不動産登記規則等の一部を改正する省令及び民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令

不動産登記規則等の一部を改正する省令及び民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(2023年7月28日付閣議決定、8月2日付公布)

https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2023/kakugi-2023072801.html

〇法務省令第三十三号

民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)の一部の施行に伴い、並びに関係法令の規定に基づき、及び不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)を実施するため、不動産登記規則等の一部を改正する省令を次のように定める。

令和五年七月二十八日

(不動産登記規則の一部改正)

第一条不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)の一部を次のように改正する。

次の表により、改正前欄に掲げる規定の傍線を付した部分をこれに対応する改正後欄に掲げる規定の傍線を付した部分のように改め、改正後欄に掲げるその標記部分に二重傍線を付した規定を加える。

改正前

(裁判所への通知)

第百八十七条

登記官は、次の各号に掲げる場合には、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知しなければならない。

改正後

(裁判所への通知)

第百八十七条

登記官は、担保付社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)第七十条第十八号の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知しなければならない。

一 法第百六十四条の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったとき(登記官が法第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務に違反した者に対し相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催告したにもかかわらず、その期間内にその申請がされないときに限る。)。

二 担保付社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)第七十条第十八号の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったとき。

令和5年8月2日政令第251号

民法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令

 内閣は、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第1条第3号の規定に基づき、この政令を制定する。

 民法等の一部を改正する法律附則第1条第3号に揚げる規定の施行期日は、令和8年4月1日とする。ただし、同法第2条中不動産登記法(平成16年法律第123号)第119条の次に1条を加える改正規定及び同法第120条第3項の改正規定の施行期日は、令和8年2月2日とする。

法務大臣 齋藤健

内閣総理大臣 岸田文雄

民法等の一部を改正する法律附則第1条第3号に揚げる規定

附 則

  (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 一 第二条中不動産登記法第百三十一条第五項の改正規定及び附則第三十四条の規定 公布の日

 二 第二条中不動産登記法の目次の改正規定、同法第十六条第二項の改正規定、同法第四章第三節第二款中第七十四条の前に一条を加える改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の二及び第七十六条の三に係る部分に限る。)、同法第百十九条の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分を除く。)並びに附則第五条第四項から第六項まで、第六条、第二十二条及び第二十三条の規定 公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日

 三 第二条中不動産登記法第二十五条第七号の改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の四から第七十六条の六までに係る部分に限る。)、同法第百十九条の次に一条を加える改正規定、同法第百二十条第三項の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分に限る。)並びに附則第五条第七項の規定 公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日

不動産登記法第二十五条第七号

(申請の却下)第二十五条

七 申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十六条の五、第七十七条、第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)、第九十三条(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。

不動産登記法(平成16年法律第123号)第119条の次に1条を加える改正規定

(所有不動産記録証明書の交付等)

第百十九条の二 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。

3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。

4 前条第三項及び第四項の規定は、所有不動産記録証明書の手数料について準用する。

第120条第3項の改正規定

(地図の写しの交付等)

第百二十条 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、地図、建物所在図又は地図に準ずる図面(以下この条において「地図等」という。)の全部又は一部の写し(地図等が電磁的記録に記録されているときは、当該記録された情報の内容を証明した書面)の交付を請求することができる。

2 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、地図等(地図等が電磁的記録に記録されているときは、当該記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧を請求することができる。

3 第百十九条第三項から第五項までの規定は、地図等について準用する。

加工法制審議会担保法制部会第34回会議(令和5年6月13日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00201.html

委員等提出資料34-1 担保目録等の導入検討のためのイメージ図

資料

部会資料29-3 「担保法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要(第11から第15まで)

第3章担保権の実行

第11新たな規定に係る集合動産担保権の実行

1新たな規定に係る集合動産担保権の実行の手続

新たな規定に係る集合動産担保権の実行について、次の規定を設けるものとする。

⑴新たな規定に係る集合動産担保権の私的実行をしようとするときは、担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)又は第三者への目的物の処分に先立って、設定者に対し、担保を実行する旨を通知しなければならない。

⑵上記⑴の通知が設定者に到達した後に集合動産に加入した動産には、担保権の効力は及ばない。ただし、その動産が上記⑴の通知が到達した時点で集合動産の構成部分であった動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。

⑶上記⑴の通知が設定者に到達したときは、設定者は、その時点で集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失う。

⑷上記⑴の通知は、設定者の承諾を得なければ、撤回することができない。

⑸上記⑷の撤回は、上記⑴の通知の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

⑴から⑶までについて

【全体に関する意見】

・立法による明確化が望ましいという観点から、中間試案の提案を支持する。(企業法研)

・実行開始通知の到達の前後で担保の対象を明確に区分させるものであり、本提案に賛成する。実行通知の到達後の新規加入物には担保権が原則として及ばないこととなるものの、実行通知の到達から実行までの間に実行対象とはならない新規加入物が混入し、実行対象となる動産とならない動産を区別することができないために、いずれの動産に担保権が及んでいるかが不明確となり、実行手続に支障が生じるおそれがある。一読では、そのような事態を避けるために、設定者が新規加入物を実行通知の到達時に存在していた動産から区別している場合に限って、新規加入物を実行対象から除外すべきとの考え方が示されており、この点に配慮したものが提案⑵である。

 新規加入物と実行通知の到達時の構成部分を適切に区別することができるのは設定者であることを踏まえて、設定者が適切に区別しない場合には、例外的に区別されていない新規加入物に対しても担保権が及ぶこととされる。

 なお、本提案を採用した場合には、新規加入物が担保実行の対象に含まれ得ることから、評価の対象が問題となるが、設定者には新規加入物に担保権を及ぼさせないために適切に区別するインセンティブが働くことが期待され、担保権者としても適切な区分が行われて新規加入物が実行対象にはならない状態であることを合理的に期待できることから、評価に際しては原則として新規加入物を考慮する必要はないとの考え方が示されており、かかる考え方は、担保権者と設定者のバランスをとるものとして賛成できる。もっとも、設定者に課される受忍義務に基づく情報提供等によって担保権者が新規加入物の数量や状態等を合理的に把握できる場合には、例外的に新規加入物を考慮した上で担保評価するべきと考えられる。(東弁)

・実行通知によりいわゆる固定化が生じ、設定者の処分権限が失われ、一方でその後に加入する部分には担保権の効力が及ばないことは合理的である。また、その後に加入する部分に担保権の効力が及ばないようにする前提として、設定者に分別管理を求めることも合理的である。(担保研)

・実行にあたって、集合動産担保権の効力が及ぶ範囲を提案のような方法で確定させることは妥当なものと考える。なお、優先担保権の目的である集合動産に重なり合う集合動産を目的とする劣後担保権が存在する場合については、次のように考える。

 優先担保権の実行に際して固定化された範囲に含まれる動産については、劣後担保権の担保権者は、清算金請求権に対する物上代位を行使することのできる可能性を有するにとどまるものの、優先担保権の効力が及ばない新たな加入動産については、劣後担保権の効力もなお残存するものとしたうえで(かつ、実行された優先担保権が消滅したことに伴い順位が上昇する)、その効力をそのまま及ぼすことができるとするのが相当と考える。

 補足説明106頁2行目以下は、実行後の再度実行を否定するときは、優先担保権者が実行した後の新規加入物に劣後担保権の効力が及ぶことを否定するのが相当としているが、再度実行を否定して優先担保権者の担保権の効力が及ぶのを一定の範囲に限定したうえで、その後の加入動産に対する優先的地位を劣後担保権者に認めることは可能であり、集合動産に対して劣後担保権を設定することの意義をこの点に求めることは合理的なものであると考える。(研究者有志)

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・集合動産を目的とする担保権は、設定者に対し通常の営業の範囲における構成部分の処分を許すとともに、新規加入物もあるため日々その構成部分が変動していくことを特質とする。したがって、実行通知は、私的実行の対象となる動産の範囲の確定のために必要である。

・帰属清算の通知又は担保実行の通知を担保権者に行わせること自体は過大な負担ではなく、こうした通知を必要とすることは合理的である。

⑵について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連、研究者有志

・新規加入物も私的実行の対象とすることを認めると、2の実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行を認めないことを潜脱する結果となるため、新規加入物に担保権の効力は及ばないとする本文に賛成である。ただし書については、実行通知の到達と実際の引渡し等との間にタイムラグがあり、新規加入物が混入して実行手続に支障が生じるという実務上生ずる問題に対する対応として有効であり、賛成である。

・執行対象を客観的に判断できるようにするため妥当。

・実行通知によって原則として固定化させることでよく、かつ分別管理されていない新規加入物には担保の効力が及ぶということでよい。引渡しの執行の場面(簡易な引渡方法の手続を含む。)を想定すると、現場で執行官がどの目的物が対象なのか判断できる必要がある。実行通知後の搬入かどうかを執行官が現場で判断することは困難であることを理由に執行不能となることは避けるべきであるから、分別管理の有無によって執行対象かどうかを判断するという形がよいといえる。この観点からは、帳簿上の分別管理だけで当然によいとまでは言いがたく、帳簿上の分別管理と物理的な分別管理の状況等から、執行官にとって対象かどうかが判断されることになると思われる。

・通知到達により、担保権が及ぶ範囲を固定化することに賛成である。⑵ただし書のとおり、分別管理がされていない場合には、通知到達後に新規に集合動産に加入したものにも担保権を及ぼすことも合理的であり、担保設定者はこうした事態を避けたければ分別管理をすればよい。執行の場面において執行官による判断が容易になるよう、その場に存在する集合動産が、通知到達前なのか、通知到達後なのか、執行官をもって判断できる程度に分別管理をする必要があると考える。

【反対】

個人

・中間試案第1、1担保権の効力の及ぶ範囲に従って決められるべきもので、相矛盾する規定を置くべきではない。

・集合動産と言っても、仕入・処分する回転型の在庫だけではなく、太陽光発電所などの固定資産もある。また、資金提供も、現に存在しているものを評価対象にしているのか、将来に及ぶ部分の資金提供を行っているなど、様々なケースが想定され、一概には決めるべきではない。

【ただし書に反対】

ミロク、日司連

・⑵について、構成部分であった動産と分別して管理されていない場合は担保権の効力が及ぶことになる。しかし、担保権の効力が及ぶかどうかは、担保権者にとって重要な事項であるからこれを設定者側の管理の方法次第で左右されるのは妥当ではない。分別して管理という文言についても、物理的に分別していれば足りるのか、帳簿上分別されていれば足りるのか、分別して管理の意義が不明確である。そこで、ただし書は削除すべきと考える。

・「分別して管理されていないとき」の解釈があいまいであり、これを拡大解釈すると、実質的に包括担保を許容することにもなりかねず、妥当でない。また、当該解釈の在り方次第で、設定者や動産を加入した第三者に対して不測の損害を与えかねない。分別管理を含めた目的物の管理の在り方については、担保権者による途上与信又は当事者間の債権的合意に基づいてこれを正すべきものであって、設定者に物権的な責任を負わせてまで解決すべき事柄ではない。

【その他の意見】

・実行開始通知が到達した日時が明確であれば、納品書や帳簿等により、それ以降に加入した動産を日付によって区別することは可能であり、「分別して管理」とは帳簿上分別されていれば足りることとすべきである。(連合)

⑶について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・実行通知は、私的実行の対象となる動産の範囲の確定のためにされるものであり、実行通知の効果として、それが設定者に到達したときは、設定者は集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失うとすることに賛成する。

⑷及び⑸について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・⑷について、設定者は、実行通知を受けたことにより、集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失うとともに、新規加入物については分別管理により実行の対象外となるものと考えていたところ、担保権者による実行通知の一方的な撤回を認めると、その間、集合動産の構成部分であった動産の処分を制限されるとともに、分別管理していた新規加入物について、再度の実行通知により、担保権の効力が及ぼされるなど、不安定な立場に置かれることになる。他方、私的実行が一旦開始されると撤回の余地がないというのは、裁判所に対する各種担保権実行の申立てにおいて取下げが認められることと比べても硬直的にすぎ、設定者の意思にも必ずしも合致しないと考えられる。したがって、設定者の承諾があれば、担保権者は実行通知を撤回することができるという規律とすることに賛成する。

 もっとも、例えば、一部を既に実行完了した後に撤回できるとすると、設定者の承諾を得ているとしても、これを繰り返すと、後順位担保権者の利益を害することになる。そこで、実行のいかなる段階であれば撤回できるのかについても定めるべきである。

⑸について、設定者の承諾を得た実行通知の撤回を認めるとしても、新規加入物に対して新たに利害関係を有する第三者との間で複雑な法律関係が生じ得る。そのため、設定者の承諾による実行通知の撤回も、無制限に認めるべきではなく、第三者の権利を害することはできないとの規律を設けることに賛成する。

・通知の到達により設定者には集合動産の処分権限や管理につき変動が生じることから、⑷のとおり、通知の撤回には設定者の承諾を要することに賛成する。一方、通知を撤回するのであれば、第三者を害しない限り、通知がなかった状態に覆滅させることでよく⑸のような規律にも賛成である。

・実行通知を撤回し得るかが一応問題になるところ、実行開始通知の到達には、新規加入物に担保権が及ばなくなるという効果と設定者の処分権限の喪失という効果が結びついていることからすると、担保権者が一方的に撤回することは設定者の地位を著しく不安定にすることから認められないものとすべきであるが、担保権者と設定者の合意により実行通知により生じた効果を覆滅させる場合にはかかる不利益が生じる恐れが小さい。その際、第三者の取引の安全も考慮すべきと考えられることから、⑷及び⑸に賛成する。

・撤回によるいわゆる「固定化」の覆滅は、設定者及び第三者の利益を害すので、両者の保護を図る必要があるところ、本提案は、いずれについても配慮されており、実務上も異論がない。

2実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否

新たな規定に係る集合動産担保権の担保権者は、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行をした後に新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものとして再度の実行をすることはできないものとする(注)。

(注)プロジェクト・ファイナンス等の現在の実務に影響を与えることがないか、事業担保等の他の制度との関係にも留意しつつ、引き続き検討する。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日司連、日商、日弁連、研究者有志

・設定契約により定められた集合動産に担保権が設定されている場合、担保権者が担保権の範囲として期待すべきは設定者の通常の営業の範囲内で処分されて加入した結果存在する集合物であり、当該集合物が1度すべて実行された以上は、その後の新規加入物は、当初の担保権により想定された通常の営業の範囲を超えて加入してきたものといえ、担保の効力を及ぼすべきではない。

・一度実行された担保権はその範囲で消滅するはずであり、新たな加入物について引き30 続き集合動産担保として存続する理論的根拠が不明である。また、新たな加入物に集合動産担保が必要であれば、その時点で新たに集合譲渡担保契約を締結すれば足り、実行後に加入した動産に対する再度実行を認める必要性はないと考えられる。

・固定化を認める以上当然のこととして、本文の提案に賛成する。ただ、(注)につき、プロジェクト・ファイナンスにつき、契約等で十分に対応できるし、必要であれば特例35 法で対応すればよく、あえて民法典において特段の対応を定める必要がないという意見が強く出されたため、立案に際して検討されたい。

・プロジェクト・ファイナンスなどを除いた通常の融資においては、集合物1杯分(例えば倉庫に通常保管されている在庫総量)を担保価値として把握しているし、担保権者の保護としては1杯分で十分である。

・担保権者が当初想定していた担保価値に見合うものであり、違和感はない。

・①累積的な担保権設定を認めると担保権が強大になりすぎること、②担保権が一度実行されれば事業継続が困難となるのが通常であるとすると、実行後に新たに実行の対象となる目的物が発生することは期待できず、担保権者もそれを認識していることから、再度実行を認めることによって融資額が増えるとは考えにくいこと、③担保実行の段階に至ると事業継続が困難となるのが通常であり、再度実行まで認めるとすると設定者は対抗的に法的整理に入ることになると考えられるから、再度実行を認める実益に乏しいこと等から、本提案に賛成する。

・再度の実行ができるとすることは、いわゆる累積型を認めることになると考えられるところ、これが認められない旨を明示するものであり、妥当である。一度担保が実行されてしまえば、多くの場合に設定者の事業継続が困難になるから、実行後に新たに動産が加入する蓋然性は低く、よって、実務的な必要性は低い。また、累積型については、集合物概念から整合的に説明できるのかという理論的な問題も存在することからすれば、これをあえて認める必要はないからである。

・本提案に反して累積的な担保権の設定を許容すると、被担保債権の額を大きく超える動産に担保権が設定されかねず、この場合、財産の処分や新たな資金調達に支障を生じるほか、一般債権者に対する弁済原資がなくなる等の問題も生じかねない。

・再度実行をできないものとする提案については、事業継続の観点から賛成する。他方、集合動産の構成物は権利者にとってブラックボックスになっており、実行時の構成内容が不明である。そのため、権利者への権利保障が十分にないと、新たな制度が使われなくなる懸念もあるため、バランスの取れた権利保護の制度設計を図られたい。

・再度実行を認めることは過剰担保につながりかねないので、これを認めないとする提案に賛成する。実行後に加入した動産については、実行された担保権に劣後する担保権の効力が及ぶものとするのが相当と考える。

【反対】

全銀協、地銀協、長島・大野・常松有志

・補足説明で指摘されているニーズに加え、プロジェクト・ファイナンス等において、既に債務者が適切な行動をとることができないような状況の場合、担保権実行によって保有財産を第三者に移転させることにより事業を継続するケースが考えられる。このようなケースでは、実行の時点をもって一斉に納品先等を変更できればよいが、現実的にはすべての相手先においてこれを実現することは必ずしも容易ではなく、相手先の都合等で、その時点以降も従前の指定場所に納品を搬入されることなどが発生する可能性がある。この場合、債務者の自律的な行動は期待できない状況であり、かつプロジェクト・カンパニーの特性上倒産手続への移行による解決も現実的でないことから、担保権の実行として残置された動産を回収することが簡易かつ現実的であるが、再度実行が禁止されるとこのような対応ができないことになりかねない。再度実行を禁止するという考え方は、集合動産担保を一度実行してしまうと事実上事業の継続は困難となるため、特定範囲に加入した動産に対して複数回の実行を行うニーズを想定できないのではないかという経験則に基づいているとも考えられるが、実際の執行場面でのニーズは様々であり、一律禁止とすることによって、かえって個別具体的な場面での工夫による解決を妨げる可能性も否定できない。合理的なニーズがないとは言えない以上、再度の実行を禁止する必要性はないと考える。

(注)について、再度実行するためには事業担保を活用すればよいという考え方に対しては、事業担保は一部の事業に設定することはできないため、必ずしも事業担保が活用できる場面ではないと考える。

・再度実行が一切不可となると、担保権者の想定よりも在庫が少ないタイミングで実行することを余儀なくされるケース(在庫の搬入遅れがある場合、設定者が悪意を持って在庫を隠匿する場合等)や、在庫の搬入を待つことで価値を毀損するケース(季節商品等の売り時を逃す場合等)が発生する懸念等があることから、担保権者によっての予測可能性が下がり、結果として十分なファイナンスが実行されなくなる可能性がある。そのため、担保権者の期待を保護し、十分なファイナンスを実現させていく観点等から、一定範囲での再度実行を認める(例えば、第3の5の(注)に記載されている「通常の事業が継続されれば当該集合動産又は当該集合債権が有すると認められる価値」を満たすまでの再度実行等)ことを検討いただきたい。

・左記のようなルールを強行法規として定める必要はない。担保権者と設定者の間の合意に委ねれば足りる(この合意の効力が倒産手続において制約されることはあり得る。)。

【その他の意見】

・集合動産担保権の一部実行(第11、3)との関係、集合債権担保権との関係を含め、慎重な検討を要する問題である。

 集合動産担保権の一部実行がされた場合、その実行済みの範囲については再度実行が許容されないものとされる一方で、一部実行がされていない範囲(=残部)については実行が可能であると考えられるが(第11、3)、このような結論が、ここでの再度実行(第11、2)の問題ではないものと考えてよいかの確認が、まず必要である。

 また、「新たな規定に係る集合動産担保権の実行後に構成部分となった動産を含む集合動産になお担保権の実体的な効力が及ぶという意味での累積的な担保権設定」の合意について、そのような「累積的な担保権設定の合意の効力は認めないこととすることが相当」(補足説明106頁・108頁)とされているところ、集合債権については累積的担保の実務が現実に存在しており、これを正面から保護する高い必要性があることに照らすと、集合動産について、例外の余地を残さずにこのような担保権の合意の効力を一切否定しきることが適切であるか、また、その旨を、現時点であえて明文規定をもって規律しておく必要があるかについては疑問があり、(注)にも記載されているとおり、担保金融の類型や事業担保権制度との関係にも照らした入念な検討が必要と考えられる。また、動産については、その集積によって、新たに別の動産又は不動産が成立する場合や製造される場合があり(例:精密機械、自動車、船舶、建物等)、これは、一種の累積的な動産なのであるが、その製造過程において、設定者に当該動産の所有権が帰属していることを前提に、担保設定や真正譲渡によるファイナンスが行われることがあり得るところ、ここでの「集合動産」の意味・定義の如何によっては、このようなケースに対する影響の有無についても考慮が必要と思われる。

 また、累積的担保の問題を離れても、集合動産担保権の目的動産が、特定範囲の場所から、担保権者への報告や担保権者の同意なくして、担保設定者によって一時的に(例:展示販売)又は作為的に(例:詐害行為)搬出・移動されていたことにより、担保実行がいわゆる「空振り」となったような場合をも想定すると、再度、特定範囲の場所に戻されて原状に復した後に実行することができないとする結論がつねに適切であるかは、慎重に検討する必要がある問題と考えられる。したがって、仮に規定を設ける場合においても、合理的な範囲で相当と考えられる例外を設けることを含めて、引き続き検討されることが必要な問題であると考えられる。(ABL協)

・プロジェクト・ファイナンスにおいては、所定の事業を実施するために事業用の設備資金等をファイナンスし、事業の遂行に伴って生じるキャッシュフローで長期的に分割返済するものとされているところ、ファイナンス期間に渡って発生したり入れ替わったりする動産に対して継続して担保権が及ぶことが想定されているから、例えば、分割返済の資金が一時的に不足したときに、その埋め合わせのために集合動産のうちの一部のみを担保実行してその分割返済に充当するが、それ以外の集合動産は流動性を維持して事業及びファイナンスを継続し、のちに再度実行を行うことが認められるべきとの意見がある。しかし、上記意見はプロジェクト・ファイナンスなどに限定されたものであり、集合動産担保一般にそのようなニーズがあるのかは疑問であることからすると、実行時点で存在する動産全部について実行がされた後の再実行は許さないとする本提案が相当であるといえる。とはいえ、再実行を認めることで融資額が増えるとは考えにくいことが本提案の理由の一つであることからすると、上記のようなプロジェクト・ファイナンスは数百億円、数千億円規模に達するものであり、かかる規模のファイナンス組成の場合には担保設定者も担保権者と同等の交渉力を有し、濫用的な担保権者を懸念する必要性も低いと考えられることから、本提案が原則であるとしても、担保設定者の属性等を踏まえて例外的に本提案と異なる合意をすることが許容されるとすることが考えられる。(東弁)

・物権は物質が存在する場合にのみ発生し、物質がまだ存在しないのに発生することはない。また、物権の対抗要件は引渡しであるが、存在しない物質を引き渡すことはできない。この節で言っていることは、要するに、担保権設定契約の時に全く存在しない物質について担保物権の成立を認め、その対抗要件の発生を担保権設定契約の時に遡って認めるべきか、ということになるが、いずれも否定されるべきである。プロジェクト・ファイナンスなどで、現存しない物質について担保権設定契約をしたとしても、それは担保物権の予約と言うべきもので、担保物が発生した時に担保物権は発生し、それが引き渡された時に対抗要件を備えるとすべきである。もしプロジェクト・ファイナンスなどで必要であれば、「いつからいつまでに引き渡される物に対する担保権」「いつからいつまでに引き渡される物に対する担保権」などと担保権設定契約を行い、ただ担保権が具体的に対抗要件を伴って発生するのは引渡しを受けた時とすべきである。(個人)

・一概には決めるべきではない。なお、ABL等においても展示販売、外部委託等で一時的に搬出されている物などは複数回の実行が必要と考える。特に、保管場所に限らず「一切の在庫」が認められた場合、実行の手法、回数が増える可能性が高まると考える。また、設定者が詐害行為的な行動を行い、実態よりも在庫が少ないように見せかける場合などを救済する仕組みが必要と考える。また、事業担保が創設され、個別担保の実行が認められる場合、それとの整合性が必要になる。つまり、その観点からも、事業担保では複数回の実行が認められるならば、同様に認められるべきである。(個人)

3集合動産の一部について実行がされた場合に固定化が生ずる範囲

 前記1⑴の通知の到達による前記1⑵及び⑶の効果は、その集合動産全体について生ずるものとし、ただし、その通知において、【所在場所により特定された範囲/種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲】を実行の対象として指定したときは、この限りでないものとする。

本文について

【賛成】

全銀協、大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・担保動産の種類によっては、集合動産全体を一度に実行することができるわけではない。したがって、実務に支障が生じない形で一部実行が認められる制度にすべきであり、一部実行を可能とする提案に賛成する。

・仮に担保権者が担保の設定を受けた集合動産の一部についてのみ効果を持つような実行通知が可能であるとすると、残部について、なお流動性を残存させ、担保権者に有利な都合のよい時期に残部の実行通知による実行を認めることとなる。これは、再度実行を認めないことを潜脱する結果になりかねない。したがって、原則として、かかる集合動産の一部についてのみ効果を持つような実行通知は認めるべきではなく、前段に賛成する。

 なお、実行通知により、その集合動産全体について実行通知の効力が生じた場合であっても、その効力が生じる範囲とは別に、その集合動産の一部についてのみ私的実行することは、特段、妨げられないというべきである。被担保債権額を大幅に超過する動産が存在し、過剰執行になることが明らかなときに、かかる一部についてのみ私的実行をすることを許容することは、担保権者にとっても、設定者にとっても有益である。

 また、例えば、私的実行の途中に、見込んだ動産の量を超えたためにすべて搬出できない場合も考えられる。そして、この一部実行後の残部について、改めて実行できるか否かは、実行対象の特定の問題であり、残部について、それが実行通知による私的実行の対象となる動産であることを特定できる限りは、実行も可能であると考えられる。

・客観的に実行の対象内外を区分できるように指定されるのであれば、3の内容を認めることが当事者双方にとって便宜である。

・「固定化」についての明確な規制を定めるものとして、中間試案の提案に賛成する。

・1つの譲渡担保権設定契約にて複数の場所に保管されている動産を担保にとるときに、実行通知によって全ての固定化を生じさせる必要はなく、特定された場所ごとの実行を認める方が担保権者、設定者いずれにとっても便宜である。

・提案内容のように、実行通知に実行の対象を指定したときは、1⑵⑶の効果の及ぶ範囲を限定させることは合理的である。

・一部実行の容認は、担保権者としては担保実行の硬直化の回避の点から(常に全部実行する必要はない)、設定者としても事業継続の余地を残すことができる点から、担保権者及び設定者の双方にメリットがあると考えられるため、一部実行を認めることが必要である。もっとも、この場合にどの部分に1⑵及び⑶の効果が生じるのか(固定化を生じさせない部分があるのか)は別途検討が必要であるところ、本提案は、原則として全体について固定化が生じることとしつつ、実行対象が指定された場合には当該部分につ15 き1⑵及び⑶の効果が生じるものとする。担保権者が一部実行をしようとする場合には対象部分を特定することが実務上通例であることからすると、かかる実務に沿った規定であると考えられ、本提案に賛成する。

・対象が明確に特定されている限り、一部実行も認められると考える。

・固定化が生じる部分と固定化が生じない残部が明確に区別できるときには、一部実行も、許容の余地があるものと考えられる。もっとも、当該区別の在り方として、隅付き括弧内の基準では抽象的であるから、本提案に係る法令施行後は、当該区別に係る具体例の提示及びその周知を要すると考えられる。また、一部実行が可能となる担保権の公示の在り方並びに一部実行後の担保権の公示の変更又は抹消の可否及びその在り方も、併せて検討すべきである。

・担保目的とした集合動産の一部のみについて実行ができるものとすることに対しては、実務上の必要性も認められると思われる。

【その他の意見】

・一概には決めるべきではない。(個人)

隅付き括弧について

【所在場所により特定された範囲とする考え方に賛成】

・例えば、担保の目的物が地理的に離れている複数の保管場所に所在している場合、各保管場所について同時に実行することは事実上困難であるなど、一方の保管場所についてのみ実行を認める必要性は高い。この点、かかる場合は、契約の解釈又は担保権の成立の仕方として、流動性の単位ごとに複数の担保が設定され、そのうちの一つが全部実行されたと理解し、所在場所によって区別できる場合に関する規定を設ける必要性がないとの考え方もあり得るが、明らかに1つの設定契約において地理的に離れている複数の保管場所に所在している集合動産を担保目的物としている場合において、かかる解釈が可能であるのか疑問である。したがって、実行通知において、所在場所により特定された範囲を実行の対象として指定したときは、当該一部についてのみ実行通知の効力が生じるとする考え方に賛成する。

 これに対し、所在場所以外の要素によって他の部分と区別することができる場合にも残部の流動性が維持されるとの考え方も示されているが、反対する。この考え方は、例えば、優先担保権者が商品Aを、劣後担保権者が倉庫Bをそれぞれ担保の目的としている状況下で優先担保権者が実行した場合において、「倉庫B内の商品A」と「倉庫B内の商品A以外の物」を所在場所によって区別することはできないから、倉庫B全体について実行通知の効果が生じてしまうこととなるが、このような結論は劣後担保権者にとって不当であって、この場合には「倉庫B内の商品A」という担保の目的が重なり合っている範囲で実行通知の効果が生じるとするのが結論としては妥当であるとするものである。しかしながら、当該事例において、実行通知の効果が商品A以外の物も含めた倉庫B全体について生じてしまうことになるという前提が疑問である。優先担保権者が担保の目的としているのは倉庫B内にあるあくまでも商品Aであり、実行通知により、倉庫B内において流動性を失うのは商品Aのみであって、倉庫B内の商品A以外の物についてまで流動性を失わせる理由はない。むしろ、所在場所以外の要素によって他の部分と区別することができる場合にも残部の流動性が維持されるとの考え方を採った場合には、再度実行を認めないことを潜脱する結果になりかねない。また、上記事例で、固定化後にA商品が新規加入した場合には、さらに複雑な法律関係が生じることになりかねない。したがって、所在場所以外の要素によって他の部分と区別することができる場合にも残部の流動性が維持されるとの考え方には、反対である。(大阪弁)

【種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲とする考え方に賛成】25

神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、研究者有志

・所在場所により特定された範囲であれば、一部の固定化ができるのであれば、一部実行の対象となる範囲を所在場所以外の要素によって他の部分と区別できる場合についても、他の部分は流動性を失わないとする規律を設けるべきと考える。担保権者にとってもすべてを固定化することは設定者の業務に支障が出る可能性があるため、これを避けたいという需要があり、一方で設定者にとっても一部であれば譲渡担保が実行されても営業が続けられるという需要があるといえるため、所在場所以外による一部の固定化を認めるべきと考える。所在場所による特定に限ってしまうと、中小企業のように十分な保管場所等を持っていない場合に一部の固定化が事実上できないこととなり、営業に問題が生じかねない。所在場所のみならず、種類、量的範囲等によって具体的に特定可能であるから、特定された一部にのみ固定化の効果が生じ、その余の部分には流動性が維持されるとすべきと思われる。

・実行の対象の特定方法としては、場所による方法だけに限られず、その動産を特定するのに適した方法でよいと考えるべきである。

・一部実行部分の区分方法については、動産の所在によって特定される範囲に限らず、動産の種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を含めることが考えられる。現行の集合動産譲渡担保の対抗要件は、実務上、動産譲渡登記によることが多いが、当該登記の記載事項については、動産の所在によって特定される場合(動5 産・債権譲渡登記規則第8条第1項第2号)と動産の特質によってされる場合(同条項第1号)とが認められており、所在で特定する登記も特質で特定する登記もいずれも実務上で用いられている。このような実務が存在すること、また、現行の動産譲渡登記制度が存続すること(又は担保ファイリング制度が導入された場合には、当該ファイリングの記載事項に現行の動産譲渡登記制度と同内容が要求されること)を前提にすれば、動産の所在によって特定される範囲のみを指定方法とすることは、担保の対象と対抗要件との間に差異が生じ得るため、整合性をとることが望ましいと考えられる。

・対象の特定方法については、所在場所以外の方法による特定も許容されると考える。ただし、「量的範囲の指定」の内容によっては、事実上、再度の実行を認めることになりかねないので注意が必要である。

 例えば、A倉庫内の商品在庫全部に担保設定、担保実行時にはシリアルナンバー1番~200番までが存在しており、シリアルナンバー1番~100番までが一部実行され、その後シリアルナンバー201番~300番が搬入されたと仮定する。この場合、中間試案の規定に従って考えると、シリアルナンバー1番~100番のみに固定化等の効力が生じ、シリアルナンバー101番~200番については設定者の処分権限が残り、シリアルナンバー201番~300番についても担保権の効力が及ぶと解釈する余地があると思われる。そして、その場合には、後日改めてシリアルナンバー101番~300番について担保実行することが可能となるが、それでは事実上再度の実行を認めることになりかねず、妥当ではない。

・特定の仕方は、場所が中心になるだろうが、客観的に特定される限り、場所に限定する必要はない。

・処分の準備が整った部分のみを対象として、順次、担保権を実行するような例を想定すると、所在場所を異にする場合のみならず、所在場所を同じくする場合であっても、対象範囲が具体的に特定できるのであれば、許容されてよいものと思われる。

第12新たな規定に係る動産担保権の競売手続による実行等

1新たな規定に係る動産担保権は、民事執行法第190条以下の規定に基づく競売によって実行することができるものとする。

2新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、設定者に対する他の債権者が申し立てた動産に対する強制執行手続及び他の担保権者が申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、配当要求をすることができるものとする。

3新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的物を差し押さえたときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができるものとし、ただし、目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるときは、この限りでないものとする(注)。

4【執行官/差押債権者又は担保権者】は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをしたときは、遅滞なく、その執行債務者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者に対し、その旨を通知しなければならないものとする。この場合において、その通知は、通知を受ける者の【登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。

5強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る動産担保権の帰趨については、次のいずれかの案によるものとする。

【案12.5.1】強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る動産担保権は、売却により全て消滅するものとする。

【案12.5.2】強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする。

(注)劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分である動産を差し押さえた場合に、同様の規律を適用するかどうかについては、更に検討する。

【全体に関する意見】

・動産競売においても、目的物の価値の逓減や保管費用の過大、搬出困難ではあるが現場保管が相当ではない場合などのために、民事保全法49条3項の緊急換価類似(供託部分は除く)の売却手続を整備しておく必要があると考えられる。その場合には、配当要求終期、無剰余換価の禁止に関しても、合わせて検討を要する。

 現状の動産執行において、後行申立てにより配当加入できるのは、売却前までとされているが、これは無剰余や超過などの判断を行った上で売却するため、その時点で要弁済額や優先債権額を確定させる必要があるからである。新たな制度の下で、配当要求を認めるのであれば、緊急換価を行った場合、申立外の担保権者への通知を行うための登記事項の調査を行おうとしたときに登記中を理由にこれができない状況などに備え、売却後に配当要求終期を定める規律の例外を設けるか、さらには動産執行手続へこれを機会に緊急換価や配当要求終期の新たな規律を設けるなどの必要性が考えられる。

 また、この緊急換価の場合は殊にそうではあるが、これを行わない通常の場合でも、動産に関しては、無剰余換価の禁止を不適用とすることも検討されて良いと考えられる。動産の場合は時間の経過に伴う価値の逓減が通常であり、換価価値の将来の値上がりを想定して、換価時点を優先債権者に選択する権利を認める実益はない。無剰余換価の禁止は、動産の場合には価値がそれほど高くないため、手続進行の制約として働くことはしばしばあるところ、実際に換価すれば競り上がる可能性について取捨選択の余地がないため、手続の実効性を下げる要因になっている。また、手続の費用対効果を考えると費用回収は無益とは言い難いと考えられるからである。(執行官連盟)

・集合動産競売の執行官による差押えの局面で、執行官に目的動産特定のための資料の調査権限・探索権限を付与することで、対象動産特定の困難さを緩和する方策を用意することが相当である。

 集合動産の実行通知による固定化の時期と動産競売における執行官の差押えの時点との時間的ずれの関係では、その後、流出加入が行われる可能性が、特に事業が継続されていく場合には当然に想定されていることから、対象動産の特定には非常に困難が伴うと考えられる。設定者の協力が最も有益であるが、それを得るため、又それが得られない場合に、強制的に手続を進めていく上で、集合動産の目的物の特定・把握をするのに必要な資料に対する、執行官の調査権限、文書・帳簿等の探索・閲読、債務者・設定者の協力義務、提示義務、真実義務とそれを担保する一定の違反行為に対する罰則等を設けることが必要と考える。(執行官連盟)

・集合動産譲渡担保において、後順位担保権者が競売の申立てをして目的物が差し押えられたとしても、先順位担保権者は担保権実行時期利益があり、差押え後に加入した物も先順位担保権者との関係では担保の効力が及ぶべきであるから、固定化は生じないと解される。

 もっとも、配当要求をしたときには、被担保債権の弁済を求めるものであり、競売手続に参加しているのであるから、これによって先順位担保権の対象も固定化されるとするべきである。

 一方、第三者異議の訴えは、競売手続の排除を求めるものであるから、固定化は生じないと解するべきであり、これらを明らかにしておくのが簡明である。なお、根抵当権の被担保債権の確定と同様の規律を設け、第三者異議の訴えによって競売が取り消されたときには、被担保債権の確定も生じないとする必要がある(民法第398条の20第2項参照)。(神奈川弁、一弁、日弁連)

・新たな規定に係る担保権を担保物権として構成するならば、中間試案第2、1~3は、考え方としては適当だと考える。

 ただ、動産の強制競売や担保権の実行としての動産競売においては、短期間で売買されることや中古動産の市場がわが国では確立していないことから、目的動産がまともな価額では売却されないのが実情である。したがって、譲渡担保権設定者からすれば、帰属清算方式により目的動産の適正な評価額を基準として清算金の支払を受けた方が有利だということになるから(動産譲渡担保権の設定においては、債権者は実行により債権の確実な回収が図れるように被担保債権額の何倍もの価額を有する動産を担保に取っておくことが一般的だが、競売による実行の場合には、目的動産でもって被担保債権額全額が回収されないどころか、多額の残債権が生じかねない。)、譲渡担保権設定契約で帰属清算方式による実行が約定されていたときは、帰属清算方式により実行がなされるべきだと考える。

 また、動産譲渡担保権者が譲渡担保権の実行方法として民事執行法190条以下の規定に基づく競売を自由に選択できるとする(⑴)ならば、これに合わせて、動産がまともな価額で売却される市場を構築することが喫緊の課題になると考える。このようなバックグラウンドなしに、動産譲渡担保権者が民事執行法190条以下の規定に基づく競売を自由に選択できるとすることには賛成できない。

 悪質な金融業者が、身内や親しい者を通して目的動産を競売により二束三文で買い受けて、インターネット販売を含む中古市場において高値で売却することに利用されかねないと考える。(個人)

1について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、執行10 官連盟、日司連、日弁連、研究者有志

・法的実行は換価の公正さが担保されることから、一定のニーズが想定される。

・優先担保権者の同意を得られない劣後担保権者の私的実行の可否については、【案10.2.1】【案10.2.2】の両案があったところであるが、いずれも多かれ少なかれ効果には制約があり、動産競売手続を認める必要は高い。

・新たな規定に係る担保権に関して、現行の譲渡担保権等と同様に私的実行手続を認める旨の法改正が予定されているところであるが、裁判所の競売手続を利用することにつき実務上のニーズがあるとされており、その場合には民事執行法第190条以下の規定に基づく競売によって実行することとするものであり、本提案に賛成する。

・司法機関による強制手続を用意しておくことは、私的実行が困難だった場合の権利の実現を担保し、翻って私的実行を円滑に進める要因となることから、民事執行法第190条以下の規定に基づく競売を認めることが相当である。この手続は、現在において、執行官が行っている各種強制執行手続に類するものであるから、執行官に執行機関ないしは実施機関を担わせることが合理的である。

2について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・譲渡担保権者は実体法上の優先権を有しており、競売手続において優先弁済を受けられてしかるべきである。

・競売手続の申立を認める以上は、配当要求も当然に認められるべきであることから、本提案に賛成する。

・(そもそも後順位設定を認める場合)後順位のものは、配当請求可能とするべきであろう。

【その他の意見】

・現行法の枠組み(民事執行法133条)を維持することも可と考える。動産抵当権について登記・登録制度が導入されるのであるならば、手続参加について任意参加(配当要求・又は二重差押え)とした場合、仮に動産売却時の抵当権登記の抹消・(あるいは所有権移転等)を執行官が行うとする(民事執行法138条参照)ならば、それを行うための十分な登記・登録情報が執行官の元に集まらない(執行官がそれを行えない)懸念と、それに伴って、執行を終えた実体の無い登記の抜け殻ゴミが発生する懸念がある。権利や登記抹消を、電話加入権の強制競売の例のように、買受人に委ねる制度を採るならば、さらに、実体の無い登記の抜け殻ゴミが増殖する懸念がある。(個人)

3について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・現行判例上認められており、否定しなければならない理由はない。

・剰余がある限りは譲渡担保権者には配当要求を認めれば満足ができ、無剰余の場合に限って第三者異議の訴えを提起できるとすれば十分である。

・劣後担保権者にも原則として申立権を認めつつも、優先担保権者の被担保債権が物件の価値を上回っており、余剰分が存在しない場合には、担保権の実行を申し立てる実質的な利益を有しないとして、例外的に申立権を認めないという考え方に基づくものであり、最高裁判所の裁判例(最判昭和56年12月17日民集35巻9号1328頁、最判昭和58年2月24日判タ497号105頁)を踏まえた内容であり、本提案に賛成する。

・一般債権者や劣後担保権者による差押えに基づいて競売が開始された場合、担保権者としては、同手続で配当を受けられれば足りるのであって、第三者異議の訴えが認められるのは、剰余がない場合に限られるとすることで十分であると解される。第三者異議の訴えを争う差押債権者や劣後担保権者の側において剰余が生ずることを主張立証すべきものとする点も含め、提案に賛成する。

 なお、(注)に記載されている、集合動産につき別異に解すべきことの当否に関しては、一般債権者や劣後担保権者による差押えが、設定者の営業の継続を阻害する事態も想定できないではなく、営業継続を望む優先担保権者の利益を害するおそれがあることもふまえ、慎重な検討を要すべきものと考える。

【その他の意見】

・劣後する他の担保権者又は差押債権者は、実行できないものとすべきではないか。「目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超える」というのは、実行前に判断困難と考える。また、これら後順位の者が実行した後に、先順位者に誠実に配当するのは不確実ではないか(隠匿又は連鎖倒産等により)。(個人)

・第三者異議の提起を、新たな規定に係る動産担保権の担保権者が行えることに異論はない。ただし、上記の説明が、優先債権者の換価時期の選択権に基づいて不許を求めることを想定しているのであれば、不動産抵当権の場合には、そのような想定がないところ、動産抵当権と不動産抵当権において権利の内容の強弱に差を設けることになり、それなりの理由が提示されていなければ、不均衡な制度設計との誹りは免れない。上記の説明が無剰余の場合に、いちいち第三者異議訴訟を提起することを要求するのであれば、手続の選択としてはいささか重すぎる。執行官において無剰余取消(民事執行法129条2項)をすればよい話であるから、執行官の処分の是正を求める執行異議の方が妥当と思われる。上記の説明が、譲渡担保権者が自己の完全所有権を主張して強制執行の不許を求めて第三者異議の申立てを求めてきたケースを念頭に置いたものであるならば、担保化を狙いとする今回の検討とは立場を異にし、その扱いの変更を検討すべきである。今回の新たな動産担保権はその形式を問わず、担保として取り扱い、対抗要件の先占で統一的に優先弁済権の順序の問題の解決を図る構想を提示している。そうすると、強制執行は、単にその担保順位が低位にあるものによる申立てに過ぎず、手続の禁止・排除ではなく、手続を維持し優先弁済権の順位に従った配当を実施すればよいものと考える。(個人)

4本文について

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、研究者有志

・担保権者に対して通知を行い、配当に参加する機会を付与することは、3の劣後担保権者の申立権を認めることを実質面から基礎づけるものとして重要である。

【反対】

・賛同しかねる。担保権者に義務を負わせるのは難しいのではないか。(個人)

【その他の意見】

・強制執行手続において動産の差押えをしたときに、その執行債務者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えているすべての者に対し、遅滞なく、その旨を通知することを求めることについては、動産執行手続の従前からの利用者が受ける支障を少なくするために、執行官が行う公告に代えることが考えられる。

 消除主義で売却できることが執行官の限定された売却方法においては有効と考えられ、その前提として配当要求を行う機会を保証することが必要であるということは理解ができる。しかしながら、他方で、これが現状行われている動産執行手続全体(令和4年度速報値全国新受件数12,133件)のうち債務者が法人である一定の事件数にまで同様の規律が及ぶとするならば、それらの手続が債権者にとって使いづらいものとなって実効性を損ね、これまで制度を利用してきた一般の債権者の権利保護に支障が生じるおそれがあると考えられる。今後、IT化により、公告はそれを見る場所が限定されない形にできることが想定され、公告をもって申立外の担保権者への告知としても、それらの者の一定の把握作業をもってすれば権利行使の機会を失することは回避できる。

 そこで、機会の保障が不可欠であるとするならば、公告という方法が、執行機関としては何ら問題がなく可能であり、現状の動産執行事件の利用者へ及ぶ影響をより少なくすることができることから、これを提案する。(執行官連盟)

・新たな規定に係る動産担保権の担保権者の手続参加の方法を配当要求(や二重開始)に限るのであれば、妥当な手順と考えられる。新たな規定に係る動産担保権の担保権者が、手続を待たずに、配当手続に参加する方式を採るならば、債権届出の催告が必要になる。(個人)

4の通知の主体及び通知方法等について

【通知の主体を執行官とする考え方に賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、一弁、執行官連盟、日司連、日弁連

・通知の主体について、執行官又は執行裁判所とすべきである。手続の安定を重視すべきである(不動産競売の場合は裁判所書記官が通知することも参照(民事執行法49条2項))。執行官又は執行裁判所を主体にしても、登記に従って形式的に通知を郵送するだけであり、過大な負担とはいえない。

 通知の時期について、申立て時点とすると執行妨害の可能性があることから、差押え後とすることに賛成する。

 通知の相手方について、登記上、目的物が共通する担保権を必ずしも特定することができず、また、関連担保目録において、その優劣が必ずしも明らかでないのであれば、全員に対して通知せざるを得ない。

 通知の送付先について、あらかじめ登記所に届け出た連絡先とすることに賛成する。手続上の負担を増大させるものでもなく、登記簿上の住所又は事務所に限定するよりも、20 担保権者にとって便宜であると考えられる。

・通知の主体を執行官とすることは、登記事項証明書又は登記事項概要証明書上の担保権者全員に対して機械的に行えば足り負担は大きくなく、執行機関は執行官であることから執行官とするのが妥当と考えられる。

・通知者としては、執行機関である執行官が行うのが相当である。

 不動産執行においては、執行裁判所の裁判所書記官が、差押え後に、配当要求終期を定める処分を行って、公告を行うと共に、不動産登記記録上の権利者に対して債権届け出の催告を行っている。そのような同種の法的手続との整合性の観点では、執行官とすることが適っている。また、通知事務は、差押えの直後に連動して行われるべきものであるから、差押えを行ったことを直接認識しうる執行機関が行うことが、迅速かつ洩れを防ぎ、担保権者の利益に最も資すると考えられる。これを逸した場合の損害賠償責任との関係で、債権者が行うとする考え方もある。

 申立債権者が担保権者であればともかく、一般債権者であれば、そのような負担を求めることは、権利実現の阻害要因となるし、危険を負担させることは相当でないと考えられる。弁護士を代理人に選任しない、本人申立ても多くある実情にも鑑みれば、洩れが生じることは予想でき、それは担保権者の不利益にもなりうることから、実務的には問題が多い。

通知を執行官が行う場合には、その事務を行うに相応な態勢整備・維持に努めたい。

 なお、登記簿上の記載に従って行うのが簡明であり、それによる不利益を担保権者が負うべき理由もある。この場合、登記中で登記情報を確認できない状況が生じうることから、その場合に、通知が後れることへの対処も考えておく必要がある。

・通知の主体につき、競売手続においてはなるべく画一的な処理を目して事務を遂行すべきである。

・他の担保権者(特に先順位担保権者)にとって通知が確実になされることが必要である。担保権者や差押債権者に通知義務を課したとしても、通知を怠ったことの効果を競売の無効としないのであれば、先順位担保権者にとって確実なものではない(損害賠償だけというのは保護に欠ける)。執行官において通知する方が、通知が確実になされると考えられる。

【通知の主体を差押債権者又は担保権者とする考え方に賛成】

札幌弁、研究者有志

・執行官の負担を考慮して、「差押債権者又は担保権者」を通知の主体とすべきである。

・通知をすべき者については、「執行官」とすることも大いにありうるが、補足説明にあるように、執行官に過大な負担が生じ手続に遅延が生じる事態も想定されるところ、それを避けるため、「差押債権者又は担保権者」とする案のほうがよいように思われる。

【その他の意見】

・通知の主体については、手続の適正性の観点から執行官とすべきであるという意見と、本通知が必要とされている趣旨に照らし、差押債権者又は担保権者とすべきであるという意見に分かれた。(最高裁)

・「登記等」の定義、申立者に課される添付書類の具体的内容、通知不到達の効果などについてより具体化された検討が必要と思われる。また、通知先や通知方法についても、検討が必要と思われる。

 通知主体については、自動的に通知を送付するシステムが構築されることを前提に執行官により行うことが検討されてきたが、かかるシステム構築が必ずしも明らかではないことも踏まえると、執行官に過大な負荷が生じ得ることを回避する観点から、差押債権者により行うしかないことも考えられる。もっとも、この場合には通知負担を差押債権者が負うこととなるが、その送付先は通知を受ける者の登記簿上の住所若しくは事務所又はあらかじめ登記所に届け出た連絡先にあてて発すれば足りることとされているため、一応のバランスは取れているものと思われるものの、その通知先や通知方法については、引き続き検討を要するものと考える。(東弁)

・第10、3の【案10.3.1】中の隅付き括弧に係る意見及び理由に同じ。(日司連)について【【案12.5.1】に賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、最高裁(多数)、札幌弁、東弁、日司連、淀屋橋・山上有志、研究者有志、個人

・【案12.5.1】(消除主義)に賛成する。優先担保権の負担付きの所有権しか取得できないとすれば買受人が現れなくなる。登記を備えている担保権者に対してその旨の通知がされるとすれば、登記を備えた優先担保権者が配当を受けるための機会等は原則として確保される。他方、登記を備えていない優先担保権者は、通知を受けられず、結果として配当を受けるための機会等が与えられないまま担保権を失うことも生じ得るが、登記を具備しなかった以上はやむを得ない(これにより登記の利用が促進されると考えられる。)

・案5について【案12.5.1】を採用し、主な対抗要件を登記に誘導し、案4の通知により担保権者の手続的保護をした上で、消除主義を認め制度を単純化する方が【案12.5.2】よりも、比較的低額から高額の物まで担保として活用しやすいのではないか。

・強制執行の円滑な実現の観点からすると、消除主義を採用する方が妥当。

抵当権と同様、消除主義とするのが妥当であり、【案12.5.1】に賛成する。

・【案12.5.2】を採用した場合には、実務上売却が困難となる事例が多くなるおそれがあること等から、【案12.5.1】に賛成する意見が多数であった。

・買受人に即時取得が必ず成立するとは限らないため、消除主義を採用しないと、買受人が現れなくなる懸念がある。他方で、登記を備えている担保権は、手続に参加する機会又は手続を排除する機会を与えられているから、消除主義を採用して差し支えない。

差押えがあったときは登記を備えている全ての担保権者に対して通知がされることを前提とすると、登記を備えている担保権者には手続に参加する機会又は手続を排除する機会が与えられていると評価することができることから、【案12.5.1】の消除主義を採用する考えで差支えないと思われる。

・競売による実行であっても、買受人の事情次第では即時取得が否定されるおそれが全くないとは言えない以上、端的に【案12.5.1】を採用した方が、競売手続の安定につながり、ひいては、実行に係る目的動産の劣化その他の価値減少の防止にもなる。

・動産競売市場の活性化のためには、消除主義である【案12.5.1】を採用することが望ましい。これに対し、競落人は即時取得制度で保護が図られるのであるから、消除主義を採る必要はないとの批判があるが、保護が図られるか否か不明確であることが買主候補者を委縮させるのであり、上記批判は正当ではない。また、優先担保権者は登記を具備することによって通知を受けることを確保できるのであり(特に、通知の主体を執行官とすれば通知がなされることは確実である。)、仮に、優先担保権者が通知を受けた後、競落までの間に対応しなかったことによって担保権が消滅しても、それは自己責任の範疇であるといえる。

・引受主義と消除主義のいずれを採用すべきという問題については、消除主義を採用すべきものと考える。買受人を見いだしやすくすることは重要であり、また、通知がされることによって担保権者に対する手続保障はいちおう図られているといえること等が理由である。

・負担付きの物の価格は大きく下落して、競売手続の阻害要因になることは、執行の長年の事例の積み重ねを振り返れば、明らかである。

【【案12.5.2】に賛成】

全銀協、一弁、日弁連

・何等かの事情で通知を受け取ることができずに動産競売手続が完了してしまうというケースを想定すると、配当要求ができなかった担保権者は損害賠償請求のみということになるため、必ずしも担保権者の保護が十分とは言えない。このようなリスクを考えると、【案12.5.2】のほうが適切と考える。

・強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する他の担保権につき、売却により全て消滅してしまうとするのは、先順位担保権者の利益をあまりに害することになるため適当ではない。

・消除主義をとるべきとする根拠は買受人の確保であるが、一般的に競売に参加して買い受ける人は無過失であると整理でき、即時取得が成立するから、買受人が現れなくなるという問題はそれほど起こらない。劣後担保権者の競売による実行は、先順位担保権者の同意がない限り私的実行ではできないはずのものであるから、優先担保権者の利益を害してまで競売手続を使い勝手のよいものにする必要はない。

第13質権の実行方法に関する見直しの要否

動産質について流質契約の有効性を認めるか否かについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案13.1】目的物の価額が被担保債権額を超える場合にその差額を清算させるなどの設定者の利益を保護する措置を採るとともに、民法第349条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めるものとする。

【案13.2】動産質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持するものとする。

【【案13.1】に賛成】

神奈川弁、企業法研、札幌弁、東弁

・現に例外としては流質契約が認められているので、設定者の利益を保護する仕組みがあれば原則としても流質契約を認めてもよいのではないか。

・譲渡担保につき規制が整備された場合、民法349条の規制を維持する必要性はないと思われる。

・設定者の利益を保護する措置をとることを前提に、簡易迅速に質権を実行できるよう流質契約の有効性を認めるべきである。

・【案13.1】は、新たな規定に係る担保権において、私的実行が認められたことの均衡から、質権において流質契約を認める方向の提案である。

 動産質権に関しては、民法上、流質契約が否定される一方で(民法第349条)、商法上は、商行為によって生じた債権については流質契約が認められることとなっており(商法第515条)、その様な取扱いで一応の実務上の安定を見ているところであるが、民法上の全ての場合において、流質契約が無効であるかについては、学説上の議論が存在している。

 新たな規定に係る担保権との平仄をとるとすれば、清算金支払義務を課すことを前提に流質契約を認めることが考えられる。もっとも、現行法の譲渡担保権の場合には通常は設定者が目的物を占有しているのに対して、質権の場合には動産質権者が占有しているため、動産競売以外の方法においては設定者としては清算金請求権を確保する手段がない。また、このような現行法の譲渡担保権と質権との占有形態の違いから、設定者としては、清算金支払と目的物引渡しとの同時履行を確保することもできない。一律に流質契約を否定する【案13.2】とすることまでは必要ないとしても、質権設定者についても少なくとも新たな規定に係る担保権の設定者と同程度にはその利益の確保が担保されるべきであることから、その方策が採られることを前提にするのであれば、【案13.1】には賛成できるが、上記のような質権の特性を踏まえた要件の検討も必要と考える。

【【案13.2】に賛成】

大阪弁、ミロク、経営法友会、静岡司、一弁、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・譲渡担保の場合、通常設定者に占有があり、同時履行や留置権(あるいは簡易な引渡し手続に対する清算金見積額の供託)によって清算金の支払を確保できる。一方質権は占有が質権者にあり、設定者に清算金確保の手段がない。動産譲渡担保と同様に考えることはできないし、設定者保護の観点から流質を認める必要はない。

・質物は動産質権者が占有しているので、一般に設定者が目的物を占有している譲渡担保と同様に考えることはできないので、設定者が清算金を確保する手段がない。そこで、流質については有効性を否定する現行法を維持すべきと考える。

・【案13.2】によっても、事業会社間では商法515条が適用され、流質契約の有効性が認められているので、民法349条を維持しても特段問題ない。

・流質契約の有効性を認めることは、いわゆる偽装質屋などの質屋営業法の適用のない質権者が債務者の経済的な困窮に付け入って暴利を貪ることに法的な保護を与えかねないおそれがある。また、法改正後の新たな制度は主に事業者が利用することが想定されているところ、事業者が動産を質入れして貸付けを受ける場合には、民法第349条ではなく商法第515条が適用されると考えられる。したがって、新たな規定に係る担保権の私的実行の規律を整備するからといって、民法第349条の規律を見直す必要性が当然に導かれるものではないと考える。

・一般的には、与信を行う債権者の立場は、債務者に比べて強いことが多い。そうすると、債権者による融資後に債権者が流質契約を求めれば、債務者は、それを断りにくい立場に置かれることがほとんどである。また、暴利性の有無等の法的評価も短期間では行い得ないため、違法・不当な流質契約によって一旦目的物が第三者に流出してしまうと、それを取り戻すことは、実際にはかなり難しい。

 更に、動産質は、譲渡担保と異なり、担保の目的物が債権者の手元にあるため、債務者の側で目的物の客観的な価値を把握する手段がほぼ無く、流質契約後に清算金額その他清算の在り方の妥当性を判断することは、上記同様、実際には困難である。

 そもそも、流質契約を業として行う今の質屋営業自体、高利・過剰与信の問題をはらんでいるばかりでなく、消費者向け動産取引サイト・アプリの隆盛に端緒を発するフランチャイズ契約等の横行によって、業界自体が過当競争・不当な動産取引の温床となりつつある。このような状況下で流質契約を一般的に有効とした場合、譲渡担保権の私的実行の煩雑さを避けるための脱法手段として動産質権が用いられる危険もあり、【案13.1】によって社会的病理現象が拡大する懸念が拭えない。

 以上のことから、少なくとも動産質においては、現状以上に裁判所を介さない形での実行を認める理由がないと考えられるので、【案13.2】とすべきである。

・動産質において流質契約の有効性を認めるとした場合には、動産譲渡担保権の実行におけるのと同様、動産質権者による設定者への清算金の支払が確実に行われるようにするための施策を講じなければならない。今般の立法において動産譲渡担保権の私的実行の手続が規定されるのであれば、私的実行を企図した動産担保については、動産譲渡担保権を用いるべきこととし、動産質については、動産競売その他、裁判所がすすめる手続で実行される担保として位置づけておくのがよいように思われる。

・流質にせよ、仮登記担保法制定以前の所有権移転仮登記を用いた不動産譲渡担保にせよ、問題は暴利行為に及ぶことが容易な点にある。過去の仮登記担保法の制定の経緯を踏まえれば、安易な帰属清算方式の増殖は避けるべきと考える。清算金の支払を定めた上での帰属清算方式は、その財産価値の正しい見積が可能な場合に限って承認すべきである(例、債権者が、その物を業として取り扱い、適正価格を算定する技量を持っている等(ディーラー、営業質屋等))。

【その他の意見】

・質屋営業法においても流質契約が認められているが(同法第1条第1項)、これは商慣習を立法化したものとされている。民法第349条を動産質権について流質契約の有効性を認める方向で改正するのであれば、質屋営業法についても併せて改正することが考えられる。これについては、質屋営業法の立法趣旨や同法に基づく流質契約が認められることの弊害の有無等を踏まえて、検討することが必要と考える。(東弁)

第14所有権留保売買による留保所有権の実行

 所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、前記第8、3及び4の帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに前記第12の民事執行法の規定に基づく競売を認めるものとする。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、静岡司、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・動産譲渡担保権の実行と同様の規律とすることにより、ルールを明確化する方向をすることが望ましいといえる。なお、留保所有権が実質的には担保権であることを捉えると、留保所有権の実行には解除は不要であると解するべきである。

・所有権留保も譲渡担保と同様の性質を持つものであり、その実行方法も、新たな規定にかかわる動産担保権の実行方法と同様の規律を及ぼすべきである。

・現行法における所有権留保の実行については、被担保債権が債務不履行になった場合5 に、所有権留保売主は留保所有権に基づいて目的物を引き揚げ、換価するなどして、その被担保債権に充当することが予定されている。これを新たな規定に係る動産担保権の実行と同様の規律を適用するものとして整備し、明文化することは、所有権留保売買契約の当事者に資するものと考える。

・所有権留保売買についても、第14記載の実行方法を認めることが適当である。

・本提案を採用する場合には、目的物の評価及び清算金が発生しない旨の通知を要する点が現在の実務よりも実行手続として重たくなるのではないかとの指摘がされているところ、所有権留保売主にとって自ら売却した目的物を評価することがそれほど難しいこととは思われず、また、当該評価や清算金がない旨の通知は実行通知に追記するだけで足りることからすれば、現在の実務がそれほど重くなるものとは考えにくく、その他の特段の指摘がなされていない。また、所有権留保と現行の個別動産譲渡担保については多くの学説がパラレルにとらえているとされ、判例も、倒産手続下においては所有権留保と現行の個別動産譲渡担保をいずれも同様の取扱い(再生手続では別除権付債権、更生手続では更生担保権)としていることを踏まえると、所有権留保について、あえて別異の規定を置くことなく、新たな規定に係る担保権の実行方法と平仄をとるとする本提案に賛成する。

・留保所有権の実行の在り方として、第8の3及び同4の帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに第12の民事執行法の規定に基づく競売を認めることには、動産担保権の実行と同種のものであるので、実務上も相当である。もっとも、売買契約の解除と留保所有権の実行を異なる制度として併存する場合において、実行に伴う各種制約を回避するために売買契約の解除権の行使に及んだときは、設定者の保護に欠けるおそれがある。

 留保所有権の実行に係る各種制約の脱法手段として売買契約の解除が利用されるときは、将来的に、清算義務等、動産担保権の実行に係る規律を適用することも検討すべきである。

条件付賛成

・所有権留保の売主が売買契約を解除することは、留保所有権の実行の意味をもつものであり、解除と実行のいずれの方法を選択するかによって、清算金の支払の要否等に差異が生じることになるのは、妥当とはいえない。所有権留保という担保手段を用いることとした以上は、不履行時に売主が解除の方法を選択したとしても、目的物の評価額が被担保債権額を上回るときは清算金の支払を免れられないものとする等々、動産担保権における実行手続と同様の扱いがされるべきことを、明文をもって示すことが必要であると考える。

【その他の意見】

・売買契約の解除による目的物の取戻しは所有権留保の実行とは異なるものであり、新たな規定に係る担保権に関する規律が妥当しないことには留意が必要である。(全倒ネット、担保研)

・在庫の所有権留保の場合、帰属清算のイメージだが、それ以外の方法もありとするのか。(個人)

・狭義の所有権留保については、処分清算方式及び動産競売のみを承認すれば足りる。帰属清算は、物の売主にとって利がない。拡大された所有権留保については、帰属清算方式、処分清算方式及び動産競売の選択を許すのは妥当と考える。(個人)

第15債権譲渡担保権の実行

1債権譲渡担保権者による債権の取立て

債権譲渡担保権者は、その目的である債権を直接に取り立てることができるものとする。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・実務上、債権譲渡担保においては、担保権者が直接取立てをすることが前提であることから、法制度としても直接取立てを認める必要がある。債権譲渡担保では、担保権者に債権が移転していることから、直接取立てを認めることに問題はない。

・現行実務どおりである。

・債権質と債権譲渡担保は、基本的にパラレルな規制とすべきである。

・現行法上も譲渡担保権者が第三債務者から取立てをすることは行われており、これと異なる扱いとする必要はない。

・債権について、直接の取立てを行うことは簡易かつ効果的な実行手段であり、形式上、債権を担保権者に譲渡するという債権譲渡担保の性質にも適合するものであるため、直接の取立てを認めることが望ましい。

・債権譲渡担保も目的が担保である以上、また、第三債務者に無用な混乱を来させないためにも、同様の機能を果たす債権質との相違は可能な限り縮減させるべきものと考える。もっとも、債権譲渡担保について債権執行による実行を認めることには課題も多く、こうした点も含めて完全に債権質と債権譲渡担保とを同一の規律にできるのかは、慎重な検討を要するものと考える。

2債権質権者及び債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否

⑴債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.1.1】

ア 債権譲渡担保権者が実行をしようとするときは、被担保債権について不履行があった日以後に、設定者に対し、担保権の実行をする旨及び被担保債権の額を通知しなければならないものとする。

イ 上記アの通知が設定者に到達した時から1週間が経過したときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする(注)。

(注)1週間の猶予期間を設けず、債権譲渡担保権者はアの通知が到達した時にその目的である債権の取立権限を取得するものとする考え方がある。

【案15.2.1.2】

 被担保債権について不履行があったときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする。

⑵債権質権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.2.1】上記⑴について【案15.2.1.1】を採用する場合には、これと同様とする。

【案15.2.2.2】上記⑴についていずれの案を採用するかにかかわらず、現在の規律を維持する。

⑴について

【【案15.2.1.1】に賛成】

ミロク、担保研、日司連、研究者有志

・【案8.2.1】に対応しており、また、設定者にとっても受戻しのニーズが存在しそれを保護する必要がある。

・第8の2の動産担保権について実行通知を要するとする【案8.2.1】に賛成したのと同様の理由により、債権譲渡担保権についても通知を要するとする【案15.2.1.1】に賛成する。また、動産譲渡担保権と異なり債権譲渡担保権では、事実上、実行手続が開始した後には、設定者が適切な対応(倒産手続及び担保権実行手続中止命令の申立など)を行う機会を確保することができないことから、1週間の猶予期間を設けるべきである。

・【案15.2.1.1】に賛成する。ただし、一律に1週間ではなく、例えば、相当の期間とする等して一定の要件のもとで幅を持たせることも検討すべきである。

2⑴につき、担保権者・設定者間の利害調整の観点を踏まえ、通知から私的実行までの間には、設定者の利益保護のために一定の期間を設けるべきである。特に、目的債権の額が被担保債権額よりも大きく、かつ、被担保債権の弁済期の到来時に目的債権の弁済期が未到来である場合、設定者に受戻しの最後の機会を与える期間として、一定の期間を置く必要性は高い。無論、倒産手続及び担保権実行手続中止命令等の申立ての機会を確保する必要性もある。もっとも、担保の目的となる債権の種類も千差万別であるので、上記の一定の期間は、一律に1週間とするのではなく、例えば、相当の期間とする等して、目的債権の種類その他の事情を鑑みた一定の要件のもとで幅を持たせるべきである。

・譲渡担保権の目的債権の債務者に対して譲渡担保権者が取立てをすることは、譲渡担保の設定者と目的債権の債務者との従前の関係に変化を生じさせることになる。そうした事態を避けるための対応をすることのできる期間を1週間程度、設定者に与えることは、望ましいことのように思われる。そのため、譲渡担保権者に実行通知をさせ、それが設定者に到達してから1週間は取立てに着手させないとする案に賛成したい。

【【案15.2.1.1】の(注)に賛成】

神奈川弁、淀屋橋・山上有志

・実行の開始時期を明確にするため通知は必要である。さらに猶予期間を設けて、債務者に受戻しを可能にする必要性は低い。

【【案15.2.1.2】に賛成】

全銀協、ABL協、大阪弁、企業法研、経営法友会、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日弁連、個人

・債権譲渡担保権についてもその実行に至るには担保権者、債務者間で相応の協議を経ていることが通常であり、債務不履行の発生後直ぐに担保権を実行するようなことは稀であるといえる。このような実情や補足説明で整理された事情からすれば、実行通知の後1週間の猶予期間を設定するといった措置は必要性に乏しいと考える。

 また、個別債権譲渡担保で債務者対抗要件が具備されたときには、第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限される(第2の2)のであるから、通知から取立てまでに1週間の経過を要するとする意味は乏しいのではないか。

 集合債権譲渡担保の場合についても、第3の4において(注)の規律を適切なものと理解するのであれば、上記の点は集合債権譲渡担保の場合にも妥当するものと考える。

以上から、【案15.2.1.2】が妥当と考える。また、もし仮に実行通知は必要となった場合であっても1週間の猶予期間を設けない【案15.2.1.1】の(注)の考え方を支持する。

・被担保債権について不履行があったときは、設定者に対する実行通知の到達や1週間の経過などは要せず、直ちに担保実行が可能であるとの規律を採用すべきものであり、【案15.2.1.2】を支持する。

債権譲渡担保においては、さらに、次の事情を加えることができる。

すなわち、現在の確立した実務においては、債権譲渡担保を実行する場合、第三債務者にまず通知を送付するのであり、担保設定者にまず通知した上で第三債務者に通知するという方法は行われていない。

 これは、担保設定者に先に通知してしまうと、担保実行の密行性が害され、事実上、担保設定者による回収や処分が行われてしまい、担保実行の実を挙げることができなくなるという事情によるものである。他の制度に目を転じてみても、現行の債権質の制度は、債務者の債務不履行により直ちに質権者が質権の目的である債権を直接に取り立てることができるものと解されており(民法366条1項)、これと債権譲渡担保との平仄を維持する必要がある。

 また、たとえば債権の仮差押えや差押えの局面においては、裁判所は、まず第三債務者に対して、仮差押命令や差押命令を送達し、その送達の時点で仮差押えや差押えの効力を生じさせた上で(民事保全法50条5項、民事執行法145条4項)、その後に債務者に命令を送達する実務が行われているが、これも、密行性の要請に鑑みて、債務者ではなく、まずは第三債務者に対して先に通知するわけであり、これが確立した実務である。

 密行性を要する事情は、債権仮差押え、債権差押え、債権譲渡担保、債権質のいずれにも共通するものであり、これらを整合的な制度として保っておく必要がある。

【案15.2.1.1】は、設定者に対する担保実行通知の到達から1週間を経過した後でなければ第三債務者に対する直接の取立てができないものとする規律であるが、これは、当該1週間の経過を要する点で適切でないのみならず、そもそも設定者に対する実行通知を必要とする点で、以上に述べたような現行実務との間で、きわめて大きな乖離が生じてしまう。したがって、【案15.2.1.2】が維持される必要が非常に高いものである。

・⑴について、債務者(設定者)は、既に債務不履行の状態であることから、さらに受戻しの機会を設けるために実行通知を要件とする必要はない。

 実務上は、既に債務不履行になっていたとしても、受戻しの可能性を踏まえて実行時期が判断されているので、実行通知を要件としなくても、不合理な結果になる可能性は低い。

 担保権者による実行を設定者が全く認識できない事態を避けることが望ましいことから、担保権者の設定者に対する情報提供義務として、実行通知を要するとするべきである。【案15.2.1.2】の(注)については、実行通知が到達した時点で初めて取立権限を有20 すると解する点で、賛成できない。

・動産譲渡担保につき通知を必要とする【案8.2.1】に賛成したが、債権譲渡担保では通知を不要とする【案15.2.1.2】に賛成する。そして債権質についても【案15.2.1.2】に従った規制にすべきと考える。

目的物の評価の問題が生じない債権譲渡担保・債権質の実行については、転付命令制度(民事執行法159条)との均衡からしても、迅速さが要求されるべきであり、動産譲渡担保の場合とパラレルに考える必要はない。

・【案15.2.1.2】に賛成する。なお、仮に【案15.2.1.1】とする場合、通知到達時から取立て・私的実行までの1週間の猶予期間を設けるべきでない。

 被担保債権について不履行があったとき、債権譲渡担保権者にすみやかに債権を取り30 立てる権限を認めなければ、債権譲渡担保が実務で活用しにくくなる。また、通知から取立て・私的実行までに1週間の猶予期間を設ければ、1週間以内に担保債権の満期が到来する場合は、取立て・私的実行ができなくなる。

 さらに、債務者または設定者の担保債権の受戻しの機会の確保という点では、被担保債務の不履行があるときは、担保権者が弁済の督促(または弁済に向けた協議)時に担保権の実行を予告することにより、債務者兼設定者に受戻しの機会を与えられ、債務者と設定者が異なる場合は、設定者に債務不履行の旨を通知し担保権実行の予告を行えば受戻しの機会を与えられ、1週間の猶予期間は不要としても不都合はない。

・受戻権を認める必要はなく、また、第三債務者の弁済が無効となる事態が発生し得るから、【案15.2.1.1】は適切ではない。

・債権譲渡担保権者が実行をしようとするときに、設定者に対して担保権の実行をする旨の通知等を必要とし、さらに1週間経過を必要とすると、第三債務者が支払をしてよいか判別できないという事態に陥るおそれがある。端的に、直接取立てをしてよいと考5 えるべきである。

・担保権設定者の受戻権は、尊重されるべきものであるが、担保権設定者による受戻しの期待を保護するために、どの程度の期間、実行を待つべきであるかに関しては、担保権設定者の資力、事業継続の可能性、担保権者との関係性、財産の隠匿の危険性等の事情に応じて個別具体的に定まるものであり、1週間という猶予期間を一律に設けることは適切でない。また、第三債務者の立場からも、1週間の猶予期間の間に担保権者に対して行った弁済が原則として無効となるなど、不測の損害を被る恐れが生じる。

したがって、特段の猶予期間を設けないとする【案15.2.1.2】が適切である。また、1週間の猶予期間を設けないことを前提とした場合には、譲渡担保の実行通知を取立権の実行の際に、実行の通知と分けて別途要求する実益はないため(注)にも反対する。

・【案15.2.1.1】を採用した場合、設定者によっては、アの通知を受けた時点で取り立てることが考えられる。また、第三債務者は設定者にいつ通知されたか分からないから担保権者の言葉に従って、1週間を経過しないうちに支払うことが起こりえる。その場合、権限のない者への支払いとなり、設定者に二重払いしなければならないことも起こりうる。これを避けるために第三債務者は設定者に確認するなど調査をしなければならず、第三債務者に余計な負担をかけることとなる。

【案15.2.1.1】をとる理由は、受戻しの機会を設定者に与えるためと思われるが、金銭債権の場合、受戻しにも同額の金銭の準備が必要であり、受け戻しても取り立てても設定者に大きな差はない。最も金銭債権以外の債権の場合には、差が生ずるが、その場合について特例を設けることでよい。

・実行通知したら即取立可とする。(1週間の猶予を置かない。債権の直接回収は時間との勝負である。回収期日間近であるなど、サイトが短い債権の場合は、時間的余裕はない、又、第三債務者にとっても早めに通知を受けたほうが手続しやすい。)

【その他の意見】

・債権については、設定者へ目的債権を受け戻すための機会等を与える意義に乏しい(金銭債権には個性がないため、受戻しを実現することで設定者が得られる利益が比較的小さい)ものと考えられる。

 また、現在の金融機関の実務(債務不履行後、直ちに担保権を実行するのではなく、事業継続の可能性等を十分に協議することが一般的)を踏まえても、【案15.2.1.2】又は35 【案15.2.1.1】(注)の考え方を採ることが望ましい。(地銀協)

・債権流動化のスキームの中には、被担保債権の債務不履行に関係なく、債権譲受人が取立を行い、担保権設定者の取立事務の負担軽減を行い、合わせて、取立委任された債権額の範囲内で融資も行うというものもある。このようなケースでは、債権譲受人が取立を行うのは「不履行があった場合」に限るべきではなく、中間試案の案はいずれも不適当である。取立てを誰が行うかは、様々なスキームがあり、そういったことは契約自由の原則で、当事者が決めれば良く、法定すべきものではない。(個人)

⑵について

【【案15.2.2.1】に賛成】

神奈川弁、ミロク、札幌弁、担保研、日司連、淀屋橋・山上有志、研究者有志

・債権質に関しても、債権譲渡担保と別異の取扱いとする理由はない。

・債務不履行に至った設定者に対して即時に私的実行を強行するような不誠実な担保権者を想定すると、一定の期間を設ける必要があると考えられるから、債権質についても、同様に一定の期間を設けるべきである。

【【案15.2.2.2】に賛成】

ABL協、大阪弁、企業法研、東弁、日弁連、個人15

・債権質についても、債権譲渡担保と同様に、【案15.2.2.2】による必要がある。

・債権質の実行にあたっては、実行通知は不要であると解されている。

【その他の意見】

・仮に【案15.2.1.1】を採用したとするならば【案15.2.2.1】を採用すべきである。(一弁、日弁連)

3債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲

⑴債権譲渡担保権者は、債権譲渡担保権の目的が金銭債権であるときは、その全額を取り立てることができるものとする。

⑵民法第366条第2項を改め、債権質権者についても、質権の目的が金銭債権である場合には、その全額を取り立てることができるものとする。

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・第三債務者は、被担保債権の額を正確に把握することは困難であるから、担保権者が被担保債権額の範囲内のみの直接取立てしかできないとすると、第三債務者が実際の被担保債権の額よりも多い金額を支払ってしまう事態が生じうる。この場合、第三債務者は、民法478条によって保護される場合もあるが、例えば、過失がある等して保護されない場合も生じうる。そこで、第三債務者保護の見地から、担保権者に担保債権全額の取り立てを認めるべきである。

担保権者が、一つの被担保債権の担保のために複数の債権について譲渡担保を設定している場合、被担保債権額の範囲内のみの直接取立てしかできないとすると、担保権者は複数の担保目的債権のうち、どの債権をいくら取り立てることが可能か分からなくなる。

担保権者に全額取立てを認めたとしても、担保権者が設定者に対する清算義務を負うのであれば、問題はない。

・第三債務者に被担保債権の額を把握する負担や二重払いのリスクを負わせるべきではない。

・第三債務者からすれば債権はすべて移転しており、全額を弁済すれば債務は免れると考えているのが通常であるし、被担保債権額も把握していないため(できないため)、二重払いの危険性がある。

・第三債務者の負担軽減のため。

・賛成する。ただし、集合債権譲渡担保との関係で留意すべき点がある。

 担保権者が取り立てできるのは、被担保債権の額の限度に限るとすると、第三債務者としては、被担保債権額を調査し、被担保債権額が債務額より少額の場合は、一部は担保権者に、残部は設定者に支払わなければならない。間違って、担保権者に多く支払った場合は、設定者から二重に支払いを求められることとなる。

 担保権者と設定者の間に被担保債権の額について争いがある場合、供託せざるを得なくなる。被担保債権額の調査は第三債務者にとって、余計な負担となる。被担保債権額が確定しても手払いしている第三債務者であれば分割支払いも面倒でないが、多くの取引先から仕入れし、コンピュータで口座管理し、ネットバンキングで支払いしているような第三債務者にとっては、分割払いは、余計な労力を必要とすることとなる(最も担保権者に支払うこと自体が余計な労力となる。)。

譲渡担保実行時には、設定者は危機的状態であるからこれに全額支払うことは考えられない。第三債務者に分割払いを求めるのは第三債務者の負担となる。そうすると担保権者に全額払うこととなる。被担保債権が担保債権より少額の場合、設定者からすると、第三債務者の支払い能力についての危険から担保権者の支払い能力の危険に危険が変わったこととなるがやむを得ないであろう。

 ただ、債権譲渡があった場合(真正譲渡か担保譲渡か第三債務者に分からないので真正譲渡も区別しないで)、譲り受け債権者は第三債務者に供託を請求できるだけと民法の債権譲渡制度を変更すると取り立て権限の範囲は考える必要がない。ただ、第三債務者が任意に支払わない場合、強制執行をどうするかが問題として残る。(もっとも三者が合意した場合は、譲受人が取り立てでき、第三債務者は譲受人に支払わなければならない。)。しかし、このような制度設計は困難なので、担保権者が全額取り立てできるとすべきである。

 ただし、集合債権譲渡担保の場合に、例えば、被担保債権が50万円であり、担保実行時に、担保目的債権として1本1万円の債権が100本あり、それらについて実行した場合(つまり設定者の取立権限を喪失させた場合)、たとえ100本のうち50本を回収し被担保債権全額回収完了した後も、残りの50本についてもいつまでも担保権者に取立権限があるとすると、後に担保権者が倒産した場合、設定者が担保権者から回収できなくなる可能性がある。

 そこで、集合債権譲渡担保の場合、被担保債権全額回収完了後には、残った債権について、可及的速やかに、再度設定者への債権譲渡につき第三者及び債務者対抗要件を具備させることを定めることが合理的と思われる。

・債権譲渡担保権の目的が金銭債権であるときに、債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲を限定すると第三債務者が不安定な地位に立たされるおそれがある。端的に、債権譲渡担保権の目的が金銭債権であるときは、その全額を取り立てることができるものと考えるべきである。1

・第三債務者に被担保債権額を確定させる負担を負わせるのは酷であるから、担保権者が全額を取り立てることができるとすることが合理的である。

・第三債務者の二重払いの危険を排除してその保護に資するものであり、妥当である。

・担保権者が取り立てできるのは、被担保債権の額の限度に限るとすると、第三債務者としては、被担保債権額を調査し、被担保債権額が債務額より少額の場合は、一部は担保権者に、残部は設定者に支払わなければならない。

 間違って、担保権者に多く支払った場合は、設定者から二重に支払いを求められることとなる。担保権者と設定者の間に被担保債権の額について争いがある場合、供託せざるを得なくなる。被担保債権額の調査は第三債務者にとって、余計な負担となる。被担保債権額が確定しても手払いしている第三債務者であれば分割支払いも面倒でないが、多くの取引先から仕入れし、コンピュータで口座を管理し、ネットバンキングで支払いをしているような第三債務者にとっては、分割払いは、余計な労力を必要とすることとなる(担保権者に支払うこと自体が余計な労力となる。)。

・補足説明にも示されているように、第三債務者としては被担保債権額を把握することに難が伴う以上、債権譲渡担保権者に目的債権の全額の取立権限を認めた上で、被担保債権額を超えた部分については設定者に対する清算によって対処するのがよい。

・債権譲渡担保権者の場合、債権全額が譲渡された場合は、債権全額の取り立てができるとすべきである。

【反対】

・債権譲渡担保権者が債権の全額を取り立てることができるとすることは、担保権者の無資力リスク、担保権者による財産隠匿の危険を担保権設定者が負うこととなり、担保権設定者の利益を害する。また、債権譲渡担保権はあくまで被担保債権の保全を目的として、対象債権を担保権者に帰属させる権利であり、被担保債権の範囲を超えて、譲渡担保権者に全額の取立てを認める必要はない上に、後順位の担保権が設定されている場合であっても、第1順位の担保権者と後順位の担保権者に協力関係があるときは、後順位の担保権者が第1順位の担保権者に取立委任をして、第1順位の担保権者が被担保債権相当額の全額を取り立てた上で、各順位の担保権者に分配することが可能であるため、担保権者に全額の取立権が認められないとしても、担保権者に過大な負担を課すものではない。

 また、民法上の他の制度との比較の観点からも、譲渡担保権と同様に債権者が債権の直接の取立てを行うことのできる債権者代位権(民法第423条)においては、被保全債権の範囲での行使が許容されている。

 したがって、譲渡担保権者による被担保債権を超えた全額の債権回収を認めるべきではない。(東弁)

【その他の意見】

・簡易な制度設計という観点から、中間試案の立場に賛成する立場がある一方、慎重な意見もあり、統一した意見を出すまでに至らなかった。(企業法研)

・自らの債務につき複数の債権譲渡担保権が設定され、担保権の実行が通知された場合、第三債務者は、第一順位の担保権者にのみ債務の全額を支払えば、債務を履行したことになるという理解でよいか確認したい(後順位担保権者との清算は第一順位の担保権者が行い、第三債務者は関与しないという理解でよいか)。また、第三債務者は、民法466条の2に従い弁済供託も選択できるという理解でよいか確認したい。

 第三債務者は、二重払いや債務不履行のリスクを回避したいと考えるのが通常である。また、複数の債権譲渡担保権が設定されたとき、第三債務者は、各担保権者の被担保債権額を正確に知りえず、各担保権者に被担保債権額どおりに適切に弁済できない。(経営法友会)

・第三債務者の保護のため、譲渡担保権者の順位の判断が困難であることを理由とする供託を認める旨の規定を設けるべきである。

 譲渡担保権者による被担保債権を超えた全額の債権回収を認めない見解には、第三債務者が担保権者の順位や債権額を判断することは困難であり、供託手続も負担となるため、かかる第三債務者保護の観点からすると、担保権者に全額取立を認め、第三債務者が全額を弁済できるようにすることで、複雑な法律関係から早期に離脱しうることとし、担保権者の債権額を超えて回収した分については、別途設定者及び担保権者間で精算処理を行うものとすべきであるとする批判が考えられるところである。そこでかかる批判を踏まえて、第三債務者を保護するために、担保権者の順位の判断が困難であることを理由とする供託を認める旨の規定を設けるべきである。(東弁)

・集合債権譲渡担保の場合、担保権者は、被担保債権全額の回収完了後、可及的速やかに設定者の取立権限の復活(債権譲渡)につき第三者及び債務者対抗要件を具備させなければならない旨の規定を設けるべきである。

集合債権譲渡担保の場合に、担保権者が被担保債権全額の回収を完了した後も担保権者に取立権限があるという外観を残しておくと設定者が担保権者からの回収リスクを負うことになってしまうことから、担保権者は、被担保債権全額の回収を完了した後には、可及的速やかに設定者の取立権限の復活(債権譲渡)につき第三者及び債務者対抗要件を具備させなければならない旨の規定を設けることが合理的と思われる。(担保研)

・3⑴及び⑵に関連して、取立てをする担保権者が第三債務者から支払を受ける額の制限(民事執行法第155条第1項ただし書き参照)、第三債務者がした支払の限度で弁済したものとみなす旨の規定(民事執行法第155条第3項参照)、いわゆる権利供託・義務供託に係る規定(民事執行法第156条第1項・同条第2項参照)等、債権者の取立てに応じた第三債務者の保護規定に関する規律の整備をすべきである。また、同様の規律を債権質にも整備すべきである。

及びに関連して、第三債務者の立場では、被担保債権の額のみならず、その詳細を把握することも困難である。そのため、当該困難な事情のもとで担保権者の取立てに応じて弁済をした場合には、民法第478条によって保護されず、二重払いを強いられる危険がある。

 そうすると、第三債務者の保護の観点からすれば、上記1の規律のみではその保護として不十分であり、取立てをする担保権者が第三債務者から支払を受ける額の制限(民事執行法第155条第1項ただし書参照)、第三債務者がした支払の限度で弁済したものとみなす旨の規定(民事執行法第155条第3項参照)、いわゆる権利供託・義務供託に係る規定(民事執行法第156条第1項・同条第2項参照)等、債権者の取立てに応じた第三債務者の保護規定に関する規律を整備すべきである。

同様の問題は、債権質においても生じ得るので、上記と同様の規律を整備すべきである。(日司連)

・後順位の債権譲渡担保権が設定された場合についても、先順位の債権譲渡担保権者は目的債権の全額を取り立てることができるものとする案に賛成する。

 後順位の譲渡担保権が設定された場合についても、補足説明に示されているとおり、第三債務者に不利益を生じさせることのないよう、先順位の担保権者が全額の取立てを20 できるものとしつつ、設定者の先順位担保権者に対する清算金請求権につき、後順位の担保権者が物上代位権を行使する方法によることが妥当と解される。(研究者有志)

⑵について

【賛成】

神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・第三債務者に被担保債権額を把握する負担や二重払いのリスクを負わせるべきではない。

・債権譲渡担保と権利質で取扱いを異にする必要はない。

【反対】

大阪弁、東弁、個人

・債権譲渡担保とは別に債権質を認めるのであれば、同じ規律にする必要はない。

・質権者については、債権譲渡担保権者とは事情が異なる。質権者にとって「自己が権利を有する部分」は「自己の債権額に対応する部分」(民法366条2項)であり、それ以外の部分は実質的にも形式的にも質権者に権利はなく、質権設定者の持分であるため、可分債権である金銭債権は「分割された債権」となり、質権者は「自己の債権額に対応する部分」のみ履行を請求でき、質権設定者はそれ以外の部分のみ履行を請求でき、バラバラに取り立てなければならない。

4債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、債権譲渡担保権者が請求することができる内容

⑴債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、債権譲渡担保権者が請求することができる内容については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.1.1】債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が到来したときは、債権譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期が到来する前であっても、目的債権を直接に取り立てることができるものとする(注)。

【案15.4.1.2】債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は、対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるものとする(注)。

⑵債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、債権質権者が請求することができる内容については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.2.1】上記⑴について【案15.4.1.1】を採用する場合には、民法第366条第3項20を改め、これと同様とする。

【案15.4.2.2】上記⑴について【案15.4.1.2】を採用する場合には、民法第366条第3項を改め、これと同様とする。

(注)第三債務者が債権譲渡担保権者に対して弁済した場合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き検討する。

⑴について

【【案15.4.1.1】に賛成】

全銀協、研究者有志、個人

・供託を前提とした制度設計は第三債務者に供託を行う負担を生じさせることとなるが、債権譲渡担保に関する負担やリスクは担保権者と設定者との間で分配・整理するべきであって第三債務者に負担をかける仕組みは望ましくないと考えられることから、【案15.4.1.1】を採用するべきと考える。

・債権譲渡担保が担保目的であることを踏まえれば、【案15.4.1.2】のように、債権質と同様、供託請求のみを認めるのが本来ではある。しかし、第三債務者が債権譲渡担保権者に弁済をしてしまう事態は生じうるのであって、その場合に債権譲渡担保権者が取り立てた金銭をどのように処遇するかは問題になる。供託請求のみを認めるとしたところで、債権譲渡担保権者が取り立てる可能性を排除できないとすれば、【案15.4.1.1】のとおり、はじめから債権譲渡担保権者の取立てを認めつつ、ただちに被担保債権へ充当することはできないという形で制度をたてたほうがよいように思われる。

・(どのようなケースを想定しているか確認は必要と考えるが)【15.4.1.1】弁済期前でも取立可とする。現状でもそのような回収を前提としているスキームは多い。例えば、もともと、紐付き回収スキームであるが、金銭債権の回収遅延時への対応や事務的な時間も考え、被担保債権の弁済期を一定期間後に設定しているケースがある。

 債権については、真正譲渡であっても担保目的であっても、また、債権と被担保債権の弁済期にはよらず直接回収ができ、それを回収委任するのは、案件の建付け(当事者の合意)によるものと考える。なお、【15.4.1.2】の供託させるようなスキームは、第三債務者にかなりの手続(迷惑)かかり、非現実的。

【【案15.4.1.2】に賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、札幌弁、一弁、東弁、日司連、日弁連

・1【案15.4.1.2】に賛成する理由

 担保という性質から、被担保債権の弁済期が到来していない段階では実行できないことを原則とすべきである。また、現行法上債権質について供託請求のみが認められているところ、この方法によれば担保権者に不利益を与えずに担保権の効力を維持することができる以上、債権を目的とする譲渡担保においても同様の規律を設ければ足りる。

 第三債務者との関係では、担保権者が真の債権者であると信じ、又は、被担保債権の弁済期が既に到来していて担保権者に取立権があると信じて、担保権者に弁済してしまう場合も想定しうるところ、第三債務者は担保権者と設定者との法律関係という無関係の事情に巻き込まれた立場にあることからすると、その主観的事情の主張立証を要せずに第三債務者を保護すべきと考えられる。

 そのため、第三債務者が、債務者対抗要件を具備する譲渡担保権者に目的債権を弁済した場合には、この弁済をもって設定者に対抗することができるとすることに支障はない。

2 【案15.4.1.1】に反対する理由

上記【案15.4.1.2】との違いは、①原則として供託させられるにすぎないか、②第三債務者が、債務者対抗要件を具備していない担保権者への直接弁済を認めるか、という点にあると考えられる。

【案15.4.1.1】のように原則として直接の取立てを認めることは、担保としての性質から逸脱し、理論的な説明が困難である。

 債権譲渡担保の目的債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、担保の目的物が滅失することを根拠として、担保権者が取り立てた金銭を弁済期到来前の被担保債権に充当することまで認めることは、担保の性質からの逸脱が大きいといえる。

 仮に第三債務者が担保権者に対して弁済した場合に、担保権の実効性確保の方策を検討したところで、担保権者にその金銭管理を委ねることになれば、相殺による事実上の優先弁済効を認める結果を招きうる。そうすれば、担保権者の保護に厚くなりすぎる。そもそも債務者対抗要件を具備しておらず、被担保債権の弁済期未到来の担保権者に対してまで直接の弁済を認める必要性はないと考えられる。

3 集合債権譲渡担保の場合

 集合債権譲渡担保が設定された場合、この規律の適用をどう考えるか。たとえば設定者が通常の営業の範囲で第三債務者から継続して支払いを受けていたが、目的債権の弁済期が到来した場合に、被担保債権の弁済期が到来していないにもかかわらず、譲渡担保権者による直接取立てまたは供託請求ができるとしてよいか、といった問題がある。

 集合債権を目的とする担保権は、①担保権者への債権譲渡がされた旨の第三債務者への通知を留保しておき、実行段階で通知をする類型(実行着手までは第三債務者に対する債務者対抗要件を具備しない/債務者対抗要件実行時具備型)と、②譲渡担保権設定契約と同時に、債権譲渡がされた旨の通知を行った上で、その取立権限を設定者に付与する類型(担保設定段階で第三債務者に対する債務者対抗要件を具備する。/債務者対抗要件先行具備型。なお、この場合には設定時に債権譲渡の通知とともに取立委任の通知をしておく。)があると考えられる。

  • この場合には、第三債務者は、設定者を債権者として認識している(担保権者を債権者として認識していない)以上、設定者による目的債権の取立てに応じるしかない。担保権者として、被担保債権の債務不履行後、第三債務者への通知によって債務者対抗要件を具備することによってはじめて、第三債務者は担保権者の存在を認識するに至り、また設定者は取立権を失って、担保権者が目的債権の取立権を有することになる。

②の場合には、第三債務者は、担保権者を債権者として認識しつつ、担保権者の設定者への取立権限付与を理由に、設定者による目的債権の取立てに応じることとなる。担保権者は、被担保債権の債務不履行後、設定者に対する取立委任を解除することによって、設定者から担保権者に取立権限が移ることとなり、その旨を第三債務者に通知することになる。上記いずれの類型でも、もとより担保権者が目的債権の弁済期の到来を所与の前提として、設定者による取立てを容認している以上、目的債権の弁済期が到来したという理由をもって、債務者対抗要件を具備する、あるいは、設定者への取立委任を解除する、といった事態は想定し難い。

そのため、集合債権譲渡担保の場合にも、特別な規律を設ける必要はない。

・取立て後の金銭を分別管理する仕組みもないので、担保権設定者の期限の利益を喪失させるような制度にはすべきでない。

・債権譲渡担保は担保目的で移転したものであるから、被担保債権について債務不履行が生じていない時点において担保の実行として目的債権を取り立てることはできないから。第三債務者が債権譲渡担保権者に支払ってしまった場合には、債務者対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対して第三債務者が目的債権の弁済をしたときは、この弁済を持って設定者に対抗できるとされており、第三債務者の保護にも欠けるところがない。

・債権譲渡担保権者の債権の弁済期が到来していないにもかかわらず、担保権者がその債権を取り立てることができるとすることは、担保権者に必要以上の保護を与えることとなり、担保権設定者の利益を害する。

・被担保債権の弁済期日よりも前に取立権を認めると、当該弁済期日よりも先に回収をすることができるようになってしまい、期限の利益を認めたことと矛盾してしまう。

・債権譲渡担保においては、担保目的としている債権が被担保債権に先立って、弁済期をむかえ、第三債務者によって、弁済されることにより、消滅してしまうという事態が起こりうる。したがって、被担保債権の弁済期が到来する前であっても、担保目的となっている債権が弁済期をむかえている場合には、何らかの形で、担保目的となっている債権の財産価値を保全しておく必要が存在する。一方で、債権譲渡担保権者の債権の弁済期が到来していないにもかかわらず、担保権者がその債権を取り立てることができるとすることは、担保権者に必要以上の保護を与えることとなり、担保権設定者の利益を害する。

したがって、【案15.4.1.2】に従い、債権譲渡担保権者には、第三債務者に供託を求める権利を認めるべきである。

・【案15.4.1.1】は、被担保債権について債務不履行が生じていないのに、あたかも担保権者による担保実行を許容する規律に読めると共に、第三債務者の立場では、被担保15 債権の詳細を把握することが困難であるため、その困難に乗じた回収に見える点、実務上の違和感が拭えない。

 また、担保実行の一環として誤って被担保債権の弁済期前に金銭を取り立ててその支払いを受けたのであれば、分別管理・充当を論じる以前の話として、担保権者の不当利得の問題にもなり得るところである。例えば、債務者からの返還請求については、民法第706条本文及びただし書きの適用の余地があり、この点においても、実務上の違和感が拭えない。他方、【案15.4.1.2】は、おおむね第三債務者の保護に資するものであり、規律として妥当である。

・担保権者に被担保債権の弁済期日前に取り立て権を認めると結局期日前弁済を強制することとなり、期限の利益を定めたことと矛盾することとなる。

 被担保債権について、それより早く期限を迎える債権に譲渡担保権を設定した場合、契約の解釈として、譲渡担保の目的となった債権の弁済期日を被担保債権の弁済期にしたと解釈し、譲渡担保債権者に取り立てを認めることが考えられる。

 しかし、そのような合意を認定できない場合、譲渡担保権者は債務者に被担保債権の弁済を強要する担保の目的債権の取り立てをできないと解すべきである。しかし、このように解すると、譲渡担保権の設定により、設定者にも取り立て権がないので、第三債務者が、弁済をしないこととなり、第三債務者の資力の悪化の危険を最終的には設定者に負わせることとなる。そこで、譲渡担保権者に第三債務者に対し供託を請求できるようにすべきである。これにより、設定者は第三債務者の資力の悪化の危険を負担しなくてよいこととなる。さらに、第三債務者も設定者、譲渡担保権者ともに取立てできないため、弁済できないことにより債務処理ができない負担から免れることができる。

 他方、第三債務者には、被担保債権の弁済期はわからない。そもそも債権譲渡が真正譲渡か、または担保譲渡のいずれか分からないことがある。譲渡担保権者あるいは、真正債権譲受人が請求してきた場合に、第三債務者としていちいち、真正債権譲渡か譲渡担保か、譲渡担保の場合に被担保債権の期日が来ているかを調査するのは面倒である。従って、第三債務者が譲渡担保権者の言を信じて譲渡担保権者に弁済したときは、保護される必要があり、ただし書の定めも合理的である。その場合、譲渡担保権者が受領した金銭については、さらに検討すべきである。

【その他の意見】

・簡易な制度設計という観点からいずれかの案に賛成する立場がある一方、慎重な意見もあり、統一した意見を出すまでに至らなかった。(企業法研)

・債権譲渡担保権者の場合、実際の債権流動化スキームでは、様々な方法が取られており、取立てた金額を債務者に引き渡すケース、弁済に充当するケース、特別な口座にためておくケースなどがあり、このため、契約自由の原則で、当事者が決めれば良く、法定すべきものではない。(個人)

・【案15.4.1.2】について、「第三債務者は、対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができる」とあるが、担保権者が対抗要件を具備しているのであれば、第三債務者は「設定者に債権がないこと」をもって設定者に抗弁すればよく、「弁済した」「債務を消滅させた」などを、無権利者である設定者に対し主張立証する必要はないと考えられる。(個人)

(注)に関する意見

・(注)について、引き続きの検討に賛成する。第三債務者が、債務者対抗要件を具備した担保権者に弁済した場合において、担保権者が弁済を受けた金銭の処理方法については、①被担保債権の弁済期前に取り立てた金銭を被担保債権に充当することはできない、②担保権者は取り立てた金銭を設定者に返還する義務を負う、③この返還義務の弁済期は、被担保債権の弁済期までは到来しない、④被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができる、といった方法を制度化して規律すべきである。

第15、1について【案15.4.1.2】によるとしても、第三債務者が対抗要件を具備した担保権者に対して譲渡担保の目的である金銭債権を弁済した場合に、担保権者が取り立てた金銭を弁済期到来前の被担保債権に充当できないとすれば、そこでの金銭の処理方法を検討する必要がある。

 この処理方法として、①被担保債権の弁済期前に取り立てた金銭を被担保債権に充当することはできない、②担保権者は取り立てた金銭を設定者に返還する義務を負う、③この返還義務の弁済期は、被担保債権の弁済期まで到来しない、④被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができる、といった規律が考えられる。(大阪弁)

・(注)につき、被担保債権の弁済期前に担保権者が金銭を取り立ててその支払を受けること自体、取引当事者の人的関係を不安定にして債務者や第三債務者に不測の損害を生じさせかねない。よって、当該支払を法的に積極評価しようとすること自体、実務上の違和感が拭えず、妥当ではない。(日司連)

・債権譲渡担保権者が取り立てた金銭を設定者に返還する義務の弁済期を被担保債権の弁済期まで到来しないものとする等とする案に賛成する。取り立てた金銭の処遇に関する(注)記載の問題については、補足意見に示されている「①充当は認めず、②設定者に返還義務を負うものとするが、③その弁済期は被担保債権の弁済期までは到来しない5 ものとし、④被担保債権の弁済期において充当ができるものとする」という案に賛成する。(研究者有志)

⑵について

【【案15.4.2.1】に賛成】

研究者有志、個人

【【案15.4.2.2】に賛成】

神奈川弁、ミロク、札幌弁、東弁、日司連、日弁連

・第三債務者を保護する必要性は、債権質においても変わりはないため債権質において15 も、【案15.4.1.2】と同様の規律を設けるべきであり、【案15.4.2.2】に賛成する。

【その他の意見】

・いずれの案にも反対する。民法366条3項の規律を維持すべきである。債権質については、譲渡担保と異なり、債務者対抗要件の通知において債権質であることが明らかにされれば、少なくとも真正譲渡と誤解するという事態は考え難い。第三債務者としては、弁済義務があるか供託義務があるかに留意して行動することが期待できると考えられる。そこで、第三債務者は、対抗要件を具備した担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるとの規律を設ける必要性はない。

 この点について、「第三債務者は、担保権者が真の債権者であると信じ、又は被担保債権の弁済期が既に到来していて担保権者に取立権があると信じて、担保権者に対する弁済をすることがあり得るところ、この場合の第三債務者の保護を無過失を要求する民法第478条のみに委ねるとすれば第三債務者の保護に欠ける」との指摘がある。しかし、上記のとおり、債権質の性質からすれば、「担保権者が真の債権者と信じる」、または、「担保権者に取立権があると信じる」ということはほとんど想定しえず、仮にあるとしても民法第478条の規律により保護することで足りる。(大阪弁)

・仮に、【案15.4.1.1】を採用したとするならば【案15.4.2.1】を採用すべきである。(神奈川弁、一弁、日弁連)

・質権者の場合は、質権が物権であるため当事者の自由度が低く、画一的に決めなければならない。質権については、現行の366条3項を維持すべきである。また、「補足説明」に、一般の人は質権者と債権譲受人を区別できないかのような記載があるが、そのような事実は聞いたことがない。(個人)

5債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法

 債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合に、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について【譲渡担保権(新たな規定に係る動産担保権)/動産質権】を有するものとする。

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、研究者有志

・債権譲渡担保権について、直接取立てできることについては、金銭債権に限定する必要はないと考えられる。

・債権譲渡担保権の目的債権が金銭債権ではない場合にも、債権譲渡担保権者は、金銭以外の目的物を弁済として受けることができることになるが、債権譲渡担保権の目的は債権であるので、債権譲渡担保権者は、弁済として受領した物について当然に担保権を取得するものではない。

 よって、弁済として受領した物について、その目的物の性質に応じて、譲渡担保権または動産質権を取得すべきであると考えられる。

譲渡担保権(新たな規定に係る動産担保権)を有するものとすることに賛成

・規律を設けることに異論はない。

担保権者が弁済とした受けた物の性質について、動産質権につき、流質に関する規律を設けて処分を認めることにすれば、特に問題ないようにも思われる。しかし、そもそも動産質権につき流質に関する規律を設けるべきかどうかには疑問がある。

一方、「譲渡担保権(新たな規定に係る担保権)」を取得するとした場合には、担保権者に使用収益権原が認められるのかが問題となりうるが、この点については、設定者の使用収益権限を排除して、担保権者が引き続き受領した物を占有することができるとする規定を設けることで対応可能であると考えられる。

・非金銭債権を対象とする譲渡担保権を実行する際には、当該債権について、譲渡担保に関する規律を及ぼすのみでは不十分であり、非金銭債権を取り立てた後に、生じる弁済の目的物についても譲渡担保権の規律を及ぼすことが必要である。

・ 債権質に関する民法366条4項と同趣旨の規定が設けられることに賛成する。弁済を受けた物について有する権利について、案では、「譲渡担保権(新たな規定に係る動産担保権)」と「動産質権」の2つの可能性があるとされている。両者の相違については、非占有型か占有型かというより、私的実行を前提とした担保であるか否かという見地から把握することが重要と解される。そうであるとすれば、ここでの担保権については、設定者の使用収益権限を排除することを前提としたうえで、譲渡担保権として規律するのが適当と思われる。

動産質権を有するものとすることに賛成

・譲渡担保を取得するとした場合は、設定者が使用収益権を有することになるが、弁済として債権譲渡担保権者が一旦受けたものについて設定者が使用収益権を有するというのは現実的でなく、実態に合っている動産質権を有するとすべき。

【反対】

・債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合、その弁済が行われた場合にどうするかは、当然、担保設定契約に取り決められるであろうから、契約自由の原則で、当事者が決めれば良く、法定すべきものではない。債権譲渡担保権の目的が「大豆10トンの給付」である場合でも、被担保債権も「大豆10トンの給付」であれば、譲渡された債権の弁済によって被担保債権の弁済も行われると担保設定契約に取り決めるものであって、給付された「大豆10トン」に動産担保権を設定して、被担保債権である「大豆10トンの給付」の担保とするようなことを法定すべきではない。(個人)

【その他の意見】

・譲渡担保権者が、担保の目的債権の債務者から債権の目的物の弁済として引渡しを受け、その物を動産の譲渡担保の実行と同様に処分できるとすべきである。ただし、目的物の処分に当たってはあらかじめ債務者に通知し、通知が債務者に到達してから1週間を経過したのちでなければ処分することができないとすべきである。

 譲渡担保の実行と同様に、弁済を受けた物を評価し被担保債権の弁済に充てる手段を明確にすることが望ましいと考える。(神奈川弁)

・譲渡担保権者は、弁済として受けた物について、動産譲渡担保権の実行と同様に、帰属清算又は処分清算の方法により処分することができるとすべきである。譲渡担保権者が取得する権利の性質を決定する必要はない。(札幌弁)

・譲渡担保権者が、担保の目的債権の債務者から債権の目的物の弁済として引渡しを受け、その物を動産の譲渡担保の実行と同様に処分できるとすべきである。

 ただし、目的物の処分にあたってはあらかじめ債務者に通知し、通知が債務者に到達してから一定の期間(たとえば1週間)を経過したのちでなければ処分することができないとすべきである。

 債権譲渡担保について、譲渡担保権者に直接取り立てできる権利を認めた場合、特に、金銭債権に限定する必要はない。もっとも、被担保債権が金銭債権であることを前提としているので、担保債権の行使によって物を取得しただけでは意味はなく、これを金銭化し被担保債権に弁済に充当する必要がある。したがって、譲渡担保権者が取り立てた物を処分できることを明確に定めるべきである。取り立てたものに質権が成立するか譲渡担保権が成立するかの法性決定は、条文上は必要がない。

 また、担保債権の目的物の価値が被担保債権の額より大きくても目的物すべてを取り立てできるとすべきである(不可分債権であれば当然であるが、可分債権でも目的物の評価に争いが生ずるので、すべて取立て可能とすべきである。)。供託に不向きなので被担保債権の弁済期前に担保債権の弁済期が到来した場合は、譲渡担保権者は担保債権の目的物の取り立てができるとすべきである。取り立てた物は、金銭化しないと意味がないので、譲渡担保権者に処分権能を認めるべきである。処分したのちは、清算することとなる。

 ところで、目的物は設定者にとってぜひとも必要なことがある。そこで、動産の譲渡担保の実行と同様に、譲渡担保権者は、目的物を処分する前に設定者に通知し、受戻しの機会を与えるべきである(この場合は、目的物を譲渡担保権者が占有しているので通知して受戻しの機会を与えても設定者の隠匿行為等は考えられない。)。理論的には、取り立てた目的物の所有権は譲渡担保権者にあり、譲渡担保権者は処分清算義務を負っていると考える(譲渡担保権者が、売却したときは買主が目的物の所有権を取得する。設定者は、譲渡担保権者に対し受戻しの機会を与えられなかったことによる損害賠償、清算金請求権を有するだけ。)。(日弁連)

6直接の取立て以外の実行方法

⑴債権譲渡担保権者は、目的債権を直接取り立てる方法によるほか、帰属清算方式又は処分清算方式の私的実行をすることができるものとする。

⑵債権譲渡担保権を民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することができるものとするか否かについては、引き続き検討する。

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・特に私的実行を認める方向には賛成するが、それぞれの清算方法について検討する必要がある。

・被担保債権が弁済期未到来の場合などにおいて、債権譲渡担保権の実行の方法として直接取立ての他に帰属清算方式や処分清算方式の実行方法を認めることはニーズがある。

・賛成する。ただ、そこまで認める必要性が乏しいのではという意見があった。

・担保債権の弁済期が被担保債権の弁済期より遅い場合、担保債権の弁済が相当長期にわたる場合(例えば住宅ローンのような35年払いの債権を担保に取った場合)、被担保債権の回収方法として債権を取得する方法も認める必要がある。

・債権譲渡担保権者は、帰属清算又は処分清算方式のいずれの方式でも実行できると考えて差し支えない。

・債権譲渡担保において、直接の取立てのみでなく、帰属清算方式又は処分清算方式という多様な方法が認められると解されてきたことは、対抗要件、効果が類似する債権質と区別して、債権譲渡担保が利用されてきた意義であり、立法により否定すべきではない。

・選択肢を柔軟に認めることが合理的であるが、動産との差異を考慮する必要がある。債権についても帰属清算方式または処分清算方式による私的実行を認める場合、①清算金の支払と引き換えに担保権者が債権を取得する前に担保目的債権の弁済期が到来した場合、担保目的債権の債務者に供託させる必要がないか(債権は、動産と異なり、裁判所が関与しない手続(第三債務者に対する債権譲渡通知)で実行が可能であるため、清算金の支払が担保されていない。)、②①で供託させる必要があるのであれば、その実効性を確保するため、第三債務者に対し、誰が如何なる時点で如何なる通知をすべきか、といった問題があり、その点について考慮した規定を設ける必要がある。

・直接取立ての可否を除けば、動産担保と債権譲渡担保とで、私的実行の方法に相違を設ける必要はないと考えられる。

⑵について

【債権執行によって実行することができるものとする方向で検討することに賛成】

大阪弁、神奈川弁、一弁、日弁連

・仮に後順位債権譲渡担保の設定を可能とした場合には、民事執行法上の債権執行手続が配当手続の整備された手続であるから、劣後担保権者は優先担保権者の同意がなくとも同法上の債権執行手続による実行をすることができるという利点がある。また、動産について新たな規定に係る担保権の競売手続による実行を認めることからも、同法上の債権執行手続による実行を認めるのが整合的である。

この点について、後順位債権譲渡担保が設定された場合において、目的債権は優先債権譲渡担保権者に帰属していると考えるのであれば、やはり劣後債権譲渡担保権者は設定者を執行債務者として目的債権を差し押さえたとしても、いわゆる空振りとなり、執行手続を進行させることはできないとの考えもある。しかし、あくまで目的債権は担保の目的で優先債権譲渡担保権者に帰属するにすぎないとすれば、差押えが空振りになるとする必要性はないと考えられる。

ただし、第三債務者からすれば、真正譲渡と債権譲渡担保を的確に区別することは困難であるため、真正譲渡の場合には債権執行手続が空振りとなる一方、債権譲渡担保の場合には債権執行手続は空振りとならないということになれば、第三債務者の負担を増加させるともいえるが、この点については民事執行法上の執行手続において手当てされるべきである。

・債権譲渡担保権を債権執行によって実行することができるとするか引き続き検討する点についても異論はないが、民事執行法第193条の規定によって実行することを否定する必要はない。

・債権譲渡担保権を民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することを許容する方向で、引き続き検討することに賛成する。

・現実に使われる場面があまりないと考えるが、民事執行法第193条の規定によって実行することができるものとすることに賛成する。

【その他の意見】

・第三債務者に酷な結論が生じうるのではないかとの懸念が示された。(企業法研)

・第三債務者が目的債権の差押えに的確に対応することは困難であり、第三債務者の保護に欠ける事態が生じることが懸念されるため、取立てに応じるべき範囲や供託の根拠等の手続を明確化する必要があるとの指摘があった。(最高裁)

・債権譲渡担保を債権執行によって実行することが出来るものとするか否かについては、引き続きの検討が必要である。(東弁)

・規定を設けることを見送ることも含め、慎重な検討が必要である。債権譲渡担保について、担保が目的ではあるものの、一般債権者が目的債権を差し押さえることを阻止する効力をも認めるとするなら、真正譲渡に準じた法的構成をとることも大いにありうる。補足説明にあるように、担保譲渡と真正譲渡とを見分けることが第三債務者にとって困難であることからすれば、また、どれだけ債権執行による実行に実務上の要請があるかも定かでないことからすれば、あえて債権執行による実行を認める必要はないとも考えられる。(研究者有志)

7集合債権を目的とする譲渡担保権の実行

 集合債権を目的とする譲渡担保権の私的実行については、特別な規定を設けないものとする。

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、個人

・現行法のいわゆる集合債権譲渡担保について、個々の債権が一物としての「集合債権」を介することなく直接譲渡の対象になるとの理解を前提に、集合債権が担保目的で譲渡された場合であっても、個々の債権について個別に直接取立てによる実行を行えば足りる。そのため、特別な規定を設けないとすることについて、特に異論はない。

・集合動産と異なり、集合債権という概念がないこと、個々の債権に対する規制で足りると考えられる。

・賛成する。ただ、金銭債権については中間試案の立場でよいとしても、暗号資産等につき債権の規定が類推される場面を想定した場合に何らかの手当てが必要なのではないかという指摘もあった。

・集合債権譲渡担保であっても、個々の債権譲渡の集合体であるから、個別の債権譲渡担保と別異に解する理由はない。集合債権譲渡担保特有の定めがないと資金計画に影響が生じる可能性があるという指摘があるが、金額の大きい債権が譲渡担保の目的となった場合でも生じ得る問題であって、集合債権譲渡担保を特別扱いする理由はない。

・集合債権を目的とする譲渡担保権の私的実行は、担保権者から第三債務者に対する取立てにすぎず、特別の規定を設ける必要はないと考えられる。

・目的である債権を範囲によって特定した債権譲渡担保の私的実行については、当事者間の合意にゆだねることが望ましい。

・集合債権譲渡担保の場合にのみ適用される特別な規定を設ける必要はない。

・集合債権を目的とする譲渡担保権の実行については、直接譲渡の対象となった個別の債権に対する担保実行の集積として理解することが整合的であり、集合債権が担保目的で譲渡された場合でも、個々の債権について個別に直接取立て等による実行を行えば足りる。

【反対】

全倒ネット、日弁連

・集合債権譲渡担保については、【案15.2.1.1】のア、イ及び(注)を採用すべきである。

 集合債権譲渡担保の場合も私的実行による取立ては、原則としては譲渡担保権者による第三債務者からの取立てである。これは集合債権譲渡担保、譲渡担保であれ変わりないので第三債務者との関係で特に何らかの定めを設ける必要はないといえる。

 他方で、債務者との関係を考えると、循環型の集合債権譲渡担保では、実行されるまでは、債務者が債権を回収し、営業資金として使用している。これが、債権譲渡担保と同様に突然実行されると資金計画が大きく狂うこととなる。これを防ぐために、債権譲渡担保にはない、集合債権譲渡担保特有の定め(例えば、債務者に通知)が考えられる。

また、集合債権譲渡担保が実行により確定する(実行後に発生した債権は担保債権とならない。)とすると、実行時を明確にする必要があり、この点からも(設定者への通知というような)特別規定が必要となる。その場合、譲渡担保権者が債務者に実行通知することなく第三債務者に請求し、第三債務者が弁済した場合は弁済をもって設定者に対抗できることにする必要がある。

【その他の意見】

・一般的な債権譲渡担保等の実行でも集合債権譲渡担保でも【案15.2.1.1】のア、イ(注)を採用すべきである。実行の開始時期を明確にするため通知を要することは、集合債権譲渡担保もそれ以外も同様である。(神奈川弁)

・集合債権譲渡担保においても、債権譲渡担保の実行に際して求められる設定者への通知等の手続が必要であり、また、その効力が及ぶ債権の範囲については当事者の合意に委ねられてよいことを前提とするならば、【案15.2.1.1】が採用されることを前提としつつ、格別の実行手続規範は不要とも考えられる。しかし、集合動産を目的とする場合について、再度実行を否定することが検討されている以上(第11、2)、集合債権についても同様に解すべきとすることも十分考えられる。この点につきなお慎重に検討をし、それに応じて特別の規定を設けることの要否を決する必要がある。(研究者有志)

部会資料31 担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討⑶

目次

第1集合動産譲渡担保権の実行……………………………………………………………………………2

第2動産譲渡担保権の競売手続による実行等………………………………………………………….85

第3質権の実行方法に関する見直しの要否…………………………………………………………..11

第4所有権留保売買による留保所有権の実行………………………………………………………..13

第5債権譲渡担保権の実行………………………………………………………………………………..13

1債権譲渡担保権者及び債権質権者の取立権限及び実行通知の要否………………13

2債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲…………………………………………………………………….14

3債権譲渡担保権又は債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、債権譲渡担保権者又は債権質権者が請求することができる内容………14

4債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法……………………..17

5直接の取立て以外の実行方法……………………………………….18

第1集合動産譲渡担保権の実行

1 集合動産譲渡担保権の担保する債権について不履行があった場合において、その動産譲渡担保権者が部会資料30の第6、3(帰属清算方式)又は4(処分清算方式)による実行をしようとするときは、あらかじめ、その旨を動産譲渡担保権設定者に通知しなければならない。(11-1⑴)

2 集合動産譲渡担保権(その集合動産譲渡担保権が他の集合動産譲渡担保権に優先する場合にあっては、当該他の集合動産譲渡担保権を含む。)は、1の通知が動産譲渡担保権設定者に到達した後にその通知をした者が有する集合動産譲渡担保権の特定範囲に属することとなった動産に及ばない。ただし、その動産が1の通知が到達した時にその特定範囲に属していた動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。(11-1⑵)

3 1の通知が動産譲渡担保権設定者に到達したときは、動産譲渡担保権設定者は、その時にその集合動産譲渡担保権の特定範囲に属していた動産の処分をする権利を失う。(11-1⑶)

4 1の通知は、その集合動産譲渡担保権の特定範囲に属する動産について帰属清算の通知等又は部会資料30の第6、4によるその動産の第三者への譲渡がされるまでは、動産譲渡担保権設定者の承諾を得て、撤回することができる。(11-1⑷)

5 4による1の通知の撤回は、その通知の到達の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。(11-1⑸)

6 2本文の規定に反する特約は、無効とする。(11-2)

7 動産譲渡担保権者が1の通知においてその集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定したときは、2及び3の効力はその範囲にのみ生ずる。(11-3)

8 1の通知をした集合動産譲渡担保権者が有する集合動産譲渡担保権に優先する集合動産譲渡担保権がある場合には、当該通知は、その優先する集合動産譲渡担保権を有する者の全員の同意を得たとき【(優先する集合動産譲渡担保権を有する者がその通知を追認したときを含む。)】に限り、その効力を生ずる。この場合における2の適用については、2中「優先する」とあるのは、「優先し又は劣後する」とする。

9 【2及び3/2、3及び7】の規定は、集合動産譲渡担保権の特定範囲に属する動産について、部会資料30の第7、2⑴による決定(イ又はウに掲げる保全処分及び公示保全処分を命ずるものに限る。)若しくは第7、3による決定の執行がされた場合又は動産競売若しくは動産執行に係る差押えがあった場合について準用する(この場合において、2中「優先する」とあるのは、「優先し又は劣後する」と読み替えるものとする)ものとし、ただし、その執行又は差押えが取り消されたときは、この限りでないものとすることについて、どのように考えるか。

(説明)

1 1について

中間試案第11、1⑴から実質的な変更はない。

2 2について

 本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲と他の集合動産譲渡担保権の特定範囲とが重なり合う場合には、本文6のとおり実行後の再度実行を認めないこととする趣旨に照らし、他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知が設定者に到達した後に当該通知をした者の担保権に係る特定範囲に属するに至った動産に及ばないものとすべきであると考えられる。

 そこで、本文2では、本文1の通知をした者が有する集合動産譲渡担保権に劣後する集合動産譲渡担保権及び優先する集合動産譲渡担保権(優先する集合動産譲渡担保権者の全員が実行に同意した場合。本文8参照)についても、本文2の効果が生ずるものとしている。

 このような考え方を採用する場合には、他の集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち、本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分についても、本文2の効果が生ずるか(他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知が設定者に到達した後に、その特定範囲のうち本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分に属するに至った動産にも及ばないこととなるか)が問題となる。この点について、本文1の通知は、本文4によってその集合動産譲渡担保権の特定範囲の一部を実行の対象として指定した場合を除き、当然にその特定範囲の限度で本文2及び3の効果を発生させる趣旨であると考えられる。そうすると、その通知によっては、その通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲を越えては本文2及び3の効果は生じないものと考えられるから、他の集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分については、本文2の効果は生じないと考えられる。そこで、本文2では、他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知の到達後は、その特定範囲ではなく、本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲に属することとなった動産には及ばないこととして、この趣旨を表している。

上記の点を除き、本文2について中間試案第11、1⑵から実質的な変更はない。

3について

 中間試案第11、1⑶から実質的な変更はない。なお、本文2の担保権の及ぶ範囲が担保権ごとに判断されるのに対し、本文3の設定者の処分権限は設定者の権限の問題であって担保権ごとに判断されるものではないと考えられるから、本文3においては、本文2と同様の括弧書きは設けていない。

4について

 中間試案第11、1⑷について、撤回が認められる終期を定めるべきとの意見がある。この点について、本文1の通知によって本文2及び3の効果が特定範囲全体に生じた後にその特定範囲に属する動産のうちの一部について実行がされた場合において、その通知の撤回によって特定範囲全体について本文2及び3の効果が遡って消滅するとすれば、結果として当該一部について再度の実行が認められることとなり、相当でない。そうすると、本文2及び3の効果が特定範囲全体に生じた後に担保権者がその特定範囲に属する動産のうちの一部についてでも実行をした場合には、その後の撤回は認めるべきでないと考えられる。そこで、本文4では、担保権者が特定範囲に属する動産について私的実行をした場合には、その私的実行が特定範囲に属する動産の全体を対象とするか一部を対象とするかにかかわらず、本文1の通知を撤回することができないものとしている。

上記の点を除き、本文4について中間試案第11、1⑷から実質的な変更はない。

5について

中間試案第11、1⑸から変更はない。

6について

 中間試案第11、2では、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行をした後に新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものとして再度の実行をすることはできないものとする考え方を提示した。この点は、集合動産譲渡担保権の実行後に特定範囲に属するに至った動産になお担保権の実体的な効力が及ぶ旨の特約が有効か否かという問題であると考えられる。そこで、本文6では、本文2に反する特約は無効である旨を示している。

7について

 中間試案第11、3では、集合動産の一部についてのみ固定化を生じさせるための要件について、所在場所により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とする考え方と種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とする考え方を隅付き括弧で併記していた。本文7では、集合動産の特定と同様の要件とすることが簡明であり、また、集合動産の一部のみの固定化、所在場所を指定した場合に限定する必要性は大きくないと考えられることから、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とすることとしている。

8について

 集合動産譲渡担保権の私的実行のためには本文1の通知が必要であるところ、部会資料30の第8、1のとおり、劣後担保権者による私的実行は全ての優先担保権者の同意を得た場合を除いてその効力を生じないから、劣後担保権者による本文1の通知についても、同様の規律とするのが相当であると考えられる。また、優先担保権者の同意がなくとも劣後担保権者による本文1の通知によって本文3の効果が生じるとすれば、それによって設定者の事業の継続が困難になるなど、優先担保権者の実行時期選択の利益や優先担保権者が把握していた担保価値が害されるおそれがある。そこで、本文8では、前記第8、1と同様に、劣後担保権者による本文1の通知は原則として効力を生じないものとした上で、全ての優先担保権者の同意を得た場合に限ってその効力を生ずるものとしている。なお、本文8後段では、劣後する集合動産担保権者が優先する集合動産担保権者の同意を得て本文1の通知をした場合には、その優先する集合動産担保権についても本文2の効果が生ずるものとしている。

 前記第8、1と同様に、優先担保権者の同意なくされた本文1の通知について、優先担保権者による追認を認めるか否かについても問題となる。優先担保権者に対して劣後担保権者による私的実行の追認を認めるのであれば、その私的実行の前提である本文1の通知についても追認を認める必要があるとも考えられる一方で、この追認が認められるとすれ35 ば、本文2及び3の効果の発生の有無が確定しない状態が継続することとなり、法律関係が不安定となる。

 そこで、本文8では、本文1の通知の追認を認める考え方に隅付き括弧を付しているが、この点についてどのように考えるか。

9について

⑴部会資料30の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令、後記第2の動産競売手続又は動産執行手続と集合動産の固定化の関係をどのように考えるか。固定化の時期、固定化の範囲及び劣後担保権者が各手続を申し立てた場合の固定化の有無がそれぞれ問題となる。

⑵固定化の時期については、各手続について、①先行して本文1の通知によって集合動5 産を固定化させておくことをこれらの手続の要件とする考え方、②先行して集合動産を固定化させておく必要はなく、これらの手続に係る決定の執行や差押えによって固定化が生ずるとする考え方、③これらの手続に係る決定の執行や差押えによっても固定化が生じないとする考え方があり得る。

 部会資料30の第7、2の保全処分については、密行性の要請があることから、先行して本文1の通知の送付を要求する上記①の考え方は相当でない。また、同第7、2⑴イ又はウの保全処分が執行された場合には、設定者は実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うこととなるから、このこととのバランスを考えると、その執行によっても本文2の効果が生じないとする上記③の考え方も相当でないと考えられる。

 そこで、上記②の考え方を採用し、同第7、2⑴イ又はウの保全処分の執行によって固定化が生ずるものとすることが考えられる。なお、同第7、2⑴アの保全処分については、その保全処分の内容にもよるものの、それによって設定者が実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うとは限らないことから、それによって固定化が生ずるものとする必要はないと考えられる。

 前記第7、3の実行のための引渡命令については、上記と同様に、強制執行がされた場合には設定者は実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うこととなるから、上記③の考え方は相当でないと考えられる。また、あらかじめ集合動産を固定化させておかなければ清算金の見積額を算定することが困難となるとすれば、上記①の考え方によることも考えられるが、ここで算定すべきなのは飽くまで見積額であるから、固定化していなくともその時点で特定範囲に属する動産の量等に基づいて算定すれば足りるとも考えられる(なお、上記②の考え方を採用するとしても、各手続の申立て前にあらかじめ本文1の通知を送付して集合動産の固定化を生じさせておくことは可能である。)。そうすると、他の手続と統一的な扱いをすることが簡明であることも踏まえ、ここでも上記②の考え方によることが考えられる。

 後記第2の動産競売手続又は動産執行手続については、本文6のとおり再度実行を禁止することを踏まえると、上記③の考え方は相当でないと考えられる。また、動産競売手続について上記①の考え方によるとすれば、劣後担保権者が動産競売の申立てをする際にも本文1の通知によって集合動産を固定化させておくことが必要となるが、本文8のとおり劣後担保権者による本文1の通知は原則として効力を生じないため、上記①の考え方によれば劣後担保権者が実質的に動産競売の申立てをすることができなくなってしまい、相当でないと考えられる。そうすると、上記②の考え方により、動産競売又は動産執行に係る差押えによって固定化が生ずるものとすることが考えられる。

 また、これらの手続に係る執行又は差押えが取り消されたときは、その実行が振り出しに戻ったこととなり、固定化の効力を維持する必要性が乏しいと考えられることから、その執行又は差押えによって生じた固定化が覆滅するものとするのが相当であると考えられる。

 以上によれば、いずれの手続についても上記②の考え方を採用することが考えられる。そこで、本文9では、部会資料30の第7、2⑴の保全処分(イ又はウの保全処分に限る。)及び3の実行のための引渡命令についてはその各決定の執行により、後記第2の動5 産競売手続については差押えにより本文2及び3の効果が生ずるものとした上で、その執行又は差押えが取り消されたときは、その固定化が覆滅するものとすることを提案しているが、この点についてどのように考えるか。

⑶固定化の範囲については、部会資料30の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令、後記第2の動産競売手続又は動産執行手続に係る決定の執行又は差押えによって10 固定化が生ずるものとする場合に、その固定化はその集合動産譲渡担保権の特定範囲の全体について生ずるのか、それともその特定範囲の一部について生ずるのかが問題となる。

 これらの手続に係る決定の執行や差押えの対象が種類、所在場所等によって特定されている場合には、本文7と同様に、集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち種類、所在場15 所等によって特定されている当該範囲に限って固定化が生ずるものとすることが考えられる。

 他方で、その執行や差押えの対象が常に本文7の要件を満たすような形で明確に特定されているとは限らないとすれば、本文7と同様の考え方を採用した場合には、固定化の範囲に疑義が生じ、予測可能性も害されるおそれがある。そうすると、その執行や差20 押えによる固定化は常に特定範囲全体に生ずるものとすることも考えられる。

 そこで、本文9では、本文7をも準用する考え方に隅付き括弧を付し、両論を併記しているが、この点についてどのように考えるか。

⑷優先担保権者が申し立てた部会資料30の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令又は後記第2の動産競売手続に係る決定の執行又は差押えがあった場合には、当該25 優先担保権及び劣後担保権のいずれについても固定化が生ずることとなると考えられる。これに対し、劣後担保権者又は一般債権者が申し立てたこれらの手続に係る決定の執行又は差押えによって、当該劣後担保権及び優先担保権について固定化が生ずるか否かが問題となる。

 後記第2の動産競売手続又は動産執行手続については、劣後担保権者又は一般債権者30 も申し立てることができる上に、再度実行を認めないものとする趣旨に照らし、差押えがあっても固定化が生じないものとすることは相当ではないと考えられる。そうすると、劣後担保権者が申し立てた動産競売又は一般債権者が申し立てた動産執行に係る差押えによって、劣後担保権に加えて優先担保権も固定化するものとした上で、その差押えが第三者異議の訴え又は無剰余取消しによって取り消された場合には、その固定化は覆滅35 するものとするのが相当であると考えられる。

 また、前記第7、2の保全処分及び3の実行のための引渡命令については、前記第7、2⒃及び3⑻のとおり、劣後担保権者は全ての優先担保権者の同意を得た場合に限って保全処分又は実行のための引渡命令の申立てをすることができるものとしたとしても、そのような同意なく保全処分又は実行のための引渡命令が発令及び執行される場合もあり得る。この場合には、同意が得られていない以上は、その執行によっても当該劣後担保権及び優先担保権の固定化は生じないものとすることも考えられるが、手続の明確性の観点からは、その執行によって当該劣後担保権及び優先担保権の固定化が一応生ずるものとした上で、その執行が不服申立て等によって取り消された場合に固定化が覆滅す5 るものとするのが相当であると考えられる。

 そこで、本文9では、前記第7、2の保全処分若しくは3の実行のための引渡命令の執行又は後記第2の動産競売手続若しくは動産執行手続の差押えがあったときは、それが優先担保権者、劣後担保権者又は一般債権者のいずれによるものであるかにかかわらず、優先担保権及び劣後担保権のいずれについても固定化が生ずるものとしているが、この点についてどのように考えるか。

10 時的要素による集合動産の範囲の特定の可否について

 部会では、時的要素によって時間的に区切って複数の集合動産譲渡担保権を設定することができるのであれば、事実上再度実行が可能となるとの指摘があった。この指摘は、本文7による一部実行の際の実行の対象となる範囲の特定についても、同様に当てはまると考えられる。そこで、そもそも時的要素による集合動産の範囲の特定が可能か(例えば「2023年6月30日までにA倉庫に入った在庫」という特定が可能か)が問題となる。

 本文7及び部会資料28の第4、1では、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法によって集合動産の範囲を特定しなければならないものとしているが、この範囲は担保権の効力が及ぶ範囲を確定するための概念であるから、時的要素によって担保権の効力が及ぶ範囲を確定することは当然可能であって、時的要素による集合動産の範囲の特定は許容されるとも考えられる。

 他方で、本文2では、集合動産譲渡担保権は本文1の通知が到達した後に特定範囲に属することとなった動産には及ばないものとしているところ、その通知の到達に先立って本文2の効果を生じさせる合意をすることは可能であると解される。このことを前提とすると、時的要素によって集合動産の範囲が契約上特定されている場合には、集合動産の範囲の定めのうち当該時的要素に係る部分は、集合動産の範囲の特定の要素ではなく、本文2の効果が生ずる時点についての特約と位置付けることもできるように思われる(上記の例では、集合動産の範囲は「A倉庫に入った在庫」として特定されており、2023年6月30日の経過時に本文2の効果が生ずる旨の特約があることになる。)。この考え方によれば、時的要素によって時間的に区切って複数の集合動産譲渡担保権を設定した場合には、当該複数の集合動産譲渡担保権は特定範囲が重なり合うこととなるため、一方の集合動産譲渡担保権の固定化によって他方の集合動産譲渡担保権も固定化することとなるし、また、一部実行に際して時的要素によって実行の対象を指定した場合には、本文7の要件を満たさないことから特定範囲全体が固定化することとなるため、上記の指摘のような問題は生じないと考えられる。

以上について、どのように考えるか。

第2動産譲渡担保権の競売手続による実行等

1 動産譲渡担保権は、民事執行法第190条以下の規定に基づく競売によって実行することができる。(12-1)

2 動産譲渡担保権者は、その目的である動産(集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産を含む。)に対する他の債権者が申し立てた強制執行手続及び他の担保権者が5 申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、配当要求をすることができる。(12-2)

3 動産譲渡担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的である動産(集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産を含む。)を差し押さえたときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。ただし、その動産の売得金の額が執行費用のうち共益費用であるもの、その動産譲渡担保権者の債権及びこれに優先する債権のうち配当要求があったものの額の合計額以上となる見込みがあるときは、この限りでない。(12-3)

4 執行官は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをしたときは、遅滞なく、その執行債務者を譲渡人とする動産譲渡登記において譲受人として登記されている全ての者に対し、その旨を通知しなければならない。この場合において、その通知は、通知を受ける者の動産譲渡登記ファイル上の【住所又は事務所/住所、事務所その他法務省令で定める連絡先】に宛てて発すれば足りる。(12-4)

5 動産譲渡担保権が設定されている動産につき強制執行又は担保権の実行としての競売が行われたときは、その動産譲渡担保権は、その動産の売却によって消滅する。(12-5の20 【案12.5.1】)

(説明)

1本文1及び2について

中間試案第12、1及び2から実質的な変更はない。なお、中間試案第12、2では、集合動産譲渡担保権者が配当要求をすることができるか否かを明示していなかったものの、本文2では、集合動産譲渡担保権者が配当要求をすることができる旨を明示している(第1、9により、集合動産は配当要求をする時点で既に固定化していることとなる。)。

2本文3について

次の点を除き、中間試案第12、3から実質的な修正はない。

  • 動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えの提起が否定される場合の要件について

 中間試案第12、3においては、「目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるとき」は、動産譲渡担保権者は第三者異議の訴えを提起することができないものとしていた。

 もっとも、動産執行及び動産競売においては、差押債権者又は担保権者の有する債権に優先する債権であっても、配当要求がない限り配当を受けられないところ(民事執行35 法第140条、第192条)、動産執行及び動産競売における無剰余取消しの判断については、同法第129条第2項の「差押債権者の債権に優先する債権」は配当要求のあった債権を指すと解されている上に、そもそも配当要求がない限り差押債権者又は担保権者の有する債権に優先する債権の額は明らかにならない。そこで、本文3の動産譲渡担保権者の債権に優先する債権については、配当要求のあったものに限定することとしている。

 なお、本文において並列関係にあるのは、①執行費用のうち共益費用であるもの、②その動産譲渡担保権者の債権、③これに優先する債権のうち配当要求があったものであって、第三者異議の訴えを提起した動産譲渡担保権者の債権については、配当要求をしていなくとも算定の基礎に含まれる。

 また、中間試案第12、3においては、「目的物の価額」を算定の基礎とすることとしていた。しかし、動産執行及び動産競売における無剰余取消しの判断については、同法第129条第2項は「差押物の売得金の額」を算定の基礎としているところ、無剰余取消しの基準と第三者異議の訴えの提起の可否の基準は一致させるのが相当であるし、動産執行及び動産競売においては目的物の価額は売得金として現実化することから、第三者異議の訴えの可否を判断する局面においても、売得金の見込額を基礎として剰余の有無を判断するのが相当である。そこで、本文3では、「目的物の価額」を「その動産の売得金の額」と修正している。

 なお、中間試案第12、3においては「合計額を超えるとき」としていたが、本文3では、同法第129条第2項と同様の基準とする観点から、「合計額以上となる見込みがあるとき」としている。

  • 集合動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えの提起の可否について
  • 中間試案第12、3の(注)では、劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分である動産を差し押さえた場合に、中間試案第12、3の本文と同様の規律を適用するかどうかについては、更に検討するものとしていた。

 この点については、中間試案第12の(補足説明)2⑷のとおり、劣後担保権者又は一般債権者による差押えは、設定者による営業上の判断が介在しない点や、換価された目的物の対価は設定者による事業の継続に充てられず債権者への弁済に充てられる点など、設定者による通常の事業の範囲内の処分・逸出とは大きく性質が異なるため、優先担保権者による第三者異議の訴えの提起を認めたとしても、設定者に通常の事業の範囲内で25 の個別動産の処分権限が認められていることとの均衡を欠くものとはいえないと考えられる。

また、昭和62年11月最判は、集合動産譲渡担保権と動産売買先取特権の関係が問題となった事案において、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者は、特段の事情のない限り、民法第333条所定の第三取得者に該当するものとして、第三者異議の訴えによって、動産売買先取特権者が当該集合物の構成部分となった動産についてした競売の不許を求めることができるとしており、判例も集合動産担保権者による第三者異議の訴えの提起を否定していない。

 そこで、本文3では、集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産が差し押さえられたときにおいても、集合動産譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起することができるものとしている。

3本文4について

 中間試案第12、4では、本文4の通知の主体について、執行官とする考え方と差押債権者又は担保権者とする考え方を隅付き括弧で併記していた。この点については、①不動産執行においては裁判所書記官が差押えの登記前に登記がされた担保権を有する者等に対して催告をするものとされているから(民事執行法第49条第2項第2号)、ここでも執行官を通知の主体とするのが整合的であること、②動産執行については、一般債権者に対して通知を義務付けることは相当でなく、また、本人申立ての場合も多いために通知漏れが生じやすいと考えられるが、その場合には担保権者に不利益が生ずること、③通知を怠った場合の効果を競売の無効ではなく損害賠償にとどめるのであれば、担保権者の保護の観点から、確実に通知が送付されるように執行官を通知の主体とすべきであることなどが指摘されている。

 また、本文5のとおり消除主義を採用するのであれば、確実な通知の送付を確保する必要性はより一層大きいと考えられる。通知の主体を執行官とする考え方については、執行官の事務負担が増大する結果として、通知に時間を要するおそれがあること等が問題となり得るものの、以上に述べたところによれば、差押債権者又は担保権者ではなく執行官を通知の主体とするのが相当であると考えられる。

 そこで、本文4では、執行官を通知の主体とすることとしている。なお、この通知については、私的実行の際の通知(部会資料30、第6、6⑵)と同様に、動産譲渡登記ファイル上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りるものとする案と、動産譲渡登記ファイル上の住所、事務所その他法務省令で定める連絡先に宛てて発すれば足りるものとする案を併記している。

4 本文5について

 中間試案第12、5では、消除主義を採用し、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る動産担保権は、売却により全て消滅するものとする【案12.5.1】と、引受主義を採用し、その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする【案12.5.2】を併記していた。

 この点については、中間試案第12の(補足説明)4⑵のとおり、競売による目的物の売却を円滑に実現し、執行手続を実効的なものとする観点からは、政策判断として消除主義を採用するのが相当であること、本文4のとおり、動産譲渡担保権者は動産譲渡登記を備えている限り通知を受けられるものとするのであれば、動産譲渡担保権者に対する手続保障は図られていると評価することができることから、消除主義を採用するのが相当であると考えられる。

 これに対し、①消除主義を採用した場合において、本文4の通知を受けられなかった担保権者は損害賠償を請求できるにすぎないとすれば、担保権者の保護としては十分ではないこと、②一般に競売に参加して目的物を買い受ける者は無過失であって即時取得が成立するため、買受人が現れなくなるという問題はそれほど起こらないことから、引受主義を採用すべきとの意見もある。しかし、上記①については、本文4のとおり執行官を通知の主体とするのであれば、通知を怠ったために担保権者が通知を受けられないという事態は生じにくいと考えられるし、上記②についても、即時取得が成立するか否かが不明確であること自体が買受人候補者を萎縮させるとの指摘もある。

 そこで、本文5では、消除主義(【案12.5.1】)を採用し、動産譲渡担保権が設定されている動産につき強制執行又は担保権の実行としての競売が行われたときは、その動産譲渡担保権は、その動産の売却によって消滅するものとしている。

 なお、【案12.5.1】では、先取特権及び質権についても売却によって消滅するものとしていた。しかし、先取特権は、第三取得者に引き渡された後はその動産について行使することができないため(民法第333条)、売却により目的物が買受人に引き渡されることによ5 って消滅すると解される。また、質権についても、売却により目的物が買受人に引き渡されることによって、少なくとも対抗力を失うと考えられる(民法第352条)。このように、先取特権及び質権については、あえて売却によって消滅する旨を規定する必要性は乏しいことから、本文5では、消除の対象とはしないこととしている。

5私的実行と競売手続の関係について

 中間試案第12の(補足説明)5⑵では、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において目的物が差し押さえられた場合において、その申立人に優先する担保権者は競売手続を排除して有効に私的実行をすることができるか否かを問題提起した。

 競売手続における差押えの効力は、一般に、執行債務者に対して及ぶものであって、真の権利者の処分権限を制限するものではないと解されているから、ここでも差押えによって動産譲渡担保権者の処分権限が制限されるものではないと考えることができる。

 また、対抗要件を具備した動産譲渡担保権者は動産譲渡担保権を第三者である差押債権者に対抗することができるから、この点からみても、差押えによって動産譲渡担保権者の権限が制限されるとみるのは相当でない。これを前提とすると、動産譲渡担保権者は、一般債権者による動産執行手続又は劣後担保権者による動産競売手続によって目的物が差し押さえられたとしても、動産譲渡担保権に基づく処分権限を行使して、私的実行を有効に行うことができることとなる。そして、その私的実行によって目的物の確定的な所有権を取得した動産譲渡担保権者又は第三者は、第三者異議の訴えによって競売手続を排除することができ、また、競売手続が排除されないまま買受人が代金の支払をした場合でも、即時取得が成立する場合を除き、買受人は目的物の所有権を取得することができないこととなる。

 この点については、私的実行が完了しているか否かは買受人にとって明らかであるとは限らないため、このように買受人が目的物の所有権を取得することができないおそれがあるとすれば、買受人が現れなくなり、目的物の売却の円滑な実現に支障が生じないかが問題となる。しかし、競売における買受人は原則として動産譲渡担保権者による私的実行の完了の有無を調査する義務を負うものではないと考えられるから、買受人において私的実行が既に行われたことを認識すべきような特別な事情がない限り、買受人は即時取得によって目的物の所有権を取得することができると考えられる。

 そうすると、上記の考え方について修正を加えなくとも、動産譲渡担保権者の利益と買受人の利益のバランスは図られているものということができる。

 以上のことから、本文では、私的実行と競売手続の関係について、何らかの特別な規定を置くことは提案していない。

第3質権の実行方法に関する見直しの要否

質権の実行方法に関する見直しの要否については、次のいずれかの案によることとする。

【案3.1】(13の【案13.1】)

1 動産質及び権利質について、民法第349条の適用を除外する。

2 動産質権者及び権利質権者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権設定者から弁済として質物の所有権又は質権の目的である財産権を取得し、その他法律に定める方法によらないでこれらを処分することができることを約した場合において、その取得5 又は処分の時の質物又は財産権の価額がその時の当該質権の担保する債権の額を超えるときは、その超える額に相当する金銭を質権設定者に支払わなければならない。

【案3.2】(13の【案13.2】)

動産質及び権利質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持する。

(説明)

 中間試案第13では、動産質の実行方法に関し、目的物の価額が被担保債権額を超える場合にその差額の支払をさせるなどの設定者の利益を保護する措置を採るとともに、民法第349条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めるものとする【案13.1】と、動産質について流質契約の有効性を否定する同条を維持するものとする【案13.2】を併記していた。

 動産譲渡担保権については明文で私的実行を認めることが予定されていること、動産競売によらない実行方法を認めるかどうかについては占有型の担保権か非占有型の担保権かの区別のみによって扱いを異にする理由はないとも考えられること、流質の禁止については現行法上もその範囲を限定しようとする見解が主張されていることからすれば、動産質についても、【案3.1】のとおり、同条を改正し、流質契約の有効性を認めるとともに、質権者が目的物の価額と被担保債権額の差額の支払義務を負うことを明確化することが考えられる。なお、この場合には権利質についても同様とすることが考えられる。

 これに対し、民法第349条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めることについては、次のような問題も指摘されている。すなわち、商法第515条においては、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権について流質契約の有効性が認められているところ、事業者が動産を質入れして貸付けを受ける場合には、民法第349条ではなく商法第515条が適用される場合が多いと考えられ、あえて民法第349条を改正して動産質一般について流質契約の有効性を認める具体的なニーズは指摘されていない。また、同条は事業者が貸付けを受ける場合よりもむしろ一般消費者が貸付けを受ける場合に主に適用されるとすれば、一般に流質契約の有効性を認めることが消費者被害の拡大等につながるおそれもある。さらに、動産質においては、設定者が目的物を占有していることが多い譲渡担保とは異なり、質権者が質物を占有しているため、同時履行の抗弁権又は留置権によって設定者に対する目的物の価額と被担保債権額の差額の支払を確保することができない上に、設定者が目的物の客観的な価値を把握して当該差額の妥当性を争うことも困難であるとの問題がある。

 このような指摘を踏まえると、【案3.2】のとおり、動産質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持することも考えられる。

 そこで、本文では、同条を改正して動産質について流質契約の有効性を認めるか否かについて、両案を併記しているが、この点についてどのように考えるか。

第4 所有権留保売買による留保所有権の実行

 留保所有権の実行については、部会資料30の第6から第8まで及び部会資料31の第2の動産譲渡担保権の実行に関する規律(その目的である動産の代金支払債務等のみを担保する留保所有権の実行にあっては、部会資料30の第6、6を除く。)を準用する。(14)

(説明)5

 中間試案第14では、留保所有権の実行と売買契約の解除を異なる制度として併存させることを前提として、所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに民事執行法の規定に基づく競売を認めることを提案した。本文では、留保所有権の実行について、動産譲渡担保権の実行に関する規定を準用することとしており、中間試案第14から実質的な変更はない。

 その目的である動産の代金支払債務等のみを担保する所有権留保(狭義の所有権留保)については、動産譲渡担保権の実行に関する規律のうち、他の担保権者に対する通知の規律(部会資料30の第6、6)を適用すべきでないとの意見がある。狭義の所有権留保については、目的物の価額と被担保債権額が近接しており剰余が生じる可能性は小さいから、劣後担保権者の保護のために通知を要求する必要性は乏しいと考えられる。また、狭義の所有権留保は目的物との牽連性が強いことから他の担保権に当然に優先するとされている上に、売買契約の付款として簡易に設定できることも考慮すると、買主の登記を確認した上で通知を送付するという従前の実務では要求されていなかった負担を留保所有権者に負わせるのは相当とはいえないように思われる。そこで、本文では、狭義の所有権留保については、他の担保権者に対する通知に関する規律は準用しないこととしている。

第5債権譲渡担保権の実行

1債権譲渡担保権者及び債権質権者の取立権限及び実行通知の要否

⑴債権譲渡担保権者は、債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があったときは、その目的である債権を直接に取り立て、又は後記5に従って実行することができる。(125 5-2⑴の【案15.2.1.2】)

⑵債権質権者は、債権質権の担保する債権について不履行があったときは、その目的である債権を直接に取り立てることができる。(15-2⑵の【案15.2.2.2】)

(説明)

1本文⑴について

 中間試案第15、2⑴では、債権譲渡担保権者は目的債権の取立て又は帰属清算方式若しくは処分清算方式による私的実行に先立って実行通知を送付しなければならず、その到達から1週間の経過後にそれらの権限を取得するものとする【案15.2.1.1】、その到達の時にそれらの権限を取得するものとする【案15.2.1.1】の(注)、被担保債権の不履行によりそれらの権限を取得するものとする【案15.2.1.2】の3つの考え方を提示した。

 本文⑴では、【案15.2.1.2】を採用し、現行法上の扱いを踏襲して、債権譲渡担保権者は、債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があったときは、取立権限及び私的実行権限を取得するものとしている。動産譲渡担保権については、被担保債権の不履行があったときに動産譲渡担保権者が目的物の処分権限を取得するとの考え方を提案していること(部会資料30の第6、2)に加えて、債権を目的とする担保については、実行に密行性及び迅速性が要求される一方で、設定者において個性のない金銭債権を受け戻す利益は大きくないことなど、中間試案第15、2の(補足説明)に記載した事情を踏まえたものである。

 また、後記3⑴のとおり、債権譲渡担保権者は、目的債権の弁済期が到来した場合であっても、被担保債権の弁済期が到来していない限り、目的債権を取り立てることができないものとすることを前提とすると、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに目的債権の取立権限を取得することとなる。本文⑴は、この点を明確化することも意図したものであり、これに伴って内容が重複する中間試案第15、1の項目は削除している。

2本文⑵について

 本文⑴のとおり、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに取立権限及び私的実行権限を取得するものとするのであれば、債権質については、あえてこれと異なる規律を採用する必要性は乏しく、現行法上の扱いを踏襲すべきと考えられる。そこで、本文⑵では、債権質権者も、設定者の債務不履行により直ちに目的債権の取立権限を取得するものとしている。なお、本文⑴のとおり、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに目的債権を取り立てることができる旨の明文の規定を置くのであれば、債権質についても、民法第366条第1項を改正し、被担保債権の不履行があったときに目的債権を取り立てることができる旨を明確化することが考えられる。

2 債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲

⑴債権の目的物が金銭であるときは、債権譲渡担保権者は、自己の債権額に対応する部分を超えて、これを取り立てることができる。(15-3⑴)

⑵民法第366条第2項を次のように改める。(15-3⑵)

債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分を超えて、これを取り立てることができる。

(説明)

中間試案第15、3から表現ぶりを修正しているものの、実質的な変更はない。

3 債権譲渡担保権又は債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、債権譲渡担保権者又は債権質権者が請求することができる内容

  • ア 債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が債権譲渡担保権者の債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。(15-4⑴の【案15.4.1.2】)

イ アに規定する場合には、第三債務者は、民法第467条第1項に規定する対抗要件を35 備えた債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって債権譲渡担保権設定者に対抗することができる。(15-4⑴の【案15.4.1.2】)

ウ アによる供託又はイによる弁済を受けた債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その供託又は弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しない。この場合において、債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期が到来したときは、債権譲渡担保権設定者に対し、その供託又は弁済を受けた額【に利息を付した額】から自己の債権の額を控除した残額を返還しなければならない。(15-4⑴の(注))

⑵民法第366条に次の項を加える。

ア 民法第366条第3項に規定する場合には、第三債務者は、民法第467条第1項に規定する対抗要件を備えた質権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって質権設定者に対抗することができる。(15-4⑵の【案15.4.2.2】)

イ アにより弁済を受けた質権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、質権設定者に対し、その弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しない。この場合において、質権者は、自己の債権の弁済期が到来したときは、質権設定者に対し、その弁済を受けた額【に利息を付した額】から自己の債権の額を控除した残額を返還しなければならない。

(説明)

1本文⑴ア及びイについて

 中間試案第15、4⑴では、債権譲渡担保権の被担保債権の弁済期前に目的債権の弁済期が到来した場合について、債権譲渡担保権者は目的債権を直接に取り立てることができるものとする【案15.4.1.1】と、債権譲渡担保権者は第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるものとする【案15.4.1.2】を併記していた。

 この点については、債権譲渡担保において、目的債権は担保の目的で債権譲渡担保権者に移転しているところ、債権譲渡担保権者に被担保債権の弁済期到来前に目的債権の取立てを認めることは、そのような担保の性質に反するものであること、【案15.4.1.1】によれば、第三債務者が債務者対抗要件を具備していない債権譲渡担保権者に対して目的債権を弁済した場合にもその弁済は有効となるが、そのような弁済を有効と認める必要はないことなどが指摘されている。

 前者の指摘のように債権譲渡担保において、目的債権は債権譲渡担保権者に帰属しているとの理解を前提としたとしても、その債権譲渡は担保を目的とするものであることから、債権譲渡担保権者の取立権限に一定の制約を加えることは可能であると考えられる。また、【案15.4.1.1】は、第三債務者保護のために債権譲渡担保30 権者に目的債権の取立権限を認めるものであるが、【案15.4.1.2】のとおり、第三債務者が対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対してした弁済を有効と認めるのであれば、第三債務者保護としては十分であり、これを超えて債権譲渡担保権者に目的債権の取立権限を認める必要はないと考えられる。

 そこで、本文⑴では、【案15.4.1.2】を採用し、債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が債権譲渡担保権者の債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は、債務者対抗要件を備えた債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって債権譲渡担保権設定者に対抗することができるものとしている。

 また、民法第366条第3項後段では、同項前段による供託がされたときは、質権はその供託金について存在するとされているところ、この供託については、質権者のために供託物そのものの保全を目的としてされる保管供託の一種であって、被供託者である設定者が供託金還付請求権を有しており、質権はその供託金還付請求権の上に存することになると解されている。

 これに対し、本文⑴アの供託については、債権譲渡担保においては債権質と異なり目的債権は債権譲渡担保権者に帰属しているとの理解を前提とするのであれば、債権譲渡担保権設定者を被供託者とするのではなく、債権譲渡担保権者を被供託者とし、債権譲渡担保権者が供託金還付請求権を有するものとすべきと考えられる。

 そこで、本文⑴アでは、供託がされたときに担保権がその供託金について存在するとの同項後段と同様の規律は設けないものとすることを提案している。

2本文⑴ウについて

 中間試案第15、4⑴の(注)では、第三債務者が債権譲渡担保権者に対して弁済した場合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き検討するものとしていた。

 この点については、中間試案第15、4の(補足説明)2⑶イに記載したように、債権譲15 渡担保権者は、被担保債権の弁済期前に弁済を受けた金銭を被担保債権に充当することはできないものの、被担保債権の弁済期まではその金銭を設定者に返還することを要せず、被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができるものとすることが考えられる。

 そこで、本文⑴ウでは、イにより弁済を受けた債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しないこととした上で、自己の債権の弁済期が到来したときは、当然に当該金銭が被担保債務に充当されることとし、その弁済を受けた額から自己の債権の額を控除した残額を債権譲渡担保権設定者に返還しなければならないものとすることを提案している。

 なお、前記(説明)1のとおり、本文⑴アの供託の被供託者を債権譲渡担保権者とするのであれば、この供託がされた場合には本文⑴イの弁済がされた場合と同様に扱うべきと考えられることから、この供託がされた場合にも本文⑴ウの規律が適用されるものとしている。

 この場合において、債権譲渡担保権者は弁済を受けた額に利息を付した額を債権譲渡担保権設定者に返還しなければならないものとするか否かが問題となる。敷金については、賃借人に返還する額に利息を付す必要はないとされているところ(民法第622条の2第130 項)、ここでも担保権者が担保のために一定額の金銭を保有している点は同様であることからすれば、利息を付した額を返還させる必要はないとも考えられる。他方で、債権譲渡担保権者が弁済を受けた金銭を利用すること自体は妨げられないことからすれば、債権譲渡担保権者にその利益を保持させる必要はなく、利息を付した額を返還しなければならないものとすることも考えられる。そこで、本文⑴ウでは、利息を付した額を充当するもの35 とするか否かについて、隅付き括弧で両案を併記している。

 また、本文⑴ウについては、当事者間でこれを異なる取扱いをする旨を合意することは妨げられないと解される。なお、集合債権を目的とする譲渡担保契約において、設定者に目的債権の取立権限及び取り立てた金銭を利用する権限が付与されている場合には、個別の合意の解釈の問題ではあるものの、設定者に取り立てた金銭の利用権限が付与されている趣旨に鑑み、債権譲渡担保権者は第三債務者から弁済を受けた金銭を設定者に引き渡さなければならないと解釈される場合もあり得るものと考えられる。

3本文⑵について

 中間試案第15、4⑵では、債権質の被担保債権の弁済期前に目的債権の弁済期が到来した場合について、債権譲渡担保について【案15.4.1.1】を採用する場合にはこれと同様とする【案15.4.2.1】と、債権譲渡担保について【案15.4.1.2】を採用する場合にはこれと同様とする【案15.4.2.2】を併記していた。

 本文⑵では、第三債務者は被担保債権の弁済期を容易に認識し得るとは限らず、被担保債権の弁済期前に目的債権を弁済した第三債務者を保護する必要があることは、債権譲渡担保と債権質で異ならないこと、債権質について債権譲渡担保と異なる取扱いをする必要はないと考えられることから、上記のとおり債権譲渡担保について【案15.4.1.2】を採用することを踏まえ、【案15.4.2.2】を採用することとし、民法第366条第3項に本文⑴イ及びウと同様の規律を設けることを提案している。

4債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法

 債権の目的物が金銭でないときは、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について【動産譲渡担保権/動産質権】を有する。(15-5)

(説明)

 中間試案第15、5では、民法第366条第4項を参考として、債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合に、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産譲渡担保権又は動産質権を取得するものとしていた。

 債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合には、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について、設定者に返還することなく私的実行をすることができるものとするのが相当であるとの前提に立ち、かつ、前記第3において【案3.2】を採用し、動産質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持する場合には、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産譲渡担保権を有することとした上で、その物を設定者に引き渡すことを要しないものとすることが考えられる。

 もっとも、財産権を担保の目的で譲渡した場合の法律関係を規律するという方式で規律を設け、そのような譲渡を受けた者が譲渡によって得る権利を譲渡担保権と称していることからすると、譲渡されたわけではない物について譲渡担保権を有することになるのは不自然であるし、担保権者が占有する物について有する担保権を、原則として非占有型であることが想定される譲渡担保権とする必然性も乏しいと考えられる。

 そこで、前記第3において【案3.1】を採用し、動産質について流質契約の有効性を肯定するのであれば、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産質権を有することとした上で、流質契約をしたものとみなすことが考えられる。また、債権譲渡担保権者は自ら非金銭債権に担保を設定したものであって、弁済を受けた物に対する私的実行をあえて認める必要はないと考えるのであれば、弁済を受けた物について動産質権を有することとしたとしても、流質契約をしたものとみなす旨の規律を設ける必要はないとも考えられる。

そこで、本文では、両案を併記しているが、この点についてどのように考えるか。

5直接の取立て以外の実行方法

⑴部会資料30の第6、2から4まで及び7(3⑶及び4⑷を除く。)は、債権譲渡担保権について準用する。(15-6⑴)

⑵債権譲渡担保権を民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することができるものとすることは、見送ることとしてはどうか。(15-6⑵)

(説明)

1本文⑴について

 中間試案第15、6⑴では、債権譲渡担保権の実行方法として、目的債権を直接に取り立てる方法のほか、帰属清算方式及び処分清算方式の実行方法を認めることを提案した。本文では、その実質を実現するため、帰属清算方式及び処分清算方式による動産譲渡担保権の実行手続に関する規律のうち、部会資料30の第6、2から4まで及び7(3⑶及び4⑷を除く。)の規律を準用するものとしている。

 部会資料30の第6、3⑶、4⑷及び5は、清算金の支払と目的物の引渡しとの引換給付関係や目的物の引渡しまでの受戻権を定めたものであって、目的物の引渡しを観念することができることを前提とする規律であるが、債権譲渡担保については目的物の引渡しを観念することができないから、債権譲渡担保権の帰属清算方式及び処分清算方式による実行については、これらを準用しないこととしている。これを前提とすると、設定者は清算金が発生する場合には債権譲渡担保権者の無資力の危険を負担することになるものの、この点は前記2のとおり債権譲渡担保権者が自己の債権額に対応する部分を超えて目的債権を直接に取り立てる場合も同様であるから、このように動産譲渡担保権の私的実行とは異なる規律とすることが必ずしも均衡を欠くものではないと考えられる。

また、部会資料30の第6、6の他の担保権者に対する通知についても、債権譲渡担保権の帰属清算方式及び処分清算方式による実行については準用しないこととしている。債権譲渡担保については登記優先ルールが採用されず、民法第467条に基づく通知又は承諾が法改正後も対抗要件具備の方法として相応に利用されることが想定されることからすれば、登記されている譲受人に対してのみ通知を送付する仕組みを採用したとしても、全ての劣後担保権者が通知を受けられるとは限らず、劣後担保権者による清算金債権に対する物上30 代位の利益を保護するための実効的で負担の小さい通知の仕組みを設けることが困難なためである。

2本文⑵について

 債権譲渡担保権が設定された債権に対する一般債権者による差押えの効力については、第三債務者が差押債権者に対して弁済したとしても、債権譲渡担保権者はこれを無視して第三債務者に請求することができるとする見解が多数であるように思われる(森田修編『新注釈民法⑺物権⑷』(有斐閣、2019)599頁〔角紀代恵〕、柚木馨、高木多喜男編『新版注釈民法⑼物権⑷〔改訂版〕』(有斐閣、2015)733頁〔占部洋之〕、道垣内弘人『担保物権法〔第4版〕』(有斐閣、2017)352頁、田中康久『新民事執行法の解説〈増補改訂版〉』(金融財政事情研究会、1980)295頁)。

 また、債権質の目的債権に対する一般債権者による差押えの効力についても、これと同様に、第三債務者が差押債権者に対して弁済したとしても、質権者はこれを無視して第三債務者に請求することができると解されている。債権質については、このような考え方に立ちつつも質権者が民事執行法第193条の規定に基づく債権執行手続による実行をすることが認められていることからすれば、債権譲渡担保権についても、債権質と同様に、上記の見解を前提としつつ、同条に基づく債権執行手続による実行を認めることは可能であるとも考えられる。

 また、質権者が同条に基づく債権執行手続の申立てをして目的債権を差し押さえた場合において、質権者自身の有する実体法上の取立権限が失われるか否かについては、見解が分かれているが、失われないとの見解に立った場合には、他の債権者による差押えが競合しても質権者の取立権限は失われず、また、第三債務者は、質権者の同意がない限り供託によって免責されることはないし、差押えが競合した場合であっても供託義務を負わないこととなるとされている(田中康久『新民事執行法の解説〈増補改訂版〉』(金融財政事情研究会、1980)465、467頁、香川保一編『注釈民事執行法<第6巻>』(金融財政事情研究会、1995)930、931頁〔三村量一〕、鈴木忠一、三ヶ月章編『注解民事執行法(5)』(第一法規、1985)321頁〔渋川満〕)。

 仮に債権譲渡担保についてもこれと同様の見解に立つとすれば、第三債務者は、債権譲渡が真正債権譲渡であるか債権譲渡担保であるかにかかわらず、常に差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済すれば足りることとなるから、第三債務者の利益が害されることはないようにも思われる。

 しかし、上記のとおり、第三債務者は供託によっても免責されないために常に差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済するほかないのであれば、そもそも債権譲渡担保について同条に基づく債権執行手続による実行を認める意義は乏しい。

 これと異なり、例えば、第二順位の債権譲渡担保権者がした同条に基づく債権執行手続の申立てにより目的債権が差し押さえられた場合には第一順位の債権譲渡担保権者の取立権限が失われることとし、第三債務者に供託をさせた上でその金銭を配当するという仕組みを採用するのであれば、第三債務者は第一順位の譲受人に対する債権譲渡が真正債権譲渡と債権譲渡担保のいずれであるかによって異なる対応を求められることとなる(真正債権譲渡であれば差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済しなければならないが、債権譲渡担保であれば第一順位の譲受人に弁済してはならない)が、第三債務者が通知の内容によって真正債権譲渡と債権譲渡担保を区別することは困難な場合があることからすれば、このような仕組みも相当とはいえない。

 また、前記(説明)1のとおり、債権譲渡担保については実効的で負担の小さい通知の仕組みを設けることが難しく、優先し又は劣後する債権譲渡担保権者が手続を排除し又は手続に参加するための機会を確保することは困難である。

 さらに、質権の同条に基づく債権執行手続による実行については、目的債権が条件付等で取立てが困難であるために売却命令を得るべき場合などに実益があるとされているが、債権譲渡担保権については、そのような場合には帰属清算方式又は処分清算方式による実行をすれば足りるから、同条に基づく債権執行手続を認める必要性は乏しく、これを認める具体的な実務上のニーズも指摘されていない。

 以上のとおり、債権譲渡担保権については、第三債務者の利益を保護しつつ利害関係人の関与の機会を確保できるような形で同条に基づく債権執行手続を認める仕組みを構築することが容易ではなく、これを認める具体的なニーズも指摘されていないことから、本文では、債権譲渡担保権を同条に基づく債権執行によって実行することができるものとすることは見送ることを提案しているが、この点についてどのように考えるか。

 なお、中間試案第15、7(集合債権を目的とする譲渡担保権の実行)については、次回の部会資料で取り上げる予定である。

委員等提出資料34-2 集合動産を目的とする譲渡担保における目的財産の特定とその登記の在り方に関する検討メモ

1「動産の保管場所の所在地」の外延拡張の必要性

  • 登記実務上、動産・債権譲渡規則(以下、「規則」という。)8条1項二ロの「動産の保管場所の所在地」要件(以下、「上記要件」という。)を満たす場所的要素の特定の在り方が限定的であることに起因する困難事例が、まま見受けられる。

cf)民事実体法上の動産の特定<例1>担保権設定時における困難事例

①船舶や大型自動車内にある目的財産等、動産の保管場所の所在地自体が随時移動する場合

②番外地上や一定範囲の海域内又は一定範囲の空間内において管理される動産等、動産の保管場所の所在地自体に、地番等の一般的な特定要素が存在しない場合

<例2>担保権設定後に発生した事情による困難事例

動産の保管場所の所在地であるA倉庫が満杯となったためにB倉庫を搬入先として追加変更する場合や、後発的にA倉庫からB倉庫へ全在庫を移動する場合

2外延拡張の方向性(例)

(1) 規則8条1項二ロの「動産の保管場所の所在地」の定義のもとでも、「店舗」「倉庫」等、保管場所の所在地を構成する要素としては、不動産登記における建物の種類(不動産登記法44条1項3号)1同様に、当事者の主観を一定程度加味したものが、既に許容されている。

1 不動産登記における建物の特定要素である建物の種類(不動産登記法44条1項3号)は、当事者における主観的な建物利用の在り方を一定程度加味して定められる。

>∴規則8条1項二ロの「動産の保管場所の所在地」の定義として、当事者の主観的要素を加味する方向で外延を拡張することは、一定程度、許容され得る。

(+上記定義が条文文言としてわかりにくくなる点を問題とするなら、例えば、規則8条1項二ロを「動産の保管場所の所在地その他これに代わる特定事項」と改める等の対処も、検討の余地あり。)

(2) 上記1<例1>の解決の在り方として、例えば、次のようなものが考えられる。

・<例1>①の場合、例えば、大型自動車における車台番号等、他の特定要素による代替を許容するetc.

・<例1>②の場合、所在地に係る緯度・軽度や世界測地系座標等、地番同等に視覚的・客観的に認識可能な特定要素で区分してその設定の登記を行えば、現状でもある程度、対処可能である。

→他方、所在地の形状が複雑である場合等、当該認識可能な特定要素による特定をすることにつき当事者の負担が重いときには、例えば、「○○農場」「××発電所」といった当該所在地の名称等、他の特定要素による代替を許容するetc.

(3) 上記1<例2>の解決の在り方として、例えば、次のようなものが考えられる。

・<例2>の場合、動産の保管場所の所在地をB倉庫とする担保権の追加設定の登記を行えば、現状でもある程度、対処可能である。

→他方、保管場所が変更されるたびに追加設定の登記を都度行う当事者の負担が重いことを重視するなら、例えば、当初の担保権の設定時においてあらかじめ、動産の保管場所の所在地に代えて、「東京都千代田区麹町一丁目〇番地、・・・、及び譲渡人の所有権、賃借権等に基づき保管する場所」、「○○湾内における養殖場」、「工場(製造委託先を含む)」、「店舗(移動式店舗を含む)」等、必ずしも具体的な動産の保管場所の所在地によらない一定の評価的要素による特定を許容するetc.

以上

家族信託の相談会その57

お気軽にどうぞ。

2023年8月25日(金)14時~17時

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場所 司法書士宮城事務所(西原町)

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司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

遺言記載の遺贈金額に相続財産が伴わない場合

遺言・相続実務問題研究会編『実務家も迷う 遺言相続の難事件 事例式 解決への戦略的道しるべ』2021、新日本法規出版、Case23からです。

・平成18年4月15日頃 相続人がいないCが、自筆証書遺言を作成。

・仮の日付

・2018(平成30)年1月1日 遺言者C死亡。

・2018(平成30)年1月8日 Cの親類縁者が、Cの遺骨をD寺に納骨。

・2018(平成30)年2月1日 Aが遺言執行者選任申立て(民法1010条)。

・2018(平成30)年4月1日 弁護士が遺言執行者選任。

・2018(平成30)年7月1日 遺言執行者の、Cの相続財産調査結果。

・2018(平成30)年8月1日 D寺と異なる寺から、遺言執行者に対し、遺贈金2,000万円の請求。

手続選択の視点
1、遺言者Cには相続人がいないが、遺言執行者として相続人不存在にかかる相続財産管理人選任の申立て(民法952①、現行民法952)の必要性および申立ての可否。
2、遺産中に現金は300万円程度しかなく、遺贈するとされている3,100万円に満たないが、本Case遺言に基づき遺言執行者は預貯金の解約ないし不動産の売却を行うことができるか。
3、遺言の内容が『Aに現金一千万、Bに現金百万、お寺さんに二千万』だった場合はどうか。
4、遺言の内容が『Aに金銭一千万、Bに金銭百万、お寺さんに金銭二千万』だった場合はどうか。
5、遺言執行者が遺贈の履行を行わない場合、D寺と異なる寺院は遺贈金請求訴訟を提起することになると思われるが、ア、誰を被告として訴えを提起すべきか、イ、被告とされた者は何をすべきか、ウ、遺贈金支払を命ずる判決が確定した時は、どういう手順で支払うか。
6、『お寺さん』をどのように特定すればよいか。
7、Aは、遺言執行者選任の申立て以外に、本Case遺言の内容を実現する方法はあるか。

1、遺言者Cには相続人がいないが、遺言執行者として相続人不存在にかかる相続財産管理人選任の申立て(民法952条、現行民法952条)の要否
・全てを相続させる、のような遺言でない場合、相続財産全部とは、どのように判断するのか?

手続選択の視点
2、本Case遺言に基づき遺言執行者は預貯金の解約ないし不動産の売却の可否

・遺言執行者としての権限の有無
著者の遺言の解釈
・現金がなければその余の遺産を換価して取得させる(最判昭58・3・18判時1075・115。)。
・権限有り(民法1012条。)。
・預貯金の解約方法・・・相続財産管理人の選任申立てを行った上で、相続財産管理人の同意を求める。

手続選択の視点
2、本Case遺言に基づき遺言執行者は預貯金の解約ないし不動産の売却の可否

参考
遠藤俊英ほか『金融機関の法務対策5000講 1巻』金融財政事情研究会、2018、P1506~。
問 遺言執行者(相続人でない)と称する者から、相続預金の有無や取引明細について紹介を受けた場合、どのように対応するか。
結論 遺言執行の職務遂行上の必要性が明確に示されない限り、開示を控えるのが無難な対応といえる。最判平成21年1月22日(民集63巻1号228項)。

『登記研究』538号、カウンター相談27
相続財産管理人と遺言執行者が併存する場合の遺贈による所有権移転登記の登記手続きについて

問 特定の不動産を甲に遺贈する旨の遺言において遺言執行者の指定がなされたが、遺言者に相続人がいなかったことから、さらに相続財産管理人が選任された場合、遺言に係る受遺者への所有権移転の登記の申請人及びその代理人は誰になるのでしょうか。
答 登記権利者は受遺者、登記義務者は現在の登記名義人(遺贈者または相続財産法人)であり、義務者の代理人は遺言執行者となるものと考えます。 

・不動産の売却手続の手順
1、相続財産管理人選任申立て。
2、相続財産管理人が、相続財産法人への名義変更登記申請。
3、相続財産管理人が換価し、相続債務を弁済後に残余の財産を遺言執行者に引き渡す。
4、遺言執行者が遺贈の履行。
5、遺贈の履行後に残余財産があれば、相続財産管理人が特別縁故者、国庫帰属の手続き。

手続選択の視点
3、遺言の内容が『Aに現金一千万、Bに現金百万、お寺さんに二千万』だった場合はどうか。
2(1)と同様の結論(現金がなければその余の遺産を換価して取得させる。)。
理由・・・現金に限定がない(最終的に現金を渡すことが出来れば良い。)、現金が相続財産の(換価)価格の範囲内だから。

手続選択の視点
4、遺言の内容が『Aに金銭一千万、Bに金銭百万、お寺さんに金銭二千万』だった場合はどうか・・・3、と同じ。

手続選択の視点
5、遺言執行者が遺贈の履行を行わない場合、D寺と異なる寺院は遺贈金請求訴訟を提起することになると思われるが、ア、誰を被告として訴えを提起すべきか、イ、被告とされた者は何をすべきか、ウ、遺贈金支払を命ずる判決が確定した時は、どういう手順で支払うか

ア、誰を被告として訴えを提起すべきか・・・遺贈の履行義務者となる遺言執行者。
イ、被告とされた者は何をすべきか
1、「お寺さん」の原告適格を満たすのか、確定させるように活動。
2、相続財産管理人の選任申立てと、相続財産管理人への訴訟告知(民事訴訟法53条。遺言執行者と相続財産管理人の見解を一致させる目的。)。
3、訴訟終結後、相続財産管理人→遺言執行者→受遺者の手順で支払い。

手続選択の視点
6、『お寺さん』をどのように特定すればよいか
裁判所の認定
・原告は『お寺さん』である。
事実認定
・被相続人が祖父母の代から原告において葬儀、ご先祖の月忌詣り(がっきまいり)、年忌法要、永代経志(えいだいきょうし)の寄進などの執り行い。
・母と原告の婦人会に所属して各種行事に参加し、原告が管理者となっている墓地に母の墓碑を建立して納骨していること。
証拠
・婦人会名簿、過去帳、永代経志木札の写真、月忌詣り控えなど。
手続選択の視点
7 Aは、遺言執行者選任の申立て以外に、本Case遺言の内容を実現する方法はあるか
・遺言執行者選任の申立ては行わず、相続財産管理人の選任を申し立てる。


渋谷陽一郎「日弁連ガイドラインにみる司法書士業務としての民事信託支援の難しさ(1)」

市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「日弁連ガイドラインにみる司法書士業務としての民事信託支援の難しさ(1)」からです。

1、の東京青年司法書士協議会の民事信託研究会については、沖縄県では働きかけても参加する方がいない、率直に良いなと思います。ゲストに関しては記載されている方々が、同業の司法書士等に対してどのようなビジネスを行っているのか、考えた方が良いように感じましたが、能力や経験があると勉強会の主催者が判断出来れば良い、という考えかもしれません。記事の筆者は、民事信託に関する記事で、何度も公益、市民のための、という用語を使用します。

司法書士の執務規律としては、ガイドラインに対して、どのように向き合うべきだろうか。司法書士の場合、子ども世代を依頼者として認識する人もいるようであるし、さらには、委託者と受託者の双方から受任を行っていると思う人もあろう。親族全体を依頼者であると感じている人もいるそうだ。

 日本司法書士会連合会の指針は、依頼者は委託者のみ、依頼者は委託者及び受託者の双方、という2つです[2]。依頼者は委託者及び受託者の双方、という考え方について、司法書士法関連法令に基づく根拠は記載されていません[3]

 1、利益相反による不当性の回避措置、2法律整序としての執務方法に注意、3、利用者に対して、そのリスクを説明し、明示的に委託者と受託者の承諾を得ることが出来れば、双方受任は適当(適法)と認められるのか、分かりませんでした。

たとえば、終了に関する別段の定めなどを信託条項化する場合、委託者と受託者との間の利益相反を生じうるリスクがあるが、そのような局面では、委託者と受託者の双方が、それぞれリスクを認識しておく必要があることから、それぞれに別の司法書士が助言する、弁護士のオピニオンをとるなどの手当てが必要となる場合があり、一人の司法書士が、双方を(特に委託者のリスク認識が曖昧なまま)、仲裁人的な立場で丸め込むようなことに加担してはならない(仮に仲裁であれば簡裁訴訟代理等関係業務の範疇ともなりうる)。司法書士法3条の法律整序事務であればこそ、適正な許容要件を踏まえた双方受任の理論構成を試行しうる(アプリオリに許容されるわけではない)。

 なお、民事信託支援業務に携わる司法書士の人々は、法律整序事務とは何か、その方法はいかなるものなのかを熟知しておく必要がある。

 別の司法書士が助言する、弁護士のオピニオンをとるなどの手当てが必要となる場合があり・・・同意です。費用面で上がりますが後の過誤や紛争を防ぐ可能性を上げることで、依頼者には説明することになると思います。定型がない現在、図を付けるとして、助言やセカンドオピニオンを得やすい提示の方法は模索が必要だと思います。信託設定書類のチェックは、事案によっては案の作成よりも時間や労力を使うことがあります。

 仲裁人的な立場で丸め込む・・・仲裁人的な立場と、日本司法書士会連合会民事信託等財産管理業務対策部が考えている調整役の違いが分かりませんでした。また仲裁法上の仲裁人は、依頼者を丸め込むこともあるのか、分かりませんでした。

 民事信託支援業務に携わる司法書士の人々は、法律整序事務とは何か、その方法はいかなるものなのか・・・著者が本記事P115で記載している裁判事務におけるメニュー論、に同意です。

受託者支援は、司法書士にとって、司法書士法施行規則(以下、「規則」という)31条1項業務となり得るので、情報提供およびリスク説明義務の履行が重要となる(同条1号の文言上、委託者支援は、同様の要件には該当しない)。

 文脈から、信託期中ではなく、信託設定時の場面であると想定されますが、司法書士法施行規則31条1項を根拠に、受託者支援業務を委託者との委任契約と同時進行で行い得るのか、分かりませんでした。私なら、信託設定時と信託期中は分けて考えます。

 記事で触れている、利益相反のリスクを最小化、という表現についても、分かりませんでした。私なら、信託設定時の受託者支援業務について、司法書士法施行規則31条1項を根拠にするのであれば、利益相反関係にあることを前提にします。

この点、家族信託契約書の自動作成ソフトやひな形提供サービスを利用することにリーガルリスクはないのだろうか、慎重に考えてみたい。

たたき台として利用する分には、良いのではないかと思います。最終的に責任を問われるのは司法書士個人です。

司法書士にとっての、遺留分侵害の有無に対する着眼点は、紛争性(法定紛議性)の蓋然性の有無である。遺留分が侵害される推定相続人(遺留分権者)の理解と納得があるか否かを確認しておきたい。

 たとえば、司法書士による遺留分対抗(潜脱)のしくみの教示や、司法書士が組成に関与した家族信託のしくみが遺留分権利者の意向に反し、結果として紛争を生じれば、司法書士の関与形態に応じて、潜在的に紛争性ある事件関与であると評価され、評価規範上、職務範囲の逸脱であると判断されるリスクも生じうる危険な領域である。

 遺留分侵害の有無に対する着眼点は、紛争性(法定紛議性)の蓋然性の有無・・・信託設定時に遺留分を侵害していると職務範囲の逸脱と判断されるリスクがあるのか、分かりませんでした。

 記事のように考えると、遺言書の作成支援で、全ての財産を相続させる、という内容だった場合、司法書士法3条の業務範囲で行っている限りでも、違法とされるリスクがある、とされる可能性が出てくるのではないかと考えられます。

 例として挙げられている、司法書士による遺留分対抗(潜脱)のしくみの教示と、遺留分権利者の意向に反し結果として紛争を生じた場合では、分けて考える必要があると思います。

 前者については、判例や法改正がない限り、法令の独自解釈であり、紛争性があると判断されるリスクがあると考えても良いと思います。

 後者については、記事記載のとおり関与形態が問われ、司法書士法3条の業務範囲である限り、紛争性がある判断された例は現在、ないと思われます。

 遺留分が侵害される推定相続人(遺留分権者)の理解と納得があるか否かを確認・・・本記事に記載の推定相続人(遺留分権者)は、信託設定時の人であると思われます。理解と納得がどの程度のものなのか分かりませんでした。私なら、説明をして、説明を受けました、という書類に署名(記名押印)を求めます。


[1] №142、2023年8月、民亊法研究会、P110~。

[2] 日本司法書士会連合会民事信託等財産管理業務対策部『任意後見と民事信託を中心とした財産管理業務対応の手引』2023年、日本加除出版、P20。

[3] 調整役について日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程【第三版】』日本弁護士会連合会、2017、P81 。

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