加工第二期成年後見制度利用促進基本計画

https://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/index.html

成年後見制度利用促進専門家会議

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212875.html

~尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進~

令和4年3月25日閣議決定

目 次

はじめに………………………………………………1

1成年後見制度利用促進基本計画の位置付け………………………..1

2新たな基本計画の必要性……………………………….1

3第二期計画の対象期間…………………………..2

Ⅰ成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方及び目標………3

1成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方……………..3

(1)地域共生社会の実現に向けた権利擁護支援の推進…………….3

(2)尊厳のある本人らしい生活を継続できるようにするための成年後見制度の運用改善等…………………………………………4

(3)司法による権利擁護支援などを身近なものにするしくみづくり…….5

2今後の施策の目標等……………………………………6

(1)目標……………………………………………6

(2)工程管理………………………………………..6

Ⅱ成年後見制度の利用促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策……7

1成年後見制度等の見直しに向けた検討と総合的な権利擁護支援策の充実…7

(1)成年後見制度等の見直しに向けた検討……………………..7

(2)総合的な権利擁護支援策の充実…………………………….7

①成年後見制度と日常生活自立支援事業等との連携の推進及び同事業の実施体制の強化…………………………………………..8

②新たな連携・協力体制の構築による生活支援・意思決定支援の検討……8

③都道府県単位での新たな取組の検討……………………….10

2尊厳のある本人らしい生活を継続するための成年後見制度の運用改善等..11

(1)本人の特性に応じた意思決定支援とその浸透………………….11

①成年後見制度の利用促進における意思決定支援の浸透…………11

②様々な分野における意思決定支援の浸透…………………..12

(2)適切な後見人等の選任・交代の推進等…………………..13

①家庭裁判所による適切な後見人等の選任・交代の推進………….13

②後見人等に関する苦情等への適切な対応……………………14

③適切な報酬の算定に向けた検討及び報酬助成の推進等……………15

④適切な後見人等の選任・交代の推進等に関するその他の取組………..17

(3)不正防止の徹底と利用しやすさの調和等………………….18

①後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金の普及等………………..18

②家庭裁判所の適切な監督に向けた取組……………………..19

③専門職団体や市民後見人を支援する団体の取組……………….19

④地域連携ネットワークによる不正行為の防止効果…………….19

⑤成年後見制度を安心して利用できるようにするための更なる検討…….19

(4)各種手続における後見事務の円滑化等…………………..20

3権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり………………..21

(1)権利擁護支援の地域連携ネットワークの基本的な考え方

-尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加-………21

①地域連携ネットワークの必要性と趣旨……………………21

②地域連携ネットワークのしくみ………………………….23

③権利擁護支援を行う3つの場面……………………..24

④市町村・都道府県・国と関係機関の主な役割………………25

(2)権利擁護支援の地域連携ネットワークの機能-個別支援と制度の運用・監督-…………..28

①地域連携ネットワークの機能の考え方………………..28

②権利擁護支援を行う3つの場面における「支援」機能と「運用・監督」機能29

(3)権利擁護支援の地域連携ネットワークの機能を強化するための取組

-中核機関のコーディネート機能の強化等を通じた連携・協力

による地域づくり-….34

①地域連携ネットワークの機能を強化するための取組の考え方……….34

②地域連携ネットワークの機能を強化するための取組(地域の体制づくり)..34

③中核機関のコーディネート機能の強化と協議会の運営を通じた連携・協力関係の推進……………………41

(4)包括的・多層的な支援体制の構築………………..46

①基本方針……………………………..46

②市町村による「包括的」な支援体制の構築………………….47

③都道府県による「多層的」な支援体制の構築………………..47

④国による「包括的」「多層的」な支援体制づくりの支援…………48

4優先して取り組む事項………………………………..49

(1)任意後見制度の利用促進…………………………….49

①基本方針…………………………………………49

②周知・広報等に関する取組…………………………….49

③任意後見制度の趣旨に沿った適切な運用の確保に関する取組……..49

(2)担い手の確保・育成等の推進……………………………..50

①基本方針……………………………….50

②市民後見人の育成・活躍支援……………………………..52

③法人後見の担い手の育成………………………………….54

④専門職後見人の確保・育成……………………………..56

⑤親族後見人への支援…………………………..56

(3)市町村長申立ての適切な実施と成年後見制度利用支援事業の推進……57

①基本方針………………………..57

②市町村長申立ての適切な実施…………………………….58

③成年後見制度利用支援事業の推進………………………..58

(4)地方公共団体による行政計画等の策定……………………….59

①基本方針……………………………………………59

②市町村による行政計画の策定……………………………59

③都道府県による取組方針の策定………………………….60

(5)都道府県の機能強化による権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりの推進61

①基本方針……………………………………………….61

②都道府県の機能強化……………………………………62

③市町村への具体的な支援内容……………………………..62

④都道府県自らの取組の実施……………………………..63

別紙第二期計画の工程表とKPI

はじめに

1成年後見制度利用促進基本計画の位置付け

成年後見制度利用促進基本計画(以下「基本計画」という。)は、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号。以下「促進法」という。)第12条第1項に基づき、成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定するものであり、政府が講ずる成年後見制度利用促進策の基本的な計画として位置付けられる。

なお、促進法第14条第1項において、市町村は、国の基本計画を勘案し、当該市町村の区域における成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画を定めるよう努めるものとされている。

成年後見制度の利用の促進に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=428AC1000000029_20180401_000000000000000

2新たな基本計画の必要性

基本計画は、平成29年度から令和3年度までを最初の計画(以下「第一期計画」という。)の期間として、利用者がメリットを実感できる成年後見制度の運用改善、権利擁護支援の地域連携ネットワーク(以下「地域連携ネットワーク」という。)づくり、安心して成年後見制度を利用できる環境の整備などを進めてきた。

これにより、本人の意思決定支援1や身上保護を重視2した成年後見制度の運用が進みつつあり、また、各地域で相談窓口の整備や判断能力が不十分な人を適切に必要な支援につなげる地域連携のしくみが整備されつつある。

1 「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(令和2年10月30日意思決定支援ワーキング・グループ)では、「意思決定支援とは、特定の行為に関し本人の判断能力に課題のある局面において、本人に必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなど、後見人等を含めた本人に関わる支援者らによって行われる、本人が自らの価値観や選好に基づく意思決定をするための活動をいう」とされている。

裁判所「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」について(意思決定支援ワーキング・グループ)

https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp/koukenp5/ishiketteisien_kihontekinakangaekata/index.html

2 本人の財産の管理のみならず身上の保護が適切に図られるべきこと。

他方、成年後見人、保佐人及び補助人(以下「後見人等」という。)が意思決定支援や身上保護を重視しない場合があり、利用者の不安や不満につながっているといった指摘や、成年後見制度や相談先等の周知が未だ十分でないなどの指摘がされている。また、地域連携ネットワークなどの体制整備は、特に小規模の町村などで進んでいない。さらに、団塊の世代が後期高齢者となる令和7年を迎えて、認知症高齢者が増加するなど(いわゆる2025年問題)、成年後見制度の利用を含む権利擁護支援のニーズが更に多様化及び増大する見込みであり、こうした状況に適切に対応する必要がある。

そこで、新たな基本計画(以下「第二期計画」という。)を定め、更なる施策の推進を図ることとする。

3第二期計画の対象期間

第二期計画の対象期間は、令和4年度から令和8年度までの5年間とする。

Ⅰ成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方及び目標

1成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方

(1)地域共生社会の実現に向けた権利擁護支援の推進

近年の人口の減少、高齢化、単身世帯の増加等を背景として、地域社会から孤立する人や身寄りがないことで生活に困難を抱える人の問題が顕在化し、地域共生社会の実現を目的とした様々な福祉施策等が進められている。

地域共生社会は、制度・分野の枠や「支える側」と「支えられる側」という従来の関係を超えて、住み慣れた地域において、人と人、人と社会がつながり、すべての住民が、障害の有無にかかわらず尊厳のある本人らしい生活を継続することができるよう、社会全体で支え合いながら、共に地域を創っていくことを目指すものである。

一方、ノーマライゼーション(成年被後見人等が、成年被後見人等でない人と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと。)、自己決定権の尊重( 障害者の権利に関する条約第12条の趣旨に鑑み、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきこと。)等を基本理念とする成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害により判断能力が不十分な人の権利擁護を支える重要な手段であり、身上保護と財産管理の支援によって、本人の地域生活を支える役割を果たしている。また、その利用促進の取組は、市民後見人等地域住民の参画を得ながら、家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体、専門職団体、民間団体等の協働による地域連携ネットワークを通じて推進されるべきものである。このネットワークは、他の様々な支援・活動のネットワーク(例えば、高齢者支援のネットワーク、障害者支援のネットワーク、子ども支援のネットワーク、生活困窮者支援のネットワーク、地域社会の見守り等の緩やかなネットワーク等がある。)と連動しながら、地域における包括的・重層的・多層的な支援体制をかたちづくっていくことによって、地域共生社会の実現という共通の目的に資することになる。したがって、成年後見制度の利用促進とは、単に利用者の増加を目的とするのではなく、全国どの地域においても、制度の利用を必要とする人が、尊厳のある本人らしい生活を継続することができる体制の整備を目指すものでなければならない。

第一期計画では、地域連携ネットワークの構築を施策の目標の一つとして掲げた一方で、その中核的な概念である権利擁護支援については必ずしも明確に定義してはいなかった( 第一期計画では、地域連携ネットワークの役割の一つである「権利擁護支援の必要な人の発見・支援」において、権利擁護に関する支援の必要な人として、「財産管理や必要なサービスの利用手続を自ら行うことが困難な状態であるにもかかわらず必要な支援を受けられていない人、虐待を受けている人など」を掲げていた。)。

そこで、第二期計画では、これを明確にした上で取組を進めていくことが重要である。

権利擁護支援とは、地域共生社会の実現を目指す包括的な支援体制における本人を中心とした支援・活動の共通基盤であり、意思決定支援等による権利行使の支援や、虐待対応や財産上の不当取引への対応における権利侵害からの回復支援を主要な手段として、支援を必要とする人が地域社会に参加し、共に自立した生活を送る(障害者権利条約第19条を参照したもの。同条は、「この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。」と規定している。)という目的を実現するための支援活動であると定義することができる。権利擁護支援の中でも重要な手段である成年後見制度の特長を鑑みると、基本計画における権利擁護支援とは、判断能力が不十分な人を対象としたこうした支援活動のことであるといえる。

なお、権利擁護支援は、成年後見制度を含めた総合的な支援として充実させていく必要がある。これは、誰もが判断能力が不十分となる可能性があるため、成年後見制度の潜在的な利用者を念頭に置いた支援を拡げていく必要があるからであり、さらには、多くの関係者の協働を必要とする支援が全国的に展開されることは地域共生社会の実現にも資するからである。

以上のように、第二期計画では、地域共生社会の実現という目的に向け、本人を中心とした支援・活動における共通基盤となる考え方として「権利擁護支援」を位置付けた上で、地域連携ネットワークにおける権利擁護支援策の一層の充実などの成年後見制度利用促進の取組をさらに進めていくこととする。

(2)尊厳のある本人らしい生活を継続できるようにするための成年後見制度の運用改善等

成年後見制度の利用促進は、上記のとおり、全国どの地域においても、制度の利用を必要とする人が尊厳のある本人らしい生活を継続することができる体制を整備して、本人の地域社会への参加の実現を目指すものである。

そのため、以下を基本として成年後見制度の運用改善等に取り組む。

①後見人等による財産管理のみを重視するのではなく、認知症高齢者や障害者の特性を理解した上で、本人の自己決定権を尊重し、意思決定支援・身上保護も重視した制度の運用とすること。

②法定後見制度の後見類型は、終了原因が限定されていること等により、実際のニーズにかかわらず、一時的な法的課題や身上保護上の重要な課題等が解決した後も、成年後見制度が継続することが問題であるとの指摘や、一時的な利用を可能として、より利用しやすい制度とすべきとの指摘などがある。これを踏まえ、成年後見制度を利用することの本人にとっての必要性や、成年後見制度以外の権利擁護支援による対応の可能性についても考慮された上で、適切に成年後見制度が利用されるよう、連携体制等を整備すること。

③成年後見制度以外の権利擁護支援策(成年後見制度以外の権利擁護支援策とは、意思決定支援等によって本人を支える各種方策や司法による権利擁護支援を身近なものとする各種方策のこと。これらの施策を充実させるための取組はⅡ1(2)「総合的な権利擁護支援策の充実」を参照。)を総合的に充実すること。

④本人の人生設計についての意思を反映・尊重できるという観点から任意後見制度が適切かつ安心して利用されるための取組を進めるとともに、本人の意思、能力や生活状況に応じたきめ細かな対応を可能とする補助・保佐類型(補助類型は、保佐類型より本人の意思に基づく選択の幅が広い制度である。)が利用されるための取組を進めること。

⑤安心かつ安全に成年後見制度を利用できるようにするため、不正防止等の方策を推進すること。

(3)司法による権利擁護支援などを身近なものにするしくみづくり

権利侵害からの回復支援を進める上での重要な核の一つが家庭裁判所や法律専門職である。身近な相談窓口を通じて、家庭裁判所の手続の利用を円滑にすることや法律専門職による支援などを適切に受けられるようにすることで、権利侵害からの回復支援の実質を担保することができ、尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加が図られる。

したがって、地域連携ネットワークを通じた福祉と司法の連携強化により、必要な人が必要な時に司法による権利擁護支援などを適切に受けられるようにしていく必要がある。

2今後の施策の目標等

(1)目標

①1の「成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方」を踏まえ、障害の有無にかかわらず尊厳のある本人らしい生活の継続や本人の地域社会への参加等のノーマライゼーションの理念を十分考慮し、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う。また、同様の観点から、市町村長申立て及び成年後見制度利用支援事業の見直しに向けた検討も行う。さらに、権利擁護支援策を総合的に充実するための検討を行う。

②1の「成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方」を踏まえ、成年後見制度の運用改善等や、地域連携ネットワークづくりに積極的に取り組む。

(2)工程管理

①(1)に基づく各施策について、工程表に基づき推進するとともに、施策の性質に応じて設定したKPI(KPIとは、Key Performance Indicator(重要業績評価指標)のこと。)10の達成に向けて取り組む(別紙参照)。

なお、成年後見制度利用促進専門家会議(以下「専門家会議」という。)においては、家庭裁判所における取組にもKPIを設定すべきとの意見もあった。最高裁判所は、成年後見制度の利用促進に関する各家庭裁判所の自律的な取組を支援するとともに、できる限り客観性を確保した形で定期的にその進捗状況を専門家会議に報告するなどして、取組を進めることが期待される。

②専門家会議は、進捗管理が特に重要な施策(Ⅱ1(2)の「総合的な権利擁護支援策の充実」など)について、ワーキング・グループを設置し、定期的に検討状況を検証する。

③専門家会議は、第二期計画の中間年度である令和6年度に、中間検証として、各施策の進捗状況を踏まえ、個別の課題の整理・検討を行う。国その他成年後見制度の利用促進に関わる関係機関・関係者は、中間検証の結果を踏まえ、第二期計画の取組を推進する。

Ⅱ成年後見制度の利用促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策

尊厳のある本人らしい生活の継続や地域社会への参加等のノーマライゼーションの理念のより一層の実現を図るためには、成年後見制度等が適切に見直される必要がある。さらに、同制度等が見直されるまでの間においても、総合的な権利擁護支援策の充実、現行制度の運用の改善等、地域連携ネットワークづくりを進める必要がある。

そこで、以下のとおり取り組むこととする。

1成年後見制度等の見直しに向けた検討と総合的な権利擁護支援策の充実

(1)成年後見制度等の見直しに向けた検討

成年後見制度については、他の支援による対応の可能性も踏まえて本人にとって適切な時機に必要な範囲・期間で利用できるようにすべき(必要性・補充性の考慮)、三類型を一元化すべき、終身ではなく有期(更新)の制度として見直しの機会を付与すべき、本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容やその変化に応じ後見人等を円滑に交代できるようにすべきといった制度改正の方向性に関する指摘、障害者の権利に関する条約に基づく審査の状況を踏まえて見直すべきとの指摘(「成年後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」に対する衆議院内閣委員会及び参議院内閣委員会の附帯決議にも同趣旨が盛りこまれている。なお、政府はこれらの附帯決議を尊重して関連施策を実施することとしている。)、現状よりも公的な関与を強めて後見等を開始できるようにすべきとの指摘などがされている。

国は、障害の有無にかかわらず尊厳のある本人らしい生活の継続や本人の地域社会への参加等のノーマライゼーションの理念を十分考慮した上で、こうした専門家会議における指摘も踏まえて、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う。

また、専門家会議において、市町村長の関与する場面の拡大など地方公共団体に与えられる権限を拡充すべきといった指摘や、成年後見制度利用支援事業の見直しに関する指摘もされている。国は、こうした指摘も踏まえ、これらの権限・事業についても見直しに向けた検討を行う(成年後見制度利用支援事業については2(2)③イ参照)。

(2)総合的な権利擁護支援策の充実

(1)の成年後見制度の見直しの検討をより深めていくためには、成年後見制度以外の権利擁護支援策を総合的に充実させていく必要がある。そのため、新たに意思決定支援(意思決定支援については、注釈1を参照。)等によって本人を支える各種方策や司法による権利擁護支援を身近なものとする各種方策の検討を進め、これらの検討や成年後見制度の見直しの検討に対応して、福祉の制度や事業の必要な見直しを検討する(市町村長申立て及び成年後見制度利用支援事業については(1)及び2(2)③イを参照。)。

①成年後見制度と日常生活自立支援事業等との連携の推進及び同事業の実施体制の強化

・日常生活自立支援事業は、専門員が作成した支援計画の下で、地域住民が生活支援員として本人に寄り添い、見守り、意思決定支援を行いながら適切な金銭管理等を支援することで、尊厳のある本人らしい生活の安定を図る互助のしくみであり、これにより地域福祉が推進されている。一方、地域によって同事業の待機者が生じていること、利用者数にばらつきがあることや同事業からの成年後見制度への移行に課題があることも指摘されている。

・国は、地域の関係者が個別事案において本人の尊厳保持のために適切な支援の組合せを検討することができるよう、日常生活自立支援事業等関連諸制度における役割分担の検討方法(「日常生活自立支援事業等関連制度と成年後見制度との連携の在り方等についての調査研究事業」(厚生労働省令和2年度社会福祉推進事業)で作成された「日常生活自立支援事業関連諸制度との役割分担チェックシート」の活用が考えられる。)について各地域に周知する。また、国は、成年後見制度の利用を必要とする人が適切に日常生活自立支援事業等から成年後見制度へ移行できるよう、市町村の関係部署や関係機関・関係団体との間で個別事案における対応方針の検討等を行う取組を進めるなど、同事業の実施体制の強化を行う。さらに、上記の指摘を踏まえ、生活困窮者自立支援制度等との連携も考慮しつつ、日常生活自立支援事業の効果的な実施方策について検討し、その結果を幅広く周知するなど、地域を問わず一定の水準で同事業を利用できる体制を目指す。

・家庭裁判所においても、日常生活自立支援事業を含む権利擁護支援に対する理解が進むことが期待される。そのため、最高裁判所においては、家庭裁判所の職員に権利擁護支援の理念が浸透するよう、研修を実施するなど、必要な対応を図ることが期待される。

②新たな連携・協力体制の構築による生活支援・意思決定支援の検討

・ 多様な地域課題に対応するため、公的な機関や民間事業者において、身寄りのない人等への生活支援等のサービス(簡易な金銭管理、入院・入所手続支援等各種の生活支援サービスをいう。以下同じ。)、公的な機関や民間事業者の本来の業務に付随した身寄りのない人等の見守り、寄付等を活用した福祉活動等の様々な取組が行われている。こうした取組については、公的な制度の隙間を埋めるものや公的な制度利用の入口として効果的であるとの指摘がある一方、一部の事業者については運営方法が不透明であるなどの課題も指摘されている。

・そのため、国は、公的な機関、民間事業者や当事者団体等の多様な主体による生活支援等のサービスが、本人の権利擁護支援として展開されるよう、意思決定支援等を確保しながら取組を拡げるための方策を検討する。

・その際、身寄りのない人も含め、誰もが安心して生活支援等のサービスを利用することができるよう、運営の透明性や信頼性の確保の方策、地域連携ネットワーク等との連携の方策についても検討する。

・生活支援等のサービスの提供における意思決定支援等の確保の検討の際には、意思決定支援の取組の推進において市民後見人の果たしてきた役割が大きいこと、ピアサポートの支援が効果的であることに鑑み、市民後見人養成研修の修了者や障害のある当事者等の参画方策の検討を進める。加えて、これらの人が、必要に応じて専門職等の支援等を受けながら意思決定支援を行う方策を、市町村の関与のあり方も含めて検討する。

・上記の検討の際、意思決定支援の場面において、権利侵害や法的課題を発見した場合、専門職等が必要な支援を助言・実施すること、行政の関与(虐待対応や消費者被害への対応、市町村長申立て等が考えられる。)を求めること、専門職による法的支援や成年後見制度につなぐことなど、司法による権利擁護支援を身近なものとする方策についても検討を進める。

・また、サービス等に関する丁寧な説明や本人の特性に合わせた説明が意思決定しやすい環境づくりに寄与することに鑑み、公的な機関及び民間事業者には、合理的配慮に関する取組を行うことが期待される。国及び地方公共団体は、これらの取組が進むよう、関係者に理解を促す取組を進めていく。

・身寄りのない人等であっても、地域において安心して暮らすことができるよう、国及び地方公共団体は、身元保証人・身元引受人等がいないことを前提とした医療機関の対応方法や、施設入所時や公営住宅入居時に身元保証人や連帯保証人を求める必要はないことなどについて、事業者等に理解を促す取組などを更に進めていく。

③都道府県単位での新たな取組の検討

ア寄付等の活用による多様な主体の参画の検討

・法人後見を実施している団体等は、支援の具体的な実践や課題、解決策について、地域住民や企業など広く地域社会に周知して資金を調達することで、公的財源では性質上対応困難な課題(例えば、あらかじめ予算上の措置がされていない、又は予算上の措置が困難な課題などが考えられる。)にも、柔軟な対応をすることが可能となる。また、地域住民や企業等が、権利擁護支援の実践への理解や共感をもち、寄付やボランティア活動などにより、権利擁護支援の取組に参画することは、地域における権利擁護支援の意識の醸成につながり、参画者の積極性を生み出す。

・国は、各地域(例えば、都道府県単位)で、こうした取組が普及するよう、必要な方策を検討する。その際、サービス提供者がサービス利用者から直接寄付等を受けることは利益相反のおそれがあることから、本人が不利益を被らないようなしくみ、資金の適切な管理方法・効果的な活用方法等も検討する。

イ公的な関与による後見の実施の検討

・虐待等の支援困難な事案については、専門職後見人や一般的な法人後見では対応が困難な場合があると指摘されている。こうした場合でも、尊厳のある本人らしい生活を安定的に支えることができるよう、国は、このような事案を受任する法人が都道府県等の適切な関与を受けつつ後見業務を実施できるよう、法人の確保の方策等を含め検討する。

2尊厳のある本人らしい生活を継続するための成年後見制度の運用改善等

(1)本人の特性に応じた意思決定支援とその浸透

意思決定支援は権利擁護支援の重要な要素であるため、意思決定支援の理念が地域に浸透することにより、成年後見制度を含む必要な支援に、適時・適切につなぐことができるようになるほか、尊厳のある本人らしい生活を継続することができる社会の実現にも適うことになる。

後見人等は、民法(明治29年法律第89号)第858条等の趣旨に基づき、障害特性や本人の状況等を十分に踏まえた上で、本人の意思の尊重を図りつつ、身上に配慮した後見事務を行う必要がある。これに加えて、後見人等が本人を代理して法律行為をする場合、本人の意思決定支援の観点からも、本人の自己決定権を尊重し、法律行為の内容に本人の意思及び選好(本人による意思決定の土台となる本人の生活上の好き嫌いをいう。以下同じ。)や価値観を適切に反映させる必要がある。

後見人等が意思決定支援を踏まえた後見事務を行うに当たっては、日常的に本人への支援を行う様々な関係者が、チームとなって意思決定支援の考え方を理解し、実践することが重要である。また、家庭裁判所職員における意思決定支援についての理解と、意思決定支援を踏まえた対応も重要である。

そのため、以下の取組を行う必要がある。

①成年後見制度の利用促進における意思決定支援の浸透

・都道府県等には、専門職団体の協力も得て、親族後見人や市民後見人等、日常生活自立支援事業の関係者及び市町村・中核機関(中核機関については、3(1)②ウ参照。)の職員に対して、意思決定支援に係る研修等を継続的に行うことが期待される。

・国は、都道府県で意思決定支援の指導者となり得る人材を育成するため、引き続き、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」に関する研修を実施するとともに、成年後見制度利用促進ポータルサイトで意思決定支援に関する最新の情報や知見を紹介するなどの取組を行う。また、国は、互助・福祉・司法の支援を効果的に行うため、権利擁護支援・意思決定支援に関する専門職のアドバイザーの育成を行うほか、地方公共団体における専門的助言についてのオンラインのしくみの活用支援などを行う。

・専門職団体は、4(2)④のとおり、専門職に対する研修等を実施する。

・「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」の普及・啓発に当たっては、同ガイドラインが示す原則的な考え方や本人を支援する関係者によって構成されるチームによる支援の重要性のほか、本人の意思及び選好や価値観を記録し関係者が確認できるしくみの紹介などの実践につながる普及・啓発を併せて行うことに留意する必要がある。

②様々な分野における意思決定支援の浸透

・「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年3月31日厚生労働省)、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(平成30年6月厚生労働省)、「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(令和元年5月「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」班)等について、引き続き研修等で活用するなど、幅広い関係者に普及・啓発を行っていく必要がある(普及・啓発の一環として、必要に応じて、具体的な実務に関する普及・啓発に取り組むことも重要である。例えば、予防接種についても、意思決定支援の考え方等を踏まえ、本人への丁寧な説明、本人の意思の確認、本人による署名又は代筆が原則となるが、接種に関する本人の意思確認が困難な場合には、本人のそれまでの意思、生活歴、選好、本人にとっての最善の方針が何かを踏まえた上で、家族、医療・ケアのチーム、成年後見人等で相談しながら判断する必要がある。)。

・国は、関係者等における各ガイドラインの理解状況等を把握した上で、各ガイドラインに共通する基本的な意思決定支援の考え方についての議論を進め、その結果を整理した資料を作成する。その上で、国や、地方公共団体を始めとする地域連携ネットワークの関係者は、意思決定支援の取組が、保健、医療、福祉、介護、金融等の幅広い関係者や地域住民に浸透するよう、意思決定支援の考え方を整理した当該資料等も活用し、研修等を通じて継続的に普及・啓発を行う必要がある。

・地域住民への意思決定支援の浸透においては、市民後見人の果たす役割も大きい。したがって、国は、市民後見人養成研修修了者が、地域で行われている身寄りのない人等への生活支援等のサービス提供の際に行われる意思決定支援に参画できる方策を検討する。

・意思決定支援を踏まえた支援が適切に実施されるためには、継続的な取組や定期的な見直しが必要である。国は、関係者における意思決定支援の取組状況や課題を踏まえ、必要に応じて、医療、福祉、介護等の幅広い関係者による支援が適切に実践される方策を検討する。

・家庭裁判所においても、意思決定支援に対する理解が進むことや、意思決定支援を踏まえた対応が図られることが期待される。最高裁判所においては、家庭裁判所の職員に意思決定支援の理念が浸透するよう、研修を実施するなど、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」を踏まえた必要な対応を図ることが期待される。

(2)適切な後見人等の選任・交代の推進等

全国どの地域においても、成年後見制度の利用を必要とする人が、尊厳のある本人らしい生活を継続できるようにするためには、本人の直面する財産管理や法的課題に適切に対応するとともに、本人の自己決定権を尊重し、身上に配慮した後見事務を適切に行う後見人等が選任される必要がある。また、本人の状況の変化等を踏まえ、後見人等の柔軟な交代が行われることを可能とする必要がある。さらに、適切な後見人等の選任・交代は、本人が納得した上で、後見人等に対して適切な報酬が支払われることにも関係するものと考えられる。

そのため、後見人等の選任・交代や報酬等のあり方などについて、以下の取組を行う。なお、以下の取組の中には、地域の連携協力体制がその基盤となるものがあり、これについては3の「権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり」に記載している。

①家庭裁判所による適切な後見人等の選任・交代の推進

家庭裁判所は、本人の自己決定権の尊重や身上保護の充実といった第一期計画の方針を踏まえ、自主的な努力の積み重ねで、親族後見人の選任の推進など一定の成果を出してきた。裁判事項については、裁判所が個々の事案に応じて独立して職権を行使する性質であるものの、各家庭裁判所には、こうした成果も踏まえながら、事案や場面に応じた適切な対応ができるよう、以下の取組や権利擁護支援に関する研修の実施を含め、引き続き努力することが期待される。

なお、苦情等への対応については、②に記載している。

・市民後見人・親族後見人等の候補者がいる場合は、その選任の適否を検討し、本人のニーズ・課題に対応できると考えられるときは、その候補者を選任する。親族後見人から相談を受けるしくみが地域で十分に整備されていない場合は、専門職監督人による支援を検討する。

・必要に応じた複数選任や、本人のニーズ・課題や状況の変化等に応じた柔軟な後見人等の交代や追加選任を行う。

・補助の開始、代理権・同意権付与や、保佐の代理権付与の審判の際、その必要性についても適切に審査する。その際、意思決定支援に基づく本人による意思決定の可能性も適切に考慮する。

・後見類型についても、代理権行使の必要性が低下した場合、中核機関、専門職団体、日常生活自立支援事業の実施団体等と連携し、市民後見人等への交代や同事業の併用などにより、意思決定支援の観点を重視する。

・上記のような運用が適切に行われるようにするため、後見等の開始の審判時に、後見人等の職務に関する見直しの時期・観点について関係者間で認識を共有し、その後の状況を踏まえ、本人のニーズ・課題の状況や後見人等の適性を定期的に再評価する。

②後見人等に関する苦情等への適切な対応

ア基本方針

(ア)後見人等に関する苦情等には、後見人等の不適正・不適切な職務に関するものだけでなく、後見人等が本人・親族等や支援者の意向等に沿わないことへの不満、本人・親族等が成年後見制度・実務への十分な理解がないこと、本人や支援者とのコミュニケーション不足によって生じる意見の食い違いなど様々なものがある。

そのため、まずは、成年後見制度等に関する広報や事前の説明により、本人や関係者の制度に関する理解を促進することが重要である。

(イ)その上で、以下の役割を基本として、苦情等に適切に対応できるしくみを地域の実情に応じて整備していく必要がある。

・家庭裁判所には、後見監督の一環として、後見人等が本人のためにその職務を適切に行うよう、その職務全般(財産管理、身上保護、意思決定支援のほか、報告書作成等の後見事務)について、司法機関の立場から適切な助言・指導を行うことが予定されている。そのため、家庭裁判所には、不適正・不適切な後見事務に関する苦情等について、司法機関の立場から、専門職団体や市町村・中核機関と連携して対応することが期待される。

・専門職団体には、当該団体に所属する専門職後見人等に関する苦情等について、家庭裁判所などと連携し、その解決に向けて適切に対応することが期待される。また、そのための団体内のしくみの検討を進めることが期待される。

市町村・中核機関は、身上保護に関する支援への苦情等について、その解決に向けて関係者と連携した対応(福祉、医療等のサービスの調整を含む。)を行う。さらに、必要に応じて、専門職団体と連携して対応するほか、不適正・不適切な事案については家庭裁判所に連絡する。

都道府県には、国が都道府県における権利擁護支援等の助言の担い手として養成する専門アドバイザーを活用した市町村支援等の対応を検討することが期待される。

イ具体的な取組

・後見人等に関する苦情等を把握した機関(家庭裁判所、専門職団体、市町村・中核機関など)は、苦情等に関する事情を十分に聴取・確認し、本人の権利・利益の観点から、苦情として具体的な対応を必要とするものかどうかを検討する。その上で、具体的な対応が必要と判断した場合、上記ア(イ)の役割や各地域における対応体制の実情などを踏まえ、自らが主体となって調整すべきものかどうかを検討する。検討の結果、他の機関が調整することが適当な事案の場合は、適切な機関等に対応を引き継ぐ。

家庭裁判所には、後見人等に関する苦情等がある事案(解任事由がない場合を含む。)について、家庭裁判所、専門職団体、市町村・中核機関等が適切に連携することにより、本人のニーズと後見人等の適格性を評価し、必要性が認められる場合には、後見人等の追加選任や交代を実現できるよう努力することが期待される。なお、専門家会議において、家庭裁判所には、専門職団体に対して専門職後見人の不正の防止・早期発見に向けた適切な情報提供をすることが求められるとの意見もあった。

また、専門家会議においては、家庭裁判所が、必要に応じ、家事事件手続規則(平成24年最高裁判所規則第8号)に基づく後見人等への指示(例えば、後見人等が身上保護に関する事務や意思決定支援を行うに当たり、本人の意向を尊重する旨の指示や、本人の支援方針を検討するケース会議等に出席する旨の指示)や、家庭裁判所調査官による調査等を適切に活用することが期待されるとの意見もあった。

③適切な報酬の算定に向けた検討及び報酬助成の推進等

後見人等の報酬のあり方は、後見人等が選任される際に期待された役割を後見人等がどのように果たしたかという評価の問題であり、後見人等の選任のあり方とも密接に関係することから、適切な後見人等の選任・交代のあり方と併せて検討された。また、全国どの地域においても、本人の所得や資産の多寡にかかわらず、成年後見制度を適切に利用できるようにすることが重要である。そのため、後見人等の適切な報酬の算定に向けた検討と申立費用・報酬の助成制度の推進等については、併せて検討される必要がある。

なお、後見人等に対して適切な報酬が支払われるかは、後見人等の担い手の確保とも密接に関連することから、担い手の確保についても併せて推進する必要があり、その方策を4(2)に記載している。

ア適切な報酬の算定に向けた検討

・後見人等の適切な報酬の算定については、最高裁判所及び各家庭裁判所において、当事者団体や専門職団体の意見も踏まえ、後見人等の事務の内容や負担の程度、報酬額の予測可能性の確保の観点のほか、後見人等の報告事務の負担にも配慮する観点から検討が進められている。そして、財産管理事務のみならず、身上保護事務についても適切に評価し、後見人等が実際に行った事務の内容や負担等に応じて報酬を算定するという方向性(「成年後見制度利用促進基本計画に係る中間検証報告書」の1(2)アでは、「報酬の算定に当たっては・・・財産管理事務のみならず身上保護事務についても適切に評価し、後見人等が実際に行った事務の内容や負担等に見合う報酬とすること・・・が望まれる。」とされている。)について、最高裁判所から、適時に専門家会議に報告されてきている。専門家会議では、本人への丁寧な面談やケア会議などへの出席といった日常的な関わりに応える報酬設定とすることが望ましい、専門職後見人には専門性に応じた適切な報酬が支払われるべき、後見人等の質(地方公共団体や専門職団体等による能力向上のための研修の受講の有無)、属性(専門職か否か)、本人の財産の多寡、地域の状況も適切に評価すべきなどの指摘や、実態の把握を適切に行うべきなどの意見があった。

・現行制度において報酬付与は裁判事項であるものの、最高裁判所及び各家庭裁判所には、報酬の算定についての上記のような指摘も踏まえ、利用者にとっての予測可能性をできる限り確保し得る形で、考え方を早期に整理することが期待される。

イ成年後見制度利用支援事業の推進等

・低所得の高齢者・障害者に対して申立費用や報酬を助成する成年後見制度利用支援事業については、市町村により実施状況が異なり、後見人等が報酬を受け取ることができない事案が相当数あるとの指摘がされている。

・そのため、全国どの地域においても成年後見制度を必要とする人が制度を利用できるよう、市町村には、同事業の対象として、広く低所得者を含めることや、市町村長申立て以外の本人や親族による申立ての場合の申立費用及び報酬並びに後見監督人等が選任される場合の報酬も含めることなど、同事業の実施内容を早期に検討することが期待される。

・国は、上記の観点から、市町村の成年後見制度利用支援事業の取扱いの実態把握に努め、同事業を全国で適切に実施するために参考となる留意点を示すなど、全国的に同事業が適切に実施される方策を早期に検討する。また、上記アにより早期に考え方が整理されることが期待される適切な報酬の算定に向けた検討と併せて、市町村が行う同事業に国が助成を行う地域支援事業及び地域生活支援事業についても、必要な見直しを含めた対応を早期に検討する。

・国は、被後見人等を当事者とする民事裁判等手続を処理した法律専門職が、被後見人等の資力が乏しいために報酬を得られない事態が生じているとの指摘があること等を踏まえ、法律専門職を含めた後見人等が弁護士又は司法書士に民事裁判等手続を依頼した場合に適切に民事法律扶助制度が活用される方策を早期に検討する。

ウ成年後見制度の見直しに向けた検討に併せた検討等

・国は、後見人等の報酬の決定についてできるだけ予測可能性の高い制度にすべきなどといった指摘があること等を踏まえ、成年後見制度の見直しに向けた検討の際、報酬のあり方についても検討を行う。関係省庁は、成年後見制度を必要とする人が適切に制度を利用できるよう、報酬のあり方の検討と併せて、報酬助成等の関連する制度のあり方について検討する。

④適切な後見人等の選任・交代の推進等に関するその他の取組

ア本人情報シートの活用の推進

本人情報シートは、適切な医学的診断や適切な後見人等の選任にとって有益であり、後見等開始の審判において多くの事案で提出されている。他方、本人情報シートが、裁判所には提出されているが、診断書を作成する医師に提供されていない事案が一定数あることから、家庭裁判所には、専門職団体や市町村・中核機関等とも連携し、作成された本人情報シートが確実に医師に提供されるよう、申立人に対するわかりやすい説明や関係者への更なる周知などに取り組むことが期待される。また、最高裁判所には、本人情報シートの活用の状況や実態の把握に努め、本人にとって適切な後見人等の選任・交代が促進されるよう、専門職団体や福祉関係者(ここでの福祉関係者とは、「ソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士等)として本人の支援に関わっている人(介護支援専門員、相談支援専門員、病院・施設の相談員、地域包括支援センターや、権利擁護支援センターの職員等)」のことをいう(「成年後見制度における診断書作成本人情報シート作成の手引(令和3年10月最高裁判所事務総局家庭局)」27ページを参照した。)等の関係者と連携し、本人情報シートの更なる活用に向けた方策(例えば、申立後の本人情報シートの活用、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」の様式等の併用)を検討することが期待される。

イ後見申立等に関するその他の取組

最高裁判所・家庭裁判所には、本人にとって適切な後見人等の選任・交代が推進されるとともに、申立人・後見人等の事務負担の軽減や手続の迅速化にも資するよう、家庭裁判所への後見等開始の審判の申立てや後見事務の報告に関する書類などのあり方を含め、必要な方策を検討することが期待される。

(3)不正防止の徹底と利用しやすさの調和等

不正事案は、第一期計画に基づく取組により減少しつつあるが、成年後見制度をより安心かつ安全な制度とするため、引き続き不正防止の取組が重要である。したがって、監督機能の充実・強化が必要であるところ、家庭裁判所のみならず関係機関・関係団体は、不正事案の発生を未然に抑止するための方策を推進する必要がある。その際、成年後見制度の利用促進は、制度の利用を必要とする人が尊厳のある本人らしい生活を継続することができるようにするものであることを踏まえ、本人の意思の尊重や利用しやすさも考慮して進める必要がある。

また、利用者が安心して成年後見制度を利用できるようにするには適切な事後救済策も重要であり、そのために必要な方策を推進する必要がある。

なお、任意後見制度における不正防止については、4(1)に記載している。

①後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金の普及等

後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金(金融関係団体等による「成年後見における預貯金管理に関する勉強会フォローアップ会議」において、令和3年10月、保佐・補助類型を対象とする預貯金管理のしくみに関する方向性がとりまとめられた。)は、後見人等の属性を問わず、広く後見人等による不正防止に有用であるとともに、財産管理の負担が軽減されることで親族後見人の適切な選任にも資するものである。また、後見制度支援預貯金には、身近な金融機関でも導入が比較的容易であるなどのメリットがある。一方、その運用においては、財産の固定化によって本人の積極的な財産活用や日常生活への柔軟な対応に支障が生じないよう留意が必要である。

金融機関には、必要に応じ最高裁判所や関係省庁とも連携しつつ、これらのしくみの導入や改善を図ることが期待される。また、利用者の立場からの意見を聴く場を設けるなどして、本人等の具体的なニーズや利用者側から見た課題等、利用者側の意見を聴取することも期待される。

家庭裁判所には、後見人等の担い手となる団体等に対して、これらのしくみを導入している金融機関に関して把握している情報を適切に提供することが期待される。

国は、最高裁判所と連携し、金融機関における自主的取組等や専門職団体等における対応強化策の検討の状況を踏まえ、必要に応じ、より効率的な不正防止のための方策を検討する。

②家庭裁判所の適切な監督に向けた取組

最高裁判所・家庭裁判所には、引き続き、不正防止のため、後見制度支援信託・後見制度支援預貯金や後見監督人等の活用が難しい親族後見人等の事案を含め、適切な監督に向けた取組をすることが期待される。

③専門職団体や市民後見人を支援する団体の取組

専門職団体は各専門職に対して、市民後見人を支援する社会福祉協議会等の団体は各市民後見人に対して、それぞれ後見事務における不正防止の取組を受任前・養成の段階から進めることが期待される。また、後見事務について不適正な点を発見した場合は、家庭裁判所と連携し適切に対応する必要がある。

④地域連携ネットワークによる不正行為の防止効果

本人の意思を尊重しつつ、後見人等による不正行為の防止を含めた本人の権利擁護をより確実なものとするためには、後見人等を孤立させないよう、必要に応じた支援の下、権利擁護支援チーム(権利擁護支援チームについては、3(1)②ア参照。)の一員として後見人等が職務を行うことができる環境整備が重要である。したがって、3のとおり、地域連携ネットワークづくりを進めるほか、専門職団体は、各団体に所属する専門職後見人等に対し積極的に助言等を行う。

⑤成年後見制度を安心して利用できるようにするための更なる検討

・利用者が安心して成年後見制度を利用できるようにするには、不正防止策に加えて、後見事務に起因して生じた損害を補償する保険などの適切な事後救済策も重要である。そのため、専門職団体や、市民後見人を支援する社会福祉協議会等の団体には、保険会社とも連携し、後見人等の故意による被後見人の損害を補償するための保険を含め、適切な保険の導入に向けた検討を進めることが期待される。

・その上で、こうした保険の導入状況や成年後見制度の見直しの検討状況なども踏まえ、関係省庁、最高裁判所、専門職団体及び市民後見人を支援する社会福祉協議会等の団体は、保険会社とも連携し、必要に応じ、適切な事後救済策の普及方策を検討する。

(4)各種手続における後見事務の円滑化等

・市町村・金融機関等の窓口において、成年後見制度の利用者(後見類型だけでなく、補助・保佐類型の利用者もいることに留意する必要がある。)が、成年後見制度を利用したことによって不利益を被ることのないよう、国及び地方公共団体は、市町村の成年後見制度利用促進の担当部署以外の関係部署及び金融機関等の窓口担当者に対して、同制度の理解の促進を図る必要がある。

・国及び地方公共団体は、新たな行政手続を創設する場合、成年後見制度の利用者(注釈23参照)が、同制度を利用したことによって不利益を被ることのないよう、適切に対応する必要がある。また、国及び地方公共団体は、行政手続のデジタル化に当たり、成年後見制度の利用者(注釈23参照)が、成年後見制度を利用したことによって、同制度以外の代理人による手続利用の場合と比較して不利益を被ることのないよう、適切に対応する必要がある。

・金融機関には、本人以外から預金取引の申出や保険金等の支払請求を受けた際、当該申出等が本人の日常生活の支援という目的・範囲に照らして合理的なものであるかどうかの確認を行うだけでなく、本人の権利擁護の観点から、本人にとっての必要性や利便性とともに、権利侵害の防止も重視して対応することが期待される。上記の観点から、国は、金融機関に対して、成年後見制度や権利擁護支援の理解を促進するための周知等を行う。

3権利擁護支援の地域連携ネットワーク(権利擁護支援の地域連携ネットワークは、「はじめに」の2で、「地域連携ネットワーク」と読替をしている。また、第二期計画における権利擁護支援とは、意思決定支援等による権利行使の支援と、虐待対応等による権利侵害からの回復支援の両方を含む考え方である。詳細は、Ⅰ1(1)「地域共生社会の実現に向けた権利擁護支援の推進」の定義参照。)づくり

(1) 権利擁護支援の地域連携ネットワークの基本的な考え方

-尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加-

①地域連携ネットワークの必要性と趣旨

ア地域連携ネットワークの必要性

・権利擁護支援を必要としている人は、判断能力等の状態や取り巻く生活の状況により、その人らしく日常生活を送ることができなくなったとしても、自ら助けを求めることが難しく、自らの権利が侵されていることに気づくことができない場合もある。そして、こうした状況は、全国どの地域においても必ず起こり得ることである。

・本人らしい生活を継続するためには、地域社会がこうした状況に気づき、意思決定の支援や、必要に応じた福祉や医療等のサービスの利用につなげることが重要である。虐待や消費者被害などが生じている状況では、行政の関与、法的な支援や成年後見制度の利用につなげることも必要になる。

・また、権利擁護支援を必要としている人の中には、身寄りがない、または身寄りに頼ることができない状態や、地域社会とのつながりが希薄であるなど、孤独・孤立の状態に置かれている人もいる。このことから、権利擁護支援を必要としている人に対し、住民同士のつながりや支え合い、社会参加の支援を充実することも重要である。

・以上のことから、各地域において、現に権利擁護支援を必要としている人も含めた地域に暮らす全ての人が、尊厳のある本人らしい生活を継続し、地域社会に参加できるようにするため、地域や福祉、行政などに司法を加えた多様な分野・主体が連携するしくみをつくっていく必要がある。

イ地域連携ネットワークづくりの方向性(包括的・多層的なネットワークづくり)

・第一期計画では、上記の地域連携のしくみを、地域連携ネットワークとし、全国どの地域においても、尊厳のある本人らしい生活を継続することができるよう、必要な人が成年後見制度を利用できるようにするという観点から、その整備を進めてきた。

・第二期計画では、地域連携ネットワークの趣旨として、地域社会への参加の支援という観点も含めることとする。具体的には、地域包括ケアや虐待防止などの権利擁護に関する様々な既存のしくみ(既存のしくみには、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」や、「認知症初期集中支援チーム」、「認知症高齢者見守りネットワーク」等の地域支援体制などがある。)のほか、地域共生社会実現のための支援体制や地域福祉の推進などと有機的な結びつきを持って、地域における多様な分野・主体が連携する「包括的」なネットワークにしていく取組を進めていく必要がある。

「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」とは、精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、市町村が主体となり、保健所や精神保健福祉センターとの連携を図りつつ、精神科医療機関、その他の医療機関、地域援助事業者、居住支援法人等居住支援関係者、ピアサポーター、意思決定を支援する人などとの重層的な連携による支援体制を構築することである。

「認知症初期集中支援チーム」とは、複数の専門家が、認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、観察・評価を行った上で、家族支援等の初期の支援を行うチームのことである。

「認知症高齢者見守りネットワーク」とは、認知症高齢者等の行方不明の防止や発見等の見守りに関するネットワークのことである。

・さらに、権利擁護支援を必要としている人の世帯の中には、様々な課題が生じていることもあり、このような場合には、個人ごとに権利擁護支援の課題を捉えた上で、その状況に応じて、家族の構成員同士の想いも尊重しながら、それぞれを同時に支援していく必要がある。こうした世帯内の複合的な地域生活課題(地域生活課題とは、「福祉サービスを必要とする地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防、保健医療、住まい、就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要とする地域住民の地域社会からの孤立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の課題に参加する機会が確保される上での各般の課題」のこと。社会福祉法(昭和26年法律第45号)第4条第3項に規定。)としては、支援困難な虐待やネグレクト、未成年後見を含む児童の権利擁護などもあり、これらへの適切な支援が必要となる場合もある。

・地域連携ネットワークは、住民に身近な相談窓口等のしくみを有する市町村単位を基本として整備を進めてきたが、このような課題に対応するためには「包括的」なネットワークだけでは十分でなく、地域の実情に応じて権利擁護支援を総合的に充実することができるよう、圏域などの複数市町村単位や都道府県単位のしくみを重ね合わせた「多層的」なネットワークにしていく取組も併せて進めていく必要がある。

ウ地域連携ネットワークづくりの進め方

・イの方向性に基づいた具体的な取組は、(3)で記載しているが、これから地域連携ネットワークづくりを始める地域では、できるだけ早期に、以下に取り組む体制を整備するべきである。

・権利擁護支援に関する相談窓口を明確にした上で、本人や家族、地域住民などの関係者に対し、成年後見制度の内容など権利擁護支援の理解の促進や相談窓口の周知を図ること

・地域連携ネットワークのコーディネートを行う中核機関(②ウを参照)の役割をどういった機関や体制で担うのかを明らかにすること

・また、これらの体制を整備した地域では、後見人等の受任者調整等によって権利擁護支援チームの形成を支援し、その権利擁護支援チームが本人への支援を適切に行うことができるようにする必要がある。こうした地域連携ネットワークの機能を段階的・計画的に充実していくことで、尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図ることができるようになる(充実が求められる機能や取組は、(2)②イ・ウ、(3)②イ・ウを参照)。

・なお、これらの体制整備には、市町村単独では取り組むことが難しい内容もあるため、広域的な見地から、都道府県が主体的に取り組むことも重要である。

②地域連携ネットワークのしくみ

地域連携ネットワークは、「権利擁護支援チーム」、「協議会」及び「中核となる機関(中核機関)」の3つのしくみからなる。

ア権利擁護支援チーム

権利擁護支援チームとは、権利擁護支援が必要な人を中心に、本人の状況に応じ、本人に身近な親族等や地域、保健・福祉・医療の関係者などが、協力して日常的に本人を見守り、本人の意思及び選好や価値観を継続的に把握し、必要な権利擁護支援の対応を行うしくみである。

既存の福祉・医療等のサービス調整や支援を行う体制に、必要に応じ、法律・福祉の専門職や後見人等、意思決定に寄り添う人などが加わり、適切に本人の権利擁護が図られるようにする。

イ協議会

協議会とは、各地域において、専門職団体や当事者等団体などを含む関係機関・団体が、連携体制を強化し、これらの機関・団体による自発的な協力を進めるしくみである。

各地域では、成年後見制度を利用する事案に限定することなく、権利擁護支援チームに対し、法律・福祉の専門職や関係機関が必要な支援を行うことができるように協議の場を設ける。なお、協議会は、地域の実情や議題等に応じ、個々の市町村単位、圏域などの複数市町村単位、都道府県単位など階層的に設置する。

ウ中核機関

中核機関とは、地域連携ネットワークのコーディネートを担う中核的な機関や体制であり、以下のような役割を担う。

・本人や関係者等からの権利擁護支援や成年後見制度に関する相談を受け(身近な相談機関を一次相談窓口にして、中核機関は一次相談窓口からの相談を受けている地域もある。)、必要に応じて専門的助言等を確保しつつ、権利擁護支援の内容の検討や支援を適切に実施するためのコーディネートを行う役割

・専門職団体・関係機関の協力・連携強化を図るために関係者のコーディネートを行う役割(協議会の運営等)

中核機関の運営は、地域の実情に応じ、市町村による直営又は市町村からの委託などにより行う。市町村が委託する場合等の運営主体については、業務の中立性・公正性の確保に留意しつつ、専門的業務に継続的に対応する能力を有する法人(例えば、社会福祉協議会、NPO法人、公益法人等)を適切に選定するものとする。

なお、国は、1(1)に記載した成年後見制度等の見直しの検討と併せて、中核機関の位置付け及びその役割にふさわしい適切な名称を検討する。

③権利擁護支援を行う3つの場面

地域において、成年後見制度の利用を含む権利擁護支援を行う場面は、以下の3つに整理できる。

ア権利擁護支援の検討に関する場面(成年後見制度の利用前)

・本人を取り巻く関係者(本人に身近な家族・親族等、医療・福祉・介護等の関係者、民生委員・自治会・民間事業者等の地域の関係者のこと。)が、権利擁護支援に関するニーズに気づき、必要な支援につなぐ場面。

・この場面では、成年後見制度につなぐ場合や、同制度以外の権利擁護支援(権利擁護支援チームによる見守りや意思決定の支援、日常生活自立支援事業の利用、虐待やセルフネグレクトの対応、消費生活センターの相談対応など)などにつなぐ場合がある。

イ成年後見制度の利用の開始までの場面(申立ての準備から後見人等の選任まで)

・成年後見制度の申立ての必要性、その方法、制度利用後に必要となる支援、適切な後見人等候補者などを検討・調整し、家庭裁判所に申し立て、後見人等が選任されるまでの場面。

・この場面では、制度利用後の支援方針を検討する。その中で、適切な権利擁護支援チームの体制も検討する。

ウ成年後見制度の利用開始後に関する場面(後見人等の選任後)

・家庭裁判所の審判により、後見人等が選任され、後見活動が開始されてからの場面。

・この場面では、権利擁護支援チームに後見人等が参加し、チームの関係者間で、あらかじめ想定していた支援方針等を共有し、本人に対して、チームによる適切な支援を開始する。

④市町村・都道府県・国と関係機関の主な役割

権利擁護支援は、地域や福祉、行政、司法など多様な分野・主体が関わるものである。また、第二期計画の期間内に、令和7年を迎えて認知症高齢者が増加するなど(いわゆる2025年問題)、成年後見制度の利用を含む権利擁護支援のニーズが更に多様化及び増大する見込みである。

このようなことに対応できるよう、地域連携ネットワークは、多様な主体が積極的に参画し適切な役割を果たすことで、持続可能な形で運営できるようにすることが重要である。家庭裁判所においても、地域連携ネットワークの中で、持続可能な形で、各関係機関と必要な連携を行いながら、成年後見制度の運用・監督にあたることが重要である。

ア行政(市町村・都道府県・国)

(ア)市町村

・市町村は、権利擁護支援に関する業務が市町村の福祉部局が有する個人情報を基に行われることや、行政や地域の幅広い関係者との連携を調整する必要性などから、協議会及び中核機関の整備・運営といった地域連携ネットワークづくりに主体となって取り組む必要がある。その際、地域の実情に応じ、都道府県と連携して、地域連携ネットワークを重層的なしくみにすることなど柔軟な実施体制も検討する。

・市町村の地域連携ネットワークづくりに対する主体的な役割は、協議会及び中核機関の運営を委託等した場合であっても同様であり、積極的に委託事業等に関わる必要がある。

・市町村は、権利侵害からの回復支援(虐待やセルフネグレクトの対応での必要な権限の行使等)など地域連携ネットワークで行われる支援にも、その責務に基づき主体的に取り組む必要がある。

・上記に加え、市町村は、市町村長申立てや成年後見制度利用支援事業の適切な実施、担い手の育成・活躍支援、促進法に基づく市町村計画の策定といった重要な役割を果たす(4(2)、(3)、(4)を参照)。

(イ)都道府県

・都道府県は、市町村単位では解決が困難な広域的な課題に対する都道府県自らの取組、国との連携確保など、市町村では担えない地域連携ネットワークづくりの役割を主導的に果たす。具体的には、担い手の育成・活躍支援、広域的観点から段階的・計画的にネットワークづくりに取り組むための方針の策定といった重要な役割を果たす(4(2)、(4)、(5)を参照)。

・また、人口規模が小さく、社会資源等が乏しい小規模市町村を始めとした市町村に対する体制整備支援の機能を強化し、地域連携ネットワークづくりを促進する。

(ウ)国

・国は、市町村や都道府県が進める地域連携ネットワークづくりを後押しする観点から、以下の役割を担う。

・成年後見制度利用促進ポータルサイトを活用した最新の情報や知見の共有

・都道府県等との連携や権利擁護支援体制全国ネット(K-ねっと)のしくみを通じた全国の取組状況や地域による格差などの継続的な把握と必要な助言の実施

・各取組の進捗状況等を勘案した必要な研修等の支援策の検討と実施

イ中核機関(再掲)

・中核機関は、②ウに記載した地域連携ネットワークのコーディネートを行う役割を担う。

ウ家庭裁判所

・Ⅰ1(2)の考え方のとおり、家庭裁判所には、尊厳のある本人らしい生活の継続を実現することができるよう、地域連携ネットワークの中で、成年後見制度の適切な運用・監督を行うことが期待される。

・こうした観点も踏まえ、家庭裁判所には、地域連携ネットワークづくりや成年後見制度の運用改善等に向けて、その支部や出張所を含め、地方公共団体、中核機関、専門職団体、協議会等と積極的に連携し、取組情報の交換や意見交換を図ることが期待される。

エ専門職団体

・権利擁護支援を必要としている人は、成年後見制度の利用に限らず、権利擁護や意思決定に関し、福祉的又は法律的な支援が必要になる場合があり、各専門職には、各種場面において、専門分野に応じた役割を発揮することが期待される。

・こうした観点も踏まえ、成年後見制度の利用促進に関わる専門職団体には、地域における協議会等に積極的に参画することや、地域連携ネットワークにおける相談対応や権利擁護支援チームによる支援の活動などにおいて、本人の特性等に合わせながら、専門性を生かした積極的な役割を果たすことが期待される。その際、市町村や都道府県等との連携が円滑に進むよう、都道府県単位などで連絡窓口を整備することが期待される。

オ当事者等団体

・権利擁護支援を必要とする人が、同じような経験をしながら暮らしている仲間と出会い、尊厳のある生活の継続の実態を知ることは、本人にとって非常に大きな力となり、自分のことを自分で考え決めていくための基盤となる。

・こうした観点も踏まえ、認知症、知的障害、発達障害、精神障害等、成年後見制度を利用する可能性がある当事者等の団体には、本人へのピアサポートや、当事者の視点からの協議会や地域づくりへの参画などが期待される。

カ各種相談支援機関

・権利擁護支援を必要としている人は、自ら助けを求めることが難しい。したがって、各地域での見守りや支え合いの中で、早期に身近な相談窓口につなげた上で、成年後見制度の利用が必要かどうかなど権利擁護支援ニーズの精査を行う必要がある。

・こうした観点も踏まえ、介護や障害、生活困窮、子育てなどの各分野において地域住民等からの相談を受けている相談支援機関には、権利擁護支援に関する課題を含む相談を受けた場合、中核機関や専門職等と連携して、必要な情報の収集や集約、整理を行い、必要な支援につなげることが期待される。

・特に、従来より権利擁護業務を実施している地域包括支援センターや基幹相談支援センター等には、これらの業務に対する積極的な関わりが求められる。

(2)権利擁護支援の地域連携ネットワークの機能

-個別支援と制度の運用・監督-

①地域連携ネットワークの機能の考え方

第一期計画では、地域連携ネットワークの機能について、広報機能、相談機能、成年後見制度利用促進機能(受任者調整(マッチング)等の支援、担い手の育成・支援、関連制度からのスムーズな移行)及び後見人支援機能の4つを位置付けてきた。

今後は、権利擁護支援としての成年後見制度の適切な利用を通じて尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加につなげていくようにすること、また、そのために地域連携ネットワークが、多様な主体の積極的な参画と適切な役割の発揮の下で、持続可能な形で運営できるようにすることが重要である。

このような観点から、上記の4機能について、本人中心の権利擁護支援チームを支えるための機能(②を参照)と、その機能を強化するための地域の体制づくりに関する取組((3)を参照)に大別した。

併せて、地域連携ネットワークが担う機能には、福祉・行政・法律専門職などの連携による「支援(専門家会議福祉・行政と司法の連携強化ワーキング・グループにおいて、「福祉や行政の関係者、中核機関が行う支援は、本人等の求めに対し、課題整理などを行い、本人自身の力を基にした解決を図るため、必要に応じ、支援や環境の調整を行うものであり、後見人等への指導や後見事務の適正性の判断・チェックを行うものではないこと」といった趣旨の指摘が多数あった。)」機能と、家庭裁判所による成年後見制度の「運用・監督(家庭裁判所の行う後見監督は、その一環として、後見人等の職務全般(財産管理、身上保護、意思決定支援のほか、報告書作成等の後見事務)について、司法機関の立場から適切な助言や指導を行うことが予定されている。ただし、司法機関である家庭裁判所においては、福祉的観点からの助言等は難しいといった実情もある。)。」機能があることを、権利擁護支援を行う3つの場面に対応した形で整理した。

②権利擁護支援を行う3つの場面における「支援」機能と「運用・監督」機能

福祉・行政・法律専門職など多様な主体による「支援」機能としては、(1)③で整理した権利擁護支援を行う3つの場面に応じて、それぞれ以下の3つが挙げられる。

・「権利擁護の相談支援」機能

・「権利擁護支援チームの形成支援」機能

・「権利擁護支援チームの自立支援」機能

また、家庭裁判所による「運用・監督」機能としては、同様に、それぞれ以下の3つが挙げられる。

・「制度利用の案内」機能

・「適切な選任形態の判断」機能

20220520追記

成年後見制度利用促進法ってさ、変に制度をいじらないで、「人権擁護のために首長申立を促進しよう」っていうだけで良かったのではないかな。

最初に理想を描いて国会議員に根強く働きかけてしまったのは弊業界だと思います。深く陳謝します。

亡くなっている方との共有名義にする相続登記の登録免許税の計算について、間違ったことの記録

課税標準額160万円の土地を、亡甲と乙の共有に相続登記する場合、亡甲名義にするのは死者への登記だから非課税、乙名義にするのは持分だけ見れば100万円以下で非課税となるか。

・・・ならない。租税特別措置法第84条の2の3第1項は課税標準たる不動産の価格が要件。同法同条第2項に該当するかどうかとは別。

租税特別措置法

(相続に係る所有権の移転登記等の免税)

第八十四条の二の三

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332AC0000000026&keyword=%E7%A7%9F%E7%A8%8E%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%8E%AA%E7%BD%AE%E6%B3%95

例えば、160万円の土地と100万円の各土地を、亡甲と乙でそれぞれ2分の1ずつ取得する場合。

乙が取得する160万円の2分の1の持分について租税特別措置法84条の2の3第2項の適用があるか。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html

※1不動産の所有権の持分の取得に係るものである場合は、当該不動産全体の価額に持分の割合を乗じて計算した額が不動産の価額となります。

・H30.11.30日司連常発第124号

上の画像のように理解していましたが、改めて考えてみると下が正解のようです。とあるSNSで出したのは私なので、直接指摘していただきたかったのですが、その先生の方針なので仕方がないですね。

既に亡くなっている者との共有名義にする相続登記

とあるSNSで出ていましたが、固定資産評価額が160万円の土地につき、持分2分の1:亡A、持分2分の1:Bとする相続登記をする場合の登録免許税の算出方法はどうでしょうか。

  この場合、租税特別措置法第84条の2の3第1項により、亡Aが相続する持分2分の1の部分については非課税になります。

 そして、Bが相続する持分2分の1の部分についてはどうでしょうか。Bが相続する持分2分の1の部分の価格は80万円になります。そうすると、今回の相続登記の課税価格はBが取得する分になり、100万円以下になるため、租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税になります。

 なお、固定資産評価額が160万円の土地をAとBが持分2分の1ずつ相続する場合、課税価格は160万円になるため、租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用はありません。この点は注意が必要ですね。

・別の意見

移転する持分は2分の2なので、持ち分の価格をかけても2分の2のままで非課税とはならない。

・・・これも考えてみると、納得感はあります。ただ、亡甲2分の1名義と乙名義:持分2分の1の登記を別件で申請した場合を考えると、上のブログ記事の考え方となるのかなと思います。

2023/03/27追記

登記研究901号(令和5年3月号)、テイハン、質疑応答〔8006〕共同相続における租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用の可否について

加工不動産ID ルールガイドライン

不動産ID ルールガイドライン

令和4年3月31日

国土交通省 不動産・建設経済局

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_tk5_000001_00006.html

目 次

1.本ガイドライン策定の背景・課題及び目的・効果・・・・・・・・・・・・・・・・1

2.不動産ID ルール整備に当たっての留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

(1)不動産ID ルール整備に当たっての基本的考え方・・・・・・・・・・・・・・・2

3.不動産ID のルールについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(1)不動産ID に使用する番号について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1 不動産番号(13 桁)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2 特定コード(4桁)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(2)不動産ID の基本ルール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

1 土地のID ルール(ルール№1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

2 建物(戸建て)のID ルール(ルール№1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3 非区分建物のルール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

非区分建物(商業用 )のID ルール(ルール№3)・・・・・・・・・・・・・・・・6

非区分建物(居住用 )のID ルール(ルール№4)・・・・・・・・・・・・・・・・7

非区分建物全体のID ルール(ルール№5)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

4 区分所有建物のルール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

商業用の区分所有建物【ある専有部分全体を示す場合】(ルール№6)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

商業用の区分所有建物【ある専有部分の一部を指す場合】(ルール№7)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

居住用の区分所有建物【専有部分=1部屋の場合】(ルール№8)・・・9

居住用の区分所有建物【専有部分=複数部屋の場合】(ルール№9)・9

区分所有建物の建物全体(ルール№10)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

(3)複数の用途が混在する建物の不動産番号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

(4)不動産ID の記述ルール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

4.不動産ID の活用に向けた前提・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

(1)個人情報保護法との関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

(2)ID の入力・登録(紐付け)に際しての留意点・・・・・・・・・・・・・・・12

(3)ID と紐付けたデータの利用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

(4)ID やID と紐付いたデータの利用範囲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

5.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

1.本ガイドライン策定の背景・課題及び目的・効果

 現在、我が国の不動産分野においては、官民の各主体によって多様な形でデジタル化の取組が進められており、テクノロジーを活用しながら、不動産取引の活性化等を図っているところです。

 一方、現状、我が国の不動産については、土地・建物いずれも、幅広い主体で共通で用いられている番号(ID)が存在せず、住所・地番の表記ゆれにより、同一物件か否かが直ちにはわからない状態となっています。そのため、仲介・開発等の際に、多様な主体が保有する不動産関連情報( 本ガイドラインにおいて「不動産関連情報」とは、不動産の取引や性能・管理等の情報に限らず、当該不動産に関する生活インフラ情報や、官民の保有する地図情報・ハザードマップ等のエリア情報なども含めて、不動産に関連する多様な情報を指す用語として使用します。)を独自に収集・名寄せする場面や、消費者に的確な情報発信を行おうとする場面で手間・時間がかかるなど、不動産関連情報の連携・蓄積・活用における課題となっているところです。

 そこで、今般、不動産を一意に特定することができる、各不動産の共通コードとしての「不動産ID」に係るルールを整備することとしました。不動産ID のルール整備及び活用は、情報の収集・名寄せを容易にすることで事業者の負担軽減に資するとともに、官民の各主体が保有する不動産関連情報の連携・蓄積・活用、消費者への的確な情報発信等を促進するものです。IT を活用した重要事項説明等や、行政情報の電子化といった他の施策や取組とも相まって、不動産業界全体の生産性及び消費者利便の向上等により不動産の流通・利活用を促進するとともに、今後、本格的なデジタル社会を迎えるにあたり、不動産DX を強力に推進する上での情報基盤整備の一翼を担うことにより、不動産市場の活性化及び透明化を図る取組となっていくことが期待されます。

 また、不動産業界内のみならず、今後、電気・ガス・水道・通信等の生活インフラや、まちづくり、物流分野等のより広い社会における活用も期待されるものであり、デジタル田園都市国家構想、スマートシティといった取組や、デジタルツインの実現に向けた取組と連携していくことで幅広い活用が期待されます。

 不動産ID は、官民を問わず、どなたでも原則として自由に活用していただくことを想定しており、本ガイドラインは、幅広い活用が期待される不動産ID のルールを定め、その利用にあたっての留意点を解説することを目的として策定するものです。また、本ガイドラインは、「不動産ID ルール検討会」(座長:田村 幸太郎 弁護士。以下「検討会」という。)の中間とりまとめ(参考資料を参照。)を踏まえて策定しています。

2.不動産ID ルール整備に当たっての留意点

 本ガイドラインに定める不動産ID ルールは以下の2点を前提として検討し、策定しました。以下の点は、ルールを正確に理解し、活用していくためにも不可欠な内容であるため、本項で解説します。

(1)不動産ID ルール整備に当たっての基本的考え方

  本ガイドラインで定める不動産ID ルールは、個々の不動産を一意に特定する番号(ID)の内容に関するルールです。不動産ID の取組は、本ガイドラインで定めるルールに従って、不動産関連情報を保有する者・活用しようとする者(以下「主体」という。なお、主体は官民を問いません。)が自ら保有する不動産関連情報に不動産ID を紐付け、紐付けた情報を各主体や主体間で連携・蓄積・活用することで様々なメリットを発現させていくことを想定しています。

 このため、各主体で不動産関連情報に不動産ID を紐付けた後に、どのように情報を連携させるかについては、各主体の発意・主体間の交渉に委ねる、というようなあり方を目指しているものです。

従って、本取組はが一元的なデータベースを作成して不動産ID を発番したり、不動産情報を収集・蓄積して各主体に提供するといったことを意図したものではありません。

 一方で、不動産ID を普及させ、その効果を最大限発現させるため、検討会においては、不動産ID が広く利用されるための方策についても議論を行いました。例えば、想定される不動産ID の活用方法(ユースケース)・メリットとして下記の例(※)が挙げられています(詳細は参考資料P23~31「4.不動産ID の利用拡大に向けた方策について」を参照。)。

(※)想定される不動産ID のユースケース

○ 不動産ID は、その活用により、住所の表記揺れや同一住所・地番に複数の建物がある場合も含めて、一義的に不動産の特定が可能となるものです。

〇 このため、社内や関連会社間のデータベースの物件情報の管理をID により行うことで、物件情報の名寄せ・紐付けが容易になるほか、各主体間でID を活用することにより、例えば、外部から取得したデータを自社データベースに連携させる際などにも、ID を突合するだけで同一物件か否かの判断が可能となります。

〇 また、物件ポータルサイトにおいては、ID を活用して物件管理を行うことで、検索機能の向上のほか、重複案件の一括表示や、成約案件等の適時の掲載終了が可能となるなど、事業者・消費者等の利用者の利便性向上に向けた取組が考えられます。

〇 さらに、不動産ID と空間情報等との紐付けが可能となれば、生活インフラ事業、まちづくりや物流など不動産関連分野以外でも、一義的に不動産の特定が可能という性質を生かした活用が想定されます(参考資料P28 参照) 。

不動産ID のルール整備と、各主体が保有する情報の公開・提供範囲とは別の議論となります。不動産ID の取組は、上述の通り、まず情報保有・活用主体が自ら保有する不動産関連情報に不動産ID を紐付けるところから始まりますが、それにより許諾なく個人情報や各主体が保有する内部情報が外部に流出するものではありません。ID が紐付けられた情報をどのように利用するかは個別のユースケースごとに、各主体が自ら決めることができます。

3.不動産ID のルールについて

(1)不動産ID に使用する番号について

不動産ID は、不動産番号(13 桁)と特定コード(4桁)で構成される17 桁の番号とします。

 不動産番号(13 桁)

 不動産番号は、不動産登記法及び不動産登記規則に基づき、一筆の土地又は一個の建物ごと(区分所有建物においては一個の専有部分ごと)に不動産登記簿の表題部に記録されている符号です。通常は、登記事項証明書の右上に記載されています(参考資料P14~16 参照)。不動産番号はその性質上、

・一意でゆらぎのない番号であること

・紛れなく不動産を識別可能な文字列であること

・全国の不動産を対象に広く付番されており、各事業者等が統一的に利用できること。

・紐付いている所在情報等の真正性があることといった不動産ID の基礎として使用する番号としての性質を満たしている公的・基本的な情報です。

 特定コード(4桁)

 上記の通り、不動産番号は一筆の土地又は一個の建物ごと(区分所有建物においては一個の専有部分ごと)に記録されています。例えば一般的な賃貸マンションは実際の不動産取引においては、各部屋を特定するニーズが高いと考えられます。他方、一般に賃貸マンションは非区分建物であり、1棟で1つの不動産番号が与えられているのみであり、不動産番号だけでは各部屋を特定することはできません。

 このように、不動産番号のみでは対象となる不動産を特定できない場合は、後に記載する個別のルールに基づいて、4桁の個別の符号を不動産番号(13桁)に続いて入力するものとします。当該符号を本ガイドラインでは「特定コード」と呼称します。なお、特定コードを活用しなくても対象不動産を特定することができる場合には、特定コード部分には「0000」と入力することとします。

(2)不動産ID の基本ルール

 前述の通り、不動産の類型にかかわらず、不動産番号(13 桁)と特定コード(4桁)で構成される17 桁の番号が不動産ID です。各不動産の類型毎に、使用する不動産番号及び特定コードのルールを整理した不動産ID の基本ルールは、以下の表のとおりとなります。なお、新築未登記の場合など、表題部登記前のものに関しては、不動産ID のルールは設けていません。

(表)不動産ID の基本ルール

 土地のID ルール(ルール№1)

土地の不動産番号(13 桁)-0000

土地の不動産ID は、不動産登記された「筆」ごとに付します。1筆の土地に対応する1つの不動産番号が存在することから、当該不動産番号(13 桁)を用います。また、特定コードを用いることなく対象を特定することができることから特定コード4桁には「0000」を用います。

 建物(戸建て)のID ルール(ルール№2)

建物の不動産番号(13 桁)-0000

建物(戸建て)の不動産ID は、当該建物全体について1つの不動産ID を付します。1つの建物には原則として1つの不動産番号が存在することから、当該不動産番号(13 桁)を用います。また、特定コードを用いることなく対象を特定することができることから特定コード4桁には「0000」を用います。

※2世帯住宅等において、1件の戸建て住宅が区分登記されている場合には、区分所有建物のルール(各専有部分を表す場合はルール№8、建物全体を表す場合はルール№10)を用います。

 非区分建物のルール

ⅰ)非区分建物(商業用・本ガイドラインにおいて「商業用」とは、主にオフィスや店舗等の商業施設を想定して、居住用以外の用を指し示す用語として使用している。)のID ルール(ルール№3)

建物の不動産番号(13 桁)-階層コード(2桁)・階数(2桁)

商業用の非区分建物は、利用形態に応じて区画・部屋の広さ、形状等を変更することも多いことから、当該建物の一部区画・部屋を示す場合には個々の区画・部屋を特定するのではなく、当該建物の「何階部分であるか」を特定し不動産ID を付します。1つの非区分建物には1つの不動産番号が存在することから、当該不動産番号(13 桁)を用います。その上で「何階部分であるか」を特定するために特定コードとして、階層コード2桁+階数2桁の計4桁を用います。

階層コードは以下の表の通りです。地上階の場合は「G0」、地下階の場合は「B0」、地上の中間階の場合は「GM」、地下の中間階の場合は「BM」となります。

また、階数は右詰で記載します。例えば2階にある区画を示す場合には、特定コードは「G002」となります。本ルールについては、個々の区画・部屋を特定するのではなく、当該建物の「何階部分であるか」を特定する性質上、同一フロアに存在する区画・部屋の不動産ID は同一になるという点に留意が必要です。

(表)階層コードのルール

1桁目(地上階か地下階かを選択) 2桁目(通常階か中間階かを選択)地上階の場合 G 通常階の場合 0(ゼロ)地下階の場合 B 中間階の場合 M

※ 部屋番号、ドア番号、区画番号などにより個々の部屋や区画が特定できる可能性がある場合であっても、居住用の建物と異なり特定コードに部屋番号は用いないこととします。(例えば、非区分建物のオフィスビルで、フロアの各区画が固定的で、固有の部屋番号等が付されている場合でも、特定コードに部屋番号は用いません。)

※ 商業用・居住用(本ガイドラインにおいて「居住用」とは、主にマンション、アパートのように人が居住することを主な用途とする建物を指す用語として使用します。)の別は、個々の部屋の利用目的ではなく、建物全体の利用目的から判断します。ただし、建物全体が同一の利用目的ではない1階・2階は商業用、3階・4階は居住用といった建物の場合は、1階・2階は商業用、3階・4階は居住用のルールを用います。

※ 居住用マンションの一室を事務所として使用しているなど、居住用建物において、一室を居住以外の目的で賃貸する場合は、居住用としてルール№4、8、9を用います。

(例) 非区分建物(商業用)のID ルール(ルール№3)

非区分建物(居住用)のID ルール(ルール№4)

建物の不動産番号(13 桁)-部屋番号(4桁)

居住用の非区分建物としては、一般的な賃貸マンション、賃貸アパートを想定しています。こうした不動産は、一般的に部屋ごとに賃貸等が行われることを踏まえて、部屋ごとに不動産ID を付すものとします。

1つの非区分建物には、建物全体として1つの不動産番号が存在することから、当該不動産番号(13 桁)を用います。その上で「個々の部屋」を特定するために特定コード4桁には「部屋番号(4桁)」を用います。

※ 部屋番号に、平仮名、片仮名、漢字等の、数字及び英文字以外の表記が含まれる場合、数字及び英文字部分のみを不動産ID として用います。また、ローマ数字はアラビア数字に、英文字の小文字は大文字に変換して用います。

※ 原則として棟ごとに登記がなされ、不動産番号も棟ごとに存在することが一般的であることから「A 棟」などの棟番号の表記や、「A1101」のように棟番号(A)が部屋番号に付されている場合の棟番号は省略します。(上記例であれば、特定コードは「1101」となります。)

(例)非区分建物(居住用)のID ルール(ルール№4)

非区分建物全体のID ルール(ルール№5)

建物の不動産番号(13 桁)-0000

商業用、居住用いずれの非区分建物も、当該建物全体について1つの不動産ID を付します。1つの非区分建物には1つの不動産番号が存在することから、当該不動産番号(13 桁)を用います。また、特定コードを用いることなく対象を特定することができることから、特定コード4桁には「0000」を用います。

4 区分所有建物のルール

ⅰ)商業用の区分所有建物【ある専有部分全体を示す場合】(ルール№6)

専有部分の不動産番号(13 桁)-0000

区分所有建物においては、建物全体についての不動産番号は存在せず、専有部分ごとに1つの不動産番号が存在します。このため、商業用の区分所有建物のうち、ある専有部分全体を指す場合には、当該専有部分の不動産番号(13 桁)を用います。当該部分は特定コードを用いることなく対象を特定できることから、特定コード4桁には「0000」を用います。

商業用の区分所有建物【ある専有部分の一部を指す場合】(ルール№7)

専有部分の不動産番号(13 桁)-階層コード(2桁)・階数(2桁)

商業用の区分所有建物のうち、区分登記されたある専有部分内に存在する特定の区画、部屋について不動産ID を付す場合には、不動産番号は当該専有部分の不動産号(13 桁)を用います。特定コードについては、ルール№③と同様、当該区画や部屋が「何階部分にあるか」に着目し、階層コード2桁+階数2桁の計4桁を用います。階層コードのパターンなど、特定コードに係るルールはNo.③ⅰ)に定めている内容と同じです。

居住用の区分所有建物【専有部分=1部屋の場合】(ルール№8)

専有部分の不動産番号(13 桁)-0000

居住用の区分所有建物として、最も一般的な例は分譲マンションです。分譲マンションは、各部屋単位で売買等の取引が行われることを踏まえて、部屋毎に不動産ID を付すものとします。こうした区分所有建物においては、1つの部屋(専有部分)ごとに区分登記されています。このため、不動産番号は当該専有部分(=部屋)の不動産番号を用います。また、当該部分は特定コードを用いることなく対象を特定できることから、特定コード4桁には「0000」を用います。

居住用の区分所有建物【専有部分=複数部屋の場合】(ルール№9)

専有部分の不動産番号(13 桁)-部屋番号(4桁)

該当しない形態として、例えば、賃貸併用住宅のように、一つの建物内に大家の自宅と複数の賃貸の部屋が存在し、大家の自宅で一つ、賃貸の部屋エリア全体で一つの区分登記がされている場合が挙げられます。

こうした場合には、賃貸の各部屋を特定するニーズがあることを踏まえ、部屋ごとに不動産ID を付すものとします。不動産番号は当該部屋が含まれる専有部分の不動産番号を用います。また、ルール№④と同様、「個々の部屋」を特定するために特定コード4桁には「部屋番号(4桁)」を用います。特定コードに係るルールは3)に定めている内容と同じです。

区分所有建物の建物全体(ルール№10)

不動産番号(13 桁)-000B(建物を表す符号(4桁))

区分所有建物は、専有部分ごとに1つの不動産ID が存在しますが、建物全体の不動産番号は存在しません。このため、区分所有建物の建物全体を示す不動産ID には、当該建物が建つ「土地」の不動産番号を用います。

建物が複数筆の土地の上に建っている場合は、建物の不動産登記簿の所在欄の先頭に示されている地番の土地に係る不動産番号(不動産登記事務取扱手続準則(平成17 年2 月25 日 法務省民二第456 号法務省民事局長通達)第88 条第2項において「建物の登記記録の表題部に2 筆以上の土地にまたがる建物の不動産所在事項を記録する場合には,床面積の多い部分又は主たる建物の所在する土地の地番を先に記録し,他の土地の地番は後に記録するものとする。」と規定されている。)を用います。

また、特定コードには、当該不動産ID が、土地の不動産ID ではなく、「区分所有建物の建物全体」であることを示すための符号として「000B」を用いることとします。

本ルールについては、土地の不動産番号を用いる性質上、同一筆の土地に複数の区分所有建物が存在する場合や、建物の建て替えを行った場合に新旧の建物で不動産ID が同一になることもありうるという点に留意が必要です。

(3)複数の用途が混在する建物の不動産番号

前述の通り、商業用・居住用の別は個々の部屋の利用目的ではなく、建物全体の利用目的から判断することとしています。ただし、建物全体が同一の利用目的ではなく、1階・2階は商業用、3階・4階は居住用といった利用目的の建物も想定されます。

このような場合も、(2)で定めた各ルールを用いることで対応できます( 具体例として参考資料P12 を参照。)。

(4)不動産ID の記述ルール

不動産ID は、これを利用するデータベース間でデータとしての記述に著しいかい離があると、情報の連携・蓄積・活用を進める観点で支障となり得ることから、以下の基本的なルールに従い記述します。

○ 使用する文字種は、半角とする(数字は半角数字、アルファベットは半角大文字のみ)。

⇒ 例えば、ルール№4における特定コードとなる部屋番号について「2a」号室などアルファベット小文字が使用されていた場合は、「2A」と大文字に変換して記述します。

○ 原則として「不動産番号(13 桁)-(半角ハイフン)特定コード(4 桁)」と記述する。

⇒ 不動産番号(13 桁)のみでも情報連携等の活用を容易にするため、半角ハイフンを用いることで、不動産番号(13 桁)と特定コード(4桁)の区切りを明確化する趣旨であり、データベース整備上、「-」(半角ハイフン)以外の文字(例えば「;」(半角セミコロン)など)で記述することが適切な場合は、当該文字を使用することも可能です。

4.不動産ID の活用に向けた前提

不動産ID の活用に際しては、ID に用いる文字列のルールを決めるだけではなく、ID を用いる上での基本的な前提・留意点についても、各主体間で共通認識を築くことが必要です。

(1)個人情報保護法との関係

不動産ID は、それ単体では、特定の個人を識別することはできないものの、不動産ID や登記簿上の不動産番号(以下、「不動産ID 等」という。)を保有する者において、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる場合には、「不動産ID 等及び当該他の情報」による情報全体として、個人情報保護法第2条第1項の「個人情報」に該当します。このため、ユースケースに応じて個人情報保護法制との関係で整理が必要となります。

ただし、不動産ID は、不動産登記簿等と照合すれば所有者の識別が可能といった点で、住所や地番等と同じ性質の物件情報の一つです。このため、現在個人情報保護法等の法令に基づいて行われている実務の範囲内で不動産ID の利活用が行われる場合は、特段新たな対応を講じる必要はありません。

上記を超えて、更なる不動産ID の利活用を図る場合には、具体的な利用方法や紐付ける情報の性質に応じて、適切な利用目的の公表や、第三者提供時の同意取得等の措置を講じることが求められます。

なお、匿名加工情報や仮名加工情報(仮名加工情報は令和4年(2022 年)4月より新たに導入される制度です。)といった個人情報保護法上の制度を活用することで、個別の同意取得や新たな利用目的の公表といった措置を取ることなく、データの利活用を進めていくことができますが、匿名加工情報においては、加工にあたり、不動産ID も含めて「個人情報と他の情報とを連結する符号を削除」するよう求められており遺漏無く対応していくことが必要です。

(2)ID の入力・登録(紐付け)に際しての留意点

不動産ID の取組は、不動産に関する様々な情報が、本ガイドラインのルールに沿って、各主体により不動産ID と紐付けられた形で蓄積され、連携していくことで、その利活用が進んでいくものです。こうした取組を的確に進めていくためには、不動産ID と不動産関連情報を紐付ける際に、不動産ID を正確に入力・登録していくことが必要です。このため、不動産ID の入力・登録を行う際は以下の点に留意してください。

土地と住宅を合わせた取引や、複数筆の土地をまとめて取引する際に、ポータルサイトに物件情報を登録し、不動産ID を入力する時など、複数のID 入力を想定しうる場合は、各主体・主体間において、ユースケースに応じて、予めどの不動産ID を入力するか明確化しておきます。その際、将来的な情報連携も視野に入れて検討することが重要です(※)。

ID の誤入力に関しては、不動産ID は住所・地番等の物件情報に類するものであり、通常の情報相違への対応と同様に、その都度の訂正を行うことができるようにしておきます。不動産ID であることをもって、特別の取扱(一度登録したら修正できないなど)を必要とするものではありません。(なお、例えば、ポータルサイトにおいて、あえて誤ったID を入力し、消費者に対するおとり広告を行っている場合には、公正競争規約に基づく措置の対象となります。)

新築未登記の場合など、表題部登記前のものに関しては、ルール上、不動産ID は存在しない点にも留意してください。

※ 複数のID 入力を想定しうるケースの具体例と入力するID の考え方の例

(ユースケースの想定に応じて、これ以外のID を入力することとしてもよい。)

ケース1) 不動産取引時における事業者間の情報共有や広告のため物件情報を登録し、ID を入力する場合は、ID は、事業者が当該取引に係る情報を検索したり、情報や広告の表示を整理するためにバックデータで利用することが想定されるため、同一の取引単位の物件情報には、同一のID が付されるルールとすることが望ましい。

 土地と住宅を合わせた取引(土地付き住宅)の場合

古家付き土地を含め、建物ID を入力する。

・中古住宅は建物ID、古家付き土地は(土地分類のため)土地ID を入力するなど、登録時の物件種別を捉えてID を入力することも考えられるが、現在のポータルサイトの物件種別は、明確な登録基準があるわけではなく、売主や販売会社の意向を踏まえて、どの種別で登録するか判断されているため、広告主が異なると同一取引の広告であっても物件種別が異なることがあり、同一取引の情報に同一のID が付されないケースが想定される。

・このため、登録時の物件の状態(=建物が存在)を捉えて建物ID を入力する。

・他方で、広告出稿から取引成立までの間や取引直後に、古家を除却し、古家付き土地が更地となるケースもあるため、建物ID に加えて、土地ID を入力する欄を設けることも考えられる。

② 複数筆を集約した土地(更地)を取引する場合

面積が最大の筆のID を入力する。

・複数筆の取引の中には多くの筆を含むものも想定され、全てを入力することは実務上もシステム整備上も困難と考えられることから、面積が最大の筆のIDを入力する。

・他方、(市境をまたぐ土地や面積が最大の筆とほぼ同じ面積の筆がある土地など)他の筆のID もあわせて登録されている方が、取引情報として望ましい場合も想定されることから、面積が最大の筆に加えて、他の筆のID を入力する欄を設けることも考えられる。

・また、複数筆の取引であることの識別を要する場合は、筆数を合わせて登録する等の対応が考えられる。

ケース2) インフラ情報の管理のためID を入力する場合は、土地に設置される設備(メーター等)は住宅の建替があっても維持されるため、土地に設置される場合は土地のID、住宅に設置される場合は住宅のID を入力。

(3)ID と紐付けたデータの利用

2.2で指摘したように、不動産ID の取組は、不動産ID の紐付けにより、許諾無く、個人情報や各主体が保有する内部情報が外部に流出するものではありません。その上で、不動産ID が紐づけられた情報をどのように利用するかは、個別のユースケース毎に各主体が決定します。

その際は、個人情報の観点や、現在の実務における取扱いも踏まえて検討することが必要です。具体的には、不動産ID は「住所・地番」と同じ性質を持つ(不動産登記簿と照合すれば所有者が特定できる)ことから、これらの取扱いも踏まえて検討することが重要です(※)。

※ 不動産取引における物件情報広告等の場面におけるID の表示について

○ 登録と表示は別の問題であり、登録したから無条件に表示しなければならないというものではありません。例えば、募集時に物件情報と併せて不動産ID を登録するが、当面、ポータルサイトの外部(例:一般向けのポータルサイトにおける物件情報の提供時)には、不動産ID 自体は表示しないことも考えられます。

・ 一般向けのポータルサイトでは、基本的に、地番・部屋番号は非表示となっているが、これらを表示する点について、売主・貸主から個人情報保護法上の必要な同意がある場合に、例外的に、町字に加えて、地番・部屋番号を表示しているケースがあり、不動産ID について、表示する場合には売主・貸主の同意を得る必要があります。

・ 個人情報保護法上、売主・貸主の合意があると認められる場合は、不動産IDを一般に表示することは差し支えありません。地番等と同様に、表示によって購入・賃借希望者が詳細な物件情報を調べられる点はメリットとなりえます。

会員向け(=事業者間)の情報提供等にあたっては、現行の不動産取引実務を踏まえつつも、不動産ID の表示によって物件を特定できることで、円滑な取引に資するメリットも踏まえて、取扱の検討が必要となります。

(4)ID やID と紐付いたデータの利用範囲

不動産ID は、広く社会の様々な分野での活用が期待されることから、原則として各主体が自由に活用できます。ただし、適切でない目的で利用されること等で、不動産ID の制度自体の信頼性が損なわれることのないよう、

○ 法令や公序良俗に反する行為への利用

○ 不当に第三者に損害を与えるような利用

○ 不動産ID の信頼性を損ねるような利用

といった利用目的での利用は認めないこととします。

また、不動産ID を利用した情報の連携・蓄積・活用を行う際には、上記に該当するような利用が行われないよう、規約などで必要な規定をおくことが望ましいです。

5.おわりに

不動産ID の取組は、不動産に関する様々な情報が、本ガイドラインのルールに沿って、各主体により不動産ID と紐付けられた形で蓄積され、連携していくことで、その利活用が進んでいくものです。

今後、ID に紐付いた不動産関連情報が段階的に増えていくことで、不動産ID を活用した不動産関連情報の連携・蓄積・活用として実現できるユースケースも広がっていくことが想定されます。

このため、まずは、官民問わず、多くの主体が本ガイドラインのルールに沿って、不動産ID を不動産関連情報に紐付けていくことが重要となります。国土交通省としても、今後、ID に用いられる不動産番号の確認の容易化に向けた検討や国・自治体の保有するデータと不動産ID の紐付けに向けた検討を行うなど、不動産ID の活用に向けた環境整備に取り組んでいきます。

(以上)

民事信託の登記の諸問題6

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(6)」から考えてみます。

複雑な法技術である信託という分野の中でも、新しい法的仕組みである民事信託(家族信託)分野において、―略―


 複雑、新しい、という形容詞が頻繁に記載することにより、同業者相手の民事信託事業を繁盛することになるのではないのかな、と感じました。平成16年不動産登記法改正、平成17年会社法改正の際、このような文言が頻繁に登場していたのでしょうか。今後も相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が施行され、電子署名、マイナンバーカード関係の法令は改正が続くと思います。その度に同業者相手、特に登録後日が浅い人の草刈り場になるのではないかな、と思いました。

あくまで、当該信託目録による公示は、当該信託条項が定める登記申請義務が履行された結果として存在するものだ。信託目録が作成され公示される際には、その前提となる登記申請義務の存在は消滅している。

 この内容の文章はどこかで読んだ気がするのですが、同じ著者だったかもしれません。

更にいえば、受託者における信託の登記の申請義務は、信託法上の分別管理義務を構成する法定の義務であり、強行法規としての周知の義務である(信託法34条1項、2項)。公示すべき合理性なく、かつ、必要性のない情報を公示することは、公示であるがゆえにこそできない。

 信託財産の管理方法で、受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、分別して管理すると記録すれば足りるのかなと思いました。

民事信託の登記の諸問題5

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(5)」から考えてみます。[1] 887号、令和4年1月号、テイハンP79~

信託財産を適正に管理・運用・処分して※申請構造の枠組み・「適正に」の意味と公示の効果は何か

 適正にの意味と公示の効果は、信託行為の当事者への明示以外に、あまりないのではないかなと思います。信託法(受託者の利益享受の禁止)第八条、(脱法信託の禁止)第九条、(訴訟信託の禁止)第十条、(受託者の権限の範囲)第二十六条、(受託者の権限違反行為の取消し)第二十七条、(忠実義務)第三十条など。

受益者の生涯にわたる安定した生活の支援と最善の福祉を確保する※「生涯にわたる安定した生活の支援」形容詞・福祉の公示するか


 形容詞・・・にわたる、副詞・・・安定した、かなと整理しましたが、公示してもしなくても、違いが出るとは思えませんでした。

信託財産をもって※条件節の意味上の主語

 条件節というのが分からなかったのですが、もし~ならば、のような使い方をする場合のようです。他の財産ではなくて、信託財産をもって、という意味で条件節、ということになるのかなと思いました。

受益者の※「目的」の具体化(達成方法)居住の維持費、医療費、看護療養費、施設利用費など各種費用の支払いに充てる※「居住の維持費」、「医療費」、「看護療養費」、「施設利用費」は申請情報か

 信託財産に属する金銭の用途についての記載なので、原則として不動産の信託目録の登記事項にはならないのではないかと思います。ただし、信託財産に属する不動産を売却し、金銭に換える場合の用途として定める場合、信託財産に属する不動産が収益不動産であり、賃料などが入ってくる場合で、他の収益不動産ではない信託財産に属する不動産には、信託目録に記録する事項に信託財産に属する金銭の用途についての記録がないときの意味は、少しあるのかなと思います。それでも私なら公示しない方向でまずは考えると思います。

受託者の裁量に基づき※条件か、受託者の権限なのか

 受託者の権限だと思います。信託法(定義)第二条、(受託者の権限違反行為の取消し)第二十七条。

受益者の生活状況に応じた生活費等を給付する※形容詞的か副詞的な条件なのか※財産の管理方法か受益債権か。

 形容詞的か副詞的な条件なのかについては、分かりませんでした。受益債権ではなく、財産の管理方法だと思います。信託法(定義)第二条第1項、第7項など。

その目的を達成する※述語動詞→目的=大目的。これら以外の一時的な多額の給付はしないものとする※信託規律→受託者権限の制約か※給付の制限→信託の安定性→認知症対策との明示はなし

する、が述語動詞なのでしょうか。分かりませんでした。受託者権限の制約に当たると思います。

なお、「信託財産の管理方法」欄には、受託者の「処分権限」が記される場合がある。この点、「処分権限」は信託に係る権利の登記の連続構造に関係するが、重畳的に「信託の目的」欄に「処分」の情報がない場合、どうなるのか。

 信託の目的欄に、処分の情報がない場合でも、信託財産の管理方法欄に記録された受託者の処分権限は活きることになります。信託法2条第1項、第5項。信託の目的欄に、処分は出来ない、処分しない、○○の場合には処分できない等と記録されている場合は、信託財産の管理方法に影響を与えます。

登記事項の記載として「財産」と「資産」という文言の違いは、何ならかの機能の際をもたらすのだろうか。

 財産と記録した場合、資産に加えて信託財産責任負担債務(信託法21条2項を含めて)も入るということを明示する記録なのかなと思います。資産と記録しても結果は同じだと思います。

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