平成28年4月国土交通省 DIY型賃貸借に関する契約書式例について

加工編

平成28年4月国土交通省 DIY型賃貸借に関する契約書式例についてより

DIY型賃貸借に関する契約書式例について

 全国で空き家が増加する中、個人の所有する住宅について賃貸住宅としての流通を促進することを目的として、平成25年度に「個人住宅の賃貸流通を促進するための指針(ガイドライン)」が作成され、翌26年度にはDIY型賃貸借を活用するにあたっての資金調達の方法や協議・合意すべき内容についての考え方が整理され、とりまとめられています。

(家には、誰かが住んでいた方が良いという結論がでました。)

 今般、契約当事者間の紛争を未然に防止しつつ、DIY型賃貸借の活用を促進する観点から、DIY型賃貸借に関する契約書式例を作成することとしました。

(建物に手を加える方式ですが、トラブルは防ぎたいと思います。)

  • 契約書式例の前提としている想定される契約スキーム

DIYはdo it yourself の略語で、一般的には、専門業者に頼らず自らの手で補修や組み立て、日曜大工等を行うこととされていますが、この契約書式例は、費用負担者が誰かに関わらず、借主の意向を反映して住宅の改修(設備や造作の取替え又は取付けを含む。以下同じ。)を行うことができる賃貸借契約を「DIY型賃貸借」として定義しています。

(内装などの費用は、当事者でどちらが負担するか決めてください。)

DIY型賃貸借の実施スキームは、費用負担者と改修の内容によって非常に多岐に渡るパターンが想定されます。関わる主体も、貸主と借主だけでなく、転貸人(サブリース事業者など)が含まれる場合があります。しかしながら、想定される実施スキームそれぞれに契約書式例を示すことは困難であるため、本契約書式例は、借主負担により壁紙の貼り替えや造作棚の設置など小規模な改修を行う場合を想定して作成されています。

(今回は、借りる人が内装などの費用を負担するケースです。)

本契約書式例は、実施される改修の内容が契約ごとに異なることから、実施される改修の内容を契約当事者がそれぞれ明確に認識し、明渡し時の収去や原状回復義務等について明確に合意することを主眼としています。

このことは、改修の内容がより複雑になったり、契約当事者にサブリース事業者も関わったりするなど他の実施スキームにおいても必要な事項であると考えられるため、他の実施スキームの場合でも当事者間の十分な協議のもとで本契約書式例が活用できると考えられます。なお、他の実施スキームにおいて留意すべきと考えられる事項は、「7.その他」において記載しています。

  • 契約書式例の構成と基本的な考え方
    • 賃貸借契約書として、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」(以下「標準契約書」という。)を使用することを想定しています。
  • 本契約書式例は、「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)と「合意書」で構成されています。

・ 標準契約書第8条第2項においては、「本物件の増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」(以下「増改築等」という。)に関して貸主の書面による承諾を要することとしています。

このため、DIY型賃貸借において増改築等を行う場合についても、この項に基づき貸主の承諾を得るものとしており、承諾書として「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)を作成し、加えて、双方の権利義務を含む合意事項を明確にするため、「合意書」を作成することとしています。また、標準契約書第18条に、下記3.に例示するような特約事項を記載し、標準契約書と「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)及び「合意書」の関係を明確化することとしています。

  • つまり、DIY型賃貸借においては、「賃貸借契約書」、「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)、「合意書」の3種の書面を作成することとなります。

(借りる時に、書類を3通作ってください。)

  • 標準契約書第18条の特約条項に記載する内容の例
  • 貸主と借主は下記特約事項を記載のうえ、双方記名、押印してください。

  特約事項(案)

甲及び乙は、第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に関する修繕及び原状回復の取扱いについては、第9条及び第14条の規定にかかわらず、第8条第2項に基づく甲の承諾書及び甲及び乙が承諾書と併せて取り交わす合意書に記載された規定に従うものとする。工事部分に係る所有権の帰属及び費用の精算の取扱いについても、同様とする。

  • 想定される契約手続きの考え方
    • 入居時に改修を行いたい場合には、借主は、契約締結前に希望する改修が実施可能か貸主に確認します。実施可能な場合には、改修工事の内容や、明渡し時の取扱い(残置するか撤去するか、原状回復義務の有無など)、費用精算の有無などについて貸主と借主の間で協議・合意します。
  • 借主は、貸主に対して、賃貸借契約書を提出するのに併せて、改修工事の内容等を記入した申請書及び合意書を提出します。
  • 貸主及び借主は、賃貸借契約書及び合意書を取り交わし、貸主は、承諾書を借主に対して交付します。
  • 既に本契約書式例を活用し賃貸借契約を締結している借主が、追加で改修の実施を希望する場合は、貸主との間で改修工事の内容等について協議・合意した上で、追加して実施する改修工事の内容等を記入した申請書及び合意書を貸主に提出します。貸主は承諾書を借主に交付し、併せて貸主及び借主の間で合意書を取り交わします。

5.契約書式例

平成  年  月  日

増改築等の承諾についてのお願い(申請書)

(貸主(甲)) 住所 〒

         氏名           殿

(借主(乙)) 住所 〒

氏名            印

私が賃借している下記(1)の住宅の増改築等を、下記の通り行いたいため、別紙合意書を添付して申請しますので、承諾及び合意書の取り交わしをお願いします。なお、別紙合意書の合意事項を遵守します。

住宅 名  称  
所 在 地  
住戸番号  
増改築等の概要 別表のとおり

承 諾 書

 上記について、承諾いたします。

 なお、別紙合意書の記載事項を遵守します。

    平成  年  月  日

(貸主)住所 〒

氏名             印

増改築等の承諾についてのお願い 別表

【増改築等の概要】

増改築等の内容 施工方法・使用資材等 所有権の帰属 (甲又は乙) 明渡し時の収去 (残置又は撤去) 残置する場合の補修 (要又は不要) 原状回復義務 (有又は無) 明渡し時の精算等 (有又は無) 図面等の添付 (有又は無) 備考
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                       

合 意 書

貸主(以下「甲」という。)及び借主(以下「乙」という。)は、契約書第8条第2項に基づき、平成  年  月  日に乙が申請した増改築等の実施に際し、以下の事項について合意する。

(施工及び施工状況の確認)

1 乙は、契約書第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」(以下「増改築等」という。)に際して、本物件(契約書第1条の「本物件」をいう。以下同じ。)及び第三者に損害を与えないように充分留意し、万一損害を与えたときは、その責任において問題の解決にあたらなければならない。

増改築等の実施前にその内容について甲と乙は十分に協議を行うとともに、実施前の原状の確認及び実施後の施工状況の確認のため、甲又は乙の一方が書面等による確認又は立ち会いを求めた場合、他方はそれに応じなければならない。

  (リフォームする前と後、途中などで借主さんと貸主さんは、お互い確認しながら進めて下さい。)

(所有権の帰属)

2 「増改築等の承諾についてのお願い 別表」(以下「概要表」という。)に記載された増改築等に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に係る契約期間中の所有権の帰属については、概要表に記載のとおりとする。

概要表において、乙の所有物とし、明渡し時に残置するとした工事部分については、乙は、明渡し時にその所有権を放棄し、又は甲に譲渡することとする。

  (リフォームで追加した部分は、借主のものです。借りるのが終わった後、残していく場合は、貸主のものになります。)

(契約期間中の管理及び修繕)

3 契約書第9条の定めにかかわらず、契約期間中における工事部分に関する必要な管理及び修繕については、乙がその責任と負担で行わなければならない。

 (リフォームで追加した部分は、借主が管理と修理をしてください。)

(明渡し時の収去等及び原状回復義務)

4 本物件の明渡しに際し、工事部分に係る残置又は撤去の別、残置する場合の補修の要不要及び契約書第14条に規定する乙の原状回復義務の有無については、概要表に記載のとおりとする。

残置する場合に補修を要するとされた工事部分については、明渡し時に工事部分の本来有する機能が失われている場合には、契約書別表第5の規定に準拠して乙が補修を行うこととする。

原状回復義務ありとされた工事部分については、乙の責任と負担で工事部分を原状回復し、又は乙が原状回復費用を負担しなければならない。

 (借主が返す時は、元に戻してください。)

(明渡し時の精算等)

5 本物件の明渡しに際し、工事部分についての諸費用の精算又は買取り(以下「精算等」という。)の有無については、概要表に記載のとおりとする。

精算等をありとする場合、本契約が終了したときは、甲は工事部分の残存価値又は時価を乙に対して支払わなければならない。

精算等をなしとする場合、工事部分の精算等に関しては、乙は甲に対し、その事由、名目の如何に関わらず一切の請求をすることはできない。

下記貸主(甲)と借主(乙)は、本物件について上記のとおり合意したことを証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自その1通を保有する。

以上

平成  年  月  日

貸主(甲)  住所 〒               

   氏名             印

借主(乙)  住所 〒             

   氏名             印

6.DIY型賃貸借に係る「増改築等の承諾についてのお願い」及び「合意書」作成にあたっての注意点

 (1)「増改築等の承諾についてのお願い」関係

 1)申請書兼承諾書関係

標準契約書第8条第2項は、貸主の所有物である賃貸住宅に関し、「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」について、所有者である貸主の承諾を得ることを規定し、「作成にあたっての注意点」の中に承諾書(例)として「増改築等承諾書(例)」が記載されています。

DIY型賃貸借に伴って実施される増改築等についても、この中に含まれると考えられることから、「増改築等承諾書(例)」をDIY型賃貸借に対応させたものが本書面です。

  • 借主(乙)は、本承諾書の点線から上の部分を記入し、貸主(甲)に2通提出してください。

     貸主は、承諾する場合には本承諾書の点線から下の部分を記入し、1通を借主に返還し、1通を保管してください。

  • 「増改築等」とは、契約書第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」をいいます。また、増改築等に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。)について、「工事部分」としています。「工事部分」は、温水洗浄便座や造作棚など容易に撤去が可能なものから、畳から変更したフローリングなど容易に撤去ができないものまで、全てのものが対象となります。
  • (1)の欄には、契約書頭書(1)を参考にして記入してください。
  • 増改築等の内容を示した別表を添付する必要があります。別表の内容は契約書第18条の特約事項となりますので、貸主と借主が内容について事前に十分な協議を行い、実施後に齟齬が生じないようにする必要があります。
  • 承諾に当たっての確認事項等があれば、承諾書の「なお、別紙合意書の記載事項を遵守します。」の後に記入してください。

 2)申請書兼承諾書に添付する別表関係

 ① 増改築等の内容:

工事の内容について、簡潔に記入してください。

 ② 施工方法・使用資材等:

施工方法・使用資材等について具体的に記入してください。図面やカタログがある場合は、当該箇所を参照する旨を記入してください。

③ 所有権の帰属:

契約期間中の工事部分の所有権が貸主にある場合は「甲」、借主にある場合は「乙」と記入してください。

④ 明渡し時の収去:

住宅を明け渡すときに工事部分を残置する場合は「残置」、撤去する場合は「撤去」と記入してください。

  ⑤ 残置する場合の補修:

明渡し時に工事部分の本来有する機能が失われている場合において、補修を要する場合は「要」、補修を要しない場合は「不要」と記入してください。

⑥ 原状回復義務:

原状回復義務がある場合は「有」、義務がない場合は「無」と記入してください。

⑦ 明渡し時の精算等:

借主が住宅を明け渡す際に工事部分を残置するとき、増改築等に関する費用を借主が貸主に請求する場合や、工事部分の残存価値又は時価に対する金員等を貸主が借主に支払う場合は「有」、請求や支払いがない場合は「無」と記入してください。また、工事部分の所有権が借主にあり、住宅を明け渡す際に工事部分を撤去する場合も「無」と記入してください。

⑧ 図面等の添付:

工事部分に係る設計図書及びカタログ等があれば「有」、ない場合は「無」と記入してください。明渡し時にトラブルにならないように可能な限り設計図書及びカタログ等を添付してください。

⑨ 備考:

  図面等の添付をありとした場合は、参照する図面等を記入してください。

原状回復義務がある場合について、回復すべき原状の具体的な状態について必要に

応じて記入してください。

工事部分を撤去する場合にどこまで原状回復させるかについては、住宅の明渡し後の使用方法によって異なってくることから、増改築等の前の状態まで回復する必要がない場合(あるいは原状回復自体が必要ない場合)も想定されるため、事前に取り決めを行い、備考欄に記入して明確にしておくことがトラブルを回避する観点から望ましいものと考えられます。

(元に戻せる範囲で決めてください。)

工事部分の所有者と工事実施者又は発注者が異なる場合は、必要に応じて工事実施者又は発注者を記入してください。

なお、「所有権の帰属」、「明渡し時の収去」、「原状回復義務」、「明渡し時の精算等」の組み合わせについては、代表的なものとして以下の例1~8の8通りが考えられます。

【想定される組み合わせ】

  所有権の帰属 明渡し時の収去 原状回復義務 明渡し時の精算等
【例1】 撤去
【例2】 撤去
【例3】 残置
【例4】 残置
【例5】 撤去
【例6】 撤去
【例7】 残置
【例8】 残置

また、例8をもとに別表の記入例を示すと、以下のようになります。

【増改築等の概要の記入例】

増改築等の内容 施工方法・使用資材等 所有権の帰属 (甲又は乙) 明渡し時の収去 (残置又は撤去) 残置する場合の補修 (要又は不要) 原状回復義務 (有又は無) 明渡し時の精算等 (有又は無) 図面等の添付 (有又は無) 備考
造作棚を壁に設置 リビング南側壁面に造作棚を固定ビスにより固定 残置 不要 ・造作棚は添付図面(図面番号○番)を参照。 ・設置位置は添付図面(図面番号○番)を参照。

 (2)「合意書」関係

DIY型賃貸借においては、増改築等の実施やその後の居住に係る借主の義務だけでなく、費用等の精算などの貸主の義務が生じることもあることから、増改築等の承諾書と別途に書面を作成することにより、合意内容に関する見落としを防止し、理解を深める必要があります。

 【第1項(施工及び施工状況の確認)関係】

工事部分の内容によっては、増改築等の際に住宅本体や第三者に損害を与える可能性があることから、その責任の所在を明確化するものであり、工事実施者又は発注者である借主の責任と記載しています。

立ち会いについては、「増改築等の承諾についてのお願い 別表」(以下「概要表」という。)並びに添付した設計図書及びカタログ等の内容と増改築等の前の原状や増改築等の後の施工状況との確認を行うことにより、住宅の明渡しのときのトラブルを回避する観点から、定めておくことが望ましいものと考えられます。増改築等の実施後の立ち会いにおいて事前の協議内容との齟齬が生じた場合は、協議により申請書兼承諾書、概要表、合意書の内容について修正を行うことも考えられます。

また、トラブルを回避する観点から、借主は、設計図書及びカタログ、領収書、施工業者との契約書などの関連書類を保管しておくことが望ましいものと考えられます。

【第2項(所有権の帰属)関係】

契約期間中及び明渡し時における工事部分の所有権の帰属を明確化するものです。増改築等の実施前に貸主と借主のどちらが所有権を有するものとするか協議により決める必要があります。ただし、住宅と一体となり、分離することができない工事部分については、民法第242条の規定により、所有権は貸主が取得することとなります。分離することができない工事部分として想定される例としては、壁にペンキを塗った場合などが考えられます。

また、双方の合意により借主の所有とした工事部分を明渡し時に残置する場合、借主は、住宅の明渡しに際し、その所有権を放棄又は貸主に譲渡することとしています。従って、分離することが可能な工事部分については、借主負担で行われるものであることなどを考慮すると、契約期間中は借主の所有とし、明渡し時に所有権を放棄又は貸主に譲渡するとして協議・合意する方が分かりやすいと考えられます。

【第3項(契約期間中の管理及び修繕)関係】

工事部分の管理及び修繕の責任と負担の所在を明確にするものです。

入居期間中については、工事を行った者が管理及び修繕を行うことが適当であると考えられることから、工事実施者又は発注者である借主が管理及び修繕をすることとしています。

【第4項(明渡し時の収去等及び原状回復義務)関係】

工事部分の残置又は撤去の別、残置する場合の補修の要不要及び原状回復義務の有無について明確にするものです。ここでいう原状とは増改築等の前の状態としています。

ただし、上記6.(1)2)⑨備考に記載のとおり、原状の内容は、必ずしも増改築等の前の状態とする必要がない場合もあるため、原状回復義務ありとする場合には、その内容を双方で確認し、合意することがトラブルを回避する観点から望ましいものと考えられます。

なお、本契約書式例は借主負担により小規模な改修を行う場合を想定していることを考慮すると、工事部分に関する退去時の借主の原状回復義務はなし(残置)として合意し、その一方で、借主は工事部分に関する費用償還請求権や造作買取請求権を放棄するものとして協議・合意することが分かりやすいと考えられます。

また、工事部分を残置するが、明渡し時に通常損耗や経年変化以外の事由により工事部分の補修が必要になっているなど、工事部分の本来有する機能が失われている場合において、標準契約書別表第5(国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の内容を規定)に準拠して補修を行う必要があるかどうかを増改築等の前に合意しておくことがトラブルを回避する観点から必要と言えます。このため、概要表において、残置する場合の補修の要不要について記載することとしています。

【第5項(明渡し時の精算等)関係】

工事部分に対して、民法の費用償還請求権又は借地借家法の造作買取請求権を行使するかどうかを定めています。行使しない場合は当該請求権の放棄の特約となります。

借主に所有権がない場合は費用(必要費や有益費)の精算の有無について協議・合意し、借主に所有権がある場合は買取(造作買取)の有無について協議・合意することがトラブルを回避する観点から必要と考えられます。ただし、当該請求権の放棄を前提に、賃貸借契約書において契約期間満期に渡る賃料を低廉に設定すること等も想定されるため、当該請求権を放棄するものとする場合においても、契約期間の満了前に本契約を解約した場合の精算の有無について、併せて協議し、合意しておくことが望ましいものと考えられます。

また、精算を行う場合は、残存価値の算定方法について、トラブルにならないようにあらかじめ貸主と借主で合意しておくことが望ましいものと考えられます。

さらに、費用負担者が借主の場合で、その費用負担を勘案せずに賃貸借契約書において契約期間中の賃料を設定するときには、費用償還請求権や造作買取請求権を放棄しないとして協議・合意することも考えられ、概要表の内容だけではなく、契約で取り決める賃料と増改築等の費用の関係も考慮して、当事者の一方が著しく不利にならないように協議・合意することが望ましいものと考えられます。

(賃料も考えてください。)

7.その他

 (1)大規模な改修を伴うDIY型賃貸借に係る留意点について

大規模な改修を伴うDIY型賃貸借を実施する場合、概要表や合意書に定める事項のほか、以下の点にも留意する必要があります。

1)改修に関する詳細な協議・取り決め

改修内容の詳細について十分な協議を行い、契約当事者間で合意形成することが望ましいと考えられます。

具体的には、どの程度まで改修するか、建築確認など行政への申請手続きを誰が行うか、資金調達はどうするかなど、専門業者と連携し取り組むことがトラブル回避の観点から有効です。

(専門業者に間に入ってもらって、確認しながら進めて下さい。)

2)公租公課

建物評価額が増加し固定資産税等の公租公課が増加することも想定されます。専門家への十分な確認のもと、工事部分の公租公課の負担者をあらかじめ取り決めておくことが望ましいと考えられます。

 (税金は誰が払うのか決めておいて下さい。)

3)連帯保証人への通知

改修の実施により、貸主に損害を与えることとなった場合、連帯保証人も損害賠償債務を負うことから、改修の実施に関する承諾書の写しを借主から連帯保証人に送付することなどにより、連帯保証人に改修の実施について知らせておくことが後のトラブル回避の観点からは望ましいと考えられます。

4)契約期間中の解約に関する精算

契約期間の満了前に契約を解約することとなった場合、借主が支払った費用を契約期間中の低廉な賃料で回収できなくなることから借主の費用負担が当初想定したものより大きくなる可能性があるため、契約期間満了前の解約時の精算や精算方法について決めておくことが望ましいと考えられます。

(2)借主以外の費用負担による改修

借主以外の者(貸主やサブリース事業者など)が借主の意向を反映して改修を行う場合、貸主(又は転貸人)による改修であることから、貸主の承諾を得るものとは異なる形の契約内容になると考えられます。借主の意向を反映することの担保として、改修内容を契約書に反映させることや、契約書とは別に合意書を取り交わすことも考えられます。

2016年加工  ベトナム社会主義共和国 住宅法

法務総合研究所国際協力部資料より

 目次

第一章 総則第 1 条 調整範囲

第 2 条 適用対象

第 3 条 用語の解釈

第 4 条 住居を有する権利及び住宅を所有する権利

第 5 条 住宅所有権の保護

第 6 条 厳禁される各行為

第二章 住宅の所有

 第 7 条 ベトナムにおいて住宅を所有することができる対象者

第 8 条 住宅所有権の公認条件

第 9 条 住宅所有権の公認

第 10 条 住宅所有者及び住宅使用者の権利

第 11 条 住宅所有者及び住宅使用者の義務

第 12 条 住宅所有権の移転時点

第三章 住宅の開発

第一節 住宅の開発に関する総則

第 13 条 住宅開発の政策

第 14 条 住宅の開発に関する要件 .

第 15 条 地方の住宅開発プログラム,計画 .

第 16 条 住宅開発用地の確定

第 17 条 住宅開発の形式及び住宅建築投資プロジェクト

第 18 条 住宅開発の各事例及びプロジェクトによる住宅建築の各事例

第 19 条 住宅建築投資プロジェクトに関する要件

第 20 条 住宅建築の原則

第二節 プロジェクトによる商業住宅の開発

第 21 条 商業住宅建築プロジェクトの投資家となる条件

第 22 条 商業住宅建築投資プロジェクト及びプロジェクトの投資家の選定

第 23 条 商業住宅建築投資プロジェクトを実施するための土地使用の形式

第 24 条 商業住宅の種別及び面積基準

第 25 条 商業住宅建築プロジェクトの投資家の権利

26 条 商業住宅建築プロジェクトの投資家の責任

第三節 公務住宅の開発第 27 条 公務住宅及び公務住宅開発計画

第 28 条 公務住宅建築投資プロジェクト及びプロジェクトの投資家の選定

第 29 条 公務住宅建築用地

第 30 条 公務住宅とするための商業住宅の購入,賃借

第 31 条 公務住宅の種別及び面積基準

第 32 条 公務住宅の賃借対象者及び条件

第 33 条 公務住宅の賃料確定の原則

第 34 条 公務住宅の賃借人の権利及び義務

第四節 再定住用住宅の開発

第 35 条 再定住用住宅開発の原則

第 36 条 再定住用住宅の手配の形式

第 37 条 再定住用住宅の建築用地

第 38 条 再定住用住宅建築投資プロジェクト及びプロジェクトの投資家の

選定

第 39 条 再定住用住宅の種別及び面積基準

第 40 条 再定住用住宅の品質管理

第 41 条 再定住のための商業住宅の購入及び社会住宅の使用

第五節 世帯,個人の住宅開発

第 42 条 農村区域における世帯,個人の住宅開発に関する要件 .

第 43 条 都市区域における世帯,個人の住宅開発に関する要件

第 44 条 世帯,個人の住宅開発用地

第 45 条 世帯,個人の住宅開発の方式

第 46 条 世帯,個人の住宅の基準及び品質

第 47 条 住宅開発における世帯,個人の責任

第 48 条 世帯,個人の相互協力による住宅の建築,都市の改築,整備

第四章 社会住宅に関する政策 .

第一節 総則

第 49 条 社会住宅に関する支援政策の享受対象者 .

第 50 条 社会住宅に関する支援政策の実施形式

第 51 条 社会住宅に関する支援政策の享受条件

第 52 条 社会住宅に関する支援政策の実施原則

第二節 賃貸,購入賃貸,売却用社会住宅の開発,管理政策

第 53 条 社会住宅の開発の形式

54 条 社会住宅建築投資プロジェクトに関する要件

第 55 条 社会住宅の種別及び面積基準

第 56 条 社会住宅の建築用地

第 57 条 社会住宅建築プロジェクトの投資家

第 58 条 社会住宅建築プロジェクトの投資家への優遇措置

第 59 条 自ら労働者の住居を手配する組織への優遇措置

第 60 条 国の投資による社会住宅の賃料額,購入賃料額の確定

第 61 条 国の建築投資によらない社会住宅の賃料額,購入賃料額,売却価

格の確定

第 62 条 社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却の原則

第 63 条 社会住宅の売却,賃貸,購入賃貸

第 64 条 社会住宅の管理,使用

第三節

居住のため自ら建築又は改築,修繕する世帯,個人への社会住宅政策

第 65 条 居住のため自ら建築又は改築,修繕する世帯,個人への住宅支援

政策

第 66 条 居住のため自ら建築又は改築,修繕する世帯,個人への住宅支援

政策の実施形式

第五章 住宅開発のための財政

第 67 条 住宅開発に資する各資金源

第 68 条 住宅開発用資本の調達の原則

第 69 条 商業住宅開発のための資本

第 70 条 社会住宅政策実施のための資本

第 71 条 公務住宅開発のための資本

第 72 条 再定住用住宅開発のための資本 .

第 73 条 世帯,個人の住宅開発のための資本

第 74 条 社会住宅開発のための社会政策銀行の優遇貸付け

第六章 住宅の管理,使用

第一節 住宅の管理,使用に関する総則

第 75 条 住宅の管理,使用の内容

第 76 条 住宅に関する記録の作成

第 77 条 住宅に関する記録の保管及び管理

 第 78 条 住宅の保険

第 79 条 芸術,文化,歴史的価値のある住宅の管理,使用

第二節 国有住宅の管理,使用

第 80 条 国有住宅の種類

81 条 国有住宅の管理,使用

第 82 条 国有住宅を賃借,購入賃借,購入することができる対象者,条件

第 83 条 国有住宅の賃貸,購入賃貸,売却

第 84 条 国有住宅の回収 .

第三節 住宅の保証,メンテナンス,改築

第 85 条 住宅の保証

第 86 条 住宅のメンテナンス

第 87 条 住宅の改築

第 88 条 住宅のメンテナンス,改築に関する所有者の権利及び義務

第 89 条 賃貸中の住宅のメンテナンス,改築

第 90 条 国有住宅のメンテナンス,改築

第 91 条 共同所有住宅のメンテナンス,改築

第四節 住宅の解体

第 92 条 住宅を解体しなければならない場合

第 93 条 住宅を解体する責任

第 94 条 住宅を解体する際の要件

第 95 条 住宅の強制解体

第 96 条 住宅が解体される際の所有者の居所

第 97 条 賃貸中の住宅の解体 .

第七章 共同住宅の管理,使用

第一節 共同住宅の管理,使用,メンテナンス

第 98 条 共同住宅の等級

第 99 条 共同住宅の使用期限

第 100 条 共同住宅の個別所有部分及び共同所有部分

第 101 条 駐車場及びアパートメントの使用面積,共同住宅内のその他の

面積の確定

第 102 条 共同住宅の会議

第 103 条 共同住宅の管理委員会

第 104 条 共同住宅の管理委員会の権限及び責任 .

第 105 条 共同住宅の管理運営

第 106 条 共同住宅の管理運営役務の価格

第 107 条 共同住宅のメンテナンス

第 108 条 複数の所有者がいる共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経

費 .

109 条 複数の所有者がいる共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経

費の管理,使用

第二節 共同住宅の改築,再築のための共同住宅の解体

第 110 条 共同住宅の改築,再築のために共同住宅を解体する場合

第 111 条 共同住宅の改築,再築計画の策定

第 112 条 共同住宅の改築,再築のための解体に関する要件

第 113 条 共同住宅の改築,再築の形式

第 114 条 共同住宅の改築,再築プロジェクトの投資家

第 115 条 共同住宅解体時の再定住計画案

第 116 条 再定住用住宅の手配 .

第八章 住宅に関する取引

 第一節 住宅の取引に関する総則

第 117 条 住宅取引の形式

 第 118 条 取引される住宅に関する条件

 第 119 条 住宅取引の当事者に関する条件

第 120 条 住宅取引の実施手順,手続

第 121 条 住宅に関する契約

第 122 条 住宅に関する契約の公証,確証及び効力発生時期

第二節 住宅の売買,住宅の売買契約の移転

第 123 条 住宅の売買,商業住宅の売買契約の移転取引

第 124 条 住宅の売買価格,商業住宅の売買契約の移転価格

第 125 条 延べ払い,分割払いによる住宅の売買 .

第 126 条 共同所有住宅の売買

第 127 条 賃貸中の住宅の売買

第 128 条 住宅の先購入

第三節 住宅の賃貸借

第 129 条 住宅の賃借期間及び賃料

第 130 条 共同所有住宅の賃貸借

第 131 条 住宅の賃貸借契約が終了する場合

第 132 条 住宅の賃貸借契約の一方的終了

第 133 条 住宅の賃借継続権

 第四節 社会住宅の購入賃貸

第 134 条 社会住宅の購入賃貸の手続

第 135 条 社会住宅の購入賃借人の権利及び義務

第 136 条 購入賃貸借契約が終了する場合及び購入賃貸社会住宅の回収

第五節 住宅の贈与

137 条 共同所有住宅の贈与 .

第 138 条 賃貸中の住宅の贈与

第六節 住宅の交換

第 139 条 共同所有住宅の交換

第 140 条 賃貸中の住宅の交換

第 141 条 差額の清算

 第七節 住宅の相続

第 142 条 合一共同所有に属する住宅の相続

第 143 条 持分のある共同所有住宅の相続 .

第 144 条 住宅の抵当権設定者及び抵当権者 .

第 145 条 共同所有住宅の抵当

第 146 条 賃貸中の住宅の抵当

第 147 条 住宅建築投資プロジェクトの抵当及び将来形成住宅の抵当 .

第 148 条 住宅建築投資プロジェクトの抵当及び将来形成住宅の抵当に関

する条件

第 149 条 抵当住宅,抵当住宅建築投資プロジェクトの財産の処分

第九節 住宅による出資

第 150 条 住宅による出資の条件,手続

第 151 条 共同所有住宅による出資 .

 第 152 条 賃貸中の住宅による出資

第十節 住宅の使用貸借,寄宿 .

第 153 条 共同所有住宅の使用貸借,寄宿

第 154 条 住宅の使用貸借,寄宿が終了する場合 .

第十一節 住宅管理の委任

第 155 条 住宅管理の委任の範囲,内容

第 156 条 共同所有住宅の管理委任

第 157 条 住宅管理委任契約が終了する場合 .

第 158 条 住宅管理委任契約の一方的終了

第九章 外国の組織,個人のベトナムにおける住宅所有権 .

第 159 条 ベトナムにおいて住宅を所有することができる外国の組織,個

人の対象者及び住宅の所有形式

第 160 条 ベトナムにおいて住宅を所有することができる外国の組織,個

人の条件

第 161 条 外国の組織,個人である住宅所有者の権利

第 162 条 外国の組織,個人である所有者の義務

第十章 住宅に関する情報システム及びデータベース

第 163 条 住宅に関する情報システム

第 164.条 住宅に関するデータベース

第 165 条 住宅に関する情報システム及びデータベースの構築権限,責任

第 166 条 住宅に関する情報及びデータベースの管理,開発

 第十一章 住宅に関する国家管理

第 167 条 住宅に関する国家管理の内容

第 168 条 国家住宅開発戦略の策定 .

第 169 条 住宅開発プログラム,計画の評決,承認

第 170 条 住宅建築プロジェクトの投資方針の決定

第 171 条 住宅建築プロジェクトの投資方針承認申請記録

第 172 条 住宅分野における科学技術の研究,応用及び国際協力

第 173 条 住宅の開発,管理に関する専門的知識,技能の教育,研修

第 174 条 住宅に関する国家管理機関

第 175 条 建設省の責任

第 176 条 住宅の査察

 第十二章

 住宅に関する紛争,不服申立て,告訴告発の解決及び法律違反の処理

 第一節 住宅に関する紛争,不服申立て,告訴の解決

第 177 条 住宅に関する紛争の解決

第 178 条 住宅に関する不服申立て,告訴告発及び不服申立て,告訴告発の解決

第二節 住宅に関する法令違反の処分

第 179 条 住宅に関する法令違反者の処分 .

第 180 条 住宅に関する法令に違反し,国,組織,世帯,個人に損害を与えた場合の処理

第十三章 施行条項 .

 第 181 条 施行効力

 第 182 条 経過規定

第 183 条 詳細の規定

国会                 ベトナム社会主義共和国法律 番号:65/2014./QH13               独立-自由-幸福

住宅法

ベトナム社会主義共和国憲法に基づき,国会は住宅法を発行する。

第一章 総則

1 条 調整範囲

この法律は,ベトナムにおける住宅の所有,開発,管理,使用;住宅に関する取引;住宅に関する国家管理について規定する。不動産事業を営む企業,合作社の商業住宅の売買,賃貸,購入賃貸[1]の取引については,不動産事業に関する法令の規定に従う。

2 条 適用対象

この法律は,ベトナムにおける住宅の所有,開発,管理,使用,取引;住宅に関する国家管理に関連を有する組織,世帯,個人に対し適用される。

3 条 用語の解釈

この法律では,以下の各言葉は次のとおり理解される。

1. 「住宅」とは,世帯,個人の居住及び生活の需要に資することを目的とする建築物をいう。

2.「個別住宅」とは,組織,世帯,個人の合法的な使用権に属する個別の土地面積上に建築される住宅をいい,別荘,連結住宅及び独立住宅からなる。

  • 「共同住宅」[2]とは,2 階以上からなり,複数のアパートメント[3]を有し,共同の廊下,階段を有し,各世帯,個人,組織のための個別所有部分,共同所有部分及び共用インフラストラクチャシステムを有する住宅をいい,居住の目的で建築される共同住宅,並びに居住及び事業の混合使用目的で建築される共同住宅からなる。
  • 「商業住宅」[4]とは,市場原理に従って販売,賃貸,購入賃貸するために建築投資される住宅をいう。
  • 「公務住宅」[5]とは,この法律の規定に基づき公務のために居住することができる対象者に対し職務,業務に従事する期間中賃貸するために用いられる住宅をいう。
  • 「再定住用住宅」[6]とは,国が法令の規定に基づき土地を回収[7]し,住宅を収去[8]するときに再定住の対象者となる世帯,個人のために手配される住宅をいう。 
  • 「社会住宅」[9]とは,この法律の規定に基づき住宅に関する援助政策を享受することができる対象者のために国が支援する住宅をいう。
  • 「住宅建築投資プロジェクト」[10]とは,一定の地点において住宅,居住の需要に資する技術的インフラストラクチャ,社会的インフラストラクチャ構造物を新築[11]し,又は住宅を改築,修繕[12]するための資本の使用に関連する各提案の総合をいう。
  • 「住宅の開発」[13]とは,住宅の新築,再築[14]又は面積を拡大する改築の投資をいう。
  • 「住宅の改築」[15]とは,現在の住宅の品質を向上し,面積を拡大し,又は面積の構造を調整することをいう。
  • 「住宅のメンテナンス」[16]とは,住宅の品質を維持[17]するために,定期的に保守,点検[18]し,故障[19]があるときに修繕することをいう。
  • 「住宅の所有者」[20]とは,この法律及び関係法令の規定に従い,住宅の建築投資,購入,購入賃借,受贈,相続,出資の受入,交換の各形式及びその他の各形式を通じて合法的に所有する組織,世帯,個人をいう。
  • 「共同住宅の所有者」[21]とは,共同住宅内のアパートメントの所有者,その他の面積の所有者をいう。
  • 「内国組織」とは,国家機関,人民武装部隊,公共事業部局,政治組織,政治社会組織,政治社会職業組織,社会組織,社会職業組織,経済組織及び民事に関する法令の規定に基づくその他の組織(以下「組織」と総称する)をいう。
  1. 「共同住宅における個別所有部分」[22]とは,アパートメント内の面積部分,及びこの法律の規定に従い共同住宅の所有者の個別所有部分であると認められる共同住宅内のその他の面積部分,並びに共同住宅の所有者のアパートメント内及びその他の面積部分の各個別使用設備をいう。
  1. 「共同住宅における共同所有部分」[23]とは,この法律の規定に従い共同住宅の所有者の個別所有に属する面積部分を除く共同住宅の残りの面積部分,及び当該共同住宅の各共用設備をいう。
  1. 「住宅の購入賃借」[i][24]とは,住宅の購入賃借人が購入賃貸人に対し購入賃借住宅の価額の 20 パーセントを前払いし(購入賃借人が前払いをする条件の場合を除くが,購入賃借住宅の価額の 50 パーセントを超えてはならない);残金を一定期間内に購入賃貸人に対し毎月支払うべき住宅賃料として算定し;住宅の購入賃借期間が満了し,残金の支払を完了したときは,購入賃借人が当該住宅の所有権を取得することをいう。

[2] 「共同住宅」は“nhà chung cư”である。

[3] 「アパートメントメント」は“căn hộ”である。

[4] 「商業住宅」は“nhà ở thương mại”である。

[5] 「公務住宅」は“nhà ở công vụ”である。

[6] 「再定住用住宅」は“nhà ở để phục vụ tái định cư”である。

[7] 「回収」は“thu hồi”である。

[8] 「収去」は“giải tỏa”である。

[9] 「社会住宅」は“nhà ở xã hội”である。

[10] 「住宅建築投資プロジェクト」は“dự án đầu tư xãy dựng nhà ở”である。

[11] 「新築」は“xây dựng mới”である。

[12] 「修繕」は“sửa chữa”である。

[13] 「住宅の開発」は“phát triển nhà ở”である。

[14] 「再築」は“xây dựng lại”である。

[15] 「住宅の改築」は“cải tạo nhà ở”である。

[16] 「住宅のメンテナンス」は“bảo trì nhà ở”である。

[17] 「維持」は“duy trì”である。

[18] 「保守,点検」は“duy tu, bảo dưỡng”である。

[19] 「故障」は“hư hỏng”である。

[20] 「住宅の所有者」は“chủ sở hữu nhà ở”である。

[21] 「共同住宅の所有者」は“chủ sở hữu nhà chung cư”である。

[22] 「共同住宅における個別所有部分」は“phần sở hữu riêng trong nhà chung cư”である。

[23] 「共同住宅における共同所有部分」は“phần sở hữu chung trong nhà chunh cư”である。

[24] 「住宅の購入賃借」は“thuê mua nhà ở”である。


  • 「既存住宅」[1]とは,建築投資が完了し,使用に供されている住宅をいう。
  • 「将来形成住宅」[2]とは,建築投資の過程にあり,未だ使用に供するための完了検査を受けていない住宅をいう。

4 条 住居を有する権利及び住宅を所有する権利

世帯,個人は,住宅の建築投資,購入,賃借,購入賃借,受贈,相続,出資の受入,交換,使用借[3],寄宿[4],委任による管理及び法令の規定に基づくその他の各形式を通じて住居を有する権利を有する。この法律第 8 条 2 項に規定される各形式を通じて合法的に住宅を有する組織,世帯,個人は。この法律の規定に従い当該住宅の所有権を有する。

5 条 住宅所有権の保護

1. 国は,この法律の規定に従い,各所有者の住宅に関する合法的な所有権を公認し,保護する。

2 組織,世帯,個人の合法的な所有に属する住宅は,国有化されることはない。国防,治安のため;国家,公共の利益のための経済・社会の開発のために真に必要な場合,又は戦争状態,緊急状態,自然災害の予防,防止に際し,国が組織,世帯,個人の合法的な所有に属する住宅の収用[5],徴用[6],先買[7]又は収去を決定したときは,国は,法令の規定に従い,住宅所有者に対し賠償し,支援し,再定住の政策を実施する責任を負う。

6 条 厳禁される各行為

1. 国,組織,世帯,個人の住宅所有権を侵害する。

2 組織,世帯,個人の住宅に関する国家管理責任の履行,住宅の所有,使用及び取引に関する権利の行使及び義務の履行を妨害する。

  • 承認[8]済みの住宅の建築企画[9],開発プログラム[10],計画[11]に従わずに,プロジェクトの投資方針[12]を決定し,又は建築投資プロジェクトを承認する。
  • 住宅用地でない土地上に住宅を建築する。住宅の種類に応じて国が規定する住宅の設計基準,面積基準を遵守せず建築をする。住宅の売買契約,購入賃借

契約中で,法律が規定する住宅の使用面積の計算方法と異なる方法を適用する。

  • 違法に住宅面積を占有,使用する。共同所有又はほかの所有者に属する空間及び面積を簒奪する。無断で共同住宅内の個別所有部分の耐力構造を変更し,設計を変更する。
  • 共同所有,使用権に属する面積部分及び設備を個人的に使用する。混合共同住宅内の共同所有に属する面積部分又は役務に資する面積部分を住宅建築投資プロジェクトの投資方針決定及び承認済みのプロジェクトの内容と異なる目的で使用する。ただし,権限を有する国家機関が使用目的の変更を許可した場合を除く。
  • 住宅の開発のために調達した資本又は前払いした住宅の購入代金を異なる目的で使用する。
  • 住宅建築プロジェクトの投資家が,投資協力,合弁,事業協力,出資参加者又はその他の組織,個人に対し,住宅の賃貸,購入賃貸,売買契約,住宅に関する取引の手付契約の締結,プロジェクト中の土地使用権の経営を委任し,又は引き渡す。
  • この法律の規定に従わずに,住宅の売買,売買契約の移転,賃貸,購入賃貸,贈与,交換,相続,抵当,出資,使用貸,寄宿,管理委任の各取引を実施する。
  1. 所有者の同意を得ず,賃借,購入賃借,使用借,寄宿し,管理の委任を受けた住宅を改築,増築,解体[13]する。
  2. アパートメントを居住以外の目的で使用する。承認済みのプロジェクトによる共同住宅内の事業面積部分を,可燃物,爆発物の事業,環境汚染,騒音を惹起する役務の事業,又は政府が規定する共同住宅内の世帯,個人の生活に悪影響を与えるその他の活動を行うために使用する。
  1. 経営条件に関する法律の規定を遵守せず,個別住宅を,可燃物,爆発物の事業,環境汚染,騒音を惹起し,居住区の社会秩序,安全,生活に悪影響を与える役務の事業のために使用する。
  2. 住宅について不正確,不誠実,規定に沿わない又は権限を有する国家機関の請求に沿わない情報を報告,提供する。権限を有する国家機関が管理する住宅に関するデータベース内の情報を破損し,改竄する。

第二章 住宅の所有

7 条 ベトナムにおいて住宅を所有することができる対象者

  1. 内国組織,世帯,個人
  2. 外国定住ベトナム人
  3. この法律第 159 条 1 項に規定される外国組織,個人

8 条 住宅所有権の公認条件

1. 内国組織,世帯,個人。外国定住ベトナム人については,ベトナムへの入国許可を受けなければならない。外国組織,個人については,この法律第 160 条に規定される条件を満たさなければならない。

2 以下の各形式に通じて合法的に住宅を有する。

  1. 内国組織,世帯,個人については,住宅の建築投資,購入,購入賃借,受贈,相続,出資の受入,交換及び法令の規定に基づくその他の各形式を通じて
  2. 外国定住ベトナム人については,不動産事業を営む企業,合作社(以下「不動産事業者」と総称する)の商業住宅の購入,購入賃借;世帯,個人の住宅の購入,受贈,交換,相続;法令の規定に基づき自ら住宅を建築するための底地の販売を許可された商業住宅建築投資プロジェクトにおいて土地使用権の譲渡を受ける形式を通じて
  3. 外国組織,個人については,この法律第 159 条 2 項に規定される各形式を通じて

9 条 住宅所有権の公認

  1. この法律第 8 条に規定される組織,世帯,個人が条件を満たし,合法的に住宅を有しているときは,権限を有する国家機関から当該住宅について土地使用権,住宅及びその他の土地に付着する財産所有権の証明書(以下「証明書」という)の発給を受けることができる。証明書の発給を受ける住宅は,既存住宅でなければならない。
  • 住宅の所有者に対する証明書発給の手順,手続は,土地に関する法令の規定に従って行われる。

この法律第 123 条 1 項の規定による期限付き住宅所有の場合,買主は住宅所有期間中,証明書の発給を受ける。合意に基づく住宅所有の期限が満了するときは,住宅所有権は当初の所有者に再移転する。住宅買主に対する証明書の発給及び住宅所有期限満了時の証明書の処理は,政府の規定に従って行われる。

  • 証明書を発給する権限を有する機関は,この法律及び建築に関する法令の規定に従い,証明書中に住宅の種別[14]及び等級[15]を明記しなければならない。アパートメントの場合,総建築床面積及びアパートメントの使用面積を記載しなければならない。住宅がプロジェクトにより建築される場合,権限を有する機関により承認済みの住宅建築プロジェクト名を記載しなければならない。
  • 購入賃貸,販売のためプロジェクトにより建築投資される住宅については,投資家には証明書を発給せず,住宅の購入賃借人,買主に証明書を発給する。ただし,投資家が未だ購入賃貸,販売していない住宅について証明書の発給を求める場合を除く。投資家が賃貸のため住宅を建築した場合,当該住宅について証明書の発給を受ける。
  • 世帯,個人の住宅が,二階建て以上で,各階に二つ以上のアパートメントを有し,この法律第 46 条 2 項に規定される条件を満たす場合,権限を有する機関から当該住宅内のアパートメントごとに証明書の発給を受ける。

10 条 住宅所有者及び住宅使用者の権利

1. 世帯,個人,内国組織,外国定住ベトナム人である住宅所有者は,以下の各権利を有する。

  1. 自己の合法的な所有に属する住宅について不可侵の権利を有する。
  2. 住宅を居住目的及び法律が禁止していないその他の各目的で使用する。
  3. この法律及び土地に関する法令の規定に従い,自己の合法的な所有権に属する住宅について証明書の発給を受ける。
  4. 住宅を売却し,売買契約を移転し,賃貸し,購入賃貸し,贈与し,交換し,相続させ,抵当に入れ,出資し,使用貸し,寄宿させ,管理を委任する。ベトナムにおいて住宅を所有することができない対象者に住宅を贈与し,相続させた場合,この対象者は当該住宅の価額のみ享受することができる。

đ) この法律及び関係法令の規定に従い,当該住宅区の各公共便益施設を共同利用する。

共同住宅の所有者の場合,共同住宅の共同所有部分及び当該共同住宅区の共用インフラストラクチャ施設について共同所有権,使用権を有する。ただし,事業のために建築された施設,又は法令の規定若しくは住宅売買契約,住宅購入賃借契約中の合意により国に引き渡されるべき施設を除く。

  • この法律及び建築に関する法令の規定に従い,住宅をメンテナンス,改築,解体,再築する。
  • 国防,治安のため;国家,公共の利益のための経済・社会の発展のために,又は戦争状態,緊急状態,自然災害の予防,防止に際し,自己の合法的な所有に属する住宅が国により収去,収用,徴用されるときは法律の規定に従い賠償を受け,住宅が国により先買されるときは市場価額による清算を受ける。
  • 自己の合法的な所有権を侵害する各行為及び住宅に関する法令に違反す

るその他の各行為について不服を申し立て,告訴告発し,訴えを提起する。

2 この法律第 123.条 1 項の規定による期限付き住宅所有の場合,各当事者が別段の合意をする場合を除き,住宅所有期間中,所有者はこの条第 1 項に規定される各権利を行使する。合意による住宅所有期限が満了したときは,住宅を管理,使用している所有者はこの住宅を当初の住宅所有者に引き渡さなければならない。

  • 外国組織,個人である住宅所有者は,この法律第 161 条の規定による各権利を有する。
  • 住宅所有者でない住宅使用者は,住宅所有者との合意に基づき住宅の管理,使用に関する各権利を行使することができる。

11 条 住宅所有者及び住宅使用者の義務

1. 内国組織,世帯,個人,外国定住ベトナム人である住宅所有者は,以下の各義務を有する。

  1. 住宅を規定された目的通りに使用する。自己の所有する住宅に関する書類を作成し,保存する。
  2. 法令の規定に従い,防火,消火を行い,社会衛生,環境,秩序,安全を維持する。
  3. 住宅を売却し,売買契約を移転し,賃貸し,購入賃貸し,贈与し,交換し,相続させ,抵当に入れ,出資し,使用貸し,寄宿させ,管理を委任するときは,法令の各規定を完全に遵守する。夫婦の共有財産である住宅の取引については,さらに婚姻家族法の各規定に従って実施しなければならない。
  • 住宅をメンテナンス,改築,解体,再築するときは,法令の規定通りに実施し,国の利益,公共の利益,その他の組織,世帯,個人の権利及び合法的な利益に悪影響を与え又は損害を与えてはならない。この法律第 123 条 1 項の規定による期限付き住宅所有の場合,住宅の改築,解体は各当事者間の合意に基づいて実施される。

đ) 防火,消火に関する法令及び保険事業に関する法令の規定に基づき火災,爆発保険への加盟が強制される住宅については,火災,爆発保険料を納付する。

  • 住宅に関する違反処分,紛争,不服申立て,告訴告発の解決,国が土地を回収し,住宅を収去し,住宅を収用,徴用,先買するときの賠償,援助,再定住,住宅の解体に関する権限を有する国家機関の法的効力を生じた決定を執行する。
  • 関係当事者及び権限を有する者に共同所有,共同使用に属する設備インフラストラクチャ,技術的インフラストラクチャシステム,面積部分を検査,監視,メンテナンスさせる責任を有する。
  • 住宅所有権の公認を受けるとき,各取引を実施するとき,及び住宅を使用する過程で,法令の規定に従い国に対し財務義務を履行する。

2 外国組織,個人である住宅所有者は,この条第 1 項に規定される各義務のほか,この法律第 162 条 2 項に規定される義務を履行しなければならない。

3. 住宅所有者でない住宅使用者は,住宅所有者との合意及びこの法律の規定に基づき住宅の管理,使用について各義務を履行する。

12 条 住宅所有権の移転時点

1. 住宅を売買する場合でこの条第 3 項に規定されるもの以外,及び住宅を購入賃借する場合,住宅所有権の移転時点は,買主,購入賃借人が購入代金,購入賃料を全額支払い,住宅の引渡しを受けた時点である。ただし,各当事者が別段の合意をする場合を除く。

すみれ

「代金を支払って家の鍵をもらった時か。」

2.住宅を出資し,贈与し,交換する場合,住宅所有権の移転時点は,出資受入者,受贈者,被交換人が出資者,贈与者,交換人から住宅の引渡しを受けた時点である。

  • 住宅建築プロジェクトの投資家と買主の間で住宅を売買する場合,住宅所有権の移転時点は,買主が住宅の引渡しを受けた時点,又は買主が投資家に購入代金を全額支払った時点である。不動産事業者の購入商業住宅については,所有権の移転時点は,不動産事業に関する法令の規定に従う。
  • 住宅を相続する場合,住宅所有権の移転時点は,相続に関する法令の規定に従う。
  • この条第 1 項,第 2 項及び第 3 項に規定される住宅に関する各取引は,この法律の規定に従い住宅取引に関する各条件を遵守し,契約が効力を生じていなければならない。

第三章 住宅の開発

第一節 住宅の開発に関する総則

13 条 住宅開発の政策

  1. 国は,土地使用企画,計画,都市企画,特殊機能区企画,農村建設企画の承認を通じて住宅用地を整備する責任を有する。
  2. 国は,大破[16]し,倒壊するおそれがあり,使用者の安全を保証することができない共同住宅の改築,再築のための企画,土地,金融[17],与信[18],新たな科学技術,建築資材の応用研究に関する仕組み,政策を策定し,組織,世帯,個人が市場メカニズムによる賃貸,購入賃貸,販売用住宅の開発に参加するのを奨励する。
  • 国は,社会住宅に関する支援政策を実施するため,免税,減税,土地使用料,土地賃貸料の減額,優遇金利による長期的与信の仕組み,政策及びその他の金融に関する優遇の仕組みを策定し,国の資本から援助する。
  • 国は,各区域[19],各地域[20],各地帯[21]に適合した住宅の種別ごとに,モデル設計,典型的な設計を研究し,策定するための政策をとる。省エネルギー住宅の開発を奨励する政策をとる。
  • 省,中央直轄都市(以下「省級」と総称する)人民委員会,商業住宅建築プロジェクトの投資家は,住宅に関する法令の規定に従い社会住宅を建築するための住宅用地を確保しなければならない。

14 条 住宅の開発に関する要件

  1. 様々な対象者の住宅に関する需要及び各時期の国土,各地方[22],各地域,地帯の経済・社会の状況に適合している。
  2. 各時期の国家住宅開発戦略[23],建築企画,土地使用企画に適合し,地方の住宅開発プログラム,計画に含まれている。
  3. 住宅に関する法令の規定,建築基準,規格,品質を遵守している。火災,爆発の予防,防止に関する各要件を満たしている。建築の過程で建築様式,景観,衛生,環境,安全を確保しており,自然災害,気候変動に対応することができる。エネルギー,土地資源を効率的に使用する。
  4. 都市区域については,住宅開発は建築詳細企画に適合し,主としてプロジェクトにより実施される。住宅建築投資プロジェクトはこの条第 1 項,第 2 項及び第 3 項に規定される要件を満たし,住民の分布,都市整備を担保しなければならない。特級,第一級及び第二級の都市[24]については,主として共同住宅を開発し,賃貸住宅を建築する。
  • 農村区域,山岳,国境,島嶼地帯については,住宅開発は農村住居区企画,新農村建設プログラム,各民族の風俗,慣習,各地域,地帯の自然条件に適合していなければならない。移動耕作,遊牧を漸進的に廃止し,持続可能な農村

開発を保証する。プロジェクトによる住宅開発,複数階建ての住宅を奨励する。

15 条 地方の住宅開発プログラム,計画

  1. 承認済みの国家住宅開発戦略,経済・社会開発マスタープラン[25],土地使用企画,都市企画,特殊機能区企画,地方の農村建設企画に基づき,省級人民委員会は,都市及び農村における 5 年間及び 10 年間又はより長期の地方の住宅開発プログラムを策定し,この法律第 169 条の規定に従い,採択のため同級の人民評議会に提出する。
  • この条第 1 項の規定に従い承認された地方の住宅開発プログラムに基づき,省級人民委員会は,商業住宅,社会住宅,公務住宅,再定住用住宅,世帯,個人の住宅の開発計画からなり,賃貸用社会住宅開発計画を明記した毎年及び 5 年間の管轄区域[26]の住宅開発計画を策定し,承認しなければならない。

16 条 住宅開発用地の確定

  1. 都市企画,農村建設企画,経済区,工業団地,輸出加工区,ハイテクパーク

(以下「工業団地」と総称する)企画;科学研究院,管轄区域の公立寄宿民族普通学校を除く各大学教育施設,職業訓練学校(以下「研究養成区」と総称する)の建設企画を策定,承認するときは,企画を承認する権限を有する国家機関は,企画中で住宅建築用地の面積を明確に確定しなければならない。

  • 特級,第一級,第二級及び第三級の各都市においては,商業住宅建築プロジェクトの投資家は,政府の規定に従い,技術的インフラストラクチャシステムの建設投資済みのプロジェクトの土地の一部を,社会住宅を建築するために確保しなければならない。その他の等級の都市については,省級人民委員会は,地方の具体的な状況に基づき,投資家に対し,技術的インフラストラクチャシステムの建築投資済みのプロジェクトの土地の一部を,社会住宅を建築するために確保するよう求める。

17 条 住宅開発の形式及び住宅建築投資プロジェクト

  1. 住宅開発の形式は次のとおりである。
    1. プロジェクトによる住宅開発 b) 世帯,個人の住宅開発
  2. この法律の規定による住宅建築投資プロジェクトは次のとおりである。
    1. 独立住宅建物又は住宅建物群の新築又は改築投資プロジェクト b) 農村区域における技術的インフラストラクチャ及び社会的インフラストラクチャシステムを整えた住宅区建設投資プロジェクト c) プロジェクト内で住宅建築用地を確保している都市区建設投資プロジェクト又は混合土地使用プロジェクト

d) 居住及び事業の混合使用目的を有する建物の建築投資プロジェクト

18 条 住宅開発の各事例及びプロジェクトによる住宅建築の各事例

1. 住宅開発の各事例は次のとおりである。

  1. 商業住宅の開発
  2. 社会住宅の開発
  3. 公務住宅の開発
  4. 再定住用住宅の開発

đ) 世帯,個人の住宅の開発

2.プロジェクトによる住宅開発の各事例は次のとおりである。

  1. 各不動産事業者の賃貸,購入賃貸,販売用住宅の開発
  2. 共同住宅,老朽化した住宅区の改築,再築
  3. 再定住用住宅の開発 d) 国有住宅の開発

 

 

 

 

19 条 住宅建築投資プロジェクトに関する要件

  1. この法律第 17 条 2 項に規定される各住宅建築投資プロジェクトは,この法律の規定に従って実施されなければならない。
  2. 住宅建築投資プロジェクトは承認済みの詳細企画がある区域においてのみ策定,承認及び展開することができ,権限を有する国家機関の投資方針決定の各内容を遵守し,この法律第 14.条に規定される各要件を満たさなければならない。
  • 住宅建築投資プロジェクト,プロジェクト内の各区域は,ベトナム語により命名されなければならない。商業住宅建築プロジェクトの投資家がプロジェクトを外国語により命名する需要を有する場合,先にベトナム語による正式名称を記載し,その後に外国語を記載する。プロジェクト名,プロジェクト内の各区域の名称は,権限を有する国家機関により決定され,建築投資及び管理の過程を通じて使用され,建築投資が完了した後にも使用される。
  • 住宅建築プロジェクトの投資家は,承認済みのプロジェクトの各内容を完全に実施しなければならない。投資家がプロジェクト名,実施の進度,建築すべき住宅の種別,住宅の建築総床面積,総数,各種別の住宅の割合,国家資本により投資されるプロジェクトであれば総投資額の各内容の調整を要請する場合,建築を実施展開する前に,この法律第 170 条の規定に従い,権限を有する機関の決定を受けなければならない。
  • 省級人民委員会は,以下の規定に従い,商業住宅,社会住宅,公務住宅,再定住用住宅建築プロジェクトからなる管轄区域における各住宅建築投資プロジェクトの目録を具体的に確定し,省級人民委員会のウェブサイト上で公開する責任を負う。

a) プロジェクトの数;管轄区域における各住宅建築投資プロジェクト中の毎年の建築投資住宅の総数及び住宅の総床面積 b) プロジェクト名,建築投資地点,プロジェクトの規模,プロジェクトの詳細企画,プロジェクトの実施進度,投資目標,住宅の数,住宅の建築総床面積,住宅事業の形式及び不動産事業に関する法令の規定に基づくその他の内容からなる管轄区域における住宅建築投資プロジェクトごとの基本内容

c) この項 a 号及び b 号に規定されるプロジェクトに関する各情報の公開は,プロジェクトの実施過程を通じて行われなければならない。

20 条 住宅建築の原則

  1. 住宅の建築は,自然条件,災害の予防,防止,科学,技術の水準,歴史的,文化的伝統に適合し,権限を有する国家機関により承認済みの建築詳細企画に適合していなければならない。
  2. 都市区域においては,住宅の建築は,改築が新築と調和し,個別住宅の建物が都市の建築の総体と結びついており,都市設計及び都市建築企画管理規則を遵守しなければならない。
  3. 農村区域においては,住宅の建築は,自然の景観と調和し,地域,地帯ごとの世帯,個人及び民族の風俗,慣習,経営生産の状況に適合していなければならない。

第二節 プロジェクトによる商業住宅の開発

21 条 商業住宅建築プロジェクトの投資家となる条件

  1. ベトナムの法令の規定に基づき設立され,活動する企業,合作社
  2. 不動産事業に関する法令の規定に基づく法定資本を有し,投資に関する法令の規定に基づくプロジェクトごとの実施のための供託資本を有する。
  3. 法令の規定に基づく不動産事業を営む機能を有する。

 

 

 

22 条 商業住宅建築投資プロジェクト及びプロジェクトの投資家の選定

  1. 商業住宅建築投資プロジェクトは,この法律及び建築に関する法令の規定に従い,策定,審査,承認,実施展開されなければならない。
  2. 商業住宅建築プロジェクトの投資家の選定は,以下の各形式により行われる。
    1. 土地に関する法令の規定による土地使用権の競売
    1. 土地を使用するプロジェクトの入札
    1. 投資家がこの法律第 21 条に規定される条件を完全に満たし,この法律第

23 条 1 項及び 4 項の規定に従い合法的な土地使用権を有する場合に投資家を指定する。

  • 商業住宅建築プロジェクトの投資家の選定は,省級住宅管理機関の報告により省級人民委員会が決定する。政府の規定に従いプロジェクトが大規模である,又は複数の省,中央直轄都市に関連する場合,投資家の選定を行う前に,この法律第 170 条 2 項の規定により権限を有する機関に報告し,決定を受けなければならない。

 

 

 

 

23 条 商業住宅建築投資プロジェクトを実施するための土地使用の形式

  1. 合法的な使用権を有する住宅用地を使用して商業住宅を建築する。
  2. 国から賃貸,購入賃貸,販売用住宅を建築するための土地の交付を受ける。
  3. 国から賃貸用住宅を建築するための土地の賃貸を受ける。
  4. 土地に関する法令の規定に従い住宅用地の使用権を譲り受け,商業住宅を建築する。

24 条 商業住宅の種別及び面積基準

  1. 商業住宅の種別,種別ごとの面積基準は,プロジェクトの投資家の選択,決定によるが,建築詳細企画,住宅建築基準,規格及び権限を有する国家機関の住宅建築プロジェクトの投資方針決定の内容に適合していなければならない。
  2. アパートメントについては,各戸に必要設備が備わっているアパートメントとして,建築基準,規格に従ったアパートメントの床面積を有するよう設計,建築しなければならない。
  3. 個別住宅については,建築基準,規格に従って承認を受けた建築詳細企画,設計通りに建築しなければならない。

25 条 商業住宅建築プロジェクトの投資家の権利

  1. 関連機関,組織に対し,プロジェクトの策定,審査,承認及び実施展開の過程で法令の規定通りに各手続を実施するよう請求する。
  2. この法律,不動産事業に関する法令の規定に従い,締結した契約の内容に従い,住宅を賃貸,購入賃貸,販売し,資本を調達し,住宅の賃料,購入賃料,販売代金を徴収する。
  3. 土地に関する法令及び不動産事業に関する法令の規定に従い,プロジェクトにおける土地使用及び商品事業者の各権利を行使する。
  4. 不動産事業に関する法律に従い,プロジェクトの一部又は全部を譲渡することができる。
  5. 権限を有する国家機関のプロジェクトの投資方針決定に従い,プロジェクト範囲内の技術インフラストラクチャシステムの管理,活用することができる。
  6. この法律律第 9 条及び土地に関する法令の規定に従い,権限を有する国家機関に対し,プロジェクトで建設された住宅について証明書の発給を請求する。
  7. 法令の規定に従い,プロジェクトを実施する過程で国の各優遇政策を享受することができる。
  8. この法律及び関連法令の規定によるその他の各権利を行使する。

26 条 商業住宅建築プロジェクトの投資家の責任

  1. この法律及び建築に関する法令の規定通りに,プロジェクトを策定,審査,承認及び実施展開をする。
  2. 投資に関する法令の規定に従い,プロジェクト実施のための供託をする。不動産事業に関する法令の規定に従い,住宅取引保証金を納付する。法令の規定に従い,プロジェクトを実施するための財務能力を確保する。
  3. 詳細企画,権限を有する国家機関のプロジェクトの投資方針決定の内容通りにプロジェクト内の住宅及び各技術的インフラストラクチャ,社会的インフラストラクチャ構造物を建築する。承認を受けた住宅の設計,面積基準及びプロジェクトの進度を遵守する。
  4. 住宅に関する法令の規定に従い,社会住宅を建築するため,プロジェクト内で技術的インフラストラクチャ建築投資済みの土地を確保する。
  5. この法律第 19 条 5 項 b 号に規定される各情報を自己のウェブサイト上及びプロジェクト管理委員会の事務所において公開する。住宅に関する法令及び不動産事業に関する法令の規定に従い,定期的に,またプロジェクト完了時にプロジェクトの実施展開の状況,結果を報告する。
  6. プロジェクトの商品事業契約中の各約束を完全に履行し,顧客に対し住宅,及び取引住宅に関連する各書類を引き渡す。不動産事業に関する法令の規定通りに,住宅の売買,賃貸,購入賃貸取引及び土地使用権の経営を実施する。
  7. 買主に対し住宅を引き渡した日から,又は購入賃借人が合意された金員全額を支払った時点から 50 日以内に,権限を有する国家機関に対し,住宅の買主,購入賃借人への証明書の発給を要請手続を実施しなければならない。ただし,買主,購入賃借人が自ら証明書の発給手続を実施した場合を除く。賃貸住宅を建築する場合,この法律第 76 条及び第 77 条の規定に従い,住宅の記録を作成し,保管する責任を負う。
  • この法律及び建築に関する法令の規定に従い,住宅の品質保証をする。法令の規定に従い,国に対する各財務義務を履行する。
  • 住宅の開発,資本の調達,顧客の前払金の支払,住宅に関する各取引の実施及びこの条に規定されるその他の各活動において違反があったときは,権限を有する機関の法的効力を生じた各決定を執行する。
  • 住宅の建築投資に参加した顧客又は組織,世帯,個人に損害を与えた場合,賠償する。

 

 

 

 

第三節 公務住宅の開発

27 条 公務住宅及び公務住宅開発計画

  1. 国は中央予算及び地方予算からなる予算から資本を投資し,公務住宅を建築し,又は商業住宅を購入,賃借して公務住宅とする。公務住宅は,中央の公務住宅及び地方の公務住宅からなる。
  2. 公務住宅の建築,公務住宅とするための商業住宅の購入,賃借投資は,この条第 3 項に規定される公務住宅開発計画に基づかなければならず,公務住宅の使用者の業務における安全,生活,交通の利便性を確保する。
  3. 公務住宅開発計画は,次のとおり策定,承認される。
    1. 中央機関は,その機関の公務住宅の需要を確定して建設省に送付し,審査し,各中央機関の公務住宅開発計画を作成して政府首相に提出し,承認を受けることができるようにする責任を負う。ただし,この項 b 号に規定される場合を除く。
  • 国防省,公安省は,この法律第 32 条 1 項 d 号に規定される対象者の公務住宅の需要を確定し,公務住宅開発計画を策定し,建設省の同意意見を得た上で政府首相に提出し,承認を受ける責任を負う。
    • 省級人民委員会は,この法律第 15 条の規定に従い,地方の住宅開発計画中で公務住宅開発計画を策定し,承認する。
    • この項 a 号,b 号及び c 号に規定される計画を策定する機関は,住宅の種別,住宅の数,床面積;建築地点及び住宅を建築するための土地の面積,又は公務住宅とするために購入,賃借する商業住宅の面積;資金源,毎年及び 5 年間の投資の配分からなる,公務住宅の需要を明確に確定し,各関連機関の責任を確定しなければならない。
  • 政府は,公務住宅とするための建築,商業住宅の購入又は賃借投資,公務住

宅の賃借対象者,条件,及び公務住宅の管理,使用について詳細を規定する。

28 条 公務住宅建築投資プロジェクト及びプロジェクトの投資家の選定

  1. 新築及び商業住宅の購入投資からなる公務住宅建築投資プロジェクトは,この法律及び建築に関する法令の規定に従い,策定,審査,承認及び実施展開される。
  2. 公務住宅建築投資プロジェクトは,以下の各種別を有する。
    1. 各中央機関の各対象者に賃貸するために,政府首相が建設省の要請により投資を決定するプロジェクト。ただし,この項 b 号に規定される場合を除く。
    1. この法律第 32 条 1 項 d 号に規定される各対象者に賃貸するために,国防省,公安省が建設省の同意意見及び政府首相の承認を得た上で,投資を決定するプロジェクト
    1. 地方における仕事に異動,転任する各対象者に賃貸するために,省級人民委員会が省級住宅管理機関の要請により投資を決定するプロジェクト   区,県,市社,省所属都市及び同格のもの(以下「県級」と総称する)における仕事に異動,転任する各対象者,この法律第 32 条 1 項 c 号,đ号,

e 号及び g 号に規定される各対象者については,省級人民委員会がプロジェクトの投資を決定し,又は県級人民委員会に対しプロジェクトの投資の決定を委任する。

  • 公務住宅建築プロジェクトの投資家の選定は,次のとおりである。
    • 政府首相は,建設省の要請により,この条第 2 項 a 号に規定されるプロジェクトの投資家の選定を決定する。
    • 国防大臣,公安大臣は,この条第 2 項 b 号に規定されるプロジェクトの投資家の選定を決定する。
    • 省級人民委員会は,省級住宅管理機関の要請により,この条第 2 項 c 号に規定されるプロジェクトの投資家の選定を決定する。

[1] 「既存住宅」は“nhà ở có sẵn”である。

[2] 「将来形成住宅」は“nhà ở hình thành trong tương lai”である。

[3] 「使用借」は“mượn”である。

[4] 「寄宿」は“ở nhờ”である。

[5] 「収用」は“trưng mua”である。

[6] 「徴用」は“trưng dụng”である。

[7] 「先買」は“mua trước”である。128 条参照。

[8] 「承認」は“phê duyệt”である。

[9] 「企画」は“quy hoạch”である。

[10] 「プログラム」は“chương trình”である。

[11] 「計画」は“kế hoạch”である。

[12] 「投資方針」は“chủ trương đầu tư”である。

[13] 「解体」は“phá dỡ”である。

[14] 「種別」は“loại”である。

[15] 「等級」は“cấp”である。

[16] 「大破」は“hư hỏng nặng”である。

[17] 「金融」は“tài chính”である。

[18] 「与信」は“tín dụng”である。

[19] 「区域」は“khu vực”である。

[20] 「地域」は“vùng”である。

[21] 「地帯」は“miền”である。                

[22] 「地方」は“địa phương”であり,中央に対する対義語である。

[23] 「戦略」は“chiến lược”である。

[24] 「特級,第一級及び第二級の都市」は“đô thị loại đặc biết, loại 1 và loại 2”である。

[25] 「マスタープラン」は“quy hoạch tổng thể”である。

[26] 「管轄区域」は“địa bàn”である。

29 条 公務住宅建築用地

  1. 公務住宅建築用地の面積は,この法律第 16 条 1 項に規定される権限を有する国家機関により承認済みの建築企画中で具体的に確定される。
  2. 中央機関の公務住宅については,建設省が主管し,省級人民委員会と協調して管轄区域における公務住宅建築用地の面積を確定する。ただし,この条  第 3.項に規定される場合を除く。省級人民委員会は,建設省の請求に従い,公務住宅建築用地を配置する責任を負う。
  3. この法律第 32 条 1 項 d 号に規定される各対象者のための公務住宅については,国防省,公安省が主管し,省級人民委員会と協調して公務住宅建築用地の面積を確定する。
  4. 地方の公務住宅については,省級人民委員会が,この法律第 16 条 1 項に規定される企画を策定,承認するときに,公務住宅建築用地を配置する責任を負う。
  5. 国は,この条の規定により公務住宅の建築のために使用される土地については土地使用料を徴収しない。

30 条 公務住宅とするための商業住宅の購入,賃借

  1. プロジェクトにより建築され,この法律第 31 条に規定される住宅の種別及び面積基準に適合する商業住宅がある地方については,この法律第 28 条 2 項に規定される権限を有する機関は,公務住宅とするためにこれらの住宅を購入又は賃借することができる。
  2. 公務住宅とする商業住宅の購入は,プロジェクトとして策定され,この法律第28条2項に規定される権限を有する機関により承認されなければならない。
  3. 公務住宅とする商業住宅の購入価格は,投資決定者が,住宅購入時点の市場における住宅売買価格及び価格査定機能を有する部局の価格査定結果を参考に決定する。
  4. 賃貸するための公務住宅が十分にない場合,この法律第 28 条 2 項に規定される権限を有する機関は,公務住宅とするために商業住宅を賃借することを決定する。
  5. 中央予算は,国防省,公安省の住宅を含む中央機関の各対象者のための公務住宅とする商業住宅を購入又は賃借するための資本を供給する。地方予算は,地方機関の各対象者のための公務住宅とする商業住宅を購入又は賃借するための資本を供給する。

31 条 公務住宅の種別及び面積基準

  1. 公務住宅は個別住宅及び共同住宅からなり,公務住宅の賃借対象者の種別ごとに適切な相互に異なる面積基準を有する。
  2. 公務住宅の面積基準は,建設省の要請により,政府首相が規定し,時期ごとに適切になるよう調整される。

32 条 公務住宅の賃借対象者及び条件

  1. 公務住宅の賃借対象者は,次のとおりである。
    1. 職務に従事している期間中の公務住宅の対象である党,国の指導幹部
    1. この項 a 号に規定されない党,国の各機関,政治・社会組織の幹部,公務員で,中央機関における業務に異動,転任し,副大臣級及び同格以上の職務にある者,地方における業務に異動,転任し,県級人民委員会主席,局長級及び同格以上の職務にある者
    1. この項 b 号に規定されない党,国の各機関,政治・社会組織の幹部,公務員であり,遠隔地域,経済・社会の状況が特別困難な地域,国境,島嶼区域における業務に異動,転任した者
    1. 人民武装勢力に属する士官,専業軍人であり,国防,治安の要求により異動,転任した者。ただし,武装勢力の駐屯地内に居住しなければならないと法令が規定する者を除く。

đ) 農村区域,遠隔地域,経済・社会の状況が特別困難な地域,国境,島嶼区域における業務に異動,転任した教員 e) 農村区域,遠隔地域,経済・社会の状況が特別困難な地域,国境,島嶼区域における業務に異動,転任した医師,医療職員

g) 科学技術法の規定に従い,特別重要な国家級の科学技術任務の主宰を委ねられた科学者

  • 公務住宅の賃借条件は次のとおりである。
    • この条第 1 項 a 号に規定される対象者は,治安上の必要性により公務住宅の割当てを受ける。
    • この条第 1 項 b 号,c 号,d 号,đ号,e 号及び g 号に規定される対象者は,自己の所有に属する住宅を有しておらず,業務地の地方において社会住宅を購入,賃借,購入賃借することができない,又は業務地の地方において自己の所有に属する住宅を有しているが,世帯の一人当たりの平均住宅面積が,政府が時期ごと,区域ごとに規定される最低住宅面積を下回る。

33 条 公務住宅の賃料確定の原則

  1. 公務住宅の使用過程における運営管理,メンテナンス,賃貸管理を実施するために必要な各費用を正しく完全に算定する。
  2. 公務住宅建設地の使用料は算定しない。公務住宅建築投資資本又は公務住宅とする商業住宅の購入費用の償却費用は算定しない。
  3. 公務住宅の賃料は,この法律第 81 条 2 項に規定される権限を有する機関が決定し,時期ごとに適切になるよう検討,調整される。
  4. 公務住宅とするために商業住宅を賃借する場合,公務住宅の賃借人は,政府の規定により商業住宅の賃料より低い住宅賃料を支払う。

34 条 公務住宅の賃借人の権利及び義務

  1. 公務住宅の賃借人は,以下の各権利を有する。
    1. 住宅賃借契約中の合意に従い住宅及び各付属設備の引渡しを受ける。
    1. 職務,業務に従事している期間中,本人及び家族の各構成員のために住宅を使用することができる。
    1. 住宅運営管理部局に対し,自己の故意過失によらずに生じた故障の修繕を要請する。
    1. 住宅の賃借期間が満了したが,依然としてこの法律の規定による公務住宅の賃借対象者であり,条件を完全に満たすときは,公務住宅賃借契約を延長することができる。

đ) 法令の規定及び公務住宅賃借契約中の合意に基づく住宅に関するその他の各権利を行使する。

  • 公務住宅の賃借人は以下の各義務を負う。
    • 住宅賃借期間中,住宅を自分自身及び家族の各構成員の居住,生活の需要に資する目的で住宅を使用する。
    • 住宅及び付属財産を注意深く使用する。公務住宅を恣に改築,修繕,解体してはならない。共同住宅を使用する場合,共同住宅の管理,使用に関する規定も遵守しなければならない。
    • 公務住宅を転貸し,使用貸し,管理を委任してはならない。
    • 賃貸人と締結した住宅賃借契約に従い住宅の賃料を支払い,役務提供者の規定に従い生活に資するその他の費用を精算する。

đ) 公務住宅の賃借対象者でなくなったとき,住宅賃借の需要がなくなったとき,又は違反行為をし,この法律の規定により住宅の回収を受けるときは,公務住宅管理機関の通知を受領した日から 90 日以内に公務住宅を国に返還する。

  • 住宅回収の強制を受ける場合,権限を有する機関の住宅回収強制決定を執行する。

g) 法令の規定及び住宅賃借契約中の合意に基づく住宅に関するその他の各義務

 

第四節 再定住用住宅の開発

35 条 再定住用住宅開発の原則

  1. 特級,第一級及び第二級の都市の内部区域において土地を回収し,住宅を解体して異なる構造物を建設する場合,国は,土地を回収し,住宅を解体する前に,再定住を手配するため,プロジェクトにより建築される商業住宅又は社会住宅の使用を通じて住宅を準備する。ただし,この法律第 36 条 4 項に規定される場合を除く。
  • この条第 1 項に規定されない区域において土地を回収し,住宅を解体して異なる構造物を建設する場合で,プロジェクトにより建築された商業住宅又は社会住宅があるときは,国は,これらの住宅を使用して再定住を手配する。商業住宅又は社会住宅がなければ,国は,土地を回収し,住宅を解体する前に再定住用住宅の建築投資を行う。ただし,この法律第 36 条 4 項に規定される場合を除く。
  • 商業住宅の建築投資プロジェクトを実施するために土地を回収し,住宅を解体する場合で,解体される住宅を有する者に同所における再定住の需要があるときは,プロジェクト投資家は,再定住のために当該プロジェクト内の商業住宅を優先的に,直ちに手配しなければならない。
  • 工業団地のインフラストラクチャプロジェクトを実施するために土地を回収し,住宅を解体する場合で,解体される住宅を有する者に再定住の需要があるときは,プロジェクト投資家は,工業団地で就業する労働者のための住宅建築を企画された区域内で再定住を手配するために住宅を建築し,又は再定住する者のためにその他の地において住宅を手配しなければならない。
  • 再定住用住宅の建築投資をする場合,プロジェクトにより行わなければならない。農村区域については,再定住用住宅建築投資プロジェクトは,再定住の対象者のための生産用地の手配も含まなければならない。
  • 再定住用住宅は,承認済みの建築詳細企画,設計記録に従った技術的インフラストラクチャ及び社会的インフラストラクチャシステム完全に備え,この法律第 14 条の規定を遵守したものでなければならない。

36 条 再定住用住宅の手配の形式

1. プロジェクトにより建築された商業住宅を購入し,再定住の対象者に賃貸,購入賃貸,売却する。

2.プロジェクトにより建築された社会住宅を使用し,再定住の対象者に賃貸,購入賃貸,売却する。

  • 国が,承認済みの企画により再定住用住宅建築用と確定された土地上に,国家予算資本,国債,債券,政府開発支援資本,各ドナーの優遇借入資本,国の開発投資信用資本により,直接住宅建築投資を行い,又は建築・移転契約の形式による建築投資を行い,再定住の対象者に賃貸,購入賃貸,売却する。
  • 世帯,個人が,金員の弁済を受け,自ら再定住住宅とする地区の商業住宅の購入,賃貸,購入賃貸を選択する,又は国から自ら承認済みの企画に従い住宅を建築するための土地の交付を受ける。

37 条 再定住用住宅の建築用地

  1. 再定住用住宅の建築用地の手配は,この法律第 35 条及び土地に関する法令に規定される各原則に従わなければならない。
  2. 再定住用住宅の建築用地の面積は,この法律第 16 条 1 項に規定される権限を有する機関が承認する建築企画中で具体的に確定される。

38条 再定住用住宅建築投資プロジェクト及びプロジェクトの投資家の選定

  1. 再定住用住宅建築投資プロジェクトは,この法律及び建築に関する法令の規定に従い策定,審査,承認及び実施展開される。
  2. 再定住用住宅建築プロジェクトの投資家は,省級人民委員会に属する専門プロジェクト管理委員会,省級土地開発組織及び不動産事業者からなる。プロジェクトの投資家の選定は,この条第 3 項及び第 4 項の規定に従って行われる。
  3. この法律第 36 条 3 項に規定される資金源を使用する,又は形式により実施される再定住用住宅建築プロジェクトについては,省級住宅管理機関が投資決定者に対し投資家の選定決定について報告する。
  4. この法律第 36 条 3 項の規定されない再定住用住宅建築プロジェクトについては,投資家の選定権限は次のとおりである。
    1. 国家の重要プロジェクトのために再定住用住宅を建築する場合,政府首相が投資家の選定を決定し,又は建設大臣に選定決定を委任する。
    1. この項 a 号に規定されないプロジェクトのために再定住用住宅を建築する場合,省級人民委員会が投資家の選定を決定する。

39 条 再定住用住宅の種別及び面積基準

  1. 都市区域については,再定住用住宅は以下の各基準を満たさなければならない。
    1. 承認済みの地方の建築詳細企画及び住宅開発プログラム,計画に適合するよう建築される共同住宅又は個別住宅である。
    1. 共同住宅の場合,各戸に必要設備が備わっており,建築基準,規格に従って設計,建築しなければならない。再定住用住宅を設計する際,投資家は,面積の一部をプロジェクトごとの実際の状況に適合させて事業を行うために配置することができる。
    1. 個別住宅の場合,承認済みの建築詳細企画,設計に従って建築し,この法律第 20 条に規定される住宅建築の原則を遵守し,土地に関する法令の規定による最低住宅地面積を確保しなければならない。
  2. 農村区域については,再定住用住宅は,居住面積及び住宅に付着する生活,生産に資する各構造物を含むよう設計,建築され,この法律第 20 条に規定される住宅建築の原則を遵守し,土地に関する法令の規定による最低住宅地面積を確保しなければならない。

40 条 再定住用住宅の品質管理

  1. プロジェクト内の住宅及び構造物は,設計に関する要件,建築基準,規格を満たすときに限り完了検査を受けることができる。プロジェクトの投資家は,権限を有する機関が再定住計画案を承認した後に,再定住用住宅及び補助構造物(あれば)の面積設計を変更してはならない。
  2. 再定住の対象者に対する住宅の手配は,建築に関する法令の規定に従い住宅の完了検査を受けた後に限り行われる。
  3. 以下の各組織,個人は,再定住用住宅の品質について責任を負う。
    1. 再定住用住宅建築プロジェクトの投資家
    1. 再定住用住宅を建築するために建築・移転契約を締結した権限を有する国家機関
    1. 再定住の手配に用いられる商業住宅,社会住宅の建築プロジェクトの投資家
  4. 省級住宅管理機関は,管轄区域の再定住用住宅の品質管理業務について案内し,検査する責任を負う。

41 条 再定住のための商業住宅の購入及び社会住宅の使用

  1. 再定住のための商業住宅の購入については,再定住の手配を委ねられた部局は,以下の規定に従い再定住の対象者のために手配するため,プロジェクトの投資家と商業住宅の売買契約を締結し,又は購入発注契約を締結する。
    1. 再定住の手配を委ねられた部局が投資家と住宅の売買契約と締結する場合,再定住の手配を受ける者は,この部局と住宅の売買,賃貸,購入賃貸契約を締結する。
    1. 再定住の手配を委ねられた部局が投資家と住宅の購入発注契約を締結する場合,再定住の手配を受ける者は,住宅購入発注契約中で合意された内容に基づき,投資家と直接住宅の売買契約を締結する。
    1. 商業住宅建築プロジェクトの投資家は,権限を有する国家機関に対し,この項a号及びb号に規定される住宅の買主,購入賃借人への証明書の発給要請手続をする責任を負う。ただし,住宅の買主,購入賃借人が自ら証明書の発給手続をする場合を除く。
  • 再定住の手配のための社会住宅の使用については,再定住の対象者は,この法律の規定に従い社会住宅を賃借し,購入賃借し,購入する。
  • 政府は,再定住用住宅とするための建築投資,商業住宅の購入又は社会住宅を使用,住宅の種別,住宅の面積基準,住宅の手配を受ける対象者,条件,住

宅引渡し手順,手続及び再定住用住宅の管理,使用について詳細を規定する。

 

 

 

 

第五節 世帯,個人の住宅開発

42 条 農村区域における世帯,個人の住宅開発に関する要件

  1. 農村住居区建設企画に適合し,住居区域の技術的インフラストラクチャシステムと結びついており,衛生,環境に関する要件を満たしている。
  2. 建築又は既存住宅の改築は,伝統的な住宅建築の維持,保存と結びついており,区域ごと,地域,地帯ごとの風俗,慣習,生産の状況に適合していなければならない。

すみれ

「いきなり違う色のペンキは濡れないってことか」

  • 世帯,個人は,自己の合法的な住宅用地上にのみ住宅を建築することができる。
  • プロジェクト内で住宅を建築する場合,承認済みのプロジェクトの建築詳細企画に適合していなければならない。建築許可証,設計記録が必要な区域については,承認済みの建築許可証,設計記録の内容を遵守しなければならない。
  • 省級人民委員会は,各世帯,個人が芸術,文化,歴史的価値を保存する必要がある区域内の住宅を保存,メンテナンス,改築することができるよう,予算から経費の一部又は全部を支援することを検討する。

43 条 都市区域における世帯,個人の住宅開発に関する要件

  1. 合法的な土地使用権を有し,建築に関する法令の規定に従い住宅を有し,改築,再築する。
  2. 建築又は既存住宅の改築は,建築詳細企画,都市設計に適合していなければならない。建築許可証が必要な住宅については,建築許可証に従い建築する。
  3. 住宅の建築は,区域の共通技術的インフラストラクチャシステムと結びついており,衛生,環境,住宅建築に関する要件を満たし,隣接構造物に影響を与えない。

44 条 世帯,個人の住宅開発用地

  1. 世帯,個人の合法的な住宅用地,又は住宅を建築するためにほかの組織,世帯,個人から賃借,使用借した住宅用地
  2. 土地に関する法令の規定に従い住宅を建築するために国から交付を受けた土地
  3. 土地に関する法令の規定に従い土地の回収を受ける際に国から賠償を受けた土地

45 条 世帯,個人の住宅開発の方式

  1. 農村区域における世帯,個人は,以下の各方式により住宅建築を行う。
    1. 自ら住宅を建築し,ほかの組織や個人に建築を委託し,又はほかの組織,個人から建築について支援を受ける。
    1. 相互に協力して住宅を建築する。
  2. 都市区域における世帯,個人は,以下の各方式により住宅を建築する。
    1. 自ら住宅を建築し,ほかの組織,個人に建築を委託し,又はほかの組織,個人から建築について支援を受ける。
    1. 建築に関する法令が建築を実施する能力を有する組織,個人の使用を要求する場合,建築を実施する能力を有する組織,個人に住宅の建築を委託する。
    1. 協力して住宅を含む都市の改築,整備をする。

46 条 世帯,個人の住宅の基準及び品質

  1. 住宅は,土地に関する法令の規定による住宅建築用地に関する条件を完全に満たす住宅用地上に建築されなければならない。
  2. 都市区域における世帯,個人は,建築に関する法令の規定に従い住宅の建築,改築を行い,自ら住宅の品質について責任を負わなければならない。

二階建て以で,各階に二つ以上の各戸に必要設備が備わり,建築企画,基準によるアパートメントごとの最低建築床面積基準を満たすアパートメントを有するよう設計,建築され,この法律の規定による共同住宅の個別所有部分,共同所有部分を有する住宅の建築許可を受けた場合,国から当該住宅内のアパートメントごとに所有権の公認を受けることができる。

  • 個別住宅は,建築工事の等級及び住宅の実際の状況に基づき確定される使用期限を有する。

住宅が大破し,倒壊するおそれがあり,使用者の安全を保証することができないときは,この法律第四章第四節の規定に従い解体を行う。

47 条 住宅開発における世帯,個人の責任

  1. 建築に関する法令の規定に基づく住宅の改築,建築の手順,手続を遵守しなければならない。  
  2. 住宅の改築,建築の過程において衛生,環境の維持に関する規定を遵守しなければならない。
  3. 住宅の改築,建築の過程において隣接する世帯の人身及び財産の安全を保証し,損害を与えた場合,法令の規定に従い賠償しなければならない。
  4. 世帯,個人は,賃貸し,購入賃貸し,売却するために住宅の建築投資を行うときは,この法律第八章の規定も遵守しなければならない。
  5. 住宅を改築,建築する際,法令の規定に基づくその他の責任を果たす。

48 条 世帯,個人の相互協力による住宅の建築,都市の改築,整備

  1. 世帯,個人は,協力団体の各構成員が拠出する財務能力,労働者,資材,労力により,相互に協力して住宅を建築し,又は住宅を含む都市の改築,整備をする。
  • 協力団体の各構成員は,資本,労働者,資材の拠出方法,実施機関,各構成員の権利及び義務について合意し,協力団体の合意の実施を誓約しなければならない。

 

 

 

第四章 社会住宅に関する政策

第一節 総則

49 条 社会住宅に関する支援政策の享受対象者

以下の各対象者は,この法律第 51 条に規定される条件を満たせば,社会住宅に関する支援政策を享受することができる。

  1. 革命功労者の優遇に関する法令の規定による革命功労者
  2. 農村区域の貧困及び準貧困世帯
  3. 頻繁に自然災害,気候変動の影響を受ける地域の農村区域の世帯
  4. 都市区域の低所得者,貧困及び準貧困世帯
  5. 工業団地内外の各企業で就業している労働者
  6. 人民警察及び人民軍隊に属する機関,部局の士官,専門下士官,技術専門下士官,専業軍人,労働者
  7. 幹部,公務員,準公務員に関する法令の規定による幹部,公務員,準公務員
  8. この法律第 81 条 5 項の規定により公務住宅を返還した各対象者
  9. 各学院,大学,専門学校,職業訓練学校の学生,生徒;公立の寄宿民族学校の学生は,学習期間中住宅を使用することができる。
  10. 法令の規定に従い土地の回収,住宅の解体を受けたが,国から住宅,住宅用地による賠償を受けていない世帯,個人

50 条 社会住宅に関する支援政策の実施形式

  1. この法律第 49 条 1 項,4 項,5 項,6 項,7 項,8 項及び 10 項に規定される対象者に対する社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却を支援する。この法律第 49 条 9 項に規定される対象者については,社会住宅の賃借に限りすることができる。
  2. この法律第 49 条 1 項,2 項及び 3.項に規定される対象者が居住用の住宅を新築又は改築,修繕することができるよう,住宅に関する目標プログラムに従い支援する。
  3. この法律第 49 条 1 項,2 項及び 3 項に規定される対象者に対し,土地に関する法令の規定に従い,土地使用料を減免した住宅用地を交付し,又は住宅を贈与して支援する。  
  4. この法律第 49 条 1 項,4 項,5 項,6 項及び 7 項に規定される対象者が居住用の住宅を新築又は改築,修繕することができるよう,社会政策銀行,国が指定する金融機関を通じて国の優遇資本を貸し付けて支援する。

51 条 社会住宅に関する支援政策の享受条件

  1. この法律第 50 条 1 項に規定される各場合については,以下の規定による住宅,居住,収入に関する各条件を満たさなければならない。
    1. 自己の所有に属する住宅を有しておらず,社会住宅を購入し,賃借又は購入賃借しておらず,生活,学習地においていかなる形式の住宅,住宅用地の支援政策を享受していない。又は,自己の所有に属する住宅を有しているが,世帯の一人当たりの住宅面積が政府が時期ごと,区域ごとに規定される最低住宅面積を下回る。
  • 社会住宅の所在地の省,中央直轄都市において常住登録をしていなければならない。常住登録をしていない場合,その省,都市において 1 年以上暫定居住登録をしている。ただし,この法律第 49 条 9 項に規定される場合を除く。  
    • この法律第49条4項,5項,6項及び7項に規定される対象者については,個人所得税に関する法令の規定により常時所得税の納付不要者でなければならない。貧困,準貧困世帯については,政府首相の規定による貧困,準貧困に当たらなければならない。この法律第 49 条 1 項,8 項,9 項及び 10 項に規定される対象者については,この号の規定による収入に関する条件を満たす必要はない。
  • この法律第 50 条 2 項及び 3.項に規定される場合については,権限を有する国家機関の住宅の目標プログラムの承認決定において規定される条件を満たさなければならない。
  • この法律第50条4項に規定される場合については,以下の規定による住宅,居住に関する条件を満たさなければならない。
    • 住宅用地を有しているが住宅を有していない,又は住宅を有しているが破損しており,雨漏りする。
    • 住宅用地,新築又は改築,修繕が必要な住宅の所在地において常住登録をしている。

52 条 社会住宅に関する支援政策の実施原則

  1. 社会住宅に関する支援政策の実施は,以下の各原則に従わなければならない。
    1. 政策の実施について,国,住民コミュニティ,家系及び支援を受ける対象者の間に結びつきがある。
    1. 公開,透明性を確保し,権限を有する国家機関及び住民コミュニティの検査,監察を受ける。
    1. この法律の規定による対象者や条件を遵守する。
    1. 同一の対象者が相互に異なる複数の支援政策を享受することができる場合,最大の支援政策一つを享受する。各対象者がともに基準及び条件を備える場合,障害者,女性である対象者が優先的に支援を受ける。

đ) 世帯に複数の支援政策を享受する対象者が複数いる場合,世帯全体に対し一つの支援政策のみを適用する。

  • 省級人民委員会は,管轄区域における社会住宅に関する支援政策を実施し,実施について検査,監査する責任を負う。

第二節 賃貸,購入賃貸,売却用社会住宅の開発,管理政策

53 条 社会住宅の開発の形式

  1. 国は,規定に従い社会住宅の建築用と確定された土地上に,国家予算資本,国債,債券,政府開発支援資本,各ドナーの優遇借入資本,国の開発投資信用資本により,社会住宅の建築投資を行い,又は建築・移転契約の形式による建築投資を行い,賃貸,購入賃貸する。
  • 資本を投下して賃貸,購入賃貸,売却するために社会住宅の建築投資をし,又は自己の部局の労働者に賃貸するために住宅を購入,賃借する企業,合作社は,この法律第 58 条 1 項及び第 59 条の規定による国の優遇措置を受ける。
  • 資本を投下して賃貸,購入賃貸,売却するために自己の合法的な住宅用地上で社会住宅の建築投資をする世帯,個人は,この法律第 58 条 1 項の規定による国の優遇措置を受ける。

 

 

 

54 条 社会住宅建築投資プロジェクトに関する要件

  1. この法律第 19 条に規定される各要件を満たす。承認済みの住宅開発プログラム,計画中にない社会住宅を建築する場合,省級人民委員会は,住宅建築プロジェクトの投資方針を決定する前に,同級の人民評議会の意見を聴取しなければならない。
  2. 省級人民委員会は,個別の区域を設定し,賃貸用社会住宅の建築投資プロジェクトを策定しなければならない。
  3. この条第 2 項に規定される賃貸用社会住宅建築投資プロジェクトを策定しなければならない区域外の社会住宅建築プロジェクトについては,投資家は,プロジェクト内に賃貸用社会住宅の面積として最低 20 パーセントを確保しなければならない。投資家は,賃貸用社会住宅の 20 パーセントの面積についてこの法律第 58 条 1 項の規定による賃貸用住宅の建築に関する優遇措置を享受することができ,賃貸の 5 年後,社会住宅の売却に関する規定に従いこの住宅を賃借中の者に対し売却することができる。
  • 社会住宅建築投資プロジェクトは 権限を有する国家機関により,住宅の品質,面積基準,賃料,購入賃料,売却価格及び賃借,購入賃借を受け,購入する対象者の見直しについて管理,検査されなければならない。

55 条 社会住宅の種別及び面積基準

  1. 権限を有する国家機関により承認済みの建築詳細企画に適合する共同住宅又は個別住宅である。
  2. 個別住宅の場合,社会住宅の建築基準,規格,面積基準に従い設計,建築されている。
  3. 共同住宅の場合,各戸が必要設備を備え,社会住宅の建築基準,規格,面積基準を遵守するようアパートメントが設計,建築されている。

56 条 社会住宅の建築用地

  1. 都市企画,農村建設企画,工業団地,研究養成区建設企画を承認する際,企画を承認する権限を有する人民委員会は,社会住宅建築用地の面積を明確に確定する責任を負う。
  2. 社会住宅を開発するために確保された土地の面積及び区域,地点に関する各情報は,省級人民委員会及び省級住宅管理機関のウェブサイト上で公開されなければならない。
  3. 社会住宅の開発用地は,次のとおりである。
    1. 賃貸,購入賃貸,販売用住宅を建築するために国から交付を受けた土地
    1. 賃貸用住宅を建築するために国から賃貸を受けた土地
    1. この法律第 16 条 2 項の規定に従い投資家が社会住宅を建築するために確保した商業住宅建築投資プロジェクトの土地
    1. 社会住宅を建築するために用いられる組織,世帯,個人の合法的な住宅用地

57 条 社会住宅建築プロジェクトの投資家

  1. この法律第 53 条 1 項に規定される資金源,又は形式により投資される社会住宅については,中央の投資資本のときは建設省,地方の投資資本のときは省級住宅管理機関が,投資決定権限を有する者に対し投資家の選定決定について報告する。
  2. この法律第 53 条 1 項に規定される資金源又は形式によらずに投資される社会住宅については,以下の規定に従い,省級住宅管理機関が省級人民委員会に対し投資家の選定決定について報告する。
    1. 国が社会住宅を建築するために土地を交付し,又は土地を賃貸する場合,投資家となる登録をした投資家が二人以上いるときは入札の形式により投資家を選定し,投資家となる登録をした投資家が一人のみときは,その投資家を指名する。
    1. この法律第 16 条 2 項の規定に従い商業住宅建築投資プロジェクト内に土地を確保して社会住宅を建築する場合,商業住宅建築プロジェクトの投資家は,直接社会住宅の建築投資をする責任を負う。ただし,国がこの土地を使用してほかの組織に社会住宅の建築投資を実施させる場合を除く。
    1. 企業,合作社が合法的な土地使用権を有し,住宅建築企画に適合し,投資家となる条件を満たし,社会住宅を建築する需要を有する場合,当該企業,合作社は,社会住宅建築プロジェクトの投資家となることができる。
    1. 工業団地内で就業する労働者用の社会住宅を建築する場合,工業団地のインフラストラクチャ事業企業,工業団地内で生産する企業,又は不動産事業機能を有する企業は,国からプロジェクトの投資家となるよう割当てを受けることができる。
  • 自己の合法的な住宅用地上で社会住宅の建築投資をする需要を有する世帯,個人については,当該世帯,個人が社会住宅建築投資を行う。
  • この条第 1 項,第 2 項及び第 3.項に規定される社会住宅の建築投資家は,この法律の規定に従い社会住宅を建築する責任を負う。

58 条 社会住宅建築プロジェクトの投資家への優遇措置

  1. この法律第 53 条 1 項に規定される資金源又は形式によらずに賃貸,購入賃貸,売却用の社会住宅の建築投資に参加する企業,合作社は,以下の各優遇措置を享受することができる。
    1. 社会住宅の建築投資のために国から交付又は賃貸を受けた土地について土地使用料,土地賃料の免除を受ける。
    1. 税に関する法令の規定に従い付加価値税,企業所得税の減免を受ける。賃貸用社会住宅を建築する場合,購入賃貸,売却用社会住宅を建築する場合と比べより多くの付加価値税,企業所得税の減額を受けることができる。
    1. 社会政策銀行,ベトナムで活動している金融機関から優遇資本を借り入れる。賃貸用社会住宅を建築する場合,購入賃貸,売却用社会住宅を建築する場合と比べより低い金利,より長い借入期間で資本を借り入れることができる。
  • 社会住宅建築プロジェクトの範囲内の技術的インフラストラクチャシステムの建築投資経費の全部又は一部について省級人民委員会から支援を受ける。賃貸用社会住宅を建築する場合,この経費全部の支援を受ける。

đ) 法令の規定によるその他の各優遇措置

  • 資本と投下して賃貸,購入賃貸,売却用社会住宅の建築投資をする世帯,個人については,以下の各要件を満たせば,この条第 1 項に規定される各優遇措置を享受することができる。
    • 権限を有する機関により承認済みの建築企画に従い住宅を建築し,住宅の所在区域のインフラストラクチャとの結びつきを確保する。  b) 住宅が社会住宅の建築基準,規格,面積基準に適合している。

c) 住宅の売却価格,賃料, 購入賃料が住宅所在地の省級人民委員会が発行する価格表に準拠している。

59 条 自ら労働者の住居を手配する組織への優遇措置

  1. 工業生産,役務を営む企業,合作社が自己の労働者の居住用に自ら住宅を購入又は賃借し,賃料を徴収しない,又は賃料を徴収するが賃料額が省級人民委員会の発行する社会住宅の賃料額を上回らない場合,企業所得税を算定する際,住宅の購入費用又は住宅の賃料を生産原価中の合理的な費用であると算定することができる。
  • 工業生産,役務を営む企業,合作社が自己の労働者の居住用に自ら住宅の建築投資をし,賃料を徴収しない,又は賃料を徴収するが賃料額が省級人民委員会の発行する社会住宅の賃料額を上回らない場合,この法律第 58 条 1 項に規定される各優遇措置のほか,企業所得税を算定する際,住宅の建築費用を生産原価に算入することができる。

60 条 国の投資による社会住宅の賃料額,購入賃料額の確定

国がこの法律第 53 条 1 項に規定される資金源又は形式により投資した社会住宅の賃料額,購入賃料額の確定は,次のとおり行われる。

  1. 住宅を賃貸する場合,賃料額は,賃貸契約を締結した日から最低 20 年の期間中に住宅のメンテナンス費用,住宅建築の投資資本回収費用を賄うことができるよう算定される。学生,生徒に賃貸する住宅については,運営管理費用及びメンテナンス費用のみを賄うことができるよう算定し,住宅建築の投資資本回収費用は算入しない。
  • 住宅を購入賃貸する場合,購入賃料額は,購入賃貸契約を締結した日から最低 5 年の期間中に住宅建築の投資資本回収費用を賄うことができるよう算定される。
  • 社会住宅建築用地については土地使用料,土地賃料を算定しない。
  • この法律第81条2項に規定される権限を有する機関は,社会住宅の賃料額,購入賃料額を決定する。

61 条 国の建築投資によらない社会住宅の賃料額,購入賃料額,売却価格の確定

  1. この法律第 53.条 1 項に規定される資金源又は形式によらず建築投資された社会住宅の賃料額,購入賃料額,売却価格は,次のとおり確定される。
    1. 社会住宅の賃料額は,投資家が,住宅のメンテナンス費用,住宅建築の投資資本回収費用,借入利子(あれば),政府の規定による基準利潤を賄えるような算定に基づき,この法律第 58 条 1 項に規定される国の優遇措置は算定せずに確定する。
    1. 社会住宅の購入賃料額は,この項 a 号の規定に従い確定される。ただし,住宅のメンテナンス経費は,購入賃借人がこの法律第 108 条 1 項の規定に従い納付する。
    1. 社会住宅の売却価格は,プロジェクトの投資家が,住宅建築の投資資本回収費用,借入利子(あれば),政府の規定による基準利潤を賄うことができるような算定に基づき,この法律第 58 条 1 項に規定される国の優遇措置は算定せずに確定する。
    1. 社会住宅の建築投資家は,賃料額,購入賃料額,売却代金を公表する前に,社会住宅の所在地の省級人民委員会に報告し,審査を受ける責任を負う。
  • 世帯,個人の建築投資による社会住宅については,投資家は自らこの法律第

58 条 2 項 c 号の規定を遵守した賃料額,購入賃料額,売却代金を確定する。 

 

 

 

62 条 社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却の原則

  1. 社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却は,この法律の規定に従わなければならない。この法律第 50 条 1 項に規定される対象者はそれぞれ同時に一軒の社会住宅のみを賃借,購入賃貸又は購入することができる。公立の寄宿民族学校の学生については,住宅の賃料及び使用の過程における各役務の代金を支払わなくてよい。 
  2. 社会住宅の賃借契約の期間は,最低 5 年である。社会住宅の購入賃料の弁済期間は,住宅の購入賃借契約の締結日から最低 5 年である。
  • 社会住宅の賃借人,購入賃借人は,賃借,購入賃借の期間中,住宅を売却,転貸,使用貸してはならない。賃借人,購入賃借人は,住宅の賃借,購入賃借の需要がなくなったときは, 契約を終了させ,住宅を返還しなければならない。
  • 社会住宅の購入賃借人,買主は,住宅の購入賃料,購入代金を全額弁済した日から最低 5 年間,住宅を売却してはならない。買主,購入賃借人が住宅の購入代金,購入賃料を全額弁済した日から 5 年間のうちに住宅を売却する需要を有する場合,当該社会住宅の管理部局にのみ売却することができ,この部局が購入しなければ,社会住宅を購入することができる対象者に対し,売却の地点,時点における同種の社会住宅の最高売却価格と等しい売却価格により売却することができ,個人所得税を納付する必要はない。
  • 社会住宅の買主,購入賃借人は,この住宅の購入代金,購入賃料を全額弁済日から 5 年間が経過し,証明書の発給を受けた後は,需要を有する各対象者に対し市場原理に従い住宅を売却することができるが,政府の規定に従い土地使用料を納付し,税に関する法令の規定に従い所得税を納付しなければならない。

この法律に規定される社会住宅を購入することができる対象者に対し売却する場合,最高で売却の地点,時点における同種の社会住宅の売却価格と等しい売却価格により売却することができ,個人所得税を納付する必要はない。

社会住宅を購入賃借,購入した再定住の対象者である世帯,個人については,住宅の購入代金,購入賃料を全額弁済し,証明書の発給を受けた後に,需要を有する各対象者に対し市場原理に従い住宅を売却することができるが,政府の規定に従い国に土地使用料を納付し,税に関する法令の規定に従い所得税を納納付しなければならない。

  • 社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却がこの法律の規定通りでないいかなる場合も,住宅の賃貸,購入賃貸,売買契約は法的価値を有さず,賃借人,購入賃借人,買主は,社会住宅管理部局に対し住宅を引き渡さなければならない。住宅を引き渡さない場合,住宅の所在地の省級人民委員会は,当該住宅を強制的に回収する。

住宅の賃料,購入代金の処理は,民事法令の規定に従って行われる。社会住宅の購入賃料の処理は,この法律第 135 条の規定に従って行われる。

63 条 社会住宅の売却,賃貸,購入賃貸 

1. 社会住宅建築プロジェクトの投資家は将来形成住宅の売却,購入賃貸又は既存住宅の売却の形式を選定することができる。

2 将来形成社会住宅の販売,購入賃貸は,以下の条件を満たさなければならない。

  1. 承認済みの住宅建築投資プロジェクトの記録及び技術設計があり,建築許可証が必要なときは建築許可証があること
  2. 建築に関する法令の規定に従い,住宅の基礎部分の建設が終了しており,承認済みの建築詳細企画,設計記録及びプロジェクトの進度に従って住宅区域の道路,交通,給水,排水,生活電力,公共照明システムを完成して,売却,購入賃貸することができること。投資家が住宅に抵当権を設定している場合は抵当権を解除すること。ただし,買主,購入賃借人及び抵当権者が同意する場合を除く。
  • 住宅が売却の条件を満たしていることに関する省級住宅管理機関の通知文書があること。ただし,国がこの法律第 53 条 1 項に規定される資本金により投資した社会住宅を除く。
  • 既存社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却は,以下の条件を満たさなければならない。
    • 賃貸,購入賃貸,販売用住宅区域について,承認済みの建築詳細企画,設計記録,プロジェクトの進度に従って技術的インフラストラクチャシステム及び社会的構造物の建設投資が終了していること。投資家が住宅に抵当権を設定している場合は住宅を売却,購入賃貸する前に抵当権を解除すること。ただし,買主,購入賃借人及び抵当権者が同意する場合を除く。
    • 住宅が売却,賃貸,購入賃貸の条件を満たしていることについて省級住宅管理機関の通知文書があること。ただし,国がこの法律第 53 条 1 項に規定される資本金により投資した社会住宅を除く。
    • この法律第 118 条 1 項 b 号及び c 号に規定される条件を満たした住宅
  • 社会住宅建築プロジェクトの投資家は将来形成社会住宅の賃貸借契約を締結してはならない。住宅がこの条第 2 項 a 号及び b 号に規定される条件を満たす場合,投資家は,賃貸借の手付契約に限り締結し,最大で暫定的に計算した住宅賃料の 12 か月分の手付金を徴収することができる。住宅賃貸借の手付契約の締結は,この法律に規定される社会住宅を賃借することができる対象者及び条件を遵守しなければならない。住宅がこの条第 3 項に規定される条件を満たした後に,投資家は手付契約の締結者と住宅賃貸借契約を締結することができる。
  • この条に規定される社会住宅の買主の前払は,住宅売買契約中の合意に従い,住宅建築の完成率及び承認済みのプロジェクトの進度に適合するように行われるが,買主の前払金の総額は,買主に住宅を引き渡すまでは売買住宅の価額の 70 パーセントを超えてはならず,住宅の買主が当該住宅に対する証明書の発給を受けるまでは 95 パーセントを超えてはならない。
  • 政府は,社会住宅に関する支援政策を享受することができる対象者,条件の証明書,社会住宅とするための建築投資,商業住宅の購入,社会住宅の住宅の種別及び面積基準,賃貸用社会住宅を建築する場合の減税及び金融の優遇措置,社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却及び管理,使用について詳細を規定する。

64 条 社会住宅の管理,使用

1. この法律第 53.条 1 項に規定される資本金又は形式により投資された社会住宅については,社会住宅管理機関は,住宅を管理,運営する組織の選定を決定する。複数の組織が参加登録した場合,住宅管理,運営組織の選定は,入札により行われる。 

2.この法律第 53 条 1 項に規定される資本金又は形式によらずに投資された社会住宅については,住宅の管理,運営は,以下のとおりである。

  1. 賃貸用社会住宅の場合,投資家は自ら管理,運営し,又はこの法律の規定に従い管理運営能力を有する組織に対し住宅の管理,運営を委託する。
  2. 購入賃貸用社会住宅の場合, 購入賃貸期間中は,投資家はこの項 a 号の規定に従って管理,運営する。購入賃借人が投資家に対し購入賃料を全額支払った後は,管理,運営は,この項 c 号の規定に従って行う。
  3. 売却用社会住宅の場合, 個別住宅であれば,買主が自ら管理,運営し,共同住宅であれば,この法律に規定される共同住宅の管理,運営に関する規定を遵守しなければならない。
  4. 社会住宅の管理,運営活動は,公益役務と同様の優遇措置を享受することができる。
  5. 社会住宅の管理,運営組織は,住宅の管理,運営役務の代金を引き下げるた

め社会住宅区において法律が禁止していないほかの役務を営むことができる。

 

第三節

居住のため自ら建築又は改築,修繕する世帯,個人への社会住宅政策

65 条 居住のため自ら建築又は改築,修繕する世帯,個人への住宅支援政策

  1. 国は,住宅に関する目標プログラムを通じて,この法律第 49 条 1 項,2 項及び 3 項に規定される世帯,個人が居住のため自ら建築又は改築,修理するのを支援する。
  2. この条第 1 項に規定される対象者への住宅支援政策は,以下のとおりである。 
    1. 国家予算から資金の一部を支援する。
    1. 社会政策銀行から優遇的な金融融資をして支援する。
    1. 農村区域の住宅区域においてインフラストラクチャ施設を建設して支援する。
    1. 住宅用地がない場合に,土地に関する法令の規定に従い土地使用料を免除又は軽減して土地を交付して支援する。

đ) この項 a 号及び b 号に規定される支援額では依然として住宅を改築する財務能力がない対象者に対し住宅を贈与して支援する。

  • 国は,この法律第 49 条 1 項,4 項,5 項,6 項及び 7 項に規定される世帯,個人が居住のため自ら建築又は改築,修繕できるようにするため,社会政策銀行,国が指定する与信組織を通じて優遇融資をして支援する。

66 条 居住のため自ら建築又は改築,修繕する世帯,個人への住宅支援政策の実施形式

  1. 世帯,個人が住宅を自ら建築又は改築,修繕する。
  2. 住宅を自ら建築又は改築,修繕することができない障害者,孤独者である場合,国が住宅を建築又は改築する。

 

 

 

 

 

 

第五章 住宅開発のための財政

67 条 住宅開発に資する各資金源

  1. 組織,世帯,個人の資本
  2. 社会政策銀行,ベトナムで活動している与信組織,金融組織からの借入れ
  3. この法律の規定に従い前払された住宅の代金,購入賃料,賃料
  4. 組織,個人の出資,投資協力,事業協力,合弁,連携の形式による出資金
  5. 住宅に関する目標プログラム及び賃貸,購入賃貸用社会住宅の建築を通じて社会政策の受益対象者に住宅について支援するための中央資本及び地方資本からなる国の資本
  6. 外国及びその他の合法的な資金源から調達する資本

 

 

68 条 住宅開発用資本の調達の原則

  1. 資本の調達形式は,この法律の規定による住宅の種別ごとに適当なものでなければならない。資本の調達形式が,住宅に関する法令の規定による住宅の種別ごとの形式に適合しておらず,条件を満たさない場合,法的価値を有しない。
  2. 資本を調達する組織,個人は,住宅に関する法令の規定による資本の調達条  件を満たさなければならない。
  3. 公開性,透明性を確保し,住宅開発用資本を有している組織,個人の合法的な権利及び利益を保護する。
  4. 組織,個人は,調達した資本を当該住宅の開発の目的に沿って使用し,調達した資本をほかのプロジェクト,ほかの目的のために使用してはならない。
  5. 住宅開発及び社会住宅政策の実施に資する資本は,この法律,関連法令の規定及び各当事者の合意に従って管理されなければならない。
  6. 政府は,住宅の種別ごとの開発用資本の調達,資本調達の内容,条件,形式について詳細を規定する。

 

 

 

 

69 条 商業住宅開発のための資本 

  1. 投資家の所有する資本
  2. 組織,世帯,個人の出資,投資協力,事業協力,合弁,連携の形式による出資金
  3. 将来形成住宅の売買,賃貸,購入賃貸契約に基づき前払された売買代金,購入賃料,賃料
  4. ベトナムで活動している与信組織,金融組織からの借入れ

70 条 社会住宅政策実施のための資本

  1. 投資家の資本,又は組織,世帯,個人の出資,投資協力,事業協力,合弁,連携の形式による出資金
  2. 社会住宅に関する援助政策の受益対象者の資本
  3. この法律第 53 条 1 項に規定される国の投資資本
  4. 社会住宅政策の受益対象者に対する国の直接支援金。社会政策銀行,国が指定する与信組織を通じて国が優遇的に貸し付ける資本
  5. 基金及びその他の合法的な支援源からの支援金

 

 

 

71 条 公務住宅開発のための資本

  1. 中央予算及び地方予算からなる国家予算資本
  2. 法令の規定に基づくその他の資金源

 

 

72 条 再定住用住宅開発のための資本

  1. 投資家の資本,又は組織,世帯,個人の出資,投資協力,事業協力,合弁,連携の形式による出資金
  2. この法律第 36 条 3 項に規定される国の投資資本
  3. 土地開発基金からの資本
  4. 法令の規定による更地造成時の賠償金及び再定住支援金からの資本
  5. その他の合法的な資金源から調達した資本

73 条 世帯,個人の住宅開発のための資本

  1. 世帯,個人の資本
  2. 世帯,個人間の協力資本。同族,住民コミュニティの支援金
  3. ベトナムで活動している与信組織,金融組織からの借入れ
  4. この法律第 65 条に規定される社会住宅に関する支援政策の受益対象者に対する国の支援金
  5. その他の合法的な資金源からの支援金

74 条 社会住宅開発のための社会政策銀行の優遇貸付け

  1. 国は,住宅に関する目標プログラムを実施し,社会住宅を建築するため,予算から社会政策銀行に資本を供給して,低金利,長期の優遇貸付けを支援する。
  • 社会政策銀行は,社会住宅の購入,購入賃借の重要のある国内の世帯,個人から預貯金を調達し,一定の預貯金期間後,これらの対象者に低金利と長期で優遇的に貸し付ける。
  • 社会政策銀行は,この条第 1 項及び第 2 項に規定される目的に沿って資金を管理及び使用するため,個別の項目を建てなければならない。
  • 建設省,労働傷病者社会省は,この条第 1 項及び第 2 項に規定される資本の管理及び資本の使用の管理に参加する責任を負う。
  • 政府はこの条について詳細を規定する。

 

 

 

 

 

第六章 住宅の管理,使用

第一節 住宅の管理,使用に関する総則

75 条 住宅の管理,使用の内容

  1. 住宅に関する記録の作成,保管及び管理
  2. 住宅の保険
  3. 芸術,文化,歴史的価値のある住宅の管理,使用
  4. 国有住宅の管理,使用
  5. 住宅の保証,メンテナンス,改築,解体

76 条 住宅に関する記録の作成

  1. 住宅所有者又は所有者不明の場合の使用者,国有住宅の管理組織は,この条第 2 項及びこの法律第 77 条の規定に従い住宅に関する記録を作成,保管する責任を負う。
  2. 住宅に関する記録は,次のとおりである。
    1. 2006 年 7 月 1 日より前に建築された都市及び農村における住宅については,住宅に関する法令の規定に従い,住宅が合法的に建築されたことの証明書又は住宅に関する情報申告書がなければならない。
    1. 2006 年 7 月 1 日以降に建築された都市における住宅については,住宅に関する記録は,住宅が合法的に建築されたことの証明書;建築に関する法令の規定によるコンサルティング業者,施行業者の確定書類,設計図,住宅及び土地の計画図,完工記録からなる(あれば)。
    1. 2006 年 7 月 1 日以降に建築された農村における住宅については,住宅に関する記録は,住宅が合法的に建築されたことの証明書;設計図,住宅及び土地の概略図からなる(あれば)。
  • プロジェクトにより住宅を建築した場合については,住宅に関する記録は,法律の規定による住宅建築投資プロジェクトの記録及び完工記録からなる。

すみれ

「記録が保存されていると後から便利かも」

77 条 住宅に関する記録の保管及び管理

  1. 住宅に関する記録を保管する組織,個人は,以下のとおりである。
    1. 住宅所有者又は所有者不明の場合の使用者,国有住宅の管理組織は,住宅に関する記録を保管する責任を負う。
  • 県級住宅管理機関は,管轄区域の内国世帯,個人,海外定住ベトナム人の住宅に関する記録を保管する責任を負う。
    • 省級住宅管理機関は,管轄区域の内国組織,外国組織,外国個人及び住宅建築投資プロジェクトの住宅に関する記録を保管する責任を負う。
  • 権限を有する国家機関は,証明書の発給手続をする際,住宅に関する記録を更新するため,この法律第 76 条 2 項に規定される住宅に関する情報を同級の住宅管理機関に提供する責任を負う。

省級人民委員会は,証明書の発給手続をする権限を有する機関と地方の住宅管理機関の間の住宅に関する情報提供の協力について規定し,住宅に関する記録中に記載された住宅,土地に関する情報の統一性を確保する。

 

 

 

78 条 住宅の保険

  1. 国は,住宅所有者が住宅の保険に加入するのを奨励する。防火,消火に関する法令の規定により火災,爆発のおそれがある施設の目録に含まれる住宅については,住宅の所有者は強制火災,爆発保険に加入しなければならない。
  • 住宅保険の形式,保険料額及び保険期間は,保険事業に関する法令及び防火,消火に関する法令の規定に従う。

 

 

79 条 芸術,文化,歴史的価値のある住宅の管理,使用

  1. 芸術,文化,歴史的価値のある住宅は,古い別荘も含み,所有形態に関わらず,以下のとおり確定される。
    1. 権限を有する国家機関により国家級又は省級の歴史・文化遺産であると分類された住宅
    1. この項 a 号に規定されない住宅で,省級人民委員会がこの条第 2 項に規定される権限を有する機関の提案に従って承認した目録に含まれる住宅
  2. 省級人民委員会は,省級の建築,建設,文化に関する機関,職業協会の代表及び関連を有する科学者からなる評議会を設立し,管轄区域の芸術,文化,歴史的価値のある住宅の基準及び目録を確定させ,承認する。
  3. この条第 1 項に規定される住宅の管理,使用は,この法律及び文化遺産に関する法令の規定に従う。国有住宅である場合,本章第二節の規定にも従う。 
  4. この条第 1 項 a 号に規定される住宅及び国有住宅の管理,保存,メンテナンス,改築のための経費は,国家予算から支出する。

国有住宅を除くこの条第 1 項 b 号に規定される住宅については,地方の実情に応じて,省級人民委員会は,所有者が住宅を管理,保全,メンテナンス,改築するための経費の一部又は全部の支援を決定する。

 

 

 

 

第二節 国有住宅の管理,使用

80 条 国有住宅の種類

  1. 国が国家予算により建築投資し,若しくは購入した,又は法令の規定に基づき国の所有に属すると確定された公務住宅
  2. 国がこの法律第 36 条 3 項に規定される資本金又は形式により投資した再定住用住宅
  3. 国がこの法律第 53 条 1 項に規定される資本金又は形式により投資した社会住宅
  4. 国家予算により,若しくは国家予算に由来する資本により建築投資された,又は国の所有に属すると確立された古い住宅であり,住宅に関する法令の規定に従い,世帯,個人に対し賃貸しているもの

 

 

 

81 条 国有住宅の管理,使用

  1. 国有住宅は,目的どおりに,効果的に使用され,損失や浪費を避けなければならない。国有住宅の売却,賃貸,購入賃貸,回収及び管理,使用は,この法律の規定どおりに行われなければならない。 
  2. 以下の機関は,所有者の代理人であり,国有住宅を管理する責任を負う。
    1. 建設省は,中央予算により投資された公務住宅,社会住宅を管理する。国防省,公安省は,国防省,公安省が投資した住宅を管理する。
    1. 省級人民委員会は,管轄区域内の地方予算により投資された住宅及び管理を割り当てられた住宅を管理する。
  3. 国有住宅の管理運営は,住宅管理機能のある企業,合作社により行われ,公益役務と同様の優遇措置を享受することができる。国有住宅の管理運営組織の選定は,この条第 2 項に規定される権限を有する機関により決定される。
  4. 公務住宅は賃貸のみに使用され,社会住宅は賃貸,購入賃貸のために建築される。使用の需要がなくなった,又はほかの場所へ移転する必要があるが,解体又はその他の社会住宅の再築投資が不要である場合,建設省は,使用機能の変更について審査して政府首相に報告し,この法律の規定に従って賃貸管理し,又は売却する。
  • 公務住宅の賃借人は,住宅の賃借の条件を満たさなくなった,若しくはほかの場所へ移転することになったとき,又は住宅の管理,使用に関する規定に違反する行為をして回収の対象者となったときは,公務住宅を国へ返還しなければならない。

公務住宅の返還者が,この法律第 84.条 1 項 a 号,e 号及び h 号に規定される違反行為をした回収の対象者でなく,かつ公務住宅を返還した後の生活地に住宅を有しないときは,この者を直接管理,使用する機関,組織は,その居住地の省級人民委員会と協力し,実情に応じて,社会住宅の賃貸,購入賃貸,売却又は住宅建築用地の交付により解決する責任を負う。

  • 政府は,国有住宅の賃貸,購入賃貸,売却,賃料の免除,軽減及び住宅の管理,使用について詳細を規定される。

82 条 国有住宅を賃借,購入賃借,購入することができる対象者,条件

  1. 国有住宅を賃借,購入賃借,購入することができる対象者は,以下のとおりである。
    1. この法律第 32 条 1 項及び第 49 条 9 項に規定される対象者は,住宅の賃借に限りすることができる。
    1. この法律第 49 条 1 項,4 項,5 項,6 項,7 項,8 項及び 10 項に規定される対象者は,社会住宅の賃貸,購入賃貸について審査を受けることができる。
    1. この法律第 49 条 10 項に規定される対象者で,未だ社会住宅を賃借,購入賃借,売却していない者は,再定住用住宅を賃借,購入賃借,購入することができる。
    1. この法律第 80 条 4 項に規定される古い住宅を実際に使用している対象者は,その住宅を賃借又は購入することができる。
  2. 国有住宅の賃借,購入賃借,購入の条件は,以下のとおりである。
    1. 公務住宅の賃借の対象者は,この法律第 32 条 2 項に規定される条件を満たさなければならない。
    1. 社会住宅の賃借,購入賃借の対象者は,この法律第 51 条 1 項に規定される条件を満たさなければならない。この法律第 49 条 10 項に規定される対象者は,未だ再定住用住宅,土地の手配を受けていないこと。
    1. 再定住用住宅の賃借,購入賃借,購入の対象者は,権限を有する国家機関の決定により土地の回収,住宅の解体を受けた対象者であり,未だ社会住宅を賃借,購入賃借,購入していないこと。
    1. 古い住宅の賃借又は購入の対象者は,その住宅を実際に使用しており,賃借又は購入の需要がなければならない。

83 条 国有住宅の賃貸,購入賃貸,売却

  1. 国有住宅の賃貸,購入賃貸,売却は公開性,透明性を確保しなければならない。この法律第 82 条,第 84.条の規定及び第八章の住宅の売買,賃貸,購入賃貸取引に関する規定を遵守するほか,以下の規定も遵守しなければならない。
  1. 公務住宅を賃借する場合,この法律第 33 条の規定を遵守しなければならない。
  2.  
    1. 再定住用住宅を賃貸,購入賃貸,売却する場合,この法律第 35 条及び第

41 条の規定を遵守しなければならない。

  • 社会住宅を賃貸,購入賃貸,売却する場合,この法律第 62 条及び第 63 条の規定を遵守しなければならない。
    • 古い住宅を賃貸,売却する場合,その住宅は使用権に関する不服申立て,紛争がなく,住宅に関する法令の規定により賃貸又は売却できるものでなければならない。
  • 住宅の賃貸借,購入賃貸借,売買契約は,この法律第 121 条に規定される内容を含まなければならない。契約の締結は,以下のとおりである。
    • 社会住宅を売買,購入賃貸借し,又は古い住宅を売買する場合,契約は買主,購入賃借人と住宅管理機関の間で締結される。
    • 再定住用住宅を賃貸借,購入賃貸借,売買する場合,契約は再定住対象者と再定住をした組織の間で締結される。
    • 古い住宅の賃貸借,公務住宅の賃貸借,社会住宅の賃貸借を含む住宅の賃貸借の場合,契約は賃借人と住宅管理機関の間で締結される。 

 

 

 

84 条 国有住宅の回収

  1. 以下のいずれかの場合,国有住宅を回収する。
    1. 住宅の販売,賃貸,購入賃貸が,この法律の規定による権限に基づいておらず,対象者が適当でなく,又は条件を満たしていない。
    1. 契約による賃借期限が満了し,賃借人が引続き賃借する需要を有しないとき,又は両当事者が住宅の賃貸借,購入賃貸借契約の終了を合意したとき
    1. 賃借人,購入賃借人が賃借,購入賃借している住宅を返還した。
    1. 賃借人が,この法律の規定による住宅を賃借することができる条件を満たさなくなった。

đ) 賃借人が死亡し,又は裁判所の失踪宣告があり,同居人がいないとき。公務住宅の賃借の場合,公務住宅を賃借することができる者が死亡し,又は裁判所の失踪宣告があったとき。

  • 賃借人,購入賃借人が正当な理由なく 3 か月以上住宅の賃料を支払わない。 
    • 賃貸,購入賃貸している住宅が権限を有する国家機関の決定により改築,再築のため解体されることになったとき
    • 賃借人,購入賃借人が契約中で合意された目的どおりに住宅を使用しない,又は賃借,購入賃借している住宅を無断で譲渡,売却,転貸,使用貸し,無断で破損,増築,改築,解体する。
  • この条第 1 項に規定される回収を受ける住宅を賃借,購入賃借している者は,住宅を住宅管理組織に引き渡さなければならない。引き渡さない場合,住宅所有者の代理機関が,強制的に回収する。省級人民委員会は,強制回収決定が発行された日から 30 日以内に,この住宅の強制回収を行う責任を有する。

 

 

 

 

第三節 住宅の保証,メンテナンス,改築

85 条 住宅の保証

  1. 住宅の建築を施工する組織,個人は,建築に関する法令の規定に従い,住宅について保証しなければならない。住宅の設備を供給する組織,個人は,製造業者が規定する期限に従い設備について保証しなければならない。

売却,購入賃貸用住宅を建築投資する場合,売主,購入賃貸人は,この条  第 2 項及び 3.項の規定に従って住宅について保証しなければならない。売主,購入賃貸人は,建築を施工し,設備を供給する組織や個人に法律の規定による保証の実施を要請することができる。

  • 住宅は,建築が完了し,及び使用するための検査を受けた日から以下の期限まで保証される。

a) 共同住宅については最低 60 か月

 b) 個別住宅については最低 24 か月

  • 住宅の保証内容は,骨組み,柱,梁,床,壁,天井,屋根,テラス,階段,タイル,塗装,舗装,燃料供給システム,生活給電,照明給電システム,水槽及び生活給水システム,浄化槽及び汚水,生活廃棄物排出システムの故障の修繕,回復,住宅が傾き,沈下し,割れ,崩れた場合の回復の保証,及び住宅の売買,購入賃貸借契約中の合意によるその他の内容を含む。住宅に付着するその他の設備については,売主,購入賃貸人は,製造業者が規定する期限に従い修繕,交換を保証しなければならない。 

 

 

 

 

86 条 住宅のメンテナンス

  1. 住宅の所有者は,住宅のメンテナンスを行う責任を負う。所有者を確定することができない場合,管理,使用している者が住宅のメンテナンスを行う責任を負う。
  2. 住宅のメンテナンスは,この法律及び建築に関する法令の規定に従って行わなければならない。この法律第 79 条 1 項に規定される住宅については,芸術的建築,歴史的,文化的遺産の補修,保管,再建に関する企画及び法令の規定にも従って行わなければならない。
  3. 所有者,住宅のメンテナンスを行う組織は,住宅のメンテナンスの過程で人,財産の安全を確保し,衛生,環境を保護しなければならない。国有住宅をメンテナンスする場合,この法律第 90 条の規定にも従わなければならない。

 

 

 

 

87 条 住宅の改築

  1. 住宅の所有者は,自己が所有する住宅を改築することができる。住宅の所有者でない者は,所有者の同意を得たときに限り,住宅を改築することができる。
  2. 住宅の改築は,この法律及び建築に関する法令の規定に従って行わなければならない。住宅を改築するためにプロジェクトを設立しなければならないと法令が規定する場合,承認済みのプロジェクトにより行わなければならない。国有住宅については,住宅の改築は,この法律第 90 条の規定にも従わなければならない。
  3. この法律第 79 条に規定される住宅については,改築は文化的遺産の企画,k 建築,管理に関する法令の規定も遵守しなければならない。改築する前に権限を有する機関の承認を得なければならないと法令が規定する場合,所有者,住宅管理機関は,権限を有する機関の承認文書により行わなければならない。
  4. この法律第 79 条 1 項に規定される目録に記載された古い別荘については,以下の規定も遵守しなければならない。
    1. 別荘の当初の状態を変更してはならない。
    1. 省級住宅管理機関の査定結果により大破し,倒壊するおそれがあるとされない限り,解体してはならない。再築のため解体しなければならない場合,当初の建築技法に従い,古い別荘の材料,建築密度,階数及び高さどおりにしなければならない。
    1. 面積を増やすために構造を追加し,又は増築し,別荘外の空間を占有してはならない。

 

 

 

 

88 条 住宅のメンテナンス,改築に関する所有者の権利及び義務

  1. 住宅のメンテナンス,改築について,所有者は以下の権利を有する。
    1. 自らメンテナンス,改築を行い,又は組織,個人にメンテナンス,改築を委託する。建築業を営む能力を有する組織,個人により行わなければならないと法令が規定する場合,能力を有する組織,個人にメンテナンス,改築を委託しなければならない。
    1. 建築に関する法令の規定に基づく,住宅のメンテナンス,改築に建築許可証が必要な場合,条件が設定されている場合,条件を満たした上で,権限を有する国家機関に対し建築許可書の発給を請求する。
    1. 法律の規定によるその他の権利
  2. 住宅のメンテナンス,改築について,所有者は以下の義務を負う。
    1. 住宅のメンテナンス,改築に関する法令の規定を遵守し,その他の所有者が住宅のメンテナンス,改築を行うための条件を整備する。
    1. 他人に損害を与えた場合,賠償する。
    1. 法律の規定によるその他の義務

 

 

 

89 条 賃貸中の住宅のメンテナンス,改築

  1. 住宅の賃貸人は,賃借人の同意を得て,住宅を改築する権利を有する。ただし,緊急時,又は不可抗力の理由による場合を除く。賃借人は,賃貸人が住宅のメンテナンス,改築を行うことができるようにする責任を負う。
  2. 住宅の賃貸人は,残りの賃貸期間が賃貸借契約の期間の三分の一以下であれば,改築後に合理的な賃料に調整することができる。賃借人が賃料の調整に同意しない場合,契約の履行を一方的に終了し,法令の規定に従い損害賠償を受けることができる。
  3. 賃借人が住宅のメンテナンス又は改築のため転居しなければならない場合,各当事者は一時的な居所及び住宅のメンテナンス,改築期間中の賃料について合意する。賃借人が自ら住宅を手配し,メンテナンス,改築期間中の賃料を既に前払している場合,賃貸人はこの金額を賃借人に返還しなければならない。メンテナンス,改築の期間は賃貸借期間に算入しない。賃借人は,住宅のメンテナンス,改築が終了した後,引続き住宅を賃借することができる。
  4. 賃借人は賃貸人に対し,住宅のメンテナンス,改築を請求することができる。ただし,賃借人が住宅を破損した場合を除く。賃貸人が住宅のメンテナンスをしない場合,賃借人はメンテナンスをする権利があるが,少なくとも 15 日前に賃貸人に対し文書により通知しなければならない。 通知書には,メンテナンスの程度及び経費を明記しなければならない。賃貸人は,賃借人に対しメンテナンスの経費を支払い,又は賃料から控除しなければならない。

 

 

 

 

90 条 国有住宅のメンテナンス,改築

  1. 住宅のメンテナンス,改築は,権限を有する国家機関により承認を受け,この法律及び建築に関する法令の規定に従って実施しなければならない。
  2. 賃貸中の住宅を改築する場合,この法律第 89 条の規定に従う。賃借人が自己負担で改築するのを許可する住宅管理機関の同意文書がある場合,改築された部分も依然として国有であり,住宅の管理を委ねられた組織は,賃借人に対し経費を返還し,又は賃料から控除しなければならない。

91 条 共同所有住宅のメンテナンス,改築

  1. 共同所有住宅の各共有者は,自己の持分に対応して共同所有住宅のメンテナンス,改築をする権利及び責任を有する。共有者ごとの持分を確定することができない場合,メンテナンス,改築の責任は各共有者間で等しく分割される。共同所有住宅のメンテナンス,改築をするには,各共有者の同意を得なければならない。
  2. 共同所有部分のメンテナンス,改築の経費は,共有者の持分に応じて分割される。ただし,共有者が別段の合意をした場合を除く。複数の共有者がいる共同住宅については,共同所有部分のメンテナンス経費の拠出は,この法律第

108 条の規定に従って行う。

 

 

 

 

第四節 住宅の解体

92 条 住宅を解体しなければならない場合

  1. 住宅が大破し,倒壊のおそれがあり,使用者の安全を確保することができない旨の住宅所在地の省級住宅管理機関の品質査定の結論がある,又は緊急状態,自然災害を予防,防止する場合。
  2. この法律第 110 条 2 項に規定される住宅
  3. 権限を有する国家機関の決定により土地を回収するために解体しなければならない住宅
  4. 建築禁止区域に建築され,又は権限を有する国家機関が承認した企画による住宅用地でない土地上に建築された住宅
  5. 建築に関する法令の規定により解体しなければならない住宅

93 条 住宅を解体する責任

  1. 住宅の所有者又は管理,使用している者は,住宅を解体する責任を負う。住宅又はその他の施設を再築するために住宅を解体する場合,投資家が住宅を解体する責任がある。
  2. 住宅の所有者は,建築に関する法令の規定による能力を有するときは自ら住宅を解体し,又は解体の能力を有する組織,個人に委託する。
  3. 共同住宅を改築,再築するために共同住宅を解体する場合,この法律第七章第二節の規定にも従わなければならない。
  4. 社,坊,市鎮人民委員会(以下「社級人民委員会」と総称する)は,管轄区域における住宅の解体を監視,督促する責任を負う。

 

 

 

94 条 住宅を解体する際の要件

  1. 解体区域から人及び財産を遠ざけなければならない。
  2. 標識を置き,周辺区域との分離措置を講じなければならない。
  3. 法令の規定に従い,人,財産,周辺施設,解体の対象でない技術的インフラストラクチャ施設の安全を確保し,衛生,環境を保障する。
  4. 緊急の場合を除き,12 時から 13 時まで及び 22 時から 5 時までの間は住居区において住宅の解体を行ってはならない。

 

 

 

95 条 住宅の強制解体

  1. この法律第 92 条の規定に従い住宅を解体しなければならないが,住宅の所有者,投資主,又は管理,使用している者が自発的に住宅を解体しない場合,この条第 2 項に規定される権限を有する国家機関は,住宅の強制解体決定を下す。 
  2. 住宅の強制解体決定を下す権限は,以下のとおりである。
    1. 県級人民委員会主席は,この法律第 92 条 3 項に規定される土地回収のための住宅の解体,この法律第 92 条 1 項,4 項及び 5 項に規定される個別住宅の解体について強制決定を下す。 
    1. 省級人民委員会主席は,この法律第 92 条 1 項,2 項,4 項及び 5 項に規定される共同住宅の解体について強制決定を下す。 
  3. 県級人民委員会は,この条第 2 項に規定される住宅強制解体決定に従い住宅を強制的に解体する責任を負う。
  4. 住宅の強制解体の経費は,以下のとおりである。
    1. 住宅の所有者,管理,使用している者又は投資家は,住宅の強制解体の費用及び解体に関連する各費用を負担しなければならない。
    1. 住宅の所有者,管理,使用している者,投資家が支払わない場合,権限を有する国家機関は,解体の経費を確保するために,財産強制措置の適用決定を下す。

 

 

 

96 条 住宅が解体される際の所有者の居所

  1. 住宅の所有者は,住宅が解体される際は自ら居所を手配しなければならない。
  2. 土地を回収するために住宅を解体する場合,所有者の居所は,この法律及び土地に関する法令の規定に従い,国が土地を回収する際の再定住用住宅に関する政策に従って処理される。
  3. 共同住宅を改築,再築するために共同住宅を解体する場合,解体される共同住宅の所有者の居所は,この法律第 116 条の規定に従って処理される。

97 条 賃貸中の住宅の解体

  1. 賃貸人は,解体の少なくとも 90 日前に賃借人に対し文書により通知しなければならない。ただし,緊急の場合,又は権限を有する国家機関の行政決定により解体する場合を除く。
  2. 住宅を再築するために解体するが,賃貸借期間が満了していない場合,賃貸人は,解体及び再築期間中,賃借人のためにほかの居所を手配しなければならない。ただし,賃借人が自ら手配する旨合意した場合を除く。住宅の再築が完了した後,賃借人は契約期間が満了するまで引続き賃借することができる。ただし,賃借人が引続きその住宅を賃借する必要性がない場合を除く。賃借人が自ら居所を確保する場合,解体及び再築期間中は賃料を支払う必要がない。解体及び再築の期間は,賃貸借契約の期間に算入しない。

 

第七章 共同住宅の管理,使用

第一節 共同住宅の管理,使用,メンテナンス

98 条 共同住宅の等級

  1. 共同住宅は,管理し,又は市場において取引を行う際に共同住宅の価値を確定するため,複数の等級に分類される。
  2. 建設大臣は,共同住宅の分類について規定し,分類を公認する。

99 条 共同住宅の使用期限

  1. 共同住宅の使用期限は,建築工事の等級及びこの条第 2 項に規定される共同住宅の所在地の省級住宅管理機関の品質査定の結論に基いて確定される。省級人民委員会は,住宅の品質査定の経費を確保する。
  2. 共同住宅が建築に関する法令の規定による使用年限が満了し,又は大破し,倒壊するおそれがあり,使用者の安全を確保することができない場合,省級住宅管理機関は,共同住宅の品質査定を行い,以下の規定に従って処理する。
  1. 共同住宅が依然として品質を保ち,使用者の安全を確保することができる場合,所有者は,査定の結論中に記載される期限まで引続き使用することができる。ただし,この法律第 110 条 2 項及び 3 項に規定される場合を除く。
    1. 共同住宅が大破し,倒壊するおそれがあり,使用者の安全を確保することができない場合,省級住宅管理機関は,品質査定の結論を発行し,省級人民委員会に対し報告して所有者に対し文書により通知できるようにする。

通知書の内容は,省級人民委員会及び住宅管理機関のウェブサイト,地方のマスメディアを通じて公開しなければならない。

共同住宅の所有者は,共同住宅を改築,再築するために解体し,又はこの

条第 3 項の規定に従い,解体してほかの施設を建築するために権限を有する機関に引き渡す責任を負う。

  • この条第2項b号に規定される共同住宅の処理及び共同住宅がある土地の使用権の処理は,以下のとおりである。
    • 共同住宅のある土地が住宅建築企画に依然として適合している場合,所有者は,本条第 2 項の規定に従い,共同住宅を改築,再築することができる。
    • 共同住宅のある土地が住宅建築企画に最早適合しない場合,所有者は,解体して承認済みの企画に従いほかの施設を建築するため,共同住宅を権限を有する機関に引き渡す責任を負う。
    • 共同住宅の所有者が住宅を解体しない,又は引き渡さない場合,省級人民委員会主席は,住宅の引渡しのため,強制解体又は強制移転を決定する。
    • 解体される共同住宅の所有者のための居所の手配は,この法律第 116 条  の規定に従って行う。

共同住宅を再築するために解体する場合,所有者は,共同住宅のある土地の使用権を引続き行使することができる。ほかの施設を建築するために解体する場合,共同住宅のある土地の使用権の処理は,土地に関する法令の規定に従う。

100 条 共同住宅の個別所有部分及び共同所有部分

  1. 共同住宅の個別所有部分は,以下のものからなる。
    1. アパートメントに付属するバルコニー,開廊の面積を含むアパートメント内部の面積部分
    1. 共同住宅の所有者の個別所有部分として公認された共同住宅内のその他の面積部分
    1. アパートメントに付属する又は個別所有に属するその他の面積部分に付属する個別使用技術設備システム
  • 共同住宅の共同所有部分は,以下のものからなる。
    • この条第 1 項に規定される個別所有に属する面積部分以外の共同住宅の残りの面積部分。共同住宅の公共生活室
    • 骨組み,柱,耐力壁,外壁,各アパートメント間の隔壁,床,屋根,テラス,廊下,階段,エレベーター,非常口,ゴミ箱,技術区画,給電,給水,ガス供給システム,通信,放送,放映,排水システム,浄化槽,避雷針,消火器を含む共同住宅内の共同使用空間,耐力構造システム,技術設備,及び共同住宅の所有者の個別所有に属しないその他の部分
    • 外部の技術的インフラストラクチャシステムであるが,当該共同住宅に結びついているもの。ただし,公共目的で使用される,又は承認済みのプロジェクトの内容に従い,管理のため国に引き渡され,若しくは投資家に引き渡された技術的インフラストラクチャシステムを除く。
    • 中庭,庭園,公園及び承認済みの住宅建築投資プロジェクトの内容により確定されたその他の施設を含む,共同住宅区域内の公共施設で,事業のために建築投資されたものでなく,承認済みのプロジェクトの内容に従い,国に引き渡さなければならないものでないもの。

すみれ

「マンションのことかな。」

101 条 駐車場及びアパートメントの使用面積,共同住宅内のその他の面積の確定

  1. 四輪自動車,二輪自動車,三輪自動車,自転車及び障害者用車両を含む,共同住宅の所有者,使用者のための駐車場は,投資家が建築基準,規格,承認済みの設計に従い建設し,目的どおりに使用しなければならない。駐車場の所有権,使用権は,以下のとおり確定される。
    1. 共同住宅の所有者,使用者のための自転車,障害者用車両,二輪自動車,三輪自動車の駐車場は,共同住宅の所有者の共同所有権,共同使用権に属する。
  • 共同住宅の所有者のための四輪自動車の駐車場については,アパートメント又は共同住宅内のその他の面積の買主,購入賃借人が,購入又は賃借を決定する。購入又は賃借しない場合,駐車場は投資家の管理権に属し,投資家は,駐車場の建設投資費用を販売代金,購入賃料に算入してはならない。共同住宅区の四輪自動車の駐車場の配分は,共同住宅の所有者を優先し,その後にコミュニティの車に割り当てられる。
  • 共同住宅の所有者のアパートメント又は個別所有に属する共同住宅内のその他の面積部分の使用面積は,水平投影面積により算定され,アパートメント内部の各部屋間の壁の面積,バルコニーの面積,開廊の面積(あれば)を含み,住宅の外壁,各アパートメント間の隔壁の面積,柱がある部分の床面積,アパートメント内部の技術区画の面積は算入しない。バルコニーの面積を算定する際は,床面積全部を算定する。バルコニーに共通の壁がある場合,共通の壁の端から測定する。

102 条 共同住宅の会議

  1. 共同住宅の会議とは,共同住宅の所有者,共同住宅の所有者が参加しないときは共同住宅の使用者の会議をいう。
  2. 共同住宅の会議は,建設大臣が発行する共同住宅の管理,使用規則による条件を満たしたときに,この条第 3 項又は第 4 項に規定される内容を決定するために行われる。
  3. 複数の所有者がいる共同住宅については,共同住宅の会議は以下の事項について決定するために行われる。
    1. 共同住宅の管理委員会の委員を推薦,選出,罷免する。共同住宅の管理,使用の内規を承認,補充,修正する。
    1. 共同住宅の管理委員会の活動規則を承認,補充,修正する。管理委員会の委員の責任手当及びその他の管理委員会の活動に必要な合理的な費用の額を決定する。
    1. この法律第 106 条の規定による共同住宅の管理運営役務の代金及び共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費の使用を承認する。
    1. 投資家に共同住宅の管理運営機能,能力がない場合,管理運営機能,能力があるが管理運営に参加しない場合,又は管理運営に参加するが共同住宅の管理委員会と締結した役務供給契約中で合意された需要を満たすことができない場合,共同住宅の管理運営組織の選定を決定する。

đ) 共同住宅の共同所有部分の管理運営活動,メンテナンス活動に関する報告を承認する。

  • 共同住宅の管理,使用に関するその他の内容を決定する。
  • 所有者が一人である共同住宅については,共同住宅の会議は,この条第 3 項 a 号,b 号及び e 号に規定される事項を決定するために行われる。 
  • この条第 3 項に規定される事項に関する共同住宅の会議の決定はすべて,多数決の原則に従った評決又は投票の形式により行われ,議事録に記録され,共同住宅の会議の主催者及び会合の書記が署名する。

103 条 共同住宅の管理委員会

  1. 所有者が一人である共同住宅,又は複数の所有者がいるがアパートメントの数が 20 未満である共同住宅については,共同住宅の所有者,使用者は,共同住宅の管理委員会の設立又は共同住宅の管理委員会の不設立の決定について合意する。共同住宅の管理委員会を設立する場合,以下のとおり行う。
    1. 所有者が一人である共同住宅については,管理委員会の委員は共同住宅の所有者及び使用者の代表からなる。
    1. 複数の所有者がいる共同住宅については,共同住宅の管理委員会の委員は,この条第 2 項の規定に従う。
  2. 複数の所有者がおり,アパートメントの数が 20 以上である共同住宅については,共同住宅の管理委員会を設立しなければならない。共同住宅の管理委員会の委員は,共同住宅の所有者の代表,投資家の代表(あれば)からなる。共同住宅の使用者が共同住宅の会議に参加する場合,共同住宅の管理委員会の委員に使用者を入れることができる。
  3. 所有者が一人である共同住宅の管理委員会は,自己管理モデルに従う。複数の所有者がいる共同住宅の管理委員会は,株式会社の取締役会モデル,又は合作社の主任委員会モデルに従って組織され,活動し,法人格を有し,独自の印章を有し,この法律第 104 条 1 項に規定される権限を行使し,責任を果たす。

共同住宅の管理委員会の委員を選出,罷免するとき,共同住宅の所有者,使用者は,株式会社を設立し,又は合作社を設立する必要はない。管理委員会の委員の選出,罷免は,建設大臣が発行する共同住宅の管理,使用規則に従い共同住宅の会議において行われる。

104 条 共同住宅の管理委員会の権限及び責任

  1. 複数の所有者がいる共同住宅については,共同住宅の管理委員会は以下の権限を有し,責任を負う。
    1. 共同住宅の所有者,使用者が共同住宅の管理,使用の内規,規則を遵守するよう督促し,注意する。
    1. この法律の規定及び共同住宅の会議の決定に従い,共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費を管理,使用し,この経費の収支について共同住宅の会議に対し報告する。
    1. 共同住宅の会議に対し,共同住宅の管理運営役務の代金額の承認を要請する。
    1. この法律第 102 条 3 項 d 号の規定に従い,共同住宅の会議が選定した後に,投資家又は共同住宅の管理運営の機能,能力を有する組織と共同住宅の管理運営役務提供契約を締結する。

この法律第 105 条 1 項 b 号の規定により管理運営組織を必要としない共同住宅で,共同住宅の会議が管理委員会に対し管理運営を委ねた場合,共

同住宅の管理委員会は,共同住宅の会議の決定に従い管理運営経費を徴収し,支出する。

đ) 共同住宅の共同所有部分のメンテナンスを行うために,建築に関する法令の規定に従い住宅のメンテナンス能力を有する組織と契約し,メンテナンス活動を監督する。共同所有部分のメンテナンスは,共同住宅を管理運営している組織,又は建築に関する法令の規定に従いメンテナンス能力を有するその他の組織により行うことができる。

  • 共同住宅の管理,使用及び役務の供給について共同住宅の使用者の意見,提言を収集,総合し,関連機関,組織,個人と協力して検討し,解決する。
    • 地方政府,町内会と協力し,健康的な生活習慣を構築し,共同住宅内の秩序,安全を維持する。
    • 共同住宅の会議が承認した共同住宅の管理委員会の活動規則を遵守し,恣に共同住宅の管理委員会の委員を罷免,補充してはならない。
    • 共同住宅の会議の決定に従った責任報酬及びその他の合理的な費用を受けることができる。
    • 本項の規定に違反して権限を行使し,責任を果たさないときは,法律上の責任,共同住宅の所有者,使用者に対する責任を負う。
    • 共同住宅の会議から委ねられた法令の規定に反しないその他の業務を行う。 
  • 所有者が一人である共同住宅については,共同住宅の管理委員会は,この条第 1 項 a 号,e 号,g 号,h 号,i 号,k 号及び l 号に規定される権限を行使し,責任を果たす。

105 条 共同住宅の管理運営

  1. 共同住宅の管理運営は,以下のとおりである。
    1. エレベーターがある共同住宅については,共同住宅の管理運営機能,能力を有する組織により行う。
    1. エレベーターがない共同住宅については,共同住宅の会議は自ら管理運営し,又は共同住宅の管理運営機能,能力を有する組織に共同住宅の管理運営を委託する。
  2. 共同住宅の管理運営組織は,以下に規定される機能及び能力に関する条件を満たさなければならない。
    1. 企業法又は合作社法の規定に基づき設立され,活動し,共同住宅の管理運営機能を有する。
    1. 技術,役務,警備,衛生,環境部門を含む共同住宅の管理運営に関する専門部署を有しなければならない。
    1. 建築,電気,水道技術,防火,消火,共同住宅に付属する設備の運営を含む,住宅の管理運営に関する要件を満たし,建設大臣の規定に従い共同住宅の管理運営に関する専門的な見識の教育,研修を受けた証明書を有する幹部,職員を有する。
  3. 共同住宅の管理運営組織は,共同住宅の技術システム,設備を管理運営し,役務を供給し,メンテナンス能力があればメンテナンスを行い,共同住宅の管理運営に関連するその他の業務を行う。
  4. 共同住宅の管理運営組織は,この法律第 106 条 3 項及び 4 項に規定される代金額に従い,共同住宅の所有者,使用者から管理運営経費を徴収することができる。国有の共同住宅については,管理運営役務の代金額は,この法律第 106 条 5 項 a 号の規定に従う。
  5. 共同住宅の管理運営組織は,一つ又は複数の地区において複数の共同住宅を管理運営することができる。

106 条 共同住宅の管理運営役務の価格

  1. 共同住宅の管理運営役務の価格の確定は,公開され,透明性があり,共同住宅の種別ごとに管理運営が必要な業務,使用する役務の内容に基づかなければならない。
  2. 共同住宅の管理運営役務の価格は,共同所有部分のメンテナンス経費,駐車費用,燃料,エネルギー,水道,テレビ,通信の使用費用,及び共同住宅の所有者,使用者の個別の使用に資するその他の役務費用を含まない。
  3. 複数の所有者がいる共同住宅については,共同住宅の管理運営役務の価格は,以下のとおりである。
    1. 最初の共同住宅の会議が開かれていない場合,共同住宅の管理運営役務の価格は,住宅の売買,購入賃貸借契約中の合意に従う。
    1. 共同住宅の会議が既に開かれている場合,共同住宅の管理運営役務の価格は,共同住宅の会議が決定する。
  4. 所有者が一人である共同住宅については,共同住宅の管理役務の価格,は共同住宅の所有者と使用者の間の合意による。共同住宅が国有である場合,共同住宅管理役務の価格は,この条第 5 項の規定による。
  5. 省級人民委員会は,以下の場合に適用する共同住宅の管理運営役務の価格表を発行する責任を負う。
    1. 管轄区域の国有共同住宅の管理運営経費を徴収する。
    1. 各当事者が住宅の売買,購入賃貸借契約中で合意するための基礎となる,又は共同住宅の管理運営組織と共同住宅の所有者,使用者の間で役務の価格について紛争がある場合,共同住宅の管理運営役務の価格について合意することができない場合,省級人民委員会が発行する役務の価格表の価格を適用する。

107 条 共同住宅のメンテナンス

  1. 共同住宅のメンテナンスは,個別所有部分のメンテナンス及び共同所有部分のメンテナンスからなる。共同住宅の所有者は,共同住宅の個別所有部分のメンテナンスを行い,共同所有部分のメンテナンス経費を拠出する責任を負う。
  2. 複数の所有者がいる共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費の拠出は,この法律第 108 条の規定に従う。複数の所有者がある共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費の使用は,この法律第 109 条の規定に従う。
  3. 共同住宅のメンテナンスの内容,メンテナンスのプロセス及びメンテナンス記録の管理は,建築に関する法令の規定に従う。

108 条 複数の所有者がいる共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費

  1. 複数の所有者がいる共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費は,以下のとおりである。
    1. 投資家が売却,購入賃貸したアパートメント,共同住宅内のその他の面積部分については,投資家は,売却,購入賃貸したアパートメント,共同住宅内のその他の面積部分の価額の 2 パーセントを支払わなければならない。この金額は,買主,購入賃借人が住宅の引渡しを受ける際に支払わなければならない住宅の代金,購入賃料に含まれ,売買契約,購入賃貸借契約中に明記される。
    1. 投資家が共同住宅を引き渡し,使用を開始する時点まで売却,購入賃貸せず保持している,又は未だ売却,購入賃貸していない,アパートメント,共同住宅内のその他の面積部分については,共同所有に属する面積部分を除き,投資家は,保持しているアパートメント,面積部分の価額の 2 パーセントを支払わなければならない。この価額は,当該共同住宅の最高価格のアパートメントの売却価格に基づき算定する。
  2. この条第 1 項に規定されるメンテナンス経費が共同住宅の共同所有部分のメンテナンスに足りない場合, 共同住宅の所有者は,所有者ごとの個別所有の面積部分に対応する経費を追加拠出する責任を負う。
  3. 投資家が 2006 年 7 月 1 日より前にアパートメント又は共同住宅内のその他の面積部分の売買,購入賃貸借契約を締結し,共同所有部分のメンテナンス経費を徴収していない場合,共同住宅の所有者は共同住宅の会議を開き,この経費の拠出金額について合意する。経費の拠出金額は,共同住宅の管理委員会がベトナムで活動している与信組織に開設した預金口座に毎月送金し,又はメンテナンスが必要な事項が発生したときに拠出される。
  4. 投資家が 2006 年 7 月 1 日以降にアパートメント又は共同住宅内のその他の面積部分の売買,購入賃貸借契約を締結したが,住宅の売買,購入賃貸借契約中でメンテナンス経費について合意していない場合,投資家はこの金員を支払わなければならない。住宅の売買,購入賃貸借契約中で,売買代金,購入賃料にメンテナンス経費が算入されていない場合,所有者がこの条第 3 項の規定に従い共同所有部分のメンテナンス経費を支払う。 
  5. 共同住宅が居住及び事業の混合使用目的を有するが,同一の建物内でアパートメント機能区域,事業,役務区域という相互に異なる機能区域に分離することができ,これらの機能区域それぞれが建物全体の共同所有部分と区別される共同所有部分を有し,独立して管理運営される場合,投資家及びアパートメント又は共同住宅内のその他の面積部分の買主,購入賃借人は,売買,購入賃貸借契約中で,共同所有部分のメンテナンス経費を複数の部分に分割する割合について合意し,この法律第 109 条 4 項の規定に従って管理,使用する。

109 条 複数の所有者がいる共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費の管理,使用

  1. この法律第108条1項に規定されるメンテナンス経費については,投資家は,アパートメント又は共同住宅内のその他の面積部分の買主,購入賃借人から経費を徴収した日から 7 日以内に,この経費を管理するため,ベトナムで活動している与信組織で開設した預金口座に預け入れ,共同住宅の所在地の省級住宅管理機関に対し通知する責任を負う。

共同住宅の管理委員会が設立された日から 7 日以内に,投資家は,この法律の規定に従って管理,使用するため,メンテナンス経費及びその利息を管理委員会に対し引き渡し,省級住宅管理機関に対し通知する。投資家がこの経費を引き渡さない場合,共同住宅の管理委員会は,政府の規定に従って引き渡すのを投資家に強制するよう共同住宅の所在地の省級人民委員会に対し請求する権利を有する。

  • この法律第 108 条に規定されるメンテナンス経費は,共同住宅の共同所有部分のメンテナンスのためにのみ使われ,共同住宅の管理運営及びその他の目的のために使用してはならない。共同住宅が解体されることになったが,メンテナンス経費が残っている場合,再定住の支援に使用し,又は再築された共同住宅の共同所有部分のメンテナンス基金に組み入れる。
  • 共同住宅の管理委員会は,共同住宅の会議が毎年承認するメンテナンス計画に従い,メンテナンス経費を目的どおりに,メンテナンスが必要な項目どおりに管理,使用する責任を負う。共同所有部分のメンテナンス経費の使用は,財務請求書に基づき,財務に関する法令の規定に従い弁済,決算され,共同住宅の会議に対し報告しなければならない。

この条第 2 項及びこの項に反して経費の使用を決定した共同住宅の管理委員会の委員は,法律の規定に従い処分を受け,損害を賠償しなければならない。

  • この法律第 108 条 5 項に規定されるメンテナンス経費の管理,使用は,以下のとおりである。
    • 建物全体の共同所有部分及びアパートメント区域の共同所有部分のためのメンテナンス経費は,共同住宅の管理委員会が開設した口座に入金され,この条の規定に従い管理,使用される。
    • 事業,役務区域の共同所有部分のためのメンテナンス経費は,事業,役務区域の所有者が,この機能区域の共同所有部分のメンテナンスのため,自ら管理,使用することができる。

 

 

 

 

第二節 共同住宅の改築,再築のための共同住宅の解体

110 条 共同住宅の改築,再築のために共同住宅を解体する場合

  1. この法律第 99 条 2 項 b 号の規定に従い共同住宅の改築,再築のために解体しなければならない共同住宅
  2. 破損しているものの解体しなければならない対象にはなっていないが,承認済みの建築企画に従い,この条第 1 項の規定により解体される対象住宅区と調和的に改築,建築する必要がある区域にある共同住宅
  3. この条第 1 項及び第 2 項に規定される対象でないが,所有者全員が共同住宅の会議で共同住宅の再築のために解体することを合意した共同住宅

111 条 共同住宅の改築,再築計画の策定

  1. 共同住宅の所在地の省級人民委員会は,管轄区域の各種共同住宅を点検し,統計を作成し,この法律第 110 条 1 項及び 2 項に規定される対象共同住宅の改築,再築計画を策定,承認する責任を負う。
  2. 共同住宅の改築,再築計画は個別に策定,承認し,又は地方の住宅開発計画中で確定され,地方のマスメディア,省級人民委員会,省級住宅管理機関のウェブサイト上で公開され,共同住宅の所在地に居住区,社級人民委員会に対し通知しなければならない。

112 条 共同住宅の改築,再築のための解体に関する要件

  1. 共同住宅の改築,再築のための解体は,この法律第 110 条に規定される場合で,承認済みの地方の建築企画及び住宅開発プログラム,計画に適合していなければならない。
  • 共同住宅の改築,再築のために解体する前に,投資家は再定住計画案を策定し,共同住宅の所在地の省級人民委員会に報告して承認を得なければならない。

再定住計画案は,解体される共同住宅がある居住区に対し通知し,地方のマスメディア,省級人民委員会及び住宅管理機関のウェブサイト上で公開しなければならない。

  • 共同住宅の改築,再築は,プロジェクトにより行わなければならない。共同住宅の改築,再築のために解体するときは,承認済みの建築企画に従いプロジェクトの区域内の住宅区の改築と連携していなければならない。
  • 国有共同住宅を改築,再築する場合,権限を有する機関の承認を得,国有住宅の改築,再築に関する規定を遵守しなければならない。

113 条 共同住宅の改築,再築の形式

1. 不動産事業者は,共同住宅の改築,再築のために出資し,又はこの法律第

110 条に規定される共同住宅の所有者とともに出資する。ただし,この法律第 110 条 1 項及び 2 項に規定される共同住宅の所有者が解体を執行しない場合を除く。

2. この法律第 110 条 1 項及び 2 項に規定される共同住宅の所有者が解体を執行しない場合,国は強制的に解体し,この法律第 36 条 3 項に規定される資本又は形式により直接共同住宅の改築,再築の投資をする。

114 条 共同住宅の改築,再築プロジェクトの投資家

  1. 共同住宅の改築,再築プロジェクトの投資家の選定は,以下のとおりである。
    1. 国がこの法律第 36 条 3 項に規定される資本により共同住宅の改築,再築の投資をする場合,省級住宅管理機関は,投資決定権限を有する者に対し投資家の選定について報告して決定を得る。
    1. 国がこの法律第 36 条 3 項に規定される建築・移転形式により共同住宅の改築,再築の投資をする場合,省級住宅管理機関は,省級人民委員会に対し投資家の選定について報告して,投資家となるための登録をする投資家が二人以上いる場合は入札形式により,投資家となるための登録をする投資家が一人のみの場合は指名の形式により決定を得る。
    1. 不動産事業者が共同住宅の改築,再築に出資する場合,共同住宅の所有者と事業者は投資家となる組織について合意し,省級住宅管理機関に対し,省級人民委員会に報告して承認を得るよう要請する。
  2. 共同住宅の改築,再築プロジェクトの投資家の選定は,省級人民委員会が承認済みの共同住宅の改築,再築計画がある場合に限り行われる。
  3. この条第 1 項 b 号及び c 号に規定される共同住宅の改築,再築の投資家は,この法律第 21 条に規定される条件を満たさなければならない。

115 条 共同住宅解体時の再定住計画案

  1. 所有者が一人のみであるが,賃貸している共同住宅の場合,賃借人のための住宅の手配は,所有者と賃借人の合意により行われる。
  2. 所有者が複数であり,不動産事業者が出資している共同住宅の場合,共同住宅の所有者と事業者は,この法律第 116 条に規定される原則に従い再定住計画案について合意し,共同住宅の所在地の省級人民委員会に報告して承認を得る。

共同住宅の所有者は,共同住宅の所在地の省級人民委員会に報告して承認を得る前に,再定住計画案について合意するため共同住宅の会議を開かなければならない。

  • この法律第 110 条 1 項及び 2 項に規定される共同住宅の所有者が解体を執行しない場合,住宅所在地の省級人民委員会は強制的に解体し,この法律第 116 条に規定される原則に従い再定住計画案を策定,承認する。

116 条 再定住用住宅の手配

  1. 共同住宅の改築,再築のために解体される共同住宅の所有者のための再定住の手配は,以下のとおりである。
    1. 所有者が同一の場所で再定住する需要を有しない場合,地方の具体的な状況に応じて,この法律第 36 条の規定に従い再定住住宅,土地の手配を受ける。
    1. 所有者が同一の場所で再定住する需要を有する場合,古い住宅の面積以上の面積の新たな住宅の手配を受ける。

国が共同住宅の改築,再築の投資をし,古い住宅と新たな住宅の価額に差がある場合,差額の清算は,承認済みの再定住計画案に従って行う。不動産事業者と所有者が共同住宅の改築,再築の投資について合意した場合,差額の清算は各当事者間の合意に従って行う。

  • 住宅による再定住の手配は,国の投資によるときは,再定住の手配を受ける者と再定住の手配を委ねられた組織の間で住宅の賃貸借,購入賃貸借,売買契約を締結することにより行う。不動産事業者の建築投資によるときは,プロジェクトの投資家と締結する。
  • この項の規定により再定住の手配を受けるほか,再定住の手配を受ける者は,賠償,支援,再定住に関する法令の規定による支援について審査を受けることができる。
  • その他の施設を建築するために解体される共同住宅の所有者のための再定住の手配は,この法律第 36 条の規定に従って行う。
  • 国が共同住宅の改築,再築の投資をする場合,プロジェクトの投資家は,再定住の手配を受ける者が改築,再築期間中居住することができるよう,一時的な居所を確保し,又は再定住者が自ら確保できるよう金員により清算する。不動産事業者と所有者が共同住宅の改築,再築の投資について合意する場合,各当事者は,改築,再築期間中の所有者の一時的居所について合意する。
  • 政府は,共同住宅の改築,再築のため共同住宅の解体及び再定住の手配を受ける者のための住宅の手配について詳細を規定する。

 

 

 

第八章 住宅に関する取引

第一節 住宅の取引に関する総則

117 条 住宅取引の形式

住宅の取引は,住宅の売買,賃貸借,購入賃貸借,商業住宅の売買契約の移転,住宅の贈与,交換,相続,抵当権の設定,出資,使用貸借,寄宿及び管理の委任の形式からなる。

118 条 取引される住宅に関する条件

  1. 売買,購入賃貸借,贈与,交換,抵当権の設定,住宅による出資の取引の場合,住宅は以下の条件を満たさなければならない。
    1. 法令の規定に従った証明書がある。ただし,この条第 2 項に規定される場合を除く。
    1. 所有権について紛争,不服申立て,提訴がなされていない。期限付き住宅所有の場合,所有期間中である。
    1. 判決執行のため差し押さえられ,又は権限を有する国家機関の法的効力を生じた行政決定を執行するために差し押さえられていない。
    1. 権限を有する機関の土地回収決定の対象になっておらず,住宅の収去,解体の通知を受けていない。

この項 b 号及び c 号に規定される条件は,将来形成住宅の売買,購入賃貸借の場合には適用しない。

  • 以下の住宅取引は,必ずしも証明書がなくてもよい。
    • 将来形成住宅の売買,抵当権設定
    • 組織による温情の家,感謝の家の贈与
    • 国有住宅の売買,購入賃貸借;国有でない社会住宅,再定住用住宅の売買,購入賃貸借;この法律第 62 条 4 項に規定される住宅の売却
    • 賃貸借,使用貸借,寄宿,管理の委任 đ) 住宅の相続
    • 投資家から住宅の引渡しを受けたが,未だ権限を有する国家機関に対しその住宅の証明書の発給申請書を提出していない場合を含む,住宅建築投資プロジェクトで建築された商業住宅の売買契約の移転

この項に規定される取引対象住宅に関する証明書類は,政府が規定するところによる。

  • 賃貸住宅の場合,この条第 1 項 b 号,c 号及び d 号に規定される条件のほか,住宅は,品質,賃借人の安全を確保し,電気,給排水システムの完備し,衛生環境を確保しなければならない。

119 条 住宅取引の当事者に関する条件

  1. 住宅の売主,賃貸人,購入賃貸人,商業住宅の売買契約の譲渡人,住宅の贈与者,交換人,被相続人,抵当権設定者,出資者,使用貸人,寄宿許諾人,管理の委任者は,以下の条件を満たさなければならない。
    1. 住宅の所有者,又は所有者からこの法律の規定及び民事に関する法令の規定に従い住宅取引の実施を許可,委任された者である。商業住宅の売買契約を譲り渡す場合,投資家の住宅を購入した者,又は住宅売買契約を譲り受けた者である。
    1. 個人であれば,民事に関する法令の規定に従い住宅取引を実施するための民事行為能力を有していなければならない。組織であれば,法人格を有しなければならない。ただし,組織が温情の家,感謝の家を贈与する場合を除く。
  2. 個人である住宅の買主,賃借人,購入賃借人,商業住宅の売買契約の譲受人,交換を受ける者,受贈者,相続人,出資受領者,担保権者,使用借人,寄宿人,管理の受任者は,以下の条件を満たさなければならない。
    1. 国内の個人であれば,民事に関する法令の規定に従い住宅取引を実施するための民事行為能力を有しなければならないが,必ずしも取引住宅の所在地に常住登録をしていなくてもよい。
    1. 外国の個人,海外定住ベトナム人であれば,ベトナムの法令の規定に従い住宅取引を実施するための民事行為能力を有しており,この法律の規定に従いベトナムにおいて住宅を所有することができる対象者でなければならないが,必ずしも取引住宅の所在地に一時居住又は常住登録をしていなくてもよい。
  3. 組織である住宅の買主,賃借人,購入賃借人,商業住宅の売買契約の譲受人,交換を受ける者,受贈者,相続人,出資受領者,担保権者,使用借人,寄宿人,管理の受任者は,法人格を有していなければならないが,事業登記の地,設立の地により区別しない。海外の組織である場合,この法律の規定に従いベトナムにおいて住宅を所有することができる対象者でなければならない。組織が住宅の管理を受任する場合,不動産役務の事業機能を有し,不動産事業に関する法令の規定に従いベトナムで活動していなければならない。

120 条 住宅取引の実施手順,手続

  1. 住宅取引の当事者は,この法律第 121 条に規定される内容を有する,住宅の売買,賃貸借,購入賃貸借,贈与,交換,抵当権設定,出資,使用貸借,寄宿,管理委任契約,又は商業住宅の売買契約の移転文書(以下「住宅に関する契約」と総称する)の作成について合意する。組織が温情の家,感謝の家を贈与する場合,贈与文書のみを作成すれば足りる。
  2. 各当事者は,一方当事者が権限を有する国家機関に対し住宅の所有権の発給申請書類を提出することができるよう合意する。プロジェクトの投資家の住宅を購入,購入賃借する場合,投資家は,権限を有する国家機関が買主,購入賃借人に証明書を発給するための手続をする責任を負う。ただし,買主,購入賃借人が自ら証明書の発給を申請する場合を除く。
  3. 権限を有する国家機関は,住宅及びその住宅がある土地の適法な使用権の買主,購入賃借人,受贈者,交換を受ける者,出資受領者,相続人に対し証明書を発給する際は,住宅の所有権を譲り受けた者に対し,同時に住宅の所有権及び土地の使用権を公認する。

121 条 住宅に関する契約

住宅に関する契約は,各当事者の合意により,以下の内容を含む文書にまとめられなければならない。

  1. 個人の氏名,組織の名称及び各当事者の住所
  2. 取引住宅の特徴とその住宅が付着する土地の特徴の描写。アパートメントの売買,購入賃貸借契約については,各当事者は,共同所有,共同使用部分;個別所有権に属する使用面積;アパートメントの建築床面;当初承認された設計の目的による共同住宅内の共同所有,共同使用部分の目的を明記しなければならない。
  3. 契約に価格に関する合意がある場合,出資価額,住宅の取引価格。国が価格について規定する住宅の売買,賃貸借,購入賃貸借の場合,各当事者は当該規定によらなければならない。
  4. 住宅の売買,賃貸者,購入賃貸借,売買契約の移転の場合,支払の期限及び方式
  5. 住宅の引渡期限;新たに建築投資される住宅の購入,購入賃借の場合は住宅の保証期間;住宅の賃貸借,購入賃貸借,抵当権設定,使用貸借,寄宿,管理の委任の期間;出資の期間

 6. 各当事者の権利及び義務

  • 各当事者の約束
  • その他の合意
  • 契約の効力発生時期
  • 契約の署名年月日
  • 各当事者の署名及び氏名。組織である場合,押印し(あれば),署名者の職位を明記しなければならない。

 

 

 

 

 

 

122 条 住宅に関する契約の公証,確証及び効力発生時期

  1. 住宅の売買, 贈与,交換,出資,抵当権設定,商業住宅の売買契約の移転の場合,契約の公証,確証を受けなければならない。ただし,この条第 2 項に規定される場合を除く。

この項に規定される取引については,契約の効力発生時期は,契約の公証,確証の時点である。

  • 組織が温情の家,感謝の家を贈与する場合;国有住宅の売買,購入賃貸借;社会住宅,再定住用住宅の売買,購入賃貸借;,一方当事者が組織である住宅による出資;住宅の賃貸借,使用貸借,寄宿,管理の委任の場合,各当事者が希望する場合を除き,契約の公証,確証を実施しなくてもよい。

この項に規定される取引については,契約の効力発生時期は,各当事者の合意による。当事者間に合意がない場合,契約の効力発生時期は,契約締結の時点である。

  • 住宅の相続文書は,民事に関する法令の規定に従い公証又は確証される。
  • 住宅に関する契約の公証は,公証職業組織において実施される。住宅に関する契約の確証は,住宅所在地の社級人民委員会において実施される。

 

 

 

 

 

第二節 住宅の売買,住宅の売買契約の移転

123 条 住宅の売買,商業住宅の売買契約の移転取引 

  1. 住宅の売買は,この法律第 121 条に規定される内容を有する契約書を作成してしなければならない。各当事者は,政府の規定に従い,一定の期間に限り,売主が買主に対し住宅を売却し,住宅が付着する土地の使用権を移転することについて合意することができる。

番人

「借地権付か。」

  • 投資家の商業住宅の買主が未だ権限を有する国家機関に対しその住宅の証明書の発給申請書を提出しておらず,需要がある場合,住宅の売買契約を移転することができる。契約の譲受人は,投資家と締結した住宅の売買契約に基づく義務を完全に履行する責任を負う。

住宅売買契約の移転の手順,手続,移転文書の内容及び様式は,建設大臣の規定に従う。契約の譲渡人は,税,手数料に関する法令の規定に従い,税,手数料を納付しなければならない。

124 条 住宅の売買価格,商業住宅の売買契約の移転価格

住宅の売買価格,商業住宅の売買契約の移転価格は,各当事者の合意により,住宅の売買契約書,売買契約の移転文書に明記される。国が住宅の売買価格について規定する場合,各当事者はその規定に従わなければならない。

125 条 延べ払い,分割払いによる住宅の売買

  1. 延べ払い,分割払いによる住宅の売買は,各当事者の合意により,住宅の売買契約書,売買契約の移転文書に明記される。延べ払い,分割払いの期間中,買主は住宅を使用することができるが,自らメンテナンスを行う責任を負う。ただし,この法律の規定又は当事者間の合意による保証期間中の場合を除く。
  2. 延べ払い,分割払いによる住宅の買主は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,住宅の購入代金を全額支払った後にはじめて,この住宅の売買,贈与,交換,抵当権設定,出資の取引をほかの者とすることができる。

延べ払い,分割払いの期間中に買主が死亡した場合,適法な相続人は,住宅の買主の権利及び義務を引き継ぐことができ,売主に住宅の購入代金を全額支払った後に,権限を有する国家機関から証明書の発給を受けることができる。

  • 住宅の買主が延べ払い,分割払いの期間中に購入した住宅の返還を希望し,住宅の売主の同意を得た場合,両当事者は,住宅の返還及び住宅の購入代金の清算の方式について合意する。

126 条 共同所有住宅の売買

  1. 共同所有住宅の売却は,所有者全員の同意を得なければならない。売却に同意しない所有者がいる場合,ほかの共同所有者は,裁判所に対し法令の規定に従い解決するよう請求することができる。共同所有者は,優先購入権を有し,共同所有者が購入しないときは,住宅はほかの者に売却される。

裁判所の失踪宣告を受けた共同所有者がいる場合,ほかの共同所有者は住宅を売却することができる。失踪宣告を受けた者の住宅の持分の価額は,法令の規定に従って処理される。

  • 共同所有者が自己の持分を売却する場合,ほかの共同所有者は優先購入権を有する。住宅の持分の売却及び売却の条件について通知を受けて日から 30 日以内にいずれの共同所有者も購入しない場合,当該持分はほかの者に売却される。優先購入権に関する違反は,民事に関する法令の規定に従って処理される。

127 条 賃貸中の住宅の売買

1. 所有者が賃貸中の住宅を売却する場合,賃借人に対し,売却及び売却の条件について文書により通知しなければならない。賃借人は,賃貸人が賃貸住宅の売却を通知した時点まで,賃貸人に対し住宅の賃料を全額支払っている場合,優先購入権を有する。ただし,住宅が共同所有の場合を除く。賃借人が通知を受けた日から 30 日以内に購入しない場合,所有者はほかの者に売却することができる。ただし,期限について当事者間に別段の合意がある場合を除く。 2. 賃貸中の国有住宅を売却する場合は,この法律第六章第二節の規定に従う

 

 

 

128 条 住宅の先購入

各当事者が住宅売買契約を締結したが,国が国防,治安,国家の利益,公共の利益の目的で使用するため当該住宅を購入する需要を有する場合,省級人民委員会主席は,当該住宅の先購入決定を発行する。売買代金,支払の条件及び方式は,各当事者が締結した売買契約中の合意に従う。国は,各当事者に損害

を賠償する(あれば)。各当事者が締結した売買契約は,法的効力を生じない。

 

 

 

 

 

第三節 住宅の賃貸借

129 条 住宅の賃借期間及び賃料

  1. 住宅の賃貸人及び賃借人は,賃借期間,賃料及び定期又は一回払いによる賃料の支払方法について合意することができる。国が住宅の賃料について規定する場合,各当事者はその規定に従わなければならない。 
  2. 住宅の賃借期間が満了していないが,賃貸人が住宅を改築し,賃借人の同意を得た場合,賃貸人は住宅の賃料を調整することができる。住宅の新たな賃料は,各当事者の合意による。合意することができない場合,賃貸人は,賃貸借契約を一方的に終了することができるが,賃借人に対し法令の規定に従い賠償しなければならない。
  3. 住宅の賃貸人及び賃借人は,住宅の賃借及び賃貸の過程で適法な権利及び利益を国により保護される。

130 条 共同所有住宅の賃貸借

  1. 共同所有住宅の賃貸は,その住宅の所有者全員の同意を得なければならない。ただし,共同所有者の自己の所有権に属する住宅部分を賃貸する場合を除く。
  2. 共同所有者は,住宅の賃貸借契約の締結を代表者に対し委任することができる。

131 条 住宅の賃貸借契約が終了する場合

  1. 国有住宅を賃貸借する場合,住宅の賃貸借契約は,この法律第 84 条 1 項に規定されるいずれかの場合に終了する。
  2. 国有以外の住宅を賃貸借する場合,住宅の賃貸借契約は,以下のいずれかの場合に終了する。
    1. 住宅の賃貸借契約の期間が満了した。契約中で期間を確定していない場合,契約は,住宅の賃貸人が住宅の賃借人に対し契約の終了について通知した日から 90 日後に終了する。
    1. 両当事者が契約の終了について合意した。
    1. 賃貸住宅が滅失した。
    1. 賃借人が死亡し,又は裁判所の失踪宣告を受け,死亡,失踪のときに同居している者がいない。 

đ) 賃貸住宅が大破し,倒壊するおそれがある,又は権限を有する国家機関の土地の回収,住宅の収去,解体決定があった区域に属する。ほかの目的で使用するため,国が賃貸住宅を収用,徴用した。

賃貸人は賃借人に対し,この号に規定される住宅の賃貸借契約の終了について 30 日前に文書により通知しなければならない。ただし,当事者間に別段の合意がある場合を除く。

  • この法律第 132 条の規定による終了

132 条 住宅の賃貸借契約の一方的終了

  1. 契約中の合意による賃借期間中,賃貸人は,住宅の賃貸借契約を一方的に終了し,賃貸している住宅を回収することはできない。ただし,この条第 2 項に規定される場合を除く。
  2. 賃貸人は,以下のいずれかに該当する場合,住宅の賃貸借契約を一方的に終了し,賃貸している住宅を回収することができる。
    1. 国有住宅,社会住宅の賃貸人が,この法律の規定による権限,対象者,条  件に反して賃貸をした。 
    1. 賃借人が正当な理由なく 3 か月以上合意による住宅の賃料を支払わない。
    1. 賃借人が契約中で合意された目的どおりに住宅を使用しない。
    1. 賃借人が恣に賃借している住宅を破損,増築,改築,解体した。

đ) 賃借人が賃貸人の同意なく賃借している住宅を交換,使用貸,転貸した。

  • 賃借人が秩序,衛生環境を乱し,周辺の市民の生活に重大に影響を与え,住宅の賃貸人又は町内会長,集落の長から三回にわたって注意を受けたが,依然として改善しない。

g) この法律第 129 条 2 項に規定される場合

  • 住宅の賃借人は,住宅の賃貸人が以下のいずれかの行為をした場合,住宅の賃貸借契約を一方的に終了することができる。
    • 住宅が大破したのに修繕しない。
    • 住宅の賃料を不合理に増額する,又は合意に従い賃借人に事前に通知せずに,賃料を増額する。
    • 第三者の利益により住宅の使用権が制限されるとき
  • 住宅の賃貸借契約を一方的に終了する当事者は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他方当事者に対し少なくとも 30 日前に通知しなければならない。この項の規定に違反して損害を与えた場合,法令の規定に従い賠償しなければならない。

133 条 住宅の賃借継続権

  1. 住宅の所有者が死亡したが,住宅の賃借期間が満了していない場合,賃借人は契約期間が満了するまで賃借を継続することができる。相続人は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,締結済みの住宅の賃借契約を履行する責任を負う。所有者に法令の規定による適法な相続人がいない場合,当該住宅は国の所有権に属し,住宅を賃借している者は,国有住宅の管理,使用に関する規定に従い賃借を継続することができる。
  2. 所有者が賃貸している住宅の所有権をほかの者に譲渡し,住宅の賃借期間が満了していない場合,賃借人は,契約期間が満了するまで賃借を継続することができる。新たな所有者は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,締結済みの住宅の賃貸借契約を履行する責任を負う。
  3. 賃借人が死亡したが,住宅の賃借期間が満了していない場合,賃借人と同居している者は,住宅の賃貸借契約の期間が満了するまで賃借を継続することができる。ただし,公務住宅の賃借の場合,又は当事者間に別段の合意があり,法令に別段の規定がある場合を除く。

第四節 社会住宅の購入賃貸 

134 条 社会住宅の購入賃貸の手続 

1. 社会住宅の購入賃貸は,この法律第 121 条に規定される内容を有する契約書を作成してしなければならない。組織,個人が建築投資した社会住宅の購入賃貸借の場合,購入賃貸借契約は 投資家と購入賃借人の間で締結される。国有社会住宅の購入賃貸借の場合,購入賃貸借契約の締結は,この法律第 83 条 

2 項 a 号の規定に従う。

2. 契約による住宅の購入賃貸借期間が満了し,購入賃借人が合意に従い購入賃料全額を支払ったときは,購入賃貸人は,権限を有する国家機関に対し購入賃借人へ証明書を発給するよう申請を手続しなければならない。ただし,購入賃借人が自ら証明書の発給申請手続きをする場合を除く。

135 条 社会住宅の購入賃借人の権利及び義務

1. 社会住宅の購入賃借人は,この法律第 62 条の規定に従い,住宅購入賃貸借契約中で合意したその他の義務を履行しなければならない。

購入賃借人が住宅の引渡しを受けたが,購入賃貸借契約が終了した場合,購入賃借人は,この住宅を購入賃貸人に返還しなければならない。購入賃借人は,初回に支払った金員の返還を受けることができる。ただし,この法律第 84 条1 項 e 号及び h 号並びに第 136 条 2 項に規定される場合を除く。

2. 購入賃借人が死亡した場合,以下のとおり処理する。

  1. 適法な相続人がその住宅で同居している場合,当該適法な相続人は購入賃借を継続することができる。ただし,適法な相続人が自主的に購入賃借住宅を返還する場合を除く。
  2. 適法な相続人がいるもののその住宅で同居しておらず,住宅の購入賃借人が購入賃貸借期間の三分の二を履行した場合,当該適法な相続人は,残りの購入賃借期間に対応する金員を支払い,権限を有する国家機関から住宅の証明書の発給を受けることができる。
  3. 適法な相続人がいるが,この項 a 号及び b 号の規定に当たらない場合,購入賃貸人は,その住宅を回収することができ,適法な相続人は,購入賃借人が初回に支払った金員に返還の時点の銀行間の無期限の金利に関する規定による利息を付して返還を受けることができる。
  4. 適法な相続人がいない場合,購入賃借人が初回に支払った金員は国庫に属し,購入賃貸人は購入賃貸住宅を回収し,この法律の規定により社会住宅を賃借,購入賃借することができる者と賃貸借,購入賃貸借契約を締結することができる。

136 条 購入賃貸借契約が終了する場合及び購入賃貸社会住宅の回収

  1. 国有社会住宅の購入賃貸借の場合,購入賃貸借契約の終了及び住宅の回収は,この法律第 84 条 1 項 a 号,b 号,c 号,e 号,g 号及び h 号に規定されるいずれかの場合に行われる。
  2. 国有でない社会住宅の購入賃貸借の場合,購入賃貸人は,以下のいずれかの場合,購入賃貸借契約を終了し,購入賃貸している住宅を回収することができる。
  1. 購入賃借人が購入賃借期間中に恣に購入賃貸住宅をほかの者に対し賃貸又は売却した。
    1. 購入賃借人が正当な理由なく 3 か月以上合意による賃料をしはらわない。
    1. 購入賃借人が恣に購入賃借中の住宅を破損,増築,改築,解体した。
    1. 購入賃借人が購入賃貸借契約中で合意された目的どおりに住宅を使用しない。 

đ) この法律第 135 条 2 項 d 号に規定される場合 e) 各当事者の合意によるその他の場合

  • この条第 1 項に規定される対象でない社会住宅の購入賃借人は,契約中の合意に従い購入賃貸借契約を終了することができる。住宅の引渡しを受けている場合,住宅を購入賃貸人に返還しなければならない。

 

 

 

 

第五節 住宅の贈与

137 条 共同所有住宅の贈与

  1. 合一共同所有に属する住宅を贈与する場合,共同所有住宅の所有者全員の文書による同意を得なければならない。
  2. 共同所有住宅を部分により贈与する場合,所有者は自己の所有権に属する住宅部分のみを贈与することができ,共同所有住宅のほかの所有者の適法な権利及び利益に影響を与えてはならない。部分の贈与を受けた後,住宅の新たな所

有者は,ほかの共同所有者の適法な権利及び利益に影響を与えてはならない。

138 条 賃貸中の住宅の贈与 

  1. 賃貸中の住宅の所有者は,賃借人に対し住宅の贈与について事前に文書により通知しなければならない。
  2. 当事者間に別段の合意がある場合を除き,賃借人は贈与者と締結した住宅の賃貸借契約の期間が満了するまで引続き住宅を賃借することができる。

 

 

 

 

第六節 住宅の交換

139 条 共同所有住宅の交換

  1. 合一共同所有に属する住宅を交換する場合,共同所有住宅の所有者全員の同意を得なければならない。
  2. 共同所有住宅を部分により交換する場合,所有者は,自己の所有権に属する住宅部分のみ交換することができ,共同所有住宅のほかの所有者の適法な権利及び利益を影響与えてはならない。共同所有部分の交換を受けた後,新たな所

有者は,ほかの共同所有者の適法な権利及び利益に影響を与えてはならない。

140 条 賃貸中の住宅の交換

  1. 賃貸中の住宅の所有者は,賃借人に対し住宅の交換について事前に文書により通知しなければならない。
  2. 当事者間に別段の合意がある場合を除き,賃借人は前の所有者と締結した住宅の賃貸借契約の期間が満了するまで引続き住宅を賃借することができる。

141 条 差額の清算

住宅を交換し,相互に所有権を譲渡する際,住宅の価額に差があるときは,当事者間に別段の合意がある場合を除き,住宅を交換する各当事者は差額を清算しなければならない。

 

 

 

 

 

第七節 住宅の相続

142 条 合一共同所有に属する住宅の相続

合一共同所有に属する住宅で,相続者が一人である,又は共同所有に属する住宅の残りの所有者である場合,これらの者は,遺言又は法律に従い,当該住宅を相続することができる。合一共同所有に属する住宅の所有者でない相続人がいる場合,当事者間に別段の合意がある場合を除き,相続人は,相続することができる住宅の価額部分の清算を受けることができる。

 143 条 持分のある共同所有住宅の相続

持分のある共同所有住宅の場合,被相続人の住宅持分は,遺言又は法令に従い相続人に分割される。住宅を売却して代金を分割する場合,相続人は優先的に購入することができ,相続人が購入しない場合,共同所有住宅のほかの所有者が当該住宅の相続部分を優先的に購入することができ,相続人に購入した住宅の価額を支払う。

第八節 住宅の抵当

144 条 住宅の抵当権設定者及び抵当権者

  1. 組織である所有者は,ベトナムで活動している与信組織のために住宅に抵当権を設定することができる 。
  2. 個人である所有者は,法令の規定に従い,ベトナムで活動している与信組織,経済組織又は個人のために住宅に抵当権を設定することができる。

145 条 共同所有住宅の抵当

共同所有住宅の抵当は,共同所有住宅の部分の抵当を除き,共同所有住宅の各所有者の文書による同意を得なければならない。合一共同所有に属する住宅の所有者は,民法典の規定に従い,住宅抵当権設定者の義務の履行について連帯して責任を負う。

146 条 賃貸中の住宅の抵当

  1. 住宅の所有者は,賃貸中の住宅に抵当権を設定することができるが,賃借人に対し抵当権の設定について事前に文書により通知しなければならない。賃借人は,住宅の賃貸借契約の期間が満了するまで引続き住宅を賃借することができる。
  2. 賃借中の住宅が抵当権設定者の義務を履行するために処分される場合,住宅の賃借人は,契約が満了するまで引続き賃借することができる。ただし,賃借人がこの法律第 132 条 2 項の規定に違反した場合,又は当事者間に別段の合意がある場合を除く。 

147 条 住宅建築投資プロジェクトの抵当及び将来形成住宅の抵当

  1. 住宅建築プロジェクトの投資家は,ベトナムで活動している与信組織のために,プロジェクト又はプロジェクトで建築される住宅に抵当権を設定して,プロジェクトに投資し,又は住宅を建築するために借入れをすることができる。投資家が住宅に抵当権を設定しているが,住宅に関する法令の規定に従い住宅を分割するために出資を調達する需要がある,又は住宅を売却,購入賃貸する需要がある場合,出資調達契約,顧客との売買,購入賃貸借契約を締結する前に,住宅の抵当を解除しなければならない。ただし,出資者,住宅の買主,購入賃借人及び抵当権者が同意する場合を除く。

この項の規定に従い出資調達契約,顧客との売買,購入賃貸借契約を締結する前に住宅の抵当が解除されたことの確認は,住宅所在地の省級住宅管理機関の住宅が売却条件を備えていることの通知書中に明記される。

  • 自己の適法な土地上に将来形成住宅を建築する組織,個人;投資家の住宅建築投資プロジェクトの将来形成住宅を購入する組織,個人は,住宅を建築し,又は住宅を購入するために,ベトナムで活動している与信組織のために当該住宅に抵当権を設定することができる。 

148 条 住宅建築投資プロジェクトの抵当及び将来形成住宅の抵当に関する条件

  1. 住宅建築投資プロジェクトの抵当,将来形成住宅の抵当の条件は,以下のとおりである。
    1. 投資家が住宅建築投資プロジェクトの一部又は全部に抵当権を設定する場合,承認済みのプロジェクト記録,プロジェクトの技術設計及び権限を有する国家機関の証明書又は土地交付,土地賃貸決定がある。
    1. 投資家がプロジェクトで建築される将来形成住宅に抵当権を設定する場合,この項 a 号に規定される条件のほか,抵当住宅は建築に関する法令の規定に従い基礎の建設が完了していなければならず,この項 a 号の規定によるプロジェクトの一部又は全部の範囲に属していない。
    1. 組織,個人がこの法律第 147 条 2 項に規定される住宅に抵当権を設定する場合,土地に関する法令の規定に従い適法な土地使用権証明書があり,建築許可証が必要な場合は建築許可証がなければならない。

住宅建築投資プロジェクトの投資家の住宅を購入して将来形成住宅に抵当権を設定する場合,投資家と締結した住宅の売買契約書があり,住宅の売買契約の譲受人であるときは規定による住宅の売買契約の移転文書があり,売買契約中で合意された進度に従って投資家に住宅の代金を支払ったことを証明する文書があり,売買契約又は売買契約の移転について不服申立て,提訴,紛争があってはならない。

  • 住宅建築投資プロジェクトの抵当及び将来形成住宅の抵当は,この法律の規定に基づく場合に限り実施することができる。住宅建築投資プロジェクト又は将来形成住宅である財産の抵当がこの法律の規定に反する場合,法的効力を生じない。

149 条 抵当住宅,抵当住宅建築投資プロジェクトの財産の処分

  1. 将来形成住宅の抵当の処分を含む住宅である担保財産の処分は,この法律,民事に関する法令及び関連法令の規定に従って行う。
  2. 住宅建築投資プロジェクトである抵当財産の処分は,民事に関する法令及び関連法令の規定に従って行う。プロジェクトを譲り受ける組織,個人は,この法律の規定によるプロジェクトの投資家となる条件を満たし,不動産事業に関する法令の規定に従いプロジェクトの譲渡について権限を有する国家機関に登録しなければならない。

 

 

 

 

第九節 住宅による出資

150 条 住宅による出資の条件,手続

  1. 住宅の所有者,又は商業住宅を建築するプロジェクトの投資家は,法令が当該住宅における事業を禁止していない分野で事業を営むため,住宅により出資することができる。住宅による出資は,この法律第 121 条に規定される内容を有する契約により行わなければならない。
  2. 出資する住宅は,既在住宅であり,この法律第 118 条 1 項に規定される条  件を満たさなければならない。

151 条 共同所有住宅による出資

  1. 共同所有住宅による出資は,共同所有者全員の同意を得なければならない。
  2. 共同所有住宅の所有者は,住宅による出資契約に署名し,又は住宅による出資契約に署名する代表者の選出について文書により合意することができる。

152 条 賃貸中の住宅による出資

  1. 賃貸中の住宅の所有者は,賃借人に対し住宅による出資について事前に文書により通知しなければならない。
  2. 賃借人は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,出資者と締結した住宅の賃貸借契約の期間が満了するまで引続き住宅を賃借することができる。

第十節 住宅の使用貸借,寄宿

153 条 共同所有住宅の使用貸借,寄宿 

  1. 合一共同所有に属する住宅の使用貸借,寄宿の許諾は,その住宅の所有者全員の同意を得なければならない。持分のある共同所有住宅の所有者である場合,自己の所有部分を使用貸し,寄宿を許諾することができるが,ほかの共同所有者の適法な権利に影響を与えてはならない。住宅の使用貸人,寄宿許諾者は,この法律第 154 条の規定及び契約中の合意に従い契約が終了するときは,住宅を取り戻し,寄宿の許諾を終了することができる。
  2. 共同所有住宅の所有者は,代表者に対し住宅の使用貸借,寄宿契約への署名を委任することができる。

154 条 住宅の使用貸借,寄宿が終了する場合

  1. 使用貸借,寄宿の期間が満了した。
  2. 使用貸借,寄宿している住宅が滅失した。
  3. 住宅の使用借人,寄宿舎が死亡し,又は裁判所の失踪宣告を受けた。
  4. 使用貸借,寄宿している住宅が倒壊するおそれがあり,又は権限を有する国家機関の収去,解体又は土地回収決定を受けた。
  5. 各当事者の合意による。

 

 

 

 

第十一節 住宅管理の委任

155 条 住宅管理の委任の範囲,内容

  1. 住宅管理の委任とは,住宅の所有者がほかの組織,個人に対し,委任期間中,住宅の管理,使用に関する住宅の所有者の権利の行使,義務の履行を委任することをいう。住宅管理の委任は,既在住宅に限りすることができる。
  2. 住宅の管理,使用の委任の内容,期間は 各当事者の合意により,委任契約中に明記される。当事者間に委任期間に関する合意がない場合,委任契約は,委任契約書に署名した日から 1 年間効力を有する。
  3. 住宅管理の委任者は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,管理費用を支払わなければならない。

156 条 共同所有住宅の管理委任

  1. 合一共同所有に属する住宅の管理委任は,共同所有住宅の所有者の同意を得なければならない。持分のある共同所有住宅の所有者は,自己所有部分の管理を他人に委任することができるが,ほかの共同所有者の権利に影響を与えてはならない。
  2. 共同所有住宅の所有者は,ほかの所有者に対し住宅管理の委任について通知する責任を負う。ただし,住宅管理の委任を受けた者が同時に当該住宅の共同所有者である場合を除く。

157 条 住宅管理委任契約が終了する場合

  1. 委任契約の期間が満了した。
  2. 委任した内容が実施された。
  3. 管理を委任した住宅が滅失した。
  4. 委任者又は受任者は,この法律第 158 条の規定に従い,住宅管理委任契約を一方的に終了することができる。 
  5. 住宅管理の委任者又は受任者が死亡した。
  6. 住宅管理の受任者が裁判所の失踪宣告,又は民事行為能力喪失宣告を受けた。
  7. 各当事者の合意による。

158 条 住宅管理委任契約の一方的終了

  1. 住宅管理の委任者は,以下のいずれかの場合,委任契約を一方的に終了することができる。 
    1. 委任が管理費用付きのときは,委任者は受任者に対し委任契約の一方的終了について事前に通知しなくてよいが,受任者に対し受任者が実施した業務に対応する管理費用を支払い,損害を賠償しなければならない。
    1. 委任が管理費用付きでないときは,当事者間に別段の合意がある場合を除き,委任者は受任者に対し委任契約の一方的終了について少なくとも 30 日前に通知しなければならない。
  2. 受任者は,以下のいずれかの場合,委任契約を一方的に終了することができる。
    1. 委任が管理費用付きのときは,委任者に対し委任契約の一方的終了について事前に通知しなくてよいが,損害を賠償しなければならない(あれば)。
    1. 委任が管理費用付きでないときは,当事者間に別段の合意がある場合を除き,受任者は委任者に対し委任契約の一方的終了について少なくとも 30 日前に通知しなければならない
  3. 委任者及び受任者は,住宅管理委任契約の一方的終了について関連を有するする第三者に通知しなければならない。

 

 

 

第九章 外国の組織,個人のベトナムにおける住宅所有権

159 条 ベトナムにおいて住宅を所有することができる外国の組織,個人の対象者及び住宅の所有形式

  1. ベトナムにおいて住宅を所有することができる外国の組織,個人は,以下のとおりである。
    1. この法律及び関連法令の規定に従いベトナムにおいてプロジェクトによる住宅の建築投資をする外国の組織,個人
    1. 非内国企業,外国企業の支店,駐在事務所,外国投資基金及びベトナムで活動している外国銀行の支店(以下「外国組織」と総称する)。
    1. ベトナムへ入国できる外国の個人。
  2. 外国の組織,個人は,以下の形式によりベトナムにおいて住宅を所有することができる。
    1. この法律及び関連法令の規定に従いベトナムにおいてプロジェクトによる住宅の建築投資をする。
    1. 住宅建築投資プロジェクトのアパートメント及び個別住宅を含む商業住宅の購入,購入賃借,受贈,相続。ただし,政府の規定による国防,治安保障区域を除く。

160 条 ベトナムにおいて住宅を所有することができる外国の組織,個人の条件

  1. この法律第 159 条 1 項 a 号に規定される外国の組織,個人については,投資証明書を有し,この法律及び関連法令の規定に従ったプロジェクトにより建築される住宅を有しなければならない。
  2. この法律第 159 条 1 項 b 号に規定される外国の組織については,ベトナムの権限を有する国家機関から発給を受けた投資証明書,又はベトナムにおける活動を許可する書類(以下「投資証明書」と総称する)を有しなければならない。
  3. この法律第 159 条 1 項 c 号に規定される外国の個人は,ベトナムへの入国を許可されており,法令の規定による外交,領事特権,免責を享受する対象者でない。
  4. 政府は,ベトナムにおいて住宅を所有することができる外国の組織,個人の対象者,条件の証明書類について詳細を規定する。

161 条 外国の組織,個人である住宅所有者の権利

1. この法律第 159 条 1 項 a 号に規定される外国の組織,個人は,この法律第

10 条の規定に従い所有者の権利を行使することができる。借地上に住宅を建築する場合,住宅の賃貸に限りすることができる。

2. この法律第 159 条 1 項 b 号及び c 号に規定される外国の組織,個人は,ベトナム国民と同一の住宅所有者の権利を有するが,以下の規定を遵守しなければならない。

  1. 共同住宅の一つの建物内のアパートメントの数の 30 パーセントを超えない限度で,購入,購入賃借,受贈,相続及び所有することができる。別荘,連結住宅を含む個別住宅については,一つの坊級行政単位と同等の人口の一つの区域内では,250 軒を超えない限度で購入,購入賃借,受贈,相続及び所有することができる。

  一つの坊級行政単位と同等の人口を有する一つの区域に複数の共同住宅がある,又は一つの通りに個別住宅がある場合,政府は,外国の組織,個人が購入,購入賃借,受贈,相続及び所有することができるアパートメントの数,個別住宅の数を具体的に規定する。

  • この法律第 159 条 2 項 b 号に規定されない住宅を受贈,相続する場合,又はこの項 a 号に規定される住宅数を超える場合,当該住宅の価額のみを享受することができる。
  • 外国の個人については,住宅の売買,購入賃貸借,贈与契約の取引,相続における合意により住宅を所有することができるが,最長でも証明書の発給を受けた日から 50 年を超えず,需要があれば,政府の規定に従い期限を延長することができる。住宅の所有期限は証明書に明記される。

外国の個人がベトナム国民又は海外定住ベトナム人と結婚した場合,住宅を安定的,長期的に所有することができ,ベトナム国民と同一の所有者の権利を有する。

  • 外国の組織については,住宅の売買,購入賃貸借,贈与契約の取引,相続における合意により住宅を所有することができるが,最長でも,延長した期限も含め,当該組織に対して発給された投資証明書に記載された期限を超えない。住宅の所有期限は証明書の発給を受けた日から算定され,証明書に明記される。

đ) この法律の規定による住宅の所有期限が到来する前に,所有者は,ベトナムのおいて住宅を所有することができる対象者に対し贈与又は売却することができる。住宅の所有期限を経過したが,所有者が売却,贈与しない場合,当該住宅は国有となる。

162 条 外国の組織,個人である所有者の義務

1. この法律第 159 条 1 項 a 号に規定される外国の組織,個人は,この法律第

11 条の規定に従い所有者の義務を負う。

2. この法律第 159 条 1 項 b 号及び c 号に規定される外国の組織,個人は,ベトナム国民と同一の義務を負うが,以下の規定を遵守しなければならない。

  1. 外国の個人である所有者は,法令が禁止していない目的で使用するために住宅を賃貸することができるが,住宅を賃貸する前に,所有者は,建設大臣の規定に従い,住宅所在地の県級住宅管理機関に対し住宅の賃貸について文書により通知し,法令の規定に従い,住宅の賃貸について納税しなければならない。

外国の個人がベトナム国民又は海外定住ベトナム人と結婚した場合,ベトナム国民と同一の義務を負う。

  • 外国の組織である所有者は,当該組織で勤務している者の居住のためにのみ住宅を使用することができ,住宅を賃貸し,事務所とし,又はその他の目的で使用してはならない。
  • ベトナムで活動している与信組織を通じて住宅の購入代金,購入賃料を支払う。

 

 

 

 

第十章 住宅に関する情報システム及びデータベース

163 条 住宅に関する情報システム

住宅に関する情報システムは,以下のものからなる。

  1. 住宅情報技術インフラストラクチャ
  2. オペレーティングソフトウェア,システムソフトウェア及びアプリケーションソフトウェアシステム
  3. 住宅に関するデータベース

164.条 住宅に関するデータベース

  1. 住宅に関するデータベースは,中央から地方まで統一的に建築,運用されなければならならず,土地に関するデータベース及び情報と連携する。
  2. 住宅に関するデータベースは,以下のものからなる。
    1. 住宅に関する法規範文書の体系に関するデータベース
    1. 住宅開発プログラム,計画,住宅に関する調査,統計,住宅建築投資プロジェクトに関する基本情報,住宅の数量,種別,住宅の面積,住宅建築投資用土の面積を含む住宅開発に関するデータベース
    1. 住宅の管理,使用過程における変動に関するデータベース d) 住宅に関するその他のデータベース
  3. 10 年に一度定期的に,政府は住宅の調査,統計を全国の人口総調査とともに行う。国家の人口及び住宅の調査,統計の期間中,政府は,住宅に関する政策の策定の基礎とするため住宅に関する調査,統計を行う。
  4. 住宅に関する基本統計の指標は,国家の総合統計指標に反映されなければならない。
  5. 住宅に関する調査,統計の経費は,国家の予算から確保される。

165 条 住宅に関する情報システム及びデータベースの構築権限,責任

  1. 建設省は,国家住宅情報システム,データベースを構築し,管理,活用する責任を負う。各省庁及び省級人民委員会は,建設省が国家住宅情報システムを更新することができるよう住宅に関するデータの提供に協力する責任を負う。
  2. 省級人民委員会は,地方の住宅に関する情報システム及びデータベースを構築,管理,活用し,住宅に関する情報とその住宅が付着する土地に関する情報の公開性,統一性を確保する責任を負う。
  3. 国は,住宅に関する情報システム及びデータベースを構築,運営,維持するための予算を手配する。建設省は,このシステムの構築,管理,運営,維持するための予算について政府首相に提案する。
  4. 政府は,住宅に関するデータベースの構築,構造,統計する情報,指標及び住宅に関する情報システム及びデータベースの管理,運営,活用について詳細を規定する。

166 条 住宅に関する情報及びデータベースの管理,開発

  1. 住宅に関するデータベースは厳密に管理され,効果的に,目的どおりに活用,使用しなければならない。
  2. 権限を有する機関が提供する住宅に関するデータベース内の情報は,紙の記録,文書と同一の法的価値を有する。
  3. この条第 4 項に規定される住宅に関するデータベース及び情報の管理機関は,組織,個人が必要なときは所定の手順,手続に従って住宅に関する情報を活用,使用することができるよう条件を整備しなければならない。

  組織,個人は,必要なときは,住宅に関する情報の提供を受けることができ,規定による情報活用使用経費を納付しなければならない。ただし,権限を有する国家機関の請求により,国家管理業務,法令違反行為の調査,検証,処分に資するため情報を提供する場合を除く。

  • 建設省は,全国の住宅に関するデータベース及び情報を統一的に管理する。省級,県級住宅管理機関は,管轄区域の住宅に関するデータベース及び情報を管理する。

 

 

第十一章 住宅に関する国家管理

167 条 住宅に関する国家管理の内容

  1. 住宅開発,管理の戦略,提案,プログラム,計画を策定し,実施を指導する。
  2. 住宅に関する法規範文書,住宅の開発,管理のための機制,政策を発行し,実施する。
  3. 技術,住宅の分類及び住宅の品質管理に関する基準,規格を策定し,発行する。
  4. 住宅建築プロジェクトの投資方針を決定し,住宅建築投資プロジェクトを査定,承認,調整し,実施を停止をする。
  5. 住宅に関する記録を管理し;国有住宅を管理し,住宅建築投資プロジェクトを管理する。
  6. 調査,統計し,住宅に関するデータベース及び情報システムを構築,管理,運営,活用し,住宅に関する情報を提供する。 
  7. 住宅分野における科学技術を研究,応用し,法令に関する知識を普及する。
  8. 住宅の開発及び管理のための人材を養成し,研修を行う。
  9. 住宅に関する公的役務活動を管理する。
  10. 共同住宅の管理運営の専門的知識,技能の教育,研修施設を公認し;共同住宅の管理運営に関する研修コースの修了証明書を発給し;共同住宅の格付けを公認し;住宅分野における専門的知識,技能の研修証明書を発給,回収する。
  11. 住宅分野について案内,促進,検査し,不服申立て,紛争,告訴告発を解決し,違反を処理する。
  12. 住宅分野について国際協力をする。

168 条 国家住宅開発戦略の策定

  1. 時期ごとの国土の経済・経済開発戦略に基づき,建設省は,時期ごとの国家住宅開発戦略を策定し,政府首相に提出して承認を受ける責任を負う。 
  2. 国家住宅開発戦略は,以下の内容からなる。
    1. 住宅開発の観点
    1. 最低住宅面積,都市,農村及び全国の一人当たりの住宅面積,各種別の住宅の開発の比率;住宅について困難を抱える対象者のための社会住宅の面積の需要を含む住宅開発の目標
    1. 住宅開発のための任務及び解決策。その中で社会住宅政策の享受対象者ごとの住宅開発目標プログラムを明確に確定する。
    1. 住宅の開発及び管理に関する中央機関及び省級人民委員会の責任 đ) その他の関連する内容
  3. 都市,農村及び全国における一人当たりの平均住宅面積;住宅の数;新築住宅床面積;住宅の品質;住宅について困難を抱え国の住宅に関する支援を受ける対象者を含む国家住宅開発戦略中の住宅開発に関する基本指標は,時期ごとの国の経済・社会発展開発ミッションに反映されなければならない。

169 条 住宅開発プログラム,計画の評決,承認

  1. 地方の住宅開発プログラム,計画の評決,承認は,以下のとおり行う。
    1. 中央所轄都市については,都市人民委員会がこの法律第 15 条の規定に従い住宅開発プログラムを策定し,同級の人民評議会に評決のため提出する前に,建設省の意見を聴取しなければならない。都市人民委員会は,同級の人民評議会が評決した後に,プログラムを承認して実施展開する。

  建設省の意見を聴取する内容は,住宅建築の企画,土地の手配;対象者ごとの再定住計画案,一人当たりの平均住宅面積;建築投資が必要な住宅の数,面積,種別ごとの比率;投資資金の予定;住宅開発に関する優遇措置;住宅開発プログラムの実施展開に関する関係機関の責任を含む。

  • 省については,省人民委員会がこの法律第 15 条の規定に従い住宅開発プログラムを策定して同級の人民評議会に評決のため提出する。
    • 承認済みの住宅開発プログラムに従い,省級人民委員会は,この法律第

15 条の規定に従い管轄区域の住宅開発計画を策定,承認する責任を負う。計画に住宅開発のための予算の使用を記載する場合,承認する前に同級の人民評議会の意見を聴取しなければならない。

  • 地方の住宅開発プログラム,計画の構築の手順,手続及び内容は,政府の規定に従う。

170 条 住宅建築プロジェクトの投資方針の決定

  1. 公投資資本による再定住用住宅,社会住宅,公務住宅の建築投資プロジェクトは,プロジェクトを策定,承認する前に,公投資法の規定に従いプロジェクト投資方針を決定する。投資プロジェクトが中央資本による場合,建設省の査定意見を聴取しなければならない。投資プロジェクトが地方資本による場合,省級住宅管理機関の査定意見を聴取しなければならない。
  2. 投資法の規定により投資方針決定の対象となるその他の住宅建築プロジェクトについては,投資法の規定に従う。投資法の規定により投資方針決定の対象外のプロジェクトについては,政府の規定に従い投資方針を承認する。

171 条 住宅建築プロジェクトの投資方針承認申請記録

  1. この法律第 170 条 1 項に規定される場合,投資法による投資方針承認申請記録のほか,この条第 2 項 a 号及び b 号に規定される書類がなければならない。
  2. 投資法の規定により投資方針を決定する場合,投資法の規定による投資方針承認申請記録のほか,以下の書類を提出しなければならない。
    1. 住宅建築プロジェクトの方針承認申請書。申請書には,承認が必要な法的根拠,内容及び承認を申請する理由を明記する。
    1. 権限を有する国家機関が承認したプロジェクトを行う区域の詳細企画図

172 条 住宅分野における科学技術の研究,応用及び国際協力

  1. 国は,住宅の開発及び管理の要求に資するため,科学技術の研究,応用及び国際協力を奨励する政策をとり,条件を整備する。
  2. 国は,品質,進度を保証し,エネルギーを節約した住宅の建築及び建築費の削減のため,新たな科学技術,新たな資材の応用の経費を支援する。

173 条 住宅の開発,管理に関する専門的知識,技能の教育,研修

  1. 各級,部門の住宅の管理,開発分野で勤務する公務員,職員は,住宅の開発,管理に関する専門的知識,技能の教育,研修コースに参加しなければならない。共同住宅の管理運営組織において管理,経営,勤務する個人は,共同住宅の管理運営に関する専門的知識、技能の教育,研修コースに参加し,建設大臣の規定によるコースの修了証明書を有しなければならない。
  2. 建設大臣は,全国の住宅の開発,管理分野で勤務する公務員,職員に対する住宅の開発,管理に関する専門的知識,技能の教育,研修のプログラム及び内容を規定する。

174 条 住宅に関する国家管理機関

  1. 政府は,全国で統一的に住宅の国家管理を行う。
  2. 建設省は,政府が全国で統一的に住宅の国家管理を行うことについて責任を負う。
  3. 関係省庁は,自己の機能,任務,権限の範囲内で住宅の国家管理を行い,建設省と協力して住宅に関する法令の規定を執行する。
  4. 各級の人民委員会は,この法律の規定及び政府の権限分配に従い管轄区域で住宅の国家管理を行う。

175 条 建設省の責任

  1. 住宅の法規範文書,開発戦略,提案,プログラム,計画の策定を主管し,政府,政府首相に提出する。
  2. 権限に従い住宅に関する法規範文書を発行し,執行する。技術,住宅の分類の基準,規格;社会住宅,再定住用住宅,国有住宅の賃料,購入賃料,売却代金の確定方法,形式;社会住宅,再定住用住宅,国有住宅の売買,賃貸借,購入賃貸借契約の内容,様式を規定する。
  3. 各中央所轄都市の住宅開発プログラムについて意見を述べる。中央機関の公務住宅開発計画を査定して政府首相に提出する。住宅建築プロジェクトの投資方針を査定する。この法律の規定に反する住宅建築投資プロジェクトの実施を調整又は停止する。
  4. 中央機関の国有住宅を管理し,住宅に関する記録を保管する。
  5. 調査,統計を行い,住宅に関するデータベース及び情報システムを構築し,管理,運営,活用し,国家住宅データベースの情報を提供する。
  6. 住宅分野における科学技術の研究,応用,法律知識の普及を組織する。
  7. 住宅の開発,管理に関する専門的知識,技能の教育,研修を組織し,共同住宅の管理運営の専門的知識,技能の教育,研修施設を公認し,共同住宅の管理運営に関する研修コースの修了証明書の発給について規定し,住宅の格付けについて規定し,公認する。
  8. 住宅分野について案内,督促,検査し,不服申立て,紛争,告訴告発を解決し,違反を処理する。
  9. 住宅分野における国際協力を行う。
  10. この法律に規定される,又は政府,政府首相から委ねられた住宅分野におけるその他の義務を履行する。

176 条 住宅の査察

  1. 建設省,建築局に属する建築査察官は,住宅の開発及び管理,使用に関わる組織,世帯,個人に対し住宅に関する行政査察及び専門査察を実施する。
  2. 住宅に関する専門査察は,以下のものからなる。
    1. 住宅の開発及び管理,使用に関する組織,世帯,個人の法令遵守の査察
    1. 住宅に関する法令違反を発見,防止し,権限に基づいて処理し,又は権限を有する国家機関に建議する。
  3. 建設省は,全国で住宅に関する専門査察を指導し,実施する責任を負う。建築局は,地方で住宅に関する専門査察を実施する責任を負う。
  4. 政府はこの条について詳細を規定する。

第十二章

住宅に関する紛争,不服申立て,告訴告発の解決及び法律違反の処理

第一節 住宅に関する紛争,不服申立て,告訴の解決

177 条 住宅に関する紛争の解決

  1. 国は,各当事者が住宅に関する紛争を和解により解決することを奨励する。
  2. 組織,個人の所有する住宅の所有権,使用権に関する紛争,住宅に関する契約,共同住宅の管理運営契約に関する紛争は,人民裁判所が法令の規定に従って解決する。
  3. 国有住宅の管理,使用についての紛争は,地方の管理下の住宅が省級人民委員会により処理され,中央機関下の管理住宅が建設省により処理される。省級人民委員会または建設省の決定に同意しない場合,行政手続上の法律の規定に従って人民裁判所に申し立てることができる。
  4. 共同住宅の管理運営経費,共同住宅の共同所有部分のメンテナンス経費の管理,使用に関する紛争は,住宅所在地の省級人民委員会が解決する。省級人民委員会の決定に同意しない場合,行政訴訟に関する法令の規定に従い人民裁判所に訴えを提起することができる。

178 条 住宅に関する不服申立て,告訴告発及び不服申立て,告訴告発の解決

  1. 住宅の開発及び管理に関連する不服申立て,告訴告発及び不服申立て,告訴告発の解決は,不服申立法,告訴告発法の規定による。
  2. 住宅について権限を有する国家機関の不服申立て,告訴告発の解決決定,又は裁判所の判決,決定が法的効力を生じたときは,関係当事者は当該決定又は判決を執行しなければならない。

第二節 住宅に関する法令違反の処分

179 条 住宅に関する法令違反者の処分

  1. 住宅に関する法令に違反する行為をした者は,違反の性質,程度に応じて,法令の規定に従い行政処分又は刑事責任の追及を受ける。
  2. 公務を執行する際に以下の違反行為をした者は,違反の性質,程度に応じて,懲戒処分,行政処分又は刑事責任の追及を受ける。
    1. 職務,権限を濫用し,住宅建築プロジェクトの投資方針の決定;住宅建築プロジェクトの査定,承認;住宅の売却価格,賃料額,購入賃料額の決定,査定;住宅に関する支援政策の実施;住宅に関する財務義務の確定;住宅に関する情報の提供に関する法令の規定,及びこの法律に規定される住宅の開発,管理,取引に関するその他の規定に違反した。
    1. 無責任に管理して住宅に関する法令違反を惹起し,又はその他の違反行為をし,国の利益,住宅開発に関わる組織,世帯,個人,住宅の適法な所有者及び使用者の適法な権利及び利益に損害を与えた。
    1. 住宅分野の行政手順,手続に関する規定,住宅の開発,管理の報告,統計に関する規定に違反した。
  3. 政府はこの条について詳細を規定される。

180 条 住宅に関する法令に違反し,国,組織,世帯,個人に損害を与えた場合の処理 

住宅に関する法令に違反し,国の利益,組織,世帯,個人の適法な権利及び利益に損害を引き起こした人は,この法律第 179 条の規定に従い処分を受けるほか,国又は被害者に損害を賠償しなければならない。

第十三章 施行条項

181 条 施行効力

  1. この法律は,2015 年 7 月 1 日から執行効力を生ずる。
  2. 法律 34/2009/QH12 及び法律 38/2009/QH12 によりいくつかの条項が修正,補充された住宅法 56/2005/QH11,ベトナムにおける外国の組織,個人による住宅の購入及び所有の試行に関する国会決議 19/2008/QH12 号は,この法律が施行効力を生ずる日から効力を失う。 

182 条 経過規定

  1. この法律が施行効力を生ずる日の前に承認済みの住宅建築投資プロジェクトは,この法律の規定に従い再度承認を受ける必要はない。ただし,国が承認済みの規格を調整したことによりプロジェクトの内容を調整しなければならない場合,又はこの法律の規定に従い社会住宅若しくは賃貸用社会住宅を建築するために商業住宅建築投資プロジェクト内の土地を確保しなければならない場合を除く。

  地方の住宅開発プログラム,計画にないが既にプロジェクトの投資方針の承認を受けている社会住宅開発プロジェクトは,この法律の規定に従い引続き実施される。 

  • 投資家から商業住宅の引渡しを受けたが,この法律の施行効力が生ずる日までに権限を有する国家機関に対し住宅の証明書の発給申請書を提出していない場合,この法律の規定に従い住宅の売買契約を移転することができる。
  • この法律の施行効力が生ずる日までに管理委員会を設立した共同住宅については,所有者は,この法律に規定されるモデルに従って管理委員会に活動させるため再度投票し,又は管理委員会の任期が満了するまでモデルを維持して活動させることができる。
  • この法律の施行効力が生ずる日までに住宅の売買契約,購入賃貸借契約を締結した場合で,各当事者が住宅の保証期間,住宅の売買,購入賃貸借面積についてこの法律の規定と異なる合意をしたときは,各当事者は,合意に従って引続き履行し,又はこの法律の規定に従い再合意する。
  • 政府はこの条について詳細を規定する。

183 条 詳細の規定

政府,権限を有する機関は,法律中で委ねられた条項について詳細を規定する。

この法律は 2014 年 11 月 25 日,ベトナム社会主義共和国第 13 期国会第 8 会

期において可決された。 ^

                              国会議長         

                            Nguyễn Sinh Hùng  

 

 

 

 

ベトナム社会主義共和国統一企業法

ベトナム社会民主主義共和国

準拠法

ベトナム社会主義共和国統一企業法

会社の種類

有限会社・株式会社・合名会社・私営企業

二人以上有限会社

社員(会社構成メンバー、出資者、以下同じ)は、組織でも個人でも認められるが、社員の総数が50名を超えてはならない。

社員は、企業への出資額の範囲内で、企業の債務又はその他の財政義務に対し責任を負う。

有限会社は、企業登記証明書の発給を受けた日から法人格を有する(第47条)。

有限会社は、株を発行することができない。

一人有限会社

組織または個人により所有される一人社員有限会社

株式会社(第110条)

会社法定資本が複数の等分に分けられ、個々の等分が株式である。株主は、組織でも個人でも認められる。株主の人数は最低3名で、上限はない。

株主は,債務及びその他の企業の財産義務につき,企業に出資した額の範囲内で責任を負う。

株式会社は,企業登記証明書の発給を受けた日から法人格を有する。

株式会社は資本を呼び込むため各種の株式を発行する権利を有する。

合名会社(第172条)

会社の共同所有主として、同一の名前で共同経営する合名社員の数が、少なくとも2名である。

合名社員は、個人でなければならず、会社の債務についてすべての個人財産をもって責任を負う。

出資社員は、出資額の範囲内で会社の債務に対する責任を負う。

私人企業(第183条)

一人の個人が主体的に営み,企業の全活動に関し,自己の全財産をもって自ら責任を負う企業。

私人企業主の投資資本は企業主が自ら登記するところによる。私人企業主は,投資資本の総数を正確に登記する義務を負う。

商号

企業の外国語による名称及び企業の略称(第40条)

企業の外国語による名称とは,ベトナム語の名称をいずれかのラテン文字系統の外国語に翻訳した名称をいう。外国語に翻訳する際は,企業の固有の名称を維持し,又は外国語における相応する意味に従って翻訳することができる。

 企業が外国語による名称を有する場合,企業の外国語による名称は,企業の本店,支店,駐在事務所,経営拠点又は企業が発行する各取引文書,資料書類及び印刷物上に,企業のベトナム語の名称より小さな文字で印刷又は記載される。

 企業の略称は,ベトナム語の名称又は外国語による名称を略記したものである。

支店,駐在事務所及び経営拠点の名称(第41条)

 支店,駐在事務所,経営拠点の名称は,ベトナム語の文字表にある各文字,“F,J,Z,W”の各文字,数字及び記号により記載されなければならない。

 支店,駐在事務所の名称は,企業の名称に加え,支店については「支店」,駐在事務所については「駐在事務所」という熟語を含まなければならない。

 支店,駐在事務所,経営拠点の名称は,支店,駐在事務所及び経営拠点の建物に記載され,又は据え付けられなければならない。支店,駐在事務所の名称は,支店,駐在事務所が発行する各取引文書,資料書類及び印刷物上に,企業のベトナム語の名称より小さな文字で印刷又は記載される。

発起人(第4条)

企業を設立する又は設立するために出資する組織,個人

基本定款の記載事項(第25条)

・会社の本店の名称,住所;支店及び駐在事務所の名称及び住所

・経営分野,業種

・定款資本;株式会社については株式総数,株式の種類及び株式の種類ごとの額面額

・合名会社については各合名社員の,有限責任会社については会社所有者,社員の,株式会社については発起株主の氏名,住所,国籍及びその他の基本的な各特徴点,並びに有限責任会社及び合名会社については,それぞれの社員の持分及び持分の価額,及び発起株主の株式の数,株式の種類,種類ごとの株式の額面額

・有限責任会社,合名会社については社員の,株式会社については株主の権利及び義務

・管理組織機構

・有限責任会社,株式会社については法定代表者

・会社の決定の採択方式;内部紛争の解決原則

・管理者及び監査人に対する報酬,給与及び賞与の確定根拠及び方法

・社員が会社に対し,有限責任会社については持分,株式会社については株式の買取りを請求する権利を有する諸場合

・税引後の利潤の分配及び損失処理の原則

・会社が解散する各場合,解散の手順及び財産の清算手続

・会社の定款の修正,補充の方法

施行効力(第212条)

1. この法律は2015年7月1日から施行効力を有する。企業法(2005年11月29日付)及び企業法第170条を修正,補充する法律(2013年6月20日付)は,以下の各場合を除き,この法律が発効した日から施行効力を失う。

a) この法律が効力を有するより前に設立された有限責任会社については,出資の期限は会社の定款の定めるところによる。

b) 国が定款資本を掌握する各企業は,2017年7月1日より前に,この法律第189条2項及び3項の規定を確実に遵守するため,再構成を行わなければならない。

c) 2015年7月1日以前に出資,株式買入を行った国が掌握する株式又は持分を有さない各会社は,この法律第189条2項の規定に従う必要はないが,相互保有の割合を増やしてはならない。

加工 〇法務省令第三十二号 官報より

商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)第百四十八条(他の法令において準用する場合を含む。)の規定及び関係法令の規定に基づき、商業登記規則等の一部を改正する省令を次のように定める。

平成二十八年四月二十日

法務大臣 岩城光英

商業登記規則等の一部を改正する省令

(商業登記規則の一部改正)

第一条商業登記規則(昭和三十九年法務省令第二十三号)の一部を次のように改正する。

第二十一条を次のように改める。

(附属書類の閲覧請求)

第二十一条登記簿の附属書類の閲覧の申請書には、請求の目的として、閲覧しようとする部分を記載しなければならない。

2 前項の申請書には、第十八条第二項各号(第三号を除く。)に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載し、申請人又はその代表者若しくは代理人が署名し、又は押印しなければならない。

一申請人の住所

二代理人によつて請求するときは、代理人の住所

三前項の閲覧しようとする部分について利害関係を明らかにする事由

3 第一項の申請書には、次に掲げる書面を添付しなければならない。

一申請人が法人であるときは、当該法人(当該登記所の管轄区域内に本店若しくは主たる事務所を有するもの又は第一項の申請書に会社法人等番号を記載したものを除く。)の代表者の資格を証する書面

二 前項第三号の利害関係を証する書面

第六十一条中第九項を第十一項とし、第六項から第八項までを二項ずつ繰り下げ、同条第五項中「第二項(第三項」を「第四項(第五項」に改め、同項を同条第七項とし、同条中第二項から第四項までを二項ずつ繰り下げ、第一項の

次に次の二項を加える。

2 登記すべき事項につき次の各号に掲げる者全員の同意を要する場合には、申請書に、当該各号に定める事項を証する書面を添付しなければならない。

一株主

株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数(種類株式

発行会社にあつては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。次項において同じ。)及び議決権の数

二種類株主

当該種類株主全員の氏名又は名称及び住所並びに当該種類株主のそれぞ

れが有する当該種類の株式の数及び当該種類の株式に係る議決権の数

(議事録や同意書とは別に、会社が、株主はどこの誰か証明する書類を作って、登記する時に一緒に出してください。)

3 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第三百十九条第一項(同法第三百二十五条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。

一 十名

二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が三分の二に達するまでの人数

(議事録や同意書とは別に、会社が、(1)か(2)の書類を作って、登記する時に一緒に出してください。

(1)上位10名の株主はどこの誰か証明する書類

(2)議決権の3分の2までの株主(Aさん10個、Bさん10個、Cさん10個なら、2人分))

第九十二条中「第六十一条第七項」を「第六十一条第九項」に改める。

第百三条第三項中「第六十一条第五項」を「第六十一条第七項」に改める。

実質的所有者の透明性に関するG20 ハイレベル原則を実施するための日本の行動計画より抜粋

法人及び法的取極めの実質的所有者の透明性の重要性を認識し,日本は,ATF 基準を満たす模範を示す実質的所有者の透明性に関するG20 ハイレベル原則を実施するため,以下の行動をとることにコミットする。

2 特定事業者(金融機関及び指定非金融業者・職業専門家)が,法人又は法的取極めの実質的所有者を自然人まで遡って確認することを義務付け,その情報が十分で,正確かつ最新に保たれることを確保する。

3 法人及び法的取極めが資金洗浄・テロ資金供与等に利用されることを防止する観点から,現行の制度を充実させることによって,当局が法人の実質的所有者情報を確認することができるよう制度を整備する。

4 信託の受託者に対して,信託の委託者及び/又は受益者が法人である場合,当該法人を実質的に所有又は支配する自然人について取引時に確認することを求める。

(これは家族信託にも適用なのかな。)

5 顧客の実質的所有者を確認するため,日本において法人の設立を支援する者に対する監督及び法の執行の充実を図る。

8 透明性を阻害するおそれのある金融商品や株式保有形態が悪用されないための適切な措置が講じられていることを確保する。

加工 ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

法務省HPより

松尾 弘(慶應義塾大学)

大川 謙蔵(摂南大学)

平成 27 年 3 月

ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

松尾 弘 *1

大川 謙蔵 *2

〈目次〉 Ⅰ 序論

Ⅱ ラオスの政治・経済・社会 Ⅲ 民事関係法制の概要

Ⅳ 財産法制 Ⅴ 家族法制 Ⅵ 結論

【参考文献・参考情報】

Ⅰ 序論

 本調査研究は,ラオス(正式名称は「ラオス人民民主共和国」。以下,ラオスという)における民事関係法制を中心に,ラオスの法制度および法実務の現在の状況を分析するものである。本調査研究は,筆者らがこれまでにラオス,日本等で行った実地調査,インタビュー,資料・文献研究等に基づくものであり,情報の最終時点は,2015 年 2 月 28 日である。

 ラオスにおいては,①仏教の影響を受けた古代法,②フランスによる植民地時代に導入された近代法,③1975 年 12 月の王制廃止後に旧ソビエトやベトナムから導入された社会主義法,④1990 年代から導入された市場経済化を促すための法律と,国外から大きな影響を受けながらも,それをラオス社会に取り込み,独特な形でいわば「ラオス化」することにより,法制度が発展してきた。

ラオスは,現在は社会主義国であるが,1980 年代の後半から市場経済システムの要素を積極的に導入し,アジア諸国の中でも最も急速に,かつ安定的に発展している国の 1 つである。民事関係法制を中心とする法整備は,そうした経済発展を支えるものとしての側面と,そうした現実の変化を反映するものとしての側面をもち,両側面は相互作用の関係にあるとみられる。

以下では,とりわけ目覚ましい経済発展を示すようになった 1990 年代以降におけるラオスの民事関係法制の特色を分析し,今後の法改革の課題を検討し,さらには法整備協力のあり方についても展望する。

Ⅱ ラオスの政治・経済・社会

 1.政治体制の変遷

ラオスは国土面積約 236,800 ㎢,豊富な水資源,鉱物資源等をもち,潜在的な開発能力は高いものを秘めている。人口は約 658 万人(2013 年),人口成長率 2.2%であり,人口密度は 19 人/㎢にとどまる。宗教は主に仏教であるが,約 50 の民族を擁する多民族国家であり,多数派の低地ラオ族は約 56%にとどまり,丘陵地ラオ族(約 34%),高地ラオ族(約9%)と,文字通りの多民族・多文化社会である。

ラオスでは,1353 年にラオ族による統一王朝であるランサーン王国が成立した。しかし,18 世紀に北部のルアンパバーン王国,中部のヴィエンチャン王国,南部のチャンパサック王国に分裂し,シャム(タイ)およびカンボジアによる影響の下で,戦乱が続いた。その後,シャム(タイ)に従属するようになった前記 3 王国は,フランスにより,仏領インドシナ連邦に保護国として編入され(1889 年),フランスの植民地となった [1]

1945 年 3 月,日本軍の明号作戦により,仏領インドシナ連邦は解体し,同年 4 月,ラオスは日本の協力を受ける形で独立を宣言した。日本の敗戦後,再びフランスの植民地支配の下に置かれたが,仏領インドシナ連邦を復活させようとするフランスに対抗して 1946 年第 1 次インドシナ戦争が勃発し,1949 年,フランス連合内のラオス王国として独立し,1953 年 10 月,フランス・ラオス条約により,完全な独立を果たした。しかし,独立後のラオスでは,右派・左派・中立派による内戦が長期化した。

1973 年,アメリカのベトナム撤退を受け,1974 年に右派・左派・中立派の 3 派連合によるラオス民族連合政府が成立,1975 年の南ベトナム崩壊に伴い,同年 12 月,ラオス民族連合政府は王政の廃止とラオス人民民主共和国の樹立を宣言した。それ以来,ラオスでは社会主義政党であるラオス人民革命党による一党支配体制の下で,開発が進められてきた。

ラオス人民革命党は,革命直後の混乱と停滞を経て,1979 年以降は対外開放政策に転換し,1986 年の第 4 回人民革命党大会で「新思想」(チンタナカーン・マイ)・「新制度」(ラボップ・マイ)の導入を決定し,市場経済化を進めてきた。さらに,第 9 回人民革命党大会(2011 年)の決議を遂行するために策定された「第 7 次経済・社会開発 [2] か年計画」(2011~2015 年)は,「政治と治安,社会秩序の安定を厳格に保障する」ことを「総合目標」の 1 つに掲げた。また,「社会分野」の開発方針の中では,司法部門の主要目標の 1 つとして,民法典の編纂を掲げている 5。

 2.経済状況

 ラオスの主要産業は,2010 年段階では,農業(約 28%),鉱業(約 26%),サービス業(約 39%)である [3]。また,主要輸出品目は,鉱物,農産物・林産物,縫製品,電力等であり,主要輸入品目は投資関連財,消費財等である [4]。1 人当たり GDP は,2009 年に 907 ドル,2010年に1,088ドル,2011年に1,204ドルと増大し,経済成長率も,2009年は7.6%,2010 年は 8.1%,2011 年は 8.3%と順調にかつ急速に上昇している [5]

その要因として考えられるのは,①政治体制が比較的安定しており,経済取引や内外からの投資にとって好まれる安定した環境を提供していること,②それを受け,実際にタイ,中国,韓国,日本等からの投資が増大していること,また,③国内の資源開発,商品作物等の生産量も増大していることが挙げられる [6]

このようにラオス経済は,基本的に国内外からの投資を増大させ,比較的早くから輸出志向型の経済構造を取りつつあるように見える。そして,1990 年代から 2000 年代にかけては比較的安定した政治体制の下で,ゆっくり,着実に成長してきたが,2010 年代からは成長スピードが年々早くなっているように感じられる。

ラオスは 1997 年に ASEAN 加盟,2013 年に WTO 正式加盟を実現し,その準備過程において,銀行制度改革,税制改革,外国投資法の制定,国営企業の民営化等,経済構造を変更する手段として,関連する法整備を比較的早いペースで進めている点に特色がある。

 3.社会状況

ラオスは,仏教(上座部仏教)の継受を介して,インド,ミャンマー,タイ,中国等の文化的影響を受けつつも,倫理,文学,美術,芸能等の各分野でそれらをラオ語に反映させて取り込み,独自の文化を維持してきた。ラオス人の生活は,一般的に仏教の影響を強く受けており,信心深く,忍耐や受容の倫理を継承している。

ラオスは現在,首都のヴィエンチャン市を含むヴィエンチャン都および 17県(北部 8 県,中部 5 県,南部 4 県)から構成されている。現時点では社会主義による中央集権的体制の下で開発政策が推進される中,地方議会は存在せず,地方自治は将来的な課題として残されている。ラオスでは,かつて「各級人民議会及び人民行政委員会組織法」(1978 年 7 月30 日)により,県・郡・区の各レベルに地方人民議会が置かれたが,その後地方議会選挙は実施されない一方で,中央政府が地方行政委員を任命して地方統治を行ったために,地方人民議会も地方行政委員会も法令が目標としたようには機能せず,1991 年憲法によって地方人民議会も地方行政委員会も廃止された。その結果,地方の代表および意思決定機関は地方党委員会に一元化されることになった。その後,地方に対する権限移譲政策が行われ,県知事に権限が集中したが,これを監督する制度が不十分で,汚職が問題になった。これを監督すべく,地方人民議会を設置して地方行政機関を監督することが検討されたが,2009 年に設置が見送られた。このように今なお政府がラオス全土と人民を十全に掌握し,かつ地方の住民の意思を反映できる統治システムを構築しているとはいえない段階にあり,集権化と民主化の推進は重要な開発課題である [7]

すみれ

「北海道くらいの規模かな。」

 そうした社会状況の中で,ラオス社会の特色として看過できないのは,伝統的な村落の重要性である。ラオ人は伝統的にメコン川に沿った地域に北から南へと分散居住し,各地に村落を形成してきた。そうした小規模の村落が分立していたことも,隣国のタイ,カンボジア,ミャンマーや,外国勢力に対して劣勢を余儀なくされた原因でもあった。しかし,その反面,各々の村落には,一方で世俗の代表としての村長(ナイバーン)が共同作業の指揮やもめ事の解決等を行い,他方で寺院の僧侶やプー・ター神等の小祠の霊媒が農耕儀礼,村人の悩み事相談等を受け,包括的な生活規範を醸成していた。村落は自給自足的な農作業や宗教行事における共同作業を通じて,実質的な共同体を形成した。そうした自律的な小宇宙の中で,村落はより大規模な地域の政治勢力に関わりをもつことなく,村の範囲を相互に越えることなしに,共存し続けてきた [8]。  そうした村落の伝統は,現代のラオスにもなお根強く存続しているように思われる。この点については,各地の村落についての調査研究を蓄積してゆく必要があるが,その 1 例として,本調査研究では,ルアンパバーン県のパク・ウ村の村落における聴取調査の概要を記しておきたい [9]

パク・ウ村は,世帯数 94 戸,人口 474 人の地域コミュニティである。村の意思決定は,村委員会(村長,副村長,村の女性同盟・青年同盟・公安組織の各代表者等から構成される)が行っている。また,意思決定すべき問題によっては,必要に応じ,郡の役所,女性同盟(女性問題等について),が意思決定を支援することもある。

村委員会の構成員は,選挙によって選出され,任期は 3 年~5 年である。この選挙には,郡役所も協力している。選挙に際しては候補者リストが作成される。そのために,まず現職を記載したリストを作成し,ついで,自薦他薦により,リストに名前が付加する方法が取られている。18 歳以上の住民が選挙権をもつ。

パク・ウ村は 5 つのグループに分かれており,各グループにはリーダーがいる。この 5 グループおよび各グループに属する全世帯主の名前が,村の集会所の黒板にチョークで記されており,一目瞭然である(加除・修正も容易である)。

 出生・死亡は,村委員会に申告し,登録される。村委員会は,それを複数の村が集まった区に報告することになっている。

契約に基づく土地の売買等の権利移転の登記についても,村委員会(村長)が契約の真性を証明し(村長が契約書に署名する),その旨の証明書を発行することになっている。土地取引の当事者はこの証明書をもって郡の土地登記局に出頭し,登記することになっている。

番人

「村長が公証人のような役割をしているのかな。」

土地にかかる税(土地の利用目的によって異なる)は,区の役人が村に来て計算して請求する。村の構成員は,村委員会に支払い,村が取りまとめて区に引き渡す方法がとられている。これは村の連帯責任にも通じる制度であると考えられる。

 村長の報酬は毎月約 150,000 キープ(約 1500 円),副村長の報酬は毎月約 100,000 キープ(約 1000 円)である。村長はそれだけでは生活できないから,レストランの経営を本業としている。副村長の本業は農業であるとのことであった。村には公安組織があり(警察とは異なる),12 人がそれに属し,スケジュールを作成して24 時間体制で警備を行っている。公安組織の事務所はなく,村の入口に待機しつつ,時折見回りを行っている。

村には特別の役場はなく,簡易な作りの集会所が実質的に役場に当たる。村委員会の会議もここで開かれている(集会所が立てられる前は,付近の寺を使用していた。また,集会所に収容し切れないときも,寺で集会を開いている)。

村落が伝統的に果たしてきた重要な機能として,村落調停がある [10]。村落調停における紛争の実際例としては,①一般的問題として,自宅の庭に他人の鶏が侵入して糞をすることで迷惑を被っているという主張をめぐる紛争,隣家の屋根が長過ぎて,自分の家の庭に雨が落ちて迷惑であるという主張をめぐる紛争,子ども同士が一緒に遊んでいて喧嘩をしたという主張をめぐる紛争,②家族関係の問題として,夫が他県(市)で仕事をしていてなかなか帰って来ないという主張をめぐる紛争,⑤刑事に関わる問題として,窃盗(鶏を盗んだ等)をめぐる紛争等が典型的である。

調停は,紛争当事者が村落調停委員会に村落調停を申し立てることによって開始される [11]

 村落調停ユニットが調停を行うが,そのメンバーは首相令に基づき,選挙により,その結果に従って区の長が任命する。同メンバーは,教育を受けて知識がある人が選ばれるものとされているが,実際には青年同盟・女性同盟・長老グループ・公安組織等の各代表者が選ばれている。村落調停ユニットのメンバーには任期がない。自ら辞任することはできるが,その場合には後任を選ぶ必要があるものとされている。なお,村長はメンバーにはなれず,通常は副村長が村落調停ユニットのリーダーを兼ねることが多い。村人は,同メンバーは経験が重要であること,尊敬できる者がメンバーになる必要があること等により,同メンバーが交替することに対しては一般的に消極的であるとされている。同メンバーに対しては,日当等の支払はない。

 この村落調停は,前記首相令に基づくものとしては,2003 年から行われているが [12],パク・ウ村は 2011 年から「紛争のない村」(Case Free Village)として認定され,表彰されている [13]。この認定(表彰)制度が整備されたことにより,事件自体が減ったとされている。

実際,パク・ウ村では,調停不能となって裁判所に移管された事件はないとされている。  調停費用に関しては,通常は費用はかからない。例外的に,区の役人や他の村人に来てもらう必要があるような事件の場合には,その費用として 5 万~20 万キープ程度かかる。  調停に要する時間に関しては,最長で調停を 3 回実施し,7 日間かかった例がある。通常は,2,3 回であるとされる。

 村落調停の手続に関しては,①まずは 5 つあるグループの各リーダーが相談を受け,解決を提案する。また,複数のグループに関わる問題は,関連するグループのリーダー同士が話し合う。②それでも解決しないときは村長に相談する。③村長に相談しても解決しないときに初めて村落調停委員会が開かれる。

村落調停ユニットのメンバーの教育に関しては,過去の先例を用いた自己研鑚のほか,司法局の役人が時折村に来て,セミナー等を実施する。各村が 1 年に 2 回のワークショップを受けることができるとされている。

もっとも,パク・ウ村では,2003 年から調査時点までに 2 件しか調停は実施されていない。1 件は子どもによる金銭の窃盗,もう 1 件は離婚問題であった。最後のケースは 2005 年の離婚事件である。

調停に際しては記録を取り,保管している。当事者にも,調停の結果を記録したもののコピーを渡している。

 以上のように,伝統的な村落調停は,現在では国家制度に取り込まれつつも,基本的にはその機能を維持しているとみることができる [14]

Ⅲ 民事関係法制の概要

 1.ラオスの司法制度の現状

 ラオスの民事関係法制を検討するに先立ち,司法制度の現状を確認しておくことが便宜である [15]。ラオスの司法制度に関する主要データは,以下のとおりである [16]

 最高人民裁判所の統計(2013 年)によれば,ラオスには最高人民裁判所(1 か所),高等人民裁判所(3 か所),県人民裁判所または首都人民裁判所(16 か所),郡人民裁判所(39か所)が存在する [17]。裁判官数は約 375 人,軍事裁判官数は 29 人である。

 最高人民検察院の統計(2013 年)によれば,ラオスには約 348 人の検察官がおり,約 1070 人の検察事務官が存在する。

 ラオス弁護士会(the Lao Bar Association: LBA)に登録された弁護士数(2013 年 12 月 30 日)は 146 人であり,ほかに 23 人のインターン生が,近々弁護士登録する予定である。他に約 40 人の法律コンサルタントが活動しているが,LBA には登録されておらず,裁判所で弁論等の活動をすることはできない。

ラオスでは,人口比(10 万人当たり)で比較した場合の裁判官・検察官・弁護士という主要法曹人口の相対的割合において,裁判官の数が比較的多いのに対し,弁護士の数が極端に少ないという特色がある [18]。その一因は,政府主導による法運営の中で,事件解決のために職権主義的に関わる裁判官および検察官の果たす役割が大きいこと,それと相関的に,弁護士に固有の職務の意義やその必要性についての認識・理解が未成熟な中で,弁護士に対する実務的要請が少ないことにもよると考えられる。

 ヴィエンチャン首都裁判所に第 1 審が係属した民事事件数(2013 年)は,331 件であり,そのうち 166 件が判決済または終了済で,145 件が係属中である。他に同裁判所には 68 件の家事事件の申立があり,44 件が終了済で,24 件が係属中である。

 刑事事件は,同じくヴィエンチャン首都裁判所に第 1 審が係属した数(2012 年)は,931件であり,851 件が終了済,80 件が未済である。

 ちなみに,裁判官が 1 人当たり抱えている事件数は 200 件程度であるが,減少傾向にあるとされている。その原因として,39 の簡易裁判所が設けられ,高等裁判所も北部・中部・南部の 3 か所に設置されたことが大きいと考えられている。事件解決に要する時間は,事案によって大きく異なるが,証拠に問題がなければ,第 1 審では 2 か月程度,控訴審では 2 週間~3 週間で判決が下される。他方,証拠が不十分な場合は,裁判官が職権で調査できるし,しているとの回答が注目される。なお,裁判官の報酬は,現在は特に根拠法規がなく,

40 歳前後の裁判官で,正式な給与は 100 万キップ程度であるとの回答がされている 22。

 2.ラオス法の法源と個人の権利・義務  民事関係法制の制度的基盤として,最初に,ラオスにおける法源の状況および個人の基本的な権利・義務の根拠がどのように捉えられているかを確認しておきたい。

 ラオス法の法源としては,①憲法,②法律,③国民議会決議,④国民議会常務委員会の決議,⑤国家主席令,⑥政府決議,⑦首相による命令・決定・通達,⑧大臣による命令・決定・通達,⑨県知事による命令・決定・通達,郡長による命令・決定・通達,⑩村の規則がある。

 憲法は第 1 条から第 98 条まで存在し,その第 34 条以下の部分に第 4 章として「国民の基本的権利及び義務」を定め,またラオス国籍法 2 条 1 項において,ラオス国家に対する個人としての市民の権利義務の付与およびラオス国家の市民に対する権利義務の付与について定められている。ここでいうラオス国民(市民)とはラオス国籍を有する者であり(国籍法 2 条 1 項),ラオス国籍は出生,帰化,およびラオス国籍の再取得により取得される(国籍法 9 条)。なお,国籍法にはそれら以外にも,父母の一方がラオス市民である場合の子,無国籍者を父母として出生した子,父母が知れない子,および外国市民または無国籍者についての国籍取得に関する規定が存在する(国籍法 11 条ないし 14 条)。

 3.ラオスにおける民事関係法制の形成  ラオスにはフランス統治下で編纂された民法典(27 章 345 か条。1950 年 3 月 31 日法律68 号)23が存在したが,ラオス王国の独立(1953 年 10 月)後,クーデタを伴う内戦状態が続いた末にラオス人民民主共和国の成立に至ったため,形式的には承継されていない。  ラオスは 1975 年の王制廃止,ラオス人民民主共和国の設立以来,統治原理として社会主2014 年 11 月 25 日~12 月 2 日,2015 年 2 月 9 日~17 日におけるラオス裁判官(複数)へのインタビューによる。

  • 松尾 2007: 41 頁注 8,51 頁【表1】参照。義を採用している。ラオスにおける民事関係法制は,個別制定法の形式を中心に,1986 年の人民革命党大会における新思想(チンタナカーン・マイ)・新制度(ラボップ・マイ)の導入を契機に,1990 年を中心に相当短期間のうちに立て続けに形成された。その主要なものとして,1990 年に財産法,契約法,相続法,家族法,契約以外の債務法(2008 年 12月 8 日,契約法と合体し,契約内外債務法に統合),民事訴訟法(1994 年,2004 年,2012年に改正)が,1991 年には家族登録法(2008 年に改正),公証法が,1994 年には担保取引法(2005 年に改正)が,1997 年は土地法(2003 年改正)が制定された。2008 年には家族法,相続法,契約内外債務法等,民法関連法規の比較的規模の大きな改正が行われた。

ラオスの民事関係法制の制定準備プロセスでは,世界銀行の支援の影響が大きかったとみる分析もある [19]。しかし,民法関連の主要法規に関しては,まずは社会主義諸国の影響を無視することができない [20]。すなわち,1989 年にソビエト(当時)の法律アドバイザーがラオスを訪問し,社会主義法の改正についてアドバイスが行われた。1990 年の一連の立法のうち,財産法,契約法,契約外債務法(不法行為法),家族法,相続法の制定に際しては,ソビエトおよびベトナムの専門家がアドバイザーとしてラオスを訪れた。起草に際しては,ソビエト法,ベトナム法がモデルとされた。フランス法もわずかではあるが参考にされた。

なお,契約法および不法行為法は,2008 年に改正されたが,その際には外国人アドバイザーの手を経ずに,ラオス人のみによって起草された。

 他方,担保取引法(1994 年。2005 年改正)およびその施行のための首相令は,世界銀行グループに属する国際金融公社(International Finance Center: IFC)のアドバイザーがラオスを訪れ,起草支援をした。

 また,土地法(1997 年。2003 年改正)は,アメリカ(USAID),ドイツ(当時の GTZ。現在の GIZ),オーストラリア(AUSAID)の支援によって起草された [21]。また,アジア開発銀行(ADB)の支援でラオスのチームがオーストラリアに研修に行き,トレンズ・システム(Torrens System)について学んだ。2003 年の土地法改正は,土地登記手続など,主として手続規定が中心である。また,土地登記の管理が,財務省から資源・環境省が管轄する土地管理局に移管された。土地法は近い将来さらに改正が予想されている。とくに,土地のコンセッションの期限が到来した場合の更新,外国人を含む土地投資を促進するために土地使用権の種類を現在の 8 類型からさらに増やすことを計画している。

 一方,1990 年頃の立法初期においては,当時のラオス司法省の幹部(フランス語を解し,フランス民法の教育を受けている)に対し,アメリカのアドバイザーも関与した [22]。最近では,2008 年からアメリカが契約内外債務法を含む商事法のパフォーマンスを測定・評価するプロジェクトを実施している [23]

このような経緯を背景にして形成された現行ラオス民法の特色として,①個別立法積上主義による複数法規への分散,②比較的簡潔な条文構成,③フランス法的要素 [24]・社会主義法的要素・英米法的要素・国際取引法の要素の混合的性格,④ラオス人自身による立法と適用の試行錯誤の蓄積という特色を見出すことができる。

 1980 年代末以降における自由主義経済システムを導入するための一連の立法に対しては,ラオス内部でも,「世銀の主導に対応して一通りの早急な法整備を実施してきたものの,簡素な単行法の羅列の観を呈しており,内容的不足や深刻な不整合が存在すること」などへの危惧も生じていると指摘されていた [25]。その一方で,これらの個別単行法は裁判で適用され,試行錯誤的に部分改正も行われてきたことも看過すべきでないように思われる。

 概してラオスの立法は,外国法令をそのまま移植することはせず,ラオスの起草者自身が独自にアレンジし,原案を作成する方式をとっている。その他の点で,外国法・外国人の影響は非常に少なく,民事訴訟法に関してオーストラリアのアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)が協力した程度である。2003 年以降は日本人の専門家がほとんど唯一の外国人協力者となった [26]

 近年は民事訴訟法の改正(ラオスでは 2003 年改正憲法に基づき,司法行政権が司法省から最高人民裁判所に移管され,司法部の独立への動きが加速したことを背景に,権力分立へ向けた動きが加速した。その一環として,1990 年民事訴訟法(72 条~77 条)に存在した確定判決のやり直しを命じる監督審制度が,2004 年改正民事訴訟法で廃止され,上告制度が導入された(109 条~114 条)[27]。また,2012 年民事訴訟法改正の準備過程では,検察官の立会権を制限するなど,当事者主義の強化が争点になった。これについては検察院との間で議論が続いている [28]。また,国会との関係でも,裁判所の法解釈権限には制限があるとの理解が根強く残っており,そのことが判例集の作成・公刊,そうした活動を通じた判例(法)の形成に対しても制約要因となりうることにも注意する必要がある [29]。しかし,これらの点も踏まえつつ,全体的傾向として,ラオスでは司法部の独立に向けたプロセスをゆっくりと歩んでいるとみることができるように思われる),知的財産法の制定,企業法の実施,弁護士法の制定準備(ラオス弁護士会が起草し,現在は曖昧になっている外国法律事務所の設立に対する規制等も含む予定),包括的民法典の編纂準備へと進み,基本的にシビル・ロー体系の色彩を強めていることが注目される。

 このように経済・社会の変化に応じて個別立法積上主義で対応してきたラオスに対する法整備支援,とくに日本によるそれは,法令集,判決マニュアル,法律用語辞書,民・商法教科書等の作成支援等,ラオス人自身による法整備を比較的時間をかけて間接的に支援するプロセス志向型で実施されてきた [30][31]。こうした法整備および法整備支援のラオス・モデルが,今後,司法アクセスの拡充を含め,法整備と経済・政治・社会の発展の次の段階にどのように作用するか,注目される。

[32] 財産法制

 1.私有財産権の承認・保障  財産法は,ラオスの所有権秩序の根幹をなすものとして,基盤的な重要性をもつ。それは,財産権を定義し,それを 5 種類に分類し,各種財産権の対象,内容,取得,利用規制をしている。それは,一方では,「消費財,個人用途の商品,施設,住宅,家具,家畜及び個人所得」を対象とし,「必要に応じて自らの資産及び所得を占有,利用,収益,処分する権利」として「私有財産権」を定義し,その保護を保障している(財産法 1 条,2 条,20 条,21 条)。

これに加え,財産法と同日に成立した相続法(2008 年に改正)により,これを含む様々な財産権の法定相続または遺言による承継が認められたことにより(相続法旧 1 条・2 条・15 条・32 条・33 条,相続法 9 条・24 条など。財産法 35 条も参照),私有財産制度を承認している 36。

2.土地に対する所有権の観念  

ラオス憲法(2003 年改正)では,「土地については,国家共同体の所有に属し,国家は法律に従い,その土地を使用,譲渡及び相続する権利を保護する」(17 条)と規定する [33]。その結果,個々の国民(私人)がもちうるのは,国家によって認められた土地の「使用権」である [34]。もっとも,個々の国民(私人)が土地の「所有権」をもち,それが私人間で売買され,移転する旨の表現も行われている。

ラオス憲法制定に際して土地は誰のものかが議論され,国民全体のものであると観念され,財産法でも土地はラオス国家全体の所有とされ,個人には政府の管理下で使用権と相続権が認められるとされた [35]。その後,現在の考えでは,ラオス国民も土地の所有権をもっていると考えており,これについてはイギリス等のコモンウェルスにおける土地所有権概念(形式的には国王の所有であるが,実質的には国民が所有しうる)に類比する説明も行われている。

 こうした土地所有権観念の変化は,財産法・土地法の改正に反映している。元々財産法 20 条によれば,土地は自由に使用できず,売買も禁止されているが [36],市場経済の進展に伴い,政府通達により,土地の所有権は売買によって取得されることが認められた。2003 年土地法(改正)では,土地が売買の対象外である旨の規定が削除された。そして,土地使用権を売却,譲渡,交換によって他の者に与える権利が認められた(土地法 57 条。2003 年改正による)。土地法は,土地使用権は国家による割当てのほか,譲渡,相続によっても取得されると規定しており(土地法 52 条),土地使用権の保有者の権利として,土地を保護する権利,使用する権利,用益に関する権利,譲渡する権利,承継に関する権利を認めている(土地法 53 条~58 条)。

 こうした法意識の変化および政府通達に伴い,財産法自体を改正すべきであるとの意見も出ている。ラオスの法実務および一般市民の意識としては,土地に対する私人の「所有権」が成立するという観念が普及している。このことは,革命前後の土地所有権の連続性の経緯が影響を与えていることも考えられる。ラオスでは,革命時には,従来の土地を国家によって接収された者もあったが,土地の占有をそのまま認められた者も少なくなかった。

それらの者にとっては革命前の土地の占有(所有権に基づく)と革命後の占有は連続性をもっている。この事情(社会的実体)が,社会主義下での土地の使用権をも「所有権」と呼ぶ意識の基底にあるように思われる。これに加え,土地の使用権の期間が限定されていないこと,譲渡・担保権設定等の処分が自由であること,相続が認められることと相俟って,社会主義憲法下での土地使用権という建前にもかかわらず,一般市民がこれを「所有権」と意識することをごく自然なものにしていると考えられる [37]

 3.土地と建物との関係(建物の独立不動産性)

 土地と建物の関係,建物の独立不動産性は,ラオス法では明確でない [38]。担保取引法 22 条(不動産の性質の決定と価格評価に)は「不動産に関わる担保契約は,担保として使用されるかかる不動産の価額評価ならびにその区分,種類,大きさ,品質,数量,および所在といった当該不動産の特性に関する明確な記述を含むものとしなければならない」と規定し,担保権の客体を明らかにすることを求めているものの,建物が土地と独立した不動産かを明らかにしていない。

ラオスの法実務家の中には,(a)土地に担保権を設定した場合,担保契約書に建物を担保不動産に含めると明確に記載していなければ,建物は含まないとの見解と,(b)担保契約書に記載されていなくとも,建物および土地の付属物は担保不動産に当然に含まれるとの見解がある [39]。後者は,ラオスでは建物について独立した登記制度は設けられていないため,法実務では土地と建物を一体的に捉えることを前提にしつつ,事案に応じて利益調整を図っているという理解によるものと考えられる。

ポリー

「建物は登記の制度がないっていう国は結構あるんですね。」

 4.物権的請求権

財産権の保護に関しては,財産権に基づく請求権として,返還請求権,妨害排除請求権,財産権の侵害を生じさせるおそれのある障害の除去請求権,財産権の確認請求権の類型を規定する(財産法 57 条,62 条,63 条)。

その際,善意の占有者に対しては果実・収益の取得や費用の償還請求を認めるが,悪意の占有者には一切否定しており,時効取得の場合と併せ,悪意者に対する制裁的色彩が比較的強い(財産法 59 条~61 条)。

5.物権変動

(1)一般原則

財産法では,民法関連法規として,財産権の取得・喪失・消滅に関する財産法Ⅴ章(28 条~55 条。物権変動に対応する),財産権の保護に関する財産法Ⅵ章(56 条~68 条。物権的請求権に対応する)が重要である。また,後述のように登記が必要とされる不動産物権変動に関しては,土地登記に関する土地法(2003 年改正参照)10 章(43 条~51 条)[40],土地管理局がもつ土地登記の振興・土地評価の実施・土地登記の実行・土地権利証書の発行および土地統計の収集の権限と義務に関しては土地法(10 条 5 号)が規定している。

ラオス民法では,財産権は,原則として財産の引渡し(当事者間の授受)によって移転するが,引渡前であっても当事者間で財産権の移転時期を契約によって定めたときは,それによる(財産法 28 条 1 項。なお,契約内外債務法 41 条はこのことを前提にしている)。ただし,登記が必要とされている財産権は,「登記が完了した時」に移転する(取得者の下に財産権が発生する)(財産法 28条 2項)。かかる物権変動の原則を引渡主義と呼ぶべきか,当事者の私的自治に委ねている部分の広さをどの程度のものと解釈するかにより,意思主義的要素も無視できず,ファジーな性格を残している。財産法によれば,所有権移転の要件は以下のとおりである。

 【財産法 28 条】財産〔権〕の取得

 ①財産〔権〕の取得は,資産が法律に従い付与される〔引き渡される〕か,受領された際に発生する。〔資産における〕財産〔権〕は,かかる資産の付与または受領前に締結された契約に基づき取得することもできる。

②資産を別の個人に付与することを盛り込んだ契約,またはかかる資産が未だ登録されていない場合,財産〔権〕は,たとえ付与行為が発生していたとしても,登録が完了した際に発行するものとする。

 【財産法 29 条】資産の引渡し

 ①資産の引渡しとは,受益者として指定された組織または個人に資産を与えることである。

 ②〔かかる資産を〕受益者へ搬送することを目的とした運送業者または郵送による資産の付与,および輸送書類または荷物の引渡しは,かかる資産を受益者へ付与する行為とみなされる。

 ここでは,財産と財産権の概念的区別は必ずしも明確でない。したがって,所有権の移転は,財産の移転を基本に理解されている。登記すべき財産は,登記によってそもそも財産権が発生するかのように観念されている。「財産〔権〕は…登記が完了した時に発行する」という表現は,権利と形式が不可分のものという考え方が根強いように思われる。それゆえに,観念的な所有権の移転という概念は未発達であるようにも思われる。  

(2)不動産取引

 (ⅰ)法令の規定

ラオスの土地取引実務では,土地の所有権移転のために,①売買契約書,②譲渡証明書,③土地登記証が必要である。もっとも,土地法制定後も土地登記をせず,土地登記証がないまま,代替的文書(村長が発行した証明書など)によって土地の権利を証明し,土地取引が行われていた。しかし,現在の土地取引実務では土地所有権の移転を登記することが一般化してきている [41]。その際には,公証人の証明を受けた譲渡証明書と土地登記書が必要である。公証人は土地登記証(その真正さ,担保権設定の有無など)のほか,契約書の適性(例えば,僅かな額の借金のために土地に抵当権が設定されようとしていないか,利息はどうなっているか,水田の場合に土地だけか,作付米を含むか,被担保債権額が土地価格を超えていないかなど)も確認する。

すみれ

「公証人偉いね。」

1 個の土地の上に複数の抵当権を設定することは可能であるが [42],被担保債権の総額が土地の価格を超えないことが要件となる。このことも経済の発展状況に応じた法発展の例ということができよう。

また,ラオスの人々の一般的意識として,法実務家も含め,「登記簿に所有者として記載された者には所有権がある」と観念されるのが一般的であり,登記(形式)から概念的に分離された抽象的な権利(実体)の観念は明確でないように思われる。

売買等に基づいて土地所有権の登記を申請する個人または組織は,村落行政体,および地域または市町村の土地管理当局を通して,地方または都市土地管理当局に申請書を提出しなければならない。その際に提出すべき書類は,①土地取得証明書(国家による土地割当証明書,譲渡または相続の証明書),②農地または森林地の場合は土地証明書(3 年間の土地証明書を指す),③当初の所有者または土地が所在する場所の地方行政当局からの土地保証に関する証明書(これは,当初の所有者がかかる土地を現行所有者へ譲渡する権利を有していたという保証事項を盛り込んだ書類を指すものである),④その他の必要書類である(土地法 45 条)[43]。ちなみに,土地登記には職権による登記の場合と申請による登記の場合がある(土地法44 条)。

土地登記に関しては,土地法制定前から,すでに 1992 年土地所有・管理令(1992 年命令 99 号)に従い,世界銀行およびオーストラリアの支援を受けたトレンズ・システム方式の地積調査・土地登記・権原証書の発行のパイロット・プロジェクトが実施された 48。土地登記の後に(90 日間の異議申立期間の経過後に)発行される土地権原証書(いわゆる地券。様式・記載内容は土地登記簿と同様)は,土地使用権の「唯一の証拠書類」とされる(土地法 49 条)。その証明力が実際どの程度のものであるか,いわゆる公信力にまで至るかは,なお明確ではない。加えて,土地登記および土地権原証書の発行が進行する中で,法定の手続(財産法 28 条 2 項,土地法 45 条・51 条など)によらず,同手続の煩雑さや費用を回避するために,土地権原証書それ自体の授受による譲渡や担保権設定の例もあるといわれ,その定着や効力については,今後の推移をみる必要があろう 49。

(ⅱ)登記手続の実際  一方で,都市における土地取引は,公証局での手続(2009 年改正公証法による)と土地登記所での手続に二分される 50。公証人は司法省の中にある公証局(局長 1 人,副局長 2 人,専門官 13 人。そのうち,公証事務に関係しているのは 5 人),県・都の公証局(所長 1人,副所長 1 人,専門官 5 人),ヴィエンチャンの 9 郡のうち,離れた場所にある 2 郡の公証ユニット(所長 1 人のみ)に属している。公証は局長・所長だけがサインできるが,テクニカル・スタッフ(専門官)が補佐する。公証人は,①取引が真実に存在するか,②法律に照らして正当か(ラオス人同士の取引かなど)を確認する。公証に際して必要な書類は,①契約書(売買契約書など。土地の場所,番号も記載),②土地登記簿(①と合致しているかを確認),③土地登記簿が正当かどうかを証明する書類(「土地に関する正当性の証明書」。土地管理局が発行する。抵当権が設定されていないかどうかなどを証明するもの)である。公証の申請は,共同申請主義・当事者出頭主義・本人出頭主義であり,申請者の                                                                                                                                                 

拠として使用可能な物件の痕跡が何もない場合は,土地権利証書の写しが発行可能となる前に,土地が所在する場所の地方人民裁判所から裁定が下されなければならない。いずれの場合も,土地権利証書の写しの発行に先立ち,規制事項に従い,30 日間にわたる一般大衆への通告が行われなければならない(土地法 50 条) ヴィエンチャンの土地登記所でも,登記簿,地図,権原証書,譲渡証書等の作成実務を確認した(2003 年 8 月)。

  • このほか土地法は,登記関連部局における土地登記の事務処理手続(土地法 46 条),土地登記簿の構成(47 条),土地証明書(土地法 48 条),土地権利証書(土地法 49 条),土地管理局の権限と義務(土地法 10 条)について規定している。
  • ヴィエンチャン都・公証局長カンパイ氏からの聴取調査(2014 年 8 月 26 日)による。拇印を押す。

ついで,当事者が土地管理局(資源環境省の所管)に赴いて所有権,その他の権利の登記を申請する。登記が行われると,登記証書が 2 通発行される。①1 通(原本)は所有者本人に交付され,②もう 1 通(コピー)は登記所が保管する。登記証書の記載内容は,土地の用途,地図,所有者の氏名である。裏面には当該土地の所有者の移転経過などが記載される。③土地税(land tax)の納税を郡の登記所で行う。

なお,抵当権設定登記手続(2005 年担保取引法,2011 年担保執行首相令による)の場合は,抵当権設定者は,貸主(銀行)に①土地登記簿のオリジナル,および②土地登記簿が正当かどうかを証明する書類を提示し,土地価格の評価を受けて,金銭消費貸借契約をする。それについて公証局でチェックを受けたうえで [44],貸主(銀行)と借主が拇印を押して,確認を受けた旨の書類を 2 通作成する。1通は公証局に保管し,もう1通を土地関管理局にもってゆき,抵当権の記録をする。

 他方で,地方における土地取引は村長の面前での手続と土地管理局での手続に二分される 52。まず,①村長が土地の売買契約書(当事者,物件の同一性,合意内容などを含む)を確認し,サインをし,村の印を押す。ついで,②当事者が郡(district)の土地管理局に赴き,登記を申請する。登記が行われると,登記証書が 2 通発行される。①1 通(原本)は所有者本人に交付され,②もう 1 通(コピー)は登記所が保管する。登記証書の記載内容は,土地の用途,地図,所有者の氏名である。裏面には当該土地の所有者の移転経過などが記載される。③土地税(land tax)の納税を郡の登記所で行う。このように農村では村長が土地取引の公証人の役割を果たしている。

 (3)取得時効

 所有権の原始取得に関する規定(財産法 36 条~44 条)のうち,財産法 42 条は取得時効について定めている。すなわち,「他人資産の善意占有による財産権の取得」であり,①不動産については 20 年間,動産については 5 年間,他人の資産を自分が所有者であるのと同様に善意で継続して占有した者は,かかる資産に対する財産権者となることができる。こうした善意の占有は,公然,継続かつ平穏に表れている必要がある。この期間を経過した後,本来の財産権者は,上述の資産に対する返還請求権を有しない(財産法 42 条 1 項)。

②前記の者が資産を占有している期間がいまだ第 1 項の期間に満たないもののこれを善意で他人に占有を引き渡した場合,財産権を取得するのに必要な期間は,最初の者が占有を開始した日から計算し,上述の期間を経過した後,新しい占有者が財産権を取得する(同条 2 項)。③国有財産又は共同体財産は,いかなる場合であれ,第 1 項の期間が満了しても,善意の占有者の財産とはならない(同条 3 項)。

 取得時効の期間は,不動産は 20 年,動産は 5 年であるが,いずれも「善意で継続した占有」を要件にしている。この善意は時効取得に必要な期間中継続していることを要する点に特色がある。例えば,BがAから引渡しを受けたSの土地を 19 年 10 か月経った時点で,真の所有者Sから明け渡すよう申し立てられ,その後,占有開始時から 20 年 6 か月経った時点で訴えが提起された場合,Bの「善意」要件が満たされないことを理由に,取得時効の成立は認められない。

SがBに明渡しを申し立ててから提訴までの期間は制限されていないが,SのBに対する明渡しの申立ては書面で行わないと証明が困難であるから,例えば,慣習的に村長に依頼して書面による申立てをしてもらうことがある。

なお,ラオス法には,提訴時効があり,契約に基づく権利の場合,原則として契約期間終了時または損害発生時から 3 年で提訴時効が成立する(契約内外債務法 102 条)。

(4)善意取得

(ア)善意取得の根拠規定  善意取得に関連する規定として,財産法 58 条と契約内外債務法 42 条(旧契約法 40 条も同旨)および両者の関係が注目される。すなわち,財産法 58 条は,物権的請求権(所有権に基づく返還請求権。前述4)関連の規定の中で,真の所有者が財産の返還請求する際に,相手方たる占有者が他人の財産であることについて善意・無過失であったときは,占有者に対して「その財産の価値に応じた補償」をしなければならない旨を規定する(財産法 58 条 2 項)。一方,契約内外債務法 42 条は,売買及び交換に関する一般規定の中で,他人の財産を「市場での適切な価格」で購入した者が善意であったときは,真の所有者が返還請求するときは,「購入者が支払った代金」を償還すべきことを規定する(契約内外債務法 42 条 1 項)。各条文内容は,以下のとおりである。

 【財産法 58 条】善意による財産の非合法的占有

 ①財産を善意で保有する非合法的占有者とは,かかる資産が他の個人の財産であると関知しないか,〔相応の注意を払ったとしても〕関知し得なかったと思われる者のことである。

 ②この場合,当初の所有者がその財産の返却を要求した場合,かかる占有者は返却しなければならないが,所有者は資産価額に応じて占有者に補償しなければならない。当初の所有者は,財産を非合法的に引き渡した者から損害の補償を要求する権利も有する。

 ③占有者が付与または相続により財産を受領している場合,財産価額または損害に関する補償は一切ない。

 【契約内外債務法 42 条】違法に取得した財物の購入

 ①善意による財物の購入者は,自らが法律に適合して財物を購入したと信じている者であり,購入時における市場での適切な価格により購入したこと,並びに公然と,継続的に,平穏に購入し,かつ使用していることに示される。財物の所有者は,購入者が支払った代金を償還するときに限り,その財物を取り戻すことができる。財物の所有者は,自己の財物を違法に販売した者に対する訴えを提起する権利を有する。

 ②悪意による財物の購入者は,法律に反する財物を購入していることを知りながら,又は知りうる状況にありながら,その財物を購入した者であり,購入時における市場からみて不適切な価格により購入したこと,秘密に,非継続的に,又は非難されているにも拘らずに購入し,かつ使用していることに示される。財物の所有者は,購入者に対していかなる賠償も支払わずに,財物の返還を求める権利を有する。購入者は,販売者に対して,財物を購入した代金の返還を主張することができるが,裁判所に訴えを提起する権限を有しない。

 これらの規定について,注目すべきは,第 1 に,他人物売主Yから物を買った善意の買主Xの保護(善意者保護)は,いわゆる即時取得によるのではなく,①真の所有者AがXから目的物の返還を求めるためには価格賠償義務を負い,②Aがこの価格賠償義務を果たさないことにより,Aは目的物の返還をしないことにした(または返還請求しないことの反射的効果としてXは目的物の返還を免れることになった),それによってよるXの所有権取得が認められるという限りで図られることになる。これら①・②の 2 段階の説明により,《なぜ無権利者と取り引きしたのに権利を取得できるのか》,いわば無から有を生じるのはなぜか,という,即時取得制度の法的説明に対する根本的な疑問に答えるための 1 つの方

途を見出すことができるように思われる [45]。それは,真の所有者による返還請求権の制限が善意者保護の原初形態の 1 つと考えられることとも符合する [46]

しかし,現行日本民法の構成を所与の前提にしてしまうと,代価賠償義務(民法 194 条)は,即時取得の原則(民法 192 条)に対する盗品・遺失物の回復の例外(民法 193 条)の例外(市場や商人から取得した者に対しては,代価賠償を要する)と位置づけられていることから,即時取得――いわば無から有を生じる――こそが原則にみえてしまう。

しかし,即時取得制度は,①《何ぴとも自己のもつ以上の権利を他人に移転することはできない》という原則から出発し,② 所有者に価格償還義務を課すことによる善意者保護制度による所有権取得(所有者が価格償還をしてまで取り戻すことを止めた結果としての善意者による取得)を経て,③取引安全をさらに強化するために,価格償還による取戻しを制限した結果として成立したものと位置づけることが可能になる。このように③段階の即時取得制度は,②段階の価格償還義務の段階を介し,さらに取引安全を強化するためのその発展形態として位置づけることにより,法的説明が可能になる。ラオス法は現在この第 2 段階にあると位置づけることができる。

この形態の善意者保護は,即時取得制度に比べると,所有権の保護にややウェイトを置く形で,取引における善意者保護に配慮しており,静的安全と動的安全とのバランスの取り方として,注目される。以上のような意味で,ラオス現行法における善意取得制度の現状の確認は,重要な意味をもつものと考えられる。

 第 2 に,財産法 58 条と契約内外債務法 42 条は,規定内容がほぼ重複しているようにみえる。その一方で,所有者が占有者に償還すべき価額につき,財産法 58 条 2 項は「資産価額に応じて…補償」と規定するのに対し,契約内外債務法 42 条 1 項は「購入者が支払った代金を償還」と規定しており,両者の関係が問題になる。実務上は,財産法 58 条 2 項の「資産価額」は取得時における「市場価格に基づく代価」を意味すると解釈することにより,買主Xが売主Yに支払った代価を意味するものとして,契約内外債務法 42 条と統一的に解釈している [47]

 例えば,①X所有の水牛をAが無断でBに 70 万キップで売却した場合,その後XがBに返還を求めた時点では当該水牛が 100 万キップに値上がりしていたときでも,70 万キップを償還すればBから返還を受けることができる。

この場合,Bが目的物の使用利益を得ていると考えられるから,Bとしては 70 万キップの償還を受けることが衡平であろう。それに対し,②XがBに返還請求をした時点で水牛の値段が 50 万キップだったときでも,70 万キップを償還しなければならないとすると,Bにむしろ利益を与える場合もある。とくに減価償却が行われる資産の場合,Bは使用利益と元の資産価値の双方を取得できることになり,この場合はむしろ返還請求時の時価を償還すべきとする方が衡平な場合もある。ラオスの実務家の中には,値段が下がったときは支払った金額を払わなければいけないが,上がったときには,(a)AB間の契約時にBがAに支払った代金額であるという見解と,(b) 最初に支払った金額を現在の時価に換算すべきであるとの見解があり,なお流動的である。

将来的にはこれら 2 つの規定は新立法によって一本化されることも考えられる。

  • 善意の主張・立証責任

 「善意」(財産法 58 条 1 項,契約内外債務法 42 条)については買主Xが立証責任を負うものと解されているが,善意の推定規定(日本民法 186 条参照)はないことから,訴訟では両当事者ともに証拠を提出することを求められており,それに従ってどれだけの証拠を提出できるかが重要になってくる [48]

  • 果実の返還  

他人物売主Aからの取得者Bが所有者Xに目的物(例えば,水牛)を返還する際に,Xの取得後・返還前に生じた果実(例えば,生まれた水牛の子)も返還すべきかについて,ラオスの実務家の間では,(a)Xの取得時に水牛が妊娠していれば返還すべきであるが,Xの取得後に妊娠したときは返還しなくともよいとの見解,(b)妊娠時期がXの取得前か後かを問わず,子牛も水牛から「生じた」果実(財産法 60 条 2 項)であるとすれば,XがAから代価賠償と引き換えに返還請求されるまでに生まれた子牛はXのものになるが,「生じた」の解釈によるとの見解がある [49][50]

(4)財産権の内容・用益物権関連

いわゆる用益物権については,財産法には規定がなく,財産権の行使範囲に関する規定の中に,相隣関係的な法規が存在するにとどまる(財産法 46 条~54 条)。そこには,隣地から越境した樹木の枝や根の切取権(ただし,所有者への通知後 7 日以内に返答がない場合。財産法 48 条 1 項),囲繞地通行権(財産法 49 条 1 項),排水溝の敷設権(財産法 50 条)などが含まれている。

他方,土地法は,財産法よりも遅く 1997 年に制定されたが,2003 年に改正された。これは,1990 年財産法に基づく市場経済システムの導入に伴い,土地使用権の分配(設定)や侵害をめぐって紛争が頻発し,社会問題化したことも背景にしているとみられる 58。土地法は,土地所有権が国家共同体に帰属することを規定する(土地法 3 条。なお,2003 年憲法 17 条も参照)一方で,土地に対する使用権の設定 [51],その譲渡,相続,使用,果実収取等を承認する(土地法 13 条,52 条~58 条,65 条~66 条。なお,2003 年憲法 17 条も

参照)。また,外国人の使用権は最大 30 年(更新可能),外国投資家の使用権は最大 50 年(更新可能),経済特別区の場合は最大 70 年(国会決議によって更新可能)とされている(土地法 65 条)。もっとも,土地法の規定上,更新は「事案に応じて」とされており,国家による土地管理が前面に出た規定となっている。

また,公用収用に対する損失補償も規定されている(土地法 71 条)[52]

  6.債権法関連

 (1)契約法

 (ア)契約の成立要件・有効要件

 契約内外債務法に関して注目されるのは,①契約の有効要件(前提要件)としての約因(契約法 5 条・6 条,契約内外債務法 10 条 4 号・14 条)[53],②確定無効(絶対無効)と不確定無効(相対無効)との区別(契約法 13 条・14 条,契約内外債務法 19 条・20 条)など,フランス民法的要素との連続線の指摘は,制度の連続性という観点からも,興味深いものがある。この点については,①の約因のほか,契約の理由(契約法 9 条,契約内外債務法14 条),取消事由における一方的不利益や非良心的契約(契約法 14 条,契約内外債務法 19 条),契約の履行が困難になった場合の通知義務と契約終了原因としての承認(契約法 22 条・33 条,契約内外債務法 29 条・38 条)などと併せ,契約法の制定過程における世界銀行やアメリカのアドバイザーを介して,英米法の影響とみる見解もある [54]

しかしまた,おそらく制定過程からみるかぎり,フランス法教育を受けたラオス司法省の担当者と,英米法の影響下にある世銀・アメリカの担当者との意見が合致した結果とみることが妥当ではないだろうか。正確な検証を要する問題であるが,フランス民法典の影響を受けたラオス王国民法典と現行ラオス民法との間には形式的な連続性は切断されていても,実質的ないしインフォーマルなレベルでは,一定の連続性が存在することはむしろ自然であるように思われる。

 契約の有効要件に関しては,原始的不能の契約の効力が問題になる。ラオス民法では,契約が有効に成立するためには目的物が現実に存在し,かつ履行可能でなければならないとされており(契約内外債務法 13 条 2 項「(契約の)目的は明確で,現実的で,合法的で,社会的秩序に反せず,かつ履行可能でなければならない」。なお,同法 10 条 3 号も参照),原始的不能の契約は無効と解されている [55]。ちなみに,契約の終了原因の 1 つとして「契約の履行が不可能であるとき」が挙げられ(契約内外債務法 38 条 1 項),後発的不能による債務の消滅も認められており,原始的不能の場合とともに,「不能なことを行うべき債務はない。」(Immpossibilium nulla obligatio est.)[56]との一般法理を具体化している点で,首尾一貫している。

 契約内外債務法によれば,錯誤による契約は,自発的意思を欠いた契約であり(同法 11 条 1 項・2 項),無効事由とされているが(同法 10 条,18 条),それが確定的無効原因か,不確定的無効原因かは,条文上はやや不明確な状況である。というのも,不確定的無効原因を列挙する同法 19 条 2 項が,錯誤による契約を挙げていないからである。しかし,確定的無効とされるのは「国家又は社会の権利に関係する無効な契約」(同法 20 条)であるのに対し,不確定的無効は「私人の権利に関係する無効な契約」の場合であるから(同法 19

条 1 項),不確定的無効と解しているようである [57]

 他方,詐欺による契約は,自発的意思を欠くもので,無効原因となり(同法 10 条,18条),かつ不確定的無効原因として明示的に列挙されている(同法 19 条 2 項)。

 いずれにせよ,無効な契約については,契約の取消しを請求することにより,履行した財産の返還等,原状回復を請求することができる(相手方が応じない場合は裁判上の請求による)[58]。なお,詐欺者が相手方に給付した財産は,国家が没収するものとされる(同法23 条 2 項)。詐欺による契約や不法行為では,刑事手続と民事手続は密接に関連するものとして捉えられている。

【契約内外債務法 22 条】

 ①〔不確定的〕無効な契約については,取消しを請求することができる。

 ②契約当事者の一方が,締結した契約が〔不確定的〕無効であることを知ったときは,その契約を取り消すために,相手方に直ちに通知しなければならない。相手方が契約の取消しに合意しない場合は,通知した契約当事者は,裁判所に契約の取消しを請求する訴えを提起しなければならない。

【契約内外債務法 102 条】

 ①建築に関する契約の提訴時効は 10 年とし,その他の類型の契約及び損害賠償請求の提訴時効は 3 年とする。ただし,法律に別段の定めがあるときは,この限りでない。

 ②提訴時効は,契約期間の終了した時,又は損害が生じた時から算定する。

 ここで両条文の関係が問題になる。起草者によれば,「相手方に直ちに通知しなければならない」(契約内外債務法 22 条)というのは,通知が遅れると相手方の不利益も増大するので,速やかに通知することを求めたにとどまり,通知しなかったからといって,救済を受ける権利が消滅するわけではない [59]。契約内外債務法 102 条の期間制限の範囲内で取消しができる。この帰結を矛盾なく説明することは一見困難に思われる。

しかし,契約内外債務法 22 条は直ちに通知すべきとの行為規範を,同 102 条の出訴期限は裁判規範と解することにより,ひとまず説明は可能である。ラオス民法では,前者のような行為規範がけっして珍しくないこともその背景事情として念頭に置く必要がある。

(イ)債務不履行責任と瑕疵担保責任

ラオス民法は,債務不履行を理由とする損害賠償責任の要件として,債務者の過失,その他の帰責事由を要件としておらず,条文上の構成からは,一般的な帰責事由主義をとらず,契約責任主義を採用しているようにみえる。また,瑕疵担保責任もそうした債務不履行責任の一環として捉えられている。

 【契約内外債務法 33 条】(契約不履行の効果。旧契約法 36 条)

 ①契約不履行は,契約に定めたとおりの品質を伴わない,期限に間に合わない,若しくは誤った場所における契約履行等,契約当事者の一方による全体的契約不履行,部分的契約不履行又は非合理的な契約履行である。

②契約当事者の一方が契約不履行を行ったときは,その当事者が加えた損害を賠償する責任を負わなければならない。ただし,契約不履行が不可抗力によって生じたときは,この限りでない。

 【契約内外債務法 40 条】(販売する物の品質。旧契約法 38 条)

 ①販売する物の品質は,契約の内容に従って適正でなければならない。販売した物が,契約に定められた品質を伴わないときは,売主はその物について責任を負わなければならない。

 ②買主が,その物が品質を伴わないことを知ったときは,買主は,品質を伴った同一の種類の物との交換を請求する,価格の減額を請求する,又は契約の解除を請求する権利を有し,並びに損害賠償を請求する権利を有する。

 ③買主は,購入した財物の品質を検査し,購入した物に瑕疵を発見した場合は,売主に直ちに通知しなければならない。その義務を怠ったときは,買主はその瑕疵について責任を負わなければならない。

 ここではまず,(ⅰ)債務不履行に対しては,条文上はとくに過失等の一般的な帰責事由を要することなしに損害賠償請求が可能とされ,ただし「不可抗力」の場合は損害賠償責任を負わないとされている。したがって,条文構成上は契約責任主義を採用しているとも解される [60]。しかし,不可抗力の場合には契約不履行はないのか,契約不履行ではあるが損害賠償責任を負わないのか,また,そもそも不可抗力の場合になぜ損害賠償責任を負わないのかについては議論がある。少なくとも法実務家の間では,不可抗力の場合には契約不履行はあるが損害賠償責任を負わず,その根拠は不可抗力に対しては自己の行為も落ち度もないゆえに責任がないからであるとする見解が圧倒的であり,実質的には帰責事由主義的に解釈されていることに留意する必要がある [61]

 つぎに,(ⅱ)売買目的物の瑕疵についてはこれを契約不適合と解する主観的瑕疵概念がとられており,その結果,売主の瑕疵担保責任を債務不履行責任として位置づけている。そして,(ⅲ)買主の救済方法として,瑕疵に対しては,①損害賠償請求,②代物請求(追完請求),③代金減額請求,④契約解除が可能である。このうち,不可抗力の場合,①は免責されるが,②・③・④は免責されない(契約内外債務法 33 条 2 項,40 条 2 項)。これらの条文の内容は,旧契約法 36 条・38 条と同旨であり,実質的には「国際物品売買契約に関する国際連合条約」45 条,46 条~52 条,74 条~77 条に沿ったものであると考えられる。

もっとも,①損害賠償の範囲については定めがなく,今後の立法課題といえる [62]

 さらに,およそ買主には(商人,事業者といった限定なしに一般的に)検査・通知義務が課され,それを怠った買主は瑕疵について自ら責任を負わなければならない。これは消費者にとってはかなり厳しい義務を課すものといえる。しかし,これは,ラオス法には商人,事業者,消費者の区別がないうえに,かかる検査・通知義務を買主に課した背景として,ラオスでは外国製品を売る者が多いので,時間を経ってから品質についてクレームをつけられても困ってしまうことが多いからという立法理由も考慮に入れる必要がある [63]

  • 他人物売買

ラオス法では,他人物売買契約が有効か無効か,法令上は明確でない [64]。実務家の理解では,売買契約は所有権移転を生じさせるものであるが,他人物売買では所有権を移せないから,売主が自分に所有権がない土地を売ったときは契約が無効であり,買主は契約無効に基づく代金返還請求を行う [65]。なお,他人物売買の買主からの転得者は,善意で買っていれば契約内外債務法42 条 1項の保護が認められ,悪意であれば同法 42条 2 項に従う。  売買契約は「売主が買主に対して財産の所有権を移転する義務を負い,買主が財産を受領し,かつ,合意した価格に従って代金を支払う義務を負う,契約当事者による合意である」と定義されている(契約内外債務法 39 条 1 項)。他人物売買も有効と解されている。それは,例えば,売主Aが買主Bに対し,鶏 10 羽を 10 日以内に仕入れて引き渡すという契約をすることが実際に合理的な取引として要請されていることによる。

  • 二重売買

 二重売買が有効かどうかについては,解釈が分かれている。財産法 28 条の解釈として,

起草者の見解は有効との立場である [66]。例えば,Aが所有する場合バイクをBに 1000 ドルで売却し,Bは代金を支払ったが,引渡しを受けていないうちに,AがCに 1500 ドルで売

却して引き渡してしまった場合。(a)Cが所有権を取得し,AはBとの契約の不履行に基づいて損害賠償の債務を負う。市場の現実では,先に引渡しを受けた方が所有権を取得するのが一般的である。(b)第二売買は違法であるから無効で,CはバイクをBに引き渡し,AはCに代金を返還し,損害を賠償しなければならない。(b)説をとる者もいる(違法な取引を奨励することになるのを懸念する)。しかし,契約法,財産法の起草者であるダヴォン氏は明確に(a)説をとる。

  • 契約類型契約類型として,請負契約のほかに建設契約や運送契約を別類型として設ける点は,一般消費者の活動に関する民事契約と生産活動に関する経済契約とを区別する社会主義的な発想が辛うじて残存しているとみうるであろうか。その点の区別が具体的な効果の相違とどの程度連結するかは,規定が簡素なこともあり,不明確である [67]。あるいはまた,陸上・

水上の運送業者の債務や商取引に関する特則を民法典に編入していた旧民法典の承継とみる余地があるかも知れない(旧民法典 XIV 章,XV 章参照)。

(2)不法行為

(ア)一般不法行為の要件・効果  一般不法行為の要件・効果については,契約内外債務法 83 条~91 条(旧契約外債務法 1 条~9 条参照)が定めている。それによれば,自己の行為によって他人に損害を生じさせた者は,自らが生じさせた損害を賠償する責任を負う(83 条。ただし,損害が自己防衛,合法的な職務執行,又は被害者の過失により生じたときは,この限りでない)。

 「損害」とは,「既に生じている,又は将来において確実に生じる等,確実性を有する損害でなければならない」とされ,「将来において起こりうる,又は起こり得ない損害は,確実な損害とはみなさない」(84 条)。その際,「損害」を①財産的損害だけでなく,②生命又は健康上の損害,③精神的損害を含むものと捉えていることが注目される(85 条)。

 何ぴとも,自己の不法行為と生じた損害の間に「因果関係」が存在する場合に限り,その損害を賠償する責任を負うが,原因は損害を生じさせるために不可欠な事象であり,損害の前に発生し,損害の直接的事由でなければならない(87 条)。

 積極的損害および消極的損害 [68]の賠償の算定は「加害者の過失に適合するように」行わなければならない(91 条 1 項)[69]

 そして,「過失」とは「法令に反し,かつ故意または不注意によって他人に損害を与える作為又は不作為」である(86 条)。   不法行為でも,民事と刑事は密接に結びついている。例えば,交通事故の被害者が加害者に損害賠償請求するためには,証拠書類の作成をしてくれる警察の役割が大きい。なお,ラオスでは民事裁判でも裁判官が証拠収集をする権限をもっており,それを通じて刑事裁判の結果も参考にする。

  • 共同不法行為  

ラオスにも共同不法行為の規定はあるが [70],複数人が「協力して」行為したことが前提となっていると解釈されており [71],Yの飲酒運転による交通事故とZ病院のA医師の手術ミスによる医療過誤が連続して生じた場合,Y・Z・Aの過失は分けて考えるべきで,共同不法行為とみることはできない。

  • 特別の不法行為

特殊の不法行為として,使用者責任,監督者責任,動物所有者・占有者責任,物の所有者・占有者責任を規定している(契約内外債務法 92 条~95 条。旧契約外債務法 10 条~13条参照)。物から生じた損害に対する責任(約内外債務法 95 条。旧契約外債務法 14 条)は,土地工作物(日本民法 717 条等)などに限定せず,広く物の所有者または占有者の責任を肯定している点が興味深く,参考になる。

 (3)担保法関連

(ア)関連法規  債権担保についての規定は,契約法 5 章(24 条~31 条)/契約内外債務法第Ⅱ部・第 1章・D節(34 条~36 条)(実体法と手続法の未分離。ただし,法理論の上では区別が意識されている)のほか,担保取引法が 1994 年に制定され,2005 年に改正された。

 2005 年担保取引法は,無体物,将来確実に生じることが証明できる事業または活動の財産や果実,物に対する権利またはその果実も,担保の客体としうることを定めた(担保取引法19条)。経済活動の活性化による担保財産の拡大の要請を背景とするものであろうか。  担保取引法の特色の 1 つとして,あらゆる種類の担保契約は登記所において登録しなければならず,不動産による担保契約は当該不動産の所在地の土地管理事務所で登記しなければならないとされている(担保取引法 31 条 1 項)。このような包括的な担保登録制度は,欧州復興開発銀行(EBRD)による「担保取引に関するモデル法」(Model Law on Secured Transactions)の影響を受けているものと考えられる。そのようなモデル法をラオスの取引実務に導入することが可能かつ適切であるかは,今後引き続き検証すべき重要な課題である。

ちなみに,不動産の担保(抵当)の場合は,土地権原証書の裏面に担保取引の内容が記載することができるように,記載欄が変更されている [72]。したがって,不動産の担保(抵当)に関しては,現行制度上は,登録と土地権限証書の裏面記載という 2 重の担保記載がされることになる。

担保取引法によれば,担保契約は登録日以降に正式なものとなり,登録をしない担保契約は,契約者間で効果をもつものの,登録をした担保契約と同様の優先権をもたないものと規定されている。さらに,登記事務所または土地管理事務所で行われた担保契約の登録は公開され,閲覧可能にしなければならないとも規定されている(担保取引法 31 条 2 項・4 項・5 項)。これは,当該不動産について取引関係に入ろうとする第三者が,担保取引の内容についても容易に確認できるようにすることにより,担保不動産の流通を促すための規定とも解される。しかし,実際には,担保権付きで取り引きされることは,現在の実務においてはまだ存在しないようである [73]

 (イ)担保権の設定手続

 不動産に関する担保とは,債権者に対する債務の返済,その他義務の履行を確保するために,例えば,土地の区画,建物もしくは工場といった債務者の不動産,他人の不動産に対する債務者の使用権,またはこれら所有権や使用権を証明した書類を担保として設定されるものである [74]。それは,①公証人または三人の証人を伴う村長立会いの下,または②3 人の証人立会いの下,書面で締結されなければならず [75],その際には,当該不動産の評価,区分,種類,大きさ,品質,数量,所在等,その特性に関する明確な記述を含まなければならない [76]

すみれ

「不動産の品質もなんだ。」

その際,同一不動産に複数の担保権を設定することは,理論上は可能であるが,実際には土地の登記書を債権者に渡すことが多いので,後順位担保権の設定は事実上困難である(先順位担保権者が承認する場合に限られる)。また,被担保債権の合計額が目的不動産の価額を超えてはならないという制約がある [77]

 動産に関する担保は,①物質的(有形の)品目 [78],②所有権の証書・株券・債券等の書類,③倉庫物品,④知的財産,銀行貯蓄口座,契約上の権利,売掛金を含む無形資産,事業運営を行うための承認・許可・権利に基づく利益,⑤将来的に発生し得るプロジェクトや活動からの資産または利得に設定される [79]。このうち,②・④・⑤は法的性質としては権利質に当たるというべきであろう。

また,③は流動動産 [80],⑤は将来の集合債権譲渡担保を含むものと解される [81]。①について,債務者が目的動産を占有する非占有担保も [82],債権者または両当事者が合意した第三者による占有も [83],いずれも「動産に関する担保」として認められる。債務者が合意期間内に債務の返済を怠った場合,物質的品目は債権者の財産となるが,物質的品目の価額が債務よりも高い場合は,債権者が差額を支払うか,債務者と合意したとおり物質的品目を売却するか,オークションにかけることができる [84]

  重要なことは,不動産であれ,動産であれ,担保契約は政府の財務担当部局の登録事務所で登録されなければならず,不動産に関わる担保契約は,当該不動産の所在する土地管理事務所で登録されなければならない。担保契約は,この登録日から法的効力をもつ(効力要件主義)ことに注意する必要がある [85]

すみれ

「動産や債権の場合は、証明書の裏に記載とかないのかな。」

なお,担保目的で買戻し特約付き売買が用いられることもある [86]。この場合,目的物は債権者が占有することになる。

 (ウ)担保権の効力

 債務者が約定期間内に債務の返済を怠ったときは,①債権者は,金利を含めた債務の返済を求め,そのために当該不動産を担保設定者(所有者)が売却するためのオークションを提案する権利をもつ [87]。それが行われた場合,担保権を設定した債権者は,当該不動産から,遅れて担保契約を設定した債権者および担保権をもたない債権者に優先して弁済を受ける権利をもつ。また,②債権者は,担保財産の所有権を獲得する権利をもち,これを行使することにより,設定者はその所有権を失う。さらに,③債権者は,担保契約で合意したとおり,担保財産を売却ないしは保有することができる [88]

 他方,債務者は担保の対象となっている不動産を売却または譲渡する権利をもたず,また,担保権設定契約に従い,当該不動産を債務者が占有しうる場合でも,債務者は当該不動産を契約条件に従って「適切に使用および保護し,当初の状態に保たなければ」ならず,「債権者からの承認なしに,当該不動産について評価減を生じさせることはできない」[89]。  担保不動産を無権原で妨害する第三者に対しては,まずは所有者が明渡しを請求することができ [90],所有者が明渡請求しないときは,担保権者(債権者)が債権者代位権を用いて,明渡請求権を行使することができる [91]

Ⅴ 家族法制

1.家族法の法源と歴史

 ラオスの家族法に関連する法源として,親族関係については,「2008 年ラオス家族法」(以下,家族法に関しては断りのない限り 2008 年家族法を扱う)があり,そこには婚約,婚姻,離婚,親子関係一般,認知,養子縁組および一部の国際私法規定が定められている。この家族法は 1990 年ラオス家族法を改正したものであり,家族法は 1990 年法を部分的に受け継いでいる。相続関係については,「2008 年相続法」がある。この法律も「1990 年遺産及び相続財産基準法」を改正したものである。

さらに,国際条約を批准し,国内法化した「2004 年女性の発展及び保護法」,および「2006 年児童人権保護法」がある。家事事件の手続については,1990 年民事訴訟法,それを改正した 2004 年民事訴訟法を経て「2012 年民事訴訟法」が規定し,ラオス在住の内外国人に義務づけられる家事登録については 1991 年家事登録法を改正した「2008 年家事登録法」が規定をしている。

なお,民法典自体が存在しないことから,上記に挙げた法律以外の他の法典にも,それぞれ内容の重複する規定が存在している。これらの間については,民法典改正作業における 1 つの課題でもある。

現在における親族問題に関する中心的法典は 2008 年家族法である。しかしその内容はラオスの伝統的慣習を現在でも幾つか受け継いでいる。歴史的にラオスはフランス植民地であり,それ以前は純粋に慣習法であった。フランス植民地時代に各種の近代的な法典が整備されていった。家族法もその 1 つであり,ルアンパバーン王国やヴィエンチャン王国において 19 世紀に用いられていた慣例集から示唆を受けて(慣例集の大部分は戦争,火災および洪水等で消失したようである),1908 年に最初の家族法が成立している。この法典は,ラオスの慣習とフランス私法の一般原理との間での一種の妥協を実現したものとされる [92]

その後1927年法典が現在の社会主義体制になるまでの主要な家族問題に関する法典であり,その内容を 1965 年に修正・補足されている。ここに記載されている内容は現在の 2008 年法においてもいくつか維持されている。

 2.家事登録制度

(1)家事登録制度の概要  

ラオスでは,家族関係につき一定の登録が求められる。この家族登録制度は,ラオスの家族法において極めて重要な役割を果たしている。家族登録制度に関する法規定が,家事登録法(訳語によっては家族登録法と訳される。以下,条文を表す際には「家事」とする。)である。家事登録法は 1991 年に施行されていたが,この法律をもととしながら,大幅に加筆修正した形の改正が 2008 年(全 59 条)に行われ,現在は後者が施行されている。

家事登録は省庁として,司法省と治安維持省の双方がかかわっている。司法省は出生,死亡,婚姻,離婚などの身分関係を中心とした登録を管轄し,治安維持省(91 年法制定当時は内務省)はラオスに居住するラオス国民のみならず外国人も対象として出生をはじめとする身分事項,家(家族)[93]の所在地,国籍などラオスに居住するすべての人民を,一元的な登録制度のもとに管理把握している(外国人につき,家事 7 条)。実際の生活に関連する内容のものは村の行政当局単位でそれぞれ管理されている。

村民は,例えばそれぞれ村の運営に関する費用分担や大掃除などの勤労奉仕分担を担っており,その際に「家事登録簿」が用いられる。原則として同一の家(家族)に同居する者が使用人を含めて同一の「家事登録簿」に掲載され,成人に関しては顔写真と証印と共に登録事項が列記されている。銀行口座開設,不動産取引,自動車運転免許証交付等につき日本の戸籍抄本のように「家事登録簿」のコピーの呈示やその提出をすることにより公的な身分関係および登録事項の証明書として用いることができる。

家(家族)を移転すると新旧の所属「村」の行政当局に転出・転入を届け出て,転居先の村の行政当局から証明書を交付された上で郡の行政当局に届け出て,新しい「家事登録簿」の交付を受ける。新しい「家事登録簿」には転居元の村名と転居年月日も記載される。ただし実際には「家事登録簿」記載の場所以外に移転していても一時的移転として移転先の村の行政当局に通知のみを行い,郡の行政当局における正式な手続を留保することもある。この場合には新しい村の行政当局において村民としての基本的な義務を果たすが,選挙人名簿など公的な扱いは「家事登録簿」に記載されている場所をもとに行われるようである。

家事登録を申請する者は,自己の居住する地区の村長により認証された申請書を家事登録局へ提出しなければならない。都市より離れている地方の場合には,自己の居住する村長に対して登録することができる(家事 12 条)。家事登録局は申請証を受理した後,30 日以内にそれらの申請書を審査しなければならない(家事 13 条)。ラオス市民,在留外国人,および無国籍者の家事登録は,彼らの居住する所の治安維持部門の家事登録局において手続がなされる(家事 16 条 1 項)。その登録の後,15 歳以上のラオス市民および在留外国人は,身分証明書を保持しなければならない(同条 2 項)。

 これらの家事登録は,家族構成員の記録,国家の社会および経済の管理・発展のための基礎情報であり,また人口の統計を記録するためにもなされている(家事 10 条 1 項)。なお,家族法,国籍法および家事登録法などの法律で用いられる「永続的住所」または「住所」について法律上の定義の有無は現行法上不明である。日本の住所,居所,常居所,本籍地などの概念との一致があるのかについては定かではない。

 外国における家事登録は,外務省の管轄にある当該国家のラオス人民民主共和国大使館または領事館における家事登録単位においてなされる(家事36条)。

 以下では,家族法に関連する部分を中心として家事登録法の内容を確認する 102。

 (2)家事登録項目

 家事登録業務としては,1.家族登録簿の登録および身分登録証の発行,2.出生の登録,3.婚姻の登録,4.離婚の登録,5.失踪の登録,6.死亡の登録,7.養子縁組の登録,8.父性の認知または後見人選任の登録,9.姓および名の変更の登録,10.国籍変動の登録,11.転居の登録がある(家事 9 条)103。以下では,出生,失踪,死亡,婚姻,離婚,養子縁組,認知,姓名の変更,国籍変更,転居の順に見ていく。

 (ア)出生登録

 出生の登録は,出生率の統計を記録し,社会発展のための基礎情報である家族構成員の増加および人口の増加を記録するためにもなされるものである(家事 10 条 3 項)。

この登録は,子が家,病院,または出産に関連する施設で出生した場合,家長またはその代理人が病院等の証明書に基づき,彼らの居住するところの村長に文書または口頭でその出生を通知しなければならない(家事17条1項)。その他の場所で出生した場合には,出生地を管轄するところの村長へと通知をしなければならない(同条2項)。

102 なお,1991 年家事登録法の全訳については,小川監修/伊藤=大川 2012a: 48 頁,2012b:

49 頁以下参照。

103 1991 年法では住居建築・取壊しに関する登録もなされていた。

外国で出生した場合は,その国内におけるラオス人民民主共和国大使館または領事館における家事登録単位に通知を行う(同条3項)。これらの通知は,出生後30日を超えない期間中にしなければならない(同条4項)。保護者のいない子を発見した者は,速やかに発見地を管轄する村の村長または警察に通知しなければならない(同条5項)。以上の通知を受けた後,村長は5日以内に出生証明書を発行しなければならないとされる(同条6項)。この出生証明をもって,申請者はその交付後30日以内に,郡の家事登録を扱うこと登録官に出生証明記録と共に出生を届け出なければならない(家事18条1項)。外国における場合には,大使館または領事館における家事登録単位が通知を受けた後5日以内に出生に関する家事登録を行う(同条2 項)。

  • 失踪登録  失踪とは,家族との音信が 2 年以上ない場合,または事故による場合には 6 か月間音信がない場合において,裁判所の判断によりなされるものである(家事 3 条 3 項)。この失踪の登録は,失踪者の財産,権利,利益および義務を保護し,ならびに失踪者に対して請求をなす者のためになされる(家事 10 条 5 項,民事訴訟法 337 条 2 項)。

失踪の登録は,裁判所の判断が後 30 日以内に,その者の居住する司法部門の家事登録局においてなされる(家事 21 条 1 項)。在留外国人,外国人,または無国籍者の失踪の場合,司法部門はその受理につき治安維持省まで報告を行わなければならない(同条 2 項)。

  • 死亡登録

 死亡の登録は,相続開始の根拠として,また死亡率を記録するためになされるものである(家事 10 条 6 項)。

この登録につき,家族の構成員が死亡した場合,家族の代理人が村長に報告を行う(家事22条1項)。死体を発見した者は,村長または警察に死体の場所を速やかに通知しなければならず(同条2項),この場合は村長または警察が5日以内に死亡を認定する。重症患者の治療にあたった医師,助産師などの医療従事者は,その患者または新生児が死亡した場合には死亡証明記録を交付しなければならない(同条3項)。

裁判所が死亡宣告を行った場合には,その者の代理人が裁判所の判断を受けた後,または裁判所の判断を知った日から5日以内に,その者の居住する所の司法部門の家事登録局に通知を行う(家事23条)。この死亡宣告は,当該人物が戦争または自然災害における場合において,それらの事態が終了してから2年後に,裁判所によりなされるものである(民事訴訟法337条2項)。なお,民事訴訟法には「通常の失踪を理由とする死亡宣告」に関する規定が存在せず,家事登録法3条4号においてそれに関する規定があり,それによると,当該死亡宣告は,家族との音信が3年以上ない者に対してなされる。

  • 婚姻登録

 婚姻の登録は,夫婦もしくはその一方,または夫婦の両親もしくはその一方の居住する郡または市における家事登録局へなされる(家事19条1項)。この認定は3日以内に行われる(同条2項)。ラオス市民と外国人との婚姻の登録は,県または中央直轄市の家事登録局においてなされる(同条3項)。外国におけるラオス市民間の婚姻の登録は,当該国のラオス人民民主共和国大使館または領事館の家事登録単位においてなされる(同条4項)。

すみれ

「新しい建物に住まなかったら、新しい家族登録にはならないのかな。」

  • 離婚登録

離婚の登録は,離婚の統計をとるためであり,独身者の状況の確認,再婚の可能性の確保,離婚増加に対する政策,ならびに家族を強固な社会的集団とするためになされるもの

とされる(家事 10 条 4 項)。

 任意離婚および裁判離婚は,離婚前にその夫婦が居住していた郡または市の家事登録局において登録される(家事 20 条 1 項)。ラオス市民と外国人との離婚の登録は,県および中央直轄市の家事登録局においてなされる(同条 2 項)。家事登録局は,申請を受けた後30 日以内に登録し,ならびに両者に対して離婚証明書を交付する(同条 3 項)。

  • 養子縁組登録

養子縁組の登録は,縁組を確証するため,ならびに養親子関係を保障するためになされるものである(家事 10 条 7 項)。

 この登録は,子の両親または後見人の居住する所の司法部門の家事登録局になされる。受理後 30 日以内に認証,登録される(家事 24 条 1 項)。ラオス市民の子を養子にしようとする外国人は,審理のために司法省へ申請書を提出しなければならず,その提出を受けた司法大臣は受理後 30 日以内に審理を行わなければならない。司法大臣より許可が下りた場合には,司法省は 5 日以内に養子縁組の登録および認証をしなければならないとされる

(同条 2 項)。

  • 認知または後見人選任の登録

 認知または後見人選任の登録は,子の扶養および教育をする両親が不在の場合に,子のための後見人を確証,認証するためになされるものである(家事 10 条 8 項)。

 認知または後見人選任の登録は,父の居住する所の,または認知もしくは後見人選任の裁判所の判断がなされた所の司法部門の家事登録局において手続がなされる(家事25条1 項)。家事登録局は,裁判所の判断が出た後に,または村長により後見人の指名がなされた日から10日以内に登録を行い,かつ認知または後見人に関する証明書を発行しなければならない(同条2項)。

  • 姓名変更の登録

 姓名の変更の登録は,新たな姓名へ変更することが必要な理由を確証し,犯罪行為のような違法行為のために変更することを制限するためになされるものである(家事 10条 9項)。

この登録は,成年の場合には,申請者の居住する司法部門の家事登録局において手続がなされる。未成年の場合には,その両親の居住する所の家事登録局において手続がなされる(家事26条1項)。司法部門の家事登録局は,申請を受理後5日以内に登録し,かつ姓名の変更に関する証明書を発行しなければならない(同条2項)。

  • 国籍変更の登録

国籍変更の登録は,元の国籍を確証し,新たな国籍を承認し,ならびに国籍を変更した者の生活を管理および助成するためになされるものである(家事 10 条 10 項)。

この登録は,国会委員会による国籍変更の承諾を受けた後に,申請書を受理した後 5 日以内に司法省の家事登録につき責任を有する部局において手続がなされる(家事 27 条)。

  • 転居の登録

転居の登録は,個人または家族の現住所を記録し,住所および職業を管理および編成し,ならびに社会の安全及び規制を保障するためになされるものである(家事 10 条 11 項)。  この登録は,家族の構成員または家族の全員が他の場所へ住居を変更する場合に,家長またはその代理人が自己の居住する所の村長へ 3 日以内に通知を行い,その後住居移動の申請書を司法部門へ提出する。住居の移動とは,同一郡内における村から村,同一県内における郡から郡,または他の県への移動のことをいう(家事 28 条 1 項)。新居に移動する

場合,到着後 24 時間以内にその居住する所の村長に通知しなければならない。村長はすべての文書が正確かつ完全であるかどうかを監査し,その者の通知を受けた日から 3 日以内にその者に対して新たな居住証を認証する(同 3 項)。転居の登録は,新たな居住者の居住する所の家事登録局において,新たな居住者に対して家事登録簿を作成するためのその地の村長による証明書が受理された後 5 日以内に手続がなされることとなる(同 4 項)104。

104 なお,家族法等の法令に「~日以内」という記載があるが,これらは原則として「労働日」を示しており,休日はその日数に含められないのが原則である。  

3.家事事件の裁判手続

 (1)裁判所における手続

 つぎに,家族法制において重要な役割を果たしているもう 1 つの制度である家事事件裁判手続についても考察する。

 ラオスにおける裁判所は,首都のヴィエンチャンにある最高裁判所,地域(パーク)裁判所(高裁),県・首都裁判所 17,地区(ケート)裁判所が存在する [94]。ラオスでは三審制がとられており,地域裁判所が第 1 審となる場合は県・首都裁判所が控訴審となり地域裁判所が上告審を担当し,県・首都裁判所が第 1 審となる場合は地域裁判所が控訴審となり最高裁が上告審を担当する。地区裁判所には,①民事部,②刑事部,③家事部が存在し,県・首都裁判所以上の裁判所には,①民事部,②刑事部,③家事部,④商事部,⑤少年部が存在する。家事問題が裁判となった場合には,この家事部が事件を担当することとなる。家事事件において 3 億キープを超えるものについては県・首都裁判所が第一審となり,3 億キープ以下または財産に関係しない事件は地域裁判所が第 1 審となる(2012 年民事訴訟法21 条,22 条)。家事に関する非訟事件は地区裁判所が第 1 審となる。

 家事部は,2012 年民事訴訟法 44 条において裁判に関する管轄が,同 45 条において審判に関する管轄が規定されている [95]。裁判については,①離婚,婚姻資産(もしくは負債)の分割のような夫婦関係の事件,②子の養育に関する請求,③配偶者,親,または成年に達してはいるが労働できないもしくは無能力である子の扶養費用に関する請求,④親族関係の地位確認,⑤子の監護権に関する請求,⑥親権および養親の子に対する地位の終了,⑥里子としての地位,⑦子の認知または父の定め,⑧子の氏名・国籍の決定のような,子の利益に関する事件,⑨法律違反,婚約の拒絶,婚姻前の性的関係,その他の事由から生じる損害に関する事件について規定がある。審判については,①無効な婚姻または法律に従わない婚姻の解消に関する請求,②裁判所に対する協議離婚の認証請求,③協議離婚による婚姻財産の分割の認証の請求,④裁判所に対する離婚による子の監護権の変更の審判請求,⑤裁判所に対する離婚による子の監護権について父または母にその手段を実施することの請求,⑥その他家事事件に関する請求について規定がある。ただし,裁判所としては以上のような事案に対し,係争中であっても和解を勧めなければならないとされており(2012 年民事訴訟法 46 条 1 項),和解がうまく行かなかったとしてもそこからさらに 3 か月待つ必要がある(同条 3 項)。

 なお,2012 年民事訴訟法 50 条には,家族の結束についての審理に関する規定があり,それによると,離婚,養子縁組,認知,親権,および扶養に関する審理は,家族法の定めるところによりなされるとある。

 (2)村落調停の手続

 このような裁判手続以外に,村落調停 [96]と呼ばれる調停制度が存在しており,家事事件に関してもまず村落調停を行うことが訴訟提起の要件とされている。ラオスでは伝統的に村長が村における紛争を解決するという慣習があり,現在の村落調停もそれに由来し,1997 年に政府の要請を受けて司法省が設置した [97]。全国の各村に村落調停のための村紛争調停機関が設置され,委員長1名,副委員長 1 名または 2 名およびその他の委員からなる。この調停機関の構成員となるには,法学教育を受けたかどうかは要件とはされておらず,調停委員会は①建国戦線の村支部,②村当局,③退役軍人会,④女性同盟の村支部,⑤青年同盟の村支部,⑥少数民族を代表する長老,⑦村の公安組織などの代表から選出される。調停費用は 10 万キープとされ,当事者が折半する。村落調停に付することが認められない事件として,原則として刑事事件,国家・集団の利益に関わる事件,既に裁判所または経済紛争解決センターで解決した事件などがあるが,家事事件に関しては村落調停が使われることが多い。なお,かつては,この村紛争調停機関において離婚を扱うことは認められていなかった。離婚は裁判所においてのみ認められていたことがその理由であるが,後述するように家族法により,それまで認められていなかった当事者の合意に基づく裁判所の関与を必要としない離婚手続(協議離婚)が認められることとなったため,村紛争調停機関においても離婚を取り扱うことが可能になった [98]

 村落調停の実際,評価,課題等については,各地で実地調査を積み重ねる必要がある [99]

 4.宗教と家族法制度との関係

ラオス人民民主共和国において,国教としての宗教が定められているわけではないが,なお国民の多くはラオス仏教を信仰する仏教徒である。社会主義体制の中において,宗教問題が歴史的には存在していたが,現在ラオス仏教はラオスの文化の中心をなすものとして尊重され,1991 年の以前の憲法の制定時には,ラオスの国旗に仏塔を冠することとなっ

[100]。現在の憲法 9 条には,仏教徒その他の宗教の信者による合法的な活動を尊重・保護をするという規定を備え,また同 43 条に宗教の信仰または不信仰の権利・自由に関する規定も備えている。

以上のように,信仰の自由を保障し,また社会主義国家であることから,例えばインドやインドネシア [101]などにみられるような信仰する宗教によって適用される法律や裁判手続が異なったり,宗教裁判所があったりするような人的不統一法国ではなく,ラオスでは上記に挙げた法律に基づいて問題が処理されることとなる。

 5.親族法

 (1)家族法制の概要

 ラオスには未だ民法典が存在しないことから,家族法が法源としてもっとも重要であり,全 55 条からなり,第 1 条から第 5/1 条までが第 1 部総則とされている。

家族法では,新婦持参金(結納),婚姻,離婚,養子縁組,夫婦関係,夫婦の財産,親子の権利・義務に関する原則,手続と措置について規定し,これらにより,家族を保護および発展させ,家族をラオス社会において文化的で安定した基本組織にし,男女間の自由な意思と平等に基づく婚姻関係を通して家族関係を確立させ,ラオスの伝統や習慣を守りかつ発展させ,家族を国家の発展および平和な社会を構築する基本組織とするとされている(家族法1条)。ラオスでは家族を社会の基本組織とし,夫・妻・子および家事登録簿によって証明される家族関係を構成し,同居するその他のメンバーのことを家族という(家族法 1/1 条)。なお,ここでいう「基本組織」とは,社会における一番小さい組織の単位のことである(家族法 1/3 条 5 号)。その他のメンバーとは,姻族としての父,姻族としての母,祖父母,夫婦の兄弟姉妹,甥姪その他の者をいう(家族法1/3 条 1 号)。また,家族関係では男女は平等とされる(家族法 2 条)。

(2)婚姻の成立

(ア)婚姻前の関係

婚姻に関し,男女は自己の意思のみに基づいて婚姻関係を形成し,国や家族の強制などによって婚姻や婚姻相手を強制することは認められない(家族法 3 条)。また,一夫一婦制がとられている(家族法 4 条)。

さらに,婚姻関係前に関する幾つかの規定も存在している。第 1 に,婚約に関する規定が家族法 6 条に存在している。

婚約とは,定義規定である家族法 1/3 条 2 項によると,男女が将来夫婦になるように婚姻をさせる目的で,男女双方の親や媒酌人(仲介人)が共同で覚書を作成し,または,男性側が女性側に高価な品物や金品を委託するという合意であり,両親および女性の親族と男性の親族の間の合意のことをいう(家族法 1/3 条 2 項)。その婚約は,男女が互いに愛情関係を形成しながらも婚姻の要件を満たしていない場合であり,男女が将来夫婦になるように婚姻をさせる目的で,伝統的慣習に基づいて,男女双方の親や媒酌人(仲介人)が共同で覚書を作成し,または,男性側が女性側に高価な品物や金品を委託するという合意で成立する(家族法 6 条)[102]。 

第 2 に,婚姻を成立させる手続として,婚姻の申込み(結納)に関する規定がある(家族法 6 条の 2)。これは,男女が互いに愛情関係を形成し,婚姻について同意をしている場合,男性の両親および仲介人(年輩の親戚),または自分が所属している組織の上司を連れて,伝統習慣に従って女性の両親および仲介人(年輩の親戚)に対して,女性との婚姻を申込み,男女の能力や実際の状況に基づいて,結納金や結婚式について合意し,正確な覚書を作成することである。これらの婚約の不履行があった場合や,申込み内容に不履行があった場合,その者に対して損害賠償を請求することができる(家族法 7 条)。規定上,婚姻の申込みは男性側からしか認められていない。しかし,家族法 2 条により男女は平等とされており,この婚姻の申込みは,それまで存在していたラオスの慣習を規定したものである。なお,家族法 6 条および 6/1 条の規定は強行規定ではないため,原則としてその内容を実施せずに合意の上で婚姻届を提出し登録されれば,婚姻はこれにより成立するが,現実には,慣習に従わない場合にその婚姻の登録が為されない可能性がある。

この婚約および婚姻の申込みに不履行があった場合については家族法 7 条に規定がある。婚約につき,男性側が正当な理由なく不履行をした場合,覚書に記載された通りに未だ女性に渡していない財産,もしくは価値のある物を女性側に渡さなければならず,既に履行済みの財産および価値のある物については,女性のものとされる(同条 1 項)。女性側が正当な理由なく婚約を不履行した場合,覚書に記載された通りに未だ女性に渡していない財産,価値のある物については取り消されなければならず,既に履行済みの財産および価値のある物については,女性側は男性側に返還しなければならない(同条 2 項)。男性もしくは女性の名誉が傷つけられた場合,または結婚式の準備のために支出が生じた場合には,正当な理由なく履行をしない当事者は,損害賠償の責任を負う(同条 3 項)。

なお,結納金についてであるが,未払いのまま婚姻関係に至り,その後に男性側に原因があって離婚となった場合には,結納金が未払いであるときには,離婚後であっても約束通りにそれを支払わなければならない(家族法 7/1 条 1 項)。女性側に原因があった場合には,未払いの結納金はなかったこととされる(同条 2 項)。

 婚姻前に性的関係が生じた場合,一方で,男性がその相手の女性と婚姻をしないときには,その男性は慣習および伝統に従い,女性または女性の家族の慰謝料や補償金(回復祝い金)を提供しなければならない。他方で,女性がその男性と婚姻をしない場合には,その女性は上記の金員等を提供する必要はない(家族法 8 条 1 項)。

性的関係により懐胎した場合には,上記の金員に加え,男性は出産費用,産褥期費用,その他の費用についても責任を負う。さらに,理由の如何を問わず,男性はその懐胎した子が 18 歳の成人になるまで,養育の義務を負うこととされている(同条 2 項)。

 (イ)婚姻の要件および手続

 婚姻は,男女とも 18 歳以上であること,男女に愛情関係かつ合意があり,婚姻を強制されていないこと,独身または離婚していることが文書により証明されていること,ならびに不十分な精神状態ではない者,重篤な病気にない者,または他者に容易に感染しうる病気にない者でなければならない(家族法 9 条)。婚姻障害事由として,第 1 に,同性であること,配偶者もしくは子の生命および健康に対して脅威となりうる精神的障害があること,もしくは重度の病や伝染症を持っている者の間の婚姻がある(家族法 10 条1項1号)。第 2に,民族による状況ではあるが,同じ姓の者,近親者である父母,父方祖父祖母,母方祖

父祖母やその上の者と子,孫,ひ孫以下の者のような同じ血縁の者,又は,養父母と養子間,義理の父母と義理の子の間,実の兄弟姉妹同士,実の子と養子間,実の子と義理の子間,養子同士間,養子と義理の子間,義理の子同士間,父方母方の叔父叔母と甥や姪間の結婚は禁止されている(同条 1 項 2 号)。

ただし,親が離婚していれば,義理の兄弟姉妹の結婚は可能である(同条 2 項)。以上に反する婚姻は無効である(家族法 17 条)。

 要件としてさらに,ラオスでは一定の手続が必要となる。すなわち,結婚する意思のある男女は,女性または男性が居住する村役場を通じて,郡や自治区の家族登録官に書面による申請書を提出しなければならない(家族法 11 条 1 項)。 登録官は,請求が受理されてから 1 か月以内に婚姻申請書を審査しなければならず(同条 2 項),男女がすべての要件を満たしていると認められた場合には,登録官は関係当事者を出頭させ,3 人の証人の出席のもとで婚姻を登録する(同条 2 項)。このように,家事登録官は一定の内容につき実質的な審査権限を有している。

 伝統的な婚姻儀式が一般に行われてはいるが,それは婚姻要件とされてはいない。したがって,婚姻の儀式が挙行されていない場合でも,婚姻の要件を満たし,その婚姻が家事登録法に従って登録されれば,その登録により婚姻が成立する(家族法 12 条1項)。婚姻関係は,婚姻が登録された日から生じる(同条 3 項)。

  • 婚姻の効果

 夫婦は平等であり,同等の権利を有している。家庭内の紛争も夫婦が共同して解決することとされ,互いに扶養する義務,子を育て教育する義務を負う(家族法 13 条)。家族の住所についても夫婦が共同してその協議で決定する(家族法 14 条)。家族の姓については,選択的夫婦別姓制が採用されており,共通の姓として夫または妻の姓を使用することも可能であり,婚姻前の姓を維持することもできる(家族法 15 条)。

すみれ

「夫婦別姓も選べるんだ。」

  • 婚姻に関する国際私法

家族法第 4 編第 1 章には渉外的な婚姻,離婚および養子縁組についての規定がある。47 条でラオス国内における渉外的な婚姻,48 条でラオス国内における渉外的な離婚,49 条でラオス人同士の国外における婚姻,そして 50 条でラオス人同士の外国における離婚の準拠法について規定している。

第 4 編第 3 章は渉外的な養子縁組の準拠法について定め,51 条で外国に居住するラオス人とラオスに居住するラオス国籍の子との養子縁組および外国人とラオスに居住するラオス国籍の子との養子縁組について規定している(「国籍法」で外国人を短期間在留する外国人,長期間在留する外国人および無国籍者の 3 種に分類されているが,ここではいずれも外国人として表記する。)。ラオス国内で挙行される婚姻の実質的成立要件には当事者の国籍に関わりなく「ラオス家族法」が適用される(家族法 47 条 2 項)。ラオス人と外国人の間の婚姻がラオスで挙行される場合には「ラオス家事登録法」で定められる婚姻登録を行わなければ有効な婚姻として効力が認められない(同条 4 項)が,外国人間の婚姻の登録は,当事者の本国の在ラオス大使館または領事館で本国法により行うことができる(同条 3 項)。無国籍者間の婚姻登録はラオス法による(同条 3 項)。

  • 婚姻の無効および取消し

  家族法 4 条,9 条および 10 条に違反する場合,その婚姻は無効とされる(家族法 17 条)。すなわち,一夫一婦制に反する場合,当事者が 18 歳未満,両当事者に婚姻に関する合意がない,または自発的な婚姻でない場合,独身・離婚,死別に関する正式な証明書を有していない場合,精神障害がある場合,重度の病や伝染病を持っている場合,ならびに近親婚に当たる場合である。しかし,無効な婚姻であっても,それを解消するには裁判所の手続が必要となる(家族法 18 条 1 項)。それらの無効な婚姻の解消を請求できるのは,検察官,家事登録官,配偶者の親もしくは,夫または妻である(同条 2 項)。無効な婚姻が解消された場合,婚姻関係は終了するが,婚姻中に懐胎した子または生まれた子は,両者の嫡出子とみなされる(家族法 19 条 1 項)。その無効な婚姻中に取得された財産は,家族法および所有権法(財産法)の規律に従うこととなる(同条 2 項)。

 このように,無効な婚姻であっても,裁判所による判断がない限り婚姻関係が継続していることとなる(家族法 16 条 1 号)。

  • 婚姻の解消

 (ア)婚姻の解消原因

婚姻の解消原因については,上記のように無効な婚姻とされ,その無効が確認された場合を含めて観念されることもあるが,それ以外にもさらに,離婚がなされる場合,離婚に関する合意がなされている場合,配偶者が死亡した場合,ならびに 3 年以上配偶者の消息が不明,もしくは連絡がない場合,または配偶者の死亡を宣告する裁判所の判断があった場合がある(家族法 16 条)。

離婚原因は家族法 20 条に規定がある。第 1 に,不貞行為があった場合がある。第 2 に,一方配偶者,父母もしくは親族に対する暴力もしくは重大な侮辱,または重度の常習的飲酒,麻薬中毒,常習賭博行為もしくは浪費のような,同居を不可能とするような著しい不行跡があった場合がある。第 3 に,家族に予告かつ連絡することなく,もしくは家族の生活に必要な物品を送ることなく 3 年以上家族を遺棄した場合がある。第 4 に,合意なしに夫が僧侶,見習い僧,もしくは修練者となり,または妻が尼僧となり,3 年以上が経過した場合である [103]。第 5 に,一方配偶者がその消息を家族に 2 年以上知らせなかったとき,または事故により 6 か月以上消息がないときにおける,裁判所による失踪の宣告がなされた

場合である。第 6 に,配偶者が刑法犯としての有罪判決を受け,その刑事罰が 5 年以上の収監を伴うものである場合である。第 7 に,配偶者に同居を不可能とさせる危険で深刻な病気がある場合である。第 8 に,配偶者に同居を不可能とさせる精神疾患がある場合である。第 9 に,配偶者が性的に不能となった場合である。第 10 に,信義にもとる行為および虐待により,同居が不可能となるような不和な状態の場合である。これらの事由に該当する場合であっても,夫は,自己の妻が懐胎している間,または子が1歳に満たないときには,離婚を請求する権利を有さない(家族法 22 条 1 文)。ただし,妻についてはこの限りではない(同 2 文,女性の発展及び保護法 20 条 1 号)。

(イ)離婚手続

 離婚の方式に関しては 2008 年家族法に新たな規定が設けられ,当事者の合意による任意離婚が認められるようになった(家族法 21 条 1 項 1 号)。ただし,金銭により離婚を成立させることは認められていない(同条 2 項)。

任意離婚の要件は,第一に,双方が離婚に合意していることである。第二に,双方が,例えば子の監護権のように子に関する争いを有していないことである。第三に,双方が婚姻財産について争いを有していないことである。第四に,双方が借金に関して争いがないことである(同 21/1 条)。この要件を満たしている場合,夫婦は,双方の両親,親族および3 人以上の証人の面前で離婚の申請書を作成し,双方の居住するところの村長に対して離婚の請求を行い,その届出を行う。それに対し,村長は双方に和解を促し,その和解がうまく行かない場合には,村長はさらに双方にその熟慮のために 3 か月の期間を与える(家族法 21//2 条 1 項)。和解に至らなかった場合,村長は離婚の記録を作成し,離婚の登記のために郡,もしくは特別市のレベルにおける家事登録官へそれを送付し,登録官は離婚の証明書を発行し,その謄本を各当事者へと送付する(家族法 21/3 条 2 項)。

裁判離婚の場合,裁判所は次の内容を審査する。すなわち,第 1 に,一方配偶者の離婚請求があり,かつ一方配偶者が離婚に同意していないことである。第 2 に,子の監護権,婚姻財産,または双方の借金の問題について争いがあるかどうかである。第 3 に,家族法20 条における離婚原因のあることである(家族法 21/3 条 1 項)。しかし,裁判所に離婚の請求がなされたとしても,裁判所はただちにその審査を行うわけではない。審査の前に,裁判所はまず双方に和解を進めなければならない。また,民事訴訟法 46 条 1 項によると,離婚事案につき判断を下す前に,裁判所は両当事者の両親および親族を裁判所に召喚し,両当事者の理解等を推し進めるための努力をしなければならないとされている。直ちに両当事者が仲直りに合意できない場合は,彼らに考え直させるために 3 か月の期間を与えなければならない(家族法 21/3 条 2 項、民事訴訟法 46 条 3 項)。当事者間で和解が成立すれば,裁判所はその記録をとり,離婚請求を破棄しなければならない(民事訴訟法 46 条2 項)。

その期間が経過しても和解が成立しない場合に,はじめて裁判所は離婚を審査し承諾を行うこととなる。その離婚判断の際に,裁判所は未成年子の利益の保護,ならびに生計を確保するための労働ができない夫または妻の利益を保護するための方策を打ち出さなければならないとされている(家族法 21/3 条 3 項,民事訴訟法 46 条 4 項)。離婚の判断が下されると,裁判所は離婚の登記のために家事登録局へその判断に関する 2 通の副本を送達し,かつ 1 通の謄本を各当事者へ送達しなければならない(家族法 21/3 条 4 項)。それに基づき離婚の登録がなされる。

なお,同じ相手との再婚は認められるが,婚姻の登録を再度行わなければならない(家族法 25 条)。

(ウ)離婚における子の保護および自己の扶養料の請求

離婚後,子の保護と養育(後見)について同意できない場合,裁判所は,子の利益や法律の規則により,父または母のいずれが子を世話すべきかを決定しなければならない(家族法 23 条 1 項)。離婚した夫婦は,子を世話,養育しかつ教育しなければならないからであり,裁判所は,夫と妻との合意に基づいて,または,夫と妻の問で合意に達することができない場合は,裁判所の決定に基づいて,子が 18 歳の成人に達するまでに支払われる子の養育費について決定することとなる(同 23 条 2 項)。離婚後の子の監護権について,裁判所が父または母のどちらが子の利益にふさわしいかについて決定する場合には,母親が子の監護権に関して優先権を有している(女性の発展及び保護法 20 条)。また,民事訴訟法においては,子が7歳に満たない場合において,母親が子を受け入れない,または子を育てるための手段を有さない場合を除いて,監護権は母親に与えると規定されている。子が7歳以上の場合は,子に最初に看護を受けることにつき尋ねなければならない。更に,父母が子を受け入れることができない,または子を育てることができない場合,裁判所は子が第三者の監護権に服する判断を行うことが認められている(民事訴訟法 47 条)。

離婚後,婚姻関係があったときから病気にかかっていて,かつ自分の必要を満たすことができない夫または妻は,相手方に経済的な能力がある場合に限り,離婚をした後も,相手方による扶養料の負担分を決定するよう裁判所に請求する権利を有する。ただし,扶養料の負担は 2 年を超えないものとされている(家族法 24 条)。また民事訴訟法において,離婚事件に関し,子の扶養料に関する請求がなされる場合,離婚後夫婦財産が存在するときは,裁判所は子の養育をする者のためにその財産の 3 分の 1 を割り当てる判断を行う。夫婦財産が子の扶養のために不十分な場合には,子の扶養について義務を負う当事者は,家族法に規定される各期間の生活費の額を,子の扶養のために月単位で支払うこととの判断がなされる(民事訴訟法 48 条 1 項)。夫婦財産が存在しない場合,子の扶養につき義務を負う当事者が,公務員の最低賃金の半分を基準とし,各期間の生活費の額を月単位で支払うように裁判所は判断を下すとされる。夫婦財産の形態が家族の居住する家屋である場合,監護権を有する親が家屋の取得につき優先権を有する。家屋の価値が監護権を有する親の受領額を超える場合,家屋を取得する当事者は相手方当事者に対し,差額を払い戻さなければならないとされる(民事訴訟法 48 条 2 項)。

(エ)婚姻財産

離婚時の財産分割について,婚姻前からそれぞれが所有する財産,結婚後に夫もしくは妻に対する相続,遺贈もしくは贈与によって取得された財産であって,最初の形で残っているかまたは他の財産の形態に変わったものは,夫婦のそれぞれの特有財産(各自の所有する財産)とされる(家族法 26 条 1 項)。1 項以外に,夫または妻の特有財産に生じた利子,収入や成果は,夫又または妻のそれぞれの特有財産とみなされる。ただし,夫または妻が生産に貢献する,または夫婦共同で働いて得た収入や成果は婚姻後取得財産(夫婦財産)とみなされる(同条 2 項)。ここでいう夫婦財産とは,夫婦が婚姻中に共同で取得した財産のことであり,価値の低い個人向けの財産は夫婦財産とはされない(同条 3 項)。一方配偶

者が同居,または別居している間に各自で得るすべての収入は夫婦財産とされる。別居後に家族の利益のために,または夫婦の合意により借り入れられた負債については,夫婦が責任を持つこととなる。ただし,個人の利益のため,または合意なしに借り入れられた場合には,各配偶者がその負債について責任を負わなければならない(同条 4 項)。また,他方の特有財産に対して婚姻財産から支出があった場合,または 3 分の 2 以上の額を特有財産から一方の特有財産に対して支出した場合,その特有財産は夫婦財産になったとみなされる(同条 5 項)。

 家族法 26/1 条には,慰謝料に関する規定がある。慰謝料とは家族の構成員の死亡により損害を受けた家族が受ける金銭のことである(家族法 26/1 条 1 項)。これは平等に 3 分割され,死亡者の両親,一方配偶者および子に提供される。死亡者に子がいない場合,この慰謝料は 2 分割され,死亡者の両親および一方配偶者に提供される。死亡者に両親がいない場合,この慰謝料は 2 分割され,一方配偶者および子に提供される。死亡者に両親および子がいない場合,この慰謝料は一方配偶者に提供される。それ以外の場合,この慰謝料の分割方法は,遺産および相続財産基準(相続法)に従うこととなる。ただし,この慰謝料は分割をする前に死亡者の葬儀費用,供養費用,借金返済,および死亡により生じたその他の費用に対して優先的に使用されなければならない(家族法 26/1 条 2 項)。

 夫婦財産について,各配偶者は,どちらが実際にその財産を取得したのかにかかわらず,平等な権利を有している。夫と妻は,家庭の必要性に従って取得財産を合理的な理由で使用する権利を有する。高価な取得財産の収益を受ける権利および決定権については,事前に相互の同意を得なければならない。例えば,土地の使用権,家の購入,または夫婦財産を担保にする事などである(家族法 27 条)。

 夫婦が有する財産に関する持分については,家族法 28 条に規定がある。第 1 に,特有財産は各所有権者の財産とされる(家族法 28 条 1 項 1 号)。第 2 に,夫婦財産は夫もしくは妻との間で半分ずつに分けられる。ただし,裁判所の判断により不貞行為もしくは婚姻財産について詐取や横領が認められた一方配偶者は夫婦財産の 3 分の 1 のみを受領する権利を有する(同条 1 項 2 号)。第 3 に,未成年子が一方の親と生活をする場合,その親は子の監護人として夫婦財産の 3 分の 1 を受領する権利を有する。その残りの財産は夫婦が平等に分割する。夫婦財産が子の監護に不十分な場合,子が 18 歳の成人に達するまでは,家族法 35 条(子を世話養育する親の義務に関する規定)が適用され,両親が離婚後もともに監護を継続する義務を負うこととなる。

夫婦財産は離婚が成立した後に分割される。夫婦が別居し,または不正な方法で夫婦財産を密かに使用し,もしくは夫婦財産に対して不誠実な意思を表明した場合には,夫婦財産はその相手方の申立てにより離婚前に分割することも可能である(家族法 28 条 4 項)。

 (オ)離婚に関する国際私法ラオス国内での離婚には,当事者の国籍にかかわりなくラオス法が適用される(家族法48 条 1 項)。ラオス人夫婦がラオスに居住する場合にも同様にラオス法が適用される。ラオス国外でラオス人と外国人,またはラオス人同士が離婚する場合には,離婚地の法による(家族法 48 条 2 項,50 条 1 項)とされており,日本人とラオス人の夫婦またはラオス人の夫婦が日本で離婚する場合には,ラオス国際私法上,準拠法は法廷地法である日本民法となる。

 (5)実親子関係

  • 概要

ラオス家族法の規定には,実親子関係の発生,親子の権利・義務関係,養子縁組の制度,および認知制度が存在している。これらの紛争が生じた場合も村紛争調停機関が活用され,それによっても合意に至らない場合に,裁判所による親子関係の事件の審理が行われる。

  • 実親子関係と認知制度

実親子関係における権利・義務は子の出生により生じる(家族法 29 条 1 項)。ラオス家族法では,子は法的に婚姻している両親から生まれた者についてだけではなく,婚姻していない両親の子から生まれた子のことも指している。ただし,婚姻していない両親から生まれた子と父との関係ついては,父の認知または父親であることが裁判所により認められる必要がある(同条 2 項)。

認知は,婚姻していない両親から子が生まれた場合になしうる(家族法 30 条 1 項)。任意認知は両親が共同で申請書を家事登録局に提出することで成立する。母が死亡している場合は,父が単独で認知を行うことができる(同条 2 項)。子が成人に達している場合,子の同意がなければ認知をすることができない。この場合に,たとえ父が他の女性と婚姻していたとしても認知をすることに問題はない(同条 3 項)。父が認知をしない場合には,子の母,子の責任者または保護者 [104]は,裁判所に対して認知請求をする権利を有する(同条4 項)。なお,条文上,子は認知請求権を有しない。裁判所が認知を行う基準は,子の母および認知をする父が同居し共に財産を保有している場合,子の母および認知をする父が子を共同で扶養し教育している場合,ならびに認知をする父について父であるという医学的証拠が存在する場合である(同条 5 項)。

 (ウ)子に対する父母の権利・義務  

両親は,その好みに従い,相互の同意に基づいて子の名について決定する権利を有する。ただし,子は 18 歳に達すると,規定に従ってその名を変更する権利を有する(家族法 31条 1 項)。

すみれ

「自分で名前を変更できるんだ。」

子の姓については,ラオスは選択的夫婦別姓制が採用されていることから,両親の姓が同一の場合には,子の姓も同一のものとされる(同条 2 項)。両親が異なる姓を使用している場合は両親の協議に従い,協議で決まらない場合は裁判所の判断する姓を使用することとなる(同条 3 項)。両親の婚姻関係が解消された場合でも,原則として子の姓は変更されない。しかし,両親の婚姻関係が解消した後に監護権を有する親とその子の姓が異なることとなった場合など,子にとって必要とされる場合には子の姓をその監護権を有する親と同一の姓に変更することが認められる(同条 4 項)。姓または名を変更する場合,その申立てはその者の居住する郡および特別市における家事登録局へ申請を提出する(同条 7 項)。なお,子の国籍は両親が同一の国籍を有する場合は,両親の国籍により(同条 5 項),両親が異なる国籍を有する場合には,ラオス国籍法に従い父母のいずれか一方の国籍を取得することとなる(同条 6 項)。

両親は,子に対し愛国心,前進を愛する心,良い市民,親孝行の心を持つ人間,透明性のある生活様式を持つ人間として子を教育しなければならず,かつ子が教育を受けられる状況を作り,社会に貢献できるような状況を作らなければならない(家族法 32 条 1 項)。このような子の教育に対する義務を両親が履行しないとき,親の権利を逸脱しているとき,子に暴力および虐待をするとき,または子が両親に対して忘恩行為を働いた場合には,裁判所は「民事訴訟法 59 条の規定に従い」,親の権利,または子の権利を剥奪することができると規定されている(同 32 条 2 項)。なお,この民事訴訟法 59 条は 2012 年民事訴訟法 49 条に該当する(民訴改正後に家族法の訂正がなされていないのでこのような条文となっている。)。両親の親権剥奪,および子の権利の剥奪の請求は,他方配偶者,親族または検察官によって提起されうる(民事訴訟法 59 条)。ただし,それらの剥奪後も,両親の子を扶養する義務は継続し(家族法 32 条 3 項),そのような両親または子が,その後,子に対して適切にその権利を行使することができるようになったと認められたとき,または子が改心をした場合には,裁判所は両親の権利,または子の権利を回復させることができる(同条 4 項)。

 両親は子の権利および利益を保護する義務を負う。両親は 18 歳に達していない未成年の子の法定代理人であり,法廷,職場,学校その他の場所において子の権利および利益を保護する義務を負う(家族法 33 条 1 項)。未成年の子が両親の同意なしに契約を締結した場合,両親は裁判所に対してその契約の取消しを請求できる。子が被告となる訴訟においても,両親はその子を代理する。両親が離婚していた場合であっても,その両親は子のためにすべての民事責任を負わなければならない(同条 2 項)。

また,両親は未成年の子だけではなく,成人であっても働くことのできない障害者等の子を扶養する義務を負う(家族法35 条 1 項)。子を扶養する義務は,両親と子の同居または両親の離婚にかかわらず,その義務を負わなければならず,子の養育費も子が 18 歳になっていない間は,裁判の有効期限に関係なくいつでも請求できる。この養育費を請求するための提訴の期間制限はない。1 人の

子の養育費の金額は,公務員の最低月給の半額を基準とし,その時その時の生活水準に従って計算される(同条 2 項)。ただし,両親が経済的困難に陥った場合には,両親は裁判所に対して,子の扶養料の額の軽減を請求することができる(同条 3 項)。

親子の財産につき,両親が死亡するまで,子は両親の財産についていかなる財産権をもつことはなく,両親は子の財産についていかなる財産権も有さないが,両親は未成年の子の財産を管理する義務を負う。両親および子が共有する財産権がある場合は,その財産権は所有権法(財産法)25 条(共有財産権に関する規定)の規定に従うこととなる(家族法34 条)。

 また,子の義務として,両親が高齢,病気,働くことができない,または扶養が必要となったような場合には,子は両親を扶養し援助する義務を負う。その扶養料の額は,両親と子との合意で決定される。その額が合意に至らない場合には,裁判所が子の経済的状況からその扶養料の額について判断を行う。なお,その扶養料は月単位で支払われることとなる(同条 1 項)。両親が家族法 32 条(子を教育する親の義務の規定)に規定するような違法な行為に関与した場合には,子はその義務から免れることができる(同条 2 項)。

 なお,離婚後の子の監護権については,前述(4)(ウ)(離婚における子の保護および自己の扶養料の請求)の部分を参照。

 (エ)未成年子に対する法定代理権および後見

 前述の通り,両親は未成年の子の法定代理人である(家族法 33 条 2 項)。子および無能力者の両親が死亡もしくは親権を剥奪され,または病気もしくは他の理由により扶養が必要とされている場合,子および無能力者の後見人が,子を扶養し,かつ教育する義務を負う(家族法 43 条 1 項)。後見人は子および無能力者の権利および義務を保護する義務を負う(同条 2 項)。後見人は,前述のような両親と同様の権利義務を有する(家族法 45 条)。  後見人の選任は次のようになされる。すなわち,遺棄された者がいた場合,そこの地域の村長は,遺棄された者の通知を受理した後 1 か月以内に,子および無能力者の後見人をその者の近親者の中から指名しなければならない。その近親者がその後見人の指名を受諾しない場合,それ以外の者が子および無能力者の後見人として選任される(家族法 44 条 1 項)。近親者とは,直系血族(両親,祖父母など)および水平的関係にある者(兄弟姉妹,いとこ等)のこととされる。後見人を指名する村長は,定期的に後見人の活動を監督する義務を負う(同条 2 項)。未成年者,無能力者,親の権利を剥奪されたことのある者,または後見人として不適切とされる者を指名することは認められない(同条 3 項)。

 子および無能力者が成人になり,または行為をする能力を回復した場合,後見は終了する。後見人が自己の義務の履行が不可能となり,または適切に義務を履行することが不可能となった場合,後見人は解任され,または新たな後見人に変更される(同 46 条)。

 なお,離婚後の子の保護については,前述(4)(ウ)(離婚における子の保護および自己の扶養料の請求)の部分も参照。

 (6)養親子関係

  • 概要  養子縁組は養親と実親の合意により成立する。日本の特別養子縁組のような制度は存在しない。養子縁組制度は「他人の自然子として出生した子」を養子とすることであり,養親子関係が成立した後は,実親子関係に基づく権利義務は終了し,養子は養方の親族となる(家族法 37 条 1 項)。なお,養子縁組をするには,家族法の規定に基づいて作成された証明書を保持しなければならない(同条 2 項)。
  • 養子縁組の要件

養子縁組が成立するためには,養子が 18 歳未満の未成年であること,養親が成年(18 歳以上)に達していること,養親および養子となる者の年齢差が 18 歳以上あることが必要とされ,かつ,親権が取り消されていない者で,相応しい経済的条件を有する者でなければならない(家族法 38 条 1 項)。また,養親となる者および子の実親の書面による事前の同意が必要である。ただし,実親がその親の権利を剥奪され,または不適当な者もしくは失踪した者と認定された場合は,このような書面による同意は不要である(同条 2 項)。また,養子となる者が 18 歳以上の場合は,その子の同意も必要とされる(同条 3 項)。その後,養親となろうとする者は,養子縁組許可を村長に申し立てねばならない。村長は養子縁組許可申請がなされてから1か月以内に許否を決定しなければならない(家族法 39 条 1 項)。養子縁組が適切と認められる場合には養子縁組許可証が発行され,発行後 3 日以内に家事登録官に送付される。養親にも養子縁組許可証の交付がなされる(同条 2 項)。

単独の成人が養親となりうるか,内縁関係の男女が養親となりうるか,同性婚カップルが養親となりうるかについては明らかではない。なお,聞き取り調査では,統計上 2006 年から 2010 年までの間で,ラオス法で認められた国際養子縁組として,子のいない外国人夫婦を養親として認めた事例があったとのことである。

  • 養子縁組の効果
  •   養親子関係は,養子縁組が登録された日から効力を生じる(家族法 41 条 1 項)。養子の姓は養親の請求に基づき養親の姓へと変更がなされる(同条 2 項)。養子の名が不適切であると考えられる場合には,養親の申立てにより,養子の名を変更することができる。ただし,養子が 10 歳に達していた場合には,その養子本人の同意が必要となる(同条 3 項)。養親子関係が成立すると,前述のように,実親子関係は終了し,養子は養方の親族となる(家族法 37 条 1 項)。縁組成立後,養親の同意なしにその養親子関係についての秘密を開

示した者,または養親が死亡している場合に家事登録官の同意なしに子の養子縁組の秘密を開示した者は,刑法 104 条 1 項の規定に基づき刑事責任を負う(家族法 40 条)。

  • 養子縁組の無効および解消

偽造証書を使った場合,または養親として不適格な者によりなされた養子縁組は,無効である(家族法 42 条 2 項)。養子もしくは養親の利益とならない養子縁組,または家族法38 条(養子縁組の要件に関する規定)に反する養子縁組は取消しの対象となる(同条 3 項)。養子縁組の取消しを請求する権利は,実親,養親または利害関係を持つ者であり(同条 4 項),養子縁組が無効と認められ,または取消しがなされた場合には,養子の地位は裁判所の判断に従い終了する(同条 1 項)。

なお,養親子関係が終了した後に養親と元の養子が婚姻することは禁止されていない。

(オ)養子縁組に関する国際私法規定

 家族法第 4 編第 3 章に国際養子縁組に関する国際私法規定がある。家族法 51 条は外国に居住するラオス人間の養子縁組,外国に居住する外国人夫婦とラオス人の間の養子縁組,ラオスに居住する外国人夫婦とラオス人の間の養子縁組,ラオスに居住するラオス人夫婦と外国人の養子縁組のいずれにもラオス法を適用すると定めている。したがって,日本に居住する日本人がラオス人未成年者と養子縁組する場合にはラオス法上の養子縁組手続を行い,かつ在日ラオス大使館を通じてラオス政府の承認を求めねばならないことになる。ラオスに居住する日本人がラオス人の未成年と養子縁組する場合も同様にラオス法によることになる。これらのことから考えて,ラオス国際私法上,ラオス人のかかわる養子縁組につき,法の適用に関する通則法 41 条の反致の適用は認められないことになる。

 6.相続法

  • 相続法制の概要  

相続については,現行法として 2008 年相続法が法源として重要である。この法典は 1990年相続法(遺産及び相続基準とも訳される)を改正したものである。

 相続法は,相続の正当性および公平性を確保し,被相続人および相続人の権利義務が確実に履行され,社会の平穏が確保され,秩序が維持されるために,遺産分割,遺産相続および遺産管理に関する原則を定めるものである(相続法 1 条)。相続には,法律によるものと遺言によるものがあり(相続法 8 条),死亡した者に属した財産および権利義務を,相続人が承継することが相続とされる(相続法 2 条)。また,裁判所よる死亡宣告の場合には,その者の遺産は相続人の所有になり,その後に被相続人が生存していたことが判明した場合には,相続人は相続した遺産の残存するものを宣告された者に返還し,被相続人はその遺産の管理において発生した費用等を相続人に支払うこととなる。ただし,その物の生存が判明したとしても,裁判の宣告を知った日より,動産の場合 3 年以内,不動産の場合は 6 年以内にその者が財産の返還請求をしなければ,その者の財産は相続人の所有とされる(相続法 5 条)。

  • 相続の開始および場所

 相続は遺産所有者が死亡した日から開始する。被相続人が,裁判所に死亡宣告された場合,その裁判所の確定判決の日が相続開始日とされる(相続法 6 条)。相続は,被相続人の最終住所において開始し,被相続人の住所が不明または複数ある場合は,主要な遺産の所在地が相続開始場所とされる(相続法 7 条 1 項)。なお,相続の開始は文書により,相続人,親族および証人の参加,ならびに裁判所事務官の立会い,また裁判所事務官がいない地域においては村長の立会いが必要とされる(同条 2 項)。

  • 法定相続
  • 法定相続の行われる場合

 法定相続は,①個人または組織に相続を指定する遺言が作成されなかった遺産の場合,②遺言無効,受遺者(遺言による相続人)が相続開始以前に死亡した場合,③受遺者が相続を放棄する場合,④遺言による相続の遺産以外に,遺産が残存している場合に開始される(相続法 9 条)。

  • 法定相続人および相続順位  法定相続人としては,①被相続人の子(実子,養子,配偶者の子),②被相続人の配偶者,③直系の尊属(被相続人の父母,祖父母,曾祖父,曾祖母),④傍系の親族(被相続人の兄弟姉妹,伯父,伯母,叔父,叔母,孫,曾孫,玄孫 [105]),⑤政府,法人またはこの法律に定めている個人等とされる(相続法 10 条)。なお,胎児も相続権を有し,この場合には胎児

の母がその相続財産を管理するとされている(相続法 16 条)。

 法定相続人の相続順位については,被相続人の子および配偶者は優先的に相続できる。彼らが存在しない場合に,他の親族が近親順に従って相続することとなる(相続法 11 条)。

  • 相続分  配偶者および子が生存している場合には,被相続人の特有財産の 4 分の 3 をその子が相続し,生存配偶者は残りの 4 分の 1 につき相続分を有する(相続法 12 条 1 項)。ただし,夫婦財産については,生存している配偶者がその 2 分の 1 を相続し,子は残りの 2 分の 1 を相続し,子が複数いる場合はそれを相等しい割合で相続する(同条 2 項)。なお,生存配偶者は,未成年の子の相続分に関する財産を管理する権利を有する(同条 3 項)。

 子を持たない夫婦の一方が死亡した場合には,生存配偶者と直系の親族が相続し,その相続分につき,被相続人の特有財産については,生存配偶者がその 3 分の 1 を相続し,直系尊属は各自その 3 分の 2 を相続する。直系尊属が複数いる場合は,その割合は各自で等しいものとされる。(相続法 13 条 1 項 1 号)。夫婦財産に関しては,生存配偶者がそのすべてを相続する(同項 2 号)。なお,離婚をしていない別居中の夫婦の一方が死亡した場合であっても,他方はその遺産を相続する権利を有している(相続法 20 条)。

 被相続人に子および直系尊属がおらず,配偶者および傍系親族がいる場合には,傍系親族は被相続人の特有財産の 2 分の 1 を相続し(複数いる場合は各自平等の割合:相続法 14 条 2 項),生存配偶者は被相続人の特有財産の 2 分の 1,および夫婦財産のすべてを相続する(同条 1 項)。  子の相続分については,被相続人に複数の実子のみがある場合には,上記の相続法 12 条における夫婦財産に関する配偶者の相続分である 2 分の 1 を除いた残りの 2 分の 1 と,特

有財産に関する配偶者の相続分である 4 分の 1 を除いた残りの 4 分の 3 について実子各自が等分で相続分を有する(相続法 15 条 1 項 1 号)。被相続人に実子,養子および継子がある場合,被相続人の夫婦財産に関してはその者たちが等分で相続分を有する(同項 2 号)。被相続人の特有財産に関しては,養子と実子とは相続権を有するが,継子は相続権を有しない(同項 3 号)。養子の実親が遺言に別段の意思を表示した場合を除き,養子は実親の遺産を相続できない(同項 4 号)。なお,被相続人が死亡するまで介護し,葬儀の手配等を担った実子,養子および継子は,他の子の相続分の 2 倍を相続することができる(同条 2 項)。

  • 代襲相続

 法定相続人が被相続人よりも先に死亡した場合,その法定相続人の相続人は代襲相続ができ,さらに再代襲相続も認められている(相続法 21 条)。代襲相続の要件として,代襲者が法定相続人であること,および被代襲者が相続権を有し,代襲者がその者の子であることが挙げられている(相続法 22 条)[106]

  • 法定相続人の不存在および僧侶に関する相続

 相続人が存在しない,または失踪の場合,使用人として 3 年以上当該の世帯に住んでる者は世帯主の遺産を相続することができる(相続法 17 条 1 項)。反対に,相続人が存在しない使用人が死亡した場合,世帯主が使用人の遺産を相続することができる(同条 2 項)。相続人が存在しない,または失踪の場合であり,相続財産の所有者が死亡してから 60 日以内に相続権の主張がないときには,政府が該当の遺産を管理することとなる(相続法 18 条1 項)。その後,死亡若しくは失踪の審判から 3 年を経過した場合,その財産に対する請求は認められず(消滅時効),当該相続財産は国庫に帰属する(同条 2 項)。なお,相続の開始に立ち会う裁判所事務官または村長は,被相続人の葬儀,債務弁済にかかる費用等を遺産から受け取ることができる(同条 3 項)。

 僧侶,少年僧,その他の司教に関して,出家前または出家中に得た財産は,個人もしくは組織に贈与,条件付贈与,またはその趣旨の遺言(これらの内容につい

ては,後述(4)(ア)を参照)をすることができ,さらに,彼らの財産は,個人または組織によって相続されることも認められている(相続法 19 条 1 項)。上記の者が死亡した際に,相続人が存在しない場合や上記の遺贈等がなされなかった場合には,その遺産は上記の者が所属する僧院または修道院等の所有になる(同条 2 項)。

 (4)遺言による相続

 (ア)遺言による相続の内容

  国民すべてに,自己の意思による贈与,条件付贈与,および遺言をする権利を有することが法律上明確に示されている(相続法 24 条)。すなわち,相続法において遺言以外に贈与や条件付贈与の規定が置かれているのである。ここでいう贈与とは,生前に自己所有の財産を無条件で他人に譲ることであり,その財産は受取りの時より受贈者の所有となる(相続法 3 条 4 項)。条件付贈与とは,生前に自己所有の財産を条件付で他人に譲ることであり,受贈者はかかる財産の所有者になるために,条件を適法に履行する必要があるとされる(同条 5 項)。遺言とは,財産所有者が自分の意思を表示する法的文書であり,3 名以上の証人の立会いのもとで文書または口述で個人または組織に預け,記録されるものである(同条 6 項)。

ただし,これらの行為には,その範囲について一定の制限がなされている。第 1 に,財産所有者が 1 人の子を持つ場合,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の半分を超えてはならないとされる(相続法 25 条 1 項 1 号)。第 2 に,財産所有者が 2 人の子を持つ場合,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の 3 分の 1 を超えてはならないとされる(同項 2 号)。第 3 に,財産所有者が 3 人以上の子を持つ場合には,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の 4 分の 1 を超えてはならないとされる(同項 3 号)。これらの範囲を超えた部分は無効とされ,法律の定めによってその分配が決定されることとなる(同条 2 項)。

すみれ

「実質的な遺留分かな。」

 (イ)遺言の方式

 遺言は,文書による方法と,口述による方法が認められている(相続法 26 条)。

 (ⅰ)文書による遺言

 文書による遺言は,財産所有者本人の文書によって行われ,また他人によっても行うことが可能である。他人が執筆する場合は 3 人以上の証人の立会いが必要であり,相続が開始されるまでその秘密を厳守しなければならない(相続法 27 条 1 項)。この遺言には作成年月日,遺贈財産の種類または金額,遺贈者,受贈者,執筆者,および証人の名前を記載しなければならない(同条 2 項)。遺贈者,執筆者および証人は,遺言に署名および拇印をしなければならない(同条 3 項)。遺言の作成後は密封し,財産所有者の所属する地域または近隣地域の公証人において保管されるか,または公証局がない地域の場合は村の統治機構において保管される(同条 4 項)。

 (ⅱ)口述による遺言

 口述による遺言は,財産の所有者が死亡の危急に迫っている,健康ではない,その他の理由により,文書による遺言をすることができない場合においてすることができ,3 名以上の証人の立会いの元で口述によりなされるものである(相続法 28 条 1 項)。この場合,証人は裁判所事務官または村の統治機構に,財産所有者の意思内容および文書によって作成することができない理由を,直ちに報告しなければならない(同条 2 項)。財産所有者が通常の状態に戻った場合には,その日より 30 日が経過すると,口述による遺言は無効とされる(同条 3 項)。

 また,財産所有者は,自己が指定した相続人が遺言の執行より先に死亡した場合,または相続人がその権利を放棄した場合を補欠するために,補欠相続人を指定することもできる(相続法 29 条)。

 (ⅲ)遺言の効力

遺言によって相続人となる者は,その者の法定相続分も相続し,かつ遺言による相続分も相続しうる(相続法 30 条)。ただし,遺言の執筆者,その配偶者および子,立会いの証人およびその配偶者もしくは子は,その遺言による相続において,相続権を有しない(相続法 31 条)。これは,彼らについては法定相続分を有することから,それを上回る額の相続を認めない趣旨と,証人等についてはその地位の悪用を防ぐためにそのような規定になったと考えられる。

 財産の所有者が自己の財産を未成年者または知的障害者・精神障害者に遺贈する場合,その遺産を管理する人を選任することができる(相続法 32 条 1 項)。遺産の管理者は,財産所有者がその遺言に別段の意思を表示した場合を除き,自己以外の者をその遺産の管理者に選任することができる(同条 2 項)。この場合,その未成年者が成年になるとき,および知的障害者・精神障害者が通常に戻るときに,その管理人の役割は終了する。

 (ⅳ)遺言の変更・取消し・失効・無効

 新たな遺言を作成し,従来の遺言内容を変更または取り消すことが認められている(相続法 33 条 1 項)。新しく作成した遺言内容と従来の遺言の内容とが矛盾する場合は,その内容の一部または全部が取り消されたものとされる(同条 2 項)。遺言が失効する場合として,受遺者が遺言者よりも先に死亡したとき,受遺者がその権利を放棄したとき,遺贈物が遺言者により紛失もしくは破壊されたとき,またはその遺言が無効であるときがあげられている(相続法 34 条)。

 遺言の無効な場合として,遺言者が未成年者または知的障害・精神障害者であるとき,目的が明確でない遺言,強迫,詐欺または偽造によりなされた遺言,または相続法 31 条に挙げられている者(遺言の執筆者,その配偶者および子,立会いの証人およびその配偶者もしくは子)に対する遺言が挙げられている(相続法 35 条)。

 (ⅴ)遺言執行者

 遺言につき,その執行者を選任することもできる。この遺言執行者は,財産の所有者,遺言に定められた者もしくは受遺者が就くこととなる(相続法 36 条 1 項 1 号 2 号)。財産の所有者が遺言執行者を選任しなかった場合,選任された者が死亡した場合,失踪者である場合,行為能力を有しない者である場合,不誠実な執行を行う場合,または執行できない場合においては,裁判所が選任を行う(同 3 号)。

 遺言の執行は,財産の所有者が死亡しなければできない(相続法 37 条 1 項)。遺言執行者は,遺言が執行され,実務的に効果を発するために必要な行為を行うことができる(同条 2 項)。なお,遺言の執行にあたり特別報酬を得ることができないが,遺産の管理,維持にかかった費用に関しては請求することができる(同条 3 項)。また,遺言執行者には,受遺者に遺言の執行状況を報告する義務がある(同条 4 項)。

 (5)相続の承認・放棄

 (ア)遺産分割に至る流れ

 相続人は,遺言による指定,または別段の内容が合意された場合を除き,相続の開始をいつでも申し出ることができる(相続法 38 条 1 項 [107])。相続人の中に未成年者の相続人がいる場合,その相続人が成年になるまでは相続の開始を延期することもできる。また,未成年者がいる場合に相続を開始するときは,裁判所書記官または証人として村長の立会いが必要とされる(同条 2 項)。

 遺産の分割をする前には,相続財産に対し債権や債務の内容について計算等を行い,その状況を整理しなければならない。具体的には,被相続人が生前に他人に貸し出した財産,他人から借り入れた財産,または他人に預けたもしくは担保に提供した財産,詐欺,騙取,横領により取られた財産や(相続法 39 条 1 項 1 号),被相続人の葬儀費用や借金についてである(同項 2 号)。これらの整理が終了した後に,相続人は残っている財産のそれぞれの相続分を相続することができる(同条 2 項)。

遺産の分割を求める請求については時効期間があり,その請求は被相続人が死亡した日より 3 年以内に行う必要がある。被相続人が死亡したときに相続人が 18 歳未満である場合,もしくは相当な理由がある場合を除いて,その 3 年の期間が経過すると,分割を求める請求権は無効となる(相続法 40 条)。

 分配されていない遺産があり,それを管理する相続人は,相続法 40 条の時効期間(3 年)の成立にかかわらず,いつでも遺産分配の執行を行うことができる(相続法 41 条)。

 (イ)相続の承認  

法定相続人は,相続開始場所の村の統治機構に相続の意思を表示してはじめて遺産を受継することができる(相続法 42 条 1 項)。

番人

「当然に相続する権利を持つわけではないんだ。」

遺言による相続人の場合は,その遺言を保管する裁判所書記局,または裁判所書記局がない場合は村の統治機構に,相続の意思を表示することになる(同条 2 項)。この受継は相続開始(相続法 38 条 1 項)から 6 か月以内に行わなければならない(相続法 42 条 3 項)。自己の相続分を放棄する相続人がいるとき,そ

の相続人の相続分を受継する者は,残る期間内に受継の意思を表示しなければならず,残る期間が 3 か月未満の場合であれば,かかる遺産の受継者は裁判所に 3 か月間まで延長を申し出ることができる(同条 4 項)。受継があった場合,裁判所書記官または村長は相続人に遺産の受継の証拠となる公正証書を発行しなければならない(同条 5 項)。

 他の相続人の相続の対象とされている遺産に関し,相続法 42 条 3 項の 6 か月の期間内にその者に受継されていない場合において,その遺産が他の相続人により受継され,または国に寄贈された場合には,未だその財物が以前の状態を維持している場合であれば,その受遺者はその相続の対象とされていた遺産を取り戻すことができる。ただし,取り戻すためには,それを実際に受継した者または国の同意を得なければならない。同意が得られないとき,裁判所がその取戻に関して相当な理由があるかどうかの判断を行う(相続法 43 条1 項)。なお,法定相続人または遺言による相続人が相続開始後に,その相続分を受継する前に死亡した場合,その相続人の相続人はかかる相続分を代襲相続することができる(同条 2 項)。

 (ウ)遺産に対する差し押さえなど  

相続の開始前または遺産の受継の証明書を受ける前において,遺産を管理する監督者または相続人は,一定の出費をした場合には遺産について差押え等の行為を行うことができる(相続法 44 条)。すなわち,第 1 に,被相続人を世話,治療し,被相続人の葬儀を行った場合,第 2 に,被相続人の監督の下におかれている者を世話している場合,第 3 に,被相続人の債務である賃金等を弁済する場合,第 4 に,遺産を管理,維持する場合である。

これ以外については,上記の者は遺産に対して何らの権限も有さない。

  • 相続放棄

 法定相続人または遺言による相続人は,自己の相続財産に対する自己の権利を放棄し,これを他の人,行政機関,財団などに譲ることができる。ただし,相続の放棄は相続の開始日から 6 か月以内に行わなければならない(相続法 45 条 1 項)。法定相続および遺言による相続を放棄したい場合,その者はその意思を文書によって表示し,遺産を譲りたい人または組織の名前を記入し,村の統治機構または裁判所書記局に提出しなければならない(同条 2 項,3 項)。遺産を譲りたい人,または組織が特定されなかった場合には,その遺産は他の相続人の相続分とされる(同条 4 項)。なお,未成年者,知的障害者もしくは精神障害者は,親または監督者の同意を得ずに相続を放棄することができない(相続法 46 条)。

  • 相続権の喪失

自己の相続分以上の遺産を騙取,隠ぺい,横領した相続人は,本来の自己の相続分を受継することができない。その者はさらに,騙取,隠蔽,横領した遺産も返還しなければならない。騙取,隠蔽,横領した遺産が自己の相続分より少ない場合,その得られるべき相続分を受継することができない(相続法 48 条)。

 裁判所の審判により親権を失った者は,その子の遺産を相続することができない。他方で,その子も,未成年者である場合を除き,その親の遺産を相続することができない(相続法 49 条 1 項)。裁判所の審判により,子を育成する義務を有する親がその義務を遂行しなかったときにも,子の遺産を相続することができない。また,成年である子が裁判所の審判により,親の世話をする義務を遂行しなかったとき,親の遺産を相続することができない(同条 2 項)。

 さらに,財産所有者が死亡した場合は当然に相続権を喪失し,生存している場合には文書により意思を表示することによって相続権を喪失させられる場合として,相続法 50 条は以下の場合を規定している。すなわち,①遺産を奪取する目的で,故意に財産の所有者または相続人を死亡させ,大怪我をさせたと,裁判所によって判断された者。②一部または全部の遺言を破壊,隠蔽または偽造した者。③被相続人と同県または同市に住んでいる者で,被相続人の死亡を知り,または知ることができるにも関わらず,理由なく,被相続人の葬儀に寄与しない,またはそれを自己の代わりに行う代理人を選任しない者。④遺言の一部もしくは全部を作成,取消しまたは訂正するよう,財産の所有者を脅迫する場合。⑤

被相続人の生命,身体に対し非行を行い,被相続人に大怪我また身体に障害を負わせた者,およびそれらの者を蔵匿した者。⑥刑法 163 条に定められているような,財産所有者または相続人を中傷した者である(相続法 50 条 1 項)。前述のとおり,これらの者は,財産所有者が死亡した場合を除き,財産の所有者がその意思を文書により表示してはじめて相続権を喪失することとなる(同条 2 項)。これらの者が非行を行い,親の管理のもとにおらず,可能であるにもかかわらず老後の親または病気の親を世話しない者は,相続権を喪失した者とみなされ,相続権を失うこととなる(同条 3 項)。ただし,財産の所有者は証拠または

承認を得てその意思を表示することで,相続法 50 条に定められている場合において相続権の喪失を撤回することもできる(相続法 51 条)。

 (8)遺産の管理

 相続人による遺産管理の要請がある場合には,各相続人および債権者の利益を保障するために,遺産管理者の選任を申し立てることができる。この場合,相続開始場所の裁判所書記官または村長が遺産管理者の選任を行う(相続法 52 条)。遺産管理者になれない者は,①18 歳未満の者,②知的障害者,精神障害者,③復権の禁止期間に裁判所により破産宣告を受けた者,④親権を失った者または相続権を失った者(相続法 53 条)である。

 遺産の管理者は幾つかの権利および義務を有する。第 1 に,相続人全員の立会いの下で遺産を整理(目録の作成を)する。この場合において,相続人のいずれかが参加できないときは遺産管理者に知らせなければならない。遺産の整理は全相続人の 3 分の 2 の立会いが必要であり,遺産管理者は任命された日から 1 か月に遺産の整理をしなければならない

(相続法 54 条 1 項 1 号)。第 2 に,相続人が遺産を受継する前に,被相続人の債権者の請求に応じ,被相続人の債務を弁済する必要がある(同項 2 号)。第 3 に,相続人に,各自の相続分通りに遺産を分配することである(同項 3 号)。なお,遺産管理者は相続人が任意に渡す場合を除き,遺産の管理にあたり報酬を請求することができない(同条 2 項)。

 遺産の管理者がその権利および義務を履行しない場合,無責任または不誠実な義務を行った場合には,遺産管理者の選任に関係する裁判所書記官または村長がその選任を取消し,取消した日より 7 日以内に新しい遺産管理者を任命することができる(相続法 55 条)。

 (9)相続人の責任

 法定相続人または遺言による相続人は,被相続人の債務について,自己の相続分を上限として弁済する責任を有する(相続法 56 条 1 項)。

すみれ

「上限があると、相続人も負担が少ないね。」

ただし,遺産がまだ分配されていない場合には,債権者はその遺産の相続人または管理者に自己に対する債務のすべてを弁済するよう要求することができる(同条 2 項)。逆に,遺産がすでに分配(分割)された場合であれば,債権者は相続人のいずれかに対し,自己に対する債務の弁済を求めることができる。相続人いずれかが債権者に対して自己の負担分以上に弁済した場合には,他の相続人のすべてが同等に,負担分以上の分をかかる相続人に弁済しなければならない(同条 3 項)。相続人のいずれかが自己の負担分を弁済することができない状況になっている場合では,他の相続人のすべてはかかる者の負担分を同等に弁済しなければならないとされる(同条 4項)。なお,被相続人の債務の弁済は遺産からのみ計算される(同条 5 項)。

 被相続人に対する債権者は,相続の開始から 3 年以内に相続人,遺産管理者,もしくは遺言執行者に自己に対する債務の弁済の請求,または相続開始場所の裁判所書記官,村長,もしくは裁判所に債務の弁済について申立てることができる(相続法 57 条)。

 なお,相続人間で相続財産の分配について合意に達することが不可能な場合には,相続人には,裁判所に審判を申立てることができる(相続法 58 条)。

Ⅵ 結論

 1.ラオスにおける民事関係法制の形成プロセスの特色

 ラオスは 1980 年代半ばにおける開発政策の転換,その一環としての市場経済システムの導入を契機にして,本格的な民事関係法制の構築に乗り出した。ラオスにおける民事関係法制の形成に際しては,様々な形で外国人アドバイザーの関与が認められるものの,外国法令をそのまま,翻訳的な敷き写しによって立法化する例はあまりみられず,ラオスの立法担当者自身の理解を通じて,その範囲での立法が行われてきたという色彩が強いといえる。その意味では,経済・社会の実態にできるだけ引き寄せた民事関係法制の形成が行われてきたとみることができよう。また,1990 年を中心にいったん制定された民法関連の法律は,その後,対外開放政策に伴う経済活動の活発化,土地取引の進展,商品取引の発達などに応じる形で,大小の改正が行われており,経済・社会の変容に伴ってラオスの民事関係法制が引き続き変容してゆく様も窺われる。

 その一方で,ラオス民事関係法制の内容をみると,財産法と家族法を問わず,政府が人民に提示する行為規範的な色彩が強く,ラオスの経済・社会を運営しようとする政府の積極姿勢も濃厚である。そのこと自体をどのように評価すべきかについては,極めて興味深い,かつ重要な問題であるが,いましばらくラオスの経済・社会の変化と民事関係法制の変容を考察することが必要であると考えられ,本調査報告の段階では評価判断は差し控えておきたい。

これらの事情に鑑みると,ラオス民事関係法制の形成の原動力は,経済・社会の変容,人々の行動や要求を敏感に感じ取った政府のイニシアティブにあるということができよう。

 2.ラオスにおける民事関係法制の課題

 ラオスは,小規模の人口ながら,比較的恵まれた天然資源,水利,食糧生産事情,安定した政治状況の下で,インドシナ諸国中でも最も高い経済成長を達成している。ラオス政府は,中国,タイ,韓国,シンガポール,日本等をはじめとする外国投資も活発化する中で,経済発展のスピードをコントロールしながら,それに即応する形で,民事関係法の整備を徐々に進めてきた。そうした「ラオス風」ともいえる漸進主義は,開発プロセスにおける法整備の進め方として,1 つの効果的な方法論を提示しているように思われる。

しかし,今後予想される経済構造の高度化・複雑化,社会問題の複雑化等にも引き続き対応してゆくためには,法律の制定,裁判,執行等に携わる法曹人材のさらなる育成が求められると考えられる。それに至る諸方策の 1 つとして,大学における法学教育を強化する余地が大いにある。そこでは,体系的な教科書,比較法教材等が未だけっして十分とはいえず,法的人材育成の初期段階の強化が特に望まれる。

 また,すでに述べたように,ラオスでは人口比で比べると,ベトナムやカンボジアに対しても,裁判官の数が比較的多いのに対し,弁護士の数が極端に少なく,その原因として裁判官(および検察官)が事件解決のために職権主義的に関与することが多い反面として,弁護士に固有の職務とその必要性についての認識が未成熟であることが考えられる [108]。しかし,政府と当事者の間で第三者的な立場から法運営をモニターし,必要なサポートをする存在としての弁護士の役割の強化は,民事関係法制の充実・発展という観点からは,今後特に注力すべき課題ということができるであろう。民事訴訟や法律相談業務への弁護士の関与がより強まることにより,新たな裁判例や紛争解決例の蓄積をも通じて,社会が求める民事関係法制の改革が進展することが期待される。また,何よりも,日々の経済活動や社会生活の中心主体である市民のレベルにおける民事関係法制の知識の普及がさらに重要な課題になる。

 そして,法曹教育・法学教育を強化し,市民レベルでの法的知識の普及を実効的なものにしてゆくためには,民事関係法制の要となる民法典の編纂が重要な意味を帯びてくると考えられる。今後当面は,民法典編纂を基軸にして,民事関係法制の整備・改善・再編が重要な課題になることが予想される。それによって顕在化しうる「ラオス風」の法形成の方法は,他国の法整備にとっても一定のモデル的価値をもちうるように思われる。

ラオスに対する法整備支援に際しても,以上のような視点をもちながら,協力関係と情報交換を進めてゆくことが肝要である。そのようにして今後もラオスとの法整備協力を継続してゆくことが,相互に生産的で創造的な法形成を促すことに通じるものと考えられる。【参考文献・参考情報】

○邦語文献(編著者名の五十音順)

・石岡修「ラオスの民事裁判制度」鈴木基義編著『ラオスの開発課題』(JICA ラオス事務所,2014)117 頁以下。

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・小川富之監修/伊藤弘子=大川謙蔵訳「1991 年ラオス家事登録法(1),(2)」戸籍時報 680 号(2011),681 号(2012)。

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・瀬戸裕之『現代ラオスの中央地方関係――県知事制を通じたラオス人民革命党の地方支配』(京都大学出版会,2015)。

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ついて」ICD NEWS 30 号(2007)。

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33 号(2007)。

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・チャンディラマニ・ニリマ/伊藤弘子訳「インド家族法(上)」戸籍時報 598 条(2006 年)16 頁以下。

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・野澤正充「ラオス民法教科書作成支援について――2.債権法について」ICD NEWS 30 号(2007)63-64 頁。

・野澤正充「ラオスの契約法と日本民法(債権法)の改正」小野秀誠=滝沢昌彦=小粥太郎=角田美穂子編『松本恒雄先生還暦記念 民事法の現代的課題』(商事法務,2012)。

・塙陽子『家族法の諸問題(下)』(信山社,1993)。

・松尾弘「法整備支援における民法整備支援の意義と課題」ICD NEWS 27 号(2006)。

・松尾弘「ラオス民法教科書作成支援について――回顧と展望」ICD NEWS 30 号(2007)

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・松尾弘=松邑翔太=杉田彩子「ラオス法律人材育成強化プロジェクトにおける『民法基本問題集』作成支援から」ICD NEWS 49 号(2011)97-108 頁。

・松尾弘「司法アクセスの改善への統合的アプローチ――良い統治と法の支配の関係に焦点を当てて」慶應法学 23 号(2012a)。

・松尾弘「民法学と開発法学」小野秀誠=滝沢昌彦=小粥太郎=角田美穂子編『松本恒雄先生還暦記念 民事法の現代的課題』(商事法務,2012b)997-1101 頁。

・松尾弘「ラオスにおける民法の発展」『アジア法研究 2012』(アジア法学会,2013)。

・松元秀亮「報告:ラオス法制度整備プロジェクトの成果物の普及活動の現状と課題」ICD

NEWS 35 号(2008)。

・三澤あずみ「国際研修:第8回ラオス法整備支援研修の概要」ICD NEWS 13 号(2004)。

・安田信之「ラオス」『東南アジア法』(日本評論社,2000)273-285 頁。

・山田紀彦編『ラオスにおける国民国家建設――理想と現実』(アジア経済研究所,2011)。・山田紀彦編『ラオス人民革命党第 9 回大会と今後の発展戦略』(アジア経済研究所,2012)。

・ダヴォン・ワーンヴィチット(ラオス最高人民裁判所副長官〔当時〕)「ラオスの司法

改革と日本の支援」ICD NEWS 14 号(2004)。

・カム・ヴォーラペット/藤村和広=石川万唯子訳『現代ラオスの政治と経済 1975-2006』

(めこん,2010)。

○欧文文献(編著者名のアルファベット順)

・The Bar Association of the Kingdom of Cambodia (BACK) and the Japan Federation of Bar Associations (JFBA), supported by the Japan International Cooperation Agency

(JICA), The International Conference on “Access to Justice in Asia,” 10-11 February 2014, Phnom Penh, the Kingdom of Cambodia.

・Hiroshi Matsuo, “Access to Justice in Indochinese Countries,” in: Michèle and Henrik Schmiegelow (eds.), Institutional Competition between Common Law and Civil Law, Springer Verlag, pp. 249-277.

・International Monetary Fund (IMF), World Economic Outlook Database, October 2014. ・The United Nations Development Program (UNDP), People’s Perspectives on Access to

Justice Survey in Four Provinces of Lao PDR, UNDP, Vientiane, 2011.

○ラオスの法令(英訳)情報

・http://www.la.emb-japan.go.jp/jp/laos/laolaws.htm ・http://www.ilp.gov.la/Lao_Law_Eng.asp

・http://www.la.emb-japan.go.jp/jp/laos/laolaws.htm

・http://www.asianlii.org/la/legis/laws/


[1] 桜井=石澤 1977: 70-90 頁。

[2] 山田編 2012: 139 頁。ほかに判決の執行の徹底,各種証明書の正確な発行等も掲げていることが注目される。

[3] なお,ラオス統計局の提供のデータ(2012 年)によれば,各種産業が GDP に占める割合は,農業約 26%,工業約 31%,サービス業約 37%とされている。

[4] ラオス中央銀行の提供データ(2012 年)による。

[5] IMF 2014 による。

[6] 鈴木 2009,ヴォーラペット/藤村=石川訳 2010。

[7] 菊池=鈴木=阿部編 2010: 202 頁以下(瀬戸裕之)参照。なお,党中央が県知事を通じて地方の治安を維持しつつ,地方党委員会を通じて地方に固有の状況を経済開発に反映させるという統制メカニズムの形成プロセスに関し,瀬戸 2015 参照。

[8] 桜井=石澤 1977: 38-40 頁。

[9] 本聴取調査は,2012 年 6 月 11 日に行った。同調査は,石岡修弁護士(国際協力機構(JICA) ラオス法律人材育成強化プロジェクト専門家)のご協力により,筆者(松尾)も参加して実施した。

[10] 村落調停は,1997 年司法省令 304 号によって現在の国家法上の制度に取り込まれ,2005 年,2007 年の改正を経て,2009 年司法省令 210 号(以下,司法省令という)が規律している。村落調停は,一定の軽微な民事・刑事の事件処理に用いられ(司法省令 15 条),民事訴訟法上は少額事件,相隣関係事件,家事事件等について同調停を経ることが訴訟要件とされており,そうした事件については調停不調の記録がないと訴状が受理されない(民事訴訟法 170 条 1 号,194 条)。瀬戸 2009: 282 頁,石岡 2014: 140-142 頁参照。村落調停に関しては,家事事件処理の観点から,後述Ⅴ3(2)参照。

[11] 厳密に当事者でなくとも,その両親等が申し立てた場合も受け付けている。

[12] それ以前からも,伝統的に調停に当たるものが存在した。

[13] 集会所にはその認定証(表彰状)が掲げられている。

[14] 紛争の発生を抑制しようとする国家の政策的圧力をどのように扱うべきかについては,さらに継続的な考察を必要とする。

[15] ラオスの司法制度の全体構造に関しては,安田 2000: 283-385 頁,瀬戸 2009: 271-282 頁,松尾 2012a: 31-42 頁参照。

[16] 以下のデータは,BACK and JFBA, 2014, pp. 5-6 による。

[17] 他に軍事裁判所,地方軍事裁判所(3 か所),高等軍事裁判所(1 か所)が存在する。

[18] 松尾 2012a: 1-6 頁,表 1 参照。

[19] 包括的な民法典の編纂によらず,財産法以下の単行法を成立させた点は,「世銀の支援を介した英米法の影響」であるとされる。金子 2001: 11 頁。

[20] 以下の情報は,ラオス司法省ケッサナー・ポンマチャン氏へのインタビュー調査(2012 年 6 月 13 日,2014 年 8 月 25 日追加インタビュー)による。

[21] アメリカのアドバイザーの中には,フランク・アッパム(Frank Upham)も含まれていた。

[22] ハーバード大学ロー・スクールのデイヴィッド・スミス(David Smith),ニュー・メキシコ大学ロー・スクールのセオドア・パーネル(Theodore Parnell)等が関与した記録が,ラオス司法省の保管資料に残っている。同資料の閲覧は,小宮由美教官(2004 年当時,法務省法務総合研究所国際協力部,JICA 長期専門家)のご配慮による。

[23] その報告書ドラフトがラオス側に渡されている。

[24] ③のうち,フランス法的要素として,契約の原因に関する契約法 5 条・6 条(契約内外債務法 10 条 4 号,14 条),絶対無効(確定的無効)と相対無効(不確定的無効)に関する契約法 13 条~15 条(契約内外債務法 18 条~20 条)については,野澤 2007: 63-64 頁参照。

[25] 金子 2001: 1 頁。

[26] その後,UNDP,フランス等の支援による統一司法研修所の支援が始まり,各機関の専門家が関与している。

[27] 井関 2005: 78 頁,瀬戸 2009: 273-274 頁参照。

[28] 改正民事訴訟法は,2012 年 6 月に国会を通過した(No.13/NA, 4 July, 2012)。2012 年民事訴訟法に関しては,石岡 2014: 117 頁以下参照。

[29] かつて UNDP などの支援により,判例集の公刊も試みられたが,定期的・継続的に行われるような形では制度化されなかったようである,もっとも,判決自体は非公開とはされておらず,裁判所に赴いての閲覧は可能である。石岡弁護士(前掲注 12)および川村仁氏

(JICA ラオス法整備支援プロジェクト事務所)の調査(2011 年 12 月実施)による。

[30] ラオスに対する日本の法整備支援の経緯に関しては,国際協力機構(JICA)・公共政策部

[31] 参照。

[32] 年憲法 15 条も,このことを確認する。また,2003 年改正憲法 17 条も同旨。

[33] なお,2003 年に改正された土地法 3 条(土地所有権)も同旨。

[34] 土地に対する全人民所有と私人の使用権という法概念は,中国法,ベトナム法などの社会主義法に見出される。

[35] 「土地,水,森林,水棲及び陸上動物などは,天然資源であり国家が代表する国家共同体に帰属し,国家はこれらの管理,利用,譲渡,相続に関する権利を,他の組織,経済単位又は個人に譲与することができる」(財産法 4 条 2 項)。

[36] 国家以外の組織,経済単位,個人は「…土地を売却する権利は有さない」(財産法 4 条 3 項)。

[37] ラオスでは 2000 年代の後半以降,急速に,ヴィエンチャンやルアンパバーンの都市だけでなく,都市の郊外の農業地帯にも,様々なデザインの豪邸が頻繁に見られるようになった。古いあばら家と共存しているが,建築途中の建物も数多い。都市では,かつてみなかった物乞いの子どもをごくわずかではあるが,見かけるようになった。都市郊外の農村の風景は,水田の間に点在する農家の建物,敷地の広さ,造作のいずれをとっても,日本の農村風景よりも遥かに豊かにすら見える。新しいコンバインを豪邸の軒先に 2 台並べて置いている農家もある。この傾向は,2010 年代に入るとさらにスピードを増しており,自由化が加速度的に進んでいる感がある。今後,その社会主義的統制(引締め等を含めて)がどのような形で行われるか,行われないか,注目に値する。

[38] この点は,伊藤 2011: 197 頁でも解説されている。

[39] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 6 月 14 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[40] もっとも,これらの法律は,「債権」と区別した意味での「物権」に対象を絞るものではないから,これらの規定を「物権法」の概念で表現することは,大陸法的な枠組を強いて当てはめる印象を生じさせるとすれば,適切ではないかも知れない。ここにも,英米法的・社会主義法的要素と大陸法的要素との齟齬・調整問題が今後生じる契機があるといえよう。

[41] ラオスの土地登記制度の整備はドイツの技術協力公社(GTZ)(当時。現在,国際協力公社 (GIZ))から技術供与を受け,土地管理庁(司法省ではなく,首相府の管轄)が管理している。

[42] この点は,土地管理局の通達で確認されている。

[43] 土地権利証書が紛失または破棄されたものの,証明証拠が保持されている場合は,個人または組織の申請に従い,地方または都市土地管理当局は土地権利証書の写しを発行する。

紛失または破棄された土地権利証書で,それが真に関係する土地権利証書だと証明する証

[44] 公証局は土地所有の名義が単独であっても,夫婦や親子の共有財産でないかどうか等を調査するとされる。この調査が,たんに当事者に確認するにとどまるか,実質調査権限をもって調査が行われうるかについては,複数の地域の公証局において,追加調査を要する。 52 ルアンパバーン県のパク・ウ村における村長らからの聴取調査(2012 年 6 月 10 日)による。

[45] 善意取得制度は一般に「取引安全」の保護手段であると理解されているが,それは同制度の法政策的な存在理由であり,しかも当該法政策(取引安全保護)の実現方法には,ラオス法のような所有者に価格償還義務を課す形態を含め,多様性があることに留意する必要がある。したがって,善意取得制度による所有権取得のプロセスを一般原則(何ぴとも自己のもつ以上の権利を他人に移転することはできない)に立ち返ってどのように説明すべきか,その要件・効果にはどのような多様性があるか,それらをどのように規定することが当該国家の現状に相応しいかを分析する余地がある。法整備支援では,原則に立ち返った説明が絶えず求められる。

[46] 例えば,ドイツのバイエルン州法典Ⅱ(2)7 条・10 条,ザクセン民法典 295 条・314 ~315 条,プロイセン一般ラント法典Ⅰ(15)44 条等は,善意・有償の取得者に対し,真の所有者は代価賠償しなければ返還請求できないという形で,善意取得者を保護した。これは,商取引が発達した 17 世紀アントワープの都市法等に由来するとみられている。

[47] この点に限ってみれば,日本民法 194 条と同様である。

[48] ラオス民事訴訟法 102 条(2004 年民事訴訟法 20 条参照)によれば,両当事者とも証拠を提出しなければならず,裁判官は証拠が不十分である場合,判決をする前に,職権で証拠の収集を行う権限をもつ。裁判所は,証拠調べないし鑑定を専門家に依頼することもできる(民事訴訟法 82 条〔2004 年民事訴訟法 31 条参照〕)。

[49] 財産法 60 条(不法占有資産から生じた果実又は収入)は「①悪意の不法占有資産から生じた果実又は収入は,そのすべてを財産権者に返還しなくてはならない。悪意の不法占有者がその果実又は収入を使用,売却等した場合,その者は,財産権者に対して損害賠償を支払うか,利益又は所得の価額を返還しなくてはならない。/②資産の善意の不法占有者については,その資産から生じた果実又は収入は,本法第 58 条の規定に従って返還する必要はない」とする。

[50] 年 11 月 4 日の本邦研修におけるチョムカム・ブッパーリワン氏報告でも,この点が指摘された。

[51] ラオス国民の使用権は最大 30 年(更新可能)とされている(土地法 13 条)。

[52] 「相当な補償」が規定されている。実際,補償問題も生じてきているようである。

[53] また,契約の「理由」を求める規定(契約法 9 条)も,これと同趣旨であろうか。

[54] 金子 2001: 13 頁。

[55] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 8 月 30 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[56] Digesta, 50. 17. 185.

[57] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 6 月 14 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[58] 契約内外債務法 22 条,23 条。

[59] 契約法および契約内外債務法の起草者ダヴォン氏(現在国会法制委員会委員長)へのインタビュー(2012 年 6 月 15 日)による。

[60] 契約内外債務法 3 条 17 号は「不可抗力とは洪水,雷,地震等,予測することができない,並びに統制することができない事態であり,債務者が自己の義務を履行することを不可能にする事態である」とする。

[61] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 8 月 30 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[62] 不法行為については,契約内外債務法 83 条~85 条に規定がある。

[63] 契約法および契約内外債務法の起草者ダヴォン氏(現在国会法制委員会委員長)へのインタビュー(2012 年 6 月 15 日)による。

[64] 契約内外債務法 39 条は,「売買契約は,売主が買主に対して財産の所有権を移転する義務を負い,買主が受領し,かつ合意した価格に従って代金を支払う義務を負う,契約当事者による合意である」と規定する。文言上は,日本民法 555 条と同様の債権契約(したがって,他人物売買契約自体は有効)であるかのようにもみえる。

[65] もっとも,契約内外債務法 22 条(無効な契約の解除請求)によるとする。

[66] 契約法および契約内外債務法の起草者ダヴォン氏(現在国会法制委員会委員長)へのインタビュー(2012 年 6 月 15 日)による。

[67] こうした契約法=国内法規定の簡潔性についても,それが「膨大な特約条項などを用いて当事者自治を貫徹する方針を有する」外資にとって有利な立法であるとの見方がある。

金子 2001: 13 頁。

[68] これは「被害者の逸失利益,又は違法行為によって生じた被害者の追加支出等」と説明されている(契約内外債務法 91 条 2 項)。例えば,後遺症や労働能力の喪失については,医師による証明が必要である。

[69] したがってまた,「被害者に過失があった場合,被害者は損害又は逸失利益に対し,同様に責任の一部を負わなければならない」(契約内外債務法 91 条 3 項)。

[70] 「共同して損害を生じさせた数人の者は,各自が生じさせた損害の賠償について連帯して責任を負わなければならない。裁判所は,損害を生じさせた数人の者の中の1人又は数人の者にすべての損害を賠償させる判決を下すことができる。賠償を支払った者は,自らが代わって支払った他の者に対して請求する権利を有する」(契約内外債務法 90 条)。

[71] ラオスにおける現地セミナー(2012 年 6 月 14 日,2014 年 8 月 25 日~29 日)での司法省職員,最高人民裁判所裁判官,最高人民検察院検察官,ラオス国立大学教員らとの議論による。

[72] 小宮由美 JICA ラオス長期専門家が,ヴィエンチャン市公証事務所で行った調査(2005 年 5 月 10 日)による。

[73] 同前。

[74] なお,他人の不動産に対する債務者の使用権に担保を設定するためには,当該不動産の所有者から事前の承諾を取り付けなければならないとされる(担保取引法 20 条 2 文)。

[75] 担保取引法 21 条 1 項。

[76] 担保取引法 22 条。

[77] このような規制は,経済状況に応じた担保取引のコントロールとして注目される。

[78] ここで言及されているのは,有形品目のことである。

[79] 担保取引法 11 条。

[80] 担保取引法 17 条。在庫商品に対する担保を意味する。

[81] 将来的に発生しうるプロジェクトや活動からの無形資産および利得を担保とすることができる(担保取引法 19 条)。

[82] 担保取引法 12 条,14 条 1 項。

[83] 担保取引法 12 条,13 条,14 条 1 項。この場合,債務者の書面による承諾がない限り,債権者または第三者は目的物の利用権はもたない(同法 14 条 1 項)。

[84] 担保取引法 14 条 2 項。

[85] 担保取引法 31 条 1 項。未登録担保契約は当事者間で適用されるものの,登録担保に優先する優先権は付帯しない。また,政府の財務担当部局または土地管理事務所における担保契約の登録は一般に公開されるものとし,当該財務部局または土地管理事務所は当該情報が事前の要求手続等を要することなく一般的に入手可能なように確実な措置を講ずるものとされている(担保取引法 31 条 2 項・3 項)。

[86] 契約内外債務法 53 条~55 条。目的物の価値が売却代金(実質的には融資)を相当上回っていることもあり,また,買戻し代金に利息が付加されることについての規制もないために,いわゆる闇金がこれを利用することもある。

[87] 担保取引法 25 条。

[88] 担保取引法 34 条。本文②・③の場合において,担保財産の売却価額が債務額よりも高かったときは,債権者は自ら差額を支払うか(②の場合),売却代金から債務および金利を差し引いた後,残額を債務者に返却しなければならない。抵当および担保が設定された財産の売却から上がった金額が債務返済に十分なものとならない場合,債務者は未払い額を全額埋め合わせなければならない。

[89] 担保取引法 24 条,25 条。

[90] 財産法 57 条。

[91] 契約内外債務法 32 条。裁判上の代位による。

[92] 塙 1993: 563 頁以下。左の論稿は以前の王政時代の家族法の内容を伝えるものであり,幾つかの慣習に関する記載もなされている。

[93] 家族として生活している単位をここでは「家(家族)」として扱っている。ラオスでは,身分事項については家族としてのまとまりで捉えられており,仮に家族内の一部の者がその家族がそれまで生活をともにしてきた居住用家屋を出て,別な場所に居を設けても,その家(家族)としての登録簿に記載されているままの場合が多い

[94] ラオスの 2012 年民事訴訟法および民事訴訟制度の概要については,石岡 2014: 117 頁以下参照。

[95] ただし,両者の関係は不明確である。

[96] 村落調停につき,石岡 2014: 140 頁以下,瀬戸 2009: 282 頁を参照。

[97] 司法省令 304 号(1997 年 8 月 7 日)。

[98] 改正前の状況につき,瀬戸 2009: 282 頁を参照。

[99] ルアンパバーン県のパク・ウ村における村落調停ユニットによる調停の実情につき,前述Ⅱ3参照。

[100] 菊池=鈴木=阿部編 2010: 220 頁以下〔菊池陽子〕参照。

[101] インド家族法の概要としては,ニリマ/伊藤訳 2006: 16 頁以下,インドネシア家族法の概要としては,ヌールラエラワティ/小川監修/伊藤=堀井訳 2014: 2 頁以下参照。

[102] ラオス法は定義規定とともに要件・効果を示す規定が置かれることが多く,両者の関係が不明確な場合が多い。この部分もそれに当てはまる。

[103] ラオス仏教の位階として,高僧,見習い僧,修練者があり,その順序で位階が高くなる。

[104] 子の責任者とは子の面倒をみている者であり,保護者とは法的地位であることを意味する。

[105] 日本では直系とされる孫等が傍系の親族として相続法上には明確に規定されている。

[106] なお,代襲相続に関し,相続法 23 条に「自己の相続分を放棄した者も代襲相続することができる。但し,その代襲相続分は自己が放棄した相続分ではない。」との規定があるが,内容として不明であり,確認が必要である。

[107] なお,ここでの申出とは分割の請求のことであるとの聞取り調査の結果がある。また,この申し出る相手方は条文からも,聞取り調査等からも不明確である。

[108] 前述Ⅲ1参照。

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