東京地裁令和3年9月17日判決にみる民事信託支援業務の内包と5号相談の実質(下)

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「東京地裁令和3年9月17日判決にみる民事信託支援業務の内包と5号相談の実質(下)」からです。

信託、そして、長期にわたる信託の指針となる信託契約の法律整序事務は、本当に難しい法技術である。

本当に、難しい、を抜かして読むと、読みやすくなると思います。

民事信託支援業務の意義は、さらに、機能的にみれば、司法書士が市民間の純粋な法律関係(契約関係)への正面からの関与・支援に踏み出した第1歩である実質が重要である。

 機能面からの一つの主張には、同意します。動機としては、記事に記載されている司法書士の新たな業務の開拓、成年後見業務の補充や相続遺言業務の補完・代替というメニューの充実、というものが大きかったのではないでしょうか。そして結果的に、機能面として司法書士の新たな業務の開拓、成年後見業務の補充や相続遺言業務の補完・代替というメニューの充実となっているのが現状ではないかと感じます。

私人間の水平的かつ長期の安定的な法律(契約)関係を築くための相談、助言、立合い、法律整序支援などを介して、市民の権利を保全する、という領域である。

水平的な法律(契約)関係について

平松直登「1998年人権法の「水平的効力」の諸相-<「公的機関」としての裁判所>の意義と私人間効力-」

https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/handle/10291/17703

司法書士は、民事信託支援業務を介して、市民間における水平的な契約関係の前提となる当事者間の対等性・公平性を担保し、その職務的独立性を担保し、その職務的独立性を維持しつつ、積極的に市民に対する情報提供やリスク説明を行う法的支援者の重責を、あえて担いつつある。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令に関して、触れないのは何故なのかなと思いました。

もっとも、司法書士の法律相談または法律整序相談の場合、書類作成業務などの受任の有無に関わらず、それ自体が独立した契約である側面もあり(法律相談契約または法律整序相談契約)、専門家責任の下、かような契約に適合しない助言の提供をもって、それを助言過誤であり、法律相談または法律整序相談の債務不履行である、という構成もありうる。

 1つの方法としては、受任前の相談を個別的相談として報酬をいただくことが考えられます。

 2つ目の方法としては、受任前の相談を個別的相談として、無償で行うことが考えられます。この場合は、その時に整理整序した法律関係や当事者の意向の整理などのメモに日付を入れ、依頼者から署名をいただき、司法書士・相談者の間で共有します。受任時の委任契約書においては、以前の相談と対価の関係にはない旨を記載します。

また、損害賠償責任が遅滞に陥るのは、債務不履行構成の場合、起源の定めのない債務として、履行の請求を受けた時点となる(民法412条3項)。その一方、不法行為構成の場合、発生と同時に遅滞に陥る(最判昭和37年9月4日民衆16巻9号1834頁)。それゆえ、この場合、不法行為構成の方が被害者(債権者)に有利となりうる。

 この場合、が何を指しているのが私には分かりませんでしたが、遅延損害金の発生日をもって不法行為構成の方が被害者(債権者)に有利、というのは疑問に思いました。債務不履行構成とどちらが立証がしやすいか、個別具体的な場面で評価されるのではないかと感じます。

本判決では、「民事信託支援業務における司法書士の活動状況」というタイトルが付されている(第3・1(1)エ)。―中略―裁判所も、かような業務名を事実認定している。

 原告から主張立証されているからではないでしょうか。判決を書くのに必要な前提事実について、訴訟当事者から主張立証が尽くされてそれが正当であるとき、裁判所が事実認定しないということがあるのでしょうか。私には分かりませんでした。

そして、2007年の信託法の改正の施行を迎えるが、それを契機として、司法書士集団として受託者となる方向性だけでなく、民事信託支援業務全般を含めた検討が開始されるに至った、ということができる。

 裏返すと、それまでは受託者となる方向を中心に検討・研究・意見・協議していた、ということになるのかなと思いました。私は2007年合格ですが、新人研修の際、七戸克彦教授以外に、信託法に触れている講師はいませんでした。

この点、民事信託支援業務の実現に向けての組織的研究は、日司連の佐藤純通執行部において、支援型法律家たることを司法書士制度の理念としてきた佐藤会長の英断によって、当時、執行部を構成していた山北英仁理事に対して、司法書士による民事信託への関与の検討が委嘱されることで、日司連内に山北理事主幹の福祉型信託の部会を設けたのを一里塚とする。―中略―民事信託実務の検討の最適任者の一人であった。

 著者からみると、日司連会長や理事、渉外事務で知られる、弁護士事務所の大番頭、というのが重要なのかもしれませんが、違和感を覚えました。実際におこなっているのは個々の司法書士であり、現在の執務体制を最初に提案したのは本記事に挙がっている方々ではありません。新井誠教授でもありません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日司連の方向性に対する影響力に関していえば、リーガルサポートの初代理事長であり、福祉型信託を審議した第42回金融審議会のヒアリングを日司連の代表として担当するなど、それまで福祉型信託の活用を主張してきた大貫正男司法書士の存在も忘れてはならない。―中略―しかし、結果として、大貫司法書士は、成年後見や民事信託の実務を通じて、弁護士との協働関係を実現させてきた、という逆説が興味深い。

 私には分かりませんでした。現在の(公社)成年後見センター・リーガルサポートについて、大貫正男司法書士が果たしたことと、起こった問題に関しては検証が必要ではないのかなと思います。ここでも個々の会員の視点が抜けていて少し残念に思います。ただし、大きなことを語るのが大事だと考える方もいらっしゃるので、仕方がない事だと思います。

民事信託は司法書士の十八番芸なのか

誰がこのようなことを言っているのか、教えて欲しいと思います。

大貫司法書士は、徹底した研修の必要性、そして公益精神を忘れず、報酬目当ての商業主義に逸脱しないこと、信託を利用して利潤追求はすべきでないこと、一匹オオカミではない組織による集団指導体制構築の必要性など、司法書士実務家の人々に対して厳しい覚悟を求めた。このような大貫提言の数々は、その後、どれだけ遵守されてきたのだろうか。

 繰り返しになりますが、大貫司法書士には民事信託の前に(公社)成年後見センター・リーガルサポートの初代会長として、負の部分を是正していく仕事がまだ残っているのではないかと思います。

 また、このような提言は日司連の民事信託委員の一部、(一社)民信託推進センター役員の一部には当てはまらないのかな、と感じるのは私だけでしょうか。

 民事信託の第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、など、そのような名前を付けてどのような意味があるのだろうと感じます。

当時、司法書士実務家の人々の少なからずは、法律事務としての信託支援業務の法的根拠論(本当に司法書士業務となり得るのか否か)に懐疑的であったから、信託法研究の泰斗である新井教授の助言に勇気づけられた人々が多かった。

 記事記載が事実だとすれば、現在司法書士が民事信託支援業務を行う法的根拠について、議論する余地はないのではないかな、と感じます。


[1] 125号、2022年6月、民事法研究会p43~

第112回国会 衆議院 法務委員会 第9号 昭和63年4月15日

  • 134 山田英介発言URLを表示○山田委員 我が国の公示制度の歴史は百年を超えております。特に今回の不動産登記法の改正につきましては、いわゆる薄冊中心のブックシステムの登記制度からブックレスシステム、すなわちコンピューターシステムへとこれが移行されていくという、またさせていこうという、その意味では我が国の公示制度の大きな変革期に入ってきた、このように認識をするわけでございます。そういうことをベースにして考えてみますと、大事なことは、やはりいかにシステムそのものがブックからコンピューターへと移行したとしても、現在我が国の公示制度が抱えているさまざまな問題点、これの解決への方向づけ、あるいはまた公示制度を取り巻く諸条件の整備というものを、この大きな変革への第一歩といいますか、第一次となります不登法改正のこの機会にやはり明確に方向づけをする、あるいは整備をしていくめどをつけていくという作業が極めて大事な問題である、かような認識をいたしております。  そこで、何点か以下お伺いをするわけでございますが、最初に確認をいたしておきたいと思います。特にこの不動産公示制度と極めて密接な関係で存在をいたしております司法書士制度、そしてその業務に関してでございますが、特に司法書士が不動産の登記申請書を作成をいたしまして代理する、その前提として実際に登記の前提となる契約の実体、あるいはその契約でも物権契約の実体をやはりしっかりと把握していかなければならないのだろうというふうに認識をいたしておりますが、この登記申請書を作成し、そして代理して申請をする以前に、司法書士に求められる業務上の責任というのは一体具体的にどういうものなのかを明らかにしていただきたいと思います。
  • 135 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士はまずその業務の第一号として、登記及び供託の手続について代理をすることというふうに定められております。この手続について代理をするに当たりましては、当事者間になされている物権変動の原因となっている契約を把握し、そして何よりもその両当事者がその物権について登記をする申請意思を持っているということが書面上確認できるような状態にあること、それをはっきりさせることが必要であろうと思っております。
  • 136 山田英介発言URLを表示○山田委員 今局長が答弁なされたこと以外にも、列挙すればいろいろあると私は思います。要するに、局長のおっしゃることは、登記官に与えられている権限は提出された書類、申請書とか添付書類あるいは登記済み証あるいは登記簿こういうものを書面上審査をして、それが一定の様式にかなっており整合性を保っておるということであれば登記を実行する。そういういわば書面形式審査権というものと対比をいたしまして、司法書士の場合にはただ頼まれたから、嘱託を受けたから書類をつくり、申請書をつくり、提出すればいいというものではないのだ。要するにその実体関係にまで立ち入って、その申請をしようとする者が本当にその当事者であるのかとか、あるいはまた本当に登記申請する意思があるのか、その前提としての実体面におけるその物権契約なりそういうものが本当に本人、当事者の意思に基づくものなのかというような、そういう実体にまで立ち入って実質的に審査をしなければならぬのだよ、こういうことでございますね。要するに、実質審査というものを司法書士はその職責上あるいは司法書士制度の目的からいって、これはしっかりやりなさい、こういうことでございますね。
  • 137 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのように理解いたしております。
  • 138 山田英介発言URLを表示○山田委員 申し上げました登記官の形式審査、それから司法書士の今局長がお認めになられました実質審査、この双方がよりよく機能し、相補い合い、そして初めて真正な登記というものが確保されるのである、また、そういう登記官の形式審査と司法書士の実質審査というものが補完し合って今日の我が国の公示制度というものが運営されてきた、また支えられてきたということは言えますか。
  • 139 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 登記が適正に、そしてまた迅速に行われるように司法書士がその役割を果たしてまいってきているというふうに思っております。
  • 140 山田英介発言URLを表示○山田委員 司法書士は実質審査という、こういう一つの職務上の責務、責任というものを果たすために、繰り返すようでありますが、当事者の真意を酌み取る、あるいはまた当事者の意思を申請書などに誤りなく正確に反映をさせる、そして司法書士法一条「目的」あるいは一条の二それから二条、これらの規定から見ましても、当事者の双方の利益のために公正な立場で業務を遂行する、こういう義務が課せられている、こう解釈してよろしゅうございますか。一条、一条の二、二条との関連でお伺いをしております。
  • 141 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士は、多くの場合登記権利者及び登記義務者双方から委任を受けて事務を行っているのが実態であるように承知いたしております。その委任の内容たるものは、その当事者間に行われました物権変動に基づきまして登記を適正にするということが委任の内容でございますので、その内容を誠実に実行するというのが司法書士の努めであると思っております。
  • 142 山田英介発言URLを表示○山田委員 これは「登記研究」という雑誌がございまして、その「登記簿」という欄に記載されているところでございますが、これは一応A、Bという形で対話形式でわかりやすくなさっていますけれども、法務省のしかるべきこの登記に責任を持つ方がわかりやすく、しかも非常に理路整然と司法書士制度とその業務というものを解説されておる、このように私は理解しておりますが、その中に、「実務の上で「他人の嘱託を受けて」という他人の意思及び確認には、司法書士法第一条にいう、業務の適正を図り、国民の権利の保全に寄与するために万全の措置をとらなければならないんですね。」こういう問いかけに対して、「そういうことだね。司法書士の業務は、やり直しのきかないものであり、他の職務とは異なる高度な社会的責任を負っていることがわかるだろう。」そこで、「不動産の商品化・流動化がますます進み、不動産取引も頻度を加え、その登記手続を担う司法書士の職責も一段と重要なものとなってきているんですね。」「そうだね。」こうなっているわけでございますね。これはそのとおりでございますか。
  • 143 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 その雑誌はまだ拝見いたしておりませんけれども、お読みになりました内容は、格別異存があるわけではございません。
  • 144 山田英介発言URLを表示○山田委員 格別異存があるわけではないということは、そういうことだとお認めになられている。司法書士の場合は嘱託人からその真意を把握をし、究極の嘱託人の趣旨あるいは目的に合致するようにその登記申請についての実体関係、実体面について法律的な判断を加えて、登記申請について完備した書類を作成するための意思の確認、当事者の申請の意思あるいは物権変動の意思、物権契約の意思、そういうものを確認をする、あるいはもっと基本的に本当の登記義務者であるのか、本当の登記権利者であるのか、本人そのものなのかというところもやはり実体に立ち入ってこれを確認をする、あるいは実質審査をする、そういう義務が課せられていると私は思いますが、重ねてこの点について御答弁をお願いしたいと思います。
  • 145 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 契約が真実になされているものであるか、また登記申請を求めている者がその本人であり、その人が真実の意思を持っているかということを確認しなければならないのはそのとおりでございます。ただ、その確認をする手段が何であるかということは、その具体的なケースによっていろいろであろうとは考えます。
  • 146 山田英介発言URLを表示○山田委員 昭和四十六年四月二十日最高裁第三小法廷判決、土地所有権移転登記抹消登記請求事件でございますが、この判決の趣旨に基づいてこのような判断がなされているわけでございますが、それについてお伺いをしたいと思います。要するに、司法書士が嘱託人のいうがままに書類を作成し、登記所に提出することは、今日の経済取引の複雑化、多様化からも許されないものと考えられる。
  •  すなわち、司法書士が公共的な性格をもつものであるから、司法書士がその職務の遂行に関し責任があることは、社会的に当然要求されているところであって、その社会的責任の重要性は一段と強く要請されつつあり、司法書士は、特に嘱託人から調査依頼がなくても当該事件の真偽を確認する注意義務はあるとされている、こうございますけれども、要するに、司法書士が嘱託人の言うがままに書類を作成する、登記所に提出するということは、今日の不動産の取引の複雑化、多様化ということから見てこれは許されない、こう考えてよろしいですね。
  • 147 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのように考えてよろしいと思います。
  • 148 山田英介発言URLを表示○山田委員 もう一つ、昭和四十七年十二月二十一日東京高裁第四民事部判決、損害賠償請求事件、これはこういうことでございます。   
  • 司法書士が登記義務者の代理人と称する者の依頼により本人のため登記関係書類を作成する場合において、依頼者の言動により代理権の存否に疑のあるような場合は、単に必要書類について形式的な審査をするに止まらず、本人について登記原因証書作成についての真意の有無及び登記申請についての代理権授与の事実を確かめ登記手続に過誤なからしめるよう万全の注意を払う義務があるものというべきであり、代理権の存在を確めないでした申請にもとづき行われた不実の登記を信頼した第三者に対する不法行為責任は免れない これが昭和四十七年十二月二十一日の東京高裁における判決でございます。  したがいまして、私がここで特に指摘しておきたいことは、このように司法書士は登記申請について手続の代理をする、そういう場合には大変厳格な注意義務を持ってこれを遂行しないときには、この登記を信頼した第三者に対する不法行為責任は免れないよというまで要するに職責というものは厳しいものが求められている、この点をこの判決では特に強調しておきたいと私は思います。  それからいま一つは、いわゆる我が国の不動産登記制度、公示制度というものの持つ大きな弱点の一つというのは、欠陥と言ってもよろしいと思いますけれども、登記の迅速性の要請が一方にあり、他方においてその登記が正確になされていなければならないという要請があります。この迅速性と正確性のバランスをいかにとっていくかというところに極めて重要なポイントがあるわけでございまして、登記官の形式審査権の範囲における審査だけでは物権の変動に見合った公示というものがなかなか確保されにくい。要するに書面でだけしか審査できないわけですから、したがって実はそこに不実の登記とかあるいはまた不正な登記というものがつけ入るすきができてきてしまうということは言えると思うわけでございます。そして、実質的な審査権を持つ立場にある司法書士の努力あるいはまたその存在というものが我が国の登記システムというものをしっかりと安定させる、そのために登記官ともども、あるいは関係者の皆さんとともどもにその大きな役割を果たしておる、このように言うことができるわけでございます。したがいまして、この形式審査主義の欠陥というものをカバーをして不実の登記を排除するということが司法書士の使命である、こういうふうに結論を導き出すことができると私は思います。
  •  もし司法書士も登記官と同様に形式的審査権の権限内で業務を果たしていれば、遂行していればいいのだということになれば、我が国の公示制度というものは、これはその根幹にかかわる、その発展もあるいはまた前進もあり得ない、望めないというふうに私は考えざるを得ないわけでございますが、これはどうでしょうか。林田大臣から一言いただいておきましょうか。要するに、登記官と同じように司法書士が形式審査というようなことで、ただ頼まれたのだから頼まれたままに書類をつくり申請すればいいのだというところに安住していれば、とどまっていれば、我が国の登記制度というものの健全な発展というものはあり得ないというふうに思うのですが、いかがでございましょうか。
  • 149 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記が真正な登記でありまするためには、登記官の方は形式上の審査を行えば足りるわけでありまするから、その前段階として代理人でありまする司法書士において十分審査をしていただいて、そして書類を登記官に提出していただくということが最も望ましいことであり、また、これからの登記制度におきましてもそうあらなければならぬことである、かように存じております。
  • 150 山田英介発言URLを表示○山田委員 それでは民事局長にお伺いしますけれども、国が司法書士法に基づきまして司法書士にその登記申請の書類の作成義務を独占的に行わせている、他の者にその業務の取り扱いを禁止している理由は那辺にあるのか、これをちょっと整理してお答えをいただきたい。要するに、国が司決書士法を定めてその法に基づいて登記申請書類の作成義務を独占的に司法書士に行わせている、そして資格のない者にその業務の取り扱いをしてはならないと禁止している理由についてお伺いをしたいと思います。
  • 151 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士法は、資格のない者が業として司法書士の業務を行うことを禁止いたしておりますが、これは司法書士のとり行います登記その他の代理に関する業務が国民一般の財産にかかわる非常に重要な利害関係を持つものでありますために、一定の資格を有する者にそれをとり行わせることが国民多数の幸福につながるという観点からこれをそのように制限をしているものであるというふうに考えております。     〔今枝委員長代理退席、井出委員長代理着席〕
  • 152 山田英介発言URLを表示○山田委員 もう一つだけ確認しておきますけれども、司法書士が申請書を作成し登記所に提出をするその前提として、最近は非常に登記済み証の偽造も多い、あるいはコピー技術の発達等を悪用して印鑑証明書の偽造、変造も多いというような、一つには病理現象、登記制度における病理現象というものが増加する傾向にあると憂える一人でありますけれども、司法書士が提出をする前提として、印鑑証明書とか権利証を厳格にチェックをする、現実にそういう機能を果たしているわけでございますけれども、実際に防止、あるいは見破るといいますか、そういう不実の登記をさせないようあらかじめそれを防ぐ、そういうことについて果たしている役割というものは私は大変多いものであると思っております。  
  • それで、例えば不鮮明な印影だとか印鑑が違っているのじゃないかというような疑いがあるときには、日常の登記事務を通じましてこれを直ちに拒否するとか、あるいはまた必要があれば関係市町村に印影、印鑑証明書について照会をするとか、あるいはまた取引が正しい当事者の合意のもとに行われているかどうかを確認したり、特に大事なことは、所有権を失う登記義務者の意思の確認というのが特に重要であるという認識のもとに、特にそこをまた入念に行う。あるいは印鑑証明書は本来は登記義務者、所有権を失う登記義務者が持ってくるのを常態とするわけですけれども、買い主が単独でやってきて印鑑証明を持ってきた、あるいは本人が病気で来られないというようなときに買い主だけが印鑑証明なんかを預かったという形で持ってくる、こういうときには、特に登記義務者が本当に所有権を失うのですよ、その登記申請をあなたはやろうとしているのですねという、この意思の確認というものを日常的な業務の中でやっているということを私は知っておるわけでございます。
  •  今、十点ばかりにわたりまして御確認をいただいたわけでございますが、私が申し上げたいことは、今の御答弁にもありましたように、例えば実体関係にまで入って調査をする義務がある。あるいはまた嘱託人の言いなりになって書類を作成した場合、仮にそれが不実な登記であったとすれば、その登記を信頼してその権利を取得をした第三者に対して不法行為責任は免れないというふうに判決でも言われている。あるいはまた登記官とは対置される形の実質審査権をしっかりと行使をして、そして真実の登記というものを担保するよう、確保するようその業務を行わなければならない。むしろそういう義務を負い、あるいは課せられている、そういう司法書士であります。  
  • 先ほど民事局長が御答弁になりましたように、結局は、国民の権利義務に重大な関係を有する書類を、一定の資格を有し相当の法律的素養のある者に国民が嘱託して作成してもらうということが、局長おっしゃるように国民の利益、公共の福祉に合致する、こう考えたから、国が司法書士法を定めて、そしてこの登記申請書類の作成権限を独占的に司法書士に与えたのだ、そしてその資格のない者にその業務の取り扱いを禁止したのだ、こういうことであるわけでございます。局長がお認めになったとおりでございます。したがいまして、私はこの登記代理権というものを考える場合に、この点をしっかりとベースに踏まえて議論をしなければ、あるいは方向づけをしていかなければ、これは大きな誤りを犯すことになりはしないかというふうに思うわけでございます。仮にそのような十分な注意義務を払わずに結果的に不実の登記というものをしてしまった場合には、第三者に対して不法行為責任を免れないぞというような、そういうような厳しい一つの使命あるいは役割、責任というものを与えられている司法書士が代理してなす登記の申請と登記の手続と、司法書士以外のそういう資格のない者がなす登記申請とその代理手続と、この不動産登記法上何ら区別がなされていない、これは常識的に考えていかがなものかと私は思うわけでありますけれども、局長、いかがでございますか。
  • 153 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 司法書士法では、業として登記事務を代理することは司法書士の専権といたしておりますが、一般の人が個別に代理をすること自体は別に禁止をいたしておりません。そういう意味では、司法書士が独占的に登記代理を行うという形にはなっていないわけでございます。 これは登記事務そのものが、登記の代理が、今まで先生がいろいろ御指摘になられましたように、いろいろ当事者の利害に深くかかわりを持つことはもちろんでございますけれども、登記の依頼人が特定の人を信頼して特定の人にその登記の代理をゆだねるということ自体までは禁止する必要がないというふうに考えているからでございます。これは何もひとり司法書士法に限りませんで、ほかのいろいろな士業種についてもおおむね共通して言えることでございまして、代理をするからには必ず司法書士でなければならないという制度を設けるかどうかは、単に今まで先生がお挙げになられましたような観点からだけで決するというわけにはまいらないのではないかというふうに思う次第でございます。
  • 154 山田英介発言URLを表示○山田委員 午前中の質疑応答を私も拝聴しておりましたので、要するに、民事訴訟法で簡易裁判所については許可を得て弁護士にあらざる者でも訴訟代理人になれるということを局長はおっしゃりたいわけでございます。ただ、司法書士の登記代理権というものを仮に法制化したとしても、実質的にどうなんですか。余り変わらないのじゃないですか。要するに本人が登記申請できるという道は開かれているわけですから、それまで否定せよということでは全くないわけでしょう。  
  • それから、訴訟の場合も、これは原則本人訴訟ですね。最高裁まで本人でできるのだ。訴訟をやっていいわけです。ただ、地裁以上は訴訟代理人を置く場合には弁護士強制主義だよ、簡裁の場合は許可を得てだよ、こういうことになっているわけです。しかし、実際には、民事訴訟法にそういう非弁護士でも簡においては訴訟代理人になれるという規定があるけれども、規定はそうなっていますけれども、実際の運用という面で考えたら、これはどういうことになっているのですか。実際には、運用面まで立ち入って分析してみれば、結局弁護士を訴訟代理人にするかあるいは本人訴訟でいくかの二つしかないのじゃないですか、実際問題としては。局長、これはどうですか。
  • 155 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 裁判所の実務の扱いについてまで私が申し上げるのは、いささか行き過ぎかと思います。登記の代理人につきましての実情を拝見しておりますところでは、恐らくもう九割以上の事件において司法書士が代理人として関与されているのが実態でございましょう。そういう意味では、格別法律の規定を設けることはなくても、事実上司法書士が登記代理を独占なさっているに近い状態にあるというふうに考えられます。また、登記所における行政運営の立場から申しましても、登記の専門家でございます司法書士が代理をなさることの方が行政効率を上げる上からでも極めて意味のあることでございます。  
  • ただ、問題は、司法書士以外の第三者は代理をなし得ないというふうに限定的な決め方をすることが果たしていかがなものであろうか。これは、一般国民の経済活動の自由を制約することにもなりますし、これを依頼するとなると必ず司法書士でなければならないということになりますと、昨今のようにいろいろ契約コストその他についての節減をいかなる企業においてもいかなる個人でも図っておる今日でございますから、そういった面からの反発もないわけではないと思います。また、隣接いたします領域において、弁護士でございますとかあるいは税理士でございますとか、こういった方々との間で業際問題にまで発展をするわけでございますので、そのような法律ではっきりとした決め方をするというのは必ずしも適当でないというふうに考えざるを得ないわけでございます。
  • 156 山田英介発言URLを表示○山田委員 何点か今の御答弁に対して指摘をしておきたいのです。  
  • 裁判所に関することを答弁する立場にないということでございますけれども、それでは申し上げますけれども、民事訴訟法の先ほどの規定についていえば、確かに非弁護士でも簡裁では許可を受ければ訴訟代理人になれるとなっています。しかし、現実には運用の問題ですから、そこまで見てかからないと真実はわからない。結果的にそれは弁護士が訴訟代理人として独占的に存在をする。それ以外では、結局は本人訴訟しかないのだ。実態はそうだということを私はまず指摘しておきます。  
  • 今僕の手元にあるのは、六十一年の司法統計年報、全簡易裁判所についての弁護士の選任状況別などという資料なんですけれども、この資料を見ても、要するに簡易裁判所における事件の総数が幾つあったか、そのうちに弁護士をつけたものが幾つあったか、それから当事者本人によるものが幾つあったか。したがいまして、いわゆるこの司法統計年報の中でも、弁護士以外に訴訟代理人となったそういう事件の数というものはもともととっていないのです。実態的には訴訟代理人は弁護士、そしてそのほかに訴訟の手続等がなされるものは本人訴訟である、実態はそういうことでございます。したがいまして、民訴法の同じ士法の横並びで見ると合理性がないとかあるいは納得が得られないということを余り強調されても、それはまさに余り説得力を持たないということはちょっと指摘をさせていただきます。
  •  それから、その後にまたお話がありまして、登記申請の代理権を有する者は司法書士だけだと限定することは国民の自由な活動を妨げることになるのじゃないか、あるいはまたお金をかけなければ登記申請ができないのじゃないかとおっしゃいましたが、それもよく伺っておりますとそういうことではないでしょう、局長。国民の活動の自由を何で妨げることになるのですか。それは本人の登記申請手続の道を閉ざそうというわけじゃないのですから。それじゃ司法書士に頼まなければならぬ、金がかかるじゃないかというけれども、御自分でその場合にはなさればいいわけです。あるいは親戚の者がいて、例えば登記官を定年退職されて余暇を楽しんでおられる、自由な時間がある、じゃそのおじさんのところへ行ってちょっとやってもらおう、やってあげよう、ただでいいよ、これはあり得ると思いますよ。思いますが、それでしたら何もおじさんにやらせなければ国民の自由な活動が妨げられるという理屈にはまたならないでしょう。それは、おじさんから本人が聞けばいいじゃないですか。いろいろと登記のやり方、こういうふうにやれば申請書はできるよ、それで本人申請でやりなさい。これだって国民の自由な活動の妨げにはならない。  私がなぜこの問題を今こうしてこういう角度から取り上げているかという本当の考え方というのは、我が国の百年の歴史を持つ不動産公示制度、それが登記官の形式審査主義、あるいはまた後に触れたいと思いますが、原因証書は必要的な義務づけられた添付書類、提出書類ではないというふうな、そういう中で弱点、もろさ、あるいはどうしても補っていかなければならない欠陥というものがあります。ブックレスシステムへ移行しようという百年の時代を画す登記システムの、公示システムの大変革の時代に来た。しかし、いかにコンピューターシステムに移行させたとしても、真実の権利変動に見合う公示というものがなされなければ、あるいはまた権利変動がないのに公示だけがなされるというような、制度の根幹から出てくるような問題をどうしたら一つ一つその芽をつぶしていくことができるか、克服していくことができるか、もって我が国の公示制度を一層発展なさしめなければならない、そのためにはどうしたらいいかという角度から、司法書士の登記代理権付与という問題も前向きに積極的に検討すべき一つの課題であるのですよということを私は申し上げているわけでございます。その点いかがですか。前向きに検討をなさるべきじゃないのですか。
  • 157 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 訴訟制度には訴訟制度としての長い歴史と伝統がございまして、その中での代理権というものも決められてまいったと思います。また、登記は登記として、もともとは裁判所における非訟手続として現在のような代理の形態がずっと続いてきたわけでございまして、私が申し上げたいのは、確かに不動産の所有が単に一部の資産家だけの事柄でなくて非常に国民的広がりを持ってきた、そしてまたこれが非常な資産価値を持ってきたということ、さらにそれをめぐりましていろいろな犯罪その他の問題も起こっているということはそのとおりでございますけれども、だから司法書士に独占的代理権を与えなければならないというような国民的合意が形成されるまでにはまだ至っていないのではなかろうか、そこまで法律が突出するのはいかがなものであろうかということを申し上げたかったわけでございます。  ただ、こういったような問題状況は、将来極めて長い長期的視野で見た場合に、いろいろ社会経済生活も変わってまいりますし、司法書士という制度もさらに発展することでもございましょうし、国民の意識もどのように変わってまいりますか、私どもちょっと予測しがたいものがございます。でありますから、そういった推移を慎重に見守りながら、制度全体の見直しとも関連づけて検討するような時期が来ないとも限らないと思っております。そういう意味合いにおきまして、この問題につきましてはかねてから日本司法書士会連合会の方からそのようなお話もございまして、私どもは今の時代ではこれはちょっと難しいことではないかというふうに申し上げておりますが、今後も協議は続けてまいりたいと思っております。
  • 158 山田英介発言URLを表示○山田委員 私は、今すぐやるべきだというふうに申し上げているわけではありません。不動産公示制度の持つ弱点、欠陥というものを少しでも是正をしていくことが、我が国の経済取引社会を支え、あるいは一層着実に発展をさせていくむしろベーシックなシステムである、登記制度である、極めて重要であるということを申し上げているわけでありまして、これを支え発展させていくために一歩でも二歩でも前進できる、そういう認識を持つことができるならばこれをむしろ積極的に今後の検討課題としてお取り上げいただきたい、あるいは位置づけていただきたいというふうに申し上げているわけでございます。今の時代ではなんでございますが、そういう時代が来ないとは限らないとは思いますがと、二重にも三重にもたがをはめられたようなそういうあれじゃなくて、私が今質問している本当の気持ちは、そういう大事な制度をより発展させるために今の弱点をどう克服するか、その方途について前向きに建設的にいろいろな可能性を積極的に検討するべきじゃないでしょうか、こう申し上げているわけで、局長、もう一回すっきりした答弁を。
  • 159 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 先生御指摘のように、登記における信頼の確保ということは非常に大切なことでございまして、それをどういうふうにして図るかというのは、いろいろな角度からいろいろな方策を私どもも検討してまいらなければならないと思います。その一環として、先生御提案の登記代理権制度というのも一つの考え方ではございますが、現在のところそれがそういう大目的のために最もふさわしい制度、あるいは国民にとって最も理解のいく制度であるかどうかということについてはまだ確信を持つ段階ではありませんので、そのほかのいろいろな制度との比較において検討してまいるということについてはやぶさかではないというふうに思います。
  • 160 山田英介発言URLを表示○山田委員 司法書士登記代理人の法制化の問題と裏腹なんですけれども、登記代理ということの概念が不明確であります、不登法上に何ら代理権に関する規定がないわけですから。したがって、実体法たる民法の代理権のところで処理せざるを得ないわけでございます。  これをどういうふうに思われますか。こういうことがありますよ。  甲が売り主、乙が買い主。甲乙間で不動産について所有権の移転がなされました。そして、契約に基づいて司法書士Aのところに登記手続の代理を委任してまいりました。それが本日、四月十五日だとします。そして、A司法書士がそれを当然実体審査をきちっとやった上で受けました。そしてその午後から夕方書類を調製をして、明日朝一番で出そう、こう決意をしていた。ところが十五日の深夜、この登記義務者の甲が何らかの事由によりまして亡くなってしまいました。こういう事例があり得ます。しかし司法書士はそれを知らされていなかったとすれば、当然先ほど事務所に来た人がその夜死んだなんということは夢想だにできないことですから、予定どおり朝登記所に所有権移転登記の申請書を提出をしました。  そうなった場合に、これは御案内のとおり民法百十一条の代理権の消滅事由、本人の死亡によって代理権はもう消滅しているわけですね。そこで、そのなされた登記については後にその相続人から訴えが起こされまして、代理権が消滅してなされた所有権移転登記というのは要するに無効である。私の父親は、被相続人は不利な取引条件のもとで乙との間に契約を結んだのだ。しかも登記申請の段階では本人はもう死んでいる、代理権はなくなっている、したがってこれは無効だという争いを起こした。しかし判決はその登記申請が実体にかなっていたということで、これは有効であるという判決が出されております。
  •  ところが、これはどういうことかといいますと、要するに登記代理についての概念が不明確だから、不登法上に代理権限に関する規定が何ら置かれていないものですから、こういう取引の混乱あるいはまた乙の、いわゆる権利者の権利が害されそうになる、あるいは害されるという事態を引き起こしてくるわけでございます。判決でそう出たからといって、同種の類似の事件が今後起きないとは限りません。起きたその都度、これは訴訟になるでしょう。その都度またこれは裁判関係の大きな負担にもなるし、そしてそうじゃなくても、司法試験の合格者数を基準を緩めて、もうちょっと大きくして検事、判事、弁護士の皆さんをふやそうというようなその一つの有力な根拠が、裁判事務あるいはこういう訴訟の滞留といいますか、なかなか迅速に処理できないというようなところにも置かれている。こういうことを考えてみますと、この事例はまさに登記代理人制度の法制化と裏腹の関係で、登記代理権が極めて概念が不明確なところからよって起こる一つの例でございます。  
  • もう一つあります。これは、現実に数年前に九州で起きた事件でございます。登記事件の場合にはよく住所とかあるいは姓名が婚姻等で変わったということで、名義変更というのが前提である場合が多いです。いわゆる現在の所有者の実態に合わせるという意味で、住所変更とか名称の変更とか。この名義変更登記、それから引き続いて抵当権等の抹消登記、その次に、きれいになったところで所有権の移転登記、それから所有権の移転を受けるために新たに銀行から借り入れを起こすことを原因として担保権の設定。したがって、名変、抹消、移転、設定、こういう連件事件というふうに言っておりますけれども、これを受ける場合があるのです。これがよくあるのです。  
  • それで、名義変更をする人が甲、したがってA銀行から金を借りていた、抵当権をつけていた。そのA銀行と甲の間で担保権の抹消登記。それからこの甲と今度は権利者、買い主の乙、甲と乙との所有権移転。そして乙はB銀行からかあるいはあわせてC公庫からお金を借りて、この所有権移転登記を受ける物件の代金の支払いに充てた。したがって、設定登記を銀行や公庫のためにしなければならないという義務が発生する。この一連の連件事件の中で、こういう事例が現実に起こりました。
  •  それは、この連件事件に関係する当事者は、甲、乙、A、B、C、この五者がそれぞれ司法書士にそれぞれの登記の委任をいたしました。それで、司法書士はその実体関係をよく把握をして、登記所に連件事件として提出をした。その後、A銀行に対しては抹消しなければならない甲が二百万円A銀行に支払って、そうして担保権を抹消してもらいたいと言った。ところが、実際に乙から入ったお金が百五十万で、五十万足りなかった。しかし、すぐお持ちしますからということで、実はA銀行の担当者は委任状を交付してしまった。ところが、すぐ五十万持っていきますと言ったのだけれども、その甲が来なかった。したがって、A銀行では待って、ある一定のタイミングで判断をして、これは我がA銀行の利益が害されるということで、甲を呼んで二人でもって登記所へ行った。そうして、我々はA司法書士にはもう委任の終了を告げてきた。したがって我々は当事者だ。A司法書士から提出された委任状に実印を押してあるけれども、A銀行は実印を持ってきた。その場合には実印は要らないかな、担保権の抹消だから要らないかもしれません。いずれにしても、A司法書士には委任の終了を告げてきた。したがって、我々はこの抹消登記については本人が二人で出頭したのだから取り下げてもらいたいと言った。登記所の判断では、それは取り下げたのです。
  •  そうなりますと、この取引というのは物すごく混乱します。特に、所有権移転を受けるべき買い主の乙は、担保権が抹消されたものを所有権移転を受けるというふうに当然理解していたものが、結果的に登記が済んでみて登記簿を確認してみたら、あるいは権利証の裏に担保権設定という印が押捺されていた。こういうことになると、特に乙の権利が害される。乙に金を出したB銀行、C公庫の権利も脅かされる。これはどこから来るかといえば、同じように不登法上登記代理権に関する規定が全く整備されてないものですから、結局民法百十一条の第二項、要するに法定代理人あるいはまた会社の代表取締役の代表権、いわゆるこういう代理権とは違って委任による代理権ですから、この場合でいえば甲とA銀行が司法書士に対して、委任による代理権だからもう委任による代理権はこれで終了しました、このように一方的に通告すれば、通告される方の司法書士は、いやそれは困る、委任はまだ終了していないことにしてくれとは言えない。これは要するに、そういうことから来る取引の混乱の典型的な事例です。それからもう一つは、これは権利者の権利が害されるという典型的な事例でございます。  私の承知しているのは九州の数年前の事件でございますけれども、全国的にはこういう事件が皆無だとは言い切れません。それはもっとあるかもしれません。民事局長さん、それから審議官、これも要するに登記代理権をいつまでも不明確なままに、ということはすなわち不動産登記法上にいつまでも登記代理権の明定をためらっていたり、それを避けようとしていたりすれば、これは年月がたてばたつほど、時代が進展すればするほど高度、複雑そして多岐にわたる不動産登記の実態になっていくわけですから、激増するわけですから、手おくれになりかねませんよ。あるいはまた、そういう経済取引社会の秩序というものを根底から脅かすことになるんじゃないでしょうか。  したがって、こういう観点からも、不動産登記法をブックレスシステムへ百年ぶりに大変革の時期を迎えて、移行させるためのいわば第一次の不登法の改正法案が今出されたのですから、この機会に登記代理権の明確化と、それからそれと密接に関係する、あるいは表裏の関係にある登記代理人の法制化ということも、余り等閑視するとは言いませんけれども、要するに我が国の不動産公示システムを主管をする、所管をする法務省、そして民事局という立場において、もうちょっと問題意識を厳しく持たれるべきではないのでしょうか。私は、このことを強く申し上げたいと思うわけでございます。したがいまして、局長から、そして審議官から先ほど御答弁をいただきましたけれども、私はこういう観点から我が国の公示制度というものを一層発展をさせ、充実させ、そして国民の皆さんから登記というものは、あるいは登記制度というものは本当に、それは確かに公信力は与えてないけれども、ただ単なる第三者対抗要件しか付与されていないけれども、登記をすれば安心なんだという国民の強い信頼感というものをこの我が国の公示制度がかち得ていかなければならないという観点から、私は林田大臣に、この登記代理権、司法書士、そしてまたこの登記代理概念の明確化というものを法務省の一つの重要な検討課題と位置づけられて前向きに御検討いただければ大変ありがたい、よいことではないだろうか、こう存じてお伺いするわけでございますが、ぜひ大臣から前向きな御答弁をいただければと存じます。
  • 161 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 ただいまの先生が挙げられました事柄は、登記の代理権を資格者に限定するかどうかという問題とはまた別の問題であろうかと思います。つまり、この場合における委任あるいは代理の終了事由がどうであるのか、あるいは委任の解除の自由があるのかどうか、こういう問題につながることではなかろうかというふうに考えるわけでございまして、個別の法律に特別の規定がなければ民法の規定が適用されるということになりますから、当事者が死亡すれば死亡により代理権は消滅する。しかし、結果なされた登記の効力をどう判定するかというのはまた別の問題であるということで、先ほどのような判決の結論に至るものではなかろうかというふうに考えます。また、委任の解除が自由であるのかどうか、民法の委任の規定がそっくりそのまま適用されるのかということになりますと、お話しのような売り主と買い主との利害が結びつき合って相互に関連をしているようなときにはこの解除の自由が制限されるという解釈が一般にとられておるようなことでございまして、そのような委任に関する民法の解釈がこの場合に適用されていくのではなかろうかというふうに思っております。
  • 162 山田英介発言URLを表示○山田委員 局長、僕はそういうことを伺っているのではないですよ。僕の言っていることを全然御理解いただいていないようなんですけれども、繰り返して言うことは避けますが、そういうことを私は御答弁いただきたいと思っているのではないのです。そうではなくて、もっと大方針にかかわる問題なんです。あなたのおっしゃっているのは枝葉末節のことなんです。もっと大きく、不動産登記システム、制度の意義というものをもうちょっと大きくとらえた上での御答弁をぜひお願いしたいと私は思います。結構です、局長さん。大臣ひとつ。
  • 163 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記というものが第三者に対する対抗要件、こういうことで位置づけられてきまして、今まで伝統的にそういうことになってきておるわけであります。しかしながら、時代が進んでまいりまして不動産の価値の重要性というものが非常に大きくなってきておりまして、登記によりまして不動産そのものを知りたい、あるいはまた商業登記は特にそうでありまするが、会社の実態を知りたいとかそういうことになり、登記というものが非常に重要になってきておると存じます。そういうときに当たりまして登記の持つ根本的な性格をどういうふうに考えていくかということが重要な問題であると存じまして、これからさらに検討を深めてまいりたいと存じます。
  • 164 山田英介発言URLを表示○山田委員 ですから、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。要するに、登記の真正確保ということは不動産公示制度の極めて根幹にかかわる大きな理想であり、理念であり、目的である。それを確保するためには、現在各制度が抱えているいろいろな弱点とか欠陥とかいうものをカバーしていく手段というものを考えなければいけない。それはきっと幾つかあるのだろう。その中の一つが登記代理の概念の明確化であり、その一つがまた登記代理人の方法である。それだけとは言わない。幾つかあるだろう。しかし、現時点でそれもその中の検討課題の一つであることはそのとおりだろう、こういうふうに理解してよろしいのでしょうか。一言、済みません。
  • 165 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 私の言わんとするところを先生が皆おっしゃっていただきました。まことにそのとおりだろうと思います。さらに検討してまいりたいと存じます。
  • 166 山田英介発言URLを表示○山田委員 さっき民事局長さんの御答弁の中で、弁護士会とあるいは業際問題にまで紛争が激しくなってしまうかもしれない、それがいわゆる司法書士に登記代理権を与えることのできない一つの理由として局長はおっしゃいました。  では、今例えば司法書士団体、日本司法書士会連合会と日弁連、弁護士の集団の執行部の皆さん、あるいは執行部だけとは限りませんが、いろいろなお話し合いがなされておる。お互いに法律事務あるいは法律関連事務、膨大な需要があるわけですから、それをひとり例えば弁護士の皆さんだけでとてもとてもすべてをカバーすることはできない。そこに登記事務を中心として司法書士の一つの法律事務あるいは法律関連事務の担当分野というものがある。その交流といいますか、いろいろな話し合い、研究、勉強会の中で、仮に登記の分野については、これは司法書士が専門的な知識を有し、歴史も持っておる、この分野については例えば不動産登記法上に登記は司法書士ならざれば代理人となることを得ず、あるいは加えて、ただし他の法律に別段の定めがある場合は除くというようなことで、仮にそこである程度理解ができたと仮定して、仮定の問題、そういう話し合いというものはものすごく大事でございますから積み上げていく、そこに信頼関係が出てくる、お互いがお互いをよく理解していくこともできてくるというその延長線上、その結果として局長のおっしゃる業際問題というものが激化するのじゃなくて、それが本当にお互いの理解の中で不登法の中に登記代理権という形であるいは代理人という形で司法書士が原則的に、基本的に規定されていくことは、まあそういうことだろうということになった場合には、これはどうなんですか。局長さんのところではそのときにはどういうふうにするのですか。
  • 167 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 業際問題は一つの理由として申し上げたわけでございますが、それでも弁護士団体と司法書士団体との間で話が仮についてそこが解決したとなりますと、それは一歩前進でございます。それ以外の団体あるいは国民の世論の動向を考える上での、一つの重要な材料にはなろうかと思います。
  • 168 山田英介発言URLを表示○山田委員 局長がおっしゃる国民のコンセンサスができていない。それができてくれば、裏にして読めば国民のコンセンサスができてくれば、司法書士登記代理人の法制化あるいは登記代理権の概念の明確化ということはできるわけですね。やろうというつもりである、裏返して読めばそういうことですから、国民のコンセンサスがないから現時点では無理ですとおっしゃるのですから、国民のコンセンサスができてくれば、不登法上に司法書士、登記代理人、あるいは登記代理権の概念の明確化ということはできるというふうに受け取らざるを得ないわけですが、その点ちょっと確認をさせていただきます。
  • 169 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 そういう独占性を与えるということになると、それは何らかの公益上の必要性が要るということになろうかと思います。そして、それは多分登記の信用を確保するということになるのだろうと思いますが、一方では、国民の間では、非常に登記権利者と登記義務者が知り合っている、そしてよくわかっていて、それが非常に私的な関係で信頼する第三者に登記の代理をさせるということを禁止する。先生は先ほど、そういうときには教えてもらえばいいじゃないかということをおっしゃいましたけれども、本人申請の形をとらなければならないのだ、そういう私的な場合において、当事者の信用は当事者間で考えてみれば全く害されるはずはない。確かに司法書士を登記代理人に選任すれば、それだけ当事者の権利は守られるというふうに私ども考えておりますし、そのことは望ましいことだというふうに思っておりますけれども、当事者がそういうシチュエーションにない場合にあえてそういうことをさせるということのコンセンサス、国民の理解が得られるかどうかということは、今後慎重に検討してまいらなければならないのではないかというふうに思っております。
  • 170 山田英介発言URLを表示○山田委員 今あなたがおっしゃったコンセンサスも含めて、コンセンサスが得られればやるということでしょうかと聞いているのですよ。そうとらざるを得ないでしょう。
  • 171 藤井正雄発言URLを表示○藤井(正)政府委員 そのような意味での国民的合意が得られたならば、おっしゃるようになるであろうと思います。
  • 172 山田英介発言URLを表示○山田委員 今審議官が私のさっきの発言を引いて、それではそれは知識のある人に教えてもらえばいいじゃないか、頼まれた人の申請行為を締め出すということはよくない。それはそれなりの理屈はあると思います。ただ、皆さん弁護士法と横断的に論じられるのですから、僕も横断的に論じれば、例えばそれは登記所長の許可を得てやることができる、これは閉ざしていることにはなりません。それだってできるじゃないですか。
  • 173 稲葉威雄発言URLを表示○稲葉政府委員 もう一つの問題は、訴訟行為と登記申請行為と同視できるかどうかということでございまして、訴訟行為の場合には一つは連続的なかなり長期にわたる行為であるということと、それから裁判所が迷惑するということがあるわけでございます。裁判所が迷惑するということは、訴訟遅延を通じてほかの関係人が迷惑する、こういう論理構成で専門家に頼みなさいということをやっているのだろうと思いますが、それと同じことが登記申請の場合に完全に言い切れるかどうか。かなり一回的な行為であるということもございますし、専門性の程度というものあるいは登記所の迷惑の程度というものもいろいろ考え方があり得るだろう。そういう点が、先ほど先生がお引きになった登記代理権の終了事由と申しますか、そういうものの明確化について必ずしも訴訟法と同じようなやり方ができるかどうかということの判断にも結びつくわけでございまして、そういう問題があるということだけ申し上げておきたいと思います。
  • 174 山田英介発言URLを表示○山田委員 こう言えばこう言う、ああ言えばこう言うであれなんですけれども、結局、簡易裁判所において非弁護士でも訴訟代理人になれる。しかし、実際の運用では、極めて限られた例外を除いては本人申請あるいは結局弁護士を訴訟代理人に頼まなければならぬ。それは裁判所の運用なわけでしょう。要するに許可するかしないかですから、許可を得てだから、しなければ簡裁でも訴訟代理人になれないのです。実態は、要するに本人訴訟かあるいは弁護士に訴訟代理人になってもらうかしかない。実態はそうなっているということを僕は申し上げました。  
  • それでは、今度は訴訟の代理の場合と登記申請手続の代理の場合とは、いわゆる稽留するというのでしょうか、要するに事案がそこにとどまる期限が長いとか短いということを基準にして分けられましたけれども、長ければどうなのか。登記申請は確かに一般的に考えて訴訟事件と比べれば短く完了するでしょう。しかし、訴訟期間が長いからといってそれはできるだけ弁護士に、こっちは短いからといってそれは別に構わないじゃないか、一般の国民で頼まれた者がやるということを許しておいても構わないじゃないか、そうはならないでしょう。そういう理屈だけでは私はよく理解できないわけでございまして、そうではなくて、不動産登記というのは確かに申請手続そのものは一定の様式に従ってやれば済むことですよ。しかし、その実体関係というものに目を転じてみたら、これは実に莫大ないわゆる経済的な価値、価額というものが移動するわけです。それほど国民の基本的な財産権というものを動かすわけです。 ただ単にAからBに初めて何千万円でこの土地を売ったという登記だけじゃないわけでしょう。そういう登記の申請書の作成とかいうことは、なるほど審議官おっしゃるように一定の知識があればできることでしょう。しかし、それでもって非司法書士でもどうしてもやらせる道をあけておかなければならぬとするには、余りにもそれは我が国不動産取引の世界における実態に目をつぶった、そして実体関係を間違いないものに調査をして登記簿に反映させるという観点からしたら、それは非常に目をつぶられた、そういう立場における御答弁に思えてなりません。したがって、登記代理権というものの概念の明確化、これは取引の混乱を防止する、権利者の権利を守るという要請からして必要である。  それから、冒頭私が十問ぐらいのやりとりの中で確認をさせていただいたように、国が司法書士法を制定してそしてその登記申請手続を司法書士に代理をさせるということ、さっき独占的にと申し上げましたが、業としては独占的に司法書士に取り扱わせることにしたのは、まさに国が、この不動産の取引については相当の法律的な素養を持ち、あるいはまた能力を持つそういう有資格者に扱わせることがかえって国民の利益となり、あるいは権利保全のためによろしいことなのだという発想のもとで司法書士法というものを置かれたということからしても、この制度の発展あるいは制度の改善、補強というような立場からこの問題を考えたときには、それは実際に法律を変えるなどということはいろいろ難しいことはあるのでしょう。これは大変な作業であり、そしてまた一つ一つに大変難しいことであるということは、私もまだ三期しか当選したことはありませんけれども、それはここに身を置いて活動していてよくわかります。  ただ、私が心から申し上げたいことは、大変だ、あるいはいやそれはということで、できないできないできない、これが問題だ問題だ問題だだけを幾ら指摘をしても、実際にこの我が国の不動産公示制度は一歩も前へ出ないということになります。したがって、できないできない、難しい難しい、こうだからああだからだめなんだという、そういうことではなく、それは私の言っていることも随分乱暴なこともあるのかもしれません。私は、でも自分で勉強してみてこういうことなんだなと思うから申し上げているわけですが、皆さんが聞いていて、それは乱暴だよ、無理だよというのがあるのかもしれませんよ、それは。けれども、それだけを指摘するにとどまっていたら、我が国の不動産公示制度というものが前進するのですか。それだったら、もしそうおっしゃるのであれば、私は民事局長さんにも、それから稲葉審議官にも、我が民事局は不動産公示制度をより一層前進させるためにこういうプランを持っておりますということを私の前で国民の前に提示してもらわなきゃならない。それすら出ていないじゃないですか、具体的に。そして私が申し上げていることを一つ一つ、これは難しい、これはこうだ、こっちの角度から見ればこうだ、それでは私はいかがなものかな。  残り時間あと三分ですけれども、もしあるのだったらおっしゃってください。なければ結構です。今言えないというのだったら結構です。ただしかし、私は少なくとも我が国の公示制度を本当に中身のある、権利変動の真実を反映した登記というものを実現するために、ひいては国民の信頼というものを一層登記制度にかち得ていく、そういう目標のもとに少なくとも今登記代理人制度というものを考えなきゃならぬのじゃないですか、あるいは代理権限の概念を明確化しなければならないんじゃないですかと私は具体的に申し上げている。  
  • きょうは時間がありませんから、私また次の定例日の審議のときにあと質問をさせていただけると部会長から伺っておりますので、またそのときに伺いたいと思いますけれども、ひとつ公示制度を充実させ、前進させるために法務省がこれとこれとこれをやりたいというものがあったら、ぜひ示していただきたい。なければ私どもの言うこともやはりそれなりの立場で、それなりの姿勢でお受けとめいただかなければ困るのじゃないか、私はそのように思うわけでございます。私は、実はそういうことで質問を二日に分けてさせていただく機会をいただいておりますから、きょうはこの登記代理権とそれから代理権限の明確化というテーマが一本、それからそれに関連をしますけれども、我が国の登記制度の本当に根幹として要求されている登記の真正確保のためにはどうしたらいいかという、この部分についてもう一本やろうと思いましたけれども、前者の一本だけで大体時間でございますので、次の審議のときにぜひ残余の質問はさせていただきたいと思っております。  
  • 私の質問を終わるに当たりまして、大臣に今までの民事局長さんあるいは稲葉審議官さんとのいろいろなやりとりをお聞きいただいていて、大臣からひとつ我が国登記制度発展のための御決意と、それからまたその最も内側にいてこの制度を登記官とともに支えている、一方の当事者となっている司法書士の将来について、法務大臣ひとつさらにこの司法書士職能団体をぜひ見守っていただきたいし、いろいろとまた御指導もいただかなければならぬでしょう。そしてまた、いろいろと将来この不動産登記制度というものを前進させるためにともどもにやっていかなければならない部分も当然あるわけでございますので、そういうような観点も含めて御決意並びに御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。大臣、一言どうぞお願いします。     〔井出委員長代理退席、今枝委員長代理着席〕
  • 175 林田悠紀夫発言URLを表示○林田国務大臣 登記制度が不動産の価値の表示、またいろいろな契約の上におきましても極めて重要なものであるということを、さらに認識を深めたのでございます。先生方の今朝来のいろいろな議論によりまして、司法書士の制度につきましても、これまた登記を行うに当たりまして登記が真正な登記として行われまするために極めて重要な制度であるということも認識をした次第でございまして、司法書士法におきましては、ほかの法律で規定してある場合は別といたしまして、司法書士でなければ登記の代理を業務として行うことはできない、かように書いてあるわけでありまして、司法書士は極めて重要な仕事を行っていただいておるということであろうと存じます。さらにこれから登記につきまして研究を深めてまいりまして、その際におきまする登記の代理制度につきましても検討を深めてまいりたいと存じます。
  • 176 山田英介発言URLを表示○山田委員 終わります。どうもありがとうございました。

6月相談会のご案内ー家族信託の相談会その44ー

お気軽にどうぞ。

2022年6月24日(木)14時~17時
□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円
場所
司法書士宮城事務所(西原町)

要予約
司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

沖縄県内の民事信託の現状・展望・課題修正1

那覇支部 宮城直

民事信託[1]に関する委員会や、民間団体の役職などに所属していない一司法書士の私見です。

1 現状

(1)金融機関

信託法34条の分別管理義務として信託財産に属する金銭の管理に必要な、信託口口座[2]の開設に関係する、金融機関の現状について私が把握している情報です。

(株)琉球銀行について、2017年に信託口口座の開設を確認しています。2018年に(株)沖縄銀行、(株)沖縄海邦銀行に関して開設を確認しています。コザ信用金庫、沖縄県農業協同組合その他の金融機関に関しては把握していません。会員の方で情報を持っている方がいらっしゃれば指摘願います。なお、2018年に(株)琉球銀行は、当会会員である司法書士法人みつ葉グループと民事信託分野にて業務提携[3]、(株)沖縄銀行については県内司法書士と業務提携[4]を行っているようです。

(2)公証センター(公証人役場)

現在の実務の現状として、金融機関において信託口口座を開設するためには、信託行為を公正証書にする必要があります。沖縄県内で、信託行為が年間どのくらい公正証書にされているのか、件数を把握していません。

全国的な統計[5]として、2018(平成30)年2,223件、2019(平成31)年2,974件、2020年2,924件という数字があります。ただ、この数字を人口割合や世帯割合で割れば、沖縄県に当てはめられるかというと、私には分かりません。他に(株)三井住友信託銀行[6]、(一社)家族信託普及協会[7]などが公表している数字がありますが、現在の沖縄県にそのまま当てはめるのは難しい[8]のではないかと思います。

公証実務は、元公証人の遠藤英嗣弁護士の書籍、研修の考えが中心になっていると思われますが、全てについて正しいのかというと、私には分かりません。

(3)判決

信託法(平成十八年法律第百八号)施行後の主な判決です。

・令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件

・令和2年12月24日東京地方裁判所判決

・令和2年10月30日札幌地方裁判所判決平成30(ワ)1940詐害信託取消等請求事件

・平成31年1月25日東京地方裁判所判決平成29年(ワ)第32855 号信託契約有効確認請求事件

・平成30年9月12日東京地方裁判所判決平成27年(ワ)第24934号信託契約有効確認請求事件

・平成28年10月19日東京高等裁判所判決

・平成25年4月3日名古屋高等裁判所判決平成20年(行ウ)第114号 贈与税決定処分取消等請求事件

(4)実例・経験談

私のみの経験ですが、目的としては認知症対策が大部分を占めます。信託財産に属する財産は、金銭、委託者が経営する法人の株式等、自宅や収益不動産、区画整理予定の土地を含む不動産が主です。数として少ないのが受益権の売買・贈与です。目的として認知症対策が多い反面、認知症等のために信託公正証書の作成が間に合わなかった事例が同じ位の件数あります。

2 展望

私見です。沖縄県は、2018年までならば、実務、理論ともに全国で1番になる可能性があったと思います。2022年現在ではありません。2015年から県内金融機関を回り、2018年に沖縄県で(一社)家族信託普及協会から、専門家向け講座開催、(株)琉球銀行・(株)沖縄銀行を繋げて市民向け講座を開催するまでは出来ました。そのあと私から、講座に参加していた司法書士をはじめとする各専門家や金融機関関係者に対して、(一社)司法協会の研究助成に採択されたので、業界関係なく共同研究の形にして一緒にやらないか、参加の声掛けをしましたが、参加される方はいませんでした。2018年、沖縄県で業界や学会の垣根を超えた民事信託の研究・実践団体、勉強会が結成されていた場合、現在、(一社)民事信託推進センターが行っていることなどは、自前で可能だったと考えます。この時点で、それぞれ事務所、会社、金融機関の利益のために動くことになりました。

現状、例えば金融機関提携の専門家の下で家族信託・民事信託が設定された場合、利益の一部は東京都などの専門家(団体)に流れていきます。この流れが止まることは、ないと思います。現在、士業間ビジネスが活発です[9][10]。毎月3,000円~数万円の年会費、月会費を支払う固定費型のシステムのため、この流れも少なくとも数年は止まらないのではないかと思います。その他の民事信託を専門としている士業のホームページを覗いてみると、信託契約書のチェックなどで数万円というのは珍しくないと思います。故石川義博司法書士を知っている身としては、寂しい状態ですがそういう時代だと諦めます。

各司法書士会員の皆様には、業務の選択肢の1つとして考えていただければ良いのではないかなと思います。第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)、民法(相続関係)改正その他の関連する新法施行[11]など、利用を検討する場面は多くなるのかもしれません。

民事信託・家族信託の書籍を開くと、奥が深い、日々変わっていく、失敗事例の指摘など、今までの法律書にはないような言葉が並びますが、成年後見関連業務をはじめ不動産・商業法人登記についても、司法書士業務で簡単な業務はないと思います。

3 課題

個人的に課題は一点であり、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の改正[12]です。法令改正が可能になるまでは、日本司法書士会連合会における本人確認規定の改正、それが出来なければ県司法書士会における本人確認規定の改正による対応です。

沖縄県司法書士会についてもう少し踏み込んで書くとすれば、私がこのような記事を書いている現状だと思います。本来であれば、より多くの情報や経験を持っていると考えられる民事信託委員会の会員、金融機関や不動産事業者と提携している司法書士会員が書くような記事だと考えます。

今後の沖縄県の司法書士業界における民事信託への取組み、関わり方については、私は金融機関への提案や共同研究の呼びかけなど、出来ることはやったので、思い浮かびません。また、現在何かしらの人脈や肩書を持っている立場にもなく、個人としての力もありません。社会のニーズは、高齢化社会において、一定数はあるのではないかと思います[13](あえて挙げるとすれば自己信託。)。研鑽等は、他の法改正の度に行っている方法で足りると思います。  

成年後見制度が始まった際、当初は手探り状態から経験を積んで始まり、今も進行中だと思います。そのような意味では、(公社)成年後見センター・リーガルサポート沖縄支部の取組みは参考になるのではないでしょうか。個人としては、共同研究したいという方がいらっしゃれば、司法書士であるか否かを問わず、出来る範囲で行っていきたいと思います。

 


[1] 大垣尚司、新井誠『民事信託の理論と実務』平成28年日本加除出版P2「委託者以外の物が尾受託者となる信託行為(他社信託)のうち、信託(受託者)の引受けが営業としてなされる結果商行為となる信託行為(協議の商事信託または営業信託【商法502条1項13号】)以外のもの(民事他者信託)と委託者が受託者となる信託行為(自己信託)のうち、信託業法に基づく登録(信託業法50の2条)が不要なもの(民事自己信託)、ならびに、営業として信託の引受けにあたるが、信託業法に基づく免許・登録(信託業法3条、同法7条)が不要なもの(適用除外信託、信託業法2項1項括弧書、信託業法施行令1の2条)の3つの信託の思総称。

[2] 『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版P141、P142「【1】受託者を預金者とし、【2】外観上、当該受託者個人の名義と区別できる表示が付され、【3】当該金融機関において、内部システム上、当該受託者の個人名義の預金口座(固有財産に属する預金口座に係るCIF(Customer Information File。顧客ファイル)コードとは別異のCIFコードが備えられる、内部手続上、当該預金口座とは異なる取扱いがされる旨の規定が設けられるなど、当該預金口座から分離独立した取扱いがされる預金口座)。」

[3] 司法書士法人みつ葉グループHP2019.07.31「お知らせ琉球銀行と業務提携へ」https://minjishintaku-kazokushintaku.com/news/669

2022年4月22日閲覧

[4] 『家族信託実務ガイド』第25号2022年5月、日本法令、司法書士・家族信託専門士宮城拓「私はこうして家族信託に取り組んだ」

[5] 『家庭の法と裁判』35号、2021年2月日本加除出版、藤沢公証役場公証人金子順一「公証役場からみた民事信託」

[6] 『ジュリスト』2018年6月(株)有斐閣、八谷博喜「家族を受託者とする信託」

[7] 『家族信託実務ガイド』第25号2022年5月、日本法令、(一社)家族信託普及協会事務局「実態調査家族信託最新情報~一般社団法人家族信託普及協会『Fact Book2021』より」

[8] (株)三井住友信託銀行については沖縄県内に実店舗を開設していないため、(一社)家族信託普及協会については、自己申告のため。

[9] 信託の学校、月3,500円(税抜)相談は別途費用が発生。https://schooloftrust.com/ 2022年4月23日閲覧

[10] (一社)家族信託普及協会専門士サポートサービス月11,000円

[11] 民法等一部改正法令和5年4月1日、相続土地国庫帰属法令和5年4月27日、相続登記義務化関係の改正について令和6年4月1日

[12] 駿河台法学第34巻第2号金森健一弁護士「司法書士による民事信託(設定)支援業務の法的根拠論について~(続)民事信託業務の覚書~―「民事信託」―実務の諸問題(5)」、平成29年(2017年)6月日弁連信託センター設置、2020年(令和2年)9月10日信託口口座開設等に関するガイドライン制定、https://www.nichibenren.or.jp/activity/civil/trust_center.html

2022年4月23日閲覧、(株)三井住友信託銀行「弁護士紹介制度」https://www.smtb.jp/personal/entrustment/introduction/lawyer

2022年4月23日閲覧

[13] 『市民と法121号 2020年』「民事信託に関するアンケート調査」(株)民事法研究会

民事信託の登記の諸問題(9)

 登記研究(891号、令和4年5月、(株)テイハン、P31~ の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(9)」)について、考えてみたいと思います。

所有権に関する信託登記における信託目録の内容の法的性格については、三つの考え方がありうる。一つ目は、処分制限の登記の一種であるという考え方(処分制限登記説)、二つ目は、賃貸借の登記などと同様、債権の登記の一種であるという考え方(債権登記説)、三つめは、処分制限の登記、債権の登記、所有権の特約の登記の性格その他がその他が混在しているとする考え方(多元的登記説)である。―中略―第三の多元的登記説をもって正当としよう。



 処分制限登記説、債権登記説、多元的登記説の説は、今までも使われていて、今後も使われていくのでしょうか。私は初めて知りました。
多元的登記であるということについて、同意です。

事業用定期借地権の例

目的 借地借家法第23条第1項建物所有

特約 譲渡・転貸ができる

   借地借家法第23条第1項の特約


 登記原因で認められない譲渡、については売買契約でも贈与契約でも、名義が変わる、という意味で使われているのかなと思いました。

また、法令上、内容が具体化・特定された特約は、法令名(条文番号)の公示で足りるとしている登記先例の趣旨も参考となる。上記を参考とすれば、例えば、次のような信託目録の要約例(あくまで参考例の一つ)がありうる。

4 信託の条項
2.信託財産の管理方法
(1)受託者の権限
信託不動産の管理及び処分
信託不動産のための借入
信託財産責任負担債務のための抵当権の設定
信託法26条のただし書きの特約
抵当権の設定には受益者の承諾を要する

 条文番号が変更になった場合、効力は改正法令の附則、変更登記義務については通達に委ねられることになるのかなと思いました。
信託不動産のための借入、というのは、信託財産に属する不動産の修繕などのための借入れという意味なのか、よく分かりませんでした。
また借入れは、信託財産に属する金銭の管理方法であり、信託財産に属する不動産の信託目録に記録する事項なのか、分かりませんでした。借入れる際は、信託行為の記録を金融機関に審査してもらえば足りるのではないかと思います。

PAGE TOP