定義条項

よく使う用語がたくさんあると、定めて便利な時があります。

【条項例】

(用語の定義)

第○条 信託契約において、用語の定義は、次の各号に定めるところによる。

(1)本信託  委託者○○と受託者○○の契約締結により効力が生じる信託

(2)信託財産  本信託の目的とする財産

(3)信託不動産 信託財産中の不動産

(4)信託金銭  信託財産中の金銭

(5)信託株式  信託財産中の株式

(6)本件会社  株式会社○○

(7)本件事業  本件会社が行う事業

契約書の構成

1、信託法の順番に合わせる場合

第1章 総則

第2章 信託財産

第3章 受託者等

第4章 受益者等

第5章 委託者

第6章 信託の変更

第7章 信託の終了と清算

第8章 その他

2、いくつかの章を併せる場合

第1章 総則

第2章 信託財産

第3章 当事者

第4章 信託の変更、終了及び清算

第5章 その他

3、実際に信託事務を処理する受託者の目線による場合

第1章 総則

第2章 信託財産

第3章 受託者等

第4章 受益者および委託者など

第5章 信託の変更、終了と清算

第6章 その他

信託の変更

1、どのような場合に必要となるか。

(1)信託財産の管理方法の変更

   (例)土地について、売却はしない方針を売却する方針に変更する。

(2)受益者に対する給付内容の変更

  (例)一か月に給付する金銭の額について増額、減額する。

・変更できる人(信託法149条)

 
  3者の合意 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 信託の目的に反せず、受益者の利益に適合することが明らかであるとき 受託者の利益を害さないことが明らかであるとき 信託の目的に反せず、受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 信託行為の定め
委託者  
受益者  
受託者  

イ について

イで記載されている「信託の目的」は、委託者がこの信託で実現しよう、到達しようとしてとして目指す事柄[1]であり、受託者の行為(事務処理方針など)を決定する基準ではありません。

「反しないことが明らか」についての基準は、現在のところ明確とはいえません。ウ、オについても同じことがいえます。

・実務対応

カ、の信託行為の定めによって、信託の目的を基準としないで、受益者と受託者の合意により信託の変更が可能となるようにする。

 なお、その場合でも、信託の目的に明らかに反することはできません。

ウ について

受託者による単独の意思表示。委託者が現存するときは、委託者と受益者に通知が必要となります。

・実務対応

例えば、信託財産が増加していないのに受益者への金銭給付を増額する場合、

信託の目的が受益者の安定した生活と定められているならば、信託の目的に反しないか、受益者の利益に適合するか、明らかとはいえないと考えることができます。

・実務対応

政省令の改正による変更など、手続き的な面での変更に限った利用が有効と考えられます[2]

エ について

 委託者と受託者が合意したことを、受託者に伝えたときに信託の変更の効力が生じます。

委託者と当初の受益者が同一人であれば、単独で信託の変更をすることができます。

エでいう「受託者の利益」とは何でしょうか。信託した不動産を売却することができる、という定めがあり、受託者が売却した後に、信託した不動産は売却することができない、という信託の変更などが当てはまると考えられます。この場合に売却にかかる手数料などを受託者が立替えて支払っていた場合、受託者は立替えた金額を信託財産から返してもらうことが出来なくなる可能性があります。

実務対応

・単独で信託の変更をすることができる場合があることから、委託者又は受託者の意向によっては、エについては適用しないと別に定める必要が出てくるものと考えます。

オ について

要件

(1)信託の目的に反しないことが明らか

(2)受託者の利益を害しないことが明らか

(1)、(2)を全て満たしたときに、受益者のみで信託の変更が可能です。受益者が受託者に信託の変更を伝えたときに効力が生じます。

実務対応

(1)、(2)ともに要件が抽象的なのはイ、ウ、エと同じです。しかし、信託が受益者のためにあると考えるとこの条項をあえて除く必要はない場合が多いのではないかと考えます。なお反対説として、浪費者などが受益者の場合などを挙げ、家族信託においては、自由に許容してはならない事例が多い[3]という考えもあります。しかし信託の目的に反する変更や受託者の利益に反する変更はできないので、この指摘は妥当ではないと考えます。受託者は、信託を終了することも可能であり手当もなされています(信託法163条)。

カ について

信託行為に定めた方法で信託の変更を行います。

可能な定め

・信託の変更は、委託者のみですることができる。

→委託者が信託財産を出しており、受託者も変更の定めを了解した上で就任したと考えることができます。受益者もそのような定めがある信託の受益権を取得し、放棄しなければ、了解したものと考えることができます。

不可能な定め

・抽象的ですが、

(1)信託の目的に反する、

(2)受益者の利益に適合しない、

(3)受託者の利益を害する

ような定めはできないと考えられます(イからオまでの裏返し)。

2、その他

・限定責任信託

限定責任信託の定めを廃止する場合の信託の変更

→登記が効力要件(信託法221条)

・受益証券発行信託(受益証券を発行するという定めのある信託、原則として受益証券を発行するが、特定の内容の受益権について受益証券を発行しないという定め)は、かっこ書きの定めを、「信託の変更」によってすることはできない。

【条項例】

(信託の変更)

第○条 本信託の変更は、信託目的の範囲内において受託者と受益者又は受託者と受益者代理人との合意による。

(信託の変更)

第○条 本信託の規定は、委託者及び受益者の義務を加重、追加または制限しない限り、委託者の同意なくして、受託者及び受益者の書面による同意により、変更することができる。

(信託の変更)

第○条

―本文略―

ただし、残余財産の帰属権利者を変更することはできない[4]

(信託の変更)

第○条

―中略―

2 受益権が移転した場合、受益権の個数は、移転日における本信託の受益債権の総額に対する、各受益者が有する受益債権の割合の1%につき1個とする。

3 前項の場合、各受益者に計算後の受益債権が指定される受益債権の分割・併合があったものとする。


[1]道垣内弘人『信託法』有斐閣2017P391

[2]寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』2007商事法務P342

[3] 遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P293

[4] 三宅史記「広島銀行の民事信託の取組み」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版P143

家族信託・民事信託の不動産取得税

・非課税の場合

1、信託設定のとき、委託者から受託者へ所有権移転(新築建物は、受託者に課税されますが、住むための建物の場合は軽減、控除、免税点措置などがあります。)した場合の受託者(地方税法第73条の7、3号)

2、信託継続中に受託者が変更になった場合の新受託者(地方税法第73条の7、5号)

3、受益権を譲渡した場合の譲受人

3、の受益権を譲渡した場合は、なぜ不動産取得税がかからないのでしょうか。不動産取得税は、不動産の所有権が流通した場合にかかる税です。受益権を譲渡したことで、実質的には流通していると考えることもできるように思えます。

私見ですが、不動産取得税の考え方は、

(1)受益権を譲渡した際には、受益権という地位の移転があったものとして、不動産取得税の対象から外れる。

(2)ただし、譲受人が受託者と合意して信託を終了させたときは、不動産の所有権が流通したものとして課税する。

(3)例外として、

ア、信託終了時に受託者が、委託者に所有権を移転する場合、

イ、委託者が死亡することによって信託が終了し、受託者がその相続人に所有権を移転する場合は、形式的な所有権の移転なので非課税(地方税法第73条の7、4号)

・受託者が他の人から土地を購入した場合の受託者

→課税

・受託者が建物を新築した場合の受託者

→課税

・委託者が信託契約をする前に、所有者として土地を購入した場合や建物を新築した場合も同じように所有者に課税されるので、変わらないと考えて良いと思います。納税も信託財産から行い、その信託財産は委託者の財産から出したものです。軽減、控除、免税点措置なども受託者が利用することができます。

地方税法

(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)

第73条の7 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。

1 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得

2号(略)

3 委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得(当該信託財産の移転が第73条の2第2項本文の規定に該当する場合における不動産の取得を除く。)

4 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託により受託者から当該受益者(次のいずれかに該当する者に限る。)に信託財産を移す場合における不動産の取得

イ 当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者

ロ 当該信託の効力が生じた時における委託者から第1号に規定する相続をした者

ハ、ニ(略)

5 信託の受託者の変更があつた場合における新たな受託者による不動産の取得

(不動産取得税の納税義務者等)

第73条の2 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する。

2  家屋が新築された場合においては、当該家屋について最初の使用又は譲渡(独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社又は家屋を新築して譲渡することを業とする者で政令で定めるものが注文者である家屋の新築に係る請負契約に基づく当該注文者に対する請負人からの譲渡が当該家屋の新築後最初に行われた場合は、当該譲渡の後最初に行われた使用又は譲渡。以下この項において同じ。)が行われた日において家屋の取得がなされたものとみなし、当該家屋の所有者又は譲受人を取得者とみなして、これに対して不動産取得税を課する。

但し書き、3項以下(略)

受益権の譲渡を他の人にも証明するには

1、受益権の譲渡と制限

受益権は、原則としてあげたり売ったりと譲渡することができます(信託法93条)。

例外は、

(1)受益権の性質が譲渡を許さないとき

(2)信託行為に譲渡制限の定めがあるとき

です。

(1)の例として、特別障害者扶養信託が設定されているときが挙げられます[1]。守りたい受益者として、「この人!」と決まっているので、これを譲渡することは出来ません。

(2)の例として、「受益権を譲渡することはできない。」などの定めが信託契約書に記載されているとき。なお、定めがあるのに譲渡した場合、譲り受けた人をどこまで保護するかに関して、今後少し改正があります。

【現行】

(受益権の譲渡性)

第九十三条 受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定は、信託行為に別段の定めがあるときは、適用しない。ただし、その定めは、善意の第三者に対抗することができない。

【改正後】

(受益権の譲渡性)

第九十三条   受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定にかかわらず、受益権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の信託行為の定め(以下この項において「譲渡制限の定め」という。)は、その譲渡制限の定めがされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。

【解説】

2項は、1項全体の例外規定へ。

2、受益権の譲渡を他の人にも証明するには

(1)受益者が受託者に通知書を送る、渡す

(2)受益者が受託者の承諾書を得る

(1)、(2)のいずれかを文書にして、確定日付を公証人役場でもらわなければなりません。

方法の例として、通知書を送るなら、通知書を作って内容証明郵便にして送る。

 承諾書を得るなら、承諾書を作って受託者に住所と名前を書いて印鑑を押してもらい、確定日付をもらいにいく。

3、登記との関係

受益権が譲渡されて受益者が変わり、信託目録に受益者の住所と氏名が登記されている場合、変更登記が必要となります(不動産登記法97条、103条)。

 1、2、で示した通り、受益権の売買と同時に買主へ融資が行われる場合、受託者への通知書や承諾書で決済ができるはずです。しかしそれに加えて登記を必要とする場合も多いようです。

その理由としては、取引関係者は、受益権の売買と買主への融資は、所有権の売買と買主への融資と実質的に同じと考える。取引関係者は、信託登記を完了することで、1、2、をはじめ信託の実体まで含めて有効な取引が成立したと考える、などが挙げられます。

4、会社の株式譲渡との比較

(1)「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない[2]」という譲渡制限の定めがある場合

(1)の定めがある場合に、承認を受けないで譲渡した場合の効果はどうなるのでしょうか。

譲渡そのものは有効であるが、会社が承認するかは会社の自由であり、承認する場合は、譲受人を株主として扱い株主名簿の書き換えを行わなければならないと考えます。譲渡を承認しない場合は、今まで通り譲渡人を株主として扱うか、会社が株式を買い取る(会社法140条)ことになると考えます。

譲受人が譲渡制限を過失なく知らなかった場合でも保護されないという面では、会社法の方が譲受人にとっては厳しい処置を採って、その分株式の買取りで対応するという規律になっています。

【条項例】

(受益権の譲渡等)

第○条 受益者は、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることはできない。

・金融機関が受益者の場合など

(受益権の譲渡等)

 受益者は、受託者に事前に通知を行い、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。

・受益権の内容に含める例

(受益権)

第○条

1~4略

5 受益者が、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をする場合、受託者の事前承諾を必要とする。

・受益者間では自由に譲渡できるとする例

(受益権の譲渡等)

第○条 受益者は、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることはできない。ただし、受益者間で受益権を譲渡する場合はこの限りではない。


[1] 新井誠監修『コンメンタール信託法』P300

[2] 法務省HP 2017年6月22日閲覧

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