「任意後見ハンドブック2014年版→2022年版」

(公社)成年後見センター・リーガルサポート「任意後見ハンドブック2022年版」が発行されました。「任意後見ハンドブック2014年版」と比較してみたいと思います。

基準は「任意後見ハンドブック2022年版」とします。見落としなどあるかもしれませんが、ご容赦ください。

・構成

追加

任意後見契約の相談から契約まで

任意後見等契約等の重要事項説明書

任意代理契約における当法人の監督に関する説明書

事前指示書

法人後見事務取扱標準報酬規程

削除

遺言公正証書

遺言書の保管等に関する約定書

・文言など

任意後見制度の仕組みについて、図の活用。

高松高判平成5年6月8日を題材としたQ&Aの削除。

意思決定支援と任意後見制度について、障害者の権利に関する条約[1]に触れる。

 任意代理との違い、の章において、持続的代理権[2]という用語を使用。任意代理契約と任意後見契約の併用の問題点について、法務省のアンケート実施を記載[3]

 任意後見契約における代理権目録に、契約の取消しなどについての代理権を予め付与することができることの記載。

 制度説明、動機の確認、制度選択の欄に、受任者のチェックポイントの記載。適切な後見事務が出来るか。受任者の心身の状態などについては削除。

死後事務委任契約についての記載の追加。

 令和4年法務省民事局「成年後見制度の利用促進に関する取り組みについて」アンケートによる、将来一定の公的機関等による監督、がなされる可能性について記載。

財産管理の監督の注意点として、原本確認を要することの記載を追加。

 未成年後見、障害のある子に任意後見任などがいるメリットについて、詳細な記述。注意点、メリットなど。老後の親の任意後見についての記載について、この章では削除。

 任意後見契約の登記について、数回の住所変更をしている場合の登記申請の回数について記載。

 任意後見契約書等作成のための業務委託契約書作成のために、委任者が遺言を作成していない場合、推定相続人の調査が必須、から、必ずしも必要ではない、に変更。

任意後見プランについて、即効型プランの場合は法定後見の利用を検討することを記載。

 任意後見等契約等の重要事項説明書において、報酬を決定する場合は根拠を示し、適正で、依頼者が納得するものであれば個別具体的な報酬で良いことの記載。

家庭裁判所が決定する任意後見監督人の報酬について、委任者に説明することを要することを記載。

 P85、私のライフプラン(案)について、孫の学費として―中略―ただし、私の将来の資産に不安があるときは、援助をやめても構いません。

→私の将来の資産に不安があるとき、が抽象的ではないかなと感じます。

 継続的見守り契約及び財産管理等委任契約書の欄で、(公社)成年後見センター・リーガルサポートでは、任意後見契約を伴わない任意代理契約は原則として締結しないことの記載。任意代理契約の代理権の範囲は、日常業務と一部の身上保護事務に限定することの記載。

任意後見契約書について、報酬規程の追加。

死後事務委任契約書について、費用の問題の記載追加。

参考

登記研究 667号 164頁 平成15年2月27日 法務省民二第601号 民事局民事第二課長通知 不動産登記申請における任意後見人の代理権限を証する書面について

登記研究 890号 145頁 令和4年1月31日 法務省民一第167号 法務省民事局長通達 後見登記等に関する省令の一部を改正する省令の施行に伴う「後見登記等に関する事務の取扱いについて」の一部改正について

入っているかなと思っていたけれど、入っていなかった項目


[1] https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

[2] ニッセイ基礎研究所総合政策研究部研究員坂田紘野「海外の「成年後見制度」を概観する」2023 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74251?pno=2&site=nli

[3] 法務省「任意後見監督人選任に関する御案内及び意識調査への御協力依頼について」令和4年12月5日https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00014.html

[加工]前東京大学法科大学院客員准教授・判事山岸秀彬「法律行為の解釈と法解釈の交錯―定款の解釈をめぐる裁判例を題材として―」

前東京大学法科大学院客員准教授・判事山岸秀彬「法律行為の解釈と法解釈の交錯―定款の解釈をめぐる裁判例を題材として―」

東京大学法科大学院ローレビュー第17巻(2022-12発行)

http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp/17.html

注釈は、本文中の番号はそのままにしていますが、出所は省略しています。

Ⅰ.はじめに

Ⅱ.定款の解釈方法

Ⅲ.法律行為の解釈方法

Ⅳ.法解釈の方法

1 文理解釈

2 体系的解釈

3 歴史的解釈

4 目的論的解釈

Ⅴ.定款の解釈が問題となった裁判例の検討

1 最一判平成22年4月8日民集64 巻3号609頁

⑴ 事案の概要

⑵ 第一審による定款の解釈

⑶ 第二審による定款の解釈

⑷ 最高裁による定款の解釈

⑸ 若干の検討

 a 法律行為の解釈の観点から

 b 法解釈の観点から

2 東京地判令和3年6月7日判時2504号102頁

⑴ 事案の概要

⑵ 裁判所による定款の解釈

⑶ 若干の検討

a 法律行為の解釈の観点から

b 法解釈の観点から

Ⅵ.法律行為の解釈と法解釈の交錯

Ⅶ.おわりに

私は,2020年度から2021年度まで,東京大学法科大学院の裁判所派遣教員として,「民事実務基礎」と「民事事実認定論」の講義を担当してきた。これらの科目は,要件事実及び事実認定が民事訴訟におけるいわば車の両輪であることを踏まえて,これらについて,典型的な紛争解決手続である民事訴訟手続と共に学修することで,理論と実務の架橋を図ることを目的とするものである。

このうち,要件事実論については,民事実体法の解釈が要件事実の整理に直結するものであり,理論と実務の繋がりを理解しやすい分野であると思われる。他方で,事実認定論については,弁論主義や二段の推定等の民事訴訟法の理解が前提とはなるものの,多くの法科大学院生にとっては,理論自体をゼロから学修するものであるという印象が強いように見受けられる。また,私自身,事実認定論の導入に際しては,事実認定は基本的には経験則の適用の問題であって,私たちが法理論を離れて日々の日常生活において行っている事実認定と異なるものではないといった説明をしてきた。

こうしてみると,事実認定論において,理論と実務の架橋を図るというのはどういうことかについては,思い悩むところが多い。中村治朗元判事は,「絶対的真実の発見なるものは,その真実性を裏づける客観的なテストを欠くが故に,論理的に不可能であ」るとして,事実認定は弁証的論証の典型であるとしており2),突き詰めると,事実認定は,弁証的論証であるという点において法解釈と共通し,この点において法解釈に関して積み重ねられてきた理論が応用可能なものであると見ることができるかもしれない3)。

この点を,具体的かつ網羅的に論じることは私の能力の限界を超えるものであるが,定款の解釈が問題となった裁判例を検討してみることで,法律行為の解釈という事実認定の問題と,法解釈の問題とが交錯する一場面を素描してみたい。

Ⅱ.定款の解釈方法

最初に,社団の定款の解釈方法をめぐる学説の状況について見ておきたい。

定款の解釈方法をめぐっては,定款の性質発起人を拘束するのみならず,その後に入社した社員や会社の機関をも拘束するものであり,そうした作用・機能に着目すると会社の「自治法」(法規)たる性質を有する。

定款について,前者の法律行為たる性質を重視すれば,定款の解釈は,原則として法律行為の解釈方法によるべきということになり4),当事者がいかなる法律行為をしたのかという事実認定の問題に帰着することになろう。他方で,定款について,後者の法規範たる性質を重視すれば,定款の解釈は,法の解釈と同一の原理によるべきということになり5),法解釈の方法が問われることになろう。わが国においては,後者の見解が通説的な見解であるようであるが,ドイツにおいてはより精緻な議論が展開されているようである6)。すなわち,ドイツにおける議論では,定款の解釈について,原則として法律行為の解釈方法によるべきとする見解も,法人という物的構造等と抵触する限りでは,民法の契約に関する解釈原則は考慮されないとしており,他方,定款の解釈は法解釈の方法によるべきとする見解も,定款中の個人法的規定については,個別的契約の解釈と異なる取扱いを受けないとしている。このようにして,出発点にこそ差があれ,結論には大きな隔たりはないとされているのである7)。

前記のとおり,定款が,法律行為たる性質と自治法たる性質との二面性を有することからすると,定款の解釈手法に関する両説のいずれかが誤りであると断ずることはできないように思われる。その際に,両説からの結論に大きな隔たりがないというのは,両説が相互に他方の説に親和的な修正を受けるからなのであろうか。そもそも,両説が念頭に置くところの法律行為の解釈方法,法解釈の方法とはどのようなものなのか,そこから立ち返って考えてみる必要があるように思われる。

Ⅲ.法律行為の解釈方法

それでは,まず,法律行為の解釈方法がどのようなものかから見ていくことにしよう。

一般に,法律行為,特に「契約における意思表示の解釈においては,両当事者が表示に現実に付与した意味を,まずもって探究するべきである。その意味を確定したうえで,両者の付与した意味が一致していれば,その意味どおりの内容で意思表示,ひいては契約の成立を認める」とする見解(付与意味基準説)8)が通説とされ,これによれば,当事者の共通の主観的意味が表示の客観的意味に優先されることになる。民法(債権関係)の改正に際しても,このような通説的見解に従って,「契約の内容について当事者が共通の理解をしていたときは,契約は,その理解に従って解釈しなければならないものとする」との規定を設けることが検討されていた9)。

上記の通説的な理解によれば,例えば,売主Aと買主Bが,タバコ1000カートンの売買契約を締結した場合において,通常は,タバコ1カートンは10 箱入りパックを意味するから,上記売買契約における表示の客観的意味は,タバコ1万箱の売買ということになる。これに対して,A及びBがいずれも,主観的には,タバコ1カートンは12箱入りパックを意味すると考えていたときは,当事者の共通の主観的意味に従い,タバコ1万2000 箱の売買契約が成立したものと解釈すべきということになる10)。

そして,このような当事者の共通の主観的意味が何であったかは,事実認定の問題であり,売買契約書の文言は,当事者の主観的意味を強く推認させる証拠となるであろう11)。

さらに,契約書の文言を離れて,例えば,契約締結にA 及びB の間でどのような交渉がされていたのか,契約締結時に売主A が交付したのがタバコ何箱であったのか,契約締結後に納品数が過剰であったとして売主Aが返還を求めたことがあったのかといった事情も,当事者の主観的意味を推認させる間接事実として機能することになると考えられる。

なお,上記の設例は,いかにも教室事例であり,現実の紛争においては,契約書の文言からは必ずしも自明とはいえない事態が生じていることが多いと思われる。そのような場合には,広義の解釈として,法規範(任意規定と慣習)ないし契約の趣旨に則した補充がされることになり(裁判例においては,これを「当事者の合理的意思解釈」として認定しているものが多いように思われる。),場合によっては,当事者の合意内容が不適切と判断される場合に,裁判所が当事者の合意を修正して別の内容に置き換えることもあるとされる12)。

Ⅳ.法解釈の方法

次に,法解釈の方法とはどのようなものなのだろうか。法解釈の方法をめぐっては長年の論争もあり,複雑な様相を呈しているが13),伝統的な法解釈の技法としては,①文理解釈,②体系的解釈,③歴史的解釈及び④目的論的解釈があるとされており14),この分類に沿って順に簡単に見ていくことにしたい。

1 文理解釈

文理解釈とは,「法規の文字・文章の意味をその言葉の使用法や文法の規則に従って確定することによってなされる解釈」であり15),明治時代半ばから後期にかけての法典整備の初期段階においては,問題となる条文の文理解釈の手法が主流であったとされる16)。

ただし,その後,わが国の法解釈においては,いくつかの原因により文理解釈があまり重視されてこなかったとの指摘がされている。

その原因の一つが,1910 年代の学説継受の影響である。この頃,わが国の民法は,「個々の規定の母法にかかわりなく,いわばドイツ法学の鋳型にはめこまれることになった」とされ17),ドイツ法に従って,解釈が再構成されることとなった。民法415 条の「責に帰すべき事由」が,過失責任主義に従い,「故意・過失又は信義則上それと同視すべき事由」を意味するものと解釈されてきたのはその例とされる18)。ほかにも,不法行為の成立要件について,伝統的学説は「違法性」を要件としており,これは民法709 条の「権利侵害」の要件を,ドイツ法学の影響の下で違法性要件に読み替えたものであるとされている19)。こうした学説継受を通じて,日本流の概念法学が完成したとされ,その特色について,星野英一博士は,「条文の文字や立法趣旨をあまり考慮せず,持ち込んだ『理論』をあたかも法律そのものであるかのように説いて,そこからより具体的な帰結をひき出している」と評しているのである20)。

わが国において文理解釈が軽視されてきたもう一つの原因として,我妻栄博士の理論の影響も指摘されている。すなわち,前記のようなドイツ法の学説継受による日本流の概念法学は,末弘厳太郎博士によって批判され,末弘博士は,法規範は一定の社会関係を想定してこれを規律するものにすぎず,法規範が想定していない社会関係については裁判官の全人格的な判断による法創造がされるべきであると主張した21)。そして,我妻博士は,このような末弘博士の議論を受けて,裁判官による法創造が恣意的なものとならないようにするため,客観的な指導原理に基づく法的判断がされるべきであることを主張し,具体的な指導原理の攻究のためには「社会生活の実証的研究」が必要であると論じた22)。このような(制定法ではなく)「社会生活の実証的研究」に基づく法解釈の姿勢が,制定法の拘束力の軽視の姿勢につながったと分析されているのである23)。この制定法の拘束力の軽視の姿勢は,文理解釈の軽視と言い換えても良いことのように思われる。

もっとも,実務的には,文理解釈の手法は相当に重視されているように感じられ,文理解釈の重要性をめぐっては,研究者と実務家との間には若干の温度差があるようにも感じられる24)。なお,アメリカにおいては,スカリア元連邦最高裁判事が主唱した,文理解釈を徹底する「テキスト主義(Textualism)」が大きな影響力を有している。テキスト主義は,必ずしも政治的な保守主義と結び付けられるものではないが25),三権分立の建前を尊重する見解として重要であり,こうした見解が実務家(裁判官)により唱えられていることを含めて興味深い。

2 体系的解釈

体系的解釈とは,「ある法規と他の関係諸法規との関連,当該法令・法領域あるいは法体系全体のなかでその法規が占める地位など,解釈の対象たる法規の体系的連関を考慮しながら行われる解釈」である26)。

このような体系的解釈は,論理解釈とも呼ばれるものであり,民法起草者である梅謙次郎博士や富井政章博士自身,条文の字句のみに拘泥する場合には立法目的に反する場合があるとして,条文の文言だけでなく,「法律全体の構成,各規定の相互関係,立法の理由その他立法当時の状況,継受された母法など」を参照してその意味内容を明らかにする論理解釈の手法を提唱していたとされている27)。

このような体系的解釈には,目的論的判断が含まれ得るし28),上記の梅博士や富井博士の見解は,歴史的解釈をも含ませるものともいえるので,体系的解釈と歴史的解釈及び目的論的解釈とは一部重なり合うところがあろう29)。また,行政法解釈の方法として使われる「仕組み解釈」も,体系的解釈の一方法ということができるのではなかろうか30)。

3 歴史的解釈

歴史的解釈とは,「法規の成立過程,とくに,法案・その理由書・立案者の見解・政府委員の説明・議事録など,いわゆる立法資料を参考にして,法規の歴史的意味内容を解明することによってなされる解釈」である31)。

星野博士は,学説継受による日本流の概念法学に対する反省から,文理解釈・論理解釈と並んで,立法者・起草者意思の探求も基礎作業として行うべきであると論じている32)。

実際,法解釈に当たっては,衆議院及び参議院の法務委員会における質疑内容,法制審議会ないしその部会における議論や法務省等の立案担当者による解説資料等が参照されることは,実務上よく行われているところであろう。

ただし,何が立法者意思であるのかを確定することは容易ではない。国会における個々の質疑内容が直ちに立法府の意思を体現しているとはいえないであろうし,法制審議会における議論や立案担当者の解説に至っては,立法府の意思とは直接には関係のないものである。こうしたこともあり,歴史的解釈は,唯一の正しい解釈方法とはいえないとの批判がされている33)。

アメリカの連邦最高裁の判例においても,法規の文言があいまいである場合に,立法者意思を参照することは許されるが34),立法者意思を一義的に認定できない場合にはこれを参照することはできないとされている35)。

また,先に述べたテキスト主義の論者も,文言の原意を探求するために立法者意思を探求することはあり得るとするものの,文理解釈が明白であるときには,立法者意思は無関係であるとしており36),歴史的解釈は補充的な解釈手法であると位置付けているものと思われる。

もっとも,法律行為の解釈の場面においては,事実認定の手法を通じて,当事者の合理的意思解釈が行われているのであり,このことと同様に,法解釈の場面においても,立法資料等を通じて立法者意思を認定するということが行われて良いと思われるし37),さらに現実の社会的条件等をも参照しつつ,立法者の合理的意思の探求が行われるということもあって良いことのように思われる38)。

4 目的論的解釈

目的論的解釈とは,「当該法令の趣旨や目的・基本思想あるいはその法令の適用対象である問題領域の要請などを考慮しつつ,それらに適合するように法規の意味内容を目的合理的に確定する解釈」であるとされる39)。

ここでは,利益衡量論とそれに対する批判が重要であるように思われるので,それらについて触れておきたい。

わが国においては,戦後,裁判官による法解釈が主観的価値判断に過ぎないのではないかということが議論され,来栖三郎博士は,「何と法律家は威武高なことであろう。常に自分の解釈が客観的に正しい唯一の解釈だとして,客観性の名において主張するなんて。しかし,また,見方によっては,何と法律家は気の弱いことであろう。万事法規に頼り,人間生活が法規によつて残りくまなく律せられるように考えなくては心が落着かないなんて。そして何とまた法律家は虚偽で無責任なことであろう。何とかして主観を客観のかげにかくそうとするなんて」という有名な一節を著した40)。また,川島武宜博士も,「法的価値判断はどのようにしてなされるか……それに対する第一の答は,法的感覚である」が,「価値判断が法的感覚のみに基いてなされる場合には,それぞれの価値判断は,その出発点となった法的感覚のちがいを反映して異った結論となり,主観的な『見解の相違』として対立するだけで,客観性を主張する根拠が明白ではない」と論じている41)。

利益衡量論は,このような議論を踏まえて,価値判断の合理化手法として提唱された手法である。

利益衡量論を最初に提唱したのは加藤一郎博士であるとされ,加藤博士は,「最初の判断過程では,既存の法規を意識的に除外して,全く白紙の状態で,この事件をどう処理し解決すべきかをまず考えてみたい」,として,その際に,実質的にどういう利益に重きを置くべきかという利益衡量を行っている42)。このようにみると,加藤博士は,文理解釈・体系的解釈や歴史的解釈を離れて,いわば裸の利益衡量を提唱するもののようにも思われる。加藤博士は,「法的判断は,常識に捉われてはならないが,常識に反するものであってもならない。法律家は,それについて,素人と同じ実質的判断の次元で議論をし,素人を実質的に納得させることができるのでなければならない」として43),上記のような利益衡量を正当化しているように思われる。

これに対し,星野博士は,「法律の解釈である以上,独り言ではなく,関係者に対する説得であり,条文との関係を説明する必要がある。このさい,いきなり価値判断のみを述べるのではなく,文理上はこうなるがこれこれの理由でこう解するのがよい,とか,立法のさいはこういう状況を前提とし,このような価値判断のもとに作られたが,状況がこう変ったり,社会一般の価値判断がこう変ったので,別個に考える必要がある,というように説明するのが説得力があると思われる」としており44),先にも見たとおり,文理解釈,体系的解釈及び歴史的解釈を踏まえた利益衡量を行うべきであると論じている。

ただし,星野博士は,「以上の作業は,現在における解釈にとって,必要なことではない。現在どう解するかは,専ら現在における価値判断の問題である」として,究極的には,法解釈は専ら利益衡量に基づき行うべきであると主張している45)。

こうしてみると,加藤博士も星野博士も,利益衡量に基づく目的論的解釈を優先させるべきであるとする点で共通すると考えられるが,星野博士は,客観的な価値のヒエラルヒア(序列関係)が存在するとしており,そのために,利益衡量に基づく価値判断は客観的たり得ると主張した点で,加藤博士の利益衡量論と大きく異なるとされている46)。

以上のような利益衡量論は,実務家には大きな影響力を有しており,広く浸透している。実務家の法解釈は,あくまでも妥当な解決を導く手段に過ぎないということがいわれ47),利益衡量論が説く「結論志向的手法は,実務的にもなじみの深い思考方法であり,今後も有力かつ不可欠な方法であり続けることと思われる」とされているのである48)。また,客観的な価値のヒエラルヒアが存在するという星野博士の見解は,裁判の客観性を希求する裁判官にとっては魅力的な見解であるということがいえるだろう。

ただし,利益衡量論については,制定法の拘束力を無視するものであり,民主制の観点からも大きな問題であるとする批判があるとされている49)。アメリカにおけるテキスト主義の立場は,正にこのような批判を踏まえて,利益衡量に基づく政策的判断は,立法府の役割であって司法の役割ではないという点を強調するものである。

また,価値観の多様化が指摘されている現代社会において,どのような利益をどのように重み付けして考慮すべきであるかというのは常に悩ましい問題であるように思われ,客観的な価値のヒエラルヒアを見出すのは極めて困難であるように思われる50)。

平井宜雄博士は,ある価値には対立する価値が常にあるから,客観的な価値のヒエラルヒアはあり得ずコンフリクトしかあり得ないとして,星野博士に対する批判を展開しつつ,そのような絶対的な正しさの有無にかかわらず,主張-反論-再反論のプロセスを相互に批判可能な形で行うことで,生き残った弁明が客観性を獲得するのであるという「議論」論を展開した51)。これは,前記Ⅰで述べたとおり,法解釈が弁証的論証であるということを全面的に展開してその方法論を提示したものと見ることができる52)。

Ⅴ.定款の解釈が問題となった裁判例の検討

ここまで,法律行為の解釈と,法解釈の方法とをかいつまんで見てきたが,これを踏まえつつ,定款の解釈が問題となった2 件の裁判例を検討することとしたい。一つが最一判平成22 年4 月8 日民集64 巻3 号609 頁であり,もう一つが東京地判令和3 年6 月7 日判時2504 号102 頁である。いずれも,医療法人の定款の解釈が問題となった事案であるが,以下においては,それぞれ事案の概要と裁判所による定款の解釈を見た上で,当該解釈が,法律行為の解釈及び法解釈の方法の観点からどのように見ることができるのかを検討したい。

 最一判平成22 年4 月8 日民集64 巻3 号609 頁

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=80092

⑴ 事案の概要

Yは,昭和32 年に,Aが442 万5600 円,その妻であるB が20万円を出資して設立された医療法人であり,A及びBはその社員であって,ほかにY への出資者はいなかった。すなわち,Yの設立当時におけるその純資産額は,462 万5600 円であった。Yの定款は,社員はその死亡によって社員の資格を失う旨を規定し(6 条),「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる」(8 条)と規定していたところ(下線は筆者),A は昭和57 年に死亡し,Bは平成13 年に死亡して,いずれもY を退社し,子であるXがA 及びB の遺産を相続した。A 及びB の死亡による退社当時,Y の純資産額は,少なくとも4 億7110 万1049 円であった。

そこで,X は,A 及びB の死亡退社に伴うY に対する出資金返還請求権を相続したと主張して,Y に対し,4 億7110 万1049 円の支払を求めるなどした。

⑵ 第一審による定款の解釈

第一審53) において,争点は多岐にわたったが,X は,Y の定款8 条によれば,退社した社員は,その出資額に応じて出資金の返還を請求することができるところ,Y の純資産は4 億7110 万1049 円を上回るから,A 及びB は,Y に対し,「その出資額に応じ」,Y の純資産の合計100%である同額の返還を請求することができると主張した。これに対し,Y は,医療法人は,その非営利法人としての性格から,利益配当が禁じられているところ,その趣旨からすれば,出資社員が退社したときの出資金返還請求権の金額は,出資金額の限度(すなわち,A につき442 万5600 円,B につき20 万円)とするべきであるなどと主張した54)。

第一審判決は,上記の争点について,定款8 条の規定のほか,同じくY の定款33 条が,Y が解散したときの残余財産は「払込出資額に応じて分配するものとする」と定めていること(下線は筆者)を認定した上で,「このような定款の定めの文理に照らすと,被告……にあっては,出資をした社員は出資額に応じた法人の純資産に対する出資持分を有するものとし,出資持分を有する社員が退社したときは,当該社員は被告……に対して出資持分に相当する資産の払戻しを請求することができることとしたものであるというべきである」と判断し,この点に関するX の請求を認容した55)。

⑶ 第二審による定款の解釈

これに対し,第二審56) は,Y の主張を認め,X の請求は,A の出資金返還請求権が時効消滅していることを前提に,B の出資額の20 万円の限度で認容すべきであるとした。

裁判所は,平成18 年法律84 号による改正前の医療法(以下「改正前医療法」という。)について,「医療法人が存続してその開設する病院等を経営する限り,医療を提供する体制の確保を図る(〔改正前〕医療法1 条)ために,医療法人の自己資本を充実させ,剰余金の利益処分を禁止しているのであり(同法54 条)……医療法人に対して出資をした社員が退社した場合に剰余金及びその積立金の全部又はその一部を払い戻す行為も禁止していると解するのが相当であり」,Y の定款も同法の趣旨を踏まえて解釈する必要があるとして,Y の定款8 条は,「定款の文言上は基本財産並びに剰余金及びその積立金を含む総資産について持分の返還ないし払戻しを定めているかのように見える部分があるが,定款の全体の定め及びその趣旨にかんがみれば,そのようなことを定めたものと解することはできないのであって,『出資額に応じ』とは,社員の出資額が格別に異なることを想定した上,退社する社員が返還ないし払戻しを請求することができる出資は当該社員が出資した額とする旨を明らかにしたものにすぎないというべきである」と判断した57)。

⑷ 最高裁による定款の解釈

最高裁58) は,改正前医療法44 条,56 条等に照らせば,「同法は,社団たる医療法人の財産の出資社員への分配については,収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する〔改正前〕医療法54 条に反しない限り,基本的に当該医療法人が自律的に定めるところにゆだねていたと解される」とした上で,Y の「定款33 条の『払込出資額に応じて』の用語と対照するなどすれば,本件定款8 条は,出資社員は,退社時に,同時点における被上告人〔注・Y〕の財産の評価額に,同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当である」と判示し59),原審(第二審)を破棄した。

⑸ 若干の検討

a 法律行為の解釈の観点から

本件において裁判所が行った定款の解釈が,法律行為の解釈手法によったものなのか,法解釈の方法によったものなのかは必ずしも明らかではない。最高裁判決についての調査官解説は,前記Ⅱにおいて見た学説の状況を紹介しているものの,最高裁がいずれの見解に立つものであるかについては言及していない60)。

ただし,最高裁判決の参照条文には民法91条が掲げられており,少なくとも定款は契約に類するものであるとの理解が前提にあるようには思われる。そして,最高裁判決及び第一審判決の説示を見ると,本件定款の文言の解釈に専ら依拠しており,このことは,定款の解釈は法律行為の解釈方法によるべきであるとする立場からは素直に理解できるもののように思われる。すなわち,Y は昭和32 年設立の医療法人であり,設立者であるA 及びB が既に死亡していることからすると,定款の文言を離れて,設立者であるA及びB の共通の主観的意味を認定することは困難であろう。そうすると,第一審当時,既に作成から50 年近くが経過しており,その作成者の供述等が得られない本件においては,定款の文言に専ら依拠して事実認定を行うというのは自然なことであると理解できるのである。

これに対し,第二審は,結論は第一審及び最高裁と反対となっているが,第二審による定款の解釈についても,法律行為の解釈方法をとったものと捉えることが可能である。なぜならば,法律行為の解釈は当事者の共通の主観的意味によるといっても,強行法規に反する合意は認められないとすれば,当事者の共通の主観的意味を,強行法規と抵触しないように合目的的に解釈することも許されると思われるからである61)。第二審が,改正前医療法が退社社員に対する剰余金の払戻しを禁止していると解した上で,定款の文言を解釈しているのは,このような法律行為についての合目的的解釈を採用したものと見ることができるだろう。

このように,第一審判決から最高裁判決までを,法律行為の解釈の枠内で捉えると,第二審と最高裁との判断の相違は,強行法規たる医療法の解釈の差異が影響したものと考えることができる。前記のとおり,第二審は,剰余金の配当を禁止する改正前医療54条62) によれば,実質的には剰余金の分配に当たるような出資金払戻しも止されていると解釈したが,最高裁は,上記の医療法の規定は,社員の退社時における出資金の返還を規制するものではなく,この点については定款自治に委ねられていると解釈しているのである。

b 法解釈の観点から

もっとも,第二審と最高裁との判断のより根本的な違いは,両者を法解釈の方法論の文脈に位置付けるとより明確になるのではないかと思われる。

この点,第二審は,その説示からも明らかなとおり,定款の解釈については,文理解釈や体系的解釈に拘泥することなく,その趣旨及び目的等を踏まえて目的論的に解釈すべきであるとの姿勢をとっているように思われる。そして,このような第二審の目的論的解釈は,改正前医療法54 条の規定に加え,次のような医療法人を取り巻く状況をも考慮すると,より説得的に感じられるところである。すなわち,改正前医療法は,持分の定めのある社団たる医療法人の設立を認めており,Y もそのような医療法人であったが,かねてより,持分の定めのある医療法人においては,退社による払戻額が高額となるため,医療法人の存続そのものが脅かされる事態があるとの指摘がされていた。そこで,厚生労働省の「医業経営の非営利性等に関する検討会」は,平成16 年6 月22 日付け報告書において,医療法人制度の趣旨に照らし,社団医療法人は持分のない法人に移行することが望ましい旨を報告し63),平成18 年法律84 号による改正後の医療法(以下「改正後医療法」という。)は,定款において残余財産の帰属すべき者を定める場合は,国,地方公共団体,医療法人等から選定されなければならないとして(改正後医療法44 条5 項),医療法人の解散時に出資者に対して残余財産の分配をすることは許されなくなり,同法施行後は,持分の定めのある社団たる医療法人の設立は認められないことになったのである。こうした,本件当時から存在した立法事実や政策目的に照らすと,第二審のような解釈は,これらに応えるものであり,法解釈の方法について目的論的解釈を重視する立場からは,歓迎すべき判断ということになるかもしれない64)。

これに対し,最高裁は,第二審のような解釈手法を否定した。最高裁は,前記のような立法事実や政策目的自体は否定していないが,定款の文言からその意味内容が明らかな場合には,(立法事実や政策目的はともかく)これに忠実に解釈すべきであるとの姿勢を貫いているように思われる。そして,文言解釈に当たっては,問題となっている定款8 条の文言に着目することはもとより,他の定款の条文にも目を向け,定款全体の構成,その中での各条項の関係にも着目している。すなわち,最高裁は,Y の定款33 条が,解散時の残余財産の分配について「払込出資額に応じて」分配すると規定しており,同文言が(出資額を限度としない)出資割合に応じた分配を規定していることが明らかであることを指摘した上65),定款8 条と33 条で同じ「出資額に応じて」との文言が用いられていることも考慮すると,定款8 条の「出資額に応じて」との文言も,(出資額を限度としない)出資割合に応じた分配を規定したものであると解釈すべきであるとしたのである。

このような最高裁の定款解釈の手法は,文理解釈に加えて体系的解釈を重視するものであり,これらの解釈手法を目的論的解釈よりも優先させる姿勢を見て取ることができるのではないだろうか66)。

ただし,最高裁が目的論的解釈に目を瞑っているわけではないことは,法廷意見からは必ずしも明らかではないものの,宮川光治裁判官及び金築誠志裁判官の各補足意見には表れている。すなわち,昭和25 年8 月9 日医発521 号厚生省医務局長発各都道府県知事あて通知「医療法の一部を改正する法律の施行について」に添付された定款例(モデル定款)は,その9 条において,Y の定款8 条とほぼ同様に,「社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる」と規定していたところ,昭和32 年12月7 日総43 号厚生省医務局総務課長回答は,上記のモデル定款と同様の定款の規定がある場合に,出資が現物でされた場合の払戻しについて,「退社社員に対する持分の払戻は,退社当時当該医療法人が有する財産の総額を基準として,当該社員の出資額に応ずる金銭でなしても差し支えないものと解する」としていた(下線は筆者)。このような状況も踏まえ,金築裁判官の補足意見は,「本件定款のような規定を持つ医療法人における退社した社員の財産上の請求権については,租税上の取扱いを含めた長年にわたる行政実務及び多くの裁判例を通じて,退社時の法人財産評価額に対する出資割合に応じた金額の請求権を意味するものと解されてきた。医療法人の存続を優先的に考える見地からの原判決のような解釈は,その意図は理解できなくはないものの,今卒然とこうした解釈を採用することは,本件定款と同様の規定を有するきわめて多くの医療法人の出資者等に対し,予期せざる重大な不利益を及ぼすおそれがあり,著しく法的安定性を害するものといわざるを得ない。私が,原判決を支持できないと考える最大の実質的な理由は,ここにある」と述べているのである67)。

以上のとおり,第二審と最高裁の結論の相違は,法解釈の方法として,文理解釈及び体系的解釈と目的論的解釈とのいずれを重視すべきであるかという姿勢の違いが表れたものと見ることができ,また,目的論的解釈に際して,いかなる利益を考慮すべきかという点の違いが表れたものと見ることもできるように思われる68)。

 東京地判令和3年6月7日判時2504号102頁

⑴ 事案の概要

事案の概要は,次のとおりである。すなわち,Y1は,昭和56年に,X1の兄である理事長C が1 億4698 万0225 円,X1が1 億4698万0224 円を出資するなどして設立された医療法人であり,Y1 の設立当時の出資持分は,X1 及びC がそれぞれ約40%,X1 及びC の兄弟であるD が約19%であり,この3 名の出資持分が約99%を占めていた。

Y1 の定款には,次のような規定があった(下線は筆者)。

「第7 条 社員は,次に掲げる理由によりその資格を失う。

一 除名

二 死亡

三 退社

2 社員であって,社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者は,社員総会の決議を経て除名することができる。

第8 条 前条に定める場合の外やむを得ない理由のあるときは,社員はその旨を理事長に届け出て,その同意を得て退社することができる。

第9 条 社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」

X らは,平成29 年9 月14 日頃,Y1 に対し,同月16日付けでY1 を退社する旨を通知したが,理事長C が,X らの退社に同意したことはない。

かかる事実関係の下で,X らは,定款8 条の「前条に定める場合の外」との文言からすれば,理事長C による同意がなくとも,Xらの退社は定款7条により有効であると主張し,同日当時のY1 の総資産額である14 億7496 万4181 円を基準に,出資金の払戻しを請求した。これに対し,Y1 は,理事長C による同意がない以上,X らの退社は認められないと主張した。退社が認められる場合の「出資額に応じ」た払戻金額は,前記の平成22 年最判が判示したところであるが,その前提としての退社が認められるかという点に関し,再び定款の解釈が問題となったのである。

⑵ 裁判所による定款の解釈

裁判所69) は,定款8 条の「『前条に定める場合の外』との文言を形式的に解釈し,同条及び同7 条1 項3 号の『退社』は別異の概念であって,同号の『退社』については理事長の同意は要件ではないと解する場合には,原告らは本件通知をもって退社したこととなると考えられる。もっとも,上記解釈によれば,『退社』について理事長の同意を要する場合(同8 条)とこれを要しない場合(同7条1 項3 号)が生ずることとなり,本件定款における『退社』の概念の統一が損なわれることとなるところ,本件定款においては,社員の一方的意思表示による退社と,理事長の同意による退社とを殊更に別異の概念として区別するような規定は見当たらないことからすれば,同8 条の『前条に定める場合の外』との文言のみをもって,同7 条1 項3 号の退社は,同8 条の退社と別異の概念であると直ちに認めることは相当ではない。そうすると,本件定款において,一方的意思表示による退社が許容されているか否かについては,同7 条1 項3 号及び同8 条の文言のみに形式的に依拠するのではなく,その内容を合理的に解釈して適用するのが相当である」とした70)。

その上で,裁判所は,次の3つの理由を挙げて,本件定款8 条は,「『前条に定める場合の外』との文言にかかわらず,同7 条1 項3号に規定する退社についての手続を定めた規定であると解するのが相当である」と結論付けた。すなわち,①まず,「本件定款において,退社の手続について規定するものは本件定款8 条のみであり,このほかに社員の一方的意思表示による退社の場合の手続を定めた規定は見当たらない。そうすると,同7 条1項3 号により社員の一方的意思表示のみによる退社が認められると解する場合には,その手続については何らの定めがないこととなり,同8 条において,退社するためのやむを得ない理由,理事長への届出及び理事長による同意という厳格な要件を課した意義は,およそ失われることになる」というのであり,②また,「本件定款は,被告Y1 設立に当たって定められたものであり,前記……のとおり,被告Y1 設立時,その出資持分は,C 及び原告X1 がそれぞれ約40%を有し,D が約19%を有していたところ,このようにごく少数の者が多額の持分を有しているときに,被告Y1の存立が直ちに危うくなるような,社員による自由で一方的な意思表示による退社及びこれに伴う持分の払戻しを認容する規定を置いたとは俄かに考え難い」というのであり,③さらに,「かねてより,医業については安定的な継続が必要であるにもかかわらず,出資持分のある医療法人においては,出資持分の払戻請求によりその存続が脅かされる事態が生じることが懸念され,そのため平成19 年以降は出資持分のある医療法人の新設はできないこととされており,既存の出資持分のある医療法人についても,出資持分のない医療法人に円滑に移行できるようにするためのマニュアルが厚生労働省により作成・整備されていることが認められる」というのである71)。

⑶ 若干の検討72)

a 法律行為の解釈の観点から

本判決も,前記の平成22 年最判と同様,定款の解釈方法について,法律行為の解釈の方法によるべきか,法解釈の方法によるべきかを明言していない。そして,本判決についても,上記のいずれの見解からも説明が可能であるように思われる。

法律行為の解釈という観点から見ると,本判決は,オーソドックスな事実認定の手法をとるものとして理解することができるだろう。すなわち,前記⑵の理由の①は,定款の文言が強い証拠力を持つことを前提に,その定款の文言をその字句のみならず定款の構成を基に探求するという点を重視しているように読める。

その上で,本判決は,当事者の共通の主観的意味の探求という視点から,定款作成者であるX1,C 及びD らの意思を,設立時の出資比率が上記3 人のみで約99%であったという間接事実から推認しようとしている(前記⑵の理由の②)。

現在の医療法人を取り巻く事情(前記⑵の理由の③)をどのような位置付けの事実として考慮したのかは,判決文からは必ずしも明らかではないが,これを設立当時の定款作成者の意思を推認させる事後的な間接事実と位置付けることも可能であるように思われる。

こうしてみると,本判決は,直接証拠たる定款の文言に加えて,定款の作成当時及び事後的な間接事実も総合して,定款作成者の共通の主観的意味内容を認定したものと見ることができるように思われる。

b 法解釈の観点から

また,本判決は,法解釈の方法を採用したものと捉えても,その手法をオーソドックスに適用しているもののように思われる。

まず,本判決は,文理解釈を出発点としているが,文理解釈によれば定款の全体的な構成が極めて不自然なことになるとして,次いで体系的解釈による正当化を試みている(前記⑵の理由の①)。

そして,定款作成者であるX1,C 及びDらの意思の推認(前記⑵の理由の②)については,立法者・起草者意思を探求する歴史的解釈の手法をとるものと見て取ることができるだろう。なお,法解釈において,立法者意思を確定することは一般に困難なことであるが,定款については,その作成経過が立法に比して単純であることから,その起草者意思を認定しやすいという面があるように思われる。

さらに,現在の医療法人を取り巻く事情(前記⑵の理由の③)については,こうした体系的解釈及び歴史的解釈から導かれる結論が,目的論的解釈とも整合しているということを指摘するものと捉えることができるように思われる。

こうしてみると,本件判決は,法解釈の方法論に従って,文理解釈,体系的解釈,歴史的解釈及び目的論的解釈を総合して結論を導いたものと理解できるように思われるのである。

そして,説示において,まずは文理解釈を踏まえた体系的解釈を基本に据えていると考えられることからすれば,本判決についても,前記の平成22 年最判と同様,法解釈の手法としては文理解釈及び体系的解釈を重視するものと見て取ることができるように思われる。

なお,本件におけるY1 の定款は,モデル定款と同一ではなく,定款8 条の「前条に定める場合の外」という文言は,モデル定款の文言に付加されたものであった。そうすると,本件においては,定款8 条のような文言を採用したのはY1 固有の事情ということになり,法的安定性については考慮する必要がなかった事案であると思われる。

・・・遺言の解釈と似ている箇所があるように感じます(定款作成者の本意を総合的に考慮するなど。)。しかし、自然人ではなく法人であること、単独行為ではなく契約に近い解釈がなされること、法人の種類によっては判決の医療法など政策的な考慮が必要になることが異なる箇所だと思います。

Ⅵ法律行為の解釈と法解釈の交錯

ここまで,定款の解釈が問題となった2件の裁判例を検討してきた。これらの検討を通してみると,定款の解釈について,法律行為の解釈の方法をとったとしても,法解釈の方法をとったとしても,結論が変わるわけではないように思われ,それは,異なる両者の方法論が修正を受けて相互に歩み寄る結果というよりは,そもそも両者の方法論がほとんど共通するからであるということができるのではないだろうか。

事実認定においては,要証事実について直接証拠がある場合,まずはその証明力を検討すべきことになろう。特に,当該直接証拠が,契約書等の類型的に信用性が高いと認められる文書である場合には,(当該文書に形式的証拠力があることを前提に)特段の事情がない限り,その記載どおりの事実を認定すべきことになる73)。ただし,訴訟に至る事案においては,多くの場合,かかる特段の事情の存否が問題となるから,事実認定に慎重を期すためには,当該直接証拠のみならず,他の間接証拠から認められる間接事実をも総合して判断するのが相当であると考えられる。そして,間接事実に関しては,法律行為以前や法律行為当時の事情から要証事実の存否を推認することができるのはもちろん,事後的な事情から遡って要証事実の存否を推認するという場合もあろう。

このように,事実認定において,直接証拠たる類型的信用文書を重視する姿勢は,法解釈において,制定法の拘束力を重視し,その文理解釈及び体系的解釈を重視するべきであるとの姿勢と共通するのではないだろうか。

また,直接証拠に加えて,間接事実からの推認をも行うという点も,文理解釈・体系的解釈に加えて,歴史的解釈及び目的論的解釈を行うという法解釈の手法と共通するもののように思われる。歴史的解釈は,法律行為以前や法律行為当時の間接事実からの推認とパラレルに考えることができようし,目的論的解釈は,事後的な事情からの推認とパラレルに考えることができるだろうが,事実認定において,こうした事前・当時・事後の間接事実を総合して当事者の合理的意思解釈が行われていることとの対比からすれば,法解釈においても,歴史的解釈及び目的論的解釈を総合して立法者の合理的意思74) の探求が行われていると見ることもできるだろう。

こうしてみると,文理解釈・体系的解釈を基本としつつ,歴史的解釈及び目的論的解釈をも考慮して法解釈を行うという方法は,事実認定に慣れ親しんでいる法曹実務家にとっては,極めて自然な解釈方法であるということがいえるのではないだろうか。

以上のような,安易なアナロジーに対しては,いくつか批判も考えられる。

一つには,法律行為の解釈と法解釈の方法とは飽くまでも異なるという批判があるだろう。

そもそも,法律行為の解釈においては,当事者の主観的意味内容の認定が問題となるのに対し,法解釈においては客観的意味内容が問題となるという点で両は異なるという考えもあろうが75),当事者の主観的意味内容といっても,それが争われる場合には,これを直接覚知することができない以上,客観的な証拠等によって認定する必要があるのであり,解釈に当たり,主観を重視するのか客観を重視するのかという点が,法律行為の解釈と法解釈との本質的な差異となるとは考え難い。

より本質的には,特にいわゆるハードケースにおける法解釈に際しては,文理解釈・体系的解釈や歴史的解釈から導かれる結論と,目的論的に妥当と考えられる結論とが異なる場合が生じ得ることとなり,そのような場合に目的論的解釈を優先すべきであるというのが法解釈のあるべき姿であって76),この点において単純に直接証拠を重視する事実認定と法解釈とは根本的に性質を異にするという考えもあるかもしれない。

確かに,法律行為の解釈において,契約後の事情変動等の事情を殊更に重視して,直接証拠たる契約書の内容や契約締結当時の事情から導かれる解釈と異なる解釈を採用するというのは,通常は考え難いことであろう。

もっとも,具体的に妥当な事案の解決を図るためには,法的構成を柔軟に考えるとともに,事実認定にも操作を加え,擬制的な事実を認定することも許されるという指摘がなされていることにも留意する必要があろう77),

例えば,前記Ⅲの教室設例でいえば,契約当事者が,当初は,タバコ1 カートンは10箱入りパックを意味するものとして,タバコ1000 カートン(1 万箱)の売買契約を締結したのであったが,売主の従業員が誤ってタバコ1万2000 箱を納品し,その後,売主も買主も,タバコ1 カートンを12 箱入りパックと解する余地もあったと思い直してそのままにしたという場合,契約の変更や追認といった法的構成をとるまでもなく,当初からタバコ1万2000 箱についての売買契約が成立したものと評価できる場合もあり得るのではなかろうか。

また,そのような教室設例を離れて,まさにハードケースといい得る事例において,擬制的な事実認定が行われたといい得る事例として,「共同相続人の1 人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右の相続人との間において,右建物について,相続開始時を始期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」とした最三判平成8年12月17日民集50巻10号2778 頁を挙げることもできるのではないかと思われる。

以上のとおり,最初のあり得る批判に対して一応の応答を試みたところで,もう一つ考えられる批判としては,法律行為の解釈も法解釈も,いずれも弁証的論証という点で共通するのであるから78),その方法論が抽象的な類型のレベルで共通するのは当たり前のことに過ぎないという意見もあるかもしれない79)。

しかし,方法論(解釈技法)を類型化した上で,その類似性を見出し,法律行為の解釈と法解釈のそれぞれの場面において,その各技法がどの程度重視されているのかを比較検討して分析してみることは,事実認定及び法解釈の双方の精度を高めていく上で有益なのではないかと思われる。

多くの民事訴訟事件においては,法解釈が争われることはなく,専ら事実の有無及びその評価が争点となる。そして,事実認定については既に優れた論考が数多く発表されており,事件類型ごとに事実認定に際して考慮すべき事情を整理・紹介するものは,実務家が経験則を獲得・補充するに当たって極めて有用なものとなっている。もっとも,個別の事案にはそれぞれの特殊性があることからすると,そうした整理に依拠するだけで直ちに正しい事実認定ができるということにはならないだろう。裁判官が,個々の事案の解決に際し,当事者が納得する適切妥当な事実認定を行い,ひいては司法に対する国民の信頼を獲得・維持するためには,法解釈についての学修及び研究を通じて培った方法論を応用して,事案の個別の事情を踏まえた認定を説得的に論証することが必要であり,そのような論証は,法解釈について共通の方法論を身に着けた実務家及び研究者による建設的な批判の対象になるものと考える80)。

なお,事実認定においては,直接には覚知し得ないとはいえ,絶対的真実が存在し,裁判官は,かかる絶対的真実の解明を目指して事実認定を行っている。そうであるとすると,法解釈において,事実認定と同様のアプローチを意識することは,裁判官にとって,客観的な法解釈を目指すよすがともなるのではないだろうか。

Ⅶ.おわりに

一般に法曹実務家は法解釈に関心が薄く,研究者は事実認定に関心が薄いということが指摘されている。しかし,実務家として,法解釈の方法に関心を深めることは,事実認定の精度を高めることにつながるかもしれないし,そこに事実認定論における理論と実務の架橋のヒントがあるのかもしれない。

本稿は,そのような期待をもとに,東京大学法科大学院の3 年生を対象とした勉強会において発表した内容を,その際の参加者の皆さんとの議論を踏まえて大幅に修正して執筆したものである。もとより文責は私が負うものであるが,先輩教員として指導助言を下さった石田佳世子判事と,勉強会に参加して貴重な議論を提供してくれた和泉里佳さん,林載允さん,大井俊哉さん,完山聖奈さん,柴崎英之さん,清水理桜子さん,成政優太さん,吉沢健太郎さんに心から感謝を申し上げたい。法科大学院が,引き続き理論と実務の架橋を果たす場であり続けることを強く願っている。

* 脱稿後に次の情報に接した。まず,前記Ⅴ2で紹介した東京地判令和3 年6 月7 日判時2504 号102 頁は控訴されたが,控訴審において和解が成立したようである。また,山本=中川・前掲注13) の続編として,民商法雑誌において「法解釈の方法論Ⅱ」の特別企画が始まっている。その一編である西内康人「民法の解釈――紛争解決と社会統制の関係を巡る理解の試み」民商法雑誌158 巻3 号102 頁(2022)は,その末尾の脚注において,本稿末尾の脚注と同じ文献に触れているが,これは面白い偶然である。(やまぎし・ひであき)

参考

登記研究 715号 185頁 平成19年3月30日 法務省民商第811号 民事局商事課長通知 〔五六七二〕良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて

登記研究 832号 147頁 平成28年9月1日 法務省民商第132号 民事局商事課長通知 医療法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて

登記研究 833号 134頁 平成29年3月7日 法務省民商第36号 民事局商事課長通知 医療法の一部を改正する法律等の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて

家族信託の相談会その54

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要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

令和5年3月30日法務省民二第555号司法書士による本人確認情報の作成について(回答)

要件

申請人と面識がある場合

・医療機関・施設などから、入所者の健康上の理由等により、直接面談が困難であるとの要請があった場合→自宅療養の場合でケースワーカー、介護支援専門員から要請された場合は?家族の要請の場合は?

・直接面談と変わらない、相互に意思の疎通ができる状況であること。

・資格者代理人は、テレビ会議による面談を行った合理的理由(医療機関・施設などから、入所者の健康上の理由等により、直接面談が困難であるとの要請があった場合)を明らかにして提供すること。

・同席した施設の職員又は申請人等の家族等から、画面越しに映された申請人等が本人に相違ない旨を聴取して具体的に記録して提供。

・テレビ会議による面談の際に本人に間違いないという判断をした理由を、本人確認情報の内容として提供。

・登記官への事前照会。

申請人と面識がない場合

申請人と面識がある場合に加えて、

・事前に、申請人を知る者から、不動産登記規則第72 条第2項各号に掲げる本人確認書類の原本の提示を受け、提示された当該書類の内容を直接確認。

申請人を知る者の例

・親族、ケースワーカー、社会福祉士、介護支援専門員、顧問税理士、取引に関わっていた宅地建物取引士、登記義務者と同じ会社の社員、登記義務者が入所直前に居住していたマンションの管理組合の理事長。

施設に現に赴いた司法書士によるテレビ会議を用いた本人確認情報の作成について

日本司法書士会連合会 不動産登記法改正等対策部

部長 里村美喜夫

当対策部において、標記の件について意見をまとめましたのでご意見を求めます。

【意見の趣旨と概要】

不動産登記法第23 条第4項第1号の規定により、登記官が資格者代理人から提供を受ける、申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために必要な情報(以下「本人確認情報」という。)を提供する方法により登記を申請する場合においては、不動産登記規則第72 条第1項第1号の規定により申請人(申請人が法人である場合にあっては、代表者又はこれに代わるべき者。以下「申請人等」という。)と面談した日時、場所及びその状況を明らかにするものでなければならないとされている。

一方、近時、医療機関や高齢者施設等(以下「施設」という。)での面談について、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、対面による直接の面談(以下「直接面談」という。)をすることができない状況になっているとの事例報告が増えている。よって、本人確認情報を提供する面談方法については、直接面談以外のこれに準じる方法により、提供する情報を明らかにすることが要請されている。

そこで、申請人等が入院・入所している施設に現に赴いた資格者代理人が、同じ施設内の申請人等とは別室または施設内の別の場所において、申請人等とテレビ会議やウェブ会議等を用いた面談(資格者代理人と申請人等が、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に同時に認識しながら通話をすることができる方法。以下「テレビ会議による面談」という。)により、本人確認情報を得た場合においては、下記のとおり、一定の要件のもとに、不動産登記規則第72 条第1項第1号に該当すると考える。

(前提条件)

1.前提として、テレビ会議による面談であっても、直接面談と変わらない意思の疎通ができる状況である必要がある。

(面識がある場合)

2.資格者代理人が申請人等の氏名を知り、かつ、当該申請人等と面識があるとき施設に入所している申請人等の施設から、入所者の健康上の理由等[1]1により、直接面談が困難であるとの要請があった場合において、直接面談ができない合理的理由があると認められるときは、テレビ会議による面談により、資格者代理人は本人確認情報の提供をすることができる。なお、資格者代理人は、テレビ会議による面談を行った合理的理由を明らかにして提供しなければならない。

併せて、本人確認をする資格者代理人は、同席した施設の職員又は申請人等の家

族等(以下「申請人を知る者」という。)から、画面越しに映された申請人等が本人に相違ない旨を聴取してその旨を具体的に記録することにより、テレビ会議による面談の際に本人に間違いないという判断をした理由を、本人確認情報の内容として提供しなければならない。

この場合、テレビ会議による面談によって、資格者代理人が適式に本人確認をし

ており、本人確認情報の内容として登記官がその内容を相当と認めるときは、登記官はこれを受理して差し支えない。

→現時点で、事前照会必要。

(面識がない場合)

3.資格者代理人が申請人等の氏名を知らず、又は当該申請人等と面識がないとき上記「2.資格者代理人が申請人等の氏名を知り、かつ、当該申請人等と面識があるとき」に加え、資格者代理人は、申請人を知る者から、不動産登記規則第72 条第2項各号に掲げる本人確認書類の原本の提示をあらかじめ受け、提示された当該書類の内容を直接確認した上で、テレビ会議による面談を行わなければならない。

この場合、テレビ会議による面談によって、資格者代理人が適式に本人確認をし

ており、本人確認情報の内容として登記官がその内容を相当と認めるときは、登記官はこれを受理して差し支えない。

考え方

面識がある場合においても、面識がない場合においても、資格者代理人が現に赴いた施設の別室に申請人等がおり、当該施設内で映像と音声の送受信により相手方と相互に通話をし、直接面談と変わらない状態で意思の疎通や本人の確認ができること。

テレビ会議による面談を行ったやむを得ない事由が、申請人等の入所する施設から、健康上の理由等により直接面談が困難であるとの要請があったものであり、本人確認情報の内容として、テレビ会議による面談を実施する合理的理由が明らかにされていること。

施設におけるテレビ会議による面談に同席した申請人を知る者から、画面越しに映された申請人等が本人に相違ない旨を資格者代理人が聴取して、本人に間違いないという判断した理由が本人確認情報の内容として具体的に明らかにされていること。

資格者代理人が申請人等の氏名を知らず、又は当該申請人等と面識がない場合には、申請人を知る者から、不動産登記規則第72 条第2項各号に掲げる本人確認書類の原本の提示をあらかじめ受け、かつ、提示された当該書類の内容を直接確認しなければならないこと(同条第1項第3号)。

資格者代理人が行った本人確認情報の提供について、登記官がその内容を相当と認めること。

別室・面識あり・同席者あり

本 人 確 認 情 報

○○法務局 御中

当職は、本件登記申請の代理人として、下記のとおり、申請人が申請の権限を有

する所有権登記名義人であることを確認するため必要な情報を提供します。

令和4年12月11日

○○○○市西区○○一丁目2番3号 司法書士 司法三郎

(登録番号 ●●県司法書士会第○○○○号)

1 登記の目的 所有権移転

2 不動産の表示 ●●県○○市〇〇区○町○番 宅地 111・11㎡

3 登記済証を提出できない理由 紛失

4 申 請 人 ○○市〇〇区○丁目○番○号 法務一郎

生年月日 昭和**年**月**日生

5 面談した日時・場所・状況

日 時 令和4年12月11日 午前10時30分より

場 所 司法書士 司法三郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 1階 面会室

法務一郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 3階 面会室

面談状況 本件登記申請人が本件不動産について所有権移転登記をするにあたり、所有権移転登記申請の必要書類の確認等を行うため、当職が登記義務者と面談した。

〇〇病院から、現在職員以外の人間と原則として面会禁止としているので、ZOOMを用いて、司法書士 司法三郎の面談場所である面会室と、登記義務者の面談場所である面会室を接続して面談する方法以外での面談は認められないという要請があり、このような方法で面談を行った。

映像及び音声のやり取りは司法書士 司法三郎の携帯電話と病院が用意したパソコンを接続して行い、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に同時に認識しながら通話をすることができる状態で、対面の面談と変わらない状態での意思疎通、本人の確認ができる状態で行われた。

同 席 者 登記権利者 法務太郎氏(長男)1階 面会室で同席した。

6 申請人との面識の有無 当職は申請人とは過去に面識がある。

7 面識の経緯・時期 具体的な事由

当職は本件登記申請の3ケ月以上前に当該申請人について、資格者代理人として本人確認情報を提供して次の所有権移転登記の申請をしている。

御庁 平成**年**月**日 受付第 ****** 号

(以下省略)

事例1

別室・面識なし・同席者あり

本 人 確 認 情 報

○○法務局 御中

当職は、本件登記申請の代理人として、下記のとおり、申請人が申請の権限を有する所有権登記名義人であることを確認するため必要な情報を提供します。

令和4年12月11日

○○市西区○○一丁目2番3号 司法書士 司法三郎

(登録番号 ●●県司法書士会第○○○○号)

1 登記の目的 所有権移転

2 不動産の表示 ●●県○○市〇〇区○町○番 宅地 111・11㎡

3 登記済証を提出できない理由 紛失

4 申 請 人 ○○市〇〇区○丁目○番○号 法務一郎

生年月日 昭和**年**月**日生

5 面談した日時・場所・状況

日 時 令和4年12月11日 午前10時30分より

場 所 司法書士 司法三郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 1階 面会室

法務一郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 3階 面会室

面談状況 本件登記申請人が本件不動産について所有権移転登記をするにあたり、所有権移転登記申請の必要書類の確認等を行うため、当職が登記義務者と面談した。

〇〇病院から、現在職員以外の人間と原則として面会禁止としているので、ZOOMを用いて、司法書士 司法三郎の面談場所である面会室と、登記義務者の面談場所である面会室を接続して面談する方法以外での面談は認められないという要請があり、このような方法で面談を行った。

映像及び音声のやり取りは司法書士 司法三郎の携帯電話と病院が用意したパソコンを接続して行い、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に同時に認識しながら通話をすることができる状態で、対面の面談と変わらない状態での意思疎通、本人の確認ができる状態で行われた。

面談に同席した○○病院の職員〇〇○○氏より、画面に映し出された登記義務者は同病院に入院している者で、本人に間違いないことを聴取した。

同 席 者 ○○病院の職員〇〇○○氏 1階 面会室で同席した。(注)

6 申請人との面識の有無 当職は申請人とは過去に面識はない。

7 面識がない場合における確認資料

職は、申請人の氏名を知らず、又は面識がないため、申請人から次の確認資料の提示を受け確認した。

確認資料のうち次の①②の原本は〇〇病院が登記義務者から預かり、保管していたので、登記義務者の同意を得て、面談当日に、〇〇病院の職員からあらかじめ当職に手渡された。

①確認資料の特定事項及び有効期限

名称 国民健康保険の被保険者証

令和*年1月まで有効

②確認資料の特定事項及び有効期限

名称 基礎年金番号通知書

8 登記名義人であることを確認した理由

前項の本人確認書類につき、以下のとおり確認した。

①②の確認資料に記載されている氏名及び住所が一致していること、及び記載されている氏名及び住所が登記名義人本人のものであることを確認した。加えて、証明書の外観・形状に異常がないことを視認した。

さらに、住所・氏名・生年月日、本件不動産に関すること、本件不動産の取得の経緯、登記済証紛失に関することについて申述を求めたところ正確に矛盾なく回答した。

(以下省略)

(注)司法書士が申請人と面識がない場合においては、当該申請人を知る者に面談状況を確認させ、その内容を本人確認情報に記載して提供したときは、当該記載は、登記官が本人確認情報の内容を相当と評価する際の重要な判断材料であると考える。

事例2

別室・面識なし・同席者あり

本 人 確 認 情 報

○○法務局 御中

当職は、本件登記申請の代理人として、下記のとおり、申請人が申請の権限を有する所有権登記名義人であることを確認するため必要な情報を提供します。

令和4年12月11日

○○市西区○○一丁目2番3号 司法書士 司法三郎

(登録番号 ●●県司法書士会第○○○○号)

1 登記の目的 所有権移転

2 不動産の表示 ●●県○○市〇〇区○町○番 宅地 111・11㎡

3 登記済証を提出できない理由 紛失

4 申 請 人 ○○市〇〇区○丁目○番○号 法務一郎

生年月日 昭和**年**月**日生

5 面談した日時・場所・状況

日 時 令和4年12月11日 午前10時30分より

場 所 司法書士 司法三郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 1階 面会室

法務一郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 3階 面会室

面談状況 本件登記申請人が本件不動産について所有権移転登記をするにあたり、所有権移転登記申請の必要書類の確認等を行うため、当職が登記義務者と面談した。

〇〇病院から、現在職員以外の人間と原則として面会禁止としているので、ZOOMを用いて、司法書士 司法三郎の面談場所である面会室と、登記義務者の面談場所である面会室を接続して面談する方法以外での面談は認められないという要請があり、このような方法で面談を行った。

映像及び音声のやり取りは司法書士 司法三郎の携帯電話と病院が用意したパソコンを接続して行い、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に同時に認識しながら通話をすることができる状態で、対面の面談と変わらない状態での意思疎通、本人の確認ができる状態で行われた。

当職は、面談に同席した、登記義務者の息子である法務太郎氏より、画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取した。(注)

同 席 者 登記権利者 法務太郎氏(長男)1階 面会室で同席した。

6 申請人との面識の有無 当職は申請人とは過去に面識はない。

7 面識がない場合における確認資料

当職は、申請人の氏名を知らず、又は面識がないため、申請人から次の確認資料の提示を受け確認した。

確認資料の原本は〇〇病院の職員を介して面談当日にあらかじめ当職に手渡された。

確認資料の特定事項及び有効期限

名称 普通自動車運転免許証

20**(令和*年)**月**日まで有効

写真の添付 別紙のとおり

8 登記名義人であることを確認した理由

前項の本人確認書類につき、以下のとおり確認した。

証明書の写真により本人との同一性を確認し、証明書の外観・形状に異常がないことを視認した。

また、住所・氏名・生年月日、本件不動産に関すること、本件不動産の取得の経緯、登記済証紛失に関することについて申述を求めたところ正確に矛盾なく回答した。

(以下省略)

(注)司法書士が申請人と面識がない場合においては、当該申請人を知る者に面談状況を確認させ、その内容を本人確認情報に記載して提供したときは、当該記載は、登記官が本人確認情報の内容を相当と評価する際の重要な判断材料であると考える。

■親族以外の「当該申請人を知る者」の事例について

1.登記義務者のケースワーカーである(相談員である社会福祉士である)○○○○氏より画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取した。

2.登記義務者の顧問税理士、○○○○氏より画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取した。

3.不動産売買の仲介業者であり、本件取引に関わっていた、宅地建物取引士、○○○○氏より画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取した。

4.登記義務者と同じ会社の社員○○○○氏より画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取した。

5.登記義務者が入所直前に居住していたマンションの管理組合の理事長である○○○○氏より画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取した。

事例3

別室・面識なし・同席者なし

本 人 確 認 情 報

○○法務局 御中

当職は、本件登記申請の代理人として、下記のとおり、申請人が申請の権限を有する所有権登記名義人であることを確認するため必要な情報を提供します。

令和4年12月11日

○○市西区○○一丁目2番3号 司法書士 司法三郎

(登録番号 ●●県司法書士会第○○○○号)

1 登記の目的 所有権移転

2 不動産の表示 ●●県○○市〇〇区○町○番 宅地 111・11㎡

3 登記済証を提出できない理由 紛失

4 申 請 人 ○○市〇〇区○丁目○番○号 法務一郎

生年月日 昭和**年**月**日生

5 面談した日時・場所・状況

日 時 令和4年12月11日 午前10時30分より

場 所 司法書士 司法三郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 1階 面会室

法務一郎:○○市〇〇区〇〇二丁目2番2号

〇〇病院 3階 面会室

法務花子:○○市〇〇区○丁目○番○号(登記義務者の自宅)

面談状況 本件登記申請人が本件不動産について所有権移転登記をするにあたり、所有権移転登記申請の必要書類の確認等を行うにため、当職が登記義務者と面談した。

〇〇病院から、現在職員以外の人間と原則として面会禁止としているので、ZOOMを用いて、司法書士 司法三郎の面談場所である面会室と、登記義務者の面談場所である面会室を接続して面談する方法以外での面談は認められないという要請があり、このような方法で面談を行った。同時に登記義務者の自宅を接続し、登記義務者の妻、法務花子ともZOOMを用いて面談を行った

映像及び音声のやり取りは司法書士 司法三郎の携帯電話と病院が用意したパソコン、同時に法務花子が用意したパソコンを接続して行い、映像と音声の送受信により三者が相手の状態を相互に同時に認識しながら通話をすることができる状態で、対面の面談と変わらない状態での意思疎通、本人の確認ができる状態で行われた。(注)

当職は、同時に接続した法務花子氏から、画面に映し出された登記義務者が本人に間違いないことを聴取し、確認した。

同 席 者 なし。

6 申請人との面識の有無 当職は申請人とは過去に面識はない。

7 面識がない場合における確認資料

当職は、申請人の氏名を知らず、又は面識がないため、申請人から次の確認資

料の提示を受け確認した。

確認資料の原本は〇〇病院の職員を介して面談当日にあらかじめ当職に手渡された。

確認資料の特定事項及び有効期限

名称 普通自動車運転免許証

20**(令和*年)**月**日まで有効

写真の添付 別紙のとおり

8 登記名義人であることを確認した理由

前項の本人確認書類につき、以下のとおり確認した。

証明書の写真により本人との同一性を確認し、証明書の外観・形状に異常がないことを視認した。

また、住所・氏名・生年月日、本件不動産に関すること、本件不動産の取得の経緯、登記済証紛失に関することについて申述を求めたところ正確に矛盾なく回答した。

(以下省略)

(注)司法書士が申請人と面識がない場合においては、当該申請人を知る者に面談状況を確認させ、その内容を本人確認情報に記載して提供したときは、当該記載は、登記官が本人確認情報の内容を相当と評価する際の重要な判断材料であると考える。

申請人を知る者の登記義務者の確認は、同時の機会にテレビ会議で相互に認識しながら行うのであれば、必ずしも登記義務者や司法書士と同一の場所に赴いて同席して行われる必要はないと考える。

資格者代理人による不動産登記法第23条第4項の本人確認の取扱いについて

○ 医療機関・高齢者施設では、新型コロナウイルス感染症対策として、入居者と外部の者との直接的な面会を制限する傾向にあり、対面が困難な状況にあることを踏まえ、次の条件を満たす場合には、テレビ会議やウェブ会議を用いた面談であっても適式な面談とする。

前提となる現行制度

○ 申請人(登記義務者)が、登記識別情報を(失念した等の理由で)提供できない場合において、資格者代理人が申請人と面談を行い、(本人確認を行った上で作成した)本人確認情報を登記申請時に提供し、登記官がこれを相当と認めたときは、事前通知手続が省略される(不動産登記法第23条第4項)。

①現在の面談方法

資格者代理人が申請人と対面にて面談を行う(申請人と面識がない場合には、対面で身分証の提示を求める。)。

②新たな面談方法

★ 実施に必要な条件

① ウェブ会議によっても、対面の面談と変わらない意思疎通ができること。

② 施設側の要請に基づくものであり、感染拡大防止等、申請人と直接面談ができない合理的理由があること。

③ 資格者代理人と申請人との間に面識がない場合には、事前に申請人の身分証(運転免許証等)原本の提示を受けること。

④ 同一施設内(資格者代理人は施設に現に赴く)で、かつ、施設の職員又は申請人の家族の同席の下で行われること(具体的な面談事例は以下のとおり。)。

直接面談が困難な状況にある施設に入所中の申請人を対象とした本人確認情報の提供について(お知らせ)

新型コロナウイルス感染症の拡大などに伴い、集団感染の防止の観点から、高齢者施設・医療機関等(以下「施設」という。)においては、申請人や申請人たる法人の代表者である入所者・患者等(以下「申請人等」という。)と対面による直接の面談(以下「直接面談」という。)ができない場合があります。

そこで、不動産登記制度の円滑な運用のため、下記のとおり、資格者代理人が施設に直接赴いた上で、テレビ会議を用いて本人確認を行った場合の不動産登記法第23 条第4項第1号に規定する本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)の提供について、下記のとおり取りまとめましたので(概要は別添資料を参照)、お知らせいたします。貴会会員にご周知くださるようお願いいたします。

なお、下記の内容は、法務省民事局に確認済みですので、申し添えます。

【本通知の趣旨と理由】

施設において申請人等と直接面談ができない状況下において、資格者代理人が施設に直接赴き、申請人等とは直接接触しない施設内の別室等においてテレビ会議を用いて本人確認を行った場合において、以下の【要件】を満たしているときは、不動産登記規則第72 条の本人確認情報に該当するものとして差し支えない。

【要件】

・面識がある場合においても、面識がない場合においても、資格者代理人が現に赴いた施設の別室に申請人等がおり、当該施設内で映像と音声の送受信により相手方と相互に通話をし、直接面談と変わらない状態で意思の疎通や本人の確認ができること。

・テレビ会議による面談を行ったやむを得ない事由が、申請人等の入所する施設から、健康上の理由等により直接面談が困難であるとの要請があったものであり、本人確認情報の内容として、テレビ会議による面談を実施する合理的理由が明らかにされていること。

・施設におけるテレビ会議による面談に同席した施設の職員や申請人等の家族等から、画面越しに映された申請人等が本人に相違ない旨を資格者代理人が聴取して、本人に間違いないという判断をした理由が本人確認情報の内容として具体的に明らかにされていること。

・資格者代理人が申請人等の氏名を知らず、又は当該申請人等と面識がない場合には、施設の職員又は申請人等の家族等から、不動産登記規則第72 条第2項各号に掲げる本人

【別紙2】

確認書類の原本の提示をあらかじめ受け、かつ、提示された当該書類の内容を直接確認しなければならないこと(同条第1項第3号)。

・資格者代理人が行った本人確認情報の提供について、登記官がその内容を相当と認めること。

(ご留意)具体的な事案の対応にあたっては、管轄法務局と事前協議をしてください。

参考

登記研究 745号 127頁  2010年3月30日 【質疑応答】 〔七九〇七〕遺言執行者である司法書士が自身に申請権限があることを証明するために作成した本人確認情報の提供があった場合の事前通知の省略の可否

登記研究 735号 159頁  2009年5月30日 【質疑応答】 〔七八八九〕破産管財人代理と面談した結果をもって法二三条四項一号の本人確認情報とすることの可否について

登記研究 714号 197頁  2007年8月30日 【質疑応答】 〔七八五四〕海外に居住する日本人が登記識別情報の提供を要する登記の申請をする場合において、登記識別情報を提供できないときに、日本領事の署名証明書をもって本人確認情報とすることの可否


[1] コロナなどの感染の拡大を防止する場合。施設の衛生上の必要性がある場合。

加工令和5年3月28日法務省民二第538号民法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(令和5年4月1日施行関係)(通達)

令和5年3月28日法務省民二第538号民法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(令和5年4月1日施行関係)(通達)

第2 不登法改正関係

1 相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化

  • 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、不登法第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができることとされた(改正不登法第63条第3項)。
  • これに伴い、不動産登記令(平成16年政令第379号。以下「不登令」という。)の一部が改正され、改正不登法第63条第3項の規定により登記権利者が単独で遺贈による所有権の移転の登記を申請するときは、登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)として、次の情報を提供しなければならないこととされた(不動産登記令等の一部を改正する政令(令和4年政令第315号。以下「令和4年政令」という。)による改正後の不登令(以下「改正不登令」という。)別表の30の項添付情報欄ロ)。
    • 相続があったことを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)
    • 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)によって所有権を取得したことを証する情報
  • 不登法の規定を準用する建設機械の登記(建設機械登記令(昭和2

9年政令第305号)第16条第1項)及び船舶の登記(製造中の船舶の登記を除く。船舶登記令(平成17年政令第11号)第35条第1項)についても、添付情報に関する所要の整備がされた(令和4年政令による改正後の建設機械登記令別表の8の項添付情報欄ロ、船舶登記令別表1の8の項添付情報欄ロ)。

  • 改正不登法第63条第3項の規定は、当該規定に係る改正法の施行の日(令和5年4月1日)以後にされる登記の申請について適用することとされた(改正法附則第5条第1項)。

2 登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化

  • 買戻しの特約に関する登記の抹消
    • 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、その買戻しの特約がされた売買契約の日から10年を経過したときは、不登法第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができることとされた(改正不登法第69条の2)。
    • これに伴い、不登令の一部が改正され、改正不登法第69条の2の規定により登記権利者が単独で買戻しの特約に関する登記の抹消を申請する場合には、登記原因証明情報を提供することを要しないこととされた(改正不登令第7条第3項第1号)。
    • 改正不登法第69条の2の規定により登記権利者が単独でする買戻しの特約に関する登記の抹消の申請において、申請情報の内容とする登記原因は、「不動産登記法第69条の2の規定による抹消」とするものとし、登記原因の日付を要しない。
    • 登記官は、改正不登法第69条の2の規定による申請に基づく買戻しの特約に関する登記の抹消を完了した場合には、当該登記の登記名義人であった者に対し、登記が完了した旨を通知しなければならないこととされた(不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和5年法務省令第6号。以下「令和5年法務省令」という。)による改正後の不動産登記規則(平成17年法務省令第18号。以下「改正不登規則」という。)第183条第1項第3号)。

この通知の様式等については、令和5年3月28日付け法務省民二第534号当職通達による改正後の不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付け法務省民二第456号当職通達。以下「改正不登準則」という。)によるものとし(改正不登準則第117条、第118条第14号)、当該登記の登記名義人であった者の登記記録上の住所に宛てて通知書を発送するものとする。

  • 登記の記録は、別紙1の振り合いによるものとする。
    • 改正不登法第69条の2の規定は、当該規定に係る改正法の施行の日(令和5年4月1日)以後にされる登記の申請について適用することとされた(改正法附則第5条第1項)。
  • 除権決定による登記の抹消等
  • 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第99条に規定する公示催告の申立てをすることができることとされ(改正不登法第70条第1項)、この適用対象となる所在が知れない者として、登記義務者である登記名義人のほか、その相続人その他の一般承継人が該当することが明確化された。
  • 改正不登法第70条第1項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合であって、当該登記の抹消の申請に係る登記権利者において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用することとした上で(改正不登法第70条第2項)、改正不登法第70条第1項及び第2項の場合において、非訟事件手続法第106条第1項に規定する除権決定があったときは、不登法第60条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で改正不登法第70条第1項の登記の抹消を申請することができることとされた(改正不登法第70条第3項)。
  • 不登法第70条の改正に伴い、不登令において所要の整備がされ(改正不登令別表の26の項添付情報欄)、また、不登法の規定を準用する建設機械の登記(建設機械登記令第16条第1項)、船舶の登記(船舶登記令第35条第1項・第2項)及び農業用動産の抵当権の登記(農業用動産抵当登記令(平成17年政令第25号)第18条)についても、所要の整備がされた(令和4年政令による改正後の建設機械登記令第16条第1項、同登記令別表の5の項添付情報欄、船舶登記令第35条第1項・第2項、同登記令別表1の5の項添付情報欄・別表2の14の項添付情報欄、農業用動産抵当登記令第18条、同登記令別表の16の項添付情報欄)。
  • 改正不登法第70条第2項の「相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法」は、次の措置をとる方法とすることとされた(改正不登規則第152条の2)。

一 改正不登法第70条第2項に規定する登記の抹消の登記義務者(以下このエの項目において単に「登記義務者」という。)が自然人である場合

ⅰ 共同して登記の抹消の申請をすべき者の調査として次の

①から⑤までに掲げる措置

  • 登記義務者が記録されている住民基本台帳、除票簿、戸籍簿、除籍簿、戸籍の附票又は戸籍の附票の除票簿(以下「住民基本台帳等」という。)を備えると思料される市町村の長に対する登記義務者の住民票の写し又は住民票記載事項証明書、除票の写し又は除票記載事項証明書、戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書並びに戸籍の附票の写し及び戸籍の附票の除票の写し(以下「住民票の写し等」という。)の交付の請求
    • ①の措置により登記義務者の死亡が判明した場合には、登記義務者が記録されている戸籍簿又は除籍簿を備えると思料される市町村の長に対する登記義務者の出生時からの戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書の交付の請求
    • ②の措置により登記義務者の相続人が判明した場合には、当該相続人が記録されている戸籍簿又は除籍簿を備えると思料される市町村の長に対する当該相続人の戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書の交付の請求
    • ③の措置により登記義務者の相続人の死亡が判明した場合には、当該相続人についてとる②及び③に掲げる措置
    • ①から④までの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者が判明した場合には、当該者が記録されている住民基本台帳又は戸籍の附票を備えると思料される市町村の長に対する当該者の住民票の写し又は住民票記載事項証明書及び戸籍の附票の写し(①の措置により交付の請求をしたものを除く。)の交付の請求

ⅱ 共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在の調査として書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法による次の①及び②に掲げる措置

  • 登記義務者の不動産の登記簿上の住所に宛ててする登記義務者に対する書面の送付(ⅰの措置により登記義務者の死亡及び共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合を除く。)
    • ⅰの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合には、その場所に宛ててする当該者に対する書面の送付

二 登記義務者が法人である場合

ⅰ 共同して登記の抹消の申請をすべき者の調査として次の

①及び②に掲げる措置

  • 登記義務者の法人の登記簿を備えると思料される登記所の登記官に対する登記義務者の登記事項証明書の交付の請求
    • ①の措置により登記義務者が合併により解散していることが判明した場合には、登記義務者の合併後存続し、又は合併により設立された法人についてとる①に掲げる措置

ⅱ ⅰの措置により法人の登記簿に共同して登記の抹消の申請をすべき者の代表者(共同して登記の抹消の申請をすべき者が合併以外の事由により解散した法人である場合には、その清算人又は破産管財人。以下同じ。)として登記されている者が判明した場合には、当該代表者の調査として当該代表者が記録されている住民基本台帳等を備えると思料される市町村の長に対する当該代表者の住民票の写し等の交付の請求

ⅲ 共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在の調査として書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法による次の①及び②に掲げる措置

  • 登記義務者の不動産の登記簿上の住所に宛ててする登記義務者に対する書面の送付(ⅰの措置により登記義務者が合併により解散していること及び共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合を除く。)
    • ⅰの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合には、その場所に宛ててする当該者に対する書面の送付

ⅳ ⅰ及びⅱの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者の代表者が判明した場合には、当該代表者の所在の調査として書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法による次の①及び②に掲げる措置

  • 共同して登記の抹消の申請をすべき者の法人の登記簿上の代表者の住所に宛ててする当該代表者に対する書面の送付
    • ⅰ及びⅱの措置により当該代表者が所在すると思料される場所が判明した場合には、その場所に宛ててする当該代表者に対する書面の送付
  • 前記イのとおり、改正不登法第70条第2項に規定する場合において、非訟事件手続法第99条に規定する公示催告の申立てがされ、同法第106条第1項に規定する除権決定があったときは、改正不登法第70条第3項の規定により、不登法第60条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で改正不登法第70条第1項の登記の抹消を申請することができる。この場合には、非訟事件手続法第106条第1項に規定する除権決定があったことを証する情報が添付情報となる(改正不登令別表の26の項添付情報欄ロ)。
  • 改正不登法第70条第2項の規定は、当該規定に係る改正法の施行の日(令和5年4月1日)以後に申し立てられる公示催告の申立てに係る事件について適用することとされた(改正法附則第5条第2項)。

解散した法人の担保権に関する登記の抹消

ア 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、改正不登法第70条第2項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したときは、不登法第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができることとされた(改正不登法第70条の2)。

  • これに伴い、不登令の一部が改正され、改正不登法第70条の2の規定により登記権利者が単独で先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請するときは、登記原因証明情報として、次の情報を提供しなければならないこととされた(改正不登令別表の26の項添付情報欄ホ)。
    • 被担保債権の弁済期を証する情報
    • 共同して登記の抹消の申請をすべき法人の解散の日を証する情報
    • 改正不登法第70条第2項に規定する方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報
  • 前記イの登記原因証明情報としては、次のようなものが該当する。
  • イの一について

金銭消費貸借契約証書、弁済猶予証書、債権の弁済期の記載がある不動産の閉鎖登記簿謄本等

  • イの二について

共同して登記の抹消の申請をすべき法人の登記事項証明書等

  • イの三について

改正不登法第70条第2項に規定する方法による調査(前記(2) エの二の方法による調査)の結果を記載した報告書(共同して登記の抹消の申請をすべき法人及びその清算人の調査の過程で収集した書類並びにこれらの者の所在調査に係る郵便記録等を添付したものをいう。以下「調査報告書」という。)

エ 改正不登法第70条の2の規定により登記権利者が単独でする先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消の申請において、申請情報の内容とする登記原因は、「不動産登記法第70条の2の規定による抹消」とするものとし、登記原因の日付を要しない。

  • 不登法の規定を準用する建設機械の登記(建設機械登記令第16条第1項)、船舶の登記(船舶登記令第35条第1項・第2項)及び農業用動産の抵当権の登記(農業用動産抵当登記令第18条)についても、所要の整備がされた(令和4年政令による改正後の建設機械登記令第16条第1項、同登記令別表の5の項添付情報欄ホ、船舶登記令第35条第1項・第2項、同登記令別表1の5の項添付情報欄ホ・別表2の14の項添付情報欄ホ、農業用動産抵当登記令第18条、同登記令別表の16の項添付情報欄へ)。
  • 前記(2)エの二ⅱの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき法人の清算人が死亡していることが判明した場合には、同ⅳ② の「当該代表者が所在すると思料される場所が判明した場合」には該当しないものとし、改正不登法第70条の2の「法人の清算人の所在が判明しない」場合に該当するものとする。
  • 前記(2)エの二ⅱの措置に関し、請求に係る共同して登記の抹消の申請をすべき法人の清算人の住民票の除票等が廃棄等されているために、調査報告書に住民票の写し等を添付することができない場合には、不在住証明書や不在籍証明書等を調査報告書に添付するものとし、これらの証明書等の交付を受けることができない場合には、その旨を調査報告書に記載するものとする。
  • 共同して登記の抹消の申請をすべき法人が、会社法(平成17年法律第86号)第933条の規定による外国会社の登記がされていない外国会社である場合や、共同して登記の抹消の申請をすべき法人の清算人が外国に住所を有する者である場合などであっても、前記(2)エの二の措置が行われていれば足り、外国の登録、登記制度等に基づく調査を行う必要はない。
  • 登記の記録は、別紙1の振り合いによるものとする。
  • 改正不登法第70条の2の規定は、当該規定に係る改正法の施行の日(令和5年4月1日)以後にされる登記の申請について適用することとされた(改正法附則第5条第1項)。
    • 情報の提供の求め
    • 登記官は、職権による登記をし、又は不登法第14条第1項の地図を作成するために必要な限度で、関係地方公共団体の長その他の者に対し、その対象となる不動産の所有者等(所有権が帰属し、又は帰属していた自然人又は法人(法人でない社団又は財団を含む。)をいう。)に関する情報の提供を求めることができることとされた(改正不登法第151条)。
    • この「職権による登記」には、改正不登法第76条の4の規定に基づいてする登記官の職権による登記(所有権の登記名義人についての符号の表示。施行期日は、改正法の公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日(改正法附則第1条第3号))、不登法第28条の規定に基づいてする登記官の職権による表示に関する登記等が該当する。
    • その他

不登法第162条(検査の妨害等の罪)の改正に伴い、同規定を引用する不動産登記規則別記第4号様式(登記官の身分を証する書面)が改められた(令和5年法務省令第1条)。

第3 その他運用の見直し関係

1 法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化

  • 法定相続分での相続登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされた相続による所有権の移転の登記をいう。以下同じ。)がされている場合において、次に掲げる登記をするときは、所有権の更正の登記によることができるものとした上で、登記権利者が単独で申請することができるものとする。
    • 遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記
    • 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
    •  特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記

四 相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記

  • (1)の所有権の更正の登記の申請において、申請情報の内容とする登記原因及びその日付は、次の振り合いによるものとする。

ア (1)一の場合「年月日【遺産分割の協議若しくは調停の成立した年月日又はその審判の確定した年月日】遺産分割」

イ (1)二の場合

「年月日【相続の放棄の申述が受理された年月日】相続放棄」

ウ (1)三の場合

「年月日【特定財産承継遺言の効力の生じた年月日】特定財産承継遺言」

エ (1)四の場合

「年月日【遺贈の効力の生じた年月日】遺贈」

(3) (1)の所有権の更正の登記の申請をする場合に提供する登記原因証明情報としては、次のようなものが該当する。

ア (1)一の場合

遺産分割協議書(当該遺産分割協議書に押印した申請人以外の相続人の印鑑に関する証明書を含む。)、遺産分割の審判書の謄本

(確定証明書付き)、遺産分割の調停調書の謄本

イ (1)二の場合

相続放棄申述受理証明書及び相続を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)

ウ (1)三の場合

遺言書(家庭裁判所による検認が必要なものにあっては、当該検認の手続を経たもの)

エ (1)四の場合

遺言書(家庭裁判所による検認が必要なものにあっては、当該検認の手続を経たもの)

  • 登記官は、(1)の三及び四の登記(所有権の更正の登記)の申請(登記権利者が単独で申請するものに限る。)があった場合には、登記義務者に対し、当該申請があった旨を通知しなければならないこととされた(改正不登規則第183条第4項)。

この通知の様式等については、改正不登準則によるものとし(改正不登準則第117条、第118条第15号)、当該申請の調査完了後、速やかに登記義務者の登記記録上の住所に宛てて通知書を発送するものとする。

なお、登記官において、当該通知後に、登記義務者からの求め等に応じ、登記手続の処理を中止・停止することを要しない。

  • 建設機械の登記(建設機械登記規則(平成17年法務省令第30号))及び船舶の登記(製造中の船舶の登記を除く。船舶登記規則(平成17年法務省令第27号))についても、所要の整備がされた(令和5年法務省令による改正後の建設機械登記規則第35条、船舶登記規則第49条)。
  • (1)の所有権の更正の登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾がなければ申請することができないことなどは、従前のとおりである(不登法第66条、第68条等)。
  • 登記の記録は、別紙2の振り合いによるものとする。
  • 本取扱いは、令和5年4月1日以後にされる登記の申請から実施するものとする。

2 胎児を相続人とする相続による所有権の移転の登記手続の見直し

  • 胎児を相続人とする相続による所有権の移転の登記の申請において、申請情報の内容とする申請人たる胎児の表示は、「何某(母の氏名)胎児」とするものとする。
  • 登記の記録は、別紙3の振り合いによるものとする。
  • 本取扱いは、令和5年4月1日以後にされる登記の申請から実施するものとする。

別紙1

<不動産登記法第69条の2の規定による抹消>

(注)1 買戻権の登記の抹消は主登記でする。

2 買戻しの特約に関する登記を抹消する記号(下線)を記録する。

<不動産登記法第70条の2の規定による抹消>

(注)1 抵当権の登記を抹消する記号(下線)を記録する。

2 先取特権及び質権の登記の抹消の登記の記録は、この記録例に準ずる。

別紙2

  • 遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記の場合

(注)更正前の共有者を抹消する記号(下線)を記録する。

  • 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記の場合

(注)更正前の共有者を抹消する記号(下線)を記録する。

特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記の場合

(注)更正前の共有者を抹消する記号(下線)を記録する。

相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記の場合

(注)更正前の共有者を抹消する記号(下線)を記録する。

別紙3

  • 所有権の移転の登記(胎児の相続)

参考

登記研究 461号 118頁  1986年6月30日 【第六部 質疑応答】 〔六七二九〕代位による相続登記完了後に相続放棄をした者がいる場合の登記申請人

登記研究 462号 116頁、1986年7月30日 【第六部質疑応答】 〔六七三六〕包括遺贈による登記の申請人

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