受託者 第三者への委託

 

1、第三者への委託が可能な場合

(1)信託行為に定めがあるとき

(2)信託行為に定めがない場合は、信託の目的を達成するために必要なとき。

(3)信託行為で禁止されている場合は、信託の目的を達成するために仕方がない事情があるとき。

2、第三者は、誰か

(1)第三者ではない人⇒当然に委託できるから、信託行為に記載しなくても良い。

 ア 弁護士、税理士、司法書士、宅地建物取引士などの専門家[1][2]

 イ タクシー、宅配便など

(2)第三者となり得る人

 ア 委託者

 イ 受益者

 ウ 共同受託者(信託法82)

 ア、ウについては、もちろん無理との指摘[3]がありますが、その理由について受益者の利益のためだとあり、委託者や共同受託者の1人が受託した方が受益者の利益になる場合もあるので妥当とはいえません。

3、委託する事務の範囲

(1)限界の判断

例えば、全部の個別的な事務を委託しても良いか。

信託の有効要件に当てはまるか、文脈を個別に判断する。

4、責任

(1)受託者の責任

 第3者への委託が受託者の注意義務の水準からして適法な場合は、委託先の選任・委託契約の内容のみについて責任を負う。 適法な場合とは、信託法28条と受託者の信託事務を処理するについての一般的な義務(忠実義務など)に違反していないこと。受託者が負う第三者への選任・監督義務、受益者への通知義務などを排除する信託は、信託制度の否定との指摘[4]がある。しかし、各種義務が信託行為によって排除されたとしても、受託者は忠実義務、善管注意義務を負っており、排除する規定がある信託が、すぐに信託制度を否定すると考えることはできない。

 違反したために信託財産に損害を与えた場合は、損失の穴埋め(信託法40条)。

(2)第三者の責任

 受託者との委託契約上の責任。信託とは関係がない。

【条項例】

第○条

1 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第3者へ委託することができる。

(1) 委託先○○(住所、生年月日、受託者との関係)について委託する事務の内容は、以下のように受託者が仕事などで処理できない場合の日中の事務とする。

(ア)預貯金の引落し及び信託事務処理費用の支払い

(イ)官公庁における諸手続き

第○条

1 受託者は、信託財産の事務の一部の処理につき、必要な場合は専門知識を有する第三者に委託することができる。

信託法

第三章 受託者等 

第一節 受託者の権限

(信託事務の処理の第三者への委託)

第28条   受託者は、次に掲げる場合には、信託事務の処理を第三者に委託することができる。

一   信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき。

二   信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。

三   信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。

(信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務)

第35条 

1 第二十八条の規定により信託事務の処理を第三者に委託するときは、受託者は、信託の目的に照らして適切な者に委託しなければならない。

2   第二十八条の規定により信託事務の処理を第三者に委託したときは、受託者は、当該第三者に対し、信託の目的の達成のために必要かつ適切な監督を行わなければならない。

3   受託者が信託事務の処理を次に掲げる第三者に委託したときは、前二項の規定は、適用しない。ただし、受託者は、当該第三者が不適任若しくは不誠実であること又は当該第三者による事務の処理が不適切であることを知ったときは、その旨の受益者に対する通知、当該第三者への委託の解除その他の必要な措置をとらなければならない。

一   信託行為において指名された第三者

二   信託行為において受託者が委託者又は受益者の指名に従い信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者

4   前項ただし書の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

信託業法

第二章 信託会社

第三節 業務

(信託業務の委託)

第22条

1 信託会社は、次に掲げるすべての要件を満たす場合に限り、その受託する信託財産について、信託業務の一部を第三者に委託することができる。

一   信託業務の一部を委託すること及びその信託業務の委託先(委託先が確定していない場合は、委託先の選定に係る基準及び手続)が信託行為において明らかにされていること。

二   委託先が委託された信託業務を的確に遂行することができる者であること。

2   信託会社が信託業務を委託した場合における第二十八条及び第二十九条(第三項を除く。)の規定並びにこれらの規定に係る第七章の規定の適用については、これらの規定中「信託会社」とあるのは、「信託会社(当該信託会社から委託を受けた者を含む。)」とする。

3   前二項の規定(第一項第二号を除く。)は、次に掲げる業務を委託する場合には、適用しない。

一   信託財産の保存行為に係る業務

二   信託財産の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする業務

三   前二号のいずれにも該当しない業務であって、受益者の保護に支障を生ずることがないと認められるものとして内閣府令で定めるもの

(信託業務の委託に係る信託会社の責任)

第23条

1 信託会社は、信託業務の委託先が委託を受けて行う業務につき受益者に加えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、信託会社が委託先の選任につき相当の注意をし、かつ、委託先が委託を受けて行う業務につき受益者に加えた損害の発生の防止に努めたときは、この限りでない。

2   信託会社が信託業務を次に掲げる第三者(第一号又は第二号にあっては、株式の所有関係又は人的関係において、委託者と密接な関係を有する者として政令で定める者に該当し、かつ、受託者と密接な関係を有する者として政令で定める者に該当しない者に限る。)に委託したときは、前項の規定は、適用しない。ただし、信託会社が、当該委託先が不適任若しくは不誠実であること又は当該委託先が委託された信託業務を的確に遂行していないことを知りながら、その旨の受益者(信託管理人又は受益者代理人が現に存する場合にあっては、当該信託管理人又は受益者代理人を含む。第三号、第二十九条の三及び第五十一条第一項第五号において同じ。)に対する通知、当該委託先への委託の解除その他の必要な措置をとることを怠ったときは、この限りでない。

一   信託行為において指名された第三者

二   信託行為において信託会社が委託者の指名に従い信託業務を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者

三   信託行為において信託会社が受益者の指名に従い信託業務を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者


[1]四宮和夫『信託法』有斐閣 平成元年 P236~P237

[2] 道垣内弘人ほか『信託法セミナー2』P33

[3] 遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版 P225~。なお、信託事務処理代行者と第3者へ委託した場合の委託契約の受託者との違いについて不明。

[4]遠藤英嗣『新しい家族信託』日本加除出版 P226~。

信託財産限定責任負担債務

参考

道垣内弘人『信託法』2017有斐閣

村松秀樹『概説 新信託法』2008きんざい

寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』2007商事法務

【条項例】

第〇条 受益者は、本信託に基づき受託者に対して負担する債務につき、本信託契約において定める責任財産の限度においてのみ、履行の責任を負う。

受託者の忠実義務

 

忠実義務

1、 違反の効果

1-1 受益者を救済するための一般的な方法

1-1-a 損失のてん補責任(信託法40条)

⇒信託財産が減った場合は、信託財産を穴埋めする。

1-1-b 受託者の行為の差止請求権(信託法44条)

⇒信託の受託者としての行為をやめる。これ以上やると、信託財産が減るから。

2、 忠実義務

2-1 忠実義務の内容

民事信託・家族信託における 受託者の利益相反行為 違反の効果

1、信託法40条1項1号

(例)受益者が住んでいる家と土地を、受託者が個人的に購入した。

⇒受益者は受託者に対して、家と土地の登記を元に戻すよう請求することができる。登記費用は受託者の個人的な財産を使い、信託財産からは出さない。

2、信託法40条1項2号

(例)信託不動産を受託者が個人的に購入した。

⇒受益者は受託者に対して、不動産を信託財産へ戻し、売却代金を受託者個人の財産に戻すように請求することができる。

3、信託法31条4項

 受益者は受託者に対して、受託者が行った利益相反行為は無効とすることができる。

4、信託法31条6項

(例)

1、受託者が、信託不動産を個人的に購入した。

2、信託不動産のまま、登記はしていない。

3、受託者は、購入した信託不動産を個人として他人(不動産事業者)に売却した。

4、売却代金は、信託財産ではなく受託者の個人の通帳に入金された。

⇒受益者は受託者に対して、1から4までの行為を取り消すことができる。

4、信託法31条7項

(例)

1、受託者は、信託不動産を売却する際、買主の代理人となった。

2、買主は不動産事業を行っている。

3、受益者は、1の売却を取り消すことができる。

信託法

第三章 受託者等

第二節 受託者の義務等

(利益相反行為の制限)

第31条   

1項2項―略―

3   受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5   前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6   第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

7   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

第三節 受託者の責任等 

(受託者の損失てん補責任等)

第40条

1 受託者がその任務を怠ったことによって次の各号に掲げる場合に該当するに至ったときは、受益者は、当該受託者に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、第二号に定める措置にあっては、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、この限りでない。

(1) 信託財産に損失が生じた場合 当該損失のてん補

(2) 信託財産に変更が生じた場合 原状の回復

2   受託者が第二十八条の規定に違反して信託事務の処理を第三者に委託した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、第三者に委託をしなかったとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、前項の責任を免れることができない。

3  受託者が第30条、第31条第1項及び第2項又は第32条第1項及び第2項の規定に違反する行為をした場合には、受託者は、当該行為によって受託者又はその利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定する。

4   受託者が第34条の規定に違反して信託財産に属する財産を管理した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、同条の規定に従い分別して管理をしたとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、第1項の責任を免れることができない。

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