。平成21年1月22日の最高裁判決でもありますものですから,これは開示していると思います。問題は取引履歴というか,いわゆる勝手払いとか,そういう話ですか,それとも,現に有する預金残高ということでしょうか。
○神吉関係官 質問の趣旨といたしましては,乙案に基づいて請求してきた場合に,誰に払ったかというのを記録することになるのか,仮に乙案のような制度を設けた場合にどうなるのかという質問でございます。
○浅田委員 失礼しました。御質問は,今後,この制度が導入された場合に,新たな記録について開示をするかどうかということですね。それについては,まだ,十分に内部では検討しておりません。もちろん,こういう制度ができる限りは,銀行としては記録を何らかの形で付けるということになろうかと思います。次に,その内容について開示するかどうかということですけれども,これは検討しなければならないわけですけれども,守秘義務等の問題がないのであれば,開示する方向になるのではないかと私は個人的には思っておりますけれども,すみません,内部の検討が必要な点だと思っております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  乙案,それに伴う浅田委員の御提案につきまして,更に御意見があれば頂きたいと思いますが。
○浅田委員 恐縮ですけれども,乙案でありますけれども,基本的な話としてこの意味がどうなのかということでありますが,つまり,2行目の相続開始時の債権額の2割と,債権額の2割というのは当該被相続人の有していた債権額全体の2割なのか,それとも,個々別の銀行で有している預金債権を全部集めた金額の2割なのか,それとも,個々の預貯金債権の債権口ごとの債権なのか,どれをお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。部会資料の中では,明確ではないところだったかと思うんですけれども,権利行使ができる預貯金債権の割合・額については,個々の預貯金債権ごとに判断されるものと考えております。遺産のうち,例えばA銀行に普通預金が300万円,同じ銀行に定期預金が400万円あった場合に,この規律によって法定相続分は2分の1の相続人が単独で権利行使できるのは,普通預金のうちの30万円と定期預金のうちの40万円ということになるかと思います。ですから,当該相続人が,先ほどの金額を合算して普通預金から70万円を引き出すということはできないと今のところ考えているところでございます。
  これと異なりまして上限額の設定と同様に,例えば預貯金債権の割合額について金融機関ごとに判断するという考え方とか,あと,預貯金債権全体,我が国にある預貯金債権全部を対象とするという考え方も,あり得なくはないかなと思いますが,ただ,預貯金債権全部を対象とすると,全金融機関にある預貯金債権額を把握しないと,個々に権利行使することができる額が決まらないということになり,実務上,それは難しいだろうと思われます。また,金融機関ごとに判断するという考え方もあるかと思いますが,上限額の設定のように,必要最小限度の権利行使を認めるという観点では,そういった規律もあってもいいかと思うのですが,ここでは単に口座ごとの払戻請求を認めれば足りますので,それほど金融機関ごとという方策を採用するメリットは余りないかなと。そうすると,規律としてシンプルである預貯金債権を口座ごとに考えていくのが良いのではないかと,今のところ,思っているところでございます。
○浅田委員 ありがとうございました。
○窪田委員 1点,よろしいですか。浅田委員に御質問するということになるのかもしれないのですが,先ほど便宜払いという言葉が出てきたのですが,便宜払いに関しては預金契約の中に何らかの形の特約とかというのはあるのでしょうか。それを御質問するという趣旨は,浅田委員から御提案があったことも,場合によっては預金契約によって対応が可能な問題として扱う余地があるのではないかというべきです。仮にそうだとすると,そこで扱える問題と民法なり,法律の方で対応するべき問題の切り分けも必要になってくるとも思います。それも踏まえて,そこで出てきた便宜払いということについても,少し教えていただければと思ったということです。
○浅田委員 お答えいたします。約款等には便宜払いについての規定はございません。便宜払いというのはまさしく便宜に払うものであって,ある意味,正規の約款等に従った弁済ではなくて,銀行が裁量の判断によって,真実はお支払するべきでないかもしれないけれども,便宜的にお支払するということでございます。したがって,ないということであります。一方で,個人的な意見でありますけれども,本審議会において議論が出てきたときに聞いておりますところ,現在の預金約款について係る相続についての規定というのがないということが,度々,指摘されているところであります。これについては,相続法の改正,債権法の改正を受けた検討を含みますけれども,これらも勘案して何らかの約款の見直しが今後,検討されることを,私も今,お約束することはできませんけれども,ということが望まれているということを感じております。
○大村部会長 窪田委員,よろしいでしょうか。
○窪田委員 どうもありがとうございました。
○大村部会長 窪田委員の御指摘は,乙案に相当するものを約款の中で対応するということを考えることはできるのではないかという方向ですね。先ほど事務当局の方からも,それは約款で対応することが考えられるという御指摘が浅田委員の案についてありましたけれども,法律で定めるべき事柄と約款で対応していただく事柄を仕分ける形での対応は,考えられないだろうかという方向では考えてみたらいかがか。こういう指摘として承りました。
  ほかはいかがでしょうか。事務当局,よろしいですか。
  では,甲案については特に大きな問題の指摘はなかったと,乙案につきまして原案に対し,費目を制限するという御提案が出されている。これの可能性についてなお検討を要するとまとめさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。
  それでは,引き続きになりますけれども,相続開始後の共同相続人による財産処分という問題の方に移らせていただきます。これは今回,実質的には初めて出てくる論点であります。資料の方はかなり大部なもので,7ページから24ページまで具体的な計算例なども付いておりますけれども,先ほど事務当局から御希望の表明がありましたが,基本的な考え方,規定を設けて一定の考え方を示すということの当否ということにつき,まず,御意見を賜りまして,その後,具体的にどう考えるのか,それから,具体的に考える際に設ける規定の射程というんでしょうか,適用範囲をどの程度のものとして想定するかといった点について御意見を賜りたいと思います。
  まず,かなり難しいところもございますので,質問等も含めまして最初の前提問題の方について御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。どなたからでもどうぞ。
○石井幹事 前提というよりは,こういう制度を設けるべきかどうかというところについて申し上げますと,こういった形で規律を設けて一定の法律関係を明確化するという意図については,理解するというところでございますけれども,こういった規律を設けた場合には,何点か,検討を要する難点があるのかなと思っております。
  一つ目として,この提案によりますと,相続開始後に例えば遺産に属する預貯金の一部が引き出されていた場合については,その引き出しを誰が幾らしたのかといったことについて審理するという必要があろうと思いますけれども,実際,実務上も預金がそれに使って引き出されているということは間々ありまして,特に相続開始からある程度,時間がたっているような場合については証拠が既に散逸していたりするため,なかなか,審理が容易でないといった場面もあるというのが実情です。
  これまでの実務では,そこは遺産分割の対象にはならないということで,そこについて疑義がある方については必要に応じて訴訟等で争って,遺産分割についてはその余の分について解決しているというところでしたけれども,この提案によりますと,最初に申し上げたような誰が引き出したかといったことについて,審理をしなければいけないということになりますので,遺産分割に関与している相続人の方全員が関与した形で長期間にわたって手続をやっていく必要があると考えられます。そういう意味では,全員が拘束されることになるのかなと思っておりまして,それが果たして制度として妥当なのかといったところについては,検討が必要なのではないかなと思っております。
  もう1点,そういった場面ですと,例えば被相続人と同居していた親族の方などは,実質上,財産の管理を補助されていたために相続債務の支払をするといった形で,言ってみれば共益的な費用の支払のような形に宛てているような形で,預貯金等を引き出すといった場合もありますけれども,本提案によりますと,今,申し上げたような身近で面倒を見ておられた御親族の方が一部を引き出したといった場合は,遺産分割として一旦は既に使われた部分を当該相続人に取得させて,求償が必要である場合は当該相続人の方が訴訟を起こして,争ってもらうというような立て付けになろうかと思いますけれども,今,申し上げたように相続人全員のためにある程度,共益的な支払をしていたような相続人の方に,そういった負担を課すということになりかねないので,そういった意味で,一般の国民の方を含めて理解が得られるのか,検討が必要なのではないかなと思っております。
  もう1点,余り理論的なことではないかもしれませんけれども,この提案によりますと,主文として既に遺産から離されているようなものを相続人に取得させるといったような形で遺産分割を解決するということになりますが,やや構成としては技巧的なところもございますので,一般の方も含めて分かりづらいのではないかなというところで若干懸念があります。特に不動産について既に所有権が移転されている場合ですとか,提案の最後にあります遺産の全部が既に移転しているような場合についても,なお,相続人の方に取得させるといったような解決の仕方が分かりやすさという意味で,十分,理解が得られるかといったところについては,検討が必要なのではないかなと思った次第であります。
○大村部会長 ありがとうございます。
  幾つか難点というか,問題点の御指摘を頂いたと思います。
○神吉関係官 三つ,御指摘いただいたかと思うんですが,それぞれについて御回答させていただきます。まず,誰が処分したのか分からないというケースにおいて,この規律が適用されるのかどうかという話ですが,この点については,部会資料の14ページの(注2)のところで,考え方を整理してあります。そもそも,誰が処分したかどうか分からないというケースでは,この規律の適用はされないと,この規律は飽くまで共同相続人の一人によって遺産が処分された場合のケースということですので,誰が処分をしたのかよく分かりません,証拠がありませんといった場合については,この規律を適用しなくてよい,と考えているところでございます。
  あと,相続債務などの共益費用的なものを弁済した場合,その人の相続分としてカウントするのはどうなのかというお話があったかと思います。この点につきましては仮払いのところと近い話で,部会資料18の24ページ以下で検討しております。当該相続人の具体的相続分を超えて,共益費用的なものを加算して遺産分割において取得させることができるのではないか,取得させた上で具体的相続分を超過した分については代償金を支払わせることとして,共益費用であれば他の共同相続人に対して求償金が発生しますので,代償金債務と求償債務で相殺をする,一応,そういった形で遺産分割の中で整理することもできるのではないかと考えているところでございます。
  3番目の主文が技巧的だという話は,確かに技巧的なのかなとは思うんですけれども,この主文が要るのか,要らないのかという点については,よく分からないところだなとは思ってはいるのですが,ただ,全体が遺産分割の対象となるときに,足して全部にならないというのが果たしてどうなのかというところで,とりあえず,そこも含めて主文を書いたらどうかなというところでございます。
○石井幹事 1点目の分からないときは対象にならないというのは,整理としてはそうなのかなと思いますが,実際,争われると,判断せざるを得ないというところがあります。引き出されたものが遺産とみなされるかというのは,遺産の範囲に属するような問題かと思いますので,前提の問題として,その点が遺産分割手続で解決できるかというところも議論があると思いますけれども,争われた以上は判断せざるを得ないというところはあろうかと思います。
○堂薗幹事 そこはいろいろな考え方があり得ると思うんですが,遺産全部について処分がされた場合に,この規律を適用するかどうかということも絡むのではないかと思っております。仮に,遺産全部についての処分を含めないということにしますと,処分者が分からない部分については置いておいて,現に遺産共有状態にあるものについて分割すると,そうすると,結局,遺産分割の対象となる財産はなくなりますので,全部処分がされた場合と同じような形になり,全部処分された場合については,基本的には家庭裁判所の審判手続でやるのではなくて,地方裁判所の償金請求で対応するという形にするのであれば,基本的に争いがあるようなものについては,償金請求で処理をし,そうでないものについて遺産分割での一体的な処理を認めるという考え方もあり得るのではないかと考えているところでございます。
○神吉関係官 補足して御説明させていただきます。そもそも,確認の対象になるのかという話があったかと思うんですけれども,基本的に遺産か,遺産ではないかというのは今でもある紛争でして,その場合については遺産確認訴訟ということで,地方裁判所で確認訴訟の対象になると言われているかと思います。この場合も処分したのが共同相続人なのか,それとも第三者なのかということが争われた場合については,基本的には遺産か,遺産ではないかという話になってくるかと思いますので,これも確認訴訟の対象になり得るのではないかなと思っているところではございます。その辺,もし手続法の先生方から御意見があれば教えていただければと思います。
○大村部会長 手続法の先生方,いかがでしょうか。
○垣内幹事 逸失してしまっている,処分されてしまっているものであるけれども,しかし,それが遺産に含まれるという規律を設けるということを前提とした場合には,他の普通の財産について遺産に帰属するかどうかについて,確認の利益が認められるのと同様の扱いで確認の利益が認められるという理解は,今,伺った限りでは十分あり得るのかなという感じはしておりますけれども,何か効果の面で少し一般のものとは違うというようなことが出てくると,そこをどう考えるのかという問題は細かく言えば出てくるのかもしれませんけれども,大筋,同じようだということであれば,同じように考えるのかなという,今のところはそういう感想を持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにも何人かの方から手が挙がりましたけれども,では,そちらの水野委員からいきましょうか。
○水野(有)委員 すみません,重なるところではございますが,今のお話ですと,遺産の対象かどうか,処分者が誰かによって決まるということであれば,処分者のところも確認するという,誰が処分したかも主文に出るという御趣旨の御提案でしょうか。
○神吉関係官 確認訴訟の主文がどうなるのかという問題は,更に検討すべき問題なのかなと思っております。処分された財産,例えば甲不動産だとすると,甲不動産については被相続人の遺産であることを確認するというのが,今までの遺産確認訴訟の主文だったかと思うんですけれども,御指摘のとおり,共同相続人Aが被相続人の遺産である不動産甲を処分したことを確認すると,そこまでの主文が必要になるかどうかというところは,更なる検討問題かなとは思っております。詰めて検討したわけではないのですが,先ほどの単に遺産であることを確認するといった場合には,元々,遺産であったわけですので,現時点での遺産である確認なのか,それとも,相続開始時での遺産である確認か,よく分からなくなるかと思いますので,基本的には後者のような主文の方がいいのではないかなとは,現時点では,思っているところではございます。
○垣内幹事 私自身が御提案について十分に理解できていないということもあるかと思うんですけれども,先ほど遺産としてなお存在するものとみなすということだから,遺産があるというのと同じだろうという前提でお話をしたところですけれども,考えてみますと,主文の問題というのも先ほど御指摘がありましたけれども,ここで遺産としてなお存在するものとみなすということの意義というか,機能というか,それは結局,財産そのものを分割しようという話ではもちろんないわけですから,遺産分割の際の分割すべき財産が全体としてどういうものであるのか,価額が全体としてどうなのか,価額という言葉が8ページなんかで使われて整理されている,正に実質はこういうことではないかという感じもします。そうしますと,分割の際の基準となる価額をどう決めるかについて,この規定は定めているのであるということだとすると,そこは一般の本当に分割の対象となる,現実の分割の対象になる財産についての確認の場合と,同列に論ずることができるのかというのは,どういう面からこの規律を捉えるかということになるかと思いますけれども,組み方によっては疑義が生ずるところはあるのかなと,具体的相続分みたいな形のものにすぎないんだというような理解もあり得るような感じもいたします。そこは実際に規律をどういうものとして具体的に組むのかということによって,大分,変わってくるところがあるのではないかということを少し付け加えさせていただければと思います。
○堂薗幹事 先ほど申し上げた,全部処分がされた場合をどうするかということと関係するのではないかというのも,正に同じようなことなんですけれども,要するに誰が処分したか,よく分からない,ですから,みなし遺産かどうか分からないというものについて,確認訴訟を提起した上でないと遺産分割ができないということになると,制度としてはかなり重くなるように思います。そこで,本来,遺産とみなすことによって取れた分については,別途,民事訴訟を認めるという別の選択肢を認めることが可能であるとすると,確認訴訟までしなければいけないようなものについては,むしろ,民事訴訟で解決し,そうではなくてある程度,当事者間で誰が出したか分かっている,あるいは証拠上,はっきりしているというものについて遺産分割で一体的に処理することも認めるというようなことは,十分にあり得るのではないかなというようにも思っているところでございまして,そういった意味で,正に適用範囲をどの部分に限るかというところは,かなり,重要になってくるのではないだろうかと考えているところでございます。
○大村部会長 それでは,増田委員の後,水野(紀)委員も手が挙がったと思いますので,増田委員,水野(紀)委員という順でお願いします。
○増田委員 今の点に限定して聞きたいんですけれども,共同相続人の処分がみなし遺産の要件であるということだと思うんですが,共同相続人の処分というのをどういう手続で認定するかというところが問題なのではないかと思います。今,争いのない場合と,証拠上明らかな場合というのがありましたが,前者と後者は大分違うので,証拠上明らかかどうかというのを認定する手続が正に問題であるということです。前者の場合には別にこういう規定を入れなくたって,それを遺産に入れるという合意さえできれば,遺産分割の手続の中でできるのではないかと考えられるのであえて規定する必要はなく,後者のときが問題で,そのときに非訟事件の中で認定することはどうかということだと思うんです。
  先ほどみなし遺産について,確認訴訟ができるのかどうかという問題がありましたけれども,私は現存する遺産とは違って,現在ないものを遺産であるとみなして,それを計算の基礎とするだけのものを対象として,みなし遺産確認訴訟というのは難しいのではないかと思いますし,ましてや誰が処分したかなんていうのは過去の事実であって,その確認訴訟というのも今の訴訟類型の中では考えにくいのかと思います。つまり,今の論点からいけばそうなんですけれども,より広い観点から見れば,理念的にはあり得るのかなというような話ではあるんですけれども,非訟事件手続の現在の枠組みの中で,そういった前提問題を審理するというような状況ではないので,そこのところの手続まで含めて全て抜本的に改正するというのならともかくとして,なかなか,難しい問題を多くはらんでいるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  何人かの方々から,一般論としてはいいのかもしれないけれども,実際にこれを動かすのに様々な困難が付きまとうのではないかという御指摘を頂いておりますけれども。
○水野(紀)委員 そもそも論の話をしてしまいますと,日本の相続法には基本的なバグがあります。本来なら,相続開始から間もないときに遺産分割手続が行われて,それまで合有で処分を禁じておくべきなのだろうと思いますが,残念ながら,そうはなっていません。戦後の改正までは実は処分を許さないという合有説の方が通説だったのですけれども,戦後の改正で909条ただし書を入れて共有説を採らざるを得ない条文構造になってしまいました。
  その後,共同相続と登記という一連の判例にしろ,学説にしろ,共有的な処分可能という解釈に賛成してきたのは,安定的な遺産分割手続が制度化されていないことと,それゆえに放置すると事実上跡取りが遺産を占拠して家督相続が再現してしまうという危惧があったことが理由だったろうと思います。戦後,遺産共有における共有持分を強くするという観点から,学説も賛成して,共有説が大前提になってきた結果,実務が苦労されることになりました。遺産分割は家裁の管轄になりましたけれども,そこでは債権債務は対象外で,判明している積極財産だけで限界と矛盾に満ちた遺産分割をせねばならず,しかも家裁は既判力がなくて,既判力を持つ遺産確認の訴えのためには地裁へ行かなければならないことになりました。言わば基本的なバグがある上に,複雑骨折しているというような,そういう相続法になっていて,よく実務はこれで戦後70年も御苦労してやってこられたなとつくづく思います。本来的には,今日,詳しく御検討いただきましたように,相続開始後間もない最初の段階で処分を封じておいて遺産分割をやらないと,遺産分割は公平なものにならないというのは当然のことなのだろうと思います。
  そういう当然の方向に沿うわけですから,こういう規定を入れてお考えになるということは,私はいい方向だろうと思います。ただ,これまで御議論が出ましたように,従来そうではない形で,複雑骨折の現状に合わせて苦労してこられた実務の慣行と,あちこちでぶつかることは確かだろうと思います。それでも,理念的には本当は合有説でもいいところなのですから,こういう形で計算をし,かつ,家庭裁判所が遺産分割訴訟を管轄できるという位置付けで既判力もあるということにして,遺産分割に関するいろいろな計算は家裁限りでできるという形にする方が,本来的なあり方だと思っておりますので,基本的な御提案の方向には賛成でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 水野(紀)委員がおっしゃったことの半分は賛成で,半分はどうかなと思うところを今から申し上げることになるかと思いますけれども,冒頭に御説明がございましたように,この問題というのは基本的に遺産の一部を処分した場合に,それを遺産分割の中で調整するのか,それとも,遺産分割の外で,不法行為とか,不当利得という枠組みで処理するのかということが,まず出発点にあるのだと思います。それは御説明のとおりだと思います。その上で,そうしたら,それを実体法上,例えばどう仕組むかということを考えたら,今,直前の水野(紀)委員の発言ではありませんが,この考え方は,実体法上では何とか理論的に一貫して説明することはできるのではないかという感じはいたします。
  ただ,問題は複雑骨折とおっしゃいましたが,実際にこれを手続法のレベルに乗せて考えたときに,先ほどからお話がございましたような確認というもの,あるいは証拠面での評価というようなものを遺産分割の手続の中で,家裁で果たして,今,やっていけるのか,あるいはやっていくべきなのかという問題があり,それが恐らくこの提案を採用するかどうかの最大の別れ道ではなかろうかと思います。私は手続法の専門家ではありませんから,これ以上は申し上げません。
  ただ,その一方で今回,この問題が出てきたのは,基本的にこれは預貯金債権についての一部の弁済等があったような場合を想定しているように思います。預貯金債権の場合には先ほどの議論にもありましたけれども,広い意味での仮分割あるいは仮払いというような形で行われ,しかも,それが当事者間での最終的な遺産取得をどのようにするのかという,言ってみたら調整弁という形でも機能するというようなこともあり,その点では預貯金債権というものについては遺産の中でもある種,特殊な状況にあります。そういうところでは,遺産の一部,つまり,預貯金債権の一部について何かが起きた場合に,それを遺産分割の手続の中で調整するというのは,コスト面も含めてあり得ることです。
  そうであれば,ここからが言いたいことなんですけれども,仮にこのようなものを認めるとしても,預貯金債権に限定する形で何らかの対応をすることは可能なのではないか。そして,この場合は,先ほどの確認の利益だの,何だのかんだのというややこしい問題は,間違っていたら増田委員に直していただきたいんですが,それほど大きな問題として起こらないかもしれない。
  もうちょっと言いますと,不動産の場合の一部の持分処分等で,実際に対応しなければいけないような問題が生じていないということであるならば,手続法上,いろいろ,難しい問題が理論的なものも含めてあるということであれば,無理しない方がいいのかなと思ったというところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  これは,今,潮見委員から御指摘がありましたけれども,仮払いとの関係で出てきた問題に端を発していて,預金債権の場合はどうなるかというところからスタートしているわけですが,それをこの際,一般化したらどうかという発想に立って提案されているかと思いますけれども,一般化するのに伴うコストを考えたら,一般化しないで止まるというのも一つの選択肢ではないか,というのが今の潮見委員の御発言かと伺いました。事務当局の方からどうぞ。
○神吉関係官 預貯金債権に限定して,こういう規律を置いたらどうだという御提案が今ありましたけれども,そうすると,なぜ,預貯金債権についてだけ公平の理念を徹底させるのかと,不動産の処分が行われた場合については不公平が生じても構わないのかという,多分,そこの説明を付けなければいけないんだと思うのですが,そこはなかなか難しいのではないかと感じております。不動産を処分した場合に,余り問題となっていないのであれば,逆に全体を含めて規律してしまってもいいのではないかという気もしますし,規律を区別するということであれば,どういう理論的な説明をするのかというのが非常に悩ましいと思っているところです。
  事務当局として,必ずしもここでいうγ説にこだわるものではもちろんないわけなんですけれども,もちろん,民事訴訟において公平に解決できるということであれば,その道もあるかとは思います。しかしながら,ここで事例を挙げて御説明していますとおり,自らの法定相続分を譲渡した場合については,基本的には不法行為も不当利得も成立しないものと現行法上考えられているかと思います。そうすると,今の不当利得法,不法行為法の世界の中ではなかなか救済が難しいと。それであれば,規定を設けて対処しようという話になってきます。冒頭にも申し上げましたが,そもそも,不公平を是正する必要があるのかという問題と,是正するときに遺産分割の中でやるのか,それとも地裁の訴訟の中でやるのかという,その2つの段階的な問題があるんだと思うのですが,まず,最初のところについて委員・幹事の皆様の問題意識が共有されているかどうかというところを確認したいと思っておりますが,いかがでしょうか。
○窪田委員 余りはっきりした意見ではありませんし,いろいろな問題があるということは承知しつつも,7ページの2で御提案いただいている方向というのは,十分,あり得る方向なのかなと私自身は資料を頂いたときに思いました。潮見委員の御指摘についてはそうかもしれないと思う部分もありつつ,不動産の場合であったとしても同じ問題は存在するのだろうと思っています。ただ,この問題を考えるときに一つ何か暗黙の前提となっているのが,財産法上のアプローチでは具体的相続分を反映させた処理というのはできないということ,つまり,具体的相続分というのは遺産分割を前提としての単なる額であって,権利性を有さないという判例の立場であり,これを前提としてしまうと,結局,今,御説明があったようなことになるのだろうと思います。
  余り大きな問題は,今更取り上げるべきではないのかなと思っていたのですが,もう少し,会が続くということですから,少しだけ考えてみたいと思うのは,今でも例えば904条の規定では,当然に最高裁が言っているようなことが示されているわけではなくて,この者の相続分とすると言っているだけだということです。なおかつ,904条というのは遺産分割の章ではなくて,相続分の節に置かれています。その意味では,判例を所与のものとして考えざるを得ないのかというと,例えば最後に代償請求権として構成できないかということもあったんですが,場合によっては代償請求権の中で具体的相続分を反映させるような仕組みというのを取り込むことができるのであったら,財産法上の解決もできるということだろうと思います。形としては両方ともあるのかなという気はいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  不公平が生じるということは踏まえつつ,別の解決もあり得るのではないかという御指摘だったかと思いますが,そのほか,いかがでございましょうか。入り口のところで様々な御意見を頂いていますけれども。
○堂薗幹事 不動産で持分を譲渡する場合がどの程度あるかという問題はあるんですが,本来,不動産で自己の共有持分を譲渡したという場合には,その不動産については処分をした相続人は持分がないという状態になります。遺産分割について,遺産全体を言わば1個の財産のように見て包括的に計算をすることが可能なのは,遺産全体に対して各相続人が同一の割合,すなわち,法定相続分の割合で持分を有していることが前提となっていると思うのですが,相続人の一人が自分の持分を処分した場合には,その前提が崩れることになります。したがって,遺産分割において,本来,きちんと計算しようとすれば,処分がされた財産は別枠で計算し,それ以外の財産,すなわち相続人全員がそれぞれ法定相続分で共有持分を有しているものについては一括した,通常行われている計算ができるわけですが,そうではないものについては別枠で計算しないと,本来的にはおかしいことになるのではないかと思います。そういった形で相続人が一部の共有持分を処分した場合に,対象財産を二つに分ける形でそれぞれ計算するよりは,むしろ,こういう形で遺産としてみなして,遺産全体についてそれぞれ全相続人が法定相続分の共有持分を有しているという前提で計算した方が,むしろ計算も楽なのではないかと考えております。
  この点について,現行の実務でどういう形でやっているのか,よく分からないところはあるのですが,仮にα説でやっているんだとして,本当に処分がされた財産について別枠できちんと計算するようなことがされているのであれば,その限りでは公平な分配がされるのだろうとは思うんですけれども,必ずしもそういう形になっていないのではないかというところもあって,こういう形で提案させていただいたというところではあります。
  それから,先ほどの増田委員の御指摘と潮見委員の御指摘と関係する部分ですが,正に預貯金債権のみを対象にした場合にさほど問題にならないのは,誰が引き出したかという点について証拠上はっきりしている場合が多いからなんだと思うので,そういったものに限って不動産についてもこの対象にすると,証拠関係がある程度はっきりしていて,家庭裁判所においても,仮にその後に地裁で争われてもひっくり返ることはないだろうということで,確信を持てるようなものもあると思いますので,そういったものについては,こういう形で一体的な処理をしていただくということは十分あり得るのではないかと思います。
  それから,相続人が全員同意している場合というか,誰が引き出したか,争いがない場合でも,現行法でいきますと,それを遺産の対象に含めることについて相続人全員の同意がないといけないことになりますが,特別受益の対象となる贈与等が多数あるような場合は,それぞれ相続人間で利害が対立しますので,仮に誰が引き出したか,あるいは誰が処分したかについて争いがない場合であっても,相続人全員が遺産分割の対象に含めることについて同意するということには必ずしもならないのではないかなというところもあり,こういう形で,提案させていただいたというところでございます。
○水野(有)委員 提案の必要性とかいうところは,皆さんで御議論いただければいいと思うんですが,実務との関係で,お願いがございます。預貯金については誰が引き出したかが明らかであることを前提としての議論が今されていたかなと思うのですが,カードなんかを使って引き出した事案では,民事訴訟では誰が引き出したか分からないものというのは,経験上,一定程度ございますので,預貯金については誰が引き出したか,常に明確であることの前提の議論は実態とは違うかなと思いますので,そこも御考慮いただければなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 多分,私しかこんなことは言わないのかもしれないので,「(笑)」を付けていただいて結構なんですけれども,ここまで言われるのだったら,遺産分割を訴訟にするということはお考えではないんですか。というのは,訴訟にしてしまえば,関連紛争についても全て訴訟の中で解決できるということになり,かつ,既判力があるということになります。審判にしておく以上は,先ほどからいろいろ出ていますように必ず訴訟に残る部分,あるいは先に訴訟して解決しなければならない部分が増えるだけなんです。今,前提問題として言われているものが一つ増える,要するに誰が引き出したかというようなものが前提問題として一つ増える,あるいは最高裁判例によれば既判力がないから後で争えるという要素が一つ増えるだけのことだろうと思いますので,これを提案されるのであれば,そこまでのことを考えていただいた方がいいのかなと思っているんです。
  遺産の事件を非訟でやっているというのは多分,戦後,家庭裁判所ができた際に,何らかの当時の政策的配慮によってなされたものだと思いますが,戦前は多分,訴訟だったのだと思いますし,比較法的に見ても,恐らく諸外国では訴訟だと思うんです。それを考えると,なぜ,遺産分割を非訟手続ですることを絶対に動かさない所与の前提として考えられているのか,私は別にこのような提案が出ないのだったら,今のままでもそれほど不便ではないと思いますが,ここまでするのだったら,訴訟手続にすることまで考えられてもいいのかなと思います。
○神吉関係官 遺産分割をこの段階から地方裁判所の管轄にするのは,なかなか,難しい問題があろうかなとは思っております。増田委員の問題意識としては,こういう不公平があるということについては,是正した方がいいとお考えなのか,それとも,それはやむを得ない相続法の欠陥であるとして,そこは飲み込むという方がいいのか,前提として,不公平は是正する必要があるというのがこの部会の総意ということであれば,遺産分割で処理するのか,それとも,償金請求なり,地裁で処理をするのかというところ,そこの道を多分,次の段階としてやっていかなければいけないかと思いますが,一段階目の問題意識が共有されているかどうか,よく分かりませんので,教えていただければと思います。
○村田委員 そこで事務当局がおっしゃる公平とは,神様の目から見た公平を言われている気がするのですけれども,実際の裁判実務を含めた紛争の形態からすると,ぎりぎり言ったら公平でないかもしれないと思っても,遺産分割はしょせん,棚からぼた餅的なものだから,あえて,そこまで争わないという関係者もおられるわけで,それが一つの相続の中で枝分かれしていくこともあるわけです。ですから,結果的には神様の目から見たら公平でないということがあったとしても,それで丸く収まっている話は世の中は幾らでもあるわけで,そういった余地を手続的に分けた結果として認めて,それでよしとするのか,そうではなくて,理念を飽くまでも貫き通すことが立法として正しいと考えるのかと,そういう問題ではないかと思います。
○大村部会長 増田委員,何かありますか。
○増田委員 これが絶対に正しいのかどうかというのは,留保させていただきたいなと思うんですよね。今,村田委員がおっしゃったことにも近いんですけれども,要は神様の目から見て事実関係が全て明らかになった上での公平というのならともかくとして,世の中の事実というのは誰がやったか,本当は分からないんですよね。しかも,遺産紛争の場合,預金の引き出しばかりが,勝手に処分したというところが目立ちますけれども,細かいことを言えば,分からないことが一杯あって,現金とか動産とか小さいものであれば勝手に処分したなんていうのは,これまた,山ほどあると。そんな中でたまたま分かったものだけをがちがちにやるのが公平なのかどうなのか,証明できないものがたくさんある中でどうなのかなという疑問もあって,少し,そこは留保させていただきたい。
○水野(紀)委員 すみません,増田委員の発言の御趣旨とは異なるのかもしれませんが,神様の目から見たというお言葉についてだけ反論したくなってしまいました。日本の家族法全体において,紛争が起きないようにあらかじめ手厚く仕組むという制度が本当にありません。婚姻中の妻子の居住権保護やDV対策などがされていませんし,離婚も圧倒的に当事者任せの協議離婚ですし,遺産分割においても,生前相続である贈与を要式行為にして証拠を残すこともありませんし,中立的な第三者が最初から手伝って遺産分割をするという手続が入っておりません。その上,紛争コストが非常に高くつきますから,当事者が諦めることによって,結果的に紛争数を少なくしていることが,離婚の場合でも,遺産分割の場合でもあるのだと思います。
  それを是と考えるかどうかなのですが,私は是とは考えたくないと思っております。つまり,国民が諦めることによって紛争が少なくなるのではなくて,きちんと権利が実現できる方向で社会がサポートしていくべきではないかと考えております。もちろん,サポートすること自体のコストが社会に掛かることは否定できませんけれども,現在,どちらの方向でといいましたら,社会がコストを掛けても,家族の紛争の中で諦めた者が負けることがないような形に,制度設計をしていくべきではないかと考えております。
○増田委員 一言だけ言わせてください。預金だったら1万円の預金を出しても目立つんですよ。だけれども,1万円の動産を処分しても誰も何も言わない。分からないからです,それは。それは不公平といえば,神様の目から見れば不公平なんです。私の言っていることはそういうことであって,こっそりやったら,それが得するということではないです。そういう趣旨です。
○石栗委員 ほかの裁判所でどうしておられるかは分かりませんけれども,東京家裁では,基本的にはβ説に近い形で運用されております。例えば,現実には相続開始時よりも減少している預金額を誰が出したのかが分かりませんので,それを相続分として計算していいかどうかということ自体が確定できないことの方が多いんです。
  ですから,この御提案のとおり,Aさんが引き出したということが分かっていれば非常に不公平な結論にはなりますので,今のところ,おっしゃっているように誰かが出したことが明らかである場合には,その現金をAさんが持っているというような形で擬制をして遺産分割の審判をするとか,そういういろいろな手当てはしておりますけれども,それは必ずしも常に働く手当てではないので,何かきちんとしたものをとお考えになるのはよく分かります。しかし,先ほど水野(有)委員もおっしゃったように,誰が引き出したのかというのは地方裁判所で審理しても分からないことがありますので,家裁の手続の中では分からないということの方が逆に言うと多いと思います。結果的に分からないということで外して遺産分割の審判をした後,当事者が何らかの形で,償金請求とか,不法行為とかで訴訟をなさって,実は相続人のうちの誰か一人が引き出したと認定された場合に,遺産分割審判における相続分の計算自体が明らかに誤りであって,審判が効力を失うような事態にならないかどうかということを非常に懸念しております。
  こういう制度になりますと,ある程度,時間を掛けてせっかく遺産分割をして,もう一度,やり直すことになることも考えられるのではないかと思われますし,引き出された預貯金の部分が非常に多くて,その部分は誰がやったか分からない状態である場合には,そちらが決まらないと,実際に残った財産の分け方が本当に公平なのかどうかがわからない,誰が引き出したとしても,残りの遺産だけで公平な分け方をするということができないということもあり得ますので,結果的には,訴訟手続をお待ちするしかないという事態も考えられ,冒頭で石井幹事がおっしゃったように,最終的に今,残っている遺産の分割自体が遅れるという事態も懸念されます。
  ですので,実務としては今のところはβ説に近い形で,α説のような多少の修正ができるものについては,努力して行っておりますけれども,御指摘のように全ての不公平を是正しているのかと言われれば,そこは難しい部分はありますが,最終的に誰がやったかということが確定すると,不公平かどうかが分かるという,どっちが先かというような議論にもなりかねませんので,その辺りも御配慮いただいて御検討いただければと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  不公平が存在しているという前提に立てば,それをそのまま放置していいとおっしゃる方は多分いないのだろうと思いますけれども,分からないではないかということが一方にある。事務当局も全てを明らかにせよと言っているのではなくて,分かるときに対応できるような制度を作ったらどうかということを言っているのだろうと思いますけれども,そうすると,線引きがどうなるかという問題で,困難なものを抱え込むのではないかということが話題になっているのかと思います。
  皆さんが基本的な考え方について足並みがそろえば,それに基づいて制度設計するという方向でいけるのだろうと思いますけれども,伺っていると,先ほどの表現でいうと絶対的な不公平を放置してよいとは誰もおっしゃらないけれども,その上で,どのようなスタンスを採るかについては意見の対立がかなりあって,どれかに収束するという状態ではないように思われます。
  制度を作るときには,それぞれの立場の方がおっしゃっていることを考慮した上で,最低限,これだけはしておいた方がいいのではないかという制度を作れるかどうかということになりそうに思います。事務当局としては,基本的な考え方について出た御意見を踏まえて,幾つかの考慮すべき事情を考慮した上での制度案というのをもう一度,出していただくというのがいいように思いますけれども,事務当局,それでいかがでしょうか。
○堂薗幹事 もちろん,そういうことで結構なんですが,この場合に,仮に不公平を是正するんだけれども,遺産分割で一体的に処理することはやめるということになりますと,あとは先ほど神吉の方が申し上げましたように,具体的相続分を前提とした不当利得的な請求を民法上認めるかどうかということになるんだと思います。そういうような形であれば,それは正に訴訟で証明できれば認容されることになりますし,権利行使したい人は権利行使して,権利行使しなくて,それでいいという人はしないということにはなるわけですが,そういう方向で検討するということでよろしいのかどうかという辺りについてもし御意見があれば,あらかじめお伺いできればと思います。
○窪田委員 単なる思い付きということになるのですが,先ほど石栗委員からお話があったことも,この規定を置いてしまって,その後,共同相続人の人が丸ごと持っていったのだという形になると,遺産分割自体がひっくり返ってしまうのではないかということです。それは確かに避けるべき事態なのだろうとは思いますし,結局,デフォルトをどっちにするのかということだけなのですが,β説で例外的にα説みたいな対応をするというのもあるかもしれませんが,一応,原則として例えばこのようなものを置いた上で,しかし,その後,共同相続人の一人が実は全部,財産を処分していたということが分かったとしても,既に成立した遺産分割の効力は否定せず,代償請求権によって処理をするといったような措置もあり得るのかなと思いました。
  そんな回りくどいことをやるのはどうしてなのかというと,これを全く外してしまって代償請求権だけ一本という手もあるとは思うんですが,そのとき,先ほどの具体的相続分を手掛かりとすることができないということが,問題となってきてしまうのだろうと思います。これを一応,前提としておけば,ここでの権利というのを損害賠償請求権でも何でも,そうしたもの前提として考えることができるのではないか。そうすると,具体的相続分を反映させた形で利益といいますか,代償請求権の中身を考えることができるのかなというふうな方向もあるのかなと思い付きましたので,一応,発言だけさせていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  関連して今日の段階で御指摘を頂くと,事務当局としても考え直す際の手掛かりが得られるかと思いますので,ほかに何かございましたら伺いたいと思いますが。
○潮見委員 今,直前に窪田委員がおっしゃった方向なら私は反対です。恐らく多分,非訟の位置付け,あるいはそこで具体的相続分というのがどこまで機能するのかという,そのものに対する評価,これが多分,違うから,そのようになるんだと思います。
  それから,もっと言いましたら,先ほどのβ説なんて採るのだったら,これではむしろ足りない。むしろ,きちんとそのことを書き込んでいただかないと安定性が全く欠けてしまうという感じもいたします。そういう意味では,先ほど神吉関係官がおっしゃっておられる不公平というのは僕はよく分かるんです。実体法上,不公平というものがあるということは,それはあらがいようがないと思います。
  先ほども申し上げましたように,これを実体法上で見た場合に,この提案というものが受け入れられるかといった場合に,これはあり得る選択肢だと思います。ただ,その部分が手続法上で正当化されるのか,担保されているのか。そこのところをきちんと把握しておかないと,その部分を直前の窪田委員のような形で,ある意味では非訟の方に全て投げるという形で決断されるのであれば構いませんが,そこまでのところを少し御考慮いただいて,今日のところでは実体法のところでは,これは了解しましたけれども,更にそれが手続法上,何らかの形で支障が生じないのかということをきちんと確認していただければと思います。更に言えば,代償請求という形で法定相続分等々で考えるのと具体的相続分で考えるのとどっちがいいのかというところも,もう少し慎重にやっていただいた方がいいような感じもいたしました。
  更に申し上げますと,預貯金のところでは,仮にこの部分に限ってでも不公平を是正する方法が手続面も含めてあるのであれば,その部分について対応するということが,場合によれば将来の遺産分割においてプラスの方向に働くのではないかとも思います。他方,預金債権だけ別扱いをしたのでは,ほかの財産と比べた場合に不公平だということであるのならば,そこは少しやめておきましょうかということで考えるか,その辺りをまだ半年続くということですから,お考えいただければと思います。
○中田委員 細かいことだけですが,御検討の際にお願いしたいことがあります。一つは不動産を売却したときの持分を遺産とみなすというときの評価額の基準時をいつにするのかということです。これは,全体の制度設計とも関係してくると思います。
  それから,2番目に,みなすという効果なんですけれども,これは機械的にみなされるのか,それともみなすことができるのか,何らかのそこで柔軟な手当てができないだろうか。
  それから,3番目ですけれども,代償財産については合意による組入れが可能だということが(注)の中にありますけれども,合意による組入れというのは常にどんな場合でも可能だということを前提としていいのか。現行法の下でも最高裁大法廷決定の前には,金銭債権について合意があれば中に組み入れられるという理解ですが,その合意の効果は必ずしもはっきりしなかったと思うんですけれども,それをどう位置付けておられるのか。
  最後ですが,預貯金について大法廷決定を前提とした場合に生じ得る不合理を是正するための方向というのは,非常によく理解できるのですが,それを拡張することによる問題点というのがあり,何人かの委員から御指摘のあった点を検討すべきだろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○水野(紀)委員 先ほど増田委員が全部訴訟でと言われたのに力を得て発言いたします。私は逆に窪田委員の感覚に近くて,全部,できるだけ家裁でできるようにしたいと考えております。日本では,家裁は非訟事件だという訴訟法の大前提があるのが,私は本当はおかしいと思っております。国民にとって地裁は敷居が高い裁判所で,家裁の方がずっと敷居が低い裁判所です。家裁から地裁へと管轄を往復して争って,訴訟費用で結局,遺産がなくなってしまうような悲惨な道をたどらないと,相続紛争について決着が付かないことになりますと,それは権利行使として保障されているとは言えないでしょう。できるだけ家裁で管轄できるように,立法的にも処理できるのであればしていただきたいと思いますので,そちらの方向に賛成でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 先ほどから銀行の預貯金について指摘がございましたので,私が今,考えるところを述べたいと思います。この問題は従前,私どもから申し上げている,いわゆる勝手払いといいましょうか,勝手に処分した場合のその後の規律について明確化してほしいという当方からの問題提起に関して,応えていただいたということでございまして,それは非常に感謝しております。したがって,本件について銀行界としては少なくとも預貯金に関して何らかの規律が明示されると非常に有り難いと思います。先ほどの潮見委員のお話にありましたように,仮に遺産全体に通用する規律が難しいということであれば,実務ニーズという観点からは預貯金だけの何らかの規律というようなことを考えていただくということは有り難いと思っています。
  もっとも,いろいろな議論があった中で手続法的な論点というのがあるということを今日,私は認識しました。その点について私は知見を特に持たないものでありますけれども,ただ,参考までに事実を補足しますと,預貯金といえども,勝手払いを行った者の特定というのは必ずしもできないという事実があろうかと思います。先ほど水野(有)委員からもお話がありましたように,カードによる出金というのは,下ろした者が誰かの特定が難しいと思います。
  加えて,先ほどの第1の乙案の銀行に対する開示請求ということにも関連しますけれども,基本的に銀行が相続預金についての移動に関して,預金の移動に関して照会を受けた場合には,先ほど申し上げたとおり,平成21年の最高裁判決に従って相続人と同視される者であれば開示するというのが実務だと思っております。そして,それは基本的にはいつ,幾ら下ろしたというようなことは開示すべきものの中核でありますけれども,他方で,誰が下ろしたかということに関連するエビデンスということについてまで,開示するかどうかということについては議論があろうかと思います。例えば払出伝票の筆跡を見たいとか,あとはATMで下ろした人の画像を見たいとか,あとは下ろして振込みをしたときの振込先を知りたいとかいうことに関しては,平成21年の最高裁判決の射程と守秘義務の観点から定説はないと思っておりまして,銀行によって対応というのはまちまちだと思っております。
  何を申したいかというと,したがって,預金に関しても必ず勝手払いをした者が明確になるかということについては,一定の限界があろうかと思います。ただ,繰り返しますけれども,そういうことを前提として,そこは挙証責任で対応するのかどうか,私は知見を持ちませんけれども,一定のルールに従って今回の御提案というのが適用できるようなルールに仕立て上げるということであれば,私どもとしてはこの規定の明確化ということには評価すべきものだと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 先ほど中田委員が細かいこととおっしゃいましたけれども,財産の評価のところについて検討すべき点があるという御指摘だったので,それに乗っかって,一言,申し上げたいのですけれども,特に不動産の場合が顕著だと思うのですが,自分の法定相続分に従って共有持分を処分してしまったような不動産がある場合に,仮にこういう規定を設けて,その部分も遺産としてみなされると,丸々,共同相続人が持っている不動産が無事なまま,あるかのようにみなされるようにも思えるのですけれども,その一部が第三者に処分されて,遺産として残りが残っているような不動産について,そういう状態では実際上,売れないでしょうといって残りの不動産も買い取ろうとする業者が,見られるところ,結局,この場合,非常に安い価格で購入される例が多いように思われます。
  こういう実態があるときに,こういう規定を設けて丸々あるものとみなしたからといって,それが実際の市場価値とかけ離れたものであるとすると,実際,遺産分割するときにどちらを前提にして考えれば,公平なものになるのかという難しい問題を抱える余地もあって,先ほどのどういう時点で評価するかということと絡めて,今,申し上げたような点も検討する必要があるのかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  いかがでございましょうか。ほかに御発言はありますか。事務当局の方もよろしいですか。
  それでは,この問題については取りあえず,ここまでということにさせていただきまして,ここで休憩を挟ませていただきたいと思います。4時5分に再開したいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきます。
  第2を終えたことにいたしまして,第3の「遺言執行者の権限の明確化等」という項目に入りますけれども,まず,事務当局より御説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から部会資料20,第3の「遺言執行者の権限の明確化等」につきまして御説明させていただきます。
  まず,1の「遺言執行者の一般的な権限等」についてでございます。部会資料17でお示ししておりました民法第108条の規定を遺言執行者に準用するという考え方について,今回の部会資料におきましては,この考え方を削除させていただいております。
  その理由でございますが,本条の見直しの趣旨でございますが,これは遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合等にも,遺言執行者としては飽くまでも遺言者の意思を実現するために,職務を遂行すれば足りるという旨を明らかにする点にその趣旨がございますので,必ずしも現行の規律を実質的に変更するということを意図したものではございません。そうしますと,1015条の見直しに伴いまして,代理に関する規定のうち,108条についてのみ,その適用関係を明確にするというのは法制的に困難な面があると思われます。仮に108条の適用関係を明確にするのであれば,代理に関するほかの規定,99条から118条までですが,これらにつきましても同様の手当てをする必要があると思われます。
  他方で,民法第1015条を見直し,本提案のような規律を設けた場合でありましても,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属する旨を明示することになりますので,遺言執行者にも第108条が適用ないし準用されることにつきましては,解釈によっても十分に導き得ると思われますので,本提案ではこの点については削除ということにさせていただいております。
  続きまして,2の「個別の類型における権限の内容」のうち,遺言により権利を取得した相続人を遺言執行者と推定するという旨の規定を設けることにつきまして御説明させていただきます。
  これまでの部会におきましては,特定遺贈による場合と遺産分割方法の指定による場合との違いにつきましては,議論を重ねてきたところでございますが,現行法上,大きな違いが生ずるものとしまして登記の申請手続というものがございます。具体的には,不動産の特定遺贈につきましては法的性質が特定承継であることもありますので,売買等による権利移転と同様,共同申請の原則が採られておりますが,他方で,遺産分割方法の指定につきましては,相続による権利の承継として,受益相続人による単独の登記申請が認められているというところでございます。
  この点につきましても,相続人に対する特定遺贈と遺産分割方法の指定との相違点を少なくするという方向で検討し,遺言者の意思を根拠として,受益相続人を遺言執行者として指定したものと推定するという規定を設けることを今回,提案させていただいているところです。このように考えた場合には,相続人に対して特定遺贈がなされた場合でありましても,受益相続人が遺言執行者として登記義務者の地位を併有することになりますので,結果としては受益相続人による単独での登記申請を認めたのと同様の効果が生じると思われます。
  もっとも,このような考え方につきましては,現実には相続人に対する遺贈は多くないものと思われますので,そのような推定規定を設ける必要性があるのかですとか,民法第108条との関係も含め,濫用を招くおそれがあるのではないかといった指摘もあり得るところだと思われますので,慎重に検討する必要があると思います。仮に受遺者たる相続人については,このような推定規定を設けるとした場合には,受遺者が第三者である場合についてもどうするかという点も問題になると思われます。なお,32ページにございます「(3)その他の方策」という考え方につきましても,遺言執行者の推定規定と同様,遺産分割方法の指定というものの相違点を少なくするという問題意識に基づく提案でございます。
  続きまして,32ページの3の「遺言執行者に行使権限を認める債権の範囲について」を御説明いたします。ゴシック部分といたしましては24ページの④の部分となります。
  部会資料17では,遺産分割方法の指定等の対象となる債権については様々な類型があることなどを考慮いたしまして,預貯金債権を含め,遺言執行者に債権の行使権限を認めることにつきましては現行法と同様,解釈に委ねるとの考え方を提示したところでございました。この点につきましては,委員の先生方から預貯金債権が遺産分割の対象となるかどうかについての判断を示した最高裁大法廷決定の趣旨を踏まえて,再度,検討すべきではないかという意見を頂いたところでございました。
  そこで,この点について検討いたしますと,大法廷決定の趣旨を踏まえますと,預貯金債権について遺産分割方法の指定をした遺言者の意思としましても,相続人又は第三者に対し,預貯金契約上の地位まで移転するということを意図していない場合が多いものと考えられます。そこで,遺言執行者に対しましては,契約上の地位の移転までの権限を付与する必要はなく,定期貯金等を含めた預貯金債権に係る基本契約についての解約権限を付与するという規律を設けることを提案しております。他方で,預貯金債権以外の金融商品につきましては,投機的な性質を有する面もございますので,受益者の不利益等も考慮いたしまして,これらの債権については解約権限の対象としないということといたしました。
  なお,このような規定を設けた場合につきましては,預貯金債権以外の債権についての反対解釈のおそれをどのように考えるかという点が問題となりますが,本提案は24ページの④と⑤を併せて読みますと,預貯金債権についての法律上の推定規定を設けるものであることが明らかでございますので,それ以外の債権について法律上の推定が及ばないということは当然でありまして,預貯金債権以外の債権については,反対解釈のおそれは生じにくいものと考えております。なお,注書きに記載しましたとおり,このような規定が設けられた場合には,本条を踏まえて預貯金債権と類似の関係が認められる債権につきましても,事実上の推定が働くということも考えられるところでもございます。
  以上の点について御審議を頂ければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  ペンディングの説明をしていただけますか。
○堂薗幹事 25ページの1の②のところに【P】と書いてありますのはペンディングの趣旨でございまして,対抗要件に関する論点については遺産分割のところでも取り上げていますけれども,そこと併せて対抗要件主義を採用しつつ,②のような規律を採った場合にどう考えるか,その整合性をどう考えるかという辺りについては次回の部会資料で取り上げたいと考えておりまして,その関係で今回はペンディングということにさせていただいているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第3の「遺言執行者の権限の明確化等」についてですけれども,一般的な権限等の部分につきましては今のペンディングの部分を別にいたしますと,108条を準用するという規定は,これを置かないということが今回,出てきております。それから,個別の類型における権限の内容につきましては,特定遺贈について遺言執行者の指定がなされなかったときに,受遺者が遺言執行者となるという規定を置くのはどうかという問題提起がされている。それから,3番目になりますけれども,預貯金については遺言執行者に契約の解約権限を付与することが提案されている。こうした御説明があったかと思います。これらにつきまして御意見を頂戴できればと思います。いかがでございましょうか。
○南部委員 質問です。26ページの④,預貯金の件でございますが,ここに書かれております「ただし」というところでございまして,当該預貯金債権の履行期が到来していない場合は,この限りでないものとするということになっておりますので,これは例えば履行期が10年後だとすれば,遺言執行者は解約ができないという理解でよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 ここでのただし書のような規律を置くということになりますと,当然には遺言執行者に解約権限は認められないということになります。ただ,その場合には受益相続人,この預貯金債権を取得した相続人の方で,契約上の地位を移転させた上で,弁済をしてくださいということで金融機関に求めた場合に,金融機関の方でそれでいいですと,金融機関の方の承諾が得られれば解約できるということにはなるんですが,そうでないと,遺言執行者は当然には解約できないということになるということでございます。
○南部委員 とすれば,金融機関の方が認めたら大丈夫という理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 金融機関の方で認めたというのは,受益相続人,預貯金債権を取得した相続人の方で解約したいと言ってきた場合に,金融機関の方で認めれば解約はできるということになるということでございます。
○南部委員 分かりました。だとすると,この括弧は必要なのでしょうか。
○堂薗幹事 そこを正に御議論いただければと考えておりまして,こちらとしては,こういった履行期が到来していない場合まで,遺言者に当然に解約権限を認めるというのはかなり権限としては大きくなりますので,そこまで認めていいのだろうかという趣旨で問題提起をさせていただいたということでございます。
○南部委員 例えば普通預金にほとんど入っていなく,定期預金の場合だけであれば,すぐ使えるような形の方が利便性が高いというのが一般的な意見です。御検討をよろしくお願いいたします。
○浅田委員 先ほどの南部委員からの御指摘のところについて敷衍してであります。まず,今回の提案につきましては,預貯金債権の特則を置いていただいたということでございまして,これまで銀行界として求めてきた預貯金債権に関する解約権限を明確化すると,推定効という形であれ,明記いただいたことについて御礼を申し上げます。
  幾つか意見と確認があるわけですけれども,まず,南部委員が御指摘された26ページの④の括弧についてであります。私の読み方でありますけれども,これは解約権限ということでありますから,解約権限でもって銀行がいわゆる定期預金の期限前解約を認めるかどうかという話は,別の話だと私はこの文章を見て理解していました。すなわち,まず,遺言執行者に解約権限があるかどうかということの問題があり,次に解約権限があったとしても契約ですから,期限前解約を認めるかどうかというのは別の次の問題として出てきて,それについては御案内のとおり,原則として期限の利益は銀行側にもあるわけですから,解約する権利というのは預金者ないしはその承継人にはないと。
  ただし,銀行の裁量でもって解約することもあり得ると。それが実情,多い例であるということは御案内のとおりだと思っております。したがって,この規律を素直に読むということをすると,先ほどの堂薗幹事のお答えとはまた違って,銀行の判断ということの前に,このただし書があれば,遺言執行者は定期預金に関しては解約する権限を持っていないものなので,そもそも解約請求することができないということになるのではないかと理解しています。
  その上で,銀行界の意見でありますけれども,このただし書,すなわち,履行期が未到来のものは除くとされております点ですけれども,実務においては相続預金に普通預金と定期預金が含まれている場合に,両者の扱いが一律に変わってしまうというのは,遺言の円滑な履行という面からはネガティブに働くものと想定しております。考え方としては,履行期未到来のものについて預金債権を解約するかどうかは,遺言者が善管注意義務に従って判断すればよいのであって,一律に履行期未到来のものについて解約権限の推定効はないものとする必要まではないように思われます。したがって,この括弧の部分についてはよく御検討いただきたいというのが銀行界の意見でございます。
○堂薗幹事 まず,仮にこの亀甲括弧の部分がない,このただし書部分がないとした場合には,当然,解約権限はあるということになりますが,ただ,契約による拘束は受けますので,契約上,解約できないような場合であれば,遺言執行者は金融機関が応じてくれない限り,実際には解約できないという前提です。ここでは,受益相続人の意思にかかわらず,ただし書に当たるような場合にも解約権限を認めていいのかどうかということを問題としておりますが,解約権限があるということになれば,銀行さえ承諾してくれれば解約できることになるのに対し,ただし書のような規律を設けますと,銀行が承諾しても受益相続人の了解を得ない限り,解約はできないことになると,そういう前提でございます。
○浅田委員 確認で恐縮ですけれども,先ほどの南部委員への回答というのは,この括弧がない前提であれば,遺言執行者に解約権限はあるんだけれども,ただ,銀行がその上で定期預金の期限前弁済を認めるかどうかということにもよると,こういう御回答ですか。括弧があった場合にまた別の話になるということですか。
○堂薗幹事 亀甲括弧があった場合に,このただし書があった場合に,一切,満期が来るまで解約できないのかというと,必ずしもそういうことではなくて,遺言執行者にはそのような権限はないけれども,受益相続人の了解を得て金融機関に解約の申入れをし,金融機関の方でもそれを承諾すれば,解約はできるのではないかという前提でございます。
○浅田委員 くどいようですけれども,受益相続人の同意があるのであれば,遺言執行者の権限にかかわらず解約の請求ができ,かつ銀行がその裁量でその解約を認めれば,解約がなされるということと理解しました。そうであれば,おっしゃることについてはそのとおりだと思います。
○増田委員 今の話なんですが,書き方がおかしいのではないかということだと思います。この括弧書きを含めて読めば,預金・貯金に係る契約を解約する権限は遺言執行者にあるけれども,例えば定期預金で履行期が到来していないときには,遺言執行者にはないと読めるんです。その帰結として,受益相続人が銀行との間で銀行の承諾を得れば引き出せると,そういう話だと。しかし,堂薗幹事が後で言われたように,一応,権限は遺言執行者にあって,受益相続人の意思に反して解約する権限はないということであるのならば,「ただし,この限りではない」ではなくて,「ただし,期限が到来していない場合には受益相続人の意思に反して解約することはできないものとする」ということだと思うんですけれども,要するに解約を申し入れる権限は飽くまで遺言執行者にあるのではないかということです。
○堂薗幹事 そこはあえて遺言執行者に与えなくても,そういう場合は飽くまで受益相続人の代理人として解約するということでいいのではないかと,受益相続人の同意を得て解約するのであれば,あえて遺言執行者としての権限として,そこまで認める必要はないのではないかという理解ですけれども。
○増田委員 おそらく銀行側のニーズは,遺言執行者がやるということに意義があるわけです。解約の相手方ということが,相手方が明確になるという意味があるわけですよ。
○堂薗幹事 ですから,履行期が到来していない場合まで,遺言執行者であれば,受益相続人の意思を確認せずに解約するということまでしてしまっていいのかというところを今回,問題提起させていただいているということです。
○増田委員 言っていることは同じで,それは遺言執行者が受益相続人の同意を得て,解約するということなのではないんですかということを言っているんですよ。
○大村部会長 増田委員がおっしゃっているのは,それを制度の中に組み込もうというお考えだと思うのですけれども。
○増田委員 制度に組み込んでということではなくて,解約する主体は遺言執行者なんだということだろうと。だから,それであれば,この限りでないという言い方ではなくて,要するに受益相続人の意思に反して解約することはできないということにすべきだということ。
○大村部会長 事務当局が言うのは,この制度の外の話だという理解だろうと思うのです。増田委員がおっしゃっているのは,この制度に乗せておいて,しかし,同意が要ると仕組もうということではないのですか。
○堂薗幹事 同意を取らなければいけないのであれば,あえて,この制度に乗せる意味はないのではないかというのがこちらの考えなんですが,そこは両論あるのかもしれません。
○増田委員 それだと履行期がどこで到来するかによって,誰が解約するかというのが変わってくるんです。そうすると,今までは受益相続人ないし受遺者が持っていた解約権が,履行期が到来したら途端に遺言執行者に移る。3か月定期で3か月がたったら移るというのは変ではないですか。
○堂薗幹事 その辺りは検討いたしますし,皆様の御意見をお伺いできればとは思いますけれども。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
  今の点はブラケットが付いていますので,ただし書を置くのか,置かないのか,置くとしたときにこの書き方でいいのか,それとも増田委員のような言い方の方がいいのかということが,選択肢としてはあるとは思いますけれども。
○浅田委員 テクニカルな確認点が二つございます。預貯金債権の特則に関してですけれども,まず,一つ目は今回の推定効がありますのは遺産分割方法の指定の場合に限定されているとの理解です。他方で,例えば遺言において遺言執行者の権限が明記されておらず,かつ特定の金融機関の預金債権が相続人以外の第三者に遺贈された場合には,遺産分割方法の指定があった場合と同様,遺言執行者は当該預金債権の解約等の権限を有すると解されるのでしょうか。あるいはかような場合における解約権は,25ページの1の①の遺言の執行に必要な一切の行為をする権限,又は同じページの2の(1)の①の遺贈の履行をする権限に含まれるとの理解でしょうか。まずはこの質問からお答えいただければと思います。
○堂薗幹事 まず,ここでは,明文で書けるのは遺産分割方法の指定の場合に限られるのではないかという理解が前提としてあります。ただ,特定遺贈の場合について解釈をする場合にも,遺産分割方法の指定についてこういう規定があることがその拠り所にはなるのではないかと思っております。特定遺贈についても同じように書けるかというところが問題としてはあるものと考えておりますが,債権法の改正において,贈与の場合に贈与者がどういう義務を負うかという規定を設けたわけですが,当然のことながら,預貯金債権について解約権があるかどうかという点について明文の規定はありませんので,遺贈の場合の遺贈義務者についてだけ,そういった規律を設けるというのは法制的に難しい面があるのではないかということもあり,今回の部会資料では遺産分割方法の指定がされた場合についてだけ規律を設けたということでございます。ただ,それは当然,特定遺贈の場合の解釈にも影響を及ぼすであろうとは考えているところでございます。
○浅田委員 ありがとうございます。
  二つ目の確認ですけれども,先ほど事務当局の御説明にもあったことの同様の趣旨だという理解の下,改めてお伺いしたいんですけれども,35ページ,36ページにおけるその他の金融商品との関係であります。当該部分において,預金債権以外の解約権については推定効が及ばないだけであって,当該遺言執行者に特定の権利関係についての解約権限があるかないかは,遺言者の意思解釈の問題であるとされています。ここからすると,従前来,銀行界としては預金債権以外にも投資信託等について解約権につき,明確化を求めてまいりましたけれども,これとの関係でいうと,例えば預貯金債権と類似性が高い金融商品については,法律上の推定効は及ばないものの,事実上は同様の取扱いがなされる方向で,遺言又は遺言者の意思の解釈がなされるもの,ないしはそういうことが期待されるものと理解してよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 正にそこは解釈ということになりますが,預貯金債権について,そういう推定規定を置いたことがほかの場面でも解釈の根拠にはなりますので,それとの類似性をどう考えるのか,要するに預貯金債権に類似しているのであれば,遺言者の意思としても解約権限まで与えているということの根拠にはなるのではないかと考えております。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○村田委員 ごくごく単純な確認だけの質問なんですけれども,26ページの④の先ほど話題に出ていた亀甲括弧のただし書のところで,定期預金の場合には最近のものは,大概,自動更新特約が付いていると思うんですけれども,その場合には,その時点での履行期が来れば解約のアクションを遺言執行者はすることができると考えてよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 その場合は,死亡後に満期が到来した場合に,更新させる趣旨なのかどうかというところによってくるのではないかと思うんですが,死亡後も自動的に更新させるということになると,この規定があると履行期がまだ到来していないということにもなるのではないかという感じがいたします。定期預金契約でそこをどう考えるかというところ次第ではないかなという感じがいたしますけれども。
○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。
○浅田委員 34ページに記載してある預貯金債権の判例の考え方の整理に関する記述に関して,問題の整理をしたいと思っていまして,コメントと若干,質問を含むかもしれませんけれども,私の考えるところを述べたいと思います。今から申し上げることは,本審議における議題と直接関係するかどうかは分かりませんが,34ページの記載については先ほども申し上げた平成21年の最高裁判決,これは預金取引開示請求権に係る判決でありますけれども,それをめぐっていろいろな議論,すなわち,預金債権と預金契約が分属するかどうか,預金契約の移転を認めるかどうか,それは遺言に明記がある場合にどうか,ない場合はどうかというような預金者の意思解釈によって,預金契約の移転に影響されるかとかいう論点があると認識しております。よく詰め切れていないのですけれども,現時点で私個人としては,その論点を踏まえた部会資料記載については大きな違和感はございません。
  ただ,1点,34ページの下から2段目のところ,「次に」と書いてある段落で,読み上げますと,定期預貯金債権を取得する旨の遺言がされた場合でも,これと併せて移転させる意思まで有していないとは認め難いというのは違和感が若干ございました。なぜならば,例えば,特定の定期預金を特定の者に相続させる遺言があった場合で,かつ遺言執行者がないケースのときには,現行実務では当該受益者による単独請求による解約というのを認めています。
  ところが,この記述だとすると,定期預金に係る契約というのはその者一人に寄せられることなく,他の相続人と併せて解約をしなければならない。預金債権自身は単独に権利承継がされるわけですけれども,預金契約自体は準共有の形で法定相続人に準共有される結果,特定の者に遺言により相続された定期預金に関しても,当該受益者が単独でやってきて解約をしたいといった場合に,他の相続人の同意も必要だということにもつながるのではないかと思うわけです。この点については,どう思われますかということであります。
  続きまして,一方で,遺言執行者がいるケースにおいては,本審議の提案によれば預貯金債権につき,遺言執行者に解約権限を認めていますので,実務対応は可能となる提案と評価できると思います。また,遺言執行者がないケースにおいてもこの提案,すなわち,遺言執行者の25ページにおける2(2)②の括弧の規律があれば対応可能になると思います。そういう意味で,評価できる提案だと思います。
  ただ,このとき,例えばでありますけれども,預金の一部金額について特定の者に相続させる遺言があるケースでは,どうなるかということを詰めて考える必要があろうかと思います。例えば単純な例でAとBの二人の相続人がいる場合で,1,000万円の定期預金があったと。遺言には800万円をAに相続させるという遺言があったケースでは,800万円についてAのみの単独解約ができるのか,200万円については二人の請求が必要だと考えたとしても,800万円に関してはAのみの単独解約ができるのか,あるいは800万円を超えて,200万円も含めた全額についてAとBの請求が定期預金の解約のために,この規律においても必要なのかということが,議論が出てくる余地があるのではないかと思いました。問題提起ということでありますが,この点についてもし現段階での御見解があれば,御教授いただければ有り難いと思います。
○堂薗幹事 まず,最初の点ですが,私が十分に問題意識を把握できていないのかもしれませんが,34ページの記載は,定期預貯金について相続させる旨の遺言がされた場合に,受益相続人にその利益を取得させる方法としては,解約した上で現金で分配するという方法と,定期預貯金の債権自体あるいは契約上の地位自体を受益相続人に帰属させて,それで終わらせるという二つの方法があるんだと思いますが,その二つの方法のうち,通常は,遺言者としても,契約上の地位まで移転させた上で,それを存続させるということまでは考えておらず,払戻しをした上で,それを渡して終わりにするという意思である場合が一般的なのではないかと思います。したがって,定期預貯金についても遺言執行者に解約権限を認めていいのではないかと,そのような説明として,ここでは書いておりますので,必ずしも定期預貯金は受益相続人に帰属するけれども,契約上の地位が相続人全員に帰属するということを考えているわけではございません。
  それから,2点目の一定の金額について相続させる旨の遺言がされた場合にどうなるかというのは,非常に難しい問題だと思っているんですけれども,それは普通預金の場合も同じような問題が生じるのではないかと思います。この点について,先日出された預貯金債権に関する最高裁の判例では,各相続人が共有持分という形で持っている場合に,その口座に入金があるたびに,それが分属することになり,それを前提として計算をし直すのは煩雑ではないかということで,当然分割ではなくて準共有だということを言っておりますので,その趣旨からしますと,例えば,Aさんが取得する額は800万円と決まっていて,その後,ほかの振込みがされても,それはAさんには帰属しないと,相続人が二人であれば常にBさんに帰属するということであれば,先日の判例で言っているような問題は生じないので,特定した金額について単独で権利行使を認めるという余地はあるのではないかと思います。
  そこは1個の預貯金債権の共有持分を取得させる意思であったのかどうかという遺言者の意思解釈にもよるのではないかという気もしておりますが,ただ,そこは正直なところ,よく分からないところがありますので,民法の先生方の御意見を聴いてみたいなと思っているところでございます。
○浅田委員 ありがとうございます。
  なかなか,難しい問題と認識しております。私が申し上げたのは,預金債権の帰属と,当該預金債権を下ろすときに,解約という行為を行うときの解約権限を誰が持つかという問題は別の問題なので,よって,預金契約の承継者が誰なのか,どの部分についての預金権限なのかということを分析しないと,妥当な見解が導けない可能性があるものですから,この点についての議論を深化させる必要があるのではないかと思った次第でございます。
○大村部会長 今のことに関連して何か御発言があれば伺いますが。
○潮見委員 意見というよりも単純な確認なんですが,先ほど浅田委員がおっしゃったような1,000万円の預金,これは普通預金の場合と定期預金の場合がありますが,そのうちの800万円を例えばAに与えるという,そういう場面というものは今回の御説明では26ページの④のルールに当たると,つまり,預金債権の特定の額の一部についての相続させる旨の遺言というのは,これに当たるという,そういう御理解ですか,それとも,そうではなくて,言ってみたら,要するに預金債権について相続が問題になるときの預金債権の帰属主体というものは一人であり,預金契約上の地位の承継主体も一人であるという非常にシンプルな場合を想定して,この部分のことを書かれておられるのかということです。
○堂薗幹事 金額を特定した場合も④の規律の適用があり,遺言執行者はそれで払戻しができるという前提です。
○潮見委員 解約の場合には,その場合には預金契約上の地位というものについては,例えば相続人が三人いた場合には三人に準共有という形で帰属すると,共同帰属ということになります。その場合の解約は,全員で解約しなければいけないんですか。
○堂薗幹事 ですから,複数の者に預貯金債権を帰属させるような場合でも,遺言執行者は法律上解約権が認められるので,単独で解約することができるという理解なんですけれども。
○潮見委員 預金契約全体を単独で解約できるということですか。
○堂薗幹事 むしろ,そういうことでないと,実務上,困るのではないかという意見が非常に強かったので,今回,そういう形で御提案をさせていただいたということなんですけれども。
○窪田委員 まだ,状況が見えていないのですが,複数の者に帰属させる場合でも,遺言執行者が一人でAとBにこの割合で帰属させるといった場合には,遺言執行者が言わば全員を代表しているという形になりますから,この規律を適用するということはよく分かるのですが,1,000万円の普通預金又は定期預金において,800万円分だけAに帰属させるといったときに,遺言執行者が持っている権限というのは,Aに800万円分を帰属させるという権限だけですよね。そのときに特に解約というのは。
○堂薗幹事 ですから,800万円を帰属させるという遺言がされた場合に,その趣旨が800万円の預貯金債権を受益相続人に帰属させるという趣旨なのか,あるいは払戻しをした上で,現金でそれを渡すという趣旨なのかというところで,ここは,むしろ,そういう場合には現金で渡すという方が一般的なのではないかという理解の下,このような規律を置いているということでございます。もちろん,そもそも,そのような理解が相当かというところが問題になるとは思っておりますけれども。
○窪田委員 800万円分だけを払い戻してということになるのですか。預金契約そのものの解約は,ほかの共同相続人も同意しなかったら,できないということでよろしいですか。
○堂薗幹事 解約した上で,全部引き出して,それを分配するということです。
○窪田委員 解約は一人でできる。
○大村部会長 1,000万円のうち,800万円だけを特定の人に与えるという遺言があったときにも,遺言執行者が選任されていれば,遺言執行者はその全体について解約権限を付与されていると解釈しましょうという規定を置く。それをデフォルト・ルールにして,反対の意思があれば,そちらに従うという趣旨ですよね。
○窪田委員 Aに800万円を帰属させるということ以外に,残りB,Cという二人がいたとして,残りはB,Cでとか,残りの部分はA,B,Cで分けるということまでを含めて,遺言を執行するという説明をすれば,当事者の意思から,被相続人の意思から説明できると思うのですが,そういう説明を介さずに,最高裁の判決でどの部分を重視して読むかということにもよりけりなのですが,契約上の地位のものであって,いろいろな出入りがあるものだから,全員が一緒にやらなければいけないということを重視すると,今の説明だけで足りるのかなというのがちょっと気になる気がいたしました。
○沖野委員 全く同じ疑問なんですけれども,まず,前提としては1,000万円の定期預金について契約の一部解約自体はできないという前提ですよね。だから,全体を解約するか,解約しないかしか選択肢がない。それとも,800万円だけ解約できるんでしょうか。
○浅田委員 その銀行の取扱いにもよると思いますけれども,一部を払い戻すということは,可能は可能です。ただ,それを法律的にどう説明するのか,解約と説明するのか,それとも,一部金額の引き出しと考えるのかとか,そういう論点はあります。正直ここは,余り詰めた議論はされてこなかったと思いますけれども,今回の議論においては,一部引き出しないしは全額の解約というのが,一体,どういう法的構成なのかということが去年の最高裁大法廷との絡みもあって,何らかの整理がなされなければならないと思った次第です。私が申し上げたいのは,決して御提案の規律自体が問題だというふうなことは申しておりません。むしろ,非常に有り難い規律だと理解しております。ただ,理論的に整理が必要ではないかと,こう思った次第で,つい尋ねてしまったというようなことでございます。
○沖野委員 一部解約ができるのであれば,800万の限りでということで話は終わると思うんですけれども,契約上の地位であって部分的な解約のみはできないというときに,残り200万は遺産共有として処理されるはずのものなわけですよね。1,000万を引き出した遺言執行者は,800万円は遺言の執行の問題として受益相続人に渡しますけれども,あとの200万はどうするのだろうかということでして,先ほど分配すると言われましたけれども,それをどう分配するかというのは遺言には書いていないわけで,分割協議に乗るはずですね。
  そうしたときに協議が調うまで持っているのか,それとも,一旦,誰かに渡してしまうのか,そうすると,協議が調うまでの保管というのも実は遺言執行なのかというと,それは遺言執行を実現するために,そうではないところに入らざるを得ないという場合の遺言執行者の権限をどう考えたらいいのかという問題があって,その分についても遺言執行に必要な限りにおいては,そうでない部分にも踏み込み,そうしたときに残り200万は,本来,分割協議で決まるものだとすると,分割協議のために持っているというような付随的,周辺的な地位を遺言執行者は有するし,義務も掛かってくるということを提案することになるのではないでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,正に200万円の取扱いについて遺言者はどう考えていたかという,遺言者の意思解釈の問題となり,遺産分割が終わるまでは遺言執行者がそれを保管しておいて,遺産分割がされたら,それに従って分配をして下さいという趣旨なのか,あるいは200万円については相続人の誰かに渡すなり何なりして,遺言執行者の職務としては,それで終わらせるという趣旨なのかというところに関わってくるのではないかと思いますが,このような規律を設けた場合には,御指摘のような非常に難しい問題が生じますので,その辺りについては慎重に検討したいと思います。
○潮見委員 1点だけ,個人的な印象なんですが,こういう推定規定みたいなものが必要だというのは分かっておるつもりです。ただ,その場合に,今,申し上げたいろいろな御意見があったところからもうかがわれますが,例えば預金契約上の地位,それ全体が相続人の一人に移るような,それは預金をこの人にという,1,000万円の預金を1,000万,この人に上げるとか,この定期預金はこの人に上げるとか,そういう形で遺言が書かれたようなシンプルな場合についての推定規定という形で置くことは考えられないのでしょうか。
  銀行業界等で要望しているところから外れるかもしれませんけれども,推定規定あるいはそれに近いものとするならば,今のようなところが無難かなという感じはします。そうすることによって預金契約上の地位と,それから,預金債権,これが分属するかどうかとか,あるいは預金契約上の地位は準共有なんだけれども,預金債権の部分についてだけ誰かに承継させるのかとか,そういうややこしい問題は起こらないですから,推定則としては無難かなとは思いますが,これは印象です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。今,2の(2)の④について様々な御議論を頂いておりますけれども,あと,ほかに2の(1)の②をめぐる問題もございますけれども,そちらも含めて御意見を頂ければと思いますが。
○増田委員 みなし遺言執行者ですけれども,御提案の補足説明のところを読みますと,目的はどうも単独での登記申請をできるようにするということのようなんですが,それならば,むしろ,単独の登記申請を認めると端的に言っていただいた方がよろしいのではないかと思っています。遺言執行者ということになると,就職についての通知,あるいは数人がある場合の過半数での任務執行とか,遺言執行者に関する他の規定も全部適用になってきます。破産者は受遺者等になっても欠格のため遺言執行者になれないので,その場合はどうするのかなという問題も起こったりすると思うので,登記をするだけのことであれば,端的に単独登記なりを認める方向で検討した方が,遺言執行者という重い枠組みを利用する必要はないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 それは,こちらとしても十分あり得るとは考えているんですが,そうなりますと,それはどちらかというと民法実体法の問題というよりは,不動産登記法の問題ということにもなりますので,そのような前提で検討させていただければと思います。
○佐藤関係官 補足して説明させていただきますと,単独申請を現行の不動産登記法で認めている例として相続の場面がありますけれども,これは登記権利者と登記義務者のうち,登記義務者がいない場合であり,かつ,客観的な資料で登記の真正を確認することができるからと考えられております。今回,問題になるのは特定遺贈の場合の単独申請ということになるかと思いますが,特定遺贈はこれまで特定承継として考えられており,共同申請ということでこれまで解釈・実務を運用しております。そのため,これを不動産登記法で変えるということになりますと,実体法における理解を踏まえ,かつ登記法のこれまでの考え方との整合性なども踏まえて,慎重に検討していく必要があるかと考えております。
○増田委員 今の点は意味が分からないんですけれども,不動産登記法を変えられないから民法を変えるというのは意味が分からない。逆でしょう,本来。民法を変えるより不動産登記法を変える方が単純なはずですよね,単なる民法の附属法規で手続法なんだから。しかも,この場合は登記義務者はいないわけなんです。いないから相続人を登記義務者と無理やり構成しているような話であって,現在,存在しないわけだから,そこは別に単独登記でもおかしくはない。何か法の上位,下位が逆転しているような気がしてしようがないですね,今の話は。
○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かりますが,ただ,ここはもちろん,御指摘の問題が検討を始めたきっかけではありますが,遺言者の意思としても,このような説明が可能ではないかというのがあって御提案をしたということです。正に民法上の規律として,こういった推定規定を置くのが適当なのかどうかという問題がまずあって,それは適当でないということであれば別ですが,遺言者の通常の意思から考えても,このような説明が可能ではないだろうかという前提があり,それを前提として民法実体法を変更し,遺言執行者がいない場面というのをなるべく少なくするというのは,一つの選択肢としてはあり得るのではないだろうかということでございます。
○大村部会長 今の点につきましてほかの御意見があれば,是非,伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
○垣内幹事 今の点に関してなんですけれども,私は実質について特に方向性があるということではないんですけれども,どうも遺言執行者制度というものの一般的なイメージというか,意義に関して,こういう規定を仮に置いたとすると,遺言によって利益を得る人が自ら執行するのが何か原則のような形態であって,何もなければ,そう推定されるんだというようなことになるかという気もするんですが,そういった考え方というのは従来の遺言執行者制度についての理解と,どういう関係に立つのかという点が素人としては若干気になるところがあるかなというのが一つ感じるところであります。もう一つ,全くこれは実質には関わらない用語といいますか,説明ぶりの話かと思うんですけれども,先ほど少し議論になっておりました26ページの④の規律に関して,法律上の推定だとか,あるいはこれとは似ているけれども,この規律の適用対象とならないものについては,事実上の推定というようなことが説明としてされているんですけれども,これは実際にどういう条文になるのかという,その文言にもよるのかもしれませんけれども,普通に④のような任意規定を置いて,別段の意思表示があれば違うということであって,強行規定ではないという規律を置くにすぎないようにも思われまして,その趣旨が遺言者の推定的な意思に基礎を置いているというのは,説明としては十分理解できるかと思うんですけれども,この規律そのものを法律上の推定とか,これと似た取扱いを事実上の推定と呼ぶというのは,少し本来の法律上の推定とか,事実上の推定というのとは違う比喩的な説明なのかなという感じが少ししましたので,もしかすると,それは的外れなのかもしれませんけれども,用語,説明ぶりについても,その辺りも御検討いただけるといいのかなという気がしております。
○堂薗幹事 確かに後者の点は,特に前提事実があるということではありませんので,厳密には法律上の推定という用語は不適切であるように思います。今後は,そういう使い方はしないようにしたいと思いますけれども,遺言執行者の従来の考え方を変えることになるのではないかというのは,確かにそういう面はあるんだとは思いますけれども,実際に遺言執行者が指定されていない場合に,例えば家庭裁判所で選任してもらって,遺言が執行されているというのが一般的にされているのであれば,それは特に問題ないんだと思いますが,必ずしもそうではないという実態があり,そうでない場合に相続人全員でやらなければいけないということになると,遺言が円滑に実現できないという面はどうしてもあるのではないかと。
  裁判所に対して,そういう選任の申立てをするということについては,それなりに高いハードルがあると思いますので,その結果,遺言が円滑に実現できていないという場合があるのではないか。そうだとすると,受益相続人を遺言執行者にすることも許容されているのであれば,そういう指定がない場合には本人に執行してもらって,遺言の円滑な実現を図るということも制度としてはあり得るのではないかということでございます。ただ,この点については,事務当局として特段定見があるというわけではありませんので,ここは正に委員・幹事の皆さんの御意見をお伺いして決めたいということで,亀甲括弧を付けさせていただいたと,こういう趣旨でございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○浅田委員 質問なのかもしれませんけれども,25ページの2の(2)の①の下から2行目からのただし書が括弧書きになっています。この趣旨についてお尋ねします。なお,ここの趣旨は,上の1の(注)にもありますように,対抗要件制度にも関係していると思われ,それは他の議論においても関係しますので,併せて議論されるべきだと思いますし,また,その際には,銀行として債務者対抗要件ないしは第三者対抗要件として通知等がいろいろ来たときに,銀行の実務として,それが耐え得るのかという論点も提起されたところでありますので,そこは全体を見て評価すべき問題だとも思っております。
 それで,このただし書の御提案の趣旨なのですけれども,もし,財産が預貯金債権である場合には,これは遺言者が対抗要件を備えるために必要な行為を行う権限がないということだと理解しました。
  そうだとすると,実際,どうなるのか。つまり,対抗要件の具備が不要で,そのまま,権利者が銀行に来て下ろせとなるのか,それとも,そうではなくて受遺者がそれぞれの規律に従って例えば法定相続分より超える部分についてとか,別の議論があったかもしれませんけれども,それに基づいて対抗要件を具備した上で銀行に請求するのか,どちらの趣旨でこのただし書を起案されているのかということですけれども,それについてお尋ねします。
○堂薗幹事 ④で遺言執行者に解約権を付与するという前提になりますと,遺言執行者がその事務を終了させるためには,必ずしも対抗要件を具備させる必要はないのではないかということで,遺言を実現するための方法として,先ほど申し上げましたように,払戻しをした上で現金で渡すという方法と,権利自体を受益相続人に取得させて,受益相続人が権利行使可能な状態にするという二つの方法があるわけですが,④のような規律を設ける場合には,そちらの対抗要件を具備させて,権利行使可能な状態にするという必要はなくなるのではないかということです。
  他方,これとは別に遺言の最終的な執行のためにということではなくて,対抗要件を具備することによって例えば差押債権者にも対抗することができるとか,そういった効果が生じますので,そういった権限を遺言執行者に付与するかどうかというのは,両説があり得るのではないかと思います。特に債権のところの対抗要件については,受益相続人が単独で対抗要件を具備することができるようにするという提案もしておりますので,そういった場合に権利を保全するという目的で,遺言執行者にこういった権限まで与える必要があるのかどうかというのは,一応,考え方としては両説あり得るのではないかということで,亀甲を付けさせていただいたと,そういう趣旨でございます。
○浅田委員 ありがとうございました。
  感覚的な問題ですけれども,前段の解約をするための手続について銀行のサイドからすると,あえて対抗要件を具備していただいて解約手続をとるというのは,若干,迂遠な感じがいたしますので,そういう実務の簡便性という観点からも議論いただきたいところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 第3の1なんですけれども,民法108条の準用をなくしたという部分で,これは法制的に困難だということは理解いたしました。ただ,この話は,元々は何だったかというと,遺言執行者の権限についての規定だけではなくて,義務についての規定も明確にすべきではないかという問題意識があって,忠実義務について書くということもあったわけですけれども,それは108条を置くことで代替できるだろうということだったと思います。しかし,それは無理だと。
  他方で,今回の資料を拝見しても,遺言執行者の権限がかなり拡充しておりますし,あるいは受益相続人が遺言執行者となるというような規律も設けるとすると,義務についても明確にする必要があるのではないかという感じはあります。かつ1015条の規定,つまり,相続人の代理人とみなすという規定を削除すると,なおさら手掛かりが少なくなってきて,残るのは1012条だろうと思います。ところが,1012条も余りはっきりした規定ではなくて,1項で一切の行為をする権利義務を有する。この義務というのは何だろうかというのが余りはっきりしない。それから,2項では委任の規定を準用しているわけですけれども,そうすると,委任者に相当するのは誰かということがはっきりしないと思います。
  そうすると,むしろ,遺言執行者の権限と義務とをそれぞれ明確にするという方向もあるのかなと思いました。義務について,もちろん,委任の規定の準用というのでも実質は同じかもしれませんけれども,それを独立して規定する,破産法85条1項のような形で書くとか,権限の方が発達しているので,義務についても明確にした方がいいのではないかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほどの垣内幹事の御指摘とも関連する点かと思いますけれども,沖野委員,何か。
○沖野委員 実は私も108条の点が気になっておりまして,108条の規定が準用なのか,適用なのか自体も決めにくいということで,置きにくいというのは確かに分かりますし,元々,108条を適用でも準用でも持ってくることについては,私自身は若干の違和感を持っております。と申しますのは,とりわけ,民法改正法案の方になったときなんですけれども,現行法のままですと,どちらかというとできないという方から書いていますので,より忠実義務の内容が出やすい形になっています。
  しかし,改正法案では代理権がない者がした行為とみなすという効果帰属における無権代理がより中核の規定になっていまして,そうだとすると,無権代理の関係が全部,ここに入ってくる,本人として追認するのは誰かとか,取消権などがあるのかとか,無権代理人としての責任を遺言執行者が負うということなのかという,108条を単純に準用するとなるとそういった問題が生じる,あるいはそちらにシフトする可能性があって,そうではないのではないかと考えていたところです。
  更には遺言執行者の場合,本人が誰なのか,誰の利益あるいは誰のことを一番に考えなければいけないのかというのが単純準用では出ないですし,もし,108条を準用なり,適用なりということで考えられていたものを表すとすると,書きおろした方がいいのではないかと。誰の利益を考えるべきなのかという点から,一方では,こういうことについては権限がないという書き方をするのか,それとも義務規定として書くのかという方が望ましいのではないかなと思っておりました。
  具体的な提案がないんですけれども,そのような観点から考えられないだろうかと思います。ただ,一方で1012条2項で委任の規定を準用していますので,善管注意義務がある,更には善管注意義務の中から忠実義務が読み取れるかという問題はあるんですが,しかし,今でも特に忠実義務は誰の利益を図るべきなのかというところが難しいので,遺言の実現を第一としてということであれば,それを強調するような書き方などができないだろうかと思ったところです。
  それと多少,関連することとしまして,受益相続人を遺言執行者とするという点について,登記さえ手当てできればいいのなら,本当に登記だけ手当てしていただくのが一番いいと思うんですが,いろいろ,今までの,あるいはほかへの波及効果なども考えると難しいと。一方で,遺言執行者と当然になってしまうということには問題があるとすると,受益相続人というものが遺言執行者となることを妨げない旨の規定を置くことで,利益相反的な要素があり得る地位に置くんだけれども,それは構わないというので,それが構わないということが明確にされれば,遺言を作成する際に執行ができるというようなことを書くという点もあるのではないかと思います。
  更には第三者と相続人の関係があるんですが,受益者が相続人の場合には義務者でもあるわけですよね。だから,義務者としての地位において,ほかの人に代わって執行するということも,あるいは考えられるのかもしれないとは思ったんですけれども,あちこちへ行って恐縮ですが,現在の25ページの②は難しいということであれば,少なくとも利益相反などの規律から,受益相続人を遺言執行者とすることも妨げないぐらいを置くということも考えられるのかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  幾つかの御意見を頂きましたけれども,遺言執行者の権限が拡大する方向にあるのに対して,108条に込められていたような義務の側面が全くなくなるのは,いかがなものかということが何人かの委員・幹事のおっしゃったことのように思います。それにどう対応するかということについて,複数の選択肢を示していただいたと思っておりますけれども,ほかに何か御発言はございますでしょうか。
○中田委員 補足ですけれども,忠実義務については結構,議論の蓄積があると思うんです,遺言執行者について。信託の受託者に近いからとか,あるいは受任者に忠実義務を認めるとか,あるいは他の財産管理人とのバランスとかということもありますので,しかし,結論的には忠実義務を認めるという少なくとも学説は多いのではないかと思いますから,それを踏まえて御検討いただければと思います。
○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  預貯金債権については,解約権限を付与するという場合を絞り込む必要があるのではないかという御指摘があったかと思います。単純な制度にした方が,後始末の問題を抱え込まなくていいという御指摘だったかと思いますけれども,その点が一つの御指摘と,それから,今の受遺者を遺言執行者とするということとのバランスで,一定の対応をしておく必要があるのではないかといった御指摘がされているものと認識しておりますけれども,そのほかに何か御発言はございますでしょうか。事務当局,よろしいですか。
○堂薗幹事 忠実義務の点は,かねてより中田委員から御指摘を受けている点でありますので,こちらもそれなりに検討はしてみたのですが,事務当局としては,誰のために権限を行使するのかという点については,第3の1の①の規定で,遺言の内容を実現することを職務としというところで表しており,更に委任の場合の本人が誰なのかという点についても,第3の1の③で遺言執行者がその権限内においてした行為の効果は相続人に帰属するというところで,相続人全員が委任者的な立場にあるという趣旨を表しているという前提です。このように,誰のために,どういうことをしなければいけないかということを①で書いていることから,善管注意義務の内容もある程度は明らかになっているのではないかというところがあるのと,それから,先ほど中田委員からも御指摘がありましたように,民法上は他の財産管理人について忠実義務に関する規定が置かれていないのに,遺言執行者のところだけそのような規定を置けるのかという法制上の問題もありますので,現時点ではこのような案になっているということでございます。御指摘の点については,再度検討してみたいと思いますけれども,事務当局としては,そのような整理をしているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,よろしいですか。では,今の点につきましては更に検討を頂くということにしたいと思います。
  それでは,かなり時間がたっておりますけれども,第4について御説明を頂いて少し御意見を頂き,残った部分については次回に回させていただきたいと思います。では,事務当局の方で御説明をお願いします。
○神吉関係官 引き続きまして,37ページ以下の「遺留分制度に関する見直し」につきまして御説明させていただきます。
  まず,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」についてですが,ゴシック部分につきましては従前の部会資料16で御提案させていただいていた甲-2案及び甲-3案を,ほぼそのまま掲載させていただいております。
  38ページ以下の補足説明の内容につきまして,ごく簡潔に御説明させていただきます。第16回部会におきまして,現物給付により不要なものを押し付けられるリスクについて,どのように考えるべきかという点について様々な御議論が行われ,様々な御意見が寄せられました。そこで,今回の部会資料では,この点に関する基本的な考え方を整理した上で,幾つかの事例を踏まえて検討を加えております。
  39ページの「(1)基本的な考え方」についてですが,部会資料でも①から③と,基本的な考え方,理由を記載しております。基本的には受遺者又は受贈者の立場といたしますと,単に遺留分権利者が必要としないという理由で,受遺者又は受贈者が指定した現物給付の目的財産の拒絶権を遺留分権利者に与えるのは相当ではない,これを認めるとしても例外的な場合に限定するのが相当ではないかと考えられます。
  また,(2)の甲-3案と甲-2案の比較ということでございますが,第16回部会におきましては規律として明確である甲-3案を支持する意見が多かったものの,甲-3案を採用すると,不要なものを押し付けられるリスクが高くなるのではないかという懸念が示されたところでございます。この点は,委員からも指摘があったとおり,甲-3案を採用するといたしましても,実体法上,現物給付の指定を無効とする事由を適切に設けることができれば,甲-2案と同様の結果を実現することができるということで,甲-3案の本質的な問題点ではないものと思われます。そういたしますと,基本的には規律としてシンプルである甲-3案を中心に検討を進め,どのような場合に遺留分権利者に拒絶権を与えるべきか,また,拒絶権を与える場合を適切に要件化できるかといった順序で検討すべきように思われます。
  そこで,40ページの(3)以下では事例を踏まえた検討を行っております。ここでは第16回部会でも御指摘がありました事例を踏まえまして,六つのケースについてどのように考えるべきかということを検討しております。その検討結果は,41ページの「【検討】」のところで記載しておりますが,結論から申し上げますと,現物給付の指定権を受遺者又は受贈者に与えない事例を適切に要件化することは困難ではないかと考えております。そういたしますと,甲-2案を採用することや,甲-3案を採用しつつ現物給付の指定を無効とする事由を適切に設けることは,いずれも困難ではないかと思われます。結論といたしましては,個別具体的な事案に応じて,権利濫用といった一般条項により対応するのが相当ではないかと考えているところでございます。
  次に42ページの2の「指定された目的財産の権利放棄を認めるかどうか」につきまして御説明いたします。この点は,第16回部会におきまして甲-3案を採用するとしても,こういった制度も考えるべきではないかと御指摘いただいたところでございます。結論から申し上げますと,このような制度を設けますとかなり規律として複雑にならざるを得ず,また,克服すべき理論的な問題点も生じるということからすると,採用することは難しいのではないかということを記載しております。
  また,44ページの3の「その他の問題点について」ですが,こちらは甲-3案の③の規律に関する記載となりまして,こちらは現物給付の意思表示に関する時的限界に関する規律を明文化する必要があるかどうかについて検討をしております。この点は,金銭請求訴訟の既判力によって現物給付の抗弁が遮断されるかどうかという理論的な問題とも関連いたしますので,実質論としては金銭請求訴訟が終わった段階では現物給付は主張できないという点では異論がなかったところではございますが,理論的にどうかというところで問題が残りますので,亀甲を付けて今後の検討課題としているところでございます。
  引き続きまして,46ページの2の(1)アの「相続人に対する生前贈与の範囲に関する規律」につきまして御説明いたします。本文につきましては,従前の部会資料からの変更点はございませんが,民法1030条後段の規律を維持すべきかどうかにつきまして,第16回部会におきまして委員・幹事の方から,これを削除することも検討すべきではないかという御指摘がありましたので,検討を行っております。その結果ですが,1030条後段の規律自体は維持するのが適当ではないかということで,ゴシック部分の(注)で掲げることとしております。その理由につきましては,部会資料46ページの①から⑤まで記載したとおりでございます。
  以上,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  この第4の「遺留分制度に関する見直し」については,ここに上がっているゴシックの提案部分については,変更はないということです。それで,上げられていた問題点について1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」に関しましては,不要なものを押し付けられるということがあるのではないか,あるいは指定された目的財産の権利放棄を認めるかと,こうした御懸念が示されておりましたけれども,いずれにしても,これを制度化して対応するのは難しいのではないかという検討結果について御報告があったものと受け止めました。それから,遺留分の算定方法の見直しについては,(注)のところに出てくる1030条後段の規律についてこれでよいかということが問題になりましたけれども,これも維持するというのが適当なのではないかという御報告でありました。
  これらについて御意見を賜れればと思います。検討結果の御報告を頂いているわけなんですけれども,更に検討せよというお話があるようであれば承りたいと思いますが,何かございますでしょうか。
○増田委員 時間の関係でどの程度,しゃべったらいいですか。というのは,私の意見の趣旨は甲-3案を採用し,なお,検討すべき点が幾つかあるということなんですが。
○大村部会長 検討の方向を示すようなことを簡潔に御指摘いただけると,有り難いかと思います。
○増田委員 私はまず前回,甲-2案とか,いろいろ,比較しましたけれども,権利関係の明確性という見地から,甲-3案が望ましいのではないかと考えております。ただ,甲-3案でも残る問題が幾つかありまして,例えば現物給付の指定の意思表示が明確なものでないと,その時期もはっきりしないということになり,所有権の移転という重大な法律効果を伴うことを考えると,どういうものをもって現物給付の意思表示と見るかどうかというのが結構難問なんです。41ページの上の方の⑤で,事前の交渉で遺留分権利者が不要であると明示していた財産を指定した場合というようなことが書いてありますが,この場合というのは事前の交渉のときに,Aという物件で返しますと言ったら,そのときに指定されているのかどうか,指定の前段階の提案みたいなものを予定されているようにも見えますので,指定の意思表示について明確にするために何らかの方式を限定するとか,何か方法があっていいのかなと思いました。
  それから,予備的な意思表示が有効かどうかです。現物指定について遺留分減殺そのものを争うとともに,仮に遺留分が存在するのであれば,この物件で返しますという意思表示というのは実務上,あり得ると思うんですけれども,それが有効なのかどうか,その場合,有効だとした場合,その所有権の移転時期はどうなるのか,仮に所有権移転時期を判決確定時等とした場合には,かなりのタイムラグが生じると思われますので,その間の目的物の保管とか,目的物の管理について善管注意義務等の責任を決めなくていいかどうかという話,それから,現物給付指定のやり方なんですけれども,対応する金額,要するに消滅させるべき債務の金額を明示して行うのかどうか,その金額は受遺者側を拘束するのかどうか,あるいは遺留分侵害額に満つるまでといったような,そんな指定も可能なのかどうかということです。
  指定の終期なんですが,ここでは口頭弁論終結時と書かれていますが,実は民法に口頭弁論終結時というような定めはないし,口頭弁論終結による遮断効などは恐らく訴訟法が決めることであって,民法が決めることではなさそうです。また,御存じのとおり,相殺とか建物買取請求権などは,口頭弁論終結後でも行使できると言われていますので,それらとの整合性はどうなのか,それから,指定した場合に遺留分減殺債務の方,請求権の方です,こちらの方はいつ消滅するのか,どの範囲で消滅するのか,これも指定の意思表示時ということも考えられるし,判決確定時というのも考えられるし,あるいは遅くすれば履行時ということも考えられると。幾つか問題が残っているので,その辺を詰めないといけないのかなと。あと,時間があるということですので,詰めなければいかんのかなと思っています。
  それから,もう一つ意見なんですが,放棄,これは認めるべきであろうかと思います。物を所有するということについては,その物から生じるリスクを負担すると,あるいは管理コストを負担するということになりますので,幾ら価値のあるものであっても,それは要らないというのであれば,物の所有権は帰属させなくてもいいのではないかと,取得する義務まではないのではないかと思います。
  ①,②,③という不都合が書いてありますが,放棄の意思表示が可能な一定の期間を設定して,かつ放棄に遡及効は持たせないという形にすれば,不都合は回避できるのではないかと思います。
  ということで,以上,かなり脈絡のない話をしましたが,単に甲-3案というだけではまだ解決できない問題が多数あるので,そこの中身を詰める必要があるだろうということで,よろしくお願いします。
○大村部会長 二つの問題のいずれも,対応は難しいのではないかというのが事務当局からのお話だったと思いますけれども,なお,頑張ってくれという御要望である,特に不要なものについては,甲-3案を採るとしたときに付随して出てくる問題点について,対応の方向性も併せて御指摘を頂いたと理解いたしました。甲-3案で考えるというところまでは,多分,事務当局も同じなのだろうと思いますけれども,例外的な場合を要件化できるだろうかという点について,事務当局からは,それはかなり厳しいのではないかという感触が示されたのだろうと思いますけれども,そこについては何か御意見はございますか。
○増田委員 どういうことでしょうか。放棄の話ですか。
○堂薗幹事 指定を無効にできる場合の要件化は難しいのではないかという点と,そこは今の問題点の中には含まれていないという理解でよろしいんでしょうか。
○増田委員 指定の放棄はいつでもというか,自由にできるということでいかがでしょうか。
○堂薗幹事 受遺者等において指定したものについて,その指定は不当だということで無効になる場合の要件を民法の中に盛り込むのは難しいのではないかというのが事務当局の考え方です。
○増田委員 それはそのとおりで結構です。
○神吉関係官 増田委員から指定された目的財産の権利放棄を認めるかどうかという点で,なお検討をしてほしいという御意見を頂きましたけれども,先ほど御説明したとおり,この点は第16回部会で別の委員から御指摘を頂いて,事務当局でその可能性について,検討を行ったところであります。部会資料42ページの①,②の問題というのは,規律を組めば何とかできるかなという気はするのですが,③については理論的に難解な問題があるのではないかと考えております。すなわち,請求の一部放棄に条件を付することにもなりかねないということで,裁判所の判断が示されたら請求が一部放棄されたことになると理解するのか,そうすると請求の範囲というのは裁判所の審判の範囲を決める話ですので,そこに何か条件を本当に付せるのかどうかというところが,理論的によく分からないという状況です。もし,可能であれば民事訴訟法の専門の委員・幹事の方で,御意見があれば教えていただければと思います。
○垣内幹事 ここで問題となっている事柄というのは,金銭請求をしていて,それに対して予備的抗弁という形で現物給付を求めてきているという場合なんですね。そういう目的財産だったら,もし,それが認められるのだったら放棄すると言っているということですけれども,これは請求の一部放棄と解する必然性もないかなという気もしておりまして,要するに,元々,予備的抗弁という形で出てきているものについて,それが認められる場合だったらこうするぞと言っているわけですけれども,それは主張レベルの話であって,請求そのものを放棄しているとかいうことであれば,請求の一部放棄ということにはなるんですけれども,そこはそうでない理解の余地もあろうかなという感じもしております。そうなりますと,請求の放棄と自白等は別のレベルの事柄ですので,主張レベルで請求の一部が棄却になるようなことを言っていたとしても,請求の放棄をしていなければ,請求は請求としてあるわけですから,実際にその主張が現実に認定されれば,その分は棄却の結論につながるということであるにすぎないと説明することができるとすれば,③の一部放棄に条件を付することができるかという形での問題にはならないと,解する余地もあるのかなという印象を今のところ持っております。まだ,私自身も考えてみなければいけないと思っておりますが,差し当たりは,そういう印象を持っております。
○増田委員 攻撃防御方法として実体的な放棄の意思表示をしているだけであって,請求としての訴えの一部放棄をしているわけではないわけですから,そこは大丈夫なのかなと思っているんですが,垣内幹事も同じと思いますけれども。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○山本幹事 甲-3を前提に要件化を検討して,これが難しいという点につきましては賛成でございます。性質上,例外的な場合に当たるか否かというところは,主観面,客観面を総合して考えなければいけないということになろうかと思いますので,具体的な要件を定めるのは困難と思われる一方で,抽象的に定めても判断の指針にはなりづらいと思っているところでございます。
  放棄の点は,今の③の点については保留しますが,タイムラグが生じて,その間に処分が生じてしまった場合にどうなるのかといった辺りの問題も含めて考えたときに,そこまでして組まなければならないのかどうなのかというところが一つあり得るのだろうと思います。特に事務局で今回,整理していただいたところを前提とすれば,基本的には物の指定について,遺留分権利者は文句を言える立場にないというところが出発点になっているのだろうと思われまして,そこが否定されるのであれば,むしろ金銭債権以外はいけないという方向にいった方がシンプルなような感じもしておりまして,どちらに割り切るかという問題ではないかと思っております。
  意見としては以上ですけれども,1点,質問がございまして,部会資料の45ページ(注2)の「その他の問題2」で,相続分の指定に対する減殺請求が取り上げられております。現在の取扱いを変更して,B説的な考えを採るのが相当ではないかという御説明ですが,これはこういう規律として置くということを提案されているのか,それとも解釈として,こういう考え方があり得るのではないかという御示唆を頂いているのか,これはどちらになるのでしょうか。
○神吉関係官 お答えいたします。B説による場合に,これまで提案している規律とは別の規律を設けなければいけないのかどうかということは,慎重に検討する必要があるかと思いますが,実質論としてB説を採用した上で,あとは解釈の問題で現物給付の内容を考えることができるのであれば,それはそれでよろしいのかなとは思っております。部会においては,実質論としてA説がよいのか,B説がよいのか,またB説による場合に現物給付の内容をどのように考えるべきかいうことについて,今日は御意見を頂ければなと,思っているところでございます。
○山本幹事 解釈の問題であれば,それは後に残された問題ということになると思いますけれども,いずれにしても遺留分減殺請求権の金銭債権化から,論理必然的にB説が帰結されるわけではないように思われるところでありまして,その辺りも含めて現状を変更する必要があるのかどうなのかというところは,慎重に御検討いただければと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
 そのほかに何か御指摘はございませんか。
○中田委員 今日,議論を更にするのでしょうか。言いたいことはあるんですけれども,それは結構,時間が掛かると思うんです。
○大村部会長 更に御意見もあるということであり,また,1030条の問題も残っておりますので,併せて次回に持ち越すということでよろしいでしょうか。では,中田委員は今日のところは,特に御発言はないということでよろしいですか。
○中田委員 発言しますと,多分,また時間が掛かると思いますので。
○大村部会長 それでは,今,一部,御意見を伺いましたけれども,更に御意見もあるようですので,この点については次回以降に持ち越させていただきたいと思います。私の方の不手際で,時間を過ぎてなお終わっていないという状況ですが,今のような取扱いにさせていただきたいと存じます。
  最後に,今後の日程等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 それでは,次回の日程でございますが,既に御案内のとおり,5月23日(火曜日)の午後1時半からを予定しております。次回も三読で御議論いただいたもののうち,更に詰めた検討を要する積み残しの課題を取り上げて,御審議いただくということを考えております。今回は積み残しの課題の中でも,比較的大きな論点を取り上げましたけれども,次回は細かな論点も含めてできる範囲で取り上げたいと考えておりまして,見直しの全体像につきましては,次々回以降にお示しすることができればと考えているところでございます。次回の場所ですけれども,次回も本日と同じ法務省20階の第一会議室ということになります。
  次々回以降でございますが,これまで6月分まで正式にお伝えしていたかと思いますけれども,7月は18日(火曜日)に開催することを考えておりますので,日程の確保をお願いいたします。冒頭で申し上げましたとおり,可能であれば7月の部会の後にパブリックコメントを実施できればと考えているところでございます。それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御説明がありましたけれども,積み残しの論点のうち,本日,扱われていないものにつきまして次回に御検討いただき,その後,6月以降に取りまとめに向けての案を出していただくということでございます。
  本日はこれで終了させていただきたいと思います。熱心な議論を頂きまして,どうもありがとうございました。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第21回会議 議事録


第1 日 時  平成29年5月23日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時49分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第21回会議を開催いたします。
  まず,最初に事務当局より配布資料の説明をお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,本日の配布資料について御説明させていただきます。机上の配布資料目録のとおり,本日の資料は2点ございまして,事前に送付させていただいた部会資料20-2,「積残しの論点について(1)(補論)」と題する資料と,部会資料21,「積残しの論点について(2)」と題する資料となっております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  本日は,今,御説明がありました「積残しの論点について(2)」を検討していただきますけれども,その前に「積残しの論点について(1)(補論)」と,それから,前回,最後に時間が足らなくなった遺留分に関する部分がございます。この遺留分に関する部分をまず終えまして,その後に本日の中心の話題である「積残しの論点について(2)」の方に入りたいと考えております。
  前回の続きの議論ではございますけれども,(補論)につき新しく資料が出ておりますので,その点につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 引き続きまして,関係官の神吉から部会資料20-2につきまして御説明させていただきます。
  こちらは前回の議論の補足という位置付けの資料でございますが,第16回部会及び前回の部会におきまして,指定財産の放棄を認める制度を設けるべきではないかという御意見を頂きましたので,事務当局において,その検討結果をまとめさせていただいたというものでございます。
  基本的な考え方ですが,甲-3案の考え方によりますと,受遺者又は受贈者の現物給付の意思表示により,目的財産の権利が移転すると同時に,金銭債務の全部又は一部が消滅することとなりますが,遺留分権利者がその意思表示を受けた時から2週間以内に当該目的財産の権利を放棄する旨の意思表示をしたときは,目的財産の権利移転のみが遡及的になかったことになる,金銭債務が消滅したという効果自体は覆らないという考え方となります。
  このような考え方を採用いたしますと,請求の放棄に条件を付することができるか否かという理論的な問題は生じないことになりまして,また,遺留分権利者が不要なものを押し付けられるリスクは少なくなると言えるかと思います。
  以上が部会資料20-2の御説明となります。
  引き続きまして,前回,御質問がありました何点かの御質問について,この場で御回答させていただきたいかと思います。まず,増田委員から,受遺者等による現物給付に関しまして,遺留分権利者との事前交渉におきまして,これで返す,あれで返すなどと話がされることが想定されるところ,どの段階で指定権の行使があったと考えるのか,そのような御質問を頂いたかと思います。
  この点につきましては,部会資料16の11ページ以下で検討を行っているところですが,考え方といたしましては,相殺の抗弁における考え方と同様に考えることができるのではないかと考えております。すなわち,相殺におきましては金銭債務の額等について当事者間で争いがある場合に,反対債権による相殺を前提とした協議をしていたといたしましても,実体法上,相殺の意思表示をしたことにはならないとの解釈がされることになるのではないかと考えられることから,現物給付の目的財産について協議を行っている段階では,現物給付の意思表示をしたことにはならないという柔軟な解釈をすることもできるのではないかと考えているところでございます。
  また,現物給付の指定の意思表示について,予備的抗弁として行使が可能かどうかという御質問を頂いたところでございます。この点につきましても相殺の抗弁と同様に,現物給付の抗弁につきましては予備的抗弁として行使することも可能であると考えております。すなわち,主位的には遺留分減殺請求権から発生する金銭債権の存在・額を争うとともに,予備的に現物給付の意思表示をするということも可能ではないかと考えております。この場合における現物給付の効果が生じる時期につきましても,相殺の抗弁を予備的に行使した場合と同様であるものと考えられ,基本的には金銭債務に係る訴訟の口頭弁論終結時に効果が発生するのではないかと考えているところでございます。
  また,山本幹事から部会資料20の45ページの(注2)に関しまして,A説,B説があるが,この点はどう考えるべきかという御質問を頂いたかと思います。この点につきましては,基本的には遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を金銭債権化した場合には,特段の規定を設けない限り,B説のような帰結になるのではないかと考えているところでございます。部会におきましては,実質論としてA説がよいのか,B説がよいのかということを御議論いただきまして,なお,A説がよいということのコンセンサスが取れるのであれば,A説が採用できるような規定を考えると,そういったことになるのではないかと考えているところでございます。
  以上,前回の御質問につきまして簡単に御説明させていただきました。御議論をよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  前回,積み残しになっておりました放棄に関する点の補足及びそれに伴う御説明と,増田委員,それから,山本幹事から御質問が出ていた点についてのお答えを頂きました。順番を設けるわけではございませんが,中途で終わっておりました放棄に関する点につきまして,先ほどの御説明を踏まえまして更に御発言を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。前回,時間が足らなくて発言しようと思っていたけれども,発言できなかったという方もいらっしゃるかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田委員 放棄についての御議論が終わってからと思っていたんですけれども。恐らく今回の放棄の修正案については,御賛同される方が多いのかなと想像しておりまして,甲-3案プラス放棄を認めるという修正案で収束していく方向かなと思っております。ただ,なお,私自身は不安を感じておりまして,それは制度趣旨の理解と,それから,現実の利用のされ方の面と,この両面で不安がございます。
  制度趣旨の理解についての不安というのは,一つは甲-3案あるいはその修正案ですと,遺留分減殺請求権の性質をどう理解すべきことになるのかということでございます。法定相続分の最小限の保障といっても,この制度では形骸化されるだろう,それから,遺留分減殺請求権者の生活保障といっても,それは実現できないことになるだろう。そうだとすると,今回の新たな遺留分減殺請求制度というのは,どのような目的で,どのような制度のものとして理解したらいいのかというのは,十分,まだ理解できていないということがございます。
  それから,もう一つの不安は特に高齢の配偶者の保護という,この部会の基本的な考え方と衝突する場面が出てくるのではないかということでございます。被相続人が配偶者以外の者に全財産を与えた場合に,高齢者の立場は現在よりも弱くなるのではないか,改正の方向について一貫性があると言えるのかどうかという点でございます。これが制度趣旨の理解についての不安です。
  現実の利用のされ方についての不安は,不要なものを押し付けるという行為が増えるのではないかということです。また,そのことを制御しにくくなるのではないかということです。もちろん,現行法の下でも同じように遺留分権利者が害される状態が生じ得るというのは,御指摘のとおりだと思うんですけれども,しかし,それは余り一般的に多いことではないですし,だからこそ,最終的には権利濫用で対応できると思います。
  しかし,今回の甲-3案あるいはその修正案ということですと,不要な財産を遺留分権利者に与えて嫌だったら放棄させる,しかし,金銭は与えないということになりますと,不要な財産を遺留分減殺請求をした者に与えることは,むしろ,正当な態度だというように評価されて,権利濫用となる可能性は極めて少なくなるのではないか。特に今回の修正案のように,更に制度が精練されていけばいくほど権利濫用ということはなくなると思います。そうすると,結果として受遺者や受贈者の行動に自制心を働かせる余地が少なくなって,より苛烈な態度をとることを助長して,紛争を激化させるおそれはないだろうかという不安がございます。
  ただ,私自身に自信がないのは,そういった不安は私の個人的な主観的なものにすぎないのではないかなと思うことにあります。多分,根本は前に西幹事がおっしゃったと思うんですけれども,法定相続分を原則と考えているのに対して,むしろ,遺言による相続の方を原則と切り替えた場合には,別におかしくも何ともないではないかということになるかもしれないんですが,ただ,そこの切替えについて果たして一般にそのような意識が伴っているのだろうかということがよく分かりません。ですから,できましたら,パブリックコメントをもう一度,なさるということですので,そこでどう聴いたらいいのか分からないんですけれども,遺言相続を原則にすることとか,あるいは今回の遺留分減殺制度の見直しについて意見が出るような形でお聞きいただければいいかなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  事務当局の方からいかがですか。
○堂薗幹事 御指摘のような面はあろうかとは思いますが,ただ,こちらとしては遺留分制度の趣旨自体を,これによって根本的に変えるということにはならないのではないかという認識を持っております。現行法の下では,例えば,遺贈の対象となる財産がたくさんあった場合には,それらの財産の全てについて共有になるわけですが,生活保障の観点からしますと,非常に換価が難しいということにもなりますので,現行法においても,一般に,遺留分権利者の生活保障という趣旨が含まれていると理解されておりますが,今回の見直しによって,遺留分権利者が取得する権利が原則金銭債権化され,そうではない場合にも,共有ではない形で現物給付を受けるということになりますので,一概に現行法と比べて生活保障という側面が弱くなるということにはならないように思われます。また,最低限の取り分の保障というところにつきましては,中田委員もおっしゃっていたように,現行法の下でも,例えば,受遺者が一部要らないものについて最初から遺贈の放棄をしていたとか,あるいは,被相続人の方で,遺留分権利者はあまり欲しくないけれども,一定の価値のある財産を残していて,それで遺留分の侵害はないというような場合には,それで満足せざるを得ない地位にあるということでございますので,遺留分制度の趣旨を根本から変えるということではないのではないかと考えております。
○神吉関係官 若干,補足して御説明させていただきます。先ほどの中田委員の御疑問というのは,そもそも,遺留分減殺請求権から発生する権利を物権的効果から金銭請求権にすると改めることによって,遺留分権利者の権利が弱まることについて,どのように考えるべきかということになるかと思います。そのことについては前回の中間試案の際のパブリックコメントにおいて,同じような考え方をお示ししておりまして,国民の意見を聴いているわけでございますが,その点については国民の寄せられた意見でも,大半は金銭請求権化に賛成しているということからすると,この点については,それほど懸念が示されているというわけではないのかなと,そんな認識でおるところでございます。
○中田委員 前回,甲-2案と甲-3案を御提示いただきまして,甲-2案の方はまだ裁判所のチェックが働く余地があるのに対して,甲-3案はむしろ思い切った非常にはっきりした案になっていると。これに伴う現実の使われ方ということからいうと,単に物から金銭にというだけではなくて,より大きな影響が出てくるのではないか。それが何か落ち着かないと感じるのは,多分,最終的には遺言による相続を主として考えるというところに,実はシフトしているのではないかなと感じたからです。ですので,単に現在の物を中心にして金銭を補充的にという,それを逆転するということについての賛同は得られたからといって,その先については必ずしもはっきりしていないのではないかなと感じた次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  この点につきましてほかに御意見はございませんか。
○増田委員 遺留分減殺請求権の金銭債権化という点につきましては,パブリックコメントで賛同が得られたと思いますが,中田委員のおっしゃるとおりで,その先のことです。不要な物の押し付けにより,紛争が激化するだろうと予測されることは正にそのとおりだろうと思うんです。かつて,純粋に金銭債権にしたらどうかというような考え方もあったかと思うんですが,パブリックコメントの段階では裁判所が選択する制度にするのか,現物返還と金銭による補償とを現行法と逆転するかという二者択一の中で消えていたわけです。けれども,ここまで進んだ制度にするのであれば,むしろ純粋金銭債権という考え方もあり得るのではないかと,そうしたところで,それほど不都合はないのではないかと思うんです。物を代わりに指定することができるということによって,遺留分権利者とすれば金銭債権よりも不利な立場に置かれていることになるのではないかという気がするので,そういうのも改めて考えていただいてもいいのかなと,ここまでくるのであればという気がしております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 増田委員がおっしゃったことと全く同じようなことを申し上げるつもりでした。今回の甲-3案の修正案というのが出て,基本的にこの考え方を私は理解できます。ただ,ここまでやるのであれば,当初の案のように完全に金銭債権化してしまうという選択肢もあっていいのではないかと思います。先ほど堂薗幹事がおっしゃられましたように,現物というところに注目した主たる理由というものは,基本的に遺留分減殺請求の相手方が,金銭請求権ということにした場合には,渡すべき金銭を調達しなければいけない,その部分についてのコスト等が掛かるから,それを手元にある現物を渡すことによって回避するという,そういう側面があったと思うのですが,今回の特に甲-3案の修正案でいけば,それに対して遺留分減殺請求権者の方がノーと言えると,ノーと言ったら金銭債権という形で処理していくということに進むと思うんですよね。
  そうなってきたら,基本的にこういう迂回路というか,迂遠なルートを使うよりは,一律に金銭請求という形で処理してもいいのではないかと。微妙なところの違いは分かりますけれども,ここまでくるのであれば,金銭債権にしたらどうですかとも思ったところです。いずれにしても,遺留分減殺制度をどう捉えるのかという観点からは聴く必要はないと思いますけれども,結構,今回の議論の中で変わったところが出てきますので,何らかの形で個別のルールでもいいと思うので,パブリックコメント辺りに掛けていただくことが望ましいとは思います。
○堂薗幹事 パブリックコメントにつきましては,前回も増田委員の方から御指摘がございましたので,事務当局で現在検討しているところではございます。また,従前の案との関係からいきますと,元々,単純に金銭債権化すると,受遺者又は受贈者が金銭を用意できない場合に困るのではないかということで,現物での返還を可能にするという考え方をお示ししていたわけですが,そういった意味では,中間試案の案よりも,更に受遺者,受贈者側の権利を保護する形にしているわけです。他方,単純に金銭債権化するということになりますと,今度は方向としては逆になり,中間試案よりも受遺者,受贈者側の利益をより考慮した制度設計だったのが,逆に,むしろ中間試案よりも遺留分権利者の保護を強く図るという制度になるのではないかと思いますので,流れとしては中間試案以降の議論とは,むしろ,逆の方向にいくのではないかと思います。
  今回の甲-3案では,遺留分権利者が指定された財産の放棄をした場合も,先ほど御説明しましたとおり,金銭債権は消滅したままということになりますので,そういった意味で,今回の甲-3案というのは,受遺者側の利益に配慮したものとなっておりますので,今回の案にするぐらいであれば,金銭債権で例外をなくした方がいいのではないかというのは,若干違和感があるところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○南部委員 関連しないのですが,よろしいですか。甲-3案なのですけれども,⑤にありますように移転した目的財産に関する権利を放棄することができる期間が,現物給付の意思表示を受けてから2週間以内ということで限られております。この期間が妥当かどうかについて少し疑問を持っておりまして,基本的な考え方では,指定された財産が不要か否か,さほど時間を要さずに判断することができると書かれております。しかし,一般に働いている人で2週間以内に物件を見に行く場合,遠いところであれば休暇を取らなければならないとか,土日に行かなければならないという制約がある中で,指定された財産の価値を見極めるのに要する時間が2週間というのは本当に妥当かどうか,そして,価値を判断するには専門家の意見など,いろいろな方々に相談する時間も加味していいのではないかと一般的には思うのですが,それについてもここで議論されるか,それともパブリックコメント等で聴いていただけたらと思っております。
○神吉関係官 この期間については,さほど2週間にこだわる趣旨ではなくて,別の考え方もあるのだろうなとは思いますけれども,ただ,遺留分権利者としましては,当初の金銭請求をする段階で受贈物の価値とか,特別受益の価値についてはそれぞれ把握して請求することになるかと思いますので,受遺者側がこれで返したいと言ってきた場合には,その物の価格がどれくらいなのかというのは,自分で取りあえずは算定しているということが前提となっているのではないかと思います。その価値が著しく低いのか,それなりに価値があるのかということは,遺留分権利者としてはある程度は分かっているだろうという前提で,一応,2週間という期間はそれほど短くないのではないかということで考えているところではございますが,ただ,それについては,いろいろもう少し慎重に検討する必要があるということであれば,もうちょっと,例えばそれを1か月にするとかいうことは,あり得るかもしれないとは思っているところでございます。その点についても御意見があれば,もちろん,遠慮なくおっしゃっていただければと思います。
○南部委員 今,おっしゃったように受贈者が受けた価値や特別受益の価値について把握した上で請求される方はいらっしゃると思うのですけれども,一般的には相続できる財産がなくてびっくりしたから請求するという方もいると思うので,そこは慎重に検討していただいた方がいいかなと思います。2週間は一般的に見ると非常に短いような気がします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  中田委員の御発言から始まった一連の議論ですけれども,考え方としては甲案ないしそれに一定の修正を加えたような案に落ち着くのではないかということを前提にした上で,これがどう機能することになるのか,要らないものを押し付けるということが頻繁に生ずるようであると,遺留分権利者の地位は,我々が考えているのよりも,もっと不利なことになるのではないか,それは当初の意図から外れていくことになりはしまいかという問題提起をいただいたと思います。
  弊害がどのくらい生ずるのかというのは,なかなか,予想し難いところがあるわけですけれども,予想し難いということであれば,こういうことが起こり得るということを示して,もう少し意見を聴いてみたらどうかというのが中田委員のおっしゃったことかと思います。南部委員は,遺留分権利者が不利になることがあるのだとしたら,仮にそうならざるを得ないとして,手続についてもう少し余裕を持たせることによって,せめて何とかできないかという御趣旨だと伺いました。
  ほかに何かこの点につきまして御意見がありましたらいかがでしょうか。
○増田委員 南部委員のおっしゃることはよく理解できるところでして,2週間というのは恐らく一般的に働いている方から考えれば短いのではないかと,何も理論的な根拠はなく,感覚的な話ですが,せめて1か月くらいにするのが妥当かと感じます。
  それと,先ほど南部委員に対する御回答の中で,あらかじめ相続財産について調査した上で遺留分減殺請求権を行使するというお話がありました。それはそのとおりだと思いますが,抽象的に行使する段階と具体的な金銭の請求をする2段階が予定されていますが,2段階目の後でないと目的物の指定権は行使できないという趣旨なのだろうと思うので,そこは明確にしていただく必要があるのではないかと思います。2段階目のときには神吉関係官がおっしゃったとおり,遺留分減殺者側は一定程度の見通しを立てているだろうと思いますが,漠然と抽象的に行使したという状況では,まだ,財産の状況を把握していないわけです。その段階で目的物の指定権を行使された場合には,仮に1か月にせよ,その期間内で相続財産全部を調査するということは不可能に近いのではないかと思いますので,そこは案の中で明示する必要があるのではないかと思います。
○堂薗幹事 こちらの趣旨としては,甲-2案の①,②を甲-3案でもそのまま引用しているわけですが,遺留分侵害額に相当する金銭の支払というのは,基本的には,具体的な金額を明示したものを想定しております。御指摘の点については,引き続き検討していきたいと思います。
○増田委員 内容的にはよろしいんですよ。2段階目の金銭請求の後でないと指定権の行使はできないということであれば。
○窪田委員 中田委員の問題提起のところに戻ってということになるのですが,中田委員の問題提起というのは,単に金銭債権化するということだけではなくて,代替のものを提供されたときに,それが本当に不要なものであったら,結局,放棄につながることになって,そういった行動を導いてしまうのではないかという点で,重要な問題提起なのだろうと思っております。ただ,その上で前提として確認したい点がございまして,遺贈された財産の中には,良い不動産もあれば,山の中の価値のない土地のようなものもあって,こんなものをもらっても仕方がないという場合,それによって金銭債務が消えるのは,飽くまでその部分の価値だけということで,それはよろしいでしょうか。つまり,その部分については要らないよということで放棄をしたとしても,残りの部分についての金銭債権は,そのまま生き残っているという理解でよろしいですよね。
○神吉関係官 はい。御指摘のとおりの理解です。
○窪田委員 そのことを確認いたしましたのは,受遺者が持っている財産の中でも何でもいいから提供すれば,それによって金銭債務を免れるという形になりますと,単なる押し付けの問題ということになるのかもしれませんが,ここでは飽くまで甲-2案と同じで,遺贈又は贈与の目的である財産のうちから選ぶという形になると,不要で意味のない財産だとしても,それは飽くまで遺贈や贈与の中に含まれていたものだということになりますので,その押し付け合いが,結局,どっちにいくのかという問題だということに尽きるのかなという感じもしたからです。
  中田委員がおっしゃるように,確かに不要なものをぼんと押し付けて権利を失わせてしまうということが全面的に権利の喪失につながるのだったら,確かに深刻な問題になるのですが,不要なもの,誰が見てもそれほど価値のないものだとすると,それなりに金銭的な評価も低いものだということになりますと,その範囲でしか効果は生じないということになるだろうと思います。その点も踏まえて,中田委員からの問題提起は重要だということを踏まえつつ,もう少し具体的にまた検討がなされてもいいのかなという気がいたしました。私自身は,結局は要らないものの押し付け合いというのはどういう制度を作ったとしても,結局,残ってしまうのではないかという感じは持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点につきましてほかにいかがでございましょうか。窪田委員のようなお考えも示されておりますけれども,また,中田委員がおっしゃった中には最後は権利濫用で処理するとして,それがやりにくくなるのではないかという御指摘もありました。権利濫用が全くなくなるというわけではないとしても,全体として生ずる状況をどう評価するのかということかと思います。ほかに何か御指摘,御意見はございますでしょうか。
○西幹事 まだ,十分に頭の整理ができていないのですが,いろいろなところで迷いと申しますか,揺れが事務局の案には見られるように感じています。今,要らないものを遺留分権利者が押し付けられるのがいいのか,悪いのかという話になっていますけれども,それも結局,軸が決まらないためではないでしょうか。遺留分を考えるときに軸が大きく分けて三つぐらいあると思います。まず,法定相続を原則と考えるか,遺言相続を原則と考えるかというのが一つ。二つ目に遺留分制度の趣旨をどう考えるのか。今回の案では生活保障というのが前面に出ていますが,以前は,潜在的持分の精算というような話も出ていたように記憶しています。三つ目に遺留分の性質をどう考えるか。一般に,日本では,単なる遺留分権利者固有の権利というよりは相続財産の一部と考えられてきたと言われています。そこを今回の改正では捨てるように見えて,でも,どこか捨て切れていないようにも見えます。この三つの軸がそれぞれ揺れているような感じを受けます。
  原則を決めればドイツのように金銭債権一本ということでいけるはずですけれども,今回の場合には原則が定まらないので,原則から何かを導くということはできないのかもしれません。それでもなお,現実の分かりやすさとか,実際にどう機能するかということを考えたとき,私は金銭債権一本でいいという考え方も,先ほど御発言がありましたように,あり得ると思います。金銭債権一本ではいけない,それでは困るので現物返還を認めるという話が出ている理由が,先ほどから御説明があったように,お金が用意できない場合には,受遺者,受贈者が困るということであれば,それは結局,売る手間を遺留分権利者が負うのか,受贈者,受遺者が負うのかという話だと思います。私はそれを受遺者,受贈者が負うことにしても,それほど問題はないと考えています。
  それよりもむしろ気になるのは,恐らく多くの人の発想の背景には,本当にそこまで受遺者,受贈者がやらなければいけないのか,それはおかしいのではないのかという感覚があるのではないか,その更に背景に何があるのかを考えると,そもそも,遺留分侵害額を払わなければならないのはおかしいとか,それほどたくさん払わされるのはおかしいという意識があるのではないでしょうか。そうであるとすれば金銭債権一本にした上で,受遺者,受贈者の側から例えば減額請求を裁判所に求めることができるとか,あるいはもう少し現実的なところでは期限の許与を求めることができるということにして,その期限の幅をかなり大きくするというようなことも考えられると思いますし,金銭債権では不都合があるから,その場合には現物返還を認めるという方法以外にも,もう少し考えられる方法があるのではないかという気がしています。
○堂薗幹事 元々,金銭債権化する場合に,期限の猶予を認めるような規律を設けることも考えられるのではないかということで,議論があったところではありますが,現行法上,遺留分の権利というのは実体法上の権利として認められている中,裁判所の裁量で期限を猶予するとか,そういった規律を設けると,非訟的な性質を有することになって,問題ではないかかという議論もあったかと思います。
  先ほどのどちらが売るのが妥当なのかというところですけれども,個人的には,遺留分権利者の権利行使がされるかどうか分からない,要するに,遺贈とか贈与を受ける時点では,現実に権利行使されるかどうか分からないというところがあって,もし権利行使されると分かっていれば,この部分については遺贈の放棄をしたのにということも普通にあり得るのではないかと思います。
  遺贈を承認するのか放棄するのか,あるいは,贈与契約を締結するか否かという判断をする時点では,遺留分権利者が権利行使するかどうかは分からないことからすれば,遺留分権利者から実際に権利行使を受けた時点で,いわば事後的に遺贈等の放棄を認めるという考え方というのは,十分にあり得るのではないかということで,甲-3案のような考え方をお示ししたということでございます。そういった意味で,三つの軸ということを言われましたけれども,必ずしも現行法からその点を変えるということではなく,今のような考え方の下で現物返還を認めるということは,十分に考えられるのではないかと思います。
  そもそも,現行法のように,遺贈の対象となる財産がたくさんある場合に,その全てについて共有となるというのが遺留分権利者の保護という観点からも,実際上の紛争を複雑化するという面からも相当なのかというところが問題意識としてはあるわけですが,その上で,今のような規律を設けることにより,遺留分権利者の利益と受遺者又は受贈者の利益のバランスをとっているという趣旨でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。ほかにどうでしょうか。
○上西委員 給付する目的財産の価額の限度で金銭債務は消滅し,その目的財産に関する権利が移転するとして,遺留分権利者は2週間以内にその目的財産に関する権利を放棄する旨の意思表示ができるとしています。この2週間は熟慮期間であると思います。先ほど南部先生が見に行くことも難しい旨の御発言をされました。実際に,目的財産の価額の限度で金銭債務が消滅する以上は,その目的財産を評価しなければなりません。
  評価が2週間でできるかどうかです。例えば税の世界でしたら,税務署長等による更正処分等があった場合,その通知を受けた日の翌日から3か月以内に再調査の請求ができることになっています。もちろん,手続の手間のほかに,評価が複雑な事例も単純な評価の事例もあります。更に不服申立てをするに当たっては,不服審判所に審査請求するのは1か月です。一般的に行政不服審査法でも,請求者自身が分かっている内容についての申立てでも1か月の期間があります。ましてや,どこの土地か,土地とは限らないですけれども,知らない目的財産もあり得るのです。2週間というのは,評価する立場から見れば短いと言えます。もう少し弾力的に幅を広げていただいた方が実務的かなという気がいたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 今の点も先ほどの増田委員の冒頭の御質問と若干関係するところではあるんですが,遺留分権利者が金銭請求をする場合にその金額を特定するということになりますと,遺留分算定の基礎となる財産について遺留分権利者の方で評価し,その評価を前提とした上で請求するということになりますので,遺留分権利者としては,その評価が客観的に妥当なものなのかどうかというところはございますが,一応その評価をした上で金銭請求をし,それに対して現物返還,評価の対象となった財産の一部を返還するということになりますので,遺留分権利者においてもある程度判断はできるのではないかという前提でございます。
  ただ,先ほどから2週間は短いのではないかということでございますので,その点は再度,検討したいと思います。ここでこの期間をかなり短くしているのは,遡及効を徹底させるためでございます。すなわち,ここで遡及効を認めつつ,第三者保護規定のようなものを設けるということになりますと,法律関係がかなり複雑になりますので,遡及効を徹底させた方が良いように思いますが,そうであれば,法的安定性を図る観点から,その熟慮期間はある程度短い期間にする必要があるのではないかということでございます。そういう意味では,限界があるかもしれませんが,期間の相当性については検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他,いかがでしょうか。途中で窪田委員がおっしゃいましたが,要らないと言われるものの限度で権利がなくなるということにすぎないとすれば,それはそれであり得る考え方ではないかということでしたけれども,その限度でということが十分に明らかになるだろうかというのが何人かの委員からの御指摘だったかと思います。そこのところで遺留分権利者が更に不利な状況に陥るということになりますと,中田委員が最初にお示しになった危惧が,大きなものになってくるということになろうかと思いますので,手続の面について更に御検討いただきまして,次の機会に,また,御議論いただくとさせていただくということでよろしいでしょうか。
  それと関連するかもしれませんけれども,増田委員の御質問,それから,山本幹事の御質問についてお答えがありましたけれども,それについて増田委員や山本幹事の方から何かありますか。
○水野(有)委員 山本幹事の質問に対する御説明のところなんですが,私はどちらがいいという意見を持っているという意味ではなくて,何も書かないと理論的にはB説ですか,になるのではないかという御説明のところが私は理解ができていなくて,相続分の指定自体の性質をどう考えるかで変わってしまうのではないかなと思わなくもなくて,もし,相続分の指定自体が遺産分割の先取り的な意味を持つものとするのであれば,当然,B説と読めるとなるのかどうかが私が理解できていないものですから,その辺りをもう少し教えていただければなと思うのですが。B説みたいに考えると,元々,相続分の指定自体の性質自体が遺贈に近付いていくような印象もあって,整理できていないんですけれども,その辺りを御説明いただければなと思うのですが。
○神吉関係官 改正したら法文の全体像がどういう形になるのかというのは,今後,詰めていかなければいけないかと思っておりますが,現時点では,1031条を改正して,遺留分権利者は遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるというのが基本的な構造ではないかと考えております。そういった条文を仮に設けたとしますと,それ以外の手段,相続分に対する減殺はできないという結論になるかと思いますので,現行法のように相続分の指定に対して減殺し,遺産分割に加わるということは基本的にはならないのではないかと。ただ,その点については組み方にもよりますので,実質論として,なお,遺産分割に参加させた方がいいと,A説的な結論の方がいいということであれば,そういった規律を設ければよいということになるかと思いますので,本日は,実質論についてどうすべきか御議論いただければと考えているところでございます。
  それと関連して,現行の902条をどう考えるのかということもあるかと思います。902条ただし書では遺留分に関する規定に違反することはできないと,相続分の指定がされた場合に書いてあるわけですけれども,その規定を維持するのかどうかということについては,まだ,事務局でも検討しているところではあるのですが,この規定があることによってA説的な解釈になってしまうということであれば,そこは削除も含めて,また,検討することになるのかなと,今のところはそのような印象でいるというところでございます。
○水野(有)委員 そういうお話ですと,むしろ,今の規定とか,今の最高裁の判決を前提としてというよりも,金銭債権化するという見解を採るのであれば,B説にするのが自然であるし,逆に言えば,それに関連する規定で仮にニュアンスが違うものがあれば,それ自体,修正すべきではないかという御提案という御趣旨でしょうか。
○神吉関係官 そのとおりでございます。
○水野(有)委員 とてもよく分かりました。ありがとうございました。
○大村部会長 そのほかはいかがでしょうか。
○山本幹事 今の点に関連してなんですけれども,結局,相続分の指定がこれからどう捉えられていくのかよく分からないところがありまして,少なくとも従前の判例の理解ですと,法定相続分を変更するものであるということで,遺留分減殺の場面でも対象になっているものは遺産から外れるわけではなくて,遺産分割の対象になるんだという説明になっており,そこの実質を変えるのかどうなのかという問題のような気がしております。この辺も含めて,検討する必要があるのではないかなと思っているところです。
○大村部会長 御指摘を踏まえて更に御検討いただきたいと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。前回の積み残しが遺留分制度に関する見直しということで,今日,補論で出ているのは「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という項目でございますけれども,もう一つ「遺留分の算定方法の見直し」というのが前回の資料に出ております。この点についても何か御意見があれば承りたいと思います。民法第1030条の規定にかかわらず,という部分でございますけれども。
○金澄幹事 47ページの特別受益の取扱いのところですけれども,これについてはいろいろ弁護士会でも議論はしておりますけれども,私としては別案を採るべきではないかなと思っております。遺留分算定の基礎となる財産の計算で,相続人に対する生前贈与を10年ということで限定したのは,はるか過去まで遡って争いをするということで長期化するということを避けて,法的安定性を図るということだったと思うんです。相続人間の公平の徹底は,その限度で後退しているということになって,被相続人の財産処分の自由を尊重するという面ももちろんあるわけなんですけれども,とすれば,同じように遺留分権利者の生前贈与等の特別受益の額についても,相続開始前の10年に限定するということが筋なのではないかなと思っています。そのようにすることが両方とも共通するということで,分かりやすいということになるのではないかと思っています。何より被相続人から生前に受けた贈与であるという点は同じなのですから,統一的に解釈した方が分かりやすくて,一番簡明になるのではないかなと思っています。
○神吉関係官 今の金澄幹事の御意見なのですが,それも十分あり得ると思い検討をし,部会資料の48ページ目で別案としてお示ししております。ここにも記載しておりますが,別案を採用した場合,第三者,この場合はAということになりますけれども,自分にとっては知り得ない古い贈与の存在によって自分の負担が大きくなってしまうという結論になります。そもそも,1030条の改正の趣旨というのは,第三者にとって知り得ない古い贈与の存在によってその負担額が変わるのはおかしいのではないかと,そういう問題意識から出発して検討しておりますので,これとの関係をどう考えるのかという問題があるとは考えております。
  遺留分の算定方法について,これまでは第三者と相続人を分けた方がいいのではないかとか,いろいろな議論をしてきたかと思うんですが,それはなかなか難しかろうと。そうすると,第三者の利益保護の問題と相続人間の公平といった2つの要請について,バランスのとれた制度にすべきだということで,これまで御議論いただいてきたわけですが,このようなことも考えますと,別案ではなくて,ここで御提案させていただいたような案の方がいいのではないかなと,事務局としては思っているということでございます。
○金澄幹事 おっしゃることもとてもよくもちろん分かっておりまして,弁護士会で議論したときも意見が分かれているところでございます。考え方ということで,事務当局のおっしゃることもよく分かるんですけれども,同じ被相続人から生前に受けた贈与であることには変わりはないのですから,具体的な公平というところを目指すことによって,ここまで大きく違うような形にしていいのかどうかというところの説明の仕方だろうなとは思っております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  事務当局の方でも,御指摘の案も含めて検討しているということでございますので,解説の仕方も含めて,更に詰めた考え方を示していただくということで引き取らせていただきたいと思います。ほかはいかがでございましょうか。
○窪田委員 一つ前のところに戻ってもよろしいでしょうか。既に水野(有)委員,それから,山本幹事に対する御説明の中で尽きていたことなのかもしれませんが,余りにも初歩的なことですから,質問するのが恥ずかしくて遅れてしまいました。相続分の指定があった場合に,一体,どういうふうな法律関係になるのかというと,恐らくそれも先ほどお話がありましたが,現在は相続分の指定が一定の割合で多分,減殺されるということを前提として遺産分割に乗るということだったのですが,ここの45ページの下の方の例では,本来,3分の1ずつだったのだけれども,それぞれ,ゼロ,2分の1,2分の1と指定したものとするという例が挙げられています。ただ結論から言えば同じになるのかもしれませんが,Aには相続分はないものとするという遺言だけがあった場合,反射的な形でBとCの相続分は増えるのですが,この場合に減殺の対象となる行為はいったい何なのかということが問題となります。こうした減殺の対象となる行為は何なのかという問題の立て方自体が今の制度を前提としたものであって,金銭債権化した場合にはそうではないということなのかもしれませんが,そうだとすると,金銭債権の生まれる前提となるものは,一体,何なのかが問題となります。
  要するに,この者の相続分はゼロとするということだけを言っているという場面においては,その者に遺産はやらないということははっきりしているわけですし,遺留分制度との関係で明らかに,一定の範囲でその効果は否定されるべきだろうとは思うのですけれども,それが金銭債権化するということの説明が,私の中で,まだすとんと落ちてきていないということがございます。
  最後は文言は作るだけなのかもしれませんが,37ページ,甲-2案でも甲-3案でも最初の部分は同じなのですが,「遺留分を侵害された者は受遺者又は受贈者に対し」という形になっていますが,今のような形で相続分をゼロとして,反射的にほかの人の相続分は増えるにしかすぎないという場合に,本当に受遺者とか受贈者という概念が成立するのか,更に言うと,遺贈又は贈与の目的であった財産のうちというわけですけれども,この場面では相続分が変わっているだけであって,最後,どの財産がいくかは遺産分割を経てみないと分からないとかという形で,B説にいくという一般的な説明としては分からないわけではないのですが,具体的に考え始めたときに,どうも相続分の指定における問題というのが,本当に遺贈と横並びになるのかどうなのかというのは分からない感じがいたしました。
  最初の部分だけでもいいので,何かお考えがあったら,つまり,Aの相続分をゼロとするという遺言があった場合,これも結局は同じことになるのかどうなのかという辺りだけでも,お伺いできればと思いました。
○堂薗幹事 それは,正に遺言の解釈ということにはなるんだと思いますが,それ以外の二人で,2分の1,2分の1ずつだということになりますと,それは相続分の指定ということになるかと思いますので,相続分の指定について減殺をするということになるのだろうと思います。相続分の指定の場合にどうするかというのは,なかなか,難しい問題ではありますが,原則として金銭で解決しましょうと,そうでない場合については,受遺者側,受贈者側に選択権を認めましょうという規律を前提にしますと,もちろん,相続分の指定の場合には受益相続人に選択権を認めるということになりますが,それは,いわゆる相続させる旨の遺言については,遺留分の計算のところでは遺贈にも贈与にも当たらないというのと似たような話なのではないかと思うんですけれども,一応,相続分の指定の場合も基本的には贈与とか遺贈と同じように考えた上で,ただ,返還すべき現物というのは決まっていないということになりますので,それからすれば,遺産分割における地位を付与するということにしかなり得ないのではないかということでございます。ほかにも考えられる構成があるのではないかということであれば,御指摘いただければと思います。
○窪田委員 1点だけ補足で,私自身も定見があって特に申し上げているわけではないのですが,ただ,今回,遺留分制度に関する見直しの中で,今まで現物返還で遺贈とか,そういう行為自体の効力を否定するというのに対して,むしろ,その効力自体は全面的に肯定した上で金銭債権化するという場面では,遺言の趣旨をより実効化するとか,そういう説明が可能なのだろうと思うのです。ところが,相続分の指定というのはある特定のものがいくということではなくて,単に相続分が本来の法定相続分とずれる形になったということだけなのだとすると,本来,修正されるべきなのは相続分の指定の割合,それが既に現在の見方にものすごく強く拘束されているのかもしれないのですが,特定の遺贈であるとか,そうしたものとは少し性格が違うのかなという気もしたものですから,どうなのかなと思ったということです。
○潮見委員 窪田委員がおっしゃっているのも分からないではありません。つまり,相続分指定の減殺といった場合に,今の裁判例は遺留分減殺請求という枠を採っていますけれども,学説の中では,これは遺留分減殺請求の問題ではなくて相続分指定の効力,正に一部を無効にするかどうかという,そういう枠組みだともいえます。そういうときに窪田委員のお話をそん度すれば,そもそも,相続分指定というものを遺留分減殺という枠に乗せるのではなくて,むしろ,相続分指定の効力という観点から捉えることもあり得るのではないかという方向にも進むと思います。
  更にその上で,これを遺留分減殺請求の問題,ここでの問題だとした場合には,金銭債権か,現物返還かというよりは,むしろ,先ほど西幹事がおっしゃったところにつながるのですが,基本的に今回の改正の方向というのは,正に遺留分減殺請求といった場合に請求をする固有の権利者,その人の固有の権利として一定のものの交付請求権を認めてあげよう,それが基本は金銭請求権であると,こういう枠で考えていき,更にそうであるならば,その後の処理の問題についても,基本的に遺産分割とは違う枠組みで考えていこうということに進んでいくというものです。そうであれば,ここのA説か,B説かといった場合にはB説ですかね,基本的にB説の枠を採った上で,更にそこに現物返還というのに類似するものをかぶせるとしたらどうなるのかという方向に進んでいくと思うのです。
  他方,こういう遺留分減殺請求というものをそうではなく,何らかの形で将来,遺産共有あるいは遺産分割というところにも進み得る余地を残すということであれば,A説の方向に進むのではないかと思います。ただ,A説を採った場合には,先ほどの性質論ではありませんけれども,今回の改正によって減殺請求権を固有の請求権という形で基本的に考えていこうと構成することと,矛盾あるいはそごするような枠組みがここで予定されることにはなりはしないかと思います。もちろん,それは現在の裁判例の下での相続分指定の減殺とはかなり違ったことになりますけれども,基本的な出発点が変わる以上はやむを得ないというのであれば,A説ではなくてB説だというのも私はあっていいと思います。
○堂薗幹事 私が申し上げようとしたのも,似たような話になるのかもしれませんが,今回の改正は原則として遺言の効力を維持した上で,金銭で遺留分に相当する価値を返せるのであれば,遺言の効力自体はそのまま維持しようという発想だと思いますので,それを相続分の指定について当てはめると,素直に考えれば,遺留分を侵害するような相続分の指定であっても金銭で填補できる以上は,遺言をそのまま有効なものとして維持した上で,受贈者側で金銭での返還が難しい場合には現物返還を認めるということですので,その場合の現物は相続分の譲渡ということになるのではないかという整理をしているところでございます。
○潮見委員 1点だけ,時間的に遅れてしまったのかもしれませんが,相続分指定という制度を仮に残して遺留分を害することができないということであれば,別に減殺請求の枠に乗せなくてもいいという一部無効という処理,そういうものも個人的にはあっていいのかなとは思うところがあります。それ以上は申し上げません。
○大村部会長 先ほどの金銭債権原則化という話もありましたけれども,これまでの議論を踏まえてどんな形で御意見に応ずることができるかということを含めて,説明等をお考えいただきたいと思います。そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,積み残し分につきましては以上で御意見を伺ったということにさせていただきまして,本日の固有の検討部分に入らせていただきたいと思います。本日の分は部会資料21,「積残しの論点について(2)」でございますが,第1が10ページまで,そして,第2が11ページから始まりまして25ページまで,第3が26ページからその後ということで3項目がございますけれども,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして御意見を頂き,これが終わったところで休憩を入れさせていただこうと思っております。まず,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」という部分につきまして,事務当局の説明をお願いいたします。
○宇野関係官 それでは,部会資料21,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」について御説明いたします。
  まず,短期居住権の点ですが,本部会資料では,配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合,短期居住権の存続期間を,建物の所有権を取得した者から明渡しの催告を受けた時から6か月を経過するまでの間としております。これは,相続開始から相当期間経過後に遺言が発見された場合などに,配偶者にそれまでの使用利益の支払義務を負わせるのは酷である一方,居住建物の所有者は無償で所有権を取得したわけですし,遺言が発見されるまでは権利者であるとの認識もなかったのですから,それまでの使用利益を回収できなくても不測の損害を受けるわけではないことを理由とするものです。この点につきましては,第15回部会で同様の規律について肯定的な指摘がある一方で,居住建物について遺産分割が行われる場合とのバランスについて疑問があるとの指摘もありましたので,改めて御意見を頂ければと思います。
  また,第15回部会では,短期居住権に第三者対抗力を付与することを検討してみてはどうかとの指摘もございました。しかし,短期居住権は判例で認められた使用借権と同様の性質のものとして構成しておりますので,第三者対抗力を付与するのはその基本的な性質にそぐわないものと考えられます。ただし,配偶者に居住権を認める以上は,第三者対抗力までは認めないとしても,その使用利益の回収は認めるのが相当であると考えられます。
  そこで,本部会資料では,短期居住権は原則的に債務者との関係でのみ効力を有する法定債権であることを前提としつつ,短期居住権の効力を当事者に限定する旨の規定は置かないこととしております。そうすることで,配偶者以外の相続人が建物持分を失った場合,配偶者が当該相続人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求ができることについて解釈上の疑義がなくなる上,悪意の第三者が当該建物を譲り受けた場合には,債権侵害による不法行為が成立すると解する余地もあると考えられます。ほかに,部会資料5ページ以下の補足説明3と4に記載のとおり,やや細部にわたる修正を加えてございます。
  次に,長期居住権についてですが,まず,第15回部会で指摘を頂きましたとおり,民法第995条の適用除外の規定を設けることとしております。また,長期居住権が設定される建物の所有者に,長期居住権設定の登記義務を負わせることとしております。この点につきましては,第15回部会で,一般的に配偶者による単独申請を認めるのは,不動産登記法の基本的な考え方と整合しないのではないかとの指摘があったところです。長期居住権は建物の所有権を制限する性質を有する権利で,その登記は所有権に係る登記をした上で行うこととなると考えられます。その意味では,居住建物の所有者が登記義務者になると考えるのが素直ですので,配偶者に建物所有者に対する登記請求権を認めることとしております。そのほか,こちらも部会資料9ページ以下の補足説明3のとおり,やや細部にわたる修正を加えてございます。
  以上の点につきまして,御審議いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  配偶者の短期居住権,長期居住権につきまして,前者につきましては存続期間の問題と,それから,第三者との関係の問題が主な問題である。それから,後者につきましては長期居住権の登記手続について,配偶者にどれだけのものを認めるかということについて主として御説明がありました。その他の細かい点もございますけれども,一括して御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。
○潮見委員 基本的には方向については理解したつもりです。その上で,ちょっとだけ私の感覚がずれているのかどうか分からないという,財産法の観点からの御質問です。第三者との関係に関わることですけれども,4ページの「そこで」というところで㋐と㋑がありますが,㋐の場合の損害額や期間をどのように算定するのですかというのが,第一の質問です。
  それから,㋑の方ですけれども,意見と質問があります。まず,意見の方は㋑のところの本文で書かれていることと(注2)に書いていることとの関係です。(注2)の方では,伝統的にはこれこれ,これの考え方があったが,最近の考え方ではこれこれ,これの考え方があり,多分,これもそん度すれば,これこれ,これの最近の考え方によるのであれば,こういう債権侵害の不法行為の成立を認める解釈論もあり得るとお書きになられています。
  それで本文を見て㋑を見たときに,若干,違和感を覚えましたのは,本文で書かれている悪意で当該建物を譲り受けた第三者との関係では,配偶者に対して債権侵害の不法行為が成立すると解釈する余地があるという,この説明というのはむしろ伝統的な第三者の債権侵害論をここに書いているにほかならないと私は理解しました。つまり,故意あるいは悪意の者との関係で不法行為責任が成立するという枠組みがここに表れているのではないかという感じがしました。私自身も最近の考え方を支持している人間ですが,最近の考え方がこのような考え方であるという趣旨でお書きになられているとしたら,少しここは工夫していただきたいなと思いました。これが意見です。そうしないと,債権総論のところの説明とそごが生じます。
  それから,質問の方ですが,㋑の場合も損害は何かという話もありますし,それから,お尋ねしたいのは配偶者以外の共同相続人が,例えば兄弟姉妹相続で一番年をとった方が住んでいるとかいうような場合に同様の状況が生じたとき,第三者の債権侵害という枠組みが生じるとお考えなのかどうか。今回の提案ですと,この部分は使用貸借という枠で処理するという前提ですよね。
  そうなると,配偶者以外の共同相続人が居住しているような場合に同様の目的建物の処分がされた場合,しかも,その人が本文をそのままいかして言えば悪意であった場合,その場合に債権侵害の不法行為は成立するのかしないのか。するとしたらなぜであり,しないとすればなぜなのか。それから,ついでにもう一つ,普通一般に売買は賃貸借を破ると言われています。そういうときに,賃貸目的物の賃貸不動産の買主や譲受人が賃貸借について悪意で当該不動産を買い取った場合には,債権侵害の不法行為は成立すると考えておられるのか,おられないのか。ここに特殊な債権侵害の不法行為の損害賠償という枠組みなのか,その辺りを知りたかったものですから,質問させていただいた次第です。
○宇野関係官 何点かございましたので,全部について完全に御説明できるかどうかというところはございますけれども,今回このように書かせていただいた趣旨ですけれども,元々,一つ前の部会資料のときに短期居住権の効力について,原則的な類型の場合でいえば,相続人の間でしか効力を有さないというような規律を設けるということを提案してございました。
  それに対して,このような規律を置いてしまうと,そもそも,債権なのだから債権関係にある者の間でしか効力を有さないのは当然であるにもかかわらず,そういう規定があると,逆に,例えば第三者との関係で不法行為が成立しないと,この場面では特にそう言っているかのように読めるというような御指摘もあったので,その部分を今回削除したというところの理由の説明で,ここを書かせていただいているものでございます。ですので,殊更,この場面で特にこういう法定債権だから,こういうような形で特殊の債権侵害の類型を設けたというよりは,元々,そういう議論の経緯がございましたので,前回提案しておりました相続人間の間でしか効力を有さないという規律を削ることの説明として,このように書いておるものでございます。
  それともう1点,先ほど損害がどのようになるかというようなお話だったかと思うんですけれども,基本的には,使用貸借をしていた場合に,その使用貸借でやらなければいけない債務を履行できなくなった,それが債務不履行になる,使用借人に対して損害賠償義務を負うという場合と同じではないかと,それがこの場合でいえば,原則的なパターンの場合でいえば遺産分割時まででございますし,そういうような期間の定めがあった使用貸借について持分を譲渡してしまったりして債務を履行できない状態になった,その場合に債務不履行としてどの程度の損害賠償責任を負うのかということと,そこは違わないのではないかと,こちらとしては整理しております。
○潮見委員 1点目については,そうであれば,どうしてそうお書きにならないのかということです。こう書けば,これができると積極的な意味として捉えてしまう可能性があるように思われます。そのときには,一体,その後,どのような場合に,どのような要件の下で,どのような効果として,どれだけの損害賠償が請求できるのか,そういうことが問題になり得るのではないかというか,そういう捉え方をされても仕方がないと思います。
  特に債権侵害の不法行為というものは,お書きになられているとおりで,なかなか,認められないというのがこれまでの多くの人たちの理解ではなかったかと思います。そうした中で,積極的にここに債権侵害の不法行為が成り立つように,あり得るように思われると書いたら,従前の債権侵害の不法行為論を前提にこれを読みますと,むしろ,積極的にこれができるという方向にも読み取られかねないところがあるので,若干,そこは御注意された方がいいと思います。
  それから,損害賠償の方ですけれども,普通の使用貸借の場合には規定もありますし,何とかなるのですが,今回の場合は遺産分割前という区切りをしているわけです。遺産分割がいつ行われるかというのは,まだ,将来の話という形で残る場合があります。典型的にいつ終わるかなんていうことは,恐らく遺産分割の場合に判別できないのではないかという感じがいたします。そういう場面で仮に紛争が起きたときに,どこまでの期間の相当額の賠償を認めるのかということについては,そう単純にいかないのではないかという感じがします。私の意見ですから,答えていただく必要は全くありませんから。
○堂薗幹事 ただ,損害がある方でいいますと,他の相続人が建物の持分を譲渡したとしても,配偶者も持分を持っていますので,基本的に居住を続けられることにはなりますが,第三者との関係では,持分に応じた使用利益を払わなければいけないことになりますので,実際,第三者に払った分については損害として賠償請求ができるということになるのではないかと思います。
○潮見委員 現実に払った分を損害と見ているんですか。将来の分は置いておくと。
○堂薗幹事 将来の分は,将来請求をする利益があるかどうかということだろうと思いますが,少なくとも,第三者に支払った分については,相続人に対して損害賠償請求をすることができるだろうと,そういう趣旨でございます。
○大村部会長 潮見委員の最初の根本的な御疑問は,ここに債権侵害についての特殊な法理を樹立する意図があるのかどうかという点だと思いますが,その意図はないというお答えでしたので,そのことが分かるような説明をしていただくことにしたいと思います。従前の解釈の延長線上で考えるということで,何か特別な方向付けをしているというわけではないということが分かる例示にするということでよろしいでしょうか。
○潮見委員 結構です。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○中田委員 今のと関連する点が一つと,そのほかに短期居住権について二つ御質問がございます。
  関連する点というのは,今,潮見委員の御質問に対するお答えの中で,損害は何かというのは使用貸借の債務不履行に基づく損害だとおっしゃったんですが,それは使用貸主の債務ですよね。そうすると,賃貸人の債務と使用貸主の債務は内容が違っていると思うんですけれども,その場合の損害をどうお考えなのかということが関連する質問です。
  それから,別の質問は,今回,短期居住権の性質を使用貸借の規律でそろえたということで非常に明快になっていると思うのですが,第1の1の(1)ウの④,2ページの真ん中より下辺りですが,そこで「相続開始の後に居住建物に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた損耗及び経年変化を除く。)を原状に復する義務」と,こうありますが,これは改正民法の下では賃貸借の規律であって,使用貸借の規律ではないわけです。このことについての議論はあったんですが,結論的には④で私はいいと思っているんですけれども,使用貸借にそろえたという御説明との関係で,ちょっと舌足らずではないかと感じました。
  それから,最後は先ほど差し上げた御質問との関係で,単に確認的なことだけなんですけれども,配偶者以外の相続人に全て相続させるというような遺言があった場合に,配偶者が遺留分減殺請求をしたとしても,短期居住権は認められないという理解でよろしいのかどうかです。
○堂薗幹事 最後の御質問は,配偶者以外の相続人に全財産を相続させる旨の遺言がされた場合に,1の(1)の①では要件に該当しないのではないかという御趣旨ですか。
○中田委員 ここでは遺産分割が前提となっていて,それまでの間は認められるということですよね。それと遺留分減殺請求で内容を金銭債権化するということとの関係です。
○大村部会長 ここで想定している場面から外れてしまうということをおっしゃっているわけですね。
○中田委員 単に確認だけなんですけれども。
○神吉関係官 一応,配偶者以外の人が建物を取得した場合にどうなるのかというところで,2ページ目の(1)の①で別の規律を設けております。この規律によると,全財産を第三者に遺贈する,若しくは特定相続人に相続させる旨の遺言をした場合には,配偶者以外の者が遺言によって建物所有権を取得した場合に当たるんだということで,この明渡し猶予期間ということになるかと思いますが,6か月間は無償で使用できることになるかと思います。
○堂薗幹事 御質問の場合に,どの規律で保護されることになるのかという点につきましては,御指摘を踏まえて検討したいと思います。それ以外の点につきましては,使用貸借では,貸主は無償での使用を受忍する義務があるということだと思いますが,本方策においても,他の相続人は同様の義務を負うという前提です。すなわち,他の相続人が持分の一部を第三者に譲り渡した場合には,その第三者には居住権の効力は及びませんので,第三者からはその分の求償請求を受けると,要するに使用利益の請求を受けることになりますので,そういった使用利益の請求を受けること自体が債務不履行によって生じた損害ということになり,債務不履行の内容は,無償での使用を受忍する義務に違反しているという理解です。
  それから,使用貸借についての債権法改正とは違って,通常損耗なども一応原状回復の対象から除いている点につきましては,そもそも,短期居住権では非常に使用期間が短期間に限定されているというところもございますし,現行法の下で,判例により使用貸借契約の推認がされる場合も,通常損耗の原状回復まで負わせることということは恐らく考えていないのではないかと思います。また,そもそも,遺産分割の場合には,経年変化等により,相続開始時の評価額と遺産分割時の評価額が違っている場合も,遺産分割時の財産評価額を基準に分配するわけですので,そういった意味では,遺産分割においては経年劣化分については当然,相続人が全員で負担するというのが当然の前提になっているのではないかというところもございまして,ここでは債権法改正の使用貸借契約とは違って,当然に原状回復の対象から除くというような形にしているということでございます。
○中田委員 ありがとうございました。
  第1点というか,損害論についての御説明は理解いたしました。それから,第2点についても結論自体は,私はもちろん,これでいいと思っておりますが,ただ,御説明の中で使用貸借にそろえたというような書き方をしていらっしゃるので,ただいまの堂薗幹事の御説明をメンションしておかれた方がいいのではないかなと思った次第です。それから,第3点については配偶者と,それからもう一人,相続人がいてもう一人の相続人に全財産を相続させるとした場合にどうなるのかという点を中心に,お教えいただければと思います。
○堂薗幹事 配偶者とほかの相続人しかいなくて,その相続人に全財産を相続させるという前提であれば,(2)の①で読めるのではないかとは思うんですが,先ほど私が申し上げたのは,配偶者以外に複数の相続人がいる場合に(2)になるのか,(1)になるのか,検討する必要があるのではないかというところでございますが。
○中田委員 多分,私がすごく初歩的なことを理解していないからの誤解だと思うんですけれども,配偶者ともう一人の相続人がいて,もう一人の相続人に全ての財産を相続させるという遺言があって,配偶者が遺留分減殺請求をしたというときの関係がどうなるのかというのがよく分からなかったということです。
○堂薗幹事 特に遺留分減殺請求について金銭債権化をし,例えば現物返還で相続分を譲渡したような場合には,別途遺産分割が必要な状態になるので,その場合に(1)のような規律に戻るのか,それとも,そうではないのかという御趣旨の質問かと思っておりました。いずれにしても,先ほどのB説のような考え方を採って相続分について現物返還をした場合には,遺産分割が必要になりますので,その辺りとの関係を整理する必要があろうかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでしょうか。
○増田委員 もっと簡単な質問なんですけれども,今回,建物の使用及び収益となっており,「及び収益」が加わっております。一方で既に,短期居住権の及ぶ範囲は居住していた建物部分のみ,長期居住権の場合は居住していた建物全部だということが確認されているところです。
  通常,不動産について,単に収益といった場合には,賃料のことをいうことが多いと思うんですが,そうなってくると,短期居住権の方で収益を得られるケースというのはほとんどないだろうと,長期居住権の方は収益不動産であれば,その収益性も権利の評価に含まれるので,それは入っても当然であろうと思うのですが,そこのところを誤解がないようにするには,短期の方は「収益」を削ってはどうでしょか。使用貸借の場合は所有者との合意によって収益権があるかどうかは,所有者が収益権を与えるか否かによるわけで,そこは契約に基づくものですが,この場合は契約に基づかないわけだから,必ずしも使用貸借と同じ文言を使う必要はないだろうと思います。デフォルトとしては短期の場合は収益権はないという理解だと思いますのでいかがでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,建物ですので,そもそも第三者に貸すという形式以外での収益というのは,実際上は考えにくいのだろうと思います。その建物で仮に営業していても,それは基本的には建物の収益とは言わないのではないかと思いますので,実際上は御指摘のとおり,特に短期の場合に収益をするということは,第三者に貸す以外には考えにくいのではないかと思っております。他方で,使用貸借でも基本的には第三者には貸主の同意がないと使用収益させることはできないわけですが,一応,権限としては収益が入っているので,短期居住権においても,あえてそこを除くまでの必要はないのではないかという理解でございます。御指摘の点については,法制上の観点も含めて,検討させていただければとは思います。
○宇野関係官 判例の読み方にも関わるかもしれないので,可能であればこの場で御意見を頂きたいと思うのですけれども,基本的に,短期居住権は,大部分が判例法理を明文化したという側面が恐らくあって,判例法理の中では使用貸借契約を推認するというような手法を採っていますので,ここで使用貸借の要素の中に使用と収益が入っている中で,短期居住権についてはその収益の部分を認めないということになりますと,これまで判例上で認められてきたルールから,多少後退している感もなくはないというところもあります。ただ一方で,元々,使用貸借を推認した判例の中で,どこまで実際に使うことを想定していたのかというところの問題もあろうかと思いますので,短期居住権について配偶者ができることの範囲を使用だけにしておくべきか,あるいは使用貸借と並べて,現実的に具体的に余り想定されないというのは増田委員の御指摘のとおりだと思うんですけれども,そこは使用貸借と並べて使用及び収益ということにしておくかということについては,是非,御意見を頂ければと思います。
○大村部会長 何かありましたら伺いますけれども,いかがでしょうか。問題の御指摘は,増田委員のおっしゃったところで明らかになっているかと思いますけれども,あとは書きぶり,特質をどう考えるのかということで,何かございますか。
○増田委員 債権法の考え方でも,よく一般人にも誤解がないようにと,法律家だけが読むものではないとかいうような考え方が示されているところですので,ここに収益を入れるということは何か人に貸してもいいのではないかとか,そういう誤解を生じかねないのだろうと思いますし,そこはいかがでしょうかということです。御検討いただければ結構です。
○大村部会長 御指摘を踏まえて,法制上の問題も含めて検討いただくということにさせていただければと思います。ありがとうございます。
○浅田委員 素朴な質問で,また勉強不足で恐縮ですけれども,第三者対抗要件に関してです。先ほどの増田委員の御発言の中の,長期居住権においては賃貸借を設定することが考えられるということに触発されての質問であります。仮に長期居住権を設定し,そして,その一部の建物について第三者に賃貸した場合に,その賃貸借に関しては借地借家法の引渡しによる対抗力というのは認められるのでしょうか。つまり,長期居住権だけの話であれば,第三者対抗要件については,長期居住権というのは借地借家法上における借家権ではないと考えておりますので,まさしくここで規律される登記が,対抗力の有無に関する一義的な基準だと理解しました。それが長期居住権の上に賃貸借が乗った場合に,賃借権の保護と譲受人等の物権を有する者との関係で,どういう規律関係になるのかというのが今は分からないものですので,せっかくの機会ですからお考えがあれば教えていただければと思います。
○堂薗幹事 その場合,当然,建物所有者の同意を得て賃貸借しているということになると思いますが。
○浅田委員 それとは限らないと思いまして。
○堂薗幹事 同意を得ていない場合も含めてですか。
○宇野関係官 長期居住権について,長期居住権者がその建物について賃貸借でいえば転貸みたいな形で賃借権を設定するということだろうと思いますので,長期居住権の規律でいうと,居住建物の所有者の承諾を得なければ,長期居住権を譲渡し,又は第三者に居住建物の使用又は収益をさせることはできないという形になっておりますので,適法に賃貸借が締結されているということは,その前提として建物所有者の承諾があるということになるのではないかと思っておりまして,そうであるとすると,そちらは普通に適法に賃貸借契約が締結された場合でございますので,検討はしたいと思いますけれども,借地借家法の適用はあるということでもよいのではないかと第一感としては思っています。
○浅田委員 ありがとうございます。第三者にとって転貸借が現れた場合に,取引の安全性がどれだけ確保できるのかということの整理をしたかったという趣旨でございますので,ありがとうございました。
○大村部会長 借地借家法の適用があるということの意味がどういうことになるのかということも含めまして,必要な検討をしていただければと思いますけれども,それで,浅田委員,よろしいですか。
○浅田委員 はい。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○石栗委員 長期居住権の規定は,遺産が建物の持分であった場合も特に区別せずに適用されるのでしょうか。実際に,建物持分が遺産であった場合に,当事者間で長期居住権の設定をする合意をしたり,あるいは,審判で長期居住権の設定をしたりするような状況があり得るのかという問題はありますが,規定自体は,建物の持分であったとしても,適用されるような規定を置かれるということでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 そこは要検討ではあるんですが,こちらとしては長期居住権というのは無償で使用できる権利でありながら,建物全体について対抗力があって,排他的な使用権を取得できるというところに存在意義があると考えておりますので,そういった意味では,建物の持分について長期居住権を設定するということでは,その趣旨を実現できないので,そこは対象外とした方がいいのではないかと考えているところでございます。
○石栗委員 分かりました。ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 今の御質問と若干,関連する質問です。今回の居住権の改正が果たして本当に配偶者の保護になるのかという問題をずっと考え続けておりまして,ワンパターンの危惧で恐縮です。1ページ目のアの①のただし書も,また,これもますます配偶者に不利になるように思います。被相続人が自分の妻には死ぬまで住まわせたいけれども,妻の死後,財産が妻の側の血族にいくのではなく,自分の側の血族の方に流したいという一般的によくあるパターンの希望ですが,そのニーズが可能になればいいなという発想で改正の経緯をみておりました。長期居住権を妻に認めるという遺言をもし仮に残したとしますと,その結果,配偶者は長期居住権を得るわけですが,長期居住権は随分と高く付く計算になりました。そうなると配偶者が結局は遺留分減殺請求を受けて,払い切れずに出ていかなくてはならなくなることがありそうです。ここでまた,当初の短期居住権の期間は少なくともただで住めるのだろうと思っていたのですが,それもなくなってしまうとなりますと,ますます,長期居住権を得た生存配偶者は,非常に高価なものをもらったことになってしまうように思えます。
  そうだとすると,ほかの相続人と共有に,例えば夫側の甥と一緒の共有の相続にしておく方が,実際には配偶者がそのまま住み続けられる期間が長いでしょう。遺産分割が成立するまでもめて時間がかかったりしますから,半年よりもずっとかかったりすることになりますと,トータル,その方が被相続人としては配偶者をそのまま住み続けさせられることになります。ただし,そうすると配偶者の持分にした部分は配偶者の側の血族にいってしまい,被相続人の希望するニーズを実現することができなくなってしまいます。
○堂薗幹事 もちろん,長期居住権を配偶者に遺贈したことによって,ほかの相続人の遺留分が侵害されるというところまでいくと,そういう事態が出てくると思いますが,その点は,遺留分制度において最低限の取り分が保証されている以上はやむを得ないのではないかと考えております。それを超えるような保護,要するに遺留分権利者の遺留分を侵害するような場合まで,配偶者の保護を図るというのは困難ではないかということですので,このただし書があることによって,配偶者の法的地位が低くなるということにはならないのではないかというのがこちらの考え方でございまして,飽くまでここは長期居住権が取得できる以上は,短期居住権を認める必要はないだろうという趣旨でございます。
○水野(紀)委員 所有権つまり底地権を血族相続人に与えておいて,そして,その上に配偶者が生きている間,住めるというようなシチュエーションで,長期居住権の値をすごく安くカウントできる制度を考えていたのですけれども,賃借の市場価格で居住権を計算しますと,所有権の価格よりも居住権の価格の方が高くなる計算にさえなってしまいそうで,その結果,当初に考えていたのと逆転現象が起きるような気がするのですが。
○大村部会長 御指摘は先ほどの中田委員の御指摘とも関わっているのだろうと思います。遺留分減殺請求の方について一定の手当てをしたことによって,配偶者の保護が弱まりはしまいかというのが出発点なのではないかと思います。今,事務当局の方から御説明がありましたけれども,1ページの第1の1の(1)ア①のただし書は,この場合にまで特に保護する必要はないだろうということで書かれていますが,むしろ,その場合もありはしまいかということを意識的に検討する必要があるのではないかという御指摘と受け止めていただいて,御検討いただくということかと思って伺いました。
  委員・幹事からは,配偶者を保護するというところから出発したのにもかかわらず,そうではない結果が出てくるのではないかという御指摘が幾つか続いておりますけれども,今回,遺留分減殺請求の問題を併せて検討していて,そのことによって遺留分権利者の地位が弱まっているわけです。およそ遺留分権利者の保護が弱まるということと,共同相続人間で配偶者の地位がより厚く保護されるのかという問題は区別して議論する必要があるように思います。それを組み合わせた結果として,現象としては配偶者の保護が弱くなったように見える場面が出てきますけれども,これはこの部会の中で遺留分権利者の地位を従前よりも弱めるという判断をした結果として表れていると捉え方になるのかと思って伺っております。
  ほかはいかがでございましょうか。
○西幹事 非常に初歩的な質問で恐縮ですが,長期居住権のところで8ページの(3)の①のところですけれども,長期居住権がある種の債務不履行のようなことがあった場合には消滅するという規律になっています。消滅するということの基本的な意義・効果がまだ十分に理解できていないのですが,例えば終身とか10年の長期居住権が設定されていたけれども,(2)のアの規律に違反したようなことがあった場合には,例えば2年目でも消滅してしまうと。
  そうすると,最初の遺産分割のときには終身分あるいは10年分などの長期居住権を取得したものとして相続分が算定されているわけですけれども,2年で消滅した場合でも,あとの分は返ってこないというのが消滅の意味ということになるでしょうか。例えば賃貸借の場合には債務不履行で解除された場合には,それ以降は払わなくていいということになりますので,そうなると,こちらの方がかえって不利な気がするのですけれども,消滅の捉え方としては,そういうことでよろしいのでしょうか。つまり,終身あるいは25年などの期間が予定されていた場合でも,一切,それについては1円も返ってこないということでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 そういう義務違反を理由に消滅請求が認められた以上は,それでやむを得ないのではないかというのがここでの考え方ということでございます。
○西幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  長期居住権の登記について事務当局の方から問題提起がございましたけれども,その点については何か御意見はございますでしょうか。
○沖野委員 意見ではなく,確認させていただきたいのですけれども,一つは登記請求権ということで登記義務が居住建物の所有者にあるということです。このときに単独ではなくて共同申請になるということなのですが,長期居住権の取得というのが審判によって確定したというような場合には,ただ,それをもって登記ができるということになるのでしょうかというのが一つです。
  それから,前からあったのかもしれませんが,居住建物の所有者というのが確定しない限りは,およそ登記なり,何らかの保全的な処置というのはできないのでしょうかということで,特に被相続人の処分行為によって長期居住権自体は取得することが決まっていると,場合によっては所有者も決まっているけれども,その人は先に亡くなってしまったとか,いろいろな場合があるかと思うんですけれども,とにかく長期居住権を取得するということは一応,被相続人の処分によって決まっているんだけれども,誰が所有権を獲得するかについては決まっていなくて,遺産分割まで結構,長くかかったりというようなときには,長期居住権についてその対抗力を備えるなり,あるいは保護のための措置をとるということはできるのかできないのかということでして,それで,後の点について関連するかもしれないと思いますのは,先ほどの水野(紀)委員の御指摘の短期居住権について,ただし書で長期居住権を取得した場合はこの限りではないというのは,長期居住権を取得するというのが被相続人の処分によって決まっているときは,最初から長期居住権を取得しているからということなんですが,確かに御指摘のように無償性かどうかという点が違うので,無償のことを考えてというときに,例えば長期居住権の取得を遅らせるとかいうことになると,今度はその保護のための措置というのがいつからとれるかということが問題になりますので,併存して走るならばまだいいんですけれども,その点も考える必要があるのかなと思いました。
  最後の点は感想なんですけれども,登記の関係について例えば所有権については遺産共有の段階で共有の所有権登記なりをし,長期居住権は登記するというようなこともできるのか,建物所有者の意義かもしれませんけれども,具体的に何かお考えのところがありましたら教えていただければと思います。
○堂薗幹事 登記のところは民事二課とも相談の上で,最終的に決めるということになりますので,十分な検討ができているわけではありませんが,基本的には所有者が登記義務者になるということになりますと,先ほど御指摘がありましたような事例で,建物については遺産共有だというような場合には,相続人,要するに共有状態にある相続人が登記義務者となって,長期居住権の登記をするということはできるようにする必要があるのではないかと思います。
  また,長期居住権設定の審判をしたときに,それを持って行って登記できるようになるかどうかという点については,その審判の中で建物所有者の登記申請の意思表示を擬制するような文言が主文の中に入っていれば,問題なくできるんだと思いますし,そういう形にしないと登記できないのかどうかという辺りについては,少し検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,幾つか問題点の御指摘がございましたので,その点につきましては更に御検討いただくということにいたしまして,第1につきましては御意見を頂戴したということにさせていただきたいと思います。
  ここで10分ほど休憩しまして3時半に再開したいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきます。
  部会資料21のうち,第1につきまして御意見を頂きました。第2,第3と大きな項目で二つ残っておりますけれども,第2の「遺産分割等に関する見直し」の部分につきまして事務当局より御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第2の「遺産分割等に関する見直し」について御説明させていただきます。
  まず,4の「一部分割について」を御説明いたします。
  こちらは,部会資料におきましての〔参考〕として,部会資料18において掲げていた考え方も記載しておりますが,従前の提案に対しましては消極的な御意見が多かったことから,今回の部会資料においては,これまでと少し異なる考え方を提案しております。
  すなわち,当事者が遺産の一部分割をすることができること,また,協議ができない場合に,裁判所に対して一部分割の請求をすることができることについて,それぞれ,明文上の規定を設け,ただし,その一部分割をすることによって共同相続人の利益を害するおそれがあるとき,すなわち,特別受益等について検討し,代償金,換価等の分割方法をも検討した上で,最終的に適正に遺産分割を達成し得るという明確な見通しが得られない場合には,一部分割の請求をすることができない,その請求を受けた裁判所としては却下の審判をすること,こういったことを提案しております。
  基本的には現在,実務上,行われているのではないかと思われる一部分割を明文化したものであると考えておりますが,16ページの3においても記載しておりますが,幾つかの懸念点もあるように思われます。この点についてどのように考えるべきか,御意見を頂ければと思います。
  引き続きまして,18ページ目の5の「相続開始後の共同相続人による財産処分について」を御説明いたします。
  前回の部会におきまして,相続開始後の共同相続人による財産処分が行われた場合の規律について提案を行いましたところ,相続開始後に共同相続人が財産処分を行ったことにより,処分を行った者が処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上,生じ得るという点につきましてはおおむね理解が得られましたが,そのような不公平を解消する方策を設けた場合の影響等につきましては,様々な御意見や懸念が示されたところでございます。
  確かに,このような方策を導入いたしますと,紛争が一定程度長期化・複雑化することは否定できないものの,他方で,相続開始後に遺産が処分された結果,生じる不公平を不満に思い,これを是正したいと考える相続人がいる場合に,民事訴訟による場合を含め,これを適切に救済する手段が見当たらないというのは問題であると考えられ,公平かつ公正な遺産分割を実現するため,何らかの救済手段を設ける必要性は高いのではないかと考えております。
  そこで,今回の部会資料におきましては,前回の部会において示された懸念を可能な限り解消する方向で検討を行い,前回の部会における提案から,処分された財産を遺産分割の際に遺産とみなすか否かは家庭裁判所の裁量に委ねる点,また,分割すべき遺産が現にない場合については,償金請求をすることができる旨の規定を設ける点で変更を加えております。
  以下,変更点について簡単に御説明いたします。
  まず,1点目の遺産とみなすか否かを家庭裁判所の裁量に委ねる点についてですが,従前の提案におきましては共同相続人が遺産を処分した場合に,その処分した財産については,遺産分割のときにおいて遺産としてなお存在するものとみなすという規定であったことから,処分された財産が共同相続人によって処分されたか否かによって遺産分割の対象となるかどうかが決まり,これについて争いがある場合には,その審理に時間を要することになりかねないという懸念があったところでございます。
  そこで,今回の提案におきましては,遺産としてなお存在するものとみなすか否かについては,家庭裁判所の裁量に委ねることとしております。これにより,共同相続人が処分したか否かについて争いがあり,その審理に時間を要するような場合には,必ずしも遺産分割の対象財産に含めなくてもよいということになりまして,その場合には,遺産分割時に実際に存在する財産を基準に,遺産分割における取得額を定めれば足りるということになるかと思います。したがいまして,共同相続人が遺産の一部を処分したことが当事者間で争いがない場合や,客観的な証拠によって明らかである場合などに,①の規律が適用されることになりまして,これについて争いがあり,証拠上,明らかでないようなケースにつきましては,家庭裁判所の裁量で遺産分割の対象財産に含めなくてもよいこととしております。
  なお,実務上の運用として,20ページの(注1)で東京家裁における運用ということで論文を紹介させていただいております。もちろん,当事者の同意がある場合ということで,本方策が対象としている場面とは異なりますが,実務上も処分された遺産も含めて遺産分割を行っている,又は既に取得したものとして相続分,具体的な取得額を算定しているという運用が行われているようであります。このように相続開始後に処分を行った者が不当な利得をしないように,公平な結果が得られるように実務上,調整が行われているように思いますが,その実現したい結果・価値観自体は今回の提案内容とさほど異なるところはないようにも思います。
  次に,22ページの3の「償金請求の規律」につきまして御説明いたします。
  今回の提案,ゴシック部分の②では分割すべき遺産が現に存在しない場合には,①の規律は適用しないこととしておりますが,共同相続人の一人が遺産の全部を処分した場合や,共同相続人によって遺産の一部は処分されたものの,この点については当事者間で争いがあり,家庭裁判所が①の規律により遺産とみなさず,現に存在する遺産のみで遺産分割の審判を行い,その結果,分割すべき遺産が現に存在しない場合,こういった場合を念頭に置いた規律となります。
  このような規律を設けることによりまして,遺産分割後に財産処分が判明したようなケースにつきましては①の規律は適用されないことから,更に分割すべきとみなされる遺産は存在せず,遺産分割を行ったが,更に事後的に遺産があることが判明したため,当初の遺産分割が錯誤により無効となるリスクがあるといった懸念は,解消されることになるものと思われます。
  ところで,①の規律を適用しないと相続開始後に特別受益のある者が遺産を処分した場合には,処分を行った者の最終的な利得額が多くなるという不公平が生じることがありますが,裁判所の裁量的な判断の結果によって,このような事態が生ずるのは相当ではないと考えられることから,②の後段において損失を受けた共同相続人が,その処分をした共同相続人に対して償金請求をすることができる旨の規定を設けることとしております。これによりまして,相続人間の実質的な公平が図られることになるかと思います。
  なお,①の規律を適用しない結果,損失を被った共同相続人が償金請求をすることができる旨の規定を設ければ,償金請求をすることができる金額はその損失額,すなわち,①の規律を適用した場合と適用しない場合との差額であることは明らかではないかと考えられるため,計算式等を法文の中に書き込む必要はないのではないかと,今のところ,考えております。
  以上につき,どのように考えるべきか,御意見を頂ければと思います。以上,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2の4の「一部分割について」,それから,5の「相続開始後の共同相続人による財産処分について」の2項目についてございますけれども,従前,頂きました御意見・御質問等を踏まえまして,一定の場合に一部分割ができる,それから,遺産がなお存在するものとみなすことができるという規律を設けるということが,基本的には提案されているかと思います。それに伴う幾つかの懸念や考慮事項もございますけれども,それらも含めまして御意見を頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○石井幹事 一部分割のところについて申し上げます。規律の明文化をされようという御尽力を多とするところですけれども,先ほどの御説明の中にもありましたように,懸念点として示されているところについては,正にそのような懸念があるのかなと考えております。具体的には,資料の16ページの3に懸念点として書かれているところですけれども,一部分割が何回か繰り返される可能性がありまして,その判断について審判でした場合に,審判は既判力がないため,それぞれ,判断が食い違うという可能性がありますので,法律関係が複雑化してしまう懸念があるというところについてはそのとおりかなと思います。
  もう1点,経済的な価値が低い財産について分割がされないまま取り残されてしまう懸念があるというところについても,正にそうだなと思うところでありまして,実際,実務上,遺産分割の事件でも価値のある財産をどう分けるかといったところでもめるということはもちろんあるんですけれども,価値が低いというか,管理コストが高いような不動産を誰が取得するかということでもめる事件というのが相当数あるという実感がございますので,一部の遺産を取り残すという事態が生じるという懸念は現実のものとしてあるのかなと思っております。
  特に今回の御提案ですと,③というところで一定の歯止めになるような規律がありますけれども,そういった経済的な価値が低いような不動産が残るという問題については,なかなか,③の規律でも制御し切れないというところがあると思いますので,こういった懸念については慎重に検討する必要があろうかと思っております。元々,一部分割の検討につきましては,可分債権を広く取り込んだ場合に,その問題点をどうやって解消するかといった観点で御検討されていたところでありますけれども,今部会では,そこの点については預貯金債権を基本的には対象とするという方向で議論が収束しつつあるのかなと思いますので,いろいろ,懸念がある中で一部分割に関する規律を設ける必要性というのは,必ずしも高くないのではないかなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○神吉関係官 先ほどの懸念点ということで御指摘があった点をどのように考えるべきかということなんですけれども,特に価値のないものが放置されてしまうのではないかという点について確かにそういう懸念もあるかもしれないなと考えております。現在,社会問題化しているところもございますので,そういった懸念はもっともだなと思う一方で,民法自体の立て付けは共同相続人はいつでも遺産の分割をすることができるとなっていますので,いつまでもしないこともできるという立て付けになっておりますので,そうすると,放置するということも一応,制度上,可能となっていると。
  そうすると分割協議をする場合に全部分割をするというのが大前提なのかどうかというのは,そこはいまいち,民法の立て付け自体はよく分からないなと思っているところなんですけれども,いつまでも分割をせず放置できるのであれば,分割をする場合には一部でも分割してもいいのではないか,また,実際に一部分割をやっている現状もあるのではないかというところで,制度としては十分あり得るかと思っているところでございます。ただ,こういった規律を設けることによって,社会問題がより進んでしまうのではないかとか,難しい問題が生じるのではないかということであれば,そこは皆さんの御意見を伺った上で,また,どうするかを決めるということになるのかなと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 私は,①の規定は銀行実務に関していうと,あった方がいいと思っております。昨年の大法廷の決定の中でも,分割協議を経ない支払は無効となったわけですけれども,全ての財産について全ての協議がなされるまで預金支払が出せないということであると,いろいろな問題が起こると思います。これについては,仮払い制度等の議論がされているわけですけれども,一方で,現時点における対応として,特定の預金に関して全共同相続人から払戻しの請求を行うという実務があります。これは,私どもは,対象遺産が一部であったとしても分割協議ができるという考えの下でやっております。御提案のこの規律は,それをある意味,法律上,明確化したということだと認識しておりますので,銀行にとっては,ないしは取引安全上からも,良いのではないかと思っています。一方で,先ほど石井幹事からの議論というのがあったわけでありまして,そこは形骸事象をどう手当てするのかというようなことだと思っておりますので,そこはある程度,両立し得る問題だと思っております。
  1点,技術的な質問ないしは確認なのですけれども,①の提案の中で「被相続人が遺言で禁じた場合を除き」という文言があります。これは,前回の部会資料18の文言に付加されたものだと認識しているわけですけれども,趣旨としては理解できるところではあります。私の質問は,仮に共同相続人の遺言の存在を知らなかった場合で一部分割をした,その後,遺言の存在が発覚して,そこの中に,こういう禁ずる文言があったという場合に,その効果についてはどうお考えなのか。ちなみに銀行においては第三者債務者の関係においては準占有者の弁済によって律されると思っていますので,必ずしもその議論と弁済の有効性とはリンクしないという認識はしておりますけれども,そもそもの規定趣旨を確認する意味で質問をしたいと思います。
○神吉関係官 御説明させていただきます。今回の御提案は現行の907条1項,2項を改正するという前提で案文を考えてみたということで,改める部分に下線を引かせていただいたということになります。現行の907条1項は,被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも協議で遺産分割することができるとなっておりますので,そこをそのまま記載したというもので,特に実質を変更するものではございません。
  二つ目の御質問で,遺言者が分割を禁じたにもかかわらず,遺言に反して分割をした場合その遺産分割の効果はどうなるのかという点については,現行法でもある問題かとは思います。例えば,被相続人が分割を何年か禁じるという遺言をしたときに,共同相続人が遺言の存在を知らずに遺産分割協議をした場合,どうなるのかという問題は今でもあるかと思います。現行法の解釈自体は確認はしていないのですが,そこでの解釈論とパラレルに考えることができるのではないかと思っております。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○増田委員 従前から,現在の裁判所の実務で一部分割がなされているかどうかについては,人によってかなり認識が異なる部分がありますが,私は現在,一部分割が積極的になされているという実態はないように思います。どちらかというと裁判所が全部分割の方を中心に考えられる結果,遺産分割全体の審理が遅延する傾向にあり,一般の国民にとって看過できないほどに進まないという事態が発生していると考えております。
  したがって,従前から部会資料18にあったような一部分割に賛成していたところで,部会資料18のような規定をできれば入れていただきたいところなのではありますが,少なくとも一部分割が明文で認められるということであれば,少しでも遺産分割の迅速化に資することになろうかと思いますので,このような一部分割が許容される旨の規定については是非入れていただきたいと考えております。また,浅田委員も言われたように最高裁の平成28年12月19日の決定により,全体の分割に先行して先に一部を分割する実際上の必要性は高まっていると考えられます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点につきまして,そのほかに御意見があれば,是非,伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○石栗委員 一部分割が行われているかどうかという点ですけれども,基本的には遺産性に争いがある財産を当事者の合意によって遺産の範囲から外すことによって,全部分割の形となっているという意味で一部分割でなくなっているだけで,このような場合には,現実的には一部分割が行われているものと思っております。裁判所としては,遺産分割事件の審理期間を短縮することについて,非常に一生懸命,努力しているところでもございますので,裁判所が全部分割を中心に考えているために審理が遅延しているとの御指摘は非常に残念なことでございます。
  特に③の規定がございますと,結局,ほかの財産の全部を評価した上で,一部だけの分割による影響があるのかどうかということを判断しなくてはいけなくなりますので,結果的には全体を審理の対象にするということになるのではないかと思います。③の規定の存在によってある程度の歯止めが掛かるというよりは,かえって当事者の御負担になるという懸念もあるのではないだろうかと思っておりまして,その点も御検討いただければと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  現状について正確な認識をするというのは,なかなか難しいところがあろうかと思います。そのことは踏まえて,今後,どういう実務が形成されるのが望ましいと考えるかという観点から,立法していくことになろうかと思いますが,それにしても出てきそうな懸念についてはできるだけ対応して,立法するならばするということかと思います。今,賛否両論を頂いておりますけれども,現段階でこういうことを考えるべきだという御指摘があれば,是非,承りたいと思いますが。
○窪田委員 全然,中心的ではない周辺的なことで大変に申し訳ないのですが,先ほど浅田委員から「被相続人が遺言で禁じた場合を除き」という現行法にも入っている部分ですし,遺産分割の禁止という規定はあるんですが,私自身が家族法とかを教えていてもよく分からないのは,遺産分割の禁止は一体何のためにあるのかということです。注釈民法などを見ても余りはっきりとしたことは書いてありませんし,その趣旨も余りはっきりしないというときに,本当にこれを維持する必要があるのかなという気がします。正しく分割保護の指定であるとか,そうしたものであれば,被相続人の意思を実現するものということで積極的な位置付けが可能なのですが,この機会に周辺的なのかもしれませんが,見直してもいいのではないか。というのは,そもそも,遺産分割に関していうと,むしろ,遅れるということが望ましくないという点が意識されるようになっているときに,あえて,こういうものを積極的に残す必要があるのかなという気がいたしましたので,余計な部分かもしれませんが,発言させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほど出ておりましたけれども,全体を早く分割するということを民法は求めているのか,求めていないのかということとも関わる問題かと思いますが,それも含めて御検討いただければと思いますが,そのほか,いかがでございましょうか。
○山本(和)委員 特段の定見があるわけではありません。若干,コメントですが,16ページの懸念で大きく二つのことが書かれていると思うんですけれども,上の方に書かれている手続的な懸念,既判力等が及ばないので新しい証拠が出てくるとか,異なる主張・立証がされるというようなこと,これ自体は訴訟上の一部請求でも恐らくあり得る問題で,一部請求で現在の理解はその部分についてのみ既判力が及んで,残部については既判力は及ばないとされていますので,最高裁は一部,それを信義則で調整しようというか,整合性を持たせようとしているのだろうと思うんですけれども,ただ,そこで一定の食い違いとか複雑化というものが発生するということは,あり得ない話ではないのかなとは思っています。これで決定的にそれで駄目ということになるのかなという印象を持ちました。
  後段の方に書いてあることは政策判断の問題かなと純粋に思います。ですから,その関係では今回の③の要件が純粋に私益保護というか,共同相続人の利益の保護ということだけが要件になっているので,ここに書かれてある公益的なことは組み込めない要件になっているということかと思いますが,もし解決というか,あれするのであれば,もう少し要件を緩めて,そういう公益的なものも取り込めるような要件を作るというのは,どうしても作るということであればあり得るのかなと。
  元々,前回の提案は結局,必要性の部分は詳しく書いてあったわけですが,ここで問題になっている許容性については相当と認めるときという,非常に茫漠とした表現が書いてあるだけだったわけです。今回は共同相続人の利益ということになっていると思うんですが,相当でないと認めるときは,その請求を却下しなければならないというのが,法的ルールとして成立するのかどうかというのはよく分かりませんが,もう少し,あるいは要件を緩ませるということは,選択肢としてはあり得るかなと思いました。コメントです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  賛否両論があるわけですけれども,ほかに何かございますか。
○村田委員 懸念点として16ページに書かれているところの後段について,今の山本委員の御指摘と基本のところでは共通する認識を持っておりまして,③の立て付けで正に今,私益と御指摘のあったことだけで判断すると,公益的な部分の障害を取り除くことができないという懸念があります。一部の経済的な価値の低い財産が放置される実態,すなわち,これによって恐らく相続人の方々は,この厄介なものに誰も手を付けず,ふたをしておくという形で,相続人間ではみんなハッピーなんだけれども,社会的には不利益な状態がそのまま放置されると,こういう実態はあり得るのかなと思いますので,それは必ずしもよろしくはないのではないかと思うわけですが,他方で,③の私益的な要件のところだけでも先ほど石栗委員が言われたように,なかなか,判断が大変な部分があるのではないかということとともに,公益的な観点からこの請求をとりあえず却下すべきか,認めるべきか,あるいは何がしか分割せよという辺りを裁判所で判断しろと言われても,これは的確に具体的な要件を書き込んでいただければできるかもしれませんが,先ほどの相当性といったような漠とした要件で裁判所に投げられると,これまた,今,苦しんでいるのと余り変わらないといいますか,一部分割がより勧奨されることになり得る反面,難しさはより顕在化するという面もあるのかなというような難しさを感じるところです。
○垣内幹事 私自身は,余りこの問題について確たる定見があるということではないんですけれども,今,少し話題になっておりました③のところの却下事由の内容に関してですが,これは少なくとも山本先生のようなお考えを採れば,もう少し広がるということになるのかもしれませんが,この資料に書かれている内容としては,飽くまで共同相続人の利益を害するおそれがあるということで却下できるということになっていて,資料でも説明されておりますように,基本的には①の規律によってみんなで合意をするのであれば,全部又は一部は自由に分割できるという意味では,完全に共同相続人が処分できる事項であり,その一部について申立てをしようが,全部についてしようが,それも通常の民事訴訟のような考え方でいけば,基本的に自由だということになりそうなわけです。しかし,③のところはそこを少し裁判所が公権的に介入するという道を認めているという,そういう意味では,処分権を制約するものだということになるわけですけれども,処分の制約という観点からいきますと,現行の907条3項の規定で,特別の事由があるときは全部又は一部について分割を禁ずることができるという規定も置かれているところですので,③の共同相続人の一人又は数人の利益を害するおそれがあるときという要件と,現行907条3項の特別の事由というのがどういう関係に立つことになるのか。そもそも,禁ずるというのは協議でもできないようにするということで,より強い介入だということはなるんだと思うんですけれども,もし,立法される場合には,その辺りについても整理しておくことが望ましいのかなという感想を持っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  賛否両論の間で,③の要件を工夫することによって着地することはできないかということで,何人かの委員・幹事から御指摘を頂いているところかと思いますけれども,更に何かございましたら,是非,お願いいたします。双方のお立場から御意見が出ていますので,うまくこれを折り合わせることができるかどうか,もう少し事務当局に御苦労いただかなければならないのかなと思って伺っていますけれども,それでいいですか。
  それでは,差し当たり,そのようにさせていただいて,もう一つが前回出て,様々な意見を頂戴したところでございます。18ページ以下の5の問題ですけれども,これも家庭裁判所が相当と認めるときは,当該処分された財産が遺産分割のときに遺産としてなお存在するものとみなすことができるという提案されていますけれども,この点につきまして,是非,御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。
○山本幹事 部会資料18ページの「基本的な考え方」で,「処分を行った者が処分しなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じ得るという点については概ね理解が得られた」とされている部分についてですけれども,計算上,確かに財産処分をした特別受益者の方が結果的に多くの額を得る場合があり得るということは,御指摘のとおりですが,これを法的な手当てが必要な不公平と見るかというところが一つ問題かと思っております。
  この点,現行法上も他の相続人の法定相続分を侵害するような形で財産処分が行われれば,これは不法行為等ということで救済が認められているかと思いますが,他方で,法定相続分の範囲内の処分について不法行為や不当利得が認められていないということだとすれば,それは恐らく平成12年の最判などで,具体的相続分自体を実体法上の権利関係であるということはできないとされていることによるものではないかと思われるところであります。仮にそうだとしますと,前回,潮見委員からも御指摘があったところと共通するかと思いますけれども,そういったものにすぎないとされている具体的相続分について,様々指摘されているような手続的な無理をしてまで,重たい意味を与えるということについて,コンセンサスが本当にあるのかというところは御検討いただく必要があるのかなと思っております。
  また,更に申しますと,ここでいう具体的相続分というのは,恐らく特別受益のみを考慮しており,寄与分の方は考慮しないというものだと思われます。地裁では多分,そういう計算ができないので,そういうことになると思いますけれども,そうだとしますと,今回の御提案のような手当てを仮にしたとしても,寄与分まで考慮すると結局のところ計算上は不均衡が残っているということは,十分にあり得るような気がしておりまして,そうすると,特別受益のみを考慮して手当てをするというのが果たして一貫した考え方なのかどうなのかというところも,併せて,是非,御検討いただきたいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御指摘をいただきましたけれども,ほかの委員・幹事,いかがでございましょうか。
○潮見委員 今,山本幹事がおっしゃったような方向で,是非,検討していただきたいと思いますし,私自身は前に発言した内容を変えるつもりはありません。考慮要素の一つとしては考えていただきたいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  慎重論が二つ続きましたけれども,そのほかはいかがでございましょうか。
○石井幹事 慎重な意見が続いてしまって恐縮なんですけれども,実体法的なところについては,今,山本幹事や潮見委員から御指摘があったところですけれども,手続なところとしまして,前回の御提案については処分を遺産分割に取り込むことによって紛争が複雑化する,あるいは長期化するというような懸念を申し上げて,その点については裁判所の裁量に委ねるという形で,一定程度,御配慮いただいたのかなと思っておりますけれども,他方,今回の案で実際にどうなるか考えてみますと,ある程度,客観的に証拠等で明らかだといった場合については,通常,当事者間で遺産分割の対象に取り込むという合意ができてしまうということかと思いまして,そこについては現在も合意ができれば取り込めるということですので,変わらないということになりましょうし,何らか争いがあり得るというところですと,そこは遺産分割手続の中だけで決めても,後で結局,覆る可能性もあるというところもあって,裁判所としては慎重にならざるを得ないというところで,実際,この規律を用いて相当と認める場合という形で取り込める場面というのはかなり限られてきて,実効性が少しどうなのかなと思うところがございます。先ほど来の御指摘で,公平を図るといっても相対的なところにならざるを得ないといったところがある中で,この規律を検討するというところについては,少し慎重に考えていただく必要もあるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○神吉関係官 そもそも,特別受益がある人が自分の法定相続分を処分したときに,計算上,不公平が生じるということは前回の部会資料でもお示ししたところですけれども,それでもやむを得ないんだというのが,特に救済する手段がなくても構わないんだというのが皆さんのコンセンサスということであれば,やむを得ないかなという気はするんですけれども,果たしてそれが本当にどうなんだと,今まで余り意識されていなかったところではないかなという気がいたします。実際,家裁の実務でもできる限り,客観的証拠が明らかで同意がある場合については,処分された財産も含めて計算をされているわけですが,そういった形で公平かつ公正に遺産分割を実現しようと努力されているのだと思います。共同相続人の一人が処分したことが明らかであるときに,その者の合意がないということもあるわけですが,合意がとれないという一事をもって,公正さ,公平さを徹底しなくていいのかと,民事訴訟でも救済する手段がない中で,救済する手段を設けなくて良いのかというと,果たしてどうなのだろうか,それは法の欠缺と言われても仕方がないという問題意識を有しております。一方で,そもそも,相続というのは棚ぼた的なもので仕方ないんだと,不公平が生じても仕方ないんだという考え方もあるとは思いますが,ただ,法律によって,本来,遺産分割で取得できる金額というものが決められていて,相続開始後に共同相続人の一人が処分したことによって,他の共同相続人が不利益を受けると,それを正当化するのは困難ではないかと考えております。手段については様々な方策が考えられますが,まずは不公平を是正すべきかどうか,この点につき,まずは御議論いただければと思います。
○石栗委員 共同相続人による処分が明らかであるにもかかわらず,遺産分割において考慮できないという事態は,実はそれほど多くはなく,遺産分割において考慮できないというのは決してそのような場合ではなくて,共同相続人による処分であることが明らかではない場合だと思います。前回も申し上げたように,相続人が処分したものとして相当と認めて遺産分割の際に存在するものとみなしたときに,後で償金請求や,あるいは第三者に対する不法行為の損害賠償請求などの訴訟手続において,既判力を持って実際,処分したのが相続人以外の者であったことが確定しますと,遺産分割自体の効力が覆るという事態が避けられないことにはならないだろうかということを非常に懸念しております。
  現在,遺産分割事件の審理で,一生懸命努力していることを評価していただいていることは,非常に有り難いことと思っておりますが,現在行っておりますのは,既に存在していない遺産を存在するものとみなして遺産分割を行うというものではありません。現在行っている手続では,主文で命じている遺産分割の範囲と,遺産目録で分割時に存在している財産が一致しておりますので,主文で明確に誰が何を取得するかを書くことはできますが,分割時に既に存在していない遺産を存在するものとみなすということになりますと,その時点では存在しない遺産についても主文で誰かが取得するものと記載することになります。例えば第三債務者がいるような債権などの場合に,審判書を見た第三債務者は,理由まで読めばお分かりになるとは思いますが,そのような第三者が,現存している遺産について,主文だけで誰が何を取得したのかが明確にわかるように書けるかというと,それほど簡単ではない場合もあり得るのではないかという点も懸念しております。
  それは技術的な問題として,実際にこの制度が決まった場合に,具体的に検討すればいいことかもしれませんが,審判は,明確に誰が何を取得したのかが第三者にも分かる形でされるべきだと思います。現在行っている手続では,存在しないものを存在するものとみなして主文の記載をしているのではありませんので,その辺りも御配慮いただけると有り難いかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 慎重な意見が続く中で,違った向きの意見を申し上げたいと思います。預金実務に関していえば,私どもが勝手払いの処理について,特に銀行の免責の観点から立法をお願いしていたという経緯がございます。本規律というのは,免責という第三債務者に対する関係ではなくて,正しく相続人間の調整であることということは理解しております。ただ,相続人間で公平な調整がなされるということは望ましいと思いますし,私は,22ページで正しく勝手払いについての計算ということが書いてありますけれども,このようなことがされるということであれば,予見可能性という観点からも望ましい規律だと思います。
  一方で,先ほどの議論を聴いておりますと,詰めるところといいましょうか,技術的な問題かもしれませんけれども,なお,検討課題があるのかなと思っております。先ほどの石栗委員の意見に触発されての感想でありますけれども,第三債務者としては,みなすという主文中に記載された預金残高が現状の預金残高と違った場合に,銀行がどう対応するのか。これは解釈問題なのかもしれませんけれども,その解釈指針というのが明確にならない限りにおいては,実務としては負担が出てくるのかなと思います。
  そもそも,①の家庭裁判所がみなすということの規律というのが,家庭裁判所が財産があるものとみなして判断を下せるという規律にとどまるのか,そうではなくて,主文となされたからにはみなすというのは,法的に正しいかどうか分かりませんが,対世効みたいなのがあって,銀行に対する提示においても財産が存在するということを前提として求められているということであれば,先ほどの懸念というのが出てくるのかなと思っております。いずれにしても,前向きな方向で詰めていただければとは思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでしょうか。
○水野(有)委員 いろいろ,御検討いただいてありがとうございます。おっしゃるとおり,分かることはできるだけきっちりと精算すべきだというのは,正におっしゃるとおりだと思います。ただ,一つ申し上げたいのは,分かる事案というのは,多分,事務当局の方が想定されるほどはないのではないかというのが1点でございます。
  そのところは,また,皆さんがお話したとおりなので割愛させていただきますが,あと,目的はよくても手段として,こういう構成がいいのかが一番問われるべきところかと思います。浅田委員が御指摘のとおり,主文のところが動くというのは裁判においてはとても重大な問題でして,ないものをみなすということがほかの場面での裁判との一貫性があるのか,ないのかというところが多分,理論的には一番問われるべきなのではないかと思いまして,私は裁判官ですので,その辺りは明るくないのですが,それが少なくとも私の経験上,難しい構成かなというのが1点,あと,今までの議論で,前提として①は家裁,②は地裁ということが多分,前提になっているかと思いますが,家裁が相当と認めるかどうかで同じタイプのものが家裁と地裁に分かれるというのは,手続として私としては違和感があるかなと思います。
  元々,②を地裁にするのであれば,地裁にできるということは具体的相続分が具体的権利として発生しているということを前提としなければ,多分,②を地裁に取り込むことはできない。そうなりますと,もうちょっと詰めていけば,②の要件事実は何かという論点になりまして,②の要件事実が果たして費消されたことなのかとか,元々,遺産分割の対象財産となった時点で発生していたのかとか,それとも,家裁が相当と認めなかったということが実体的要件なのかとか,その辺りがまだ,目的はすばらしいにしても整理がされていないものなのかなという印象を受けてございます。
  そうなりますと,あと,①が審判でされることのみを想定されていると思うんですが,現実の遺産分割はほとんどが協議です。その上,協議がない黙示の協議です。いつの間にか分かれているというようなこともほとんどございますので,そのようなことも御推定いただいて,②のところをもし実体的要件を前提とした具体的権利として構成されるのであれば,相当,洗練していただかないと,なかなか,地裁では一体,何を審理していいのか,よく分からないと。
  算数はすぐ出るとおっしゃいましたが,算数も引き算だけにするのか,その物件について,そのものについて具体的相続分という構成にするのかも全く違いますし,もし,引き算にするとすれば,従前,どういう分け方をしたかを全部調べないと引き算ができないということになりますので,それもとても難しい。ですから,すばらしい目的だと思いますので,その目的に合ったいい感じの制度を御提案いただければなと思いますので,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 いろいろ,御指摘を受けているところではあるんですが,元々,この議論を始めたのは預貯金債権のところで当然に払戻しを認めるという制度が必要ではないかと,払戻しをした場合に,どのような事後処理をするのかという点については手当てが必要だろうということで,我々としては検討を始めたわけですが,預貯金債権について払戻しがされた場合の規律と,それ以外の財産について相続人が処分した場合の規律,それが違うということ自体,なかなか説明が難しいのではないかという問題意識がまずございます。つまり,仮に預金について,このような形で存在したものとみなすという取扱いをするのが相当だということになった場合に,何故,それ以外の財産について処分した場合にそれと違う取扱いをするのかという説明は,なかなか難しいところがあるのではないかというのがこちらの問題意識であり,それが本方策の検討のきっかけでございました。
  それと,具体的相続分に権利性があるかどうかという話は,取りあえず,置いておくといたしまして,少なくとも相続人間では特別受益ないし寄与分を考慮した上で分配するのが公平だというのは,法律でそういう形で価値判断をしているということだろうと思いますので,そうであるにもかかわらず,相続開始後に処分した場合にそこを調整する手段がないというのは問題ではないかというところがございまして,もし,そこの調整ができないということであれば,本来は任意の処分を禁止するとか,そういうことが,本来必要になるところ,任意の処分が認められているにもかかわらず,そこで任意の処分をしたときに調整する手段がないというのが,法制度全体として本当に合理的な説明が付くのだろうかというのがこちらの疑問ということになります。
  先ほどから相続財産とみなすというのはどうなのかという御指摘を頂いておりますが,ただ,この点は,特別受益も,計算上は遺産とみなされるわけですので,それとほぼ同じような取扱いをするわけでございまして,特別受益との違いは,特別受益の場合は,計算上超過特別受益が生じても,それは返さなくていいのに対し,この方策では実際にその場合も返すというところに違いがあるだけですが,その点については,相続開始前の話と相続開始後の話とで,その点に違いがあるというのは,それなりに合理的に説明が付くのではないかと考えております。
  それから,誰が処分したのか分かる事案が少ないというのは確かにそうかもしれませんけれども,誰が処分したのか分かる事案が少ないから何も制度を設けなくていいということには必ずしもならないのではないかと思います。もし,分かる事案が少ないので,家事審判の方でそれをやるのが難しいということであれば,その場合に常に民事訴訟で解決できるということであれば,それは一つの選択肢だとは思いますけれども,そのどちらも道がないというのは看過し難い問題なのではないかというのがこちらの問題意識ですし,寄与分との関係につきましても,何度か,これまでも規定を出しておりますが,例えば民法910条の価額支払請求権,これは地方裁判所でやるということにされておりますが,そこでは,同じように特別受益も考慮し,寄与分についても家庭裁判所の方の審判があれば考慮するという形になっておりますので,仮に寄与分までこの制度の中で考慮するようにすべきだということであれば,それは制度としては恐らく仕組めるのだろうと思いますので,特別受益だけではなくて寄与分もということであれば,それを含めた制度設計は可能だと思います。また,具体的相続分に権利性がないという点についても,あの判例は飽くまで具体的相続分は幾らかということについて確認の利益がないということを言っているだけであって,一切,民事訴訟における裁判としての規範性を持たないというところまで,本当に言っているのだろうか,という疑問もございます。
  910条の請求のところもそうですし,遺留分減殺請求においても,言わば特別受益の価値を計算した上で,民事訴訟で請求するということにはなっておりますので,その辺りをいろいろ考えた場合に,ここについて何も規律を設けない,他方,預金債権について乙案を採用して,そこについてだけ権利行使した場合の規律を設けるというのは本当に可能なのだろうかというところが,こちらとしては一番疑問に思っているところでございまして,その点についてもし御意見があれば,頂きたいと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 本当に思い付きなんですけれども,償金請求だけを決めるというのはどうなんでしょうか。
○堂薗幹事 それは一つの手段としてはあると思うのですが。
○増田委員 飽くまで,平成12年2月24日の最高裁判例を変更して具体的相続分を権利に格上げするということが前提です。私が以前にも申し上げたとおり,非訟手続というのは事実認定の手法に限界を持っています。遺産分割では分割の対象物というものが現実にあって,その存在を前提に,具体的な取り分だけを決めるということが前提で,非訟手続であることが許容されているということだと思います。現行法上,みなし相続財産という概念がありますけれども,みなしというのは遺産目録には表れません。それは基準として示されるだけのことです。非訟手続の中で既に処分された,現在,存在しない財産を含めるということは,権利の内容のみを決めるという非訟手続の本来の枠を超えているだろうと思うんですね。これを踏まえて,どうしても具体的相続分を基準に権利関係を決めたいとおっしゃるのであれば,現在も法定相続分が侵害された場合は不法行為とか,不当利得とか,そういう請求が成り立つわけだから,その基準を具体的相続分に変えて,償金請求だけというのもあり得るのかなとは思いますけれども,いかがなんでしょうか。
○神吉関係官 償金請求だけということも,一応,考えたのですけれども,そうすると,遺産分割の中で処理できる場合に,同意がある場合には今は処理しているということですけれども,処理したいという場合にもできなくなるのではないかというところで,一回的な解決を希望される方は,そちらでもできるようにした方がいいのではないかという問題意識だったのですけれども,そこを償金請求だけのルートにしてしまうと,必ずしも一回的解決にはならないのではないかと。
○増田委員 それは,できるということが合意を促進するということもありますので,必ずしもそうは言えないと思いますけれども,ただ,具体的相続分を権利に格上げするのがいいのかどうかというのは,私は保留しておきますけれども。
○潮見委員 多分,増田委員がおっしゃっているのは,全員が同意すれば,別にそれは遺産分割の手続の中に入れて考慮してもよいという,そういう趣旨ですよね。その上で,増田委員に確認ですけれども,遺産分割が終了するまでの間に共同相続人の一人又は数人によって遺産が処分された場合において,損失を受けた共同相続人は,その処分をした共同相続人に対して,その償金を請求することができるという,そういうルールをイメージしているということでよろしいのでしょうか。それでも,そこまででも書く価値はあると。それとも,あるいは具体的相続分といったけれども,その辺りを権利に格上げするということであれば,それが分かるような,そういうルールを書いてくださいという,そういう御趣旨も含まれているんですか。
○増田委員 そうです。その前提を採るのであればということです。
○垣内幹事 非常に難しい問題で,私は全くこの点について深く検討できていないんですけれども,今,増田委員の方から償金請求に絞ってはどうかという御発言があったんですが,それはかなり現在の具体的相続分等についての考え方を変えることになるのかなという印象を取りあえずは持っておりまして,仮に御提案のような調整と申しますか,不公平の是正ということを考えたときに,私自身としてはむしろ①のみに絞って考える,これは遺産分割の枠内だけの問題ということで,完結させざるを得ないという見方もあるのかなという気もしております。ただ,いろいろ,手続的な問題があるというのは既に御指摘があるとおりかとは思うんですけれども,そう考えたときに,今日の御提案というのは,相当と認めるときはということで,先ほど水野(有)委員からも御指摘がありましたけれども,実体的な基準を定めているのではなくて,つまり,実体法として遺産分割全般の基準として,遺産として存在するものとみなすという規律なしに,相当と認めたら家裁が加えていいという,そういう規律を設けるということです。その必要性そのものは御説明のようなことがあるので分かることは分かるんですが,しかし,結局のところ,本当にそういう処分があったと認められるのであれば,それは存在するものとみなすべきでしょうし,認められないのであれば,認めるに足りる認定ができない以上,みなすことはできないのではないか。これに対して,「相当と認めるとき」というのは,審理が難しいので,もしかしたら,これ以上,調べていけば分かるかもしれないけれども,そこは調べずにやめておこうというような裁量を認めているように見えるんですが,遺産分割の結果,それで決まるという当該基礎となる財産の認定に際して,そういう裁量を認めて本当にいいのだろうかというのは,やや私自身は引っ掛かるところがあるところで,そうであれば,前回の御提案の方がまだしも理解できるのではないか,という感じも持っているところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ①だけでいく,②だけでいくという案も出ておりますけれども,それぞれについて難点も指摘されているという状況かと思います。ほかに御発言はございますでしょうか。しかし,事務当局としては何か手を打っておかなくてよいのかというところから出発してお考えになっていることですね。
○堂薗幹事 ですから,預貯金で乙案のような考え方を採って,そこで調整規定を設ける場合に,それが遺産分割の本則的な規律の特則なのか,それとも,そうではないのかというところから決まらないことになってしまいますので,そこはなかなか難しいのではないかと思います。それから,先ほど申し上げましたように,こういった不公平をそのままにしておいていいのかというところはもちろんあるわけですけれども,今回の案は少なくとも,①で解決できるものはそこで一回的に解決をし,それが難しいのなら,②の方でやってくださいというものですので,その意味では,増田先生が言われたような具体的相続分での償金請求を基本的に認めるという考え方に近いのかもしれません。
  ここで全員の合意がなくても,少なくとも処分をした人が認めていると,自分が処分したという不利益な事実を認めているというような場合は,仮に全員の合意がなくても,それで遺産とみなしてしまって,その後,客観的には違ったということが仮に分かったとしても,それは基本的に自分で不利益な事実を認めていた以上,遺産分割は有効なものとして取り扱われることになるのではないかと思います。それ以外の場合について,その人が不利益を受けたからといって,不当利得返還請求などができるかどうか明らかでないというところもあって,一回的解決が可能なものは①でやるけれども,それが難しいときは②でやるという基本的な考え方に立っているのだと思います。
○潮見委員 考え方は理解できます,賛否は別として。むしろ,今日,問題になっているのも,前回もそうだったと思うのですが,大変な問題は手続法上の問題と正にお書きになられているこれで,しかも,それは理論レベルの話と,それから,実際の運用レベルの話と,この二つにも係っていると思うんです。もちろん,要件事実は前者の問題に入れたという前提ですけれども,いろいろな御意見が今日も出ましたので,それを基に,少し手続的な問題に絞った形で見えやすいものを説明でお示しいただけないでしょうか。
  席上資料の記述ですと,要するに,不公平があるということで前の案を出したけれども,前のところで手続法上の問題もそうだけれども,それ以外のところでいろいろ御批判があって,不公平感というものを何とか処理しなければいけないんだけれども,前のでは少し問題があるから,こうしましたという形で整理されています。その部分についての事務当局の対応というのは理解できましたが,肝心のといったら言い方が悪いんですけれども,基本になるところの手続的な理論面での説明と,実際に今日出てきたような実務上の問題をどうクリアするのかということと,それから,先ほどの垣内幹事と増田委員のお話もございましたが,①だけに絞る,②だけに絞った場合に,一体,どうなるのか,あるいは特に増田委員が言われたようなことがルール上,書けるのか,書けないのかとか,その辺りまで,まだ,半年延びたということもありますから,精査していただいた方がいいと思うので,お願いできないでしょうか。
○堂薗幹事 もちろん,検討いたします。
○村田委員 今の潮見委員の御意見に賛成なんですけれども,その際に検討の一つの視点として,現行の遺産分割のこの局面に関していうと,前に水野紀子委員がおっしゃったことに関連しますが,現行法は,相続開始時の財産で固定し,それを概念的だけではなくて,処分も完全に禁じた形で,一旦,フリーズした上で分割するという形をしておらず,時間の流れの中で,いろいろな考慮要素を含めて解決していく仕組みを手続法的にも,実体法的にも採っていると思うんです。
  特別受益,寄与分という意味では過去に遡ったことも考えるし,その後の解決方法としては協議もあれば,審判もありという時間が流れていく中で,物の評価だって動き得るという前提の中で,一部については名義が変わり得る財産もあり得るかもなというところも許容した中での,そういう全体の流れの中での相対的な公平というのを一定程度,追求できる制度を今は作っていると思うので,どの程度の客観的な公平というのを,手続法も含めて求めるのかというところのコンセンサスがないと,なかなか,作りにくいのではないかなと思いますので,そこら辺も含めた検討をお願いできればと思います。
○大村部会長 様々な御指摘を頂きましたので,それを踏まえて更にもう少し練って,また,御提案いただきたいと思います。
  ほかはよろしいでしょうか。
  それでは,最後の項目になりますけれども,資料でいいますと26ページになります,第3の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」という部分ですけれども,この点につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から御説明させていただきます。
  まず,26ページのゴシック部分の「1 権利の承継に関する規律」についてでございます。
  これまでの部会におきましては,対抗要件に関する規律につきまして,第2の「遺産分割に関する見直し」と第3の「遺言制度に関する見直し」というところで分かれて記載されておりましたが,これが分かりにくいものとなっておりましたので,本部会資料では「権利の承継に関する規律」というところで,この規律をまとめて記載いたしました。
  続きまして,基本的な考え方について簡単に説明いたします。
  そもそも,相続人との関係では,遺言がある場合に相続人が相続を承認した以上,基本的には被相続人の意思というものを相続人は尊重すべき立場にありますので,法定相続分による権利の取得があったとの期待を保護する必要性はないと考えられますが,他方で,被相続人に対して権利を有し,義務を負っていた者,具体的には相続債権者や被相続人の債務者という人たちになると思われますが,これらの者との関係では,相続の包括承継という法的性質に照らしますと,これらの者の法的地位が相続の前後でできるだけ変動が生じないようにするということが相当であると考えられます。
  現行法におきましても遺言がない場合には,第三者との関係では具体的相続分がない者であったとしても,法定相続分による権利の承継があったものとして取り扱われておりまして,このような観点を踏まえたものと思われます。これに対して,相続させる旨の遺言があった場合に,現行の判例を前提といたしますと,遺言がない場合に比べて相続債権者や被相続人の債務者の法的地位が不安定になるのではないかというところを,基本的な考え方のところに記載しております。
  今回の見直しではこれらの点を考慮しまして,相続による権利の承継についても対抗要件主義というものを提案させていただいておりますが,後に述べますように,遺言執行者がいる場合においても,これらの視点を踏まえて新たな検討をさせていただいておるというところでございます。
  続きまして,本部会資料における修正点でございます。
  従前の部会資料におきましては,対抗要件主義を適用する範囲につきまして特段の限定を付さず,登録等を含めて記載しておりましたが,民法におきまして対抗要件に関する根拠規定が置かれているものが物権と債権というところでありましたので,本部会資料においても,その範囲に限定するということで規定の修正を図っております。
  次に,対抗要件が生ずる範囲についてですけれども,従前は「法定相続分を超える部分の取得については」と記載しておりましたが,受益相続人が権利を取得する場合,法定相続分につきましては,それ以外の相続人が権利を取得する余地はありませんので,この点について二重譲渡というものが生ずるおそれはないということから,本部会資料におきましては表現の適正化の観点も踏まえ,遺産分割方法の指定等により取得する権利の範囲については,特段の限定を設けないということにしております。
  続きまして,債務者対抗要件についての規律についてでございます。部会資料18におきましては,その9ページのところで相続一般について権利行使要件として,相続人たる資格等について書面の交付をすることと記載しておりましたが,相続による権利の承継があった場合に,どのような資料でそれを証明するのかという問題については,債権の場面に限って生ずる問題ではありませんので,全ての権利に共通する問題ということを考えますと,法制的な観点から債権の場合に限って記載するのはどうかというところもありましたので,削除という形でさせていただいております。また,遺産分割や遺言の内容を明らかにする書面というものを従前の部会では具体的に書けるかというお話がございましたけれども,これらの具体的な書面について民法において全てを過不足なく列挙するということも困難であると思われますので,今回はこれを記載しないということとしております。
  続きまして,第三者対抗要件についてでございます。従前の部会資料におきましては,債務者対抗要件と第三者対抗要件につきましては,確定日付ある証書の要否を除き,同じ要件としておりましたが,第三者対抗要件につきましては,対抗要件の具備の先後の関係によって優劣が決せられるということになりますので,債務者においても明確にその時期を判断できる必要があると考えられます。そこで,本部会資料におきましては,この点につきまして債務者対抗要件と第三者対抗要件の規律を分け,第三者対抗要件については書面の交付を要求せず,単に確定日付ある通知がされたときとすることを提案しております。
  32ページ以下では,本部会資料の規律の具体的な適用場面を整理させていただいておりますが,時間の関係上,この説明は割愛させていただきます。
  続きまして,36ページを御覧ください。2の「義務の承継に関する規律」について御説明いたします。
  義務の承継につきましては,基本的には判例の考え方の明文化であるところ,今回,改めて現行民法との連続性という観点から考えた場合に,現行法の規律を維持する場合には共同相続人の内部的な負担割合の規律を民法上,設ける必要はなく,相続人との関係のみを規律すれば足りるとも思われましたので,そのような観点から本部会資料のような案を提示させていただいております。
  なお,従前,義務の承継に関する規律に関連して,相続分の指定と遺産分割方法の指定との関係についても取り上げておりまして,これについては甲案と丙案,それぞれを支持する意見がございました。この両案の違いについては,相続分の指定について,その承継割合を明示する必要があるかどうかというところであると思われますけれども,この点については現行法上も解釈に委ねられておりまして,学説も一致を見ない状況でございますので,この部会においてコンセンサスが得られない場合には,相続分の指定と遺産分割方法の指定との関係については,これまでどおり,解釈に委ねるほかないものとも思われますので,今回の部会資料におきましては,参考として両案を併記させていただいているというところでございます。
  最後に,3の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」について御説明いたします。部会資料では38ページからとなっております。この点については前回,ペンディングにしていた部分です。
  これまでの部会におきましては,パブリックコメントの結果等を踏まえまして,遺言の執行を妨げるべき行為があった場合には,この行為については原則として行為を無効とした上で,善意の第三者を保護する乙案を採用する方向で検討が進められてきたところです。もっとも,このような考え方を前提としますと,遺言執行者の有無によって,その法的効果が大きく異なるということにもなりますので,このような点について合理性があるのか,本部会資料において再度,検討しております。
  今回,机上に配布した参考資料,1枚物の表を御覧ください。この表は,相続させる旨の遺言があった場合の対抗要件に関する規律についてのものでございますが,事例としましては上の四角に書いてありますように,被相続人のAから相続人Bに対して相続させる旨の遺言があった場合についてのそれぞれの第三者との関係を表にして記載しているものでございます。
  その下の縦の行は三つに分かれておりまして,1行目は相続人Cが第三者Dに自己の法定相続分を処分した場合,2行目は被相続人の相続債権者であるEが相続人Cに対して法定相続分で差押えをした場合,3行目は相続人の債権者Fが相続人Cに対して法定相続分で差押えをした場合についての表となっております。他方で,列の方でございますけれども,左から遺言がない場合,通常の遺産共有の状態になると思われますが,遺言がない場合でございまして,それ以降は基本的には相続させる旨の遺言があった場合について,更に場合分けをしているというものでございます。現行法と記載されているのは現行法の規律を前提とした場合でありまして,その更に右には遺言がある場合に対抗要件主義を採用した場合の帰結等をそれぞれ記載しております。甲案とありますのは,中間試案で取り上げられていたもので,基本的には対抗要件主義を採用するという形になっております。
  なお,列の右端には,参考として組合に関する規律も記載しております。この組合に関する表に書いてある数字については,民法及び債権法の改正の条文の番号となっております。この表で,乙-1案のところに「×(?)」と書いてあるところがあると思いますが,これについては解釈がどうなっているかが不明であるという趣旨でございます。乙-2案の表で「○〔or ×〕」と書いておりますけれども,これは乙-2案を採用した場合の権利を行使できる範囲を変えた場合にどうなるかというところで,部会資料のゴシック部分と亀甲括弧を照らし合わせていただけると分かりやすいかなと思っております。
  それでは,更に部会資料の説明に戻らせていただきますけれども,遺言による遺産分割の指定や相続分の指定があった場合に,対抗要件主義を採用することとした理由のうち,相続の開始によって被相続人の相手方当事者の法的地位に著しい変動を生じさせるのは,相当でないとの点につきましては,遺言執行者がいる場合にも同様に当てはまるものと考えられますので,少なくとも相続債権者との関係では,遺言執行者がいる場合についても対抗要件主義を採用し,相続債権者は法定相続分による権利取得を前提として,強制執行することができるようにすることが相当と考えられます。
  そこで,乙-2案ではこの点を明らかにするために,②のような規律を設けることといたしました。なお,②の範囲につきましては,相続人の債権者も含めるべきかどうかという点が問題になります。相続人の債権者は,相続開始前には被相続人との間に法律関係を有していたわけでありませんので,相続開始前後での法的地位の変化という問題は生じませんが,遺言がない場合との平仄を考慮しますと,遺言執行者がある場合においても相続債権者と同様,権利行使を認めることも相当であるように思われます。以上のような観点から②の部分について亀甲括弧を付して,その両方の考え方を併記しております。
  なお,このような乙-2案の考え方につきましては,乙-1案を採用した場合であっても,解釈により導き得るものと考えられますが,債権法改正等において,組合の条文等においても権利行使の範囲を明確化しておりますので,乙-2案についても,このような観点から規律を明確化しているということでございます。また,乙案を採用した場合には,被相続人の債務者との関係でも問題が生じると思われますので,この点も含めて皆さんで御議論いただければと思います。
  以上で説明を終わります。
○大村部会長 ありがとうございました。
  26ページの第3の「相続の効力等に関する見直し」というところですが,その中は権利の承継に関する規律と義務の承継に関する規律,そして,遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等,の三つに分かれておりますけれども,1の権利の承継,2の義務の承継については従前の考え方から出発しつつ,細かい調整を図っていただいたということかと思います。3につきましては,考えられる問題についてかなり立ち入った比較検討をして,御提案を頂いていると理解いたしました。前の方から,順次,御意見を頂ければと思います。「権利の承継に関する規律」辺りからまず御意見を頂ければと思います。
○浅田委員 第3の1の「(2)債権の承継」について,特に預金債権の取扱いを念頭に質問と意見を申し上げます。
  本規律は権利者を明らかとし,誰に払戻しをすればよいのか,分かりやすくするという方向性の制度だと理解しており,また,その帰結として遺言や遺産分割の際の規律を整えることになるというものと理解しております。かかる方向性での制度導入については,第三債務者としての銀行としても非常に有用であり,受け入れやすいものと考えております。また,27ページの第2段落目にありますように,相続債権者や被相続人の債務者に対する考え方は,少なくとも相続開始前後で,できるだけ変動を生じないようにするという考え方に基づくものであり,この論点を離れて差押えとか相殺という議論にもつながるということでございますので,この方向性の議論というのも有り難いと思っています。この観点では事務当局の提案については感謝したく存じます。
  一方で,その方向性を実現する手法,これは権利者を特定する手法とも言い換えられると思いますけれども,その設計においては,私はその制度運用まで見据え,一義的に明確になるような制度設計としてほしいと述べてきました。例えば遺産分割に関する従前の御提案,これは第18回会議での提案をベースにしておりますけれども,相続人の範囲や遺言の内容を明らかにする書面が第三者対抗要件に含まれていたわけですけれども,この際,明らかにする書面は一義的に明らかにしてほしいといった要望を述べてきた経緯だと思っています。かかる経緯を踏まえ,今回の御提案を見ますに,本点の権利特定の手法部分の制度がかなり変更されていると思われます。
  今回変更部分を見ますに,第三者対抗要件の規律については,例えば法定相続人が遺言の爾後の発見や受遺者の権利主張をおそれて,それが妥当な行動かどうかは別として,取り急いで通知により,対抗要件を具備してしまうという行動をとるようなことになるかもしれません。そうした場合に,かかる通知が多発されてしまうことも想定されなくはありません。また,債務者対抗要件を含めて,特に預金債権について考えますと,平成28年12月19日付け最高裁決定との関係や,特定遺贈においては預金規定における譲渡禁止特約との効果を踏まえて,銀行界との対応がどうなっていくか,整理が必要と思います。
  例えば部会資料の34ページの(2)においては,貸付債権のケースで整理いただいておりますけれども,預金債権の場合については遺産分割前の時点のCからDの譲渡というのは,大法廷決定を前提にすれば,Cの金銭債権ではなく,せいぜい,その持分についての譲渡を前提に対抗問題を考えなければならないと思います。そうすると,持分の譲渡と金銭債権の譲渡の対抗問題はどういうことなのかということも,非常に難しい問題として理論的な問題が残るかと思います。
  かように銀行界としても再度,精緻に検討していかなければならない状況になっていると理解しております。この意味において,いまだ銀行界として十分な検討ができている状況ではございません。もちろん,次回以降の審議において必要があれば,銀行界の意見をまとめて意見具申を行おうと存じますが,そういう事情もありますので,今回は想定される論点を述べさせていただくにとどめたいと思います。
  さて,前置きが長くなりましたが,これらの背景を前提にまずは以下の2点を質問させていただきたく存じます。なお,御回答いただいた後,次いで意見というか,コメントをさせていただければと思います。
  一つ目の質問は,債務者対抗要件の具体的な対象を明らかにすることは困難とありますが,この意味するところは,遺産分割又は遺言の内容が明らかか否かは,債務者が独自に判断するということを意味するのか,つまり,債務者としては明らかだと判断したが,真実は間違っていたというときに,債務者はその責任を負うことになるのかということです。私見では,この規律が導入された場合には,それは債務者の責任であるということになりそうであります。ただし,準占有者に対する弁済で保護される場合はあり得るということと考えていますけれども,この理解でよろしいかどうかということの確認でございます。
  二つ目の質問は,(2)①のアの相続人の全員が債務者に通知した場合の債務者対抗要件がどうなるのかということであります。ここでは(2)②のように,それを明らかにする書面という規律がありませんので,その反対解釈として以前の部会資料18の提案と異なって,第三債務者にとっては相続人の範囲がその時点では明らかでない事から,債務者対抗要件が相続人の通知が来た時点で具備されていたんだと素朴に思ってしまう,ないしは素朴にそういう規律であると考えられなくもないと思いました。
  そうしますと,(2)①のアの通知は相続人の範囲を特定する資料の交付なしの通知でもよいものと考えられますので,例えば考えますと,相続人がA,B,Cと三人いる事例において,Cを除いたA,Bから相続人全員による通知だとして通知がなされた場合には,債務者対抗要件が具備されてしまうようにも思えました。この点,どう考えたらよいのか,教えていただきたいと思います。私見としては,結論としては相続人の範囲を明らかにする書面がないと,債務者対抗要件は具備されないと考えておりますが,この理解でよろしいでしょうかということでございます。まず,質問をさせていただきたいと思います。
○堂薗幹事 まず,第1点目でございますが,基本的には1(2)の②によりますと,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面を交付してということになっていますので,この内容を明らかにするに足りる書面であるかどうかというのは,基本的には債務者の判断にならざるを得ないと考えております。ただ,そこは必ずしも一義的に明確ではないというところもございますので,そこの判断を誤った場合についても,当然,準占有者の弁済の対象にはなるということでございます。
  この点については,従前から一定の方式を満たしたものに限り,この書面に該当するものとすると,それを法律上,明らかにするということも一応,検討対象になるのではないかということで,一部部会資料の(注)でも書かせていただいたことがあったかと思いますが,それを限定列挙する形で法律上明確にするということ,その証明手段を限定するということについてはかなりハードルが高く,難しいのではないかというところがございますので,今回はこのような形にさせていただいております。そういった意味では,法律で書くことは難しいところがあるんですけれども,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面の方式について,例えば約款なり何なりで一定のものに限定するとか,そういったことは十分に考えられるのではないかと思います。
  それから,(2)①アのところの相続人全員の通知ですけれども,ここは要するに相続が開始して,相続人が法定相続分の権利を承継したという場合に,それを相続人側で証明するというのは,この債権の承継の場面に限らないですし,当然の前提として,債務者も含めて,それ以外の第三者というのはそういった要求ができるのではないかと,法律に書くまでもなく,そこは自分が相続人で,相続人の範囲はこういう人たちですということを債権者の方で証明しない限りは,債務者は応じなくていいというのは書くまでもないのではないかという前提です。それをここだけ書くというのは,ほかの権利との関係で平仄がとれないので,ここでは落とさせていただいたということでございますので,先ほどのように,本来はA,B,Cが相続人なのに,A,Bで自分たちは相続人全員だからということで通知したとしても,そうであれば,それを証明する文書を出してくださいということを債務者が言い,それを出さない限りは債権者として取り扱わなくていいということを前提にしております。
○浅田委員 ありがとうございました。
  つきましては,今回,頂きました回答を踏まえ,意見,コメントを述べさせていただきたいと思います。
  先ほどの1番目の質問について,債務者対抗要件具備の判断は債務者の判断となり,仮に判断を間違えた場合には,準占有者弁済で保護されるとのことでした。この点,そもそも,対抗要件というものの具備を複数の方法で許容するということは,現行民法における債権譲渡制度でも,通知,承諾,それから,登記と複数が存在しておりますし,また,対抗要件具備の充足の有無についても,例えば譲渡人からの通知を受領した債務者において,当該通知が真に譲渡人からの通知かどうかの判断を行わなければならないなど,一定の負担を負わされなければならないということは承知しております。
  もっとも,本提案の場合において,その債務者が判断するという内容や負担の大きさは,慎重に分析・認識されなければならないと思っております。すなわち,例えば現制度では対抗要件は先ほど申し上げた3種類でありますし,また,債権譲渡登記制度では登記事項証明書の交付が対抗要件具備の方法であるので,その書式や記載内容は一義的に定まっているということでありますけれども,本件の債務者対抗要件は自筆証書遺言であったり,公正証書遺言であったり,遺産分割審判であったり,遺産分割協議などとバリエーションがあり,更に複数の遺言がある場合には,複数の遺言が次々に現れるというパターンもあり得ると思います。
  また,26ページの(2)①イの債権を取得した相続人等の通知について考えますと,通常の民法の債権譲渡通知においては譲渡人からの通知ですので,同人の本人確認及び意思確認ができればよいと考えられますけれども,本提案では,言わば譲受人に相当する相続人も通知が可能となりますので,故意又は思い込みによって当該相続人が言わば勝手に通知するという状況もあり得ると思います。
  こうした通知が来た場合に,しかも複数が来た場合には,特に債務者において適正な通知は何かということを判別,判断するという規律になるということを意味していると思います。考えようによっては,それは現状対比,債務者にとって負担が多くなるということもあり得ると思います。したがって,その点についても十分,御検討いただいたとは思いますけれども,もう少し債務者にとって負担のないような仕組みがなおあるかどうかということを御検討いただければ有り難いと思います。
  それから,約款について先ほど回答から出ましたけれども,確かにかかる整理というのは検討に値すると思いますので,銀行界としてもその立案内容に従って必要ということであれば,検討し得るものとは思っております。しかし,この点についても私見でありますけれども,その際には大きく二つの論点があるのではないかと思っております。一つ目ですけれども,約款の規定内容についての各種論点があり,二つ目については,その約款の国民への周知徹底だと思っております。
  一つ目の約款の規定内容でありますけれども,これも従前,申し上げたかもしれませんけれども,約款の相続人による承継というのは,現時点においては余り検討されている状況ではないと思います。考えてみますに,被相続人の属人的な条項というのもあるのかもしれない,又は包括的な承継といった場合に,例えばそのうち全ての条項が包括的に承継されるのかどうか,ないしは遺贈があった場合に特定承継があった場合はどうなのかという問題もあろうかと思います。
  加えて,現在,国会で議論されています債権法改正で定型約款というものが議論されておりますけれども,その中でも不意打ち規制では不当条項の点からの整理というのも必要だと思っております。したがって,約款での手当てというのは,正直,私の個人的な認識としては余り今まで議論されていなかったことでありますので,よく検討がなされる必要があるのではないかと思っております。
  二つ目に周知の点でございますけれども,言うまでもなく仮に約款に規定するということは,一律,ユーザーに適用するということになるわけでありますけれども,果たしてこれを安定的に運用するためには,約款のユーザーである国民に周知されている必要があると思います。これは銀行界だけでは足りず,ここにいる皆さんの各団体から周知活動ということも必要ではないかと,個人的には思うわけでありますけれども,この周知をスムーズに行うに当たっては,銀行ごとにばらばらに規定が違うということも,国民の利便性や予想可能性の観点から考えますと得策ではないと思いますものですから,新たな課題でありますけれども,独占禁止法等にも配慮しつつ,規定を標準化する作業も必要ではないかと,個人的には考えた次第であります。
  いずれにしても,約款に対する検討というのは,ある程度の目線を持って慎重かつ多角的な検討が必要だと思います。その際においては,例えばこういった審議会の場で共通認識化されるということも非常に有用かと思います。
  以上を踏まえて御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
○堂薗幹事 検討させていただければと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。債権の承継について御発言を頂きましたけれども,そのほか,不動産,動産とございますけれども。
○窪田委員 以前にも同じことを御質問したような気もします。ですから,議論が終わって既にその点については過去の審議の中で御説明があったということでしたら,それを確認していただくだけで結構なのですが,基本的には第3の1の「権利の承継に関する規律」に関しては,不動産,動産に関しては177条,178条と,債権の承継に関しては三つのものを挙げているわけですが,ただ,このうちのアとウは基本的に債権譲渡についての対抗要件ということになりますし,イはそれとは別に正しく遺産分割等によって権利が帰属したということを証明するものだということで,かなり性格の違うものが並んでいるということなのだろうと思います。
  ただ,もちろん,性格が違うものが並んでいても,別にそれはそれで構わないのだろうと思いますが,ただ,先ほどから御説明があったことからいっても,イのものというのは正しく遺産分割によって権利を取得したということになりますし,遺産分割協議の前提として,どれだけの人間がそもそも相続人であるのかとか,そうしたものがあって初めて実効性を持って担保されるものだということになるのだろうと思います。
  おそらく従来も相続に際して,最高裁の判決はありましたけれども,銀行実務は長いこと,こういった書類を出さないと預金の引き出しに応じなかったと聞いておりますので,そういうことにも対応するものなのだろうと思うのですが,それに対してアとかウというのは,確かに債権譲渡の対抗要件として一般論としてはあるのですが,この場面において,なお,維持するというのにどれだけの意味があるのだろうなという点がよく分からないと感じています。相続人全員が債務者に通知したことといっても,ある意味で相続人の全員だということを明らかにするための書類というのは必要であって,しかし,遺産分割の話は要らないのでしょうか。でも,この債権については,この人に遺産分割で帰属したということが結局,内容としては入るわけですよね。そうすると,アとイは本当にそれほど違うのだろうかということが一つあります。
  その上で,ウについてはまた別の観点から,なお,債務者の承諾というのがこうした場面で本当に必要なタイプのものなのかという観点で,議論の余地がひょっとしたらあるのかなという気がしたものですから,感触というか,過去に既に議論があったかもしれませんけれども,教えていただければと思いました。
○堂薗幹事 まず,債務者の承諾は,実際上は①のイのような規律で②の適用があることになった場合に,対抗要件を具備しているのかどうかというところの判断が必ずしも明確にされないような場合が出てくると,それに対して承諾ということであれば,そこは明確なので,実際上の運用としては債務者の承諾で行う場合が多いのではないかということで,①のウというのは有用だろうという整理です。
  他方,かといって債務者が承諾しない場合に,何らかの手段がないとまずいだろうということでアとイを設けているわけですが,事務当局内部でも検討したところではあるんですが,相続人全員の通知というのをあえて書く必要があるのかというところは議論の余地があるのではないかと思います。特に特定承継の場合とは違って,包括承継の場合に包括承継で例えば債権を取得した人がいる場合に,それ以外の相続人がこういった対抗要件を具備させる義務まで負うのかというと,そこは特定承継とは違って必ずしも負うわけではないのではないかというところもありますので,そういった意味で,仮に相続人全員がそういった義務を負わないのだとすると,こういった形で規定を設けても,意思表示の擬制を求めるようなことはできないということで,余り意味がないですし,むしろ,相続人の範囲を示した上で相続人全員が通知しているということであれば,あえてアに書かなくても,②の遺産分割の内容を明らかにする書面に当たり得るのではないかという整理も十分可能だとは思います。①のアについては,実は事務当局内部でもどうしようかというところで悩んでいるところでございますので,この辺りにつきましてもし御意見がございましたら,頂きたいと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  窪田委員からは,一定の御意見を承ったと思っておりますけれども,ほかにその点に関連して御発言があれば頂きたいと思いますが。
○増田委員 別にこだわるわけではないんですが,あえて債権譲渡の対抗要件にあるものを外す必要があるのかどうかということです。現実に使われるかどうかは別として,皆無ではないと思いますので,入れておいてもいいのではないかと思いますが。
○大村部会長 ありがとうございます。
  このままでもいいのではないかという御意見もいただきましたけれども,どちらも今のところはあり得るというところでしょうか。あるいはほかの点を含めてでも結構ですので,御指摘があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。
○潮見委員 今の増田委員のおっしゃった話で,私もそれでいいとは思うんですが,先ほどの浅田委員の話もありましたが,(2)の①のアについても②に相当するような書面,そういうものがもし必要である,実際に先ほどの話ではありませんが,誰が相続人かとかいう辺りのところは明確に記しておいた方がいいということであるならば,そういう何らかの書面要件というようなものをアにも課すと,最初から債務者対抗要件がいいですよというようにするというのも,方法としてはあるのかもしれません。それは②をどう組むか次第だと思いますけれども,そのような感じがいたしました。
  今は権利と義務の承継のところまでですか,遺言執行者はまだですか。
○大村部会長 遺言執行者については,後でお願いします。
○潮見委員 一言で済ませます。一番最後のところでも「また」ということで,42ページのところに書いていることなのですが,今回の資料をずっと見ていて,確かに中間試案があって乙案というものをベースにすべきであるという考え方が結構あったということで,この間,乙案の方に傾いた議論をされてきたのではないかと思うんですが,これも同時にこの間,先ほどの権利の承継等の議論を重ねる中で遺贈だとか,あるいは相続させる遺言だとか,相続分指定だとかいうものを含めて一定の特定の承継というものがあり,それから,対抗という構成を採っていくんだという方向が固まってきた段階において,果たして乙案というものが基礎にしている考え方と,ここでの部会の議論で出ている対抗構成というものが両立するのか,両立させようとしたら余りにも技巧的になって,その技巧的なものである程度,落ち着き所のよい結論を導き出そうとして,乙-2案みたいなようなものが出されてきたのかなというような感じもしないわけではありません。
  むしろ,今のような形で権利の承継のところについてある程度,一定の考え方に沿った形での方向性が見えてきた段階,今の段階になってもう一度,振り返ってみたら,よその遺言執行者のところでの処理も,むしろ,中間試案に対するパブリックコメントの一部の有力な意見と外れることになりますけれども,甲案ということで考えていく方が自然なのではないかという感じが個人的にはいたします。今回,お配りいただいた表も見て,余計にそのような感じがしたということです。
○大村部会長 その関係ですね。
○増田委員 その問題へ入るのでしたら,まず,いいですか。
○大村部会長 今のような御発言がありましたので,遺言執行者について入っていただいても結構です。
○増田委員 まず,この表なんですけれども,左から3列目の現行法の理解なんですが,私の理解では,×,○,×なんです。真ん中の被相続人の債権者との関係は,被相続人を譲受人とした二重譲渡と同じですから,遺言があろうとなかろうと対抗問題であると考えております。だから,ここは,×,○,×なのではないかと思うんです。
  次に,遺言執行者なしとありの場合にどう違うかということなんですが,遺言執行者がなしの場合には目的物の管理処分権は相続によって相続人に移るということになりますが,遺言執行者ありの時は,遺言者がその意思で管理処分権をあえて相続人に渡さずに,遺言執行者の方に委ねたものだと考えられると思うんです。ということになると,遺言執行者なしの場合には,被相続人イコール相続人からの二重譲渡関係が発生するので,対抗問題と考えられるのに対し,遺言執行者ありのときは被相続人イコール遺言執行者という関係にあるので,相続人には管理処分権はいかず,相続人からの取得者は無権利者であるという考え方も十分成り立つだろうと考えております。したがって,遺言執行者なしとありとで分けることについては十分合理性があると考えます。
  その中で,遺言執行者ありのときにどうするかということですけれども,結論が私が理解する現行法と同じ×,○,×でいいのかということになりますと,乙-1案でも構わないと思っております。つまりは被相続人の債権者に関しては,遺言があろうとなかろうと,執行者がいようといまいと,その権利行使が妨げられるはずはない。だから,そこは乙-1案であっても当然対抗問題だという理解になるだろうと思います。
  これに対し相続人の債権者,これは先ほどのように遺言執行者なしの場合には対抗問題になるけれども,遺言執行者がいる場合には相続人は無権利という考え方でいけば,善意者保護の規定によらなければならないし,また,実質上も自分の債務者がその権利を取得していないと知っている債権者,こういう人を保護する必要があるのかというのは極めて疑問です。元々,その権利は債務者に帰属していなかった,取得もしなかった,そのことを知っている,そういう債権者を○にすべきかどうかというのは極めて疑問だと。だから,改正法でも,×,○,×にするのが結論的には妥当だと考えますので,私は乙-1案でいいのかなと思っております。
○山本(和)委員 現行法が×,○,×というのを聴いて,やや私は衝撃的だったんですが,増田委員にお伺いしたいんですが,仮にそういう考え方を採った場合に,相続債権者が持分を差し押さえて,相続債権者との間は対抗問題なので,2分の1,2分の1が法定相続分なら2分の1について強制執行手続が行われると。その後,相続人の債権者が配当要求をしてきた場合には,その相続人の債権者が善意か悪意かによって,2分の1がその人にとって配当財団になるか,4分の1,4分の1というのは少なくなった分が配当財団になるかというのが決まってくるということなんですか。
○増田委員 一旦,対抗力を取得した最初の差押債権者のところで権利関係が確定しているので,それに乗っかったということでいいのではないかと思います。
○山本(和)委員 そうすると,相続財産についてその権利を行使することを現在の書き方だと妨げないと書かれていて,仮にこれを相続債権者だけにすると,相続人の債権者は①本文の規律によって権利を行使しなければならないように見えるけれども,配当要求も権利の行使だと思うんですが,しかし,それはそうではないということなんですか,権利が確定するということの意味ですが。
○増田委員 相続債権者のところでは対抗問題だということは,要は被相続人から譲り受けた譲受人と一緒ですよね。そこで,その人が受遺者より先に登記を備えれば,被相続人から譲り受けた譲受人の権利は確定しますから,それと同じように確定すると。
○山本(和)委員 しかし,当該相続債権者との関係で確定するのではないんですか。なぜ,ほかの相続人の債権者がそれを援用できるんですか。
○増田委員 それは,一旦,確定した権利だからだと思っているんですが,そこは疑問がありますか。
○山本(和)委員 そこが私の理解では,はっきりしなかったんですけれども。
○増田委員 私は乙-1案で十分だと思っていて,乙-2の②は相続債権者については当然だから要らない,これに対し相続人に対して権利を有する者は,要するに相続人の債権者は権利行使させる必要がないと考えているので,乙-1案なんですけれども。
○山本(和)委員 実質論としては,私もそういう考え方は十分あると思うんですけれども,それでうまく執行手続とかはできるのかなというのがやや疑問だったんですが。
○増田委員 今,言われたことはもう少し検討してみます。
○堂薗幹事 増田先生の考え方だと,乙-1案で書いたとしても乙-2案の亀甲の案の考え方を採ったのと同じ結論になるだろうと。
○増田委員 私は現行法の真ん中の×というのが理解できなくて。
○堂薗幹事 遺産分割方法の指定がされた場合には,少なくとも現行法上は法定相続分での権利移転はない,要するに遺言での権利変動しかない,したがって,二重譲渡は生じないという考え方なんだと思いますので,そこは差押えの場合でも同じではないだろうかというのが事務当局の整理です。
○増田委員 被相続人から譲り受けた譲受人はどうなるんですか。
○堂薗幹事 それは特定承継ですので,それは対抗要件になりますけれども。
○増田委員 それは対抗要件主義でしょう。それなら,差押債権者も対抗要件であるはずですよね。そこと実質的に区別することは考えにくいと思いますけれども。
○堂薗幹事 そこは民法の学者の先生で御意見がございましたら,おっしゃっていただければと思いますが,ここで問題にしているのは,正にこの図のように遺言で,しかも,相続させる旨の遺言,要するに遺産分割方法の指定という形でAからBへの遺言があったと。その場合に,相続債権者がCに対して法定相続分で差し押さえたという場合に,Cには法定相続分での権利移転はないのだから,そもそも差押えは空振りといいますか,実体法上,有効な差押えにはならないのではないかという趣旨です。
○増田委員 そうすると,Bの法定相続分に対する差押えだけが有効になるんですか。
○堂薗幹事 遺言に伴った権利変動を前提とした差押えをしないと,有効にならないのではないかということです。
○増田委員 Aの債権者ですよね。Aの債権者は,要はB,Cに対しては当然に債権者になりますよね。そうすると,普通に考えるとB,Cに対して各2分の1の持分を差し押さえると。そうすると,言われるように……。
○潮見委員 そこが違う。私は堂薗幹事と全く同じことを考えているわけで,現行法上の判例を前提とした場合には,それ以外の説明の仕方はないと思います。
○増田委員 そうなんですか。Bの持分も有効ではないんですか,Bの持分に対する差押えも。
○堂薗幹事 ですから,この場合はBが全部持っていますので,法定相続分以上のものを持っているので,当然,それは全体として有効になるということです。
○窪田委員 Bが全部を持っている。
○増田委員 だから,B,Cが2分の1で差し押さえられた場合に,先にですよ。
○堂薗幹事 だから,Bに対する2分の1は全体を持っている以上,2分の1の差押えも有効ですが,Cについては2分の1を元々持っていないので,差押えはできないのではないかということです。
○増田委員 分かりました。それは理解しました。
  それで,今回の改正では×,○,×になればいいのかなと思っているんですけれども,すみません,それは相続させる遺言についての従前の判例法理ですよね。対抗問題の話ではないということですね。
○堂薗幹事 ですから,対抗要件主義を採用した後の現行法という意味ではそうなのかもしれないんですが,ここでの現行法というのは,そもそも,相続させる旨の遺言については対抗要件主義の範囲外だという判例を前提とした現行法という意味ですので,増田先生がおっしゃっているように,ここが×,○,×ということで実質としてはいいのではないかということでコンセンサスが得られるのであれば,それは一つの解決の仕方だと思いますし,ただ,他方,その場合に債権法改正のときには,先ほど御説明しましたとおり,組合については組合債権者の権利行使はできるのか,組合員の権利行使はできるのかというところも明確に書くようにしていますので,反対解釈ではないですけれども,そういう解釈の余地を封じる意味では,もし,そういう規律を採るのであれば,きちんとそこは明確にした方がいいのではないかというのがこちらの考えでございまして,まず,×,○,×がいいのか,あるいは甲案のような考え方がいいのかという,その辺りのところから御議論いただければとは思っておりますけれども。
○大村部会長 先ほど潮見委員から,ここまできたら甲案でいいのではないかというような御発言もありましたけれども,事務当局からは実質について御意見を伺いたいということでございますので,他の委員・幹事からの御意見も伺えればと思いますけれども,いかがでしょうか。
○潮見委員 甲案ではないということであれば,先ほど増田委員が言われたような説明を理論的にするしかない。要するに被相続人から財産は相続人にいくけれども,しかし,財産管理権というものは遺言執行者に排他的に帰属しているのであると,相続人についてはそういう財産管理権はないということをむしろ明確にし,あるいはそこをブラッシュアップして書いていただいた方がいいと思うのです。どうしてかというと,今までのところは基本的に1013条があったから,相続人の代理人とみなすとかいうものがあり,更に無効ということを前提に判例法理等が展開されていましたから,何も書かなければ従前の学説あるいは実務,それを前提に今回の提案というものがされたのだと受け止められる可能性があるので,それ自体は私は余りよろしくないのではないかと思いますものですから,是非,そこはお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  明確化した方がよろしいだろうという点については,どういうルールであるかということと別に議論は可能かと思いますけれども,実質についての御発言を更に頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○山本(和)委員 先ほどのあれは,その執行手続は大丈夫だということなんですか。つまり,全員が悪意で,どの範囲で配当要求ができるかどうかということを分けるというのは,余り現行の民事執行法は想定はしていないと思うんですけれども,あるいは何か執行法の方で手当てをしないといけないのか。
○増田委員 その問題なんですけれども,例えば虚偽表示の94条2項の第三者から第一の差押えがあって,それに対して配当要求した場合にどうなるかということですよね。それと同じですね。それがどっちか。つまり,悪意の債権者が配当要求したとき,それはどっちなんでしょうという問題と同じなので,別に特異な問題ではないですね。
○山本(和)委員 だから,特異性と,組合の規律はそうかもしれませんけれども,配当要求できるか,できないかというのであれば,それはできるような気がしなくはないんですが,この部分,4分の1について配当は有効で,残りの4分の1は無効だとか,そういうことになるわけですよね。もちろん,完全にできないわけではないとは思うんですけれども,何も規定がなくてうまくできるのかなというのが。
○大村部会長 手続の問題として少し検討いただいた方がよろしいですね。今の点は御検討いただくとして,ほかに御意見はいかがでございましょうか。
○増田委員 義務の承継に関する規律の②というのが新しく入っているんですけれども,これは遺言についての善意,悪意は問わないのでしょうか。特にこだわるつもりはないんですけれども,遺言を知らないで,ある相続人に対して法定相続分で払ってくださいといったん請求したら,遺言の内容が判明した後においても相続分の指定割合による請求ができないというのは,ちょっと酷なような気がしないではないんですが。
○堂薗幹事 そこで,善悪で規律を変えるのは法的安定性の観点からどうかというところもあって,法定相続分での権利行使を一旦した以上は,そこで確定させるという方がむしろいいのではないかという趣旨ではあるんですが,当然,議論の対象にはなるのだろうと思います。ただ,その点は,一応,部会資料19-1でも従前,ただし書として書いていたものを今回,表現の仕方を変えたことに伴いまして②になったというだけで,実質的には19-1でも同じような規律は設けております。そこで,その趣旨について一応,説明はしているところではございます。
○中田委員 別のことでもよろしいですか。
○大村部会長 どうぞ。
○中田委員 権利の承継の「不動産又は動産に関する物権の承継」というところで,従来あった「法定相続分を超える部分の取得については」というのを削除したということについての御質問です。その結果として,第3の1の(1)で物権の承継とあるのですけれども,この物権の承継というのは法定相続分を含む全体についての物権の承継なのか,それとも,法定相続分を超過する部分だけの承継なのかについて,お考えをお聞かせいただきたいと思います。
  仮に全体の承継だとしますと,法定相続分の部分についても意思表示による承継のような印象を与えますし,他方で,超過部分だけだとすると,一つの権利の移転について二つに承継の原因が区分されるというのも何か不自然だなと思って,どちらにしても落ち着きが悪いなと思っています。そこをどうしたらいいかということと,それから,関連してですが,法定相続分については登記なくして対抗できるという,言わば当然のことなんですけれども,それを明示するということが可能かどうか,以上についてお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 ここの(1)の規律は,部会資料でも御説明させていただいておりますとおり,従前の実質的な内容を変えたものではないという理解でございまして,法定相続分の部分については,それについて登記の欠缺を主張するに足りる正当な利益を有する者が出てくる余地がないので,対抗関係にそもそも立たないのではないかという前提で,したがって,あえて法定相続分を超える部分はと書かなくても,当然にそうなるのではないかという前提です。実質的には法定相続分を超える部分についてのみ,二重譲渡類似の関係が生じるという前提で,したがって,そこの部分については対抗要件が必要だという理解をしております。
○中田委員 ということが書かれているのですけれども,表現だけを見ますと,これこれに関する物権の承継はとありますので,全体に及んでいるように読めてしまうことの問題はないだろうかということです。これが更に波及してしまって,虚偽の遺産分割協議書を作成して譲渡したとしても,それは無権利なんだとか,そこら辺の一連の判例法理に誤解を及ぼさないだろうかという懸念でございます。
○堂薗幹事 こちらが意図しない解釈がされるおそれがないかというのは,こちらも懸念を持っているところではございます。その意味で,30ページの(注)でも書かせていただいているところではあるんですが,考えているのは先ほど申し上げたとおりですので,その点について,それ以外の解釈がされないような規定ぶりにするための工夫というのは検討したいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  書きぶりについては,誤解が生じないように工夫いただくということになろうかと思いますけれども,そのほかにいかがでしょうか。何についてでも結構ですけれども,よろしいでしょうか。
○沖野委員 どうしようかと思ったんですけれども,これが最後の機会かもしれないので,二つあります。
  一つは,「権利の承継に関する規律」の「債権の承継」の債務者への対抗要件のところなんですけれども,とりわけ,(2)の②で通知自体については一定の書面を交付してしなければ,債務者に対抗することができないとされている点で,債務者以外の第三者には,そのような書面を交付しなくても対抗できるとされています。これは時期を明確にする趣旨である,いつの時点が基準になるのかを明らかにするとのことです。
  債務者にとっては,自分が拒絶できるかどうかさえ分かればいいからということなんですけれども,確かに債務者以外の第三者に対する対抗要件と,債務者に対する,対抗要件という言葉を使うとすると,対抗要件がずれるということは,債権譲渡登記のようにもちろんあるんですけれども,一方で,登記所をそこでインフォメーションセンターにするんだという制度を採っているならともかくとして,ここではなおも債務者の認識を通じて情報を提供するというか,情報センターにするという考え方を維持するときに,債務者との関係では,結局,はっきりしないというか,権利行使ができるような人かどうかが分からないという状況で,例えばここで第三者からの照会があったら,書面が来ていないから分からないけれども,確定日付のある証書があるから,そちらが優先しますと債務者は答えることを期待されているのだろうか。もちろん,答える義務はないわけなんですけれども,債権譲渡の対抗要件のシステムと合うのだろうかというのが気にはなっておりまして,そこは大丈夫なのだろうかということです。
  それは気掛かりだというだけなんですけれども,もう一つは義務の承継の方のところで,今回,36ページで,前回は幾つかの案を甲,乙,丙と出していただいて,なかなか,この辺りまで決めるのは難しいということで,しかし,少なくともこの限りではというところを今回はエッセンスとして出していただいたと思います。それで,それはその辺りかなと思う反面,若干,気になっておりますのは前回の丙案の①というところで,相続分の指定をする場合には遺言にその割合を明示しなければならないという点です。
  私は前回,丙案は採れないのではないかと申し上げて,それは相続分指定において,積極財産と消極財産で食い違うということを正面から認めるという限りにおいては難しいのではないかと,説明のところを特に考えていたんですけれども,他方で,指摘されました例えば財産ベースでの相続分指定を考えざるを得ないということに伴う複雑な問題,基準時だとか,評価がかなり分かれるときに相続分指定がどういう形になっているのか,よく分からないという,そこの問題はそもそも相続分の指定という制度に対する懐疑的な見方も踏まえますと,何とかした方がいいのではないかという面はあるように思いますので,積極財産,消極財産で相続分指定を分けるというか,相続分指定で積極財産だけを動かせるというようなことは認めるべきではない,それは遺贈と考えるべきだと思っているんですけれども,しかし,相続分の指定をやるからには明確にしてほしいということは,一種の合理化としてあり得るのではないかと,丙案の①についてはもう少し検討する必要はないだろうかと思うものですから,ここで捨て切っていいかということだけは,それはしようがないので,そこは諦めるというか,置いておいていいということで次に進むということでいいのかだけは,御意見を確認した方がいいのではないかと思うものですから。すみません,最後にお願いしたいと思います。
○堂薗幹事 まず,第1点目ですが,確かに債務者にとって第三者対抗要件として有効なのかどうか分からない通知が来るということで,その場合,債務者としてどう対応するのかというところはあるわけですが,ここで考えているのは,債務者対抗要件を満たしていない形で第三者対抗要件が仮に来たとしても,債務者としては,その人を債権者として扱わなくていいという前提です。要するに,訳の分からない通知が来たのと同じように考えておけばよく,少なくとも債務者の行動としては,飽くまで債務者対抗要件を満たした人が二人以上出た場合に,初めて確定日付がある人に支払わなければいけないという規律が生じるだけだということです。
  ですから,結局,第三者対抗要件でどちらが早いかというのが問題になるのは,債務者の弁済において問題になるのではなく,要するに第三者対抗要件で優先する人ではない人に弁済してしまった場合に,不当利得返還請求等をする上で,実は第三者対抗要件としては,こっちで勝っていたので二重譲渡類似の関係に立つ債権者同士では,こちらの方が優先しますという限りで意味を持つというように考えております,ただ,そういうことであれば,そもそも,債務者の認識を一種の公示とするということになっていないのではないかという御指摘は,確かにそういった問題点はあるんだとは思いますが,そこはそういう形で割り切らざるを得ないのではないかというのが今回の考え方でございまして,そこについて問題があるということであれば,再度,検討いたしますけれども,なかなか,これに代わる案というのも正直,難しいなというところがございます。
  相続分の指定につきましては,事務当局としても丙案のような形で,この部会でコンセンサスが得られるのであれば,それを明確にするというのは十分あり得ると思うんですけれども,債権者の立場からするとなかなか難しいという御意見もございましたので,そこについてコンセンサスが得られない場合には,法制化は難しいのではないかということです。ただ,今回も書いておりますように,対抗要件主義を採用しますと,従前,丙案について指摘されていた問題点というのは,現行法に比べると軽減することにはなると思いますので,それを踏まえても,なお,債権者の立場では難しいということなのかどうかということだと思います。その点については,御意見があれば是非お伺いしたいと思っております。
○沖野委員 1点目は,対抗要件制度の在り方そのものに関わるので,機能的にどうかということではないですが,しかし,問題意識は共有しているということだと思います。
  2点目の方は,相続分指定をする場合には,そこは明確に書くということだけを要請することが債権者保護に欠けるのかというのが,私にははっきりとは分からないところで,積極財産を動かすだけのときは遺贈でいくしかないという考え方を仮に採るとすると,そこは債権者保護に関わるのだろうかというのが理解できていないんですけれども。
○堂薗幹事 飽くまで割合が明示されていなくても,相続分の指定だということであれば,正に財産を多く取得した人に対しては,その分を多くかかっていけるという意味で,債権者としては権利行使がしやすいわけですが,そこは必ずしも連動しないということになりますと,たくさんもらった人がいるにもかかわらず,その人に対しては法定相続分の限度でしか権利行使ができないという場面が出てくるということでございます。
○沖野委員 遺贈の範囲が広がるということですね。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○沖野委員 そこは分かりましたが,それでも,この程度,明確にしたことにはそれなりの意味があるように私は思ったものですから,ただ,そうこだわることではありませんので,特に賛同の意見がなければ,このままの形で結構かと思います。
○大村部会長 御意見として承ったということで,検討の余地があるかどうかをお考えいただくということでよろしいですか。
○堂薗幹事 従前,どちらかというと丙案に反対されていたのは,債権者側の立場になられる方ですので,それらの方々の御意見がどうなのか,対抗要件主義を前提とした上でも,それだと難しいということなのかどうかという辺りに係ってくるのかなとこちらでは思っております。
○大村部会長 ほかに何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第3の「相続の効力等に関する見直し」についても,御意見を承ったということにさせていただきます。
  最後になりますけれども,今後の日程等について事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 本日も熱心に御議論いただきましてありがとうございました。
  次回の日程でございますが,御案内のとおり,6月20日(火曜日)の1時半からを予定してございまして,次回はこれまでの論点の全体像と申しますか,全ての論点について取り上げることを予定しております。場所でございますが,本日と同じ法務省20階第1会議室になりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,これで本日の審議を終わらせていただきたいと思います。
  本日も熱心な御議論を頂きましてありがとうございました。閉会いたします。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第22回会議 議事録


第1 日 時  平成29年6月20日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時46分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第22回会議を開催いたします。
  議事に先立ちまして,新しい関係官の方がいらっしゃいますので,自己紹介をお願いいたします。
○秋田関係官 秋田純と申します。よろしくお願いします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願いいたします。
  続きまして,配布資料の説明を,事務当局にお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から配布資料の説明をさせていただきます。
  本日配布の配布資料目録のとおり,本日は3点の資料を配布しております。事前送付の部会資料22-1,それから部会資料22-2でございます。
  以上,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  今,御説明がありました部会資料の22-1,それから22-2,「要綱案のたたき台(1)」となっているものでございますけれども,本日はこれに基づきまして審議を進めさせていただきたいと思います。
  要綱案のたたき台の(1)は,第1から第6までの項目に分かれておりますけれども,補足説明の方を見ていただきますと,第7という項目がございまして,都合7項目ございます。順次説明を頂き,御意見を伺うという形で進めてまいりまして,分量の関係で,第3の途中ぐらいで休憩を入れたいと思っております。
  それでは,まず第1の配偶者の居住権を保護する方策につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○倉重関係官 関係官の倉重から御説明申し上げます。
  第1の点につきまして,まず,短期居住権の点についてですが,権利の内容について,従前は「使用及び収益」としていた点を,単に「使用」としております。従前のものは,平成8年判例では使用貸借契約を推認するという構成を採っていたことから,使用貸借に合わせていたものです。しかし,短期居住権は被相続人の占有補助者であった配偶者に相続開始後に独自の占有権限を付そうとするものですが,配偶者が相続開始前に建物の一部に収益権限を有していた場合には,その部分については被相続人と配偶者との間に使用貸借契約などが成立していることが多いと思われます。また,居住用建物のうち,収益をしていた部分まで短期居住権の対象とし,それによる収益を配偶者のみに帰属させるのは,短期居住権による配偶者保護の目的を超えているとも思われます。そこで,本部会資料では,短期居住権の範囲として建物の使用権限のみとし,収益権限までは認めないこととしました。
  次に,前回部会で,居住建物について遺産分割が行われる場合には,配偶者が長期居住権を取得したときであっても,短期居住権を成立させることで,長期居住権の評価額を下げてはどうかとの意見がございました。しかし,長期居住権は短期居住権よりも強力な居住権として構成されていますので,長期居住権を取得した場合には,その時点から長期居住権に基づく居住を認めることで,配偶者の保護に資する面もあると思われます。また,配偶者が長期居住権を取得するのは,配偶者が長期居住権を希望する場合ですので,配偶者が不測の不利益を受けることもないと思われます。さらに,遺産分割によらずに長期居住権を取得するのは遺贈や死因贈与の場面ですが,この場合には,持戻し免除の意思が推定されるため,配偶者が取得できる財産が減少するのは限定された場面に限られます。これらのことから,この点につきましては,従前の提案を維持することとしております。
  以上が,短期居住権についてでございます。
  次に,長期居住権の点ですが,長期居住権は建物所有者に負担を課すものですから,その存続期間を明確にする必要性が高いと考えられます。そこで,その設定行為において,存続期間を定めなければならないものとしております。その上で,被相続人が遺贈によって長期居住権を設定する場合などに,その存続期間の定めを忘れることで,これが無効となってしまうことを避けるため,遺贈又は死因贈与契約で長期居住権を取得させる場合に,その存続期間を定めなかったときは,その存続期間を終身の間と定めたものとみなすことといたしました。このように定めましても,持戻し免除の意思表示が推定されることから,配偶者に不測の不利益が生じる可能性は低いものと思われます。
  一方,遺産分割の場合には,配偶者が長期居住権を取得した場合,その財産的価値に相当する金額を相続したものと扱われることとなっているため,存続期間を終身の間と推定することにしますと,先行して一部分割を行って,配偶者に長期居住権を取得させたような場合に,後行する残部の分割において流動資産を僅かしか取得できなくなるといったような場面が生じ得ます。そこで,遺産分割の場合にはこのような推定規定を置かないことにしております。
  しかしながら,このような規律にいたしますと,遺産分割において長期居住権の存続期間について黙示的な合意も認定できないといった事案では,長期居住権が無効となってしまうというリスクがございます。そこで,長期居住権については,その取得原因にかかわらず終身のものと推定するという規律も考えられますところですので,この点につきまして御意見を承れればと考えております。
  最後に,配偶者に長期居住権を取得させる旨の審判があったとき,配偶者が単独で登記申請できるのかという点についてです。
  まず,登記義務を命ずる審判については,特段問題なく,他方の当事者は単独で登記申請することができると思われます。また,審判において,登記義務の履行を命ずる旨が明示されていない場合にも,部会資料に記載しましたとおり,配偶者による単独申請が認められてよいものと考えております。なお,居住建物の所有権の移転の登記が未了である場合には,長期居住権を取得した配偶者は,その設定登記の前提として,保存行為により相続を原因とする所有権の移転登記等を申請する必要があるというふうに考えているところでございます。
  以上になります。
○大村部会長 ありがとうございました。
  配偶者の居住権を保護するための方策ということで,短期居住権と長期居住権のそれぞれにつきまして,幾つかの調整をしているということで御提案があったかと思います。
  順次御意見を伺えればと思いますが,短期居住権について,まず収益の権限は認めず,使用の権限だけにするということと,短期,長期の関係については,従前の提案を維持しているということですけれども,これらにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
  水野委員,どうぞ。
○水野(紀)委員 御検討いただいた上で維持されたということですのに,蒸し返しになってしまうのかもしれないのですが,やはり心配でございますので,一言発言させていただきます。
  長期居住権の対価がどのくらいになるのかということが,ずっと心配でございまして,これが市場価格になりますと,例えば,10年分ぐらいの長期居住権の対価では,その不動産そのものの価値を凌駕してしまうような,それぐらいの高い価格になりかねません。そんな高い価格が付いてしまいますと,持戻し免除の意思表示を兼ねたとしても,やはり配偶者の老後の居住権が危うくなってしまう心配がございます。
  元々日本法は,婚姻の効果としての配偶者の居住権が著しく弱いですし,夫婦財産制の清算まで視野に入れますと,配偶者の老後の生活が担保されない,配偶者保護がひどく弱い法制度になっております。何とか遺産分割が成立するまでの間,無償でという従前の保護を認める可能性はないものでしょうか。また,この長期居住権の対価が市場価格より非常に低いものになるであろうという何らかの将来的な示唆が盛り込めるのであれば,不安は幾らか減ずるのですが,そこの点はいかがお考えでしょうか。
○堂薗幹事 そもそもこの長期居住権について,どういう形で評価をするかというところにかかってくるんだろうと思いますし,基本的には,長期居住権をほかの人に譲渡するというのは難しい面がございますので,そういった意味で,市場価格というのは観念しにくい面があるのかもしれませんが,従前,不動産鑑定士協会の方からいただいた資料等を見ても我々の印象としては,それほど高く評価されていないといいますか,比較的長期の居住権になっても,建物全体の価値まではいっていないというような場合もあるようでございますので,御指摘のような懸念は,それほど当てはまらないのではないかという認識を持っております。それから,長期居住権という,より強い権利を取得していながら,別途短期居住権も取得するというのは,なかなか制度としては仕組みにくいところがございますので,このような形にさせていただいているというところでございます。
  以上です。
○大村部会長 水野委員,よろしいでしょうか。
  直接には,第1の1の(1)アのただし書,配偶者が遺贈又は死因贈与によりその建物について長期居住権を取得した場合は,この限りでないものとするという案が維持されているわけですけれども,これについて,更に見直しの余地はないかという御質問だったかと思いますが,今のように,それほど高く評価されないのではないかという見通しも含めて,これを維持したいという御提案かと思います。
  何かこの点につきまして,ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,藤野委員。
○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。
  直接かどうか分かりませんけれども,長期居住権を取得した場合に,それを登記することを基本とし,所有者にもそれを義務付けているということが大事かと思われます。これまでにない新しい権利ですから御懸念のように非常に高くなってしまったり,ちょっと思い掛けない方向の価値が生まれてしまうことに対して,住まわれる方が登記をすることで権利が守られるということが大事かなと思いまして,ここの項目は有り難いと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,長期居住権の方の登記請求権に係る御発言もございましたけれども,短期の方について,特に御意見がないようであれば,長期も含めて御意見を頂ければと思います。
  どうぞ,南部委員。
○南部委員 ありがとうございます。
  短期居住権にも少し関わるのですけれども,この注の取扱いはどうなるかということを,まずお聞きしたいと思います。条文の中に,この項目は入っていくのかどうかということ,3ページの上の注1,注2であったり,5ページの一番下の注の取扱いについて,まずお伺いしたいです。
○大村部会長 では,お願いします。
○堂薗幹事 最終的に条文にする場合にどうなるかという点につきましては,我々だけでは判断できないところがございますので,そういった留保があるという前提ではございますが,注1については,条文に書く必要はなくて,書かない以上はこういう形になるのではないかという理解でございます。注2につきましては,この特則の部分をどういう形で条文化するかというところにかかってきますので,この部分が明示的に条文に出てこないこともあり得ますし,短期居住権の本則のところとは別の形で書き下ろすという形にするのであれば,この点を含めて条文上明確にすることも考えられますけれども,そこは条文にする際に更に検討したいと思います。
○南部委員 ありがとうございます。
  そうしますと,書かない場合もあるということですので,一般的には条文に書かれていても分かりにくいというのが条文だと思っております。例えば,5ページの下の注であれば,配偶者は無償で長期居住権を取得できるというふうに誤解を招く恐れもあるかと考えておりますので,もし条文に記載されないのであれば,注意書きについてはしっかりと周知をお願いしたいと思っております。
  これにつきましては,ほかの改正内容についても同様,周知と解釈の理解が一般の国民ができるような形で是非お願いしたいということで,要請でございます。よろしくお願いします。
○堂薗幹事 その点は,こちらも配慮が必要だというふうに考えておりますので,条文の解釈等について誤解が生じないように周知をしてまいりたいと思っております。
○大村部会長 注の取扱いにつきましてはよろしいでしょうか。
○南部委員 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 そのほか,この第1全般につきまして,御意見がありましたらお願いいたします。
  潮見委員,どうぞ。
○潮見委員 1点だけ確認ですが,長期居住権の登記手続のところです。
  登記手続について,単独での登記申請を認めるということは,それは,判決文中とか,あるいは審判の文言中に,登記義務というか登記の履行を命じるということが書かれているという場合に,その部分を意思表示擬制というところにつなげて,それで単独での登記申請というものを認めていたと理解しているのですが,今回の御説明によりますと,そういう登記を命じることが審判の中に現れていなくても,単独での申請を認めるというのは,これは,従来の枠組み,ひいては執行手続の考え方に対して変更を加えるということを意図されているのか,従来の実務との整合性がとれるのかというのが若干気になりまして,御教授いただければと思います。
○堂薗幹事 その点は,不動産登記法を所管している民事2課にも相談の上で,こういう記載をさせていただいたんですが,基本的には,今,潮見委員が言われたとおり,審判書の中でそういう意思表示を命ずる,意思表示を擬制する主文がなければいけないという前提ではあるんですけれども,ただ,長期居住権の場合は,説明にも書かせていただいたとおり,長期居住権を取得させるけれども,登記を備えさせる義務を負わせないという場面は,基本的には存在しないという理解の下で,そういうことであれば,この審判の中に,言わば黙示的にそういった趣旨を含んでいると見ることが可能ではないかという趣旨でございます。したがいまして,ここで,このような取扱いをするからといって,ほかの場面で当然に意思表示を擬制する文言がないにもかかわらず,単独での登記申請を認めるということにはならないものと考えております。
  この点の記載については,内部でもいろいろと議論があるところではございますので,引き続き慎重に検討させていただければというふうに思っております。
○大村部会長 潮見委員,よろしいですか。
○潮見委員 はい。
○大村部会長 今の点につきまして,ほかに御発言ございませんか,登記請求権の点については,いかがでしょうか。
  どうぞ,増田委員。
○増田委員 今,潮見委員がおっしゃったことと同じことなのですけれども,今回の補足説明「2 配偶者の長期居住権を長期的に保護するための方策」の2の(2)はやはり削除すべきではないかと思います。
  裁判所が取得を相当だとする審判を下すのであれば,主文で(1)のような書き方をすればいいのであって,こういう例外を認めると,他の形成裁判にも影響することが懸念されます。つまり,本質的に共同申請なのか,単独申請なのかという問題があって,登記義務者が観念できる場合に,共同申請でなく単独申請となる例は,ほかに多分ないと思うんですね。ということは,やはり潮見委員がおっしゃったように,これまでの登記請求権の考え方に沿った登記実務を大きく変えるものになるので,審判だけでなく調停にも関わってくることをも考えると,誤解を招くようなことは避けたほうがよく,必ず(1)のように書くことにしても,何も困らないのではないかと思いますが。
○大村部会長 今の点につきまして,何かほかに御指摘ございますでしょうか。
  それでは,事務当局に御検討いただくということにしたいと思いますが,潮見委員,増田委員,よろしいでしょうか。
  ありがとうございます。
  その他,第1の配偶者の居住権を保護するための方策につきまして,御意見,御指摘等ございますでしょうか。
  中田委員,どうぞ。
○中田委員 本質的なことではないですし,既にもう議論されているのかもしれませんけれども,細かい点,2点ございます。
  一つは,短期居住権については,その建物を使用することはできるというふうになりました。長期居住権については,その建物全部の使用及び収益する権利という表現になっております。前者に全部というのが入っていないということに伴う,解釈の疑義ということは生じないでしょうか。これが一つ目でございます。
  それから,もう1点は,それぞれについて,配偶者の死亡によって居住権が消滅した場合には,相続人が原状回復義務と収去義務を負うということになっておりますが,相続人がその義務を承継するのは当然のようなことのようにも思います。ほかにも,例えば,損害賠償ですとか,費用の問題も出てくるわけですけれども,原状回復義務と収去義務についてだけ,このようにあえて規定するのは,どういう意味があるんだろうかということについてお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 最初の点ですけれども,こちらの整理としては,短期の方は,建物の一部についても成立するという前提で,要するに,配偶者が使っている部分だけについて,こういった無償での使用が認められるという理解です。ただ,短期の場合は対抗要件がありませんので,そういった意味では,建物の一部についてのみ認めることも,それほど困難ではないのではないかということで,これを認めているわけです。これに対しまして,長期居住権の方は,対抗要件が登記に限定されており,占有等は認めないということもございますし,それから,そもそもこの長期居住権を新たに設ける意味というのは,無償でありながら,第三者対抗力まであるというところに特色があることになりますので,建物全体についてしか権利の設定を認めないという理解です。したがいまして,配偶者が被相続人の生前は建物の一部しか使っていなかった,居住目的で建物の一部しか使っていなかったという場合についても,建物全体について長期居住権の設定をすることができるという前提です。飽くまで居住用として一部使っていたというのは,長期居住権を取得するための保護要件にすぎないという整理をしております。
○宇野関係官 2点目につきましては,御指摘があったとおりで,基本的には,死亡によってこの短期居住権なり長期居住権なりが終了した場合には,相続人がその義務を果たすというのが,恐らく何も書かなくても基本的にはそうなるだろうということは,こちらも思っております。ただ,これまでの部会の中で,特出しして,使用貸借でもそうだということはありますけれども,死亡を終了原因に挙げているところから,それによって配偶者についての相続が起こった場合には,誰がこの義務を履行するんだというようなことが,部会の中で議論になっていたこともありまして,ここでゴシックの中に掲げて明示しているということでございます。条文化の際に,これをこのままの形で条文にするかどうかは,御指摘を踏まえて検討したいと思っております。
○中田委員 どうもありがとうございました。
  第1点について,内容は理解したんですが,そうしますと,短期居住権については,その建物の全部又は一部を使用することができるという趣旨であれば,そういうふうに書いたほうが,明確なような気もするんですが。
○堂薗幹事 その点も含めて検討させていただければと思います。
○大村部会長 中田委員,実質についてはよろしいですか。
○中田委員 はい。
○大村部会長 では,書きぶりにつきましては,第2点も含めまして御検討いただくということにしたいと思います。
  山本克己委員,どうぞ。
○山本(克)委員 長期居住権の性格について,ちょっとお伺いしたいんですが,これは,譲渡は不可能だということになるということなんですね。そうすると,これは,長期居住権者に対する債務名義を要するものは,これは差し押さえることはできないということでよろしいんでしょうか。
  例えば,遺産分割で,建物の所有権は別の相続人がそれを取得して,配偶者は長期居住権を得たという場合に,長期居住権者は執行から免れる財産を獲得し,他の所有権を取得した相続人は執行を免れることができない財産を取得するということになって,それは不均衡が生ずるけれども,これは長期居住権者制度というものを認めた以上やむを得ないと,そういうことでよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,そのようになるのではないかと思います。要するに,長期居住権の場合,所有者の承諾がないと譲渡等をすることができないということですので,賃貸借と同じような関係になっていると思うのですが,その場合に,差押えをした上で,その換価は所有者の承諾がないとできないという形になるのか,あるいは,差押えもできないということになるのか,そこは,賃貸借の場合とパラレルに考えるということにはなろうかと思います。
  ただ,御指摘のとおり,少なくとも承諾を得ないと第三者に使用,収益させることができませんので,そういった意味で,執行可能財産に該当するかどうかという問題は生じ得るものと思います。
○山本(克)委員 そうか,譲渡しも入っているんですね,ウに。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 失礼しました,そこは読み落としました。
  そうすると,今のような場合に備えて,借地借家法と同じような,承諾に代わる裁判の制度というのは必要にはならないんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,元々承諾に代わる裁判が,そういう執行の場面を考えて作られたのかどうなのかというところにもよるんだとは思いますが,基本的には,長期居住権者の場合については,(2)のウのような形で書いてはおりますが,期間が限定されており,更新はありませんし,配偶者が死亡すると当然に終了するというような権利であり,余り第三者に使わせるということは想定していないというところがございますので,借地借家法にあるような代諾の制度まで設けるということまでは考えておりません。少なくとも,現時点で,そこまでは検討していないという状況でございます。
○山本(克)委員 ちなみに,競売は当然,執行は当然前提としているので,借地借家法の20条1項で,借地権の場合につき,建物の競売における譲渡の許可の裁判というのが,これに相当するわけですね。
  何が言いたいかというと,ほかの人は執行を相続財産で相続して,相続によって得られた財産について執行を免れることはできないのに,長期居住権者だけ執行を免れる財産を得るということは適切なのかどうかということを,ちょっと考えていただきたい。特にすぐ,亡くなるのも,若ければ何十年も使用できるわけですから,そんな財産的価値が低いと,一概には言い切れないわけですね。その場合の期間の定めをどう考えるのか。終身の場合に,期間をどう考える,売られてしまったとき,あるいは譲渡されてしまったときの期間がどうなるのかという点も,少し問題なのかなという気もしますが,ちょっとその辺,気になりました。
○堂薗幹事 検討させていただきますが,ただ,長期居住権は,第三者対抗要件もあえて登記に限定したと,占有を対抗要件とせず,登記に限定したのは,相続債権者の方も,登記がされる前に建物を差し押さえれば,そちらが優先することになるため,被相続人の生前に権利の保全を行う必要性が少ないのに対し,占有を対抗要件といたしますと,早期に権利の保全を行わなければならなくなるのではないかというようなところもあって,このような形にさせていただいておりますので,この長期居住権について代諾の制度を設けるというのは,いろいろな面で難しい面はあるのではないかというふうに考えているところではございます。
○大村部会長 山本克己委員,よろしいですか。
○山本(克)委員 はい。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
  西幹事,どうぞ。
○西幹事 制度が回り始めてから伺えばいいことだと思いますが,ちょっとありそうなことで気になりましたので,2点教えてください。
  1点目は,2の(1)の③のところで,長期居住権は存続期間を定めなければいけないということになっておりますが,実際に遺言を書くときに,恐らく相続分の範囲でとか,遺留分を害しない範囲でという書き方をする方がいらっしゃるのではないかと思います。その場合は,それを解釈で存続期間に読み替えるということになるのか,あるいは存続期間が定まっていないものとして,終身というふうにみなすのかというのが気になりました。
  もう1点,非常に細かいことですが,5ページ目の(3)の④のところなど,ただし書で,配偶者の責めに帰することができない事由によるときは,損傷について責任を負わないという話ですけれども,第三者に賃貸していた場合などについては,通常の賃貸借の場合の転貸とか賃借権の譲渡と同じように考えていいのか,あるいは,それ以外の部分も含めて,普通の転貸などとは少し違う扱いをこの場合にはすることになるのか気になりました。もし今の段階で解釈が定まっていれば教えていただければと思います。
○堂薗幹事 相続分の範囲でとか,遺留分を害しない限りという文言があった場合の取扱いですが,まず,遺留分を害しない限りということですと,基本的には,そういうことがあっても,遺留分権の行使がない限りは,権利の内容としては維持されるということになると思いますので,恐らく遺留分を侵害しない限りと書いてあるだけでは,存続期間の定めがされていると見るのは難しいのではないかというのが第一感です。
  他方,相続分の範囲内でというふうに書いてあるような場合につきましては,基本的には,それで同じように存続期間の定めがあると言えるのかというのはかなり疑問ではありますが,ただ,終身を前提とする長期居住権の取得によって,あるいはそのほかの財産を合わせて算定しますと,配偶者の具体的相続分を超える場合には,その超過部分については,長期居住権の期間で調整するという趣旨が読み取れるということもあり得るとは思います。いずれにしても,そこは,最終的には遺言の解釈,遺言者がどういう意思を有していたかというところにかかってくるのではないかと思います。
  5ページの(3)の④につきましては,基本的には,賃貸借並びの規律になりますので,基本的には賃貸借の解釈がそのまま当てはまるということで考えております。
○大村部会長 西幹事,よろしいですか。
○西幹事 はい。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,字句等につきまして,あるいは説明につきまして,御指摘がございましたので,それらの点につきましては見直しをしていただくという留保の下に,先に進ませていただきたいと思います。
  第2の遺産分割に関する見直し等に入りますけれども,まず事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から,遺産分割に関する見直し等につきまして御説明させていただきます。
  まず,1の「配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」についてでございますが,こちら,部会資料の18における甲案の考え方を掲げております。その内容につきましては,長期居住権を遺贈又は死因贈与した場合も,本規律の対象に含めることを明確にした点以外は,部会資料18における説明から特段の変更点はございません。
  次に,2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」についてでございますが,ゴシック部分の1につきましては,家庭裁判所の判断を経て仮払いを得るという方策,また,ゴシック部分の2につきましては,家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認めるという方策でございまして,その内容につきましては,部会資料20における提案内容から特段の変更はございません。
  なお,第20回部会におきまして,委員の方から乙案に関しまして,葬儀費用の支払及び被相続人の債務の弁済を目的とする場合に限り,仮払いを受けられることとし,また,被相続人の債務の弁済を目的とする場合については,金額の上限なく預貯金の払戻しを認めるという考え方の提案がございました。この点につきましての事務当局の考え方につきましては,補足説明の6ページの注において検討しているところでございますが,この案につきましては,他の共同相続人の利益を害するおそれがあることなどから,少なくとも法律上の規律としては実現することは困難ではないかと考えているところでございます。
  次に,3の「一部分割」については,ゴシック部分の提案内容,部会資料21からの変更点はございません。なお,前回の部会におきまして,ゴシック部分の②に公益的な観点も加味できないかという御指摘も頂きましたが,遺産分割をするか否かの場面では,公益的な観点が考慮されない一方で,遺産分割をする段階では考慮されるというのは,いささか理論的に正当化は困難ということで,その点の実現化は見送っております。
  最後に,4の「相続開始後の共同相続人による財産処分」についてですが,これまでも御説明申し上げてきたとおり,相続開始後に共同相続人が財産処分を行った場合に,その処分を行った者が,処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じることとなりますが,公平かつ公正に遺産分割を実現するためには,何らかの救済手段を設ける必要性が高いものと考えております。特に,先の大法廷決定によりまして,共同相続人は単独での預貯金の払戻しをすることができないことになるため,今まで以上に共同相続人の一部の者による口座凍結前の預金払戻しが増える可能性があり,決して看過することができない問題であると考えられます。
  立法的な解決により不当な結果を是正する方向性といたしましては,部会資料20の12ページ以下にも記載しましたとおり,遺産分割の中で処理をするという考え方と,償金請求をすることができる旨の規定を設け,一般の民事事件として処理をするという考え方があり得るところでして,今回の御提案をさせていただいた甲案は,前者の考え方に基づくもの,また,乙案は後者の考え方に基づくものということになります。
  なお,前回の部会におきまして,甲案と乙案の折衷案のような提案もしておりましたが,規律として中途半端ではないかという指摘がされたことを踏まえ,今回の提案には含めておりません。
  また,補足説明の11ページ以下で,甲案でこれまで指摘された問題点についての考え方,また,補足説明の14ページ以下で,乙案についての基本的な考え方を記載しております。
  なお,乙案に関しましては,補足説明の15ページの(注2)にもありますとおり,共同相続人の1人による預貯金の引出しについては,違法な引出しであって,不法行為に基づく損害賠償が成立するという考え方もあるように思います。この場合,乙案と同様の結論が現行法の解釈によって実現できるかどうか,理論的にはよく分からないところでありますので,後ほど是非御意見を頂戴できればと考えております。
  以上,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2の遺産分割に関する見直し等につきましては1から4までございますけれども,1,2,3につきましては,1について,甲案によるということはございますが,あとは,内容は特に変わっていないということでございました。4につきましては,甲案と乙案,両案併記という状態になっております。
  まず,この1,2,3につきまして御意見を伺った後,4につきまして御意見を伺うということにしたいと思いますが,最初の1,2,3につきまして,何かございましたらお願いいたします。
  どうぞ。
○藤原委員 2の仮払い制度のところでございますけれども,(2)の家裁の判断を経ないでの仮払いというところにつきましては,先ほど関係官から御説明ありましたとおり,4月の第20回の部会におきまして,浅田委員の方から対案を提案させていただきました。先ほどの御説明のとおり,今回の御提案では,その対案は取り上げられておりませんで,その理由としては,補足説明にありますとおり,相続人間の平等の観点から問題があるということで御指摘を頂いておりまして,その内容自体は理解をしているところではあります。もっとも,実際に多くの相続人の方々から払戻しの請求をされておる金融機関の立場から申し上げますと,相続人が仮払いを請求するのは,必ず何らかの資金需要がございまして,特に葬儀費用であるとか,被相続人の税金の支払等の相続債務の支払のために,まとまった資金を早急に欲しいというケースがほとんどでございまして,それに対して,金融機関も,特に去年12月の大法廷決定後は,遺産分割が調う前の払戻しということについては,特段の法的な根拠が失われた状態にある中,そういったニーズに応えるために,各金融機関がリスクを負いながら柔軟に対応しているというところでございます。ただ,こういった状況が今後長引けば,便宜的な払戻しに消極的になる金融機関がないとも限らないという状況にあります。
  第20回部会で浅田委員が提案した内容は,こういった金融機関が肌で普段感じている相続人の仮払いに関するニーズと,それに対応した金融機関の実務対応を踏まえたものでございまして,当該ニーズに応える制度の提案としては,一定の社会的な意義があるものだというふうに考えております。
  一方,今回引き続き御提案を頂いております,以前乙案と呼ばれておりました法務省提案は,金額で,特に資金使途の制限は設けないということで,相続人間の公平を担保するという点では,理論的には理解できるんですけれども,実際この制度を運用する側から申し上げると,相続人のニーズであるとか,現在の金融機関の実務に,必ずしも沿ったものとは限らなくて,これが法制度化された場合に,本当に使い勝手のよい制度になるのかどうかというところについて,若干の疑問を持っているところでございます。
  具体的には,幾つかありまして,まず,この金額が,預金の残高,掛ける2割,掛ける法定相続分ということになっておりまして,この2割というのは,今後の議論の対象かもしれませんけれども,特に預金金額が少ないような場合には,葬儀費用等の金額に満たないような場合も出てきてしまうということ。それからあと,資金使途での費目での縛りがないということになると,相続人の側も,こういう制度ができたんだから,取りあえず,必要はないけれども,その分だけ下ろしておくかということで,安易な仮払いが横行して,その結果,その後の遺産分割協議において,余計なトラブル,争いを生じてしまうのではないかという懸念,それから,もう一つは,法定相続分の確認をしなければいけないということになりますと,結局,払戻しを請求する側で,自身の法定相続分を示さなくてはならず,被相続人と相続人の戸籍謄本を結局全部用意しなければいけないということになりますので,それなりに相続人の側に時間的な,又は物理的な手間が掛かるということで,裁判所を絡めた手続である(1)の案と,時間的にどれぐらい差が,スピードが確保できるんだろうという点などの疑問が生じているところでございます。
  浅田委員の提案に対しましての問題点ということで挙げていただいている中で,費目を限定しているということについては,本当にこれだけの費目で必要十分かということについて,なかなか法律上決めることができないのではないかという批判もあるところでございますけれども,実務上ニーズが高いものについては,裁判所の関与がないもので取り上げた上で,それ以外のものについては,(1)の裁判所が関与するもので対応するというような制度設計もあるように思っているところでございます。
  ということからして,浅田委員から20回部会で提案した制度については,改めて本日,委員の皆様に御議論いただくとともに,これから行われるパブコメにおいては,是非この(2)のゴシックの案と両論併記にしていただくということを望むものでございます。
  本日の御議論の結果,浅田委員の提案した制度が俎上に載らないということであって,今回の(2)の提案がそのまま法制度化されたような場合に,仮に,将来この制度が,ちょっと実際のニーズに合わないぞというふうになった場合には,金融機関としては,各金融機関の創意工夫によって,この(2)とは別の,浅田委員の提案に近いようなものを,各金融機関の,例えば,個別の商品であるとか,又は預金の約款等で手当てをすることによって対応するということも考えられるところでございます。
  ただ,その場合,少し気になるのが,(2)が法制度化された場合の強行法規性といいますか,この制度とは別の制度を各金融機関が約款や個別契約で行った場合に,それが(2)の法律に反すると,それが有効ではないというようなことになってしまうと,非常に困るということでございます。ということですので,(2)が法制度化された場合に,それと異なるような内容のものを契約で対応するということについて,法律上禁止されないということは,この場で確認できればいいなというふうに思っております。もしその点が,仮に現段階では,それは今後の解釈によるとしか言いようがないということであれば,一つの案としては,この(2)はあえて法制化しないという議論もあり得るように思っております。
  あと,最後に,各金融機関において,約款であるとか預金者との個別契約で対応する場合には,当然ながら,各金融機関の営業政策の方針であるとか,又は独禁法の関係もありますので,その取扱いを強制したり,条件を統一化するということは困難ですので,この点からも,本来であれば,相続人のニーズをきちんと的確に捉えた内容が,裁判外の制度として法制化されるということを,一義的には望むものです。
  私からは以上でございます。
○神吉関係官 事務当局の方から,ただ今の藤原委員の御意見に対して,いくつか御指摘させていただきたいと思います。まず,(2)の規律によりますと,払戻しが得られる金額が債権額の2割に法定相続分を乗じた額となっているので,実際の資金需要と比べて少ないのではないかという御指摘があったかと思います。この点につきましては,割合,又その金額の上限を(2)では設けておりますが,この具体的な数額については,必ずしもこだわるものではございませんでして,パブリックコメントの結果なども踏まえまして,最終的に決めていきたいとは思っておりますが,その制度設計といたしましては,他の共同相続人の利益を害しないような制度設計にするべきであると考えておりますので,さほど大きな数字にはできないのではないかと思っております。その金額の上限を超える場合につきましては,(1)の方策により裁判所の仮払いということで対応できますので,一応制度的な手当てもされているのではないかと考えております。
  また,(2)の方策によりますと,法定相続人であることの確認や,法定相続分が幾らであるという確認を戸籍なりでしなければいけないので,それに時間が掛かるのではないかという御指摘がございました。ただ,その点につきましては,前回の部会において浅田委員から御提案いただいた内容でも異なるところはないのではないか,すなわち,その支払の請求者というのが相続人であるかどうかということは,戸籍を提出していただいて,恐らく疎明をしていただく必要があるのではないかというふうに思っておりますので,その法定相続分の計算をしなければいけないという手間は掛かるかもしれないんですが,疎明資料としては,さほど異なるところはないのではないかと考えているところでございます。
  また,(2)の制度を法制化せずに,各金融機関の約款や個別の商品に委ねることができるかという点でございますが,あり得なくはないかもしれないのですが,先ほどのお話ですと全金融機関で同じ約款を採用はできないというお話でしたので,国民の目からすると,この金融機関では仮払いはできるけれども,この金融機関ではできないという話になりまして,恐らく非常に困ったことになるかと思いますので,法務省といたしましては,国民の目から見て,一律に支払が得られるような法制度にすべきではないかということで,(2)のような制度は必要であると考えているところでございます。
  また,(2)の制度と金融機関が考える個別の商品との併用は可能なのかどうかという点でございますが,どのような商品を考えていらっしゃるのかということ次第だとは思うんですけれども,例えばの話といたしまして,被相続人が生前に支払委託みたいな形で葬儀費用とか相続債務の支払に充てるため,一定の金銭をプールをするような形で契約をしていたという話であれば,それは,遺産から既に逸失していると考えることができるのかもしれませんし,もしそういう構成が採れるのであれば,(2)の制度と併用するということは,十分可能なのではないかと思います。ただ,個別の中身の商品設計を見てみないと,何とも申し上げようがないというところでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  今の点は,非常に国民一般の関心度も高い点だろうと思いますので,各委員,幹事の御意見があれば,是非承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  どうぞ,上西委員。
○上西委員 確認も含めて,4点ございます。
  1点目ですけれども,2の(2)の括弧書きで,「ただし,預貯金債権の債務者ごとに」と書いてあります。これは,金融機関ごとにと読んでよろしいのでしょうかという確認が1点目です。
  2点目は,2割や100万という,一定の割合で,かつ金額の限度基準を設けたのは,一種の救済方法といえます。資金的に立場の弱い人に対して,28年12月19日の決定を踏まえつつも,実務を考慮したものとして,評価したいと思います。
  3点目は,実務を考えた場合に,29年5月29日から施行されています法定相続情報証明制度の証明書を持っていけば手続ができるような仕組みと考えてよろしいでしょうか。
  最後,四つ目なのですが,家庭裁判所の判断を経る場合と経ない場合の二つが選択肢的に書かれてあります。実務を考えますと,家庭裁判所の判断を経ないで,一定割合・一定金額まで必要な資金を引き出した後,なおそれでも相続財産に属する債務の弁済とか相続人の生活費の支弁やその他の事情により,遺産に属する預貯金債権を行使する事例もあると思います。二者択一ではなくて,両方使えると考えてよろしいでしょうか。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。
  今の上西委員の御質問ですが,まず1点目の御質問でございますが,(2)の括弧内のただし書のところですが,「預貯金債権の債務者ごとに」としておりますので,こちらは金融機関ごとに上限額を判断するということになります。
○上西委員 金融機関ごとですね。
○神吉関係官 はい。ただ,「遺産に属する預貯金債権のうち,相続開始時の債権額の2割」と,ここの部分につきましては,これは口座ごとに判断をするというものでございまして,ある被相続人が同じ金融機関に複数の口座を持っていた場合に,それを合算して100万円が限度となるという趣旨でございます。
  それから,3点目の法定相続情報証明書の件でございますが,こちらは,使えるかどうかというのは,制度ができた後に金融機関との間で詰めていくという形になるのかと思います。
  それから,(1)と(2)の制度が併用可能なのかどうかということでございますが,こちらはもちろん併用可能というものでございまして,従前は甲案,乙案という形で,案として二つ出していたんですけれども,そこはちょっと分かりにくいという御指摘がございましたので,今回は(1)と(2)とさせていただき,別の制度として,それは併用可能ですということを明確にさせていただきました。
○上西委員 了解しました。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかいかがでございましょうか。
  潮見委員,どうぞ。
○潮見委員 先ほどの仮払い制度の(2)の方ですけれども,これ,基本的には,この部分については,法令によってといいますか,民法によって,遺産分割前の払戻しを許容すると,大法廷決定では駄目だとされているものを,この限りでは許容しているということであると思います。ただ,そのことが,これ以外の場面における遺産分割前の払戻しというものを禁止する趣旨ではないと思います。その意味では,合意とか,あるいは約款によって,これとは違う枠組みといいますか,場面での事前の預貯金の払戻しというものを認めるというものを仮に取り決めたとしても,そのこと自体をもって,それは禁止されているから駄目ですということにはしていないという確認が欲しいのですけれども,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,先ほど御説明したとおりで,契約の条項で定めて,これと違う取扱いといいますか,例えば葬儀費用について,この上限額を超えるような形で死亡後に払戻しを認めるということは,禁止されないのではないかという趣旨でございます。
○潮見委員 この趣旨に反するような合意は駄目だということは含んでいるのですか。例えば,金額の上限だとか,いろいろありますけれども。
○堂薗幹事 そこは,それこそ先生方の御意見をお伺いしたいところなんですが,消費者契約法との関係がどうなのかとか,そういった問題は一応あり得ますので,そこについては慎重に検討する必要があると思います。ただ,それは,飽くまで相続に基づいて払戻しをするという場合に,この2(2)の規律を超えるような取決めをするとどうなるかという話でございまして,それとは別に,支払委託ですとか,そういった別の形で生前に契約をし,それに基づいて,金融機関の方で支払をするというのは,禁止されないということにはなるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  どうぞ,水野委員。
○水野(紀)委員 すみません。プリミティブな質問になってしまうのですが,今の潮見委員の御質問を伺っていて,私の理解が違っていたのかと不安になりました。その3で,一部分割は可能だということになっております。ですから,もし共同相続人でともかくお父さんのために盛大な葬儀をしてやろうというコンセンサスができて,お父さんの預貯金をそれに使おうということになった場合,その相続の証明書とそれぞれの印鑑証明と取り寄せれば,その一部分割が成立したという形で預貯金を下ろすことができると理解していたのですが,それでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 もちろん,ここは飽くまで,全員でなければ本来払戻しができないところを,この分については例外を設けたということですので,当然全員の同意があれば,問題なく払い戻せるという理解です。それを一部分割されたという形で処理することになるのかは別の話だと思いますが,払戻し自体はできるという理解です。
○水野(紀)委員 そうすると,かなりの場面はこれでカバーすることができて,ただ,一部の相続人がそんな派手な葬儀はするべきではなかったと文句をいうような紛争を,事前に抑止することができると考えればいいわけですね。
○堂薗幹事 事前に抑止することになるのかどうかはよく分かりませんが,趣旨としては,今申し上げたとおりでございます。
○水野(紀)委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 藤原委員,どうぞ。
○藤原委員 今の水野委員のところにもちょっと関係するんですけれども,実際のニーズとしてあり得るかなと思いますのは,この(2)の御提案が法制化された場合に,何割というのはちょっと置いておきまして,一定の金額について払戻しができますというふうになった場合に,やはり現実のニーズとしては,葬儀費用の仮払いというのが多分一番多いであろうというふうに感じておりまして,今の水野委員がおっしゃったとおり,相続人皆さんで払戻しに来ていただければ何の問題もないところではありますけれども,現実には,後ろに相続人間の争いがあってなのか,又は,相続人間で葬儀についての費用についての何らかの合意は事実上できているんだけれども,ただ,店頭には1名しか,いろいろな皆さんで御事情があって来られないという場合に,金融機関にとっては,その背景事情が明らかではないがゆえに,その1人の方についての払戻しが正当な権限を与えられた代表としていらっしゃっているのか,又は,相続人1人の資格としていらっしゃっているのかというのは分からないという事情の中で払い戻さなければいけないというのがございます。
  そうなったときに,背景に相続人間の合意があるかどうか分からないけれども,1人相続人がいらっしゃって,例えば,葬儀費用のために払い戻したいんだけれども,この(2)の規律だけではお金が足りませんとなったときに,ここが,各金融機関の判断又は契約によって,例えば,うちの金融機関は,あらかじめ預金約款なり別の契約で,葬儀費用であれば,この(2)の規律を超えて全額お支払いたしますというような,こういった各金融機関の創意工夫が妨げられないような法制度にしていただきたいというのが趣旨でございます。
○大村部会長 何かありますか。
○堂薗幹事 正に,背景に相続人間の争いがあるかどうか分からないようなものについてまで払ってしまうのは問題ではないかと,葬儀費用の支払についても,そういった問題を含むものもあるので,そういったものについて,葬儀費用の支払だからといって,無条件に払ってしまうのは問題ではないかというのが,こちらの問題意識ではございますけれども,他方で,先ほど申し上げましたように,そこは,契約条項を工夫することによって,葬儀費用であれば問題なく支払えるようにすることは,十分可能ではないかと考えておりますので,その辺りについては,契約をどういう形で仕組むのかという問題はございますけれども,そういう前提でお考えいただき,仮払いの制度としては,こういう形にさせていただければというふうに考えているところでございます。
○大村部会長 どうぞ,窪田委員。
○窪田委員 今お話を伺っていると,専ら葬儀費用が問題になっていると思います。葬儀費用はよく議論がされるところではありますけれども,そもそも相続人の債務なのか,被相続人が本来負担すべきものが,単に残っているだけなのかという議論がありますので,どちらでも結構なのですが,被相続人が特段の合意をしていれば,それを有効とするということは説明しやすい債務なのかなと思います。ですから,それを,特段の合意でも,あるいは水野委員のおっしゃったような形の一部分割という形でも,いずれの側でも対応はできるのだろうと思います。
  その上で,したがって,(2)はこのままでいいということも考えられるのですが,ちょっと気になりましたのは,先ほど,預貯金債権は債務者ごとにということだったので,金融機関ごとに100万円ということではあったのですが,これは,その前に,その相続開始時の債権額の2割に,その相続人が法定相続分を乗じた額,この文章の主語は「各共同相続人は」になっているのですが,相続開始時の債権額の2割に,総相続人の法定相続分を乗じた額というのは,相続人が複数いる場合に,合計して幾らになるかというのは,常に同じで,3人であっても,5人であっても,1人であっても同じ金額になると思うのですが,100万円の方は,これは,相続人ごとにということになるのでしょうか。
  というふうに伺いましたのは,この書き方だと,相続人ごとに100万円という金額になって,5人いるのだったら500万円かなと思ったのですが,それは,整合的なのかなという点が気になりましたので。
○堂薗幹事 ここは,債務者ごとですので……
○窪田委員 債務者ごとですか。金融機関ごとに100万円ですよね。
○堂薗幹事 はい。
○窪田委員 でも,この文章,主語は「各共同相続人は」ですよね。
○堂薗幹事 はい。
○窪田委員 本文のところは,相続人が増えると,法定相続分が減りますので,常に合計額同じになると思うのですが,ただし書の部分はどうなるのかという質問でした。それをお聞きしましたのは,共同相続人が5人ぐらいいるんだったら,500万円あるのだったら,葬儀費用は問題なく払えるだろうと。100万円だと,今の葬儀費用の平均額でも難しいだろうなと思ったものですから,どういう意味なのかなと思って伺った次第です。
○神吉関係官 御質問の趣旨を適切に理解しているかどうか自信がないのですが,例えば相続人がA,B,C,Dの4名で,全員で権利行使すれば,この規律を使わなくても権利行使できるわけですけれども,A,Bでこの規律を用いて払戻しをした場合はどうかという話でしょうか。
  その場合には,確かに上限額が100万円であれば,Aも100万円下ろせて,Bも100万円下ろせるという形で,合わせて200万円下ろせることになりまして,A,Bが合わせて葬儀をやるということは,それは十分可能だとは思います。
○窪田委員 そのことと,たまたま相続人の数が多いと,仮払いの金額が全体として大きくなるというのは,制度設計としては合理的に説明ができるのかなという,ちょっと理論的な疑問になるかもしれませんが。
○堂薗幹事 ここは,必ずしも葬儀だけを念頭に置いて作っているわけではないので,そういう形になっております。葬儀費用のように,仮に共同相続人全員で費用を出し合ってということになると,おっしゃるようなことにはなるんですけれども,必ずしも葬儀費用に限られるわけではなく,例えば,生活費でしたら,それぞれ相続人ごとに事情が異なるということになりますので,御指摘のような面はありますが,そこは,やはりこういう形にせざるを得ないのではないかと考えております。
○窪田委員 もう,これだけにとどめておきますけれども,本文に書かれているほうのことと括弧内で書かれていることが,多分違うことになっているのではないかなという点が気になります。つまり,本文の方で書かれているのは,それぞれの事情があるとしても,結局共同相続人の全体として払戻しができる額がこの金額ということで止まるわけですよね,一定の割合で。
  一方,金額の方は,人数が増えると,1,000万円というか,ちょっと割合の方を考慮しないとすると,一定の金額があれば100万円ずつ出していけると。たまたま1人だと100万円だという上限の設定の仕方は,それほど合理的なのかなという感じがしたものですから。
○神吉関係官 支払に充てる費目が,先ほど堂薗幹事から御説明申し上げましたように,共同相続人のために何かやる葬儀費用的なものなのか,それとも,個々の生活費の支弁に充てるためなのかという,それによっても恐らく評価が違ってくるのではないかなとは思います。個々の相続人の生活費に充てるためだとすると,別に各相続人ごとに100万円という形で考えても,それは何らおかしくはないかなとは思います。
○大村部会長 窪田委員の御質問は,仮払いにつきまして,基本的な考え方を認めつつ,しかし,具体的に設計するときに,債務者ごとの100万円という計算の仕方が,これでよいのかということかと思いますけれども,今,事務当局からは,目的を葬儀に限って考えなければ,これに一定の合理性があるという趣旨のお答えがあったかと思います。
  他の委員,幹事,この点につきまして御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
  窪田さんは,今のお答えに対して何か。
○窪田委員 私自身は,別に葬儀費用だけを考えているわけではなくて,制度設計としてうまく説明できるのかなというのが気になっただけです。正直,ちょっと釈然とはしないのですが,それほど頑張るような話でもないと思いますので,もうこれ以上は特に固執しません。
○大村部会長 中田委員,どうぞ。
○中田委員 ちょっと,窪田委員の御質問とお答えとの関係を理解したいだけなんですけれども。預貯金が2,000万円あったとして,そのうちの2割ですから,合計400万ですよね。相続人が3人いた場合には,1人133万円になるわけですが,それは,しかし100万が頭打ちである。相続人が5人いたときは,1人80万ずつになる。こういう理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○中田委員 だとすると,窪田委員の御懸念というのは,今のように考えると,一応説明できるかなと思ったんですが。
○大村部会長 よろしいですか。ほかに何か。
  どうぞ,山本委員。
○山本(克)委員 長い間休んでいたもんですから,もう既に議論済みかもしれませんけれども,預貯金というふうな一般的なくくりで,このような一部の払戻しというのは可能なものということになるんでしょうか。預貯金の種類によって,こういうことができないような預貯金というのは,あるのかないのかよく存じませんが,そこをちょっと教えていただければと思います。
  それと,債務者ですが,これも,相続開始時の債務者ごとにというふうに読むんでしょうね。相続開始後,銀行が合併しちゃったというような場合は,もちろん相続開始時に2行あったんだから200万になるという理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,ここの部分は,原則相続人全員でなければ行使できないものについて,その例外を設けるということですので,その預貯金の契約上,そもそも全員で行っても払戻しはできないものについては,それはできないという理解です。ですから,債務者側は,契約上,これはまだ支払わなくていいので払いませんということは言えるということでございます。債務者ごとというのは,こちらも今のような事例を十分に想定して考えていたわけではございませんが,基本的には,相続開始時に権利行使が可能な額が決まるという前提ですので,相続開始時の債務者の数で考えるということになるのではないかと思います。
○大村部会長 そのほかいかがございましょうか。
  仮払いにつきましては,従前委員の方から出ていた案について,更に検討を願いたいという御意見が藤原委員の方からございました。他方,現行の案で行く場合には,約款等による対応の可能性を明らかにしてほしいという御指摘もあったわけですけれども,これについては,場合によるわけですけれども,一定程度,契約による対応は可能であろうという見通しが示されているところかと思います。そのようなところで,この案で取りまとめるという方向でよろしいでしょうか。
  どうぞ,水野委員。
○水野(有)委員 すみません。質問という趣旨でございますが,2の(2)の最後の括弧,「この場合には,当該権利行使をした預貯金債権については,遺産分割の時において,遺産としてなお存在するものとみなすものとする。」とされているのですが,これが括弧書きが付いている趣旨は,4と関連するという趣旨なのか,それとも,また違った趣旨なのか,どういう御趣旨でここは書かれているんでしょうか。
○神吉関係官 おっしゃるとおり,4において甲案,乙案いずれの制度を採用するのかということによるかと思います。4において,甲案を採用した場合には,2の(2)の亀甲部分については不要となるのではないかと思います。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○大村部会長 よろしいでしょうか,4の方でまた議論をするということで。
  第2の1から3,特に2につきまして御意見を伺っておりますけれども,基本的には,ここに挙がっている方針でいくということにつきまして,更に御発言がありましたら伺いますが。
  どうぞ,石栗委員。
○石栗委員 すみません。今のお答えだとすると,4で甲案を採用しない場合には,この括弧書きを付けるということで,いずれにしても,この2(2)の制度については存在するものとみなす制度にするという,そういう御趣旨ですか。
○神吉関係官 4で甲案,乙案いずれの制度も設けないという場合に,2の(2)のような制度,亀甲部分を付けた制度を設けることができるのかというのは,理論的に問題があると考えております。すなわち,2(2)に亀甲のような精算の仕組みを設けますと,預貯金の払戻しについての特則という位置付けになるかと思うんですけれども,そうするとそもそも本則ではどうなるのだというところについて,きちんと整理をしないと特則を置けないということになりますので,ですので,4について何も手当てをせず,2(2)の制度を本当に置けるかということになると,相当に慎重な検討が必要になるかと思います。だからこそ,事務当局としましては,4の論点については積極的に検討したいなと思っているところでございます。
○石栗委員 分かりました。ありがとうございます。
○大村部会長 今の点は,4の方と併せて,また御検討をいただきたいと思います。
  どうぞ,潮見委員。
○潮見委員 私の理解が間違っているのかもしれませんが,要するに,4で甲案を採るという方向についての強い御趣旨の現れということでしょうか。
  というのは,2の(2)というのは,(1)に対する特則とも読めるわけです。私はそういうふうに理解をしていて,別に4の甲案を採らなくても,2の(2)の仮払いの制度を設けることについての合理性がある。縷々この場で繰り返されているような必要性というものが存在するということで,家裁のプロセスを経ないでの,しかし限定を付した払戻しというものを認めてあげるということで,このような規定を創設するという形でも,説明はできるのではないかと思います。その上で,仮に(2)のこのような亀甲括弧がないようなルールを作った場合には,括弧が付いている後段というものを設けて,それによって共同相続人間での遺産分割における公平性を確保すると説明すれば足りるのではないのかなという感じもしたわけです。直前の御発言の趣旨が,私,理解できなかったものですから,発言させてもらったところです。
○神吉関係官 後ほど御議論いただければとは思いますが,2の(2)で亀甲を外し,かつ,4の制度をいずれも設けなかった場合ですけれども,正当な権利行使をした場合には,遺産としてなお存在するとみなして精算の対象とする一方で,2(2)の方策によらずに他の共同相続人に無断で預貯金の払戻しをした場合については,みなし遺産の対象とならないと,精算をせず,不公平な結果が生じても構わないということになりますが,それはおかしいだろう,正当化することが困難ではないかという問題意識がまずあるということでございます。
  また4において事務当局が甲案を採用することに強い意向を有しているかという御質問ですが,遺産に関する紛争の1回的解決という観点からは甲案が望ましいとはいえますが,乙案のような制度も十分あり得るとは思っております。そして,乙案を採用した上で,その2の(2)の仮払いのところについては,これは相続人の一人が権利行使をしたことが明らとなりますので,(2)の亀甲部分を維持して,これについては遺産分割の中で精算をするということもあり得ると思います。
○大村部会長 今の点につきましては,4につき議論を頂きまして,それを踏まえて更に見直していただくということで,今の段階では,2の(2),この亀甲の部分をどうするかを除いて,差し当たりこのままで進めさせていただくということでよろしいでしょうか。
  では,そのように進めさせていただくということにいたしまして,その上で,4の相続開始後の共同相続人による財産処分に入りたいと思いますけれども,ここは,甲,乙ありまして,両立するのではないかという御指摘もありましたが,御意見を頂ければと思います。
  どうぞ,上西委員。
○上西委員 私もこれらは両立すると考えます。
  要は,共同相続人の1人による遺産の処分が行われた場合,元の状態に戻して,つまり,なお存在するものとみなして遺産分割をするのが本来の姿であると考えます。そして,財産の種別等によっては,金銭的に求償するという選択肢を求めていくことの方が,救済という視点に立てば,幅広に手当てができるとこう感じます。
  それと,この甲案の場合,長期化,複雑化するのではないかという懸念があると思いますが,資産の処分は最近の出来事でありますので,古い時代の特別受益等に比べたら相当明確になるものであり,余り懸念し過ぎる必要はないと思います。むしろ,公平さの方を重視すると,多少の長期化か複雑化があったとしても,在るべきものを一旦テーブルの上に載せて検討し直すという甲案を原則にするのが正しいと思います。その上で,財産の状況等に応じては,乙案も損失を受けた他の共同相続人の選択として設けてはどうかと。両者は,相互に反するものではないと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲案をベースとしつつ,乙案も選択肢としてあってよいのではないかという御指摘でしたけれども,この点につきまして,他の委員,幹事の方々,いかがでしょうか。
  先ほど,潮見委員から御発言もございましたけれども,何か潮見委員,続けてございますか。
○潮見委員 いや。乙案は,何らかの形で残しておいてほしいというところぐらいです。
○大村部会長 そのほかの方々,いかがでございましょうか。
  水野委員,どうぞ。
○水野(紀)委員 私も,両立していいように思います。
  これまでも何度もお話してまいりましたけれども,相続開始時から間もなく,相続人が協力してすぐに遺産分割を行わなくてはならない義務を負うのが,本来の姿なわけですけれども,それを担保するような制度的な関与がない日本法は,その点で基本的なバグを抱えております。おまけに,家裁と地裁に管轄が分断しているという,もう一つのバグが重なって,複雑骨折しているわけで,にわかにその構造的な困難を解消することは出来ません。けれども,法解釈するとき,また新しい制度を考えるときには,遠い未来になるかもしれませんが,やはり本来的な方向を可能にするように,また近づけるように考えたほうがいいだろうと思います。
  これに論理的に近いものを考えてみたのですが,130条の条件付きの権利が少し近いように思います。故意に条件の成就を妨害したときには,条件成就とみなすことができるとされていますが,同時に,130条の解釈としては,損害賠償の請求権があると考えられていたと思います。この場合も,本来遺産分割まで待たなければいけないのに,故意にその部分を処分してしまったために,遺産分割に妨害を加えた場合には,それは,遺産分割のときにおいて,なお存在するものとみなすと考えていいと思います。かつ,同時に130条で期待権が侵害された損害賠償請求権も解釈上認められているように,ここでも,金銭的な賠償を認めることを否定する必要はないように思います。両立すると考えていいのではないでしょうか。日本法の構造的なバグである家裁と地裁の問題はあるにしても,そういう理解,解釈は,可能であるように思います。
○大村部会長 両立論の御意見が続いておりますけれども,ほかの方々はいかがでしょうか。
  石井幹事,中田委員の順番でお願いいたします。
○石井幹事 甲案について原則とすべきではないかといった御指摘でございましたので,甲案については従前から実務的な問題点があるのではないかということを申し上げておりまして,改めてその点については強調しておきたいと思います。
  預貯金の引き出し等の財産処分について争いがある場合につきましては,家裁の審判に既判力がないということもありまして,異なる判断が後の訴訟でされたような場合には,一般的には審判の効力が覆るというふうに考えられているのではないかなと認識しております。部会資料で,この点についても検討していただいておりますけれども,基本的には,覆らないという書き方をされていますが,覆る可能性があるということであると,やはり裁判所として,手続を進めることについて,かなり躊躇する部分もございますし,遺産の範囲に関わる問題ということになりますと,そこの点についてまず解決してくださいということになるのではないかと思いまして,やはり長期化の懸念というのは非常に懸念されるところかなと思います。
  仮に審判の中で判断するということになりましても,先ほど申し上げたような性質,既判力がないといったところもございますので,やはり相当慎重に判断しなければいけないということになりますし,そうしますと,相続人全員に審理にお付き合いいただくということがありますので,そこの御負担や手続面への影響というのは,必ずしも無視できないものではないかなということについては,改めて申し上げておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  中田委員,どうぞ。
○中田委員 甲案,乙案通じてなんですけれども,処分という言葉の中に,不動産の共有持分の譲渡という適法なものと,預金を無権限で払戻しを受けるという不適法なものと,両方混じっているような気がしまして,その結果として,規律が不明確になっているのではないかと思います。ここでの一番の問題は,無権限預金の払戻しであるのだとすると,そこを中心に考えてもいいのかなと思います。
  ただ,この場合に,不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得に基づく返還請求権ができるかどうかについて,資料22-2の15ページの注2のところで,具体的相続分に権利性がないことから無理ではないかという御指摘で,そうかなというふうにも思うんですが,そこは,不法行為の法律上保護すべき利益の解釈,あるいは,不当利得における利益と損失の解釈によって,ある程度対応することもできるのではないかとも感じます。
  ということで,先ほどの2の(2)の亀甲括弧の部分と合わせて,一番問題になるところを検討すればいいのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  どうぞ。
○堂薗幹事 ただ今の点につきまして,我々も適法の場合と違法の場合があるという前提で検討をしておりますが,ここでは,一応両方含むという形で規律を設けております。他方,適法な場合について規律を設けた場合には,違法な払戻しがされた場合に,それが,不法行為や不当利得で調整することができないということになると,それは,かえってアンバランスではないかという問題もあって,違法な払戻しについて,不法行為や不当利得で調整することができるということであれば,もちろん適法な場面だけを念頭に置いて規律を設ければいいということにはなるのかもしれないんですけれども,そこも含めて,この注2の問題について,どのように考えたらいいのかというところが分からない状況の中で,そこを分けて,その一部の部分についてだけ規律を設けるというのは,なかなか難しい面があるのではないかというのがこちらの問題意識でございます。
  それから,先ほどの石井幹事のお話なんですが,もちろん前提となる事実について誤りがあった場合には,原則として,その審判が覆るというのは,一般論としてはあり得るんだと思うんですけれども,ただ,他方で,遺産分割については,部会資料にも書いておりますとおり,911条の担保責任に関する規定等もございまして,あの規定が遺産分割の審判にも適用になるのかどうかというところについて解釈上争いがあるようですので,その点の御懸念を言われているのか,あるいは,相続人の誰かが引き出したんだけれども,その認定が誤っていた場合,これについては,こちらとしては,基本的にはその点の事実認定の違いによって,具体的相続分は変わりませんし,配当の対象となる財産も変わらないので,そこは,特段審判が覆ることはないのではないかということで書かせていただいているんですが,そこも含めて御懸念をお持ちなのかという辺りを含めて,少し補足していただけないでしょうか。
○石井幹事 911条の担保責任の規定のところですけれども,裁判例などを見ますと,それが遺産分割の重要な部分になる特段の事情がない限りは,遺産分割審判全体は無効にならないという判断を示しているものもございますが,逆に言えば,後の訴訟で異なる判断がされた部分については,無効になるということで,基本的に無効にならないと言えるかどうかということについては,疑義を持っているということでございます。
  もう一方の,相続人間の,例えば,部会資料にありますけれども,A,Bの相続人のいずれかということであれば,相続人による財産処分というところについては変わりがないということであるという御説明がされておりまして,そういう場合に,AからBに対する不当利得という形で処理ができるのではないかという説明がされておりますけれども,不当利得ということになりますと,利得について,法律上の原因がないということが前提になりまして,それが,本当に曲がりなりにも審判で取得するということで認められていることと整合するのかといったことについては,ちょっと疑問というか,疑義を持っているところでございます。
○堂薗幹事 今の最後の点は,要するに,Aさんに取得させるという審判をしたにもかかわらず,実際にはBさんが引き出していたという場合ですので,そうすると,Bさんの払戻しについては法律上の原因がないということになるのではないかということで,必ずしも今のような問題は生じないのではないかというのがこちらの整理です。
  審判どおり払い出したのに,法律上の原因がなくなるということになりますと,それは問題なんでしょうけれども,そういう前提ではなくて,審判ではAさんに取得させるという審判であったのに,実際にはBさんが引き出していたということですので,それは,やはり不当利得の関係になるのではないかという趣旨でございます。
○石井幹事 審判ではAの取得ということになっているけれども,何かそれを前提としながら,Bに利得が生じているというところが,整合的に説明ができるのかなという疑問ではあるんですけれども。
○大村部会長 水野委員,どうぞ。
○水野(有)委員 幾つかあるんですが,今の点をまずお話させていただきます。
  少なくともトラックが幾つも用意されていると,事実が違った場合には民事でも争えるということを,ある程度想定した制度というのは,元々裁判所が大変とかいう意味ではなく,国民の方にとても分かりにくい。何がどれで,何がどれで,どのようがどうというのが,全て明確に,少なくとも分からなくてはいけないのに,今回の御提案では,どのようなときにどのようになるかが,いろいろな解釈問題に,今までの最高裁の解釈問題に相当関連するし,先ほど石井幹事がおっしゃった911条についての,それでできるというのも,高裁の一判例ですから,それが果たして一般的なのかどうかも,率直に言って,今のところ分からない。最高裁も存在しません。
  それと,もう1点,この911条は,物の瑕疵があるところにしか問題にならないと思うのですが,多分,ちょっと私の間違いでなければ,それが相続分,引き出したものが,ないと思っていたのが遺産とみなされたことによって,多分,具体的相続分は変わりますよね。具体的相続分が変わった場合に,それでも審判がひっくり返らないのだろうかというのは,ちょっと私もよく,この911条で全てフォローできるのかどうかというのはちょっと分からなくて,甲案と乙案のいずれも目的としていることはすばらしいとは思うのですが,ただ,制度として仕組むのであれば,やはり中田委員の御指摘もありましたが,具体的相続分というものを,どこまで権利性を認めるか,それを,預貯金や全ての財産で統一的にするかという,そういう相続制度全体についての一貫したポリシーがない限り,ここに手を付けると,一番問題があるところを直したいというのは多分みんな一緒だと思うんですけれども,そこに手をつけることによって,全体としての整合性がちょっと,仮に問題が出てくるとか,逆に,整合性のない制度にすると,穴があったときの解釈ができなくなってしまって,結局国民の予測可能性を害するとか,特に元々民事と家事との制度が分かれているということによって,結局どっちに行ったらいいのかが,最高裁が定まる,何十年といったら言い過ぎですかね,何年か先でないと,この場合はどうというのが定まらないという制度を作るというのは,余り適切ではないと思うんです。だから,甲案,乙案,両方ともすばらしい目的を持っている制度だとは思うのですが,機能する制度を作るには,より深い検討があったほうがよろしいのではないのかなと思っております。
○神吉関係官 まず,具体的相続分が,相続開始後の共同相続人の財産処分によって変わるのではないかというお話があったかと思うのですが,この点につきましては,903条によって具体的相続分は決まる形になりますので,この903条では,相続開始の時において,有した財産の価格に贈与などを加えたものをみなし相続財産とし,それで算定をするということですので,相続開始後に財産処分があろうがなかろうが,具体的相続分自体は別に変わらないことになるのではないかと思いますが。
○水野(有)委員 すみません。客観的に変わるかどうかが問題なのではなくて,元々ないと思っていた財産が,実際存在したということが分かったことによって変わるということ。客観的なことかどうかでなくて,現実に分かっている,分かった事態によって変わるという質問の趣旨です。
○神吉関係官 事後的に分かったということですかね。
○水野(有)委員 そういうことです。
○神吉関係官 それは,そうだとは思います。それは,この共同相続人の財産処分の問題,預貯金の処分の問題のみならず,例えば,遺産分割の時には認識していなかったけど,実は他に相続財産の中に動産があったとか,そういう問題とも恐らく同じ話ではないかと思いまして,ここだけの問題というわけではないのではないかなとは思っております。
  また,甲案を採った場合は,基本的には遺産分割の中で処理をされることになると思いますが,その家庭裁判所で適切な事実認定がされれば,恐らくそれが事後的に覆るということは,基本的にはないとは思うのですが,万が一,違う人が処分をしたということが,事後的に分かった場合には,民事訴訟でも処理ができますよということを申し上げているにすぎないのであって,別に,甲案を採った場合に,家裁でもいけるし,地裁でもいけるしとか,そういういろいろなルートがありますよということを,我々は申し上げているわけではございません。甲案を採った場合には,基本的には家庭裁判所で処理をされることになりますが,万が一,その事実認定が間違っていた場合には,それは,地裁でも救済のルートがありますということを申し上げているだけであって,それほど国民にとって分かりにくい話では,むしろないのではないかなと思っております。
○水野(有)委員 質問のもう一個の方の趣旨の具体的相続分について,どの程度固い権利と考えるべきか,中田委員の御指摘がありましたところの御質問は,実は法定相続分に基づいた処分は適法であることを前提とした御質問だったかと思います。そうなりますと,法定相続分に基づく不動産の処分は適法であると。ところが,最終的には,具体的相続分での精算は求められるべきものであるというお考えということでしょうか。
○神吉関係官 それはそうだと思いますけれども。
○水野(有)委員 ということは,むしろ全てのことについて,最終的には具体的相続分で精算するということを徹底すべきだというお考え。
○神吉関係官 それが,公平かつ公正な遺産分割ではないかと,事務当局としては考えております。
○水野(有)委員 そういうお考えで,全て徹底して,全てを解釈し直すということで,この制度だけでいけるのではないかと思っていらっしゃるという御趣旨でしょうか。
○堂薗幹事 全てという点なんですけれども,ここで書いているのは,飽くまで遺産分割をする際に,相続開始後に相続人が処分をした場合,それは違法であろうと適法であろうと,この規律で全部いけるのではないかということです。このような規律を設けることがほかの場面でどう影響するのかというところの御懸念なんだとは思いますが,ここは,飽くまでも相続開始後に,相続人の財産処分が禁止されていない,禁止されていない以上は,その処分した場合には何らかの調整規定が必要ではないかということで,こういう規律を設けるということですので,基本的には,それ以外の場面で,具体的相続分について,ほかの場面でも何か権利性が生じて,今までできなかったような訴訟ができるようになるとか,そういったことにはならないのではないかということで考えており,この限られた場面の中では,常に具体的相続分を前提とした調整をするという考えでございます。
○大村部会長 では,増田委員。
○増田委員 乙案についての質問です。
  法定相続分の侵害を理由とする訴訟は,これまで多数行われてきて,現在も多く行われていると思うんですが,その請求とこの償金請求との関係はどうなるんでしょうか。具体的に言えば,法定相続分侵害を理由とする訴訟が終わった後で,更に具体的相続分による請求が可能なのかどうかというのが一つと,もう一つは,法定相続分の侵害を理由とする訴訟の被告側が,原告に具体的相続分がないとか少ないとかいうことを,抗弁的に主張することができるのかどうか。具体的相続分が究極的な基準となるのならば,そういうことができてもいいのかもしれないですが,ただ,法定相続分の訴訟というのは,その目的となる特定の財産の価額が分かれば,その段階で提起できるのに対し,具体的相続分に基づく訴訟は,遺産の総額を評価しないとできないんで,両者の関係についてお伺いしたいのですが,いかがでしょうか。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。
  少し抽象的な話になりますと分かりにくいかと思いますので,具体的な事例を提示させていただいて御説明させていただきますと,例えば,部会資料20の23ページの事例を想定いたします。
  この事例申し上げますと,相続人がA,Bの2名で,法定相続分が2分の1ずつと,また,遺産が1,400万円預金でありました。また,特別受益として,Aに対して生前贈与が1,000万円ありました。そういうケースを想定しておりまして,この場合に,Aが相続開始後に預金全額1,400万円を引き出した場合どうなるか,また,Bが相続開始後に預金全額1,400万円を引き出した場合どうなるのかとか,そういった事例を想定していただければと思います。
  まず,Aが引き出した場合どうなるかということでございますが,乙案の償金請求の規律によりますと,Aの引き出しがない場合にはBが1,200万円遺産分割取得できましたので,BはAに対して1,200万円請求することができるということになるかと思います。一方で,相続された預金に対するBの法定相続分の持分は700万円分になりますので,700万円の法定相続分の持分が侵害されたとして,こちらは従来どおり不当利得返還請求,若しくは不法行為によって,BはAに対して700万円請求をすることができるということになるかと思います。そして,これらの請求権の関係は,700万円の範囲内で請求権競合の関係にあるのではないかと考えております。
  一方で,難しいのがBが引き出した場合なのですが,この場合,乙案の償金請求の規律によれば,Aはあと200万円取得できたということになりますので,AはBに対して200万円の償金請求権を取得することができるということになるかと思います。一方で,不当利得返還請求若しくは不法行為によってAはBに対して700万円請求をすることができるということになるかと思います。その場合に,先ほど増田委員の御指摘としては,不当利得返還請求訴訟が先行した場合に,抗弁として具体的相続分の侵害額は200万円の範囲内であると,500万円は侵害していないと,そういう抗弁を訴訟で出すことが可能かという御指摘だったかと思います。
  ここはなかなか難しいところだなと考えておりまして,なぜ法定相続分の持分を侵害したという訴訟の中で,具体的相続分の話が抗弁として言えるのかというのは難しいところだなとは思ってはいるんですが,一つの解釈としては,具体的相続分が基準となるので,それは抗弁では成り立つという考え方もあるとは思うんですが,一方で,本来は遺産分割までAに無断ではしていけないその引き出しをBがしたんだから,その結果,自分が700万円の請求を受けても,それはやむを得ないと,甘受すべきだという考え方も一方であるかなとは思っております。そうすると,具体的相続分は基準とはなってこないことになるのですが,そこは解釈に委ねてもいいのなというところが,事務局としても悩んでいるというところでございます。
○増田委員 具体的相続分は権利ではないということでしょうか。私は前回までは,この案は具体的相続分に権利性を認めることが前提の案だというふうに思っていたんですが,今回の補足説明では権利性がないとはっきり書かれています。しかし,権利性がないのに請求できるというのは,請求の根拠が理解しかねます。先ほど中田委員がおっしゃったことも似たような話だと思うのですが,この請求権は何が根拠になっているんですか。
○堂薗幹事 この乙案の方ですね。
○増田委員 はい。
○堂薗幹事 乙案の基本的な考え方につきましては,例えば,民法では,付合があった場合や,共有の壁の高さを増した場合などに償金請求を認めているわけです。要するに,適法な行為をした場合に,付合であれば,法律の規定で所有権の帰属が変わってしまったという場合に,その状態は維持しながら,当事者間の公平を図るために,一定の場合に償金請求を認めるということがされておりますが,正に乙案は,公平の観点から,不当利得的な性質の請求を認めるということですので,もちろんこの償金請求に関していえば,具体的権利性を認めたことにはなるわけですけれども,それは,具体的相続分に一般的にそういう権利性を認めるという話ではないという理解です。
  元々具体的相続分というのは,遺産分割をする場合の規律として,どのような規律にするのが公平かということで設けられているわけでございますので,言わば,この乙案は,遺産分割でそこを反映できなかった場合の,正に調整として,その場面に限定して一種の不当利得的な権利を認めるというものでございますので,そういった形で認めたからといって,遺産分割とは関係のない場面において,当然に具体的相続分に権利性があるとか,あるいは,具体的相続分の確認請求ができるようになるとか,そういったことには直ちにつながらないのではないかという趣旨でございます。
○増田委員 いや,いいですか。
  今の,先ほどの償金請求の例で出されたものは,もともと所有権という具体的権利について侵害がされているわけですよね。ただし,その侵害行為は違法性がない,適法なものであるということで,損害賠償ではなくて償金請求が一種の損失補填として認められているんですね。だから,これも,償金だというんだったら,元々具体的な権利というものがあって,それが,在るべきところから幾らかなくなったということでないと成立しないのではないかというふうに思うんですが。つまり,この乙案でいくんだったら,率直に,具体的相続分は権利だと言われたほうが,ほかのところにも応用はできるように思います。ほかのところにひずみが出るかどうかは,十分検討できていないので,ひとまず別としてですが。
○大村部会長 では,山本委員,それで,更にあれば潮見委員。
○山本(克)委員 私も増田委員と同感なんですけれども,これ,中間確認の訴えで,具体的相続分確認はできないわけですよね。最高裁の判例を前提とする場合,そういうものがなぜ請求の基礎になるのかというのは,私はちょっと理解し難いところで,やはり最高裁の判例の指針とするところは,遺産分割審判の前提問題として,やはり形成作用によって具体的な相続分が算定されるんだという,一種の形成作用を前提としないと,具体的相続分というのは簡単に出てこないということを前提としているからこそ,権利性がないと言っているのではないのかなというふうに思うわけで,そうすると,なぜ訴訟手続において,具体的相続分を形成的に判断できるのかというのは,やはり,私はちょっと説明ができないというふうに直感的に思います。何か話を聞いていますと,私,最高裁判例に元々反対なので,そっちの方がいいんだろうと思うんですけれども,ただ,最高裁の判例を維持しつつ,こういうふうに考えるというのは,私はちょっと解せない感じがして仕方ありません。
○大村部会長 潮見委員,いいですか。
○潮見委員 似たことです。私は,最初は増田委員が言われたように,この乙案,私はこれでいったらいいと言ったのは,相続分の捉え方自体が,今回の案でもう少し考え方を従前とは違う方向に持っていこうと考えていたのかなと思って,これで賛成ということを言ったんです。
  あと,もう一つは,後の議論を踏まえですけれども,規定を設けないという考え方も,私はあっていいのではないかと思うんです。というのは,基本的にこの議論は,先ほど中田委員もおっしゃっておられたように,預貯金の払戻しが問題になった場面で,先ほどの2の(2)の括弧書き,この並びで,預貯金について仮払いを認めた場合に,遺産というものをどのように捉えていくのかという考え方が最初に挙がって,そして,それを更に考えていったら,同じようなことは預貯金とは違う場面でも考えなければいけない問題だという形で,4の問題が展開されて出てきたのではないかと思うんです。
  そのときに想定されていたというのは,基本的に預貯金のことであるならば,仮に2の(2)の,しかもそこに鍵括弧をつけるという案を採用するのであれば,4のような制度を急いで設ける必要はないのではないかとも思います。預貯金の払戻しがあったような場面というのは現在でもあるわけですし,それをどういうふうに考えるのかということで,現在不当利得でいきましょうとか,あるいは不法行為でどうかとか,そういう話も出ておるわけですから,細かいことを詰めないで案を出すよりは,解釈に任せておいて,取りあえず今必要な2の(2)だけ対応しておくということでもありかなというふうにも思うところです。
○神吉関係官 ちょっと確認させていただきたいのですが,補足説明の15ページの(注2)のような考え方が,解釈上できるのであれば,4において特に規定を設けないという結論もあり得るかなと思っておりまして,先ほど中田委員の方から,解釈としてそういうこともあり得なくもないかなということも御示唆いただいたのですが,ほかの民法の先生方はこの点を考えていらっしゃるのかということを,もしあれば教えていただければと思います。この点,現行法の解釈として,相続された預貯金の払戻しは,違法な行為であり,かつ,具体的相続分を基準として乙案により導かれる結論と同じ結論が得られるのであるということであれば,規定を設けずに解釈に委ねるということもあるかなとは思うんですけれども,その点いかがでしょうか。
○大村部会長 どうぞ,窪田委員。
○窪田委員 ちょっと組合せが難しいなと思っているのですが,4の甲案も乙案も全くないような状況で,つまり,現在と同じ状況で注の2の問題が提起されたら,もちろん不法行為の法益と権利又は法律を保護された利益であって,幾らでも緩やかにすることはできるということなのかもしれないのですが,現在の判例を前提とした上で,不法行為で損害賠償請求が認められるというのは,そう簡単ではないのではないかなという気はしています。場合によっては,害意のような主観的な要件を加重する形でというのはあるかもしれないですけれども,普通の行為又は過失で認められるかというと,やはり厳しいのではないのかなという気がします。
  一方で,恐らく甲案,乙案のようなタイプの規定を置いた場合には,先ほど権利性があるのかないのかということがあったのですが,多分,権利性があるかないかという議論の仕方もものすごく抽象的で,独立の所有権のような権利なのかというと,多分そうではないけれども,こういった法律効果を生じさせる前提としての一定の保護法益性はある,権利性はあるという程度のことは,やはり甲案も乙案も前提としているのだろうと思いますし,こういった規定ができることによって,従来は認められていなかった不法行為や不当利得というのが認められてくるという可能性も出てくるのだろうと思います。ですから,甲案,乙案を作るか作らないかとは全く無関係に,不法行為法でいけるのだからというような話ではなくて,恐らく甲案,乙案のようなタイプの規定を作るということが,不法行為法上の解決でも関係していくのかなという感じがしています。
  その上で,ちょっと周回遅れみたいな質問になって恐縮なのですが,乙案が,私自身十分理解できていないところがあって,今申し上げたように,乙案,あるいは甲案でもそうなのだろうと思うのですけれども,増田委員の御質問との関係でいうと,やはり一定の権利性は関連しているのだろうと思うのですね,全く権利性がないという形ではなくて。ただ,そうは言いつつも,そこでは,不法行為法上の一般的な権利なのかどうなのかというと,恐らくもう少し弱いものだろうと思いますし,飽くまで償金請求を認めるというだけの前提のものということになっているのだろうと思います。
  一方で,償金請求を認めたとしても,更に主観的な要件を満たす場合に,不法行為の損害賠償請求は幅広く認められるというのはあり得ていいと思うのですが,その上で,乙案を仮にそういうものだというふうに理解すると,ちょっと私自身がよく分からない感じがし,乙案が中途半端なのかなという印象を受けるのは,損失を受けた他の共同相続人はという形で,損失要件が入っているのですね。損失要件が,後の方でも機能するような形になっているのですが,これは,求償,単なる償金の問題なのだとすると,アとイの差額というのについて,償金請求権があるということを言うだけで足りて,損失ということを言う必要はないのではないでしょうか。説明の方を見ると,損失要件を置くことで,遺産分割の中で処理できた場合には,損失が消えるのだという説明をしていますが,恐らく遺産分割をした場合には,具体的相続分がどうであれ,それによって帰属が決まったという形になりますので,損失の有無の問題でもないのだろうと思いますし,また,注の3とかを見ると,離婚の場合の慰謝料というのを考えていますけれども,あれはやはり損害概念を前提としていて,ある意味で,結構きちんとした権利性があるものを考えていると。そうすると,仮に乙案というのを,今申し上げたような,仮にそういう理解が正しいとすると,単に償金請求権を基礎付けるためだけのものとしての非常に限定的な権利性を承認しているだけで,損失を受けたといったような文言は不要ではないかなという気もいたしましたし,ちょっとその点を確認させていただけたらと思ったということです。ちょっと,後半違う話になってしまって恐縮ですが。
○神吉関係官 その損失を受けた要件につきましては,こちらが意図していたことは,補足説明に書いたとおりでございますので,御指摘を踏まえてゴシック部分として本当に要るかどうかということについては,改めて検討したいと思います。
○大村部会長 水野委員,山本委員,それから山本幹事の順でお願いします。
○水野(紀)委員 私は,原案をサポートしたいと思います。先ほど申し上げたことの繰り返しになってしまうのですが,日本法が抱えている構造的なバグの下で,解釈する困難があります。最高裁の判例についても解釈が分かれるかと思うのですが,本来的な形を考えますと,私は,具体的相続分は権利だと思っております。そして,先ほど合法的な処分と言われましたけれども,本来的な形を考えましたら,共同相続分を遺産分割前に自分の法定相続分で処分できるということ自体,本当はよかったのか,問い直すべき問題になるのだろうと思います。相続開始時から間もなく行われる,遺産分割までは処分権がないというのが,実はあるべき形だったのではないでしょうか。もちろん,日本の場合にはそうはなってこなかったわけですし,その事実を考えなくてはならないわけですけれども。
  それから,家庭裁判所等に既判力がないというのもおかしな話です。最高裁判例の理解として,具体的相続分が裁量的な形成作用を前提としているからとは,私はあまり考えておりませんで,最高裁は,家庭裁判所の管轄をともかく安定させたいという趣旨で言ったのだと好意的に理解していました。今後も,できるだけ家庭裁判所の遺産分割審判を不安定にするような形には設計すべきではないと思います。家庭裁判所という重い手続を動かして,あえて遺産分割をしたのですから,その結論に事実上既判力を持つような大きな力を与えるべきだとは思いますけれども,同時に,勝手に処分をされた結果,具体的相続分が侵害されていたら,それは,本来は家庭裁判所の審判によって甲案のようにして処理をされるべきだけれども,一定範囲でそこから落ちてしまったものがあったときに,その権利性を守ってあげるという提案をすることも,本筋からいうとそれほどおかしなことではないと思います。
  従来の日本の訴訟法的な文脈の中で,最高裁判例の解釈においても,家裁の審判は既判力がないという大前提の下で判断されてきたこと,また,遺産分割手続が相続開始直後にきちんと行われる体制になっていないために,遺産分割前に自分の共同相続分の持分を処分することも合法だとされてきたことなどについては,それぞれ再考してみる必要があるように思います。それらを疑いの余地のない大前提として理論が帰結するというよりは,それらは日本法の構造的なバグの結果,やむを得ずそうなってきたにすぎないと,ある程度括弧に入れて考えることも必要でしょう。日本の抱えている制度的限界のもとで相続法を運用してきた工夫なのだと,割合柔軟にお考えいただいてよいのではないでしょうか。今度は立法なのですから,在るべき姿に近づけて手当てをされることが,従前の判例の理論的な帰結と若干矛盾するというようなことは,余り気になさらなくてもいいように思います。
○大村部会長 山本和彦委員,どうぞ。
○山本(和)委員 注2のところですけれども,私の理解も,先ほどの窪田委員が前半に言われたのと近いです。注2のような解釈を採るとすれば,中田委員が言われた,権利でないとしても,やはり法的に保護された利益であるということを認めるという前提になるんだろうと思うんですが,私の理解では,あの判例は,やはりそういう実質的なものとして具体的相続分を考えるのではなくて,遺産分割,それから遺留分減殺について言及していたかと思いますけれども,その前提となる一種の係数的な数字の問題なんだと。だから,確認の対象にはならないというところをかなり強調していたように思うので,これを侵害すると,やはり請求権が生じるということになると,係数的なものだという説明は非常に難しくなるように思いますので,やはり判例からは距離がある考え方かなというふうに思っています。
  他方で,乙案は,先ほど窪田委員から,損失を受けたという話がありましたけれども,純粋に,「ア―イ」で,この償金請求権というのを法律で作るんだという,そういうものなんだと説明すれば,ここで言われているアとかイの903条の相続分というのは,償金額を計算する前提の係数的なものであると,必ずしも実体を持つものではないという説明は不可能ではなくて,そういう意味では判例の理解を動かさなくても作れる。ただ,これをしたときに,解釈として,より具体的相続分が権利性を帯びるものとして解釈されていく可能性というのは,将来的には否定できないんだろうと思うんですが,説明がつかないことはないのかなというのが,私の印象です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,続けて山本幹事,どうぞ。
○山本幹事 具体的相続分の法的な位置付けについては,今,山本和彦委員がおっしゃったとおり,家裁で遺産分割を行う際の計算上の基準なんだろうというふうに思っているところでございます。
  ところで,今回御提案いただいている乙案は,遺産分割で結果的に間違っていた分を調整するにはとどまらず,遺産分割に先立ち,あるいは同時並行で,地裁における具体的相続分を前提とする一定の請求を認めるものと理解しております。そうなってきますと,結局,家裁の家事審判あるいは調停で遺産分割をやるのと,いわばダブルトラックの状況で,地裁でも具体的相続分を問題にする場面が広く生じるということになるかと思います。そして,具体的相続分を考える上では,実際の事件では,非常に古い特別受益も含めて,当事者は家裁と地裁の両方でいろいろな資料を出して主張を立証しないといけなくなり,しかも,その結果,地裁と家裁とで判断がまちまちになってしまう可能性があるということで,これは,国民の負担,あるいは分かりやすさという観点からいった場合に,果たして望ましい制度の組み方なのかという疑問も持っているところでございます。
  そういう意味で,具体的相続分を法的にどういうふうに位置付けるのかという問題と併せて,地裁でそのような具体的相続分というものをどこまで取り扱うべきなのかについても御議論いただければというふうに考えております。
○大村部会長 中田委員,どうぞ。
○中田委員 不法行為は難しいだろうという御意見が多くて,確かにもっともかなとも思うんですが,私の言いたかったことは,具体的相続分を法律上保護される利益と見るというのではなくて,むしろその具体的相続分が形成される立場にあるというようなところまで広げて考えられないかというふうなイメージでおりました。と申しますのは,もう一つ,不当利得のことも申し上げたんですけれども,無権限で払戻しを受けたものが持っている金銭というのは,これは不当利得ではないかと思うんです。返還請求にもし制限が掛かってくるのだとすると,損失要件の方で掛かってくるのかなと思います。そうすると,その損失要件を考える際に,先ほど申し上げた具体的相続分として形成されるべき利益というようなものが考えられるのではないかと思いまして,もちろん,それは難しい解釈かもしれませんけれども,その可能性としてはあり得るのではないかと思った次第です。
  それから,議論の大きな前提として,水野紀子委員が御指摘になられた,持分処分というのは合法だという前提自体を疑うべきであるということ,それは,お考えとして理解しておりますけれども,しかし,現在の909条を前提として,これまで形成されてきた判例や学説の考え方を採る限りは,やはり,持分の譲渡というのは有効というところから出発しないと,なかなか大変ではないかなというふうに思っております。他方で,無権限の払戻しは,これは,やはり法律上の原因がないということは動かないのではないかなと思っておりまして,それをどうやって解決していったらいいかということを考えた次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  この4の相続開始後の共同相続人による財産処分は,この会議で比較的新しく出てきた問題であるということもあって,なかなか難しい問題を含んでいるように思います。本日も,思想として,あるいは実体法上の考え方として,甲案,乙案が持っている考え方に賛成されるという方が多い一方で,実際の手続にのせたときに,家裁の審判に様々なひずみが生じるのではないかという御指摘がなされていたところであります。
  他方,理論的に説明するということになったときに,具体的相続分というものに,どこまでの影響が生ずるのかということと,それから,不法行為,不当利得について,現在の状況でどう考えるのか,何か規定が置かれたときに,どういう影響が生ずるのかといったような問題が指摘されているかと思います。
  今日のところでは収束の見通しがつかないように思いますけれども,今のような御指摘を頂いたということで,更に事務当局の方で持ち帰って御検討いただくということでいいですか。
  どうぞ。
○堂薗幹事 先ほどの2の(2)の亀甲部分だけ手当てするというのもあり得るのではないかというところなんですけれども,念のためもう一度,こちらの問題意識を申し上げさせていただきますと,この部分だけ規定を設けて,4のような規定を設けない場合には,正にこの法律上の規定に則って,適法に払戻しをした人については,具体的相続分を前提とした調整がされるにもかかわらず,違法な払戻しをした人については,そのような調整がされずに得をする場面が出てくるということになります。そういった違法な処分をした場合に,不法行為とか不当利得で調整できるということであればさほど問題はないようにも思われますが,先ほどからいろいろ御議論がありましたように,現行法の下で本当に不法行為等の請求ができるのかという点について議論がある中,2の(2)の亀甲部分だけ規律を設けるということで,本当にいいのかというところが,最も気になっているところでございます。事務当局としても,本日頂いた御指摘を踏まえて,再度どうするかというのは検討したいとは思いますが,こちらの問題意識は,正に今申し上げたところにございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の問題も複数の委員の方から御指摘があったかと思います。理論上,堂薗幹事が言ったようなことが生じ得るのかと思いますけれども,実際上の問題としてどうだろうかというような御指摘もありましたので,両方を勘案して,更に御検討いただきたいと思います。
  この点,ほかに何か御指摘,どうぞ,石栗委員。
○石栗委員 家事の審判の手続で判断したことと,訴訟手続で判断したことが結論的にはそれほど違わないだろうということをおっしゃっているんですけれども,手続的には家事事件では裁量の幅が広く,基本的には遺産分割の手続というのは,遺産分割時に存在している財産を,誰にどのように配分するかということに最も適した手続になっていると思います。その前提の計算として,具体的相続分の計算が出てくるわけですが,相続時には存在したことが明らかだけれども,遺産分割時には既になくなっている預貯金等について,その存否や誰がどのように持ち出したのかなどを判断するために一番適切な手続を家庭裁判所が本当に持っているかということについても,少し御配慮いただきたいと思います。地裁の訴訟のように,どちらかに主張立証責任があって,立証が不十分であれば,立証責任のある側が敗訴するというような仕組みになっておらず,家事の手続は,どちらかというと裁量的に,それぞれ個性のある財産を誰にどのように分けるのが一番公平だろうかということを判断するのに最も適した手続になっております。今のお話ですと,家庭裁判所が行っていた手続で,地裁の訴訟で扱ってきたような判断もするということだと思いますので手続面も含めて御検討いただけると有り難いと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その点も含めて,更に御検討いただきたいと思います。
  4につきまして,今日のところはよろしゅうございますでしょうか。
  それでは,第2に進もうと思っておりましたけれども,時間が大分たっていますので,この部屋の時計で45分まで休憩させていただきます。休憩にいたします。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,休み時間短くて恐縮ですけれども,先が大分ございますので再開させていただきます。
  「第3 遺言制度に関する見直し」という項目につきまして,まず,事務当局の方から説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,関係官の満田から御説明申し上げます。
  まず,「自筆証書遺言の方式緩和」につきましては,次の各点に検討を加えましたが,基本的には部会資料17と同様の規律を維持することにしております。
  まず,「契印の要否,同一の印の押捺を要求することの要否について」でございます。この点につきましては,変造防止の効果は限定的である一方で,方式違背が増加するおそれがあることから相当でないと考えました。そこで,本部会資料でも,契印や同一の印による押捺までは要求しないことと整理をしております。
  次に,加除訂正の方式についてですが,これまでは加除訂正の場面では,財産の特定に必要な事項であっても自書であることを要することとしておりまして,本部会資料の③の記述も同様の理解に基づくものでございます。しかし,仮に新たな財産目録が印刷されたものであったとしても,訂正文言が自書されており,かつ新たな財産目録の全てのページに遺言者の署名押印がされているのであれば,変造等のおそれは低いものと考えられます。そうしますと,遺言の加除訂正の場面でも,財産の特定に必要な事項については自書であることを要しないとする考え方もあり得るように思えます。この点についても,委員・幹事の皆様の御意見を賜れればと思っております。
  補足説明の第3項では,遺言の加除訂正については全て自書でしなければならないとの従前の規律を前提に,遺言者が自筆証書遺言作成後に自書によらない財産目録を追加した場合を念頭に,このような行為を遺言の変更の様式性との関係でどのように捉えるべきかを整理しております。
  続きまして,自筆証書遺言の保管制度についてでございますが,遺言保管の対象を民法第968条第1項の方式による遺言とすることにした以外は,部会資料17における提案と同様のものでございます。遺言保管の対象につきましては,遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約との関係で,以下のとおり検討を加えました。
  まず,外国法に定める方式による遺言,外国法でなされた遺言につきましては,法務局において,それが遺言に該当するか否かを的確に判断することはできないと思われますので,遺言保管の対象は少なくとも制度開始の時点では民法第968条に定められた方式による遺言で,日本語で記載されたものに限らざるを得ないと考えております。
  一方,外国人によって作成された遺言については,そのものが日本語で,日本の方式で遺言をしたのであれば,それを遺言保管の対象から除外すべき理由はないものと考えております。
  最後に「検認を不要とする時期について」でございます。
  現在,家庭裁判所の検認手続は,遺言の現状の記録,発見時の状況の聴取,保管状況の聴取等が中心だと思われますが,遺言保管の対象となっている遺言については,これらはいずれも自明であると考えます。そうしますと,保管者や相続人らに負担を掛けてまで検認を義務付ける必要はなく,遺言保管の対象となる遺言については,当初から検認を要さないこととしてもよいものと思われます。
  続きまして,第3の「3 遺贈の担保責任」と「4 遺言執行者の権限の明確化等」について説明させていただきます。
  まず,「遺贈の担保責任」についてでございますが,この点については部会資料17における提案内容と同様となっております。
  続きまして,「4 遺言執行者の権限の明確化等」についてでございますが,遺言執行者の復任権について,規律を一部修正しております。修正の趣旨でございますが,従前の部会資料では遺言者が別段の意思を表示した場合の規律の適用の範囲が不明確でございましたので,選任権の範囲のみを修正するということを明らかにしました。
  さらに,預貯金債権の解約権限等につきましても,従前の部会資料から一部修正しております。第20回の部会におきましては,預貯金の一部のみについて遺産分割方法の指定がされた場合にも,預貯金契約の全部を解約することができるとしておりましたが,その当否や履行期が到来しているかどうかによって,遺言執行者の権限を変えることの当否について,それぞれ問題点を指摘する意見が出されたところでございます。
  このうち前者の解約のところでございますけれども,前回の御指摘を踏まえまして,本部会資料では遺言執行者に預貯金契約の解約権限が付与されるのは,預貯金債権の全部について遺産分割方法の指定がされた場合に限るということとしております。他方で,預貯金債権の一部についてのみ遺産分割方法の指定がされた場合には,円滑な遺言の執行を図る観点から,遺言執行者にその一部についての払戻権限を認めるという形で整理しております。
  なお,履行期が到来しているかどうかにつきましては,払戻しに関する遺言執行者の権限につきまして,解約の申入れをする権限を有するということと整理しましたので,これで遺言執行者に強制的な解約権限がないことを明確にするということで対応しております。
  続きまして,「動産の引渡権限について」でございます。
  従前の部会資料では,遺言執行者については原則として対抗要件を具備する権限を付与するとしておりまして,動産についても,遺産分割方法の指定がされた場合には,その対抗要件が引渡しである場合には,遺言執行者にその引渡権限を付与するということを提案しておりましたが,この点については,遺言執行者にとって過度の負担になるおそれがあるなどとして,慎重な検討が必要であると指摘がされておりました。
  そこで,今回の部会資料におきましては,遺言執行者が有する対抗要件の具備権限のうち,引渡しを対抗要件としている動産については,これを遺言執行者の権限から除外することとしております。
  詳細な説明につきましては,部会資料の補足説明の方に記載させていただいたとおりですけれども,その趣旨といたしましては,飽くまでも遺言執行者を選任した遺言者の通常の意思としては,基本的に遺言執行者が単独で行うことができる職務を委任する趣旨である場合が多いと考えられますので,このように動産の引渡しの権限まで遺言執行者の権限といたしますと,動産の直接の占有者自身が任意に協力しないという場合には,その訴訟の提起までしなければならないこととなり,遺言執行者の負担が過度に大きくなること,更に動産の公示制度自体が,既に現在でも必ずしも十分とは言えないものでありますし,その動産の引渡しの方法については現実の引渡しのほか,指図による占有移転など,複数の方法がありますので,その方法のいずれを採るかにつきましては,動産の所有権を所得した受益相続人の判断に委ねるのが相当であるというようなことも思われましたので,動産についてはこれを遺言執行者の権限とはしないと,飽くまでも遺産分割方法の指定がされた場合については遺言執行者の権限としないというふうな整理をしております。
  なお,このような考え方を採用した場合には,補足説明の24ページの(注1)にも記載しておりますけれども,不動産や債権についても遺産分割方法の指定がされた場合には,これは受益相続人が自ら単独で対抗要件を具備できるということになりますので,その場合にも遺言執行者の権限とする必要があるかどうかということについても,御審議いただければと存じます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「第3 遺言制度に関する見直し」につきましては4項目ございますけれども,「1 自筆証書遺言の方式緩和」に関しては,補足説明の2に付随して,御意見を頂ければというお話がありましたが,それ以外は基本的な考え方は維持されているということでございます。
  「2 自筆証書遺言の保管制度の創設」につきましては,対象をどうするかということで,民法第968条1項の所定の方式によるという点を明らかにしておりますけれども,その他は従前どおりで,「3 遺贈の担保責任」についても従前どおりとのことでした。
  「4 遺言執行者の権限の明確化等」につきましては,預金の解約権限等と,それから動産の引渡権限について,一定の修正を加える提案がされているということだったかと思います。
  以上について,御意見を頂ければと思います。
  いかがでしょうか。
○南部委員 ありがとうございます。
  自筆証書遺言の保管制度について伺います。保管対象は民法第968条の1の方式による遺言ということなのですが,民法第968条には,外国語は駄目だということは書いていないと理解しております。そこの整合性は大丈夫かということが一つと,他国での保管制度というのはどのように扱われているのか,外国語で保管ができている事例はあるかについてお聞きしたいと思います。
  一旦は以上です。
○倉重関係官 では,まず外国語の保管制度の状況がどうなっているかという点ですけれども,この点につきましては,次回までに調べさせていただくということとさせていただきたいと思います。
  それから,外国語については民法上規定がないのに,そこに縛りを掛けて大丈夫かという点についてですけれども,基本的にこの保管制度自体は遺言の有効性に影響を与えるものではございません。したがって,この保管制度の対象にならなかったからといって,外国語で書いた遺言が無効になるとか,そういう関係にあるものではございませんので,民法との関係で何か問題が生じるとは考えていないところでございます。
  先ほど申し上げたとおり,どうしても制度的な限界といいますか,それを扱う部署での限界がございますものですから,制度立ち上げ時においては日本語に限らざるを得ないのではないかと,こういうふうに考えているところでございます。
○南部委員 それは分かりました。
  その上で,日本語に限るのは当分の間ということになろうかと思うのですけれども,この法律改正も何十年とされていなかったということで,今このように決められた後の今後の将来的な展望についてお聞かせいただけますでしょうか。初動は日本語のみであっても,今後この多様化している,グローバル化している日本の中で将来的にどのように対応しようとお考えになっているかということをお聞きしたいと思います。
○堂薗幹事 自筆証書遺言の保管制度を設けた場合に,それをどういう形で実現するかという点は大きな問題としてございますが,なかなか民法に書き込むというのは難しい面があるのではないかというように思います。その辺りは今後の検討ということになるわけですけれども,新たな法律を設けた場合も,そういうサービスの対象として,どこまでの遺言を受け付けるのかという辺りの細部的事項についても法律で書き込むのか,あるいは下位の法令に委任するのかという辺りも含めて,今後検討させていただければと思います。比較的細部的な事項については,御指摘のようなことで柔軟に対応できたほうがいいということであれば,下位の法令に委任するという選択肢もあるものと考えておりますが,その辺りの法制面については,今後,法制局の方とも御相談の上,検討していきたいと考えているところでございます。
○南部委員 ありがとうございます。
○上西委員 今回の自筆証書遺言の方式緩和と保管制度の創設で,利用が相当伸びるものだと期待されますし,そのように予想しております。そのときの手続についてです。例えば今まででしたら,公正証書遺言を撤回しようと思えば,自筆証書でもできると理解しています。1022条に,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」とありますので,今回のように原本の返還を求めるということは公正証書遺言はできないわけですが,公正証書遺言について,今回の自筆証書遺言の保管制度を使って紛失と改変のリスクをヘッジした上で撤回することができるようになると理解してよろしいでしょうか。すなわち,公正証書遺言の撤回をすることは,自筆証書遺言でもできる。そして,今回のこの保管制度であれば,その撤回についても紛失,改変のリスクヘッジができると考えてよろしいですね。
○堂薗幹事 はい。それはそういうことになると思います。
○上西委員 実際に自筆証書遺言の保管制度を申請した後に,撤回したいという場合に,多くの遺言者はどのように考えるのでしょうか。撤回のための新たな自筆証書遺言を保管制度で申請するよりも,返還を求めて廃棄するケースもあろうかと思います。そうした場合に,返還を求めても,その段階ではまだ有効な遺言です。そうしますと,2の④で「遺言者は,いつでも,法務局に対し,遺言書の原本の返還を求めることができるものとする。」とあるのですが,申請のときと同じように,これも本人が出頭するようにしておかないと,改変,紛失のリスクがあることになります。特に改変が問題になります。この場面でも,遺言者本人の出頭主義を貫いたほうがよいと考えます。
  それと,法務局に申請した後,例えば③で原本の閲覧があり,④で今申し上げた原本の返還があり,⑥の原本の閲覧がありますが,その当該申請した法務局に対して行うと理解してよろしいでしょうか。それと,⑤の法務局に対して照会を掛けるのは,現在の公正証書遺言の検索システムと同じように,どの法務局に対しても照会が掛けられるようにしておかないと利便性が高まりません。その旨,何か表現を足したほうが分かりやすいかなと思いました。
○堂薗幹事 御指摘の点は,書き足すかどうか,検討したいと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでございますか。
○窪田委員 すいません,さして大きな部分ではないのかもしれないのですけれども,先ほど南部委員からも御指摘があった部分で,また堂薗幹事からも一定の御説明があったとは思うのですが,外国語で書かれた遺言に関して,この補足説明の方を見ていますと,法務局において判読することができるものでなければ,それは遺言保管の対象となるかどうか判断することはできないとなっているわけですが,本人を出頭させて遺言だということが分かっていると,それで極端なことを言ったら,表のところの「遺言書」というのは漢字で書かれていて中身が外国語だった場合に,結局どういうイメージでおられるのかなというのがちょっとよく分かりませんでした。本格的に実質審査をするわけではないだろうと思いますし,公正証書遺言のような形できちんとこの内容が正しいかどうか,適切に書かれているかどうかまで判断するわけではないのだろうと思うのですが,そうだとすると,ここで書かれていることの意味というのは,一体どういうことをイメージしておられるのかなというのがちょっと気になったということです。先ほど,法律に書き込むのか,あるいはそれ以外のところで書くのかというのも,そういう話だったと思うのですが,もう少し仮に具体的なイメージというものを考えるとすると,要するに,本人が遺言だと言っていれば,その物を預かるというだけの仕組みなのか,やはり中身まできちんと確認した上で,これは遺言書だよねということが分からないと預かれないのか,その辺りはどうなのでしょうか。
○倉重関係官 まず,法務局において実質的な審査をする義務を負うかどうかという点に関しては,それは負わないと考えているところでございます。ただし,実質的なサービスとして,無効になるようなものであれば御指摘するというような事実上のサービスができればいいのではないかなと考えておりまして,そうしますと,何でも受け付けるというよりかは,飽くまで事実上のサービスとして,ある程度法務局の方で内容を見るような制度を考えています。ただ,実際に,これを預かってくれと言われたときに,読めないから却下しますということができるのかという問題はあろうかと思うんですが,原則としては,形式的な最低限のところだけは,事実上チェックをさせていただければなと考えているところでございます。
○窪田委員 どういう制度として設計するのかという部分にも関わってくるのだろうと思いますし,サービスを積極的にしたいということは,それ自体としてはいいことなのかもしれません。ただ,サービスをしたいのだけれども,そのサービスができないのだったら受け付けないというのは,何かある意味で自分の首を絞めているような気もしたものですから,ちょっと御検討いただいたほうがいいのかなというふうな気がいたしました。
○堂薗幹事 その点は検討させていただきます。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○中田委員 「自筆証書遺言の方式緩和」についてでございます。
  遺言の変更の様式性との関係について検討してくださいまして,どうもありがとうございました。
  内容の確認なんですけれども,財産目録を遺言書の日付の当日に加除訂正によって差し替えた場合は有効であると。しかし,後日差し替えた場合には,一部又は全部が無効になるという理解でよろしいのでしょうか。
○倉重関係官 必ずしもそういうふうに考えているわけではございませんで,要するに最後に財産目録を付け加えた行為によって遺言書が完成したと見ることができるのであれば,それ自体は遺言の作成なんだろうと考えているところでございます。
  一方で,一度完成している遺言については,そこで差し替えたとすれば,それはやはり遺言の加除訂正等の変更に当たるんだろうと考えているところでございます。
○中田委員 そうすると,日付が変わっても,当初の日付と別の日に差し替えても,それは構わない。
○倉重関係官 それが一体として遺言書の作成と見られる事案では,それは作成として有効になる場合があるんではないかなと考えているところでございます。
○中田委員 それは,書かれた日付とは別の日付に完成したということになるわけですね,そうすると。
○倉重関係官 要するに,真実の作成日と違った日付が書かれた遺言ということで,現行法上でも生じ得る問題かと思いますが,その延長線として解釈することになろうかと考えております。
○中田委員 分かりました。
  ただ,今のお話でもありましたように,財産目録の後日の差し替えの場合に,それは有効な遺言なのか,そうでないのかというものの判定がものすごくデリケートだと思います。もちろん裁判の場での証明の問題ということもあると思いますが,実際に遺言書を書く人が余り意識しないまま差し替えてしまって,結果的に無効になってしまうということがあると,余り望ましくないなと思っています。結局は遺言としての一体性,あるいは完成という概念にかかっていることだとは思いますけれども,少し間違いやすいおそれがありますので,その間違いをどうしたら少なくできるかということを検討すべきではないかなと思います。
○倉重関係官 基本的には,今申し上げたのは救済という趣旨でございまして,やはり完成自体は当日中というのが原則であろうと思っております。この点は,そうではないときにどう救済できるかという文脈で申し上げたものですので,それは積極的に,こういう場合は問題ありませんというつもりではございません。
○中田委員 そうしますと,ますます起こり得る問題として,ある日付で作ったんだけれども,後日,財産目録だけを差し替えるという現象が起きると思うんですね。今のお話ですと,原則はやはり無効だということになる。それで,救済があれば有効になるんだけれども,原則無効だということになりますと,実際上はそういう場面というのが生じやすいのではないか。特に契印も要らないし,別にホチキスでとめている必要もないということだと思いますので,そういったトラブルが起きて,思いがけずに無効になってしまうという不利益を被らせないようにするにはどうしたらいいのかということを,もちろん制度の周知ということが前提になると思うんですけれども,なお懸念を意識した上で,何か手を打てないだろうかということでございます。
○堂薗幹事 その点は,御指摘を踏まえて検討させていただきます。
○大村部会長 そのほかいかがでございますか。
○藤原委員 4番の「遺言執行者の権限の明確化等」のところでございまして,10ページのイの②の指定された財産が預貯金債権であるときというところでございまして,ここで2点ほどちょっと確認をさせていただきたいところがございます。
  まず,今回の御提案の内容ですと,例えばA銀行の預金の1,000万円のうち,800万についてBに相続させると。それで,遺言執行者がある場合に,遺言執行者は800万部分の一部支払を求めることはできるけれども,預金全体を解約して1,000万を持って行くことはできないということと理解しています。
  これは,金融機関における約款の用語の使い方の問題との整合性の確認なんですけれども,普通預金の場合にはこの御提案はよく理解できるところなんですけれども,定期預金の場合には,一部支払をそもそも認めていない商品があります。その場合には,今回は遺言執行者側は申入れできるだけなので,一部支払はできない旨の約款を理由にお断りはできるということは,それはそうだと思います。ただ,一部解約を認めている商品についても,今,私,一部解約と申し上げたとおり,定期預金の場合には払戻しという言葉は使っていなくて,一部を解約してお金を下ろす場合には,一部解約という用語で統一してしまっているのですが,これは飽くまで用語の定義の仕方であって,今申し上げていることも,今回の御提案では,いわゆる一部払戻しとお書きいただいているものに相当するということでよろしいですねという,これは単純な御確認です。
  次に,先ほど申し上げたとおり,1000万のうち800万という相続させる遺言で,遺言執行者がいる場合に,全額は解約できませんということになる場合に,こういうことができるかどうかという確認なんですけれども,遺言執行者は,当該預金の全部を一旦解約するんだけれども,解約したうちの800万だけ一部払戻しを受けますと。残りについては引き続き金融機関が,例えば定期預金だったものを別の普通預金という形で預かり直す,それは遺言執行者名義であると。こういったことは,今回の規律でいくと,遺言執行者名義になった瞬間に遺言執行者が管理権限を有するものになってしまうので,できないということであるのか,いや,それとも,ちょっと見方を変えて,遺言執行者名義ではできないんだけれども,元々の被相続人名義で,例えば金融機関の別段預金か何かで,引き続き預金の契約,性質を変えないで預かり直すというようなことが仮にできるのであれば,それは禁止する趣旨ではないということなのか,すいません,ちょっとテクニカルな問題なんですが,そこを確認させていただきたいということです。
○堂薗幹事 まず,1,000万の預金があって,そのうち800万円をAさんに取得させるという点につきましては,御指摘のとおり,遺言執行者は全体の解約はできないけれども,800万円の払戻しを申し入れることはできるという理解でございます。
  定期預金の場合に,一部解約という取扱いがされているということでございますが,ここの趣旨としては,契約を全体として解約するには,その預貯金全部について誰かに帰属させるという遺言がなければいけないという趣旨でございますので,定期預金のような場合にも,銀行側で一部の払戻しに応じると,一部解約という形で払戻しに応じることは可能であるという整理でございます。最後の点はなかなか難しいところはあると思いますけれども,原則からいきますと,1,000万のうち800万ということですので,全体の解約はできないということにはなるわけですけれども,この規定の趣旨は,要するに800万円誰かに取得させるという遺言がされているにもかかわらず,1,000万円を遺言執行者に払い戻すというのは,それは行き過ぎではないかという趣旨でございますので,200万円,銀行に残るような形で仕組まれているのであれば,この規定の趣旨には反しないという解釈があり得るのかどうかということだと思います。
  ただ,基本的には全体を解約することはできないという整理でございますので,ここの②の規律を文言どおり素直に解釈いたしますと,なかなか難しい面があるのかもしれません。
○藤原委員 例えば,その残りの200万円部分が,特に遺言による指定がなく法定相続になりますというような場合には,その残りの200万円を預かり直したものについてきちんと遺産分割後にそれを確認して,その確定した人に払い戻すという運用であれば,特に問題なかろうということでよろしいですか。
○堂薗幹事 基本的には,そういう運用であれば,ここに書いてあるような趣旨には反しないということになるとは思います。
○藤原委員 ありがとうございます。
  すいません,続けてもう1点でございます。今度は預金商品以外の金融商品についての遺言執行者の解約権限ということで,これは従前から,浅田委員の頃から,この権限を預金以外の金融商品等についても加えていただきたいという要望はさせていただいておりましたが,そうなると,特に相場ものの投資信託とか国債ということが入ってきますので,いつ解約するかによって価値が変わってしまうため,その解約のタイミングの権限を遺言執行者に与えるということが,なかなか遺言執行者の権限として難しかろうということで,取り上げられていないという理解ではございます。
  それは,確かにおっしゃるとおりかなというところもございまして,ただ,現行は,特に遺言執行者に就任をされることの多い弁護士の先生等からは,何で一緒に解約できないんだということを強く申入れを頂くことがございまして,ただ,今までは,全部解釈に任されていた世界でしたので,そういった遺言執行者の弁護士の先生の解釈の下,そういった申入れがなされて,金融機関側の解釈と違って店頭でトラブルになるということがあったんですけれども,今回こういった形で,明文の規定でどこまで金融機関の商品を解約できるのかというところがはっきりすれば,そこはきちんと予測可能性ができたということで,そういった従前のトラブルは回避できるのかなとは思っております。
  なので,例えば,生前の預金者が,遺言執行者に,預金以外の商品についても解約権限を与えるよう遺言に記載して,遺言執行者に解約権限を与えること自体は今回否定されていないという御提案ですので,そういう意味では明確になった提言かなと思っておりまして,歓迎をしておるところでございます。
  ただし,これは新しい制度全般に言えることでございますけれども,ここの部分については,今までそういった遺言執行者の方と金融機関との間での解釈の齟齬によるトラブルがあったということも踏まえて,預金のみがこういった形で解約権限を有するということについては,是非ともいろいろな形で周知解説をお願いしたいというところでございます。
○堂薗幹事 預貯金以外のものについて,何も遺言に書いていない場合には解約できないと,要するに,イの②に当たらないものは解約できないというところまで,規律したものではないという整理でございます。預貯金については,この点の規律を明確化してほしいという要望の強いところでございますし,預貯金の限度であれば,先ほど御指摘いただいたような問題は生じないので,解約時期如何によって相続人の利益を害し得るというような問題が生じないので,預貯金債権についてはこういう形で規律ができるだろうということです。
  他方,飽くまで預貯金債権に関する規律として書いていますので,それ以外のものについて解約権限はないというところまで,この規定が含意しているわけではございませんので,それ以外の契約については,それぞれの遺言の解釈として判断するという前提です。
  ただ,預貯金債権について解約権限を認めた趣旨は従前から申し上げているとおりでございますが,このような規律を設けることによって,ほかの契約について解約権限があるかどうかを解釈するに当たっても,参考になるのではないかと思います。要するに,預貯金債権に近いものについては解約権限が認められやすくなるでしょうし,先ほどのような解約時期によってかなり金額が変動するようなものについては認められないというような解釈がされやすくなるのではないかと考えているところでございます。
○藤原委員 ありがとうございます。
  そうすると,1点御確認でございますけれども,ここで,イで遺産分割方法の指定がされた場合というのは,いわゆる相続させる遺言,特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言を念頭に置いているものと理解しておりますけれども,そのときに,先ほどの動産のところの解説でもあったとおり,従前の解釈では,その場合には基本的には遺言執行者の遺言執行の余地がないと解されてきた部分が,特に不動産を中心に多いと思うんですが,そこは引き続き預金以外のものについては,その従前の解釈の流れを引き継ぐという理解でよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 不動産について,受益相続人本人が単独で申請ができるので,原則として遺言執行者の権限は顕在化しないとか,その辺りは基本的に引き継ぐのではないかと思います。
  他方,先ほど説明いたしましたとおり,今回の部会資料では,そういった本人ができるようなものについてまで遺言執行者の権限として認める必要があるのかどうかという辺りについては,部会資料の22-2の24ページの(注1)のところで問題提起をさせていただいているところでございまして,その点については是非御議論を頂ければと思います。その点については,動産の引渡しを遺言執行者の権限から外すことと併せて御議論いただければと考えているところでございます。
○潮見委員 そのところですが,動産の引渡権限だけを外すというのは,考え方としてはあるのではないかとは思います。ただ,その上でのことですが,その理由として,23ページのところにいろいろお書きになっているのが,これが果たして説得力があるのかというところについては,本当かなと思うところがあります。そこには,そこで書かれている理由は大体三つぐらいにまとめられます。
  一つは,遺言者の通常の意思というのは,遺言執行者に訴訟追行まで委ねる意思はないからと,この場合に動産は引渡しは除外するというものです。
  二つ目は,動産の公示制度が必ずしも十分なものとは言えないからというものです。
  三つ目は,動産の引渡しの方法についてはいろいろあるから,どれを採るかは受益相続人の判断に委ねるのが相当であるというものです。
  しかし,このうちの2番目の動産の公示制度が必ずしも十分なものとは言えないからというのは,これは果たしてどこまで説得力があるのか分からないですし,1番目の遺言執行者に訴訟追行まで委ねる意思はないとかいうことを強調すればするほど,(注1)のようなところにも引っ掛かってきて,それでは,その動産だけを除外,引渡しを除外するということではなくて,そもそもこのようなルールを作ること自体がいかがなものかというところにもつながっていくのではないかとは思います。さらに,第三の理由も,私にはよく分かりません。むしろ,昔の最高裁の判決にあったと思いますけれども,相続させる遺言で,物の占有管理については,基本的に受益相続人自身が行うことを前提としているというのが遺言者の意思なのだという説明があるので,むしろ理由としては,そちらの方がまだ説得力があるのではないかという感じもしたわけです。そう考えると,動産の引渡しだけを除外するというのはここでは分かるし,(注1)のような展開にも至らなくていいのかなとは思いました。
  ただ,本当にこれでよいのかはいろいろな見解があるのではないかと思いますし,またパブコメでもこの辺り聞かれるのか,さらに検討したほうがよいのではないかと思います。
○中田委員 今,潮見委員は,23ページの第2パラグラフ以下の理由が十分説得的ではないのではないかということをおっしゃいまして,ただ,結論はこれはあり得るということで,私も結論はこれはあり得るとは思っております。
  私は,むしろ23ページより前の22ページから23ページにかけての理論的な説明の部分で,十分理解できなかったところが何点かございます。例えば,「動産の対抗要件制度においては,直接の占有者の認識をもって公示に代えている」という説明ですとか,「相続による動産の物権変動についても対抗要件主義を適用し」とか,あるいは「観念的な占有の移転では対抗要件とならない」という,かなり物権法の根幹に触れるようなところについての大胆な御説明がされているなと思いました。
  その中で,一つだけを申しますと,現在の178条は,動産の物権変動のうちの譲渡に限って引渡しを対抗要件としておりまして,そこに解除とか取消しまでは入るけれども,相続による承継は入らないというのが一般的な理解だろうと思います。部会資料は,これまでは遺産分割方法の指定と相続分指定という意志的な要素を含むものについて,遺産分割と同じように対抗要件主義を採用しようということだったと思うんですが,今回の部会資料では,相続による動産の物権変動という一般的な書き方をして対抗要件主義を採るというようになっているんですけれども,相続一般について対抗要件主義を採るんだとしますと,178条だけではなくて177条,不動産についての問題にも及んでくるような気がいたします。
  他方で,遺産分割方法の指定と相続の指定を,相続による承継ではないというように性質決定するんだとすると,それはそれでまた大きな議論を呼び起こすことになりそうだと思います。いずれも制度の本質に関わることで,かなり検討を要すると思いますので,少なくともここの記述の部分については,もう少し慎重にしたほうがいいのではないかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  増田委員,今の点に関連してですか。
○増田委員 若干関連して。
  動産の引渡しを訴訟までしなくてもいいんだという点については,それはありだろうとは思うんですが,(1)の①の遺言執行者の一般的な権限等との関係で,動産を任意に受領して引き渡すということもしてはいけないのかどうか,そこのところを確認したいんです。いけないのだとしたら,例えば貸金庫の中に動産があれば,それは任意に引渡しを受けられることは確実なのですが,遺言執行者は貸金庫を開けて,ああ,ありましたねと確認はできても,その動産は受け取れないことになります。それで,貸金庫を閉じて,では,受益相続人に取りに行ってくださいと言っても,受益相続人は貸金庫を開けられないという状況もあり得るわけです。
  別の場面では,当該動産を別の相続人が占有していて,受益相続人が行っても多分引渡しは受けられないだろうけれども,遺言執行者という第三者が行けば,事実上,引渡しを受けられる可能性が高いというようなケースもあり得るということを考えると,(1)の①の解釈の中で,任意に受領して引き渡すということまで含めないかどうか,そこのところはどんなものなのかなと思ったんですが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 その点は,今のこの規律でいきますと,従前は,引渡しについては遺言執行者の権限に含めないと書いていたわけですが,今回はイの①で,要するに対抗要件具備行為のうち,引渡しを対抗要件とするものは除くということですので,直接的には引渡しのことは規定していないということになります。ですので,その点は従前どおり,この4の(1)の①の遺言の執行に必要な一切の行為と言えるかどうかというところで判断をするということにはなるんだろうとは思います。要するに,対抗要件を具備させる権限はないということにはなりますけれども,任意で遺言の執行のために引渡しをすることまで否定されるかどうかというのは,従前どおり遺言の解釈によって決めるということになるのではないかと思っております。
  そうすると,貸金庫の場合も同じような問題は生じることになるわけですけれども,特に貸金庫のような場合については,どういった人に返還をするのかという辺りも含めて,契約上の措置をすることで対応できないかということも考えているところでございます。
  それから,先ほどの中田委員の御指摘の関係ですけれども,従前から御説明しておりますとおり,相続について対抗要件主義の対象とするといっても,実際に対抗関係が生じるのは法定相続分を超える処分がされた場合に限られますので,「相続による物権変動についても対抗要件主義を適用し」というのは,結果的には,遺産分割方法の指定と相続分の指定と遺産分割がされた場合,これらの場合で,法定相続分を超える権利変動が生じた場合を念頭に置いているということでございまして,そういった意味で,法定相続分での変動を含めた相続による物権変動一般についてという趣旨ではございません。その点について誤解がないように,今後,部会資料を作る際には注意をしたいと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  潮見委員,中田委員からは,結論についてはいいかもしれないけれども,それを導くのに過不足のない適切な理由をしてくださいという御要望があったかと思います。今,堂薗幹事が最後に触れられた点はそこに関わると思いますけれども,いずれにしても理由の方は少し見直していただくということにしたいと思います。
○藤原委員 増田委員との中で貸金庫の話がちょっと出ましたので,そこについて一つ追加で御確認をさせていただければと思います。
  現在の法制下における貸金庫の相続の運用は,相続人又は遺言執行者,受遺者における中身の確認,つまり,中に何が入っているかというのを一旦開庫して確認をするという行為と,その中身を誰に引き渡すかという行為は一応別ものとして考えておりまして,中を開けて,それを見て何が入っているか,まず確認をしてもらうという行為そのものは,これは実務上金融機関も応じております。ただ,それを誰に引き渡すかというのは正にこれは権限がある人かどうかということになってまいりますので,相続人全員の同意があれば当然引き渡すわけですけれども,遺言があって,今回想定しているような相続させる遺言で,特定の動産について特定の相続人にこれを相続させるとあって,現に当該動産が貸金庫の中に入っておりましたという場合に,それを相続させる遺言で指定された相続人に引き渡すべきなのか,それとも遺言執行者に引き渡すべきなのかというのは,それは現在も正に解釈問題ということでございます。
  遺言の中に,遺言執行者にその受領権限があると書いてあれば,当然遺言執行者に引き渡しますけれども,何も書いていない場合は,現状の金融機関の運用としては,一応解釈としては,もうその遺言の物権的効力によって,その所有権は特定の相続人に移っておりますので,それ以上,何か遺言執行者がやることはもはやないのではないかという解釈もあり得るところでございまして,遺言執行者への引渡しはせず,受遺者側に引き渡すというふうな運用をしておる金融機関もありますし,そこの部分については,正に遺言執行者が引渡しを受けて,それをその受遺者に渡すこと自体が遺言の執行であるという解釈も,これまたあり得るところでございまして,遺言執行者に引き渡すという運用の金融機関もございます。さらに,そこの部分の解釈が分かれていることを理由に,遺言執行者と受遺者,両方立ち会っていただいて,両者にある意味引き渡すというような保守的な運用をしておる金融機関もあるというのが正直なところでございまして,今回のこの御提案ですと,そこが今後は明確になるのか,それとも引き続きそこは同じく解釈問題になるのかというところは,確認しておきたいところでございます。
○堂薗幹事 今回の規律で,そこは明確になると断言できるようなものではないんだと思いますので,引き続き解釈に委ねるということにはなるんだと思います。ただ,対抗要件として必要な場合でも,引渡しは遺言執行者の権限から外れるということになりますので,この規定からすると,一般的に引渡しについては権限がないというような解釈がされやすくなるという面はあるように思います。
○藤原委員 すいません,もう1点よろしいでしょうか。
  先ほど堂薗幹事の方から,正に貸金庫のところで約款というか約定での対応のお話が出ましたので,もしちょっといろいろな委員の方の御意見を伺えればと思いまして,例えば遺言執行者の引渡権限を貸金庫の約款の中に書いたような場合に,果たして,生前貸金庫の契約者が結んだ契約の効力が,その方の死後,相続人のみならず,遺言執行者にどこまで及ぶものなのかというところについて,今までそういう約款を,契約者の死後に関する約款を設けるという発想自体がなかったものですから,全く定見がない中で,仮にそのような約款対応をした場合にどのように考えればよいのかなというところにつきましては,委員の方の御意見がもしあれば,伺えればと思っているところでございます。
○大村部会長 どなたか御発言があれば伺いますけれども。
○山本(克)委員 動産の引渡しうんぬんがちょっと理解,私よく分からないんですが,これは対抗要件である引渡しは,遺言執行者が支配を確立している動産を取得すべき相続人に引き渡すことだけなのではないのかなと思っていたんですが,これは第三者,関係のない者が占有している者に対して引渡請求をするということも,引渡しだという立場に立っているということなんでしょうか。
○堂薗幹事 そうですね。第三者が持っている場合も,何らかの形で引渡しを受けなければ,その動産については対抗要件を具備しないという理解の下で,そこを遺言執行者にさせるかどうかを問題としており,今回の規律は,そこは遺言執行者の権限とはしないというものです。
○山本(克)委員 任意にその人が,これは指定されていますよねといって,占有者が渡してくれたというときに,引き渡せないということなんですか。
○堂薗幹事 今回の規律は,対抗要件具備と関係ない場面で,遺言執行者に引渡しや物の受領権限があるかどうかという点については明確にしていないという理解です。
○山本(克)委員 今の対抗要件と全く関係ないんですか,そこはよく分かんないですが。任意に遺言執行者が占有を取得して,それを引き渡すという対抗要件ではないという御理解で……。
○堂薗幹事 それは,基本的に遺言執行者が使者として本人に渡しているのかどうかということだと思いますが,もちろん第三者が占有している場合でも,受益相続人に現実に動産が引き渡されれば,それは当然対抗要件としても具備しているということにはなると思います。
○山本(克)委員 よく分からないんですけれども,遺言執行者が誰の,訴訟担当の言葉で言えば,被担当者は誰かという問題について,私は何か議論が混乱しているとしか思えない。つまりここだと,受益相続人が被担当者であるかのような前提で書かれているんですけれども,そうなんですか。私はそういうふうには思っていなくて,元々,言ってみれば被相続人の代わりに事柄を行うものであって,受益相続人はむしろ相手方であると。つまり,利害対立している相手方のためになぜ働かなければいけないのかということがそもそも問題で,問題は,だから,占有を自分のところに取得するという権限しかそもそも,相手方にそれを渡す,請求に応じて渡すという構造になるんで,受益相続人のあたかも利益代表者のようにして,受益相続人のために働くことが前提になって,こういう制度設計をすることがもう一つよく分からないんですけれども,特定遺贈の場合も同じ構造になるんでしょうか,これと。
○堂薗幹事 遺贈はまた別です。これは飽くまで遺産分割方法の指定がされた場合の話ですので,遺贈については(2)のアでありますように,遺言執行者が遺贈の履行をする義務を負うということになりますので,それは引渡しも含めて遺言執行者の権限に含まれることになります。
○山本(克)委員 第三者から引き渡してもらって,渡すということですね。それと同じ構造を採らないのはなぜなんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,基本的に,遺産分割方法の指定と遺贈との違いとして,遺言執行者がいる場合はともかくとして,遺言執行者がいない場合には,受益相続人以外の相続人が引渡義務を負うのかどうかという点について違いがありまして,遺贈の場合は当然受益相続人以外の相続人がそういう引渡義務を負うわけですけれども,相続させる旨の遺言の場合には,受益相続人以外の相続人は引渡義務を負わないこととされており,その違いを反映させたものという理解です。
○山本(克)委員 分かりました。分かりましたけれども,それだと訴訟の権限がないという理由付けは,もうおよそ成り立たないのではないですか。つまり遺贈の場合には,特定遺贈の場合はやらざるを得ないわけですよね。そんなことまで遺言者は考えていないという理屈立ては,まず考えられないわけですよね。この場合はなぜ,ここだけがなぜそういう理由付けになるのか,潮見委員がおっしゃったことと同じことになるのかもしれませんが,なぜこの場合だけ取り上げられるのかというのがもう一つよく分からない,より一層分からなくなる。
○満田関係官 確かに,遺言執行者の役割というところで,遺贈の場合と遺産分割方法の指定の場合というのはちょっと違うものになっていると思いまして,従前,現行法上,遺産分割方法の指定の場合には,特に全相続人が何か受益相続人に対して行う義務というものは基本的に観念できないとされていたと思いますし,そういう意味で,正に遺言執行者というものが,現行法上は遺産分割方法の指定の場面で何か登場するというのは,余り想定はされていないと思われます。正に受益相続人が自分一人でやればいいので,ほかの全相続人を正に代表して何かをしなければいけないということは,余り想定されていなかったのかなとは思っております。
  それで,正にこの遺産分割方法の指定がされた場合に,対抗要件の具備権限を遺言執行者に与えてしまうと,それは一体誰の代わりとしてやっているのかという問題は出てくるのは山本(克)委員がおっしゃっていたとおりで,正にそれは受益相続人の代理人としてやるというのか,それとも中立的な立場でやるのかという問題が出てきますので,対抗要件の具備権限等について,正に受益相続人が自分で一人でやればいいものを遺言執行者に与えるかという点については,正に遺言執行者をどういうふうに位置付けるかというところと,ちょっとセットで考えないといけないのかなとは思ってはおります。
○山本(克)委員 遺言執行者が支配を確保している場合に,渡すことはできるんですか。
○満田関係官 イの場合に,その占有を確保している場合というのがどういう状況かというと,正に貸金庫のものを任意に受け取ったとかという場合になるとは思うんですけれども,そのときに,この①の規律があれば対抗要件を具備する権限はありますので,イの①の規律。ただ,そこは動産の引渡しを除くとなった場合に,どうなるかというところは問題にはなるんだとは思いますので,ちょっとそこは検討させていただきますけれども,ただ,それを現実に引き渡せば,それは受益相続人にとっては現実の引渡しで対抗要件を具備していると考えて,特に問題はないかなとは思うんですけれども。
○山本(克)委員 そうなんですか。いや,それが全体,私の原案の理解が全然できていないということなのかもしれませんが,そういうふうには全然聞こえなかったので。
○満田関係官 少し,遺産分割方法の指定の場合にどうなるかというのは,ちょっと検討させていただければと思います。
○増田委員 今の話は,前々回の部会資料20にあった③を外したことによって,結局自分が持っている,自分が占有を確立している動産でも,それを受益相続人に引き渡してはいけないというメッセージを与えるのではないかという問題だと思うんですね。それはいかにもおかしな話だろうと思うので,もう少し考えてもらったほうがいいのではないかということです。
○堂薗幹事 ここで書いているのは,飽くまでもほかの相続人,あるいは第三者が占有している場合に,自分でその引渡しを求められるかどうかということで考えております。遺言執行者が既に支配を確立している場合に,それを受益相続人に引き渡せないというのはおかしい感じがしますので,その辺りについては御指摘を踏まえて再度整理をしたいとは思いますけれども,今回の提案は,飽くまで,一般的に引渡権限があるかどうかという点について,遺産分割方法の指定がされた場合については明確に規定せず,ただ,引渡しを対抗要件とする動産の場合に,対抗要件として具備させる必要はないというところだけを規定しているという前提です。その結果,それ以外の部分が不明確になっているので,今のような問題が生じるんだと思いますので,その点については再度検討させていただいて,整理をしたいと思います。
○山本(克)委員 ちょっと関連して,もう一つお伺いします。
  不動産について相続させる旨の遺言があって,被相続人のところにまだ登記が残っていると。それで,その効力についていろいろと争いがあって,受益相続人が不動産の相続による移転登記請求をするという訴訟をするというときに,被告適格者は誰だと考えているんでしょうか。
○堂薗幹事 すいません,受益相続人のところに登記は。
○山本(克)委員 登記は被相続人にまだ残っている。
 それで,受益相続人とその他の相続人の間で相続の効力について争いがあると。それで,受益相続人が相続の登記を請求すると,移転登記を請求するときに,訴訟上,被告適格者は誰にあるということになるんでしょうか。
○堂薗幹事 その場合は,被相続人名義であれば,受益相続人が単独で登記申請はできます。
○山本(克)委員 できるということですか。
○堂薗幹事 はい。なので,遺言執行者が出てくることはないという理解です。
○山本(克)委員 それで,そことパラレルに考えていくと,動産でもそう在るべきだというお考えですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 分かりました。
  不動産の場合は,そういう登記法上のある種の考え方があるので何とかなるけれども,動産の場合に,でも,やはり遺言執行者が占有を確保することと渡すということは,やはり分けて考えないとまずいのではないですか。
○堂薗幹事 そこは再度整理したいと思いますが,不動産登記法において,相続の場面で単独申請ができる理由としては,先ほど申し上げましたように,相続の場面では他の相続人がそういった権利の移転義務を負わない,そこは遺贈と違うところがあるので,単独での登記申請を認めざるを得ないということがありますので,正にそれとパラレルに考えて,この場合は受益相続人も物権的請求権等ができますので,それはそういう手段がありますと。それで,不動産の方については,本人ができる以上,遺言執行者についてはその権限が顕在化しないという判例がありますので,それとパラレルに考えたという面はございます。
○中田委員 これまでの御議論を伺っていて2,3あるんですけれども。一つは,遺言執行者の引渡権限と引渡義務との関係を整理したほうがいいのではないかと思いました。
  それから,その義務に関してですが,今のお話でも,遺言執行者の立場ってなかなか微妙だなと思いまして,前々から義務についての規律を明確化していただければと申しておりましたが,それは難しそうだということで今回入っていないと思うんですけれども,気持ちは変わりませんので,条文化の段階ででも何か工夫していただければと思っております。
  3点目ですが,遺産分割方法の指定及び相続分の指定と178条との関係について,先ほど堂薗幹事から御説明いただいて大体分かったんですけれども,三つの可能性があるように思います。一つ目は,遺産分割方法の指定等は,相続ではなくて譲渡だから178条が適用されるという考え方,二つ目は,相続なんだけれども,178条を拡張して適用するという考え方,三つ目は,譲渡ではないんだけれども,178条の規律を借用するという考え方です。このような可能性があり得ると思うんですが,その辺り,どれになるのかを整理していただければと思いました。
○堂薗幹事 基本的には譲渡ではない,したがって,178条の適用場面ではないんですが,相続の場面でも,そういう意思表示が介在するようなものについては,178条と同様の要件を備えなければ第三者には対抗できないという規律を新たに設けたと,そういう整理です。したがって,債権のところも同じような整理をしております。
○中田委員 分かりました。
○堂薗幹事 それから,遺言執行者の権限と義務を,そもそも分けることができるのかというところは,こちらとしてはかなり疑問に思っておりまして,やはり権限として認める以上は,その権限の行使について,善管注意義務なり何なりを負うことになるのではないかと思います。したがって,その引渡しについて権限はあるけれども,そういった義務は負わないというような規定は置けないのではないかということがございまして,今のような規律にさせていただいているというところでございます。
○中田委員 ありがとうございました。
  規定としてそうなるという御趣旨は分かったんですが,ただ,今まで出ている議論としては,やはり二つの線の議論が出ておりまして,そこはやはり整理する必要はあるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  結論もさることながら,今の中田委員からの御指摘がありましたけれども,説明のところで考えるべき問題もかなりあるようですので,引き取らせていただいて,再度整理をしていただくということにしたいと思いますが,今日の段階で更に今の点について御指摘があれば伺います。いかがでしょうか。
○増田委員 皆さんのおっしゃっているとおりなんですが,遺言執行者が何ができて,何はできないのか,何はやってもいいのか,その辺りはきちっと線引きはできるようにしていただきたい。遺言執行者というのは非常に孤独な仕事でして,四方八方から責められ,トラブルの多い状況にありますので,是非その点を御考慮いただいて,その辺りを明確にしていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の御意見も踏まえて,検討していただきたいと思います。
  第3につきましては,ほかに何か御指摘ございますでしょうか。
○沖野委員 今回,修正の入った第3の4の(3)のところですけれども,例えば,第三者に一定のことを行わせてもいいけれども,その場合には特定の事務所を使うようにというようなことを遺言者が書いていたときには,そして使っても使わなくてもいいんだけれども,しかし,やむを得ない事由があってやはり使うということになったときには,恐らくその事務所を使わないといけないことになるのではないかと思うんですけれども,訂正された形で,果たしてそれが実現できるのか,具体的には信託法35条の規定などが気になっておりまして,問題がないか,もう一度御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 検討させていただきます。
○大村部会長 では,御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  ほかに,第3につきましてはよろしいでしょうか。
  それでは,第3につきましては御意見を伺ったということで,「第4 遺留分制度に関する見直し」に進ませていただきます。
  事務当局の方から,また説明をお願いします。
○神吉関係官 それでは,大分時間も押しておりますが,第4につきまして御説明させていただきます。
  まず,ゴシック部分の1,(3)の「現物給付に関する規律について」でございますが,これまでの部会資料における甲-3案の考え方に,遺留分権利者の指定財産の拒絶権を与える考え方を提案として掲げております。
  なお,現物給付の拒絶権の時的限界,1の(3)の④の規律でございますが,委員等から2週間以内では短すぎるのではないか,1か月程度が適当ではないかという御指摘があったことを踏まえまして,2週間又は1か月という二つの案を提示しているところでございます。
  また,そのほかの修正箇所についてですが,ゴシック部分の(2)につきましては,減殺の順序を定める民法1033条から1035条までについて,受遺者等又は受贈者の負担額に関する規律として,その実質を維持することを提案するものであります。
  なお,ゴシック部分におきまして,「受遺者等又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該相続人の遺留分額を超過した額」を遺贈等又は贈与の目的の価格とするものするとしておりますが,これは民法1034条の「目的の価格」に関する現行法の解釈といたしまして,受遺者等が相続人である場合には,その遺留分額を超過した額を「遺贈の目的の価格」とするという解釈が有力でありまして,判例もこの解釈を採用していることから,この点を明らかにすることを提案するものであります。
  また,現行法におきましても,相続分の指定や遺産分割方法の指定による遺産の取得につきましては,遺贈などと同様,減殺の対象となっているところ,この点を明らかにする観点から,(1)におきまして「受遺者(遺産の分割の方法の指定又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下「受遺者等」という。)」と整理しておりまして,遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求をすることができると整理をしております。
  また,「2 遺留分の算定方法の見直し」と「3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」につきましては,実質的な変更点はほとんどありませんが,今回の部会資料におきましては3の②の規律を付け加えております。この②の規律につきましては,受遺者等又は受贈者が,相続債権者に対して遺留分権利者が負担すべき債務の弁済等をした場合に,求償権を取得することがあるところ,①の請求によって遺留分権の行使によって生ずる金銭債務が消滅した場合には,その求償権は消滅した金銭債務の限度において消滅するというものであります。
  ①の消滅請求をした後に,求償権の行使を認めると,受遺者等又は受贈者が実質的に二重の利益を得ることになって相当ではありませんが,この点の規律が必ずしも明確ではないと考えられることから,これを明確にする趣旨ということとなります。
  以上,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  現物給付に関する記述につきましてはいろいろ御議論を頂いたところでございますけれども,その他の点も含めまして御提案を頂きました。
  一括して御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○中田委員 現物給付についての懸念はこれまで何度か申し上げましたので,繰り返すことはいたしません。ただ,この規律は,受遺者等は遺留分権利者が拒絶しそうな財産を指定するという方向に誘導して,何というか,遺恨を残すおそれがあるのではないかと思います。裁判所の御負担はありますけれども,従前の甲-2案の方が,まだ全体としての紛争の抑制に資するのではないかと思っております。
  ただ,多分それは少数意見だろうと思いますので,それ以上は申しません。そこで,規律内容について伺いたいのですけれども,甲-3案というか,今回の御提案を採ったときに,受遺者等の指定した財産に対して遺留分権利者が不当だと考えたときに,どのようにして争うことになるのかということについて教えていただきたいと思います。
  まず,指定財産を受け入れた上で,それが遺留分額に満たないと考える場合には,差額を請求するということになるのではないかと思うんですけれども,それはどの裁判所に,どういう形で申し立てをするのかということです。
  それから,もう一つは,遺留分権利者が受遺者等の財産の指定が権利濫用であると考える場合には,その財産を拒絶した上で,その指定が無効であるということの確認の請求と,それを前提とするところの遺留分額全額の支払請求になると思うんですけれども,それはどの裁判所にどういう形で申し立てればよいのかということでございます。
  仮に後者の場合に,遺留分権利者が敗訴すると,結果的には不要な物を押し付けられ,かつ金銭も減額されるという結論になりそうなんですけれども,そういう理解でよろしいかどうかを教えていただければと思います。
○神吉関係官 御説明させていただきますと,基本的に訴訟構造といたしましては,遺留分権利者が,その遺留分侵害額に相当する金銭を計算いたしまして,例えば1,000万円の金銭請求を受遺者側にすると。それに対して,受遺者側がそのうち,自分が受けた遺贈のうち,ある物で,不動産で返しますと。それが200万円相当だとして,それで返しますと意思表示したものとします。そうすると,その200万円相当の遺留分侵害額の金銭債権が消滅をし,残りの800万円については金銭債権が残ると。そして,遺留分権利者としては800万円の支払を求めることができると。以上のように整理できるかと思います。遺留分権利者としては,200万円の不動産について,それは不要なものだと思えば放棄もすることはできるし,かつそれが本質的に権利の濫用に当たるようなケースについては,その指定が権利の濫用だという主張も一応はできるのではないかと思っております。
  訴訟構造としては,まず遺留分権利者が請求原因として遺留分の侵害がされたとして金銭請求をすると。次に,受遺者側は,遺贈に係る物で現物給付する旨の意思表示をし,金銭債務の全部又は一部の消滅を主張する,それは金銭債務消滅の抗弁になるかと思います。更に,遺留分権利者としては,その現物給付の主張について,それを権利の濫用に当たり無効である,そういう再抗弁を出すという形になるんではないかと思います。それで再抗弁が認められれば,その指定が無効だと証明されて,1,000万円の金銭請求が認められるという形になるのではないかと思っております。
○中田委員 それぞれの裁判をどの裁判所にどういう形で起こすのかということ,それから,権利濫用の主張が認められなかったときには,結果的には不要なものを引き取り,かつ金銭債権が減額されるという理解でいいかどうかという点は,いかがでしょうか。
○神吉関係官 いずれにしても民事訴訟になるかと思いますので,地方裁判所若しくは簡易裁判所で主張立証が交わされるという形になるかと思います。
  また,権利の濫用の抗弁が認められなかった場合には,御指摘のとおり指定については有効だということになり,再抗弁が成り立たなかったことになりますので,金銭債務のうち200万円部分は消滅し,かつその不動産についての権利は遺留分権利者に移ると,そういう整理かと思います。
○潮見委員 権利濫用というのは分かるんですが,どういう観点から評価をして権利濫用だという結論を導いていくのですか。少なくとも,どういう要素を見るのか。それから,その要素をどう評価していくのか。権利濫用というのはなかなか認められませんよという,そういう話はちょっと置いておくとしても,それ以前の問題として,権利濫用という判断枠組みが明確でなければ,結局は権利濫用という主張が封じられて,前から多分問題になっているのではないかと思いますけれども,遺留分権利者から見たら余計なものを結果的に押し付けられるという機会が増えてしまうのではないかということにもなりそうなものですから。私は前から金銭請求権一本でやってほしいと言っていて,もうそれは通らないのは分かっているのですが,だからこそ,では,どうなるのというところが気になってしまいますので,お教えいただければと思います。
○神吉関係官 どういった場合に権利濫用となるのかということにつきましては,部会資料20の40頁以下で詳しく御検討させていただいたかと思うのですが,例えば遺贈の対象物として複数の不動産があって,その一部の何でも返せる状態にあるにもかかわらず,一部の不動産については,例えば産業廃棄物がたくさんあってほとんど価値はなくて,それを渡したら逆にマイナスになるようなものがあったときに,嫌がらせ目的でそれを渡した場合に,事案によっては権利濫用に当たることになるのではないかと思います。ただ,前回の部会におきまして中田委員から御指摘いただいたとおり,遺留分権利者側から指定財産の放棄を認める制度を設けることによって,そういった権利濫用の主張は認められにくくなるのではないかという,そういった面はもしかしたらあるのかなとは思っております。
  ただ,一般論としては,いろいろな要素を総合的に考えて,あえてそんなものを渡さなくてもいいのに渡したという場合には,権利濫用と評価されることはあり得るのかなとは思っております。
○潮見委員 今の権利濫用と言われた例というのは,まず,どちらかといったら主観的な悪性というものが非常に厳しい例であって,そういう極端な例はそうなのかもしれませんが,むしろ普通に上がってくるようなパターンでどうなのかというところについて疑義があるのです。
  それから,放棄という形でやっちゃうと,放棄することしか方法はないということになりますから,そうしたら,放棄した後は残った部分だけで満足をするということになるんですよね。そういう結果というものが果たして受け入れられるのかというところについて,若干疑問はあります。
○堂薗幹事 基本的に,遺留分権利者にとって要らないものを指定したという場合に,同じように受遺者側から見てもそれは要らないものだからということであれば,それは基本的に同じような立場にありますので,その場合には,受遺者側の判断を尊重していいのではないかというのがこの考え方になります。それは,例えば遺贈があって,それを承認していなければ,遺留分減殺請求をしてきたときに遺贈の放棄ができるというのと似たようなところもございまして,そういった意味で,双方が同じように要らないということであれば,基本的には現物給付の指定権を受遺者側に認めて良いのではないかという理解が前提にあります。
  そうではなくて,遺留分権利者はこの物は要らないということが分かっており,受遺者側には必ずしもそういう事情がないにもかかわらず,嫌がらせ的にその物を指定したとか,そのような場合には,権利の濫用ということで対応することができるのではないかと思います。そういった意味では,このような規律にしますと,かなり主観的な面を考慮しないと,権利の濫用というのは認められにくくなるのではないかという気はしております。
  他方,このような放棄制度を設けることがいいのかどうかという問題なんだとは思いますけれども,この放棄制度があることによって,逆にその放棄を狙って,現物の指定をするというような事案が出るおそれはあるように思います。そこは,そもそもこういう放棄制度を設けたほうがいいのかどうかというところには関わるんだと思いますが,ただ,前回の部会における御議論では,最終的な手段としてあったほうがいいということでしたので,今回の部会資料では,このような制度を設けた上で,御提示をしたということでございます。
○増田委員 私も従前から申し上げているように,金銭債権一本がいいのではないかと思っていて,金銭債権一本にすることのデメリットはないのではないかと思っているんですけれども,それはさておき,二つほど質問です。
  一つ目は,遺留分権を行使した後,具体的な金銭の支払を請求することになりますが,この金銭の支払請求権の時効についてはどうお考えなのかというのが質問です。
  もう一つは,この指定財産の価格とは何なのか。つまり,処分価格と考えていいのかどうかというところ,これは後の意見にも関わるところなんですが,その2点お願いします。
○神吉関係官 具体的な金銭請求権が発生した後の時効につきましては,これは一般の金銭債権と同じということで整理ができるかと思いますので,通常の民法の規律が適用されるということになるかと思います。
○堂薗幹事 後者の御質問の,処分価格以外でというのは,どういうものを念頭に置かれているんでしょうか。
○増田委員 いわゆる評価額という場合には,そのものの潜在的な価値等全て含まれます。処分価格と評価額に大きな違いがあるものには,例えば,閉鎖会社の株式とか,あるいは農地の賃借権などがあり,そういうものは処分すれば全く二束三文若しくは処分不可能であるけれども,鑑定すれば一定の評価額はでます。
○堂薗幹事 基本的には,遺留分権利者の遺留分権を保全するための制度ですので,必要に応じて換価をした上で遺留分に充てるという趣旨ですので,最終的に処分価格になるのかどうかというところまでは法律で書けませんので,解釈ということになるのではないかとは思いますが,個人的には,やはり処分価格に近いような形で考えないと,遺留分権利者にとって不利益が生じるといいますか,そういった面があるように思います。要するに,遺留分権利者が取得した財産をそのまま使いたければ使っていいわけですが,使う必要がない場合にはそれを換価して,遺留分の保全をするという趣旨でございますので,基本的にはそういった解釈につながりやすいのではないかとは思いますけれども。
○増田委員 それでは確認ですけれども,最初の質問については,まず1年の間に遺留分権を行使するという意思表示をして,そこから債権法改正後の新法では5年以内に金銭の支払請求をするということでいいですね。
  後の方は,そうすると,遺留分の算定の基礎となる財産の価格と,遺留分権利者に戻す指定財産の価格とは違ってもいいのかどうかという問題があります。指定財産の価格は処分価格だということになると,異なる可能性があって,例えば閉鎖会社の全株式を受遺者に渡していた場合には,会社の純資産額との関係でそれなりの価値はありますが,受遺者がその25%を返したとすると,つまりは全株式の3分の2に満たないものを返しても,その25%の株式については何の価値もないし,処分もできない。こういうことを念頭に置いて,算定の基礎と指定財産の価格にずれがあってもいいのかどうかということをお伺いしたいんです。
○堂薗幹事 今の問題点は非常に重要だと思いますので,検討させていただければと思いますが,基本的には,もちろん遺留分侵害額を算定する際にされた評価がそのまま使えるという前提で考えていたところではありますが,特にそういった違いが生じるような例外的な場合にどう考えるのかというのは,最終的には解釈問題になるとは思いますけれども,こちらの方でも検討はできておりません。次回にお答えさせていただければと思います。
○神吉関係官 ちょっと補足して説明させていただきますけれども,現行法の価格賠償についてはどう考えるのかということとも関連するかと思います。例えば,減殺の対象が例えば株式全体だったとして,それが可分な株式だったとして,そのうちの幾つか,3分の1について価格賠償で弁償しますといったときに,それはどう評価するのかという問題と同じなのかなという気はしております。次回までに検討して調べたいとは思いますが,一応,同じ問題は現行法でもあり得るのかなとは思っております。
○増田委員 現行法の解釈だと株式は一株一株が準共有になりますから,ちょっと違うと思います。
○神吉関係官 いや,全体がその減殺対象になったときには,減殺請求権の行使によって全てが遺留分権利者の元に移るんだと思います。ただ,受遺者側が価格賠償をするとして,例えば10株のうち5株については価格賠償でするということは,それはできるのではないかなとは。
○増田委員 10株,5株の価格ではなくて,一株一株が共有持分になるから,価格賠償すべき共有持分の価格は株式全体の価格の一定割合なんです,現行法だとね。
○大村部会長 それは検討していただくということにしまして,山本克己委員からも手が挙がってましたので,お願いします。
○山本(克)委員 すいません,(3)の②なんですが,この趣旨がどういうものなのかがちょっとよく分からなかったんで。
  「又は控訴審の口頭弁論」,「又は」というのは,これは事実審の口頭弁論終結時という趣旨であるということですか。それで亀甲括弧でくくってあるというのは,これはどういう趣旨なんでしょう。
○神吉関係官 趣旨としては,民法にここまで書けるかどうかというのは少し悩ましいなと思いつつ,その点については法制化の際に改めて検討したいなと。ただ,これまでの部会資料にも書いてありますとおり,実質的にはこういった規律にする必要があるのではないかということでございます。
○山本(克)委員 請求異議では駄目だということを言いたいということですか。例えば,金銭請求で全部認容があって,請求異議時において,この現物給付の請求をしましたということで異議事由を立てて,請求異議の訴えを起こしても,それは棄却されると,そういうことを言いたいわけですか。しかし,それは,よく分かんないんですけれども,この請求権は裁判上,行使しなければいけない請求権というか形成権なんだろうと思うんですけれども,裁判上,抗弁として行使しなければならない形成権として捉えられているのか,訴訟外でも行使できるものとして捉えられているのか,どちらなんですか。
  請求異議のところでやるとすれば,既判力の話で遮断できるという考え方も十分あり得るんだけれども,そこが微妙なところですよね。形成権の基準事後行使は必ずしも一律に結論が出ていないわけなので,どちらの,遮断されるほうか,遮断されないのかというのはあらかじめ決めを打ちたいという趣旨で書いてあるということですか。裁判が,でも,行使できるということは前提になっているということでよろしいですか。それで,基準事後行使について一定の方向を書ければいいなとお考えになっていると,そういうことですか。
○堂薗幹事 そうですね。正にこれがない場合に,既判力で遮断できるかどうかというのは非常に微妙で,どちらかというと建物買取請求権に近いのかなという感じもするので,遮断されない可能性が十分にあるのではないかと思います。したがいまして,これについては,規定上,遺留分に関する訴訟の中で行使しなければならないという形にしたほうがいいのではないかということで,このような規律にしております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。この第4の現物給付に関する規律を中心に,まだ御意見随分あるようですけれども,事務当局としては,今日,第5,第6についても主な意見は伺いたいということのようですので,第4について,まだ終わっていないということで,次回も更に伺うということでいいですよね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 それを前提にして,第5,第6,第7について御説明を頂いて,今日御意見があるという方については若干伺いまして,次回に残りを送りたいと思います。
  30分ぐらいで終えたい,今5時15分ですけれども,45分ぐらいを目途にやめたいと思いますので,すいませんが15分だけ延長させていただきたいと思います。
  ということで,第5,第6,それから第7,まとめて事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○満田関係官 それでは,第5,第6,第7をまとめて説明をいたします。
  ちょっと時間の関係もありますので詳細な説明を割愛させていただいて,簡単に説明させていただきます。
  まず第5,1の(1)でございますけれども,この点については従前の部会資料の規律から変更点はございません。
  「(2)債権の承継」につきましては,従前,第三者対抗要件と債務者対抗要件を切り離していたところではございますけれども,今回は債務者対抗要件につきましては,(2)の①の㋑に記載のとおり,まずはその債権を承継した相続人が,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面を債務者に交付した日以後にという形で債務者に通知をしなければいけないということで,その通知と遺言等の内容を明らかにする書面の交付の先後関係を明確にいたしました。その上で,第三者対抗要件については,その債務者に対する通知に確定日付ある通知又は確定日付ある証書によってしなければいけないという形で整理させていただいているところでございます。
  「2 義務の承継に関する規律」でございますけれども,従前はこの点に関して,法定相続分の割合による権利の行使をした場合に,その指定相続分による権利の行使が一定の場合にはできないという規律について設けさせていただいたんですけれども,これについても,前回の部会の中で委員の先生から御指摘がありましたので,今回の部会資料におきましては,基本的には法定相続分で権利を行使したとしても,その後,指定相続分での権利の行使をすることはできると。ただし,相続債権者が共同相続人の一人に対して指定相続分の割合による義務の承継を承認したときにはこの限りではないといたしまして,指定相続分の割合の義務の承継を承認した場合には,それは指定相続分のみの行使によるという形で規律を整理させていただいております。
  「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」についてでございます。
  従前の部会では,遺言執行者がいる場合の法律関係につきましては様々な意見が出されたところではございますけれども,今回の部会資料では,従前の部会資料21の【乙-2案】をベースとした考え方を掲げさせていただいております。その上で,②のところで相続債権者又は相続人の債権者が,相続財産について,その権利を行使することを妨げないものとするということで記載しておりますけれども,この相続人の債権者についてどのように考えるかという点については,是非,御審議いただければと思います。
  「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」についてでございます。
  相続人以外の者の貢献を考慮するための方策については,パブリックコメントでも賛否が拮抗し,主として相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が表明されたため,第14回部会においては,指摘された問題点を軽減する方向で検討を進めることとされ,第19回部会においては,その具体的内容につき御審議を頂いたところでございます。
  まず,請求者の範囲についてでございますけれども,第19回の部会では,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,寄与行為の対応を限定することに加え,ブラケットを付して,親族関係による限定を設ける旨の規律も記載しておりました。今回の部会資料におきましても,その旨の記載を基本的に維持しております。
  他方,変更点といたしましては,親族関係による限定につき,第19回の部会資料では,二親等内の親族に限りとしていたものを,今回の部会資料では三親等内の親族に限りとしております。これは,限定の設け方によっては不相当なメッセージ性を持つ懸念もあるという御指摘を踏まえたものでございます。限定の範囲を三親等内という民法上,扶養義務を負い得る者の範囲に合わせることによりまして,契約などの生前の対応が類型的に困難である者を救済するための制度であるという説明が容易になり,御懸念の点をある程度払拭できるのではないかと考え,このような提案をさせていただきました。
  また,第6の③の規律にも若干変更を加えております。特別寄与者の請求権につきましては,各相続人が相続分に応じて責任を負い,1人の相続人に対して行われた審判が,他の相続人との関係で効力を持つものではないということを明らかにするため,特別寄与者に支払うべき金銭の総額を算定し,これに各相続人の相続分を乗ずることにより,各相続人が支払うべき額を算定すると文言を修正しております。
  さらに,第6の④の規律につきまして,寄与分に関する民法904条2第3項と平仄を合わせまして,相続財産が債務超過である場合に,本方策に基づく請求が認められないことについては条文上は明示しないこととしております。
  最後に「第7 その他の論点」ということでございますが,こちらはゴシック部分のたたき台の方には記載しておりませんで,部会資料の補足説明の40ページのところに記載しております。
  まず,「1 相続分の指定と遺産分割方法の指定の区別の明確化について」でございますけれども,この点は第19回会議におきまして,委員の皆様方の間においても,その賛否が分かれたところでございます。
  これまでは,遺産分割の方法の指定と合わせまして,相続分の指定がされる場合があると理解されてきたところではございますけれども,ここに記載しております丙案を採用しますと,現行の遺産分割方法の指定とは異なる新たな遺産分割方法の指定という遺言事項を定めたものと理解することになるように思われますけれども,このように理解した場合に,現行実務において頻繁に利用されている相続させる旨の遺言について,その法的性質を変えることにもつながり得るところでもございますので,その影響については慎重な検討を要すると思われます。
  そこで,この点については賛否が分かれている状況でもございますので,現行法と同様,遺言の解釈に委ねるのが相当であると考えたところでございます。
  最後に「2 危急時遺言に関する見直しについて」を御説明いたします。
  この点については,第20回部会におきまして,委員の方から聴覚又は言語機能の障害等を有する者が遺言する場合に関する規律につきまして,遺言に本人の真意が反映されていることの制度的担保が不十分であるということとして,見直しを検討する必要があるのではないかという問題提起を頂いたところでございました。もっとも,この点について検討しましたが,そもそもこれらの遺言につきましては,家庭裁判所が遺言者の真意に出たものであるというものの心証を得た上で確認をしなければ,遺言の効力を生じないとされておりまして,その意味では,家庭裁判所による慎重な確認がされているものと考えられますし,他方,民法の976条1項の方式による遺言につきましては,現に年間100件以上利用されている制度でございまして,これを廃止するということについては,その影響等を含め,極めて慎重な検討を要するというものと考えられます。
  仮にこれらの規定等を削除するとしますと,代替制度の要否ですとか,その在り方についても実態調査等を踏まえた慎重な検討が必要でありますので,これらの見直しについては将来の課題とせざるを得ないという形で整理させていただいております。
  説明としては以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  急いでいただきましたけれども,「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」,1の「(2)債権の承継」については,必要な整理を加えていただいた,「2 義務の承継に関する規律」については,前回の委員の議論を踏まえて修正が若干入っているということでございました。3につきましては,2の規律について,是非,御意見を伺いたいという御要望がありました。
  それから,第6につきましては,ブラケットで請求権者の範囲を画するということがされていますけれども,これを二親等から三親等に変更したということのほか,若干の修正がなされているということでした。
  そして,第7につきましては,1,2,二つの課題があったわけですけれども,いずれにしても,なお検討を要する点があるのではないかということで,今回取り上げることは難しいのではないかという整理であったかと思います。
  もう時間が限られていますので,次回にも改めて御意見を伺いますけれども,今日のうちに是非問題点を指摘し,検討をしていただきたいという点を伺いたいと思います。どの点でも結構ですので,御発言をお願いいたします。
○藤原委員 一言だけ。第5の3の②のところです。
  「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」で,ここの亀甲括弧を入れるか,入れないかというところにつきましては,今回の補足,22-2の資料の33ページの一番下の段落,「まず」以下で御説明いただいておるところでございますけれども,こういった御説明にあるとおり,相続債権者と相続人の債権者については,この場面においては少なくとも立場というか,利害関係にあまり差はないと考えられますので,この亀甲括弧を外して,相続人の債権者も例外に含めるということがよろしいかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  先ほど,事務当局の方から意見を求められていた点について,意見を述べていただきました。
○増田委員 今の点は,前回申し上げたとおり,相続人の債権者との間では対抗問題ではないと考えており,かつ相続人の債権者は実質的に保護される必要はないと。根拠は前回申し上げたとおりです。山本和彦委員から前回御指摘のあった,差押えの上にのっかったらどうなるかという話ですけれども,配当異議事由になるという解釈になるのかなと思っております。責任財産でないものについて,配当要求してきたということだろうと思っております。
  ただ,最後の点については,一旦差押えがなされた以上は,その手続においては確定的に責任財産へ入るという考え方もあり得るかなと思いますが,そこが本質的にこの議論の別れ目になるというものではないだろうと考えております。
  それから,銀行の方で払戻しの際に善意悪意は分からないのではないかという御懸念はあるかと思いますが,差押えが掛かったものを差押債権者に払い戻して,それで準占有者弁済等の保護がないということはあり得ないだろうと思いますので,仮にそういう御懸念だとすれば無用だろうと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
○金澄幹事 第6のところに,新たに三親等以内の親族という要件が入っているのですけれども,これについては,もう一度御検討いただきたいと思っています。
  というのは,第7回の審議の部会資料のときにも,扶養制度の見直しだけでは対処できないという御説明があり,あと第10回の資料でも,やはり扶養制度の見直しでは不十分というような説明がありました。そのために新しく相続人以外の者の貢献を考慮するという制度を作ったという経緯があります。そういう流れの中で,改めてここで,この制度の中で範囲を限定するために,再び民法上の扶養義務を負い得る者という,扶養制度からの要件を出してきたということは,やはりちょっと矛盾するのではないかなと考えています。
  また,19回の審議の部会資料にも,「被相続人は,その者に裁判所が相当と認める額を取得させる遺贈類似の意思を有していたものと取り扱い」というような記載もあることからすれば,この制度は被相続人の意思を根拠にしているというところもあるのですから,親等によって適用範囲を限るという必要はないのではないかと思っています。身近に療養看護をした者であれば,親等による制限をすべきでないだろうと考えています。
  また,中間試案のときのパブコメの結果でも,請求者の範囲を限定しない乙案の方に賛成する意見が相当多かったわけです。範囲を限定する甲案の賛成は4団体5個人で,乙案の賛成が10団体16個人で相当多かったわけで,それらの流れをずっと踏まえた議論があった中で,ここに来てまた更に親等による制限を付けるということは,ちょっとパブコメの流れからしてもおかしいのではないかなというように思っています。第19回の審議のときにも,何らかの制限は必要というお話もあったのですけれども,二親等では狭いというような親等を拡大すればいいという議論ではなかったかと思います。そうであれば,例えば,同居をしていることという要件での制限とか,親等で区切ること以外の何らかの形もあるのではないか,別の方策も検討すべきではないかなと思います。
  そして,今までの議論の中で,ずっと紛争の長期化とか複雑化,濫用に対応するために要件を絞ってきたということで今の要件になっているわけですが,請求権者は療養看護という事実行為をした上に,被相続人の財産の維持増加について特別の寄与をしたということで相当絞られているし,請求の期間も限定されているので,これで更に濫用の危険ということで親等を要件にして請求権者を決めるという必要はないのではないかと思っています。そして何より,この制度の趣旨として,相続人以外の者が療養看護等によっていろいろ寄与してきたのに,相続人でないという一事をもって何らの対応もされないのはおかしいという不公平を是正するということだったわけですから,ここでまた更に親等を持ち出してやるということは,この不公平を解消するという制度趣旨に反するのではないかなと思っています。
  また第19回のときに,南部委員が御発言になっていたように,相続人以外の親族も療養看護を行うことを奨励するようなメッセージとなりかねないということが,やはり非常に懸念されるところです。介護の社会化ということが言われている中で,そういう親等で限定をして,親族による介護を奨励するようなメッセージを法制審議会の中から発するということについては,非常に疑問があるところです。また社会の中で,同性婚とか,いろいろな家族が出ている中で,助け合いで同じコーポラティブハウスに住んでいるような人たちとか,いろいろな家族の形態が出てきている流れにも逆行するような立法になるのではないかと懸念していますので,是非この亀甲括弧のところは再検討していただきたいと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかに,何かありますか。
○八木委員 今のような御意見出ましたので,一言述べたいと思います。
  私は,この三親等内の親族に限りとすることに賛成です。亀甲括弧を外すのが適当かと思います。
  一つは,この要綱案のたたき台全体として流れている趣旨というのが,配偶者保護ということだろうと思います。短期居住権,長期居住権,それから持戻し免除の意思表示の推定はいずれもそうです。この特別寄与者についても同じようなことだろうと思います。他の規定との整合性を考えて,三親等内の親族に限るとするのは合理性があるだろうと思います。
  それから,確かに同性で療養看護をしている方だとか,あるいは内縁関係でそういうことをしている方だとか,おられるとは思いますけれども,でも,この問題は,内縁関係と婚姻制度との差は何なのかとか,あるいは同性婚を認めるのかとか,そういったことに波及しがちな問題でありまして,これは婚姻制度をどうするのかということに関わりますから,別の部会でも設置してそこで議論すべき話であって,ここの相続に関わるところで行うべき議論ではないんだろうと思います。
  したがって,これは現行の制度の中でどういった判断ができるのかということになるかと思うんですけれども,結論としては,亀甲括弧を外していただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,第6の①の亀甲括弧について賛否両論ありましたけれども,その点も含めて,あるいはその他の点でも結構ですので,今日のうちにという御発言がありましたら,是非伺いたいと思います。
  いかがでしょうか。
○藤野委員 主婦連合会藤野でございます。
  私は今のところで,金澄委員の御意見に全面的賛成ではございます。本当に全面的賛成ではあるのですけれども,ここのところ,今まで報われないでいた方たちが,少しでも早く報われるようになるために,まず一歩を踏み出していただきたいという思いがものすごくあります。そして,二親等から三親等になったということで,ある程度範囲が広がったということが,まず評価されることだと思います。本当に同性婚のカップルも内縁のパートナーも,とても大事なところではあるんですけれども,まずここから始めていただいて,より広げていただきたいという思いが私の中にはあります。
  ただ,意見としては,金澄委員の意見に全面的賛成でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  その他の委員,幹事,いかがでございましょうか。
○南部委員 ありがとうございます。
  今の第6の三親等の件でございますが,二親等から三親等に広げたということですが,私は何か違和感を感じておりました。今の社会はやはりもっと多様化しているように感じておりまして,この法律が,先ほど八木委員がおっしゃったように別の部会ということであれば,またそこでしっかりと議論していただければいいのですけれども,ここでということになれば,もう少しここは深めた議論が必要ではないかと思っております。2から3に範囲を広げるだけではなくて,もう少し大きな視点で物事を見ていけばいいのではないかと思っておりますので,是非,もう少し慎重に議論をお願いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○窪田委員 第6のところで,両方ともの御意見が出ていたのですが,これは以前この部分で議論したときも出た問題だったと思うのですが,私自身は,あるいはそのとき潮見委員からもっと強い形で意見が出ていたと思いますが,第6の問題というのは本来相続の問題ではなくて,財産法上の問題なのではないかと。その上で,多分あのときは潮見委員は,むしろ,だから,財産法の問題として解決すべきだということでしたし,私自身は,前提はそうなのだけれども,やはり事務管理や不当利得で処理するのは難しいということを前提として,相続法の枠組みの中で対応するというのが考えられるんではないかという意見を述べていたように記憶しています。いずれにしても,全体としては基本的には相続ではないという位置付けだろうと思います。
  ですから,今,相続の中にどういう問題を持ち込むのかということはありましたが,相続の問題ではないといったときには,三親等内の親族というのはやはりかなり違和感があるなという気がいたします。その上で,それを残すのがいいのか,というか,それをとった上でこういう仕組みを残すのがいいのか,もうそこまでいくのであれば,もう全部取り去ってしまうのかというのは議論の余地はあると思うのですが,全体としては,今のような位置付けはある程度まで共有できるのではないのかなという感じがいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
○藤野委員 ごめんなさい。私自身の意見にちょっと付け加えてなんですけれども,そういうこともあった上で,やはり遺言がもう少ししっかり制度として浸透して,この方にはきちんと残したいということを伝える遺言が広がっていくことを加えてお願いしたい,世の中に広まってほしいということも希望しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第5の3の2につきまして両論,御意見ございましたし,第6の①につきましては,二つではなくて三つ,あるいはそれ以上の意見があったかもしれませんけれども,今日の段階で,今の2点,あるいはそれ以外につきまして御発言があれば更に伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  よろしいでしょうか。
  今の御指摘については,事務当局の方からお答えは頂いておりませんけれども,御指摘を踏まえまして,次回更に御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  私の方の不手際で,第4以降について,十分な時間を取ることができませんでしたけれども,これはまだ終わっていないということで,次回に改めて時間を取って検討させていただきたいと思います。
  ということで,一応最後まで目を通していただいたということで,最後に次回の予定と,それからパブリックコメントについて説明を,事務当局の方にお願いいたします。
○堂薗幹事 本日もありがとうございました。
  まず,次回の日程でございますが,御案内のとおり7月18日午後1時半からを予定してございます。次回も要綱案のたたき台の全体をお示しした上で御審議を頂くということで,本日の議論を踏まえまして一部修正したものをお示しして,御議論いただければと考えております。
  可能であれば,次回の部会におきまして大まかな取りまとめについて御了承いただいた上で,次回の部会終了後に,中間試案後に新たに取り上げた論点,具体的に申し上げますと,居住用不動産について遺贈又は贈与がされた場合の持戻し免除の意思表示の推定規定,本日の部会資料で申し上げますと,第2の1のところでございます。それから,第2の2の預貯金債権の仮払い制度,第2の3の一部分割,第2の4の相続開始後の共同相続人による財産処分,第4の1の遺留分減殺請求の法的性質の見直しにつきまして,再度パブリックコメントに付すということを考えております。
  したがいまして,今回行うパブリックコメントにつきましては,中間試案のときに行いましたように全体について行うのではなくて,今の限定した範囲で行うということを考えているところでございます。
  それから,次回の場所でございますが,次回は場所が変わりまして法務省の地下1階の大会議室になりますので,お間違いのないよう,よろしくお願いいたします。
○潮見委員 パブリックコメントに出す項目というのは既に限定はしているということでしょうか。今回の要綱案のたたき台みたいなものについては,存在はしているし,そのときには公表はされているでしょうけれども,それをパブリックコメントの対象にしたものではない。仮にそういう項目を限定した場合に,それ以外の項目について御意見を書いてこられるような方々がいらっしゃったら,それは御意見として伺っておくという,そういうことですか。
○堂薗幹事 そうですね,はい。
○潮見委員 実際にパブリックコメントで何を取り上げるべきかというのは,次回,またこの場で検討はさせていただけるのでしょうか。それとも,もうそれは法務省,あるいは部会長等に一任という形になりますでしょうか。
○堂薗幹事 これ以外のところで,この点についてもパブリックコメントを付したほうがいいのではないかというところがございましたら,御指摘いただければと思います。それは本日でも構いませんし,次回でも構いませんが,それを踏まえて,最終的にパブリックコメントに付す範囲を決めたいと思います。
○大村部会長 基本的な考え方としては,前回のパブリックコメント以降に新たに検討された,あるいは内容が大分変わったものについて意見を問う,前回のものが基本的に維持されている部分については対象外にするということかと思います。ただ,どこが変わったかということについては,委員,幹事の方々に,この項目もかなり変わったのだから,これについてもパブリックコメントに付すべきだというような御指摘もあろうと思います。それについてはなお調整の余地があるという御趣旨だと思いますが,本日の会議終了後でも結構ですし,次回にもまた御意見があれば是非伺いたいと思います。よろしいですか。
  ほかによろしいですか。
  それでは,時間を大分過ぎまして申し訳ございませんけれども,これで閉会したいと思います。本日も活発な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。
  閉会いたします。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第23回会議 議事録


第1 日 時  平成29年7月18日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時00分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第23回会議を開催いたします。
  まず,新しい委員の方がいらっしゃいますので,自己紹介をお願いしたいと存じます。
  一番最初に,小野瀬委員からお願いいたします。
○小野瀬委員 このたび,7月7日付けで法務省民事局長に就任いたしました小野瀬と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  続いて,筒井幹事が委員になられたのですけれども,本日は所用で御欠席と伺っておりますので,私の方から委員になられたという点だけを御紹介させていただきたいと存じます。
  それから,笹井幹事。
○笹井幹事 7月7日付けで民事局参事官を拝命いたしました笹井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  続きまして,配布資料についての説明を事務当局にお願いいたします。
○満田関係官 それでは,本日の配布資料について御説明をさせていただきます。
  配布資料目録に記載のとおり,本日の資料は4点ございまして,事前に送付させていただいた部会資料3点と,参考資料1点となっております。部会資料の方でございますけれども,部会資料23-1の「要綱案のたたき台(2)」,部会資料23-2の「補足説明(要綱案のたたき台(2)),さらには部会資料23-3の「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)(案)」となっておりまして,この部会資料23-3が追加のパブリックコメントの対象となるものでございます。参考資料につきましては,自筆証書遺言についての自筆によらない加除訂正の範囲に関するものでございまして,この資料については第3の遺言制度に関する見直しのところで改めて御説明させていただきます。
  以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  本日は部会資料の23-1,「要綱案のたたき台(2)」を基に御審議を賜りたいと思っております。
  第1から第6まで6項目ございますけれども,前回,たたき台の(1)について御意見を頂いた際に,第5と第6は非常に駆け足になってしまいましたので,本日は第5と第6から,まず始めまして,これらにつきまして御意見を伺いたいと思います。その後に第1から第4までにつき御意見を伺うことになりますが,分量の関係で,第2の「遺産分割に関する見直し等」を残りの中では最初に取り上げさせていただき,その後,第1,第3,第4という順番で進めさせていただければと存じます。第5,第6といきまして,第2の「遺産分割に関する見直し等」が終わった辺りで休憩をするということを予定しております。
  以上のような順序で,よろしくお願い申し上げます。
  それでは,早速でありますけれども,「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」というところから御意見を頂きたいと思います。資料で申しますと,17ページの第5というところになります。これにつきまして,事務当局の方からお願いいたします。
○満田関係官 それでは,関係官の満田から「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」について説明をさせていただきます。
  まず,「1 権利の承継に関する規律」のうち,(1)につきましては,部会資料22からの変更点はございません。
  「(2)債権の承継」につきましては,ゴシック部分に関して,まず1点目としまして,遺言執行者による通知の方法を変更しております。これまでの部会資料では,遺言執行者については受益相続人と同様,遺言の内容を明らかにする書面の交付を必要とするというふうにしておりましたが,これを改めまして,遺言執行者については相続人全員でする場合と同様の方法で足りることとしております。これは,遺言執行者は,遺言者に代わって職務を行う者であり,自らの法的資格を証明しさえすれば,別途,虚偽の通知を防止する必要性等は乏しいことなどを理由とするものです。
  また,二つ目といたしまして,受益相続人が通知する場合に交付すべき書面の種類につきまして,遺産分割協議書及び遺言書といった書面の例示をすることといたしました。これは,対抗要件としての通知の際に必要となる書面については,できる限りその内容が明確であることが望ましいことを理由とするものです。
  なお,交付すべき書面につきましては,虚偽の通知を防止する観点などからいたしますと,原本の存在に疑義を生じさせるものを認めるべきではないというふうに考えられまして,単なるコピー等の交付では不十分ではないかということを補足説明において記載しております。もっともこれらの書面について,その遺言書の原本や謄本など,公的機関が作成した写し等に限ることといたしますと,自筆証書遺言等におきましては,その検認の手続を経ない限り,現行法の下では謄本の作成は困難でありますので,これらの書面に限ることの当否や迅速な対抗要件具備の必要性が高まることとの調和をどのように図るべきかということについても御審議いただければと存じます。
  続きまして,ゴシック部分の「2」及び「3」の点についてでございますが,この点については,いずれも部会資料22からの変更はございません。なお,「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」につきましては,前回の部会におきまして,その亀甲括弧の部分,相続人の債権者をこれに含めるべきかどうかというところについては,これを必要とする意見と不要とする意見とを頂いておりますけれども,この点も含めて,改めて御審議いただければと存じます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「第5 相続の効力等に関する見直し」の部分につきまして,1の「(2)債権の承継」につきまして,幾つかの御指摘がありました。それから,2と3については修正等はないということでしたが,3の(2),亀甲括弧になっている部分について,括弧を外すかどうかにつきまして,御意見を頂きたいということでございました。どちらの点でも結構ですし,あるいはそれ以外の点でも結構ですので,御意見を頂ければと思います。
○藤原委員 まず,第5の1の「(2)債権の承継」の部分で,2点,御確認をさせていただければと思っております。
  まず(2)ア(ア)で,今回,通知以前に交付することとされております,いわゆるエビデンス,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面というところについては,先ほどの御説明ですと,これは原本だということなんですが,御説明にあった自筆証書遺言のみならず,特に遺産分割協議書なども通常1通しか作成されない場合が多いかと思われます。そのときに金融機関の側としては,被相続人が複数の金融機関に取引がある場合というのもかなりあるところでございまして,そうすると,この原本の交付ということに関して,相続人の側において不都合が生じる可能性があります。
  そこで御確認なんですけれども,ここでいう交付については,金融機関において一旦原本の交付を受けて預かった上で,金融機関において必要なコピーをとるなりして,その場でその原本自体は相続人にお返しをする,いわゆる原本還付という扱い,これについても交付に該当するという,そういった御認識でよろしいかというのが1点目の御確認でございます。
  それから,2点目ですけれども,今回この(2)には(注)が追加されておりまして,遺言執行者は,その通知に当たってエビデンスの交付は不要ということにされておって,これが前回との相違点だと思います。この場合なんですけれども,特に家庭裁判所によって遺言執行者が選任された場合に,まず遺言執行者が選任の審判書を交付して自らの資格の証明を行って,その後,遺言書は交付せずに,対抗要件のための通知を行ったような場合,金融機関としては実際に払戻しを行う際には,遺言書の中身を見ないと,どの預金をどのように支払っていいのかということが分からない可能性がございます。
  そこで,またこれも1点御確認なんですけれども,この債務者対抗要件具備の問題と,その後の支払時の来店者の請求権限の確認の問題というのは別であると。なので,支払時においては,遺言執行者に対して遺言書など,預金債権が遺言の執行対象財産であるということを示す書面を提示しない限り,遺言執行者の払戻しには応じられないというような実務になる可能性があるんですけれども,そうなったとしても,それは飽くまで来店時の支払権限の確認であって,そういったエビデンスを求めても,債務不履行責任は負わないということでよろしいかという点を確認させていただきたいと思っております。
  続けて申し上げます。ページめくりまして,18ページの「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」の(2)の亀甲括弧を外すかについてですが,これは前回申し上げたことを改めて申し上げますが,これについては,この括弧を外していただきたいと思っております。
  理由といたしましては,本件が想定する場面においてはでございますけれども,相続債権者であっても相続人の債権者であっても,優劣に差はないというふうに考えられることと,あと本件のこの提案の書き振りからすると,(1)の規律は飽くまで相続人がした行為を無効とするということであって,相続人以外の第三者の行為を制限するものではないと。ということは,この(2)は単なる確認規定にすぎないというふうに理解されるわけですけれども,そうであれば,ここの亀甲括弧を外すことに問題はないでしょうし,逆に亀甲括弧の部分を外して相続債権者に限ってしまうと,では,この亀甲括弧の中は一体どうなるんだというふうな形で,解釈に変な疑義を招くのではないかとも思われますので,そういった理由から,この亀甲括弧は外していただければと思っております。
  私からは以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。最後は御意見として承りました。前の御質問についてお願いします。
○満田関係官 まず,1点目の原本還付が,ここでいう交付に当たるのかという点でございますけれども,ここの交付というのは,正に債務者の方で,その書面をきちんと確認したいという趣旨で設けられたものでございまして,債務者の方で,一旦,頂いた書面をその後不要になったということで返したとしても,これは交付に当たるということでよろしいのではないかと思います。
  2点目ですけれども,まず,そもそも遺言執行者が払戻しをする場合にどうなのかと,それを遺言書等で確認しない限り,金融機関としては,その払戻し自体を拒んだとしても,それが債務不履行責任を生じないかどうかという,そういう御質問でよろしかったでしょうか。その場合がどうなるかというのは,正にこれは現行法上,もう生じている問題かとは思いますけれども,基本的には金融機関の方でもその預貯金について遺言の対象になっているかどうかが分からない限り,それが遺言執行者の権限かどうかは分からないと思いますので,その確認を求める行為自体は,これは許されるのではないかとは思います。ですので,その必要な範囲で,遺言書の原本等の確認をするということ自体は必要な行為であり,金融機関の方でその確認をしたからといって,債務不履行責任を負うことはないという解釈になり得るのではないかとは思います。
○藤原委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○増田委員 前回の繰り返しになるかと思いますが,3の(2)のところは,相続人の債権者については外していただきたいところです。今想定されている場面ですが,相続人の債権者にしろ,相続債権者にしろ,権利行使する場合には,いずれにせよ裁判所が差し押さえるという形を経るわけです。その場合に,第三債務者が裁判所により差し押さえられた債権の支払に応じたところで,その支払が免責されないということは事実上考えられないわけで,本来は権利行使できない相続人の債権者が権利行使したことによる不利益が第三債務者に及ぶことはなく,あとは相続人と債権者の間,若しくは債権者同士の争いになるだけだと考えられますので,亀甲括弧のところは外しても差し支えはないと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  3の(2)につきまして,前回と同じく賛否両論を頂いたわけですけれども,そのほかの委員,幹事の方々から,御発言はありませんか。いかがでございましょう。3の(2)に限りませんけれども,第5につきまして,何か御発言があれば伺いたいと思います。
○潮見委員 先ほど藤原委員が問題にされた,第5の1の注記ですけれども,遺言執行者は遺言の執行として通知することができる,ということになっていますけれども,こういう遺言の内容を明らかにする書面というものを要求した趣旨を考えた場合に,今先ほどお話がありましたような状況もございますから,むしろ遺言執行者の場合も特段区別をすることなく,ほかの場合と同じように扱うというのもあってもいいのではないかというふうには思います。これは意見です。
○堂薗幹事 そのような考え方も十分にあり得るだろうと思いますし,現に従前はそうしてきたわけですけれども,この債権の承継については,対象は遺産分割,遺産分割方法の指定,それと相続分の指定ということになりまして,そうしますと,遺贈の場合については従前どおり467条の対抗要件で処理をするということになります。その場合については,現行法を前提にしますと,遺言執行者が行う場合にも,特に書面の交付は要求せずに,資格だけを証明して通知をするということでやっているということだといたしますと,その点について,遺贈の場合と遺産分割方法の指定の場合とで区別をするというのも説明が難しいところがございます。それと先ほど藤原委員の御質問にお答えしましたように,対抗要件は実際に権利の移転があることが前提となっているわけですので,権利移転の証明が必要であるということと,対抗要件をどういう形で具備させるかというのは一応切り離して考えることもできるのではないかというようなこともございまして,今回はこのような形にさせていただいたというところでございます。
○潮見委員 それはよく分かります。前者の方ですけれども,むしろ遺贈の対抗要件の考え方自体がそれでよかったのかということ自体の方が,問題ではないかというふうには思います。こだわりませんが,意見です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 3の(1)についてお伺いいたします。善意の第三者に対抗することができないということで,善意,無過失とはされていないことの理由を御説明いただけないでしょうか。
  それから,2番目の先ほど御意見が分かれたところです。現状では相続人の債権者が普通の法定相続の場合でもかかっていけることにはなっていますが,そのこと自体が,本当は疑問の余地があります。例えば具体的相続分がゼロであるにもかかわらず,法定相続分は差し押さえることができてしまいます。相続人の債権者が,債務者が相続する財産を期待することが,どこまで権利として許されるのでしょうか。こういう法定相続で遺言や遺言執行者がない場合にかかっていけること自体,もしかすると考え直さなくてはならない可能性もあります。ましてこれは,遺言執行者がいる場合です。実際には昭和期の判例を根拠に対外的関係は法定相続分を基準にして動かしてきた現実があるのは承知しておりますが,でもそれも指定相続分や相続させる旨の遺言では崩れつつあります。遺言執行者がいる場合には,その場合だけでも,被相続人という法主体の消失を清算する本来の遺産分割手続を実現する方向に舵を切られるのでしたら,ここは亀甲括弧の中を入れずに,相続債権者だけでいいのではないでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 まず,善意の第三者で無過失を要件としていないということにつきましては,第三者の方に遺言の有無あるいはその内容について,調査義務を課すのは相当ではないのではないかということで,ここでは,その内容も含めて知っているという人に限るということでいいのではないかということでございます。
  2点目につきましては,正にここで御議論いただければと考えているところでございまして,水野(紀)委員のような御意見も当然あろうとは思います。他方,従前から申し上げておりますように,相続人の債権者を外す,要するに相続債権者だけ権利行使できるという形にした場合に,若干執行の場面,あるいは債務者対抗要件などの場面で権利関係が複雑になるという面がどうしても出てきますので,その辺りも含めて御審議いただければというふうに考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかはいかがでございましょう。特にございませんでしょうか。
  それでは,3の(2)につきましては,依然として両論ございますので,この段階ではこの亀甲括弧に入れたままの状態で残して,更に検討するということにさせていただきたいと思います。
  よろしいでしょうか。
  それでは,第5につきましては差し当たり御意見いただいたということにいたしまして,「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」というところに進みます。
  この点につきまして,事務当局の方から御説明お願いいたします。
○秋田関係官 それでは,関係官の秋田から,「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明いたします。
  相続人以外の者の貢献を考慮するための方策については,パブリックコメントで賛否が拮抗し,主として相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が表明されたことを踏まえて,その具体的内容について御審議いただいてきたところです。
  前回の第22回部会では,主に請求権者の範囲について,親族関係による限定を設けるべきか否か,双方の立場から御意見を頂戴しました。この点,前回の部会では,同居要件を課すことを検討すべきであるとの御指摘を頂きましたが,被相続人と同居していない者が被相続人の住居に通って介護をした場合,これを適用範囲から除外することの相当性が問題となると思われましたので,今回の部会資料におきましては,従前どおりの考え方を維持することとしております。この論点につきましては,引き続き御審議いただければと思います。
  また,変更点としまして,従前,金銭請求を認める要件として「特別の寄与」との文言を用いてきましたが,新たに「著しい寄与」という文言を用いることを提案させていただきました。寄与分における「特別の寄与」という文言は,被相続人と相続人の身分関係に基づいて,通常期待される程度の貢献を超える高度なものであることを意味すると解されてきました。しかし,本方策における請求権者は相続人ではありませんし,被相続人に対して民法上の義務を負わない者が含まれております。そこで,通常期待される程度の貢献を前提とするものではないということを明らかにするため,「著しい寄与」という文言を用いることを提案させていただきました。こうすることで,本方策において請求権者とされる者が介護などの義務を負っているかのような不相当なメッセージ性を持つおそれがあるとの懸念についても,一定程度,払拭できるのではないかと考えております。この「著しい寄与」という文言が適切かという点も含めて,新たに御意見を頂戴できればと思います。
  以上の点を含め,第6全体につきまして御審議いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ただ今御説明いただきましたように,この第6につきましては,請求権者の範囲につきまして,前回,両論の御意見があったところでございます。今回の案は,前回同様,亀甲括弧に「三親等内の親族に限り」という文言が入った形になっております。この点につきまして,更に御意見を伺うということと,それから寄与につきまして,「特別の」という文言に代えて,「著しい」という文言を使ってはどうかという御提案がございました。これによって,予期しないメッセージが生まれることを避けるという趣旨だという御説明だったかと思います。
  以上の点を含めまして,御意見を賜れればと思います。いかがでしょうか。
○水野(紀)委員  イメージがちょっとつかめないところがございます。私自身は余り実務に詳しくないものですから,立法時の議論などを手掛かりに,寄与分というのはかなり大ざっぱな取り分の増加として講義で以前は話していたのですが,最近の寄与分の現状は,そうではないと,何人かの実務家に伺っております。つまり,非常に細かい立証が要求されるもので,週に何回通って,どういう作業をして,交通費がどれだけかかってというようなことを主張立証しなくてはならないものだそうです。それで,私の昔の常識とは大分違う形で運用が進んでいるのかと認識したのですが,その認識自体が正確かどうなのかも分かりませんけれども,そうだといたしますと,今度の,この新たな寄与分は,現在行われている詳しい立証を伴うような寄与分と,同じようなものなのでしょうか,違うのでしょうか。また,その「特別の」ないし「著しい」が付いたときに,そのような実務はどのような変化をするのでしょうか。その辺りをお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 現行の寄与分について,実務上どのような取扱いがされているかというところについては,実務家の委員・幹事から御意見をお伺いできればというふうには考えているところですけれども,現行法の寄与分と違いまして,相続人以外の者の貢献の場合については,一定の絶対的基準で,ここで書いてあるような「著しい寄与」,あるいは「特別の寄与」といっても,通常の寄与との対比ではなく,一定程度以上の寄与を要するということでございます。その効果として金銭の請求ができるわけですが,その金額をどういうふうに算定するかというところについては,基本的に現行の寄与分と同じように,被相続人の財産の維持又は増加にどの程度貢献したかという点を考慮して決めることになるのではないかと考えております。その意味では,実務においても,その計算については基本的には寄与分の考え方を参考にしながら行うことになるのではないかという気がいたします。
  したがいまして,仮に現行の実務において寄与分の計算がある程度そういう形で厳密にされているということになりますと,ここの相続人以外の者の貢献についても同じような取扱いがされることになるのかなという印象は持っております。
○大村部会長 水野(紀)委員,よろしいですか。
○水野(紀)委員 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 何か今の点につきまして,実務に詳しい委員から補足等ございましたら,頂ければと思いますけれども。
○石井幹事 水野(紀)委員がおっしゃったように,現行の実務では,ざくっと認定するというよりは,療養看護という場面であれば,御主張される方がどのような寄与をどの程度されてきたかといったことを具体的に認定した上で,それを金額に算定するとどのような形で寄与分として認められるか,といった形で認定をされているというふうに認識をしておりまして,そこは今,堂薗幹事がおっしゃったようなところと基本的に同じ認識を持っております。
  その上で,今回の御提案について1点だけ懸念を申し上げると,現状の寄与分の実務と同じような形で考えられるのかなと,私どもは思っておったところだったので,もしそういった認識を前提にしますと,寄与分に関する要件から文言が変わると,何か解釈として違うことが生じるのかなという理解がされる懸念もございますので,文言を変更することについては,若干の懸念もあると考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,第6につきまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。
○金澄幹事 前回も申し上げたところですけれども,やはりここで親等で区切るということについては違和感を感じております。
  まず療養看護,つまり介護というものと扶養というものは,そもそも性格が異なるのではないかなというように思っています。扶養は,経済的に自立できない者に対して,経済的に援助できる者が生活費を給付するという金銭扶養が原則で,それ以外に引取り扶養というものももちろんあるんですけれども,その引取り扶養も,引き取って衣食住の現物給付を行うことということになっていまして,無償の労務の提供というものはそもそも予定されていないというところだと思います。つまり,現実の行為として,世話とか面倒見と言われるような労務の提供というのは,扶養の概念が経済的給付を原則としていることからして,法的な義務の限界を超えるものではないかというように注釈でも書かれているところだと思います。
  そうすると,さらに介護というのは,通常の世話,面倒見の程度をはるかに超えた負担の重い労働ということになりますので,介護の法的根拠というのは,一般的に言われている扶養義務にあるのではないと考えられています。こう考えると,扶養義務と介護というのは別次元のものではないかと思います。にもかかわらず,ここで療養看護をした者のうち,請求することができる者を扶養義務に関連付けて親等で区切るというのは,やはりおかしいのではないかというふうに考えています。
  そして,ここで書いてある三親等ということなのですけれども,この三親等も,法律上,一律に義務があるわけではなくて,特別の事情がある場合に,家庭裁判所が審判によって義務を負わせることができる範囲を定めただけです。更に,特別な事情というのも相当の対価を得ていたりとか,高度の道義的恩恵を受けているような場合ということで,非常に厳しく見られているところですので,三親等がゆえに扶養義務があるわけでもないと思っています。
  あと相続というのは,親等という身分関係によって範囲が決まる制度ですけれども,この特別寄与者というのは,元々,提案の趣旨というのは,労務の提供とか,財産の維持・増加に「特別」若しくは「著しい寄与」があったという,当事者が行った事実行為に基づき,その事実と結果によって請求権が発生するという制度なので,そもそもこの制度を導入するのであれば,やはり身分で区切るというのはおかしいのではないかと思っています。
  請求の範囲が広過ぎるということで,前回,手続の複雑化,長期化を避ける必要があるということなので,同居の有無ということを要件として検討したらどうかという御提案を私の方で申し上げたんですけれども,今回の資料だと,同居の有無という事実関係によって範囲を限定する合理性には疑問があるということのようです。けれども,療養看護自体が事実行為なわけですから,そうであれば,同じく事実行為としての同居ということで限定をしても,それはそれほどおかしいことではないのかなと思っています。さらに,被相続人と同居して療養看護をし,かつ「著しい寄与」をしている者が複数いるということは考えられないと思いますので,請求者の範囲の制限としても,同居を要件とすることを更に御検討いただければと思っています。
  また税法でも,老親,年老いた親の扶養控除の金額について,同居している場合とそうでない場合と控除の金額が違うということもありますので,同居をするかどうかによって,やはり法律的にも違いをもたらしているものがあるということも御参考にしていただければというように思っています。
  最後になんですけれども,翻って考えると,この制度自体が法律婚の配偶者の保護にならない場合というのもあるということで,弁護士会は,第一義的には反対しているところではあるのですけれども,それはなぜかというと,特別寄与者の寄与分を一番多く負担しなければならないのは,正に残された配偶者,法定相続分が2分の1の法律上の配偶者だという問題もあるかと思います。さらに,現在の御提案では,法定相続人に遺留分が確保されるような制度設計には今のところなっていないというところも,一つ問題なのかなというように思っています。
  以上,意見です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  いかがですか。
○堂薗幹事 御意見は非常によく分かりましたけれども,1点補足をいたしますと,ここにつきましては,確かに扶養義務の規定を参考にして三親等内の親族としたという御説明はしておりましたけれども,我々としても直接関連するものとは思っておりませんで,もちろん今言われたように,扶養義務というのは基本的には金銭による扶養を前提としておりますので,労務の提供としての介護とは質的に異なるものだという理解をしておりますし,従前から三親等ではなくて二親等の親族という要件をお示ししていたのも,その辺りのことを考えていたというところでございます。扶養義務の三親等を参考にしたというのは,民法の用例として,全くほかに用例がないものを基準として設けるというのはなかなか難しい面があるということと,もちろん直接的な関連性はないんですけれども,そういう扶養義務を負い得る人が,実際に介護をしているというような場合に,なかなかそういう人が契約等を締結して,一定の金銭が得られるようにするというのは事実上難しい面があるのではないかという辺りを考慮したものでございます。
  それから,同居の点につきましても,確かに基準になり得るのかもしれないんですけれども,同居せずに同程度の貢献をしている場合に,それを同居している人とは違って,その人については請求権を認めなくていいという点の説明が難しいのではないかと思っております。現に,現行の寄与分におきましても,同居しているということで,例えば被相続人の所有建物に同居しているということになりますと,一定の利益を得ているというようなところもあるので,そこをどう寄与分の際に考慮するかというところは問題になるわけですけれども,同居をせずに,同じような寄与をしているということになると,むしろそういう利益は全く得ずに貢献をしているということになります。そのような点を考慮すると,同居を要件として請求権者の範囲を切り分けるというのはなかなか難しい面があるのではないかというのが,こちらの検討結果でございます。
○金澄幹事 分かりました。ありがとうございます。
  でも,同じように,同じような寄与をしていながら,身分関係がないということだけでここの制度からはじいていいのかというところはあるかと思います。いずれも価値判断だとは思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかの委員,幹事の方々はいかがでしょうか。
○南部委員 ありがとうございます。
  今のところに関連してなんですが,前回のパブリックコメントで,甲案,乙案いずれも反対というのは最も多数であったというふうに記憶しておりまして,また,甲案に賛成は極めて少数で,限定なしの乙案に賛成が甲案を上回ったというふうな結果が出ていると思います。となれば,今回,三親等というのはちょっと矛盾があるのではないかという疑問でございまして,また,パブリックコメントという行為をとる予定なので,これも含めてもう一度聴くというのも一つの手かなと思いますので,そこも含めた御検討をお願いしたいと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○山本(克)委員 細かい話で恐縮ですけれども,この「特別の寄与」,あるいは「著しい寄与」をした者の各相続人に対する債権というのは,先ほどの第5の3の(2)の相続債権者と相続人の債権者のいずれに当たるというふうに考えるのでしょうか。仮に亀甲括弧の部分を外してしまうんだとすると,何かこれは相続財産の清算の要素を含むにもかかわらず,相続人の債権者だからとしてはじかれてしまうというのはちょっと奇妙な気がするので,その辺ちょっと整理していただければなという気がします。
○堂薗幹事 基本的には,被相続人の債務ではないという前提ですので,相続人に対して裁判によって金銭請求が生じるということになりますので,相続人の債権者ということになると思います。ですので,そうした場合に,第5の3の(2)との関係で問題が生じないかという点については,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょう。
○中田委員 先ほど,南部委員から前回のパブリックコメントについての御紹介がありましたけれども,私もこの第6の規律を置くことにはいろいろな問題点があって,個人的には規律はなくてもいいのではないかと思っています。しかし,この部会の大勢がこういう規律を置いたほうがいいというのであれば,それ以上申し上げるつもりはないんですけれども,ただ,その場合であっても,やはり先ほど御説明のありましたように,通常の寄与という概念が一定のメッセージ性を持つということは,否定し難いのではないかと思います。そうすると,「著しい寄与」という言葉を使うことについては,私は次善といいますか,まだその方が少しはいいかなという気持ちがあります。
  ただ,それに対して,先ほど石井幹事から,現行の実務との連続性を考えると言葉を変えないほうがいいだろうという御指摘がありまして,それもそうかなと思うんですが,しかし,904条の2の寄与分と,今回新設されようとしているものとは,随分対象も違っておりますし,目的も違っておりますから,必ずしも同じでなければいけないということにはならないのではないだろうかと思います。もちろん実際の認定の仕方として,共通するような精度の主張や証明が必要なのかもしれませんけれども,そのことと規律をそろえるということとは,必ずしも一致しないのではないかと思いますので,もしも規律を置くのだとすれば,せめてその程度は配慮があったほうがいいのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  南部委員,中田委員は,どちらかというと規律を置かないほうがいいのではないかという御意見で,中田委員は,その上で,もし置くのならば,今回御提案があったような「著しい寄与」という形で歯止めを掛けたほうがいいのではないかということだったかと思います。
  ほかはいかがでございましょうか。
○米村委員 金澄幹事がおっしゃっていたことと基本的にかなり重なりますが,法律に明るくない人間がこれに触れたときに,相続人以外の者の貢献ですから,「著しい」「特別」,いずれの表現にしろ,寄与といったときに,事実関係で考えるのが普通だと思います。これまでの寄与分と,ある程度算定も踏まえてということですと,事実である程度認定されるものと考えられ,やはりそこに身分関係がもう一度かかってくるのが何でだろうという素朴な疑問は,多分あると思います。
  「特別の」と「著しい」という言葉で苦労しなければいけないというところには,やはりそういう問題もあるかと思いますので,慎重に議論を進めていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
○八木委員 価値判断の問題に尽きるんだと思うんですけれども,一般の寄与分が相続人に限定されている中で,これを更に相続人以外の親族にも広げられないかというところから,ここでの議論は起こったように記憶をしているんですね。それで,この亀甲括弧の部分を削除してしまう,すなわち身分関係を限定しないということになってしまうと,場合によっては婚姻とは何なのかという本質論に発展する可能性があるのではないかと思うわけです。すなわち,婚姻と内縁との違いは何なのかとか,同性同士で住んでいる,それで療養看護をしているという,そういった場合をどういうふうな評価をしていくのかという,そこらのその議論に発展するとするならば,この部会の任務からちょっと外れるのではないのかなというのが私の率直な意見です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  いろいろな意見が出ておりますけれども,そのほかの委員,幹事,いかがでございますか。
○村田委員 今,八木委員がおっしゃった価値判断のところについて,特に意見を申し上げるつもりはなく,したがって,この制度を入れるべきかどうかについても特にこうだという意見を申し上げるつもりはないんですが,仮に何がしかこういう制度ができたとして,出来上がったときの使われやすさを,実務家の感覚と,それから請求する側の感覚と両方の視点から併せて考えると,請求者については三親等内の親族という一定の身分法上の取っ掛かりがあり,かつ「特別な寄与」という現行の相続人の場合の寄与の制度に似たイメージの表現があるということによる親しみやすさというか,そういうところからする使われ方というのは一定の範囲で想像でき,ある種の使われやすさが期待できるかなという気はするんですけれども,他方で,「著しい」というのは語感として,かなりハードルが高いかなという感じも受けます。請求者の限定がないため,現行の寄与分の制度とは全く異なる新しい制度であると捉えられ,その代わり「著しい」はものすごくハードルが高いですというような形で捉えられると,制度ができたはいいけれども,余り使われないかもなという不安もよぎるところでありまして,その辺りも踏まえてパブリックコメントでの御意見をお聞きしたいなというところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 個人的には前から申し上げているとおり,規定は設けるべきではないのではないかと思っています。ただ,仮に設ける場合であっても,あるいは三親等内の親族に限るという形である場合であっても,これに当たらないような人たちが,被相続人に対する療養看護だとか,その他の労務の提供をしたというような場合について,それがどのように扱われるのかと,何らその救済の道はないのか。それとも,こういう枠組みがあるぐらいのところは,ある程度見越した上で説明をしていただくことをお願いするところです。
  前に,不当利得とか,事務管理とか,そういう枠組みを使うことによって救済をすることができるのではないか,だからこの種の規定というのはなくてもいいということを申し上げ,そのときには無理ですという形でお返事を頂いたとは思いますけれども,本当にそうなのかというような辺りは,ここを仮に絞った場合には意味を持ってくることではないかと思いますから,その辺りも含めて少し慎重に検討をしていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 私も意見としては,以前よりこういう規定を設けること自体に反対の立場を採るものですが,それはともかくとして,今気になった点があります。第6の1で,相続が開始した後,相続人に対して金銭の支払を請求することができるとされ,この金銭が,特に寄与分とか寄与相当額とは書いていないんですが,ここは,被相続人の財産の維持又は増加について寄与した者が請求権者ですから,財産の維持又は増加についての寄与分であるということは明らかにされる必要があるかと思います。潮見委員が言われたように,ほかの法律構成で請求する余地もあるわけですから,請求方法について利害得失を考える上でも重要なポイントであり,金額の基準を明確にするということは必要であろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  何かありますか,よろしいですか。
○堂薗幹事 それは検討いたします。
○大村部会長 様々な御意見を頂いております。そもそも置く必要はないのではないか,置くとしたらということで,要件に絞りをかけるのか,かけないのか,かける場合に親等でいくのか,同居でいくのか。どちらにせよ,寄与についての要件を設けるのか。それから,増田委員が今おっしゃったような点も含めて,幾層かについて意見が分かれているところかと思います。
  なお,潮見委員がおっしゃった他の財産法の法理は,この提案がされたときに,それでは難しいところもあるという趣旨だったと思いますので,否定されているということではないだろうと思います。どんなものができたとしても,財産法上,できるものはできるということになるのではないかと思いますが,そこは説明の方で,いずれにしても対応していただくということかと思っております。
  その点は別にいたしまして,様々な意見が出ております。事務当局にちょっと伺いますが,パブリックコメントでもう一度聞いたらどうかという御意見も出ていますけれども,その辺りはどうですか。
○堂薗幹事 こちらとしては,基本的には中間試案で聞いたものについては,今回は対象にしないというふうに考えておりまして,中間試案の段階では甲案,乙案というふうにはしていたわけですけれども,その点について大きな変更があったということでもありませんので,ほかとの平仄等も考えますと,第6について再度パブリックコメントにかけることは,考えてはいなかったというところでございます。
○大村部会長 そうすると,南部委員の御指摘があったところですけれども,前回のパブリックコメントで出ている意見を踏まえた上で,この場で皆さんの意見を集約してどうするかを決めるということになりますね。
  今日もいろいろな御意見を頂いておりますけれども,なかなかこれについては成案を得る見通しが立ちません。今日さらに御議論を頂いても,残りの時間の中では意見は収束しないという気もいたしますので,取扱いとしては,この亀甲括弧が付いている状態を維持して先に進むというほかないかと思います。よろしゅうございますでしょうか。
  では,この点につきましては,なお保留するということにさせていただきたいと思います。
  第5,第6につきまして意見を伺いましたので,残りでございますけれども,そのうちの「第2 遺産分割に関する見直し等」の部分に移りたいと思います。これにつきまして,事務当局の御説明を伺います。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から,遺産分割に関する見直しにつきまして御説明させていただきます。
  まず,「1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」,「2 仮払い制度等の創設・要件明確化」,「3 一部分割」につきましては,ゴシック部分の提案内容は字句等の若干の表現の修正は行っておりますが,これまでの部会資料からの変更はございません。
  次に,「4 相続開始後の共同相続人による財産処分」についてですが,ゴシック部分の提案内容につきましては,甲案,乙案とも字句等の表現の修正をしておりますが,実質的な内容はこれまでの部会資料からの変更はございません。
  なお,4につきましては,補足説明の内容につきましてもかいつまんで御説明いたします。
  部会資料23-2の6ページ以下を御覧ください。
  相続開始後に共同相続人が遺産について財産処分を行った場合には,その処分を行った者が処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じ得るところ,公平かつ公正な遺産分割を実現するために,何らかの規律を設ける必要性が高いものと考えられ,前回の部会におきましては,複数の委員から同旨の御意見が述べられたところでございます。
  なお,相続開始後の財産処分が特に問題になると思われる預貯金の払戻しについてですが,共同相続人の一人が他の共同相続人の同意を得ることなく預貯金の払戻しをすることは違法であり,他の共同相続人は不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解する余地もあり得なくはないところ,この場合において,現行法の不法行為,不法利得の解釈として,乙案と同じ結果が実現できるのであれば,新たな規律を設ける必要性は低下することになります。
  そこで,この点につきまして,前回の部会におきまして問題提起をして御審議いただいたところでございますが,複数の委員からそのような解釈の可能性もあり得なくはないが,確実にそのような解釈になると考えることはできないのではないかとの意見が示されたところでございます。
  また,第2の2(2)にもありますとおり,相続された預貯金につきましては,家庭裁判所の判断を経ないでその払戻しを認める方策についても検討されているところ,この方策に基づく適法な払戻しであれば,当該権利行使をした者は遺産分割において精算を義務付けられるにもかかわらず,この方策に基づかずに払戻しを受けた場合については,精算を義務付けられずに不公平な結果が生ずるということを是認することは,結果の具体的妥当性の観点から見ても極めて困難であると考えられます。
  他方で,前回の部会におきましては,部会資料22で提案した考え方につきましても様々な懸念が示されたことから,本部会資料の7ページ以下で甲案について示された問題点,9ページ以下で乙案について示された問題点について,それぞれ検討を加えておりますが,いずれの指摘も根本的な問題点とまでは言い難いように思われます。
  以上,第2につきまして,御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  「第2 遺産分割に関する見直し等」につきましては,1から4まで4項目ございますけれども,1から3までにつきましては,大きな点には修正はないということでございます。
  4につきましても,ゴシックで書かれている提案自体は,甲案,乙案の併記ということで内容は変わっておりませんけれども,これにつきましては様々な御意見があったということで,補足説明で一定の説明がされているという御説明がございました。何らかの形で規定を置いたほうがよいのではないかというのが事務当局のお考えであろうかと思いますけれども,これにつきまして御意見を頂ければと思います。
○潮見委員 意見というより確認のための質問,4についてです。主に問題のあるのは預金の払戻しだということですので,そこに絞って,こういう御理解かということの確認です。
  ここの甲案にせよ,乙案にせよ,これは相続が開始された後に預金が払い戻されたという場面が想定されている。そして,仮払いという制度が仮に設けられれば,これは2の方で処理をする。4で書かれているのは,それ以外の場面である。それ以外の場面で,つまり相続開始後に預金の一部が金融機関から共同相続人の一人に対して払い戻された。その場合の払戻しが有効であるという前提で,この4の甲案,乙案というものは成り立っているのでしょうか。例えば300万円の預金債権があり,それで何らかのことがあって200万円をある一人の人に払い戻したと。預金残高のそこのところには100万円しか残っていませんけれども,そういう状況で200万円を払い戻したのが有効だというときに,あとは100万円しか残高残っていないけれども,300万円という形で処理をしましょうという場面に限っているのか。それともいろいろな状況があって,共同相続が開始した後でも金融機関がある一人に払い戻した。でも,それは本当は払い戻しちゃいけないのにいろいろ言われて払い戻したとか,いろいろな事情があって払戻しをしてしまって,結果的にそれが無効だと評価されたというような場合もあろうかと思いますけれども,こういう場合は,ここの4のところの甲案にせよ,乙案にせよ,考えていないのか。もっと言ったら,今のような場合は300万円で200万円払戻ししているけれども,預貯金は300万円あるんだという形で処理をするということで,もうここに載せずに考えようとされているのか。この点についてだけ,少しお考えをお示しいただければと思います。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。
  基本的に,潮見委員御指摘のとおり,払戻しが有効であるということを前提として,ここの規律は考えているということでございます。これまでの部会資料におきましても預貯金の払戻しが準占有者の弁済で有効となったということを前提として,遺産ではなくなった場合にどうすべきなのかということを検討しております。したがいまして,委員から御指摘がありましたとおり,本来は支払ってはいけずその弁済が無効と評価されるような場合には,遺産としてなお残っていると考えることができ,その残っているものを前提として遺産分割をすれば足りるというふうに考えております。
○潮見委員 民法で言ったら準占有者弁済に当たるという前提だということですか。
○神吉関係官 はい。
○潮見委員 そうであれば,先ほど読み上げられた説明の6ページの下から3行目の辺りのところですけれども,「共同相続人の一人が他の共同相続人の同意を得ることなく預貯金の払戻しをすることは違法であり」と書いているのですが,若干説明を工夫しないと,私が言った後者のようなものも含めて,甲案,乙案みたいなものが考えられる可能性が,おそれがあると思うんです。ですから,少し丁寧に説明をしていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 不法行為や不当利得について,確実ではないから手当てとして制度を置くという趣旨はよく理解いたしました。
  その上で確認なんですけれども,例えば二人の相続人がいて,そのうちの一人が預金全額を払戻ししたと。それで,相続財産はその預金しかなかったというときに,遺産分割で半分ずつにしろというときには,償金請求はできるということになるのではないかと思うんですけれども,その償金請求というのは遺産分割審判によって創設されるものだというように理解してよろしいでしょうか。
○神吉関係官 遺産が預貯金しかなくて,それを相続人の一人が全て引き出してしまったといった場合には,乙案の規律によりますと,この規律で当然に具体的相続分の侵害額について請求できるということになりますので,償金請求をするに当たっては特に遺産分割等を経る必要はないものと考えられます。一方,乙案ではなくて甲案の規律を設けますと,遺産分割審判を経て預貯金の帰属を決めて,その帰属の侵害があったものとして,別途,不法行為なり不当利得で請求していくのか,若しくは代償金,実際に引き出した人に全て預貯金を相続させつつ,具体的相続分を超過した分については代償金債務を負わせるという遺産分割審判をする,そのどちらかかなと思っております。
○中田委員 そうしますと,乙案を採った場合には,遺産分割前であっても,その償金請求権を被保全債権として仮差押えをしたり,あるいは引き下ろした相続人が破産したときに,その債権届をすることが可能になると理解してよろしいんでしょうか。
○神吉関係官 乙案のような規律を設けますと,その処分をした時点で償金請求権が発生しますので,基本的にそういう理解になるのではないかなと思っております。
○中田委員 更に重ねて恐縮でございます。遺言執行者がいる場合,もう少し具体的に言うと,不正な払戻しがあった後,遺言執行者が選任された場合に,遺言執行者は不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得による返還請求権を払戻者に対して行使することはできるんでしょうか。
○神吉関係官 その点については現行法の理解にもなるかと思いますので,もしよければ先生方の御意見をまたお伺いしたいなとは思いますが,遺言執行者というのは遺言の執行をするのが職務だと思いますので,相続人に代わって不法行為なり不当利得の請求をするということまでが,その職務に含まれていると言えるかどうかということだと思います。私ども詰めて検討したわけではありませんので自信がありませんので,むしろ民法の先生方に御意見をお伺いしたいなと思います。
○中田委員 そこは遺言執行者の権限との関係があるのだと思うんですが,私が関心がありますことは,この規律の外に不法行為ないし不当利得による請求の可能性が残るのか,残らないのかということでして,この規律を置いたことによって遺言執行者,あるいは残りの共同相続人が払戻者に対して不法行為や不当利得の請求をすることが封じられるわけではないということが確認できればと思うんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。
○神吉関係官 その点はそのとおりだと思います。そもそも他人の持分を処分した場合には,不法行為若しくは不当利得が成立するということ自体は,乙案を採用したとしても変わらないかと思いますので,現行法において成立するものを,乙案を設けることによってやめるとか,廃止をするとか,そういったことを含意しているものではございません。
○大村部会長 中田委員はよろしいですか。
○中田委員 不動産についての意見もあるんですが,それは後ほど。
○水野(有)委員 意見というより,今おっしゃったことに関する質問なんですが,今現行法で何も規律を設けないと,法定相続分に基づいて不法行為や不当利得が請求できる状態であるという趣旨と理解しているんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。
○神吉関係官 他人の持分を処分した場合には,そういうことになろうかと思います。
○水野(有)委員 その持分を算定するのは,今規律を付けないと,論理的には具体的相続分という説があり得ないとまでは言いませんが,多数説は法定相続分で考えているという理解をしていたのですが,大体そういうことでよろしいでしょうか。
○神吉関係官 そうですね。遺産分割をするまでの暫定的な持分については法定相続分若しくは指定相続分という考え方もあり得るかと思いますが,話を単純化し相続分の指定がないようなケースについては,他人の持分を処分して不法行為等が成立するという場合の持分割合については,法定相続分が基準となると考えるのが通説なのではないかなと思います。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○大村部会長 今の点に関連して,何かございますか。
  では,中田委員,もう一問ございましたか,先ほど質問。
○中田委員 不動産に移ってよろしいんですか。
○大村部会長 その前に,藤原委員どうぞ。
○藤原委員 すいません。では,第2のところでもう一つ,例の家庭裁判所の判断を経ない預貯金の仮払いのところについてだけ,ちょっと1点,御意見を述べさせていただければと思います。
  法務省提案の金額のところですね,法定相続分の2割であるとか,債務者ごとに100万円という,この金額の部分については更なる検討の余地があるのかなと思っておりまして,実際,前回,対案を御説明させていただいたときの理由にもちょっとあるんですけれども,実際の仮払いのニーズで多分一番多いのは,やはり葬儀費用ではないかというふうに考えておりまして,そうすると,ある調査によれば,葬儀費用の平均は大体200万円弱というふうに言われているようでございまして,そうなりますと,この債権額の2割かつ債務者ごとに上限100万円ということですと,必要額に足りないということもあるのではなかろうかと。そうなると,なかなか作ったはいいけれども,利用しにくいということにもなりかねないということでございまして,今回ここの部分についてはパブコメにかけていただけるということですので,この金額の上限については,そのパブコメの結果も踏まえて,更なる議論が必要かなというふうに考えております。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の御発言は4とは直接には関係ないですね。
○藤原委員 すいません,2の方でございます。
○大村部会長 御意見として承ります。
  4に戻りまして,中田委員はもう一つの質問は4の関係ですね。
○中田委員 はい,4です。
○大村部会長 では,それをどうぞ。
○中田委員 不動産の共有持分の売却の場合も,この規律は対象にしているのではないかと思うのですけれども,AとBと二人の相続人がいて,Bがその持分を売却すると,後にAがそれを含めて遺産分割で取得しても,第三者の権利は動かないというのが現在の規律だと思います。その場合に,AとBの後始末について,現行法の下でどうなっているのかを教えていただければと思うんです。つまり,物権的に残りの相続人であるAと第三者との優劣がどうかというのはしきりに議論されていて,相続と登記とか,遺産分割と登記の問題としてよく知られているところですが,その後始末についてどうなるのかというのがここでの問題だろうと思うんです。その現在の帰結と,今回御提案になっている甲案,乙案とを比較する必要があるのではないかと。それで,現行実務を動かすのだとすると,それはどういう理由であって,支障はないのかということを検討する必要があると思います。
  そこで,その前提として,不動産の共有持分の売却の場合の後始末についてお教えいただければと思います。
○神吉関係官 この点,我々もいろいろ調べたのですが,明確にきちんと検討しているものというのは少ないのではないかなと思いますが,理論的な可能性としては二つの考え方があろうかと思います。一つの考え方としましては,ある相続人が法定相続分で持分を処分して,残りの持分について遺産分割をするんだと,それを法定相続分なり具体的相続分で遺産分割をするんだという考え方があろうかと思います。もう一つは,例えばの話として,相続人がA,Bいて,Bが自分の持分2分の1を処分してしまったら,残りはその2分の1のAの持分しかないので,Aは遺産分割することなく単独で残りの持分を取得するという考え方もあろうかと思います。
  この場合どちらの考え方が一般的なのかというのは,よく分からないところでして,部会資料22の10ページ(注)にも記載しましたが,実務上は不動産の持分処分した場合は,処分した人の同意を取って,全体を遺産とみなすなどして処理されており,問題が顕在化することが少なかったのではないかと思われます。そもそも遺産分割前に持分が処分されるということ自体,これまで事象として多くあったのかどうか,そこもちょっと分からないのですが,この点を明確に検討しているものはほとんどないのではないかなと思います。
○中田委員 むしろ,もし御経験のある方々がいらっしゃればお教えいただければと思いますが。
○水野(有)委員 すいません,私がちょっと判例の正確な理解があるかどうか分からないんですが,一部のものを処分して,例えばAという物件を処分してしまったら,そのAの物件で全然違う第三者が入るということになりますので,そちらについてはもう物権共有になってしまって,そちらは物権法上の共有物分割で処理することになって,ただそれが,算数上,完全に遺産から離れるかどうかまでは正確に理解は私はしていないんですけれども,遺産分割の対象財産からは外れるのかなとは思っておりました。
  ただ,現実の調停とかだと,その人も一緒に入って話をすることはあるんですが,ぎりぎり審判という話になれば,ちょっと遺産分割からは外れてしまうのかもしれないなと思っておりました。
○中田委員 お教えいただければと思うんですが,処分した人が対価を得ていますね。その対価は何か考慮されるんでしょうか,遺産分割において。
○水野(有)委員 多分,考慮していないのではないかと思うんですが。現実問題としては,処分価格は安いことが多いですね,時価よりは。というのは,やはり訳あり物件のようなものですから。だから,問題があるとすれば,その物権共有の分割部分について,寄与分とか具体的相続分という話ができなくなってしまうところを問題と捉えるならば,捉えることはできるのかもしれませんが。
  ですから,中田委員の御質問にちょっとかぶせるようで恐縮なんですが,一番典型的ですごく御心配されている金銭債権のところの手当てとしては,何らか必要というニーズはすごく私も感じるんですが,中田委員御指摘のとおり,他の動産とか不動産とか,いろいろなものと一貫してできるものを作らないと難しいかなと思っておりまして,私としたらどうするのが一番それが全てきれいにいくのかが,本当によく分からないなと思っているので,是非,法務省にすばらしい案を作っていただければというのは前々から申し上げているとおりです。
○堂薗幹事 不動産の場合,例えば今のように相続人がA,Bだった場合に,Bがその共有持分の処分をしたという場合には,その不動産は,Aと第三者の共有ということになって,その分割は共有物分割の手続で行うことになるということかと思います。そこで残ったものは遺産分割の対象となるというのが判例の考え方ではありますが,相続人としてAしか残っていないというときにも,遺産分割の対象になるかどうかというのはやや分からないところはあるのですが,少なくとも,例えば相続人がA,B,Cの3人で,Cが処分をして,第三者との間で共有物分割が終わり,残ったものについてA,Bの共有になっているという場合には,遺産分割の対象になるということなのではないかと思います。
  そういたしますと,結局,例えばAとBの共有,要するに相続人がAとBしかいなかった場合に,そのうちの一人が処分すると,遺産共有ではなくなってしまうので,それが遺産分割の対象にならないとすると,結局法定相続分を前提とした精算がされ,やはり特別受益などの考慮が一切されないということになりますし,A,B,Cと相続人がいる場合に,Cが持分を処分して,その分については対価を得ていると。それで,第三者との関係では遺産分割が終わって,A,Bの共有財産が遺産分割の対象になるということになりますと,それ以外の財産についてはA,B,Cの共有財産であるのに対して,処分された財産についてはA,Bの共有財産が遺産分割の対象となるということで,各相続人の法定相続分を前提とした取得額,要するに特別受益の調整前の取得額を計算する上でも,非常に計算としては複雑にならざるを得ないのではないかというところは,どうしても残るような気がしておりまして,したがって,特に甲案のような考え方を採りますと,その計算をする場合にも,全ての財産についてA,B,Cの共有状態だという前提で計算ができるようになりますので,全体としては計算がしやすくなるという面はあるのではないかなというふうに,考えているところでございます。
○大村部会長 中田委員,もし何かあればどうぞ。
○中田委員 共有状態がどうなるかというのは理解いたしましたけれども,遺産分割において,その処分した共同相続人の取得分というのはどうやって計算することになりましょうか。
○堂薗幹事 処分をした相続人については,法定相続分で換価をしたということになりますので,そこはそれで終わってしまって,遺産分割においては,その部分については全く考慮されないという前提だと思います。ですから,その処分した残りの部分について,それ以外の相続人で共有しているという状態ですので,結局その財産については,処分をした人は法定相続分で財産を取得でき,それを維持することができるということになり,したがって,特別受益などが多い人がそういうことをすると,そこの不公平は残ったままということになるので,そういった場合も含めて,この規律の対象にすると,特別受益による調整もできるようになるのではないかというところでございます。
○中田委員 処分というのは,実際には多くないと思うんですが,差押えは結構あると思うんですね。その場合も同じことだということですね。
○神吉関係官 差押えがされた場合については,部会資料20において検討しておりますが,売却決定まで至った場合については,同様に考えることができるのではないかと思われます。
○大村部会長 ほかに,この点につきましていかがでしょうか。
○山本幹事 従前から,甲案,乙案,それぞれ議論があり,今問題となっている不動産も含めて考えたときに,この甲案,乙案で全てきれいに規律ができているのかというところについては,かなり疑問もあるところであり,第一次的には,今回,規律として入れてしまうというのは難しい面もあるのではないかと。そういう意味では,当面不法行為となるかどうかといったことも含めて今後の解釈に委ねるというのも一つの解決ではないかなと思っているところであります。
  その上で,特に乙案について,実務上,生じ得る問題等について改めて述べさせていただきたいと思います。前回申し上げたところですけれども,乙案によると,家裁の遺産分割手続と同時並行又はこれに先行する形で民事訴訟手続の中で具体的相続分についての審理が行われることになるわけでありまして,これは当事者からしますと,両方で同じような審理のために,同じような資料を大量に出さなければいけない可能性が生じるということで,非常に負担が大きくなる可能性があるかと思います。さらに,その結果として,結論が家裁と地裁で異なる,あるいは相続人が複数いる場合ですと,この償金請求も幾つかの訴訟が起こるという可能性がありまして,それぞれ資料を出し,かつ結論も異なることが可能性としてはあり得るということになるかと思われます。
  部会資料にも触れられていますように,こういった事態は一応,現行法上も遺留分減殺請求訴訟に関しては起こり得るわけではありますけれども,ただ,遺留分減殺請求の場合は,現実問題としては基本的に全財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合がほとんどでありまして,その意味では,事実上,ダブルトラックが生じるという場合は非常に限られているのではないかと思われます。それに対して,今回の規律が入った場合は,かなり恒常的にそういった事態が生ずるわけでありまして,利用者の負担の観点から,それでいいのかという問題が一つあるのかと思っております。
  もう一つは,これも従前の部会資料でも触れられていたところでありますけれども,民事訴訟手続の中では,寄与分を考慮し得ない結果,かえって公平に反する事態が生じ得るのではないかと思われるところであります。例えば,以前の部会資料において,AとBの二人の相続人のうち,Aが相続開始後に相続財産である預金を引き出した事例で,Bに寄与分が認められる場合には,請求できる償金の額が過小になる場合があるということが紹介されておりましたけれども,逆に,引き出したAの側に寄与分が認められる場合には,償金の額の方が過大になる結果,かえって不公平が生じるようなことがあり得るところであります。特に,遺産分割終了後にもこのような請求を認めざるを得ないということになると,これは結果として妥当なのかが問題となると思われます。
  さらに,今回の規律を拝見しますと,今回の規律を前提にすると,共同相続人による遺産処分の事実があれば,それだけで,アからイを控除した額を請求し得るように見え,そうすると,例えば調停とか遺産分割協議が先行しているような場合にも,さらにこの規定によって,言わば満額の償金請求が認められることになり得るように見えるわけですけれども,この点実質的に妥当なのか。逆に,そうではないということになると,従前から申し上げていたとおり,発生要件事実,あるいは消滅原因事実といったような要件事実的なところがやや分かりづらいのではないかなと思っているところであります。
  最後に,これも従前御議論いただいているところですけれども,具体的相続分の法的性質をどう捉えるのかというところでありまして,前回の御議論でもその権利性を否定する一方で,償金請求を認めるという根拠は明らかではないのかというような御指摘があったところかと思いまして,その点も是非御考慮を頂ければと思っております。
  そういうことで,一次的には甲案,乙案,いずれも今回規律として入れるのは時期尚早ではないかと考えておりますけれども,仮に甲案,乙案という形でパブリックコメントにかけられるということでありましたら,今申し上げましたような乙案についての不都合の点は,補足説明で是非御説明を頂ければと思っております。
  以上です。
○神吉関係官 部会資料で検討を加えている部分もありますが,事務当局から何点か御回答させていただきます。まず,寄与分については,確かにこれを考慮しないと公平が徹底しないということはおっしゃるとおりかと思いまして,この点については前回の部会資料でも検討してありまして,寄与分については法制上,一応考慮するという方策を採るということもあり得なくはないと思っております。現に民法第910条の相続の開始後に認知された者の価額の支払請求については,第904条の2第4項にも規定されているとおり,寄与分についても考慮することができるとされておりますので,同じような仕組みを採るということも理論的にはあり得るかと思います。ただ,そうすると,より手続として重たくなりますので,果たしてどうかという御意見がきっとあろうかと思いまして,寄与分については,取りあえず考慮しないということでどうかということで御提案をさせていただいているということでございます。この点について,もしやるのであれば,公平を徹底させたほうがよいという御意見が多数を占めるのであれば,第910条と同様に寄与分について考慮するという方策も十分あり得るのではないかなと思っているところでございます。
  それから,調停など遺産分割協議が先行している場合に,この償金請求権がどうなるんだという御質問があったかと思います。調停などで処分した部分を含めても,処分した財産も含めて帰属を決めて,精算を決めてしまったといった場合については,遺産分割の遡及効で遺産に属する財産を処分していなかったと,そこも含めて精算されたということで考えることはできるかと思いますので,乙案の償金請求権が消滅をした,消滅というか,そもそも遡及的に発生していないというふうに考えることもできるのではないかなと思っているところでございます。
○山本幹事 今の点に関連して,1点目の寄与分の点ですけれども,これはおっしゃるとおりで,寄与分を考慮する立て付けにしますと,全部待たないといけないということになります。910条のような限定的な場面はともかくとして,今回それなりの件数があり得るという前提ですので,民事訴訟の方でも考慮するという立て付けは,それはそれでやはり問題があるというふうに考えております。
  2点目の方ですけれども,少なくとも調停で清算条項が入っているような場合は,基本的にそれは消えるんだという前提で,今,理解いたしましたが,遺産分割協議のような場合ですと,そもそも計算に入っているのか,入っていないのかもよく分からないような事例も多数あるかと思っておりまして,そういう場合にどうなのかというところは,なお問題があるのかなというふうに考えているところでございます。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
○中田委員 不動産と債権と両方にわたることなんですけれども,不動産については,ただ今のお話を伺っていても甲案の方が,まだ現行実務に近いのかなというふうに伺いました。現行実務は,もう一度確認なんですが,A,B,二人の相続人で,Bが自分の共有持分を処分したときに,その後の遺産分割においては,当然それは具体的相続分によってA,Bの間で遺産分割がされるということでよろしいわけですね。その対象となっている遺産は,その残ったものであるけれども,しかし,その限りでは,具体的相続分による分割が実現されることになるのではないだろうかと思うんですが,そうすると,甲案とは連続性があるのかなと思いました。
  他方で,甲案を採った場合には,債権については遺産分割審判があるまでは不正払戻しに対しては何ら請求権を持っていないということになると,先ほど申しました件ですけれども,仮差押えなどができないという事態になって,それはやはり不都合ではなかろうかと思います。甲案,乙案,それぞれ問題を抱えているのかなと思いました。
○窪田委員 ちょっと幾つか分からない点がありますので,質問も含めてさせていただければと思います。
  本当に初歩的なところを誤解しているのかもしれないのですが,まず,甲案に関してですが,不動産の場合,今,中田委員からもお話があったように,むしろ甲案の方が分かりやすいかもしれないということでありましたけれども,不動産は一つしかなくて,法定相続分を処分してしまったと。それで,処分してしまった側が非常に大きな特別受益を持っているというような場合だったら,処分した分も含めて具体的相続分を計算してということになると思いますが,現に残っている不動産は,もう2分の1の持分しかないわけですよね。そうしますと,足りない分が出てくるというか,調整しようとすると,多分不足するということになると思うのですが,そこの部分については,言わばお金で処理をするということが含まれるのかどうなのか。それを含むのであれば,何か乙案と似たような扱いになるのかなという気もしますし,その点を確認させていただければというのが1点です。
  もう1点,これはもっと基本的なところで,私が誤解しているのかもしれないのですが,今までの議論としては,償金請求権というのは民事訴訟のところで片付けて,一方で具体的相続分の話は遺産分割なので,家裁で審判手続の中で処理をするということで,ダブルトラックになるのではないかという問題があったのですが,ここで言っている償金請求権というのは,ストレートに損害賠償請求権と言っているわけでもないですし,言わば具体的相続分を本来実現するということが求められているにもかかわらず,しかし,その前に遺産分割の前に処分されてしまったので,それを調整しようとするというものであり,この制度自体を遺産分割の枠組みの一つの延長で理解するということが仮に可能なのであれば,そもそも償金請求権について処理をするということも,遺産分割の手続の中で考えることはできないのだろうかという疑問です。私は多分,初歩的なことも分かっていないからなのかもしれませんが,そういう可能性はないのかなという気がしたものですから,教えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲乙は分けられないという,そういうことでしょうか。
○窪田委員 必ずしもそうではないのですが,あるいはもう全然別の問題として扱ってもらったらよいのですが,甲案の場合について,残った財産では具体的相続分を実現するのには足りない場合どうなるのかという問題と,それとは全く別に,乙案をどの手続で扱うのかということについて,家裁で扱うという可能性はもう全くないのかという質問です。
○神吉関係官 二つの御質問があったかと思います。まず,前者の御質問ですが,具体例に基づき御説明した方が分かりやすいかと思いますが,例えば,不動産が1,000万円の価値があるものがあり,相続人がA,B2名いますと。そして,Bが自分の持分2分の1を処分しましたと。この際に,Bに特別受益が1,000万円ありましたと。そういったケースを想定すればよろしいかと思いますが,本来普通に遺産分割をしますと,Aが全て不動産を取得できるという計算になるかと思います。この場合に,Bが2分の1をもう既に第三者に処分をしていると。この場合に,甲案の規律を働かせるとどうなるかのというのが,窪田委員の御質問かと思います。この場合の具体的な審判としましては,Bはもう既に第三者に持分を処分してしまっておりますので,まず,第三者に処分をした不動産の2分の1の持分部分をBに取得させると。それで,残っている2分の1の持分をAに取得させるとした上で,Bはその500万円分を取り過ぎとなりますので,BはAに対して代償金として500万円を支払えと,こういう主文になるのではないかと思います。したがいまして,結論としては不足分については金銭で解決をするという形になるかと思いますが,法形式としては,遺産分割審判の中で,代償金債務を負わせた上で,具体的相続分に応じた遺産分割をするということになるのかと思います。
  2番目の償金請求権について,家裁でできるかどうかという御質問ですが,これは既に発生した金銭債権に関する紛争ということで,非訟ではないと思いますので,遺産分割審判の中で処理をするということはなかなか難しいのではないかと思います。別途訴訟的なものを家裁に管轄権を付与すればできるという可能性はあり得るのかもしれませんが,遺産分割審判と一緒に処理をするということはなお難しいのではないかと思います。したがいまして,乙案の償金請求訴訟については基本的には民事訴訟で処理をするということを想定しているところでございます。
○窪田委員 ちょっとだけ補足させてください。
  御説明の趣旨というのはよく分かるのですが,例えば財産分与の扱いの中で,現在の判例ですと,慰謝料の部分というのは通常訴訟と財産分与に関する審判のどっちでもいけるという形になっていて,財産分与の枠組みの中で処理をすることを否定はしていませんよね。それとの関係で言うと,全く可能性がないのかどうなのかということです。可能性がないというなら,筋としてはやはり本来は訴訟事項なんだというのはよく分かるのですが,そうすると,乙案というのはなかなか実現可能性というのが乏しくなるのかなという気がしますし,先ほど御説明があったとおり,両方とも具体的相続分の話をして,それが一致するという保証もないという形で運用されるというのは,ちょっとリアリティーに欠けるのかなと思ったので確認をさせていただきたかったということです。
○神吉関係官 お答えになっていないかもしれませんが,乙案を採用したとしましても,当事者が合意をして,遺産ではないものについて合意をして,遺産分割の対象財産に含めて遺産分割をするということ自体は,現行法上も禁止されておりませんので,甲案的な処理を当事者の合意を取った上でするということは十分あり得ると思っております。
○水野(紀)委員 窪田委員のイメージに非常に近いものを感じております。そもそも900条ただし書で,遺産分割前に法定相続分を処分できるとしたことに,相当根本的な問題があったわけです。最高裁のいう,勝手に処分したときの損害賠償ないし不当利得の請求権を,私自身は具体的相続分の権利性をもっと強く考えておりましたので,具体的相続分まで考えた上で損害賠償ないし不当利得も命じ得るのだと考えておりましたが,お話を伺ってみますと,実行して売ってしまうと,その部分が飛んでしまいかねないように思いました。私は,共有持分の処分が結果的にそのような遺産分割分の権利性を侵害してしまうものだと思っておりませんでした。今までの実務と余りにも違うという問題はあるのかもしれませんけれども,やはり遺産分割までは処分できないという形にするのが本来だろうと思いますので,なるべく甲案に近いような形で,償金請求という形にしましても,損害賠償ないし不当利得の金銭的なもので最高裁が認めているような処理も,できるだけ遺産分割ができるような形に近付ける結論になるといいように思います。
  それから,先ほど藤原委員の御意見を伺っていて思ったのですけれども,銀行が死亡を把握する前に下ろすというのが,ネットなどにも言わば常識といいますか,生活の知恵と書かれていて,銀行が死亡を把握する前に相続人が被相続人に成り代わって下ろしてしまうという場合も随分あるだろうと思います。そのような場合の後始末も,これも下ろした人が相続人全員の同意を受けて,葬式費用をあらかじめ下ろしておくねという場合もあるでしょうし,そうではなくて,自分の手元にお父さんの通帳があるうちに取れるものは取ろうと思って下ろしてしまう場合もあるでしょうし,そういう場合も全部含めて,本当は遺産分割という場に出して,整理ができるような形にするのが筋だろうと思います。そのような筋を通すことが現実にどのような困難をもたらすかについては,私はよく分かっておりませんけれども,方針としては,そういう形できれいに整理ができるような筋を通していただければ有り難く存じます。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
○藤原委員 今の水野委員の御意見ともちょっと関連するんですけれども,預金の不正払出しのところの話なんですが,実際に不正払出しで一番今多いケースが,銀行が預金者が亡くなることを知る前に相続人が下ろすというケース,もちろんそうなんですけれども,それが店頭で行われるケースというのは,昨今はやはり銀行も本人確認が厳しくなっておりますので,預金者の相続人が払戻しに来ても,性別が違う,年格好が違うということでなかなか下ろせないケースが多うございまして,実際に一番多いのは,暗証番号を知っている親族の方がATMで下ろしてしまうということです。そうすると,銀行はもう本当に何も分かりませんということになってしまいます。
  ただ,今でも,例えば兄弟姉妹が相続人のような場合で,御本人と性別,年が似ているというような場合には,本人の死亡を知らずにそのまま銀行も払い戻してしまうということは事実上,起こり得るわけでして,そのときに,今,裁判実務に関する皆様方の意見を聞いていてちょっと思ったのは,不正払出しをした以外の相続人の方が,不正払出しをどのように実際立証するんだろうかというところでございまして,ATMで下ろされてしまうと,銀行としても誰が下ろしたかについては把握のしようがありませんので,銀行からは資料の出しようがないということになります。
  店頭の払戻しについては,払戻しの請求書,つまり伝票が残っておりますので,その筆跡等,又は銀行に誰が来たのか聴取をするなどによって分かる場合がございます。ただ,甲案と乙案で,ちょっとそこで銀行の実務としておやと思ったところがございまして,例えば相続人の一人が銀行の店頭に来て,先日,この被相続人の預金が下ろされているんだけれども,誰が下ろしたかを調査をしたいので伝票を見せてほしいとか写しを欲しいと言われたときに,今現在の実務としては,その依頼者が相続人の一人であることが確認できれば,元々共有状態であった預金に関する調査であるということで,その写しを渡しているというのが実務なんですけれども,これが乙案になると,もう預金の払戻しは完全に終わってしまって,別途の民事の請求権ですと,それは地裁で処理されますということになると,その方は債権者ということになってしまって,預金を実際に下ろした方の伝票を出すことが,守秘義務上どうなんだという問題がちょっと出てきてしまうのではないかということで,特に乙案を採った場合のほかの相続人がそういった不正払出しの調査をする,言ってみれば調査権限というか,そういうものが若干問題になってくるんだろうなと思うのを,皆さんの議論を聞いていてちょっと思いましたというところで,そこのところ,もし何か事務局の方で御見解があればということでございます。これは御質問でございます。
○神吉関係官 特に詰めて検討したわけではないんですが,預金契約上の地位自体は共同相続人全員が承継している形になるかと思います。その共同相続人の一人が取引履歴の開示をするということもあり得るところであって,その一環なのかなと思っております。預貯金契約が解約をされて全て契約が終了した場合はどうなのかというのが,若干問題はあるのかなと思うんですが,少なくとも預貯金契約自体が継続している間は,そういった履歴の開示ということは別にあり得ていいのではないかなと思っております。ただ,守秘義務との関係では検討したわけではありませんので,民事法としてはそうなのではないかなと思っております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○藤原委員 ありがとうございました。一つの御見解として,参考にさせていただきます。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○石井幹事 先ほどの窪田委員がおっしゃった乙案的な解決を遺産分割の中で行えることもあり得るのではないかというところですけれども,私の理解では乙案というのは,引き出された部分については遺産分割と切り離すということを前提としているので,ややその前提が違ってくる議論になってしまうかなという印象を持ちましたというところが一つでございます。そういう意味で,それを実現しようとすると甲案という世界でやるしかないのかなと思うところですが,甲案についての問題点はこれまでも御指摘させていただいているところですので繰り返しませんけれども,やはり遺産をめぐる紛争の複雑化,長期化といったことについては懸念があるといったことでございます。
  その上で,今回のこの点についてはパブリックコメントに付すということでありますけれども,案としては今,甲案,乙案,いずれもということで御提案を頂いているんですが,今の部会の議論としては,甲案,乙案,いずれについても難点,あるいは懸念が指摘されているところで,本日も議論の中で指摘がありましたけれども,甲乙ということだけではなくて,いずれもやはり難しいというところを踏まえて解釈に委ねるという,言ってみれば丙案というような形での提案というのもあるのかなと思っておるんですけれども,そういったパブリックコメントでの意見の聞き方といったことについては,事務局としてはお考えにはなっていらっしゃらないんでしょうか。
○堂薗幹事 その点は,中間試案の際にも,例えば配偶者の相続分ですとか,そういったところでも御意見があったんですけれども,基本的には見直すものについて御意見をお伺いすると。現行法を変える必要がないということであれば,それはその出された提案に対して反対ということで御意見を頂ければいいので,基本的には,見直す方向の提案を甲案,乙案で出して,見直さないものを丙案として出すということは考えていないということでございます。
  それから,先ほどの乙案の関係で,遺産分割の処理が難しくなるのではないかという御指摘を頂きましたけれども,こちらとしては,むしろ乙案のような規律があると,今現行で行われている相続人全員の同意で遺産分割の対象とするという取扱いが促進されるといいますか,今ですとごねた人がいると,要するに引き出した人が,例えば遺産分割の対象にすることに同意しないという場合に組み入れられないというところがあるわけですが,最終的に乙案のような形で請求されるということになると,そこは同意がされやすくなるという面もあるのではないかというところもありますし,そういった意味で,乙案を採用したからといって,遺産分割での一回的な処理が現行法よりしづらくなるということはないのではないかというように思っております。
  それから,甲案につきましても,複雑化,長期化という面はもちろん問題としてはあるのかもしれないんですけれども,ただ現行法でも,先ほど潮見委員から御指摘ありましたように,準占有者の弁済とならなければ,なお遺産として残っているという面もありますので,現行法を前提としても,その辺りの事実認定如何によって,遺産分割の対象となるのか,ならないのかが変わってくるという面がありますので,甲案を採ったことによって,そこがそれほど劇的に変わるんだろうかというような疑問も,今日の御議論を聞いていて少し感じたところでございます。
  以上です。
○石井幹事 今の点に関して1点質問なんですけれども,今の堂薗幹事のお話の中で,例えば準占有者に対する弁済に当たらないようなものは対象にならないというような御説明があったんですけれども,それ自体,なかなか遺産分割をやっている中では判然としないところがあると理解をしております。その場合は,今回の場合の資料でいくと8ページぐらいのところに御説明がありましたけれども,みなし遺産であること自体について確認が必要な場合には,その確認の訴えを経ることは考えられるといった御説明があったところですけれども,やはり同じように深刻な争いがある場合は,そういった一度確認の訴えなどを経た上で遺産分割を採るといったことを想定されているということなんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,要するに,そこの事実認定が違った場合に,そこの担保責任の規定でどこまで救えるかというところとも絡んでくるわけですが,今回の部会資料でお示しした考え方は,当事者間で争いがある部分が遺産のかなりの部分を占めるというような場合には,やはり確認訴訟でそこをはっきりさせた上で,遺産分割をせざるを得ないということになるのではないかという認識でございます。
○石井幹事 分かりました。最初の申し上げたところに戻ってしまって,なかなか意見の聞き方として難しいということかもしれませんけれども,その場合にも補足説明等で,いろいろな多様な意見があったということは十分お示しいただければと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 多分この場で甲案か乙案かそれ以外かという結論は出ないと思いますし,パブリックコメントに出されるんだと思いますけれども,その場合の補足説明においては,第20回の部会で出たような訴訟と非訟の問題,現在の審理方法で,このような要件事実を認定できるかどうかといった問題,それから,具体的に相続分について,権利性を付与するのかどうか,現行の判例の解釈を変えるのかどうかといった問題等,最初の議論に立ち返って,きちんと丁寧に説明をしていただきたいと思います。
  今日出たような話だけをパブリックコメントに付したところで,専門家ですら多分理解できないと思いますので,一番最初のところから論点をきちんと整理して出していただければと思います。希望です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○水野(有)委員 すいません,同じようなことを重ねて申し上げて恐縮なんですが,これを言ってしまうと,逆にこれの必要性という話も出てしまうのかもしれませんが,何だか御提案の趣旨だと,余りこういうことはないような御理解かと思うんですが,被相続人が亡くなった後,下ろしてしまうという事案は,すいません,統計とかはないんですけれども,私自身の経験では,例えば私が今単独百何件持っているので,そのうちのある程度のボリュームであるんですね。だから,相当な数ある事案なんです。それを今法定相続分でやっているからこそこのスピードで,それでも早いとは言えないのかもしれないというスピードでやっているんですが,それを全て具体的相続分に変えるとなりますと,速度は極めて全体が遅くなるということは十分御理解いただいて,それも踏まえて--何だか伺っていると,ボリューム感が何か余り感じられないというか,遺留分と同じ量,ただ,遺留分と遺産分割が重なる例というのは極めて少ないものですから,ちょっとボリューム感の御理解がもしかしたら,うまく私どもが伝えられていなかったのかなと思うのですが。
  あと,甲案であれば,もちろん一部分割的なことを考えなければいけないし,争いがあるときは,争いがある部分には訴訟で,それも従前の確認訴訟とはまた違った形態の確認訴訟を作るか,作らないかという,検討すべきことが相当程度あるという状態の,まだ御提案であるということでして,おっしゃるとおり,方向性の抽象論はとてもよく理解できるんですが,こうすればいいという,まだビジョンの段階かなと思いまして,ちょっと案の段階にいっているのかどうかは,率直に言って私にはよく理解できていないというところですので,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 時間が押しているのに申し訳ありません。
  慎重にやってほしいと思いますし,私は,増田委員がおっしゃったことに,全く同意見です。
  その上でですけれども,いろいろ伺っていまして,乙案をこのままの形でパブコメに出しましょうという積極的な意見はどれだけあるのかというのが,正直言ってよく分からないようになりました。一歩譲って,この種の規定は抽象的には必要だということは認めますけれども,それ以外の可能性もあるかもしれないとも思うところですし,今日の話をいろいろ伺っていましたら,甲案についてはいろいろ意見,異論等はございましたが,それでも,甲案でもいいという意見はちらほらお聞きしたんですが,乙案の方について,乙案をこのままの形で,このまま育てていこうというようなことを積極的にどのくらいの委員の先生方が考えているのか。窪田委員も,乙案というものを訴訟という形ではなくて,何らかの形で家裁の手続の方に盛り込むことはできないのかなというようなことだったというふうに記憶しておりますし,中田委員にしても,不法行為とか,そういう形での救済の余地というのはあるんですよねという,その辺りの確認というのが乙案に対する御意見についての中心部分ではなかったかというように思います。
  そういう意味では,パブコメにかけるということになった場合も,乙案については少し慎重な書き方,あるいは部会の雰囲気というものを何らかの形で示すような形の補足説明というものを是非お願いしたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲乙両案について,これまで御検討いただいてきまして,それぞれの得失,メリット・デメリットを検討する中でいろいろな御意見を頂いたと理解しております。意見分布についてはいろいろ見方があろうかと思いますけれども,全体としてどんなことを考えているのか,考えてきたのかということを示すためには,乙案もあったほうがいいのかと思っております。
  ただ,何人かの委員から御指摘ありましたけれども,そもそも要らないのではないかという御意見もかなりございますし,甲案,乙案でどちらかというと甲案の方が支持者が多いかという気もいたしております。増田委員から御指摘ありましたけれども,パブリックコメントに当たっては,そもそも何を考えているか,これがなかなか理解しにくいところもありますので,その点を十分に説明した上で,得失についても分かりやすく説明をしていただく。その上でパブリックコメントに付すこととしたいと思いますけれども,よろしいですか。
○増田委員 潮見委員も含め,乙案に対して非常に消極的な意見があるわけですが,乙案がどのような経緯で出てきたかということをやはりきちんと補足説明では書いていただきたいところです。甲案が理想だとしても,それは現行の処理手続の中では難しいのではないかということは,前回,石栗委員がきれいにまとめられたと思うんですが,現実に甲案が可能なシステムにはなっていない。そこで,その理想に近付ける何らかの方策という,乙案はそういう位置付けだと思いますので,そこのところを補足説明で書いていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような取りまとめで,補足説明を付けた上でパブリックコメントに付すということでよろしいでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,この点につきましてはそのようにさせていただきたいと思います。
  第2につきまして,ほかはよろしいですか。
○神吉関係官 仮払いにつきまして,1点だけ補足させていただければと思います。先ほど藤原委員から,金額などについてはパブコメで検討してほしいという御指摘があったかと思いましたが,その点については事務当局としましても金額や割合につきましてはパブコメにおける意見を踏まえて,最終的に決めたいと思っているところでございます。ちなみに参考となるデータというものを少し御紹介させていただければと思いますが,こちらは総務省の統計データにはなるんですが,60歳以上の高齢世帯の平均貯蓄金額は約2,400万円というデータがございます。また,これは総務省のデータではないのですが,金融機関における平均口座保有数は一人当たり約3.5個というデータも示されておりまして,これらのデータを単純に組み合わせますと,60歳以上の高齢世帯の配偶者は約240万円の払戻しができるということになりまして,一般的な葬儀費用は賄えるのではないかなと思っているところでございます。
  こういったデータも補足説明において具体的に示しつつ,パブコメではどういった金額が割合が好ましいのかということにつきまして,御意見を聴いていきたいなと思っております。
○藤原委員 一つだけ申し上げますと,預貯金の平均額は,本当に単純平均だけを見ればいいのかというところが,多分かなり高額者に引っ張られているところがあると思いますので,いわゆる中央値というか,その辺りを統計のマジックに陥らないようにというのはお願いしたいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その点も含めて,御検討いただきたいと思います。
  第2について,よろしいでしょうか。
○石井幹事 「3 一部分割」のところについては余り御意見がないんですけれども,パブリックコメントでこれを付していただくということはよろしいかと思うんですが,従前申し上げているとおり,こういった規律を設けますと経済的価値の低いというか,利用価値の低い物件については未分割のまま放置されるといった懸念も指摘されているところですので,その点については,パブリックコメントに付す際にはきちっとお示しいただいたほうがよろしいのかなと思いますので,よろしくお願いします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第2につきましては御意見を頂いたということにさせていただきまして,ここで10分ほど休憩させていただきまして,3時35分に再開いたします。
  では,休会いたします。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開させていただきます。
  第5,第6,第2と御意見を頂いてまいりましたが,資料の最初に戻りまして,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○倉重関係官 それでは,関係官の倉重から第1について御説明いたします。
  まず,「1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」についてですが,補足説明の1及び2は規定振りの明確化に関するものです。3につきましては,従前,短期居住権の消滅原因として「配偶者が占有を喪失したこと」を挙げていたところですが,短期居住権は無償で居住建物を使用することができるという権利ですから,居住建物を占有していない場合に対価を支払う必要がないことは当然ですので,これを削除することを提案するものです。4は,短期居住権に関して,居住建物の修繕に関する規定を設けることについてです。居住建物が遺産分割の対象となる場合には,通常,他の相続人及び配偶者はいずれも居住建物の持分を有しておりますので,他の相続人とそれから配偶者のいずれも第一次的な修繕権を有するという規律にいたしました。なお,本部会資料では,修繕権の扱いにつきまして,建物が遺産分割の対象にならない場合でも同様の規律とすることを提案しておりますが,この点については,長期居住権の修繕権に関する御議論を聞かせていただいて,それに合わせた規律とすることを予定しております。
  次に,「2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」についてですが,1は,前回も口頭で申し上げました点ですが,長期居住権の存続期間を原則終身とする規律としてはどうかという点について御意見を賜りたいというものです。2は,長期居住権における居住建物の修繕に関するものです。この点については,民法第615条と同様の規律を設け,配偶者が修繕できる場合を限定するとする甲案,それから,配偶者が常に居住建物を修繕できることとする乙案を併記しておりますので,この点について御意見を賜りたく存じます。3は,前回部会で御指摘いただいた長期居住権に関する承諾に代わる許可制度の導入の要否についてですが,借地借家法上も,建物の賃借権については許可の制度がないことから,同様の制度は導入しないこととしております。最後に,4の登記の点についてですが,前回部会での議論を踏まえ,審判によって長期居住権の設定登記をする場合には,原則どおり主文において登記義務の履行を命ずる旨が明示されている必要があるとすることについて,御意見を賜りたいというものです。
○大村部会長 短期と長期の居住権がございますけれども,修繕の問題,それから長期居住権の存続期間の問題,そして長期居住権の登記に関する問題,これらの点について御意見を賜われればということでございました。これらの点も含めまして,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○南部委員 ありがとうございます。
  長期居住権の修繕費の関係ですが,仮に甲案になった場合ですが,所有者が費用面を考慮することなく業者を選定するということも想定されて,配偶者が不利益を被る可能性があるのではないかと考えます。居住建物の修繕費を配偶者が負担するのであれば,業者の選定を含めて,第一次的な修繕権は配偶者に認めるほうが妥当ではないか,一般的に,もし仮に私がこうなった場合,このように思いますが,皆さんいかがでしょうか,御議論いただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点,他の委員,幹事,いかがでございましょうか。
  御発言ございませんでしょうか。
○水野(紀)委員 配偶者の長期居住権については,ずっと私は危惧しております。特に財産的価値に相当する金額を相続したものとして扱うという前提についてです。先日も,調停委員の方とお話する機会があったのですが,これまでは,わずかな年金暮らしのお母さんが残されて,遺産は居住家屋しかないという場合には,子どもたちがお父さんの死亡の段階で相続したいというのを,お母さんをせめてそのまま住まわせておいてあげなさいと説得をしていたそうなのですが,なまじこうして居住権に金銭的な財産的価値があることになりますと,住まわせておいたらその対価をもらいたいという形になるだろうと言われ,子どもたちへの説得がこれまでよりも非常に難しくなってしまうと心配しておられました。そんな調停委員の御意見にも説得力があって,私もこの財産的価値に相当する賃料分の居住権を配偶者が取得するという構成について,危惧を持っております。これまでも何度か,せめて安く見積もれるようにできないかとお願いしてきましたが,配偶者に修繕権を認めることもその補強材料になるように思います。賃貸借であれば,住まいの修繕は,当然家主の方が負担するわけですが,配偶者が自分で修繕することなどを手掛かりにして,配偶者のこの居住権の価格算定の幅を柔軟に安くできるように考えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
○潮見委員 先ほどの南部委員がおっしゃったことと絡むのか絡まないのか分からないんですが,ちょっとだけ教えていただきたいことがあります。
  甲案,乙案が出ていた居住建物の修繕等のところですが,部会資料の5ページに2(2)カがあって,「居住建物の修繕等」というのがあって,そこにまず(ア)がありますよね。(ア)があって,「居住建物の所有者が居住建物の保存に必要な行為をしようとするときは,配偶者は,これを拒むことができない。」と,まずこのルールが立てられていますよね。それで,(イ)以下ですが,甲案を採った場合には,これを前提として,つまり,第一次的な修繕権というものについては,居住建物の所有者が持っているとして,その上で,(イ)の方の甲案を採ったら,配偶者はまず通知するぐらいのことしかできない。ただ,例外的に,第二次的に,言わば補充的に,配偶者の方が修繕をすることができるのは,(a),(b)号にあるように,通知をしたけれども必要な修繕をしない,それから急迫の事情があるという,これは,改正民法の607条の2の第1号,第2号に対応させたものだと思うのですが,これは,賛成するかどうかは別として,それなりにまあまあ一貫はしているのかなという感じはするんです。他方,乙案を採った場合に,乙案のaがありますよね,「配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。」と。これと,先ほどのカの(ア)との関係をどう理解したらいいんですか。配偶者に第一次的な修繕権があるから,修繕したいと配偶者が手を挙げれば,その配偶者がやりたいような修繕というものが,それが優先されて,その形で以下進行するのか。それとも,やはりaの前にはカの(ア)という規定がありますから,居住建物の所有者の所有権に基づいて,自らの目的物であるということで修繕をすることができるということになりますから,所有者の方がやりたいと言えば,所有者の方の修繕権というものが,乙案を採っても優先することになるのか。その辺りを,ちょっとお教えいただけませんでしょうか。
○堂薗幹事 乙案を採用した場合に,今御指摘頂いた点は気になるところではあるんですが,乙案は,基本的には配偶者に第一次的な修繕権を認めるということですので,配偶者と所有者が両方修繕したいというときは,当然配偶者の方を優先させるという前提でございます。それは,必要費の負担を配偶者にしているというところに基づくわけですが,乙案を採用した場合に,そこが不明確であるということであれば,この所有者が修繕できる場合を,例えば,配偶者が相当期間内に修繕をしない場合とするとか,あるいは,配偶者が自ら修繕しないという通知をした場合は直ちに修繕できるけれども,そうでない場合は,甲案と同じように相当期間修繕をしないときに限って修繕をすることができるようにするとか,そういうことも考えられるのではないかというふうに思っているところでございます。
○大村部会長 潮見委員,よろしいですか。
  ほかに何か。
○山本(克)委員 乙案で通知をしなかった場合に,何らかの効果が発生するんでしょうか。
○堂薗幹事 それは,通知をしないことによって,所有者が必要な修繕をできないということで,その分余計に修繕費がかかったとか,そういうことであれば,その部分の損害賠償とかは考えられるのではないかというふうには思っておりますが,それをしないこと自体で,直接何か効果が生じるということではないのではないかという気がいたします。
○山本(克)委員 甲案の場合は,配偶者が通知したら,配偶者に修繕権が発生するかもしれないということに結び付いているのに,乙案には何もそういう効果が生じないのは,何か非常に気持ち悪いなという気がしただけです。
○堂薗幹事 ですので,先ほどお答えしたとおり,そこをはっきりさせる必要があるということであれば,通知後,相当期間内に修繕をしないときに,初めて所有者の方で修繕ができるという形にすると,甲案との関係で,第一次的な修繕をどちらに認めるかというのを逆転させることになりますので,そこははっきりするのかなという感じはしております。
○大村部会長 書き方としては,今のようにされるのがはっきりするということだろうと思います。
  潮見委員がおっしゃったように,基本的に所有権なのだからということを尊重してカの(ア)は置かれている。
○潮見委員 そこをどう整理するかということ。
○大村部会長 そういうことですね。
○潮見委員 いろいろと矛盾のないような形でお願いします。
○大村部会長 ということで,実質に紛れがないように,ちょっと整理をすることが必要かと思います。
  そのほかいかがでしょうか。
○中田委員 短期の方でもよろしいでしょうか。
  短期についても,同じような修繕についての規律があるわけですけれども,現実問題として,短期の場合に,修繕がどの程度必要性があるのかということを考えます。他方で,配偶者以外の相続人がそれぞれ修繕権があるということになりますと,配偶者と敵対する相続人が修繕権を行使し,修繕権に基づく明渡しを求めるおそれはないんだろうかということが気になりまして,かえって紛争を惹起してしまうことはないだろうかと思います。
  より根本的な問題として,短期居住権を法定債権だからこういう規律を置く必要があるんだという御説明なんですけれども,法定債権であるとしても,何らかの合意をすることはできないのだろうか,あるいは,その法定債権とは別に,被相続人との間に成立していた使用貸借契約に基づく,その内容としての修繕についての規律ということもあり得るのではないだろうかと考えると,短期の場合の修繕権というのは,何かいろいろ検討する課題はあるなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかに御意見いかがでございましょうか。
  存続期間の点について,何か,特にありますか。
  あるいは,登記の点についても,問題提起がございましたけれども。
○村田委員 全然違うところで質問なんですけれども,よろしいでしょうか。
  短期居住権の消滅事由で,占有の喪失を括弧に入れられて,不要ではないかという御提案といいますか,御示唆だったかと思うんですけれども,これを削った場合には,規定としてはなくなるけれども,例えば,占有を放棄して施設に入るつもりで,家財道具も一切全部持ってきれいにして出ていったと。ところが,行った先が気に入らなくて,一,二か月して戻ってきましたというときには,それは,短期居住権としては認められるのか,認められないのかというところについては,結論的にはどうなるという理解になるんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,一般的に短期居住権を放棄したというふうに見られるのであれば,通常の場合と同じように権利がなくなるということなのではないかと思うんですけれども,そこまで認められないという場合で,荷物を整理して,ただ,鍵をそのまま持っていたという場合は,結局占有を喪失していないということだと思いますし,一旦ほかの相続人に返したというような場合は,通常は短期居住権を放棄したという扱いにはなるのではないかというように思っております。したがいまして,いずれにしても,結果としては同じような結論にはなるのかなというふうには思っているんですけれども,あえてここに,こういう形で特出しするまでの必要はないのではないかという程度のことでございます。
○村田委員 すみません。そうしますと,占有の喪失とあえて消滅事由に記載しなくても,本当に放棄と見られる場合には,一般的な考え方から放棄して消滅したと考えられると。そうでなければ,逆に言うと,何らかの形で占有が継続していると見られる場合も,結果的にはあるのではないかという整理でよろしいですか。
○堂薗幹事 はい。
○村田委員 分かりました。ありがとうございました。
○中田委員 関連することですけれども,今のお答えで既に尽きているかもしれないんですが,原状回復の基準時との関係で,終了時が基準時になりますと,終了していないと,より後になってくるということによって,配偶者にとってマイナスの影響はないだろうかということが気になりました。それは,今の村田委員とのお話であったような,占有の放棄ということで解決するということでしょうか。
○堂薗幹事 短期居住権の放棄ということで,放棄すればそこで消滅はするということですので,そういう場合は,その時点で原状回復義務は生じるのではないかということでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○増田委員 今のところなんですけれども,間接占有があるかどうかとかいった辺りは,それは,努めて事実認定の問題だと思うんですけれども,喪失した場合を消滅事由としないとまで言う必要性があるのかどうか,これは亀甲括弧のところがあったほうが,よく分かる民法になるだろうと思うんですが,その点はいかがか,あえて消さなければならないでしょうか。
○堂薗幹事 あえて消さなければいけないというほどのものではないんですが,そもそも,完全に占有を喪失したにもかかわらず,他に占有者がいないというのは,通常はあまり想定できないのではないかというところもありまして,基本的に第三者に占有を移しているような場合ですと,それは,それを理由に消滅請求もできるということではありますし,他の相続人に返しているような場合は,先ほどのように短期居住権自体を放棄したというふうに見られるような気もいたしますので,そういった意味で,あえて占有の喪失を独自の消滅原因として挙げる必要はないのではないかというところでございます。したがいまして,あっていけないかというと,そこまでの考えもないんですけれども,占有の喪失を権利の消滅原因としている例はあまりないこともあり,あえてここで,消滅原因として特出しするまでの必要はないのではないかということでございます。
○倉重関係官 付け加えさせていただきますと,そもそもこの占有を喪失したときという書き方にしていると,第三者に占有を奪われたようなときには,それが終了原因になるとは考えておりませんでしたけれども,あたかもそのようなときも消滅原因になるというふうに読まれる可能性があるというようなこともございます。そうしますと,分かりやすさという観点からも,占有の喪失を削除した方がよいと考えられます。それから,もう一つが,占有喪失を終了原因としますと,返還義務との関係でも整理をしなければいけなくなってくるということもあります。
  一方で,終了原因として想定している占有喪失の多くの場合については,基本的には短期居住権の放棄,免除という形で包含できると考えておりますので,そうであれば,規定の分かりやすさとか明確さといった観点から,これは削除していいのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 先ほど村田委員や中田委員から御質問ありましたけれども,実質には多分差は出ない。言葉として,どちらがより分かりやすいかということで,増田委員の御感触と事務当局の御感触とちょっとずれがあるようですけれども,現在,亀甲括弧の中に入っているので,これに決着を付けたい。そういうことですね。
○堂薗幹事 そうですね。
○大村部会長 言葉の問題ですが,いかがですか。何か御感触あれば伺いますけれども。どなたでも。
  特に御発言ありませんか。
○窪田委員 多分,実質には全然変わりがないことなのだろうと思いますけれども,使用貸借に関して,いずれからでも解除することができるということで,当たり前といえば当たり前のことなのですけれども,今回のものは使用貸借ではなくて,短期賃貸借というふうに作るのであれば,先ほどから出たお話を伺っていると,占有の喪失が終了原因になるというよりは,要するに,短期使用権,短期居住権に関してはいつでも放棄することができるということを定めておけばよいのではないでしょうか。というのは,使用貸借の規定との並びでもあり得るのかなというのが,ぼんやりと感じたという程度です。大してこだわるものではありません。
○大村部会長 増田委員のお立場からしても,何か書いてあって明瞭になれば,それはいいということなのかもしれませんが,事務当局としては,それは当然だから書く必要はないということになるんでしょうね。やはりあったほうがいいでしょうか。
○増田委員 仮にどこかへ出ていって帰ってきたって,持分権があって住めるわけですから,別にどっちでもいいことで,どう決めるのが自然かどうかというだけの話です。だから,全然こだわりはしません。
○大村部会長 それではまた,他の規定の書き振りなどと併せて御検討いただきたいと思います。
○潮見委員 先ほど中田委員がお尋ねになられた短期居住権の修繕のところなのですが,これ,仮に規定を設けなければ,どういうふうになるとお考えになっておられたんですか。共有の民法252条のただし書が適用されるという形で処理をされるということをお考えになっておられたのか,仮にそうであったならば,ここの(エ)のところに書かれている内容というものとは,少なくとも今の252条ただし書の解釈論とはちょっと違いますよね。特に,修繕を要する旨の通知をしなければいけないとかなんていうのは,こういうものは252条ただし書のところからは直接には出てこないというようなことにもなりますし,そういうことをつらつら考えていますと,この規定を置くことによって分かりやすくはなるけれども,他方で,これ,配偶者の立場に立って考えた場合に,252条のただし書で保存行為は素直に,ストレートにできたところが,こういうプロセスを経なければいけないというようなことも生じてきて,果たしてそういう短期居住権を有している配偶者にとってフレンドリーなものなのかという話も出てくるかと思いましたので,ちょっとその辺りの感触も,併せて御披露いただければと思います。
○堂薗幹事 正直なところ,こういう規定が本当に必要なのだろうかという疑問はあったんですけれども,賃貸借のところでは,所有権の侵害という側面もあることを考慮してあのような規定が設けられたということだといたしますと,短期居住権や長期居住権でも,そこを強調すれば,所有権に対する侵害という面があることを強調すれば,やはり同じような趣旨が当てはまるのではないかということでございます。逆に,賃貸借の方では,先ほどのような趣旨で規定を設けたにもかかわらず,ここでは不要だという点について合理的に説明できるのだろうかという疑問もあって,こういう形でお示しをしたというところでございます。
  ただ,他方で,使用貸借についてはこのような規定は設けられておらず,そこは当事者の合理的意思解釈に委ねるということではあるんですけれども,居住権は法定の債権という整理をしておりますので,当事者間の合意でそこを決めるというのは,なかなか難しい面があるのではないかということで,今回の部会資料では,こういう形でお示ししたわけですけれども,確かに,先ほど長期のところでも申し上げましたように,短期のところも,今の案ですと,他の相続人と配偶者の修繕権の優劣といいますか,そこがはっきりしないところがありますので,この点についても,配偶者の方を優先させるということも,考え方としてはあり得るのかなとは思っているところでございます。この点につきましては,特に債権法改正であのような規定が入った趣旨との関係で,どのように考えればいいのかという点について,是非債権法の審議にも関わった先生方にお伺いできればと考えているところでございます。
○大村部会長 何かございますか。
○潮見委員 こっちの場合は,飽くまでも遺産共有状態ですよね。先ほどの御説明にもありましたけれども,配偶者自身も共有持分権を持っているというのが前提ですから,その共有持分権の行使として,保存行為をするというような形で整理するのもあるのかなと思います。そう考えると,使用貸借でもないし,賃貸借でもないし,法定の利用権ですけれども,実態として,基礎には遺産共有に基づく地位があるというのでどうでしょうかとも思ったからです。
○倉重関係官 短期居住権の場合,(2)の方の規律もございまして,この場合には,配偶者が所有権を持っていないということになりますが,基本的に(1)と(2)とも短期居住権という同質の権利として整理していますときに,(1)と(2)とで修繕に関する規定が大きく異なっていいのかという問題があるように思います。
  したがいまして,(2)との整合性を考えたときに,共有持分権に基づく保存行為だけで説明ができるのかなという疑問はあるのですが,例えば,一つの案として,全ての場面で配偶者が第一次的に修繕権を有することにするというのは一つの在り方かなと思っているのですが,そのような整理についてはいかがでしょうか。
○潮見委員 それは,あり得るとは思いますけれども,先ほどのお話ではないですけれども,どういうふうな立て付けにするのか,幾つかの組合せがあると思いますから,そこを考えていただければいいのではないでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございます。
  規定を置くことによって配偶者に思わぬ不利益が生じないように御配慮いただきたいという複数の発言がありましたので,それを勘案していただくということかと思いますけれども,そのほかにいかがでしょうか。
○沖野委員 戻ってしまって恐縮なんですが,長期居住権の修繕について,念のため確認させていただきたいということで,費用はどちらが持つのかということなんですけれども,相続人あるいは所有者の方が修繕するときには,それは,所有者の方が修繕費用を持つという理解でよろしいんでしょうか。そのような想定の説明のようにも見えるのですが,しかし,規定上は,必要費は,しかも通常の必要費に限っていませんので,配偶者が持つということですから,そこは全部配偶者が持つということなんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,所有者がした場合も,配偶者に償還請求ができるという前提です。
○沖野委員 分かりました。ただ,そうすると,一層やはり配偶者に優先権を認めるべきではないかと思われますけれども。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかはいかがでございましょうか。
○垣内幹事 また別の点についてでもよろしいでしょうか。
  長期居住権の存続期間の点に関して,素朴な確認の御質問なんですけれども,前提として,資料23-1の4ページのイのところでしょうか,ウのところですね,存続期間の定めが必要であるということで,もし定めがないときの取扱いとして,終身とみなすものとする規定の射程をどうするかということが,問題として提起されていたかと思うんですけれども,前提として,その存続期間を定めるという場合,審判の場合は余り問題ないのかと思いますが,協議で定めるというときに,その定め方として,具体的にどういうものまで許容されるのかという点についてお尋ねしたいということなんですが。例えば10年とか5年とかいうことは当然できると思いますし,終身の間ということもできるかと思いますけれども,当分の間とか,協議で定めるとか,何か改めて協議するとか,誠実に話し合うとか,そういった定め方の場合には,これは存続期間を定めたことになるのかどうかという辺りが,あるいはそういう意思が黙示にあったと認定できるような場合についてどう考えるかといったことが,あるいは問題になるのかなという気がいたしまして,その点について何かお考えのところがあれば,お示しいただければと思います。
○堂薗幹事 存続期間を定めなければならないというふうにしているわけですので,当然一定の期間ないし,もちろん不確定期限付きのものでもいいわけですが,他方で,協議で定めるとか,当分の間ということでは,通常はこの存続期間を定めたということにはならないのではないかというふうに考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○垣内幹事 そうしますと,そういう定め方をした場合には,定めがないので無効であると,そういう前提で議論をすればいいということでしょうか。
○堂薗幹事 ええ。ですので,そういったことで無効になるのを避けるということであれば,その場合は終身とみなすということになりますし,そこをどう考えるべきかを,是非お伺いしたいということで,今回の部会資料でも,その点の指摘を再度させていただいたということでございます。
○大村部会長 今の点につきましては,何か御意見ございますでしょうか。
○窪田委員 前提だけ確認させていただきたいと思うのですが,期間を定めなければいけないので,期間が定まっていなかったら,この長期居住権の設定は無効であるという場合には,長期居住権の設定を含む遺産分割協議が無効になるということでよろしいですか。
○堂薗幹事 それは,一部が無効だった場合に,それが全体に及ぶかどうかということだと思いますので,当然に全体が無効になるということにはならないのではないかと思いますけれども。
○窪田委員 ただ,長期居住権というのは,遺産分割のときにやはり評価されるべき価値の高いものということを前提として,正しくその中で決めるということですので,ある意味で長期居住権の部分だけは無効になって,ほかの部分についての遺産分割協議は有効だよということになると,生存配偶者が不利になるのかなという気もしたものですから。
  存続期間を定めなければいけないというニュアンスは非常によく分かりますし,それが多分,いろいろなことを計算する場合の基礎になるということもよく分かるのですが,それを定めないと単純に無効だとすることの意味が,どういうふうに波及するのかというところで,ちょっと気になる点はございます。
  ただ,一方で,終身という形で推定規定を置いてしまうのが,果たして適当なのかどうなのかというと,この場合には,非常に価値が高いということを前提とするということになりますので,それについても,それで適当なのかどうか分からないなという気はします。
○上西委員 通常の遺産分割の協議の場では,例えば,農地がある場合でしたら,誰が相続するかは分かるのです。自社株式も大体引き継ぐべき人って分かるわけです。全ての財産について決めるわけではなくて,一次分割,二次分割と進む中で,長期居住権については,最初は生存配偶者に与えるのだけれども,ほかの財産の分け方に応じて年数を決めようということもあり得るのかなと思います。そうであれば,直ちに無効にするのはどうかなと考えます。最後の協議において年数が決まらなければ,その段階で無効というのもあるのかなと思います。
○大村部会長 事務当局の御提案は,期間が決まらないために無効となるのをできるだけ避けようということかと思います。先ほど垣内幹事から当分の間というお話もありましたけれども,当分の間はやや難しいかもしれないけれども,解釈によって,一定の期間を定まる,あるいは期間の定め方は定めているというような場合に,それが全部排除されるのかというと,それも必ずしもそうではない。今の上西委員の御発言はそうした文脈で捉えることができるように思って伺いました。
  いかがでしょうか,期間の点は。
○窪田委員 もう1点だけ。これも,前提を正確に理解しているかどうか分からないのですが,先ほど終身という推定はちょっと危ないかもしれないというふうに申し上げたのですが,遺産分割協議の場合と審判の場合で同じかどうかちょっとよく分からないなという感じがしています。遺産分割協議の中では,結局本人たちが合意して,この人には長期居住権を認めましょう,その上で,こういうふうに分けましょうといったときに,それをどのぐらいの価格で算定しているのかというのは,厳密には分からなくてもいいわけですよね。だとすると,そのときには終身というのを使っても,別にさして不都合はないのかなという気もします。
  他方,審判ということになりますと,前提として,それの与えられる長期居住権はどれだけの価値を持っているんだということをかなり厳格に決めていかなければなりませんので,そこで終身ということを前提にしてしまうと,非常に判断の手足が縛られるということが出てくるかなという気もします。ひょっとすると,遺産分割協議と審判で,推定規定を置くかどうかについては異なるという可能性もあるのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として伺って,検討をお願いしたいと思います。
  存続期間については,更にもう少し考える必要があるのかという気がいたしておりますが,そのほかよろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,第1は終えたということにいたしまして,その次の第3の「遺言制度に関する見直し」に進みたいと思います。
  この点につきましては,事務当局の方からの説明をお願いいたします。
○倉重関係官 それでは,「第3 遺言制度に関する見直し」につきまして,関係官倉重より説明いたします。
  まず,1の「自筆証書遺言の方式緩和」の点についてです。
  これまでは,自筆証書遺言の方式を緩和した場合でも,加除訂正の場面は全て自書することを要することにしておりました。しかし,財産の特定に必要な事項については,加除訂正の場面であっても,当該ページに署名押印があるのであれば,変造等のおそれは低いと思われ,自書による必要はないのではないかとも考えられるところです。この点については,財産の特定に必要な事項を自書しないで,自筆証書遺言を訂正した例を机上に配布しております。このような加除訂正を認めることについて,御意見を賜りたいと思っております。
  次に,2の「自筆証書遺言の保管制度の創設」についてです。
  変更点が4点ございます。
  1点目は,第22回部会での各事務を取り扱う法務局を明らかにするようにという御指摘を踏まえたものです。ゴシック部分の注2にも記載したとおり,遺言保管制度を利用した事実及び遺言書の画像データについて,全国の法務局からアクセスできるシステムが構築されている場合には,原本が必要でない事務については,ほかの法務局においても申請することができるとする方向で検討を進めていきたいと考えております。
  2点目は,外国語による遺言の取扱いについてです。第22回部会での御指摘を踏まえ,申請書によって保管を申し出ている書面が日本法に基づく自筆証書遺言であることを確認することができ,かつ,遺言者及び通知すべき相続人等を把握できることを前提に,遺言保管制度の対象とする方向で検討を進めていきたいと考えております。
  3点目は,ゴシック部分の6において,遺言者の死後,相続人等は法務局に対し,保管に係る遺言について,正本の交付を求めることができるとしていたものを,写しの交付を求めることができるというふうに変更したところです。これは,保管に係る自筆証書遺言の写しに原本と相違ない旨の法務局の認証を付する取扱いでも,不動産登記等の事務において特に支障がないと考えられ,特に正本を発行する必要性は乏しいと考えられたことから,規律を変更したものです。
  4点目は,遺言書の保管事実の通知時期に関するものです。部会資料22-1では,相続人等が法務局に対し遺言の保管の有無を照会した場合に,ほかの相続人等に対し,遺言を保管している旨を通知しなければならないとしておりましたが,この通知時期を,相続人等が原本の閲覧又は写しの交付を求めた場合に変更しております。これは,遺言書の保管の有無の照会をする際には,相続人全員を特定する書面の提出までは不要とし,照会者が遺言者の遺言の有無を照会することについて,利害関係を有していることを明らかにする書面を添付すれば足りるとすることに伴い,規律を変更したものです。
  このほか,ゴシックの(2),(3),(4)において,出頭要件を明示しております。
  3の「遺贈の担保責任」については,部会資料22からの変更はございません。
  最後に「4 遺言執行者の権限の明確化等」については,ゴシック部分の提案内容としては,遺言執行者の一般的な権限の例示として,相続財産の管理を挙げることとしたほかは,一部亀甲括弧を付した部分ありますが,その他の内容については,部会資料22からの変更はございません。
  まず,遺産分割の指定がされた場合の遺言執行者の権限について御説明いたします。
  この点に関しましては,第22回部会において,引渡しを対抗要件とする動産について,遺言執行者に対抗要件具備権限を付与すべきかどうか,もし付与しないこととした場合に,目的動産の受領権限はあるのかどうかについて,改めて検討すべきであるとの御指摘を頂いておりました。
  そこで検討したところ,遺言執行者は一般的に遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するとされていること,遺言執行者がその職務の過程で受け取ったものについては,相続人に引き渡す義務を負うことなどからすると,動産について,原則として対抗要件を具備させる権限を有しないという規律を設けたとしても,遺言執行者が目的動産を任意に受領し,これを受益相続人に引き渡すことができなくなるわけではないように思われます。また,貸金庫内の目的物について,遺産分割方法の指定がされ,かつ遺言執行者が選任されているような場合には,遺言者は第三者対抗要件を具備させるという目的ではなく,遺言の実効的な執行のために受益相続人にこれを直接引き渡すことを遺言執行者の職務として指定したとの解釈をすることができる場合も多いように思われます。そこで,このような趣旨をより明確にする観点から,遺言執行者の一般的な権限の例示として,現行法と同様,相続財産の管理を掲げることとしました。
  他方で,遺言執行者について一般的に対抗要件具備権限を認めることとしながら,上記のような理由だけで動産についてはその例外とすることができるかについては疑問もあること,遺言執行者には就職するに当たっての諾否の自由があり,動産の引渡権限が加重である場合には就職を拒絶することが可能であることなどからすると,遺言執行者の一般的な権限として,動産も含めた対抗要件具備権限を付与したとしても,必ずしも遺言執行者に加重な負担を負わせることにはならないようにも思われます。
  そこで,引渡しを対抗要件とする動産について,遺言執行者に対抗要件具備権限を認めることとすることも考えられるところであり,この部分については亀甲括弧としております。
  続きまして,遺言執行者の通知義務の点について御説明いたします。
  部会資料23-1のゴシック部分の11ページでは,遺言執行者の就任通知について,「家庭裁判所に選任されたとき」を亀甲括弧としております。これは,現行法の解釈として,一般に,家庭裁判所に選任された遺言執行者であっても,選任後に諾否の自由があるとの解釈が有力であるとされておりますので,このような解釈を前提とすれば,家庭裁判所に選任された遺言執行者についても,遺言執行者が就職を承諾したときに通知義務を課すことで足りることになるためです。
  最後に,遺言執行者の復任権について御説明いたします。
  部会資料23-1のゴシック部分12ページ,(3)の記載です。遺言執行者が復任権を行使した場合の責任については,法定代理と同様の規律を設けることとしておりますが,第22回部会において,この点に関し,信託法第35条と同様な規律にする必要がないか検討すべきであるとの指摘がされましたので,この点についても検討いたしました。
  信託法の考え方は,部会資料23-2の補足説明の16ページに記載されているとおりでございます。このような信託法第35条の考え方は,基本的には遺言執行者の場合にも妥当するものと思われますが,遺言者の意思等を踏まえましても,遺言執行者において当然に復任権の行使が予定されているとまでは言えないことから,信託法のような詳細な規律を設ける必要性は高くないように思われましたので,遺言執行者が復任権を行使した場合の規律については,法定代理の場合と同様,包括的なものにとどめ,遺言者が特段の定めをした場合における責任の範囲については解釈に委ねることとしております。
  以上の点について,御審議いただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第3の「遺言制度に関する見直し」については4項目ございますけれども,1の「自筆証書遺言の方式緩和」,これは大きな変更はないということでしたが,それとは別に資料として配布されているものがあります。このような形での修正を認めるということにしてはどうかということについてどう考えるかが問題として提起されていたかと思います。2の「自筆証書遺言の保管制度の創設」につきましては,前回の御議論を踏まえて,4点について修正の御提案がございました。3の「遺贈の担保責任」はそのまま,4の「遺言執行者の権限の明確化等」も,ゴシックの部分については特に大きな変更はないということでしたが,動産の引渡しにつきまして,前回までに御議論を頂いたところについての説明があったと理解いたしました。
  以上の点を含めて,御意見,御質問等あれば,伺いたいと思います。
○増田委員 1のところですが,加除訂正の簡素化については,私は余りお勧めすることではないだろうと思います。遺言そのものについての簡素化をしているわけですから,この例であれば,加除訂正をせずに,第1条を取り消して,別紙2の記載の建物を法務一郎に相続させるという別の遺言を作れば,それでいいことです。
  なぜかというと,加除訂正をすると,いつその訂正をしたのかなど,余計な争いを生むことになりますので,できるだけ加除訂正をお勧めするようなメッセージはやめて,訂正する場合には新しい遺言を作るようにする。新しい遺言であれば,当然物件目録の部分は差し込んでいいわけですから,そちらの方を勧めた方がよろしいかと思います。
  偽造防止の観点からは,確か中間試案のときには署名だけでいいという提案もあったところ,これに対しては慎重論の方が多かったという理由で消えています。その消えた趣旨から考えても,加除訂正の簡素化は,私は避けたほうがいいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御意見いただきましたけれども,いかがでございましょうか。
○中田委員 確認なんですけれども,頂いた参考資料ですが,これは,亀甲の部分をなくしたことを前提とする文例という理解でよろしいですね。そうしますと,今回の規律は968条に加えるということなので,968条の2項は存続するという理解でよろしいですね。そうすると,この参考資料においては幾つか加除訂正がされているわけですが,それは,現在の968条2項と,それから今回の新たな規律とを合わせて適用した場合に,このようになるということですね。
  そうすると,形式的にはこれで理解はできると思うんですが,あとは,事実上どういう弊害があるかという問題で,そこはちょっと分からないんですけれども,条文との関係で,この参考資料というのは一応は理解できるという印象を持ちました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかいかがでございましょうか。
  これを認めるにせよ,認めないにせよ,増田委員がおっしゃったように書き直してもらうというのは,補足説明の中では書いたほうがいいのかもしれませんね。
  いかがでしょうか。
○窪田委員 これも,特に積極的な意見ではございませんし,増田委員のおっしゃることもよく分かりますし,あんまり誘引すべきではないというのもそうなのだろうと思うのですが,やはりちょっと気になるのは,基本的に,968条に新しい規律を加えて,財産目録の部分については要件を緩和するという仕組みを前提として採用した場合に,仮にこの見本のような訂正がなされたという場合に,原則書き直しなさいということを前提として無効にしてしまっていいのかというのが,やはり少し気になります。望ましいのは,やはりきっちりとしたものであるということは,そのとおりなのですが,一方で要件を緩和しつつ,でも,内容的には,本人の意思というのはかなり明確にはなっているケースにおいて,無効にしていいのかどうかという点が気になるというだけでございます。
  ただ,一方で,どんどん自筆証書遺言に関しては要件を緩和していくのだという,何でもかんでも有効になるんだよというようなメッセージが過度に伝わるのも望ましくないというのは,増田委員がおっしゃるとおりなんだろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  無効になるのは確かに困るということですね。このような加除修正がされたものが出てきて,本人はそれでオーケーだと思っていたけれども無効になるというのはどうかという御指摘かと思いました。
  いかがですか。
  一応,今の点については,何人かの方々から御意見いただきましたので,ある程度意見分布が分かりました。さらに御意見があれば伺いたいと思いますが,その他の点でも結構です。
  いかがでしょうか。
  特にございませんでしょうか。
○潮見委員 中身に異論はそれほどないというか,これでいいのかなとは思うのですが,1点だけ,説明の部分で,これはまかりならんのではないかというところがありますので,個人的な意見として言わせていただきたいところがあります。
  遺言執行者の復任権のところの説明です。信託との関係ということについては,ここで書かれていることもまあまあそうかなというふうには思うのですが,非常に瑣末なところで申し訳ないのですが,基本的な事柄に関わりますから,あえて申し上げます。
  「もっとも」の段落があります。3,4行目の辺りのところから,「遺言者の意思としても人的環境を踏まえて遺言執行者を選任している場合が多いと思われる」とあります。これを強調すると,むしろ遺言執行者は復任をしてはいけないという,ちょうど債権関係部会等でいろいろ議論があった自己執行原則の話に傾いていくことになるんです。少なくとも,履行補助者とか,あるいは復代理とか,その辺りのところでは,こういう「人的環境を踏まえて」という言葉を使うということは,それは,要するにその方についてお願いをしたわけですからと,事務処理を委託したわけですから,ほかの人を使っちゃ駄目ですよという,それが基本原則だという方向に傾く論理なんです。いってみたら,復任禁止が原則であって,そして,例外的に遺言に別段の意思があったり,表示されていたり,あるいはやむを得ない事由があったら,それは別ですよという,こういうスキームで流れていくことになって,それが,1016条で書かれている枠組みとは違うんです。ですので,これは表現だけの問題ですから,少し解説をお書きになるときに工夫をお願いしたいと。特にこの辺り,ずっと研究してきた人間からしたら,つらいところがあります。よろしくお願いします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  ちょっとそれは,説明を工夫していただきたいと思います。
  ほかはいかがでございましょうか。
○山本(和)委員 細かな点ですけれども,11ページの一番下のウのところで,家庭裁判所に選任されたという亀甲括弧のところで,一応どのように考えるかと問われているので,この資料23-2に書かれているとおりではないかと思います。ほかの裁判所に選任される,例えば破産管財人とか清算人というのは,その義務を書くときは,基本的には就職後遅滞なくとか,あるいは就任後直ちにというような書き方がされているのが一般的で,その就職とか就任というのは,選任をされて,それに管財人等が同意した,承諾したときというふうに解されるのが一般的なのではないかと思いますので,ここで選任されたときに,これ,本人の承諾の前であっても何か義務が発生すると読めるような条文が民法にあるというのは,余り適当なことではないだろうと,こういうふうに思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それは,ちょっと御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  それでは,3委員から御指摘があった書式の点ですけれども,これはこれで一つの考え方であろうという御意見も複数ありましたので,方式の緩和を促進しているという趣旨では必ずしもないということについて,一定の説明を付け加えていただくということで対応してはいかがかと思いますけれども,3委員,それでよろしいですか。
○増田委員 留保したままという意味ですか。それとも,完全に消すんですか。
○大村部会長 留保したほうがいいですか。
○増田委員 もう少し検討にしていただけませんか。
○大村部会長 分かりました。では,そうしましょう。
○沖野委員 誠に申し訳ありません。今の書式なんですけれども,これは,非常に巧妙にといいますか,別紙記載の土地が建物に変わっていますので,ここを訂正せざるを得ないんですけれども,これが土地の差し替えであった場合に,バツを打ち,別紙2ではなくて別紙として付けたという場合でしたら,この別紙記載の土地を,別紙に記載の建物と改めるというような文言がないと,やはり無効ということになるんでしょうか。そこだけお聞かせいただきたいのですけれども。気にしておりますのは,かえってややこしいといいますか,ここだけはプリントアウトでいいから,ここだけ差し替えればいいし,バツも打ってあるし,ここ自体は自書ではないんだからこれでいいと理解されてしまうとか,加除訂正を促進するかということとは別に,逆に複雑になってくるために無効の余地が拡大するのではないかという懸念があるものですから,確認させてください。今のような形であると,訂正文言もないことからやはりそれは無効ということになるのでしょうね。
○堂薗幹事 先ほど中田委員から御指摘があった968条の2項によりますと,その変更の場所を指示して,しかもその変更した内容を付記しなければいけないということになります。したがいまして,例えば,別紙の1を2に変更したという場合には,その特定をする必要があるわけですが,別紙記載の土地というのをそのままにしておいて,その別紙にバツをした上で,別の別紙を付けただけだと,そこの特定がきちんとできているかという問題が生ずるのではないかと思います。付記のところで,別紙を差し替えたというところを説明しなければいけないわけですが,やはりその説明をする際には,別紙のうち,どの部分をどれに差し替えたというところが特定できないと,加除訂正の方式を満たさないということになるように思います。
○沖野委員 結論は分かりました。ただ,本文の文言には全く訂正が入らないというようなときに,どちらの規律が遺言者の意図に反して無効になる確率が少ないのか,安定性の観点からの問題があるように思いました。
○倉重関係官 今の点なんですけれども,例えば,現行法でも別紙方式で遺言を書くことは可能だと思いますが,その際に別紙だけを訂正,差し替えるような形の訂正がされた場合に,現行法でも生じ得る問題のようにも思うのですけれども,その理解でよろしいでしょうか。 現状の規定に基づいて作成された自筆証書遺言の別紙にバツをつけて,判子を押して。
○沖野委員 全部自書であるというときですね。
○倉重関係官 ええ。そのときに,これを変更した旨を付記するという規律に現行法はなっていますけれども,これとの関係でどうなるのかというところと同じ問題かなと思うんですが。
○沖野委員 差し替えるというのは,バツを打って,更に一つを入れるという形ですね。
○倉重関係官 そうですね。最初が,本文と別紙からなる遺言書が全て自筆で存在していましたと。別紙部分にバツを付けて判子を,訂正印を押しましたと。それに付け加えて新たな別紙を付けましたという状況は,現行法でも生じ得るのかなと思うんですが。
○沖野委員 そうですね。しかし,全部自書であるという限りにおいては認識も違い得るように思いますが。
○倉重関係官 その場合の解釈と一緒なのかなという気はしておるんですけれども。
○沖野委員 分かりました。分かったんですけれども,自書でない場合,その部分は元々添付なので,プリントアウトなのでというような誤解を招かないかと。それは法律に書いてあるんだからということであるならば,例えば,逆の立場にしても,法律に書いてあるんだからということになるように思われまして,どちらが誤解が少なくなるのか,微妙なところがあるのかなという感じがしたものですから,大丈夫かを検討してもらったほうがいいのかと思います。
○倉重関係官 仮にそれが無効になる場合には,もしかすると,そういった無効な方式をある種勧めるような形になってしまわないかという懸念があると,そういう御指摘になりましょうか。
○沖野委員 無効な方式を勧めるというのではなくて,問題が複雑になってきますと,せっかく遺言を作っていたのに,結局は無効であって,その意思が実現できないという,むしろ窪田委員が御懸念になったような状態が,別の規律であっても同じように生じる可能性があるので,どちらがまだ問題を生じさせにくいのかということは,直ちに決められないのではなかろうかという懸念を持ちましたという意味です。
○倉重関係官 かしこまりました。
○大村部会長 増田委員に加えて沖野委員からも懸念が示されましたので,保留ということにして,得失を比較して,どうするのがよいのかということを更に御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  よろしいでしょうか,この点につきまして。
  それでは,先に進ませていただきたいと存じます。
  最後残っておりますのが,第4の「遺留分制度に関する見直し」という部分ですけれども,この点についての御説明を事務当局から頂きます。
○神吉関係官 それでは,最後に,第4の「遺留分制度に関する見直し」につきまして,簡単に御説明させていただきます。
  第4につきましては,ゴシック部分はいずれも字句等の若干の修正はしておりますが,実質的な変更はございません。
  なお,前回の部会におきまして,委員から御指摘がありました事項,具体的には,第4の1の(3)のウの指定財産の価格の評価についてでございますが,こちらについてどのように考えるべきかという御質問がございましたが,事務当局において検討した結果を,部会資料の23-2の17ページの注において記載しております。
  以上,簡単でございますが,御説明させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第4の「遺留分制度に関する見直し」につきましては特に修正はないということで,御質問についてのお答えは,補足説明の17ページにあるということでございます。
  いかがでございましょうか。
  第4につきまして,御意見等あれば承りたいと思います。
○増田委員 従前からの私自身の意見は封印いたしまして,取りあえず,これに沿ってですが,1の(3)のイの点です。前にも少し申し上げましたが,第一審又は控訴審の口頭弁論終結までにしなければならないということなんですが,口頭弁論終結時で主張を遮断するというのは,飽くまで訴訟法上の要請だと思うんですね。それは,主張立証の終期を定めて事実認定に用いる訴訟資料の範囲を画するという意味であって,そこに実体法上の権利行使の終期を絡ませるというのは,ほかにも例はないだろうと思うし,もともとの口頭弁論の終結という考え方に実体法上の観点が入っているとはちょっと考えにくいと思います。
  実務上も不都合があるのではないかと思うのは,終結というのは,一旦終結しても再開するということもありますし,判決が出ても,最高裁から差戻しで戻ってきた場合には,また事実審の口頭弁論が開かれることになりますので,そうなってくると,一旦消えた権利がまた復活するということになり,法律関係が不安定になります。あるいは,終結間際になって,給付財産の指定権が行使されますと,その財産の評価などを改めて裁判所で審理しなければならないことになりますので,ぎりぎりに提出されるということが繰り返されると,濫用論は別の問題として,引き伸ばしにより審理が遅延するということは十分あり得ると思います。
  こういう終期の決め方は,やはり実体法上の権利の行使の終期としておかしいのではないかと思いますので,それに代えて,一定の期限を定める,例えば,遺留分侵害額の請求時期から1年とかいう形で切って,早期の法律関係の確定を目指すほうがよいのではないかと思われます。
  このように短期の期限を定めることによって,従来から問題になっているような不要なものを嫌がらせ的に次々押し付けるとかいうようなことを事実上抑制する効果も期待できるんではないかと思いますので,できましたら,この遺留分の関係は,早期解決を目指す方向で,比較的短期の期限を設けるということを御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。
  (3)のイの規律につきましては,これまでの部会において,何らかの時的限界を設けたほうがいいだろうということにつきましては,部会における一致した意見,少なくとも反対意見はなかったかと認識しております。ただ,時的限界を設ける場合にどこまで延ばすべきかという点についてはさほど議論をしておりませんでして,事務当局としては,一応最大限延ばすとすると,第一審又は控訴審の口頭弁論終結のときではないかということで,こういった御提案をさせていただいたというのがございます。したがいまして,今,増田委員から御提案があったように,例えばの話としまして,この債務の履行の請求があったときから1年以内に現物給付の主張をしなければいけないというような規律を設けるということは,こちらは十分あり得るのではないかなと思っているところでございます。
  なお,ほかの委員の御意見も併せて頂戴できればと思うんですけれども,増田委員の御提案を伺って今気になった点としましては,例えば,1年以内にしなければならないとした場合に,1年以内に例えば訴訟が終わってしまって,確定した後に,受遺者側が,例えば11か月後ぐらいに現物給付の主張をした場合にどうなるのかといった問題が出てくるのではないかなと。そういったときに,なお現物給付は1年以内だからできる,させてもよいし,そういった場合には,請求異議なりで処理をすればいいんだろうという考え方も十分ある一方で,例えば,解釈論として,法律が1年以内と短期間でしろということを言っているのだから,既判力によって遮断をされるんだというような解釈論も,もしかしたらあり得るのかなとか,思ったりもいたしまして,この辺りの訴訟法的にどう考えるのかということも併せて御意見をいただければなと思っているところでございます。
○山本(克)委員 私も,これは省いたほうがいいのかなと思っています。それはなぜかというと,判決の内容に依存していない書き振りになっているわけですよね。つまり,従来考えているのは,請求認容判決があったときに,それに抗弁となり得るような形成権が既判力となって排除されるかどうかという議論をしているんですね。訴え却下判決の場合とかを書いていくと,結局実体法の問題ではやはりなくなってしまうので,増田委員のおっしゃるとおり,ちょっとこれはどうかなという感じがいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点,山本克己委員から御発言ありましたけれども,ほかの委員,幹事,いかがでございましょうか。
○山本(和)委員 私の理解では,これが金銭給付が認められた後,その判決に対して請求異議か分かりませんけれども,この現物給付を後から求めてきて蒸し返されてしまうと。それが,既判力によって遮断できればいいんだけれども,そこが最高裁,いろいろな判例があって不透明であると。しかし,そこだけは抑えたいという観点からすると,こういう規定が,確認的なのか創設的なのか分かりませんけれども,ないといけないだろうと。山本克己委員も増田委員も言われたように,実質的には訴訟法的なものをここに導入しようとしていて,そこに違和感があるというのは,御指摘のとおりだろうと思いますけれども,ただ,実質としては,これがなければ抑えられるかどうかということは,非常に不透明になるのではないかというところから,ずっと亀甲括弧のままここまで来たという経緯だったのではないかというふうに理解をしています。
  実体法的に言えば,増田委員が言われたように,期間を決めるというほうが,よりなじみやすいものだろうと思っております。ただ,そういうふうにすると,神吉関係官が言われたように,訴訟がその前に終わってしまった場合に,それを,その後の行使を遮断できるかというと,それは,既判力の一般論からすれば,やはりなかなか難しい,つまり,1年間であっても,それは,1年以内に行使しなければならないとともに,1年間は行使できるということをやはり保証したというふうに考えられるとすれば,その前に訴訟が終わったからといって遮断されてしまうということには,なかなかなりにくいのではないかというふうには思います。
  ただ,1年で訴訟が終わるということは,残念ながら,普通に考えればそれはないことなので,極めてレアケースだということになりますから,そこは,その場合には,場合によっては先ほどのような蒸し返しみたいなことが起こっても,解釈に委ねてあえて規律は設けないという選択肢は,政策的には私はあり得るんだろうというふうには思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
○西幹事 細かいことで恐縮ですけれども,2点教えてください。
  1点目は,13ページの第4の1の(1)のところです。今回注2というのが新たに入っていまして,遺留分権を金銭債権化することによって,一部の規定を逐次改めるというようなことが書かれていますが,例えばどのようなことを想定されているのでしょうか。
  もう1点は,16ページの(2)のところです。これは,亀甲括弧に入っているので,削除する可能性もあるということなのかもしれませんけれども,必要ないようにも思います。置く意味があるとすれば,どのような点で必要なのか教えてください。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,お願いします。
○神吉関係官 御回答させていただきます。
  例えばの話といたしまして,減殺の順序を定める現行法の1033条以下は改める必要があると思いますし,1036条の受贈者による果実の返還というのは,その減殺,物権的効果が生じたことを前提として果実の返還というのもあるかと思いますので,1036条も削除する必要があるかと思います。
  また,減殺という言葉を使っているものについて,それぞれ一つ一つ検討しなければいけないかと思いますので,1042条の減殺の請求権の時効などにつきましても,少し言葉を改める必要があるのかなと思っているところでございます。
  それから,2点目の御質問ですが,3の(2)の規律が要るのかどうかというところですが,遺留分権利者が負担する相続債務を受遺者が弁済することにより求償権を取得し,遺留分侵害額に係る債務との間で相殺をしたような場合については,当然に求償権が消滅をすることになるかと思いますが,(1)の消滅請求権を行使しただけで,当然に求償権が消滅するかどうかは必ずしも明らかではないことから,規律の明確化の観点からすると設けておいたほうがいいのかどうかというところで,規律を置いているということでございます。御指摘のとおり,(1)の消滅請求権を行使することによって当然に求償権も消滅するということであれば不要ということになりますが,今後詰めて検討したいと思います。
○大村部会長 よろしいですか。
  ほか,いかがでしょうか。
○西幹事 申し訳ございません。減殺という言葉を場合によっては変えるというお話が今ありましたが,そこまでのことを今回想定しているのでしょうか。何を言いたいかと申しますと,例えば,フランスなどでも,価額弁償の原則化ということで話が進みましたが,減殺という言葉は一部やはり維持されています,現物については。
  それは,やはり相続分の一部としての遺留分という概念があるために,そのような表現が残っているのだと思います。今回,それらしき言葉を全部抜いていくということになると,完全に相続分から切り離された遺留分という位置付けになるというふうにみなされる可能性があると思うのですが,そこまでのことを,今回の改正で想定しているのか,あるいは,そこまでではないのであるとすれば,表現をそこまで変えていかなくてもいいのではないかなという気がいたしましたので。そこまでの,遺留分の性質を変えるということまで想定されているのでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,そもそも減殺というのはどういう意味かというところにもよるわけですが,贈与ですとか遺贈の効力を一部無効にするという意味だと思うんですけれども,それで,物権的効力が生じるという点を見直すからといって,それで直ちに減殺が使えなくなるとは思わないわけですが,今の案のように現物で返す場合に,遺贈や贈与の対象財産から受遺者側が選べるということになりますと,それは,要するに,遺贈とか贈与の一部を無効にするという取扱いではおよそなくなっているのではないかと。したがって,そういう意味では,減殺という言葉はふさわしくないのではないかと思います。
  ただ,中間試案のときのように,金銭で返すか,現物で返すかという点について,現行法の原則と例外を単に入れ替えるというだけであれば,減殺という言葉を維持することも考えられるのではないかとは思うんですが,今の現物給付の規律からすると,もはや減殺という言葉は使えないのではないかというのが,こちらの整理です。
○西幹事 分かりました,ありがとうございます。
○大村部会長 整理を要する点につきましては,今の言葉遣いも含めて,もう少し御検討いただければと思います。
  そのほかよろしいでしょうか。
  それでは,増田委員御指摘の14ページのイのところについては,更に御検討いただくというにさせていただきたいと思います。
  ほかにもあれば,どうぞ。
○増田委員 すみません。先ほど封印した単純金銭債権化に対する反論なり何なりかは,補足説明には入れていただけるんですか。
○神吉関係官 補足説明において,言及をしてほしいということでしょうか。
○増田委員 いや。補足説明について,単純金銭債権化に対する事務当局の御意見で結構ですから,触れていただけるんでしょうかということです。
○神吉関係官 中間試案の補足説明の際には触れておりましたが,改めて触れてほしいということであれば,検討はさせていただきたいとは思います。
  それから,もう1点確認させていただきたいんですけれども,(3)のイのところですが,増田委員から対案が示されましたけれども,事務当局としても一つの考え方としてあり得るのではないかなとは思っております。こちらの案につきましても,パブコメに付してほしいという,そういった理解でよろしいでしょうか。パブコメにおいては,今の現行の案を示すのか,それとも,対案も含めてお示しをしたほうがいいのか,その辺は,皆様いかがでしょうか。
○増田委員 もちろん,私としては対案も含めて付していただければ有り難いです。
○堂薗幹事 両方並列的な形でということでよろしいでしょうか。期間の点についても,一定期間をどの程度にするのかという点もありますので。
○増田委員 多分,1年というのは決まった話ではないので,一定期間だと思いますけれどもね。
○堂薗幹事 例えば1年というような形ですかね。
○増田委員 例えば1年ですね。並列的でも結構ですし,もちろん,そういう具体的な期間の提言を入れていただければ,大変有り難いことです。
○大村部会長 では,その方向で検討させていただく,具体的な文言については部会長に一任いただきパブリックコメントに付させていただくということでお願いいたします。
  ほかは,よろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,この第4についても御意見を伺ったということにさせていただきたいと存じます。
  これで,本日の「要綱案のたたき台(2)」につきまして御意見を頂きました。
  最後に,直前に話題になりましたが,パブリックコメントの予定等も含めまして,今後の審議の予定につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 本日もどうもありがとうございました。
  それでは,今後の予定でございますが,事務当局といたしましては,この追加試案のパブリックコメントにつきましては,資料の23-3に挙げているものを対象にすることを考えております。
  今後の予定ですけれども,事務当局の責任において作成する補足説明とともに,この追加試案の公表をして,パブリックコメントの手続に付すことになりますが,その期間については,追加試案の公表のために若干時間を要しますので,8月上旬頃から1か月半程度を予定しているところでございます。パブリックコメントの期間中は,部会はお休みにさせていただくということで考えておりますので,次回は,10月17日火曜日の午後1時半からを予定しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  まず,パブリックコメントについてですけれども,本日の資料の23-3,これに本日の議論を踏まえまして所要の修正を加えたものを,パブリックコメントの対象にするということ。そしてこれを踏まえて,10月17日に次回の会議を開くということでございました。以上について,何かございますか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,本日はこれで閉会をさせていただきます。本日も熱心な御審議をいただきまして,ありがとうございました。
  閉会いたします。
-了-

1 中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案 (追加試案) 第2 遺産分割に関する見直し等 1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定) 民法第903条に次の規律を付け加えるものとする。 婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し,その居住の用に 供する建物又はその敷地の全部又は一部を遺贈又は贈与したとき(第1・2の 規律により長期居住権を遺贈又は贈与した場合を含む。)は,民法第903条第 3項の意思表示があったものと推定する。 2 仮払い制度等の創設・要件明確化 ⑴ 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策 家事事件手続法第200条に次の規律を付け加えるものとする。 家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において, 相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺 産に属する預貯金債権を行使する必要があるときは,他の共同相続人の利益 を害しない限り,当該申立てをした者又は相手方の申立てにより,遺産に属 する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができる。 ⑵ 家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策 共同相続された預貯金債権の権利行使について,次のような規律を設ける ものとする。 各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち,その相続開始時の債権 額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額(ただし,預貯金債権の債務 者ごとに100万円を限度とする。)については,単独でその権利を行使す ることができる。〔この場合において,当該権利行使をした預貯金債権につ いては,遺産分割の時において遺産としてなお存在するものとみなす。〕 2 3 一部分割 民法第907条の規律を次のように改めるものする。 ⑴ 共同相続人は,被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議 で,遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 ⑵ 遺産の分割について,共同相続人間に協議が調わないとき,又は協議をす ることができないときは,各共同相続人は,その全部又は一部の分割を家庭 裁判所に請求することができる。ただし,遺産の一部の分割をすることによ り,共同相続人の一人又は数人の利益を害するおそれがあるときは,その請 求をすることができない。 4 相続開始後の共同相続人による財産処分 共同相続人の一人が,遺産の分割が終了するまでの間に,遺産の全部又は一 部を処分した場合の規律として,次のいずれかの規律を設けるものとする。 ⑴ 【甲案】(遺産分割案) 共同相続人の一人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分したときは, 当該処分をした財産については,遺産分割の時において遺産としてなお存在 するものとみなす。 ⑵ 【乙案】(償金請求案) 共同相続人の一人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分したときは, 他の共同相続人は,当該処分をした者に対し,次のアに掲げる額から次のイ に掲げる額を控除した額の償金を請求することができる。 ア 当該処分がなかった場合における民法第903条の規定によって算定 された当該共同相続人の相続分に応じて遺産を取得したものとした場合 の当該遺産の価額 イ 民法第903条の規定によって算定された当該共同相続人の相続分に応 じて遺産を取得したものとした場合の当該遺産の価額 3 第4 遺留分制度に関する見直し 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し ⑴ 遺留分侵害額の請求 民法第1031条の規律を次のように改めるものとする。 遺留分権利者及びその承継人は,〔遺留分権を行使することにより,〕受遺 者(遺産分割方法の指定又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下第4 において同じ。)又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請 求することができる(注1)(注2)。 (注1)この権利の行使により,具体的な金銭請求権が発生する。 (注2)遺留分権の行使により生ずる権利を金銭債権化することに伴い,遺贈や贈与の「減 殺」を前提とした規定を逐次改めるなどの整備が必要となる。 ⑵ 受遺者又は受贈者の負担額 民法第1033条から第1035条までの規律を次のように改めるもの とする。 受遺者又は受贈者は,次のアからウまでの規律に従い,遺贈(遺産分割方 法の指定又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下第4において同 じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限 る。以下同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあ っては,当該相続人の遺留分額を超過した額)を限度として,⑴の請求に係 る債務を負担する。 ア 遺贈と贈与があるときは,受遺者が先に負担する。 イ 遺贈が複数あるとき,又は同時期の贈与があるときは,その目的の価額 の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思表示を したときは,その意思に従う。 ウ 贈与が複数あるときは,後の贈与を受けた者から順次前の贈与を受けた 者が負担する。 ⑶ 受遺者又は受贈者の現物給付 次のとおり,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,受遺者又は受贈者 が現物給付することができる旨の規律を設けるものとする。 ア 受遺者又は受贈者は,遺留分権利者に対し,⑵の規律により負担する債 4 務の全部又は一部の支払に代えて,遺贈又は贈与の目的である財産のうち その指定する財産(以下「指定財産」という。)により給付することを請 求することができる。 イ アの請求は,〔遺留分侵害額の請求に係る訴訟の第一審又は控訴審の口 頭弁論の終結の時までにしなければならない。〕〔⑵の規律により負担する 債務の履行の請求を受けた時から一定期間(例えば1年)内にしなければ ならない。〕 ウ アの請求があった場合には,その請求をした受遺者又は受贈者が負担す る債務は,指定財産の価額の限度において(,その請求があった時に)消 滅し,その指定財産に関する権利が移転する。 エ 遺留分権利者は,アの請求を受けた時から〔1か月〕〔2週間〕以内に, 受遺者又は受贈者に対し,ウの指定財産に関する権利を放棄することがで きる。 オ 遺留分権利者がエの規定による放棄をしたときは,当初からウの指定財 産に関する権利の移転はなかったものとみなす。

1 中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案 (追加試案)の補足説明 目 次 はじめに ……………………………………………………… 2 第2 遺産分割に関する見直し等 ………………………………….. 4 1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)………. 4 2 仮払い制度等の創設・要件明確化 ……………………………. 12 ⑴ 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策 ……………… 12 ⑵ 家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策 …….. 17 3 一部分割 ……………………………………………….. 24 4 相続開始後の共同相続人による財産処分 ………………………. 31 第4 遺留分制度に関する見直し …………………………………. 58 2 はじめに (審議の経緯等) 相続法制については,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度 の創設等の見直しがされて以来,30年以上実質的な見直しはされていない状況 にあるが,我が国においては,その間にも高齢化社会が更に進展し,家族の在り 方に関する国民意識にも変化が見られるところである。このため,これらの社会 情勢等を踏まえ,平成27年2月,法制審議会第174回会議において,法務大 臣により,相続法制の見直しについて諮問がされ(諮問第100号),その調査 審議のため,民法(相続関係)部会(以下「本部会」という。)(部会長・大村敦 志東京大学大学院教授)が設置された。 本部会では,平成27年4月から平成28年6月までの間,概ね1か月に1回 の割合で審議を重ね,平成28年6月21日の第13回会議において,「民法(相 続関係)等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)を取りまとめ, これを事務当局において平成28年7月12日から同年9月末までの間,パブリ ックコメントの手続に付した。 その後,パブリックコメントで寄せられた意見を踏まえ,平成28年10月以 降,本部会における調査審議が再開され,その後も1か月に1回の割合で審議を 重ね,その間,配偶者の相続分の引上げに代わる新たな配偶者保護策(持戻し免 除の意思表示推定規定)や,同年12月19日最高裁大法廷決定(相続された預 貯金債権について遺産分割の対象となる旨を判断)を踏まえた新たな方策も含め て調査審議が行われてきた。中間試案後に提案された新たな方策については,改 めてパブリックコメントの手続に付した上で調査審議を行うのが相当であると され,平成29年7月18日の第23回会議において,「中間試案後に追加され た民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」(以下「追加試案」とい う。)が取りまとめられた。 なお,同会議においては,追加試案の内容を含む「要綱案のたたき台⑵」(部 会資料23-1)が調査審議の対象となっており,追加試案の内容以外の項目に ついては中間試案から大きく変更はないことから,今回のパブリックコメントの 対象とはなっていない。上記のとおり,追加試案は,中間試案後に提案された新 たな方策を対象とするものであり,「要綱案のたたき台⑵」の一部(具体的には, 3 後記「第2 遺産分割に関する見直し等」の全体と,「第4 遺留分制度に関す る見直し」の一部)を抜粋したものである。「要綱案のたたき台⑵」の構成とし ては,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」,「第2 遺産分割に関す る見直し等」,「第3 遺言制度に関する見直し」,「第4 遺留分制度に関する見 直し」,「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」,「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」となっているが,その詳細につい ては,この「要綱案のたたき台⑵」を参照頂きたい。 相続法制は,国民生活一般に深く関わるものであり,本部会では,本年10月 以降,追加試案に対して寄せられた意見等を踏まえ,引き続き審議を行うことが 予定されている。 なお,この追加試案についての補足説明は,これまでの本部会での審議を踏ま え,追加試案の内容の理解に資するため,追加試案の各項目について,その趣旨 等を事務当局である法務省民事局(参事官室)の責任において補足的に説明する 目的で作成したものであり,その文責は法務省民事局(参事官室)にある。この ように,この補足説明は,あくまでも意見募集の対象である追加試案の内容につ いて検討を加える際の参考資料として作成したものであって,それ以上の意味を 持つものではない。 4 第2 遺産分割に関する見直し等 1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定) 【見直しの要点】 婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が,他方配偶者に対し,その居住 用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については,民法第 903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し,遺産分割におい ては,原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要とする(当該居住用不動産 の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができる。)ものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 今回の諮問の趣旨,すなわち高齢化社会の進展等の社会情勢に鑑み,配偶者 の死亡により残された他方配偶者の生活保障の必要性が高まっていることか ら,中間試案においては,配偶者の相続分を一定の条件で引き上げるという考 え方を提示したが,パブリックコメントにおいてはこれに反対する意見が多数 を占めた。 その後の本部会における審議においては,配偶者の相続分の引上げについて 従前から指摘されていた問題点を解消することは困難であるものの,配偶者保 護のための方策を検討するという方向性自体は必要かつ有益であり,配偶者の 相続分の引上げに代わる別の方策を含めて検討すべきであるという指摘が相 次いでされた。また,配偶者の貢献を相続の場面で評価することには限界があ るため,生前贈与や遺贈を促進する方向での検討もされるべきではないかとの 指摘もされたところである。 ところで,現行法上,各相続人の相続分を算定するに当たっては,通常,相 続人に対する贈与の目的財産を相続財産とみなした上で,相続人が贈与又は遺 贈(以下「贈与等」という。)によって取得した財産は特別受益に当たるもの として,当該相続人の相続分の額からその財産の価額を控除することとされて いる(民法第903条第1項)(注1)。このような計算(持戻し計算)を行っ た場合には,いわゆる超過特別受益が存在する場合を除き,結局は贈与等があ っても,配偶者の最終的な取得額は贈与等がなかった場合と比べても変わらな いことになるが,被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示をした場合には, 5 特別受益の持戻し計算をする必要はなくなる結果,贈与等を受けた配偶者は, より多くの財産を最終的に取得することができることとなる(民法第903条 第3項)(注2)。 現行法上,配偶者に対する贈与に対して特別な配慮をしているものとして相 続税法上の贈与税の特例という制度があるところ,これは,居住用不動産は通 常夫婦の協力によって形成された場合が多く,夫婦の一方が他方にこれを贈与 する場合にも,一般に贈与という認識が薄いこと,居住用不動産の贈与は配偶 者の老後の生活保障を意図してされる場合が多いことなどを考慮して設けら れたものであると説明されている(注3)。この制度は,配偶者の死亡により 残された他方配偶者の生活について配慮するものともいえるが,民法上も,配 偶者に対して行われた一定の贈与等について,贈与税の特例と同様の観点から 一定の措置を講ずることは,贈与税の特例とあいまって配偶者の生活保障をよ り厚くするものといえ,今回の諮問の趣旨に沿うものと考えられる。 また,婚姻期間が20年を超える夫婦の一方が他方に対して居住用不動産を 贈与等する場合には,通常それまでの貢献に報いるとともに,老後の生活保障 を厚くする趣旨で行われるものと考えられ,遺産分割における配偶者の相続分 を算定するに当たり,その価額を控除してこれを減少させる意図は有していな い場合が多いものと考えられる。したがって,上記のような推定規定を設ける ことは,一般的な被相続人の意思にも合致するものと考えられる(注4)。 そこで,追加試案では,配偶者保護の方策の一環として,婚姻期間が20年 以上の夫婦の一方配偶者が,他方配偶者に対し,居住用不動産等を贈与等した 場合には,民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定 する旨の規律を掲げることとしたものである。 (注1)持戻し計算の具体例 【事例】相続人 配偶者Xと子ども2人(Y,Z) 遺産 居住用不動産持分1 2 3000万円(評価額) その他の不動産 3000万円(評価額) 預貯金 3000万円 Xに対する贈与 居住用不動産持分1 2 3000万円(評価額) 6 【検討】 被相続人死亡時点においては,遺産は9000万円分しかないが,贈与された不動産が持 戻し計算されるとなると,Xの遺産分割における相続分は, (9000万+3000万)×1 2 ―3000万=3000万円 となり,Xの最終的な取得額は, 3000万+3000万=6000万円分 となり,結局,贈与があった場合とそうでなかった場合とで,最終的な取得額に差異がない こととなる。 (注2)持戻し免除の具体例 前記(注1)の事例において,前記贈与について持戻し免除の意思表示が認められた場合, Xの遺産分割における取得額は, 9000万×1 2 =4500万円分 となり,Xの最終的な取得額は, 4500万+3000万=7500万円分 となり,贈与がなかった場合と比べ,より多くの財産を最終的に取得することができることと なる。 (注3)贈与税の特例について 贈与税の特例として,婚姻期間が20年以上の夫婦の間で,居住用不動産又は居住用不動 産を取得するための金銭の贈与が行われた場合,基礎控除(110万円)のほかに最高20 00万円まで控除(配偶者控除)ができるという特例が設けられており(相続税法第21条 の6),その立法趣旨としては,①夫婦の財産は夫婦の協力によって形成されたものであると の考え方から夫婦間においては一般に贈与という認識が薄いこと,②配偶者の老後の生活保 障を意図して贈与される場合が多いことなどを考慮し(税大講本・相続税法),一生に一度に 限り,その取得した居住用財産の課税価格から2000万円を限度として控除することを登 記事項証明書等の提出を要件として認めることとしたなどと説明されている。 なお,この贈与税の特例については,平成27年は1万3959件,平成26年は1万6 660件,平成25年は1万5474件,平成24年は1万3538件の適用件数があった (国税庁統計年報書による。)。 7 (注4)現行法の下でも,本方策の要件に該当する事案では,黙示の持戻し免除の意思表示が認 められることになるケースが多いものと思われる。 公刊物に掲載されている裁判例は多くないが,居住用不動産の持分を配偶者に生前贈与し たものについて,「長年にわたる妻としての貢献に報い,その老後の生活の安定を図るために したものと認められる。そして,(中略)他に老後の生活を支えるに足る資産も住居もないこ とが認められるから,右の贈与については,暗黙のうちに持戻し免除の意思表示をしたもの と解するのが相当である」と判示した事例がある(東京高決平成8年8月26日家月49巻 4号52頁)。 2 見直しの趣旨及び内容 本方策は,①婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が,他方配偶者 に対し,②その居住の用に供する建物又はその敷地の全部又は一部(居住用不 動産)を目的とする贈与等をした場合には,③民法第903条第3項の持戻し の免除の意思表示があったものと推定し,遺産分割において当該居住用不動産 の持戻し計算を不要とする(当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わず に計算をすることができる。)ものである。以下,各要件について説明を加え る。 まず,①本方策においては,婚姻期間が20年以上の夫婦という限定を設け ている。長期間婚姻関係にある夫婦については,通常,一方配偶者が行った財 産形成における他方配偶者の貢献・協力の度合いが高いものと考えられ,その ような状況にある夫婦が行った贈与等については,類型的に,当該配偶者の老 後の生活保障を考慮して行われる場合が多いといえ,民法上も特段の配慮をす る必要があるといえる。 次に,②本方策においては,贈与等の対象物を居住用不動産に限定している。 贈与税の特例における立法趣旨を踏まえると,居住用不動産の贈与等について は,類型的に,相手方配偶者の老後の生活保障を考慮して行われる場合が多い といえ,民法上も特段の配慮をする必要があるといえる。なお,相手方配偶者 の老後の生活保障を考慮して行われる贈与等の対象については,居住用不動産 に限らないとは思われるが,居住用不動産については老後の生活保障という観 8 点で特に重要なものであること(なお,成年被後見人の居住用不動産を成年後 見人が処分する際には家庭裁判所の許可を要するものとされている(民法第8 59条の3)など,既に民法においても居住用不動産については生活保障の観 点から特に重要な財産であるという位置付けをしている。),その他の財産も含 めるとすると,配偶者以外の相続人に与える影響も大きいこと等を考慮して, 本方策では居住用不動産に限定することとしている(注1)(注2)(注3)。 また,本方策は,贈与のみならず,遺贈により居住用不動産の譲渡が行われ た場合も対象としている。贈与税の特例は,居住用不動産の生前贈与を対象と したものであるが,居住用不動産の遺贈についても,高齢配偶者の生活保障の 観点からされる場合が多いものと考えられ,上記の趣旨が同様に当てはまるも のと考えられる(注4)。なお,婚姻期間が20年以上の夫婦間で,長期居住 権が遺贈又は死因贈与された場合についても,上記の趣旨は当てはまるものと 考えられることから,本方策の対象としている。 最後に,③本方策は,居住用不動産の贈与等が行われた場合には,民法第9 03条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し,遺産分割にお いては,当該居住用不動産の持戻し計算を不要とする(当該居住用不動産の価 額を特別受益として扱わずに計算をすることができる。)こととしている(注 5)。したがって,被相続人が異なる意思を表示している場合(意思表示が黙 示にされた場合を含む。)には,本方策は適用されないこととなる。 (注1)居宅兼店舗について贈与等があった場合について 居宅兼店舗である建物について贈与がされた場合について,本方策の規律の適用があるの か,問題となる。 この点について,少なくとも居住用部分は本方策の規律の適用があると考えるのが相当で あるといえるが,その余(店舗等)の部分についてまで本方策の規律の適用があるといえる か,居住用部分については本方策の規律の適用があることを前提に,その余の部分について も事実上の推定が働くと考えるか,それとも,その余の部分については別途独立に持戻し免 除の意思表示を検討することになるのかといった点は,当該不動産の構造や形態,さらには 被相続人の遺言の趣旨等によっても判断が異なり得るものと考えられる。 なお,贈与税の特例については,居住用部分から優先的に贈与を受けたものとして配偶者 9 控除を適用して申告することができ,また,居住用部分がおおむね90パーセント以上の場 合は全て居住用不動産として扱うことができることとされている(国税庁タックスアンサー No.4455)。 (注2)居住用要件の基準時について 本方策においては,贈与等の対象物を居住用不動産に限定しているが,いつの時点で居 住の用に供している必要があることとすべきか,その要件設定の仕方が問題となる。本方 策は,贈与等の時点で居住の用に供していれば足りることとしているが,このような考え 方を採用すると転居を繰り返すことによって,複数の不動産が本方策の対象となり得るこ とから,相続開始時に居住の用に供していることを要件とすべきとも考えられる。 この点について,本方策は,贈与等を行った被相続人の持戻し免除の意思を推定する規 定であるところ,贈与等を行った後に,被相続人が自己の意思を発現する何らかの行為を することが一般に想定されるのであれば,その時点をとらえて被相続人の意思を推定する ことも可能であろうが,一般に,贈与等を行った被相続人がその後死亡するまでの間に当 該贈与等について何らかの意思表示をするとは考えにくいことからすると,居住用要件の 判断の基準時は,贈与等をした時点を基準時とすべきであると考えられる(なお,贈与等 の時点で居住の用に供していなかったとしても,贈与等の時点で近い将来居住の用に供す る目的で贈与等した場合についても,本方策による推定が及ぶとの解釈をすることができ るものと考えられる(民法第859条の3の解釈についても,現に居住の用に供していな くても,居住の用に供する予定があれば足りると解されている。)。)。 確かに,贈与等の時を基準時とすると,転居を繰り返すことによって,複数の不動産が 本方策の対象となり得る。もっとも,本方策は,あくまでも被相続人の意思の推定規定で あり,被相続人が持戻しの免除をしないという意思表示をしている場合には,本方策は適 用されないところ,一般に,一度居住用不動産の贈与をした者が,転居をし,その後また 居住用不動産の贈与をした場合には,先の贈与については相手方配偶者の老後の生活保障 のために与えたという趣旨は撤回されたものと考えられ,明示又は黙示に持戻し免除をし ないという意思が認められる場合も多いのではないかとも考えられる。なお,贈与税の特 例については,同一の当事者の間では,一生に1回しか用いることができず,頻繁に居住 用不動産の贈与が行われるということは通常想定し難いといえる(下記表のとおり比較的 高い税率が課されることとなる。)。 10 (注3)世帯構造別に見た住宅の所有権の関係別割合について 高齢者のいる主世帯について,世帯構造別に住宅の所有関係を見てみると(下記図表(平 成28年厚生労働白書からの抜粋)参照),高齢者のいる夫婦のみの主世帯や高齢者のいる その他の主世帯では,9割近くが持ち家を有しており,本方策の対象を居住用不動産に限定 したとしても,大多数の高齢者が本方策を用いることができるように思われる。 (注4)相続させる旨の遺言との関係について いわゆる相続させる旨の遺言があった場合に,本方策の規律を適用又は類推適用すること ができるか,相続させる旨の遺言については,一般に遺産分割方法の指定であると解されて いるので(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁),問題となる。相続させる旨 の遺言がされた場合に持戻しの免除をすることができるかは,現行法においても問題となり 11 得るところ,この点について明確に言及した判例は見当たらない。相続させる旨の遺言が遺 産分割方法の指定であると解される場合についても,遺贈と実質的に大きな差異はないこと からすると,贈与等がされた場合と同様の持戻し計算を行うという考え方もあり得るように 思われる。また,相続させる旨の遺言についても,上記最判も,「遺言書の記載から,その 趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,・・・ 遺産分割方法の指定がされたと解すべき」と判示しているのであり,本方策の存在を根拠と して,「遺贈と解すべき特段の事情」があると考えることもできるように思われる。 これらの考え方を前提とすれば,居住用不動産を相続させる旨の遺言がされた場合につ いても,本方策の趣旨が同様に当てはまるとして,本方策の規律を適用又は類推適用する ことができるものと考えられる。 (注5)遺贈における持戻し免除の意思表示について 遺贈に係る持戻しの免除の意思表示については遺言の中で行わなければならないと解す る立場が有力であるところ(遺言必要説),本方策のような考え方を採用すると,居住用不 動産の遺贈が行われた場合に,当該遺贈に係る持戻し免除の意思表示を遺言で行っていない ことになり遺言必要説と矛盾するのではないか,また,遺言必要説を前提としたとしても, 被相続人の持戻し計算をするという意思表示(本方策の規律により法律上推定される持戻し 免除の意思表示を排除する旨の意思表示)は遺言による必要がないのか,問題となり得る。 この点,民法第999条や第1001条が,一定の場合に,遺贈に係る遺言者の意思を推 定する規定を設けていることからすると,仮に,遺言必要説を採用したとしても,法律上, 遺言者の意思を推定する規定を設けることは現行民法も許容していると考えられる。 また,民法第999条等の解釈において,遺言者の別段の意思表示があるときはそれに従 うべきであるとの解釈がされ,反証が認められていることからすると,遺言必要説を採用し たとしても,持戻し免除の意思表示の推定を覆すためには,必ずしも遺言による必要はない とも考えられる。 12 2 仮払い制度等の創設・要件明確化 ⑴ 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策 【見直しの要点】 預貯金債権の仮分割の仮処分については,家事事件手続法第200条第2項の 要件を緩和することとし,家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てが あった場合において,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その 他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があるときは,他の共同 相続人の利益を害しない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の 全部又は一部を仮に取得させることができるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 平成28年12月19日最高裁大法廷決定(民集70巻8号2121頁。以 下「本決定」という。)は,従前の判例を変更し,預貯金債権が遺産分割の対 象に含まれるとの判断を示した。預貯金債権については,本決定前は,相続開 始と同時に当然に各共同相続人に分割され,各共同相続人は分割により自己に 帰属した債権を単独で行使することができるものと解されていたが,本決定後 は,遺産分割までの間は,共同相続人全員が共同して行使しなければならない こととなった。これにより,本決定の共同補足意見(大谷剛彦裁判官,小貫芳 信裁判官,山﨑敏充裁判官,小池裕裁判官,木澤克之裁判官によるもの。以下 「共同補足意見」という。)においても指摘されているとおり,共同相続人に おいて被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは,被相続 人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるな どの事情により被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要が あるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合に払い 戻すことができないという不都合が生ずるおそれがあることとなった。 現行法の下では,共同補足意見でも指摘されているとおり,家事事件手続法 (以下,この項目において「法」ということがある。)第200条第2項の仮 分割の仮処分を活用することが考えられ,これにより,共同相続人間の実質的 な公平を確保しつつ,個別的な権利行使の必要性に対応することができるもの と思われるが,同項は共同相続人の「急迫の危険を防止」する必要がある場合 13 に仮処分ができるとしており,その文言上,厳格な要件を課していることから すると,立法により,預貯金債権の仮分割に限り,一定の要件の下で,同項の 要件を緩和することが考えられる。 2 見直しの内容 そこで,本方策では,家庭裁判所が,①遺産の分割の審判又は調停の申立て があった場合において,②相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支 弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があるときは, ③他の共同相続人の利益を害しない限り,④相続人の申立てにより,⑤遺産に 属する特定の預貯金債権の全部又は一部を申立人に仮に取得させることがで きるものとしている。仮分割の仮処分の必要性があり,また,他の共同相続人 の利益を害しないと裁判所が判断した場合には,預貯金債権の仮分割に限り, 法第200条第2項の要件を緩和することとするものである。以下,各要件に ついて説明を加える。 まず,①本方策では,他の家事事件の保全処分と同様に,本方策に係る仮分 割の仮処分を申し立てるに当たっては,遺産分割の調停又は審判の本案が家庭 裁判所に係属していることを要するという,いわゆる本案係属要件を要求して いる(注1)。 次に,②本方策による仮分割の仮処分は,相続財産に属する債務の弁済,相 続人の生活費の支弁など家庭裁判所が遺産に属する預貯金債権を行使する必 要があると認める場合に許容される。必要性の判断については,家庭裁判所の 裁量に委ねる趣旨である(注2)。 また,③本方策による仮分割の仮処分は,他の共同相続人の利益を害しない 限り認められることとしている。具体的な審査の内容については,個別具体的 な事件を担当する裁判官の判断に委ねられるものの,㋐原則として,遺産の総 額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内(相手方から特別受益の主張があ る場合には具体的相続分の範囲内)で仮払いを認める,㋑被相続人の債務の弁 済を行う場合など事後的な精算も含めると相続人間の公平が担保され得る場 合には,㋐の額を超えた仮払いを認めることもあり得る(注3),㋒㋐の額の 範囲内での仮払いを認めるのも相当でなく,当該預貯金債権の額に申立人の法 定相続分を乗じた額の範囲内に限定するのが相当な場合(例えば,預貯金債権 14 のほかには,一応の資産価値はあるが市場流通性の低い財産が大半を占めてい る場合。このような場合には,他の共同相続人も預貯金債権の取得を希望する ことが多いと思われる。)にはその部分に限定することもあり得る,といった 解釈論を許容することを想定している。 また,④本方策による仮分割の仮処分は,遺産分割の調停又は審判の申立て をした申立人又は相手方(共同相続人の一人又は数人)の申立てによることと している。法第200条第2項の仮処分と同様の規律である。 最後に,⑤本方策は,一定の要件の下で,家庭裁判所が,預貯金債権の仮分 割の仮処分をすることができることとしている。仮分割がされた場合における 本案における遺産分割(以下「本分割」という。)については,民事事件にお ける保全と本案訴訟との関係と同様に解することができるものと考えられ(最 判昭和54年4月17日民集33巻3号366頁参照),原則として,仮分割 により申立人に預貯金の一部が給付されたとしても,本分割においてはそれを 考慮すべきではなく,改めて仮分割された預貯金債権を含めて遺産分割の調停 又は審判をすべきものと考えられる(注4)(注5)。 (注1)本案係属要件の要否について 本部会においては,本方策による仮分割の仮処分については本案係属要件を要求しないとい う考え方についても検討を行った。その結果,この考え方を積極的に支持する意見はなかった 一方で,仮に本案係属要件を外す場合には,遺産分割事件の保全処分一般を検討の対象にせざ るを得ず,そうすると,家事事件手続法上の他の手続との平仄を慎重に検討をする必要がある が,財産分与や婚姻費用の分担等との違いを説明することは困難ではないかとの指摘がされた。 追加試案では,これらの指摘に加え,遺産分割の調停の申立て自体は簡易かつ廉価ででき(書 式は家庭裁判所のホームページに掲載されており,申立費用も1200円と低額である。),ま た,提出すべき添付書類という観点でみても審判前の保全処分と本案とでさほど差異はなく, 本案係属要件を要求したとしても当事者に過大な負担を課すわけではないと考えられること 等を考慮し,本方策により仮分割の仮処分についても本案係属要件を維持することとしている。 (注2)仮払いの必要性について 本部会においては,本方策の規律とは異なり,仮払いの必要性が認められる場合を限定列挙 15 することも検討されたが,仮払いの必要性が認められるとされる費目を過不足なく列挙するこ とは相当困難であることから,このような考え方は採用されなかった。本方策は,裁判所の判 断を経た仮払いであり,仮払いを認めるか否かの審査の中で,申立人が主張する資金需要が適 切なものか否かの審査も行うことができ,また,現に法第200条第2項の仮払いにおいても 保全の必要性の審査の中で同様の判断をしているものと考えられることから,必ずしも費目を 限定列挙する必要はないものと考えられる。 (注3)法定相続分を前提とした取得額を超える仮払いについて 「他の共同相続人の利益を害しない」という要件の審査においては,本文にもあるとおり, 基本的には,仮払いによる申立人の取得額が,遺産の総額にその法定相続分を乗じた額の範囲 内に入っているかどうかを審査すれば足りるように思われるが,被相続人の債務の弁済のよう に後々の相続人間の求償において処理できる場合には,上記範囲を超えた仮払いを認める余地 もあるように思われる。 例えば,相続人がA,B,Cの3名(法定相続分は各1 3 )で,積極財産が600万円(預金), 弁済期が到来した相続債務が240万円あったとすると,Aの積極財産における取り分は2 00万円であるが,Aの申立てにより,預金のうち240万円をAに仮分割することも,場 合によっては許容され得るものと思われる。なお,上記の場合の本分割のあり方については, 最終的な精算も見据えて本分割において代償金の支払を命ずる方法(【案1】)と,積極財産 を法定相続分で割り付け,代償金による精算が生じないようにする方法(【案2】があり得る が,事案に応じていずれの処理も許容され得るものと思われる。 【案1】 ① 本分割において 「Aに,預金債権(600万円)のうち360万円を取得させる (実際は,仮分割の分を除き,120万円を取得させる。), Bに,預金債権のうち120万円を取得させる, Cに,預金債権のうち120万円を取得させる, Aは,代償金として,Bに対して80万円を支払え, Aは,代償金として,Cに対して80万円を支払え。」 との遺産分割審判を行い, 16 ② AがBの債務を第三者弁済したことによって取得した求償債権(80万円)をもっ て,BがAに対して本分割により取得した代償金債権と相殺することで(AC間も同 じ),精算処理を行うことができる。 【案2】 ① 本分割において, 「Aは,預金債権のうち200万円を取得する (実際は,仮分割で240万円もらっているので,本分割では0円) Bは,預金債権のうち200万円を取得する(実際は180万円しかもらえない) Cは,預金債権のうち200万円を取得する(実際は180万円しかもらえない)」 との遺産分割審判を行い, ② 本分割の結果,Aに対する過払い分(40万円)については,B及びCが各20万円 の不当利得返還請求権を有している,また,Aは,B及びCに対して各80万円の求償 債権を有していると整理することができるので,結局,Aが,B及びCに対して,相殺 の上,各60万円の求償債権の行使をすることができる。 (注4)仮分割と本分割との関係について 例えば,相続人がA,B,Cの3名(法定相続分は各1 3 )で,相続財産が預金200万円, 甲不動産(200万円分),乙不動産(200万円分)あり,Aの生活費のために上記預金債 権200万円を仮払いする旨の仮分割をした場合であっても,本分割においては,下記のとお り,上記預金債権も含めて改めて分割する旨の審判をすることになるものと思われる。 「 被相続人の遺産を次のとおり分割する。 1 Aに,預金債権(200万円)を取得させる。 2 Bに,甲不動産を取得させる。 3 Cに,乙不動産を取得させる。」 (注5)仮分割による支払と預貯金債権の債務者(金融機関)との関係 仮分割により,特定の相続人が預貯金債権を取得し,その債務者から支払を受けた場合,債 務者との関係では有効な弁済として扱われ,本分割において異なる判断が示されたとしても, 債務者が行った弁済の有効性が事後的に問題となる余地はないものと考えられる。 17 ⑵ 家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策 【見直しの要点】 各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち,以下の計算式で求められる額 (ただし,同一の金融機関に対する権利行使は,100万円を限度とする。)につい ては,他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるものとす る。 (計算式) (相続開始時の預貯金債権の額(口座基準))×20パーセント×(当該払戻しを 求める共同相続人の法定相続分)=単独で払戻しをすることができる額 【説明】 1 見直しの必要性 「⑴」の方策は,家事事件手続法第200条第2項の要件を緩和し,一定の要 件の下で預貯金債権の仮払いを認めるものであるが,保全処分の要件を緩和した としても,相続開始後に資金需要が生じた場合に,裁判所に保全処分の申立てを しなければ単独での払戻しが一切認められないことになれば,相続人にとっては 大きな負担になるとも考えられる。中間試案に対するパブリックコメントの結果 においても,仮に相続開始後遺産分割終了までの間,可分債権の行使が原則とし て禁止されるのであれば,一定の上限を設けた上で,裁判所の判断を経ることな く,金融機関の窓口において預貯金の払戻しを受けることができる制度を設ける べきであるとの意見が多数寄せられた。 そこで,各共同相続人が,裁判所の判断を経ることなく金融機関の窓口におい て,遺産に含まれる預貯金債権を行使することができることとする制度について, 検討する必要があるものと考えられる。 2 見直しの内容 「⑵前段」では,各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち,その相続 開始時の債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額(ただし,預貯金債 権の債務者ごとに100万円を限度とする。)については,単独でその権利を行 使することができることとしている。 本決定によれば,共同相続された預貯金債権は,遺産分割の対象とされ,相続 人単独では払戻しが認められないこととなるが,通常他の共同相続人の利益を害 18 することがないと認められる限度では,単独での権利行使を認め,小口の資金需 要に対応できるようにするのが国民の利便に資すると考えられることから,預貯 金債権のうち一定割合(金額による上限あり)については,相続人単独での権利 行使をすることができるようにするものである。 なお,本決定の趣旨,すなわち,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,具 体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対 象とすることに対する要請も広く存在することなどを踏まえ,従前の判例を変更 し,預貯金債権については当然分割がされず,遺産分割の対象とすると判断され たことなどを踏まえると,立法により,預貯金債権の一部について単独で権利行 使をすることができることにするとしても,自ずとその範囲は限定的に解する必 要があり(注1),本方策では,その範囲を,各預貯金債権の額の2割に払戻し を求める共同相続人の法定相続分を乗じた額を単独で権利行使できる額として いる(注2)。 また,本方策では,金額による上限を設けており,金融機関ごとに100万円 を上限とし,同一の金融機関に複数の口座がある場合には,合算して100万円 を限度とすることとしている。まず,金額による上限を設ける趣旨については, ①裁判所の個別的判断を経ないでも定型的に預貯金の払戻しの必要性が認めら れる額に限定すべきであると考えられること,②上限額を設けないと,具体的相 続分を超過した支払が行われた場合にその超過額が大きくなって,他の共同相続 人の利益を害する程度が大きくなり(注3),本決定の趣旨を没却するおそれが あることが挙げられる。また,上限額を設ける場合には,㋐預貯金債権ごとに定 めるという考え方(複数の口座があればその分上限額が増えることになる。),㋑ 金融機関ごとに定めるという考え方(同一の金融機関に複数の口座があっても上 限額は変わらないが,複数の金融機関に口座がある場合はその分上限額が増える ことになる。),㋒被相続人が有している預貯金債権全体を基準に定めるという考 え方(複数の金融機関に口座があったとしても上限額は変わらないことになる。) があり得るが,本部会では,上記①の要請と簡易かつ迅速にごく一部の預貯金の 払戻しを受けられるようにするという要請の両者を満たすものとしては,㋑の考 え方を採用するのが相当であるとされたことから,本方策では,同一の金融機関 19 に複数の口座がある場合には,合算して100万円を限度とすることとしている (注4)(注5)。 なお,「⑵後段」では,「⑵前段」の権利行使がされた場合には,当該権利行使 がされた預貯金債権については,遺産分割の時において遺産としてなお存在する ものとみなし,精算義務を課すこととしている。したがって,当該権利行使がさ れた預貯金債権については,仮分割の仮処分が行われた場合と同様の扱いとなり, 当該権利行使をした相続人の具体的相続分を超える預貯金の払戻しがされた場 合には,本案の審判において,一般には代償金債務(注6)を発生させることに よりその精算を行うことになるものと考えられる(注7)。 このような精算義務の規律を設ける必要性と許容性についても検討を加える と,まず,必要性については,このような規定を設けることにより,預貯金債権 全体について遺産分割の対象とすることができ,相続人間の公平を担保できると ともに,本決定が預貯金債権を遺産分割の対象とすると判断した趣旨を徹底する ことができる。次に,許容性については,本来は共同相続された預貯金債権は遺 産分割の対象財産となっており,各共同相続人の単独での権利行使は認められな いところ,その例外として,相続人の小口の資金需要に対応できるよう預貯金債 権の一部について単独での権利行使を認めることとしたものであり,専ら権利行 使をする相続人のための規定であるから,そのような権利行使をした者に遺産分 割において精算の義務を課したとしても,当該相続人に特段過大な負担を課すと か,不利益を課すことにはならないものと考えられる。現行法の下でも,本来は 遺産分割の対象ではないものについても,当事者の合意がある場合には遺産分割 の対象に含めることができることとされている(最判昭和54年2月22日家月 32巻1号149頁(遺産から逸出した財産の代償財産も当事者の同意があれば 遺産分割の対象となる旨を判断)参照)ところ,本方策は上記のとおり専ら権利 行使をする相続人のための規定であり,その者に同意の義務を課す(又は同意し たものとみなす)ことが許容されるのは前述のとおりであり,かつ,他の共同相 続人にとっても当該権利行使をした財産も含めて遺産分割の対象とした方がよ り多くの財産を取得することができるようになることから,当事者全員の同意が あった場合に準じて,「遺産分割の時において遺産としてなお存在するものとみ なす」ことも十分に可能であるものと考えられる。 20 (注1)適切な割合設定の必要性について 下記の事例からも明らかなとおり,預貯金債権の単独権利行使を認めるとしても,適切な割 合設定が必要になるものと考えられる。 【事例】 相続人A,Bの2名(法定相続分各1 2 ) 相続財産 1000万円(預金)のみ Aに対する特別受益(生前贈与) 800万円 Aが,相続開始後,本規律によって預貯金債権の一部の支払を求めたものとする。 ⑴ 預金全てが遺産分割の対象と考えた場合 Aの具体的相続分 (1000万+800万)×1 2 ―800万=100万円 Bの具体的相続分 (1000万+800万)×1 2 =900万円 ⑵ 単独権利行使できる割合を5割(上限額なし)と設定した場合 Aは,本規律により250万円の弁済を受けることができる。 Aは,(具体的相続分を超過する)1050万円を取得する一方で,Bは,750万円 しか得られないこととなる(精算の仕組を設けたとしてもAが無資力であれば回収できな い。)。 ⑶ 単独権利行使できる割合を1割(上限額なし)と設定した場合 Aは,本規律により50万円の弁済を受けることができ,具体的相続分を超過した利得 を得るということにはならない。 一方,Aは,50万円しか得られないので,その資金需要に十分対応できるかどうか問 題が生じることとなる。 (注2)権利行使ができる預貯金債権の割合・額について 権利行使ができる預貯金債権の割合・額については,個々の預貯金債権ごとに判断されるこ とになる。 例えば,遺産のうち,A銀行の普通預金に300万円,A銀行の定期預金に400万円あっ た場合には,本方策によって法定相続分が1 2 である相続人が単独で権利行使できるのは,普通 預金のうちの30万円,定期預金のうちの40万円となり,普通預金30万円,定期預金40 万円の払戻しを受けることはできるが,普通預金70万円,定期預金0円,という払戻しは認 21 められないこととなる。 (注3)金額による上限額を設ける必要性について 以下の事例からも明らかなとおり,他の共同相続人の利益を害しないよう,適切な金額によ る上限額を定める必要があると考えられる。 【事例】 相続人A,Bの2名(法定相続分各1 2 ) 相続財産 6000万円(預金)のみ Aに対する特別受益(生前贈与) 6000万円 Aが,相続開始後,本方策によって預貯金債権の一部の支払を求めたものとする。 ⑴ 預金全てが遺産分割の対象と考えた場合 Aの具体的相続分 (6000万+6000万)×1 2 ―6000万=0円 Bの具体的相続分 (6000万+6000万)×1 2 =6000万円 ⑵ 上限額(100万円)を設けた場合 Aは,本方策により100万円の弁済を受けることができる。 精算の仕組を設けたとしても,Aが無資力であれば,Bは100万円の損失を被ること になる。 ⑶ 上限額を設けない場合 Aは,本方策により600万円の弁済を受けることができる。 精算の仕組を設けたとしても,Aが無資力であれば,Bは600万円の損失を被ること になり,上限額を設けないと Bが被る可能性のある損失が大きくなる という問題がある。 (注4)㋒の考え方(全預貯金債権を対象とするという考え方)について ㋒の考え方を採用した場合には,金融機関の確認義務をどう規定するのか問題となる。この 点について,上限額を超えた分の金融機関の支払を有効として扱うためには,当該支払を準占 有者に対する弁済(民法第478条)として扱うことが考えられるところ,申請者が一定の書 面の提出や申出をした場合(例えば,これまで他の金融機関から払戻しを受けていたか否か, また,受けている場合はその額を申告させる。)には当該申告の内容を信じて支払を行ったと しても,民法第478条の「過失」はないものとみなすということが考えられる。しかしなが ら,このような考え方に対しては,他の共同相続人から上限額を超える払戻しが既にされてい 22 る旨の通知があった場合には「悪意」となるのではないか,また,仮に悪意にならないとして も,そのような場合にまで金融機関の調査義務を否定することは困難ではないかといった疑問 が生じることは否定できない。また,約束手形の善意支払の規律(手形法第40条第3項,第 77条第1項第3号)と同様に,悪意又は重大な過失がない限り免責されるとし,悪意の内容 を無権利者であることを知っているのみならず,無権利者であることを容易にして確実に立証 できる証拠を有している場合であるとすることも考えられなくはない。しかしながら,手形債 務者は,自らの挙証責任の負担(裏書の連続ある手形所持人は適法な権利者と推定されるから, その者の無権利は,常に債務者の方で立証することを要する。)の下で,支払を強制される地 位にあるところ,十分な立証手段を持たずに単に無権利を知っているだけで支払拒絶しなけれ ばならないとすると,債務者は勝訴の見込みがない訴訟に引き込まれる危険を真の権利者のた めに負わなければならず,支払をする者にとって酷であり,さらに手形取引の円滑を害するこ とから,上記の善意支払の規律が設けられていると説明されているところ,預貯金債権の一部 払戻し請求を受けた金融機関には必ずしも同様の説明は当てはまらない(適法な払戻し請求で あることを立証する責任は,払戻しを求める者が負うものと考えられる。)ことから,上記の 善意支払と同様の規律を設けることにも問題があるといえる。 以上検討してきたとおり,㋒の考え方を採用した場合には,金融機関に一定の調査義務を課 すことにつながるが,そうすると裁判所の判断を経ることなく,簡易かつ迅速にごく一部の預 貯金の払戻しを受けることを阻害しかねないものと考えられる。 このため,追加試案では,㋑の考え方を採用することとしたものである。 (注5)一人当たりの保有資産・保有口座数について 60歳以上69歳以下の高齢世帯の平均貯蓄金額は2312万円であり,70歳以上の高齢 世帯の平均貯蓄金額は2446万円(総務省「家計調査(2人以上の世帯)」平成28年)で あり,また,我が国の金融機関における平均口座保有数は約3.5個である(株式会社日本統 計センター「金融機関の利用に関する調査」平成23年)という統計データがある。これらの データを単純に組み合わせると,60歳以上の高齢世帯の配偶者は,本方策により約230万 円の払戻しを受けることができ,一般的な葬儀費用(約189万円「葬儀についてのアンケー ト調査」(第10回,平成25年)(財団法人日本消費者協会)。なお,経済産業省による「特 定サービス産業実態調査」(平成21年)によれば,葬祭業者における葬儀1件当たりの売上 高は約125万円という統計データもある。)をまかなうことができるものと思われる。 23 (注6)精算についての考え方 例えば,以下の事例においては,下記のような結論になるものと思われる。 【事例】 相続人A,B2名(法定相続分は各1 2 ) 積極財産 1000万円(預金)のみ Aに対する特別受益 1000万円(生前贈与) Aが,本方策の規律により,上記預金から50万円の弁済を受けたものとする。 【結論】 遺産分割の対象財産 950万+50万=1000万円 Aの具体的相続分 (1000万+1000万)×1 2 ―1000万=0 Bの具体的相続分 (1000万+1000万)×1 2 =1000万 しかし,実際には950万円しかないので,Bは,預金債権950万とAに対する代償金 50万を取得することとすると,審判においては,下記のような主文になると思われる。 「Bに,預金債権(950万円)を取得させる。 Aに,(既に支払を受けた)預金債権(50万円)を取得させる。 Aは,(代償金として)Bに対して50万円を支払え。」 (注7)なお,「⑵後段」の規律に亀甲が付されている意味については,本補足説明43頁(注 4)を参照されたい。 24 3 一部分割 【見直しの要点】 ⑴ 共同相続人が,遺産の一部について,協議により分割することができること を明文化するものとする。 ⑵ ⑴の協議が調わないとき,又は協議することができないときは,各共同相続 人は,他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合を除き,家庭裁判所に, 遺産の一部について分割をするよう請求することができるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 一部分割については,中間試案においても,遺産の範囲について相続人間で 争いがあり,その確定を待っていてはその余の財産の分割が著しく遅延するお それがあるなど,遺産の一部について先に分割をする必要がある場合において, 相当と認めるときは,家庭裁判所は遺産の一部についてのみ分割をする旨の審 判をすることができるという提案(以下「従前の案」という。)をしていたと ころ,従前の案については,一部分割をされた後の残部については分割しない 旨の審判をする(却下の審判をする)ことを想定したものであった。しかしな がら,従前の案については,本部会で検討を行ったところ,預貯金債権以外の 可分債権一般について,これを遺産分割の対象に含めることとしないのであれ ば,この方策を採用する必要性に乏しいのではないか,遺産分割の申立てがさ れたにもかかわらず,遺産の一部について分割をせず,当該部分に係る申立て を却下するという制度を設けることの相当性については,当事者の裁判を受け る権利との関係等に照らし,慎重に検討する必要があるのではないかといった 指摘がされるなど,消極的な意見が多数を占めた。 一方,遺産分割事件を早期に解決するためには,争いのない遺産について先 行して一部分割を行うことが有益であり,また,現在の実務上も,一定の要件 の下であれば一部分割も許されるとする見解が一般的であるものの,法文上, 一部分割が許容されているか否かは必ずしも明らかとはいえないことから,こ の機会に一部分割の要件を明確にすべきであるという意見もあることから,本 部会においては,従前の案とは異なる観点から,一部分割の要件を明確化する 方向で検討を行った。 25 このように,本方策については,中間試案において提案した一部分割とは, その提案内容が異なっているため,改めてパブリックコメントの手続に付する こととしている。 2 見直しの趣旨及び内容 ⑴ 規律の対象について 現在の実務上,「一部分割」とされている審判の中には,①家事事件手続法 第73条第2項に規定する一部審判として行われる一部分割(残余遺産につ いて審判事件が引き続き係属するもの)と,②全部審判として行われている 一部分割(残余遺産については審判事件が係属せず,事件が終了するもの) の二類型があり,後者は,更に,審判時点において,分割の対象となる残余 遺産の存在が裁判所(及び当事者)に判明していない場合(②-1)と,残 余遺産が存在するあるいは存在する可能性があるが,当事者が現時点では残 余遺産の分割を希望していないこと等を理由としてその一部のみの分割が行 われる場合(②-2)の二種類に分けられるものと考えられる。 そして,①の一部分割については,家庭裁判所が遺産分割の一部について 審判をするのに熟していると判断をしたときに,一部分割の審判をすること ができるが,その審判の成熟性の判断の中で,一部分割をする必要性と相当 性の審査が行われているものと考えられ,特に①の場合を規律するルールを 別途設ける必要性は乏しいといえる(注)。また,②-1の場合については, 少なくとも裁判所は他に分割の対象となる遺産はないものと認識をして全 部分割の審判をしているのであるから,このような場合をとらえて規律を設 けることは困難といえる。 そうすると,②-2の場合について規律を設けることができるかどうかが 残る問題であるといえ,本方策は,②-2の場合を規律する提案となる。 (注)①の場合を規律するルールを設けるとした場合には家事事件手続法第73条第2項の一 部裁判の特則という位置付けになるが,なぜ家事事件のうち遺産分割においてのみそのよう な特則を設けるのか慎重な検討を要するとともに,民事訴訟の一部判決(民事訴訟法第24 3条第2項)における規律との平仄も考慮しなければならないものと思われる。 26 ⑵ 当事者の協議による一部分割(「⑴」) 共同相続人は,遺産についての処分権限があることから,いつでも,遺産 の一部を,残りの遺産から分離独立させて,確定的に分割をすることができ るものと考えられる。 「⑴」の規律は,現行の民法第907条第1項が,共同相続人は,いつで も,協議で「遺産の分割をすることができる」とあるのを,「遺産の全部又は 一部の分割をすることができる」と改め,上記の趣旨を明らかにするもので ある。 ⑶ 家庭裁判所に対する一部分割の請求(「⑵」) 「⑵前段」の規律は,遺産分割について共同相続人間の協議が調わない場 合に,共同相続人が,遺産の全部分割のみならず,その一部のみの分割を家 庭裁判所に求めることができることを明らかにしたものである(注1)。 これは,遺産分割の範囲について,一次的に共同相続人の処分権限を認め るものである。なお,申立人以外の共同相続人が,遺産の全部分割又は当初 の申立てとは異なる範囲の一部分割を求めた場合には,遺産分割の対象は, 遺産の全部又は拡張された一部の遺産(当初の申立部分に加え,追加された 申立部分を含むもの)ということになる(注2)。 また,「⑵後段」の規律は,家庭裁判所が一部分割の審判をできる場合の実 質的な要件を定めるものである。 審判によって一部分割をすることができる要件については,一般に,一部 分割をすることに合理的な理由があり(一部分割の必要性),かつ,その一部 分割によって遺産全体についての適正な分割(具体的相続分と民法第906 条の基準に照らした適正公平な分割)が不可能とならない場合(一部分割の 許容性)であれば,一部分割をすることできるものと解されている(大阪高 決昭和46年12月7日家月25巻1号42頁参照)。そして,一部分割をす るのに合理的な理由がある場合とは,ⓐ相続人全員の合意がある場合,ⓑ一 部の遺産の評価について争いがあり,その審理に長期間を要する場合,ⓒ全 部分割として遺産分割がされた後に,他の遺産の存在が判明した場合,ⓓ分 割を禁止された遺産を除いたその余の遺産を分割する場合などが,これに当 たるものと言われているが,ⓑの場合に一部分割をするというのは,前記⑴ 27 の①の一部分割をする場合であり,ⓒ及びⓓの場合に一部分割をするという のは,前記⑴の②―1の一部分割又は全部分割そのものに該当するものと思 われ,残るのはⓐ遺産の一部について分割をすることにつき相続人全員の合 意がある場合ということになる。そして,上記⑵のとおり,申立人以外の共 同相続人が,当初の申立とは異なる範囲の一部分割を求めた場合には,遺産 分割の対象は,遺産の全部又は拡張された一部の遺産(当初の申立部分に加 え,追加された申立部分を含むもの)ということになるから,結局,当事者 全員が申立てに係る一部の遺産について分割を求めているということは,遺 産分割を求めている範囲の上限については当事者全員に異論がないというこ とになる(注3)。このように考えると,一部分割の必要性については,家庭 裁判所が一部分割の審判をする場合の要件として特に明文化する必要はない ものと考えられる。 一方,一部分割の許容性については,上記のとおり一般には一部分割によ って遺産全体についての適正な分割が不可能にならない場合に許容されるも のと解されており,具体的には,特別受益等について検討し,代償金,換価 等の分割方法をも検討した上で,最終的に適正な分割を達成し得るという明 確な見通しが得られた場合に許容されるものと考えられ,一部分割において は具体的相続分を超過する遺産を取得させることとなるおそれがある場合で あっても,残部分割の際に当該遺産を取得する相続人が代償金を支払うこと が確実視されるような場合であれば,一部分割を行うことも可能であると考 えられる。 そして,このような観点で検討しても,一部分割をすることによって,最 終的に適正な分割を達成し得るという明確な見通しが立たない場合には,当 事者が遺産の一部について分割をすることを合意したとしても,家庭裁判所 は一部分割の審判をするのは相当ではなく,当該一部分割の請求は不適法で あるとして,却下するのが相当であるといえる。 そこで,当事者から一部分割の請求があった場合においても,遺産の一部 について分割をすることにより,共同相続人の一人又は数人の利益を害する おそれがあるときは,一部分割の請求を不適法とし,家庭裁判所は,その請 求を却下しなければならないこととしている(注4)。 28 これは,遺産分割の範囲について,一次的には当事者の処分権を認めつつ も,それによって適正な遺産分割が実現できない場合には,家庭裁判所の後 見的な役割を優先させ,当事者の処分権を認めないという考えに基づくもの である。 ⑷ 当部会において示された懸念点 本方策については,①共同相続人の請求によって一部の遺産分割審判を複数 回繰り返す場合には,そのたびに,特別受益や寄与分を含め,全部の遺産分割 を行うのに必要な事項を全て審理・判断する必要が生じるところ,これらの判 断に既判力が認められないことから,それぞれの遺産分割審判ごとに各事項の 判断が食い違い,法律関係が複雑化するおそれがある,また,②共同相続人に 一部分割審判の請求を認めると,当事者が関心のある財産のみを分割し,その 余の経済的価値の低い不動産(例えば,利用価値の低い山林や長期間空き家に なっている家屋など)は未分割のまま放置されることが増加し,その結果とし て,所有者の把握が難しい不動産が増えるなどの社会的費用が生じるおそれが あるという懸念も指摘されている。 もっとも,上記①の点については,民事訴訟においては一部請求が当然に認 められているところ,判断が裁判所ごとに異なるおそれがあるという問題点は 民事訴訟における一部請求においても存在している問題であり,一部分割の請 求における固有の問題とはいえないように思われる。また,上記②の点につい ては,その懸念も踏まえて本部会において,「⑵ただし書」の規律を公益的な 観点から一部分割の請求を認めない場合も含められるような要件設定にする ことができないか検討が行われた。しかしながら,現行民法では,共同相続人 は,「いつでも,その協議で,遺産の分割をすることができる」(第907条第 1項)こととされており,遺産分割をするか否かは共同相続人の任意の判断に 委ねられ,特に公益的な観点から遺産分割協議をすべき時的限界等は設けられ ていないところ,当事者が遺産分割をすることとした場合には公益的な観点を 考慮して「全部分割すべき」と考えることができるのか,理論的に問題がある ように思われる。そもそも相続開始により,価値の低い財産も含めて,遺産は 共同相続人による共有となるし,また,遺産分割協議で当該財産を共同相続人 による共有とすると決めた場合も同様であって,一部分割の請求を明文上認め 29 ることが,必ずしも所有者の把握が難しい不動産が増えることになるという論 理的な関係にはないように思われる(もっとも,一部分割の請求をすることが できるということを明文化することによって,これまで一部分割をすることが できることを知らなかった当事者が,一部分割を活用し,価値の低い財産が放 置されることが増えるという弊害が生ずる可能性は否定できない。)。 (注1)家事審判の申立てにおいては,申立ての趣旨及び理由を特定して申立てをする必要があ るが(家事事件手続法第49条第2項第1号),審判を求める事項の特定について,具体的に どの程度の詳細さが求められるかは,条文上明らかにされておらず,解釈に委ねられているも のと解されている。そして,遺産分割については,「遺産分割を求める。」という記載があれば 申立ての趣旨の特定性は満たされていると考えられてきたが,本提案のような規律を採用する と,一部分割の申立てをする場合には,「別紙遺産全体目録中,○番及び○番の遺産の分割を 求める。」というように,分割を求める遺産の範囲を特定すべきということになるものと考え られる(なお,遺産全部について分割を求める場合は,これまでどおり「遺産分割を求める。」 ということのみで,申立てとしては特定していると考えることもできるように思われる。)。 (注2)一部分割の申立てと全部分割の申立てが重複した場合には,前者の申立てについては後 者の申立てに包含されることから,前者の申立てについては申立ての利益がなくなったとみる か,後者の申立てについては重複しない部分に限り申立ての利益があるとみるかはともかくと して,いずれにしても,遺産の全部が審判の対象になるものと考えられる。なお,例えば,相 続人Aが遺産甲の分割を,相続人Bが遺産乙の分割をそれぞれ求めた場合には,包含関係にな いことから,いずれの申立ても適法として,裁判所は,遺産甲及び乙の分割をそれぞれ行うこ とになるものと考えられる(通常は併合して審理することになるものと思われる。)。 (注3)なお,一部の共同相続人が一部分割を求めているのに対し,他の共同相続人があくまで 協議による分割を求め,あるいは,より小さい範囲の遺産の分割を求めるということもあり得 るところであり,このような観点からみると,全ての共同相続人が申立てに係る一部の遺産に ついて分割をすることについて異論がないとはいえない。もっとも,共同相続人は,いつでも 遺産の分割をすることができるものとされ(民法第907条第1項),遺産の分割をしたくな いという希望は必ずしも法律上保障されているとはいえないこと(裁判所が,特別の事由があ 30 るときに,分割の禁止をすることができるとされているに過ぎない(同条第3項)。)からする と,分割をしたくない又はより小さい範囲で分割をしたいという当事者がいるとしても,その 希望は必ずしも法律上保護されるべき利益とはいえないものと考えられる。 (注4)裁判所としては,一部分割をすることにより,共同相続人の一人又は数人の利益を害す ると認めるときは,直ちに却下するのではなく,釈明権を行使して,当事者に申立ての範囲を 拡張しないのか否か確認をするという運用になるものと思われる。 31 4 相続開始後の共同相続人による財産処分 【見直しの要点】 共同相続人の一人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合に,処分をし なかった場合と比べて取得額が増えるといった不公平が生ずることがないよう,こ れを是正する方策を設けるものとする。 この点について,追加試案においては,遺産分割の時点で処分された財産が遺産 としてなお存在するものとみなし,これを含めて遺産分割をすることができるよう にする【甲案】と,財産処分がされた結果,処分がなかった場合よりも遺産分割に おける取得額が減少した相続人がいる場合に,当該相続人が処分を行った相続人に 対して,民事訴訟においてその差額を請求することができるようにする【乙案】の 2案を示している。 【説明】 1 見直しの必要性 共同相続された相続財産については,原則として遺産共有となるところ(民法 第898条),その共有状態の解消については,法は遺産分割の手続によること を想定しており(同法第907条),遺産分割の手続においては,同法第903 条(同法第904条の2によって修正される場合も含む。)の規定によって算定 される具体的相続分を基準として各相続人に遺産を分割することとされている。 一方,現行法上,遺産共有となった遺産については,共同相続人がその共有持 分を処分することは禁じられていないが,処分がされた場合に遺産分割において どのように処理すべきかについては明文の規定はなく,また,明確にこれに言及 した判例も見当たらない(注1)。 遺産分割は分割の時に実際に存在する財産を分配する手続であるという伝統 的な考え方によれば,共同相続人の一人が遺産分割の前に遺産の一部を処分した 場合には,遺産分割の当事者が当該処分された財産も遺産分割の対象とする旨の 合意をした場合を除き(注2),当該処分された財産を除いた遺産を基準に遺産 分割をすべきこととなるが,そうすると,当該処分をした者の最終的な取得額が, 処分が行われなかった場合と比べて大きくなり,その反面,他の共同相続人の遺 産分割における取得額が小さくなるという計算上の不公平が生じることとなる (注3)(注4)。この場合,当該処分を行った共同相続人の一人は,遺産共有と 32 なった自らの持分(又は持分相当額)を処分しているにすぎないため,不法行為 も不当利得も成立しないという考え方が有力であり,民事訴訟における救済も困 難と思われる。このように,遺産分割の前に共同相続人の一人により遺産の処分 が行われたことにより,本来,法が予定する遺産分割の手続によれば取得できた 財産の価額よりも,当該処分した者がより多くの財産を取得できることとなる (その反面,他の共同相続人の取得額が少なくなる)が,このことを正当化する ことは困難であるものと考えられる。 特に前記「2・⑴」【説明】1(本補足説明12頁)のとおり,本決定により預 貯金債権は遺産分割の対象に含まれるとの判断がされたところ,本決定前は,預 貯金債権は原則として法定相続分で分割されることとなる結果,共同相続人の一 人がその法定相続分に相当する額の払戻しをしたとしても,それはそもそも遺産 ではなかったのであるから,これを含めた計算において不公平が生じたとしたや むを得ないと考えることができたとしても,本決定後は,預貯金債権が遺産分割 の対象とされ,これを含めて公平かつ公正な遺産分割をするのが法の要請である といえることからすると,共同相続人の一人が,遺産分割前に預貯金を処分した ことにより,処分がなかった場合と比べて利得をするということを正当化するこ とは相当に困難であるものと考えられる。本決定により,共同相続人は,単独で の預貯金の払戻しをすることができないこととなるため,今まで以上に共同相続 人の一部の者による口座凍結前の預金払戻しが増える可能性があり,決して看過 することのできない問題であると考えられる(注5)。さらに,「第2・2・⑵」 のとおり,相続された預貯金について家庭裁判所の判断を経ないでその払戻しを 認める方策についても検討をしているところ,この方策に基づく適法な払戻しで あれば当該権利行使をした者は遺産分割において精算を義務付けられるのに対 し,この方策に基づかずに払戻しを受けた場合については精算を義務付けられず 不公平な結果が生ずることを是認することは,結果の具体的妥当性等の観点から 極めて困難であるといえる。 なお,預貯金債権については,本決定により遺産分割の対象財産となるととも に,共同相続人の一人による単独での権利行使も禁じられることになったものと 考えられ,そうすると,共同相続人の一人によって預貯金の払戻しが行われるこ とは違法であり,他の共同相続人は不法行為に基づく損害賠償請求をすることが 33 できると解する余地もあり得なくはない。この場合にも,具体的相続分を前提と して権利侵害又は損害を評価することができるということであれば,結果的に計 算上の不公平を是正することができるが,具体的相続分に権利性がないとしてい る判例との整合性から,現行法の解釈としては困難ではないかと思われる。他方, 本部会においては,現行法の解釈としても,民法第709条の「法律上保護され る利益」の解釈を柔軟にすることによって対応できるのではないか,【甲案】及 び【乙案】のいずれにも後記の懸念点があることも踏まえ,この点については解 釈に委ねることとし,【甲案】も【乙案】も設けるべきではないのではないかと いう意見も出された。 しかしながら,現行法の解釈として,規律を設けずとも【乙案】の規律と同様 の結果を実現できるということが確実な状況であれば格別,そうとはいえない以 上は何らの規律も設ける必要はないとはいえないように思われる。そこで,本部 会では,相続開始後に共同相続人により財産処分が行われた場合に生ずる不公平 を是正する方策について,検討を行った。 (注1)学説上も,持分譲渡の対価についても代償財産として遺産分割の対象とすべきという見 解や,一部分割がされたのと同様に,当該遺産を取得したこととして,その具体的相続分を算 定すべきである(場合によっては代償金支払などの問題が生じる。)という見解もある一方で, 遺産分割は,相続開始時に存在し,かつ,現存する遺産を対象とする手続であることから,相 続開始の前後に,一部の相続人が,無断で第三者に遺産である不動産を売却して代金を隠匿し たり,無断で被相続人名義の預金口座から預貯金の払戻しを受けたりしたとしても,そのよう なものは,遺産分割の対象となる遺産の範囲には属さないし,遺産分割事件における分割審理 の対象とはならない,これらは,不法行為又は不当利得の問題として民事訴訟により解決され るべき問題である,ただし,相続人がその事実を認め,現存遺産に含めて分割の対象とするこ とに合意すれば,その相続人が処分した預貯金等を取得したものとして処理することが可能と なるにすぎないなどと論じる見解もあり,定説もない状況である。 (注2)判例タイムズ1418号5頁以下の「東京家庭裁判所家事第五部における遺産分割事件 の運用―家事事件手続法の趣旨を踏まえ,法的枠組みの説明をわかりやすく行い,適正な解決 に導く手続進行―」(小田正二ほか5名)によれば,全当事者の合意があることを前提として, 34 ①ある当事者が預金を既に取得したものとして相続分・具体的取得金額を計算する,②ある当 事者が(払い戻した預金である)一定額の現金を保管しているとして,これを分割対象財産と する,③払い戻した預金が被相続人からの贈与と認められるとして,当該当事者に同額の特別 受益があるとの前提で具体的相続分を計算することになるものとされている。全当事者の合意 があるという点で追加試案において検討している状況とはもちろん異なるものの,②の考え方 は,計算上【甲案】と同じ結果になる一方,③の考え方によると超過特別受益がある場合には 対応することができないことになる(なお,①の考え方については,超過特別受益が生じてい る場合にその超過分を返還させるのか(代償金債務を負わせるのか)によって,②の考え方と 同じ帰結になるのか,③の考え方と同じ帰結になるのかが決まるように思われる。)。 また,同文献には当事者説明用の分かりやすいポンチ絵が掲載されているところ,(資料3 -2)では,当事者間に合意ができない場合には,「使途不明金」として「民事訴訟で解決」 することとされているが,本文にも記載のとおり,共同相続人の一人が相続開始によって生じ た(暫定的な)共有持分を処分した場合には,一般に,不法行為又は不当利得は成立しないと 考えられており,このような考え方によれば,当該処分により損失を被った他の共同相続人に は救済手段がないこととなる。 (注3)具体例1 【事例1】 相続人A,B,C3名(法定相続分1 3 ずつ) 遺産 1400万円分(500万円分(不動産甲)+900万円分(不動産乙)) 特別受益 Aに対して生前贈与400万円 Aが相続開始後に不動産乙の持分1 3 (300万円分)を第三者に譲渡した場合の,A~C の遺産分割における取得額を検討する。 【計算1】 (① Aの処分がなかったとした場合の計算) Aの具体的相続分 (1400万+400万)×1 3 ―400万=200万 B及びCの具体的相続分 (1400万+400万)×1 3 =600万 したがって,遺産分割において,Aは200万円分(特別受益400万と併せて600 万円分),B及びCは各600万円分の財産を取得することができる。 (② 現行法の考え方1) 35 前記(注1)のとおり,現行法の下における一般的な考え方は必ずしも明らかではなく, 定説もないようではあるが,遺産分割は分割の時に実際に存在する財産を分配する手続で あり,かつ,具体的相続分については,民法第903条第1項が「相続開始の時において 有した財産の価額」としていることから,相続開始時の財産を基準に算定すべきであり, また,処分された財産については,同項の特別受益には文言上当たらないという考え方を 前提に計算すると, 具体的相続分の計算については,上記①と同じであり, これを前提として,遺産分割時に存在する遺産(1100万円分)を分配すると, Aは, 1100万× 200 万 600 万+600 万+200 万=157万円 B及びCは, 1100万× 600 万 600 万+600 万+200 万=471万円 となり,結局,最終的な取得分は, A 400万+300万+157万=857万円分 B及びC 471万円分 となり,不動産乙の持分を処分したAが処分をしなかった場合と比べて取得額が大きくな る(その分,B及びCの取得額が減る。)。 (②’ 現行法の考え方2) また,上記(② 現行法の考え方1)とは異なり,処分された財産については,民法第9 03条第1項の「特別受益」に準じて同項の規定を類推適用するという考え方もあり得る。 この場合には, Aの具体的相続分 (1400万+400万)×1 3 ―400万―300万<0 B及びCの具体的相続分 (1400万+400万)×1 3=600万 となり,これを前提として遺産分割時に存在する遺産(1100万円分)を分配すると, B及びCは 550万円分ずつ取得することができ(Aの遺産分割における取得額は0円で あるが,特別受益及び不動産の持分処分を併せて700万円分の財産を取得することができる ことになる。),②の場合と比べてAの取得額は小さくなるが,①の場合と比べると,Aの取得 額は大きくなる。このように超過特別受益が生じる場合については,Aに超過分の精算を命じ ることはできないから,処分した持分を特別受益と考えて計算の対象に入れたとしても,不公 平は解消されないことになる。 36 (②’’ 現行法の考え方3) また,共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は,基本的には民法第249条 以下に規定する共有としての性質を有しており,遺産分割手続は相続人間の共有関係を解消 する手続であることからすると,遺産の中に各相続人の共有持分の割合が法定相続分とは異 なるものが含まれている場合には,下記のとおり,その遺産に限り,その共有持分の割合を 前提として当該遺産における取得額を計算した上で,特別受益に関する調整等をして具体的 相続分を算定するという考え方もあり得るように思われる。 ⑴ 不動産乙 Aは,持分1 3 を処分しているから,不動産乙に占めるA,B,Cの(暫定的な)共有持分 は,0: 1 3 : 1 3 =0:1:1,となる。 ⑵ 具体的相続分の計算 Aの具体的相続分 〔400万(特別受益分)+500万(不動産甲)〕×1 3 +600万(遺産分割の対象と なる不動産乙の残余部分の価額)× 0 0+1+1 (不動産乙の残余部分に占めるAの持分割合) ―400万(特別受益)<0 B及びCの具体的相続分 (400万+500万)×1 3 +600万× 1 0+1+1 (不動産乙の残余部分に占めるB又はC の持分割合)=600万 ⑶ 遺産分割における具体的な取得額 残余遺産は,1100万円分であるから,上記⑶で求めた具体的相続分に応じて分配する と, B及びCは各550万円分取得することができ(Aの遺産分割における取得額は0円であ るが,特別受益及び不動産の持分処分を併せて700万円分の財産を取得することができる ことになる。),②の場合と比べてAの取得額は小さくなるが,①の場合と比べると,Aの取 得額は大きくなる。 なお,上記⑶の計算は,Aの具体的相続分の計算に当たり,Aが処分した分を加算しない という取扱いをするに過ぎないから,Aが処分した分をAの特別受益として扱うという上記 (②’ 現行法の考え方2)と計算結果は同じとなる。そうすると,Aに超過特別受益が生 じる(この事例の場合,Aの特別受益の合計額は700万円となる。)場合には,超過分の 精算を命じられないことから,いずれにせよ不公平が生じることとなる。 37 (注4)具体例2 【事例2】 相続人A,B2名(法定相続分1 2 ずつ) 遺産 1400万円分(1000万(預金)+400万円分(不動産)) 特別受益 Aに対して生前贈与1000万円 Aが相続開始後に密かに500万円を払戻した場合(準占有者に対する弁済として有効 であることを前提とする。),A及びBの遺産分割等における取得額はいくらか。 【計算2】 (① Aの出金がなかったとした場合の計算) Aの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 ―1000万=200万 Bの具体的相続分 1200万 したがって,遺産分割において,Aは200万円分の財産(特別受益を含めると120 0万円分),Bは1200万円分の財産を取得することができる。 (② 現行法の考え方) 具体的相続分の計算は,【事例1】と同じ。したがって,Aの具体的相続分は200万,B の具体的相続分は1200万となる(なお,預貯金の払戻しについても,上記(注3)と同 様に現行法の解釈としては複数の考え方があり得るが,ここでは上記(注3)(② 現行法の 考え方1)を前提に計算している。)。 遺産分割時の遺産(900万)を具体的相続分で割付けをすると, Aは, 900万× 200 万 1200 万+200 万=129万 Bは, 900万× 1200 万 1200 万+200 万=771万 となり,結局,最終的な取得分は, A 1000万+500万+129万=1629万円分 B 771万円分 となり,不当な払戻しをしたAが払戻しをしなかった場合と比べて得をすることになる。 (注5)本決定前においても,特別受益のある者が不動産の持分を処分した場合には,同様の問 38 題が生じ得たものと考えられるが,不動産の持分が処分されたようなケースにおいては,誰が 処分をしたのか登記上明らかであることから,当該処分をした相続人の同意を得て,当該処分 された持分も含めて遺産分割の対象とするということが比較的容易であったものと考えられ, 問題が顕在化することは少なかったのではないかと考えられる。 2 見直しの趣旨及び内容 ⑴ 【甲案】について ア 基本的な考え方 【甲案】は,共同相続人の一人が,遺産分割が終了するまでの間に,遺産 に属する財産を処分し,当該財産が遺産から逸出した場合であっても,遺産 分割の時においてなお存在するものとみなして,遺産分割を行うことを可能 とするものである。 なお,このような規律を設ける根拠としては,「2・⑵後段」に関する説 明(本補足説明19頁)がほぼ妥当する。すなわち,共同相続人の一人が, 遺産共有となっている財産を処分したことにより,そのような処分がなけれ ば取得できた以上の財産を取得できることになるのは相続人間の公平を害 することから,当該処分をした者に遺産分割において精算の義務を課したと しても,特段当該相続人に過大な負担を課すとか,不利益を課すということ にはならないといえる。また,理論構成としても,本来は遺産分割の対象で はないものについても当事者の合意がある場合には遺産分割の対象に含め ることができるところ,上記のような場合には,当該権利行使をした者が, 当該権利行使をした財産も含めて遺産分割の対象とする旨の同意をしたも のとみなすことが可能であり,また,他の共同相続人にとっても当該権利行 使をした財産も含めて遺産分割の対象とした方がより多くの財産を取得す ることができるようになることから,当事者全員の同意があった場合に準じ て,「遺産分割の時において遺産としてなお存在するものとみなす」ことが 可能であるものと考えられる(注1)(注2)(注3)(注4)。 イ 本部会で示された懸念点 他方,【甲案】については,本部会において,①共同相続人が処分したか否 かが審理の対象となるため紛争が長期化・複雑化するおそれがある,②処分 39 された財産についても「遺産」とみなすため,【甲案】では,審判において 処分された遺産の帰属についても主文として掲げられることが想定されて いるが,既に処分がされた財産も遺産分割の対象財産に含めることとし,こ れを主文に掲げることは,国民にとって分かりにくいのではないか,③一般 に,審判には既判力がないこととされているため,共同相続人の一人による 財産処分について家庭裁判所が本規律を適用して遺産分割の審判をしたが, 事後的に別の共同相続人や第三者が処分をしたことが明らかになった場合 には,当初の遺産分割の効果が覆るおそれがあるのではないか,④審判手続 においては,民事訴訟とは異なり,証人尋問等を経て事実認定をし,かつ, 真偽不明の場合に証明責任で解決するという構造にはなっていないのでは ないかなどの懸念点が示されたところであり,慎重な検討を求める意見も強 いところである。 しかし,これらの懸念については,次のように考えることもできる。 (ア) 上記①の点について 確かに,遺産分割の審判における新たな争点となるものであり,それに 伴い紛争が長期化・複雑化するおそれがあることは否定することができな いが,相続人の具体的相続分を算定する上で前提となる特別受益の有無・ 額については,数十年前の古い贈与であっても,当事者の主張立証を経て 家庭裁判所が認定しており,それと比べても,相続開始後に共同相続人に よって預貯金を含む遺産が処分されたか否かという事実認定が特段に難し い判断を伴うものとも思われない(預貯金の払戻しが窓口で行われた場合 には,払戻しの手続を行った際の書類等を見れば誰が払戻しをしたか分か るケースも多いし,また,キャッシュカードを用いて自動預払機から現金 を払い戻したケースについては当該キャッシュカードの保管状況等につい て事実の調査や証拠調べをすること等により,誰が払戻しをしたか推認す ることができる場合も相当数あるように思われる。)。 (イ) 上記②の点について 遺産分割の時点で現に存在しない財産も含めて,遺産分割審判の主文で 掲げることになるという点については,現行法上も存在する問題である。 すなわち,現行法の下においても,家事事件手続法第200条第2項の仮 40 分割の仮処分がされた場合には,本分割において,仮払いにより仮に取得 することとされた預貯金債権についても改めて分割をする旨の審判をする ことになるものと考えられ,この理は,仮分割の仮処分により取得するも のとされ,これにより払い戻された預貯金が遺産分割時には既に費消され ていたとしても変わらないものと考えられる。このように,遺産分割時に 既に存在しないものを主文で掲げるということは,現行法の下においても あり得る問題であり,例えば,「相続人Aに,既に取得した預金200万円 を取得させる。」,「相続人Aに,既に第三者に譲渡した不動産甲の持分2分 の1を取得させる。」といった形で主文の内容を工夫することにより,国民 にとって分かりやすい裁判を実現することも可能ではないかと思われる。 (ウ) 上記③の点について まず,共同相続人Aが処分したものとして遺産分割審判を行ったところ, その後共同相続人Bが処分したことが判明した場合については,共同相続 人の一人によって,遺産の一部が処分されたことには変わりはないので, 本方策の規律の適用はあるものと考えられる。したがって,本方策の規律 に基づき,遺産分割における取得額の計算をすることには変わりはないも のと思われる。ところで,本方策の規律に基づく処理を行い,例えば,「相 続人Aに,既に取得した預金200万円を取得させる。」旨の審判をしたが, このAに取得させるとされた預金200万円は,AではなくBが払い戻し たことが事後的に判明した場合には,Aは,Bに対して,200万円の不 当利得返還請求権を取得することとなり,これは,別途訴訟において請求 することができるものと考えられる(Aが払い戻したという家庭裁判所の 判断には,既判力はない。)。 一方,共同相続人ではなく,第三者が遺産の一部を処分していた場合に ついては,本方策の規律の適用はないこととなり,第三者が処分した財産 については,遺産分割の対象財産ではなかったこととなる。この場合の遺 産分割の効果については,遺産分割を行ったがその分割対象財産に遺産で はないものが含まれていた場合と同様であり(現行法上もある問題であ る。),基本的には,遺産分割の有効性には影響を与えず,民法第911条 の担保責任の問題として処理されるものと考えられる(名古屋高決平成1 41 0年10月13日家月51巻4号87頁。なお,この点については,遺産 分割の審判における事実認定が誤っていた場合にも,民法第911条が適 用されるかどうかについては,最高裁の判例もなく明らかでないとの再反 論がされた。)。 また,当該処分された財産が遺産の大半を占めている場合には遺産分割 審判が事後的に覆る可能性がないとはいえないため,当該処分された財産 が共同相続人の一人によって処分されたのか,第三者によって処分された のか争いがあり,これが遺産のかなりの割合を占めているような場合には, みなし遺産であることの確認を求める訴えを経た上で遺産分割審判をする ことになるものと思われるが,その場合,上記①で指摘されている遺産を 巡る紛争の長期化・複雑化の程度は大きくなるが,他方で,そのような事 案については,本規律を適用すべき必要性が特に高いといえるのであるか ら,当事者等にそのような負担が生じてもやむを得ないものと考えられる (これに対しては,みなし遺産であることの確認訴訟という新たな訴訟類 型が生ずることを想定してまで,見直しをする必要があるのかといった再 反論がされた。)。 (エ) 上記④の点について 家事審判においても民事訴訟と同様に三審制が保障されており(家事事 件手続法第85条から第98条まで),また民事訴訟法の証拠調べ手続の規 定が基本的には準用されるものとされており(同法第64第1項),必要に 応じて宣誓をさせた上で証人尋問・当事者尋問を行うことができるなど, 適正な事実認定を行うことができる仕組みが整えられている(これに対し ては,家事審判においては,既判力がないこともあり,現実には証人尋問 等はあまり行われておらず,このような家庭裁判所の実務を大きく変える ことにつながるものであるとの指摘もされた。)し,家事事件においても客 観的な証明責任は観念することができるものと考えられる。 (注1)具体例1 前記1(注3)と同じ【事例1】において,本方策を適用した場合には,下記のような 結論となるものと考えられる。 42 具体的相続分の計算は,前記【事例1】と同じで,Aの具体的相続分は200万,B及 びCの具体的相続分は600万となる。 また,相続開始後に処分した持分についても,遺産分割の対象財産に含め,計算をする ので,遺産分割における取得額も,上記の具体的相続分の価額と同額となる。 → 具体的な審判としては,例えば以下のとおりになるものと思われる。 (例) 「Aに,(既に取得した)不動産乙の持分1 3 (300万円分)を取得させる。 Bに,不動産乙の持分2 3 (600万円分)を取得させる。 Cに,不動産甲(500万円)を取得させる。 Aは,Cに対し,代償金100万円を支払え。」 → 最終的な取得分は,A,B,Cとも各600万円となり,公平な遺産分割が実現でき る。 (注2)具体例2 前記1(注4)と同じ【事例2】において,本方策を適用した場合には,下記のような結論 となるものと考えられる。 具体的相続分の計算は,前記【事例2】と同じで,Aの具体的相続分は200万,Bの具体 的相続分は1200万となる。 また,相続開始後の出金についても,遺産分割の対象財産に含め計算をするので,遺産分割 における取得額も,上記の具体的相続分と同額となる。 具体的な審判としては,例えば以下のようになる(遺産分割審判において,代償金債務が生 じるようにする。)ものと考えられる。 (案) 「Aに,(既に取得した)預金500万円を取得させる。 Bに,不動産(400万円分)及び預金500万円を取得させる。 Aは,Bに対し,代償金として300万円を支払え。」 (注3)本方策は,共同相続人の一人が,遺産の全部又は一部を処分した場合の規律であること から,共同相続人以外の者が遺産を処分した場合については適用の対象とならない。したがっ て,相続開始後に遺産を誰が処分したか分からないといったケースでは本方策の規律は適用さ 43 れず,遺産分割は残余の財産で行えば足りることとなる。 (注4)「2・⑵後段」(精算を義務付ける規定)と「4」の規律との関係について 「4」において【甲案】を採用した場合には,「2・⑵後段」の規律は不要となるが(その 意味で「2・⑵後段」は〔 〕が付されている。),「4」において【乙案】を採用した場合に は,「2・⑵」の払戻しを受けた場合の特例(払戻しを受けた者及びその額が客観的に明らか である。)として「2・⑵後段」の規律を設けるということが考えられる。 ア 不動産の共有持分について売却された場合 共同相続人の一人が不動産の共有持分を第三者に譲渡した場合についても, 本方策の規律は適用される(注1)。 すなわち,共同相続人の一人が不動産の共有持分を第三者に譲渡した場合 については,当該共有持分については遺産から逸出することになるが(最判 昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁参照),本方策によれば, 当該譲渡された持分についても遺産分割の対象とし,遺産分割の中で,精算 をすることになる(注2)。 なお,精算を義務付けるとしても,本方策とは異なり,遺産分割に含める べき財産を,当該譲渡された持分ではなく,当該譲渡により得た売却代金(代 償財産)とするということも考えられなくはない(注3)。しかしながら, 当該譲渡が無償である場合も考えられるし,また,有償であるとしても相当 な対価を得ていない場合には,その損失を他の共同相続人が被ることになり 相当ではないと考えられる。したがって,本方策のとおり,精算を義務付け る場合には,その代償財産ではなく,当該権利行使をした財産について遺産 分割の対象とするのが相当であると考えられる。 (注1)不動産の持分を処分した場合についても,本方策の規律を適用しないと,計算上の 不公平が生じうることについては,前記1(注3)具体例1において示したとおりである。 (注2)具体例 【事例】 44 相続人A,Bの2名(法定相続分1 2 ずつ) 遺産 1400万円(400万円分(不動産)+1000万(預金)) 特別受益 Aに対して生前贈与1000万円 Aが相続開始後に不動産の共有持分1 2 を第三者に売却した場合,A及びBは,遺産分割等 において,いくら取得できるか。 【計算】 Aの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 ―1000万=200万 Bの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 =1200万 遺産分割の対象財産については,本方策を適用すれば相続開始後に処分された不動産の 共有持分も含めて計算をすることになるので, 1200万円(残余)+200万円(処分した持分の価額)=1400万円 となる。 → 具体的な審判としては,下記のとおりになるものと思われる。 (案) 「Aに,(既に第三者に譲渡した)不動産の持分1 2 (200万円分)を取得させる。 Bに,不動産の持分1 2 (200万円分)及び預金1000万円を取得させる。」 (注3)なお,最判昭和54年2月22日家月32巻1号149頁は,共有持分権を有する 共同相続人全員によって売却された不動産は遺産分割の対象たる相続財産から逸出すると とともに,その売却代金は,これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対 象に含める合意をするなどの特別の事情がない限り,相続財産には加えられず,共同相続 人が各持分に応じて個々にこれを分割すべきものと判示しているが,上記最判のように共 同相続人全員の同意によって遺産に含まれていた不動産を売却した場合については,本方 策の規律は及ばないと整理している(本方策の規律は,あくまで共同相続人の一人が,他 の共同相続人の同意を得ずに,遺産共有となっていた財産を処分した場合を対象としてい る。)。 また,共同相続人の一人が遺産に含まれていた不動産を売却し,共同相続人全員が代償財 産(売却代金)を遺産分割の対象とする旨合意した場合には,当該合意の効果として,遺産 分割の対象が当該不動産から売却代金に変更されたと考えることができるように思われる。 45 イ 不動産の共有持分が差し押えられた場合 遺産に属する不動産の共有持分が,相続債権者又は相続人の債権者によって 差し押さえられた場合には,債務者による不動産の処分行為が禁止されること になり,当該差押えを受けた共有持分を含めた遺産分割を行うことはできなく なり,実質的には遺産から逸失することとなるとも考えられなくはない。そし て,共有持分の差押え及び競売等により利益を受けるのは,その差押えを受け た共同相続人の一人であり,他の共同相続人がその結果により遺産分割におい て損失を被る理由がないことは,前記同様であって,差押えを受けた共有持分 についても遺産に含めて計算をする旨の規律を設け,遺産分割において実質的 に精算する義務を課すことも考えられなくはない。 もっとも,差押えの処分禁止効については相対的な効力を有するに過ぎない と解されており,また,所有権移転の効果は,売却許可決定確定後代金納付時 に生じる(民事執行法第79条)ことから,遺産から逸出するのは,その時と 考えられる。このように考えると,共有持分につき差押えがあったとしても, 遺産から未だ逸出はしておらず,差押えされた持分も含めて遺産分割をすれば よく,また,売却決定がされ代金が納付された場合には本方策の規律を適用又 は類推適用することにより処理することもできるように思われる(注)。 (注)具体例 【事例】 相続人A,B2名(法定相続分1 2 ずつ) 遺産 1400万円(400万円分(不動産)+1000万(預金)) 特別受益 Aに対して生前贈与1000万円 相続開始後に,Aの債権者が,不動産につき相続を原因として法定相続分に応じた共有持分 (1 2 )の登記を経た上,その持分につき差押えをした。 A及びBは,遺産分割等において,いくら取得できるか。 【計算】 Aの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 ―1000万=200万 Bの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 =1200万 不動産の共有持分については差押えを受けたとしても,遺産から逸失しておらず,不動産 46 の共有持分についても,遺産分割の対象財産に含め,計算をする。 → 具体的な審判としては,下記のとおりになるものと思われる。 (案) 「Aに,(差押えを受けた)不動産の持分1 2 (200万円分)を取得させる。 Bに,不動産の持分1 2 (200万円分)及び預金1000万円を取得させる。」 なお,差押え債権者が申立てを取り下げた場合など差押えの効果が解除された場合には, 「Aに預金200万円を取得させる。 Bに不動産(400万円分)及び預金800万円を取得させる。」 という審判も可能となるように思われる。 ウ 共同相続人の一人によって,その共有持分を超える財産処分が行われた場 合について 本方策は,前記のとおり,共同相続人の一人が,「遺産の全部又は一部を 処分した」場合を対象とするものであるが,自己の共有持分を超えて財産処 分をし,遺産から当該財産を逸失させた場合についても適用されることにな る。なお,共同相続人の一人によってその共有持分を超える財産処分がされ た場合には,その超過部分については,原則として無権限者による処分とし て権利移転の効力が生じないため(最判昭和38年2月22日民集17巻1 号235頁参照),本方策の規律を適用するまでもなく,なお遺産として存 在することになるものと思われるが,即時取得(民法第192条)や準占有 者に対する弁済(民法第478条)等によって自己の共有持分を超える処分 が有効となる場合があり得る(例えば,共同相続人の一人が,口座凍結前に 預貯金の払戻しをキャッシュカードを用いて行った場合が典型的なケース である。)。このような場合については,本方策の規律が適用されることとな る(なお,前述の各事例においては,問題状況を区別するため,あくまで相 続開始によって生じた暫定的な法定相続分率による持分(又は持分相当分) を処分した場合について検討をしている。)。 ところで,共同相続人の一人が遺産を処分した場合の規律を設けるとして も,上記のような方策を採用するのではなく,自己の(暫定的な)持分を処 分した場合に限るべき(それ以上の持分処分の場合は,不法行為又は不当利 47 得による処理に委ねるべき)という考え方(以下「別案」という。)もあり 得なくはない。すなわち,共同相続人の一人によって,他の共同相続人の同 意なくして,自己の共有持分以上の財産処分が行われた場合については,他 の共同相続人は,その処分を行った相続人に対して,その法定相続分に応じ た不法行為による損害賠償請求権を分割取得するという考え方(福岡高裁那 覇支部判決平成13年4月26日判例時報1764号76頁,預貯金債権の 取扱いに関する前記本決定の調査官解説も「平成16年判決事案のように相 続開始後に共同相続人の1人が相続財産中の預貯金を払い戻した場合,他の 共同相続人は,自己の準共有持分を侵害されたものとして,払戻しをした共 同相続人に対し,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めるこ とができるものと解される(結論において,平成16年判決が説示したとこ ろと同じに帰するが,理由を異にする。)。」と評している。)もあり,共同相 続人の一人が遺産を処分した場合の規律を設けるとしても,自己の(暫定的 な)持分を処分した場合に限るべきであり,それ以上の持分処分の場合は, 不法行為又は不当利得による処理に委ねるべきとも考えられなくはない。 しかしながら,特別受益がある場合などには,別案のような考え方に基づ き処理を行うと,今度は,処分を行った相続人以外の他の共同相続人の利得 額が,処分が行われなかった場合と比べて大きくなり,相続人間の実質的な 公平を貫徹できないし(注1)(注2),自己の持分を処分した場合には相続 人間の公平を図り,他人の持分を処分した場合には相続人間の公平を図らな くても良いという実質的な理由も見当たらないことから,本方策においては, 共同相続人の一人が自己の(暫定的な)持分を処分した場合のみならず,他 の共同相続人の持分を処分した場合も含めて遺産分割の対象とできるよう な規律としている(注3)。 (注1)具体例1(処分を行った共同相続人に特別受益がある場合) 【事例1】 相続人A,B2名(法定相続分1 2 ずつ) 遺産 1400万円(400万円分(甲不動産)+1000万(預金)) 特別受益 Aに対して生前贈与1000万円 48 Aが,相続開始後に密かに1000万円の払戻しをした場合,A及びBは,遺産分割にお いて,いくら取得できるか。 【計算1】 (本方策の規律による処理) Aの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 ―1000万=200万 Bの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 =1200万 遺産分割の対象 400万(残余財産)+1000万(本方策による加算額) → 具体的な審判としては,下記のとおりになるものと思われる。 (案) 「Aに,(既に取得した)預金1000万円を取得させる。 Bに,不動産甲(400万円分)を取得させる。 Aは,Bに対し,代償金として800万円を支払え。」 → したがって,最終的な取得額は, A 1000万(遺産分割による取得)―800万(代償金債務)+1000万(特別受 益)=1200万円分 B 400万(遺産分割による取得)+800万(遺産分割による取得する代償金) =1200万円分 となり,公平な遺産分割が実現される。 (別案の考え方による処理) ① 遺産分割における取得分 Aの具体的相続分 200万 Bの具体的相続分 1200万 遺産分割対象財産 400万(残余)+500万(預金に対するAの持分) =900万 となるので,遺産分割における取得額は, A 900万× 200 万 1400 万=129万 B 900万×1200 万 1400 万=771万 となり,具体的な審判としては,例えば下記のとおりになるものと思われる。 49 (案) 「Aに,(既に取得した)預金500万円を取得させる。 Aは,Bに対し,代償金として371万円(500万―129万)を支払え。 Bに,不動産甲(400万円分)を取得させる。」 ② 不法行為又は不当利得による取得分 Aは,預金に対するBの持分を侵害したとして,Bに対して500万円の損害賠償義務を 負う。 ③ まとめ 最終的な取得額は,以下のとおり。 A 1000万(払戻し分)―371万(代償金)-500万(損害賠償債務)+100 0万(特別受益) =1129万円分 B 400万(遺産分割)+371万(代償金)+500万(損害賠償債権) =1271万円分 となり,Bが得をする こととなる。 (注2)具体例2(被処分者(B)に特別受益がある場合) 【事例2】 相続人A,B(法定相続分1/2ずつ) 遺産 1400万円(400万円分(甲不動産)+1000万(預金)) 特別受益 Bに対して生前贈与1000万円 Aが,相続開始後に密かに1000万円を払戻した場合,A及びBは,遺産分割において, いくら取得できるか。 【計算2】 (本方策の規律による処理) Aの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 =1200万 Bの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 ―1000万=200万 遺産分割の対象 400万(残余財産)+1000万(本規律による加算額) → 具体的な審判としては,下記のとおりになるものと思われる。 (案) 50 「Aに,(既に取得した)預金1000万円を取得させる。 Aに,不動産甲の持分1 2 (200万円分)を取得させる。 Bに,不動産甲の持分1 2 (200万円分)を取得させる。」 → したがって,最終的な取得額は, A 1200万(遺産分割による取得)=1200万円分 B 200万(遺産分割による取得)+1000万(特別受益)=1200万円分 となり,公平な遺産分割が実現される。 (別案の考え方による処理) ① 遺産分割における取得分 Aの具体的相続分 1200万 Bの具体的相続分 200万 遺産分割対象財産 400万(残余)+500万(預金に対するAの持分) =900万 であるので,遺産分割における取得額は, A 900万×1200 万 1400 万=771万 B 900万× 200 万 1400 万=129万 となり,具体的な審判としては,例えば下記のとおりになるものと思われる。 (案) 「Aに,(既に取得した)預金500万円を取得させる。 Aは,不動産甲の持分271 400(271万円分)を取得させる。 Bに,不動産甲の持分129 400(129万円分)を取得させる。」 ② 不法行為又は不当利得による取得分 Aは,預金に対するBの持分を侵害したとして,Bに対して500万円の損害賠償義務を 負う。 ③ まとめ 最終的な取得額は,以下のとおり。 A 1000万(払戻し分)+271万(不動産甲の持分)―500万(損害賠償債務) =771万円分 51 B 129万(不動産甲の持分)+500万(損害賠償金)+1000万(特別受益) =1629万円分 となり,前記(注1)具体例1と比べて,Bの取得額が更に大きく なる。 (注3)なお,本方策の規律を採用することは,共同相続人の一人が他の共同相続人の持分を処 分した場合に,相続開始により暫定的に生じた法定相続分の割合による持分の侵害があったと して,不法行為又は不当利得が成立するという従前の理解を必ずしも変更するものではない。 例えば,前記(注2)と同じ【事例2】において,Aが相続開始後に預金全体の払戻しをする と,Bが,Aに対して,暫定的な持分割合に応じて500万円の不法行為に基づく損害賠償請 求権又は不当利得返還請求権を取得することになると思われる。 そして,①遺産分割が先行し,前記(注2)【計算2】(本方策の規律による処理)における のと同様の審判がされた場合には,遺産分割の遡及効により預金全体の持分がAに帰属してい たことになり,BのAに対する不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権は消 滅することとなり,また,②BのAに対する損害賠償請求等が先行した場合には,遺産分割に おいては,例えば,下記のような審判をすることが考えられる(このように考えれば公平な遺 産分割が実現するものと思われる。)。 (案) 「Bに,(Aが既に払戻した)預金500万円を取得させる。 Bは,Aに対し,代償金として300万円を支払え。 Aに,(Aが既に払戻した)預金500万円を取得させる。 Aに,不動産甲(400万円)を取得させる。」 エ 共同相続人の一人によって,遺産の全部が処分された場合について 本方策は,共同相続人の一人によって,遺産の一部が処分されたのみなら ず,「遺産の全部」が処分された場合も対象としている。この場合には,遺 産分割の時点では実際には分割すべき遺産がないことになるから,このよう な場合にも本方策の規律を適用してこれを遺産分割事件として処理するこ とについては,(遺産)共有状態にある財産を分割するという遺産分割の性 質を変えることにもつながり,もはや遺産分割とは言い難いという批判もあ り得るように思われる。また,遺産分割の審判事件は,遺産の分割方法につ 52 いて裁判所に裁量が認められることから,これを審判事件で取り扱うことが 許容されているものと考えられるが,遺産の全部が処分された場合には金銭 的に調整するほかはなく,この点に裁判所の裁量を認める余地はないとも考 えられ,これを審判により行うことができるかという問題があるように思わ れる(もっとも,処分した遺産が,相続人の手元に残っている場合(例えば, 譲渡契約が解除又は取り消された場合など)には,本規律を適用することに より,遺産から一度逸失した財産についても遺産分割の対象とすることがで き,このような観点からすると,遺産の全部が処分された場合についても, 必ずしも金銭的に調整するほかはないとまでは言い切れないようにも思わ れる。)。 他方で,遺産の全部が処分された場合についても,これを精算の対象とし ないと,共同相続人間の実質的な公平が図れないことから(注),共同相続 人の一人によって遺産が全部処分された場合についても,本方策の規律の対 象としているが,この場合については,本方策の規律の対象からは除外した 上で,別途償金請求ができる旨の規定を設けることも考えられる(この場合 には,【乙案】で指摘されている問題点が生ずることとなる。)。このため, 追加試案では,「(遺産の)全部又は」の部分に〔 〕を付している。 (注)具体例 【事例】 相続人A,B2名(法定相続分1 2 ずつ) 遺産 1400万円(1400万(預金)) 特別受益 Aに対して生前贈与1000万円 Aが,相続開始後に密かに預金全額1400万円を払戻した場合,A及びBは,遺産分割に おいて,いくら取得できるか。 【計算】 (本方策の規律による処理) Aの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 ―1000万=200万 Bの具体的相続分 (1400万+1000万)×1 2 =1200万 遺産分割の対象 0+1400万(本方策の規律による加算額) 53 → 具体的な審判としては,下記のとおりになるものと思われる。 (案) 「Aに,(既に取得した)預金1400万円を取得させる。 Aは,Bに対し,代償金として1200万円を支払え。」 → したがって,最終的な取得額は, A 1400万(遺産分割による取得)―1200万(代償金債務)+1000万(特別 受益)=1200万 B 1200万(遺産分割による取得する代償金) (本方策の対象としない場合) 相続開始により,A,Bは,預金について各2分の1の準共有持分を取得したものと考えら れ,Aは,預金全額の引出しにより,Bの預金に対する準共有持分を侵害したといえる。 したがって,Bは,Aに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権(又は不当利得)として, 700万円(Bの準共有持分相当額)の支払しか求めることができない ものと考えられる。 ⑵ 【乙案】について ア 基本的な考え方 【乙案】は,共同相続人の一人が遺産分割前に遺産を処分したことにより生 じる計算上の不公平を是正する手段として,償金請求をすることができる旨の 規定を設け,通常の民事事件(第一審は,原則として地方裁判所ということに なる。)として処理をするという考え方に基づくものである。具体的には,① 当該処分がなかった場合における他の共同相続人の具体的相続分に応じて計 算された遺産の取得額と,②当該処分がされた場合における他の共同相続人の 具体的相続分に応じて計算された遺産の取得額の差額について,当該処分を行 った者に対して償金請求をすることができることとしている(注1)(注2)。 なお,寄与分について考慮することも考えられなくはないものの,償金請求 の額が,その後に発生する(厳密には先行する場合もある)寄与分の審判によ って変動することとすると,償金請求訴訟が先行した場合,寄与分の審判が確 定するまではその訴訟を終結することができないことになるため,本方策では 考慮の対象としていない。 54 イ 本部会で示された懸念点 【乙案】を設けることについては,本部会において,①具体的相続分の審理 が,家庭裁判所と地方裁判所の両方で行われることにより,特別受益等に関す る主張や証拠資料等をその都度提出する必要が生ずるなど当事者の負担が増 す上,判断も異なり得ることになり(さらに,多数の共同相続人がそれぞれ償 金請求することにより,地方裁判所の審理・判断だけでも多数に及び得る。), 不合理である,②地方裁判所の手続では寄与分を考慮しない結果,必ずしも計 算上の不公平が実現されない場合が生ずる,③本方策を採用することにより, 具体的相続分に権利性がないとされてきた点が変更されることになるのか,仮 に変更されることとなるとした場合にその他の分野に大きな影響を与えるこ とになるのではないかといった懸念点が示され,【甲案】よりも更に慎重な検 討を求める意見が多数出された。 他方で,これらの懸念については,次のように考えることもできる。 (ア) 上記①の点について この点は,現行法においても生じ得る問題であると考えられる。すなわち, 被相続人の遺贈,贈与の減殺を求める遺留分減殺請求に係る紛争は訴訟事項 であり,その際,特別受益があればその持戻しをした上で遺留分侵害の有無, 割合が計算されることになるが,訴訟裁判所は,訴訟事項に関する判断のた めに必要であれば,特別受益の有無,具体的相続分(割合)を認定し得るの であり,かかる認定が家庭裁判所の専決事項に属するとか,訴訟手続になじ まないということはないものと考えられる(最判平成12年2月24日民集 54巻2号523頁に係る平成12年最高裁判例解説79頁参照)。このよ うに,具体的相続分に関する判断が家庭裁判所と訴訟裁判所とで異なるとい う可能性は現行法の下でもあり得る問題であって,本方策を導入することに よって,新たに生じる問題ではないといえる(これに対しては,同一の紛争 において,遺留分減殺請求事件と遺産分割事件の両方が問題となる事案はそ れほど多くなく,その影響の程度には大きな違いがあるとの再反論がされ た。)。 (イ) 上記②の点について この点については,償金請求により処分がなかった場合と全く同じ結果が 55 実現できるわけではないものの(注3)(注4),この一事をもって,償金請 求権を与えることができないという結論にはならないものと思われる(注 5)。 (ウ) 上記③の点について この点については,本方策を導入することにより,将来的に具体的相続分 に権利性があると判例・学説上評価される可能性があることは否定しないも のの,具体的相続分の認定が訴訟手続において可能であることと,その事実 を確認訴訟の対象とすることができるかどうかとは別の問題であるものと 考えられる。そして,確認訴訟の適法要件としては,その対象適格や即時確 定の利益を充足することが必要であるから,【乙案】を採用したからといっ て,必ずしも,遺産分割の前提問題として具体的相続分を確認することは不 適法であるという判例(上記最判)が変更されることにはならないように思 われる。もっとも,上記判例が変更されることを懸念するのであれば,【乙 案】よりも【甲案】を採用した方がその可能性は低下するように思われる。 (注1)具体例1 前記1(注3)と同じ【事例1】において,本方策を適用した場合には,同【計算1】の① と②の差額を,B又はCは,Aに対して償金請求することができることになるから, 600万―471万=129万円 の償金請求をすることができる(なお,前記1(注3)にもあるとおり,現行法の考え方とし て異なる考え方を採用した場合は,償金請求することができる額が変わることとなる。なお, この点については【乙案】の問題点であるともいえる。)。 (注2)具体例2 前記1(注4)と同じ【事例2】において,本方策を適用した場合には,同【計算2】の① と②の差額を,Bは,Aに対して償金請求することができることになるから, 1200万―771万=429万円 の償金請求をすることができる。 (注3)具体例(寄与分が認められた場合) 56 【事例】 相続人A,B2名(法定相続分1 2 ずつ) 遺産 1400万円(1000万円分(不動産)+400万円(預金)) 特別受益 Aに対して生前贈与1000万円 Aが相続開始後に密かに200万円を払い戻した場合(準占有者に対する弁済として有効で あることを前提)。審判において,Bの寄与分が100万円認められたものとする。 【① Aの払戻しがなかった場合の遺産分割における取得額】 Aの具体的相続分(1400万+1000万―100万)×1 2 ―1000万=150万 Bの具体的相続分(1400万+1000万―100万)×1 2 +100万=1250万 → したがって,Aは150万円(生前贈与と合わせて1150万円),Bは1250万円, それぞれ取得できる。 【② Aの払戻しがあった場合の遺産分割における取得額】 A,Bの具体的相続分の計算は,上記のとおり。 遺産分割時の遺産の価額は,1200万円であるから,それぞれの遺産分割における取得 額は, A 1200万円× 150 万 150 万+1250 万=129万円 B 1200万円× 1250 万 150 万+1250 万=1071万円 となる。 【寄与分を考慮した場合の償金請求の額】 償金請求において,寄与分を考慮した場合には,Bは,①と②の差額である 1250万-1071万=179万円 を償金請求することができることとなる。 寄与分を考慮しない場合には,Aの具体的相続分は200万,Bの具体的相続分は12 00万であり,これを前提に遺産分割時の遺産総額を分配すると,Bの取得額は1029 万円分となるから,結局,BがAに対して,償金請求することができる額は171万円(1 200万―1029万)となる。 (注4)【甲案】と寄与分の審判の関係について 57 なお,【甲案】においては,遺産分割の手続の中で,処分された財産についても遺産として 考慮されることになるため,寄与分の審判結果についても考慮することができる。例えば,前 記(注3)の事例を前提とすると,Aの具体的相続分は150万円,Bの具体的相続分は12 50万円となり, そして,【甲案】においては,Aが処分した預金200万円についても遺産分割の対象とみ なされることになるから,Aは遺産分割において150万円相当,Bは遺産分割において12 50万円相当を取得することができ,審判としては,例えば, 「Aに,(既に取得した)預金200万円を取得させる。 Aは,Bに対し,代償金50万円を支払え。 Bに,預金200万円及び不動産(1000万円分)を取得させる。」 となるものと考えられる。 なお,預金の払戻しをしたのがAではなく,Bであることが事後的に判明した場合には, 前記のとおり,Aは,Bに対して,200万円の不当利得返還請求権(又は不法行為に基づ く損害賠償請求権)を取得することになり,上記審判によって負担するものとされた代償金 債務50万円を相殺することによって,Aは,Bに対して,150万円,訴訟において請求 することができると考えることができる。 (注5)なお,相続の開始後に認知され相続人となった者の価額賠償請求権(民法第910条) については,寄与分を考慮することができるものとされている(同法第904条の2第4項。 なお,家事事件手続法第191条第2項は遺産分割が既に終了した場合でも寄与分の審判の申 立てがあり得ることを想定した規定となっている。)。この場合,価額賠償請求訴訟が提起され た後に,寄与分の審判の申立てがあると,前者の訴訟手続を終結させることはできないことと なる。本方策についても,公平さを徹底しようとする場合,民法第904条の2第4項に本方 策の規律も含めることとした上で,寄与分を考慮するという制度設計もあり得なくはないよう に思われる(もっとも,このような制度設計をすると,寄与分の審判が確定するまでの間終結 をすることができない償金請求訴訟が大量に生じるという問題もあるものと思われる。)。 58 第4 遺留分制度に関する見直し 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し 【見直しの要点】 遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の 規律を見直し,①遺留分に関する権利(以下「遺留分権」という。)の行使によって 遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずる,②受遺者又は受贈者は,金銭債務の全 部又は一部の支払に代えて,遺贈又は贈与の財産のうちその指定する財産(以下「指 定財産」という。)により給付することを請求することができる(その請求の時に指 定財産の権利が遺留分権利者に移転するとともに,金銭債務の全部又は一部が消滅 する。),③遺留分権利者が一定期間内に指定財産に関する権利を放棄することがで きる(金銭債務の消滅の効果までは覆らない。)という制度を設けるものとする。 【説明】 1 見直しの必要性 遺留分権の効力及び法的性質の見直しの必要性については,中間試案の補足説 明において記載したとおりである(同補足説明「第4・1【説明】「1 見直し の必要性」」)。 なお,中間試案においては,受遺者又は受贈者が,現物給付(注)を求めた場 合の効果等に関し,【甲案】(裁判所が現物給付の内容を定めるという考え方)と 【乙案】(現行法と同様の規律で当然に現物給付の内容が決まるという考え方) の2つの考え方が示され,パブリックコメントの手続に付されたところ,【甲案】 を支持する意見が多数を占めたことから,中間試案後の本部会では【甲案】を中 心に検討を進めてきたが,裁判所の判断に委ねると,遺留分権利者はどのような 物を取得することができるか分からず,予測可能性に欠けるのではないか,また, 現行法の下において,複数の財産について減殺請求を受けた受遺者又は受贈者は, 減殺を受けた物の一部について金銭で弁償するということも認められているこ とからすると,現物給付の目的財産については受遺者又は受贈者にその選択権を 認めてもよいのではないかといった指摘等がされ,これらの議論の結果を踏まえ, 今回の追加試案における提案内容に修正されたところである。 このように,本方策については,中間試案における提案内容から現物給付に関 する規律が大きく変わっているため,改めてパブリックコメントの手続に付する 59 こととしたものである。 (注)現物の「給付」という用語について 中間試案においては,受遺者又は受贈者は,現物による「返還」を求めることができると していた。これは,遺留分権の本質が,遺留分侵害額に相当する価値の返還を求める権利で あることに着目し(追加試案においては,これを一次的には金銭化した上で,受遺者又は受 贈者のイニシアティブにより金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,指定財産の給付を求 めることができることとする。),「返還」という用語を用いていたものであるが,「返還」と いう用語の一般的な意味は,「もとの所へかえすこと。もどすこと」(広辞苑)であり,遺留 分権利者が遺贈又は贈与の目的財産の元々の所有者ではないことからすると,必ずしも適切 な用語の用い方ではないといえる。そこで,今回の追加試案においては,代物弁済の規定(民 法第482条)を参考にして「給付」という用語を用いることとしている。 2 見直しの内容及び趣旨 ⑴ 遺留分侵害額の請求(「⑴」) 遺留分権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の規律 を見直し,遺留分権利者が遺留分権の行使をすることによって,受遺者又は受 贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができること とするものである。 なお,遺留分侵害額及び遺留分額を求める以下の計算方法についても,下記 のとおり明文化することを予定している。現行法上,遺留分侵害額の計算方法 は法律上明示されていないが,一般に,下記計算式により求めるものとされ, 実務上も定着しているものと思われる(注1)。 また,現行法においても,遺産分割方法の指定(相続させる旨の遺言)又は 相続分の指定を受けた相続人については,遺留分減殺の対象となっているとこ ろ,この点を追加試案においても明らかにする観点から,「⑴」において「受 遺者(遺産分割方法の指定又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下第4 において同じ。)」に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求をすること ができることとしている(注2)。 また,「⑴」の請求権は,現行法の遺留分減殺請求権に相当するものであり, 60 短期間の権利行使制限に服するが(民法第1042条),「⑴」の請求権を行使 することにより生じた金銭債権については,民法の一般の債権と同様の消滅時 効の規律に服することになる(民法第166条第1項,第167条第1項,平 成29年法律第44号による改正後の民法第166条第1項)。 なお,現行法上,遺留分権の行使は形成権であるとされているが,本方策は, その点の見直しまでを意図するものではなく,受遺者又は受贈者に対する具体 的な金銭請求権は,「⑴」の請求権を行使して初めて発生するものとすること を前提にしており,この点を「(注1)」において明らかにしている。また,遺 留分権の行使により生ずる権利を金銭債権化することに伴い,民法第1036 条,第1040条,第1041条など遺贈や贈与の「減殺」を前提とした規定 を逐次改めるなどの整備が必要となり,この点を「(注2)」において注記して いる。 〔計算式〕 遺留分額=(遺留分を算定するための財産の価額)×(民法第1028条に 規定する総体的遺留分率)×(遺留分権利者の法定相続分の割合) 遺留分侵害額=(遺留分額)-(遺留分権利者が受けた特別受益)-(遺産 分割の対象財産がある場合(既に遺産分割が終了している場合も含む。) には具体的相続分に応じて遺産を取得したものとした場合の当該遺産の 価額(ただし,寄与分による修正は考慮しない。))+(被相続人に債務 がある場合には,その債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額) (注1)遺留分侵害額の計算方法のうち,遺留分を算定するための財産の価額に関する規律(要 綱案のたたき台⑵「第4・2・⑴」)及び遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律 (同「第4・2・⑵)」)については,改正が予定されており,本文の計算式のうち遺産分割の 対象となる財産がある場合については,上記改正予定の規律を反映したものとなっている。な お,これらの規律については,中間試案における提案から大きく変わっていないことから,今 回の追加試案及びそのパブリックコメントの対象とはされていない。 (注2)相続分の指定に対する遺留分権の行使について 現行法の下においては,遺留分権の行使により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分 61 割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分は,その遺留分割合を超える部分の割合 に応じて修正されることになり(最決平成24年1月26日家月64巻7号100頁),その 修正後の相続分に応じて遺産分割が行われることになる。 一方,遺留分権の行使から生ずる権利を原則金銭債権化する場合に,相続分の指定に対する 遺留分権の行使の効果をどのように考えるかについては,①現行法と同様に,相続分の割合が 修正されるとして,その後遺産分割を行うという考え方(A説)と,②金銭債権化する以上は, 遺留分権利者は,遺留分侵害額に相当する金銭しか請求することができず,遺産分割には参加 することができないという考え方(B説)があるように思われるところ,遺留分権の行使によ って生ずる権利を金銭債権化する以上は,B説を採用するのが相当のように思われる。本提案 においては,相続分の指定を受けた相続人に対して,遺留分権の行使により金銭請求をするこ とができることを明らかにすることで,B説を採用することを明らかにしている。 【事例】 相続人がA,B,Cの3名(法定相続分は各1 3 )で,被相続人が,A,B,Cの相続分を, それぞれ0,1 2 ,1 2 と指定したものとする。その後,Aが,B及びCに対して減殺請求をし た。なお,相続財産は,預金1200万円,甲不動産(1200万円分),乙不動産(12 00万円分)であったものとする。 【処理】 (A説による処理)(現行法による処理) Aの遺留分(相続分の割合) 1 3 ×1 2 =1 6 B,Cの相続分は, それぞれ 1 2 ―1 6 ×1 2 =5 12 に修正され,その修正後の相続分の割合で,遺産分割を行う。 遺産分割の結果,Aは600万円分の財産,B及びCは各1500万円分の財産を取得 することができる。 (B説による処理) Aの遺留分侵害額 (1200万+1200万+1200万)×1 3 ×1 2 =600万円 Aは,B及びCに対して各300万円請求することができる(遺産分割はB及びCのみで行 う。)。 ⑵ 受遺者又は受贈者の負担額(「⑵」) 今般の改正に係る検討は,遺留分権の行使によって当然に物権的効力が生じ 62 るとしている現行法の規律を改め,原則金銭債権が生ずることとするものであ るが,他の相続人の遺留分を侵害している者が複数いる場合の減殺の順序(負 担割合)を変更することを意図するものではない。そして,「⑵」の規律は, 減殺の順序を定める民法第1033条から第1035条までについて受遺者 又は受贈者の負担額に関する規律として,その実質を維持することとしており, 「ア」の規律は第1033条に,「イ」の規律は第1034条に,「ウ」の規律 は第1035条にそれぞれ対応している(注)。 なお,「受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該相続人の遺留 分額を超過した額」を遺贈又は贈与の目的の価額とするものとしている。これ は,民法第1034条の「目的の価額」に関する解釈として,受遺者が相続人 である場合にはその遺留分額を超過した額を「遺贈の目的の価額」とするとい う解釈が有力であり(いわゆる遺留分超過額説),判例(最判平成10年2月 26日民集52巻1号274頁)もこの解釈を肯定していることから,この点 を明らかにすることとしている。また,受贈者の負担額の基準となる贈与につ いては,遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る趣旨(相 続人に対する贈与については相続開始前10年前までのものが,また,第三者 に対する贈与については相続開始前1年前までのものが原則として算入され る(要綱案のたたき台⑵「第4・2・⑴」)。)から,「贈与(遺留分を算定する ための財産の価額に算入されるものに限る。以下同じ。)」とすることとしてい る。 (注)具体例 以下のような【事例】において,現行法の下においては,Xが遺留分権を行使したこと により,甲土地の所有権及び乙土地の持分権(1 7 )を取得するが,追加試案の規律によれ ば,Xは,Aに対する500万円の債権,Yに対する500万円の債権を取得することと なる。 【事例】 相続人がXとYの2名(法定相続分は同じ。)で,被相続人が,第三者Aに対し甲土地 (500万円分)を遺贈し,また,Yに対して乙土地(3500万円分)を生前贈与し た。その他に遺産はなく,Xが,A及びYに対して遺留分権の行使をしたものとする。 63 【計算】 Xの遺留分侵害額=(500万+3500万)×1 2 ×1 2 =1000万 したがって, ① 現行法の下においては, Xは,Aに対して 甲土地(500万円分)の減殺を, また,Yに対して 乙土地の持分1 7 (500万円分)の減殺を, それぞれ求めることができ,また, ② 追加試案の規律によれば, Xは,Aに対して500万円,Yに対して500万円の支払をそれぞれ求めることが できる。 ⑶ 受遺者又は受贈者の現物給付(「⑶」) 「ア」は,「⑵」の規律により負担する金銭債務の全部又は一部の支払に代え て,その請求を受けた受遺者又は受贈者が,遺留分権利者に対し,遺贈又は贈 与の目的である財産のうちその指定する目的財産により給付することを請求 することができるとするものである。その理由については,中間試案の補足説 明において記載したとおりであるが,受遺者又は受贈者に金銭での支払しか認 めないこととすると,受遺者又は受贈者としては,遺留分権利者に支払うべき 金銭を直ちに用意することができない場合には,遅延損害金がかさむのを防ぐ ために,自己の財産を売却するなどして金銭を用意する必要があるところ(金 銭を用意できない場合には自己の固有財産に執行を受けるおそれもあるし,時 間的余裕もない中で遺贈又は贈与を受けた財産を売却しなければならないと なると,その財産の本来的な価値よりも低い価格での売却を迫られるおそれも ある。),受遺者又は受贈者としては,このような事態になるのであれば,遺贈 の放棄をするなどしてその目的財産を取得しない方が良かったということに もなりかねないが,一旦遺贈を承認した場合には,その後にそれを撤回するこ とはできず(民法第989条第1項),受遺者又は受贈者にとって酷な事態が 生ずること等を考慮したものである。 また,中間試案とは異なり,追加試案においては,受遺者又は受贈者に対し て,現物給付の目的財産の指定権を与えていることとしている。これは,①遺 64 言者が遺言によって遺留分権利者に遺留分額に相当する財産を取得させた場 合や,あるいは,遺言の中で帰属が定められなかった遺産があり,これについ て遺産分割が行われる結果遺留分権利者の遺留分が満たされる場合には,遺留 分権利者は,その取得する財産の内容に不満があっても遺留分権の行使をする ことはできないこと,②複数の遺贈があった場合には受遺者は遺贈の一部を放 棄することも可能と解されているところ,その場合には当該遺贈の目的財産は 相続財産に復帰することになるため(民法第986条,第995条前段),遺 留分権利者は,遺産分割の手続においてその目的財産を取得することになり, これによってその遺留分が満たされる場合には,遺留分権の行使をすることが できないこと,③判例上,遺贈又は贈与の目的とされた財産が複数ある場合で も,受遺者又は受贈者は,そのうちの一部の財産についてのみ価額弁償をする ことが認められていること(最判昭和54年7月10日民集33巻5号562 頁参照)からすると,遺留分権利者は,何らかの形で自らの遺留分額に相当す る財産を取得した場合には,その内容に不満があってもこれを甘受しなければ ならない立場にあるといえること等を考慮したものである。 「イ」は,「ア」の請求に係る時的限界を定めており,本部会における議論を 踏まえ,2つの考え方を示している。受遺者又は受贈者による現物給付の主張 がいつまでもできることになると,例えば,遺留分権の行使により生じた金銭 請求権に基づきその支払を求める訴訟において長期間争い判決が確定した後 に,執行を回避する目的で現物給付の主張ができることにもなり,法的安定性 の観点から相当ではないと考えられ,一定の時的限界を設ける又は解釈によっ て時的限界を画する必要があるものと考えられる。①第1の案は,金銭請求訴 訟が終了した後に,現物給付の主張をさせることは,紛争の蒸し返しになり相 当ではないという観点から,「ア」の請求は,遺留分侵害額に相当する金銭支 払請求に係る訴訟の第一審又は控訴審の口頭弁論終結時までにしなければな らないこととしている(注1)(注2)。第1の案に対しては,口頭弁論の終結 時とすると,弁論の再開や上訴審で審理が差し戻される場合もあるなど基準と して不明確ではないかという指摘もあり,そこで,②第2の案では,遺留分権 利者から金銭請求を受けた時から一定期間(例えば1年)内に「ア」の請求を しなければならないこととしている。この案によれば,金銭請求訴訟において 65 長期間争い,敗訴濃厚となった受遺者又は受贈者が,訴訟の引き延ばしを図る ために現物給付の主張をするという事態や,判決確定後に執行の回避をするた めに現物給付の主張をするという事態を相当程度防止することができるよう に思われる(注3)。 「ウ」は,「ア」の請求があった場合には,その請求をした受遺者又は受贈者 が負担する債務は,給付する指定財産の価額の限度において,その請求があっ た時に消滅し,その指定財産に関する権利が移転することとしている。 また,「エ」は,「ア」の請求を受けた遺留分権利者が,その請求を受けた時 から一定期間(1か月又は2週間以内)内に限り,「ウ」の規律により移転し た指定財産に関する権利を放棄することができるというものであり,「オ」は, その放棄の意思表示があった場合には,その指定財産に関する権利移転のみが なかったものとする(金銭債務の消滅の効果は覆らない。なお,指定財産に関 する権利移転がなかったものとされる結果,指定財産に関する権利は,受遺者 又は受贈者に帰属したままということになる。)というものである(注4)(注 5)。受遺者又は受贈者に現物給付の指定権を付与した場合,受遺者又は受贈 者が換価困難な物を指定することも考えられるが(例えば,固定資産税の負担 や管理費用の支払を要するがほとんど価値のない山林を指定した場合,環境汚 染がある(除去に相当の費用を要する)不動産を指定した場合,行政上の規制 があり市場流通性の低い不動産を指定した場合など),そのような場合には, 権利濫用等の一般条項で対応するのは不十分であり,遺留分権利者に制度上放 棄する機会を与えるべきであるという議論を踏まえた提案である。なお,遺留 分権利者が放棄の意思表示をすると,受遺者又は受贈者の現物給付の意思表示 により生じた物権変動の効果を覆すこととなるから,いつまでも指定財産の放 棄を認めるのは適当ではないところ,遺留分権利者としては,金銭請求を行う 際に,遺贈又は贈与の対象財産に係る価値はある程度把握しているのが通常で あり,その放棄の意思表示に短期間の時的限界を設けたとしても特段問題はな いものと考えられ,追加試案においては,「2週間」又は「1か月」という提 案をしている。また,このような短期間の時的限界を設けた場合には,遡及効 を徹底させたとしても(第三者保護規定を設けない),特段取引の安全性を害 するといった問題は生じないものと思われる。 66 (注1)第1の案の規律を設ける必要性について 金銭請求訴訟の口頭弁論終結時を時的限界の基準時とするとしても,第1の案のような時 的限界の規律を明文上の規律として設ける必要があるかどうかは,金銭債務の支払を命ずる 判決が確定した場合に,その既判力によって現物による給付請求権(抗弁)が当然に遮断さ れることになるかどうかによるものと思われる。 この点については,受遺者又は受贈者が現物により給付する財産を指定することによって, 実質的には金銭債務の全部又は一部が指定財産の返還債務に変更されるという性質を有して おり,両債務の履行によって遺留分権利者の遺留分が確保されるという意味において密接な 関連性を有すること等に照らすと,その後の訴訟等において,現物給付による金銭債務の消 滅を主張することは,金銭請求訴訟における既判力により遮断され,許されないとも考えら れる(債務負担行為の取消権及び解除権について,その行使を基準時後にしたとしても,取 消権及び解除権がそれ以前に存在し,いつでも行使することができた場合には既判力により 遮断されることとなるのと同様に考えることになる(最判昭和36年12月12日民集15 巻11号2778頁,最判昭和55年10月23日民集34巻5号747頁)。)。このような 考え方に立てば,第1の案のような規律は明文上特に設ける必要はないものと思われる。 他方で,現物給付による金銭債務の消滅の主張は,遺留分権の行使に基づく金銭請求権に 内在する瑕疵とはいえない上, 遺贈又は贈与の指定財産の返還義務を新たに生じさせ,受遺 者又は受贈者に一定の経済的な負担を生じさせるものであること等に照らせば,金銭請求訴 訟の既判力によっては遮断されないという考え方も十分にあり得るものと考えられる(金銭 請求訴訟における認容判決の確定後にも債務者は相殺権を行使することができるとされてい ることや,建物収去土地明渡請求訴訟における認容判決の確定後に建物買取請求権を行使す ることができるとされていることと同様に考えることになる(最判昭和40年4月2日民集 19巻3号539頁,最判平成7年12月15日民集49巻10号3051頁)。)。このよう な考え方に立てば,第1の案のような規律を設ける必要が生ずることとなる。また,解釈論 として疑義がある場合には,念のため規定を設けるという考え方もあるように思われる。 (注2)なお,遺留分権利者の金銭請求及び受遺者又は受贈者の現物給付の請求については,訴 訟によらずに行使することも可能であるが,訴訟外で合意に至った場合については,以後現物 給付の請求権を行使しないという合意を含むのが通常であるものと考えられるから,特段の規 67 律を設ける必要はないものと考えられる。 (注3)第2の案について なお,第2の案を採用し,1年以内に現物給付の主張をしなければならないという規律を 採用した場合,例えば,金銭請求訴訟が金銭請求をした時から数ヶ月以内で終了し,その後, 制限期間内ぎりぎりで現物給付の意思表示をするということも考えられるが,そのような場 合に現物給付の主張を認めるべきかどうかという問題が生じうる。この点,法律が短期間の 主張制限を設けているという趣旨を重視し,金銭請求訴訟の既判力により現物給付の主張が 遮断されるという解釈論もあり得なくはないように思われるが,そのような解釈論を取り得 ない場合に備えて,金銭請求訴訟が先行して終了した場合には現物給付の主張ができない旨 の規律を設けることや,遺留分権利者による催告制度(権利行使の有無を催告し,その権利 行使がない場合にはその権利が消滅することとする。例えば,解除権については同様の規律 が存在する(民法第547条)。)を設けるということも考えられる。しかしながら,遺留分 に係る金銭請求訴訟が金銭請求をした時から起算して1年以内に終了するということは,訴 訟提起までに通常一定の準備期間を要することや訴訟に要する平均的期間等を考えると必ず しも一般的とは言い難く,かつ,その後受遺者又は受贈者が現物給付の主張をするというこ とまでを考えると,極めて稀なケースであるといえ,そのような場合を想定して複雑な規律 を設けるまでの必要性は低いのではないかと考えられる。 (注4)指定財産を放棄した場合の具体例 例えば,遺留分権利者Xの遺留分権の行使により1000万円の金銭債権が発生し,その請 求を受けた受遺者Yが甲土地(10万円分)による現物給付を主張し,Xが,甲土地であれば 不要である(放棄する)と主張したものとする。 この場合,①Yの現物給付の主張により,甲土地の所有権がXに移転するとともに,金銭債 務が10万円減縮する(残る金銭債務の額は990万円),②Xの甲土地の放棄の意思表示に より,甲土地の所有権移転の効果が覆るが(所有者はYに戻る。),金銭債務の減縮の効果は変 わらない(残る金銭債務の額は990万円)と考えることになる。 (注5)その他 遺留分権の行使に基づく金銭請求訴訟の訴訟構造を考えてみても,「エ」,「オ」のような規 68 律を設けても,審理が複雑化することにはならないものと考えられる。 すなわち,遺留分権利者の金銭請求に対し,受遺者側が現物給付の意思表示をした場合には, それにより金銭債権の全部又は一部が消滅することになるが,遺留分権利者が指定財産の放棄 の意思表示をしたとしても,消滅した金銭債権については影響を与えないことから,指定財産 の放棄の意思表示の有無は,金銭請求訴訟においては攻撃防御方法にはならないものと整理す ることができるように思われる(遺留分権利者が,指定財産の引渡し又は移転登記手続請求を してきた場合に,指定財産の放棄の意思表示がされたという事実が抗弁となるにすぎない。)。

法制審議会
民法(相続関係)部会
第24回会議 議事録


第1 日 時  平成29年10月17日(火)自 午後1時28分
                      至 午後5時39分

第2 場 所  東京保護観察所会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第24回会議を開催いたします。
  議事に先立ちまして,新しい委員等の御紹介をさせていただきたいと思います。自己紹介ということで,まず,筒井委員からお願いいたします。
○筒井委員 法務省,筒井でございます。7月7日付けで審議官を拝命しました関係で,この部会にも委員として加わることになりました。引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうもありがとうございました。
  それから,東京家裁の青木委員。
○青木委員 東京家庭裁判所の青木でございます。石栗前代行の後任でございます。どうぞ皆さん,よろしくお願いします。
○大村部会長 よろしくお願いいたします。
  それから,3番目ですけれども,竹下関係官。
○竹下関係官 法務省民事局付の竹下と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 よろしくお願い申し上げます。
  以上が新しい委員等の紹介でございます。
  続きまして,本日の配布資料につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 関係官の満田の方から配布資料等の説明をさせていただきます。
  今回の部会におきましては,全部で5点資料がございます。部会資料は3点となっておりまして,24-1と24-2につきましては既に事前に送付させていただいています。24-3については本日,机上配布ということになっておりまして,これは第2の4の別案ということで,後ほど詳しく御説明させていただきます。それとともに,参考資料ということで,パブリックコメントの結果の概要をまとめさせていただいたものを参考資料としてお配りしております。
  説明資料については,以上になります。
○大村部会長 ありがとうございました。
  ただ今,資料につきまして御説明がございましたけれども,本日は部会資料の24-1,24-2,それから追加資料がございますけれども,「要綱案のたたき台(3)」について御検討いただきたいと思います。
  パブリックコメントの結果が出ているということで資料がございましたけれども,これは関係のところで併せて御説明を頂くということで進めさせていただきたいと存じます。
  24-1を見ていただきますと,「要綱案のたたき台(3)」ということで,従前同様,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から始まりまして,最後が19ページ,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」で,計6項目ございます。この項目は従前と変わりません。
  本日は,この6項目全部について御意見を頂き,集約できるところは集約していきたいと考えておりますけれども,順番といたしましては,なお議論すべき点が総体的に多く残されていると思われます第2と第4を先にいたしまして,「第2 遺産分割に関する見直し等」,それから「第4 遺留分制度に関する見直し」をまず先にやりたいと思います。その後,休憩を挟みまして,残りの第1,第3,第5,そして第6を検討させていただきたいと考えております。
  以上のような手順でまいりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。
  そこで,まず最初に,第2の「遺産分割に関する見直し等」につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から御説明いたします。
  本日も御議論いただくべき項目は多数ございますので,事務当局からの説明は簡潔にさせていただきたいと思いますが,御不明な点等ございましたら遠慮なく御質問ください。
  まず,第2の「遺産分割に関する見直し等」のうち「1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」につきまして御説明いたします。
  補足説明の7ページの1にもありますとおり,本方策につきましてはパブリックコメントでは賛成する意見が大勢を占めました。したがいまして,本方策につきましてはゴシック部分は字句等の若干の修正を施したほかは,追加試案からの変更点はございません。引き続き,追加試案の内容で要綱案を作成すべく検討を進めるのが相当であるものと考えております。
  次に,2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきまして御説明いたします。
  まず,(1)の家事事件手続法の保全処分の要件緩和についてですが,こちらもパブリックコメントにおきましては賛成する意見が大勢を占めました。したがいまして,本方策につきましては,ゴシック部分は追加試案からの変更は加えておらず,追加試案の内容で要綱案を作成すべく検討を進めるのが相当であるものと考えております。
  また,(2)の家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策についてですが,パブリックコメントにおきましてはこれに賛成する意見が大勢を占めましたが,補足説明の9ページにもありますとおり,追加試案の基準では一般的な葬儀費用が賄えず,割合や上限額の定め方に問題があるのではないかなどの指摘がございました。
  そこで,事務当局において改めてその基準等を精査いたしましたところ,補足説明の10ページ以下に具体的なデータを掲載しておりますが,高齢者の貯蓄額の中央値や貯蓄額に占める預貯金の割合などのデータを総合いたしますと,追加試案の2割という基準では特に仮払いを必要とされる葬儀費用を賄えないのではないかという疑問が生じてきましたので,今回の部会資料におきましてはその割合を3分の1と引き上げております。
  また,上限額につきましても,先ほど述べた高齢者の資産状況などについては,景気や社会情勢などによって変動する可能性もあるため,柔軟な対応を図るべく政令又は省令に委ねるべきではないかとの意見も複数寄せられましたので,その意見を踏まえてゴシック部分は修正を加えております。
  次に,3の「一部分割」について御説明いたします。
  パブリックコメントの結果は,補足説明の13ページの1に記載のとおり,こちらも賛成する意見が大勢を占めましたことから,ゴシック部分につきましては字句等の若干の修正を行ったほかは特に変更点はございません。引き続き,追加試案の内容で要綱案を作成すべく検討するのが相当であるものと考えております。
  次に,4の「相続開始後の共同相続人による財産処分」につきまして御説明いたします。
  まず,パブリックコメントの結果ですが,補足説明の14ページの1に記載のとおり,相続開始後の共同相続人による財産処分につきましては,計算上生ずる不公平を是正するために一定の方策を講じることについては,計算上の不公平が生じることについてこれを正当化することは困難である,また,このような不公平な結果を回避するために新たな規律を設ける必要があるなどとして,これに賛成する意見が多数を占めましたが,これに反対する意見も相当数寄せられました。
  次に,甲案と乙案を比較いたしますと,甲案を支持する意見が大勢を占めました。そして,甲案につきましては遺産分割の手続の中で一回的に処理することができ乙案より優れている,また,民法は相続人間では具体的相続分に応じて分割するのが相当であるとの価値判断をしているところ,本来その対象財産は相続開始時に存在した財産のはずであり,民法が予定する本来の姿に戻して一挙に解決しようとする方向性は支持されるべきであるなどとして,これを支持する意見が相当数寄せられたものの,補足説明の14ページの①から⑤までに詳しく記載したとおり,これに反対する意見も相当数寄せられております。
  以上のパブリックコメントの結果を踏まえまして,部会資料の24-1におきましては甲案を提案として掲げております。
  もっとも,甲案につきましては,これに賛成する意見も多く寄せられたものの,実務家の方を中心に強い懸念も示されており,実質的には甲案の理念を実現しつつ,少しでも実務における負担,混乱を軽減すべく,事務当局において様々な代替案を検討してまいりました。
  その代替案が,本日机上配布させていただいた部会資料24-3となりますので,そちらを御覧ください。
  本日机上配布となりましたので,やや詳しめに御説明させていただきたいと思いますが,別案の内容は,まず,(1)といたしまして,遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人はその全員の同意により,当該処分された財産又は処分により得られた財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるというものでして,(2)が,共同相続人の一人又は数人が(1)の処分をした場合には,当該処分した者は当該処分により得られた財産の限度で,ここは亀甲でございますが,この同意を拒むことができないというものになります。
  基本的な考え方は2ページ以下に記載のとおりでございますが,すなわち,遺産分割は相続開始時に存在し,かつ,遺産分割時に存在する財産を共同相続人間において分配する手続であるところ,第三者が相続財産を毀損,滅失させた場合など遺産分割時には存在しない財産については,遺産分割の対象とはならないものと考えられます。
  もっとも,遺産分割時には存在しない財産であっても,これを当事者が遺産分割の対象に含める旨の合意をした場合には遺産分割の対象となるものと考えられ,これは判例や実務においても定着した考え方であると言えます。この(1)の規律は,判例や実務によって承認されてきた考え方を,まずは明文化するものであります。
  そして,遺産分割前に共同相続人の一人が,他の共同相続人の同意を得ずに預貯金債権を行使するなど遺産に属する財産を処分することは基本的に許されておらず,このような処分を行った者が,処分をしなかった場合と比べて利得を得るということを放置することは,不公平な状態を是認することになりますから,仮に他の共同相続人が遺産分割において処分した財産を遺産に含めて遺産分割をすることについて同意を求めた場合に,その処分者に拒絶権を認める必要はないものと考えられます。
  そこで,(2)の規律は,共同相続人の一人又は数人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合には,他の共同相続人から当該処分した財産又はその代償財産を遺産に含める旨の同意を求められた場合には,当該処分を行った共同相続人はこれを拒むことができないこととしておりまして,結局,当該処分を行ったのが共同相続人の一人である場合には,遺産分割時に当該処分した財産又はその代償財産を遺産に含めることについて,他の共同相続人の同意があれば,これを遺産分割の対象として含めることができることになりまして,甲案において実現したい結果を実現することができることとなります。
  なお,(2)の亀甲括弧で示した部分でございますが,こちらは各共同相続人は相続開始の時から遺産分割までの間,遺産を構成する個々の財産について実体的・具体的な権利を有しており,その共有持分権を第三者に譲渡することができるという累次の判例法理からすると,各共同相続人が安価で時価より低い価格で共有持分権を処分するなどの行為も本来自由であるという前提を可及的に維持した場合における別案の別案ということになります。
  全共同相続人の集団的利益という観点からは,このような処分の結果は認めるべきではないという考え方もあり得るところではございますが,他方,これまでの判例法理との整合性に加え,処分された財産の評価等を巡る紛争の長期化を防ぐという意義も実務的にあるのではないかとも考えております。また,遺産分割の実務におきまして,遺産分割前の処分の大半を占めます預貯金債権の処分につきましては,この別案によっても同一の結論となります。
  なお,甲案において示された懸念点等との関係につきましては,3ページの3に記載のとおりでございますが,以下のとおりに整理することができるかと思います。
  まず,遺産分割の長期化,複雑化等との関係でございますが,別案によりますと,当該処分を行った者以外の他の共同相続人全員の同意がない限り遺産としてみなされることはなく,当該処分が葬儀費用の弁済や相続債務の弁済に用いられた場合など,他の共同相続人がその精算を望まない場合には遺産分割において考慮されることはなく,甲案とは異なって,常に処分された財産を遺産としてみなす必要はなくなることとなります。
  また,別案は,遺産から逸失した財産については,もはや遺産ではないことを前提として,遺産分割時に共同相続人全員の同意がある場合には,当該処分した財産又は代償財産を遺産に含めることができるにすぎませんので,遺産分割が既に終了している場合にはその適用がないものと考えられ,遺産の処分がされた場合には常に遺産とみなす甲案とは異なり,事後的にみなし遺産の存在が判明し,遺産分割に関する紛争が繰り返されるということは少なくなるのではないかというふうに考えております。
  もっとも,共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分したとして,他の共同相続人全員が当該処分した財産を遺産とみなして遺産分割をすることを求めており,当該処分をしたとされる相続人がその処分の有無を争っている場合には,家庭裁判所において当該処分が共同相続人によって処分されたか否かを判断せざるを得ず,その意味では紛争の長期化,複雑化は一定程度避けられないと言えます。
  なお,当該処分された財産が遺産の大半を占めている場合におきましては,家庭裁判所がその判断を誤り,当該処分された財産を遺産分割の対象とした場合につきましては,遺産分割審判が事後的に覆る可能性がないとは言えないため,当該処分したのが共同相続人の一人によるものか否か,ひいては別案の規律の適用の結果,みなし遺産となるかどうかについての確認訴訟を経た上で遺産分割の審判をするのが通常になるのではないかと思われます。
  また,(2)の不法行為,不当利得との関係につきましては,以下のとおりに整理することができるかと思います。
  すなわち,遺産分割前に預貯金の不当な払戻しが行われた場合には,他の共同相続人の関係で不法行為又は不当利得が成立するものと考えられます。そして,他の共同相続人が当該処分をした相続人に対して不法行為等による民事上の救済を求めている場合には,遺産分割における精算を希望していないものと考えられ,別案の規律の適用はないものと考えられます。そうすると,不法行為等による民事上の救済と遺産分割における処理とが重畳することは考えられず,その調整を考えることは基本的には必要ないものと考えられます。
  遺産分割前に共同相続人の一人が遺産を処分した場合には常に遺産とみなされる甲案におきましては,民事上の救済と遺産分割における処理との関係を検討しなければいけませんでしたが,別案におきましては,そのような調整を基本的に考える必要はなく,法律関係がより簡明になるものと考えられます。
  本日は,甲案とともに,その代替案であります別案につきましても併せて御検討賜りますよう,よろしくお願いいたします。
  以上,第2について御説明させていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御説明を頂きましたけれども,資料の24-1で申しますと7ページの「第2 遺産分割に関する見直し等」という部分,1から4まで四つの項目がございます。そのうちの1の「配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」,それから3の「一部分割」については,パブリックコメントでも特に異論はなかったということで,従前の案が維持されているところでございます。2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきましては,上限額についてパブリックコメントに表れている意見等を勘案して,従前の制限を少し変えるような御提案がされているということでございました。
  最後に,4の「相続開始後の共同相続人による財産処分」につきましては,別案が示されまして,詳しい御説明を頂きましたけれども,従前の甲・乙については,甲を採って,それを本案としておりますが,それに加えて,この別案を御検討いただきたいということでございました。共同相続人の全員の同意にかからしめることによって,これまで難点とされていた問題の幾つかが解決ないし軽減されるのではないかという説明だったかと思います。
  以上のようなことかと思いますけれども,まず,1の「配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」,あるいは3の「一部分割」について何かございましたら伺いますけれども,これらの点についてはよろしいでしょうか。
  後での御発言を封ずるという趣旨ではありませんけれども,順番として1,3については特によろしいということであれば,2の上限額の問題について御意見を頂き,これについて一定の御意見を頂きましたら,4の問題について御議論いただくという形にしたいと思いますが,仮払いのところについてはいかがでございましょうか。
○藤原委員 仮払いのところにつきましては,1点意見と2点確認がございます。
  まず,(2)の家庭裁判所の判断を経ない仮払いの制度につきましては,前回の部会においてこの仮払いの割合とか上限額についてはパブリックコメントの結果を踏まえて更に検討していただきたい旨の意見を述べさせていただきましたけれども,今回正にパブコメを踏まえて,割合については2割から3分の1と,上限金額については政省令への委任をすると提案されておりまして,これについてはきちんと踏まえていただいたということで賛成をいたします。
  もう一つ,ただ,この政省令への委任が提案されております債務者ごとの上限額につきましては,補足説明の9ページから10ページにその背景が説明されておりますとおり,追加試案の基準では十分な払戻しを得られない可能性があるとか,少なくとも債務者ごとの上限額については政省令に委任して柔軟な対応をするのが相当であるといった,こういった御説明,背景からすれば,この当初,政省令で設定される金額につきましては最初の御提案の100万円よりは引き上げられるべきだというふうに考えておりますので,政省令の制定の際にはこの点につきしっかり御検討,御配慮いただきたい旨,意見させていただきます。
  次に,確認をしたい事項2点でございますが,まず第1点は,これは(1),(2)両方に共通する事項でございますけれども,この仮払い制度において法律上の払戻しが認められる場合であったとしても,金融機関側からの預金規定上又は法律上の抗弁は認められるという,そういう理解でよろしいですねということを確認したいと思っております。
  例えば,預金規定上の抗弁としては,パブコメにもございましたとおり,定期預金等においては一部の払戻しを禁ずるような商品もございまして,そういった預金規定に基づく抗弁であったり,また法律上の抗弁としては,元々被相続人に対して貸付債権があったような場合に,それと相続預金とを相殺するといったような抗弁が考えられますので,こういった抗弁がこの規律によっても妨げられないということを確認したいと思っております。
  2点目については,これも以前の部会で述べさせていただきましたことの再確認でございますが,この(2)の規定は強行法規ではないですよねということでございます。今回,金額等の引上げがあったことによりまして,この仮払い制度によって対応できる範囲というのは広がったというふうには考えておりますけれども,仮にそれでもやはり金額的にちょっと足りないというようなニーズが生じた場合に,各金融機関の創意工夫によって,この(2)の規律とは異なる相続預金の払戻しに関する約款を設けるとか個別合意を行うということは妨げられないですよねということを確認させていただきたいです。この規律が任意法規であるということは法律上明記していただくのが一番よいとは考えておりますが,仮に明記されない場合であっても,任意法規という形での御提案であるということは確認させていただきたいと思っております。
  あと,当然の話でございますが,この個別合意や約款というのは,民法90条であったり消費者契約法10条であるといった別の強行法規には反しないということを前提とするというふうに考えておりますので,その前提でお答えいただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
○神吉関係官 では,事務当局からお答えさせていただきます。
  まず最初,御要望がありました政省令に委ねる場合の基準額につきましては,部会資料にも記載のとおり,景気や社会情勢によって変動する可能性があるため,そのときの情勢を踏まえて検討していこうと,本日頂戴した御意見も踏まえて慎重に検討していこうと思っているところでございます。
  それから,御質問2点頂きました。まず,1点目の御質問はこの規定が預金規定上の契約上の制限を排除するものかどうかという御質問でございますが,特に2の(2)の方策につきましては,相続開始によって準共有となったと一般的には言われている預貯金債権につき,本来は共同相続人全員でなければ権利行使をすることができないところ,法律上の規定を設けて,一定額の範囲内で共同相続人の一人による単独での権利行使をすることができるということですので,預金規定上にその制限が付いている場合について,その契約上の制限まで解除する趣旨ではないという理解でございます。
  2点目の質問でございます。強行法規かどうかという点でございますが,1点目の質問に対する御回答とも関係する点ではございますけれども,基本的には契約上の制限を解除するものではないという理解でございますので,別途契約で制限が払戻し制限が付いているといった場合については,そちらに委ねられるということだと思います。ただ,藤原委員御指摘のとおり,その契約上の制限が,民法第90条や消費者契約法に反するような場合については,その制限そのもの自体が無効となる可能性があるのかなと思いますので,どういった規定にするのかということについてはまた慎重な検討が必要と思っているところでございます。
  また,どのような規定とすべきかは慎重な検討が必要かと思いますが,金融機関と預金者の方が,生前に支払委託契約を締結するなどして,葬儀費用の支払を委ねるということは,現在もそのような取扱いをされている金融機関もあるようでして,十分にあり得るのかなと思っているところでございます。
○大村部会長 藤原委員,よろしいでしょうか。
○藤原委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。
○山本幹事 2の(2)につきまして,1点確認させていただきたい点がございます。
  各共同相続人が一定額について単独で権利を行使することはできるということですけれども,当該一定額について請求する権利を第三者に各共同相続人が譲渡したりとか,あるいは相続債権者や相続人の債権者がこの一定額について差押えをするといったようなことは可能になるのかどうなのかというところについて御教示を頂ければと思います。
○神吉関係官 十分に検討できておりませんが,こういう規定を設けた場合に差押えとかできるのかどうかは,その権利が行使上の一身専属権があるのかどうかによるのではないかと思います。この規定をどういう趣旨で設けたかというところにもよるのだと思いますが,各共同相続人が相続開始によって遺産分割までの間,被相続人の預貯金債権を行使できないということによって生ずる不都合を便宜的に解除するものだというところに趣旨があるのだとすると,行使上の一身専属権があって,差押えや,払戻請求権自体を譲渡するということはできないと考えられるのではないかと思います。
○山本幹事 どういう趣旨として提案されているかという点については,どうなりますでしょうか。
○神吉関係官 基本的に,事務当局としましては,先ほど述べたような趣旨で,行使上の一身専属権があるというか,払戻し請求権自体を譲渡したりとか,差押えはできないのではないかと考えておりますが,そこはもう解釈に委ねてもよろしいのではないかなと思っているところでございます。
○大村部会長 いかがでしょうか。
○潮見委員 確認だけですけれども,相殺はオーケー,差押えは駄目という御趣旨,譲渡も駄目という御趣旨ですか。
○神吉関係官 相殺につきましては,金融機関が被相続人に対しても債権を持っている場合に相殺をするということは考えられるかと思いますが,相続人の債権者として相殺することが可能かどうかは問題があるのではないかと思います。相殺の具体的な場面というのは,どこの場面,相続人の債権者が相殺するのか,被相続人の債権者が相殺するのかによって大分利益状況は異なるのかなとは思うんですけれども。
○潮見委員 利益状況が異なるというのは,どういうことですか。
○神吉関係官 大法廷決定後に様々なところで議論がされておりますが,相続債権者としての相殺ということであればあり得るが,相続人の債権者としての相殺ということではあれば難しいのではないかという議論があるのではないかと思います。
○潮見委員 ちょっと話の腰を折って申し訳ないんですけれども,事前に相殺への期待というものが存在しているから,その期待を保護しなければいけない,だから,その部分については相殺は認めてやっていい。ところが,そのような事前の相殺への期待というものは相続人債権者が持っている,例えば貸金債権等であれば存在しないから,だからそこの部分についての相殺は認めることは,どうするかは解釈に委ねるという判断ですか。一身専属にも絡んでくるという趣旨ですか。
○堂薗幹事 例えば,相続人の債権者がこの仮払い制度がなかった場合に相殺ができないにもかかわらず,すなわち,弁済を請求できないので相殺もできないというような状態にあるにもかかわらず,この制度があることによって,相殺ができるということにはならないのではないかということでございます。飽くまでも,ここで準共有の持分であるにもかかわらず単独で権利行使を認めているのは,相続人には,いわば類型的に保全の必要性が認められるという前提で,政策的観点から特に権利行使を認めているので,この仮払いの制度があることによって,相続人の債権者が本来できなかった相殺をするとか,あるいは,共有持分の差押え自体は当然できるわけですが,本来ですと共有持分にすぎないので取立てができなかったところが,取立てをすることができるようになるとか,そういったことにはならないのではないかという趣旨でございますけれども。
○潮見委員 先ほど,藤原委員が分かりましたとおっしゃったのは,そこも含めて分かりましたという御趣旨だったんですか。
○藤原委員 今の問題提起されたことについては,含んでおりません。新たな問題提起として私も聞いておりました。
○大村部会長 今,相殺について期待の有様によって線を引くのかどうかということが話題になっているかと思いますけれども,その点につきましてほかに何か御発言ありますでしょうか。いかがでしょうか。
○増田委員 被相続人の債権者などよりも,相続人が本来期待していなかったはずの預貯金を引き出す権利の方が優先するというのはちょっと分からなかったんですけれども。本来は,それは被相続人に対する債権の担保になっていたはずなんだから,それがたまたま相続が起こったために,被相続人の地位を承継したはずの相続人がその預金を使えて,差押債権者の方は制限されるというのはちょっとよく理解できないわけで,そこまでして生活に困っているようなところを救う必要があるのかどうか,かつ,生活の困窮などの緊急性はこの規定の適用要件になっていないわけですから,差押えなどは相続開始前同様に当然にできると解されるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 ですから,元々相続人が預貯金債権の共有持分は持っていますので,そこに対して差押えをすることは当然にできるということになります。本来,持分の差押えをしただけでは取立てまではできない地位にしかなかったわけですけれども,この規定があることによって,取立てまでできるかどうかという点で,そこは行使上の一身専属権という理由付けなのかどうかは慎重に検討する必要があるというふうには考えておりますが,少なくともこの仮払い制度があることによって,本来,相続債権者ができなかったことまでできるようにさせる必要があるのかという点については,疑問を持っているということです。
○大村部会長 今のような御説明で御意見は分かれ得るところかと思いますけれども,いかがでしょうか。
○山本(克)委員 この預金の払戻請求権とここで言う払戻請求権ですね,本来の預金の払戻し,これ権利としての同一性は維持しているんですか,それとも別の権利が新たに成立していると考えているんですか,何か別の権利のようにも聞こえるんですが。
○堂薗幹事 基本的には,本来共有の規定の適用があるところを,一部制限を緩和しているというだけですので,こちらとしては別の権利が発生しているというふうに見ているわけではございません。ですから保全処分で,例えば仮地位仮処分のような形で暫定的に債権者の請求を認めたという場合に,それについて,その債権者が差押えをして取り立てることができるのかという問題とも関連するのではないかというように考えているところではありますが,その辺りも含めて検討する必要があるのではないかと思っております。
○山本(克)委員 何か伺っていると,一身専属的でなかったものが突如変わってしまうわけですよね,一身専属的に。何かそこは気持ち悪いなという感じで,例えば被相続人の預金払戻請求権を仮差押えした債権者がいて,そのまま共同相続が起こってしまったという場合に,同一性は持っているんですね。つまり,払戻し禁止の効力は弁済禁止の効力は共同相続人にも及んでいるということになるわけですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 何か,でも気持ち悪い感じはしますね。
○大村部会長 今の御議論は,実質の問題とそれからどのように説明するかということと,両方について考える必要があろうかと思います。この要綱案そのものにそれが表れるかどうかはまた別の問題で,ここで書かれている限度では皆さんの間に御異論があるというわけではなさそうですけれども,今の点をどのように考えるのかということについては少しはっきりさせておいたほうがいいだろうと思います。事務当局に持ち帰っていただき,次回までに整理していただくということでよろしいですか。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて問題点を整理した上で,次回にもう一度結論をお示しして,御議論いただければというふうに考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  では,第2の2の仮払いにつきまして,ほかの御意見ありましたら伺いますが,いかがでしょうか。
  それでは,今御指摘のありました問題につきましては更に御検討いただくということで,ここの提案自体についてはこれについて大きな異論はなかったということで先に進ませていただきたいと思います。
  この資料で申しますと,8ページの4の共同相続後の共同相続人による財産処分,甲案に相当するものがその8ページに出ておりますが,これと併せて,先ほど別案の御説明もございました。別案は,本日初めての提案でございますので,これも併せて御意見等頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○潮見委員 私は,元々甲案には反対だとずっと言い続けてきている人間で,甲案を採用したほうがいいという御意見が多いということであれば,それを前提としてですけれども,甲案か別案かと言われたら,別案の方がよろしいのかなとは思います。その上で,1点だけ,ここはいかがかと思うところを申し上げます。甲案と別案のうち,別案の方には,1項で代償財産が入っています。甲案の方は,当該処分された財産のみですよね。御趣旨は分かるんですが,代償財産というものを別案に組み込んだのが果たしてよかったのかというところが,私にはよく分からないというか,外したほうがいいのではないかと思うところです。
  御説明にありました代償財産というものがここに入った背景にあるところの判例というのは,これは代償財産というものは遺産ではないけれども,当事者の合意によって分割協議等に組み込んで,そして遺産分割の対象にすることができるということを言ったにすぎないというものです。それと,当初,相続開始時に遺産に属していた相続財産というものとはやや質が違うし,従前の実務で言われてきたようなものを,このような(1)のような形で遺産分割の対象財産として扱う以上に遺産とみなすというのは,従前の実務からもかなり質的に離れているものではないかと強く感じるところです。
  その意味では,仮に甲案か別案かということで別案を採るにしても,(1)の「又は当該処分により得られた財産」という,この代償財産のところは外していただきたい。それを外して,(2)のところの亀甲部分も外すということであれば,それでもいいのかなという感じがしないわけではありません。別案のままでいったら,従前の実体法のルールとはかなり違ったものを持ち込んでしまうような気がしてならないので,御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  甲案と別案ならば別案の方が相対的によいということで,しかし,(1)の「又は当該処分により得られた財産」と,それから(2)の亀甲部分を外すべきだという御提案ですね。それに関して何かありますか。
○中田委員 これまで,この問題,随分検討してきまして,難しい問題ですが,だんだん問題点が明らかになってきたと思います。つまり,共同相続人が遺産分割前に行った無権限の払戻しに対応できるということ,他方で,動産や不動産について持分の処分ができるという判例法理を尊重するということ,更に具体的相続分による遺産分割を実現すること,これらを全部そろえるのはなかなか難しいと思うんですけれども,ようやく努力された結果として別案に至ったのかなというように理解いたしました。その意味で言うと,この別案は今申し上げたような若干対立するような要請を満たす方法として評価できるのではないかと思います。
  その上で,ただ今,潮見委員がおっしゃいました代償財産についてですけれども,これを入れることによっていろいろな問題がまた新たに出てくるだろうと思います。つまり,処分財産と代償財産との選択を誰がどういうふうにするかであるとか,あるいは処分財産よりも代償財産の方が大きい場合どうなるのか,逆にそれが小さい場合どうなるのか,いろいろな問題について検討する必要がございまして,その上でないとなかなかうまい規律ができないと思うんですが,そこまで細かく規律することのメリットとデメリットを比較するということかなと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  比較すると,代償財産については潮見委員のような考え方も理解されるという御趣旨でしょうか。
○中田委員 必ずしも今の段階で代償財産の部分をなくせとまでは申しませんけれども,もし残すとしたらいろいろな問題を検討する必要があるのではないかということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 私も従前,甲案には反対しておりました。甲案の幾つかの難点があるわけですけれども,その中でいつまでも遺産分割の手続をしなければならないということになると,大分前に死んだ人の相続に関して期間があいてから紛争になった場合には,中間に処分が多数あって遺産の特定に困るとか,あるいは遺産分割が終了した後で共同相続人の処分が発覚した場合でも遺産分割をしなければならない。訴訟との関係が分からないので,訴訟が仮にできないとすると民事保全などもできないというような不都合があったかと思いますが,それらの不都合については別案を採ることによって解消されるということで,別案を支持したいと思います。
  ただ,潮見委員がおっしゃったのと同じような観点なんですけれども,当該処分された財産というのと,処分により得られた財産というのは本質的に異なるのではないかと思います。しかも,「又は」ということになることによって,「みなし遺産の確認訴訟」,私はみなしは要らなくて,遺産の確認訴訟だと思うんですが,この確認の対象がどちらになるのかという問題が生じる。しかも,処分した以外の相続人にとっては,処分された財産は分かっても処分により得られた財産は通常分からないので,これを確認の対象として訴えるということは相当困難だろうと思います。
  私が思うに,前者の当該処分された財産というのは遺産性の問題としてこれを遺産と考え,後者の当該処分により得られた財産というのは評価の問題だろうと。その遺産を分割するときにどういう評価をするかの問題であって,これは訴訟上の確認の対象なんかには本来当たらないのかなと。つまりは当該処分された財産が遺産として分割の対象となったときに,手続の中で評価するに当たって得られた財産を一つの基準として評価するということでよろしいのかなというふうに考える次第です。
  それで,ちょっとほかの質問。別案に関する質問ですが,この同意というのは,撤回を認めてはいけないものだと思うんですが,それでいいのかどうか。これが,実体法上遺産とすることの合意なのか,それとも手続上遺産分割の対象とすることに対する合意なのかという点をお伺いしたいと思います。
  というのは,現在でも合意により遺産でないものを遺産分割の対象とすることは認められてはいるんですけれども,その合意の性質については若干争いがあって,手続上の合意とした場合には,調停のときと審判のときとは別個で,一旦調停で合意しても審判になったら,いや,それはしないというようなことも認められるし,あるいは,遺産確認の訴訟で和解をした場合にそれをそのまま調停ないし審判に持っていけるのかどうかという点については若干疑問が呈せられているところでもあるので,せっかくだから,そこははっきりとその性質も含めて明らかにしていただいたほうがいいんではないかと思う次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  3人の委員の方から,程度の差はありますけれども別案に賛成するという御意見を頂き,しかし,当該処分により得られた財産を含めることについてはネガティブな意見が表明されていたかと思います。それと,今,併せて,増田委員から全員の同意の性質について問題提起がされています。この2点につきまして,事務当局はいかがですか。
○神吉関係官 代償財産を入れるかどうかという点については,理論上必ず入れなければならないというほどのものではないので,こちらは部会資料24-3に記載させていただいた趣旨を踏まえて,フランクに御議論いただければと思っているところでございます。
  増田委員から御指摘がありました実体法上の合意なのか,それとも手続法上の合意なのかという点でございますが,こちらは詰めて検討したわけではございませんが,民法にこの規定を設けるのだとすると実体法上の合意であるというふうに解釈をされやすくなるのではないかなと思うんですが,そうすると,一度共同相続人全員で合意をした以上は,遺産として存在するものとみなされるという効果は既に生じておりますので,その後,同意をした共同相続人の一人がやはり同意をやめたと,撤回をするということはできない,そのように解釈をした方が安定的な遺産分割をすることができるのではないかなと思っているところでございます。
  ですので,実体法上の合意というふうに理解したほうがいいのかなというふうに今の時点では思っているところでございます。
○大村部会長 増田委員,よろしいですか。
○石井幹事 同じような御意見になるのかもしれませんけれども,甲案については私も従前から遺産分割の実務の観点から紛争の複雑長期化が懸念されるということで意見を申し上げておいたところでありますけれども,パブリックコメントの結果を踏まえて甲案という形で御提案いただいたということかと思いますが,その点はやはり引き続き問題として残ると思いますし,裁判所が大変だというところももちろんあるんですけれども,甲案ですと一部の相続人が争っている場合でも全体を最後まで巻き込んで争っていかなければいけないというところで非常に当事者の負担が大きいんではないかといったことも申し上げておったところでありまして,裁判所内部でパブコメの際に意見を検討した際にも,そういった指摘が多く示されているところでございますので,やはりそういった点についてはなお検討いただく必要があろうかなと思っております。
  今回別案ということで御提案いただき,今申し上げたような問題点については相当程度緩和策を御検討いただいているのかなと思いますが,直前に御提案を頂いたものでございますので,今日の段階でなかなか意見は申し上げにくいところでございます。
  別案の関係でちょっと1点,私も御質問させていただければと思うんですが,同意が得られず,かつ,この御提案ですと,当該処分をしたものも,処分したかどうか争いがあるという場合について確認訴訟を提起するということが検討されていますけれども,資料を拝見して,確認訴訟になった場合の確認の対象が,預金なら預金が遺産に属することということの確認なのか,あるいはこの4ページの例でいくと,Aという個別の相続人が処分した預金が遺産に属するということの確認なのか,あるいはもう端的にAが預金を処分したということの確認なのかという辺りが必ずしもちょっと明らかでないかなというふうに考えておったんですけれども,事務局の方で何かその辺りお考えになっているところがあればちょっと伺っておきたいと思うんですけれども,いかがでしょうか。
○神吉関係官 その点については,甲案を採用した場合でもどうなのかということで,確か第20回部会で御議論いただいたかと思いますが,別案を採用した場合にはよりシビアな問題になるのかなというふうに認識しております。遺産分割における前提問題ということであれば,処分した財産が遺産であるということを確認をするという主文が得られれば,そこのところが既判力を持って確定されればよろしいのかなというふうに現時点では考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○水野(有)委員 すみません,今のに関連してのことなんですが,もし遺産であることだけを確認となりますと請求原因がどういう形になるのかなと思いまして。主文が遺産の確認でございますよね。お兄さんが原告で弟が被告で,お兄さんが弟が処分したから遺産だというときには,多分,主文は遺産であることを確認で,請求原因が死亡時,父が持っていたと,それで弟が処分した,が請求原因になるのかなと思うんですが,それに対する認否が,まず遺産だというところが争いなしになってしまうんですよね,被告も。被告が,お兄さんが処分したと思っていた場合ですね,被告はお兄さんが処分したから遺産だと思っていたような事案のときにですね。そうなると,請求の趣旨に対する答弁が遺産だ,になってしまって,請求の原因に対する答弁が,お父さんが持っていたがマルで,弟が処分したがペケで,積極否認事由として兄が処分したになってしまうので,もし請求の趣旨に争いがなかったら一般的には民事訴訟なら認諾になってしまうということになりますと,やはり請求原因のうちの誰が処分したかということについて主文に挙がらないとなかなかいけないのかなと思わなくもなくて,そうなるとやはり今までの遺産確認訴訟とは何か毛色の違う何かを,立法で作る必要まであるのか,解釈でそこまで読み込んでそういうときはそこまで審理するとするのかまではちょっとよく分からないのですが,もう少し検討しなくていいのかなというのがちょっと民事訴訟で日々体験している者の実感としてありました。
  というのは,ほとんどの,全部と申しませんが,私の30年近い裁判官生活の場合,第三者が処分したか相続人が処分したかという事例は確か1件もなくて,相続人同士の争いしか少なくとも私は経験したことがないので,余り第三者が出てくる例というのはちょっと想定し難いかなと。そうだとすると,もし甲案ないし別案を御検討されるのであれば,その辺りも少し詰めないと難しくないかなというのが,私の個人的な見解でございますので,御検討いただければなと思います。
○堂薗幹事 その点は非常に難しい問題ですので,御指摘を踏まえて検討させていただければと思いますが,これは正に処分をした人がそこを争っていることが確認訴訟をするために必要だということになりますので,先ほどの事例で言いますと,弟が処分をして,なおかつ,弟が処分をしたことを争っているということで初めて遺産とみなされ,確認の利益が認められるということになると思いますので,先ほど御指摘いただいた事例ですと,被告の方は原告の方で処分したと思っていてということであれば,それはお互いにみなし遺産の確認請求をしない限りはっきりはしないということになるかと思います。逆に言いますと,原告の方の主張としては被告が処分したことが前提となっていますので,被告が処分したということが認められて初めて遺産の確認請求が認められますし,逆に被告の方の言っていることが正しくて,それを理由として遺産とみなされるのであれば,それはその弟の方が原告として遺産確認請求をすることになるのではないかという気もしているんですけれども。
○水野(有)委員 そういう御見解を採るとすれば,多分誰が処分したかまでが,何といいますか,一致しないと訴訟物が違うという見解を採れば多分それでいけると思うんですね。だから,遺産となる理由が異なる場合には訴訟物が違うという見解を採れば,ただ,そこで真偽不明になったら両方棄却ということになってしまうということでよろしいんですかね。
○堂薗幹事 逆に真偽不明ではあるけれども,相続人のどちらかが間違いなく処分しただろうという場合に遺産としてみなされますと,今度は逆に,それだけだと今度は遺産分割のところでどちらがそれを取得したのかというところの判断をしなければいけなくなり,その認定が違うということで遺産分割の結論は変わり得るということになりますと,それはそれで非常に問題は大きくなるような気もいたします。そこは正に,なぜ遺産になるかというと,要するに同意をしない人が処分をしたからこそ遺産とみなされるということなので,個人的にはそこまで言えて初めて訴訟物が決まるというふうにしたほうが全体の紛争の解決としてはいいのではないかという印象を持っておりますが,ただ,その点は御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○水野(有)委員 おっしゃることはとてもよく分かって,そうだとすると訴訟物が今までほかの遺産確認であればともかくその時点で遺産がその人のものであれば遺産確認できたものを,やはりそういう意味ではちょっと性質を変えているというふうに言うかどうか,説明の問題かもしれませんけれども,いずれにしても誰が処分したまでを訴訟物とまで言うか,趣旨に挙げるかどうかは別として判断しなければいけないものという訴訟類型を御想定されているという御趣旨,とてもよく分かりました。ありがとうございました。
○青木委員 ちょっと今の議論に重ねて東京家裁からも御質問させていただきたいんですけれども,端的にここで説明のあるみなし遺産となるかどうかについての確認訴訟の主文例か何かを示していただかないと,ちょっと実務的には持ち帰って検討しづらいなと思います。
  今,水野委員から御指摘のあった処分行為者が誰かというところが確認の主文に載らないのであれば,遺産性だけ確認して終わりということになると,では今度それは理由中の判断でそごが出てくるという話になるのか,それが終わった後,家裁の遺産分割審判における審理対象,残る問題点は何なのか,その辺りのところを是非十分議論の上,お示しいただきたいというふうに重ねてお願いしたいと思います。
○神吉関係官 事務当局においても検討はしたいと思いますが,手続法の委員の方に教えていただければと思います。事務当局としては先ほど述べたように,遺産であるということを確認すれば十分なのではないかと,誰が処分したということまでは,そこまでは確認の利益があるのかどうかというのはよく分からないなと思っていたところですけれども,その辺りの点についてもし何か御示唆があれば頂戴できると有り難いのですが,いかがでしょうか。
○垣内幹事 若い者から先に発言させて頂くということで,間違いがありましたら他の委員の先生方から訂正を頂ければと思いますが,結局,処分権主義ですので,何について確認を求めるかというのはこれは原告が基本的には設定するということになりますが,そうすると問題は確認の利益が何について認められるかということで,甲案を採った場合でもいろいろ問題,議論の余地というのはあることかと思いますけれども,基本的にはまず当該財産がそもそも遺産分割の対象となる遺産なのかどうかということを確定することにどういう意味があるのかということがまずあって,これは分割対象でないような財産について,例えば審判などで分割をしたというときに,それが仮に本来分割対象でない財産だったとしたらその審判の効果等はどうなるのかという問題と密接に関連をしているところかと思います。では,後者の問題というのは一般的な共通理解があるのかどうかというのが私自身は実はよく分からないところでありますけれども,一つの考え方としては,およそ分割対象ではないような全く相続財産に含まれないようなものについて,幾らそんな審判をしたところで,それは意味を持たないのではないかというような考えがあり得るとしますと,それによって,言わば後でその財産が遺産でなかったことが発覚したことによってその審判の効力が左右されるという事態になるので,これを防ぐために,遺産であるかどうか,つまり遺産分割の対象となる財産であるかどうかを確認することには利益が認められるというのが一つ出てくる話なんだろうと思います。
  そうした場合には,その観点からのみいきますと,誰が処分して,その人の同意が拒めなかったから遺産とみなされたのかというのは,その限りでは意味がないことであって,とにかく遺産の分割の対象だったかどうかということがそこでは注目されているということになるんですけれども,しかし,そうなりますと,今度は遺産分割をそれに基づいてするという段階で,結局兄が処分したのか,弟が処分して取得したのかということが分からないと,分割の内容をどうするかということのレベルでどう処理したらいいのかという問題がもう一度噴出してくるということになりますので,そのときに,仮に最初の確認対象を単に抽象的に当該財産が遺産とみなされるということだけではなくて,兄が処分をしたことによって遺産とみなされることの確認であるとか,弟が処分をしたことの結果として遺産とみなされることの確認というようなことだったといたしますと,その点も含めてその遺産分割,後での協議,あるいは審判等ではそれを基準として,既判力がありますのでそれを前提に処理をするということになるわけで,もし後者のような処理ができるということに意味があるというふうに考えられるのだとすると,それも確認の利益が,そこまで確認の利益があるという考え方もあり得るのかもしれないというように思います。
  ただ,問題は結局,兄が処分してもう取ってしまったんだから,分割の中でそれを調整するとか,逆であるといったようなことは,これは分割の具体的な内容の問題であって,そもそも対象でない財産を分割したという話とは違いますので,後で仮にその点が本当は兄が処分した前提で審判をしたけれども,本当は処分したのは弟だったということが後で分かったというときに,審判の効力等はどうなるのかという問題は,そもそも遺産でなかったという場合とは異なる帰結になる可能性があるように思われまして,仮にそもそも遺産でなかったという場合であれば何か覆る,覆るということは何を意味するのかということも問題ですけれども,兄が処分をした,弟が処分したの限度ではそういう事態にはならないということがあったとしますと,そこの違いからその後者のようなところまで確認するという利益は認められないというような議論があるいはあり得そうな気もするところで,私自身はどう考えたらいいのかちょっとまだ御提案を拝見して決めかねているというのが現状でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本(克)委員 では,お年寄りもちょっとしゃべらせていただきますが,私はこれ,誰が処分したかは特別利益と似たような問題であって,具体的相続分の算定に係る問題だと思いますので,そこは訴訟事項ではないというのが最高裁の考え方なので,そちらにのっとっていけばいいということで,特に訴訟においては,誰が処分したかというのは第三者が処分したのでないということさえ分かればいいので,誰が処分したのかというところについて相続人の誰かということまで審理する必要は,既判力を持って確定する必要は何もないというふうに一応考えています。
○山本(和)委員 私も結論的には山本克己委員と同意見で,確認の利益,遺産帰属性についての確認の利益はあるかというのは垣内幹事が言われたようなことではないかと思っていて,最高裁も遺産確認の訴えの利益を認める根拠は,その財産が遺産分割の対象となる財産であることを既判力を持って確定して,遺産分割後に問題が生じないようにするという点に確認の利益を認めているわけですので,それと同じことはこの別案の場合にも同様に妥当するだろうと思います。
  ただ,誰が処分をしたかというのは,結局遺産に帰属した後,裁判所がそれを,通常はその処分をした人に帰属をさせて後々問題がないようにするわけで,別の人に帰属させてしまうと後でいろいろ問題,争議,911条か何か分かりませんけれども,後に問題を残すことになってしまうので,ですから,そこを封じるということは分からないではないんですけれども,それは紛争解決機能はより高くはなるんだろうと思いますけれども,それは飽くまでも遺産分割をする際の基準の問題であって,今,山本克己委員が言われたように特別受益の問題あるいは具体的相続分の問題については,それは権利義務ではなく確認の対象ではないというのが最高裁の理解なんだろうと思います。
  したがって,水野委員が言われた問題でも,結局兄か弟かどちらかがそれを処分していれば,そして兄も弟も基本的にはそれを遺産分割の対象としたいからそういう訴えを起こしているんだろうと思いますので,仮にそこが両方ノンリケットだった場合に,両方の請求が棄却されて遺産分割の対象にならないという帰結になるのは,それは結論はすごくおかしい感じがしておりまして,そこをどういうふうに説明するのかというのはちょっと私も今,定見はありませんけれども,基本的には第三者でない相続人のうちの誰かが処分したと,処分した者以外がそれを遺産分割の対象にしているという要件が満たされれば,それは遺産とみなされ,遺産分割の対象になるのかなというふうに理解をしております。
○水野(有)委員 今の山本和彦委員の御意見はとてもよく分かりまして,そうなりますとやはり訴訟物としたら選択的に兄が処分しようと弟が処分しようと主文としては遺産という確認されるという形になる遺産確認,それが従前の遺産確認だと思うんですね。それでそうなるんだったらすごく論旨一貫していてとてもよく分かるんですが,ただ,そうだとするとここでのニーズを満たす訴訟類型,ニーズですね,理論的なことではなくて,になるのかならないのかという論点が出てきて,たまたま理由中で認定できるときはされるかもしれないし,されないかもしれないということになってしまうのかなとは思ってしまいまして,だから理論的にはそれもあり得るので,だからちょっと事務当局の方がおっしゃった訴訟物が別ということとはちょっと難しくて,訴訟物を別にするんだったら何らかの事実確認の訴えを,この制度のためにあえてほかのところと違う理論を作って,作るべきかどうかという議論になるのではないかなと,整理とすればですね,とは思ったので,すみません,個人的な見解ですが。
○堂薗幹事 もちろん十分に検討したいと思いますが,まず,そもそも原告も被告も,どちらが処分したかは分からないけれども,遺産として組み入れたいという場合には,少なくともこの(1)で一応遺産とみなすことについて同意があるということになるのではないかと思いますので,そもそも確認訴訟をする必要がないのではないかという気がいたします。
  したがって,確認訴訟をする必要がある場合というのは,同意をしていない人が,要するに処分者だということを主張して初めてその確認訴訟ができるので,そういった意味では基本的には請求原因の中に出てくるのではないかという気がしておりまして,確かに主文として確認されるのは元々あった財産が遺産とみなされることの確認だけなんだと思うんですけれども,仮にどちらかが処分したことは認められるということになった場合に,例えば兄弟がA,B,Cという3人いて,処分者がAかBかが争われており,それぞれが処分者に関する自己の主張が認められることを条件に遺産に組み入れることに同意しているという事案において,Cが確認請求をすると,それはAであろうとBであろうと確認請求は認められることになりますが,処分者がAかBかについては確定されず,結局その点については最終的には遺産分割後に争い得る,不当利得などで争う余地が出てくると,こういう理解になるということでしょうか。
○水野(有)委員 すみません,今の議論を前提とすると,結局遺産を共同相続人の誰かが処分して,みんなが遺産分割の対象としていて,結局誰かは分からんというのは民事訴訟に来ないとなると,結局家裁が審判で判断せざるを得ない,はっきり言ってその類型がほとんどというか,少なくとも私の経験ではそこが多いのですが,そのようなものは全部家裁でやるべきだというスキームだという御趣旨でしょうか。
○堂薗幹事 ですから,元々私が言っていた考え方は必ずしもそうではないんですが,今の山本和彦委員の考え方を前提にやっていくとそういう面が出てくるのかなというところもありますので,その辺りは再度検討したいと思います。
○水野(有)委員 よろしくお願いします。
○山本(克)委員 訴訟で問題になるのは,ですから誰が処分したかということよりも,むしろ固有財産を,処分者が固有財産だと言っている場合だと。だから,自分が本来持っている財産なんで,相続財産ではないものを処分しただけだというふうに主張している場合にはやはりこの場合の遺産確認の訴えというのはニーズがあって,それがメーンになってくるということになるのではないでしょうか。
  それから,1点よろしいですか。この分割対象の遺産であるとみなすということの意味なんですけれども,処分後から分割時までの果実をどうするのかという問題が少しあると思うんですが。例えば預金,今は利息は低いので余り議論しても意味がないですけれども,処分してから現在までの利息というものも遺産なのか,それとももう処分時において財産の預金の名目枠というのはもう確定してしまうか,どちらだと考えるべきなんでしょうか。それによって,どの時点での遺産を確認するのかというのも非常に難しい問題はあるんですが,そこでちょっと確認対象が変わってくるところがあると思うので,お考えがあればお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 その辺りも検討した上で,次回にこちらの考えを述べさせていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  一連の御議論で大分問題の所在は明らかになってきたと思いますけれども,事務当局で持ち帰っていただきまして整理をしていただきたいと思います。その留保の下で,別案の大筋について,この方向で考えていっていいのではないかというのが全体的な御意見かと思います。最終的にこれでいいかどうかというところはまだ判断ができないという御意見もありましたけれども,甲案を基にした原案ではなくて別案を検討するということでいく,それでよろしいでしょうか。
○垣内幹事 ちょっと私も特に異論があるということではないんですけれども,その前提として御教示を頂きたいところがありまして,いろいろ代償財産をどうするかとかいった点もありますが,大筋で甲案と別案が最も異なる点というのは,甲案というのは別に全員の同意というようなことではなく,当然に分割対象である遺産とみなされるということであるのに対して,別案の方は基本的には全員の同意によってそうなるという枠組みになっているということで,そこが大きく違うかと思われますけれども,別案の場合には,結局そうしますと,二つとも最終的に目指すこういう制度を新たに設けることの,何と申しますか,一つの目的は本来在るべき具体的相続分に従った遺産分割を実現するというところにあるかと思われるところですけれども,甲案の場合ですとこれは一人でも相続人の一人が勝手に処分をしたのでおかしいのであると言っていれば,それは遺産とみなされることになりますから,誰も言っていないときは実際は余り問題は起きないのかなという気がするんですけれども,一人でも言っていれば当然そうなるというのに対して,別案の方ですと,その処分をした者以外の相続人が全員同じ考えに至らないとそうはならないということで,かなり規律の実質は異なってくるものはあるのではないかと思います。
  というのは,相続人の人数は事案等によって様々かとは思いますけれども,その中には必ずしも全員が利害が一致していたり,その処分についての見方が一致していたりということではないかと思いますので,そこはもう正に実体法の政策判断の問題ですので,別案でもその点は十分導入する意味のある制度であるということなのであれば,そこはそういうこともあり得るのかなという気がしているというのが1点です。それから,あと2点御質問があります。
  1点目の御質問は,今日の資料24-3の3ページ目のところで,別案の甲案に対する優れた点の一つとして,甲案の場合には遺産分割が既に終了した後になってまたその問題が再燃するということが往々にして考えられるのに対して,別案の場合には遺産分割が既に終了している場合にはその適用がないものと考えられるという御説明がされているんですけれども,なぜ別案であればそうした帰結になるのかというところが私自身はまだ十分に飲み込めていないところがあります。先ほど申し上げたような理解によりますと,要するに別案と甲案との違いというのは,誰の意思でそういう帰結をもたらすかというところであって,別案を前提とした場合でも例えば相続人が二人いて,一人が勝手に処分をしたという状況で,一旦は遺産分割はされたんだけれども,その後にやはり勝手に処分された財産があるということを一人の相続人が言い出したというときに,だから,その同意を拒めないはずであるという主張をしてくるというようなことはあり得そうな気もいたしまして,その点については甲案となぜ帰結の違いが生ずるのかというのが第1点です。
  それから,もう1点は,これはどちらかというと技術的なことなのかもしれないという気もするんですけれども,別案の(2)のところで同意を拒むことができないという表現と申しますか,表現が使われているんですけれども,同意を拒むことができないというのは,法制的にどうとかということは私はよく分かりませんので,一般的にどういう意味で使われるのかということがまずはあろうかと思うんですが。同意を拒むことができないということの,こう規律することの結果として,この資料ですと4ページのところですが,家庭裁判所が本当にその人が処分したのかどうかを判断して,判断ができれば遺産であることがみなされるということを前提としているのかなと思われる御説明があったんですけれども,まず同意が要件であって,一定の場合には同意が拒めないということだとしますと,同意を求める側の関係者とその同意を求められる処分したと言われている者がいて,しかし,同意は拒めないというだけで同意がないんだとすると,最終的には意思表示を求める訴えを提起すればそれは勝てる,拒めないはずですから勝てるはずなんですけれども,判決確定によって意思表示が擬制されて,それによって全員の同意があったことになるというような規律もここからは導き出せそうな気がしたものですから,恐らくそういう理解ではないんだと思うんですけれども,そういう理解でないとしたときにこういう表現でいいのかどうかというような辺りについて,もし何かありましたら教えていただきたいというのが2点目です。
○大村部会長 ありがとうございます。最初は御指摘というか,前提としてお話になったということで,二つの質問について,ではお願いいたします。
○神吉関係官 事務当局から回答をさせていただきます。
  まず,後者の同意を拒むことができないという表現が適切かどうかという点につきましては,法制的な問題がございますので,また慎重に検討させていただきたいかと思います。垣内先生から御指摘があった,今,「拒むことができない」ではなくて「同意があったものとみなす」とか,「同意を得ることを要しない」というふうに書いたほうがいいのかどうかという点も含めて検討したいと思います。
  あと1点目,遺産分割が終了した場合については,この規律は適用ないのだというところですけれども,3ページの脚注の3のところに少し考え方を記載させていただいております。現行法の実務においても,共同相続人による同意で遺産から逸失した財産についても遺産に含めることができるという運用があるところではございますが,その同意の限界もあるんではないかというところで,既に遺産分割が終了している場合には,事後的にその同意があったからといってまた遺産分割をしてくれということは余りやっていないのではないかなという,そこは私どもよく分からないところではありますが,そういった意味で同意の限界があるのではないかなといったところで,現行の実務と一緒であると考えておりますということでございます。
  ただ,現行実務も遺産分割の終了後も同意があれば受け付けていますということであれば,ちょっとここはまた考え直すことはあり得るかなとは思っているところでございます。私どももちょっとまだよく分からないところでございますが,また,そこを教えていただければと思っているところでございます。
○山本(克)委員 今のところは,審判が全部分割なのか一部分割なのかというのをどうやって区別するのかという問題と絡むようにも思うんですが,全部分割だとしてやって,それでなお残部分割というのがあり得るのかどうかという問題ですよね。一部分割ならば当然残部があって,そこに入ってくるはずなんだろうと思うんですが,そこをどうやって区別するのかがよく分からないんですが,先ほどの本体の方の説明のところでも,全部又は一部の分割を求めることができるというふうになっていますが,全部又は一部とどうやって特定するのかがよく分からないなと思って聞いていたんです。多分,そこら辺とも絡む問題だという気がします。
  私の頭の中では,追加配当に似たような話なので,全部であっても,残部ができても何でもおかしい話ではないのかなという気もしなくはありません。
○増田委員 理屈の上では,遺産分割終了後にもう一度合意をして,あるいはその合意の擬制により遺産分割を申し立てるということがあり得るのかもしれませんが,普通は訴訟するでしょうということだけ申し上げておきたいなと。まず,遺産分割という手続をあえて採る実益があるのかどうかですね。終了しているのにかかわらず,その後に誰かが一部を持ち出していたということが発覚した場合には,その処分者は前回の手続の間中,処分の事実を伏せていたわけですから,保全とともに訴訟を起こすというのが通常の考え方かなと思いますので,それほど神経質に議論する実益があるのかどうかと,理屈ではありませんが,申し上げておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本幹事 今の増田委員の通常訴訟になっているかどうかについては事実認識として留保はしたいと思いますが,別案を前提に検討を進めること自体については特に現段階では異論はございません。ただ,先ほど来問題になっております確認訴訟の形が分からないと何とも申し上げられないところがございますので,是非主文,訴訟物,そして要件事実として何があるのか,それから事後的に既判力によって遮断されるのがどういう範囲になるのかという辺りは一通り整理をしていただければと思っております。その上でどういうふうになるのかというところは,また申し上げたいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。今の直前の問題,実際実務の取扱いがどうかということも含めまして,もう少し整理をしていただくということになろうかと思います。その上で,別案を基に,これを採用することができるかどうかというのを検討するということで,本日のところはよろしゅうございますでしょうか。何かほかに御指摘があれば承ります。
○水野(紀)委員 本当に御尽力いただいて感謝したいと思います。先ほどからの確認訴訟と審判との関係も,家裁の審判に裁判所でありながら既判力がないというのが,本当はおかしな話なのだと思います。最高裁は財産分与についても扶養の問題についても管轄を家裁に限定することで,既判力がない問題をクリアしようとしたのですが,そのためにまたいろいろと矛盾も起きてくるわけですけれども。遺産分割についても既判力がないので,遺産確認の訴えができてきたこと自体に,この構造的な問題があったのだろうとは思います。
  それから,この別案を検討されるに当たって,パブコメで指摘された紛争の長期化,複雑化について,実務は本当にこれで御苦労されているので,それに一定の対応をなさろうという努力についても理解いたします。
  ただやはり,つい本来的な形,つまり近代法の相続は,自然人という法主体の消失を清算することが基本だという観点から,私は考えてしまいます。江戸時代は,財産は家産であり,個人財産はなくて,当主はいわば家という営業体の代表取締役にすぎなかったわけで,明治民法は個人財産制を創設しましたけれど,家督相続は同様に清算の不要な,代表取締役の交代に過ぎなかったのだと思います。つまり日本人が本来の相続を経験したのは戦後70年余りのことで,戦後の立法もそれがよく認識できていなかったからきちんとした清算手続を設けず,家族に丸投げしたのでしょう。本当ならそういう清算手続を構築しなくてはならないはずでしたが,家裁実務は,遺産分割が抱え込むものをできるだけ排除して,紛争をまとめやすくするという方向に進みました。このような従来の動きに対しては基本的な疑問は持っております。
  例えば,遺産分割がもめますと,持分を放棄したり誰かに譲渡してその紛争から抜けたいという当事者が出てきて,実務はそれをずっと認めてきました。紛争の複雑化を軽減し解決しやすくするという意味では,争いたい人だけが争っていることにするには確かに益があったのかもしれません。でも,それは法定されている相続の放棄とは全然違いますし,法的な意味ははっきりしません。その争いから抜けたいという相続人のやった放棄や譲渡は,一体どういう法的性格を持つものだったのか,その人が特別受益を受けていたときにはどうなるのか,またその人にかかってくる相続債務はどうなるのかというようなことについては,必ずしも詰め切れていなかったと思います。
  なるべく遺産分割で多くのことを取り込んで,かつ,それでまとめてきちんと一括解決できる方向に行くべきではないでしょうか。確かにこの方向は,実務が御苦労してきた方向を修正することにはなりますが,そういう修正をしていくほうが大きな流れとしてはいいだろうと思います。そういう意味で,甲案を基礎にして御検討いただいたことには私は大いに賛意を示したいと思っております。ただ,そうではない形でこれまで動いてきた実務の蓄積との間にぎくしゃくしたものが生じるのは当然のことですので,その点についてお詰めいただく必要はもちろんあるかと思いますけれども,大きな流れとしてはこの甲案の方向でまとめられる御尽力に賛成したいと思います。これまでの実務とのぎくしゃくは,実務を追認すれば解決するかというと必ずしもそうではなく,これまでの実務は,本当の相続の在るべき姿とは違っていいのではないかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  水野委員が今おっしゃったのは,甲案を出発点にして調整の末,今,別案が出ているということで,甲案でというのは,その方向でまとめるということを含んでいる。こういう理解でよろしいですね。
○水野(紀)委員 はい。
○窪田委員 私自身も別案で進めていただくという方向でよろしいのではないかと思います。その上であと2点,留保ということになるのかもしれませんが,先ほど垣内幹事から御指摘のあった点に関してですが,私自身も本当にこの説明で再度の争いというのがなくなるのだということにできるかどうか分からないのですが,ただ,いずれにしても別案の文言からはこの部分については明確ではないわけですし,それについて解釈論に委ねるという方向はあり得るのではないか,そういう意味でこの方向でもいいのではないかと思います。
  もう1点なんですが,これは冒頭で潮見委員から御指摘あった点なのですが,私も当該処分により得られた財産というのが(1),(2)で入っているというのはかなり違和感がありますし,この規定の性格を大変に複雑にしてしまうのではないかと思いますので,むしろ削ってしまったほうがシンプルな制度として組み立てられるのではないかと思います。これは意見です。
○大村部会長 ありがとうございます。御指摘として承って,事務当局の方で更に考えていただきたいと思います。
  そのほか,よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,「遺産分割に関する見直し等」につきましては,今頂きました御意見に従って,更に進めさせていただきたいと存じます。
  続きまして,第4の「遺留分制度に関する見直し」に入りたいと思います。
  この点につきまして事務当局の御説明をお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,時間も大分押してきておりますが,第4の遺留分制度に関しまして,御説明させていただきます。
  まず,今回のパブリックコメントの対象になりました1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」につきまして御説明させていただきます。
  パブリックコメントの結果につきましては,補足説明の28ページの1において記載のとおりでございますが,遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を金銭債権化する点,また受遺者又は受贈者の負担額に関する基準を設ける点につきましては,これらに賛成する意見が大勢を占めました。もっとも,現物給付の規律につきましては,追加試案の提案に反対する意見の方が若干多く,賛否は拮抗しており,反対する意見におきましても金銭債権化そのものに反対するもの,また,単純金銭債権化を主張するもの,現物給付の規律を設けることには賛成するが,その方法として中間試案における甲案又は乙案を支持するものなどに分かれました。
  現物給付の規律に反対する意見の多くは,部会においても指摘がありましたように,受遺者等に指定権を与えると不要なものを押し付けられるリスクが高まり,遺留分権利者の権利が不当に弱まるのではないかといった意見でございました。
  また,「イ」の現物給付の請求の時的限界につきましては,補足説明29ページにもありますとおり,②の金銭債務の履行の請求を受けた時から一定の期間内にしなければならないとの意見が多く,その期間につきましては1年間を支持する意見が多く寄せられました。
  また,指定財産の放棄制度につきましては,賛成・反対を明示した意見は多くありませんでしたが,現物給付の規律に反対する意見の中でも,仮に現物給付の規律を設けるのであれば,指定財産の放棄制度は設けるべきであるという意見も複数寄せられました。
  また,「エ」の期間につきましては,追加試案の2週間又は1か月という短期間で指定財産の状況を調査するのは酷であるなどとして,相続放棄に準じて3か月とすべきという意見が多く寄せられました。
  続きまして,前回の提案からの変更点につきまして御説明いたします。
  まず,(1)の金銭債権化,(2)の受遺者又は受贈者の負担額につきましては,パブコメの賛成が大勢を占めましたことから,追加試案の内容で要綱案を作成する方向で引き続き検討するのが相当であるものと考えられます。
  また,(3)の現物給付の規律につきましては,先ほども御説明したとおりパブコメにおいて賛否が拮抗しており,現物給付の指定権を受遺者等に与えると不要なものを押し付けられ,遺留分権利者の権利は不当に弱まることにより相当でないなどといった意見が多数寄せられ,遺留分減殺請求権の行使による生ずる権利を金銭債権化するのみでよいという意見も複数寄せられたところであります。
  確かに,パブコメにおける意見にもありますとおり,遺留分義務者となり遺留分侵害額を負担しなければならないのは,自ら贈与又は遺贈を受けた結果であり,多くの財産を取得した者が遺留分侵害額に相当する金銭を負担し,その結果,その固有の財産をもって責任を負わなければならないとしても不合理ではないという考え方も一応あり得るように思われます。
  もっとも,補足説明の31ページ末尾から32ページに二つの事例を掲げて御説明させていただいているとおり,法定相続分しかもらっていないにもかかわらず遺留分義務者となり得ることがあり,また,単純金銭債権化すると場合によっては遺留分義務者の方が遺留分権利者より最終的な取得額が少なくなることがあることからすると,単純金銭債権化に踏み切ることにはいまだちゅうちょを覚えざるを得ません。
  そこで,今回の部会資料におきましては,受遺者等に現物給付の指定権を与えるとしても一定の制限を設けることとしてはどうかということで,(3),アのただし書に,今,亀甲としておりますが,同一の受遺者又は受贈者が遺贈と贈与を受けている場合にあっては遺贈の目的の財産を先に,そして,贈与を複数受けている場合にあっては新しい贈与の目的の財産を先に指定しなければならないこととしております。このように考えれば,受遺者等が不要なものを遺留分権利者に押し付け,遺留分権利者の権利が不当に弱められるという懸念を相当程度払拭することができるように思われます。
  また,「イ」の現物給付の指定の時的限界につきましては,補足説明33ページにもありますとおり,パブコメの結果を踏まえて,今回の部会資料におきましては現物給付の請求は金銭債務の履行の請求を受けた時から1年以内にしなければならないこととしております。
  また,「エ」の放棄の意思表示の時的限界につきましても,パブコメの結果を踏まえまして,相続放棄の熟慮期間に準じまして,現物給付の請求を受けた時から3か月以内に放棄の意思表示をしなければならないこととしております。
  そのほかのゴシック部分につきましては,字句等の修正を除き,変更はありません。
  続きまして,「2 遺留分の算定方法の見直し」につきまして御説明いたします。
  2につきましては,ゴシック部分につきましては字句等の修正を加えたほか,また,ゴシック部分に(注2)を加えた点を除き,特段の修正点はございません。
  なお,(注2)につきまして若干補足して御説明いたしますと,遺留分を算定するための財産の価格に加える相続人に対する贈与につきましては,民法第903条第1項の,いわゆる特別受益に限るということを明文化するという点でございます。
  現行法の下におきましても,相続開始前1年を超える贈与につきましては特別受益に限定されるものと考えられておりますが,相続開始前1年以内の贈与につきましては,特別受益に限定するのか否か,必ずしも明らかでありませんでして,考え方といたしましては補足説明の35ページにもありますとおり非限定説と限定説があるものと思われます。相続人に対する贈与と第三者に対する贈与とではその意味内容が異なるものと考えられることや,また,非限定説を採用すると紛争が複雑化することなどから,限定説を採用してはどうかということで御提案させていただいたものであります。
  また,一部の委員の方から,2の(1)のアの(注1)の意味が少し分かりにくいんではないかという御指摘を頂いているところでございます。この(注1)の意味といたしましては,そもそも現行民法第1030条は,相続人に対する贈与と第三者に対する贈与を分けて規定はしておりませんが,害意がある場合につきましては1年以上のものを含めるということを規定しているところでございます。
  今回,(1)のアで相続人に対する贈与についての特則を設けることとし,10年以内にされたものを含めることとしますが,10年超のものについても,当事者に害意があればこの1030条後段の規律が適用され,算定の対象になるというものでございます。
  また,第4の3でございますが,遺留分侵害額の債務の取扱いに関する見直しでございますが,こちらもゴシック部分につきましては,(2)の亀甲括弧を外したほかは特に修正点はございません。
  以上,御説明をさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第4の「遺留分制度に関する見直し」は1から3までございますけれども,2と3につきましてはゴシック部分については変更はない,ただし2につきましては(注2)について,ある考え方が示されているということでございました。
  大きな問題は,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」についてでございますけれども,金銭債権化の大きな方向については,この部会でもコンセンサスは得られているのかと思いますけれども,現物給付をめぐる問題がここでも様々な形で議論されてきたところでございます。
  今回の御提案では,部会資料の24-1の方で見ますと,14ページの(3)のアのところに,ただし書を付加するという形で弊害の軽減を図るという提案がなされていると。また,期間については同じ(3)のイとエで一定の配慮をしていると,こういうことであったかと思います。
  これも,1の現物給付の点が中心的な論点になろうかと思いますので,まず,2と3の方につきまして何かございましたら御指摘を頂き,その上で1の方にいきたいと思いますが,2,3につきましていかがでございましょうか。
○中田委員 3について,表現だけの問題ですけれども,(1)で免責的債務引受を記載しておられまして,しかもそれが債務を消滅させる行為の筆頭に出ています。他方,(2)では,求償権についての規律が出ています。しかし,免責的債務引受は求償権が発生しないという条文もあることですから,内容というよりも表現だと思うんですけれども,ちょっと御配慮いただけたらと思います。
○神吉関係官 免責的債務引受は,これをしても御指摘のとおり求償権が発生するものではありませんので,法文化の際には誤解が生じないよう配慮をしていきたいと思います。
  ただ,要綱案におきましては,免責的債務引受をした場合について,債務の加算はしないというところも,今回の規律のメリットの一つでありますので,要綱案としては残したほうがいいのかなと考えていたところでありました。ただ,繰り返しになりますが,免責的債務引受によって求償権を取得するわけではありませんので,(2)の規律は働いてこないと,実質的としてはそういう整理をしているところでございます。
○大村部会長 誤解のないように,説明等について配慮をしていただくということで,中田委員,よろしゅうございますでしょうか。
○中田委員 はい。
○増田委員 特にこだわるものではないんですが,求償権が発生する場合に,相殺構成を採らずに,この規律による消滅請求をすると,倒産法上の相殺禁止が働かないのではないかという疑問も出てくるのですが,その点はどうなんでしょうか。
○堂薗幹事 その点も検討の上,次回お答えさせていただければと思いますが,基本的にやっていることは相殺とほぼ同様になりますので,倒産法制において相殺の制限がある場合には,類推適用とか,そういう余地は十分にあるのではないかとは思います。
○大村部会長 増田委員,よろしいですか。
  ほかに,いかがでございましょうか。
  それでは,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」,特に現物給付の問題が修正の多いところではございますけれども,これらの点につきまして御意見を頂ければと思います。いかかでございましょうか。
○増田委員 弁護士サイドでは,単純金銭債権とする考え方が近時は強かったところですが,現物給付指定権についてかなり制約ができたことで,一番懸念していた不要なものを次々押し付けられるのではないかという危険が若干薄らいだと考えられ,これであれば,余り変なものを出すと受遺者の方が現物の価値が低いことによるリスクを負担するということになるので,合理的な交渉ができるのではないかと。やってみなければ分からないことではありますが,実務的には一応動かせるのではないかというように考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今のような御意見を頂きましたが,ほかにいかがでございましょうか。
○潮見委員 私も金銭債権一本とすべきだと,今でも思っています。けれども,全体の方向が現物給付というのを認めるということで,バランスのよい調整ができるということならば,特に余り私一人がここでぎゃあぎゃあ言っても仕方がないと思います。ただ気持ちの上では金銭請求権一本ということは望ましいとは思います。
  その上でも,ちょっとしたコメントになりますけれども,30ページのところ,あるいは31ページにかけて(注1)と(注2)を挙げられて,単純金銭債権化の問題点だという指摘がされています。本当にこれが理由になるのかというところについて若干疑問があるということだけは,ここで申し上げておきたいと思います。
  30ページですが,(注1)の方を引いておられて,被相続人から法定相続分に相当する遺贈しか受けていない場合においても遺留分義務者となるということで,結局法定相続分のところにまで組み込まれて,食い込んだ形で取られてしまうということの趣旨だと思いますけれども,これは一定の理論的な前提があって,つまり受遺者は法定相続分に相当する価値は保証されているのであって,その価値は保証するべきであり,遺留分を侵害されている人がいたとしても侵食を許さないというようなところが前提としてあるのだと思います。それはそれとして一つの考え方ではあろうかとは思いますけれども,本当にそれでいいのかというところについては,個人的には疑問を感じます。ただし,これは意見だということで,もうお答えは無用です。
  それから,(注2)の方ですけれども,これも一つの前提があって,金銭債権化した場合には,これは金銭債権で期限の定めのない債務であって,請求と同時に遅滞に陥るということから,即時,その請求時に,正確にいったら翌日ですけれども,遅延損害金が発生するということを想定して,それを前提として,こうこうこういう不都合があるという説明になっていると思うのです。
  ただ,少し考えてみますと,現行法での遺留分減殺請求の場合もそうですが,実際にこういう減殺請求とか,あるいは遺留分侵害に基づく一定の給付請求をした場合に,その請求によっていつの時点で履行遅滞に陥るのかというところについては即断し難いのではないかと思います。金銭債権だから請求したら期限がないから,請求時に遅滞に陥るという,本当に素直にそう言っていいのかという話はいろいろなところであるわけであって,例えば預金の払戻しだって,普通預金の払戻しの場合であっても,例えば調査等に,あるいは手続等に時間が掛かるということであれば,その間,その調査等々をすることによって払戻しが遅れたからといって,ではその間の遅延損害金というものを払わなければいけないのかといえば,それはいろいろな理由も付けてですけれども,違法阻却だとか何とか何とかで,その分についての遅延損害金は発生しないという扱いもされていますし,現在の制度の下で現物返還等が問題になっている場合であっても,例えば引渡債務の履行遅滞という形で当該給付請求が出てくるような場合も,その物を渡せという請求をして,その翌日から,観念的ですけれども遅延損害金が発生するのか,あるいはその間の使用利益がどうなるのかとか,そんなことを考慮に入れて遺留分減殺の問題を扱ってきたのかといったら,必ずしもそうではないのではないかという感じもしないわけではありません。
  そうしたことも含めて考えると,そもそも遺留分を侵害された場合に,いつの段階でどういう形で履行遅滞に陥るのか等について,きちんと整理をした上でやったほうがよいと思います。これも意見ということでもいいのかもしれませんが,金銭債権化した場合には,これは起こってくる問題ですから,御検討いただければと思うところです。いろいろな意味を込めて,少し発言をさせてもらいました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 私は,お二人の委員とは違いまして,単純金銭債権化ではなくて,裁判所の御負担があるけれども,かつてあった甲2案というのがいいのではないかという意見でございました。今でもそういう気持ちでおりますけれども,総体的に言えば,従来の案よりも今回の追加して括弧の部分が付け加わったということで懸念は相当程度緩和されているというふうに考えておりまして,その点ではさきの2委員と同じでございます。
  その上で,若干の課題と御質問がございます。1点目は,新しい御提案ですと,順番が決まっているということで,それ自体は明確なんですけれども,逆に結果としてその順番を違えてしまった場合にどうなるのかという問題が新たに発生すると思います。それは,誤って順番を違えたということもありましょうし,故意に違えるということもあるでしょう。その場合の帰結がどうなるのかということを考える必要があるのではないかということです。
  それに関連しまして,今回出ていないんですが,死因贈与の位置付けも明確にしたほうがいいのではないかと思います。指定についての紛争が今後生じることがありますので,明らかにしておいたほうがいいのではないかということです。もちろん,現行法の下で1033条と1035条について,死因贈与をどこに位置付けるのか議論があるところですけれども,今回全面的に改めるわけですので,紛争の未然防止という観点からは明らかにしたほうがいいのではないかと思いました。
  それから,次に,ただ今の潮見委員の御発言とも若干関係するんですけれども,今回の御提案・御説明によりますと,第4の1の(1)にあります金銭の支払請求というものと,それから14ページの(3)のイにあります債務の履行の請求というこの2種類の請求があるということになっています。恐らく,最初の請求は言わば形成権的なものであって,第2の請求は履行遅滞に陥れるというものだろうと理解いたしますが,中身はどう違うんだろうか,つまり,どちらも金額を明示することになるのではないかと思いまして,そうすると,その2段階を置くことの意味がどういうものなんだろうかと思いました。むしろ,履行遅滞をいつの時点で生じさせるのかということについては,ただ今の潮見委員の御発言も踏まえて,この制度全体の中でどの時点から遅滞にするのがいいのかということを改めて考える必要があるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,何人かの委員の方から御指摘を頂いておりますけれども,従前幾つかの異なる立場があったわけですけれども,今回,現物給付について,ただし書以下の制限を掛けるという案が出ていて,これでも許容できるという御発言を頂いているところかと思います。
  ただし,こう決めると派生問題が出てくるのではないかというのが一つと,それから,理由付けとして挙げられている(注)が適切なものかどうかということについてもう少し検討したほうがいいのではないかというのがもう一つ,この2点にまとめられるのではないかと思いますけれども,何か事務当局の方であればお願いします。
○神吉関係官 まず,中田委員から御質問が3点ございましたので,そちらについて御回答を差し上げようかと思います。まず1点目の御質問,受遺者がこの規律と異なる指定をした場合にどうなるのかという点でございますが,基本的にはこの規律と異なる指定につきましては無効であると考えております。ただ,受遺者等といたしましては,遺贈又は贈与を受けた当事者ということですので,その順序につき誤解が生ずると,故意にやった場合というのは別でございますが,誤解が生ずるということは余りないのではないかと考えているところでございます。
  また,1番目の御質問と関係する点,死因贈与に関しての規律を定めたほうがよいのではないかという点ですが,この規律の適用を誤ると現物給付の効果が生じなくなるので,そういった考え方も十分あるのではないかなとは思って検討しているところではございます。ただ,仮に順番を明確化することになりますと,東京高裁の平成12年3月8日という判例が死因贈与に関してございますが,この考え方からすると,まずは遺贈,その次に死因贈与,その次にそのほかの生前贈与という形で規律を設けることになるのかなと,恐らくこれが現在の多数説なのではないかなとは思ってはいるのですが,最高裁の判例があるわけではございませんでして,また,遺贈と同順位で考えるべきではないかという説もございますし,また,贈与に準じて考えるとしても行為時説とか履行時説とかいろいろな学説があるような状況でして,もう議論をすべき時間も余り残されていないこの段階で規律を決めてしまうというのがなかなか難しいのではないかなと思っているところでございます。
  この問題は,何がどのように減殺されるのかという現行法においてもよりシビアな問題としてありますが,こちらは解釈に委ねられているというところでございますので,この点につきましては,なお解釈の積み重ねを待つのでもよいのではないかなというふうに事務当局では思っているところでございます。
  3点目は,第4の1の(1)の「金銭の支払を請求することができる」というのと,(3)のイの規律,「債務の履行の請求を受けた」というのがどういう関係にあるのかという御指摘がありました。中田委員から御指摘がありましたとおり,基本的に(1)の請求につきましては形成権の行使というふうに考えております。形成権の行使と具体的な金銭請求権というのは一応別として考えたほうがいいのではないかということはこれまでの部会の中で指摘されてきたところであり,また,遺留分権利者としては,形成権の行使については1年以内にしなければならないという制限は掛かってくるので,形成権の行使はまずすると,その後,詳細に計算をして,自分はこれだけ請求できると考えて具体的な金銭請求をすることができるということもあろうかということで,形成権の行使と,具体的な金銭請求権の行使は分けて考えているということでございます。
  それから,潮見委員から,(注1)というのが法定相続分は担保されるべきであるという考え方を前提としているのではないかという御指摘がございましたが,事務局としてそこまで考えているわけではございませんでして,(注1)の事例でももちろん遺留分額しか取得できないという説を前提として計算をしているところでございます。パブコメの意見の中で,多くの遺贈とか贈与をもらったんだから,それだけ自分の固有財産で負担してもいいのではないかという御意見があったことに対する,いや,そういうわけでもないですよという一つの事例として出したものにすぎませんので,決して判例で否定された法定相続分超過額説を事務当局が是としているとか,そういうわけではないということでございます。
  以上,簡単に御説明させていただきました。
○中田委員 御説明ありがとうございました。
  私の第1点について,間違うことは余りないだろうということなんですけれども,複数の贈与を受けている受贈者が意図的に先後を入れ替えて遺留分権利者に不利なものを指定するという事案を考えておりました。それが分からないまま遺留分権利者が受領して,しばらくたってから分かったというときにどうなるのかなということを考えました。
  そういうこともあって,できるだけ規律を明確にしたほうがいいという趣旨で死因贈与についても申し上げたわけで,むしろ先ほどおっしゃった順番で規律することで検討してもいいのかなとは思っておりますが,それは希望です。
  それから,3点目なんですけれども,13ページの第4の1の(1)の注を見ますと,最初の権利の行使により具体的な金銭請求権が発生すると,こう書いてあるわけですが,これは金額も特定された金銭請求権ではないのでしょうか。だとすると,その後の二度目の履行の請求と実質的な内容がどこがどう違うのかを,今まで議論したのかもしれないんですけれども,念のためにお教えくださればと思います。
○神吉関係官 今の御質問でございますが,遺留分侵害額請求権という形成権の行使によって,遺留分侵害額に相当する金銭が発生すると考えております。具体的な金銭請求の額,それ自体は(2)の計算によって出てくるものであるということでございます。ですので,最初に権利行使をする時点で正確な相続財産の範囲をきちんと把握をしていないということもあろうかと思いますので,まずは遺留分侵害額請求権,形成権を行使をすると,それで客観的には遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生しているんですけれども,遺留分権利者としてはその額が正確に幾らかということはちょっとまだ計算をしてみないと分からないということはあるので,後日,正確な金額を請求をするということはあり得ようかというふうに考えているところでございます。
  それは現行法も,取りあえず遺留分減殺請求権を行使して,具体的にこんな遺贈があった,贈与があったということで,実際減殺しているのはこれだということを正確に把握・理解をした上で,引渡請求をすることになろうかと思いますが,それと同じというイメージであります。
○中田委員 そうしますと,13ページの第4,1,(1)の(注1)の具体的な金銭請求権というのは,金額は不明だけれども客観的には確定している,そういう意味での金銭請求権だという趣旨でございますね。
○神吉関係官 はい,そういう理解です。
○中田委員 そうでしたら,そういうように御説明をしていただいたほうが,より分かりやすいのではないかと思います。
○神吉関係官 分かりました。記載振りについては検討いたします。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○山本幹事 すみません,1点確認なんですが,(3),アのただし書,亀甲括弧のところなんですけれども,これに反する指定が当然無効だという御説明が先ほどありましたが,先ほど中田委員がおっしゃったこととも関係すると思うんですけれども,一旦当事者間ではそれで話がついて,終わったと思ったものを後で蒸し返せるのかという問題がちょっとあるような気がしておりまして,そこはどういう整理になるんでしょうか。
○神吉関係官 当事者が無効であるということが分かって,また1年以内の期間内であれば再指定をするということは可能なのではないかなというふうには考えてはおります。もっとも,当事者間でもう話合いがついて,これでいいよというふうに言っている場合につきましては,別途代物弁済契約が成立したりとか,更改契約が成立したということで,債務が消滅をしているという整理をすることは,それは一方でできるのではないかなと思っているところでございます。
○中田委員 代物弁済契約なり更改契約ということは,言わば無効行為の転換を考えているのか,それとも新たな合意を認定するということを考えているのかですが,後者については当然そこでは錯誤が問題となってくるのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。
○神吉関係官 当事者がこれでいいやと思っているというのをどう評価するのかということだとは思うのですが,当事者が本当のことを知ったら,やはりそれは嫌だったということであれば,恐らくそういった代物弁済契約とか更改契約があったということまでは言えないということになろうかとは思います。そうすると,元に戻って現物給付の指定というのは無効であって,金銭債務がなお残っているという理解は,それはそちらの方が自然なのかなと思っております。
  ただ,なお分かった後に,もう受領しているからこれでいいやというふうに遺留分権利者側がもう思っているような場合については,代物弁済契約若しくは更改契約が成立していたと評価をする余地はあろうかなと思います。
○中田委員 結局同じことになると思うんですけれども,法律上の制度の結果として受け取っているということを,後から見て,それはこれでいいやと思っていたので代物弁済契約があったということは,そもそも契約があったのかということと,あったとしても錯誤ではないかという二段階の問題があって,なかなかそのルートというのは問題があるのではないかなという気はしております。
○堂薗幹事 ですから,逆に言いますと,受遺者とか受贈者側は,贈与の順番はこうだということをきちんと説明して,だけれどもこちらでということで合意を得ないと,錯誤を主張されて,その結果,より多くの遅延損害金を払わなければいけないというリスクも出てきますので,代物弁済契約なり更改契約が有効に成立するためには,受贈者側はその順番も分かっているわけですので,そこもきちんと説明した上で合意ができていれば問題ないですし,そこを説明せずに,これが法律の順番であるという前提で合意したような場合は無効になりやすいということではないかとは思いますけれども。
○大村部会長 中田委員よろしいでしょうか。先ほど,中田委員が挙げられた二つの捉え方でいうと,今の堂薗幹事の考え方はむしろ後者の方で考えて,しかし,それが有効な契約として成立する場合というのは一定程度限られるだろうという御説明だったかと思いますが。
○中田委員 そうなるんだろうなと思います。普通は,それほど説明して新たな合意をするというんではなくて手続にのっとってやったんだという,それを受け取るというだけでしょうから,合意が認定されるというケースはそれほど多くはないのではないかなと思います。
○増田委員 指定という単独行為だけで,それで終わった状態であればそれは無効であるということでよろしいのかなと。それを受領すると,きちんと契約をしたということで,それが根本から違っていたというのであれば詐欺や錯誤による取消しの問題になるという整理でよろしいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 そうですね,同じような理解でよいのではないかと思っています。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
○沖野委員 中田委員がおっしゃった死因贈与の点は是非御検討いただきたいと思います。手掛かりが少ないというふうに言われましたけれども,裁判例もございますし,その方向で何とかできないかと。ほかにも,例えば信託ですとか,この位置付けをどう考えるかといった問題があり,民法の方の基本が決まっていないと,更に重ねて解釈が複雑になってくるということがございますので,そこは是非明らかにする方向で極力検討していただけないかと思うところです。
○神吉関係官 一応検討はさせていただこうかとは思いますが,死因贈与というのを遺贈の次に位置付けて,そのほかの生前贈与がその次に来るというところで,皆さん,特に異論がないということであれば,そういう前提で検討することはもちろん可能かとは思います。また,贈与につきましては先ほど御説明したように,贈与した時期で考えるという説と履行が行われた時と考える説があるようですが,そういった説の対立がある中で,死因贈与を遺贈の次に位置付けるというのが,履行時説に近づいた解釈になってしまうのではないかな,というところを危惧しているところです。
  ただ,死因贈与をそこに位置付けたからといって,そこは生前贈与の中ではまだ解釈は分かれているんですよというところで,特に解釈に影響しないということであればそういう結論もあり得るかなとは思いますが,ちょっとそこは是非民法の先生方にもお知恵を頂きたいなとは思っているところではあります。
○大村部会長 何か,その点に関して御発言があれば是非伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。
  では,御検討いただくということで,必要に応じて問い合わせをさせていただくということもあるべしということにさせていただきたいと思います。
  そのほかに,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 先ほど潮見委員がおっしゃった30ページの理由付けのところについて,伺います。理由付けの前半は(注1),(注2)の例を挙げているのですけれども,後半のところで,共同相続人の一人が不動産の贈与を受けて,その段階では侵害するような状況ではなかったのだけれども,結局その後,遺産がなくなってしまったときが挙がっています。この理由付けも余り説得的でないように思います。つまり,特別受益にさかのぼる理由について,特別受益で与えられたのは生前相続分だと考えますと,自己の固有財産をもってとまで言えない,つまり事前に生前相続しているものを吐き出すと考えると,酷とまでも言えないかと思いますので,この理由付けには少し疑問がございます。
  それから,全く違う話なのですけれども,指定財産の価額でその請求があったときに消滅して,その指定財産に対する権利が移転するということなのですが,この価額はどのくらいに評価されるものなのでしょうか。これは当然のことながら遺産分割全体のところでも問題になる話なのだとは思うのですが,私は,実務がよく分かっておりませんので,御教示下さい。いわゆる負動産といいますか,持っているだけマイナスになってしまうという不動産,税金などの負担でマイナスになってしまって,売ろうと思っても誰も買ってくれないという不動産であったとしても,税法上は当然プラスの資産と計算されることになっております。
  そして,今度順番を付けてくださったということなのですが,例えば生前贈与でおいしいところを取っておいて,あと,そういう負の不動産だけが残っていて,それが遺贈対象となったときに,その遺贈対象不動産が,それでもプラスに評価されることになりますと,それを指定する,すると当然のことながら遺留分権利者はそんなものは放棄する,そうすると遺留分は事実上なかったこと,遺留分権は否定されたことになりはしないでしょうか。そういう意味では何かこの価額の評価次第になるようなところもあって,この価額を,そういう負動産のような場合にどのようなものとして考えていらっしゃるのか,イメージをお知らせいただければと思います。
○神吉関係官 これまでの部会の中でも少し議論になった点ではございますが,基本的には時価若しくは処分価格という形になるのではないかなと。ただ,それについては事案によってそこは異なってくる可能性はあるかなというふうに考えているところでございます。
  先ほど,水野委員から御指摘いただいた負の不動産があるんだけれども,負の不動産で一定の評価額はあるけれどもほとんど価値がないようなものについて,その現物給付して遺留分侵害額自体は消滅をしてしまうという,ただ,それを放棄をしたらそれほどもらえなくなってしまうではないかという話は,それはそういう帰結になるのではないかなと思いますが,それは現行法でも同じ話かなと思っております。遺留分減殺請求権を行使をすると,まずは遺贈から減殺されていきますので,ある程度価値があればそこから減殺をされて遺留分侵害額は評価されていくと,それについて,要るのか要らないかということを恐らく遺留分権利者で考えた上で,減殺請求権行使をするかどうかと恐らく決める形になると思うんですけれども,その上でやはり要らないと思えば遺留分減殺請求権を行使をしないということになるでしょう,なお欲しいということであれば減殺請求権を行使をして負の不動産,遺贈に係るその負の不動産みたいなものを取得するという帰結になるのかなと思いまして,そこはそれほど現行法と違うことにはならないのではないかなと思っているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  それでは,様々な御指摘を頂きましたけれども,関連する問題点や理由付け等につきましては更に御検討いただく必要があろうかと思いますが,今回の御提案,すなわち,アにただし書を付けることを中心とした案で進めるということで先に進ませていただきたいと思います。よろしいでしょうか。
  それでは,二つ終わりましたので,ここで休憩させていただきたいと思います。今,この室内の時計で3時40分少し前ですので,3時50分まで休憩させていただきます。
  休憩いたします。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,まだ4項目残っております。全てについて御意見を頂ければと思っておりますので,少しスピードアップさせていただきたいと思います。
  残る4項目のうちのまず「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○倉重関係官 それでは,関係官の倉重から,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」について説明いたします。
  まず,短期居住権ですが,次の3点を変更したほかは,おおむねこれまでと同様の規律となります。
  1点目は,短期居住権の発生障害事由について,配偶者が欠格事由に該当したり,排除されたりしたことで相続人でなくなった場合,短期居住権は発生しないことといたしました。
  一方で,相続放棄については両論あり得るところであろうとは思われましたが,検討の上,消滅原因としないこととしております。
  2点目は,短期居住権の存続中の建物の修繕について,前回部会での議論を踏まえ,配偶者が一時的な修繕権を有することとする規律に改めました。
  3点目は,短期居住権の消滅原因の整理です。占有喪失については,権利の放棄,短期居住権の場合は債権ですので免除というのが正確かもしれませんが,と捉えれば足りますことから,削除することといたしました。
  一方で,長期居住権を取得したときに短期居住権が消滅することにつきまして,これまでは当然のこととしておりましたが,これを明確に規定することといたしました。
  次に,長期居住権についてですが,次の4点を変更したほかは,おおむねこれまでと同様の規律となっております。
  1点目は,存続期間についてです。存続期間の定めがないことで長期居住権の取得が無効となるリスクを避けるため,存続期間の定めがない長期居住権については,取得原因にかかわらず配偶者の終身のものとすることにしました。
  2点目は,用法遵守義務についてです。これまでの規律は,従前の用法に従って建物の使用及び収益をしなければならないというふうにしておりましたが,居住の目的の範囲内であれば,従前の用法と異なる用法での使用も許容することといたしました。
  3点目は,居住建物に関する費用負担についてです。借主が建物を無償で使用及び収益する使用貸借においてさえ,借主は通常の必要費のみを負担することとされていることに照らしまして,長期居住権においても配偶者の負担部分を通常の必要費に限ることといたしました。
  4点目は,居住建物の修繕に関する規律でございますが,費用負担の規律を短期居住権と同様の規律といたしましたことから,この点につきましても,短期居住権と同様の規律にすることといたしました。
  これらの点につきましてどのようにお考えになられるか,御意見を賜りたく存じます。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1の「配偶者の居住を保護するための方策」につきましては,短期居住権と長期居住権の2種のものを考えているわけでございますけれども,それぞれにつきまして,補足説明の方で挙げております点,前者については三つの項目,それから後者については四つの項目について修正を提案しているということでございます。
  基本的な方向は既に定まっておりますけれども,細部にわたる点につきまして,計7点の提案がされておりますので,これらについて御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○増田委員 1点だけ気になったところが,配偶者が相続人でなくなった場合なんですが,このケースは,利益状況としては1の(2),配偶者以外の者が配偶者の居住建物を取得した場合に類似していると考えます。配偶者自身は,その建物に対する権利がなくなって,ほかの人が建物を無償取得した場合ということになるので,むしろこれは放棄の場合も含めて(1)ではなくて(2)のほうに入れた方がいいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 その点につきましては,こちらも両方の考え方があるのだろうとは思っているんですけれども,平成8年の判例の考え方を前提とした場合に,使用貸借契約の推認ということだといたしますと,仮にそういう推認が認められるという事例については,事後的に相続放棄をしたからといって,それが解除条件的に消滅するとか,そういったことまでは考えていないのではないかという印象も持っております。そうだとすると,今,増田委員が言われたような規律にしますと,その場面では現行法の規律より若干効力は弱まるというおそれもあるのではないかということで,相続放棄の場合については(1)の規律にしたというのがこちらの考え方です。
  他方,欠格事由ですとか廃除の場合につきましては,そもそもそういった場合については,使用貸借契約があるという推認が働かない特段の事情があるという場合が多いのではないかということで,それについては規律の対象外にしているという整理をしているところでございまして,この辺りにつきましては両方の考え方があり得ると思いますので,正にこの場で御議論いただければと考えているところでございます。
○増田委員 現行法が使用貸借を推定しているというのは,無償性の点で推定しているというだけであって,権利が存在しない場合の権利まで推定しているわけではないと思っているんです。平成8年の判例は,共同相続人の一人が持分権を有していて使用権を有しているという前提に立って,それが有償なのか,無償なのかという争点で,当事者間の通常の意思は無償だという判例だったように思うんですが。したがって,権利がない場合にまで現行法が無償での使用を認めているとは言い難いと思います。
○大村部会長 今の点につきまして,何か御発言ございますでしょうか。
○倉重関係官 今の点につきまして付言させていただきますと,確かに御指摘のとおり,(1)の方の規定というのは,配偶者が遺産共有持分権を有している場合に,言わば共有者相互の調整のための規定であり,それに対し,(2)の方は共有持分を持っていない場合に,言わば明渡猶予的に作られた規定であるというふうに理解をした場合には,委員御指摘のとおり,(2)の方が適切ではないかとも思われるところでございます。しかしながら,今回,これを(1)と整理いたしましたのは,短期居住権自体,配偶者の保護で設けようと考えた制度でございまして,その点からしますと,理論上,できるだけ長い期間の居住を保護したいと考えたためです。
  そのように考えますと,配偶者以外において遺産分割が行われる場合には,この(1)の方の規定に入ってくるわけでございますが,仮に配偶者を除いた相続人たちで何か具体的な使用方法が決まっているのであれば,もうその建物だけ先行して遺産分割してしまって,所有を決めてしまうようなこともできるわけですから,その建物自体がまだ遺産共有状態にあるような場合には,配偶者を直ちに出ていかせる必要もないのではないかと思われたところです。したがいまして,このような場面については(1)の方に規定に入れまして,遺産分割で所有権の帰属が確定するまでは住まわせてよいのではないかと考えたという次第でございます。
○増田委員 その前に,ちょっと整理しておきたいんですが,この案では,欠格・廃除の場合は(2)もないんですか,放棄の場合は(1)なんですか。それだとすると,全く何か筋が通らないというか,余りにも違いすぎて,理屈がよく分からないということになるんですが,まずその質問についてちょっとお答えいただけますか。
○笹井幹事 御質問は,廃除の場合であるとか欠格事由の場合に,短期居住権が成立するのかどうかということでよろしいでしょうか。
○増田委員 廃除・欠格の場合は(2)もないということですか。
○笹井幹事 廃除・欠格の場合は(2)もない。短期居住権は,いずれの類型としても成立しないということでございます。放棄の場合については,遺産分割がされるまでは(1)の居住権を認めてもよいのではないかというのが原案の内容でございます。
○増田委員 それらとその理論的な違いは全く分からないですね。自ら放棄しておきながら,厚い保護が来るというのも分からないし,欠格といっても,殺した場合から遺言書の隠匿まで程度の問題があるわけだから,欠格というだけで一律に放棄との間に大きな差を設けるというのは,ちょっと理解し難いなと思います。
  また,遺産分割が行える場合というのを,今,放棄の場合で考えますと,その人がいることによって,目的物の価格に影響するということは事実上はあるわけで,遺産分割ができたら直ちに不法占有者になるとはいえ,占有があることによって価格に影響することもあり得るのですから,認める理由はなさそうな気はするのですが,感覚的にも分からないところです。
○倉重関係官 正しくそこは両論あるところかなと思いまして,部会資料でも検討させていただいたところではあるんですが,一つの考え方としては,そのとおりでございまして,相続放棄しているのですから,被相続人に負債がある場合であると思われまして,ほかに負債を負うことを覚悟して相続を承認したほかの共同相続人の負担の下に,その負債を負わない配偶者が利益を得るという状況になるのは不公平であるということからすると,確かに相続放棄した場合に認めなくていいのではないかという方向の考え方もあるのではないかと思われました。
  しかしながら,一方で,積極財産全てが遺贈されてしまうというような場合を考えますと,それで負債だけが残るので,やむを得ず配偶者としては放棄しなければならないというような事態を考えますと,そういうときこそむしろ短期的な居住を認めた方がいいのではないかとも考えられますことから,むしろ配偶者保護という政策の方向性から考えますと,そういった場合を救う方を重視していいのではないかということで,相続放棄も認めさせていただこうという提案をさせていただいているという次第でございます。
  ここは両方あり得るということが分かった上での御提案でございますので,どちらの方が論理的であるか,制度として正しいものであるかということについては,是非御意見を頂きたいなと考えております。
○大村部会長 増田委員は,両方とも(2)の方で整理すべきだという御意見だったかと思いますけれども,他の委員,幹事,今の点につきまして何か御意見があれば伺いたいと思います。
○沖野委員 実は,ここに来るまでは,原案のままでよろしいのではないかと--(2)に移すかどうかについてなんですが--そういうふうに考えてきたんですけれども,増田委員の御指摘を受けながら考えましたところ,まず,この制度の趣旨ですが,確かに(1)について,共同相続人間の調整の問題と考えるのか,死亡によっていきなり居住を奪われる配偶者の居住を,一定範囲でドラスティックな変更から免れさせるということと考えるのかという点があるかと思いますが,それは基本的に後者で考えるべきではないかと思っております。
  そうしたときになんですけれども,(1)は,したがって,配偶者の保護として,保護に値する配偶者かどうかという観点から,一応の切り分けとして原案の考え方はあり得るのかなと思ったところです。ただ,遺言書についての一定の行為と殺害というものが同じ評価でいいのかというのは,遺言書の破棄とか隠匿とかその行為は限定されておりますけれども,それでいいのかという問題は確かに立つように思われます。
  しかし,相続放棄の場合は,その保護を奪うほどのものではないのではないかという評価の切り分けはあるのではないかと考えてまいりました。その場合に,(1)なのか,(2)なのかということですが,(1)と(2)というものが,権利がない人の明渡し猶予的なものが(2)であってということになれば,正に増田委員がおっしゃるとおりではないかと思うんですけれども,分割の形で,飽くまで共同相続の過渡的状況にある,相続人がいて,その者が分割協議等をしており最終的な権利関係は確定していないという段階である限りは配偶者に現状を維持させるというのが(1)だとすると,なお(1)ということもあり得るのかなとは思っておりました。
  実際そう考えてきたんですけれども,ただ,今伺っておりまして,その前提としては,遺産分割が6か月を超えて非常に長くなったときに,もう6か月たったのに,まだ分割決まっていないけれども,あなたは出ていけと言えるというのが,確かに相続放棄しているので何の権利もないんだからと言えそうでもありますが,共同相続人がそういう分割などをやっている間は,もう少し長い期間となってもいいのではないかという感覚でいたんですけれども,遺産分割がどの時期に終わるのかというのはちょっと分からないところがあり,仮に3か月で終わったというような場合も考えられるわけで,そのときに,明渡し猶予的に,6か月は(2)であれば保障されるところを,やはり(1)だと短くなるという可能性が一つ出てきます。
  もう一つは,配偶者が相続放棄したために,単独相続になってしまった場合はどうなるのかということで,(1)によると,直ちに所有が確定してしまうので,直ちに出ていけということになりそうにも思うんですけれども,それもいかがなものかと考えますと,かつ遺産分割が短くても構わないというのは,(1)で配偶者が相続人の一人であれば,分割の中に加わっていけますので,自分の意向をそれなりに反映させる,ニーズを反映させるという道があるんですけれども,共同相続人の一人ではないということになりますと,その道がない中でということになりますので,そうだとすると,(2)に寄せた方がいいのかなというふうに,今では考え直しつつあります。
○大村部会長 沖野委員は,価値判断としては,相続放棄の場合の配偶者を保護する必要があるのではないか,それから,欠格の中にもあるいはそれに準ずるものがあるかもしれないということをおっしゃって,では,保護するとした場合に,(1)がいいのか(2)がいいのかというと,(1)がいいと思っていたけれども,むしろ(2)がいいかもしれない。そういうことですね。
○沖野委員 すみません。前半は余計だったかもしれませんが,両論があり得るのはあり得るのだろうと思っておりまして,ただ,現在,今考えてみますと,(2)の方がいろいろ問題が少ないのかなと思うようになり,(2)で寄せた方がいいのではないかと考えているということです。
○笹井幹事 (1)であるか,(2)であるかというところですけれども,原案の(2)は,誰が所有者かが決まっていることを前提に,その人による引渡しの催告から6か月ということになっているんですが,相続放棄の場合の短期居住権を(2)に移すとすると,6か月の起算点はどこだとお考えでしょうか。
  遺産分割がその後予定されていますが,遺産分割によって誰が最終的な取得者が決まって,その人による引渡しの催告を受けてから6か月ということを意味しているのか,今のお話ですと,もう少し前から明渡しを求められるということを前提にされていたようにも聞こえたので,ちょっとその点を御教示いただけますでしょうか。
○沖野委員 御指摘ありがとうございます。今考えていたのは,最終的に遺産分割で確定しなくても,共同相続で自分以外の者が所有者になるということがもう確定していて,自分の可能性が全くないということが明らかになっている段階ですので,他の相続人というか,他の相続人は全員ですね。共同相続人から明渡し請求を受ければ,そこから6か月で十分ではないかと思ったということです。
○笹井幹事 遺産分割が3か月で終わることもあるではないかという御指摘を頂きましたけれども,配偶者自身が遺産分割の当事者である場合でも同じ問題は起こり得るわけですので,そういう意味では,その問題は元々ある問題なのだろうと思います。ただ,全員から明渡しの催告を受けた場合に(2)の適用を認めるべきではないかという問題ですとか,放棄の結果として相続人が一人になってしまった場合に(1)がどのように適用されるのかが不明確であるという問題はあろうかと思いますので,その点については引き続き検討させていただきたいと思います。
  欠格・廃除と放棄の間で配偶者の要保護性といいますか,事情が違うのかどうかという点について引き続き御意見を頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。
○窪田委員 沖野委員の御指摘は,なるほどと思いながら伺ってはいたのですが,そうすると,恐らく(2)をものすごく大きく書き直す必要があるのかなという気がします。現在だと,配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合ということですけれども,むしろ配偶者以外の者が相続を含めて取得した場合,一般の規律ということになるのかなという気もします。
  その上で,同じようなことを,多分これは,以前の第1の質問の中に含まれていた問題だったと思うのですけれども,遺産分割までなのか,遺産分割が早期に決まってしまった場合には,取りあえず6か月間,相続開始後6か月間ぐらいまでの猶予を認めるのかという形とで議論されていた問題があったと思いますが,恐らく,仮に先ほど御指摘の問題だけだとすると,(1)のほうでそういう手当てをするというのも,小さな修正としてはあるのかなと思いました。
  冒頭のお話,増田委員からの御指摘のあった問題なのですが,相続人としての配偶者をどこまで保護するのかという問題であるとするならば,正しく相続放棄の場合と欠格の場合となぜそんなに違うのかという問題の立て方はできるのだろうと思います。ただ,沖野委員からも御指摘がありましたけれども,そうではなくて,むしろ,特に短期居住権に関しては,生存配偶者の保護というのをストレートに出した制度であって,そうすると,生存配偶者の保護といいながら,欠格の話がどうして関わってくるのかというと,そのときには相続権の有無の問題ではないけれども,やはり保護に値する配偶者なのかどうなのかという立て方をということ,一応の説明はできるのかなと思いました。
  もちろん,欠格事由の中で,1号から5号まであって,全然違うではないかということはそうなのですが,ただ,今の欠格事由が,そうした議論はありつつもそういう立て方になっている以上,この部分だけを区別して規律するというのは極めて困難なのではないのかなという気はいたします。ちょっとあんまりはっきりしない方向ですけれども,そういうふうに伺っておりました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○水野(紀)委員 今の窪田委員の御意見に基本的に賛成でございます。もっと,相続場面だけではなくて,家族法全体の問題なのですけれども。夫婦財産制の問題にしましても,婚姻の効果としましても,配偶者の居住権はもっと非常に手厚く保護されるのが,国際的には標準です。日本法はそこのところがとても脆弱で,配偶者の保護がなっていないと思っております。そして,その婚姻効果の延長線上として,相続の場面における配偶者の居住権保護を考えるのが本来の形と認識しておりますので,ここで,いきなり共同相続人のうちの一人の配偶者だけに特別な保護を与えるという枠組みではないのだろうと,全体の構造として認識しております。
  それが日本法の従来の伝統と違うことも承知はしておりますけれども,そちらの方向に,あるべき姿に近づける改正として,特に遺産分割までの時間が長くかかったときに,配偶者の居住権をこのように保護することになったのは,一律6か月で切るよりはずっと有り難いと思います。そして,遺産分割が3か月で終わってしまった場合,あるいは放棄したような場合も,少なくともそれでも6か月は住めるという方向での,先ほど御示唆があったようにプラスアルファを書くという方向での修正が望ましいと思います。全部をまとめて2のほうに流し込んでしまうというのではなく,つまり配偶者の保護の方向へはっきりかじを切った形でまとめていただければと思います。前婚の子と配偶者との争いの場合など,ニーズもあるだろうと思います。
○大村部会長 確認ですけれども,水野委員は,放棄の場合には6か月でやるという考え方だということですか。
○水野(紀)委員 いいえ。
○大村部会長 違いますか。
○水野(紀)委員 そうではなく,ごめんなさい。3か月で終わってしまったような場合も最低6か月で,そして,私は放棄の場合などでも,遺産分割が終わるまで住まわせてあげたいと思っております。
○大村部会長 放棄の場合については配偶者が保護されるということで,それと別で,全体として6か月は確保する。そういうことですね。
○水野(紀)委員 少なくとも,最低限6か月は確保するという方向に考えたいと。
○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。
○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。
  私もここは,相続放棄の場合は,多分,負の遺産があった場合等に考えられると思いますが,配偶者以外の方もそれを検討する可能性はあると思うのですね。そういうことを全て含めて遺産分割が行われると思うのですけれども,熟慮の上,結果として配偶者が相続放棄をする場合,亡くなったときにすぐに「私は相続放棄します」という結論が出るわけではなく,熟慮の時間も必要です。その間,ほかの相続人の方もそういうことを考えていると思うので,相続人の全てが方針を決める時間がこの遺産分割協議の期間だと思います。その間に配偶者が相続放棄を決めたとしても,新設されるこの短期居住権で,遺産分割協議の結論が出るまでは住んでいることが認められる方向がよろしいのではないかと考えております。
○大村部会長 基本的なお考えとしては,配偶者の居住の保護ということについて,先ほど窪田委員と,それから水野紀子委員から御指摘ありましたけれども,その線で考えてほしいということですね。
○藤野委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○山本(克)委員 相続人が不存在になってしまった場合の処理というのは,何か考えておられるんでしょうか。
○笹井幹事 放棄の結果相続人が一人になってしまった場合という沖野先生の御指摘を受けて,私も,不存在の場合について考えなければならないと今思ったのですけれども,まだ十分に検討しておりませんでしたので,改めて検討させていただきたいと思います。仮に,今,何人かの先生方から御意見いただきましたように,(1)のほうにも少なくとも6か月という規定を設けるのであれば,そういった保護を設けることも考えられるかと思います。
○沖野委員 先に申し上げた中で一番気になった点は,6か月が(1)では保障されないということです。相続放棄の結果,単独相続になる場合と相続放棄の結果なお共同相続だが分割終了までが短かったときの両方について妥当します。繰り返しですけれども,自分が分割に加わる場合は,分割の中で自分の意見を言えますし,長期居住権などの話も出てきますし,そこは短くても考慮の余地があるのではないかと考えておるんですけれども,その意向を反映させる手段がない中で,6か月より短い期間で切られるということは適切ではないのではないか,単独相続の場合も含めてということで。もちろん,相続放棄まで3か月の間,熟慮期間がありますので,その間はぎりぎりまで考えられるという可能性はあるかもしれませんが,それでもやはり6か月は(2)で保障されるものが保障されないということはどうかという点ですので,むしろ(1)の中に最低6か月,それでもどういう場合であれ保障されるというのが組み込まれるのであれば,それは,それがよろしいのかなとも思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかに御意見はありますか。今の点いかがでしょうか。
○増田委員 問題の方向がちょっと変わってきてしまったんですが,私も別に6か月を保障するということには,何も異論はないわけです。先ほど,沖野委員が相続人一人の場合ということをおっしゃったけれども,残った一人の相続人--所有者が出ていってくれと言えば,6か月たてば出ていかなければならない。その場合と遺産分割を行っている作業中の相続人全員が出ていってほしいといった場合と,何ほど違いがあるのかということだと思うんです。だから,所有権や共有持分権の問題ではないと言われてしまえばそれっきりですけれども,そこはもう少し御検討いただかないと,催告を受けてから6か月というのは,いかなる場合でも保障されるという理解で私はいいと思います。
○大村部会長 今の点につきましては,何人かの方々がおっしゃっている(1)の場合について,6か月というのが必要なのかどうなのか,それを組み込むかどうかによって,かなり制度のイメージも変わってくるかと思いますので,先ほどからの御指摘も含めて,それをどうするかということと,それから,放棄の取扱いをどうするかということ,改めてこれらの点をもう少し御検討を頂いたほうがよいかと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。
○上西委員 基本的に6か月であるのがよいと考えますが,場合によっては,不要とする場合もありますので,配偶者の選択により6か月という規定振りもあると考えました。事業承継を考えますと,早期に資産を活用すべきですので,配偶者の選択によりという文言を入れてはどうかなと思いました。
○笹井幹事 配偶者が要らないと言ったときには成立しないということでしょうか。
○上西委員 そういうことです。
○笹井幹事 居住権の放棄をすることは別に構いませんので,規定を設けなくても,配偶者が居住権を放棄すれば,成立しないというか,成立するんだけれども直ちに失われるというか,そういう処理になるのではないかと思います。
○上西委員 了解しました。
○大村部会長 そのほかの点について,短期・長期の居住権につきましていかがでしょうか。
○中田委員 派生的な問題なんですけれども,今回,使用方法について,「善良な管理者の注意をもって」という言葉が付け加わっております。短期についても長期についても入っているわけですが,賃貸借や使用貸借の部分では用法遵守義務だけが規定されていて,善管注意義務は規定されていないわけです。400条の適用の有無などで議論のあるところだと思います。
  そういう中で,あえてここで規定される意味は何なのか,この規定によって賃貸借や使用貸借の解釈に影響があるか,ないかという辺りについて,お考えをお聞かせいただきたいと思います。
○笹井幹事 御指摘の点ですけれども,賃貸借や使用貸借につきましては用法遵守義務に関する規定しか設けられておりませんけれども,400条に依拠するかどうかということは別として,善管注意義務が債務の内容になっているということ自体には争いがないのだと思います。その結果として,債務不履行の規定を通じて解除ができるということになるわけですけれども,居住権につきましては契約ではないので,解除というものがございません。そのために,それに代わるものとして消滅請求を設けたわけですけれども,この消滅請求につきましても,どういう場合に消滅の請求することができるのかということを法定しておかなければならないだろうと思います。
  契約につきましては,400条あるいは契約の解釈から善管注意義務を導けるわけですが,居住権につきましては法定債権ですので,善管注意義務違反が消滅請求の原因になるということも書き切らないといけないということで,こちらに書かせていただいたということです。そういう意味で,規定を設ける必要性が契約の場合とは違っていると。したがって,契約のほうに何かの影響を及ぼすということはないと考えております。
○大村部会長 よろしいですか。
○中田委員 ありがとうございました。
  賃貸借と違うんだという御説明だったと思います。ただ,今の御説明でよく理解することができました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本(克)委員 今の点に関連してですが,配偶者が相続人である場合について,918条1項との関係というのはどういうふうにお考えでしょうか。つまり,承認するまでの間ですけれども。
○笹井幹事 十分に考えておりませんでしたけれども,居住権については善管注意義務を規定しましたので,配偶者が居住権に基づいて占有する限りは,管理義務が若干加重されるということになるのではないかと思います。
○山本(克)委員 ほかの人が住んでいたら加重されないけれども,配偶者だと加重されるという。
○堂薗幹事 ほかの相続人の場合は,一応理屈の上では,ほかの相続人の持分部分については本来的には対価を払わなければいけないという関係があるのに対しまして,配偶者の場合にはそこを免除すると。要するに,居住建物が共有である場合であっても,持分相当分の使用対価を払わなくていいという意味で,そこは配偶者を優遇しているという面がありますので,その結果として,財産の管理については通常の場合よりも重い義務を課しているという整理をしているところでございます。
○山本(克)委員 はい,分かりました。
○潮見委員 918条は相続財産の管理だという点を意識し,こっちのほうの居住権というものは管理の域を超えるから,義務の程度を書いたという立て付けではなかったのですか。つまり,ルールの切り分けがされているということではないのでしょうか。
○堂薗幹事 例えば,配偶者がいない場合に,ほかの子どもが住んでいて,遺産分割までの間,引き続きそこで管理をしているというような場合に,それは,私の理解では,自己と同一の注意義務で足りて,その場合,善管注意義務までは負っていないという理解です。そうすると,基本的に短期居住権の場合も,従前の居住を継続するだけですので,管理を超えるということだけで説明が付くのかなという疑問もあるように思います。
○潮見委員 そうですか。居住権という,短期にしてもそういう法的地位を与えたというのは,今の現行法で考えられている相続の承認,放棄等をするまでの間の管理とは少し違ったことがここで想定されているから,それにふさわしい形で,権利を与えた以上は注意義務の程度も書いたということではないのですか。説明の問題だけですけれども。
○堂薗幹事 ですから,短期居住権の場合には,具体的にはほかの相続人の持分については使用利益を払わなくていいというところに意義があるんだと思いますので,その反面として,そういった意味では,通常の場合よりは優遇しているので,管理義務の程度を上げたという理解をしてきたということでございます。
○増田委員 今の説明に疑問なんですけれども,ほかの相続人に対しては使用利益を払わなくていい,ほかの相続人は使用利益を払わなければならないというのがどこから出てくるのかというのがよく分からなくて,現在の判例の考え方からいえば,従前から引き続いて居住している相続人は,やはり使用貸借と同じように対価を払わなくてもいいということだったと思うんですが,そこの部分は,この配偶者についての特則ができたところで現行の解釈は変わらないという前提だったように思うんですけれども,どうなんですか。
○堂薗幹事 ですから,そこは,ほかの相続人についても使用貸借契約の成立が推認されれば,それは使用貸借契約の内容として返還義務を負うわけなので,そこは善管注意義務を負うということになるのではないかと思うんですが,今,私が申し上げたのは,使用貸借契約が成立せずに,通常の918条で管理をする場合との違いについては,そこで説明することになるのではないかということでございます。
○大村部会長 先ほどの潮見委員の御説明も,あり得る説明ではないかなと思いますので,ちょっと説明の仕方について,先ほどの918条の御指摘を踏まえて,整理をしていただく必要があるかと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。
  そのほかいかがでしょうか。
○西幹事 すみません。前も伺ったかもしれませんが,2件,確認ないし質問させてください。
  1点目は,必要費及び有益費の負担のところで,短期居住権については1ページの下の方,長期居住権については4ページの下のほうにありますけれども,それぞれ(イ)の方で,短期の方はbになりますけれども,文言が少し違いますが,書いてある内容としては同じことなのでしょうか。
  2点目は,修繕のことですが,今回新たに入ったことかもしれませんけれども,短期の場合には2ページの(エ)のbのところ,長期については5ページのカの(イ)で,どちらについても修繕の必要がある場合には通知しなければならないということになっています。ただ,その上のところでは,配偶者は,必要な修繕をすることができると書かれています。
  これらを併せて読みますと,配偶者が必要な修繕をする場合でも,やはり通知はするというように読むのが素直だと思うのですが,その場合の通知の性質というのでしょうか,通知の意味はどこにあるのかというのが今一つよく分かりません。単純に所有者が本来権限を持っているべきことだから,一言言っておくというだけのことなのか,あるいはそれ以上の意味があるのか。例えば,こういうふうに修繕してほしいということを所有者が述べることができるのか,ちょっとその辺りがよく分かりませんので,教えてください。
○笹井幹事 1点目の,表現が違っているではないかというところですけれども,原案の意図としては同じことを言うつもりでしたので,平仄がとれるように表現をもう一度検討したいと思います。
  次に,通知のところですけれども,第一次的な修繕権は配偶者に認められておりますけれども,配偶者が自分でしない場合には所有者がするという場合もありますし,誰が,どういうふうに修繕を行うかというような,協議のきっかけというような意味もあり得るのかなと考えていたところです。ただ,賃貸借の615条における通知義務の趣旨は,修繕の義務を負っている者に対して修繕を求めたり,修繕の機会を与えるということですので,不必要な部分があるのではないかという御指摘はあろうかと思います。その点も御指摘を踏まえて検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。
  では,先もございますので,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,先ほど御議論がありました点を中心に,必要な見直しをしていただくということにさせていただきたいと思います。
  先を急いで恐縮ですけれども,次が第3の「遺言制度に関する見直し」ですけれども,これについて御説明を頂きます。
○倉重関係官 それでは,第3の1の変更点について御説明申し上げます。
  本部会資料では,これまでの規律を改め,改正によって新たに許されることとなる様式について,自署によらない財産目録を添付する方式に限定することといたしております。規定の明確化の観点からは,改正によって新たに適式となる様式を具体的に明示した方がよいと考えたためです。
  財産の目録につきましては,パソコンや代筆で作成することはもちろん,従前どおり不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等を目録として添付しても差し支えないと考えておるところでございます。
  また,新規律の後段は,変造・偽造の防止のため,自署によらない財産目録を添付する場合には,その目録の毎葉に遺言者の署名及び押印を要求し,特に自署によらない記載が両面に及ぶ場合については,その両面に遺言者の署名を要求することにしております。
  なお,前回までは,加除訂正を自署によらない方式で行うことができるか,否かについて亀甲括弧付きとしておりましたが,作成時に自署によらない目録を添付することを認める以上,加除訂正時にこれを禁ずるとすれば,適式でない方式による遺言が増えることになりかねないと考えましたことから,本部会資料では,自署によらない目録を利用した訂正等も許すこととさせていただいております。
  以上が1になります。
○大村部会長 2,3も併せて説明を頂いて,御意見を頂きたいと思いますので,2につきましてお願いいたします。
○竹下関係官 それでは,関係官の竹下から御説明いたします。
  2の「自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設」についてでございます。
  前回の部会資料から変更点が1点ございます。第23回の部会資料においては,遺言者が遺言書の返還及び閲覧並びに遺言書に係る画像情報等を証明した書面--これは前回は「写し」という表現とされておりましたが--の交付を求めることができるとしておりましたところ,これを,遺言者は,遺言書の返還及び閲覧のみをできることと変更したものです。これは,遺言者の生存中は,保管している遺言書が返還されたり,新たな遺言書が作成され保管されるなどの可能性があるため,特定の時点における法務局が作成した遺言書に係る画像情報証明書を交付することの意義が乏しいばかりか,例えば相続人らが残された遺言書に係る画像情報等を証明した書面に基づいて,別の遺言書が法務局に保管されているかどうかを確認することなく遺産分割を行ったところ,後日,前の遺言を撤回する内容の新たな遺言書が法務局に保管されていることが発覚するなど,当該書面の存在による誤認を誘発させる可能性もあるということや,遺言書の返還及び閲覧を認めることによって遺言者の保護は十分であることに照らして,遺言者は,遺言書の返還及び閲覧のみを求めることができるとして変更したものでございます。
  このほか,補足事項が3点ございます。
  まず,1点目ですが,2の(1)の(注1)において,法務局の事務官が当該遺言書の民法第968条に定める方式への適合性を審査する旨を付記しております。この趣旨は,これまでの部会における議論を踏まえまして,公的機関である法務局が自筆証書遺言を受領して保管する際に,外形的に確認することができる日付及び氏名の自署や押印などについて,方式違反の有無を確認するものであることを明らかにするものでございます。
  これは,遺言書に記載されている署名の筆跡鑑定をするというようなことを想定しているものではありません。飽くまで,遺言書にこれらの事項が記載されていることを確認したり,申請者に自署したことを自認させるというような外形的な審査を行うことを想定するものでございます。
  2点目は,同じく(1)の(注2)についてでございます。
  これは,遺言書の保管の申請をすることができる法務局について,遺言者にとっての利便性,相続人等の利便性,それから法務局における事務量予測の必要性等を考慮いたしまして,遺言書の保管の申請については,法務大臣の指定する法務局のうち,遺言者の住所若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局に対して申請をすることが考えられることを付記したものでございます。
  3点目は,第2の(4)から(6)についてでございます。
  これは,前回の部会資料で,相続人等が遺言書に関する証明書の交付等を請求することができるという表現にしていたものについて,「何人も自己を相続人等とする遺言書について請求できる」という表現に改めたものでございます。規律の内容自体は変更しておりません。
  なお,この点については,実際に証明書の交付を求める場面での遺言書の特定方法を記述したものではなく,例えば遺言者を特定せずに,自己を受遺者とする遺言書というような形で,遺言書に関する証明書の交付を請求することを認めるという趣旨ではございません。
  このほかには,表現を改めたもの以外は,実質的な内容について変更はございません。
  以上が自筆証書遺言の保管制度の創設関係の説明となります。
○満田関係官 続きまして,3の「遺贈の担保責任」及び4の「遺言執行者の権限の明確化」等につきまして,関係官の満田の方から簡単に説明させていただきます。
  まず,3の「遺贈の担保責任」につきましては,ゴシック部分につきまして,2点だけ修正がございます。
  一つ目は,遺贈義務者の引渡義務につきまして,従前はその対象範囲を相続財産に属する遺贈を目的とした場合に限定をしておりましたが,今回の部会資料におきましては,債権法改正後の贈与の引渡義務等の規定との平仄を合わせまして,その対象範囲については特段の限定をせず,遺贈全般に及ぶものとしております。
  さらに,二つ目は,この規律が設けられることにより削除される条文について第998条のほか第1000条を追加させていただいていた点です。
  さらに,遺贈の担保責任の3のところで(2)につきまして,民法第1025条ただし書について,1点追加で部会資料に載せております。
  この点につきましては,これまでの部会で取り上げられていなかった論点ではございますが,債権法の改正後の民法におきまして,錯誤に基づく意思表示が詐欺,強迫による意思表示とともに取消しの対象とされたことを踏まえた見直しということになります。
  4番の「遺言執行者の権限の明確化」につきましては,ゴシック部分について,実質的な内容についての変更はございませんが,法制的な観点から,一部表現方法の修正を加えておるということになっております。
  説明は簡単ですが,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第3の「遺言制度に関する見直し」は,幾つかの項目を含んでおりますけれども,1の「自筆証書遺言の方式緩和」については,財産目録を添付するという方式が提案されていて,財産目録に関する加除等についても,自筆によらない方法を認めるということが言われているかと思います。
  2の「自筆証書遺言の保管制度の創設」に関しましては,従前は証明書を交付するということでありましたけれども,幾つかの理由によって,閲覧のみを求めることができるとしている。それから,細かい点について,幾つかの付記がされているという御指摘があったかと思います。
  3番目の「遺贈の担保責任等」につきましては,主として債権法改正との平仄を合わせるような調整をしているという御説明だったかと思います。
  最後,4の「遺言執行者の権限の明確化等」については,特に大きく変わったところはないということだったかと思います。
  どの点でも結構ですので,御意見等頂ければ幸いです。
  いかがでしょうか,御発言ございませんでしょうか。よろしいですか。
  ありがとうございます。
  それでは,この点につきましては特段の御意見はなかったということで,先に進ませていただきたいと思います。
  次が,第5になりますけれども,第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」という部分につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 引き続きまして,満田の方から説明をさせていただきます。
  部会資料の24-1の17ページを御覧ください。
  まず,1の権利義務の承継に関する規律についてですが,まず(1)につきましては,実質的な内容の変更はございませんが,前回の部会資料の表現方法については,中間試案の表現振りと比べ,規律の対象範囲が分かりづらいなどの御指摘を頂いておりましたので,法制的な観点から再度検討し,対抗要件主義が適用される範囲について,法定相続分を超える部分の取得に限定されるということが明らかになるよう,その表現方法を修正しております。
  また,従前は(2)の規律におきまして,共同相続人全員による通知を含め,債権の承継に関する規律全体を記載しておりましたが,(1)のような規律を設けることによりまして,共同相続人全員による通知及び債務者の承諾については,(1)の規律に含まれることと整理できることになりましたので,(2)及び(3)におきましては,受益相続人が単独でその債権の取得の通知をする場合の規律のみを記載することといたしました。
  なお,受益相続人による通知の際に必要な書面の交付につきましては,従前の部会資料では,各受益相続人が自らそれを交付しなければならないこととしておりましたが,相続人や債務者の事務処理上の負担等を考慮しまして,必ずしも受益相続人本人が交付する必要はなく,その受益相続人による通知以前に債務者にその書面が交付されていれば足りるという形で,規律の内容を変更しております。
  2番の「義務の承継に関する規律」については,部会資料23-1からの変更点はございません。
  3番の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等」につきましては,部会資料23-1では亀甲括弧とされておりました相続人の債権者の取扱いにつきまして,法律関係が複雑化すること等を防止する観点等も考慮いたしまして,亀甲括弧を外し,本文に記載するということとしております。
  説明は以上になります。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」につきましては,1の権利の承継の部分は,(1)の表現を修正している,これに伴って(2),(3)に書かれることも変わってきている,こういう御説明だったかと思います。
  それから,通知,書面の交付の主体についての修正が加わっている。
  さらに,2の「義務の承継に関する規律」と3の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等」については,後者の3の方につきまして,従前,亀甲に入っていた相続人の債権者について亀甲を外した,こんなことだったかと思います。
  どの点についてでも結構ですので,御意見等を頂ければと思います。いかがでしょうか。
  これも特に御意見ございませんでしょうか。
  よろしいですか。
  それでは,この点につきましても特に御意見がないということで,先に進ませていただきます。
  すみません。進行を急いだために,皆さん発言を御遠慮になっているかもしれませんが,最後に,多少時間が余りましたら,全体について追加の発言を,時間の許す範囲で伺いたいと思っております。
  最後の第6になりますが,「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」という項目につきまして,事務当局から御説明を頂きます。
○秋田関係官 それでは,第6について,関係官の秋田より御説明いたします。
  この方策につきましては,請求権者の範囲を中心に,これまで御意見を頂戴してきました。この請求権者の範囲につきまして,三親等内の親族と限定すると扶養義務の範囲と重なる部分が多いため,かえって不相当なメッセージ性を持つおそれがあるなどの意見がございましたので,今回の部会資料では新たに,相続人になり得る者及びその配偶者を請求権者とすることを,1の4行目の亀甲括弧の中で提案しております。
  この提案は,寄与分の主張権者が相続人に限定されていることの不都合を回避するため,相続人に準ずる法的地位にある者に主張権者を拡大する必要があるとの考えに立ち返って,請求権者の範囲を定めることを提案するものでして,本方策における請求権者の範囲と扶養義務を負い得る者の範囲との関連性を連想させることがなくなることで,以前から指摘されておりました不相当なメッセージ性を少しでも払拭できないかと考えております。
  このほか,幾つかの点に内容の修正がございますので,修正箇所のみ御紹介させていただきます。
  まず,請求権が否定される場合として,1のただし書の前段で「特別寄与者がその寄与について対価を得たとき」とこれまでしておりましたのを,「被相続人から対価を得たとき」というふうに文言を変えております。また,ただし書の後段で,これまでは「被相続人が遺言に別段の意思を表示したとき」としておりましたのを,「遺言に反対の意思を表示したとき」と修正しております。
  次に,権利行使期間について,2のただし書において,これまで6か月と1年の二つの権利行使期間を「時効」として定めておりましたのを,今回の部会資料では「除斥期間」として定めることを提案しております。また,6か月の権利行使期間,つまり2のただし書前段につきまして,これまで「相続の開始を知った時」を起算点としておりましたが,新たに「相続の開始及び相続人を知った時」を起算点とすることを提案しております。
  最後に,管轄について,(注)の部分に記載がございます。これまでの部会資料では,家事事件手続法第191条第2項と同様の定め,つまり,遺産分割の審判事件が係属する裁判所にも本方策に関する審判について管轄を認める,このような規定を置くことを提案しておりましたが,検討の結果,そのような規律を設ける必要はないのではないかと考えましたので,その旨の記載を削除しております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第6につきましては,資料24-1で申しますと,19ページの1,2の亀甲で囲まれている部分,「被相続人の直系血族及び」という部分ですけれども,これは従前の三親等の親族という限定について問題点が指摘されていたので,それに代わる案をここに掲げているということであったかと思います。
  その他,1のただし書,それから2のただし書について,幾つかの修正が加えられているということと,(注)の一部を削除したということだったかと思います。
  これにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○金澄幹事 まず,質問ですけれども,たたき台(2)からの変更ということで,まず請求の相手方についてです。たたき台(2)では,「相続が開始した後,各相続人に対し」というようになっていたのが,今回それの「各」という文言が消えているわけなんですけれども,従前の補足説明ですと,各相続人に対する個別の請求権の決定のみが審判事項であることを明確にしているというようになっていました。つまり,各相続人に対する相続人の数だけの個別の請求権があるというような理解だったと思います。
  また,同じように,たたき台(2)では,各相続人が支払うべき額を算定するというようにあったのが,今回は特別寄与料の額を定めるということで,全体を定めるというような形に読めるのですけれども,これらの変更点は,たたき台(2)の考え方を変更して,相続人全員に請求をして,家裁が総額を決めるというように考え方が変更されたという理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 この点は,実質を変える趣旨ではなく,法制的な観点からその表現を修正したものです。基本的に,第6については,単独相続の場合と共同相続の場合とで取扱いが若干変わるところもあるので,この1から4までは,基本的に単独相続の場合を想定した規定振りにした上で,5で共同相続の場合を想定した規定振りにしたということでございます。実質的には,従前から申し上げておりますように,基本的には各相続人に対してそれぞれに請求するということですし,裁判所が決める内容も,各相続人に対する支払額を定めると。複数の相続人に対して請求する場合も,その総額を定めるのではなくて,それぞれの相続人に対する請求額を審判の処分で掲げるということを想定しております。
○金澄幹事 総額を掲げるんですか。
○堂薗幹事 いえ,総額ではなくて,各相続人に対する支払額を掲げるということです。誰々に対して幾ら幾ら払えという,最終的には給付請求の部分はそういうことになるのではないかということです。
○金澄幹事 とすると,何か第6の規律の書き方と今おっしゃった御説明との間にそごがあるような気がするんですけれども,表現の仕方ですけれども。
○堂薗幹事 例えば,4の規律につきましては,全体として,要するに共同相続である場合には,その共同相続人に対する請求額全体--総額ですね,その総額がここでの残額を超えることができないという規律を設ける必要があるんですけれども,1のところから,共同相続を前提とした規定にした場合に,非常に書きにくいというところがございまして,若干表現が分かりにくいという御指摘については,そのような面はあるかなという気はするんですが,先程のような問題があることから,ここでは,まず単独相続の場合を想定した規定を設けた上で,共同相続の場合にはこうなりますという書き方にさせていただいているというところでございます。この点の表現振りをどうするかというところにつきましては,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
○金澄幹事 はい,お願いします。
○大村部会長 今の確認ですけれども,共同相続のときにも,特別寄与料の総額を定める必要はあるということでしょうか。
○堂薗幹事 主文で総額を定める必要はないという理解です。
○大村部会長 5項はどういうことになりますか。
○堂薗幹事 5項は,飽くまで,各相続人に対して,幾ら請求できるかという点について計算方法を書いたものということになりますので,主文の中で総額を明らかにしなければいけないという趣旨ではありません。
○大村部会長 そういう趣旨ではないわけですね。
○金澄幹事 それは次回までにお任せをいたしますので,表現を御説明と合わせていただければと思います。
  次に,たたき台(3)では,要件として,被相続人から対価を得たということで,従前のところですと,単に「寄与について対価を得たとき」ということから表現が変わっているわけです。つまり,従前は誰からの対価であるかを特定していなかったわけなんですけれども,今回は「被相続人から」と特定をするということになったわけですけれども,この変更の意味は,今回の補足説明によりますと,被相続人の推定的意思を根拠とする規定であるから,被相続人の意思に基づかないで対価が払われた場合,つまり「被相続人以外の者からの対価を得ていた」場合でも請求できるということだと思うんです。とすると,特別寄与者が被相続人以外の者から対価を得ている場合に,更に特別寄与料の請求ができるということになってしまって,結局,二重に寄与の請求をできることになるのではないかなというように思います。この点については従前のものの方がいいのではないかなというように思っています。
  実際に,特別寄与と評価されるほど被相続人に対する療養看護が必要になる場合であれば,被相続人は恐らく認知症だったりと,寝たきりで自分の金銭管理ができなかったりというようなことがほとんどだと思います。とすると,そのような要介護の程度が高い被相続人の療養看護に関して,現実に対価を支払うのは,やはり被相続人の配偶者であったり,子どもであったりということがほとんどではないかと思われます。そういう人たちが対価を払っている場合に,今回,被相続人からの対価というように限定してしまうと,やはり先ほど申し上げたように,二重の寄与についてお金を頂くということになるのではないかというように思いますが,従前から変更して,ここを限定したのはどうしてかしらと思うのですが。
○秋田関係官 どのような事案を想定するかだと思うのですが,こちらで請求権が否定されるのは不当でないかと考えた事案としましては,例えば,長年にわたって介護してきた人がいるときに,被相続人以外の親族がこの人に特別寄与料を支払いたくないという理由で,はっきりと対価であると示して少額のお金,例えば1万円や2万円を渡したときに,これまでの「対価を得たとき」という要件に当てはめると,そのような場合でも対価であると認定されてその額にかかわらず請求権が否定されてしまうことがあり得る。そのような事態が起きることは不当ではないかと考えましたので,今回,「被相続人から」という限定を付すことを提案させていただきました。
  また,二重取りの危険があるのではないかとおっしゃられたと思うのですが,被相続人以外の者から一定の金銭を受け取った場合であれば,額の算定の中で,一切の事情として考慮されるので,一定程度相当な結論は導き得るのではないかと考えております。
○金澄幹事 分かりました。では,そこは結構です。
○窪田委員 対価の意味についてちょっとお聞かせいただきたいと思います。今のお話だと,幾ら少額でも対価といって払ったら対価になるのだということだったのですが,私自身は,ここで対価として示されているのは,当然対価として評価されるべきものという前提であって,何か上げる人が「これは対価ね」と一言言えば,ここから外れるわけではないし,それは被相続人に関しても同じではないかなと思いますので,ちょっとその点確認していただければと思います。
○堂薗幹事 もちろん,労務の提供の対価として払われているということが必要になるわけですが,ただ,例えば,双方ともそういう趣旨で,非常に少額の金銭などが払われたという場合に,それをもって,この請求を認めないこととするのか,あるいはそこは3の一切の事情として考慮した上で,裁判所の判断に委ねるということにするかというところだと思います。
  こちらとしては,対価という場合には,必ずしも相当額の対価ということには限らないと思いますので,そういったことも含めて,このような形にはさせていただいているということでございます。
○窪田委員 あんまりこだわるものではないですし,解釈論として残せばいいことではあるのだろうと思うのですが,ただ,やはり,幾ら形式的に一定の額を払ったとしても,それは契約の無償性を当然に否定することにはならないと思いますし,ちょっとそこは含みのある部分ではないかということで,第三者からであっても被相続人からであっても,被相続人の場合には別途意思の問題もありますが,何かものすごく小さな金額を払って,それで済ませればいいというのは適切ではないと思いますし,誰がやっても同じ問題があるのではないかなという気がしましたので,ちょっとそこの部分については留保しておきたいと思います。
○大村部会長 今のところも整理をしていただく必要があるかもしれないように思って伺いました。趣旨は,金澄幹事も御指摘になったように,被相続人の意思を推定するという発想で作られている規定なので,被相続人からお金を得ているという形になっているということだったかと思いますけれども,それに準ずるような場合が,解釈論としてカバーできないだろうかということですね。それから,対価と言っているけれども,実際上,対価と言えないようなものの場合に,これで一律に封ぜられることはないのではないか,そんなことが話題になるかと思います。
  それと,3のほうの取扱いと,どういう関係に立つのかということも含めて,またちょっと整理をしていただければと思います。
○金澄幹事 請求権者のところですけれども,請求権者を限定する理由ということで,今回,補足説明の40ページには,「被相続人とかなり近い関係にあることから,契約などの生前の対応が類型的に困難であるということもできる」というふうに書いてあります。そうであれば,内縁配偶者とか事実上の養子が,正にこれに該当するのではないかなというように思いますし,少なくとも被相続人の兄弟姉妹やその子,それらの者の配偶者よりも被相続人に近いという関係であるということは言えると思います。ですので,これらの者を排除することは,立法理由からしてもおかしいというようには思っています。
  ただ,もう基本的に最終段階になっていますので,一つ,御提案として申し上げたいと思っていることは,このように請求権者を列挙するのであれば,「配偶者の直系血族」ということにしたらいかがでしょうか。いわゆる再婚した配偶者の連れ子であって,未だ養子縁組していない方,つまり「事実上の養子」も被相続人を療養看護することがあると思います。そういう配偶者の直系血族というのを入れるのはどうかなという御提案です。
  現在,結婚する夫婦の4組に1組は再婚家庭でして,子連れの再婚でステップファミリーも当然のことながら増えているという状況です。連れ子は,養子縁組をしないと姻族一親等にはなれずに,相続人にはならないという関係です。しかし,長年生活をともにして,実親子と同様か,かえって離れて住む実親子よりも濃い関係を築く親とその配偶者の子--連れ子ですね--という関係もあるかと思います。親の療養看護に尽くす連れ子というのももちろんあると思います。このような連れ子をやはり排除する理由はないのではないかなと思います。ですので,配偶者の直系血族を請求者に含めれば,このような連れ子を救うことができるのではないかなと思っています。
  法律婚尊重という御意見があるにしても,法律婚に付随する親子関係である,法律婚をした配偶者の直系血族であれば請求権者に入れてもいいのではないかなと思っております。御検討いただければと思います。
○堂薗幹事 検討させていただければと思いますが,ここは,亀甲括弧を付けた場合には,基本的に相続の延長線上で説明することが可能であり,相続人になり得る者を請求権者にしたという説明をすることを考えております。ただ,その配偶者,相続人となり得る者の配偶者については,さらに別の説明が必要となりますが,この点については,夫婦のどちらがやるかによって取扱いが変わらないようにしたという説明をすることを考えております。すなわち,夫婦については相互に家事などを分担し合うという関係があるので,その点を考慮して,配偶者も請求権者に含めることにしたという説明をすることを考えておりまして,その関係で,さらに配偶者の直系血族まで請求権者の範囲を広げた場合に,法制的に合理的な説明ができるかというところについては,難しい問題もあるように思いますので,その辺りも含めて検討させていただければと思います。
○大村部会長 よろしいですか。
○南部委員 ありがとうございます。
  先ほどの意見と重なるんですけれども,私の方もこの間,この部分にLGBTの方々も含められないかということで御意見を申し上げてきました。今後,パートナーが多様化する中で,また,超高齢化社会に入ったときに,かなりこの法律改正で,この部分が注目されると思います。LGBTの方々までを対象にするというのはなかなか難しいかも分かりませんが,内縁の妻や,同性の同居者は入れないということではなく,できるだけ多くの貢献した方々が救われるような妥協案というのはどこかでできないかとこの間申し上げてまいりました。是非,今ほどの意見と併せて御検討いただきながら,特に今指摘された妻の連れ子,養子縁組をされていない事実上の養子の方々は,もっと深刻だと思っております。是非,相続人の世話をしている事例もたくさんあると思いますので,御検討を厚くしていただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○八木委員 そういう御意見も出ましたので,私は亀甲括弧を外して,本文に記載するのがいいと思っております。この部分が全体なくなって,限定部分もなくなると,他の規定との整合性が非常に難しくなるというか,話が一気にややこしくなると思うんですね。何かパブリックコメントを,さっき速報を見ていましたら,配偶者の居住権の問題についても,やはり内縁とか同性カップルとか,それを入れるべきだという御意見もあったんですけれども,この「相続人以外の貢献を考慮する」というテーマも,実は主として配偶者保護の問題だろうとずっと考えてきたんですけれども,ここに内縁とか同性カップルを含めると,簡単に言うと,婚姻との差というものが相対化されて,他の規定との整合性が非常に曖昧になるんだろうと思うんです。そうなると,婚姻制度そのものの本質的な問題に発展するということです。
  そうなってくると,仮にこの限定を外したような案が提案されたとしても,恐らく国会で通らないと思います。そのような現実的なところも考えて,少しでも,これまで介護等で貢献しながらも評価されてこなかった配偶者を金銭的に評価していくという意味で,少しでもその保護の度合いを強めるというところであれば,ここの亀甲括弧部分を外して,本文に記載をしていただきたいという意見です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○藤野委員 まず,一つ質問させていただきたいのですけれども,3のところに「2本文の場合には,家庭裁判所は」うんぬんとあって,「その他一切の事情を考慮して,特別寄与料の額を定める」とあるのですが,この額はゼロということもあるのですか。その上には,相続人に対して調わないときに,家庭裁判所に申立てができて,家庭裁判所はそれなりに判断するとあるのですけれども。
○堂薗幹事 先ほどの,第三者から対価を得た場合の話は置くといたしまして,基本的にはこの1の要件を満たしている場合には,何らかの請求は認められるという前提でこちらでは考えておりまして,そこの具体的金額については,家庭裁判所がこれらの考慮要素を勘案して決めるということを想定しているものでございます。
○藤野委員 つまり,ゼロということもあるということですね。
○堂薗幹事 いえ,1の要件を満たしている場合には,基本的にはゼロにはならないという前提でございます。
○藤野委員 ゼロにはならないということですね,分かりました。
  1のところに療養看護その他の労務の提供というのがありまして,療養看護だけではなく,その他の労務ということも含まれていて,私は八木委員がおっしゃったように,やはり少しでも,今報われない--身内の中で行われていることが報われるようになることがもう第一だと思っているのですが,それなりの判断を下す第三者がある場合には,亀甲括弧の中がなくても,これまで報われていない方も報われる判断も下されるでしょう。懸念していたのは,全く関係ない人が入り込んでカタチだけのお世話をして,「自分もお世話をした」と言って,ある意味,判断力が鈍っている方の財産を取っていくような事件性のあることが発生することを非常に恐れていたのです。
  よって,私はこれがゼロになることもあるのであれば,この括弧の中はなくてもいいかなと思ったのですね。つまり,お世話をした人がしっかりと判断されて,それなりの寄与分を頂けるということになるのがよろしいのではないかと。そうすれば,婚姻関係があろうとなかろうと,婚姻関係あった方の連れ子の方であろうと,しっかり寄与した方がそれなりにもらえる,又は事件性があるような場合の方は,判断されてゼロになるということで,家庭裁判所に持っていっても,あなたにはその権利はないと言われる可能性もあるということだと思ったのです。そのような判断もあっていいのかなと。
  この括弧内の記載を付けなければ報われないのではなくて,この括弧内の記載がなくても,これまで報われてこなかった人が報われるという可能性がしっかりあることが望ましいと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。
  この部分を除くという御意見ですね。
○藤野委員 ゼロになることもあるのならば除くことがよいということです,はい。
○大村部会長 そういう意見も出ておりますけれども,ほかにいかがでございましょうか。
○山本(克)委員 本筋から,今の議論からちょっと外れてしまうんですが,今,堂薗幹事から,ゼロになることはあり得ないとおっしゃったんですが,財産者,特に相続人から十分な対価を得て療養看護をした人については,要件を満たしていればゼロにならないとおかしいのではないでしょうか。
○堂薗幹事 ですので,対価をもらっている場合については置いておいてという前置きをした上での話でございます。
○山本(克)委員 そういうことですか。はい,了解しました。それなら結構です。
○大村部会長 ほかにいかがですか。
○西幹事 先ほどから,亀甲括弧を外して本文に入れるかどうかという話が出ていますが,私も実際問題として,亀甲括弧を外して本文に入れる方がいいという判断をする人が多いというのは納得できます。ただ,その場合,今回の御提案だと,何となく落ち着きが悪いというか,気持ち悪さを感じるのは,先ほど金澄幹事の御質問に対するお答えの中で,特別寄与料の額を定めたり,相続人に対してというところで,実質は変えないというお話でしたけれども,文言だけを見ていると,今までは各相続人に対する個別の権利という感じだったのが,今回は相続財産に対する権利という色彩が色濃く出ているように感じます。
  さらに,1の括弧のところで,相続人の中でも相続放棄をした人とか,欠格事由に当たる人とか,廃除された人を除くということで,特別寄与料を受ける者は準相続人という発想が見えるのが今回の御提案だと思います。準相続人というか,相続人になり得る者というのを念頭に置くのはよく理解できるのですが,そうなったときに,亀甲括弧の部分に相続人になり得る者の配偶者が入るのはやはり気持ち悪いように感じます。
  実態としては配偶者を入れないといけないというのは分かりますけれども,これら配偶者は絶対に相続人になり得ない者ですので,それが露骨に挙げられているというのはどうかと。全体としては非常に潜在的な相続人という色彩が強く出ているようで,異質感が目立って落ち着きが悪いので,もし亀甲括弧を外すのであれば,もう少し準相続人,潜在的に相続人になり得る者という色彩を弱めるとか,何らかの工夫をしていただいた方がいいかなという気はしました。
○大村部会長 御意見は,ここで亀甲括弧を外すということが現実的であろうというところから出発するけれども,現在の相続人の範囲からいうと,最後に出てくる「及びその配偶者」というのが言わばプラスアルファになっている。プラスアルファをするのならば,この範囲をもう少し広げられないか,そういうことですか。それともこれを除けということですか。
○西幹事 どちらもあり得ると思いますけれども,もう少し広げる方が。あるいは全体として相続人になり得る者という色彩を弱めて,むしろ債権者という方向に近づけるのであれば,どういう限定をしても相続人になり得る者の配偶者を加えても,それは政策的な判断ということでできるのかなと。両方の判断があり得るような気がしますけれども。
○大村部会長 はい,分かりました。
  そのほかいかがでしょうか。
  この亀甲括弧はもう要らないという御議論もありますし,いや,この亀甲括弧がなければもたないという御意見もあったわけですけれども,その間にあって,亀甲括弧を外すけれども,その範囲をもう少し調整できないかという御議論も出ている。こういう状況かと思いますけれども,他の委員,幹事でまだ御発言のない方,何かございましたら御意見を頂ければと思います。
○村田委員 この亀甲括弧だけ外して,主体に限定を残すか,あるいは残すとしてその内容をどうするかというところ自体に,内容的には直接な意見はないんですけれども,そこは正に国民の皆様の価値判断というところかと思っていまして,それを代表するここの委員,幹事の皆様の御意見が今ぶつかっているというところだと思うんです。この場だけでもこれだけ意見が分かれるところですので,難しい問題だからというので,最後は裁判所へお願いしましょうというのだけはやめてもらいたいというところでありまして,やはり裁判所はそのルールを実体法として決めていただいたところを,その事案に当てはめるのが仕事なものですから,ルール自体を自由に設定,その事件ごとに裁判所は考えろと言われるのはちょっとつらいなというところがありますので,ルール設定は何とか明確なものをお願いしたいと考えます。
○大村部会長 今の御意見は,亀甲を取って,中身をどうするかは部会の議論に委ねるけれども,何らかの限定は欲しいという御趣旨ですか。
  ほかに,いかがでございましょうか。
  実質的にどこまで広げるかということになると,これはなかなかコンセンサスを得るのは難しいんだろうと思われます。前回までは三親等というのが出ていたわけですけれども,それに対しては別の問題があるのではないかという御指摘があって,それに代わるものとして,今回,相続人の範囲を基準にして,それにその配偶者を加えたという案が出てきているかと思います。「その配偶者」を削ってしまえば,ある意味では相続人の規定との並びになる,この制度は,潜在的な相続人で実際には相続人にならなかった人の貢献に報いるための制度である。それ以外に,今日における家族関係について,何か積極的な判断を示しているわけではない。こういう説明ができるのかと思いますけれども,その線を超えて,実質的なものを加えていくということになると,その実質について,一定のコンセンサスができる範囲はどこかを考えなければいけない。
  「及びその配偶者に限り」のその配偶者については,コンセンサスが得られるのではないかというのが事務当局の判断で,こういう案が出てきているということだろうと思いますけれども,もし今のように考えていくとすると,この線ならばコンセンサスが得られるのではないかというところについて御意見を頂くというのが現実的なのかと思いますけれども,その辺りはいかがでございましょうか。
○潮見委員 今の部会長のまとめで,私は結構かと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  しかし,どの辺りなのかということについて,何かあれば是非伺いたいのですが。
○窪田委員 どこまで広げるかという話ではないのですが,西幹事の御指摘はそのとおりなのだろうと思います。ただ,恐らくこの問題の出発点になっていたのは,息子の嫁が実際にはずっと農作業を手伝っていてというようなタイプのものだったと思いますので,潜在的な相続人の話なのだということと,従前はそれを何か相続人の寄与分という形でみなしていて対応するということで,それは一定の解決だったのかもしれないけれども,本来は配偶者に行くべきものがそういう形になっていたということに対する対応だと思いますので,その意味で,「及びその配偶者」というのは,居心地が悪いというのもそのとおりですが,特に出発点となった問題状況との関係では一定の説明ができるのかなとは思っております。
  その上で,もう部会長がまとめていただいた大原則の枠組みに関して,私も大賛成でございますので。
○大村部会長 おっしゃったのは,「その配偶者」というのは,この問題についての従来の議論の経緯からいって,子どもの配偶者みたいなものが想定されていたのだから,その要請とここに挙がっているものの範囲というのを組み合わせたのだという理解で説明は付くのではないか,そういうことですね。それで,更にあるのならば,更に考えることあるべし,そういうことになりましょうか。
○窪田委員 はい。そこから皆さんで考えていただいて。
○大村部会長 「その配偶者」まではよいのではないかというのが窪田委員の御意見だと承りました。
  ほかにいかがでございましょうか。
  先ほど村田委員から御指摘がありましたけれども,やはりそれぞれの方々から御指摘があったように,国民全体の中には様々な意見があるところかと思います。この場でも様々な意見があろうかと思いますので,様々な意見を伺った上で線を引くことが可能なものというのを取り出すことを試みる必要があるかと思いますけれども,そのために御意見を出していただければと思います。いかがでございましょうか。
  金澄幹事が先ほどおっしゃったのは,プラス配偶者だけでなく,直系血族も加えるという御提案だったわけですね。
○金澄幹事 はい。
○大村部会長 そういう案も出ていますけれども,いかがでございましょうか。
○藤野委員 婚姻関係にはならないけれども,例えば渋谷区が認めているような同性のパートナー,つまり「公認されるパートナー」というのを加えるということは難しいのでしょうか。といいますのは,先ほども申しましたけれども,その他の労務の提供というところも実は気になっておりまして,療養介護だけではなく,例えば会社を一緒に担ってきた方とか考えられると思いますけれども,そういうときに公認されるパートナーと--言葉は何でも結構なのですけれども--いうものが一つ加われば,いろいろなものが解決するのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
○大村部会長 そのような御意見も頂いておりますけれども,いかがでございましょうか。
  特に,御発言ございませんでしょうか。
  そうすると,事務当局の方で,この亀甲を外すとして,もう少し何かプラスできることがあるかどうかを御検討いただくということになるかと思いますけれども,それでよろしいですか,それとももう少し何か伺っておきたいことがありますか。
○堂薗幹事 基本的にはそのような形で検討したいと思いますが,ただ,やはり請求権者に限定を付す場合には,何でその人に限定するのかというところが法制的にきちんと説明できないと難しいという面がございますので,その辺りも踏まえて,再度検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 亀甲の問題については,そのようにさせていただいて,更に御検討いただきたいと思いますけれども,その他につきましてどうでしょうか,この「第6 その他」の点につきまして。
○水野(紀)委員 以前にもお伺いしたかと思うのですが,特別の寄与の計算の仕方がどのようになるイメージなのか,もう少し御教示いただければと思います。
  以前,寄与分を立法したときには,もう相当丸めて幾らという形の議論で立法が行われたと思うのですが,実際の実務においては,次第に,相手方当事者に納得してもらうために,週何回通って,そしてそこでどれだけの時間を使ってというようなことを主張立証させる,相当細かい作業になっていった,そういう進展があったと伺っております。
  そうなりますと,それは限りなく赤の他人が行ったときの不当利得の返還請求権に似てくると思うのですが,そういう不当利得返還請求権をこれで封じるというものでもないと思われます。そうすると,ここで書くものの対価の計算と,不当利得返還請求権として開かれているものの対価の計算というのは,限りなく似てくるということになるのでしょうか,それともそれとは違うものを考えておられるのでしょうか。
○堂薗幹事 そこは現行の寄与分に関する計算が一つ参考にされることになるのではないかということでございまして,現行の寄与分につきましても,そういった計算をした上で,更に裁判所の裁量でその何割にしたりという取扱いもされていると聞いておりますので,基本的にはそのようなものになるのではないかと思います。
  それから,不当利得との関係につきましては,現行の寄与分と不当利得の関係と同じように考えられるのではないかと思います。もちろんこういう制度があるからといって,不当利得返還請求権がそれによってできなくなるとか,そういったことではないのではないかと思いますが,基本的には,こちらで請求が認められれば,その分損失が減るということにはなるんだろうと思いますので,そこは現行の寄与分と不当利得と同じような関係に立つのではないかというのがこちらの整理でございます。
○水野(紀)委員 そうしますと,亀甲括弧を外す,外さないは余り実質的には変わりない論点である,ということになりますか。
○堂薗幹事 亀甲括弧,要するにこの請求権者の限定をなくすと,相続の延長線での説明というのは難しくはなってくるんだろうと思いますので,どちらかというと,請求権者の範囲について限定を付けた場合に,寄与分の場合と同じような説明が可能になってくるのではないかという印象を持っております。
○大村部会長 よろしいですか。現状についての御意見を踏まえての御発言だったかと思いますけれども,水野委員,更に御発言ありますか,いいですか。
○水野(紀)委員 結構でございます。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,亀甲につき難しい問題が残りましたけれども,この点を中心に御検討いただくということにしたいと思います。
  時間は既に予定の時間を過ぎているのですけれども,ちょっと途中急ぎましたので,特にご発言があれば,どうぞお願いいたします。
○潮見委員 非常に簡単なところで,17ページですが,第5の1の(3),権利義務の承継の(3)第三者対抗要件ですけれども,これ通知だけだと,承諾は要らないのですか。
○堂薗幹事 そこは,今回の整理は,(1)のところで,通常の対抗要件についてはここで読むということで,ですから,467条と同じような対抗要件の処理については,(1)で書いているという前提です。(2),(3)は,受益相続人が単独で通知をする場合の話という前提で書いている関係で,通知に限った形にさせていただいているということです。したがいまして,当然のことながら,467条にのっとって対抗要件を備える場合には,承諾の場合も確定日付が必要だということになります。
○潮見委員 了解です。
○大村部会長 このように整理をされたわけですが,やはり分かりにくいところがあるので,そこは説明の方を十分に工夫していただいて,紛れのないようにしていただく必要があると思います。
  その他,水野委員,何かありますか。
○水野(紀)委員 今のやはり第5のところで,単なる質問なので先ほど控えたのですが,第5一番最後の相続人の債権者を加えられた部分です。相続人の債権者は何でもできるという書き振りになっていますが,相続人の方はできないということになっておりますと,相続人の債権者が債権者代理権を使って,相続人に代わっていろいろするということは可能ということなのでしょうか,その辺りがちょっとよく分かりませんでした。
○堂薗幹事 相続人が当然できないことを,相続人の債権者だからといって代行してできるということまでは考えておりませんで,ここでは飽くまで相続人の債権者が強制執行などをすることについては妨げられませんという趣旨です。
○水野(紀)委員 相続人が獲得するであろう財産に強制執行するということですか。
○堂薗幹事 はい。相続人の法定相続分に関する部分について,相続人の債権者が強制執行することは,(1)の規律によっても妨げられませんと,そういう趣旨でございます。
○水野(紀)委員 法定相続分についてもでしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○水野(紀)委員 例えば,指定相続分,あるいは相続する旨の遺言があった場合にもですね。
○堂薗幹事 ですから,基本的に対抗要件主義を拡張した結果,相続させる旨の遺言をされた場合ですとか,相続の指定がされた場合も,対抗要件を先に備えれば,基本的には相続人の債権者や相続債権者の方が優先するという規律を第5の1のところで設けているわけですが,遺言執行者がいる場合も,その点は変わらないという趣旨でございます。
  飽くまで,相続人が自ら遺言の執行を妨げるような行為をしたら,それは無効になりますが,それは,飽くまで相続人の行為としてした場合に無効になるということであって,相続債権者や相続人の債権者が自らの権利を行使した場合については,この規律の対象外という趣旨でございます。
○水野(紀)委員 ちょっと考えてみます。1013条の問題ですが,遺言の有無が分からないと,相続人との取引も危ういのですけれど,遺言の存在が分かりやすいのであれば,1013条の存続もあり得るのかなどと考え始めてしまっておりまして,すみません。
○山本(克)委員 そこの債権者の権利行使を妨げないというところ,もうちょっとスペシファイしないと,読んでも何のことか分からないという感じがしますので,もうちょっとスペシファイできるような努力を--できない可能性もあるんですが--ちょっとしていただければと思います。
○大村部会長 では,その点も,ちょっと御検討いただくということにさせていただきたいと思います。
  ほかはいかがでしょうか,よろしいでしょうか。
  それでは,第1から第6まで,駆け足でありましたけれども,重要な点を多々御指摘いただきましたので,それを踏まえまして,更に事務当局の方で検討をお願いしたいと思います。
  今後の予定等につきまして,最後に御説明をお願いいたします。
○堂薗幹事 本日も熱心に御議論いただきまして,ありがとうございました。
  まず,次回の日程の前に,1点御報告がございます。今回,パブリックコメントの結果につきましては,その概要をまとめてお配りしたところではございますが,パブリックコメントの原本を確認されたいという方につきましては,その旨おっしゃっていただければお見せすることができますので,その点をまず御紹介させていただきます。
  それから,次回の日程でございますが,次回は12月19日(火曜日)に開催したいと考えております。時間は,いつものとおり午後1時半からを予定しておりまして,場所は,本日とは異なりまして,法務省20階の第一会議室ということになります。
○大村部会長 今,御説明がありましたようなスケジュールでどうぞよろしくお願い申し上げます。
  本日,長時間にわたりまして熱心な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。
  これで閉会させていただきます。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第25回会議 議事録


第1 日 時  平成29年12月19日(火)自 午後1時29分
                      至 午後2時55分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第25回会議を開催いたします。
  初めに,配布資料等の説明を事務当局の方からお願いいたします。
○倉重関係官 それでは,配布資料について説明させていただきます。
  部会資料25-1及び25-2に加え,以下の2点を配布しております。
  1点目が,「「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」に対して寄せられた意見の概要(詳細版)」です。追加試案に対するパブリックコメント結果の詳細版となります。
  2点目は,遺言書のサンプルです。第3の1「自筆証書遺言の方式緩和」によって新たに可能となる遺言書の例を事務当局において作成しましたので,参考に配布しております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  本日は,今御説明を頂きました部会資料の25-1,「要綱案のたたき台(4)」に基づきまして御審議を賜りたく存じます。
  資料は,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から始まりまして,従来と同様,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」まで,6項目に分かれております。
  まず,第1,第2につきまして審議をいたしまして,それが終わった辺りで休息を挟ませていただき,後半で第3から第6までを検討するということを予定しております。
  以上のような順序で進めさせていただきたいと存じます。
  まず,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」について事務当局の方から御説明を頂きます。
○倉重関係官 それでは,関係官の倉重から,第1について説明させていただきます。
  まず,短期居住権について御説明いたします。
  1点目は,配偶者が相続放棄をした場合の取扱いについてです。前回の部会資料では,配偶者が相続放棄をした場合であっても,居住建物について他の共同相続人間で遺産分割が行われる場合には,(1)の遺産分割終了時までという規律に服させることを提案しておりました。しかしながら,前回の議論を踏まえて改めて検討しましたところ,配偶者が遺産分割に関与することができない場合に,遺産分割終了時までとすると,配偶者は住居を突然失うことになりかねず,相当でないと考えるに至りました。このように,配偶者がいつ明渡義務を負うことになるかを予測することができないという点では,(2)の場合と類似であるというふうに考えられましたことから,居住建物について遺産分割がされる場合であっても,配偶者が居住建物についての遺産分割手続に関与しない場合には,(2)と同様,短期居住権は,相続により居住建物を取得した者から短期居住権の消滅の申入れを受けてから6か月を経過する日まで存続することといたしました。
  2点目は,(1)の規律に6か月間の最低の期間保証を設けたことです。これまで(1)の規律においては,配偶者が遺産分割協議に関与することで自ら成立時期を左右できますことから,最低保証期間のようなものを設ける必要はないと考えておりました。しかしながら,例えば遺産分割の内容自体は合意に至っているにもかかわらず,配偶者が急に転居することができないといったことのみを理由に遺産分割が先延ばしにされるといった事態が生じてしまうおそれがありますことから,そのような場合には先に遺産分割協議を成立させてもらうべく,最低6か月間は短期居住権が存在することとしたというものでございます。
  3点目は,居住建物が修繕を要する場合の通知義務についてです。前回部会での議論を受けまして,居住建物が修繕を要する場合であっても,配偶者が自ら修繕した場合にはもはや通知させる必要がないと思われますことから,そのような場合には通知義務を負わないということにいたしました。
  4点目は,配偶者が居住建物について共有持分を有している場合に,短期居住権が消滅した場合の規律です。この場合,配偶者は短期居住権が消滅したときでも,なお自己の共有持分に基づいて居住建物を使用することができますことから,短期居住権の消滅を理由とする返還義務は負わせないことといたしました。なお,その後の法律関係については,共有の法理に委ねることとしております。
  5点目は,やや形式的な点にはなりますが,従前(2)の規律におきまして,短期居住権の消滅の申入れ権限を明確に規定しておりませんでしたことから,これを明確に規定したものでございます。
  次に,長期居住権について御説明いたします。
  1点目は,配偶者が居住建物の共有持分を有している場合又は居住建物の共有持分を取得した場合の長期居住権に関する規律でございます。
  配偶者が居住建物について共有持分を有していたとしても長期居住権を取得することは妨げられないということ,それから,長期居住権を有する配偶者が居住建物の共有持分を取得しても長期居住権は消滅しないということを新たに規律することとしたものでございます。
  まず,長期居住権の取得時の規律としましては,配偶者が居住建物について共有持分を有する場合であっても長期居住権を取得することができることとしますとともに,相続人及び配偶者を除く第三者が共有持分を有している場合には長期居住権は成立しないこととしております。配偶者が居住建物の共有持分を有している場合には,配偶者は自己の共有持分に基づいて居住建物を使用収益することができます。しかしながら,他の共有者から使用料相当額の不当利得返還請求や共有物分割請求をされますと,配偶者としては退去を余儀なくされるということになります。したがいまして,配偶者が共有持分を有している場合であっても,長期居住権を取得させる必要があることから,このような規律としました。他方で,被相続人及び配偶者を除く第三者が居住建物の共有持分を有している場合には,当該第三者の共有持分による権利が,被相続人の遺言や遺産分割によって制限されることを正当化することはできませんので,長期居住権は成立し得ないということにしました。したがいまして,長期居住権については,居住建物が元々被相続人の単独所有に属していた場合又は居住建物が被相続人及び配偶者の共有に属していた場合という2パターンの場合にのみ成立すると整理させていただきました。
  次に,消滅時の規律ですが,長期居住権の発生後に配偶者が居住建物の共有持分を取得した場合について,配偶者が元々共有持分を有している場合と別に扱う必要はないことから,他に居住建物の共有持分を有している者がいるときは,配偶者が居住建物の共有持分を取得したことによって長期居住権が消滅することはないと規律しました。
  2点目は,第三者が適法に居住建物を使用又は収益する場合の法律関係について,賃貸借について適法な転貸がされた場合の規律と同様の規律を設けたものです。
  最後になりますが,居住建物が修繕を要する場合の通知義務,それから,長期居住権が消滅した場合に配偶者が共有持分を有していた場合の規律について,短期居住権と同様の規律を設けさせていただきました。
  説明は以上となります。御審議をどうぞお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  短期居住権の問題と長期居住権の問題がございますけれども,まず,短期居住権につきましては,配偶者が相続を放棄した場合について,分割終了時からということであると,それがいつになるか分からないということで,申入れから6か月という規律を採用したいという御提案であったかと思います。
  それから,分割に関与している場合についても,最低の期間の保証を認めたいということで,これについても6か月という期間が設けられるということだったかと思います。これはかなり実質的な内容にわたる点かと思います。
  それから,修繕の話等ございましたけれども,共有持分を有する場合についてどうするかということにつきまして,短期居住権の場合の取扱いと,長期居住権の場合の取扱いにつき,異なる御提案があったと理解しております。長期につきましては,配偶者の場合と第三者の場合も違う考え方で規律するという御説明であったかと思います。その他の点も含めまして,御意見等がありましたら是非御発言を頂きたいと思います。いかがでございましょうか。
  御発言はございませんでしょうか。
○中田委員 御発言がないようですので,余り実質的なことではないのですが,2点御確認をお願いします。
  一つは,他の使用権限との関係です。今回共有についての規律が整理されて,法律関係が非常に明確になったと思います。新たな居住権と配偶者の共有持分に基づく使用収益との関係が明らかになったということだと思います。
  そうしますと,被相続人と配偶者が生前に使用貸借契約などを結んでいた場合の使用権限も,依然として新たな居住権と並行する形で存在するのではないかと理解いたします。そうしますと,例えば,短期居住権が認められない場合や,あるいは期間経過後も約定使用権があれば引き続き居住できるという理解になろうかと思うのですが,そのような理解でよろしいでしょうか。確認でございますが。
○堂薗幹事 そこはそういう理解でよろしいかと思います。こちらもそういう考えで整理しているところでございます。
○中田委員 現実に紛争が起きたときには,多分その点も出てくるかと思います。
  それから,もう一点はもっと形式的な確認事項なのですけれども,1ページ,第1の1の(1),ア,(ア)の中に,短期居住権について,「居住建物の一部のみを無償で使用していた場合」についての規律がございます。ここで,居住建物の全部と一部という概念が登場するわけですが,2ページ以降,配偶者の使用や修繕,あるいは費用負担に関しては,単に居住建物とだけ書かれていますので,それが一部についてのものなのか,全部についてのものなのかが若干分かりにくいかもしれません。そこを明確にしておいていただけたらと思います。
○堂薗幹事 特に条文化する場合等には,そこがはっきりするように注意したいと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかの点はいかがでございましょうか。
○垣内幹事 簡単な確認を1点だけさせていただければと思いまして,本日の資料の2ページから3ページにかけまして,短期居住権が消滅した際の返還義務についての定めがございますけれども,ここで,今回入った点として,共有持分を有する場合を除くという規律になっております。この規律の理解に関してなのですが,例えば,短期居住権ではなくて使用貸借の成立が認められるというような場合についてで,その使用貸借が終了した場合には使用貸借関係の終了に伴う返還義務というのが生ずるというのが通常の理解であるかと思われますけれども,その場合でも共有持分を当該使用借人が持っていた場合には同じ規律になるということで,ここでもこういう規律になっているのか,それとも,使用貸借の場合とは異なることをここで定めているという御趣旨であるのか,その点だけ確認させていただければと思います。
○堂薗幹事 基本的には使用貸借とは別で,短期居住権の場面では,元々共有持分を持っていた場合については,配偶者が短期居住権終了の場合に負う義務として,ここでいう返還義務ですとか,原状回復義務というものを設ける必要はないのではないかという趣旨です。その点については,通常の共有法理に委ねることでいいのではないかという前提で,このような規律にさせていただいたということでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○垣内幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほかにいかがでございましょうか。
○西幹事 感想と確認の間ぐらいのことを3点よろしいでしょうか。
  1点目は,1ページの1の(1)のアの(イ),今回訂正で入ったところで,「遺産分割の手続に関与しないときは」というこの表現です。今御説明を伺いましたのでよく分かったのですけれども,この表現だけですと,関与しないということになると,主観的な,例えば行かなかったとか,そういうのも入ると読めてしまうような気がしますので,表現が適切なのかなと思いました。
  2点目は,本当に確認ですけれども,3ページの(2)のアの部分の3行目で,「所有権を相続又は遺贈により」と書かれています。ここは死因贈与が入っていないのですけれども,恐らく趣旨としては入るということだと思います。ただ,4ページ目の方の長期居住権の方では,2の(1)のアですけれども,ここでは死因贈与と遺贈が分けて書かれていますので,ここで入っていないということになると,あえて死因贈与を除く趣旨なのかなとも思いましたので,確認させていただきたいと思います。
  最後は,3ページの(2)のタイトルが「配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合」というふうになっておりまして,今までは,遺産分割による場合の方は最低保証期間が入っていませんでしたので,非常に区分けが分かりやすかったのですけれども,今回,遺産分割が行われる場合についても最低保証期間が入ったということで,(1)と(2)の違いがよく分からなくなったというか,まとめ直してもいいような感じもします。この(2)のタイトルだけですと,本当は遺産分割によらずに取得した場合ということだと思うのですけれども,概念的には(1)を包含してしまうような表現のようにも感じましたので,私だけの感覚かもしれませんけれども,このタイトルがこれでいいのかどうなのか,御検討いただけないでしょうか。
○堂薗幹事 まず,1ページの「遺産分割の手続に関与しないときは」の表現振りにつきましては,御指摘を踏まえて検討したいと思います。特に条文化する場合には,そういった誤解が生じないように工夫したいと考えているところでございます。
○笹井幹事 二つ目の「相続又は遺贈により」という部分についての御質問ですが,趣旨としては死因贈与を含むという趣旨でございます。
  3点目に,(1)と(2)の実質が同じようになってきたのではないかという御指摘もございましたけれども,(1)は最低限の期間として6か月を保証するという規定を設けたところではございますが,これは飽くまで遺産分割が早く終わってしまった場合の備えでございまして,基本的には遺産分割が終期となりますので,そういった点で(1)と(2)は一応区別されるのではないかとは考えております。
○堂薗幹事 見出しも含めて次回の部会資料のときには整理をしたいというふうに考えております。
○大村部会長 表現の点は御検討いただくということにしたいと思います。
  その他いかがでしょうか。
  特に実質にわたる点につきまして,何か御意見がございましたら是非伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,先ほど来御意見を頂いております点につきまして,紛れのないような表現を工夫していただくということにさせていただきたいと思います。
  それと,最初に御説明の中にありました資料の訂正の点は,訂正した形のものが出ているという扱いをさせていただくということで,よろしゅうございますね。その上で第1につきましては,頂いた御意見に基づいて字句等の修正を図るということにさせていただきたいと思います。
  それでは,続きまして,第2の「遺産分割に関する見直し等」の部分に進ませていただきます。資料で申しますと,9ページになりますけれども,事務当局からの御説明をお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,「第2 遺産分割に関する見直し等」につきまして,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。
  まず,1の「配偶者保護のための方策」につきましては,字句等の修正を除きまして,特段の変更点はございません。
  次に,2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきましては,(1)の「家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策」につきましては,特段の変更点はございません。
  また,(2)の「家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策」についてですが,前段部分は特段の変更点はありませんが,後段の規律につきましては,補足説明の9ページに記載のとおり,若干の変更を加えております。
  少し敷衍して御説明させていただきますと,これまで部会資料24までは亀甲括弧を付すとともに,「当該権利行使した預貯金債権については,遺産の分割の時において遺産としてなお存在するものとみなす。」という規律を設けておりましたところ,後ほど御説明するとおり,第2の4についての規律を修正した結果,遺産の分割における精算の対象にならない場合が生じ得ることになったことに伴いまして,本方策につきましては,これとは別に精算の規律を設けることが必要になるものと考えられます。
  そして,(2)で権利行使された預貯金債権の額等につきましては,誰がこれを払い戻したのかということは客観的に明らかであり,また,当該権利行使された預貯金債権を当該権利行使をした相続人以外の者に遺産分割において帰属させる必要性もないことから,本部会資料におきましては,「当該権利の行使をした預貯金債権については,当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」こととしております。
  なお,前回の部会におきまして,委員等から(2)の方策に係る払戻し請求権は,それ自体で譲渡,差押え,相殺することが可能な債権かどうか御指摘がありましたが,この点についての考え方を補足説明の10ページにおいて記載しております。
  続きまして,3の「一部分割」についてでございますが,こちらにつきましては特段の変更点はございません。
  また,4の「遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲」に関する規律でございますが,前回の部会におきましては,部会資料24-3においてお示しした別案を支持する意見が多数示されたことから,今回の部会資料におきましては,別案をベースに提案として掲げております。
  なお,別案のうち,代償財産についても規律の対象とするなどとしていた点につきましては,前回の部会における議論を踏まえまして,今回の提案には含めないこととしております。
  そのほか,前回の部会における指摘事項,本方策に係る要件事実の整理,また,確認訴訟及びその主文の具体例,そして,本方策の同意の対象等につきましては,補足説明の11ページから13ページに記載のとおりでございます。
  なお,補足説明13ページの(注2)につきまして,若干敷衍して御説明させていただきます。
  共同相続人の一人に被保佐人が含まれていた場合におきまして,当該被保佐人が本方策の同意をすることについて,保佐人の同意を要求すべきかどうかという問題であります。この点,本方策の同意をすることは,特別受益を考慮した遺産分割をすることができ,基本的には同意をする被保佐人の利益に資する行為であることや,また,平成11年民法改正の趣旨,ノーマライゼーションの促進や,成年後見制度利用促進計画におきまして,成年後見人等の権利制限に関する措置の見直しが掲げられていることなどを踏まえますと,現時点でむやみに被保佐人の権利を制限するような規定を拡張すべきではないことなどからいたしますと,本方策の同意につきましては,被保佐人の同意を要すべき行為ではないと整理すべきと考えられるかと思います。
  もっとも本方策の同意をすることにつきましては,常に被保佐人の利益になるかといいますと,被保佐人に多額の特別受益があるようなケースにつきましては必ずしもそうではなく,そういった難しい判断を被保佐人にさせることが相当ではないといった立場に立てば,本方策の同意をすることについて保佐人の同意を要求すべきという考え方もあり得るように思います。この場合,解釈論といたしましては,民法第13条第1項第3号又は第6号の行為に該当するとして処理をすることになるかと思われます。
  いずれにしても,この点につきましては,解釈論に委ねることでよいのではないかと事務当局としては考えているところでございます。
  以上,第2につきまして簡単に御説明させていただきました。御審議のほどよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2の「遺産分割に関する見直し等」につきましては,4項目ございますけれども,4の「遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲」につきまして,前回別案を支持する御意見が多かったということで,今回はそちらを本案として掲げているということでございました。それを受けた形で,2の(2)につきまして修正を加えているというのが大筋であったかと思います。そのほか,委員,幹事から御指摘があった問題点につきましては,補足説明の方で一定の対応をしていただいているということかと思います。
  以上につきまして,御意見,御質問等ございましたら承りたいと思います。
○藤原委員 すみません,そうしましたら,第2の2の(2)の家庭裁判所の判断を経ない仮払いのところと,それから,次のページの4のところ,両方にわたる問題で,確認をさせていただきたい事項が何点かございまして,まず,仮払いの方ですけれども,この仮払いは,相続開始時の債権額をベースに各相続人が行使できる金額を算定することになっております。ただ,実際には4で想定されているように,相続人が銀行に預金者の死亡を告げる前にATM等でお金を下ろしてしまうということが想定されまして,そうすると,実際に仮払いが請求されたときには,相続開始時よりも残高が減っているということが想定されます。このような場合ですけれども,銀行はあくまで仮払いをするときには,相続開始時の残高をベースに計算をせざるを得ませんので,そうすると,その相続開始後に減った金額の多寡によっては,全ての相続人の仮払いに対応できるだけの残高がもう残っていないということが生じます。そうすると,事実上仮払いに先に来た相続人の早い者勝ちになってしまうということが想定されるのですけれども,これはこういったケースだけではなく,既に特別受益を受けた相続人が仮払いに来たような場合にも同様なことが生じますので,これは今回やむを得ないということで制度設計をされているという理解でよろしいのでしょうかというのがまず1点目でございます。
  2点目ですけれども,同じような問題なのですが,被相続人が死亡した後,相続人が銀行に死亡を届け出る前にATMで下ろしてしまうことを勝手払いと呼ばせていただきますと,勝手払いをした相続人が銀行に死亡を届け出た後,更に仮払いを請求してくるということも考えられるわけですけれども,この場合,銀行は特にATMで下ろされてしまうと,誰が下ろしたかというのは確認が困難でございますので,そこまで銀行が確認せずとも仮払いを行ってしまって,銀行が責任を負うことがないか,ほかの相続人から何か言われた場合に,責任を負うところがないかというところを確認させていただきたい。そういった確認義務はなく,ほかの相続人から責任追及をされたときも責任を負うことはないという認識ですけれども,事務局としてもそういう理解でよろしいでしょうかというのが2点目でございます。
  3番目,最後でございますが,これはそもそも第2の2(2)の仮払いと第2の4の,いわゆる勝手払いをどこで区分するのかということに起因する問題のようにも思われますが,今回の提案では,仮払いの方は,その分は遺産として取り扱われる一方で,勝手払いの方は必ずしも遺産として取り扱われるとは限らないということでございますので,勝手払いと仮払いの区分をどこで付けるのかというところをどのような形でお考えになっているのかお伺いさせていただきます。
  一応,金融機関の側といたしましては,先ほどのように勝手払いをしたのが誰かというのを確定するのは非常に困難でございますので,金融機関が死亡の届出を受けた後に,相続人がこれは仮払いの請求ですと言ってきた分については仮払いとして認め,そうでない,銀行が届出を受ける前に下ろしたものが4の対象となる勝手払いであると,こういう認識でいるのですが,これでよろしいでしょうかという確認でございます。
○神吉関係官 それでは,事務当局の方から御説明させていただきます。
  まず1点目の御質問ですが,御指摘のとおり,相続開始時の債権額というのが基準値でございますので,基本的には被相続人が亡くなった時点の債権額をベースに計算をしていただければ足りるという形になるかと思います。
  相続開始後に3分の2以上が誰かによって引き出されてしまった場合には,3分の1以下しか預金が存在しないわけですので,そういった場合には十分な分配ができなくなるということは御指摘のとおりかと思います。
  それから,2点目,3点目の御質問ですが,まず3点目,第2の4と第2の2の(2)の規律の関係についてから御説明させていただきます。第2の2の(2)の規律につきましては,共同相続人はその権利を行使をすることができるとしておりますので,その文言からいたしますと,遺産に属する預金債権そのものではなく,相続人として有する準共有持分を行使したことが必要であって,その規律の適用におきましては,相続人が相続開始によって準共有となった預金債権について,自らの準共有持分に係る部分について払戻しの請求をし,その部分について弁済を受けたということが必要なのではないかと考えております。
  また,第2の4につきましては,共同相続人による相続開始後の処分をされた場合一般に関する規律であるのに対しまして,第2の2(2)の後段につきましては,そのうちの遺産に属する預貯金債権について,第2の2(2)前段の定める相続人としての権利行使がされた場合に関する特則を定めたものと理解することができるかと思います。したがいまして,第2の2(2)の後段が適用されなければ,第2の4の規律が適用されると,そういった関係にあります。
  もう少し具体的な事実レベルの話で申し上げますと,第2の2(2)後段の規律を適用するためには,共同相続人が債務者である金融機関に対しまして,自らが被相続人の相続人であるということを主張してその履行を求めることが必要であると考えられます。そうではなくて,共同相続人の一人が被相続人名義のキャッシュカードを用いてATMから勝手に預金を引き出したりとか,被相続人の名義を冒用して,自らが被相続人であると称して銀行窓口で支払を求めたりする,そういった行為につきましては,被相続人名義の預金債権そのものの行使を求めているということからすると,第2の2(2)の適用範囲に該当せず,第2の4の規律によって処理がされると,このように整理できるのかなと思っているところでございます。
  引き続きまして,2点目の御質問ですが,共同相続人の一人がATMでの引出しをし,更に第2の2(2)の支払を求めることができるのかと,そういった御質問であったかと思います。先ほど御説明いたしましたとおり,ATMでの引出しにつきましては,第2の4の規律の対象となる財産処分でありまして,規律の文言上はATMでの引出しをした後に第2の2(2)の規律による預貯金の支払を求めるということは必ずしも否定されないと考えられます。したがいまして,ATMでの引出しを行った相続人に対し,金融機関が第2の2(2)の規律による支払を行ったとしても,それは適法な有効な弁済であると言えるかと思います。
  また,第2の2(2)の預貯金の払戻しを求められた金融機関といたしましては,相続開始後に残高が減っていると,そういったことが確認できたといたしましても,それが誰による払戻しなのかということを調査する義務までは負わないというふうに考えているところでございます。
  そのように考えないと,簡易迅速に預貯金の支払を行って遺産分割前の資金需要に応えるというそういった制度趣旨に反するのではないかというふうに考えているところでございます。もっとも,この点については最終的には裁判所が御判断されることですので,どうなるのか確たることは申し上げられません。
  なお,相続開始後に共同相続人の一人が他の共同相続人に無断でATMから引出しをするという行為につきましては,本来は禁止されている違法な行為であり,場合によっては刑事罰の対象となり得る行為と言えるかと思いますので,そのような者が,更に第2の2(2)の規律によって預貯金の支払を求めるということは,事後的に精算が予定されているとはいっても適切な行為であるとは言い難いかと思います。したがいまして,第2の2(2)の規律による預貯金の払戻しを求められた金融機関において,当該払戻しを求めた者が相続開始後にATMで引出しをしていたということが明らかな場合,例えば,金融機関の窓口で私は引き出しましたと,余り言わないのかもしれませんが,自認をしているような場合につきましては,その払戻しの請求については,権利の濫用に当たるとして拒むことということもできるのではないかと考えているところでございます。
  そして,権利の濫用に当たるような場合につきましては,払戻し請求を拒んでも金融機関は履行遅滞責任までは問われないのではないかと考えているところでございます。
  以上,各点について御説明させていただきました。
○大村部会長 藤原委員,よろしいですか。
○藤原委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○潮見委員 結論に異論があるとか,そういうわけではありませんが,御説明を伺って,1点だけお願いがあります。
  先ほどの預貯金の仮払いのところで,これは準共有持分の行使だ,あるいは準共有持分に基づく主張だというような趣旨で御回答があったと思います。準共有持分という言葉をお使いになられていたのですが,この問題というのは最高裁の例の大法廷決定が出た後,預貯金債権についての権利主張なのか,それとも準共有持分についての権利主張なのかというところに関して,差押えとか,相殺とか,それ以外も含めてかなりデリケートな議論がされております。この席上配布資料等では,必ずしも準共有という部分は表に出ずに,むしろ預貯金債権の一部についての仮払いというような枠組みでずっと整理がされてきたのではないかと思いますし,それはそれでいいと思いますので,御説明の中で,これから先のことにもなりますが,準共有持分に基づく主張なのか,預貯金債権としての権利主張なのかというところは,少し慎重に対応をしていただくということをお願いしたいなと思います。
○大村部会長 説明につきましては,十分な注意を払って準備をしていただきたいと考えます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○増田委員 4について若干の確認をしたいと思います。
  1点目は,全員の同意により遺産の分割時に遺産として存在するものとみなす対象は,共同相続人が処分した財産のみならず,他の第三者が処分したものも含むのかどうかという点です。
  もう1点は,処分というのは法律上の処分に限るのか,物理的な毀損や滅失行為を含むのかどうかというところです。お願いします。
○神吉関係官 まず,1点目の御質問でございますが,4の(1)の規律につきましては,共同相続人が処分をしたのか否かということは特に限定しておりませんので,(1)につきましては,第三者による処分も含むと整理しております。一方で,(2)につきましては,共同相続人の一人又は数人が処分をしたということにしておりますので,(2)の規律が働く場合には共同相続人が処分した場合に限るということとなっております。
  第三者の処分を含めるのが相当かどうかということにつきまして,若干御議論があるのかもしれませんが,(1)につきましては,全員の同意により遺産に組み入れるもので,いずれにしても同意で処理されるものですので,特段問題がないのではないかと考えているところでございます。
  それから,処分の概念につきましては,物理的に毀損がされた場合ということも含み得ると考えているところでございます。ただ,例えば預金の引出しをして現金で持っていると,そういった行為までも処分に当たるのかどうかといったことについては恐らく議論があり得るところだと思います。その点については,預金を引き出して単に現金として保管をしているにすぎないといったケースまでここの処分に当たるということを言えるかどうかは,遺産から当該財産が逸失をしたと言えるかどうかというところがポイントかなというふうに考えているところであり,遺産から逸失をしたと言えるのであればここでの処分に当たりますし,そうでなければここでの処分には当たらないと考えているところでございます。
○大村部会長 増田委員,よろしいですか。
○増田委員 結局はそこのところは解釈に委ねるということになるのですね。
○神吉関係官 何が処分かということは最終的には解釈だとは思いますが,毀損とか滅失をさせたということについては,そこは含み得るということでよろしいのではないかなと思います。
○増田委員 毀損とか滅失は処分者自身に帰責性がある場合と,不可抗力による場合とがあって,例えば津波で家が流されたといった場合には,それはどうなるのですか。
○神吉関係官 (2)の共同相続人の処分ではありませんので,(1)の規律を働かせることができるかどうかという御質問かと思います。(1)の規律を働かせる意味としては,恐らく津波で家が流されて,その保険金を遺産として入れるかどうかとか,そういった話だ思いますが,通常はここの(1)の規律で処理をするのではなくて,直接代償財産を遺産として入れるという合意をする,ここの規律の対象外の同意の問題として普通は処理されるのではないかなと思います。
○増田委員 確認的な話なのですが,処分された財産を遺産として存在するものとみなすことについての同意についてここでは規律されており,代償財産については現行法と同様に手続上の合意で遺産分割の対象に含めるか含めないかを決めることができるという理解でいいということですか。
○神吉関係官 御指摘のとおりです。
○大村部会長 それでは,そのほかいかがでしょうか。
○山本幹事 同じく第2の4について,1点確認というか,質問をさせていただきたいのですけれども,部会資料25-2の12ページの2段落目を見ますと,内容としては,共同相続人の同意又は遺産確認の訴えによって遺産に属するとされた財産について,遺産分割の審判の中で処分者が誰であったかの認定が仮に間違っていたとしても,そこは遺産分割審判の効力には影響がない,事後的に覆るおそれはないんだというような御説明がされているかと思います。この点は,遺産の範囲の問題ではないということで,審判が覆ることはないというのはそのとおりではないかなと思っているところでありますけれども,以前事務当局からは,このような場合には不当利得等によって,事後的な調整というものを考える余地もあるのではないかというような御説明を頂いたように記憶しているところですが,この点は,何がどういう不当利得になるとお考えなのかというところについて,1点お聞かせいただければと思っております。
○神吉関係官 御説明させていただきます。
  この点,遺産分割の遡及効をどのように考えるのかということにもよるのかもしれませんが,一つの考え方といたしましては,処分財産を遺産分割により取得することとされた真の処分者ではない相続人が遺産分割の遡及効によって相続開始時に処分財産に係る権利を取得する,そして,その処分財産に係る権利を相続開始後に処分者によって処分され,実際にはその権利を取得することができなくなったとして,実際に処分を行った者に対して不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると,そのように考えることができるのではないか,ということを以前御説明したかと思います。
  少し分かりにくいので,具体例で御説明させていただきますと,例えば,相続人A,Bがおりその法定相続分は2分の1ずつである,500万円分の動産が遺産分割前に処分をされ,第三者がそれを即時取得をした,残りの遺産は預金100万円のみである,このようなケースを想定いたします。そして,相続人A,Bは,処分された動産がみなし遺産として扱われ,遺産分割の対象となることには同意をするのだけれども,Aが処分をしたのか,Bが処分をしたのかということについては争いがあると,そういった事例を想定いたします。そして,家庭裁判所がこの第2の4(1)の規律に従いまして,遺産として含めて遺産分割することとし,処分された動産についてはAが処分したものと認定して,既に処分された動産はAに取得をさせるという審判をしたとします。相続財産は全部で600万円ですので,各自の具体的相続分は300万円ずつとなりますので,当該動産をAに取得をさせると,200万円超過してしまいますので,Aに対し,AはBに対して代償金200万円を支払えと命じることになります。また,Bは預金の残りの100万円を取得させると,そういった審判をし確定をしたものといたします。
  この場合におきまして,Aは本当はこの動産はBが処分をしたのだとして,Bに対して不当利得返還請求できるのかどうかと,そういった問題であります。一つの考え方としましては,Aが処分をしたという家庭裁判所の認定には既判力はないので,遺産分割によって遡及的に帰属したこの動産をBが処分したのだとして,Bに対して不当利得返還請求,500万円分の不当利得返還請求をするということもできるのではないかと思っているところでございます。
○山本幹事 ありがとうございました。
  今伺ったところからしますと,いわゆる損害ないし損失として考えられているのは,具体的相続分でもう一回計算し直すとか,そういう発想ではなくて,正に遺産分割の審判で取得させられたけれども,別の人が取得していたものの額だと,こういう理解かと思います。その点は一応理解できるのですけれども,そもそも今のような場合に,不当利得なり,不法行為になるのかという部分については,今おっしゃっていただいたとおり,正に解釈の問題でありまして,ここで議論して決める話ではないということは承知はしておりますけれども,そもそも家裁の審判によって取得した財産ということですので,法律上の原因があるのではないかといったような議論もあり得るところでありまして,一つの考え方としては,特別受益の認定が違ったという場合と同じく,家裁の判断がファイナルなんだというふうに考える余地もあるのではないかなと思っております。この点は一応留保ということで申し上げておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかにいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第2につきましては,御意見を賜りましたけれども,基本的にはこのままで維持するということで,先に進ませていただきたいと思います。
  ここで休むと申し上げたのですが,予想以上に早いペースできておりますので,勝手ながら第3まで進ませていただいて,その後に休息するということに改めてさせていただきたいと思います。
  そこで,第3の「遺言制度に関する見直し」ですが,資料25-1の11ページ以下になりますけれども,これにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○倉重関係官 それでは,まず第3の1及び2について関係官の倉重より説明させていただきます。
  1の「自筆証書遺言の方式緩和」につきまして,(2)の規律を新たに設け,今回の改正によって添付することができるようになる目録中の記載について変更をする場合にも,現行の民法第968条第2項の方式による必要があることを明確に規律することにいたしました。
  次に,机上配布している遺言書のサンプルについてです。こちらは,方式緩和後に新たに作成が可能となる自筆証書遺言の例として,事務当局において作成したものでございます。本文部分,行書体で書かれているところは手書きで書かれたということを意味しておりまして,それから,ゴシック体で書かれたところについてはパソコン等で印字されたものであることを意味しております。事務当局において,こういった目録が考えられるのではないかという目録のサンプルを添付してみました。御検討の資料にしていただければ幸いでございます。
  次に,2の「自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設」につきましてですが,こちらについては,前回資料から特段変更点はございません。
○満田関係官 それでは,第3の3及び4については,関係官の満田の方から簡単に説明させていただきます。
  まず,第3の3「遺贈の担保責任等」については,字句等の修正を施したほかは特段の変更点はございません。
  4の「遺言執行者の権限の明確化等」につきまして説明させていただきます。
  この点につきましては,前回の部会では特段の御意見はございませんでしたが,(1)のイについて,「遺言執行者であることを示して」という文言を今回の部会資料においては付すことといたしました。この趣旨でございますが,現行の第1015条を改正し,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属するという規律を設ける場合には,民法第99条と同様,その顕名に相当する要件についても定める必要があると考えたためです。
  そこで,この顕名に相当する要件として,「遺言執行者であることを示して」との要件を定めることといたしました。
  また,(2)のアにつきましても,一部表現方法を修正しておりますけれども,その趣旨につきましては,部会資料の補足説明に記載しているとおりとなっております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第3につきましては,1から4までございますけれども,1の(2)「自筆証書中の加除その他の変更」については,この変更の対象に(1)の目録を含むということを明記したということがまず第1点としてございます。
  それから,第2点は,4につきまして,(1)のイに「遺言執行者であることを示して」という文言を付け加えたほか,若干の字句の修正が加えられているということかと思います。
  参考資料として配布されました遺言書のサンプルも含めまして,御意見あるいは御質問等ございましたら頂きたいと思います。いかがでございましょうか。
○藤原委員 そうしましたら,ちょっと後ろの方ですけれども,13ページの4の遺言執行者の権限のところで,今回字句が少し変わったところで,一つ御確認したい点がございます。
  13ページの(2)のアの「特定遺贈がされた場合」のところで,今回昭和43年の最高裁の判例の趣旨の明確化ということで,語尾が「遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる」というこの「のみが行うことができる」というところについて,1点,御確認でございます。
  ここで,この場合,相続預金の払戻しの際に,遺贈の履行というのが何を意味するのかというところなのですけれども,現行法上の金融機関の実務では,預金について遺贈が行われた場合には,特定遺贈のうち特定物遺贈の場合には物権的効力があることから,遺言執行者がいる場合でも遺言の執行の余地がないということで,受贈者の方を相手にしまして,直接遺言執行者を通さずに払戻しを行っていると,こういう金融機関もあるわけでございます。この場合,対抗要件としては銀行が承諾を行うということで備えさせると,こういう実務が行われているわけですけれども,特段この実務に影響を与えるものではないというふうに解釈しておりますが,それでよろしいでしょうかという確認でございます。
○堂薗幹事 ただ今の点は基本的にはそういう理解でおりまして,基本的にはここは遺贈の義務の履行をするのが遺言執行者なのか,相続人なのかという点でいうと,遺言執行者がいれば遺言執行者だけで,相続人にはそういう請求はできないということを明らかにする趣旨でございます。したがいまして,預貯金債権について遺贈がされた場合に,債務者の方が自ら承諾をして払うということについては何ら問題ないのではないかと考えているところでございます。遺贈に限らず,例えばですけれども,売買で債権譲渡がされた場合につきましても,基本的には売主というのは対抗要件を具備させる義務は負うのだとは思うのですけれども,その場合も,別に債務者の方で承諾をして譲受人に対して支払うことは問題ないというのと同じように考えられるのではないかというふうに考えているところでございます。
○藤原委員 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○潮見委員 答えを頂いているのではないかとは思うのですが,先ほどのイの(ア)ですけれども,これまでの案では,「遺言者が遺言で別の意思を表示したときはその意思に従う」,それが付いていたと思うのですが,今回の案では特定遺贈のところだけ落としているのですよね。これは何かの判断があって落としたと理解してよろしいですよね。
○満田関係官 基本的には,遺言執行者の権限について,特定遺贈をした場合に対象財産が二つあったときに,一つについては遺言執行者の権限とするけれども,もう一つについては遺言執行者の権限としないという形で遺言者の意思を反映させることはできます。しかし,遺贈について遺言執行者を選任した上で,その遺言執行者の権限を更に遺言者が定めることができるかという点については説明が難しいのではないかというふうに考えておりますので,今回はこのような形にしているということになっております。
○潮見委員 特定財産承継遺言と違っても構わないということですか。
○満田関係官 特定財産承継遺言については,相続人のほか遺言執行者が対抗要件を具備させる権限はありますけれども,その点については,遺贈と特定財産承継遺言で若干違いが出てくるかとは思いますけれども,それはそれで相続なのか,遺贈なのかという点に基づいて,違いが出ざるを得ない部分はあるかなとは思いますけれども,何か問題がもしあれば,御指摘を頂ければと思います。
○潮見委員 あえて別に分ける必要があるのかなということを思っただけなのです。なぜ別段の意思を,遺贈の場合に表示しておれば,その意思を無視してよいのか。この部分が理屈の上で説明がつくのかというところが正直言って分かりませんでした。
  実際の処理については,今おっしゃっていただいたので理解はできましたけれども,理論的に説明がつかないなという感じがしたというそれだけのことです。
○満田関係官 基本的にここで(2)のイの(ウ)の方で,「(ア)及び(イ)の規律にかかわらず」というふうに規定しておりますけれども,特に問題になるのは,(イ)の場面かとは思いますけれども,そこでの払戻し等についてどこまでの権限を与えるかという点については,これは遺言者において遺言執行者の権限の範囲を定める必要はあるかというふうには思っております。
  その前段の(ア)の方でございますけれども,この点について遺贈の場合とどの程度違える理由があるかという点については,若干検討させていただければと思います。
○藤原委員 今の点に関連して,現行の実務では遺贈と特定財産承継遺言の区別なく,遺言執行者に預貯金の払戻し権限や金融商品の解約権限を与えるという遺言はかなり多くございまして,その場合にどこまで遺言者が遺言執行者に権限を与えることができるのかという議論は現在でもあるのでしょうけれども,実務上はそういう遺言は実際にありまして,その場合,金融機関の対応としては,もうそう書いてあるのだからそのとおり遺言執行者が来たら遺言執行者に払うという実務をやっておりますので,今回ここでア,イで対応を分けるということになって,それが解釈としても分けて書いてあるのだからこれは違う解釈をすべきだということになりますと,現在の実務からすると若干混乱すると思われます。
○大村部会長 今の点につきましては,整理をしていただくということでお願いをいたします。
○藤原委員 よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 次回までに整理をして,こちらの考えをもう一度御説明したいと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○中田委員 4以外でもよろしいですか。
○大村部会長 4以外でも結構です。
○中田委員 1の「自筆証書遺言の方式緩和」の(2)ですけれども,本日配布していただきました参考資料の2ページを拝見しますと,目録の加除,変更についての記載の仕方ですが,ここに書いてある「霞が関」という言葉なのですけれども,これは別にワープロでなくても手書きでもよろしいのでしょうね。その手書きは,この遺言者以外の人の手書きでもよいということだと理解しますが,それでよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,目録の訂正については,目録自体は手書きでなくていいというふうにしているので,ここでも手書きでなくてもいいということを示すために,一応こういう形で,手書きではない形で書いておりますが,当然手書きでもよいことになりますし,手書きの場合には,遺言者でなくて第三者の手書きも許されるということになります。基本的には本文については手書きでなければいけないので,加除訂正もそういう形になりますが,目録については,自書性の要件を緩和していますので,その訂正についても自書でなくてよいという理解をしているということでございます。
○中田委員 ありがとうございました。
  そうしますと,今のページについて言うと,行書体で書いてある部分は遺言者本人の自書である必要があるけれども,ゴシックで書いている「霞が関」の部分については,他の者の手書きでもよいということになろうかと思います。ただ,その点が必ずしもすぐには分からないかもしれませんので,そこが混乱の生じないように,解説などで示していただければと思います。
  もう1点よろしいでしょうか。
  これは形式的なことなのですけれども,3の「遺贈の担保責任等」の(2)で,「詐欺又は強迫」を「錯誤,詐欺又は強迫」に改めるということで,これは以前から出ていて,これでよろしいと思うのですけれども,親族法,相続法の中で「詐欺又は強迫」という文言が出てくる規定が幾つかあると思います。あるいは詐欺又は強迫とも書いていなくて,単に取り消すことができるという規定もあると思います。それらの規定に今回のこの改正が影響しないであろうということは既に確認していただいているとは思いますけれども,念のために確認しておいてくださればと思います。
○堂薗幹事 その点は当然確認すべきことだと思いますので,もう一度注意して精査したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。御発言はございませんでしょうか。
  それでは,4の(2)のア,イの問題につきましては,再度御検討を頂くということにいたしまして,この点を留保して,その他につきましては御意見を伺ったということで,先に進ませていただきたいと思います。
  さて,どうしましょう。だんだん欲が出てきましたが,いいですか。
○潮見委員 やりましょう。
○大村部会長 やりましょうという声を掛けていただきましたので,休まずに先に進ませていただきたいと思います。
  3時ぐらいまで終えられるところまでは終えたいと思います。すみませんが,よろしくお願いいたします。
  次に進みますが,第4の「遺留分制度に関する見直し」ということで,資料の15ページ以下ということになりますが,事務当局の方から御説明を頂きます。
○神吉関係官 それでは,第4の「遺留分制度に関する見直し」につきまして御説明させていただきます。
  第4の「遺留分制度に関する見直し」につきましては,字句等の修正を施した点以外につきましては,実質的な変更点はございません。
  なお,前回の部会におきまして,委員から御指摘いただいた点についての事務当局における検討結果を補足説明の16ページ,17ページの(注)において記載しております。簡単に御説明させていただきますと,まず16ページの(注)についてでございますが,「死因贈与がされた場合における負担及び現物給付の順序に関する規律について」でございます。
  前回の部会におきまして,委員から死因贈与がされた場合における負担及び現物給付の順序に関する規律,具体的に言いますと,第4の1の(2)のウ,それから(3)のアのただし書の規律について,これを明確化すべきではないかとの御指摘があったかと思います。この点,死因贈与の減殺の順序に関するリーディングケースとしてしばしば取り上げられます東京高裁の平成12年3月8日の判示によりますと,遺贈,それから死因贈与,それからその他の生前贈与(新しいものから古いもの)といった規律を設けることが考えられるかと思います。しかしながら,最高裁の判例が存在するわけでもなく,また,死因贈与につきましては遺贈と同順位で位置付けるべきであると,そういった有力な見解もあるところでございます。
  また,贈与に準じて考えるとしても様々な見解がありまして,いずれの説を採用するかについては慎重な検討を要するのではないか,この段階で法文化するのは困難ではないかと事務当局としては考えているところでございます。
  また,17ページの(注)についてでございますが,こちらは少し細かい論点でございますが,こちらも,前回の部会におきまして,委員から御指摘があった点でございます。
  この点につきましては,なかなか難しいところで,個別事案ごとの裁判所の判断に委ねるべきではないかというふうに考えているところでございますが,一つの解釈論といたしましては,破産法第72条第1項の規定の適用又は類推適用によって,本件請求権の行使は許されないと考えるのではないかと考えているところでございます。
  すなわち破産法第72条第1項第2号から第4号までの規定は,破産者に対して債務を負っていた者が支払不能等の危機時期以降に破産債権を取得した場合に,その破産債権を自働債権とする相殺を認めると,債権額の価値を有しないその破産債権について全額の満足を得させることになりまして,相続債権者間の公平を害することに鑑みて相殺を禁止したものでございますが,本方策のうち,受遺者等が遺留分権利者の債務を弁済したことによって,遺留分侵害額請求権の一部について消滅請求を認める場合につきましては,自働債権に相当する求償権の弁済期が到来していなくても,相殺的処理を認めるということにその存在意義がありますので,破産財団との関係では,相殺を認めたのとほぼ同様の効果は生ずるということを重視すれば,相殺禁止規定の類推適用を認める余地があるのではないかというふうに考えているところでございます。
  他方,難しいのが免責的債務引受をしたことによって遺留分侵害額請求権の一部について消滅請求を認める場合についてでございますが,受遺者等につきましては,求償権をこの場合は取得することができないということで,その債権の対立自体が観念することができないという点を重視いたしますと,相殺禁止規定を類推適用する必要がないようにも思われますが,この場合につきましても,破産債権を消滅させることに伴いまして,破産財団に属する財産が減少するという関係にあることには変わりないことに照らしますと,本件請求権の行使について相殺禁止規定を類推適用する余地があるのではないかと考えているところでございます。
  以上,細かい点ではございますが,部会資料につきまして御説明させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第4につきましては,特に修正はないということでございますけれども,前回より明確化を図ることが考えられないかという御指摘があった点につきまして,補足説明という形でお答えを頂いたところでございます。
  これらの点につきまして何かありましたら御意見を賜りたいと思います。
  いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,やや難しい問題がございますけれども,それらについては一定の説明がされておりますが,最終的には解釈論に委ねるということで処理をするということにさせていただきたいと思います。
  次に進みますけれども,第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」というところでございます。
  この部分につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」に関して簡単に説明させていただきます。
  まず1について,実質的な内容の変更はございませんが,変更点につきまして若干補足をして説明をさせていただきます。
  これから説明する部分については,補足説明の資料には記載されておりませんところでございますけれども,最終的には,ホームページにアップする際には記載する形で対応させていただければと思っております。
  それでは,説明させていただきます。
  従前の案では,1の(2)におきまして,受益相続人による単独通知の効果について,債務者,その他の第三者に対抗することができるというふうにしておりましたけれども,このような規定によりますと,不動産の賃貸借のような登記等を対抗要件とする債権につきましても,受益相続人による承継の通知によって第三者対抗要件を具備し得るかのような誤解を招くおそれがあるものと考えられました。
  そこで,受益相続人による単独通知によって対抗要件の具備が認められる債権の範囲を,譲渡人による通知を債権譲渡の対抗要件としている債権に限ることを明らかにするために,今回の(2)におきましては,その末尾について,「共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして,(1)の規律を適用する」という表現に変更することといたしました。
  また,従前の案では,(3)として,債務者以外の第三者対抗要件の具備方法について,確定日付ある証書による通知が必要であるということを明示しておりましたけれども,今回の案では,(2)の規律において,(1)の規律を適用するということを明記することといたしましたので,それに伴って,債務者以外の第三者対抗要件として確定日付ある証書による通知若しくは承諾が必要であることは,(1)の規律によって明示されることになりましたので,従前の案の(3)の規律については重複することとなりましたので,これを削除することとしております。
  実質的には,従前の案と変更点はございませんが,若干説明が不足していたので,今その補足説明を付け加えさせていただきました。
  2番については,特段変更点はございません。
  3番についてでございますけれども,3番の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」の記載について御説明いたします。
  若干の字句等の修正をしましたが,実質的な内容についての変更はございません。
  なお,前回の部会におきまして,相続人の債権者が行使可能な権利の内容について明確にすべきであるという指摘がございましたので,今回この点については,部会資料の補足説明の方に記載しております。
  以上の点について御審議いただければと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第5の1につきましては,明確化のために文言を修正している。それに伴って(3)は不要になったという御説明でありました。
  3につきましては,補足説明で前回の御指摘についての対応をしているということでございました。
  これらにつきましてはいかがでございましょうか。
  御発言はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
  それでは,第5につきましては,特段の御意見がなかったということで,先に進ませていただきたいと存じます。
  休憩せずに,6までいけそうな気がしてまいりました。これだけ残して休息というのもいかがかと思いますので,6を議論いたしまして,休憩なしで本日は終わらせるということにさせていただければ幸いでございます。
  最後の項目になりますが,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」という点につきまして,事務当局より御説明を頂きます。
○秋田関係官 第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」についてですが,字句を一部修正したほか,請求権者の範囲について,新たに被相続人の親族とする考え方を提案させていただきました。
  前回の部会資料では,請求権者を「被相続人の直系血族及びその配偶者,被相続人の兄弟姉妹及びその配偶者並びに被相続人の兄弟姉妹の子及びその配偶者」と限定する案を提示しておりましたが,部会における議論の中で,いわゆる連れ子も請求権者に加えることが相当であるとして,これに「被相続人の配偶者の直系血族」を加えるなどの考え方が提案されました。
  頂いた御指摘を踏まえて,改めて検討しましたところ,前回の提案の考え方に加えまして,「被相続人の配偶者の直系血族」を請求権者に含めますと,もはや請求権者の範囲について統一的,合理的な説明をすることは極めて困難であるように思われました。他方で,いわゆる連れ子のように,被相続人と身分関係を有するものの,相続人にはなり得ない者を一律に請求権者から排除することは,被相続人と近い関係にあるために有償契約の締結などの生前の対応が類型的に困難である者を救済するというこの方策の制度趣旨に照らして,必ずしも相当でないように思われました。
  以上の点を考慮しまして,今回の資料では,新たに「被相続人の親族」を請求権者とする考え方を提案しております。この考え方は,相続財産の分配は,相続人が不存在の場合を除き,被相続人と一定の身分関係がある者の間で行うという限度で,現行法の規律との連続性を維持するものでして,また,被相続人と何ら身分関係がない者を請求権者に加えることは,紛争の複雑化,長期化などの観点から相当でないという考え方を前提とするものです。そして,「被相続人の親族」の中で何らかの基準で請求権者の範囲を更に限定することは非常に困難であることを踏まえたものでございます。
  また,「被相続人の親族」は,扶養義務や協力扶助義務を負う者の範囲とは異なりますので,この方策が親族間で何らかの義務を負っていることを前提とする制度ではなく,療養看護等の負担義務について一定のメッセージ性を持つものでもないという説明ができるのではないかと考えております。
  御説明は以上ですので,御審議いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第6につきましては,御説明がありました範囲の問題につき,今回は「被相続人の親族」という形で提案がされておりますけれども,この問題につきまして,これまでも様々な御意見を頂いたところでございます。考慮すべき事柄は多々ありまして,今,事務当局の方から御説明がありました。これを積極的に説明するのはなかなか難しいところがございますけれども,この考え方であれば,現行法の中に整合的に収めることができるのではないかという御説明であったと理解いたしました。
  これにつきまして,御意見等ございましたら伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○金澄幹事 私の方からは,被相続人の療養看護に努めた被相続人と近しい関係にある者を救済するというこの制度の趣旨から,請求者を限定すべきではないという意見を従来申し上げてきました。また,従前,請求権者の範囲について,二親等,三親等,そして,身分関係の列挙と,いろいろ変遷はございましたけれども,いつでもそれらの関係にある者を請求権者に限るということで,何らかの扶養義務とか,介護の義務を負っているかのようなメッセージ性を帯びるのではないかという懸念も申し上げてきたところです。
  事務当局の方からも御説明がありましたとおり,今回の御提案は請求権者を親族に限るという点で,いまだ救われない近しい関係の者はおりますけれども,事実上の養子を救済することができるという点,また,扶養の範囲とは完全に異なる範囲の者を請求権者としているということで,好ましくないメッセージ性は,ほぼ排除できているのではないかというようには思っております。
  今後,本制度の制度趣旨について,恐らく法務省の方では立案解説などをお書きになると思いますけれども,本制度の目的について,親族に何らかの義務を課したものではないという点とか,介護の社会化に水を差すものではないという点についてはきちんと適切に解説をしていただければというように思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御懸念につきましては,これまでもしばしば御指摘を頂いたところかと思います。金澄幹事以外の委員,幹事からも同様の御指摘のあったところだと了解しております。
  事務当局としては,そのようなメッセージが生ずることがないように配慮をして,このような提案をしているということかと思いますけれども,更に説明等で注意をしていただきたいという御要望だったかと思います。その点につきましては事務当局の方にはお願いをしておきたいと思います。
  そのほかこの点につきましての御発言はいかがでございましょうか。
  特にございませんでしょうか。
○八木委員 ということは,御提案は,この亀甲括弧を取る,括弧部分を取るということでよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 特別の寄与をした「被相続人の親族」という形にさせていただければというふうに考えているところでございます。
○八木委員 私も異論はございません。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
  様々な案を検討しましたけれども,範囲について一定の線を引くというのは,理由付けはなかなか難しいところがございますし,あり得る理由付けを想定して,その考え方に従って線引きをしても,それが必ずしも分かりやすいものでもないということもあろうかと思います。更に御意見等あろうとは思いますけれども,この案は,内容はシンプルな案になっているかと思います。分かりやすい立法であるということも一つの長所であろうと思いますけれども,いかがでございましょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,この点につきましては,この原案について特に御異論はなかったということで取りまとめをさせていただきたいと存じます。
  幾つか御検討を頂く点が残りましたけれども,おおむね本日でこの案につきまして,意見を頂き,取りまとめをすることができたかと思います。なお残っている問題がございますので,今後の予定等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 次回は,要綱案の取りまとめをしていただければというように考えているところでございますが,御案内のとおり,平成30年1月16日火曜日を予定しており,また,場所については,法務省地下1階の大会議室ということになりますので,お間違えのないようよろしくお願いいたします。なお,同日の開始時間についてはおって御連絡させていただきます。
  どうもありがとうございました。  
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,来年1月16日に要綱案の取りまとめを行うということで,御予定いただきたいと存じます。  
  それでは,本日はこれで閉会させていただきたいと存じます。
  本日も熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。
  閉会いたします。
-了-

法制審議会
民法(相続関係)部会
第26回会議 議事録


第1 日 時  平成30年1月16日(火)自 午後3時01分
                     至 午後4時07分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事
○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第26回会議を開催いたします。
  まず最初に,事務当局より配布資料の説明をお願いいたします。
○倉重関係官 それでは,配布資料について説明をさせていただきます。
  本日は,要綱案(案)として部会資料26-1を,それから,その補足説明として資料26-2を配布させていただいております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御説明がございましたけれども,本日は要綱案,部会資料の26-1,それから要綱案に関する補足説明,同26-2につきまして,御審議を頂きます。 
  お手元の資料に基づいて,検討を進めていきたいと思いますが,まず,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」という部分につきまして,事務当局より御説明をお願いいたします。
○倉重関係官 それでは,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」について説明させていただきます。
  まず,これまでは,第1の各権利の名称を「短期居住権」及び「長期居住権」としておりましたが,常に長期居住権が短期居住権より長いという関係にはありませんことから,両者を対比させるような名称は相当でないと考え,権利の名称を「配偶者短期居住権」及び「配偶者居住権」と改めました。
  それでは,「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」について御説明します。
  まず,配偶者短期居住権につきまして,配偶者が相続放棄をした場合の相続期間の在り方等について御審議いただいてきたところですが,これまでの議論を踏まえ,(1)と(2)の区分の方法と,それぞれに適用される規律内容を一致させる観点から,(1)を,「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」,(2)を「(1)以外の場合」と整理することとしました。
  次に,配偶者短期居住権については,これまで譲渡を禁ずる明文を設けていませんでした。しかし,配偶者短期居住権は,配偶者の居住建物における居住を短期的に保護するために創設するものですし,無償で取得されるものですから,譲渡を認める必要性に乏しいと考えます。また,後に述べますとおり,配偶者居住権も譲渡を禁ずることとしましたこととの均衡上,配偶者短期居住権は譲渡できないこととして,その旨の規律を置くこととしました。
  次に,「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」について御説明します。
  これまで,配偶者居住権は,居住建物所有者の承諾がある場合には譲渡することができることとしていました。しかし,配偶者居住権は,配偶者自身の居住環境の継続を保護するためのものですから,第三者への譲渡を認めることは,制度趣旨との関係で必ずしも整合的とはいえません。
  この点につきまして,これまで譲渡を認めることとしていたのは,配偶者が配偶者居住権の取得時に想定していたよりも早期に居住建物から転居せざるを得なくなったような場合に,その後の生活費等を取得するために,配偶者居住権を売却することができるようにする必要があると考えていたためでした。しかし,配偶者居住権は,配偶者の死亡によって消滅する不安定な権利ですから,実際には売却は難しいと考えられますので,その点も考慮して,配偶者居住権は譲渡できないこととしたものです。
  なお,この場合におきましても,配偶者としましては,居住建物所有者の承諾を得て,居住建物を賃貸することなどができますことから,それによって投下資本を回収することができます。
  第1についての説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  用語の修正の問題ですとか,(1)と(2)の切り分けといった問題がございましたけれども,実質的な点といたしましては,譲渡の禁止を明文化するという御提案がございました。この点を中心に御意見を頂ければと思います。
  いかがでございますでしょうか。
○窪田委員 実質的な中身にわたる部分ではないのですが,補足説明の方の2ページの下から6行目,7行目の辺りでしょうか,「回収が問題になるが」ということで,「従前どおり,建物所有者に買い取ってもらうことのほか」と書かれてはいますが,ちょっと正確に私自身が理解できなかったのですが,ここであるのは,本来は終身の期間認められている利用権を,言わば放棄することによって,その対価をもらうというようなことのイメージなのではないかと思います。それについて,配偶者居住権を買い取ってもらうという言い方が適当なのかどうか,特に,上の方で譲渡禁止と言っていますので,それは所有者との関係でも同じことがあるのではないかなと思いましたので,ちょっと説明の仕方ということになりますが,言葉を考えていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の表現の点は,お考えいただくということでお願いをしたいと思います。
  そのほか,どうぞ,上西委員,沖野委員の順でお願いいたします。
○上西委員 5ページの(2)エ(ウ)のところについてです。「配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ,居住建物の改築若しくは増築をし,又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。」とあります。まず,配偶者居住権は譲渡することができないとすることについて,以前は譲渡することまでも排除するものではないとされていたところです。現実に配偶者居住権のみの譲渡の事案が少ないであろうことから,譲渡することができないことにしてもよいとも考えられます。それでは,譲渡できないことになった場合に,第三者に対してではなくて,所有者に使用収益させることも可能なのかどうかです。つまり,配偶者居住権で制約をされた所有者に使用収益させることができるのかどうかです。その点は,明示的に記載しなくとも,この(ウ)の記載の中でも読み込まれていると考えてよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 もちろん「第三者」ですので,文言上は,居住建物の所有者がここに入るというのは,当然には読めないわけですけれども,所有者の同意を要するとした趣旨からいって,所有者がこの居住建物に一時期無償で住み,その後一定の期間経過後に,配偶者の方で再び配偶者居住権を根拠に居住するということは,当然否定されないということになるのではないかと思います。
○上西委員 念のため,配偶者居住権を譲渡することができないとなりますと,配偶者居住権で制約された所有権者と配偶者居住権者とが,両者そろって第三者に丸ごと売るということもできなくなると考えてよろしいのですか。
○堂薗幹事 それは,居住建物の所有権自体を売却するということですか。
○上西委員 そうです。
○堂薗幹事 居住建物の所有権自体については,居住建物の所有者の方で任意に処分はできますので,ここでは飽くまで,配偶者居住権という,新たに作った権利自体の譲渡はできないということです。
○上西委員 配偶者居住権に制約された条件での,残りの所有権だけが譲渡できるということですね。
○笹井幹事 配偶者居住権も一つの債権ですので,これまでも申し上げてきたとおり,放棄をすることが可能です。もし,配偶者と所有者が配偶者居住権の負担のない所有権全体を譲渡したい場合には,配偶者が放棄することによって配偶者居住権を消滅させた上で,負担のない所有権全体を移転することができるということになろうかと思います。
○上西委員 配偶者居住権を放棄して,完全な所有権にしてから,所有者が譲渡するという流れになるわけですね。
○大村部会長 上西委員,よろしいですか。
○上西委員 了解しました。
○沖野委員 譲渡禁止について2点確認をさせていただきたいことがあります。
  譲渡禁止の今回の御説明の趣旨から,強制執行による換価も当然できないということになるかと思われますけれども,そういう理解でよろしいかというのが一つです。
  もう一つは,投下資本回収の道が狭められるということになりますと,そもそも最初の入り口の段階での評価額に関わってきますので,それは,譲渡も自由にできたという場合と比較して,より低い評価になるというのが,論理的には自然ではないかと思われますが,そのような理解でよろしいかということです。
○堂薗幹事 まず,強制執行の点については,御指摘のとおりだと思います。一般に,強制執行の対象財産については,譲渡性があることが要件とされておりますので,配偶者居住権については,所有者の意思にかかわらず,譲渡することができないということになりますと,強制執行の対象からは外れるということにはなろうかと思います。
  それから,評価額については,倉重の方から御説明いたします。
○倉重関係官 評価額の点について御説明をさせていただきます。
  まず,部会資料19-2で紹介させていただきました簡易的な評価方法についてですが,これは,例えば,存続期間を10年間とする配偶者居住権であれば,建物及び敷地の現在価値から10年後の建物及び敷地の価値を現在価値に引き直した価格を引いた額を配偶者居住権の価格とするものでございました。したがいまして,この方法の場合には,元々配偶者居住権が譲渡可能であるということを評価上考慮しておりませんでしたことから,譲渡禁止にしたことで,直ちに額が下がるということにはならないと考えております。また,第19回部会で提出された参考人公益財団法人日本不動産鑑定士協会連合会の意見書の中で示されました算定式につきましては,同連合会に問い合わせましたところ,まず,譲渡できない権利は鑑定評価基準でいうところの正常価格として求めることはできないという前提での御回答ではございましたが,同資料中に示されております,賃料から配偶者居住権の価値を算定する方法を採用するのであれば,配偶者居住権の価格は,建物の賃料相当額から配偶者負担の必要費を引いたものに年金現価率を乗じたものであるという基本的な考え方は,変更するものではないという返答を頂きました。
  その上で,御指摘のとおり譲渡禁止となった場合には,この年金現価率を算定する際の要素であります割引率に影響することとなること,しかしながら,元々配偶者居住権というのは流動性が高い権利ではないということを前提に算定されていたものですから,その影響というのは比較的限定的なものではないかというようなお答えも,同時に頂いているところでございます。
  したがいまして,委員御指摘の点につきましては,確かに評価額が下がるということにはなろうかと思いますが,それが従前の想定に比べて大きく下がるというものではないのかもしれないと考えているところでございます。
  以上,お答えとなります。
○沖野委員 ありがとうございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○沖野委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 言葉の問題だけでございます。
  これは,変えていただきたいという趣旨ではないのですが,一応念のためにということで,どこかにお書きいただいたほうがよいかもしれないと思う点です。
  つまり,配偶者という言葉についてです。死亡の時点で婚姻は解消しておりますので,正確に言うと,生存配偶者ないし元配偶者ということになります。死亡時だとぎりぎり配偶者と言ってもいいかもしれませんが,居住権は,死亡後のことになりますので,配偶者という言葉をずっと使い続けることについて,自覚はしているという趣旨を,どこかでちょっと一言付け加えていただくほうがいいかという気がいたしました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それは,説明等御検討いただくということでよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 水野委員,それでよろしいでしょうか。では,説明等を検討させていただくということにさせていただきたいと思います。
  そのほかにいかがでしょうか。
○山本(和)委員 先ほどの沖野委員の御質問でやはり気になったんですが,そうすると,これは,遺産分割で差し押さえることができない財産が作り出されるということを認めるという,そういうことになるという理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 そうですね,先ほど御説明したとおり,配偶者居住権については差押えができないという整理になろうかと思います。ただ,従前から,所有者の承諾がないと譲渡できないということにはなっておりましたので,実際上は配偶者居住権が設定されるとそれを換価することは難しいということにはなっていたのではないかと思います。譲渡が禁止されることを明文化することによって,従前は事実上換価が難しかったにすぎなかったものが,そもそも法律上差押えすることができなくなるということにはなろうかとは思います。
○山本(和)委員 そうすると,相続債権者としては,遺産分割がされる前と比べると,責任財産が遺産分割によって減少する結果になるかもしれないけれども,それは,何か詐害行為取消権とかそっち側の方で対処をすると,そういうような形になるということと理解していいんでしょうか。
○堂薗幹事 まず,配偶者居住権の登記の前に差押えがされれば,そちらが優先するということではあろうかと思いますので,そういった意味では,言わば対抗関係のような形で処理されるということになるのではないかと思います。
  もちろん,詐害行為ということもあり得るとは思います。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほかいかがでございましょうか。
  よろしゅうございますか。
  それでは,この第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,説明等若干の手直しを加えていただくということはございますけれども,この内容どおりで御承認を頂いたということで先に進めさせていただきたいと存じます。
  続きまして,第2の「遺産分割に関する見直し等」と第3の「遺言制度に関する見直し」につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から,第2及び第3の関係で簡単に説明をさせていただきます。
  まず,「第2 遺産分割に関する見直し等」につきましては,一部字句等の修正を施した箇所はございますが,実質的な変更はございません。
  続きまして第3でございますが,第3についても,いずれの項目についても,前回の部会資料からの特段の変更点はございません。
  もっとも,4の「遺言執行者の権限の明確化等」につきましては,前回の部会におきまして指摘された事項がございましたので,この点について事務当局内で検討した結果を,補足説明の資料の5ページに記載しております。ここでは,特定遺贈の場合と特定財産承継遺言の場合とで規律の内容が異なっておりますが,これは,特定遺贈の場合は受遺者が遺贈の履行を請求すべき相手方を明確にした規定ということになりますし,他方で,特定財産承継遺言の場合は,遺言執行者の権限を定めた規定であることになりまして,このような趣旨の違いから規律の違いが生じているということになります。
  なお,このような規定を置いたとしても,特定遺贈の場合において,遺言者が預貯金債権の払戻し権限について別段の定めをすることは否定されないものと考えております。
  御説明としては以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第2と第3のいずれについても,字句の修正等のほかは変更点はないということでした。ただ,第3の4につきましては,前回の部会で御指摘を頂きました点につきまして,(注)を付け加えたということでございます。
  この第2と第3をまとめまして,御意見等があれば頂きたいと思います。いかがでございましょうか。
○藤原委員 第3の,今一番最後に御説明を頂きました預貯金の払戻し権限のところについて,もう少し詳しく御確認をさせていただければと思っております。
  この第3の4の(2)のところでございますけれども,まず,ちょっとまだ御説明を頂いても分かりにくいかなと思っているところがございまして,それが,今御説明を頂いた「遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは,その意思に従う」という規定が,イの特定財産承継遺言がされた場合には入っているのだけれども,アの特定遺贈がされた場合には入っていないと,前回潮見委員から御指摘を頂いた部分なんですけれども,ここで,今回の御説明をもってしても,特定遺贈のケースで本当にその反対解釈がされないかと,特に預金が対象になった場合の金融機関,第三債務者である金融機関との関係において,反対解釈がされないのかという懸念がまだ払拭できていないというところでございます。
  具体的には,特定遺贈の方の規定について,遺言執行者と受遺者の関係においては,今回の御説明のとおり,遺言者が遺言で別段の意思を表明したときはその意思に従うという規定を置くことができないということは理解をしておるんですけれども,遺言執行者と第三債務者である金融機関との関係においてはどうなるのかということです。先ほど一番最後の口頭の御説明では,その場面においては遺言者が遺言で別段の意思を表明すればその意思に従うということでしたけれども,今回の御説明の書面の方にはそこが落ちていなかったものですから,その点につき,イの特定財産承継遺言がされた場合の方には,(イ),(ウ)のところで,対金融機関に対する遺言執行者の権限というところできちんと規定があるのに対して,アの特定遺贈のところでは,対金融機関に対する権限のところの規律が全くないという中で,遺言者が遺言で別段の意思を表明したときはその意思に従うという規律もないとなると,本当に遺言者が遺言の中で遺言執行者の金融機関に対する払戻しや解約の請求権限を記載したときに,それが有効か否かというところの解釈にどう影響を与えるのかというところについて,御提案側の御趣旨を伺いたいところでございます。
  さらに具体的に,よくあるケースを三つ想定しております。
  例えば,X銀行の預金をAに遺贈する,遺言執行者にはBを指定するという特定遺贈をもって,受遺者AがX銀行に相続預金の払戻しを請求してきた場合,今回の御提案によって,受遺者Aの払戻し請求は特に制限されないと,有効であるという理解でよろしいでしょうか。
  2番目のケースとしては,今のような遺言で,遺言執行者Bの方が払戻しを請求してきた場合,現在は預金の特定遺贈の場合の遺言の執行の余地については,確定的な解釈がなく,各金融機関において個別に対応していると思われますけれども,そのような解釈及び実務に,今回の御提案がどういった影響を与えるかというところ。
  3番目のケースといたしましては,特定遺贈の場合で,遺言執行者にBを指定し,さらに預金の払戻し解約の権限をBに与えるという,払戻しの権限までが明記されていた場合,この場合は,現在の金融機関の実務では,この遺言に従って遺言執行者に相続預金を払い戻すということが一般的であると思われますけれども,今回の御提案では,先ほど来申し上げているとおり,特定遺贈の場合には,あえて遺言者が遺言で別段の意思を表示したときはその意思に従うという規定がされていませんけれども,特定遺贈の場合であっても,このように遺言で遺言執行者の第三債務者に対する権限を定めるということは,当然に可能であって,現在の実務どおり金融機関はそれに従って払い戻せばよいと,御提案の趣旨としてはこういった理解でよろしいでしょうかということを,この三つのケースに従って御回答いただければ有り難いです。
○堂薗幹事 それでは,御回答いたします。
  まず,1番目の御質問でございますが,(2)のアの規律というのは,一つ目の事例で言いますと,基本的にはAと遺言執行者であるB,あるいはAと相続人との関係を規律するもので,X銀行とAの関係を規律するものではないということになろうかと思いますので,債務者であるX銀行が,Aが権利者であるということを自ら承諾した上で支払をするということは,当然できるという理解でございます。
  それから,2番目の御質問ですが,こちらは,特定財産承継遺言とは異なりまして,明確には書いていないというところがございますので,最終的には解釈ということにはなりますが,ただ,特定遺贈について,その遺言執行者の権利を明確にできない理由というのは,資料26-2のところに書いたとおりでございますので,この特定財産承継遺言のイの(イ)のような規律を置くことによって,同じ趣旨が特定遺贈にも当てはまるということになりますと,そこは類推解釈ということにはなろうかと思います。ただ,遺贈の場合には,遺言執行者がいないと相続人がその義務を履行するということになりますので,相続人に本当に払戻し権限まで認めていいのかという問題は別途生じるように思います。したがって,そこは,最終的には解釈ということにならざるを得ないとは思いますが,少なくとも現行法と比べて,払戻しが認められにくくなるということにはならないのではないかとは考えております。
  それから,最後の御質問ですが,遺言執行者Bに払戻し権限を与えるということが書かれていれば,Bには払戻し権限があるということになると考えております。この点につきましては,飽くまで特定遺贈というのは法律行為で,遺贈義務の内容については遺言者の意思に従うということになりますので,遺言者がそういう意思を示している場合には,それによるということになろうかと思いますので,この点については,疑義はないのではないかと考えております。
  御説明は以上でございます。
○大村部会長 藤原委員,よろしいですか。
○藤原委員 はい,ありがとうございます。
  できますれば,今御回答いただいたことについて,今後御執筆されるであろう解説等でお示しいただければ,幸いでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,第2,第3につきましても,特に御意見はなかったということで,先に進ませていただきたいと存じます。
  第4になりますけれども,「遺留分制度に関する見直し」という部分につきまして,事務当局からの御説明をお願いいたします。
○神吉関係官 それでは,「第4 遺留分制度に関する見直し」につきまして,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。
  第4の「遺留分制度に関する見直し」につきましては,1点変更がございます。
  部会資料26-2の7ページを御覧ください。
  具体的には,今回の部会資料におきましては,1(3)の規律を修正しております。すなわち,これまでの案におきましては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者の利益に配慮する観点から,受遺者又は受贈者の請求により,遺贈又は贈与の目的である財産のうち,その指定する財産により給付する制度を設け,その請求がされた時に,指定財産の価額の限度で金銭債務が消滅するとともに,指定財産に関する権利移転が生じることとし,また,不要な財産の押し付けにならないよう,遺留分権利者による指定財産の放棄を認めることとしておりました。
  もっとも,この規律につきましては,当部会におきましても,受遺者又は受贈者が不要な財産を押し付ける懸念がなお存在するとして慎重な検討を求める意見もあったことから,要綱案の策定に当たって再度慎重に検討を行ったところ,まず,この規律につきましては,特に③の指定財産の放棄の制度が他に類を見ない特殊な制度でありまして,③のような規律を設けると,遺留分権利者の権利を現行法より相当に弱めることになり,放棄がされることを狙って,現物給付の意思表示をするといった濫用的な運用がされるおそれがあるのではないかと考えられます。
  他方,指定財産の放棄の規律のみを削除することにつきましては,当部会におきましても,受遺者又は受贈者が遺留分権利者にとって現に不要な財産を指定し,それが権利の濫用とはいえないような場合に,遺留分権利者において,その管理の負担のみが課せられることになって不当であるとの指摘が複数の委員からされてきたところであります。
  このように,③のような規律を設けますと,一方で,受遺者等の濫用を誘発するおそれが相当程度存在するにもかかわらず,他方で,このような規律を設けなければ,かえって遺留分権利者の利益に反するおそれがあるというジレンマが生じることになりますが,そのこと自体,この規律に法制上の問題があることを示すものといえることができるように思われます。
  そこで,この間,別案を含めて検討を行いましたが,まず,指定財産の権利の放棄があった場合には,金銭債務が復活するとの規律につきましては,単に受遺者又は受贈者が指定する財産を受領することについて,遺留分権利者が同意をしなければ,金銭債務が消滅しないということにほかならず,当事者が合意によって金銭債務の支払に代えて別の物で給付することができるという代物弁済とほぼその効果が異なることがなく,あえて制度を新設する理由に乏しいものと考えられます。
  次に,不要な財産の押し付けを回避しつつ,最終的には遺留分権利者の意思にかかわらず現物給付を実現するため,現物給付の申出をするか否かは受遺者等の判断に委ねることとした上で,受遺者等が現物給付の申出をした場合には,指定財産の範囲について一定の制限を設けることを前提として,第一次的な指定権を遺留分権利者に認め,遺留分権利者がその指定権を十全に行使しなかった場合には,その指定権が受遺者等に移転するといった制度を設けることも考えられます。しかし,これにつきましては,かなり複雑な制度となる上,例えば,遺贈の対象財産の中に受遺者等の生活の基盤となっている財産,例えば居住用不動産や事業用財産などが含まれている場合につきましては,受遺者等が現物給付の申出を事実上できないということになりまして,金銭の調達に困難が生ずる可能性があるといえ,このような案を採用することも困難といえるかと思います。
  現物給付の制度につきましては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が,直ちには金銭を準備することができず不利益を被る可能性があるため,これらの者の利益に配慮したものであったところ,その利益に配慮する必要性自体はなお否定されないものと考えられます。そこで,借地借家法13条2項や民法196条2項などの先例を参考といたしまして,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者の請求により,裁判所が金銭債務の全部又は一部の支払につき,期限の許与を付与することができることとしたものでございます。その余の点につきましては,字句等の修正を施した箇所はありますが,実質的な変更点はございません。
  以上につき,御審議のほどよろしくお願いしたいと思います。
  なお,本日は御欠席ではありますが,潮見委員からこの1(3)の規律につきまして,以下のようなメッセージが寄せられておりまして,事務当局において読み上げさせるよう御指示を頂いておりますので,私において読み上げさせていただきます。
 「私は,これまで本部会発足後の第1ステージから,第3ステージまで,自らの意見として,遺留分権利者の有する請求権を金銭請求権に一本化すべきである旨の主張を続けてまいりました。追加試案を経た昨年後半の部会会議でも,同様の主張をしました。理論的にも,実務的にも,この考え方を採用するのが適切であると考えていたからです。
  そのような中で,今回,最終段階での議論と検討を経て示された要綱案では,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者において,直ちに金銭を準備できない場合に生ずる不都合に対応するため,現物給付の規律ではなく,裁判所の判断による期限の許与を付する制度が採用されました。これにより,金銭請求権の一本化構成に対して当初より指摘されていた懸念は,基本的に解消されるのではないかと思います。
  以上のように考え,私としては,遺留分に関する今回の案に対して,全面的に賛成したいと思います。」
  以上が潮見委員のメッセージとなります。
  そのほか,委員,幹事の皆様からも御意見を頂戴できればと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  遺留分権利者の権利の取扱いにつきましては,金銭請求権にするというのを原則としつつ,現物給付をどう扱うかということにつきまして,部会の中では長く議論を重ねてきたところでございます。従来,一定の調整案に落ち着いていたわけですけれども,それを改めて見直すとなお問題があるのではないかということで,今回新たな提案がされたと理解をしております。そのプロセスの中で,幾つか別の考え方も御検討いただいたところでございますけれども,最終的にはここでお示ししている案でいかがかということで,今日御説明を頂いたと受け止めております。
  この点につきまして,皆様の方から御意見を頂ければと思います。
○上西委員 指定する財産により給付する制度が従前において検討されていたところ,それについて懸念を申し述べたことがございました。
  従前の案は,受遺者又は受贈者が遺留分権利者に対して指定する財産を給付することを請求することができるというものでした。このときは,当初の1年間の請求期間が設けられていたかと思います。その後,遺留分権利者は,その請求を受けたときから3か月内に放棄する旨の意思表示をすることができるという骨子でした。まず,時間を要するということに加えて,常に評価が伴うわけです。しかも,評価しづらい物件であったり,その物件が遠方の場所にあることもあるわけです。そして,評価が伴うということは,その評価額の金額について,また争いが生じる危険性があることから,懸念を申し述べていました。今回の案は,金銭債権に一元化・一本化され,簡素な制度になることから,歓迎したいと考えております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかいかがでございましょうか。
○増田委員 私も,金銭債権一本というのは以前から述べてきたとおりでありまして,基本的に賛成いたします。
  ただ,期限の許与につきまして,幾つか質問したいと思います。
  まず,一つ目ですが,この期限の許与がされる場合というのは,どのような場合を想定されたのかという質問です。これは,単なる手元不如意ではなくて,恐らくは金銭を手元に準備することができないことに何らかの客観的に相当な理由がある場合が考えられているのではないかと思うので,質問する次第です。
  それから,二つ目ですが,恐らくは,住居だとか事業の基本財産などを処分しなければ調達ができないような場合が,典型例として考えられるのではないかと思いますが,条文化の際にはそのようなものを例示することが考えられないかどうかということです。条文上に全く要件がなく白紙ですと,どういう場合にどういうことを主張,立証していいのかもよく分からないわけで,確かドイツ民法などでは例示があると思いますので,それが考えられないかということです。
  三つ目ですが,仮に期限を許与すると裁判所が判断し,かつ,その期限が口頭弁論終結後に到来すると考えた場合,判決主文はどのようになるのかということです。訴えの変更がないことを前提にお答えいただきたいと思います。
○神吉関係官 それでは,事務当局の方から御回答させていただきます。
  3点御質問を頂きまして,順に御回答させていただきます。まず1点目の期限の許与について,どのような場合を想定したものなのかということでございますが,この点につきましては,部会資料26-2の7ページにも説明を加えてありますとおり,この第4の1(3)の規律につきましては,遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者におきまして,直ちに金銭を準備できない場合の不都合を解消する場合の規律でございますから,主に受遺者又は受贈者の資力や,贈与又は遺贈された財産などを考慮して,その請求を受けた受遺者又は受贈者において,直ちに当該金銭請求に対して弁済することができない場合,そういった場合を想定した規律ということでございます。
  2点目に,期限の許与についての基準というものを,条文化の際に例示することが考えられないのかということで,なぜ第4の1の(3)の規律につきましてはそういった基準を明示していないのかと,そのような御質問と受け止めております。この点につきましては,御指摘のとおり第4の1の(3)につきましては,裁判所が期限を許与するかどうかについての具体的な判断基準は明示していないのですが,これは,期限を許与するかどうかの判断につきましては様々な事例が想定されるため,一義的にその考慮要素を書き切るというのがなかなか難しいのではないかということで,期限の許与を付するかどうかは裁判所の裁量に委ねると,そういった趣旨でございます。
  もっとも,第4の1の(3)の規律につきましては,遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者において,直ちにその資金を調達することができない場合に生ずる不都合を解消するための規律でございますから,実際の裁判におきましては,受遺者又は受贈者の資力や,遺贈や贈与の目的財産等を売却するなどして資金を調達するのに要する通常の期間,そういったものが典型的には考慮される事情となるのではないかと思われます。
  3点目が,期限を許与した結果口頭弁論終結後に期限が到来する場合の判決主文はどうなるのかという御質問をいただきました。この点につきましては,裁判所が期限を許与した場合,当該期限を許与した債務の全部又は一部につきましては弁済期が到来をしていないことになりますので,裁判所としては,遺留分権利者の請求をそのまま認容することはできないということになるかと思います。
  もっとも,遺留分権利者の無条件の給付請求に対して,裁判所が期限付きの判決をすることにつきましては,その期限が受遺者等の資金調達に要するまでの間であり,通常長期間先にはならないと,そういったことを考えますと,通常は,将来給付の要件も満たし,期限付きの一部認容判決をするということを許容するというのが,現在の多数説ではないかと考えられます。また,最高裁の平成23年3月1日判決,これは再生計画におきまして弁済期が変更されたと,そういった事案でありますが,この判示内容からいたしますと,遺留分権利者の請求には,通常裁判所が期限を許与した場合には,その期限到来時の給付を求める請求も包含されていると,そのように解することもできるのではないかと考えているところでございます。
  そういたしますと,遺留分権利者の給付請求に対しまして,裁判所が期限の許与を付した場合につきましては,一般に期限付きの判決をすることができると考えられ,例えば,裁判所が,遺留分の額が500万円で,平成32年4月まで期限を許与するとの判断をした場合につきましては,「被告は,原告に対し,平成32年4月1日が到来したときは,500万円及びこれに対する平成32年4月2日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。原告のその余の請求を棄却する。」といった判決になるのではないかと思われます。
  以上3点,御回答させていただきました。
○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 今の御回答への質問,確認だけでございます。
  期限の許与は,そうすると,利息がかからず,そこから先に初めて利息がかかるという設定でお考えになるのでしょうか。それとも,期限を許与していながら,その期限の間から利息が付くということもあり得るのでしょうか。
○神吉関係官 遅延損害金につきましては,裁判所が付与した期限が到来した後に遅延損害金が発生する,それまでの間は遅延損害金は発生しないと考えているところではございます。
○大村部会長 水野委員,何かございますか。
○水野(紀)委員 いえ。誠実に遺留分弁済請求権の債務を支払おうと思うためには,利息が付く必要がある場合もあるかという気がしたものですから。
○神吉関係官 ただ,裁判所の判断によって弁済期が変更されるということですので,弁済期が到来するまでの間は,遅延損害金は付かないということでよろしいのではないかなと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○垣内幹事 期限許与の手続に関してなんですけれども,部会資料では,裁判所が期限を許与することができるということが書かれているわけですが,実際には,裁判所が何らかの裁判をすることによって許与するということかと思われますけれども,これについては,基本的には何か形成の訴えのようなものを想定すればいいということでよろしいのでしょうか。その点,御理解を確認させていただきたいと思います。
○神吉関係官 お答えさせていただきます。
  まず,遺留分権利者と受遺者との間で金銭債務の額については争いがなく,遺留分権利者が金銭請求訴訟を提起しないと,ただ期限の許与のみを求めていると,そういったケースにつきましては,受遺者が遺留分権利者を相手方として訴訟を提起して,期限の許与のみを求めることができると,これはいわゆる形成の訴えになるかと思います。
  次に,遺留分権利者がその金銭請求訴訟を提起している場合におきまして,受遺者等がその期限の許与を求める場合に,抗弁として主張すれば足りるのか,それとも別訴又は反訴の提起が必要なのかという問題があろうかと思います。この点につきましては,これは同様の制度が現行法上に,民法196条2項ただし書や借地借家法13条2項などがございますので,これらの制度においてどのように考えられてきたのかということを考えれば,おのずから結論が出てくるのではないかと思われます。この点,裁判例としては必ずしも多くはありませんでして,当事者の期限の許与の請求を抗弁として位置付けている例もある一方で,独立の訴えの提起が必要であると判示している例もございまして,必ずしも解釈が固まってはいないのではないかとは思いますが,期限の許与を独立の訴訟物と考える必要があるのであれば,抗弁としてではなく,別訴又は反訴としての訴えが必要だと,独立の訴訟を提起しなければならないという結論になるのではないかと思います。
  もっとも,当事者が抗弁として主張していたところも,実は裁判所が,やはり独立の訴えが必要であると判断した場合につきましては,適切な訴訟指揮の行使などによりまして,当事者に別訴又は反訴の提起を促すと,そういった運用も考えられるのではないかなと思っているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○垣内幹事 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
○西幹事 すみません,細かいことで大変恐縮なのですが,しかも,今頃気が付いて大変申し訳ないのですけれども,資料の補足説明の8ページの下から4行目から6行目にかけて,ドイツ法では,2009年に支払猶予可能とする法改正が行われたと書かれていますが,2009年以前からこの制度はあったように,私,記憶しております。2009年で範囲が広がったというのは事実ですけれども,制度自体は,それ以前からあったように思いますので,御確認いただけないでしょうか。
  ドイツ法以外にも,例えば,フランス法にもある制度です。
○神吉関係官 分かりました。諸外国の例については改めて調査をしておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
○上西委員 部会資料16ページの「2 遺留分算定方法の見直し」のところ,少し教えてください。
  (1)のアで,「民法第1030条に次の規律を加えるものとする」として,「相続人に対する贈与は,相続開始前の10年間にされたものに限り,その価額を,遺留分を算定するための財産の価額に算入する」とあります。これを付け加えるのは,1030条の前段部分ですね。その結果,(注1)のようになるという考え方でよろしいでしょうか。
  そうしますと,(注1)の最後に「原則として算入する」とあります。現行の条文には「原則」という文言はなく,ここで「原則」というのを入れられたのはなぜかなというのが,質問でございます。
○神吉関係官 お答えいたします。
  御指摘のとおり,(1)のアの規律を採用すると,結局は(注1)のようになるというのは,御指摘のとおりでございます。また,「原則として」と入れた理由につきましては,(注2)で民法第1030条の後段の規律は維持をするということで,害意がある場合につきましては,1年前,それから10年前の日より前にされたものも含まれるということになりますので,こういった場合は別であるということを示すために,「原則として」と記載させていただいた次第です。
○上西委員 前段部分を原則と考えて,害意がある場合は後段の部分になるので,「原則」を説明的に入れたということですね。
○神吉関係官 はい,そのとおりでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかいかがでございましょうか。
○西幹事 期限の許与は,裁判所がということになっていますけれども,合意による期限の許与,支払期日の設定というのは認めないという趣旨でしょうか。
○神吉関係官 当然当事者の合意によって弁済期を変更するということは,それは特段排除する必要もないかと思います。
○西幹事 フランス法のようにそれを書く必要はないということですか。
○神吉関係官 当事者の合意によって弁済期を変更するということであれば,当然できてしかるべき話かと思いますので,あえて法文で書く必要はないのかなと思っているところでございます。
○大村部会長 そのほかにいかがでございましょうか。
  よろしいでしょうか。
  期限の許与につき,実際の運用をどうするのかということにつきまして,幾つかの御質問を頂きましたけれども,今回の提案の基本的な方針については御異論はなかったと受け止めております。御提案のとおりとするということで,取りまとめさせていただきたいと存じます。
  それでは,次に進ませていただきますが,第5の遺言制度に関する見直しにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○満田関係官 それでは,第5について説明をさせていただきます。
  まず,第5の1の関係ですが,前回の部会資料から,1(2)については変更をしておりますので,この点について説明させていただきます。
  前回の部会資料におきましては,1(2)の受益相続人の単独通知の方法につきまして,遺言書等の書面の交付を必須の要件としておりましたが,この点については,他の相続人のプライバシー保護等の観点から問題があるのではないかとの指摘を頂きましたので,遺言書等の交付を必須の要件とまではせず,債務者において,客観的に遺言の内容を判断することができる方法による通知によっても,対抗要件具備を認めることとするため,遺言の内容を明らかにして通知をしなければならないと,その内容を変更しております。
  なお,ここでいう「遺言の内容を明らかにして」といいますのは,この規定が対抗要件を定める規定であることからしますと,客観的にその遺言の内容を明らかにする必要があるものと考えておりますので,具体的には,単に遺言の内容を通知するというだけでは足りず,例えば,受益相続人が遺言書の原本を提示し,債務者の求めに応じて,債権の承継の記載部分についての写し等を交付するというような方法をもって通知するということを想定しておるところでございます。
  2及び3につきましては,字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はございません。
  説明については以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第5につきましては,1の(2)につき,従前は遺言書等の書面の交付が求められておりましたけれども,それを,「遺言の内容を明らかにして」と改めたということで,その内容を明らかにするということの具体的な意味につき,御説明があったところでございます。
  この点につきまして,何か御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。
○藤原委員 今の第5の1の(2)の今回の変更点につきましては,金融機関といたしましては,以前申し上げたとおり,対抗要件の観点での遺言書等の原本の交付には特にこだわるものではありませんので,今回の変更そのものについては特段の意見はございません。
  ただ,ちょっと実務の観点から,今後の誤解を生まないために,1点だけ御確認をさせていただければと思っております。
  金融機関としては,対抗要件具備の観点とは別に,そもそも預金債権の債務者として,債権者を正確に特定,把握する必要があると。そういった趣旨から,遺言書等の原本のまず全部を提示していただいて,預金債権の債権者の特定に必要な箇所についてコピーをとらせていただくというような実務が一般的でございます。
  今回,この実務につきましては,補足説明の方に,遺言の内容を明らかにする方法の例として,受益相続人が遺言の原本を提示し,債務者の求めに応じて債権の承継の記載部分について写しを交付する方法というのを記載していただいておりますので,誤解はないとは思うんですけれども,実際に条文化されたときに,書面の交付が要件から外れるということによって,相続手続に当たって,相続人等が金融機関に対して遺言書等の原本を一切見せる必要がないといったような誤ったメッセージを与えてしまうのではないかということだけが,やや危惧されますので,この遺言等の内容を明らかにするというからには,遺言書等の客観的な資料をきちんと示す必要があって,それが示されないうちは,金融機関が払戻しに応じなくても債務不履行にはならないということについて,改めてこの場で御確認をさせていただくとともに,今後出されるであろう解説においても,それを記載していただければと思っております。
○堂薗幹事 ただ今の点につきましては,藤原委員の御指摘のとおりと考えておりまして,基本的には,債務者の方で明らかに債権の承継があったということが分かる資料を提示していただく必要があるものと考えております。その点を明らかにする趣旨で,「遺言の内容を明らかにして」という表現にしたものでございまして,その点は,基本的には,従前の考え方から変更はないという整理です。ただ,従前の考え方のように,遺言書の原本そのものを交付しなければ対抗要件を具備したことにならないという厳格な解釈がされないように,若干表現振りを修正させていただいたという趣旨でございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○藤原委員 ありがとうございます。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
  御発言ございませんでしょうか。
  それでは,この第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」につきましても,特段御異論はなかったということで,先に進ませていただきたいと存じます。
  最後になりますけれども,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」,この点につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。
○秋田関係官 関係官の秋田より御説明いたします。
  第6については,2点の変更を新たに加えております。
  1点目の修正点としましては,従前の部会資料における1のただし書前段にありました規律を削除し,これに代わり,1の本文に「無償で」との文言を加えております。これは,従前,特別寄与者が対価を得ていないことという要件をただし書において表現してきましたが,本文において請求権発生の要件として示したほうが,国民にとってより分かりやすく,またそのように表記することに特段の弊害もない,このように考えられたことから,表現に修正を加えたものでございます。したがって,規律の実質的内容に変更を加える趣旨ではございません。
  2点目の修正点としましては,従前の部会資料における1のただし書後段の被相続人が反対の意思を表示したときは,この限りではないとの規律を削除しています。
  前回の部会の議論におきまして,請求権者の範囲が被相続人の親族と定められ,従前より広がったことに伴いまして,本方策の制度趣旨としては,被相続人の推定的意思よりも,実質的公平を図るという色彩がより強くなったものと考えられました。そこで,規律を改めて検討しましたところ,従前の1のただし書後段の規律は,被相続人の一存をもって特別の寄与をして,被相続人の財産の維持又は増加に貢献した者の請求を否定することを認めるというものであり,場合によっては,この規律が実質的公平という方策の制度趣旨に反する場面もあると考えられました。
  また,この方策は,実質的には寄与分の主張権者を拡大することを意図するものですが,現行法の寄与分に関する規律におきましても,今までの1のただし書後段に相当する記述は設けられておりませんので,この方策におきましても同様の整理をすることには,一定の合理性があると考えられました。
  これらの点を考慮して,今回の御提案では,1のただし書前段,後段とも削除することとしております。
  御説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ただ今御説明いただきましたけれども,1のただし書というのが従前ございましたが,その前段,後段,それぞれ違う理由で,削除するという御提案でございます。いかがでございましょうか。
  御発言ございませんでしょうか。
  よろしいでしょうか。
  それでは,この「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,ただ今御説明があったような理由によってただし書を削除し,表現に一定の修正を加えたという形でまとめさせていただきたいと存じます。よろしいでしょうか。
  ありがとうございます。
  これで,第1から第6まで御意見を頂いたということになります。この部会における審議結果といたしまして,民法(相続関係)の改正に関する要綱案につきまして,本日の部会資料26-1の内容で取りまとめるということにしたいと思いますが,いかがでございましょうか。
  ありがとうございます。
  御異論がないようですので,民法(相続関係)部会といたしまして,全員一致をもって部会資料26-1の内容で要綱案を決定したということにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
  この要綱案につきましては,今後,法制審議会総会に報告をすることになります。それまでの間に誤字等の修正,その他実質的な内容の変更にはわたらない細かい表現,あるいは字句等の修正がなおあり得るかと思いますが,そのような意味での形式的な修正につきましては,部会長と事務当局に御一任を頂きたいと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございました。それでは,今の点につきましては,そのような取扱いにさせていただきたいと思います。
  では,今後の予定につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。
○堂薗幹事 どうもありがとうございました。
  本日の会議で御決定いただきました要綱案を報告する法制審議会の総会は,今年の2月中旬に開催される予定でございます。この総会におきましては,大村部会長の方から要綱案の内容について御報告をしていただいた後に,総会の委員の皆様に御審議を頂くということになります。総会における御審議の結果,要綱の決定がされますと,直ちに法務大臣に答申がされるという運びになる予定でございます。
  なお,この民法(相続関係)部会で御決定いただきました要綱案につきましては,いずれも必要な点検作業などを行った後,速やかに法務省ウエブサイトで公表したいと考えております。この点は,総会において要綱の決定がされた場合も同様でございます。
  私からの説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  以上で,この部会の議事を終えることができましたので,最後に事務当局を代表いたしまして,民事局長の小野瀬委員に御挨拶をお願いしたいと思います。
○小野瀬委員 それでは,一言御挨拶申し上げます。
  本日は,部会としての要綱案の取りまとめをしていただきまして,誠にありがとうございました。事務当局を代表いたしまして,委員,幹事の皆様のこれまでの御尽力,御協力に心から感謝を申し上げます。
  この部会では,高齢化社会が進展し,また家族をめぐる価値観が多様化するという社会経済情勢の変化を踏まえて,民事基本法である民法のうち,相続法の分野について,昭和55年以来の抜本的な見直しを行うという困難なテーマに取り組んでいただきました。
  このため,平成27年2月の諮問を受けてこの部会が設置されて以来約3年間,合計26回の部会を開催させていただき,毎回長時間にわたり,大変熱心に御議論を重ねていただきました。この間,委員,幹事の皆様からは,現行の実務において問題となっている点等について,積極的に問題提起や改正提案をしていただき,その結果として,本日お取りまとめいただいた要綱案における改正項目はかなり多岐にわたるものとなりました。そのため,部会における審議期間も当初予定したものより長期間を要することとなりましたけれども,委員,幹事の皆様におかれましては,それぞれ大変御多忙である中にもかかわらず,部会の審議に御尽力,御協力を賜りまして,本当にありがとうございました。
  また,この部会の取りまとめ役を担っていただきました大村部会長におかれましては,その卓越した御見識と周到な心配りによりまして,適切な議事の運営に当たっていただきました。審議の過程では,議論も白熱することが多くあったように思いますけれども,そのような場合でも,適切に論点を整理され,問題の所在を明確にした上で議論を進めていただいた結果,本日要綱案の決定に至ることができたものと考えております。心より厚く御礼申し上げます。
  この間の議論におきましては,最終的に要綱案に盛り込まれなかった論点も含め,様々な案が検討されてきましたけれども,この部会において展開されてきました議論は,この要綱案が法律として結実した後の実務の発展にも大いに寄与するものと確信しております。
  今後は,先ほど堂薗から御説明いたしましたとおり,来月中旬に開催予定の法制審議会総会への報告と要綱の決定,法務大臣への答申というスケジュールが予定されております。私ども事務当局におきましては,その後,関係法案をできる限り速やかに国会に提出するとともに,早期の成立を目指してまいりたいと考えております。もっとも,今度の通常国会では,民事局関係の法案だけを見ましても,多数の法案の提出が予定されておりまして,審議日程もかなりタイトになりますので,この法案の成立までには,なお紆余曲折があるのではないかと認識しております。皆様方には,是非引き続いての御支援,御協力を賜りますよう,どうかよろしくお願い申し上げます。
  委員,幹事の皆様,関係者の皆様,本当にありがとうございました。
○大村部会長 続きまして,私からも一言御挨拶をさせていただきたいと存じます。
  ただ今の小野瀬委員のお話にもありましたように,本部会は,2015年4月に第1回会議を開催いたしまして,本日まで3年近くにわたりまして,合計26回の会議を重ねてまいりました。
  これもお話がございましたけれども,本部会で審議の対象といたしました民法の相続法部分は,1980年の改正によって,配偶者相続分の引上げ等が図られて以来,改正がなされるということがございませんでした。今回,被相続人の財産形成等に貢献した配偶者等の保護という観点からの見直しが行われ,短期,長期の居住権が導入される等の改正案が取りまとめられました。
  また,遺言の方式,保管,そして遺留分,あるいは遺言執行者の権限など,遺言による相続のウエートが増してきたことに伴う諸問題につきましても,社会の変化に対応した改正案が得られたと思います。さらに,仮払いなど,遺産分割に関わる重要問題についても,一定の解決を与えることができたのではないかと思います。
  相続法は,理論,実務の双方に様々な難問を抱える領域であるため,審議が難航したこともございましたが,それにもかかわらず,無事に要綱案の取りまとめができましたのは,事務当局の周到な準備,とりわけ委員,幹事,関係官の皆様の熱心な御議論のたまものであります。
  相続は,全ての国民にとって重大な関心事であります。それゆえに,相続法改正に対する国民の関心は非常に大きいものと思われます。補足説明はもちろんでございますけれども,様々な形で要綱案の内容の周知を図っていくということが重要であろうと考えております。この点は,委員,幹事,関係官の皆様も恐らく同様にお考えのことと思いますので,この場を借りまして,事務当局にお願い申し上げるとともに,皆様にも御助力をお願いする次第でございます。
  最後になりますが,委員,幹事,関係官の皆様に改めて御礼を申し上げまして,私の御挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。
  それでは,以上をもちまして,法制審議会民法(相続関係)部会の審議を終えることとさせていただきます。どうもありがとうございました。
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1 民法(相続関係)部会 資料 26-1 民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(案) 第1 配偶者の居住権を保護するための方策 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策として,次のような規律を設 けるものとする。 ⑴ 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 の規律 ア 配偶者短期居住権の内容及び成立要件 配偶者は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住し ていた場合において,その居住していた建物(以下1において「居住建物」 という。)について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべきときは, 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か 月を経過する日のいずれか遅い日までの間,居住建物の所有権を相続によ り取得した者に対し,居住建物について無償で使用する権利(注1。居住 建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては,その部分について 無償で使用する権利。以下「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただ し,配偶者が相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権(後記2) を取得したときは,この限りでない。 イ 配偶者短期居住権の効力 (ア) 配偶者による使用 a 配偶者は,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって,居住 建物の使用をしなければならない。 b 配偶者短期居住権は,譲渡することができない。 c 配偶者は,他の全ての相続人の承諾を得なければ,第三者に居住建 2 物の使用をさせることができない。 (イ) 居住建物の修繕等 a 配偶者は,居住建物の使用に必要な修繕をすることができる。 b 居住建物の修繕が必要である場合において,配偶者が相当の期間内 に必要な修繕をしないときは,他の相続人は,その修繕をすることが できる。 c 居住建物が修繕を要するとき(aの規律により配偶者が自らその修 繕をするときを除く。),又は居住建物について権利を主張する者があ るときは,配偶者は,他の相続人に対し,遅滞なくその旨を通知しな ければならない。ただし,他の相続人が既にこれを知っているときは, この限りでない。 (ウ) 居住建物の費用の負担 a 配偶者は,居住建物の通常の必要費を負担する。 b 配偶者が居住建物について通常の必要費以外の費用を支出したとき は,各共同相続人は,民法第196条の規定に従い,その相続分に応 じて,その償還をしなければならない。ただし,有益費については, 裁判所は,他の相続人の請求により,その償還について相当の期限を 許与することができる。 ウ 配偶者短期居住権の消滅 (ア) 配偶者がイ(ア)a又はcの規律に違反したときは,他の相続人は,当該 配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることが できる。 (イ) 配偶者短期居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が死 亡したとき(注2)又は配偶者が配偶者居住権を取得したときは,消滅 する。 (ウ) 配偶者は,配偶者短期居住権が消滅したとき(配偶者が配偶者居住権 を取得したときを除く。)は,居住建物の返還をしなければならない。た だし,配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は,他の相続人 3 は,配偶者短期居住権が消滅したことを理由として居住建物の返還を求 めることができない。 (エ) 配偶者は,(ウ)本文の規律により居住建物の返還をするときは,相続開 始の後に居住建物に生じた損傷(通常の使用によって生じた損耗及び経 年変化を除く。)を原状に復する義務を負う。ただし,その損傷が配偶者 の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限り でない。 (オ) 配偶者は,(ウ)本文の規律により居住建物の返還をするときは,相続開 始の後に居住建物に附属させた物を収去する義務を負う。ただし,居住 建物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要す る物については,この限りでない。 (カ) 配偶者は,(ウ)本文の規律により居住建物の返還をするときは,相続開 始の後に居住建物に附属させた物を収去することができる。 (キ) イ(ア)a又はcの規律に違反する使用によって生じた損害の賠償及び 配偶者が支出した費用の償還は,居住建物が返還された時から1年以内 に請求しなければならない。 (ク) (キ)の損害賠償の請求権については,居住建物が返還された時から1年 を経過するまでの間は,時効は,完成しない。 ⑵ ⑴以外の場合の規律 ア 配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住して いた場合において,⑴以外のときは,配偶者は,居住建物の所有権を相続 又は遺贈により取得した者が後記イの申入れをした日から6か月を経過す る日までの間,その者に対し,配偶者短期居住権を有する。ただし,配偶 者が,相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき, 又は欠格事由に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは, この限りでない。 イ 居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者は,いつでも配偶者 短期居住権の消滅の申入れをすることができる。 4 ウ 配偶者短期居住権の存続期間以外の規律は,⑴に同じ(注3)。 (注1)配偶者短期居住権によって受けた利益については,配偶者の具体的相続分から その価額を控除することを要しない。 (注2)配偶者の死亡により配偶者短期居住権が消滅した場合には,配偶者の相続人が 配偶者の義務を相続することになる。 (注3)⑴において他の相続人が負担することとされている必要費又は有益費の負担者 や配偶者短期居住権の消滅請求権等の主体は,居住建物の所有権を有する者となる。 2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策として,次のような規律を設 けるものとする。 ⑴ 配偶者居住権の内容,成立要件等 ア 配偶者は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた 場合において,次のいずれかに掲げるときは,その居住していた建物(以 下2において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益 をする権利(以下「配偶者居住権」という。)を取得する(注1)。ただし, 被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場 合にあっては,この限りでない。 (ア) 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。 (イ) 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。 (ウ) 被相続人と配偶者との間に,配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の 死因贈与契約があるとき。 イ 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,次に掲げる場合に限り,ア(ア) の審判をすることができる。 (ア) 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意 が成立しているとき。 (イ) 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申 し出た場合において,居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮し 5 てもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき。 ウ 配偶者居住権の存続期間は,配偶者の終身の間とする。ただし,遺産の 分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき,又は家庭裁判所が遺産 の分割の審判において別段の定めをしたときは,その定めるところによる。 エ 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても,他の者 がその共有持分を有するときは,配偶者居住権は,消滅しない。 ⑵ 配偶者居住権の効力 ア 登記請求権 居住建物の所有者は,配偶者に対し,配偶者居住権の設定の登記を備え させる義務を負う。 イ 第三者対抗要件 配偶者居住権は,これを登記したときは,居住建物について物権を取得 した者その他の第三者に対抗することができる。 ウ 妨害の停止の請求等 配偶者は,イの登記を備えた場合において,次に掲げるときは,それぞ れ次に定める請求をすることができる。 (ア) 居住建物の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する 妨害の停止の請求 (イ) 居住建物を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の 請求 エ 配偶者による使用及び収益 (ア) 配偶者は,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって,居住建 物の使用及び収益をしなければならない。ただし,従前居住の用に供し ていなかった部分について,これを居住の用に供することを妨げない。 (イ) 配偶者居住権は,譲渡することができない。 (ウ) 配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ,居住建物の改築若 しくは増築をし,又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせるこ とができない。 6 オ 第三者による適法な居住建物の使用又は収益 (ア) 配偶者が適法に第三者に居住建物の使用又は収益をさせているとき は,その第三者は,配偶者が居住建物の所有者に対して負っている債務 の範囲を限度として,居住建物の所有者に対し,配偶者とその第三者と の契約に基づく債務を直接履行する義務を負う。 (イ) (ア)の規定は,居住建物の所有者が配偶者に対してその権利を行使す ることを妨げない。 (ウ) 配偶者が適法に第三者に居住建物の使用又は収益をさせていた場合 には,居住建物の所有者は,配偶者居住権を合意により消滅させたこと をもってその第三者に対抗することができない。ただし,配偶者居住権 を消滅させた時に,居住建物の所有者が後記⑶アによって配偶者居住権 を消滅させることができたときは,この限りでない。 カ 居住建物の修繕等 (ア) 配偶者は,居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。 (イ) 居住建物の修繕が必要である場合において,配偶者が相当の期間内に 必要な修繕をしないときは,居住建物の所有者は,その修繕をすること ができる。 (ウ) 居住建物が修繕を要するとき((ア)の規律により配偶者が自らその修 繕をするときを除く。),又は居住建物について権利を主張する者がある ときは,配偶者は,居住建物の所有者に対し,遅滞なくその旨を通知し なければならない。ただし,居住建物の所有者が既にこれを知っている ときは,この限りでない。 キ 居住建物の費用の負担 (ア) 配偶者は,居住建物の通常の必要費を負担する。 (イ) 配偶者が居住建物について通常の必要費以外の費用を支出したとき は,居住建物の所有者は,民法第196条の規定に従い,その償還をし なければならない。ただし,有益費については,裁判所は,居住建物の 所有者の請求により,その償還について相当の期限を許与することがで 7 きる。 ⑶ 配偶者居住権の消滅 ア 配偶者が⑵エ(ア)又は(ウ)の規律に違反した場合において,居住建物の所 有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし,その期間内に是正がされ ないときは,居住建物の所有者は,当該配偶者に対する意思表示によって 配偶者居住権を消滅させることができる。 イ 配偶者居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が死亡した ときは,消滅する(注2)。 ウ 配偶者は,配偶者居住権が消滅したときは,居住建物の返還をしなけれ ばならない。ただし,配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は, 居住建物の所有者は,配偶者居住権が消滅したことを理由として居住建物 の返還を求めることができない。 エ 配偶者は,ウ本文の規律により居住建物を返還するときは,相続開始の 後に居住建物に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた損耗並び に経年変化を除く。)を原状に復する義務を負う。ただし,その損傷が配偶 者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限り でない。 オ 配偶者は,ウ本文の規律により居住建物を返還するときは,相続開始の 後に居住建物に附属させた物を収去する義務を負う。ただし,居住建物か ら分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物につ いては,この限りでない。 カ 配偶者は,ウ本文の規律により居住建物を返還するときは,相続開始の 後に居住建物に附属させた物を収去することができる。 キ ⑵エ(ア)又は(ウ)の規律に違反する使用又は収益によって生じた損害の賠 償及び配偶者が支出した費用の償還は,居住建物が返還された時から1年 以内に請求しなければならない。 ク キの損害賠償の請求権については,居住建物が返還された時から1年を 経過するまでの間は,時効は,完成しない。 8 (注1)配偶者が配偶者居住権を取得した場合には,その財産的価値に相当する価額を 相続したものと扱う。 (注2)配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅した場合には,配偶者の相続人が配偶 者の義務を相続することになる。 9 第2 遺産分割に関する見直し等 1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定) 民法第903条に次の規律を付け加えるものとする。 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,そ の居住の用に供する建物又はその敷地(第1・2に規定する配偶者居住権を含 む。)について遺贈又は贈与をしたときは,民法第903条第3項の持戻し免除 の意思表示があったものと推定する。 2 仮払い制度等の創設・要件明確化 ⑴ 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策 家事事件手続法第200条に次の規律を付け加えるものとする。 家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において, 相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺 産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要が あると認めるときは,その申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の 全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし,他の共同相 続人の利益を害するときは,この限りでない。 ⑵ 家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策 共同相続された預貯金債権の権利行使について,次のような規律を設ける ものとする。 各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち,その相続開始の時の債 権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額(ただし,預貯金 債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については,単独 でその権利を行使することができる。この場合において,当該権利の行使を した預貯金債権については,当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれ を取得したものとみなす。(注) (注)金融機関ごとに払戻しを認める上限額については,標準的な必要生計費や平均的な 葬式の費用の額その他の事情(高齢者世帯の貯蓄状況)を勘案して法務省令で定める。 10 3 一部分割 民法第907条第1項及び第2項の規律を次のように改めるものする。 ⑴ 共同相続人は,被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議 で,遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 ⑵ 遺産の分割について,共同相続人間に協議が調わないとき,又は協議をす ることができないときは,各共同相続人は,その全部又は一部の分割を家庭 裁判所に請求することができる。ただし,遺産の一部を分割することにより, 他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割 については,この限りでない。 4 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲について,次 のとおりの規律を設けるものとする。 ⑴ 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続 人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産と して存在するものとみなすことができる。 ⑵ ⑴の規定にかかわらず,共同相続人の一人又は数人により⑴の財産が処分 されたときは,当該共同相続人については,⑴の同意を得ることを要しない。 11 第3 遺言制度に関する見直し 1 自筆証書遺言の方式緩和 ⑴ 民法第968条に次のような規律を加えるものとする。 民法第968条第1項の規定にかかわらず,自筆証書に相続財産(民法第 997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全 部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書すること を要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらな い記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さな ければならない。 ⑵ 民法第968条第2項の「自筆証書中の加除その他の変更」を「自筆証書 (⑴の目録を含む。)中の加除その他の変更」に改めるものとする。 2 自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設 次のとおり,遺言書の保管制度を創設するものとする。 ⑴ 遺言者は,法務局に,民法第968条に定める方式による遺言書(無封の ものに限る。)の保管を申請することができる(注1)(注2)。 ⑵ 遺言者は,遺言書を保管している法務局に対し,遺言書の返還又は閲覧を 請求することができる。 ⑶ ⑴の申請及び⑵の請求は,遺言者が自ら法務局に出頭して行わなければな らない。 ⑷ 何人も,法務局に対し,次に掲げる遺言書について,その遺言書を保管し ている法務局の名称等(保管されていないときは,その旨)を証明する書面 の交付を請求することができる(注3)。ただし,その遺言書の遺言者の生 存中にあってはこの限りでない。 ア 自己を相続人とする被相続人の遺言書 イ 自己を受遺者又は遺言執行者とする遺言書 ⑸ 何人も,⑷のア及びイの遺言書を保管している法務局に対し,その遺言書 の閲覧を請求することができる。ただし,その遺言書の遺言者の生存中にあ 12 ってはこの限りでない。 ⑹ 何人も,法務局に対し,⑷のア及びイの遺言書に係る画像情報等を証明し た書面の交付を請求することができる。ただし,その遺言書の遺言者の生存 中にあってはこの限りでない。 ⑺ 法務局は,⑸の閲覧をさせ又は⑹の書面を交付したときは,相続人等(⑸ 又は⑹の請求をした者を除く。)に対し,遺言書を保管している旨を通知し なければならない。 ⑻ ⑴により保管されている遺言書については,民法第1004条第1項の規 定は適用しない。 ⑼ その他制度創設に当たり所要の規定の整備を行う。 (注1)遺言書の保管の申請がされた際には,法務局の事務官が,当該遺言の民法第96 8条の定める方式への適合性を外形的に確認し,また,遺言書は画像情報化して保存 され,全ての法務大臣の指定する法務局からアクセスできるようにする。 (注2)遺言書の保管の申請については,法務大臣の指定する法務局のうち,遺言者の住 所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局に対し てすることができるものとする。 (注3)遺言書の原本を必要としない⑷及び⑹の書面の交付の請求については,全ての法 務大臣の指定する法務局に対してすることができるものとする。 3 遺贈の担保責任等 ⑴ 遺贈義務者の引渡義務等について,次のような規律を設けるものとする。 ア 遺贈義務者は,遺贈の目的である物又は権利を,相続開始の時(その後 に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては,そ の特定した時)の状態で引き渡し,又は移転する義務を負う。ただし,遺 言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。 イ 民法第998条及び第1000条を削除する。 ⑵ 民法第1025条ただし書の「詐欺又は強迫」を「錯誤,詐欺又は強迫」 に改めるものとする。 13 4 遺言執行者の権限の明確化等 ⑴ 遺言執行者の一般的な権限等 ア 民法第1012条の規律を次のように改めるものとする。 遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言 の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。 イ 民法第1015条の規律を次のように改めるものとする。 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした 行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる。 ウ 遺言執行者の通知について,次のような規律を設けるものとする。 遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相 続人に通知しなければならない。 ⑵ 個別の類型における権限の内容 特定遺贈又は特定財産承継遺言(遺産の分割の方法の指定として遺産に属 する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させることを定めたもの をいう。以下同じ。)がされた場合における遺言執行者の権限等について,次 のような規律を設けるものとする。 ア 特定遺贈がされた場合 特定遺贈がされた場合において,遺言執行者があるときは,遺贈の履行 は,遺言執行者のみが行うことができる。 イ 特定財産承継遺言がされた場合 (ア) 遺言者が特定財産承継遺言をした場合において,遺言執行者があると きは,遺言執行者は,その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為 をすることができる。 (イ) (ア)の財産が預貯金債権であるときは,遺言執行者は,(ア)に規定する 行為のほか,当該預貯金の払戻しの請求及び当該預金又は貯金に係る契 約の解約の申入れをする権限を有する。ただし,その解約の申入れにつ いては,特定財産承継遺言の目的である財産がその預貯金債権の全部で 14 ある場合に限る。 (ウ) (ア)及び(イ)の規律にかかわらず,遺言者が遺言で別段の意思を表示し たときは,その意思に従う。 ⑶ 遺言執行者の復任権 民法第1016条の規律を次のように改めるものとする。 ア 遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。 ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従 う。 イ ア本文の場合において,第三者に任務を行わせることについてやむを得 ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対してその選任及び監督 についての責任のみを負う。 15 第4 遺留分制度に関する見直し 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し ⑴ 遺留分侵害額請求権の行使 民法第1031条の規律を次のように改めるものとする。 遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言により財産を 承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下第4において同じ。)又 は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができ る(注1)(注2)。 (注1)遺留分侵害額請求権は,現行法の遺留分減殺請求権と同様に形成権であることを 前提に,その権利の行使により遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生する。 (注2)遺留分侵害額請求権の行使により生ずる権利を金銭債権化することに伴い,遺贈 や贈与の「減殺」を前提とした規定を逐次改めるなどの整備が必要となる。 ⑵ 受遺者又は受贈者の負担額 民法第1033条から第1035条までの規律を次のように改めるもの とする。 受遺者又は受贈者は,次のアからウまでの規律に従い,遺贈(特定財産承 継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下第 4において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入さ れるものに限る。以下第4において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈 者が相続人である場合にあっては,当該価額から遺留分として当該相続人が 受けるべき額を控除した額)を限度として,遺留分侵害額を負担する。 ア 受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。 イ 受遺者が複数あるとき,又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が 同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的の価額の割 合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示した ときは,その意思に従う。 ウ 受贈者が複数あるとき(イに規定する場合を除く。)は,後の贈与に係 る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。 16 ⑶ 受遺者又は受贈者の請求による金銭債務の支払に係る期限の許与 裁判所は,受遺者又は受贈者の請求により,⑵の規定により負担する債務 の全部又は一部の支払につき,相当の期限を許与することができる。 2 遺留分の算定方法の見直し ⑴ 遺留分を算定するための財産の価額に関する規律 ア 相続人に対する生前贈与の範囲に関する規律 民法第1030条に次の規律を付け加えるものとする(注1)(注2)。 相続人に対する贈与は,相続開始前の10年間にされたものに限り,そ の価額を,遺留分を算定するための財産の価額に算入する(注3)。 (注1)相続人以外の者に対する贈与は,相続開始前の1年間にされたものに限り,ま た,相続人に対する贈与については,相続開始前の10年間にされたものに限り, 原則として算入する。 (注2)民法第1030条後段の規律は維持する(同条後段の要件を満たす場合には, 相続人以外の者に対する贈与については相続開始1年前の日より前にされたものも 含め,相続人に対する贈与については相続開始10年前の日より前にされたものも 含める。)。 (注3)相続人に対する贈与については,民法第903条第1項に規定する贈与(特別 受益に該当する贈与)に限る。 イ 負担付贈与に関する規律 民法第1038条の規律を次のように改めるものとする。 負担付贈与がされた場合における遺留分を算定するための財産の価額に 算入する贈与した財産の価額は,その目的の価額から負担の価額を控除し た額とする。 ウ 不相当な対価による有償行為に関する規律 民法第1039条の規律を次のように改めるものとする。 不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損 害を与えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負 17 担付贈与とみなす(注)。 (注)民法第1039条後段の規律は削除する。 なお,イ及びウの規律は,1・⑵の受遺者又は受贈者の負担額を算定する場合に も準用する。 ⑵ 遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律 次のとおり,遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律を設ける ものとする。 遺産分割の対象財産がある場合(既に遺産分割が終了している場合も含 む。)には,遺留分侵害額の算定をするに当たり,遺留分から第900条か ら第904条までの規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取 得すべき遺産の価額を控除する(注)。 (注)なお,この規律を明文化するに当たり,遺留分侵害額を求める以下の計算方法に ついても明文化する。 (計算式) 遺留分=(遺留分を算定するための財産の価額)×(民法第1028条各号に掲げる遺 留分率))×(遺留分権利者の法定相続分) 遺留分侵害額=(遺留分)-(遺留分権利者が受けた特別受益)-(遺産分割の対象財 産がある場合(既に遺産分割が終了している場合も含む。)には具体的相続分に応じ て取得すべき遺産の価額(ただし,寄与分による修正は考慮しない。))+(第899 条の規定により遺留分権利者が承継する相続債務の額) 3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し 次のとおり,遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する規律を設け るものとする。 1・⑴の請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分権利者が承継する相続債 務について免責的債務引受,弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは, 消滅した債務の額の限度において,遺留分権利者に対する意思表示によって 1・⑵の規律により負担する債務を消滅させることができる。この場合におい 18 て,当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は,消滅した当該 債務の額の限度において消滅する。 19 第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し 1 相続による権利の承継に関する規律 相続による権利の承継について,次のような規律を設けるものとする。 ⑴ 相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず, 法定相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えな ければ,第三者に対抗することができない。 ⑵ ⑴の権利が債権である場合において,法定相続分を超えてその債権を承継 した相続人が,遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあ っては、遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をした とき(注)は,共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして,⑴ の規律を適用する。 (注)遺言執行者は,遺言の執行として通知することができる。 2 義務の承継に関する規律 相続による義務の承継について,次のような規律を設けるものとする。 相続債権者は,民法第902条の規定による相続分の指定がされた場合であ っても,各共同相続人に対し,その法定相続分に応じてその権利を行使するこ とができる。ただし,その相続債権者が共同相続人の一人に対して指定相続分 に応じて義務の承継を承認したときは,この限りでない。 3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等 民法第1013条の規律に次の規律を付け加えるものとする。 ⑴ 遺言執行者がある場合には,相続財産の処分その他相続人がした遺言の執 行を妨げる行為は無効とする。ただし,これをもって善意の第三者に対抗す ることができない。 ⑵ ⑴の規律は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産について その権利を行使することを妨げない。 20 第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策 相続人以外の者が被相続人の財産の維持又は増加に一定の貢献をした場合につ いて,次のような規律を設けるものとする。 1 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被 相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続 人,相続の放棄をした者,相続人の欠格事由に該当する者及び廃除された者を 除く。以下「特別寄与者」という。)は,相続の開始後,相続人に対し,特別 寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下「特別寄与料」という。)の支払を請求 することができる。 2 1による特別寄与料の支払について,当事者間に協議が調わないとき,又は 協議をすることができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に 代わる処分を請求することができる(注)。ただし,特別寄与者が相続の開始 及び相続人を知った時から6か月を経過したとき,又は相続開始の時から1年 を経過したときは,この限りではない。 3 2本文の場合には,家庭裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の 額その他一切の事情を考慮して,特別寄与料の額を定める。 4 特別寄与料の額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から 遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。 5 相続人が数人ある場合には,各相続人は,特別寄与料の額に当該相続人の相 続分を乗じた額を負担する。 (注)2の請求に関する手続を整備するに当たっては,家事事件手続法に,管轄,給付命令, 即時抗告及び保全処分に関する規律を設ける。

1 民法(相続関係)部会 資料 26-2 補足説明 第1 配偶者の居住権を保護するための方策 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策 (補足説明) 1 部会資料25-1においては,配偶者の居住権を短期的に保護するための 方策について,①居住建物について遺産分割が行われる場合と,②配偶者以 外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合等とに分けて規律を設けて いた。もっとも,①のうち配偶者が居住建物についての遺産分割の手続に関 与しない場合については,その規律の内容は上記②と同様の規律が妥当する ものとしていた。 部会資料26-1においては,区分の方法と規律内容とを一致させる観点 から,①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき 場合と②それ以外の場合に区分することとした。 2 字句等の修正を施したほか,以下の点(「⑴イ(ア)b」)については,部会資 料25-1から,実質的な内容を修正している。 すなわち,部会資料25-1では,配偶者短期居住権の譲渡を禁ずる明文 の規定を設けず,ただ,配偶者が他の全ての相続人の承諾を得ることなく現 実に第三者に居住建物を使用させた場合に,他の相続人において配偶者短期 居住権の消滅請求や損害賠償請求ができることとしていた。しかしながら, 配偶者短期居住権は配偶者の居住建物における居住を短期的に保護するため に創設する権利であり,また,配偶者に経済的負担を課すことなく当然に成 立するものであるから,譲渡を認める必要に乏しい。そして,配偶者居住権 については,後記2の経緯からその譲渡を禁止する明文の規定を設けること としたため,これとの均衡上,配偶者短期居住権についても,譲渡を禁止す ることを明文で明らかにすることが相当であると考えられる。そこで,部会 資料26-1においては,配偶者短期居住権は例外なく譲渡することができ ないこととし,その旨の規律を置くこととした。 2 2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 (補足説明) 字句等の修正を施したほか,以下の点(「⑵エ(イ)」)については,部会資料2 5-1から,実質的な内容を修正している。 すなわち,部会資料25-1では,居住建物の所有者の承諾がある場合には, 配偶者居住権を譲渡することができることとしていた。しかし,配偶者居住権 は配偶者自身の居住環境の継続性を保護するためのものであるから,第三者に 対する配偶者居住権の譲渡を認めることは,制度趣旨との関係で必ずしも整合 的であるとはいえず,法制的にも問題があるものと考えられる。 これまで配偶者居住権の譲渡を認めることとしていたのは,配偶者居住権が 遺産分割の対象財産又はみなし相続財産として配偶者の具体的相続分の範囲内 で取得されるものであることから,例えば,配偶者が長期間居住することを前 提に配偶者居住権を取得したにもかかわらず,予定していた期間を経過する前 に予期しない事情から転居せざるを得なくなったような場合等に,居住のため の費用を含むその後の生活費を取得するため,配偶者居住権を売却することが できるようにしておく必要があると考えていたためであった。しかしながら, 配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅する債権であり,継続性の点で不安 定であることから,実際に配偶者居住権を売却することができる場面は必ずし も多くないと思われる。そこで,上記のとおり配偶者居住権の譲渡を認めるこ とがその制度趣旨と必ずしも整合的でないことも併せ考慮して,配偶者居住権 の譲渡を禁止することとした。なお,債権には原則として譲渡性があるから, 譲渡が禁止されることを明らかにするため,明文の規定を設けることとした。 配偶者居住権の譲渡を禁止すると,配偶者が転居せざるを得なくなった場合 の投下資本(上記のとおり配偶者居住権は財産評価の対象となり,配偶者の具 体的相続分の範囲内で取得されるものであるため)の回収が問題になるが,従 前どおり,建物所有者に買い取ってもらうことのほか,居住建物の所有者の承 諾を得た上で第三者に居住建物を賃貸することが考えられる。また,第三者に 対する賃貸であれば,一定期間の経過後に配偶者が再度居住建物での生活を営 む意思を有している場合にも行うことが可能であるから,配偶者の居住権の保 護という立法目的との不整合が生ずるとはいえない。また,賃貸であれば,短 期間の需要もあり得ると考えられるし,配偶者,居住建物の所有者及び賃借人 3 の三者の間で,配偶者居住権の消滅後には居住建物の所有者が賃貸人としての 地位を引き継ぐ旨の合意をすることにより,賃借人の法的地位の更なる安定を 図ることも可能となるため,第三者に賃貸することによる回収可能性は高まる と考えられる。 4 第2 遺産分割に関する見直し等 1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定) (補足説明) 字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はない。 2 仮払い制度等の創設・要件明確化 (補足説明) 特段の変更点はない。 3 一部分割 (補足説明) 字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はない。 4 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲 (補足説明) 字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はない。 5 第3 遺言制度に関する見直し 1 自筆証書遺言の方式緩和 (補足説明) 特段の変更点はない。 2 自筆証書遺言の保管制度の創設 (補足説明) 特段の変更点はない。 3 遺贈の担保責任 (補足説明) 特段の変更点はない。 4 遺言執行者の権限の明確化等 (補足説明) 特段の変更点はない(注)。 (注)前回の部会において,特定財産承継遺言がされた場合については,「遺言者が遺言書 で別段の意思を表示した場合には,その意思に従う。」という規律を設けているにもかか わらず,特定遺贈がされた場合については,かかる規律を設けないとしたことについて, 改めて整理する必要があるとの指摘がされた。 特定遺贈について,「4⑵ア」の規律を設けた趣旨は,受遺者による遺贈の履行請求 の相手方を明確にする点にあり,これによって,受遺者は,遺言執行者がある場合には 遺言執行者を,遺言執行者がない場合には相続人を相手方として,遺贈の履行請求をす べきことが明らかとなる。 他方,この点について遺言者の意思による変更を認めないこととしたのは,遺贈の履 行請求の相手方について別段の定めをすることを認める必要はないと考えられるため である。すなわち,例えば,遺言者において,包括的な権限を有する遺言執行者のほか, 6 特定の遺贈についてのみ,特定の者に当該遺贈の履行をさせたいとの意向を有している 場合には,当該遺贈についてのみ権限を有する遺言執行者を指定すればよく(現行法の 下でも,複数の遺贈がある場合においては,遺言者が遺贈毎に遺言執行者を指定するこ ともできるものと解される。),また,相続人以外の第三者と相続人のいずれにも遺言の 執行をする権限を付与したい場合も,複数の遺言執行者を指定することによって対応す ることが可能であり,この点について別段の定めをすることを認める必要性はないもの と考えられる。 また,特定遺贈における遺言執行者の具体的権限は,遺贈義務の内容によって当然に 定まるものであると考えられるが,遺贈は法律行為であり,遺贈義務の内容は遺言者の 意思によって定まるものであるから,遺贈義務の内容について遺言者が何らかの意思を 表示した場合にその内容に従うことは当然であると考えられる(なお,「3⑴アただし 書」においても,遺贈義務の内容について遺言者が別段の意思を表示し得ることを明ら かにしている。)。そして,遺贈の場合には,遺言執行者がいない場合には相続人が遺贈 義務を負うことになるため,遺贈義務の具体的な内容について,遺言執行者の権限とし て規律を設けることは法制的に困難であると考えられる。 これに対し,特定財産承継遺言については,相続人には遺言を執行すべき義務はない ため,遺言執行者の権限として規律を設けることが可能であり,また,受益相続人の単 独申請による登記具備が認められているなど特別の取扱いがされている結果,現行法上 も遺言執行者の具体的な権限の内容について解釈上の疑義があることから,遺言者の意 思が明らかでない場合のデフォルト・ルールを定める必要性が高いものと考えられる。 「4⑵イ」の規律は,このような観点から規律を設けるものであるが,遺言執行者の具 体的な権限の内容については,遺言者の意思による変更を認めることが相当であるため, 「イ・(ウ)」のような規律を設けることとしたものである。 7 第4 遺留分制度に関する見直し 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し (補足説明) 「1⑶」の規律を以下のとおり修正している。それ以外の点は,字句等の修 正を除き,特段の修正点はない。 すなわち,これまでの案においては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者の 利益に配慮する観点から,①受遺者又は受贈者の請求により,遺贈又は贈与の 目的である財産のうちその指定する財産により給付する制度を設け(現物給付 制度),②その請求がされた時に,指定財産の価額の限度で金銭債務が消滅する とともに指定財産に関する権利移転が生じることとし,また,不要な財産の押 しつけにならないよう,③遺留分権利者による指定財産の放棄を認めることと していた。 もっとも,この規律については,当部会においても,受遺者又は受贈者が不 要な財産を押しつける懸念がなお存在するとして慎重な検討を求める意見もあ ったことから,要綱案の策定に当たって再度慎重に検討を行った。 まず,この規律については,特に③の指定財産の放棄の制度が他に類を見な い特殊な制度であるが,③のような規律を設けると,遺留分権利者の権利を現 行法より相当に弱めることになり,放棄がされることを狙って,現物給付の意 思表示をするといった濫用がされるおそれがあること自体は否定することがで きない。他方,指定財産の放棄の規律のみを削除することについては,当部会 においても,受遺者又は受贈者が遺留分権利者にとって現に不要な財産を指定 し,それが権利の濫用とはいえないような場合に,遺留分権利者においてその 管理の負担のみが課せられることにもなって不当であるとの指摘が複数の委員 からされてきたところである。 このように,③のような規律を設けると,一方で,受遺者等の濫用を誘発す るおそれが相当程度存在するにもかかわらず,他方で,このような規律を設け なければ,かえって遺留分権利者の利益に反するおそれがあるというジレンマ が生ずることになるが,そのこと自体この規律に法制上の問題があることを示 すものということができるように思われる。 そこで,この間,別案を含めて検討を行ったが,まず,指定財産の権利の放 棄があった場合には,金銭債務が復活するとの規律については,単に受遺者又 8 は受贈者が指定する財産を受領することについて遺留分権利者が同意しなけれ ば金銭債務が消滅をしないということに他ならず,当事者が合意によって,金 銭債務の支払に代えて別の物で給付することができるという代物弁済(民法第 482条)とほぼその効果が異なるところはなく,あえて制度を新設する理由 に乏しいものと考えられる。 次に,不要な財産の押し付けを回避しつつ,最終的には遺留分権利者の意思 にかかわらず現物給付を実現するために,①現物給付の申出をするか否かは受 遺者等の判断に委ねることとした上で,②受遺者等が現物給付の申出をした場 合には,指定財産の範囲について一定の制限(部会資料25-1第4の1⑶ア ただし書と同様の規律)を設けることを前提として,第一次的な指定権を遺留 分権利者に認め,③遺留分権利者がその指定権を十全に行使しなかった場合に はその指定権が受遺者等に移転するという制度を設けることも考えられる。し かし,これについては,かなり複雑な制度となる上,例えば,遺贈の対象財産 の中に,受遺者等の生活の基盤となっている財産(例えば居住用不動産)や事 業用財産などが含まれている場合には,受遺者等が現物給付の申出をできない こととなり,金銭の調達に困難が生ずる可能性があるといえ,このような案を 採用することも困難といえる。 現物給付の制度は,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が直ちには金銭を準 備することができず不利益を被る可能性があるため,これらの者の利益に配慮 したものであったところ,その利益に配慮する必要性自体はなお否定されない ものと考えられる。そこで,借地借家法第13条第2項(建物買取請求権を行 使された借地権設定者の請求による代金債務の期限の許与)や民法第196条 第2項(有益費償還請求を受けた占有物の回復者の請求による有益費支払債務 の期限の許与)などの例を参考にして,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者の 請求により,裁判所が,金銭債務の全部又は一部の支払につき期限の許与を付 すことができることとした(なお,金銭請求を原則とするドイツにおいては, 2009年法改正において金銭債務の支払の猶予を可能とするなどの法改正が 行われている。)(注)。 (注)これまで部会においては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が直ちに金銭を準備 することができない場合に生ずる不都合に対処するため,様々な案を検討してきたところ である。すなわち,中間試案においては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が,遺贈又 9 は贈与の目的財産による現物給付をすることができるとしつつ,その給付する財産の内容 を裁判所が定めるという案(甲案)と,現物給付の主張がされた場合には現行法と同様の 規律で物権的効果が生ずるという案(乙案)の両案を提案として掲げていた。もっとも, 中間試案についてはパブリックコメントに付したところ,甲案と乙案で比較すると甲案を 支持する意見が多かったものの,いずれの案にも反対するとの意見も相当数寄せられ,ま た,パブリックコメント後の部会において甲案を中心に検討を行ったところ,裁判所の裁 量的判断により現物給付の内容を定めることは当事者の予測可能性を欠き,法的安定性を 欠くとの意見が強く,結局,採用されなかった。 次に,部会においては,追加試案にも掲げられているとおり,現物給付の指定権を裁判 所に委ねるのではなく,受遺者又は受贈者に付与するという案について検討を行った。も っとも,追加試案をパブリックコメントに付したところ,受遺者等に指定権を与えると, 遺留分権利者に不要な財産を押しつけることになり,遺留分権利者の権利を不当に弱める ものではないかとの意見が多く寄せられ,その後の部会においても,追加試案の規律を修 正し,受遺者等の裁量権を限定する方向で検討を行ったものの,完全にはその懸念を払拭 するには至らなかったところである。 部会においては,一貫して金銭を直ちには準備できない受遺者等の利益を図るためにど うしたらよいのかとの観点で検討を行ってきたものであるが,上記のとおり,現物給付の 規律を採用することには法制上の問題があるため,最終的には,裁判所による期限の許与 を認める限度で,その保護を図ることとしたものである。 2 遺留分の算定方法の見直し (補足説明) 特段の変更点はない。 3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し (補足説明) 字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はない(なお,従前の「⑵」の 規律については,「⑴後段」の規律として整理している。)。 10 第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し 1 権利の承継に関する規律 (補足説明) 前回の部会資料においては,「1・⑵」の受益相続人の単独通知の方法につい て,遺言書等の書面の交付を必須の要件としていたが,この点については,他 の相続人のプライバシー保護等の観点から問題があるのではないかとの指摘が あったため,法制上の観点を含め,改めて慎重に検討することとした。 そもそも,受益相続人による単独通知の場合において,遺言書等の書面の交 付を必須の要件とした趣旨は,遺言者の意思等に基づいて作成されたものを交 付することによって,虚偽通知を防止する点にあった。もっとも,遺言書等に は債権の承継以外の内容も記載されていることからすると,遺言書等の交付を 必須の要件とすることは,その開示を望まない相続人にとっては心理的な抵抗 が大きいものと考えられる。また,遺言書等の交付までは望まない債務者にお いても,受益相続人から遺言書等の交付があった場合には拒絶することができ ず,その返還を求められない場合には,保管等が必要となる場合もあり得るな ど,実務上の問題が生ずる懸念があるものと考えられる。 他方,遺言書等の交付の趣旨が,虚偽通知の防止にあることからすると,遺 言書等の交付を必須の要件とするまでの必要はなく,債務者をして,客観的に 遺言等の有無やその内容を判断できるような方法(例えば,受益相続人が遺言 の原本を提示し,債務者の求めに応じて,債権の承継の記載部分について写し を交付する方法)をもって通知することでも足りるものと考えられる。 そこで,遺言書等の交付を必須の要件とはせず,債務者において,客観的に 遺言の内容を判断することができる方法による通知を認める観点から,「遺言の 内容を明らかにして」通知をしなければならないとすることとした。 2 義務の承継に関する規律 (補足説明) 特段の変更点はない。 11 3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等 (補足説明) 字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はない。 12 第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策 (補足説明) 法制的観点を踏まえ改めて検討した結果,以下の2点について修正を加えて いる。 まず,「1ただし書前段」を削除し,「1」に「無償で」との文言を加えてい る。従前から特別寄与者が対価を得ていないことという要件をただし書におい て表現してきたが,本文において請求権発生の要件として示した方が国民にと ってより分かりやすいものと考えられ,また,そのように表記することに特段 の弊害もないことから,表現に修正を加えたものであって,規律の実質的内容 に変更を加える趣旨ではない。 次に,「1ただし書後段」を削除している。第25回の部会の議論において, 請求権者の範囲が「被相続人の親族」として定められることとなり,従前より 広がったところ,これに伴い,本方策の制度趣旨として,被相続人の推定的意 思よりも実質的公平を図るという色彩がより色濃くなったものと考えられる。 そこで,本方策における規律を改めて検討したところ,従前の「1ただし書後 段」は,被相続人の一存をもって,特別の寄与をして被相続人の財産の維持又 は増加に貢献した者の請求を否定することを認めるものであり,場合によって は,この規律が,実質的公平という本方策の制度趣旨に反する場面もあると考 えられる。これに加え,本方策は,実質的には,寄与分の主張権者を拡大する ことを意図するものであるところ,現行法の寄与分に関する規律(民法第90 4条の2)においても,「1ただし書後段」に相当する規律は設けられていない 一方で,遺贈(被相続人の意思による財産処分)が寄与分により制約を受けな いことは,民法第904条の2第3項において示されているところ,本方策に おいても同様の整理をすることには一定の合理性があるものと考えられる。 これらの点を考慮して,本部会資料では,「1ただし書」を削除することとし ている。

  

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定

民事信託研究会(主宰・谷口毅司法書士)のメールマガジンです。実例を踏まえながらの記事は、いつも勉強になることが多いです。

今回の記事を引用します。

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受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定

大阪の司法書士岡根昇です。

今回も司法書士谷口毅先生のブログとメルマガに投稿させて頂くことになりました。ご迷惑とならないよう気を付けなければ…

さて、本日は、受託者の利益相反行為について考えてみましょう。

相談事例を挙げて考えてみます。

お父さんからの相談です。

自分が認知症になった後でも、資産管理会社(長男が代表者)の債務を担保するために担保権を設定できるようにしておきたい。

そのために、長男を受託者として、不動産を信託しておきたい。

このような相談を受けた場合に、次のようなスキームをイメージするのではないでしょうか?

委託者兼受益者:お父さん

受託者:長男

信託の目的:不動産の管理処分を通じて、お父さんの生活の安定と福祉の確保をすること

受託者の権限:受託者は、信託財産に属する不動産につき、受益者、受託者又は第三者を債務者とする担保権を設定することができる。

イメージした後、きっと疑問が湧いてくるはずです。

信託は、受益者のための財産管理制度。。。

受益者であるお父さんの債務ではなく、第三者の債務のために信託財産を担保に供することは、果たして受益者のためになるのでしょうか?

そうなんです。

信託には、受託者は、もっぱら受益者の利益を図らなければならず、自分や第三者の利益を図ってはいけないという大原則があります。これを忠実義務といいます。

この忠実義務の具体的な現れの一つとして、信託法31条の利益相反行為の禁止規定があります。

条文を見てみますと、信託法31条1項4号では、受託者個人の債務を担保するために信託財産に担保権を設定するという行為を典型的な利益相反行為の例としてあげて、これを禁止しています。

そして、「第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの」一般を禁止しています。

つまり、第三者の債務のために信託財産を担保に供することは、この禁止規定に抵触することになります。

そして、さらに詳しく条文を見ますと、この例外規定があります。

信託法31条2項では、信託契約書に利益相反行為を許容する定めがあるとき、受託者が重要な事実を開示して受益者の承認を得たときなど、受託者の利益相反行為が許される事由が規定されています。

そうすると、最初にイメージしたスキームのように「受託者は、信託法31条の規定に関わらず、信託財産に属する不動産につき、第三者を債務者とする担保権を設定することができる。」と規定しておけば、利益相反行為の許容の定めがあるものとして、お父さんの希望(資産管理会社を債務者とする担保権の設定)を叶えることができそうに見えますが、果たしてどうでしょうか?

この点については、更に考えないといけないことがありますが、今日はこの辺りにして、次回以降で触れたいと思います。

本日の内容と関連する信託法の条文は、30条、31条です。受託者の利益相反行為の制限に関する一般的なお話でした。

興味がある方は、また一度読んでおいてくださいね。

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その2

本日の担当は、大阪の司法書士の岡根昇です。

前回、私が書いた記事の続きを書きますね。

さて、改めまして、前回の続きです。

前回の記事は、下記のページにありますので、目を通してください。

本日は、登記の側面から、受益者以外の第三者を債務者とする担保権の設定について考えてみたいと思います。

さて、なんといっても、司法書士は登記の専門家。司法書士にとって、登記先例は重要ですね。

というわけで、受益者以外の第三者を債務者とする担保権の設定に関する登記先例は、あるのでしょうか?

探してみますと・・・、あるんです。

昭和40年12月9日付登発第418号山口法務局長照会

昭和41年5月16日付民事甲第1179号民事局長回答【要旨】

受託者が第三者の債務の担保として信託財産に抵当権を設定しその登記の申請があった場合、委託者及び受益者の承諾があるときでもその申請は受理すべきでない。

これは、第三者の債務の担保のためにする抵当権設定は、これによって受益者が受ける利益は何もないことを理由としているようです。

この先例の解説をよく読みますと、「受益者及び委託者の承諾があった場合は信託財産を第三者の債務の担保に供しうると解することは、立法論としてはともかく、現行法の解釈としては疑問があることから、本回答がなされたものと考える。」とあります。

つまり、この先例は、旧信託法の解釈によるものなんです。

旧信託法では、利益相反行為は、例外なく許容されませんでした。

なので、このような先例が出たのも納得できます。

でも、今は、新信託法をベースに考えないといけません。

新信託法では、31条2項で、信託契約書に利益相反行為を許容する定めがあるときや、受託者が重要な事実を開示して受益者の承認を得たときなどには、利益相反行為は許容されることになっています。

司法書士にとって、登記先例は重要ですが、古い先例の存在に惑わされてはダメです。

新信託法では、重要な事実を開示して受益者の承諾を得たことは、受託者の利益相反行為の例外と定められているのですから、この先例のようなケースの登記申請は、受理されるべきだと思います。

もちろん、登記官への事前相談は必須です!!

OKと明示した先例は、まだ発出されていないからです!!

さて、前回の事例に戻りますね。

信託契約書に「受託者は、信託法31条の規定に関わらず、信託財産に属する不動産につき、第三者を債務者とする担保権を設定することができる。」と規定しておけば、登記の局面においても問題なさそうです。

それでは、登記面の他に、どのようなことに配慮をする必要があるでしょうか。

続きます。

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その3

本日の記事は、大阪の司法書士の岡根昇が担当いたします。

今まで、2回ほど、担保権の設定が利益相反行為にあたる場合について書かせていただいているので、その続きを書きますね。

さて、今までの復習です。

受託者個人の債務のために、受託者が信託財産に属する不動産に担保を設定することは、利益相反行為と呼ばれ、禁止されています。

しかし、信託契約書の中に、利益相反行為を許容する、という定めを置けば、利益相反行為をしても許される、ということになります。

このようなことが、信託法31条に書いてあるのでした。

しかし…気になりますね。

利益相反行為を許容すると契約書に書くといっても、どこまで許されるのでしょうか?

例えば、「10億円の価値がある信託不動産を、受託者自身が100万円で買ってもいい!」という定めをおいた場合は、どうでしょうか。

感覚的には、絶対にアウトですよね。

受益者の利益がないがしろにされている、という印象を持ってしまいます。

しかし、信託法31条だけを読んでいると、これも問題ないのでは?という気もします。

なので、ここから先は、信託法31条そのものよりも、学者や立法担当者の議論などを参考にしないといけません。

みな、利益相反行為を許容する場合に、受益者の利益をどうやったら守れるのか?ということに気を配って議論をしています。

また、受託者の行為は、信託の目的の達成のためにありますので、利益相反行為を行うことが、信託の目的の達成のために必要でなくてはなりません。

つまり、考慮すべき要素は2つ。

受益者の利益を守る

信託の目的の達成に必要である

ということになります。

では、このように、「受益者の利益を守る」「信託の目的の達成に必要である」利益相反行為とは、どのようなものでしょうか。

次のような例が典型的でしょう。

お父さんは、自身を受益者、長男を受託者として、自宅不動産を信託した。

長男は、お父さんの施設入所費用に充てるため、自宅不動産を売却しようとしている。

しかし、自宅は再建築不可の土地上にあるため、なかなか売れない。

長男は、この自宅不動産を適正な価格で買い取ってもよいと考えている。

このような場合に、長男が信託不動産を適正な価格で買い取ることは、まさに、信託の目的の達成のために必要で、かつ、受益者の利益は守られている、ということになります。

このように気を配ると、適正な信託の運用の手助けができそうですね。

受益者以外の第三者を債務者とする(根)抵当権の設定 その4

おはようございます。民事信託実務講座のメルマガです。

暑さもだいぶ和らぎましたね。

朝、家を出る時の日差しが優しく感じられるようになりました。

さて、今日は大阪の岡根昇司法書士の記事になります。

担保設定と利益相反について、今回が最終回ですよ。

それでは、始まります。

大阪の司法書士の岡根昇です。

今まで3回にわたって、担保権設定と利益相反の関係についてみてきました。

今回は、そのまとめ。最終回です。

さて、第1回目の事例に戻りましょう。

このような事例でしたね。

事例

お父さんからの相談です。

自分が認知症になった後でも、資産管理会社(長男が代表者)の債務を担保するために担保権を設定できるようにしておきたい。

そのために、長男を受託者として、不動産を信託しておきたい。

委託者兼受益者:お父さん

受託者:長男

信託の目的:不動産の管理処分を通じて、お父さんの生活の安定と福祉の確保をすること

受託者の権限:受託者は、信託財産に属する不動産につき、受益者、受託者又は第三者を債務者とする担保権を設定することができる。

さて、この事例。

受託者は、資産管理会社を債務者として担保設定ができるのでしょうか?

しかも、受託者自身が代表者を務める会社に…

ここまで3回を読まれた方なら、考え方は分かりますね。

1.信託法31条2項の条文上だけを見れば、利益相反行為の許容の定めを契約書に書くことで可能になる。

2.登記も、利益相反行為の許容の定めを置けば、可能と思われる。しかし、旧信託法の時代の登記先例ではダメであり、新信託法になってからの先例は発出されていない。

3.学者や立法担当者の議論では、信託法31条2項の条文を見るだけではダメで、受益者の利益に適合しないといけないという意見が多い。

4.当然、信託の目的に適合しないといけない。

ということです。

これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。

しかし、3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。

また、4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。

従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。

気軽に担保設定をやってしまって、後々に受託者の行動が忠実義務違反だと責任を追及される可能性もあります。

また、最初から、受益者以外の者の利益を図るために信託を設定したのだということになれば、信託自体が無効になってしまう、という考え方もあります。

信託設定の当初から、忠実義務をないがしろにするつもりであった、と判断されてしまう危険性は避けるべきでしょう。

資産管理会社と受益者の関係。

具体的に受益者にもたらされる利益。

信託の目的の定め方。

などなど、ケースごとに、総合的な判断が必要になると考えています。

私が取り組んだ実際の内容は、ここで挙げませんが、大変に気を遣った案件でした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

以上が引用でした。

色々と考えるところがある記事です。実際同じケースにあたるかもしれません。

一点だけ気になるところを挙げます。

「これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。

しかし、3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。

また、4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。」

この部分について考えてみたいと思います。

「これを、事例に当てはめてみると、1はクリアしていることが分かります。」

この部分だけを読むと条文通りなので可能だと思います。気になるのは、考え方の順番です。許容の定めを置くことを先に考えてしまうと、結論ありきになってしまわないか、担保設定するためにはどうすれば良いか、ということになってしまいそうです。

この部分は条文通りでもあるので最後に考えるか、少し触れるだけで良いのかなと思います。

「3がクリアできているかどうかは、よく分かりません。受益者の利益に適合させるための方法を、もうひと捻り、考えた方がよいと思われます。」

「よく分かりません」、と、「もうひと捻り」は、読者に対して言っているようです(記事を書いた岡根先生は体験済みということなので)。

受益権の内容で、担保設定の条件(例・債務者所有の財産で、担保設定可能な財産がない)と設定後の給付の内容(例・担保設定後は、返済額の残額のうち、何%を受益者に給付する、など)を定めることで可能と考えられます。

「4はクリアできていませんね。「お父さんの生活の安定と福祉の確保」という信託の目的は、あまりに抽象的で中身がありません。具体的な、受託者の行動の判断基準とはなりえません。従って、この事例を見ると、このような担保設定は避けるべき、という結論になると考えられます。」

この部分については、私の結論は反対で、4はクリアできるとなります。信託の目的+受託者の信託財産の管理方法+受益権の内容の主に3つの総合的判断です。信託の目的はあえて抽象的にしておいて(信託の終了事由にもなり得るので)、受託者の権限を細かくする、信託監督人を置く、任意後見人を置く、受益権の内容を強くする、などの対応が現時点で私はベターだと考えています。

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