民事信託手続準則案3

 

3 高齢者本人ではなく親族の利益のための親族間信託の組成に加担しない事

司法書士は、信託登記代理の付随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは、簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策等を信託の目的とする親族間信託の組成を支援する場合、そのような信託目的と受託者等の実質的意図の齟齬(権限濫用)を生じさせないため、高齢者である委託者兼受の利益のための信託ではない、高齢者である委託者兼受益者以外の親族の利益のための信託ではないこと、そして、実質的にも受託者の利益のための信託であること、そして、信託の目的に記載された通りの実質を有する高齢者の福祉のための適法で適切な信託が維持されるしくみを有すること、などを確認し、司法書士は、その確認方法・内容・結果を調書化したうえ、信託組成関係者に対して、これに反する場合の効果や制裁の可能性等を説明、理解したことの署名捺印を得るものとする。

その場合、当該司法書士は、当該高齢者の親族または親族の一部に対して、親族の側の利益を図るために当該親族間信託を悪用することはできないこと、それに違反した場合の法的効果や犯罪成立の可能性その他の危険性などを助言し、高齢の委託者兼受益者の保護を犠牲にして、それ以外の者の利益を図るための違法または不適切な親族間信託の組成に加担してはならない。

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―司法書士は、信託登記代理の付随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは、簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策等を信託の目的とする親族間信託の組成を支援する場合―

ここまでは、司法書士が民事信託に関わる場合の前提と思われます。
目的
―信託目的と受託者等の実質的意図の齟齬(権限濫用)を生じさせないため―

方法
1、 高齢者である委託者兼受益者の利益のための信託であること
2、 高齢者である委託者兼受益者以外の親族の利益のための信託ではないこと
3、 実質的にも受託者の利益のための信託ではないこと
4、 そして、信託の目的に記載された通りの実質を有する高齢者の福祉のための適法で適切な信託が維持されるしくみを有すること
5、 などを確認して書面化

1,2,3は、内容としては同じだけど、2,3を説明しておかないと、分からなくなってしまう受託者がいる可能性があるので、必要だと思います。

4、は司法書士の能力の問題。間違ったら駄目、というわけではなくて、間違っても変更できるような仕組みを作ることが大切です。ただし、信託の目的(契約書の信託の目的条項だけではなく、総合的に解釈される目的)がずれると、全てがずれて変更で対処出来なくなるので、目的だけは気を付けて、分からなければ信託銀行を参考に必要最低限を書いておくことが必要。
追加する変更は割とやりやすいですが、削る変更は他の契約条項とも関わることが多いので、収拾がつかなくなる可能性があります。

5、などの例としては、受託者に対する成年後見制度についての確認などを挙げることが出来ると考えます。(任意・成年)後見人に受託者が就任するのかに関わらず、成年後見開始の審判申立て、成年後見監督人選任審判の申立てについては、委託者兼受益者の近くにいると思われる受託者が行う場合も多いと思います。

―当該司法書士は、当該高齢者の親族または親族の一部に対して、親族の側の利益を図るために当該親族間信託を悪用することはできないこと、それに違反した場合の法的効果や犯罪成立の可能性その他の危険性などを助言し、高齢の委託者兼受益者の保護を犠牲にして、それ以外の者の利益を図るための違法または不適切な親族間信託の組成に加担してはならない。―

ここは司法書士法とその関連法令、倫理規定と守るという当然の規定だと思います。

 

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

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