法制審議会信託法部会第6回~第10回

2016年加工編 

                      法制審議会信託法部会

                        第6回会議 議事録

第1 日 時  平成16年12月3日(金)  自 午後1時00分

                       至 午後5時00分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(4)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,1時になりましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。

  今日もたくさんのテーマがございますので,適宜区切って説明してまいりたいと思いますけれども,これについて,では,○○幹事からお願いします。

● それでは,今日の進行についてでございますが,まず,全体を六つに分けてやりたいと思います。1番最初は,受託者の解任・辞任等に関する前回の積み残しの問題があります。

続きまして,資料で言いますと第40,第41になりますが,受託者が欠けた場合の取扱いと受託者の交代の問題をやらせていただきまして,3番目に,第44でございますが,信託財産の管理人の問題を扱いたいと思います。

そのあたりでいったん休憩といたしまして,4番目に,受託者が複数の信託の問題,5番目に,受託者が倒産した場合の問題,最後に,委託者の問題と遺言信託の問題ということで,全体を六つに分けてやりたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,早速,受託者の解任・辞任の問題,それから合併・会社分割による受託者の変更問題について,概要を御説明したいと思います。

  まず,第37でございますが,これは,受託者の解任・辞任及び新受託者の選任に関する提案でございまして,提案内容は信託法制研究会報告書の記述とほとんど変わるところはございませんので,簡単にその趣旨を再び申し上げたいと思います。

  まず,1ないし4というのは,受託者の解任に関する提案でございます。

このうち,1ないし3というのは,受託者を交代させるためにいったん信託本体を終了させてしまうというのでは余りにもロスが大きいということから,特約のない限り,委託者と受益者の合意をもって,理由の有無いかんを問わず受託者を解任できることとし,解任された受託者に損害が生ずれば,別途その損害はてん補するとしたものでございます。

  2というのは,このような受託者の損害のてん補につきまして,委任に関する民法651条2項の規律に倣ったものでございます。

もっとも,ここで言います「不利な時期」ですとか「損害」の意味につきましては,民法の解釈上もいささか判然としないところがあるようでございますので,ここでは,民法の解釈に委ねるべく,民法651条2項の文言をそのまま引用するにとどめているところでございます。

  最後に,4でございますが,このような合意による解任ができない場合に備えまして,受託者がその任務に違反したことその他重要な事実があるときにおける委託者又は受益者の解任請求権を認める現行法47条の規律を維持したというものでございます。

  次に,5でございますが,これは,受託者の辞任に関する提案でございまして,信託は受託者に対する信頼関係を基礎といたしますので,受託者が勝手に辞任することができないとするのが委託者及び受益者の意思に合致すると考えられます。

現行法43条,46条におきましては,受託者が辞任できる場合というのを3点,すなわち,信託行為に別段の定めがある場合,受益者及び委託者の承諾がある場合,それから,やむことを得ない事由があるために裁判所の許可を得た場合に限っておりますが,提案におきましてもこの規律を維持したものでございます。

  最後に,6,7でございますが,これは,新受託者の選任に関する提案でございます。

現行法49条は,利害関係人が裁判所に対して新受託者の選任を請求することができると規定しております。

提案では,7におきまして現行法49条の規律を維持することとした上で,私的自治の観点からは,裁判所の関与を経ずとも,委託者及び受益者の合意によって新受託者を選任することが可能であるということを明らかにすべく,その旨を6で明文化したものでございます。

  続きまして,第38の「合併又は会社分割による受託者の変更について」という提案について簡単に御説明いたします。

  まず,受託者たる会社が合併した場合につきまして,現行法42条1項によりますと,「受託者タル法人カ解散シタルトキ」に当たり,受託者の任務が終了することとされております。

しかし,会社の合併の場合には,新設合併であれ,吸収合併であれ,消滅会社の契約上の地位は存続会社にすべて包括承継されることになるわけですので,消滅会社の方が受託者であった場合においても,契約上の地位である受託者の任務が合併により消滅してしまうと解する必要はなくて,やはり存続会社の方に包括承継されて引き継がれると解すればよいものと考えられます。

そこで,1の第1文では,このような考えに基づきまして,現行法を改める規律を設けることを提案するものでございます。

  また,現行法につきましては,株式会社であった受託者が会社分割され,信託財産が設立会社あるいは承継会社の方に移転された場合におきまして,受託者たる地位はどうなるかが明らかではございません。

しかし,この点につきましても,会社分割は合併の場合に類似しまして,被分割会社の営業を新会社に部分的包括承継させるものでございますので,新会社に移転される営業の中に信託が含まれている場合には,受託者の任務もこれとあわせて新会社の方に包括承継されるものと解すればよいものと考えられます。

そこで,2の第1文で,このような考え方を明記した規律を設けることを提案するものでございます。

  なお,受託者の合併の場合であれ,会社分割の場合であれ,信託行為自体は,受託者が変わるということ以外には変わりございません。

すなわち,信託財産は,信託の併合の場合のように信託行為自体が変更されて他の信託財産と統合されてしまうわけではなくて,あくまで独立性を保ったまま新たな受託者のもとに承継されるにすぎないものでございます。

したがいまして,信託財産のみを責任財産とする債権,つまり受益債権ですとか前回の会議で説明いたしました有限責任債権につきましては,合併又は会社分割自体による信託財産の承継によってその利益を害されるものではないと考えられます。

そこで,1及び2のそれぞれ第2文とアステリスクの2のとおり,これらの債権につきましては,商法上の債権者保護手続の対象とはならないというふうにしたものでございます。

もちろん,受益者の有する債権でありましても,いわゆる受益債権ではなくて,受託者の固有財産に対する損害賠償請求権のようなものにつきましては,商法上の債権者保護手続の対象となるものと考えられます。

  以上でございます。

● それでは,第37と第38について,いかがでしょうか。いずれも,受託者がいわばそこで交代するというような場面ですが。

● それでは,第37,第38について,2点申し上げたいと思います。

  まず,1点目の第37の受託者の解任・辞任のところの受託者の解任についてでございますが,解任について信託の終了の要件と一致させるということについて,これがまあ自然だろうと。

それと,この規定は当然任意規定ということでございますので,受託者の承諾というのを要件の一つに入れてもいいということもございますので,基本的には原案に賛成というのが多数ではございますが,一方で,現行法において,解任というのが,任務の懈怠があって,任務の違背があって,なおかつ裁判所の許可が要ると,そういう状況のもとで解任されるということと,あと,今回の規律で第40の4の解任されたときの受託者の権利義務のところの書きぶり等を見ますと,ほとんど何もできないような状況になっていると,そういうところから,ちょっとある程度心象的なところなのですけれども,もともと終了するよりも解任の方が非常に重いのではないかというような意見もありまして,そういった意味合いで反対するという意見であるとか,あと,経済的な効果でいきますと,例えば,信託財産に対して補償請求権を持っているような場合に,信託財産を売却してそれに充てようというような状況のもとで,いきなり解任されてしまいましたと,そういうようなときに,信託財産管理人が選任されるまでの間の,例えば信託財産が相場物であったような場合については変動リスク,そういうのを負う可能性があるということで,ここについてもちょっと慎重な検討をいただきたいというような意見がございました。

ただ,前半に申し上げたように,多数的な意見としては,原案でいいのではないかというようなことでございます。

  次に,第38の合併又は会社分割による受託者の変更のところでございますが,合併と会社分割の際に受益債務が商法上の債権者保護の対象とならないこと,この部分につきましては,実は私自身,会社の合併と分割,両方とも経験いたしておりまして,この部分で非常に悩みまして,兼営法と信託法と商法,この関係というのがよく分からなかったということで,いろいろな解釈論を立ててやっていったのですが,そういうことがこの規律によってすべて解消できるかなということもありまして,非常に実務に即した有り難い規定だなというふうに考えております。

それとあわせまして,ここでアステリスクの1と2に書いてありますように,減資のときとか法定準備金の減少の際の問題であるとか,信託の有限責任の債務についても同様の規律を是非とも入れていただきたいというふうに考えております。

  それと,本席の議論にはなじまないことかもしれないのですけれども,この規律がもしも入れられるとしますと,当然,業法と兼営法というのが変わってくると思います。

その際に,あわせて--今は,信託兼営銀行,要するに銀行と呼ばれるところが営業譲渡をやるときの話なのですけれども,現行の銀行法からいきますと,営業譲渡のときには商法の債権者保護手続と同じような手続をしなさいというふうになっているのですね。

実際に,譲渡する営業の対象になっている分については多分更迭の手続になるのだと思うのですが,営業譲渡の対象になっていないところの営業に係る債権の債権者であるとか,営業を譲り受ける方の債権者であるとか,それに対しても債権者保護手続をとりなさいという規律になっておりまして,ここで言われているような規律が採用されるというふうになりますと,ここの部分についても,同様の理屈で債権者保護手続というのは必要でなくなるのではないかというふうに考えておりまして,多分この信託法の中に入れるというのはそぐわない話だと思うのですけれども,この点についてもちょっとテークノートしておいていただけたらなと思います。

● 第37の方に関しては,今の御発言に少しありましたように,従来の規定との比較で言いますと,信託の終了と受託者の解任というのは少し違ったルールになっておりまして,今回,それを終了の方に少し合わせている。

そうしますと,解任に関しましては,受託者からすると従来より解任されやすくなっているというところがあるわけですね。ここら辺をどう見るかというのが一つの問題だということです。

  それから,第38の方は,これはちょっと,債権者保護手続の対象としないところがポイントなわけですが,今の御指摘にありましたように,兼営法とか銀行法とか,いろいろなところと関連しておりまして,問題自体は非常に複雑なところがあるのだろうと思います。

この辺についても,いろいろお詳しい方がおられると思いますので,もし御意見をいただければと思いますが,いかがでしょうか。

● 今の点に詳しいということではなくて,細かいことなのですけれども,第37の解任・辞任のところで,2の規定で,不利な時期の解任の場合に損害を賠償しなければいけないという部分ですが,これは,先ほど,民法の考え方に委ねるというような御説明をいただきました。

36ページの下の方に,2の趣旨として,受託者が報酬を頼りにしている場合というのを最初に挙げておられるのですけれども,民法の解釈としては報酬の定めとは切り離しているのではないかなと思います。

信託法の教科書の中では報酬と結びつけているのもありますが,恐らく民法の考え方からいくと,委任の不利な時期というのと報酬の支払いというのは別のことではないかと。

とりわけ,第36の「報酬請求権について」というところの3の(2)で,中途終了の場合に割合的な報酬が支払われるということもございますので,ここで報酬を最初に出してくるというのはかえってミスリーディングではないかという気がいたします。

● 確かにそういう面がありますね。

● 補足いたしますが,確かに資料には報酬が前面に出ておりますが,私が口頭で説明したところでは一歩引いているというのは,○○委員からも御指摘がありましたが,例えば,信託の教科書を見ますと,信託行為において受託者に対して一定期間報酬を支払うべきことを定めた場合に,その期間中に信託を解除したときは,委託者や相続人は受託者に対し損害賠償として残存期間に対する信託報酬の支払いをしなければならないというようなコンメンタールの記載ですとか,あるいは四宮先生の教科書にも,受託者の損害として,報酬の減少というのが例として挙げられているのですが,他方,「注釈民法」などを見ますと,有償委任であっても,その中途解約の場合に,不利な時期における解除の損害賠償として報酬を請求し得るものではないというふうに解されておりますので,そういうこともあって判然としないというところで,民法の規定に委ねるということにしたいと思っておりますので,この点は,御指摘のとおり,報酬を前面に出すことについては控えるべきかなと考えております。

● ほかに,いかがでしょうか。

● 私もそれほど詳しくはないのですけれども,○○委員がおっしゃられた点についてちょっとつけ加えさせていただきますと,金融機関の場合の破たん処理の中で受託者が交代するというときに考えなければならない法律として,預金保険法132条の信託業務の承継における受託者更迭手続の特例ということがございます。

これについても,同じく,あわせて検討しておく必要があるのではないかというところをちょっとテークノートしていただきたいというふうに思います。

● 先ほど,銀行法とか,そういうほかの法律との関係のことを指摘されたわけですが,私もよく分かりませんけれども,信託法でここに書いてある債権者保護手続の対象にしないということがどういうインパクトを持つのかというのは,恐らくここではなかなか決めかねるのですかね。

やはりそちらの,銀行法だったら銀行法の解釈の問題として解決されるのではないかという気がいたしますけれども,どうなんでしょうか。むしろ○○委員がこれは一番お詳しいし……。

● 多分,商法のところを修正するために今回の信託法によって規律されるというのは修正が可能だと思うのですけれども,当然,銀行法という一つの特別法のところを信託法でもって修正というのはできないことだと思いますので,基本的には,銀行法であるとか--多分,業務上の問題からすると,兼営法のところで特例を認めていただいて,ここにあるような規律で,受益債務についてはその対象としないというようなことの規律を設けていただくのが,一番有り難い方法ではないかというふうに思います。

● それでは,ほかに,今の第37,第38はよろしゅうございますか。大体御賛同いただけたということでしょうかね。

  それでは,先に行きましょう。

● それでは,先ほど御説明いたしました順序に従いまして,第40と第41,受託者が欠けた場合の取扱いと受託者の交代についての説明に移らせていただきます。今回お配りした資料でございます。

  まず,第40の方でございますが,これは,受託者が欠けた場合の取扱いに関する提案でございまして,現行法で申し上げますと42条2項ですとか45条に相当する規律についてでございます。

  なお,報告書では,信託法48条の信託財産管理人の選任に関する規律もここであわせて提案しておりましたが,この部分については,第44においてまとめて御提案することとしたいと考えております。

  まず,1の(1)でございますが,これは,受託者の死亡,解散,破産手続の開始などによりまして受託者の任務が終了した場合には,現行法42条2項の趣旨を維持しまして,新受託者,信託財産管理人又は信託財産法人の管理人が事務の処理をすることができるようになるまで,相続人,清算人,破産管財人等に信託財産の保管及び引継ぎに必要な行為をする義務を課すものでございます。

これは,受託者の任務終了によりまして信託財産に不測の損害が生ずることを回避するため,いわば緊急避難的に保管義務を課すものでございます。

  次に,1の(2)でございますが,これは,相続人等が信託財産の保管等のために支出した費用につきましては,新受託者,信託財産管理人又は信託財産法人の管理人に対して請求することができることを規定したものでございます。

  なお,信託財産管理人等は,その固有財産で責任を負うものではないと考えられますので,このような費用償還請求につきましては,信託財産のみをもって負担することになると考えております。

  次に,2でございますが,これは,現行法44条は削除するという提案でございます。

特定の資格を有する者を受託者とすることとされた信託におきましては,受託者となった者がその資格を喪失したときにはその任務が終了するということになりますが,これは,信託行為において受託者の任務終了事由を定めたものと解すれば足りると考えられるからでございます。

  なお,信託行為にそのような定めがある場合につきましては,次の3の規律によることとなります。

3と4でございますが,これは,1の(1)に該当しない場合,すなわち,辞任ですとか任期の満了,解任などによりまして受託者の任務が終了した場合には,信託財産を管理する者が不在となる事態を避けるために,新受託者等が事務の処理をすることができるようになるまで,前受託者に引き続き信託財産の管理をさせるものでございまして,現行法45条の趣旨を維持しつつ,その適用を拡大したものでございます。

  ただし,4でございますが,解任の場合には,前受託者に信託財産の管理を行わせることは望ましくないという事情もあると思われますので,その権利義務を,信託財産の保管と信託事務に関する計算及び信託事務の処理を行うのに必要な事務の引継ぎというこの3点,2ページの4の①から③のものに限定して弊害が生じないようにしているところでございます。

  なお,この第40の提案全般に言えることでございますが,共同受託者の一人又は数人についてその任務が終了した場合におきましては,ここで言う「受託者が欠けた場合」には該当しないものとしております。

その場合には,前受託者が有する信託に関する権利義務は他の受託者に帰属することになるからでございます。

ただし,提案では,これはあくまでデフォルト・ルールでございますので,他の受託者が前受託者の権利義務を承継しないということも,信託行為でその旨を定めればあり得ることになるわけでございますが,その場合につきましては,後ほど第41にて改めて説明いたしますが,結論的には,ここでの規律に準じた取扱いをすればよいのではないかと考えているところでございます。

  では,続きまして,第41の受託者の交代の方に移らせていただきます。

  第41でございますが,これは,受託者の交代に伴う信託財産の帰属,権利義務の承継,事務の引継ぎ等に関する提案でございまして,現行法では50条から55条に相当するものでございます。

基本的には現行法の趣旨を変更するものではなく,むしろ,現行法の規定からは明らかではない点を明確にしようとするものでございます。

  まず,1でございますが,これは,受託者の全員につきまして任務が終了した場合の信託財産等の承継に関する規律を提案するものでございます。

  まず,(1)でございますが,受託者の任務終了事由が生じた後,新受託者が選任されるまでの間の信託財産の帰属者を明確にするものでございます。

現行法50条1項を見ますと,新受託者が選任されたときに,前受託者の任務終了時にさかのぼって前受託者から新受託者に信託財産が承継されたこととしております。

この規律は,新受託者が選任される限りにおいては特段の問題を生じさせないわけですが,前受託者の任務終了事由が生じた場合に必ず新受託者が選任されるとは限りませんので,例えば新受託者が選任されないまま信託が終了するということもあり得るわけでございます。

そうしますと,前受託者の任務終了事由が生じた後に信託財産がだれに帰属するかについて明確にする必要があると考えるものでございます。

  現行法では,前受託者の任務終了後に信託財産がだれに帰属するかにつきまして明文の規定を置いてはおりませんが,先ほど言いました50条1項の規律からいたしますと,新受託者が選任されるまでは前受託者に信託財産は帰属しているものと解するのが自然であると思われます。

もっとも,前受託者が死亡したという場合には,もはや前受託者,死者に信託財産が帰属しているとすることは適当ではないと思われますし,かといいまして,受託者の相続人に信託財産が帰属していると解することも,信託財産が前受託者の相続財産に含まれないという原則に照らせば,適当ではないと考えられます。

  そこで,(1)では,信託財産は,新受託者が就任しない限り前受託者に帰属することを明らかにするとともに,前受託者が死亡したという場合には,相続人のあることが明らかではない場合における相続財産の規律を参考にいたしまして,信託財産をもって法人と擬制するということにしております。

  次に,(2)でございますが,これは,(1)ただし書によって存立した信託財産法人につきまして,新受託者が就任したときには,当初から存立しなかったとみなすものでございます。

もっとも,このように当初から存立しなかったものといたしますと,信託財産法人の管理人,すなわち信託財産法人の機関として信託財産の管理権限を行使する者の行為の効果が信託財産に結局帰属しないということになると解されかねないおそれがございます。

そこで,新受託者が就任するまでの間に法人の管理人がその権限内で行った行為は,新受託者が就任したとしてもその効力を失わないということにしたものでございます。

  なお,報告書におきましては,信託財産法人の管理人の制度の詳細についてはなお検討事項としておりましたが,信託財産法人の管理人というのは,受託者が不在の間における臨時の信託財産の管理者であるという点におきまして信託財産管理人と共通する性格を有すると言えますので,6ページのアステリスクの1に記載しておりますとおり,その権限義務等につきましては,後ほど説明いたします信託財産管理人と  同様にすることを提案するものでございます。

 次に,(3)でございますが,これは,新受託者が就任した場合には,前受託者の任務が終了したときにさかのぼって新受託者は前受託者より信託に関する権利義務を承継したものとみなすと規定するものでございまして,現行法50条1項の趣旨を維持するものでございます。

  ところで,現行法は,新受託者が前受託者から承継する対象を信託財産としておりますが,前受託者が信託事務処理に当たって第三者と締結した契約についての契約上の地位ですとか信託債務についても承継の対象となるということを明確にするために,「前受託者より信託に関する権利及び義務を承継」するものと書いているところでございます。

ここで「信託に関する権利及び義務」としておりますのは,前受託者が固有財産のみで有し,あるいは責任を負担する権利や義務は承継しないということを含意しているものでございまして,例えば,いわゆる受益債務であれば,新受託者が承継する対象に含まれると思われますが,損失てん補債務のように前受託者がその固有財産のみで負担する債務は含まれないと考えております。

また,当然のことではございますが,前受託者が固有財産として有します補償請求権や報酬請求権も承継の対象には含まれないと考えております。

  なお,資料12ページの(注2)に記載してあるところでございますが,新受託者というのは,当然に,すなわち契約上の地位の譲渡とは異なりまして,取引相手方の同意がなくても前受託者の地位を承継するということになりますと,受託者の契約の相手方の権利を害することにもなりかねません。

この点は,後に説明いたします3の規律で提案いたしますように,新受託者が選任された場合にも,前受託者は任務終了時までに生じた債務については新受託者と併存的に負担するとすることによって,かなりの程度解決されることになると思われます。

ただ,継続的な取引契約における当事者の地位も当然承継されるといたしますと,取引の相手方に想定していない不利益を強いることもあり得ると考えております。

例えば,無限責任の信託取引で,特に受託者の信用力を当てにしていてもやむを得ないと言えるような場合など,取引相手方を特に保護すべき事情がある場合には,受託者が交代したことをもって取引の相手方に解除権や損害賠償請求権が生じるというような規律を設けるという考えもあり得るかと思われますが,この点につきましては特に御意見を賜れればというふうに思っております。

  続きまして,2でございますが,これは,受託者が複数の信託におきまして受託者の一部の任務が終了した場合の規律に関するもので,現行法50条2項の規律をほぼ維持しております。

ただし,次のような原則,すなわち,共同受託者の一部の者の任務が終了した場合には,当該者が受託者として有する権利義務は,任務の終了していない方の受託者に帰属し,任務の終了していない他の受託者のみで信託事務を処理するという原則,このような原則を画一的に適用いたしますと,その任務の内容いかんによっては,他の受託者に酷な場合等の不都合が生ずるおそれがあると考えております。

そこで,2におきましては,信託行為に別段の定めを置くことができるものといたしまして,現行法に比して柔軟に対処できるように手当てしております。

ここで言う信託行為の別段の定めといいますのは,例えば,信託行為の定めによりまして共同受託者のうちの特定の受託者が信託財産の単独名義を有するとした上で,信託財産の名義を有する受託者の任務が終了した場合には,任務の終了した受託者から新たに就任する受託者に直接信託財産の名義を移転することを定めるというようなことですとか,あるいは,職務分掌の定めのある信託におきまして,一方の受託者の任務が終了したとしても,他方の受託者がその任務を承継しないことを定めるというようなことが考えられます。

  なお,この後者のような定めを設けた場合でございますが,これは,資料13ページの(注3)というところに書かせていただいておりますが,共同受託者のうちの一人の任務が終了した場合,例えば,運用を行う受託者と保管を行う受託者とがいる場合におきまして,保管を行う受託者の任務が終了した場合には,後任の受託者が選ばれるまでのいわばつなぎ役を務める者,今の例で言いますと信託財産の保管をすべき者を定めておく必要があると考えられるところでございます。

この点につきましては,先ほど第40の最後で述べましたように,第40の規律を準用することが適当だと考えておりますが,この点につきましても御意見をいただければと考えております。

  次に,3でございますが,これは,受託者の交代時におきまして前受託者及び新受託者が負担すべき責任の範囲などについて提案するものでございます。

(1)でございますが,これは,前受託者の任務終了時に現に存した債務のうち固有財産でも責任を負うものにつきましては,受託者の交代後も前受託者が債務とともに責任も負い続けるというものでございます。

また,前受託者が共同受託者の一人である場合には,前受託者が固有財産でも責任を負担していた部分の債務については引き続き責任を負い続けるというものでございます。

  (2)でございますが,これは,前受託者の任務終了時に存在する信託財産に属する債務につきましては,新受託者は信託財産の限度において責任を負うとしたものでございます。

  以上申しましたものは,いずれも現行法52条3項の規定の趣旨を維持するものでございます。

  なお,今申し上げましたことのいわば反対解釈といたしまして,前受託者の任務終了時には存せず,任務終了後に生じた債務,例えば利息債務ですとか所有者責任による債務,あるいは信託財産管理人の負担した債務などにつきましては,これは新受託者が固有財産で負担するというふうに考えております。

新受託者は,その就任に当たりまして,信託債務の存在を認識して引き受ける以上は,その負担を課しても酷ではないというふうに考えるからでございます。

  次に,4は,前受託者の費用,損害の補償又は報酬の支払いを受ける権利に関するものでございます。

(1)及び(2)では,前受託者に費用,損害の補償又は報酬を支払う必要がある場合には,例えば,任務終了前に費用を支出し,損害を受けたものの,その補償を受けていない場合ですとか,任務終了後に信託債務の弁済を行った場合ですとか,こういう場合におきましては新受託者又は信託財産管理人等から補償を受けるというふうにしているところでございます。

なお,現行法第54条1項を見ますと,前受託者が補償請求権又は報酬請求権に基づいて信託財産に対して強制執行できるというふうに規定してるわけでございますが,このような規定がなくても前受託者は新受託者に対する債務名義を取得いたしまして,新受託者の所有に係る信託財産に執行することができるというふうに考えられるわけでございます。

また,現行法におきましては,受託者の任務終了後は補償請求権の優先権は失われると解されておりますが,信託財産に関する補償請求権の優先性の根拠は,支出者の属性ではなくて,債権の発生原因そのものに求めておりますので,前受託者の補償請求権の信託財産に対する優先権は任務終了後においても効力を維持すると考えております。

  次に,(3)でございますが,これは前受託者が補償請求権等を行使するために前受託者に信託財産の留置権を認めるものでございまして,現行法54条2項の規律を維持するものでございます。

  それから,(4)と(5)でございますが,これは前受託者が受益者から補償を受ける権利の行使に関するものでございまして,受益者に対する補償請求権の有無ですとか,あるいは受益者に対する補償請求権行使の順序につきましては,先日御提案申し上げました補償請求権一般に関する規律と同様の規律を提案しているものでございます。

  最後に,5でございますが,これは,前受託者の任務終了後における計算義務,それから事務の引継ぎを行う義務,みなし承認及び承認の効果などにつきまして提案しているものでございます。

  現行法55条との違いは,まず,引継ぎの相手方として新受託者のほか信託財産管理人を加えたこと,受益者の立会いを要しないとしたこと,それからみなし承認に関する規律を新たに設けたということがございます。

  なお,この規律の対象となります前受託者というのは,先ほど説明申し上げました,辞任若しくは任期の満了等により任務が終了した前受託者又は解任により任務が終了した前受託者というものを考えております。

これに対しまして,42条2項の規定する信託財産の保管義務者,相続人ですとかそのようなものですが,そういう者にも計算義務があるとの解釈も存します。

しかし,このような臨時の信託財産保管義務者の行う計算と,前受託者の課された計算義務における計算の範囲・程度は異なると考えられます。

すなわち,臨時の信託財産保管義務者の行う計算は,前受託者が残した資料,信託財産から残存信託財産の内容の報告程度で足りると解されるのに対しまして,前受託者の行う計算は,当初の信託財産から事務引継ぎに当たり引き渡す信託財産への変遷が明らかになるようなもの,すなわち,過去の事務処理までさかのぼって信託取引の内容が明らかになるようなものまで作成することを要し,そのような内容の報告であればこそ,計算承認に責任解除の効果が付与されてしかるべきであると思われるからでございます。

 以上で終わります。

● なかなか複雑な部分でございますけれども,いろいろ理論的には問題がありますので,御議論いただければと思います。

  簡単に言えば,要するに,受託者が交代するときに,すぐ新しい受託者がそこで選任されれば,それでもいろいろ複雑な問題がありますけれども,そう問題はないのですけれども,すぐに新しい受託者が選任されるとは限らず,前の受託者と新受託者の間に一定の期間があると,そんなことからいろいろ複雑な問題が生じているということでございます。

  いかがでございましょうか。

● 第40の4について,先ほど○○委員も軽く触れられたことでございますけれども,それに敷えんしてお話ししたいと思います。

ここで,受託者の解任の場合には,受託者の権利義務というのは3点に限られるということでございますけれども,この点についてもデフォルト・ルールでよいのではないかという意見を述べたいと思います。

  実務のニーズにおいては,今後,信託業法の改正により受託者の担い手が拡大するものですので,そういうことを踏まえまして,やはり信託契約において,特に商事信託においては,あらかじめ第37の規律に従って解任のルールを決めておくことが考えられます。

例えば,受託者の格付が一定以下に下がった場合に受託者を交代させるということがあると思います。

こうした場合に,実際には,予防的に,完全にその信任関係が崩れる前にある一定の解任をしておこうと。

その後,新受託者が選任されるまで,なお,解任を前提とするけれども,一定の受託義務ということはやらせておこうと,こういうニーズがあると思います。

特に不動産信託の場合には,修繕であるとか賃料の収受であるとか,考えようによっては保存行為あるいは改良行為も必要だと思いますけれども,それは間断なく実行される必要があると思います。

そこにおいて,もう一つ,管理制度というのがありますけれども,そこまで移行するのもまた実務的にも困難だと思いますので,そうしたときに ,新受託者がこの3点の行為しかできないということになると,やはり実務的に難しいのではないかというふうに思っております。

  したがいまして,やはりここも,第37,理論的にも解任の手続自体がデフォルト・フォールになるわけですので,この解任の場合の受託者の権利義務,その残った受託義務についてもやはりデフォルト・ルールで任意に決められるということにしたらどうかというふうに思います。

● 今のは,第40の4に関してですね。

  ほかに。

  よろしいですか,○○幹事。

● 確かに,委託者,受託者がそれで合意していれば,これにプラスする方向というのはあり得ると思います。逆に,これを減らすというのはちょっと難しいということですので,片面的な強行規定といいますか,そういうことであれば,まあそれでいいのかなという感じがしております。

● ほかに,いかがでしょうか。かなりテクニカルな問題もたくさんあるのですが。

● 第41に移ってよろしいでしょうか。

  受託者の交代のところでございますが,基本的には,受託者の交代の規定をいろいろと盛っていただいておりますが,おおむね賛成の方向ということでございます。

  その中でも,(注3),(注4)というのを,先ほど○○幹事の方からもお話がありましたけれども,職務分担型の共同受託が一般化してきたときには,こういうような規律が必要になるのではないかと思いますので,そういう方向でお願いできたらなというふうに考えております。

  ただ,少数意見なのですけれども,ここの2のところの規律,それと,後のところで議論されることになっていますけれども,第43の共同受託のところの規律でございますが,この二つの部分は,現在ここで検討されております法改正の以前に設定されたものについては適用されないという形での整理をお願いしたいと。

そこについては多分経過措置の問題で,後になって議論されるのだと思うのですけれども,特にここの部分についてはそういう形での御対応をお願いしたいという意見もございましたので,あわせてつけ加えておきます。

● 特に気になっている部分はどこでしょうか。今の場合。

● 例えば,受託者が複数いて,それで解任になりましたというときに,その信託財産が--例えば,3人受託者がいて,一人が解任されましたと。それが,その二つのところに信託財産が行くというのがデフォルト・ルールで,契約があればそれは別に構いませんよということなのですけれども,多分そういう契約体系に今はなっていないと思うのですね。

そうすると,いきなり新法ができたときにそういう状況になってしまうと,対応ができなくなるということではないかと思います。

● 恐らく,それはそう対応すべきだと思いますね。

  ほかに,この辺はいかがでしょうか。

● 第40の1の(1)なのでございますが,そこに,引継ぎの事務処理をする人として,受託者の相続人,清算人,破産管財人,成年後見人又は保佐人というのが並列的に並んでいるわけですが,破産管財人というのは,今まだ御説明いただいていない第42とか第39のところとも密接に関連しますし,そもそも破産管財人について第三者性というのを認められると仮定しますと,例えば信託財産に公示がないといったときに,成年後見人や相続人は,公示がないことを理由にして,この財産は信託財産でないというふうに言う権利は持っていないと思うのですが,それに対して,破産管財人というのは持ち得るわけですよね。

もちろん,解釈論として,持ち得ない,やはり破産管財人もそのまま受託者の権利義務を引き継ぐだけであって,仮に公示が欠けていてもそのことについて主張はできないのだというのもあり得るかもしれませんが,それは恐らくは一般的な破産法のほかのところの解釈と整合性が出なくなると思うのです。

そうなりますと,破産管財人というのはもうここの第40から外してしまって,別の,受託者の破産の特別な条文というところに入れ込んだ方がいいのではないかという気がするのですが。

ちょっと私が十分に理解できていないだけかもしれませんが。

● 確かに,破産管財人というのは受託者のその他の債権者の利益を代表するところでもあり,ただ,事実上信託財産を管理しやすい立場にもある,そういう意味でちょっと二面性があるわけですね。確かに,おっしゃるのも一つの……。

● なお考えなければいけないと思いますが,現段階では,今の○○幹事のような解釈論はむしろとらないということになるのではないかと思います。

破産管財人が第三者性を持つのは,破産財団を管理する機構としての地位であって,ここではそうではなくて,いわば事務処理を引き継ぐというのですか,保管し,引継ぎに必要な行為をするだけの地位ではないかと思いますので,換価して清算する対象ではない財産について第三者性はないというふうに解釈することになるのではないでしょうか。

● 恐らく受託者のそういう事務を引き継ぐわけですが,しかし,同じ破産管財人が,受託者の債権者の利益というか,破産管財人としては利益を代弁しなければいけないというので,○○幹事が例を挙げられたように,信託財産について公示がなかったときにどういう行動をとるべきかと,そういうところが恐らく問題なのだろうと思いますけれども。

  あるいは,○○幹事の方で何か。

● 確かに,破産管財人は事務の引継ぎとかをする義務があるわけですが,恐らく,最初に○○幹事がおっしゃった趣旨は,公示がないものについてどうするかという御趣旨かと思いますので,そうすると,やはり,私もそんなに破産に詳しいわけではないのですが,公示がない財産については,破産管財人はそれを破産財団だと主張することが,受託者の債権者の利益を代弁するという立場からはあり得るのではないかという気がいたしますので,やはり第三者性というのは否定できないような気がいたします。

  そうしますと,これは第42の1のところで破産管財人については特出しして規律を書いているわけでございますが,この中では唯一,このような二面性のある立場に属する者だということで,特別に規律を特出しするという考えもあり得るかと思うところでございますが,まだ事務局の中で,この破産管財人を特別に別途規律すべきかどうかとかいうところまで詰めているわけではございませんが,直感的にはそういう印象でございます。

● 恐らく,この第40でもって積極的に第三者性を否定したというわけではないということなのですね。

ですから,○○幹事のような--○○幹事御自身の積極的な御意見ではないのかもしれませんけれども,仮に第三者性を否定するということがあったときに,それで破産との関係は大丈夫なのかということはどうでしょうね。

● 受託者の管財人が第三者性を持つのは,受託者の固有財産が破産財団になって,それとの関係だと思うのです。

信託財産というのは,要するに実質的には自分のものではないわけですから,ここに書いてあるとおり,正に保管をし,事務の引継ぎに必要な行為をするだけであって,人の財産を預かっているだけですから,その局面では第三者性の問題は出てこないのではないかと思うのです。

先ほど申し上げたのはそういう趣旨なのですが。

  ですから,矛盾するところではない,つまり,この原案のままでも別に構わないのではないかというのが,私の今日の段階での理解ですけれども。

● 前のときにちょっと議論がありましたが,破産管財人というのは一方的に受託者の固有債権者の利益ばかり図ってはいけないのであって,中立的な立場にいなければいけないとすると,例えば,今,○○幹事のおっしゃるのは,公示がなくても,それが信託財産である以上は,これは信託財産だというふうに認めなければいけない,いや破産財団だなどという主張をしてはならないという趣旨が破産管財人に課されていると。

● そうです。固有財産の中で対抗要件のないものが相手方にあれば,それは第三者として頑張らなければいけない義務を負うわけでしょうけれども,信託財産を保管,引継ぎするための必要な行為をするだけだったら,これはただ受託者としての事務の引継ぎをやっているだけではないかと,そういう理解になるのではないでしょうか。

● 実は,私,現行法の解釈論については,今,○○幹事のおっしゃったものと同じ立場をとっているのですが,必ずしも私がそう思っていることをみんなもそう思っているということではなかったような気がするのですね,現在。

  私の解釈論の基礎というのは,相続人,清算人,管財人,後見人と,こういうふうに並べられていて,一人だけ第三者で,そもそも公示がないときに信託財産性というものを否定できるというのはおかしくて,ただ単に受託者の義務を引き継いでやるだけだろうと,それが並行に並んでいるのだろうというふうに私は現行法は解釈しているのですけれども。

  いずれにせよ,そのあたりのところは現行法の解釈論として明確になっていたわけではないような気がいたしますので,そういうふうなあいまいなものをそのまま引き継ぐよりも,第三者性を否定するのか--「第三者性」という言葉がいいかどうか分かりませんけれども,公示がないと,公示の欠缺というものを主張し得ないというふうに解するのか,それとも,やはり主張し得るというふうに解するのかというのは,これを機会にやはり明らかにしておいた方がいい問題ではないかというふうに思います。

● それは確かにそうですね。

● 私も,○○幹事の方の感覚に賛成します。

  やはり信託法というのは,こういう利益相反的な状況あるいはそのおそれがある場合に対して敏感であるべきであって,○○幹事の言うことも分からないではないですけれども,結局,本当のところで問題になるのは,これは信託財産である,固有財産であると頭の中でクリアに分かれて,しかもそれが現実にはっきりしている場合は何の問題もないでしょうけれども,現実には,これはどうなんだろうという話が問題になってきたときに,あんたどうするのと言われるわけですよね。そのときに,こちらの利益もある,しかしこうやってこういう立場もあるというのが正に利益相反的な状況なので,やはりそういうのを一緒に並べておくのはいかがなものかという感触です。

● ほかにも何か御示唆をいただければ。

  確かにそういう両面はあるのですけれども,現実問題としては,恐らく破産管財人に事務を引き継がせるということは必要なんだと思いますけれども,そのときのルールですね,どういう考え方に基づいて,破産管財人としては何をしなくてはいけないか,その指針を明らかにするということだと思いますが。

  条文にするときに,破産管財人については別にするということももちろんあり得るし,ここら辺は,また事務局の方で検討してもらうということでよろしいでしょうか。

● 実質に関することはなくて,複数の規定相互間の関係についての理解をお伺いしたいというものであります。

  先ほどいたしました第38の合併又は会社分割における受託者の変更と,今の第41の受託者の交代の関係について,少しお伺いさせてください。

  第38の方は,任務を承継するというのが基本的な考え方になろうかと思います。

そして,第41の方は,任務がいったん終了し,新たな任務を新しい受託者が負うという形で対比・対照できるのではないかと思います。

しかし,第41の方も,信託行為の変更がない限り,新受託者が負う任務は旧受託者が負っていた任務と基本的に同一の内容になるのだろうと思います。

しかし,そこを,旧の任務は終了し,新の任務が新たに成立というか,発生というか,創設されたと考えることの具体的な意味が何かあるかどうかということを伺えればと思います。

それは単に,第38の世界では,第41の新受託者への事務の引継ぎ等,あるいはその前提としての新受託者の選任が必要ない,そして,特に分割の場合では受託者の法人格が変わるわけですが,そのときに新受託者への事務の引継ぎ等がないということを意味していると考えれば足りるのか,それとも,それに加えて,一つの任務が承継されるのと,いったん任務が終了して新たな任務が成立するという第38と第41との違いが何かもう少し実質的な意味を持つのか,お教えいただければと思います。

● なかなか難しいですね。

  ○○幹事御自身はどうお考えですか。

● 私は,同じなのかなと。

  そうすると,任務が承継するというのは,第38のところで一つ強調していただいたところですけれども,それ自体は,任務が終了しないということを意味しているにすぎないのかなと感じたところですが,いかがでしょうか,○○幹事。

● おっしゃったように新受託者の選任云々ということだと,債務の承継なんかが,場合によっては,包括承継ですと全部移転するのが,この受託者交代の規律ですと有限責任の限度しか承継しないというようなところが違うのかなという気がいたします。

  ただ,我々が前から分からないのは,この受託者の交代というのはいわゆる包括承継なのか特定承継なのかというところがちょっと分からなくて,もし特定承継だったら,登記の問題とか第三者性の問題が出てきますが,包括承継でしたら,例えば登記をしなくても二重譲渡の問題等は生じないので,もしも包括承継的に受託者のことを考えるのですと,微細な点は違うとしても,おっしゃるとおり,余り第38の規律とは違ってこないと。

  むしろ,そこら辺をどう考えているのかというところを教えていただければと思っているところです。

● 引き続き考えてきます。ちょっと今はよく分かりません。

● ここら辺は余り議論の蓄積があるところではないので,むしろ,これからどう考えていったらいいかという観点から御議論いただければと思いますけれども。

● これも質問で,申し訳ありませんが,先ほど,恐らく○○委員のお話の中に営業譲渡の話が少し出てきたと思うのですが,信託財産を含む営業譲渡を信託銀行なり信託会社がするときは,これは第41の世界で考えると。

● そうですね。任務終了して,新たな受託者と,そういうことになります。

● そして,そのときに信託財産とか権利義務とかを移転するけれども,それが特定承継なのか包括承継なのかというようなことが……。

● それはそういうことですね。

  ただ,恐らくそれは民法上の債務引受け,債権譲渡と同じような話なので,そう考えると,特定承継なんでしょうかね。

でも,特定承継だと,対抗要件を具備していなければいけないんでしょうか,前受託者から交代した新受託者は。

そうしないと,前受託者から譲渡を受けた人に対抗できないとかいうことになるのも不自然な気もいたしまして,よく分からないところでございます。

● ちょっと違う話ですけれども,第41の「受託者の交代について」のところで,4の「前受託者の補償を受ける権利等」というところ,これは多分,前の受託者の受益者に対する補償請求権のところとも同じ議論がここで持ってこられて,甲案,乙案というふうに7ページの方で分けられていると思うのですが,書きぶりが若干違うので,その辺,何か異なって扱う趣旨があるのかという質問なのですが。

  例えば,この(5)に,「(4)の権利は,(1)又は(2)の権利を行使することによっても補償を受けられない場合に限り,行使することができる」というふうに書いてあって,12ページのこの説明の方を見ますと,12ページの上から7行目ですか,「新受託者等が信託財産を責任財産とする補償請求に応じない場合」という書き方になっているのですね。

ですから,この応じないとき,責任財産として信託財産があるのだけど補償請求に応じないよという場合も含まれてしまうような書き方になっていて。前のところでは,「弁済に不足する」とか,そういう条件だったと思います。この辺はいかがでしょうか。

● ちょっと私は気がつかなかったけれども,そんなに違える趣旨はなかったかと思いますけれども,どうですかね。

● (5)の書きぶりですが,ここが書きぶりが違うというのは,実は事務局でも少し感じてはいたところでございますが,さほど積極的な理由でもないのでございますけれども,一般的な補償請求権の局面では,信託財産の維持を図るべき待機義務というものもかかっておりますので,より受益者に行きやすくしてあげた方が受託者のためではないかと。

しかし,この局面では,もはや信託任務が終了しておりますので,より受益者に行ける場合を限定していいのではないかというようなニュアンスで考えているところでございまして,繰り返しますと,信託継続中の補償の方がより受益者に対しても行けてしかるべきではないかということをにおわせていると言えば言えるということでございます。

● 余り別に解しない方がいいかなというのが私の意見でございます。

● 別にというのは,どちらかにそろえるという意味ですか。それとも,積極的にどちらかにそろえた方がいいと。

● それは,前の補償請求のところの記載の方が受益者に行きにくいのではないですか。

● 前は,「補償請求権の弁済に不足する場合,又は弁済を受けることができなくなる蓋然性が高い場合に限り」ですから,危なっかしかったら行けるという意味で言えば,より行きやすいのです。

● 受けられないというのは,もっと厳しいということですね。

● 判明しないとだめなので,厳しいです。

● では,さっきの補償請求に応じないというのは,あれはまたちょっと違うと。

● そこら辺の書きぶりは余り詰めていませんが。

● そういう意味では,○○委員の御意見は,こちらにそろえた方がいいと。

● そうです。

● ほかに,いかがでしょうか。--よろしゅうございますか。

  あるいは事務局の方で,この点は是非聞いておきたいという点がありますか。

● 先ほど申し上げました(注2)のところでしょうか,かつての研究会でも議論になりましたが,当事者が交代したときに,相手方の,特に継続的契約取引の相手方に対して何らかの保護措置を与えるべきか。

一般的な有限責任取引であれば,受託者が変わったからといって保護してやる必要は乏しいと思うのですが,特に信託の受託者の資力を当てにして契約をしていたような状況が認められるときには,何らかの,解除権とかが発生するという考え方をとる余地があるかどうかというあたりの御意見がもしあればというふうに思っているところでございます。

● 私は,一般的なルールにゆだねておいていいのではないかなという印象を持ちました。

特に,受託者の固有財産を当てにしているのであれば,それに対応するような特約なりを結ぶという方法もあるでしょうし,そういう特約を結んでいない場合に,受託者が交代したという場合であっても,一般的な,例えば期限の定めがない場合には,解約申入れをするとか,あるいは不安の抗弁を主張するとかということで対応できるかなと思います。

  それからもう一つは,特別の契約類型を切り出すということは実際上はなかなか難しいのではないかなという印象を持ちまして,結論としては,一般ルールにゆだねていいのではないかと思います。

● もう一つは,13ページの(注3)のところで,先ほど○○委員もおっしゃっていましたが,共同受託者のうちの一人の者が任務を終了したと。

そうすると,名義は当然,残りの方に行きますが,任務についても行く,しかしそれが酷な場合については任務は行かないということで並立はしておいて,しかし,ここの(注3)の提案では,そういう場合には,事務引継ぎをする者は,第40の規律のように,例えば前受託者がそのままとりあえずやるとか,あるいは共同受託者の一人の者が破産した場合には破産管財人がやるとか,そういう規律を持ってきてはどうかということを提案しているところでございますが,それについてはこのような考え方をとるということで,特によろしゅうございますでしょうか。

● まあ,そんなに不合理なルールではないと思いますので,特に御反対がなければ……。では,そういうことにいたしましょう。そういうことにいたしましょうというのは,皆さんの大方の賛成は得られたということですね。

  では,次に行きましょうか。

● では,続きまして,信託財産の管理人の説明,第44に移らせていただきます。

  信託財産管理人とは,受託者が欠けた場合におきまして受託者のかわりに信託財産を管理する者を言いますが,現行法のもとでは,信託財産の管理人を選べる場合というのが限られておりまして,一つは,46条で,受託者の辞任を裁判所が許可した場合,それから47条で,裁判所が受託者を解任した場合,それでこれらの場合には,裁判所は受託者がいなくなったことが分かりますので,裁判所が職権で信託財産管理人を選任するとしております。

  この規律に対しましては,信託財産管理人の選任を今の二つの場合に限定することは信託財産保護の観点から狭きに失するのではないかという指摘ですとか,あるいは,信託財産管理人の法的地位につきましては特に規定がありませんので,その地位が不明確ではないかという批判がございます。

  ところで,信託がこれからますます使われるようになりますと,受託者が欠けることも今より増えることが予想されますので,一時的な信託財産の管理者として信託財産管理人の必要性も高まることが予想されます。そこで,信託財産管理人に関する規律の整備を提案したものでございます。

  以下,簡単に各提案内容を御説明申し上げます。

  まず,1でございますが,これは,信託財産管理人が選任される場合について検討したものでございます。

この選任につきましては,大きく分けて3点ほど,現行法の規律を改めておりまして,その3点といいますのは,一つは,受託者の任務終了事由に限定を設けず,信託財産管理人の選任余地をずっと広げたということ,第2点といたしまして,受託者の全部が欠けた場合だけではなくて,一部が欠けた場合にも選任の余地を認めたこと,3番目に,職権で裁判所が選任するのではなくて,利害関係人による請求があった場合に選任されるとしたことでございます。

  特に,第2点目の,受託者の全部だけではなくて,受託者の一部が欠けた場合にも信託財産管理人の選任の余地を認めたという点について御説明いたします。

  先ほどのお話にも重複してまいりますけれども,第41の2で提案いたしましたとおり,共同受託者の一部が欠けた場合には,欠けた受託者の権利義務は残りの受託者が引き継ぐことになるのがデフォルト・ルールでございます。

しかしながら,信託行為によって運用を行う受託者と管理を行う受託者が定められている場合などには,残りの受託者に対して欠けた受託者の事務を引き継がせることが,信託財産保護の観点から適当ではない場合も想定されるところでございます。

そこで,受託者の全部が欠けた場合ではなくて,一部が欠けた場合にも,信託財産保護の観点から必要があると認められるときには,裁判所が信託財産管理人を選任できることを明らかにしたものでございます。

  なお,受託者の一部が欠けた場合,全部が欠けた場合に信託財産管理人の選任の余地を認めるということにつきましては,これは任務が終了した場合を前提としているわけでございますが,信託財産の保護の観点から言いますと,信託財産管理人を選任する必要があるのは必ずしも受託者が欠けた場合に限られないと考えられるところでございます。

このような観点から,33ページのアステリスクの1と,38ページの(注1)というところでございますが,ここで,受託者の任務が終了した場合だけではなくて,「受託者の一部又は全部について,職務を執行することが困難又は不適当な者がある場合」,例は38ページに三つほど詳しく書かせていただきましたが,そのような場合にも,信託財産管理人が選任される余地を認めてはどうかという点について考え方を示しているところでございまして,このような考え方の当否について,是非とも御意見を賜れればというふうに思っているところでございます。

続きまして,2でございますけれども,これは,信託財産管理人の権限について検討しているものでございます。現行法では信託財産管理人の権限が明確ではございませんので,その点の明確化を図ろうとするものでございます。

  信託財産管理人は,新たな受託者が選任されるまでの間,受託者にかわって信託財産を管理処分する者ですので,信託財産管理人の権限は任務が終了した受託者と同一であるとすることが適当だと考えられるところでございます。

しかし,他方で,信託財産管理人は暫定的に置かれるものであり,しかも,受託者とは異なりまして,その固有財産では責任を負わないなどの違いがありますので,前受託者と同一の権限を自由に行使できるとすることは相当でないとも考えられます。

そこで,2の(1)におきましては,信託財産管理人は  前受託者と同一の権限を有するとしつつも,民法103条の定める権限,すなわち,「保存行為」ですとか,「目的タル物又ハ権利ノ性質ヲ変セサル範囲内ニ於テ其利用又ハ改良ヲ目的トスル行為」,このような行為を超える権限を行使する場合には裁判所の許可を受けなければならないとしております。

  また,信託財産管理人が選任されますのは,前受託者や受託者の相続人等に事務処理を委ねることが適当ではないという場合ですので,選任された場合におきましては,前受託者等が有していた権限は信託財産管理人に専属するということが相当であると考えられます。そこで,(2)におきまして,このような趣旨を明らかにしているところでございます。

  さらに,現行法上は,信託財産管理人が選任された場合の信託財産に関する訴訟の帰趨が明らかではありませんので,(3)におきまして,信託財産に関する訴えにおきましては,信託財産管理人が選任されれば,その者が原告又は被告になるということを明らかにしております。

  次に,3でございますが,これは信託財産管理人の義務について検討するものでございます。

  信託財産管理人は,新受託者が選任されるまでに置かれる臨時の受託者としての性格を有しますので,信託財産管理人が負う義務につきましては原則として受託者と同様であるとすることが相当であると,先ほども申し上げたところでございます。

しかし,他方で,33ページのアステリスク3に記載いたしましたとおり,信託財産管理人は裁判所によって選任され,信託財産の所有者にはならないなど,受託者とは異なる性格を有しますので,例えば,信託財産管理人が第三者に対してその事務を自由に委任できるとすることは相当ではないと考えられます。

そこで,40ページの(注6)に記載いたしましたとおり,信託財産管理人がその職務をかわって行う者を選任するためには裁判所の許可を受けなければならないというふうにしております。

  なお,このほかにも,受託者と異なる規律を設ける必要があるか否かにつきましては,なお検討したいと思っておりまして,その趣旨は,38ページの上の方に書いてあるとおり,例えば利益取得行為の禁止に関する義務を課さないこととしてはどうかとか,こういうことを今後検討していきたいと考えているところでございますが,何か御指摘があれば,是非とも賜りたいというところでございます。

  続きまして,4でございますが,これは,信託財産管理人がその職務を行うため必要と認めるべき費用については,信託財産の中からその前払い又は支出額の償還を受けることができるといたしまして,また,相当な報酬につきましても信託財産の中から受けられるというように,規律の明確化を図っております。

  また,信託財産管理人の任務終了事由につきましては,40ページの(注7)に書いてございますけれども,受託者の許可辞任,すなわち裁判所の許可を得ての辞任に関する規律に準じた辞任の規律,それから解任,これは受託者の解任と同じような並びでございますが,そのような規律を設けるほか,その臨時的な地位にかんがみまして,新受託者が正式に選任された場合にも任務が終了するというようなことを定めて,規律を整備していきたいと考えているところでございます。

  以上でございます。

● それでは,信託財産管理人というのについて,いかがでしょうか。

● 1の「信託財産の管理人の選任」のところでございますが,現行法と比較いたしまして,許可辞任のときであるとか,解任を許可したとき,それ以外のものにも認めるということについては賛成だと。特に,受託者の一部が欠けた場合にも認めるということについては,結構使い勝手がよくなったのではないかなというふうに  考えておりまして,賛成いたします。

それと,先ほど○○幹事からもお話がありましたが,アステリスク1のところの,「受託者の一部又は全部について,職務を執行することの困難又は不適当な者がある場合にも」認めると,こういう場合も結構出てくるのではないかと思いますので,これについても是非ともお願いしたいというふうに考えております。

  それと,これは法定化する話では全然ないのですけれども,こういう規律が法定化された際には,信託財産の管理人の選任というのをより迅速にするというようなことが一番重要ではないかと思いますので,直接は関係ないのですけれども,是非ともお願いしたいと思います。

● 現在は余り使われることはないんですかね。これからこうやって少し広げると,それなりに使い方が便利になってくると思いますので,更に一層使われるようになりますが,そういうことを考えたときに,こういう権限ですとか義務ですとか,こういうことでいいのかどうかというあたりの御感触をいただければと思いますが  。

● 権限や義務の本体の問題ではなく,33ページの1のアステリスクの1で書かれている点なのですけれども,こういう対処が必要な場合も出てくるかなという気はしているのですけれども,(注1)のところで,38ページ以下に挙げられております例えば第1の例や第3の例,第1ですと,受託者にやむを得ない事情が生じて,自らは職務を遂行できないという場合,あるいは,辞任するような事情があるのだけれども,その手続に時間がかかって,やはり自ら職務をとれないというような場合は,現行法のもとですと,やむを得ない事由があるということで,他人に事務を委託するという形で処理をしていたのではないかと。

それは,受託者の責任において選任と監督を行う形で対応していたということになるかと思うのですけれども,そういうふうにこの信託財産管理人を入れるということは,そこの部分を,受託者の選任・監督の責任のもとに対応するということではなく,利害関係人のイニシアチブによって裁判所の選任・監督によるというものとするということを含んでいるのかどうか,その関係が少し気になっておりまして。

それとも,相変わらず受託者は本来自分で手当てをすべきで,そこが適切にされないと善管注意義務違反というような話になってくるのか,ちょっと整理として気になりますので,お考えを聞かせていただければと思います。

● 信託管理人をだれのイニシアチブで選ぶかという,そういった基本的な原則に関連する問題かと思いますけれども。

● やはり,裁判所が選んだ場合には裁判所が監督することになるのではないかという気がしておりますので,信託財産管理人の場合には裁判所で,おっしゃったような委託の場合には受託者が選任・監督ということで,ちょっと主体は変わってくるというのが今の考えでございます。

● よろしいですか。

● ですので,現行法の下ですと,それも含めてすべて受託者の責任でやるというお話ではなかったかと思うのですが。

● だれが申立てをするかとか,そういう点ですね。特に,職務を執行することが困難,不適当であるという場合には,自分でやるのではなくて,周りの利害関係人が申し立てるという形になるので,言ってみれば,受託者本人からするとその意思に反してということもあるかもしれないし,そこら辺は少し難しい問題を含んでいるかもしれませんね。

● 十分調べてはおりませんが,やはり,イニシアチブをとったのが利害関係人であるといたしましても,裁判所が選任している以上は裁判所が選任--まあ,選任は当然ですが--監督するのではないかという感じがいたしますけれども。

● その部分については何ら疑問を挟んでおりません。

● 恐らく,現行法での信託財産の管理人というのは,そもそも今までの受託者というのが解任されたり,要するにもう受託者ではないという状態で選任されるので,これはもう利害関係人が選ぶので全く問題ないわけですね。

だけど,このようにアステリスクの1のように広げると,一応受託者として存続しているけれども,職務を行うことができないというので,自分が選んでほしいというのだったら問題ないけれども,そのときにほかの利害関係人が信託財産管理人を選んでくれと申し立てるということがどうかという,そういう問題ですね,○○幹事が言われているのは。

  どうですか。

● 一度検討して,後で御回答させていただきたいと思います。

● 広げることによって少し新しい問題が入ってきたということは十分我々としても理解しているというふうに思いますけれども,ではどういうふうにしたらいいかということについてもうちょっと検討してもらうということにしましょうか。

● 信託財産管理人の権限についてなのですが,また私が御説明を聞き落としているだけだと大変恐縮なのですけれども,これは,基本的に民法103条に定められた権限の範囲内でやればいいのだけれども,超えることもあり得るよねという話なのか,それとも,前受託者,任務が終了した受託者がやるべきであったことはすべてやるという義務があって,しかし,そのやるという際に民法103条の範囲を超える場合には裁判所に聞かなければならないという趣旨なのかということなのですが,仮に後者だとしたときに,果たしてそれは可能なのか,妥当なのかという感じがするわけでありまして,まず,可能なのかということから考えますと,信託の受託者の権限とか権限行使の態様というのは,この御説明の途中にも出てまいっておりますけれども,信託財産の所有権を有しているというところと密接に結びついているわけでありまして,例えば,信託財産を売却をするというときも自分の名前で売却するわけですよね。

しかるに,信託財産管理人というものはではどうやって売却できるのかというと,当然には代理権限が与えられているというふうには読めないような気もいたしますし,代理権限を与えられているというときも,ではだれの代理人なのかということになりますと,それもよく分からないのですね。

前受託者が例えば欠けた場合なんて考えますと,その前受託者の代理人というわけでもないといたしますと,これはよく分からない。そこらあたりのことについてどうお考えなのか,どう考えるべきなのかということをお教え願いたいというのが,1点。

  2点目,簡単な話ですが,先ほど出ました38ページの(注1)の問題なのですが,第3というのは本当に可能なのかというのが,読んでいて若干気になるのですが。

つまり,受託者は同意がなければ辞任できないのだけれども,すぐに解放してやることが必要な場合もあると。

それはいいのですが,解放してやるという条文というのはあるのでしたっけ。つまり,私は同意がないから辞任できないけれども,解放を受けるだけの事情があるので,私はもうしなくていいというふうに認めてくれと言わなければ,その人は義務を負い続けることになるような気がするのですが,解放すべきときに解放するということが本当にできるのかということについてお教えいただければと思うのですが。

● ○○幹事の第1点と同じ点なのですが,1点だけ,○○幹事の御質問に追加して,私も一緒に,同じ問題ですので,聞かせていただければと思いますが。

  私も,このただし書の制約が場合によっては信託の価値を毀損する場合があるのではないかと。

すなわち,103条に定められた権限ではやや狭過ぎる場合があるような気がいたしまして,この信託がいろいろな商事目的のようなものも含まれているということにかんがみますと,例えば商法の70条ノ2におけます業務代行者の権限のように,この商法の条文では「会社ノ常務ニ属セサル行為」という制限を付しておりますけれども,もし商事目的,様々な目的の信託があることを前提とするのであれば,通常の信託の当該信託事務の処理に属する行為かどうかという,そういう基準を採用することも考え得ると思うのですけれども,なぜ民法103条に定められた権限に限定しているのかというのを,○○幹事の御質問と関連して,ついでにお聞きできればと存じます。

● まず,信託財産管理人の権限の御質問の関係でございますが,ここはやはり原則として信託財産管理人がその前受託者と同一のことができるというわけではなくて,裁判所が命じた範囲でできるのであると。

ただ,それが103条に定められた権限を超える場合については初めて許可が要ると,こういうような考え方によっているところでございます。

  民法28条の不在者の財産管理人と同じ規律と,あと現行法でも同じような解釈がとられているということでございますので,それに基づいてそのような制限を設けたということでございます。

  それからもう一つ,○○幹事の方からありました任務の解放の話でございますが,これは,前受託者が解任された後,任務を解放されるためには,信託財産管理人の選任があってそこで初めて任務が解放されるということになるかと考えているところでございます。

● ○○幹事の御意見は,むしろ,こういう規定を置いても本当にできるのかというような御趣旨だったような……。

そもそも処分権限がない,というか,信託財産の帰属しない信託財産管理人に例えば処分をするということができるのだろうか,前受託者と同じようにと,そういうことですね。

単純に考えると,裁判所の許可によって,先ほどの○○幹事の挙げられた商法70条ノ2ですか--○○幹事と○○幹事とは,ちょっと方向が違うのですね。

むしろ逆なのですね。同じ問題を論じてはおられるけれども。

だから,こういうような規定が商法70条ノ2のような規定なのだと,まあ,それが適当かどうかは別として,そういうふうに考えれば,裁判所の許可によって特別に処分はできるようになるということなんでしょうかね。

● それによって処分権限のようなものが付与されるということですね。

● まあ,そうですね。

● 信託財産管理人の権限は,先ほど言いましたように専属することになりますので,そこで責任を免れるということになります。第44の2の(2)で,「前受託者の権限は,信託財産管理人に専属」いたしますので,そこをもって切りかわるという趣旨でございます。

● よろしゅうございますか。

● 私からは,権限に対応する義務についての質問をさせていただきたいのですが,権限の部分がぶれますと,それに応じてまた変わってくるという問題はあって,ちょっと連動していると思います。

お話しいただいた中で言いますと,33ページ及び38ページの上の方で,義務を若干軽減する可能性があるのではないかという点についてですが,考え方はよく分かるところではありますけれども,若干整理を幾つかしておく必要があるのではないかなと思います。

  まず,権限の方で103条が一応ベースラインになりますと,保存行為あるいは性質を変ぜざる範囲での利用改良行為に仮に原則として限定されるとして,どのような場合にこの利益取得行為というのが考えられるのか,どういう例を想定してこのような形でお書きになっているのかというのをまずお聞かせいただきたい。

  それから,もう一方では,「103条に定められた権限を超える行為をするには,裁判所の許可を得なければならない」となっていて,裁判所が必要と認めて,これこれこういうことをせよということが命ぜられた場合に,なおかつ義務はやはり軽減されるというお考えなのか,それはどういうふうに考えておられるのかというのがもう一つの質問です。

そして,一番最後に,恐らく一番よく考えておかないといけないポイントといいますのは,受託者の義務について新たな規定を置くというのが,そして具体的な内容としては忠実義務以下いろいろな御提案をしていただいているわけですけれども,これは信託の受託者固有の義務であって,信託の受託者以外についてはこのような義務が当然に当てはまるわけではないという考え方を恐らくは前提にしておられるのかなという感覚があるのですけれども,これはいろいろな考え方があるところでして,人の財産を管理する人間については一般的にこれこれこういう義務があって,信託法にはその考え方があらわれているというような考え方もあり得るであろうと思われます。

そうしますと,こういう形で,受託者とは異なる,若干義務を軽減するというようなことをもし書くとしますと,信託の受託者固有の義務というのはどの範囲で,それ以外については一体どういう義務が一般的にはあり得るのかということまで視野に入れて,軽減するかしないか,あるいはどこまでするのかということを考えていく必要があるのではないかなと思います。それが第3点目です。

● なかなか難しい問題ですね。確かに,原案は比較的区別してというのでしょうか,忠実義務とか信託本来の義務は受託者の義務であって,それ以外の例えば信託財産管理人になると,当然にはそういう義務が及んでこないという考え方ではあるのですけれどね。

● まず,利益取得行為はどういうものを想定しているかといいますと,例えば信託財産を保管している中で知った情報を利用して利得を得る行為ですとか,あるいは信託財産の処分行為をする過程で何らかのリベートを受け取るとか,そういう行為というのがあり得るのではないかという気がいたします。

  それから,裁判所の命令を受けてやったときには義務が軽減されるのかということですが,裁判所の命令があった場合にはそういう行為をする権限及び義務が付与されるわけですが,それに基づいてやるべき注意義務がそれによって軽減されるという感じはいたしませんので,やはり,義務は付与されるけれども,やるべき注意義務の基準というのは変わらないのではないかという感じがいたします。

  それから,もう一つおっしゃったのは,どこまで受託者の義務が信託財産管理人に付与されるか,これは正に我々がどこまでと考えたらいいのかなというところを皆様に伺いたいところでございまして,ここに書いてありますように,例えば自己執行義務といいますか,信託事務処理の委託に関しては,義務ととらえるかどうかはともかく,少し性質が違うのだろうなという気はいたしますが,忠実義務のようなものにつきましては,信託財産管理人といっても,基本的には受益者に対して忠実に義務を執行すべき義務があるでしょうし,善管注意義務もやはり当然,裁判所の選任によるとはいえ,かかってくるというような気がいたしますので,確かに受託者を念頭に置いて我々は義務を提案いたしておりますが,その多くのものは,信託財産管理人というのは臨時の受託者であるということにかんがみますと,及んでくるのではないかなという気がしております。

むしろ,どこを落としていいのかというところをお伺いできればというふうに考えております。

● これはまたアメリカの例の紹介なので,参考までにということなのですが,アメリカで,いわゆるフィデュシャリーという概念を立てておいて,受託者が典型ですけれども,それ以外の人,今お話に出たような人の財産を管理しているような人が一般的にフィデュシャリーだという話になって,ある判例があるのです。

それは遺言執行者なのですけれども,英米の相続制度だと,遺産をとりあえず遺産管理人あるいは遺言執行者のところへ預けるような形になっている。

それで,もちろん,その間というのは短期を想定しているわけですね。

その遺言執行者,遺産管理人は銀行が行うこともできますので,受託者が銀行になっている場合もあるので,同じように財産を預かっているよというのと比較ができるのです。

  それで,これが問題になった判例というのがあって,そこでは,今,○○幹事がおっしゃったように忠実義務等の一般的な義務はかかってくる。

したがって,片方は利得を図っていいよという話はない。

ただ,受託者の方は,プルーデント・インベスター・ルールというので,今の考え方では,むしろ積極的な財産運用を--ただ持っていればいいよという話ではなくなっていますね。

やはり普通にプルーデントに,場合によっては財産を管理・運用もするのだと,そういう話がデフォルトで出てきていますけれども,こちらの一時的な預かりという人たちは,同じ銀行でも,本当に低利か何か,とにかくただ安全にという話で持っていればそれで十分だという話になっていて,そういう違いがあるということを明言している判決があります。御参考までに。

● 確かに,そういう臨時の財産管理人である信託財産管理人などについては今の遺言執行者と似たような地位にあって,積極的に財産を運用するというような義務は恐らくかかるべきではないので,おっしゃるとおりのところはありますね。

  ただ,やはり問題は忠実義務,これは基本的に及んでいくのだというふうにしたときに,利益吐き出しの部分だけは違いますよと。

ここら辺は,感覚としては分かるけれども,理論的に説明しようとすると,どういうふうに言ったらいいかというところはもうちょっと詰めなければいけないのかもしれませんね。

● 信託法のことだけ考えていればいいのかもしれませんけれども,仮に,ここで例として挙げられていますように利益取得行為の禁止については課さないとなりますと,例えば,他の領域,一番分かりやすいのは委任者ですね,これも,委任者についてはこのような形での利益取得行為の禁止というのがかかるのか,かからないのか,少なくとも利益の吐き出しというのは認められないということになるのか,あるいは法定代理人だったらどうなのかなどなど,こういう区別をすることによって何かほかの問題を考えるときの手掛かりになる可能性もありますので,少なくともそこまでよく考えた上で決めるべきだろうなと,そういう問題だということだけは申し上げて  おきます。

● これは,○○幹事,何か一言あるんじゃないですか。

● いや,別にありませんが,○○委員が感覚的には分かるんだけれどねとおっしゃったのが感覚的には分からないなというのが私の感想だと。吐き出しは全員にかかるだろうなと。

● 同じ責任といいますか権限といいますか,役割が小さいので余り重い責任を負わすべきではないというぐらいの感覚です。私も○○幹事と同じように,同じ責任だから同じようにかぶるのかなというふうにも思いますけれどね。

● 全く同じ,その感想というところなのですけれども,先ほど,権限との関係がやはり重要だという御指摘があったと思いますけれども,利得禁止のところの利得禁止という行為規範自体は当然--利得禁止のところで挙がっていた話というのは,信託財産を活用して不当な利得を得るという話ですとか,わいろを取るとか,情報を利用するとか,そういうことだったと思いますので,そういうことをしてはいけないというレベルでは当然だと思うのですけれども,そもそも権限や監督等の関係でそういうことができる権限を与えられているのかというのと,かつ,これは裁判所の選任監督がかかって逐一許可にかからしめられるというような行動であるときに,こういうルールを必要とするような管理人なのかというと,そこがそうではないのではないかというところが,感覚的にということの内容なのかなというふうに私は理解しておりましたが。

● そもそも,そういう裁量権限の幅も狭いし,その範囲内でもって……。

● 権限がなければ悪いことをしないというのは,極めてナイーブな発想に思えますが。チャンスがあるというだけで十分なわけですから。権限だけの世界なら信託法は要りません。

● 恐らく○○幹事が言われようとしたのは--私が代弁する必要はないけれども--この信託財産管理人は,少なくとも103条の範囲を超える行為については一々裁判所の許可が必要で……。

● だから,許可をとらないでやればいいじゃないですか。

● それは完全な違反の問題になって,そっちはその問題として処理すればいいということなのではないですか。

つまり,忠実義務などが典型的に問題になるように,一定の権限の範囲内なんだけれども受益者に損害を与えるような行為があったときに,それを忠実義務違反として一定の責任を負わせようと。

そもそも,そういう場面に至る前に,信託財産管理人については狭い範囲の権限しか与えられないので,権限の中でもって受益者の利益を害するような行為が行われるということがないのではないかということなのではないですか。

  済みません,勝手な代弁をして。

  ○○委員がおっしゃることはもちろんそのとおりで。ですから,権限の範囲外のことをやればね。

● もしかしたら,私の方がナイーブに過ぎるのかもしれない。

● 恐らくそんなに違うわけではないと思います,考え方として。

  よろしゅうございますでしょうか。皆様のいろいろな御意見は大体分かったような気がいたしますけれども。

● 済みません,事務局の方から,一,二点,教えてほしいことがあります。

  信託財産管理人の権利義務の点につきましては,御承知のとおり,現行法の非訟事件手続法71条ノ6というところでは,委任の規定をむしろ準用してやっているわけでございますが,我々の提案では,受託者と同一の議論ということで,権利も基本的には受託者と同じ方向の権利ということになっておりまして,この点について何か御意見があれば,是非教えていただきたいという点がございますが,いかがでしょうか。

● 委任の規定を準用しているというのは,受託者そのものではないので,やはり信託法のいろいろな権利義務が当然に及んでくるわけではないと。それで,一番近いのは委任だろうということで,委任になっているのですかね。

● だと思いますが。

● まあ,単純な委任よりは,やはり受託者に近づけてというような方がそこはいいような気がしますけれども,どうでしょうか。

● ○○幹事がおっしゃったことに関連して申しますと,委任の規定を準用することにしてしまうというのは,ソフトランディングなんですよね,恐らく。

受託者の規定を準用して何かを外すということになりますと,それは通常の管理人には適用されない規定なのだという何か実質的な判断をするということになるわけですが,委任の規定を準用するというのは,民法の委任の条文の解釈によるだけであって,それについては一切触っていないという話になる可能性があるのだと思いますね。

  もう一つ,権限の範囲という問題はまた別個の問題としてもちろんあるわけで,委任の規定を準用したからといって権限の範囲が定まるわけではなくて,それは,その受託者の権限の範囲であるという規定はあったって,別に委任の規定を準用することの妨げになるわけではないと思いますが。

ある意味では議論を先送りするための一つの方法なのかなとは思いますが。

● そういう点もちょっとあるかもしれないですね。

  まあ,もうちょっと検討するということでよろしいですか。

● もう1点,よろしいでしょうか。

  最初に○○委員がおっしゃいましたことですけれども,欠けた場合だけではなくて,困難又は不適切な者がある場合についても認められるといいだろうというようなお話があったかと思いますが,そういう場合に,この注の中で書かせていただいております例えば職務執行停止・代行者選任の仮処分とか,そういうものとの重複ということがあり得るわけですが,それはどちらの方がよいというか,両方あった方がいいのか,何かそこら辺の御意見というか,御感触はあるのでしょうか。

● これは,信託の方のこういう新しい制度を設けると,一般的な制度である職務執行停止の仮処分とか,そういうのが排除される関係にはならないのでしょうね。

● それは,民事保全法がある以上はできるので。

  ただ,民事保全法があるのだから管理人の処分は要らないというような考えもあるでしょうしと。

  やはり,民事保全法だけでは足りないというか,要件がまず違いますので,権利関係に争いがあるとか,保全の必要性というあたりは違ってまいりますので。

まあ,必要性あたりは全くないのに信託財産管理人を選ぶということはないと思うのですけれども,要件が多少違うので,別に両方あっても問題はないということもあり得ると思いますが,何か,いい点,悪い点というか,御指摘があれば後日でも結構でございますので,また教えていただければというふうに思います。

● そうですね。実務的な感覚からの御意見をまた後でいただければと思います。

  それでは,この点についてはこれでよろしいでしょうか。

  それでは,ここで休憩にいたしましょう。

            (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。

  最初に,先ほど来議論されていた何点かにつきまして,○○幹事の方から補足の説明があります。

● 先ほど御質問がありました,○○幹事,それから○○幹事の関係で,事務局で休憩時間中に検討したことについて御回答したいと思います。

  一つは,○○幹事がおっしゃったのは,私,先ほど十分に理解できなくて失礼いたしましたが,欠けた場合以外の,例えば職務を執行することが困難な事態について,例えば辞任する事情があるとか,解任する事情というときについて,現行であれば,第26条第1項で「已ムコトヲ得サル事由」がある場合に当たるとして,受託者が第三者を選んできて,しかし,その後,選任監督責任を負うはずであると。

しかし,今回の我々の提案であると,受託者は,こういうときに信託財産管理人の選任請求をすれば,あとは裁判所が選任監督の責任をとってくれるので,責任を免れるということになるのではないかと。

そうするとバランスを欠くのではないかという御趣旨だということで認識いたしまして,ここまでの私が申し上げたところは事務局と同じ考えでございまして,やはり受託者が選任請求をすれば,受託者はその後責任を免れるということになると考えております。

  ○○幹事の御質問の趣旨は,それが果たしてどういう根拠に基づくのかというところかと思うのですが,実はそこは,検討しましたが,なかなか名案が見つからないというところでございまして,果たして,第26条の規律による場合と,この信託財産管理人の選任請求による場合とで受託者の責任が違っていいのか,違ったとしてそれがどのような根拠に基づくのかというところにつきましては,もう少々時間をいただいて検討させていただければと思いますが,以上のようなことでよろしゅうございますでしょうか。

それから,先ほど○○幹事,それから○○幹事もちょっと関係してお尋ねがありました信託財産管理人の権限の関係でございますが,私は先ほどちょっと不正確なことを申しましたけれども,信託財産管理人の権限というのは,この提案にございますように,前受託者と同一の権限を有するということが原則でございますので,同じものを引っ張ってくるということになります。

ただ,それが,我々の提案では,103条を超えるようなものについては行使に制約がかかっている,裁判所の許可というような条件がかかっていると。

103条の範囲内であれば同じように権限行使していいわけですが,そういうものについては裁判所の許可を条件とする意味において,権限はあるけれども,その行使の仕方に制約がかかっているというような理解の仕方をしているということで説明し直させていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。

● よろしいですか。

  ○○幹事,もし何かあれば。

● それで権限はよろしいのですが,その権限をフルに使って前と同じ状態を保つというのが信託財産管理人の義務なのか,それとも,103条に定められた権限を超える場合には裁判所の許可を得なければならないというところに端的にあらわれているように,基本的には保存行為だけを行って,どうしても必要な場合に103条を超えた行為を行うというのが行為規範なのかという点については,いかがでしょうか。

  ○○幹事は,それに対して,広く,前と同じような行為をさせるということが大切なのではないかというお立場を示されたわけですが。

● 御質問の点につきましては,恐らく,権限がある以上は義務もあるというふうな考えに基づきまして,やはり前の受託者と同じような権限を行使すべき義務もあるのではないかという気がいたしております。

したがいまして,103条を超えるようなものをしなければならないということになりましたときは,裁判所の許可を得るべき義務も管理人は負うというふうに考えるところでございます。

● なかなか難しいところですよね。

基本的な考え方は,今,○○幹事の説明にあったとおりだと思います。

  それで,この臨時的な,というのでしょうか,次の受託者が選ばれるまでの信託財産管理人の時期というのでしょうか,どのぐらいの間こういう臨時的な状態なのかとか,その間に従来と同じような信託行為ができないと--信託行為というか,受託者の行為ができないと信託財産に対して損害を与える可能性もあるし,そういう意味で基本的に前受託者と同じ権限をという考え方だというふうに理解しますけれども。

● 一見すると重そうですが,利害関係人として嫌だったら,新受託者の選任請求をすればよいという気もいたします。そうすれば責任は免れます。

● まだ幾つか御意見があるかもしれませんけれども,一応,問題点といいますか,考え方はある程度明らかになったと思いますので,次のテーマの方に移ってよろしいでしょうか。

● では,続きまして,第43の「受託者が複数の信託に関する規律について」,いわゆる共同受託者といわれている問題でございますが,そちらの説明に移らせていただきます。

現行法で言いますと24条,25条に当たるところでございます。少々複雑ですので,ちょっとお時間をいただいて御説明させていただきます。

  信託におきましては,1個の信託行為により複数の者が受託者として選任されることがあるわけですが,現行法では,受託者が複数の信託に関しましては,ただいま申しました2個の条文だけがあるわけでして,信託財産の帰属,事務処理の方法,受託者の責任について規定を置いているのみであって,十分であるとは言い難いところでございます。

そこで,受託者が複数の信託に関する規律の整備を比較的詳細に提案するものでございます。

まず,1でございますが,これは,共同受託の財産関係について検討しております。

  信託財産は,受託者に所有権が移転しますが,受託者は信託財産を自由に処分できないなど,信託目的に拘束された財産であると言うことができるかと思います。

そして,受託者は信託財産に対して固有の利益を有していないと考えられますので,各受託者は信託財産に対して持分を有しておらず,その結果,各受託者は信託財産の分割請求をすることもできず,持分の譲渡もできないなど,共同受託者による信託財産の所有形態は,民法上の共有とは異なる性格を有すると考えられます。

  このような内実を含む概念として,信託法上,「合有」という概念を用いることには意味があると考えられますことから,共同受託者による信託財産の所有形態は,今のような内実を含むものということで合有であるとして,現行法の規律を維持するというふうに考えております。

  なお,このように共同受託者による信託財産の所有形態を合有と考えましたときには,信託行為の定めにより共同受託者間で職務分掌の定めがある場合についてどのように考えるべきかが問題となりますが,ここでは,資料の23ページ以下に記載いたしましたような理由から,信託行為の定めにより,受託者間で職務分掌がされている場合においても,やはり信託財産は合有となる,名義を有する受託者と,名義を有しない受託者との合有になると考えるものでございます。

  次に,2でございますけれども,これは,共同受託者による信託事務処理の方法について検討したものでございます。

  共同受託者の信託事務処理に関しましては,一つは,事務処理に必要な意思決定をだれがどのように行うかという対内的な職務執行の問題と,決定された事項の執行をだれがどのように行うかという対外的な職務執行の問題について,それぞれ分けて検討する必要があると思われるところでございます。

  現行法のもとでは,この点につきまして,いずれも信託行為に別段の定めがない限り全員一致という規律を設けているわけですが,このような規律に対しましては,効率的な事務処理の観点から妥当ではないということなどの批判がされておりますので,このような批判を踏まえまして,信託事務処理について規律の合理化を検討したものでございます。

  まず,2の(1)でございますが,これは,共同受託者による原則的な信託事務処理の在り方に関して明らかにしております。

  まず,アの(ア)でございますが,これは,信託違反行為の防止を図りつつ効率的な信託事務処理を実現するという観点から,信託事務の処理は,信託行為に別段の定めがない限り,共同受託者の過半数で決定するというふうにしております。

  また,(ア)のただし書では,不在等の一定の事情がある場合には,当該事情の存する限りにおいて,信託事務の処理は残りの受託者の過半数で決定することができるとしております。

  次に,このように共同受託者の過半数で決定された事項について,対外的な執行行為が必要とされる場合に,だれがどのように執行すべきかという点でございますが,これは,25ページの(イ)に書いてございますとおり,信託行為の定めにより複数の受託者が選任されている場合には,各受託者は相互に代理権を授与されているものとみなすことによって,受託者は,決定された事項について,それぞれ単独で対外的な執行をすることができるということにしております。

したがって,対外的な執行行為をする受託者は,一つは,意思決定をしたすべての共同受託者の名において取引をするという方法とか,第2に,受託者の代表である旨を明示して取引をする,このような方法で執行行為をすることによりまして,信託財産に効果が帰属するだけではなくて,各受託者の固有財産にもその効果が帰属することになります。

  他方で,対外的な職務執行を行う受託者が,第三者との間で自己の名のみにおいて取引をした場合には,当該行為の効果は信託財産には帰属しますが,他の受託者の固有財産には帰属しないということになると考えております。この点は後ほどまた御説明をするところでございます。

  なお,以上は,過半数の賛成に基づいて行われた職務執行の効果でございますが,これに対し,過半数の賛成がないにもかかわらずなされた信託事務処理の効果については,19ページのアステリスク1のところに記載いたしましたとおり,受託者の権限外行為と同様に考える甲案と,共同代表取締役が単独で行為をなした場合と同様に,原則として無効であるが善意無過失の相手方は保護されるというように考える乙案とが考えられるところでございます。

  続きまして,イの保存行為でございますが,保存行為につきましては,信託行為に別段の定めがない場合にも各受託者が単独で行うことができることとしております。

これは,保存行為につきましては,その性質上迅速な処理を必要とするものが多く,過半数で行わなければならないとすることは適当でないと考えられますし,単独で保存行為を行うことができるとしても,受益者の利益にこそなれ,受益者を害するおそれは少ないと考えられるからでございます。

  続きまして,(2)でございますけれども,これは信託行為に受託者間の職務分掌の定めがある場合について検討するものでございます。

  現行の信託実務におきましても受託者間で職務分掌の定めをされることがあると伺っておりますが,このような職務分掌の定めがある場合につきましては,委託者は,各受託者が分掌された職務の限度において独立して事務を処理することを期待していると考えられます。

したがいまして,信託行為の定めにより受託者間で職務分掌をすることができること,及び,各受託者が分掌された職務の限度において単独で意思決定をし,かつ対外的な職務執行を行うことができることということを,この(2)において明らかにしております。

  続きまして,3は,共同受託者の責任について検討したものでございます。

  まず,(1)でございますが,これは受益者に対する責任でございまして,大別いたしまして,アの受益債権に関する責任と,イの信託違反行為をした場合の損失てん補責任とが考えられます。

  このうち,アの受益債権に対する受託者の責任でございますが,この受益債権に対する責任というのは,信託財産のみをもって履行の責めを負うとする内容の物的有限責任であるということは前回御説明いたしましたところでして,このことは共同受託者の場合にも同様に当てはまると考えられるところでございます。

そこで,アでは,受託者が複数の場合においても,受託者が受益者に対して負う受益債権についての責任が物的有限責任であることを確認的に明らかにしております。

  次に,イでございますが,これは,共同受託者の全部又は一部が信託違反行為をした場合における他の受託者の責任について検討するものでございます。

受託者の損失てん補責任等は,信託違反行為について故意又は過失のある受託者に対して信託財産に生じた損失等をてん補させるものですので,これらの責任を負う受託者は当該違反行為に関与した受託者に限ることが相当であって,信託違反行為に全く関与していない受託者にまで連帯して責任を負わせることは相当ではないと考えられます。

そこで,イにおきましては,信託違反行為に関与した受託者,具体的には意思決定又は対外的な執行行為をした受託者が連帯責任を負うということを明らかにしております。

  次に,(2)でございますが,これは,受益者以外の第三者に対する共同受託者の責任についてのものでございます。

  共同受託者の第三者に対する責任には,一つは信託財産を引当てにする責任というものと,もう一つは固有財産を引当てにする責任とが考えられるところでございます。

  まず,信託財産を引当てとする責任の方でございますが,信託財産は共同受託者の合有となりますので,受託者が信託事務の処理をすることによって信託財産に属することとなった債務は,信託財産を引当てにする責任という限度で共同受託者の合同債務となるものと考えられます。

そして,そのことは,受託者が共同して信託事務を処理した場合であるか,あるいは信託行為に職務分掌の定めがあり各受託者が単独で事務を処理した場合であるかを問わないと考えられます。

したがいまして,例えば,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきまして,受託者Aの信託事務処理によって生じた信託財産に属する債務に係る債権を有する債権者,信託債権者は,受託者Bの単独名義となっている信託財産にも執行していくことができるというふうに考えられます。

これに対しまして,第三者に対して共同受託者が固有財産で負う責任につきましては,これから述べるような方向で考えております。

  まず,複数の受託者が共同して信託事務を決定している場合におきましては,各受託者は相互に代理権を授与されているとみなされますので,対外的な職務執行を自らするか否かにかかわらず,意思決定をした受託者は取引相手方に対して責任を負うものと考えております。

ただし,過半数の意思決定に反対した受託者も固有財産で責任を負うのかが問題となるところではございまして,この点につきましては,20ページのアステリスク2のところに記載しておりますが,反対者は対外的な責任を負わないとする考え方と,対外的責任は負うものとし,あとは内部的な損失分担の問題で処理するという考え方とがあり得るところでございます。

  次に,各受託者が保存行為を行った場合におきましては,保存行為を行う限度において各受託者は相互に代理権を授与されているものとみなされますので,保存行為を実際に行ったか否かにかかわらず,各受託者は保存行為の相手方に対して責任を負うものと考えております。

これに対しまして,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきましては,各受託者は分掌された職務の限度において独立して事務を処理することになりますので,当該職務を行った受託者のみが第三者に対して固有財産で責任を負うことになると考えております。

  要するに,1番目と2番目の場合におきましては,すなわち,意思決定が過半数で行われた場合と,それから,保存行為の場合には,各受託者全員が固有財産をもって責任を負うけれども,職務分掌の定めがある場合には,職務を行った受託者のみが固有財産をもって責任を負うという違いが出てくるわけでございまして,このような帰結につきましては,21ページのアステリスク3のところで具体例をA・B・Cで挙げておりますけれども,そこに示されているところを後で御覧いただければ,提案の内容が具体的にお分かりいただけるかと思います。

  次に,4でございますが,これは,共同受託における受託者間の信託事務処理の委託について検討したものでございます。

ここでは,各受託者は,信託行為に別段の定めがない限り,他の受託者に対して信託事務処理の委託をすることはできないとしております。

信託行為で複数の者を受託者に指名した委託者の意思といたしましては,複数の受託者が関与することによって慎重な意思決定がされることを期待していると考えられますので,それにもかかわらず受託者が他の受託者に対して自由に委託をすることができるというのでは,慎重な意思決定の実現という委託者の合理的意思が害されますので,特に定めのない限り,委託できないという規律を設けているところでございます。

  それから,5でございますけれども,これは,共同受託の場合における受託者に対する意思表示の効力について検討したものでございます。

  受託者に対する意思表示には,一つは受益者の受託者に対する意思表示,(1)でございますが,もう一つは取引相手方などの第三者の受託者に対する意思表示,(2)でございますが,が考えられるところであります。

  まず,(1)につきましては,信託行為で複数の者が受託者に指名されている場合には,受託者間には相互に連絡関係があると考えられることなどを考慮いたしまして,受益者が受託者の一人に対して意思表示をすれば,特にだれかに対して意思表示をしてほしいというような信託行為の定めがない限り,その効果は他の受託者にも及ぶとしております。

  それから,(2)でございますが,第三者は受託者のだれか一人に対して意思表示をすれば,その効果は他の受託者にも及ぶとしております。

  これに対しまして,職務分掌の定めがある場合でございますが,これについては(2)のただし書に書いてあるところでございますけれども,各受託者は独立して職務を執行しておりますので,各受託者は他の受託者がだれとどのような取引をしているかは通常は認識し得ないと考えられるところでございます。

そうだとしますと,これらの場合におきましては,取引の相手方は実際に取引をした受託者に対して意思表示をしなければ,その意思表示の効果は及ばないものと考えることが相当であると考えられます。

そこで,ただし書におきましては,信託行為の定めにより職務分掌がされている場合におきましては,第三者は取引をした受託者に対して意思表示をしなければならないということを明らかにしております。

  最後に,6でございますが,これは,共同受託者の一部について任務が終了した場合には,残存者を受託者として存続させても,当事者の意思に反しない場合にはその方が便宜なので,これを認めようとしたと,いわゆる残存者の原則といわれる考え方を敷えんしたものでございまして,信託行為により複数の者が受託者として指名された場合において,当該者の一部が信託の引受けを拒絶し,又は引受けをすることができなかったときには,信託財産は原則として引受けを承諾した他の受託者に帰属するとしております。

共同受託にする目的の一つは,だれか一人が欠けても,それで信託を終了しないようにさせるということにもあるということを考慮して,このような規律を設けたということでございます。

  以上で説明を終わります。

● それでは,この複数の受託者について,御意見をいただければと思いますが,いかがでしょうか。 

  現行の規定と比べると,先ほど説明がありましたように,この職務分掌の場合については積極的に条文で明確にするということで,現在でも合意である程度はやっていたかもしれませんけれども,合意だけですとちょっと不安定ですので,そういう意味で規定を設けるということでございます。

● 今回の御提案につきましては,例えば財産の分属型の共同受託,例えば年金信託なんかによくあるのですけれども,そういったものの場合を想定しますと,ある受託者が債務を負担した場合に,それによって別の受託者が単独名義で所有している信託財産にかかっていくと,そういうところでは若干違和感があるなという感じがいたしますが,そこについても,例えば財産を限定する特約をつけるとか,そういうことで十分に対応できるのではないかと思いますので,基本的にこれはこれでいいのかなというふうに考えております。

  そのほかの部分につきましては,基本的にいろいろと実務上の御配慮をいただいておりまして,それぞれについて実務がワークするような形で御検討いただいているように思いますので,賛成したいと考えております。

● 非常に細かいことで恐縮なのですが,共同受託者の責任のところが結構難しくて,私も十分に理解できていないところがあるのですが,例えば,共同受託者のうちの一人で,ある財産の名義人であると,しかしながら他に共同受託者がいて,その人は別の財産の名義人になっているというときに,どのような形で債務名義をとって,どのような形で執行していくのかというのが,いま一歩,私,イメージがわかない。

実体的な責任関係はこうなるというのはまだ分かるのですけれども,ちょっとイメージがわかないところがあるのですが,もしその御検討あられましたら,お教えいただければと思うのですが。

● 執行の仕方については,原則としては,先ほどの特に信託財産に対して執行していくという場合につきましては,これは合同ということで,合有債務ということになりますので,固有必要的共同訴訟であって,受託者全員に対して訴えを起こして,債務名義をとって,それに基づいて信託財産に執行していくというやり方が一つ考えられるかと思います。

  あと,組合の規律についての説明を参考にいたしますと,もう一つの方法,これも二つありますが,一つは,例えば各受託者に対してそれぞれ債務名義をとって,例えば3人なら3人分債務名義をとって,それを三つまとめて信託財産に執行していくというのが一つあるようでございます。

もう一つの考え方は,不可分債務と同じように考えまして,ある一人の受託者に対して,信託財産全部にかかっていけるというような債務名義を取得することができるという考え方もあると聞いております。

 この点につきましては,むしろ,どのような執行をしていいのかというところ,特に,受託者が全員の名前を表示して,それによって信託財産と各受託者の固有財産全部に執行していけるという場合におきまして,信託財産に対して果たしてどのように執行していけるのか,それから,各受託者の有する固有財産についてどのように執行していけるのかという執行の方法について,もう少し我々も検討したいと思っておりますが,何かお知恵をいただければと考えているところでございます。

● いかがでしょうか。

● 何か私に考えがあってということではないのですが,ある財産の名義上の帰属人が,自己の名前である債務を負ったということになったときに,固有財産に対して執行していくときの債務名義と,信託財産に対して執行していくときの債務名義はかなり違ったものを用意しなければいけないというのは,何となくおかしいんじゃないかという感じがすると。

そこら辺をうまく処理できるような形で実体法的にも仕組まなければいけないのかなという気がしたものですから,もし検討の結果があられましたらというつもりで伺わせていただいた次第です。

別に何か考えが私にあったわけではございません。済みません。

● 各受託者の固有財産に行く限度であれば,それは恐らくその受託者に対してだけ債務名義をとればいいと思うのですが,もしも,最初に言いましたように,信託財産に対してかかっていくのは固有必要的共同訴訟であるということになりますと,今,○○幹事がおっしゃったように債務名義のとり方が違ってくるというおそれはありますので,もし同じにするのだとすると,不可分債務だとか,あるいは,債務名義を複数とって合わせて執行していくというようなやり方の方が手間は省けるという気はいたしますが。

● この問題については余り考えていないのですけれども,組合の話を少しここに使うことができるならば,大まかには次のように考えます。

  ○○幹事のおっしゃったのと大体重なるのですけれども,一つ違う点は,訴訟と執行を分けて考える必要があるのだろうと。

執行の局面で複数受託者の信託財産に対して執行するときには,複数受託者全員に対する,それこそ債務者としている債務名義が必要だと。それはある種の固有必要的な執行になるのだろうと思います。

  しかし,その執行をするために必要な債務名義をそろえるために訴訟を--まあ,ほかの方法でも債務名義はとれるのかもしれませんが,確定判決で債務名義を取得するところを考えた場合に,その訴訟が要するに固有必要的共同訴訟なのかどうかというところは考え方が分かれるのだろうと思います。

共同で起きたときには類似必要的共同訴訟という考え方もあるのかもしれませんが,それぞれ別々に,訴訟は複数の受託者一人ずつに対しても起こせるという考え方もあろうかと思います。

  そして,○○幹事の話につなげるならば,固有財産をねらう場合も,信託財産をねらう場合も同じ債務名義になって,その債務名義の中を見て信託の債務であるということが明らかであれば,信託財産に対しても,そろえばできるけれども,信託財産であるということがその債務名義の中で明らかにならなければ--これは複数であることの問題ではなくて,一般の問題ですけれども--信託財産には強制執行できないと。

しかし,固有財産に対しては,判決の理由のところで,いかなる債務であっても固有財産には強制執行できると,そういうことになるかなと思います。

  二つに分けるというところを申し上げたいと思いまして,それから,分けた上で判決をとるとり方が二つ考え方があろうかと思うのですが,どちらが望ましいのか,あるいは組合とそろえるとすると組合がどうなのかというのはまだちょっとよく分かりません。

● なかなか難しい問題ですね。組合自身についても余りはっきりしていないところがあるのでね。

● 私,非常にジェネラルな質問をしてしまったものですから,いろいろ難しいことになってしまっているような気がするのですが,私がひどく気になっているのは1点だけで,共同受託者の中にAという人がいて,Aが信託財産のある種のものについて自己名義で登記をしていると。

しかしながら,実体法的には,A,B,C3人が共同受託者だったならば,そのA,B,Cの合有であるというのがございますね。

そして,Aは受託者として第三者と取引をして,債権者Gという者が登場したと。GはAに対して支払えという訴訟を起こして,判決をとったわけなのですが,そのときに,A名義になっている財産を差し押さえていったら,いや,これは信託財産だというふうに言われたと。

いや,でもA名義でしょう,私,Aに対する債務名義をとっているんですよというふうに言ったときに,なお,これは合有なんだという実体法的な効果を差押債権者に対して言っていけるだろうかどうなんだろうかという話で,結局,A名義の財産を差し押さえるときに必要な債務名義は,A,B,C3人を名あて人にした債務名義なのか,それとも,Aを名あて人にした債務名義で足りるのかというのが,ちょっと急には分からなかったものですから--急にというか,時間をかけても分からないかもしれませんが--お聞きした次第だったのです。問題を特定いたしませんで申し訳ございませんでした。

● 信託債権者,信託に対してそもそも持っている債権者がどういう形で判決を取得するかという問題と,それから,今,差押債権者のことを言われましたか。

● いえ,信託債権者が債務名義をとって差押えをしたという事例です。

● 不動産であることを考えると,そのとき個人の名義で登記されていても,やはり信託の登記がされているということなんでしょうね。

だから,そういう形で信託財産であることが分かる。

だけど,ほかに受託者がいるかどうかというのは登記で分かるのかな。共同受託者の一人であるかどうかというのは。

● 受託者も信託原簿の方には書かれるはずですので,信託原簿を見れば……。

● とにかく,一番最初の出発点は,○○幹事が言われたことが比較的穏当な考え方だと思いますけれども,債務名義をとるときの名あて人の問題と,執行のところを一応分けて,その判決をとるところは,これは○○幹事の問題とつなげると,受託者個人の責任も一方で発生しているときに,同じ判決でもって両方行けないとおかしいような気がするのですね。

一方で信託財産の方にかかっていこうという場合と,受託者個人の責任を追及する場合で債務名義をそれぞれ別にとってこいというのは,ちょっとやはり合理的ではないので,そうすると,どっちにも行けるという形の判決あるいは訴訟がなされるべきだと。

あと,財産に行くときにはまた別な考慮で考えればいいというのが,大筋としてはよさそうな気がしますけれどね。

  何かございますか。

● 実体的には,先ほど議論が出ておりますように,もちろん権限の範囲で顕名をちゃんとした場合ですが,信託財産にも固有財産にも効果が及んでいるというのが前提といたしまして,ではどういうふうに判決をとって執行していくかということにつきまして,確かに債権者が債務名義を2種類とらなければいけないというのはいかんせん負担が大きいということになると,恐らく,一つの考え方は,A,B,Cがいれば,A,B,C3人に対する必要的共同訴訟としてその債務名義をとって,信託財産にも行けるし,それに基づいて固有財産にも行けるとするか,あるいは不可分債務のように考えて,例えばAならAに対する債務名義をとれば,A個人の固有財産にも行けるし,しかし信託財産にもそれをもって不可分的に行けるというふうにするか,どちらかでいかないといけないかなという気はしております。

ただ,どっちがいいのかとか,あるいはこの考え方自体が正しいのかというところは,ちょっとまだ十分検討したわけではございませんので,もし御指摘があれば,いただければ。

● 今,最後に○○幹事がおっしゃったのには,もう一つ考え方があると思うのですが。

訴訟は複数の受託者一人一人に対して起こせると。それで,その債務名義一つだけならば,固有財産にしか強制執行できないと。

しかし,全員に対する債務名義がそろえば,そして,信託が原因になっているといいますか,信託の取引だということが明らかな債務名義が複数の受託者全員そろえば,そこで初めて信託財産に対して強制執行することができると。

ですから,不可分債務と言わない第3の解決があるのではないかなと。私は,それが適切な解決ではないかなと思いますが,しかし十分には自信がありませんので,三つ目の選択肢としてあり得るということだけ,発言をさせていただきたいと思います。

  それで,今のことと関連するのですが,一つ別なことなのですけれども,○○幹事のおっしゃったことについては,私,答えを持っていないのですけれども,正にそれに直接関連するのですが,第43の2の(2)の職務分掌がなされているときにも,これは1の合有というのは維持されていると思うのです。

そうすると,その職務分掌のときの取引の相手方,債権者が差押えをしようとするときに,財産の名義の問題が最後に出てくるのかもしれませんが,私としてスペシファイしたいのは,そのときにも,やはり基本的には複数の受託者全員に対する債務名義がそろわないと信託財産に対して強制執行できないということになるように思うのですが,それは実質的にうまく動くのでしょうか。

職務分掌の一番極端なものですと,22ページの④の例ですけれども,不動産と債権と有価証券を分けているときに,不動産に関する取引の相手方というのは,受託者はその職務分掌している人のみと見ていることもあり得るわけですね。

不動産の場合には信託原簿を見ればいいのかもしれませんが,有価証券とか債権になりますと,何かその受託者さえつかまえて信託財産に対して強制執行しようというふうに考えるのがどうも自然かなと思うのですが,そこが,受託者全員に対する債務名義をそろえないといけないということになるならば,やや,私は違和感が残るように思います。

● 今のも,しかし,職務分掌でもって,だれか単独の受託者の名義でもって登記されていても,なお合有だということを言ってしまうと,同じことになってしまうのですね。同じというか,○○幹事の最初の原則どおり,3人の。

● この書き方ですと,1が残りそうですので,ですから,残すのが不適切な場合があるのではないかなと。

● 残さないようにするとすると,どうするんですかね。合有のところをまた外すのですか。

● いや,そこが……。

● なかなか難しいですね。

  何か御意見があれば。

  ○○委員のは受託者の側からなので,相手方の債権者の立場からとはちょっと違うので,御意見が特にこれについてはないかもしれないけれども。

  何かありますか。

● 先ほど○○幹事がおっしゃったのは,債務名義を集めて執行するという方法ですが,今のお話ですと,その方法はしかし職務分掌のときにはいささか現実味がないということだとすると,○○幹事御自身の推薦パターンというのは,やはりだれか一人に集めてとったら不可分債務という考え方がいいということでございましょうか。

● 今の視点からの簡明な解決は,その財産は職務分掌を受けたその受託者の信託財産という解決が簡明だと思うのですね。しかし,それは多分,いろいろなところに派生するのだろうと思うので,ちょっと自信を持ってはそれを推奨の解決と申し上げられない。

● おっしゃる趣旨は,それは合有ではなくて。

● そうですね。

● 単独処理になってしまうと。

  そこは,やはり合有というやり方にしておりますが……。

● だから,合有であっても,合有だという主張ができるのかというのは分からないのですが……,あ,やめましょう。動産や債権ですとできますからね。

  だから,自分に対する債務名義で自分名義の財産を差し押さえられているときに,信託債権者ではない人に対してこれは信託財産であると言うのは,異議事由,抗弁事由になると思うのですけれども,そして,それに対して,いや,私は信託事務の執行に関連する債権を持っているのであるというふうに相手方が言ったときに,なお,それはそうなんだが,形式的には合有なんだから,債務名義がこれでは足りないという更なる抗弁が本当に認められるのが妥当なのかというのがちょっと分からなくて,そんなのは不要なんじゃないかなと思うのですが。

それをまた実体法上どういうふうに仕組むかと言われますと,何か名案があって発言しているわけではありませんので,申し訳ない次第なのですが。

● 単独で執行できるというふうにしてしまえばいいのでしょう。

● まあ,そうなんですが。

● 不可分債権と。先ほどの説明によると。

● 第43の2の(1)のアの「保存行為以外の信託事務」のただし書のところですね,「不在,病気その他のやむを得ない事情があるために,信託事務の処理に関与することが困難な受託者があるときは」というところの特則について,実務家の観点から意見と質問があるのですけれども。

 これは19ページの下の甲案,乙案の話にも及ぶことなのですが,受託者の立場からについては○○委員からお話がありましたけれども,片や取引者等の観点から,この例外があった場合に,実際にその代理権が本当にあるのかどうかということを確認する必要が出てくると思います。

そうしたときに,このただし書の「困難な受託者があるときは」ということのメルクマールというのが私にはちょっと不明確だなということがあります。

不在,病気ということであったとしても,何らかの意思決定ができるとか,電話をかけるとか,そういった場合には,もちろん内容によっては処理することができる場合もありますし,外部から見て実際に受託が困難かどうかということは非常に見えにくいということがあると思います。

  そもそも,なぜこのただし書の除外規定をこういう形で置いたのか,ここの多数決のルールを,こういう,実際にできない,困難であるということとしたのはどういう理由なのかということを次に質問したいわけですけれども,考えるに,意思決定ですから,単純に意思を表示することができることを要件とすればよろしいわけだと思いますけれども,ここで,そうではなくて,いわゆる受託処理能力ということをメルクマールにしたのはどういうことなのかと。

考えてみるに,ある意味,そういう人は信託事務処理に要する意思決定に責任を持てないわけだから,一種特別利害関係人だということで配慮するということなのか,又は,そもそもそういうことに対して不適格なのかということで,そういう理屈づけはあるかもしれませんけれども,いずれにしても,この(イ)のところで,何らかの意思決定ができるのであれば,単独で他の受託者を代理することができるのであれば,取引としては,その意思決定の内容が正しいのであれば,別にその当該受託者が処理能力があるかどうかということは無関係であるということも考え得ると思います。

そうしたときに,どうしてこういうメルクマールを置いたのかということがちょっと分からなくなったわけです。

  なぜこのような疑問かといいますと,もとに戻りますけれども,この甲案,乙案のところで,特に甲案で「重大な過失により知らなかったとき」ということがあるわけですけれども,取引相手方としては,例えば共同受託者の一部だけの者が来て,この者は困難だから,我々の決定で過半数とったから取引してくださいと言われたときに,重大な過失の内容は幾らでもありますけれども,一応の調査等をしなければならない場合もあると思います。

そうしたときに,この困難な状態というのが一体どうなのかということを検索しなければいけないこともあると思いまして,そこで,実務上,そのメルクマールが不明確であれば取引に差し障るのではないかなというふうに思っております。

  あと,非常に瑣末な話になるかもしれませんが,実務的には重要だと思うのですけれども,そうしたときに,今度は登記面ですけれども,実際に不動産を処理するときに,登記としては,一部を除いて過半数であるということを証明する書類を出す必要が出てくるのかどうかと。

もしそういう書類が必要だということになると,今度は登記実務からすると非常に困難な書類をつくらざるを得ないという,そういう状況もありますので,そこら辺をどう手続上乗せていくのかということが,検討すべき論点なのかなというふうに思います。

● なぜ「困難な受託者」を入れたかということでございますが,これは,「信託事務の処理に関与することが困難」ということですから,意思決定ができれば,困難なこの事情に当たりませんので,意思決定もできないような事情があるときにはということでございますけれども,そういう前提で,何か更に,もしもそれでも解釈上不明確だと言われれば……。しかし,このぐらいの条文を設けることはあるのではないかと思いますが,意思決定には関与できれば,この場合には当たらないという趣旨でございます。

  登記実務上の話はちょっとよく分かりませんが,何かその書面が要るということはちょっと想定し難いのですが。要するに,甲案であれ,乙案であれ,有効に契約が成立していれば,それに基づいて登記を請求するだけの話でありまして,共同受託者の過半数の意思決定があったかどうかというようなことを,あるいは困難な受託者がいたので残りの過半数でやったかというようなことを何か書面で証明しないと移転登記ができないとか,そういうことはちょっと……。登記実務には詳しくないのですが,そういうことは普通はないのではないかと思いますけれども。

  もしもそれで問題が生ずれば,訴訟で移転登記の紛争になるというだけでございまして,単に普通の移転登記請求をするだけではないかなという気がいたしますけれども。共同申請するか,あるいは判決による申請をするということになると思いますが。

● 何かございますか。

● 私も詳しくは調べていないのですけれども,これで信託財産が売却されたような場合は,受託者が登記義務者となって,買主の方が登記権利者となって共同申請ということになるのですけれども,登記簿上,受託者が仮に3人登記されていれば,その3人全員が登記義務者として申請しなければなりませんので,そのうちの二人しか申請人になっていないと,登記はやはり難しいと思うので,その3人のうちの一人欠けた人については代位をしてやるとか。代位であれば,代位原因があることを証明する書類なり何なりをつけていただかないと,登記としては受けられないと思いますので,こういう契約が成立したからそれでいいということではないのではないかなというふうに認識しておりますが。

● ただ,2の(1)のアの(イ)のところで,実体法上は少なくとも代理することができるというふうになっているわけですけれども,その代理権が当然実体法上あるということをもって3人のうち二人しか登記していないという場合でも,やはり登記実務上は3人の共同申請であるということですか。

● 実体法上代理権があるということが明らかであって,その代理権があるのであれば,その代理権があるということを証明するものをつけていただかないと,登記の方では,本当に代理権があってやっているのかというのが分からないので。

● そこで代理権があるかどうかを確認する場合に,過半数で決定しているかどうかということの証明が必要になってくるということだと思うのですけれども,そこで私の問題提起というのは,やむを得ない事情のあった場合にその者を外したといったときに,その証明というのはなかなか難しいのではないかという,そういうお話です。

● 分かりました。もう少し検討させていただければと思います。

  便乗するようであれですが,甲案,乙案につきましてはどちらがいいかとか,何かお考えはございますでしょうか。

● ちょっとこれは組合せがございまして,実務上の観点から,余り過大なものはよろしくないなというのがございますけれども,少なくとも過失要件というのは外してほしいなというのがございます。

● 甲案の場合ですね。

  これは,31条と同じような規律を設けているわけで,しかも重過失ですから,過失要件というか,悪意に準ずるようなものということですが,これでも問題がありますか。

● 必ずしもそういうわけではございませんけれども,そもそも困難な状態というのは一体どうなのかということが分からないうちに,では一体どういう注意義務というのが出てくるのかということが分からなかったものですので,ちょっと御質問したわけでございます。

● ほかに,いかがでしょうか。

● この共同受託者の責任の中で,受益者に対する責任のところで確認をしておきたいのですけれども。

  共同受託者のところで--今日は,もう当たり前ということになっていて,余りそこは触れられていないと思いますけれども,従来,共同受託者については,合手的行動の義務というのでしたっけ,とにかく全員一致でというので,相互監視というか,間違ったことをしないようにという極めて消極的な態度がとられていたのが,今回はそうじゃないですよということですよね。

まず過半数ルールというのをつくり,それは分掌のない場合であって,分掌がある場合には,それぞれのところでちゃんと一人ずつでやれますよという形で,信託財産の管理運用をやりやすいようにという方に一歩を踏み出す,あるいは二歩も三歩も踏み出すということになると,共同受託者の間の責任の関係がどうなるのだろうかという話で,やはりバランスのとり方というのがあるような気がするのですけれども。

  ここで受益債権についての責任の方はいいのですけれども,後の方の損失てん補責任のところで,これは,まず二つ確認なのですが,分掌してある場合は,実際には,分掌してあるので,相互監視なんていうことは難しいと思うのですね。

だから,これは本当に机上の空論なのかもしれませんけれども,しかし理屈の上では何らかの監視義務というのはやはりあるんだよということなのかどうか。

  二つ目は,過半数ルールのところで反対すれば,もう責任はないような感じで読めるのですけれども,しかし,明らかに--もちろん反対もするけれども,明らかにこれは多数派が信託違反行為だという場合には,もちろんそれ以上のアクションに出る義務はあるのだと。

その義務に出ないで反対だけしておきましたよというので責任を免れることはない。

これは善管注意義務かどこか別のところで書いてあったかもしれないのですけれども,ちょっと確認をしておきたいのですが。

● 御質問の趣旨について十分に理解できているかどうか分かりませんが,お答えします。

  まず,職務分掌があった場合でございますけれども,その場合には,分掌された職務の限度で独立して職務を執行することになりますので,ある受託者による職務執行が信託違反行為とされた場合については,当該受託者のみが責任を負うことになるのではないかというふうに考えております。

それから,意思決定に反対した者が損失てん補責任を負うかどうかというところでございますけれども,損失てん補責任というのは,御承知のとおり,故意過失による場合の責任でございますので,基本的に反対の意思を表示した受託者というのは,それについて特に故意過失がないと評価されるのが普通ではないかと。

特に明々白々な違反行為について,認識していながら放置していたというようなときは,特段の事情があって責任を負うということもあり得ると思うのですが,原則として,意思決定に反対していれば過失がないというところで,こちらの損失てん補責任の方は切れるのではないかという気がしております。

過失があるという理由では切れないというのは第三者に対する債務の方でして,こっちの方は悩ましいところでございますが,損失てん補責任は,意思決定に反対していれば責任がないという結論を導き出しやすいのではないかという気がしております。

● そういう普通のケースと,今おっしゃられたように,反対だけではやはりそれでは過失があるよという場合はあり得るということですね。

● 特段の事情があれば,あり得ると思います。

● だから,同じことは前者についても言えますね。分掌してあっても,たまたま私が了知する範囲に入ってきたというわけです,その人がとんでもないことをしていると。

だから共同受託者はやはり放っておけないということは,常識と言えば常識なのですが。

● 職務分掌されておりましても,絶対に責任がないというわけではなくて,やはりそこは,特段の事情があれば,過失があるということで責任を負うということはあると思います。あくまで過失責任の場合についてはそのような構成が可能かと考えております。

● 前に差止めのところも少し議論したと思いますけれども,あれは,ほかの共同受託者に差止めの権利を与えるかどうかというのは今後検討するというふうになっているのでしたっけ。

● 前に問題提起はしましたが,その点は今後なお検討するということで考えております。

● まあ,そういうのもちょっと関係しますね。

  よろしゅうございますか。

● また細かいことなのかもしれないのですが,確認させていただきたいのですが,第三者に対する債務の受託者の責任の在り方のところで,固有財産による責任の負い方が分割責任なのかどうかということでして,こちらの資料は,基本的に分割責任であるということを前提に書かれているのだと思います。

特に資料の26ページの記述などは,そういう前提で3段落目の「なぜなら,」以下などが書かれているのではないかと思うのですけれども,一方で,A,B,C3者の受託者が,A,B,Cの名で意思決定もして,そして対外的に行動して負う債務が分割ということが果たして適切なのかというのはちょっと気になっておりまして,分割債務の原則は,民法上原則といっても,認定は非常に慎重にというふうに言われておりますし,民法上の組合の分割責任ということについても立法論的にはいろいろ議論があるようでございますので,分掌もしていなくてA,B,C3者で意思決定をしているというときに,固有財産の責任の在り方が分割でいいのかどうか,念のために,この時期にもう一度確認させていただきたいのですが。

● この固有財産の責任が分割か連帯かというのは,事務局内でもいろいろ検討はいたしましたけれども,そこは基本的には民法の原則に委ねるということで,ここでも金銭債権だから分割というふうに考えているわけでして,債権の種類によりましては不可分債務になるようなこともあるかと思います。

ただ,どのようなものについて可分で,どのようなものについて不可分になるかというのは,正にそれは,信託法の世界というよりは,民法で共同で債務者になった場合にそれが分割になるのか連帯になるのかというところに合わせて考えていきたいというふうに考えております。

● 金銭債務であっても,受託者として共同で行って債務を負っているというときには,それゆえに一般的に金銭債務で分割債務になるとしても,違う種類ということがあり得るのではないかというふうに,ちょっとそこが疑問に思っているのですけれども,そういう考え方はとらないということですか。

● それは,民法でそういう考え方もあるのであれば,とり得るかと思いますが。

  例えば,何か連帯の意識が当事者間にあったような場合ということですか。

● はい。

● 普通は,金銭債務であれば分割になってしまうと思うのですが,私,どういう金銭債務が連帯債務になるのか,不可分債務になるのかというのは,ちょっと……。不可分的に負った対価としての債務とか……。

● 単純な借入れについて。

● それはなかなか……,やはり分割になってしまうのではないかなという感じで考えておりましたけれども。あくまで全員として表示した場合でございます。そういう場合には,分割でもそれは相手も分かっているので,いいのではないかということで,分割債務になるという民法の原則に従うべきではないかという考え方でございます。

● どこまで民法の原則でどうなるかということも余りはっきりしないところもありますけれども,仮に信託目的で借入れした場合,そのときの受託者の個人の責任がどうなるかですよね。

● おっしゃる趣旨は,こういう共同受託の場合については,民法の原則を離れて,やはり連帯,金銭についても連帯にするのが妥当ではないかと。

● それが民法の原則を離れているかどうか自体,そこは理解が別途あり得ると思うのですけれども,信託財産に関する事務処理ですとか保存ですとか,そういうもののために借入れを3者が意思決定をして,共同で,行為者としても名前を出してやっているときに,単純に分割なのかという,そういう疑問なのですが。

  さらに,そこからすると,名前を出さなかったときに--名前を出すということは分割にするということなので,名前を出さなかったときは違う処理だというところにつながっていきますので,大もとが違ってくると,そこの処理も違うように思うものですから。

  ただ,全く疑問のないところなのであれば……。

● そんなことはありません。テークノートさせていただいて……,ちょっと難しいところですので。

  まあ,直感的には,みんなでやっているんだからみんなでというのもあり得るのかなという気はいたしておりますが,いかんせん,民法の一応の原則が金銭債務は分割となっておりますので,そちらによるのかなと考えておりましたけれども,共同受託の場合についてなお考慮を働かすべきかどうかというところについては,もう少し検討を深めたいというふうに思っております。

● 恐らく,民法とちょっと違うかもしれないのは,民法の場合は,3人が一緒に,連帯ではないけれども,3人がいて借入れをするというと,分割の原則が適用されてもいいのかもしれないけれども,ここは信託で,借入れの目的が最初から一つ,その信託のためというふうに一つに限定されているので,そういう一つの目的のために3人が借入れという--3人というか,その中の一人が全員の名前を出して借り入れたと,そういうときには,場合によっては,まあこれは民法の原則の問題として,そっちの方でも連帯……,まあ不可分なのかな。

● 性質上の不可分性ということはいかがですか。

● そういうのが可能性がないわけではないだろうという感じはするけれども,私も自信がないな。

  普通の民法の場面とちょっと違う信託の構造ゆえに。

借り入れて何に使うかという,その借入れはすべて信託のために使うという点が普通の民法の世界とちょっと違う点があって,民法の原則を適用するのだけれども,連帯というか,不可分……,連帯は推定しないとすると,不可分ですかね……。いや,反対がありそうだから。

● 近い問題ですけれども,確認の質問だけさせていただきます。

この第三者に対する債務,20ページの部分ですね,対外関係で考え方はこれでいいのかどうかの確認だけなのですが,信託財産に対して行く場合と固有財産に対して行く場合があって,信託財産の方はまあ分かるわけですけれども,固有財産に対して行けるかという問題に関して,実際に行為をした者に対するのもいいのですが,実際の行為をしていない者の固有財産に対してかかっていく前提として,どういう債務名義をとればいいのかというときに,これを見ていますと,過半数の意思決定を行い,かつ他の受託者の名前を挙げた代理をしているということが言えるか,あるいは,保存行為であり,かつ他の受託者の名前を出した代理行為をしているか,どちらかである場合に限って,実際に行為をしていない者たちの固有財産にもかかっていけるという理解でよろしいのでしょうかということですね。

  もし仮に本当にそうだとすると,(ウ)の,職務分掌されている場合に固有財産で職務を執行した受託者のみが固有財産で責任を負うというのは全くそのとおりなのですが,職務分掌している場合に,先ほどの二つの場合があり得るのかと。

つまり,実際に行為をしていない者の固有財産にかかっていく場合というのが,過半数の意思決定プラス代理,あるいは保存行為プラス代理というときに,職務分掌の問題というのは,言わずとももう当然なのかなという感じがちょっとしたので。

ただ,前提が間違っているかもしれないので,確認だけさせていただければということです。

● 前提はそのとおりの理解でございます。

 その原則からすると,職務分掌の場合も自明ではないのでしょうか。

● むしろ,ほかの人の,全員の固有財産に行くべきではないかと。

● というか,先ほどの二つの要件がある場合にのみ,二つの場合にのみ他の受託者の固有財産にかかっていけるとするならば,このルールさえあれば職務分掌の場合はもう言うまでもなく当然行けないはずではないかなと。

  ですから,結論はそのとおりなのですけれども,言うまでもないかなという感じがしただけで。言うとかえって混乱してきますので,質問だけさせていただいただけです。

● おっしゃる趣旨は,恐らくそういうことかなと。職務分掌の場合はいろいろなところに取り出しておりますので,なるべく規律を書いた方が分かりやすいかと思いましたが,御趣旨としては,(ア)と(イ)でそういうことであれば,(ウ)はなくても自明かなという気はいたします。

● 恐らく先ほどの問題があるというのは,そのとおりなのですが。

● 大分議論が錯綜しておりまして,私も混乱してきたのですけれども,今日の整理は,信託財産との関係では合有であって,合有的債権債務関係があるということから何か話があるように理解しておりました。

ところが,固有財産については,共有的債権債務関係を前提として,それで分割になるのか連帯になるのかというような話になっているように思います。

ところが,信託財産についても不可分債務であるというような可能性の検討がされたりもしておりまして,恐らく,その合有という概念がかえって混乱を来しているのではないかなというふうにも思います。

特に,組合との比較をする際に,組合の方を合有と見るのか見ないのかというところでも議論があると思いますし,それから,今回の案では,持分がないということと,合有ということとをくっつけているようですけれども,そこも必ずしも論理必然ではないだろうと。そうしますと,今日出たような議論を整理する際に,最終的に合有ということでも結構なのですけれども,合有的債権債務関係ということを前提にしてしまうと,かえって整理しにくいのではないかなというふうに思いました。印象だけです。

● そこはもうちょっと検討した方がいいかもしれませんね。

  ほかにも若干まだ残っておりますので,特に御意見がなければ,このぐらいでよろしいでしょうか。

  それでは,次の項目に行きましょうか。

● 次は,第39と第42の倒産関係のところについての御説明をさせていただきます。

  まず,第39は,任務終了事由と倒産手続の開始の関係でございまして,現行法では42条1項に対応するとともに,受託者の不適格事由を定めた現行法5条にも関連するものでございます。

 42条1項によりますと,受託者に破産手続が開始したときは当然の任務終了事由となるものと解されておりまして,しかも,5条におきまして,破産者であることは受託者の不適格事由とされておりますので,破産手続の開始にもかかわらず任務が終了しないとの特約は有効ではないと解されるものと思われます。

しかし,第3回会議のときに提案いたしましたが,受託者の不適格事由から破産者を除くことといたしますと,受託者につき破産手続が開始されたとしてもその任務を終了させないという特約を置くことは許容されてよいものと考えられます。そこで,民法の委任に関する653条--資料には「654」と書いてあったかと思いますが,「653」でございます--の解釈と同様に,破産手続の開始をもって原則として任務終了事由としながら,任務が終了しない旨の別段の定めを信託行為に設けることを許容するという提案をするものでございます。

 なお,破産手続の開始の場合とは逆に,再生手続等の再建型倒産処理手続が開始されたとしても,現行と同様に当然に任務終了事由となるわけではございませんが,信託行為の定めをもって任務終了事由とする,信託行為の定めで任期とかを定めるのと同じように考えるわけでございまして,その定めによって任務終了事由とすることは可能であると解するものでございます。

  次に,第42の「受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等について」,資料14ページのところからの説明に移らせていただきます。

  このポイントでございますけれども,2点ございまして,第1は,42条2項と同様に,受託者の破産管財人に信託財産の保管義務及び信託事務の引継ぎ義務を課すものとしたこと,これは先ほどからいろいろ議論になっているところでございます。

第2に,受託者破産の場合において,明文の規律をもって,受益者にも一定の限度で信託財産を確保するための手段を付与することとした点でございます。

  まず,第1の点でございますけれども,受託者について破産手続が開始された場合を考えてみますと,17ページの(注1)に記載いたしましたとおり,先ほどからいろいろ議論がある点でございますけれども,受託者の破産管財人は受託者の固有財産に係る債権者の利益を代表するものであるから,信託財産との関係では,登記・登録をもって対抗されるべき第三者,こういう意味で少なくとも第三者に当たると解される上に,信託財産は破産財団に属しませんので,本来,受託者の破産管財人の権限の及ぶところではないと思われるわけでございます。

しかしながら,そうしますと,信託財産を管理すべき受託者が不在となってしまうことからの不都合がありますので,この不都合を解消するためのいわば便宜的な観点から,1の(1)のとおり,破産管財人に対して,あくまでも一時保管の限度にとどまる義務のみを課すことを提案するものでございます。

  次に,第2の信託財産確保の手段の点でございますが,破産手続の開始によりまして受託者の任務が終了し,受託者の全部が欠けることになった場合には,新受託者の選任がされるわけでございますが,この任務終了後,選任までの間は,旧受託者の破産管財人が信託財産の保管義務を負うことになるわけでございます。

しかし,信託の中心的な機能である受託者の倒産からの隔離機能の問題となる場面であることに加えまして,信託財産が名義上は受託者の財産であるがゆえに,受託者の固有財産,つまり破産財団と一体なものとして取り扱われやすいということを考慮いたしますと,受益者にも信託財産を確保するための手段を認めることが望ましいと思われるところでございます。

この点につき,学説上は,受託者破産の場合については受益者が取戻権を有するとの解釈が有力でございますが,受益者は信託財産について所有権等の物権を有するものではございませんので,一体いかなる権利に基づいて,いかなる訴訟を提起できるのかが不明でありますし,信託財産の管理運用は受託者にゆだねられるのが信託でございまして,受益者が信託財産を自己の手元にとどめ置く筋合いのものではございませんので,信託財産の受益者への引渡しまで認める必要性があるかは疑問でございます。

  そこで,2の(1)のとおり,受益者は,新受託者が選任されるまでの間に限ってでございますが,破産管財人を被告として,当該財産が信託財産であることの確認の訴えを提起することができる旨の明文規定を置くことを提案するものでございます。

  なお,この確認の訴えの関係では,受益者が複数の場合をいかに規律すべきかがむしろ問題になりまして,14ページの2の(3)のところに書いてございますけれども,一つは,単独の訴訟提起権プラス他の受益者への訴訟告知の枠組みをとるという甲案,それから,複数受益者の必要的共同訴訟とする乙案とが考えられるところでございます。

甲案による場合には,しかし,送達以外の方法による特別の訴訟告知の方法を認めない限りワークしないのではないか,乙案によるときは,事実上,受益者全員による訴訟提起は困難ではないかというような問題点があることにつきまして,16ページから17ページに書かせていただいたところでございます。

  以上で終わります。

● それでは,この倒産関係に関して,いかがでしょうか。先ほど少し,関連することを議論していただきましたが。

● 今,二つポイントがあると言った第2点の方ですね。第1点の方は先ほど既に出てきまして,これはつけ加えることはございませんので,第2点の方について何点か申し上げます。

御提案の理由は非常によく分かるのですが,まず,問題になる局面というのは,特に,破産管財人がこれは信託財産ではなくて固有財産であると言って例えば処分しようとしているときではないかと思うのですが,一番シビアに問題になるのは。

  一つ目の問題ですけれども,新受託者とか何かが選任されるまでの間に訴えを起こせるということですけれども,事実上間に合わないのではないかと。判決が確定しない限りは既判力を生じませんから。というのが一つ。

  それから,それに関連して,二つ目の問題点ですが,こういう確認の訴えで仕組むとして,何か保全処分というのは観念できるのだろうかと,処分禁止みたいなですね。

多分,そういうところまで手当てしないとワークしないのではないかと。

だから,確認訴訟を本案とする処分禁止の仮処分みたいなことが考えられるかどうかという,今まで余り考えたことがない問題を考えなければいけないような気がします。

  以上はワンセットの問題です。

  それから,甲案,乙案に関してですが,乙案は非常に重たいなと。

特に,甲案,乙案共通の問題ですが,受益権が有価証券化されていてどこに行ってしまっているか分からないような場合には,どっちにしてもワークしない,甲案も乙案もワークしないということが考えられないかなというのが気になるところでありまして,例えば公告で済ますとか……。

単独で提起できて,公告をして,入ってきた人はおいでというあたりぐらいまでしないと,ワークしない,もしこういう仕組みを作るのであればワークしないのかなというのが,受けた印象です。

しかし,公告だけでほかの受益者の手続保障は足りるのかというと,これまた,会社関係の訴訟を考えれば,足りるような気もするのですが,それと同じように考えていいのかどうかはちょっとよく分からないところです。

● いかがですかね。なかなか……。

  さっきの,確認訴訟でもって処分禁止の仮処分というのは,私もちょっとよく分からないけれども。何かそういうものがないと,とにかく間に合わないということですよね。それは確かに何か迅速な手続というのは必要かもしれませんね。

● 今の意見に関連することなのですけれども,同じく第42の2のことなのですけれども,ちょっとこれは知識不足で恐縮なのですけれども,直截に給付訴訟を申し立てるという枠組みがつくれないかどうかということなのですけれども。

  例えば,その状況として,破産管財人が財団のものと思っている,それでそれを確認すると。

その制度を設けること自体はよろしいのですけれども,やはり直截に,破産管財人から,今後生じるところの,選任されるところの信託財産管理人ないし新受託者に対してそれを渡せというような訴訟ということを展望することができないのかと。

現行法でできないのであれば,そういう訴訟を可能とするような枠組みを,どうせ確認の訴えということができるのであれば,この機会にここで定めることができないのかということを,質問といいましょうか,コメントしたいと思います。

二つ目は,甲案,乙案という話ですけれども,この資料の中身を見ますと,やはり困難であるということがありまして,17ページの第2段落目にありますけれども,信託財産管理人を選んだらどうかとかいう話がありましたけれども,むしろそういうことは必要でない,それより以前にやりたいということですので,円滑な提起をしたいということの観点からは,やはり乙案というのは非現実的であって,少なくとも甲案ということであります。

そして,甲案であったとしても,やはり告知というのは非常に難しいという観点からは,○○幹事がおっしゃられた公告とか,そこら辺の手続にして簡易にすべきだというふうに思います。

● 直截な給付というのも,私もよく分からないけれども。まだ給付すべき相手がいないわけですよね。

● それは厳しいのではないかと。受益者に対する給付というのは,また新受託者に戻さなければいけないのでおかしいですし,新受託者が選ばれれば,その人は直接所有権に基づいて給付請求できますが,まだだれがなるか分からないけれどもというのは,ちょっと……。

● 実務的には余り考えられませんけれども,嫌がる破産管財人に対して確認訴訟があったとしても,なお抗する場合には給付訴訟でワンショットでやれるので便利ではないのかということでございます。

● 御指摘の中では,特に迅速な手続が必要だというのは正に皆様のおっしゃるとおりだと思いますので,そこは考えてみたいと思いますが,引き渡すというのは……。せいぜい保全処分で執行官保管にするかとか,その程度のことぐらいしか考えられないのかなという気はいたしますけれども。

● 受益者多数の方はどうですかね。

● 甲案,乙案というお話ですけれども,私どもの信託銀行ということをベースに考えますと,どうしても,どちらもどうしようもないのかなと。要するに,両方ともワークはしないのだろうということだろうと思います。

  もちろん,時限性の問題があって,信託財産管理人を選任してとかという方法を基本的に考えられているのだと思うのですけれども,基本的に,受託者が破たんしたときの受益者保護というか,信託財産の確認の訴えというのはこうあるべきだよというのはやはり法律できちっと書いていただいて,それがワークするという形でないと,私ども,受託者としてお客さんなり受益者に説明するに際して,こういうことで安心なんだよということは,この状態だったら言いづらいかなという感じがいたしますので,何らかの手当て,先ほど来出ております,例えば公告--もちろん,問題があることも承知はしておりますけれども,公告をするであるとか,もう少し……,例えば,迅速に,信託財産管理人が,訴えが起こされたらすぐに選任されて,何らかの形で手当てできるとか,そういうことをちょっと御検討賜れればというふうに思います。

● 課題は比較的明確なんだけれども,なかなかうまい手段が見つからないという,そういう問題ですね。なお検討させていただくことにいたしましょうか。

  よろしいですか。もし御意見がなければ,次に行きましょうか。

● では,最後に,委託者と遺言信託の関係のところに移らせていただきます。

  まず,第55でございますが,これは,私益信託における委託者の信託上の権利義務に関する提案でございまして,第2回会議で御説明したところから基本的には変わっておりません。

すなわち,法律関係の当事者としての委託者の地位を強調して,信託関係における各種の権利義務を認めるといたしますと,法律関係を錯綜させ,委託者と受益者との間に意見対立が生じ,受託者による信託事務の円滑な処理にも支障を来すおそれがありますところ,このような問題を解消するためには,原則として,信託の利益を直接享受する受益者に判断権を委ねるのが合理的であると考えられることから,信託関係の当事者としての委託者の地位は後退させることとしております。

  具体的には,46ページの別表に記載しましたとおり,デフォルト・ルールといたしましては,信託の監視・監督的権能としては,受託者,信託管理人,信託財産管理人の選任,解任,辞任に関する権利,すなわち委託者との合意あるいは裁判所に対する申立権など。

  それと,利害関係人にも認められる権利として,提案済み,あるいは今後提案予定である,別表に書いてある五つほどの権利。

  あとは,信託行為の変更,信託の併合,分割,終了など,信託の枠組み自体に重大な影響を与える行為については,信託目的に反しないことが明らかな場合を除いて,委託者にも同意権又は裁判所に対する申立権を付与するとしております。

  それから,31番の,信託終了時の残余財産につき指定された帰属権利者の存しない場合には,その帰続権利者となるということ,この点を提案しているものでございます。

なお,「第62の4(2)」と書いてありますが,「第62の5」でございますので,訂正させていただきます。

  なお,別表記載の個別の権利のうち,いずれを委託者に認められるデフォルト・ルール,ここで言うと丸というふうにするかということは,非常に重要ではございますが,更に,第2回会議でいただいた御指摘の関係で,次の2点について付言申し上げます。

  第1は,ただいま概括的に説明した別表の一番右の欄に丸とある権利につきましては,デフォルト・ルールとしてではございますが,原則として委託者に付与することとしている点でございます。すなわち,第2回会議におきましては,デフォルト・ルールとして委託者の権利をゼロとするところから出発してはどうかという御意見もありましたが,そのような考え方はとらないという提案でございます。

  第2に,別表にペケとある権利についても,委託者が信託行為によって留保すれば,その権利を委託者に認める,すなわちプラスする方向が認められることにつきましては,第2回会議で説明したところでございますが,第2回会議におきましては,これとは逆の方向の指摘といたしまして,別表に丸とある権利については,委託者に最低限度認められるべき権利とする趣旨なのか,それとも,これらの権利についても委託者が信託行為で放棄することができるのかについて質問がなされました。

  この点の検討結果が,42ページのアステリスク1,アステリスク2,それから45ページの(注6)に書いてあるところでございまして,委託者は,信託の監視・監督的権能,あるいは信託の基礎的な変更に関する権利としてデフォルト・ルール上認められている丸の権利につきましても,裁判所に対する申立権も含めて,信託行為の定めをもって放棄することができる,すなわちマイナスあるいはゼロとすることも可能であることを提案するものでございます。

  続きまして,第56の相続人の権利義務の方についての説明に移らせていただきます。

  これについては,甲案と乙案というのを,47ページで,対比しております。

  甲案というのは,委託者自身が信託行為の定めをもって相続人の関与を排斥しない限り,委託者の相続人は委託者が有していた信託法上の権利義務を承継するという考え方でございます。

  その根拠は,47ページから48ページに記載してありますとおり,委託者と受託者間の個人的信頼関係を重視して委託者の権利を一身専属的なものとまで考える必要はないということ,合併などの包括承継の場合との平仄,それから,先ほど申しましたとおり,委託者の信託法上の権利を現行法よりも縮小することを提案している上に,信託行為において,そもそも委託者の権利を放棄し,あるいは相続人の関与を排除する旨の定めを設けることも可能であるというようなことを理由とするものでございます。

  これに対しまして,乙案でございますが,委託者の相続人は,法定帰属権者としての地位と報酬支払義務について信託行為に別段の定めを置いた場合を除いて,委託者が有していた信託法上の権利義務は承継しないという考え方でございます。

  その根拠は,48ページに記載してございますけれども,主として,承継を認めると委託者の地位を有する者が多数になって法律関係が複雑化することを懸念するものでございます。

ただ,この考え方によるときは,委託者の相続人とはいいましても,委託者と無関係の第三者と異ならない地位を有するにとどまる,言ってみれば友達と変わらないということになりますので,例えば,信託債権者以外の者による信託財産に対する強制執行について,信託行為の定めをもってしても相続人に異議申立権を付与することができなくなってしまうのではないかというようなおそれがあり,不適当ではないかという指摘があり得るところでございます。

  なお,念のためでございますが,乙案によった場合でも,委託者に利害関係人として認められている権利につきましては一律に否定されるわけではなくて,権利の性質ですとか,その相続人の立場に応じた,利害関係を有すると言えるか否かについての個別的な判断によるものと思われることを付言いたします。

  最後に,第67の遺言信託についての説明に移らせていただきます。

  遺言によって遺贈はできることは民法964条に定めておりますが,信託では,財産権の名義の帰属と実質的な利益享受者とが分裂する点におきまして一般の遺贈とは異なるので,遺言をもって信託を設定することが可能であるか疑義が生じ得ないではないと言われております。

そこで,現行法2条の趣旨を維持して,契約による信託の設定のほかに,単独行為である遺言による信託の設定も可能であることを注意的に明らかにするものでございます。

  なお,ここで特に御審議いただきたいのは,遺言信託における遺言者の相続人に付与すべき権利義務についてでございます。

遺言は遺言者の死亡したときにその効力が生じますので,遺言信託におきましては委託者は当初から不在でございまして,委託者の地位の相続ということも観念し難いと考えられますので,遺言者の相続人が委託者としての権利義務を承継するとは言い難いと思われます。

そこで,契約による私益信託における相続人の権利義務の場合とは異なりまして,相続による承継ということではなくて,遺言者の相続人に原始的に権利義務を付与すべきか否かが問題となるわけでございます。

  もっとも,権利義務の原始的付与と申しましても,義務の方でございますが,これは,信託行為の定めをもって相続人に信託報酬支払い義務を課すか否かということでありまして,あくまで信託行為の定め方の問題であって,法律に基づく遺言者の義務の付与という問題ではないように考えられます。

  そこで,問題となりますのは,先ほど御説明いたしました,信託に対する監視・監督的権能及び基礎的な変更に関する権利並びに信託終了時の法定帰属権者としての地位を原始的に付与すべきであるか否かという問題であると思われるわけでございますが,ここでは,このような点に関しまして,甲案と乙案の両案を提示しております。

  甲案でございますけれども,遺言者の相続人に対し,生前信託の委託者が有する権利と同様の権利を付与するものとするものでございます。

これは,信託に関して委託者が有していた利害,例えば信託目的が達成されるか否か等を保護するためには,当初より委託者が不在である以上,かわりに,遺言者の相続人に委託者が存していたならば,有していた権利を付与することがふさわしい。

言いかえますと,委託者の有すべき権利を行使できるものがだれもいないとするよりは,委託者に最も近い立場にあるその相続人にこの権利を付与した方がベターであるというふうに考えるものでございます。

遺言者の相続人と受益者との間で利害が対立することによる弊害につきましても,資料に書いてございますような理由でさほど懸念するには及ばないか又は,対処可能ではないかと考えるものでございます。

  これに対し,乙案は,遺言者の相続人に対しまして,法定帰属権利者の地位を除いて,生前信託の受託者が有する権利と同様の権利を付与しないとするものでございます。

受益者と遺言者の相続人とは相対立する利害関係にございますので,遺言者の相続人に適切な権利の行使を期待することは困難であると考えるものでございます。

 なお,利害関係人につきましては個別の判断によるべきであるというところは先ほどと同様でございますが,付言させていただきます。

  以上で終わります。

● それでは,今の三つの点につきまして,いかがでしょうか。

● この問題はやはり非常に大きな問題だと思うのですね。これは,相続というものと信託というものをどう考えるか。今,余りないというか,ほとんどない民事信託というのの将来の発展可能性を残すのか,それとも残さないのかぐらいの話だと思うのですね。

  とりあえず,コメントというか,私の意見だけ申し上げますけれども,まず申し上げるのは,相続人との関係のところですが,生前信託と遺言信託とで取扱いを異にするのはおかしくて,簡単に言うと,乙案ですね。とにかく。

つまり,英米において信託はいろいろな理由で使われていると思いますが,民事信託のところで使われている理由の大きなものの一つは,相続人から切り離そうという話ですから,ここで,自分が死んだ後,相続人がまた出てくるというような話は,本当はそういう意味での信託の真髄に反するような話ですね。だから,やはりこれは全然切り離してしまうと。

ただ,もちろんこれはデフォルト・ルールですから,委託者が相続人の中でこの人だけは信頼しているという人がいれば,信託条項に何らかの形で,この人にはこういう権限を残しておきたいと書いておけばいいだけの話でありますから。

  それで,すぐにそういう形の信託がいっぱい出てくるかどうか分からないですが,ここでルールを決めてしまうのが将来の発展可能性を--特に甲案をとる場合ですけれども--閉ざすような気がするものですから,一言だけ,コメントします。

● 3点,続けて。

  まず1点目,第55の「私益信託における委託者の信託法上の権利義務について」ということですけれども,この部分につきましては,先ほど○○幹事の方からお話がありましたけれども,別段の定めで現行法における権利まで付加することもできるし,逆に引くこともできるというふうな形で御提案いただいておりますので,ファミリー・トラスト的なものから流動化の信託まで,幅広く利用しやすいものではないかということで,非常に歓迎しております。

  ただ,その場合のデフォルト・ルールの在り方のところなのですけれども,これについては,実際,ちょっと業界内で意見とかも分かれておりまして,多数派の方は,信託関係が錯綜するとかいうことから,基本的には原案の方がいいのではないかということなのですけれども,一部からは,ファミリー・トラスト的な信託の場合についてはやはり委託者の意向を非常によく聞かないといけないということもありまして,この別表の権利についてはすべてデフォルト状態で付与していただけないかというような意見も少数意見としてございました。

  次に,第56の相続人の権利義務のところですけれども,これにつきましては,やはり法律関係が錯綜するということもございますので,乙案と。

  第67のところにつきましても,遺言信託というのはそもそも相続人の意向を排除するというようなことが大きいと思いますので,これについても乙案ということで,受託者に対する監視のところにつきましてはまたこれから御提案があると思うのですけれども,信託管理人のところとかが大分整備されておりますので,そういう形で対応すればいいのではないかというふうに考えております。

● 私も,第67,第56についての甲案,乙案の話についてですけれども,○○委員,○○委員と同じく,乙案を支持するという立場から意見を申し上げたいのですが,つけ加えるのであれば,銀行において一番法律的な問題が出てくるのは預金の相続でございまして,かように日本において相続間の紛争というのは多いということでございます。

今現在,遺言信託というのは余りないと。

もちろん,民事信託ということもないわけですけれども,商事信託といいましょうか,銀行が行うこと,遺言信託もできる信託銀行はありますけれども,ただ,実際に量的には英米と比べたらもちろん余りないわけでございまして,実際にやっているとしても,遺言の作成であるとか遺産整理であるとか,狭義の遺言信託と言われるものでございます。

これを発展させていこうということであれば,やはりそういう事実上トラブルが生じるということを避けていきたい,安心して使えるような遺言信託を作るということであれば,やはり乙案を採用すべきではないのかなというふうに思っています。

  ○○委員がおっしゃるとおり,デフォルト・ルールということでございますので,当該委託者ないしは遺言者が特に望むということであれば,そのように設計すればいいということだと思います。

● ほかに,御意見いかがでしょうか。

  ○○委員は,要するに第56,第67とも乙案の方がいいという御意見ですね。

● はい,そうです。

● 別に甲案支持ということではないのですが,乙案をとった場合にどういう関係になるかということを確認したいのですが。

 第56の方が分かりやすいと思うのですが,第56で乙案をとった場合は,これは,しかし,一定の権利義務についてはなお相続人が取得するということになっていますね。帰属権利者としての地位等々。

そうしますと,それは何によって取得するのでしょうか。特定承継なのか,あるいは原始取得するのか,それと相続放棄との関係はどうなるのかと,そのあたりを確認させていただければと思います。

● 確かに,何によって帰属権利者の地位を取得するか。もしかしたら,極端な意見は--いや,○○委員が言われるのかもしれないけれども,それも与える必要はないという意見が出てくるのかもしれないけれども。

● いえいえ,そんなことは申しません。

  法定帰属権利者というのは,一番最後に終了してしまって,しかもだれもいない場合に仕方なくという形ですので,本当は信託の枠外みたいな話ですから。

復帰信託ですので,それはしようがないでしょうというだけの話ですから。まあ,それにどういう理屈をつけるかというのが難しいんだよと言われれば,それはそれまでのことですけれども,まあ大した問題ではないと私なんかは思うのですけれどね,向こうでもそうやっているんだし,というだけの話です。

● でも,やはり承継ではなくなるんでしょうね。信託法の法制の中で,もうだれも受益者あるいは先順位の帰属権利者がいないときに,最後は無主物にしないで,少しは関係ある委託者の相続人にと。

● そうですね。何十年もたって,何で国庫に帰属させないんだという感じもあるのかもしれませんけれども,英米でも。

まあ,向こうでは黙示の意思説というのをとっているのですけれども,結局のところは。だから,結局読み込むんですよね。そこのところだけは読み込む。

● 委託者の意思として。

● そうですね。

  まあ,でも,本当に擬制された,推定された意思という……。擬制と推定は同じなのかな。

  仕方がなくというだけの話なんですね。

● 擬制というか,委託者の意思だというふうに言えば,結局,信託行為の中で黙示的な意思として最後の帰属権利者だという考え方なんですね。

確かに,理論的な説明はしにくいところがあるけれども……。

  ○○委員も,御意見としては乙案の方が適当だという御意見ですか。

● いえ,甲と乙,どちらも相続によって承継するのかなというふうに思いまして,そうだとすると,あとは範囲を実質的に考えればいいにすぎないのかなという印象を持ったわけです。

● それはそうですが,しかし,甲案でいくと,排除するものを列挙していくわけですね。

● どの範囲で排除するかというのは,これは次の段階の問題で,まず,何によって承継するのかということがはっきりしませんと,議論しにくいなと思ったのです。

多分,そういうことを言うと,○○委員から,そんなことはないんだというような御批判をいただくと思うのですが。

● なかなか難しい問題ですけれども,何を承継するのか,何が最後相続人に行くのかというのは先に決めていって……。

● ただ,ここは,報酬支払義務も承継するというふうになっていますよね。

しかし,それは,相続人が相続放棄すれば承継しないことになると思うのです。

だとすると,承継するのはやはり相続によって承継するのではないかと思いまして,だとすると,結局は範囲の問題かなというふうに思ったわけですが。あるいは,そういう考え方自体が何か間違っているのかもしれませんけれども。 

● よく考えているわけではないのですが,相続で対象の一身専属性を広く認めるというような説明もできるでしょうし,政策的にこの部分についてはいわば特定の承継者を決めているのだけれども,その承継者自体が相続人という地位に依拠しているので,したがって,相続放棄をすればもはや相続人ではない以上,承継者たる資格もないという,いずれの説明も可能ではないかという感じはしておるのですが,説明としましては。

  それで,ちょっとまた違う話かもしれませんが,中身としては乙案でもよろしいのかなと思うのですが,その際気になりますのは,先ほどから,報酬支払義務だけは継承させるというところで,そういたしますと,報酬支払義務がかかっているときに,やはり相続人というのは,その義務者として,受託者がきちんと事務をやっているかということについてかなり利害を持つということが考えられるのですけれども,その際に,報酬義務だけは負って,あとは,一般の利害関係人としての職務の引受けの催告権とか,こういうことだけでいいのか,その部分も結局は委託者がそこまで考えて書くでしょうということに期待していいのかというのはちょっと気になるところです。

  もう一つ,これはむしろ前提事項として確認したいのですけれども,相続人に行くというような手当てがないとしますと,委託者としては,わざわざ自分にある程度監督権を留保したときに,自分が監督権を行使できなくなったときにどうなるだろうということを考えたときに,ほかの人に任せたいということがあるかと思うのですが,その際に,可能性としては,自分の権能を授権するような形にするというと,地位を移転するということが考えられるかと思うのですが,それはいずれも可能という前提でよろしいでしょうか。

個別に権限を授権していく,与えていくということも,まとめてこの監督権を含めた委託者の地位を移転する形で,自分の思う人に権限を引き継いでもらうということが可能であるという前提であるかどうかということなのですけれども。

● これも私の個人的な意見だけれども,相続の方は否定しても,その否定する理由が仮に一身専属性,委託者のところだけにとどまるという一身専属性だとしても,権限をだれかに引き継いでもらうというのはまた別なもので,本来,一身専属性といっても,相続と譲渡なんかはちょっと違うのではないかという感じがしていますけれども。

  しかし,○○幹事が言われたように,一つの問題であることは確かですね。

  まあ,ここは,どういう前提でもって全部が組み立てられているか,まだ余りそこまでは踏み込んでいないと思いますけれども,どうでしょうかね。

● 委託者の地位の移転はできると思いますが,複数の人にそれぞればらばらにということでございますか。例えば,Aの権利はこの人,Bの権利はこの人と。

そこは何か,一人の人ならいいけれども,ばらばらにそれぞれの権利を,代理ではなくて,地位の移転ができるかというと,ちょっとどうかな,難しいかなという気がいたしますけれども。

● 信託行為で定めておけばいいのでしょうか。委託者が留保できるような権限について,これは自分ではなく,Bに行くという。

● まとめてだれかに行くと。

● いえ,この権限はBというふうに,別々に。そこはやはりできないと。

● 例えば,生前,委託者の権限を幾つかに分散するということは信託行為でできるはずですよね。それは今だって,例えば指図権だけ取り出してだれかに与えるという形で。

● そうすると,その後の処分によっては,しかし,できないと。

● ただ,できるといっても何か限度があるかもしれないけれども。

例えば,取消しの関係の権限だけはだれだれとか,書類閲覧請求権はだれだれとか,そういうのはちょっと余りにナンセンスだと思うし,それはできないというか……。しかし,あえてそれをやれば,だめだとも言いにくいのかもしれませんけれどね。

  ですから,基本的には,委託者が信託行為で定めれば,その権限をいろいろ分散することも不可能ではないのではないでしょうか。

  いや,分かりません,私の個人的な意見ですけれどね。

  ほかに,何か。民法等の一般的な原則にかなり関係する問題かもしれませんので。

● 既に出ている話の繰り返しかもしれませんが,乙案をとった場合に,報酬支払義務のほかに,例えば監督是正権限をある程度パッケージにして相続人に与えるということを信託行為で決めるとすれば,有効というお考えでしょうか。

● それは有効だと思います。

● しかし,なぜそれができるかというところが,やはり乙案をとったときにはやや難しいかなと思います。

○○委員がおっしゃった,相続なのかどうかということなのですけれども。

相続財産の範囲を被相続人と第三者との間で自由に定めることができるということの一例になるのだろうと思うのですね。

それは,全部外に出してしまうのか,まだ少し手元に置いておくのかということだから,手元に置いておけば,相続の規律で被相続人から相続人に承継されるのかもしれないのですけれども,何か,相続財産の範囲を被相続人と第三者との間の契約でというか,法律行為で決めるというのはどうも余り例がないかなというふうに思います。

  あと,○○幹事がおっしゃったようなことは,あるいは指図を第三者に与えるというようなものは,その指図の権限を,受ける方との間の,そこでちゃんと権限の移転に関する当事者間の合意があれば,それはそれで一定の範囲では可能だと思うのですが,相続人の意思的な関与がないままに,相続人に,権利であれ,取得されるというのは,第三者のためにする契約とか,何かそういうのを使わないといけないのではないかなというふうに思います。

あるいは相続と言うか。相続と言うと,先ほど申し上げたような問題が残っているのではないかなと思います。

● 何か相続の根本原因にまで来て,意外と難しい問題になってきましたけれども。

  特定の人間に承継させるというのはいいんですかね。相続人という形で一般的に承継させるのが,相続の原理からするとおかしいということですね。

● 特定の人に承継させるというのは,遺贈で承継させることはできると思うのですが,信託行為で特定の人に承継させることが信託行為の当事者である委託者と受託者との間でできるのかというところに,私はまだ少しこだわりがあります。

● ここでは,恐らく遺贈という形をわざわざとらないでやるという場合は考えられるでしょうからね。

 なかなか理論的に難しいところがあるかもしれません。

  まあ,仮に甲案をとっても,実質上同じようなことができるのであればいいのですが。

● 実質的には乙案の方がいいのだろうなとは思いますが,乙案をとったときに,これはデフォルト・ルールであって,信託行為で変えられるという,そこの命題がほかのところの問題とは少し違うように思います。

● だから,先ほど方式と中身の話をしたけれども,中身としては乙案でねらおうとしているところがよさそうだと。だけどうまく説明できるかという問題ですよね。

● 今の○○幹事のおっしゃった点については,検討したいと思います。

  もう一つ,乙案で,乙案の方が大勢な感じでございますが,気になっておりますのは,このペーパーにも書いてございますが,裁判所に対する申立権みたいなものを相続人に付与すると勝手に信託行為に書いて,それによって申立権を付与する,言ってみれば訴訟提起権というのを第三者に契約で付与するということは難しいのではないかなという気がするのですが,そうしますと,乙案をとった場合にはそういう点でも何か難しい問題が生ずるのではないかと。

信託行為の定めによって,例えば第三者異議権を付与することができるのかというあたりが疑問があるところでございまして,その点からどのように考えたらいいのかというところを御教授いただければと思っておりますが。

  甲案でしたら,外せばいいわけですけれども,乙案ですと,さっき言いましたように,相続人というのは言ってみれば赤の他人と同じようなものであると。

それで,赤の他人に,あなたには訴訟提起権がありますよと契約で書いたら,じゃあ訴訟提起権があるということになるかというと,それはちょっと難しいのではないかということで,範囲の問題に加えまして,そういう付与できる権利も限定されてくる可能性があるのではないかというところが気になっておりますが,いかがでしょうか。

● これは,さっき○○委員がおっしゃったことを私が理解しているのかということなのですけれども,これは,例えば「信託管理人」という言葉が出ている。信託管理人に好きな相続人を入れ込んでおけば全然何の心配も要らないということになるのですか,今の話は。

もしそうなら,方法はある。相続人ということにこだわる必要はないのであって,相続人全部にこういう権限を与えようという人はないと思うのですね,デフォルト・ルールでこういうルールがあったときに。相続人の中のだれかだと思いますから,それを信託管理人にしておけばいい。

● そうやれば対応できると思います。

● いろいろ御意見が出ましたが,ちょっと法律構成,それから結論の点も含めて,ある程度皆さんの御意見の方向はそれなりに出ているようですけれども,なお詰めなければいけない点もあると思いますので,また第2ラウンドで御議論を……。

● 1点だけよろしいですか。

  これは今日がいいチャンスなのかどうか,よく分からないのですけれども,英米での民事信託の使われ方で典型的な形は,今,生前信託と遺言信託と両方ありますが--とにかく一つまず受益権を設定して,典型的には配偶者。

配偶者が生きている限りは,こうやって,受益権がありますよと。配偶者が死んだ後は,今度は息子ですよとか,娘ですよという話をつくりますね,こういう形で。

今度,こういう日本の信託法改正の中で,特に遺言信託の形でそういうような枠組みを作るということができるかどうかは,民法上のそれこそ相続法理でどういうことが認められているかということによって決まるので,直ちにそうはならないのか,あるいは……。いや,どういうことなのか,ちょっと教えていただきたいだけなのですが。あるいは,生前の場合もそうです,もちろん。

● 生前の場合で言えば,それは連続の受益者を定めるということですよね。それはできるということで。

● 遺言の場合は。

● 遺言といっても,遺言の信託ですよね。だから,信託として連続の受益者を定めるということは,少なくとも信託の問題としては構わないということになるのではないでしょうか。

それで,あとは相続法,要するに遺留分だとかそういう問題が関係してくれば,それはまた別の問題として……。

いや,分かりません,そこまで言い切っていいのかどうか。少なくとも,ここは,遺言信託という形で遺言で信託を設定することができるという話で,今のように,どういう形の受益者の決め方をしなくてはいけないのかというのは,またどこかで……,連続受益者はやるのでしたっけ。テーマにはないのですか。

● 受益者変更とか,そのあたりで。

● そこら辺と少し関係すると思いますけれどね。

  まあ,今ので結論が決まったわけではないと思いますけれども,お考えいただくということにいたしましょうか。

  では,特に御意見がなければ,今日はこのぐらいにしたいと思いますけれども,どうも長いことありがとうございました。

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2016年加工編

法制審議会信託法部会

                        第7回会議 議事録

第1 日 時  平成16年12月17日(金)  自 午後1時00分

                        至 午後5時10分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(5)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,法制審議会の信託法部会第7回の会議を開きたいと思います。

  お忙しいところお集まりいただきまして,ありがとうございました。

  それでは,いつものようにたくさんの論点がございますので,これを適宜幾つかに区切って議論していきたいと思います。その議論の区切り方も含めて,○○幹事の方から説明をお願いします。

● それでは,本日の議論の進行でございますけれども,テーマは全部で10項目ございますが,次のとおりに分けさせていただきたいと思います。

まず最初に,受益者の利益の享受と受益権の放棄の問題をあわせて行わせていただきます。

次に,受益者を指定又は変更する権利の問題を行わせていただきます。3番目に,信託管理人の問題を行わせていただきます。

この辺りで休憩かと思いますが,その後,第4番目といたしまして,信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限,それから受益者が複数の信託の意思決定方法と受益者名簿の問題を行わせていただきます。

最後に,第5といたしまして,受益権の譲渡,有価証券化,受益債権等の消滅時効の問題というように,全体を五つに区切って進めさせていただければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

● それでは,最初のセッションから説明をお願いします。

● それでは,早速,受益者の利益の享受と,受益権の放棄につきまして御説明いたします。

  まず,第45でございますが,これは信託行為により受益者として指定された者の利益享受に関する提案でございます。

  現行法第7条は,信託行為により受益者として指定された者は,受益の意思表示をすることなく,その信託から生じる利益を享受する旨規定しております。

この規定は,契約当事者以外の者がその契約から生じる利益を享受するには,その者による受益の意思表示が必要であるという民法の原則を修正したものであると考えられております。

信託では,不特定の者や未存在の者が信託行為により受益者として指定されることがございますが,このような者に対して受益の意思表示を求めることは困難又は不可能であると考えられます。

また,例えば,重度の障害をお持ちの方のように,自ら意思表示をすることが困難な方が受益者として指定されている場合には,受益者が受益の意思表示をすることなく信託から生じる利益を享受できるとすることによって,その受益者の保護に資し,かつ,信託を設定した委託者の意思にもかなうものと考えられます。

  このような点にかんがみまして,1におきましては,信託行為により受益者として指定された者は,信託行為に別段の定めがない限り,受益の意思表示をすることなく,その信託から生じる利益を享受することができるものといたしまして,現行法第7条の規律を維持することとしております。

  もっとも,このように措置した場合には,自らの関与なく信託から生じる利益を受け,又は不利益をこうむる者が生じ得ます。

この点につきましては,次の受益権の放棄のところで詳しく御説明いたしますが,これらの受益者に対して受益権を放棄する機会を与えた上で,放棄の効果を遡及させることによりまして,自己の意思に反して利益又は不利益を強制されることがないような解決を図ることが可能ではないかと考えております。

  次に,2でございますが,これは受託者の通知義務に関する提案でございます。

信託行為により受益者として指定された者は,自己の意思によらずに受益者となることがあり得ます。

このような場合には,当該受益者に対して自らを受益者とする信託が設定されたことを認識させることが,受益者として有する各種の権利行使の機会を確保することにつながり,受益者の実効的な権利保護の観点からも相当であると考えられます。

  そこで,2におきましては,受託者が,信託行為により受益者として指定された者に対して,当該者を受益者とする信託が設定された事実を通知しなければならないとしております。

  もっとも,信託行為により受益者として指定された者が自らを受益者とする信託が設定されたことを知っているような場合にまで通知義務を課す必要はないと考えられますので,ただし書におきましては,このような場合においては受託者は通知義務を負わないということにしております。

  なお,ここで,受託者が受益者として指定された者に対して通知しなければならないのは,受益者として指定されたという事実,すなわち受益者となったという事実でございまして,受益権の内容などの信託行為の具体的内容等についてまで通知の対象とは考えておりません。

といいますのは,信託行為の内容等につきましては,別途,受益者が受託者に対して説明を求める権利などを認めておりますので,受益者がこれらの権利を行使することによって必要な情報を入手することは可能であると考えているからでございます。

  次に,3でございますが,これは,受託者その他の利害関係人が,信託行為により受益者として指定された者に対して,相当な期間を定めて,受益権を放棄するか否かについて意思表示をすべき旨を催告できるとしたものでして,遺贈義務者その他の利害関係人の催告権,民法第987条でございますが,これと類似の規律を受託者その他の利害関係人に対して認めることとしたものでございます。

  これも次に説明いたしますが,信託行為により受益者として指定された者は受益権を放棄することができまして,受益権を放棄した場合には,放棄の時点までに生じた原因に基づく責任も免れることを提案しております。

このように,信託行為により受益者として指定された者が受益権を放棄した場合の効果が遡及することとした場合には,当該受益者が受益権を放棄するか否かが確定するまでは,信託事務によって生じる責任を最終的にだれが負担することになるのかが判明しないことがあり,その場合には,当該信託に関して利害を有する者が不安定な地位に立たされるおそれがあるということになります。

  この点,遺言信託におきましては,遺贈に関する民法第987条の規定が準用されまして,利害関係人が受益者  --受遺者になりますが--に対して受益の承認又は放棄をすべき旨を催告することができるとの解釈が有力でございまして,遺言信託以外の信託の利害関係人にも同様の催告権を与えることが,受益の拒絶を認めることによって生ずる不安定な状態を除去するとの観点から相当であると考えられます。

 そこで,3におきましては,遺言信託,生前信託ともに,受託者その他の利害関係人が,信託行為により受益者として指定された者に対し受益権を放棄するか否かについて確認する手段として,催告権を与えることとしております。

  その上で,受益者として指定された第三者が催告に対して自己の意思を明らかにしない場合には,受益権を放棄することができなくなることとしております。

すなわち,このような第三者は受益の意思を要しないで受益者となっておりますので,受益者であるという現在の状況を拒絶する旨の意思表示をしない以上は当該状況を受け入れたものとみなすことが合理的であるとの考えに基づくものでございます。

  もっとも,このように措置することにつきましては,受益者への補償請求権等の行使が認められている場合がある信託におきましては,催告に対して意思表示をしなかったことから直ちに受益権の放棄ができなくなるとするのは当該受益者にとって酷であり,受益者への補償請求権の行使が認められているか否かによって効果に差異を設けてはどうかなどの指摘がされているところでございます。

そこで,この3の規律の要否やその効果の在り方については是非とも御審議をいただければと考えております。

  以上で受益者の利益の享受についての説明は終わらせていただきます。

  次に,第51の「受益権の放棄について」というところの説明に移らせていただきます。

  現行法の第36条第3項によりますと,補償請求権に関する第36条第2項の規定は受益者が受益権を放棄した場合には適用されないとしておりまして,受益者が受益権を放棄することができることと,受益者が受益権を放棄した場合においては補償請求権の規定の適用がないことを明らかにしております。

この現行法の規律に対しましては,受益権を放棄できる受益者の範囲が明確でないために解釈上疑義が生じているとの指摘や,受益者が受益権を放棄した場合の効果に関して,補償請求権の規定の適用がないというにとどまるために取扱いが定かではないといった指摘がされております。

そこで,このような指摘を踏まえまして,受益権の放棄に関する規律の整備を提案したものでございます。

  まず,1の(1)でございますが,これは,信託契約締結時におきまして委託者が受益者の場合,すなわちいわゆる自益信託の場合には,委託者兼受益者は,信託契約に別段の定めがない限り受益権を放棄することはできないとするものでございます。

委託者兼受益者は受託者との間で自己の意思に基づいて信託契約を締結した上で受益者となったのですから,委託者兼受益者が受益権を放棄して自由に当該信託から生ずる法律関係から離脱することを認めることは,受託者を始めとする利害関係人に対して不測の損害を与えることにもなりかねず,公平の見地に照らしても妥当ではないと考えられるところでございます。

そこで,委託者兼受益者は信託契約に別段の定めがない限り受益権を放棄することはできないとしております。

  次に,1の(2)でございますが,委託者兼受益者から受益権の譲渡を受けた者についても受益権を放棄することができないとするものでございます。

委託者兼受益者が受益権を譲渡したか否かによって受益権放棄の可否が左右されるとした場合には,受託者を始めとする利害関係人に対してやはり不測の損害を与えかねないものと考えられます。

そこで,委託者兼受益者から受益権の譲渡を受けた者も受益権を放棄することができないものとしております。

  次に,2の(1)でございますが,これは,いわゆる他益信託の場合には,信託行為により受益者として指定された者は原則として受益権を放棄することができるとするものでございます。

先ほど受益者の利益の享受のところで御説明しましたが,他益信託で信託行為の定めにより受益者として指定された者は受益の意思表示をすることなく受益者となりますので,自らを受益者とする信託が設定されたことを知らないまま受益者となることがあり得ます。

自己の意思に反して利益や不利益を強制されることはないという原則に照らしますと,このような受益者については信託から離脱する機会を与えることが相当であると考えられます。

そこで,信託行為により受益者として指定された者は受益権を放棄することができるものとし,例外としまして,信託から生ずる利益・不利益を十分認識した上で,受託者に対して受益の承認,すなわち言葉を変えれば受益権を放棄する権利の放棄ということになりますが,そのようなことをした場合には,当該者はもはや受益権を放棄することができないことを確認的に明らかにしております。

 また,前受益者が受益権を承認している場合にまで譲受人に放棄を認めることは,先ほど申しましたとおり,受益権の譲渡の有無によって受益権の放棄の可否が左右されることになりまして,信託関係者に不測の損害を与えることになりかねず,また,譲受人が自ら受益を承認した場合には受益権の放棄を認めないとしても,当該者は不測の損害をこうむることはないと考えられます。

そこで,2の(2)では,信託行為により受益者と指定された者から受益権の譲渡を受けた者は,前受益者が受益を承認し,又は自ら受益を承認した場合には,信託行為に別段の定めがない限り受益権を放棄することはできないとしております。

  最後に,3でございますが,これは受益権の放棄の効果に関する提案でございます。

  受益者が受益権を放棄できる旨の信託行為の定めを置いた当事者の意思としましては,受益権を放棄した受益者は,既に発生した信託債務に係る責任については責任を免れませんが,将来発生する責任については免れ得ることを意図していると考えるのが公平の見地から妥当かつ合理的であると考えられます。

そこで,(1)におきましては,信託行為に別段の定めがない限り,受益権を放棄した受益者は放棄の時点までに生じた原因に基づく責任を免れることはできないものとしております。

  他方で,先ほど申しましたとおり,信託行為により受益者として指定された者の中には,自らを受益者とする信託の設定に全く関与していない者もあり得ますので,そのような者が受益権を放棄した場合には,既に発生した信託債務に係る責任等についても免れるとすることが妥当であると考えられます。

このような観点から,(2)では,信託行為により受益者として指定された者が受益権を放棄した場合には,既に発生した責任も免れる,つまり何らの責任も負わないとしております。

そして,この場合には,受益者として指定された者には受益権は遡及的に帰属していなかったことになりますので,仮に当該者が信託から生じる利益を受領していた場合には,信託行為に別段の定めがない限り,不当利得として,受領した信託の利益を返還する必要があると考えられます。

なお,補足いたしますと,以上の提案は,受益権を放棄できる受益者の範囲及び放棄の効果につきまして,信託設定の時点においていわゆる自益信託か他益信託かによって明確に区別した規律を設けることを提案するものでございます。

しかし,これに対しましては,理屈としては理解し得るものの,経済実態としては自益信託,他益信託の間に相違がない場合が多い,例えば,いずれも実態は自ら出捐して利益も得ているわけですが,合同金信は自益信託で,証券投資信託は他益信託であるということになりますし,また,いずれも企業が委託者となって従業員の生活保障を図るものでございますが,厚生年金基金信託は自益信託で,適格退職年金信託は他益信託であるといった具合でございますが,このような状況にもかかわらず規律が大幅に異なるのは相当ではないのではないかという指摘もございます。

この点につきましてはなお検討したいと考えておりますが,何か実態を踏まえた適切な規律の在り方があるようでございましたら,是非とも御審議,御意見を賜れればと存じます。

● それでは,今の二つの問題につきまして御議論いただければと思いますが,いかがでしょうか。

● この問題はやはり非常に重要だと思うのですね。信託のイメージという,だれのための信託かということを常に私も繰り返し申し上げているので,この受益者の利益の享受で,受益権の放棄だという話ですから,そこに一番関係があるところなので,ここは重要だと。

これを前振りにして,まず第1点は,最後に○○幹事がおっしゃったことと密接に関係する話だと思いますが,第45の受益権の利益の享受の部分と,受益権の放棄の部分というのは,これは基本的に任意規定なのだろうか,強行規定なのだろうかという話がやはりあると思います。

原則は,「信託契約に別段の定めがない限り」というような文章が入っているのは,当然これは任意規定だという話になりますから,大体任意規定なのかなと思って--ちょっと問題を自分の頭の中で整理して,受益権の発生の話ですね。

受益者となるかどうかについては,そういうものが書いてないので。特に通知義務のところですけれども,ないですよね。

だから,これはやはり強行規定なのかなというふうに思って聞いていたのですが,強行規定にする必要があるのかどうかというのは,これは非常に大きな問題だと思います。これが第1点です。

  二つ目の方が本当は私にとっては重要なのですが,ダイコトミーの話がありましたよね。

いわゆる自益信託の場合と他益信託の場合というので,こんなふうにはっきりルールを異にしていることというのをどういうふうに評価しているかというと,一つの反論は,日本における経済実体として,自益か他益かというのは極めてテクニカルな話だけであって,実体をあらわしていない。

だから,こういうような概念的な装置を使っても意味がないのではないかと。これは一つ重要な点だと思います。

  これは英語にならないんですね,「自益信託」,「他益信託」というのは。それに当たる英語はないですから。

日本の学者の中には,これが一番重要な分類だというふうにおっしゃる人もいますけれども,英米では通用しない話だというのは,実際には,自益であり他益である場合が,民事信託の場合ですけれども,相当にある。

つまり,共同受益者の一人になっていてというケースが,生前信託の場合は典型的にはそうなんですね。

だから,今,私の頭の中では民事信託を考えているのですけれども,まず自分が受益者にもなり,しかし,その後,ほかの家族,配偶者,子供が受益者になる,それで連続的になっていくというような仕組みを考えた場合に,自分が受益権を放棄することができないというのは何だかおかしいのですね。

受益権を放棄することをすれば,ほかの人たちのためになりますから。だから,そういう自益か他益かというダイコトミーではなくて,それが複合される,自益アンド他益というケースの方を想定して彼らはルールをつくっているのです。

だから,そういう意味から言っても,この二つの区分というのは,日本での今ある経済的なというか取引のための信託ということを想定すれば,それはそうかもしれない。

しかし,将来起こるような,英米と同じような形の民事信託が発展するのかどうかというのはこれから見ないといけないけれども,そういう形の信託になった場合に,このようなことをやっているとちょっと困るんじゃないかというのが二つ目です。

  それに関連させて,結局,強行規定,任意規定のところに話を持っていこうと思っているのは,私は,こういったものを強行規定にする必要はなくて,それぞれがきちっとしたリスクの引受けが本当になされているような取引関係のところであれば,それはそれでいいと思うのです。

  ちょっと,最後,何か疲れてしまって,うまくまとまらないのですが。

  済みません,後でもう一回,発言の機会があればと思いますが,一言だけ。

いわゆる他益信託の場合で,私の考えは,とにかく本来は受益者にリスクを負わせるようなものは信託ではないと思っているのです。それが原則なんですね。

ただ,自益信託の場合については,こういうような定めをするということには理解できる部分があるのですが,いわゆる他益信託の場合で,○○幹事は,図らずもか,意識的にか分かりませんが,当該者が受益を承認した場合には信託行為に定めがない限り受益権を放棄することはできないものとするというのは,受益権の放棄の放棄だというふうにおっしゃった。

それだったら,この受益の承認ということの意味が,後の注のところでも問題になっていますよね,一体これは何なのだと。

という話なので,はっきり信託行為の中で受益者が受益権の放棄はもはやできないことにするということをうたって,そこへチェックして,それでリスクを引き受けるというならともかく。という形で,極めて限定した話にした方がいいと私は感じました。

● この問題は,○○委員が言われたように,だれが基本的にリスクを負うべきかという,簡単に言えば現在の36条みたいな問題ですけれども,そういう補償請求権の有無と密接に絡んでいるわけですよね。

少なくとも理論的には区別できますけれども,デフォルトのルールが何になるかによって大分意味が違ってくるので。

そういう観点から,今,御質問があったのだと思いますけれども,また後で議論させていただくとして。

● 私の方は,第45の「受益者の利益の享受について」という部分について申し上げたいと思います。

  ここの規律につきましては,1の「受益権の取得時期」というところの記載については,現行法を踏襲ということですので,まあこういうことだろうなというふうに思います。

 2と3につきましても,受託者が受益者について通知をするのだろうなというところはありますし,催告もするのだろうなと,そういう意味合いでは割と自然に入ってくるのですが,ただ,例えば2であれば,通知義務という形で義務化されているということと,催告権という形で催告したことによっての効果が生じると,こういうことになりますと,はたと考えるところが出てきまして,それに関して若干の質問と意見をということなのですけれども。

  まず,質問の方なのですけれども,これは非常に基本的な質問でお恥ずかしいのですけれども,ここで言う通知義務の相手方と催告の相手方なのですけれども,この受益者というものの能力といいますか,意思能力と行為能力というのはどういうふうに考えたらいいのかというのが一つあります。

例えば催告の方で考えますと,やはり行為能力がないといけないんじゃないかなと。

その場合に,ぱっと考えてよくある信託のパターンとして,民事的な信託で考えますと,おじいさんが孫に受益権を与えて給付しましょうといったときに,親に対して--済みません,行為能力というふうに考えると,未成年の場合は親に対して催告すると。

そうすると,親と子供との関係からすると利益相反関係になりますので,特別代理人みたいな形の選任が必要になってくると。何かここまで大掛かりなものが必要なのかなというのが一つ。

ただ,リスクがあるのであれば,これは仕方がないのかなと,自問自答ですけれども,そんな感じがいたします。

  ただ,通知義務というところで考えますと,果たしてこういうような義務というところまでのものが必要なのだろうかという気がいたします。

先ほどのシチュエーションでいきますと,多分おじいさんは親に対して教えたくないというのが普通ではないかなということですので,例えば未成年の子供の親が親権者であって,その人に対してしか通知できないとすれば--要するに通知したくないなというようなパターンというのは多いと思うのですけれども,そのときの対応ができないかなという感じがしまして,これが非常に異例なところだったらいいのですけれども,こういうような信託というのは割とよく考えられるのではないかと思いますので,ここら辺について通知義務というのはどうしても外せないものなんだよということであるとすれば,すべてデフォルト・ルールにしていただけないかなということです。

  ここの部分につきましては,後から議論の対象になります第46のところにも通じる部分がありますので,ここの部分についても同様の対応をお願いできればということでございます。

● 私の意見も○○委員とほぼ同じなのですけれども,それにつけ加えるという意味で,まず第45に関しての通知義務に関するお話と,それから第51についての若干の質問ということです。

  まず,第45につきましては,やはり通知義務というのはデフォルト化できないかということでございます。

  まず最初に,そもそも通知義務の有無ということについてのデフォルト化ということでございますが,これは,先ほど○○委員がおっしゃられたとおり,民事信託だったとしても,遺言信託で,先ほどは親に知らせたくないということもあったと思うのですけれども,そもそも本人に知らせたくないと。

例えば,私が死ぬまでは頑張って勉強してほしいと。もしこれが,実質上遺産が承継されるのであればもう努力することができないからということで,死ぬまで,ぎりぎりまで知らせたくないというニーズは意外と多いのではないのかなというふうに思っております。

そういったときにもあえて通知義務という形でしてしまえば,そもそもそういう遺言信託のスキーム自体が壊れてしまうことがあるのかなというふうに思っております。

  また,商事信託の場合でも,例えばエスクローにおいて,よく第1受益権,第2受益権という形で設定しておいて,ある条件が成就した場合に第1受益権の支払いがなくなって,第2受益権が発生するという場合がございます。

その第2受益権が多数の場合において,今度は受託者としての身勝手な話かもしれませんけれども,非常に事務コストが高い,かつ,そういうニーズが余りないという場合に,あえてそこまでする必要があるのかというような商事信託はあるのではないかというふうに思っております。

  そこで,これは質問もあるわけですけれども,ここで言う「指定された者」というものの概念自体が,一応受益権として確定している,特定しているという場合であったとしても,実質上経済的な効果があらわれたくないという場合においてもやはり知らしめるというのは不合理な場合もあるわけですので,そういう意味においても,通知義務というのはデフォルトとしておいた方がいいということもあるということでございます。

  それから,細かい話ですけれども,二つ目の通知義務者の任意化ということですけれども,特に当初,第46の問題は別として,最初の場合,仮に受益者保護の観点から何らかの通知が必要であるというふうにしたとしても,第45の,特に設定の場合においては,別に受託者がその指定された者に対して通知をする必要はないのではないかと。

委託者が直接通知した方がいいこともあるし,その方が便宜ということもあると思いますので,仮に通知義務は必ず必要であるというふうにしたとしても,通知義務者がだれであるのかということはなお検討の余地があるのではないかというふうに思っております。

  続きまして,第51の話ですが,これは質問ですが,先ほどの○○幹事の御説明及び部会資料の39ページから40ページにかけてのことでございますが,承認する場合に,「信託から生じる利益及び不利益を十分に認識したうえで受益を承認した場合」というふうに書いてございます。

最初の質問は,まずこれは要件なのかということです。次に,十分に認識していなかった場合に一体どうなるのかという話です。

3番目に,これが一番大事なのですが,だれがその説明責任を負うのかということです。

これは,まだ確定的に受益者になっていない者に対する受託者の善管注意義務ないしは忠実義務という話になるのか,そこら辺の理屈の話も含めて,ここの記述をなぜ「十分に認識」にしたのかということをお伺いしたいと思います。

仮にこれが例えば商事信託で,かつ金融商品云々ということであれば,それは業法の問題なのかなというふうにも思ったものですから,あえてこういう質問をいたす次第でございます。

● それでは,順次,可能な範囲でお答えいたしたいと思います。

  まず一番最初に,○○委員の方からございました,第45の規律が任意規定かどうかというところ,あるいは受益権の発生時期というところについてお答えしますと,受益権の発生時期は信託行為を設定したときであって,かつ受益の意思表示を要しないでというところは,これは基本的には任意規定でいいのではないかと。

○○委員もそれでいいのではないかとおっしゃっていただけたかと思いますが,任意規定でいいのではないかというふうに考えております。

もちろん,受益者の利益保護という観点もございますが,やはり信託を設定している委託者の意思にかなう,受益の意思を要しないで受益権を享受できるとする方が委託者の意思にかなうという点を重視しておりますので,委託者が受益の意思が必要だというふうに設定したのであれば,それを尊重していけばいいのではないかと考えているところでございます。

  もう一つの点は後で御説明するといたしまして,○○委員の方からございました通知の相手方につきましては,もしも相手方が能力が足りない方のような場合には,代理人ですとか,あるいは信託管理人に対して通知をするのであろうと思うところでございます。

  あと,○○委員とも重なりますけれども,デフォルト・ルールとできないかというところにつきましては,なかなか難しい問題がございまして……。

難しいというのは,できないという意味ではなくて,どちらがいいのかというふうに事務局では考えていると。

あくまで受益者の保護につながるという観点からすると,やはり強行規定的に考えた方がいいわけですが,しかし,今おっしゃったように,委託者の中には一定の時期が来るまで言いたくないというニーズは十分あるだろうと,それはやはり尊重する必要がある場合は幾らでもあるかと思います。

したがいまして,そのように信託行為で定めれば,基本的には任意規定ということで,通知義務を受託者に課す必要はないのではないかなという気がしているところでございます。

  ただ,その場合におきましても,全く通知しないでいいかどうかという点が一つございまして,これは○○委員からもございましたけれども,受託者がする必要はないだろうというのは,それはそうかと思いますので,その場合には委託者がすると。

更にそれを強行規定とするかどうかという点は問題でございますが,最初に私が言いましたところにかんがみますと,そこも委託者が信託行為で任意規定としているのであれば,必ず委託者が通知しなければならないというところまで強行規定にしなくてもいいのではないかというふうに,現時点では思っているところでございます。

  したがいまして,結論的には,全体的に任意規定であるということでいかがかと思いますが,もしも御意見があれば,是非とも,ここは受益者保護の観点にもつながりますので,伺いたいところでございます。

  それから,○○委員から御質問のありました(注1)の関係で,利益・不利益を十分認識した上でという点は,これは要件というか,それが前提条件だというふうに考えておりまして,認識しないでいた場合はどうかというと,それは結局,受益権の承認,いわば放棄権の放棄という効果が発生しませんので,また放棄できるというか,放棄の権利が奪われないということになると考えております。

  なお,だれが説明責任を負うのかという観点でございますが,これはやはり受託者ではないかと考えているところでございまして,確かに確定的な受益者にはなっていないとおっしゃられましたが,しかし,第45で説明しましたように,意思表示をしなくても,将来地位を失う可能性があるとはいえ,受益者になるわけでございますので,やはりそのような者に対して善管注意義務及び忠実義務を負う受託者が説明をするというのが筋ではないかと考えるところでございます。

  最後に,一番難しいのが,○○委員が御質問というかお話しになられました,自益・他益の区別の当否というところでございまして,実はこれは事務局としても困っているところでございます。

御承知のとおり,受益者に対して補償債務を負うかどうかという規律がどうなるかというのがやはり一番大きなところでございますので,それとの関係が決まらないと,ここについても議論がしにくいという点があるわけでございますが,私どもとしましては,自益・他益というのが確かに形式的な区別になってしまいかねないという点は懸念しているところでございまして,何か,例えば自ら利益を得ている者は放棄できないとか,そういう実態を踏まえた規律があれば,その方が本当は望ましいとは思うわけでございますが,なかなかそのような規律を明文的にすることもできないということもありまして,一応,自益・他益,しかも信託設定時で分けているというところで落ち着かせているところでございます。

ただ,ここは是非とも,ほかの先生方からも,よりよい規律の仕方があれば,御意見をいただきたいというふうに思っているところでございます。

  とりあえず,以上でございます。

● 先ほど○○委員が,生前は自分で,その後他人にという例を挙げられましたけれども,そういう場合をこれは必ずしも念頭に置いていないかもしれませんけれども,考え方によっては,自分を受益者にしている部分は自益信託であって,その後の2番目の,連続受益者の次のは他益信託だという形で適用することはできないわけではないかもしれませんね,形上は。

● 経時的にではなくて,同時的な場合ももちろんあるのですね。

  それで,○○委員がおっしゃってくださったように,これが問題になるのは,結局,受益権が権利的なところでだけであれば何の問題もなくて,もっと簡単な規律でできるところが,補償請求権という--補償義務というのですかね,逆に言えば,義務を伴う受益権だという話が日本ではあり得るので,そうすると非常に慎重にならざるを得ないということなんですよ。

だから,あそこのところが本当にクリアになって,補償請求権というのが,ほとんどの場合というか,本当にビジネスで,いわばジョイントベンチャーでやっているのだというような話,一種信託というスキームを利用しているだけであって,という話であれば,それはまたそれで別のスキームがちゃんとできると思うのですが,一般の信託においては補償請求権というのがどうなのかというのが根本的な疑問としてあるものだから,さっきのような話になる。

  もう一言だけ追加。第45の方が任意規定で,第51の基本のところは強行規定なのですね。第45についても,ほかの方と同じように私も確かめたかったので,2と3のところですね,さっきは言葉足らずで,通知義務と何とかについては,今おっしゃったように,これは任意規定だというふうにお考えだということですか。

● それは任意規定で……。

● 議論が残るけれども,一言だけ言うと,アメリカでも非常に大きな議論があって,ここで言うところの通知義務は米国統一信託法典では強行規定にしたのだけれども,採択した州ではそれを外している例が随分あるのです。ですから,非常に難しい問題だということはあるけれども,一応任意規定だと。

  第51の方は強行規定なんですよね。

● これは「信託行為に別段の定めがない限り」と,事務局としては任意規定だと考えておりますが。ですから,自益信託でも放棄できるということを信託行為に書いてあれば,放棄できるという形になります。

● これは任意規定でしょうね,恐らく。

● 分かりました。

● また議論があれば,後で伺うとして。

● 受益権の放棄の問題について,意見を述べさせていただきたいのですが。

  現行法に比して,今回の御提案の趣旨というのは,かなり費用償還請求が受託者の立場からしやすくなるという規定になっているというふうに受けとめております。

今,○○委員からありましたように,基本的に,規定の在り方が,間接的に受益者に無限責任を負わせる場面が増えるという規定になっているものですから,これは一般の人が商品として買う場合にはかなりのハイリスク商品になるのではないかというふうに受けとめられます。

そうするとすれば,もし一般の市民にこういったものが売られるということを想定されているのであれば,やはりこういった制度設計には慎重であるべきと考えます。

  それから,受託者の信託の運営という観点からも,信託の運営というのは信託財産の範囲内で行われるというのが本来的な在り方ではないかというふうに思います。

そうした運営が確保されるという観点からすると,制度設計の在り方としては,受益者に対して費用償還請求が行いやすい制度よりも,行いにくい制度を設計した方がいいのではないかというふうに思われます。

受益者の方に請求しやすいということになれば,どうしても管理が甘くなってしまうということは,これはあり得ることではないかということで,このような観点から,やはり受益者に対して簡単に費用償還請求ができるような制度設計というのはしない方がいいのではないかというような感想を持っております。

 このような観点からしますと,御提案になっておられますように,広く受益者に対する費用償還請求権を認めるような制度設計とか,あるいは将来的な受益権の放棄についても制限できるという制度については,やはりにわかには賛成できないものがあります。

仮にこのような制度をするのであれば,先ほど○○委員からも多少御意見があったやに思いますけれども,やはり受益者がリスクの負担といいますか責任の負担というものをきちんと認識できる形でないと,こういった責任を負わせるというのはまずいのではないかと。

そういった観点からしますと,受益権の放棄という形でこういった責任を課すよりも,やはりここはきちんと間接的な無限責任を課すのだというようなことを承諾するといいますか,そういった制度設計が本来あるべき形なのではないかというふうに思います。

● 今のも非常に根本にかかわる問題だと思いますけれども,若干私の理解を申し上げますと,第1には,デフォルト・ルールとして受益者に対する費用償還請求権というものを認めるのか認めないのかと。

仮に認める,多少この辺は認めた場合のことを考慮しながらできているルールがあると思いますけれども,いずれにせよ,認めるか認めないか。

 しかし,いずれもデフォルト・ルールですから,受益者に対する補償請求権を認めない場合にも,信託行為でもって認めるというタイプのもあり得るわけですね。そのときにこれらの規定がどうかというのが,また2段目で問題になる。

  恐らく今の○○幹事のは両方を念頭に置いておられると思いますけれども,両方ある意味では関連するものですから,先ほどから議論になっている,補償請求権のところのイメージが決まらないとなかなか議論がしにくいというところは確かにあるのですね。

ただ,補償請求権をどうするかについては重要な問題ですので,少し先延ばしして,皆さんの御意見をいろいろ伺ってから決めたいと考えていますので,ちょっと分かりにくい点があるのではないかと思います。

● 細かい点を2点と,一つ大きい点なのですが。

  細かい点は確認みたいなことなのですが,一つ目は,今お話がありました受益権の放棄の強行法規性ですが,第51の1は任意規定ですけれども,2は強行規定ですよね。

(注3)がある本文に書いてあるとおり,「これに反する信託行為の定めは許されない」ということですから,放棄しないというこの原案は,他益信託において放棄しないというふうに定めることはできないと。

これは確認です。それを前提に意見を申し上げます。

  二つ目の細かい点は,○○委員がおっしゃっているように,もう論点は出尽くしていると思いますけれども,私法のルールとしては,私の理解では,(注1)にある,利益・不利益を分かっていれば,いわばリスクが移転する,分かっていなければ移転しないということですから,それでいいと思いますね。

そういうふうに決まれば,業法などでは,説明しなければならないという義務を課すことがあって,それに違反すれば,行政処分とか,そういうものになるということです。

私法のルールでは,それはこうなる,こうなればああするというか,要は要件・効果ですから,ここでの考え方はそういう考え方,どういう考え方でどういうルールを定めるかということが問題だと思います。

  以上が小さな点です。

  大きな点は,○○幹事も○○委員もおっしゃっていることで,私は○○委員のおっしゃっていることに実質的には非常に近いのですけれども,多少違った表現で若干申し上げます。もう論点は出尽くしているかもしれません。

  私も,従来から,自益・他益というのは,そういう理屈は理屈として成り立ち得る理屈だとは思いますけれども,やはり非常に形式的でテクニカルではないかというふうに思ってきました。

  ○○幹事が既に御指摘されましたように,日本では,年金信託,運用型の信託,これらは,経済実態から言えば,年金であれ運用であれ,投資家というかお金を出す人がいて,その人へ運用益,あるいは年金の場合には年金の給付がなされる。

その仕組みをどう作るかというのは,必ずしも信託の仕組みだけが使われてきたわけではありませんで,年金の場合で言えば,保険会社も運用してきているわけですから,保険の仕組みも使われているわけです。

  いずれにしても,そういう中で,信託を使う場合に,自益という形を使うものもあれば,他益という形を使うものもある。

もう一つ違ったタイプとしてつけ加えるならば,流動化型と呼ばれているものでも,他益でつくっているものもありますし,自益でつくっているものもあります。

  例えば,証券取引法を適用するために,金銭債権信託と言っていますけれども,証券取引法2条2項1号という有名な類型がありますけれども,わざわざ自益にして,それはなぜわざわざ自益にするかというと,委託者兼当初受益者をもって証券取引法上のみなし有価証券の発行者にして,そこに証券取引法上のディスクロージャー義務をかけると,こういう構造をつくり出すために,言ってみればテクニカルに,本来なら他益でも自益でもいいはずなのですけれども,私法上の仕組みから言えば,それをわざわざ自益につくっているという例があるわけです。

  したがって--という言い方がいいかどうか分かりませんけれども,自益・他益という区別は,少なくとも今行われているものについては,この放棄という点について説明が非常につきにくい。もしルールを分けるとしますとですね。

  それで,実態はというと,よく外国で使われる言葉ですけれども,○○委員や私がよく使っている,「ディールかギフトか」という言い方をするのですけれども,信託の仕組みの原因関係というのでしょうか,「商事か民事か」と言ってもいいのかもしれませんけれども,これが,ギフトというか贈与であって,受益者が何かただでもらうというような類型のものと,私が言いましたように,商事の場合,多くは,受益者となる者というのは実質的な経済的出捐をしているのですね。

それを投資と呼んでもいいかもしれませんけれども。したがって,それに見合った利益なりリターンを受け取ろうとする。

年金の場合でも運用の場合でもそうです。これを分けた方がよくて,最初に,もし線引きが自益・他益以外の線引きだとすると,利益をどうこうという話があったのですが,私は,本質的なのはむしろ,もしも今の言葉を使うとすれば,ディールなのかギフトなのかという気がします。それが一つの区分の基準になるように思います。

  もう一つの区分の基準は,何度も出ていることですが,利益を受ける話なのか,マイナスの義務を負う話なのか。費用償還でも,信託財産でカバーされる範囲なら恐らくいいと思いますけれども,それを超えて追加出資義務を負うという話になりますと,放棄という意味はそれを追わないという意味ですから,単に増えるプラスをもう結構ですというのとは,少なくとも経済実態としては側面が違うということが言えるかと思います。

  そういうふうに考えますと,ではどうしたらいいかということなのですけれども,私の感想で自信はありませんけれども,実質論で言うと,ディール,すなわち,投資家というか受益者となる,譲受人の場合もありますけれども,実質的な出捐をするような場合には,これは先ほど○○幹事もおっしゃったことですけれども,いわゆる有限責任と我々が呼んでいる,つまり追加出資義務は負わないという線を引くのが基本的な考え方ではないかと思います。

ただ,例外的な類型として,例えば土地信託のような場合には,当事者間で,共同事業というのでしょうか,利益も分け合うしリスクも分け合いますと,そういう特約というか契約があってもいいと思いますけれども,一般的な運用型や年金型のものについては,基本的には,信託以外の法形式のものはすべて,匿名組合であれ,有限責任組合であれ,それから株式会社であれそうですけれども,出資者の有限責任というのは法律上のルールになっていますから,原則はそういうことでいいと思います。

細かいことを言えば,金融商品の世界には,追い証というのでしょうか,後から追加義務を負うものもあるし,私法上の法形態で言えば組合形式の出資組合もありますので,いろいろ例外はあり得ると思いますけれども,基本的な考え方としては,若干の例外的な場合を除くと,基本的には契約で定めるけれども,デフォルト・ルールは有限責任であり,場合によっては有限責任を強行規定とするという考え方ではないかと思います。

  これに対して,民事というかギフトの場合ですけれども,これは普通は利益が来るだけで,恐らくマイナスになって追加出資という話は,まあ費用償還がどういう場合になされるかにもよりますけれども,余りないとは思うのですけれども,しかし,この資料にも書いてあるのですけれども,全然知らないところで自分が物をいただくような場合であっても,やはりそれは放棄する自由はあるでしょう。

それは全くそのとおりだと私は思います。特に日本の場合には,余計なことですけれども,税制なども,他益ならば贈与,自益ならそうでないというのが基本的な考え方で,特定贈与信託でしたか,要するに特別な社会政策上の理由がある場合だけ免税にしているという,そういう影響もありますので,ですから具体的に言いますと,財産が他益で来ても,キャッシュ・フローはないけれども税金は納めなければいけないということになっていますので,まあそれは付随的な理由ですけれども,いずれにしても,利益を受けても,やはり受けたくないという事由は当然あってしかるべきだと思いますので,民事の方はやはり原則は放棄オーケーであろうという気がいたします。

  それで,そうだとしますと,どういうふうにルールを設けたらよいかということなのですけれども,いろいろなつくり方があるのですけれども,一つは,もちろん,放棄という概念を使わないで組み立てるということも,費用償還プラスなんかで考える,利益の放棄とかで考えるということもあるかと思いますけれども,もし現行法との連続性を重視するのであれば,放棄は原則できることにしておいて,先ほど言いました,商事のある種の類型のものについて実質有限責任を認めるような形でのみ線を引いておく,つまり,放棄はできるのが原則だけれども,制限もしていいけれども,その制限の限界をうまく書ければ書くというようなのも一つのアプローチだと思います。

一言で言えば,やはり自益・他益というのはちょっと,これは○○委員がおっしゃったことだと思いますけれども,見誤るおそれがあって,それを使って全部書いていくと,何かうその上にうそを書いていくと,最後はうまくおさまるようなルールが書けるような気もするのですけれども,まだこの段階で私も名案はありませんけれども,もうちょっと違った概念を使ってうまく妥当なルールが書けるような気がしています。

● たくさん重要な問題点が指摘されたと思います。

  ディールとギフトの区切り方の問題ですけれども,例えば,ある人が出資というのでしょうか,お金を出して,自分が受益者になる,自分が対価としての受益権からの利益を享受するという場合には,これは○○委員の言われたディールの方に当たるのですね。

その受益権を自分自身が享受しないで,だれか別な人間に与える,そうすると,他益信託の形ですけれども,そのときの受益者というのは,確かに自分自身は払っていないけれども,○○委員のあれだとギフトになるわけですね,そのときに。

● そうなのですけれども,例えば証券投資信託の仕組みなのですけれども,形の上だけ言いますと,委託業者と呼ばれている会社が,出資というか,信託受託会社にお金を渡すのです。

それによって投資信託が成立するのです。そして,その受益権を分割して,直接,いわゆる投資家に売るわけです。

しかし,委託会社はお金を出してギフトしているという実態はないのですね。

それはどういうことかというと,当初,他益信託というテクニックを使っていますけれども,投資家からお金を集めて,その集めたお金を委託会社は受託会社に渡しているのです。

ちょっと時間的な順序として,したがって,信託がいつ成立したか,信託が成立するそれまでどういうのか,いろいろ細かい法律問題は別途ありますけれども,それもそもそも他益信託と構成するから生じる法律問題なのですけれども,まあそれは立ち入りませんけれども。

  ですから,今,○○委員のおっしゃったあれで言いますと,私がディールと呼んでいるものというのは,だれかお金を出して人に利益を帰属させるという類型は含まなくて,それはそういう意味で答えはイエスなのですけれども,多くの運用型のものというのは,合同金信でもそうですけれども--合同金信というのはもちろん委託者兼受益者になっていますけれども--証券投資信託の場合でも,形はといえば委託会社がお金を出していますけれども,お金は自分が出して人に与えているのではなくて,実質的には受益者が出しているということなのです。

ですから,そういうものとギフトというのは,世代間承継が一番典型的だとは思いますけれども,お金を出すという類型はほとんどなくて,財産管理して,そのベネフィットを,伝統的な英米における民事信託だと思いますけれども,子供とか次の世代の人に承継するという,そういう類型です。

● 私は,この区別自体はそんなにたくさん議論しなくてもいいのかと思いますけれども,ちょっと十分私が理解していないせいもありますけれども,今のように,委託者に相当する人が自分の持っている財産というか,土地だとかそういうのをだれかに信託でもって与えると,これはある意味で一種の贈与の違った形だと思いますので,こういうのは典型的なギフトなんでしょうね。

  ただ,委託者が金銭でもって出資はしているけれども,金銭をいきなり受益者に与えるのではなくて,いったん受託者に信託という形で運用してもらって,その利益が別な人間である受益者に帰属するという形をとると,これは形上は,要するに自益信託の形でもって委託者が自分でその信託からの利益を享受するタイプと余り変わらないような気がするのですね。つまり,他人にその信託の利益を与えるか,あるいは出資した自分自身が享受するかというのは余り変わらないような気がして,だから,○○委員,むしろこういうのはディールでいいのですか。

● いや,もう同じことを言っていると思うのです。私は,自分が出資して他人に利益を与えるというのはないと思います。

したがって,結論は○○委員がおっしゃっているとおりで,ディールなのですけれども,ないというのはどういうことかといいますと,証券投資信託以外の例を例にとってもいいのですけれども,実質的な出捐をする人がいまして,年金の場合で言いますと,自益信託の場合でもいいと思いますが,厚生年金基金という仕組みがどうなっているかといいますと,受益者となる人,結局,年金基金が委託者兼受益者になるわけですけれども,それは基金に法人性がありますから,ですから,それが出していて,その利益はというと,これは自益信託という形ですけれども,実質的には受給者なのですけれども,しかし,お金はもともとどこから出ていますかと言われたら,それは受給者というか,加入者と企業がどのぐらいの割合を出すかという問題はありますけれども,実質的な出捐をしている人がそこにいるわけですね。

  では企業から見ればそれは寄付しているのかというと,もしそういう議論をしていけば,それはそうではなくて,それを企業と見るかどう見るかという問題はありますけれども,働いた対価として払っているわけですから。

ディールというジャンルにおいては,ある人が出して,そのベネフィットを自分ではなくて他人に帰属させるというのは,形式的にはあるのですけれども,実質的にはそういう類型はなくて,そういう意味で,ディールかギフトかというのは非常に--○○委員がおっしゃろうとしているのは,あの類型というのはすべてディールに含めていいというふうに私は思います。

● この区別は,区別自体に,ここでそれを延々と議論するわけにはいかないと思いますけれども,先ほど○○委員が言われたように,どういうルールをそれに結びつけるかということとつながるとなると重要な問題だと思いましたので,ちょっと言及しましたけれども。

● ○○委員も○○幹事も,私の思いをもっと上手に言葉に変えて下さっているので,本当に有り難い。

  それで,○○委員のおっしゃっていることは,今,ディールとギフトという話は出ましたが,ディールですら受益権を放棄することができるというのがデフォルト・ルールですよということをおっしゃっているので,そこが一番--つまり,余りディールとギフトというのをこの場合は区別しなくてよいというところの方が重要なので,その点だけは確認をしておきたい。

  もう一つ言うと,39ページのところで,そうじゃないよと。自益信託については,ここの真ん中の文章で,委託者兼受益者が自分で設定しておきながら自由に後から離脱することは,「受託者をはじめとする利害関係人に不測の損害を与えることにかねず」と。

不測の損害を与えることには絶対ならないでしょう。

受託者は信託契約の当事者なのですから。だから,これをこういう形でデフォルト・ルールだということにして,しかし原則はこうですよとうたってしまうのは,これが何より受託者のための信託だということをはっきり出したいということ以外のものではなくて,「公平の見地に照らしても妥当ではない」というのも,受託者サイドに立っているだけで。受託者は絶対に不測の損害にはならんのですよ。ということなんですね。

 だから,デフォルト・ルールはやはり受益権を放棄することができるということに商事の世界でも普通はなっているでしょうというところを○○委員が強調してくださったので,それは非常に私は共感するところです。いわんや民事をやという。

● 根本的な話ではないところで,かつ,私の単なる聞き逃しかもしれないのですが,第45の3の催告権で,その期間内に応じなければ受益権を放棄することができないという話と,第51の受益を承認するということとの概念の関係というのはどうなっているのでしょうか。

● これも非常に重要な問題ですね。

● 今の御指摘ですが,直接的な関係ではないのではないかと。

といいますのは,第45の3というのは,催告して返事がないと承認とみなすということでございまして,これは積極的な意思表示がないわけでございます。

第51の方は,自らがリスクを知った上でそれを承認するという能動的な意思表示がある場合ですので,両方はちょっと局面が違うのではないかという気がいたしますが。

● しかし,第45の3の効果は,受益権の放棄ができなくなるということですよ。

● 効果は同じになりますが。

● そうすると,催告に応じて,このときには内容のリスクとかの説明がなくても,答えなくても,受益権の放棄ができなくなると。

● 失礼しました。当然のことながら,その催告の中で,どういうリスクがあるかということは十分伝えた上で,その上で何も意思表示をしないと,この提案では承認とみなされるということですので,受託者としてやるべき,あるいは催告者としてやるべきことは同じ,リスクの提供というか説明ということにはなります。

それで,その効果も同じでございますが,受益者がやることが異なりまして,第65の3では,無視すると承認とみなされますということでございます。

● その議論には2点疑問があるわけでありまして,先ほど,受益者であることのリスクの説明義務はだれが負うのかという話につきまして,受託者という話が出たわけですが,第45の3は,受託者その他の利害関係人に与えられている催告権でありまして,受託者がその説明義務を負うという第51のところと必ずしも整合的ではないのではないかというのが,第1点です。

  第2点は,第51のところで述べておりますような,リスクを引き受けるというふうな,受益権を放棄する権利を放棄するという積極的な行為は,自益信託・他益信託の問題はともかくとして,リスクを十分に分かった上で受益権を放棄する権利を放棄するという意思表示をしたならば,それは放棄できなくなるだろうと私も思います。

しかしながら,それは,催告期間内に催告をしなければそういうサンクションを課すことができるかという問題とはやはりかなり違うのではないかという気がするのですが。

● 前段でおっしゃいました点は,御指摘のとおり,第51であれば受託者が説明義務があるのに,第45の場合はどうかというのは,確かにちょっと整合性を欠くような嫌いがありますので,そこは検討させていただきたいと思います。

後段でおっしゃいました点でございますけれども,正におっしゃるところを私が最初にちょっと申しましたが,我々として果たしてどちらがいいのかというふうに迷っているところでございまして,一応ここでは現状を追認するという形で,無視したら承認とみなす,放棄ができなくなるとしたわけでございますが,しかし,それはやはり受益者にとって酷ではないかと。

特に遺贈の場合であれば,あれはたしか遺贈の限度で責任を負うという形に,承認とされても,なるわけでございますけれども,こちらの方では,原則として,もしも補償債務を負うような信託の設定がされていれば,それによって受ける利益を超えてまで責任を負うということにもなり得るわけでございまして,より一層受益者に対しては酷ではないかという懸念もあるところでございます。

ですから,ここは果たして受益権を放棄することができないとするのがいいのか,それとも,この場合には,受益権を放棄した,あるいは受益権を承認しなかったものとみなすのがいいのかというあたりにつきましては,正に問題視しているところでございまして,御意見をいただければと思いますが,今の○○幹事の御意見は,どちらかというと,この場合にはむしろ受益権を承認しなかったとみなした方がいいのではないかというふうに理解させていただいてよろしいのでございましょうか。

● かつ,先ほどの説明義務者の問題もあるのですが,受益権を放棄する権利を放棄するというのと,期間を区切られて何かするというのとはかなり性格が違うものであって,受益しなかったことになるというのならまだよろしいのですけれども,その間に,大丈夫です,それじゃ受益者になりますというふうに言えば,受益権を放棄する権利を放棄するという効果まで導けるのかというと……。

もちろん,信託から生じる利益・不利益を十分認識した上でそういう承認行為を行うという要件を当てはめれば,それはそれでよいのかもしれませんけれども,私は,第51のところにこのような規律があるのであるならば,第45の3の規律自体が不要なのではないかという気がいたします。

● 今の点は非常に重要な問題ですね。

● 今までの御意見の単なる整理だけかもしれませんけれども,二つの問題があって,実態としてどういう信託の場合に無限責任を負わせるのかという問題で,その切り分け方として,自益か他益かとか,あるいはディールがギフトかとか,あるいは,今日の御提案の中では,49ページに証券化されている場合は別だというような切り分けもある。ということで,まず,どういう類型について認めるかという問題が一つあると思うのです。

  もう一つの問題は,リスクの移転をどういうふうにしてするかということがあると思います。

  そこでいろいろなのが出ているのですが,幾つかの違った問題があって,受益者の能力が限定されているから何らかの手続的な保護が必要だと。

それは,例えば意思表示の受領能力をどういうふうに考えるのかとかいうこととも関係しまして,民法第98条の適用だけでいいのか,それ以上必要なのかという問題があると思います。

それから,行為能力の問題とは別に,例えば消費者である場合に,消費者契約法4条の2項のような不利益事実の不告知というような発想もあり得るのではないか。

更に,いずれでもないとしても一般的に説明義務を課すということがあり得るのではないかと。どうも手続的にどの時点でリスクを移転するのかについてもいろいろな考慮要素があると思うのです。

  大きく分けてその二つの問題があるのですが,その根っこにあるのは,なぜ無限責任を負担させることができるのかということがどうもよく分からないのです。

何となくそれが前提になっているようなのですけれども。負担をさせることが可能であって,それを幾つかに分けたりして,一定の場合にはさせる,させないというような考え方ですが,むしろ,そもそもなぜ負担させることができるのかという,そこがもし明確になれば,ではこの場合には負担させようというような逆の発想になるんじゃないかなというふうに思います。

● 先ほどの議論にも関連することですが,まだ考えがまとまっていないわけなのですけれども,信託から生じる利益及び不利益を十分認識した上ということで,先ほどの○○委員のお話にもつながるのですけれども,要件・効果という話なのですが,仮に忠実義務ということで手続義務が発生しているということであれば,それを履行しなかったという場合は,単に債務不履行ということで,損害賠償というようなことで,受益者となった者が受託者に対して損害賠償請求をすればいいという話になるのではないのかなと思っています。

例えば,私法上の契約の中で,十分に利益を説明して認識した上で回答しなかった場合の効果として,効果があらわれないと,これは当然,同意を得たか得ていないかという,そういうレベルの問題はあるわけですけれども,説明義務をいったん与えておいて,それの効果を発生させないということが,ほかの法体系と比べてどうなのかというのがちょっと分からないわけです。

むしろ,先ほど○○委員がおっしゃられたように,それは例えば消費者保護法であるとか,又は業界の金販法であるとか,そういうところで整理されて,それなりのペナルティーを与えるというふうに整理した方がいいのではないかなというふうには思っているわけなのですけれども。

  余りまとまった考えではないわけですけれども,ちょっとコメントいたします。

● 非常に大きな枠組みとしては,どういう場合にどうするかは別として,デフォルト・ルールが受益者の有限責任になるか無限責任になるか。

もちろん,放棄はどっちもあり得るのですけれども,特に補償請求権との関係で言うと,無限責任の場合には放棄というのがセットになって,一定の場合に受益者が放棄すると,その利益が守られるというのでしょうか,要するに無限責任をどこかで打ち切ることができる,恐らくそういう構造がまず大きくあるわけですね。

そのときに,さっきからの繰り返しになりますけれども,どこをデフォルト・ルールにするかによって後の問題が微妙に変わってくるという問題があります。

ただ,いずれにせよデフォルト・ルールですから,仮に有限責任だというのがデフォルト・ルールになっても,無限責任を信託行為で設定する場合があり得て,そのときまた,放棄はどうするか,その放棄のための要件というのは,今問題になったように,どういうことを説明して放棄できるようにするかということにつながってくるのだと思います。

その全体の構造について今いろいろ御議論いただいているところだと思います。

● これは,端的にこの要件というのは明文化されるわけですか。それとも,当然,私法上の考え方として,こういう認識をした上でなければそのような効果が発生しないというふうに読み込むということですか。

● 仮に条文に書かなかったとしても,恐らくそういうことが読み込まれた要件になるのではないでしょうか。

● 条文化するかどうかということはともかくといたしまして,十分なリスクの説明をしない場合には,承認という効果を生じさせることはできないということで,書かなくても当然前提要件になるということでございます。

● 錯誤無効とか,そういう法理とはまた違った法理でやるということですか。

そんなことを知ってなかったからこうしたんだよと,そういうものではなく,正しくこういう規範があって,この規範に反したからその効果が発生する,発生しないという,そういうことですか。

● 錯誤無効というか,承認という効果が生じないという意味で言いますと,その承認自体が錯誤と言えば言えるかなと思いますが,いずれにいたしましても,説明義務に違反した場合には損害賠償責任が問えるか否かというような話ではなくて,やはり説明義務を果たさない場合には承認という効果を認めることはできないというふうに考えているところでございますし,その方が受益者の保護には資すると。

損害賠償責任を問えるということよりは,やはり放棄できるという方が恐らくはるかに受益者の保護には資するというように考えているところでございます。

● この第45の3ですけれども,私も先ほど○○幹事との間でもって議論になりましたけれども,○○幹事がさっき言われたのは,この段階での承認という問題と,放棄という問題は恐らく別な問題で,この催告期間が何も意思表示がなくして徒過したときに,受益権を一応承認したものとみなされるけれども,しかし放棄はまた別ですよと,放棄はまた後からできますと。最後に言われたのはそういうことでしたか。

● ○○委員がおっしゃった問題とも関係するのですが,結局,受益の承認というものをどこまでドラスチックなものとしてとらえるかということだと思うのです。

  これは,リスクを完全に理解した上で,マイナスが出たらそれは支払いますという意思表示であるというふうに言って,そしてそれはそういう意思が特別に表明されたからそういった効果を生むのだ,そういった義務を受益者が負うようになるのだと,こういうふうに解しますと,やはりなかなかそれは認められないという方向になってきて,そう催告をして,何日間以内に答えよというふうにせっつけるような話ではないだろうという感じがするわけですね。

  それに対して,そうではなくて,受益権の承認というものがあれば自然にそういうふうな効果が発生するんだよと。

もっと類型的な話で,場合によっては,それはこんなリスクがあるとは思いませんでしたというのは正に錯誤の問題として処理されるようになるかもしれないけれども,受益者になりますという定型的な意思の中に含まれているものとして一応は考えていくんだよというふうになりますと,非常に軽いものになって,こういう催告とかにもなじむ形になると思うのです。

  私自体は前者のように理解していて,かなり分かった上で,ここの場合は引き受けるというふうに言った場合にそういう義務を負うのだと考えていますので,そうすると,やはり催告などという制度にそもそもなじまないのではないかというふうに申し上げたわけであります。

● 恐らく,受益権を承認するというときに,少しレベルの違う承認というものがあるのですね。

● そういうふうに考えてもいいのかもしれませんけれども。

● これは,例えば,信託設定してすぐに最初の段階でもって放棄するかどうかということを催告して,信託設定の段階でもう既に受益権を放棄させるようなことができるという,そういうことになるんですかね。

● 設定の段階で催告することも,この規律を維持すれば,できるということになります。

  事務局としても,受益の承認というのは大ごとであると,○○幹事のおっしゃる前者の方の考え方だというふうには考えておりまして,それであるからこそ,十分な利益と不利益の認識が必要だと考えているわけでございます。

  それにもかかわらず,いつまでたってもそのような責任を負うのかどうかというのが分からないということになると,先ほどちょっと御批判もありましたが,関係者にとっては不安定であるということから,この催告という規律を設けたということでございまして,私が勝手に思うところでございますが,○○幹事の御趣旨からすると,催告は認めるけれども,意思を表示しないときは承認しなかったものとみなすということでは足りないということになるのでしょうか。

● むしろ承認じゃないの,単なる催告の場合には。

● いえ,承認してしまうと,放棄……。

● 放棄をできなくなるような承認というのは,もっとちゃんと内容を,リスクなどを与えた  ……。

● ○○委員の放棄二元論と,○○幹事の放棄一元論とのあれですが,放棄一元論の質問として回答いたしますと,おっしゃるように放棄とみなすということでもよろしいのかもしれません。

  それと,ついでに言わせていただければ有り難いのですが,今,自益信託,他益信託という切り口での問題点が指摘されているのですが,それも確かに問題だと思うのですけれども,仮に放棄する権利を放棄するということの受益権の承認というものを結構大ごとのことだととらえましたときに,自益信託で最初につくった人,当初受益者が承認をしたから,その後は当然に承認の効果が続いていくんだよと。

これは,他益・自益と分けているから何かすごく違和感がありますけれども,結局,当初受益者であろうが,途中の受益者であろうが,だれかが承認したら,その後はずっと承認になるというだけの規律だと私は思うのですけれども,そこが本当にそれでいいのか。

それは,本当に金融商品として受益権が販売されるというふうに考えたときには,金融商品の販売にかかわる規律だけで本当にいいのか,それとも信託の問題としてそこは考えていかなければならないのかというところが実際には問題なのではないかということを,ちょっと一言だけ申し上げておきます。

● ちょっと混ぜっ返すような話になってしまうかもしれませんが,受益者に対する補償請求権があるという前提でこの辺が考えられているので,それ自体がどうもやはり信託の議論としてすごくおかしい。

日本の信託法ではおかしくないのでしょうけれども,○○委員がいつもおっしゃっているようなことで,すごくおかしい感じがして,例えば,受益者が無限責任を負うのだというのを信託行為で設定できるという前提でずっと議論が来ていますけれども,それも私は実はついていけなくて,受益者が無限責任を負うことを承諾したら,その受益者は無限責任を負うという,そういうレベルで考えていただくと,それと今の承認とか放棄とか,もう一段上のレベルの意思表示がないと,やはり受益者は無限責任を負うのは酷ということになってしまうのではないかというふうに考えています。とりあえず私の考えはそういうことです。

● 先ほどから繰り返しているだけですけれども,仮にデフォルト・ルールでもって,原則として受益者に対する補償請求権がない,だけど信託行為で定めれば補償請求権が発生するという考え方は,これは恐らく○○委員も--私が勝手にそんたくしてはいけないかもしれないけれども--特約で定めれば,それはしようがないだろうというぐらいはお考えなのだと思いますけれども,これは確認しないと。後でまた議論します。

  そうすると,信託行為のレベルでもって補償請求権が書かれてしまうと,これは従来の議論は,それはしようがないといいますか,その場合には補償請求権は発生するでしょうということを一応前提に議論してきたのですね。

 それで,今の○○委員の御意見は,信託行為でただ書くだけでも足りないのではないかと。無限責任を負うというのであれば,そのこと自体についてのもっとはっきりした承諾がなくてはいけない,そういう御意見ということでしょうか。

● はい。

● いろいろ御意見をいただきました。まだもうちょっと詰めなくてはいけない問題,特に補償請求権との関係でまだ議論があると思いますので,また全体をどこかでまとめて議論できるチャンスがあるといいと思います。

● 議論を余り継続するつもりはないのですけれども,もともとこの放棄のところは,今回は私も意見を言わないでおこうと思ったのですけれども,それは基本的に,先ほど来出ておりますように,受益者に対する補償請求権というものがどう決まるかによって,例えば先生方がおっしゃるような形で,もともとデフォルト・ルールとして受益者に行けませんということであるとすると,変な話,せめてこれぐらいのことはやってくださいよという話になりますし,それが逆転すると,私どもの方は,やはりもっと手当てをお願いしますというような話になりますので,基本的には,やはりそちらの方を詰めていただいてということでないと,なかなか私どもの方としても意見が申し上げられないかなという感じがいたします。

● せっかく1回だけ機会をいただいたので,二つだけ。

  ○○委員のおっしゃるように,私は--○○委員は,こういう極端な場合というのですか,全部書いてあってというところまでは樋口は否定しないだろうとおっしゃる。

それはそうなのですけれども,それは英米的な感じで言うと本当は信託ではないのですね。パートナーシップですから。

共同事業だという話で,双方リスクを負いますよという,そういう枠組みになりますので。

受益者に無限責任を課しているような信託というのは本当はないと私は思っているのです,英米では。だから,○○委員のおっしゃるような感じの方が私は近いのです。

  それから,○○幹事がおっしゃった,いったん承認したら後どんどん行くというのも,これは本当に金融というかそういうのとして大丈夫なんだろうかという点についても共感します。

● 二,三点補足いたしますが,先ほどから議論を伺っていますと,事務局の提案は補償請求権を前提に,受益者に酷な規律を前提にしているのではないかというようなお話があって,気にしているところでございますが,事務局としてはあくまで中立でございまして,どちらがデフォルト・ルールになるかというのは,全くまだこれから議論したいと思っているところでございます。

 ただ,○○委員が何度もおっしゃっておられますように,いずれにしてもデフォルト・ルールでございますというのが一応の考えでございますので,そうすると,仮に原則補償請求がないとしても,デフォルト・ルールですので,特約で定められれば,そのときには当然このような規律は必要になるだろうということで提案しているということを,是非とも御理解いただきたいと思います。

  あと,いったん承認したら後ずっと放棄できないのは酷ではないかというのは,事務局としてもそういう問題意識は持っておりまして,以前には,そういう場合は担保責任の規定で当事者間で処理すればいいのではないかということも申し上げたことはございますが,それに対してはいろいろな御批判もいただきまして,そのような,担保責任であるのか,あるいは,先ほど○○委員がおっしゃったように,そういう場合は個別的に承諾したら責任を負うというふうに個々に決めるべきなのか,そこら辺につきましても,なお,今日いただきました御指摘を踏まえて検討したいというふうに思います。

● それでは,次のセッション,「受益者を指定又は変更する権利について」の説明をお願いします。

● それでは,続きまして,第46の「受益者を指定又は変更する権利について」を御説明いたします。

  信託行為により受益者として指定された者は,受益の意思表示を要することなく当然に受益者となる等につきましては,先ほど御説明いたしましたとおりでございます。

この規律によりますと,原則として信託設定後は委託者等が受益者を変更することは許されないということになります。

ただし,現行法や第45の提案におきましても,信託行為で別段の定めを置くことは許容しておりまして,これによりますと,信託行為で受益者変更権を自己又は第三者に与えている場合には,当該権利の行使によって受益者の受益権を失わせることができるものと解されます。

このような別段の定めは,遺言代用の信託を始め,主として民事信託において有効に活用することができると考えられますが,現行法のもとではその法律関係が明確ではありませんので,その明確化を提案するものでございます。

  まず,1及び2でございますが,これは受託者以外の者による受益者指定権等の行使を定めるものでございます。

  ここで,受益者指定権及び受益者変更権について特に定義を設けておりませんが,受益者指定権とは,受益者が受益権を放棄した場合,あるいは受益権が受益者の一身に専属していたときに受益者が死亡した場合,これらの場合において信託存続中に受益者が存在しない場合に,新たに受益者を指定する権利と考えておりまして,変更権というのは,受益者が存在しているにもかかわらず,その受益権を剥奪して別人を新たに受益者と指定する権利と考えております。

  まず,1でございますが,これは,受託者以外の者が受益者指定権等を行使する場合においては,受託者に対する意思表示によってするものとして,その行使方法を提案しております。

その結果,指定権等の行使の効果は,受託者に当該意思表示が到達したときに生ずることになります。

  次に,2でございますが,受託者以外の者が受益者指定権等を行使する場合におきましては,遺言によってもすることができることを提案するものでございます。

他方,遺言による受益者指定権等の行使の効果は,遺言の効力発生時,すなわち,受益者指定権等を有する者が死亡したときに生ずることになりますが,遺言は,相手方のない一方的かつ単独の意思表示でございますので,受益者指定権等を有する者が死亡してから受益者指定権等が行使されたことを受託者が知るまでに一定の期間を要し,その間に受託者が,これらの権利行使がされていないという前提のもとで,従前の受益者であった者に対して信託から生ずる利益を交付すること等が考えられるところでございます。

そこで,このように遺言によって受益者指定権等が行使された場合の特殊性を考慮しまして,この場合におきましては,その内容が受託者に通知され,又は受託者がこれを知っている場合でなければ受託者に対抗できないものとして,遺言の存在及び内容を知らない受託者の保護を図ることとしております。

  次に,3は,受託者以外の者によって受益者指定権等が行使された場合の受託者の通知義務に関するものでございます。

  まず,(1)は,受益者指定権が行使された場合における通知義務について提案するものでございます。

指定権が行使されることにより新たに受益者として指定された者は,信託行為により受益者として指定された者と同様に,信託の利益を共有することに関して意思表示を要しないということになります。

その場合におきまして,受益者として有する各種の権利,これは配当を受ける権利にとどまらず,受託者に対する監督権能なども含むわけでございますが,このような権利を行使する機会を確保するためには,指定された者に対して受益者であることを認識させることが必要であると考えられます。

そこで,第45,先ほど説明しました「受益者の利益の享受について」と同じように,受託者の通知義務を提案するものでございます。

  (2)は,受益者変更権が行使された場合の通知義務について提案するものでございまして,変更権が行使されることによって受益者としての地位を失う者は,受益者変更権が行使されるまでは,将来にわたって受益者としての信託の利益を享受し得ることについて期待を有していると考えられます。

そこで,受益権を失ったことについての通知義務を受託者に課すことによって,    この期待が実現しないことを認識させ,地位を失った者が不測の損害をこうむることを防止しようとするものでございます。

  なお,この場合におきましては,新たに受益者として指定された者に対しても通知をすべきことは,先ほど説明したところと同様でございます。

次に,4でございますが,これは指定権者又は変更権者が死亡した場合に関する提案でございまして,指定権者が死亡した場合におきましては,信託行為に別段の定めがない限り,信託は終了するものとしております。

  それから,(2)でございますけれども,変更権者が死亡した場合につきましては,現在受益者である者に確定的に受益権が帰属するとしております。

もっとも,信託行為において後継の受益者変更権者の定めをしている場合や新たな受益者変更権者の選任方法が定められている場合には,受益者は確定しないとしているところでございます。

  最後に,5でございますが,これは受託者が受益者指定権者又は受益者変更権者である場合の特則に関する提案でございます。

  まず,(1)は,受託者が受益者指定権等を行使する方法に関するものでございまして,これは,受託者が自己に対して意思表示をするという1の規律によることができませんので,これとは別に規律を設けることといたしまして,まず,受益者指定権等の行使につきましては,新たに受益者となる者に対して意思表示をすべきであるというのが①でございますし,それから,変更権の行使につきましては,②のとおり,地位を失うものに対して意思表示をするというふうにさせていただいたところでございます。

  (2)につきましては,原則として,先ほど言いましたとおり,指定権等の行使は遺言ではできるわけでございますが,受託者が指定権者等である場合につきましては,遺言によってはできないということを明記したものでございます。

  (3)でございますが,これは,受託者が受益者指定権等を有する場合において,その受託者が受益者指定権等を行使せずに死亡した場合に関する提案でございます。

このような受益者指定権等の行使というのは,信託事務処理の一環であると考えられますので,このように受託者が死亡した場合には,受託者の交代に関する規律に従いまして,新たな受託者がその受益者変更権を承継するというふうに考えられると思います。

したがいまして,この場合には,先ほどの受託者以外の者が指定権を有する場合と異なりまして,受託者が死亡したとしても信託は終了しませんし,死亡した受託者が変更権を有する場合においても,受益者はこれによっては確定しない,新たな受託者がまだ指定権ないし変更権を承継しているからであるというふうに考えるものでございます。

  最後に,(注)において書かせていただきましたのは,受益者変更権の濫用防止について検討したものでございまして,信託行為により裁量的に受益者指定権等を行使できることとし,その指定権等を行使することによって受益者となった者から対価を得ることは,受益権を分割して譲渡することと同様の経済的な利益を享受しているとも考えられます。

そこで,このような指定権等の行使によって経済的利益を得られるという地位をいかに捕捉するかという問題があると思われます。

  この点に関しましては,例えば米国統一信託法典を見ますと,委託者が撤回又は変更権を留保している場合のような撤回可能信託の財産は委託者の債権者の債権の引当てとなると規定されておりますが,この提案では,受益者指定権等を有する者がいる場合においても,あくまで信託が設定されております以上は信託財産は受託者の所有財産であって,これを指定権等を有する者の財産として取り扱うことは難しいのではないかと言わざるを得ないと思われます。

  そこで,受益者指定権自体を経済的価値のある権利と認めて,これを差し押さえることができるとするか,あるいは,このような考え方が困難であれば,受益者となった者から対価を得ることが容認されているような受益者指定権を有する者は,実質的には信託による利益を享受している者,すなわち受益者であると考えまして,そのような者が享受している利益を受益権と認めて,それを差し押さえるというふうに考えることもできるのではないかと。

そうしますと,それ以上に受益者指定権等の濫用的行使を制限する規定を設けるまでの必要はないのではないかというふうにも思われるところでございますが,この点について御意見をいただきたいというふうに考えているところでございます。

● それでは,今の第46の問題について,いかがでしょうか。

  それなりに合理的な内容であると,大体そういう御理解でしょうか。

● 細かい話で恐縮ですが,2点ございます。

  一つは,先ほどの第45と同じ話なのですけれども,ここにおける通知義務というのも同じようにデフォルト・ルールというふうに考えていいのかということです。

もっとも,これは受託者が意思表示を受けなければ発生しないという場合もありますので,そうしますと,当然のことながらということがあると思いまして,そこはちょっと確認ということで,これがデフォルト・ルールなのかということを御質問したいと思います。

  もう一つは,第三者として受益者指定権を受けた者というのは,濫用の話でございますけれども,先ほど債権者からの差押えということで濫用防止するというお考えの披露があったと思いますけれども,そもそもこの指定権者というものが何らかのそれ以外の義務というのをだれかに持っているのかどうかということです。

ちょっと観念しにくいのかもしれませんけれども,何かしらの忠実義務等を負っていて,よって,何らかの不当な,わいろ等の対価を得た場合にそれを罰せられる規律があるのかどうかと。

信託の信頼性を維持するという観点からは何らかの規律があった方がいいのかなというふうには思いますけれども,他方,そういうふうに指定したのが悪いということなのかもしれませんし,又は,先ほどの提案で十分な規律であるということなのかもしれませんけれども,この点,どうお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。

● 3の通知義務につきましては,これもやはり同じように,デフォルト・ルールでいいのではないかなという気がいたしますけれども。

指定された者に対して通知をする義務という話は,先ほどと同じ平仄を合わせる考え方で書いておりますので,あちらも先ほど説明しましたようにデフォルト・ルールでございますので,こちらもデフォルト・ルールでいいのではないかという考えでございます。

● 次に,だれがその通知義務を負うかということですけれども,先ほど,第45の場合には,別に委託者でもいいのではないのかという議論があったと思うのですけれども,この場合はそれでもいいのかと。

● この場合も,信託行為でそのように定めていれば,委託者でもいいのではないかと思われます。

● 受託者が意思表示を得た,到達があったということをもって変更権の要件としているわけですけれども,その事実を確認するかどうかというのは別として,それは委託者が別途通知をすれば,それで足りるという話ですか。

● それは受益者の権利行使の確保という観点でございますので,いつこの効力が発生するかという問題とは別として,だれかが通知すればいいということで,デフォルト・ルールでいいのではないかというふうに考えているところでございます。

  失礼ですが,もう1点は何でしたでしょうか。

● 指定権者の規律として,何らかの義務を負っているのかどうかという話,だれかに義務を負っているかという話ですけれども。

● 個人的な考えですけれども,これは信託の枠組みの中で信託行為でもってつくられるので,そういう意味では,信託の目的とかそういうものにはやはり拘束されるのだろうと思うのです。

そういうことで,やはり一定の義務というのはあるのだと思います。いろいろな受益者指定権の指定の仕方というものも,かなり狭い枠をはめている場合もあれば,非常に広い裁量権が与えられている場合もありますけれども,最低限,信託目的というものには拘束されるだろうと。

  ただ,私の感じでは,そのときに指定権者がどういう義務を負うかというのはなかなか難しそうで。

これが,受託者が指定権を持っている場合であれば,恐らく受託者の義務の中で解決するのでしょうね。ところが,第三者だということになると,これはどうなるんですかね。

● だれに対してというところは,ちょっと今,○○委員の話の前としまして,事務局の考えとしては,これは変更権,指定権を有しているのは委託者であるので,委託者と委任の関係に立つのではないかということで,委託者に対して受任者としての義務を負うのではないかと考えております。

ただ,権利をどのように行使すべきかというのは,これは,その委任契約の中でどこまでの裁量権が変更権者ないし指定権者に与えられているかということで,一義的には決まらないのではないかと。

やはり譲渡した契約の定め方とか信託行為の定め方によって異なるのではないかなという気がいたします。

● 私の理解では,この第46というのは,英語で言えばパワー・オブ・アポイントメントというのを,初めて--多分初めてなんでしょうね--日本のこの信託法の中に入れてみようと。

どうも英米ではそういうものが信託と組み合わせて使われているらしいと。私も英米についてよく分からないところがいっぱいありますけれども,そのうちの一つでもあるのですね。

  今日出てきた中では,まず,自分にとっての課題ということですけれども,二つ。

  一つは,この5のところで,話で聞くと,どちらかというと,このパワー・オブ・アポイントメントを持っている人は受託者以外の人の方が多分一般的だと思うのですが,受託者であってはいけないかというと,きっとそうでもない。

そこで,この5のところで,受託者が受益者を指定したり何なりという話になると,すぐ問題になるのは,とにかく自分のかいらいを受益者にしておいて,こことここの間に正に信認関係があるのだけれども,結局受託者が好き勝手にできるわけですよね。

ここの信認関係,信認義務,フィデュシャリー・デューティーをどうやって担保するのかという課題が向こうだってあるはずだというのが一つ。

  二つ目が,今ちょっと話に出ていたのですが,そのホルダー・オブ・パワー・オブ・アポイントメントという人たちにどういう義務があるかという話ですね。

ここでは,「受益者となった者から対価を得ることは」なんていうことで,対価を得ることが前提となっているような感じでもあるのですけれども,一般的には,まあそういう表現ではないのかもしれませんが,やはり今のは委任契約があるでしょうという話なので,そういう委任関係は向こうでは大きな意味ではフィデュシャリーですから,フィデュシャリー・デューティーの一部であることは間違いなくて,フィデュシャリー・デューティーを負っていますよということは間違いないと思うのです。

その中身で,受託者の負うフィデュシャリー・デューティーと,このパワー・オブ・アポイントメントのホルダーが負っているところの信認義務というのがどの程度違うのかという話だと思います。

  最後にもう1点だけつけ加えて,今度は(注)のところで,これはちょっとあいまいな言い方で申し訳ないのですが,このパワー・オブ・アポイントメントを持っている人は,アメリカでは割に重い義務があるらしいのですね。

ここで全部当該者が享受している利益を差し押さえることができるかどうかというところまでは,ちょっと私,分からないのですが。

  それから,これから言うことも意味が分からない。税法上はもうパワー・オブ・アポイントメントのホルダーの間でも,税法上の何かの負担がかかってきてもしようがないように思われているという話をちょっと聞いたことがあるのです。これはもう伝聞だけなので。

  二つの課題ではなくて,三つ目の課題まで申し上げて,コメントとします。

● 受益者を指定又は変更するその行使の方法について,1点御質問させていただきたいと思うのですが。

  この第46の1では,受託者に対する意思表示によってするというふうに方法が厳格に限定されておりまして,4の(1)のところで,指定権を行使せずに死亡したようなときには信託は終了するという非常にドラスチックな重い効果と結びついております。

私がやや疑問に思いましたのは,受託者には通知していないのだけれども,指定権者の意思としては明らかである,だれかを指定するということが明らかである場合に,単に受託者への通知を対抗要件にとどめずに,効力要件としているかのように読めるのですけれども,そのようにした理由はなぜでしょうかということを1点お聞かせいただければと存じます。

● ここで効力要件というふうにいたしましたのは,まず一つは,もし対抗要件としますと,相手方のない意思表示のようなことになりまして,一体いつ効力が発生したか分からないという点が一つあります。

それから,対抗要件とすると,受託者は,利益を例えば変更前の受益者に給付してしまうような場合がありまして,そうしますと,受託者は対抗されないからよいのですが,前受益者と新受益者との間では紛争が生じ得ます。

そのような観点からも,一体いつ受益者の地位が交代されたのかということがはっきりすることが適当であり,受託者に対する意思表示ということをもって,いつ効果が発生したかを明確にするのが妥当ではないかということで,対抗要件ではなくて,効力発生要件という規律にしたわけでございます。

● よろしいですか,○○幹事。

● 御説明は分かりました。

● 先ほども少し議論に出てまいりましたが,9ページの一番下から10ページにかけての(注)について,質問なのですけれども。

  この指定権というのは一種の形成権だということになるのだと思うのですが,9ページの(注)の見出し,「受益者変更権の濫用防止について」,あるいは,10ページの中ほどの,「そこで,」で始まる段落に書いてある中身を読みますと,その問題意識は,指定権行使の濫用防止をどうするかというようにも読めますが,しかし,例えばその上の,「しかしながら,」で始まる段落,あるいは,最後の,「この点に関しては,」の段落を読みますと,指定権自体,あるいは指定権を有する地位というのでしょうか,これが経済的な価値のある権利なんだから差押え可能じゃなきゃおかしいじゃないかというようにも読める。どちらに焦点がある話なのかよく分からないなというのが質問の第1で,仮に後者としますと,その他財産権等差し押さえることになるのだと思うのですが,一体どういうふうになるのか,差し押さえた後どうなるのか,全然イメージがわかないので,もし何かお考えがあれば教えていただきたいというのが2点目です。

● まず第1点目は,確かにタイトルは濫用防止で,しかし,ねらいは差押えになっておりますが,一つ言えるのは,ここでやりたいことは,受益者変更権者が自らの利益を得るような,言ってみれば差押え対象となるような財産をつくり出すことによって不当な利益を得るようなことを防ぎたい,不当な利益を得られる地位を捕捉することができれば結局濫用も防げるのではないかということで,濫用防止のための方策としては,差押えができることであればいいのではないかと考えたわけでございます。

もちろん,濫用してはならないという規定を設ければ,それは一つの方法でございますが,それに違反した場合にどうなるかということがございますので,それよりはむしろ,そのような受益者変更権自体,あるいはそのような権利を有するという地位を差し押さえることができれば,結局濫用によって得られる利益がなくなりますので,濫用もされなくなるのではないかというように考えているところでございます。

● 第2点は第1点をクリアした後の話ですので,あれなのですが,そうしますと,今のお話は,受益者変更権を有する者に対してだれかが債務名義を持っている場合だけ濫用防止ができるということになるわけでしょうか。

しかし,お話を伺っていますと,そういうシチュエーションに限らず,一般的に広く,ここで言うところの濫用を防止する必要があるのではないかという気がいたしますが。

● 確かに,差押えとなると債務名義がないとできませんので,御指摘のとおり,債務名義がないと濫用防止はできないわけですが,債務名義がない場合については,結局そういう場合には受益者変更権者に対する債務名義をとればいいのではないかなという……。やや乱暴な言い方ですが。

● しかし,だれも債権を持っていなければ,債務名義のとりようもないわけですし,その債務名義の基礎になる権利というのは,信託とは全く関係のない債権なわけですよね,普通は。

何かないと裁量権をコントロールできないというのは,何かえらくターゲットの狭い話のような気がするのですが。

● 説明の中にも書いてございますが,ここでのねらいは,強制執行ができないような経済的価値のある権利を容認したくないということでございますので,債務名義もない,何ら債務を負っていないような変更権者であれば,それをどのように行使して利益を得ても,別にだれも害されないのではないかという気がいたしますが。まあ,一つの考えでございますけれども。

● 今の○○幹事の御質問との関係での関連ですが,「差し押さえることができると考えればよいと思われるが,どうか」というふうに締めくくっておられるのですが,法務省として何かしようと思っておられるのでしょうか。

● 受益者指定権自体がもしも差押え可能なその他財産権といえるとしますと,譲渡命令か何かで債権者が自分で譲渡を受けて,それで受益者変更権を行使して自分の債務者を受益者にして,その受益権を差し押さえていくというような方法があるのかなと。

● いや,そういう,方法としてどうこうというものではなくて,要は,何か立法的にこう解決しようというおつもりで書いておられるのか,こういうふうに解釈できるので裁判所はよろしくねというふうにおっしゃっておられるのかということなのですが。

● ただ,とりあえず濫用防止という観点から解釈論としてこういうことがということになられたわけですけれども,立法の形にならないということであれば,そこは全く闇の中ということで,だれがそういう解釈を伝えていくのかという問題で,結局この部会での内輪の議論で終わってしまうのではないかという気はいたします。

● 今のお話なのですけれども,(注)の意味自体が私自身は必ずしも分かっておりませんで,先ほどの説明やこの文案を読みますと,何が問題かというと,強制執行できない財産権をつくり出すということで,差押禁止財産をつくり出すことが問題ではないかというような問題意識のようにも思われ,そうであるとすると,信託行為によって与えられた指定権の適切な行使がされないという話とはやはり全然別ではないのかと。

それから,その後の方--後の方と申しますのは,差押禁止財産のようなものをつくり出すのが問題で,そうだとすると,差押えできるようにすればそれでいいじゃないかという点についてなのですが,○○幹事から御質問があった,差し押さえた後どうなるのかという話で,財産権として十分活用して,例えば売ってしまうというようなことになりますと,この指定権を行使する人は別の人が行使するということになるのかどうか,そういうような考え方をとった場合に,4で,この指定権を有する者が死亡したときというのは基本的に終了する,これは多分,個人的な信頼に依拠しているから,この人だけに行使させるのが適切だという考え方にのっとっているのだと思うのですけれども,差押えできて,ほかの人が権利者となっても構わないのだという説明はどう整合していくのかというのが疑問に思われますので,お考えをお聞かせ願えればと思います。

● こういうことができないかという意見なのですけれども。

このできる場合は,もしかしたらかなり限定されるのかという気がするのですけれども,例えば債権者が受益者指定権を代位行使するということがもし可能であれば,それを代位行使して受益者を確定した上で受益権を押さえるということはできないでしょうか。

● ちょっと関連している問題ですね。

● 代位行使という方法も考えたことがありますが,それよりはむしろ,代位行使される権利を持っている者の財産と認めて直接押さえていった方が簡明ではないかというような考えもありましたし,代位行使となると,もとの被代位債権が条件つきであるような場合については機能しないというような問題もありますので,そのような方法は直截的ではないだろうということで,それは落としています。

  あと,○○幹事のおっしゃった点は十分考えていないところでございまして,確かに死亡の場合には相続されないということですが,あとは変更権者が変わった場合,やはりちょっと……,変更権を与えられた趣旨にもよると思いまして,もしそれがある者の一身専属的なもの--通常はそうだと思うのですが--だとすると,譲渡命令というか,第三者が取得した場合は難しいかなというのが答えになりまして,そうすると,受益者変更権を押さえるというのは難しいということで,これはまた考え直したいというふうに思います。

考えたところといいますのは,受益権を行使して利益を得られるような者はもう受益者と同視できると考えて,受益権を差し押さえると。

事務局としては,そのような利益を得る地位を差し押さえたいという気持ちがあったわけでございますが,漠然とした地位ということでは執行の対象財産にならないので,受益権という形にすれば差し押さえやすくなるのではないかと考えられましたので,このような考え方も示したわけでございます。

あくまで,これが事務局の案というよりは,今,試行錯誤の過程でございますが,いかがでしょうか。

● もし御意見があれば,どうぞ。

● きちんと問題を把握していないかと思うのですが,受益権とみなして差押えができるとすることと,しかし,その内実が受益権そのものに転じるかというと,あくまで指定権ということで,かつ,指定権の行使者というのがこの個人に限定するというところが変わらないのであれば,その問題は残るように思うのですが。

● 形だけ受益権としていても,実は変更権であるとなると,最初におっしゃった問題が出てくるということですね。

● ですから,受益権とみなすということは,逆にそこを取り払って,別にだれが行使してもいいというふうにして,ただ相続だけは排除するという,そういう説明なのかと思いますけれども。

● もう一度検討したいと思いますが,むしろ端的に,受益者変更権を濫用してはならないというような規定を設けるしかないかなというところでしょうか。

● なかなか,ちょっと規定の仕方はまた難しい。また,今のような濫用してはならないという規定でどういう効果が生じるのかも,もうちょっと詰めなくてはいけないと思いますけれども,少なくとも指定権の問題として考えたときに,だれかほかの人間が強制執行を介して行使できるというのは,指定権の趣旨からするとちょっとおかしいような気がしますね。

  これはもうちょっと詰めて,また議論していただくということにしましょう。

● ちょっと今までの議論とは違いまして,第45の方でお聞きした方がよかったかもしれないのですが,共通するのですけれども,通知義務との関係でこの効果はどういうふうにお考えなのかということの確認です。

一つ考えられますのは,今日の資料の53ページの受益債権の消滅時効がいつから始まるかで,「受益者として指定された者が受益者となったことを知った後でなければ」とありますので,これと結びついているのかなというふうにも思ったのですが,そういう理解でよろしいのか,あるいはそれ以外にも何か効果をお考えなのか,確認ですが。

● いえ,ここは通知をすることによって受益者になったということを認識させるということをねらっているにとどまるものでございまして,それ以外に特に効果が生ずるというものではないと考えておりますが。

● 時効とは関係するという理解でよろしいのでしょうか。

● 時効の通知とはまたちょっと別でございます。時効の通知につきましては,あれは忠実義務の言ってみれば消極的な解除の必要性という観点から……。

● そのこととは違いまして,53ページの第54の1の(1)。

● 起算点の関係ですか。そちらにつきましては,起算点に絡む問題かというふうに考えておりまして,通知を受けて受益者と知った時点が起算点ということになります。

● そうしますと,通知を受ける側の資格とか能力とかというのは何かお考えになっていらっしゃいますでしょうか。

● もし能力に欠けるような者であれば,その代理人が通知を受けてということになるのではないかと思います。

● よろしいですか。

  このテーマについて,まだ御意見があれば。--よろしいでしょうか。

  それでは,ここで休憩をさせていただきます。

            (休     憩)

● それでは,再開させていただきたいと思います。

  それでは,信託管理人についてでございます。

● それでは,信託管理人についての説明に移らせていただきます。第47でございます。

  信託管理人とは,受益者のために自己の名をもって信託に関する受益者の権利を行使し,それにより受託者の職務執行を監督する者でございまして,現行法は第8条において信託管理人に関する規律を設けております。

この現行法の規律に対しましては,不特定又は未存在の受益者がある場合に限って信託管理人を置くことができるかのような規律となっているのは,受益者保護の観点から狭きに失するのではないかとの指摘ですとか,信託管理人の権限や義務等に関する規律が不明確ではないかなどの指摘がされております。

今回の提案は,これらの指摘を踏まえまして,信託管理人に関する規定の整備を提案するものでございます。

  まず,1ですが,これは信託管理人の選任に関する提案でございます。

  このうち,(1)は信託行為の定めに基づく信託管理人の選任,(2)は裁判所の決定に基づく信託管理人の選任,(3)は受益者の意思に基づく信託管理人の選任について,それぞれ提案しております。

  現行法の規律からの主な変更点といたしましては,まず,信託行為に定めを置いた場合には,受益者が不特定又は未存在の場合に限られることなく信託管理人を置くことができることを明らかにしたこと,2点目といたしまして,裁判所は,受益者の不特定又は未存在の場合に限らず,受益者を保護するために必要があると認められるときには,利害関係人の申立てによって信託管理人を選任できるとして,裁判所による信託管理人の選任の余地を広げたこと,他方で,裁判所が職権で信託管理人を選任するとはしないとしたこと,それから,資産流動化法の権利者集会によって受益者の中から代表権者を選任することが認められることを参考にいたしまして,受益者の意思に基づく信託管理人の選任を認めたことなどが挙げられるかと思います。

  このように措置した理由につきましては,資料の13ページ以下に記載しておりますので,説明は省略させていただきますが,受益者の保護という役割を果たす信託管理人の地位の重要性にかんがみまして,今回の信託法改正の一つの柱であります受益者保護の観点から,信託管理人を置くことができる局面を拡大していることを付言させていただきます。

  次に,2でございますが,信託管理人の権限等に関する提案でございます。

  (1)は,信託管理人が有する権限について検討しております。

ここでは,信託管理人は原則として,信託に関する受益者の権利のうち①から③までを除いた権利について,自己の名で行使できるとしております。

  なお,権利のうち①から③までの権利を除外しましたのは,資料の15ページ以下に記載したとおりですので,説明は省略させていただきます。

  次に,(2)は,信託管理人による権利行使と受益者による権利行使の関係について検討したものでございます。

  現行法のように受益者が不特定又は未存在の場合に限って選任を認めた場合には,権利行使の主体である受益者が存在しないことになると考えられますので,信託管理人が専属的に受益者の権利を行使するという提案は,当然のことを明らかにしたにすぎないことになると考えられます。

  これに対しまして,受益者が特定又は現存する場合にも当該受益者のために信託管理人の選任を認めるとした場合につきましては,信託管理人による権利行使と受益者による権利行使の競合・抵触という問題が生じ得ます。

ここでは,資料の16ページに記載しましたような理由から,信託行為に別段の定めのない限り,信託管理人が選任された場合には信託管理人が受益者の権利を専属的に行使するものとしております。

ただし,受益者に付与した権利のうち,帳簿等の閲覧謄写請求権,説明を受ける権利,検査役選任請求権,差止請求権,それから裁判所に対する各種の申立権につきましては,信託管理人に加えて受益者にも権利行使の機会を与えることとしております。

  なお,アステリスクの2に記載しましたとおり,信託行為の変更や信託の終了など,信託の基礎的変更に関する受益者の決定権限については,受益者が特定・現存する場合には,信託管理人ではなく,受益者が行使することが相当ではないかとの指摘がされております。

この点につきましては,契約自由の原則に照らしますと,信託行為の変更や信託の終了等に係る受益者の関与に関する規律も任意規定であって,これらの決定権限を第三者に対して委ねることも可能であると考えておりますことからしますと,信託管理人に対してこれらの決定権限を専属的に委ねることも可能ではないかと考えているところでございます。

もっとも,信託管理人がこれらの権限を専属的に行使することを認めますと,信託管理人と受託者とが通謀などをすることによりまして受益者の権利が害されるおそれがございます。

  そこで,受益者の保護をいかに図るかが問題となりますが,この点につきましては,信託管理人が信託の基礎的な変更に関する意思決定をする場合には各受益者に対して事前の通知を要するとした上で,決定に対して反対の意思を有する受益者に対しては受益権の取得請求権を認めることによって保護を図ることが可能ではないかと考えておりますが,このような考え方の妥当性につきましては是非とも御審議をいただきたいと思っております。

  それから,3は信託管理人の義務に関する提案でございまして,現行の非訟事件手続法によりますと,裁判所が選任した信託管理人について,民法の委任に関する規定が準用されるとしております。

ここでは,裁判所が選任した信託管理人については今の規定を踏襲し,更に,信託行為の定め又は受益者の意思に基づいて選任された信託管理人についても同様な法的地位に立つことを明らかにしております。

  ただし,アステリスクの3に記載したところでございますが,信託の基礎的な変更に関する決定権限について信託管理人に専属的に行使することを認めた場合には,信託管理人の義務は委任の受任者と比べて厳格なものとすべきではないかという考え方があることを踏まえまして,信託管理人の義務及び責任に関する規律の在り方については,信託管理人の権限の問題ともあわせて,なお検討したいと考えております。

  最後に,(注3)から(注5)でございますが,これは信託管理人に関するその他所要の規定の整備に関するものでございまして,(注3)は,現行法に規定のない信託管理人の不適格事由について,(注4)は,信託管理人の報酬等に関する規律について,(注5)は,信託管理人の任務終了事由に関する規律について,それぞれ検討しております。

  現行法の8条3項によりますと,裁判所は事情により信託財産の中から相当な報酬を信託管理人に与えることができるとしまして,更に,非訟事件手続法では信託管理人の解任及び辞任に関する規定を設けておりますが,これらは,規定の文言上,いずれも裁判所が選任した信託管理人に関する規定であると考えられます。

  したがいまして,信託行為の定めに基づいて選任された信託管理人についてはどのような規律が適用されるのか明らかではないと言うことができますし,また,今回の提案のように受益者の意思に基づく信託管理人の選任を認めた場合には,そのような信託管理人についても新たに報酬等の規定を設ける必要があると考えられます。

このような観点から,報酬等の規律及び任務終了事由等の規律につきまして,検討の方向性をお示ししておりますが,これらの点につきましても,御指摘があれば承りたいと思っております。

● それでは,信託管理人について御議論をお願いします。

● それでは,何点か申し上げます。

  まず,1点目は総論的なお話なのですけれども,現行法の信託管理人の制度と比較して適用範囲がかなり拡大されているということでございますので,この点については,受益者保護という観点から,また信託事務を円滑化するという観点からも非常にいい制度であるというふうに歓迎しております。

 ただ,何点か意見がありまして,まず,12ページのところのアステリスクの2,先ほど○○幹事からも御説明がありましたけれども,信託管理人が信託の基礎的な変更に関する意思決定をする場合に,各受益者に対し事前の通知を要するとした上で,反対した受益者に対して取得請求権を認める,それによって保護を図るというようなことが書かれておりますけれども,ここの部分につきましては,信託業界といたしましては,信託の基礎的な変更の内容が本当に重大なものである限りにおいてはやむを得ないなという少数の意見はあるのですけれども,やはり信託事務処理を円滑化するためには,こういう取得請求権というのを認めるのはいかがなものかというような意見が大勢を占めております。

  それと,先ほどの18ページの(注4)のところなのですけれども,この(1),(2),報酬と費用償還請求権のところなのですけれども,ここの部分については信託財産から支出すると。

報酬については,信託行為に定めがある場合というふうに書いていますけれども,信託財産から支出するというふうにされておりますけれども,この場合,これらの請求権といいますのは,基本的に信託財産に限定されるようなものなのか,それとも固有財産にもかかっていくというものなのか,それと,信託財産に対する他の請求権との優劣というのがあるのかどうかというようなことをちょっと考えまして,御意見をお聞かせいただきたいと。

基本的には受益者に関するものでございますので,受益者が得る権利と同列でいいのではないかなというふうに基本的には考えていますけれども,そこら辺のところはいかがでしょうかということです。

  あと,この場面での議論ではないのですけれども,この信託管理人の報酬と費用のところを検討するに当たって,信託財産管理人であるとか,検査役であるとか,後ほど出てきます受益者集会の費用,ここら辺のところについても同様の問題があると思いますので,この場というよりも,今御検討をされているところがあれば,お聞かせいただきたいということでございます。

● まず,取得請求権についての御意見ということですが,信託というのはあくまで,会社のような法人組織と違って,基本的には契約によって定められる,契約自由の原則が働くものであると,しかしながら,やはり受益者の保護の観点からは,契約自由の原則について一定の歯どめが必要ではあって,それは意思決定の方法等に関して強行規定を設けるというような解決の方法もあるとは思うのですが,そうではなくて,反対受益者の保護という点を確保することによってバランスをとっていこうというのが大きな方針でございますので,あらゆる変更というわけではないのですが,コアの部分については強行的に受益権取得請求権を認めざるを得ないというスタンスでございます。

  それから,債務の責任財産の問題でございますが,これは現時点では,いわゆる有限責任債権といいますか,信託財産に対して責任が限定されるものだというふうに考えております。

ただ,この場面ですが,受益者集会のところで触れておりますように,流動資産が信託財産にないような場合を考えまして,とりあえず受託者に費用を負担させて,受託者が求償するというようなスキームを設けるということも,選択肢としては,この信託管理の場面でもあり得るかなというところでございます。

 それから,優劣の問題につきましては,まだ十分検討しているわけではございませんのでとりあえずの感触でございますけれども,まず,信託管理人は受益者のために選任される者であるということにかんがみますと,信託債権者の債権と比べてはその優先性は低いというのが原則かというふうに思っております。

  なお,受益債権との関係でございますけれども,社債管理会社の規定なども参考にいたしますと,信託管理人の報酬は,受益者の受益債権よりは優先していいのではないかというふうに考えております。

恐らく一番関心のございます受託者との関係につきましては,受益債権が受託者の債権には劣後するということにかんがみますと,信託管理人の報酬も受託者の債権に劣後するという考えもあるかと思いますが,この受託者の債権と信託管理人の報酬との優先劣後関係というのはなお検討したいというふうに思っているのが今の状況でございます。

  とりあえず以上でございます。

● ほかに御意見,いかがでしょうか。

● 信託管理人の裁判所による選任というあたりについて,いろいろお聞きしないといけないことがあるかなというふうに思っております。

  先ほど,○○幹事の方からは,受益者の保護という,正にそのための制度であるというお話がありましたが,○○委員の方からは,信託の円滑な執行というお話がありました。

  この裁判所による選任というところで要件がありまして,「受益者の全員又は一部の権利を保護するために必要があると認められる場合」というふうにあるわけですが,全員なのか一部なのかによって実はこの制度はかなり色合いが違うのではないかという気がしております。

つまり,受益者の一部の権利を保護するためということであれば,当該受益者という感じがいたしますが,受益者が複数いる場合の全員ということになりますと,各受益者が本来行使し得た権利を受益者全員の利益のために制約して信託管理人を選任するということですので,当該個人である受益者の保護というところがむしろ落ちて,全体の利益あるいは信託の円滑な執行という,本当はそういう話なのではないかという気がしておりますが,その点いかがかということを含めて,そもそも,この「保護するために必要がある場合」というのは一体具体的にどういう場合を想定しておられるのかといったあたりをまずお聞きしたいと思っております。

● 現行法では,不特定・未存在ではありますが,ここは,特定・現存する場合であっても保護する必要性があるという例示といたしましては,例えば精神又は身体に重度の障害がある者が受益者として指定された場合とか,受益者が多数に上って受益者による円滑な意思決定が困難又は不可能である場合,このような場合を挙げることができると思われます。

● 今の○○幹事のお答えを前提として,このような場合に裁判所による選任というのが本当に必要なのか,あるいは法制度として相当なのかといったあたりについて,かなり疑問がありますので,御意見を伺いたいと思っている次第でございます。

  まず,例えば最初の,一部の権利を保護するためということで重度の障害というようなお話がありましたが,その場合には民法上の制限能力者の制度との関係がどのようなものになるのかという点について,学者の先生方を中心として御意見を伺いたいと思っている次第でございます。

  というのは,民法の原則としては,本来権利は自分で行使できるものだけれども,そういう民法上定められた一定の場合には,後見人なり保佐人がつくというような形でその権利をかわって行使するという前提になっているはずでございます。

そうすると,もし,例えばそういう本来成年後見によって図られるべきところについて信託管理人が選任されるということになりますと,そういう民法の原則から若干外れたところで信託固有のいわば法定代理の制度というのを認めることになりはしないかということでございます。

もしそうであるとすれば,裁判所としては,こういう事件が来たときにだれが扱うかということも含めて検討すべきということになるかもしれません。

そういう意味では,非常に民法の原則との関係でも大きな問題があるのではないかというふうに考えております。

  仮に,民法の原則よりもうちょっと広いところで,こういう一部の権利の保護のために必要があると,もしそういう議論であるとすれば,本当にそういうことが許されていいのかと。

例えば,民法では,重度の精神障害がある場合というところで成年後見というのが定められているわけですが,そこを超えて,例えば重度の身体障害がある場合に,裁判所が決定によって,この人は重度の身体障害があるから,この人が権利を行使するのは相当ではないと言って管理人を選任するというような制度が本当に今の民法の秩序の中であり得るのかというようなところが疑問であるということでございます。

  次に,多数の受益者がいる場合に,全員のために選任するという場合であるとしますと,受益者が多数であって円滑な意思決定ができないということであるとすれば,そこは受益者が多数の場合の意思決定の方法というところを後に定めて,法定多数決というような概念も取り入れて検討がされるところであるというふうに理解しております。

そういうところで裁判所が管理人を選任することによって問題の解決を図ろうとするというのは,ほかにそういった例があるのかどうかというのを私は存じていないということになろうかと思います。

何かありましたら,是非教えていただきたいなと思っておるところでございます。

言ってみれば,本来直接民主制でみんなでやっているところに,裁判所が突然,大統領みたいな人を置くというような制度なのかなと,資料だけ見ますと,そういうふうな理解もしてしまうところなのですが,そういう制度がほかにあるのかどうかといったあたりを含めて,教えていただければと考えております。

● なかなか難しい,根本的な問題を提起されたように思いますけれども,いかがでしょうか。

● 今のお話の横に並ぶような話だと思いますけれども,受益者が不特定・未存在の場合に信託管理人を必要とするというのはよく分かるのですが,受益者が特定して,現にいるという場合に,こういう形の人を選ぶことが果たして受益者の保護になるのかというところが疑問だと考えております。

 特に,受益者が選べるというところが一番抵抗のあるところですが,受益者が,いつでも,信託管理人の名前で裁判を起こせる人を選ぶことができるのだということになりますと,訴訟行為をさせることを主たる目的として信託管理人を選ぶこともできてしまいまして,訴訟信託と類似の問題が出てくるのではないかということを懸念いたします。

  それから,そういう場合に,具体的な例はちょっと想像しにくいですけれども,信託管理人と取引をした第三者が受益者に対する抗弁を信託管理人に対抗できるかとか,いろいろ複雑な問題が出てくるということが,とりあえず理屈の上では考えられます。

任意的訴訟担当の場合によく問題になる例ですが,そういう論点も出てくるというふうに考えております。

  資産流動化法第193条が,一部の受益者を代表権利者として権利の行使を委任することができるという制度を設けている,それをここで引いていますけれども,これは,とにかく受益者の一部の人が代表になる,しかもその権利の行使を委任するというものですから,こういう,その人の名前で何でもできる,受益者としての行為を受益者ではなくて信託管理人という名前で何でもできるというのを,現に受益者がいるのに設けるという制度というのは,受益者の保護という観点からもプラスになるとは思えないという意見です。

● 一連の議論に関連しまして,私も,裁判所の介入という観点で,これは基本的にはデフォルト・ローにしていただきたいという観点から,商事信託について言及したいと思います。

 個人に関しても,先ほど○○幹事がおっしゃられたとおり,やはり具体的なイメージとして権利制限者等の制度以外にどういう使い方があるのかなというのがよく分からなかったわけですが,私の場合は,それに加えて商事信託のことをお話ししたいと思います。

  つまり,複数受益者がいる場合で,例えば不動産信託で優先劣後がある場合において,一部の受益者のために信託管理人が裁判所の選任を受けて設置された場合にどういう問題が起こるかという話ですけれども,やはりこれは,利益がある意味で対立する場合がある判断について信託管理人が行うということになりますので,それは妥当なものなのかどうかということでございます。

一応,提案の中では,最低限の権利,帳簿閲覧権等は残しておくという話なのですけれども,商事信託の場合は指図権とか大きな権限というのも持っているわけですから,そういった場合に,かかる権限自体も一人一人に任せてしまうと,それも利益相反という状況であるのかどうなのかという問題があるわけです。

これに関して,この提案では,一応,管理人の規律というのは委任ということしか置いていないということですので,そもそも,委任というのは,利益状況が違う者両方からの委任ということでございますので,それはなかなかワークしないのではないかというふうに思っております。

  もう一つ考え得る話として,この提案にも,複数の信託管理人も可能であるというふうに書いてあるわけですが,具体的にどういう話になるのか分かりませんが,例えば優先受益権のための信託管理人と劣後人のための信託管理人ということが制度上認められるのかどうかというのも質問したいところでありますけれども,仮にそうだとしても,ここに書いていますように,実際の判断は過半数で決すべきという話になっていますから,そこで単純に頭数で決めていいのかどうかということも出てくるのではないかという話です。

● この信託管理人というのは,先ほどから問題になっているように,どういう理念のもとで考えるかと。

一方で,これは,受益者の方がいろいろ権利を行使する場合に不便な場合があって,そういう意味では受益者の利益を守るところもありますけれども,逆に,権利行使ができるような受益者が混じっているような場合,あるいは,先ほど○○幹事が言われたように,何らかの別な方法でもって受益者の利益を,法定代理人などを使って権利行使ができるような場合に,多少,受益者と信託管理人の間の利益の衝突というのでしょうか,そういうものもあり得るので,それがために非常に難しい制度なのですね。

  更にいろいろな御意見をいただけると有り難いと思いますが,いかがでしょうか。

  あるいは,これまでの問題について,幾つか……。

● それでは,とりあえず事務局で答えられる範囲でお答えしたいと思います。

 まず,○○幹事の方からあった,民法にかかわるという大きな問題でございますけれども,例えば,精神上の障害があることによって,法定代理人の制度,民法第7条のようなものがある場合があるではないかという御指摘でございますが,ここは選任権者が限定列挙されておりまして,それに比べますと,裁判所に対する選任というのは利害関係人ということで,やはりその実情に応じた柔軟な選定ができるのではないかというメリットが信託管理人にはあるのではないかという気がいたします。

  それから,身体に障害がある場合にはこのような法定代理人の制度というのが使えないと思われますが,例えば特別障害者扶養信託における受益者についても,なかなか自己の意思に基づいて信託管理人を選任することもできない,難しいのではないかと考えられますので,身体に重大な障害がある場合についてもやはり信託管理人の制度というのがあった方が機能するのではないかという気がいたします。

  それから,不特定の受益者が多数に上るという場合でございますが,実は現行法でも,受益者が不特定の場合にはどういうものが当たるかといいますと,例えば年金信託のように受益者が次々に変動するという場合も入るという解釈が有力でございます。

これは,しかし,ある一定の時点をとらえれば受益者は特定しているわけですが,その変動するということを見て不特定と言っているのではないかと。

その本質は何かというと,恐らく,そのように受益者が次々に変わるということになると,受益者の意思決定を円滑にし,受益者を保護するという観点から,信託管理人がいた方がいいのではないかという価値判断があるような気がいたします。

そうしますと,結局,不特定という中に,このように特定しているけれども受益者が変わるというような場合があることにかんがみますと,それは保護の必要性が高いからであると。

そうすると,受益者が多数に上っていて意思決定が困難で,保護の必要性が高いという場合も,実は現行法でも認められていると言えば言えるのではないかというような気がするところでございます。

  なお,信託管理人のような制度がほかにあれば御指摘願いたいということですが,たしかに指摘することは難しく,例えば,委任等の制度にはないのですが,それは信託というのが,御承知のとおり,受託者に名義まで移すという特性がありまして,だからこそ受託者の監視というのが非常に重大なテーマになっておりまして,であればこそ,委託者や受益者はもちろん,裁判所,あるいは信託管理人という制度がいろいろ設けられているのだと思われます。

そういう点にかんがみますと,実は,事務局の提案では,委託者の権限というのはどちらかというと縮小傾向で考えておりますし,報告書にございますが,裁判所の監督,現行法では非営業信託については信託事務の監督ができるわけですが,それについても後退させてはどうかという提案をしております。

そうである以上は,やはり信託管理人の制度をより一層充実させる必要があるわけでございまして,逆に言いますと,信託管理人の制度が軽微なものになると,それだけ,例えば委託者あるいは裁判所の監督をもっと強めるべきだという方向に回帰するのではないかとも考えられるところでございます。

  なお,法定代理人との間で権限が重複した場合はどうかという点は,事務局の提案では,権利を保護するために必要があるときには選べる,逆に,権利を保護するために必要がなくなれば裁判所は一種の選任決定の取消しができるというような案を提示しておりますので,権限が重複するというおそれはないのではないかと。

後で法定代理人が選ばれれば,取消し決定をすればいいし,初めに法定代理人がいれば,そもそも保護の必要性がないのであるから,そもそも信託管理人は選ばれないという問題になってくるのではないかという気がするところでございます。

  以上が,とりあえず○○幹事の御質問に対するお答えということでございます。

  それから,○○委員の御質問は,受益者による選任の問題でございまして,これは,我々といたしましても,受益者の意思に基づく信託管理人の選任というのが果たして必要かという点につきましては,11ページのアステリスク1のところに書いてありますように,疑問がないわけではない。

単に代理人を選べばいいのではないかと。

代理人を選べば,訴訟信託とかそういうおそれもなくなると思いますので,そのような点につきましては,なおこちらとしては検討したいというふうに思っているところでございます。

  むしろ気になりますのは,受益者間の争いに例えば裁判所が巻き込まれてしまうのではないかというようなおそれがあるところでございますが,それは選任のところで,選ばれる受益者の意思を聞くことによって,自分の意に反した信託管理人が選ばれるおそれはなくなるであろうというようなことによって担保することができるのではないかという気がしているところでございます。

  それから,最後に○○委員がおっしゃった,利益相反関係があるような場合があるではないかと。

確かにそのような場合もあり得るかとは思うのですが,そういう場合につきましては,例えば特別代理人を例外的に選任するというような方策によって対応することもできるのではないかと思われるところでして,例えば商法ですと,社債管理会社の場合に,社債権者と社債管理会社の利益が相反する場合には特別代理人が選べるというような規律がございまして,こういうものも参考になるのではないかと思いますが,なお御意見をいただければと思います。

  とりあえず,事務局としては,いろいろな議論をいただく前提としまして,とりあえずの考え方を述べさせていただきました。

● 若干だけ補足させていただきたいと思うのですが。

  今,○○幹事の方から,選任権者が違うというお話がありましたが,選任権者が違うからこそ,民法の原則との関係で大きな問題があるのではないかということが申し上げたいということでございます。

要は,契約上の利害関係人から,そういった法定代理人の選任を請求するというような制度を認めるということについて問題がないかという趣旨で御質問しているということになります。

  身体障害者についても,正に民法上は保護の規定はないのですが,それがないということは,基本的には民法は自ら意思決定するということを前提としていると。

福祉の問題等はあるかもしれませんが,それは,この信託法上の裁判所の信託管理人の選任というところでそこを考慮するということになるのかどうかといったあたりが問題になるのではないかと考えているということでございます。

● おっしゃるところはもっともなところもあるという気がいたします。

半面,確かに,法定代理人につきましては選任権者が制限されておりますが,これは恐らく,法定代理人というのは本人にかわってあらゆる代理権を取得するからだという気がいたしまして,それだけ権限が広い気がいたしますが,ここではあくまで信託の局面での管理人,いわば範囲が狭いわけでございまして,そう

いう観点からいたしますと,仮に選べる選任権者が利害関係人ということで広いといたしましても,やれる範囲が信託にかかわるものに限られている面で調和されているのではないかという気がするというのが1点でございます。

  それから,もう一つはどのような質問でしたでしょうか。

● 身体障害者というのは,正に違うところで,違う趣旨からのお話なのではないでしょうかということです。

● 確かに精神障害の場合とは局面が違いますが,やはりここは受益者の保護という趣旨をより強調しまして,こういう場合も一つの例として,裁判所による選任によって解決できるのではないかという気がしているというところでございます。

● 私,制度そのものに賛否ではないのですが,身体障害者の問題につきましては,成年後見制度の導入に際して,身体障害者を対象にしろという意見も一時期出たわけです。

それに対して,それは自己で代理人が選任できるのだからと,かえって裁判所等が介入するということに対しては,自己決定権の侵害の問題があるという話になった。そこでいったんそういうふうな価値判断がなされているわけなので,制度が悪いというよりも,身体障害者の問題を例として出されるのは適切ではないと私は思います。

● 分かりました。

● 考慮した方がいいかもしれませんね。

● はい。

● ほかに御意見,いかがでしょうか。

● 私は,一般論といたしましては,受益者が多数あるいは複数存在するような信託が我が国に現実にたくさんあって,しかも受益者に受託者のコントロールをする十分な能力あるいは時間があるとは限らないという状況のもとで,こういった,信託管理人制度を現行よりも少し拡充してガバナンスの観点から位置づけるということは,基本的には望ましい方向なのではないかと思うのですけれども,若干疑問点もございますので,その点について教えていただければと思います。

  まず第1点は,一部の受益者のために信託管理人を選任することができるということが,信託行為の定めと裁判所による選任においては可能とされているわけですけれども,信託全体,全受益者,あるいは非常に抽象化された全受益者のための信託管理人制度というのは,非常に分かりやすいと申しますか,理解できるところがあるのですけれども,一部の受益者のために,こういった権限を有する信託管理人制度が必要なのかどうかと。

やはり,信託全体を一つと見て,その信託全体,あるいは全受益者のために行動すると,こういう制度設計の方がむしろ分かりやすいような気がいたしましたので,一部の受益者のための信託管理人制度を御提案されている理由について教えていただければというのが第1点でございます。

第2点は,信託管理人の解任についての規律でございますけれども,特に受益者による選任がなされたときには,受益者がそれこそ変更される可能性もありますので,基本的には現在の受益者の意思を問うというのが,本当に受益者のための信託管理人制度であろうかと思います。

解任についての規律は,19ページのところで,まだ注の段階でございますけれども,例えばこの19ページの(2)の②を拝見いたしますと,信託行為等で別段の定めをすれば解任についても自由にルールを設定できる,そのような読み方ができますけれども,しかし,受益者が選任する場合には,やはり解任も受益者が,しかも合理的な,できる限り総意を反映するような方法で解任をしなければ,本当の受益者のための信託管理人制度とはなり得ない可能性があるのではないかということを懸念いたします。

第3点は,信託管理人の権限でございますけれども,重大な基礎的変更--基礎的変更も,確かに重大であるものとないものとあると思いますけれども,とりわけ重大な基礎的変更については,やはり信託管理人の権限から外しておく必要があるのではないかと。では重大な基礎的変更とは何かと言われると,直ちにはお答えできないわけですけれども,第47の2の(1)の①から③はやや狭いのではないかという印象を持っております。

  以上,3点について質問とコメントをさせていただきました。

● 一部のところをなぜ認めているかという点でございますが,これは,例えば,委託者の意思によって定められる信託行為の定めによる場合には,特定の受益者についてだけ特に保護の必要性が高くて,例えば複数受益者がいるけれども一人だけ未成年であるとか,そういうような場合を考えますと,その一人のためだけに選ぶという余地を認めてやってもいいのではないか,そこまで全員でなければだめだというふうに厳格に規律する必要はないのではないかと,信託の柔軟性という観点から一部を認めているというのが,(1)の趣旨でございます。

 それから,裁判所による選任につきましても同じような話でございまして,やはり複数受益者の中の一部についてのみ特に保護の必要性が高い者がいる場合において,それがいるのに全員のために選んで,かつ,我々の提案ですと,選ばれると権限が相当程度吸収されますので,そのような者を全員のために選ぶよりは,やはり保護の必要性が高い者についてだけ選ぶ方が,その受益者のためにもほかの受益者のためにもなるのではないかという観点で一部というのを置いているというのが,とりあえずのお答えでございます。

  あと,コメントということでございますけれども,19ページの(2)の②の解任のところでございますが,これは恐らく,選任行為に別段の定めがある場合は自分たちで決めているのだからいいのではないかとして,信託行為で解任を制限しているときもやはりそれはおかしいのではないかという御趣旨かと思いますので,それはそういうことも言えると思われる半面,これは前からの私の疑問でもあるのですが,信託行為に書いてあって,それを承知の上で受益者になっているのだから,それはある程度は仕方がないのではないかという気が前からしているところはございまして,確かに信託行為の設定には関与できない受益者ではありつつも,それを知った上で受益権を取得して,承認もしているということになると,それが制限されるということも甘受していると言えないのかなという疑問がございます。

もっとも,だからといって受益者を軽視しているわけでは全くないのですが,そのようなことも考えられるのではないかということでございます。

  あと,重大な基礎的変更についてはやはり信託管理人の権限から外すべきではないかというのは,これは我々も,どこまで信託管理人の権限とすべきかというのは,ここのアステリスク2のところにるる書いてありますとおり,前から非常に重要な問題かと思っているところでございまして,御指摘も踏まえて検討したいというふうに思っておりますが,とりあえずは,事前の通知と受益権取得請求権の強行規定化ということをもって,しかも契約の自由とのバランスという観点からはそのぐらいあればいいのではないかなと思っているところでございますが,それは御意見として承りまして,検討したいと思います。

● 先ほどの,一部の受益者を保護するために,いわば一部の受益者だけを代表する信託管理人を設けることができると。

私は,これは個人的な意見ですけれども,そういうのができるという方が本当はいいのではないかというふうに思っております。説明は,先ほど○○幹事が言われたとおりですが。

  信託行為でもって定める場合は余り問題ないと思いますけれども,特に裁判所の場合,全員についての信託管理人しか選べないと。

本当の理由は,一部の受益者が権利行使が十分できないというのが理由で,その当該受益者のためだけでなくて,全体について選ばなくてはいけないというと,これはまた先ほどの○○幹事の疑問にぶつかってくると思いますけれども,なかなか難しいのではないかという感じがちょっとしています。

 本当は恐らくその延長線上にある問題でしょうけれども,私も,受益者全員が一応権利行使はしようと思えばできるけれども,多数いるために意思決定などが不便だということから,裁判所にその中のだれかが信託管理人を選んでくれというふうな申立てができるという趣旨もこの案には含まれているのですか。

● そういうのも,保護の必要がある一類型ではないかという考えでございます。

● 多くの場合は,恐らく多数の受益者がいるときは,最初に信託行為の中でもって信託管理人を定めて,これは委託者の意向によって定めて,それによって機能するのだと思いますので,実際上は裁判所が選ばなくてはいけないという場面は余りないとは思いますけれども,今のような,全員が一応権利行使ができるという集団信託のときに事後的に裁判所がだれかの請求で選ぶというのは,なかなか難しい場面があるかもしれませんね,裁判所としては。まあ,これはもうちょっと検討させていただけると……。

  それから,効果のところも非常に難しい問題で,どの程度権限を吸収させてしまうのかということで,○○委員の先ほどの御意見もありましたし,○○幹事の御意見もありましたし,これもまだ少し検討の余地があるのではないかと思っています。

ただ,なかなか切り分けが難しいので,うまくこういうものを,つまり①から③まで,一応これを外したものがありますけれども,それに類するものとしてうまく切り分けるものがあれば,それは可能かもしれませんね。そんなところも少し検討して……。

● 事務局としては,重大な信託の基礎的変更が入るかどうかぐらい……。

あとはちょっと思い当たりませんが,そこのところが問題でございまして,○○幹事もおっしゃいましたように,なかなか切り分けが難しいという問題とかございますし,やはり契約自由の原則なのだというところを強調しますと,それを知って受益者は入ってきているわけであって,しかも信託管理人の選任も,信託行為にあれば受益者は分かっているわけで,裁判所が選任する場合は裁判所がそこら辺はおもんぱかってくれるでしょうし,受益者が選ぶ場合というのは,これは信託行為に定めがなければ受益者全員の合意ですし,信託行為で多数決がとられている場合にも特別多数でないと選べないというようなことになっておりまして,そのような慎重な手続で選ばれた信託管理人については,反対受益者には受益権取得請求権をもって手当てをするということで足りるのではないかというのが今の考えでございます。

● ちょっと細かい質問なのですけれども,この信託管理人というのは法人もなれるという理解でいいのかということです。

  具体的に言うと,この信託管理人というのはどういう人が就任するのかというイメージがわかないわけで,一部,現在でも,年金信託の場合にはどこかの人事部長がなるとか,そういうのはあると思うのですけれども,広く信託が使われた場合に,ある意味信託管理人のなり手,担い手というのが,専門業者なんかが出てくるとは思いませんけれども,継続的なことも考えれば法人が適当な場合もあると思うので,法人も認めるという余地を残すということの確認ということです。

 二つ目に,先ほどの,一部のためにということと,○○幹事からの特別利害関係人を選任してはどうかという議論につながるわけですけれども,いったん信託管理人になって,全員のために,ないしは一部のためにということであったとしても,その一部の中で利益相反があった場合に,その救済策として,先ほどのお話では社債管理会社の特別代理人のようにしたらどうかという御提案がありましたけれども,その者の身に立ってみれば,やめたいというのもあるのではないかなというのもあるのですが,ただ,この御提案を見ると,辞任に関しては,基本的には,裁判所の選任を経た信託管理人であれば,やめるということは想定されていないというような理解でいいのかということですけれども。

では仮に,やめないけれども,そうしたら特別代理人ということであるのであれば,例えば引いておられた社債管理会社の特別代理人と同じであれば,それによれば社債権者の集会の請求によりと書いてありまして,非常に困った判断を迫られても,自分だけでは特別代理人を選んでくれというふうには言えないという話ですから,そこは柔軟に,信託管理人の動きやすいように制度設計をお願いしたいということです。

● 法人は信託管理人になれると考えておりまして,これは,19ページのところなどを御覧いただきますと,例えば任務終了事由として,法人である信託管理人が解散したときは任務終了すると,我々もそのような前提でございます。

  あと,私の誤解かもしれませんが,裁判所が選んだ信託管理人は辞任できないというわけではなくて,これはあくまで注のレベルでございますが,正当な事由があれば,裁判所の許可を得て辞任できると。ほかのところに似たような規定があったかと思いますが。

● 許可を得てということですか。

● そのような要件はかかっておりますが,辞任ができないわけではないということでございます。

● 法人も可能なのだと思いますけれども,だれが信託管理人になるかという現実の問題というのは結構難しい問題があることは御承知だと思いますけれども,これは特別なルールは何も書いてありませんけれども,例えば,受託者と関係があるような者はやはり外れるとか,それから微妙なのは,年金信託などでもって,委託会社の総務部長だとかそういうのがなるタイプですね,これも一概に排せないところもあるけれども,果たして受益者の利益を代表する者としてはそれで適当なのかどうかというようなことは,これはなかなかルールが決めにくいので,条文にはなりにくいと思いますけれども,こういうルールを考える際の前提の問題としてはちょっと頭の隅に置いておかなくてはいけないのではないかという気はいたします。

  ほかに。

● 主として質問をさせてください。

  第47の1(3)の「受益者による選任」の性格についてであります。

  こういう規定を置くことについては,必要ないのではないかという指摘も御紹介されているところでありますが,私の意見としては,受益者が多数いるような場合に信託管理人を置くことによって信託全体が円滑に運営されることになり得るという点については意味があると思います。

そして,必ずしも(1)のように信託行為に定めがなくとも,受益者のイニシアチブで信託管理人を置けるという可能性が開かれるというのは,適切ではないかと思います。

 その上で質問なのですが,この(3)を置く意味なのですけれども,これがもしなかった場合には,仮に受益者が全員そろってある人を信託管理人に選びたいとしても,信託管理人選任の要件としては(1)と(2)の二つの制度しかないとすると,受益者だけの選任行為では信託管理人にはならないと。

せめて可能なのは代理人であって,要するに受益者の代理として権利行使をすることはできるけれども,2の権限のところに出ていますけれども,自己の名で受益者の権利を行使するということが私的自治の一般ルールの世界ではできないと,そういうことを意味していると考えたらよろしいでしょうか。

● (3)がない場合どうなるかということでございますが,まず一つは,(1)の信託行為の定めというところに関係いたしまして,そういう場合は受益者が信託行為の変更を合意する,あるいは請求して信託行為の変更によって信託管理人を定めてやるという手当てはあります。

しかし,それよりも直截的に受益者が選任できた方がよりストレートではないかと。

どういう場合に信託行為の変更ができるかという問題はさておくといたしまして,いったん信託行為という,そのような迂回路を通るよりは,ストレートに選べればいいのではないかというのが,1の(3)を置いた理由でございます。

あと,(2)でございますが,これは確かに,今,○○幹事がおっしゃった例,複数受益者がいるときに意思決定が円滑にいかない問題があるということをもって,保護の必要性と先ほど私ちょっと言いましたが,それと見れば,裁判所が選任するという手だてもあり得るわけでございますが,しかし,裁判所という経路を通らずに受益者自身が直接選ぶことができていいのではないかと,そういう観点から,ほかで代替できないわけではないのですが,やはりよりストレートに,受益者保護の観点から,自ら選ぶルートを残したというのが,(3)を置いた趣旨ということになります。

● 申し訳ありません,私の質問が必ずしもクリアでなかったわけですが,今のお話の前提に,次のような考え方があるかどうかという形で質問させてください。

すなわち,(3)がなかった場合に,受益者が信託管理人を選んで,そして2の(1)のような権限を与えたとしても,それは法的にはサポートされないという考えが前提にあるからこそ1の(3)を置き,1の(3)がなければ,今,○○幹事が御説明いただいたように,1の(1)か1の(2)を経由しなければならないと,そういうものとして信託管理人というのはあるのだということでしょうか。

● 今おっしゃった趣旨は,こういう(3)を置かなければ,でも受益者は全員で代理人を選べるではないかと。

ただ,代理人ですと,ここで言う自己の名をもってというようなことができませんので,やはり自己の名をもって権利を行使できるというのが信託管理人であると,一種信託の機関的な位置づけになってまいりますが,そのような信託管理人という制度を置く以上は,やはり受益者がこういう選任行為をもって信託管理人を選べるという規律がないと難しいのではないかということでございます。

 ただ,代理で足りるのではないかという御意見もあり得るとは思いますので,そこは1のところでどうされるかというのは,ちょっと……。

● 実質的には代理で足りるけれども,形式的には代理とは違うものとして信託管理人を置いていると。

● その点はもちろんそうですね。ただ,それを私的自治でもって,こういう規定がなくてできるかどうかということですよね。

● はい。

● 何かできてもよさそうな気がするけれども……。

● 今の点でございますけれども,受益権の中には,「共益権」というふうに会社法の者は言っておるのですけれども,いろいろ受託者を監督・是正するような様々な権利が認められておりまして,それらをごそっと代理人に出すことができるのかどうかということについては,そんなに簡単な話ではないと思います。

したがって,やはりこういった信託管理人の制度は代理だけでは非常に難しい部分があるのではないかというふうに,会社法の観点からは考えられるのですけれども。

● それはまた,要するにどの程度の権限を移すかという観点からの問題点ですね。

  ○○幹事が言われたのは,いわば自己の名をもって権利行使するような人間を,受益者たちが合意して自由に私的自治の範囲でつくれるかということですよね。

  恐らくそれは若干争いがあるのではないかという気がするのですね。

できるという考え方もあるかもしれないし,そういうものはできない,特に訴訟なんか自己の名でもって提起できるわけですから,そういうものは問題だという御意見もさっきありましたし,そういう意味で,(3)のような規定があった方が明確だということなんじゃないでしょうか。

● 細かなことなのですけれども,報酬ですとか費用償還なんかの規律も代理とは違ってくるということがありますが,そういうものをセットとして別途作るかということが問題なのかと思います。

● そうですね。

● 私,一つ感想と,ちょっと私の読み方が足りないのでしょうから,一つ質問を。

 感想の方は,信託管理人という制度は今まで公益信託等に日本で使われていて,これがまた英語で訳せない概念というか,「信託管理人」ってどう訳せばいいのかといっても,向こうにはないわけですよね。公益信託についてすらないわけで,だから日本特有なので,すごく面白い。それを今度,公益信託どころか,もっと広く拡充しようというわけですから,一層面白い話だと思うのですね。

  それは一体何のためなのか。今までも,信託管理人というのは何なんだという話がどうしてもあって,○○幹事がおっしゃったように,実はやはり受託者の方の便宜で,複数の受益者がいる場合に一人にまとめておくと本当に助かるねという部分が相当にあるのかなと。

それが結局は受益者全体の利益にもなるのだというふうにハッピーにつながればいいけれど,ということかなと思っています。かなと思っていますというのは,少し疑問が残っているという意味ですが。

  質問の方は,そういう背景のもとになのですが,受益者による選任のところが特にそうかな。

結局,これは一体どうやって選任するかというと,私が分かっていないのだと思いますが,24ページの表を見ると,受益者全員の合意,34ページを見ると特別決議ということですね。

かつ,信託管理人の権限としてはこういうものだという話で並んでいるので,24ページのところを見ると,各受益者単独で受益者は権利行使できますよというのがずっと並んでいますね。

そのうちの一部は信託管理人がいてももちろん単独でできますよということだけれども,ある部分については各受益者単独ではできなくなるということですよね,信託管理人を置くと。本当にそれでいいのかなという感じがあるということだけです。

  今の話で,14ページから15ページにかけて,とにかく受益者全員の合意が必要だというふうに,第48の別表の方の何とかという最初の方のところが維持されていて,それで,「円滑性の確保や受益者の一部による権利の濫用の防止」,全員で同意して選任しておいて,一部の権利濫用を阻止するためだというのが,私は--まあ,そういうこともあり得るのかなとは思いますけれど,理屈の上でこういう話になるのだろうかという……。

それは一番最初の感想のところへ戻ってきて,本来の目的は,やはり信託事務処理の円滑性の確保というところへ結局戻ってくるのかなというところへつながる話です。

  ちょっと私の理解が足りない部分だけ教えていただけますか,さっきのところで。

● ○○委員に私が教えるような能力はないのですが,どの点でしょうか。

● まず,全員なのですか。

● 全員ですが,しかし,これは,多数決がなければ全員ですね。しかし,多数決の制度を設ければ,原則特別決議。

しかも,それも,我々の提案ですとかなり自由ですから,過半数という制限はかかるにしても,2分の1とかでもあり得ると。少なくとも3分の2で選べますので,3分の1は反対しているということはあり得るわけでございます。

● あり得て,その受益者単独という権利の一部がなくなってしまうわけですか。

● なくなってしまうものがあります。それが吸収されるということになります。

● そこは,先ほどから問題にしている点ですね。

  また繰り返して申し訳ないけれども,裁判所が受益者全員のために選任するというときに,一応,例えば多数決を導入しているような集団信託というのでしょうか,そういうときには多数決でやる道はあるけれども--まあ,そういうときは裁判所は選ばないと思いますけれども--それを通らないで,一部の受益者が裁判所の選任を求めてくるなんていうのは,一応この制度に乗っかったときにも,やはりそれはだめだと。

● 請求はできますが,保護要件というところに引っ掛かってくるかと思います。

ですから,例としては挙げましたが,現実問題として,全員一致しかないときはともかく,多数決制度がある中で,更にこの信託管理人の請求があったときに,果たして裁判所が選ぶことになるかというと,それはケース・バイ・ケースでしょうが,なかなか難しい問題があるという気がいたします。

● 大分長い時間をとりましたけれども,やはり非常に重要な問題の一つですので,御議論いただきました。なお残っている問題については,更にいろいろ検討させていただきたいと思います。

  それでは,次の方に移りたいと思いますが,いかがでしょうか。

● では,第48から第50までを説明をさせていただきます。

  まず,第48は,受益者が複数の信託において,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者が単独で行使できる権利について,単独行使の制限を認めることの可否について検討したものでございます。

  複数受益者による意思決定に係る事項としては,一つは受益者全員の合意を要する事項と,もう一つは各受益者が単独で意思決定できる事項とに分けられますが,全員の合意を要する事項につきましては後ほど説明することといたしまして,ここでは,単独で意思決定できる事項について,信託行為に定めを置くことにより単独での権利行使を制限することを認めるべきか否かを問題とするものでございます。

  資料の21ページ以下では,単独受益者権,すなわち,24ページの別表で,「受益者による権利行使の方法(原則)」欄におきまして,「各受益者単独」と記載したものにつきまして,単独行使の制限を認めるべきか否かについて,順次検討しております。

  結論的には,信託違反行為の第三者に対する取消権については,単独行使の制限を認めることも検討の対象となり得るのではないかという観点から,制限を認めるという甲案と,認めないという乙案の両案を併記しております。

 なお,信託違反行為によって信託財産に損失が生じた場合においては,受益者は原則として原状回復を請求するか損失てん補を請求するかを選択することができるわけですが,各受益者が受託者に対し単独でこれらの請求をできるとした場合には,例えば,ある受益者は原状回復を請求し,ある受益者は損失てん補を請求すると,このような場合には受託者としてどのような対応をとればよいのか判断に迷うこと,あるいは判決になればその内容が矛盾・抵触することが想定されますが,この問題につきましてはなお検討したいと考えているところでございます。

  続きまして,受益者が複数の信託の意思決定の方法について御説明いたします。

  第49でございますが,第2回会議の際にも申し上げましたように,現行法は,制定当時,主として受益者が単数の信託を想定していたと考えられますので,受益者が複数の場合の受益者による権利の行使の在り方について適切な規律を置いているとは言い難い状況にあると思われます。

他方で,現行の信託実務におきましては,受益者が複数に上る信託も多く見られますので,今回,受益者が複数の信託について適正な規律を設けることを提案しているものでございます。

  1の(1)でございますが,これは,複数の受益者がある場合においては,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者全員の合意にかえて,受益者の多数決をもって意思決定をすることを認めたものでございます。

34ページの別表にありますとおり,受益者の権利というのは,単独で行使できるものと全員の合意を要する事項とに分けられますが,ここで問題になりますのは全員の合意を要する事項の権利行使についてでありまして,常に受益者全員の合意を要するといたしますと,複数の受益者による権利行使は困難なものになると思われます。

そこで,複数の受益者による合理的な意思決定の機会を確保しつつ,信託事務処理の円滑性も図るという観点から,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者全員の合意を要する事項の全部又は一部について多数決をもって決定することを認めております。

  なお,いかなる事項を多数決の対象とするかは信託行為の定めにゆだねられることになると考えております。

  また,このように多数決での意思決定を認めた場合におきましては,どのような方法で決議を実施することを認めるかが問題となりますが,(2)におきまして,信託の特徴の一つであります柔軟性を確保するという観点から,決議の方法については,各信託の設計,すなわち信託行為の定めに委ねるものとしております。

  次に,2でございますが,受益者集会制度の創設に関する提案でございます。

  先ほど申しましたように,多数決制度のもとにおける決議の方法につきましては各信託の設計に委ねるわけでございますが,契約コストの削減等の観点からは,複数受益者による意思決定の方法及び手続についてデフォルト・ルールを明らかにしておくことが有意義であると思われます。

そこで,主要な方法の一つであると考えられます受益者集会についての規律の創設を提案しております。

  まず,(1)は受益者集会の招集に関する提案でございまして,招集権限は,信託行為に別段の定めがない限り,受託者と信託管理人が有するとしまして,また,受益者集会は,必要が認められた場合に随時招集されることとしております。

そのほか,正当な理由がないのに招集権者が集会を招集しない場合には,アステリスク1のとおり,受益者による集会招集請求権等に関する規律を設けることを検討しております。

  (2)でございますが,これは受益者による議決権の数及び受益者集会の決議方法に関する提案でございまして,①では,原則として受益者がそれぞれ1個の議決権を有することを定めております。

また,②では,受益者集会の決議方法を明らかにしておりまして,すなわち,受益者集会の決議方法につきましては,商法の規定なども参考に,いわゆる普通決議と特別決議を設けるものとしております。

  このように措置した場合におきましては,特別決議を要する事項と普通決議で足りる事項との振り分けが問題となりますが,これは,34ページ別表の「決議の種類」欄に記載しましたとおり,信託の基礎的変更に関する承認及び受益者にとって特に重要であると考えられる意思決定,具体的には信託管理人の選任に関する同意権でございますが,これについては特別決議を要するものとし,それ以外の事項は普通決議で足りるものと考えております。

  もっとも,先ほどより何度も御説明しているところにかかわりますが,信託におきましては,契約自由の原則から,信託行為の変更や終了など基礎的変更に係る承認権限につきましては特定の者に委ねることも可能であると考えられておりますので,信託行為に定めを置くことによって,特定の受益者に対してこれらの承認権限を与えることも可能であると考えられます。

このような信託の柔軟性にかんがみますと,特別決議事項と普通決議事項の振り分けですとか,あるいは定足数につきましては信託行為で自由に定めることができるとするのが相当ではないかと考えられるところでございます。

そして,このように決議の方法や定足数につきまして自由に定めることができるとした場合におきましては,少数派の受益者を適切に保護する必要が生じると考えられますが,この点につきましては,反対受益者の受益権取得請求権に関する規律を整備することによって妥当な解決を図ることが可能ではないかと考えているところでございます。

  もっとも,このように契約の自由を前提とした見解に対しましては,受益者集会という合議体での決議を法定する以上は,受益者保護の観点から,一定の限界,すなわち強行規定を設けることが必要ではないかとの指摘がまたあり得るところでございます。

そこで,アステリスク5に記載しましたとおり,決議要件等につきまして一部強行規定を設けることとするか否かにつきまして,なお検討したいと思っておりますが,契約自由の原則から自由に制度設計できるということの適否につきまして,是非ともこの場でも御審議を賜れればというふうに思っております。

次に,(3)は受益者集会の効力に関する提案でございまして,すべての受益者に及ぶということを明らかにしております。

ただし,信託におきましては,種類の異なる受益者が存在することがありますので,受益者集会で決議した内容によっては受益者集会の効力が特定の種類の受益者に損害を与えることがあり得ます。

この点につきましては,まず,種類受益者保護の観点から,受益者集会の決議は種類受益者には及ばないとすべきであるという考え方があり得ると思います。

もう一つは,契約自由の原則によれば特定の受益者に対して決定権限を委ねることも可能なので,異なる種類の受益者が存在する場合において,受益者による決議の効力がどのように発生するかについても信託行為の定めに委ねることとするのが相当であり,それに伴って生じ得る不都合につきましては,受益権取得請求権を一部強行規定として認めることで解決すれば足りるという考え方があると思います。

そこで,アステリスク7のとおり,種類受益者の保護に関して規律を設けるべきか否かにつきまして,なお検討するものとしておりますが,この点につきましても是非とも御審議をいただければと思います。

  (4)は,受益者集会の費用に関する提案でして,信託財産から負担すると,共益的な費用と見て,そのように考えているところでございます。

  次に,3は書面による決議に関する提案でございまして,受益者による多数決の方につきましては,信託行為で自由に定めることができますが,決議を必要とする事項によっては書面による決議が利用されることも多いのではないかと思われます。

そこで,書面による決議が採用された場合についての一つのサンプルとして,契約コストを削減するという観点も踏まえ,デフォルト・ルールを明らかにすることとしております。

  以上で受益者集会の説明を終わります。

次に,第50の「受益者名簿について」の説明に移らせていただきます。

  まず,1は受益者名簿の作成義務に関する提案でございます。現行法の39条,40条の規定では,受託者は受益者名簿の作成義務を課されておりません。

しかし,信託におきましては,受益者が複数となることがありますが,権利の行使に当たって受益者全員の合意が必要な事項については,各受益者は権利行使に当たって他の受益者の個人情報を知る必要があり,このような場合におきましては,受託者に受益者名簿の作成義務を課すことが,当該信託に関係する者,特に受益者にとって便宜であると考えられます。

そこで,1では,受益者が複数の場合におきましては,受託者が受益者名簿の作成義務を負うこととしております。

  なお,記載事項につきましては,アステリスク1のとおり,なお検討したいというふうに考えております。

 次に,2は受益者名簿の閲覧・謄写に関する提案でございまして,先ほど申しましたとおり,受益者に認められた信託法上の権利の中には,受益者が複数の場合においては全員の合意が必要となるものがありますので,受益者がこれらの権利行使をするに当たりましては,前提として,各受益者が他の受益者の正確な個人情報を知ることができるようにする必要があると考えられます。

このような観点から,受益者は,理由を明示して受益者名簿の閲覧・謄写を請求できるというふうにしております。

また,信託管理人は受益者を保護するために置かれるものですので,保護の対象である受益者の正確な個人情報を知ることができるようにするという観点から,受益者と同様の権利を有するものとしております。

  さらに,受益者集会制度や書面による決議の制度が採用されている場合におきましては,受益者集会の開催や書面決議の実施に当たりまして,決議を行う受益者に関する正確な情報を知ることができるようにする必要があると考えられますので,このような観点から,(2)では,受益者集会の招集権者又は書面による決議の実施権者は受益者名簿の閲覧・謄写請求権を有するとしております。

他方で,これらの者につきましては,集会の招集又は書面による決議の実施のために必要があると認められる場合に限って名簿の閲覧・謄写を認めれば足りると考えられますので,提案におきましては,その旨を明らかにしております。

  なお,受益者名簿の閲覧・謄写に関しましては,受益者の個人情報や受託者の営業秘密を保護する観点から,帳簿等の閲覧・謄写の場合と同様に,受託者は,①から⑦で列挙した正当な理由がある場合には受益者名簿の閲覧・謄写を拒むことができるとする方向で規律を整備する方向で考えております。

● それでは,今の範囲で御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 今のところの最初の,「信託行為の定めに基づく単独受益者権の制限について」という部分なのですけれども,結局,ここの表だけを見ると,やはりそう簡単には制限できないよというふうなニュアンスで語られているのが--さっきの続きなのですけれども,信託管理人が選任された場合には,そのうちの幾つかについて,なしになるのですね。

それだとどうかなということなのですけれども,今の私の狭い経験で言うと,私は,ある公益信託の運営委員会の委員というのをやっておりまして,会議になると,そこへ信託管理人の方が出てこられます。

それは,その信託銀行の関係の弁護士さんなんですね。だから,これで新しい制度を拡充していくのはいいのですけれども,そうすると,私が受託者であれば,やはり信託管理人を置いておきましょうよということになりかねない,現状の実務を。

今のところ,それで問題があるかというと,何ら問題がないのですけれどもね。

誤解を生むようだと困りますから。そうなのですけれども,しかし,今はそうだけれども,これが広がっていってどうだろうかという話にはなるので,この各受益者単独というところを,この幾つかの点だけですから,信託管理人のところへ全部行ってしまうということにする必要が本当にあるのだろうかというのが私の疑問です。

● 御意見はよく分かりました。先ほどの問題と関連する問題ですね。

 それから,今言われた,信託管理人というのはどういう人間がなっていいかという問題も恐らく今の問題には本当は入っていて……。

  公益信託だから余り問題ないのでしょうね。まあ,それも問題はあるかもしれないけれどね。いや,ちょっと言い過ぎました。

  ほかに。

● 私は,第49の受益者が複数の信託の場合の意思決定方法について意見を申し上げたいと思います。

 今回,全員合意ということの現行法にかえて多数決制度を導入されるということについては,非常に賛成でございます。

  ただ,その中で,債権の流動化というところで考えまして,質問が一つと,要望が一つございます。

  一つは,この第49の2の(2)の「議決権の数・受益者集会の決議」というところで,「受益者は,信託行為に別段の定めがない限り,それぞれ1個の議決権を有するものとする」ということなのですけれども,別段の定めがあるということがあればまた別なのでしょうけれども,基本的に考え方をお尋ねしたいのは,債権の流動化では,すべての受益権が同じではない,幾つかの受益権のグループに分かれているというところがあります。

一般的には優先的受益権とか劣後的受益権,それからオリジネーターが持っている売主の劣後受益権というようなものがあると思うのですけれども,そういったときに,基本的にどういうふうに考えたらいいのかということと,これは後の取得請求権のところにもちょっとかかわってくるのですけれども,その際にどういうふうに考えたらいいのかなということがあります。

御承知のとおり,商法では,普通株式のほかに,優先株式,劣後株式があって,通常は普通株式のもとに意思決定がされるということになって,特定の場合に優先株式等が議決権を持つというつくりになっているのですけれども,債権流動化の場合は普通株式に該当するようなものがないということが一つあるので,そういった質問をさせていただきました。

  二つ目に,次の26ページに書いてございますアステリスク5のところなのですけれども,債権者集会や書面決議とは別に,そもそも決議の方法及びその要件についても信託行為で自由に定めることができるものとするということについては,非常に賛成でございます。

ただ,この場合,その反対として,自由に信託を設計する当然の少数の受益者の保護という観点から,何らかの強行規定をもって少数受益者を保護しないといけないのではないかという考え方が示されておりまして,それは一般的にはしようがないのかなというふうに思っております。

  しかしながら,先ほども申し上げましたけれども,債権の流動化のときに,受益権の種類がいろいろございますので,そういったときに,もともと差がある受益権があって,そのときまでそういった種類の受益権を保護する必要がないケースがあるわけですね。

したがって,そういうものまで強行規定という形になってしまうと,非常にスキームがつくりにくくなってしまう可能性はないのかなと。

  これについては全然詳しく検討しておりませんので,杞憂にすぎないのかもしれないですけれども,例えば,反対する受益者の受益権取得請求がされるという中で,幾つかの受益権がなくなってしまう,例えば優先部分がなくなってしまうとか,実際にある程度の時間がたっていきますと,だんだん劣後部分の方が極めて大きくなってしまって,優先部分は全体からすると受益権としては非常に少ない,劣後の部分だけがまだたくさん残っているとか,そういったものもありますし,また,劣後受益権もいろいろなパターンがありまして,スキーム自体の中で劣後という形で--その中では当然順番を決めたりはしているのですけれども,当社の例なんかでは,オリジネーターが持っている受益権,複数のスキームの中に発生している劣後受益権をまたまとめまして,それを更に優先部分と劣後部分に分けて売却するなどするわけです。

そうすると,またその中での関係もかなり複雑になってきますので,強行規定という形で一律の保護というものを決めた場合,そのあたりにかなり影響が来るのではなかろうかというふうに懸念をしております。

これについては,これから詳しく検討したいなというふうに思っておりますけれども,そのあたりはいかがなのかなということで,思いつきなのですけれども,受益権がすべて平等の場合はこれで構わないと思うのですけれども,受益権について差がある場合については別段の定めがあるというようなものがあれば,うまくいく可能性はあるのかなというふうな感想も持っております。

● これは○○幹事の説明の中にもありましたけれども,いろいろな種類で,かつ優先・劣後の関係があるような,そういう受益者の種類があったようなときにどういうやり方でやるかと。結構難しい問題なのだろうと思いますけれども。

● まず,一つは,それぞれ1個の議決権でいいか,受益権の種類はいろいろあるではないかという御指摘ですが,そこは30ページのところにも書かせていただきましたが,そのように受益権の内容が均一でないからこそ,細かな類型の違いに応じて議決権の数を法律で一律に調整するというのはなかなか難しいと。

それであるからこそ,デフォルト・ルールとしては1受益者1議決権というよう

にさせていただいて,あとは,微妙な違いに応じて議決権を変えるのは信託行為に任せたいというのが,ここでの考え方でございます。

  それから,受益権取得請求権につきましては,これは我々は強行規定と考えておりますけれども,先ほど言いましたが,あらゆる変更ないしは基礎的な変更につきまして常に取得請求権が認められるというわけではないと。

どういう場合に取得請求権が認められるかというのは,正にこれから検討したいと思っているところですが,恐らく,実質的な変更に当たるような場合というような,そんな感じの要件になってくるかと思いますが,そうすると,そもそもの受益権の中である程度劣後していたものについて,それが多少変わって劣後がもっと劣後するようになったとか,その程度の話であれば重大な変更には当たらないが,優先していたものがいきなり劣後するとか,それはさすがに重大な変更とか,そのような実質的な判断というのが可能になるのではないかというふうに考えておりますが,その点を,御指摘なども踏まえつつ,また,これについては次回会合以降で検討する点でございますので,御指摘があれば,また後日でもいただければというふうに思います。

● 第48,第49,第50,3点意見を申し上げたいと思います。

  まず,第48の単独受益者権の制限のところでございますが,これについては,甲案,乙案というふうに提示がございますので,基本的には,私どもの業界としての多数意見は甲案ということです。

それ以外は乙案かというと,そうではなくて,基本的には信託の柔軟性を確保するという観点から,信託違反行為の第三者に対する取消権だけではなくて,ほかの単独受益者権についても信託行為の定めによって制限ができないかと,そういう少数意見がございました。

  実際の多数派の甲案の方の理由なのですけれども,これは22ページのところにも書いてありますけれども,実際に受益者が多数いますと,当然,それぞれの受益者にとって得なのか損なのか,それはいろいろ評価が分かれるということでございますので,あと,濫用ということもやはりどうしても出てくるものでございますので,信託行為によって制限を認めてもらいたいということでございます。

  次に,第49の受益者が複数の意思決定方法のところでございますが,ここの部分につきましては第2回に意見を申し上げましたが,引き続き,受益者が複数の意思決定方法として,多数決が導入されたということと,その方法について,先ほど来出ていますけれども,信託行為の定めで自由に設計できると,ここの部分については従来から要望していた部分でございますので,賛成だということでございます。

  ただ,これも先ほど○○委員の方から出ていましたけれども,アステリスクの5のところで,それに伴う不都合についての対応につきまして,決議に反対する受益者に取得請求権を認めるという形のものであるとか,ほかの強行法規を求めるという点につきましては,信託の特色であります柔軟性をちょっと阻害するようなことも出てくるのではないかということで,業界の意見の大勢としては,それについても,強行法規化というのは勘弁していただきたいというところでございます。

ただ,一部の意見としては,とは言うものの,何らかの制限はやはり必要なのではないかというような意見もございました。

  あと,複数の意思決定方法につきましては,これは多分後で議論されることになりますけれども,合同運用の信託についても適用される部分があると思いますので,そのときにまた御議論いただければいいと思いますけれども,そういう問題があるということをテークノートしていただければと思います。

あと,第50の受益者名簿のところでございますが,これが最近になっていろいろと議論が錯綜していまして,意見としては,1の名簿の作成義務の規律と,2の閲覧・謄写請求,このいずれも基本的には強行規定であるということだろうと思いますが,これをデフォルト・ルールにしていただけないかということでございます。

  まず,1の方なのですけれども,第2回の会議のときにちょっと申し上げたのですが,例えば投資信託というものを考えた場合に,受託者は基本的には受益者を把握していないというようなことがございまして,これから先以降いろいろな信託が出てきたときに,把握できないものもかなり出てくるのではないかと。

ということは,受益者名簿というのは果たしてつくれるのだろうかというのが,ちょっと余り自信がなくて……。

例えば,投信ということで限定して考えますと,当然,投信法という特別の法律がありますので,そこで緩和するという方法が一つあると思います。

それと,無記名証券が大半でございますので,例えば無記名証券については名簿を設けないという方法もあるかもしれません。

あと,第53の提案5で言う甲案ですか,これをとればいいというようなお話かもしれませんけれども,それ以外に,信託業法も変わりまして,受益権の販売業者というのが出てきて,受益者との関係は専らその販売業者が相対する,そして受託者と受益者の距離があいていくというような種類の信託もあるのではないかと。

その場合に,どこまで受益者名簿というものを作成できるか,そこら辺のところは,今後の展開次第によっては,できないようなものもあるのではないかということがありまして,基本的にはここはデフォルト・ルールにしていただけないかということでございます。

2の閲覧・謄写請求のところですが,当然,名簿がないとできないというのが一つあります。

それと,よく株主名簿とパラレルに言われますけれども,株主名簿というのは基本的に社会的に閲覧できるのだということが認知されておりますが,信託の名簿につきましては,基本的には,現行法で言ったら見れませんので,見れないものだということを前提に組み立てられています。

その中で,法律が変わったら当然考え方も変えるのだというお話かもしれませんけれども,例えば私が個人的に考えても,横のつながりを重視して,権利行使するために横のつながりを知りたいということで名簿の閲覧をするのと,プライバシーの観点から自分のことを知られたくないというのと,そのどちらに重きを置くのかというところではないかと思いますが,今の一般のお客さん,受益者の方々に聞いてみたら,多分,知られたくないという方も結構いらっしゃるのではないかなと。

そういう観点から,やはり一律に決めてしまうのではなくて,信託ごとにデフォルトという形で対応していくのがよろしいのではないかなと思います。

  あと,ここの規律につきましては,基本的には賛成なのですけれども,強行規定ではなくて,デフォルト・ルールにというところでございます。

● 第49で,総論的な意見と,質問を二,三,それと第50で質問を一つお願いします。

  受益者集会に関する強行法規を採用すべきかどうかという話についてでございますけれども,これについては,第2回で私が申し上げましたとおり,基本的にはデフォルト化を追求すべきであるということでございます。

  その意見をもう1度繰り返したいところでございますけれども,もちろん,先ほど○○幹事がおっしゃられたとおり,信託の重要なところである信託の柔軟性であるから自由ということもありますけれども,考えてみますに,もう一つ,1の(2)で,そもそも多数決についての方法というのは,別に受益者集会に限らず,書面その他の方法によって行うことができるということが書いてあります。

そうしますと,書面その他の方法については別に規律がないということですので,ここで平仄を考えますと,受益者集会を選んだときに,勢い団体性の議論が入ってきて,かつ,ある意味セットとしてやってくると。仮に定足数であるとか特別決議ということの意思決定に関することだけであればいいとしても,先ほどから出ています反対者の取得請求権というのもセットで出てくるということを考えますと,その他の方法によって行うことと,受益者集会との乖離が非常に大きいのではないかと思います。

うがった見方をするのであれば,例えば,「その他の方法」というのを,自治的に,受益者集会の方法と同じようなその他の方法でやると,ただし反対者の取得請求権はないものとして,独自の受益者集会でない集会を行うというのも,1の(2)であれば可能なような感じがしますので,そうしますと,2の強行法規を維持する意味がどこまであるのかということを思います。

  あとは,仮に強行法規であるということを前提とした場合の若干の御質問なのですけれども,ではどこまでデフォルトなのかということでございますが,1の(1)の中で,基本的な決議事項の場合というのは,この表によって判断すべきだというふうになっているわけですが,これ以外の事項というのもあるとは思うのですけれども,この場合に,これはそもそも受益者集会の決議事項になるのかどうか,また,その場合にそれが普通決議なのか特別決議なのかということが判然としないわけなのですけれども,例えば,セキュリティー・トラストが出てきた場合に,では担保物を買いますというようなことがあると。

一つの考え方は,これはもう信託そのものの変更ということで,信託行為の変更ということで第57の規律によるというような形で出てくるのかもしれませんけれども,片や,例えば担信法で言う担保の変更ということで何らかの決議に付すという考え方もあるとは思うのですけれども,私が申し上げたのは単なる一例でございますけれども,このような,この項目に想定されないようなものがあった場合に,その会議体ではどういうふうに扱うのかということを御質問させていただきたいと思います。

  二つ目は,決議の方法なのですけれども,いわゆるみなし賛成ということが可能なのかどうかということでございます。

株式会社の場合では,御案内のとおり,例えば,賛否を問うて,何も書かなかった場合には賛成とみなすというのを書くというようなことが行われておりますけれども,それに加えて,非常に自由な会議体ということを目指すのであれば,例えば,極端な話,返送しなかった場合は賛成とみなすというようなことも可能ではないのかというふうにも思います。

先ほどの1の(2)の中での「その他の方法」という,いわゆる私的自治の,会議体でない場合にはそういうことも可能なのかなと。

契約法の考え方からしても,あらかじめそういうふうに決めておけば可能ではないのかなというふうには思うわけですけれども,では受益者集会の場合にそういう方法が認められるのかどうかということです。

  それから,議決権で何を1票とするのかということについて,これは余り絶対的な意見を持っているというわけではないのですけれども,質問があります。

やはり多様なニーズに応じるためにデフォルト化賛成ということで,ここに書いてありますとおり,基本的には一人1票でいいであろうと。

商事信託の場合にはいろいろなニーズがあるわけだけれども,基本的にはそういうのは信託行為で決められるわけだから,それで対応すればいいだろうということで,基本的にはデフォルト・ルールを前提とし,ただし原則は一人1議決権というふうに整理されていると理解しております。

  ただ,考えるに,その原則自体,本当に一人1議決権でいいのかどうかということがございます。

恐らく,民事信託の場合で特別な場合,どちらを--つまり,持分権に応じて1議決権と考えるのか,一人と考えるのかということについてはいろいろな判断があり得るとは思うのですけれども,私は,民事信託であったとしても,いろいろな金銭的な,経済的なことを目的とした信託ということが多いと思いますので,民事信託としても原則は何らかの持分ということを想起して,それを単位とするということが望ましいのではないかと。

  そこで質問なのですけれども,ここで一人1議決権とした理由といいましょうか,例えばこういう場合にはやはり一人1議決権にしなければ不便だな,また,当事者の意思からしてその方が合理的だなというような具体的なものがあるのかどうかということについて,最後の質問とさせていただきたいと思います。

  それから,第50の受益者名簿については,簡単な質問一つでございますけれども,基本的には,先ほど○○委員からお話がありましたように,これもデフォルト化ということを希望したいとは思うのですけれども,1点確認したいのは,正当な理由によって拒絶することができるということなのですけれども,これはどういう事項を名簿に載せるのかにもよりますけれども,仮に多様な情報を名簿に載せるということになった場合に,やはり理由によっては,開示の内容,また範囲を限定することもできるのではないかというふうに思っているのですけれども,それがそうなのかということについて確認したいというふうに思っています。

● 第48の単独受益者の制限について,信託違反の取消権について意見を述べさせていただきます。

  今回の御提案は,従前出ております取引の安全と,今回は少数受益者権の取消権の濫用に配慮して御提案されているかと思われますけれども,この制度を作るに当たっては,信託違反行為の抑止という点も是非御検討いただきたいというふうに思っております。

  すなわち,信託違反行為の効力が否定されにくい制度のもとでは,信託違反行為の抑止力が弱まるのではないかというふうに懸念しております。

もちろん,受託者の忠実義務等の規定は存するわけですけれども,抑止効果として一番効力を持つのは,やはり信託違反行為の効果が否定される現実的可能性があるという場合。

こうした制度のもとの方が抑止効果が働くのではないかと思います。

受益者の立場からしますと,信託違反行為の効果が否定されにくいということになりやすいという場合には,もともと受益者が信託目的を基本的に前提として受益権を享受するということにしたにもかかわらず,この範囲外の行為によって負担ないし損害を負わされることになりまして,これは,受益者の立場からすれば,不測の負担を負わされるということになってしまいます。

こうした観点ですとか,あるいは紛争の防止・予防や信託への信頼確保という観点からも,信託違反行為の抑止というのは重要な課題であろうと思われますので,是非,この観点からの制度設計をお願いしたいと。

  このような観点から,甲案,乙案提示されておりますけれども,乙案に賛成する意見を述べたいと思います。

  なお,個人的には,従前述べさせていただきましたけれども,悪意重過失の立証責任についても,制度設計に当たってあわせて考えるべきではないかというふうに考えております。

これとの組み合わせの中でこの単独受益権の制限をどうするかということについても検討すべきかと考えております。

● 今言われた点は,現行の信託法というのは,たくさん受益者がいる場合というのはいろいろな場合があるのでしょうけれども,取消権についてだけはわざわざ32条が入っているというのは,恐らくそういう趣旨でできたのだと思います。

ただ,この規定ができた当時は,そんなにたくさんの集団信託というのは考えていなかったので,集団信託についてはどうするかという問題はなおあるような気がいたしますけれどね。

  以上,幾つか質問等について,ここでちょっとまとめて,○○幹事から。

● では,可能な範囲でお答えいたします。

  まず,受益権取得請求につきましては,受益者集会であればかかるのに,書面その他の方法ではというお話があったかと思いますが,我々の考えでは,いかなる方法をとろうとも,取得請求権は強行規定としてかかるという理解でおりますので,受益者集会だったら取得請求権があるのに,ほかの方法だったらないということはあり得ないというふうに考えております。

 次に,書いていない事項があったときにどうなるかと。我々としては一応網羅しているつもりでございますが,もし漏れている事項があるとすれば,御指摘を是非,また後日でもいただきたいのですが,基本的に自由に信託行為で設計できるという前提をとりますと,そもそも受益者集会の事項にするかどうかが信託行為で定められればいいということになりますので,漏れている事項があるとして,それを受益者集会の対象とするかどうかというのも信託行為で決めていただければいいのではないかというふうに思っております。

それから,いわゆるみなし賛成で,これは,兼営法にあるものですとか,投信法とか,いろいろな法律があるかと思いますが,かねてより問題になっていたところでございましたが,現在の我々の考えといたしましては,そこをどのような方法をとるかというのも,あくまで多数決を前提として,そのもとでの方法というのは信託行為で定めればいいということですので,多数決の前提である上で兼営法のみなし承認のような規律を設けることも,信託行為で定めれば可能であるというふうに,現時点では考えているところでございます。

  それから,議決権について,一人1議決権よりは,受益権の持分で決める方がいいのではないかというような御指摘が,デフォルト・ルールの定め方としてありましたが,その不都合というのは,例えば受益者全員の一致が必要とされる場合,仮にその持分が,ほかの人は全部1万円だとして,一人だけ1円だという場合でも同一といたしますと,その1円の人がノーと言えば権利行使は認められないということになるとやはり不都合であって,一人1票とする方が合理的ではないかというような考え方に基づいたものであるという点を答えさせていただきます。

  あと,取消権の行使について,これは御質問というよりは御意見ということでございますが,確かに,なるべく違法な行為を取り消した方が監督権の行使に資するという観点も全くそのとおりかと思います。

ただ,監督権の行使の方法としては取消権が一番ドラスティックではございますが,その他に,例えば,利益吐き出しはともかくといたしまして,損失てん補ですとか原状回復というような方法もありますので,そのような方法は単独として認めております。

更にその取消権についてもプラスアルファ単独にすべきかどうかというところについては,いろいろな考え方があるかなという,直感的にですが,そういう気がしております。

いずれがいいかというのは,ちょっとまだ分からないというふうに言わせていただきます。

  あと,受益者名簿を一部隠していいかどうかというのは,余り検討していなかったところでございますが,少なくとも現在言えますのは,⑦の請求によって必要と認められる限度を超える請求が行われたときは,見せないことができますので,受益者ごとに区切って,Aの受益者の受益者名簿だけ見ればいい場合には,Bのところは目隠しをして,Aの部分だけ見せればいいということは可能というか,そうすべきであると。A,Bとも見せないのではなくて,少なくともAは見せなければいけないが,Bは隠すことはできるということになると思いますが,更にAで例えば名前だけ見せて住所は隠すとか,そういうのができるかというと,それでこの受益者名簿の閲覧請求権を認めた趣旨にかなうのかという点,疑問がないわけではございませんが,まだ未検討でございますので,御指摘を踏まえて,今後検討させていただきたいと思います。

● ほかに。

● その他の方法によってということが,取得請求権を逃れるようなことができるかという話を御質問したわけですが,それは強行法規だからできないという話なのですが,そういたしますと,例えば,31ページの(3)からの説明の中で反対受益者の取得請求権云々という議論というのは,これはいわゆる1の(2)の,「その他の方法」というところの記述でもあるということで,そうしますと,その「その他の方法」の中で,ほかの受益者集会の規範というのも,「その他の方法」の類型の自由な決め方の中にやはり強行法規的なものが入ってくる余地があるということでございますか。

● はい。どの限度で強行法規かというのはともかくとして,どのような方法をとったとしても,それはやはりそれによって,例えばその方法によって変更されて実質的に害される受益者がいれば,反対受益者が取得請求権を行使できるという点,コアの部分は強行法規であると。方法にかかわらないというふうに考えています。

● 一言で言うと,1の(2)の「その他の方法」というのは,完全なデフォルト・ルールではないと。

● そう定めることはデフォルト・ルールですが,その内実として,受益権や取得請求権がかかるというところは強行的であるという考え方でございます。

● そうすると,私の意見としては,それもデフォルト・ルールにしていただきたいというのがあります。

● 第49について発言させていただきたいと思いますが,受益者が複数の場合の意思決定方法として受益者集会制度を導入するということは,特にディールを中心とする日本の信託の現状を考えると,大変適切な方向ではないかと思うのですが,ただ,説明の中でも出てまいりますように,例えば,「契約自由の原則を踏まえて」という箇所が何か所か出ておりますけれども,この受益者集会による意思決定というのは本来契約の限界があるところから出てきているわけで,あらかじめ事前に決めることができないから,どう決まるか分からないけれども,こういう方法で決定しましょうという制度ですので,契約自由のアナロジーでこの集会制度を規律するというのは,やはり非常に疑問があると思っております。

  もう少し具体的に申しますと,例えば手続的な規定,それから情報に関する規定,それから,少数派あるいは反対派だけではなくて,そもそも出席しなかった人も拘束されるわけですので,そういう人も決議に拘束されるような合理的な手続,情報,それから少数派,反対派,あるいは参加しなかった者の保護について,かなりの強行法規がないと,逆に受益者保護のための受益者集会制度が本来の趣旨に反するものになってしまうのではないかという気がいたします。

特に,そういう観点からいたしますと,種類受益者集会制度のようなものはやはり強行規定として定めておく必要があるのではないかと考えております。

  逆に,会社法の方でも,株主総会の決議の瑕疵を争う訴訟というのは,会社法上争われている類型で最も訴訟が多い。

そういう意味では非常にトラブルになりやすい面があるかと思います。

そういうときには,やはりある程度きちんとルールを定めておいて,逆に決議の効力についてはある程度の効力を高めるという方向も一つあり得ると思いますので,強行法規性を認めるかわりに決議の効力について少し安定的な制度にするといった選択肢も一つあり得るのではないかと思っております。

  それから,受益権の取得請求権についてですけれども,これも本来,受益者による意思決定によって,より健全かつ効率的な信託の運営を目指していると思いますので,取得請求によってかえって信託の基礎が揺らいでしまったり,信託がうまくいかなくなるということになったのでは,これはもう元も子もない話ではないかと思います。

そういう観点からすると,やはり受益権の取得請求というのは,やはりよほど限られた限定的な場合にのみ認められるものであって,本来の趣旨,集団的な意思決定によって恐らく合理的な決定がなされるだろうと,こういう決定を可能にする限りにおいて限定的に認めるべきではないかと思っております。

  それから,第50の方の受益者名簿について,一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。

  受益者名簿を必ず作成しなければならないということは,特に受益者集会制度を採用していない信託においてはないと思うのですけれども,そのときは,逆に,受益者に対して一定の情報を通知するための公告についての何らかのルール,あるいは信託についての何らかの情報を伝えるための仕組みについて検討する必要があるのではないかと。

逆に,受益者名簿を作るのはコストがかかると思いますけれども,そういった公告等もなかなか大変な場合もあるかと思いますが,最近はIT化の進展等で,ホームページ等も利用してそういった公告を行うということもあり得ると思いますので,その後には柔軟に考えることができるのではないかと。

受益者名簿は,そういう意味では必ずしもつくらなければいけないというものではないというふうに私も思います。

  以上,ちょっと長くなって恐縮ですけれども,3点についてコメントさせていただきました。

● この受益者集会というのは,確かに合理的な意思決定をするための制度としてつくられているので,そこが契約自由で何でも自由になって,かえって合理的な意思決定ではないということになると,意思決定自体が効力を争われる可能性が出てくると,そういう御発言だったと思いますけれども,それなりに重要な御指摘だと思いますね。

これもまだ幾つか検討すべき点が残っていると思いますので,今のような御指摘も踏まえて考えていきたいと思っています。

  それから,第48でしたか,甲案,乙案というのが出ていまして,これも,今までのところ,両方の御意見が出ております。

こういう二つの案が出ているところについては,いずれだんだん集約して決定していかなくてはいけないわけで,今日は時間が余りありませんので,皆さんの御意見を伺うということはいたしませんけれども,基本的には皆さんの御意見を伺いながら,それに沿いつつ決まっていくということだと思いますので。ここは審議会ですから。ということで,皆さんの御意見を積極的に御発言いただければと思います。

本来,もう一つセッションが残っているのですが,今日は途中でいろいろ時間をとってしまったために,全部予定どおりできませんでしたけれども,これで終わりたいと思います。

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2016年加工編   法制審議会信託法部会

第8回会議 議事録

第1 日 時  平成17年1月14日(金)  自 午後1時00分

                       至 午後4時44分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(5)(続き)について

   信託法の見直しに関する検討課題(6)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,時間になりましたので,法制審議会信託法部会を開催したいと思います。

  どうもお忙しいところお集まりいただきまして,ありがとうございました。

   (関係官の異動紹介省略)

● 本日は,具体的な議題に入る前に,事務当局の方から,当部会の審議スケジュールの変更について皆様にお諮り申し上げたいと思います。

  当部会の審議スケジュールにつきましては,昨年10月1日に開催されました第1回会議の冒頭におきまして,事務当局より,信託法の改正についての関係法案を本年の臨時国会に提出することを目途として,本年2月中に要綱試案を取りまとめた上でパブリックコメント手続を行い,その結果も踏まえて,本年7月までに要綱案を決定すること等をお諮り申し上げて,部会の御承認をいただきました。

  その後,当部会におきましては,このスケジュールに基づきまして,昨年は合計7回にわたり会議を開催いただきまして,多岐にわたる論点について,順調かつ精力的に御審議をお進めいただいてきたところでございます。

  もっとも,今般の信託法の全面改正に当たりまして検討を要する事項は,これまでの御審議からも明らかなとおり,極めて複雑かつ多岐にわたるものでして,実務界に与える影響の大きさにかんがみましても,拙速に陥ることなく,引き続き慎重かつ綿密な御審議をいただくことが適当であると考えております。

  そのほか,公益法人制度の見直し状況や関係法令の整備の必要性などにもかんがみまして,事務当局といたしましては,当初の審議スケジュールを改め,信託法の改正についての関係法案の提出時期につきましては,平成18年の通常国会を目途としたいと考えております。

  なお,このようなスケジュールの変更に伴いまして,当初のスケジュールでは本年3月に行うこととしていましたパブリックコメントの手続につきましては,私益信託部分を中心として本年6月ごろに行うこととし,その後も私益信託部分を中心に審議を進めまして,他方,公益信託部分につきましては,公益法人制度改革における作業の進捗状況をも踏まえまして,本年の秋以降に本格的な審議を行っていただくことを予定しております。

また,当部会における信託法改正要綱案の決定は本年の年末か年明けに,法制審議会総会における要綱の決定,法務大臣への答申は,来年2月ごろとなることが見込まれるところでございます。

  最後に,部会の開催頻度につきましては,これまでも月2回の審議をお願いしまして,相当の御負担をおかけしているところでございますが,信託法の改正項目が相当多数に上ることが見込まれることにかんがみますと,今後も差し当たり毎月2回の割合で隔週金曜日に部会を開催する必要があると考えております。そこで,当部会のとりあえず本年7月までの具体的なスケジュール案を,本日席上配布させていただきました。

  なお,具体的な審議事項及び本年9月以降のスケジュール案などにつきましては,今後の審議状況等を踏まえつつ,改めて提案申し上げていくこととしたいと存じております。

  委員・幹事の皆様には引き続き多大な御負担をおかけすることとなりますが,よろしくお願い申し上げたいと存じます。

  以上のとおり,お諮り申し上げます。よろしくお願いいたします。

● そういうことですので,半年延びたというようなところがありますので,大変でございますが,よろしくお願いいたします。

  ちなみに,9月以降の日程についてはこれから具体的に決まっていくのだと思いますけれども,曜日は大体金曜日というふうに理解してよろしいですか。

● はい。

● 皆様のいろいろな日程調整などあると思いますので,曜日は大体金曜日を中心とするというふうに御理解ください。

  それでは,ここで何か御質問等ございますでしょうか。--よろしいですか。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。

  今日も幾つかのセッションに分けて審議していただきたいと思いますので,その分け方等につきましても,○○幹事からお願いいたします。

● 本日も,大きく四つに分けて議論させていただきたいと存じます。

  まず最初に,前回積み残しました受益権の譲渡,有価証券化,消滅時効についての御審議をお願いします。

2番目に,信託行為の変更,併合,分割につきましての御審議をお願いしたいと存じます。

3番目に,反対受益者の受益権取得請求権についての御審議をお願いしたいと存じます。

最後に,信託の終了原因と信託の清算についての御審議をお願いしたいと存じます。

  なお,本日は所用がございまして,5時より少し前に終わるように見込んでおりますので,どうぞ御協力をお願い申し上げます。

● それでは,第1セッションからお願いします。

● それでは,早速,「第52 受益権の譲渡について」というところから御説明を申し上げたいと存じます。

  現行法上,受益権の譲渡に関する法律関係は明確ではございませんが,学説上は,受益権は指名債権に準ずるものと理解した上で,その譲渡性を原則的に承認し,対抗要件についても指名債権に準ずるものと解する見解が有力でございます。

  もっとも,受益者は権利のみならず補償債務や報酬債務をも負担し得べき地位にあることから,このような特殊性にも配慮しつつ,受益権の有価証券化に関する規律を整備する前提としても,受益権の譲渡に関する一般的な規律を明らかにすることが適当であると考えるものでございます。

 なお,以下におきましては,受益者が信託行為に基づいて有する権利義務の総体としての地位を「受益権」ということとし,他方,受益者がかかる受益権に基づいて信託の利益を受ける債権を「受益債権」と呼んで区別することとしております。

  まず,1でございますが,これは受益権の譲渡性に関する提案でございます。

1番目として,受益者は原則として受益権を自由に譲渡できること,2番目としまして,受益権の譲渡については受託者の承認とか承諾は必要としないこと,3番目に,ただし,受益権の譲渡がその性質に反するとき,信託行為に受益権の譲渡禁止の特約があるとき,あるいは受益権の譲渡が信託目的に反するときには,例外的に受益権の譲渡ができないことなどを規律したものでございます。

  次に,2でございますが,これは,受益権譲渡に関する対抗要件につきましては,ゴルフクラブ会員権の譲渡に関する判例なども参考といたしまして,指名債権の譲渡に関する民法467条の規律に準じまして,受託者に対する通知又は受託者の承諾をもって受託者対抗要件とするとともに,確定日付のある証書による通知又は承諾をもって受託者以外の第三者対抗要件とするものでございます。

  次に,3ですが,これは受益権譲渡における受託者の抗弁事由に関するものでございまして,受託者は,通知又は承諾があるまでに譲渡人たる旧受益者に生じた事由をもって譲受人たる新受益者に常に対抗できることとし,通知はもちろん,異議をとどめない承諾にも,民法468条のような抗弁事由喪失の効果を持たせないとするものでございます。

  次に,4でございますが,これは,受益権の譲渡に受託者の承諾を要しないこととしたことのいわば見返りといたしまして,受託者対抗要件たる通知又は承諾までに既に旧受益者に発生していた補償債務又は報酬債務につきましては,受益権の譲渡後も譲渡人が譲受人とともに併存的に債務を引き受け,弁済の責任も負うことを原則といたしますとともに,旧受託者の債務の負担につき信託行為に別段の定めのある場合には,受託者は,善意の譲渡人に対してはかかる特約に基づく不利益を負わせることはできないとするものでございます。

  なお,提案では,通知又は承諾があるまでに生じた債務につき併存的責任を負うということをデフォルト・ルールとしておりますが,例えば債務の発生直前に受益権の譲渡がなされる場合などを想定しますと,受託者保護の観点から,例えば通知又は承諾があるまでに生じた原因に基づく債務,あるいは通知又は承諾後一定期間内に生じた債務のようなものにつきまして併存的責任を負うことをもってデフォルト・ルールとすべきであるか,それとも,受益者の債務はせいぜい二次的債務であることや,受託者としては譲渡制限特約や併存的責任を広げる特約で対処できることなども考えますと,デフォルト・ルールとしてそこまで併存的責任を広げることはやはり適当ではないか,いろいろな考え方があり得るところでございますので,御意見があれば是非とも御教示を賜れればと存じます。

  なお,以上はいずれも受益権の譲渡に関する規律でございますが,一般の契約におきましては契約上の地位の移転と契約の一部である指名債権部分の譲渡とが別個に観念されますように,受益権の譲渡とは別に,受益債権の譲渡を観念すべきかについて検討を試みましたのが,44ページ以下の5の記述でございます。

  ここでは,考え方の一例といたしまして,甲案と乙案とを併記しております。

  このうち,甲案でございますが,これは,一般の契約を類推しまして,受益権が契約上の地位,受益債権が契約に基づく指名債権に相当するものと考え,受益権の譲渡とは別に,受益債権の譲渡のみ行うこともできると考えるものでございます。

 なお,この考え方のもとにおきましても,受益債権の譲渡の範囲には制限がないとする考え方と,個々の受益債権のすべて,あるいはこれに相当する受益債権の総体を譲渡することは,受益債権を有しない受益者を認めることになるから許されないとする考え方とがあり得るところでございます。

  これに対し,乙案でございますが,これは,株式についての考え方を類推いたしまして,受益権が株式に,受益債権が基本権たる配当請求権と支分権たる具体化した配当請求権に相当するものと考えまして,具体化した支分権たる受益債権を除いては,受益債権の譲渡のみを行うことはできず,常に受益権の譲渡として行う必要があると考えるものでございます。

  この点につきまして,資料47ページの(注6)におきましては,更に折衷的な考え方も示させていただいておりますが,受益権の譲渡と受益債権の譲渡の関係については,譲渡のみならず,差押えの局面におきましても問題となることが考えられますので,条文化の要否はともかくといたしまして,考え方をいかに整理すべきかにつきまして御審議をいただけると有り難いと存じます。

  以上が,受益権の譲渡についての提案でございます。

  続きまして,第53の受益権の有価証券化につきましての提案に移らせていただきます。

  資産流動化目的での信託など,信託を利用した金融商品の市場の活性化のためには,受益権の流通性を高める必要があるとの観点から,貸付信託法,投信法,資産流動化法などの特別法のみならず,一般法である信託法におきましても受益権の有価証券化を認める規定を設けるべきであるということが指摘されております。

そこで,必要的にではなく,あくまでも信託行為に定めた場合ではございますが,受益権についての有価証券--すなわち受益証券でございますが--を発行できることとした上で,受益証券の類型,譲渡の方法及び効力,受託者及び第三者への対抗要件などにつきまして規律の整備を図ろうとするものでございます。

  まず,受益証券の法的性質につきましては,権利の流通性を高めるという目的から,いわゆる講学上の無記名証券とすること,その上で記名式と無記名式の双方を発行できるとすること,株式と同じく有因証券でありまして,その表章する受益権の内容は証券の記載ではなく信託行為によって定まること,また,無記名証券であるという性質にかんがみまして,受益権の譲渡には譲渡の合意とともに受益証券の交付を要すること,受益証券の所持人にはいわゆる資格授与的効力が付与され,善意取得を認めること,以上につきましては第2回会議でも御説明したとおりでございます。

また,法律関係の複雑化を回避すべく,証券化された受益者の地位が譲渡された場合には原則として委託者の地位も移転いたしますが,委託者の地位を固定し,受益権のみを流通させるタイプの信託も考えられますので,信託行為をもってこの原則が適用されないものとすることも可能としていることも,第2回会議において御説明したところでございます。

  そこで,以下におきましては,第2回会議以降,事務当局におきまして更に検討を進めた事項につきまして,2点,御説明を申し上げたいと存じます。

  まず第1は,資料の5及び6に記載しておりますとおり,受益者名簿の作成の要否及び受益証券の譲渡の対抗要件につきまして,報告書に記載しておりました案を甲案といたしまして,新たに乙案というものも提示した点でございます。

  従来の甲案でございますが,これは,記名式の受益証券については株式に類似した取扱いをするものでありまして,無記名式の受益証券については無記名社債に類似した取扱いをするものでございます。

具体的には,記名式についてのみ受益者名簿の作成を要するものとした上で,対抗要件につきましては,受託者との関係では,記名式については受益者名簿の記載又は記録により,無記名式につきましては券面の占有によるものとし,他方,第三者に対しましては,記名式,無記名式を問わず券面の占有によるとするのが,甲案でございます。

  これに対しまして,乙案でございますが,これは,記名式,無記名式いずれについても受益者名簿の作成を必要とした上で,対抗要件につきましては,受託者に対しては,記名式,無記名式を問わず受益者名簿の記載又は記録によるものとし,他方,第三者に対しましては,記名式につきましては,受益証券の占有のほか,券面への氏名または名称の記載を要するものとし,無記名式については券面の占有によるものとするものでございまして,資産流動化法の174条1項・2項と同様の取扱いをするものでございます。

  この乙案というのは,受益者に対しましては,信託の類型を問わず,受託者に対する各種の監督権能や信託行為の変更・信託の終了に関与する権限が認められていることにかんがみますと,その権利行使の機会を確保することを重視して,記名式,無記名式を問わず,受益者名簿の作成を要するとするものでございます。

  これに対し,甲案でございますが,これは信託の類型によって,例えば投資信託など,基本的には配当を受領するにとどまり,それ以上に法律上認められている各種の権利の行使が実際にされることは少ないと考えられる社債タイプの信託商品と,配当を受領する以外に権利の行使もある程度想定できる株式タイプの信託商品とが考えられること,常に受益者名簿の作成を要するとした場合の受託者の負担への懸念,あるいは券面への氏名の記載を要求するのが手続的に煩雑であることなどを考慮しました上で,株式タイプの記名式と社債タイプの無記名式のいずれの受益証券を発行するかについては,受託者の合理的な選択に期待しようとするものでございます。

  次に,受益証券が譲渡された場合に原則として委託者の地位も移転することは先ほど申しましたとおりですが,証券の譲受人が証券発行者たる受託者に対する権利のみならず義務までも承継するのは相当でないと考えられることから,委託者の義務,例えば報酬支払義務などにつきましては承継されず,受益者が補償支払義務や報酬支払義務を負担することも認めないこととしまして,これらについては信託行為に基づく例外的な定めも許容されないことと結論したものでございます。

  なお,受益権の有価証券化につきましては,更に進めまして,受益権を振替制度の対象としてペーパーレス化を図る実務上のニーズがあることが第2回会議などで指摘されております。資料49ページのアステリスク3に記載しているところでございまして,一般の受益権も振替制度の対象とすることにつきましては,今後検討していきたいと考えているところでございます。

  また,同じく資料の52ページ,(注1)記載のとおり,実務上,信託財産を引当てとした債券発行を認めるニーズがあると言われておりまして,第2回会議におきましても,信託財産を引当てとする債券発行ができると好都合ではないかと考えているという御意見もございました。

この点につきまして,一体具体的なニーズがどういうものか,このような債券発行を認めることのメリットはどこにあるのか,受益権の複層化によって対応できないということがあるのか,などにつきましてもう少し御教示いただけると有り難いと存じております。

  以上が,受益権の有価証券化についての提案内容でございます。

  最後に,第54といたしまして,受益債権等の消滅時効についての提案に移らせていただきます。

  なお,あらかじめ申し上げますけれども,56ページの(注1)に記載したところでございますが,「受益権」とは,受益者の有する権利義務の総体,すなわち受益者の地位を言うものであると整理しておりますので,契約上の地位たる受益権自体ではなくて,そこから生ずる「受益債権」,すなわち信託の利益を受ける債権の部分が消滅時効にかかるものとして規律を設けることとしております。

そして,預託金会員制ゴルフクラブ  の施設利用権の消滅時効と会員権の消長に関する平成7年9月5日の最高裁判決も参考にいたしますと,消滅時効の援用によって受益債権が消滅した場合には,受益債権を基本的な構成部分とする受益権ももはや包括的な地位としては存続し得なくなると考えられまして,その結果,ほかに受益者がいるような場合ではない限り,受益権すなわち受益者が不存在となって,当該信託は目的不達成により終了し,その結果,行使可能となる帰属権利者の残余財産分配請求権もまた時効消滅した場合には,信託財産は信託の拘束から完全に解かれて,受託者の固有財産に帰属することになると整理していることをあらかじめ付言申し上げます。

  提案内容の1でございますが,これは,受益債権の消滅時効の時効期間とその起算点,それから受託者が消滅時効を援用するに当たっての手続的要件,更に受益債権の除斥期間に関する提案でございます。

  まず,(1)でございますが,受益債権の消滅時効に係る時効期間につきましては,受益権が民法167条2項の「債権又ハ所有権ニ非サル財産権」に当たる性質を有するものであるとしまして,20年とする見解もございますが,ここでは,資料54ページの①ないし③に記載した理由から,「債権」に係る消滅時効に関する規定に従うものといたしました。

その結果,例えば通常の民事信託における受益債権の消滅時効期間は民法167条1項によりまして10年となり,営業信託における受益債権の消滅時効期間は商法522条により5年となるというふうに考えられます。

更に,前回,受益者の利益の享受というところで申しましたとおり,受益者は特段の意思表示を要することなく当然に信託の利益を享受することになりますことを踏まえまして,受益者自身が受益者となったことを知らないままに消滅時効が進行してしまう弊害を回避するため,受益者として指定された者が受益者となったことを知った後でなければ消滅時効が進行しないこととしております。

  次に,受託者が受益者の受益債権について消滅時効を援用することは,その受益者の利益の犠牲のもとに他の受益者や帰属権利者が利益を得ることが考えられますので,受託者の負担する忠実義務に抵触することになることが考えられます。

そこで,受託者の忠実義務を確保する観点から,受託者が受益債権の消滅時効を援用するためには,(2)のとおり,原則として時効期間の経過後におきまして,一定の猶予期間を置いた上で,受益債権の存在等を受益者に通知することを要し,猶予期間内に受益債権の請求がなかった場合には,これをいわば消極的な同意とみなして,忠実義務が解除され,消滅時効を援用することができることとするものでございます。

  なお,このような受託者の通知義務につきましては,(3)のとおり,例外を設けることとしております。

 最後に,(4)におきましては,受益債権は,受益者がこれを行使できるときから20年の経過をもって除斥期間にかかり,消滅することといたしました。

これは,(1)のとおり,受益債権の消滅時効の起算点を受益者の主観的認識にかからしめておりますので,受益者が自己が受益者となったことを認識しない限り,いつまでたっても受益債権が消滅時効にかからないこととなる弊害を回避しようとするものでございます。

  なお,除斥期間の場合,受益債権は,受託者による援用の意思表示を要することなく,客観的な期間の経過をもって当然に消滅することとなり,援用が忠実義務に違反するかといった問題が生じませんので,忠実義務違反の解除の要件たる(2)の通知といったことも必要ないことになると考えております。

  次に,2でございますが,これは,信託終了後の残余財産の引渡請求権に関しましても,受益債権と同様に,一定の期間の経過をもって消滅時効又は除斥期間にかかること,受託者が消滅時効を援用するに当たっては原則として受益者に対する一定の通知を要することなどを規律したものでございます。

● それでは,受益権の譲渡から受益債権等の消滅時効のところまでの間で御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 第53の有価証券化と第54の消滅時効のところについて,若干の御意見を申し上げたいと思います。

  まず,有価証券化のところでございますが,第2回の席上におきまして,受益権の有価証券化につきましては振替制度を利用できることを前提にしてお願いしたいということを申し上げていましたが,現在も当然同様の意見でございますので,是非ともお願いしたいということです。

  あと,各論的なところでですけれども,受益証券の受託者の対抗要件のところでございますが,第2回の席上におきまして,無記名のものについても受益者名簿のところを対抗要件にしていただきたいというふうに申し上げまして,なおかつ,前回の席上で,受益者名簿が作成できない場合もありますと,ちょっと矛盾したようなことを申し上げております。

実際,ちょっと困っておりまして……。ただ,特に受益者名簿についてはやはり作成できないということもあるのではないかということもかんがみまして,非常にわがまま的な話で言いますと,場合分けするような対抗要件というのができるのであれば,そういう形でお願いできないかということでございます。

  2点目は,先ほど○○幹事の方からもお話がありましたけれども,信託財産を引当財産とする債券の発行,これについても,現状,当然やっておりませんので,どこまでのニーズがあるかは分かりませんけれども,やはり大量な資金を調達する場合であるとか,複層化を明確にするような場合,そういう必要性からニーズはあるのではないかなと思います。

先ほど,何かそれ以上の理由はというようなお話がありましたけれども,もう想像にすぎませんので,なかなか明確なことは言えないのですけれども,やはり受益者の権利を要しないような債券というものができるというのは,そこは違うところではないかなというふうに考えております。

  次に,消滅時効のところにつきましては,総論的には,今は規定がございませんので,こういう規定を設けていただくということについては賛成ということでございますが,実務的なところに落として考えますと,これはひょっとしたら実務家の方が工夫してやらなければいけない部分ではないかと思いますけれども,2点ほど問題があるので,ちょっと申し上げたいと思います。

  1点目は,例えばという話ですけれども,貸付信託で15年間たったものがありますと。5年間が満期ですので,要するに消滅時効期間を過ぎたようなものがあって,その通知を持ってお客さんが来られたと。

そのときに,どうも残高がないようだと。

要するに,払い出しの伝票等については割と短期間でなくしてしまいますので,その人に払い出ししたかどうか分からないけれども,元帳については割と長期間残っておりますので,残高があるかないかというのは大体分かりますと。

ところが,その人に払ったかどうかは分からないという状況がありまして,こういうときに時効を援用して払いたくないというのが,時効制度を導入していただきたいというニーズのうちの一つ,大きなニーズのうちの一つなのですけれども,そういうことを前提にした上で,この規律に置きかえてみますと,ちょっと不都合がありまして,援用する際に,残高がありませんので,通知というのは当然しておりません。

ということになりますと,「受託者が受益債権が存在しないと信ずるに足りる相当の理由がある場合」というのが要件になっていますので,結局,その人に対して払い出しをしたような伝票類がない限りにおいて,なかなかそんな証明もできないと。

ということになりますと,実際には時効を援用するというようなことが非常にやりにくいのではないかというふうに思われます。

ここら辺については,何か実務上の工夫をして対応しろというようなお話かもしれませんけれども,法的な手当てで何らかの対応をお願いできるのであれば,御検討をお願いしたいということが1点でございます。

  もう1点ですけれども,55ページの一番下の「もっとも,」以下のところですけれども,ある受益権が消滅時効で消滅した場合に,「当該受益者へ給付されるはずであった信託財産は,他の受益者又は帰属権利者が存する場合には,これらの者へ給付されることになる」とされています。

この場合に,ある受益権の消滅時効の満了の時点と,援用して消滅したその間に受益者がその信託から出ていったときには,その受益者を追っかけていってもう一回分配しないといけないと。

時効の場合には遡及する形になるでしょうから,時効の満了した時点まで戻って考えると,そこから後に出ていった人に追加で分配しないといけないというような不都合があって,それはなかなか実務上厳しいのかなというふうに考えておりまして,これにつきましては,例えば「帰属権利者」というのを別に設けて対応するという実務上の対応もあるのではないかということですけれども,実際に,例えばそれを「受託者」というふうに書いて果たして書き切れるかというような問題もございますので,これも実務上対応すべき問題かもしれませんけれども,何らかの法的対応ができるのであれば,御検討いただければなというふうに考えております。

● ちょっと細かい問題ではあったかもしれませんけれども,一つは,この時効の方で言えば(3)のことですか。元帳はあるけれども,伝票はもう捨てられていて,そういうときに時効を援用したい,だけど支払ったということまでの証明はできないので,だから正に時効を援用したいわけですね。そのときに,(2)の方でもって通知をすれば,それでいいわけですね。

● いえ,通知をすれば,その人は残高があると思って来られていますので,じゃあ払い出ししてくださいというふうに多分言われるのではないかと。

● そのときに争いが生じるというのが困ると。

  それで,それに対して,証拠はもうないのでということですね。しかし,それは正に時効の機能みたいなものだという気もしますけれどね。

● 今おっしゃられていたところは,恐らく,(3)では,「(2)の通知をしなかったことについて正当な理由がある場合」というのが基本的な要件になっておりますので,そちらの方に果たして当たるのかどうかということなのだと思います。

先ほど,相当な理由があるかどうかというふうに言われましたけれども,この要件では,正当な理由があるかどうかというふうに考えるのだと思います。

  それで,残高については確認できるけれども,払ったかどうかは分からないというのが,果たして通知をしなかったことについて正当なのかどうかということで判断がされるということ……。

● 残高がその元帳上ない限りにおいては,その人に対して通知をするということはあり得ないと思うのですね。

● ということになりますと,通知をしなかったとしてもしようがないのではないか,つまり,その銀行の処理体制として相当なものであるという前提のもとで,残高しか分からない,それで残高がないということで通知をしないのはもうしようがないのだというふうに言われるのであれば,それが「正当な理由がある場合」と判断され得る可能性もあるのではないかという気はいたします。

 それから,私の方から言わせていただくのがよろしければ,後の方で言われた消滅時効についての問題ですけれども,恐らくは,他の受益者とか帰属権利者とかがいる場合にどうするかという話だったかと思うのですが,その場合は受託者が当然に取れるというふうにはやはり言い難いのではないかと。

つまり,例えば,100万円の債権が3人に,受益者が3人いますというときに,そのうち一人分が時効消滅しましたと。

そうすると,実質的には,100万円分の信託財産が余るわけですが,その100万円分はやはり帰属権利者に行くべきものと言わざるを得ないのではないかという気がいたします。

そうすると,ではその100万円分をその帰属権利者に渡さなければいけない,ところが帰属権利者は今どこにいるかよく分からなくなっているというようなことは,恐らく実務上はあり得ることだろうとは思うのですが,やはりそのあたりは,もしそういうことが問題になる,そういうタイプの信託であれば,契約の定め方の中で多少努力していただくということを考えざるを得ないのではないかなという気がしております。

● そこは再度こちらの方で検討したいと思います。

● ほかに,いかがでしょうか。

● 今の関連なのですが,今の御説明の中で,(3)の「正当な理由」の問題だというふうにおっしゃったのですけれども,先ほどの○○委員の御疑問は,弁済したというふうに思っているわけですから,弁済したと信ずるに足りる相当な理由がある場合だと理解していたのですが,そうではないのでしょうか。

と申しますのは,弁済した受託者がその後どういうことをすべきか,弁済の証明はしなくてよいけれども,債務不存在の相当理由の証明ができるという状態になっていれば,それで正当な理由があるというふうにつながるのかなと思ったのですが,そういう理解ではないのでしょうか。

● 債務不存在の相当理由の方も当たりますが,そのほか「正当な理由がある場合」というのが根本的な要件であるということを申し上げただけで,今,○○委員がおっしゃったように,「正当な理由」のうちの例示として,ここでは今二つ挙げておりまして,受益者の所在不明というものと,弁済したと信ずるに足りる理由がありますということを二つ例示しているわけですけれども,その例示の言うところは,結局は,「正当な理由」があるのかどうかというところだということを申し上げたかったということです。

今の局面で○○委員がおっしゃった話をどこに落ち着けるかということで言えば,「相当の理由がある場合」なのかもしれませんが。

● 最初に○○委員がおっしゃった点でございますが,無記名式の受益証券の場合については場合分けで対抗要件を認めてはどうかという,その場合分けというのは,無記名式の受益証券につきましても,場合によっては受益者名簿をつくっているし,場合によってはつくらなくて,つくっている場合は受益者名簿への記載を対抗要件とする,つくっていない場合はそれを対抗要件としないと,そういう場合分けという趣旨でございますでしょうか。

  そうすると,無記名式の受益証券につきましても更に2類型認めるということになりますと,例えば甲案をとると,記名式の場合と無記名式の場合二つということで,3類型の受託者対抗要件を認めるということになりますが,事務局としては,果たして3類型も認める必要があるのかなと。

むしろ,受益者名簿がつくりにくい場合があるのだったら,それは無記名式にして,受益者名簿を不要とする形にしていってしまえばより簡明ではないかと,そのような感じもいたしておりますので,御検討いただければと思います。

● ほかの点,いかがでしょうか。

● 先ほど御説明があった中で,第53の(注1)のところで,借入れを必要とするような場合,流動化なんかの場合でもあり得るとは思うのですけれども,その場合,債券発行を認めるニーズがあるのではないかということで,検討したらということで御説明があったかと思うのですけれども,先ほど○○委員がおっしゃられたように具体的にどういうものができるというのが念頭にあって申し上げているわけではないのですけれども,実際にこのようなものができることについては,選択肢が増えるということで大変賛成なわけですけれども,現実問題として,債券発行ということで,例えば社債を例にとりますと,株式会社など,当然,発行主体というのは法人格がないと我が国の法制では認められないと思うのですけれども,この場合については,どういうことを念頭に置かれて,これが可能ではないかというような意見があるのか,そのあたりをお知らせいただけたら有り難いなと思って,ちょっと質問させていただきました。

● 恐らくこれは,事務局の方がいろいろなお考えをお聞きしたいという部分だと思いますけれども。

● 学者の先生方に,もしよろしければ,お伺いしたい。

● 先ほど○○委員もおっしゃっていた,第53の(注1)に書かれていたような信託財産を引当てとした債券の発行ですね,これが認められたら,証券化・流動化の観点からはフレキシビリティーが高まって便利だなという気はいたします。

現に,信託財産のみを引当てに受託者が借入れを行う信託借入スキーム--ABL,アセット・バックド・ローンというふうに呼ばれる場合が多いですけれども--が広く用いられていることは御存じのとおりだと思いますけれども,ローンにかえて社債類似の債券という形をとれるということは,フレキシビリティーが増すのかなと。

  例えば中小企業金融であっても,中小企業であれば株式会社ですから,社債を発行できるわけですけれども,あえて融資せずに,私募債を発行させるというような方法もとられていますし,また,会社ですと一応株式会社と特定目的会社しか社債発行できないという形になっていますけれども,医療法人,学校法人といったところも,証取法上の有価証券にならない債券を発行して資金調達しているという現実もございますし,便利になるのではないかなという気はいたします。

○○委員のおっしゃっていた,ではほかの類型の債券は発行体が法人ではないかという,そこら辺のテクニカルな難しさというのはあるのかなという気はします。

  それと,第53の5と6のところ,受益者名簿と,有価証券の形にした受益証券の対抗要件についてなのですけれども,これも,既存の社債とか,あるいは株式との整合性を考えれば,5,6とも,何となく甲案の方がすっきりするような気がするのですけれども,かといって,乙案であれば絶対に困るというようなことはないのかなという気はいたしております。

● 先ほどの,信託財産を引当てにして受託者が債券を発行するというのですかね,これは,信託そのものとしては別にそれを制約するような理屈はないのだろうと思いますけれども,ほかのいろいろな法制との比較だとかいうことがネックになってくると,それなりに必要性が高いということが言えないと,そちらの方に働きかけが難しいという,そういう関係なのではないでしょうか。

ですから,いろいろそういう必要性があるのかどうかと。

  それから,(注1)にも書いてありますように,受益権の複層化ということでもって同じようなことができるのか,できないのかとか,そういうことを御検討いただければということだと思います。

  これについては,引き続き今後もいろいろ御意見をいただければと思いますが,ほかに,この譲渡の関係,消滅時効の関係はいかがでございましょうか。

● 若干細かくなるわけですが,第52と第53でコメントがございます。

第52については二つございますけれども,基本的に第52の規律というのは選択肢をふやすということもありますし,流通を円滑にするという点でも賛成な立場でいるわけなのですけれども,個別論として御質問があるのですが,この考え方で,基本的に受益権というのを指名債権とみなして,同じ規律を入れようというふうに考えておられるのですけれども,一つ,非常にテクニカルな話なのですけれども,譲渡登記によって対抗要件具備ということができるのかどうかということです。

これは立法論の話で,必要であれば,そのようにほかの--譲渡特例法を直すかどうかという話だと思うのですけれども,少なくとも現行法は指名債権というふうになっていますので,受益権の性質を指名債権と決めておかなければ,譲渡特例法というのは当然には適用にならないのかなというふうに思っておりますので,その点について,事務局として譲渡特例法を改正するところまで念頭に入れているのか,又は,そもそもそういう対抗要件具備というのは考えていないということなのかということをお伺いしたいということが一つ目です。

  二つ目は,同じく指名債権の規律ということで,善意の第三者に対する保護ということでございますけれども,流通性を確保するためにはかような規律が必要だということは分かるわけですが,これはちょっと難しいとは思うのですけれども,実務的なニーズに応じては,そういうことを必要としないというものもあるのではないかというふうに思っていることで,そこで御見解をお聞きしたいということです。

  すなわち,例えば,典型的な流動化スキームの場合に,不動産を信託に入れて,受益権をSPCに入れましたと。

それで,SPCが証券を発行するといった場合に,このSPCが有する受益権というのは,これはもう動かさないということが前提になっていると思うわけですが,そのときに,SPCの管理の関係でその受益権が第三者に移ってしまうといった場合に,ある意味,このスキームの安全装置,例えば,今までは受益権というのはそういう規律がなかった,善意の第三者の保護にあずかるという,そういう規律がなかったということで安心していたわけですが,この規律が導入されたことによってそのスキーム自体の安定性というのが若干落ちるのではないかなという懸念がしております。

もちろん,実務においては,そうさせないというような別途の手当てをすればそれで足りるという考え方もあるかもしれませんけれども,そういった規律というのは本来デフォルト・ロー的なこともできるのかなというような感じもいたします。

  もう一つは,これも細かい話になるわけですが,その対象について,第52の1の(2)を拝見しますと,「別段の定めをした場合又は受益権の譲渡が信託の目的に反する場合には,適用しないものとする」と。

「受益権の譲渡が信託の目的に反する場合」というのも,善意の第三者には対抗できないものの範ちゅうに入れているわけですが,ここは若干テクニカルな御質問になるかもしれませんけれども,現行民法466条の1項と2項との関係を見ますと,どちらかというと,「信託行為において別段の定めをした場合」というのは2項の柱書きの範ちゅう,「受益権の譲渡が信託の目的に反する場合」というのは1項の範ちゅうだというふうに思っておりまして,民法においては2項において第三者の保護手続があるということと私は理解しているのですけれども,間違いがあれば御指摘いただきたいのですが,ただ,この御提案を見ますと,両方とも第三者の保護規定があるというふうに読めるわけですけれども,この点はそういう理解でいいのかどうかということを確認したいと思っております。

  それから,第53について,有価証券化ということでございますけれども,これも非常にテクニカルな話でございますが,仮にこの有価証券化ということをなされていくと,他の法律との関係があいまいになるということがあるのではないかという点で,関連法規の見直しの必要性ということを申し上げたいと思います。

  すなわち,例えば,合同運用金銭信託の受益権というのは基本的には有価証券ということで,実務においては,有価証券化したいから現行法ではそういう投信法を使っているということ,特に委託者非指図型投資信託でございますけれども,ただ,この一般法規たる信託法において有価証券化ということが図られますと,この一般法規化ということで規律された有価証券なのか,投信法で言う有価証券なのかということが非常に見分けづらくなるのではないかと。

片や一方は基本的にはレギュレーションが低い,片やレギュレーションが高いというところで,そこのレギュレーターから見た規律というのがあいまいなのではないかという懸念を感じております。

ゆえに,この点について,関連法規の御検討も必要ではないかというふうには思っております。

● これも,すべて直ちに答えられるようなものなのかどうか分かりませんけれども,答えられる範囲で。

● まず,第1点目にお話しされました,譲渡特例法に乗るかどうかという点でございますが,ここでは,受益権につきましてはあくまでも指名債権に準ずるものと考えて,対抗要件については,ゴルフ会員権の場合と同様に民法467条などの規定によっていこうという考えにとどめているわけでございます。

受益権というのは,債権の部分のみならず義務なども含む一種の包括的な地位と考えておりますので,ここの債権譲渡特例法に乗るような指名債権ではないと考えております。

したがいまして,少なくとも現行の譲渡特例法を前提とする限り,登記をもって対抗要件とすることができるような債権には当たらないというのが,我々の理解でございます。

これを改正するかどうかというのは,まだそこまで考えておらないところでございますけれども,当面,ここまで対象にすることは考えていないというふうにお答えさせていただきます。

  それから,SPCの受益権の譲渡が第三者に対抗できないということについて,しかし善意の第三者には対抗できるという規律を設けているのは不都合だというようなお話だったかと思うのですが……。

● 不都合な場合もあるのではないかというコメントです。

● ここは,受益権の譲渡性を原則として我々は考えておりますので,やはり,仮に当事者間で譲渡制限の特約をしたとしても,それは第三者に対抗できないというのが一律にかぶってくるのではないかなと思うわけですが,もう少し,実務上,譲渡性があっては困るというような債権の切り出しとかが明確にできれば,それは「性質に反する」というようなことになってきて,そもそも譲渡性が奪われるということが言えると思うのですけれども,「性質に反する」ということまで言えないと,善意の第三者には対抗できないという規律から逃れるのはなかなか難しいのではないかという気がいたしております。

  もう一つ,目的に反するという点と,別段の定めという点,それと民法の関係でございますが,私の理解が間違いでなければ,民法の466条では,性質に反するときはできないと。

それは1の(1)の方で書いているところでございます。

(2)の方は,別段の定め又は信託の目的ということで,信託の目的に反する場合は,実質的にはほとんど譲渡禁止特約がある場合と解することができると思いますので,この二つにつきましては,466条の2項に準ずるものとして,それは第三者に対抗することができないというふうに考えているところでございます。

やはり,性質に反するときは譲渡できないというような規律,それは差押えも許されなくなるわけでございますが,そのような受益権というのもどうしてもあるだろうということで,ここで(注5)ですか,性質が譲渡を許さないような場合というものの例を挙げさせていただきましたが,こういうものも,譲渡禁止特約ですとか信託の目的に反する場合ではカバーし切れないものが残るだろうと。

こういう性質に反するものについては,そもそも譲渡もできないし,差押えもできない場合が残るだろうという考えに基づきまして,最終的には,466条と同じような二つの区分を設けているというところでございます。

 とりあえず,以上のとおりでございます。

● 受益権の有価証券化の話なのですが,有価証券化が必要な場合というのは確かにあって,実務上の需要はあるのだと思うのですけれども,先ほど○○委員が後半でおっしゃったことにも関係するのですけれども,いろいろな法律というのは,この場合にはこういう必要性とジャスティフィケーションの論理によって有価証券化というものを認めようというのがあって,それである種の法律によって,この場合は有価証券を発行できますとか,できませんとか,この場合はこういう権利を有価証券にできますというふうな,いろいろな法律があるわけですよね。

しかるに,信託である,そしてその受益権であるということが,有価証券化ということを認める包括的な正当化根拠になり得るのかというと,私は,何も発見できないような気がするのですね。

つまり,例えば,流動化でこういうふうな場合に有価証券化というものが必要である,だから有価証券の発行を認めましょう,受益権を有価証券化するスキームを認めましょうと,こういう論理はよく分かるのですけれども,およそ信託においては受益権は有価証券化できるのかというと,例えばおじいさんが孫を受益者として信託を設定する,そういうときにも有価証券化できるわけですよね,この条文で言えば。

しかし,なぜそこに,有価証券を発行できるという……。どうせその場合にはしないじゃないかと言われればそれまでなのですが,やはり有価証券を発行することによって様々な--まあ,流通性が高まるというのはいいことばかりではないわけで,やはり何らかの正当化があって初めて認められるというのが日本の法制度ではないかというふうに私は思うのですが,違うのかもしれませんけれども,そうすると,信託法の中に,およそ有価証券を発行できるという条文を置くのはいかがかという感じがするのですけれども。

● かなり根本的な問題提起がありましたけれども,いかがでしょうか。あるいは,ほかの委員の御意見も。

● 今,○○幹事がおっしゃられたように,一定のニーズがあって有価証券化が図られるというのが多いというのはおっしゃるとおりなのかとは思うのですが,一番典型的な有価証券というと,例えば手形とか小切手とか,あるいは金銭債権一般に認められているということで,そこから先,使うかどうかというのは選択にゆだねられるということになります。

信託の受益権についても同じような整理をすることが,美しくはないのかもしれませんけれども,一応は可能なのかなというような気もいたすのですが。

● 手形というのは金銭債権を証券化するのだというふうにとらえれば,確かに今のような説も可能であり,信託の場合も似ているではないかという,そういう説明だったと思いますが。

● これは私だけの理解だということです。だから,ひっきょう独自の見解であるという典型的なものなのですけれども。

  我が国において受益権というのは,通説としてというか,つまり債権ですね,結局のところは。

債権の譲渡というのはいろいろな面倒があって,債権債務関係を引きずっていますから。

しかし,英米では受益権というのはプロパティーですから,日本語で言えば物権ということになるのだと思いますけれども,つまり,自分のものなのですから,自分のものを譲渡するのは簡単だよという話になっているので,譲渡するかどうかはともかくとしてですが,非常に簡単なんですね。

ところが,日本ではそういうことはとれない。それで,せめて証券化という話にすると譲渡が容易になるのかなというのが,私の理解です。

● 金銭債権を手形にすればいいと言えば,それはそうなのかもしれませんが,譲渡一般を認めるということは,第52のところで出ているわけですよね。

私が問題としているのは,なぜ有価証券化を認めるのかという話であって。

手形小切手の場合もそうじゃないかというふうにおっしゃったわけですが,それはいろいろな歴史的な説明とか,金銭債権になっているとか,いろいろな手形小切手法の教科書にも書いてあるような説明とかできると思うのですね。

でも,受益権の内容というのは千差万別であり得るというときに,なぜ信託の受益権であるということから有価証券化が認められるというところで説明の論理が書けるのかというと,何か書きにくいんじゃないかなという気がするというだけで,別にそれで納得できるような論理があったり,論理はないかもしれないけれども必要なとき以外は使わないからいいじゃないかということの中でそうなるというのならば,それはそれで仕方がないのかもしれませんけれども,必ずしも納得はできないような感じがします。

● 有価証券化のメリットはいろいろ挙げられると思いますけれども,基本的には,有価証券化した場合には,証券の所持人に有価証券が発行されていなかった場合に比べてより強い保護があるという点には異論がないのではないかと思います。

例えば,権利の推定が働くですとか,譲渡の際の効力が強まる等々。そういう意味では,一言で言うと,受益者の保護という観点から見ると,受益権が有価証券化されていることは,もちろんマイナスになる場合も決してないとは言えないと思いますけれども,一般的に言えば有価証券化は受益者の利益に資するとい

うことは言えるのではないかと思われますので,私は,有価証券化を,選択的に,しようと思えば認めるというのは,特に受益者保護を中心的なテーマとする信託法においては充分に考えられることではないかと思います。

● ○○幹事の指摘された点は二つありまして,特別法ではなくて信託法に置くということの意味がどうかということと,具体的な場合以外に一般的に受益権の有価証券化を認めることがいいかどうかという2種類の問題が含まれていると思うのですけれども,一般的に受益権の有価証券化を認めるとして,その意味が受益者の保護であるという今の○○幹事のお話があったのですけれども,そのことは,逆に言うと,証券化されていない場合には受益者の保護がより少なくてよいというふうにならないかという懸念を若干感じます。

特に,例えば49ページの米印1のところで,証券化されている場合には,受益者に対する補償請求権,報酬請求権の行使を認めないということが出ているのですが,これは一体なぜなのかと。証券化から導かれることなのか。

だとすると,証券化されていない場合にはそういうことがなくてもいいのではないかという反作用があり得ないだろうかということが若干気になります。

としますと,○○幹事がおっしゃった受益者保護ということは,より一般的に考えるべきではないのかなという気もいたしますが,いかがでしょうか。

● この証券化,先ほど○○幹事が,受益者の保護になるのだという言い方をされて,そういう視点もあるかと思って感心して伺っていたのですけれども,やはり,どういう信託をここで想定するかとか,受益者の地位との関係,いろいろなことを考えながら,果たして証券化の道を開いていいのかどうかということを考えなければいけないのだろうと思うのです。

  最初の○○幹事の質問からは少し離れた視点かもしれませんけれども,例えば,不動産などが信託財産になっていて,受益権を発行して,それが証券化されて,これは積極的にそれを肯定する意見の方が多いかもしれませんけれども,その受益証券を転々流通することによって不動産という財産は善意取得が可能な財産に変わっていく,むしろそこにこそメリットがあるので,受益証券というものを発行させるべきだという意見もあるかもしれませんけれども,不動産というものがそういう形で変わってしまっていいのかという逆の考え方もあるかもしれないし,証券化というのは便利な面があることは確かだと思いますけれども,最終的にこういう一般的な形でもって認めていいかどうかということについては,やはりいろいろなことは考えなくてはいけないのだろうという気がいたしますね。

● 全く別の論点でよろしいでしょうか。

  第52の受益権の譲渡について,ゴシックのところではなくて,むしろ説明の部分に出てくる,「受益債権」という概念の中身について御質問させていただきたいと思います。

  具体的な例を挙げて御質問したいと思うのですけれども,そもそも,この受益債権というのは43ページの(注2)の前の部分で定義されておりまして,「受益者が信託行為に基づき信託の利益を受ける債権」,これを受益債権と定義されております。

  それで,46ページの【ケース1】を例に挙げて御質問させていただきたいと思うのですが,「受託者は,受益者Aに対し,10年間,毎年1月1日に,一定額の金銭を支払う」と。この,毎年1月1日に一定の金額100万円を受ける権利,これを10年間,例えば10人別々に譲渡すると。

そうすると,これが受益債権の譲渡というのでしょうか,例えば,もしそうした場合に信託財産が5年で全部なくなってしまったとすると,6年目以降にこの受益債権を受けた人というのは,だれに対してどういう権利を主張することができるのか。

すなわち,信託法の19条にございます,信託財産に受託者の責任の範囲が限定されるという信託財産との物的相関関係というのが受益権の非常に大きな特徴とされてきたと思うのですが,この「受益債権」という概念を持ってきたときに,物的相関関係との関係はどうなるのか,あくまでもその限定は付された特殊な債権として譲渡されていくというふうに理解されているのか,それとも,もうちょっと純粋な,受託者に対する債権として観念されているのか,これが具体的な一つの質問でございますけれども。

  要するに,私は,結論としては,この44ページの甲案の考え方を推し進めていくということは,今の受益権の物的相関性との関係で慎重に考えるべき側面があるのではないかと考えましたので,あわせて意見を述べさせていただきました。どうかよろしくお願いいたします。

● 受益債権を譲渡すると本来の受益権の譲渡以上のことができるというのは,何かおかしな気がしますから,私も,物的相関関係という枠は残るのではないかという気もしますけれども,どうですか。

● 【ケース1】で,10年分の各毎年払われるべき金銭債権を譲渡する,これは我々の考えで言うと受益債権の譲渡ということになるのは,おっしゃるとおりでございます。物的相関関係は残ると考えています。

  それで,5年たったところでなくなってしまったらどうなるかということでございますけれども,そこら辺,余り明晰に考えていたわけではないのですが,やはり受益権とは異なる,あくまで債権だということといたしますと,なくなってしまった場合には,もはやそれは履行不能ということにならざるを得ないのではないかという気がいたします。

そこはやはり受益権の譲渡と受益債権の譲渡との違いではないかなという気がいたします。

  そういう観点からすると,甲案が不適当であるということであれば,我々はまた,ここの甲案と乙案のどちらが適当かというところも是非ともお伺いしたいところでございますので,そこが甲案が不適当であるというのであれば,検討したいと思います。

● 空になってしまった場合には,受益権を譲渡した人に責任が追求できるのですか。

● そうですね,旧受益者に対して債務不履行責任なども追及していくということになるかと存じます。

● もちろん,信託財産が減ったことについて受託者に過失があれば,責任が追及できるような場合があれば,それはまた別の問題があるかもしれませんけれども。

  さっき○○委員が言われた,証券化との関係での補償請求権,あるいは受益者の方からすれば補償の義務の関係ですけれども,証券化する場合には,途中の受益者等に補償の義務だとか報酬支払いの義務がなくなって,証券を持っている者だけが責任を負うというのでいいのだと思いますけれども,その一般原則,証券化されていないときの一般原則である第52の方ですけれども,これもなかなか,自分で考えていて,どういうのが一番いいのかよく分かりませんが,受益権が証券化されないで何度も何度も譲渡されたときに,いったんでも受益者の地位にあった者は,その前の段階でもって発生していた補償請求権ないし報酬請求権については常に連帯的な責任を負うと,そういうことにこれはなるのでしょうね。

少なくとも,この文言からすると。例えば,補償の義務というふうに受益者の方から見たときに,途中いったんでも受益者になっていて受益権を享受したような人間についてはそれでもいいのかもしれないけれども,享受もしないでまた譲渡していったというような場合もあるかもしれないし,この一般原則はこれで本当にいいのかどうかというのは,さっきお話を聞きながら,あるいは○○委員の意見を聞きながら気にはなったのですが,まず,考え方として,ここではどういう前提で,今のような場合--転々されていった,第52の例えば4ですけれども--を考えていたのかなと。

● 転々流通したときに,各譲渡人,譲受人というのがどういう責任を補償債務との関係で負うかということですか。

● 特に途中のね。

● 一応,ここでは,途中の人も責任を負って,その後更に譲渡した場合でも責任は負い続けるほかないのではないかというふうに考えています。

  そのあたりはなぜかと申しますと,結局のところ,債務があるにもかかわらず,受託者,債権者の立場になりますが,債権者の同意を得ないで譲渡できてしまうというふうにしておりますので,その見合いとして併存的責任を課すほかないかということにしたものですから,残らざるを得ないということになると考えています。

  逆に言えば,譲渡するときに,受託者との間で合意をするというか,承諾を得て,補償債務部分については私はもう負いませんというようなことを個別にとるということで対処するほかないのかなというのが,とりあえずのここでの整理ということでございます。

● ここでの原案は,そういう考え方をとっているということですけれども。

● ○○委員のお話の続きで,繰り返す部分が多いかもしれませんが。

 これは,第35,第36をどう仕組むかにかかわりますし,それから受益権の放棄についてどうするかという,多分この三つが相互にかかわるので,どうもよく見えないのですが,しかし,すべてを受益者側に不利な形でこれが落ち着くとしますと,受託者の地位は相当強くなるだろうというふうに思います。

だれからでもというのですか,受益権の譲渡があると,それを奇貨として--という言い方はおかしいかもしれませんが,資力のある現受益者,前受益者,元受益者,だれかからか持ってくると。

それで,ずっとそれが信託会社に対して補償請求権が上回っていて,赤字の信託の受益権がずっと動いたのならば,それはそれで,そういうものを転々流通したという言い方もあるのかもしれませんが,補償請求権だけは請求権として残っていて,信託財産がずっと減っていくということもありますよね。

そうすると,ある段階での受益者が持っていたときは黒字の信託だったのが,それが赤字になったら,前の者も,まだ補償請求権として弁済されずに残っていたので,そこについてもある種の求償を受けてしまうというようなことにもなりかねない。

ルールの方もはっきりしていないし,今のようなケースはレアケースなのかもしれませんが,ルールの方がいずれも受益者に不利な形になって,そして考えられるケースを想定すると,何か受託者のための信託というようなものがこの局面においては想定できるような形になってきてしまうように思います。

 それで,どこで歯どめをかけていくかということになるのだろうと思うのですが,第35,第36をどう仕組むかというのが一つの大きな選択だろうと思いますが,ここで現行信託法に近い形で残すとすると,やはり別のところで手当てをしていかないといけないだろうと。

第35,第36で受益者の義務を現行法と原則・例外を転換するならば,こういう問題を置いておかれていても,そう困った問題は生じないのではないかと思います。

 したがって,全面的にはうまく答えられないのですけれども,一つだけ申し上げることができるかなと思うのは,この第52の中での話なのですけれども,受益権の譲渡は自由だと,ここから出発していて,これはそれでいいと思うのですが,しかし譲渡禁止特約も認められると。

したがって,4の問題が生ずるような,受益者に対する補償請求権を受託者が確保しておきたいと,それが意味のあるような信託であると,土地信託のようなのがその一つの例だというふうに多分比較的広く理解されていると思うのですが,そういうものについては,受益権について譲渡禁止特約を入れておいて,そして,受益者の側で,事業から離脱したいというようなときに,その受益権の譲渡をするときには正にそこで禁止特約がありますから,今,○○関係官が御説明になったように,受託者の承諾・同意を得ずして受益者が交代するということを防げますので,そこでまた更に既発生の補償請求権についてどう処理するかというようなことを取り決めるような形で解決できるのではないかなというふうに思います。

● 今,○○幹事が言われたように,第35,第36との関係が一番根本的に重要なのでしょうけれども,仮に第52の範囲で考えるときに,そう一般化できないかもしれないけれども,そんなに受益権を享受しないで譲渡したような人間というのは,受益権を放棄したようなものだという場合もあり得るかもしれないという気もちょっとしますけれどね。

これは無償で譲渡する場合もあるかもしれないし,対価を得て譲渡する場合もあって,いろいろなのがあるので,そう簡単に言えないかもしれないけれども,第52の範囲内でどんなことが考えられるかというときの一つの考え方になるかもしれませんね。

  ほかに,この三つについて,もしなければ。

● 細かい話になるかもしれませんけれども,確かに,受託者のサイドから見ると,連帯債務になったときに選択肢がふえてしまうと,これは受託者のためであるということはあると思うのですけれども,仮にその対案として,一つの規律として,最終的に受益者となった者にのみ補償請求権等を請求できるとなった場合に,今度は受託者は,ある意味チェリーピッキング的なことを受益者サイドからされてしまう。

例えば,受益者がいまして,実際にふたをあけてみて,これは信託財産がほとんどなくて補償請求権が出てくるというマイナスのものだと分かった瞬間に無資力の者に渡してしまえば,受託者は,そういうある意味詐欺的なといいましょうか濫用的なことによって,結局補償請求権を追及する手段を失ってしまうということもありますので,そこの点についてもし御検討されるのであれば,受託者サイドの問題としてもバランスをとった検討をする必要があるというふうに思います。

● 濫用的なのは,恐らくまたそれなりに対応の仕方があるのだと思いますけれども,やはり,一つの根本的な問題は,仮に補償請求権というのがあったときに,受益者がそういう支払いの補償をする義務の根拠が一体何なのかということも関係していて,信託の場合には,受益者であるという--つまり,補償請求権というのは,単純な普通の債権債務の債務みたいなのとはちょっと違って,受益者であるがゆえに負っている債務だというふうに考えると,現在の受益者が負うというのはそんなにおかしくないのだろうと思うのですね。

ただ,今のような濫用的なことがあれば,これはまた別途対応した方がいいと思いますけれども。まあ,途中の中間の受益者が全部負うというのはどうかなというのは,素朴な疑問としてあるような気がします。

  これは,第35,第36は非常に大きな問題なので,またそちらでもって総合的に,全体的な--恐らく一つ一つ取り出して議論すべきではなくて,やはり全体として議論しなければいけないと思いますので,そういう場を必ず設けたいと考えております。

  それでは,今の三つについてはこのぐらいでよろしいでしょうか。また時間がありましたら御議論いただきたいと思いますが。

  では,次に行きましょう。

● では,本日用にお配りした資料に基づきまして,まず,信託行為の変更,それから信託の併合,分割について,一括して提案内容の概略を御説明したいと存じます。

  まず,第57は,信託行為の変更についての提案でございます。

  趣旨でございますが,信託の設定後の事情の変更に対応して迅速かつ柔軟な信託行為の事後的変更を可能とすべく,委託者及び受益者の利益を適切に保護する内容のデフォルト・ルールを設けようとするものでございまして,このように,現実に即した具体的かつ詳細なルールを設けることの合理性については,第2回会議においても御支持をいただいたところと理解しております。

  まず,1でございますが,これは,私的自治の観点から,委託者,受託者及び受益者全員の合意があれば,裁判所の関与を必要とせず,信託行為を自由に変更できること,すなわち,信託財産の管理方法はもとより,信託財産の分配方法,更には,1ページから2ページのアステリスク1の乙案にあるような,信託の目的の変更ですとか,受益者にとって不利益な内容の変更も,三者の合意があればなし得るということを明らかにしたものでございます。

  続きまして,2でございますが,これは,変更の内容いかんによっては,常に信託当事者三者の合意又は裁判所に対する申立てを要するとした場合には無駄な手続的・時間的コストがかかるおそれがあることにかんがみまして,信託当事者の利益に配慮しながら,柔軟な変更手続を設けようとするものでございます。

  なお,アないしエ以外に,理論的には,委託者のみによる変更ですとか,委託者及び受託者による変更という場合があり得るわけでございます。

例えば,委託者の当初の目的は受益者に対する生活費の定額割賦給付であったものの,受益者の緊急ニーズから残額一括給付に変えるような場合が想定されます。

しかしながら,このような場合には受益者の側から信託行為変更の申出があると思われますので,あえて受益者の合意を不要とする特例を設けなくとも,1によります三者の合意ですとか、あるいは2のウによります委託者と受益者の合意によって変更を行えば足りるものと考えられますので,あえて委託者のみによる変更あるいは委託者及び受託者による変更という場合分けは設けなかったものでございます。

  なお,念のため,信託の目的を変更するというような場合に該当することになれば,委託者,受益者,受託者の合意を必要とするのが原則になると考えられます。

  ところで,この2につきましては,第2回会議において,何点か問題指摘がなされました。

  まず,「信託の目的に反しないことが明らかであるとき」ですとか,「受益者の利益に適合することが明らかであるとき」といった要件は,実務上ワークし得るだけの明確性を備えているかという御指摘がございました。

確かに,受託者としては,かかる要件を充足したと言えるかの判断に窮し,慎重を期して,念のため1の三者間の合意をとりにいくという事態も想定されるわけですが,事務局といたしましては,このような要件を充足していることが明白な場合もあり得る以上,少なくともその限度では変更手続の簡易・柔軟化に資していると考えられますし,法律上のデフォルト・ルールの規定としてはこれ以上の明確化を図ることは困難であり,あとは信託行為における別段の定めによる実務上の工夫をもって対処せざるを得ないと考えているところでございます。

  次に,この要件に違反した場合の効果でございますが,例えば,2の場合におきまして,複数受益者の一部の受益者の利益に反するにもかかわらず,受託者が信託行為を当該受益者に無断で変更したような場合には,かかる変更はすべての信託関係者との間で無効と言わざるを得ず,変更内容に不服のある受益者は,当該変更が無効であることを前提問題として,受託者に対して給付請求等をすることもできるでしょうし,また,確認の利益がある場合であれば,信託行為変更の無効確認訴訟を提起することもできるのではないかと考えております。

  さらに,より理念的な問題としまして,1において,信託行為の変更には受託者の同意を必要とし,更に2のウ,エなどにおきまして,「受託者の利益」を要件として前面に出すといたしますと,あたかも受託者が信託行為の変更に当たって自己の利益を顧慮することを容認するかのような印象を与え,不適当ではないかとの指摘もなされました。

しかしながら,原則として辞任の自由のない受託者としては,当初受託した信託行為の内容とは異なる新たな内容の信託行為について,善管注意義務や忠実義務のもとで受託者としての職務を適切に果たしていかなければならなくなるわけでございますので,そのような責務を十分に果たすべき受託者の同意ないし利益を信託の変更に当たって考慮することは,受託者による信託事務の適切な処理を期待する観点からも不合理とは言えないと考えるものでございます。

したがいまして,ここで言う「受託者の利益」とは,受託者の個人的な利益のことではもちろんなくて,受託者が善管注意義務や忠実義務違反に問われることなく適切に信託事務を処理し得る利益というようにとらえるべきものと考えております。

  次に,3でございますが,これは,2によりまして信託行為の変更に関与しないこととなる信託当事者に対して変更の内容をあらかじめ了知させることによりまして,変更の効力発生前における反対の意思表明の機会を保障し,あるいは変更の効力発生後における不服申立てや反対受益者の受益権取得請求権の行使の必要性があり得ることを予告しておこうとする趣旨でございます。

したがいまして,受益者に対する通知は,信託管理人が選任されていない限り,各受益者に対して個別になすべきことになると思われます。

もっとも,この通知は変更の効力発生要件ではございませんので,2の要件に合致している限り,通知を怠ったとしても変更自体の効力に影響があるわけではなくて,ただ,通知を怠った受託者の注意義務違反の責任が問われるにとどまることになるというふうに考えております。

  なお,通知の時期に関しまして,かつてお配りしました報告書におきましては,単に「あらかじめ」としていましたのを,ここでは,「信託の行為の変更の効力が生じる日の前日までに」というふうに改めております。

これは,通知を受ける者の利益保護の観点から,変更の正に直前に通知するようなこととなる事態を避け,通知から変更までに少なくとも1日間は猶予を設けようという趣旨でございます。

  次に,4でございますが,これは,1又は2にかかわらず,信託行為において,特定の者--これは委託者であり,あるいは受益者であり,受託者である場合もあるでしょうし,それ以外の第三者である場合もあると思うのですが,このような特定の者に変更権限を付与することも可能であるということを明らかにするとともに,この場合におきまして,変更権者としては,変更内容に従って信託事務処理をすることになる受託者に対して,変更の効力発生に先立って,変更内容をあらかじめ通知しておくことが必要になると思われますところ,このように通知を受けた受託者は,3の場合と同様の趣旨から,変更の効力発生日の前日までに受益者及び委託者に対して変更内容を通知すべきこととしたものでございます。

  ところで,このように変更権限を特定の者に付与することにつきましては,第2回会議の場におきまして,その者の変更権限に一定の制約を課すべきではないか,例えば受益者の保護ですとか信託の目的あるいは本質に反するような変更まではできないとすべきではないかといった指摘がされたところでございます。

そこで,ここでは,甲案といたしまして,信託行為が定めた変更権者が存することは,信託行為の当事者たる委託者と受託者はもちろん,信託行為の内容を了知しているはずの受益者にとっても明らかなのであるから,変更権限の内容に制約を設ける必要はないという甲案の考え方,これに対し,乙案といたしまして,変更権限を無制限とするのはやはり不適当であるという観点から,後ほど第60で説明しますが,反対受益者の受益権取得請求権が強行的に付与されるべき内容の変更まではできないとの制約を設けるべきであるという考え方,甲案,乙案を併記して御審議をいただきたいと考えております。

  なお,乙案というのはあくまでも制約内容の一例を示したにとどまりまして,これとは別の制約方法が適当であるならば,その点についてもあわせて御審議を願えればと存じます。

  次に,5でございますが,これは,信託当事者による信託の変更において,変更の内容が反対受益者の受益権取得請求権の発生原因となるような場合,したがいまして,2のイの受益者の利益に適合することが明らかであるときは当然除かれることになるわけでございますが,このような場合におきましては,変更の内容とあわせて,変更を中止するための条件をも合意するか,あるいは決定すべきものとしたところでございます。

 その趣旨は,反対受益者の受益権取得請求権の多寡,あるいは変更当時の経済情勢やファンドの運用状況によりましては,予定どおりに変更を実施することが信託の運用を著しく損ないかねないことになる事態も想定し得るわけですので,このような場合には,受託者は,いったんなされた合意又は決定にもかかわらず,善管注意義務及び忠実義務のもとで信託を存続させていくためには,あらかじめ設定された条件に従えば変更を中止し得ることとしまして,受託者が判断に窮する事態から救済しようという趣旨でございます。

  御参考までに,変更に当たって想定し得るプロセスを述べますと,例えば受益者から変更を打診する場合には,受益者側において変更内容と中止の条件とを決議した上で,受託者と合意するか又は受託者に通知するということになるでしょうし,一方,受託者から変更を打診する場合には,受託者側において変更の内容と中止の条件とを決定した上で,受益者と合意するということになると考えております。

  なお,以上はあくまでも1又は2の場合であることが前提でありまして,4の場合につきましては対象としておりません。

これは,信託行為でどのような定めがなされることになるかを予想することが不可能でありますので,変更時の中止の条件をあらかじめ信託行為に定めておくことですとか,あるいは受託者の善管注意義務の一般的解釈などによって対処せざるを得ないと考えているからでございます。

  6は,信託行為の変更に当たっての裁判所の関与の在り方について問題提起するものでございます。

ここでの事務局の当面の問題意識は,裁判所による変更の対象を,現行法のように信託財産の管理方法のみに限るか,それとも米国統一信託法典のように分配条項まで含めるべきかという点が中心でございまして,資料の5ページに詳細に示させていただきましたように,いろいろの考え方があり得るところでございます。

この点についての審議状況を踏まえた上で,更に手続的規定や判断基準の整備等も後に検討していきたいというふうに考えております。

  なお,信託財産の管理方法以外の変更が常に信託目的の変更に直結するわけではないと考えておりますが,信託当事者による合意の場合と異なりまして,裁判所が信託目的を変更するような変更をすることはできないという限界があるということ,裁判所に対する変更の申立てには信託行為の当時予見することのできない特別の事情があることが必要ですので,信託行為において事情変更に応じた手当てがされている限りにおいては,予見不能性,すなわち申立ての要件は欠けることになると思われるということを付言させていただきます。

  続きまして,第58の信託の併合についての提案でございます。

  ここに言う「信託の併合」でございますが,1の定義にございますとおり,ある信託行為に係る信託財産と,他の信託行為に係る信託財産とを新たな信託行為における信託財産とすることを言いまして,信託行為の変更の一形態と考えております。

このように,信託の併合は会社の合併に類似するものでございまして,信託の管理コストの削減ですとか,資本の集合によって効率的な投資が可能となり運用の自由度も増すといった,いわゆる規模のメリットが図られることなどの点で有益であると考えられます。

現行法には信託の併合に関する規定がないため,信託行為の変更と信託財産の併合の手続によらざるを得ないようにも考えられますが,ここでは,実務上のニーズにかんがみまして,信託の併合に関する独立の手続的規定を設けようとするものでございます。

  まず,2の(1)でございますが,これは,信託の併合に当たりまして各信託の受益者に対して提供すべき情報を明らかにしたものでございます。

総じて言いますと,受益者において,提案されている内容の信託の併合比率を始めとする併合条件を知ることによりまして,併合の利害得失を分析し,当該併合を承認するか否か,あるいは反対受益者の受益権取得請求権を行使するか否か等の判断材料を提供しようとするものでございます。

次に,2の(2)でございますが,先ほど申しましたように,信託の併合も信託行為の変更の一形態であることから,信託行為の変更に関する規律を準用するものでございます。

もっとも,極めて大規模な信託が極めて小規模の信託と併合される場合におきまして,信託行為の変更の特則として,第57の2のイで述べましたように,「受益者の利益に適合することが明らかであるとき」というふうな要件にはまって,大規模信託の受益者の同意は不要と言えるか,あるいはこの場合をもってこのように言うのは難しいかという問題がございまして,株式会社の簡易合併に類似するような特別な規定を別途設けるべきかにつきましては,なお検討する必要があると考えているところでございます。

  2の(3)以降は,信託の併合と信託債権者に関する提案でございます。

  まず,2の(3)でございますが,これは,併合対象となる双方の信託財産の運用状況によりましては,各信託の信託財産に対する債権者,殊に責任財産が信託財産に限定されている信託債権者にとっては多大な悪影響を受けることともなりかねないということにかんがみまして,会社の合併の場合と同様の債権者保護手続を設けることとするものでございます。

  これに対しまして,2の(4)ですとか,あるいは資料9ページの最後の(注)というところでございますが,これは,このような債権者保護手続が必要以上に重厚な手続となることを回避するために一定の例外を設けようとするものでご

ざいます。

  最後に,2の(5)でございますが,これは,信託の併合におきましては,会社の合併の場合と同様に,各信託に係る権利義務が併合後の新たな信託に包括承継されることを明らかにしたものでございます。

  続きまして,第59の信託の分割の提案でございます。

  ここに言う「信託の分割」でございますが,2類型考えておりまして,一つは,1の(1)にございますように,便宜的に「単純信託分割」と命名しておりますが,ある信託行為に係る信託財産の一部を,新たな信託行為における信託財産とするものでありまして,株式会社の新設分割に類似するものでございます。

具体的には,11ページ,12ページのケース1から4に相当するものと考えております。分割後において受託者が共通するか否か,それから,受益者が分割後の双方の信託財産の受益者となるか否かによりまして,ケース1からケース4までの4通りがあるかというように考えております。

  もう一つは,1の(2)の定義におきまして,便宜的に「吸収信託分割」と命名しておりますが,ある信託行為に係る信託財産の一部を,これは既に存する他の信託行為における信託財産の一部とするものでありまして,株式会社の吸収分割に類似するものでございます。

具体例として,13ページのケース5,6というものを挙げさせていただいております。

受益者が双方の財産に行けるか,それとも分かれるかという点で二つに分けて例示しております。

  信託の分割というのも信託行為の変更の一形態と言うことができまして,信託財産の効率的な運用を図る上で有用な場合があると考えられます。

現行法には信託の分割に関する規定がありませんので,信託行為の変更と信託財産の分割の手続によらざるを得ないとも考えられますが,信託の併合の場合と同じく,実務上のニーズにかんがみまして,信託の分割に関する独立の手続的規定を設けようとするものでございます。

  まず,2の(1)と3の(1)でございますが,これは,信託の分割に当たりまして信託の受益者に対して提供すべき情報を明らかにしたものでございまして,信託の併合の場合と同様に,受益者において,提案されている内容の信託の分割条件を知ることにより,分割の利害得失を分析し,当該分割を承認するか否か,あるいは反対受益者による受益権取得請求権を行使するか否か等の判断材料を提供しようとするものでございます。

  次に,単純信託分割に関する2の(2)と,吸収信託分割に関する3の(3),2の(2)を準用する3の(3)でございますが,これは,信託の分割も先ほど申しましたとおり信託行為の変更の一形態であることから,信託行為の変更に関する規律を準用するものでございます。

  それから,2の(3)と3の(2),(3)というのは,信託の分割と信託債権者に関する規定でございます。

まず,単純信託分割に関する2の(3)と,吸収信託分割の場合にこれを準用する3の(3)でございますが,いずれも,信託の分割におきましては,分割前の信託財産に対する債権者は,信託の分割後はいずれの信託財産に対してもかかっていけるということを明らかにしたものでございます。

  もっとも,その例外といたしまして,11ページのアステリスク1のところに記載しましたとおり,信託債権者を信託財産によって切り分けることに関する規定を設けるか否かについては,そのニーズを踏まえながら検討したいと考えておりますので,実務上このような切り分けをするニーズが存するか否かについて,是非とも御教示をいただきたいというふうに考えております。

 最後に,吸収信託分割のみに関する3の(2)でございますけれども,これは,吸収信託分割の場合におきまして,既に存する信託財産間で一部移転が行われる点において信託の併合の要素が含まれていることにかんがみまして,信託の併合の場合と同様に,分割前の双方の信託財産に対する債権者に対し,債権者保護手続とその一定の例外を規定したものでございます。

  以上で終わります。

● この絵の見方ですけれども,例えば11ページで言えば,小さい黒丸が受益者ですね。それから,白丸で中にAと書いてあるのが信託財産で,大きい四角が受託者ということですね。

● そういうことでございます。

● 併合,分割より前の,信託行為の変更というのも大きな話なので。

  私が前に申し上げたこともちゃんと取り上げていただいて,それに一定の配慮をいただいたというふうに今の御説明は理解しておるのですが,それでもなお十分分からないところがあって。

 この第57の1のところで,今まで私自身も全然不思議に思っていなかったのです。

委託者,受益者,受託者というのがとにかく信託の三者ですから,それで合意すればもちろん信託行為の変更もできるよ,終了もできるよと,当たり前の話だと思っていたのですが,2の方を見ていくと,翻って,どうなんだろうと。

委託者と受益者と受託者を,あたかも--これは結局のところは,もともと日本では信託も単なる契約だと考えているから,契約当事者としてこういうことに関与するのは当たり前だという発想でできているのだと私は思うのですけれども,やはり信託は違うのだというふうに考えていただいた方がいいと思うのです。

  だから,これも本当は,委託者と受益者が合意すれば受託者は信託行為の変更をすることができる,当たり前のことですよね,そこへ合意の当事者として受託者を出す必要は全くないような……。

受託者というのは信託財産を管理しているわけですから,その管理内容であれ何であれ,委託者と受益者がこう言ってきたのだと,そうすれば受託者はそれに従うというだけの話のものをこうやって三つ並べるというのは,やはりおかしいというような気がするのです。

  それが,2のところで,「受託者の利益を害しない」というような形で顕在化するものだから,この前も申し上げて,しかし,今日のお話では,この「受託者の利益」というのは受託者の個人的な利益ではないと。

そして,勝手に信託行為が変更されて,それでも受託者としてとどまらざるを得ないと--ちょっと私,全部書き切ることができないというか,覚えられなかったのですが,もう一回繰り返していただけると有り難いのですが,新たな信託のもとで善管注意義務や忠実義務を果たすのが難しくなる場合があろう,そういうものを受託者に課すのは酷ではないかと。

そういうものを果たせなくなれば,それは信託の不利益になりますよね。

  だから,私が例1としてまず考えたのは,変更された新たな信託では善管注意義務の内容が非常に高度であって,例えば私が受託者ですが,私が今まで投資したこともないようなところへ投資せよというようなことを言われても,私は困りますと。

そんなことを押しつけられたのでは本当に困るということなのですが,困らないかもしれないのですね。

  今のような例を考えておられないのかもしれないのですけれども,もう一回,ちょっと私の枠組みを……。

  今,善管注意義務の話が一つ,それから忠実義務を果たすことが難しくなる場合というのは,ちょっと私,想像ができなくて,これは教えてもらいたいのです。これは後の話です。

善管注意義務の方は,今のような形で私が想像するには,今までにないような,自分の能力を超えるような投資の方法とか何とかかんとかと言われたら,それは困りますねということなのですが,しかし,方法は二つありますよね,その場合ですら。

  第1の方法は,我々は自己執行義務の変更というのを大胆にやることに多分なるのですね。

そうだとすると,とりあえず,それでも,樋口,あんたやれよと受益者と委託者がおっしゃるのであれば,私は,自分の能力を超えているのだけれども,能力のある人を見つけますよ,それでそこへ委託してやってもらいますということで,善管注意義務の履行はできそうな気がするのですね。

  でも,そういうことがもしできないなら,第2の方法は,辞任のところでは,今のところは43条から46条  をそのまま残すというのですが,そのまま残すのの中には,「已ムコトヲ得サル事由アルトキハ受託者ハ裁判所ノ許可ヲ受ケ其ノ任務ヲ辞スルコトヲ得」と書いてあるのですから,そういう方法をとってやめることができそうなのですね。

あるいは,本当はもう少し辞任を容易にするという選択肢も,今立法作業をやっているのですから,あり得るような気がするのですね。

  だから,「受託者の利益」というのが,今日のお話では,この前,もしかしたら私がそもそも誤解していて,受託者の個人的利益をこんなにはっきりしてくるようでは信託の本質という点から問題なのではないかということを強く申し上げたのですが,そうではないというふうにおっしゃってくださったので,もうそこで満足すべきなのかもしれませんが,更にもう一歩,これは,私が「受託者の利益」の意味というのを十分分かっていないところがあって,ちょっと教えていただければ有り難い。具体的な例で示してくださると有り難い。

● では,「受託者の利益」という方があるいは答えやすいかもしれないので,まずは……。もう一つはもっと根本的な問題ですから。

● 「受託者の利益」というのも決して答えやすいわけではないのですが。

  ここで,例えばどういう場合に受託者は困るかといいますと,善管注意義務は,○○委員がおっしゃったとおり,自分の能力に余るような信託財産の管理運用方法の変更がなされたときに困るだろうという気がいたしますし,忠実義務は,確かに,まじめにやっていればいいんじゃないかということに変わりないと言われればそうなのですが,例えば,もともとは自分が投資していた先について,信託行為の変更によってそこに投資するというような変更がもしされたときには,投資先が競合して,忠実義務の問題というのは生じてくるのではないかなというような気がいたしております。

そういうときに義務に従った行動をとれなくなるということが,ここで言う「受託者の利益」に反する場合に該当するのではないかなというような感じがいたしております。

● 済みません,「受託者の利益」というのはこういうものだというふうにさっきおっしゃったものをもう1回読み上げていただくことと,それから,今の忠実義務の方は,正に委託者と受益者がそういうふうに言ってくれたのだから,忠実義務違反はもはやなくなるわけですね。

● 受益者が言ってきた場合で,受託者が従ったということですね。

● ええ,忠実義務にならない例外の典型みたいなものだから。

それでも,実際にやってみると,どうしたらというので困る例はあり得るとは思うのですけれども,一応大きな意味では,そこまでおっしゃるなら,もはや忠実義務違反は私にはありませんという話になるので,大丈夫なような気もするのですね。

  定義的な,「受託者の利益」とはこれだというのをもう1回だけ。

● 定義というか,私がいわば独自の見解を申し上げているだけなのですが,この点につきましては,「受託者の利益」は,原則として辞任の自由がないというのが我々の前提でございますので,当初受託した信託行為の内容とは異なる新たな内容の信託行為についても,善管注意義務や忠実義務のもとで受託者としての職務を適切に果たしていかなければならなくなる,そのような責務を十分に果たすべき受託者の同意ないし利益を信託の変更に当たって考慮することは,受託者による信託事務の適切な処理を期待するという観点からも不合理とは言えないと考えられる。

したがいまして,ここに言う「受託者の利益」とは,受託者の個人的利益のことではなくて,受託者が善管注意義務や忠実義務違反に問われることなく,適切に信託事務を処理し得る利益というふうに考えているというところでございます。

  あと,辞任の自由を認めた方がというお話は,これはかつてもいろいろ議論があったわけでございますが,ここでは,信頼というのは,別に受託者が受益者を信用しているわけではなくて,受益者が受託者を信用しているという,言ってみれば片面的な形になっておりますので,受託者に対するガバナンスなどの観点からも,委託者や受益者が受託者を自由に解任できるというのは,信頼をしている方からの解任なのでいいと思うのですが,逆に,信頼されている方が自分で自由にやめるというのはそれとパラレルにはいかないということもありまして,受託者には辞任の自由は原則ないということで通しているということも付言させていただきます。

● 今の問題と密接に関係しますけれども,○○委員の意見のもう一つ,いわば1に相当する部分ですか,根本的に,変更というものについて。

● 1の方でございますか。三者の合意としているのはおかしいという。

  ○○委員が先ほどおっしゃったのは,委託者と受益者の合意に基づいて受託者がやればいいじゃないかということですが,先ほど私申しましたけれども,二者がいいからといって,できないこともあるだろうと。

やはり,そういう能力という観点から,受託者の意向というのもこの場に反映させるべきではないか,それは当然,自己の利益というよりは,善管注意義務,忠実義務のもとで事務処理をし得るという自分の能力にかんがみて,誠実に合意に関与するということは認めていいのではないかということで,三者の並立にしているということでございます。

● 私,○○委員のおっしゃることに80パーセント賛成で,20パーセント反対なのですが,反対なのは,受託者が困る場面というのは結構あるだろうというところが反対であって,○○委員のおっしゃるような形では処理できないだろうと思うのです。

  ただ,そもそも三面契約としてでき上がっているわけではなくて,委託者が信託を設定して,受託者が引き受けるという形ででき上がっているわけですから,三者の合意と書くのはやはり余りよくないのではないかと思うのですね。

そうすると,やはり,委託者と受益者の合意による,そして受託者の同意を得なければならないというふうに書き分けるべきであって,本当に細かい技術的な話ですが,やはり精神は違うので,三者並立よりも,二人の人が受託者の同意を得て変更を行うという形の方が何かいいんじゃないかなという気がするということだけです。それが賛成の方の話です。

● 実質は,今の○○幹事のことは非常によく分かるわけですけれども,そもそも信託の構造が何かという観点からすると,なかなかそこは難しい問題があって,契約によって設定された信託のそもそもの当事者はだれかとか,形式的に考えるとこれはやはり委託者と受託者であるとか,そういうふうにもなりかねないので,なかなか単純にはいかないところもありますね。

ただ,実質は,○○幹事のような形でやればそんなに弊害はないと私も思いますけれども。

● おっしゃったように,委託者と受益者の合意をもって受託者が同意するというスキームというのは,正に理念的には我々が考えていたとおりでございまして,おっしゃるとおりかというふうに思っております。

  ただ,事務局の方として教えていただきたいのは,このように三者の合意としておりますのは,受託者から積極的に変更の提案もできるという趣旨も含まれているわけでございますが,もしも受託者は同意ができるとすると,消極的に同意はできるけれども,積極的に変更の提案はできないということになるのではないかと。

その点につきましての懸念というのがありますので,そういうことはないのか,それともそれでも構わないのか,この問題につきましての御見解を是非ともお教えいただければというふうに思います。

● 私が答える立場にいるとも思えませんが,受託者が,例えば,受託者の負う善管注意義務の範囲において,変更した方がよい,変更した方がより信託の目的を達することができると思うときに提案をすべきであるという義務を考えるというのは十分にあり得ることだと思うのですね。

しかし,提案をして,直した方がいいですねというふうに言うという話と,自らが直すことの当事者になるかというのは別問題なのではないかなという気がします。

  が,おっしゃることもよく分かりますし,それよりも,○○委員がおっしゃったこともよく分かりますので,単純に受託者の同意とすればいいじゃないかというふうに言ったのは,考えがまだ浅かったというふうに思いますけれども。

だから,○○委員がおっしゃったように,そもそもの信託の設定の在り方というのをどういうふうにとらえるかというところと平仄を合わせて書くようにしないといけない--まあ結論はないわけですが--ということで御勘弁をいただければと思います。

● いろいろと考慮しなければいけないような問題がありそうなので,これについては引き続き検討させていただいたらよろしいのではないでしょうか。

● 受託者の利益に関して受託者の同意が必要かという今の議論についての話で,受託者サイドの意見としてお話ししたいのですけれども。

 もちろん,この制度の必要性というのは,事務局がおっしゃられた,受託者の善管注意義務,忠実義務を真っ当に確保するためという点もあろうかと思います。

ただ,考え方にもよると思うのですけれども,受託者個人としての利益もある程度おもんぱかっていただくことはできないのかということでございます。

  これは理由が二つありまして,一つは,正しく実務的には契約というふうにとらえているわけですけれども,そうした場合に,契約を一方的に変えられてしまうということは,実務感覚からは非常にかけ離れているということでございます。

  二つ目は,これは補償請求権ということにも関係し得るわけですけれども,例えば,変更を求められましたと,やれるかやれないかというと,やれますと,ただし莫大な長期投資が必要ですと。

例えば,やれるのですけれども,人を新たに雇わなければいけないですよと,ただ,その信託自体はすぐ終わります,他方,人をいったん雇った場合にはなかなかやめられませんといったときに,結局,その補償請求権の金額いかん,どれぐらいでつけるかということにもよると思うのですけれども,信託が終わった後にそういう負担を受託者として負い続けてしまうことになる。

それで,もし補償請求権を全部負わなければ,結局は信託受託者の個人の損失になってしまうという場合もあろうかと思います。

そうした場合に,やはりそういうことは受託者の担い手として萎縮効果を及ぼしてしまうこともあり得ますので,そこら辺を考えますと,そういう御提案があったときに受託者の同意を得るということを原則としていただきたいというふうには思っております。

● ○○委員のお話とほとんどかぶってしまうのですけれども,非常にレベルの低い話になってしまうのですけれども,理念的に言いますと○○委員のおっしゃることというのは非常によく分かるのですけれども,本当に現実の問題として考えた場合に受託者として対応できるかという,先ほど○○委員からお話があったようなこともありますし,非常に困難な場合があります。

  例えば,信託行為,信託契約一つとってみても,当然,商品を開発してお客様に提供するということからすると,受託者のリスクというのはもちろんいろいろと勘案するわけですけれども,お客様にとってどういう効果があるのだろうかということをある意味どんどん練った上で何らかの対応をしていくということをやっていくわけですけれども,それで一つの商品ができ上がって,提供すると。

そういう中で突発的な形で変更を求められるということについて,どこまで対応できるかというと,そういうのはレベルの低い受託者なのだと言われてしまえばそれまでなのですけれども,なかなか対応は難しいのかなというのと,もう一つは辞任のところについて,確かにおっしゃるとおり辞任というのを緩めてという部分もあるかもしれませんけれども,これも現実の問題としてとらえた場合には,そういうところで辞任したときに,受けてくれるところが本当にあるのだろうかという--これも本当にレベルの低い話なのですけれども--ところがあるので,実務上からいくと,やはりかなりしんどい話かなと,そういうことを分かっていただきたいと。

● 今までのお話と少し関連しますが,若干異なると言えば異なる問題なのですが。

  第57の1,2を今お話しされていたのですが,その下の4に正にかかわる問題だと思いますが,「信託行為に別段の定めがあるときは,当該定めに従うものとする」と。

別段の定めの例としましては,3ページ以下に,特定の第三者等々に変更を委任するような定めも許容されると。

これは本当にいろいろなパターンがあり得るところだろうと思います。

当事者のだれかに委ねるという場合もあるでしょうし,第三者,それもいろいろな第三者があるだろうと思いますが,そのあたりについては最初の御説明の中でも御指摘されていたところです。

そして,これについては甲案,乙案というのがあって,甲案ですと,最初から別段の定めが分かってやっているのだから,どういうことになったとしてもそれは仕方がないでしょうと。乙案は,それではやはりまずいので,限定を加えようというようなお話だったと思います。

  これは,広い意味での契約といいますと,契約内容の変更権限を当事者のどちらかないしは第三者に委ねるというような契約がそもそも効力を認められるべきものかどうかということ自体からして既に大きい問題があろうかと思います。

特に,消費者契約に相当する場合,つまり,一方は事業者で他方は消費者だというような場合ですと,消費者契約法の10条,不当条項規制の一般条項ですが,その一般条項に当たる代表例の一つが,正に変更権限を他方当事者ないしは一方当事者と密接に関連する者に委ねるというような条項だろうと思うのですね。

そういう意味で,この4で,「別段の定めがあるとき」と,そしてその例として,一方当事者ないしは第三者に委ねるような定めがそもそも有効かどうかということ自体,やはり気にする必要があるのではないかなと思います。

 そして,いろいろあるうちの一つの例として,例えば受託者に変更権限を委ねるというような定めが最初からあるとしたような場合に,それが果たして有効なのかと。

有効だとして,もちろん受託者は善管注意義務,忠実義務を負っているわけでして,それを履行しないといけないわけですけれども,客観的に見ればその義務に違反しているような変更をした場合に,その変更自身は効力を認められるのか,認められるけれども善管注意義務違反,忠実義務違反の責任が問えるというふうに考えるのか,それとも,やはりそれはちょっと迂遠なことであって,そもそも変更の効力が認められない,ないしは,そもそもこういう定め,受託者に変更権限を委ねるような定め自体が無効なのだというような考え方もあり得るだろうと思うのですが,そのあたりはいかがお考えなのでしょうか。

● 私も同じ問題意識を持っていまして,契約で空白部分を第三者に委ねるということはあり得ると思うのです。

例えば代金を第三者に決定させるとかですね。それから,紛争が生じたときに第三者の判断に解決を委ねるということもあると思うのです。

ただ,ここは,積極的に合意したことを新たに第三者に変更させるという権限を与えるものですから,どうも今まであった例とは違うのではないかということで,○○幹事のおっしゃっていることと同じ問題意識を持っています。

● 非常に根本的な問題で……。

● 我々としては,正にそういう,権限を与えることはできるという前提のもとにどうするかというレベル,第2段階の議論をしていたところでございまして,そもそもそういう権限を与えることができるかどうかというところも正に皆様方の御議論もいただきたいというところでございまして,いろいろな文献などを見ておりましても,そこのところを書いたものは余りないという気がいたしております。

  ただ,そもそもそういう権限を与えるのは,いったん決めたものを変更して受益者の不利になるおそれがあるのではないかという観点からとられるのであれば,例えば乙案のようにするのであれば,仮に第三者に変更権限を与えていても,このような縛りがかかっているのであれば,それをあえて無効とまでしなくてもいいのではないかなというような感じがいたしますので,無効とするぐらいだったら,乙案というのも十分あり得るかなと。

  ただ,御指摘の趣旨からすると,甲案というのは問題が多いというような感じが,今のところ,事務局としてはいたしております。

● 甲か乙かというと,乙の方がもちろんいいと思うのですけれども,そもそもこういう変更権限を第三者あるいは当事者の一方に認めるということが可能なのかということが根本的な問題提起としてあるわけですね。

  そこで,むしろ,具体的にどういう場合を想定しておられるのかということから考えていった方が解決に近いのかなという気がするのですが。

大上段に第三者に変更権限を認めると言うと非常に大きな話になりますので,こういうことが問題なのだということをお教えいただいたらいいかなと思いますけれども。

● 少し考えてから答えた方がいいかもしれませんね。

  では,ちょっとここで休憩にしましょうか。

            (休     憩)

● それでは,再開の時間になりましたので,お席にお戻りください。

  それでは,先ほど非常に難しい問題を提起されましたので,それについて,○○幹事の方でお願いします。

● 休憩時間中に考えてみたのですけれども,例えばどういう例があるかといいますと,アメリカなどでは割と使われていると思うのですが,例えば,子供が3人ぐらいいまして,そのときの経済状況に応じて配分額を決めてくださいと。

それで,その変更権というのを受託者に与える。

これは,裁量信託になると思うのですが。もちろん,その子供たちのことをよく知る第三者に与えてもいいですけれども,そういう者がその時々の状況を見て適宜配分額を変更できると,このような変更権限を第三者に与えるということが一番想定される場合ではないかなという気がいたしております。

  今のは民事信託ですけれども,他方,商事信託でどういう場合があるかというと,これはなかなか我々としても適切な例というのが思い当たらなくて……。

仄聞したところによりますと,例えばポートフォリオを決めると。例えば投資先,運用先なんかを決めるときに,ある第三者がその時々の経済状況に応じてベストと思われるところを決定すると。

これは変更というよりは,その時々に信託行為の中身を決定していくというような形をとっているというようにも伺っておりますが,考え方によっては一種の変更とも言えるのではないかと思われるところです。

もちろん,それは無制限というわけではなくて,少なくとも,今言ったような,そのときの経済情勢を見て,受益者の利益に最も適合するとか,ある程度の縛りがかかっているのかと思います。

余り実務で使われているかどうかということはよく分からないのですが,商事信託でもそういうことは考え得るかというふうに思います。

  そもそも変更権限を与えていいのかどうかという問題になってまいりますと,しかし,契約の世界,あるいは信託のこれまでの使われ方などを見ましても,第三者に変更権限を与えること自体が許されないというのは,ちょっとそこまで言うのは一般的には難しいのではないか。

やはり,そのときの設定の状況とか周囲の状況などを見まして,変更権限の付与がそもそも公序良俗違反で無効になるとか,あるいは,ここで言いますと乙案的なもののように,無制限ではなくて,委託者の設定した目的とか受益者の利益という観点からの制限のかかった変更権限までは付与されるけれども,それ以上はできないというような,いったんオーケーとした上で絞るというようなやり方という方が現実的ではないかなというように考えられるところです。

● この点につきましては,更にもうちょっと考えていきたいと思いますけれども,今の○○幹事の答えに関して,何か更にもし御質問があれば。

● 先ほどの,商事で信託というお話ですけれども,当然,現行実務においてはありませんので,こういうことがありますよという御紹介はできないのですけれども,ぱっとイメージするに,やはり我々が持っているノウハウよりも高いレベルであるとか,特に,例えば知財の関係の信託等で,法的な問題であるとか,ほかに技術的な問題,そういったものについて我々では分からないような形で,もう完全に例えば弁護士さんなり弁理士さんとかにゆだねてしまった方がいいような場合というのが出てくるのではないかなというふうに考えております。

 そういうこともありまして,信託制度自体の柔軟性を確保したいという観点から見て,先ほどの甲案,乙案からいくと,やはり甲案を支持したいというふうに思っています。

  弊害というのは当然出てくるのだと思いますけれども,これについては,契約で書いているでしょうというのが一つと,これから先,第60のところで議論があると思いますけれども,反対受益者の取得請求権を強行規定として確保するというところでもって弊害を防止する,受益者救済を図るという手段があると思いますので,自由度を高めるという意味合いから,甲案ということでお願いしたいというところです。

● ○○幹事のおっしゃったようなことで,私,十分に理解できると思っていますが,この第57の4について言うと,○○幹事がおっしゃるような懸念にも非常に共感することがあって,これから申し上げることは今後何度か申し上げようと思っているので,もう二度と繰り返すなと言われても困るのですが。

  つまり,アメリカでは,信託行為に別段の定めというので,例えば受託者に変更権を認めている場合だってあるわけです。それが一番典型的な形では,裁量信託というようなものですから。

ただ,英米法の場合はやはり歴史的なバックグラウンドがあって,最後はエクイティーの裁判所。

つまり,何を言いたいかというと,この信託法の見直しで我々ずっとやってきていて,何度も耳にする言葉が,「デフォルト・ルール」というものですね。

基本的なものをここで書いておいて,しかしあとは契約でいかようにでもなるんですよ,別段の定めでいかようにでもなるんですよというので,その半面は非常にいいことだと思っているのです。

やはり信託の自由というのは契約の自由に通ずるところがあって,それでないと信託はいろいろな形で発展していかない。

しかし,今,アメリカの例えば統一信託法典で任意法規化ということが強く言われているのは,彼らの世界では,それでも後ろにエクイティーの裁判所が常にあって,例えば一つ判例を挙げるとすれば,ある信託条項で受託者にアブソリュート・ディスクレッションを上げると書いてあるのですね,はっきり。

それに対して何の制約もないとまで書いてあるのです。しかし,紛争になりますね。

それで裁判所に行くと,アブソリュート・ディスクレッション,絶対的な裁量と書いてあってもだめですよというようなことを言ってくれるわけです。

これは,信託というのは単純な契約ではないですからという話をやってくれるのですね。

  日本でそういうバックグラウンドがあるだろうかということを翻って考えると,やはり我々はそういうような何百年間の歴史というのは持っていない。

書いてあるからという話で,契約だという話で。完全な商取引のときは,私はそれでいいと思っているのです。

商人対商人,プロ対プロという話はそれでいいと思っているのですが,それが波及していって,先ほど例に挙がった消費者であれ何であれというところへ行って,信託というのはそんなものなのかというふうな風評,評価がなされるような事態が出てくることはやはり非常に問題だと思うのですね。

それは商事信託にとっても問題であると思うので,そういう意味で,日本としては,この4についても何らかの制約をつけざるを得ないような形になっても仕方がないのかなと思っていますが。

● この信託全体を通じて共通する問題ですけれども,一方で商事信託で,またその中でも,いろいろ最先端ので,いろいろ充当性といいますか,融通性を持たせた方がいいというタイプのものから,商事で信託はあっても消費者相手に使う信託であるとか,あるいは,現実にはまだそんなにないわけですけれども,ファミリー信託的なものと,いろいろなものを含んでいるために,なかなか,どこにデフォルト・ルール的なものを置いたらいいかというのを常に考えていかなくてはいけないのですね。

  この問題につきましても,先ほどいろいろ御意見が--多少両極端的な御意見がありますけれども,どこか中間的といいますか,それなりに合理性のあるところに落ち着くように,これからまた議論していきたいと思いますので,そういうことでよろしいでしょうか。

● 甲案,乙案ということで出ているのですけれども,議論の中では,この甲案,乙案については,要するに特定の者に権限を付与する場合の権限の限定ということで議論がされているようなのですが,私もどちらかというと,甲,乙で言うと乙の方がいいのではないかと思うのですが,この指示する場合だけの限定で足りるのかというのがちょっと気になっておりまして,特に,乙案に書かれている目的を変更する場合ですとか,あるいは第60の記載の内容の変更というのは信託の根幹にかかわる部分だと思いますので,これについては,基本的に1とか2とかの規律によるというふうにすることを検討するべきではないかと思うのですが,その点も含めて御検討いただければと思います。

● 今のは,もちろん三者が合意すればいいわけでしょうけれども,信託行為の別段の定めでもって例えば目的の変更ができるというのは困るではないかと。

つまり,特定の人に権限を与えた上での話ではなくて,一般的に,この変更できるときのその変更できる中身について,信託行為に別段の定めを設けて信託目的の変更もできるという形の規定を設けるのは問題があると,そういう趣旨ですね。

● 別のところですけれども,変更のところで2点,あと分割のところで1点です。

  変更のところの第1点目につきましては,これは3,4の通知義務のところでございますけれども,多分これは強行規定だろうと思います。

これの前の段階においては,通知義務だけだったと--「あらかじめ」という言葉が入っていたかもしれませんけれども,こういう形で「前日までに」というものが入りますと,やはりかなり窮屈な感じがいたします。

例えば,2とかでいくと,軽微な変更というのも結構あるんじゃないかなと。

軽微な変更の場合については,例えば,次の通知なり,お客さんに対して通知しているところの一部分に盛り込ませた方が費用面も非常に安く済むであるとか,非常に多数の受益者であったとしたら公告で済ますとか,そういうこともあっていいのではないかと。

もちろん,重要な変更である場合においてはそういうことはいけないと思いますし,原則としては,前日までにするということを普通はすると思うのですけれども,ただ,こういう形で強行法規で決められてしまうと,かなり窮屈な感じがします。

したがいまして,デフォルト・ルールにしていただけないかというのと,そういうことが難しければ,例えば前日という部分だけカットしていただくとか,そこら辺のところをちょっと御検討をお願いできないかなというのが1点目です。

  2点目につきましては,6のアステリスク2の裁判所の関与のところにつきましては,結構いろいろな問題があるということのようですけれども,実務においては,信託財産の管理方法以外でも,やはり当初予見できないような状況でデッドロック状態になるということも十分に考えられますので,最終的な救済といいますか,そういう手段として裁判所の関与というのを認めていただけたらなというふうに思います。これが2点目です。

  もう1点は,分割のところでございますが,併合と分割につきましては,現行法に規定のない中で結構実務上もやっておりまして,併合も受託者の合併とかに伴いましてやっていますし,分割につきましては,流動化のところで,不動産を一つの信託に入れて管理信託をやっておいて,その一つずつを物権化して流動化していくというようなことも結構ありまして,分割というのも割と盛んに行われつつあるというような状況です。

  そういう中で考えますと,ここのアステリスク1にも書いてあるのですけれども,その場合については,やはり信託債権というもの自体が,分割の場合,分割するもとの信託と,分割した先の信託,両方にかかっていくというところについて何らかの債権者保護手続をとることによってその片一方の方に寄せると,そういう制度というのは御検討されるということですけれども,ここら辺のところ,簡便に,なおかつ確実にできるような方法の御検討をお願いしたいということでございます。

● 同じことの繰り返しで恐縮ですけれども,ちょっと○○委員には恐縮なのですけれども,反対のことを申し上げたいと思うのですが。

  今日の議題の第57から第60は特にそうですし,前回の複数受益者の意思決定方法のところもそうなのですけれども,全体的に実務的な感覚からいきますと,今の信託法に対比しますと,非常に窮屈な,重い信託法になりつつあるのかなという面が否めないと思っております。

例えば分割とか併合とかいう点においても,今でも実務的に行っておりますけれども,後で御質問したいと思うのですけれども,この第58,第59の規律というのは強行法規のところが大きいとは思いますけれども,そうした場合に,現行対法とくらべて,デフォルト化というのがだんだん後退しているという面もあるのではないかなというふうな印象を持っております。

  もう一つの話としては,この場というのは信託一般法の在り方を議論する場であるわけですけれども,受益者への保護であるとか,特定の信託類型における保護の在り方であるとかいった場合には,やはりそれなりの法体系において別々に検討すべきところもあるのではないかと。

すなわち,信託一般法の場合もありますし,信託業法ないし資産流動化等の個別特別法とか,また,今議論されております投資サービス法等の一般規制法とかいうところで規律されるべきというところはあるとは思うのですが,私の印象からすると,本来ならそれら業法等で規制すべきものが,この一般法に入っているところもあるのではないかなというふうに思っております。

  この観点で個別論点についてのコメントを差し上げたいのですけれども,そういう意味で,第57の4に関しましては,甲案が妥当だというふうに考えています。

  あと,第58,第59の信託の併合等について,確認をしたいのですけれども,そもそもこの規定というのは強行法規であるのかということです。

  具体的には二つあるわけですけれども,一つは,例えば,そもそも信託の併合,分割を認めない信託というのはつくれるのかどうかということです。

つまり,信託契約において併合禁止,分割禁止を定めておくことは有効かと。

もっとも,考えてみますと,概念的には信託併合等も信託変更の一部であるということでしたので,手続を1回やるのか2回やるのかは別として,当該禁止を含めた信託行為自体も第57の規律によって変更することが可能であるということであるから,余り実務的に議論する実益はないのかなとも思いますけれども,第58,第59の在り方として,全体的に強行法規かどうかということをお尋ねしたいというのが一つです。

  二つ目に,仮に強行法規性が全体的にどうかということは個々具体的に検討すべきだということになった場合に,第58の2の「信託の変更手続」の例えば(1)でしたら,アからカまで開示しなければならないとか,いろいろありますけれども,これが強行規定なのかどうかということです。

実務においては,こういうある意味法定化されたものを意識せず,ある程度契約という概念の中でやっていたわけですけれども,その対比から言うと窮屈になっているのかなというふうには思っております。

もっとも,債権者の立場からすると,これだけの債権者保護手続ということがあるわけですから,非常にいい制度だということもあるわけで,ここは非常に矛盾したことを申し上げているわけですけれども,そもそも概念の整理として,個別の手続等についても強行法規なのかどうかということを確認したいと思っております。

● まず,○○委員がおっしゃった,通知が強行規定かどうか。これは,質問というよりは,そう理解しておられるというお話でしたが,これは,受益者の利益をどこまで図るかという制度的な観点から通知義務を義務づけたものでございまして,我々としては強行規定であるというふうに考えております。

  「前日までに」では厳しくて,「あらかじめ」にしてほしいというのは,どう違うのかよく分からないのですが。

● 「あらかじめ」というのではなくて,通知義務だけなら,例えば事後的なものとかいうのも認められると思いますので。

● ここの通知義務というのは,事前にすることによって初めて,変更自体に対して効力発生前に不服を言わせる機会を保障するという趣旨がございますので,「あらかじめ」であれ,「前日までに」であれ,それは我々としては特にこだわらないというか,まあ「前日までに」がいいと思っているわけですが,事後でもいいかというと,ちょっとそこは,そもそも通知をする趣旨に反してきますので,難しいのではないかなと。

事後に通知するのは,ある意味では当たり前といいますか,変更された中身を受託者や受益者に,こういう信託になりましたと言うのはむしろ当然の報告義務だというふうに考えておりますので。

ここは,通知というのはもう少し意味合いが違うのではないかというのが,とりあえず事務局の理解でございますが,御指摘を踏まえて考えてみたいとは思っております。

  それから,分割の場合の債権者保護手続につきましてはどのようなものにするか,これは,特に独自のものを考えているというよりは,普通の商法上の債権者保護手続の併合のようなものと,また個別催告のようなものを考えておりますが,具体的な手続につきましては,検討していきたいと思っております。

それから,○○委員がおっしゃった点,2点ですが,まず,そもそも併合,分割ができないような信託行為の定めをすることはできるかということにつきましては,それはいいのではないかと思っておりまして,御自身がおっしゃられましたように,そのような禁止の定めをそもそも三者の合意とかで解除した上で更に併合する,それもまた可能でございますが,もしも,いったん信託行為の中で,この信託は分割できませんよとか,併合できません,あるいは変更できませんもあるのでしょうが,そう書いてあったら,いきなりそれに違反して併合,分割,変更することはできない。

いったん解除してというプロセスを経るべきかと考えております。

  それから,併合,分割に当たっての受益者に対する併合条件の通知とかそういうところでございますが,ここも,受益者が要らないと言うのであれば,あえてしなくていいのではないかなと。

ちょっとそこはまだ十分検討しておりませんし,受益者の保護の観点からするともう少し強いものかなという気もしてはいる半面,受益者が要らなければ要らないのではないかという考え方もございまして,そこは御指摘を踏まえて検討したいと思っております。

●  ○○委員の先ほど言われた,非常に小さな変更で,明らかに利益に反することはないだろうというようなものについては,場合によっては通知の仕方の方でも解決できるのではないでしょうか。

さっきの,どこかに公示すればいいというのであれば,それはそれで解決するわけですね,事前であっても。さっきの御発言はそういう御趣旨ではありませんでしたか。

● そうですね。今は通信手段とか通知手段というのは結構いろいろとありますから。

● 個別にやれと言われると大変だけれども。

● そういうふうに前日までで個別にと言われてしまうと,結構困る部分というか,窮屈だなということで,そこも何らかの御配慮をと。

● ちょっとこれを見ていて,基本的にはこれでいいのだけれども,この通知の持つ意味というのは,事前に異議がある人がいるかもしれないから,事実上反対するというか,自分の意見を表明するチャンスを与えようということで,それはそれで結構なのですけれども,これは一応,第57の2のアからエまでの要件を満たされていた場合には,結局変更は効力を生じて……。

● 通知はしなくても。

● ですから,通知をしないで,効力が発生して,先ほど,通知をする義務の違反という問題は生じるかもしれないと言われたけれども,しかし,それも何か損害賠償とかいうものが生じるわけでもないでしょうね。

この要件が満たされて,変更ができるのだという前提で考えると。

● そうですね。結果的に不利益がなかったわけですから。そうすると,違反は違反ですけれども,損害がないという……。

● 私が最初にこれを読んだときには,そういう変更ができるかどうかの要件は第57の2に書いてあるので,この要件を満たせば変更はできるわけですが,その変更の効力が発生する時期を通知にかからしめているのかと思ったのですけれども,そうではないのですか。

● そうではありません。

● だとすると,さっきのように,通知をしなくても効力は発生し,その義務違反を問おうと思っても,実際上は余り何もないと。

● まあ,そういうことになりますね。

  あくまで受託者の判断が適正かどうかをチェックするという趣旨がありますので,結果的に適正であれば,それは別に構わない。例えば株式の場合でも,新株発行の場合に公告を怠っても,結局,差止事由がなければ有効になるのと同じような話になるかなという気がいたしますけれども。

● ほかに,よろしいでしょうか。

● 2点申し上げたいのですが。

  まず1点は,第58,第59の併合と分割に共通の問題だと思いますけれども,先ほど,株式会社の合併等になぞらえてというお話がございましたが,仮にそういうふうに考えますと,それぞれの無効の訴えみたいなものを仕組む必要が出てくるのではないかと。

形成訴訟として仕組んで,だれが原告で,対世効が出てというようなことまで考える必要があるのかどうか,御検討いただきたいというのが第1点です。

特に,受益権について有価証券化されて流通しているような場合には,対世的な,画一的な処理を行う必要が出てくるのではないかなという気がいたします。

  第2点は,第57の信託行為の変更の6の米印の2,先ほどから何回か出ていますが,裁判所が変更をするという話ですが,私は,ここについては,5ページのあたりに,もう少し広げられないかということが,最後の「しかしながら,」以下の段落で出てくるわけですが,慎重に考えた方がいいのかなという気がしております。

 現行の信託法は裁判所の関与というのを幾つか定めておりますけれども,多くは,何かをしようとするのに裁判所の許可が要ると。

つまり,何かしなければいけないことがあって,だれかから提示されて,それに対して裁判所が許可をするという形のものが多い。

8条でしたか,信託管理人を選ぶというときには,だれを選ぶかというので幅がありますけれども,しかし,信託管理人を選ぶかどうかということはオンかオフかしかないわけですが,この現行法23条というのは,そういう意味では随分幅の広い,裁判所がしなければいけない判断の幅が広いものではないかと。

更にこれを広げるというのは,非常に慎重であるべきだと思います。

  つまり,別の言い方をしますと,この私的な財産管理に許可みたいな形で公権的に関与するというのを超えて,積極的に内容を形成するということまで裁判所の権限あるいは義務とするのが適当なのかどうか。

更に別の言い方をしますと,財産関係で何かデッドロックに乗り上げるというのは,ほかのシチュエーションでは幾らでもあると思うのですが,信託についてだけそういうことを設けるのは果たして適当なのかどうかということです。

  先ほど○○委員から,最後はエクイティー・コートが控えているというのが英米の信託であるというお話がございました。

そういうことができないと,信託というのはそんなものかという風評が立つというお話がございました。

一面それは真実だと思いますけれども,その半面で,裁判所による変更によって不利益を感じる人にとっては,裁判所はこんなことにまで関与してくるのかという風評が立つという側面も必ずついて回るということも考える必要があるのではないかと思います。

それぞれの国で司法制度に伝統がございますので,もちろん,これで世の中を変えていこうということは議論としてはあり得ると思うのですけれども,踏み出すときには,二歩三歩踏み出すのではなくて,半歩ずつぐらい踏み出すという考え方もあると思いますので,それとの関係で23条の見直しを考えるべきではないかというのが私の意見でございます。

● 御指摘になりました無効取消しの訴えにつきましては,検討いたしたいと思いますし,裁判所の変更の範囲につきましては,是非ともまた皆様の御議論をいただきたいというふうに思います。

● そうですね。もうちょっと具体的に,どういう場合に必要なのかということも検討しながら考えていきたいと思います。

● 先ほどの○○幹事からの御意見と同趣旨でございまして,第2回の部会で申し上げたこととも重なることが多いということでございますが,非常に多様な形態がある信託において,一方,裁判所が信託に関与してきたという,そういった伝統においては非常に乏しいということがございます。

若干,統計などもざっとだけ見たのですが,平成11年から15年まで,裁判所が信託に関する非訟事件といたしまして--訴訟ではなくて,こういった信託行為の変更ですとか受託者の解任等全部含めまして,非訟事件の数と申しますと,全国で大体5件から10件程度という状態が続いているという状況でございます。

そういったことで,現在のところ,裁判所にとって信託というのは非常になじみが薄いというのが実情でございます。

  そのような中で,今回,信託について法改正ということで,信託行為の変更ということで裁判所が信託行為の変更をすることができる,変更後の信託行為というものを裁判所が定めることができるということになりますと,裁判所にとっては非常に不安が大きいということになります。

受託者から変更の請求があることもあれば,受益者から変更の請求があるということもあり得るものでございますし,裁判所はその当事者の主張に拘束されずに信託行為を変更することができるということが多分非訟事件の基本的な建前ということになってしまうと思いますので,そこを裁判所が決めてしまうということで本当にいいのかということに尽きてしまうのではないかというふうに考えておりまして,現在の裁判所,今までの裁判所の在り方からすれば,非常に消極的に考えざるを得ないのではないかというふうに考えているところでございます。

  したがいまして,現在ございます信託の管理方法の変更につきましても可能な限り要件を明確化していただきたい,判断基準を明確化していただきたいというのを第2回の部会の際にも申し上げたところでございまして,この点は,先ほど○○幹事の方から,今後検討するというお話がございましたので,是非お願いしたいというふうに考えているところでございます。

  一方,財産の分配についての変更ということになりますと,こちらはもう受益権の内容そのものを裁判所が変えてしまうということになりまして,そのようなことを,合意を前提とせずに裁判所が判断してしまってよいのかという意味では,やはり消極ということになるのではないかというふうに考えているものでございます。

● 現在の規定のもとでも大変な難しい問題があるということだと思いますけれども,確かにこれは,範囲を余り広げ過ぎるのには非常に慎重でなければいけないという点があると思いますけれども,少なくとも管理方法の変更については,先ほどの5件ですか--先ほどの5件というのは,必ずしもこの23条の関連ではなくて,もっと……。

● 要は信託に関する事件ということでございまして,信託に関する非訟事件全部を加えてということでございます。

ひょっとしたら,何かほかのものと一緒になっているとかいったことがあって若干数が増えるということもないわけではないと思うのですが,信託に関する事件として裁判所が統計をとっているものとしては,年間5件から10件ぐらいで推移しているというところでございます。

● ちょっと私の個人的な意見も入るので,申し上げるのが適当かどうか分かりませんけれども,ある種の事情変更の原則ですよね,これは。

事情変更の原則というのは,実体法のルールがあっても実際上はなかなかできなくて,要するに,変更されたということで当事者が変更してしまって,あとは裁判で争えというのも,これも本当は事情変更の原則としては余り適当ではないと私は思っているのですが,たまたま信託にはこういう形で裁判所が関与して事情変更の原則を行使できる規定があるので,本当はうまく使えればいいと思っているのですけれども,5件といいますか,更に実際には少ないのかもしれませんけれども,まあ,いろいろ問題点があることはよく分かっております。

● 簡単なことで,質問でございます。

  第58と第59の併合,分割ですが,だれがこれをするかという点についての質問です。

どちらも第57を準用しているので,先ほど議論があったところですが,原案のままですと,原則は三者の合意,そして,第57の2も当てはまるので,それぞれに当たると3人いなくてもいいということで,併合と分割はできると,こういうふうに理解しましたが,それでよろしゅうございますでしょうか。

● はい。

● あと,もう一つです。

  併合には債権者保護手続が入っておりますが,この債権者保護手続の対象債権者には受益者は含まれないということですか。

● 受益者は含まれないと考えております。自ら変更に同意しておりますし,かつ受益権取得請求権もありますので,入らないということで考えております。

● 分かりました。ありがとうございます。

● 第60のいわゆる証券化の58条リスクについて敷えんして述べようかと思ったのですけれども,今お話が出ましたので,一言だけ申し上げます。

証券化という,全体からすると非常に一部の部分かもしれませんが,その観点からすると,やはり同じ文脈において裁判所の介入リスクというのはできるだけ減らした方がいいと思います。

その観点からすると,このアステリスク2の中での検討ということで裁判所の関与の可能性を拡大しているということについては,やはり消極的に解すべきではないのかというふうに思っております。

現に,今お話にありましたように,そんなにニーズもないようでございますし,証券化の観点から,ちょっとどうなのかなというふうに思っております。

● この第57から第59までの,信託行為の変更,併合及び分割,この三つの規律の関係について,質問,あるいは意見を述べさせていただきたいと思います。

  基本的に,まず第57の1で,委託者,受益者,受託者の合意によると。恐らくこれは現行の信託法でも,解釈論においてはこのような考え方が通説であろうかと思います。

したがって,2以下で三者の合意がなくてもいい場合等があるのは,むしろ規制緩和になるというふうに理解しておりまして,先ほどの○○委員の,このルールが入るとむしろ規制が強化されるというのはどういう御趣旨なのか,つまり,今までの分割とか併合というのはどうやってやってきているのかというのをまず教えていただきたいというのが,第1点の質問でございます。

  それから,それとの関係で,信託の分割と併合につきましては,信託行為の変更についてのルールがそのまま適用されておりまして,いわばそれに上乗せする形で債権者保護手続がついていると。

これは,この債権者保護手続についてどう考えるかという点なのですけれども,確かに,会社法との対比で申しますと,定款変更については債権者保護手続はないのですが,合併,分割等については基本的には債権者保護手続があると。

  ところが,この信託行為の変更も,考えようによっては債権者を非常に害する信託行為の変更というのが十分に考えられるわけでございますし,特に資本制度による流出の抑制がありませんので,場合によっては,信託行為を変更して,受益者に全財産を一挙に分配してしまうことにするということすらできる可能性がある。

しかも,それを信託行為の変更という形でやられてしまうと,受託者は信託行為に従ったとおりにやっているだけだということにもなりかねないので,特に受託者の責任が有限となった場合には,債権者保護手続というのはむしろ信託行為の変更についても考え得るのではないかと。

そして,信託行為の変更について,もし仮に債権者保護手続が入れられるとすると,アメリカの統一信託法典等は,信託の併合と分割については一般的な信託行為の変更よりもむしろ緩やかにそれを認めてあげましょうと。

実務上のニーズも非常に多いということは,これはアメリカでもそうでありますので,むしろ信託行為の変更よりもやや受託者の権限を広げる形で,いわば更に規制を緩和するというのがアメリカ法の状況ではないかと理解しております。

それがちょうど第57から第59までの提案は逆になっておりますので,その点についてやや違和感があると申しますか,どのように考えたらいいのでしょうかというのが,質問ないしコメントでございます。

● 先ほど○○幹事の方から御質問がありましたので,お答えしたいと思います。少々言葉足らずのことがあるかもしれませんが,その点については釈明したいと思いますけれども。

  私の申し上げたのは,まず第1点に,御案内のとおり,信託の特徴というのは,信託の柔軟化ということを非常に重視すべきではないかということで,デフォルト・ローということをその点で追求すべきではないのかという話でございます。

  確かに,おっしゃられたとおり,現行法と比べますと,現行法ではかかる変更等の規律に関して規定がないという点で,今回,それをある程度,利害調整のバランスを考えつつ,可能とするという枠組みを立てたという点では非常に評価できることだと思います。

  ただ,この点は,実は次の第60,受益者取得請求権でコメントを差し上げようと思ったのですが,第58,第59の話で先ほど,○○幹事の方から御回答がありまして,必ずしも強行法規ではないというふうな御回答でしたので,よろしいのですけれども,例えば信託の分割ないしは併合において,私も現状というのをすべてを知っているわけではないのですけれども,基本的には,契約当事者の間で合意をしてかかる変更手続等を行うという話でございます。

そのときに,仮にこの第59の提案の中の手続として,2の(1)のように,「次に掲げる事項を明らかにしなければならない」というようなことを立てた場合には,その点においては,少なくとも現状と比べては規制強化--というと言葉がちょっと悪いかもしれませんけれども--になるのではないかと。

  ゆえに,もし緩和するということであれば,できるだけ,不要な,ないしは信託の内容に応じて必ずしも必要ないというものであれば,それは基本的にはデフォルト・ローというふうにして,もし内容によって規制が必要であれば,それは業法等で規制しておくべきではないのかという趣旨で申し上げたわけでございます。

● ○○幹事が最初,信託行為の変更においても債権者保護手続が必要な場合があるのではないかということを言われて,私も,責任限定特約なんかがついている場合にはそういうことが大いにあり得ると思います。

 ただ,仮におよそ一般的に信託行為の変更のときに債権者保護手続を設けるとしても,どういう場合に要求するかというのはなかなか難しくて,ちょっと今記憶がはっきりしておりませんけれども,これは責任限定特約のところに何か入れましたっけ。

● いえ,入れていません。

● あるいは,そこでそういうのが必要かどうかというのを検討するということはあり得るのではないでしょうか。

● 変更の場合にはやはり債権者保護手続が必要ではないかというのは,○○幹事のお書きになったもののみならず,いろいろなところで指摘がされているところでございますので,その点についての事務局のとりあえずの現時点の考え方をお示ししたいと思います。

もちろん,御指摘を踏まえて,なお再検討はしたいと思っております。

  ただいま○○委員もおっしゃいましたとおり,変更の場合というのは,変更によって重大な影響を受ける者もいれば,そうでもない者もいるのではないか。

例えば,物権的な引渡請求権を有する者であれば,変更されても特に影響を受けませんし,無限責任債権者であれば,受託者の固有財産も引当てになっておりますので,それが充実してさえいれば特段の影響はないであろう。

これに対しまして,今御指摘がありましたように,有限責任の債権者であれば,信託財産の状況次第によっては重大な影響を受けることがあるのではないかというふうに考えられます。

このように,利害関係人が影響を受ける場合というのが多様でありまして,その利益状況を完全に仕切るということがなかなか難しいということですとか,あるいは,この三者の合意で変更できるというルールを設ければ,利害関係人も契約で特に手当てをしない限り,自らの関与なく変更されるということが予測できるわけですので,そうであれば,必要であれば自ら個別の契約で,変更には自分の同意が要るとか,そのような手当てをすることもできるのではないかということも考えまして,デフォルト・ルールとしては,三者の合意のみでできるとしたということでございます。

  なお,株式会社との比較でございますけれども,これも,合併,分割,資本減少などの場合には債権者保護手続がございますけれども,変更と類似の定款変更の場合にはそういう手続がないということにも考慮しているところでございます。

  では,なぜ合併,分割の場合に保護があるのだということ,米国統一信託法典と比べて平仄が合わないではないかということで,そこも検討はしたいと思っているのですが,とりあえず,その理由といたしましては,ただいま申しましたように,信託行為の変更につきましては関係者に与える利害に多種多様なものがあって仕切り難いということに比べますと,併合,分割の場合というのは,我々の意識としては,相対的に利害関係人に与える影響が大きいのではないかというふうに考えられることですとか,それから,商法では,合併ではそういう債権者保護手続が必要とされていることなどとの平仄などにもかんがみまして,規律が逆転しているといいますか,提案のようになっているということでございます。

● この点,○○委員がおられると,一般の変更と合併等の場合とのバランスということでよくおっしゃっておりましたので,また御意見を伺えると思いますので,またいつか別な機会にでも御意見を伺うことにいたしましょう。

  それでは,次の問題にも関連いたしますので,少し先にいかせていただければと思いますが,よろしいですか。

  では,次の第60に。

● それでは,続きまして,第60の反対受益者の受益権取得請求権について説明させていただきます。

  まず,1の(1)でございますが,受益者の多数決をもって信託行為の変更に関する承認決議をした場合における,受益権取得請求権の成立要件等について検討したものでございます。

  今回の信託法の改正におきましては,信託行為に定めを置くことにより,受益者が多数決によって意思決定をすることを認めてはどうかとの提案をしたところでございます。

  このように,多数決をもって信託行為の変更を承認することができるとした場合には,自己の意思に反して変更された信託行為の内容に拘束される受益者が生ずることになりますが,信託行為の変更の中には受益者の利害に重大な影響を及ぼすものがありますので,そのような場合につきましては,変更に反対の受益者に対して受益権取得請求を認め,合理的な対価を得て当該信託から離脱する機会を与えることが,受益者保護の観点から相当であると考えられます。

  このような観点から,1の(1)のアにおきましては①から⑦まで挙げた,ここでは「特別決定事項」ととりあえず命名しておりますが,これにつきまして受益者の承認決議がされた場合には,決議に賛成した受益者以外の受益者,換言しますと決議に賛成の意思を表示しなかった受益者には,受託者に対して自己の有する受益権を公正な価格で取得することを請求できることとしております。

 ここでは,このように,主体を,決議に反対する旨の意思を表明した受益者ではなくて,「決議に賛成した受益者以外の受益者」といたしておりますのは,信託におきましては信託行為の定めにより多種多様な多数決の方法を採用できますので,信託行為で採用された多数決の方法によっては,受益者が変更に反対する旨を決議に先立って表明することが事実上困難な場合が想定できますが,このような場合にも反対の意思を表明しなければ取得請求できないとすることは,受益者保護の観点から相当ではないと考えたからでございます。詳細は,16ページのアステリスク4でも書いているところでございます。

 なお,受益権取得請求の規律は,その性質上,受益者に不利な形での別段の定めを置くことが許されないという意味での強行規定と考えておりますので,一体いかなる場合に受益権取得請求が認められるかを明らかにする必要があると考えております。

 この問題につきましては,とりあえず①から⑦の事項を挙げた上で,軽微な変更の場合にまで受益権取得請求権を付与する必要はないという考えのもとに,ただし書をもって,受益者を害するおそれのないことが明らかである場合を除外することを提案しておりますが,資料15ページの最後のアステリスク1に記載しましたとおり,いかなる事項について承認決議がされた場合に,受益者に対して取得請求を認めることとするか,例えば,受託者の忠実義務を解除するようなものについては,信託の本質に反するからそもそもできないと考えられますが,忠実義務を緩和するようなものについてはこの①から⑦には当てはまらないと思われますので,このようなものも取得請求権が発生すると考えるべきかなど,是非とも御議論をいただければと思っております。

  また,受益者による取得請求は,信託財産の規模の縮小をもたらすほか,受託者の信託事務処理の円滑を損なうおそれもございますので,その期間は合理的な期間に限定することが相当であると考えられます。

  このような観点から,(1)のイでは,反対株主の買取請求権の規律を参考といたしまして,受託者は,決議賛成者以外の受益者に対して,特別決定事項に関する信託行為の変更の効力が生ずる日の例えば20日前までに決議内容を通知しなければならないといたしまして,これを受けて,(1)のウでは,通知を受けた受益者は,効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに取得請求をしなければならないとしております。

次に,1の(2)でございますが,これは「特別決定事項の変更権限を有する者」,多数決ではなくて,変更権限を有する者によって変更の決定がされた場合における取得請求権の成立要件を検討したものでございます。

  先ほど説明しましたように,信託行為に定めを置くことによりまして,特定の者に信託行為の変更権限を付与することができると事務局は現時点では考えておりますが,仮に先ほど信託行為の変更のところで申しました,変更権限に制限がないという甲案を採用しますと,特別決定事項につきましても変更権を付与できるということになります。

ちなみに乙案ですと,そもそも変更権限がないので,こういう問題は生じてこないということになります。

甲案をとった場合につきましては,承認決議がされた場合と同様に,自己の意思に基づかずに変更後の信託行為の内容に拘束される受益者が生じ得ますので,そのような変更に反対する受益者に対して受益権取得請求の機会を認めて,合理的な対価を得て信託から離脱する機会を与えることが,受益者保護の観点から相当であると考えられるところです。

  このような観点から,決定権者が特別決定事項について,受益者に不利益となる方向で変更する旨の決定をした場合につきましては,各受益者は受託者に対して受益権取得請求をすることができるとして,受益者の保護を図ることとしております。

取得請求期間に関するイ及びウにつきましては,先ほど説明した場合と同様の規律を設けることとしております。

なお,若干付言いたしますと,決定権者が変更決定をした場合には,受託者に対して変更内容及び効力発生日を通知することになりまして,通知を受けた受託者は更に,今度は各受益者及び,場合によっては委託者に対して,変更内容等を通知することになります。

  そこで,イでは,「受託者は,各受益者に対し,効力発生日の【20日前】までに,その決定の内容を通知しなければならない」としておりますので,決定権者が受託者に対して決定内容を通知する場合には,受託者が各受益者に対して当該期限までに通知することができるように効力発生日を定めなければならなくなると考えているところでございます。

  次に,「2 受益権の取得価格の決定等」でございますが,まず受益権の内容のことですけれども,これは原則として信託行為で自由に定めることができますので,受益権の取得価格について,客観的な決定基準を法定することは困難であると考えられます。

そこで,反対株主の株式買取請求権に関する規律を参考といたしまして,受益権の取得価格は,請求する受益者と,請求に応じて取得する受託者との間の協議によって決定するのを第一次としております。

  さらに,協議が調ったとしても,合理的な期間内に代金の支払がされなければ意味がないと思われますので,例えば効力発生日から例えば60日以内に代金の支払いをしなければならないとしております。

ただし,信託財産に流動資産がないような場合には,60日以内に代金の支払いをすることが困難な場合も想定されますので,そのような場合には,受託者が裁判所に対して相当の期限の許与の申立てができることとしております。

  以上のとおり,受益権の取得価格につきましては協議によって決定されることになりますが,協議が調わないことも考えられますところ,このような場合におきましては,受益者保護の観点から,公平な第三者が受益権の取得価格を決定することが適当であると考えられます。

そこで,2の(2)におきましては,受益権の取得価格の決定につきまして一定期間内に協議が調わない場合には,受益者は一定期間内に裁判所に対し価格決定の申立てをすることができるとしております。

なお,受益権取得請求権が行使された場合の原資でございますけれども,これを幾らまでは信託財産からか,幾ら以上は固有財産からとするか,固有財産からとする場合には信託財産に求償することとするか否かなどにつきましては,先ほど信託行為の変更のところで,御説明しましたとおり,受託者,受益者間で合意すべき事項になるものと考えております。

  最後に,「3 受益権取得請求権の失効等」でございますけれども,前段は「1の決議又は決定に基づく行為がされなかったときは,その効力を失うものする」としているわけでございまして,例えば信託行為の変更につきまして,受益者の決議があったものの,委託者又は受託者がその変更に反対した場合には結局変更ができなくなりますので,こういう場合が含まれると考えております。

  2の(2)につきましては,先ほど説明いたしました,取得請求の手続上の期間的な限定に違反した場合には,当然ながらそのような請求権は失効するということを記したものでして,これによって法律関係の早期の明確化が図られるものと考えております。

  以上でございます。

● それでは,御意見を。

● 先ほどの話に関連することですが,デフォルト・ルール化の推進化という観点から意見を述べたいと思います。

  まず,この第60という規律は,基本的には強行法規だと理解しています。

これは,アステリスク2の反対解釈からしてもそうだと理解しているのですが,それを前提にしてお話したいのですが,よろしいでしょうか。

 それならば,やはり信託の柔軟性ということを考えるのであれば,ここは強行法規とすることは疑問でございまして,先ほどの○○幹事のお話の延長ではありますが,私の立場からすると,どうせ緩和するのであれば利益調整のことも考えるけれども,信託行為の多様性を認める必要があるわけなので,基本的には任意化ということを推進すべきではないかと思っております。

 例えば不動産信託において,取得請求権ということが認められるのであれば,仮に取得請求権が一部であってもそれが行使されたときに,当該信託財産においては金銭というのはないわけですし,換価することが非常に難しい話であるわけですから,その場合,実質的には当該少数反対者のために,例えば全体の信託にとってはよい変更をしようとしていても,それができないということもあり得るのかなと思っております。

もちろん,これが全部の信託においてもそうなのかということではないわけですけれども,信託内容によっては取得請求権を認めない,又は自由なアレンジを認めるような信託というのを認めてもいいのではないかと思っております。

  これは総論ですけれども,個別の論点で二つございまして,一つは1の(1)のアの⑤でございますけれども,「受益債権の内容を変更する場合」の中身でございます。

  仮に,1の強行法規化を仕方がないとしたとしても,⑤を除いた①から⑦というのは非常に大きな変更であるわけですから,このような事項があってもよかろうということだと思いますが,⑤というのは「受益債権」と書いてあるわけなのですが,「受益債権の内容を変更」というのがどういうところを意味しているのかというのが,まず不明確であると思います。

また,その解釈によってそれが広がるのであれば,いかなる信託行為の変更であったとしても,結果として受益債権の変更に間接ないしは実質的に影響し得るのであれば,もしこの取得請求権が発生するという解釈を許すということであれば,実務上やはり大きな影響があるのではないかと思います。

  この点,投資家保護の観点からどうなのかということで申し上げたいと思うのですが,例えばデット投資ということであれば,このような保護まで必ずしも必要ないのではないかと思っております。

例えば法制度でいえば,担保附社債信託法の制度において,担保の変更を行うということを考えていきますと,確かに特別決議というプロセスは法定化されておりますけれども,では決議がなされた場合に,基本的には全体を拘束しているという話で,そこにおいては反対決議者の買取請求権,償還請求権になるのでしょうか,というものは認めていないという話でございますので,このバランスからするとどうなのかなと思っております。

  また,契約の世界,シンジケーションの世界も,これはセキュリティー・トラストもございまして,やはり信託法に設けないといけない話だと思っておりますけれども,それを例に取り上げますと,シンジケーションにおいてもエージェント行為,エージェントにおいてある程度の権限を与えているということがございます。

エージェントは,全債権者を代理していろいろな権限を行使するという場面がございますが,そういうアレンジは,基本的には自由な契約で決めているということでございます。

ただ,実際的には,日本ローン債権市場協会,「JSLA」と言われているのでございますが,そういうところで標準契約を出しておりますが,それを見ても,別に多数決のことが書いてあったとしても,反対があったからといって当該反対者に対して買取請求権等を付与しているというわけではございません。

  このような実務感覚からすると,必ずしも取得請求権というのを認めるということがミニマムな保護なのかどうかということについて疑問でございますので,よってこの点についてはデフォルト・ルール化ということを望みたいと思います。

  次に,1の(2)の特別決定事項の話でございますけれども,ここも同様の文脈の話になるわけなのですが,例えばファミリーの信託であったとして,おじさんに権限を与えていましたといったときに,こういう使い方もされるのではないか。

すなわち,おじさんが子供のためによかれと思って変更した,子供はそれに反対した,そうすると本当はおじさんは長期的に運用したかったのに,いきなり子供がそのときに大金をつかむということも,この規律からするとそういうことにもなりそうでございますが,やはり信託の設定においてそういうようなことを使われたくないということであれば,やはりそこは設定時において,こういう取得請求権は認めないというアレンジメントは認めていいのではないかと思っておりますので,強行法規化というのはどうなのかということでございます。

  それを敷えんして,実効性という観点から申し上げますと,2でございますが,実際に取得権が請求された場合に,こう言っては恐縮なんですが,本当に裁判所が対応していただけるのかというところがございまして,例えば非常に極端な話ですが,これは60日の期限を設定しておりますけれども,例えば不動産信託で処分に非常に時間がかかる,通常不動産流動化の場合はテール・ピリオドということが言われまして,実際に売ると決めてから2年ぐらいとか,いろいろと期間がございますが,長期間を設定しているわけですけれども,そうした場合に,59日目に延期しましょうという申立てをして,翌日裁判所が許可してくれるのかどうか,もし許可がおりなくて,あと1週間かかりますと言われたときに,その間,受託者はある意味で債務不履行の状況になるわけですけれども,そういう結果を生み出すようなことをこの規律が認めようとしているのかということを考えますと,やはりそもそもそういうものは取得請求権を認めなくてもいいのではないかということにもなると思っております。

● 根本的な問題なので,ここでも十分検討していきたいと思います。

● ○○委員のところとかなりかぶっている部分もございますけれども,4点ばかり意見を申し上げます。

  まず1点目は,受益権の取得請求権のところでございますけれども,これは先ほどの特別決定事項の決定権限を有する者のところで,それは自由度を認めてほしいということで,そのかわりに取得請求権というのは強行規定やむなしと申し上げましたが,ここの部分については,信託契約であるとか信託制度そのものの柔軟性というのはやはりできるだけ確保したいというのが一つありまして,ただその弊害というのが必ず出てくるということですので,その弊害を防止するための受益者保護策というのはどうしても強行規定で必要だろうということで,そこの部分についてはやむなしというのが,全体としてはやむなしという方向があります。

  あと,個別の問題として,先ほど○○委員からもありましたが,①から⑦のところの文をずらっと見て,⑤だけやはり異質かなということで,ほかの重要度からしますと余りにも一般的な書き方がしてありますので,この前に,例えば「重大な」とか,そういうのを入れていただいて,なおかつ説明文の中に,こういうようなものは含めませんよとか,もちろんただし書で「受益者を害しないことが明らかであるとき」と書いてありますが,こういう趣旨であるとすれば条文上の形の手当てもお願いしたい,解説上の手当ても,そこら辺のところをお願いしたいというのが2点目です。

  3点目につきましては,当初の御提案では,取得請求権を取得できる者につきましては「決議に反対した受益者」というところを,今回につきましては「決議に賛成した受益者以外の受益者」,これはどういうものかというと,「反対の意思を積極的に明らかにしていない受益者」と書かれておりますが,こういう受益者の中には,変更の内容を承知しているけれども意向を表明しなかったという人も当然いると思いますので,そういう人にまで取得請求権を与えるのだろうかという疑問が少しあります。そこは,ちょっと与え過ぎかなという感じがいたします。

  4点目につきましては,これはまた第57のところと同じなのですが,イのところの通知義務ですけれども,ここら辺については通知しなければいけないというのは,ここについては多分軽微なものは余りないと思いますので,通知はしないといけないと思うのですが,20日間とかいうふうに限定されますと,緊急を要するような場合というのは対応できないということもあるかもしれないので,デフォルト・ルールにしてくださいというお話ではないですが,何らかの対応をお願いできないかなということでございます。

  それと,一番最初に,受益権の取得請求権については方向性としては賛成だと申し上げましたけれども,それはそうなのですが,実務上いろいろと考えると,例えば信用補完をするための劣後受益権とか,そういうことを考えたら,それについて取得請求を認めてしまうと信用補完はどうなるのかなということもちらっと考えたりして,これは実務上いろいろと工夫して対応していくことかもしれませんけれども,方向性としては取得請求自体は強行法規ということでいいのですけれども,いろいろと法制度上の問題としても,又は実務上の工夫としても考えていかなければいけないのかなと思っております。

● 今,多少ニュアンスが違う点がありますけれども,二つ御意見をいただきました。

 ただ,先ほどの第57のところで議論したことと非常に関連していまして,やはり入口というのでしょうか,最初のところを自由にするのか,少し狭めるのかということに関係しているわけですね。これについては,いかがでしょうか。

● 最後に○○委員がおっしゃったこととは違うのですが,第60についてよろしいでしょうか。

 ○○幹事が口頭でおっしゃってくださった中に,取得請求権を受益者が行使した場合に,その取得請求権が固有財産に属するか信託財産に属するかという問題については,ルールを定める必要はないだろうということでまとめられたのだろうと思います。

その理由は,その前提に,広い意味での併合,分割を含む信託行為の変更が必ずあるから,その中で少数の反対者からの取得請求権が行使された場合には,どちらで買い取るかということを決めなければならないし,決めることによって対応できるだろうということと理解いたしました。

  そういたしますと,強い意見ではなくて,大丈夫かなという疑問を少し申し上げたいのですが,第57の1とか2のアとか,これでいったときには,おっしゃるように必ず受益者,受託者が変更の当事者でありますので,決め忘れるということはあるかもしれませんが,合理的な当事者であれば,それもあわせて決めるということが考えられますが,第60の特別決定事項というものの分類と,信託行為の変更についての2のところの分類とがうまくかみ合っているのかどうかがよく分かりませんで,これがすべて2のアに入るならばよろしいのだろうと思いますが,もしイやウやエになってしまって,信託行為の変更が受託者,受益者のどちらかが欠けてしまう形で行われると,もう一つ別個の合意が必要になってこないかなということが気になりました。

  既にうまく解決されているのかもしれませんが,いかがでございましょうか。

● そういうことも起こりそうな感じがしますね。

● 第57の5のところで,条件を決めると,この中で一体幾らを信託財産から出すか,幾らを固有財産から出すかということを決めることができるわけでございます。

そして,5では1又は2のア,ウ,エの場合をすべてカバーしておりまして,もちろん,今,○○幹事がおっしゃったように,1とか2のアの場合は合意で決めればいいと思うのですが,ウとかエの場合などにおきましても,この場合は受益者とかが決定して,受託者は決定自体には関与してこないわけでございますが,その中で別途,やはり合意しなければいけないということになってくるのではないかと私どもとしては考えておりまして,そうであればその中で決めていけばいいのではないかと思われるところでございます。

● 分かりました。

  5は,場合によっては変更の当事者だけでなくて,受託者も加わった形でこれを決めると。

● しかし,うまくワークするかどうか。

  もし,デフォルト・ルールが必要ということであれば,これは今おっしゃったような1とか2のアの場合以外の場合は,原則として「信託財産から」というのを書いておいて,ただしこういう合意ができる場合は合意によって決める,こういうのもあるなと思ってはおります。

● その方が安全かなという感じがいたしましたので。

● 5だけでいこうと思ったのですが,ちょっと検討してみたいと思います。

● 分かりました。

● ほかに,いかがでしょうか。

● まず第60で,反対受益者に受益権取得請求権を認めることについては,信託法の一般ルールとしては,私としては,やはり強行規定として必要なのではないかと考えております。

 その理由は,まず第一に,やはり第57の1が原則的なルール,つまり委託者,受託者,全受益者の合意が必要である,これが議論の出発点であると思いますので,いわばその原則を破って多数決原理を取り入れる場合には,少数派に対する公正な配慮が必要であると。

  私益信託を今念頭に置いているわけですけれども,私益,経済的な目的のために設定された信託においては,少数派に対する公正な配慮というのはこのような受益権取得請求権という形であらわれるのが当然ではないかと思われるのが,第1点であります。

  第2点は,確かに,全体にとって利益となる基礎的変更を行おうとしているわけですけれども,このときにやっぱりある種のハードルを課しておくことが,本当にプラスになる基礎的変更を行うためのチェックポイントとなり得る。

したがって,ある程度のコストはやはり覚悟していただいて,それにもかかわらずプラスがあるんだと。

そういう意味では,一定のハードルを課すというのは,私は,合理的な制度なのではないかと思っております。

  ただ,どんな信託においても反対受益者の受益権取得請求権が必須かというと,それこそ受益者がプロのような場合には,これは別途検討する必要があると思いますけれども,冒頭に申し上げましたように,信託法の一般ルールとしてはやはり強行法規として課しておくべきで,あと業法,特別法等で外すことはあり得べしということではないかと思います。

  長くなって恐縮ですが,もう一点だけコメントさせていただきたいと思うのですが,1の(1)のアの⑤,先ほど○○委員が御指摘された点なのですが,私も,受益債権の内容を変更する場合に,一律に反対受益者の取得請求権が認められるというのは,何か非常に違和感がありまして,みんなで我慢しようというときに,それで多数決原理を入れて決めたときに,自分は嫌だ,抜けるというのは,⑤については違和感があるわけです。

  これは,前回の部会のときに申し上げさせていただきましたが,やはり受益者集会制度の中に種類受益者集会制度のようなものを設けて,クラスが分かれていて,あるクラスの受益者が害されるときに当該受益者集会で反対をした者に対しては,こういった取得請求権を与えるという制度として仕組む方が合理的であって,⑤はやや一般的過ぎるのではないかという印象を持っております。

● ⑤については,私も,一体どんなものが具体的に入ってくるのかが分かりにくかったのですが,これはどんな場合を……。

● 例えば受益債権の期限を,半年後だったところを10年後にするとか,あるいは利率を大幅に下げるとか,具体的にはそういう場合を想定しておりまして,今①から⑦の中で,⑤だけ非常に広いような印象があるというのはおっしゃるとおりかと思いますが,そこはただし書で,多くの場合は外れていくのではないかという認識のもとに⑤を入れているところではございます。

● 典型的には,受益者の利益が絶対的に減るのかどうか分からないけれども,期限が延びるとか,そういう形の不利益をこうむる場合ですね。

  若干広過ぎる感じもしますが,議論の余地があるかなと。

● 1点だけ確認したいのですが,私が前に申し上げたことですが,受益債権に対して直接変更を加える場合と理解してよろしいのですか。

つまり,直接は加えないけれども,信託行為を変更し,結果として受益債権の弁済が変わり得るといった場合は含まないと,こういう理解でよろしいのですか。

● これは,受益債権で考える……。

● 直接,受益債権を変更すると。

● 受益権の内容が変わることによって受益債権が変わる場合は当然入ってきます。

● 区別は難しいですよね。

  例えば投資の対象を変えて,長期的には値上がりするかもしれないけど,現在配当に回せる利益が少ないというものに投資したときに,受益債権が減ると

いうような例ですよね。

● おっしゃるとおりです。

  そういう場合を想定しているのか,想定していないのかという話ですが。

● そういう場合も入ってくる……。

● 入ってくると。

● と,我々としては思っておりますが。

● ちょっと広範囲なのかなというのが私の意見です。

● これは,皆さんの御意見もあるので,少し検討させていただきましょうか。

  この受益権の取得請求権自体を認めるかどうか,これをデフォルトにするかという,そこがまずは一番大きな問題点ですけれども,先ほどから両方の御意見が出ておりますが,どちらかというと,こういう限られた範囲で一応必要なのではないかという御意見が多かったような気がしますけれども,ほかに何か御意見があれば。--よろしいですか。

● 通知をここで要求しているという点では先ほどと同じなのですが,通知をしなかった場合について何か私法上のサンクション等があるかというと,それはないという前提なんでしょうか。

通知しなかった場合の効果ですね,あるいは通知に遺漏があったとかおくれたとか,そういうことです。

● 十分な検討しておりませんが,一つは受託者の責任ということがあるでしょうし,あとは通知をしなければ,結局支払請求権の期限が到来せず,失効しないで,いつまででも行使できるような事態になるのではないかという気がいたします。

● ただ,第60の1の(1)のウ,「受益権取得請求は効力発生日の【20日前】の日から効力発生日の【前日】まで」という,通知にかかわりない書き方になっていますので。

● そこは,通知を当然しなければいけないと思います。

御指摘の書き振りだと客観的に時期が決まってしまっておりますので,検討したいと思いますが,私の個人的な理解では,やはり通知で当然効力発生日も明らかにされているので,その20日間という期間が設定されると思っておりますので,何も通知がなければ,このように期間を制限して受益権取得請求権を失効させるということはできないのではないかと思われます。

● そういう意味では,さっきの第57とちょっと違った点があるわけですね。

  それでは,まだ未了の意見が残っておりますので,いずれまた,もうちょっと詰めていきたいと思います。それでは,本日はこれで終わります。どうもありがとうございました。

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2016年加工編

                        法制審議会信託法部会

                        第9回会議 議事録

第1 日 時  平成17年2月8日(火)  自 午後1時03分

                      至 午後4時56分

第2 場 所    法務省第1会議室

第3  議 題

   信託法の見直しに関する検討課題(6)(続き)について

   信託法の見直しに関する検討課題(7)について

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,定刻になりましたので,始めさせていただきます。

  実は,今回は○○部会長が御都合でお出ましになれません。そこで,部会長代理という制度がありまして,部会長代理は部会長の指名によるということに規則上なっているそうでございます。

そこで,私が○○部会長から図らずもその指名を受けまして,本日,議長の役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

   (委員の異動紹介省略)

  それでは,○○幹事の方から,本日の資料等についての御紹介をお願いいたします。

● 本日席上に配布しております「現行信託法第11条(訴訟信託の禁止)の改正についての意見書」という資料がございます。

これは日弁連の方から参考資料として本席で配布していただきたいという資料でございますので,その趣旨につきまして,○○委員の方から簡単に御説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

● 法務省作成の検討課題と題する資料を,その度に日弁連の方にはこちらから渡しておりまして,その中で,特に信託法第11条の改正の関係では日弁連が密接な関係があるということで,それを受けて検討されまして,その結果が,今,席上に配布されている,信託法11条の改正についての意見書です。

これについては,次回にこれがテーマの一つに入ってくると伺っておりますので,そのときに御覧の上,議論していただければと思います。今日は簡単に項目だけ御紹介させていただきます。

  まず,結論としては,信託法11条の関係で「正当理由ある訴訟信託」という例外を設けること,これについて反対をするという結論でございます。

  第2では,まず1で法務省作成の「検討課題(1)」と題する資料中の「説明」において示された見解の要約が書かれていまして,2がこの見解に対する日弁連の意見ということです。

 この日弁連の意見は全部で7項目ありまして,(1)から(7)までですが,(1)は,信託法第11条の立法趣旨の理解について,この資料中の見解に書かれている立法趣旨とは違うところがあるのではないかという指摘でございます。

  (2)は,このような正当な理由がある場合というのを訴訟信託の例外として設ける立法事実がそもそも存在しないのではないかということが書かれています。

  (3)では,この資料中の見解の方は,任意的訴訟担当が許容される場合があることを,正当な理由のある場合という例外を設ける理由にしているところ,その任意的訴訟担当が許容されることが,この正当な理由がある場合という例外を設ける理由にはならないのではないかということが書かれています。

そもそも次元が違うとか,あるいは,訴訟法上,任意的訴訟担当自体が未解決の困難な問題をたくさん抱えているので,それが許容されるからといって,そちらの方向からこの訴訟信託の許容される範囲を考えるというのは,アプローチの方法としては妥当ではないのではないかということ。

  (4)は,手続上の問題として,ちょっと複雑な事態になる場合というのを幾つか想定して書かれています。

  (5)は,信託法10条と信託法11条の関係について,資料中の見解の方では,信託法10条を総則的な規定,信託法11条を具体的事例に関する規定として位置づけているけれども,両者は並列的なものなのではないかと。

それで,信託法10条の方に例外的に認められる場合があるとしながらそういう例外規定を設けずに,11条の方にだけ例外規定を入れるというのはバランスを失するということが書かれています。

 (6)は,正当理由による例外を許容することの合理性がないのではないかと。

正当理由という例外を法律で書くという場合には,例えば判例の蓄積があるとか,あるいはそれなりの類型化が具体的になされているということが必要ですが,信託法11条の場合は,そういう具体的な類型化等まだ何もなされていないということ,それから,正当性ということが入ることによって概念の誤解あるいは拡張が見られて,実際上問題が起きるのではないかという,そういう懸念です。

  (7)が,信託法11条にこういうただし書をつけなくとも特に困らないということが書かれています。

  大体内容は以上のとおりです。

● ありがとうございました。

  では,このテーマにつきましては次回の会議で扱いたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

● それでは,今日もまたいつものように幾つかに区切って進行したいと思います。

  それでは,進行も含めて,お願いいたします。

● それでは,本日の進行でございますが,前回積み残しました信託の終了原因と信託の清算の問題,それから,今回の資料に書いていございます,信託財産に係る倒産手続,裁判所の監督,営業信託の商行為性,合同運用,遺言代用信託の問題を順次やっていきたいと思います。

信託の終了原因と清算をまずまとめまして,その後は各項目について一つずつ順番にやっていくということとさせていただきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

● そういうことですので,最初は二つということになりましょうか,お願いします。

● それでは,第61と第62の問題につきまして,順次,資料の内容を御説明いたしたいと思います。

  まず,第61の信託の終了に関する提案でございますが,現行法にも定めのある信託の終了原因につきまして改めて整理を試みた上,一括して列挙するとともに,信託の終了に伴う信託の清算以外の効果について規律したものでございます。

提案内容は第2回の部会で提示した内容とほぼ同じでございますので,詳細な説明は割愛させていただきまして,第2回部会にて提示した内容から変更した点についてのみ説明をいたします。

  まず,1点目は,1の(1)の④というところでございまして,裁判所の命令による信託の終了というところでございますが,前回の提案におきましては,「信託行為の当時予見することのできない特別の事情により信託を継続することが受益者の利益に適合しないこととなった場合において」としておりました。

これを,「信託行為の当時予見することのできない特別の事情により信託を継続することが信託の目的に適合しないこととなった場合において」と変更しております。

  このように変更した理由でございますが,これは,26ページの末尾の(注)にも書いてありますとおり,例えば,ファイナンス目的の信託におきまして,この規定による中途での信託終了が認められる可能性をできる限り排除するためのものでございます。

  この規定は,現行法の58条に対応しまして,裁判所に対する信託終了の申立権を認めた規定で,当事者の合意等によって信託を終了させることができない場合におきまして,裁判所の判断で信託行為を終了させた方がよい場合があるという判断に基づきまして,現行法から申立要件,申立権者を変更して,信託法制研究会報告書に記載したとおり提案していたものでございますが,第2回会議における御意見を踏まえまして,申立要件を今回更に変更して提案したものでございます。

  報告書の記載におきましては,裁判所に対して信託の変更を求める申立要件と同じような要件として,「信託行為の当時予見することのできない特別の事情により信託を継続することが受益者の利益に適合しないこととなった場合」には裁判所が信託を終了し得るとして,受益者の利益に重点を置いた要件としておりました。

この要件におきましても,現行法に比べまして信託の終了が認められる可能性はかなり減じられていると考えられますが,更に裁判所の判断による信託終了のリスクを回避するには,信託行為にて想定し得る状況についての定めを設けて予見不能との要件を排除することが必要でありました。

しかし,今回の提案のように改めることによりまして,継続することが信託の目的にかなう場合,裏返しますと中途で信託を終了することが信託の目的に適合しないファイナンス目的の信託,あるいは資産流動化のための信託というようなものにつきましては,裁判所による信託の終了の要件を満たさないことになるのではないかと考えているものでございます。

  このように要件を変更することにつきまして,御意見をいただければと考えております。

  もう一つ,第2回会議で提案した内容からの修正点は,1の(2)と(3)の規定を追加した点でございます。

この規定は,1の(1)の⑥の信託行為の定めによりまして受託者あるいは受託者以外の者に信託の終了権限を付与する場合に,この終了権限の行使は相手方のある意思表示によることを定めるものでございます。

このように新たな提案をする理由は,信託の終了権限の行使による効力発生時期が明確になる規律とする必要があると考えたからでございます。

なお,規定として提案してはおりませんが,資料の25ページで⑥に関しまして問題提起をいたしましたとおり,信託の終了権限を信託行為の定めにより受託者又は受託者以外の特定の者に付与する場合に,これらの者に対して信託の終了権限を無制限に付与することは可能か否か,前回,信託の変更について無限定の権限を付与していいかどうかという問題を議論させていただきましたが,それと同様な問題が信託の終了の局面でもあるということを指摘したものでございます。

  この問題につきましては,一つの考え方は,信託行為において何ら制約のない終了権限を付与された者が存する限り,信託は終了権限を有する者の判断により終了する可能性があることは明らかであって,受益者の享受し得る利益はその限度で制限されるということは受益者に予見可能であるということ,しかも,信託の変更の場合には,いかなる変更がなされるか正に多様で,予見不能であるのに対しまして,信託の終了の場合には,信託はいつかは終了するものでございまして,その効果も一義的で明確であると考えられること,更には,信託の終了は,信託の変更の場合と異なりまして,受益者に対して新たな内容の信託に関与せざるを得ないという負担を負わせるものではないことなどを理由として,特段の制限を設ける必要はない,すなわち,信託の終了については制限不要という考え方があると思います。

もう一方,受益者保護の観点から,一定の場合には受託者又は受託者以外の者の終了権限について制限がかかるという規定を設ける必要があるという考え方もあるかと思います。

この点につきましても御意見をいただければというのが,ここの25ページに書いた趣旨でございます。

  続きまして,第62の信託の清算の説明に移らせていただきます。

  信託の終了事由が生じた後におきまして,その当時に存した信託財産に属する債務の弁済を済ませた上で残余財産が生じた場合には,これを受益者等に移転する必要がございます。

ここでは,このような信託のいわば清算手続につきまして,受託者,受益者その他信託財産に関して利害関係を有する者の権利義務の内容をより明確化・合理化する観点から,提案を行うものでございます。

  なお,信託終了の効果としまして,信託終了事由が生じた場合において受益者又は帰属権利者へ信託財産がいつ移転するかという問題があることは承知しておりますが,この提案におきましては,信託財産の移転時期を明確にする規定を設けることは困難であると考え,特段の規定を設けることとはしておりません。

したがいまして,所有権移転時期につきましては,現行法と同様に,解釈に委ねることになるものでございます。

  まず,提案の1でございますが,これは,信託の終了事由が生じた後も清算目的の範囲内において信託が存続することを規定するものでございます。

  現行法の解釈といたしまして,信託の終了事由が生じた場合において,信託終了事由が生ずる前の信託,すなわちいわゆる原信託が存続するという見解と,新たにいわば復帰信託が生ずるという見解とに分かれておりますが,ここでは原信託の延長と位置づけることとしております。

信託の終了事由が生ずることによりまして,信託目的遂行のための管理処分を中止し,信託財産を受益者又は帰属権利者に早期に引き渡す義務が生ずるという点におきまして受託者の職務内容に変化は生じますが,しかし,受託者又は受益者の権利義務等に関する信託行為の定めは従前と同様に効力を有することとするのが適当であると考えられたため,このように原信託の延長と位置づけたものでございます。

  なお,現行法では,信託の存続する期限につきまして,63条におきまして,「信託財産カ其ノ帰属権利者ニ移転スル迄」としておりますが,信託財産に属する債務を弁済し,残余財産の引渡しを行って,最終計算の報告を行うまで,受託者としての義務を負うべきものと考えられますので,信託財産の移転時期と信託存続の期限は切り離しまして,清算事務の結了,すなわち,残余財産の引渡しを行って,最終計算の報告を行うまで,信託が存続するものと考えているものでございます。

 次に,2でございますが,これは,信託の終了事由が生じた以後の受託者,この提案ではこれを「清算受託者」と命名しておりますが,この清算受託者の職務及びその権限に関する規定を提案したものでございます。

  まず,(1)は①から④までございますが,これは清算受託者の職務内容でございまして,法人の清算人の職務とほぼ同様のものとしております。

 次に,(2)でございますが,これは,清算受託者は,信託行為で排除されていない限り,清算目的に必要な権限を有することを確認的に定めるものでございます。

例えば,財産の管理のみを目的とする管理信託におきましても,清算手続における債務の弁済のために信託財産の処分が必要となる場合には,当然に清算受託者は信託財産を処分する権限を有することになるものと考えております。

  次に,3は,信託財産に属する債務の弁済に関するものでございます。

  清算受託者は,職務遂行のために債務の弁済等を速やかに進めなければならない場合があると考えられますが,清算受託者が弁済すべきこれらの債務の中には条件付債務も含まれると考えられます。

しかしながら,条件付債務につきましては,条件が成就するまでは当該債務を消滅させるのに妥当な金額が明らかではない場合があると考えられますので,商法125条4項などを参考にいたしまして,清算受託者が条件付債務等を弁済する場合におきましては,裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済しなければならないとしたものでございます。

  なお,弁済期が未到来の債務につきましても,清算受託者は速やかに弁済しなければならない場合があると考えられますが,債権者との関係におきましては,期限の利益に関する民法第136条の規律によるべきものと考えまして,ここでは特段の規律を置くことはしておりません。

  次に,4でございますが,これは,受託者は信託財産に属する債務及び確定した未履行受益債務を弁済しなければ,残余財産の給付を内容とする受益債権を有する受益者又は帰属権利者に対して信託財産を引き渡すことができないとするものでございます。

信託財産に属する債務及び未履行受益債務を弁済しなければ,残余財産の給付を内容とする受益債権を有する受益者等の権利の内容が確定しないと考えられるからでございます。

  もっとも,これは信託債権者等の利益保護のための制限でございますので,弁済に必要な財産を留保した場合ですとか,あるいは,ここには明示的に記載していませんが,信託債権者の同意がある場合には,信託財産に属する債務の弁済前でも受益者に対する弁済等をすることができるものと考えております。

  次に,5でございますが,これは信託財産の帰属に関する提案でございまして,残余財産は,信託行為によって指定された残余財産の分配を受ける受益者又は指定帰属権利者に帰属するものと考えております。

ただし,これらの者の指定がない場合には,残余財産は,現行法と同様に,委託者に帰属することとしております。

  さらに,例えば,帰属権利者が有する残余財産引渡請求権が時効消滅するなどして帰属権利者が存しないこととなった場合には,残余財産は受託者の固有財産に属するものとしております。

現行法のもとでは,受託者の固有財産に帰属し受託者は完全権者になるという見解と,受託者が完全権者となるわけではなく無主物になるという見解がございますが,受益債権の消滅時効に関するところでも御説明いたしましたとおり,現行法は,信託財産は受託者の所有に属することを建前としておりまして,固有財産と信託財産の区分は,このような建前を前提としつつ,信託財産に関する対内的・対外的法律関係を律するために存するにすぎないものであるというふうに考えられますことからすれば,帰属権利者の不存在によって当然に残余財産が無主物になるとすることは困難と考えられますので,受託者が完全権者となると考えております。

  次に,6でございますが,これは帰属権利者の権利に関する提案でございます。

  (1)では,帰属権利者は,信託の終了事由が発生する前は受益者としての権利義務を有さず,信託の終了事由発生後に受益者としての権利義務を有するものとしております。

現行法のもとでは,帰属権利者は信託の終了事由発生前においても受益者としての権利の行使が認められるとする解釈もございますが,帰属権利者は,本来的に信託から利益を享受するものとされた受益者への給付が終了した後に残存する財産が帰属する者にすぎませんので,信託の終了後においてのみ,受益者としての権利及び義務を認めることとしたものでございます。

  (2)でございますが,これは,帰属権利者の利益の享受及び権利の放棄につきましては,受益者の利益の享受及び権利の放棄に関するのと同様の規律とするものでございます。

  なお,委託者が帰属権利者となる場合には委託者が受益者となる場合の規律,委託者以外の者が帰属権利者となる場合には委託者以外の者が受益者となる場合の規律それぞれに整合する内容となると考えております。

  ただし,放棄に関しましては,(3)のとおり,委託者が受益者である場合には,信託行為で別段の定めがある場合には受益権を放棄することはできるとしておりましたが,委託者が帰属権利者である場合におきましては,帰属権利者としての権利義務の放棄は認めないとしております。

これは,委託者は,法定帰属権利者として補償債務を負わないことを信託行為で定めることができますし,また,委託者自らについて残余財産の帰属先とすることを望まない場合には,信託行為で第三者を帰属権利者と指定することができるわけでございます。

そうだといたしますと,自らを帰属権利者として指定した場合,あるいは帰属権利者を指定しなかった場合には,帰属権利者としての権利義務の放棄までこの時点で認める必要はないと考えるものでございます。

  次に,7は,清算受託者の信託財産から補償を受ける権利に関するものでございます。

  信託終了後に受益者又は帰属権利者に対して受託者が交付した信託財産,ここで言う「信託財産」には受益者に交付する財産と帰属権利者に交付する残余財産を双方含むものと考えておりますが,この信託財産につきまして,受託者は補償請求権等を満足するために強制執行等ができるとするものでございまして,現行法第54条を準用する現行法第64条の規律を維持するものでございます。

先ほど申しました2と4の規律から明らかなとおり,受託者は補償請求権を有している場合には信託財産を留保することができるわけですが,例えば留保する財産の価値に比して補償請求権の額が極めてわずかであるというような場合には,受益者等に財産を移転することが合理的だという場合があり得ると考えております。

このような場合には,信託財産としての特定性が維持されている限り,補償請求権に基づく強制執行等を引き渡してもできるとするものでございます。

  なお,現行法第64条は,現行法第53条も準用しておりますが,これは,資料の33ページの(注5)に記載いたしましたとおり,この第53条を準用する規定,これは強制執行を開始していれば信託財産を引き渡しても続行できるという規定だと承知しておりますが,この規定はもう不要ではないかと考えております。

  それから,8でございますが,これは,最終計算の承認及びその効果に関する規定でございます。

  まず,(1)は,現行法第65条前段と同趣旨でございますが,現行法では,最終計算をして「受益者ノ承認ヲ得ルコトヲ要ス」とされておりますが,これでは,受託者として果たすべき注意義務を尽くして承認を求めているにもかかわらず受益者が承認しないという場合にも,なお承認を求め続ける必要があるというように考えられかねないという指摘がございます。

そこで,信託の終了事由が生じたときの受益者及び帰属権利者の承認を求めなければならないと,逆に言えば,承認を得ることまでは要しないとするものでございます。

  (2)は,最終計算承認の効果を定めるものでございまして,これは,現行法第65条後段において準用しております第55条2項と同趣旨でございます。

もっとも,受益者等が積極的に承認を行うことは期待し難い面もございますので,受託者が承認を求め,1か月を経過するまでに異議がなかった場合には,計算が承認されたものとみなすこととしております。

1か月という期間につきましては,商法第133条ですとか,破産法第89条第2項などを参考にしたものでございます。

  最後に,9の清算受託者の信託財産の競売権に関する提案でございます。

信託の清算におきましては,残存する信託財産を受益者等に引き渡すことになるわけですが,受益者の所在が不明である等の理由により引渡しを行うことができない場合もございます。

そこで,商事売買の売主あるいは倉庫営業者に認められておりますように,このような場合には,信託財産を競売して金銭化し,これを保管することを清算受託者に認めることによりまして,管理にかかる負担を軽減することを可能とするものでございます。

このような,清算目的の観点からではなく,管理義務軽減の観点から受託者に換価権限を認めることにつきましては,先ほどの2の(2)というところ,受託者は清算のために必要な一切の行為をする権限を有するという清算目的の規定で読み込むことは困難と思われますので,別途に明確に管理義務軽減のための処分権限の規定を設けたものでございます。

  なお,信託終了時には信託財産を金銭で返還することとされております金銭信託のような場合,あるいは,原信託において受託者に信託財産の換価権限があり,したがって原信託の延長である信託終了事由発生後の清算受託者にもこの換価権限が引き継がれるような場合におきましては,清算受託者はその権限に基づきまして信託財産を売却等することができると考えられますので,あえてこのような規定に依拠する必要はないということを念のため付言申し上げます。

● それでは,二つの項目がありますので,順に進めたいと思います。

  まず,信託の終了原因について,前の第2回に比べて幾つかの変更点があったということも含めまして,どうぞ御自由に御議論をお願いいたします。

● 第61の1の(1)の④のところなのですけれども,これは,私,以前も申し上げたことがあるかもしれませんが,こちらの説明資料の26ページの(注)のところに書いていただいたように,現状,現行法の58条があるがために信託の終了のリスクがある,裁判所が信託の終了を命ずる可能性があるということで,現状の58条は「受益者カ信託利益ノ全部ヲ享受スル場合ニ於テ」という条件がついておりますので,言いかえれば受益者が一人の場合においてということになっております。

したがって,証券化・流動化取引で信託が用いられる場合で,信託が終了しては困るような場合,例えば資産流動化法における特定持分信託であるとか,あるいは受託者が信託財産を引当てに借入れを行うアセット・バックド・ローンと呼ばれるような取引においては,形の上で二人以上の受益者を置くことによって58条の解除命令のリスクを排除しているというのが現状でございます。

したがいまして,こちらに書いておりますような方向で変更される,すなわち,要件のうち受益者が一人である部分がなくなるということは,かなり関係者の抵抗というものが予想されるのですが,一方,終了が認められる要件がかなり厳格化されている,すなわち,「信託を継続することが信託の目的に適合しないこととなった場合」というような要件を御提案されているということと,申立てを行える者を限定しているという,この2点から,この方向で改正されたとしても,それを前提に流動化・証券化取引を組成していくべきではないかなというふうに整理しております。

● この58条リスクというのは前から御意見をいただいていたところですけれども,ほかにございますでしょうか。

● まず,第61の全体観でございますけれども,おおむね御提案の方向で賛成ということでございます。

  特に2点ありまして,1点目は,先ほど○○委員の方からお話のあった,58条リスクというのが,前回御提案の「受益者の利益に適合しないこととなった場合」とかという,まあ,この場合でもかなりの部分排除できるのかなというふうに考えていたわけですが,今回の御提案で更に,「信託の目的に適合しないこととなった場合」というような記載になっておりますので,これについては歓迎すべきものではないか,若干①との関係が分かりにくいなというような感じはあるのですけれども,58条リスクという観点からいたしますと,歓迎できるものではないかというふうに考えております。

もう1点は,1の(1)の⑥のところでございますが,これは,先ほど○○幹事の方からも御説明がありましたけれども,25ページ上段のなお書のところに書いてありますように,「「信託行為に定める終了事由」には,信託の終了権限を信託行為の定めにより受託者又は受託者以外の特定の者に付与する場合を含む」ということでございまして,この権限を行使する場合においては受益者保護ということを考えないといけないのだろうと思いますが,これについては,先ほど御説明がありましたが,信託行為の変更と同様に,信託行為にもともと書いてある以上,当然終了する,ある権限を持った人がそういう意思を表示すれば終了させると,そういうことを予見できますので,その点については何らかの保護が図られるのではないかということと,あとは,変更と違って,これも先ほどお話がありましたけれども,新たな負担を強いられるというようなことがありませんので,これについては特段の制限を設けるべきではないというふうに考えております。

● 今の○○委員の御意見の中で,一つ御質問といいますか,第61の1の(1)の①と④の関係が少し分かりにくいという点がありましたけれども,その点,御説明いただけますでしょうか。

● おっしゃる趣旨は,恐らく,信託の目的に適合しなくなった場合というのと,信託の目的が達成不能の場合の食い違いというか,そこが微妙ではないかという御趣旨かと思います。

  二つほど例が考えられるかと思うのですが,確かに微妙ではございますが,例えば,会社の業績に貢献があった者に対して報奨金を付与するという信託があって,信託元本が1,000万円で,1回あたり褒美で50万円を与えますというようなことを決めていたとします。

ところが,非常にひどいインフレが起こりまして貨幣価値が100分の1になったと。そうすると,結局5,000円しかもらえないわけでして,5,000円でももらえれば有り難いということで,目的達成不能とまでは言えないと思うのですが,それを与えてより士気を高めるという目的に適合するかというと極めて疑問であるという意味で,目的達成不能とは言えないけれども,目的に適合しないとは言えるのではないかと,一つ極端な例ですが,考えられます。

  また,例えば,子供が大学に進学したときに学費に充当するために信託を設定していたとしたところ,子どもは大学に行かないで就職してしまったという場合があるかと思います。

こういう場合でも,子供は学校をやめてまた就職するかもしれないと,そういう可能性がある限りにおいて目的達成不能とは言えないのですが,信託設定の意図が,大学進学を望んで,その結果,卒業して職を得るということを考えていたのであれば,就職してしまったというのは,目的には適合しないということで言えるのではないかと。

  そういう意味で,目的達成不能と,目的の適合・不適合というのが若干の食い違いがあるのではないかと,二つほど,こんな例を考えているところでございます。

● ○○委員,よろしいでしょうか。

● はい。

● それでは,ほかに。

● いわゆる58条問題というかリスクについて,第2回の審議において発言したのでございますけれども,その発言の方向性の御検討をいただきまして,ありがとうございました。

  ただ,方向性については非常に御配慮も見られておるわけですが,かつ,また,私,そのときには,国家の介入を外すようなデフォルト化ということも考えられないかという趣旨のことを申し上げたのですが,考えてみますに,完全に国家の介入を回避するということは法技術的に難しいかなという気もいたしますので,このように制限していくということは一つの方向としてはあるのかなと思いました。

ただ,○○委員も議論されたわけなのですけれども,実際に証券化・流動化においてこの問題が本当に解決できるのかということで,○○委員はそれでよろしいのではないかという御発言と私は認識しているのですが,ただ,なお,やはり証券の流動化においてはプレーヤーがいろいろございますものですから,その実務のインパクトにかんがみて,格付機関等の意見を徴した上で,最終的に私としての考え方を整理したいかなというふうには思っております。

ちょっとこの段階では,これについて賛成かどうかということについて,発言は留保させていただきます。

  そこで,2点ほど御質問があるのですけれども。

  一つは,第2回においても発言したわけですが,やはりできるだけ申立ての事由を減らすという観点で,申立権者,これも現行法と比べて大分制限的になっているということはございますけれども,この御提案では,委託者,受益者,受託者が申立人と,三者が掲げられているわけです。

私は第2回のときに,委託者ということは不要ではないのかというようなことを発言した記憶がございます。

これは,今回の信託法の全体の流れの中で委託者の地位又は権限というのが全体的に低くなっているということでございまして,そういうことを考えますと,これはデフォルト化でも結構なのですけれども,物によっては委託者の申立権というのが不要又は不適当の場合があるのではないかということでございます。

よって,ちょっと御質問なのですが,委託者ということを外すということが検討の余地があるのかということが1点でございます。

  2点目は,これは非常に細かい話でございますが,○○幹事からの御説明にもありましたように,今回の修正として,「信託の目的」ということに変えましたという話なのですが,他方,ここの文章の書きぶりとしては,第57,この資料の2ページでございますが,現行法でもございますが,信託の管理方法についての変更の規範というのがございまして,ここでは,「受益者の利益」と書いてあります。

ここと第61との違いというのはこの整理でよろしいのかどうかということです。

逆に第57で議論すべきだったのかもしれませんが,第57の6のところも「信託の目的」に変える必要はないのかどうかということをいま一度確認したいということでございます。

● 前者の,委託者は不要ではないかとおっしゃる点は,前,たしか,委託者の権限をどこまでにするかと,ゼロから出発してはどうかというようなお話もあったかと思いますが,事務局といたしましては,原則として,このような裁判所に対する申立権のようなのは,デフォルトルールではありますが,まず委託者にありとした上で,しかし信託行為において委託者の権利を外すことはできるということで,ゼロからは出発しなくて,原則与えますが,委託者が自分で信託行為で終了の申立権はないというふうに定めることはできると考えておりますので,そういう位置づけにとどまるといいますか,そこまではいけるということでございます。

  それから,第57と第61の関係というのは,第61の方で58条リスクの問題を可及的に回避する観点からどうしたらいいかということに知恵を絞った関係で,ちょっと平仄というようなところまでは思い至らなかったのですが,御指摘を踏まえて再検討いたします。

直感的には,続けていくものと終わるものとで要件が多少違うということはあってもいいのかなという気がいたしますが。

● まず,先ほど出ております58条リスクについて,私自身は流動化についてはかかわっておらないのですが,流動化にかかわっている弁護士の方から意見を聞いてきておりますので,お伝えしたいと思います。

  御提案の中で,提案内容で出されておりますけれども,(注)の中で一番最後のところに,「裁判所による信託終了の申立てが認容されることはないものとも考えられるが,どうか」と問われておりまして,ないというところまでは言えないけれども,裁判所により信託が終了される可能性というのは,御提案内容によれば,相当程度低まるのではないか,あるいはかなり低まるのではないかというのが,流動化実務をやっている弁護士の意見です。

そういった観点から,万全とは言えないけれども,提案の趣旨によれば,格付機関にもかなり好感されるのではないかというような意見が寄せられております。

  それから,1の(1)の⑥,終了権限の問題について,若干意見を述べたいと思うのですが。

  この御提案の文章の中で,受託者等へ終了権限を無制限に付与できるかということが提起されておるのですが,こういった規定がもし信託行為の中に盛られた場合に,仮にその信託行為あるいは信託法に制限規定がない場合であっても,果たして無制限な終了権限が認められることになるのだろうかということについては,若干疑問があります。

継続的な契約関係の中では,解除権留保がされている場合にも,やむを得ない事由を必要とするであるとか,あるいは信義則違反や権利濫用の法理によって一定程度限定解釈がされているというのが一つの解釈の行き方なのではないかと考えられます。

そうしますと,仮に制限規定がない場合でも,額面どおり無制限な終了権限が認められるということにはならないのではないかと思われます。

  それから,二つ述べられております,特段の制限を設ける必要があるかどうかという点についてですけれども,特段の制限を設ける必要がないという考え方の根拠として,受益者の予見可能性ということが述べられておりますけれども,受益者の予見という観点からしますと,一番重要なのは,信託に具体的にどのような事態が生じたときに終了ということになり,どのような事態が生じない限り契約関係が存続されるのかという点であろうかと思います。

権限者の権限行使にゆだねられると,いつそれが権限行使されるのか分からないということでは,やはり受益者の予見可能性という観点からは問題があるのではないかと思われます。

こういったことを考えますと,受益者の予見を何らかの形で確保できるような規律というのがやはり必要ではないかと考えられます。

  具体的にどういった規律が考えられるのかということは,ちょっと検討しなければいけないとは思うのですけれども,例えば終了事由について信託行為で定め得るとすることについては,これはいいと思うのですけれども,その定め方について,例えば,具体的な内容を定めるべきであるというようなことを要求するとかそういうことを盛り込めば,あるいは予見可能性を確保できるのではないかと考えております。そういった観点からの検討をお願いできればと思います。

  それから,前回出ておりました信託行為の変更のところでも,信託の柔軟性,デフォルト化ということが議論されておりましたけれども,このことについて一言申し上げておきたいと思います。

  信託の柔軟性という観点からすると,それを図ることは非常に重要な要請だというふうには理解しておりますけれども,信託を作る段階と,いったんできた信託の維持といいますか継続性の観点という段階と,おのずと柔軟性のレベルというのが違ってくるのではないかという気がしております。

つまり,信託の組成の段階で柔軟性は広く認められるべきであるけれども,いったんできた信託については,信託の安定性の確保といいますか契約の拘束力の確保という観点から,ある程度それを維持するという観点が必要になるのではないか,こういった観点からの配慮というのも必要になるのではないかと考えております。

個人的には,信託への信頼を高めるという観点からは,信託の安定性,契約の拘束性に配慮した制度設計が行われるべきではないかと考えておりますけれども,こういった観点からも御検討いただければと思います。

● 最後の点は,より大きな問題を御意見いただいたと思いますが,ほかにございますでしょうか。

  第61の1の(1)の④で,「受益者の利益」というのを「信託の目的」に変えることについては大体賛成意見が出ているようですけれども,あるいは,この第61に関しまして,ほかの点でも。

● 先ほどの○○幹事のお話とも共通した話なのですけれども,信託行為の変更と信託の終了のところで第三者に権限を委ねるというところのお話なのですが,ちょっとよく分からないところがありまして……。

  そのゆだねられた者は,だれのために,どういう観点から動くのかというのは,多分それは受益者のためだろうなというふうには思っているのですけれども,それが例えば受託者にゆだねられた場合については,受託者としての義務というのが課せられていますので,その受託者の義務の範囲内といいますか,義務を果たしてそれを履行していくということなのか。

それと,それが第三者の場合についてはその制限がないわけですから,そうすると,いわばだれから委託……。

委託というのもちょっと変な話だと思うのですけれども,そういった関係がちょっとよく分からないものですから,その辺のところをお教えいただければと思いますが。

● おっしゃるとおり,どちらの場合も,恐らく第一義的には受益者の利益をおもんぱかるということになるかと思います。

  ただ,「信託の目的に適合」というと,受益者だけではなくて,委託者の意思というのも考える必要が出てくるのかなというのが,まず一つ,ちょっと違うかなという気がいたします。

 それから,受託者が指定権者であれば,当然,忠実義務とかがかかってきますので,信託法上の義務を履行するという観点から,変更するについても相当程度の実質的な制限がかかり得るという気がしますけれども,第三者の場合には,委託した人との委任関係に基づいて,受益者の利益を図りつつ,委任の趣旨に反しないように変更するのかなと,抽象的にはそういう感じで考えております。

● そうしますと,信託行為にだれそれというふうに書かれた場合については,その信託行為から授権されているということですので,それは,その信託行為から来る信託目的的なことに拘束を受けてやるということなのでしょうか。

● 信託目的に従ってやるというのが委任の趣旨ということになるので,その信託目的も考慮してやるということになるのではないかと思いますけれども。

● 二つございまして,一つは,もう既に今のやりとりで大分分かってきたのですけれども,簡単な方から一つ確認させていただきたいことがございます。

  この終了原因についてということで,「信託行為に定める終了事由が発生したとき」の中には,第三者等に終了権限を付与したときが含まれるということなのですが,これは,委託者自身が撤回権を留保するという場合もこれで規律を対応するという趣旨でよいか。これは確認させていただきたいということです。

● そういう趣旨でございます。

● もう一つは,今ちょうどお話しになっております,第三者,だれかに終了権限を付与した場合にそれがどういう意味を持つのかということなのですけれども,記述自身は25ページに説明のあるところですが,私自身は,今のやりとりで既に明らかになったのかとは思うのですけれども,終了権限は信託行為によって付与されておりますので,権限としてどこまで与えられているかというのは,やはり信託行為の解釈によるのだろうと思われます。

どういう趣旨でこの人に権限が与えられているのかということになると思いますので,そうしますと,全く何も特に書かれていない場合に当然に,信託の目的に反しても終了させていいということを与える趣旨かというと,それはむしろそこまでは普通は与えないということになって,内在的制約というものが当然かかるのではないかというふうに思っております。

ですから,逆に,それを与える場合には,明示に,そういう場合でも終了させる権限を与えるというような記述があって初めてそれが可能で,それで,更にそういうものを認めてよいかという問題はあるのだと思いますけれども,これは実際にどういう場合に権限が与えられるのかというのは正直分からないのですが,例えば,信頼できる第三者に信託についてチェックをしてほしいと。

それで,具体的に何かを書きますと,例えば,信託目的に適合するかどうかというようなことをめぐって争いがあるようなときにこの人の判断でやってほしいというようなことはあり得るのかと思われまして,そうすると,かなり一般的な記述で終了権限を与えるような信託行為の定めも認めていいのではないかというふうに思っております。

その点,変更と終了はやはり違うという面はあるかと思いますので,それは25ページに関して意見ですけれども,申し上げます。

● そうすると,25ページのところでは一般的な書き方でよかろうということですね。

● はい。ただ,それが25ページに書かれているような完全無制限説と解釈されるかというのは,それはまた別の話で,もう一つハードルがあるだろうということです。

● ほかに,第61について,よろしいでしょうか。

● 御意見を伺って,2点ほど補足いたします。

  一つは,○○幹事がおっしゃった,変更といっても公序良俗とか限界はあるだろうということで,恐らく,終了であれ変更であれ,そういう一般条項的な制限というのはかかってくるだろうという気がしております。

  その上で,ここでは,信託の変更について,例えば,反対受益者に受益権取得請求権が生じるような場合については制限を課すという考え方もあり得ることを指摘しましたが,このような明示的な制限を果たして終了の場合にまで課すべきかどうかというところを問題提起しているというところでございますので,また御意見をいただければと思っております。

 それから,これは一般的な実務に疑問を呈するわけではないのですが,受益者を二人にして58条リスクを回避するという御発言がありまして,ただ,受益者というのは別に一人ではなくても,二人でも,その二人が全部の利益を合わせて享受していればいいというような解説をしているものもございまして,果たして受益者を二人にすることによって58条リスクを全面的に回避できるのかというところにつきましては,どうもよく分からないところでございます。

もしもこの疑問が必ずしもおかしくないといたしますと,現在の提案というのは,なるべくリスクを排除するという観点から,より実務には芳しい提案になっているのではないかという気がしておりますので,念のため,一言申し上げさせていただきました。

● それでは,第62に進みます。後でまた戻っていただいても結構ですが,第62の信託の清算について御意見をいただけますでしょうか。

● そんなに強い意見というわけではないのですけれども,まず,当然のことだと思うのですけれども,この「第62 信託の清算について」というのは基本的には強行規定ということだと思うのですけれども,これの3の「債務の弁済」のところで,常に裁判所の選任した鑑定人の評価に従わなければいけないというふうに書いてあるのですけれども,信託の場合についてはいろいろなものがありますし,かなり軽微なものもあるのではないかなという感じがしまして,そういう観点からいくと,ちょっと窮屈かなというような感想といいますか,そういった感じを持っています。

  あと,ちょっとお聞きしたいのは,こういうような規定があったとしても,要するに関係者全員が合意していれば,別にその合意した金額で清算してもいいということでよろしいんですよね。

● ほかの利害関係人というか,ほかの債権者の関係がありますので。関係者全員というと,委託者,受託者,受益者,当該債権者と……。全部ですか。

● イメージとしては非常に少人数のものをイメージしていますので,そういう場合については……。

● 全員が合意すればいいのではないかという気がいたしておりますが。

● それは,債権者全員が把握できているという前提ですね。

● はい。

● 関連してでございますけれども,1点だけ確認させていただきたいのが,ここの「条件付債権」や「存続期間が不確定である債権等」というのには,受益者が有する権利,受益者が例えば受益権の内容として数年後に幾らもらえるとか,そういった金銭的権利もすべてこの条件付債権等に含まれるという前提でこれを考えておられるのか,そういうものではなくて,ただ受益者は信託財産を信託行為等の定めによって返してもらうだけであると,そういう理解で書かれているのかというのを1点確認させていただきたいと思います。

  それから,○○委員がおっしゃったことは,裁判所としても,というか個人的には同感なところがあるのですが,多分,世の中,清算会社はいっぱいあるのでしょうけれども,鑑定人を選任した事件というのははるかに少ないというのが現実としてはあるのだろうなと。

裁判所がそういうことを言うのはちょっとよくないのですけれども,そういったこともあり得ようかなと。

ただ,信託の場合で説明がつくのであれば,任意的な規定とするということも一応考えられるのではないのかなという気はしたというところでございます。

● 第2点は御意見ということで,第1点について,いかがでしょうか。

● 期限が未到来の場合には,やはり条件付債権として,評価という方向に行くのではないかなという気がいたしますけれどね。

● ただ,受益者は,言ってみれば本来の債務が弁済された後の持分を最後に返還してもらうというような,株主的な立場にもあると。

● そういう人もいますね。

④に当たる人もいますし,③に当たる人もいますしということですよね。

残余財産の分配を受ける受益者と,そうではなくて普通に定期的に配当を受ける受益者と,両方のたぐいがいて。

残余財産の分配を受ける受益者というのは,残った部分を受けるだけですからよいとしても,前者もいる場合には,やはり評価ということになってくるんじゃないかなという気がいたしますが。

● 受益者に,帰属権利者的な受益者と,その前の受益者というのがあって,今の○○幹事の御質問は,従来の受益者ということですか。既に発生している受益債権。

● 受益債権の中で既に確定しているものがいわば信託債務として取り扱われるということは多分間違いないのだろうと思うのですけれども,それ以降将来にわたって例えば配当を受ける権利というのは,例えば株主であればそういう配当を受ける権利はあるわけですけれども,会社が清算されたときには,そういったものを債権として評価してもらって弁済されるというだけではなくて,残余財産から分配を受けるというのが株主であろうと。

そうであれば,受益者の取扱いというのはこの清算の中ではどうなるのかなというのがちょっと疑問に思ったというだけのことでございます。

● 今,○○幹事がお話しになっていることというのは,恐らく何回か前に,受益権の譲渡のところで少し事務局の方でペーパーにしたためたところと若干関係するのかなという気もしておりますが,恐らく,今までの実務上の考え方で一番強い考え方というのは,受益権と受益債権の関係というのは株式と非常に似ているというふうに理解するという考え方があったかと思います。

その考え方に沿って信託の受益権というのを作るのであれば,恐らく今言われたような,つまり株式と全く同じような結論になるということになるのかなという気が,事務局の方ではしております。

  ただ,必ず株式と同じように受益権あるいは受益債権の関係を把握するかというと,そうではなくて,信託も契約の一種ですので,いろいろな受益債権のつくり方というのはあるということではないのだろうかという気がしております。

つまり,信託契約の時点から給付の内容が確定した受益債権というのを作ることができる,その意味でちょっと株式と違うようなタイプのものもできるということではないかという気がいたします。

● 3点あるのですけれども。

  一つは,条件付債権とかいう,今話題になっているものなのですけれども,これは,当該債権が信託財産のみを引当てにするものに限られているのでしょうか,それとも,より一般的になるのでしょうか。

より一般的だと,私はおかしいと思うのですね。

受託者が個人で無限責任を負っているというものが,信託が清算されるというときに勝手に8割になったり9割になったりするというのは妙ではないかという気がいたします。

  2番目は,先ほど出ております受益債権の話なのですけれども,私は,3のところには当然に入らないのだろうと考えていたのですが。それは○○関係官のおっしゃったことと必ずしも矛盾するとは限らなくて,結局,当該受益権の内容が信託の趣旨に従ってどう決められているかという問題に尽きると思うのですが。

10年間給付を受けるというふうな受益権の内容であるというときに,そもそも7年でやめられるのかという問題があって,ところがもはや信託の目的を達成することはできないという話になって,7年で終わると。

それは致し方がないというふうな話でありますと,それは受益権は7年で終わってしまうだけなのではないかという気もいたしまして,10年もらえるはずだったのだから鑑定評価をしてというのがどういう場合に起こるのかというのは私にはよく分からなくて,これは一般の債権者の話ではないかというふうに思うというのが2点目です。

  3点目なのですが,これは今までとちょっと毛色が変わる問題でありまして,残余財産の帰属のメカニズムというものについてお考えがあれば,お聞かせ願いたいということでございます。

4のところを読みますと,そこには,「残余財産の給付を内容とする受益債権」という書き方がしてありまして,残余財産がそういう受益者ないしは帰属権利者に行くというメカニズムというのを,給付を目的とする債権だといえば,それはもちろんそうなのですけれども,何か給付行為というものがあって初めて行くという感じがするのに対して,5の(1)を見ますと,「残余財産は……帰属するものとする」と書いてありますね。

例えば,特定物が1個残っていて,かつ,帰属権利者が一人だけであるというときに,それは,信託の終了というものが起こって,清算,まあ債権者が先ですから弁済が済んでからということになるかもしれませんが,それで自動的にその帰属権利者に所有権なら所有権というものが帰属するというのか,それとも,そこで清算人ないしは受託者から帰属権利者に対する給付みたいなものがあって初めて帰属するのか。

もし仮に後者であるとしたときには,それは,日本民法が物権行為としての引渡しというのを観念していないということと整合的なのかという話について,もしお考えがあれば,お聞かせいただきたいということでございます。

● 第1の点につきましては,たしかに,信託の清算において8割になることによって受託者個人に対しても8割になるというのはおかしいというのは,おっしゃるとおりかと思いますが,反面,評価の対象はあくまで信託にかかってくる部分だけだというような分け方ができるのかどうかというのは一つ気になっているところでございます。御指摘を踏まえて検討したいと思います。

  それから,3点目の所有権移転時期の問題でございますが,これは,御意見が分かれているところでして,物権行為独自論に近いような,引渡しによって初めて移転するという考えもあれば,終了によって意思主義のもとで当然移転しているはずだという考えもあるところと承知しております。

  事務局といたしましては,給付行為ないし引渡行為という行為が必要であるということは前提としておりますが,それが所有権移転に連動しているかどうかという点につきましては沈黙しているわけでございまして,いつ移転するかという点につきましては,あえて規定を設けず,解釈にゆだねたいというところでございます。

● 今の整理というか確認なのですけれども,既発生の受益債権というのと,それから,33ページの下から5行目ぐらいに,「残余財産の給付を内容とする受益債権を有する受益者」というのと,それから,それと別に,受益者が帰属権利者と指定された場合というのとありそうな感じがするのですが,それぞれ違ってくるのでしょうか。

あるいは,今後もし整理していただくとすると,そういった点も整理すると議論が分かりやすくなるかなというふうな……。まあ,これは印象ですが。

 それから,所有権移転時期については解釈に委ねるということでよろしいでしょうか。

  ほかに。

● 1点質問させていただきたいと思います。今の点とも若干かかわるのですが。実質にかかわる問題というよりは,言葉だけかもしれないのですが。

  信託の存続と言われることの意味なのですが,現行法で言いますと63条が正にその規定でして,資料で言いますと29ページの真ん中あたりですけれども,「信託財産カ其ノ帰属権利者ニ移転スル迄ハ仍信託ハ存続スルモノト看做ス」という規定が置かれていると。

それが,この29ページの真ん中を見ますと,そうではなくて,信託の終了事由が生じた後でも存続し,結了までは存続するというふうに扱うと。

これは,現行法ですと,あくまでも財産の所有権なら所有権の移転,財産の所在に合わせて信託の存続というものを語ると。

そういう意味では,信託の中心的な効果といいますか側面を財産の帰属に見た上で信託の存続というのを語っているかなと。

その意味では,賛成するかどうかは別として,分かりやすいのですが,今回の御提案ですと,財産の所有権の所在とは別に信託が存続するというような形になっているのかなと思うのですね。

そうすると,存続するということの意味というのをどういう意味でとっておられるのだろうなというのがちょっとよく分からなかったもので,御説明をいただければということです。

 ちょっとぼやっとした質問で申し訳ないのですが,存続を語ることにどういう意味があるのかと。

● 確かに,信託というのは財産が中心だという意味で考えますと,財産がなくなったのに信託が残るというのはどういうことかという問題意識は当然おありかと思いますが,ここで事務局が考えておりましたのは,なお受託者として忠実義務,善管注意義務に従って,引き渡した後も,最終計算をして報告をするというところまでの受託者の義務が存続するだろうと。

信託が終了してしまうと,受託者の義務ということも観念しにくくなりますので,受託者をしてなお忠実義務,善管注意義務等に従った事務処理を最後までさせたいということもありまして,清算事務の結了まで信託の存続を認めているということでございます。

 私,現行法に疎いのですが,現行法ではどう解釈されているという前提なのでしょうか,その点は。

● 現行法は63条でございますが,条文そのままですと,移転したところで,あと何か残っていても信託自体は終了していると読まざるを得ないように,規定としては見えますので。

解釈としては,もちろん,我々と同じような,信託財産を引き渡した後もちゃんと受託者としての義務をもって報告まですべきだということになるのかもしれませんが,我々の提案では,それをより明確にするべく1の規定を持ってきたということもございます。

● 現行法の63条については解釈が分かれているということは共通の前提として,その上で新たに明確化したというのが事務局の御提案だと思います。

  もし,更に何か,○○幹事の方で,こうしたらどうかというふうな御意見がございましたら。

● 論理的には信託自身は終了するけれども,なお残る清算のための義務というのは存続するのだという説明はもちろん可能だろうとは思いますし,そうではなくて,「存続」という言葉を非常に広げて,財産自体はなくなっているけれども,その財産の取扱いを除く,財産の帰属を除く部分については効果はなお存続するということを含めて「信託の存続」と語っているのだと,そういう意味では,信託によってどういう効果が出てくるかということの理解をやや広げておられるのかなという気がしたというので,ちょっと質問させていただいたということです。

● 今の点でも,あるいはほかの点でも。

● ほかの点でございまして,非常に細かい点で恐縮でございますけれども,9の「競売の権利」というところでございまして,清算受託者は,受益者等が信託財産の受領を拒んだ場合には信託財産を競売することができると。

これは商法にある規定でございまして,その趣旨はよく分かるのですが,ただ,ここは清算というコンテクストであるということを考えると,保管し続けるか競売かという二者択一ではなくて,このような場合には清算受託者が信託財産を換価することができるという権限を与えてもよろしいのではないかなと思った次第でございます。

● 今の点に賛成ということで発言しようと思っていたのですけれども,やはり信託の柔軟性ということを考えますと,また実際の競売という手続の重さ,ないしはその競売の手続が本当に妥当かどうかということを考えると,清算受託者の適正な処分によって換価するということもできるのではないかと思います。

1点,そういう意味で確認なのですが,9のタイトル自体は「競売の権利」ということになっておりますけれども,9の(2)になりますと,「競売をすることを要するとともに」と書いてございますので,これはもう義務ということですよね。

そうであれば,やはりそういう処分をするということ自体の選択肢をふやしてほしいということです。

● 事務局といたしましては,競売手続は最近割と迅速・簡便になっていると思うのですけれども,それはともかくといたしまして,競売という手続でやることが一番公正な価格により処分できると考えまして,ここでは,ほかの規定の例にも倣って,「競売」という文言を書いているところでございます。

  ただ,御指摘を敷えんすれば,競売費用に満たないような価値のない財産とかいうものもあるかと思いますので,その点につきましては,商法の所在不明株主の株式の処分のように,原則競売,例外として,市場価格があるものは市場価格で,あるいは市場価格がないものについては裁判所の許可をもって競売以外の方法によって売却するというような方法というのもあり得るかとは思いますが,受託者限りで処分して果たして公正な処分ができるのかというあたりが……。

確かに忠実義務がかかっていますので,それに従ってやれば問題ないという考え方もあるでしょうが,果たして本当に競売じゃなくしてしまっていいのかというあたり,なお考えさせていただければと思います。

いや,絶対競売なんかよりも受託者に任せれば安心だというような御意見があれば,是非また御指摘いただければ有り難いと思いますが。

● 受託者に任せれば安心だというふうに私は思っていないのですが,ただ,9の競売の権利というのが働く場面というのが極めて狭いということは,もうちょっと解説中で書く方向の方がいいんじゃないかと思うのですね。

つまり,例えば,(3)に,「腐敗その他損傷しやすい物」というのがございますけれども,これは,仮に表面上は信託終了時には現物をもって交付するというふうに書いてあったとしましても,腐敗しやすいものを現物をもって交付するという義務が課されているというふうには普通は考えられなくて,これは,すぐに渡せないときには処分して金銭で渡すということは当然にその信託の終了時に予定されたことであって,できるのだという話になると思いますし,ほかのところでも,信託行為の解釈によって,現物ではなく,処分をして金銭で渡すことも可であるということは十分にあり得ると思うのですね。

それがどうしてもなくて,どうしても現物で渡すというふうにしか信託行為が解釈できない,しかし現物の保管にはなかなか費用がかかって耐えられないというときに処分をするということなのですが,ここの処分だって,非常に冷たく考えますと,例えば不動産が手元にあると,その不動産を引き渡そうと思うのだけれども相手が受領しないと-動産の方がいいですね-これは保管費用を取れるわけですから。

かつ,保管費用はその信託財産から取るしかないと仮定しますと,これは報酬を取得する度に売却だってできるんじゃないかと思うのですね。ほかの条文によって。

ですから,本当にこういう自助売却的なものが必要になる場面というのは狭くて,普通の場合には受託者が自らの裁量で売却して金銭で交付すれば足りるのだということは明らかにした方がいいのではないかと。

  はっきり申し上げますと,今までの御心配は誠にごもっともなんだけれども,その御心配が起こるような場面は,まあ本当はないんじゃないかなという気がするということでございます。

● ちょっと○○委員に教えていただきたいのですが,自分で処分するという場合,かえって不安ということはないですか。

どこかにオーソライズしてもらっていた方が安心だということにはならないですか。

● もちろん双方あると思いますけれども,受益者のためということを考えれば,競売という手続を待たずに処分した方がよいのではないかということだと思います。

もちろん,その一つの方法として,処分の方法をあらかじめ信託行為の中に定めておくと。

もって,それを続けていけば,もちろん別途の善管注意・忠実義務が出てきますけれども,原則としては,それに従えば受託者としては特段の責任を負わないというやり方もあるのではないかと。

もちろん,これは物の中身いかんによって,腐りやすいもの,腐りにくいもの,処分性のあるもの,いろいろあると思いますから,それはその当該信託の中で個々に決めていけばいいのではないかと。

  私の発言の趣旨というのは,ここの9に書かれているように,一元的に受託者の義務として定めてあって-もちろん①の場合においてはということですけれども-かつ,その方法が競売と。

実際にはその競売のやり方というのは実務においてはいろいろ簡易的なことが行われるということは私も認識していますけれども,それのほかにもいろいろなやり方を認めてはどうかという,そういう趣旨でございます。

● 信託行為の中に書いてある,あるいは解釈で相当程度賄えるのではないかという御発言もあったわけですけれども,この点については。

● もう1点だけ。

  義務というふうに書いてあるとおっしゃる点ですが,(2)で「要する」と書いてあるのは,これは競売をするには催告をすることを要するという趣旨でございまして,競売するかどうかは自由ということでございますので,決して競売を義務化しているわけではありませんので,そこは念のため付言させていただきます。

● ほかに,第62について。

● 先ほど議論になりました,28ページの9,「競売の権利」のいわば自助売却権ですが,細かい話なのですけれども,この競売のための手続費用の負担というのはどうなるのでしょうか。

● 手続費用は信託財産から取るということになると思います。

● 状況が違うのかもしれませんが,自助売却という点で言うと,民法の497条でしょうか,競売代金の供託という項目があって,このもろもろの費用については,非訟事件手続法の83条から81条に飛んで,81条の3項ですか,債権者負担だと書いてあるのですが,これとは違うという仕切りですか。

● やはり信託事務処理に必要な費用というふうに考えますので,費用の補償として信託財産から行くということになるかと考えております。

● 28ページの9の(1)の②の方は,まあそういうことかなと思うのですけれども,①でも同じですか。

つまり,特定の人間がわざわざ受け取らないというときに,全体に負担を課していいのかというのが疑問の実質なのですけれども。

 ②はしようがないですね。これはみんなで負担するしかないと思うのですが。

● 事務局としては,先ほど言いましたように費用の補償ということで考えておりましたが,受益者が複数いるときに一人の受益者のこういうことで全体の負担がおかしいと言われると,確かにそうですが……。

そうしますと,例えば特約で受益者に行けるとか,そういう特約次第になってしまいますね。

● 要するに,デフォルトは何だろうということですね,特約がなければ。

● 事務局としては,御質問には十分答えられないわけでございますが,デフォルトとしては信託財産というふうに考えてしまっておりました。

● こちらでも引き続き考えさせていただきます。

● これは,民法497条と,それから,さっき御紹介のあった商法524条と,少しずつ規律の仕方も違っておりますので,またそういう点も踏まえて御検討いただければと思います。

  ほかに,第62について,いかがでしょうか。

  それでは,第61,第62,特にございませんようでしたら,次に進みたいと思います。

● では,続きまして,第63の信託財産に係る倒産手続の問題につきましての御説明に移らせていただきます。

  現行法では,信託財産をめぐり倒産状態が生じた場合に備えた制度というのは設けられていないわけでございます。

しかし,第2回会議でも申し上げましたとおり,信託財産に責任が限定された有限責任信託債権を制度上も認めることとする場合には,信託債権者間の公平な弁済を確保するために,信託財産の倒産処理手続を整備する必要性は高まると言えます。

さらに,事業活動形態での信託の利用をより円滑に進める観点からも,信託財産に係る倒産処理手続を整備することが望ましいという指摘もございます。

これらを踏まえますと,信託財産に係る倒産処理手続を設けることが望ましいとも考えられるところでございます。

信託法制研究会の報告書では,以上のような諸点にかんがみまして,信託財産に係る倒産処理手続の整備を検討するものとしておりましたが,第2回会議におきましては,結論として,このような手続を設けることについては賛成する御意見が多かったと認識しております。

  もっとも,信託財産の破産手続を新たに創設するか否かを決定するに際しまして最も重要な要素は,言うまでもなく有限責任信託債権の導入にありますところ,御承知のとおり,有限責任信託債権の導入につきましては,事務局案として,一般信託と,有限責任を原則とする特殊な信託に分けることなどを提案しておりますが,現状ではまだ大方の一致を見るには至っておりません。

そのため,信託財産に係る破産手続を整備するといいましても,そもそもそれは有限責任を原則とする特殊な信託に限られるのか,それとも一般信託にも導入するのか,あるいは破産原因をどのように考えるかなどの,制度の正に入口論については議論を行いにくい状況にあると考えております。

  しかしながら,部会における議論を拝見しておりますと,現状では,何らかの形で有限責任信託債権の導入を行う方向での御意見が強いようにも思われたことから,信託財産に係る破産手続を整備することを提案しまして,また,入口論を一定程度棚上げにせざるを得ないものの,ある程度議論を進めていただく必要があると思われることから,資料の2ページ以降に記載しましたとおり,幾つかの論点につきまして一応の検討を試みたところでございます。

  まず,2でございますけれども,信託財産に係る破産手続を整備することを前提としまして,各論的な事項として問題となると思われる事項につきまして,順次検討を試みていったものでございます。

  まず,(1)の「破産手続の対象となる信託の範囲の限定の要否」についてでございますが,これは報告書や第2回会議におきましても,破産手続の対象を信託一般とはせずに,例えば事業目的とする信託に限定すべきか否かについて問題指摘していたところでございます。

この点につきましては,資料の3ページ上段に記載いたしました理由から,破産手続の対象となる信託の範囲を限定する必要はないという考え方を提案するものでございます。

  次に,(2)の「破産手続開始の原因」でございますが,これは,破産法15条,16条におきまして,いわゆる人的会社を含む一般的な破産手続の開始原因としては債務者の支払不能が得られ,ただし,いわゆる物的会社につきましては,債務者の支払不能のほかに債務者の債務超過をも破産手続開始の原因に加えられておりまして,それに対して,他方,破産法223条によりますと,相続財産については債務超過のみが破産手続開始の原因になっているというようなことの対比から,信託財産について破産手続の開始の原因をいかなるものとすべきかという問題を提起したものでございます。

  この点につきましては,資料の3ページから5ページに書いてありますアというところ,それから(注4)というところに関連してまいりますが,受託者の無限責任を原則としながらも,一定の事項を明示した場合には信託財産のみが責任財産となるとの規律を仮に設けることとした場合には,信託財産のみの債務超過をもって破産手続開始の原因になるとする見解と,信託財産の債務超過をもって破産手続開始の原因とならないとする見解との両様があり得ると考えられます。

これに対しまして,受託者の有限責任を原則とする新たな信託類型,言ってみれば「リミテッド・ライアビリティー・トラスト」というようなものを創設した場合におきましては,信託財産の債務超過をもって破産手続の開始の原因となることというのを書いてございます。

  それからもう一つ,4ページのイの「支払不能について」というところに書いてございますが,上のいずれの場合におきましても,相続財産と異なり,信託財産につきましては,財産以外の要素を考慮してその弁済能力をはかること,すなわち支払不能を観念することができ,少なくとも支払不能については破産手続開始の原因となると考えられるのではないかと整理しているところでございます。

  次に,(3)の「申立権者」というところですが,これは,信託財産を引当てとする債権者のほか,信託財産の管理処分を行う者として,受託者又は信託財産管理人等に破産手続開始の申立権を与えることとしてはどうかという考え方を提案するものでございます。

  次に,(4)の「申立期間」でございますが,これは,法人破産の申立期間に関する破産法19条の規定に準じまして,信託の終了後であっても,残余財産の引渡し又は分配が終了するまでの間は申立てができるとする考え方を提案するものでございます。

  次に,(5)の「破産財団の範囲」でございますが,これは,相続財産の破産に関し,破産財団の範囲を規定した破産法229条の規定に準じまして,信託財産に属する一切の財産をもって破産財団にするとの考え方を提案するものでございます。

  次に,(6)の「破産債権の範囲」というところでございますが,これは,破産法2条5項,すなわち,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって財団債権に該当しないものとする規定に準じまして,信託債権であって財団債権に該当しないものを破産債権とすること,それから受益債権もこの定義に当たりますので破産債権に含まれること,これに対しまして,6ページの(注6)に記載しておりますとおり,帰属権利者又は受益者の有する残余財産分配請求権については,その性質上,仮に破産清算後に残余財産があれば,信託の清算手続において分配がなされることになること,すなわち破産手続外で分配がなされることになること,以上の考え方を提案したものでございます。

  それから,(7)の「信託債権者と受益者との間の優先順位」でございますが,これは,6ページの下段になりますが,そこに書いた理由から,信託財産の破産手続におきまして,受益債権は破産債権に含まれ,破産手続に参加できるものの,破産配当手続の中では信託債権に劣後させるべきこととなるとの考え方を提案するものでございます。

 次に,(8)の「受託者の権利」でございますが,まず,信託財産が破産したときに受託者と破産管財人との権限関係はどうなるのかという点につきまして,第2回会議でも議論が及びましたが,これは,7ページの(注7)というところに書かせていただきましたとおり,破産手続の開始によりまして,破産財団に属する信託財産の管理処分権は受託者から離れ,破産管財人に専属することになると考えられること,その上で,受託者が有していた信託財産又は受益者に対する補償ないし報酬請求権については破産管財人に移らず,受託者自身が破産財団につき破産管財人に対して請求できるということを提案しているものでございます。

  次に,(9)でございますが,受託者の債権者の地位というところでございますが,これは,全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合等の手続参加に関する破産法104条などの規定に準じまして,信託財産に責任が限定されない信託債権者は,信託財産に係る破産手続及び受託者に係る破産手続の双方に対して,その有する債権の全額をもって参加することができるという考え方を提案するものでございます。

  次に,(10)でございますが,これは,破産手続におけるいわゆる否認権の行使に関しまして,信託財産の破産においては,相続財産の破産と同様に,破産者に当たる概念が存しないことから,受託者等がした行為をもって破産者がした行為とみなすとの考え方を提案するものでございます。

  最後に,(11),それから(注8),(注9)でございますけれども,これは,現行信託法27条の規定する受託者の損失てん補責任その他受益者の有する受託者に対する監督的権能につきましては,信託財産の破産手続が開始された場合には,破産管財人が専属的にこの監督的権能を行使するということになるとの考え方を示したものでございます。

  以上の諸点にわたる提案についての御意見のほか,他に検討すべき課題があれば,あわせて御指摘をいただきたいというふうに思っております。

  なお,冒頭に申し上げるべきだったかと思うのですが,委員・幹事の皆様からは,破産を簡易にした手続を設けることも検討に値するのではないかという御意見もいただいたところでございますが,ここでは,そのような御指摘は踏まえつつも,資料1Pの(注2)に記載した理由から,信託財産に関する破産手続を,法人格がないという点で共通していると見られます相続財産に関する破産手続に倣って整理することを試みたものでございます。

  最後に,3でございますが,これは,報告書や第2回会議でも言及いたしましたが,事業活動のビークルとして信託の需要が今後更に進展することも考えられますことから,信託を存続させつつ信託が営む事業活動の継続を図るべく,信託財産に係る再建型の倒産処理手続についてもこれを整備すべきかについて問題提起したものでございます。

もっとも,この点は,専ら再建型の処理手続まで整備する必要があるかというニーズの有無・程度にかかわる事柄であると考えられますものの,当該受託者のもとにおいて信託事業の再生を図ることにはこだわらず,ともかくも信託が営む事業活動自体の継続を図ることを重視するのであれば,あえて再建型の手続まで設けなくとも,信託財産に係る破産手続の中で営業の継続を図りつつ,事業の譲渡を行うことによって対処することができるのではないかと考えられるところでございまして,現状において果たしてどの程度のニーズがあるのかにつきまして,是非とも御意見をいただければというふうに思っております。

  とりあえず以上でございます。

● それでは,3時ぐらいをめどに休憩が入ると思いますので,とりあえず,まず御意見をいただきまして,休憩後にまた再開したいと思います。

  第63について,いかがでしょうか。

● まず,総論としてなのですけれども,今回の御提案のような破産の手続を導入するということについては,一足飛びに破産に至るのではなくて,例えば特別清算のようなものを入れていただけないかとか,もうちょっと軽目のものを入れてもらえないかというような意見もあったのですけれども,大勢は,やはり債権者から見た信頼性,安定性といいますか,そういう観点から,破産の手続を導入することについて賛成という方向でございます。

  あとは各論でございますが,破産手続開始の原因のアの債務超過のところなのですけれども,今回の御提案では,受益債務が債務超過の計算の際の債務に入るということですけれども,どうもここのところが若干違和感があるということでございます。

  このことに関しまして若干質問がありまして。ちょっとよく分からないので。

  簡単な例でいきますと,例えば,100万円を管理運用して毎月末に10万円ずつ10か月間給付するというような契約の信託を設定したとしますけれども,そのときに,例えば,1か月たったところで10万円の給付の時期は来ているのだけれども,まだ払っていませんというものと,その時点においてあと残っているのが,9か月間10万円ずつですから,90万円残っていますけれども,ただ,これは信託契約で約束された支払いということですけれども,この分と,あとは,全く支払いの時期とか金額とかが書いていないような,要するに利殖してくださいという形で渡されたようなもの,この三つについて,要するに債務超過の中の債務に入るのかどうかということをお聞きしたいのと,その三つが,先ほどの議論にちょっとプレイバックしてしまいますけれども,普通の信託債権に劣後するのかどうか,それをちょっとお教えいただきたいと思います。

● 先ほど言いましたように,受益債権は破産債権に入るということからいたしますと,確定未払いの10万円はもちろん入りますし,あらかじめ信託契約で発生して,ただ期限が到来していない90万円,これも入ると思います。

  最後におっしゃったのは,支払時期も金額も不明で,ただふやしてくださいというのですか,それは債権かどうかよく分からないのですが,それも残余財産分配みたいなものなんでしょうか。

これを受益債権と位置づけることができれば,評価をして,破産債権に入っていくのではないかという気がいたしますけれども。

● そこまで入るということになりますと,設定した段階でかなりの部分の債務があるという状況になってしまって,例えば,それが株式等の価格の変動を受けるようなものになっていた場合についてはすぐに債務超過になってしまうというようなおそれがありますので,ここの部分については,受益債務ということを債務超過の金額に入れるということについて御検討いただけないか。

  また,そういうことがちょっと位置づけとしてはおかしいということであれば,例えば,債務超過というもの自体が破産の原因になるということですけれども,そこら辺のところの御検討をいただけないかということでございます。

● 1点申し上げ忘れましたけれども,劣後かどうかという関係につきましては,受益債権は信託債権に劣後すると考えております。

● 完全に確定していても,支払時期が来ていてもということですか。

● 劣後すると考えています。そこは清算の局面でも同じでございますけれども,配当規制のようなものがない信託については,一般債権に比べて受益債権は劣後すると考えておりますので,その上で御指摘を踏まえて検討いたしたいと思いますが,受益債権が債務超過に当たってどのように評価されるかと。

請求額丸々考慮されれば破産に行きやすいということになりますが,その半面,破産手続によって受益債権の公平な弁済は図られる。

他方,信託の延命といいますか,終了させたくないということからいたしますと,例えば契約によって,受益債権の額は信託財産の額が縮減することによって縮まるのだというような契約を設けておけば,あるいは,その破産債権額,債務超過に当たって考慮する額の評価に当たって,劣後するという点を考慮して低く見積もるということができるのであれば,直ちに債務超過に至ることもないのではないかと思います。

  あと,受益債権と同額の信託財産しかないということは普通なくて,もうちょっとバッファーといいますか,余裕がある信託財産を持っていることが普通であって,多少債権があろうが,費用がかかろうが,それによって債務超過に直ちになるという事態は少ないのではないかというような気もするところでございますが,いずれにいたしましても,何をもって破産原因とするかというところも含めまして,御指摘を踏まえて今後また検討していきたいと考えております。

● 一番最初に○○幹事の方から御説明があったように,有限責任信託という新しい制度を認めるかどうかによって随分これの意味が違ってくると思うのですが。

  三,四年前に破産法改正のときに,やはりこの信託の破産というのを作るかどうかというのが議題になって,結局,有限責任という制度ができるかどうかが決まらないのでとりあえず見送ると,そういう経過があったと思うのですが,それとの関係でいくと,今回のこの御提案が,破産手続の対象となる信託の範囲を限定する必要性に乏しいと考えられるということは,もう全部を対象にした提案になっていて,私も,有限責任信託というものならば破産というのは観念できる,必要性もよく分かるのですが,受託者無限責任というのがある場合の破産手続というのは,大変難しい,いろいろな問題が生じてきて,果たしてうまく制度ができるのだろうかという懸念を持っております。

  それから,特に範囲の問題として言うと,当事者に明確な信託の合意がなくて,個別の事実関係というか契約関係を全部組み合わせるとこれは信託と評価できる,そういうような場合というのが現に判決で認められた例もありますけれども,そういうような場合もやはりこの破産手続に乗るのだということになってくると,そもそもそれが信託なのかどうかというところと,破産というところと,入口のところで大変な争いになってもめてしまうというおそれもありますので,とにかく範囲の限定の問題は非常に重要な問題だというふうに考えております。

● それはおっしゃるとおりで,もちろん,ここでは有限責任信託というのを前提とはしないで,御自由に御議論いただいてよろしいと思いますけれども,確かに一般的に言うと頭の体操みたいな非常に難しい問題がいろいろあると思いますが,今日はそれも含めて御意見を出していただければと思います。

● もちろん,有限責任信託を設ければより必要性が高いという問題もございますが,事務局として限定の対象とすべきかどうかと考えておりますのは,事業を目的とした信託に限るかどうかという視点からでございまして,結論的に,事業目的でなくても債権というのは幾らでも発生する可能性はありますし,入口のところでもめてはおかしいということで,事業目的の信託には限らないという切り口でございますので,有限責任信託かどうかという点で切り口を設けているわけではないというところは,念のため御留意いただければと思います。

● 第2回の会議において,簡易な手続が望ましいという発言をした立場から申し上げます。

  確かに,公平性の観点からは破産手続の一律的な適用が望ましいということもあるわけですので,ここら辺はなかなか議論が難しいところだと認識しております。

ただ,一律に本当に破産法の導入がいいのかどうかということについてはなお疑問があるところで,そこで質問が2点あるわけです。

  一つは,これも第2回で申し上げましたけれども,なかなか理論的には難しいかもしれませんが,破産制度の対象とならない信託ということを概念することができるのかどうかということです。

  例えば,信託行為の中でそういうことを定めていればできるのかどうかという話なのですが,そこはなかなか難しいかもしれません。

ただ,実務的な話としましては,例えば債務超過ということで破産が申し立てられて信託が壊れてしまい得る,それも一部の債権者から申立てがあったときに壊れてしまうということもあるわけですが,実際のいろいろな信託の中で,一時的に債務超過になったとしても,将来は通常の受益者に対する配当ができ得るというものもあるわけで,そうしたときに,大多数の受益者はよろしいけれども一部の債権者が壊してしまうということを認めるのかどうかという話を考えたときに,やはり破産手続とはならないような信託を設定するニーズがあるのではないかと思います。

  せめての話なのですが,例えば,商事信託法要綱を見ますと,これは全く違う解決方法だと思うのですけれども,そういったときに,一部の債権者に対して弁済をすることによって破産手続を回避することもでき得るというふうな理解をしておりますけれども,そういった,破産の手続を導入するとしても,出口みたいなものを検討する余地がないのかどうかということもあると思います。

  二つ目は,これも第2回で申し上げたところなのですけれども,DIPというような考え方があるのかどうかという話でございます。

  先ほどの○○幹事の御説明の中で,7ページの(注7)のところで,信託受託者の整理というのは,基本的には,破産管財人が管理処分権を専属するというところで整理したということでございますので,基本的には,受託者が処分権限を持つということは想定していないと認識しています。

DIPというのは,これは再生型にはある概念だと思いますけれども,破産についてはないと認識しているわけですが,なお,この前も申し上げましたけれども,信託の場合には,受託者がまだ正常に行為し得る能力がある場合もあるわけですから,また受益者の立場からしても,一番取引の内容を知り得る立場として受託者が引き続き権限を持ち続けるということが適当な場合もあるわけですので,やはり一つの選択肢としてDIPというのを検討されてもいいのではないかと思います。

もちろん,いろいろな,受託者の補償請求権の問題であるとか,忠実義務の問題であるとかあるわけですので,例外は認めてもいいわけですけれども,この点,やはり商事信託法要綱を見ますと,選択肢だということだと理解しているのですけれども,受託者は破産管財人となることができるということがそのときには提案されておりまして,それは検討に値するものだというふうに思っております。

● 休憩との関係がありますので,○○委員の御意見をいただいて……。

● 1点目は同じなので,よろしいですか。

● では,続けてお願いいたします。

● 私の方も,○○委員のおっしゃられますように,信託一般について破産手続を設ける必要が果たしてあるのかというところで同じような意見を持っておりますので,あわせて申し上げさせていただきたいと思います。

御説明にありましたように,信託が事業を目的とするものであれば,これはまあ必要なのかなというふうに思うわけなのですけれども,一般の信託,特に流動化の場合を想定しますと,従来,例えば特債法のもとでSPCを使って流動化しているときに,社債を発行するに当たって優先劣後構造とかを持ってやっておったわけですけれども,同じSPCに譲渡するときに,そこの中での個別の格付を維持するために,他の資産に強制執行できない,若しくはSPCの役員等に対しての,若しくは債権者の方に倒産の申立てをしないという条項を認めさせる,そういう特約を設ける形で対応しておったわけですけれども,今回,信託の方に,信託財産について破産手続が認められるような場合,先ほど○○委員がおっしゃられましたような倒産手続の申立てをしないという信託契約を有効にできるということであれば,これでも構わないのですけれども,そうではない場合については,かなり流動化の実務の中で混乱を生じせしめるのではないかという懸念があって,そういうものが可能かどうか,そういうところまで考えておられるのかどうなのかをまずお尋ねしたいと思います。

  特にそういうふうに申し上げないといけないのが,実際にそれができないということになって,破産手続に入った場合,先ほどから,信託債権の方が受益債権より優先するということですけれども,それ自体も若干問題があるのですが,更に,その受益権の中でも優先的受益権と劣後的受益権というふうに分かれて,かつ,その優先的受益権についても幾つかの,これは非常に大切で,どういう形で売っていくかということにも関係するのですけれども,様々な形で区別が設けられまして,その中で格付等もとっていっていると。

トリプルAのものもあるし,シングルA,トリプルB程度の,そういった優先の部分でもそういう区別があるわけですけれども,こういったものが破産手続の中で実際どういうふうな形で評価されていくのか,破産債権として評価されていくのかというところが非常に複雑になってきますし,法律で破産手続の中で決めることではなくて,実際は破産の手続の実務の中で決める形にはなるのでしょうけれども,非常にそのあたりが不安定になってしまうのではなかろうかと。

そういった懸念もありますので,先ほど冒頭に申し上げました特約みたいなものの有効性というのが考えられる余地がどの程度あるのか,そのあたりについてお尋ねしたいと思います。

● それでは,いったん休憩ということにいたします。

            (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。

  休憩前に○○委員,○○委員からいただいていました御質問で,一般に破産を認めるとしても,商事信託法要綱の713条にあるような形での弁済を認める方法でなくすることはできないかとか,あるいは,そもそも特約を事前に設定しておくことはできないだろうかということ,それから,DIP型を選択肢として認め得るかといったような御質問だったと思いますが。

● では,順次お答えしていきます。

  まず,今ございました,一部弁済したら破産がとまるのではないかという点につきましては,いったん破産が始まった以上は,しかしながら破産債権者以外の全関係者の利益にもなるということが考えられますので,一部の債権者に弁済することによって破産手続がとまるということは難しいのではないかと考えております。

  それから,両委員から御質問がございました,破産手続の対象としない信託,換言すれば,破産申立てをしない特約の有効性という観点でございますが,  このような申立ての特約の有効性につきましては,法人についての破産と信託の破産を特に区別しているわけではございませんので,法人についての破産の場合の議論はこちらでも妥当するのではないかと考えております。

  最後に,DIP型というか,受託者が信託財産の破産手続を遂行するということはどうかという御見解でございましたが,事務局といたしましては,やはりそれは難しくて,信託財産が破産した以上は,信託財産破産についての破産管財人が必ず選任されて,受託者からその者に権限が全面的に移行するという手続をとるというところを現在考えているところでございます。

● 私の確認したいことは,それでしたら,確かに破産を一律に導入するということであればそういう結論になったとして,次の質問としましては,では,この信託の破産制度を作るときに,その破産制度の例外的な条項を入れることを検討する余地があるのかどうかということです。

通常の破産法を導入します,ただ信託においては破産法の何々は適用しないものとするとか,ないしは,例えば破産管財人は受託者が務めることができるものとするというような特別の規定ということを手当てすることができるのかどうか。法技術的にということですが。

● 今おっしゃったのは,破産法改正をここでやろうというわけじゃなくて,信託法の方で何か対応できないかということですね。

● はい。

● 今,○○委員がおっしゃいました,受託者を破産管財人に選任することができるというような明文の規定を設けるかどうかという話で,法技術的に難しいという話はともかく,その前の問題として,そういう条文を設けることによって本当に合理的な話になるのかどうかというのは一応はあるのだと思います。

つまり,受託者というのは一部の債権者のための立場ですし,恐らくは補償請求権みたいなものもございますので,利益相反的な立場に立ち得るという関係にございます。

そういう方を法律上明文で管財人になれるというふうに-破産法自体にそういう条文はもちろんないわけですけれども,そういうことをするのがいいのかどうかというのは,やはり慎重に考えないといけないのではないかというふうには思っておりますが。

● 一律に認めるというわけではなく,例えば,裁判所の関与によってそういう利害関係がないという場合において,かつ受益者のためになるのであれば,受託者が管財人になれるという余地を残すというような特約を検討する余地がこの場においてあるのかどうかという話なのですけれども。

もちろん,ある意味判断の話ですので,そういう規律を導入する必要があるのかどうかということはこの場で議論しなければならないわけですけれども,そういうことを前提に今後議論を続けていくということが可能なのかどうかという話なのですが。

● 済みません,特約を設けるというふうに今おっしゃったかと……。

● 特約というのは,信託法の特則として破産法の例外を認めることが立法的にできるのかどうかと。また,この場においてそれを議論する余地があるのかどうかという話です。

● 議論する余地は恐らくあるだろうと思います。問題は,それが可能かどうかという話で,今,○○委員がおっしゃった御意見についてもまた検討する必要はあるかと思いますけれども,直ちに可能であると申し上げるわけにはいかないと思います。

● 何点か申し上げたいことがあるのですが,とりあえず,今の受託者を管財人とする特約についてだけ申し述べ,それについて議論が収束したら,またほかの点についてお話を申し上げたいと思います。

  そもそも何で破産管財人が置かれるのかといえば,公平・中立な,裁判所が選んだ機関が財産を公平・適正に分配すると。

確かに手続的には軽くはないわけですが,先ほど出たDIP型とも関係しますけれども,そこで大事なのは,やはり公平・中立だと裁判所が判断をするという要素がありまして,最近非常に多いですけれども,特に会社更生なんかで顕著ですが,経営破たんをして,しかし経営破たんする直前にいわばターンアラウンドのために入った取締役なんかがいると。

これをそのまま管財人に据えたらいいじゃないかという議論は会社更生法のときも随分しましたが,やはり裁判所が選任し,裁判所が監督するという体制が大事だということで,会社更生法の67条3項ですが,裏から,責任がない人はなれますよということにしたわけで,あれは確認的な規定だと言われていますので,裁判所がこの受託者が管財人としてふさわしいと思えば管財人にすればいいだけの話で,それ以上の資格は,破産法の中で例えば弁護士でなければいけないとかですね。

冗談みたいな話ですが,破産者だって破産管財人になれるということですから,その人が適切だと思えばそれを選ぶだけのことで,ただ,それは,繰り返しますが,裁判所が適切であると判断したことが大事なのであって,あらかじめだれかとだれかの特約でできるということではなかなかないのだろうと。

それはほかの倒産手続における手続機関と同じで,裁判所が真っ白いところから判断しますよということにならざるを得ないのではないか,ここだけ外す理由はなかなかないのではないかと思います。

  とりあえず今の点についてはそれだけで,もし時間がありましたら,また別の点についてお話しさせていただきたいと思います。

● 今の点,御専門の○○幹事からのお話で,まあそういうことかなという気もするのですが,更に○○委員としてはまた御検討いただいて……。

● はい。

  特約ということにまだこだわっているわけではなく,結果として受託者が裁判所の判断によって管財人になれるという余地があるということをここで確認できれば,それでいいわけですが。

● それは,一般論としては特に限定はないということでしょうか。

● 今度,破産規則で,ふさわしい人を選ぶと。たしか会社更生における調査委員なんかと違って,利害関係がちょっとでもあるとだめということではないと。

適切な,わずかに利害関係があってもいいと。だから,そういう意味では,先ほど補償請求権の話が出てきましたけれども,それがいわば管財人としての公平・中立を奪わない程度の利害関係であれば,そこは排除しないということではないでしょうか。

● よろしいでしょうか。

● 今のは,私も現行破産法の解釈論を十分存じ上げないのですが,破産債務者も管財人になれるのですか。

● さっき○○幹事が,破産者も破産管財人になれると,冗談のようなとおっしゃった点ですね。

● そういうのはだめなんじゃないですか。

● それで,これは債権の債務者は受託者ですから,第三者性を持った人がなるという例を挙げてもだめなので,破産債務者そのものが管財人になれるかという問題ではないかと思うのですが。

● 確かに第三者なのかよく分からないですが,例えばへんぱ弁済を否認するなんていう場合は,自分がやった行為を否認しなければいけないわけですね。

もう利害関係の典型みたいな状況で,それはない。先ほど,一般的な資格の問題としては半分冗談で申し上げましたが,自分の事件はさすがに定型的に無理なんじゃないでしょうか。

● 無理ならば,受託者はなれないんじゃないでしょうか。つまり,この破産手続における破産債権者はだれに対して債権を持っているのかというと,債務者名義は受託者ですから。

● ○○幹事がおっしゃるとおりで,法律的には確かに債務者は受託者であり,それ以外の人であるというわけにはいかないのは確かなのですが,ここでは,信託財産をかなり独立のものというふうに取り扱うことができるという,そういう前提で特別に信託財産の破産制度というのを考えましょうという話でございまして,そういう意味では,受託者というのは,もしかすると,破産者自身というよりかは,連帯保証している立場にある人というような-実質論においてということで,法律的といいますか,法律行為の当事者としてはもちろん債務者と言わざるを得ないところはあるのですが,ここでは,破産者に類するような立場は,どちらかといえば信託財産であると言わざるを得ないところがございますので,そこを重視すれば,受託者が破産管財人になるということがおよそおかしい,議論の余地がないということではないのかなという感じで考えております。

● 説明の仕方には全く反対ですが。

というのは,保証人的立場とか,債務者は信託財産であるとかというふうな説明の概念はすべてに対して反対ですが,私は,具体的には,受託者が破産管財人になるということが認められておかしくはないというふうに思います。

ただ,それは当然に認められるんだよねという話ではなくて,本来は破産債務者だから認められないんだけれども,この例に関しては特別に破産債務者たる受託者も便宜の面等から破産管財人になれるという制度をあえて置いたのだというふうにすることは全然差し支えないのではないかと思っているのですが。

● この点が大きな問題になると思っていなかったものですから,余り深くは考えてこなかったのですが,破産手続の実務という点で言いますと,破産手続というのは,普通は管財人が選任され,一方,債務者側で説明義務を負う者がいて,管財人がその破産者から説明を聞いて,財産状況を調査し,債権を調査し,配当するというのが破産手続だと思っておりました。

そういう意味で,そういう説明をすべき破産者と,その説明を受けて調査をする破産管財人が同一人である破産手続を観念するというのは,今の破産手続の実務を前提とすれば,かなり違和感があると言わざるを得ない面はあるのではないかなというふうに思っております。

破産手続においては,債務者の側はもう破産してしまっているので,それから債権者の理解を得ようとか,そういったインセンティブというのは働かないというのが通常だと思います。

そういう意味で,第三者である破産管財人がついて,それが手続を遂行するというのが本来の姿ではないかなというふうに思っておりまして,今の議論で,○○幹事が,政策的にそういった新しい制度を設けることは不可能ではないとおっしゃったのですが,実務の観点から見ますと,破産手続の適正な遂行という面から言うと,かなり違和感があるのではないかというふうに思うということでございます。

● これは破産法の根幹にかかわるようなことでしょうから,ここでこれ以上議論を続けてもなかなか難しいかもしれませんが,欠格事由になるのか,特約が可能なのか,あるいは裁判所の選任というので配慮できるのか,いろいろ問題があるかと思います。

● 今の点について,一言だけ。

  先ほど,会社更生法の67条3項を挙げましたが,それは再建型の特質というのが大きゅうございまして,事業を再建するには,やはりかなり人に依存するというのでしょうか,今までの経過をよく知っている人を選ぶということであって,破産の場合には余りそういう配慮が要らないのかもしれないです。

ですから,質が違うのではなくて,いわば量というか,運用レベルの問題で,どっちがしっくりくるかといえば,再建型で従前の経緯をよく知っている,それを生かして今後の事業の再生をしていかなければいけないというような再建型については,まだ,いわゆるDIP型というのでしょうか,なじみやすいと思うのですが,破産の場合には,やはり厳格な公平性というのを追求するという方向で……。

  ただ,これは何か質が違うというか,だんだん色が濃くなったり薄くなったりというような話だと思いますので,理屈ですっぱり割り切れるのかどうかはよく分かりません。

  それから,先ほど出ている御意見について,幾つか,私が考えているところを申し述べさせていただきます。

 債務超過を信託財産の破産についての破産原因とすることについて幾つか御意見が出て,特に,立上げのときにお金が入ってきて,しかし立上げのために費用がかかって,立ち上げた瞬間は,じっと見たらそれは債務超過じゃないかという御指摘が冒頭ございましたけれども,それは資産評価の問題ではないかと思うのです。

つまり,動き出してすぐ,単にピースミールで財産の評価をするのではなくて,動き出した事業の将来収益なども勘案してゴーイングコンサーン・ベースで資産の評価をして,それでなお債務超過があったら,それはもうしようがないですね。

それはしばらくは様子を見なければいけないかもしれませんが,そういう傾向が強いというのであれば,それは破産に持ち込まざるを得ない。

それは,債務超過を破産原因にした趣旨,つまり,傷が広がらないうちに財産を解体し,弁済をして,その債権者の損失を防ぐということから言えば,ほかの制度との並びで言えば,ゴーイングコンサーン・ベースでも,レギュレーション・ベースでも,どう評価しても債務超過だったら,これはもうしようがないんじゃないかと。

そういうものとしてみんな物的会社を位置づけている以上は,ほかと並べるのであれば,債務超過も破産原因にせざるを得ないのではないかと思われます。

  それから,先ほど,無限責任という制度と破産という制度がなじむのかという御指摘がございまして,これはなかなか奥の深い問題だと私は思いますが,現行の中で見ますと,合名会社・合資会社について,無限責任の会社なのに破産というのが想定されているということを想起すべきだろうと思います。

ただ,非常に難しい問題が生ずることは確かなので,この点はかなり,リミテッド・ライアビリティー・トラストみたいなことを考えずに,もっと広げるとすると,いろいろな難問が出てきそうな気がいたします。

  それから,先ほどのDIP型とも若干関連しますけれども,破産法以外の簡易な清算方法は考えられないかということですけれども,これはもちろん考えられると思います。

政策でどこまでぎりぎりやるかということで,いろいろな仕組みはつくれると思いますが,もし破産法以外の簡易な方法という御意見のベースが,破産手続自体が遅い,あるいは無用に厳格であるということだとすれば,その懸念は大分減っているのではないかなと。

実務の運用は,例えば5年前と今と全然違って,改正前はここまで柔軟な解釈ができるのかと思うぐらいですね。

それを法律をかけたみたいなところもあるような気がいたしまして,そこはあとは立法事実の問題で,どこがどう不都合なのかということの各論もした方がいいのではないかという気がいたします。

およそ倒産手続と位置づける限りは,どんな手続であれ,債権の個別的な権利行使の禁止というのは要は倒産手続の本質ですので,手続を設ける以上はつくらざるを得ない。

先ほどSPC型の話が出ましたけれども,どっちみち1回はキャッシュフローがとまる話になってしまうのではないかと思います。

それすらない簡易なものというので,逆に,欠乏した責任財産に対する債権者の権利行使を個別にしないで,集団的にして公平に財産を分配するというのができるのかどうかですね。それを考えるべきなんだろうと思います。

  いろいろ申し上げましたけれども,以上でございます。

● その簡易な手続については,一体現行の破産手続のどこがネックになるということなのかまた具体的に御指摘いただければと思います。

  ほかに。

● 信託財産について破産手続が入ることに特段の反対ということではないのですけれども,ただ一方で,何かちょっとぴんとこないなという感じを持っているのですが。

  例えば,事業を目的とする信託という制度ができたときに,恐らく,信託を受けて事業を行っている者は受託者ということになるんじゃないかなと。

対外的には,すべてその受託者が行っている事業行為というふうに見えるのではないかなと思うのですね。

にもかかわらず,受託者とは別に切り離した信託財産の部分だけの倒産手続を考えるというふうにしたときに,事業として取引の相手方から見ると,恐らく受託者しか見えない。

いろいろな,例えば契約名義上も受託者としてしか登場しない。だから,当然,受託者という会社と取引をしていたと思っていたら,実は信託財産といいますか信託部分と取引をしていたというようなことにならないだろうかと。

そうすると,例えば,この取引の相手方から見ると,会社と取引するに当たっては,その会社が信用できる先かどうかというのは必ず事前に見るわけですね。

受託者のBS・PLを見て,ああ,この会社は立派だと思っていたら,実は自分が取引していたのは信託財産であって,それはぼろぼろだったということになっても,そこは全然公開もされ-まあ,それは今後の制度設計の問題かもしれませんけれども,信託財産というものが独自に何らかの公示をされるという制度というのは,多分,信託の枠組みの中ではつくりにくいかなと。

信託というのは,やはり受託者として対外的に行為をしているところに特徴があるように思うので。

  ですので,そういう観点で,例えばこの事業目的のものに倒産手続を入れるのはどうかということになっても……。何か理念としては分かるのですけれども,受託者と信託財産の区別というのはどんなふうに考えていくんだろうかというような観点から,ちょっとどうかなと思います。

● 確かにおっしゃるとおり,一般的な信託,受託者が無限責任を負って,受託者の信用というのもある程度関与されているものについてまで破産手続を入れるべきかどうかというのは大きな問題があると思いますが,他方,どのような信託類型について破産手続を入れるべきかという問題がございまして,いわゆる有限責任信託という特殊な類型を認めれば,それは受託者個人の責任財産とかいうものは基本的に度外視されて,かつ,信託財産について一種の公示制度というのも整える予定でおりますし,そのようなものになりますと,信託財産の法人格は認めるわけではございませんが,やはりそこは責任財産が限られるものとして何らかの公平な弁済手続が必要な気がいたしますし,あと,一定の事項を表示したときには有限責任になるというような制度を仮に入れたとしますと,それも相手にとっては,これは信託財産が相手だということが分かるわけでございますので,そのような形態のものを入れたときには,それについては,有限責任信託ほどではないにしても,何らかの破産手続というのを設けることは,少なくとも検討に値するのではないかという気がしております。

● もう1点追加して申し上げますと,信託財産の破産において,信託財産を換価して信託の債権者に対して弁済をするという手続はとりますが,これは,これまであった無限責任の債権者との関係で,その弁済が終わって,例えば100万円の債権なのに60万円しか信託財産からは配当がもらえなかったと。

そのときに40万円の部分が当然に債権として消滅するかというと,もちろんそういうことはございませんで,40万円の部分は,それはそれで残って,受託者に対して,つまり固有財産に対して強制執行できるという関係は残ると,そういうつもりで整理しておりますので,破産手続が入ったことによって相手方の信頼がいきなり害されるということはないのではないかという気がしております。

● その前提として,どういう信託を想定するかということともかかわっていると思います。

  ほかに。

● 債務超過の概念について私が触れたところ,○○幹事の方から,こういう考え方があるよという御紹介があったのですけれども,その点について,2点ほど,意見ではなくて,コメントなのですけれども。

  一つは,今,信託の会計というのがどうなっているのかといいますと,物の本なんかを見ますと,信託慣行会計と言われるものがあって,どういうことかというと,通常の法人が行っている会計とは違った,つまり,具体的なルールが明記的にはないわけですので,信託としては保守的に,それが慣行化しているわけですけれども,ある意味独自の会計をとっているということです。

とすると,通常の法人で観念している債務超過概念ということとまた違ってくるのではないかと。そこをどう考えるのか,今後,会計ということを見直す必要になるのかどうかということも含めて整理する必要があるのかなというふうに思いました。

  二つ目に,ゆえに,実際に破産申立てがあったときに,受託者の立場からするとどうしたらいいのかという話なのですが,一つの考え方としては,やはり信託受託者としては信託を守らなければいけないと。

確かに信託会計上はプラスになっているけれども,ひょっとして将来の収益とかいろいろ考えると債務超過かもしれないと,そう訴えられているといったときに,では受託者としてはどういうふうな立場で,どういうふうな方向で考えなければいけないのか。

ひょっとして,信託を守るためにこれは資産超過だよということを強弁すること自体が受益者に対する義務違反なのかもしれないというように思うわけでして,そうしたときに,これは枝葉の議論なのかもしれませんけれども,受託者はある意味板挟みになるようなことになるのではないかなというふうに思いました。

● ○○幹事,何かございますか。

● では,一言だけ。

  私も会計のルールはよく分かりませんけれども,技術的なところはともかく,本質的には債務超過の判断基準は多分変わらない。

申立て時に,そのときの財産状況を示す非常貸借対照表をつくらせて見るというのが筋だろうと思います。

どの資産をどう表現するのかについては各論がいろいろあると思いますが,本質的には多分変わらないものではないかと私は思います。

  それから,今おっしゃったのは多分債権者申立ての場合ですね。

債権者申立ての場合に受託者としてどう行動すべきかですが,これは多分一律には言えないのだろうと思います。

それは,今早く破産手続に入った方が結局債権者全体の利益を図れるということであれば,資産超過であることを無理やり証明するというのはかえって善管注意義務に反するでしょうし,本当にまだこの信託は,一般的な言い方をすると,破産させる意味がない,むしろその方が有害だと思ったら,それは債務超過ではないということを言うとかいうことになるのだろうと思います。

それは結局,今ここで自己破産の申立てをするかどうかというのと全く同じ判断構造ではないかと。

自己破産の申立てを今した方が債権者の利益が守れると思ったら,それをあえてしないことは善管注意義務違反になるのと同じことではないかと思います。

● このほか,事務局の方から幾つか,御意見をいただきたいという点が出ておりまして,7ページのあたりですが,受託者の地位に関して,受託者が補償請求権で破産手続に参加できるかとか,同じページの下の方ですけれども,否認権の適用についてどうかとか,それから8ページですけれども,損失てん補責任はどうかと,こういった点について御意見をいただければと思いますが。

● 7ページの(9)のところの②として書かれているところなのですけれども,全部義務者が複数いる場合になぞらえて問題を考えるというこの発想というのは,法人格はないけれども,やはり,信託財産という一つの全部義務者と,信託財産を除いた受託者の財産という全部義務者がいるという,こういった雰囲気なんじゃないかなと思うのですね。

しかるに,もし仮にこれを,債務者というのはあくまで受託者であると,しかし,ある債権者は特定の財産に対してしか執行できる地位を持っていない,他方,すべての財産について執行できる地位を持っている,他の財産に対しても執行できる地位を持っているという人がいるとしますと,この破産法104条とか231条の問題なのか,それとも民法の394条に近いシチュエーションなのかというのが,どちらかといえば,民法394条の,抵当権者がいるときにその抵当権の目的以外の財産について執行がなされた場合の抵当権者の地位というものに近いのかなという気もします。

ぴったりでないことは重々承知しているのですけれども,必ずしも全部義務者のことで考えるのが妥当とは限らないのではないかと。

 かつ,もう1点だけ申し上げますと,私,これは不勉強で恐縮なのですけれども,やはり責任財産限定特約の一般の場合と整合性を持った処理をする必要があると思うのですが。責任財産限定特約のある人について執行のときにどうなっているのかというのは,私,十分に存じ上げませんので,お恥ずかしい話なのですけれども,基本としてそういうことも考えなければいけないのではないかということだけ申し上げておきます。

● ほかにも,事務局からの御質問が6ページにあります。とりあえず清算型について御意見をいただきたいと思います。

● 今触れなかった点ですが,よろしいですか。6ページの(7)の優劣関係なのですけれども。ちょっと間が抜けた質問というか感想なのですけれども。

私,本当に受益債権が劣後するという整理でいいのかというのは,やや自信がないのですね。なぜ自信がないと思うかというと,その理由がよく分からないということもあるのですけれども,直感的に言いますと,例えば,多数の投資家から信託の仕組みを使ってお金を集めましょうと。

集めた投資家に,あなたの出していただいたお金に対して返すものは全部劣後しますと,こういう仕組みというのは余りほかにないと思うのですね。預金であれ,保険契約であれ。

  それで,なぜそうするとこういう理屈になっていくのかというのは,もちろん,多数の投資家からお金を集める器として信託を使う場合だけを考えているわけでは決してありませんので,ここは信託法の基本の議論をしているわけですけれども,先ほどの御説明ですと,例えば株式会社の場合には,株主に対する配当支払請求権というのが,必要な総会決議等を経て具体的に確定して,発生したと,その場合には発生したものについては劣後はしなくて,それはもう債権ですので同等なのだけれども,まだ未発生というか,そういうものについてはもちろん劣後するわけですけれども,そういう区別がこちらではできないので,受益債権については,既に発生しているもの,例えば毎月5万円ずつ払っていきますということが既に全部確定して発生していたとしても,株式会社の株主よりもより悪く,ここで言うと信託債権には劣後しますという御説明。

その理由はというと,配当規制がないというのが一つ挙げられたと思うのですね。

その配当規制がないというのはそのとおりなのですけれども,果たして配当規制に代替するものがないこととのいわば引換えが劣後ということになってしまうのかどうかというところは,論理的に必ずしも結びつかないように思うのですね。

(7)の①に書かれている理由というのは,信託事務に基づいて利益が行くのでしょうというのは,これは委任でも何でも同じだと思いますし,②が今の点に関係するのですけれども,そうすると,配当規制に代替するルールというのは,多分それは否認とか詐害行為取消しとか,そういうものであるように思うのですね。

②を厳格に言うと,というか,信託の受益者は,一遍も配当を受け取っていなくても,やはり劣後するわけですよね,今の御提案は。ですから,ちょっとそれでいいのか。

  ちょっと観点を変えて言いますと,私が例えば多数の投資家からお金を集めて何かやろうと思ったときにどうするかということですけれども,これですと,信託で,あなたは受益者ですというのでは,ちょっと集めにくいですよね。

その後,借入れとかいろいろなことをすることが仮に許容されているとしますと。

  そうすると,例えば,第1に,その集める受益債権に物上担保をつけますと。担保付社債みたいにですね。これはそういう根担保がつけられるかどうかという問題は別途ありますけれども,そもそも物上担保というものを受益債権につけられるということを前提にお考えなのか,その場合にこの優先劣後関係との関係はどうなるのかと。

  それから,2番目の例として,もしそれがうまくいかないなら,もう受益債権ではなくて,信託債というか,社債のように信託債権として投資家からお金を集めざるを得ないですよね。

さもないと受益債権ですから劣後してしまうわけですから。それでも,もちろん,受益権はだれかが持っていて,私なら私自身が持って,関係会社か何かが持っていてという仕組みになるとしても,どうも,せっかく信託が使われる話がおかしなところに行きそうな感じがある。

もう1点だけですけれども,間接的な影響ですが,もしこれが信託法のルールだということになりますと,投資家保護とかそういう観点から,特別法では,結局,借入れはもちろんのこと,債務負担というのを禁止していくことになると思うのですね。

さもないと,投資家,すなわち受益者の債務,投資家が受け取るキャッシュフローに対する権利というのは一番劣後してしまうということになるからなのですね。

それが信託の将来にとっていいことなのかどうなのかというのはやや疑問で,何か常識的にはこれでいいように私は思うのですけれども-これでいいという意味は,受益権というのはエクイティーだというのですか,余り表現はよくないのですけれども,最後残ったものはもらえるのだというようなことでいいように思うのですけれども,果たして発生したものも含めて全部劣後しますということを言い切ってしまっていいのかというのは,もうちょっと慎重な検討が要るように思うものですから,よく考えて物を言っているわけではないのですけれども,何となく,もう少し詰めてみた方がいいような気がいたします。

● 御指摘を踏まえて,また検討いたしたいと思います。

● それでは,清算型について,御意見……。

● 7ページの補償請求権のところと,先ほどの全部義務者のところも少し関係するかと思いますので。

  受託者が,補償等の請求権が既に発生しているようなものについて破産手続に参加することができるというのは,それでよろしいのではないかと。

強制執行等がかかったときにも,そこから取れる,そこに参加していけるような手続を講じるということだったと思いますので,同じような形でよろしいのではないかと思っております。

相続財産のときも,たしか相続人と被相続人との間で混同による消滅の例外規定が設けられていると思いますので,そういった処理も参考になるのではないかと思われます。

  こういう求償権的な-求償権という位置づけをすること自体問題なのですけれども,更に申しますと,少し私の方で気になっておりますのは,破産手続開始後にどうなるかということで,信託財産について破産が認められ,手続を遂行するとしますと,固有財産からの弁済にどういう影響を与えるかということで,強制執行等の禁止が固有財産に対しても及ぶのかどうかという点はもう一つ問題としてあるのではないかと思われます。

これが及ぶとしますと,任意の弁済はどうかという問題があり,いずれにいたしましても,固有財産から破産手続開始後に弁済を受けたというような場合には,本来的には信託債務であるということからしますと信託財産が最終的に負うものだということになると,いわば求償的な話が出て,受託者の固有の債権者のためにその部分を取り返してくるというような問題が生じます。

  そうしますと,先ほどの全部義務者のところの話にかかわってまいりますけれども,私自身は,信託というのはやはり受託者こそが法人格一つだということを強調すべきだとは思いますけれども,責任財産の独立性の面ではある程度二面を持つということを意識せざるを得ないのかなというふうに思っておりまして,およそ固有財産から破産手続開始後弁済を受けるという道が遮断されているのであれば,もうそこで問題は解決するかと思いますけれども,それが遮断されないのであれば,こういった処理が必要になってくるのではないかと思います。

  それで,不足額責任主義との,民法394条型の関係ですと,本来は信託財産から取るというのが信託債権者だとすると,正に信託財産の方からこそ取れるというような形にしなければいけないはずですので,ちょっと不足額責任主義とは違うような考え方になってくるのかと。

それから,責任財産限定特約付の処理との均衡というのも考える必要はあるとは思うのですが,責任財産限定特約の場合は,やはり固有財産と考えられるものも含めてまとめて倒産処理をするという局面ですので,固有財産的なものに当たる,本来は責任財産であるものとないものとがあって,両方から受けてくるということ,破産手続外にある財産から受けてくるというような問題が出てこないのかなというふうに思いますので,更に慎重に考える必要があるのではないかと思います。

● その点も,御指摘を踏まえてなお検討いたしたいと思います。

● それでは,8ページの3とあります再建型の手続の整備についてですけれども,もし御意見がございましたら。

● 先ほどの,再建型ではない方の破産手続とも関係するのですけれども,受益者に対してもこういった破たん処理手続へのトリガーを与えるということとの関係で,他方,信託契約の変更,受益者集会制度の導入等々,受益者については信託の将来,運命についてのある程度の意思決定権を与えて,それでいわば内部的といいますか自治的に解決する道も与え,それをむしろ広げていく方向にあると思うのですけれども,もし私の理解が間違っていなければ,例えば,約定どおりの弁済を受けられなかった受益者は,そういった信託契約の変更等の努力をするまでもなく,破たん処理手続を申し立てることができるということにもしなりますと,むしろこの再建型というのは非常に必要になってくるのではないかという気がいたしております。

  逆に言いますと,私は,やはりどうしても,受益者に対してトリガーを引く権利を与えるというのが,これはむしろ前半の論点にかかわりますけれども,やや分かりづらいところがありまして,そうすると,これまでの受益者に対しては,単なる債権ではないので,いろいろ,受託者に対する情報権を始めとして,意思決定等に参加する権利,いわばコントロール・ライツと言われるものをむしろ拡充する方向で話を進めてきたのではないかと思っておりまして,そのときに,6ページの説明で言いますと,ここだけ債権説が非常に顔を出してきて,受益債権も債権であるということが言われているのですけれども,むしろエクイティーとデットを区別して,信託債の発行を正面から認めることとするということも一つ考えられると思いますし,もしそうしないということであれば,この再建型の倒産処理手続は非常に必要なのではないかという気がいたします。

ちょっと誤解があるかもしれませんが,むしろ御教示いただければ幸いです。

● これは,理屈で信託財産に係る再建型手続が要るとか要らないという問題ではなくて,どこまで仕組むかということだと思います。論理的にあってはいけないとか,なければならないというものではないのだろうと思います。

  それを前提にして考えますと,まず結論から申しますと,私は,そうは言いながらこれは作る必要は余りないのではないかということなのですが,まず,再建型手続の整備の必要性というのが,事業の継続のためだということであれば,この(注11)に書いてあることが正しく当てはまるのだろうと思います。

実際,例えば民事再生手続でも,手続内で営業の全部又は重要な一部を非常に迅速に譲渡して事業の再建を果たしているというのが最近の倒産実務の傾向でございますので,営業譲渡を使った事業譲渡ができるのであれば,更にそれに加えて,論理的にはもちろん可能なのですけれども,そこまで仕組む,信託についても再建型手続を仕組む意味がどのぐらいあるのかなという気がします。

そんなにしょっちゅうあることなのかということですね,簡単に申しますと。

二つ目に,これは非常に細かい話ではあるのですが,6ページの(7)に書いてあるとおり,信託債権と受益債権について実体法上優先順位がついているという理解を仮に前提としますと,再生計画を決議するときに必ず組分けをしなければいけないことになります。

これは,民事再生の手続を作るときには,手続構造を簡易にするということで,組分けという仕組みは一切設けないという-その場の細かい例外はありましたけれども,常に組み分けが入ってくるというのは,再建型手続としては非常に重たいものになるんじゃないかなと。

あるいは,信託債権は全部満足される,100%弁済を受けるのだけれども,受益債権は100%弁済を受けないときに,そういう議決権を与えるかどうかとか,非常に細かい議論が必要になって,手続構造がいたずらに複雑になるような気がいたします。以上が第2点です。

  仮に再建型まで作る必要がないのだということを前提にしますと,次のようなことを考えないといけないことになろうかと思います。

株式会社については,その営業の全部又は重要な一部を譲渡するときには株主総会決議の特別決議が必要だということになっていますが,仮に,同じような営業譲渡をする場合に受益権集会の特別決議みたいなものをを仕組むということを考えるのであれば,さっき言ったような,上の方の債権者は全額弁済を受けられるけれども第2順位は100%弁済が受けられないという場合に,議決権はどうするかと。再生法の43条ですが,代替許可みたいな仕組みまで仕組むのか。

早く営業譲渡をするのが大事なわけですから,そういうことを考える必要があるのか。

あるいは,完全に破産に寄せてしまって,現行の破産法だと,営業譲渡するときに別に裁判所の許可だけでできて,債務超過なのか何なのか関係なしに,支払不能だけで入った場合でもなっていますが,あるいはそういう仕切りにしてしまうのか。

後者の方が,より今の破産の制度と親近性が高いと思いますけれども。

というわけで,破産で営業譲渡を早くするということができるのであれば,それに加えて別途再建型まで仕組む必要は,論理的にはないとは言いませんけれども,低いのではないかなというのが私の印象でございます。

● いずれも,受益権,あるいは受益者の位置づけということともかかわっていると思いますが。

  では,簡単に。

● 事務局の方は,どちらかというと○○幹事と同じような発想で考えていたわけでございますが,○○幹事がおっしゃられた,トリガーを受益者に与えるということから再建型を認めた方がいいというのが,ちょっと私にはいま一つぴんとこなかったところもあるのですが,できればもう少し……。

● これは私が誤解しているのかもしれませんが,例えば信託債権者がいないような場合であっても,非常に優先的に組成されている受益権に対する支払いが滞ったと,そしてその支払不能が破産原因になると,その受益者は申立てをできるのではないかと理解したのですが,それはそういうことはない……。

● そういう可能性もあるのではないかと思います。

● そうだとすると,外部の者はだれも迷惑を受けていないのに,その一人の優先受益者がもう破産だと言うと,破産手続に移行することになると思うのです。

ところが,その信託全体で見れば再建させられる可能性は大いにあると,そういうシチュエーションは出てくるのではないかというのが私の認識だったのですが。

● 恐らく,債務超過の判断は,これは先ほど少し話がございましたけれども,ゴーイングコンサーン・バリューで考えるかどうかというのも若干は影響するのかなという気がいたしますが,片や,仮に受益者についても公平弁済というのがやはり重要だということになるのだとしますと,破産は必要だというふうな……。

● ただ,そこで言われている受益者間の公平な分配というのは,何も破産だけではなくて,清算の場面でも妥当する話だと思いますので,そういう意味では,信託債権者と受益者との間の利益調整と,受益者間の利益調整との問題が二つあって,一応,私のエクイティーの理解だと,受益者の問題というのはむしろ後者の問題,受益者間の分配の公平の問題として処理されるべきではないかというふうに思いましたので。

  もしかしたら,ちょっと誤解をしているのかもしれませんけれども。

● そうしますと,受益者間の公平というのはエクイティーで,受益者同士で処理すればいいというのは,もうほとんど破産は要らないのではないかというのに近いと思ってもよろしいでしょうか。

● いえ,破産は,もし信託債権者がいなければ,それは清算手続で,信託の清算の中で行えばいいのではないかということですけれども。

● よろしいでしょうか。

● 再生手続の実務的なニーズに関しては,残念ながら網羅的な調査をしておらないので,確定的なことはお答えできませんけれども,ただ,これは内部での議論の話になるかもしれませんけれども,それほど実務的なニーズはないのではないかなということが,今のところの印象でございます。

  それはなぜかというと,先ほど○○幹事からも御指摘のとおり,(注11)のところで営業譲渡で対処できるのかという話もありましたし,また,考えてみますに,通常,再生,例えば銀行を再生させなければいけないというときには,その従業員であるなり周りの利害関係人なりを見て,やはり社会的に再生を起こすことが必要であるというようなことがおもんぱかられるわけですけれども,このような場合,通常の場合は従業員が独自に雇われていることも余り想起されないので,そういうことをおもんぱかる必要もないのではないかということでございます。

  ただ,さきの議論の中で事業信託ということが議論されましたけれども,そこでどのような広がりがあるのか,どのようなニーズがあるのかということが次のステップで議論が出てくるかもしれませんけれども,その中で,やはり必要であるということであれば,また別だと思いますので,そこは基本的には事業信託との絡みでニーズを勘案して考えていけばいいのではないかなというふうには思います。

● それでは,よろしいでしょうか。

● では,続きまして,裁判所の監督と営業信託を続けて御説明いたします。

  まず,第64でございますが,現行法第41条第1項で,非営業信託に係る受託者の信託事務は裁判所の監督に属する旨規定されております。

 この条項が置かれた理由につきましては,制定当時の信託法案説明書を拝読いたしますと,「信託事務ニ付テ特ニ裁判所ノ監督権ヲ認ムル所以ノモノハ固ヨリ信託ノ本質ニ起因シ受託者ノ権限ノ大,従テ濫用ノ弊代理,委任ノ比ニ非サルヲ以テナリ」ということが挙げられております。

更に,「信託の制度の運用に当たっては,裁判所の監視と判断のもとに置くことにより,信託の不正な利用を抑制することをねらったものと思われる。」との立法過程に関する研究成果も見られるところでございます。

  確かに,信託では,信託財産の所有権が委託者から受託者に移転しますので,非営業信託を裁判所の継続的な監督のもとに置くことは,信託な不正な利用の抑制や,受託者による権限濫用の防止のためには有用であるようにも考えられます。

  しかしながら,まず,裁判所は通常,信託設定の事実を認識し得ませんので,裁判所が継続的に受託者の信託事務を監督する旨規定しても実効性があるとは言い難いですし,また,裁判所による監督の実効性を確保する観点から当事者が裁判所に対して信託設定の事実等を適宜報告しなければならないとすることは,信託の自由な利用の阻害にもつながりかねないと思われます。

  そもそも,現行法が非営業信託を裁判所の監督のもとに置くとしたのは,信託の不正な目的のために利用されるなど,信託及び受託者に対する信用が低かったという制定当時の状況を反映したものであると考えられますが,このような要請は現在では相対的に低いものと考えられます。

そして,信託の不正な利用に対しましては,脱法信託や詐害信託の禁止等の規定の適用によって排除することができると考えられますし,今回の信託法改正においても,委託者,受益者その他の利害関係人に対して受託者の信託事務処理に対する監督是正権を付与することとしておりますので,受益者らがこれらの権利を適切に行使することによって受託者の監督は十分可能であって,これに加えて裁判所が非営業信託を継続的に監督するまでの必要性ないし合理性はなく,委任等の他の法制度とのバランスからも適当ではないのではないかと考えられるところでございます。

  また,現行法は米国等の扱いに倣ったものとされておりますが,米国での信託に対する裁判所の関与の在り方については近時変化が見られるようでございまして,例えば統一信託法典を見ましても,裁判所は,その管轄権が利害関係人により,また法律の規定により発動される限度で信託の管理に介入することができるですとか,信託は裁判所による命令のない限り継続的司法監督に服さない旨規定がございます。このような米国での変化は,我が国の信託法の改正においても参考になるのではないかと思われるところでございます。

  以上申し上げたような点を総合的に考慮いたしまして,今回の提案では,非営業信託に係る受託者の信託事務を裁判所が継続的に監督するとの規律を採用しない,すなわち,現行法第41条第1項の規定を削除することを提案するものでございます。

  なお,念のためでございますが,(注)にも書きましたとおり,この提案は,信託に対する裁判所の関与を全く認めないとするものではございません。

すなわち,受益者らの申立権の行使に基づく裁判所の個別的な関与は認めるわけでございますが,それを超えて裁判所の一般的・継続的な監督までは認めないということを提案するものでございます。

  続きまして,営業信託のところ,第65に移ります。

  第65は,信託の引受行為を商行為とする現行法第6条の趣旨を維持し,商法第502条に1号を付加するのと同様の効果を有するものでございます。

営業として信託の引受けを行った場合には,当該引受行為はもちろん,これに基づく信託の事務処理全体が商業的色彩を帯びると考えられるからでございます。

営業として行った信託の引受行為が商行為とされる結果,営業として信託の引受けを行った受託者は商法第4条によりまして商人となりますので,当該受託者には商人に関する規定が適用されまして,また,その受託者がその営業のためにした行為は附属的商行為となり,商行為に関する規定が商法第503条により適用されるということになります。

例えば,信託報酬の支払義務,受益債権の支払義務は,商行為によって生じた債務に該当し,商事法定利率,あるいは商事時効等が適用されることになります。

 なお,会社が営業として公益信託を引き受けた場合,実務上は,当該信託を営業信託と考え,商行為に当たると考えておりますが,公益法人が営業としてではなく信託を引き受けた場合には,どのような信託を引き受けた場合であっても商行為にはならず,受益債権の消滅時効等の扱いが異なるのは問題がないかといった指摘もございました。

しかしながら,同様のことは,同じ内容の売買等の契約を商人が行うか非商人が行うかでも生じ得るのでございまして,取引主体の違いによって結果が異なることは不合理とは言えないと考えているところでございます。

  以上が,営業信託についての説明でございます。

● 少し性格の違う問題ですので,順に御議論いただきたいと思います。

  まず,「第64 裁判所の監督について」ですが,いかがでしょうか。41条1項の規定は削除すると。もちろん,一切関与を認めないという趣旨ではないということですが。

● 結論に異論があるわけではないのですけれども,御説明の箇所について,2点。

  一つは,米国の状況ということでございまして,裁判所の関与の在り方が変わってきているというのは確かだと思いますけれども,信託というのは常に一般的・継続的に裁判所の監督のもとで行われる仕組みだという性質は変わっていないのだろうと思います。

ただ,現実に照らして,その具体的発現の仕方に変化が出ているということだろうと思います。

ただ,そういう状況がそのまま日本に当てはまるかというのはまた別の問題ですので,アメリカの理解の仕方について少し留保が必要なのかなというふうに思います。

  それから,当初の41条の規定の趣旨との関係での御説明で,信託の不正な利用を抑制することを目的としていたという点,現在ではそういう懸念はないだろうということなのですが,今まではなかったろうと思うのですけれども,他方で,信託業法の改正によっていろいろな主体が受託者として登場するということによって,むしろ懸念が復活するということも言われておりますので,この第64自体についてどうということではなく,一般的にはそういう懸念もありますので,例えば,特に個別の裁判所による監督の在り方のところでは,やはりそういう面は留意する必要があるのだろうと思います。

● 41条1項の削除自体はいいけれども,しかし,主体の多様化にかんがみて個別の手当てを更に検討すべきだと,こういうことですね。

この41条1項の削除自体について,御異論は特にございませんでしょうか。

  それでは,○○幹事の御意見を踏まえて更に検討するということで。

  続きまして,「第65 営業信託の商行為性について」,いかがでしょうか。

  これも特に御異論はございませんでしょうか。首を振っていらっしゃる委員・幹事の方が何人かいらっしゃるようですので……。

  では,特にないようでしたら,先に進めたいと思います。

● では,続けて,第66,合同運用の方に移らせていただきます。

 信託におきましても,信託財産の効率的な運用の見地から複数の信託契約に係る複数の信託財産について合同運用がなされておりまして,例えば,ある信託に属する金銭と他の信託に属する金銭とを合わせて第三者に利息付で貸し付けたり,あるいは収益を生ずる資産を購入し,あるいは投資目的で再信託契約を締結するなどの例があると聞いております。

現行実務で利用されているものとしては,貸付信託,合同運用金銭信託等が挙げられているところでございます。

  まず,1でございますが,これは,いかなる要件のもとで受託者が各信託財産を合同運用できるものとするかについて,甲案と乙案の2案を提示するものでございます。

このうち,甲案は,合同運用のためには信託行為においてこれを許容する別段の定めがあることが必要であるとする考え方でございます。

この考え方は,合同運用には分別管理義務と抵触を来す面があるものととらえるために,合同運用を行うためには信託行為において合同運用ができる旨の定めがあることを要すると解するものでございます。 

  このように甲案が合同運用を分別管理義務の問題と位置づけることの根拠は,分別管理義務の趣旨につきまして,信託財産の倒産隔離を図ることのみならず,各信託に属する財産について生じた損害は当該財産のみが個別に負担すべきことを確保することにもあるととらえているところにあると考えられます。

そして,各信託に属する財産につきまして,これが個別運用されている場合とは異なり,合同運用されている場合には,合同運用財産について生じた損害は各財産を拠出した各信託財産が案分して負担することになりますので,損害の個別負担ではなく案分負担という結果を招くことになる合同運用は分別管理義務の例外に当たるものであると整理することになると考えられます。

  これに対して,乙案でございますが,これは,合同運用のためには信託行為においてこれを許容する明示的な定めがあることは要しないとする考え方でございます。

甲案と異なり,合同運用をもって分別管理義務上の問題があるものとはとらえておりません。

  もっとも,別途受託者の権限の問題については検討する必要がございますが,合同運用を行うことが受託者の権限の範囲内であることは必要というわけでございますが,受託者の権限に関しましては,かつて第5回会議で扱われました「受託者の権限について」というところで,「受託者は……信託財産の管理又は処分その他信託目的の達成のために必要な行為を行う権限を有する」という幅の広い規律を提案しておりまして,このような柔軟な権限規定のもとでは,規模の利益を追求し,リスクの平準化を図ることができるという点において,受益者の利益に資する合同運用につきましては,信託行為にあえて明示的な定めを置かなくとも,「信託目的の達成のために必要な行為」に当たる場合には,当然に受託者の有する権限の範囲内に含まれるとするのが合理的であると考えられます。

そこで,結論として,合同運用を行うことができるとするためには特段の規定は要しないと解するものでございます。

  乙案が合同運用に分別管理義務上の問題がないと考えますのは,14ページの(注4)というところにも書きましたけれども,分別管理義務の趣旨は,究極的には信託財産の管理の局面において倒産隔離を図ることにありまして,信託財産を合同して処分することまで禁止する規範ではないととらえた上で,まず,各信託財産が合同運用財産について有する共有持分権,又は再信託契約に基づき有する受益権が計算上区別されていれば,倒産隔離は図られ,分別管理義務も果たされていると考えられることですとか,あるいは,合同運用は,信託財産と他の信託財産又は受託者の固有財産との場合に限らず,信託財産と第三者の財産との場合もあり得ますところ,この最後の場合,第三者の財産が入る場合については分別管理義務の問題として整理されてはいないと思われることにかんがみますと,そもそも分別管理義務の問題として整理することには疑問があると考えられることなどを理由とするものでございます。

以上の甲案,乙案につきまして,あるいはほかにより適切な考え方があれば,御審議をいただければと思います。

  次に,2でございますが,これは,複数の信託契約に基づく信託ではあるものの,各信託財産が合同して運用されており,実質的な一個の信託であるとの評価が可能である場合には,一つの信託契約に基づく信託に複数の受益者が存する場合と同様の取扱いをすることが合理的である,こういう指摘があることを踏まえたものでございます。

  仮にこの考え方が妥当としますと,実質的に一個の信託であるとの評価が可能である信託を選別するための要件はいかなるものか,あるいは,いかなる規定について一つの信託契約に複数の受益者が存する場合と同様の取扱いをすることが合理的であるのかということを踏まえつつ,このような考え方に基づく制度を設けることの当否について御審議をいただければと考えております。

 最後に,3でございますが,これは,理論的には,合同運用団をもってあえて複数受益者の存する一つの信託と同視する必要はなく,あくまでもその法形式どおりに,複数の信託契約に基づく複数の信託財産,受益者の束であるという前提をとったといたしまして,その上で,実務的に,この考え方に従った場合には不都合があると指摘されている場面について,本当に不都合があり,対処すべく何らかの規定を設ける必要があると言えるのかについて検討を試みたものでございます。

  まず,第1点の前段でございますが,これは,合同運用財産全体に関する信託帳簿の閲覧請求権を各信託の受益者に認めた場合には,信託事務の円滑な遂行の支障となったり,請求者以外の受益者の利益が害されかねず,かかる弊害に対処する必要があることにかんがみ,閲覧請求権については,合同運用団を単位とした一つの信託に複数の受益者が存するものと解する必要があるのではないかという問題指摘でございます。

これは,閲覧請求権を少数受益者権とする,例えば商法に倣って総受益権の100分の3以上を要するというようなことにするのであれば,合同運用団全体を一つの信託とみなすことによって分母を飛躍的に増大させることによりまして,受益権の保有要件を満たす受益者が著しく減少するという効果があると考えられます。

しかしながら,かつて提案いたしましたとおり,受益者の信託帳簿閲覧請求権を単独受益者権とするのであれば,結局,どのように分母をふやしましても,いずれの受益者も自由に閲覧請求権を行使できることに変わりはないので,このような考え方を維持する限りにおいては,実益の乏しい議論ではないかと思われるわけでございます。

  また,第1点の後段でございますが,これは,合同運用団全体を一つの信託と解することができない限りは,信託帳簿を一個作成するのみでは足りず,信託契約の個数に応じた複数の信託帳簿を作成しなければならなくなるのではないかという問題指摘だと思われます。

この点につきましては,15ページの(注5)に書きましたところですが,信託帳簿の作成義務については,合同運用財産全体についての帳簿は作成せざるを得ず,他方,これを作成すれば,この帳簿をもって各信託に係る信託帳簿とすることができ,各信託ごとに更に帳簿を作成する必要はないと考えられますので,実務上格別の不都合が生ずることはないと思われるということを書かせていただいたものでございます。

  次に,第2点は,例えば,合同運用財産につきまして,運営方法の変更,すなわち個々の信託契約における信託の変更を要する場合などを考えてみますと,合同運用団を単位とした一つの信託に複数の受益者が存するものと解すれば,受益者が複数の信託に関する規律,例えば多数決制度を導入することができて効率的ではないかという問題指摘でございます。

この点につきましては(注6)に書きましたが,かつて第8回会議で取り扱いました「信託行為の変更について」において提案しているところによりますと,信託行為の変更に関する方法を定めた規定は任意規定でございまして,例えば,各信託契約において,合同運用団の運用方法の変更は同一の合同運用団の受益者全員の多数決による決議に基づき行うものとするというような別段の定めを設けることによって対処可能であるようにも思われますが,このような信託行為における別段の定めに委ねることとした場合の不都合の存否も勘案して,この点はなお検討したいと考えているところでございます。

  最後に,第3点は,合同運用信託の受託者が受益権を取得したとしても,現行法9条に定める受託者の信託利益享受禁止の原則に抵触せず,信託が終了しないものとする実務上の要請がありますところ,合同運用団を単位とした一つの信託に複数の受益者がいるものと説明することができるとすれば,受託者が共同受益者の一人になった場合にすぎないと解することができ,9条に違反するものではないということになって,実務の必要性にかなうのではないかという問題指摘でございます。

この点につきましては(注7)に記載したとおりでございますが,第3回会議で取り扱いました「受託者の利益享受の制限について」で提案しているところによれば,単独受託者が単独受益者から受益権全部を取得したといたしましても,相当な時期に受益権の全部又は一部を処分すれば信託を終了しないということを明らかにするのであれば,合同運用団をもって一つの信託とみなさなくても不都合は生じないのではないかと考えられるところでございます。

  以上のような諸問題についての考え方,その他検討すべき事項があれば,あわせて御意見,御審議をお願いしたいと思います。

● それでは,合同運用について,大きく分けて三つの問題点があるわけですけれども,どこからでも御自由に御発言いただきたいと思います。

● それでは,2点。

  1点目でございますが,一つ目の丸の問題でございますが,これについては,乙案を支持ということでございます。

  一般に,利殖を目的とする信託の場合につきましては,合同運用を行うことが,規模のメリットとリスクの分散という二つの観点から,基本的には信託目的に合致しているということと,あと,当然,権限の範囲内であると考えられますので,信託契約に明示的な定めを置く必要はないのではないかと。

また,合同運用をしている場合については,それぞれの信託に,これは説明文の中に入っていましたけれども,共有持分権が帰属していると考えられますし,その共有持分権が計算上管理されていれば,言いかえますと帳簿により管理されていれば,分別管理義務というのは果たされているのではないかと思われますので,特段の規定は設けなくてもいいのではないかということで,乙案支持ということでございます。

  2点目は,二つ目の丸と三つ目の丸ということでございますけれども,私の方から,第3回の本席におきまして,「第6 受託者の利益享受の制限について」という部分と,第7回目の「第49 受益者が複数の信託の意思決定方法について」というところで,複数の信託契約ではあるけれども合同運用によって一つの信託であると評価できるものについては特別の規定をお願いできないかというような主張を行わせていただきましたけれども,その後いろいろと検討しました結果,ここについては考え方を変えております。

  実際,実務上懸念していましたのは,先ほど御説明がありましたけれども,受託者の利益享受の制限の部分について,新しい規律によりますと,受益権全部を取得したとしても相当期間保有できるというようなことであるとか,あとは,複数受益者の意思決定の問題につきましても,基本的には契約に書くことによって対応ができると。

逆に,書く・書かないというところでの自由度が増すというところがございますので,基本的には特別の規定を設けていただきたいというようなことを申し上げましたが,ここの部分については撤回いたしまして,こういう規定のないような形でお願いできないかということでございます。

● ほかに。

● 一番最初の甲案,乙案のところですけれども,これは甲案の方に賛成いたします。

  例えば,受益権の販売という形で多数の人からお金を集めるような場合を想定しますと,この受益権を買うという立場からすれば,買う段階でそれを買うかどうかを判断するわけですから,その段階では,信託行為で,将来はこういう規模でやりますよとか,これとこれが一緒になる可能性がありますよとか,そういうのが明示されていないと判断のしようがない。

受益権を買った後で,それが知らないところで,別のところと合同でこうやってこんな規模になっているという,そういう全くそれに対するリスクを負担する覚悟のないリスクがかぶってくることもありますので,信託行為の明示が必要と考えます。

● 今,甲案,乙案,それぞれ意見が出たわけですが,ほかにいかがでしょうか。

● 質問なのですが,仮に甲案となった場合に,例えばその甲案のとおりに履践しなかった場合の効果というのはどうなるのでしょうかということです。

  本件に関しては,ちょっと私の意見はないわけでして,ただ,実務においては信託の場合は書いているというわけですので,まあどちらでもいいのかなというふうには思います。

ただ,実際に○○委員がおっしゃったとおり,いわば投資家保護の観点もありますし,他方,自由な規律を求めるために,こういうものはあえて必要ない,必要なときに入れるべきであって,ないしは信託業法であるとか投資ルールの中で決めるべきであるという考え方もあろうと思うのですけれども,それを考える前に,そもそも,これを置いたとして,それを守らなかった場合の効果ということについてどうお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。

● 今のは,甲案の考え方をとった場合に,その違反があった場合ということだろうと思います。

甲案というのは,結局,信託行為に定めを置きましょうというだけしか書いておりませんが,一応,ここに掲げましたところでは,その背景にあるのは,基本的には分別管理義務の問題が控えているからであるという考え方だろうかと思います。

その考え方によりますと,これは結局,分別管理義務違反そのものでございますので,分別管理義務に違反した状態で損害が生じたときにどういう責任を負うのかと。

今の信託法ですと,28条に俗に無過失責任といわれる規定があったかと思いますが,そういう規定がかかるような状態になるというようなことではないかと思います。

  あるいは,全く逆に,乙案のように権限の問題にも関係するのではないかという考え方も一応あり得るのかなという気はいたしまして,つまり,合同運用の権限がありますよと書かない限りは合同運用の権限はないという趣旨であるとすると,結局は権限違反の問題になりますので,取消しとか何とかという話になるのかなと。

 恐らく,○○委員がおっしゃったのは,どちらかというと権限の問題で整理した方が話はつながりやすいのかもわかりません。

それはよく分かりませんけれども,分別管理の問題というふうに考える,あるいは権限の問題として考える,一応両方あり得るのではないかなというのが……。

● そうしますと,私なりの整理をすると,一見甲案の方が受益者保護にたけているというふうに見えたとしても,今さっきの御説明によれば,甲案によれば受託者に対する損害賠償請求権にとどまって,本質的な,こんな信託は認められないという取消しまでは認められないと。

むしろ乙案の方が取消しができるということである-もちろん,いろいろな場合があって,どっちがいいか悪いかということは一概に言えませんけれども,乙案をとった場合に取消しができるという余地を残すという意味で,乙案の方がいいという考え方もあるという,そういう整理になるということですか。

● 一概にどうだというのは,今おっしゃったように言いにくいところではありまして……。

分岐点としては,まず,権限違反あるいは権限の問題として合同運用をとらえるかどうか,ここで一つ分岐点がございますし,更に分別管理上も問題があるかと,二つ分岐点があって,ここでは,もともとほかの研究会がございましたが,そちらの研究会の方で指摘された考え方ということで一応二つ挙げておりますが,分岐点は2掛ける2で4になるのかなという気はいたしますけれども。ですから,一概に甲案なら,乙案ならと言うと,ちょっと語弊があるかもわかりません。

● 確かに2種類の問題があって,それから更に,結果としてはどちらの方がどういう利益を保護できるかということとかかわってくるのだと思いますけれども,今の○○委員の御意見の中で,いずれにしても信託行為に書くのだから実務では余り影響ないというふうなことだったのですが,その点は,○○委員はいかがでしょうか。

● 基本的にはほとんど書いていると思いますので,実務上の影響はないと思うのですけれども,基本的な合同運用についての考え方というところからすると,やはりそういう-例えば利殖ということを目的にする限りにおいては,基本的に,それこそ規模を追求して,そのメリットと,リスクを分散するというような観点からすると,まあいい方向に行くのだろうと思いますし,そういう権限はそもそもあるのだろうということですので,あえてそこは書く必要がないのではないかということと,あと,合同運用の状態というもの自体を考えたときに,共有というものは今まで余り考えられてこなかったのではないかと思うのですけれども,共有状態というもの自体がそもそも認められると,そういうことを分かっていただきたいというか,そういう状態にしていただきたいというようなことで,乙案支持ということを申し上げた次第です。

● そうすると,実務上の便宜というよりも,むしろ考え方として認めてほしいということですね。

● 私も余り実益のあるコメントではないのですけれども,どちらをデフォルトにするかという問題で,実際は余り困らないでしょうということだと思うのですけれども,考え方ということで1点。(注2)に関連するのですけれども。

信信間を合同運用する場合はどうか,そして,しかし固有財産と合同運用するというのは,これは(注2)だけを読みますと,その合同運用を続けていった後の状況次第では忠実義務の問題が生じますよというふうに読めるのですけれども,固有財産と合同運用するということ自体がやはり忠実義務の問題ではないかと思うのですね。

したがって,例えば乙案のような考え方をとる場合には,もうこれは忠実義務の例外規定であって,合同運用に関する限りはこの法律の規定がそれを認めているのだという理解にすべきではないかと思います。

甲案をとる場合には,ここで言う信託契約に書いた,信託行為に書いたということをもっていわば忠実義務を解除するというふうに解釈できますので,そこの問題はないと思うのですけれども。ちょっとそういう点が考え方のレベルであるように思います。

  実際どうするかは,運用目的の場合には,実際問題としては合同運用しないと動かない話だとは思うのですけれども,デフォルトルールがどちらであるにせよ,恐らく実益はないので,そこは実務的に詰めていただければと思います。

  もう1点,ついでによろしいですか。甲,乙以外で。

  これは○○委員がおっしゃったことで,私,過去,大学の授業等で欠席してしまっていますものですから,大きな誤解をしているかもしれないのですけれども,先ほどの○○委員の御発言を伺っていますと,分割して多数の受益者がいる場合には,多数決というのでしょうか,前の方でやったようなルール,現在の信託法ではなくて,新しいルールを設けた方がいいけれども,ここで問題になっているような場合,すなわち信託契約が複数ある典型的な場合は不要ですと,なぜならばそれは信託契約で定めることによって対応できるからですというふうに聞こえたのですけれども,私がこの第66を読ませていただいた限りにおいては,二つ目の丸のような提案というのはどのように考えるべきかというか,提案ではないと思うのですけれども,確かに,14ページに書かれたように,どういうように線引きをするかというのは,仮にこういうルールを設けるとすると物すごく難しい問題はあると思うのですけれども,ただ,もし○○委員がおっしゃったようなことであれば私も心配はないのですけれども,本当にそうなのかというのがちょっと心配なのです。

  つまり,どういうことかというと,多数決等で定めてよろしいというのは,受益者が複数いるときに,その過半数とか3分の2とかで決めてもいいですということを議論しておられたのではないかと思うのですけれども,そうだとすると,今は受益者以外の人の意思で決めますというのがここの問題になるのですね。

例えば,100本信託契約がある場合に,受益者は一人なのですけれども,1本1本は,あなたの意思では決まりませんよと。

物事を決めるときには,ほかの67人か何かの意思で,内容はそれぞれいろいろありますけれども,あなたの信託契約も決まりますよということをここの信託契約で決めていいということを前提での御発言だと思うのですけれども,もしそうであれば私も心配はないのですけれども,果たしてそうなのかはちょっと疑問です。

  現在,例えば信託約款の変更というのが,兼営法の5条の3に基づく手続等ありますけれども,これは,1本1本あって,しかし集団的信託約款というか内容は全部同一であって,本来は一人一人の同意があって変更すべきものを特別法でああいうルールを設けているにすぎないと思うのですね。

ですから,信託行為で書いておけば,その受益者-一人しかいないわけですけれども-の割合に関係なく,ほかの人の意見で決めますということも議論されて,そういうものをもって多数決ということであったならばいいのですけれども,○○委員がおっしゃった前提のところが確認されているかどうかが,もし私が欠席していたときに議論されていたのだとすれば

申し訳ないのですけれども,一応発言させていただきます。

● 今,○○委員がおっしゃった,ほかの信託の受益者の同意というようなことも別の信託の信託行為で書けるかということでございますが,事務局の方のこれまでの提案では,例えば信託行為の変更などの局面でも,第三者,あるいはもちろん受益者でもいいですけれども,第三者に対して変更権を与えるということも信託行為で定めることができると。

  そういうことからいたしますと,第三者,例えば別の信託の受益者,A,B,Cという同じような運用をしている他の受益者の意思も合わせて信託行為の変更を定めることができるというように信託行為で定めれば,そういうことも許されるのではないかと考えられまして,結局,信託行為でそのような権限を与えられる者が,同一信託の中でなくても,外部の者であっても,信託行為でそういう授権はできるというところは,信託行為の変更一般の場合であっても,このような合同運用の他の信託がいる場合であっても,同じように信託行為で決められるのではないかということで,それとの並びで,我々としては,ある信託行為で他の合同運用に供されている信託財産の受益者との共通の意思決定で定めることができますというような規定を設けることは,可能ではないかと考えているところでございます。

● もう1点,先へ進めて,例えば利益相反行為があるものに同意をするような場合というのはどうなんでしょうか。

信託行為に,他の受益者の-他のというのはどう特定するのかよく分かりませんけれども,100本あるうちの他の67本の者-全部均等ではありませんけれども-が同意すれば,それで結構でございますというようなことでよろしい……。信託行為の変更は分かりましたけれども。

● ○○委員が今おっしゃった点に関しましては,これまでの部会での議論の状況について申し上げますと,少なくとも信託行為の変更だけでございましたので,忠実義務違反に対する同意というところはもちろん任意規定でという話はございますけれども,そこのところでの信託行為による別段の定めがどこまでという議論は恐らくまだこの部会ではされておりません。

● そうすると,もうちょっと考えなければいけないということかと思いますけれども,より一般的に言えば,まだいろいろな場合がありますよね。

今,二つ典型的な場合を挙げただけでして。多数決で決める必要があるのではないかと。

複数の場合に,分割されている場合に。ですから,そうだとすると,もうこっちは何も要らないよと○○委員のように言い切ってしまっていいのかどうかが私はかえって心配になってきまして……。

  もうちょっと,幾つかのケースというか,ひょっとするとすべてのケースについて詰める必要があるのではないでしょうか。どうも信託行為の変更は不要そうなのですけれども,今の御説明を伺いますと。

● 恐らくおっしゃるとおりで,受益者が同意をして意思決定をしますというようなのは幾つかパターンがございますし,あるいは委託者が入ったりというのを他のところで網罪的に整理しておりますので,そのあたりについてということかなというふうに思います。また検討するということかと思います。

  それから,今,こちらの考えとして申し上げましたけれども,まだ信託行為の変更の部分についても方向性が決まったということではもちろんございません。

● いずれまた変更のところでも御議論いただけると思いますが。

● 今の点に重ねて,一つ質問なのですが。

  そこで前提にされていますのは,実質的に1個の信託であるとの評価は可能であるということで,そして,そのような信託を選別するための要件を検討する必要があると。

正にそのとおりなのですが,必要がある,どう考えましょうということをお聞きになっているだけだろうとは思うのですが,大体どういうものを想定されているのかというのがちょっと分からないもので,議論のしようがないということもあろうかと思います。

  考え方といたしましては,いろいろあるだろうとは思うのですけれども,一番問題が生ずるかなと思いますのは,客観的に見て何か基準を立てて,これは同一だから1個のものとして扱うというのが何か外からふってわいてくる,それによって,個々の受益者としては,自分は1本だと思っていたところが,まとまった扱いを受けることになると。それが,今の○○委員の一番大きい問題を生む原因なんだろうと思うのですね。

  ですから,やはり,何が1個の信託であると評価するかという,その規準を語らないと進まないんじゃないかなという気がいたします。

何か想定されているものがあるならば,お教えいただきたいですし,それも全部オープンなのだということであれば,今後の課題かなというところですが。

● 具体的な例としては,ここの2のところに,例えば貸付信託とか合同運用金銭信託と,こういう実務でやっているものが典型的に想定しているものでございますが,こういう例は例といたしまして,ではどういう要件を設けるかというのは特に想定しているものはございませんで,そこについてオープンに議論をしていただければという趣旨でございます。

● 今の点につきましては,私自身は,契約に分かるように書いていればそれがそうなんだろうなというふうに思っていたのですが,そういうことでもないのでしょうか。

例えば貸付信託であってもそうですし,合同運用でもそうですけれども,それは契約があって,その契約に入ってくる人からすると,ある一定の範囲内のものは一つの運用団として運用されるのだろうなということが分かりますので。私はそんなイメージでいたのですけれども,そういうことではないのですか。

● 逆に言うと,信託行為に書いていないとだめだということですね。

● はい。

● 恐らくそういう切り口も-つまり,結局のところ当事者がどう思ったかにかからしめるという考え方かと思いますが,そういうのもあるのではないかという気もいたしますが,それは結局のところ,実は一つの信託であるという契約を結ぶのと変わらないか,あるいは,この2で言いますと,この考え方自体は,以前御指摘を受けてというところはございますけれども,当事者が1個の信託になりますというふうに書かなくても,一つの信託であるという扱いをすることに合理性がある局面というのは多いのではないかということでこういった発想が出てきているんじゃないかなという気がいたしますので,そういうふうに解しますと,当事者がどう書いたというよりは,先ほど○○幹事がおっしゃったような,外部的に客観的要件を決めてという方が,何となく発想自体からはなじみがあるのかなという気はいたします。

この提案をされる方からすればということかと思いますが。

● 今の点に関連して。

  余り細かい話はどうかと思うのですけれども,私も今の点は気になっていまして,もし線を引くとすると,合同運用だから特別だということなんですよね。

そうすると,それを合同運用しますと書いてあれば,実際にされなくてもこの中に入ってくるのか。

それから,乙案なんかをとると,仮に何も書いていなくても,勝手にといっては何ですけれども,必要の限りで合同運用できるわけですから,これは書いてあるものを基準にすることはできないわけですし,仮に一部だけ書いておくこともできるわけですから,やはり書いてあるものを基準には恐らくできない。

基準にしていいというルールを書けばいいのですけれども,書かない限りにおいては,現在提案されているような形での線引きは恐らくできないということだと思うのです。

  それから,全部書いたところでということだけで決められるかというと,これも,横の運用もあれば,並列的なものと,それから縦の再信託を含めての直列的なものもありますので,これまた書き方によってなかなかややこしい問題が出てくるような感じもするのですね。

  他方,もう実態でというのは,もうもともとの発想が,これは実態が合同運用ならそうじゃないですかという,実質から出発した提案だと思いますから,その意味では全く正しいのですけれども,それを法律にどう書くかという非常に難しい問題があるものですから,そうすると,どうしてもある程度,信託契約に書いてくださいというテクニックを使うとか,何かをやはり経由しなければいけないという,そういう問題だと思います。

  何か,全然意見もなくて,問題の所在だけ言っていて,大変申し訳ないのですけれども。

  それで,多数決のところの資料を拝見しますと,表があって,前の方の資料ですけれども,部会資料7か何かで,やはり,「多数決による意思決定の可否」が「可」と書いてあるのがたくさんありますよね,ほかにも。

先ほどの例以外にも。ですから,例えば信託の併合・分割の合意権,受託者の辞任に対する承諾権,受託者の解任……  。

私,表だけしか見ていませんので,何か間が抜けているかもしれませんけれども。ですから,全部やっていかないとまずいんじゃないでしょうかね。この合同運用の場合について今の問題をどう考えるかということを検討するためには。

● そうですね。更に具体的に,できるだけケースをすべて網羅するような形で検討するということが必要だろうと思いますし,それはまた今後,引き続き検討するということになると思います。

● 1点だけなのですが,当事者意思の問題が出ておりますので,一言だけ申し上げますと,当事者意思が合同運用にあったからといって,複数受益者の規律に関して適用されるという当事者意思があるというふうには言えないわけであって,合同運用されるという意思が,定型的に,すべてのものを一緒に持ってくる意思を持っているとは言えないわけですので,結論から申しますと,すべてのことについて書かないとだめなんじゃないかと思うのですけれども。

● 実体的にどういうふうに切るかということと,それから,それが外から見たときに明確に区別できるかと,多分,論理的には2種類あると思うのですが,それが実はもう切れないかもしれないということでしょうか。

  この甲案,乙案について,それぞれ御意見が出ておりまして,実務的にはそれほど変わらないかもしれないけれども,しかし投資者保護というようなことを考える必要があるのではないかと。

更に,忠実義務との関係,分別管理との関係を検討すると。更に,この一つ目,二つ目の丸を通じてより分析的に考えていくべきだというような御意見をいただいております。

  15ページに,具体的な問題として,信託帳簿の閲覧等々についての事務局からの質問もあるわけですが,もしこの点について御意見があれば。

あるいはほかの点でも結構ですけれども。もう時間が近づいておりますから,今日は合同運用までしかできませんけれども。

● もう1点だけ,よろしいでしょうか。

  かねがねから,私,疑問に思っていた点を,ちょっと今の点に関係するので,簡単に申し上げさせていただきたいと思います。

 今回,信託法の改正の方で手当てがされるのかもしれないのですけれども,それは信託業法とか-信託業法も今度変わりましたけれども,この部分は変わってないと思うのですけれども,兼営法とかがある部分でして,受託者-今で言えば信託銀行ですけれども-が合併をしたり分割をしたりする場合なのですけれども,こういう合同運用,例えば合同運用金銭信託が行われていたとしまして,そこで一人が文句を言うとどうなるかということがありまして,これはどうもよく分からないのですね。

  よく分からないというのはどういうことかといいますと,信託法の合併というのは解散と同じ扱いに現在はなっている。

受託者の更迭が起きるかどうかということなのですけれども,業法の方は特別規定になっていまして。ですから,原則は,引き継がれると。

A信託銀行さんがやっていた合同運用金銭信託は,A信託銀行がB信託銀行と合併すれば,B信託銀行が存続会社だとしますと,それはB信託銀行に引き継がれるというのが普通の,そういうふうに規定は書いてあるのですけれども,ただ,問題は,その中で一人の人が合同運用金銭信託で反対したらどうなるかというと,よく分からないのですね。

どうもその部分についてだけ受託者の更迭-今の言葉で言うと更迭というか,交代と言ってもいいと思いますけれども-が起きるというふうに読まざるを得ないのか。

しかし,それは余り現実的でないことは明らかですよね。1,000人いて,999人の部分についてはB銀行が引き続き受託者でございます,しかし残りの一人の分については,一体どうするのか知りませんけれども,新しい受託者を選ぶのか何か,とにかく合同運用しているからです。

  これはちょっと例として申し上げただけで,そういう場合も,契約であらかじめ決めておくことによって対応できるということであれば誠に結構だと思うのですけれども,もしそういう問題があるとすると,その線の引き方は非常に難しいのですけれども,少なくとも非常に典型的な合同運用の場合-というのでしょうか,うまい表現ができませんけれども-については,やはり何らかの知恵がないと,実際は分からないまま推移するということになるのではないか。

そういう意味ではちょっと改善が必要なのではないかと思います。ひょっとすると特別法の方の問題なのかもしれませんけれども。

● ほかにございませんでしょうか。   それでは,これで閉会いたします。

法制審議会信託法部会第1回~第5回

   法制審議会信託法部会

                        第1回会議 議事録

第1 日 時  平成16年10月1日(金)  自 午後1時02分

                       至 午後4時55分

第2 場 所    法曹会館「富士の間」

第3  議 題

   総論的な意見交換

第4 議 事   (次のとおり)

                              議    事

● それでは,若干の委員・幹事の方がまだ御到着されておりませんけれども,予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第1回会議を開会いたします。

  本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

  私は,民事局参事官の○○と申します。部会長の選出がございますまで議事を進行させていただきます。

  まず,議事に入る前に,法制審議会及び部会について若干御説明申し上げます。

  法制審議会は,法務大臣の諮問機関でございますが,その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができることとなっております。この信託法部会は,さきの9月8日に開催されました法制審議会第143回会議におきまして,法務大臣から,信託法の見直しに関する諮問第70号がされ,これを受けまして,その調査審議のために設置することが決定されたものでございます。

  法制審議会に諮問された事項は,お手元に配布させていただいておりますように,

    現代社会に広く定着しつつある信託について,社会・経済情勢の変化に的確に対応する観点から,受託者の負う忠実義務等の内容を適切な要件の下で緩和し,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定め,受益権の有価証券化を認めるなど,信託法の現代化を図る必要があると思われるので,その要綱を示されたい。

  というものでございます。

  それでは,審議に先立ちまして,まず臨時委員の○○民事局長より一言ごあいさつを申し上げます。

● 民事局長の○○でございます。

  どうも委員・幹事の皆様方,お忙しいところをこの法制審議会のために御出席いただいて本当にありがとうございます。

  この信託法部会でございますが,ただいま○○幹事から御説明がありましたように,信託法の現代化ということをお願いしているわけでございます。

  御承知のように,信託法は大正11年に制定されましてから,実質的な改正がされないまま現在に至っておりますが,この間,社会・経済活動の多様化は著しいものがございます。信託を利用した金融商品が幅広く定着するようになっていますし,また資産流動化目的での信託など,信託法が制定された当時には想定されていなかった形態での信託の活用が図られるようになっております。また,平成16年3月に閣議決定されました規制改革・民間開放推進3か年計画においても,「更なる信託スキームの活用に資する商事信託関連法制の見直し」ということが検討課題として挙げられているわけでございます。

  そのようなことを踏まえまして,法務省としても,民事基本法制の整備の一環として信託法を現代化する必要があるという判断に至りまして,このような諮問をし,部会を立ち上げていただいたということでございます。

  御承知のように,最近の立法は非常にせかされております。勢い法制審の審議も日程的に過密になり,委員・幹事の方々に御負担をおかけするようなことも生じておりますが,現在のような急速な社会変動の時代に,それに合わせた立法をしようと思いますと,どうしても従来の立法ペースでは間に合わない,やはり相当詰めた,時間的に短縮した立法スケジュールにせざるを得ないということがございますので,私どもとしても審議が充実したものになるよう最大限の努力をいたしますが,よろしくお願いをしたいと思っております。本日はどうもありがとうございます。

● それでは,本日は第1回目の会議でございますので,まず,委員・幹事及び関係官の方々に簡単な自己紹介をお願いいたしたいと存じます。

(委員・幹事及び関係官の自己紹介省略)

(能見委員が,部会長に互選され,法制審議会会長である鳥居委員により部会長に指名された。)

● ただいま指名されました能見でございます。よろしくお願いいたします。

  先ほど局長からもお話がありましたように,現在,この信託法は大改正の時期を迎えておりまして,恐らく議論すべき問題点がたくさんございます。そういう意味では,短い時間の中で,効率的に,しかし慎重に,かつ深い議論を進めてまいりたいと思いますので,皆様の御協力をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

  それでは,最初に,配布されている資料について事務局から説明をいたします。

● それでは,配布資料について御説明を申し上げます。

  まず,本日の席上配布資料でございますけれども,先ほど読み上げさせていただきました諮問第70号というものがございます。

  それから,事前配布資料でございますが,一つは,「信託法部会の審議スケジュール(案)」と題する書面を部会資料1としまして,それから,「信託法制研究会報告書」と題する冊子を部会資料2として事前送付させていただいております。

  配布資料は以上でございます。

● 資料等はちゃんとございますでしょうか。

  それでは,次に,今後の当面の審議スケジュールにつきまして,これも事務局から説明をいたします。

● それでは,お手元にございます部会資料1「信託法部会の審議スケジュール(案)」という書面に基づきまして説明をさせていただきます。

  先ほど民事局長のあいさつにもございましたように,信託法は,大正11年に制定されて以来,実質的な改正がされないまま現在に至っておりますが,この間の社会・経済活動の飛躍的な発展・多様化に伴いまして,信託法の現代化に向けての要請は最近とみに高まっております。したがいまして,信託法の改正につきましては早急に措置を講ずる必要があり,来年の臨時国会に法案を提出したいと考えているところでございます。そういたしますと,来年9月の法制審議会総会において答申をいただく必要がございますし,法案の分量なども考えますと,当部会における要綱案が来年の7月末ごろには完成している必要があると考えられるところでございます。

  そこで,当部会のスケジュールでございますが,来年1月28日の第9回会議までにつきましては,個別論点についての御検討をいただき,その上で,第10回会議から第12回会議までの合計3回につきましては中間試案の検討をいただいた上で,来年2月ごろをもって中間試案を取りまとめて,公表させていただくことを考えております。その上で,来年3月の1か月間を一般に対する意見照会の期間に当てまして,その結果を部会に報告させていただいた上で,引き続き,来年4月から7月までの3か月間で要綱案決定のための審議を行うというスケジュールにしてはいかがかと考えております。

  なお,来年3月以降の会議の日程につきましては,3月の1か月間をパブリックコメントの期間にあてる予定であることなども踏まえまして,改めて委員・幹事の皆様にお諮り申し上げたいと存じますが,原則として隔週金曜日,2週間おきの金曜日に開催させていただくことになる可能性が高いものと思われますので,その旨お含みおきいただければ幸いでございます。

● ただいまの当面の審議スケジュールにつきまして,何か御意見等ございますでしょうか。よろしゅうございますか。--それでは,これは御承認いただいたということで,進めてまいりたいと思います。

  次に,本日の審議でございますけれども,信託法の見直しについて審議をしたいわけでございますが,事前に送付の資料2というもの,分厚いこの報告書でございますが,これが皆様のお手元に事前に送付されているかと思います。最初に,この資料の性格につきまして,これも○○幹事から説明をお願いしたいと思います。

● この報告書でございますが,これは,昨年9月から今年の9月まで,合計22回にわたって行われました信託法制研究会という研究会における議論の結果をまとめたものでございます。

  この研究会は大学の先生方が中心となって行われた研究会でございまして,法務省の信託法担当部署からも参加させていただいて,現行信託法の条文ごとにその見直しの要否・内容について共同研究をさせていただき,その成果を関連する項目に従って報告書に取りまとめ,当審議会における参考資料として配布させていただいたものでございます。

  なお,この報告書では,各項目の冒頭において条文のような形式の記載がされておりますが,これは,この研究会における議論の大まかな方向性をなるべく分かりやすく示すべくとられたものにとどまるものでございます。信託法改正のための要綱案の内容は,すべて当審議会での審議の結果を踏まえて作成させていただくものでございますので,本報告書の形式・内容にとらわれず,忌憚のない御審議を賜りたくお願い申し上げます。

  以上が報告書の性格でございます。

● ということでございまして,この報告書をもとにしながら議論を進めてまいりたいと思いますけれども,何分非常に分厚い報告書であり,かつ,いろいろ細かい論点にもわたっております。いきなり各論から議論していくというのは必ずしも適当でないと思いますので,先ほどの審議スケジュールにございますように,今回と次回において,総論的な,信託の基本的な構造を皆様でお互いに議論して,ある程度共通な認識を経てから細かい各論に進んだ方がよろしいかと思いますので,そういう意味で,総論的な意見の交換というのを2回ほど設けたいと考えております。こんなやり方でよろしゅうございますでしょうか。

  それでは,そういう形で進めていきたいと思いますけれども,今日はその総論的な意見交換の第1回目ということでございますが,これもすべて本日できるわけではございませんので,幾つかに分けて御議論いただくということになります。

  ということで,○○幹事の方から,どういう形で分けて議論していくかということも含めて,説明をお願いしたいと思います。

● では,ただいま○○委員の方からお話がございましたように,本日と次回の2回に分けまして,この報告書の何点かの重要な項目をピックアップさせていただきまして,事務局の方から,この報告書の概要あるいは問題となっておりました点などを簡単に御紹介させていただきたいと存じます。

  なお,取り上げる項目でございますけれども,本日は,1番目の「信託の設定について」,2番目の「信託宣言について」,8番目の「信託の公示について」,13番目の「信託財産に対する強制執行等について」,18番目の受託者の「善管注意義務等について」,19番目の受託者の「忠実義務について」,21番目の受託者の「分別管理義務について」,22番目の「信託事務処理の委託について」,24番目の「受託者の損失填補責任等について」,28番目の「受託者の有限責任の許容について」,33番目の「受託者の権限について」,最後に34番目の「受託者の権限違反の行為について」,全部で12項目でございますが,この項目について取り上げさせていただきたいと思います。

  予定といたしましては,途中休憩までの第1セッションを最初の4項目,それから,休憩後を二つのセッションに分けまして,受託者の義務に関する4項目と,最後に受託者の責任・権限等に関する4項目を,おおむね1時間ずつ,3セッションに分けてやらせていただきたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。

● ということでございます。よろしゅうございますでしょうか。

● それでは,私の方から,まず,最初に申しました4項目について,この報告書の内容をかいつまんで御説明いたしました上で自由な意見交換をいただきまして,おおむね2時半過ぎごろまで第1セッションを行いたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,早速説明に移らせていただきますが,まず一番最初に,「信託の設定について」というところでございます。

  ここにおいて取り扱う問題というのは,信託法の適用対象となる信託をいかに定義づけるかという点でございます。すなわち,新たな信託法の立法を考えるに際しまして,信託法の各規定が適用になる信託の外延,民事・商事法の体系の中における信託の位置づけを明確にしようとするものでございます。

  ところで,現行法1条によりますと,信託とは,財産権の移転その他の処分があること,それから,他人に一定の目的のために財産の管理又は処分をさせること,これを言うものとされております。

  まず,太字で書いてございます1でございますが,これは,今申し上げました現行の①と②の要件とほぼ同様の要件をもって信託法が適用になる信託となるための必要な要素,すなわち成立要件と構成するものでございます。

  ただし,現行法1条においては,「財産権」の処分があることを要件としておりますが,この①では,「財産」の処分があることを要件とするものとしております。これは,信託財産としては金銭的価値に見積もり得るものすべてが含まれ,「○○権」と言えるまでに成熟したものである必要はないということを明らかにする趣旨でございまして,この財産には,特許権等の知的財産権はもちろんのこと,特許を受ける権利,外国の財産権なども含まれると考えております。

  また,現行法1条におきましては「財産権ノ移転其ノ他ノ処分」とされているのに対しまして,ここでは,財産の処分の例示といたしまして「担保権の設定」というのを挙げております。これは,いわゆるセキュリティー・トラスト,つまり,債務者を委託者,担保権者を受託者,債権者を受益者とする担保権の設定も信託のスキームを用いれば可能であるということを明示する趣旨でございます。

  ちなみに,御承知のとおり,規制緩和・民間開放推進3か年計画におきましても,これは平成16年3月に閣議決定されておりますが,そこでは,シンジケート・ローン等において,一人の債権者が他の債権者の債権も含めた被担保債権の担保権者となり,その担保権の管理を行うことができるようにすべきであるとの指摘があることから,信託の在り方を見直す中で制度の整備の必要性を検討するという決定がされておりまして,ここはそのような閣議決定を踏まえたものでもございます。

  次に,②でございますけれども,この報告書でございますと,「財産の処分を受けた者が,【自己の利益を図る目的以外の目的】のために,当該財産の管理又は処分その他当該目的の達成に必要な行為を行うこと」という要素を設けております。これは,現行法1条では「一定ノ目的ニ従ヒ」とのみされておりますのに対し,その実質を明らかにいたしますとともに,受託者のみが利益を得ることとなる場合には,それは単に受託者の所有と位置づければ足りるのであって,これをあえて信託と位置づける必要はないと考えられるからでございます。

  続きまして,太字の2でございますが,これは,信託の設定段階におきまして,積極財産とともにであれば,委託者が負担している債務を受託者が信託債務として引き受けることができることとしたものでございます。

  したがいまして,これまでの通説によれば否定されてまいりました積極財産と消極財産を含む包括財産の信託,あるいは事業そのものの信託というものも認められることになると考えているところでございます。

  続きまして,報告書6ページにある(注1),(注2)について説明を申し上げます。

  まず,(注1)でございますが,御存じのとおり,実務上,信託を利用する流動化のスキームにおきまして,基本的には財産保管機能しか有しない信託が多く見られまして,こういうようなものでは受託者の積極的な行動が予定されず,いわゆるハコとして利用されるにすぎない信託の取扱いが問題となっております。

  従来は,受託者としては,受益者が信託財産について各種の行為をすることを認容する義務を負うにとどまるものを「名義信託」,受託者が委託者又は受益者の指図に従って管理・処分することになっているものを「受働信託」と言って区別いたしまして,後者の受働信託は信託法上の信託であるが,前者の名義信託は信託法上の信託ではないなどと解されてきたようでございます。

  しかし,名義信託と受働信託とを区別するのは容易ではない上に,いわゆるハコとして利用されるにすぎない信託が無効とされてしまいますと,証券化や流動化,ひいては信託制度の発展に大きな支障を来しかねないと考えられるところでございます。

  そこで,名義信託と受働信託といった区別はとらず,信託行為において,受託者は単なるハコ,すなわち財産保管としての機能を有するとのみ定められ,実際にやっていることもハコというようなものにすぎないのであれば,当事者の実現しようとしている意図,すなわち信託行為に定められている受託者の権限と受託者の行為態様が合致しているのであるから,これを有効と解してよいと考えるものでございます。

  もっとも,単に名義を移したのみで,名義人がそれ以外に全く行為をしないような場合につきましては,恐らく受託者の権限内容を定めた信託行為すらもないと思われますので,そういうようなものは少なくとも信託としては無効と考えてよいと考えるものでございます。

  続きまして,6ページの(注2)でございますけれども,これは,英米の実務におきましては,受託者が複数存在するときに,一部がマネージング・トラスティーとなり,他がカストディアン・トラスティーとなって,信託財産はカストディアン・トラスティーのみの名義となるということが認められているとの指摘がございます。

この点については,いずれか一人が名義人であることを前提といたしまして,信託財産の帰属しない者も,信託行為において受託者と定めれば,信託法上の受託者であると解して差し支えないと考えるものでございます。

  最後に,最も重要なものの一つと思われます,この報告書で言いますと4ページのアステリスクの点について,敷えんして御説明をしたいと思います。

  信託の大きな特質と申しますのは,信託財産の名義人である受託者の倒産からの信託財産の隔離,すなわち,受託者の個人債権者は当該財産に対して権利を行使することができないという効果を生み出すことにございます。

  しかるに,例えば所有権の移転を伴う委任がされた場合にも,この1の①,②の要件に形式的には該当いたしまして,したがって信託となってしまいそうでございますが,受任者が破産した場合には,当該財産は受任者の破産財団に入ってしまうものと理解されているのではないかと思うところでございます。すなわち,この場合には受任者の倒産からの隔離の効果を引き出すことが意図されていないわけでございます。このような場合にまでかかる法律関係を信託と構成してしまうことにはちゅうちょを感じざるを得ないところでございます。

  そういたしますと,民商法上の様々な制度の中で信託を正確に位置づけるという目的を達するためには,1の①,②の要件が満たされれば信託が成立するというのではなく,当該財産の受託者からの倒産隔離効果,あるいは,このような効果を生み出す前提となる分別管理義務を受託者が負うこと,そして,このような受託者の義務を当事者が意図していることを何らかの形で信託の成立要件の一つとして位置づけることが適当ではないかと考えられるわけでございます。

  他方,その一方で,倒産隔離効果を生み出す分別管理義務を信託の成立要件として位置づける意義については理解しつつも,これを明文化するときは,実際の運用において分別や管理の概念をめぐって争いが起こる可能性があり,信託の成立範囲を必要以上に狭くしてしまうことになりかねないとの懸念に基づく批判がございます。

  また,分別管理義務を信託の成立要件として明示的に設定いたしますと,例えば営業者に分別管理義務が課されている形態の匿名組合契約についてまでも,成立要件に該当する以上は信託と構成すべきであるというような解釈論を惹起してしまう可能性があり,むしろ,受託者からの倒産隔離を生じさせる意思があることは信託成立の書かれざる要件にとどめておく方が適切であるとの指摘もあり得るところでございます。

  以上を踏まえまして,受託者が分別管理義務を負うこと,あるいは当事者が倒産隔離の意図を有することを何らかの形で要件とすべきか否かというところが問題になるというのが,この指摘でございます。

  以上で信託の設定についての説明を終わらせていただきます。

続きまして,「第2 信託宣言について」の説明に移らせていただきます。

  御承知のとおり,信託宣言とは,ある人が自分の財産を他人のために自分に信託する旨を宣言することでございまして,以後,その財産は固有財産から信託財産へと性質を変えることになるわけでございます。

  このような信託宣言は,財産権の移転も占有移転もなく,名義も変わらず,受託者として他人を立てる必要もないということで,手間もコストもセーブでき,信託の普及には都合がいい上に,名義が変わらないのでサイコロジカルにも受け入れやすいなどといわれているところでございます。反面,財産隠匿のおそれが高いということで,否定論も強く展開されてまいりました。

  ところで,現行法におきましては,信託法1条が他人に対する処分を予定していることから,信託宣言は許容されないものと解するのが通説であったと考えられます。もっとも,解釈論・立法論としてこれを認めるべきであるとの見解も有力でございますし,また,近時,規制緩和の流れの中におきまして,資産流動化に資するために信託宣言を許容すべきであるとの要望も寄せられているところでございます。ちなみに,英米の信託法では信託設定の方法の一つとして信託宣言が認められているという事情がございます。

  このような状況を踏まえ,報告書には,甲,乙,丙の3案がございます。

  まず甲案でございますが,これは,現行法どおり信託宣言を認めるべきではないとする見解でございまして,その根拠といたしましては,例えば債務者による執行免脱,財産隠匿のために用いられる危険が高いということ,あるいは,委託者と受託者が同一であるために義務履行が不完全になりやすい,すなわち,委託者イコール受託者であれば自分で自分を監督することは期待できないというような理由が挙げられているところでございます。

  これに対しまして,乙案というのは,信託宣言を一般的に許容しようという見解でございます。その根拠といたしましては,委託者の債権者は,一般には特定の財産について利害関係を有し執行客体であるとの期待を有しているわけではなく,必要とあれば詐害行為取消権による限度で保護されれば足りるということ,あるいは,信託設定後はむしろ受益者の債権者が受益権を対象に強制執行することができるわけですので,執行免脱財産をつくり出すという批判は当たらないということ,更には,受託者の義務履行を確実にさせるために,受益者による種々の監督権が認められているではないかというような理由が挙げられているところでございます。

  最後に丙案でございますが,これは,信託宣言が認められる場合を一定の場合に限定する折衷的な考え方でございます。限定の方法といたしましては,例えば信託宣言の目的に着目いたしまして,公益を目的とする場合,他人の扶養又は教育を目的とする場合,あるいは資産流動化を目的とする場合のような限定を加える方法ですとか,あるいは信託宣言の設定手続に着目いたしまして,信託設定の公告,あるいは登記,あるいは公証人による認証等の手続的限定を加える,あるいは,今申しました目的による限定と手続による限定の両方を併用するというような方策も考えられるところでございます。

  続きまして,報告書20ページ目からの「第8 信託の公示について」の説明に移らせていただきます。

  信託の対抗が問題となる場面といたしましては,受託者個人の債権者が,信託財産を受託者の財産として強制執行してきた場合ですとか,受託者が破産した場合などに,その財産が信託財産であることを主張して強制執行を排除したり,あるいは破産財団に含まれないことを主張する場合が考えられます。これは現行の信託法16条が適用される場面でございまして,信託財産は受託者個人の債権者の引当財産から除かれるということになります。これを信託財産の独立性などと言っているところでございます。

  その上で,まず太字の1でございますが,これは,登記・登録すべき財産につきましては,登記・登録をもって今申し上げました第三者に対する対抗要件とするのが妥当であると考えられますので,現行法の3条1項の趣旨は維持することとしたものでございます。

  もっとも,現行制度下で不動産を信託した場合におきましては,受益者の氏名又は名称及び住所をその都度公示するということになっておりますので,受益者が多数存在する信託などにおいては,特に受益者が変更するような場合などを考えますと,事務負担を重くしているという指摘がございまして,信託の公示制度について改善すべき点がないかについてはなお検討する必要があると考えているところでございます。

  続きまして,太字の2のところでございますが,これは有価証券の信託に関するものでございますが,現行法の3条2項は,勅令の定めるところにより,証券に信託財産であることを表示し,株券及び社債券については,株主名簿又は社債原簿に信託財産であることを記載又は記録しなければ,第三者に対抗することができないとされております。

  しかしながら,このような取扱いは,大量の有価証券に投資することを目的とする信託におきましては,大量の有価証券が頻繁に売買されることを考えますと,実務上現実的ではないと思われますので,3条2項は削除することとしたいと考えているものでございます。

  したがいまして,受託者が有する有価証券が信託財産であるか否かは,一般の動産の場合と同じく,信託財産であることを実体的に主張立証し得るか否かの問題として取り扱われることになると考えられるものでございます。

  最後に,「第13 信託財産に対する強制執行等について」という30ページのところからの御説明に移らせていただきます。

  現行の信託法16条というのは信託法にとって中核となる規定であり,ここでは同条の趣旨を維持しようとするものでございます。

  すなわち,太字の1でございますが,これによりまして,信託財産について信託前の原因によって生じた権利,例えば,抵当権の設定された不動産を信託事務の処理によって信託財産として取得した場合のそのもともとあった抵当権というような場合が典型でございますが,そのような権利,もう一つは信託成立後の受託者の権限に属する行為によりまして生じた権利,これらの権利を除きましてそれ以外のもの,すなわち,典型的には,受託者の固有財産に対する債権者は信託財産について権利を主張することはできないということになります。このようにいたしまして,信託財産は所有名義人である受託者の倒産リスクからも遮断され,信託財産の独立性が確保されることになるわけでございます。

  また,太字の2でございますが,これによりまして,受託者の債権者等が今申しました太字の1に違反して信託財産に対して強制執行等をしてきた場合には,受益者等は第三者異議の訴えによりましてその執行を排除できるというものでございまして,この点も現行法16条2項の趣旨を維持しようとするものでございます。

  とりあえずの説明は以上でございます。

● それでは,ここまでを一区切りとして御議論いただきたいと思いますけれども,特に順番は指定いたしませんけれども,基本的なことからだんだん複雑な問題へと移った方が議論はしやすいと思いますので,信託の設定あたりから,いかがでございましょうか。信託宣言もある意味で設定の問題ですので,そこら辺まで含めて,いかがでしょうか。

● まず,信託の定義についてなのですが,担保権の設定について明示的な規定を置くことは,資産流動化・証券化の観点から非常に役に立つのではないかなという気がしております。

  現状は,資産流動化商品の一つであるABSが,本来であれば,あるいは海外の実例を見ますと,担保付社債として発行されている現状に比べ,我が国においては責任財産限定特約付の無担保社債として発行されているという現状がございます。本来,担保付社債とするべきであるABSが無担保社債になっている一つの原因として,信託法ではなくて,担保付社債信託法の使い勝手の問題といったものもあるかと思いますので,信託法とあわせまして,担保権の信託を検討する際には,担信法の使い勝手についても検討できればいいのではないかなという気がしております。

  それと,第2点目の方に入ってしまうのですが,信託宣言について,英米では資産流動化に用いられていると。例えば,SPCの株式を,ケイマン諸島であるとかジャージー島の信託会社が信託宣言の方法をもって信託設定するというようなことが,現に,日本の資産を対象に,かつ日本の投資家を対象に販売される流動化商品,証券化商品において用いられるケースがございます。こういったものについて,国内でも同様のことが可能になれば,流動化実務上はやりやすくなるのではないかなという気がいたしております。

  また,委託者と受託者が同一人である信託なのですけれども,韓国の事例なのですが,韓国住宅金融公社という政府100%出資の特殊法人が,自ら保有する住宅ローンといいますか,金融機関から購入した住宅ローン債権を自己信託,自らを委託者,自らを受託者,かつ,自らを当初受益者とする信託を設定いたしまして,その受益権を投資家に販売するという方法でファンディングを行っているという事例もございます。また,我が国でも,例えば信託銀行が住宅ローン債権を証券化する際に,いったんSPCに債権譲渡しまして,SPCが委託者,オリジネーターである信託銀行が受託者となる信託を設定して,受益権を販売するといったスキームが実際にとられていまして,この場合は,もちろん委託者と受託者は別人になるわけですが,もしこれが同一人で可能ということであれば,更に実務上のフレキシビリティーという意味では助かるのではないかなという気がいたしております。

  また,積極財産に加えて消極財産もということなのですけれども,これは1番目の論点に戻るのですが,現状でも,信託設定後,信託が債務を負担する,借入れを行うという形での資産流動化取引は多数行われております。いわゆるアセットバックド・ローン,ABLですとか,あるいはノンリコース・ローンと呼ばれている仕組みにおいても,多々,特定の信託財産を引当てに受託者である信託銀行が借入れを起こすという取引が行われております。これが信託設定時においても最初から債務をセットでということが可能になれば,これも実務上のフレキシビリティーの拡大というところにつながるのではないかなという気がいたしております。

● 最初ですので,概括的なところからお話ししたいと思います。

  まず,せっかくの機会ですので,この信託法を,実務のやりやすいように,柔軟な,かつ予見可能性の高いものを目指していきたいと思います。

  この法制審の部会とは別個に,現在,国際私法で信託も一項目として取り上げられるところでございますけれども,日本の信託法が,ある意味,外国でも使われるような,いわば日本の法令がハブとなるような形で使われるようなものを目指すぐらいにしておかないと,逆に今度は日本国内で行われるものも外国の信託法を使われてしまうことにもなりかねないものですので,この点,やはり国際的な競争ということも考えてこの信託法を考える必要があると思います。

  次に,第1の個別の話を2点差し上げたいのですけれども,ここで書かれている論点の中で,2点,更に御議論いただきたいところがございます。

  一つは要物性のことでございます。教科書を広げると,御案内のとおり,要物性が必要だというふうに言われておりまして,ただ,諾成的な信託というものも認められていると言われておりますけれども,実務では,契約をしている時点ではその信託財産がないということも多々ございますので,そうした場合の法的不安定性を考えますと,やはりここで諾成的な信託ということを正面から認めていただくことが必要ではないかなと思っております。

  二つ目は,これはちょっとどういう議論になるのか分からないところもありますけれども,信託否認の法理というのがあり得るのかどうか。例えば,法人格の否認という議論はあると思いますけれども,逆に,今回の場合,信託の否認ということがあり得るのかどうか。例えば,今も実務的に行われていると思うのですけれども,100円の信託財産に対して,今,○○委員からありましたように,ローンを借りると。じゃあ1億円のローンで調達をやって,それで何か行うという取引も考えられないわけではないですけれども,こういう取引が果たして有効なのかどうか。もちろん,いろいろな考慮はあると思いますけれども,そういった点も御議論いただければというふうに思っております。

● 私は,リース・クレジット債権の流動化を利用した資金調達をやっているオリジネーターの立場からいろいろ発言をさせていただきたいというふうに思っております。

  まず,信託の定義についてなのですけれども,先ほど○○委員がおっしゃられたとおりでございますけれども,実際に我々,ABSを無担保社債として発行しておりますけれども,セキュリティー・トラストが可能になるということであれば,更に様々なスキームが考えられますので,このあたり,極めて重要ではないかなというふうに思っております。

  二つ目に,信託宣言についてですけれども,これは報告書の方にも書いてございますけれども,十数年前から,債権の流動化をやるに際して,当時から信託の法的な安定性というところに着目して利用させていただいているわけですけれども,その組成に際して,ケイマン諸島のチャリタブル・トラストを使ってやっているというところがございます。これについては,最近いろいろな方法が考えられつつあるのですけれども,やはりコスト面,それから時間がかかり過ぎるということもございますので,信託宣言が使えることによって,我々ノンバンクというのは銀行さんと違って預金の受入れができないということから,できるだけ低コストで資金調達をやる必要があるわけなのですけれども,そういったことにも今後いい影響を与えてくるのではないかなということで,是非ともこれを認める方向でお願いしたいなというふうに思っておりますので,よろしくお願いしたいと思います。

● ただいま,実務的なというのでしょうか,信託が扱われる最前線の中からいろいろな要望が出てまいりました。これに関連して,あるいはほかの観点でも結構ですけれども,いかがでしょうか。

● 私どもの方は信託銀行でございまして,従来,信託法といいますと,信託銀行が受託者として大半といいますか,ほとんどの担い手だったと思います。そういった実務的な観点から,若干お話しさせていただきたいと思います。

  1点目は,先ほどの,担保権の設定というのが明示的に入ったこと。これについては,今いろいろな方々が言われたように,非常に使い勝手がいいものだと思いますので,これについては賛成だということです。

  ただ,信託宣言のところでございますけれども,確かに流動化のところとかを考えますと使い勝手がいいのかなというふうに思います。ただ,それをきちっとした業者が行うのであれば,それはそれでいいと思うのですけれども,基本的に,信託法という観点から見る場合においては,どうも一般の信託銀行以外のところの信託というところでの弊害ということを聞きますと,やはり執行免脱というのが一番多いというふうに聞いております。そういう観点から言いますと,やはり信託宣言というのは,ある意味,使い方によっては非常に弊害の多い制度であるということが言えるのではないかと思います。まあ,だからだめだよということではないのですけれども,ただ,逆に,それじゃあその弊害を防止するためにいろいろな方策を考えていかなければいけないのだと思いますけれども,それが一信託宣言だけでおさまるような形の規制になれば,それはそれでまた別の考え方というのはあるのかもしれませんけれども,当然,ぱっと考えますに,例えば忠実義務の問題であったり,分別管理の問題であったり,そういったところに一般の信託に波及する,それについて考えていかないといけないというところがあるのではないかと思いますので,その点ちょっと懸念しております。そういう意味合いで,現状において,信託宣言については反対というふうに考えております。

  それと,ちょっと一般的なところの,信託の設定のところに戻って恐縮なのですけれども,現行法での信託といいますのは,正に財産を譲渡して,受託者を債権的に拘束すると。それプラスアルファで,今,分別管理義務というのを加えようか否かというような御提案だと思います。ここのところについては,先ほどの御説明にもありましたけれども,信託の成立要件として書かれてしまうと,やはり弊害の方が多いのではないかと。

私は,考え方としては非常に納得もできますし,信託銀行の人間として,信託の売りというのは倒産隔離なのだというのは,それは分かります。それで売っていきたいなという気持ちはあります。ただ,我々業界の中には,今まで二つだった要件が三つになるというところがやはりなかなか違和感がありますねというところが本音かなと。ただ,書くことについては,みんなちょっとどうかなと。書かざる要件というところから考えると,そこら辺はちょっと賛否があるというところでございまして,私なんかは,売りとして,何となく,書かざる要件としてなら,セールスポイントとして入れてほしいなというのがあるのですけれども,やはり違和感を持ったところもかなりあるというところでございます。

● 分別管理の問題というか,成立要件としての分別管理というのは,この研究会の報告書の中でも大分議論,あるいはそのもとになった研究会でも議論になったわけですけれども,一方で,ちょっと言い方は適当ではないかもしれませんけれども,信託を設定する意思というのと,これはもちろん要件だと思いますけれども,それと分別管理そのものは,若干違うわけですよね。分別管理というのはある程度形式的なところでとらえていますから。そういう違いもありますけれども,先ほども,書かれざる要件としての倒産隔離の意思と言われましたか,そういうのを書けるかどうか分からないわけですね,書かれざるあれですから。そういうのを要件にしたらどうかというような議論もあって,ここら辺はこれからかなり議論しなくてはいけない点だと思います。

  それからもう1点,むしろ私が理解する上で教えていただきたいのですけれども,先ほどから,信託宣言をめぐって,SPCの株式を取得するところが信託宣言をするという形を考えているわけでしょうね。

● 私は全銀協の推薦の者でございますので,まず銀行の立場で申し上げますと,先ほど○○委員の方から信託銀行の観点からのお話があったと私は理解しているわけですけれども,やはり私ども銀行としてもいろいろな業態がございまして,その点,私としてどういう意見を言うか今迷っているところであります。

  一つの考え方として,これは都銀懇の規制緩和要望の中でも出ているわけですけれども,都銀懇の意見としては,もう一つの使い方として,いわゆる銀行債権--不良債権もいろいろあったことはございますけれども--のオフバランスを図るために,自らが受託者となって自らの債権を宣言信託によって流動化してしまうと。そうすることによって何がいいかということで,まずはコストのこともございます。それよりも大きなものは,お客様において,やはり債権者が変わらない,よって,お金を払う,いわゆるサービサーの相手先も変わらないと。

  また,もっと現実的なお話をしますと,お客様の開示の中で取引先銀行ということを書くことがありますけれども,そこが,例えば,「何とか銀行」というのが「何とかSPC」になってしまう,また「何とか信託」となってきますと非常に困ってしまうというようなことを考えられる方も中にはいらっしゃいます。

  そうした中で,一つの考え方としては,かかる流動化を,信託宣言を使うことによってやればいいのではないかというふうに思っております。

  ただ,○○委員がおっしゃられたように,他方,私も債権回収の現場の中で,不動産登記を上げていったときに,何かわけのわからない特殊な方に信託譲渡されていたということもありまして,やはり執行免脱という問題はありますが,ただ,一つの考え方としては,それに対してはまた別の考え方で制限すべきではないかということもあります。1点コメントしておきます。

● 私が確認したかったのは,その信託宣言がどの場面で使われるかということだけなので,皆さん信託に造詣の深い方ばかりですけれども,必ずしもこういう先端的な問題については理解していない場合もあります。私も理解していない。ちょっとそれを確認したいだけで。

  SPCを使って,今までケイマン諸島でもってチャリタブル・トラストを使っていたと。それのかわりに信託宣言を使うという考え方は,SPCの株式--あれは株というのかな,株主というのが出てくるわけですね。それで,SPCというのは,できるだけいろいろな倒産の影響を受けないようにしたいので,そのチャリタブル・トラストに最終的に株式を持たせたいというのが,恐らくケイマン諸島などでもってチャリタブル・トラストを使う理由だと思うのですが,そのときに信託宣言を使うということの意味なのですけれども,日本国内でやると,債権流動化のためにSPCを設立して,その株式をどこかが取得し,その取得したところが信託宣言を使ってそこでまたチャリタブル・トラストを作ると,そういう構造なんですか。ちょっとそこら辺が私にはよく分からなかったのですけれども。

  あるいは,どなたかお詳しい方。

  要するに,今までのケイマンのチャリタブル・トラストを使うかわりに信託宣言と言われているのですけれども,何か二つあって,一つは信託宣言そのものを使うことによる使いやすさというのと,今までチャリタブル・トラストを使っていたことの代替機能というのがどこかにあっておかしくないと思うのですけれども,その辺の議論が私には何かよく分からなくて。

● その点は,私は○○委員がおっしゃるとおりだと思っていまして,発言しようかどうか迷っていたのですけれども。

  このお手元の資料にもあるのですけれども,信託宣言が日本で使えないからケイマンに行くというのは,私は間違っていると思います。ケイマンに行く理由は,信託宣言が日本で使われないからではありませんで,日本にオリジネーターがおり,日本に投資家がいても,なおケイマンに行く理由は,資本関係の切断をする仕組みが日本ではつくりにくく,その結果,格付けをとるときはいい格付けがとれない。これが,ケイマンへ行って,いわゆるチャリタブル・トラストという仕組みを経て日本へ帰ってくれば,格付機関が格付けを出していたという歴史があります。

  ただ,最近,日本では,中間法人を使ったスキームですとか,特定持分信託という仕組みが流動化のもとでありますけれども,そういうものを使った仕組みについて,格付機関が日本でも資本関係の切断を認めるという方向に今動いていますので,そういう意味では時代は変わりつつあると思います。

  したがって,信託宣言が使えるようになればケイマンへ行かずに済むという話ではない。これは,資本関係の切断をすると。それが流動化の分野で言えば格付けを取得する上で確立した実務だとしますと,そのための法的なスキームをつくり上げるにはどうしたらいいかという問題であって,信託宣言と直結した問題ではないと私は思っています。

  もう1点は,今,○○委員がおっしゃったことと関係しますけれども,ケイマン諸島におけるチャリタブル・トラストというのは,向こうの法律で言う信託宣言によってつくられるのが普通なのです。ですから,その話は,日本で仮にチャリタブル・トラストのようなものをつくれば,それによって,ケイマンに行かなくても資本関係を切断しますと格付機関が言った場合には,日本においてもそういうものを作る,その際に,信託宣言による作り方があればなお便利だ,あるいは,信託宣言という設定の仕方がなくても,今の信託法のもとで--特定持分信託はそうなのですけれども--つくり上げた信託について資本関係の切断が認められれば,それはそれで日本国内で完結する話なわけです。したがって,そこはやはり一段飛躍があって,信託宣言を特にケイマンのチャリタブル・トラストとの文脈で議論する場合には,分けて考える必要があると思います。

  発言したついでに,もう1点。信託宣言の議論をするときは,今,複数の委員の方から出ましたように,半分以上は,表現は悪いかもしれませんが,業務の範囲の問題というか,業の問題ですので,必ずしもここで議論するのになじむかどうか,私は余り適切な話ではないと思います。

  具体的に言うとどういうことかといいますと,受託者となる人が宣言をした瞬間,受託者になるわけですから,受託業であり,信託業になるわけでありまして,したがって,今の法制に即して言えば,例えば信託銀行が持っている財産について宣言するのは何の問題もないと思いますけれども,信託業務に携わっていないものが宣言をするためには,当然,その瞬間,業法上,例えば新しい信託業法で言えば免許が必要になるわけですから,そういう問題をクリアするという部分がありまして,先ほどからの御発言はそれに関連する部分がかなりあるのですけれども,私としては,この部会は,信託法というのでしょうか,私法の見地からどういうふうに考えたらいいかということについて詰めた御議論をいただく場ではないかと思っています。

● SPCの株式あるいは議決権,要は資産流動化で言えば流動化対象となる資産を保有する会社の支配権の問題で,海外で信託宣言が用いられている,これは現実でございます。

  これ以外に現実の取引として指摘させていただきたいのは,貸付債権の流動化において,銀行が原債権者,オリジネーター,その銀行の100%子会社である信託銀行が受託者となって信託を設定して,その受益権を投資家に販売するということは,現に数多く行われております。

  このような事例におきまして,この場合は委託者と受託者が親会社・子会社の関係にあるわけですけれども,金融業界の再編の動きもございまして,例えば,委託者と受託者が別人であっても,事後的に合併することによって結果的に同一になる可能性というのは現に数多くあるのではないかなと。現には起きていないと思いますが,委託者と受託者が金融機関の再編に伴って同一人に帰してしまうということは多々あり得るのではないかなというふうな気がしております。そういったことを考えれば,当初より,信託宣言あるいは自己信託の方法によってオリジネーターがイコール受託者となるような信託を認めてもいいのではないかというような気がしております。あくまでも資産流動化の実務の観点からの意見でございますけれども,そういう気がいたしております。

● ほかにいかがでしょうか。

● 信託の設定についてというところに関連して一言だけ申し上げたいのですが,先ほど,どなたかからでしたか,忘れたのですが,諾成契約としての信託というものを認めるべきではないかという御意見が出たことに関連する発言です。

  どういうことかというと,現行の信託法もそうですし,この研究会報告書もそうなのですけれども,ある種の取引について,それを「信託」と呼ぶのだという形になっていて,例えば現在の信託法ですと,「本法ニ於テ信託ト称スルハ」という形でございますね。それに対して,例えば民法587条というのは消費貸借の条文なわけですが,「消費貸借ハ当事者ノ一方カ……相手方ヨリ金銭其他ノ物ヲ受取ルニ因リテ其効力ヲ生ス」という形の条文になっている。

もちろん,これが強行規定かどうかということはまた別問題としてありますけれども,民法587条みたいな条文があるときに,消費貸借は要物契約であるというふうな言い方をするのはまだ分かるのですけれども,信託に関しては,ある種の取引において,どの時点からどういうふうな要件が満たされていれば下記の条文が適用されて,その法律関係が規律されるかという形ででき上がっているのだと思うのですね。

  したがって,その意味では諾成的に,今現在我々が信託を設定しましたといって,まだ財産は来ていません,しかし信託を我々としては設定したつもりですと。ただ,信託法の適用が起こるのは,ある種の財産が委託者から受託者に対して処分された時点から以降であるというだけの話で,諾成契約が否定されているというふうな言葉が必ずしもなじまない形式になっているのではないかという気がするのですね。

  私が言っていることが絶対正しいと言うつもりはありませんけれども,信託法をつくっていく際に,そういうふうにある種の契約の有効性という形でつくっていくのか,それとも,ある種の取引について,どういった場合には以下の条文が適用されるのかという規律を発動する要件といいますか,そういうふうなものの法律としてつくっていくのかということは立場をはっきりさせておいた方が,今後混乱が起きないのではないかという気がいたします。

● 信託の設定のところの条文の形式をどういうふうにするかという問題で,これは非常に難しい問題をたくさん,今まで議論がありましたように,含んでおりますので,その点はこれから十分議論していきたいと思います。

  ほかに御意見ございますでしょうか。あるいは,今,信託の設定と信託宣言に議論が集中しておりますけれども。

● 先ほど諾成的信託について問題提起したのですけれども,確かにおっしゃるとおりのことだと思うのですが,ただ,実務的にはそういう議論がございますので,立法として明文化する,もちろん今は書かれていないものですから,この議論,ないしは立法によって明確にしていただいた方が有り難いのではないかということでございます。

  信託財産が受託者の手元に来ていないときに,受託者と言われている者の責任が一体どうなのかというところにその議論の実益があるのではないかと思っております。今後,受託者の責任であるとか,また利益吐き出しルールとか,いろいろございます中で,どこの時点からそういう責任が出てくるのかということを明確にするということには,一定の意義があるのではないかなというふうに思っております。

  ついでに申し上げますと,銀行の立場から設定に関して関心がございますのは,やはり銀行としてはいろいろな預金を預かるという形でございます。昨今,いろいろ判例がございまして,預金債権についても,明示的な信託の設定ということがなくても,信託というふうにされることがございます。これは実は,預金を預かる銀行としては非常に困ったことにもなりかねないということもございまして,ある意味,ここで逆の話をしますけれども,流動化の信託は,どんどん信託として広げてほしいということもあるかもしれませんけれども,預金を預かる銀行としては,明確に,なるべく制限してほしいという,そういう思いもちょっとございまして,ちょっと矛盾したことを申し上げました。

● 今の最後の点は私も気になっていて,さっきの信託の定義からすると,金銭についての計算上の分別みたいなのは当然しているわけですよね。預金が信託の定義に入ってしまわないかというのが気にはなっていたのですけれどね。まあ,懸念を表明されて,それはもちろん入らないように考えるのだと思いますけれども。

  あるいは,ここら辺までで,何か○○幹事の方で。--よろしいですか。

  ほかの論点について,いかがでしょうか。ほかでなくても結構です。

● 公示のところでもよろしいでしょうか。

  先ほど御説明がありました,3条2項につきましては,実務上ほとんどというか全くやっていないような状況ですので,これを廃止いただくことについては全く問題ないと思います。

  3条1項を残していただくところの趣旨なのですけれども,これは後の方で出てきますけれども,31条のところの登記・登録というもの自体は制度的になくなるというお話だと思うのですけれども,そうしますと,これは意見というよりも質問なのですけれども,公示の目的というのと,どういったものを公示するのかというのがよく分からなくて,もともと1項のところでは,例えば不動産だったら,信託原簿があって大体の信託の内容とかが分かって,管理するのか,処分までできるのか,そういうことを見て権限が分かるというような部分があったので,それが31条のところにつながっていたということだと思うのですけれども,そこのところの絡みで,新しいところでの3条1項の公示の目的というのをちょっと教えていただければと思いますが。

● これは,先ほどもちょっと申しましたが,一番主たる理由は16条の局面でございまして,第三者から,受託者の財産に対して強制執行が来た場合に,これは信託財産であるということを主張して執行を排除すると。そういう意味で,その受託者が持っている財産には信託財産という色づけがあると,そういう財産の種類であることを明示するということに一番の意義があるいうふうに考えております。

● いわゆる倒産隔離機能といいますか,対抗要件だということだと思うのですけれども,もうそこだけに絞っているというふうに考えてよろしいのでしょうか。

  そうすると,これはどこの信託なんですよということだけが分かればいいということなのでしょうか。

● 信託財産の帰属がという意味でございますか。

● ええ。要するに,帰属がどこかを特定するためにするものなのか,それとも,やはり今までのように,今度は善意・悪意でその取消しができるかということを多分決めるのだと思うのですけれども,それの参考になりますよね。ある意味,登記を見て,管理しかできませんよというのに処分したら,それは権限外なんだなということがおおよそ分かりますよね。そういうようなところというのは,登記・登録というところで切るのではないけれども,善意・悪意の一つの立証に使うといいますか,そういうところはもうなくなるということなのでしょうか。

● 付随的にそういう善意・悪意に一つの意味があるということはあり得ると思うのですが,基本的な視点は,さっきおっしゃいましたように,登記・登録をもって処分を取り消せるかどうかの基準とはしない。ということは,登記を見たからといって相手は必ずしもそれが処分権限の範囲かどうか分からないであろうということに基づいておりますので,一番の理由は,先ほどちょっと申しましたけれども,その財産が信託財産であるということを第三者に対して主張できるかどうかということを考えているところでございます。

● どの信託財産かということ……,つまり,信信間の倒産隔離とかというところは……。

● それはもちろん入っております。どの信託の信託財産かというところまでは入っております。

● これは結構難しい問題ですよね。○○委員が言われたように。純粋に倒産隔離だけがねらいであるとすると,とにかく,受託者の名義になっているけれども,信託財産であるということさえ表示されればいいわけですよね。それ以外の情報は,付属的な情報はあるけれども,それはなくてもいいわけですけれども。まあ,現在の公示は,不動産に関して言えば,もうちょっと情報提供しているし,31条の関係はもちろんありますしね。それで,31条の関係がなくなるとする,一体どうしたらいいのか,あるいはどこまで公示するのかという,そういう問題ですね。

  ただ,ちょっと個人的な意見を申し上げてあれだけれども,法人なんかでも,法人の代表者の制限というのを登記するかしないかというような問題もあるわけですけれども,ああいうのを登記すると,取引の相手方は,ある意味で,これももう一段議論がありますけれども,悪意を推定されるようなことになって,かえって取引が不安定になるかもしれない。そこら辺のにらみが信託についてもあるのではないでしょうか。

● あと,先ほど言いましたことですが,私は,典型的に固有財産と信託財産という局面を言っておりましたが,例えば,ある受託者が,A信託,B信託,二つの信託の信託財産を持っているということがありまして,B信託の債権者がA信託の信託財産にもまとめてかかってきたという場合には,A信託の受益者は,これはB信託とは関係ないということを対抗する必要がございますので,そういう観点からも,その財産が果たしてどの信託に属するかということまでは少なくとも公示しなければいけないと考えております。

● 細かい話で,今の点で確認なのですけれども,例えば国債であるとか社債であるとか,ペーパーレスに従って,社振法によって,登記というのか登録というのか,これは分からないわけですけれども,この扱いはどうなのかということでございます。

  実際に社振法の77条を拝見しますと,信託についての対抗要件ということがございまして,そこで特別の立法がされているということで,登記・登録というかどうかは別として,この社振法については一定の手当てがされているというふうには思っておりますが,ただ,今の信託間の公示というのが果たしてどういうものなのかと。実際にブックにどういうふうに書かれているのか,それが実際にどういうふうな効果を生むのかというのは,この法文だけ見ても分からない部分がございます。ですから,そこについても,私も勉強不足でございますけれども,考える必要があるのではないかと思っております。

  また,当然のことながら,信託法の改正に従って,それに応じた関係立法の調整もする必要があるのではないかなというふうに思っております。

● そうですね。確かに,信託間,一人の受託者が複数の信託を受託しているときに,一方の信託債権者が別の信託財産にかかっていったとき,これは排除できないといけないわけですけれども,それをどういう形で公示するかというのは,今まで余り議論がなかったところですね。ですから,これはちょっと議論しなけ

ればいけないと思いますが,いかがでしょうか。

● 今おっしゃいました点につきましては,報告書の20ページから21ページのところに書いてございますけれども,今御指摘のありました,株券等の保管及び振替に関する法律の37条ですとか,あるいは社振法の75条でしょうか,そのあたりの問題につきましては,これは現行法の3条1項の特則なのか2項の特則なのかという点も含めまして,今後,規定を変更するに当たって検討していく必要性があるということを考えておりますので,そこは明記させていただいているとおりでございます。今の時点では結論は出ておりません。検討していくということでございます。

● 1点戻りますけれども,○○委員がおっしゃった○○委員とのやりとりの中で重要な点だと思いますのを,私も1点指摘させていただきます。

  それは,公示と,それから登記とか登録の場合に,見れば分かるじゃないかという話ですね。善意・悪意との関係がどうなるか。商法の方では,○○委員がちょっと触れられましたので大変有名な議論がありまして,代表取締役が登記はされていたりされていなかったり何かした場合に,登記を見れば分かるではないか,したがってあなたは悪意でしたと言えるかという話でありまして,非常に議論がある上に,商法の条文で言うと,12条という条文と262条という条文のどちらが勝つかというのは,幾つかの局面で,まあ最高裁の判例まであるような状況なわけです。

  それをこれに即して言いますと,これの登記が信託登記なのか不動産登記なのか,私,ちょっと新しい制度のことをよく理解していないのですけれども,商業登記ではないと思うのですけれども,例えば不動産の場合ですね。それで,こちらの登記をせよということは,それを見れば分かる場合には,後ろの83ページの第34の受託者の権限違反の方でいう善意・悪意とどういうふうに連動するのか。商法の分野での議論で言えば,登記を見なくても善意無過失--商事的に言えば無重過失かもしれませんが--ということがあり得るのかどうなのかというところは整理する必要があると思いますので。こちらで整理すべき問題なのか,第34の方で整理すべき問題なのか,必ずしもはっきりしませんけれども。しかも--かつ,と言うべきかもしれません,第34の方は受託者の権限についての話で,こちらは信託の公示ですので,しかし,見れば分かるという話ではないかというのは,先ほどちょっとおっしゃったように関連し得ることなのかもしれませんので,一言指摘させていただきます。

● おっしゃいました点は,信託の公示によって相手が信託財産と分かるのではないかと。それは,何が信託の公示に書かれているかということにかかわってくると思いますけれども,信託の登記あるいは公示において記載すべき事項につきましてはなお今後検討していきたいということでございますので,今の御指摘を踏まえて考えてまいりたいと思います。

● これは,現在の不動産登記法,あるいは改正される不動産登記法もそうですけれども,いわゆる信託原簿に証するものが今度は登記の方に繰り入れられるようになりましたので,そこにはかなり情報があるわけですね。ですから,そういうものについては,事実上というのでしょうか,第34といいますか,現在の信託法で言えば31条の取消権の問題ですけれども,その問題を考える際に,要するに,受託者に,その処分をしたときに,権限内の処分であったのか,権限外の処分であったのかというときに,その信託の公示がどう影響するかという問題ですね。恐らく今度は切り離すので--切り離すというのは,公示と31条の問題は切り離すので,直結はさせないけれども,信託公示の中身いかんによっては,事実上というか,類型ごとにケースバイケースかもしれないけれども,悪意が推定されるなんていうこともあるのかもしれませんよね。ちょっとそこら辺は整理して議論しなくてはいけないと思いますけれども。

● 改正されました不動産登記法を見ますと,さっき言いました受益者の氏名・住所等のほかに,信託の目的ですとか,信託財産の管理方法その他の信託の情報と,こういうものも信託登記の登記事項になっておりますので,そういうのは確かに見れば相手はある程度悪意を推認されるということになると思いますが,ただいま申し上げましたように,こういう事項まで果たして登記事項にすべきかどうかという点につきましては,これから検討していきたいということでございます。

● ほかにいかがでしょうか。

● 細かい点になりますけれども,信託の財産の中に債務を含むという話ですけれども,別途議論されると思いますけれども,実務的に事業の信託ということがあると思うのですが,その中で,これは諾成的信託等の議論も絡むのですけれども,とりあえず,多分請負契約とか,そういういろいろな契約だけしておくと。それで,その時点で信託が成立するのかどうかという話もまた別途あるのではないかと。つまり,契約上の地位というもの,つまり資産でもないし債務でもないというものが,それ自体が信託の財産と言えるのかどうか。ちょっと私も勉強不足で恐縮でございますけれども,そこの点について議論をいただきたいというふうに思っております。

● 私も必ずしも十分理解していないかもしれないけれども,契約だけしておくというのは,例えばどんな契約をしておくのですか。

● 請負契約とか。いろいろな事業でございますから,その事業に関係して,サービス提供契約であるとか。ただし,実際にキャッシュであるとか,物は動いていないと。

● 主体がね。それが契約だけしていると。それで,今度,事業を信託にするときに,その契約上の地位がどうなるかと,そういう問題ですね。

● 契約の地位だけを移すということで,ある会社が事業をしています,その事業自体の契約上の地位だけを移しました,ただ,実際のオペレーションはまだ動いていないので,資産も債務も動いていませんと。そうした場合に,じゃあそれは信託なのか。つまり,信託財産というものがあったのかどうか。

● 信託財産がついていればいいけれども,ついていないときにどうなるかという問題ですね。

  どうですか。

● そこは,諾成的な信託契約を認めるかどうかという点にも関係してきますが,十分詰めておりませんので,現時点で,それが信託に当たると言えるかどうか,ちょっと今,明言はできないというところでございます。

● 少なくとも,信託財産を移転するときに信託が設定されるというふうに考えると,今のような,事業主体が何らかの契約を他としたという,その契約上の地位だけを移転するというのは……,しかし,それも財産性があるというと,それ自体が財産だというふうに考えると,できるのかもしれませんね。

● 既得権とか,そういうことで考えられるのかどうかというのもあると思いますけれども,そこは金銭に認められるものもございますので,そうした場合に,それが信託と言えるのかどうかと。

● 一方で,純粋に諾成的な信託というのを認めるかどうかという議論をにらみつつ,今の,どこまで財産だと見るかという問題ですね。

● ということを今後議論していただければという意見でございます。

● 「要物」,あるいは「諾成」という言葉が多分混乱しているのだと思います。それは先ほど○○幹事がおっしゃったとおりでありまして,消費貸借のように,契約の成立に物の引渡しを要するというタイプのものと,代物弁済,これも教科書などでは要物契約と言われているのですが,しかし,その要物性というのは違っておりまして,債務消滅という効果が発生するには必要だというわけです。ですから,そこの「諾成」,「要物」という言葉の使い方を区別しておきませんと,混乱するかと思います。

  それで,多くの問題は,財産の処分という概念で解決できるのではないかなというふうに思います。

● 適切な整理をどうもありがとうございました。

  ほかにいかがでしょうか。

  事務局の方で何か,今までの御意見の中で。

● 今のところまでは。後半部分のところも特によろしいでしょうか。

● 細かいところは別とすれば,強制執行の問題自体については余り御異論はないのだろうとは思いますけれども,よろしいですか。恐らくたくさん議論されたいのでしょうけれども,余り最初の段階から紛糾してはいけないだろうと思って抑えておられるのだと思いますが。

● では,強制執行のところで1点だけ補足しておきます。

  この報告書にも書いてございますが,例えば信託財産を所有していることに基づく所有者責任みたいなものですとか,あるいは信託財産との関係で発生した租税債権,それから報告書では一種の信託受益権の買取請求権のようなものに触れておりますので,そういう受益権の取得請求権に基づいて発生した債務ですとか,あるいは信託設定時に債務の引受けをした場合のその債務にかかる債権,それから受益債権のようなものにつきましては,これは当然のことながら信託財産に対して執行することができるということになります。報告書には,信託財産について,信託前の原因によって生じた権利,それから受託者の権限に属する行為により生じた権利ということしか書いてございませんが,今言いましたようなものは,ここに明確には入りにくいわけでございますけれども,当然のことながら信託財産に行けるという前提で考えております。

  ただ,そのようなものをこの規定の中に加えるか,あるいは加えないで解釈でいくのか,そのあたりにつきましても今後議論をいただければというふうに思っておりますので,先ほどは時間の関係で省略しましたので,補足させていただきます。

● 先ほど○○委員の方から,契約上の地位を移転するという話が出たのですけれども,それは財産の解釈の問題である,処分の解釈の問題であるというふうにも整理できるのですが,あるいはここの強制執行における「受託者の権限に属する行為により生じた権利」という問題なのかなという気もするのですね。つまり,それが信託に属する債務であると。その当該請負契約によって生じる相手方が有するに至る権利というものが信託財産に属することによって具体的にはどういう効果が生じるのかというと,相手方から見ますと,信託財産を差し押さえることができる,当該請負代金の未払いのときに差し押さえることができるという話になるわけでありまして,もちろん受託者から見ますと,自分で仮に支弁すると,信託財産に対して求償していけるとか,そういう話が出てくるのですけれども,そうしたときに,私,実務のことがよく分からないのですけれども,この「受託者の権限に属する行為により生じた権利」というものが,本当にある種の信託が動き始めた後に発生するという場合だけなのか,それとも,これが実は前から発生するという場合もあるのかという問題もあるのかなと思いながら伺っていたのですけれども,それは恐らく信託前の原因によって生じた権利とは違うのだと思うのですね。これは信託財産についてですから。

  いや,それだけの話で,まだまとまっているわけではございませんけれども。

● 信託法の16条で,信託財産は後から来るにしても,その信託財産に強制執行していけるような債権がどの段階で発生し得るのかという問題ですよね。そういうふうに16条の問題も関連してくるということだと思います。

  この報告書,皆さんお読みになって,非常に分かりやすい報告書なので,お分かりになると思いますけれども,信託の設定のところの担保権の設定のところでさらっと書いてありますけれども,先ほどから議論になっているように,信託の設定としてというか,要するに担保権の設定という形で信託を設定することができるという問題は,ある意味で,被担保債権であるその債権と担保権の帰属者が分離することを認めることになる。例えば社債なんかで言えば,社債権者がいて発行会社があるわけですけれども,そのとき,担保権だけが別の受託者のところに帰属するという状態を作ることになって,これは信託法があるからできるという問題なのか,もうちょっと被担保債権と担保の附従性という原則をどこかで緩和するような議論をどこかでしなければいけないのかと,そんなような問題も実は含まれているけれども,さらっと書いてありますので,理論的には難しい問題があることを御承知いただければと思います。実務的な要請は非常によく分かるのですけれどね。

● さらっと書いてありますが,それはおっしゃるのは附従性の問題かと思いますけれども,我々が考えているのは,附従性は何をねらっているかというと,担保権を実行して弁済を受ければ債務が消滅するという関係が維持されていれば,附従性を要件とした目的は達せられるのではないかと。そうすると,信託の場合でも,その担保権の実行によって債務が消滅するという関係が維持されていれば,担保権の設定を認めていいのではないかという考えに基づいて書いているところでございますので,よろしくお願いいたします。

● ただ注意を喚起しただけでございますから。

  ほかにいかがでしょうか。

● これまで何回も議論になっている,要物性,あるいは信託の設定に関するところで,ちょっとコメントさせていただきたいと思うのですが。

  信託の設定,信託の成立と受益権の発生というのが,これは一致しないといけないものなのかどうかという点が,先ほど○○委員から,受託者の責任がいつ生ずるかという観点からの御指摘がございましたけれども,受益権の発生時期と信託の成立時期,これも論理的には分かれ得るので,特に実務的には,恐らく,私はよく知らないのですけれども,例えば,信託財産はまだ来ていないけれども受益権は販売したいと。あるいは,これは受益権ではなくて,もうちょっと正確に言うと,受益者たる地位を引き受ける,そういう地位みたいなものが観念されるかと思うのですが,やはり信託の成立と受益権の発生時期というのは論理的には分けられる可能性が高く,それで,この受益権の発生時期というのは,○○委員が先ほど御指摘されたように,多分,財産の処分というのと非常に密接に関連してくると思うのですが,信託の成立をどう見るかということは,またそれとは別にも考え得るのかなというふうに思いましたので,発言させていただきました。

● 先ほどから議論を伺っていると,信託の成立というのでしょうか,今のように,受益権との関係で信託の成立と必ずしも連動させなくてもいいかもしれない,それから,いろいろな受託者の義務の問題も,これはできるだけ最初からというふうにしたいということなのでしょうけれども,それから,○○幹事が言われた,どの債権が信託財産にかかっていけるかという問題,いろいろな局面が「信託の設定」という一字によって全部決まってしまうのか,いろいろ違うのかとか,そういう非常に難しい問題が提起されているように思います。

● 正に今のお話についてですけれども,民法で要物契約とされるのは,先ほど来出ていますように消費貸借契約等が挙げられているわけですが,これは民法でも,広中先生以来でしょうか,要物性というのは何ゆえに要求されるのかという議論があって,歴史的な研究から,本来は無償契約なんだけれども,しかし,物が渡されてしまうと,契約していない,あるいは契約をやめるとか,そういうようなことは言えないと。ですから,物が渡されてしまうと,もう契約をしたことになるのだ,もう後戻りはできないと。これは当事者間の関係ですね,あくまでも。

  そういう意味で,この成立の時期をこうやって画するというような議論があったというところからしますと,今の○○幹事のお話,あるいはその前のお話から考えますと,ちょっと違う形で要物性というのを考えてこられているのかなという感じがちょっとします,信託に関しては。当事者間の,委託者・受託者間の関係で,いつ,契約をしていない,あるいは信託をしていないと言えるのかというような観点から見ていきますと,何ゆえに要物性というのが要求されないといけないのかというのは,ちょっと理論的にも詰めないといけないところかなという気がいたします。

● 民事といいますか,特に報酬も何もないような民事の信託ですと,一種の無償契約的な性格もあるのですけれども,商事の信託は基本的に違いますからね。契約だけでもって受託者の義務などが発生して構わないという考え方は十分あり得る。

  なかなか,これからだんだん詰めていきたいという議論で,直ちにいい方向が出ているわけではございませんけれども,もし特に御意見がなければ,ちょっと休憩しましょうか。

  それでは,これから休憩いたしましょう。その後に再開したいと思います。

            (休     憩)

● それでは,時間になりましたので,再開したいと思います。

  では,続きの説明を○○幹事からお願いします。

● それでは,先ほどに続きまして,善管注意義務,忠実義務,分別管理義務,それから信託事務処理の委託の問題につきまして,順次御説明を申し上げます。

  まず,報告書39ページ以下の「第18 善管注意義務等について」というところでございます。

  受託者は,信託財産の所有者となるとはいえ,実質的経済的には自己の財産を管理するものではなく,信頼を受けて,信託行為の定めに従い,他人の財産を管理するものでございますので,受託者が信託事務を遂行するに際して用いるべき注意義務は,自己の財産におけると同一の注意では足りず,善良なる管理者の注意であることが信託法20条において明らかにされているところでございます。

  ところで,この現行法の20条を御覧いただくと,「受託者ハ信託ノ本旨ニ従ヒ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ信託事務ヲ処理スルコトヲ要ス」と書いてございますけれども,この条文につきましては,「信託ノ本旨ニ従ヒ」という文言が「善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ」というところにかかり,受託者の注意義務の基準が任意規定であることを示しているのか,それとも,「信託事務ヲ処理スルコトヲ要ス」にかかり,受託者が処理すべき信託事務の内容について明らかにしたものなのか,不明確であるというような指摘がございます。

  そこで,この報告書では,信託事務処理遂行義務と,受託者の注意義務の基準とを明確に分けて規律することが相当と考えたものでございます。

  まず,太字の1でございますけれども,これは,受託者が負う善管注意義務の前提となる債務の内容として,受託者が信託行為の定めに従い信託事務を処理する義務を負うことを明らかにしたものでございます。

  続きまして,太字の2のところでございますが,これは,受託者が信託事務を処理する際の注意義務の基準に関するものでございます。

  なお,「信託行為に別段の定めがない限り」とすることによりまして,受託者の善管注意義務に関する規定が任意規定であり,私的自治の観点から加重・軽減できるものであるということを明らかにした趣旨でございます。

  続きまして,太字の4でございますけれども,これは,信託財産が金銭である場合の管理方法を定めた現行法21条を削除するというものでございます。現行法21条及びこれを受けた勅令がございまして,これによりますと,信託財産が運用方法について指定も特定もない金銭の場合の管理方法を,公債ですとか銀行預金など極めて安全性の高いと思われる運用方法に限定しております。しかしながら,信託財産が金銭の場合のみ管理方法を限定することは過剰な規制に当たり,合理性がないと考えられます上に,信託財産が金銭の場合においても受託者は善管注意義務に基づいて管理しなければならないわけでございますから,これをもって足りると考えまして,削除をするということでございます。

  最も問題となると思われますのが,最後に太字の3のところでございまして,これは,善管注意義務の個別具体的な規定の要否に関するものでございます。

  ところで,米国統一信託法典などを見ますと,信託事務の遂行における受託者の注意義務に関する総論的な規定を置きました上で,この義務を具体化した多数の規定を置いているところでございます。また,当報告書の母体となりました研究会におきましても,例えば第三者に対する信託事務処理の委託,信託事務処理におけるコストの負担,特別な能力を有することを表示した場合の責任,あるいは信託におけるいわゆるプルーデント・インベスター・ルールの採否等の諸点を中心に,個別具体的な内容の規定を設けるべきではないかといった指摘もなされたところでございます。

  しかし,考えてみますと,まず第一に,善管注意義務の個別具体的な内容は,信託目的,信託条項その他の当該信託にかかわる諸事情によって異なり得るところ,どこまで具体的な内容の規定を設けるべきかについては明確な基準がないということがございます。

  第二に,信託特有の柔軟性を生かして今後様々な形態の信託スキームの発展が予想されることからいたしましても,個別具体的な内容の規定を設けることについてはそもそも限界がありますし,かえって足かせにもなりかねないという事情がございます。

  また,UTCなどにあります個々の規定が内容とするところについては,いずれも善管注意義務の一般的規定の解釈から導き出すことも可能と考えられるという事情がございます。

  以上の諸事情を踏まえますと,善管注意義務につきましては,一般的な規定を設けるにとどめ,それ以上に個別具体的な内容の規定を設けることとはせず,解釈に委ねることが相当ではないかというのが,ここに書いてある趣旨でございます。

  以上で善管注意義務についての説明は終わらせていただきます。

  続けて,43ページからの「第19 忠実義務について」のところに移らせていただきます。ここは重要な問題がありますので,少し詳し目に御説明を順次申し上げてまいります。

  忠実義務とは,受託者が専ら信託財産あるいは受益者のためにのみ行動すべきであるという原則でございまして,現行法には一般的な忠実義務を明確に規定しているものはなく,受託者と信託財産との間の取引を禁止する信託法22条があるにすぎませんが,しかし,この22条の基礎には忠実義務の考え方が前提になっているとしまして,広く忠実義務をもって受託者の義務として認める見解が一般的でございます。

  ところで,現行法22条第1項を見ますと,これは,受託者が信託財産を固有財産とすること,それから信託財産について権利を取得することを禁止しておりますが,この規律につきましては,受託者と受益者の利益が対立するのはこれらの場合に限られないから規律対象として狭過ぎるという批判でございますとか,信託財産に対する権利取得の禁止について現行法が一切例外を認めないのは信託事務処理の円滑を損なう結果をもたらすなどの批判がされているところでございます。

  このように,そもそも22条の規定は,信認関係に基づく受託者の基本的な義務であります忠実義務の根拠規定としては,形式的にも内容的にも不十分であると言わざるを得ず,根本的な立法的解決が望まれているところでございます。

  そこで,具体的にこの報告書の中身に移らせていただきますが,まず,太字の1でございますけれども,現行法には受託者の忠実義務に関する一般的な規定がなく,体裁に欠けるとの批判があるところでございまして,受託者は専ら受益者の利益のために行動すべきであるという原則を一般規定として明文で示すことは,受託者による信託事務処理の指針を示すという観点からも意義があると考えられます。

  次に,太字の2(1)でございますが,これは,受託者の利益相反行為,すなわち,受託者の行為によって信託財産ないし受益者に利益又は不利益が生じるおそれがある場合,このような場合の行為の禁止に関するものでございます。

  ところで,受託者による利益相反行為といたしましては,受益者と受託者の利益が相反する場合,受益者と第三者との間で利益が相反する場合,更には,複数の信託を受託しております場合には,一方の信託の受益者と他方の信託の受益者との間で利害が相反する場合と,三つの場合を想定することができるわけですが,ここでは,今申しました三つの場合のすべてを包括的に禁止対象として捕捉しようとするものでございます。

  続きまして,太字の2(2)でございますが,これは,利益相反行為の禁止の例外に関するものでございます。

  ところで,利益相反行為の禁止といいますのは,受益者の利益を保護することをその目的といたしますので,受益者の利益が害されるおそれがない場合まで形式的な基準に基づいて利益相反行為を一律に禁止することは,私的自治に対する過剰な介入にも当たり,相当ではないと考えられるところでございます。

  そこで,問題となる利益相反行為を受託者が行うことにつきまして,まず,①として,あらかじめ信託行為で許容している場合,それから,②といたしまして,重要な事実の開示を受けた受益者の承認がある場合,これらにつきましては,受益者の利益が害されるおそれはないと考えられますので,このような場合について禁止の例外を認めたものでございます。

  問題は,①,②以外に,更に第3の例外を認めるべきか否かという点でございます。

  ところで,受託者が行う可能性のある利益相反行為を信託行為の中にすべて記載するということは不可能でございますし,受益者が多数の場合には,受益者全員の承認を得ることが困難な場合もあり得るところでございます。更に,受託者が信託行為で許容されていない利益相反行為を行おうとするならば,信託行為の変更で対処すればよいとの考え方もあり得るかとは思いますが,問題となる行為の中には,一回限り行われるにすぎないものもございますので,このような行為のすべてについて一々信託行為の変更をするというのは迂遠であると考えられるところでございます。そういたしますと,信託行為の定めや受益者の承認がない場合でも,利益相反行為の例外を認めることが信託財産の効率的な運用機会の確保や信託事務の円滑な処理をもたらし,ひいては受益者の利益にも資すると考えられるところでございます。

  そこで,第3の例外として,その行為がなされたときを判断基準時といたしまして,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」という厳格な要件に絞って例外を認めたものでございます。この例外要件に当たる行為といたしましては,定型的な取引条件による行為のほか,個別的でありましても,市場価格ないし時価による取引などが含まれると考えているところでございます。

  続きまして,太字の3(1)でございますけれども,これは,受託者の利益取得行為,すなわち,受託者の行為によって受託者が利益を取得するものの,信託財産ないし受益者には利益も不利益も生ずるおそれがないという,いわば信託財産には無関係な場合についての行為の禁止に関するものでございます。

  忠実義務は,受託者が専ら受益者の利益のために行動すべき義務を申しますので,受益者に損害を与えないことから直ちに受託者が得た利益がいかなる場合も正当化されるものではないと考えられます。

  そこで,受託者による利益取得行為の禁止規定を設けることが妥当と考えられますが,禁止される行為類型の広狭に応じまして,甲案,乙案の2案を示したものでございます。

  甲案でございますが,これは,受託者の利益相反行為が禁止されるのは,信託事務処理に当たって利益を得ることに限るとするものでございまして,いわゆる英米で言うノープロフィット・ルールと言われるものに対応するものでございます。例えば,受託者が第三者に信託財産を売却したことに関連して受け取ったリベートは,ここで言う利益に含まれると考えられるものでございます。

  これに対しまして,乙案といいますのは,受託者が信託事務の処理に当たって利益を得ることに限らず,受託者の地位を利用して利益を得ることを広く禁止するものでございまして,甲案と異なり,この乙案によりますと,受託者が信託の有する情報を利用して利益を得る行為というものまで禁止されることになると考えられるところでございます。

  最後に,太字の3(2)でございますが,これは,利益取得行為の禁止の例外に関するものでございます。①,②の例外を設けたこと,それから,これに加えて,③として,行為がなされた時を基準時として,受託者がその行為を行うことについて正当の理由があるときには禁止の例外を認めることとしたということ。その理由は,さきに利益相反行為の禁止の例外の中で申し上げたところとほぼ同様でございます。この例外に当たる行為といたしましては,例えば信託不動産を売却する際に,受託者が買主側の仲介業者となって正当な手数料を収受するような行為はこれに当たるのではないかと考えているところでございます。

  以上で忠実義務の説明は終わらせていただきます。

  続きまして,51ページ以下の「第21 分別管理義務について」というところに移らせていただきます。

  ところで,受託者の分別管理義務の具体的内容には二つございまして,第1は,信託財産は受託者の個人財産から分離して管理されなければならないこと,第2は,受託者が複数の信託を受託している場合には,それぞれの信託財産を分離して管理しなければならないということでございまして,受託者はこれらの財産を混蔵して管理してはならないということでございます。

  このように受託者に分別管理義務が課される趣旨につきましては,受託者個人の債権から信託財産を隔離するということにその本質的な意義があると理解しておりまして,このような効果を生み出すために,その財産をその性質に応じて最善の方法で管理すべきであるという義務を課したものであって,信託財産に対する強制執行の制限とともに信託制度の中核をなすものであると考えております。したがいまして,新制度におきましても,この義務については維持すべきものと考えているところでございます。

  そこで,具体的に報告書の内容でございますけれども,まず,太字の本文の原則によりますと,受託者は,信託財産となる財産を,まず第1に,登記又は登録することができる財産にあっては,信託の登記又は登録を行うこと,それから,登記・登録のできない財産にあっては,当該財産の性質において最善の状態で受託者の固有財産あるいは他の信託財産から分別して管理すべきこと,となると考えております。

  なお,ここで「最善の状態による管理」といいますのは,物理的な分別管理が可能なものであれば,帳簿等の計算管理にとどまらず,物理的な分別まですべきものと考えているところでございます。なぜならば,信託財産に属する財産が何であるか,あるいはその現状,特にその財産に損失が生じているか否かというような点を確実に把握するという点,あるいは受託者による忠実義務違反行為の未然防止というような観点からいたしますと,あくまで物理的な分別をすることをもって原則的な管理方法とするのが相当と考えられるからでございます。これに対しまして,物理的管理を観念し得ない金銭債権のようなものにつきましては,帳簿上の計算管理をもって最善な分別管理義務を果たしているというふうに考えるものでございます。

  以上が原則でございますが,このような原則的なルールを定めた上で,更に,例外といたしまして二つ設けることといたしました。その一つが,信託財産が登記・登録できない財産である場合において,信託行為において特約を設けた場合,①でございます。もう一つは,信託財産が金銭である場合,②でございます。このような例外を設けておりますのは,受託者の固有財産からの分別をすべての財産についての強行規定と解するときは,信託財産を効率的に管理・処分することが困難となるほか,金銭について固有財産と分別して管理することは実務上現実的ではない等の指摘を踏まえたものでございます。

  以上が分別管理義務についての説明でございます。

  最後に,53ページ以下の「第22 信託事務処理の委託について」というところについての説明に移らせていただきます。

  現行法におきましては,信託は,受託者に対する個人的・主観的信頼を基礎とする財産管理制度であるというふうな理解をされておりまして,その信頼を保護するために,受託者自らが信託事務の処理をしなければならないものとされ,受託者が他人に対して信託事務処理を委託することは原則として認められておりません。しかし,信託法制定当時に比べまして社会の分業化・専門化が進んだ現代社会におきましては,信託事務処理のすべてを受託者が行うことができることを前提とすることは現実的とは言えず,むしろ,他人に対して信託事務処理の一部を委託することが常態であることを前提とする方が望ましいと考えられるところでございます。

  そこで,まず,太字の1でございますが,これは,現行の規律を改めまして,信託行為に別段の定めがない限り,受託者は善管注意義務のもとで信託事務処理を他人に委託できるとするものでございます。受託者としては,善管注意義務のもとで信託事務処理を他人に委託すべきか否かを判断すべきであり,その方が,受託者に自己執行義務を課すよりも信託目的達成のためには良好な結果をもたらす可能性が高いと考えるものでございます。

  次に,太字の2でございますけれども,これは,信託事務の処理を委託した受託者の責任に関する規律でございまして,ここは現行法と同様に,受託者は委託先である他人について原則として選任・監督責任を負うとしたものでございます。

  次に,太字の3でございますが,これは,信託事務処理を委託された者の責任に関するものでございます。

  このうち,まず甲案といいますのは,受益者保護の観点から,受任者,第三者に対して受託者と同一の責任を課すこととするというものでございまして,したがって,受益者は,直接の契約関係のない第三者に対しても信託財産に対する損失てん補責任等を問えることになるわけでございます。

  ただし,受託者と同一の責任を課す範囲を合理的な範囲に制限するために,二つの制限を設けました。一つは,信託事務処理の全部又は重要な一部の委託を受けることを要することとするということ,それから,受任者,第三者が予想外の責任を負うことのないように,第三者はその委託された事務が信託事務の全部又は重要な一部であること,すなわち契約相手方である受託者の背後に受益者等が存在するということを認識していることまで要するとしたものでございます。

  これに対しまして,乙案というのは,信託事務処理の委託を受けた者が受託者と同一の責任を負うとの規定を不要と考えるものでございます。この考えのもとにおきましては,受益者は第三者に対して直接責任追及することはできなくなりますが,受益者の救済は,不相当な委託をした受託者の善管注意義務違反又は選任・監督上の注意義務違反を追及することなどによって図ることが可能になると考えているところでございます。

  とりあえずの説明は以上で終わらせていただきます。

● それでは,今の善管注意義務から信託事務処理の委託についてまで,この間で御意見をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 私ども信託銀行が今回の信託法改正の中で最も重要視している部分について,少しお話しさせていただきたいと思います。

  正に忠実義務のところでございまして,忠実義務につきましては,私ども,信託銀行という名前ですので,設立したときから信託業務と銀行業務をやっている,生い立ちからそうだということです。それをまず御理解いただきたいと思います。

  現行法では,先ほどお話がありましたように,信託法22条で,信託財産の固有財産化と信託財産に対する権利の取得,これを禁止したにすぎない規定になっておりますけれども,今回の御提案の中には,一つは,忠実義務の一般規定が入りましたと,それと,禁止の行為類型として利益相反行為と利益取得行為,この二つが入ったということでございます。

  ここの部分につきましては,一般規定に真っ向から反対するつもりは全然ありませんけれども,この辺のところを非常にリジッドに解釈されますと,またその外延が明確でない限りにおいては,私どもは非常に脅威に感じております。ということが意見としての1点です。

  ただ,一方で,長年の要望が認められた部分といいますのは,忠実義務についての禁止規定の例外規定として,信託行為,それと受益者の承認,これによって例外が認められたと。これは非常に歓迎しております。それとプラスアルファで,利益相反行為については,「害しないことが明らかである」というものと,利益取得行為のときにも「正当な理由」というものが入ったということですので,ここら辺の部分については,歓迎もしておりますけれども,その解釈というものもいろいろあると思いますので,この辺の更なる御検討をお願いしたいということです。

  それと,第3の例外のところでもう一つつけ加えますと,利益取得行為の場合の例外のところでございますけれども,利益取得行為というところの例外というものを前提とした場合におきましても,甲案,乙案というのが出されておりますけれども,やはり,実務上の観点からいくと,甲案でないとなかなか回らないなというところがございます。それは,先ほど申し上げたように,信託兼営銀行でございますので,基本的に信託業務で行っているところの情報と銀行業務で行っているところの情報を共有していることが非常に多いということが一つです。特にカストディ業務におきましては,信託勘定というものからお金を貸して,一方で銀行勘定というところからお金を貸している,それの担当者が一人ということですから,正に一人で共有しているという状況にあります。ですから,情報の利用,こちらの方についても,禁止について非常にリジッドに解釈されますと非常に困るというところもございますので,甲案,乙案というふうに書いていただいていますので,そこについては甲案でお願いしたいと。

  それともう1点,これも報告書の中に書いておりますけれども,ノープロフィット・ルールのところにつきましても,やはり汗水たらして仕事をした対価として得ているものもあると。例として挙げていただいていますように,信託勘定の不動産を売却する場合において,相手方の買手の仲介業者として普通にそういう仕事をしている,それに対して対価を得ているというのは,反射的に利益取得行為になるということだけではないかと思いますので,その辺のところの御配慮もお願いしたいと。

  済みません,ちょっと数多く言いましたけれども,4点ばかり御意見を述べさせていただきました。

● 善管注意義務について,まず一般的な質問なのですが,アメリカなんかを見ますと,この善管注意義務については業態によって別個のルールを定めるというように,いわゆる私法におけるルールと,レギュレーションにおけるルールと分けているということを聞いております。

  今般,別途,投資サービス法が検討されるというふうに伺っているところなのですけれども,そこで,この場での議論というのがどういう方向,どういう位置づけなのかということを明確にしておいた方がいいのかなと思って,まず1点御質問させていただきたいのですが,ここではあくまでも,そういった業態によったレギュレーションですね,多分,銀行によっては特別な善管注意義務を定めなければいけないとか,また,投資家への配慮に基づくルールを持たなければいけないという,そういうことについてはまた別のところで議論されるべきものであって,あくまでも信託一般の共通項的な議論,受託者等の善管注意義務を議論すると,そういう認識でよろしいのでしょうか。

● それはそのとおりですね。

● おっしゃるとおりでございまして,ここは,民事・商事を問わず私法の一般ルールとしての善管注意義務を定めているものでございまして,レギュレーションが業法的な規制ということとすれば,それによって受託者がより厳しい義務を負うというようなことについては,ここでの問題ではなくて,業法規制の問題と考えているところでございます。

● 忠実義務について,先ほど○○委員がおっしゃったことの補足をしたいと思います。

  私ども,専業信託でなくても,ほかの銀行の場合でも,やはり忠実義務というものは非常に大きな問題でございます。といいますのは,もちろん私法上の問題もございますけれども,これは業法の問題が出てきますが,兼営法の10条を介しまして,これに違反すると,いわゆる行政罰といいますかペナルティーがかかるということでございまして,実務的には,これは,コンプライアンスの問題も含み,非常に大きな問題というふうに認識しておりますので,何とぞ,ここについては非常に柔軟にしていただきたいというふうに思っております。

  具体的な問題事例を若干御紹介いたしますと,二つございまして,銀行においての例でございますが,一つは,いわゆる銀信取引というものがございます。それは,受託行として預かった資産について運用すると。特に短期の資金の運用については,通常は普通預金で運用するというのが一番いいと思うのですが,ただ,それを他行で運用しろというふうになりますと,送金をして,その度に手数料を取られるというのもちょっと問題ですので,やはり自行で運用したいというのがありますが,現行の考え方によりますと,自行預金というようないろいろ議論はございますけれども,なかなか難しいかなと。実務的には,銀貸しという対応をしていることもございますけれども,いずれにしても,やはり制約をされているということでございます。ここで,一定のルールのもと,こういう取引ができれば,受益者にとっても資するものではないかというふうに思っております。

  もう一つの類型は,いわゆる銀行の貸付債権と信託勘定からの貸付けとの利益相反の問題でございまして,それは具体的な問題は回収の時点で生じるわけです。その問題は,例えば社債管理会社における利益相反の問題も絡みますけれども,そうした場合に,一体銀行としてどういうふうな回収,資金を同一の債務者から配分していけばいいのかということでございます。現状は,プロラタ型で配分することが忠実義務の観点からも穏当な配分ではないかというふうに  言われておりますけれども,そこについてある程度の柔軟性を認めていただきたい。

例えば,銀行勘定は担保付であった,それで信託勘定はそうでなかったといった場合,またそのいろいろな条件が違った場合に,なおプロラタで配分しなければならないかとか,いろいろな疑問がございますものですから,ここでデフォルトルール化ということがあれば,非常にやりやすいと思います。

  このような利益相反の問題は,実は第21の「分別管理義務について」のアステリスクのところでございますけれども,銀行の貸付けにおいて銀行が抵当権者という場合に,信託勘定から貸している債権と,銀行勘定から貸している債権と,配当があったときにどう回収していったらいいのかという問題にもつながり得ることでございますことをちょっとコメントいたしたいと思います。

● 私は,信託事務処理の委任について発言したいと思うのですけれども。

  実際に信託事務の委任でどの程度どういう種類のものを委任されているのかというのは詳しく知らないのですけれども,流動化という観点でだけお話しいたしますと,オリジネーターの方が,信託したクレジット債権について,回収,取立ての関係,これを委任を受けるというケースがございます。この場合であれば,通常,自己のほかの債権と同様に口座引落し等の方法によって集金をすると。これを信託銀行との間で定められた期日までにお支払いをするということをやっていくわけなのですけれども,現実問題として,非常に低額な金額で,ここをたくさん取ってもしようがないところもございますので,単なる事務だけをやっているということがございます。こういったものについても,当然,オリジネーターとしてスキームに深く関与しているわけですから,こちらの甲案の方であれば,かなり大きな責任を負うということになりますけれども,実際に問題が発生するというときは,やはりオリジネーターの倒産とかそういったことになってしまいますので,実際上,受託者の方に重い責任を負わせたとしても余り意味はないのではなかろうかと思いますので,ここのあたりは乙案のような形というのが実態上はワークするのかなというふうな感想を持っております。

● 私は,今,四つの義務の説明がありましたね,その四つの義務の関係について,少し総論的な質問が一つ,その後,具体的な話のところで一つ二つ質問させてもらいたいと思うのですが。

  まず第一に,善管注意義務と忠実義務と分別管理義務と自己執行義務に関するような話を四つ並べて,最後の部分は,この文面にあるように,善管注意義務のもとに委託だか委任だか何かという話ですから,いわば善管注意義務の系の話ですから,そうすると三つの話になりますね。

私の理解によれば,それが間違っている場合があると思うので訂正していただきたいと思いますが,

善管注意義務については,もうはっきり任意規定であるということを明示し,忠実義務については,諮問の中にもはっきり任意規定化するということを言っているわけですが,

分別管理義務のところは,この二つの例外を除いては強行規定であるというふうに解するのかなと思っているのですが,これはどういうことなんだろうかと。

これは多分,一番初めの信託の定義のところと絡んでいて,信託の本旨は分別管理にありということなんだろうかと。それは一つの立場なのですが,何だかなという感じが私自身はちょっとするのですね,本当は。当事者だけの関係で言えば。なぜ分別管理のところだけがこんなにもというのが……。それは感想なのですが,まず,この理解が正しいのかどうかだけ確認しておきたいと思いますが。

● おっしゃるとおり,分別管理義務は,それは信託にとってかなり重要な義務という認識もございますが,今,強行規定とおっしゃいましたけれども,登記・登録できるものは確かに登記・登録をしなければいけないわけですが,それ以外のものであれば特約で外せますので,ここは任意規定ということになります。

  問題は,登記・登録できるものは常にしなければいけないというあたりにつきましては,実務上は必ずしも直ちに登記・登録しない場合があると聞いておりますが,そこはかなり柔軟に考えておりまして,結局,とりあえず登記・登録をしなくても,最終的に受託者が危機に瀕したときは登記・登録をすることによって信託財産の独立性を確保するというぐらいの意思があれば,そこは分別管理が果たされているというふうに考えますので,強行規定といいましても,最後の最後の局面でそれがきいてくるということで,それほど厳格な意味で強行規定と考えているわけではないということでございます。

● 私がきっと十分理解できないのか,こちらの側の責任かもしれないので……。でも,御趣旨は半分は理解いたしました。

それで,細かなところで,善管注意義務のところなのですが,これは結局,善管注意義務の基準の話があって,基準を弾力化していいよという,そこが任意規定の意味だということが書いてあって,その中で,基準のとり方について,アメリカのルールで書かれてあるのは二つ。

一つは,やはり専門家と素人という基準,これが日本語では専門家と素人というのでは分からないという話になるので簡単に入れにくいという話があって,それはむしろ善管注意義務を負っているところの受託者の実際の態様というのですか,あるいは類型によって判断していこうということかなと思うのですが,

もう1点あって,アメリカのルールでは,本人が専門家であるかどうであるかはともかくとして,専門家であると表示した,こういうものについて非常に知識があるというふうに表示した場合は,それがその基準になるのだという話が明文で出ているのですが,これも善管注意義務という概念というのかな,その解釈で,

日本法のもとでは,表示したところのレベルまで責任が上っていくというか,そういう形で基準が定められるのだというふうに考えてよろしいでしょうか。それとも,それはまた解釈論の話で,簡単に言えないような話なのか。これは質問なのですが。

● そこは,表示をすれば,それが善管注意義務の基準になるというふうに考えております。他方,表示がなければ,たとえ非常に高い能力を持っている者でも,それが基準になるものではないと。あくまで,表示があった場合はそれが基準になるというふうに考えております。

● 表示がなければ。

● 例えば,弁護士ということを前提として信託を受けていれば,その弁護士としての能力が善管注意義務の基準となりますが,弁護士の中で特に特定の分野について非常に高い能力があるといたしましても,それを表示していない限りは,あくまで弁護士としての水準の事務処理をしていれば,善管注意義務は満たされると。それより高い特別の能力の使用までしなければいけないというわけではないというふうに考えているところでございます。

● 続けてよろしいですか。

  今度は忠実義務について2点ですが,大きな話と小さな話。

  大きな話は,忠実義務の例外の定め方の問題なのですが,例えば,私が知っている例で,典型的な自己取引で,自行預金というのがありますね。自分のところへ預金をするのだという話なのですが,それをどういう形で外しているかというと,

アメリカでは,OCCのレギュレーションか,あるいは各州の制定法でもはっきり外している例があって,それはいいよということになっているのですけれども,逆に言うと,信託の一般法ではそういう形では外していないのですね。だから,

日本で業法と私法との関係というのが先ほど一回問題になりましたけれども,業法というと,こっちで一般法は任意規定化しておいて,業法になると規制法だから強行規定化するような部分があるような,そういう加重するような話を連想するかもしれませんけれども,場合によっては,ここで問題になっているような業種のものについては業法の方でむしろ外しているわけですよね,一般私法よりも

。だから,そういうような業法というのもあり得るということを考えると,そういう外し方もあるのかなというふうに思うのですね。参考になるのかどうか分かりませんけれども。これは,一般私法のところで,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」というような極めて一般的な規定で外しておこうということなのですが,そういう外し方もあるかもしれないけれども,そういう外し方でない,業法と一般私法との役割分担というのもあり得るというのは,これはコメントです。

  二つ目は,今度は具体例として,これも私の理解が十分なのかどうかなのですが,受託者の忠実義務で,利益相反行為が禁止され,しかしこういう形の場合には例外となりますよというので,その③ですが,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」というので,46ページのところで,この要件を満たす行為としては,

例えばというので,個別的な取引のうち市場価格によるようなものを挙げておられて,しかも,その判断時は受託者の行為時であるというふうに極めて明確な表現になっておりますね。

  そうすると,これはだから自己取引を考えればいいので,信託財産としての不動産を,受託者である私が,この時点での市場価格であるところの,何でもいいのですが,1,000万で買うわけですね。3年たってそれが3,000万になるのですね。そういう夢のようなことがあるといいと思うのですが。それで,私の方はそこで利益を得るのですが,そのときに,これは後の甲,乙案との話になりますが,やはりその時点で何らかの,非常に確実な情報かどうか分かりませんが,私の方で情報を知っていて,それで利益を得るというようなことが,今の例が本当にいいのかどうか分かりませんが,やはりあり得るとは思うのですね。それがやはり,この原案で利益相反行為の禁止の例外がこういう形で定めてあって,かつ,3のところで甲案の方だけでとられると,あるいは甲案によっても解釈にもよるかもしれませんが,構わないということになるのかどうか。

  ちょっと設例が少し恣意的な例だったかもしれませんが,そういう例だったらこうなるんだよというようなことを教えていただければ有り難いと思います。

● 今の最後の例は,例えば信託財産である不動産を買うというような例を考えているわけですね。

● そうです。

● 今までの伝統的な考え方だと,どちらかというとそれは利益相反行為の方,2の方の問題と考えられていたわけですね。今,○○委員は2と3を組み合わせたのですね。

  どうですか。もし何かあれば。

● ここに書いてございますように,利益相反行為に当たるか,利益取得行為に当たるかというのは,あくまで行為時を基準にいたしますので,もしも何も情報がない,純真無垢な状態でその信託財産を取得して,たまたま後で値が上がったというときには,これは違法にならないと考えております。

  ただ,46ページの中段,ここでというふうに○○委員が御指摘いただいた後,「もっとも,」というふうに書いてございますとおり,もしも事前に有利な転売先を見つけているというような場合であれば,これは言ってみれば,市場価格での取引であっても受益者の利益を害しているというふうに見ることができますので,こういう場合は利益相反行為の例外には当たらないというふうに考えているところでございます。

● いえ,今の場合は,転売先を見つけているのではなくて,当該地域の経済状況について特別な情報を既に得ているという話なのですが。情報の利用の話ですから。

● そういう場合であっても,この「もっとも,」と書いてあるところと類似するというか,同じような解釈によって,やはり利益相反行為に当たるというふうに解していいのではないかと考えております。

● 今の○○委員の例は,2と3を組み合わせているのでちょっと分かりにくいけれども,その取引の時点,要するに信託財産を買った時点では正当な価格であって,あるいは信託行為の定めがあって,利益相反行為の禁止には当たらない,2には違反しないと。だけど,特別な情報を持っていて値上がりすることが分かっているというので,2よりは3の方の問題になってくるという,そういう設例なのですね。

● では,本当は○○委員のおっしゃるようにシンプルにするべきで,今,○○幹事がおっしゃったように,そもそも2のところでだめだよと言うことができるということですね,今のような事例だと。

● 情報を持っていれば,それはだめだと。それは結局,利益を奪った,得べかりし利益が失われたということで,利益を害したと言えるのではないかと考えております。

● これは,こういう分類がいいかどうかということ自体も含めて,今,利益相反行為の禁止と利益取得行為の禁止,これはそれなりに合理性があって,こういう形で整理しているわけですけれども,両者にまたがるような問題とか,今,○○委員の例でちょっと思いついたわけですけれども,いろいろ複雑な問題が出てくる可能性はありますね。

  ほかにいかがでしょうか。

● 1点質問なのですが。

  ちょっと細かいところになるかもしれませんけれども,資料の中で,利益相反行為というのが,例えば受託者と受益者の利益相反以外に,受益者と第三者との間の利益相反もありますと。その第三者との利益相反というのは,45ページの一番上の方で,要件が別に付加されますと。「受益者の利益を犠牲にして取引の相手方である第三者の利益を図ったという事情が必要である」と,こういったものが含まれますという部分と,そこからずっと下の方に行って,(注3)の4行目のところで,「この第三者の中には,他方の信託の受益者も含まれると解することができる」と書いてあるのですけれども,この関係がよく分からないということです。要するに,別の信託の受益者も第三者に含めるということは同じ要件で律しられるのかどうかということなのですけれども。

● 今の最後のは何ページですって。

● 45ページの一番上のところに,利益相反行為の一つの類型として,受益者と第三者との間の利益の衝突があった場合については,第三者の利益を図ったという事情が必要なんですよということが書かれていまして,一つ要件がプラスされていると思うのですけれども,そこの部分と,その下のところに(注3)というのがありますけれども,その4行目に,第三者の中には,ほかの信託の受益者も第三者なんだからということで含まれているというふうに書いてあるのですけれども,この場合の要件というのは付加された形になるのでしょうか。

● それは同じように付加されると考えております。他の受益者も第三者に当たるということで,その受益者の利益を図ったという事情は付加的に必要です。

● そういう事情がプラスされるということなのでしょうか。

● はい。

● 何となく,一般的に,受益者と第三者との間の利益衝突というのは,信託勘定の普通の取引だろうと思うのですけれども,信託勘定との間というのが,それが第三者との間だったら別ですけれども,信託勘定間で取引が行われたときというのは,それを判断するのは,要は受託者が判断するということになると思いますので,そこは何か少し違うのかなという気がするのですけれども,そこは同じように律してしまっていいのかどうかという,そういう問題意識で今お聞きしていたのですけれども。

● ですから,今のインプリケーションというのか,今の御趣旨は,ある信託財産と別の信託財産の,要するに信託財産間の取引ですよね。

● 信託財産間の例えば直接の取引がありましたというときのことを考えたときに……。

● それは,その加重された要件,つまり第三者と受益者の取引の場合には加重された要件があるけれども,それはかぶせるべきではないと。逆に言うと,信託財産間の取引についてはもっと慎重にやれと,そういうことになるわけですか。

● 慎重にやれというふうにまでは言っていないのですけれども,どうでしょうかという質問をさせていただいているのですけれども。

● 第三者と受益者の間の取引というのは,おっしゃったように普通の取引,例えば何か信託財産を第三者に売る,不動産でも有価証券でも何でもいいのですけれども,これはもうごく普通の信託の事務処理の中で幾らでも出てくるわけですよね。

ですから,これがすべて利益相反だと言われては困るので,そこで,特に相手方,第三者の利益を図るような場合にだけ,忠実義務に反するということで加重されているわけですね。ですから,その重い要件を信託財産間の取引についても同じように考えるかどうかと,そういうことですね。

● もう一つあえて言えば,受託者と受益者の関係の重さと,信託勘定間の重さと,第三者との関係の重さと,その三つがどういう関係になるのかということです。

● 何かありますか。

● 受託者と受益者は一番重く考えておりまして,常に違法であると。受託者と第三者については,おっしゃるように加重要件がかかるということで,では受益者間はどうかというのは,今おっしゃる趣旨は,受益者間はより容易に利益相反が認められていいのではないかという御趣旨ですよね。受益者と第三者に比べれば,より利益相反になりやすいのではないかと。

  私どもは,そこは第三者と受益者で特に要件は違わないのではないかと思っておりましたけれども,今の御指摘を踏まえて,そこは一度検討させていただきたいと思います。

● これは,今ここでは議論していなかったけれども,公平義務とちょっと関係する問題ですよね。二つ管理しているときに,やはりどちらかの利益を図るような行為が行われてはいけないということで,受託者としてはより慎重に行動するということが恐らくあるのかもしれませんね。それが適当かどうかを議論しようと。

● 今の最後の御発言を聞いていて,ちょっとまた分からなくなってしまったところがあるのですけれども,○○委員の御発言の続きの話が一つと,○○委員のお話の続きが一つございます。

  ○○委員の続き,最後の点にかかわることなのですけれども,今は2の(1)の利益相反行為の成立のことで議論されていたと思うのですが,それは,第三者あるいは信信間の取引,あるいはある行為が二つの信託に同時に影響を与えるような行為,利益が相反している状態ですね,それを考えたいのですが,それは2の(2)の③でもちょっと問題になると思うのですね。今は(1)を問題にされていたのですけれども。

  この③は,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」と,かなり強い書き方になっておりますが,二つの信託にある行為が影響を与えて,利益対立するような状態で,公平にそれを両方取り扱って処理した場合というのは,この2の(2)の③を満たしたことになるのかどうか。

それとも,公平に扱ったという程度ではだめだ,慎重にやるべきだということになるのか。そうなると,今度は,事前に細目を書くなり何なりしておかないと身動きとれなくなってしまうような状況が出てき得ると思うのですけれども。

公平に扱う程度でいいというのであれば,それは表現を直すだけの問題かもしれませんけれども,本当に行為規範でそれでいいのかというのが実質の問題ですね。

  ちょっと公平義務について第20のことを言及されたと思うのですが,これは,ある同じ信託の受益者間の公平ですので,今の話とは一応次元が違って,ただ,次元が違うけれども,信信間の取引のような場合にはそういう同じような発想が適用されると考えていいか,されてはいけないかというのが実質。

それで,公平に扱えばいいと考えるならどう表現するかというのが,(1)で利益相反の成立要件を書く以外に,こっちでも問題となるのです。ただ,余りディスカレッジするようなことは言うべきではないかもしれませんが,そういうのを細かく,要件とこの1項,2項とを書き分けるというのが方向として本当に賢明なのかどうかというのは,やや疑問を持ってはおります。

  非常に細かいことで申し訳ないのですけれども,ちょっと○○委員の御発言の続きでした。

  ○○委員の方の続きというのは,2と3の関係が私にはちょっとよく分からなくなってしまって。

  一つの見方は,2は割とはっきりした利益相反行為を扱っていて,そこにうまく入らない,こぼれ落ちるのが3で拾われているような整理なのですが,もう一つの見方は,2であると同時に3であるようなことも当然あるというふうな,そういう整理もあると思うのですね。

  ○○委員の質問のような例について,ちょっとどういう意図でこの報告書が書かれたか分からないのですが,利益相反行為について2を満たしてオーケーとなれば,もう3の責任というのはおよそ生じないように考えてよいのか。さっきの説明は,どうもその方向での説明だったのですが,それは本当に自明かというのがよく分からないですね。例えば,どの時点で判断するかという問題についても,2については行為時でいいかもしれないけれども,3についてはある程度結果論を考える余地もひょっとしたらあるかもしれない。

ちょっとそれは否定的な答えだったのではないかというふうに思うのですが。それで,そこがもし行為時,判断時がずれることになると,2と3の関係というのは次元の違うことになって,ある行為が,2はオーケーだけど,3で何か責任を生じさせるということも出てくるのですが,ちょっとその整理が報告書の説明をみても十分分からなかったので。2でカバーされないのが3で拾われるのはいいのですけれども,2に当たった場合に,この3との関係のことを何かお教えいただきたいということです。

● 基本的には2と3は重なる部分がないという理解で考えておりまして,2というのは,受託者の行為によって信託財産ないし受益者に対して利益又は不利益等の影響を及ぼすものであると。3というのは,およそ信託財産とは無関係な行為であるということですので,2にも当たるし3にも当たるというのは,概念的な整理としてはない,というふうな整理はしております。

● しかし,本当にそうかどうかというのは,もうちょっと詰めてみたいと思いますけれどね。

  それから,さっき○○委員が挙げたような,いろいろ信託財産を買い取って,将来それが値上がりするであろう特別な事情というか情報があるときには,本来だと,例えば2の(2)の②ですか,「重要な事実を開示して受益者の承認を得た」というようなときには,本来,そういう情報を提供して,それで買い取るわけですよね。ですから,そういう事実を隠して買い取ったりすると,たとえその時点では公正な価格であっても,恐らくどこか問題になるのでしょうね。さっき○○幹事からの説明にもありましたように,やはり将来得べかりし利益を奪ったという意味で,結局は③に該当して,受益者の利益を害したという結論になるのだと思いますね。

  それから,2と3との間の関係はもうちょっと議論したいと思いますけれども,概念的には,おっしゃるように分けてあると。

● 情報優位を利用して利益を得たという場合であっても,今のは2に当たって,3にはおよそ当たらないという整理をされたわけですね。情報優位で自己取引したケースというのは,3にはおよそ当たらないと。

● 今の場合は,信託財産に不利益が生ずるおそれがあるので,ということでございます。

● それから,さっき,公平義務の言葉遣いは○○幹事がおっしゃるとおりで,一応,これは,技術的な整理としては,公平義務というのは,

一つの同じ信託の中での受益者間の利益のバランスのことを問題にするので,

一人の受託者が二つ別々の信託を持っていれば,その信託間の利益の公平というのは,確かに似ているんだけれども,一応別の問題であることは,おっしゃるとおりです。

  それで,同じようなルールを及ぼすべきかどうかというのは,これはなかなか難しい問題で,私は,実際には,一つの信託の中の二つの受益者なのか,二つ別々の信託なのかというのは,これはもう本当に,ちょっとした構成でもってすぐ変えられるので,基本的には同じルールが適当ではないかと思いますけれどね。

  ほかにいかがでしょうか。

● 分別管理義務のところについて,流動化の観点から,意見というよりも質問なのですけれども。

  まず,登記・登録ができる資産に関しては登記・登録が要件になる,また分別管理がいわば強行規定になるという理解で,52ページの方に,登記又は登録ができる財産であっても,ある一定の事由が発生したときに登記・登録する義務が課せられていれば,分別管理義務が課されているというふうに解してもよいというような解釈も書かれているのですが,現場的に,あるいは実務的に考えると,どういった場合に分別管理義務が果たされているというふうに解していいのかというのは明確であった方が好ましいのではないかなと。今後,特に,現状,例えば登記あるいは登録ができないものであっても,制度の変更で,登記,登録をすることができるようになることもあり得るかと思いますので,これはちょっと気になっておりまして,例えば,動産を,商品在庫あるいは自動車といったものを信託財産にする場合に,どうすれば分別管理義務が果たせるのかというのはちょっと気になります。

それと,ここで金銭についての例外というようなことがあるのですが,信託財産に金銭--というと,多分,日銀券とか硬貨のことだと思いますけれども--が含まれるということは,多分,現実的にはほとんどなくて,必ず債権になってしまっているのではないかなと思います。他行に対する預金であれ。それで,銀信取引というふうなお話も出ましたけれども,

現実問題としては,信託財産の中の余資というのは,銀行勘定貸しで運用している,それで受託者がそれをどこかで運用しているというような形になっていますので,現実的には金銭債権なのかなと。それで,その場合に,帳簿上だけで区別していれば,分別管理義務を果たしたことになるのか,また,それによって信託財産の独立性が確保されるというふうに解せられるのかというのが,ちょっと……,済みません,素人的な質問で申し訳ないのですけれども,引っ掛かりました。

● 関連してというか,ちょっと論点から外れるのかもしれませんが,今,預金債権の話が出てきましたが,預金債権というのは基本的には,預金通貨と言われるごとく,経済実体的には金銭と同じように使われていると思うのですが,この問題は論点の第11の「信託財産と固有財産等との識別不能について」も関係することと思うのですけれども,例えば,今,○○委員がおっしゃられた事例の中で,受託者が一般事業会社で,その自分で預かったほかの預金債権なのか現金なのか,それを信託銀行に預けた,又は普通の銀行に預けたといったときに,当該金銭債権というのが信託財産なのか固有財産なのかということがよく分からないのです。

まあ,分別管理というのはどのようにすればいいのかという話なのですけれども,例えば,受託者サイドで,帳簿で,このお金は私のもので,このお金は信託のものだというふうに分別管理をしていましたと。

  ところが,次の問題として,これはまた別の議論を差し上げるのですけれども,今度は普通預金で運用していた場合に,普通預金の別途の議論がございまして,普通預金は基本的には一個の債権になるという話がありまして,そうしますと,銀行の側では基本的には受託債権と固有債権というのが一個になってしまう。そこの整合性が問題になるのかなというふうにも思っています。この問題は今のこの議論とはちょっと違うと思っておりますけれども,預金債権に関して言うといろいろな問題が出てくるかなと思いましたので,ちょっとコメントを差し上げました。

● 信託財産が債権である場合の分別管理の問題と,その原資というのでしょうか,その債権にしたときのお金がどこから出てきているかという二段階の問題があると思いますけれども,○○幹事,どうですか。

● 前段階につきましては,この報告書に書いてあるのは,区別して管理と書いてあるわけでして,それは結局,その財産の性質に応じてベストな方法で管理しなければいけないということでございますので,金銭債権であれば,帳簿上の管理をしていれば,分別管理をしていることになると考えます。

  後段の点につきましてはそんなに詰めて議論しておりませんが,恐らく,銀行の側で一個の債権となっておりましても,預けた方で複数の帳簿できちっと管理されていれば,受託者としての分別管理を果たしていると言っていいのではないかなという感じがいたします。

  それと,○○委員がおっしゃった最初の制度の変更の点につきましては,これは変更されるまでは登記・登録ができないわけですから,それについては,原則,物理的な分別をしてもらいたいと。登記・登録ができるようになりましたら,これは原則どおり登記・登録をするのが分別義務になりますので,その時点からは,今度,受託者が危機に瀕したときには登記・登録をするんだよという義務を当事者が認識していないと分別管理も果たせないというふうに,段階が変わってくると考えております。

● 御承知かもしれないけれども,預金のときに受託者の金銭と信託財産の金銭がそれぞれ別の債権になっていれば,分別管理は問題ないのでしょうけれども,最後に○○委員が言われたのは,一つの普通預金の中に入っている。それで,大もとの受託者の方ではちゃんと帳簿でもって,幾らが信託財産で,幾らが固有財産というのを分けているけれども,一つの普通預金債権なんかになっているときにどうするか。これは非常に難しい問題があって,普通預金で出し入れしていますので,今度,出したときに,出したのが一体どっちなのかとか,非常に難しい問題があることはあるのですね。こういう点もまた議論したいと思いますけれども。

● この問題は銀行にとって非常に重要なものでございますので,ここで明解にしていただきたいなというふうな希望を持っております。

● 今の前提の議論というのは,信託で受け入れたところの預金という……。

● ええ,受託者が預金者となって銀行に預け入れた場合ということでございます。

● 例えば全く他行に預けてしまえば,それは別の債権ということになるわけですよね。

● 受託者が他行に預ければ,もちろん,それは債権という形になっていますけれども。

● そこで例えば識別不能とかというところの部分の規律がかかってくるという,そういうことで……。

● もとのお金,預けたときの原資が,受託者の方の固有財産である金銭と,信託財産である金銭が混じって,それで一つの債権として預けたようなときに,どこまでが信託財産か,あるいは分別管理としてそれで十分かという問題だと思いますね。

● それは,普通に識別不能の規律で律せられるということでよろしいのですか。

● 先ほど○○幹事から説明があったのは,幾らが信託財産であるかという大もとの受託者のところの帳簿で明らかになっていれば,一応分別管理をしているのではないかという答えだと思います。

  原則は恐らくそれでいいのだと思いますけれども,さっき言ったように,入れたり出したりしていると,そこが帳簿でちゃんと……。

● 受託者の義務は,今申しましたようにいいと思うのですが,今度出し入れがあった場合に,一体どこまでが信託財産で,どこまでが固有財産かというのは,そこは検討させていただきます。

● 共有とされてしまうと,銀行実務としては非常に困ってしまうということはあります。 ということを一言だけ申し上げたいと思います。だれに幾ら返したらいいのかよく分からないという話で,特に受託者が倒産してしまった場合に出てくるのですけれどね。

● 差し押さえられるということですかね。

● はい,そういうことです。

● イギリスでは,ちょっと古いルールだけど,先入れ先出しルールとか,何か変なルールがあるんですよね。余り合理的じゃない。

  まあ,議論させていただきたいと思います。

● ちょっと確認ですが,今の場合は,信託財産である金銭債権であれ,預金債権であれ,固有財産である預金債権であれ,返す相手は受託者ではないかと思うわけですが,それではやはり困るという御趣旨でしょうか。

● 例えば,その受託者が倒産して,管財人が出てきましたと。固有財産のものとして管財人が返すのか,それとも信託財産として返すのかという話が,二股の形に分かれてしまいますもので,銀行としてはちょっとそのときには困ってしまうという感じがします。

● 要するに,どっちか一つに決めて……。

● それと,普通預金というのは一つの債権になる,お金に黒も白もないので一つの債権になるという一つの考え方がございますので,そうしますと,普通預金に共有という概念を持ち込むということについて非常に違和感が出てくるということでございます。

● 確かに,普通預金についてはいろいろな議論がありますよね。

● ○○委員の御発言にちょっと関連してなのですけれども,預金を受け入れている銀行の実務として,預金を受け入れている銀行が受託者に対して反対債権を持っていた場合に,どこまで相殺できるのかという問題もあり得ると思います。

● 関連すると思います。

● 次の53ページの第22についても一つだけ質問をさせていただければと思いますが,1,2,3とありますうちの1,2,特に2をどう説明するかという点についての質問です。

  これは,現行の26条の1項,2項で,1項では原則として他人に信託事務を処理させることはできないというのを,1ではむしろ原則・例外を逆転しようと,別段の定めのない限り他人に信託事務の処理を委託できるのだと。これは正に現実のニーズに即したもので,もともと26条1項に対して批判の強かったところですし,こう変えられることは本当に結構かと思います。

  問題は2の方でして,2に関しましては,これは現行の26条2項を原則としてそのまま維持すると。つまり,他人に信託事務を処理させたときには選任・監督についてのみ責任を負うことにするという2項をそのまま維持するということなのですが,これをどう説明するかというのが,質問の趣旨です。

  といいますのは,現行26条1項,2項がどうしてこうなっているかといいますと,これはもともと民法の復代理の規定を参考にしてつくられたものでして,26条1項は,原則として他人に信託事務を処理させてはいけないと。ただ,やむことを得ない事由があるような場合は任せてもいいと。こういう特別な理由がある場合に任せていいということなのだから,この場合にはやはり責任も限定しようと,選任・監督についてのみ責めに任ずというふうにしたと。

そしてまた,信託行為によって他人に信託事務を処理させるとわざわざ認めたのだから,この場合も選任・監督についてのみ限定しようと,こういう趣旨でできてきたと。つまり,原則は任せてはいけないけれども,こういう特に理由があるときに任せていいと,その場合には責任を限定しようと,こういう枠組みでできていたわけですね。

  ところが,今後,改正する方向では,1項を変える,つまり原則として任せていいということにすると。しかし,その場合にも,まあ特別な理由があるのかどうか分かりませんが,選任・監督にのみ責任が限られるというのは,直ちには説明できないのではないかと。むしろ,信託事務を委託したわけで,その委託どおりのことをしてくれればいいけれども,しなかったら責任を問えるというのが本来の筋であって,何ゆえに選任・監督の責任に限られるのかというのは,やはり説明が要るだろうと思います。

  この53ページの2の部分につきましては,後段の方,つまり,信託法の定めに基づいて委託したときは選任・監督の責任に限ると,これはまだいいのかなと思います。もともと,例えば海外のカストディアンに任せるのだということをお互い分かった上で,日本の信託会社はそこまでできないのでこういうことでやりますということでやった場合には,責任が限定されるというのは分かるわけですけれども,何も言わずに,何もないときに,なぜ選任・監督の責任に限られるのか,これをどう説明するのかという点が質問です。

信託会社のニーズからするとこうなってもらわないと困るというようのは非常によく分かるのですけれども,本来は,やはり契約なら契約で約束したことは守らないといけないと。ですから,選任・監督までしかやりませんよということを約束したのだったら,そこまででいいですけれども,必ずしもそうはっきりしていないときに,何ゆえにこういう限定が加わるのかというのは,すぐれて理論的な問題ですので,ちょっと説明をお願いしたいということです。

● そこまではちょっと……。まあ,信託行為で定めたときは問題ないというのはおっしゃるとおりで,なぜ2の原則の場合,転換されたかという理論的な問題は,ちょっと急に言われても思い当たらないのですが,しかし,法律上他人に委託できるというふうに定めてある以上は,それについて履行補助者と同様の責任を負うというのは厳し過ぎるのではないかという価値判断で,選任・監督責任に限っていいのではないかというふうに決めたと言わざるを得ないところでございますけれども。

● もちろん,履行補助者の場合と履行代行者あるいは代人を分けるというような議論は,現行法でも議論のあるところではあるのですけれども,ただ,それも,どこまでのことを受託者が委託者に対して約束したのかと。約束したことを他人に任せるときには,その他人の過失についてまで責任を負う,しかし,選任・監督までしか約束していないというときには,選任・監督上の過失に限られると。

これは理論的に極めて筋が通ると思うのです。ですから,履行補助者を持ってくるときでも,やはり,何を約束したのかにどうしても規定されてしまう。ですので,54ページには,こうは言うけれども個々具体的な事情において異なるというのが書いてあるのは,正にそのとおりで,やはり,どこまで約束したかが責任の分水嶺にあると。

  ですので,デフォルトルールをどう書くのかということを,もう少し説明がつくように考えて書かないと,2項は現行どおりですというわけにはいかないですね。1項を逆転していますのでね。そこを検討を進めた方がいいのではないかということです。

● 恐らく,1のところの原則が,○○幹事の言われたのを少し違う趣旨で書かれたのかもしれませんけれども,要するに,受託者になっても原則として受託者自身がやるというのではそもそもなくて,それは約束の内容によって決まるのかもしれないけれども,これは受託者がやりますよというものと,これは一応信託で引き受けた全体の中には入っているけれども,そもそも受託者がやるというものではないものもその中には入っている。

  例えば,ちょっと報告書の範囲を踏み出して私の勝手な意見かもしれないけれども,信託財産の輸送をするとか,そういうものは,それは全体の信託事務の中には入っているかもしれないけれども,別に受託者がやるということをそもそも予定していないようなものもあると。

  そういうふうに原則で考えていくと,本来受託者がやりますよという内容の信託事務であれば,これは,他人を使うことは,今度それも自由になっているわけですけれども,それについてはもうちょっと責任があってもよさそうな気がしますね。だけども,これはそもそも受託者がやるものとは限りませんという内容であれば,これは,他人を使ってあれした場合に,今度は責任が軽くていい。ただ,そうなると,もっと責任が軽くてもいいかもしれない。選任ぐらいは責任があるかもしれないけれども,監督までするという責任は今度は出てこないのですね,恐らく。

  ですから,そういう意味で,○○幹事の問題提起は,この1と2の間の対応の関係,あるいはそこでの基本的な考え方,整合性があるかどうかを検討しろということだと思いますので,ちょっと1の原則についての理解自体,あるいは私と事務局のペーパーとも違うかもしれませんし,議論させていただければと思います。

● 銀行実務において大きなことですので,もう一度,忠実義務の,先ほど○○委員,○○幹事が問題提起された2と3との関係について,具体的な事例で確認したいのですけれども。

  例えば,銀行が信託財産として債務者に対して債権を持っていて,銀行勘定からも同じ債務者に対して債権を持っていましたといったときに,当該債務者の信用悪化情報を受託業務から知り得たと。そうしたときに,銀行勘定を優先して回収したといったときにどうなるのかという話です。

  通常の利益相反の問題,先ほど申し上げたときにプロラタにすれば云々という議論は,私も,利益相反の問題として片づけていたわけです。ところが,この事例の中で,48ページに戻りますけれども,銀行業務と信託業務を兼営している場合には,信託財産に関する情報と固有財産に関する情報は共有が不可避であるから正当事由があるという話ですけれども,これは3について議論されているわけですが,回収というのは,片や利益取得行為という,これは定義にもよると思うのですけれども,正しくそのとおりだと思っているのですけれども,もし2と3ということが区別されるというのであれば,回収は3の規律でいきますと。そうすると,この禁止の例外の③も正当な理由があるということで,じゃあ銀行は大丈夫だという話になる。

  そうすると,よく考えてみますと,例えば普通一般情報から得た情報で銀行債権を先に回収した場合には,今までは少なくとも利益相反禁止という規律で律せられたところが,まあ私の読み方が非常に嫌らしいのだと思うのですけれども,この規律に行きますと,3で救われるのであれば,ひょっとして2は問題ないねという話にもなりかねないという気もするのですが,そこら辺の関係をどう整理したらいいのかということなのですけれども。

● 恐らく,まず第一の問題としては,今のように,回収の問題というのが2なのか3なのか,そこもちょっとはっきりしないところがあるし。つまり,債務者の資力が両方の債権を満たすだけの資力がもうないということになれば,先に取っていってしまうということは,当然反射的にもう一つの信託財産を害することになるわけですよね。

  ですから,私なんかは,個人的には,2の方に当たるのかなという感じもしていますけれどね。

● そう考えるところですが,そこをどう整理するのかということです。

● 難しい問題あると思います。

  余り私は詳しくないけれども,社債管理会社の場合にも似たような問題がありますよね。あれは立法的に解決してしまったけれども。そうじゃないですか。

● 商法311条の話。

● ええ。

  ここでは一般規定の適用の問題になるので,どういうふうに解したらいいかという……,やはり形式上は利益相反になると思うんですよね。少なくとも,今の場合,利益取得禁止行為の方のルール,3のルールがあって,かつ,さっきの例外規定の③でもって許されるというふうになるというのは,ちょっと難しいんじゃないですか。

● そこら辺は銀行実務で非常に重要でございますので,明確な議論をしていただきたいと,そういうことです。

● 先ほどから,いろいろな忠実義務についての御懸念が,○○委員からもありましたし,余り一般的な規定というのは困る場合もあるとかいう御意見もありましたけれども,これも私の個人的な感想ですけれども,銀行の方でもってある程度予想できるようなものについては,これは銀行で正当な業務だと思えば,信託行為の中で規定すれば大丈夫な場合があるわけですね。信託行為で定めたこと自体が公序良俗に反すれば別ですけれども。

  ですから,そんなに心配しなくても大丈夫ではないかという気も一方でしますけれども,すべてが書き切れるわけではないので,今のような債権回収の問題というのは。

  いかがですか。

● 今,○○委員がおっしゃった例は,恐らく我々の理解は利益相反の部類に入ると思います。ただ,そうやって言いますと全部利益相反になってしまいそうな……,さっきから全部利益相反みたいですけれども,確かに,信託財産の利益を害するおそれがある場合については利益相反という仕切りでございますので,おっしゃった例は利益相反の問題ですから,例外規定に当たるかどうか微妙だと言わざるを得ないと考えております。

● ほかによろしいでしょうか。

  利益取得行為の禁止の方の典型的な例などについては,これもいろいろありますので,皆さんも十分御承知だと思いますけれども,また個別の検討のところで議論していきたいと思いますが,とりあえず,この部分について,よろしいですか。

● 何回も申し訳ございませんが,信託事務の委託のところで,先ほど○○委員の方からお話がありましたけれども,甲案,乙案というのがありまして,こちらの方の考え方なのですけれども,手前勝手だというふうにとられると非常に困るのですけれども,実務的な感覚という形でちょっとお聞きいただきたいと思うのですけれども,やはり基本的には乙案というふうに思っています。

  それは要するに,責任をとらせなければ,その方がやりやすいとか,すっきりしているとか,もちろんそういう部分もあるのですけれども,委託者,受益者に対して相対しているのは信託銀行ですので,やはり基本的には,何かあったときには委託者は受託者に対して言ってくる,それで受託者がそれに対して対処するというのが極めて実務的な対応だろうと思います。それで,委託先が何か過失によって損害をもたらしたのであれば,当然,この文章の中にもありましたけれども,その損害賠償請求権というのが信託財産に帰属して,それを受託者が請求に行くと。そういうふうにやらなければ,善管注意義務に反する行為なのだというふうに書かれておりましたけれども,正に実務的な感覚としては,やはり受託者が前面に立って責任を負って,それで委託先に対して取りに行くと。そういうような形で今まで動いておりましたし,例えば弊社の例で言うと,委託先が何か問題を起こしたときには,訴訟を起こしまして損害賠償請求で取りに行っている例もございますので,それの方が非常に実務感覚に即したようなものではないかなと思います。

● それでは,ちょっと時間の関係もありますので,これぐらいで,第2ラウンドというか,個別の論点のところで御議論いただきたいと思います。

  それでは,最後の部分について,また○○幹事からお願いします。

● それでは,最後の,第24以降,「受託者の損失填補責任等について」というところから御説明を続けさせていただきます。61ページからでございます。

  御承知のとおり,受託者に信託違反行為があった場合について,信託法上受益者に認められている救済方法には,一つは現行法27条の受託者に対する損失てん補,あるいは信託財産の復旧請求権,それから信託違反の処分行為取消権,現行法31条がございます。これらは,ともに受託者の信託違反行為から信託財産を守るための手段,いわば車の両輪と言えるようなものでございまして,ここで扱うのは,今言いました第1番目の信託財産に損失を与えた受託者の責任に関するものでございます。

  ところで,現行法27条につきましては,「管理ノ失当ニ因リテ信託財産ニ損失ヲ生セシメタルトキ又ハ信託ノ本旨ニ反シテ信託財産ヲ処分シタルトキ」という要件と,それに対応します「損失ノ填補又ハ信託財産ノ復旧ヲ請求」という効果の対応関係が必ずしも明確ではないという指摘がございます。そこで,太字の1,2におきましては,この現行法27条の規律内容を基本的に維持しつつ,その内容の整序と明確化を図ろうとしたものでございます。

  まず,太字の1でございますが,これは,管理の失当や信託の本旨に反する処分という要件に限定することなく,およそ法令又は信託行為の定めに違反した場合には,受益者等は,受託者に酷となる特段の事情のない限り,損失の証明をすることなく原状回復を請求できるとするものでございます。

  もっとも,この点につきましては,我が国の損害賠償体系は金銭賠償を原則とすることを前提とすれば,なぜ信託の場合についてのみ原状回復の請求が許容されるのか,あるいは,原状回復のために著しい費用がかかる場合と相応の費用がかかる場合とで救済の在り方の均衡を失するのではないか等の指摘がございまして,この点につきましてはなお検討したいと考えているところでございます。

  次に,太字の2というのは,受益者等が損失の証明をした場合には,原状回復のほかに金銭によるてん補を請求することも可能であるということを明記したものでございます。例えば,受託者が原状回復をしてもなお信託財産に損失が残る場合には,受益者等は,原状回復請求に加えて,損失のてん補を請求できるということになるわけでございます。

  なお,太字の3について若干補足いたしますが,これは,現行29条は,その第1項におきまして,受託者が分別管理義務に違反して信託財産を管理したときは27条の責任を負うこと,第2項におきまして,分別管理義務違反があり,それと損害発生との間に因果関係があった以上は,損害発生について受託者に過失がなくても,更に言えば損害発生が天災などの不可抗力によって生じた場合であっても,その責任を免れないということを規定したものでございます。

  例えば,倉庫がA,B二つありまして,特約もないのに信託財産と固有財産とをともにA倉庫に混蔵保管した,すなわち分別管理義務違反をしていたところ,例えば,第1の例として,A倉庫のみに雷が落ちて焼けてしまったというのであれば,分別管理をしていれば損失が生じなかったということで,責任を免れないと考えられますが,地震でA,B倉庫とも焼失してしまったということであれば,仮に分別していても損失が生じたと言えるから,責任を免れると,こういうことかと考えるわけでございます。

  そして,太字の3というのは,この29条2項の規律をそのまま維持したものでございます。

続きまして,第28の「受託者の有限責任の許容について」というところについての説明に移らせていただきます。72ページからでございます。

  まず,我が国の信託の構造におきましては,受託者の権限に属する信託取引によって信託財産に帰属することとなった債務に係る債権者,すなわち信託債権者と申しますが,それに対しては,信託財産はもちろん,受託者の個人財産も併存的に責任を負うのが原則でございまして,信託の特徴と言えると思います。そして,このような構造を前提に,受託者が取引の相手方との間で責任財産を信託財産に限定するという有限責任特約を締結することは有効と認められておりまして,現行実務でも,このような責任財産限定特約を付した信託取引が浸透しつつあるというように伺っております。

  そこで,ここでは,現行法のもとでのこのような取扱いを進めまして,受託者が第三者との間で取引をする場合において,特定の信託の受託者である旨その他一定の事項を明示した場合には,有限責任の効果を付与することとしたものでございます。

  ただし,有限責任となるための要件として具体的にいかなる事項の明示の要求をするかにつきましては今後の検討事項でございますが,実務の状況等を踏まえますと,単に特定の信託の受託者であるというだけでは足りず,有限責任になるということまでの明示が必要ではないかと考えているところでございます。

  なお,太字部分に係る有限責任の対象となる債権の種類,一番冒頭の太字部分でございますが,ここは受託者と第三者間の取引によって生じた債権に限られるものでございますが,更に,この報告書の母体となった研究会におきましては,アステリスクの2において示しております,いわゆる有限責任信託類型を設けることの当否も議論になりました。ここでは問題点の概要のみ御紹介しておきたいと思います。

  すなわち,経済社会活動の高度化の進展に伴いまして,近時,英米法におけるLLC,LLP,ビジネストラスト等に代表されますように,外部関係については有限責任性を確保しながら内部関係については柔軟性を有する組織による事業の実施や当該事業への投資に対するニーズが高まりを見せているところでございます。

信託は,内部的な意思決定の仕組みについて柔軟性が確保されていること,委託者,受託者及び受益者のいずれの者の経済状態からも隔離された安定的な財産が形成されること,新たな法人格の創設を必要とせず,既存の法人格を利用するにとどまるため,低コストで容易に設定し得ることなどの特徴を有しております。そういう状況をかんがみますと,受託者の有限責任を原則とした新たな信託の類型が創設された場合には,特にビジネスの分野におけるニーズにこたえることができ,国民の選択肢の多様化にも寄与するものと思われるところでございます。

  そこで,このような有限責任性を原則とする新たな信託の類型の創設の要否について検討するとしたいというのが,アステリスクの2の趣旨でございます。

  では,続きまして,第33の「受託者の権限について」,81ページのところからの説明に移らせていただきます。

  現行信託法におきましては,受託者の一般的権限についての規定はございませんが,定義に関する第1条の規定,つまり,「本法ニ於テ信託ト称スルハ財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムルヲ謂フ」というように書いてございます。それから,受託者の職務に関する第4条を見ますと,「受託者ハ信託行為ノ定ムル所ニ従ヒ信託財産ノ管理又ハ処分ヲ為スコトヲ要ス」というふうに書いてございます。  これらによれば,受託者が一定の目的に従い財産の管理又は処分をする権限を有するということを当然の前提としていると理解できるわけでございます。ここには「財産ノ管理又ハ処分」とございますが,これは,受託者の職務権限の例示にすぎないのでありまして,例えば,公益信託で追加出資を受けることや,土地信託で資金を借りることなど,信託目的,信託行為に定められた任務を果たすためであれば,受託者の権限というのは,信託財産の管理・処分を基礎としつつも,それを超えて,権利取得行為や債務負担行為にも,更には訴訟行為にも及ぶなどと柔軟に解釈されているところでございます。

  このような理解を前提に,受託者の職務権限につきましては,受託者は信託行為に定められた目的の達成のために必要な行為を行い得るということを明確に規定することとしたものでございます。

  なお,アステリスクで示しております,借入れ,あるいは信託財産に関する担保権の設定の行為というところにつきましては,これは信託財産に損害を与えかねない行為であるから,信託行為の有無にかかわらず,緊急に必要があるときは行うことができるのだということを念のため明確にしておくのが望ましいという考え方もあるでしょうし,他方,これらの行為については,信託財産に危害を与えかねない行為であることから,特別に規制すべく,原則として信託行為の定めがないとできないというふうにすべきという考え方もあるかと思います。

さらに,そもそも信託行為の定めを要求するといたしましても,その行為を技術的に特定できるのか。例えば,信用取引による債務負担は借入れに含まれるのか,デリバティブとは何かというようなものにつきまして,これを明確に特定できないのであれば,信託行為が必要となる行為の外延が不明確となり,かえって信託事務の円滑な進行を妨げるおそれがあるという考え方もございます。

  これらの考え方を踏まえまして,規定の要否を検討していきたいと現在のところは考えているところでございます。

  最後に,第34の「受託者の権限違反の行為について」というところの説明をさせていただきます。

  先ほど説明いたしましたとおり,現行法上受益者に認められている救済方法には,損失てん補等の請求権と,この取消権とがございまして,このうち,ここでは,受託者による信託違反行為の取消しに関するものを扱うということでございます。

  ところで,本条の取消権につきましては,取引安全の保護と受益者の保護との調和を図った,信託法特有の権利であると説明されておりますが,ここでは,まず前提といたしまして,取消権の期間制限による法律関係の安定化,受益者の追認による法律関係の安定と受益者の保護への考慮などから,現行と同じく,取消権という構成をとることとした上で,とりあえず次の3点につきまして現行法に改善を施すことを書いてあるものでございます。

  まず,第1に,現行法におきましては,取消しの対象を処分行為としているわけでございますが,この提案におきましては,取消権の対象となる受託者の行為については,処分行為であるか否かにかかわらず,当該行為が受託者の権限に違反したものであるか否かを端的に問題とし,権限違反行為であれば,悪意又は重過失の第三者に対しては取り消すことができるというふうに変えた点でございます。

  取消しの対象を処分行為に限った場合には,例えば受託者が借入れをした場合には,処分行為に含まれず,相手方は,当該行為が受託者の権限違反であることについて善意でも保護されないことになって,バランスを失してしまうのではないか,あるいは,信託財産が物を購入する場合において,対価が金銭,つまり売買である場合と,対価が信託財産の特定物,すなわち交換である場合とで,規律が果たして異なるかなどの点について明確ではないという問題点があるように思われるからでございます。

  次に,第2に,現行法におきましては,信託財産に関する登記・登録制度の有無によって取扱いが異なるものとされておりますが,ここでは,登記・登録を問題とすることなく,第三者において,先ほど言いましたように,権限違反行為についての悪意・重過失の有無を端的に問題とすることといたしました。

  受託者の行為が権限違反であるか否かは,信託の登記・登録からは必ずしも明らかではないという指摘があることに加えまして,信託の登記・登録ができる財産については,登記・登録があるときは,第三者が権限違反につき善意であっても現行法では保護されないのに対しまして,登記・登録がありませんと,第三者が仮に権限違反につき悪意であっても保護されることになるなど,現行法は著しくバランスを欠く結果となると考えられるからでございます。

  最後に,現行法には「信託ノ本旨」という言葉がございますが,ここではその言葉を用いておりません。委任の場合にも,民法第644条におきまして「委任ノ本旨ニ従ヒ」という表現が用いられているのに対しまして,対外的な効果帰属については受任者の代理権の範囲内にあるか否かで規律されていることからも明らかなとおり,「信託ノ本旨」という表現は,受託者の対外的な取引権限の範囲を画する表現としては妥当性に欠けるのではないかと考えられるからでございます。

  なお,補足的に2点ほどつけ加えさせていただきたいと思います。

  まず,この太字1におけます「取消し」という文言でございますが,これは,信託財産に対する効果帰属を否定するという意味での取消しではございませんで,権限違反行為自体に対する,いわば絶対的な取消しでございまして,第三者としては,信託財産に対する効果帰属を主張できなくなることはもちろん,受託者の固有財産に対する効果帰属をも主張できなくなるというふうに考えているところでございます。第三者において,相手である受託者が正しく受託者の資格で行為しており,しかも権限に違反していることも認識しているにもかかわらず,受託者の固有財産に対する効果帰属というものを最低限の主張として認めてやる必要はないと思われるからでございます。平たく言えば,受託者は悪いが,第三者はもっと悪いという趣旨でございます。

最後に,83ページのアステリスクの3にあるところでございますが,この趣旨は,現行法においては,受託者と第三者との間で取引の効果の帰属先の認識が異なる場合についての規律がないことに起因する問題でございます。

  分かりやすく申しますと,この問題が典型的にあらわれるのは相殺の局面でございまして,例えば信託財産から第三者に対する信託債権があるという場合を想定いたしまして,受託者が第三者に対してその信託債権の弁済を請求してきたといたします。

別途この第三者は受託者に対して貸付けをしているわけでございますが,受託者としては,自分が個人的に借入れをしたという意思を有していたわけでございますが,他方,第三者としては信託財産に貸し付けたと認識していたといたします。そうしますと,弁済を請求された第三者は,この信託財産に帰属する債権をもって相殺を主張するということになると思われるわけですが,この場合,信託財産の保護を重視すれば,あくまで第三者の債権は受託者個人に帰属しているにすぎないので,相殺関係にありませんので,相殺の抗弁は立たないということになると思われるのでございますが,第三者がこの債権は信託財産に帰属しているのだと,信託財産に貸し付けたのだと信頼したことについて,受託者の行為の外観などから正当な理由があれば,取引の安全を重視して,第三者を保護して相殺の抗弁を立てるという考え方もあるというところでございます。

  この点につきましては,信託財産の保護を重視するか,それとも取引の安全を重視するかというバランスの問題になるかと思われますが,なおこの点につきましては検討していきたいというのが,このアステリスク3の趣旨でございます。

● それでは,今のところまでで御議論をお願いします。

● 第28の受託者の有限責任の許容について,一つ意見といいましょうか,コメントを申し上げたいと思います。

  受託者の有限責任に関しては,事業の証券化であるとか,開発型流動化であるとか,そういったビジネスにおいて非常に有用であり,片や,受託する,通常はSPCでやるわけですが,信託を使った場合に受託する受託者としては,やはりそういう責任を限定するという方法がなければ困るところでありますが,かように契約対象外の者からも債権の請求を一定限度にとどめられるというのは,その種ビジネスにおいて有用だとは思います。他方,銀行の立場からすると,そういうような有限責任性が深く追求され過ぎますと,やはり回収の局面からすると問題になり得る場合があると。そこで,取引の安全性をどこまで高めるかということが重要だと思っております。

  そこで,本報告の中で,その点について,「一定の事項を明示して」というふうなことが書いてございます。この内容についてはいろいろ議論があるということでございましたけれども,私は,これに加えて,やはり「一定の方法」というのが必要ではないのかと。例えば,銀行員に電話で言ったよといったところで,いきなり有限責任を主張されてしまうということであれば,これもリスク管理から見ると非常に問題になるわけですので,やはり取引相手方に対して,何らか確実な方法でそういう問題点--先ほど,有限責任性を明示するべきだという御議論がありましたけれども,そういったリスクを確実に開示できるような方法ということについても御議論いただきたいと思っております。

● 今の第28の受託者の有限責任のところなのですけれども,今もおっしゃいましたように,流動化の実務等におきましては,もともとこういう責任財産限定特約は有効だという考えのもとに取り組んでまいりましたので,今回きちんと定められることによって,明確化されることによって更に安定性が増すということで,大変歓迎をしております。

  ただ,ちょっと質問といいますか,どう考えればいいかとちょっと悩んでいるところがあったのですけれども,信託スキームを使いまして債権を流動化するときに,同じオリジネーターが,同じオートローン債権を時期によって切り分けて流動化する,信託するというケースがあるのですけれども,そこの中で,今度は個別の信託財産に基づいてABSが発行されるわけですけれども,その持ち主の方が,万一オリジネーターの倒産の局面において--スキーム自体は,安全性を考慮して,優先部分と劣後部分という形で組成はしておりますが,万一そこの優先部分がカバーできないというような事態が起きたときに,全く同じオリジネーターの債権を,時期が違うだけで--債権自体は譲渡登記等で区別されていますので,個別の区分はつくわけですけれども--足りなかったところの受益者等が他の設定された信託財産の方にかかっていけるのかという問題がありまして,このあたり,信託における信託財産の独立性という問題がありますから,これは全然問題ないというふうに考えていいのかどうかといったところについても,念のため規定する必要があるのではないかなというふうにちょっと思ったのですけれども,そのあたりは特に議論する必要がないのかどうか,ちょっとお尋ねしたいなと思いました。

  実際にそういう疑問に至ったのは,信託ではなくて,SPCを使っての流動化のときに,同じSPCを使って発行するとなると,どうしてもそういった問題が出てくるものですから,信託の場合にはそれを考えなくていいのかどうなのかと,そういうところがちょっと疑問としてございます。

● 一番最後におっしゃったのは,ちょっと私が理解していないかもしれないけれども,受益者が十分信託財産から取れるかどうかという問題ですよね。受益者に優先的な受益権を与えていたけれども,実際にはその信託財産が目減りしていて十分そこに行かなかったと。それで第1受益者,第2受益者との間のアンバランスが生じてくると。

  これは,受託者の有限責任そのものとはまたちょっと別な問題で,ここで言っている有限責任とは違って。ここで言う有限責任というのは,信託が取引をした債権者との関係,信託債権者と言っていますけれども,それとの間の有限責任なのですね。それで,受益者との関係は,これはまた……,どこでしたか,ありましたね。

● 第27のいわゆる物的有限責任の問題かと思います。

● これは,基本的には,その信託財産を限度として受益者に弁済するということになりますので,信託財産が目減りしてしまいますと,これはしようがないと。ただ,あとは優先劣後の関係をどういうふうに作るかという,そちらのスキームの問題に恐らくなっていくのだろうと思います。

  ほかにいかがでしょうか。

● 有限責任のところで,一つだけ意見を言いますと,正に端的に有限責任のところに入っていくところの要件を御検討いただいているということですので,それを御検討いただければ,もう賛成ということです。

  それと,もう1点,質問です。「受託者の権限について」というところですけれども,ここの太字で書いた部分の「受託者は,」の次に,「信託行為に別段の定めがない限り」というのが入っているということではないのでしょうか。要するに,禁止規定があったら借入れができないということではないのでしょうか。どうもよく分からないのですけれども。

● それは禁止規定があればだめですよね。

● 入れば,ですよね。それは当然のこととしてそうだということでよろしいのですか。

● 要するに,禁止規定などが入っていればだめだという意味だろうと。

● 信託目的との関係で判断されるのではないかということで,「信託目的の達成のために」というところで読めるのではないかと考えておりますが。

● そこで禁止的な形で読めればということですか。

● 禁止していれば,それはそこで読むのではないかというふうに考えております。

● 今の○○委員の質問に対する答え方なのですけれども,目的で読むというよりは,この報告書の説明の下から二つ目の段落の後半に書かれていることなのではないかと思うのですね。例えば,目的は利殖と書いてあって,特定のものに投資物件は列挙されているといった場合は,当然,列挙されていないものに投資してはいかんと,そんなのは特段の定めというところで外れるのではないかというふうな御質問だと思うのですけれども,率直に言って今の第33はそこがうまく表現できていなくて,ただ表現の仕方を工夫しますという説明があって,多分,書き方としては,「特段の定めがない限り」というよりは,「信託行為に従い」とか何とか,そういう制約的な書き方になると思うのですけれども,それがまだうまく書けていないという状態だと理解しているのですけれども。

● これはまだ条文ではありませんので。考え方だけ示してあるということだと思いますけれども。要するに,信託目的から明確にすることはだめだというものが出てくれば,もちろんそれは権限の範囲外になりますよね。それから,そこは明確でないと  いうときに,また禁止行為が書いてあれば,もちろんそれも外れるし。ここにはそういう考え方が基本的に出ていると思います。

● 第34についてよろしいでしょうか。

  これはいろいろな考え方があるところだと思うのですが,考え方のポイント,根本的にこの考え方がいけないというふうにこれから主張するのではなくて,これは現行31条とやはりかなり違う考え方に基づいている案だと思うのです。現行31条は,ある一定の考え方に基づいて,悪意又は重過失という要件を入れているわけですけれども,この83ページの第34になったときに,重過失の場合だけ取り消せるというふうな要件構成に当然になるかというと,これはならないような気がするのですね。

報告書の後ろの方を見ましても,なぜ重過失にしたかということは必ずしも明確ではない気がいたします。そして,もし仮に,84ページの冒頭にありますように,効果が帰属しないだけでいいじゃないかという意見に対しては,第三者だってその信託財産にかかっていくことができたというふうに信じた場合があって,その人の保護が必要であるという話が書いてあって,それは極めてごもっともであろうという感じがするのですが,こういうふうな外観法理の問題だというふうにとらえますと,一般的には無過失ではないかという感じがするわけです。

  さらにもう1点申しますと,最後にこれが絶対的な取消しになるのか,それとも受託者が個人で責任を負うという取引になるのかということについて,相手方,第三者はもっと悪いという話が説明に出ましたが,それはやはり重過失であるということが前提になっていて第三者はもっと悪いやつだという話だと思うので,仮にここが過失ということになりますと,そこの部分も本当は変わってくる可能性があるということを,どちらがいいかというよりは,ちょっと指摘をさせていただければと思います。

● 同じく第34です。細かいことであり,あるいは説明を読むと既に御説明があるのかもしれませんが,1点だけ申し上げます。

  現行31条は,これは相手方と転得者を分けてというか,両方言及しながら規定しております。この第34は,処分だけでなくて,貸付けのような場合というのが含まれてくるということで「第三者」という言葉で一括されているところもあろうかと思いますが,この「第三者」にいわゆる転得者を含むのかどうかということは,ちょっと検討を要するのではないかと思います。31条を手直ししたものの引き継いだ規定だというふうに考えると,そこのところの疑義が生じてきますので,どちらがいいかということについての意見は今持っていないのですけれども,明らかにした形でのルールを作ることが必要ではないかと思います。

● 確かに,「第三者」ということで漠然と書いてありますけれども,従来,31条は転得者が入っているのですね。

● これはあくまで,基本的なルールはこういう感じでの議論だったので,具体的に条文化するときに,「第三者」をもっと明確にする必要があるという御指摘はごもっともですので,そこは検討いたします。

● ○○幹事が言われたのは,理論的にはもうちょっと難しい問題ではありますね。一種の外観法理的な考え方でもって規定をつくってしまったときに,相手方保護の要件が重過失というのは当然には出てこない,むしろ善意無過失だというので保護するというのが自然ではないかという,それがいいかどうかは別として,そういう御意見だったと思いますけれども。

  確かに,従来の31条は,処分行為といいますか,信託財産があって,その信託財産の名義人が受託者で,その名義人が処分したというタイプの相手方の保護ですので,これは名義人が処分したのだから通常は保護されていいだろうということで,主観的な要件の方は悪意重過失の場合だけだめだという形になるのですけれども,それがもうちょっと範囲が広がってきますので,借入れ行為とか,そこになってくると,今のように名義人がしたのだというのとはちょっと違う状況になっていて,一般の取引安全の法理とどう違ってくるのかというようなところが,ちょっと理論的に……。

● 今,○○幹事が発言されたことで,ああ,そうかと思ったのですが,今の31条と書きぶりが相当に変わっていることの意味なのですけれども,85ページのところで,「信託ノ本旨」という表現があいまいで,それも一つの理由でこういう形にしたのだということなのですけれども,この「権限」ということの意味なのですけれども,そうすると,この条文だと,あるいはまだ条文の形にはなっていませんけれども,典型的には,私が受託者で,信託財産の売却権限はあるのですね。しかし,その利得を我がものとしようと思って売ってしまったと。忠実義務違反の行為であることは明白なのですが,その場合,私が知っている限りは,英米法では,もちろんこれは相手が悪意であれば言うまでもないのですが,取り消して,財産自体を回復することができるということになるのですが,ここは受託者の権限には属しているのだということになるのでしょうか。かつての31条だと,「信託ノ本旨」という話で何だかもっと広いですから,それも入ってくるよと取消しになるのだけれども,今回はもうそれはあきらめると,そういうことになるのでしょうか。

● 民法で言うと,いわゆる権限の濫用タイプですよね。代理権の範囲内に形式的には入っているけれども,その代理権により自分で取得してしまおうというタイプの話ですね。

● もう一つ。

  今,忠実義務違反で申し上げましたけれども,一般的に英米では,信託違反によりということになっているので,いわゆる善管注意義務違反の場合も。だから,普通だったら今これ売れないよと,そういう場合にぽーんと売ってしまったというような場合もあり得るのですね。

● そこまで入れるつもりではないのではないかと思うけれども,どうかな。

● 今回はかつての31条よりもずっと狭く……。

● かつてのも,それが入るかどうか。要するに,単純な善管注意義務違反--単純なという言い方はあれですけれども,今売ると損だ,もうちょっと待った方がいいとか,そういうときに時期の判断を誤って売ったと。それは善管注意義務違反ということで,内部的な受託者の損害賠償責任を発生させることは当然かもしれないけれども,それ以上に,処分行為を取り消すということになるかどうか。それは,従来の31条でもちょっと問題ではないですか。

● ただ,信託行為に厳しく慎重に何とかかんとかという,これこそ信託の本旨と書いておけばいいような気もしますけれども。言葉じりだけで言えばですけれども。

  まあ,ともかく,忠実義務違反の方が普通にあり得ることなので,それはどのようになっているのでしょうか。それも権限外という話で,やはり同じようにここで入るのでしょうか。

● ちょっと民法のアナロジーでいくと嫌なところだけども。あれは権限は一応あるなんていうふうに考えているものね。それで心裡留保の規定を使ったりして変な処理をしているので。

  まあ,ちょっと問題としては考えておきます。

● 割に大きな問題だと思ったものですから。

● 要するに,「権限」ということでもってどういうものが入ってくるかという問題ですよね。どういうものを「権限」の要素にするか。

  ほかに御意見等ございますでしょうか。

 それでは,本日はどうも長い間ありがとうございました。また次回お願いいたします。

  ちょっとアナウンスがありますので,よろしくお願いします。

● それでは,次回の予定について御報告いたします。

  次回でございますけれども,日時は10月15日,金曜日,午後1時から午後5時まで,この法曹会館の「高砂の間」でやらせていただきたいと思っております。

  それから,念のため,皆様にちょっとお願いがございますけれども,報告書に記載されていない論点につきましても,この部会で検討が行われないということではなくて,今日もございましたように,必要に応じて審議を進めていきたいと考えておりますので,今後も,新たな論点がございましたら是非とも御提示をお願いしたいと思っております。ただ,最初に申しましたようにスケジュールが相当タイトになっておりますので,充実した審議を行う観点から,なるべく相当な時期に論点をお出しいただくのが,こちらとしても有り難いというふうに考えております。

● 以上でございますが,何か御質問等ございますか。--よろしいでしょうか。

  それでは,これで終わります。どうもありがとうございました。

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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第2回会議 議事録

第1 日 時  平成16年10月15日(金)  自 午後1時00分
                        至 午後4時55分

第2 場 所 法曹会館「高砂の間」

第3 議 題
   総論的な意見交換

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● それでは,法制審議会信託法部会の第2回目の会議を開催したいと思います。
  最初に,今日の議事の進行について,○○幹事の方から説明をお願いします。
● 本日の進行でございますが,あらかじめ皆様のお手元に配布してございますけれども,本日は10項目を扱わせていただきます。

  その割振りでございますが,全体を四つに分けまして,3時までにいったん休憩をとりますので,それまでに二つのセッション,その後,5時まで二つのセッションに分けさせていただきたいと思います。

第1セッションは,「第35 補償請求権について」と「第36 報酬請求権について」で約1時間,続きまして,「第49 受益者が複数の信託の意思決定方法について」と「第53 受益権の有価証券化について」を第2セッションで扱わせていただきまして,途中休憩,それから,「第37 受託者の解任・辞任等について」,「第57 信託行為の変更について」,「第61 信託の終了原因について」を第3セッション,最後に,「第55 私益信託における委託者の権利義務について」,「第63 信託財産に係る倒産処理手続の整備について」,「第69 いわゆる目的信託について」を扱うというように進行させていただきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。

● それでは,説明の方をお願いします。

● それでは,補償請求権と報酬請求権の問題につきまして御説明申し上げます。補償請求権の方はいろいろ論点がございますので,若干長目になりますが,御容赦いただければと思います。

  御承知のとおり,現行法36条1項,2項におきましては,受託者が信託財産に関して負担した租税,公課その他の費用,又は信託事務を処理するために自己に過失なくして受けた損害の補償について,信託財産及び受益者から補償を受けることができるものとしまして,信託に関する費用及び損害の負担の在り方を決めております。

  補償請求権は,受託者が信託財産又は受益者のために事務を行う場合に,信託事務にかかった費用を最終的に信託財産又は受益者に負担させるための制度でありまして,他人のために事務を行う場合に一般的に見られるものでございます。例えば,委任における費用償還請求権についても民法第650条に規定がございます。

  ところで,忠実義務の原則からいたしますと,受託者は,信託財産の運用に当たりまして,受託者個人を相手方として取引行為を行うことはもちろん,非取引的な法律関係に立つことも避けなければならないわけですが,受託者が,本来なら信託財産の負担すべき費用を支弁し,又は信託事務の処理に際して損害をこうむった場合にも信託財産から補償を求め得ないとすることは,余りに受託者に酷であると考えられます。

  そこで,このような費用や損害に関しましては,忠実義務の原則の例外として,信託財産から,又は信託の利益の享受者である受益者から補償を受けられるようにしたのが本条の趣旨であると考えられます。

  しかしながら,現行法については次のような問題点を指摘することができると考えます。
  まず,第1でございますが,現行法は,受益者が,信託行為に定めがなくとも,原則として補償義務を負担するものとしておりますが,このような考え方は不適当ではないかとの点でございます。


株式会社における株主の有限責任と比べまして,信託受益者は原則として無限責任を負っていることになるわけですが,例えば,委託者が受益者にもなって営利を追求する土地信託のような類型の場合には,利益を享受する受益者がリスクもまた負担して無限責任を負うことは不合理ではないといたしましても,金銭で出資し,信託運営の途中の段階で信託財産が各種の財産に投資され,最後は金銭で戻ってくるというような一般的な信託商品のスキームにありましては,受益者といっても単なる投資目的で受益者になっているにすぎず,受益者は,自らの最大の損失は受益権の経済的価値がゼロになることであると考えているものと思われます。


しかるに,受益者が受託者からの補償請求により無限責任を負うというのでは投資商品としての魅力が薄れてしまうため,そのような投資商品を設計するに当たっては受益者の補償請求権をあらかじめ排除していることが必要ではないかといった指摘がなされているところでございます。

  ちなみに,米国におきましては,受託者は信託財産から費用の補償を受けるものとされ,受益者に対する補償請求権は,特別の合意がない限り否定されているところでございます。

  次に,第2といたしまして,受託者が信託財産から補償を受ける権利は他の権利者に優先して行使することができると現行法ではされておりますが,費用の性質を問わず,一律に他の権利者に優先するというのは合理性がないのではないかという指摘でございます。


  以上のほかにも,例えば,受託者が補償請求権を実現するために信託財産を売却するにつきましては,民事執行法上の換価処分手続による必要があるのか,自助売却によることも可能なのか,あるいは,信託財産を処分すると信託目的の達成が事実上不可能になるような場合におきましても,受託者は補償請求権を満足すべく信託財産を処分することができるのか,あるいは,信託財産に対する補償請求権と受益者に対する補償請求権とでは,いずれを先に行使してもよいのか,更には,受託者がそのこうむった損害について補償請求できる場合を受託者自身に全く過失がない場合に限定する必要はないのではないか等の問題点が指摘されているところでございます。


  以上のような問題の指摘を踏まえまして,報告書の記述は,現行の規律を改め,信託に関する費用及び損害の負担の合理化を図ろうとするものでございます。
  以下,報告書の記述に従いまして順次説明を申し上げたいと思います。


  まず,信託財産に対する補償請求権でございますが,太字の1は,受託者が信託事務を処理するに当たり支出した必要と認めるべき費用について信託財産から補償を受ける権利についての一連の記述でございます。

そもそも受託者といたしましては,信託事務の処理に基づき第三者に対して債務を負担した場合には,受託者が信託財産について有する処分権に基づき,直接信託財産をもって支払いに充てることも可能なわけでございますが,いったん受託者の固有財産から支払った後で信託財産に求償する方法をとることも可能でして,ここでは後者のいわゆる立替弁済をした場合の求償方法について定めたものでございます。

  まず,(1),(2),(5)というのは,信託財産に対する補償請求権の行使の方法といたしまして,信託財産の固有財産化,平たく言えば信託財産に属する金銭から直接充当を受けるという方法,それから,(2)といたしまして,信託財産の売却による方法,それから,(5)といたしまして,信託財産の強制換価手続に対する配当要求の方法,以上の三つの方法があることについて定めたものでございます。

  このうち,まず(2)の信託財産の売却でございますが,これは,信託財産中に費用に充当すべき金銭がない場合に備えまして,受託者に信託財産の売却権限を与え,その売却代金の中から補償を受けさせようとするものでございます。


先ほど申しましたとおり,ここでの「売却」の意味については争いがございますが,事務処理の円滑性の観点から,受託者は民事執行法上の換価処分手続による必要はなく,簡易な換価方法である任意売却の方法によることができるということを示したものでございます。

  なお,ただし書におきまして,当該信託財産の売却により信託目的の達成が事実上不可能となるか,あるいは実質的に損なわれる場合には,受託者は当該信託財産を任意に売却することはできないとしております。これは,例えば,ある土地を唯一の信託財産とする信託におきまして,補償請求権の満足のためとはいえ,その土地の喪失をもたらすような信託財産の売却が行われるときには,当該信託の目的達成による信託の終了を来しかねないわけでございます。


しかし,前回,善管注意義務に関するところで御説明いたしましたが,受託者は信託事務処理遂行義務を負っておりますので,補償請求権行使のためとはいえ,信託目的の達成と抵触するときは信託財産の売却処分は制限されるということを示したものでございます。


もっとも,この場合,受託者としては,信託目的達成のためには固有財産からでも立替払いを続ける義務があるというわけではございませんで,後ほど説明いたしますが,受益者に対する補償請求権が可能であればこれを行使すること,又は,一定の手続を踏まえて信託を終了させた上で,信託の清算手続において弁済を受けることをもって対応すべきことになると考えているわけでございます。

  次に,(5)でございますが,これは,信託財産が他の債権者によって差し押さえられた場合には受託者が配当要求できることを規定したものでございます。
  先ほど申しましたとおり,受託者は補償請求権の満足を得るために信託財産を任意売却できるわけでございますが,それよりも先に他の債権者に信託財産を差し押さえられた場合には,差押えの処分制限効により,もはや信託財産を任意売却することはできなくなると解されます。

この場合におきまして,受託者が強制換価手続に参加することもできないとなれば,受託者の補償請求権が,後ほど説明いたします他の債権者との優先関係の有無にかかわらず,事実上実現できない,すなわち劣後する結果となってしまい,適当ではないと考えられるからでございます。

  次に,太字の1の(3)及び(4)でございますが,これは,信託財産から補償を受ける権利につきまして一律に他の債権者に対する優先権を認める現行法の規律を改めまして,優先権を認める範囲を一定の合理的な範囲に制限しようとするものでございます。

  例えば,信託財産に関して負担した費用といたしましては,信託財産に属する一般の借入債務の弁済費用というようなものもあり得るところですが,このような借入債務の弁済費用の支出がすべての信託債権者の利益となる,換言すれば共益性を有するもの,とまでも言い難いところでございます。そうすると,このような信託財産に帰属する借入債務のようなものにつきましては,受託者がなした弁済費用につき信託財産から補償を受ける権利に優先性を認めることは合理的ではないと考えたものでございます。

  このような考えのもとに,ここでは,受託者が負担した費用の実質に応じまして信託財産から補償を受ける権利に優先性を認めることといたしました。すなわち,優先性を一定の限度に絞ったということでございます。

  そのうち,まず第1でございますが,受託者が信託財産に属する債務の弁済をした場合には,当該債務に係る債権者に代位し,受託者は,この代位された債権者の有した一切の権利,例えば信託財産に対する担保権がついていれば,その担保権を行使できるものといたしました。


 前回説明いたしましたが,信託の構造によれば,信託財産に帰属する債務についても,その債務者はあくまでも受託者であり,受託者が債務を弁済したといたしましても,本来の第三者弁済には当たるわけではないのですが,受託者がその固有財産をもってした弁済は,実質的には民法500条の定める「弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者」と同視することができ,その限度で弁済による代位の構造を認めまして,法定代位の効果を認めることができると考えたものでございます。

  それから,第2の優先性ですが,受託者が支出した費用がいわゆる必要費又は有益費に当たる場合,例えば信託財産を修理した場合の補修費等につきましては,信託財産の価値自体が維持増加させられることにより他の信託債権者の利益にもなると考えられますので,民法の留置権者や質権者の費用償還請求権の規律に従って優先性を付与することといたしました。

  もっとも,本来,受託者は,信託財産から支出して信託事務を行うべきときに信託財産に資金がないときには固有財産から支出することをいわゆるフィデュシャリー・デューティーとして課されているにもかかわらず,受託者の信託財産に対する費用償還請求権に優先効を認めない場合には,受託者を一種の利益相反の状況に立たせることになり,受託者が固有財産から支出することについて逡巡することになりはしないか,すなわち,受託者としては,信託財産にとって必ずしも芳しくない結果となることは承知しつつも,自己の経済的利益の観点から,自らその行動を抑制せざるを得ない効果を生むのではないかという指摘もあり得るかと思います。


  例えば,信託財産の保全のため,あるいは信託財産にとって有利な投資機会の活用のためには債務を負担してでも一定の行為を行うことが望ましいと思われる場面でも,このような行為に基づく債務の弁済を請求された受託者がその弁済をした上で信託財産に求償する場合におきまして,その求償権に優先効が認められないこととなりますと,あるいは少なくともそのおそれがあるということになりますと,受託者としては,あえてこのようなリスクを伴う行為をすることを自制する方向に向かうということも考えられます。


また,信託財産について莫大な所有者責任を問われることになりながら,その信託財産に対する求償権が十分に得られなくなるという事態をおそれ,慎重を期して保険を付することに走るという事態も懸念されるところではございます。

  このような懸念はございますが,この報告書としては,優先権を制限するという規律をとりあえずとっているというところでございます。


  最後に,太字の1(4),(5)のアステリスク1,2についてでございますけれども,これは,91ページで「もっとも,」以下で記載してあるところでございますが,その趣旨につきまして若干説明を申し上げます。

  民事執行法の規定を前提といたしますと,不動産執行については民事執行法51条あるいは債権執行については民事執行法154条になりますが,配当要求のためには債務名義又は一般の先取特権を有することの証明が必要となりますところ,必要費又は有益費に当たる費用であろうと一般の信託債務の弁済費用であろうと,このような費用につきまして,信託財産に対する補償請求権に関する債務名義を取得することにつきましては,困難な問題が生じると考えられます。

  なぜかと申しますと,この場面におきましては,補償請求権を有する受託者が,信託財産の名義人である受託者に対して債務名義を取得する,すなわち,形式的には同一人間で債務名義を取得しなければならないという事態に陥ってしまうからでございます。しかも,民事執行法上,動産執行,これは133条にございますが,動産執行において配当要求ができるのは,権利を証する文書を有する先取特権者又は質権者に限られておりますので,有名義債権者であるというだけでは動産執行に対しては配当要求できないということになってしまうわけでございます。

  このような配当要求手続上の問題をクリアするためには,受託者の有する費用償還請求権を共益費用の先取特権とみなせばよさそうなわけでございますが,先ほど申しましたとおり,借入債務の弁済費用にまで共益性を認めることは困難と思われます上に,今度は,民法336条の規定によりますと,一般先取特権とみなすことによりまして,不動産につきましては,登記をしない限り,登記済みの担保権には劣後するということになるわけですが,必要費又は有益費についてもこれでよいかという問題があり得るところでございます。


  以上の次第で,費用償還請求権の順位及び配当要求手続につきましてはなお検討するというふうにしたものでございます。
  続きまして,受益者に対する補償請求権についてでございますが,太字の2が,受益者に対する補償請求権に関する一連の規律でございます。

  まず,冒頭で述べましたとおり,受益者に対する補償請求権を認めることと認めないことのいずれを原則的なルールとすべきかにつきましては,大きな争いのあるところでございまして,ここでは甲案と乙案を併記させていただいております。

  まず,甲案でございますが,これは,受託者は原則として受益者に対して補償請求権を行使することができるとするものでございまして,現行法の規律を維持するものでございます。
  その理由でございますが,受託者は,信託の事務処理に当たり信託報酬以外の利益を得ることを禁じられており,善管注意義務をもって信託行為に定められた内容の信託事務を行うことを求められているにすぎない。そういうことからいたしますと,受託者が負担した費用につきましては,信託財産から補償を受けられない場合には,信託による利益を実質的に享受する受益者から補償を受けるとすることが公平であると考えるものでございます。

  これに対しまして,乙案でございますが,これは原則として受益者に対する補償請求権はなく,信託行為に定めがある場合に限って受益者に対して補償請求権を行使することができるとするものでございます。


  これは,先ほど申しましたように,株主の有限責任の場合に比べまして,投資商品の設計に当たり受益者の無限責任とすることの不適切さについての指摘に加えまして,受託者は信託財産の名義人であって,基本的に広範な裁量権を付与されているのであるから,信託財産を超えて補償請求権が発生することのないようにコストの管理をすべきであるという注意義務があるということを前提としつつ,このような義務を負うことに照らしますと信託財産を超える損失が生じた場合の負担については受託者が負うこととするのが合理的と考えられること,あるいは,受託者としては,費用負担に備えて保険を付するなど,受益者に比べればいろいろの手だてをすることが可能であるということ,贈与型の他益信託におきましては,第三者を受益者として指定した委託者の意思としては,第三者たる受益者に利益のみならずリスクの負担まで負わせるということは想定していないと考えられること,信託スキームの作成に受益者は関与できないことなどを理由とするものでございます。
  ちなみに,資産流動化法220条を見ますと,信託財産の範囲を超えるリスクを受益者に負担させるのは適当ではないとの考えに基づきまして,受益者に対する補償請求権を排除しております。

  続きまして,2の(2)でございますが,これは,受益者から補償を受ける権利につきまして,委任における受任者が委任者に対して有するのと同様の権利,すなわち,民法650条の1項,2項ないしは649条と同様の権利を受託者に対して付与するものでございます。ただし,②の債務負担の場合につきましては,委任者に対して代弁済請求を認めている委任の規律とは異なりまして,受益者に対して前払請求権を認めることとしております。


  なお,念のためでございますが,このような権利は,1の甲案であれば原則として,乙案であれば信託行為の定めにある場合に限って認められることになります。

  なお,ここで,②の信託事務処理の債務負担の弁済費用,それから③の信託事務処理費用につきましては,受託者に受益者に対する前払請求権を認めておりますが,これは,仮に前払請求権を認めないことといたしますと,信託財産に適当な弁済資金がない場合には,受託者はいったん第三者に支払った上で受益者に対して費用の償還を請求するということになるわけですが,そのような解決は迂遠であると思われるからでございます。

  さらに,2の(3)により,この前払請求権は信託財産に属することとしておりますが,これは,この前払請求権が受託者の固有財産に属するということになりますと,受託者の固有債権者からの差押えが認められることになりまして,受託者に信託事務処理上の費用の前払請求権を与える意義を没却すると考えられるからでございます。

  続きまして,2の(4)でございますが,これは,受益者から補償を受ける権利の行使の制限,換言すれば,信託財産から補償を受ける権利の行使と,受益者から補償を受ける権利の行使の順序について規定したものでございます。


現行法上は両者の関係について規定がございませんので,受託者は任意にこれらの権利を行使できるのか,それともいずれかの権利を先に行使しなければならないのかについて解釈が分かれております。

  ところで,信託におきましては,信託財産の管理運用によりまして受益者に利益を付与することを目的としておりますので,信託事務の処理に要した費用については,まずは信託財産から補償を受けるのが信託の構造及び信託当事者の意図にかなうものと考えられます。


  そこで,信託行為に別段の定めがない限り,信託財産から補償を受ける権利をまず先に行使し,そこで十分な補償が得られない場合に初めて補充的に受益者から補償を受けることができるとしたものでございます。

  次に,2の(5)でございますが,これは,受託者が信託財産からも受益者からも補償を受けることができない場合,例えば信託目的の達成を妨げる場合であるとか,あるいは,受託者の売却権限が制限されている場合に当たるため信託財産を処分することもできず,受益者に対する補償請求権も認められていないという信託である場合,このような場合には,一定の手続,すなわち,受益者に対する履行の催告や委託者に対する通知等の手続を経た上で信託を終了させる権限を受託者に与えるものでございます。

受託者が費用の補償を受けられない場合においても信託事務を継続して行わなければならないとするのは酷であることから,受託者に対して,このような慎重な手続的要件のもとに信託を終了させる権限を付与することとしたわけでございます。

  なお,ここで委託者に対する通知を要求しておりますのは,信託が終了いたしますと信託設定者である委託者の意図が実現しないことになりますので,信託の終了を回避するための手段をとる機会を委託者にも付与することが適当であると考えられるためでございます。例えば,通知を受けた委託者としては,金銭を追加信託することによって,あるいは信託財産の処分制限を一部解除することによって受託者の補償請求権を満足させ,信託の終了を回避することができることになると思われるわけでございます。
  なお,このように受託者に信託の終了権限を認めることにつきましては,94ページの(注2)に記載してございますが,受託者に信託終了の権限を付与するまでもなく,例えば信託財産の売却もできず,費用の回収もできないのであれば,目的達成不能という一般事由により信託が終了すると考えればよいのではないか,あるいは,信託を終了するまでもなく,受託者に辞任する権利を認めれば足りるのではないかといった指摘もあり得るところでございます。

もっとも,この考え方によりますと,前受託者としては,新受託者が見つからないのを待って目的達成不能として信託終了と判断するか,新受託者の選任を待った上でその所有下にある信託財産から補償を受けることになると解されるわけですが,新受託者が見つからないのをあえて待つというのも迂遠であります上に,たとえ新受託者が見つかったといたしましても,その選任に時間を要し,その間に信託財産の価値が目減りしてしまい,補償請求権の満足が一層難しくなるというおそれを指摘することができるかと思われるところでございます。

  なお,太字の3,4でございますけれども,これはいずれも公平の見地から,まず受託者が原状の回復又は損失のてん補義務を履行しない限り,補償請求権を行使できないこと,これは太字の4でございまして,現行法38条と同じでございます。

それから,その一方で,受託者としては,補償請求権が満足されるまでは受益者に対する信託財産の引渡拒絶権を有すること,これは太字の3でございまして,現行法に規定はなく,解釈上提唱されているにとどまるものでございますが,このような点を規律したものでございます。

  このテーマの最後,太字の5でございますが,これは,受託者が信託事務の処理をするために受けた損害についても,信託事務処理費用に関する規律と同様に,信託財産又は受益者からの補償を認めるものでございまして,この点においては現行法と同様でございます。

ただし,現行法は受託者が無過失の場合に限っているわけですが,それと異なりまして,公平の観点から,受託者に過失があった場合でも,過失相殺後の損害賠償額について受託者は補償を受けることができるとしております。ちなみに,委任に関する民法650条3項も受任者が無過失の場合に限っておりますが,それとは異なった規律をここでは提示しているということになるわけでございます。
  少々長くなりましたが,以上で補償請求権の説明を終わらせていただきます。


  続いて,95ページからの「第36 報酬請求権について」の説明に移らせていただきます。
  第36でございますけれども,ここで「報酬」と称するものでございますが,これは信託事務処理を行うことの対価としての報酬に関するものでございまして,受託者が一種の自己取引,双方代理として行った役務提供の報酬,例えば信託財産からの振込手数料の収受ですとか,信託財産たる不動産の売却に伴う媒介手数料の収受等に関するものではないということを念のために付言申し上げます。

  ところで,現行法は,35条におきまして,信託の引受けに関しまして無報酬を原則としつつ,一定の場合には報酬請求権を認めることとしておりまして,その上で,37条において,補償請求権の規律を報酬請求権にも準用しており,これによって報酬請求権は他の権利者に先立ちて行使できることになりますし,また,受益者に対する報酬請求権も原則として認められるということになります。これに対しましては,信託事務の遂行上当然に発生すべき費用に関する補償と,特約等により例外的にのみ成立する報酬とは明らかに性質が異なるにもかかわらず,両者の差異を無視して同一のルールによって律するのは,特に補償請求権に認められている手厚い保護を報酬請求権にまで認めるという点において行き過ぎではないかといった批判もあるところでございます。

  ここでは,このような現行の規律の一部明確化と大幅な修正を図ろうというものでございます。

  まず,太字の1でございますが,受託者が信託報酬を受けることができる場合に関する規律でございます。現行法の35条におきましては,信託の引受けを原則として無報酬としつつ,受託者が報酬請求権を有する旨の特約がある場合,それから受託者が営業として信託の引受けをする場合について,受託者に報酬請求権が認められることを明文で規律しております。


  そこで,まず,無報酬を原則とする規律を維持すべきか否かが問題となるわけですが,この点につきまして,英米の例を見ますと,英米の信託法の伝統的理論では,報酬の請求は受託者と信託財産との間の利益相反関係をもたらすことから,受託者無報酬の原則がとられ,例外的に信託契約で定められれば受託者は報酬を請求できるとされておりました。

しかし,最近では,例えば2000年に採択された米国統一信託法典によりますと,「信託条項が受託者の報酬について特に定めていない場合,受託者は当該状況のもとで合理的と考えられる報酬を得る権利を有する」として,原則として受託者が合理的な報酬を得ることができることを明らかにしておりますし,また英国におきましても,2000年受託者法では,職業的専門家としての受託者は特約がなくても相当な報酬を信託財産から受け取ることができるようになり,有償原則に変わりつつあるところでございます。

しかしながら,我が国におきましては,委任が原則として無償とされていることとの整合性の観点から,信託も原則として無償とするとの規律を維持することとしているわけでございます。


  その上で,現行法が明文で認めております,特約のある場合,あるいは営業として信託の引受けをする場合に加えまして,③といたしまして,受託者が商人であって,その営業の範囲内において信託を引き受ける場合,すなわち商法512条に当たる場合についても,これまでの解釈に従いまして,報酬請求権を有する旨を明記することといたしました。

  なお,信託行為に報酬を支払う旨の定めまではあるものの,報酬の額や計算方法についての定めがない場合,あるいは,そもそも信託行為に定めがないにもかかわらず報酬を受けることができるというような,提案の②,③の場合につきましては,新受託者の報酬請求権に関する現行法49条4項及び8条3項,あるいは商人の報酬請求権に関する商法512条に従いまして,相当な額の報酬を請求できることを明らかにしております。

  続いて,太字の2でございますが,これは,報酬請求権の引当て及び他の債権者との関係という2点におきまして,現行法とも,先ほどの補償請求権の規律とも異なる,新たな規律内容を提示するものでございます。

  第1点は,受託者が報酬請求権を有する場合におきまして,支払義務者に関する別段の定めがない限り,信託財産をもって原資とすることとした点でございます。すなわち,先ほど述べました費用償還請求権の場合には,両案並記としておりましたが,これと異なりまして,ここでは,信託財産から満足を得られない場合においても原則として受益者に対しては報酬請求ができないとして,先ほどの乙案に相当するものをとっているわけでございます。

これは,費用や損害につきましては,受託者として必ずしも予見できず,又は制御できない種類のものもあることにかんがみますと,信託財産のみにはおさまらないリスクを受託者に負わすのは不公平である,したがって受益者に負わすべきであるという考え方,これは甲案に相当するわけですが,これをとるということも考えられるのでありますが,報酬につきましては,受託者において請求権の存在やその額をコントロールすることが可能であることに照らしますと,信託行為に受益者を報酬支払義務者とする旨の定めをあえて置いていない受託者の保護を図るまでの必要性はないと考えられるからでございます。もとより,報酬の支払義務者につき,特約をもって委託者や受益者を支払義務者として定めることは可能であると考えられます。

  なお,このように受託者が報酬を信託財産から受け取るということになりますと,忠実義務との抵触が問題になるわけでございますが,ここでの報酬請求権の規律は,忠実義務の例外を定めた特則と位置づけるものでございます。

  続きまして,第2点でございますが,報酬請求権については,他の債権者に対する優先権を付与することとはしない点でございます。名目的には報酬とされておりますが,その実質は,必要費又は有益費に相当するもの,例えば信託財産維持管理費用というようなものであれば別といたしまして,純粋な利潤部分につきましては,受託者にとっても通常の営業上の利益にすぎないのでありまして,一般債権と同視するのが相当だと考えられるからでございます。

  続きまして,太字の2の(2),(3),それからアステリスクの2のところでございますが,これは,受託者の費用償還請求権に関する規律のうち,まず1点目としまして,信託財産に対する請求権があるということ。ただし優先権に関する規律は除きます。

2点目といたしまして,受託者が報酬の支払いを受けられない場合における,一定の手続を経た上での信託終了権限があるということ。

3点目といたしまして,受託者が報酬を受けるより前に,まずは自らの原状回復義務等を履行すべきこと。

4点目といたしまして,受託者の請求権が満足されるまでは受益者に対する信託財産の引渡しを拒絶できること。このような各規律を準用するものでございまして,その内容は,先ほど補償請求権のところで述べたとおりでございます。

  最後に,太字の3でございますが,これは,報酬の支払時期及び信託が中途で終了した場合の割合報酬の請求権について現行法には規定がございませんので,信託行為に定めのない限り,委任における受任者の報酬請求権に関する民法648条2項,3項と同趣旨の規律を設けようとするものでございます。

  ただし,報告書と若干違う考えもございまして,例えば,3の(1)におきましては,「信託報酬の支払時期に関する定めがないときは信託の終了後」とありますが,これは,「受託者の任務終了後」というふうにするのもあり得るかなと思いますし,それから,(2)におきまして,「信託が……履行の中途で終了」とあるのは,「受託者の任務が履行の中途で終了」ということでもいいのかなという気がしているところでございますが,こういう内容を定めたものが太字の3というところでございます。

  長々説明いたしましたが,以上で終わります。


● それでは,今の第35と第36の補償請求権と報酬請求権についてですが,この部分に関しまして御議論をお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。


● 実務家の立場からお話し申し上げたいと思います。
  まず,36番の報酬請求権の1に関することでございますけれども,この報酬請求権の現行法からの対比として減縮ということになるわけですけれども,これは従来から立法論として議論があったところは承知しておりますけれども,ただ,受託者を行っていた者の立場からすると,既得権が減るということがございますので,そういうエゴイスティックな考えからすると,ちょっと慎重に御配慮されたいというのはあるわけです。

他方,やはり,例えば私どもは銀行でございますが,銀行の場合は債権者という立場もございますので,その投資物件に関する受益権の価値の減縮ということもあるわけですから,それのバランスが大切だというふうに思っております。


  そこで,具体的にそのバランスを考える際に,一つ確認というか,問題提起をしたいところでございますけれども,先ほど○○幹事からも懸念ということで御説明があったのですけれども,この報告書の91ページにございます信託財産に属する借入債務の弁済費用ということでございますけれども,この弁済費用というのは,単なる利息とかそういうことではなく,信託財産が借り入れた債務そのものを元本・利息も含めて固有財産から支弁するということを想定しているというふうに理解しておりますけれども,こうした場合について,従前であれば,スーパーシニアということで固有財産としても回収の確実性が高かったということが,今回の場合は,代位権ということは維持されるわけですけれども,優先権ということについてはないというふうに理解しております。

  これが立法論として正しいかということなのでございますけれども,これは先ほど○○幹事のお話にもあったわけなのですが,次の二つの理由からどうなのかというふうに思うわけです。


  一つは,やはり必要性として,信託財産,特に不動産信託とか,十分なキャッシュが信託財産にない場合において,実際に費用等が発生したときに,信託財産を担保等,まあ引当て財産にしても借り入れて,それで支弁するということもあり得ると思うのですが,そうしたときに,例えば,期日に返せないといったときに,だれからもなかなか至急な回収ができないときに固有財産から支弁をするということは実務上はあり得る話だと思いますし,それはひいては受益者にとっても有益ないし必要だというふうに思っているわけですが,そうしたものはやはり共益的なものだというふうに経済実態上は思っておりますので,そうしたこと自体も優先権を認められないというのはいかがなものかというふうに思っております。

  二つ目に,取引行為が違った場合,経済実態が同じであっても優先権が違うのかという話なのですけれども,例えば先ほどの例で優先権が主張できなかったのは,たまたま信託財産を引当てに借入れを行ったということであったわけですが,では直接固有財産から支弁したという場合には優先権が主張できると。

とりあえずどの勘定で資金を出したかということが違うだけであって,経済実態的にはそれほど変わらないというふうには思っているわけなのですが,そうした場合でも優先権が違うというのはどうなのかというふうに思っております。

  そういうことで,これは有益費とか必要費の定義の問題なのかもしれませんけれども,かかる優先権を減縮するということの方向性でございますので,その点については慎重に御検討いただければというふうに思っております。

● いかがですか,○○幹事,この段階で何かございますか。

● 2点目で御指摘のあった,経済実態が異ならないかという点でございますけれども,恐らく,一般の借入れをして,そのうちの費用を必要費に充てたという場合でございますが,そうすると確かに,何もなくて受託者が必要費を拠出した場合には優先権があるのに,一般債権として借り入れた資金をもって充てた場合には優先権がないというのはバランスを失するというのは,おっしゃるとおりかと思います。
  その点につきましてはまだ綿密な検討をしたわけではございませんが,例えば100万円のうち50万円を必要費で充てていれば,その部分は優先権がある,それ以外の部分については一般債権ですから優先権がないという規律をとるということも考えられるかと思っております。

  あと,先ほどは申しませんでしたが,我々の提案ですと,前回申しましたように,有限責任債権にするという方法もあるので,受託者が有限責任にする方法もあるのにあえて無限責任で債務を負っていると。それによって,例えば期限が来ているので請求されて,払わざるを得なくなったという事態になるわけですが,自ら回避する手だてもあるのに,それをとらなかった以上は,そういう不利益を甘受するのもやむを得ないのではないかという考え方もあり得るかなという気はいたしています。

ちょっと受託者に厳しいかもしれませんが,一つの考え方としてそのような見解もあり得ると考えています。


● 繰り返しの確認ですが,ここで「費用」というのは,利息だけにはとどまらないということですか。例えば,利息が余りに高かったものを,その利息分については優先権が否定されるとか,そういう話ではなく,正しく元本・利息も含めてという話でございますか。

● はい,全部でございます。

● 第1点の方ですけれども,どういう場合かという,実際の場合はなかなか難しいのですけれども,本当に共益的な理由でもって借り入れて,信託全体のために共益的に使ったという場合には,それは共益的な債権になる可能性はあるわけですね。

  それから,さっき例を挙げた,担保して借り入れたという場合であれば,その担保権も代位の対象になりますから,そういう意味では優先権がその担保の範囲内では生じるということにはなります。ですから,それ以外は普通の借入れの扱いになってしまうということですね。


● 補償請求権と報酬請求権の総論的なところの印象と,それから各論にわたって御意見を述べさせていただきたいと思います。

  まず,総論的なところですけれども,これは皆さん御承知のとおり,現行法36条,37条というところからの比較からしますと,信託財産に対しては,いずれの請求権についても最優先だったということ,受益者に対してもかかっていくことができたということ,そういうところから,一部信託財産について優先権は認められているものの,非常に後退した,受託者の側からすると請求権として非常に減縮されたような格好になってしまった,非常に厳しい規律になったなというのが,まず第一の印象でございます。

  各論の方に移りますと,まず,補償請求権の方の,信託財産から補償を受ける権利のところでございますが,私どもの業界の方でも議論をしておりまして,ここは若干分かれている部分もありまして,基本的には報告書案に賛成して,要するに,報告書案の中で,例えば必要費と有益費については優先されているということと,債務の弁済をしたときにはその債権に代位することができるということ,それとあとは,補償請求して,それを受けることができなければ終了することができるという規律が入ったと,こういうものが維持できれば,そこについては,まあこういう規律でもいいんじゃないかという意見もございます。

ここの意見につきましては非常に少数意見でございまして,これは私の意見でもあるのですけれども,ここの部分については,実務的な感覚からすると,やはり債務がどんどん膨らんでいってどうしようもない状況になる前に,受益者の方と相談して,基本的には終了してしまうんですよということを言いながら,早目に終わらせる,泥沼に入らないような状態で終わらせるというようなこともあるのかなと思って,そういうことが維持できるのであれば,この規律もいいなという意見もございますが,大勢は,やはり現行法の規律を維持していただいて,最優先の扱いを行っていただきたいということです。

  理由につきましては,先ほど○○幹事の方からも御説明がありましたとおり,実際に信託処理として債務負担をしようとしたときに,やはり最優先でなければどうしても逡巡してしまうということがあるのと,あとは,これが本当に有益費なのだろうか,必要費なのだろうかと,そこがはっきり分からないという部分もありますので,そういう意味合いからも,やはり思い切ったところの債務負担というのができないと。それがひいては信託目的の遂行に悪い影響を与えるのではないかということ。

  それと,あと,キャッシュが不足しているような場合については,やはり受託者が立替えするというのが非常に自然な形でして,無理に信託財産を売却したり,ほかのところから借入れをするとか,そういうよりも,やはり受託者が立て替えてやっていくというのがどうも自然なような気がいたします。

そこら辺のところで,簡便でもありますし,信託目的の達生の観点から,そちらの方がいいのではないかという意見が大勢を占めております。

  それと,受益者から補償を受けるところの権利につきましては,現在の信託につきましては,ほとんどが取引,ディールに係るものでございますので,やはり取引の相手方との関係からいたしますと,利益を受ける者が損失も負担すると,そこがやはり何となく,原則的にはそもそも論としてそういうところではないかなというふうに考えております。

もちろん,ギフト的な信託もございますし,それについては信託契約によってそれなりの規定を設ける必要もあると思いますけれども。それとあと,他益信託の場合は受益権の放棄をするというような方法も一応考えられるところでありますので,基本的には受益者から補償を受けるというのがデフォルトという形にしていただきたいということで,この案でいくと甲案でございますが,ということを希望しております。

  あと,理由としては,反対側の理由,乙案の方の採用する理由の中に,受託者が信託をコントロールしていて,当然コスト管理もやるべきだと,そういう注意義務が課せられているというようなお話があったと思います。

確かにそういうところはあると思いますが,信託というのは,当然いろいろな種類の信託がございますので,○○幹事の方からもお話がありましたけれども,例えば土地信託であれば,逐次,受益者の意見を聞きながら,いわば指図を受けながらやっているという部分がございます。

それと,特定金銭信託等につきましては,受益者からの指図そのものを受けて受託者は動いていくということですので,正にコントロールは受益者がしていると。

そういう種類の信託もあるということと,あとは,すべての信託に共通して同じですけれども,やはり工作物責任とか所有者責任にかかわるものですね,そういうものについての負担というのはそもそもどこがするのだろうかという観点からいきますと,やはりこれは受託者がコントロールできるわけでもありませんので,こちらについては受益者の方に,これもデフォルトということでございますけれども,負担していただくのが相当なのではないかなと思っています。


  続きまして,報酬請求権の方なのですけれども,これも報告書の中にも出ておりますけれども,皆様方に特に知っていただきたいのは,信託銀行が報酬として取っているもののうち,大半なのかどうかよく分かりませんけれども,やはり費用にかかるものが非常に多いということでして,そういう観点から36条,37条横並びの格好で,同じような形で規律されている,それに非常になじんできておりますので,それが報酬請求権と補償請求権というのが違う規模になるというのに非常に違和感を持っております。

純粋な利潤だけのことで考えますと,おっしゃるとおりかなというふうな気がしますけれども,それでは,それを区分して,分離して考えることができるのかというと,非常に現実的な問題で考えますと,それを分離して,ここの部分はこうですよ,ここの部分はこうですよというのは,そこは非常に難しい問題でしょうし,実務的に考えると混乱が生じる部分でもあると思いますので,そこは費用として見ていただいて,要するに共益費的なものだというような位置づけで見ておりますので,そこの部分についても補償請求権とパラレルな形でお願いしたいと思っております。


● 補償請求権及び信託財産における借入債務の負担について,現実を踏まえてコメントさせていただきたいと思います。

  信託財産の価額に比べて比較的借入れの金額が大きい事例としましては,伝統的には土地信託,土地を信託銀行に信託しまして,その土地の上に建物を建てるために借入れを行って資金調達するといったものがあるかと思うのですが,最近非常に多く見られる事例,約3年半前からかなり出現してきた事例として,アセット・バックト・ローンと呼ばれるものがございます。

これは,委託者が持っています何らかの金銭債権,実例としてはリース債権の場合が多いのですけれども,これを信託財産として信託を設定いたしまして,受託者が信託財産を引当てにローンを借り入れると。

それで,ローンを出す方は,要は資金運用する投資家なわけですけれども,その仕組みにおいて,投資家の需要にこたえるために,ローンを出したい人はローンを出すと。それで,受益権を買いたい人には受益権を分割して売却するというような仕組みが実際に行われております。

  例えば,100億円のリース債権を信託財産として信託を設定しますと,その100億円の信託受益権が発生するわけですけれども,50億円分については投資家Aが融資,貸付けという形で投資したいということで,50億円貸し付けます。

そうすると何が起きるかというと,信託受益権のうち50億円は償還されてしまいますと。

それで,残る50億円のうち,例えば優先・劣後に分けて30億円・20億円に分けて,30億円分は委託者が別の投資家に売りますと。

別の投資家Bは,貸付けという形ではなくて,信託受益権の購入という形で投資したいと。

それで,AもBも同じリスク・リターン,同じものを求めたいといった場合に,信託財産から見れば,借入債務に対する弁済も受益権を優先・劣後に分けましたけれども,優先受益権の償還,言いかえれば借入金に対する利払い・元本返済,優先受益権の配当支払い償還を同順位にしたいという要望が強くございます。

  ところが,現状では,その信託財産を引当てに借入れを行う根拠として信託法36条が根拠として考えられていることから,いくら信託契約及び金銭消費貸借契約に借入金の返済と優先受益権の償還は同順位ですとしていたとしても,現行の36条に「先チテ」というようなことがありますから,債権者の方が実は優先するのではないかというような議論が一部になされていまして,そういった懸念を払拭できれば,すなわち,ローンに対する弁済と,受益権を優先・劣後に分けたその優先受益権の償還を同順位にすることができれば,資産流動化の観点からは非常に有り難いなというような気がいたします。


● ちょっと具体的な設定は必ずしも私十分理解していませんけれども,片やローンであって,片や受益権でやった場合には,原則としてまずローンが返済されるわけですね。受益権というのは,いわばローンが返済された残りの財産の中から受益権というのが……。


● 現実には同時に償還していきます。

● そういうふうにしたいというわけですね。

● はい,そうです。受益権は優先・劣後に分けて,優先受益権を保有している投資家にとっての経済的なリスク・リターンをローンを出している別の投資家と同等にしたいと,それが本来の意図ですね。

● これは信託のかなり根本的な構造そのものにかかわるので,36条の問題というよりは--まあ,36条というのは,受託者が一遍立てかえた場合に,後どうなるかという話なので。今の話ですと,受託者が立てかえる以前の問題として,一方でローンがあって,一方で受益権が発行されていて受益者がいると。それをいわば対等に,信託財産を使って弁済したいと,そういう話ですよね。


● そうです。

● 分かりました。
  すぐにそういう結論が信託の構造から出てくるのかどうかはかなり難しい点もあると思いますけれども,御議論いただければと思いますが。

● 私の方は,今まで発言された方のように現実を踏まえずに意見を申し上げたいと思います。

  まず結論から言うと,この第35と第36の補償請求権,報酬請求権については,今,二つ問題になっていますね。受託者対受益者という話と,受託者対債権者という話ですが,とりあえず私の論点は,前者の受託者対受益者という,受益者から補償を受ける権利というところだけに絞って申し上げますけれども,やはり現行法を改正して,報酬請求権のみならず,補償請求権のところでも原則は補償請求権というのはないのだと,信託財産ではなくて受益者に対してという意味ですけれども,そういうものをやはり明らかにする必要があるのだろうと思うのです。
  それで,以下,少し総論的な話なのですが,というのは,今日はまだこれは総論的な検討という話になっていますよね。私は,総論的な検討というのは,もっと茫漠とした議論があるのかと思ったのですね。

80年たって,我々,一体,今,信託というのをどう考えているのだというような話,余り哲学っぽいところまで行かなくてもいいのですけれども,今度の信託法改正の意義というのは何なんだろうというところから話が始まるかと思ったら,何というのか,こういうやり方が一つあるんだなということだけは分かったのですが,そのうちに何か見えてくるだろうということなんですね。

これ全部がまとまって,だれかが説明せざるを得ないと思うのですけれども,今度の信託法改正の骨子というのはこれですよという話が出てくるはずなのですが,諮問のところを見ても,キーワードは「現代化」なのですけれども,現代化というのは本当は何の意味もない言葉なので,どういう内容の現代化なのかという話が見えてこないと,やはり方向性が定まらなくて,個別の論点について,各業界を代表している人は,やむを得ずか,あるいは喜んでか,まあどちらでもいいのですけれども,それぞれの利益を代表して,その調整のようなことをここでただ一つ一つやっていて,何らかの調和が出てきて,そうすると,全体としては色は全然明確にならない,これはこうだけれども,違うところは別だという話にならざるを得ないような気がするのです。

  これは私だけが思っているのではないと思うのですけれども,今まで,信託法について,○○委員を始めとしていろいろな方が書かれてきて,その中で,やはり今の信託法についていろいろ問題があるという指摘があって,今日こういう日を迎えているわけです。

  その第1点は,これは諮問事項をただ私の言葉で言いかえているだけですけれども,今の信託法というのは本当に私法なんだろうかというそもそもの疑問がある。非常に規制色が強くて,強行規定である必要がないところまで強行規定,あるいは,条文では別段の定めというような話があっても,実際には信託業界としてはこういうことを別段の定めを置きたいと思っても置けないような現実があって,やはり信託法というのは私法であると。

私法というのは,私人間の取引を,あるいは私人間の仕組みというのを,ここにおられる方には全部釈迦に説法みたいな話ですけれども,やはり任意法規を基本にしておいて,やむにやまれない場合だけとにかく強行法規を入れておこうという,そういう仕組みを作るのだという私法,一般法としての信託法というのをもう一回考え直してみようというか,そこへ戻るというのが第1点なのかと思っているのですね。その方向性はいろいろなところで出ていると思いますけれども,もっと自覚的にやってみたらいいと思うのです。


  二つ目が,現代化して何のためかというと,やはり信託を今後とも一層活用していこう,いろいろなところで使おうということだと思うのですけれども,面白い仕組みでもあるし,便利な仕組みでもあると。

そのためには,やはり信託というのはどういうところから出てきたかというところに思いを致せば,だれのための信託かというと,受益者のための信託なのですが,現行の信託法というのは受託者のための信託なんだろうか,あるいは債権者のための信託なんだろうかと思わせるようなところがあるのです。

最たるものがこの受益者からの補償請求権であって,これはやはり英米の信託だけが--一概に信託といえば全部英米の信託だと思わなくてもいいとは思うのですけれども,今年の信託法学会でも,アメリカの専門家はこの36条のこういう内容を見て,「shocking」とか「amazing」という言葉を使うわけです。

日本は独自のものですと。我々は独自の信託で,信託とかトラストといっても,全然中身は違うんですという話で居直る手もあるのですけれども,本当にそれでいいんだろうかという感じがやはりするのですね。だから,受益者のためのということでないと,委託者及び受益者というのは結局このスキームに入ってこれないわけですから,だから,それはむしろ,やはり受託者であるところの関係者の人も,もっと長期的な利益を考えることがむしろ受託者のためにもなるというふうに考えてくだされば有り難い。

  三つ目は,そうは言っても,日本の信託の場合はいわゆる商事信託が主流であって,信託銀行等が一生懸命努力して広げてこられたわけなので,そういう現実を全然無視するわけにもいかない。

それに伴って大きな問題点というか,日本の信託法とのギャップというのが出てきているわけで,それが,例えばこの諮問事項で言えば受益権の有価証券化というような話は普通の民事信託では出てこない話ですから,だから,やはりそういうことかと思うのですが,それとの折り合いというのは,まあ最低限度のところで……。私が考えれば,やはり受益者が多数に上るようなところの利害関係というのを。英米の普通の信託法ではそんな話が出てきませんので。ただ,日本ではこういうことですよというので,それはやはりやったらいいかなと。

  それから,受益権の証券化とか流動化とかそういうものを入れるというのは,それは日本の現実を反映していて,しかも信託の本質とも抵触しないというのですか,そういうものもあるねという話になるのかなと思っているのですが,この部分については,今までの現行法がこうだったからというのは本当はよく分かるのですが,既得権ですから。

しかし,やはり80年たって思いを致して,どうなんだろうかというふうに考え直していただけると,私としては有り難いというか,私はそういう考えであります。

● ほかに御意見ございますでしょうか

● 今の○○委員に対して,実務家の立場からコメントしたいと思います。

  誠にもっともなことでございまして,どういう方向でいくのか,この法律がどういう理念であるのかということをまず確認する作業というのがいずれかのところで必要だと思っております。

  ただ,私が従前お話ししていたのは,基本的にはその理念がある程度任意化であるとかそういうのも賛成できるものとして,それを前提としてもうちょっと細かい話を申し上げた次第でございますけれども,そこでちょっと2点ほどコメントがございます。

  1点は,これは別に苦言を申し上げるとかそういう話では全然ないわけなのですけれども,私ども実務家からすると,この報告書をベースとした議論をしているということでございますけれども,この報告書自身は,少なくとも私は積極的に参加できる立場がなかったわけでございますけれども,そういう意味で,ある程度,今が実務家としての意見を主張できるチャンスなのかなと。

今までは,学者の先生方も実務のニーズを念頭に置きつつお話しされていると思いますし,また,このメンバーの構成から見ても,昨今の流動化ということを非常に重く見てこのようなメンバーにしているというふうには思っておりますけれども,ただ,実際こういう場で実務家として発言できる場はこれが初めてだというふうに私は認識していますので,むしろそういう場で,こういう実務があるんだよということを御認識いただいた上で初めて実務と理論が合わさって,よりよい理念が出てくるのかなというふうに思っています。

  二つ目に,先ほど,受託者のためになるのか受益者のためになるのか,既得権がどうかという,そういう議論,これも論点として非常に大事な話だし,私としても認識しなければならないと思うのですけれども,その点で一つ,私の私見ですけれども,これは鶏が先か卵が先かという話なのですが,受託者の立場からすると,受託者というのは,おごった言い方かもしれませんが,いわば信託のインフラを提供している場でございますので,そこの配慮というのはそれなりにしていただくのが有り難いというふうに思っておりまして,その点,ある意味ではいろいろな考え方があると思います。

会社における取締役の考え方,また破産における管財人の在り方と,いろいろあると思うのですけれども,そこにおける今回の報酬請求権ということもあるわけなのですけれども,共益的なものとして処遇されるのか,債権者よりも劣後するような報酬請求権としてみなすのか,いろいろな考え方があると思いますけれども,そういった議論の中で,一つの考え方としては,やはり受託者はインフラであるということも一つあるのではないかなというふうに思っております。


● 一,二,実務的な御指摘をいただいたものですから,感想と若干の意見を申させていただきたいのですけれども。
  
私も実務はよく知らないので余り言えないのですけれども,一つは○○委員がおっしゃった話で,先ほど○○委員も御指摘になりましたが,それは別に信託固有ではなくて,会社でも個人でもあるのですね。

デットとエクイティーという言葉を使わせていただくと,それでお金を出す,これは,サプライサイド側,すなわち機関投資家側にデットとか,つまり先ほどの話ではローンですとかボンドですとかそういう形でないと,運用規制がかかっていたり,税金上いろいろな理由がありまして,やはりローンで持ちたいという投資家と,先ほどので言うと受益権で持ちたいという,こういういろいろな投資家がいるけれども,同順位にしたいというニーズがある。

これは,私の理解では,現行法で幾らでもいろいろなやり方があって,既に株式会社とか銀行で行われた例で言いますと,社債なのかローンなのかはともかく,劣後ローンとか劣後債という形をとりながら,法律家は当時,「超劣後」と呼んでいたのですけれども,優先株と同順位まで下げると。

これは要するに,債権者の方に,債権に,あるいは債務にですけれども,条件をつける。そういう例が既にあります。ですから,私の理解では,現行法のもとでも幾らでもやる方法があると。

その話は,○○委員がおっしゃったように,36条とは直接は関係ない。36条を払った場合にどうなるかという話ですので,間接的には影響しますけれども。そういう問題だと思います。


  ただ,○○委員が御指摘のような問題は,ストラクチャリングというか,仕組んでいく上でそういう実務の問題があることは全くそのとおりだと思いますけれども,それは信託の場合以外の場合でも既に前例がありますし,いろいろな工夫の仕方が現行法上あって,かつ,36条を議論する上では間接的な論点だというふうに私は理解しています。

  ついでにもう1点,余計な感想ですけれども,今,○○委員がおっしゃったことに関連して。私も実務のニーズはよく分かっていないと思うのですけれども,流動化ということをおっしゃったものですから。

  たまたま資産流動化法を作るときは,実務の方とも御相談した上で,36条はやはり適さないと。だから,先ほど○○幹事から御説明がありましたけれども,もう全部外すという立法をしたのですね。

  その理由は,大きく言うと二つありまして,一つは,すべて○○幹事から御説明があったことですけれども,本来は流動化だけでなくて投資信託もそうだと思うのですが,多数の投資家からお金を集めましたと。

払っていただいた以上にまた払ってくださいと,この可能性があるのでは,もう圧倒的に会社型の投資信託とか会社型の流動化に比べて不利ですよね,仕組みが。

いわゆる投資家の有限責任という話なのですけれども。したがって,それは最低限確保する必要があるでしょうと。少なくとも資産流動化法に基づくスキームについては,たしか当時は入れなかったわけですけれども,その法律自体を議論していたわけですから。


  しかし,もう一つ,やはり今日問題になっています,払った場合の優先という問題もありまして,時間の関係で途中は省略しますけれども,あれは金融審議会で議論しましたけれども,私の理解では,実務の方の意見も十分伺った上で,36条は適切でない,特に流動化のような仕組みについては適切でないという判断をした。

もちろん,その点について異論の余地はあるかもしれません,抽象的に言えば。でも,そういう歴史があったということも一つあります。

  それで,今日の話なのですけれども,私もややショックだった面は,先ほど○○委員もおっしゃったことですけれども,どうも実務界から違和感があるというふうに言われますと,うーん,そうかなと思ったりするのですけれども。

私の理解は,一つには,補償の方については今まで余り問題になったケースはないのではないかと思うのですけれども。
今まで,取り合いになって,受託者が,やっぱり「先チテ」でああよかったと思ったケースがあるのかないのか,できれば教えていただければという感じがします。

  報酬についても,実際問題として補償と一体に運営されているというのは,確かに現行法はそうですから,御指摘のとおりだと思うのですけれども,この点も,私の理解では,経済実質はともかく,報酬と補償とは経理は別のものですから,そこらあたりが実際にこれまで実務でいわばぎりぎり助かったというか,助からないというか,本当にぎりぎりの局面で,優先がどうなったとか,あるいは報酬と補償が違ったら困ったとかいう局面があったのかどうか。

私は,これまで余り例はないと思うのですね。したがって,○○委員がおっしゃるように,今後信託が使われていく中で,しかし今後はひょっとするとファンドでデリバティブに投資して失敗することもあると。

こうなると,受益者との関係でこれは有限責任かどうかというのが問題になるでしょうし,あるいは何かで受託者が払って補償する。

やはり,「先チテ」か何かで取り合いになるというのは,信託が広く使われていけば出てくるのではないか。

そうだとすると,これまでは使われていなかった規定なので,どっちだからよかったということではなくて,しかし今後どっちかには決めなければいけないと,そういう感じでゼロから考えますと,私もというのか,一般的な考え方としては,私は,○○委員のおっしゃったような考え方の方がすぐれているのではないかと。まあ,デフォルト・ルールの話ではありますけれども。すなわち,受益者との関係で言えば,受益者は原則有限責任というか。それから,もちろん土地信託なんかの場合は当事者で決めればいいことだと思います。


  最後ですけれども,優先権について,考え方なのですが,ここには「必要費」とか「有益費」と書いてあるのですけれども,まず基本,なぜ優先するかということが非常に難しい問題で,次に,仮に必要費・有益費についても,なぜそれについては優先して,それ以外は優先しないのかというのは,やはり考え方は明らかにしておく必要があると思います。

  私の理解は,それは結局,受託者が支弁することによって信託財産の価値が高まれば,これは他の債権者にとってもプラスなはずなんです,少なくとも理論的には。ですから,高まるものであれば,それはその限りで優先権を認めてもいいでしょうと。

  ただ,こういう抽象的な言い方をすると,そのための線の引き方はいろいろあるのですけれども,およそ受託者がやることというのは信託財産の価値を高めているのだと,したがって優先すべきだと,現行法を説明するとそういうことだと思うのですけれども,必要費・有益費というふうに切っているということは,そういうものについては少なくとも今申し上げたようなことが言えるでしょうということではないかと思うのですけれども。

そこの線引きは具体的には非常に難しいと言わざるを得ないと思いますけれども,果たして必要費がいいのか有益費がいいのか,よく分かりませんけれども,今後のことを考えますと,やはり何らか,今ここで原案が提案しているような線引きというものがあった方が--共益性とかいうことを言いますと,だれにとっても言えるはずなんですね。


保証人が払ったって,やはりそれは債務をなくしたので共益的なんだと,代位しただけでは足りないので「先チテ」の優先権をくれという話になってしまいますので,どういう形での線引きなり限定がいいのかは直ちには私も分かりませんけれども,何らかのロジックがある以上は何らかの線引きなり限定--限定という言葉がいいかどうかは分かりませんけれども,範囲というのでしょうか,そういうものがある方が,考え方からしても自然なように思います。

● 2点ありまして,一般的なことと,それから確認です。

  一般的なことというのは,今の議論でも出てきておりますように,幾つかの理念というか,考え方の調和が必要だと思うのですけれども,その際に,今回のスキームが全体としてどのあたりに落ち着くのかということが重要だと思うのです。

例えば今回の件につきましても,これは当然,受益権の放棄との関連もありますし,それから受益権の譲渡の場合にどうなるのか,それから受益証券が発行されているときにはどうなるのかということを全体として考えて,そこで調和を図っていくということが必要かと思います。

今,○○委員がおっしゃった受益証券については166ページに今後の検討課題として出ている。

これをトータルで考えませんと,一つ一つのところで,多数決といいますか,決めていくと,全体としてはちょっとバランスが悪くなるかもしれない。

そういうわけで,今回は総論的なことですけれども,各論をやる際にも,できるだけ横の関係も見ていきたいなというふうに思っております。これが1点です。
  もう1点は個別的なことなのですが,補償請求権の優先性ということについて,代位の構成をとるということと,それから補償請求権について優先性が認められるものがあるという,この二本立てになっているかと思います。

その両者の関係を確認しておきたいのですが,代位の構成をとる場合には,代位する債権と,代位によって担保される求償権との二層構造になっていて,代位される債権に担保がついているときには,それも行使することができると,このように理解しております。

そうしますと,その求償債権自体に優先性が認められる場合があるのかないのか。さっきの○○委員のお話ですと,何かその場合もあるかのようにも聞こえたのですが,代位される債権に優先性がある場合,ない場合,それから求償債権に優先性がある場合,ない場合という組合せが合計4通り成り立ち得るのかどうかというのを整理する必要があるかなというふうに思いました。

● それは次回のラウンドでもうちょっと議論したいと思いますけれども。
  少し大きな観点からの御意見があれば。

● 先ほど○○委員の方から,実務上の問題があったのかというお話がありましたので,私どもは全部承知しているわけではありませんけれども,私の経験の中からいきますと,まず,信託財産からの優先の問題ですけれども,ほとんどが無限責任の借入れを行っておりますので,有限責任で取り合いになったような例というのはないと思います。

ですから,今後ということを前提にした議論ということでございます。

  もう1点は受益者との関係ですが,今現在,36条というのがありますが,36条1項,2項の問題ではなくて,3項の放棄との関係があって,放棄ができるのかできないのかという観点で,それは受益者との間で争いになったことというのはございます。

  私も,契約のところの書き方とかそういうので争いになったことがあるのですが,それよりも私どもの方が申し上げたいのは,やはりスタンス的なものでそもそもどうなのかという部分で,これが実務上の影響として一つ考えられるのは,要するに偶発債務的なものを負っていますけれども,そこは銀行ですから,今,引当てをしていかないといけないということになっているのですが,そのときに,信託財産だけをもって考えていくのか,それとも受益者の方の信用力も加えた形でその査定をしていくのかというところが違っておりまして,ここは非常に大きな問題で,多分BISの規制とかにもはね返ってくるようなお話になろうかと思います。

  ですから,一般的な,デフォルトの状態がどちらかというところで判断されてしまうような可能性がありますので,非常に厳密に言えば一つの契約を積算していくということですけれども,政策的に考えてこういうものはどうするんですかと言われたときには,一般的なデフォルトがどっちになっているかというのが割と大きな問題になりそうです。


● この受託者の受益者に対する補償請求権,あるいは信託財産の場合ですと優先性の範囲ですけれども,いずれも非常に重要な問題で,いずれまた詳しく検討したいと思いますけれども,先ほど○○委員が言われたように,この信託法自体が全体としてどういう考え方に基づくのか,それが非常に大きな問題ですし,○○委員が言われたように,横の連結というのでしょうか,これはいろいろな問題と関連して,直接は関係なさそうだけれども,例えば受託者の有限責任特約の問題とか,こういうのとも関係しますし,いずれ細かく検討していきたいと思っております。

  時間の関係もありまして,この点についてはこのぐらいでよろしいでしょうか。もし,是非ということがあれば,お聞きいたしますが,よろしいですか。
  それでは,次の問題の方に入っていきたいと思います。

● では,続きまして,まず,144ページからの,いわゆる受益者集会等に関する規律についての御説明をしたいと思います。

  御承知のとおり,一個の信託行為により複数の者が受益者として指定される場合や,一個の信託行為により発生した受益権がその後に分割されて複数の者に帰属する場合など,信託においては複数の者が受益者になることがございまして,特に信託銀行が受託者の信託では,受益者が極めて多数に上るものが多く見られるようでございます。

  しかるに,現行法は主として受益者が単数の信託を想定して制定されたと思われまして,特に複数の受益者を予定した規定というのは,32条に少しありますが,実質的にはないに等しいところでございます。

  しかしながら,実務界からは,受益者が多数に上る信託に対応した意思決定のルール等を定めるべきだという要望がございますので,ここでは,それを踏まえて規律の整理を試みたものでございます。

  まず,太字の1でございますが,これは,複数の受益者による意思決定について,信託行為に定めを置くことを条件として,受益者全員の合意にかえて多数決で行うことを認めるものでございます。

  受益者が有する信託法上の権利につきましては,151から153ページの別表にございますとおり極めて多数に上るわけでございますが,これを大別すれば,各受益者が単独で行使できるものと,全員の合意を要するものとに分けられることになります。

  このうち,特に受益者全員の合意を要するものが問題なわけでございますが,受益者複数の場合について,受益者間で意見対立ということがあるかと思います。

その場合に,受益者全員の合意を要する事項について,常にそれを全員の合意を要するとした場合には,複数の受益者による権利行使は事実上困難なものになりかねず,また,信託事務処理に当たっても,全員の合意を得ることができないばかりにタイムリーな運営の支障ともなりかねないと思われます。

  そこで,複数の受益者による合理的な権利行使の途を確保し,信託事務処理の円滑性を確保する観点から,(1)のとおり,あくまでも信託行為に定めを置くことを条件といたしまして,受益者全員の合意を要する事項について多数決で意思決定をするということを認めるものでございます。

  なお,受益者全員の合意を要する事項のうち,いかなる事項を多数決の対象事項とするかについても信託行為の定めにゆだねられるというふうに考えております。

  その上で,多数決による意思決定を認めた場合について,いかなる方法で多数決の決議を実施するかにつきましても,信託の特徴の一つである柔軟性を確保する観点から,各信託の設計すなわち信託行為の定めに委ねるものと考えておりまして,例示としては,受益者集会による方法,書面決議による方法なども挙げておりますが,その他にテレビ会議ですとか電話会議などの方法も考えられるところでございます。


  次に,太字の2でございますが,これは,受益者集会制度を創設した場合に関する原則的ルールを定めたものでございます。

今申しましたとおり,多数決制度をとるかどうか,多数決をとるとしていかなる方法をとるかというのは,すべて信託行為の定めにゆだねられるわけでして,受益者集会制度も一つのあり得べき選択肢にすぎないわけでございますが,ここでは,仮に受益者集会制度が採用された場合においては,透明性にすぐれ,合理的と思われます原則的なルールを明らかにすることといたしました。

もとより,御覧のとおり,(1)の招集ですとか,(2)の議決権の算定方法,(4)の費用負担のルールなどは,文言中に「信託行為に別段の定めがない限り」とありますとおり,いわゆるデフォルト・ルールにとどまるものでございまして,信託行為に定めがない場合のいわば標準的なセットを提供しようとするにとどまるものでございます。

  まず,2の(1)は,受益者集会の招集権限についての規定でございまして,受益者集会は必要があると認められる場合には随時招集されるということも明らかにしております。

  なお,商法の規定などを参考にいたしまして,受益者による集会招集請求権等の規律も整備する予定でございます。

  次に,太字の2(2)でございますが,これは,議決権の算定ルール及び受益者集会の決議方法について規律したものでございます。

特に,受益者集会の決議方法に関しましては,これも商法の規定などを参考にいたしまして,いわゆる普通決議と特別決議とを設けること,それから,その振分けにつきましても,先ほど申しました151ないし153ページの別表記載のとおり,信託の基礎的変更,すなわち,信託行為の変更,併合,分割,終了に関する承認については特別決議事項,それ以外については普通決議事項としております。

  もっとも,今言いましたとおり,あくまでもこれは標準的なデフォルト・ルールでございまして,信託行為によって特定の受益者に承認権限を与えることも可能であると解されるなど,信託の柔軟性にかんがみますと,これは145ページのアステリスクの5に記載しておりますけれども,特別決議と普通決議の振分けですとか,各決議の決議要件,定足数については信託行為で自由に定めることができ,その結果少数受益者が不利益を生ずることになれば,受益権取得請求権によって解決することが相当ではないかというのが基本的な考えでございます。

これは,例えば信託行為の変更を一人の受益者にゆだねるということも信託行為で定めればできてよいと考えますと,多数決の場合も,信託行為で定めれば,定足数や決議要件を自由に定めてもいいのではないかということでございます。

  もっとも,このような考え方に対しましては,145ページのアステリスクの5ですとか,149ページの(注3)に書いてございますけれども,受益者集会という合議体による意思決定手続を定める以上は,受益者保護の観点から,何でも信託行為で自由に定められるというのはおかしいと。

例えば,一人が出てきて,一人が賛成と言えば,それで決議が通るというのはおかしいと。やはり決議要件や定足数について一定の限界,強行規定を設けるべきではないかという考え方もあり得るところでございます。これはどちらがいいかというのはまた重要な一つの課題かと思っております。

  それから,太字の2(3)でございますけれども,これは,受益者集会の決議の効力については全受益者に及ぶことを明らかにしております。

  もっとも,信託においては種類が異なる受益権が設けられていることがあり得ますので,145ページのアステリスクの7に書いてございますとおり,受益者集会の決議が特定の種類の受益権を有する種類受益者に損害を与えるおそれがある場合には,受益者集会の決議の効力は種類受益者に及ばず,別途種類受益者集会のような規律を設けるべきであるとの考え方があり得るところでございます。
  しかしながら,信託におきましては,商法の種類株式と異なりまして極めて多様な内容の受益権の創設が可能でございますので,種類とは一体何か,種類受益者集会を開催すべき場合とはどのような場合なのかについてはなお検討したいというふうに示しているところでございます。

  最後に,太字の2(4)でございますけれども,これは,受益者集会の費用については,受益者集会が信託事務の円滑な処理にも資することにかんがみまして,原則として信託財産をもって負担するというふうにしたものでございます。

  以上,概略ですが,受益者集会制度についての説明をいたしました。

  続いて,少し飛びますが,報告書165ページ以下の受益権の有価証券化のところにつきまして,概略を御説明いたしたいと思います。

  現行法では受益権の有価証券化に関しては規定がありません。学説を見ますと,一定の限度のもとで受益権を記名証券又は無記名証券に表章できるという見解と,有価証券,特に無記名証券化のためには制定法や慣習法を必要とするという見解とがございまして,実務上は,特別法の定め,貸付信託法,投信法,資産流動化法にございますが,これがある場合を除いては受益権の有価証券化は行われていないと言われております。

しかし,受益権を有価証券化するニーズというのは特別法のある場合に限られないと言われておりまして,受益権の有価証券化を一般的に認める規律を信託法中に設けまして,受益権譲渡の手続の簡易化と効力の強化を図ることによって今後の信託の利用を促進することができると思われます。そういうことで,受益権の有価証券化に関する規律を設け,解釈上の争いを解決したいというふうに考えたものでございます。


  太字の1は,受益証券の発行に関するものでございますが,受益証券を発行するか否かは信託行為によって定めるべきものといたしました。これは,例えば資産流動化法におきましては受益証券の発行を義務づけておりますけれども,一般法たる信託法においては,受益証券の発行を常に義務づけるのは妥当ではなく,個々の信託の設計に委ねることとしたものでございます。

  続いて,太字の2以降の各論的事項の説明に移る前に,まず前提として,ここで予定している受益証券の性質について若干申し上げます。

  ここで想定しております受益証券というのは,権利の流通性を高めること,すなわち権利譲渡の手続の簡易化と権利譲渡の効力の強化を図るという目的から,いわゆる講学上の「無記名証券」としての性質を有するものとした上で,記名式と無記名式の双方を発行することを許容するものでございます。

無記名証券であります以上,記名式か無記名式かを問わず,無記名証券としての効力,すなわち権利譲渡の手続の簡易化という観点からは,譲渡の合意と証券占有のみをもって足り,民法467条の通知・承諾等の手続を経なくとも受託者及び第三者に対する対抗力が認められると。

また,権利譲渡の効力の強化という観点からは,いわゆる資格授与的効力が認められ,善意取得による保護も認められるということになります。

  なお,169ページの(注5)に記載してございますけれども,講学上の「記名証券」の発行も認める必要があるかということにつきましては,記名証券につきましては,対抗要件として民法467条の手続を必要とし,資格授与的効力や善意取得も認められないなど,有価証券化の目的にそぐわない面がございますので,にもかかわらず,あえて記名証券を認める必要があるかについては,実務上果たしてそこまでのニーズがあるかを踏まえつつ,慎重に考えたいと思っております。

  最後に,受益証券というのは,株式と同じくいわゆる有因証券でございまして,その受益証券の表章している受益権の内容は,証券上の記載ではなくて,あくまで信託行為によって定まることになります。

  以上を前提としまして,若干御説明をいたしますと,太字の2でございますが,これは,受益証券に記載すべき事項を法定するものでございまして,その中の③,④から明らかなとおり,受益証券については,記名式の株券に類似するものと,無記名式の無記名社債に類似するものとの双方を認めております。

  太字の3,4でございますが,無記名証券であるという性質から,権利譲渡には証券の交付を要すること,資格授与的効力,善意取得が認められることを記したものでございます。

  太字の5,6は,受益証券の譲渡の対抗要件と受益者名簿の作成に関するものでございます。
  先ほど申しましたとおり,無記名証券の対抗要件は,本来,証券の占有をもって足りるものでございまして,記名式,無記名式を問わず,債務者である受託者以外の第三者に対する対抗要件についてはこの原則に従っているというのが,6の(2)でございます。

  一方,受託者に対する対抗要件につきましては,記名式の受益証券の場合に限って,株主名簿における名義書換えを必要とする商法206条の規定と同様に,受益者名簿の作成を要求した上で,受益者名簿の記載をもって対抗要件とすることといたしました。

  ところで,無記名式の受益証券につきましては,これは5を御覧になっていただければ分かりますとおり,受益者名簿の作成は必要としないということになるわけですけれども,それは,貸付信託の受益権のように,実質的に見て金銭債権と類似し,反復的・継続的な権利行使は考え難いというタイプの受益権については,無記名社債の取扱いに準じ,受益者名簿の作成を要さず,対抗要件ともしないのが相当であると考えられるという点,あるいは,仮に無記名式の場合にも受益者名簿の作成が必要であるとすると,受託者に対する対抗要件も,券面の占有ではなくて,受益者名簿の記載ということになると思われますが,これでは記名式の場合との違いがほとんどなくなってしまうので,せっかく無記名式の受益証券を発行する以上は,多少の手間を省けるメリットもある方がよいのではないかという点などを考慮したことによるものでございます。

  もっとも,169ページの(注6)にございますとおり,無記名式の受益証券についても,特に受託者側から,だれが受益者かを確知する必要性などの観点から,受益者名簿の作成を義務づけた方がよいのではないかという考え方もあり得るということを付記させていただいているところでございます。

  最後に,太字の7は,受益証券の譲渡に伴う委託者の地位の承継でございまして,ここでは,原則として,受益証券を譲渡すれば委託者の地位も移転するとしております。

それは,法律関係の複雑化を回避する,すなわち受益権の譲渡によって委託者と受益者の地位が分かれ,関係者が増えるというような事態を回避したいという観点が含まれているものでございます。もっとも,委託者の地位を固定して,受益権のみを譲渡する,流通させるというタイプの信託もありますので,あくまで任意規定としているところでございます。

  なお,先ほどの,証券化の場合の補償請求権とか報酬請求権の規律との対比も必要だという観点から申しますと,これは報告書の166ページのアステリスクの1のところに書いてございますが,受益証券を発行する場合については,受益者に対する補償請求権及び報酬請求権を行使することができないという方向で検討しているところでございます。

その実質的な理由は,受益証券を譲り受けた者が債務を負担するというのは流通を図るという観点から好ましくないという点ですとか,理論的に申しますと,有価証券というのはあくまで券面の保有者の権利を表章するものであって,債務を表章するというのはおかしいのではないかというような点も踏まえまして,このような方向で検討してはいかがかということを付記させていただいております。

  以上で説明を終わらせていただきます。
● それでは,受益者多数の場合の意思決定の方法,第49と,今の証券化の第53ですが,これに関連して,いかがでしょうか。

● それでは,まず,受益者が複数の信託の意思決定方法について,2点述べさせていただきたいと思います。

  ここの部分の規律につきましては,以前から信託銀行として是非ともこういう規律を入れていただきたかったというところでございまして,受益者全員の合意にかえて多数決という形のものを採用していただけたと,それについては非常に歓迎しております。

なおかつ,本報告書の中の規律によりますと,信託契約で決議方法を自由に選択できるというところもありますので,弾力性に富んだ制度設計ができるのかなというところについても非常に歓迎しております。
  あと,ちょっとプラスアルファということを。

  こういう形で信託契約に書くことによってできるのであるとすれば,今,兼営法の5条ノ3で記載されております,みなし承認制度というふうに呼んでいますけれども,そういう形のものもできたら採用させていただければなと。

やはり,信託銀行の場合については,受益者が数十万に及ぶものもありますので,そういうものに対しての対応というと,そういうことしかなかなか難しいのかなということもありまして。まあ,そのとき,無条件でということでもなくて,何らかの規律といいますか,そういう形でのものも含めて御検討いただければなというふうに思っております。

  続きまして,受益権の有価証券化の方のお話ですけれども,これについても以前より要望しておりましたところでありますので,これが実現できるということは非常に歓迎しております。
  
個別の話で,先ほどの補償請求権との絡みで,有価証券化した場合について受益者に補償請求できるのか否かというところについて,有価証券化したものについては当然それはおかしいんじゃないかというお話がありましたけれども,それは私どももそう思っております。


逆に,当然,お客さんに売るときに,有価証券化したようなものについて,ゼロになるばかりかマイナスになりますよと,そういう商品を売るわけにもいきませんので,ここについては賛成ということでございます。

  あともう一つ,受益権の受託者への対抗要件のところでございますけれども,これは,今,券面をもってということですけれども,これをできれば受益者名簿への記載というような形で御検討いただけないかなということです。

株式型という形になろうかと思いますけれども,権利行使というのが継続的にやりやすいということもございますけれども,あと,非常に実務的に考えますと,無記名証券で考えますと,書換えをするときの手間暇というのがなくなりますし,そのまま記載していれば,そのまま例えば利払い等も行いやすいと,そういう事務上の観点からも非常に有り難いところであります。

  ただ,これはつい最近気がついたのですけれども,受益者名簿というのは全部つくれないような場合がありまして。

例えば,ふと気がついたら,投信なんかはほとんど販売会社しか受益者名簿がありませんので,この辺のところをちょっと検討していかないといけないかなと思っておりまして。たまたまふと気がついてしまったものですから,ここについては,済みません,私どもの方でも検討させていただきたいと思っています。


  あと1点,これについては,現行法でもできるのかもしれませんけれども,信託財産を引当てにする債券発行をできるような形にしていただけないかと。現状においても,有限責任の形での社債発行というのはどうもやっているようですけれども,そのときの問題点として,倒産隔離が図れないというようなことがございますので,信託法を使うと,そこら辺のところが解決されるのではないかなと。

済みません,よくは分かりませんけれども,そんなことを漠然と考えておりまして,そういう点についても御検討いただければなと思います。


● また実務家の立場から総論的なことを申し上げたいと思います。
  まず,第49の複数受益者の信託の話ですが,ユーザーとしてはやはり使いやすい,それから柔軟的な信託設計ができるようにしたいと思いますものですから,この方向というのは非常に喜ばしいことだと思っております。

  ただ,1点,ここでも検討というふうに書いてあると思いますけれども,決議の要件等について,強行規定を入れるかどうかということが大きな論点になると思いますけれども,この点,いろいろな賛否両論があるとは思うのですが,ただ,やはり柔軟な,また当初の信託設定の中身,意思とかいうことを考えますと,そういう強行法規というのは本当に要るのかなという気はいたします。

もし仮にその強行法規がなくて,自由に設計において,もしその内容がまずいのであれば,それはおのずから市場が判断して駆逐されていくということになると思いますものですから。

もちろん民事信託の考慮は必要だとは思いますが,そういうふうなことを基本的に思っています。


  その点,特に危ぐいたしますのは受益者集会の定足数なわけですけれども,多分,この受益者集会というのは,法的にはSPC法が初めてだというふうに私は認識しておりますけれども,仄聞するところ,余りこういった実例はないというふうには聞いているのですが,そうすると,こういう商品に関して定足数が本当に集まるのだろうかと。

ちょっと商品は違いますけれども,社債において社債権者集会というのがなかなか成立に苦慮しているということもあるわけですので,こういう商品でそういう人が集まってくるかどうかということもありますので,そこら辺は柔軟にしないと,逆に決議が通らず,よって受益者が苦しんでしまうということも念頭に置かなければならないというふうに思っております。

  次に,第53の受益権の有価証券化ということでございますけれども,基本的には,これはオプションといいますかデフォルト・ローということで,有価証券化するという選択肢が増えるということで,使いやすい,そういうニーズがあるのであれば,それを使うということでございますので,方向性としては賛成したいと思うのですけれども,ただ,そこにおいて懸念がないかどうかということの検証がもう一段必要かなということと,それから,先ほど○○委員からもありましたように横の関係ということではないのですけれども,ほかの制度との関係ということも考えなければならないかと思っております。

  どういうことかといいますと,私法上の有価証券というのがどれほど今の社会において必要なのかということですけれども,善意取得があったからよかったなということがペーパーレスの世の中でどれぐらいあるのかというのは,もう一度認識する必要があるかと思います。逆に弊害がないのかと。

仄聞するところによると,反社会的な勢力がそういう善意取得を理由としていろいろ問題を起こしているという例を聞き及ぶこともあるものですから,そういうものが本当に必要なのかどうかということを考えなければならないと思います。

また,ペーパーレス化ということもありますので,ペーパーレス化するために,社振法とかそういう違う法律になるかもしれませんけれども,現状,社振法での対象は受益証券に限定されていますから,そこに乗せて,その制度において流通を図るという選択肢もふやすために,信託法だけでなく,関連法規の整備を行うということも検討の必要があるのではないかというふうに思っております。


● まず,受益者が複数の信託の場合の意思決定方法について今回デフォルト・ルールを定められるということについては,基本的に大賛成でございます。

実際に実務の中で,特に流動化の中ですけれども,時には,後で議論になります信託の変更等の場合において,どうしても同意を得るという必要が出てくるときもあるのですけれども,先ほどからもお話が出ておりますように,実際なかなか大変なところもございます。

したがいまして,こういった形でつくっていただいて,かつ,実際の多数決の内容については各論のところで申し上げたいと思いますけれども,できるだけスムーズにできるような形にしていただければというふうに,まあそういうところを期待しております。

特に,この中にも書いてございますけれども,書面決議とか,その他最近のいろいろなツールを使っての意思表示の確認等々を検討していただければというふうに思っております。


  次に,受益権の有価証券化についてですけれども,これについても,今回,有価証券化が認められるということについては賛成です。

反対というわけではないのですけれども,ただし書でちゃんとそうじゃない場合も認められておりますので,非常に現実的であるということではあるのですけれども,流動化をやる場合についても,投資家さんというのは,流動化の場合は,保険会社さんだったり,中小の金融機関,それから学校法人とか事業法人等であるのですけれども,その数がたくさんある場合と,非常に少ない場合,中には1名の場合ももちろんございますし,これらの投資家のニーズというのは様々なケースがありますし,もともと流動化するオリジネーターの方の意図というのがかなり反映する場合もございます。

したがいまして,両方が選択されるという方法で,流動化の面では非常によろしいのではないかなというふうに思います。

  ただ,先ほども言いましたように,投資家というのが限られているケースもございますので,有価証券化をやる場合についても,実際に有価証券化に伴う様々なコストというのが発生するわけですけれども,そういったものについてできるだけ柔軟にできないのかと。

特に,資産流動化法の中でも無記名証券の記名式の方は記名社債に類似した制度がとられているのですけれども,これは,事務手続上はこういったものが使いやすいという観点からこういうふうに定められておりますので,必ずしも有価証券化によって株式類似の手続というようなものがそれだけしかないという形だと,ちょっと使い勝手が悪いのかなという意見もございますので,そのあたりについては今後申し上げていきたいなというふうに考えております。

● ほかにいかがでしょうか。

● 受益者集会制度について発言させていただきたいと思います。

  先ほど○○委員から,この信託法改正の大きな目標が何であるかということを明らかにすべきであるというお話がございましたけれども,私は,この信託法改正の一つの大きな目的は,やはり受益者の実効的な保護にあるのではないかと。

すなわち,信託というのはやはり受益者のための制度であるということは疑いなく,現行の信託法が本当に受益者の利益を図るものとなっているかどうか,そのような観点に合わせて信託の利用の裾野が広がり,恐らく受託者の担い手も拡大するであろうと,そういう状況にかんがみますと,受益者の実効的な保護という観点から信託法の改正を議論していくということが必要ではないかと考えております。

  そのような観点からした場合,受益者集会制度というのは,これは受益者の利益に資する可能性が非常に高いと思われます。

いろいろな局面で,例えば信託の基礎的変更ですとか,あるいは受託者の利益相反取引に対する同意等に対して受益者がチェックを行い,自分たちに有利な,受益者の利益に資するようなものについては同意を与えていくと。

その場合,少数派の反対によってそれがなし得なくなるというのでは,やはり信託全体,受益者全体にとっては不利益になると考えられるわけであります。そのような観点から,受益者集会制度のようなもので多数決を導入するというのは大変望ましいことではないかと考えております。


  ただ,ここから若干これまでの委員の発言と食い違ってくる部分もございますけれども,そのように受益者の利益になるかどうかという観点からしますと,やはりある程度の強行法規的な部分というのも残らざるを得ないのではないか。

特に,多数決の制度というのは,少なくとも手続的な部分,招集等の手続的な部分ですとか,それから会議体の本質にかかわるところ,例えば過半数で決めるというのであれば,これは会議体の本則にのっとった決め方だと思いますけれども,冒頭で○○幹事が例として挙げましたように,一人出てきて,一人が言えば,それでいいと,そういう受益者集会制度を設けたときに,果たして本当にそれが受益者の利益に資するものなのかどうかという点は十分に議論をする必要があるのではないかと思われます。

また,反対する少数受益者に対する一定の保護,こういったものも恐らく強行法規的な規律で律していく必要があろうかと思います。そして,また,そのことが会議体の決定に対して法的安定性を与える根拠となり得るのではないかと思います。

商法の株主総会の決議等では,瑕疵がある場合に,その決議の瑕疵を争う訴えというのを起こさなければその決議を取り消せないということとしておりまして,それによって法的安定性が早期に確実になると。

逆に,ある程度しっかりしたこういった集会制度を設けておかないと,なかなか瑕疵を争う決議のような制度を導入することが難しく,かえって後から様々なトラブルが生ずる,法的紛争が生ずるおそれがあるのではないか,そのような懸念も一方で持っておりますので,そのような観点も含めて,是非各論の中で御検討いただければと思います。

  それからもう1点,有価証券化について一言申し述べさせていただきたいと思います。

  私も,有価証券化を選択できるということについては大変賛成なのですけれども,やはり世の中の流れは更にもう一歩先を行って,ペーパーレス化についてもやはり同時に考える必要がある。そのときに二通りの考え方がございまして,いったん有価証券化されたものをペーパーレス化するという考え方と,直接電子化するということが選択肢としてはあり得ると思われます。この点,いずれの方法によるのが適切かも含めて,是非,ペーパーレス化まで視野に入れてこの先御議論いただければというふうに思います。

● 今の○○幹事のお話,私も実はちょっと発言しようかなと思っていたのですけれども,有価証券化という事柄なのですけれども,今や,有価証券については--本当に流通するものは紙が出されない,振替えによって流通させる,流通しないものについて紙を出すということになりつつあるわけでございまして,そんなのはばかばかしいから,今まで有価証券を出すことになっていたものも紙を出さなくていいことにしましょうという方向で動いていますので,さっきの○○幹事の分類から言えば,いったん紙を出して有価証券にしたやつを振り替えるというのは,今の株券の保管振替法なんかがそうなんですけれども,もうそんなばかなことはやめて,初めからペーパーレスにしましょうというのが社債振替法の考え方で,今やそれになっていますので,振替制度に乗せるとすれば,一回紙を出すということは考え難いと思います。

そこはまた金融庁さんともよく御相談しなければいけないところですけれども,そういう状況下にある中で,紙を出すという制度をここで作ることの意義ということを考えていただく必要があるのかなと思います。

● なかなかこれも難しい問題ですね。ここだけで決着つくかどうかも分からないぐらい重要な問題だと思いますが,ほかにいかがでございましょうか。

● 先ほどの○○幹事のお話と共通しているところですけれども,私どもの方の理解は,受益権を有価証券化するというのは,ペーパーレス化して振替えのところに乗るということを前提にしたものとして今まで議論していたつもりだったものですから,その方向でお願いしたいということです。

● ほかによろしいでしょうか。


● 今のお話を伺って,数点申し上げます。

  まず,一番最初のペーパーレス化の問題でございますが,これは当然我々も,今,○○委員のおっしゃったのと同じ方向で考えておりまして,まず第一歩として有価証券化を流通の強化のために規定はしておりますけれども,当然ペーパーレス化もにらんだ上で規律の整備を図っていきたいと思っておりますので,そういうことで御了解いただければと思います。

  それからもう1点,○○委員が最初におっしゃったみなし承認の話でございますが,確かに,我々といたしましては,どのような多数決制度をとるかというのは基本的に信託行為の定めに委ねるというふうに考えてはおりますけれども,例でおっしゃった兼営法のみなし承認,これは単に公告をするというだけの方法でございまして,しかも金融庁長官の認可を得た上で公告をすると。

貸付信託法とか投信法にも似たようなスキームがございますが,このようなものまで果たして許されるのかと。

他方,資産流動化法であれば,通知をした上で,反対がなければ承認とみなすと,こちらの方は各受益者が通知があったことで内容が分かるのでいいのですが,公告によって承認とみなすということまで許されるかどうかについては,基本的には信託行為の定めによるとはいっても,なお慎重に検討していきたいというふうに考えているところでございます。

  それから,○○委員がおっしゃいました,株式類似のものに限るのはどうかという点は,報告書においても,無記名式の証券,すなわち無記名社債類似のものの発行ということも認めておりますことに御留意いただければというふうに思います。

  最後に,○○幹事が何点かおっしゃった点で,まず,アステリスクの5のところで,何でも自由にするのは限度があるというのは,正に我々が問題視しているところでございまして,そこについては皆様からいろいろ御指摘がありましたが,そこを踏まえてなお慎重に検討していきたいというふうに思っております。
  それから,少数受益者,反対受益者の受益権取得請求権,これは当然,強行規定になると 我々も理解しておりますので,そのようなことで御理解をいただければと思っております。

  なお,決議取消訴訟の必要性というようなこともおっしゃったかと思いますが,これにつきましても,社債権者集会のように裁判所の認可があって初めて効力が生ずるというわけではございませんので,株主総会の決議取消訴訟と同じような,一律に効果を決めるような規律をできるだけ整備していく方向で考えていきたいと思っております。

● よろしいですか。
  それでは,ちょうど時間も休憩時間になったと思いますので,ここで休憩します。

           (休     憩)

● それでは,休憩時間を終わります。
  次は,「第37 受託者の解任・辞任等について」でございます。
  では,またこれも○○幹事から説明いたします。

● では,受託者の解任・辞任と信託の変更,終了,これも重要なものがいろいろ絡みますので,ちょっとお時間をいただいて御説明申し上げます。
  まず一番最初は,99ページ以降,受託者の解任・辞任等についての規律でございます。

  太字の1から4というのは,これは受託者の解任に関するものでございます。現行法47条では,受託者に任務違反その他重要な事由があることを前提に,委託者又は受益者等が裁判所に請求して受託者を解任することを予定しております。

しかし,現行法57条によれば,自益信託については,委託者は受託者の意思を問わず,いつでも信託を解除することができることとされております。

そして,本条が自益信託の場合に委託者に一方的な解除権を認めたのは,信託目的の設定者であると同時に信託財産の実質的所有者である者が信託の終了を希望する以上,これを拒む理由がないという理由が挙げられておりまして,このような趣旨からすれば,他益信託であっても,委託者と受益者の合意があれば,受託者の意思を問わず,いつでも信託を解除できると解されているところでございます。

  このような考えのもとに,本報告書におきましても,後ほど御説明いたします信託の終了原因の一つとして,「委託者及び受益者が共同して信託の終了の意思表示を受託者に対して行ったとき」という場合を挙げているところでございます。

信託のいわゆる解除に関するこのような規律を前提といたしますと,委託者及び受益者は,受託者を変更しようと思えば,現行法47条によらずとも,信託の解除という方法を通じて目的を実現することが可能となるわけですが,しかし,委託者及び受益者がより能力のある受託者を選任したいと考える場合において,新たな受託者の選任のために信託をいったん解除するというのは余りにも迂遠であり,ロスも大きいと考えます。

むしろ,受託者の解任については,受益者と委託者の判断にゆだねた上で,解任された受託者に損害が生ずれば別途その損害をてん補するという方法をとることが考えられるところでございます。

  そこで,ここでは,太字の1におきまして,民法上の委任契約の受任者が委任者によって,あるいは株式会社の取締役が株主総会によっていつでも解任され得るのと同様に,委託者及び受益者はその合意によりいつでも受託者を解任できるといたしました。

自由な解任を認めることによって受益者及び委託者による受託者に対する監督がより強化されるであろうという効果もねらったものでございます。

  その上で,太字の2といたしまして,受託者の不利な時期に解任したときには損害賠償をしなければならない等の規律を設けております。これは,委任者による受任者の解任に関する民法651条2項と同様でございます。この受託者の損害賠償請求権については,信託事務を処理するに当たって受託者が受けた損害と言えますので,その補償請求権の規律,先ほど御説明いたしましたが,それに従いましてまずは信託財産からその満足を受けるべきものと考えております。


  なお,太字の3のとおり,太字の1,2は任意規定でございますので,信託行為の定めにより,解任事由を一定の場合に制限すること,あるいは解任の時期にかかわらず損害賠償を不要とする特約も有効であると考えているところでございます。

  続きまして,太字の4でございますが,これは,受託者に明らかに信託行為に違反した行為があるにもかかわらず,受託者の解任に向けての委託者と受益者の合意が調わない場合,あるいは信託行為において解任事由が一定のものに制限されている場合などに備えまして,ここで,「受託者がその任務に違反したことその他重要な事実があるとき」の委託者又は受益者の裁判所に対する解任請求権の規律を維持したものでございます。

このように裁判所による受託者の解任においては,信託違反行為等の実質的な理由を必要とすることにつきましては,現行法はもとより,資産流動化法あるいはアメリカの統一信託法典などにも共通するところでございます。


  次に,太字の5でございますが,これは受託者の辞任に関するものでございます。信託は受託者に対する信頼関係を基礎として財産関係が形成されるものですので,受託者が勝手に辞任することができないとするのが,委託者及び受益者の意思に合致するものと考えられます。

そこで,現行法43条,46条におきましては,受託者が辞任できる場合につきまして,信託行為に別段の定めがある場合,受益者及び委託者の承諾がある場合,それからやむをえない事由があって裁判所の許可を得た場合に限っているところでございまして,ここではその規律を維持したというものでございます。

  最後に,太字の6,7は,受託者の選任に関するものでございます。

  現行法49条によれば,前受託者の任務が終了して受託者が欠けた場合にも,信託自体は終了することなく,新たな受託者によって信託事務が処理されることを前提としておりまして,利害関係人が裁判所に対して新受託者の選任を請求できるというふうにしております。

しかし,私的自治の観点からは,まずは委託者及び受益者の合意によって新受託者の選任をすることができるとするのが合理的でございまして,これを可能であるとする見解が有力というか,通説でございます。

この点につきましては,現行法上,明文の規律がないので,太字の6でその明文の規律を設けたというにとどまるものでございます。

  その上で,裁判所に対する新受託者選任請求権は新法においても維持したいと考えておりますが,当該信託にふさわしい受託者を探すということは裁判所にとって必ずしも容易ではないため ,請求者は新受託者の候補者を示して選任請求を行い,その許否を裁判所が判断する枠組みとする趣旨で,太字の7の規律を設けたものでございます。

  もっとも,このように候補者の提示を法律要件にまで高めますと,これがないと申立てが却下されるということになりまして,申立人にとっても過重な負担を課すという懸念もありますので,手続上あるいは運用上の問題にとどめるべきだという考え方もあり得るということを付言させていただきます。

  次に,182ページ以下の「信託行為の変更について」の説明に移らせていただきます。

  現行法上,私益信託における信託行為の変更につきましては,23条におきまして,請求を受けた裁判所による信託財産の管理方法の変更権限に関する規定があるにとどまります。

しかし,今日の経済社会におきましては,信託行為がなされた時点においては予想し得ない事態が生ずることも十分想定されるわけでして,しかるに,そのような場合において信託行為の変更が柔軟かつ迅速になされないときは,委託者の意図する目的を達成することができないことになりますし,受益者の利益にも資さないと考えられます。

  そこで,ここでは,委託者,受託者,受益者の利益を適切に確保しながら信託の事後的変更を柔軟かつ迅速になし得るように規律を整備したということでございます。

  まず,太字の1は,裁判所の許可がなくても,信託当事者の合意によって信託行為を変更できることを定めたものでございます。現行法の23条につきましては,管理方法の変更にはすべて裁判所の許可を絶対的要件として定めたものか,それとも信託当事者の合意が得られないために管理方法の変更ができず,受益者の利益に適合しないまま管理方法が放置されることを防ぐ趣旨にとどまるのかについて争いがございましたが,この点につきましては,本条が私的自治を前提とし,信託当事者の合意があった場合にはそれを無効とする理由はなく,合意の得られない場合に裁判所が私的自治を補完する趣旨と解すべきであるとして,後説,すなわち当事者の合意によっても構わないという説を支持する考え方が有力であったと思われます。

更に,ここで言う信託当事者の合意の意味でございますが,これまでの学説によりますと,信託の変更というのは,既存の信託を解除して新しい信託を設定することと同じであると考えられております。

ところで,信託法57条によりますと,信託の解除には委託者と受益者の合意を要すると解されるとともに,新しい信託を受託者が引き受けるか否かは受託者の自由に属するので,結局,三者の合意が必要十分条件だと説くのが有力でございました。

以上をまとめれば,信託行為の変更は,委託者,受益者,受託者の合意により行うことができるものと解釈されていたわけでございますが,太字の1は,この解釈を原則として明文化したものでございます。


  なお,米国統一信託法典によりますと,信託の変更については,委託者及び受益者の同意を要するものの,受託者の同意は必要ないものとされております。

選択肢といたしましては,この統一信託法典のように,信託行為の変更については受託者の同意を不要としつつ,変更を不本意とする受託者の辞任を容易に認めると。

統一信託法典では通知をすれば辞任できるとなっておりますので,そういう方向性と,信託行為の変更についての受託者の同意を必要とした上で,同意を拒否する受託者の解任を容易に認めるという,先ほど説明したような方向性とがあるわけですが,この報告書では,後者の,同意を必要とした上で解任も自由にできるという考え方によっているわけでございます。

  続きまして,太字の2でございますが,これは,変更の内容いかんでは,常に三者の合意を要するとした場合には必要以上の手続的・時間的コストがかかり,かえって受益者を始めとする関係当事者の利益にそぐわないこととなる可能性も排除できませんので,関係当事者の利益に配慮しながら柔軟な変更手続を行うことを認めるものでございます。

すなわち,変更の内容が信託の目的すなわち委託者の意図に反しないことが明らかであるときは委託者の同意が不要になりますし,受益者の利益に適合することが明らかであるときには受益者の同意が,受託者の利益を害さないことが明らかであるときには受託者の同意がそれぞれ不要ということになるわけでございます。

  例えば,本文183ページの例にありますように,政省令の改正に伴いまして契約内容の技術的な変更を行う等の軽微な変更である場合には,ここで言いますア又はイによって,委託者や,場合によっては受益者の同意が不要になることがあり得ると思われるわけでございます。

また,受益者の意思決定方法,例えば多数決制度を導入すること等に変更するような場合につきましては,ウ又はエによりまして,受託者や場合によっては委託者の同意が不要となることがあり得ると思われるわけでございます。

  続いて,太字の3ですが,これは,変更に先立つ事前の通知を要求するわけですが,この趣旨といいますのは,太字の2により,信託行為の変更につき,その者の同意が不要であると判断されて,関与しなかった者に対して,変更されることとなる内容をあらかじめ了知させるためのものでございます。

もっとも,この通知がなされなかった場合においても,関与を不要とされる要件に適切に合致している限りは変更自体が無効となるわけではございませんが,変更内容をあらかじめ了知させることによりまして,その変更に反対する当事者が,変更を実施しようとする者に対して,変更内容が政策的に得策ではないとか,あるいは,変更によって自己の利益が害されるおそれがあるので2の要件には該当せず,自己の関与が必要なはずであるとして変更に反対する意見を表明する機会を確保しようとするものでございます。

  なお,付言いたしますと,信託行為の変更が通知どおりなされたとすれば,これに受益者が反対する場合には受益権取得請求権を行使しなければならない可能性があるわけでございますが,そういう事態もあり得るということをその受益者にあらかじめ認識させておくことですとか,あるいは,関与不要と判断された当事者が,自己の利益が害される内容の変更であったとして事後的に変更の適法性を争うと。

その方法は,例えば信託行為の変更の無効確認訴訟というようなものになるかと思われますが,そういう可能性があるということをあらかじめ認識させておくといった意味もあるのではないかと考えられるところでございます。

  続きまして,太字の4は,信託行為において特定の第三者に信託行為の変更権を付与することも可能であることを明らかにしたものでございまして,変更権の範囲には特段の制限はございませんが,その内容いかんによっては反対受益者に受益権取得請求権が発生するということになるわけでございます。

  続きまして,太字の5でございますけれども,これは複雑な規定なのですが,太字の1及び2アの場合,すなわち,信託行為の変更に受託者の関与が必要で,かつ,その変更が受益者の利益に適合することが明らかであるとは言えない,すなわち反対受益者が受益権取得請求権を行使してくる可能性がある場合であることを前提といたしまして,そのような場合には,受託者において,反対受益者による受益権取得請求権の行使にもかかわらず,当該変更を予定どおり実施すべきか否かを判断することを容易にするために設けた規律でございます。

  仮に複数受益者のうち多数の者が当該変更に賛成であっても,なお相当数の受益者が変更に反対して取得請求権を行使してきたといたしますと,当該受益権の信託財産による取得,実質的には受益権の払戻しによりまして信託財産の規模が縮小し,ひいては信託目的の達成自体に支障が生ずるという可能性もあるわけでございます。このような場合,受託者としては,それにもかかわらず多数受益者との合意に従って信託行為の変更を実施すべきか,それとも,変更を実施すると信託自体の継続が危ぶまれることを重視して変更を中止すべきかについて,判断に窮することが予想されます。

  このような事態を想定いたしまして,ここでは,変更に関与する受託者において,受益者及び委託者と,又は受益者と信託行為の変更を合意するに当たりましては,受益権取得請求権の行使状況によっては変更を中止することもあり得べしという条件もあわせて合意すべきものといたしまして,受託者としては,この合意された条件に従って変更を実施すべきか否かを最終的に決定すれば,注意義務を尽くしたものと判断されるといたしまして,救済の途を付与したものでございます。

  ここで合意されるべき条件といたしましては,184ページの末尾から185ページ初めに書いてありますとおり,例えば,受益権を取得するために信託財産から出捐する金額が0円を超えるときには変更を中止するというような金額的上限を示す方法ですとか,より柔軟な条件を提示する方法でも構わないと考えているところでございます。

  最後に,太字の6でございますけれども,本文自体は現行法23条の趣旨をほぼ再現したものにとどまりますが,重要なのは183ページのアステリスクに記載した点でございまして,事情変更の法理の適用範囲,裁判所の判断の現実的な可否,変更請求手続の在り方等の諸点を踏まえまして,現行法のように「信託財産の管理方法」の変更にとどめるべきか,あるいはこれを広げて「信託財産の分配」に関する条項の変更をも対象とすべきかといった点を中心に検討することを予定しているということでございます。


  すなわち,信託財産の分配条項の変更となりますと,例えば受益権の内容について,金額や弁済期を変更するということもあり得ることになるわけですが,受益者全員の意思が合致していない中で,裁判所が非訟手続の中において一部利益者の利益を害してでもこのような変更をなし得るのかといった点が問題になるかと考えているところでございます。

  ちなみに,米国では,信託財産の管理運用条項のみならず,分配条項についても変更できることが統一信託法案では明記されるに至っていることを付言させていただきます。

  最後に,第61「信託の終了原因について」の説明に移らせていただきます。
  これは,現行法にも定めのある信託の終了原因につきまして,改めて整理を試みた上,一括して列挙するとともに,信託の終了に伴う信託の清算以外の効果について規律したものでございます。

  なお,現行法では,「解除」という文言を使っておりまして,それによって,信託関係が将来に向かってのみ消滅し,遡及しないことを60条が規定しておりますが,ここでは,現行法と同様に,信託の終了が将来効のみを有することを当然の前提とした上で,この局面で「解除」という文言を用いることが不適切であることにかんがみまして,「信託終了の意思表示」という文言を用いることとし,あえて遡及効に関する規律は置かなかったものでございます。

  まず,太字の1において示した信託の終了原因につきまして,順次御説明いたしていきますが,前提といたしまして,信託行為の変更を,委託者,受託者,受益者の三者の合意でできるように,信託の終了もこの三者の合意でできることは,明文はないものの明らかでございまして,この場合には,受託者自らも信託の終了に合意している以上,太字の2に定めるような損害賠償請求権は発生しないということになります。

  その上で,まず,①の「信託の目的を達成したとき又は信託の目的の達成が不能になったとき」と申しますのは,これは現行法の56条後段を見ますと,信託の目的の達成又は達成不能というのが終了事由に挙がっておりまして,それと同じものを規律したということでございます。

  続きまして,②の「委託者及び受益者が共同して信託の終了の意思表示を受託者に対して行ったとき」というところは,現行法の57条に対応する規律でございまして,信託設定者としての委託者の意思と信託の利益享受主体としての受益者の意思が一致する場合には,信託の終了を妨げる理由はないと考えるものでございます。すなわち,委託者イコール受益者である自益信託の場合はもちろん,他益信託の場合であっても信託は終了することを明らかにしたものでございます。

  なお,この規律につきましては,信託行為で別段の定めを設けることも可能であり,すなわち任意規定にとどまるということも,現行法57条の解釈と同じでございます。

  それから,③の場合でございますが,これは言ってみれば②の亜流でございまして,信託行為の変更のところでも申しましたけれども,信託の目的に反しないときは委託者の同意は不要であるということを明らかにしたわけでございます。

  次に,④でございますけれども,これは現行法の58条に対応して,裁判所に対する信託終了の申立権を認めた規律でございます。

信託設定当初に予見し得ない事情によりまして信託行為の内容が受益者の利益に適合しない状況に至った場合におきましては,信託を終了させることが受益者の利益にかなうと思われるわけですけれども,先ほど申しました合意等の方法によって信託を終了させることができるとは限らないわけでして,例えば,他益信託であって委託者から信託終了の同意が得られない,あるいは委託者が死亡している場合,あるいは,自益信託であっても,特約で委託者イコール受益者による信託の終了が排除されている場合,こういう場合については,裁判所に対する申立てによって信託を終了させることができるという余地を認めたものでございます。

  なお,現行法と異なりまして,受益者が信託を終了させて信託財産の払戻しを受けなければ債務を完済できないという事情だけでは,当然に裁判所に信託終了を申し立てることができることとはしておりません。このような事情は,あくまでも「予見できない特別の事情」の有無という観点から,裁判所によって判断されることになります。


  なお,資産の流動化におきましては,利益分配の仕組みは,対象資産について受益者等による恣意的なコントロールを排除することがスキーム維持の上で重要でありまして,裁判所による信託の解除に関しても,スキーム維持の上で障害になる,すなわち投資家の投資リスクが増大しスキームの格付に悪影響を与えると言われておりまして,規制改革・民間開放推進3か年計画におきましても,裁判所による信託の解除を規定した信託法58条について,その見直しが検討事項とされているところでございます。


  ここでは,このような要望事項にも配慮はいたしておりまして,現行法の「已ムコトヲ得サル事由」を改め,「信託行為の当時予見することのできない特別な事情」という,より厳格な要件を設けるとともに,終了申立権者から利害関係人を除外しているところでございます。

  その次に,⑤の「新受託者が就任しないまま,受託者の任務終了事由が生じた日から【1年】を経過したとき」というのは,これは現行法にない新たな規律でございますが,受託者が不在の状態が長く継続することは信託財産や信託関係者にとっても望ましくないので,信託を存続させておくことは適当ではないと考えられるわけでございます。

もっとも,このような事情があれば,信託目的の達成不能に当たるとも解されるわけですし,裁判所に対して終了の申立てをすることもできると思われますが,こういう事情を明確にすることにより,いたずらに受託者不在の状況が続いて信託財産の価値の減耗が生ずることを防止することができるとともに,受託者の任務終了に備えて,信託行為であらかじめ後継受託者や複数受託者を指名しておくなどの副次的効果も期待したものでございます。

  最後に,⑥の「他の規定又は信託行為に定める終了事由が発生したとき」と申しますのは,現行法56条前段と現行法59条の双方に対応する規律とする趣旨でございます。

  続きまして,太字の2と3を簡単に御説明いたします。

  太字の2というのは,委託者及び受益者が共同で,あるいは受益者が単独でした信託終了の意思表示が受託者にとって不利な時期になされたときは,受託者が損害賠償請求権を有することを規律したもので,現行法の57条におきまして民法651条2項を準用しているのと同じ趣旨でございます。

  最後に,太字の3でございますが,これは,信託の終了事由が生じた場合においても,信託の当事者がそれを知っているとは限らず,不測の不利益をこうむりかねないことから,信託が終了したことを自己以外の信託当事者に対抗するためには,当該者に対して信託終了を通知し,又は当該者が信託終了を知っていることが必要としたものでございまして,委任に関する民法655条と同趣旨の規定でございます。

  例えば,受益者が信託終了の事実を知らず,受託者もまた受益者に通知をしなかったときは,受託者が信託事務処理を中止すれば受益者が不測の不利益を受けることにもなりかねませんが,この場合には,受益者は信託事務処理遂行義務を履行しない受託者の責任を問うことができるというふうに考えられます。

もちろん,信託の終了を認めて,これを争わないということも可能でございます。逆に,受託者が知らずに信託事務処理を継続したときには,事務管理に基づく有益費償還請求にとどまらず,信託関係はなお存続するものといたしまして,先ほど説明いたしました費用の償還ないし報酬の請求をすることができるものと考えられるわけでございます。
  以上でございます。

● それでは,今の受託者の解任・辞任,信託行為の変更,信託の終了原因,ここらあたりで御議論いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

● 第57及び第61について,なるべく総論的なことを述べたいと思います。

  まず,第57の「信託行為の変更について」でございますけれども,これは,現状,具体的な規定がないということで,実務的には非常に困ったところもございましたので,実質的なところを確保しつつ,柔軟性を得るという意味では,方向性としては非常によいことだと思っております。

  ただ,実際にこれがワークするのかどうかということは詳細な検討が必要だというふうに思っておりまして,先ほど○○幹事からのお話にもありましたように,例えばこれに違反したときにどうなるのかというようなことも検討しなければならないと。

  例えば,第57の2のところで,いろいろな要件としてあるわけですが,「明らかであるとき」ということが要件の一つとなっておりますけれども,この「明らかであるとき」というのがどういうときなのかということが分からなければ,実際に判断によってはそれに異議が出てくるとか,そういった紛争が生じる場合があると思います。

そのときに紛争が早期に終結できなければ,やはり問題になり得ますし,また,その紛争の結果,その要件に当てはまらないというふうになった場合に,それが無効になるのか,対世効を持ってしまうのかということによっては,現実の取引においては非常に大きな影響が起こりますし,翻ってみれば,実際にこれを発動しよう,適用しようとした者に対して,判断にちゅうちょが生じてしまうということになると思います。

  例えば,典型的には不動産信託とか一つのものであったときに,複数の利害関係を有する受益者等がいまして,その一方だけが明らかでないというふうなことを言った場合に,その者だけの関係で,無効といったらよろしいのでしょうか,関係が崩されたときに,では他方の方においてどういう影響があるのかと。

物は不動産が一つで,それの処分について,多分,売るとか修繕するとかそういうのは行為としては一つですけれども,実際の利害関係人が二人以上いたときに一体どうなのかということについて,詳細な検討が必要なのかと思います。
 
 もっとも,実務的には,この2の規律というのは,4で挙げられますようにデフォルト・ローでございますので,そこは実務的な工夫である程度は対応できるのかなというふうに思っております。

  あと,ちょっと細かい話なのですが,これは他の事項にも関係するところで申し上げたいのですが,通知なのですが,多数の受益者がいるとか,多数の当事者がいるときの通知とあて先は一体どうなのかと。

これは,冒頭の補償請求権の終了の時点においても通知ということが出てきましたけれども,そうした通知というのは,発動する側においては,先ほど出てきました受益者集会とかいうところで合意の形成をするというメカニズムが考えられていると思うのですけれども,受動的な,通知を受け取るところのメカニズムというのは一体どうなるのかということは検討しておく必要があろうかというふうに思っております。


  次に,第61,信託終了原因ということでございますけれども,これも基本的にデフォルト・ルールを機軸としているということでございますが,ただ,一つ,これは別の委員の方も御発言されるのかもしれませんが,証券化・流動化の観点で,いわゆる58条リスク--リスクというのかどうか分かりませんが--と言われるものがございます。

どういうことかといいますと,証券化・流動化というのは,高格付を維持するためには,やはりそのプログラムが壊れないということが大前提であるということになります。

そうした場合に,裁判所の介入,いわゆる公的な介入ということがあるのであれば,一応理屈上は,そういうゴーイング・コンサーンといいましょうかプログラムの維持ということに疑問符がつくことになります。

そうしますと,高格付をとるときには非常に難しくなるという,そういう議論がありまして,実際上大きな話と聞いております。

  そこで,今回の提案については,④というのは,先ほど○○幹事から,いろいろな御配慮,例えば資産流動化の議論であるとか,規制緩和の議論であるとかということも受けて,このような提案をされているということはありますけれども,これは信託の本質に絡むのかもしれませんけれども,なお,本来,証券化・流動化というプログラムについて,当初における自治的なものを貫徹することができないのかどうかということを考えますと,そういうものについては別に国家の介入というのは不必要な場合もあるのではないかというふうに思っておりまして,そういう意味で,ここでの強行法規というか国家介入というのが必要なのかどうかということは,是非とも御議論いただきたいと思っています。


  また,細かい話として,利害関係人の申立権を削除したとかいうことで御配慮いただいているということなのですが,なお委託者というのが入っておりますので,そうしますと,証券化みたいな,ある意味,委託者というのはもうそれ独自としては利害関係を持たない,そういう者にまでかかる終了申立権というものを付与するものなのか,その妥当性についても個別論として議論していただければと思います。

● ほかにいかがでしょうか。
● 資産流動化・証券化の観点から,先ほど○○委員がおっしゃった58条リスクについて,ちょっと補足させてください。

  58条だけではなくて,57条,58条は,流動化実務において非常に悩ましい問題になっております。

一つの例なのですけれども,資産流動化法という法律がございまして,そこで特定目的会社という,流動化に用いる社団,会社を定めておるわけですけれども,その特定目的会社に対する持分,特定持分ですね,これを信託するという制度が資産流動化法の改正で3年前に導入されました。

2001年の11月でしたか,導入されましたけれども,この特定持分信託は,資産流動化法の改正・施行から1年余り使われなかったという経緯がございます。

  その理由が,そもそも特定持分信託は解除されては非常に困る,解除されてしまうと,特定持分を委託者兼受益者である流動化のオリジネーターが保有することになってしまう,そうするとオリジネーターがその特定目的会社の議決権を行使することができる,特定目的会社をコントロールすることができる,それは投資家の利害に反するということで,用いられなかったと。


  どういう形で利用されるようになったかというと,受益者の数を複数にして,形式的に57条,58条リスクを排除して利用されるようになったわけです。

これは極めて不自然な運用だろうと思います。現状,流動化・証券化商品の格付をしている格付機関は5社ありますけれども,現状では,特定持分信託における委託者兼受益者が1名でもいいとしているのはその5社のうち1社だけです。それ以外の格付会社は認めておりません。


  もう一つ,アセット・バックト・ローン,これも先ほど申し上げたのですけれども,これも単純な形態では委託者がイコール受益者であって,受益者は一人だけなのです。

そういった信託財産を引当てに借入れを行うというスキームなのですけれども,これについても,解除されると非常に困るという事情がありまして,57条,58条は極めて悩ましい問題ということで流動化・証券化の関係者の間では問題意識が共有されているかと思います。

● 第57の「信託行為の変更について」なのですけれども,こういう形で現実に合ったような形でのルール化をされるということについては賛成でございます。

  ただ,先ほどからもお話があったかと思うのですけれども,特に流動化の場合は,委託者,受託者,受益者サイドの弁護士が入って,実際の信託の設定のところから途中の信託行為についてもすべてリーガルチェックをやっていくということをやっておりますので,基本的にあらゆる事態に対応した規定は設けているつもりなわけです。


しかしながら,それでもやはり想定していなかったような事態が起きて,現実には軽微な変更というのはあり得るわけでございますけれども,そうした場合に,一般的な規定として信託の目的の範囲内というのが,実際はその三者すべて弁護士がついてやっていますので,きれいな形で統一されるのではなくて,中にはタフネゴ,ハードネゴによって結構入り乱れるというようなこともあります。

そうしたときに,信託の目的の範囲内とか,どちらかの利益にかなうといったところが,一般的な基準として法律の中で作るのは非常に難しいかなというふうには思っております。

ですから,最終的にはやはり解釈の中で出てくるとは思うのですけれども,こういった部分,結構,流動化の方の実態を見ていただいて検討していただいた方がよろしいのではないかなというふうに思います。

  二つ目に,1,2,3の規定にかかわらず,信託行為に別段の定めがあるときは当該定めに従うという規定で,説明の中では,第三者にこれを委託するということで,これについては,当然,委任を受けた者の善管注意義務の中できちんと処理されるので,そこはコントロールされるので問題はないとは思うのですけれども,ここの解釈次第では,これらの規定の中で受益者保護とか受託者保護の規定の部分が潜脱される可能性というのもありますので,どういったところで歯どめをかけるのかというところをもう少し議論しなければいけないのではないかなというふうに感じております。

  それから,終了原因のところについてですけれども,先ほどから,58条のことについては御意見が出ておりますので,まあそのとおり,私どもも,こういった問題についての対応をされるということについて,非常にうれしく感じております。


● 第57の「信託行為の変更について」というところについて,一言だけ。
  今の御発言にもありましたが,信託行為の変更というところは本当に条文が不備で,とにかく何らかの規定を設けてというのは当然のことではありますけれども,こうであってしかるべきだということだと思うのですが,その中身ですね,この1のところで,「委託者,受益者及び受託者の合意により」信託行為の変更をすることができると。

まあ当たり前のことで,何ら問題がないようなのですが,私は,受託者は一体どういうような気持ちでその合意の場に出向くのだろうということを考えてみたいのです。

  つまり,アメリカ法では,ここで受託者の合意なんて入っていないのですね。何で入っていないかというと,入っていなくて大丈夫だからだと思うのです。持って回った言い方になって恐縮なのですけれども,例えば,信託が設定されたときに,周りの人で文句を言う人がやはりアメリカでもどこでもいるわけですね。

あんな信託は無効だとかいって訴えてくるやつがいる。立ち向かうのは受託者です。受託者にはduty to defend the trust,つまり「信託を防御する義務」というのがあるので,これはちゃんとした信託ですよ,私が受託者です,無効ではありませんと,無効だという主張に対して有効だということを言う義務があるわけですね。何しろ受託者ですから。

  ここの「委託者,受益者及び受託者の合意」というときに,受託者は何を胸におさめてやってくるのだろう。

自分は今こういうスキームの中でこれだけの報酬を得ているので,もうやめたくないよとか,あるいは,これで借入れか何かを始めて事業を始めて,今やめられたのではそれこそリスクですから,とんでもないことだという自己の利益を主張して入ってきて,委託者は自分の利益,受益者ももちろん自分の利益,それで三者の利益が合致したからこれで合意だという,そういう枠組みなんだろうか,信託ってそういうものなんだろうか,忠実義務とか何とかいうのは何だったんだろうという話を考えると,やはりちょっと違うのかなという気もするのですね。一見これは当たり前のことだと私も思っていたのですけれども。

  それで,2のアのところで,「信託の目的に反しないことが明らかであるとき」に受益者及び受託者,これはいいと思うのです。

信託の目的に反しないかどうかは受託者が守りますから。それを考えて行動しないといけないという義務がありますから。

イで,「信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき」,これは受託者の義務ですから,だから判断していいと思うのですね。その判断についてほかの人が争うという余地はあると思うのですけれども。

  ところが,このウとエは問題ですよね。「受託者の利益を害しないことが明らかであるとき」は,ほかの二者。エで,ここでも同じ表現がありますね。だから,そうすると,このウ,エを持ってくると,1へ戻ってきて,信託行為の変更で三者の合意というときの受託者というのは,正に自己利益を代弁する者としてこの合意にやってくるんだなという気がしますね。

これは信託なんでしょうか。ディールとしての信託というのはこういうものだよと,プロが三者集まってやってきているという,そういう種類の信託はいいのですけれども,我々が話し合っているのは信託の一般法であってという話になったときに,こういう話なんだろうかと。


この1の文言でもいいのですけれども,受託者の行為準則は,ここでは自分の利益を言うのではなくて,これで解除か終了か何かになったときに自らのところにある損害の何とかは後で出てくる問題だと思うのですけれども,ここで合意するかどうかを判断するときの行為規範というのか行為準則として,受託者はどういうふうに行動しないといけないのかというのが明らかでないというか,逆に,この規定の中からは,明らかに自己利益で行動していいよというふうに読めるような気がするのですね。ちょっと私の誤解かもしれないので,質問というかコメントというか,感想かもしれないのですが,いかがなものでしょうか。

● 質問と言われると,だれかが答えなければいけないことになるけれども。

  ○○委員の御理解のように,先ほどの説明もそうでしたけれども,ディールとしてというのでしょうか,受託者も固有の利益を持っているようなときに,やはりその利益を無視することはできないだろうということで恐らく原案はできているというふうに思います。

ただ,すべての信託がそういうものかと言われると,固有の利益を主張してはいけないというか,固有の利益が少なくともそんな重みを持っていない信託というのもあるかもしれない。

まあ,そうは思いますけれども,ここの案は,今,商事の信託なんかが一番典型でしょうけれども,そういうのを考えてできている案であるというふうに私は理解していますけれどね。

● 忠実義務とか,利益相反的な話とか,○○委員,何の考えも,それこそ何も関係ないと思われますか。

● そうですね……,忠実義務との関係ね。
  まあ,忠実義務というのは,恐らく,もちろんいろいろな場面で問題となりますけれども,一番問題となるのは,信託を行っていく上で,そのときに受益者の利益を考えて行動せよというのが忠実義務ですよね。

ここでは,もうもとの枠組みを変えるとか,あるいは終了させる場合も同じような問題がありますけれども,そういう場面での忠実義務というのは,ちょっと同じに考えていいのかどうか,そういうところは少し問題があるかもしれません。

いずれもうちょっと詳しく検討したいと思いますけれども。

  ○○幹事,何かこれは。
● 基本的には○○委員がおっしゃったとおり,我々の考えとしては,やはり受託者としては,枠組みが変わったときに,この信託ではとても自分の手に負えないということもあるのではないかと。

そういう場合には,アメリカですと辞任するということが自由にできるわけですね,通知をすれば,今では。一応,統一信託法典の規定ではそうなっているので,それとの対応関係で,ここでは,受託者が,自分がこういう信託であればそれに乗っていけるかということの一種の同意権というのを与えるかわりに,もしも委託者,受益者が,この信託はやはり変更したいんだと,この受託者が反対するのであれば,この受託者を解任するしかないということであれば,自由に解任できるという方法でいくということで考えたわけでございます。

  ですから,自己利益の追求というと,やはり自分の能力を考えて,善管注意義務で判断した上で,自分の任には耐えられないのであれば,それは……。

● それが信託のためでしょう。信託が自分の状態では実現できない。言葉の言いかえだと言われるかもしれないけれども,こうやって受託者の利益を反映させた上で,こういう場合に出ていっていいんだよというのはいかがなものかと思っただけなのです。

● さっきの忠実義務との関係ですよね,○○委員が一番気にされているのは。
  ただ,それはやはり本来の枠組みの中で忠実義務というのが発生して……。

● 私は,この問題はやはり別異に解することはできないと思います。変更して続けていくのですから。

● だけど,もともとの信託の設定の枠組みは,ある種の合意があってこういう信託だと決まっていて,それを変更しようという場面ですから,それは受託者がもともと負っていた忠実義務の範囲を超えるようなことを要求するわけですよね。今の○○委員の,終了の場面でも忠実義務があって,受益者の利益を優先しなければいけないということになると。


● duty to defendというのは,そういう場合は変更に抵抗することになりますから。
● duty to defendというのは,私も十分理解していないけれども,主として第三者からいろいろ主張されたときに受益者の利益を守るという場面だと思いますけれどね。


  なかなか理論的に難しい問題を含んでいそうな気がいたしますけれども,少なくとも,今,私が答えられるのは,先ほどのような忠実義務を持ってくるのは少し場面が違うのではないかという気がいたしますけれども。


● 確認させていただきたいのですけれども,第57の4で,信託行為に定めがあるときには,それに従うということなのですが,説明に挙がっているのは,第三者に変更を委任するとか,例えば第三者,特定の客観的なある種の能力を持った人の承認に係らしめるとか,そんなことが念頭にあるのかもしれませんが,この信託行為の定めは,受託者が自由に書きかえられるというのも当然容認するということを含んでいて,それは忠実義務と買取請求権で受益者は保護されているからいいのだという,そういうこと……,少なくとも,この4を見る限りは何も限定がかかっていませんので,そうも読めるのですが,そういう趣旨なのかどうか。

そんな何でも好きに書きかえていいですよなんていうことは書かないでしょう。

もうちょっと上手に書くと思うのですね。書くとすれば,2のところに引っ掛けて,2のイのところに「信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき」とありますから,「明らかであると受託者が判断するとき」ぐらいに書くのでしょうけれども。そういうふうに書けば,非常に裁量権を持つことができるのですけれども。

  まず,そもそもこれは自由に受託者が書きかえるというのを許すものかどうかということの確認だけ。

● 信託行為ですから,受託者の自由にというよりは,委託者と合意をすればという前提になりますが。

● 信託行為に別段の定めで「受託者が書きかえられます」と書けるのですか。

  そうすると,その後の信託の内容をどんどん変えていく権限を最初に与えられればオーケーだという,非常に不定形といいますか,そういうものも許すことになる。

かつ,それが一見堂々とそう書かれている。ぎょっとするようなものではなくて,普通はもうちょっと上手に書くでしょうから。

先ほどの,セーフ・ハーバーとしてデフォルト・ルールなら何とか書けるといったことも,突き詰めていくとそこのところに非常に引っ掛かってくるものですから,ちょっと……,全く客観的な範囲もなしに,受託者に授権できると,ちょっと何か引っ掛かりは覚えます。ただ,忠実義務の縛りと買取請求権の保護というのは,これは外せないものとしてあるのは当然の前提として。

● これは,要するに,信託行為で最初のときにどこまで決められるかという問題ですよね。そういう問題については今まで余り検討したことがないかもしれませんけれども,ある種の裁量信託だと。

もう受託者にいろいろな権限を与えて,信託の変更権についての権限まで最初の段階で与えてしまうと,そういうのがいいかというと問題で,無制限に何でもできるというのはちょっと問題があるような気がいたしますけれども。

  まあ,これはある種契約一般の問題ですよね。いろいろな契約で,二当事者間で契約したときに一方の契約当事者にいろいろな権限を与えてしまうと。

ですから,公序良俗に反するようなものがあれば,それはだめだということになるのでしょうけれども,2のところでここまでいろいろなことを書いているので,もうちょっと具体的に限定したらどうかという御趣旨ですよね。

● 論理的にも,例えば信託の目的の変更まで含むとなると,全然話が違ってくると思うのですが,それに加えて,ちょっと何か利益相反的な,忠実義務で一般でということ以外に,何かそこからかぶってくる制約というのがあるのかもしれない。

それは契約一般ではなくて,忠実義務とかそういったところからもあるのかなとも思ったものですから。

  ただ,ほかの与えられている救済とのバランスもありますので,一概に絶対だめという趣旨で申し上げたのではないのですけれども。

● まあ,信託の目的というのがどの程度重みを持っているかということにも関係すると思いますけれども,信託の目的というのはかなり重みを持っていると考えると,それに反するようなところまで自由に変更する権限を与えるというのはやはり適当ではないだろうという判断はできるかもしれませんね。

ただ,単なる純粋な理屈だと,そういうものも変更できるような権限を与えてしまったんだということになると,それはやはりできないというわけでもなさそうな気がする。

まあ,しかし,ちょっと政策の問題があるのではないでしょうか。


● 契約の話だけ。
  当事者の合意によって設定する以上は,当事者が合意すれば何でもいけるのではないかということに対しては,やはり契約の本質の問題がありますので,信託というものの本質に反するようなものは,やはり信託としてできないということになる,そういう限定はあるのではないかと思いますので,蛇足ですが,一言。

● それはおっしゃるとおりだと思います。
● これは単純な質問なのですが,99ページの解任・辞任のところなのですが,ちょっと私が,読み方というか,説明を十分理解していないからかもしれないのですけれども,解任・辞任の規定ですね,「委託者及び受益者の合意により」云々と,例えばこれを一例にして挙げると,これが強行規定だということはないですよね。

● いや,これは3に書いてありますが,任意規定でございます。第37の。
● 任意規定なので,そうすると,これを前提にしないような話も出てくるわけですよね。
  辞任のところもそうですか。
● これも現行規定を維持しておりますので……。
  ○○委員がおっしゃる趣旨は,これも任意規定かという御質問ですか。
● そうです。
● そもそも特約で定めれば辞任できるわけです。
● 信託行為の変更のところももちろんみんなそうだと,今の話の関連でいうとそういうことだということですよね。
  済みません,ありがとうございました。
● ほかにいかがでしょうか。

● 今の議論の関連で蛇足の話なのですけれども,仮に○○委員のおっしゃるとおり,第57の1のところで受託者が関与できないといった場合に,その受託者にとっての出口として辞任を行うといったときに,非常に細かい議論になるわけですが,辞任後,新任の受託者が見つかるまでの受託者の責任がどうなるのかという話が残るかと思います。

  今,会社法の現代化の中で,社債管理会社について,辞任したときにも忠実義務がなお残るのかどうかということについて明確化するということが検討されておりますけれども,仮に受託者が,いわばやりたくもないけれども,例えば能力以上のものを要求されたりとか,いろいろな理由でこういう変更にはできないということがあったときに,いわゆる不利な状況に置かれたのにもかかわらず,新任が見つからないために,その間どうしてもリスクが出てくるといいましょうか,受託者からすると不条理なものが出てくるということになると,またそれも問題ではないのかなと。それをまた保護するために,やはりかかる変更の場合には受託者の同意が必要であるということはあっていいのかなというふうには思います。

もちろん,合意権というのは,受託者の忠実義務はありますから,非常にエゴイスティックな形で嫌だ嫌だと逃げ回るとか,そういうことは,多分,忠実義務の関係で抑えられるのではないかなというふうには思っておりますけれども。

● 2点,質問させていただきたいと思います。
  まず1点は,第57の信託行為の変更のところの6でございますけれども,ここで「信託財産の管理方法」の変更という概念が出てきておりまして,逆に,この管理方法の変更以外の,具体的には受益権の内容そのものについての変更というのは,信託の目的との関係でどういう関係に立つのか,というのが質問でございます。すなわち,2のところでは,「信託の目的」という概念が出てきて,6の方では,「信託財産の管理方法」かどうかという,そういう概念が出てきておりまして,その両者の関係なのですけれども,管理方法以外の変更というのは必ず信託の目的にかかわることになるのか,それとも,こちらで言う「信託の目的」というのはもうちょっと抽象的な概念なのか,両者の関係についてお聞きしたいのが,第1点でございます。


  第2点は,信託契約の中で信託契約の変更等について手当てをしていたり,あるいは先ほどの受益者集会の定めを置いていたときに,この6項が発動されることがあるのかどうか。

それは,信託行為の当時予見することのできない特別の事情があったと解するのか,なかったと解するのか。逆に言うと,信託契約の中で事情変更に応じた手当てをしていたのに,それをスキップして裁判所にいきなり変更等を求めるということを予定しているのかという点を確認させていただければと思います。

● まず,最初の,裁判所に対する請求の範囲と目的の関係でございますが,これはやはり,財産分配に関する条項の変更といっても,我々の考えとしては,目的の範囲内の変更にとどまるのではないかというふうに考えているところでございまして,目的の変更までするのは,信託のスキーム自体を壊すことになりますので,裁判所としてもそこまではできないというふうに考えております。

ですから,受益権の内容を変更するといっても,それが目的に反するという事態がそうあるような気はいたしませんが,やはり限度はあるというふうに考えております。

  もう一つの方でございますけれども,当事者が合意していてもスキップしていけるのかということにつきましては,これは,事情変更の場合について,なぜ裁判所の関与がこの信託の局面で必要になるのかということにも関連するとは思うのですが,ちょっとこれまで十分考えたことのない論点ではございますけれども,そこはやはり裁判所に対して直接行くということも許されるのではないかという気がいたします。

● 今,○○幹事がおっしゃった点の2点目については,恐らく裁判所としても関心が出てくるところだろうなというふうに考えております。一般に,この第57の6に限らずに,裁判所の非訟手続による関与というものが現在定められている,あるいは今後定められるというものが幾つか提案されているのですが,私的自治との関係で具体的にどのような場合にこういったものが必要になるのかといったあたりについては,この部会の中でもいろいろと御検討いただきたいところではございます。

  もう一つは,裁判所としては,恐らく,何が裁判官の判断基準となるのかというのを,このような非訟の手続の場合には,可能な限り明らかにしていただきたいということになるのではないかというふうに考えております。

例えば,この第57の6でございますが,「受益者の利益に適合しなくなることとなったとき」とありますが,何をもって受益者の利益に適合しなくなっていると見るのか,あるいは,更に深刻なのは,変更後の契約が本当に受益者の利益に適合していると言えるのかというのを裁判所が判断するのは非常に難しい面がございます。特に,信託というものが多様になりますと,その信託ごとに照らしてそういった問題を検討する必要が生じ得る。

あるいは,そういうものではないのかといったあたりを考えますと,実際にこういった変更の事件が裁判所に係属いたしますと,裁判官としては非常に困るのではないかといったあたりを,率直に申し上げますと懸念しているところでございます。

それが,財産分配のような実体権にかかわる事項まで含まれるということになりますと余計に深刻ではないかというふうに,現在のところ,感想を持っているというところでございます。

● 後者の点につきましては,現行の23条でも,確かに管理方法に限られてはおりますが,「受益者ノ利益ニ適セサルニ至リタルトキハ」という条件が定められておりますので,そういうことを裁判所が判断する必要性というのは現行の規定でもあり得るのではないかという気がいたしております。

  ただ,確かに,裁判所の判断基準が,不明確では困るだろうという問題があり得るとはこちらも考えていますが,そういうことをどう手当てするかをこれから,手続規定の在り方なども含めて検討していきたいというふうに思っております。
  あと,これは先ほど○○幹事がおっしゃったことにも関係するかもしれませんが,当事者がある程度将来の事情変更を予定して規律を自分たちで定めているような場合については,これはそもそも予見することができない特別の事情と言えるかどうかという要件に引っ掛かってくることもあるのではないかなという気もしますので,付言させていただきます。

● 信託において裁判所がいろいろなところに関与するというのは,これは,もともとの信託法がやはり英米の信託法を一応もとにしているので,いろいろなところにエクイティーの裁判所が出てくるわけですね。

ちょっと日本のほかの体系と比べると裁判所の負担が非常に重いということはよく分かるのですが,今回の信託法の改正でそれを一切排除するというのではなくて,やはり裁判所にも一定の役割をお願いしようと。

ただ,それが,基準がないがために困るということであれば,それはいろいろこの中で考えていきたいと思っておりますけれども。

ただ,根本的に言うと,やはり私的自治との関係,あるいは,今日,どなたかが言われたけれども,私法としての信託法という,そういう性格ともちょっと関係する問題ですよね。非常に大きな問題だと思いますけれども,もうちょっと詰めていきたいと思っています。

  変更に関連してはこのぐらいでよろしいでしょうか。また個別の議論のところで深めていきたいと思います。
  それでは,最後の部分ですけれども。

● では,「第55 私益信託における委託者の権利義務について」から説明を続けさせていただきます。
  まず最初,174ページでございますが,これは私益信託における委託者の権利義務に関する提案でございます。

  現行法のもとでは,委託者は,信託行為の当事者としての地位にかんがみまして,178ページにございますとおり,各種の権利義務を有するとされているところでございます。「現行法上の根拠規定」欄のところに個別の条項を挙げておりますものは,いずれも現行法に根拠規定があるものでございます。

  これに対して,英米法を見ますと,委託者は信託設定後は信託関係から基本的に離脱し,信託行為に別段の定めをしない限り,原則として権利義務を有しないものと言われております。

また,委託者に各種の権利義務を認めますと,委託者と受益者の意見が対立し,受託者としては,いずれの意見に従うべきか判断に窮する場合も予想されるなど,法律関係が錯綜し,信託事務処理の円滑な運営に支障を来す事態が生ずることとなるおそれも否定できません。

  そこで,そのような事態を回避すべく,ここでは,信託の利益を直接享受するのは受益者であり,委託者は信託行為の当事者ではあるものの,信託行為が成立した後は信託関係は原則として受託者と受益者の間で形成されていくものであって,信託の運営に関しては第一次的には受益者に判断権を委ねるのが相当であるとの考え方に基づきまして,原則として委託者の地位を後退させ,委託者の権利義務を必要最小限にとどめるという考え方を基本にしているものでございます。

  以下,細かな話ですが,前提としまして,報告書178ページの別表の「種別」欄にありますとおり,委託者の権能を,「信託の監視・監督的権能」,「信託の基礎的な変更に関する権利」,「法律行為の当事者としての権利・義務」,更に「財産出捐者としての地位」の四つに分類した上で検討を試みております。


  まず,1の「信託の監視・監督的権能」につきましては,別表記載のとおり,現行法と比べて委託者の権限をかなり縮小しております。

  具体的には,現行法上,委託者の権利として直接認められているもの,あるいは利害関係人の権利として--利害関係人には委託者も含まれるとして--委託者に権限が認められているもののうち,受託者の固有債権者からの強制執行等に対する異議申立権に関する16条2項,受託者に対する説明請求権に関する40条2項ですとか,受託者に対する損失てん補請求権に関する27条,29条ですとか,検査役選任請求権に関する41条2項等につきましては,信託行為で委託者自身が留保しない限り委託者には認めないとしております。

  もっとも,委託者に対して,受益者と同等の権限を与える必要はないといたしましても,自己の設定した信託目的が達成されるか否かについて相応の利害関係を有することにかんがみまして,最低限度の権利としまして,信託財産に関する書類の閲覧請求権,受託者・受益者に対する催告権,受託者・信託財産管理人の選解任権などは,特約で定めなくても原則として付与するということにいたしているわけでございます。

  それから,委託者は,信託行為という法律行為の当事者でございまして,委託者が信託に関する各種の権能を有することを望む場合には,これを否定する理由はございませんので,信託行為において委託者が個別に権利を留保することとした場合には,その権利を委託者にも認めるということで,別表で「×」と書いてあるものは,信託行為で定めれば留保されるということになるわけでございます。

  次に,「信託の基礎的な変更に関する権利」でございますが,信託行為の変更,信託の併合,分割,終了につきましては,信託の枠組み自体に重大な影響を与える行為であって,受益者又は受託者が自由に行うことができるとした場合には,委託者の意図した信託目的に反することが行われかねません。

そこで,ここでは,委託者が信託目的の設定に最も深く関与した者であることにかんがみまして,信託の目的に反するようなものについては,原則として委託者の同意を要するものとしております。

また,これらについては,174ページのアステリスクの3にも付記しておりますが,裁判所に対する申立権も委託者に認めるというふうにしているところでございます。

  それから,「法律行為の当事者としての権利・義務」といたしまして,委託者は信託契約の無効・取消しを主張できること,信託行為において委託者が報酬支払義務を負うと定められた場合にはその義務を負うこととしております。

  また,「財産出損者としての地位」につきましては,指定帰属権利者,すなわち,信託終了事由の発生時点で信託財産が帰属すべき者として信託行為で指定されている者,こういう者がいない場合には最終的な帰属権利者となることとしております。

このような最終的な帰属権利者--「法定帰属権利者」と一般に言っておりますが,このような地位を認めておりますのは,これを否定いたしますと,残存する信託財産の帰属先がないことになりますが,受託者にそのまま残余財産を保有させることは委託者の通常の意思に沿うものとは思われず,むしろ財産の出捐者である自己に財産を復帰させることが委託者の通常の意思と推定され,公平にも合致すると考えられるからでございます。
  以上で委託者の権利義務の説明を終わります。

  続きまして,「第63 信託財産に係る倒産処理手続の整備について」ということで,212ページの方に移らせていただきます。

  前回,「信託財産に対する強制執行等について」で説明いたしましたけれども,現行法のもとでは,信託財産につき,信託前の原因により生じた権利又は信託事務の処理につき生じた権利に基づく場合を除いては,信託財産に対して強制執行することができないとされております。

この規定は信託財産に独立性を付与する中核的な規定であって,この報告書においても,同条の趣旨をそのまま採用しているところでございます。

  このように信託財産には独立性が付与されておりますが,現行法上,信託財産が倒産状態になった場合についての制度は設けられておりません。

  そこで,信託財産に係る倒産処理手続を設けるべきか否かが,特にそれだけのニーズがあるか否かという観点から問題となり得るところでございます。

  ところで,信託財産とともに受託者の個人財産も責任を負う原則的場合を考えてみましても,双方の財務の内容が悪化しつつある場合には,信託債権者としては,とにかく信託財産だけでも財務状態が良好なうちに清算してしまいたいという正当な期待を有するものと考えられます。前回,「受託者の有限責任の許容について」というところで御説明いたしましたが,信託財産に責任財産が限定された有限責任信託債権を認めるといたしますと,そのような債権者の公平弁済を確保するという観点から,倒産処理手続を整備するニーズはより高まると言えると考えられます。

また,信託財産に係る倒産処理手続を整備することによって信託債権者間の公平弁済が確保されることになり,土地信託など事業性の高い信託の運営がより円滑に進むことになるといったメリットがあるのではないかという指摘もございます。

  なお,法的には権利義務の帰属主体ではない信託財産に破産能力を認めることができるかが問題になりますけれども,213ページの(注3)に記載いたしましたが,既に権利能力が認められていない相続財産についても破産能力が認められていることにかんがみれば,この点は問題とはならないと考えられます。

  以上のような点を踏まえまして,ここでは,太字の本文に記載しましたとおり,信託財産に係る倒産処理手続,特に破産手続を設けるとの方向性を示したものでございます。

  ところで,この中で重要なのはむしろアステリスクの点でございまして,まず,アステリスクの1でございますが,これは,破産手続に要する費用や時間的コストの観点から,破産手続と同様な厳格な手続を設けるまでもなく,より簡易な手続を設ければ足りるのではないかとの指摘を踏まえた問題提起でございます。

  仮に簡素化を図るとすれば,214ページの(注4)に記載した①,②,③というような方法があると考えられますし,更には,民法上の限定承認者による配当弁済手続を参考にいたしまして,受託者に信託行為の定めに従った弁済義務を課すといった程度のことも考えられるかという感じがいたします。

  もっとも,この点に関しましては,簡素化を図ることによって公平弁済確保の観点から劣るところがあるのはやむを得ないといたしましても,いかなる部分を簡素化するかの判断は決して容易なものではございませんし,現在の裁判実務におきましては,破産手続は小規模な事件についても柔軟に対処できる運用がされていると評価することも可能であることに留意が必要かと考えております。

  それから,アステリスクの2でございますが,一般的な信託においては,信託債権が複数生じ,信託財産によって賄うことができない状態が生ずることはまれであると考えられること,あるいは,広く信託一般について信託財産の破産能力を認めるときは,典型例として想定している信託があたかも事業性のある信託であるとの誤解を生じかねない等の観点を踏まえまして,倒産処理手続の対象を信託一般にすることとはせず,例えばアメリカ連邦倒産法がビジネス・トラストに限って倒産適格を認めていることを参考に,事業を目的とする信託に限定すべきではないかとの考え方があることを示したものでございます。

  もっとも,事業を目的とする信託ではなくても,設備信託等におきましては,信託財産が複数の第三者に損害を与えることもあり得るわけでございまして,倒産処理手続を設ける必要がないとは言えないという指摘もございますし,事業を目的とする信託であるか否かというのは必ずしも明確に判断が可能なものとは言い難いわけでして,このような限定を付すことによってかえって,ある信託が事業目的信託かどうかという入口で争いが生じて手続が遅延するおそれがあるという懸念がございます。

  最後に,アステリスクの3でございますけれども,これは,事業活動の受け皿あるいはビークルとして信託を利用することも考えられることから,その事業を存続させるというニーズにこたえるという観点に基づきまして,清算型の倒産処理手続に限らず,再建型の倒産処理手続についても設けるべきではないかとの問題指摘を踏まえたものでございます。

相当程度の場合には,破産と営業譲渡を組み合わせることをもって対処できると思われますし,清算型に加えて再建型まで必要かということにつきましては,そのニーズも踏まえまして,慎重に検討していきたいと考えているところでございます。

  最後に,227ページの「いわゆる目的信託について」の説明を簡単にいたします。

  「目的信託」と申しますのは,広義には,公益信託も含めて,受益者を確定することができないような信託一般を指すと思われますが,特にここでは,公益信託にも当たらず,受益者を確定することもできない信託をいわば狭義の目的信託と称して,その取扱いについて検討するものでございます。

  なお,米国では,近時,私益信託であっても,信託目的が明確であれば,受益者が不存在であっても信託を有効として,これをパーパス・トラストと称するようでございまして,「目的信託」という用語はこれに倣ったものでございます。

  ところで,我が国の通説的な見解によりますと,公益信託,すなわち「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他公益を目的とする信託」が有効に成立するためには,確定可能な受益者が指定されている必要はない,むしろ指定されていてはならないというのに対しまして,私益信託が有効に成立するためには受益者が確定可能でなければならないとされてまいりました。

すなわち,受益者を確定することもできず,公益目的とも言えない,その意味で中間的な信託,ここで言う「目的信託」に当たりますが,このようなものは有効な信託とは認められないということになるわけでございます。

  一方,法人制度を見ますと,公益法人,営利法人のほかに中間法人がございまして,中間法人の定義を見ますと,「社員に共通する利益を図ることを目的とし,かつ,剰余金を社員に分配することを目的としない社団」と定義されておりますように,社員が中間法人の活動から得られる剰余金を取得することができず,しかし法人の活動自体は公益目的に限定されないわけでありまして,法人の世界においては,具体的な利益享受者がおらず,公益目的とも言えない,ここで言う「目的信託」に類似する形態が認められているわけでございます。

  そうすると,社会的・経済的ニーズへの効率的対応の可否,程度という観点から,法人制度と隣接し,いわば競争関係にあります信託制度においても,受益者不確定・非公益の目的信託を認めるべきか否かが問題とされるべきだというふうに考えられるところでございます。

  なお,政府の規制改革・民間開放推進会議におきましては,英米法におけるチャリタブル・トラストの創設というのが要望されておりますが,ここで言うチャリタブル・トラストが,確定した受益者もおらず,行政官庁の許可も要しない信託ということであれば,目的信託の創設はこの要望に相当程度かなうということになるようにも思われるところでございます。

  以上のような観点から,ここでは,消極案たる甲案と,積極案たる乙案を両論併記したものでございます。
  簡単に両方の考え方を御説明いたします。

  まず,甲案というのは,現行法の考え方を維持し,信託とは受益者のための制度であり,あくまでも受益者の存在が中核なのであるから,受益者を確定し得ないような信託はあくまで例外的・限定的であるべきである,公益信託と呼ぶに値するものに限るべきであるとして,目的信託を有効な信託とは認めないものでございます。

  法人制度との関係では,信託は法人とは異なる制度であって,両者をパラレルに考える必要もなく,法人制度によれば可能であるからといって信託でも可能とする必要はないと考えることになります。

  この考え方によりますと,227ページに設例を設けさせていただきましたが,例えば,ペットを飼育するための信託ですとか,自己の住居を記念館として管理してもらう信託の例で言えば,ペットや記念館の所有者を受益者とするような契約上の工夫をして,これを私益信託と構成することができない限り無効ということになるでしょうし,また,特定の企業の発展に功績のある人に奨励金を出す信託という例では,受益者の確定可能性を柔軟に解釈して,これを私益信託と構成するか,あるいは,公益の概念を柔軟に解釈して,これを公益信託と構成するかのいずれかによらない限りは無効な信託ということになるかと思います。

  これに対しまして,乙案は,現行法の考え方を修正し,受益者不確定・非公益の目的信託をストレートに有効な信託として認めるものでございます。

  法人制度との関係で言えば,法人において可能なものは信託においても可能とすべきである上に,例えばペットの信託の例などについて見ますと,わざわざ法人を設立するまでもなく,既存の法人格を用いた信託というスキームをより簡易に構築することを妨げる理由はないと考えるものでございまして,法人と同等又はそれ以上に信託の柔軟性を拡大しようというものでございます。

  他方,この考え方によりますと,受託者をいかに監督するかが問題となってまいりますので,委託者のほか,信託管理人による監督が可能となるような制度設計をすることも必要となってくると思われます。

  ちなみに,米国の統一信託法典におきましては,動物の世話のための信託,あるいは特定の受益者が存在しない非公益信託,例えば墓地の管理というようなものも有効かつ強制可能な信託として設定し得ることが認められているということを付言させていただきます。

  以上でございます。
● それでは,最後の部分ですけれども,第55,第63,第69,ちょっといろいろ違った問題を扱っておりますけれども,ここで御議論いただければと思います。

● それでは,1点質問と,2点意見ということで。
  まず,第55の「私益信託における委託者の権利義務について」ですけれども,確認といいますか質問なのですけれども,こちらの方の条文の部分と説明の方を見させていただいて,ちょっとよく分からないのは,これは完全なデフォルトルールを規定されたのか,それとも,最低限度の分の委託者の権利義務を定めて,そこにプラスオンしていくものだけの片面的な形のデフォルトルールなのかというのを,まずちょっとお聞かせいただきたいのですが。


● 御質問の趣旨は,この別表にありますとおりですが,「○」と書いてありますのは当然認められて,「×」というのは信託行為で定めないと認められないと。
● それでマイナスしていくということは……。
● 減らすということですか。

● 最低限度のということで規定されているということであるとしますと,先ほどの信託行為の変更のところか終了のところで,委託者の方の関与,特に裁判所に対しての申立てというところもございますので,こちらの方は委託者の権利をゼロとするというような形の自由度もできれば認めていただきたいなというふうに考えます。

● まあ,受益者と違いますからね。だから,委託者は,これは一応「○」となっていても,マイナスすることはあっておかしくないと思いますけれども。まだここには十分書いてないと思いますけれども,もうちょっと検討したいと思いますけれども,それはあり得るのではないでしょうか。


● それと,次の第63の「信託財産に係る倒産処理手続の整備について」のところでございますが,ここの部分につきましては,責任財産を限定したような形の債務というのがふえてくると思いますので,こういう規律は是非ともお願いしたいと。

  それと,その場合,厳格に公正・平等弁済を目指すということと,あとは簡便化というのと二つありまして,それでどうなんだと言われますとあれですけれども,できるだけその両方を満たすような規律を,ちょっと手前勝手ですけれども,お願いしたいなと思います。

● ○○委員と発言が重なるところがありますけれども,第55,第56,第69について,総論的なことを述べたいと思います。

  第55についてなのですが,やはり委託者の権利というのを全部なくしてしまうということをデフォルト・ローにできないのかということでございますけれども,これは,委託者がどこまで関与するかという本質論のことだと思うのですけれども,例えばこういう金融商品があると思います。

とりあえず信託をつくっておくと。これは要保護性の関係もあるのですけれども,もう本当にノミナルな金額で信託をつくりますと。

その後,受益者が追加出資ということでどんどんお金をふやしていくと。そのような信託というのは,およそ委託者というのはある意味ショバ代を払っているだけであって,その後の経済的な利益というのは余り関心がないというようなことがあると思います。そのようなものに対しても,かかる監督義務等を与えるのが妥当なのかどうかと。もちろん,物によっては,必要ないということを委託者が当初デフォルト・ローということで信託行為に定めてあるのであれば,要らないという考え方は十分成り立ち得るのではないかというふうに思っております。

  第63の信託の倒産ということでございますけれども,これも,基本的に非常に選択肢がふえたということで,基本的な方向としては歓迎すべきだと思うわけですが,実務的な観点からすると,やはりどこまでニーズがあるのかということと,これを導入することによるデメリットというのはどうなのかということをもう少し具体的に検討する必要があるのではないかと思っております。

それに従って,御議論がありましたように,対象を事業信託とか設備信託に限るのかとか,また手続をどれだけ簡素化するのか,また再生型が必要なのかどうかということを検討すべきだろうと思っております。

  ここで1点,ちょっと問題を提起したいのは,受託者との関係でございますけれども,通常の倒産であれば,DIPといいましょうか,債務者自体ももう何もする能力もない,またさせるのが適当でないという状況だと思いますけれども,信託の場合は,一応は受託者はまだ健全であるし,またその能力もある,また公平義務とかそういうのを課しても全然おかしくないというようなことだと思うのですけれども,たまたま信託財産が債務超過等にあるといったときに,あえて破産制度みたいな管財人という制度を導入する必要があるのかどうかということでございます。

また,仮に管財人を入れた場合に,では受託者と管財人との関係は一体どうなるのかと。また,その管財人が出てきた場合に,今度は受託者の義務が一体どうなるのかと。

つまり,管財人がどんどんやっていって,受託者がある意味それを所与として行動したときに,非常に困った状況にならないのか。受託者としての善管注意義務ないしは忠実義務に対して板挟みになるようなことが生じないのかどうかということも分析する必要があるのではないかと思っております。

  それをもしいろいろ考えるのであれば,あえて破産制度ということを入れなくても,例えば,今,特別清算ということについては倒産法部会でも検討されているところだと思いますけれども,その特別清算的な考え方とか,また破産の簡易的なものとかいうことをいろいろ検討することも可能ではないのかなというふうには思っております。

  第69の目的信託についても,実質的な観点からは,選択肢が増えるということは歓迎すべき方向だとは思っておりますが,やはりここでもニーズとデメリットをよく検討する必要があると思います。

  先ほど,ニーズとしてはチャリタブル・トラストというのが簡易になりやすいということだと思います。それは確かにそうだとは思いますけれども,それが本当に必須なのかどうかということと,逆にそのデメリットしては,これは想像の話ですからよく分かりませんけれども,例えば脱税的なスキームにこの目的信託というのが使われないかどうかと。例えばの話ですけれども,お金持ちが,とりあえず信託する,それで家族を受益者と指定すれば,そこでいろいろな税金がかかってしまうということですが,とりあえず目的信託にしておけば,かからないと。

ところで,信託財産とその家族との間で,いろいろな,労務提供契約とかを結んで,どんどんその信託財産から家族にお金が流れていくと。もちろん,これは別途の税金の考慮が働くことだとは思いますけれども,かようないろいろな,税金とかほかの法秩序の潜脱に使われないかどうかということは,他国の例もよく見つつ検討すべきだなというふうには思っております。


● 破産の件は,むしろ○○幹事の方がお詳しいと思いますけれども,最初の委託者の件は,デフォルト・ルールとしての委託者の権利をゼロにするというのは,ちょっとやっぱり極端だと思うのですね。

ここに書いてある表は,丸がついているところは委託者に一応与えたらいいだろうと。それで,これを外すことができるというふうにしておけば,先ほどのような例の場合には一応足りるわけですね。そういうことができる。

  ただ,ちょっと細かく見ますと,例えば信託契約の無効・取消し,これはちょっと違った観点ですけれども,こういうのまでだめだというのはちょっと違うかもしれませんね。

  それから,最後の目的信託ですけれども,これは,今,他方で議論している非営利法人の中で,非営利の財団というのが議論されていまして,これが一番近い。まあ現在はないところですけれども。

ここでも同じような議論があって,脱法目的に使われるんじゃないかとか,あるいはメリットというかニーズの方がそんなにないんじゃないかということで議論はされているのですが,そういうものもあっていいのではないかということで一応議論は進んでおります。

  脱税に関しては,これは法人であれば,相続税法でしょうか,たしか規定があって,公益法人の場合ですけれども,公益法人という形をとっていても,個人が利益を享受しているようなものについては課税することができるという規定が,たしか相続税法だか何でしたか,税法にあるのですね。

こういうものと同じようなことが信託の場合にもできれば,脱税の問題は解決できるのだと思います。ただ,ニーズとかそういうものについては,もうちょっとここで検討したらいいかと思います。

  倒産の受託者の権限はどうですかね。
● 倒産につきましては,まだ細かな検討をしているわけではございませんので,とりあえず,この報告書にありますとおり,倒産手続を整備するニーズはあるのではないかという感触を示しているというところでございます。

ですから,そもそも倒産手続・破産手続を入れてどの程度の厳格さを設けるかということも問題ですし,もしもこの法制審の場でそこまでのニーズはないのではないかということになれば,より簡易な制度を設けるという選択肢も十分あるかと思います。破産手続を入れたときに,受託者と破産管財人の権限がどうなるかというのは,信託財産が破産したような場合に,そのまま受託者がそのままその職務を行うことはなく,破産管財人一本にするのではないかと思います。

● 目的信託について,先ほど○○委員のおっしゃいましたことを若干補足させていただきます。

  ○○委員御紹介のとおり,非営利財団についての検討が進んでいるわけですが,その中でも,どんな場合でも認めていいんだろうかと,一定の目的や事業による制約が必要か否か,それから,そもそも非営利財団法人というものを認める必要もないんじゃないかというような意見もあったかと思いますので,そちら側の流動的な段階で,余りここで法人との平仄の方ばかりを考えるのも,向こうが変わるとこっちも変わるかということになってしまうかと思います。

  そこで,むしろ実質をこちらはこちらで考えたらいいと思うのですが,もう既に出ました議論の中で,脱税というのは,多分,税はしっかり取るのだろうと思いますけれども,それ以外に,例えば,財が固定化してだれも手を出せないという財を作るのが適当かとか,ガバナンスが不在になるんじゃないかとか,あるいは相続法秩序との関係が問題になるんじゃないかというような論点があろうかと思います。


● 第63の「信託財産に係る倒産処理手続の整備について」ですが,4点申し上げたいと思います。

  第1点目は,倒産法部会でどういう議論があったかということを一言確認しておいた方があるいはいいかもしれません。この中には御関係の方もたくさんいらっしゃいますけれども。

倒産法部会破産法分科会で2年ほど前に議論をしたときには,正にこの(注1)に書いてあるようなことを議論して,破産能力を認めるということはしないという結論になったわけですけれども,しかし,その前提が変わったということで議論の必要が出てきたということかと思います。以上が第1点です。

  二つ目に,212ページのアステリスクの1にあるところ,「破産手続と同様の厳格な手続」というのはちょっとよく分かりませんけれども,要するに,破産でいくのか,より簡易な別の手続を作るのかということかと思いますけれども,これはもちろん,一方では,ニーズがどこまであるのかということかと思いますが,逆に,別個に簡易な手続を作るニーズがどのぐらいあるのかという観点から考えてもいいのではないかと。あるものは使う,破産は破産で十分簡易に使えるようにもなっていますので,わざわざ別に簡易なものを作る必要があるのかという角度から考えてもいいのかと思います。

  214ページの(注4)の3行目には,強制執行等の中止・禁止等の制度のないものを作るかどうかというのがありますが,欠乏した財産を公平に分配するという破産にとって最も本質的なものを欠くような制度をつくってもしようがないのではないかというのが,やや蛇足ですけれども,この(注4)を読んで感じた次第です。以上が第2点です。

  第3点ですが,今申し上げました,破産手続を使いながら,必要な特則を置くというときに,どういう特則があるか。これはこれから考えなければいけないことで,今ここで細かく詰める必要はないとは思いますが,例えば申立権者をどうするのか,それから開始原因をどうするのか,それから手続に複数の財産の範囲がどうなるのか,これは破産で言えば破産財団の範囲ですし,仮にこの後出てまいります再建型,例えば民事再生を使うとすれば,どういうことになるんだろうか,それから,先ほど出てまいりました財産の管理主体や権限ですね。

先ほど○○幹事もおっしゃっていましたけれども,管理型である,つまりもともとの財産の管理・処分権限者にかわって手続機関が管理・処分権を専属するタイプの,典型的には破産管財人のようなものを入れるということであれば,それは従前の受託者の財産の管理・処分権はなくなるというか,管財人に全部移ると考えるのが,欠乏した財産を公平・平等に分けるための手続を行うという観点からは最も自然なんだろうと思います。以上が第3点です。

  第4点,最後ですが,再建型の手続についてですけれども,これもまた,一方では,どのぐらいニーズがあるのかということで,民事再生を使うのかどうかということですが,他方では,再建型といったときに一体何をイメージしているのかと。

再建型という場合に,従前の事業活動を続けるのかどうか,あるいは法人格が続くのかどうか,あるいは弁済原資が何なのかと,再建型といってもいろいろな角度から物を考えられるわけでして,通常の事業法人の倒産で言うと営業譲渡型の,中身はそのまま続けながら別の枠のもとに移す,つまり,これで言えば,いったん破産で信託を終了させて,その信託の中身を別の信託で引き続きさせるということでもいいのか,あるいは,事業会社の倒産になぞらえて言えば,法人格をそのまま続けさせることに意味があるのか,その辺のニーズを洗う必要があるのではないかと思います。もちろん,この再建型の場合にも,同じように,いわゆるDIP型,つまり従前の受託者がそのまま権限を続けるタイプのもので足りるのか,あるいは,更に再生手続における管理命令のような制度が要るのかということも考える必要が出てくるのではないかと思います。

● 倒産処理に関連して一言申し上げたいと思います。
  受託者の有限責任が認められる場合で,信託債権に比較して信託財産が過少となる場合が,倒産処理を必要とする場合でありますが,更にそれに信託財産の純資産額を超えて受益者に配当が行われた場合というのを掛け合わせて考えますと,もう一つ問題が生じてくるように思います。

すなわち,信託財産の純資産額を超えて配当を受けた受益者が,受けた配当の範囲で信託財産に返還する必要がないか,あるいは,信託の債権者に対して直接責任を負うことを認めてはどうかというようなルールが考えられるだろうと思います。ちょっとこの大部の報告書,注とかアステリスクのところを注意深く読んでいませんので,どこかにそのことが触れられているかもしれませんが,テークノートしておいていただきたいという趣旨で申し上げたいと思います。

  これは,受託者の第三者責任,第29ですが,前回やったところですけれども,これが受託者の有限責任が認められることに対する対応とされていますが,これとともに今の問題は考えていいのではないかと思います。

そして,純資産額を超えて受益者に配当が行われるということは,例えば第27の受託者の受益者に対する物的有限責任の裏側の問題になるのだと思いますが,それとも関連してくると。

そして,そもそも,第28の受託者の有限責任をこの報告書で許容しているということから出発する問題で,先ほど○○委員がおっしゃった,複数のところに関連する問題で,小さなことですけれども,ひとつ検討したらいいのではないかと思います。


  最後に一言申し上げますと,ただ,私は,純資産額を超えた配当が受益者に行われた場合には,それを取り返してもいいのではないかなという方向で考えるのですが,しかし,先ほど受益者に対する補償請求権が話題になったときには,金融商品としての受益権を考えると,受益者が責任を負うということは余り現実的でないという問題があったように思います。その問題と今の問題は,原因というか背景というか,法的な性質は異なるわけですけれども,実質的には共通する。受益者が後から払いなさいと言われるということでありますので。したがって,その面からも考えなければならない問題なのではないかなと思います。

● 補償請求権がある場合には,受益者の有限責任といいますか,括弧つきの「有限責任」ではあるけれども,それに関連する問題ですね。
● 今日は本当はしゃべり過ぎなので,次回からは○○委員から注意があるかもしれません。
  済みません,2点です。


  1点は,178ページの表の,いわゆる委託者の権利義務のところで,これは補足のつもりなのですけれども,ここへ丸が幾つかついていますね。そこの8番目の「受託者の解任」のところにやはり丸がついていて,でも,先ほどの議論で,解任のところは信託行為で別段の定めをすればどうのこうのと前の99ページに書いてあるわけですから,実際にもこの丸のところが最低限度で強行規定的になっているかというと,そこまでは行ってないんだなということの確認が一つ。

  二つ目は,目的信託のところなのですけれども,目的信託というのはよく分からないのですが,本当はアメリカで始まったわけでもなくて,いわゆるオフショアで始まったものという話なのですが,需要は3点。

  第1は,アメリカの統一信託法典は,やはりペットと永代供養ですね。アメリカ人というか,英米の信託というのは,まだ生まれていない存在,まだ生まれていない子供というのかな,そういうのも受益者になれるのに,死んだ人はなれないのですね。どういう不平等なのか本当はよく分からないのですが,永代供養というのはやはりベネフィシャリーがいないという話になっている。

それで,私はペットなんて持っていませんから全然理解がないのですが,やはりアメリカ人にはこれはものすごく需要があるんだよと,だから認めることにしたというので,ここだけでも,もしかしたら日本においても,ペットの大好きな人はたくさんいますから,信託がここで爆発的なブームになるかもしれない。これを認めればですよ。こういう形のものだという話にして。いや,本当は分からないのですけれども,そういう可能性はやはりある。

 


二つ目はセキュリタイゼーションの話で,何でチャリタブル・トラストというのをケイマンまで行ってどうのこうのなんだろうというので,あれが,チャリタブル・トラストではなくて,例えばジャージーではパーパス・トラストでいいですよという話になってきているわけですね。だから,セキュリタイゼーションの一環の中でどうのこうのと,この需要がどの程度あるのかというのは,これは日本での問題でもあるだろうと。


  三つ目はオフショアの話ですけれども,本当はベネフィシャリーがいるんだけれども,ベネフィシャリーを隠しておきたい。

隠しておきたいというのは,そういうベネフィシャリーが実はこんなにいっぱい財産を持っているということを隠しておきたい場合もあるし,もしかしたら税の関係もあるかもしれないし,相続法制の何とかというのもあるのかもしれないので,この三つ目はやはり問題だと思うのです。
  まあ,目的信託を認めるにしても,どういう形でというのはやはり考える必要があるのかなというふうに思っております。

● ペットが好きな方を敵に回すつもりはないのですけれども,ここの目的信託に関してなのでございますけれども,現行法ないしは新しく想定される公益信託というものはどういうものなのかと考えますと,公益信託として設定されているときには,受益者というものが確定されていない状態にあるわけですけれども,英米の本を読んでいると,例えばシェークスピアがだれであるかということを研究する人に対してお金を与える信託をとか何とかいう話が書いてあったりしますけれども,そういうふうなことを応募してきた人とか,あるいは選定された人に対して金銭を給付するという形で受益をさせるということが行われるわけですよね。現行法の公益信託というのも,最終的にはそういうふうに,だれかが出てきて,その人に金銭なり現物なりが給付されるということが前提になっているというふうに思うわけです。

  しかるに,227ページに二つ,「権利能力の無い者が実質的に受益者に相当するタイプ」というのと,「受益者として確定することはできないが,何らかの利益を受ける者を想定することができ,信託目的が必ずしも「公益」とは言い得ないタイプ」と。後ろの方は,現行法の定めている公益ではないというだけの話であって,最終的にはある特定の受益者が出てきて,その人に金銭が給付されるということだと思うのですけれども,前者は何を意味しているのかがよく分からなくて。仮にペットを飼育するための信託として,例えば私がペットを買っていて,死ぬときにこういう信託を設定して,その後のペットの所有者が当該信託に,私がそのペットをかわいがっていますので私に金銭を給付してくださいというふうにいいますと,これは後ろの話になってしまうわけで,これは直接に受託者がペットをかわいがるとかいうことを前提にしているのか,それがよく分からなくて。

  もしそうならば,現行法の公益信託とは少なくとも並ばないものであって,甲案,乙案にしても,「公益信託以外の信託にあっても」という感じになっていて,公益信託であるならば一応現在でもできるけれども公益信託が狭いので,という書き方になっているのですが,本当に前者は公益信託と並び得る性格のものなのかというのが私にはよく分からない。

  そして,私は,後ろのタイプ,つまり,「特定の企業の発展に功績のある人(従業員に限られない)に奨励金を出す」という,公益でない,しかしながら設定時には受益者が確定できないというタイプの信託を認めるというのはよろしいのではないかと思うのですけれども,永代供養とかペットは,率直に言うと,どうでもいいんじゃないかという気がしてならないのですが。

● 若干補足です。
  ○○幹事から御指摘のあったことなのですけれども,倒産制度を何らかの形で導入するというのは,有限責任との関係で,信託財産が細っていくときに債権者がとめられないのは問題だという形で,有限責任というふうにフレームワークを変えた,ちょっと大きな原則を変えたところから出てきた問題で,その並びで言うと,受益者への配当のようなところについてももうちょっとちゃんと手当てする必要があるのではないかと,そういう御趣旨だったと思うのですが,そこまでは全面的にそのとおりだと思うのですが,そこから先の解決で,受益者への返還ということについて言われたかの……。

● 信託財産です。
● 信託財産への,受け取った受益者からの返還を言われたと思うのですが,それも考えられなくもないのですが,恐らく,一番簡易かつ実効性のある解決方法としては,違法配当的なことをした受託者に対する責任だと思うのですね。だから,有限責任を一定の条件で解除するというのが一番実効的な解決だと思うので,266条ノ3的な第三者責任もありますけれども,それはむしろ配当のようなのではないタイプのものを念頭に置いた救済と見て,むしろ有限責任の限界,例外の解除要件のようなものとして考えた方がよりいいのかなと思います。とりわけ,受託者が,受益者が有限責任というふうに,その保証で売っていたときに,後で返せみたいなのが,ちょっと引っ掛かる。会社の場合も,違法配当の場合は株主に返せと言えるので,それとの並びではそれでいいのかもしれませんけれども,取締役の個人責任と違って,受託者の方はもっとそこの方に重きが置かれてもあるいはいいのかなというふうな印象を持っています。
  この辺は,追い追い,また様々な方法を,バランスをとってだと思うのですけれども,若干補足させていただきました。

● 恐らく,受託者の有限責任というのを認めたときに出てくる問題で,これもいろいろ詰めなければいけない問題点がたくさんありますので,そこでまとめて議論したいと考えております。
  それから,目的信託は,これは本当にいろいろな御意見があると思います。ここでは,要するに,受益者のいないタイプの信託だけれども,公益とは言えないような信託,そういうものについてどの程度ここで考えたらいいかという問題提起として出ているわけですね。ですから,甲案と乙案両方出ているわけですが。
  ただ,○○幹事が言われたような,後で給付を受ける人間が出てくるというタイプは,その給付を受ける人間に,どこまで受益者としてのいろいろな権能,監督的な権能とかそういうものを与えていいのかというのは,それ自体一つの問題だと思いますし,それから,言ってみれば受益者が全然いないタイプですか,ペットの方は。これはちょっとよく分かりません。○○委員は非常に重要な一つのニーズであるということで,そういう考え方もあるでしょうし,ペット以外の分野でも,建物みたいなものについて,死後,記念館として管理してもらうというときに使えなくはない。ただ,そういうものが適当かどうかというのが大議論があるので,これも含めて,またいずれどこかで議論していただきたいと思います。
  ただ,公益法人,あるいは中間法人といいますか,非営利法人の方の議論,これは一応切り離して考えることはできるのですけれども,やはり何かある程度そっちをにらみながら議論した方がよさそうに思いますので,そんな形で議論していければと思います。法人の方は,恐らく12月ぐらいにはある程度方向が決まってきますので。
  少なくとも私が答えられるところはそのぐらい答えましたけれども,何か○○幹事の方でありますか。


● 配当規制の問題について若干御指摘がありました。部内で,配当規制の考え方を入れることも検討いたしましたが,我々が想定しているのは,決していわゆる配当に限らず,民事信託も含めて信託一般の問題ですので,配当という場面に特に注目して規律を設けることが妥当かどうかという問題意識がございまして,落としているということでございます。ただ,本日問題指摘をいただきましたので,また改めて,その点,規定を設けるべきかどうかにつきましては検討いたしたいと思います。
  あと,払った配当を取り戻すというのは有限責任の観点から問題があるという御指摘もございましたが,費用などは確かに,例えば受託者が負担した費用を受益者に行けるということになると,正にその有限責任の問題が出てくると思うのですが,受け取ったものを恐らく民法の不当利得の問題として返すぐらいでしたら,それはいわゆる補償責任の有限・無限とは直接関係ないのではないかなという感じもいたしておりますので,ちょっと別途の観点から,そういう規律を設けるべきかどうかについては考えたいと思っております。
● ほかに御意見ございますでしょうか。


● 今の○○幹事のお話を伺っていて,それからまた,今日一日の御議論で強行規定をどこまで設けるかという御議論がかなりあったかと思いまして,それと先ほどの○○幹事の話も関係があるのかなと思って聞いていたのですけれども,そもそも,信託法という民法と並ぶような信託の基本法,そこの中でいろいろな信託があるわけですけれども,一般投資家が入るような信託もあれば,全然そうでないものもある。そのときに,信託法という枠の中でどこまでをカバーし,そして,既に投資信託とかいろいろな信託について特別の法律があるわけで,そこで一定の投資家保護みたいな規定も設けられているわけですけれども,一般法でどこまで取り込んで考えるべきで,特別法と一般法との切り分けをどこで分けたらいいのかなという問題があるのではなかろうかと。
  今日は総論の議論ですので,そういうのがちょっと気になったものですから,一言発言させていただきました。

● それは本当に難しいといいますか,一方で一般法ではあるけれども,特別法ですべての商事的なものをカバーしているわけでもないので,そういう意味では,商事的なものも一応一般法でもってある程度やっていけるようなものも必要だし,しかし,一般法の中には,全然そういうものとは関係ない,実際今は余りないですけれども,民事的な信託というものもやはりあり得るし,今後,そういう分野が伸びていく必要もあるし,そういう意味で非常に範囲が広いようで,しかし余り何でもかんでも取り入れてもおかしいし,そこら辺が悩みの種ですね。○○幹事のおっしゃるとおりだと思いますので,これもだんだん詰めて議論していきたいと思っております。
  ほかに何か。

● 先ほどの○○幹事のお話を聞いて,信託法で,やはり立場が全然違うところからの--信託の種類というのはいろいろありますから,それを,信託法と業法という形のつくりこみ方をするのではなくて,例えば,信託法の中でどうしても相入れないようなものについては類型論的な形での規律にするというような考え方というのはできないものなのでしょうか。

● それはあり得ます。非常に簡単に言えば,例えば,ちょっと切り分けはうまくできないけれども,仮の話として,民事の信託と商事の信託でもって,商事についてはちょっと特則を設けるとか,そういう類型ですよね。

● 商事・民事もそうですし,例えば,1万人の信託というのと,50人の信託というのもやはり全然違うものだと思いますし,土地信託のようなものもそうですし,集団投資スキームというのも違いますし,正に目的信託みたいなものとすると,もう全く違う信託だと思いますので。もちろん,できるだけ統一の法律でということだろうと思うのですけれども,どうしてもというのが何かありそうな気がするので,そういうことも踏まえて御検討いただけたらと。

● そういうことも踏まえて,これから議論していただければと思います。
  それでは,今日はもう時間になりましたので,これで会議を終わりたいと思います。

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2016年加工編   
法制審議会信託法部会
第3回会議 議事録

第1 日 時  平成16年10月29日(金)  自 午後1時00分
                        至 午後5時00分

第2 場 所 法曹会館「高砂の間」

第3 議 題
   信託法の見直しに関する検討課題(1)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● それでは,法制審議会信託法部会第3回会議を開きたいと思います。
       (関係官の異動紹介省略)
● それでは,早速今日の審議に入っていきたいと思いますけれども,今日も大体前回と同じように,途中の中間の休みまでに二つに分けて議論し,休みの後も二つに分けて議論するという形でやっていきたいと思います。
  それでは,○○幹事の方から説明をお願いします。
● ただいま○○委員の方から御紹介がありましたように,前半を二つのセッションに分けて議論をいただければというふうに思っております。まず,第1セッションといたしましては,「第1 信託の設定について」,「第3 脱法信託について」,「第4 詐害信託について」。続きまして,第2セッションといたしまして,「第5 受託者の不適格事由について」,「第6 受託者の利益享受の制限について」,「第7 受託者の職務の引受けについて」,「第8 信託の公示について」というところを扱って,途中休憩とさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,早速でございますが,「第1 信託の設定について」というところから,初めに私の方から今回の資料の概要を御説明申し上げます。
  第1は,現行法1条の信託の定義に相当する,信託の設定に関する提案でございます。

  このうち,太字の1,2の記載内容とアステリスクの記載内容は,部会資料2,前にお配りいたしました「信託法制研究会報告書」と同じでございまして,そのポイントは第1回会議の際に御説明申し上げたとおりでございますので,ここでは省略させていただきます。

  なお,5ページの(注2)のとおり,信託財産の名義人のほかに信託財産の帰属しない者がいる場合についても,信託行為においてこの者を受託者と定めれば,信託上の共同受託者と解してよいものと考えているわけでございますが,この点に関しましては,信託行為を変更すれば無限定に名義人以外の共同受託者を追加できるのかという問題があり得ますところ,この点につきましては,後日,受託者が複数の信託に関する規律のところで改めて御審議を願いたいというふうに思っているところでございます。

  本日,この中で特に御審議いただきたいのは,次の3点でございます。

  まず第1は,これは第1回会議でも詳細に御説明したところでございますが,信託の定義といたしまして,太字の①,②に加えて,アステリスクの問題,すなわち,当事者において,信託財産に受託者からの倒産隔離の効果を生み出す前提となる分別管理義務を受託者に課すことを意図しているということを,当該法律関係を信託と認めるための要件の一つとして明記すべきかどうかという点でございます。この点につきましては,信託の基本に係る事項でございますので,本日,是非とも詳細な御審議を願えればと思うところでございます。

  次に,第2点といたしまして,太字の1①におきまして,信託設定における財産の処分の例示として「担保権の設定」を挙げたというところでございます。

  第1回会議におきましては,担保付社債信託法の場合に限らず,一般の債権についても,信託のスキームを用いれば,債務者を委託者,担保権者を受託者,債権者を受益者とする担保権の設定をすることが可能であるということが解釈上認められていると申し上げるにとどまらず,法律上その可否について争いが生じることを回避するという趣旨で「担保権の設定」を明示したというように,いわば実務的なニーズを踏まえた結論部分のみを簡単に御説明いたしました。

  この点に関しまして,今回の資料におきましては,被担保債権の債権者と担保権者が分離する結果となる担保権の信託,今後「セキュリティ・トラスト」と申し上げますが,そのようなトラストが信託のスキームを用いればなぜ可能と言えるのかという点につきまして,理論的観点からの考察を加えてみました。これが,資料では2ページの上から7行目以下の部分でございます。

  この点につきまして若干口頭で御説明申し上げますと,次のとおりでございます。

  民法上は,質権者及び抵当権者は自己の債権の弁済を受ける権利を有すると規定されておりますことからしますと,民法は債権者と担保権者が同一であることを原則としていると考えられます。

しかるに,セキュリティ・トラストにおきましては債権者と担保権者が分離することになりますので,この民法上の原則に抵触しているかのようにも見えます。そこで両者の関係をいかに解するかというのが理論的な問題となるというふうに思うわけです。


  まず,民法におきましては,担保物権の発生には債権の存在を要件とし,債権が消滅すれば担保権もまた消滅するとされております。これを担保権の付従性と言うのであれば,セキュリティ・トラストのスキームにおきましても,受託者が有する担保権は,受益者の有する債権の存在があって初めて成立するものでございますし,受益者の有する債権に対して弁済がなされれば,受託者の有する担保物権も当然消滅するということでございますので,担保物権の付従性の原則を修正するものではないと言うことができると考えるものでございます。

  次に,担保物権の随伴性に反するか否かという問題でございますが,これにつきましても,担保物権の随伴性というのは,債権が他人に譲渡されれば担保物権もこれに従って他人に譲渡された債権を担保するということを言うのであるとすれば,今回のセキュリティー・トラストのスキームにおきましても,債権が譲渡されれば,受託者の有する担保権は譲渡された当該債権を担保するということになりますから,担保物権の随伴性の原則を修正するものではないというふうに考えるものでございます。

現に,担保附社債信託法のスキームにおきましても債権者と担保権者は分離しておりますが,このスキームが民法上の原則と抵触しているとは解されておりません。

これは,担保附社債信託法におきましても,担保物権の付従性,すなわち担保権の実行により回収された金員が社債権者に分配されるということが制度上確保されており,また,担保権の随伴性も確保されているからであると考えるわけでございます。


  以上によりますと,セキュリティ・トラストのスキームは民法上の原則と実質的に何ら矛盾・抵触するものではなく,セキュリティ・トラストにおける担保権は民法上の担保権にほかならないと言うことができるのではないかと思うわけでございます。

  なお,セキュリティ・トラストを明文化するに当たりましては,今申し上げました民法関連の問題のほかに,詳論はいたしませんが,5ページの(注3)のところに書かせていただきましたとおり,民事執行手続上の問題,すなわち,手続上の当事者を担保権者と扱っていいのかどうかという問題ですとか,あるいは不動産登記上の問題があり得るところでございます。


  以上お話し申上げた考え方や問題指摘につきまして,御審議をいただければというふうに思います。

  最後に,第1回会議で御指摘のあった点でございますが,信託契約の要物性の問題でございます。

  現行法上,信託契約につきましては,当事者の合意のほかに,信託法1条において財産権の移転が必要であるとされておりまして,それを根拠に信託契約は要物行為であると解する見解が有力でございます。

ただ,そこで言う「要物性」というのが,契約の成立要件のことなのか,それとも効力発生要件のことなのかというのは必ずしも明らかではないと思われます。

しかしながら,この提案に当たりましては,信託契約は要物契約であるか否か,あるいは要物性の意義いかんという解釈にはとらわれず,むしろ,ここで保護しようとしている当事者の利益の実質,すなわち,単なる当事者の合意のみで,財産の処分がない段階においては,財産の処分がなされるまでなら委託者はいつでも意思表示の撤回が可能であると解されかねず,実際に信託事務を行うために準備行為等をしていた受託者や,受益権の帰属を期待していた受益者の利益が害されかねない,そういう実務上の懸念,あるいは法的不安定性と申しますか,そういうものを払拭する必要があるという点に着目いたしまして,このような懸念に対処するという現実的な観点から適切と思われる規律を設けることを提案するものでございます。


  具体的には,太字の3のとおり,書面による信託契約がなされたとき,又は財産の一部でも履行がなされたときは意思表示の撤回を行うことができないといたしました。

これらの場合につきましては,信託契約の成立要件イコール効力発生要件の基準として委託者の信託設定の意思が客観的に明確なものになったと言えますとともに,これによって受益権が発生し,信託財産の処分を待たずとも受益者に受益権が帰属することになると解されまして,委託者,受託者,受益者の利益調整の観点からも適切であると考えられるからでございます。

このような考え方につきまして御審議を願えればと思います。

  では,続きまして,第3の脱法信託につきまして簡単に御説明をいたします。

  第3は,太字の1におきまして,脱法信託を禁止するもの,太字の2におきまして,脱法信託の例示として,訴訟信託,すなわち,非弁護士が弁護士代理の原則に反して他人のために訴訟活動を行う場合,民事訴訟法54条でございますが,そのような場合と,非弁護士が法律事務を業として取り扱う場合,弁護士法72条に違反する場合を禁止するものでございまして,現行法の10条と11条を基本的に維持しようとするものでございます。

  なお,6ページの説明文中の3行目から書いてございますとおり,ある法令において特定の者について財産権の享有が禁止されている場合において,第10条があるからといって当該者が信託を通じて当該財産権の受益者となることが常に禁止されるわけではなく,当該法令の趣旨を勘案して決すべきであると考えております。

これは,例えばでございますが,法令によりある会社の株式を50%以上取得してはならないとされている場合におきまして,その法令の趣旨が50%以上の議決権の行使を防止するという点にあるとするならば,確かに所有者となることは法令違反となるとしても,50%以上の株式を信託した上で,その信託の内容が,配当を受けることはできるが受託者に対して議決権行使の指図はできないというようなものであれば,このような信託を設定して受益者となることまでもがただいま申しました法令違反となるわけではないであろうといったような趣旨を述べているところでございます。
 
 それから,引き続いて書いてございますが,法令に違反して本人が財産権を享有する行為をした場合において,本人の行為に係る私法上の効力が否定されるものでないときは,信託を通じて当該財産権を有することと同一の利益を享受することとなっても,当該信託の私法上の効力までもが否定されるものではないと考えております。

これは,例えば,法令によりましてある土地を売買によって取得することが禁止されるといたしましても,その私法上の効力,すなわち売買による所有権の取得という法的効果までは否定しない,法的な制裁は一定の範囲で課されるとしても,所有権の取得という効果までは否定しないというのがその法令の趣旨であるならば,いったん所有権を取得した上で自益信託を設定して受益権を取得することとしても,かかる自益信託設定行為の私法上の効力もまた否定されることにはならないという考えを示したものでございます。

  最後に,太字の2のただし書でございますが,これは,現在,一定の正当な理由又は合理的な必要性がある場合には任意的訴訟担当を認めるのが判例・学説,更には実務の立場であることを踏まえまして,訴訟信託の禁止の例外を認めたものでございます。

  では,このセッションの最後といたしまして,第4の詐害信託につきまして,これは少々詳しく御説明を申し上げます。

  第4でございますが,これは,現行法12条の定める詐害信託の取消しに関しまして,その内容をいわば全面的に改めることを内容とする提案でございまして,第3で申し上げました脱法信託の禁止,訴訟信託の原則禁止とともに,不法な信託の禁止に関する第3の規律を定めたものでございます。

  現行規定によりますと,受託者,受益者の主観的態様いかんにかかわらず,換言すれば,受託者のみならず,受益者が受益権を取得した当時におきまして当該信託の詐害性について善意であるときであっても,債権者は詐害行為取消権を行使することができるというふうになっております。

確かに,第2項によりますと,受益者が受益権を取得した当時に善意であったことのみならず,現実の給付がなされたときにおいてまでも善意・無重過失であれば,既に受けた利益,すなわち既得権の返還を免れますが,それでも将来にわたって給付を受ける権利は奪われてしまうことになるわけでございますし,まして,たとえ受益権を取得した当時に善意であったとしても,現実の給付がなされたときに悪意・重過失でありますと,既に受けた利益についても全部返還義務が課されてしまうというわけでございます。このような現行の取扱いは,民法上の詐害行為取消権を見ますと,


例えば贈与契約の場合におきましては受贈者が契約時に善意であればそもそも取消権を行使することができないとされていることと比較しまして,平仄がとれていないと思われます。

すなわち,信託の受益者にとって厳しきに失するのではないかと考えるわけでございます。

受益者が受益権の取得時において善意であれば,もはや取り消させる必要はないのではないかということでございます。

  そこで,この提案におきましては,まず,太字の1にありますとおり,受益者が受益権の取得時において善意であったか否かによってその保護の要否を区別することといたしまして,受益者が受益権の取得時に善意であった場合には,その後,現実の給付がなされたときまでも善意であったか否かにかかわらず,取消権を行使することはできないといたしました。

一方,受託者につきましては,信託について直接の利害を有しないものと考えまして,現行法と同様,その善意・悪意は問わないということにしております。

  なお,受益者の善意・悪意の立証責任につきましては,現行法では,返還義務の範囲を定めるに当たり,取消権を行使する債権者側で立証するというふうに解されておりますが,この提案におきましては,受益者の側で自己の善意を立証すべきものと考えていることを付言いたします。

  以上,民法424条の詐害行為取消権との比較で申しますと,信託の受託者と受益者につきましては,民法の受益者と転得者のように互いに独立した地位にはなく,むしろ信託の受託者と受益者の両者が相まって民法の受益者の地位あるいは範ちゅうにあると考えるものでございまして,その上で,信託財産が受託者の処分によって信託の外に流出し,信託財産に利害を有する第三者が登場した場合には,この第三者との関係は民法424条によって処理されると考えるものでございます。

受益者について受益権を取得した当時における善意・悪意を問題にするという点ですとか,受益者側において善意の立証責任を問う点については,いずれもこのような考え方,とらえ方と平仄が合うと考えるものでございます。

  次に,太字の2でございますが,これは受益者が複数存在する場合に関する規律でございまして,この提案におきましては,受益者が複数存在する場合については,善意の受益者を保護する観点から,一人でも善意の受益者がいれば取消権を行使することはできないとしております。

  他方におきまして,悪意の受益者についてはその利得分を享受させておく必要はないと考えられますので,民法上の詐害行為取消権とは別に,信託法上の請求権として,債権者の,受益権の取得時において悪意である受益者に対する,既に取得した利益ないし将来にわたる受益を含む受益権の委託者に対する返還,委託者から見れば譲渡請求権を創設することとしたものでございます。

  以上の考え方の当否について御審議を願いたいと思っております。

  なお,最後に,10ページの注について若干付言いたします。

  まず,(注1)でございますが,これは,現行法上,受益者が現実の給付時にも善意であるため既得利益が保護される場合におきまして,受託者が価格賠償義務を負うのか否かが明らかではないということを指摘したものでございます。

本提案のもとにおきましては,債権者としては,受益者が善意であるため取消権を行使できない場合に,悪意の受託者の責任を追及することができるのかが問題とはなりますが,受託者と受益者をもって一体的に考える以上,債権者としては,悪意の受託者に対してのみ債権者取消権に関する責任を追及することはできず,あくまでも債権者取消権の枠外において一般的な不法行為責任を追及するほかはないのではないかと考えるものでございます。

  これに対しまして,例えば,受益者が悪意の場合におきまして,受益者が善意の第三者に信託財産を処分して対価を得た場合ですとか,受託者が信託の枠外の第三者に対して信託財産を処分して対価を得た場合,このような場合につきましては,民法424条に基づいて,価格賠償を受託者,受益者全体に対して請求していくということができるのではないかと考えているところでございます。

  それから,(注2)でございますけれども,これは,次のような問題意識を示したものでございます。

  すなわち,この提案によりまして信託設定のための財産の処分行為が取り消された場合におきましては,受託者はその手元にある信託財産,すなわち受益者に対する未給付部分を委託者に返還しなければならないということになります。

ここで受託者が,信託財産の所有権を取得したことを前提に,取消権の行使に先立って既に第三者との間で信託債務を負担してしまっている場合におきましては,受託者としては,信託財産を返還してしまうことにより当該債務を自己の固有財産から信託債権者に対して弁済しなければならないというリスクを負うことになるのではないかと思われるわけでございます。

言いかえますと,信託財産が信託債務に関する責任を負担したままの状態で返還されることになるとか,あるいは,受託者において信託債務を清算の上で,残余信託財産のみを委託者に返還することができるとか,そのような考え方をとれば別といたしまして,そうではない限り,受託者といたしましては,詐害行為取消権の消滅時効の期間が経過するまでは,当該信託が詐害信託であればこのようなリスクを抱えることになるという危険性を覚悟しなければならなくなるのではないか。

このような結論は,悪意の受託者であればともかく,善意の受託者にとっては酷ではないか,民法であれば善意者に対しては詐害行為取消しができませんのに,信託ではできますので,善意の受託者にとっては酷ではないかという問題意識でございます。

  また,これを信託債権者側から見ましても,責任財産が信託財産に限定された有限責任債権である場合はもちろんといたしまして,固有財産に対してもかかっていける原則的な無限責任債権である場合につきましても,取消権の行使により返還されることとなる信託財産に追求していくことができなくなるといたしますと,信託の詐害設定について無関係な債権者にとっては多大な損害をこうむりかねないのではないかという問題意識でございます。

  もとより,このような結果,特に後で申しました詐害行為を前提とする債権者が害されるという事態は民法424条の場合にもあり得ることでございまして,仕方がないと割り切らざるを得ないのかという感じもいたすところでございますが,この点につきまして適切な処理方策がないか否かを御審議願いたいというふうに思っております。

  とりあえずの説明は以上で終わらせていただきます。

● それでは,ただいまの範囲でもって御議論いただきたいと思いますが,いかがでございますしょうか。

● 何点かあるのですが,まず,第1の信託の設定の,先ほど御説明のありました5ページの(注3),執行法との関係ですけれども,ここでは,手続を起動する者が,通常の場合は債権者がなるというのとは違うシチュエーションなわけですけれども,それは解釈で対応できるだろうというふうに記述してあります。


もちろん,この方向で議論できれば一番いいと思うのですが,例えば,担保附社債信託法の83条が受託会社の申立権を定め,88条で弁済受領金の分配義務を定めているということまで,全部これは解釈で賄えるのかどうか,まだ少し詰めなければいけないかなという気がしております。


  気になりますのは,手続の起動をするイニシアチブを持っている人と,配当を最終的に受け取る人がずれる場合として,ここずっとしばらく問題になっておりますのは,株主代表訴訟において株主が勝訴した場合に株主が強制執行をすることができるかという議論がずっとあるところなのですが,実務を中心にということかもしれませんけれども,消極論もそれなりに強くて,つまり,あれは解釈ではできないという議論もそれなりにあるのですが,そことどういうふうに差をつけていくのかということがこれから問題になろうかと思います。

  更に言えば,不動産執行のみならず,債権執行でどうなるのかということも考える必要がありましょうし,個別の点で言えば,配当の関係とか執行異議,執行抗告等,不服申立てとの関係も少し整理する--それはもちろん手続法の方でいろいろ考えなければいけないのですが,どこまで解釈論で対応できるのか,なお少し詰める必要があるかなという気がしております。

  現時点で何か事務局の方で幾つかの点についてもしお考えがあれば,聞かせていただければと思いますが。

● 何かありますか。

● 御指摘のあった執行手続上の問題につきましては,我々といたしましては,このセキュリティ・トラストの担保権者もその地位に基づいて担保権の実行ができるであろうし,あるいは債権者に対する催告ですとか,配当の呼出しですとか,配当の受領ですとか,すべて担保権者を手続上の当事者として扱うことができるというふうに解釈できるのではないかと考えているところでございますが,今お話しになられました担保附社債信託法83条等の解釈の問題なども踏まえまして,執行手続上遺漏がないように整備を図っていきたい,この点につきましては関係部局とも調整して図っていきたいと思っているところでございます。


● 「第1 信託の設定について」に関して意見を述べたいと思います。3点,主要な議論があるということでございますが,その一つずつを述べたいと思うのですが。

  分別管理を要件にすることについてどう考えるかということでございますけれども,これについては,実務的な観点から申し上げるわけですが,両論あり得るのかなと思っております。

  一つは,やはり,信託を,委任とか匿名組合とか,ほかの法形態からどう規律するのかということのメルクマールをどうするかという話だと思うのですけれども,昨今の判例にあるように,信託であると思っていなかったものが,突然,信託であるとされるリスクを考えるならば,やはり信託と信託でないものということの切り分けをはっきりさせる必要があるのではないかというふうに思っているわけです。そこで,一つの切り分けのツールとして,分別管理義務ということを置くことはよいことではないのかなというふうには思っています。

  半面,分別管理というそのメルクマール自体が,その義務の内容が抽象的であるということもありますので,そうした場合に,では実際の判断においてこれが本当に義務としてあるのかどうか,履行の有無についてはまた別の話であるということは理解しているのですけれども,メルクマールとして十分なのかどうかということについては,なお一考の必要があるのかなというふうに思っております。

  二つ目に,いわゆるセキュリティ・トラストに関しての議論でございますけれども,これについては,実務の観点から言いますと,特にシンジケーションのマーケットの拡大及び低クレジットのシンジケーションも拡大しているということにかんがみれば,担保付のローンの流動化,セカンダリーマーケットにおける流動化ということが重要な関心事になっておりますものですから,これは非常に重要なことでございます。


  御指摘にあったとおり,方向性としてはいいものの,やはり手続的なものを完備していただきたいと思っておりまして,そこにおいては御議論がありましたけれども,民事執行法の問題とか,不動産登記法の問題とかあると思います。

  それに加えて,非常に細かい話なのかもしれませんけれども,例えばほかの法規範にこれが違反しないのかどうかということもこの場で明確にしておいた方がいいかと思っております。

具体的には,今のところ二つ思いつくわけですけれども,一つは,これがある意味脱法信託にならないのかどうかということでございますけれども,考えてみるに,担保の受託者ということは一体何なのかと考えますと,ある意味,競売を実行するということぐらいなのかなと。

もちろん,担保の管理ということもあるわけですけれども。そうした場合に,これは二つ目の話になりますけれども,それが弁護士法違反にならないのかどうかというような論点も出てくるのかというふうに思っております。

ほかの規律との整理をしておく必要があるのではないかというふうに思っております。

  三つ目に,要物性の議論でございますけれども,これは,第1回会議の審議の際に私の方からちょっと問題提起を差し上げたもので,このように反映していただきまして,非常に有り難いというふうに思っております。

  実際のこの3の中身でございますけれども,これも実務的な観点から申し上げると,非常に穏当な内容だと評価できるのではないかなと思っております。

やはり一番の関心事は,前回の議論にもあったかもしれませんけれども,信託の契約みたいなものを設定したけれども,その後,実際の財産権の移転があるまでに何かあった場合に,受託者の義務はどうなのかとか,そういう,いわばその中間時における権利義務関係のことでしたけれども,究極的にはそれが撤回できるのかどうかという話になってくると思います。

そこで,この3の規律ということは,恐らく営業信託では特に書面における信託契約を締結することが実務だと思いますから,非常に実務的にもワークしやすい方法だと思っています。

  その3種の論点に加えて,2点ほど,できれば問題提起を差し上げたいと思うのですけれども。

  一つは,これは倒産隔離の議論,後ほどの倒産のところにも関係するかもしれませんけれども,いま一度,信託契約というのは双務契約ではないということを確認したいと思っています。

どうしてかと申しますと,例えば受託者が倒産した場合に,これが双務契約であれば,委託者ないしは受益者でもいいのですけれども,信託報酬支払義務という継続的な義務を負っているわけですし,受託者はもちろん管理を行う義務を負っているわけですから,それが仮に双務契約だと性質決定された場合,倒産した場合に管財人の双方未履行契約に関する解除権ということが発生してしまい得るという議論があり得ると思っているわけなのですけれども,それは,考えてみるに,信託の存続に関するものについては,これは財産権の移転ということでもう終わっているわけであって,管理の局面では単にそういう支払いが残っているということでございますので,少なくとも信託の存続自体については倒産には服さなくて,単に信託の受託者の辞任であるとか,受託者との関係で受託義務の問題としてとらえられるということであるということを確認できればと思っています。

  二つ目に,これは,「財産」ないしは「財産権」は何なのかという定義の話になりますけれども,将来債権がここで言う「財産」ということを確認できればと思っています。

将来債権については,債権譲渡特例法の改正案も今出ておりますけれども,経済的には非常に重要なものになっておりますが,これがここで言う「財産」の問題なのか,それとも,要物性の議論にもつながってきますけれども,そもそも将来債権を信託財産としたものというのが要物性の議論によって影響を受けるのであれば,非常に問題になるわけですが,私の考えるところでは,将来債権というのは一つの財産であって,また,将来金銭を受け取れるという期待ないしは経済価値に従って評価し得るものでございますので,報告書に,「「財産」には,金銭的価値に見積もり得るもの全てが含まれる」ということも書いてございますので,将来債権というのがここで言う「財産」に含まれるということを確認できればと思っております。

  以上,長くなりましたけれども,よろしくお願いします。

● 幾つか,前回からも議論のある点ですけれども。

● 今,何点か御質問がありました点につきまして,答えられる範囲で我々の考え方を御説明いたしたいと思います。

  まず,セキュリティ・トラストは脱法信託ないし弁護士法72条の問題があるのではないかという点でございますけれども,それは恐らく,受託者は債権者の有する弁済受領権限に係る代理権を与えられたからであると構成する見解かと思うわけでございます。

  しかし,先ほど申し上げましたけれども,受託者が担保権を実行できますのは,その担保権,抵当権自体に優先弁済を受けることができ,債務名義がなくても競売手続を実施できて,配当も受けることができるという権限が内在しているからだと考えるのであれば,受託者は固有の適格者として本人の地位に基づいて担保権実行を行いますので,御指摘のような問題は起きないと考えております。

  また,仮に御指摘のような,代理受領権を付与するのだという見解を採用するといたしましても,この提案にございますように,訴訟信託については正当な理由があれば認めるということにしておりますので,このような場合は正当な理由があるという要件に該当するのではないかと思っているところでございます。

  それから,将来債権につきましては,我々も,「財産」に当たると考えているところでございます。

  一番最後の,双務契約ではないというところでございますが,これは学説などを拝見いたしますと,信託契約上報酬が支払われる場合につきましては双務契約であると解する見解もございますので,今,○○委員がおっしゃった話は,委託者との関係では履行が終わっているのではないかというお話だったかと思うのですが,果たして双務契約でないと言い切れるかどうかという点は一つ問題ではないかと思います。


  御指摘は,双務契約ではあるけれども,何か別の理由から双方未履行双務契約の解除権の対象にはならないという御理解なのか,そこら辺につきまして,もう少しお考えをお聞かせ願えればと思います。

仮に双方未履行双務契約といたしましても,受益債権は倒産債権としての拘束を受けないので,両すくみの状態の解消という目的からする解除権の対象にはならないというような考え方もあるところではございますし,他方,破産清算の必要性からということを強調すれば解除権の対象になるというような考え方もあるとは思われますが,そこら辺はなお考えの整理をしないと,一概に双務契約でないと言い切っていいかどうかはなかなか難しい問題があるなというふうに思っているところでございます。

  事務局からは,とりあえず以上でございます。

● 私も,3点にわたって。最初の2点は比較的簡単な話なのですが。
  分別管理義務というのを信託の定義の中に入れるかということで,入れないということが原案として出ているわけですが,これに対して反対するつもりはありません。

ただ,文書の中で,例えば3ページの真ん中あたりで,「このような要件を設定してしまうと,分別管理義務が付随する匿名組合契約全てについて,これを信託と構成すべきであるという解釈論を惹起するのではないかとの懸念も存する」と。
懸念なんだろうかというのが若干気になるところで。分別管理義務のある匿名組合が信託として処遇されるというのは,そんなに変な解釈論だとは私は思いませんので,「懸念」というふうに書かれると,どうかなという気がします。

  2番目のセキュリティ・トラストなのですが,これは,先ほど○○幹事の方からもお話があったわけですけれども,確かに民事執行法制定のときに,抵当権に優先弁済権があるかという話があって,債務名義は要らないということで,最終的に,内在しているという話になったわけですが,そのときの議論の前提というのは,抵当権者イコール債権者であるということが前提になっていたような気がするわけでありまして,その議論及びそれを前提にしていた民事執行法の現在の債務名義が要らないということを根拠に,抵当権自体に債権の優先弁済受領権が内在しているから固有適格者の地位で手続を追行することができるというのには,若干論理の飛躍があるのではないかという気がします。

別に構わないと個人的には思いますが,最終的には,やはり解釈論で賄っていくというのは難しいところが多々あると思いますので,是非,民事執行法の関係諸規定を整備いただければというふうに考えます。

そのときに考えていただきたいのは,配当が手続上なされたときに被担保債権が消滅するのだと,別に受託者が債権者に配ったときに消滅するのではないのだということも,あわせてはっきりさせていただければと思います。

  3点目の信託設定契約の話なのですが,これはちょっと私よく分からないところがございます。

  と申しますのは,書面によらざるものは取り消すことができる,処分がなされたときはこの限りでないというのは,あたかも贈与に関する民法の規定を思い出すわけでございますが,これは民法549条,550条という順番で規定されているわけでありまして,549条においては,贈与契約の成立がどういうふうなことでなされるかというのが書いてあって,550条において,その成立した贈与契約が書面によらざるときは取り消すことができる,ただし履行があったらだめであるというふうになっているわけですよね。

これは条文の形で書いていらっしゃるわけではないのであれでございますけれども,現行の信託法とか,あるいは今日の資料の1ページの1のところの信託の定義という形の書き方をして,それで3の,書面によらないときには取り消すことができるということになると,設定というのはどうやるんだろうかという,何か前提が飛んでいるのではないかという気がするのです。

それが気になるところであります。

  そして,2番目に,設定については意思表示でできるというふうに仮に書いたといたしましても,贈与に関しては,軽率な場合があるのだとか,いろいろな規定の趣旨というのがあるのですね。

しかるに,信託においてもしそういうふうな書き方をきちんとしたとしましても,なぜ書面によらざる信託は設定契約の時点で取り消すことができたり,しかし一部でも処分がなされれば取り消すことができなくなるのかというふうなことに関しまして,贈与と同じような何らかの趣旨,理由説明というのは可能なのかということが,私には若干気になるのですが。

  結論から言うと,私の最後に申し上げたことは可能なような気もするのですが,それよりも,ストラクチャーとしてこのような形で3を置くというのは多少難しいのではないかということについて,意見として聞いていただいても結構ですが,もし何かありましたらお教えいただければ幸いでございます。

● では,今の最後の設定の点。
● 御指摘につきまして,要物性の問題にしましても成立要件という効力発生要件を分けるべきではないかという御趣旨かと思いまして,そこはちょっと,我々はそこを一緒のものだと考えて書いてしまっているわけでございますが,贈与契約の規律の仕方などとあわせまして,もう一度そこは考えてみたいと思います。

  ただ,書面によらざる場合は取り消すことができるとか,一部履行したら取り消せないかという趣旨につきましては,軽率な者を保護するという贈与の趣旨とは異なりまして,ここはむしろ,信託事務処理の準備をした受託者ですとか,受益権の発生を期待した受益者の期待を保護するという観点からは,書面によった場合ですとか,あるいは一部履行がされれば,そういう期待は当然生まれるだろうと。

そういう観点から,もはや取り消すことができないという規律をしているというのが,その趣旨ということでございます。

  もう1点は補足でございますが,○○幹事が先ほど,分別管理義務を定義から落とすということにした上でとおっしゃいましたが,我々は,そこはなお検討するということで,どうするかというのを今検討しているところですので,もし,入れるべきだという御趣旨でしたら,まだそういうことは十分可能ですし,もう要らないということでしたら,そういう前提でということですので,まだ決め打ちしているわけではないということをお含みおきいただければと思います。


● 私は,意見といいますか,感想的なものなのですけれども,先ほどからセキュリティ・トラストの関係で議論されておられると思うのですけれども,この問題点としての一つが,債権者と担保権者の分離というところ,それから執行法上どうなるのかという問題だと思うのですけれども,訴訟実務と執行実務の中でこれに類する例というのがございまして,担保附社債信託法以外にもあるということを御存じの方もいらっしゃるとは思いますけれども,一応御紹介したいなと思って,ちょっと発言させていただきます。

  それは,具体例で言いますと,サービサー会社ですね。法務省認可のサービサー会社は,弁護士法の特例として債権を譲受けた上での回収,それから委託を受けての債権回収ができるわけですけれども,自己の名をもって取立関係ができるという規定がございますので,サービサー会社が立ち上がった当初,例えば訴訟の申立書にしろ担保権実行申立書にしてもですけれども,一般の弁護士が債権回収をやるように代理構成で申立てをするのか,それとも自己の名前でできるということがあるので,自分自身の債権としての訴訟行為,担保権実行行為ができるのかというのがありまして,今の裁判所の実務では,自己の名をもってできるということで,これは,債権回収の委託を受けた債権の訴訟でありましても,また担保権の実行でありましても,サービサー会社単独の名前でもって実行ができるという取扱いがなされておりまして,特にこれについては民事執行法の改正等というのはございませんでしたけれども,実務ではそういう取扱いがされておりますので,一つ参考になるのかなと思いまして,発言をさせていただきました。

● 2点だけ申し上げますけれども,1点は簡単な意見で,2点目は質問です。
  1点目は,分別管理義務を要件に加えるかどうかというのは,私は消極で,3ページに書かれているようなことに賛成です。

やはり,いったん成立したものに受託者にどういう義務を課すかという話を成立の段階に持ってくるというのはどうなんだろうかということですけれども,私の発想は。これは意見です。

  二つ目は,セキュリティ・トラストというのは,これは分かっていないので教えていただきたいということなのですけれども,「財産の譲渡」,「担保権の設定」と,こう並べてありますね。

これが違和感があって,多分,英米では--多分というのは,ちょっといい加減な言い方で恐縮ですけれども,やはりプロパティーのトランスファーという話で全部統一していると思うのですね。

そうすると,向こうでは「財産権」なるものが広いから,こういうスキームをつくった後で担保権の部分だけをトランスファーするというのももちろん信託でできる。

それは財産権,プロパティーの中にあるのだからという話だけで済む話を,ここで「担保権の設定」という形で,「設定的移転」という文言もありますが,こういう形で表現しないといけないというのは,これは例えば,いったんこういう担保を設定して,その担保権の部分だけを受託者に譲渡するという形だと,いったん設定したときに何らかの手数料か何か,登記料か何かさせたり,それをまた移転すると更に経費がかかるというような,極めて実際的ではあるけれども,理論とは何の関係もない理由に基づくのでしょうか。


● これは,1の①にございました「財産の処分」が信託設定の要件でございますが,その例示といたしまして,「財産の譲渡」,「担保権の設定」というのを挙げているということでございまして,その担保権の設定につきましては,何度か申し上げておりますとおり,それが果たして信託のスキームを使ってできるのかどうかという点につきまして争いはあり得ますので,それをなくすということを明確に書いたということにとどまるわけでございます。

ちょっとお答えになっているかどうか分かりませんけれども,2点目はそういうことでございます。

● ○○委員は,まずは担保権がどこかで設定されて,それを移転するというふうに考えればいいじゃないかということですか。

● まあ,そうですね。

● ただ,そうすると,どういう担保が設定されるか。要するに信託が設定される前の段階での担保の設定ですよね。

そうすると,これはもう債権者といいますか,それは別であってもいいかもしれないけれども,担保権者というのがどこかで出てきて,そうすると,その権利を移転するというわけにいかない。

つまり,ここでは受託者に担保権を与えてあるわけですよね。

だけど,例えば一番単純な例で言えば,普通の債権者が担保を持っていると,普通の場合。この担保を,しかし,その債権者そのものではなくて,受託者がその担保権を取得すると。

まあ,いかないというわけではないけれども。そうすると,今度は,だれが委託者になるかというと,ちょっと違った設定になってくるわけですよね。

今までは,債務者自身が委託者で担保を設定すると。だけど,今の○○委員の例だと,むしろ債権者が自分の取得した担保を管理してもらうために受託者に移転すると。恐らくタイプが違ってくるのだと思いますけれども。

それで,それ自体,後者も恐らく不可能ではないんだと思いますけれども,少なくとも今ここで考えているのはそういうタイプではなくて,いきなり担保を設定するというタイプなのではないでしょうか。


● そこにどういう違いがあるのでしょうか。委託者がだれかということは違うということはよく分かりましたが。

● 違うというか,要するに,後者の問題はそう特別な問題はむしろないのかもしれませんね。

むしろ被担保債権と担保が分離することがいいかどうかという民法の問題はありますけれども,そうでなければ普通の問題なんですよね。

もう既に担保権があるわけですから。だけど,前者といいますか,債務者自身がいきなり担保権を設定するということになると,これは果たしてそういうことができるのかどうかということがはっきりしない。

ですから,その点をはっきりさせておくことに意味があると,そういうふうになるのではないでしょうか。


● 一言だけ。

  つまり,英米でモーゲージというのがあって,モーゲージの設定というのは信託ではないというふうに普通に書いてあるのですね。

ここで問題にしているのは,そういう状況とは全く異なるシチュエーションを考えておられるのでしょうけれども,「担保権の設定」とだけ書いてあると,もう何でもという気がしたというのが遠因としてはあるのです。

● モーゲージの場合には,むしろ債権者に一種のモーゲージというのを設定する,というのか何というのか分かりませんけれども,与えるわけですね。

ですから,今の議論との比較で言うと,普通の債権者が担保を取得する行為を,例えば譲渡担保なんかが一番典型かもしれませんが,そういうのを信託で説明するかどうかという問題になるのでしょうね。

  しかし,これは最初の信託の定義のところに関係すると思いますけれども。

1の②に相当する,「財産の処分を受けた者が,【自己の利益を図る目的以外の】の目的のために」と。

ですから,普通の債権者が譲渡担保みたいにして受けるのは,それはだめだと。

● だから,後の方と絡めて,それは排除できるよということと,そもそも今ここで問題にしているのはそういう例でないということは分かるのですけれどもね。

● ほかに。

● 2点ございます。
  1点目は,信託の定義のところでございますが,先ほど来,第3の要件として分別管理義務を課すか否かということが議論されておりますけれども,この点につきましては,第1回目の法制審の場で,業界としては二つ意見がありますというふうに申し上げましたけれども,それは今現在も変わってはいないのですけれども,一つは,信託のセールスポイントとして倒産隔離が図られるということを入れた方がいいのではないかというのと,やはり効果を要件に持ってくるのはおかしいというのと,そういう考え方が二つあります。

  ただ,この文章をずっと読んでいますと,3ページの2の二つ上のところで,「信託となるためには当事者に受託者からの倒産隔離を生じさせる意思があることが,書かれざる要件として必要になると解する」と書いてありますけれども,何か,分別管理義務という形で置くのではなくて,倒産隔離を生じさせる意思を当事者が持っているのだというような言い方の方がいいのではないかと思うのですけれども。

まあ,これについては,業界としてすべて賛成ですという話ではないのですけれども,持ってくるとしたらそういうような書き方なんじゃないかなという気はするのですが。それが1点です。

  もう1点目は,先ほど○○委員からお話がありましたけれども,設定方法のところですが,○○幹事からも,これは理論的な御意見でございましたけれども,実務的な観点から言いますと,最終的に書面によるかよらないかは別にいたしまして,いったん信託が設定した限りにおいて,それが取消しできないといいますか,委託者の側としては出資する義務を負うと,そういう形になるというのは,実務的な観点からいたしますと非常に歓迎できる規律でございまして,現場の方でもいろいろと議論したのですけれども,本来こういうような形を入れてほしかったねというような話もありますので,この点については非常に歓迎しております。

● 今の○○委員と同じ2点についてです。

  まず,第1点の分別管理については,先ほど○○委員もおっしゃったような感じで,これを定義に置くということについては,やや違うんじゃないかなという感じがします。つまり,定義で本質を書くのか,それともメルクマールを書くのかということかと思いますけれども,どうもこの分別管理というのは,一つのメルクマールとしては非常に意味があるけれども,定義に入れるほどのものでもないのではないか。

むしろ次元が違うような気がいたします。

  それから,第2は設定方法の点で,正に民法550条のような規律を持ってくることが実務的にこれでよいということであれば,まあそれも悪くないのかなと思いますが,一つ懸念といいますか,ある契約が信託であるというふうに性質決定されると,撤回可能になるという裏の面があると思います。

そのことが契約の性質決定の方に影響してくる可能性はないだろうかということを更に検討する必要があるかと思いました。

  それから,言葉だけの問題ですが,「取り消すことができる」となっておりますけれども,たしか今度の民法の現代語化でも,これは「撤回」という言葉に変わっていたように思いますので,その方が適当ではないかなというふうに思います。


● 今回,3ページのところで出てくるのですけれども,消極財産も加えることができるということから,事業の信託を行うことも可能であるということになっておりますけれども,この「事業」というのは,よく言うところのいわゆる営業というふうにとらえていいのだろうか,どうなのだろうかと。例えば,すごく分かりやすい例で言うと,何か物をつくっている工場を信託に出すといったときに,そこで働いている労働者というのか従業員,そういう人たちともども信託を設定するということまで可能だということになるのか,それとも,あくまで工場としてのハードというのですか,工場建屋とか中にある機械とか,あるいはそこで使う特許権とかノウハウというようなものだけが信託が可能なのだととらえるのか,ちょっとそのあたりはどういうふうに理解すれば……。質問なのですけれども。

● 今の労働者なんていうのは,一種の契約上の関係があるわけですね,工場といいますか,委託しようとしているものからすれば。

そういうものが信託によって一緒に移転していくと。まあ,その中には債務も入ってくるわけですけれども。
  いかがでしょうか。

● 今の話ですと,恐らく信託として移転するのはハードの部分であって,ただ,労働者の雇用契約とか,そういうものについてはいわゆる契約上の地位の移転ということで移っていくのではないかというふうに一応理念的には分けて考えるべきではないかと考えるところでございます。

● そうしますと,信託財産は工場建屋みたいなハードの部分であって,従業員の雇用関係は,受託者と従業員が新たな雇用関係に入ると。

もちろん,ということは,雇用関係の切りかわりなので,従業員の承諾がないとできないという労働法上の問題はありますけれども。

ということですと,例えば信託が終了したときなんか,従業員とハードの帰属がばらばらになってしまうという可能性もあり得るということになるのですかね。


● ここはちょっと皆さん,どういうふうに考えているか分からないけれども,私は,債務が入るということの意味がどこにあるのだろうかというので考えたのですけれども,債務が信託財産として一緒に移転するという場合には,債務ですから,当然,債権者がいるわけですね。その債権者から見たときに,その債権者の引当財産になるのは一体何なのかと。

  信託と一緒に債務が信託財産の一環をなして移転すると,その設定された信託財産に対しては,もとの債権者の地位にあった人間は,新たな信託財産に対しても信託債権者としてかかっていけるわけですね。

だけど,これが,もし債務が移転しない,債務は後から単なる債務引受けでやるということになると,信託目的の範囲内で新たな債務引受けをすれば,これは信託財産にかかっていけるかもしれませんが,そうではない債務になると,必ずしも信託財産にかかっていけるわけではないと。そんなところが違うのかなと。

  ただ,今のような雇用契約上の地位なんかになりますと,これはどうなんですかね。

やはり信託の目的の範囲内という形で引き受けられるので,後からくっついてきても,信託財産にかかっていけるような地位になるような気もしますけれどね,私としては。

ただ,ここら辺はもうちょっと詰めなければいけないかもしれませんね,おっしゃるとおり。

  これは何回ぐらい議論できるんだろうかという全体の話ですけれども,ここで一遍議論してしまうと,ここでおしまいになってしまうのか,あともう1回ぐらい議論できるのかというところが,皆さん気になると思うのですけれども,どうですか。

● 予定といたしましては,2月に3回ありまして,その後に中間試案ですので,2月の3回でもう1回できます。それから,次回と次々回では,受託者の権限・責任・義務あたりのポイントになるところを扱いますので,それにつきましては,次回,次々回とあともう1回,1月の最後ぐらいということを予定しておりますので,そういうものについては中間試案までに3回,それ以外の,今日のようなものについては2回ということになります。

● そういうことで,まだチャンスはあるのですけれども,大体のいろいろな方向性などを御議論いただければいいと思います。

● 私も,信託の成立要件で分別管理義務を要件に加えるかどうかという点を中心にコメントさせていただきたいと思います。

  私も,各委員の先生方,あるいは実務家の一部の方たちが御指摘のように,この分別管理義務を信託の成立要件にすることは,理論的にも実務的にも望ましくないのではないかと思っております。

  その理由は,信託の機能のうち,確かに倒産隔離機能というのは非常に重要な機能の一つではあると思いますけれども,信託の機能は何も倒産隔離機能に尽きるわけではございませんで,例えばセキュリティ・トラストなんかで機能が実現されるであろう法律関係の単純化機能ですとか,あるいは,様々な債権等の財産権を受益権という性質の異なった権利に転換するという転換機能もございまして,この倒産隔離機能だけが信託の機能ではございませんので,そのような観点からすると,分別管理義務を信託の成立要件にしてしまうのは,むしろ信託の機能を入口のところで狭くしてしまう,そのような悪影響があるのではないかと,このように考えております。

それとの関係で,担保権の設定につきましても,これは諸外国でも行われておりますように,法律関係を単純化するという信託の最も基本的な機能の一つの発現だと思いますので,入口のところで,例えば担保権の設定はだめであると,このような議論の仕方はやはり信託の機能を入口から狭めるものであって,適切ではないのではないかと考えております。


  なお,匿名組合との関係でございますけれども,分別管理義務が付随すると匿名組合がすべて信託になるかというと,これは,先ほどの転換機能のところで,匿名組合のときに受益権の発生が意図されているのか,受益権が発生するのかという点を考えると,仮に分別管理義務を信託の成立要件としたとしても,匿名組合との区別は十分につき得るのではないかと考えております。
  以上,簡単ではございますが。

● さっきから議論になっていますけれども,今までは,信託の意思,信託設定の意思というような,少し抽象的ですけれども,しかし,ある意味で信託の一番中心になるものを意図しているかどうかということで,今の○○幹事の御意見は,それは単に倒産隔離の問題に限らず,どういう受益権を発生させるかとか,そういうものも含まれるという,今までそういう議論をされた方もおられるかもしれませんけれども,新しい議論ですね。


  ほかに,この点,いかがでしょうか。

● 脱法信託のところで訴訟信託についての記述がございますので,若干意見を申し述べたいと思うのですが,必ずしもこの点についてまだ詰まったところまで意見がまとまっていないのですが,若干感想的なことも含めて,申し上げたいと思います。

  現行法では訴訟信託については禁止ということになっておりますが,御提案の内容では,ただし書で,正当な理由がある場合には訴訟信託を認めるというような枠組みになっているかと思います。

  印象としては,これまでの法律の枠組みからすると,かなり広く訴訟信託を認めるようなことになるのではないかというふうに受けとめております。

弁護士法72条のことが記載されておりますので,そのこととの関係も,恐らく弁護士の立場からすると問題になるのではないかと思うのですけれども,これまでの弁護士法72条の議論や,それから,その72条を超えて,訴訟行為,あるいはそういった行為を認める場合の認め方からすると,司法書士とかサービサーとか,そういったところには認められてきていますけれども,こういった形で広く認める法制というのはこれまでなかったのではなかろうかというふうに,現段階では,私個人としては認識しております。

  そういった関係で,このただし書については任意的訴訟担当についての議論を踏まえたものだという御指摘がありますけれども,従前の議論からすると,かなり広くこれを認めるものではないかという印象を持っておりまして,この点については,できれば慎重な議論をお願いしたいというふうに考えております。

  もう少し検討した上で,2順目になるのか3順目になるのか分かりませんが,またまとまった意見を申し上げたいと思いますけれども,とりあえず問題提起という形で意見を述べさせていただきました。

● 一つ質問なのですけれども,仮にこの資料に掲げられています任意的訴訟担当についての解釈論というのをある程度前提としてこのような提案をされているといたしますと,なぜこのようなただし書を,かつ,正当なというような割と一般的な要件でもって書かれる必要があるのかと。

任意的訴訟担当についての解釈論にゆだねれば済むことではないかというような考え方もあり得るのではないかと思うのですが,この点についてはいかがでしょうか。

● 任意的訴訟担当につきまして,実務上正当な理由があるときとか,そういう場合を認められるのだというふうな解釈の前提として,それを念頭に書いたということでございまして,もしも書かなくてもそういうものは当然抜けるのだというふうな解釈が可能ということでしたら,あえて書く必要はないのかなと。

そこはちょっと,書く・書かないというだけの問題かなという気もいたしますが。

● そうすると,現行法はそういうものも含めて禁止しているという解釈を前提として,やはりそこは外す必要があると,そういうことですか。

● 現行法上は任意的訴訟担当は認められているということですから,それを追認するということで,現行禁止しているものを外すという趣旨ではございません。

● よろしゅうございますでしょうか。


  詐害信託の方については特に御意見がありませんでしたけれども。

● 詐害信託については1点だけです。
  民法424条についての主観的要件の議論ですけれども,倒産法上の否認権についても同じような議論が当てはまるという,これはそっちは解釈論でいくのだという,そういう理解でよろしいでしょうか。

つまり,こういうものがあれば受益者の主観的要件でコントロールするということに当然なるという理解だと理解してよろしいでしょうか。

● その部分に限ってはそういうことでいいと思います。ただ,全ての要件が同じかどうかというのはもうちょっと検討する必要がありますが,受益者で決めるというところは同じになると思います。

● 詐害信託についてですけれども,受益者の権利取得時を基準にしておられますが,この権利取得時というのはいつのことでしょうか。

信託行為時だとしますと,受益者が知らない間に権利を取得しているということがあり得て,その場合には常に善意となってしまうのではなかろうかと。

そうすると,可能性としては,受益者となったことを知ったときという基準が別に考えられるかと思います。

しかし,そうしますと,今度は受益者が複数いる場合に,その善意・悪意が交互に出てきたというようなときに非常に不安定になるという問題もありますから,この権利の取得時というのについては更に検討する必要があるかと思います。

● そうですね。難しい問題がありそうな気がいたします,直感的に。
  何か今の段階で。

● おっしゃるとおり,受益者が不存在とか,そういう場合もあり得ますが,ここの権利取得時というのは,受益権を知って,それを承認したときというときになるかと考えております。

  それから,受益者が複数いる場合については,一人でも悪意者がいたら取り消せないという規律でいけるのではないかと考えられますが。取消しはできない,ただ,悪意者に対しては受益権の返還請求権とかそういうものでもって対処するということでいけるのではないかという気がいたします。

● これは報告書の段階でございますけれども,129ページに「受益権の取得時期」というのがありまして,「信託行為に別段の定めがない限り,受益の意思表示を要しないでその信託から生じる利益を享受する」というようになっている,そことの整合性をお聞きしたわけでございます。

● 意外と難しい問題な気がするけれども,これは私の個人的な意見ですけれども,詐害行為というのは,信託を設定することが設定者の債権者にとって害になるかどうかということなので,原則はやはりその設定時なのではないかという感じがするのですね。

ただ,受益権の発生時というのはいろいろあり得ますけれども,後の方の受益権の取得時期だというふうにすると,今度は受益者が悪意になる可能性が高くなり過ぎて,適当なのかどうかという感じがちょっといたしますね。

● 戻って一言だけ,第1のことについて申し上げたいのですが。

  定義という話が出たり,設定という話が出たり,いろいろしているのですけれども,現行の信託法というのは,前回も申しましたけれども,通常の契約や,あるいは質権の条文,抵当権の条文なんかとかなり異なった,本法において信託というのはこういうものだという形で書かれている。

  そう書いてしまいますと,実は,この3の設定方法なんかとうまくいかないということがあるというのは最初に申し上げたところなのですけれども,私が,じゃあ信託に関しても通常の民法の定型契約の条文のように,「効力が生ず」という条文に直すべきであるというふうに主張しているわけではないということだけ,一言申し上げたいのです。

  と申しますのは,実務的には問題があるのかもしれないのですけれども,今般の,例えば地方自治体の公共工事の前払金を信託だと見たというふうな最高裁判例,私は積極的に評価しているわけでありまして,そういうのは,定義というものがあって,それに当てはまったら信託の効果を与えるというようなことをしているから出てくる判決でありまして,また,英米におきましても,コンストラクティブ・トラストとかいろいろな救済法理というのがあるわけですけれども,現行の日本信託法のように,定義の形で,こういうふうな要件が満たされていたら信託と見ることができるという条文になっていたら,そのような救済方法としての信託というのも取り入れる余地が出てくるわけでありまして,そこが,売買の民法の条文や質権の民法の条文と異なる形で,定義という形で書かれている信託法のみそなんじゃないかという気がしていて,ちょっとそこらあたりが,「設定」という言葉を使ったり,「定義」という言葉を使ったり,「意義」という言葉を使ったりすることによって,どうも何かその意義がひょっとして失われるような立法提案に最終的になってしまいますと残念なことになるので , 一言だけ,今申し上げておきます。

● 1点目は詐害信託のところでございまして,10ページの(注2)のところ,どうしてもこれが気になりまして。

  基本的に,ここの部分につきましては,現行法においてもこういうことは言えるのだろうと思いますけれども,受託者が善意の場合において,基本的に債務を負っているような場合について,信託財産がなくなるわけですから,当然その債務をそのまま受託者がかぶってしまうと。

有限責任の債権であるとすると,それについて債権者が損してしまうということがありまして,ここの部分につきましては,先ほど○○幹事の方から,当然そういう方向みたいなことも規律としてできるのであればというようなお話がありましたので,受託者の立場といたしましては,そこは是非ともお願いしたいと。

その中で出ていましたように,債務付で返還するであるとか,債務の方を優先させて,その残った分を返還するとか,済みません,どういうような形にするといいかというアイデアはないのですけれども,そこら辺のところの御検討をお願いできたらということです。

  もう1点は,ちょっと戻りまして済みません,言い忘れていたものがありまして,第1の(注2)のところ,5ページですか,「信託財産の帰属しない受託者について」ということで,これについては,議論については共同受託者のところでされるのだと思いますけれども,1点だけ申し上げておきたいのは,昨今かなり信託事務が高度化しておりますので,当然,いろいろなシステムの対応であるとか,そういったところの部分が必要になって,職務を分担するという信託が出てきておりまして,その職務分担の中で信託事務を円滑にするために,信託財産を持つ受託者と持たない受託者,そういうものがもう既に出現していまして,非常に大きな受託財産を抱えているということもございますので。

あと,今後のことを考えましても,例えば知財等,信託財産の範囲がどんどん拡大していくということと,担い手がどんどん増えるということになると,いろいろなパターンで組合せがあって,例えば弁護士さんと信託銀行が組むとか,それで,その場合に特定の受託者が信託財産を持つというようなことも結構考えられるのではないかなと思いますので,ここの部分については,是非ともこの規律という形でお願いしたいということでございます。


● 詐害信託については,○○委員のおっしゃったことと同じことを申し上げたいと思います。

  
あと,一番最初に私が申し上げた,倒産隔離の観点で双務未履行かどうかという話については,先ほど○○委員の方から,いわゆる定義を,倒産隔離の設定をしたいという意思を持つかどうかということもあったように,非常に重要なことで,もちろん○○幹事のおっしゃったとおり,そうすることによって柔軟性がなくなってしまうこともあるわけですけれども,ただ,やはり非常に重要な点でございますので,この点は,多分第14のところですね,受託者の倒産のところ,これがいわゆる受託者の撤回ということで解決されるのか,それとも信託契約の解除という形になるのか,そこをもう一度整理していただきたいと思っています。

それで,もし必要があるのであれば,かつ,倒産隔離というのは非常に重要だということだと思っておりますので,そう考えられるのであれば,もしそのリスクがあるのであれば,何らかの立法的な手当てなり,また倒産法上の考え方の整理であるとか,ということをお願いしたいと思っております。

● これはまた倒産のところで議論しましょう,関連する点については。

● 詐害信託と脱法信託について,一つだけ,それぞれ御検討いただきたいという趣旨で。

  詐害信託につきましては,二つ目の「悪意の受益者に対する返還請求」なのですけれども,これ自体は,民法上の詐害行為取消しとは別に,信託法上の請求権として非常に特殊なものであるという説明がされておりますので,その含意がどこまでかということを改めて御検討ないし確認していただきたいということでして,具体的な中身としまして,委託者への返還,委託者への譲渡の請求となっておりますけれども,民法上の詐害行為取消権の場合,直接交付請求が動産ですとか金銭の場合は認められるというのが一般的であることとの関係で,このケースの場合にはそれと同じような扱いになるのか,それとも,やはりそこは違うということなのかという点が一つ。

  もう一つは,その範囲につきまして,被保全債権となるようなものとの関係で,これも,詐害行為取消しの場合,それによって上限が画されるということですが,説明の9ページから10ページですと,何となく,上限的な処理が普通はされるであろうというようなニュアンスで書かれておりますので,そのあたりも,もう少し中身として詳細を御検討ないし確認していただければと。

  それから,脱法信託は,中身のことではなくて,単純に説明の話なのですけれども,1と2の関係につきまして,6ページの下から4行目ですと,2の訴訟信託の禁止というのは,「10条において禁止される脱法事例の具体的例示として規定し禁止することが肝要である」という説明になっておりますけれども,現行規定の趣旨を10条について維持するということになりますと,10条の方は受益者となることによる回避,訴訟信託の方は受託者として行うということで,かなり具体的な例が違ってくるのではないかと思っておりますので,むしろ両者は一般的な脱法禁止のそれぞれ具体的事例という説明になるかと思いますので,ちょっと説明だけ御注意ないし御確認いただければと思います。

● 何か。--よろしいですか。
  では,今御注意いただいた点は,そのように織り込みたいと思います。
  それでは,次に,休み前のもう一つのセッションですが。

● では,「第5 受託者の不適格事由について」から「第8 信託の公示について」まででございますが,恐らく第6の受託者の利益享受の制限についてが一番問題が多いので,そこを少し厚めに,あとは時間の関係で非常に簡単に御説明をさせていただきたいと思います。

  まず,不適格事由でございますが,現行法5条の規定する受託者の不適格事由,すなわち,信託の無効事由に関しまして,破産者については現行法を改めて無効事由から外す,それ以外の未成年者,成年被後見人,被保佐人については現行法どおり信託の無効事由とするというものでございまして,その趣旨はこの説明文中に書かせていただいたとおりでございますので,ここでは省略させていただきます。

  第5については以上で終わります。

  続きまして,「第6 受託者の利益享受の制限について」でございまして,これはいささか問題があり得ると思いますので,丁寧に説明をさせていただきます。

  第6というのは,受託者が共同受益者を兼ねる場合を除き,受託者と受益者の兼任を禁止すると規定している現行法9条に関しまして,その禁止の射程範囲と効果を明らかにしようとするものでございます。
  なお,本条の趣旨につきましては,13ページの説明の4行目以降に①から⑤まで挙げてありますとおり,種々の見解がございますが,この提案におきましていずれか一つに決めようということではないのですが,基本的には,受託者が受益権を取得すると,受託者を監督すべき独立の受益者がいなくなってしまい,信託の存続を認める意味がなくなってしまう,すなわち,受託者イコール受益者が信託の拘束のない完全な所有権を取得するに至ったものと解すればよいのではないかと考えまして,信託の終了を来すということを基本的な視点とするものでございます。

  まず,この規律の射程範囲でございますが,太字の1にございますとおり,受託者が受益権の全部を取得した場合に関し,受託者に受益権処分義務を課すというものでございます。

すなわち,ほかにも受益者がいる場合,これは,単独受託者が共同受益者の一人である場合と,共同受託者イコール共同受益者である場合とがあり得ますが,このようにほかにも受益者がいる場合については本規律の射程外でありまして,完全に有効な信託としてそのまま存続し続けて構わないと考えるものでございまして,逆に他に受益者がいない場合,すなわち,単独受託者兼単独受益者である場合と,単独受益者が共同受託者の一人である場合とが射程に含まれてくる可能性があるということになるわけでございます。

このうち,単独受益者が共同受託者の一人である場合については更にこの規律の射程外ではないかという考え方,すなわち完全な有効な信託と見て構わないのではないかという問題があり得ますので,ここでは,まずは単純な単独受益者イコール単独受益者である場合を念頭に,その効果の考え方について御説明いたします。

  まず,単独受託者が事後的に受益権全部を取得することによって単独受託者兼受益者という状態が形成された場合を考えてみますと,理論的には,そのような場合に,新受託者の選任ですとか,受益権の再処分によってこのような状態が解消され得ること,実務的にも,13ページの中段以降に①,②と書きましたとおり,受託者が受益権全部を買い取らなければならないニーズがあり得まして,資産流動化法224条にも,受託者が受益権の全部を購入することを予定した規定が置かれております。

そういうことに照らしますと,単独受託者が単独受益者を兼ねるという状態が生じたからといって,直ちに信託の終了を来すと考えることについては,その必要性もなく妥当でもないと考えられるわけでございます。

そこで,この提案では,受託者が受益権全部を取得した場合でも,信託が当然に終了することとはせず,受託者に受益権の処分義務を課すにとどめるというふうにしたわけでございます。

  それでは,今,事後的に生じた場合と申しましたが,信託設定当初からこのような兼任状態が生じることについては許容されるのか,すなわち,信託設定自体が当初から無効となってしまうのか,しまわないのかという問題があると思います。

この点につきましては,15ページの(注5)に記載しておりますけれども,もちろん異説もあり得るとは思うのでございますが,このような兼任状態が生じているという事実自体は,信託設定当初であれ信託設定後であれ,変わらないということ,経済実体的にも,いったん受託者と受益者を分けて信託を設定後直ちに受益権全部を受託者が取得することと,当初から受託者が受益権全部を保有しているということとでは有意な区別をする意味に乏しいこと等にかんがみまして,信託自体の無効を来すことはなく,事後的な場合と同様に受託者に受益権の処分義務を課すにとどめる,当初から兼任していた場合でもいいというふうに解しているのが,この提案でございます。


  第3に,太字の1の規律の適用対象となり得るもう一つの場合,すなわち,単独受益者が共同受託者の一人である場合,これを完全に有効な,いわば無傷の信託と見て,そのままこのような兼任状態を維持しながら存続し続けて構わないのか,それとも,欠陥が伴う信託と見て,受託者に欠陥状態を解消させるべく受益権の処分義務を課すこととするかというのが,太字の1のアステリスクの部分のところ,甲案,乙案でございますが,それと14ページの1の7行目以降に書かせていただいたところに関するものでございます。

  甲案といいますのは,このような場合も太字の1の射程内に入るものとして,単独受益者兼共同受託者に受託権処分義務を課すというものでございまして,受益者を兼ねている受託者に対する監督関係の欠如を重視して,このような状態が継続することは認められないと考えるものでございます。

  これに対しまして,乙案は,受益者を兼ねていない受託者については監督関係の存在を観念することができるのであるから,なお信託の構造が残っていると言うことができまして,このような状態が継続しても構わない,すなわち太字の1の規律の射程外であると考えるものでございます。

  なお,いずれの立場をとりましても,信託設定の当初からこのような兼任状態を生じさせたとしても,当該信託の無効を来すものではなく,事後的な場合と同様に,せいぜい,その場合にもしも甲案の立場をとったとしても,受託者に処分義務を課すにとどめれば足りるのではないかと考えるものでございます。

  最後に,太字の2でございますが,これは受益権の処分義務を課される場合についての効果を規定したものでございます。このような兼任状態が生じますと,受託者の受益者に対する義務というものも観念できませんし,受益者の受託者に対する監督関係が欠如しているということになりますので,このような状態は信託の当然無効を来さないまでも,なるべく速やかに解消されることが望ましいわけでございますので,受託者に受益権の処分義務を課すこととした上で,もしもこの義務を果たせないと,もはや信託の存続を認めず,当該信託は終了するとしたものでございます。

  なお,受益者は直ちに処分されることが望ましいことは言うまでもないことでございますが,「相当の時期」といたしましたのは,15ページの(注4)にありますとおり,処分先を探すには一定の期間が必要であるということ,それから,他の立法等の例といたしまして,中間法人法,資産流動化法,投資信託及び投資法人に関する法律,商法における親会社株式の処分等の例が,いずれも「相当の時期」となっておりますのを参考にしたというものでございます。


  
以上の考え方の当否及び甲案,乙案につきましては,是非とも審議を願いたいというところでございます。


  続きまして,「第7 受託者の職務の引受けについて」というところでございますが,これは米国統一信託法典などを参考にしている提案でございますけれども,受託者として指名された者による職務の引受けが決まらないまま長期間経過すると,信託財産の帰属先やその管理に関する権利義務といったものが確定せず,その受益者等の地位が極めて不安定な状態に置かれますので,そのような状態を速やかに解消して,受託者として指名された者による就職の有無を速やかに確定させるべく,太字の1のとおり,受益者等に催告権を認めまして,その上で,太字の2のとおり,相当の期間内に確答がなかった場合は,受託者が忠実義務等厳格な義務を負うことにかんがみて,就職を拒絶したものとみなす。

それによって,委託者及び受託者が新受託者を選任するですとか,あるいは利害関係人が裁判所に新受託者の選任を請求するという機会を与えることとしたものでございます。

  なお,16ページの(注1)に詳しく記載しておりますが,この規律の適用範囲につきましては,基本的には遺言信託の場合になるのかと思いますが,契約信託も含まれ得る,両方が含まれるというふうにここでは解しているところでございます。

  それから,回答の相手方でございますが,第一次的には,受託者の就職に最も利害関係の大きい受益者,その者がいないときには,なるべく速やかに信託における受託者の就職を確定するという観点から,催告してきた者,これが一番つかまえやすいので,その者でいいのではないかというふうに考えているのが,(注3)というところでございます。

  以上で職務の引受けについての説明を終わらせていただきます。
  


最後に,「第8 信託の公示について」でございますが,これは,信託の公示に関して定めております現行法3条に関しまして,登記・登録できる財産の対抗要件に関する第1項を維持し,有価証券の取扱いに関する第2項は削除しまして,有価証券上の表示や名簿上の記載をもって対抗要件の問題とはしないということを提案するものでございます。

  なお,現行法上の信託の登記・登録制度について見直すべき点などがありましたら,あるいは,どのように見直すべきかという点につきましては,是非とも御審議いただきたいということで,今後の検討課題ということであえて太字で付記させていただいているところでございます。

  ところで,この第3の点が特に問題となるのでございますが,今後の検討課題といたしまして,今までの信託法制研究会--この審議会の前身に当たります研究会ですとか,この部会の第1回会議において指摘のあった事項は,この20ページの説明の丸三つに記載してあるような事項でございまして,その中身について,ここでは一々説明いたしませんが,本日は,特に,現行法上の制度あるいはこの信託法が見直された暁にはどういう登記制度,登録制度が望ましいかということにつきまして,是非とも皆様の方から御意見を賜れれば大変有り難いというふうに思っておりますので,よろしくお願いいたします。

● 余り中心的でないことを簡単に。

  第5の制限能力者の規定と,第7の職務の引受けというのは平仄が合っているのでしょうか。

つまり,とりわけ遺言で設定したようなときなんかを考えますと,制限能力者を受託者に指定していたら,次の人が選ばれるような手続をするというのが筋であって,信託行為が絶対的に無効になるというのが何となく違和感があるのですが。

● そうですね。遺言なんかの場合が特に問題になるんですかね。

契約でもって信託設定をする場合には,当の受託者というのは,普通,その段階で分かっているし,余り問題は生じないかもしれないけれども,遺言で,実際にその遺言の効力といいますか信託の効力が発生する時点では受託者がどうなっているか分からないという場合があり得て,そういうときには特に問題になるかもしれませんね。

  何かありますか。

● いえ,おっしゃるとおりかなと思います。
  ここは,こういう者を信託の受託者にしたら絶対的に無効だという解説書の例などを単に読んでしまったのですが,おっしゃるとおり,信託自体を滅失させなくとも,処分の引受けの催告というのではなくて,また新受託者を選任する機会などを与えて,なるべく信託を継続させればいいのではないかという御趣旨はなるほどと思いますので,その点につきまして,ちょっと検討したいと思います。


● ほかに。

● 第6と第8について,質問と意見を述べたいと思います。

  まず,第6について,質問が一つなのですけれども,甲,乙案の選択の議論として,実務的な感覚からは,単純に柔軟性が高い乙案の方がいいというふうに考えたくもなるわけなのですが,そこで,この議論の中で,その認める理由として,14ページのところなのですけれども,「乙案は……監督関係が存在し,信託構造は残っていることを理由に」とありますけれども,この「監督関係が存在し」ということ,これがある意味もう動かし難い定説なのかどうかということを確認したいと思います。

  と申しますのも,いろいろな実務がございまして,実務においては,共同受託というのはそんなに例があることではないと認識しておりますけれども,その場合でも,その両者間において相互に監督しているということが本当にあるのかどうかというのがなかなか疑問でございまして,そういうものが本当にあるのか,また,その中身は一体何なのか,また,あるとしても,それは別に強行法規的なものでなくても,ある意味デフォルト・ローといいましょうか,委託者が例えば二人の受託者を選任する際において,お互い監視し合ってくださいねということを言えばそれで足りるのではないかということだと思いますので,共同受託者間の監督義務というのがどうなのかと。

そして,それを前提としたこの乙案なのかどうかということを確認したいと思います。

  第8の信託公示ということで,質問が一つと,コメントが一つでございます。
  一つは,ここで言う「登記」,「登録」,第3条で言う「登記又ハ登録スヘキ財産権」ということでございますけれども,ここでまず確認したいのは,このところ改正がございますけれども,債権譲渡ないしは動産登記というのは,これはここで言う登記すべき財産権ということではないので,この第3条の適用あるものではないということを確認したいと思います。

  それから,つながるわけなのですけれども,例えば海外にある資産で,それは海外の資産においては,多分,その当地法における登記・登録制度又は公示制度等あると思うのですけれども,そういうものというのはどう考えたらいいのかと。

この字面どおり登記・登録というふうに考えていいのか,それとも,これは国際私法の文脈で解釈することになるのか。

また,逆に,これもちょっと議論は成立していたと思うのですけれども,海外の信託,海外法の準拠法による信託で,国内において公示制度がどうなのかという,これはちょっと信託法の話と違うとは思うのですけれども,例えば,ここで社振法の議論が出てきていると思うのですけれども--これはもう信託法の話ではなくて,社振法プロパーの話になるかもしれませんけれども,例えば,社振法等では,信託なら信託で帳簿に載せろというふうなことが書いてありますけれども,海外で,例えば「trust」というふうなことを,日本の帳簿に載せるときに,これを「信託」というふうに言うのかどうかというようなこともありまして,そういう意味で,登記・登録というのが,いわば国際私法的な文脈でどういう問題が生じ得るのかということをいま一度整理する必要もあるのではないかということも申し述べたいと思います。

  それから,コメントなのですけれども,○○幹事からも重要であるということでお話があった,財産の公示の中身でございますけれども,特に20ページで,不動産信託の場合の,受益者が変動したときには,その都度,「受益者の氏名又は名称及び住所」を変更しなければならないということについて触れられておりますけれども,これは実務的な感覚から言うと,ほとんど意味がなく,コストだけかかっているということなので,できるだけそういうものは削除していただきたいということでございます。

この登記というのは,受益者の変動ないしは受託者に対する対抗ということでもないというふうに理解しております。

そういう意味では,法的な意義があるということについては甚だ疑問でございますし,他方,これはいろいろ議論があると思いますけれども,プライバシーの関係もありますので,そういう不要なものをあえて公示制度に付すということはできるだけ避けた方がいいのではないかというふうに思っております。

● いろいろとそれなりに難しい問題の指摘があったと思いますけれども,今の段階では答えられますか。

● 共同受託者間の問題につきましては,共同受託者間の規律のところで検討いたしますが,基本的には共同受託者間には相互監視義務があって,ただ,意思表示に対して反対したものについては責任を負うかどうかと,そういうような規律について今後検討していきたいと思っていますので,監視義務はあるけれども,それがどの程度のものかというのは,今後の御審議にゆだねたいというふうに思っているところでございます。

  それから,債権譲渡特例法の問題ですとか,海外の資産の問題というのは,実はまだこの段階で検討し切れていなかった問題で,恐縮ながら直ちにお答えすることができませんので,ちょっと持ち帰らせていただければというふうに思います。

● 3点だけ,簡単に。

  まず1点は,○○幹事がおっしゃったように,第5のところで,「受託者となることができない」というのはいいけれども,それで信託全体を無効にする必要があるかどうかは本当に問題だと思います。ちなみに,英米では無効にはしません。ただ,裁判所へ行かないといけないという話にどうしても英米ではなりますけれども,かわりを補充する努力をすると。

  それから,同じことなのですが,第6の甲案か乙案かというのですが,単独受益者が共同受託者の一人である場合について,英米では一般にこれは完全に有効な信託なので,乙案ですね。受託者に受益権処分義務というのは全くないことになります。完全に有効ですから。

● 単独受託者が共同受益者の場合でございますか。

● 単独受益者が共同受託者の一人である場合は大丈夫なのです。一応参考のためにということで。

  3点目なのですけれども,今度は一対一の対応のものですね,この本文のところの。受託者が受益権の全部を取得した場合にも,実務上信託を存続させる価値があるよという話なのですけれども,英米では余りこういうことは問題にしていなくて,ただ,どういうことなんだろうかと本当は思っているのですね。


それで,それは終了してしまうわけです,簡単に言うと。

終了させなくてもいい場合だって,やはり向こうだってあると思うのですが,普通の私法の関係だけ考えると,たまたま私のところに全部が集約したときでも,本当にこれはまだ存続するという話になれば,これですぐに受益権を分けますね。

そうすると,本当に存続し続けるような話で,この段階ではだれも文句を言わないだろうというような話なのかと思っているのですが,現実にこの効果が出てくるのは,受託者は受益権の全部を取得した場合であってもとにかく信託を存続させるというのは,具体的な効果としては,この間に,破産,倒産,差押え,何でもいいのですけれども,そういうものがあったときに,これはまだ信託が存続しているので,この財産は色がついていますよということが言えるということですね。

そうなると,信託の設定段階でこういうスキームをつくっておくと,もう色がついているから大丈夫というのか,これは信託財産なので差押えできないとかいうような話もできそうなのですが,これはさっきの詐害信託等の別個のことで処理できるから大丈夫ですよというふうに考えればよろしいのですね。

● 今のは,最初の段階でやることを特に問題にされたわけですね。受託者がすべての受益権を持っているような形で最初に信託を設定してしまうと。

● とりあえず信託設定しましたよと言ってしまえば,とりあえずやってくるのをとにかく防げるという。

● 詐害というのは,ちょっとどの場面を考えているのか分かりませんけれども,委託者との関係では,これは一応委託者と受託者は別だという前提で考えていますけれども。

● ああ,そうですね。

● ですから,委託者の債権者にとっての詐害行為はまた別の問題ですね。むしろ,今のは,受託者のもとで受託者が同時に全部受益権を持っているので,そういう信託はどうだろうかということだと思いますね。


● 第6の点ですけれども,実務感覚にも英米法にも対抗して大変申し訳ないのですけれども,このアステリスクの甲案か乙案かということにつきまして,私自身は,受託者の中に全面的に受益権を享受している者というのは,結局,現在の忠実義務についての動向からしますと,受益者の同意を得ればそれが解消されるということですので,およそ忠実義務を負わないような受託者をつくり出すということは非常に問題ではないかというので,懸念を感じております。

解消の道としては,受益者たる地位を分散するか,受託者というのを解消するかという両面はあるのだろうと思いますけれども,適正ではないのではないかのかという感覚を現時点では持っております。


  それから,先ほど○○委員が御指摘になりました,監督関係が存在するという点でして,共同受託者間の問題はともあれ,ここでの問題は,受益者が受託者を監督するという,そちらの関係の問題であろうというふうに理解しております。

ですから,受益者でない受託者との関係では,受益者がきっちり監督するという関係があり,しかし,自らが受託者であるものについては全くその監督関係がないと,それでそういうような受託者をつくり出すことが適切かという問題であろうかと思っております。

ですので,強いて言えば甲案の方がというふうには思っておりますけれども,乙案であるという場合に更に検討していただきたい話といたしまして,一つは,既に出てきております信託宣言との関係で,信託宣言についてどうなるかということが決まった段階でこれを組み合わせるというような話が出てくるのか。

これは一般的にもともとの1の問題とも絡む問題ですけれども,もう一つは,既に先ほどお話のありました信託財産の帰属しない受託者を認めることとの関係で,他の共同受託者というのが,信託財産の帰属していない,名義のない受託者であってもよいのかと,これもまた後に検討する課題とされておりますので,そこが固まりましてから改めてこちらも,乙案である場合にはどうなるかというのを検討していただいてはどうかと思います。

  あと,これは中身について質問させていただきたいのですが,第7の1,2の催告をする者と回答を受ける者で,1につきましては信託管理人が入っておらず,2では信託管理人が入っているのですが,(注2)を見ますと,「利害関係人」にそういうものは挙がっておりませんが,これはそれでよろしいのか,また,どうしてなのかということを御説明いただければと思います。

● 済みません,もう一回お願いいたしますが,信託管理人が2には入っていて,1には入っていないと。催告できるかということでございますね。
● はい。それはできないという趣旨でお書きになっているということでしょうか。

● できるのではないかと思います。受益者の代表者ですからできるということで考えております。

● そうであれば,そういうようにお願いします。
● はい。

● それ以外はいずれも難しい問題なので,皆さん御意見がいろいろあると思いますので,御発言をいただければと思いますが,いかがでしょうか。

● 第6と第8について,よろしいでしょうか。
  まず,第6の1の本文と2ですけれども,こういう規律につきましては,解説のところにも書いていただいていますけれども,下から二つ目のパラグラフのところ,「また,」以下ですね,流動化の場合に,とりあえず受益権を取得して,そこから販売していこうかというようなことも考えられますし,特にこの2の方が,実際,受益者の保護と言っては何ですけれども,換価処分できないことというのは結構ありまして,例えば不動産の関係の信託なんかについては,幾つかに分かれているような場合について,急激に不動産の価格が下落してきたと,普通,全員で売却しないとできないのだけれども,でもやっぱり換価処分するような必要性が出てきたと,こういうような場合については,やはり利用価値があるかなと。

基本的には,ばらばらと部分的に受益権を取得していくということでしょうけれども,タイミング的に全部取得してしまうということもよく考えられることでして,とりあえず取得して,そのまま持ったままというのは,もともとリスクを背負ったことになりますし,また違う形で販売していくということにはなると思いますので,受益者を分散するというふうにしようと思います。

しようと思うのですが,どうしてもタイムラグというのが出てきますので,この規律というのは非常に有り難い規律だろうと思います。


  それともう一つ,合同運用の信託,これについてはまた別途議論がなされるということですけれども,ちょっと頭出しといたしまして,やはり合同運用信託の場合については,受益権の全部を取得した場合についても,全体から見ると,経済的効果とかいうと一部を取得したにすぎないような状態ですので,これについては終了するというのはどうかなということがありますので,できれば,特則を設けていただくとか,別途合同運用のところで御検討をお願いしたいということでございます。

  それが第6です。

  もう一つ,第8ですが,これについてはやはり実務上いろいろな問題がございまして,まず,3条1項を存続させる,この意義につきましては,第1回目のときに御質問させていただいて,基本的には,端的に言ってしまいますと,信託財産間も含めた形での倒産隔離を図るときの対抗要件に使うというのが目的なのだというようなお話だったと思います。

それで,31条の取消権に関するところの利用というのはもう廃止するというお話でしたので,そういう観点からいくと,不動産の登記でいきますと,今の信託原簿ですね,信託の権限についたようなもの,それについてはもう廃止していただいて何ら構わないのかなと。

  信託の実務上からいきますと,結構いろいろと聞いてみましたら,受託者としての権限に基づいて売却するというのはほとんどないと。基本的に,今,流動化でよくやっている部分については,受益権を売却するという方法をとっていますので,信託財産を売却する権限があるかないかというようなことというのはほとんどないと。

それであるとか,最終的に信託財産を売却するときでも,いったん受益者に対して交付する形をとって,そこから売却するという方法をとっていますので,実際にその信託が管理信託なのか管理処分信託なのかが問題になるようなケースというのは実務上余りないのかということですので,そういう観点からも言いますと,今の信託原簿になるようなものがなくて,どの信託財産に属するものか,その特定性だけを持たせる,そういうような形の登記にしていただけたらなというのが1点です。

  なおかつ,次のところの保振・社振とも絡むのですけれども,保振・社振法のところからいきますと,これは登記・登録すべきものではないということにはなっておりますけれども,これは多分,信託財産と固有財産との対抗要件として使われているものですけれども,意見の中には,3条1項の部分についてもう捨象してしまって,信託財産と固有財産間の対抗要件にまでしてしまってもいいんじゃないかと。

まあ,これは全体の意見ということではありませんけれども,そういうことまで出ておりまして,登記・登録のところの制度につきましては,できるだけ簡略化していただきたいと。

  社振・保振につきましては,一つの考え方としては,そういう対抗要件も全部なくしてしまったとしても,識別不能の規律というのが別途ありますので,それに基づいて,口座というのは少なくとも信託財産と固有財産を分けていますので,それでもっても規律できるんじゃないかという意見もあります。

  ただ,枠組みとしてありますので,この枠組みについてはそのまま存続させてもいいのではないかとも考えております。

● ほかにいかがですか。

● 第6のところですね,私も,とにかく参考のために乙案になるよという話なのですけれども,乙案のままだといいのですけれども,受益権処分義務というのが,このシチュエーションですが,単独受益者が共同受託者の一人であるというのが問題だという場合は,受益権を処分してしまうと,つまり信託はなくなるわけですよね,普通には。

あるいは全然別の人を受益者にするという話になって,それはやはりおかしいと思うのですね。

だから,何らかのことをやるのだったら,その単独受益者であり共同受託者である人が受託者から外れるという辞任義務を課すみたいな話の方が筋が通っているような気がします。ここの対比の関係ではということですけれども。

● あり得る考え方の一つではあるかもしれませんね。要するに,一致しているのを外す外し方のもう一つのやり方ということですね。
  ほかに。

● 余りしゃべらない方がいいのかもしれないことなのですが,○○幹事が持って帰って検討するとせっかくおっしゃってくれたことで,ディスカレッジしても何ですが,国際的な側面を考えるときに,やはり問題は区別して,何がここでやるべきことで,ここでやらなくていいようなことまで抱え込むのはどうかと思ったので,若干,問題整理だけさせていただければと思うのですが。

  どの法律が適用されるかという準拠法選択,つまり抵触法の問題と実質法の問題は区別しなければいけなくて,ここでやっているのは,日本法が適用される,しかも信託関係の話なんですね。先ほど問題があった,在外の財産がという話は,今,信託についての準拠法も規定を置くかどうか,法例の改正の方で検討していると思いますが,仮にそこでどう置かれようが,そこで置かれている規定によって準拠法が決まるような話では恐らくないと思います。

不動産なんかについて言えば,登記・登録すべき財産についての準拠法で考える話だとすれば,財産所在地法で決まるわけで,いずれにせよ,海外の話というのは,基本的に日本の信託法のこの話とは切り離されて,向こうで登録できるかという,そこで決まってくると思うのです。だから,その辺の仕分けだけすれば,恐らくこの問題は関係ないのではないかと思います。


  もう一つ重要なのは,社振法の話を指摘されたのですが,日本の社振法が適用されて,そこで登記・登録するような種類の権利だとした場合に,これは海外で設定された信託との関係でどう扱われるかという話は,日本の信託法が適用されないような信託について社振法がどういう立場をとっているかという,社振法という実質法の解釈問題であって,日本の信託法,あるいはこの改正される信託法が何を書こうが,基本的には関係ない話ですから,もちろん準拠法の話を整理していただくのは結構なのですが,恐らく,我々の作業との関係では,ほとんど何も手をつけられないような話だと思います。

● それはおっしゃるとおりだと思います。こちらでもって先ほど問題としては提起されましたけれども,すべてこの審議会で扱うわけではなくて,この審議会で扱うべき問題はおのずと限定されている。ただ,問題の背景として考慮はいたしたいと思います。

  恐らくこの点についてまだ御議論なされたい方がおられると思いますけれども,ここでちょっと休憩いたします。それで,再開した後,まだ御議論が残っていれば,少しだけやって,次のセッションに移りたいと思います。
  それでは,休憩いたしましょう。

            (休     憩)

● それでは,時間になりましたので,再開したいと思います。
  先ほどの範囲でもってなお御意見がおありの方はお願いしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 13ページの甲案,乙案のことに関しましては,○○幹事がおっしゃったことは極めて重要だと思います。現在,共同受託者のうちの一人であると,もう一人いればいいようなものなのですけれども,もう一人いる人がどういうタイプの人なのか,正に共同受託で,財産は片方だけに帰属して,片方は窓口業務だけをやっているというような共同受託体制というものが仮に認められるとして,片方の人は窓口業務だけやっている方の人ですと言われてしまいますと,これは事実として一人で全部やっているということになるわけですので,そうしますと,もう一歩申しますと,本来は実質的に判断すべき問題だと思うのですね。

ただ,私は分かりませんけれども,それで実務がもつのかという話があって,実質的に判断しますというふうに言われますと,はっきりしてくれなければ困るという話になるわけでありまして,そうなりますと,逆に消去法的には甲案になってしまうのではないかという気がするということだけ指摘させていただきます。


● この第6の問題は,まだかなり問題点があると思います。

皆さんの方から御議論もいただきましたし,私も,個人的には,どう考えたらいいか,まだ悩んでいるのは,今まで,現行の9条に関しては,大体普通の信託というのでしょうか,余り受益者が多数いないタイプの信託を考えていて,今度,多数の受益者が出てきて,おまけに受益者集会なんていう形で受益者が権利を行使するようになると,受益権の一部を持っている受託者だけど,いわば過半数を抑えている受託者というのが出てきたようなときにどうしたらいいかなんていう問題も,先ほどの合同運用の場合はちょっと逆な形になるわけですけれども,実質的に考えなくてはいけない問題点が少しあるのかなと思いますが,また次のラウンドでもうちょっと論点を整理して議論したいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。

  大体,公示についての議論はいただきましたね。
  それでは,後半の第1セッションの方に移りたいと思います。


● では,後半の最初といたしまして,「第9 信託財産の範囲について」から「第12 信託財産の相続財産からの分離について」まで,四つをあわせて御説明いたしますが,恐らく,「第11 信託財産と固有財産等との識別不能について」というのが一番議論が多くてしかるべきところかと思いますので,ほかのところは簡単に御説明をしたいと思います。

  まず,信託財産の範囲でございますが,これは現行法14条の規定を維持することを提案するものでございます。

  現行法14条につきましては,当初の信託設定において信託財産とされたもの及びその代位物はもちろんといたしまして,より広い範囲の積極財産及び消極財産が信託財産に含まれることになることを明らかにした規定と理解しております。

すなわち,例えば信託財産が贈与を受けた場合の贈与財産ですとか,信託財産を引当てとした借入れにより受託者が取得した金銭,これは代位物ではないわけですが,こういうものも信託財産に含まれるという趣旨と理解しております。


また,受託者の信託財産処分行為により受託者が取得した反対給付につきましては,当該処分行為が受託者の権限内である場合であっても,あるいは権限違反である場合であっても,信託財産には含まれることになるというふうに理解しております。

  以上で第9の説明は終わらせていただきます。

  続きまして,第10の方に移りますが,これは,信託財産の添付,すなわち,ある信託財産と他の信託財産又は受託者の固有財産との附合,混和,加工に関しまして,各信託財産と固有財産とが格別の所有者に属するものと擬制した上で民法の添付に関する規定を適用するとしております現行信託法30条の規律を維持することを提案するものでございます。

  なお,第11との関係で申し上げておきますと,第10における「混和」と第11における「識別」との区別でございますが,これは22ページの(注)に書いてあるとおりでございます。

若干補足いたしますと,「混和」というのは,複数のものの物理的な混交により事実上これを弁別することが不可能になった結果,全体を一つのものとみなさざるを得なくなった場合には,原則として主たる財産の所有者が合成物全体の所有権を取得することとし,所有権を失う従たる財産の所有者には不当利得に相当する償金請求権をもって対応すべき場合でございます。

  例えば,種類が異なるものとしてよく例が挙がりますが,信託財産に属するコシヒカリと固有財産に属するササニシキが混ざった,高級ワインと低級ワインが混ざった,あるいは,種類が同じであっても同じだと考えられまして,例えば,信託財産に属するコシヒカリと固有財産に属するコシヒカリが混交したと。

いずれもこれらはもう事実上一つのものとみなさざるを得なくなったという場合でして,ここで言う「混和」に当たるものと理解するわけでございます。
 
 他方,第11の「識別不能」というのは,複数のものが混合したことにより,その帰属関係が不明瞭にはなりましたが,なお物理的に混交したわけではなくて,弁別することが可能であるため,一つのものとみなすことまでは要せず,常に共有が生ずるとして対処することが可能な場合を言うわけでございまして,若干例を申し上げますと,例えば,信託財産に属する羊1頭と固有財産に属する羊1頭とを区分して,牧場で飼育していたところ,地震によって垣根が失われたと。1頭の羊になってしまうわけではもちろんなくて,あくまで2頭でございますが ,帰属が不明になったと言うことができるわけでございます。

それから,例えば信託財産に属する製品と固有財産に属する製品とを番号で管理していたら管理帳簿が滅失した場合,こういうのも,物としては複数ですが,帰属が不明になると。こういうのが,第11の「識別不能」の場合と理解しているわけでございます。

  以上を前提に,続きまして,第11の識別不能についての規律について,若干詳し目に御説明を申し上げます。
  第11は,識別不能が生じた場合の財産の帰属関係と分割方法に関する提案でございます。

  太字の1でございますが,これは,識別不能の状態が生じた場合には,対象財産の主従の区別にかかわらず,各財産が識別不能財産中の各財産を共有することとし,その持分の割合を識別不能当時の財産の価額の割合としつつ,証明不能の場合に備えて均等と推定するというものでございます。

  このように物権的共有とみなすことによりまして,識別不能となった後に受託者の固有債権者から識別不能財産に対する差押えがあった場合には,受益者は共有持分権に基づいて第三者異議の訴えを提起して差押えを排除することができますし,受託者が破産した場合であっても,受益者は破産管財人に対し,共有持分権存在確認訴訟を提起することができるなど,物権的な救済を得ることができることになるというわけでございます。

  また,価格割合算定不能の場合に共有と推定することとし,すべて信託財産であるというような推定をしなかったのは,そのような推定をしますと,受託者や受託者の債権者にとって余りにも不公平で不利であるというふうに考えられるからでございます。

  なお,この共有ルールというのは,財産一般,すなわち財産が金銭である場合についても同様に妥当するものと考えております。すなわち,報告書の段階では,金銭の識別不能の場合については,固有財産とするという甲案と,共有とするという乙案を双方提示しておりましたが,ここでは,共有とするという乙案を提案するということでございます。

これは,25ページの3というところで記載しておりますけれども,確かに判例上,金銭の所有者は原則としてその占有者と一致すると解されておりますが,識別不能金銭についても共有ルールを適用する場合でも,信託財産の所有権はあくまでも受託者にあるとの原則は維持しておりますので,この判例の趣旨に抵触するものではないと考えられます。
  

その上で,①で記載しておりますとおり,受託者の手元にある識別不能金銭について,一定の限度で,固有財産とは異なる,信託財産としての特別の取扱いを認めることができるか否か,言いかえますと,受託者の所有に属する識別不能財産について,それが固有財産としての所有か信託財産としての所有かという内部的な分配の部分がここで問題になるわけでして,これは判例の射程外の問題であると考えるわけでございます。

  さらに,実質的にも,②,③で記載しましたとおり--②,③というのは,25ページの下から26ページの上でございますが--受益者や信託債権者の保護や,他の取扱いとの均衡などからも,識別不能金銭についての共有ルールを適用することが妥当であると考えるわけでございます。

  それから,太字の2でございますが,これは,報告書の段階におきましては検討事項としておりました識別不能共有財産の共有物分割ルールについて新たに提案するものでございます。

すなわち,識別不能財産について,信託財産や固有財産がこれを共有することとみなしたといたしましても,だれをもって共有物分割請求を行うことができる当事者たる共有者として取り扱うべきか,受託者か受益者か,あるいは共同受託者かというようなことは,なお検討を要する事項でございますので,ここでその当事者を信託の類型ごとに明らかにしようというものでございます。

  ここでは,太字の2のルールを詳細まで御説明するのは,非常に細かな規定になっておりますので控えさせていただきますが,基本的な概要といたしましては,次のとおりでございます。

  すなわち,分割協議,これは分割割合について及び分割の方法についての,双方の協議を含むわけでございますが,その当事者を原則として受託者といたします。

というのは,まずは信託事務処理をゆだねられている者からということで受託者といたしまして,ただし,自己の固有財産や他の信託財産との関係で,当該受託者が分割にかかわることが利益相反関係を生ずるという場合には,例外的に,共同受託であれば他の受託者が,それもいない場合には受益者が当事者として登場することといたしております。

それで協議が調わない場合には,それぞれの者が裁判上の分割請求をすることができるというわけでございます。

ただし,報告書の第19で,今度提案いたします利益相反行為の禁止の除外事由,例えば信託行為の定めがある場合などですが,そういう場合には受託者のみで分割協議まではすることができる,裁判上の請求まではできませんが,分割協議まではそういうことができるというのが,この規律の大まかな骨子ということでございます。

  以上について御審議を願いたいと思います。

  なお,最後に,25ページの(注1)について若干付言させていただきます。
  


これは,第1回会議で提起されました,信託財産に属する金銭と固有財産又は他の信託財産に属する金銭等を入金して一つの普通預金口座が開設された場合について,当該普通預金口座に係る預金債権の帰属関係の考え方について問題提起をしたものでございます。

  普通預金口座に係る預金債権の帰属に関してましては,周知のとおり,最近,損害保険料ですとか弁護士の預り金についていろいろと注目すべき判例が出されているところでございまして,この判例の評価についてはいろいろな議論がございますが,普通預金につきましては特殊性がある,すなわち,定期預金のようにいったん預金を入れるとそれで一応出入りがなくなるというものと違いまして,入金がある度にその額について消費寄託契約が成立し,その結果発生した預金債権が既存の預金債権と合算されて一個の預金債権となるというような流動性を持っていると考えられまして,出捐者はだれかという考えはとりにくいわけで,判例のコメントでも,いわゆる出捐者説,客観説と呼ばれるものですが,それは定期預金についてとられてきたものであるが,普通預金についてはこの立場をとっていない,むしろ契約法理における当事者確定ルール一般に基づいて預金者を認定したと解することができると,この判例の趣旨についてはそのような指摘がなされているわけでございます。

さらに,出捐者説の誕生の背景にあった無記名式定期預金の新規受入れの廃止ですとか,最近の本人確認法の施行などに伴って,契約法理における当事者確定ルールがより一層広がっていくという動きもあるのではないかというような指摘も示されているところではございます。

  このような動向を踏まえまして,最初に述べました固有財産と信託財産の混合した普通預金の帰属ルールについていかに考えるべきか,これにつきましては,是非とも皆様の方から御教示を賜りたいということでございます。
  以上で,識別不能についての説明は終わらせていただきます。

  次に,第12の「信託財産の相続財産からの分離について」でございますが,これは,受託者が死亡した場合でも信託財産が受託者の相続財産に属さないということを規定する現行法15条は削除するということを提案するものでございます。

  現行法では,受託者死亡後,新受託者選任までの信託財産の帰属について明文がないので,相続財産に含まれないことを明確に規定しておく意義はあったと思うのですが,報告書に記載しましたとおり,受託者の死亡によってその任務が終了しても,新受託者が就任しない限り,相続人のあることが明らかでない相続財産の場合と同様に,信託財産を法人とみなすというふうにいたしますと,信託財産が受託者の相続財産に含まれないことは明らかなので,第15条の趣旨はもちろん維持するわけですが,あえて規定は要らないだろうということで,削除すると考えたわけでございます。
  以上で終わります。

● それでは,ここまでの範囲でお願いいたします。

● 第11から入ってよろしいでしょうか。識別不能のところですが。

  まず,識別不能の1の「識別不能財産の共有等」の規律でございますが,この規律につきましては,従来より,私どもの方が行っている業務でいきますと,信託財産が非常に大量だと。それを一々分別管理していくのは,特に信託財産間での分別というのは非常にコストもかかりますし,手間暇もかかると。

そういう観点からいきますと,このルールが適用されると,その辺のところの簡略化といいますか,非常にいい規律ではないかというふうに考えております。

  ただ,2の「識別不能財産中の各財産の分割」のところですが,(1)の「固有財産と信託財産との識別不能」については,何かこういう方向性かなと思うのですが,(2)の「信託財産と他の信託財産との識別不能」については,多分,実務上からいきますと,かなりの部分は,予想される限りのものは信託契約に書きまして,それに従ってということだと思うのですが,予想できないようなものについてこの規律を適用するとしますと,やはり受益者同士で協議するというのはなかなか難しいのではないかと。

特に,人数が多くなると,まず一堂に会して協議するというようなことがなかなかできづらいのではないかと思うことと,イのところで,協議が調わないときには裁判所の方へということですけれども,いったん協議を行わないといけないということであるとすると,まず一番最初に協議ができなくて,その状態で裁判所に行けるかどうかというような問題がありますので,実務上の観点からいきますと,一つは,例えば受益者間の問題についても受託者が何らかの形で関与するというようなものと,イのところで,協議が調わないときはというのではなくて,直接行くことができると。

これは何か,民法上の共有のところについては議論があって,判例も出ているやに聞いておりますけれども,ここのところが明確になるような形の規律をお願いできないかなというふうに考えております。
● 今のに関連して,いかがでしょうか。もちろん,直接関連しなくても結構ですけれども。


● 第11の識別不能についてコメントしたいと思います。

  預金の話を前々回の審議会で問題提起を差し上げたところでございますけれども,早速,(注1)ということで一定の御検討をいただいたということで,ありがとうございました。

  ただ,この点については,やはり普通銀行としては非常に大きな問題としてとらえているところでございまして,銀行内ないしは銀行界内でいろいろ議論をしたところでございますけれども,なかなかいい考え方が出ないというのが現実でございまして,一つの考え方としては,最悪こういうことが発生した場合に,通常,銀行というのは,債権者が分からなくなると,支払い停止を入れて,結局,このルールでいきますと,分割協議というところまで待って,それでお支払いをすると。

普通預金の話であれば流動性でございますので,非常に日常的な資金ということの必要性も高いものですから,それは非常に御迷惑をかけてしまうのかなとも思いますので,そこら辺どうしたらいいのかと悩んでいるところでございます。

  一つの考え方としては,これは信託法の規律と預金契約上の規律とどう整合するかということだと思っているのですけれども,信託法の規律というのはこのままに置いたとして,預金契約上の規律を維持することができないか,うまく整合性をとることができないかという考え方があるのではないかなというふうには思っています。

まだ整理されているところではないわけですけれども,対外的な債権・債務関係というところまでは,この共有化といいましょうか,信託法の規律は及ばないということです。

それが理論上どう発展するかというのは分からないのですけれども,例えば対抗という考えを持つのか,善意者に対する保護というふうに考えるのか,ちょっとよく分かりませんけれども,信託の共有化というのが,いわゆる債務者との関係では及ばないというような規律又は考え方と言うことができるのではないかというふうに思っております。

  ちょっと整理されていない段階でお話し申上げて非常に恐縮でございますけれども,本件については非常に重要な問題であるということを改めて申し上げたいと思います。

  補足しますと,銀行の話ばかりして恐縮なのですけれども,別の話,つまり,ここもとのペイオフということで,預金保険の関係で名寄せをしろという話もありまして,やはり銀行としては,債権者がだれなのかということを言われているということもありまして,やはりこういう共有化ということがもう一つ入ってきますと,まあこれだけではないわけですけれども,非常に厄介な問題が出てきたかなというのが,銀行実務者としての率直な感想でございます。

  それから,質問なのですけれども,これに関連することなのですが,1のところで,共有の規律の考え方として,「識別することができない状態に至ったときは……共有するものとみなすものとする」となっておりますけれども,いつから共有化ということになるのか,また,そういう概念自体を持つことが正しいのかどうか分かりませんけれども,普通預金の場合は,基本的に資金が入ったり出たりということになるわけですので,そうした場合に,ある時点から共有化されて,持分をだれかが幾つ持つということになった場合に,それがその後の預金の共有化関係についてどういう影響を及ぼすのかということを考える際において,そのいつの時点ということをはっきりさせておかないと,その後の議論の発展ができないというふうに思っておりまして,ここはちょっと御質問したいところでございます。

● いつの時点から識別できないということになったのかというその基準ですね。

  これもいろいろな例があるのかもしれないけれども,信託財産に属する財産が入っている預金があって,その後,別のお金がただ一回入っただけだと,まだ金額的には識別できそうなんですね,その段階ですと。
だけど,それが何回か繰り返されると,分からなくなってくると,そんな問題がありそうですね。

  直ちにこれに答えることができるかどうか分かりませんけれども,もし今の時点で回答すべき点があれば。

● 直ちには答えられないのですが,普通預金ですと,やはり入金すると一つのものになってしまうという非常に特殊性のある預金でございますので,普通の財産の識別不能の場合の考え方がそのまま直ちに当てはまるかどうか,ちょっと分からないところでございまして,一般には帳簿上管理していれば帰属が分かっているからいいと思うのです が,普通預金口座に入金されてしまうと一つのものになってしまう以上は,帳簿の管理をされていたからといっても,識別不能になってしまうのではないかなという感じもするのでございます。

ちょっと,どの時点からとは言えませんが,考え方としては,例えば,入金されたらたちまち識別不能になるという考え方もあり得るのかなと。

ちょっと,現時点で直ちに,どういう考えか,私からは申し上げられませんが,そういう考えもあり得るのかなという気はいたします。

● 関連して確認したいのですけれども。
  だめと言われそうなのですけれども,普通預金の識別可能というのを,ある意味,一つの債権となるということの特殊性をとらまえて,銀行,債務者に対して,固有財産である,ないしは信託財産であるということを明示しなければ,全体として識別不能であると,そこに持っていくという議論はできないのですか。

つまり,今までの議論というのは,どちらかというと受託者サイドで,このお金は固有財産だ,信託財産だというのが分かっているという話なのですけれども,預金債権という特殊性をとらまえて,それだけでは--少なくとも,お金を銀行からおろして効果があるわけですから,そういうことで,いわゆる銀行から払戻しができるというようなことをもって識別できるというようなことができないかどうかということですけれども。


● 払戻しができるといっても,幾ら払い戻していいかというのが……。
● つまり,銀行に対してある意味対抗というのか,よく分かりませんけれども,銀行が識別可能であるというところまでが必要であるというようなことを一つのメルクマールとするということができないかどうかということです。信託法プロパーの話ではないかもしれませんけれども,ちょっと……。


● 前提として,預金以前に,普通の債権のときにも,お金を混ぜて貸したと,そういうときに,債権は一本ですけれども,その混ぜたお金の出所が金額的に分かっていると,こういうのはどういうふうに言うのかというのがまず前提にありそうですね。これが金額的に分かっていれば,債権は一本だけれども,一応識別は……。

● 普通の債権ですと,準共有とかいう話がありますので,いいと思うのですが,普通預金だけにちょっと特殊かなという気がいたしますが。

● 非常に個別の話になってしまいますし,信託の話でないのかもしれませんが,普通預金も,受託者の手元に,預金残高10万円のうち6万円は固有財産,4万円は信託財産とか,あるいは,3万円はA信託財産,1万円はB信託財産ということが分かっていれば,それで識別可能な状態ではないのでしょうか。

● 金額が分かっていれば,識別可能だと思います。
● そこに入って,特に出るとなんですかね,あるいは目的が分からないというか,使途が分からない形で出ると,どっちが減ったのかがよく分からないというようなことになるのが,一つの例と。

それから,ここにもあるように,もろもろの場合もあるように,帳簿がなくなってしまった,6万円,3万円,1万円という帳簿がなくなってしまうと,そこで識別不能になるのではないでしょうか。

● あくまでも受託者サイドの帳簿等によって可能かどうかという話ですよね。
  繰り返しになりますけれども,それは預金の一つの債権というところの規律と合うのかどうかという議論があると思うのですけれども。

● 余り関係ないのではないかという気もするけれども。

● 全然関係ないですね。債権を準共有できるというのは,なぜ普通預金が何か特殊性があるという話か分かりませんし,普通預金は一つの債権だという話がどう関係あるのか全然分からないのですけれども。これは単なる準共有じゃないのですか。

● 強調するのがいいかどうか分かりませんけれども,いずれにせよ,○○幹事が言われたように,普通預金の場合は出したり入れたりしていて,どれが出たかというのが分からなくなってくると,要するに混然一体としてしまうことになるわけですよね。

だけど,それが全部トレースできる場合には,識別は可能だと言ってもいいのかもしれないと思いますけれどね。

● それは,普通の動産とか不動産とかでも同じではないですか。つまり,この動産が,信託財産から100万円出し,固有財産から100万円出して200万円相当のある動産を購入したということになりますと,その割合が1対1であるということが明らかになっていれば,これは別に識別不能なのではなくて,あたかも他者との共有のような形で信託財産の割合と固有財産の割合がはっきりしているということなのではないかと思うのです。

● 私も,今の点,全然異論なく,そうだと思います。

● ここら辺は皆様の御意見を伺って少し議論を整理してみたいと思いますけれども。まあ,もうちょっと,一体どういうことが識別不能なのかということを明らかにするということですね。

● 今の点と違うのですが,第11の識別不能についてであります。細かいことで,重要性は余り高くないかと思いますが,一言申し上げさせてください。

  2の(2)のアの③にかかるのですが,「信託財産の他の信託財産との識別不能」の中の,各信託の受託者が異なる場合というものです。

これは,27ページのウの第1パラグラフにその例が書かれているのですが,もっと簡単な例で,甲信託についてAが受託者,乙信託についてBが受託者という場合についても,今の③は適用されるべきもののように思うのですが,しかし,それは別に信託とは無関係に,AさんとBさんがそれぞれ所有しているものが1頭の羊ともう1頭の羊のときに分からなくなってしまった場合ということにすぎないのではないかと思うのですね。

私が1頭の羊を持っていて,○○幹事が1頭の羊を持っていて,どっちがどっちか分からなくなってしまったという場合,これはどう解決するのか,本当のところはよく分からないのですが,しかし,その問題もここで解決しようと,背後に信託がそれぞれ控えているがゆえにここで解決しようとしているので,やや越権なのではないかなと思います。

実質的にはこういうふうに解決することになって構わないと思うのですが,信託法の中で解決すべき問題ではないように思います。

● そう言われてみると,少しそういうところもあるかもしれませんね。少し検討させていただければと思います。
  ほかに,いかがでしょうか。--よろしいですか。
  それでは,次に行きましょうか。また後で議論があれば戻ることにして。

● それでは,第13から説明をいたします。
  第13は,信託法にとって中核となる規定であります16条の趣旨をそのまま維持するというものでございまして,この規定により,受託者の固有財産に対する債権者は信託財産について権利を主張することはできなくなりまして,受託者の債権者が信託財産に対して強制執行をしてきた場合には,受益者等は第三者異議の訴えによって執行を排除できるということになります。

このようにして,信託財産は所有名義人である受託者の倒産リスクから遮断されて,信託財産の独立性が確保され,受益者に物権的救済が図られるということは,第1回会議でも御説明したところでございます。

  なお,規定の要否については検討いたしますが,信託財産に対して執行可能な権利として,これも前回若干申し上げましたが,ここに書いてありますような権利,信託の設定時に債務の引受けをした場合における当該債務に係る債権,いわゆる受益債権,信託の変更に反対する受益者に付与される受益権取得請求権,信託財産との関係で発生した租税債権,それから信託財産を所有することにより負担する法定の損害賠償債務に係る債権が考えられるわけですが,更に,今回の提案では,29ページの最後の行からございますとおり,受託者が信託事務の処理に関して行った不法行為に係る損害賠償請求権も,同様に信託財産に対して執行可能な権利と考えることとしております。

  この点につきましては,従来の学説によりますと,受託者個人はその固有財産をもって損害賠償責任を負担するものの,このような不法行為に係る損害賠償請求権については,信頼関係違反行為についてまで信託財産にその責任を負わせるべきではなく,現行法の文理上は,このような債権は信託事務の処理につき生じた権利には当たらないとの理由で,信託財産に対してかかっていくことはできないと解されてきたようでございます。

  しかしながら,法人でありますと,その代表者や従業員の不法行為が法人の事業との関連で行われれば,法人自身の財産をもって責任を負うとされている民法44条や715条に比べますと,従来の学説の取扱いは均衡を失するという感がいたします。

すなわち,信託が単なる財産の管理であった,対外的な行為が少なかった時代であればともかくとして,現在のように対外的な取引が活発に行われる状況のもとでは,受託者の不法行為によって信託財産が一切影響を受けないというのは適当ではないと考えられるわけでございます。

むしろ,受託者の信託事務処理によって得られた利益が帰属する信託財産の負担において,受託者の信託事務処理上の少なくとも過失に基づく違法行為に基づく責任も受託者個人に負わせ,あわせて信託財産にも負担させることが相当と思われるということで,こういう提案をさせていただいたところでございます。

  続きまして,「第14 受託者倒産の場合における信託と倒産手続の関係」についての御説明に移らせていただきます。
  
まず,太字の1でございますが,これは,受託者について破産手続が開始した場合の信託との関係について規律したものでございまして,(1)から(3)までのいずれの規律も,信託財産が受託者名義の財産ではあるものの,先ほど御説明いたしましたとおり,受託者の固有財産からは独立した財産であることから来る,いわば論理的な帰結を示したものであると言うことができると思います。

  すなわち,まず,信託財産は受託者の固有財産に属しませんので,受託者が破産しても破産財団を構成しないことにつきましては解釈上明らかであるとされてきておりますが,現行法上,明文の規律がありませんので,(1)においてそれを明記したということでございます。

  次に,(2)でございますが,受益債権は,形式的には破産債権の定義に該当してしまいますが,実質的には信託財産のみを引当財産とする債権でございますので,信託財産が破産財団に属しない以上は,受益債権についても破産債権とはならないものと解すべきことになります。

  なお,32ページの1(2)の「なお,」以下で書きましたとおり,信託財産のみに責任が限定される,いわゆる有限責任債権についても同様に破産債権とはならないと解するものでございます。

  最後に,1の(3)ですが,まず前提として,報告書の第39というところに書いていたわけですが,自然人である受託者について破産手続が開始した場合には,原則として任務終了事由となりますが,委任の場合と同様に,それにもかかわらず,任務終了事由とならないという特約を設けることは有効と考えることを前提といたします。その上で,自然人である受託者が破産した場合におきまして,受託者の固有財産との関係では破産手続が開始したということになるわけですが,信託財産は破産財団には属しない自由財産でございますので,今申し上げましたような任務が終了しないという特約がなされている限り,信託財産との関係での受託者の任務は終了せず,破産者がそのまま受託者の職務を行うことになるものと考えられます。(3)はその旨を記載したものでございます。

  以上に対しまして,2でございますが,これは,受託者に対しまして再生手続又は更生手続,再建型倒産処理手続が開始された場合の信託との関係について規律したものでございます。

  まず,(1)でございますが,これは,信託財産が再生債務者財産又は更生会社財産に属しないことを明らかにしたものです。

  (2)は,受益債権又は,いわゆる有限責任債権が,先ほど申しましたとおり,再生債権又は更生債権とはならないことを明らかにしたものです。いずれも,破産手続に関する1(1)と同じく,信託財産の独立性から導かれる議論かと思われます。

  次に,2の(3)でございますが,信託事務処理により生じた信託債権は原則として受託者の固有財産をも引当てといたしますので,再生債権又は更生債権として再生計画又は更生計画による変更の対象にはなるわけですが,しかし,信託債権は信託財産との関係ではいわば第三者の財産上に物上担保を有するのに類似する実質があると見ることができますので,計画による権利変更は,受託者の固有財産との関係では効力がありますが,信託財産との関係では効力がない,したがいまして,変更されていないままの権利を行使することができるとしたのが,(3)でございます。

  最後に,(4)でございますが,これは,本来ですと,先ほど受託者の任務終了の関係で申し上げましたところによりますと,再建型倒産処理手続では債務者の事業の再建を図ることが目的であるということにかんがみれば,この手続によって原則として受託者の任務は終了せず,したがって,2の(1)のとおり,信託財産は再生債務者財産及び更生会社財産に属しないということになるわけでございます。

  しかしながら,この(4)では,今のような,原則として任務が終了しないということを前提としながらも,再生手続において管理命令が発せられ管財人が選任された場合,又は更生手続の開始によって更生管財人が選任された場合におきましては,管財人の権限は受託者の固有財産にとどまらず,信託財産についての受託者の職務及び管理処分権も管財人に専属するものとしております。

  このような見解をとりましたのは,裁判所の選任した管財人のもとで債務者の事業の再建を目的とするからには,固有財産のみならず,信託財産も含む債務者の財産全体を管財人の掌握するところとする必要があるわけでございまして,信託財産の管理処分権も管財人の権限の及ぶところとしなければ,およそ事業の再建はおぼつかないと思われるからでございます。

そのことは,例えば,信託の受託業務を主たる事業とする信託会社について再生手続が開始された場合を想定すれば,明らかではないかと思われます。
  以上のような考え方の当否について御審議をお願いしたいというふうに思っております。

  続きまして,「第15 相殺に関する規定の取扱いについて」というところに移らせていただきます。これは,信託と相殺に関する規律の提案でございます。

  現行法17条では,「信託財産に属する債権」と「信託財産に属せざる債務」との相殺を禁じております。

この規定につきましては,受託者が相殺の意思表示をする場合を念頭に置いて規定されているように見えるわけですが,相手方である第三者からの相殺も禁止されると考えるべきであるとされておりまして,禁止の趣旨につきましては,受託者からの相殺については,受託者からの相殺を認めると利益相反行為になると考えられるためである,第三者からの相殺につきましては,これを認めると信託財産の独立性に反することとなるためであるなどと説明されているところでございます。

  このように,相殺が禁止される理由というのは相殺権の行使主体によって異なるものと考えられますので,ここでは,相殺が禁止される趣旨を,信託財産の独立性の確保,受託者の利益相反行為の禁止,それから,いわゆる有限責任となる債権における受託者の利益の保護,この3類型に分けまして,それぞれの観点に従って,現行法よりも細分化された明確な規律を設けますとともに,現行法上規定のない受託者と第三者間の相殺契約についても規律を設けることとしたものでございます。

  まず,太字の1の「法定相殺」のところにつきまして,順次御説明を申し上げます。
 
 まず,(1)でございますが,これは,信託財産の独立性確保の見地から,「信託財産に属する債権」と「信託財産に属せざる債務」とについて,第三者である債権者からの相殺を認めないとしたものでございまして,趣旨は現行法17条と同様ということになります。

ただし,現行法17条のように第三者からの相殺を一律に禁止するというのではなくて,このような相殺を受託者の側から承認する余地を,あくまでもこのような承認が利益相反行為の禁止の例外に該当することを条件として,認めることとしております。

これは例えば,第三者には資力に問題があって,受託者としては,相殺を承認して信託債権を受託者等に対する求償権の形に転化させた方が信託にとって有利となる場合もあり得るということ,それから,前にも申し上げましたが,37ページの(注2)に付記してありますとおり,第三者の信託債務が期限の利益を有する場合には,第三者からは期限の利益を放棄して相殺できますが,受託者からは期限があるのに勝手に相殺をすることはできないということ,そういう2点から,受託者側からの相殺の承認というものを認めるということにしたわけでございます。

  次に,(2)でございますが,これは,やはり,信託に属する債権と信託に属せざる債務とについて,受託者の利益相反行為の禁止の観点から,今度は受託者からの相殺を原則として認めないとしたものでございます。

ただし,現行法17条のように一律に相殺を禁止するというのではなくて,先ほど申しました(1)と同様に,例外として,利益相反行為の禁止に該当しない事情があれば,受託者からの相殺を許容するとしております。

  次に,(3)でございますが,これは,(1),(2)と異なりまして,現行法の規定には規律がない局面でございますが,受託者の利益を保護するという観点から,「第三者が信託に対してのみ執行することができるいわゆる有限責任債権」と,「受託者の固有財産に属する当該第三者に対する債権」とについて,第三者の側から相殺することはできない,相殺できるとしますと受託者の利益を害するので,そういうことはできないと。

他方,受託者の側からは,自分で利益を放棄するわけですから,相殺することができるということを規律しているものでございます。

  なお,37ページの(注4)に書かせていただきましたが,ここで問題となっておりますいわゆる有限責任債権につきましては,責任限定取引により生じた有限責任取引債権に限らず,第三者が受益者である受益債権も含まれるとここでは考えております。報告書の第27というところで記載しておきましたが,受益債権は信託財産のみをもって履行の責に任ずる物的有限責任債権であるということで,同じように考えられるからでございます。

  もっとも,このように受託者の側からであれば受益債権についても相殺を許容するということにつきましては反対説もあるわけでございます。

すなわち,忠実義務によって信託財産を管理している受託者としては,受益者からの受益債権の履行請求に対して,これを履行しないで,かえって相殺によって自己の貸付金債権の回収を図ることは,受託者と受益者の利益相反となり忠実義務に反するのではないかという理由から,反対説もあることを付言させていただきます。

  次に,太字の2でございますけれども,これは,受託者と第三者間の相殺契約に関するものでございます。

  信託に属する債権と信託に属せざる債務との相殺につきましては,1の(1)のとおり,第三者からの相殺も受託者からの相殺も原則として禁止することとしつつ,利益相反行為の禁止の例外に当たる事情がある場合に限って,受託者による承認又は相殺を認めるとしているわけでございますが,この2では,相殺契約の場合についてもその趣旨を維持すべく,契約による相殺も原則としては禁止されることとしつつ,例外的に,受託者の利益相反行為の禁止の例外に当たる事情がある場合には,このような契約による相殺も認められることを規律したものでございます。

  なお,最後に,報告書の(注1),承認による相殺の効力の発生時期,それから(注4),受託者の信託財産に対する補償義務に関する根拠規定の要否につきまして,報告書では要検討事項としておりましたが,それにつきましての検討結果について簡単にお示ししたいと思います。

  まず,承認による相殺の効力の発生時期ということにつきましては,37ページの(注1)のところで記載しております。

第三者からの相殺の意思表示に対して,これは1の局面ですが,受託者がこれを承認したことにより有効となる相殺の効力発生時期の問題というのが前々から指摘されておりましたが,これは,37ページの(注1)の記載のとおり,相殺適状のときにまでさかのぼる,したがって,この間に信託債権に対して差押えがあったとしても,その効力は相殺により覆ってしまうことになると考えるものでございます。

  次に,(注5)の関係では,これは1の(1),(2)の場合ですとか,2の場合において,信託財産に属する第三者に対する債権と,第三者に属する受託者の固有財産に対する債権とを相殺したという場合につきましては,受託者は信託財産に対して補償債務を負う,逆に言いますと信託財産に受託者に対する補償債権が帰属するという形になるわけでございますが,そこにつきまして,38ページの(注5)に記載しましたとおり,このような補償債務について法的根拠規定の必要性があるかということが一応問題となり得るわけでございます。


  この点につきまして検討いたしましたが,結論的にはそれは不要ではないかということで,そこで利益相反行為の例外事情,例えば信託行為の定め,あるいは受益者の承認があれば,それは信託財産に補償する義務があるという旨の規定がそこに含まれている,合意しているというふうに解することもできるでしょうし,受益者の利益を害しないことが明らかであるという場合に該当する場合であれば,それは受託者が相殺後に相殺見合額を信託財産に補償する旨の合意まで含んでいて初めて受益者の利益を害しないとの判断がされるものと解されますので,いずれの場合につきましても,このような信託法に定める承認,合意などのようなものを根拠として,受託者は信託財産に補償義務を負うものと解することができると考えられるわけでございます。


相殺契約についてもこの契約が法的根拠になると考えられますので,特段の規定は必要ないのではないかと(注5)のところで結論づけさせていただいたところでございます。

  続きまして,「第16 信託財産との混同について」と「第17 委託者の占有の瑕疵の承継について」を続けて説明させていただきます。

  第16でございますが,これは信託財産の混同に関する提案でございまして,現行法18条に比べましてその規律の範囲を広げまして,固有財産と信託財産との間では,およそ民法179条に規定する物権の混同も,あるいは520条の規定する債権の混同も生じないことをいわば確認するものでございます。

  現行法18条を見ますと,信託財産が受託者の固有財産から独立した別個の財産であることにかんがみまして,所有権以外の権利,例えば地上権が信託財産であるといたしますと,その後に受託者がその目的となる財産,例えば地上権の目的となる土地を取得したとしても,地上権たる信託財産は消滅しないということを規定しているわけでございます。

  しかし,信託財産と固有財産との間で物権の混同が生じますのは,今申しましたように,信託財産が制限物権で,その後で固有財産に所有権が帰属したという場合に限らず,逆に,固有財産たる所有権がまずあって,それについて,その後で信託財産が地上権を取得したと,時系列的に逆の場合もあるわけでございまして,解釈上,このような場合も本条の趣旨から混同の例外に当たるとされております。

また,信託財産に対して受託者が権利を取得するという場面について考えてみますと,現行法上は,相続等の包括承継によるやむを得ない場合を除きましては,受託者が信託財産について権利を取得できないという信託法22条の規定がありますので,混同の問題を生ずる余地がなかったわけでございますが,そこにつきまして,一定の条件のもとで受託者が信託財産について権利を取得することも許されるといたしますと,信託財産について受託者がこれを目的とする権利を有することとなる場合,例えば,最初に信託財産たる所有権があって,それに対して固有財産が地上権を取得するというような場合ですとか,余りない例かもしれませんが,固有財産が地上権であって,それについて他人が所有していた財産である土地が信託財産として受託者に帰属するという,そういう場合もあり得ることになるわけでございます。

  以上のような四つすべての場合につきまして,太字の1では,いずれの場合も民法179条の混同の例外に当たることを現行の規律より広く明文化したわけでございます。


  また,債権につきましても混同が生じ得ますところ,39ページの説明文中の③にありますとおり,債権と債務がそれぞれ同一の受託者の信託財産と固有財産に属することになった場合にも,信託財産の独立性にかんがみまして,民法520条の例外に当たると解されます。これも,本条の規定趣旨からは当然と解釈されてきましたが,明文をもって規律することとしたものでございます。

  最後に,占有の瑕疵の承継の問題について御説明を申し上げます。

  第17でございますが,これは,受託者は委託者の占有の瑕疵を常に承継するとしております現行法13条を削除し,占有の瑕疵の承継の問題は民法の原則によるとすることを提案するものでございまして,報告書で言いますと,規定を設けないとする乙案を支持するものでございます。

  現行法13条におきましては,民法187条の特則として,受託者は,信託財産の占有につき,委託者の瑕疵を常に承継する旨が規定されておりまして,その趣旨としては,悪意の委託者が自ら受益者となりながら,善意の受託者に当該財産を信託することによって不当に利益を得ることとなる弊害が生ずるおそれをあらかじめ定型的に排除したものだと解されております。

  具体的な事例としては,例えば即時取得の可否ですとか,取得時効期間の長短に関しまして,悪意の占有者が善意の受託者に信託を設定して,その悪意という瑕疵を治癒させて,自らがその信託の受益者となって,即時取得や10年間の短期取得時効の恩恵を実質的に得ようというような場合を排除しようというわけでございます。

  しかしながら,受託者はあくまでも信託財産について委託者たる占有者の承継人に当たるものでありますので,占有の瑕疵の治癒という濫用目的の信託設定に対しては,民法187条の原則によった上で,民法90条の適用等によって受託者独自の占有態様の主張を排除することができるものと解すればよいのではないかと思うわけでございます。

  もっとも,このような考え方に対しましては,占有の瑕疵の治癒という目的による信託の濫用の危険がある以上は,いわば予防的観点から,受託者による独自の占有態様の主張をあらかじめ定型的に排除しておくことが望ましく,現行の規定を維持するべきであるという指摘もあり得るかとは存じます。


  しかしながら,現行の規定のもとでは,他益信託の形をとった場合に受益者が占有の瑕疵につき善意である場合など,必ずしも濫用目的の信託設定とは言えないような場合まで,少なくとも規定上は一律に委託者の占有の瑕疵が受託者に承継されてしまうことになりますが,このようにいわば硬直的な規定を設けるよりは,濫用目的の信託設定については,受益者の主観的態様を始めとする事案の態様に応じまして,公序良俗等の規律によって柔軟に対応することの方が望ましいのではないかと。


といいましても,自益信託ではほとんどの場合において濫用目的に当たるということになるかと思いますが,いずれにしても,民法の公序良俗等の規定によって柔軟に解釈する方が望ましいと判断されるわけでございます。そういうことで規定の削除を提案したということでございます。
  このような考え方につきまして御審議をいただければと存じます。

● それでは,ただいまの範囲でまた御議論をお願いいたします。

● まず,第13の強制執行等についてなのですが,29ページから30ページにかけて,受託者が信託事務の処理に関して不法行為を行ったという場合の損害賠償債権も信託財産にかかっていくことができるようにしようというのは,分からないではありません。


例えば取引的な不法行為というものを考えてみますと,それは不法行為構成でもいけるわけですし,債務不履行の構成でもいけるわけであって,不法行為の構成をとったからいけないということにならないというのは分かって,それはそうなんだろうと思います。


  しかし,私,説明がよく分からないのは,30ページの6行目から7行目にかけて,「そのような信託事務の処理によって得られた利益が帰属する信託財産の負担において被害者の救済がなされるべきであると考えられる」というわけですが,これは確認なのですけれども,受益者は受託者に対して信託財産の復旧は求め得るのですよね。故意であろうが,過失であろうが。


● はい。

● ということは,「負担において」というのは,補償みたいな役割を果たすという意味であって,決して信託財産が最終的に負担をするという意味ではないわけですよね。それだけを確認させていただければ結構なのですが。


● 今の○○幹事が言われた限りではもちろんそのとおりですけれども,私はもうちょっと広く理解していたのです。一般的にいろいろな信託事務が行われるわけですけれども,そういう信託事務というのは信託財産に利益が帰属するわけですね。そういう過程でというか,そういう信託事務の中のどれか一つでたまたま不法行為が行われたというときに,それならばやはり一定の要件のもとで信託財産が負担してもいいのではないかと,そういう一般的な考え方が考えられて書いてあるのではないかと思いましたけれども。

ちょうど法人の場合の715条の責任を説明するのと同じような説明なんだと思いますけれども,それだとおかしいのですか。

● 715条に関しては,例えば求償を制限しようとか,いろいろまた話はありますよね。これは,信託に関して受託者が故意又は過失であって,受託者の名前で行為をしているにもかかわらず求償が制限されたりすることもあり得るということなのでしょうか。

● 求償というのは,信託財産から。
● 受託者の固有財産に対する……。
● 求償が制限されるということは……,ちょっとにわかには考えにくいけれども。715条の方はそういうことがあり得るけれどもというのは,それとの関連はどういうことですか。

● ですから,715条とパラレルに話をするような場面ではないのではないかと。

● 違うからという意味ですか。
● はい,例えばですね。
  補償責任とかというふうなことで基礎づけられる話なのか,それとも,例えば取引的不法行為ですと債務不履行との関係というのは非常に微妙なわけですよね,そういったところから基礎づけられる話なのかというと,後者じゃないんですかね。

● 債務不履行とパラレルだから,負担すると。
● 例えばですね。
● それも一つの考え方かもしれませんけれども,そういうふうに限定する……。恐らくもうちょっと広く,不法行為一般でもって……,ここに書いてある説明はもうちょっと広いことを含んでいると思いますけれどもね。

● 715条の使用者から被用者への求償の制限のところまではちょっと後回しにしますと,不法行為の被害者にとって,固有財産に対しては不法行為に基づく損害賠償請求できるけれども,しかし信託財産に対しては損害賠償請求できないという局面になるのが不適切な例というのは,○○幹事がおっしゃる取引的不法行為に限らず,信託の事務処理にかかわる不法行為であれば,広く当てはまるのだろうと思います。

したがって,まずは,信託財産もまた不法行為損害賠償債務を負うとすることは,この案のとおり,適切な解決なのだろうと思います。その上で,715条の求償を制限している現在の判例の考え方をここに持ち込むのかどうかというのは,また別問題なのだろうと思います。


● 今の考え方でいくと,故意・過失の区別ということが出てこないのではないかという気がいたします。

被害者の側から見ますと,故意の場合には固有財産にしか請求できないということの説明がなかなかつきにくいのではないかと。

受託者の故意のリスクというのは信託財産が持つのか,被害者が持つのかというと,やはり近いところにある信託財産の方かなという気がいたします。


● それはよく分かりますね。


● 私は,ちょっと一人だけ異論を。
  今の御意見は分からないでもないのですけれども,これは今までも,あるいは英米でも,この不法行為のところは書いてないのですね,結局のところ。それはどうしてなんだろうかと。


それで,二つ,ちょっと。
  まず,法人との比較をしているのですが,やはり何でも法人と一緒にする必要はないのですね。信託という別のスキームをつくっているわけですから。
  それで,実質論としてもちょっと違うのではないかと私は思いますけれども。

  それからもう一つ,これは本当の実質論になりますけれども,受益者というのがいますね。それから,今,不法行為の被害者がいて,多分,どっちが気の毒かという話で議論をなさっておられるのでしょうけれども,それは本当は同じように気の毒なのであって。

  つまり,そのポイントはこういうことなのですけれども。たまたま被害者が被害に遭った後ですが,この人は信託の何とかのことで例えばトラックを運転していて私をはねたんだということが分かって,それでこういうことになるというのが本当にフェアなのかというのがよく分からなくて。

これは何らかの形で差押権を認めるということになりますね。そういう場合には,本当は--例えば,受託者は普通の過失責任については保険に入っていることも考えられる,あるいは受託者自身が自分で固有財産をたくさん持っていると。

しかし,私が被害者ならば,そういうことが分かれば,とりあえず差し押さえてしまうわけです。

これはタクティックですから。私の方が半分は飛び出していってトラックにはねられた場合というのは過失相殺の問題になりますけれども,とにかく差し押さえてしまうと,その信託は動かないという話で,交渉上のアドバンテージも得られるわけですね。ちょっとどうなんだろうかという感じが私はしますけれども。

  ただし,日本法においては,取引上の不法行為と債務不履行構成というのが物すごく近接していて,そこの場面ではそんな区別できないんじゃないのと言われてしまうと,そこだけは日本的なところで,まあ,あり得るのかなという気がしますけれども。

● ほかにいかがでしょうか。

● 今,議論になっているところなのですけれども,実務者の方から行きますと,現在の法律の解釈というのが,信託財産にかかっていけない,それによって信託財産の独立性というのが守られているという部分がありまして,それがこういう形の解釈に変わってしまうというのは,やはり非常に不安なところがありまして。

  先ほど,被害者の方の救済なのか受益者の方の救済なのか,どちらかということであったと思いますけれども,基本的に受託者に資力がある場合については,信託財産に行っても,後で受託者の方に求償するという形で対応ができるのであればいいですけれども,もちろん,これから先,どんな受託者が入ってくるか分かりませんので,そういう場合において,受託者に資力がないということを前提にした場合においては,やはり信託財産自体が毀損されてしまうと。

もちろん,その不法行為の被害者の人というのは気の毒なのですけれども,信託財産の独立性というか,今まで考えてきた信託というもののイメージというものがありますので,それがちょっと崩れるというような感じがいたしますので,この規律というか,解釈というのはちょっとどうかなというふうに考えております。

● 別の論点でよろしいでしょうか。
  第14についてコメントが一つと,相殺,第15についてコメントが一つあります。

  第14の受託者倒産に関しまして,くどいようですが,前半で御議論させていただいた受託者の倒産隔離の話ですけれども,ここでもちょっと議論を差し上げたいのですけれども,仮に双務未履行契約だとした場合でも受託者の倒産隔離が図られるかということですけれども,こういう理解ができるかどうかという質問なのですけれども。

  まず第1に,この第14の規律において固有財産との分離がなされていると。

問題は,ゴーイング・コンサーンといいましょうか,受託者が倒産した場合に信託自体が壊れてしまわないかどうかということが実務的には次に気になるところでございますけれども,ここはちょっと後の議論で恐縮なのですけれども,第39において受託者の任務終了事由が書いてあると。

そこにおいて,破産手続に関してなのですが,受託者の任務が終了すると。

それで,第40について,破産管財人というのは一時的に信託財産の保管をしたり,引継ぎに必要な行為をすることを要するものとするということで,第41の受託者交代までつながるという話なのですけれども,そう考えたときに,ちょっとこの議論とずれて恐縮なのですけれども,片や破産法においては双務未履行契約における管財人の解除権というのがある,片や信託法においてはこういうことで,いわば信託を維持させて新受託者に引き継ぐという義務があると。

どちらが特別法なのかよく分かりませんけれども。


よって,結果としては,信託の規律--破産法に限ってはこの現行法でありますけれども--においては,破産管財人からの解除請求権というのは行使し得ないものであるというふうなことが言えないかどうかということでございます。

  次に,相殺に関しての話でございますけれども,ここは銀行にとっても非常に重要なことと思っておりますが,なおまだ整理できておりませんが,一つ問題提起と質問をしたいところなのですけれども。


  いわゆる善意の第三者の保護というのをどう図るのかということでございますけれども,典型的な例といえば,いわゆる信託銀行からお金を借りて,それで預金をしたと。


その当該お客さん,第三者というのは,例えば銀行が倒産した場合には,少なくとも相殺の期待権を持っている。

といったときに,たまたま借入れが信託財産からのものであると。

今の銀行実務においては,銀行が貸付けを行うことについて,別段,これは信託財産から出てますよとか,こういう勘定から出てますよということは言わないものですので,そうした場合に,この相殺の制限の規律に従った場合には,この第三者の相殺の期待が損なわれるのではないかということでございます。


  これについてはいろいろな議論があると承知しています。

例えば民法478条の類推適用であるとか,又は外観法理をできるのかとか,そういう話があるとは思うのですけれども。また,それに付随して,そもそも受託行というのは,貸し出すときに,これがどこからの貸付けであるかということについての開示義務を負うのかどうかとか,そういう議論にもつながっていくかと思うのですけれども,いずれにしても,1点,善意の第三者の保護というのをどう考えるのかということをちょっと問題提起したいと思っております。

● いろいろな問題提起をされましたけれども,しばらく皆さんの御意見を伺ってから,その後でお答えしましょうか。
  今まで議論された点について,いかがでしょうか。


● 今,第14の点について○○委員がいろいろとコメントをおっしゃっていましたので,それに関連してなのですけれども。


  まず,全体的な感想,流動化の観点からの感想なのですけれども,倒産隔離というのは非常に重要なポイントではあるのですが,これまで,受託者の倒産については余り議論されてこなかったのではないかなというような気がしております。


  それと,質問なのですけれども,第14の2の(3)のところなのですが,「再生計画又は更生計画による信託財産に属する債務に係る債権の免責又は変更は,信託財産との関係では,その効力を主張することができないものとする」とされていまして,33ページの真ん中のところで,信託財産に属する債務として,例えば信託事務処理に生じた債権について,固有財産を引当てとする部分に関しては再生債権あるいは更生債権というような扱いになるものの,信託財産が負担すべきものについてはそうではないというようなことが書かれていると思うのですが,信託財産に属する債務というのは,第1に戻っていただいて,第1の2で信託の設定時に債務の引受けを行うことができるというような新たな考え方を持ち込んでいるわけですけれども,こういった形で信託設定時に最初から財産に付随していた債務というものもあるかと思いますし,また,信託設定後に信託事務処理により生じた債権ではあるのでしょうけれども,現実的にある取引として,アセットバックド・ローン,ABLというものがあります。


これは,責任財産限定特約付で受託者たる信託銀行が借入れを行います。

借りる方は固有財産で支弁しようという意図は全くありませんし,貸す方も信託財産のみを引当てに貸しているというような形だろうと思うのですけれども,こういった形で,責任財産限定特約付の債務,つまり双方とも,受託者あるいは債権者とも,信託財産のみに負担させようという意図の債権については,これは多分,当事者の意図としては,受託者の倒産の影響は受けるべきではないということだろうと思うのですけれども,そういうふうに理解していいのかどうかという疑問がございます。

  それと,これは会社更生,民事再生に限定されないと思うのですけれども,破産の場合も同じ問題が起きると思うのですけれども,とりあえず裁判所が保全命令を出して受託者による債務の弁済をすべて禁じたような場合に,当初から信託財産に付随していた債務の弁済であるとか,あるいは責任財産限定特約付の債務の弁済が妨げられるようなことはないのかなというのがちょっと気になっております。

● ちょっと,いろいろ細かいところは,私も破産とか会社更生の方はよく分かりませんけれども,基本的な考え方は,いずれにせよ受託者というものが倒産しても信託自体には影響がないと。それで信託はそのまま続くので,あとは受託者をどうやってかえるかということが問題だという構造なわけですね。

  ですから,○○委員が言われたのは,私,少し誤解しているかもしれませんが,最初の双務契約性というのでしょうか,受託者が倒産して何を解除--解除権があっておかしいということを言われたわけですけれども,あのときに問題にされていた解除権というのは,何の契約を……。

● それもあると思うのです。信託契約というのがあって,それに従って,例えば報酬支払義務と,それから,受託者においては管理処分する義務というのがあった場合に,もうそれは一つの契約ですねと。


もちろん,実際,通常の契約とは違って受益者というのがいるわけですから,経済実体的には全部移っていますし,もちろん委託者の地位を全部移してしまえば,それはいいわけですけれども,ただ,なお契約というのはあるわけですから,それの未履行があった場合に,信託契約自体が双務契約だということを前提とした場合に,やはり管財人の方からは双務未履行契約の解除権の行使ができ得るのではないかという話です。

● それがそうじゃないという……。
● まあ,それが適当でない,経済合理性からすると適当でないというふうにしないと信託の特徴がなくなってしまうのではないかと。それで,そのためにどういうふうに考えたらいいのかと。

  一つの考え方としては,そもそも信託契約というのは双務契約ではないというふうに考えるのか。まあ,これはいろいろ説が分かれていると認識しておりますけれども。

  もう一つの考え方としては,今申したとおり,そもそも信託に関しては別の規律があるわけだから,破産法の規律にかかわらず信託契約は壊れないというふうに考えるのか,またそういうふうに立法するのかということでございます。

● 私もちょっと,破産法が絡むので余りよく分かりませんけれども,信託の設定の段階を考えると,委託者と受託者の間でもって信託を契約で設定したと。最初に問題になるのは,その契約の性質というのでしょうか,そこで双務契約的かどうかということを言われたのだと思いますけれども,恐らく,今,○○委員御自身が言われたように,信託が設定された後,受託者が破産しても,信託自体はずっと継続するという前提で考えていくのであるとすると,ロジックが少し飛んでいるかもしれませんけれども,結論的には,やはり解除というような問題は生じない,それをむしろ封じているというふうに理解するのがいいのではないかと思いますけれども,なおもうちょっと正確に御議論いただければと思いますが。


● なお正確かどうかよく分からないのですけれども。
  まず,今の点ですね,信託契約が管財人等の双方未履行双務契約に係る解除権の対象になるかということですけれども,そんなに理屈をこね回さなくても,多分,解除権の対象にならないというふうに導けるのではないかと。


  つまり,第13の帰結として第14があるわけですが,第14では,信託財産というのは破産財団に属しないし,再生債務者財産や更生会社財産に属さないということになっていると。

そうすると,再生の場合は再生債務者がそのまま管理処分権を持つのでちょっと見えにくいので,議論を置いておきまして,破産や更生のように管財人がいるタイプのシンプルな場合を考えますと,管財人の仕事というのは,財産の管理処分なわけですね。

それは何を管理処分するかといえば,破産財団あるいは更生会社財産に属するものの管理処分をするわけで,その一環として解除権というのがあるわけです。


ですから,その外側にあるものについて解除権を持つということは,破産法本来の理屈からして,多分ない。

例えば,類似の関係で申しますと,自然人が破産した場合に,自然人の雇用契約について管財人は解除権を持たないということになっていますが,それは,雇用契約というのは,破産財団とは別に,肉体を使って労務を提供して,それに対する対価を受ける契約であって,財団の外側の法律関係だからという説明を多分するのだと思うのですね。

それといわば類似の関係ですので,従前の考え方で言いますと,要するに自由財産関係の契約と同じ,だから解除権は性質上及ばないという整理を多分できるのではないかと思います。ですから,先ほどの○○委員の御説明ですね,正にもともと外側なのだという説明で多分よろしいのではないかというふうに思います。それが第1点です。


  第2点ですが,第14の2の(4)ですね,第14自体はもちろんこういう仕切りになるのではないかと思うのですけれども,いわばこの2の(4)の後始末をどうするかなのですが,2の(4)は,再生の場合に管理命令が出て管財人が選任されたと,あるいは,更生手続の場合は必ず管財人が選任されますので,管財人がいて受託者の職務や信託財産の管理処分を続けるわけですが,ここから発生したコスト,管財人の報酬なんかはそれぞれ共益債権になって,そう考えますと,再生債務者財産あるいは更生会社財産に対して最優先順位で請求できるということになるのですが,そのままで終わると何かおかしいような気もして。

もともと信託財産の管理処分から発生するコストなわけですから,最終的にはそちらの方に帰属させなければおかしいような気もします。


  そう考えますと,報酬請求権については別に,報酬のうち,その信託財産の管理処分に係るものについては,例えば直接信託財産に行けるようにするのか,あるいはいったん再生債務者財産なり更生会社財産なりに請求できた後,そこから更に請求できるようにするのかということが考えられます。


しかし,そうかなとも思うのですが,もしかしたらそうではなくて,結局,再生債務者財産なり更生会社財産なりに報酬を負担させて,それでおかしいというのは,何がおかしいかというと,再生債権者や更生債権者の取り分がその分減ってしまうという問題なのですが,もしかしたら受託者の倒産というのはそういうもので,更生債権者あるいは再生債権者というのはもともとそういう負担つきのものしかないのだと,そういうふうに自分の取り分が減っても仕方ないんだというような地位を持っているのかどうかですね。


まあ,こういうふうに考えることは多分なくて,やはり前者のように,つまり,最終的には信託財産に負担させるスキームがいいのではないかと思いますけれども,考え方としては,論理的には一応両方あり得る。


  結論としては,私は,原則どおり,報酬請求権は信託財産に係るものから発生するものを全部含めて,いったん再生債務者財産なり更生会社に請求させて,その後,信託財産と再生債務者財産なり更生会社財産の間で調整するという形に仕組めればいいかなというふうに思いますが,それは現行法でもある問題ですので,もしかしたら解釈問題で済むのかもしれないし,解釈で難しいということであれば何か規律を置くことが必要になるかなという気がいたします。


● 私も,結論的には,やはりそういうのが適当な気がします。ちょっとどういう筋道で行くのか,私にはよく分からないけれども。
  何かありますか。


● 先ほど御質問があった項目のうち,破産管財人の解除権につきましては,○○委員と○○幹事の方から御説明いただきましたとおりだと考えております。

  結局,信託財産の独立性というのがここの規律の趣旨でございますので,そうしますと,○○委員の方からおっしゃった例えばABLの場合で責任財産限定特約があるような財産ですとか,そもそも固有財産を引当てとしていないような財産については,それは計画とかの対象にならないのであろうし,それから,保全命令などが固有財産についての再生手続でかかったとしても,信託財産についてはその影響は及ばないというふうに区別して考えればいいのではないかと思います。


  それから,最初に○○委員がおっしゃったもう一つの御指摘,第三者の保護が必要であるということは,これは我々のペーパーでももちろん意識はしておりまして,相殺のところでは,37ページの(注3)で,やはり第三者の意識と受託者の意識が違う場合について第三者をいかに保護するかという問題はあると考えているところでございまして,先ほどおっしゃったとおり,まず第三者に属する信託銀行の国有財産に対する債権があって,信託財産から借りたものについて,第三者はこれは信託銀行の国有財産から借りたと思っていたけれども,実は信託財産から借りていたというように認識が違う場合であるとか,あるいは逆に,例えば,信託財産に属する第三者に対する債権があった場合において,第三者の方から信託銀行に金を貸したと。

これは,信託銀行としては自分の国有財産で借りていたと思っていたけれども,第三者としては信託財産に貸したと思っていたと。

すなわち,いずれの場合も第三者の方で相殺の期待を持っているわけでございますが,そういう点についていかに保護するかというのを,受託者の権限外行為の取消し一般のところであわせて取り扱わせていただきます。

基本的には,第三者を保護して取引の安全を図るべきか,信託財産の安全を図るべきかという価値判断の問題に帰着するものかと思います。
  私からは以上でございます。

● ほかにいかがでしょうか。

● 第15の相殺のところでございますが,まず,「1 法定相殺」の(1),(2)ですけれども,ここの規律につきましては,現行法で17条と22条があるせいで,受益者の保護を図りたくても図れないというようなジレンマがあったりもしましたので,そこが非常に明確になったということもありまして,非常に有り難い規律かなと。

ただ,(1)のところの「受託者がその承認をしたとき」というのがちょっとよく分からなくて,先ほど,第三者から相殺適状があって,受託者から適状でないような状態について承認するというのはどういうことかというのがちょっとよく分からなかったところがあるのですが,そういうところを除けば,方向性として,こういう規律を入れていただけるというのは有り難いと。

  (3)については,現行法では相殺されてしまう部分でもありますので,そこが相殺されないというのは,受託者の側からすると有り難いなと。

あと,この(3)のところから派生して,(注4)で,受益債権の部分についても(3)の規律が適用されるというのと,逆に受託者の方からは相殺ができるということについては,この規律についても非常に有り難いなというふうに思っています。


  それで,先ほど来出ています第三者の保護の話なのですが,こちらの方については,基本的には第三者の保護というよりも受益者の保護を図るということをとりあえず優先したいなというふうに考えておりまして,特別の規律というのは置くこともないかなと。


実務上の問題として,実際,勘定を明示してということはしていないのですけれども,相殺ができないような形のものについては,例えば,借入れしている人のところに行って,これは相殺できませんよというようなことを個別に言ったり,実務上の対応というのはかなりやってきています。


そういう観点から見て,もちろん,これは全部が全部,実務上これでクリアできるかどうかは分かりませんけれども,基本的には受益者の方の保護を優先したいというふうに考えています。


● なかなか,信託財産から貸すときに,というか,あるいは信託銀行が貸すときに,必ず出所を言わなくてはいけないなんていう話につながってきそうな感じがして……。まあ,余計な話ですが。


● 大半の部分については,相殺ができるような形で信託契約に書いたり,そういう形にしておりますけれども,まれなケースがありまして,そういうケースについても徐々に対応を始めているというところがありますので。


● 第13の強制執行等についての仮処分に関する問題なのですが,詐害信託との関係で,詐害信託が行われた場合に仮処分の決定をとるということをやることがあるわけですけれども,この仮処分の登記をするに当たって,法務局の方でどうも意見が分かれているようで,登記の対応をしていただけないというケースがあるようです。


  この点については,詐害行為取消しの仮処分決定が出ても登記ができないというのは,やはりおかしいことだと思いますので,この立法の過程の中できちんと明確にしていただければと。

  具体的には,先ほど第13の中で幾つか類型を挙げられましたけれども,ここにもう1個加えることを明確にすることを御検討いただけないかと思います。


● 登記の場面ではなくて,この信託の場面でですか。
● 詐害信託の場面でです。
● 例えば,どういう規律を加えてということでございますか。

● 要するに,信託法16条1項との関係で,登記ができないという理解をされている法務局があるようで,それとの関係で統一していただけないかということです。

● 要するに,もう受託者の名義に一応なっているわけですね。例えば不動産が。
● そこから更にどこかに移ると,詐害信託の取消しをして判決を得ても,更に面倒なことになるということで,仮処分をしたい,登記を得たいというケースです。

● 一応問題は分かりましたけれども,何か仮処分そのものの扱いの問題なのかなという気もします。

● 登記の方の問題ですね。登記と現行法16条の問題です。
● 16条の問題になりますでしょうか。16条というのは,信託財産であることを特色づけるための,第三者からの強制執行を排除するための規律ということなのですが,今おっしゃったのは,詐害信託の取消しの場面での仮処分で,ちょっと局面が,ここの16条で……,問題があるのはもちろんかと思いますけれども,第13の場面の問題とはちょっとずれるのではないかなというような気がいたします。

● まあ,どこかの場面で統一的な処理をしていただければというふうに思うのですけれども。

● 分かりました。どこかで関連するところでまた考えておきたいと思います。

● ちょっと実質ではない点なので申し訳ないのですが,ストラクチャーの話なのですが,相殺のここの規定の制約と忠実義務の規定の関係がちょっとまた分からなくなってきまして,どう整理されているのか伺えればと思うのですけれども。

  36ページの下の方で,受託者からの相殺で,受託者が固有財産に属する債権を持っていて,信託財産に属する債務を相殺する場合,これは要するに信託財産を固有財産で返すような話だから,原則これは問題なくて,ただ,競合貸付けみたいなことがある場合に初めて何か特殊な問題が起きる。

それで,そういう特殊なケースだから扱いませんと,これはいいと思うのですが,その後,これは忠実義務で処理できるとお書きなのですね。

もし忠実義務でこの問題が処理できるのであれば,第15の1の(2)も全部できるのではないかという疑問にもつながりまして,もし第15の1の(2)が,受託者からの相殺一般が忠実義務の一般の禁止及びその取消しとか無効とかの効果で処理できないというのであれば,ここのところもやはりこの形では処理できないような気がするわけです。


これはどう整理されたのか,忠実義務でも処理できるように確認的に書いたのかどうかというのが必ずしもよく分からないところです。

ひょっとしたら,普通の取引行為と違って,無効取消しによって相手方の債権が復活してみたいなことまでがやりにくいから,こういう規定をあえて置いたというのであれば,ここで要らないと言われている局面も規定しておかなくてはいけなかったのかもしれませんし,そこはそんな差がないのであれば,そもそも(2)が要らないのではないかというのにつながる。

  それともう一つ,更に言うと,ほかの局面でもやはり忠実義務の効果との調整というのは考えた方がいいところがあるかもしれなくて,例えば,この(2)に反する相殺をしてしまった後,受益者の承認をとって追認してもらうというのもできておかしくないと思うのですけれども,これはどこで読むのかというと,現在は利益相反行為の禁止の例外では読めないのですね。

これはたしか三つあって,同意と信託行為の規定とフェアネスだったと思いますけれども,同意というのは,あくまでも相殺するときの同意であって,してしまった後の追認ではないものですから,そうすると,忠実義務違反一般の追認とか権限外の行為の追認とか,そっちでいくと思うのですが,それがこの1の(2)にもかぶると読まなければいけなくなると思うのですけれども,そうなってくると,ますます仕分けが,忠実義務違反の行為一般の禁止の話とこの1の(2)の禁止とがはっきりしなくなってくる。


  だから,一度整理はされて,何のためにこの(2)というのが規定として必要なのかというのを検討する必要があるかなという,ストラクチャーとしてですね,感触を持ちました。


● この辺の相殺の禁止というのは,確かに,最終的になぜ禁止されているかという根拠を突き詰めていくと忠実義務などの問題にぶつかってくるという限りではオーバーラップしているのだと思いますけれども,恐らく今までの規定の仕方というのは,ここもある程度それを受け継いでいるわけですけれども,相殺ができる場面を規定するのではなくて,一応このタイプの相殺はだめですよというものを挙げて禁止する,それで,それ以外についても忠実義務の一般原則でだめな場合が出てくるかもしれないけれども,それについては定型的に相殺の形式としては必ずしもだめだと言えないので,そこは規定していない,そういう考え方なのではないかと思いますけれどね。


● (2)は,完全に利益相反取引の要件をそのまま引っ張ってきて,この範囲はだめと言っているので,利益相反行為でだめというのと,ここでだめと書くことの違いというのが,範囲としては全然出てきていないのですね。

それだけに,従来,漠然と相殺禁止を置いていた場合と比べると,よりどういう関係なのかという問題が際立ってしまうという特徴があると思うのですね。

そのほかの利益相反の規定の類推みたいなものがあるというふうに言うのであれば,こんな書き方で(2)を置くのが本当にいいのかどうか,やはり体裁として気になるわけです。

● 要するに,利益相反の原則そのものだから書く必要ないだろうと。
● こんな書き方で書くのであればですね。それか,そうでなければ,利益相反のところの規定をもっと丹念に引用するか,いずれかをしないと,非常に中途半端な気がしますね。

● 何かありますか。

● 今の相殺の点については,今,○○委員がおっしゃいましたように,我々は,基本的に相殺できない類型を切り出して書いたということでございますけれども,これを書くことによってかえって漏れてしまう場合があるのではないかという御指摘かと思いますので,規律の仕方をどう見直すかと。

我々としてはこれで足りているのではないかと思っていたわけですが,考えてみたいと思っております。

  あと,○○委員が先ほどおっしゃった点,受益者を保護すべきだというのは,本当にそうかどうか,反対するわけではないですが,そこは受益者の保護と第三者の保護のバランスを考える必要があって,ほとんどの場合には言ってしまっているのだからいいということでしょうが,それは第三者の保護要件が欠ける場合だと考えればいいのかなという気もいたしまして,我々,これから検討いたしますが,一律に受益者を保護して,第三者の取引の安全を犠牲にしていいかどうかというと,そこはなおまだ問題があるなというふうに考えておりますので,ちょっと一言,留保をつけさせていただきます。

● 結構根本的な問題で,ここだけではなくて,ほかのところでも,権限違反の行為が行われたときに,一種の表見代理的なもので相手方を保護するかどうかとか,そういうのに共通する問題ですね。
  ほかにいかがでしょうか。


● 簡単なことで教えていただきたいことなのですが,第14です。1の(2)の,「受益債権は,破産債権としないものとする」という,これは財産の独立性の一つのあらわれだと思いますが,これは端的に言うと,今日の対象ではありませんが,報告書の第27と同じことを破産の局面で示したというふうに考えたら,それで過不足ないですか。

● はい,そういう趣旨でございます。

● 私も内容について教えていただきたいところがあるのですが。
  2点ございまして,一つは,第15の相殺に関する規定の取扱いについて,37ページ(注1)という点で,受託者からの承認の話で,この効力発生時期の問題が書かれておりますけれども,ここでは恐らく二つの問題がありまして,効力発生時期はいつかということと,遡及する場合に差押えとの関係がどうなるかという2点なんだろうと思います。

  御説明によりますと,相殺適状のときというのは,具体的には,第三者からの相殺について,相殺禁止が外れたような形での相殺適状のときから効力が発生するとされた上で,しかも差押えに優先するという帰結だろうというふうに考えておりますけれども,その理由づけの話なのですけれども,ここに書かれている理由づけが適切なのかというのはちょっと気になるところですので,御教示ないし御確認なり,いただければと思います。

  一つは,受託者からの承認によって,第三者がした相殺について相殺禁止が外れているならば,相殺適状になる時点に効力がさかのぼるということにいたしますと,債権譲渡の禁止特約がついているものについて異議なき承諾がされたときに,116条によって差押えがあったときにはその権利を害することができないというふうにしている平成9年の最高裁と類似の構造になるのではないかという問題が出るように思われまして,それとは場面が違うということを言っていくということになるのかなと思うのですけれども,承認によって,あるいは承諾によって遡及する,その間に第三者が来ているというときの説明が,それとの関係で必要になるのではないかと。


  それからもう一つ,理由のところで,「受託者から相殺をした場合には,その効力発生時期は相殺適状の時となることを勘案すると」というふうに書かれていることの意味がはっきりとよく分かりませんで,もちろん,受託者から相殺をしたらそうなるわけですが,受託者からは相殺ができないような場面でこれは一番きいてくるという御説明で,かつ,その場合,相殺適状の時期は,受託者からするものは相殺適状を満たしていないということですので,この「勘案すると」という理由づけがどうきいているのかというので,御趣旨などを説明していただければと思います。

  もう1点は,第14に関しまして,これもよく理解ができなかったところなのですけれども,1の(3)で,「法人である受託者を除く」というふうにされています。

そこの説明が,32ページの(3)のなお書のところになっておりまして,法人の場合は解散するため受託者の任務は終了することになるので,終了しないものとされている場合においても任務は終了するので,管財人が行うこととはならないというふうに書かれているのですが,その解散事由,破産手続の開始があったとしても,法人自体はなお清算法人という形で残るのではないかというふうに考えられますことと,それから,この規律とはどう関係しているのかという点でして,更に別途,終了事由については,別段の定めがあるときは破産によって終了しないという規定が報告書では提案されていたかと思いますが,それとの関係で,ここはむしろ法人については別の定めはなし,強行規定であるという理解なのか,ちょっとそのあたり,関係が分かりませんでしたので,もしよろしければ御説明いただければと思います。


● 最後の点ですが,法人については当然終了するということは,破産手続開始によって法人が解散いたしまして,清算の目的の範囲内で存続するということになるわけでございますけれども,そのような権利能力が限定されたものについて,受託者としての任務が続くというのは適当ではないのではないかという価値判断が入っておりまして,したがって,自然人の場合は終了しないとしても,法人の場合には破産手続の開始によって常に終了するというふうに解しているということでございます。

  それからもう一つ,相殺の書きぶりでございますけれども,これは余りそこまで意識せずに書いてしまっておりまして,ちょっと答えにくいところがございます。

● また御検討いただければと思います。

● ○○幹事の前者の御回答なのですけれども,つまり,受託者が法人の場合ですと,破産した場合に受託者の職務を破産管財人が行うことにならないということと,それから,第42の「受託者倒産の場合における信託財産の取扱い等について」ということで,破産管財人が新受託者が選任されるまで管理をするというふうに私は理解しているのですが,そこはどういう関係になるのでしょうか。

● 私が申し上げたのは,受託者である法人が破産手続の開始をされますと,法人は解散して,清算目的の範囲で存続して,しかし,そのようなものについては信託の受託者としてはふさわしくないということで,任務が終了するということですが。

● その受託者の破産管財人との関係というのはどうなるのですか。

● それは手続は並行しますから,任務が終了することによって……。

● 単純に分からないだけの話なのですけれども。したがって,受託者の職務を破産管財人が行なうこととはならないということは……。

● 要するに,「職務」というのが,いわば権限全般という意味でして,いわゆる引継事務みたいなものはやりますが,それを超えた受託者としての権利義務全般までは及ばないと,そういう趣旨で。

● 管理処分とかいうことであった場合に,ちょっと細かい話で,また第42の話になって恐縮なのですけれども,管理信託の場合に,その引継ぎの間の管理というのは,当該破産管財人は行うのですか,それとも行わないのですか。

● そこは,管理はするとしても,受託者としてではなくて,破産管財人として管理継続するということになります。

● 分かりました。ありがとうございました。

● 先ほどの繰り返しになるのですけれども,この第13で,受託者が不法行為をした場合に,いきなり信託財産にかかっていけるというのは,やはり大きなことだと私は思うのです。今までにないリスクをとにかく信託財産に負わせることになるというのは,やはり大きな変更であって,もう少し慎重な配慮が望まれると思うのですね。

  例えば,30ページの一番上に,「不法行為は信託事務処理ではないから」と書いておきながら,その下の6行目のところで,「信託事務の処理によって得られた利益が帰属する」と。

だから,利益があるわけはないですよね,この不法行為によって。しかし,一般論として,今までちゃんと信託事務をやってきたから利益が帰属してたんじゃないかと言えば,へ理屈で言えばですよ,受託者に就任した初日に不法行為をやられたのでは,もうたまったものではない。

大体,受託者の方にかかっていけばいいわけなんですから,基本的に。それを,こうやって信託財産にいきなりかかっていけますよというのは,従来にない……,つまり,この信託制度というのは,信託財産の倒産隔離であれ何であれというようなことを非常に日本で強調しているのに,ここで新たなリスクをわざわざ負わせるというのが,ちょっと私……。

  まあ,ともかく,これは非常に--意外に,かもしれないですけれども--重要な変更をしようとしているのではないかという点を,もう一言だけ,同じことを繰り返させていただきます。


● それでは,今日も非常に活発な御議論をいただきましたけれども,必ずしもまだ十分議論が尽くされていない点がありますが,これはまた,先ほど○○幹事からも話がありましたように,まだもう1ラウンドか2ラウンドぐらいは……。
● この件につきましてはもう1ラウンドございます。

● 議論ができますので,そこで御議論いただきたいと思います。
  それでは,本日の会議はこのぐらいにしたいと思います。

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2016年加工編   
法制審議会信託法部会
第4回会議 議事録

第1 日 時  平成16年11月9日(火)  自 午後1時00分
                       至 午後5時03分

第2 場 所 法曹会館「富士の間」

第3 議 題
   信託法の見直しに関する検討課題(2)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● それでは,法制審議会信託法部会を開きたいと思います。
  今日も説明資料はかなり分厚いものがございますが,幾つかに分けて説明していきたいと思います。

  それでは,○○幹事の方からお願いします。
● 本日の進行でございますが,資料の中身がかなりありますのと,論点によっては議論がかなりあると思いますので,大まかな進行といたしまして,次のとおり考えております。

最初が,受託者の善管注意義務,利益吐き出しを含みます忠実義務,それから公平義務,受託者の損失てん補責任と,その時効の観点,この5項目につきまして,まず最初に私の方から,多少お時間をいただいて御説明いたしまして,途中休憩までは全部これに当てるというふうに考えております。休憩後につきましては,まず,分別管理義務,信託事務処理の委託,それから帳簿作成義務等を御審議いただきまして,残りの時間で受託者の権限と権限違反の行為の効果を御審議いただきたいと思っております。議論の進み具合によりまして,どこまでできるか分かりませんが,できれば最後まで御審議いただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,まず,善管注意義務のところから順次御説明をしてまいりたいと思います。

  第18でございますが,これは,受託者の職務に関する現行法第4条,受託者の善管注意義務に関する第20条,それから金銭の管理方法に関する第21条に関連する提案でございます。

  その骨子は第1回会議で申し上げたとおりでございまして,第4条と第20条の規律内容を整理して,1において,受託者の信託事務遂行義務というもの,2において,かかる事務遂行上の受託者の注意義務の基準がいわゆる善管注意義務であることをそれぞれ示しますとともに,3におきまして,善管注意義務の内容について個別具体的な規定までは設けないこと,4におきまして,現行法第21条は削除することを提案するものでございます。

  ここでは,第1回会議以降事務局内で検討し,本日の資料に追加して記述した点につきましてのみ,2点,補足的に御説明をいたします。
 
 まず,第1回会議で用いた報告書におきましては,受託者の信託事務遂行義務を示すに当たっては,「信託行為の定めに従い」という文言ではなくて,「信託の本旨に従い」という文言を用いるべきではないかとの指摘があることを示させていただいておりました。

この点についての検討結果を示したものが,資料の2ページ中段に記述したところですが,受託者は,信託行為の定めに形式的に従っていれば足りるわけではなくて,委託者の意図した信託目的に適合するするように信託事務を処理する義務を負うことを明らかにすべく,「信託の本旨に従い」という文言を用いることといたしました。

ここにおいて,「信託の本旨」といいますのは,いわば契約における信義則と同様に,形式的な定めを実質的に補完する機能を果たすものと考えております。

  次に,同じく報告書におきましては,受託者が信託行為の定めに従って信託事務の処理をすべきことはいわば当然であって,あえて規定を要しないのではないかという指摘がございました。

この点につきましても,「信託の本旨」という文言を用いることを前提とすれば,受託者は,信託行為の定めのみならず,その背後にある信託の本旨に従って信託事務を処理する義務を負うものであるということを明らかにすることによりまして,受託者は,信託行為に具体的に規定されていない,いわば信義則的に膨らんだ義務に基づいて,その義務違反,すなわち責任を追及されるのだと,そういうことを明らかにするという点において規定を設ける意味があると考えるものでございます。
  以上の考え方につきまして,後ほど御審議をいただければと存じます。

  続きまして,本日の中心的事項の一つとなると思われます忠実義務,それから利益吐き出し責任も含めて,あわせて御説明をしたいと思います。この点については少々お時間を賜れればと存じます。

  忠実義務とは,受託者が専ら受益者のために行動しなければならないという原則をいいまして,受託者による信託財産の固有財産化と信託財産に対する権利取得を禁止する第22条第1項が,受託者の忠実義務を前提とした規律であると解されております。

他方で,この現行法の規律に関しましては,資料の10ページ以下に記載しましたとおり,禁止の対象が狭いという問題ですとか,裁判所による許可を除いて禁止の例外を認めていないという問題,更には違反行為の効果に関する規律がないという問題が指摘されております。


  そこで,今回の提案では,このような指摘を踏まえまして,受託者の忠実義務につきまして,禁止される行為の類型,禁止の例外,違反した場合の効果につきまして,検討の方向性をお示しさせていただいているところでございます。

  具体的に提案の内容に入ってまいりますが,まず,禁止される行為の類型と禁止の例外というところから御説明をしてまいります。

  ところで,提案の概要についてあらかじめ若干の御説明をさせていただきますと,今回の提案は大きく三つの区分に分かれておりまして,1では,忠実義務の総則的な規律,2では,受託者の利益相反行為の禁止とその例外,最後に3では,受託者が利益を取得することの禁止とその例外について,それぞれ提案しております。

  このうち,信託法部会資料2の報告書の提案内容からの主な変更点といたしましては,次の点を挙げることができると考えております。


  第1に,受益者と受託者間の利益相反の問題につきましては,これは資料で言いますと5ページの2の(1)のアでございますが,いわゆる自己取引の問題と,それから②の間接取引とに分けて規律しております。更に,これに対応する形で,受益者と第三者間の利益相反の場合につきましても,③の直接の相手方に対して利益を与える場合,それから④の直接の相手方以外の第三者に利益を与える場合に分けて規律しております。

  第2に,異なる信託に係る受益者間の利益相反の場合についてですが,まず,7ページの(2)のアの①として,いわゆる信託財産間の取引の問題,②といたしまして,特定の信託の利益のために,他の信託の受益者の利益と相反する行為に関する問題,最後に③といたしまして,信託間の競合行為に関する問題とに分けて規律しております。

  第3に,受託者が利益を取得することの禁止といたしまして,報告書で禁止した狭義の利益取得行為,後ほど御説明いたします9ページの3の(2)に当たるものでございますが,そのような狭義の利益取得行為のほかに,信託財産の機会を固有財産で奪取する行為というのを,(1)として加えております。これをもちまして,全部を合わせて広義の利益取得行為というように考えていただければと思いますが,これが3の規律でございます。


  最後に,第4といたしまして,ただいま申しました狭義の利益取得行為の禁止につきましては,受益者による取得が禁止される利益の広狭に応じまして,甲案から丙案までの4案を提示しております。


  なお,利益相反行為と利益取得行為の分類につきましては,従前,信託財産に影響を及ぼす行為については利益相反行為の問題として,信託財産に影響を及ぼさない行為については利益取得行為の問題として考えておりました。


今回の提案におきましても,利益相反行為の禁止と狭義の利益取得行為の禁止という観点からはこのような立場を維持しているわけでございますが,固有財産で信託財産の機会を奪取する行為というものにつきまして特出しいたしましたのは,一つは,専ら固有勘定で行う行為を禁止の対象としているということ,もう一つは,商法でも取締役による利益相反行為と競業取引の禁止とが別個の類型として禁止されていることなどを考慮いたしまして,広義の利益取得行為の禁止の一類型と考えて特別に規律しているということで,変更を加えているところでございます。

  それでは,更に各論的な説明に移らせていただきます。

  まず,提案の1でございますが,ここでは,「受託者は,信託行為の定めに従い,受益者のために忠実に信託事務を処理しなければならない」としております。

  忠実義務違反行為として禁止の対象とすべき行為につきましては,後に御説明いたします提案の2及び3ですべて捕捉されていると考えておりまして,したがいまして,提案の2及び3を設ければ,それに加えて1は不要ではないかという考え方も十分成り立つところではございます。

しかしながら,受託者は専ら受益者の利益のために行動すべきであるという原理原則を明文で示すことは,受託者の行動指針を示すという点から意義があると考えまして,このような総則規定を置くことを 提案しております。


  こう考えますと,1の規律は,いわゆる訓示規定としての性格を有するにとどまるものでして,この規定が独自に禁止の対象とする行為はない,すなわち効力規定ではないということになります。このような規定を設けることの要否につきまして御審議をいただければと存じます。

  続きまして,提案の2の利益相反行為の禁止のところに移らせていただきます。資料の本文では5ページから6ページ,説明では11ページから13ページになります。

  まず,基本的な考え方でございますけれども,受託者による利益相反行為といたしましては,まず,受託者と受益者の利益が相反する場合,次に,受益者と第三者の利益が相反する場合,最後に,受託者が複数の信託を受託している場合において一方の信託の受益者と他方の信託の受益者の利益が相反する場合,この三つが考えられるところでございます。

  ここでは,まず,(1)といたしまして,前二者の問題,すなわち,受託者と受益者間の利益相反と第三者と受益者間の利益相反について検討いたしまして,(2)の方では,異なる信託の受益者間の利益相反について検討しているところでございます。

  まず,受託者と受益者間の利益相反行為でございますけれども,まず,①と②で,禁止される行為の類型を明らかにしております。

  ①でございますが,これは,現行法22条にございます受託者による信託財産の固有財産化,信託財産に対する固有財産での権利取得に加えまして,更に,固有財産の信託財産化,固有財産に対する信託財産での権利取得も含め,いわゆる自己取引はすべて原則として禁止されるということを明らかにしております。

  続きまして,②でございますが,これは,受託者が第三者との間で,受益者の利益と受託者の利益とが相反する行為,いわゆる間接取引に当たる行為をすることを禁止しております。

受託者は,忠実義務に基づき専ら受益者のために行動しなければなりませんので,第三者との間で行為することにより受益者の利益を犠牲にして受託者自身の利益を図ることは許されないと考えられます。

②はこのような趣旨を明らかにしたものでして,ここで禁止の対象になる行為といたしましては,受託者が固有財産で負担している自分の債務につきまして信託財産を担保に提供するというようなものが考えられます。

  一方,受益者と第三者との利益相反行為につきましては,③と④で,禁止される行為の類型を明らかにしております。

  ③でございますけれども,これは,受託者が第三者との間で,その第三者のために,受益者の利益と当該第三者の利益とが相反する行為をすることを禁じております。

  もっとも,受託者が第三者との間で取引等をする場合におきましては,常に,受益者と当該第三者の利益が抽象的には対立すると考えられます。

例えば,第三者から信託財産として特定の財産を購入する場合を例にとりますと,価格をめぐって両者は常に利害が対立すると考えられます。

そこで,これらの取引等が原則としてすべて利益相反行為の禁止の対象となると考えることは相当でないと思われるところでして,第三者と受益者間の利益相反については,受益者と受託者間の自己取引の利益相反に比べて限定的に考えるべきではないかと思われます。

そこで,③では,「第三者のために」という文言で禁止の対象を限定することを意図しております。

ここで「第三者のために」と申しますのは,受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図ることを意味しており,受託者と第三者間の取引等につきまして,このような受託者の主観的事情が認められる場合に限って利益相反行為の禁止の対象とすることを考えております。

  最後に,④でございますが,これは,受託者が第三者との間で,その第三者以外の者のために,受益者の利益と当該第三者以外の者の利益とが相反する行為をすることを禁止しております。

例えば,その禁止対象となる行為につきましては,第三者の債務のために信託財産に担保を設定するというようなものが考えられます。

  以上申しましたような①から④までの行為が利益相反行為として禁止されるわけですけれども,その例外として認められる場合を6ページから7ページのイで規定しております。

  ところで,利益相反行為が禁止されるのは受益者の利益を保護するためですので,受益者の利益を害するおそれのない場合にまで一律に禁止する必要はないと考えられます。

現行法の規律は,裁判所による許可がある場合を除いては禁止の例外を認めておりませんので,実務的には,信託業法ですとか,あるいは銀行勘定貸しについてのかつての通達などによって例外を認めてきたようですが,このような状況は決して望ましいものではないと考えられるところでございます。


そこで,ここでは,信託行為の定めによって受託者がその行為をすることが許容されている場合,それから,その行為について受益者の承認がある場合には,受益者の利益が害されるおそれがありませんので,禁止の例外を認めるということにしております。


  なお,この二つに限られるかということでございますが,利益相反行為には多種多様なものがありますので,すべての行為について信託行為で許容する旨の定めを置くことは不可能あるいは困難でございますし,受益者が多数に上る場合にすべての受益者の承認を得るということも現実的ではないと考えられます。

このような観点から,③といたしまして,第3の例外,すなわち,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」という要件を設けてはどうかという提案をしているところでございます。


  ところで,このように信託行為の定め又は受益者による承認以外の例外を認めることに対しましては,受託者が受益者に対して強い信認義務を負うことと矛盾するのではないかという有力な見解があることは承知いたしております。


  しかしながら,資料で言いますと15ページ以下に多少理由を詳しく書かせていただきましたけれども,第3の例外を認めるということが信託財産の効率的な運用の機会の確保や信託事務の円滑な処理をもたらし,究極的には受益者の利益となるのではないかと考えまして,報告書の提案と同様,今回も,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」という例外を設けるとの提案を維持しているところでございます。

  続きまして,複数の信託に係る受益者間の利益相反行為の禁止,資料の7ページの(2)のア①から③のところに移らせていただきます。


  ここでは,複数の信託に係る受益者間の利益相反行為につきまして,三つの類型に分けて処理してはどうかという提案をしております。

  まず,①でございますが,いわゆる信託財産間取引が禁止されることを明らかにしているものでございます。

各信託の信託財産はいずれも受託者の所有財産ですので,信託財産間の取引は民法で禁止されている双方代理の禁止と同様の危険,すなわち,片方に不当に不利益な契約をするおそれがあると考えられるところでございます。

そこで,このような信託財産間取引が禁止されるということをここでは明らかにしております。

  他方で,信託財産間取引のすべてを禁止することは相当でないと考えられます。

例えば,14ページに記載した例にございますように,A信託では甲株式の売却先を探しており,B信託では甲株式の購入を予定しているというような場合を想定いたしますと,この場合には,仲介手数料の負担などの点では,受託者が取引市場で第三者との取引をするよりは,A信託とB信託間で直接に取引をした方が双方の信託の受益者にとって有利な場合が多いと考えられます。

そこで,ここでも,受託者が,「特定の信託に係る受益者のために」という目的を持って信託財産間取引をした場合に限って当該行為が禁止されるとしているわけでございます。

先ほど,受益者と第三者間の利益相反行為について,「第三者のために」という要件が必要であると申しましたが,信託財産間の取引でも同様な要件が必要になると考えているところでございます。


  続きまして,②でございますが,これは,受託者が第三者との間において,特定の信託に係る受益者のために,他の信託の受益者の利益と相反する行為をすることを禁止しております。

このような行為といたしましては,一方の信託財産に属する債務の担保として他方の信託財産を提供するという行為が考えられますが,このような行為は原則として禁止 されるということを明らかにしたものでございます。


  最後に,③ですが,これは,信託財産間の競合行為が禁止されることを明らかにしております。

複数の信託行為の定めによりまして受託者に同一の権限が与えられている場合には,受託者が当該権限を行使することによって,特定の信託に係る受益者を正当な理由なく有利に扱ってはならないと考えられます。


他方で,信託銀行のように,多数の信託を受託している受託者にとりましては,ある権限の行使が恒常的に複数の信託に係る受益者間の競合行為に該当するということにもなりかねず,このような行為をすべて禁止するという結論は,相当とは考え難いところでございます。


そこで,受託者が,特定の信託に係る受益者に対して不当な利益又は損害を与える目的で当該権限を行使した場合に限りまして,信託財産間の競合行為が禁止されるといたしまして,禁止の範囲を合理的な限度で制限することを提案しているものでございます。


  以上のような①から③につきましての禁止の例外でございますけれども,それは8ページのイに書いているものでございまして,先ほど御説明したところとさほど変わらないのですが,受益者の利益を保護するという観点から禁止の例外を定めるということにしておりまして,その趣旨は,先ほど申し上げたとおりでございます。信託行為の定めと受益者の承認がある場合ということになります。


  なお,不当な目的が要件になっておりますので,受益者の利益を害しない場合という例外要件は設けないとしております。

  最後に,提案3の利益取得行為の禁止とその例外について,御説明を続けさせていただきます。

  まず,いわゆる信託財産の機会を奪取する行為の禁止でございまして,これは8ページ以降のアになりますが,受託者は専ら受益者のために行動する義務を負いますが,他方で受託者個人の立場で取引をすることもあります。

信託行為の定めにより与えられた権限に基づき行うことができる取引につきましては,専ら信託事務の処理として行うべきであって,受託者が個人の資格で行うことはおよそ認められないと,このように厳格にしてしまうことは相当ではないと考えられます。


現行の実務の下でも,例えば銀行業務と信託業務を兼営する銀行におきまして,信託行為の定めにより信託財産をもって第三者に貸付けができるとされている場合には,固有財産では貸付けができないとなってしまうのは相当ではないと考えられます。


そこで,信託財産間の競業行為と同様に,受託者が不当な利益を得る目的又は受益者に損害を与える目的で当該権限を行使した場合に限りまして,固有財産で信託財産の機会を奪取したものとして当該行為が禁止されることを明らかにしております。

  続きまして,イでございますが,これは,受益者の利益保護という観点から,このような競合行為の禁止の例外を定めるものでございます。


  続きまして,狭義の利益取得行為の禁止,9ページの(2)のところの御説明に移らせていただきます。

  受託者は,信託財産に影響を与えない場合であっても,その地位を利用して不当な利益を取得する行為は禁止されるべきであると考えられます。

  このような考えに基づきまして受託者による取得が禁止される利益としては,これから述べるような利益が考えられるところでございます。

  まず第1に,受託者が信託行為の定めに違反して信託財産を利用することにより取得する利益というものが考えられます。


例えば,信託の土地上に建物を建てて算出したというような例,資料9ページの例13)のような例もございますし,それ以外にも,例えば,貴重な価値のある動産,立派なダイヤとか,世界に1枚しかない絵とか,そのようなものを預かっていて,そのままの状態で保管すべきところを,鑑賞料を取って第三者に鑑賞させた場合の鑑賞料,このような利益が挙げられるかと思います。


このような利益の取得を禁止する見解は,他人の事務を自己の利益のためにする意思をもって管理した場合におきまして,事務管理の規定を準用して,侵害者の得たすべての利益を本来の権利者に引き渡すべきであるという,いわゆる準事務管理の法理を認める見解と整合的ではないかと考えているところでございます。


  第2といたしまして,受託者が信託事務を処理するに当たって利益を取得する行為,例えば手数料とかリベートを取得するということが考えられますが,このようなものが,禁止の対象となる利益として考えられるところでございます。

受託者がこれらの利益を取得することは必ずしも常に信託財産に対して影響を及ぼすとは考えられないために,利益相反行為の禁止によって捕捉されない場合があると思われますので,そこで,受託者によるこのような利益の取得行為を禁止すべきか否かということが問題になります。

  第3でございますが,これは,受託者が受託者としての地位に基づいて得た信託の情報を利用して取得した利益が禁止の対象となる利益と言えるかと考えられるところでございます。

  ところで,一般的には,ここで言いますと,最後に言いました③よりも,手数料やリベートを得る②,それから,②よりも,例えば人に絵を見せてもうけたという①が信託財産に対する危険性が高く,すなわち禁止すべき必要性が高いと思われまして,資料の甲案から丙案までで一番禁止の必要性が高い①に類型するものだけというのが丙案,それで,乙案,甲案と禁止の対象を広げていきまして,逆に丁案というのは,このようなものは,信託財産に影響が及ばない以上,禁止する必要はないという四つの案を提示させていただいているところでございます。


  最後に,この禁止の例外でございますが,これは,信託財産に影響を与えるおそれがないにもかかわらず利益取得を禁止しますのは,受託者が受益者に対し強い信認義務を負うことがその理由でございますので,その利益取得行為について信託行為で許容されている場合ですとか,あるいは受益者の承認がある場合には,そのような信任義務は解除されていると考えることが可能だと思われます。


  他方で,信託行為の定めとか受益者の承認がない場合にすべてこのような利益取得行為が禁止されるということは,受託者に不測の事態をもたらすおそれがあると考えます。

特に,信託銀行のように銀行業務と信託業務を兼営している場合におきましては,信託財産に関する情報と固有財産に関する情報の共有が不可避的であるとの指摘がございまして,信託行為ですべての利益取得行為を記載することは不可能であると考えられますし,受益者の承認を得るというのも,先ほど言いましたように,受益者が多数である場合は難しいと考えられるところでございます。


  そこで,③といたしまして,かつ受託者の行為が過剰に規制されることを防止するために禁止の範囲を合理的に制限する観点から,「受託者がその行為を行うことについて正当な理由があるとき」という禁止の例外を認めることとしております。

  以上が,禁止の範囲とその例外ということでございます。


  続きまして,この違反の効果につきまして御説明を続けさせていただきます。忠実義務違反の効果でございますが,利益相反行為の禁止の規範に違反した場合と,利益取得行為の禁止に違反した場合がありますので,両者を分けて御説明いたしたいと思います。


  まず,利益相反行為の禁止につきましては,これは資料5ページのアステリスクの1に書いてあるところでございますが,これがいわば非常に基本的なところでございまして,この規範に違反した場合の法律行為は受益者・受託者間では無効であると考えております。

これによりまして,受益者は,特段の請求をすることなく,いわばそのままで物権的な救済を受けることができることになります。


  このように措置いたしましたのは,利益相反行為というのは受託者が最も容易になし得る忠実義務違反の典型的な行為でありますところ,これを無効とすることはそのような行為を抑止することに資すると考えられること,また,当該行為が受託者の中で起こる限りにおきまして第三者の期待を害することもなく,無効として差し支えないと考えられることなどによるものでございます。

  したがいまして,例1)の事例でございますが,信託財産である不動産を信託行為の定めに違反して自らの固有財産として信託の登記を抹消した場合におきましては,そのような信託財産と固有財産との取引は無効でございまして,受益者は,当該不動産が依然として信託財産であることを主張することができることになるわけでございます。


  これに対しまして,信託財産を固有財産化した場合におきまして,受託者が固有財産化した財産について第三者が関連することとなる例2)から例4)までのような事例になりますと,ここでは,取引の安全を考慮する必要が出てまいります。


忠実義務違反は,特に悪性の高い権限違反と言えますので,後ほど第34というところで説明しますように,受託者の権限違反の場合におけるルールに従うことが適当であると考えられます。

すなわち,受益者は,悪意重過失の第三者に対しては取消権を行使できるということになりますが,善意無重過失の第三者に対しては取消権を行使することができないとなるわけでございまして,例2)で記載したような例でございますと,第三者に対する取引は取り消されないことになりまして,したがいまして,受益者は受託者の手元の転売利益を捕捉するしかない,物には追及できないということになりますが,第三者が悪意であれば,受益者は取消権を行使することができまして,そうなると,もともとの財産が信託財産として戻ってくるということになるわけでございます。
  
次に,受益者が取消権を行使することができない場合につきましては,受益者は,第三者との取引の効果を信託財産に帰属させる旨の請求,5ページのアステリスク1においてハイフンで書いてございますが,一種の介入権のような規定と,それから損失のてん補,原状回復又は利益吐き出しの請求という債権的な請求というものが考えられるところでございます。

  先ほど言いましたように,1番目の請求権は商法上の介入権の規定を参考にしたものでございますが,いずれにせよ,受託者に効果が帰属するという信託の特性にかんがみまして,商法における介入権の構成とは異なりまして,受益者の請求により物権的な効果が発生するとして差し支えないものと考えられます。


もっとも,このような権限を行使することによって第三者の利益を害するときは介入権を行使することができないというのが,そのハイフンの下のポツのところで書いているところでございます。


  それから,2番目の損失てん補とか利益吐き出しの請求権というのは,債権的な効果を発生させる請求権を規定するものでございます。


例えば例4)を例にとって説明いたしますと,最初の信託財産と固有財産の自己取引は受託者と受益者との間では無効ですので,受託者が固有財産化した財産を第三者と交換して取得した不動産は依然として信託財産ということになるわけでございます。


しかしながら,当該不動産の価格は受託者の思惑に反して暴落しておりますので,受益者としましては,無効な自己取引が行われた時点におきましては受託者は相当な代価を取得しているはずですので,もともとの無効な自己取引を追認して,受託者が取得した代価の方をもって信託財産となし,不動産の方は放棄するということで問題の解決を図るか,それとも,受託者が取得した不動産が信託財産であるとして物権的な請求を受けられることを前提に,なお足りない分は損失てん補請求をするという救済を受けることになるかと考えられるわけでございます。


  次に,受託者が利益取得行為の禁止に違反した場合の行為につきましては,これは,8ページのアステリスクの9というところに書いてございますとおり,そもそも固有財産に効果を帰属させようとするものですので,この行為自体は無効とはならない,「取引は有効」と書いてございますが,無効とはならないで,受益者が取り消すこともできないということになります。


そこで,受益者といたしましては,例11)というところに書いてございますけれども,取引の効果を信託財産に帰属させることを内容とする請求権を行使する,介入権のような権利を行使するか,損失てん補請求権を行使するかという選択になるかというふうに考えられるところでございます。

  最後に,利益吐き出し責任につきまして説明を申し上げます。

  正しくこのような規定を設けるかどうかというのが,御審議いただきたい極めて重要な事項でございます。

  報告書におきましては,まずは利益吐き出し責任の法的な性格を,不法行為等との関係から明らかにすることが肝要であって,その上で,いかなる形で利益を算出するか,すなわち,中間最高価格をとらえるか等の問題点につきましては,利益吐き出し責任を設けることが決まった後の技術的な問題だというアプローチをとっております。


  しかし,今回の提案におきましては,受益者の救済のためのスキームの中で利益吐き出し責任が独自の機能を果たし得る場面は具体的にいかなる場面なのだろうかということをまずあぶり出しまして,そのような具体的な場面で,いわゆる利益の算定の仕方を含めて,利益吐き出し責任を独自のものとして設けることとすべきかどうかを議論したらどうかというアプローチに変えているところでございます。


  具体的に独自の機能を有する局面はいかなる場合かという点ですが,まず,利益相反行為の禁止の局面では,対象財産の中間最高価格を基準として返還すべき利益を算出し,この返還を受託者に求めていくこととするか否か,あるいは,これまでの善管注意義務の判断基準とは別の基準により受託者が返還しなければならない利益の範囲を構築していくものとするか否か,あるいは更に,利益について実際にそのような利益に該当する金額の損害は生じていない旨の反証の機会を受託者に与えないこととすべきか否か,などにつきまして論じる必要があると考えられます。


  もう少し,具体的に申しますと,例2)で挙げておりますように,受託者が信託財産を固有財産化し,第三者に高く転売したという場合におきまして,受託者は確かに高く転売したわけですが,もっと受託者が頑張っていればもっと高く転売できていただろうというような場合には,具体的な転売利益のみならず,最善の努力をしていたならば得られたであろう利益までも請求できるのだろうかという点について考えてみます。


そうしますと,ここにおいて忠実義務の規定を設けることによりまして,受託者と受益者間では自己取引は無効になりますので,仮に利益吐き出し責任に関する規定がなくても,忠実義務に関する規定及び損失てん補責任に関する規定があれば,その財産が信託財産であったと仮定することができることになりまして,その上で,受託者が当該財産をより高い価格で売却しなければ善管注意義務違反に問われることになるか否かということを考えることによって,問題は判断されることになると思われます。


したがって,このような事例におきましても,場合によりましては,受託者がもっと高く転売しなければ責任を問われる場面も出てくるわけでありますが,いずれにせよ,受託者が善管注意義務を果たしたか否かによって決せられることになりまして,損失てん補責任における損失の解釈によってあえて利益吐き出し責任を持ち出すまでもなく,受益者を相当程度救済することも可能であると考えられます。


  しかしながら,ここにおきまして,このような善管注意義務違反ということを問うことなく,とにかく中間最高価格によって受託者に返還義務を課すのだと,あるいは善管注意義務とは別の基準により受託者に義務を課すのだということにすれば,すなわち忠実義務の規定と損失てん補責任によってのみではとらえ切れないことになりますので,利益吐き出し責任の規定を設ける意義が出てくると思われます。


また,受託者が得た利益につきましても,損失てん補責任であれば,実際の損失はそのようなものではなかったとの反証が当然許されるわけでございますが,反証の機会を与えないということにすれば,利益吐き出し責任に関する規定を別に設ける意義が出てくるわけでございます。

  このように,利益相反行為との関係では,忠実義務と損失てん補責任ではとらえ切れない独自の機能を利益吐き出し責任に持たせることとすべきかについて,御議論いただければと思います。


  なお,利益取得行為の禁止との関係につきましては,まず,競合行為につきましては,利益相反行為と同様に,忠実義務と損失てん補の規定で足りるかという問題がございます。

それ以外の,いわゆる狭義の利益取得行為の禁止の局面では,準事務管理的なもの,リベートに当たるようなもの,あるいは競合行為以外の情報利用行為につきましても,ここでは信託財産に損失がないわけですので,忠実義務違反と損失てん補責任の規定では捕捉できないわけでございます。


すなわち,これらの行為を禁止しようと思えば利益吐き出し責任のような規定が必要になってくるわけでございまして,禁止しても受託者に利益を吐き出させなければ絵にかいたもちのようなものでございまして,このようなものも監督する必要があるかどうかという観点から,規定の必要性につきまして御議論をいただければと思っております。

  続きまして,公平義務等につきましてざっと説明を続けさせていただきたいと思います。


  公平義務につきましては,一つの信託に複数の受益者がいる場合において,これらの受益者を公平に扱うべき義務のことを言っております。


もっとも,複数の受益者がいる場合でも,信託行為に信託事務の内容が定められている場合におきまして,受託者がその定めに従って信託事務を行うことは善管注意義務のもとでの信託事務遂行義務の履行にすぎないと位置づければ足りるものでありまして,別途公平義務という観念を持ち出す必要はないと思われます。


これに対しまして,受託者が信託行為に明記されておらず,信託の本旨をもっても補うことのできない裁量的な信託事務につきまして,信託行為に定められた受益権の差異を踏まえながら履行すべき義務につきましては善良な管理者の注意の下でなされることを前提とする信託事務遂行義務をもってカバーすることができませんので,このような裁量的な信託事務遂行の局面をもって公平義務として位置づけるものでございます。


このように,公平義務は,一つの信託の中に複数の受益者が存する場合の利益相反を問題とするものである点におきまして,複数信託の受益者間の利益相反を問題とする忠実義務と類似するものと考えられます。


  報告書におきましては,公平義務違反の効果について,善管注意義務違反の場合と同様に損害賠償責任を発生させるにとどまるものか,それとも忠実義務違反の場合と同様に違反行為の効果にまでかかわるものなのかにつき問題提起をしておりましたが,一つの信託の中に二人の受益者がいるのか,この異なる信託の受益者であるのかということは構成の仕方で容易に変えられることにかんがみましても,基本的に公平義務は忠実義務と同じルールに服させることが相当であると考えられます。


そこで,公平義務違反の効果は忠実義務違反の効果に類するものととらえまして,単なる損害賠償責任を発生させるにとどまらず,違反行為の有効・無効にかかわる問題として整理することといたしております。

  もっとも,公平義務の定義,要件及び効果につきましては,信託法上明文もない上に,解釈上,忠実義務と全く同一ともいえないと考えられます。

  例えば,義務違反の要件について言いますと,忠実義務の場合におきましては,複数信託間の受益者間の利益相反行為,競合行為の場面におきまして忠実義務違反があったと言えるためには,受託者に特定の信託に係る受益者に対して不当な利益又は損害を与える目的があったことを要すると解されると先ほど御説明いたしましたのに対しまして,複数受益者間の利益相反行為の場面におきましては,受託者間に公平義務違反があったと言えるためには,受託者に故意・過失は要するものの,不当な目的までは不要であると考えているところでございます。


  また,義務違反の効果について言いますと,例えば競合行為の場面におきまして,忠実義務違反の場合には,受託者が同一とはいっても,A信託に効果が帰属する第三者との行為についてB信託の受益者に取り消させるのは行き過ぎであって,このような行為は有効であると,別の信託には干渉できないと考えられるわけでございますが,公平義務違反の場合には同一信託内でございますので,受託者と第三者の行為につき第三者が悪意重過失であれば,不利益を受ける受益者が取り消すことができると考えるわけでございます。

  このように義務違反の要件と効果が異なり得ることに加えまして,公平義務におきましては,忠実義務の他の重要な側面,すなわち,受益者と受託者間,あるいは受益者と第三者間の利益相反という局面を扱うものではないという点にかんがみましても,公平義務をもって忠実義務とは類似するものの,なお別個に内容及び効果を明らかにする規定を設けることが相当と考えるわけでございます。


  以上のような理解を前提にいたしまして,提案では,本文におきまして公平義務の内容を明記するとともに,ただし書で行為の有効性にかかわる公平義務違反の免除要件を規定するものでございます。


この免除要件は,問題となる利益状況の性質上,複数信託に係る受益者間の利益相反行為の禁止の例外事由と近接するものでございますが,しかし,さきに若干述べましたとおり,異なる信託間の忠実義務違反となるためには受託者の不当な目的を要するのに対しまして,同一信託内の公平義務につきましては,公平な取扱いがあれば原則として義務違反となり,例外的に受託者に正当な理由があれば適法になると考えておりまして,このような意味で,受託者は公平義務の履行については忠実義務よりも厳格な対応を求められると考えているわけでございます。

  最後に,アステリスクの2でございますが,これは,例外要件にも当たらない公平義務違反の効果につきまして,2案提示しているものでございます。

  その内容は,受託者と第三者間の行為につきましては,取引の安全への配慮から原則有効とする点で忠実義務の場合と異なるところはございませんし,甲案,乙案と併記してありますが,そこについても異なるところはございません。

  異なるのは受託者と受益者間の取扱いというところでございまして,甲案というのは,同一信託の問題にとどまることから,取引の安全への配慮は不要として,無効であると,乙案では,信託外の第三者と,公平義務違反により利益を受ける方の受益者との要保護性を同視して,原則として有効であるとしている点が,甲案と乙案の違いでございます。

  違反行為の効果の考え方も含み,以上のような点につきまして御審議をいただければと思います。

  続きまして,少し飛びますが,第24の損失てん補責任のところと,第26の消滅時効等のところをあわせて簡単に御説明いたします。

  第24でございますけれども,資料の43ページになりますが,これは,現行法第27条の規定する受託者の損失てん補責任等に関する提案でございます。


  現行法27条の責任は,受託者に信託違反行為について故意・過失があるということ,信託違反行為と損害との間に因果関係があるということに加えまして,救済方法として,損失のてん補,すなわち,金銭賠償のほかに,信託財産の復旧,すなわち現物による原状回復が認められているということ ,しかも,これらの賠償は受益者に交付されるのではなくて,信託財産に編入されるという点において信託に特徴的なものでございます。

  この提案では,この責任の特殊性を維持しつつ,現行法第27条の規定の整理を図ろうとするものでございます。

  なお,本資料の第24の内容も報告書の記述とほとんど同一でありまして,第1回会議においてそのエッセンスを御説明したところでございますが,信託法上受益者等が受託者に対して追求できる基本的な救済手段として,第19の忠実義務のところでも言及したところでありますので,簡単に言及させていただくことといたします。

  まず,提案1では,管理失当や信託の本旨に反する処分といった要件に限定することなく,およそ法令又は信託行為の定めに違反した場合には,損失の証明を要することなく,受益者等は原状回復を請求することができるといたしました。

  ただし,信託財産の管理の不手際で物理的な毀損が生じた場合におきまして,信託財産の財産的価値はそれほど減少していないが物理的に復旧するには多大な費用がかかるなど,受託者に酷となる特別の事情が認められるときには,受益者等は原状回復請求はできないとしているところでございます。

  ただし,この点につきましては,44ページの第2パラグラフのところ,冒頭の方に書きましたとおり,金銭賠償を原則とする我が国の損害賠償体系において,なぜ信託だけ原状回復が許容されるのか,あるいは,例えば善管注意義務違反により信託財産が毀損され,価値が100万円減少したといたしますと,補修に120万円で足りるというのであれば,120万円を負担して原状回復すべしということになるわけでございますが,仮に補修に200万円もかかる,著しく多額の費用がかかるということであると,今度は原状回復は請求できなくなって,受託者としては100万円の損失てん補でいいということになってしまうのではないか,それではバランスを欠くのではないかという指摘もございますので,この提案1の後段の規律の在り方につきましては,なお検討したいと考えております。
  次に,提案の2でございますが,受益者が損失の証明をした場合には,原状回復にかえて,あるいは追加して,金銭によるてん補を請求することもできるとしたものでございます。


  最後に,提案3でございますが,これは,受託者の分別管理義務違反に関しまして,その違反と損害発生との間に因果関係がある以上は,損失てん補又は原状回復の責任を免れない旨,現行法29条の内容をそのまま移記したものでございます。


  最後に,第26の消滅時効についての御説明に移らせていただきます。
  これは,受託者の損失てん補責任,原状回復責任,及び,認められるとすれば利益吐き出し責任に関する消滅時効期間及び除斥期間に関する提案でございます。


  これは,米国の統一信託法典の1005条におきまして,受益者が受託者に対して信託違反の責任を問うための手続につきまして期間制限を設け,受益者が信託違反を発見し,又は発見し得るときから1年間,受託者の任務終了,信託の終了時から5年間と定めていることなども参考としたものでございます。

  まず,提案の1から3は,いずれも消滅時効に関する提案でございます。

  まず,時効期間でございますが,我が国の現行法には何ら規定がございませんが,今申しましたような受託者の責任というのは,いずれも,受託者が受益者との間で既に形成されるに至っている信認関係に違反した場合に認められるものでございますので,債務不履行の性質を基本的に有すると解されることを根拠に,一般の債権ないし債務不履行による損害賠償請求権に準じて,原則として民法167条1項により,10年間と考えるものでございます。

  次に,時効の起算点でございますが,第24で御説明いたしましたとおり,受託者の責任につきましては受益者又は他の受託者が追及できるとしているのですが,このうち他の受託者の請求権に関しましては,客観的な受託者の信託違反行為の時をもって起算点とすることとしております。


  これに対して,問題となるのは受益者の請求権の消滅時効の起算点でございまして,この点は従来より意見の異なってきたところでございますので,今回の資料では,甲案,乙案の両案併記とさせていただいております。


いずれも,消滅時効の進行開始時には受益者として指定された者が受益者となったことを知ったことを要するという点は変わりないのですが,異なるのは,受託者の信託違反行為につきまして,そのような違反行為が客観的にあればいいのか,それに加えて受益者がそれを知っていることまで要するのかという点でございます。


  両案の根拠は資料に詳しく記載させていただいたところでございますが,あえて一言で言えば,甲案というのは,受益者による受託者に対する種々の監督権があるのだから,客観的な信託違反行為のときより更に起算点を遅らせるまでの必要はないと考えるものでございますが,乙案というのは,受益者による監督権があるといっても,受託者の任務違反行為を実際に認識するのは困難であり,受益者保護の観点からは,違反行為の認識をもって起算点とすべきであると考えるものでございます。

  さらに,この点につきまして,これまでの議論を踏まえ若干付言いたしますと,ここでの消滅時効の起算点は,委任における任務違反行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点とも平仄を合わせるべきではないかと思われるわけですが,委任においてはどのように解されているのか,あるいは,受託者の受益者に対する説明義務を重視しますと,信託違反行為について虚偽の説明を繰り返していた場合には,その都度債務不履行があって,消滅時効の起算点が後ろにずれていくのだとすると,究極的には,受益者が認識するに至ったときをもって起算点となると考えるべきなのか,あるいは,米国の統一信託法典が受益者の認識をもって消滅時効の起算点としているのは果たしてどのような意義があり,参考とすべきなのか,などの点が関連してくると思われます。

  最後に,提案4の除斥期間でございますが,消滅時効に関する甲案であれ,乙案であれ,時効の進行開始には少なくとも受益者となったことを知ったときからと解します以上は,一般の債務不履行による損害賠償請求権と異なり,除斥期間の規定を設けないときはいつまでたっても権利が消滅しないことにもなりかねません。

このような不都合にかんがみまして,客観的な信託違反行為のときから民法と同じく20年間の除斥期間の規定を設けることを提案するものでございます。


  なお,以上申しましたように,消滅時効期間と除斥期間につきましては,それぞれ10年間,ただし営業信託であれば5年間,除斥期間を20年間とするとの提案内容でございますが,消滅時効の起算点につきまして受益者の認識を問う乙案をとった場合には,権利消滅期間をより短期間とすることもあり得ることにつきまして,50ページの(注2)というところで付言申し上げました。

  以上,るる説明いたしましたが,あわせまして御審議いただければと思います。よろしくお願いいたします。

● それでは,ただいま説明がありました,善管注意義務から時効のところまで,途中飛んでいるところもありますけれども,ここで御議論いただきたいと思いますが,いかがでございましょうか。

● ここの部分につきましては信託銀行にとって非常に重要なところですので,若干長くなりますけれども,御容赦願いたいと思います。
  
まず,第18の「善管注意義務等について」のところでございますが,ここの部分については,1から4まで検討したものがありますが,業界の方での大勢の意見は大体この方向でお願いしたいということでございますが,一部,今般の提案で改正された,「信託の本旨に従い」という部分について,内容があいまいなので,どういうところを基準に物事を考えたらいいのか分からないので,やはりこれをもとの形に戻してほしいという意見もございました。


  それと,特に3の「善管注意義務の具体化」のところにつきましては,具体化してしまいますと,一つの基準ができるということでいいことなのですが,毎年見直しするわけにもいきませんので,時代の変化に応じた形で,信託の柔軟性というものが阻害されるおそれがあるということでございまして,原案どおりの一般規定だけでよいのではないかという意見でございます。


  続きまして,忠実義務のところです。ここのところは,ちょっと長々と御説明させていただきます。

  まず,総論的なところで三つ。
  一つは,この忠実義務といいますのは,基本的には無過失責任なのか過失責任なのかということで,ちょっとよく分からないのですが,もしも無過失責任ということであったとすれば,過失責任という形にしていただきたいと。


  これにつきましては,例えば,非常に稀有な例かもしれませんけれども,固有勘定で保有していた株券があって,それを売りましたと。

それで,たまたまその株券を信託勘定で買いましたと。

その場合につきましては,当然,無過失責任であったとすると,それは忠実義務に反する,利益相反で反する行為であるということになってしまいます。

これは基本的には許されていいことだと思いますし,ほかの例外のところで救われることかもしれませんけれども,そういう俎上に乗ってしまうということもありまして,現在改正が検討されております信託業法につきましても,これはいったん俎上に乗ってしまうということになっておりますので,これを過失責任ということにしていただけないかということが1点でございます。


  2点目は,先ほど○○幹事の方からお話がありましたけれども,枠組みといいますか,利益相反行為と利益取得行為,これが,前回の規律でいきますと,受益者に利益・不利益が関係するかどうかということで線を引いていたわけで,私どもにとっては非常に分かりやすかったというところでございますが,今般におきましては,競合の部分が利益取得--広義の利益取得ということだと思いますが--に入ってきたということで,そこはちょっと分かりづらいなというところと,あとは,2の(1)の③と④の部分というのは,受益者と受託者間の利益相反の部分と受益者と受託者以外のものが両方とも入ってきていますので,ここはちょっと分かりにくいなということと,あと,2の(2)の②と③の関係もちょっと分かりづらいということで,ここにつきましては,反対ということではないのですけれども,ちょっと分かりづらいので,ここら辺のところの御説明か枠組みか,その辺のところをちょっと工夫していただけたらなと思います。


  3点目ですが,これは忠実義務の総則の規定でございますが,これにつきましては,禁止行為の範囲というのが,先ほど○○幹事からもお話がありましたけれども,2と3以外にならないということであれば,こういう趣旨ですよということであれば,賛成ということでございます。


  次に,各論に移らせていただきます。

  まず,2の利益相反行為のところでございますが,そこの(1),受益者と受託者間の利益相反のところにつきましては,禁止の例外が7ページに書いてありますが,③で,「受益者の利益を害しないことが明らかであるとき」という規定が入っておりまして,この要件を満たす行為として,これも先ほどお話がありましたけれども,16ページで,「定型的な取引条件による取引のほか,個別的取引のうち市場価格又はそれと同等以上と評価される価格で取引を行う場合,更には,社会通念に照らして経済的な合理性が認められる取引などが含まれる」というふうな説明がなされております。


そういうことと,第三者と受益者の利益相反につきましては,これは6ページの(1)の③,④ですか,「第三者のために」という主観的要件が入っております。


ここの部分につきましては,13ページにおきまして,この要件の意味について,「受益者の利益を犠牲にして第三者の利益を図ること」であることが説明されております。ここら辺のところからいたしますと,正に実務に即した規律でございますので,是非ともこの維持をお願いしたいということでございます。


  次に,(2)の複数の信託の受益者間の利益相反につきましても,アの①と②で,「特定の信託に係る受益者のために」と,これも主観的要件が入っていることと,③の信託間の競合の場合については,「不当な利益又は損害を与える目的で」という要件が入っておりますので,これも非常に実務に即した形の規律でありまして,これについても是非とも維持していただきたいということでございます。

  続きまして,3の利益取得行為のところでございますが,(1)の競合行為のところですが,これについても,「不当な利益を得る目的で,又は受益者に損害を与える目的で」というような要件が入っておりますので,この点についても是非とも維持していただきたいと考えております。


  あと,(2)の狭義の利益取得の禁止のところですけれども,これは,①,②,③と書いています,この状況というのがちょっと分かりづらい,どういうようなものが該当するのか分からないなということで,丁案でないとだめだというような意見もあるわけですけれども,業界の意見の中には,私の個人的な意見もそうなのですけれども,③の信託財産に係る情報の利用について,やはりこれがポイントでして,そもそも利益取得行為としてこれが禁止されてきますと信託銀行は回らないということでございまして,この③だけは是非とも外していただきたいと考えております。


②につきましては,例14)に書いてありますように,リベートをもらうと,これはさすがにまずいのではないかな,禁止すべきではないかなと思っておりますので,これは入ってもやむを得ないのかなと。


したがって,乙案というのもやむを得ないのかなと思っております。ただし,その場合には,禁止の例外といたしまして,イの③の「受託者がその行為を行うことについて正当な理由があるとき」,これだけはどうしても入れていただきたいと考えております。


  最後に,利益吐き出し責任のところでございますが,利益吐き出しのところの意見を申し上げる前に,忠実義務違反の効果として,物権的な救済について先ほどお話がありましたが,印象としては,非常に重いなというのが素直なところの心証でございます。


ただ,これについては容認するということを前提に御意見を申し上げたいと思います。

  今般の提案でございますと,例3)に象徴的にあらわれておりますが,受託者が忠実義務違反を行って購入した信託不動産を善意の第三者の不動産と交換して,その不動産の価格が高騰した場合に,受益者はその不動産が信託財産であることを主張できるということが書いてありますけれども,更に,損失てん補責任につきまして,これは23ページでございますが,この説明で,「当該財産が信託財産であったと仮定して,受託者が当該財産を当該より「高い」価格で売却しなければ善管注意義務の違反に問われ,受託者の裁量の範囲内にあると判断されないときは,上記の利益をも「損失」として返還しなければならないものである」というふうな記載がございます。


こういうところからいきますと,利益相反行為と競合行為の違反の効果として,これ以上の救済が必要なんだろうかと。

例えば中間最高価格を基準に利益吐き出しとして返還するということは,受託者にとって余りにも厳しい規律になるのではないかと。

そもそも提案の損失のてん補だけでも非常に重くて,忠実義務違反の未然防止策としては十分ではないかというふうに考えております。


  最後に,公平義務の部分につきましては,(2)の,公平義務違反のうちの受託者が受益者との間で行う行為の効果のところでございますが,甲案,乙案ということが提示されておりますが,利益相反行為の効果との平仄であるとか,利益を得た受益者と不利益を受けた受益者との間の調整が図りやすいのではないかという点から,甲案に賛成する意見が大勢を占めておりますが,一方で,善意無重過失の受益者の場合,いったん受けた利益を返還させるのはやはりちょっとバランスが悪いのではないか,実務上好ましくないのではないかと,だから乙案が整合するのだという意見も,少数意見でありますが,ありました。
  とりあえず以上でございます。


● いろいろ全般にわたりましたので,今,すべてについて議論を深めることができるとは限りません,ちょっと後回しになる点もあるかもしれませんけれども,御意見の部分は分かりましたけれども,最初の善管注意義務について,「信託の本旨に従い」という言葉があいまいなので,もとに戻してくれという言い方をされたのですか。

● 「信託契約の定めに従い」と,そういう意見もあったということでございます。

● 関連して,いかがでございましょうか。

● 私は,善管注意義務のところではなくて,忠実義務のところだけで五つぐらい。
  質問が幾つかあるのですけれども,第1点は,5ページ目の1の「忠実義務」のところで,ここは「信託行為の定めに従い」ということになっていますよね。善管注意義務のところでああいうふうな形で変えて,ここはこのままにしておくというのは,何か意味があるのか,ちょっと私,分かりかねて……。これが第1の質問で,今の○○委員のお話ともきっと関係があるようなことだと思います。


  二つ目は,これはちょっと言葉尻かもしれませんが,この忠実義務の総論的な規定を残そうという中で,これは後の方で細かな規定が置かれるので一種の訓示規定だという言われ方をしたような気がしていて,訓示規定はないだろうと私は思うのですが。


何であれ,信託法の条文でやはりちゃんと……。訓示規定というのは,私の理解によれば,法律上の効力はない,ただの宣伝文ですので,そういう意味ではないだろうと。これは確認みたいなことです。


  三つ目は,ここからがなかなか難しいところだと思うのですが,7ページ目の一番上に例外というのが三つ書いてありますね,①,②,③と。


私,ちょっと聞き落としたのかもしれないのですが,8ページ目にも例外規定というのがあって,今度は①,②と,ここで一つ足りないわけですね。

これは英米法においては--という,また例によって例のごとくの話になるのですが--最初の方の自己取引については①,②,信信間の取引については,8ページ目の①,②に加えて,その取引自体がフェアであるとか,定型的な取引であるとか何とかいう話になって,この例外3項と2項の関係が英米法では逆なのですが,これにやはり強烈な違和感を私は覚えるのです。

これはどういうことなんだろうかと。これは日本の実務を考えるとこういうことなんですよと,それに○○委員も大賛成なんだからそうなのかもしれないのだけれども,どうなんだろうかと。


  私も,任意規定化するのは大賛成なのです。だから,例外を定めるのは当然のことで,硬直的な規定を定めておくのはおかしい,ここはもう大前提として恐らく全員が賛成してくださると思うのですけれども,忠実義務があってその例外を定めておくという体制は何のためなのかというと,一言で言うと,透明性なんですね,結局のところは。


だから,向こうのルールでも,忠実義務というのは本当に厳しいですよ,しかしこうすれば大丈夫ですよというのは,こうやって一見自己取引に当たるような--一見どころか,正に自己取引に当たるようなことをしているのだけれども,それは正当なことなんですよということをどこかの条文に書いてあるから大丈夫,ではなくて,事後でも,あるいは事前でも,ちゃんと受益者のところに明らかにして,私たちはちゃんと公明正大にやっていますということを示すためのルールなんですね,透明性を図るための。


だから,それがこういう形で,パターナリスティックと言えばパターナリスティックですが,こういう規定で法律の方で始末してくれると。


これが業法であれば,それはまた別の話だと私も思っているのですけれども,一般信託法の方で,こういう,透明性がなくてもいいよと,自分たちでちゃんとフェアにというか,それなりの判断なのだと思いますけれども,利益を害しないことが明らかなんだという形でやっておけば大丈夫ですよということだと,害しないことが明らかである限りは黙っていてもいいわけですから。

だから,そういうのはどうなんだろうかという話があって,さっきのクエスチョン3は,このバランスのとり方の2対3が3対2になっているというのをどう考えたらいいのだろうかというのが一番大きな点かと思います。


  4番目です。9ページ目に,今度は利益取得行為の禁止というので,甲案,乙案,丙案,丁案と。この情報利用というのは,やはり私も難しいと思っていて,ここが一番かぎだとおっしゃる○○委員の意見と全く同じなのですけれども,上から2行目のところに,「信託事務と自らの事務との間にファイヤーウォール……」という話がありますね。

ちゃんとここでも指摘されていて,信託財産に係る情報を,固有部門というのか,信託銀行なら銀行部門で利用してどうのこうのというのは,結局ファイヤーウォールの存在と関係があって,つまり,こっちでなくせばファイヤーウォールはなくてもいいよという話になる。


そうなってもいいんですよということなのかどうか。

私の理解では,アメリカの信託銀行その他では,ファイヤーウォール,ファイヤーウォールとあれだけ厳しく言っている,日本は違うんですよということが言えるのかどうかという話と関係があるような気がいたします。


  もう1点だけ,利益吐き出し責任の話なのですけれども,これもちょっと大ざっぱな話なのですが,それから,日本法ではそうじゃないんだからと言われそうな話なのですけれども,結局,英米法では,この信託というのはエクイティーで発展してきたのだと。

そのエクイティーというのはどういうものかというと,裁判所が相当の裁量権を持っているのですね。

だから救済のところも非常に裁量が広くて,個々のケースごとで,損害賠償で中間最高価格ということもあれば,そうでないこともあるし,差止めを認めたり,利益の吐き出しということでガーンとやる場合もあるし,利益の吐き出しまではいいですよという場合もある。

日本の場合は裁判所が慎重で,とにかく何かの法律の条文がないと自分たちはそんな救済のところを--裁判所だから救済のところは頑張ればいいと私なんかは思うのですが,とにかくそれは簡単にはいかないんですよという話にやはりなるのだろうと思うのです。


それで,この甲案であれ,乙案であれというか,私は甲案の方がいいと思いますけれども,こういうようなこともできるんですよというメッセージを裁判所に送るということが必要なのではないかと思うのです。


これでないといけないということではなくて,裁判所というのは,やはり個々具体的な事件を相手にしてきちっとしたことをやってくださるところなので,そのときに,ああ,ここまではやれるという,これをやらないといけないという意味に解釈する必要はないわけだから,そういう意味で,救済のバラエティーを広げてあげようと,もちろん少なくとも信託のところはということですけれども,そういう話に持っていけないんだろうかなというのが,私の感触です。

● 今,お二人の御意見の中に,単なる御意見にとどまらず,質問もございましたので,幾つか,○○幹事の方からお願いします。

● まず,「信託行為の定めに従い」がいいのか,「信託の本旨に従い」がいいのかというのは,我々としては,書いてないものでも膨らんで,信義則的な義務を負うのがいいのではないかということで,「信託の本旨」という文言を改めて使ったというところで,○○委員の御発言も,特に反対というよりは,そういう意見もあったということで承らせていただくということにとどめたいと思います。


  それから,無過失責任か過失責任かというところにつきましては,実はまだこちらで十分考えていたわけではなかったのですが,ただ,その効果が例えば損失てん補責任とかになってくるのであれば,これはさすがに過失責任だという気はするのですが,行為の有効・無効にかかわるときというのは,過失がなくても,やはり自己取引が違法であれば無効になるんじゃないかなという気がいたしますので,効果の関係で過失責任かどうかというのが決まってくるのではないかなという気がいたしますが,その辺りは御専門の方々からまた御指摘をいただければというふうに思っております。

  それから,2の(2)の②と③の関係が分かりにくいという御指摘がありましたが,8ページで言いますと3の(1)というところで,いわゆる機会奪取行為,信託財産の機会を固有財産で奪取する行為という競合行為を抜き出した関係で,それと似たような状況になるということで,7ページの(2)の③で複数の信託がある場合の権限競合の場合も抜き出したという,言ってみれば,3の(1)と平仄を合わせて抜いているという感じでございます。


  ただ,御指摘のように,②と③の関係というのは若干限界が不明確でございまして,考えによっては,③は②の一部分だというふうにも考えられるところでございますので,もしもあえて規定が要らないということになるのであれば,またそこは整理したいと思っておりますが,一応,3の(1)を抜いた関係で引っ張り出しているのですということが我々の考えでございます。


  それから,9ページの①から③の関係が分からないとおっしゃいましたが,例えば,①は,美術品を勝手に展示したような場合で,②は,おっしゃったようにリベートをもらったような場合,③は,確かにちょっと分かりにくいのですが,競合行為には当たらないけれども情報を利用した場合というようなことでございまして,そのように御理解いただければと思います。

御意見は,乙案ならいいけれども甲案は勘弁してほしいという御趣旨と思われますので,そのように理解させていただきます。

  それから,○○委員の方の御指摘でございますけれども,まず,「信託行為の定めに従い」は意味があるか,何で「信託の本旨に従い」ではないのだというところですが,そこは,実はまだ忠実義務の方までは十分検討ができていなくて,善管注意義務の方が「信託の本旨に従い」でいいということで固まりましたら,忠実義務の方も考えてみたいと考えているところでございます。


  それから,訓示規定はないだろうということでございますが,我々の理解でございますけれども,一応違反行為ということで(2),(3)の場合で全部尽くしていて,これは一種の行為規範という意味にとどめるのではないか,もしもこれが効果に及ぶとすると,免除規定のようなものも設けてこなくてはいけなくなるのではないかという整理でございます。


しかしそこはおかしいのではないかという御指摘をなお敷えんしてお伺いできれば,例えばどういう意味を持たせたらいいのかという点などを教えていただければと思うところでございます。


  それから,例外規定が平仄が合っていないのではないかという御指摘でございますが,事務当局と致しましては,7ページの,信託行為の定めと,受益者の承認と,受益者の利益を害しないというこの三つが原則例外規定と考えているのです。


  ただ,例えば,6ページにございますように,③と④というのは,これは目的要件がそもそも違法となるところで入っておりまして,第三者等の利益を図っていながら受益者の利益を害しないということはないのではないかということで,御覧のように,7ページの③のところで,(ア③又は④の場合は除く)となっております。


それから,(2)におきましては,①から③すべて,「特定の信託に係る受益者のために」というような目的要件が入っておりますので,こういう目的を満たして初めて違法になってきますので,そのようなものが,今度は受益者の利益を害しないということで例外的に不適用になるということはないのではないかということで,例外を①,②だけにとどめているということでございます。


つまり,受益者の利益を害するというのを目的要件にして原則の方に持ってくるのか,それとも,そういう目的要件というのはかけずに,例外の方で適法としていくのかという位置づけの違いでございまして,特に(1)の場合よりも(2)の場合の方が責任が軽いと考えているわけではなくて,むしろ同じように考えているというように御理解をいただければと思います。

ただ,あえて言いますと,(1)の①,②よりは,③,④ないし(2)の場合の方が,目的要件がないと違法にならないという意味では違法になる条件が厳しい,受託者にとってはそれだけ,目的がなければ違法にはそもそもならないというメリットというか,そういう効果の違いが出てくると考えているところでございます。


  とりあえず,以上でございますが,なお不足がありましたら,御指摘いただければと思います。


● お二人,よろしいですか,今ので。

● 信信間の取引で,目的規定を入れているのですね。これも本当は異例なことですね,多分。

まあ,別に異例であるから悪いということはないのかもしれないのだけれども,信信間の取引で,もしも自分が市場を読み違えたというような話になると,それは善管注意義務の方でやろうというお考えですか,そうすると。

どっちかを利するためなんていう目的は全然ない,しかし後から考えると本当にひどい取引だったねというのは,善管注意義務違反でいこうということですか。

● そうなります。

● 事柄をそんなに複雑にすることはないと私は思うのですけれども。

● 善管注意義務違反の問題は,また別途,忠実義務の問題といわば同時にといいますか,忠実義務で救われないものが善管注意義務違反になるということはあり得るわけですよね。

それを目的としているというわけではないけれども。目的ではないという意味は,受益者のためにという主観的な要件というのでしょうか,あるいは意図というものを要件として加えている……。


● 利益相反のところで意図を入れるのというのは,一般的にどうなんでしょうか。


● 信信間の。

● 利益相反というのは,いわば形式犯的な,そういうところへ身を置くのがいかんという話でルールができているのかと私は思っているのですけれども,身を置いただけではなくて,悪い意図があるのだということになると,利益相反というものの本質が相当に狭まるという感じがしますけれども。

● 恐らくそれも一つあり得る考え方なのでしょうけれども,信託財産と信託財産の間の取引というのは,受託者と信託財産の取引ほど悪性が強いわけではない,あるいは危険性が強いわけではない。

また,信託財産と信託財産の間の取引というのは,これは人によって評価が違うかもしれませんけれども,比較的多くあり得ると。

● だから,英米では,フェア・ディールであればいいよという形で外しているのですけれども。


● やっているところは同じなんだと思いますけれどね。

● 違った外し方をしようというわけですか。

● 先ほど○○幹事から答えがあったところについて,よろしいですか,○○委員,とりあえず。
  そうしたら,ほかの御意見を伺いたいと思いますけれども。

● 実は,発言しようと思ったことは今の○○委員と○○委員の間で話が出てしまったのですが,同じ話でございまして,2点,確認したいのですが。

  まず,6ページの,「第三者との間において,当該第三者のために,受益者の利益と当該第三者の利益とが相反する行為」というものが禁止されているということなのですが,これは,先ほども御確認がありましたように,主観的意図がなくても第三者の利益を図ることになってしまったということで,善管注意義務違反にはなり得るということは是非確認しておきたいと思うわけでありまして,どうも○○委員の御発言を聞くと,第三者のために図っていなければもうこれは大丈夫なんだというふうな御理解のもとに,信託の業界がこれでいいとおっしゃったというふうに聞こえましたものですから,そんなことはないだろうということを是非確認しておきたいと思います。

  次に,先ほど○○委員がおっしゃった,信信間の取引の場合にそういう主観的意図を入れるのはどういう意味があるのだということなのですが,私もこれは非常に違和感があるわけでありまして,それは結局,信信間の取引というものを全く特殊な扱いをしていない,第三者との間の取引と同じに扱うということにほかならないのではないかという気がするのです。


そして,これを利益相反の中に入れるというのは,これはおかしいのであって,今の民法的な枠組みで言えば代理権の濫用と言われているものの範囲でありまして,決して利益相反の話ではないわけですよね。

そうなりますと,形式的な意味では利益相反の話ではないわけでありまして,そうしますと,信信間に関しては形式的な意味の利益相反ではなくて,濫用の場合だけを制約するというか制限するというふうになってしまっていて,これは少しおかしいんじゃないかなという気がします。
  それだけの話で,出た話で恐縮でして,申し訳ございませんでした。

● 第18の善管注意義務,第19の忠実義務について,全般的に実務の立場から申し上げたいと思います。

  まず,これは前回も申し上げたかもしれませんけれども,そもそも受託者の義務を議論する場合には,もちろん公正・公平的な取扱いを求めるということもありますけれども,やはり自由な経済行為を維持するためにデフォルト・ルールを推進していきたいということと,もう一つは,受託者として,こういう信託のプラットフォームを提供している者として,やはり過度な規制とか責任を課す場合にかえって萎縮効果を及ぼすことになって,信託の発展に寄与しないということもありますものですから,そこら辺のバランスをよく考える必要があると思います。

  そこで,私の属している組織は信託も受託もやっておりますし,また信託をユーザーとして使っている場合もございますので,そういうバランスをどう図ったらいいのかということをつらつら考えたところで,以下のコメントをしたいと思います。

  第18の善管注意義務でございますけれども,これは1点ですが,これは前回もどこかで議論が出たと思うのですけれども,デフォルト・ルールでやるということでございますが,どこまで信託行為に規制を書けばどこまでデフォルトになるのか,無限定なのかどうかということです。

極端な話,全く善管注意義務を負わないものとするという定款を書いた場合に,これが有効なのか,また,そもそも--これは信託の定義というところにつながるのかもしれませんけれども--それが信託なのかどうかということです。


もちろん,実務の立場から,特に商業信託の場合にはそういうデフォルト・ルールも認められるのではないかなということも思っておりますけれども,そこをどう整理されるのかというのを是非確認したいところでございます。

また,規定の仕方が,例えば善管注意義務ではなく,全般的に自己の同一の注意義務を負うものとするというような考え方もありますし,そういったいろいろなバリエーションがどこまで認められるのか,またどういうふうに記載すればいいのか,これは通常の契約の解釈のルールに従うのか,例えば信義則であるとかそういうルールに従うということだけ考えればいいのか,やはり信託独自の解釈ルールというのがあり得るのかどうかということも議論すべきではないのかなと思っています。


  第19の忠実義務に関してでございますけれども,これも幾つかございます。

  まず,総論でございますけれども,第1に立てつけの話なのですが,前回の報告書と比べて大分細分化されたものに思えます。

これは議論のきっかけとしていろいろな事象を分解して整理していくということは非常にいいことだと思うのですけれども,実際の立法にあっては,やはり法律のユーザーからして分かりやすいものにしなければならないと思いますものですから,そこをどうしていくのかということがあります。

抽象的に同じものであるのであれば,一つにまとめて簡潔なものということも一つ,テクニカルな話は立法として考える必要があるのではないかと思います。

  2番目は,これは善管注意義務と同じ話でありまして,忠実義務の禁止の例外として信託行為に書いてある,許容されているということがありますが,これも同様に全く忠実義務は免除されるものとするというふうに書いた場合に,それが一体どうなるのかどうかということも議論する必要があると思います。

  3番目に,これはちょっとここの議論ではないのですけれども,現在,国会で審議されている信託業法の関係で,その信託業法の附則のところにも書いてありますように,業法自体は3年で見直すということもありますし,また金融審での中間報告もありまして,結局,この法律の結果が信託業法の見直しということにも関係するものですから,そこら辺の平仄も一応見通しながら考える必要があると思います。

  次に,個別の話を申し上げたいと思いますけれども,大きく分けて三つです。

  一つは,競合行為の禁止というところで,8ページの3の(1)というところでございます。

これは,前回ちょっと私が申し上げたところでもありますけれども,ファイヤーウォールとかプロラタ回収とかいうことについてどうなのかということでございます。

  まず,ファイヤーウォールに関しては,先ほど○○委員の方からもお話が出ましたけれども,そこが実際,実務としてはなかなか難しいのではないかなというふうに私は思っておりまして,もちろん,銀行実務であるとか信託実務においてそういうファイヤーウォールというものが実際に難しいということもありますけれども,もう一つは,やはり受託者としての善管注意義務の観点から,固有勘定の情報を集めなければならないというようなこともありまして,そうした場合に,かえってファイヤーウォールを置くことが善管注意義務の観点からどうなのかということがあり得るということを指摘したいと思っております。


もちろん,概念的には,一方的なファイヤーウォール,つまり,固有勘定から信託勘定だけの情報の流入は認める,逆は認めないというようなこともあり得るかもしれませんけれども,ただ,実務においてはそういうことというのはなかなか難しいというふうに思っております。


また,ファイヤーウォールを作る結果,同じ話をしますけれども,結局,受託者として利用できるような情報が活用できないということになれば,かえって受益者の利益にそぐわないことが出てくるということでございます。


例えば,今も大宗はそうですけれども,なぜ信託銀行というところに頼むのかというと,銀行全体としてのネットワークとか情報とかそういったものを期待して,それを信任の一つの契機として依頼するということもあるわけですから,単なる受託者というところの一部門だけに依頼して,そこがファイヤーウォールで囲まれているということは,やはり受益者の意思にはそぐわないのではないかなというふうに思っております。


  プロラタに関しましては,これは報告書の18ページに書いてございますけれども,これも前回申し上げたかもしれませんが,18ページの第1パラグラフでございますが,固有勘定,信託勘定から両方貸出しした場合に,同条件で失期したときにどうなるかということについて,ここでは,受託者が固有財産に属する債権を優先的に回収することは云々というのが書いてございますが,ここはプロラタ回収ということは認められるのではないかということを確認したいと思っております。

  次の論点,二つ目としまして,9ページの狭義の利益取得行為を述べさせていただきます。

ここも○○委員の御発言がありましたけれども,甲案,乙案,丙案,丁案と並べられておりますが,やはり③,「信託財産に係る情報を利用して利益を取得する行為」ということについては強く反対したいと思っています。


やはり情報というのは非常に定義しづらいことがございますし,そういうものを規制しておくのはいかがかということもございます。

それから,今さっき申し上げたことと同じ話なのですけれども,基本的に情報ノウハウというのは非常に流通しやすいというものもありますので,例えば,信託勘定を行って得た情報について,いろいろな銀行の場合,例えば国債に投資をして,その投資をした結果いろいろなマーケット動向を知り得るということもあると思うのですけれども,そうした場合に,そういうノウハウを銀行全体として使ったらいけないのか,もしそうした場合に全部利益を吐き出さなければならないのかということになりますと,非常に漠然とした規制にかかるというふうに思っております。


また,そういう情報というのは一つのエクスパティーズということもあるとすれば,むしろ受託者としての権能というか能力を使ったという,固有財産としてのエクスパティーを使っていくこともあり得ますものですから,そこを利益取得禁止ということで画するのはいかがかというふうに思っております。

  最後に,3番目として,利益吐き出しルールについて述べたいと思います。

ここは今回初めて論点として取り上げられるというふうに思っておりますけれども,前回もちょっと議論は出ていたと思いますが,そういう意味では,ちょっと素朴な疑問から提起したいと思うのですけれども,なぜこういうルールが必要なのかというところがよく分からないというのが実感でございます。

なぜ委任とか取締役とかそういうルールと違う--もちろん,いろいろ考え方はあると思いますけれども,そういうルールをここであえて置くのかと。

この説明文においては,所有権を有するということで,そういう委任とかいうものとは違うものを置くのが適当だという趣旨が書いてあると思いますけれども,その所有権ということ自体が,じゃあ果たしてこういうルールを置く理由になり得るのかどうかという話でございます。

また,経済的な話をしますと,こういう重いルールをした場合に,受託者に対して萎縮効果を及ぼすことによってかえって信託の利用が阻害されるということも繰り返し述べさせていただきたいと思います。

  それから,その最後のところでちょっと確認したいところですけれども,甲案,乙案ということが出ております。

この点については,今のところ,私はどちらかというのは意見を決めかねているところでございますけれども,甲案というのは,これは補てんする請求額の上限がもう決まっているということなのかどうかということです。

つまり,利益金というのが,これもいろいろ議論が出てくると思っていますけれども,結局これは,実際に得た利益ということが吐き出しの対象となっているのか,それとも,同じく中間最高価格ということも含めて利益ということを考えていて,よって,ある意味,甲案と乙案は,上限ということについて言えば同じなのかどうか,どちらなのかどうかということを質問させていただきたいと思います。

  ちょっと長くなって恐縮ですけれども,以上でございます。

● 幾つか新しい論点も出てきましたけれども,ちょっと整理しましょうか。


● では,順次お答えしていきたいと思います。
  まず,最後の点,甲案,乙案の違いということでございますが,正に利益吐き出し責任の利益は何か,中間最高価格なのか,あるいは現実に得た利得に限るのかというところも議論していただきたいというところでございます。


ただ,甲案,乙案の違いといいますのは,要するに,受託者から反証の機会がないのが甲案,受託者からの反証の機会があるのが乙案ということになります。

先ほどもちょっと言いましたが,いわゆる狭義の利益取得行為禁止を認めていながら利益吐き出し責任がないときは,損失が受益者にないわけですので,例えば信託財産の処理に当たって利益を取得しても吐き出さなくてよくなったらどうするのかなという,行為規範だけを定めたことになってしまうのではないかというのが……,別にどちらの立場に立っているわけでもないのですが,甲案によらないと意味がないのではないかという気がしているところは付言させていただきます。

  次に,免除することも可能なのかどうかというお話がありましたけれども,忠実義務とか善管注意義務ですね,これは確かに報告書では若干指摘させていただきましたが,結局,免除するというのが果たしてどういう意味なのかというのにもかかってくるのではないかと思います。


例えば,忠実義務も善管注意義務もないというものであれば,これは単なる所有権移転であって,もはや信託ではないのではないかという気がいたしますし,自己と同一の注意義務でいいというのは,結局それは重過失を免除するというようなものでございますので,そういうものであれば,信託行為に定めていればいいのではないかなという気はいたします。


結局,全部免除するというのは信託ではないという気がいたしますが,それ以上にどこまでが禁止されるかというのは,やはりあとはもう公序良俗とかの判断によるのではないかなというふうな感じがしております。


  それから,プロラタ回収は認められるのではないかというお話がございまして,これはここのペーパーでは書いていなくて,事務局の中で議論したにとどまるわけでございますが,確かに,取った分を全部固有財産が取るというのは,これは明らかに違法でございますが,プロラタだったらいいのではないかなという気がいたしております。


ただ,これは従来から問題になっているところでございますので,もし何か御指摘があれば,是非いただければと思います。


  それから,委任と違って何故利益吐き出し責任を設けるのかという点は,さっき言いましたように,利益吐き出しは,損失てん補ではとらえきれない損失がない場合の問題ですとか,反証の問題ですとか,あるいは,この点は報告書にも書いてありますことで,○○委員からも御指摘のあった,名義を移転するということの違いというようなことから,こういう規定を設ける意義はあるのかなということでございまして,ただ,これは事務局が甲案支持というわけでもなくて,正にどうすべきかというのをここの場で御議論いただければという趣旨でございます。

  私からは,とりあえず以上でございます。

● 1点だけ。


  5ページの,これも先ほど○○委員が御指摘になられた点なのですが,忠実義務の話は以下に尽きているので,最初に1のことを置いても,一応それは置いたというだけであって,2以降に尽きているというふうな御理解であるというふうに○○幹事の方からお返事があったような気がするのですけれども,そうなりますと,例えば9ページの今現在問題となっております情報というものに関して,乙案をとって,情報を利用して利益を取得する行為というものが乗らなくなりますと,これはもう情報利用は完璧に自由であって,どんな場合も忠実義務違反にならないということになるのでしょうか。


● 忠実義務違反ということはないということになります。

● それは本当にそういう解釈になるんでしょうかね,仮にこういうふうな形の条文ができた場合。

つまり,今,情報をここに乗せるということに対しては実務の委員の方から批判が出ているわけですけれども,仮にこれを切ったら……。

確かに,おっしゃられるような御説明を伺うと,全部どんな情報も使ってはいけないというふうにしたら身動きがとれなくなるだろうということはよく分かるわけですが,じゃあ信託財産の負担で取得した情報というものを自由に固有の商売に使うことができるのかというと,それはやはりだめだという場合ももちろんあるわけであって,じゃあそれは善管注意義務違反なのかというと,そうではなくて,それはやはり,ひどい場合は5ページの1の忠実義務違反にはなることがあるというふうに考えるべきではないだろうかと思うのですが。


したがって,○○委員と同じように,一応単なる導入文句というふうに考えるのは妥当ではないような気がいたしますが。


● 今のように,9ページのところの乙案などをとって,しかし情報の利用については一定の制約があるべきだという立場をとれば,忠実義務の一般原則といいますか総則が生きてくるわけですよね。

そういう形ももちろんあり得ると思います。先ほど幾つかの発言で,情報の利用については自由であるべきだというのは,ファイヤーウォールさえ要らないという意見もちょっとあったような気がしたので,それはもっと積極的に,およそ忠実義務違反にならないという主張も含んでいるような気がしました。だけど,これはどっちがいいかという問題ですね。


● およそ忠実義務違反にならないという御意見であるならば,積極的に反対したいと思います。


● 今の御指摘のところにつきましては,一切だめということではなくて,情報の利用の仕方によってはもちろん競業行為に当たるというような場合もあると思いますので,そういう場合に当たるときにそういう情報を利用して行えば,これは忠実義務違反ということになりますので,情報の利用がすべて許容されるかというと,利用の仕方によっては,もちろん,ほかの規律にかかって忠実義務違反ということにはなると思います。

ただ,情報の利用の全てを捕捉するということには,御指摘のように,ならないというふうにはなります。


● 直接受益者に損害を与えない,そして情報を利用する方の受託者の利益になるというタイプが問題になるわけですよね。損害を与えるタイプは,ほかの方でもってとらえることができるから。

  まあ,ここは一つ大きな,忠実義務というものについての考え方ですけれども,特に具体的には,情報についてどういう規制があるべきかという,いわば根本のところを議論するということですね。


● ここは,○○幹事のお話では,そういう競業禁止義務違反とかに当たる情報の利用形態は違法という前提をとっても,なお,やはり情報禁止を外すというのは積極的に反対という御見解でしょうか。


● いえ,そういうつもりではございません。

● それでは,ほかで禁止されるなら,まだ……。

● はい。しかし,そのためには,今現在飾り文句と言われている5ページの1というものにある程度積極的な位置づけを与えておくということが必要なのではないかというだけでございます。

● ほかにいかがでしょうか。

● 今の論点だけではないのですけれども,主として受益者の立場からの発言ということで。
  まず,善管注意義務違反の方の関係ですが,これは,「信託行為に別段の定めがない限り」というのを明文で入れるという案ですけれども,善管注意義務違反については,これが任意規定であることは現在の解釈でも同じだと思いますので,あえてこのような言葉を入れると,何か信託行為の別段の定めが増えるのではないかというような懸念がありますけれども。受益権を細分化して大勢に販売するような商品の受益者の立場から考えると,先ほどから話に出ていましたような,全く善管注意義務違反を負わないとか,かなり極端なことが書かれていても,なかなかそういうのに気づかないまま受益権を買ってしまうような個人というのは現実にはたくさん世の中にいるということもあって,こういう表現をあえて入れた方がいいのかどうかという,その辺のいきさつやら動機やら,その辺をちょっと伺いたい。

  それから,善管注意義務の個別化の話ですが,報告書の方に書いてありますUTCの例のように,信託の種類によっては,分散投資とかそういう個別化がされていた方が,これは受益者の立場からすれば,法律上の義務としてそうなっているということで安心なのですが,結論としては,そういう具体的な規定を設けるのは限界があるというようなまとめ方をされて,ここではこういう個別化は入れないという結論になっていますけれども,そうすると,日本の信託に関する法体系の中でこういう善管注意義務の個別化というのはどの法律にもないままの状態で,ずっとそれでいいという,そこまでお考えになった上でのこの結論なのかどうかということですね。

別にこの法律ではなくても,どこかにあった方がいいと,そういう考えです。


  それから,忠実義務の関係では,第1項のこの総論規定は,これは当然入れる必要がある規定だと思います。

これは,これ以下の2,3,4ですべてあらわされているというもので,今考えたらこの2,3,4しかないかもしれないけれども,やはり,こういうふうに事前に考えることより現実の方が複雑ですから,こういう一般的な規定は効力のあるものとして入れることは不可欠であると考えます。


特に,実際の紛争の場面で,忠実義務違反であるから損害賠償せよというような請求ができる余地が残っているというのは大変重要なことです。実際の紛争は,本当に形に当てはまらないものがたくさん出てくることは常にあるということです。


  それから,情報利用の話ですけれども,情報利用について,これは余り具体的なイメージがないので,情報を利用して,それで結果的に信託財産を毀損するという場合は幾らでもあると思いますから,そういうのが外れるということになりますと,情報利用による利益の問題というのは難しい部分があるかと思いますが,外形的なもの,特に忠実義務違反のところでは,受益者の立場からすれば,外形的に利益が相反するような形になっているかどうか,そこから判断するということになりますので,先ほどの主観的な要件を入れるかどうかということとも関連しますけれども,外形的な形で判断できて,かつ外形的に利益相反の形になっているけれども,こういう事情でこれはやりますよ,害は与えませんからということで納得できるような形がある場合にこれをそのままやれるという形にしてもらった方が,受益者としてははるかにいい制度であるというふうに考えます。

● 善管注意義務に関しては,この草案全体そうですけれども,デフォルト・ルールと強行規定というのは一応明確にしようということで,デフォルト・ルールで別段の定めを許すものについてはそういうことを明記するという方針のもとで書いてあるというだけで,特別により広く別段の定めの範囲を認めようとか,そういう意図は特にありません。これは1点,私の方から,簡単なことですけれども。

  あと幾つかは内容にかかわる問題ですけれども,これはどうでしょうか。
● 個別規定の要否という点ですけれども,確かに米国統一信託法典にはそのような規律があり,設ける方がいいという御意見もあるにはあったのですが,なかなか切り出しが難しいということですとか,将来的に,ここに書いてあるとおりですが,信託が発展したときにその足かせになりかねないのではないかということで,一般的な善管注意義務の規定の解釈にゆだねているというところでございます。


  それで,ほかの法律のところまでは意識しているというわけではなくて,恐らく善管注意義務の内容を個別に書いた法律というのが,私の知る限り,日本の法律では思い当たらないのでございますが,もしそういう法律が出てくれば,それは解釈上の参考にはなると思うのですが,ほかの法律を見た上で我々の法律はなくてもいいというふうな判断をしたわけではなくて,あくまで個別の規定を設けることが現実的には難しいですし,そういう必要もないのではないかという判断でこうしているというところでございます。


● まあ,やはり忠実義務の一般的規定があった方がいいという話と,情報利用ですね。


● そこについてはちょっと今の段階で結論は出ませんので,第1項の必要性,何人かの委員の先生方から御指摘がありましたが,その点,位置づけなども踏まえて検討したいと思います。


● 今,情報の利用の関係がずっと議論されていますので,私も一言だけ申し上げておきたいのですけれども。


  原則として,情報の利用については,先ほど○○委員からありましたように,利用するということについては基本的には賛成といいますか,やむを得ないのかなというところは当然あるのですけれども,しかしながら,20ページの(注6)のところに書いてございますけれども,例えば債権の流動化等であれば,信託している債権についての内容のレポーティング等,非公知の情報を提供するというようなことも現実にあるわけですね。


したがいまして,やはりすべてが禁止というのは確かにおかしいところがございますので,そういうような特殊な情報,特にここに書いてございます非公知情報,こういったものについてはやはり禁止という形をやらないと,利益を得たかどうかということとはまた別な法益があると思いますので,そのあたりは是非とも今の御検討の中に入れていただけたらと思います。

● おっしゃるとおり,信託の情報を利用してはいけないというときに,どういう情報を利用してはいけないのかということについての限定というのですかね,それは必要なことですね。正にこの20ページの(注6)に書いてあることですけれども。


● 信託におきます善管注意義務とか忠実義務というのは,受託者に課せられる非常に重要な義務だと思うのですね。


例えば会社と比較しますと,代表取締役の行為は取締役会で他の取締役が監督できるとか,株主総会があるとかという,ある種の監視機能が入ると思うのですけれども,信託の場合は,受託者の行為に対する常設的な監視機能は恐らくないのではないかと思いますし,それから,この注にも出てきますように,物権的な権利が受託者にぽこっと移転している形をとっていますから,受託者に依存する度合いというのは非常に高いといいますか,そこに信頼を置いてやる度合いが高いと。


その裏返しで,極めて高度な善管注意義務とか忠実義務を要求されるというのは,一般的な組み立てとしてはしようがないというか,必要なんじゃないかなというふうに思います。

その結果,この忠実義務のところに書かれていますことも,見方によっては厳しいという感じもするのですけれども,こういうものが要求されてくるというのは仕方ないと思いますし,利益の吐き出しというものも,どの程度が妥当かという御議論はあるかもしれませんけれども,やはりこういうものが出てくるというのも仕方ないのじゃないかなというふうに思います。


  それから,先ほど,9ページの(2)の利益取得行為の禁止のところで,情報の問題というのが御指摘がありまして,確かに情報というのは難しいことはあれなのですけれども,やはりこれも,一般的な議論としては,まず忠実義務等々で課せられている義務,法律上の義務はがちっとかけると。


それを何とか逃れるというか,緩和するためには,信託行為の中で具体的に明記して,委託者,受益者がはっきり分かるという形で明記するような形で緩和措置をとっていくというような形に組み立てざるを得ないのではないかなというふうに思います。


● 非常に重要な御指摘が幾つもあったと思いますけれども,いろいろなところで,委任と信託との比較というのが出てくるのですけれども,決定的に違うのは,やはり委任というのは基本的には委任者が受任者を監督するという立場になっていて,信託はそういう関係になっていないというのが非常に大きな違いですね。

そこからすべての結論が出てくるわけではありませんけれども,そういう違いを考えながらこの問題も考えたいということですけれども。


● 私も,その情報利用の問題もこの中で非常に重要で,忠実義務のところですが,7ページ目の①,②,③の③ですね,結局のところ。


忠実義務一般のところで,自己取引ですらいいよと,受益者の利益を害しないということが明らかなんだからというのは,私は,実務的なセンスとしては当然のようなことだと思うのです。


  しかし,これを入れるのは極めてユニークなことなのだということだけは確認しておかないといけないですね。


これは英米では認められていない,とにかくフェアだというだけで自己取引を認めますよという話はないので,やはりそれはよほど注意をする必要がある。


しかし,大勢はどうも,大声でこれが大事ですよと言っている人はもしかして私一人だという孤独感みたいなのはありますが,せめてこれはちょっと検討してもらいたいのですが。

何度も言うように,これを堂々とやるのだったら全然何の問題もないという話でやっているわけですよね。だから堂々とやればいいと思うのです。


そのためには,もしこういう形のものを入れるのであれば,後で少なくとも情報提供義務の中に,こういう形の一見自己取引に当たるようなことはやりましたが,これは受益者の利益を害しないと,こういうきちっとした市場取引であれ,定型取引であれ,何であれと,そういう形でとにかく情報だけは提供する,透明性だけはちゃんと確保しますよと,事後的であれ,そういう話で持ってきてくれると,私もアメリカ人に説明できる。


まあ,アメリカ人に説明なんかしなくていいよというのかもしれないのですけれども,日本だけはとにかく実務はこれでやってるんですからというのだけで押し通すというのは,やはり私は本当は抵抗があるのです。だから,何かプラスアルファの一つの可能性は,情報提供義務の中には,事後的であれ何であれ,やはり入れておくと。私個人としては,最大限の妥協みたいな話なのですけれども。


● この③のところの,免責といいますか禁止の例外の部分というのは一定程度必要な場合が確かにあるということは多くの人たちが承認しているのですけれども,ただ,その範囲がちょっと明確ではないというのが一つ問題だし,それから,今,○○委員が言われたように,それをやるのであれば,何らかの形で明確に情報として残されているべきだと。ちょうどこの②の「重要な事実を開示して」と,これは事前の情報ですけれども,これと似たような機能を果たさせるということですね。
  勝手なことを言ったけれども,今のでいいですか。

● いえ,御指摘は重要な点かと思いますので,その点は説明ができるような形でどうするか検討したいと思います。

● それでは,まだ御意見があるかもしれませんが,ここでちょっと休憩して,また休憩の後,御意見があれば承って,先に進むという形をとりたいと思います。
  それでは,休憩いたします。

            (休     憩)

● 再開いたします。
  今の前半の説明の部分で,なおまだ御意見がおありの方はどうぞお願いいたします。

● 1点だけ補足させていただければと思います。
  一番最初の御質問との関係で,忠実義務というのは過失責任かというようなお話があって,損失補てん等はともかくとして,行為の有効・無効に関しては過失じゃなかろうかなというようなお答えをされたと思うのですけれども,有効・無効についてはまずそれで結構だとして,損失のてん補,あるいは原状回復,利益の吐き出しについてどうかという点だけ,ちょっともう一度お考えいただけないかなというのがありまして。

  それは,後ろの方の時効との関係で,債務不履行責任類似のものとしてとらえるというような御発想があるのかなと思うのですが,そういう側面があるというのは確かかもしれませんけれども,他方で,不当利得ないしは準事務管理としての側面,つまり,自分の財産が奪われた,それの原状回復ないしは損失のてん補という側面があるというのを考えますと,これは単純に過失責任の問題かというのはやはり考えないといけない。


これは何を意味しているかといいますと,損失のてん補,原状回復,利益の吐き出しと並べておられますけれども,この効果の意味をもう少し考えておく必要があるのじゃないかなという気がいたします。

それと,やはり要件とは連動してくるところがありますので,ちょっとお考えいただきたい。

  そして,三つの中でも損失のてん補と原状回復というのは比較的同質の性格を持つのかなというのは言えるわけですけれども,利益の吐き出しに関しましては同列に扱えるのか,これも先ほどの10ページの甲案,乙案のところでは,特に乙案では損失の額と推定するという,推定というのは本当に推定なのかそうでないのかという点はもちろん関係するところではあるのですけれども,損失の延長線上で本当に考えるべき事柄なのかどうか,そうではなくて,ある種の制裁的な,あるいは予防的な側面というのをもし重視するとするならば,ほかの忠実義務違反の効果としての損失てん補,原状回復が仮に忠実義務違反のみがあればいいという要件で足りるとしますと,この利益の吐き出しというのは同じように考えていいのかどうか,そのあたり,もうちょっと効果の性格に即して考えを深めておく必要があるのではないかなという,1点だけです。


● 特に,この利益の吐き出しはどういうふうに性格づけるかということから始まって,非常に難しい問題があるということはおっしゃるとおりでございます。
  ほかに御意見ございますか。

● 資料でいいますと10ページのイの③,利益取得禁止行為の例外といたしまして,「正当な理由があるとき」ということが挙げられておるのですが,裁判所の立場からいたしますと,これは受託者の責任についての訴訟があった場合に,最終的にこの要件がかぎとなって責任の有無というのが判断されるということになると。


そういった裁判の規範としては,「正当な理由があるとき」というだけでは余りにも不明確に過ぎて,裁判規範として機能しないのではないかという,そういった懸念を抱いております。より明確にしていただきたいということでございます。


  資料の20ページから21ページの方に参りますと,なぜこのような要件が必要なのかということにつきまして20ページの最後の方に,情報の共有ですとか,あるいは銀行勘定を通じてしかできない場合といった場合が挙げられているのですが,一方,21ページの方で,具体的に正当な理由があると判断される例といたしましては,買主側の仲介業者として手数料を収受するような行為というふうに挙げられておりますが,20ページの方の必要性の話と,具体的に仲介業者の話というのがどういうふうにリンクしているのかというのもよく分からないところでございまして,なぜこのような要件が必要なのかということと,どういう場合に実際に正当な理由があるということになるのかというのを更に検討していただきまして,それを具体的な要件として挙げていただくようなことの検討をお願いできないかということでございます。


  同様に,公平義務の関係でも,例外規定として「正当な理由があるとき」というふうになっておるのですが,これにつきましても同様に,明確性に欠けるのではないかという懸念を抱いております。


こちらの方も,資料の方では,例といたしまして株式と債券をともに運用するというような信託の例が挙げられているのですが,一方では29ページの(注2)の方を見ますと,この場合は不公平は生ずるものの,ともに利益を得ているので,そもそも正当な理由を持ち出すまでもなく公平義務違反が生じていないというような記載もされておりまして,そういった意味では不公平が一体どういう場合に生じたと言うのかということとの関係で,「正当な理由」というのは具体的にどういう場合なのかというのがなお明確ではないのではないかと考えております。

  逆に言いますと,ここに挙げられた事例ですと,ともに利益を得ていて不公平を生じていないということであるならば,逆に片一方の受益者に本当に不利益が生じた場合には,なぜ正当な理由によってこういった公平義務違反が例外的に免除されるのかといったあたりも含めて御検討いただいた上で,その場合には,「正当な理由」というのは具体的にはどういう場合なのかといったあたりも,更に御検討いただければというふうに考えている次第でございます。

● 確かに,「正当な理由」というのを私ももうちょっと明確化したいという感じがするのですけれども,今はとりあえず考え方が示されているというぐらいで,またいずれもうちょっと議論を深めたいと考えております。

● 2点ほど。情報の話と,それから利益の吐き出しについて,追加的にコメントしたいと思うのですが。

  先ほど,○○幹事の方からお話がありましたとおり,どうしたら受託者として救われるのかという話につながるわけですが,9ページの例12)のところで,例えばファイヤーウォールがなかった場合の話があるのですけれども,そうした場合に,多分受託者としてファイヤーウォールを設ければ,ある意味セーフハーバー・ルールとして救われるのかという話も出てくるわけです。


ただ,恐らく多分それは難しいと,ファイヤーウォールがあったとしてもそれが実際に抜け道があったらどうかとかいう話になると,結局そこは,受託者としてどこまで挙証責任に耐えられるまでの実務をしなければならないかという,例えば一々取引について確認書を関連部に回さなければいけないとか,そういった話で,非常に実務に対して重い負担を課してくるのじゃないかという話があると思います。その点を指摘したいことが一つです。


  もう一つ,休み前に○○委員からお話がありました,情報に関してもいわゆる信託行為で定めればそれでいいのじゃないかという話です。

その点は確かにおっしゃるところはあるのですが,ただ情報というのはやはり千差万別でございますし,例えば一概に,この情報はいいけれどもこの情報はだめだと,また,全部はいいというふうに言うことも難しいと思うのです。

いろいろな状況の進展によって事々変わってくるわけですから。そうした場合に,書くべきというのは分かるのですけれども,具体的にどの程度書けばいいのかということが非常に分からないということでございます。


やはり情報というのは非常に抽象的なものですので,それを一律に規定するというのはなかなか難しいのではないかということをコメントしたいと思います。

  二つ目に,利益吐き出し責任の話なのですが,これは一つの質問になるのかもしれませんが,そもそもこの法制度自体に素朴に疑問があるという話をしましたが,御質問というのは,この法制度自体が日本の法秩序に合うのかどうかということについて,多分いろいろなところで議論があったのかもしれませんけれども,私には何か懲罰的な民事的制裁というような感じがするわけですけれども。


といいますのは,この利益というのは単に不当に得たものだけではなくて,例えばそれに加えて受託者の独自のエクスパティーズをもって付加価値を高めたというものも奪われる結果になると。


また,中間最高価格ということになるのであれば,中間最高価格のところで売れば確かに受益者に対してメリットがあったのかもしれませんが,逆に受益者はそのマーケットにさらされている間,いわばリスクを負担しているということもあるわけですから,そうしたリスクだけは回避できて,結果として益だけ取るというような考え方自体が公平なのかどうかということもあると思うのです。


そうした場合,それぞれを考えた場合に,この法制度自体が本当に日本の秩序に合うのかどうか,何か非常に過度な制裁的な色彩を持っているのではないかということを思いまして,ちょっと御質問する次第でございます。

● この利益吐き出しという制度が,どの程度現在の民法とかほかの制度の中で位置づけられるか,これは非常に難しいというか,重要な問題なのですけれども,私は,先ほど○○幹事からもありましたけれども--あるいは,○○幹事御自身はそういう意見ではないかもしれませんが--ある種の不当利得として説明することは十分可能性があるのだろうと思うのですね。


不当利得の理論の中にも,普通損失と利益を対応させて,両方が要件になっているというのが多くの説ですけれども,損失の方はなくてもいいという,そういう有力な説もあって,そういう考え方からすると,利益の方が不当かどうかという判断をして,そして不当な利益であればそれを返すということが不当利得の制度から十分説明できるのではないかというふうに思っております。


  ただ,何を返すかというのがやはり問題で,今のように付加的な価値をつけて利益を上げた,確かに便乗して利益を上げているわけですけれども,それを全部返すのか,あるいは一定の割合に評価して返すのかとか,そこが非常に大きな問題ですね。それは,いわば二段階の,最初はまず根拠の問題,その次に実際の適用の問題として二段階の重要な問題があると思いますけれども,そういうことも含めて利益吐き出しについては更に検討していったらいいのではないかと思います。
  ○○幹事の方から何かありますか。

● 利益吐き出しの法的性格論につきましては,従来よりいろいろ,今,○○委員がおっしゃった不当利得で基礎づける考え方ですとか,あるいは不法行為ではどうか,事務管理ではどうかと,いろいろと議論をしてきたのですが,なかなかそういう抽象論といいますか,法的性格論から入るとそこで紛糾してしまいまして先に進めなかったということがございまして,本日はそのアプローチをちょっと変えまして,そういうものがないと実際に困る場合があるかどうかというところから議論を進めてはいかがかというふうに提示させていただいたところでございます。


  理論的には,今,○○委員がおっしゃいましたように,不当利得の損失の部分はともかくとして利得の方で説明するという考え方も十分あり得るのかなという気がしておりますが,そこについては事務局側に確たる見解があるというわけではございませんで,むしろそういう法的性格論,あるいは必要性もあわせまして,この場で規定の要否についての議論を是非いただければと,我々としては思っているところでございます。


● これまでに出された御意見等と重複する部分もございますけれども,御質問,御意見を含めて3点ほど述べさせていただきたいと思います。


  まず第1は,○○委員初めこれまで多くの御指摘があった忠実義務の一般規定の意義でございますけれども,私も,体系的に見ても実質的に見ても,この忠実義務の一般規定は必要であり,かつ有益であると思っております。

善管注意義務については,例えば4ページの説明の中で,善管注意義務の内容というのは諸事情によって異なり得て,どこまで具体的な内容の規定を設けるべきかについては明確な基準もない上に,信託に特有の柔軟性を生かして,今後様々な形態の信託スキームの発展が予想されると,このことは私は忠実義務にも全く同様に当てはまって,忠実義務違反の行為,あるいは忠実義務違反の類型も,恐らく挙げ尽くそうと思っても尽くせないのではないかと思っております。


したがって,この善管注意義務の方については開かれたままにしておいて,忠実義務規定についてだけ閉じ込めるということは,体系的にも無理ですし,これから述べるように実質的にもやはり難しい面があるのではないかと思っております。


  その実質面でございますけれども,実は取締役にも忠実義務の一般規定がありまして,取締役については更に競業取引ですか,利益相反取引とか様々な類型化,具体化された行為類型の禁止等がございますけれども,取締役の忠実義務に関する一般規定も使われないことはないと言われております。

例えば,今までの判例であらわれましたのは,例えば取締役が在任中に競業準備行為を行う,競業行為というのは商法上禁止されているのですけれども,競業準備行為というのは明確には規定されておりませんで,判例の中ではこれをとらえて忠実義務に違反するといったようなものもございます。

  それから,例えばもう1点私が気になりますのは,受託者が受益者から受益権を買い取るような行為,これは忠実義務の類型に当たるのか,当たらないと考えられているのか,私は受託者が受益権を受益者から買い取る,これはここに挙がっているような利益相反行為ではないとは思うのですけれども,しかし典型的な例として,例えば信託財産の中に将来非常に価値のあるものが含まれている,でも受益者はそれを知らない,こういう状況のときに受益権を例えば安く買い取ってしまうというような意味での利益相反行為というのは考え得ると思っております。

そういった,ここに挙げ尽くされないような,あるいはどれかに当たるとしたら是非後で御教示いただきたいと思うのですけれども,類型化され尽くせないような行為を一般条項でとらえるという意味が,実質的にも残っているのではないかと考えております。


  それから,2点目でございますけれども,これも何度もこれまでの議論の中でも論じられております信託財産の機会を奪取する行為,あるいは信託財産に係る情報を利用する行為でございますけれども,これについてはむしろ御質問ということになるかと思いますけれども,8ページの3の(1)のアでは,「不当な利益を得る目的で,又は受益者に損害を与える目的で」と,これが一体どういうふうに解釈されることになるのだろうかと。


後の説明を読みますと,それほど加害の意思とか不当な利得を得るというその主観面がそれほど重視されていないようにも思われますけれども,むしろ例えば英米でこういった信託財産の機会とか情報というときには,例えばあるチャンスが信託事務のラインに属しているのか,あるいは信託財産で本当にそれが利用できるチャンスなのかどうか,あるいは信託財産がその機会を利用する期待ないし利益はどの程度あるのか,むしろこういった不当利得あるいは加害の目的というよりも,信託財産に帰属すべき機会とか情報という観点から論じられているように思いますので,そのこととの関係でこのように規定することは,アメリカのような信託財産の機会ですとか信託財産の情報に関する理論と要件が異なってくることになるのか,それとも,そこは同じで,あとは解釈の問題ということになるのか,その点をお聞きしたいというのが2点目でございます。

  それから,最後に3点目でございますけれども,これは○○委員からアメリカと大きく違うと御指摘された,受益者の利益を害しないことが明らかであるという忠実義務の禁止の例外でございますけれども,これは私は理論的には忠実義務というのはやはり受益者の利益のための義務だと思いますので,受益者の利益を害しないときが明らかであれば忠実義務の例外となってもいいと思うのですが,しかしやはり問題は,そうだとすると受益者の利益になりますといって受託者が例えばどんどん自己取引をしてしまう,受益者は何も知らない,そういう状況が懸念されて,そうだとすると,やはりこの忠実義務が骨抜きになる可能性があろうかと思います。


したがって,この受益者の利益を害しないことが明らかであることを免除の要件にすることには私は賛成ですけれども,それによってどういう取引とかどういう行為がなされたかは,受益者に対し開示するような義務があるのではないかと。


そして,その受益者が開示されたときに,利益を害しないことが明らかですから,普通はそこでいいと言うのだと思いますけれども,そうすると同意を得るのも一挙手一投足という感がないでもないですけれども,しかし例えば受益者が多数いるような場合を考えると,受益者の承諾なくてもこのような要件のもとで忠実義務を解除するということは残しておいてもいいのではないか,こういうふうに考えております。


● いろいろ難しい問題が更に議論されましたけれども,特に質問の部分は8ページの「不当な利益を得る目的で」,「損害を与える目的で」というのが入っていること,英米法との違いということですけれども,これはどうですか。


● この要件を作るに当たりまして,実は英米法との比較というのをしたわけではなくて,むしろここで考えましたのは,これは割と厳格な要件になっておりまして,ほかの例えば(1)のアの③の「第三者のために」とか,そういうのに比べるとより厳密な悪意といいますか,特別な目的がないと違法にならない,それだけその機会が競合する場合というのは多いだろうから,適法といいますか,忠実義務の違法性が阻却される場合が多くないと実務は動かないだろうということで,より厳格な要件を定めたという趣旨はございます。

  具体的にこれがどういう場合に当たるかと申しますと,とりあえず現時点ではこの文言を解釈していくしかないかなというふうに考えているところでございますけれども。


  あと,開示する義務というのは,先ほど○○委員の方からもおっしゃいましたけれども,これは確かに正しい行為をやったという自信があるのであれば,結果報告でもした方がいいという御指摘はそのとおりと思われる点がございますので,その点はまた今後第2回目の審議をいただく際に,前向きに検討して御報告いたしたいと思います。

● 受託者と受益権の取引は。

● それにつきましては,ここでは忠実義務の問題があり得るということは認識しておりますけれども,契約一般の問題ということで,忠実義務の問題そのものとしては考えておりません。


● 確かに,受益権の買取りというのは,今までは忠実義務の問題にしていなくて,あくまで信託財産そのものを買い取る場合が自己取引だとされていたのですけれども,具体的な利益状況のもとの中では,○○幹事が言われたように,利益が相反するという場合もあり得るかもしれませんね。現在のところ,そういうようなのは類型化されていないというだけで,将来の可能性はある。


● 可能性はあると思います。今おっしゃった例なんかは,言ってみれば信託財産というのは受益者が持っているというか,不即不離のようなところがございますので,確かに直感的には同視していい部分もあるかなとは思いますが,今までの伝統的な解釈は,それは別だというふうに解されてきたと理解しておりますが,御指摘を踏まえて,そこまで含むべきかどうかということは考えてみたいと思います。

● 先ほどから,情報のお話が出ていますので,実務家としての感覚というのをちょっとお話ししたいと思うのですけれども。


  先ほど,○○幹事の方から,信託財産の中でコストをかけたりしてつくった情報を固有勘定の方で使ってというのはどうなのだろうかと,そういうことについては基本的にはやはりいけないことだというふうに考えておりまして,我々の方はそういうことをやりたいということではなくて,事業の形態からいって,もうこれは皆さんよく御存知だと思うのですけれども,銀行業務と信託業務で付随業務もいろいろな業務をやっていますと,なおかつ,貸付けの業務というのは勘定が信託の勘定もあれば銀行の勘定もあります。

ということは,それを営業体がやるとすれば,全部情報が入ってきます。

ということは,それはその情報を使わないことにはどうしようもないというところがあるので,それを制限されると非常に大変なので,そこら辺のところの御配慮をお願いしたいということで今までお願いした次第でありまして,そういう極端な部分については,やはりおっしゃるようにそれはまずいことだろうなとは考えております。

● 今の問題は,うまく線が引けるかどうかは分かりませんけれども,どういうタイプの情報かということによって,少し区切りをつけることができるかもしれませんね。


● そういう情報については,お客さんの方がシビアでして,秘密保持契約を締結させられたり,できないような状況にもなっておりますし,例えばファイヤーウォールのお話が出ましたけれども,当初不動産投資がかなり多くなってきたときに,そういう投資部門とほかの部門とをファイヤーウォールを設けようかというようなことで検討したこともあったのですが,ただ,情報については非常に微妙なところがあって,お客さんの意向を聞きながら情報を流すような部分もありますし,例えば不動産であったらエンドのユーザーまでだったら流していいのですよとか,業者まで流していいのですよとか,そんなような微妙なところがあるものですから,びしっとファイヤーウォールというふうに区切って言うのは,それこそひいては受益者の方々のためにならないというか,より迅速にいい相手を見つけるためにはない方がそこはいい場合も多いものですから,そこら辺のところはもう掛け値なしに,お客さんのためにとってその方がいいという判断でファイヤーウォールというのは設けなかったということがありました。


● 忠実義務はとりあえずこのぐらいでよろしいでしょうか。

  何人かの方からは利益吐き出しについての御議論をいただきましたけれども,これももし若干御感触等がございましたら伺っておきたいと思いますが。--よろしいですか。

  それでは,あと公平義務とか……。これもある程度御議論いただきましたが,公平義務というのはかなり忠実義務と近いところがありますが,それとの関連で御議論いただきましたし,それ以外の点について,例えば時効等についてもよろしいですか。

● 時効のところで若干。
  今般の御提案で,1番のそういう損失てん補関係についての消滅時効が認められたというのは,私ども受託者にとっては非常に有り難いことだと思っております。


ここの部分はこれでいいのですが,例えば--例えばと言ったらあれですけれども,権限違反の行為を行ったときについては,現行法では例えば31条に対応して33条という規定がありまして,非常に短い期間での取消しの時効が認められているのですけれども,こういったものについて御検討されていないのであれば,そういう形の短期間の時効を設けることについて御検討をお願いしたいということが一つ。


  それともう一つ,これも受託者側からばかりで申し訳ないのですけれども,例えば固有勘定と信託勘定の間で忠実義務違反が行われたときに,無効の状態になりますと,その無効の状態というのを受託者側から確定させるような方策というのはどうなんでしょうか。


ずっとそのままの状態で置かれておりますと,例えば株式等の価格が変動するようなものであったとすると,受益者側からすると一番高くなったところでいってやれというようなこともありまして,受託者側としてはそんなことをしてしまった,そういう状況になったということは悪いことだと思うのですけれども,ある程度合理的なところで確定させるような方策,これはちょっと時効とは違うお話だとは思うのですけれども,そういうようなところの御検討もいただけないかなということです。

● 時効の問題,現行法では第33条の問題につきましては,将来的には検討するべきだと考えております。

まず基本的に権限違反行為の効果について,取消権構成でいいかどうかというところを最初に御議論いただいておりまして,それでいいということであれば,もちろん33条のような規定は設ける方向で考えております。

ただ,33条につきましては,期間制限が1月と1年ですが,特に1月は幾ら何でも短過ぎるという御指摘があって,そこはもう少し長期化するのかなと思っておりますが,そういう方向で規定を整備していくつもりでおります。

  あともう一つ,無効を確定する方法につきましては,確かに無効ですと期間制限ということはなかなか難しいということになりますので,例えば一定の催告をして確定するとか,そういう手続が要るのかなという気はいたしますが,ちょっとそこは今まで十分考えたことがないところですので,要否を含めまして検討いたしたいと思います。


● ほかによろしいでしょうか。
● 第26のあたりでよろしいわけでしょうか。
● どうぞ。

● 第26について2点ありまして,一つは時効の援用についての規定が必要ないだろうかということです。受益債権については,時効の援用についての規定はたしかあったと思いますので,それと対応するようなものが必要ないだろうかということです。


  それからもう一つは,消滅時効の起算点について,甲案,乙案というのが45ページで提示されておりますけれども,米国の統一信託法典を引用しておられますが,統一信託法典の場合には受託者が積極的に情報を提供するということが前提となって,それから時効がスタートするようになっているのではないかと思います。そういうのから見ると,やはり甲案よりも乙案の方がよりそれに近いのかなという気がいたします。


  その場合に,ただ期間が長過ぎるではないかということで,最後50ページの(注2)というところで1年・5年という御提案があるわけですが,これも今申し上げましたとおり,UTCの1005条というのは,受託者の情報提供が前提となっているわけですので,この案は持ってきにくいのではないか,もう少し長くてもいいのじゃないかなという気がいたします。


● 重要な指摘だと思います。どうもありがとうございました。

● 第24について,一言発言いたします。
  2で原状回復ができない場合があるというところの要件ですけれども,趣旨としてはこれは「過分な費用」ではないかと思います。


「著しく多額の費用」というのは絶対額を指しているように思われますので,そうであれば不適切であって,何かと比較してなのですけれども,費用がかかり過ぎる場合に原状回復ではなくて損失てん補でいくべきだという趣旨ではないかと説明のところを読むと感じられますので,そのように改めていただくのがよろしいのではないかと思います。


● 「過分な費用」という,文言的には例えば「著しく過分」とか,単なる「過分」と言うと,過分の程度にもよりますが,そういう……。

● それは,どちらもあり得るのだろうと思いますが,「著しく過分」の方が原状回復を原則とするという趣旨が残りますので,差し当たってそちらの方を私の今の意見とさせていただきますが,余りそこは自信がありません。

● 原状回復が原則というのは,ほかの法理の体系でどうかという問題点の指摘などもございまして,今,○○幹事の方は原状回復が原則なんだから「著しく過分」のときだけはできないというのでいいのではないかとおっしゃいましたが,この点につきまして,何か,原状回復はここが原則でいいのだという根拠といいますか,現行法がそうなんだからというのか,何かございますでしょうか。

● やはり経済的な価値を扱っているのではなくて,どういう態様か,どういうものであるかということも含めて,それを受託しているというのが信託の基本的な在り方だろうと,それを変更するならば信託法で変更すればいいと,そういうふうに考えます。

● それでは,第一セッションといいますか,前半部分がやっと終わったところですけれども,残りの時間は次のセッションを……。


● それでは,分別管理義務,信託事務処理の委託と,それから帳簿作成作成義務等につきまして,御説明いたします。

  まず,「第21 分別管理義務について」でございますが,これは第1回会議でも御説明いたしましたが,受託者個人の債権者あるいは他の信託の債権者から信託財産を隔離する効果を生み出す意義を有するものを分別管理義務と考えておりまして,ここでは受託者の固有財産からの分別及び信託財産からの分別の両者に共通する原則的なルールと例外とを提案しているものでございます。


  資料の記載内容は,金銭について,前回,第11として共有ルールを提案しておりまして,それを前提に若干の修正をした以外には報告書と全く変わっておりませんので,その内容につきましては第1回会議でも簡単に御紹介したところでございますが,もう一回,実務的に重要なところですので概要を御説明したいと思います。


  まず,原則的ルールでございますが,要するに受託者としては信託財産の独立性を確保するために,その財産を性質に応じて最善の状態で受託者の有する他の財産から分離して管理すべきであると解するものでございます。


具体的に申し上げますと,受託者としては,分別管理義務を履行したと言えるためには,原則として,登記・登録ができる財産であれば信託の登記・登録をすべきであり,登記・登録ができない財産であれば,物理的に管理可能なもの,例えば動産であれば物理的に分別すべきであり,物理的管理が不可能な,例えば金銭債権のようなものであれば,帳簿上各別に計算管理をすべきであると考えております。


  なお,2点,付言いたしますと,まずこれも第1回会議の際に申し上げましたが,登記・登録できる財産であれば登記・登録するのが原則と申し上げた点につきましては,とりあえずそのような義務を免除している場合でも,受託者が経済的苦境に陥ったときは,遅滞なく登記・登録をすることが意図されている限りは,なお原則的な分別管理義務が履行されていると考えております。


  それから,登記・登録ができないものの物理的に管理可能な財産については,帳簿上の計算管理にとどまらず,あくまで物理的に分別して管理することをもって原則としております。


これは,帳簿上の計算管理によるよりも,物理的な分別の方が,受益者にとっては信託財産の現状の把握に資するであろうし,受託者についても忠実義務違反の防止に資すると思われるからであるという理由によるものでございます。

  以上の原則に対しまして例外でございますが,まず登記・登録すべき義務については例外はありません。登記・登録を,留保つきではあれ必ずしなければいけないということになります。

  次に,登記・登録ができない財産のうち,物理的管理が不可能な金銭債権などにつきましては,帳簿上各別に計算管理すべき義務があるわけですが,これも例外を認めておりません。この点につきましては,後ほど御説明いたします。


  これに対しまして,物理的管理が可能な動産については,信託行為に別段の定めがあるときか金銭であるときには分別管理は物理的方法によらなくてもよいという例外を認めて,帳簿上各別に計算管理をすることをもって足りるといたしております。


その理由は,金銭であれその他の動産であれ,混蔵保管されている場合であっても,帳簿さえ適切に作成管理されていれば,受益者は混蔵保管されている財産全体の中の信託財産の共有持分について物権的に第三者に対抗できると考えられますので,なお信託の意義を肯定することができるからでございます。


  なお,先ほど申し上げましたように,信託財産が金銭債権であって帳簿上の計算管理が要請される場合ですとか,あるいは物理的に管理可能な財産について特約があり,あるいは金銭であるため,帳簿上の計算管理をもって定めるとされている場合につきましては,この帳簿上の管理義務というのは信託の意義を認めるいわばよすがとなる受益者の物権的な共有持分の主張の担保となりますとともに,受託者の帳簿作成義務から当然に導かれる受託者として最低限の義務でありますので,このような帳簿上の分別管理義務まで免除することは認められないと考えるものでございます。


  以上,要するに受託者の原則的な分別管理義務の方法の例外が認められますのは,登記・登録のできない種類の信託財産であって,かつ,動産や金銭などの物理的に分別管理が可能である種類の信託財産である場合にとどまるわけでして,それ以外の種類の信託財産につきましては,原則的な分別管理の方法,つまり不動産であれば登記,金銭債権であれば帳簿管理に常によるべきこと,しかも物理的な分別管理まで免除されるという場合であっても,帳簿上各別に計算管理すべき義務までは免除され得ないと考えているものでございます。

  続きまして,第22の「信託事務処理の委託について」というところでございますが,これは少し丁寧に御説明をいたします。

  第22でございますが,これは受託者が他人に委託できる場合につきまして,現行法より拡大するとともに,報告書とも若干異なる新たな内容を提案しているものでございます。


  まず,提案1について御説明いたします。
  現行法第26条におきましては,信託は,受託者に対する個人的・主観的信頼を基礎とする財産管理制度であるとの理解のもとで,そのような信頼を保護するために受託者自らが信託事務を処理しなければならないものとして,受託者が他人に対して信託事務処理を委託できる場合を,信託行為に定めがある場合のほか,「已ムコトヲ得サル事由アル場合」として狭く限定しております。


しかし,信託法制定当時に比して社会の分業化,専門化が進んだ現代社会においては,信託事務のすべてを受託者が行うことができることを前提とすることは現実的とは言えませんので,資料35ページの(注1)というところにも記載いたしましたが,他人に対して信託事務の処理をしかるべく委託することの方が,受益者の利益に資するものと考えるわけでございます。

  以上は第1回会議でも説明したところでございまして,報告書においては,受託者が信託行為に別段の定めがない限り,善管注意義務のもとで信託事務の処理を他人に委託することができるとの考え方に基づく規律を示したところでございます。

  しかしながら,今申しましたように,他人への事務処理の委託を自由とした上で,受託者の善管注意義務にゆだねますと,委託者の受託者に対する期待の内容いかんにかかわらず,受託者としては,自分以外であっても,とにかく当該事務処理を行うことについて相応の能力を有する者に対して事務委託をしている限り,少なくとも善管注意義務には違反していないことになると思われるわけでして,すなわち受託者としては,いわば一種のコーディネーターといいますか,司令塔といいますか,そういう立場で信託事務につきまして自己の能力より低くても,とにかく業界水準に足りる能力を有している先に次々と委託さえしていれば,何ら責任を問われないことになりそうでございます。


しかし,これでは委託者が受託者の能力に期待して信託していた場合には,その期待を満たさないことになりかねないと思うわけでございます。

  そこで今回の提案におきましては,受託者の能力に対する委託者の正当な期待も保護すべく,受託者は委託者の信頼を受けたものとして受託者が信託事務を委託するについては,特約がない限り「相当な場合」であることを要するものといたしました。

その際には,米国統一信託法典第807条の規律,すなわち「受託者は,同じような能力を持つ合理的な受託者なら当該状況において委任するのが適切だと思われる義務につき,委任することができる」という規定も参考にしているところでございます。

  これは,一見しますと自己執行義務を前提とする現行法の規律を踏まえた上で,現行では他人に委託できる場合を「已ムコトヲ得サル事由」と狭く限っているのを,「相当な事由」というふうに大きく広げたようにも解されるところではあります。

しかしながら,現行法があくまでも委託者の期待を重視して,委託者の自己執行義務に偏った規制的な内容となっており,受託者の権限行使を妨げる側面があったのに対しまして,この提案では,現代社会の実情を踏まえますと,受益者の最善の利益を図るためには,信託事務処理の柔軟で効率的な第三者への委託を正当化する方が適切であり,それが委託者の通常の意思にも合致するとの認識に基づきまして,委託者側の期待と受託者側の外部委託のニーズとのバランスを図る内容へと,基本的な発想自体を改めている趣旨でございます。

  そこで,「相当な事由」があるか否かは今申しましたようなバランスにかかわる事項,すなわち委託者の期待,それは受託者自らの能力を標準とすべきか,業界水準でいいかということにもかかわりますが,そのような期待ですとか,事務の内容,委託先の能力等を総合的に考慮して決すべきでございます。

例えば,受託者より高い能力を有する専門家を使用することや,特に高度な能力を要しないものの,受託者が自ら行うよりは外部に委託した方が費用や時間等の点で合理的な事務,典型的には郵便ですとか物資の運送業務などにつきましては,相当な事由ありとして外部に委託できる場合が多いと考えております。


  なお,念のため付言いたしますと,受託者としては原則として自ら信託事務を処理すれば足りるわけでして,自分より能力の高い第三者がいたからといって,常に委託しなければならないというわけではもちろんありません。


もっとも,能力とか時間,費用,アクセスの容易さなど,総合的に考慮いたしまして,明らかに第三者に委託した方が受益者の利益に資するというような場合につきましては,例外的に委託しないことが義務違反と判断されることもあり得ますが,これは受託者の外部に対する信託事務処理委託の可否とは別個に,善管注意義務違反の有無の問題として判断されるべき事項だと考えております。

  ところで,報告書におきましては,(注2)といたしまして,今申し上げた専門的な事務ですとか機械的事務の外部委託,あるいは受託者としてはこれを利用する以外には選択の余地のない中央集中的な証券保管・決済システムなどを利用する事務などにつきまして,いずれも提案の1に係る外部委託の可否に関する規律の対象外であるとの指摘があることを示しましたところ,第1回会議においても同様の指摘がなされたところでございます。しかしながら,この提案におきましては,指摘にかかる事項もふまえまして,およそいかなる事務でも第三者に事務を委託する以上は,一律に1及び2の規律の適用対象となるものと考えております。

これは,信託事務の外部委託が厳しく制限されております現行の規律とは異なりまして,相当な場合には外部委託できるとの緩やかな規律に転換する以上,もはや事務の内容によって規律の適用を区別する意味の多くは失われたと考えられることですとか,むしろ一律に1及び2の適用対象になるとした上で,受託者の選任監督責任の履行の問題として解決することの方が簡明であると考えられることによるわけでございます。

  もっとも,先ほど言いました反対論の指摘は,例えば専門家や運送業者につきましては,選任はともかく,監督すべき義務といったようなものを観念すること自体が不自然であるとの考えや,更に日銀や証券保管振替機構などに至りましては,選任責任すら問題にすることは不自然であるという考えが背後にあるような気がいたします。

確かに,そのような考え方には傾聴すべきところがあるわけでございますが,特に専門家への委託について,選任監督責任が全くないと言い切れるかは疑問でありまして,このような場合も1の規律の対象,したがいまして2の規律の適用対象に含めまして,一応は受託者の選任監督責任が及ぶとした上で,実際には監督義務とはいっても極めて限定的なものである,せいぜい定期的なモニタリング程度のものであるというにとどまりまして,選任監督義務違反が問われることは事実上ほとんどないと考えることによって対処することが可能であり,これで実務上も不都合は生じないのではないかと考えるわけでございます。


  次に,提案の2について御説明いたします。2の(1)でございますが,これは提案の1を踏まえまして,受託者が信託事務の処理を適法に第三者に委託した場合における受託者の責任が,選任監督責任にとどまることを明らかにしたものでございます。


  ところで,報告書におきましては,受託者が信託事務を適法に第三者に委託した場合の責任につきまして,特約による場合であると否とを問わず,選任監督責任のみを負うものとしておりましたが,この点につきましては第1回会議におきまして,第三者の委託を原則として禁止した上で限定的にこれを認める現行法のもとであれば,例外的に適法に委託できた場合の受託者の責任が選任監督責任にとどまることは理解できるものの,第三者への委託を原則として自由とした上で,しかも当該委託が特約で認められた場合でもないのに,第三者に委託した受託者の責任が選任監督責任で足りるものとされる理論的根拠が薄弱であるとの指摘がなされました。

しかしながら,今回の提案におきましては,特約がない場合において受託者が第三者に委託できるのは,善管注意義務のもとではあれ,自由というわけではなく,相当な場合であることを要するのでありますから,このような条件を満たした上で適法に委託がなされたものである以上,受託者の責任を選任監督責任にとどめることとしても不合理ではないと解されるところでございます。

  さらに,今回の提案におきましては,2の(2)として,「相当な場合」でないのに不適法に第三者に信託事務を委託した場合の受託者の責任も明記しております。


すなわち,この場合におきましては,第三者に委託した点において受託者にそもそも義務違反がありますので,第三者の故意過失にかかわらず,受託者としては,自己の義務違反と因果関係にある損害,すなわち委託をしなければ生じなかったと考えられる損害につきまして責任は免れないということを明らかにしたものでございます。

  最後に,提案の3でございますが,これは信託事務の委託を受けた第三者の責任について,報告書と同様に甲案,乙案を提示しているものでございます。


  その具体的な内容及び考え方は,第1回会議で御説明したとおりでございまして,一言で言いますと,甲案というのは受益者保護の観点から,一定の要件を満たした場合に第三者が主として受益者に対して直接の責任を負うこととしたものでございます。


これに対しまして,乙案というのは,このような一定の条件を課した限定的な第三者の責任を認めるまでもなく,第三者は,委託者との関係で契約関係にあり,受益者との関係で前面に立つ受託者の責任のみを考えておけば足りる解するものでございます。


  以上,甲案,乙案その他,御審議をいただければと思います。

  最後に帳簿作成義務等に関する第23につきまして御説明いたします。
  これは,受託者の帳簿等の作成保存義務及び情報提供義務,並びに受益者等の帳簿等の閲覧請求権及び説明請求権に関する提案でございます。

  現行法を見ますと,第39条におきまして,信託事務が適正に行われることを担保するために,受託者に帳簿や財産目録の作成義務を課しておりまして,第40条におきまして受益者等の有する監督的権能を実効的なものとするために,利害関係人による帳簿等の閲覧請求権や受益者等による説明請求権を規定しております。しかし,現行法の規律に対しましては,例えば,作成義務のある書類の内容が適切であるか,利害関係人に財産目録のみならず帳簿の閲覧請求権まで認めるのは行き過ぎではないか,受益者等が閲覧請求できる「信託事務の処理に関する書類」とはどのようなものか,受託者に請求を待たずとも積極的に情報を提供すべき義務を認めるべきではないか,あるいは受託者及び受益者からの閲覧請求等を正当に拒否できる事由を明記すべきではないか等,種々の問題点が指摘されているところでございます。


そこで,この提案では,現行法の規律の大枠は維持しながらも,作成保存すべき書類の内容及び期間,受託者の情報提供義務,書類の種類に応じた閲覧請求権者,閲覧請求等に対する拒否事由等の諸点で追加,変更を加えることとしたものでございます。


  まず,提案の1でございますが,受託者の作成・保存義務に関しまして,まず帳簿のほかに,実際的な有用性の観点から,財産目録にかえて信託財産の状況及び信託の収支に関する書類の作成義務を課しております。


  さらに,帳簿のほか,信託事務に関する重要な書類,これは例えば契約書等を念頭に置いておりますが,このようなものにつきましては10年間の保存義務を課するとしております。


  このように,提案1におきまして受託者の作成を要すべき書類の範囲を一括列挙した上で,この範囲の書類の中から,提案2及び3におきまして受益者等に対する情報提供,受益者等からの閲覧請求の対象を適切に定めようとするものでございます。


  なお,保存期間の点につきましては,報告書の段階では,受託者に10年間の保存義務を課すことは長きに失するのではないかとの指摘がありまして検討いたしましたが,この提案では消滅時効期間ですとか,商法上の商業帳簿等の保存期間の規律なども踏まえまして,一律に10年間とすることは受託者に酷ではないかとの指摘も考慮して,受託者は受益者に帳簿等を引き渡すことによって保存義務を免れるというようにしております。
  続いて提案の2でございますが,これは受託者の情報提供義務に関するものでございます。

  現行法は,受託者にこのような義務を定めておりませんが,積極的に受益者に対して信託財産状況等に関する報告をするよう受託者に義務づけることは,受益者の監督権能を実効的なものとする上で効果的であると考えられます。


そこで,あくまでもデフォルト・ルールとしてではございますが,信託財産の状況及び信託の収支に関する書類のカテゴリーにつきまして,その内容についての提供義務を規定することといたしております。

  最後に提案の3ですが,これは受益者等の閲覧・謄写請求権及び説明請求権に関するものでございます。

  先ほど申し上げましたように,現行法では信託債権者等の利害関係人にも帳簿等の閲覧請求ができることとされておりますが,提案3では,これを改めまして,(1)といたしまして,利害関係人が閲覧請求できるのは信託財産の状況及び収支に関する書類に限るというふうにいたしました。これは,現行の商法や中間法人法における取扱いとも整合するところでございます。


  その反面,この書面につきましては,その性質上,受益者の権利が害されかねない機微な情報が含まれているとはほとんど考えられないと思いますので,閲覧拒否が必要になる事態を想定した規律を設ける必要はないものと判断いたしました。これは,報告書におきましては,閲覧拒否事由を定めるか否かについて検討するとしていた点につきまして,消極に結論したものでございます。


  なお,特に悪質なケースは,権利濫用等の一般条項を用いて排除することもできると考えております。


  これに対しまして,(2)でありますが,これは信託事務に関する帳簿と,それから信託事務に関する重要な書類というこの二つのカテゴリーにつきましては,受益者以外の利害関係人には閲覧・謄写請求権を認めず,最も利害関係が深く,監督権能も付与されている受益者のみが閲覧・謄写請求できることとしたものでございます。この受益者のみができるという点は,説明請求権についても同様でございます。

  なお,受益者が受託者に対して閲覧・謄写請求又は説明請求をするに当たっては,その理由を明示することを要します。


これは,請求の理由が明らかにされないときは,受託者としてはいかなる書類を出すべきかが分からない,あるいは後に説明する請求拒否事由があるか否かについて適切に判断できないという問題があると考えられるからでございます。


もとより,この理由の提示に当たりましては,あくまでその請求の対象と理由を明らかにすれば足りるのでありまして,それ以上に請求を裏づける事実の立証が必要となるわけではないのであって,実質的に閲覧請求権等を制限する根拠とはなり得ないものと考えております。

  最後に,(3)でございますが,これは(2)において受益者から閲覧請求等があった場合の拒否事由を明定したものでございます。


現行法では,特段,拒否事由を定めておりませんが,受益者が多数の集団信託などにおきましては,一部の受益者の濫用的な閲覧請求が他の受益者の利益を害する場合もあり得ると考えられます。


その反面,受益者による信託事務の処理に関する監督権行使のための基本的な権利である帳簿閲覧請求権等について,これが恣意的に排除されてはならないと考えられます。そのような双方の観点から,受益者が請求を拒否できる事由を明文をもって限定的に列挙したものでございます。


  拒否事由のうち,①から⑥というのは,株主の会計帳簿閲覧請求権に関する拒否事由を定めた現行商法293条ノ7を参考としたものでございます。


  これに加えて,⑦といたしまして,請求した受益者以外の者の利益を害する等の弊害を排除する観点から,受益者の権利の確保又は行使に関する調査にとって必要と合理的に認められる限度を超える請求が行われたときには,閲覧請求等を拒否できるとの規律を新たに設けることといたしました。


このような拒否事由を新設することにつきましては,基準として不明確にならざるを得ず,受益者の閲覧請求権等が必要以上に制約されるおそれがあるとの観点から反対する考え方もあり得るかとは思いますが,しかし他人の情報にも関連する書類の閲覧請求に対しまして,請求受益者にとって権利の確保又は行使について合理的な必要性のない情報であれば,請求理由を踏まえ,①や②で拒否できるとは思うのですが,しかしこれらが必要性を伴うものである場合については,解釈によって適切に解決できるかは明らかではなく,そのため特に受託者が守秘義務を負うような情報の開示を常にしなければならなくなるというのも相当ではないと思われます。


そこで,当該請求によって受益者以外の者の利益を害するおそれのある情報が明らかになるときに限るという旨,情報の性質,内容を慎重に限定した上で,このような情報につきましては請求受益者側の調査上の必要性と請求受益者以外の者の利益保護とのバランスを考慮して,受託者が閲覧拒否することもできることを定めたものでございます。

  以上のような考え方につきまして,御審議をいただければと思います。
● それでは,「第21 分別管理義務について」,「第22 信託事務処理の委託について」,それから「第23の帳簿作成義務等について,これらについて御議論をお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。

● ここの部分につきましても,受託者にとって非常に重要なところですので,これも若干長くなると思いますけれども,御容赦願いたいと思います。


  まず,分別管理義務のところでございますが,分別管理義務の例外として,①のところの記載でございますが,「信託財産について信託の登記又は登録ができない場合において信託行為に別段の定めがあるとき」という表現になっているわけですが,先ほど○○幹事の方からの御説明であるとか,資料の<説明>のところを見ますと,基本的には登記・登録を免除するようなこともできる,ただしそれこそ明日にでも倒産しそうなときにはやらないといけないと,そういうような御趣旨だと思うのですけれども,ここの書きぶりを見ますと,常に,必ずやらないといけないというような形でしか読めないものですから,多分趣旨としてはそういうことではないと思いますので,書き方のところを何とかお願いできないかなというのが一つです。


  それと,あとは現行実務におきましては,固有財産と信託財産の物理的分別管理というのはかなり厳格にやっているのですけれども,信託財産間においては実施することが非常に困難な場合もありまして,合同で管理されているところも多いということでございますので,識別不能の規律というのも入っておりますので,信託財産間におきましては,信託行為の定めがなくても分別管理を要しないというような例外,そういうことを設けてほしいというような意見もございました。ちょっとここら辺は分かれておるのですけれども,そういう強い意見もあったということでございます。

  あとは個別のお話に移りますが,ここのアステリスクがついております根担保のところのお話ですけれども,これについても長年悩んできた部分でございますので,是非とも規律の決定の方をお願いしたいというふうに思います。


  あと,社振りとか保振りとかに今保管している場合が多いのですけれども,社振りの方につきましては,現物がなくなってしまって,ある請求権に変わったということですので,基本的にそこの分別管理については帳簿でいいというふうに理解しております。


そこから敷えんいたしますと,では保振りとどう違うのでしょうかと,保振りは混蔵保管していますので,そうするとそこの違いからいきますと,ベストエフォート的に考えると,いったん保振りから出して,それを分別管理するとかというようなこと,そこまでというのはないのじゃないかと思いますので,ここについても要するに帳簿という形での管理というのが認められてもいいのじゃないかなと思います。


  そこからまた敷えんいたしますと,今度は海外のカストディーとかに保管の委託をしたような場合,このような場合について,そこの保管先についてまで信託勘定間で例えば分別管理を求めて口座を分けるのか,そういう必要があるのかというようなところを考えますと,ここについても自らの管理下において分別する場合については分別管理というのは物理的な物が必要だと思うのですけれども,委託する分については帳簿の管理ということで何とか認めてもらえないかなということでございます。それが分別管理でございます。

  続きまして,信託事務処理の委託のところでございますが,これについては1番と2番ともに提案内容に違和感がないという意見が多数を占めたわけですが,ただ今般の提案で入った「相当な場合に」というところの部分と,あと2の(2)のところの「責任」,これがちょっと重いのじゃないかという意見が出ておりまして,ここの理由としては,基本的には他人に信託事務処理を委託することが常態であるようなことを前提とした規律ということからすると,ちょっと違うのじゃないですかという意見もありました。


大勢はこれでいいのじゃないかということが多かったのですが,そういう強い意見もございました。


  次に,3番の信託事務の処理を委託された者の責任ですが,これについては第1回目の部会の方で,私の方から意見を申し上げましたので,理由については前回申し上げたことに付加して若干申し上げたいと思います。


  乙案の賛成理由だったわけですけれども,今般は仮に甲案をとるとすればということですけれども,まず信託事務処理の全部又は重要な一部であることを知っている場合と知らない場合,そこで責任が分かれるということですので,受託者として考えた場合,やはりこういう場合には知らせないということになってしまうのじゃないかなということが一つ。

それと,重要な一部というのが委託先については非常に分かりづらいので,そこが非常に不明確であろうというのと,あとは現行法でもいろいろな議論があると思うのですけれども,受託者と同一の責任というのが解釈としてよく分からない部分がありまして,場合によっては受託者の義務をすべて負うのじゃないかというような解釈をされる方々もいらっしゃって,かなりそこら辺のところが不明確であるという部分もありますので,そういう意味合いで甲案については反対と。


乙案の賛成理由については,前回申し上げたとおりでございます。

  あと,「第23 帳簿作成義務等について」のところでございますが,これは受益者からの請求の拒絶事由のところ,これの⑦,多分ここの部分もかなり議論があるところだろうと思いますが,「受益者の権利の確保又は行使に関する調査にとって必要と合理的に認められる限度を超える請求が行われたとき」,この要件を是非とも維持していただきたい。


  あとは,この括弧の中の「受益者以外の者」という「者」の中には,受託者というものも入っているのではないかというふうに私どもの方は解釈しておりまして,受託者の営業上の秘密という部分についても,やはり我々にとって非常に重要なものでごさいまして,受託者にとって利益を害するおそれがある情報でございますので,この規律については是非とも維持していただきたいということでございます。

● ほかにいかがでしょうか。

● 32ページの「第22 信託事務処理の委託について」について,2点,質問と意見を述べさせていただきたいと思います。

  非常によく考えて,工夫してつくられたものだというのはよく分かりまして,なるほどと思った次第ですが,その上で質問がまず第1です。

  1の「信託事務の処理を委託をする権限」で,前半が「受託者は,他人に信託事務の処理を委託することが相当な場合には,他人に委託することができるものとする。ただし,信託行為に別段の定めがある場合には,この限りでないものとする」と,この「相当な場合には」という部分というのはある種総合的な判断をせざるを得ないのだという御指摘で,その際には委託者がどういう期待を持ってこの信託をしたのか,あるいは事務の内容,そしてまた委託先の能力等々というのを総合的に考慮するのだということをおっしゃったと思うのですが,そうしますと,この「相当な場合」の判断をする際には,どのような信託事務を委託したのかということが,そして信託事務を委託する際にどのようなことが約束されたのかということがかなり重要な,あるいは恐らく決定的な意味合いを持ってくるのではないかと思われます。
  

そうしますと,この「ただし,別段の定めがある場合にはこの限りでない」というのが,両者の関係が極めてよく分からないところでして,相当な場合だとされつつ別段の定めがあるのでだめだというのがどうして出てくるのかというのがもう一つよく分からないところです。


信託事務そのものの性質と,それ以外の,その性質とはかかわりなく行われた特約というのを分離して考えておられるのだろうとは予想はするわけですけれども,ただこの種の信託事務の処理については,そしてこういう期待のもとでその受託者に委託しているという場合については,受託者が自分が行うとしかこの信託行為は解釈できないというような場合は,何かこの本文ただし書は一体的に判断される場合ではないかなと思われますので,この本文とただし書の書き方というのは,ちょっと分かりにくいなというのがまず第1点です。


  それから第2点は,それとも関係するのですが,これは証明責任をどう考えておられるのかということを確認させていただければと思います。

  これは二つ考え方があり得まして,一つの考え方は,委託者--受益者でもあり得るのかもしれませんけれども,責任追及する側がこういう信託行為を行い,しかし受託者が他人を使ったということで損害なり損失なりが発生したということで責任追及をしていく,それに対して受託者側が,他人に委託することに相当な理由があったのだということを主張立証し,かつ,その選任監督に過失がないのだということを主張立証するというのが一つの可能性として考えられる。

  もう一つの可能性は,責任追及する側がこういう信託行為を行い,かつ,しかも受託者が他人に委託した,しかもそれに相当な理由がないというところまで主張立証して初めて責任追及できるのか。


しかし,この考え方をとる場合にはもう一つの請求があり得て,相当の理由をも争わずに,あるいはそれはあるとせざるを得ないような場合でも,信託行為をし,他人に委託し,かつその受託者が選任監督に過失があるということまで含めて責任追及していくと,こういう可能性がもう一つある。どちらでお考えなのか。


  先ほどの御説明を聞いていますと,どうも第1の考え方をベースに考えておられるのかなというふうに思ったわけですけれども,その限りでは多分証明責任の分配は現行法のもとでと変わらないというふうにお考えなのかなと思ったのですけれども,その点をちょっと確認できればと思います。


● まず後半の点ですが,おっしゃるとおりで,我々としては相当の事由があったということを受託者の側が立証しなければいけないというふうに考えているところでございます。

  それから,もう一つの書きぶりが分かりにくいということでございますが,御指摘がありましたとおり,相当な場合は委託できるわけですが,信託法に別段の定めで委託は絶対できないと禁止されている場合には委託できないということでございます。


● 証明責任が第1の考え方だということで分かりやすくなったのですけれども,そうしますと,もう一度言いますと責任追及する側が信託行為を行い,しかし受託者が他人を使った,それで損失で責任追及すると。

それに対して受託者側が,使うことに相当の理由があるのだと,かつ選任監督にも過失がないのだということを言った上で,その上で,では委託者の方が,いや,別段の定めがあるじゃないかということを言い出すのでしょうか。


● それはつまり,違法な委託になるわけですね。

● はい,だからそれはすごく妙な感じがするのですが,いかがでしょうか。
  この本文とただし書の書き方というのは,今私が言いましたような証明責任の分配をどうも想定せざるを得ないような書き方かなと思うのですけれども。何か妙ですよね。


  といいますのは,この信託事務の処理については相当な理由があると,第三者に委託することについてと。しかし,その上で,いや,別段の定めがあるというのが出てくる。それが明示の定めである場合は比較的分かりやすいのですけれども,そうでない場合もあり得ますよね。


黙示の特約というのがあり得ますね。そうなってきたときに,何かちょっと重複しているのじゃないかな,妙な感じがあるなというのが私の一番最初の疑問です。


● 委託したことでまず請求原因になりまして,抗弁が相当な事由があったと,それをつぶすために今度特約があったというのが,再抗弁ですか,出てくる。そういう筋書きではないかと思います。


● 分かりますけど,内容的に大幅に重なりはしないかというのが質問の趣旨です。

● おっしゃるとおりのことは,ちょっと内容的に重なるところがありますね。構造的には,証明責任の分配としては一応説明できる。

● 現行法ではどうなっているかというと,相当の理由が,最初の御説明にもありましたように「已ムコトヲ得サル事由」というのが一つあって,それ以外に,「已ムコトヲ得サル事由」があるというふうに抗弁する可能性以外に,そうではなくて,信託行為によって他人を使うことが許されているという抗弁を受託者の方がするというのが現行法の証明責任の分配になっていて,それを変えられるのかということですね。


● 基本的には第三者への委託は自由な方向になっていますので,信託行為の別段の定めというのは今おっしゃった許可ができるという場合ではなくて,むしろ許可されていない場合というふうに考えておりますので,そうすると確かに証明責任の観点から不明瞭な部分が生じてくるというのは御指摘のとおりかとは思いますが,ここでの定めというのは,受益者の側から信託行為で禁止されている場合であるということを立証してもらうということになるのかなと考えておりました。

● 一見,証明責任の細かい分配のように見えて,実は基本的な考え方が問われているところで,要するに何が言えれば請求できるのか,何が言えれば責任を否定できるのかという考え方が問われているのですね。


  それで,現行法の考え方というのは,もともと他人を使ってはいけないという条文になっていますので,それで使った以上は責任追及できる。


それに対して「已ムコトヲ得サル事由」だとか,あるいは信託行為で別段の定めがあるから使えるのだよと,そういう形で立ててくるのですね。


そこがちょっと……,うまく考えられたところはあるのですけれども,やはり詰めて考えるとなかなか難しいところがあって,そこの整理が多分問われていて,そして一番難しいのが今の「別段の定めがある場合」というのをこういう形で書くと,そのあたりのごまかし切れないところがあらわれてくるのかなというのが質問の趣旨です。何度も申し訳ありません。


● 持ち帰って検討いたします。


● 今回の案は,一応現行法と違って「相当な場合には」という条件がありますけれども,一般的に許容するという前提のもとで,今の○○幹事の説明ですと信託行為で「別段の定め」というのを,今度はそれを一般的には認められる場合だけれども,更にそれを特約でもって制限している場合を指すのだという構造なわけですね。

● 関連して,よろしいですか。質問です。
  今の御発言の応酬と前提が違うのですが,信託行為に別段の定めというのは,処理を委託することができる場合を列挙しているケースではどういうふうに考えられるのか。それは「相当な場合」に含めて考えるのでしょうか。


  私は,卒然と読んでいたときには,「別段の定め」は両方あるかもしれないし,あるいは正に委託可能なことをリストアップしていれば,相当かどうかのテストを経ずにオーケーということは当然に含まれるだろうと思っていたのですが,今のお二人の話では,どうもそこには触れられずに,反対の方だけ議論がなされたのかと。


● 恐らく,これは,「できる」と書いてあれば,それは相当なテストは経ずにオーケーだと思います。逆に,書いてあるということは書いてないものがあるわけで,それをやったときにはやはり原則禁止ということになるのではないか,表裏あるのかなという気がいたしますが。


● 「別段の定め」には両方あるわけですね。

● あり得ると思います。
● 本文を中心にして,両側に別段の定めを置くことができると。

● あるけれども,かねて○○幹事が,重なる部分というのが両方同じ方向で,認める方向の「別段の定め」の場合に重なってしまうのじゃないですかねと。

● 今の御指摘,本当は言いたかったことの一つなんですが。
  ということは,受託者側で相当の理由があるということと,もう一つ別に,信託行為で使うことが許されているという抗弁も認めるという御趣旨なのでしょうか。そうすると,同じ事実が二つ,抗弁と再抗弁に出てきてしまうのではないでしょうか。


  考え方としては,○○幹事が言われたのは,現行法の基本的なベースに近い形でおっしゃったのかなとは思うのですけれども。そして,実際に信託行為においてこういうことができるよと書くというのは,むしろ望ましい姿だと思いますので,こういう約定がある以上はできるのだというのが抗弁に出てくるというのは素直かなと,私なんかは思いはするのです。それがベースで最初の質問をさせていただいたわけですけれども。

● これは,必ずしも挙証責任のことまで十分考えた上での文言ではないような気がしますけれども,ただこうやって本文があってただし書になっていると,○○幹事が言われるようなことがあって,両者の関係が正に重なったりするので,そこはちょっと嫌ですね。


● 今の○○幹事と○○幹事の御質問で,大体私のお尋ねしたいところは分かったのですけれども,ちょっと思っていましたのは,当初の案が信託行為に別段の定めがない限り他人に信託事務の処理を委託することができるということで,もともと原則自由ですよということの当初の案があったのが,今回,今ありましたように,相当の事由がある場合ということでいったんハードルが高くなって,それから私の方としては緩められる,若しくはまた更にハードルが高くすることも両方可能なのかなというふうな理解をしておったのですけれども,そういうものと,それからもう一つ,もともとここの部分の見直しというのが,信託事務処理を委託することが常態化しているという現状にかんがみということだったと思いまして,流動化を始めとして実際に事務処理をいろいろなところに委託している実態からいきますと,どうも相当な事由があるときというのでここに例示されているように,受託者より能力が高いとか,時間とか処理コストがかからないとか,後の方にはかなりかかってくる,対象となる部分はあると思うのですけれども,前段の受託者の能力の高さに着目して云々ということになってしまうと,幾ら安くてもやはりだめなのかなというところもありますので,ここはちょっと,かなり最初の案を見たときからすると違和感があって,もうちょっと当初の形に戻した方がいいのかなというふうな意見を持っていたのですけれども。

  特に,受託者の機能,受託者に対する委託者の信頼とか期待といった部分については,そこまで考える必要がないのかどうなのか,ちょっとお聞かせいただければと思うのですけれども。


● 基本的には,どういう場合に外部にといいますか,受託者が仕事を外に委託できるかというのは,やはり期待といいますか,最初は両当事者間の契約関係で決まるのだと思いますけれども,ここでのルールというのは,しかしそうは言っても基本的なスタンスとしてどういうのを設けるか,現行法のように原則はだめだということを明確にした上で,別段の定めがあればいいというふうにするのが出発点だったわけですけれども,それを前回,報告書の方で大幅に原則と例外を変えて,全部自由にした上で善管注意義務の問題にしたと。

今度は,少しそこが全部完全な自由じゃなくて,「相当な場合」というハードルをつけた上での自由なんですね。しかし,そうは言っても基本的には自由な立場で,ですからもし全面的に自由にすべきだという立場からすれば,一種のハードルを高くしたということはおっしゃるとおりです。


  先ほどから問題となっておりますように,「相当な場合」ということでどういうものが入ってくるかというのと,信託行為の「別段の定め」ということで,それがどういうふうに原則に対してかかってくるか,これが現行法とは逆--逆という言い方は正確じゃないかもしれませんが,現行法は別段の定めでもって,いわば原則禁止を許すような形になっていますけれども,今度はちょっと違うので,条件つきでもって許されているものがあるので,それをもうちょっと広げるという場合もあるでしょうし,狭めるという場合もあるでしょうし,ちょっと「別段の定め」というのがいろいろな機能を果たすのですね,そこは少し複雑になっているかもしれません。

● 同じ第22に関連してなのですが,3の委託された者の責任ですが,これは全く独立の話なのでしょうか。


それとも,1において相当性を判断するのに,どういったタイプの契約で第三者に委託するということならば認められるというふうな形で入ってき得る話なのだろうかというのが,まず1点,気になるところです。


とりわけ,○○委員がおっしゃったように,では,なるべく伝えないようにしておけばいいですよねみたいな話になりますと,あるいは相当性というものを責任の減免特約と無関係に判断できるのかというと,それも何か怪しいような気がするというのが第1点です。


  第2点は,ちょっとそれとは話が違って,そこら辺がうまく整理ができた上に委託された者の責任というものが問題となったときなんですが,私は甲案の(1)の「全部又は重要な一部であることを知って」というのは,認識とかそういう問題じゃないような気がするのです。

つまり,受託者の職務というものをシェアして,自分も受託者の任務を負ってやるのだというふうに第三者が考えている場合には受託者としての任務を負うけれども,例えば信託専業会社ができて,そこから頼まれたらそれは信託の一部だろうというのが分かってしまうわけですが,分かったからといって突然郵政公社がその郵便物の分別管理義務を負うわけではないわけですから,知っている・知らないの問題じゃなくて,委任の趣旨みたいな問題じゃないかなと思うのですが。

  二つ話しましたが,かなり性格の違う話なのですけれども。
● 前者は関連させない方……。関連させると,非常に厄介なことになると思うけれども。減免していることを考慮の要素に入れて,相当な場合かどうかというのを判断しろということになるわけでしょう。そういう形じゃない話。


● それは,どちらかというと善管注意義務のところで判断するのですか。つまり,運送業者を使うのは当たり前である,それは当然であると。


ところが,きちんとした義務を負う,それで保険がかかっている業者と,自己のものと同一の注意しか負わないという約束のもとの運送業者がいたというときに,後者にするのは,それはこの違反ではないけれども善管注意義務違反になり得るということなのですかね。


● 少なくとも,外部に委託することができるかどうかの基準としての相当性の中には,今のような契約の内容そのものは入ってこない。

これは一つの整理の仕方ですけれどもね。その上で,今,○○幹事が言ったように,しかしそうは言っても使った運送業者との間の契約関係が適当じゃないというときには,それは善管注意義務の問題にもなるでしょうし……。


ちょっと,どこで拾ったらいいか分からないけれども,少なくとも外部委託できるかどうかというところの基準で扱うのは,何か違うものというか,いろいろな別な要素をたくさん持ち込んでしまうことになって,非常に判断が難しくなりそうな……。


● 業者を選ぶというのもここに入らなくて,証券を購入するということは当該受託者には直接には難しい行為であると。ということになりますと,どんな証券会社でもそれはいいと,1はクリアして。それの選任が悪いとき……。そうか,選任の義務で……。


● 問題になるのだね。
● なるほどね。1はクリアするけれども,選任が悪いからだめだということになるのですか。


● だめだというのは,どこでだめだと言うかでしょう。第22のところでだめだというのか……。
  基本的には,外部委託の場合にも……。これは,2の受託者の責任のところの選任監督義務,そこで判断すればいいのかな。


● 2も,一応善管注意義務から派生してきているものとされておりますので,2の方で判断していくのかなという気がいたします。

● 今言われたもう一つは,何でしたか。

● 甲案の(1)に関して,知っている・知らないの問題じゃなくて。

● それは,おっしゃるような気がするけどね。


● 確かにそうです。重要な一部ですかね,証券の保管を委託するわけですから。そこについては,しかし(2)で正当な理由があるときは減免特約をするという方向で対処できないかなという気はいたしましたけれども。

  およそ第三者は,そんな委託は受けないでしょうから,そういうときには(2)で。

  一応(1)であると,受益者に対して責任を負ってしまうわけですが,受託者が正当な理由があるものとして責任の減免特約をすれば,そうすると第三者は受益者に対する直接の責任はなくなりますので,そういう二段構えでの対処の仕方はあるのかなというふうには考えておりましたけれども。「知って」を緩く解釈すると,ですけれどもね。


● 現行法がどういう考え方でできていたかといいますと,要するに委託者は受託者に対して一定の信託行為をしてくれということを頼んだわけですから,当然信託事務を処理することについての責任は問えるはずだと。


ただ,受託者が選任監督上の責任に限定される場合が一定の場合に発生するとするならば,その限りで問える責任が少なくなってしまうので,それはおかしいはずだと,もともと信託事務の処理を頼んだのだから,だから更に委託された第三者については,受託者と同じ責任を負わせないことには,委託者のもともと持っていた地位が害されることになってしまうという発想でできた規定だと思いますね。


そうすると,今の○○幹事の御指摘というのは全くそのとおりでして,要するに選任監督上の責任に限定されるということと,更に再委託を受けた者が責任を負うという場合が,恐らく連動するというのが現行法の考え方だとしますと,この第三者の方が同一の責任を負うと,受託者と同一の責任を負う場合には,翻って選任監督上の責任に限られるものとしても,委託者との関係では別に問題はなかろうと。
  ですから,信託事務の処理をどうシェアするかということが,受託者と再委託を受ける者との間で,そこでの合意内容というのでしょうか,うまく分配されたときにそういう責任の分担が認められると。


そうじゃなくて,一方で選任監督上の責任に限られ,しかし再委託を受ける者には知らされないままで責任を負わないということになってきますと,本当に選任監督上の責任に限ってよかったのかというのが問われてくるところが,現行法の発想を前提にすれば出てくるのかなとは思うのですが,ちょっとそのあたりの考え方の整理が,乙案はともかくとして甲案でもちょっと見えにくかったなというのが最初にあるのですが。

  いずれにしましても,先ほど言われましたように,知っている知っていないという問題ではなくて,信託事務の処理をどう行うのかということが,委託者との関係でどう行うのかということ,そしてその組織づくりというのでしょうか,そこが非常に重要じゃないかなと思うのですが,いかがでしょうか。


● 恐らく,さっきの繰り返しになりますけれども,甲案でいろいろな処理の仕方を一応許容しているけれども,つまり第三者が全く同じ責任を負う場合と軽い責任を負う場合と,それを選択できるような形になっているけれども,ここに書いてあるだけだとそれが今の2のところの責任に結びつくのかどうかというのははっきり書いていないけれども,そこと連動させて考えるべきだという御趣旨ですね。それは,何かあってもよさそうな気がしますね。


● これは2の話ですけれども,委託することが相当な場合には,選任及び監督についてのみ責任を負うという規定にして,具体的にどんな場合なのかというのを33ページの方で見ますと,先ほど○○委員の方からお話があったように,二つ挙げられていて,受託者より高い能力を有する専門家を使用する場合,それからもう一つが特に高度な能力を要しない事務について,受託者が自ら行うより他人に委託した方が費用や時間などの点で合理的な場合と,二つ挙げられています。


これについて考えてみると,何か高い能力を有する専門家を使用する場合は選任及び監督についてのみその責任を負うというのがしっくりするような気がするのですが,もう一方の,こっちの方が安いよというやつだと,何か民法の履行補助者の責任のあたりとパラレルに考えたら,これは同じ責任を負う,選任及び監督に限定されない,結果について責任を負うという方が適切なような気がするのですね。


  例えば,花屋が花を自分で届けるよりも,宅急便の方が安いからといって,それで届かなかったら花屋が選任及び監督しか責任を負わないというのは,ちょっと実際とは違うと思いますので,その辺のところはいかがでしょう。

● ここは,今おっしゃったのとは少し違う考え方でできていると思うけれども,どうですかね。要するに,選任監督の責任に限定して,履行補助者の過失みたいな考え方をとらないという……。


  基本的には,こちらの方が安いよということでもって選ぶのも,少なくとも第1の要件,「相当な場合」という前提は満たす必要がありますけれども,そういう範囲内では受託者としては自由に外部に出すことができると。

● 外部に出すのは自由でいいのですけれども,責任は負うと。

● 責任は負いますけれども,そのときの責任は,しかし選任監督というのがここでの一応の考え方ですね。それでは足りないのではないかというのが,今の御意見ですね。

● 口を挟んでいいのかどうか……。
  やはりアメリカその他では,そういう区分が結局はできない。今のような例だと分かりやすいのですけれども,やはりグレーのところがあって切れないので,一つのルールでということになっているということです。参考までに。


● 選任監督というのは,一応1の要件のところでもって外部に出していいという前提はクリアしていますので,あとは実質的に監督あるいは選任についての過失があれば責任を負いますよというのがここの考え方ですけれども,履行補助者という考え方になってくると,そういうことに関係なく,全面的に責任負いなさいという,そういう考え方ですよね。それはあり得なくはないのかもしれないけれども,一つはやはりより当事者の選択というか,自由な契約による選択というものを許すスキームとして考えていこうと。

  もともとの案は,もっと広く,基本的には受託者の善管注意義務の問題として考えればいいだろうということで,そういう考え方に基づいていますので,それ自体が適当でないという御意見としてはもちろん分かりますけれども,ある種の一つの大きな選択,どっちでいくかという大きな選択の問題ですね。


● 一連の議論での補足なのですが,「知って」というところは適当でないということを述べたいわけですが。

  甲案にすべきか乙案にすべきかということは別として,「知って」ということになりますと,棚からぼたもちといいましょうか,結局その受任者がそれを知っているか知っていないかという偶然で受益者に対しての効果は変わってくるということは,果たして受益者が期待したことだろうかということと思います。


ですから,そういう規律ということよりは,そもそも今回第22のところでは結局1のとおり規律したわけですから,現行法規と対峙する1のようにデフォルト化したわけですから,仮に委託者が受託者に対してある程度のアウトソーシングについても責任を持てよということであれば,この「ただし」のところでの別段の定めのところに,そのように例えばアウトソーシングするのであれば,一つのテクニカルな話なんですけれども,アウトソーシング先の債務不履行というのは,もちろん一義的な受託者に損害賠償請求しろということもありますし,直接的に,情報的な問題があるかもしれませんけれども受益者に対して直接請求することもできるというようなことを書くことを条件として,アウトソーシングを認めるというようなことを信託行為に書けばいいのではないかと思っております。
  


よって,別に受益者,又はこういう「知って」ということになりますと,先ほどから出てきますように,結局アウトソーシングを受ける先からすると,信託銀行から受託をするのだから,後で「知って」というふうに言われないかどうかということもあるわけですので,ちゅうちょするという,シュリンクするような効果も出てくるわけですから,そういう意味もあわせ考えますと,そもそも「知って」ということについて一つのメルクマールとすることはどうかなと。


むしろ,もし直接的に受益者に対しても責任を負うというようなことを隠したいということであれば,この「知って」ということではなく,○○幹事とはちょっと議論が違うかもしれませんけれども,その一部であることについてその責任を引き受けてというようなこと,契約はちょっと難しいと思いますけれども,そういうようなアウトソーシング先のある意味の委任契約に際しての契約意思ということを図って隠した方が,関連した当事者の意思にかなっている,期待にかなっているものではないのかなと思います。

● なかなか難しいのは,1,2,3がみんな関連しているのですよね,全体の仕組みをどう考えるかと。


3のところは,これは委託された者の責任ですから,ある意味で受託者から仕事を任された人間がどういう責任を負うのかというのが分からないようなルールは困るだろうと。

それから,○○委員が言われたような問題もありますけれども,少なくともまず第1にはどういう責任を負うか分からないというのは困るだろうということで,この原案では信託事務の処理の全部又は重要な一部であることを知っていて委託を受けた場合というのは,信託の一部を分担しているということになるので,そういうときには受託者と同一の責任を負わせても構わないのではないか,そういう考え方でできているわけです。


ただ,そういう考え方で説明するにしても,ただ「知って」というのではやはり足りないのではないかというのが,今の○○委員のお話だと思いますけれども,そういう意味でやはり一部分担するのだ,引き受けるのだというような意思があるということで,受託者と同一の責任を負わせるというのがいいのではないかという御意見だったと思うのです。それは,一つあり得ることですね。

  ただ,そういう考え方をとったときに,(1)と(2)との関係がどうなるか,矛盾はしないのかもしれないけれども,どうなるのかというのをもうちょっと詰めた方がいいかもしれませんね。
  

それから,先ほどから問題となっている履行補助者の問題もそうですけれども,履行補助者の場面というのはやはりちょっと違うかもしれないと思うのは,ここでは信託の事務の処理の委託の場合には,少なくとも処理を委託されるいわば第三者といいますか,最後の委託された者ですけれども,ある意味では履行補助者に近いような見方をすることもできますけれども,基本的にはこういう委託をされる者というのは独立のもので,独立の責任を負うという前提で恐らく考えているのだろうと思うのですね。


そういう意味で,三者の間でどういう形で分担したらいいかということを考えなくてはいけないという意味で,1,2,3というのが全部関連している。

  その上で,どういう原則でやっていくのか,ちょっと繰り返しになりますけれども,私の勝手な整理だけれども,やはり一応相当な場合という要件をクリアすれば,他人に事務を委託しても構わないのですというところから出発してどうなるか。


そこで,○○幹事が言われた従来との比較ですけれども,ちょっと微妙かもしれないけど,一定の場合には,相当な場合には信託事務を処理を委託しても構わない,そういう意味では受託者あるいは受益者からすると,全部を受託者がやるということを最初から期待してはいけないという--ちょっと言い方は強過ぎるかもしれませんけれども,そういう制度のもとで考えると,それでまず1がクリアされて,2のところもクリアされたときに,2と3が連動しない形で,つまり選任監督だけの責任なのに3のところでもって甲案で(2)というのが出てくる可能性が,論理的には一応あり得る。


  余り納得されないかもしれないけれども,従来の考え方と少し違う。今までのは,信託の場合には受託者がすべて必ずやらなければいけなくて,それに対する全面的な期待が委託者側にあったのが,そこが保証されていないというところがちょっと違うのじゃないかと思うのですけれども。


● ちょっと別の話になりますけれども,よろしいですか。
● 余り時間がなくて,申し訳ないけれどもできるだけ手短にお願いします。

● 21,22,23と,キーワードは強行規定,任意規定という話なのですけれども,21は○○委員がおっしゃったことと関係があって,分割管理義務について最低何が強行規定なのかというと,帳簿上の分別というのはもう強行規定ですというお話があって,それだけと言ってもいいですか。

● 登記・登録も。
● それでは,○○委員の趣旨とは違って……。


● 絶対的な登記・登録ではなくて,いざというときには登記・登録をする。そういう柔らかな義務ということになります。

● 分かりました。
  それから,22の今の話とはちょっとあれなのですが,これ強行規定はどこなんだろうと思うと,2の(2)はこれは強行規定ですか。

  それから,3のところも甲案は強行規定ではないですよね。外すことができるのですから。ただし,「正当な理由があるときは」というので,ここの外し方だけ加重しているのですね。これはバランスとしてどうなのだろうかという,そういう点です。22は。私の方の観点は。


  23へ行きます。帳簿作成義務。この1の帳簿作成義務は,これはきっと強行規定だという趣旨ですね。

  それから,2の情報提供義務は「信託行為に別段の定めがない限り」とあるから,これは強行規定から外していますね,任意規定で。

  今度3ですね,「利害関係人は」何とかかんとかというの,これ強行規定ですか。それとも信託のスキームのつくり方で,利害関係人にもう少しプラスの権利を与えてもいいという趣旨ですか。あるいは,全然なしということは--全然なしはなかなか難しいのかもしれないけれども。

  それから,むしろ普通にアメリカで問題になっているのは次の受益者が説明を求めることができるというか……,とにかく請求権のところで問題になるのは三つ。


一つは,信託のそもそもスキーム,信託証書あるいは信託情報というのか,それが全部私に開示してくれますかという話が一つですね。

それから二つ目が,実際に信託が動き出して,信託財産の管理運用の状況を知りたい。三つ目が分配のところで,これは1と連動するのですけれども,実際に複数の受益者がいる場合に,私はここだけもらっているのだけれども,隣の細野委員はこんなにもらっているということを知ることができるかどうかみたいな話なのですけれども,これは何か,帳簿等というところへこの三つを全部入れ込んでいるのか,ここでは何か信託財産の管理運用のところだけが表に出てきているものだから,どこまでを含んで情報提供義務とか説明とかいうことを言っているのか。


  これ,民事信託ではすごく問題になるのですね,だれが受益者で,私のお兄ちゃんの方が私よりいっぱいもらっているとかいうような話があって,だから情報提供義務を制限しようという話があり,しかし一方ではやはり強行規定として情報提供はやらんといかんというのがあって,最大のジレンマになっているものですから,ということです。


● 今のは,結構難しい問題かもしれませんね。要するに,基本的には受益者が自分の受益権について知る権利があって,それを評価する,自分の受益権はどういうものであるかということを評価するためにほかと比較しなければいけないというときですね。

ちょっと理論的にかなり難しい問題のような気がするのですけれども。

● 細かいことは復習させていただきますが,一言で言えば,帳簿閲覧請求権というのは非常に重要な権利だと,権利保全のための重要な権利だと考えておりますので,基本的には強行規定であるというふうに考えておりまして,2の情報提供義務だけはほかの方法もありますので,これは任意規定ですが,3とかの利害関係人であれ受益者であれ,これは単独の権利で,かつ強行的なものであると。だからプラスするのは構わないとしても,これを削減する方向に行くのはだめだというふうに考えております。


● その上で,「帳簿等」というところに何が入るかという問題ですね。では,これはもうちょっと考えます。

  まだ御意見がおありだったかもしれませんけれども,時間が来てしまいました。また今回の積み残しがありますので,次回の冒頭にでももし御意見があれば伺うということでよろしいでしょうか。
  それでは,今日はどうもありがとうございました。

 

 

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第5回会議 議事録

第1 日 時  平成16年11月19日(金)  自 午後1時03分
                        至 午後5時06分

第2 場 所 東京高等検察庁会議室

第3 議 題
   信託法の見直しに関する検討課題(3)について

第4 議 事 (次のとおり)

議    事

● それでは,今日も何回かに分けて議論していきたいと思いますので,その分け方も含めまして,○○幹事に説明をお願いします。

● それでは,本日のテーマでございますが,先回積み残しをいたしました受託者の権限の問題をまず最初にやりまして,それから本日のテーマを幾つかに分けてやりたいと思います。

まずは,受託者の有限責任に関する問題をやりまして,それから補償,報酬の問題,それから差止め,検査役,法人役員の連帯責任の問題,最後に受託者の解任等及び合併・会社分割による受託者の変更の問題と,大体五つに分けまして,この順番でやりたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

  では,私の方から,まず最初に,前回の資料で積み残しとなりました「第33 受託者の権限について」と「第34 受託者の権限違反の行為等について」につきまして,提案の中身を概略説明したいと思いますので,よろしくお願いいたします。
  まず,受託者の権限でございますが,第1回会議でも御説明しましたとおり,受託者の権限といいますのは信託財産の管理又は処分に限定されるわけではなくて,信託行為に定められた目的の達成のために必要な行為であればこれを行い得るものと考えております。

  ところで,受託者は信託目的の達成のために必要な行為を行い得るからといいましても,例えば,利殖を図ることを目的とする信託に係る信託行為において投資対象の財産について限定が付されている場合のその限定でありますとか,あるいは,共同受託者全員の承諾を要するなど受託者の権限の行使方法についての制約が課されている場合におけるその制約,こういうものは権限に対する制限であると解すべきことになると思われます。

この点は第1回会議でも指摘されたところでございます。

そこで,今回の提案におきましては,御覧のとおり,甲案,乙案と書いてございますけれども,この趣旨を明らかにするために両論併記としております。


  甲案というのは,「信託行為の定めに従い」という文言を挿入したものでありまして,乙案というのは,ただし書の方で,「信託行為に別段の定めがある場合には,この限りでない」と規定する方法によったものでございまして,実質的には書きぶりの問題ではございますが,検討すべきは,信託行為の定めと申しましても,信託目的も形式的には信託行為の定めの中に含まれますので,意味がダブってしまうのではないかという懸念があるところでございます。

そのような観点から,本文で「信託行為の定めに従い」とする甲案と,ただし書に記載する乙案とのいずれが適当かということを御審議いただきたいと思っております。


  なお,アステリスクで記載した点及びその説明につきましても報告書と同一でございまして,かいつまんで申し上げれば,緊急のために必要があるときは借入れを行うことができる旨を確認的に規定すべきであるとの見解,あるいは,借入れや信託財産に対する担保権の設定等の行為は信託財産に対して危険を与えかねない行為であることから,これは特別に規制すべきであるとの見解,このような見解を前提として,これらの行為に関する特別の規定を設けるべきであるという考え方もあるかと思います。


もっとも,これらの行為を技術的に特定できるかについて検討することが必要になりまして,例えばデリバティブというようなものも入ってまいりますと,具体的にその性質を有する行為を包括的に規定することはなかなか難しくなってまいりますので,それであれば,むしろ受託者に対する善管注意義務,忠実義務に委ねるべきであるとの考え方などもあり得るということを指摘させていただいた次第でございます。


  続きまして,「第34 受託者の権限違反の行為等について」というところの説明に移らせていただきます。

  現行法31条によりますと,受託者による信託の本旨に反する信託財産の処分行為につきまして,一定の場合における受益者による取消権に関する規定を置いております。

  そこで,まず提案の1でございますが,第1回会議でも御説明いたしましたとおり,受託者の信託違反行為については現行法と同じく取消権構成をとることとした上で,次に述べる5点につきまして検討ないし変更を加えたものでございます。
  


まず第1に,現行法においては,取消しの対象は処分行為としておりますが,ここでは,54ページの下から二つ目の段落に記載しておりますが,処分行為であるか否かにかかわらず,当該行為が受託者の権限に違反したものであるか否かを端的に問題とし,権限違反行為であれば,悪意又は重過失の第三者に対しては受益者は当該行為を取り消すことができるものといたしました。


  第2に,現行法におきましては,信託財産に対する登記・登録制度の有無により取扱いが異なるものとされておりますが,ここでは,56ページの第2段落に記載いたしましたとおり,登記・登録を問題とすることなく,第三者において受託者の行為が権限違反行為であることについて悪意であるか否かを問題とすることにいたしました。


  第3に,56ページの第3段落に記載してございますけれども,前回,第18で信託事務遂行義務というものを提案いたしましたが,そのような受託者,受益者間の対内的な関係と異なりまして,対外的な第三者との関係での受託者の権限の有無が問題となる局面であることにかんがみまして,ここでは「信託の本旨」という表現は用いないことといたしました。


すなわち,受託者の対外的権限の範囲については,第33の説明で申し上げたとおり,信託行為の定めに従い明確に定められることになるわけでございます。

  第4に,提案1の文言にはあらわれておりませんけれども,55ページの末尾から記載しましたとおり,この提案における取消しというのは,信託財産に対する効果帰属を否定するという,いわば相対的取消しにとどまるものではなく,権限違反行為自体のいわば絶対的な取消しでございまして,第三者としては,信託財産に対する効果帰属を主張できなくなることはもちろん,受託者の固有財産に対する効果帰属も主張できなくなるものと考えております。


  第5に,54ページの最後の段落から55ページの上段にかけまして,第1回会議での御議論も踏まえまして,第三者が保護されるための主観的要件につき検討いたしました。

その結果でございますが,受託者は信託財産の名義人であり,外部からは完全な権利者と見えることにかんがみまして,第三者の軽過失までは問わず,原則として第三者の善意・悪意のみをもって判断基準としつつ,重過失については悪意と同視し得るものと考えまして,結局,悪意又は重過失の第三者に対しては取り消し得ることとしたものでございます。


  以上の5点について,このような結論に至った理由につきましては今回の資料に詳しく記述させていただいておりまして,第1回会議でも簡単にではありますが御説明したところでございますので,本日での口頭での説明はこれ以上は省略させていただきたいと思います。


  なお,受託者は信託財産に効果を帰属させる意思であったが,取引相手方としては受託者個人と取引していることを認識しているにすぎず,それ以上に信託財産に効果を帰属させる取引であるとの認識までは有していなかったという場合はどうなるのかということにつきましては,結論としては,第三者が受託者の権限違反について善意無重過失であれば,信託財産に効果を帰属させてよいと考えるものでございます。

  理由の詳細は資料の記述に譲りたいと存じますが,現実的な利益衡量だけを申し上げますと,受託者が信託財産に効果を帰属させる意思を有し,一方,取引相手方はかかる意思を有しない場合でありましても,仮に受託者の行為が権限内であれば取引の効果は信託財産に帰属し,取引相手が信託財産にもかかっていけることになります。そうでありますと,受託者の行為が権限外である場合であっても,同様の結論をとっていいのではないかと。

確かに,権限外であるということであれば受益者の利益が害されそうでございますが,他方において,取引の相手方も権限外であることについては善意無重過失で保護されるべきであって,権限の内外で結論を異ならせるようなアンバランスには至らないのではないかということで,このような結論を示させていただいたところでございます。

  続きまして,提案の2に移らせていただきますが,提案の2は,受託者の権限違反についての問題とはいわば別次元の,受託者と第三者の効果意思,認識の相違に関する問題でございます。

しかし,報告書において第34のアステリスク3として問題提起しておりました関係上,ここで議論をさせていただきたいと思っているところでございます。

第1回会議で申し上げましたとおり,受託者と第三者との間で取引の効果の帰属先について認識が異なる場合についての取扱いの規定がないということから生じる問題でございます。

  ところで,このような認識の相違につきましては,一つは,受託者は自己の固有財産に効果を帰属させる意思しか有していなかったが,取引相手方は信託財産に効果を帰属させる意思だった場合,逆に,第2の場合としては,受託者は信託財産に効果を帰属させる意思であったが,取引相手方は受託者の固有財産に効果を帰属させる意思であった場合と,そのように二通りあるわけでございます。


今のを具体例で申し上げますと,例えば,56ページの末尾から記載しておりますとおり,受託者は自己の固有財産に効果を帰属させる意思しか有していなかったものの,取引相手方は信託財産に効果が帰属する取引であると信頼し,かつ,取引の外観からしてもそのように信頼することに相当な理由がある場合において,当該第三者が信託財産にかかっていけるとするかという問題でございます。


  この点につきましては,例えば,借入債務負担行為につきまして,現行法16条の記述に従えば,相手方の善意にかかわらず,受託者の認識に従って,固有財産のみに効果が帰属する行為となりそうでございます。


その方が信託財産の安全性には資するわけでございますが,このような結論は相手方の期待を犠牲にすることになりますので,信託取引が敬遠されることになり,かえって受益者の利益に資さないことになるとも考えられます。


しかも,特に実務的に対処する必要性の高いと考えられます相殺の局面においてどのように解決するかという問題が生じてくることになります。

そして,仮に相殺の場合には取引の相手方の相殺の期待を保護することといたしますと,今度は単純な債務負担行為の場合と平仄が合わなくてもよいのか,あるいは相殺の場合には民法478条の準占有者弁済の規定の類推によって解決することができますので,その趣旨をここでは規定したものだから,特に保護されると相殺の場合は考えてよいのかと。


あるいは,相殺の局面ではなくて,単純な債務負担行為の局面におきましても,表見法理等により取引相手方の期待を保護することとするのか,それとも,民法の代理の場合と同じように,受託者に信託財産の効果を帰属させるという意思があるのであれば,表見法理によって信託財産に効果を帰属させるということも言えるといたしましても,そもそも受託者にこのような効果意思もないときには,表見法理によって信託財産に効果を帰属させるとも言いにくいのではないか等が問題になってくるところでございます。

更に1点付言すれば,商法504条によりますと,代理人には本人の効果を帰属させる意思しかない場合でありましても,相手方が本人のためにすることを知らないときは,代理人に対して履行の請求ができるとしておりまして,すなわち効果意思のない者にも請求できるとしております。


そのような考え方,効果意思のない者にも効果が帰属するという考え方をここでも応用することができるか,などの点が問題となってくると思われるところでございます。

  以上につきまして是非とも審議願いたいというのが,提案2の趣旨でございます。

  最後に,アステリスクの1,2の点につきまして,若干付言申し上げます。

  アステリスクの1でございますが,これは,取消権者につきまして,受託者の行為のチェックについてはまずもって受益者の判断を優先させるべきであるという考え方をとれば,現行法どおり受益者のみということでいいと思うのですが,受益者の利益を可及的に保護するという観点からは,委託者,他の受託者はもちろん,実際に行為を行った受託者自身も含めるべきかというのが問題となるところでございます。

ただ,特に自ら違反行為をした受託者がその行為を取り消すというのは信義則に反し妥当ではないという印象もございますので,更に検討することとしたいということでございます。

  アステリスクの2でございますが,これは,本来受託者個人にはかかっていけないはずの有限責任取引に係る取引相手方につきましても,受託者の行為が権限違反であるときには,受益者とのトラブルを避ける観点から受託者の固有財産に対する請求を認めることとするか否かにつきまして,なお検討することとしたいということでございまして,その理由は57ページの末尾以降に記載したところでございます。

  以上,全般につきまして,考え方,検討すべき点について御審議をお願いいたします。

● それでは,第33と第34のところ,いかがでしょうか。

● 第33と第34両方,簡単に御意見を申し上げます。

  第33の受託者の権限のところにつきましては,私ども受託者としては,やはり借入れというのが信託事務を円滑に進める上で非常に重要なウエートを占めておりますので,信託行為の定めによって禁止されていない限り,受託者には信託目的の範囲内で権限があるものという形にしていただきたいと思っております。

その考え方との平仄というところからしますと,もちろん甲案でもそういうような可能性はあると思うのですが,乙案の方がより整合的ですので,乙案の方に賛成したいと考えております。

  次に,第34の1でございますが,この規律につきましては,原案で賛成だということでの意見が大勢を占めておるわけですけれども,他方で現行法においては31条と16条に分かれておりますので,やはりその趣旨を生かして,登記というのは別にいたしまして,処分行為と非処分行為とを分けて規律した方がいいのではないかというふうな意見と,第三者との権限違反の行為のところについては有償行為と無償行為というのを分けるという考え方もあるのではないかと,そういうような意見もございました。

  あと,2のところの外観の問題につきましては,この問題というのは,当然のことながら,信託財産の独立性,受益者の保護という問題と取引の安全性,どっちに重点を置くのかということだと思います。

そういう観点から,どちらかというと,私ども受託者の立場からいたしますと,受益者の保護を図りたいというふうに考えております。

ただ,そういう形の規律を設けていただきたいということではなくて,現行と同じような形で,解釈といいますか,そういう形に任せたらどうかなというところでございます。


● ほかに,今の点に関連して,いかがでしょうか。

  先ほどの○○委員の,処分行為と非処分行為とで分けるというのは,一応現行法の立場をそれなりに尊重したいという意見ですね。

● そういう意見もあったということです。原案の方が大勢ではありますが。
● 第34の方からでもよろしいでしょうか。

  これは,「権限に属しない行為」というのは,例えば,権限として借入れ行為はあったけれども,不適切であると,必ずしも現在借入れをしなくてよいときに借入れをしたとか,売却すべきではないときに売却をしたというときは,「権限に属しない行為」を行ったときに当たるという前提なのでしょうか,それとも当たらないという前提なのでしょうか。
● まあ,一種の善管注意義務の違反……。権限があるわけですよね,借り入れる。

● 一言だけつけ加えて申させていただきますと,信託の本旨に反する処分というのは,本旨に反するわけであって,別に権限外であるということではなかったと思うのですが,それを前提として,疑問なのですが。

● 御指摘の点は,恐らく善管注意義務違反が果たしてここの規律に入るのかという点かと思いますけれども,我々といたしましては,単なる善管注意義務違反につきましては権限外というふうには言えないということですので,この規律の対象からは除かれるということになると考えております。

● その点は,現行法とは大きな違いであるわけですね。

● 現行法におきましては,重大な善管注意義務違反は権限外というような見解はあるかと思いますけれども,単なる注意義務違反というのはこの処分行為の対象からは外れるという理解だったかと存じておりますけれども。

● それは処分行為の解釈の問題ではなくて,本旨に反するということの解釈の問題ではないかと思うのですが。

その行為が現在不適切な行為であると相手方が分かったときにも,別段救済は一切されないということになりますでしょうか。


● そうですね。まあ,今の例なんかだと単なる善管注意義務違反は違反なのかもしれないけれども,○○幹事が言われたように,どういうものが本旨に反した処分と言えるかと,現行法で言えばその解釈の問題なのでしょうね。

まあ,どこまでどういうものが入るかという厳密な議論は恐らく今までも余りなかったと思いますけれども,○○幹事は,入るべきだというふうにお考えなのでしょうね,推測するところ。

● 権限の問題ではなくて,本旨に反するかどうかというのは適切かどうかで決まるというのは,議論がないというよりは,ある意味では当然のことではないかと思いますが。


● 多少理論的な問題も含まれているけれども,皆さん,いかがでしょうか。


● 今の問題と関連してなのですけれども,相手方の保護をどのように図るかということはもう少し検討した方がいいのかなという気がいたします。

つまり,民法117条の問題として扱っているようですけれども,無権代理だとしますと,追認が可能かどうか,追認が可能だとすると,だれが追認するかという問題もあるかと思います。

  それから,それに関して,催告権,あるいは相手方の取消権,それから現行法で言う32条の短期消滅時効といった,相手方保護をどういうふうに図るのかというのが,もし,今,○○幹事のおっしゃったように第34の権限違反が広がり得る場合には,とりわけ考えておく必要があるかなと思います。


  それからもう一つは,今度は,受託者と取引をしようとする相手方は一体何をすればいいのかということも詰めておく必要があるのではないだろうかと思います。例えば受託者と和解をするというときに,一体何を調べればいいのかということがよく分からなくて,そうしますと受託者と取引をする相手方が不安定になって,受託者が行動しにくいという危険がないだろうかというふうに思います。


● さらにもう1点。
  私の発言が,善管注意義務違反の場合はどうかという発言だというふうに御理解されたのですが,前回やりました忠実義務違反の利益相反行為とかに当たるとされているものについては,これは権限がないのですか。


● 忠実義務違反は権限外と考えております。

● すべてのものがそうだったかは,ちょっと今,細かいところは忘れましたけれども,典型的な忠実義務違反行為であれば,第三者との関係での行為が,そこも幾つか……。


● この前お話ししましたのは,対内的には無効であると。それで,第三者が絡んできたときにはこの規律によりますので,権限違反行為となりまして,相手方が善意無重過失であれば取り消すことができないと,相手方に対しては有効な行為になる。

そのかわり,もしも相手方に対して取り消し得る行為であれば,取り消して物の返還を請求できるという考え方によりました。

● 2点なのですけれども。
  1点は,今の忠実義務の点についての御参考というか,会社法が参考になるかどうか分かりませんけれども,忠実義務については一般的な規定と個別的な規定があるのですけれども,一般的な規定の場合には,それに例えば代表取締役が反して対外的行為をしたとしても,その行為の効力は無効だというふうには普通は解されていません。

それに対して,個別的な規定で,例えば264条の競業取引の規定と265条の利益相反取引の規定がありますけれども,後者については,一般に違反した行為の効力は無効だと,ただし,いわゆる相対的無効とする大法廷判決がありまして,相手が善意であれば主張できないという考え方であるのに対して,264条の競業取引の方は,具体的な規定はあるのですけれども,違反したからといってその効力が当然に影響を受けるというふうには解されていないということがあります。

まあ,これは御参考にすぎないので。結局,抽象的に,忠実義務違反の場合はどうですか,あるいは善管注意義務違反の場合はどうですかというのは,なかなか難しい問題だというぐらいのことかと思います。

  第2点は,○○幹事が最初におっしゃったことに戻って,民法の先生方にお聞きしたいのですけれども,代理人が財産の処分権を持っている場合に,その財産の処分が委任の本旨に反したという場合は,これは無権代理になるものなのかどうかと,そういった平仄も参考になるのではないかと思うものですから。

あるいは,委任の善管注意義務に違反した場合というのはあるのかもしれませんけれども,その辺も教えていただければと思います。


● 今の御指摘のとおり,代理のところでも同じ問題が普通議論されていると思いますけれども,善管注意義務違反の行為が当然には権限外の行為だとは解されていなくて,むしろ多くのものは内部的な責任が発生するにすぎないと考えていると思いますね。


だけども,これはすべての教科書かどうか分かりませんけれども,少なくとも一部の有力な説は,重大な善管注意義務違反はやはり権限外の問題として扱うという,そういう考え方もあるのではないかと思っています。


ですから,○○委員のおっしゃるように,善管注意義務の違反かどうかとか,忠実義務の違反かどうかと,抽象的には決められないところがあるかもしれませんね。特に第三者との行為等の関係では。


その点,現在の信託法は,「信託ノ本旨ニ従ヒ」でしたか,ちょっと別な概念を立てて,そこが善管注意義務と忠実義務とを切り離した形の規定になっているので,その行為の解釈として解決すると,それなりに連動させない解決ができる。

  ただ,ここでは,今までの規定の基準も余り明確ではないので,もうちょっとはっきりしたいというのが恐らく趣旨なんだと思いますけれども,十分それができるかどうかの問題ですかね。


  ○○幹事の方から,何か,今までのところで。


● これは資料に若干書かせていただきましたけれども,委任の場合におきましても,対内的には「委任ノ本旨ニ従ヒ」という文言が使われておりますが,対外的には代理権の有無というところで切っておりますので,ここでも,対内的には信託の本旨ということにしましたが,第三者との行為の有効性を考えるに当たっては信託行為の定めに基づく権限の有無ということで,より明確に規律していきたいという考えに基づいているところでございます。


● ちょっと蛇足だけれども,四宮先生の教科書,民法総則の改訂をするところに同じような問題が書いてあって,四宮先生はたしか,善管注意義務のうちの一部重大な善管注意義務違反は権限外の行為で,無権代理になると書いておられたのですね。

それを,やや,どうしようかなと思いながら,引き継いで書いたのですけれども。


  まあ,多少理論的な問題があるので,もうちょっと問題点は整理したいと思いますけれども,恐らく○○幹事の問題提起の御趣旨は,ここは権限外か権限内かという形でもって取消しの範囲,取消しができるかどうかというのを規律しているけれども,果たしてそういう切り方でいいのかどうかという御指摘だったと思うのですね。

問題点としては十分理解したつもりでおりますが,少し検討させていただければと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 今,○○幹事が御指摘の点につきましては,もう一度事務局内部でそしゃくして検討したいと思います。

  それから,○○委員から御指摘のありました,追認ですとか催告,あるいは32条,33条の問題,これは我々も十分そういうことがあることは認識しておりまして,これは,まず前提として,この部会で取消権構成をとるということでコンセンサスがいただければ,その上で当然そのような規定の整備というのは検討していきたいというふうに思っておりまして,まず前段階としてここまで提示したという趣旨でございます。

● よろしいでしょうか。
  権限,更にさっきの幾つかの,53ページの2とか,いろいろ難しい問題があるのですが……。


● 1点よろしいでしょうか。
  この第34の権限違反の行為についてなのですけれども,「第三者が当該行為が受託者の権限に属しないことを知り,又は重大な過失により知らなかったときに限り」という点の,これは立証責任が,恐らく,この表記で言いますと,受益者側になるということを前提にされているのではないかと拝察するのですけれども,そうすると,これは,受益者の立場に立ったときに,この立証をしなければならないというのはかなりきついことではないかなというふうに感じます。

これの立証責任をどうするかという点についてはちょっと慎重に考えた方がいいのではないかというふうに考えるのですが,いかがでしょうか。

● 挙証責任については受益者側にあると今は考えておりますが,その指摘につきましては,もう一度検討したいと思います。


● それでは,今日の御意見を踏まえて,更にまた事務局の方で検討するものと思います。
  それでは,少し先に行かせてもらいます。

● では,本日の資料に従いまして,受託者の責任の問題,第27の受益債権についての物的有限責任と,第28の信託債権についての物的有限責任の問題につきまして,あわせて御説明いたします。

  まず,第27でございますが,これは,現行法19条が規定する受益債権についての受託者の物的有限責任に関する規定の見直しの提案でございます。

  現行法19条の趣旨というのは,受託者が信託行為の定めに基づいて有する本来的な給付請求権,契約上の給付義務と異なるところはございませんが,いわゆる受益債権の対象を信託財産のみに限定し,信託財産に対してのみ執行できることを明らかにした規定であると解されます。


しかるに,現行法19条の文言は,「信託財産ノ限度ニ於テノミ」とされておりますので,信託財産の限度において受託者の固有財産に対しても執行できるかのような誤解を生じさせかねない規定ぶりとなっております。


  そこで,現行法19条が,受益債権の責任財産が信託財産に限られること,換言すれば受益債務の物的有限責任性を規定したものであることを明確にすべく,規律の文言を改めることを提案したものでございます。


  この物的有限責任によりますと,受益債権に対応する受託者の給付義務,責任の実質は,信託財産を分配ないし給付する義務でございますので,受託者は信託財産の範囲内で給付義務を負うにすぎず,給付すべき信託財産が減少した場合には,その減少について受託者に信託義務違反の責任がない限り,受託者はその減少した信託財産の範囲内で給付義務を負うにすぎないこととなり,損失は受益者の負担となります。


なお,受益債権給付義務の不履行により受益者に遅延損害金が発生すれば,この遅延損害金の分については民法の通常の債務不履行として受託者の固有財産が責任を負うことになりますし,また,受託者の信託違反行為に起因して信託財産が減少すれば,受託者は信託法27条の損失てん補責任を負い,受託者は固有財産をもって信託財産の穴埋めをしなければならないということになると考えられます。

  続きまして,第28の「受託者の有限責任の許容について」というところでございます。


報告書では第29として提示しておりました受託者の第三者に対する責任についてもここに含まれておりますので,あわせて説明をしていきたいと思います。

重要な問題が,特に「2 新たな信託の類型」というところに含まれておりますので,少し詳し目に御説明をしたいと思います。

  まず,1でございますが,これは「既存の信託の類型」,通常の形態に関する提案でございまして,受託者は,第三者との関係ではいわゆる無限責任を負いますが,受託者が第三者との間で,責任財産を信託財産に限定する旨の特約を締結することはこれまでも有効であると解されてきました。

  (1)は,責任財産を限定した取引に対するニーズの高まり,あるいは信託における責任財産限定特約を付した取引の浸透を踏まえ,現行法のもとでの取扱いを進めまして,受託者が取引をする場合において,特定の信託の受託者である旨,それから特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨,この二つを明示した場合には,信託に係る債権者が受託者の固有財産に対して執行することはできない,すなわち責任財産が信託財産に限定されることになるとしたものでございます。


  なお,従来の実務では,有限責任となるための要件が必ずしも明確でないために,有限責任特約を締結するために詳細な契約条項を設けるなど,契約書の作成に苦労したり,あるいはその有効性にも懸念があったようにも聞いておりますが,ここでは,有限責任特約の有効性を承認した上で,その要件を明確にすることによりまして,取引コストの削減を図り,信託における取引の活性化に資するものと考えております。

  なお,明示すべき事項として,「特定の信託の受託者である旨及び特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨」を求めることとしましたのは,現在の実務慣行に照らしますと,いわゆる無限責任による取引との混同を避け,取引の安定を図るためには,特定の信託の受託者であるというのみでは不十分で,信託財産に責任が限定されることまでを明確にする必要があると指摘されていることですとか,債権者の保護のためには,その引当てとなる責任財産が特定される必要があると考えたことによるものでございます。


  それから,1の(2)でございますが,これは,債権者保護のために受託者にいわゆる第三者責任を課すものでございます。


  このように,有限責任の制度を設けました場合には,責任財産が信託財産に限定されることになりますので,債権者保護のために信託財産の財産的基盤を確固たるものにする必要があると考えられます。他方,厳格な規制を設けることとした場合には信託の柔軟性を損ねるとの指摘もされているところでございます。

  そこで,ここでは,有限責任となるのは取引上の債権に限定されること,有限責任となるには特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨を明示する必要があること,これらを勘案しまして,現行商法第266条ノ3に倣いまして,受託者に,(1)で有限責任となる信託財産に属する債務に係る債権者に対する損害賠償義務を法定し,受託者の責任を強化して信託財産の価値維持を図ったものでございます。


  続いて,「2 新たな信託の類型」というところについて申し上げます。
  まず,このような提案をいたしました動機について説明いたします。


近時,社会活動の高度化の進展の中で,1で述べましたような取引に限定せずに,外部関係一般については有限責任性を確保しながら,内部関係については柔軟性を有した組織による事業の実施や,こうした事業への投資に対するニーズに対応するため,英米におけるLLC,LLP,ビジネス・トラスト等の組織形態を導入すべきという声が存するところでございます。

我が国におきましても,出資者又は業務を執行する者に対する有限責任を確保した組織形態は既に存在しますが,これらに類似した,受託者の有限責任を基調とするスキームを,信託制度の中において新たな類型として創設することとするかが問題となるわけでございます。

仮にこのような制度が導入されますと,受託者の有限責任性が確保されるとともに,信託財産の独立性,柔軟性等の信託の特徴を兼ね備えた新たな組織形態が創設されることになりまして,国民の選択肢の拡大に資することになると考えられます。


  これまで,出資者や業務執行者の有限責任の議論をする際には,法人格の存在を前提にする傾向があったように存じております。

星野教授のかつての有名な御研究によりますと,構成員に対して有限責任が認められるためには,第1に,構成員に対する債権者による団体財産への執行を断ち切っておくことが必要であり,これにより,団体財産に対する債権者が構成員に対する債権者に優先するという状況がつくられるわけでございます。

更に,この要件にあわせて,第2に,脱退が持分払戻しを伴わないことにより資本充実の原則が満たされることが必要であるとされております。


  ところで,星野教授は,法人とは,構成員の個人財産から区別され,個人に対する債権者の責任財産ではなくなって,法人自体の債権者に対する排他的責任をつくり出す法技術であるとされておりましたが,そうでございますと,法人には正しく先ほど申し上げました出資者の有限責任を認めるための第1の要件が内在しておりまして,そのため,法人格の存在を前提にして議論する傾向に結びついたのではないかとも考えられます。


  しかしながら,この第1の構成員に対する債権者による団体財産への執行を断ち切るというポイントにつきましては,法人に限らず,信託についても等しく当てはまるものでございます。

換言すれば,信託につきましては,先ほどの星野教授が挙げられた2点の要件のうち,第1の要件,執行を断ち切るという要件は満たされているものと考えられます。

したがいまして,資本充実の原則とおっしゃっておられます第2の要件をいかにして満たすこととするかが検討課題になってくると考えられるわけでございます。


  ところで,更に最近の御研究におきましては,例えば一つとしては,払戻しが禁止されていることを常に前提の条件とする必要はなく,「事業の開始に当たり,リスクに応じた合理的な出資の引受けが構成員によってされ,以後維持され,かつ財務状況に関して合理的な方法で第三者に対する開示がなされること」,これをもって共同企業の構成員の有限責任を認めることにとっての必要十分条件であるとする御見解もございますし,あるいは,「債権者の期待するキャッシュフローが他に流用されない方策が講じられ,その仕組みを債権者が十分に認識している」場合には,構成員の間接有限責任を認めてよいとの御見解も提唱されております。


  このように最近の研究成果を踏まえて考えますと,受託者に対する有限責任を許容するためには,第1の,構成員に対する債権者による団体財産への執行を断ち切っておくという要件のほかに,まず一つは,責任財産を確保するための制度的仕組みがあること,第2に,有限責任であることについて債権者の予見可能性を確保する制度的仕組みがあること,この二つが要件になると考えられます。


そして,その検討の際におきましては,有限会社,有限責任中間法人等の既存の出資者に対する有限責任を前提にしたスキームと比較して,責任財産の確保や予見可能性の確保という点に

おいて遜色のないものになっていることが必要であると考えられます。

  このような見地から見ますと,信託財産の状況等に関する書類の作成あるいは開示等の仕組みが整備されていることなど,既に相応の措置を図ることが信託においても予定されているわけではありますが,他のスキームと比較した場合にはなお改善の余地があるものと考えられるわけでございます。


  資料の2ページのアステリスク1というのは,こうした観点から,設けるべき債権者保護の規定について提案するものでございます。

  まず,アとして,信託財産を確保するための方策として,いわゆる三本の柱を提示しております。

  第1の柱は,当該信託における信託財産の確保のための方策を信託行為に定めることにより明確にすることとしております。

信託財産を確保するための方策といたしましては,受益者への財産分与規制のみならず,流動化目的や事業目的の信託など,信託の類型によりましては,債権者の期待するキャッシュフローが他に流用されない仕組みを設けることが重要な場合があると考えられるからでございます。

  なお,その方策が債権者に知らせずして変更された場合には,債権者が不測の損害をこうむるおそれがございますので,変更するに当たりましては,受託者は債権者保護手続をするものとしております。(ア)の○1に書いているところでございます。

  第2に,有限責任を許容する他の制度におきましては,商法第290条における利益配当の制限ですとか,中間法人法第65条における基金の返還の制限,あるいは投資事業有限責任組合法第10条などにおきまして最低限の責任財産を維持するために財産分与規制のための規定が定められております。


このような規制があることを踏まえまして,信託におきましてもいわゆる財産分与規制を設けることといたしまして,受託者は,純資産額を超えて,いわゆる利益の配当に限らず,受益債務の弁済をすることができないというふうにしてはどうかと考えております。


  3本目の柱でございますが,これに違反して弁済がされた場合の信託財産の回復策につき提案しております。


  受託者が純資産額を超えて受益債務の弁済をした場合には,責任財産たる信託財産が毀損し,このような制度的責任を設けた意味が没却されることになると考えられます。


そこで,まず,違法な弁済をした受託者の責任を重視いたしまして,第一次的には,3ページの一番最初,(ウ)というところでございますが,受託者に原状回復義務を課すことにしております。

そして,受託者は受益者に対して超過受領財産の返還を請求することができるものとしておりますが,当該受益者が,超過財産を受領した日におきまして,受託者が違法な受益債務の弁済をしたことについて善意であるという場合には,返還請求に応じる義務はないということにしております。これが,3ページの(エ),(オ)というところでございまして,受託者,受益者間の対内的な関係についての責任の規律を定めたものでございます。

  それから,ここでは,受託者による原状回復がされない場合には,今度は対外的でございますが,債権者は受益者に対して,こちらは受益者の善意・悪意を問わず,超過受領財産の返還等を請求できるとしております。


これが(カ)というところでございます。純資産額を超えてされた弁済は,受益者には受領する原因が本来ない不当な利得であり,信託財産を確保するという要請のもとでは,受益者に返還を求めることもやむを得ないと考えられるからでございます。


  なお,ここでは受益者の善意・悪意を問うておりませんが,先ほど言いました受託者からの返還につきましては,受益者が善意である場合には返還請求に応じる必要がありませんと。


受託者自らが違法行為をしておりますので,そのような規律にして差異を設けているところでございます。

  次に,3ページのイでございますが,予見可能性の確保に関する方策を提案しております。

  まず,第1には,受託者が取引等をする場合には,新たな信託の類型の特定の信託の受託者である旨の明示をしなければならないこと,イの(ア)のところで,「信託の」が抜けておりますが,「特定の信託の受託者である旨を明示しなければならない」というふうにしております。


  それから,第2に,既存の信託の類型で認められているものに加えまして,ここでは,利害関係人は理由を明示して信託財産の確保に関する方策について説明を求めることができるものとしております。


責任財産確保のための方策について債権者が十分に知り,十分に理解するための制度的仕組みを設ける必要があると考えられるからでございまして,これはイの(イ)で書いてあるところでございます。


  なお,当該団体が有限責任であるということについて第三者が予見可能であるような客観的状況を作る手段としては,登記等の公示制度が用いられることが他の法律ではございますが,ここでは,このような公示制度を設けることにつきましてはどのように考えるべきかということを,3ページの○5で提案しております。

  以上が,予見可能性の確保についての二本柱プラス検討課題一つというところでございます。

  最後に,3ページのウでございますが,これは,受託者にいわゆる第三者責任を課すものでございまして,ただ,ここで受託者が損害賠償をする相手方につきましては,原則類型とは異なりまして,取引上の債権者に加え,不法行為債権者が含まれることになります。

  以上のような種々の債権者保護の措置を講じた場合には,有限責任を許容している他の制度に比べましても債権者保護の仕組みは決して遜色のないものになっていると考えられますが,この点につきまして是非とも御意見をいただければということでございます。
  以上について御審議をお願いいたします。


● それでは,いかがでしょうか。特にこの受託者の有限責任に関連する問題はかなりいろいろな問題点を含んでいると思いますが。

● 第28の受託者の有限責任について,意見を述べさせていただきます。
  第28の2に挙げられております,「新たな信託の類型」ということで,有限責任を明確にする信託制度を設けるという点については賛成です。また,資産の証券化・流動化の観点からも,このような信託というものは実務上のニーズが強いのではないかと思います。

  ただ,1の方の既存の信託について,単に受託者が特定の信託に係る受託者である旨及び責任が信託財産に限定される旨を明示するのみをもって有限責任としてしまう点については,弊害が考えられるのではないかと思っておりまして,この1の部分については反対させていただきます。

  具体的な事例を挙げますと,例えば,信託銀行と金融機関の間のデリバティブ取引等で,現に,信託銀行が特定の信託の受託者である旨を表示して取引している例もございます。

また,数年前から,それに加えて,責任財産を信託財産に限定すると。

ただ,その場合でもいろいろな約定をしているわけですね。

信託銀行側,受託者側に情報開示義務を課して,その情報開示義務が守られなかった場合は責任財産限定特約が外れるというような約定がなされている場合があるかと思うのですけれども,そういった取引において信託銀行と取引する金融機関は,信託銀行の信用力を加味して取引しているというのが実態だろうと思います。


  それで,この1のところでは,債権者の保護という観点が欠落しているのではないかなという気がいたします。


2の「新たな信託の類型」のところでは,債権者保護のための規律,様々なところが考慮されているわけですけれども,1の既存の信託を有限責任にするというところについては,その観点が欠落しているように思われます。


したがって,これまで過去において,信託銀行,受託者が責任を負うという理解で行われてきた取引が,典型的にはデリバティブだと思うのですけれども,突如,有限責任ですという扱いになることで,取引を萎縮させてしまう可能性というものがあるのではないかなと思います。


  また,情報開示義務がない場合,例えば会社にとっての債権者を考えますと,例えば減資をする場合に債権者に対する催告義務みたいなものがありますけれども,信託に関しては,例えば,必ずしも債権者に対して通知するとか同意を得ることなく信託財産が減ってしまうとか,受益権を償還してしまうということもあるわけですので,これに関しては様々な問題点も考えられ得るのではないかなと思います。

  それと,以前から存在する信託を有限責任化するニーズが本当にあるのかという点についても,若干疑問に思います。

  また,今ちょっとデリバティブみたいな話をしたのですけれども,例えば民事信託みたいなものを考えると,必ずしも受託者の責任を有限責任化する必要性というのは考えられないのではないかなと思います。

  まとめますと,実務上のニーズ,これは資産流動化・証券化の観点からも,あるいはその他の金融取引の観点からも,有限責任信託というものは必要だと思いますので,それは2のところについて議論を深めて,特に債権者保護の仕組みを十分議論した上で導入するということは賛成いたしますけれども,1のところについては削除していただきたいなというふうに考えております。

● ○○委員と重複するところもあるかもしれませんけれども,第28の「受託者の有限責任の許容について」の1について,両論的な御指摘等についても,同じく,質問といいましょうか,コメントを申し上げたいと思います。


  まず,1の通常形態の方ですけれども,これはやはり,実務の観点からすると賛成・反対両論あり得ると思いまして,まず,現状でも,有限責任契約ということで一定の効果ということは実現できるわけですので,今回の御提案というのは,これの契約コストを低減することに帰するというところで評価できると思いますし,また,信託の柔軟性,また選択肢の多様化という観点からすると,実務にも歓迎されるべき点があると思います。


  他方,懸念される点というのは,先ほど○○委員からおっしゃられたこともありますけれども,繰返しになる部分もあるかもしれませんけれども,2点ございまして,一つは,契約に入るときの契約交渉の機会が実質上奪われてしまうのかもしれないということです。

例えば先ほどの責任財産限定特約を結ぶ場合には,例えば開示について問題があるとかいったときには,ではそのかわりにレポーティングをしてくださいとか,そういうようなことについて,交渉する機縁があったわけですが,このように明示して取引をした場合ということ,もちろん,取引を断るという選択肢は相手方に残されているわけですけれども,その詳細な,いわゆる債権者保護的な条件交渉をする機会が奪われるという点では,第三者,特に力関係において弱い者にとってみれば実質的に不利な結果になる可能性もあるのではないかなというふうには思っております。

  二つ目に,取引の安全性という観点からですけれども,これは,前回,私からコメントを差し上げたところで,明示して取引した場合にはというところで,明示の内容及びその方法という点について検討をお願いしたい,また問題提起をするということをいたしましたけれども,それについては,今回,御提案の中でコメントをちょうだいしておりまして,9ページの(注2)というところで,御検討いただいた上で,そういう方法に関しては手当てする必要がないという事務局としての御結論をいただいているところですが,私としては,なおそれについて疑問といいましょうか,検討をお願いしたいというふうに思っております。


  といいますのは,もちろん,挙証責任の問題であるとか信託契約の非書面性ということもあるわけですが,やはり取引の安定化の観点からしますと,有限責任なのかどうかということについては,やはり非常にリスクが大きいということですので,いざ言い争いレベルの話になったときに,取引当事者の置かれる状況というのは大きく変わってくると。


そうしますと,そういうようなことを提言するためには,やはり,ある程度の取引コストはかかっても仕方ないけれども,例えば書面とか,一定の外形的な基準を置いた方がよろしいのではないかと思っております。


注のところで非書面性ということが書いてありますが,ここもとの民法の改正においても,例えば根保証について書面を要求するということも近時改正されたところでありまして,必ずしも,そもそも信託契約は書面が必要ではないというところでもって,こういう取引安定性のために書面を設けることがおかしいという議論にはならないと思っておりますものですから,その点について,なお御検討いただければ幸いです。

  2の「新たな信託の類型」ということでございますけれども,この点については総論的なお話を差し上げたいのですが,まず第1に,これは○○委員もおっしゃったとおり,そもそもこのようなニーズが本当にあるのかどうかということをいま一度とらえる必要があると思います。

  聞くところによりますと,今,同時並行的に検討されているところのLLC,これはもう実際に大分煮詰まっているところですけれども,あとLLPであるとかについては,実務界において,どういう使い方があるのかということ,また海外ではどう使われているのかということの研究が進んでいると聞いております。


もちろん,この信託の有限責任性は,事業信託を中心にいろいろ日本においても検討があるというのは存じておりますけれども,今この形でLLP,LLCを並べておくということが,一体どういう使われ方をするのかということを把握しておく必要があります。

と申しますのは,やはり,こういうものをつくりますと逆に弊害になってくるという点もあるのではないかというふうに思っていまして,同じ作るにしても,それを踏まえた制度設計というのが必要ではないのかなと思っています。


  その中の一つとしては,ここでも議論されていますように,債権者保護手続というのがありますけれども,もう一つ,ちょっと懸念いたしますのは,これによって事業の信託を行う場合には,例えば監査というのは一体どうなるのであろうかと。

エンティティーを使うのであれば,例えば商法特例法に基づいて監査というのが出てくるわけですけれども,信託を使えばそれが要らなくなってしまうということになるのか。

また,税金の話,これは実体法とは関係ない話なのかもしれませんけれども,実務上は大きな話だと思いますけれども,信託は原則として税金の導管性というのがあるわけですけれども,これをもって,実質上会社と同じことをしても税金が要らなくなるということになれば,これを悪用するということが出てくるのではないのかというようなことも検討する必要があると思います。

  以上,ちょっと長く申し上げましたけれども,実務的に,選択肢をふやすことのメリットと,それから来る弊害点,それを保護するための手当てということについて,いま一度検討する必要があるということを申し上げたかったわけです。

● 私も,第28の部分について申し上げたいと思います。

  私自身の理解が違っているのかもしれませんけれども,先ほど○○委員,○○委員から御意見があったのとちょっと違って,まず1のところにつきましては,この規律というのは,新法においても信託取引というのは基本的にデフォルト状態では無限責任であるということがあって,それに加えて特定の信託の受託者である旨をまず表示しますと,もう一つは,特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨を表示しますと,この二つが加わると有限責任になりますよという規律だと思っておりますので,基本的には何ら現在の有限責任の特約を付したものと変わりはないというふうに思っております。


ただ,こういうふうにやると簡便にできるので,こういう形にした方がいいと。

それで,この規律があると,多分,(2)のところの規律が自動的にきいてきて,信託の契約上のコストであるとか,説明とか,そういうものが省略できるというふうに理解しておりますので,弊害というのは,基本的に現在の責任限定の特約をつけたものと何ら変わりないものだというふうに理解をしております。


もちろん,ちょっと理解が違うのかもしれませんけれども,そういうふうに理解しております。

  あと,表示のところなのですが,多分,商事信託法要綱のときには,特定の信託の受託者である旨を明示するということだけだったと思うのですが,これについては,やはり弊害が出る可能性があるのだと,信託実務で結構そういうような表示をすることが多いものですから,それはちょっと弊害が出るので,やはり責任が限定されているということも加えた方がいいと思っておりますので,この規律については,実務家の方から考えて非常に即したものであるというふうに考えております。

  (2)の保護規定でございますが,余り保護規定ががちがちになってしまうと,動きづらいというところがあるのですが,この規定につきましては,信託の柔軟性というもの自体もまだ確保できるような規定で,いろいろ使い勝手がいいような規定だと思いますので,この(2)についても賛成いたします。


  次に,問題になっております2のところの有限責任を原則とする新しい信託の類型でございますが,これについては,私どもは,これまで活用されてこなかった新しい領域で信託の可能性を拡大するものだということで,期待しております。


創設の方向でお願いしたいと考えております。

この信託は,ビジネスを行う上で,一つは柔軟に意思決定ができますということと,あと有限責任性を確保できると,この二つがありますので,非常に魅力を感じております。

多分,実務上のニーズはあるだろうというふうに思っております。

例えば,まあ私なんかは発想が貧困ですので,よく分からないのですけれども,コストであるとか人材の募集とか,そういうような観点からいきますと,パイロット事業であるとか,期間を限定したような事業,そのようなものに向いているのかなというふうに考えています。


またプロジェクトの事業のビークルとして使うとか,そのようなことにも十分使えるんじゃないかなというふうに考えております。

信託は,御承知のように倒産隔離が法的に担保されているということと,あとは受益権の内容を複層化できたりするということで,制度設計が非常に柔軟であるということもありまして,ビジネスを行う上で非常に利用価値が高いと考えております。


  ただ,ニーズがあっても,受託者が無限責任を負うということでありますと,事業的なことを考えると,やはりリスクがあるということで,報酬等も考えますとリスクとリターンのバランスがちょっと悪いなということもありますので,こういうような有限責任の新しい信託,こういうものについては非常に有効ではないかなというふうに考えておりまして,この2の規律についても賛成いたします。


● 私は,新たな信託の類型について意見を申し上げたいと思うのですけれども,○○委員,○○委員がおっしゃられたように,私も,新たな信託の類型としてこのような新しい制度・モデルをつくられることには賛成でございます。


  ただ,その中身について,その検討に当たって留意すべきことについて御意
見を申し上げたいと思うのです。


  先ほど○○委員が税金の関係を取り上げられたのですけれども,私もそれについては非常に興味がございまして,実際にこういった類型を使っていく場合,特に債権の流動化というときには,この主体に対する課税問題というのは非常に大きな影響があるわけです。


○○委員が言われた部分については,濫用的な部分についての問題提起だと思うのですけれども,債権流動化においては,この制度を考える上に当たっては,やはり課税が回避されるような点もあわせて検討すべきではないかなと思われます。


と申しますのは,この基本的な新しい制度を作るに当たっての信託財産の確保,それから,特に,最低純資産額規制を設けるとか登記等の公示制度を設けるということになってだんだん法人そのものに近いものになっていきますと,課税される可能性というのは非常に高まってくるかと思います。

  したがいまして,そういったものを確保しながら課税が回避できるようなものをつくり上げないと,実務上,特に債権の流動化等では使えなくなるのではないかなと思われます。


私も詳しくは知らないのですけれども,アメリカでビジネス・トラストが発展はしてきたという歴史があるわけなのですけれども,最終的には課税問題がネックになって,リートなど一部の課税回避ができた制度を除いて,他はかなり衰退してしまっているというようなこともあるというふうに伺っておりますので,是非そのあたりも頭に入れて制度設計をしていただけたらと思います。

● 先ほどから皆さんの御意見を伺っていて,少し整理しておかなければいけないかと思ったのは,既存の信託における有限責任の特約というのでしょうか,有限責任をつけるというのは,これは皆さん御理解は共通していると思うのです,若干のニュアンスの差はあるにしても。


  2の「新しい信託の類型」の方の,先ほどから「有限責任」という言葉が出てまいりますけれども,これは私の理解かもしれないけれども,ほかのLLPだとかいろいろな制度との比較で言うと,あれは全部,投資家の有限責任だと思うのですね,LLPにしろ。今,有限責任組合の議論をしていますけれども,やはりこれは投資家,構成員のあれなのですが,信託はちょっと複雑ですけれども,有限責任を比較するのであれば,本当は受益者の有限責任の方なのではないかという感じもするのですね。それが一つ。


  それから,「有限責任」と言うときに,1との違いがどこにあるのかというのをもうちょっと理解しておいた方がいいと思うのですが,先ほど,1のような形で明示をしないでも,基本的にこういうタイプの信託は一応受託者の有限責任だと。


それで,当然ながら受益者も有限責任なわけですけれども,補償請求権がないような,そういうところにメリットがあるわけですが,これはLLPの方でも議論になっていますけれども,不法行為責任が全部有限責任になるのかというと,恐らく必ずしもそうではなくて,LLPの方も,実際に行為をした者は,過失がある場合には少なくとも709条の普通の責任を負うのですね。


これは法人の場合も全く同じで,法人は完全に有限責任ですけれども,代表者は過失があれば44条の2項でもって責任を負うわけですから,信託の場合は少し複雑な構造になっているけれども,信託の受託者というのはちょうど法人の代表者みたいなものだと考えると,不法行為責任は709条の場合に負うと。

ただ,若干違うかもしれないのが,工作物責任とか,709条を介さない責任なのかなという気がいたします。

  ちょっと,「有限責任」と言うときに何を考えているかということを少し明らかにして議論した方がいいと思いますので,私の個人的な意見も入っていますけれども,少し整理させていただきました。


● 今,○○委員が言われてしまったことなのですけれども,私も,ロジックというか,物の考え方をちょっと整理する必要があると思いまして。

  今までLLPとか何とかやっていたのは,○○委員がおっしゃったとおり,私の頭でも,出資者が構成員となるような団体において,その出資者が出資した額を超えて責任を負うかどうかというのが,星野先生以来のここに御紹介のある文献での議論だと思うのですね。


  それに対して,ここで議論している受託者の有限責任というのは全然違うので,もちろん,例えば合名会社とかLL何とかでも,無限責任社員,出資者である人が同時に業務執行者という場合もあるかもしれませんけれども,信託の場合,原則は違う。

つまり,受託者は出資はしていないのですね,普通は,そういう言葉を使うとすると。

それで報酬を得て他人の財産を管理処分するわけなので,そういうものが取引あるいは不法行為上の責任を固有財産で負うのが原則なのかどうか,あるいはそれを限定することが認められないのかどうかということであって,他の団体にはない,非常に信託に特殊なものであり,言葉を変えて言うと,信託とは何かという方から論じなければいけない問題だというふうに思います。


  では,どういう視点でここの有限責任の線を引くかというと,従来の星野先生以来の議論とは違う視点で物事を考えなければいけないので,私の感じでは,二つぐらい柱があるように思うのです。


  一つは,これも○○委員がおっしゃったことなのですけれども,行為をした者が責任を負うというロジックはあるのですね,既に。不法行為は基本的にそういうロジックだと思います。


  もう一つは,では取引みたいな局面ではどうかというと,余りうまく言えないのですけれども,誤認というのでしょうか,特に示さずにやっている場合は,相手方はどっちでやっているのか分からないわけですから,無限責任という言葉がいいかどうかは分かりませんけれども,これは明らかに信託財産ですと言っていれば,原則は信託財産であって,もちろん,それを固有財産をもって補償することは妨げられませんので,どちらをデフォルト・ルールにしてもいいと思うのですけれども,この2の「新たな信託の類型」であったとしても,なお固有財産で任意に補償することは別に禁止されるわけではないと私は理解しています。


ですから,ロジックは1の(1)も2も同じであって,私は,誤認みたいなことで,本来の考え方から言えば,信託財産と固有財産は別なんだけれども,しかしそれをはっきりさせない場合には一緒にやってもよろしいというのが従来の実務だった--ロジックから言うと--にすぎないのではないかと思うのですけれども。


  いずれにしても,出資者の有限責任というロジックとは違う線引きなり,ロジックの問題ですので,そういう観点から物事を整理していただく必要があると思います。


● この第28は,私,よく分からなくて。1も2もですが。しかし,1の方は既存の話であるということなので,私の理解で,1点だけ。

  これはちょっと問題を拡散してしまうかもしれませんけれども,1のところでは,受託者が責任財産は信託財産だけですよという形で取引をして,第三者との取引の中で責任限定を行う,これは別に何の問題もなくて,そういうことができるんですよ,こういうことをやれば大丈夫ですよということを明示することはいいことだと思うのですが,この(2)がよく分からなくて,そうだとすると責任財産は債権者にとっては非常に重要なものになる,それは本当によく分かるのですが,その関係で,受託者は債権者に対して一定のこういう条件がありますけれども,悪意というのが何についての悪意なのかというのがよく分からないのですが,この点ちょっと御説明を願いたいのですが。


それで,悪意又は重過失があったときには賠償責任が発生するのだということになると,債権者に対して一定の責任があるのだという話になりますよね。

しかし,受託者がまず一番考えるべきは常に受益者という話なのに,これで利益相反的な状況を生じさせているわけですよね,こういうふうに理解すると。

これはどうなんだろうかというのがよく分からないのです。これが上の方です。


  下の方の「新たな信託の類型」に至ってはもっと分からなくて,これは今,しかし,いろいろ説明を願ったので,これは誤解でなければいいと思うのですが,一種レッテルをつくって,有限責任事業信託みたいなものをぽーんとつくってしまおうと。


そうすると,このレッテルの中に入っていれば,何らかの要件は作るのでしょうけれども,1の(1)みたいなのは自動的に受託者の有限責任がついてきますよ,受益者の有限責任は当たり前ですよと。


しかし,受益者の有限責任は本当は信託については全部当たり前だと私なんかは思っていますが。


それで,しかも,これは事業型なんだけれども,今のお話だと,会社までいかないので二重課税みたいな話にもなりませんねという,まあほかにも幾つかのメリットがあるのかもしれませんけれども,そういうものをつくろうという話かなと思うのですけれども,それは正に--アメリカでもビジネス・トラスト・アクトというようなものをつくっている州法はあるのですが,正に信託法一般ではなくて,事業法ですから,これは信託法の中で規律するような話なんだろうかという気がするのですけれども。

会社法と並べて--まあ,会社法とは別個なのかもしれませんけれども,むしろ業法的なところで考えるような話なのかなと思うのですけれども,そもそもそこが理解が違うのかどうか,お伺いしたいと思います。


● 恐らく1の方は簡単な方で,後者は難しいのですけれども,1は,受益者との関係で言えば,利益相反になるかどうかという話だと思いますけれども,信託財産が減るということをしてはいけないというのが基本的に受託者の義務なわけですね。


信託財産は債権者にとっても責任財産であって,それを信託事務を行うに際して悪意重過失で減らしてはいけないと,そういう責任を負わせている。ですから,これは,その限りでは受益者にとっても利益になる。


● 利益相反はないとおっしゃいますか。

● 一般的には,責任財産が減らないようにするという……,信託財産がですね,結局。それで,信託財産は……。

● この「悪意又は重過失」というのは,悪意又は重過失で減らそうとしているというケースなのですか。

● これは,基本的にはそうですね。会社法の266条ノ3なんていうのと同じです。少なくとも,それがまず典型的な……,ほかにいろいろな場合があるかもしれませんけれども。

● 今の点を補足いたしましょうか。
  会社法で全く同じことがあって,これがだめだったら,会社法は利益相反だということになるのですけれども,266条ノ3と株主の利益最大化と債権者の利益最大化が完全には一致しない局面というのが当然出てくるのですけれども,それはその範囲で,266条ノ3の責任が生じる局面で,にもかかわらず株主の利益を最大化させるという要請があるとは恐らく考えていないと思うのですね。

だから,こちらはそのかわり非常に強い限定がかかっている。悪意重過失,これも言葉は266条ノ3そのままなのですけれども。例えば,極端にリスクの高い事業をさせると,その場合は,受益者としてはハイリスク・ハイリターンでいいかもしれないけれども,債権者から見るとたまったものじゃないというのがあり得ると思うのですけれども,それをやっていいかというと,たとえ株主のためにハイリスク・ハイリターンの物すごい極端なのをやるのはいいとしても,やるならこの責任を覚悟してやりなさいということになって,その限りで抑制されて,そこで,この規定があるがゆえに抑制されたからといって,それをしないことが当然に株主との関係でベストを尽くしていないから義務違反だとは整理しないという,その限りで……。


まあ,相反が全くないわけではなくて,潜在的には違った方向性を向いた義務を課している面はあることはあるのですけれども,ここで初めて出てきた話では恐らくないのだと思います。


● 分かりました。そうすると,信託条項でハイリスク・ハイリターンで投資しなさいというような条項があっても,もうそれに従えないということになるのですか。

● 1の(2)の条文が適用されることをやるなら,事前に排除できない以上は,そうならざるを得ないと思います。ただし,これは有限責任の債権者との関係だけの話だと思いますけれども。


● イエス・オア・ノーで,それはやはり責任を負わされることになるのですか。ハイリスク・ハイリターンの信託条項に従ってやっていても。

● なります。これは会社法266条ノ3でも同じです。
● そこら辺の理解になると,ちょっと私も分からないな。しかし,問題点がそこにありそうな気がしますね,確かに。
  会社法ではそう考えているということですね。


● はい,そうです。
● 原案をつくられた方の○○幹事の方で何か意見は。
● そこは,特に補足するようなことはございません。
● 基本的には会社法と同じようなものというふうに理解してつくられた提案ではあるのですけれどね。


  私は,逆に,信託行為でそういうふうに定められていれば,それはそういう信託だということで債権者の方も考えなければいけないので,信託条項の方が優先するのかと素人的には思ったのですけれども,そう単純ではないということなのですね,○○幹事の御意見は。


● ハイリスク・ハイリターンをやる意味がちょっとよく分からないですが。ここで問題となっているようなものというのは,少なくとも会社法の世界で問題にしているような話は,そういう条項でセーフになるような話では必ずしもないのだと思うのですけれどもね。どういうものを念頭に置かれているか分からないのですけれども。


● でも,利益相反があるということは○○幹事は認めているわけですね。

● もちろん。
  利益相反というか,債権者の利益を最大化させる局面と受益者の利益を最大化させる局面で違った要請が課せられること自体は認めている。それを利益相反と言うかどうかは分かりませんけれども。


● 受益者のために頑張っていても--つまり,受益者との関係では信託違反にならなくても,債権者との関係ではこちらの違反になり得るというので,こちらが優先されるということがあるということですよね,結局。


● それはそうです。それはもう既に266条ノ3で起きていることです。


● 266条ノ3について既に解釈があるのであれば,むしろ教えていただきたいけれども。信託条項でもってどういう投資行動をすべきかという枠が一応決まっていると,そういう行為をする限りにおいては,たとえ信託財産が多少リスクにさらされても,これはここで言うところの悪意だとか重過失にはやはり当たらないのではないかという気もするのですけれども。


● 恐らく,信託契約でハイリスク・ハイリターンな信託事務を行うということが書いてある場合には,そのことをやることが信託目的に反するという意味での受託者の義務違反は生じないのですが,やはり善管注意義務違反の問題は残りまして,やはりハイリスク・ハイリターンなことを悪意又は重過失で善管注意義務に違反したということは考えられる。

常にそうなるわけではないですけれども,やはり場合によってはそういうことはあり得るので,そういうふうに考えると,○○幹事が指摘されたとおり,信託条項を守っていれば悪意重過失による義務違反がないかと言われると,それは多分,場合によるということになるのではないかと思います。

● 会社法の266条の構造というのは,取締役が会社との関係でもって負っている職務上の任務というのでしょうか,それを悪意重過失でもって違反した場合に責任を負わされるというわけですよね。

こっちは,信託で同じように考えれば,当該受託者が信託財産との関係で負わされている義務に違反して,まず第一次的には信託財産に損害を与え,それが間接的に債権者にも損害を与えるというときに,債権者に対する直接の責任を負わせると,そういう構造ですよね。

だから……。まあ,ちょっと単純なのかもしれないけれども,やはり……。


● 1点追加してよろしいですか。
  会社法の場合,しかも,これは新しい信託の類型--ちょっとこれは対比しない方がいいかもしれませんけれども,物的有限責任ですので,結局,そういう形態でやっていい事業については,内在的に債権者との関係でもそもそも限界があって,その範囲でしか,幾ら高いリスクをとっていいといっても,株主もそこまでしかさせられないという意味でやはり制約がかかっていると思うのですね。


だから,266条ノ3との関係で言えば,完全に矛盾するというよりは,まあ言いかえているだけかもしれませんけれども,さっき言われたような特約は,もし極端なものを念頭に置かれているのであれば,やはり内在的に制約がかかっていて,意味がない,266条ノ3には負けることになるのだと思います。


  ただ,1点,そこでつけ足しなのですけれども,この1の場合は,明らかに入ってくる段階で了承して入ってきている人しか対象になっていないので,266条ノ3では,今言った理屈で,物的有限責任だから,ある種の行為というのは,幾らあらかじめ株主がいいと言ってもだめという理屈は十分成り立つ余地はあるのですが,ここは了承して入ってきている債権者なので,266条ノ3の解釈がそのまま当てはまるかどうかについては若干疑問があって,その限りで,○○委員の言われたような,覚悟して入ったのだからという議論は出てくる余地はある。

そうなると,恐らく,悪意重過失や「信託事務を行うについて」の解釈のところが会社法の266条ノ3の解釈論とはややずれてくるといったことなのかと思います。

● 深い話をするつもりはありませんで,先ほどの○○幹事の,ここは了承して入ってきているというのだったら,株式会社相手の人はみんな物的有限責任を了承して入っているというふうにも……。


● 不法行為債権者は,好きで債権者になっているわけではないですから。でも有限責任ですから。


● ああ,不法行為債権者は有限責任……。済みません。
  ということと,私,2の「悪意又は重過失」が何に向かっているのかということについて,微妙な食い違いをどうも皆さんの意見の中に見出してしまうのですが,いずれにせよ,266条ノ3の文言に合わせていることは確かなのですが,もうちょっと丁寧に,例えば財産を減らすとか,あるいは○○委員の解釈のように信託事務違反に関してという話にするのか,もう少し明快にした方がいいのではないかなという気がします。

● もう一回確認ですけれども,会社法266条ノ3が適用される場合には,必ず会社に対する義務違反にもなるわけですよね。

● 私,そこが非常に分からなくて,266条ノ3の任務懈怠と266条の会社に対する責任との関係での義務違反というのが完全にぴったり一致するのかどうかというのは,実はよく分からないのですね。

明らかに株主から見れば得かもしれないけれども,道義に外れたことをして債権者に損害を与えるような行為というのはあり得て,それが266条ノ3で一切責任が認められていないかというと,私はそうじゃないと思うのですね。


典型的なのは,取込み詐欺的な,倒産寸前での手形の振出しによる責任というのがよく認められている類型なのですけれども,こういったものは相当,株主との関係で言えば,よくぞやってくれた,とは言いませんが,それに近いことかもしれなくても,やはり責任は認められているのですね。だから,ちょっと……,今言われたようになるのかもしれません。


● だから,恐らく信託事務を行うについての悪意重過失というのではちょっと不明確で,どういう考え方に基づいているかというのが明確になっていない。


会社法も,あの規定のもとでは明確だと思うけれども,それでも,今のようにいろいろな考え方があるとすると,ちょっと問題なのかもしれませんね。ここら辺は少し,文言をただいじるだけではなくて,基本的な考え方をもうちょっと整理しておくということですかね。

● 同じくこの点で,この「悪意又は重過失」というのがよく分からなかったのですけれども,その前提として,1の(1)について,むしろ二つ前の第34の2の米印の2という,そちらの方とかかわるかもしれないのですけれども,権限外で,しかし責任財産限定特約はしているという場合なのですけれども,これが当然に受託者の固有財産の免責をもたらすということでいいのかということが気になっておりまして,今までの議論の流れからも明らかになっておりますように,本来は受託者の固有財産で責任を負うということが前提になった上で,しかし(1)のような要件を満たす場合にはそれが免責されるというのが責任財産限定の趣旨だろうとすると,およそ信託財産の方に帰属させられる権限がないような場合についても当然にこの効果が発生するのかと。


第34のところでは,むしろ無権代理と同じという構成をされていますが,代理と類似であるという出発点自体がそもそも違うのではないかという気がしておりまして,それで,相手方の保護の観点で信託財産の方に帰属するという効果がもたらされるときは同じような効果が結局もたらされるので,免責の効果を認めるという話はあると思うのですけれども,そもそも第28の1の(1)の要件がこれだけで足りるのか,特に権限外の場合にどうなるのかということを確認したいと思います。


  それとの関係で,実は,この資料を拝見したときには,例えば,権限外であることを受託者がもちろん分かりながら,しかし特約だけはしてやったときは(2)に当たるのかというのがよく分かりませんで,もし(2)に当たるのであれば,受託者の主観的要件によっては,これはもちろん結局免責の効果はないということになってきますので,そういうことまで含むのか,それとも,(2)というのはあくまで責任財産の不足を生じさせるという局面だけの問題で,その後の責任財産維持義務みたいな話なのか。


もしそうだとすると,やはり明確にしていただいた方が……。中身がそもそもよく分からないということがありますので。


  あと,これ自体はむしろ個人的な感覚で申し訳ないのですが,責任財産維持ということを考えますと,非常に問題となってくるのは詐害行為取消しなんかの行使という話になってくると思うのですが,これ自体は信託財産固有の話ではないのですけれども,こういう責任財産限定がされたときは,当該債権者との関係では,例えば詐害行為取消権の行使などをしていく場合の無資力というのは当然その信託財産ベースで,それに対して,無限責任的な債権者の場合には無資力要件の判断がちょっと変わってくると,そういう理解でよろしいでしょうか。

最後のところは全く解釈の問題で,確認だけさせていただきたいのですが。


● 規定の趣旨を必ずしもまだ十分検討していない部分についての確認なので,なかなか確認という形で確認できないのではないかと思いますけれども。

● 最後のところだけは,その御理解でいいと思いますが,最初の二つは,まだ検討不十分ですので,いったん持ち帰らせていただければと思います。

● 派生的なことですけれども,最後のところもちょっと疑問があるのですけれども。今の○○幹事のお答えに対して疑問があります。

  というのは,1の(1)でいった場合には,その信託は,責任財産限定債務と,責任財産に限定されない債務,両方負うことがありますよね。

そのときに,全部が責任財産限定であれば,確かに,その信託に限って債権と債務を見て無資力要件を考えればいいのだと思うのですが,固有財産も責任を負っている債務が併存しているときにどういうふうに無資力要件を考えるのかというのは,ちょっと工夫をしないと,簡単には出てこないのではないかなと思います。

● これは,1の方の既存の信託のもとでもって責任限定をしていくタイプというのは,○○幹事が言われたように,責任限定される債権者の方から見たときに,されるのと,されないのと,両方が混じってくる場合があって,これはどこかではまた検討するかもしれませんけれども,その両方が混じっているためにどういう問題が生じるかという問題は,恐らくたくさんあるのですね。今の点も少し関係するのかもしれませんが。


● 多分,現在,責任財産限定特約というのを契約ベースで結んでいるときには,今言ったようなことは頻繁に生じるのだろうと思うのですけれども,そのときの無資力要件というのはそう簡単には考えられないというか,答えが出てこないのではないかと思いますので,それ自体が私の誤解かもしれませんけれども,御検討いただければと思います。私も考えてみます。

● この新たな信託の類型に関することなのですけれども,必ずしも十分制度的なものが理解でき切れているわけではないとは思うのですけれども,今,LLCとかLLPとか,いろいろ検討はされていますけれども,信託は非常に制度設計がしやすい,機関設計とか受益権の設計なんかも非常にしやすいということもありますので,こういう形で可能性としていろいろな道ができてくるというのは,将来,ビジネスニーズに応じて,創意工夫によっていろいろな事業や投資に利用できる道が広がるのではないかという期待ができると思います。


したがいまして,いろいろな道がとれる,いろいろな可能性を広げるという意味で,是非こういう制度も積極的に検討していっていただきたいと思います。


● 先ほどの○○委員の意見といいますか,どこにこういうのを設けるべきなのかという,信託法一般の中なのか,それとも別の場所なのかという問題もあるということでしたね,さっきの○○委員の2番目の意見は。


● はい。
  それで,もう一つ確認ですけれども,これは○○委員もおっしゃっていたことですけれども,この新たな有限責任事業信託なるものの特色がどこにあるのかという話が今あって,もう一回確認なのですけれども,受益者はもちろん出資者で有限責任だよと,それはいいですね。

受託者の有限責任というのは,この1のところで出てきた通常形態の契約・取引ベースではっきり明示したような場合だけではなくて,だから明示する必要すら今後はなく,かつ,不法行為であれ何であれ,公租公果まであるのかどうか分かりませんが,とにかく責任限定だというところまで入っていると理解するのでしょうか。

● そこは,先ほど申し上げたように,そういうふうに当然になるものかどうかというのは,私は個人的には疑問を持っている。


それで,不法行為は,先ほど言ったように,法人の場合であっても代表者は当然責任を負うので,それはこの信託の受託者も同じではないかと思います。

ただ,契約上生じる債権あるいは債務の方についてはもう一律に責任限定になるというところは,一つの新しい特徴なのではないでしょうか。


● 事務局の考え方といたしましては,おっしゃるとおり,基本的に,取引債権であれ不法行為債権であれ有限責任になって,受託者個人にはかかっていけないと。

ただし,もちろん,受託者個人に故意過失があれば,それは民法の個人的な責任は負いますし,あるいは266条ノ3のような責任は負うという理解でございます。

その限度では受託者個人が責任を負う場合もあり得るということになります。

基本的には,あらゆる債権の種類--租税公課はともかく,そこは私どもも考えてきませんでしたが,基本的には不法行為債権も会社と同じく有限責任であるという理解でございます。
● 新たな信託の方の関係ですが,7ページの上2行ぐらいのところに書いてありますけれども,「有限責任性を確保しつつ内部関係については柔軟性を有する組織による事業等の実施に対するニーズ」というのがあって,それにこたえるのだという説明ですが,先ほどから,こういうニーズがあるのだという方と,本当にあるのかという御意見も出たりしていますが,普通の事業をやる方からのニーズというのがあるのかどうか,それはちょっと私は分かりませんが,少なくとも経済的な事業活動を行って悪いことをする人たちにとってはニーズがあるのだろうと思うのですね。

かつ,中の構造が柔軟性があって監督とかされていないという,こういうものを信託で作る必要があるのかという,そういう感じを疑問として持っております。もし作るのだったら,やはり相当その辺も意識したものをつくらないといけない。

  それで,信託一般で作るのではなくて,やはり,そういう限定したものを,もし作るのだったら,考えた方がいいのではないかと。信託法でこういったものを入れることについては反対であると,一応そういう意見でございます。


● 新たな信託の類型の方なのですが,イメージがよくつかめないということがありまして,これで何をとらえようとするのか。先ほど,パイロット事業や期間を限定した事業などに使えるのではないか,またビジネスとしてもいろいろ可能性があるという御指摘があったのですが,私が関心を持っておりますのは,委託者,受益者,受託者の関係はどういうふうなものを想定したらいいのかということで,説明のところですと所有と経営の分離的な説明がされていて,専門家としての受託者の知見を活用できると。


そういう意味では,受託者自身は利益は取らない,受益者と受託者は別であるというような類型を想定していていいのか,それとも,むしろベンチャー的に,受託者も受益者だけど,お金だけ出す受益者もいるというような構造を考えた方がいいのか,そういったことによって信託の法理というのは変わってき得るのではないかという気がしております。


例えば,ここで出されている,受益者に対する弁済のところでも,それを緩和するかというときに,受託者も全員受益者です,しかしほかに資金だけ出している受益者もいますというような類型の場合もやはり緩和ということでいいのかどうかというのも若干気になるところがありますので,もしこういったものを想定しているということが仮に明らかにできるのであれば,その三者の関係を含めてイメージを出していただけると非常に有り難いような気はします。

  それから,中身自体についてはいろいろ分からないところがありまして,一応羅列だけ申し上げますと,信託財産を確保するための方策を定めるということですけれども,これが,定めたけれども履践されていなかったときはどういう効果になるかとか,受益債務の弁済について純資産額を超えては弁済できないというところの緩和のときの,信託財産に属する債務に係る債権者の承認をもって緩和するというときのその緩和の仕方,あるいは手続みたいな話なのですが,これは個々別々に,今回,今回というような承認で,包括的なものではなく,その意味では,各時点の全債権者,不法行為債権者ですとか租税債権者を含めた全債権者の承認をとるというようなことなのか,包括的になりますと,新しく入ってくる債権者というのはその後出てきますので,そういうようなことなのかとか,3ページに行きますと,3行目の「原状の回復をするには著しく多額の費用を要する」というのは,以前この文言が出てきたときは補修のケースが念頭に置かれていて,それに対して,物自体の所有権回復というのはこのような局面はほとんどないのではないかというお話だったと思うのですが,受益債務を弁済するときでどういうような局面がこれで想定されているのか,それから,(オ),(カ)に関して,前者の場合の返還の話なのですが,現存利益だけを返還させるというような方策がとられないのはなぜかというあたり,あるいは「イ 予見可能性の確保」の(ア)の「取引等をする」の「等」に何が入っているかとか,明示しなかったときにどうなるかとか,細かいところで若干気になることがありますので,もちろん,この場でお答えいただかなくても,また別の機会にでも教えていただければと思います。


● 細かいのはすべてお答えする時間もないかもしれませんので,むしろ,こういう制度を設けるべきかどうかという観点からの大きな問題について答えてもらった方がいいと思いますが,先ほど○○幹事が挙げられた例の中で重要だと思われるのは,受託者も受益者の一人であって,そういう意味では投資家が集まっていて,しかし受託者が同時にジェネラル・パートナー的な役割を果たしているというのをイメージするのか,あるいはどこか違うのをイメージするのか,そこら辺ですね。これによって,この信託というのをどういうふうに理解するかというのは大分違うと思いますので。
  これはいかがでしょうか。


● こちらとしては,○○幹事がおっしゃられた,受託者が受益者の一人である場合であろうが,それ以外のベンチャーみたいな場合であろうが,特にこういう類型を念頭に置いているというよりは,いろいろな用途に応じて,単に出資だけする人もいるでしょうし,事業を執行しつつ出資もするという人もいるでしょうし,いろいろな類型を考えている,特に限定してこれといった一つのイメージを抱いているというわけではないというところでございます。


それによって果たしてどのように信託の見方が違ってくるのかというところがよく分からないのですが,特定の類型を念頭に置いて考えているわけではないというところが一つのお答えになるかと思います。

  あと,細かい点は,ちょっと今直ちにはお答えできませんが,例えば言ったことを守らなかったときはどうなるかというのは,信託財産を確保する方策の中で,それを履行しなかったときには無限責任に戻るというような履行確保策というのを定めるようなこともできるでしょうし,そのような方策をいろいろ考えていくことになるのではないかと考えているところでございます。

● 1点,質問でございます。
  新たな信託の類型というところで,もちろんユーザーの立場からすると,このような選択肢が増えることは評価できると申し上げたところですが,先ほど御発言があったように,悪用されるリスクがあるかもしれないと。

その観点から,例えば,いろいろな信託会社に対して,また受託者に対して取引を行う者,取引債権者の立場からどういう問題が起こるのかということで質問なのですが。


  要は,1の通常形態における信託の債権者保護の在り方と,2の新たな信託の類型の在り方と,差があるわけですけれども,ここはどう違うのかということです。

例えば,銀行の立場からすると,1の場合でも2の場合でもそんなに入り方は変わらないわけですが,この分類でいきますと,1でいくと明示するものが二つありまして,2でいくと,新たな類型の信託の特定の信託の受託者であるということの明示があって,登記を見なさいという話になっているわけですけれども,そこで分かれまして,その効果として,1では,悪意重過失というところでいわば間接的に保護されて,2として,そういう確保のための規律があるというところとの差が出てくると。

  一番大きいものは,やはり前に申しました開示の話でありまして,1に関していうと,開示については規律がないと。

ところが,2について言いますと,一応,開示は,3ページのイの(イ)の,利害関係人は書類の閲覧等ができるということで,あと,それに加えて,任意には,債権者保護手続の一つとして,信託行為を変更することができるとする場合には債権者保護手続があるということですが,そうしますと,言葉を変えますと,1で入ってきた人というのは,そういう開示も受けられず,かつ,信託が勝手に変わっても債権者保護は得られないという話になるわけですけれども,取引債権者からすると1も2もそんなに変わらないはずなのに,どうしてこの差が出てくるのかというところがちょっと理解できないところなので,もし教えていただければ有り難いのですけれども。


● 結構重要な問題点ですね。
  これはいかがでしょうか。

● 2というのはあらゆる債権を対象にしておりますので,それだけ制度を十分整備する必要性が高いのではないかと。


それに対しまして,1といいますのは,有限責任になるということを認識した上で入ってきている債権者ですので,それを保護する観点から,ここまで,新たな信託の類型と言われるほどまでの制度の整備は要らないのではないかなという気がしておりまして,それでそういう差異が設けられているということでございますけれども。


● 確認なのですが,そうしますと,2の場合には必ずしも覚悟して入っているということではないということ,つまり,3ページのイの「新たな類型の信託の特定の信託の受託者である旨を明示しなければならない」ということと,1の「特定の信託の受託者である旨及び特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨を明示」した取引であることを明らかにするということとは本質的に違うということですね。

● 1というのは,実質的には,現在あります責任財産限定特約と同じような趣旨を,よりコストを低減させるために認めたにすぎないといいますか,そう変わるものではないわけでして,取引債権者だけを見ますと,確かに明示するという点だけ見れば違いはないように見えますけれども,2はほかの債権者も対象に置いているということで,保護策が大分違ってきているということになりますが。


● 実務的な観点から申し上げますと,物は言いようということにもなるかもしれませんけれども,1と2とでどこが大きく違うのか,入り方としてですね,という気はいたします。

2のところで,例えば,特定事業信託者でありますけれどもといったときに,ある程度覚悟して来てくれるというようなことを期待しているのかもしれませんし,逆に,そもそも1のところでそういうことを言ったとしても,それほどの覚悟で来ているのかどうかというのはよく分からないと思いますので,1と2と,入り方としてそんなに差があるのではないのかなという印象はあるわけですが,その違い,私から見るとわずかな違いにもかかわらず,この法規定が大きく変わるということが,どうしてそこが違うのか,逆に言うと,当初私が申し上げたように,1の保護規定というのは本当にこれで十分なのかという疑問にもなってしまうということでございます。ちょっと実務的な印象を申し上げました。

● 今の○○委員のお話をお聞きして,私が今まで抱いていた認識が違っていたかもしれないと思って,再度お聞きするのですけれども。

  1のところは,先ほど申し上げましたけれども,普通デフォルトで特約をつけてやりましょうというのと何ら変わっていないと思いますので,普通であれば,それプラスアルファで特約がついてやるのではないかと。


ですから,(2)の規律だけがきいてくるのではなくて,多分,(2)以外に,そのとき規制しようと思うようなものを契約の中で入れてくるのではないかなというふうに考えていたのですが,それはそういう認識でよろしいですね。

  それで,2の方については,とりあえずパッケージ化した形で有限責任になっていますということで,1は,ただ,明示するというようなところの部分でいろいろとごちゃごちゃ書くところが軽減されると,ある意味それぐらいのことなのかなという意識を持っていたのですけれども,そういう認識でよろしいのでしょうか。


● 基本的にはそういう考え方でございます。


● 1の既存の信託の考え方なのですけれども,デフォルトとして受託者が無限責任で,責任財産限定特約を付すことで有限責任になるということについては,先ほどの○○幹事からの御説明で,その趣旨は責任財産限定特約のコスト削減であるということだったのですけれども,そのニーズが一体どれぐらいあるのかというのがちょっとよく分からないなというところがあります。

  それと,現状,責任財産限定特約を付して取引を行う場合とどこが違うのかというようなところもちょっと引っ掛かっているところでございます。


  それと,実際に行われている金融取引についてちょっと御紹介しますと,やはりこれで多いのは,年金等の信託で信託銀行が受託者になっているような場合,これが,金利ですとか為替ですとかのヘッジで,デリバティブですとか,あるいは債券・株式の貸借取引といったものが起きるわけですけれども,通常,信託銀行は,信託勘定と銀行勘定でそういったヘッジを提供しているわけですが,場合によっては外銀と行うということが多いわけでして,外銀と信託銀行との間の取引では,従来から,特定の年金の信託における,受託者であるという旨の表示というものがなされてきたわけですけれども,責任財産限定特約というものがスワップ契約のスケジュールの形で一部使われるようになってきている。


ただ,それには,ただ単に責任財産が限定されるということだけではなくて,信託銀行側,受託者側に信託財産の分別管理義務と一定の情報開示義務を課していて,それが守られなかった場合は責任財産限定特約が外れるというような書きぶりになっているのですね。


  あと,実情,これは私が勤めている会社,あるいはその同業者からよく聞くことなのですけれども,では受託者,信託銀行に信託財産に関する情報を開示してほしいといった場合に,ほとんどの場合,委託者の同意が得られないということで,何の情報も開示されないということです。


それでも実際にデリバティブ取引は多く行われているわけですけれども,これは,債権者側としては,もう信託銀行の信用力に依存してやっているのだという割り切りで行われているというのが実態ではないかなと思います。


こういった取引が有限責任ということになれば,恐らく,信託財産に限定して与信を行うということが,受託者自身の銀行勘定は別として,金融機関にとって非常に難しくなるかと思いますので,実務上の支障も大きいのではないかなという気がいたします。


● これは先ほど○○委員も言われましたけれども,私は,1に関しては恐らく現在のとそんなに違わなくて,責任財産限定特約でもって取引をするときには,ここに書いてある要件のように,「特定の信託の受託者である旨及び特定の信託に係る信託財産に責任が限定される旨を明示して」と,要するに責任が限定されますよと,それで取引をしてくれますかと,そういうことで,応じるかどうかだと思うのです。


ですから,そのときに,これだけの条件ではそういう責任限定の取引には応じたくないというのであれば,やはり条件を出して,それでいろいろな付随的な条件をそこで合意して取引に入るという構造は今までと基本的には変わらないのだろうと。

この点では,私,○○委員と基本的に同じ認識を持っておりますけれども,あるいは,まだそこら辺でちょっとニュアンスの差があるのでしょうか。そんなに差がないのではないかと思いましたけれども。

● 差がないということならば,私は異論がないのですけれども,明示して取引というのと,責任限定を合意するというのは果たして同じなのかというのは,私,ちょっとよく分からないところがありまして。
  

例えば,個人的には羽振りのいい受託者が,しかしながら,もうどうしようもなくなって末期症状にある信託を持っているというときに,この明示をして相手方と取引をする際に,本当に相手方に,現在この信託は赤字でどうしようもないということを何ら言わなくても,明示をすればそれで責任財産限定の効果が発生するのかというと,私はちょっと疑問のような気がいたします。


  責任財産限定を認めてよい最近の学説として私の論文を引用してくださっているのは有り難いのですけれども,ここには,私,責任財産限定特約というのは強い説明義務が課せられる特約であって,場合によっては内容とか現在の状態とかを言わなければならないという話を,余り自信はありませんが,書いたような覚えがありまして,そこら辺,若干ニュアンスが違うのではないかと。


とりわけ,もし仮に2の新たな信託の類型というのを作ると仮定したときには,その辺のところのイの(ア)の「明示しなければならない」というのと同じ文言にする,それで同じ明示という形にするのは,私は,どうかなという気がいたします。


  2番目に,これは○○委員がおっしゃっていることに全く異論はないことで,繰り返しだけなのですけれども,2の方向,新たな信託の類型という形をとりましても,不法行為債権というものは実は排除はされないはずですよね。


なぜならば,受託者が例えば自然人の場合を考えますと,そもそも受託者に故意過失がなければ不法行為責任は発生しないわけであって,そうだとすると不法行為責任が発生するときには,受託者には故意過失があるわけですから,受託者は不法行為者として責任を負うわけですね。


それは法人の場合も同じであって,法人の不法行為を認めるかという話はありますけれども,仮に認めるということになりましたらそうなるわけであって,そして,その法人が持っている財産すべてが尽きたらもう終わりだというのは,これは当たり前の話で,それは自然人がすべての財産が尽きたら終わりだというのと同じなので,不法行為債権というのは,理論的には全く限定がかからないものではないかと思います。

  ただ,これも○○委員がおっしゃったことの繰り返しになりますが,工作物責任等についてどう考えるかという問題はなお残るとは思いますけれども,個人的には,なぜ,あるものが信託財産であるからといって,当該工作物の瑕疵から被害をこうむった人が責任財産限定みたいな形にならなければならないのかというのは私はよく分かりませんので,私はそれもかからないと思いますけれども,全くもって,不法行為については○○委員がおっしゃったことを繰り返しただけです。

● 私の申し方が悪かったので,ちょっと確認を申し上げたいと思うのですけれども。

  私が1について申し上げているのは,もちろん理論的には1というのは現状と変わらないと。


もちろん,それを契約というのか,擬似契約的なものというのかどうか,ちょっと変わるかもしれませんけれども,そこについては認識の差異はないと思っています。


私が申し上げたいのは,どちらかというと実務的に,こういうことをやると結局契約交渉のバーゲニングパワーというのが実質上信託側に移るので,そうすると,実務上の問題も,又は立法政策上の問題かもしれませんけれども,それを保護するために,第三者に対して何らかの保護規定として開示の権利を受けるとか,また,言った言わないということも,もちろん挙証責任の問題はありますけれども,事実上の問題としてそういうトラブルを回避するために,より明示的な方法を取り入れるかどうかと,そういうことでございます。


● 恐らくまだ御意見があるのかもしれませんが,ちょっとここでいったん休憩いたしましょう。それで,その後,もし御意見があれば,若干御議論いただいて,更に先に進みたいと考えております。
  それでは,休憩にしましょう。

            (休     憩)

● それでは,再開いたします。
  今の有限責任のところについては大分御議論いただきましたけれども,もしなお御意見があるということであれば,伺いますが。


● 法制度的な論点ではなくて,有限責任の信託制度がどういう使われ方をするのだろうか,実需があるのだろうかと,こういう御議論でございます。


  経済産業省は最近,新産業創造戦略をまとめて,その中で,「ビジネス・トラストへの期待」という言葉を入れさせていただいております。

経過で言うと,やはり有限責任制で出資する方々にインセンティブを与えてほしいという点と,内部関係をなるべく自由な設計を認めていただいて簡素にしてもらいたいと,これは経済界の方は大体この二つは非常に強く望んでいるのだと思います。


  現在,その二つの要素を兼ね備える組織体ということで,いわゆる人的な会社をベースにしたLLCと,パートナーシップをベースにしたLLPと,それから信託をベースにした有限責任信託,この三つのアプローチがあるのではないかと我々は思っていて,もともとLLCについてもかなり強く制度の実現を働きかけてきた経緯もありますし,LLPについては,現在,経済産業省の方で新しい立法をつくろうということに,今,頑張っている最中です。

  ただ,このLLCとLLPは,どちらかというと出資する方と経営に参画する方が大体一致しているイメージの制度の立てつけになっていまして,共同事業性のビークルとなっております。どんな使われ方をするのかというのは,私の感じですと,つくった当初は,アメリカも石油の開発会社あたりがつくっていたところが,どんどん利用実態が広がっていって,結構専門人材の集まるところでどんどん使われているというような議論になっていると思いますし,例えばイギリスのLLP制度も,当初は会計事務所が使いたいという議論で始まったのだけれども,ふたをあけてみると,サービス産業だとかコンテンツハウス,ITハウスだとか,そういういろいろな人たちが使い始めているということを見ると,やはり制度というのは,一回できてみると,いろいろな柔軟な使い方が創意工夫の中で出てくるのかなというふうに期待を持っております。

  有限責任信託について言うと,LLPとかLLCとの違いについて言えば,恐らく受益者と受託者がある程度分離している。LLPの議論をずっと突き詰めると若干出てくるのが,いわゆる出資組合的な人を排除するような仕組みに最後はならざるを得ないですけれども,有限責任信託ならば,そうした,出資をする方と実際にノウハウを回していく方がある程度分離して,なおかつ有限責任制で内部自治が非常に柔軟だというようなところにも使えるような気がしていて,そこは新たな事業活動のベースになるのかなと思っています。


  一番心配なのはやはり税制でありまして,LLCは,法人格があれば法人税という壁はなかなか越え難いというふうに思っています。


LLPは,今,構成員課税の話を主税局と一生懸命やっていて,これは構成員課税が取れるのではないかと思っていますが,有限責任信託についても,最後は税制の議論が非常に重要だと思っています。

できれば有限責任制で,内部自治が非常に簡素で,なおかつ構成員課税という道ができて,かつ,LLPと違って,必ずしも出資者全員が事業に参画しなくてもいい,ある種出資だけに特化するような方も許容するような組織形態ができれば,新しいビジネスの一つのビークルになるというふうに思っています。


  ただ,正直申し上げて,日本に全くない制度ですので,想像の域を出ないといいますか,ちょっとまだ……,もしかすると妄想の域を出ないのかもしれません。

  それから,特に,先ほど悪用という議論がございましたが,これは実はLLPでも相当議論はしています。


特に税制が構成員課税になったらそういう議論は必ず出てくるのですね。

したがって,こういう有限責任信託制度を作る際も,税制の議論がどう落ちるかにもよるのですけれども,そういった悪用防止という視点からのチェックという議論は避けて通れないと我々は考えております。


ただ,これは制度の実情が見えてこないと,どこまでが過剰でどこまでが適正かという議論は今の段階ではなかなか難しいのですが,さっき○○委員がおっしゃったような視点というのは,我々の方もそこがあっての前提だというふうに考えております。

  ただ,立法形式で,先ほどの特別立法かどうかという議論は,実は経産省はそういうところは余り関心がなくて,信託法の現代化の中でこなしていただいてもいいし,別法ができてもいいし,とにかく利用者にとって分かりやすいような立法ができてくれれば有り難いと思っています。

  それで,経産省がやりたいことは,海外の活用例というのを一回調べてみなければいけないなという感じはしています。


それともう一つは,今ちょっと申し上げたようなLLCだとかLLPとの比較対照で,さっき○○幹事がおっしゃったような,受託者がいて,受益者がいて,委託者がいてという三者関係が,いわゆる既存の組織形態の株主だとか経営者だとか,そういう関係との関係でどう整理ができて,どういうバリエーションがあって,それぞれがどういうところに特徴があるのかという頭の整理をして,海外の実例とかもまた別途調べに行きたいとは思っておりますが,先ほど申し上げましたように,新しい仕組みができると,大体,当初想定した以上に,いい利用もされるし,悪い利用もされる。


悪い利用はなるべく排除しながら,いい利用が出るということを期待して,この有限責任信託制度を是非この法制審の中で適切な形で立案していただければ非常に有り難いというふうに考えております。


また後日,調査結果ができ上がり,御紹介する機会があれば,皆様方の前に御紹介したいなというふうには思っております。


● LLPと非常に似たところは確かにあるのですね。

ただ,あくまでこちらは信託ですので,信託であるということから来るいろいろな問題,当然,受託者なんかについての信託業法的な規制もあると思いますけれども,そういうところは違ってくると思います。


● 先ほど○○委員から,アメリカにおいて,ビジネス・トラストは結局のところ,投資信託ですとかリートですとか,非常に限られた,いわゆる集団的投資スキームの分野に限定されることになって,その最大の理由は税制にあるというような御指摘がなされて,それは全くおっしゃるとおりだと思いますけれども,私法上もやはりビジネス・トラストの利用が限定された理由があると思いますので,その点についてちょっと御紹介させていただければと思います。


  その問題は,○○委員,それから○○委員が指摘されましたけれども,通常,ビジネスのビークル等で有限責任というときには,出資者の有限責任が一番問題となるわけですけれども,この仕組みでビジネス・トラストを使って受益者が有限責任を確保できるかどうかということがアメリカでは結局非常に不安定になったというのが,私法上の問題点ではないかと思います。

すなわち,受益者が受託者に様々な指図を出して,いわば所有と経営が分離していないような信託の運営をするときは,アメリカでは,これはもうパートナーシップであるという法的性質の認定がなされまして,受益者に対して無限責任が課されるケースがあったと。


これはコントロール・テスト等と呼ばれておりますけれども,支配権,コントロールがあったかどうかということを判断して受益者の責任を判断したわけですけれども,結局そのような非常な不安定さがあって,それだったらやはり会社を使おうかという面があったのではないかと思います。

  この受益者の責任については,この注の中で,基本的原則としては受託者からの補償請求権がないということを書いて,一応,受託者と受益者との関係では受益者有限責任のように見えますけれども,第三者との関係でも本当に有限責任を確保できるのか,逆に言うと,コントロール・テストのようなものが使われないような債権者保護のためのルールを設けられるかどうかという点が非常にポイントになるのではないかと思います。

  そういう意味では,私は,やはり,それこそ今通常の株式会社がやっているようなことがこのビジネス・トラストでどんどんなされるというようなことは余り考えられないし,望ましくもないのではないかという気がするのですけれども,他方で,余り物的施設なんかを必要としないような,むしろアイデアですとか知的財産があれば何か生み出されるというような仕組みとして,一般の受益者からは資金を集め,能力・技術を持っている人たちが受益者の指図等を受けないで何か生み出していくということには,この有限責任信託というのはふさわしい仕組みになり得ると思いますし,何よりも信託は,事業目的に限らず,どんなことでも行えるわけですので,例えば他益的な事業,あるいは幅広い受益者のために行う中間法人的な事業,こういったものもこの有限責任信託を使ってできるというのが,先ほどの○○幹事の御説明だったと思います。

そうだとすると,この有限責任信託という制度自体を作ることは,やはりいろいろな可能性を生み出すという点で望ましいことなのではないかという気がいたしますけれども,先ほどのアメリカの経験等も踏まえて,受益者の責任を本当に確実に確保できるかどうかというところは更に慎重な検討が必要ではないかと考えております。


● ○○幹事から米国の実態の御紹介がございまして,その点につきましては,なお私どもでもう少し調査をしてみないといけないかなと思いますが,私どもが拝見しておりますところによりますと,○○幹事が御指摘のように,最初は確かに,米国におきましても,受益者が指図をしているときには,これは実質的にはパートナーシップではないかということで,受益者に対して責任を追及していったという状況にあった,と存じあげております。


ただ現在は更にそれを超えて,各州において,これは信託といえば信託だろうという形で,ビジネス・トラストという形ではございますが,独自の立法というものがなされているような状況にあるのではないかというふうに……。

● もしそうだといたしますと,○○委員が先ほど御指摘になった問題に戻って,これは事業形態としての特殊な信託の一類型だということとなると思うのです。


そういう意味では,ビジネス・トラストという形で特別な立法をすると,それはいわば企業形態として規律しているのであって,トラストということにどれだけ実際上の意味があるのかという問題にまた戻ってしまうのではないかと思います。


むしろ,○○幹事が先ほどの御回答の中で,何を行うかについては開かれているということを言われたと思うのですけれども,そうだとすると,ビジネス・トラストについての特別立法というのとはまたちょっと違う話になってくるのかなという感じを持っております。


  だから,逆に言うと,そこのところをきちんと整理する必要がひょっとしたらあるのかもしれません。

● 目的のところについては,先ほどお答え申しましたように,限定しないということで考えさせていただいていましたので,我が国法において入れるときに,そういう限定を加えることが必要であるかどうかというようなことについては,またなお検討させていただきたいとは思います。

  それから,先ほど,受託者の有限責任というところと出資者の有限責任というところを混同しているのではないか,星野先生の論文の挙げ方が混同しているのではないかという御指摘をちょうだいしたところでございまして,説明の書き方が一言ざくっと書いてあるだけでしたので,ちょっとよくなかったのかもしれないと思って反省いたしておりますが,ここで私どもが星野先生の論文を引用させていただきましたのは,いわゆる形式的な所有者であれ,実質的な所有者であれ,その所有者に対する債権者というものがいわゆる一定目的の財産に対してかかっていけないということが,その一定目的の財産に対する債権について形式的あるいは実質的な所有者が有限責任を担保されるということの前提条件になっているというような趣旨で引用させていただきたかったと。


もうちょっと具体的に申しますと,星野先生の第1の要件というときに,出資者に対する債権者というのが団体財産にかかっていけない,したがって,その団体財産に対する債権者というのが出資者個人に対する債権者に優先するというところが,出資者に対する有限責任を認めるためのまず第1ステップだということで,現行信託法を見ましたときに,受託者は確かにその信託財産の所有者なのですけれども,16条によりまして,固有財産に対する債権者というのは信託財産にかかっていけない。


その意味において,信託財産に対する信託債権者というのは固有財産に対する債権者には優先するというようなところで,その第1の要件と同じような,信託債権は有限責任であるというようなベースがあるのではないかという意味で引用させていただいたということだけで,ちょっと指摘の仕方が悪かったかもしれませんが。

● そのロジックは分かりますけれども,その話をまた言い出すと,全体として,投資家というか,そういうものの有限責任というのをいろいろな器でもって考えようというときに,受託者の,まあ受益者を兼ねる場合もあるかもしれないけれども,さっき○○委員がまとめられたように,投資家とは違って,全然投資はしないけれども事業の担い手として活動する者の責任を有限責任にするか,それとも無限責任にするかという問題なので,星野教授の論文というのは,やはり適切じゃないんじゃないですかね,場面として。


  ただ,全体として二つの問題があって,こういう制度でもって投資家の有限責任というものを確保しようというのがまず一つであり,かつ,受託者については,これは○○委員が言ったように,受託者自身はこれによって利益を受けるわけではないし,基本的には投資の危険というのはその信託財産自体が負うべきなので,そういう信託において受託者の有限責任というのを認めていいのではないかと,それでさっきの一々特約をしないでも一律に認めるようなタイプがあり得るかどうかと,そういう問題なのではないですかね。だから,やはり星野先生の論文を引用する場面がちょっと違うのかもしれない。


  いろいろ御議論いただきましたけれども,問題点は恐らくもう一回詰めるということになりますが,また,仮にこういうのがあってもいいというときにどういう形で立法するかというのは,○○委員あるいは何人かの委員から言われましたように,更に検討しなくてはいけないのではないかというふうに思います。
  それでは,一応これで一区切りにさせていただきたいと思います。

● それでは,第35,第36の補償請求権と報酬請求権についての説明をいたします。

  補償請求権でございますけれども,現行法36条1項,2項に関する見直しの提案でございます。

  まず,1でございますが,これは,信託財産に対する補償請求権に関する提案でございまして,このうち,受託者が補償請求権を行使する方法といたしまして,信託財産の処分,まあ固有財産化すなわち金銭の充当ですとか,あるいは利益相反行為に該当しない限り,その買受けというものも含むと解しておりますが,そのような方法,又は信託財産の強制換価手続に対する配当要求の方法を定めるというところは,報告書と変わりはありませんし,第2回会議でも説明したところでございます。


  そこで,本日は,まず,1の規律に関して最も重要と思われます補償請求権の優先性の問題について御説明いたします。


  この優先性に関しましては,現行法36条1項が,受託者が信託財産から補償を受ける権利は,受託者の負担した費用の性質を問わず,他の権利者に優先して行使することができるとされておりますのに対しまして,提案では,(4)のとおり,受託者が信託財産の価値の維持増大に資する必要費又は有益費を直接信託財産に対して出資した場合に限って優先性を認めることとしております。


この提案内容は報告書と変わらず,その理由についても第2回会議で説明したとおりでございまして,信託財産に関して負担した費用の中には信託財産に属する借入債務の弁済費用などもあり得るところ,このような費用の支出については他の債権者の利益になるものとは言い難く,優先性を認める根拠となる共益性を認めることはできないと考えられるからでございます。

  このように補償請求権の優先性を限定する提案に対しましては,やはり第2回会議におきまして,主として実務サイドの意見として,受託者の信託目的遂行の観点から,優先性を限定するのは信託財産にとっても望ましくないとの考え方,あるいは,共益性を緩やかに解すれば,信託財産に属する貸金債務を弁済した場合でも優先性を肯定できるのではないかとの考え方が示されたところでございます。


  そこで,この信託財産に対する補償請求権の優先性をいかなる範囲で認めるかにつきまして,改めて是非とも御審議を願いたいと思います。


  なお,優先性に関連しまして,事務局の提案内容に関し2点補足させていただきます。
  第1に,第2回会議では,事務局の提案内容に対する批判論といたしまして,提案内容によるときは,いずれも信託財産に対して共益的費用が支出されたという場合におきまして,いったん外部から信託財産を引当てとする借入れがなされ,これを共益的費用に支出した後で受託者がその借入債務を弁済したというケースでは,先ほど言いましたように優先性が認められないことになるのに対しまして,外部から借入れをなさず,受託者が直接共益的費用を支出したというケースでは優先性が認められることになると考えられますが,この点については,信託財産が利益を受けていること,それから受託者は結果的にその費用を出していることには変わりがないにもかかわらず,たまたま資金の流れ方が異なるために優先性が異なるというのはおかしいのではないかという指摘がございました。

  この点につきましては,31ページの(注5)にも記載したところでございますけれども,受託者としては,信託財産が貧困で,必要費や有益費を支出しても回収の見込みがないような場合であれば,2の規律によって受益者に対する前払請求や信託終了の方向に持っていく方法もあったでしょうし,あるいは外部から借入れをするにしても,信託財産のみの有限責任債務とすることもできたにもかかわらず,あえてこれらの方法をとらず,第三者に対する無限責任債務を負担して立替払いをするというリスクを自ら負担したということを考慮すると,優先性に違いが生ずることも許容できるのではないかというふうに事務局としては考えたものでございます。

  第2に,優先性を認める根拠をその費用の共益性に認めることにいたしますと,優先性の有無は,受託者による費用の支出によって利益を受けているか否かを,その権利者単位にではなくて,その有する個々の権利単位で判断して決することになると思われます。


  例えば,信託財産たる土地が複数ある場合におきまして,受託者がそのうちの一つの土地の不法占拠者を排除する費用を支出した場合について考えてみますと,信託に対する貸付債権者については,その有する貸付債権の対象が特定の信託土地に限られるものではないことになりますので,受託者の出したこの排除費用がどの信託土地に関するものであろうと,貸付債権は恩恵を受けている,すなわち,これを受託者の側から見れば,この排除費用をもって,どの信託土地についても貸付債権に対する優先性を主張することができてよいと考えられます。

  これに対し,特定の信託土地についてのみ抵当権を設定している貸付債権者については,不法占拠者が抵当権の対象土地にいたのであれば,一般債権たる貸付債権のみならず,併有する抵当権もまた恩恵を受けたと言えるのに対しまして,不法占拠者が別の信託土地にいたのであれば,貸付債権としては恩恵を受けたと言えますが,抵当権としては恩恵を受けたとは言えませんので,受益者としては,貸付債権に対しては優先性を主張することができても,抵当権に対しては優先性を主張することができないというふうに解されます。

(4)のただし書及び30ページの(注3)は,このような考え方を示したものでございます。

  なお,御参考までに,現行の民法307条,共益費用の先取特権というところにおきまして,2項で,支出費用のうち,すべての債権者に有益でなかったものについては,先取特権はその費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在すると書いてありますのは,ただいま御説明いたしましたところと同じような趣旨かと思います。


  次に,2は,受益者に対する補償請求権に関する提案でございます。

  その提案内容は,のちほど御説明する一つの点を除いて報告書と変わるところはございませんが,この2の規律で最も重要と思われますのは,(1)におきまして,デフォルト・ルールとしてではございますが,受益者に対する補償請求権について,現行法と同じく肯定する甲案と,否定する乙案のいずれをとるかという点でございます。


ここは第2回会議においても議論をいただきまして,その際の大まかな印象としては,実務サイドの方は甲案を支持し,学者サイドの方は乙案を支持するというものであったと思われますが,この点につきましても,本日改めて,是非とも審議を願いたい点でございます。

  なお,その他若干の点につきまして,付随的に御説明をいたします。
  まず,第1といたしまして,1(3)のただし書,すなわち,「受託者は,固有財産をもって信託財産に属する債務の弁済をした旨を債権者に通知しなければ,債権者に代位の効果を対抗することができないものとする」としております。

これは,受託者が固有財産で弁済しても,債権者は,受託者の固有財産が原資となっているのか,信託財産が原資となっているのかは関知せず,単に弁済により自己の債権が消滅したとの認識しか有しないのが一般的であり,弁済の効果により受託者が当然に代位しているという認識を有し難いために,当該債権者が不測の損害をこうむるおそれがあると考えるからでございます。

そもそも,事務局内部の検討では,通知をもって代位の要件とする考え方も示されましたが,やはり法定代位と同様に考えまして,弁済をもって当然に代位するとの構成はとっております。


もっとも,説明の中では信託債権者の担保保存義務の観点からの必要性を論じておりますが,むしろ,債権者が自己の債権が完全に消滅したと認識してしまうことから生ずる不測の不利益を防止する観点を重視するものでございまして,例えば,抵当権付債権者としては代位弁済がなされたとの認識がなく,単に被担保債権が減少したという認識しかない場合には,新たに信託財産に対して担保付貸出しに応じるとか,抵当権の処分をしてしまうということもあり得なくはないと考えられるからでございます。


  さらに,通知を怠った場合の効果につきまして,代位の効果を対抗することができないとしておりますが,この点につきましても,通知を怠った受託者は債権者に対して損害賠償義務を負うとするにとどめるべきか,あるいは代位された権利と債権者の新たな行為との間の優劣関係にまで及ぶべきかにつきましては,恐らく損害賠償義務の限度になるのではないかとは思われますが,なお検討したいと考えているところでございます。

  なお,(3)のただし書は,弁済後における通知の要否について規定したものでございますが,民法504条は弁済前における担保保存義務について規定しておりますところ,受託者の固有財産による弁済に代位の効果を認める以上は,信託債務の関係で,受託者は「弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者」に当たるようにも思われます。


もっとも,そのためには,債権者において,受託者に対して有する債権が信託債権であるということを知っていることがやはり必要であると思われますところ,この点についても,30ページの(注2)にありますとおり,なお検討することとしたいと考えております。
  それから,(3)のアステリスク1の点でございますが,これは,担保不動産が信託財産である場合には,担保権者として配当を受ける関係では,やはり受託者が付記登記を経由する必要があると解されるわけでございますが,当該不動産が受託者自身の所有名義であるために,自己名義の不動産について付記登記ができるのかという問題が生ずると思われますので,この点についてなお検討することとしたものでございます。

  次に,(5)のアステリスク2の点でございますが,これは,第2回会議で指摘いたしましたとおり,補償請求権に基づく配当要求といいましても,受託者自身を債務者とする債務名義を取得することはできないと思われます以上,他にいかなる方法によることができるのかという点でございます。

  この点については,執行法上認められている債務名義以外による配当要求の方法,すなわち,先取特権と同様に,文書によって補償請求権の存在を証明する方法によることが適当であると思われますが,それには現行法の規定では対応できないことから,新たに次の二つのうちいずれかの手当てを選択することになると解されます。

  その一つは,実体法上,補償請求権を先取特権とみなすという方法でございますが,これによるときは,執行法におきまして配当要求を有名義債権のほかには先取特権に限っている趣旨を維持することはできますが,その半面,補償請求権一般に先取特権としての優先性を認めることになりますと,補償請求権の優先性の範囲を必要費又は有益費の限度に限った趣旨が没却されてしまうことになるおそれがあると考えられます。

  もう一つの方法は,先取特権のほかに,補償請求権については,その存在を文書で証明することによって配当要求できるとする手続的な特例措置を信託法あるいは執行法上に設けるという方法でございます。


これによるときは,手続上の例外を認める必要性はあるものの,補償請求権の実体的な性質には何ら触れるものではございませんので,補償請求権の優先性の範囲を限定した趣旨にはかなうものと考えられます。


  最後に,2の(4)の点でございますが,第2回会議で説明いたしましたとおり,受託者としては,信託財産に対する補償請求権が効を奏しない場合において初めて受益者に対する補償請求権を行使することができるという意味において,補償請求権の順位づけを図ったものでございます。


その趣旨は報告書と変わるところではございませんが,受益者に対して補償請求権を行使できる場合につきまして,報告書では,信託財産に対する補償請求権を行使することによっても補償を受けられない場合に限りとしておりましたが,ここでは,信託財産に対する補償請求権を行使しても補償請求権の弁済に不足する場合,又は弁済を受けることができなくなる蓋然性が高い場合に限りと,より補償請求権を行使できる機会を広げる方向に改めております。


これは,信託財産をもってしては補償請求権の満足に不足することとなる蓋然性が高い場合においても,現実に不足が判明しない限り,受益者に対する補償請求権を行使できず,あるいは信託を終了させる手続に入ることもできないとすれば,受託者にとって酷にすぎると考えられるからでございます。
  以上が補償請求権についての説明でございます。

  次に,報酬請求権につきまして,簡単に3点ほど御説明いたします。
 
 報酬請求権のポイントでございますが,これは,まず第1点として,無償を原則としつつも,(1)の①ないし③の場合においては,相当の額の信託報酬を受けることができること,第2点といたしまして,信託報酬は信託財産のみから受けることを原則とし,特約のない限りは受益者からは受けられないこと,第3点といたしまして,実質費用を含まない純粋な報酬,すなわち利潤部分につきましては優先権を認めないということがありまして,その他の部分を含め,次に述べます2点を除きましては,報告書の記述,あるいは第2回会議で説明したところと変わりがございません。


  報告書の記述に追加いたしました点は,報告書において検討事項としておりました,受託者が相当額の報酬を恣意的に信託財産から控除するおそれを排除する観点から,1(2)のただし書のように,報酬の額又は計算方法についての通知義務を受託者に課した点でございます。

通知義務の相手方を受益者としていることや,通知時期を第1回目の報酬受領日前としていることの理由につきましては,資料の34ページに記載してあるとおりですので,ここでは説明を省略させていただきます。


  それから,報告書の記述を改めた点でございますが,信託報酬の支払時期等に関する3(1),(2)の記述に関しまして,報告書では「信託の終了」としておりましたが,委任と異なりまして,信託の場合には受託者の任務が終了しても信託自体は新たな受託者のもとで存続していくのが原則でございますので,「受託者の任務の終了」と改めた点でございます。
  以上で説明は終わらせていただきます。


● それでは,補償請求権と報酬請求権,それぞれ若干似た性格のある問題ですが,これをまとめて御議論いただければと思いますが,いかがでしょうか。


● それでは,第35と第36,両方とも述べさせていただきます。
  まず,第35の補償請求権でございますが,その中でも,1の「信託財産から補償を受ける権利」のところでございますが,ここの部分につきましては,第2回の部会で申し上げた意見と基本的には変わっておりません。


原案に賛成だという少数意見もあるのですけれども,受託者として債務を負担するときに優先権が認められないと,やはりその行為について逡巡してしまうということであるとか,立替え等の場合にそれが必要費になるのか有益費になるのか,その辺のところはいずれにしても分かりにくいというところがございますので,そういうことを勘案した場合,やはり現行法どおり優先権を認めていただきたいというのが大勢の意見でございます。


  2の「受益者から補償を受ける権利」のところでございますが,これについても,第2回の部会で申し上げたとおり,デフォルト・ルールとして受益者から補償を受ける権利等を認めていただきたいということで,甲案ということに賛成したいと考えています。

  第2回の部会で○○委員の方から,英米では受益者に対する補償請求というのはないというのが本当に当たり前である,受益者のための制度なんだからという御指摘がございましたし,○○委員からは,やはりデフォルトは受益者有限責任なんでしょうと,信託みたいな形でリスクを負うようなものについては話し合いで決めたらどうでしょうかというような御指摘もあったと思います。


二人の先生方の御指摘というのは,そのおっしゃっている範囲内ではそのとおりだなと思うのですけれども,やはり,そもそも信託で受益者への補償請求というのはできないんだろうかと。


受託者というのは,基本的に正に受益者のために一生懸命信託事務を遂行すると。


当然そのコスト管理もすべきであろうと思いますし,いろいろな義務が課せられていて,それを負って一生懸命遂行する,ただ最終的にはその損益というのは受益者が負うと,それがやはり相当なのではないかなと。

多分,信託財産がマイナスになるようなケースというのは極めて異例なケースだと思うのですけれども,そのときをちょっと想定した場合,どういうことがあるかというと,基本的には,受託者がとんでもないことをやってしまったと。


管理の失当がありましたということであるとか,あとはもう正に外的な要因として,非常に大きな災害等が起こりましたと,そういう場合ではないかと思います。


前者につきましては,受託者が管理の失当を起こしたときに補てんするというのは当たり前のことでしょうし,そうすべきだろうと思います。


ただ,外的な要因でそういうふうになったときに,もともと利益をすべて受けている受益者が損害はこうむらないと,それはどういうことかなと。


そこら辺が素朴な疑問としてありますので,先ほど申し上げたとおり,甲案に賛成するということでございます。


  次の第36の報酬請求権のところでございますが,これについては,第2回の部会の方で,現行法どおり,信託財産から報酬を受ける権利については優先権を認めていただきたいということと,受益者から報酬を受ける権利についてもデフォルトで認めていただきたいというふうに申し上げました。

現在においても,その考え方を維持するという意見が大勢を占めておりますが,少数意見なのですけれども,報酬については一般債権と同列でも,それは仕方がないんじゃないかなと,特に利益の部分についてはやむを得ないと,ただし,原案の35ページのところに書いてありますように,名目上は信託報酬なんだけれども実質的に費用と認められるようなものについては費用のところの規律を適用すると,そういうことが維持されるのであれば賛成してもいいなという少数意見というのが出てきております。
● ほかにいかがでしょうか。

● 私も,前回と同じ議論を差し上げたいと思っているのですが。
  結論的には先ほどの○○委員と同じような立場になろうかとは思いますが,ここでは質問とコメントを取り混ぜて,第35,第36についてお話ししたいと思います。


  一つは,やはり全体的な話ですけれども,受託者が善管注意義務をもって行動するということについて,いわゆる板挟み的な立場に置かれているならば,それが本当に受益者のためになるのかどうかという話でございます。


  片や,この前の例でいきますと,結局,不動産信託であって,不動産自体にはキャッシュがないので--立替払いのケースですが--信託財産からは借入れを返済できないので,やむを得ず立替払いを行うというケースを設定いたしますと,やはり受託者としては,善管注意義務という,もしそれを履行しないならば,取引債権者が抵当権を持っていって競売されてしまうかもしれないというようなこともあり得ますので,そうした場合に,やはり注意義務に基づいて代払いをしなければならないというようなケースもあるのではないかなというふうに思います。
  

それに対して,今回,提案で幾つか事務局から御説明がありまして,それは主に(注3)と(注5)で御回答いただいていると認識して,ほかのところにもございますけれども,その御回答についてもなお疑問が残るところでございまして,例えば,(注5)にございます,そもそも信託財産限定で借入れをすれば特にリスクを負わなかったではないかということで,確かに,今さっきの議論と同じですけれども,そういう契約を結べばいいのかもしれませんけれども,これもやはり実務においては相手方のある話でありますし,また,そういう明示をして取引した場合には断られるかもしれませんし,契約において特約をすれば,相手がそれをのまないということもあるかもしれません。

  そういうことで,片や資金の調達が必要である,片やノンリコースもできないという状況がもし生じるのであれば,やはりそういう萎縮効果が出てしまいますものですから,そういう結論を導くような政策はどうなのかという話もあります。


  それからもう一つは,もしそれができないとなれば,結局,受託者としては終了というところで出口を見出すという話になるのですが,これには二つ。

  一つは,そもそもそういう終了しやすい信託ということが本当に受益者のためになるのであろうかという話でございます。

これは一つの判断として,それはそういうものだという考えもあるかもしれませんけれども,大体において維持しておいた方がいい場合もあると思いますし,もし仮にそういう場合に終了させたいというのであれば,例えばあらかじめその信託行為にそういうことを明示するなり,それを示唆するような内容の本旨といいましょうか,そういうことでやればいい話かなというふうに思っております。


  また,受託者としても,終了し,かつ受託していた財産を現物交付するまでの間の,法定信託の間の受託者としての義務が残ってしまうわけですから,早く終了してしまえといって受託者が救われるかというと,完全にそうでもないという話でございます。

  (注3)の話も,先ほど○○幹事からございましたけれども,確かに,この例からいくと,信託財産という観点からはやはり差が出てくるということもあり得べしかもしれませんが,ここも同じ話でありまして,善管注意義務を負う受託者の立場からして,そういうことをもって行動を変えるということができない場合もあるのではないかと思っております。

  次に,報酬請求権についてでございますけれども,ここも同じ話でございます。

これも一つの政策判断でございまして,もしこの規律になるのであれば,また受託者としても,そのように受託するに当たり審査を行い対応していくという,そういうことで対応することになろうとは思いますが,同じように,そうした場合に,結局受託者に対する萎縮効果を持ってしまうのではないかという話と,終了してしまいやすいということについてどうかということの問題と,それからもう一つは,前回問題とした理屈的な話として二つ,すなわち,例えば倒産ということになった場合に,受託者が一生懸命汗をかいて信託財産の価値増加のために働いた場合に,それを否定するようなことになれば,かえって受益者のためにならないであろうということもありますし,また,理屈的として完全なのかどうか分かりませんけれども,一種管財人的な発想であれば,それなりの共益的な地位を見出していただいてもいいのではないかということでございます。


● 質問なのですけれども,まず補償請求権の方ですが,「2 受益者から補償を受ける権利」のところでも甲案,乙案の2案が挙げられていて,この二つ,私は乙案の方がいいと思うのですが,いずれにせよ受益者から補償を受ける権利を有する場合があるという前提で,そうしますと,現行の信託法の36条の3項ですね,あれがどうもないような……。既に説明があったのか,私が聞き落としたのかどうか分かりませんが,それについて一つ質問です。


● それにつきましては,後日,受益権の放棄ということは提案させていただく予定でございます。今日は出ておりませんが,現行法の36条3項と同じような趣旨のものを後日提案する予定にしております。

● もう一つ質問です。
  第36の方の報酬請求権の関係ですが,1の(2)で,相当の額に関して受益者に通知するというやり方が書いてあって,これの説明として,受益者に通知して,受益者がその受けた通知の額で異議がない場合はその額で決まるということが書いてありますけれども,異議がある場合は報酬額は決まるということを想定して考えられたのかということです。


● 異議がある場合には,恐らく訴訟手続で報酬額確認請求をしまして,そこで受託者側と受益者側の意見を裁判所が聞いて決定するということになっていくと考えております。

● 例えば,裁判所に決めてくれという簡単な手続とか,そういう……。

● 普通の訴訟手続で報酬額確認をすればいいのではないかと考えております。

● 補償請求権の優先権に関して,少しお話をさせていただきたいと思います。
  現行法の36条から出発しますが,36条1項は,確かに受託者が支出した費用についての補償請求権に優先権を認めております。


しかも無制限であるわけです。しかし,これは,信託の債権者に対して受託者が優先することを実質的には意味していないと思います。


なぜならば,現行法では,信託の債権者は,特に今日の前半でも議論になったことですが,責任財産制限特約について合意しない限り,受託者の固有財産についても履行を求めることができますし,強制執行することができるからであります。

いったん受託者の固有財産に移った後も,信託の債権者はそこから回収することができるということです。


  そうすると,そもそも36条1項はどのような機能を現行法において有しているのかということが問題になるわけですが,ここは十分には自信がないのですけれども,次のように考えられる。


それは,信託の債権者と受託者の個人債権者とが,立替費用支出分については債権者平等の関係に置かれるという意味を持っているのだろうと思います。


  これに対して--まあ,今我々がやっている作業の全体がどういう方向に進むかによるわけですが,今日の前半にやりました第28の「受託者の有限責任の許容について」という方向で進んでいくとすると,第28の1の明示による責任財産限定の債権者との関係では,もし36条のような規律をそのまま維持するとしますと,実質的に受託者が,あるいは最終的にと言ってもいいかもしれませんが,信託の債権者に優先することになってしまう。

受託者の固有財産に一度とってしまいますと,有限責任信託の債権者との関係では,もう信託の債権者はそこに全然手を出せなくなるから,完全に受託者が優先してしまうということになると思います。


  そうすると,優先権を認めるためにはその実質的な根拠が必要になってきて,そうすると,やはりこの事務局案のように共益費用的な考え方に立つことが有力な考え方であり,その範囲でのみ認められるとする解決が適切なのだろうと思います。


  したがって,○○委員から,必要費,有益費に限っているところに反対という御意見がありましたが,私は,今申し上げたような理由で,このように限定することが正に平仄が合うと思います。


  あと二つ,簡単に申し上げますと,そうすると,第35の1(5)で,一般先取特権にするか,それとも単に,優先権を認めないけれども文書があればいいとするかというところですけれども,おのずから答えは出てきて,後者であって,一般先取特権にはせずに,文書があれば,権利の存在を証明すればですか,配当要求できると,そちらで位置づけるべきだと思いますし,そしてもう一つは,実際上は非常にクルーシャルな問題かもしれませんが,報酬請求権についても,共益費用的な性格はないか,極めて弱い。


したがって,実質的に必要費,有益費に当たるようなものはともかくとして,これについては優先権を認めるべきでないということを考えたところであります。


● どこまでが現在の36条の条文でもって優先的な扱いを受けるのかというのは非常にクルーシャルで,結構重要な問題ですね。さっきの○○委員と,今の○○幹事の御意見の中に,二つちょっと違う考え方が出ていましたが,もし更にあれば。


● ○○幹事に完全に賛成です。それが第1点です。
  第2点は,これは細かい質問なのですが,求償と代位の関係なのですが,第35の1の(2)と(3)の関係なのですが,これも確認だけなのですが,例えば,信託に対する債権者というのは,自分が抵当権を実行して,そのことによって信託目的の達成が不可能になるような状況になってしまった,破滅的な状況になってしまったといっても,それは構わないわけで,抵当権を実行すればいいわけですよね。


しかるに,受託者は,例えば代位をするということになったときに,抵当権を行使できる立場になったときに,更に(2)の制約というのはかかってくるのかというのが,ちょっとよく分からないなと。


つまり,抵当権は移ってきたのだけれども,信託を破滅に陥れるので抵当権は実行しちゃいけないとかですね。その辺のことについてお考えがあれば,お聞かせ願いたいという,細かな話です。

● 今まで十分考えたことはないのですが,代位によって取得した担保権の実行と申しましても,あくまで自己の有する債権の満足のためということからいたしますと,この(2)の規律はかぶってまいりまして,やはり信託を破滅させるような担保権実行はできなくなって,終了の方向に向かっていかざるを得ないというふうに考えるものでございます。


● 第35の補償請求権及び第36の報酬請求権について,先ほど○○幹事のおっしゃった点について,私の思うところを申し述べます。

  まず,補償請求権については,先ほどの○○幹事の御意見に全く賛成でございまして,一言で申しますと,やはり共益性というのが優先性の根拠だろうと思いますので,22ページの1の(4)のような形で限定するというのは,ある意味当然ではないかと。民法の306条の1号をいわば信託版に引き直したような形になるのではないかと思います。


  それに関連しまして,22ページから23ページにあります,執行法上どうするかですけれども,私は,○○幹事がおっしゃるほど論理必然かどうか分からないですが,やはり後者の方法になるのだろうと思いますけれども,これをとった場合には,補償請求権を,こうやってその権利の存在を証明して,配当要求して,あとは(4)の範囲でのみ優先し,残りの部分については一般債権扱いということになるのでしょうかね,配当の局面では。


● (4)の範囲といいますと,優先する範囲だけ優先しまして,あとは一般債権と。

● そうすると,権利の存在を証明するときも,いわば内訳を示し,全額はこれだけなんだけれども,そのうち1の(4)で優先するのはこれだけですよと,こういう内訳を示して,いわば一昔前の株式会社以外のところに雇用されていた自然人が未払賃金を請求するみたいに,総額幾らなんだけれども優先部分は幾らと,こういうことをしていくことになるんですかね。

● そうやって,あとは配当異議で争うということになるのではないかと思います。

● 以上が第1点です。
  それから,第36の報酬請求権ですが,上げたり下げたりで恐縮ですが,私は,これは○○幹事とは全然逆でありまして,何を考えているかと申しますと,例えば破産手続で管財人の報酬というのは最も共益的な費用と言われている,いわば受益者である破産債権者のために働いている報酬というのは共益費用の最たるものだと言われているわけですが,それとの平仄は合うのだろうかと。

あるいは,今次の改正で,社債管理会社の費用のみならず報酬についても財団債権とするという手当てがされ,あれも大きく言えば手続全体の円滑な進行のために資しているのだからと,社債を発行するような会社については,直接の受益者は社債権者であっても,手続全体に資している部分もあるのだからということで割り切ったということだと思いますけれども,そういうのと平仄は合うのだろうかというのが疑問に残るので,報酬請求権についても,優先性についてはなお検討するということの方がよろしいのではないかというのが私の意見でございます。


● 先ほど,○○委員が後回しになって申し訳ない。どうぞお願いします。


● 今のところも,本当は私,関心はあるのですけれども,やはり,「受益者から補償を受ける権利」という2の方の話で,結論はもちろん乙案ですよということですけれども,ただ,乙案すら,例えば法典になっているもので,イギリスでもアメリカでも,こんな条文はないのですね。


やはり,受益者に補償をさせようというのは--本当に書いておけば何とかなるとは思います。そういうのもあり得ると思いますけれども,そういうのを法典の中に書いておくようなものではそもそもないんですよね。

それは信託に対するイメージが全然違うのだろうということで,三つだけ,同じことなのですが,申し上げます。


  日本で36条ができたのは,結局,金もうけのための信託というので我々の信託は始まったわけですよね。


信託会社がいて,投資家というのですか,とにかくそこで何かうまいことしてお金をもうけようという人たちが集まったものだから,こういう36条みたいな話が出てきたのだろうということだと思うのです,歴史的に言えば。

  しかし,やはり信託の本流というのはそういうものでもなく,理屈だけ言いますと,先ほど○○委員は,大災害,とにかく日本は大災害の国になってしまっているわけですから,それは困るじゃないかという話があるのですが,これはごく簡単な理屈で,一つは,受益者と受託者と比べて第一に考えるのは,こういう信託財産がなくなるような事態をどちらが防ぎやすいかという,何かちょっと釈迦に説法みたいな話で恐縮なのですけれども,どっちがそういう立場にあるだろうかというと,それは受託者ですよね。


受益者は一々文句を言えないはずですから,信託財産の管理運用について,基本的には。それが一つ。


二つ目が大災害の話ですけれども,そうは言ってもいろいろなことがありますねというときに,やはり損害の分散が一番簡単なのは保険をつけるという話で,だから,アメリカの統一信託法典なんかでも,当然に保険をつける権限があり,場合によっては義務があるという話になっているわけで,だれができるのでしょうかというと,受益者ではなくて,受託者ですよという話ですから,いずれをとってみても,やはり受託者のところでリスク管理をやるのは当たり前みたいな話が1点です。

  2点目は,そうではないと。営利のためのスキームではない。そもそも信託というのはそういうスキームとしては始まっていなくて,それが商事的に利用されてそういう話も出てきたんですよというのが歴史的にあると思うのですけれども,その営利のためのスキームですら,会社の株主との違いはどうやって説明するのですかという話が出てくると思うのですが,ここでは,いやいや,会社は会社,信託はここにこそ特色ありというふうに居直るのかどうかですよね,結局。

ほかのところで特色を出したらどうでしょうかという感じが私はするということです。


  3点目は,今ちょっと○○幹事からもお話があったように,やはり流れは受託者の有限責任を広く認めていきましょうという話になり,それで受益者から補償を受ける権利だけは残すという話になると,信託の色合いが一層はっきりしますよね。だれのための信託なんだろうかという話で,リスクは受益者が最後は負いなさい,出資者が負いなさいというようなものが我が日本の信託ですよということになるので,やはりそれは私は本当に反対したいと思います。

● ○○委員のお話はもっともな部分もたくさんあると思うのですけれども,2点目のリスク管理のお話なのですけれども,例えば保険を掛けるとかいうお話がありましたけれども,例えば地震の発生の非常に多いところにおいて保険を掛けるというようなことについては,受託者が多分やらなければいけないことなのだろうと思うのですね。


そういう観点からいくと,先ほど申し上げたように,そういうことで信託財産が毀損してしまいましたよというときについては,まあ,これは,どこまでかという程度が難しいのですけれども,ある意味,受託者の管理の失当とかというような部分があるんじゃないかなと思うのですね。

ですから,そこの部分についてはやはり損失をてん補しないといけないと。

そういうようなことをいろいろと考えた上でも,なおかつ予測できないようなこととか,そういうようなことが起きたときというようなことが私の頭の中にはあったものですから,それだけちょっと,済みません。


● 1点だけ,先ほど言い落とした点です。
  報酬請求権について,先ほど,破産管財人等の報酬との対比で,優先権というのは一律否定するという議論だけでもなかろうという話をしましたが,1点だけその点を補充しておきますと,倒産手続の場合には,管財人等の報酬は裁判所が決めるのですね。


その必要な範囲で決めると。あるいは社債管理会社の費用についても,相当な範囲で許可するというようなスキームになっていますので,そういう目で見てみますと,この32ページの第36の1(2)のこの決める手続は,相当かどうかという観点から,つまり共益性を洗い出すのに適切な手続なんだろうかと,そういう観点から見直すということが必要になってくるのだろうと思います。


したがいまして,青天井に報酬請求権の優先権を付与するという主張ではないということを一言申し添えます。


● 補償請求権も,先ほどの,特に受益者からの補償請求権に関しては両方の意見があり,かつ,なかなか,理論的に考えるとこうなるべきだという決め手がないので難しいところですが,最終的にはどちらにするかというのは決めなくてはいけないと思いますけれども,今の段階では皆さんの御意見がまだ二分しているということでよろしいでしょうか。


あるいは,意見を表明されていない方がおられて,意見をおっしゃっていただければ,それはそれで有り難いと思いますが。


● 確認なのですが,別段立場を変えることではないのですが,仮にということでお尋ねしたいわけなのですが,必要費と有益費ということで分けた規律を設けるということなのですけれども,これは2点質問がありまして,前回も申し上げたところですけれども,この必要費と有益費というのが本当に区分できるのかどうかという話なのですけれども,例えばの例として,不動産信託で物を建てましたと,2階建てにしましたと,受託者としてエレベーターが必要だと思いましたと。


それで,エレベーターというのは有益なんだろうか,必要なんだろうかというようなことというのはあると思うのですね。


ですから,実際の判断において,有益か必要かということの判断は難しいでしょうし,かつ,また,有益費だと言ったとしても,じゃあ一体どういう価値が増加したのかどうかと。


邪魔になるのかもしれませんし,楽になってそれで価値が高まるかもしれないですし,また売却価格が上がるのかもしれませんし,いろいろな考え方があると思うのですけれども,そこが非常に明確な規律というのは難しいのではないのかということです。


  それから,二つ目に,この,必要だ,ないしは有益だということの判断基準というのがいつなのかと。

つまり,受託者がそういう判断をして行為をしたときなのか,それとも,結果的に役に立たなかったということで結果責任が出てくるのかということです。


この点,ちょっと理論的には私は分からないのですが,例えば委任とのパラレルに考えますと,我妻先生の教科書から見ますと,これは受任者がその事務を処理する際に相当の注意をもって判断して必要と考えた費用であると,つまり行動したときで決めるということですので,もし仮にこの規律になったとして,ここで言う判断基準というのがいつなのかということをここで確認というか,御質問したいと思っております。

● 我妻先生の叙述は,取れるかどうかの話であって,判断基準の時期の話,先取特権の成立の話ではありませんので,関係ないのではないかと思いますが。


● お答えします。
  まず,第1点目の,必要費か有益費かの区分は明確にできるかというと,これは,条文的にはこれ以上書きようがないと。


必要費・有益費は,占有者の196条とか,あるいは賃借人とか,いろいろなところに挙がってきておりますが,やはりそれは,支出費用とかそれを取り巻く状況の性質によってどちらに当たるかを区別するしかないのではないかというふうな気がしておりまして,実務上もそれで対応しているのが現状ではないかと思っております。
 


 それから,判断時につきましては,私どもの考えでは,あくまで支出時でありまして,支出時に有益であったか必要であったかで判断すると。


それで,結果責任かどうかという点は,例えば有益費であれば,結果的に価値がなくなれば,この規律であれば,現存価値がないわけですから,もう請求できないということになるだけのことでございまして,あくまでその判断時は支出時というふうに考えております。


● 必要費か有益費かという判断自体はその支出時であって,有益と分類されたときに増加価値が幾らになったかというのは結果でと,そういう御判断ですか。


● そうなります。
● 細かいことと,一般的なことなのですが。
  補償請求権における求償と代位についてですが,26ページに「担保保存義務」という言葉が出ていますが,これは,先ほど○○幹事の御説明にありましたように,ちょっと異質な話ではないかなという印象を受けました。


つまり,弁済することによって法律上当然に移転してしまうわけですから,その後の担保というのはそれまでのとは違うんじゃないかなというふうに思いますので,先ほどの御説明の方が分かりやすかったと思います。


  これに関連いたしまして,30ページの(注1)で,代位債権と求償権の関係についてはいわゆる請求権競合だというふうに書いていらっしゃいますけれども,判例の考え方によると,求償権を確保するために原債権担保権が移転するという考え方でしょうから,広い意味での請求権競合だろうと思いますけれども,やや,「いわゆる」というのとはちょっと違う面もあるのではないかなと思いました。

  それから,大きい方の話は,受益者から補償を受ける権利についてですけれども,これは○○委員のおっしゃったことに非常に感銘を受けたということに尽きるわけですが,更に申しますと,受益権放棄については,別途報告書第51を参照ということになっておりますので,その放棄する際の受益者に少なくとも分からせるということが必要ではないかと。


甲案,乙案といいましても,いずれにしても信託行為の段階でお書きになるのでしょうから,その書いたものを少なくとも受益者が見ることができるというのを残しておいた方がいいのではないかというのが,追加的な理由かなと思います。

● 違う点なのですが,1点お聞きしたいところが,1の(2)のただし書の方の,売却の処分権限が付与されていない場合についてなのですけれども,特に受託者となる立場の配慮という点からすると,例えば,ここの部分が少し緩和されればそれは若干よいということになるのか。


つまり,この場面というのは,売却の権限は付与されていないので処分等はできないけれども,それを処分したとしても目的達成の妨げにはならないので信託自体を終了させるほどのことではないというときに,ここももう少し緩和されて,例えば,裁判所の許可を得るならば,その費用の補償のためにはそこまでの権限が認められるということになれば,多少はよろしいものなのか。


それとも,そういう場面は全然大したことはなくて,やはり同じなのか。受託者の立場の話と,もう一つは,信託の終了へ向かっていく,即終了をもたらすのが適切なのかということへの対応としては,ここを少し緩和するということがあり得るのかなと思われまして,原案では,恐らく当事者のイニシアチブで変更でいくということだと思うのですが,そこを更に緩和するという道があるのかと思われますので,それについての感覚みたいなものが分かれば,少しお伺いできたらと思いますが。


実務的には,そんなのをされても大したことはないという感覚なんでしょうか。そんな制度が一個あったとしても。
  余り時間を取っては申し訳ないので……。


● また考えていただきましょう。
  それでは,補償請求権,それから報酬請求権については,なお争点もあります。特に基本的な部分についてはまだ意見が対立したままでございます。


それから,報酬請求権に優先的な権限を付与するかどうかということについては,信託銀行サイドからするとやはり今と同じようにしてほしいという御希望もありましたけれども,現在のところは必ずしも多数意見ではないかもしれません。


ただ,今の段階ですぐ決着するわけではございませんが,一応,意見分布としてはそんな状況にあるということだけ確認させてください。
  それでは,次のテーマに行きましょうか。

● それでは,差止請求権,検査役選任請求権,法人役員の連帯責任につきまして御説明いたします。


  まず,差止請求権でございますが,現行法によりますと,受託者が信託違反行為をした場合の受益者の救済手段としては,損失てん補等の請求権の行使と取消権の行使を認めておりますが,これらはいずれも事後的な制度でありますので,受益者保護の観点からは十分ではないという指摘がされております。


他方で,受益者は,受託者と直接の法的関係,少なくとも債権的な関係があると言うことができますので,受託者に対して信託事務の履行を請求をでき,その半面,受託者が信託違反行為をしようとしている場合においてはその行為を差し止めることができるという見解も有力に主張されております。


そこで,受益者が受託者に対して信託違反行為の差止めを請求できることを明文化するとともに,差止請求権の行使を合理的な範囲に限定するとの観点から,資料に記載しましたような要件のもとで受益者が受託者に対して当該行為の差止めを請求できる権利を認めております。

  なお,差止請求権の行使につきまして,委託者にも認められるか否かが問題になりますが,この点につきましては,信託行為で委託者に差止請求権の行使が認められると定められている場合に限って認めるということにしております。

  若干付言いたしますが,まず,差止請求権を行使できる場合を,受益者又は信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときに限定しましたのは,資料に書いてありますとおり,信託においては受益者は受託者を信頼して事務処理をゆだねておりますので,受益者又は信託財産に軽微な損害が生ずるおそれがあるにすぎない場合にまで差止請求権の行使を認めることは,事務処理の効率性を害する結果ともなりかねず,相当ではないこと,特に受益者が複数の場合には,一部の受益者による差止請求権の行使が他の受益者の利益を害する結果をもたらすおそれがあると考えたからでございます。

  また,受益者又は信託財産に損害が生ずるおそれがあることを要件といたしましたのは,受託者の信託違反行為によって一部の受益者が損害をこうむる一方で,信託財産には何ら損害が発生しないことがあり得るため,信託財産に損害が生じるか否かだけを問題にするのは適当ではないこと,他方,受益者が複数の場合には,信託違反行為によって,ある受益者としては著しい損害をこうむるとは言い難い一方で,信託財産全体を見れば著しい損害を生じることがあるということにかんがみまして,このような要件を定めたものでございます。


  なお,信託行為に定めを置くことにより受益者による差止請求権の行使を制限できるか否かにつきましては,資料に記載しましたように,差止請求権の緊急性に照らしまして消極に考えておりまして,この権利はいわゆる単独受益者権であると考えております。
  最後に,アステリスクで記載しておりますのは,受託者が複数の場合において,一部の受託者が信託違反行為をしている場合に他の受託者が差止請求権を行使することを認めるべきか否かについてでございまして,この点についても,根拠,考え方につきましては資料にも書いてあるかと存じますが,是非とも御審議をいただければというふうに思っているところでございます。


  続きまして,検査役選任請求権の方に移ります。これは,裁判所によって選任された検査役が受託者の信託事務及び信託財産の状況について調査を行う制度の整備に関する提案でございます。


  現行法では,受益者等に対して帳簿等の閲覧請求権などを認めて信託事務を監督する権限を与えておりますので,これを適切に行使すれば信託事務の適正さが確保されるようにも思われますが,なお受託者が作成した帳簿等に虚偽の事実が記載されている場合などに備えまして,このような検査役の選任等の権限,検査役の調査権限等を認めることにして,信託事務処理の適正さの確保を図る必要があると考えたものでございます。


  以下,簡単に提案内容を御説明いたしますが,まず,1では,検査役の選任請求権の要件について規定しております。
  

ところで,現行法41条を見ますと,裁判所の監督として,「信託事務ハ営業トシテ信託ノ引受ヲ為ス場合ヲ除クノ外裁判所ノ監督ニ属ス」というのを前提に,第2項で,「裁判所ハ利害関係人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ信託事務ノ処理ニ付検査ヲ為シ且検査役ヲ選任シ其ノ他必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得」としてございますが,この規定に関しましては,検査役選任の対象を非営業信託のみに限る必要はないのではないか,裁判所の権限については,裁判所が検査役を選任することなく直接検査を実施することは想定し難いし,「其ノ他必要ナル処分」というのは,信託法上の個別規定に基づく処分権限のほかにいかなる処分を想定しているのかが明らかではない,更に,選任の契機として,職権による選任や信託債権者--利害関係人でございますので信託債権者も含まれるわけですが,そのような者にまで請求権を認める必要はないのではないかというような指摘があるところでございます。

  そこで,このような指摘にかんがみまして,この提案では,まず,検査役選任請求権の対象となる信託に関しては,非営業信託に限らず営業信託にも及ぶこととしたこと,それから,裁判所の権限としては,必要な処分を命じ得るとか直接検査の権限は認めず,検査役を選任できるということにとどめるとしたこと,更に,職権による選任というのは認めず,あくまで申立てによる場合に限るわけでして,かつ,申立権者も,信託に最も利害が深いと思われる受益者と,信託行為に定めのある場合の委託者に限るとしたこと,以上のような制度の改正を提案しているものでございます。

  さらに,今回は,検査役の選任の申立てにつきまして,「信託事務の処理に関し,法令又は信託行為に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき」に限定しております。


このように,「重大な事実があることを疑うに足りる事由がある」といたしましたのは,軽微な違反がある場合にまで選任請求を認めますと,検査役の調査費用や報酬が信託財産から支出されることですとか,あるいは検査役による調査が受託者の信託事務処理に与える影響などに照らし,妥当ではないというふうに考えたからでございます。

  次に,2でございますが,これは,検査役の調査を実効的なものとするために検査役の権限を明らかにしたものでございます。

  次に,3でございますが,これは検査役の調査終了後の手続でございまして,現行の非訟事件手続法の規律などを参考にいたしまして,検査役は裁判所に対し,調査報告書,更に裁判所が求めたときには追加報告書を出すというようなことを(1),(2)で規律したものでございます。

  次に,4でございますが,これは調査報告書の内容の通知等に関して検討しておりまして,若干複雑でございますので,少し詳しく説明します。
  

現行の非訟事件手続法では,検査役が裁判所に対して調査結果を報告した後の手続が定められておりませんので,検査役の調査結果について申立人がどのような方法で報告を受けることができるのか,疑義があるとされているところでございます。
 


 そこで,4の(1)では,裁判所に対しまして調査報告書を提出した検査役は,検査役選任の申立てをした者に対しても,調査報告書の写しを交付する等の方法により,調査結果の内容を通知しなければならないとしております。
 

 さらに,検査役は受託者の信託事務処理を調査するために選任されることを踏まえますと,申立てをした者だけではなくて,それ以外の受益者や委託者にも調査報告書の内容を知る機会を与えることが相当であると考えられます。


つまり,受益者はそれぞれ単独で検査役の選任を請求することができますので,申立てをした者以外の受益者や委託者の中には,検査役による調査が実施されたことを知らない者が生じ得ます。


他方で,検査役の調査に要した費用が信託財産の中から支払われますように,検査役の調査は,申立てをした者だけではなく,受益者全員のために行われると考えられますので,検査役の調査結果につきましては,申立てをした者以外の受益者や検査役選任請求権を有する委託者にもその内容を知る機会を与えることが相当と考えられます。

  そこで,4の(1)では,申立てをした者だけではなく,受託者もまた,検査役から調査報告書の写しの交付を受ける等の方法により調査結果の内容の通知を受けるものとし,その上で,4の(2)において,検査役から調査結果の内容の通知を受けた受託者は,すべての受益者及び選任請求権を有する委託者に対して,通知を受けたという事実を伝えなければならないとしております。

こうして検査役の調査があったことを知った受益者や委託者は,検査役から交付を受けた調査報告書の写し等を有する受託者に対してその閲覧・謄写等を請求することによって調査結果の内容を知ることができることになるわけでございます。

  なお,この調査報告書は「信託事務に関する重要な書類」に当たりますので,前回説明いたしました帳簿作成義務等に関する提案により,受益者及び一定の委託者は,受託者に対して調査報告書の閲覧・謄写請求権を有することになると解されます。

  さらに,受託者が4の(2)に違反して検査役から通知を受けた事実を受益者に通知しないことも想定されますが,調査結果の内容によっては,すべての受益者及び委託者に対してその内容を認識する機会を与えることが相当な場合もあると考えられますことから,4の(3)において,裁判所が必要があると認めたときは,裁判所の定めた相当な方法によって,調査結果の内容--こちらは事実ではなくて内容ですが,これを受益者及び委託者に対して通知をするよう命ずるということにしております。


  最後に,検査役の報酬や費用等につきましては,信託財産の中から受けることができるということを規定しているのが,5でございます。


  次に,第32の受託法人の役員の連帯責任でございますが,これは現行上もほとんど例がなく,解説もないところでございますけれども,現行法の規定では, 「受託者タル法人カ其ノ任務ニ背キタルトキハ之ニ干与シタル理事又ハ之ニ準スヘキ者亦連帯シテ其ノ責ニ任ス」と規定しておりまして,受託者が法人である場合の理事等の責任を規定してこれを強化し,かつ,信託財産においては受益者の保護を図る内容となっておりますが,受託者法人がいかなる責任を負う場合について規定したものか,それから,理事等が受託者の任務違反行為に「関与」したことのみをもって責任を負わせることが妥当かという2点について規定の見直しを図ったものでございます。

  まず第1に,本条の規定では,「受託者タル法人カ其ノ任務ニ背キタルトキ」とあるのみでありまして,この文言によりますと,受託法人の信託違反行為に基づく損失てん補責任はもとより,いわゆる利益吐き出し責任ですとか,それ以外の信託管理上の義務,例えば帳簿作成義務,分別管理義務ですとか,更には民法上の損害賠償責任まで含むようにも解することができまして,その範囲が不明確であると言わざるを得ません。

  そこで,この提案では,信託における受益者の保護を図るという本条の趣旨にかんがみまして,本条による責任の対象を,現行法27条に相当する損失てん補責任又は原状回復責任を負う場合を前提とした上で,更に利益吐き出し責任を含めるべきか否かについては検討することとしたものでございます。
  


第2に,本条の規定では,受託法人の機関である理事又はこれに準じる者が受託法人の任務違反行為に,積極的のみならず,消極的にでも関与したことのみをもって責任の発生根拠としております。


しかし,法人の機関たる理事等の責任を規定した民法44条2項では,法人の目的の範囲内にあらざる行為により他人に損害を加えた場合において,理事等がその事項の議決に賛成したか又はこれを履行した場合のみに責任を限っていること,同様に商法266条ノ3第1項におきましても,取締役がその職務を行うにつき悪意又は重大なる過失あるときにはその取締役は責任を負うとして責任を限っているということに比べますと,信託の場合においてのみ,単に関与したことのみをもって責任の発生根拠とすることは理事等に酷に過ぎ,信託財産ひいては受益者の利益にも資さないのではないかと考えられるところでございます。
  


そこで,この提案では,受益者が受託者の法人格を超えて直接の法律関係にない理事等の責任を追及できるのは,理事等に受託法人の法令違反行為等についての悪意又は重過失のあることを要件とすることにいたしました。
 


 なお,この場合において,理事等の悪意又は重過失の対象は受託法人の法令違反行為等でございまして,信託財産の侵害の事実についてまで悪意又は重過失を要するものではないと考えておりますし,理事等の悪意又は重過失の立証責任には,直接の契約関係にない以上,受益者側にあると解しているものでございます。
  以上で終わります。

● では,御議論をお願いいたします。
● 第30の差止請求権について幾つかですが。
  まず,これはやはり一種の強行規定なんでしょうね,全体として。ここに規定がない限りはだめだよと。


● はい,これは強行規定でございます。

● ただしオプションがあって,委託者についてだけはオプションがあるという理解なのだと思いますけれども,その上で,まず共同受託者の話があって,13ページの(注2)のところで両方の議論があるよということですが,後の方の議論は全く理解ができないですね。


共同受託者が特に利害関係が深い者に当たらないというのは全然理解ができなくて,共同受託者を入れないという話がどうやって出てくるのかが私にはちょっと理解できないというのが一つ。

  二つ目は,今日のほかの部分の話に関連しているのですが,もしこれで信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるということであるとしたら,まず受益者については,こういう法令違反とか信託行為違反の場合だけではなくて,さっきの議論を蒸し返しているのですけれども,信託財産のところで物すごいマイナスが出る場合に,過失があろうが何であろうが受益者のところに戻ってくるというのであれば,やはり受益者にその前の差止請求権ぐらいは認めておかないとおかしいじゃないかということになりかねない。

同じことは,責任財産を限定した債権者の方だって,悪意重過失の場合については何だかんだということであれば,差止請求まで認める必要はないよという話があるのかもしれませんけれども,しかし信託財産がなくなってしまうのですから,だからその人に対してだって認めてもいいじゃないかという……。


つまり,限定列挙するからこういう話になるのだと思うのですけれども,そういうのはどうなんだろうかという疑問が生ずるのが,二つ目です。


  三つ目は,我々はやはり一種金もうけのための信託だけ考えているからでしょうけれども,公益信託なんていうのはどうなるのでしょうか。


これで忘れられていくと,公益信託については差止請求権はないということに日本の法律ではなってしまうのでしょうか。


その場合,受益者はいませんよね。日本では検察官という話になっているのですけれども,アメリカでは委託者を入れようという話にはなっている,この部分では。もちろん,意識しておいて,たまたまここには触れていないのかもしれないのですが。

  以上3点,意見と質問を申し上げました。
● 公益信託につきましては,後日まとめて御提案する予定でございますので,ここで忘れたということではなくて,後日,もし必要があればということでございます。

  それから,他の受託者についてはどうしたのかというのは,確かに利害関係が深いかどうかという問題はございますが,いきなり差止請求をするのか。


普通は訴えということまでしなくても,まず説得とかそういうことではないかなと。例えば,裁判所に差止めの仮処分を申し立てると,そういうのは少しドラスティックではないかなという感じもありまして,ここの当事者にはしなかったということはございます。

● でも,説得するなという意味はないでしょう,しかし。
● 書かなかったのですが,そういう気持ちもありました。
● いやいや,分かりますけれども。

● あと,もう一つ御質問は何でしたでしょうか。

● それはちょっと江戸のかたきをという話なんだけれども,さっきの受益者への補償請求権ということになると,著しい損害が生じてしまってマイナスが出てしまうと,結局受益者のところにかかってきますよね。


そうすると,信託違反とか何とかいうこと以前の,そういう要件がなくてもとにかく受益者は差し止めることができるんじゃないかという話にならないと困るでしょうという話と,それから,それは私にとってはついでなのですけれども,責任財産限定されたときの債権者について,一定の範囲で債権者にも口を出す権利を認めているわけですから,これで信託の定めに違反する行為をして信託財産がなくなってしまう,それで信託財産は限定されていて,どうするんだという……。


まあ,それでも,その場合は,損害賠償という,重過失か何かでやっていくのだという話はあると思いますけれども,やはり差止請求権の権利者というのを,とにかく書いてある範囲にしか,まあそれはあり得ると思うのですけれども,認めないということになると,そういう人たちはとにかく,意識したんだけれども落としましたよということなら,それはそうなのですけれども,そうなんだろうかという,そういう質問ですね。

● 主体とか要件を限定しておりますのは,おっしゃるように,なるべく信託財産の保護を図るという観点からであれば,主体をふやし,要件を緩くするということもあり得ると思うのですが,やはり信託は基本的には受託者の信託事務処理にゆだねているわけですので,違法行為でもないのに差し止めるというのはやり過ぎではないかということもございますし,信託事務処理の影響を考えますと,差止請求を余りに広く認め過ぎるのもいかがなものかと。


単独受益者権でもございますので,そういう意味で言うと,割と差止めしやすい。要件さえ満たせば一人でできますので。


そういうことも考えますと,ある程度主体と要件を絞った方がいいのではないかと考えられたということでございますので,ここは意識して限定しているということでございます。

● 第30の差止請求権について1点と,第31の検査役選任請求権について1点,申し上げたいと思います。


  差止請求権の方につきましては,やはり非常に強い権利だということもありまして,請求権者による濫用ということも結構あるのではないかということで,最初の請求ができる場合を裁判所が関与する場合に限定してほしいというような,これは少数意見ですけれども,そういう意見もございましたが,大勢はやはり,○○委員がおっしゃったように,差止請求権というのは受益者保護の観点から必要なのだろうという意見が大勢を占めております。


ただ,これも少数意見なのですけれども,先ほど強行法規というお話がありましたが,この規律だけではなくて,単独受益者権と言われているものについて,契約による制限を認めてもらえないかというような意見もございます。

  次に,第31の検査役の選任請求権のところでございますが,この要件について,商事非訟事件のところで,手続法の129条ノ2というところで取締役と監査役の陳述聴取というものが規定されているということですので,信託の検査役選任請求についても同様に受託者の陳述というものがあっていいのかなというような意見でございます。


● 第30で一つコメントと,第32でコメントがございます。

  まず,第30の差止請求権でございますけれども,いわゆる板挟みリスクということについてお話ししたいのですが,受益者が複数の場合についての考えについては,この提案で既に書かれているわけですが,受益者が優先・劣後になったときの問題はどうであろうかということです。

  この提案書を見ますと,どちらかというと同じ地位の受益者が複数いるというようなことをイメージしているのではないかと思うわけですけれども,例えば不動産信託の場合において,収益受益権と元本受益権といいましょうか,賃料と元本になったときに,その立替えをすべきかどうかということになると,恐らく両者において意見が分かれるだろうと。

それで,その片方から差止請求があった場合に一体どうするのかという話です。

  そうした場合に,今度は受託者としては一人ですから,その差止めに対して抗するのか,抗しないのか,これはつまり,他方の受益者に対する善管注意義務から抗するべきだということもあるかもしれません。


こうしたときに,それが実際に裁判とかが長引いて損害が拡大した場合に,その他方の受益者に対しては問題になるよといった場合に,受託者としては困ってしまうことではないのかという話です。


  また,その受益者の差止めが間違っていた,過誤であったといった場合に,その得べかりし利益が発生した場合に,その損失というのは一体だれが負担するのかということについても,受託者の善管注意義務との関係でそれを阻止すべきだったかどうか,また最終的にそういうリスクをどこに置くのかというところをちょっと整理する必要があるかと思っております。
  それから,そういったことを考えますと,その差止請求権者というのが一体だれなのかということですけれども,ここでは結局,受益者,委託者といって,多分,受益者が複数の場合にも一人で差止請求が可能だというふうに思います。


それについては,恐らく,パラレルに考えますと,株式会社においての株主の差止めも同じような考え方だと思うのですが,ただ,政策的な判断として,このような信託のときに,こういった受益環境が違うときに,いわば片方の受益者のために片方が損したといったときに,濫用的なことを防ぐために,例えば担保請求権を設置するとか,そういう考え方があるのではないかなというふうに思っております。


  一応,問題提起だけということで,コメントでございます。

  それから,第32,法人役員の連帯責任ということでございますけれども,これはコメントだけということですけれども,利益吐き出し責任については,そもそもその存在について疑問を申し上げたところでございますけれども,仮にこれを第19において認めるという場合でも,かかる連帯責任について及ぼすのが本当に,例えば不当利得というふうに性質決定をしたときに理論的に整合性があるのかどうかということと,やはり実際に受託者としての理事とか役員との関与の仕方を実際考えますと,非常に萎縮的効果が出て,そこまで負わすというのは,実務的にはちょっと重い負担をかけるというふうに思っております。

● 何かお答えありますか。

● 検査役選任請求のところで,先ほど,受託者から意見を聞いた方がいいのではないかというお話がありましたけれども,我々の提案では,選任のところについては,裁判所が選任するに当たって事実上当事者の話も聞くのではないかと。

法律的には,報酬の決定のところで意見を聞くことができますので,そちらの方でカバーできるのではないかというふうに考えているところでございます。


● 差止請求権で,いろいろな優先・劣後の関係があって,両者でもって差止めをするかしないかで意見が食い違うという場面は,もちろん例外的には考えられるのでしょうけれども,ここではあくまで「法令又は信託行為の定めに違反する行為」というのが要件になっているので,そういう意味では,その要件さえ満たしていれば,つまり,そういう違反があったときに,両方の受益者でもって,片方は違反があるけどいいやと思って,片方はやはり違反を追及しようというときに,その場面であれば恐らく,違反があるので,やはり差止めを求めたいというのが優先するのではないかと思います。一般論ですけれどね。


● 更に確認なのですが,そうした場合に,その差止めに従って受託者が行為をやめたといったときに,それでその責任が免責されるのかどうかということですけれども,もちろん,法令とか信託行為の中に解釈の余地があるわけですので,その余地が残った場合に受託者としてどう裁量的に判断したらいいのかという問題が起こるわけで,そういう意味でなお板挟み的なところがあるのかなというふうには思っているわけですけれども,ただ,一つの考え方として,そういう考え方だったとしても,差止請求権ということは,法に従うというのが受託者としての義務であるというふうに整理できるのであれば,受託者としてはそれに従って免責されるということになるのかなと。


ただ,そうではなくて,やはり受託者としては法令とか信託行為とかを誠実に解釈して,自らの全体に対する善管注意義務に従って行動せよということになれば,ある程度そういう責任を持って,抗すか,それに従うかという判断を求められて,その責任も受託者としての固有の責任を負うという整理になるのかなというふうに思っておりますけれども,後者というのは,実務的にはちょっと重いのかなというふうに思います。
● 差止請求が認められる要件を相当絞っていますのでね。


これがもっと広いと,おっしゃるような問題がたくさん出てくるのだと思いますけれども,繰り返しになりますけれども,法令と信託行為の定めに違反する行為があることを前提にして,かつ,著しい損害とか,そういうのが要件になっていますので,基本的には,その要件が満たされていれば,それで受益者が差止めを求めれば,それは認められることになるし,受託者としても,差止請求権の要件が満たされていれば,それに応じていれば,それでもって何か損害がほかに生じて責任が生ずるということはないと思いますね。

● 今の○○委員と○○委員の間の話なのですが,裁判所が差止命令を発した場合の話をされているのか,ただ単にその裁判外も含めて差止請求をした場合を考えていらっしゃるのかがよく分からなかったのですが,後者の,裁判外でやった場合にどうなるかということは,○○委員は,差止請求が来てもやった方がいいのか,やらない方がいいのか,これは信託行為の定めに違反しているのかどうなのかという判断をする責任を負わされるのは実務的に耐えられないとおっしゃいましたが,しかし,それは常に生じていることですよね。

ある行為をするときに,これは信託違反かもしれない,やればもうかるんだけれども,信託行為で認められている行為なんだろうかどうなんだろうか,それは常に受託者がリスクを負って判断をするわけであって,そのときに裁判外で差止めをするという電話がかかってきている,書面が来ているということは,別段何ら影響を及ぼす事柄ではないと思うのですね。


それに対して,裁判所の命令によって差止めを命じられて,それでやめたと,これは帰責事由がそもそもないわけで,責任を負わないというのは分かるのですけれども,裁判外の話を前提におっしゃっているのならば,全く納得できないということを申し上げておきます。

● ちょっと私も,裁判外と,裁判所の命令による場合と,必ずしも区別しませんでしたけれども,裁判外の場合にも,少なくとも要件は客観的には満たされているという--これは後から判断されるので,そこが問題になるわけでしょうけれども,満たされているというのを前提にした抽象論でございます。
  よろしいですね,これはこのぐらいで。

● 確認的な質問なのですけれども,検査役の選任について,単独受益者権になっておりますけれども,少数受益者権になさらなかったのはなぜかということを一応御説明いただければと思います。


● 裁判所に対する権利は受託者にとって非常に重要な権利であるという観点から,基本的にすべて単独受益者権としておりまして,この検査役選任請求権につきましても,帳簿閲覧請求権とかが単独受益者権にもなっておりますし,その延長としてこれも単独受益者権にしないと実効性がないのではないかということでございます。

● 他の法制との比較で,ここが単独になっているというのが信託特有の意味があるかどうかということを,まあ確認的なことでございます。


● さっきの差止めなんかも,株式会社の場合には単独株主でよかったのでしたっけ。違いますかね。

● 差止めは単独ですね。
  単独かどうかではなくて,質問なのですが。
  今の商法272条,株主の差止請求権で,恐らくこの条文は,むしろ監査役の差止請求権と同じような書き方,著しいという要件が普通の書き方なのですけれども,商法と条文の書き方が一部違っていて,そこがどういう御趣旨かということの確認なのですが,「又はこれらの行為をするおそれがある場合において」という文章が入っておりますが,272条とか275条ノ2の規定はこれがないのですね。

どう読んでいるかというと,まだ行為していないことは当然であって,それをやれば損害を生じるおそれがあるというふうに,あわせて両方おそれというか,将来性というのはそこで読んでいるのですね。


しかし,こういう書き方をしますと,もうやった行為で将来損害が生じるおそれがある場合と,これからやって損害が生じるおそれがある場合と,二つ含んでいるように読めるのですね。

それはどうしてそういうふうに,済んだ行為も含んでいるかのような書き方をこの前段でされているかというのが,質問です。


もし,これが継続的にやっている行為のことを指しておられるのであれば,とめる部分は,しかし将来行われる部分であって,そういう考慮だったらちょっとおかしいですし,逆に,最近問題となっている,実は商法でも判例があるのですけれども,何かやって,それが損害を起こす可能性があるときに,積極的に何かさせるためにこの差止めが使えるかという議論があり得て,それを含む趣旨でこれを書かれているとすれば,これはかなり実質を差止請求権で変えることになりますので……。

  それで,商法で問題となったのはもっと限界事例で,原子炉の運転を再開してしまったのですね,事故の後。


それを原発株主が差し止めようとした。要するに火を切れと,切らせることを差止請求権でできるかというのが問題となって,それなんかは,ひょっとすると,継続している場合,いったんやって,その後効果が継続していって,それを差し止めるという類型なのかもしれませんが,ちょっと……。


まあ,それは最終的には,下級審の判例は1件も結論としては認めていないのですけれども,差止請求権の対象となり得ることは前提としているような判決が多いのですが,そういうのは潜在的に含むという御趣旨なのか,ちょっと書き方を変えた理由を説明いただければと思います。

● 違反する行為を「した」というのが入っているという理由でございますが,一つは,おっしゃるとおり,継続的な違反行為をしているときには,それを根拠に将来の違法行為も差し止めるという趣旨と,あと,過去にあった行為であって,しかし無効であるというものについても,その履行行為を差し止める意味はあるだろうと,そういう意味もありまして,両方を含めてここで書いているということでございます。


● 履行行為は,将来行われるところを差し止めるわけですね。継続のも,将来やることを,それが違法でないと差し止められないわけですよね。

● はい。

● そうしたら,何かちょっとどうかなと……。

● 違法な法律行為に基づく違法な履行行為を差し止めると。

● ですよね。そうしたら,やはりいずれも将来のものだけですね,念頭に置かれているのは。

● 将来のものです。将来の行為を差し止めるということではございます。

● それならば,書き方は商法と同じにした方が……。いや,結構です。

● 一種の原状回復みたいな……。

● 今の差止請求に関してなのですけれども,前回やりました,信託事務処理の委託が行われた場合にこの差止めの対象というのがどうなっていくのかというか,要するに,受託者が行う場合には差し止めることができるということに多分なるのだろうと思うのですけれども,これを委託して,その受けた委託者が問題ある行為を行おうとした場合には,これを受益者がとめようとした場合には,どういった手段がとり得るのか,そのことを考えなくていいかどうかということで御検討いただけないかと思うのですけれども。


● とめられた方がいいようにも思われますが,次回までに検討いたします。

● ほかによろしいでしょうか。

● 差止請求権のところなのですが,私どもの意見というのは先ほど申し上げたとおりなのですけれども,ちょっと実務上困った例があるので申し上げたいのですけれども。


  やはり,複数受益者のときには,差止めするかどうかということで受益者間で意見の対立があると。


○○委員が先ほど,例として,違反だと思っている人と,違反ではないと思っている人がいる,それの比較で,やはり違反だと思っている人の意見を採用してというふうなお話があったと思うのですけれども,多分,実務的にいくと,その行為自体が違反しているかどうかというよりも,それぞれの受益者の感じ方によって,そっちの方が得だと思っている人と,損だと思っている人がいて,一つの事例を挙げると,不動産を運用していましたと。


その不動産を売却しようと思ったときに,非常に低廉譲渡だということで,処分禁止の仮処分が入りましたというときに,大半の受益者の方々は,それを売ってしまわないともっと下がってしまう,だから早く売ってくれというふうに考えられている人がいるし,一方で,やはりそんな低廉で売られてしまうと困ると思う人がいて,その受益者間の利害の対立といいますか,考え方の対立というのが出てきて,そういう意味合いで何か濫用的に使われたりするというようなことが,やはり実務的なところで出てきたりもしておりますので。


かといって,これを単独受益者権からやめましょうというお話ではなくて,そういうことがあったので業界の方ではかなり悩んだという部分がございましたので,ちょっとそういうことを知っていただきたいと。


● ちなみに,私がさっき申し上げたのは,どちらにとっても違反ではあると。


信託行為の定めに反する,あるいは法令に反するというのは,どちらの受益者にとっても一応は違反なんだけれども,片方は差止請求権を行使する意思がなくて,片方は行使する意思があるというときに,これは行使する意思がある方が優先されるのではないかという,その程度の話です。

おっしゃるように,実務的には,そもそも要件を満たしているかどうかのところでも争いがある,受託者の方から見れば争いがあったりして,対応に困る場合があるということはよく分かると思います。


  それでは,時間が来ましたので,ここで終わりたいと思います。

 

(一財)平成30年度研究助成事業 那覇公証センターアンケート・結果

那覇公証センター・沖縄公証人役場 担当者様

一般財団法人司法協会 平成30年度研究助成事業

アンケート調査へのご協力依頼

2019年2月8日

〒903-0114沖縄県中頭郡西原町字桃原85番地

  (責任者)司法書士 宮城直(みやぎ すなお)

TEL(098)945-9268

FAX(098)963-9775

shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

             

時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

この度、一般財団法人司法協会の助成を受けて研究事業を行うことになりました。つきましては、アンケート調査にご協力願いたいと思います。ご多忙のところ恐れ入りますが、3月8日までに、返送をお願い致します。

1 研究課題 ・沖縄県内における民事信託・家族信託活用の実態把握及び普及推進のための仮 説検証  
2、研究目的 ・沖縄県における民事信託・家族信託の利用件数を、一定の限度はあるが把握す ること。 ・実態を把握したうえで今後の普及推進の方法及び課題の考察。  

1、民事信託・家族信託の公正証書作成件数

平成28年(    )件 平成29年(    )件 平成30年(   )件

2-1、1の内訳

  信託契約 遺言信託 自己信託
平成28年 
平成29年
平成30年

2-2、委託者(設定者)の出生年(平成28、29、30年の合計)

昭和14年以前 昭和34年~昭和43年
昭和14年~昭和23年 昭和44年以降
昭和24年~昭和33年    

2-3、受託者(設定者)の出生年(平成28、29、30年の合計)

昭和14年以前 昭和44年~昭和53年
昭和14年~昭和23年 昭和54年~平成2年
昭和24年~昭和33年 平成2年以降
昭和34年~昭和43年    

2-4、信託財産の種類(平成28、29、30年の合計。)

(一つの信託に複数ある場合、全ての財産をカウント。)

金銭 その他(         )   件  
不動産
株式
持分

3、民事信託・家族信託に関する公正証書を作成するにあたり、課題がある。

□はい(複数回答可)

 □書式の不統一 

□依頼を受けている専門家の力量不足 

□委託者(設定者)の判断能力

 □総合的に紛争性、違法性のある信託案件が持ち込まれる。

 □その他(                   )

□いいえ

4、民事信託・家族信託公正証書の作成依頼を受けてから作成までに要する期間

(現在のおおよその平均期間)

(    )か月

5、民事信託・家族信託の公正証書作成依頼を受けたが、作成に至らなかった件数

平成28年(    )件 平成29年(   )件 平成30年(    )件

6-1、任意後見契約の公正証書作成件数

平成28年(    )件 平成29年(   )件 平成30年(    )件

6-2、委任者の出生年(平成28、29、30年の合計)

昭和14年以前 昭和34年~昭和43年
昭和14年~昭和23年 昭和44年以降
昭和24年~昭和33年    

6-3、受任者の出生年(平成28、29、30年の合計)

昭和14年以前 昭和44年~昭和53年
昭和14年~昭和23年 昭和54年~平成2年
昭和24年~昭和33年 平成2年以降
昭和34年~昭和43年    

7、公正証書遺言の作成件数

平成28年(    )件 平成29年(   )件 平成30年(    )件

7-1、遺言者の出生年

昭和14年以前 昭和34年~昭和43年
昭和14年~昭和23年 昭和44年以降
昭和24年~昭和33年    

以上、ご協力ありがとうございました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

民事信託手続準則案2

民事信託手続準則案[1]

4「信託口」口座の開設に関する手続準則案と確認事項

委任された信託登記代理の付随業務として民事信託支援業務を行う司法書士は、信託登記の原因関係である不動産信託に関連して信託財産に属する金銭が存在し、将来存在する可能性がある場合、信託当事者に対して、信頼できる金融機関において「信託口」口座を開設することを助言し、その理由、内容および「信託口」口座を欠く場合の危険を説明しなければならない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

前提

・信託登記の原因関係である不動産信託に関連して信託財産に属する金銭が存在し、将来存在する可能性がある場合

信託財産の中に、お金が入っていない場合、将来もお金を使わない・お金が入ってこない場合、という事例はやったことがないし、これまで聞いたこともない。

賃貸不動産などの収益物件ではなくても、固定資産税を払ったり、受益者の生活費に回したり、お金を使う場面・お金が入ってくる場面というのは必ずといっていいほどある。

ということは、この前提は「場合」と記載はありますが、司法書士が民事信託支援業務を行う場合は絶対条件を注意的に記載していると思われます。

内容

・信託当事者に対して、信頼できる金融機関において「信託口」口座を開設することを助言し、その理由、内容および「信託口」口座を欠く場合の危険を説明しなければならない。

幸いなことに、沖縄県では全ての地方銀行で信託口口座を作成することが出来ます。信用金庫やJAは個別対応になります。

ただし、信託口口座を作成する基準が銀行の利益を優先させ過ぎるように感じることがあります。

システム上不具合があったり、資金洗浄防止の関係があったりで信託口口座を開設しても融資などに結びつかない場合、対応してもらえなかったりします。金融機関が「出来ない。」という場合、どのような理由かを聞くと反論出来るところが見つかることが多いです。

しかし、金融機関が「出来ない。」という場合、理由や理屈ではなく「出来ない。」のが私の実務経験上の実感です。

信託口口座を作成する期間もばらつきがあったりします。どのような依頼者でも同じような期間で作成していただける地方銀行もあります。

逆に依頼者によって機関のばらつきがある地方銀行もあります。

1つ経験したのは、ある地方銀行での信託口口座開設です。民事信託契約書を公正証書にする1か月前から地方銀行に信託口口座開設をお願いしていました。

公正証書を作成した翌日、依頼者に必要書類を持って金融機関に提出してもらいました。2週間ぐらい後に信託口の預金通帳が出来たか、電話をかけてみると、担当者が「一度図にしてFAXしてくれませんか。」と言われたので即日FAXを送信しました。

その一週間ぐらい後にもう一度訊いてみると、「これからどこかおかしいところがないか、みてみる。」と答えてくださいました。

金融機関の方に理屈は通じないと思っているので、その後2か月くらい電話しては出来ていない、本部に確認中などの返事が続きました。

以前、別の依頼者の際に3週間で作成してもらえたので、さすがに遅いと思い、依頼者に今までの経緯を伝えました。

依頼者がすぐに反応してくれて、担当者に直接電話をしてくれました。

翌日、担当者が事務所にきて、「もう少し待ってください。」と直接伝えにきて、その2日後に通帳が出来ました。

依頼者は、融資も受けていたし返済も一度も遅れたことがない方です。電話で、「今までお宅に迷惑をかけたことがありますか?」と強くいったそうです。

依頼者が直接言った方が良い場合もあるんだなぁと思うと同時に、そんなに急に態度を変えて、少し恥ずかしくないのかなと心配になりました。


[1] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

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