受託者の忠実義務

 

忠実義務

1、 違反の効果

1-1 受益者を救済するための一般的な方法

1-1-a 損失のてん補責任(信託法40条)

⇒信託財産が減った場合は、信託財産を穴埋めする。

1-1-b 受託者の行為の差止請求権(信託法44条)

⇒信託の受託者としての行為をやめる。これ以上やると、信託財産が減るから。

2、 忠実義務

2-1 忠実義務の内容

民事信託・家族信託における 受託者の利益相反行為 違反の効果

1、信託法40条1項1号

(例)受益者が住んでいる家と土地を、受託者が個人的に購入した。

⇒受益者は受託者に対して、家と土地の登記を元に戻すよう請求することができる。登記費用は受託者の個人的な財産を使い、信託財産からは出さない。

2、信託法40条1項2号

(例)信託不動産を受託者が個人的に購入した。

⇒受益者は受託者に対して、不動産を信託財産へ戻し、売却代金を受託者個人の財産に戻すように請求することができる。

3、信託法31条4項

 受益者は受託者に対して、受託者が行った利益相反行為は無効とすることができる。

4、信託法31条6項

(例)

1、受託者が、信託不動産を個人的に購入した。

2、信託不動産のまま、登記はしていない。

3、受託者は、購入した信託不動産を個人として他人(不動産事業者)に売却した。

4、売却代金は、信託財産ではなく受託者の個人の通帳に入金された。

⇒受益者は受託者に対して、1から4までの行為を取り消すことができる。

4、信託法31条7項

(例)

1、受託者は、信託不動産を売却する際、買主の代理人となった。

2、買主は不動産事業を行っている。

3、受益者は、1の売却を取り消すことができる。

信託法

第三章 受託者等

第二節 受託者の義務等

(利益相反行為の制限)

第31条   

1項2項―略―

3   受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5   前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6   第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

7   第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

第三節 受託者の責任等 

(受託者の損失てん補責任等)

第40条

1 受託者がその任務を怠ったことによって次の各号に掲げる場合に該当するに至ったときは、受益者は、当該受託者に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、第二号に定める措置にあっては、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、この限りでない。

(1) 信託財産に損失が生じた場合 当該損失のてん補

(2) 信託財産に変更が生じた場合 原状の回復

2   受託者が第二十八条の規定に違反して信託事務の処理を第三者に委託した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、第三者に委託をしなかったとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、前項の責任を免れることができない。

3  受託者が第30条、第31条第1項及び第2項又は第32条第1項及び第2項の規定に違反する行為をした場合には、受託者は、当該行為によって受託者又はその利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定する。

4   受託者が第34条の規定に違反して信託財産に属する財産を管理した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、同条の規定に従い分別して管理をしたとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、第1項の責任を免れることができない。

受託者の利益相反行為

 

利益相反 例外として許容される行為(個別事案に当てはめ)

1号の要件

(例)

第○条 

1 受託者は次の全てを満たす場合、信託不動産1及び2を、自己の固有財産として○○万円を下限として購入することができる。 

(1)受益者及び信託監督人の承認

(2)受益者が居住していないこと

(3)受託者の居住用として使用すること

2号の要件

(例)受託者○○が信託不動産を○○個人に売る場合

1、2の全てを満たすこと。

1、受託者が責任を持ったまま、受益者の承認を得ること。

2、信託行為にその行為を禁止する定めがないこと。

3号

(例)受託者が子、受益者が親、残余財産受益者、帰属権利者の定めがない。受益者の相続人が子1人である信託において、受益者の親が亡くなって受益権が子に帰属した場合

4号の要件

(例)

1、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合

2、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき

1,2の全てを満たすこと。

又は、受益者が損するかもしれないが、

1、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合

3、信託財産に与える影響、

4、目的及び態様

5、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況

6、その他の事情

1、3,4,5,6に照らして正当な理由があるとき

信託法

第三章 受託者等

第二節 受託者の義務等

(利益相反行為の制限)

第31条   受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

―略―

2   前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

(1) 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

(2) 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

(3) 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

(4) 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

受託者の利益相反行為

 

利益相反 原則として禁止される行為(例示列挙)

1号 

(例)信託財産の中の不動産を、受託者が買って自分の不動産にする行為

受託者個人の不動産を、信託財産の中の金銭で買って自分のお金にする行為

2号

(例)受託者が2つの信託について、信託間で1号のような取引をすること。

3号

(例)受託者が、信託不動産を売る場合、買主の代理人になること。

4号

(例)受託者が、個人の住宅ローンの担保として、信託不動産を提供する行為。

その他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

信託法

第三章 受託者等

第二節 受託者の義務等

(利益相反行為の制限)

第31条   受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

1  信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

2 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

3  第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

4  信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

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遺留分に関する整理

1、遺言代用信託・後継ぎ遺贈受益者連続型信託における遺留分の考え方

(1)遺留分を侵害する「行為」に焦点を当てる[1][2]

  この場合、遺留分を侵害する「行為」は、当初の受益者の死亡のとき1回のみとなる。受益権は、受益者の死亡を始期とした始期付き権利と考える。

遺留分侵害行為は、委託者(被相続人)から受託者に、信託財産の所有権が形式的に移転した行為。

(2)信託法は民法の特別法であるから、遺留分請求権は発生しない[3]

   信託法は、民法の特別法であり民法に優先するので受益権の移動(移

転)は相続ではない。相続ではないから遺留分は発生しない。

(3)委託者(被相続人)が信託行為により、受益者に対して受益権という信託財産の実質的な利益を与える行為が遺留分侵害行為である。

(4)受益権は存続期間の不確定な権利とし、新たな受益者はその権利を取得する[4]

 存続期間の不確定な権利、というのがどのようなものなのか、現在のところよく分かりません。存続期間の不確定な受益権と考えると、遺留分の適用は委託者の死亡時1回のみと記載されていますが、なぜなのか分かりませんでした。

2、遺留分減殺請求の順序

(1)遺言信託

遺贈と捉え、1番最初に請求される(民法1031条)。

(2)信託契約(遺言代用信託、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託)

死因贈与と捉え、遺贈の次、生前贈与の前に請求される(民法1033条、東京高判平成12年3月8日)。

・備考

遺言により、遺留分減殺請求について順序指定、割合指定をすることが可能(民法第1034条)。

3、遺留分減殺請求の効果

(1)民法改正後

  金銭債権が発生する、と改正された場合

 受益債権でも良いか。

 分割給付の受益債権でも良いか。


[1] 能見善久「財産承継的信託処分と遺留分減殺請求」トラスト未来フォーラム研究叢書『信託の理論的深化を求めて』2017 P121

[2] 伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017 日本加除出版P288 

[3] 他に生命保険との類似性も指摘する。河合保弘『家族信託活用マニュアル』2015日本法令 P50~

[4]平川忠雄ほか『民事信託実務ハンドブック』2016日本法令 P153

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