佐久間 毅「民事信託の現状と課題 -可能性と危険性―」

(一社)民亊信託推進センター実務入門講座第8回公開セミナー 

2020年12月5日 佐久間 毅(同志社大学)

民事信託・・・個人が委託者となり,財産の管理または承継を主な目的として設定する信託であって,受託者も個人であるもの(ただし,個人が業として受託する場合を除く)

 民事信託は、定義づけも未だ確定されているとはいえないのが現状なんだなぁと改めて感じます。「受託者が個人であるもの」、「ただし、個人が業として受託する場合を除く」、という書き方は初めて読んだ気がします。これからまた新しい方法を考える人が出てくると、定義も変わり得ることを示唆させてくれます。

 信託において受託者に生ずる効果:他人の大きな財産的利益に関わる,長期に及ぶ多種多様な事務処理の義務。その義務の違反があった場合の責任。

 信託銀行が受託者になる信託であっても,民事信託であっても同じ。

 「他人」と規定していいのか、私には分かりませんでした。行為によっては他人より責任は重く問われることもあるかもしれないし(信託不動産について、分筆すると価値が大幅に下落することが分かっていたのに、将来受託者が残余財産の帰属権利者として取得する分として、分筆した。)、親族だから責任は第三者が受託者に就任している場合より軽くなる場合もあるのではないかな(税理士は就いていたが、定期報告・訪問する契約ではなく、信託財産について、税の優遇を受けられる事案なのに受けるのを忘れていた。)と感じます。

* 民事信託に関与する専門家に求められること

 現実の受託者に履行可能な水準の義務となるよう信託条項が定められるべく,助言・提案をすること。

 その場合,通常,信託法が定めるよりも義務の内容を緩和する(義務を軽減する)ことになる。

 義務の軽減には限界がある → その限界を超えていないか,見極める必要がある。また,限界を超える場合,その者を受託者とする信託の設定には無理があることを委託者に認識させる必要がある。

 義務の軽減は,信託財産に不利益となる危険,委託者の望む結果が得られない危険を増大することになるが,受託者の現実を踏まえれば,受け入れざるを得ないことがある →委託者が,このことを理解したうえで信託を設定させる必要がある。

 信託行為で義務の内容を緩和(軽減)する必要があるのか、私は(受託者の)義務を緩和しているつもりはないですが、信託銀行が作成する信託契約書よりは細かく規定をしていないです。

当該の信託にとって適切な具体的定め(例:もっぱら普通預金と定期預金で管理するものとする。個人向け国債やインデックス型の投資信託など,購入可能とするものを例示する。)が信託行為に設けられることが望ましい。

 ここは普段記載していなかったので、金融商品について例示する必要はありそうだな、と思いました。信託設定時に受託者は興味がなくても、信託財産の所有者となった後に勧誘がくる可能性もあるんだろうなと思います。

公平義務違反

信託行為において,受託者は複数受益者をどのように扱うべきかを,できるだけ明確にしておく。

 受託者の公平義務に関しては、考えておく必要性があると感じさせられました。または、1つの信託行為に関して複数受益者を設定しないか、複数受益者の場合、委託者兼受益者は柔軟にしておいて、他の受益者に関してはある程度同じ事務処理しか出来ないようにしておくことも考えられるかなと思います。米国での2つの判例を紹介していただきました。私は残余財産の帰属権利者は、受託者に対して公平義務を追求出来ないと考えていますが、これも明らかに減った場合は分かりません。

4)対応策

 信託設定後に,信託が上記の信託条項に従い適切に運営されるよう,受託者への助言・支援,受託者の事務の監督等をおこなう。

* 費用について

 大きな財産の管理を実質的に他人にゆだねる場合,その事務処理の適正確保のために相応の費用がかかることは当然のこと。

 その必要な費用を負担することができない者,負担しない者は,制度の利用から排除されても仕方がない(制度の信用維持のためにも必要)。

 費用についての規模感がなかなか掴めません。包括契約を締結して、費用は個別計算が原則になると思いますが、費用の規模について税理士の顧問契約などを参考にすればよいのか、司法書士法施行規則31条に基づいて企業の経営助言を行う場合の費用を参考に少し落とした金額にするのか、迷っているところです。現在は、信託設定後の相談1回について5,000円を頂いています。

(3)効力の不安定

* 原因

 信託法の規定と異なる内容の信託条項が設けられた場合および信託法の規定と異なる行為を受託者がした場合につき,判例および安定した解釈が存在しない。

 その理由:従来の信託では,ほぼもっぱら信託銀行が受託者 + 信託銀行の「石橋を叩いて渡る実務」→ 信託の効力が争われることがほとんどなかった。

 ここは、私の認識と違っていました。「会報信託」という雑誌の後半には顧客から苦情あっせん委員会に寄せられた苦情が記載されていますが、毎回5,6件掲載されている印象があり、表に出ているだけで、信託銀行・信託会社でもこんなに数があるんだ、と思っていました。

「現実軽視の過剰な規制が生み出す不動産登記実務の過酷な現実」

市民と法[1]の記事からです。

著者は司法書士歴40年、不動産登記の決済立ち合い年間1000件以上をこなしている方のようです。

・決済立ち合いにおいて、決済場所に着金確認まで司法書士が同席する必要はあるのか。

・オンライン申請した場合で、添付した登記原因証明情報のPDFに内容の誤りがある場合、それが軽微な誤りでも補正を許容しない法務局通達(通達変更により解決。)

2つの問題を提起されています。

 私は2つとも失敗談として経験しました。決済立ち合い場所は事務所から1時間、関係者の集合時間は10時。ここだけみると、余裕を持って決済を行えます。

売主様、遅刻。連絡が繋がらない(映画を観ていたということです。)。連絡が繋がったのが13時。14時に決済場所である金融機関到着。そこから押印、着金手続き(月末で、遅刻したため他の案件の着金手続きが終了するまで入金手続きが出来ず、遅れます。)

私は他の書類の確認を済ませて、12時頃から、15時までに金融機関を出ることが出来なければ、今日の申請は保証できません、ということを不動産仲介業者、金融機関に何度も伝えていました。

金融機関を出たのは15時30分。登記申請を行ったのは、17時20分頃。5分遅れています。16時50分頃から金融機関の職員が3度くらい「間に合いますか?」と電話をかけてきたので「今準備中です。」と対応しました。電話がなかったら間に合っていたかもしれません。

申請後、金融機関と仲介業者(兼買主)に電話で遅れた旨を伝え、登記申請の受付票(受け付けはしたけど、内容の確認は明日以降になります、という内容)を渡しました。

金融機関職員は怒っていました。司法書士を信頼して決済をお願いしているのに、というようなことを言われました。

仲介業者さんが間に入ってくれて、「登記の原因日付は今日で間違いないですか?」と確認されました。「間違いないです。受付の日付は明日になります。」と私は答えました。金融機関、仲介業者の認識は、私の失敗ということのようでした。売主遅刻、連絡が付かない時点で取引を流せば良かったと思いました。

 PDF化した登記原因証明情報に不備があった場合の補正不可については、登記官によって違いがありました。登記官は、新人でない限り決済関係の登記申請であることを知っています。知っていて取下げを命じるのは、何かの信念を持っている方かなと思います。一度取り下げたことがあります。金融機関に始末書を届けに行きました。

記事に戻ります。

「期待される立ち合い業務に応えるためには、場面に応じて目的を遂げる手法を選択実行しなければならない」事態を招かないように「段取り八分仕事二分」を励行することこそが決済立ち合いの要諦(最も大切な所)である。


 この文章の言葉を借りるなら、段取りが職員(補助者)、段取りの確認と仕事が司法書士だと思いました。

本記事で一番びっくりしたのが、決済立会報酬が1万円ないし3万円で、5万円などとても請求できる金額ではないのが実情である、という記載があったことです。私は最低5万円以上の見積書を出すので、こんなにも違うんだなと感じました。

具体的には、「決済立会について決済立会場所に補助者のみを同席させることを許容する。ただし、関係当事者の同意を得たうえで、補助者に主体的・包括的に担当させることなく、司法書士として、通信機器等を活用して決済の状況を把握しつつ、信頼に応える方策を講じなければならない」等の趣旨の規範に改定すべきである。

 著者による不動産取引決済の方法の改定案です。補助者(職員)をロボットに置き換えることも可能な気がします。大きな事務所も大変なんだな、というのが感想でした。職員・有資格者が決済立ち合い場所に司法書士と同席して、司法書士の最終確認が済んだら、職員が登記申請に事務所に戻る、というような事案は良く聞きます。どの程度関与すれば良いのか、ミスがなければ何も言われない、普段から付き合いがある取引先ならミスしてもどうにかなる、ということもあると思いますが、初めて住宅を買う人が、初めて司法書士と会う人が、不快な思いをしない方法が良いのだろうなと感じます。具体的には司法書士が全ての業務をやっている(やっているようにみせることも含めます。)のが、納得のいく線だと考えます。金融機関や仲介業者の視点を外すと、そのような結論に至りました。

[1] 126号、2020年12月P10~民事法研究会

船橋幹男「AI社会における司法書士業務はどうあるべきか」

市民と法[1]の記事からです。

AI(人工知能を実装した機械)を操作する単なるオペレーターとしてなら一定の報酬は得られるかもしれない。

消極的な書き方に感じられましたが、有力な事業になり得ると思います。AIを操作するのは、簡単ではないと考えられるからです。建設業のロボット建機を適切にオペレーションするには、相応の知識と技術が求められるはずです。人の命に直接関わる場合があるため、緊張感も現在業務と同じかそれ以上になる可能性もあると思います。

土木研究所 技術推進本部 岩見吉輝「建設現場が無人化する日に向けて」

[blogcard url=”https://www.pwri.go.jp/jpn/about/pr/event/2020/1021/pdf/kouen6.pdf”]

 


AI時代にも司法書士が法律専門職として存続するか否かの判定の一つとして、テクノロジーによる代替行為が、依頼された業務の本質部分にまで及ぶのか、それとも業務の本質ではない部分での代替、言い換えれば本質的業務を効率化するためのものにすぎないのか、という見方もできるのではないだろうか。

おそらくそうだと思います。私には、各業務の何が本質部分なのか、分かりません。登記情報を取得することや、メールに対して適切な対応をすること、サムポローニアの使い方を覚えることなど、ほとんど全て本質部分に入ると思っています。私の認識がずれているのかもしれません。

たとえば、相続登記の多くは遺産分割など相続人間の法律行為を前提とするが、相続人の単独申請なので争いのない単純なケースでは、本人申請が増加するものと推測される。

本人申請のシステムを、日本司法書士会連合会で自前で作ってはどうなんだろう、というのが私の認識です。本職のエンジニアと法務局OBで司法書士登録をしている方の力も借りて取り組めば、出来ないことはないと思います。

既に大きめの事務所では開発が始まっているので、下のシステムが法務省などに認定されると、他の司法書士への影響は少なくないと思います。

[blogcard url=”https://www.meiseihoumu.jp/news/20200214.html”]

 

これに対し、司法書士は職域とその業務内容においても法律で厳格に制限されていて、自ら業務開発できる分野にも限界がある。

現在の職域と業務内容の中でも、自ら業務開発できる分野(計算機分野を含めて)で限界まではやり切れていないんじゃないか、というのが私の認識です。

[1] 126号、2020年12月、P3~

渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執行指針案100条(4)」

市民と法[1]の記事からです。

日本の法制度上、特別法として任意後見制度が存在し、第一次的な認知症対策としての利用が想定されている。この任意後見制度を利用しないまま認知症を進行させてしまえば、一般法としての法定後見制度を利用するほかない。

最近考えることなのですが、民法と信託法との関係について。

信託法は民法との関係でいえば特別法だから、信託法が優先する、だから後継ぎ遺贈型の受益者連続型信託が認められる。遺留分も・・・というようなことが当初(今も?)言われていて、私も特別法であることに関してはなるほど、などと考えていました。

ただ、特別法だから常に民法に優先するかといえば、東京地判平成30年10月23日のように遺留分に関しては民法が適用されるように(侵害額の相手方、計算方法は特別については受益権説で良いのか議論があるとして)、必ずしも特別法が常に優先するわけではないということが明らかになってきました。

では、民法と信託法のどこが民法優先適用、どこが信託法優先適用となるのかのメルクマークは、どのように考えていけば良いのか、私は個別に一つずつ考えていかないと分からなくなりそうです。現状の私の考え方は次のとおりです。原則として民法に規定のない事項に関しては信託法が優先する、民法より義務が厳しいものに関しては信託法が優先すると考えています。その他に、民法より権利が拡充されている規定に関しては、民法と信託法だけではなく、その他の一般法と特別法との関係を踏まえて、どの程度であれば不合理ではないと言い切れるのか、と考えて決めています。

それはおそらく記事のなかにある、

今、司法書士の家族信託組成コンサルティングと称される業務に対して、その法的能力や公益意識を評価する弁護士、法学者、裁判官の声は、全く聞かれない。


という「公益」に関しても考える起点になるような気がします。

単なる親子や親族の信頼関係と、信託契約を媒介し、信託の法的効果を享受するための信託の信認関係は全く異なる(なお、平30.10.23判決は親子間でも、契約の内容が優先される旨を判事した)。

ここは、改めて考えてみると結構難しい課題だと感じます。法定後見だと一身専属権を除く全権代理、任意後見もいくつか代理権目録に工夫するとしても基本的に法定後見と同じ権限を後見人が持つと思います。

 ただし民事信託に関しては、一部の財産に対して詳細に決めることが多く、今までの家族関係と受託者と受益者の関係が、事案によってはかなり異なるものになる可能性があります。それだと対応できないので、出来るだけ現在の事実関係に寄せて、将来の可能性については一番高いと思われる事項を記載するように努めることが必要なんだろうなと考えているところです。希望は書いても良いけれど、まずは信託行為の変更を頻繁に行わないような記載が必要なのかと思います。

[1] 126号、2020年12月P20~民事法研究会

横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(6)」

登記情報[1]の記事からです。

筆者は、委託者の変更の箇所でも述べたとおり、登記原因証明情報を提供すれば足り、印鑑証明書を提供する必要はないと考えています。(根拠として「弁護士法第23条の2に基づく照会(質権の実行による信託受益権の移転に伴う受益者の変更の登記手続)について」平22.11.24民二第2949号民事第二課長回答)。

登記申請を行うに際して、印鑑証明書の添付は原則として不要だと思います。根拠としている通達は、質権の実行による信託受益権の移転であり、旧受益者から印鑑証明書の提供を受けることが容易ではないこと、登記原因証明情報が報告式ではなく、質権設定契約書及び質権実行通知書などを提供すること(質権設定契約締結時、既に実印の押印及び印鑑証明書が提供されている可能性が高く、質権実行通知書は、旧受益者に到達していることまで証明している可能性が高い)ことから、全ての受益者変更の登記申請には当てはまらないと考えます。

本記事が実務上、どこまでの効力を持つのか分かりませんが、受託者が登記申請する前の実務として、旧受託者の実印の押印及び印鑑証明書を求めて受益者変更の信憑性を確認することはあっても良いと考えます。

しかし、筆者は、信託受益権の売買とそれに伴う担保権の得喪は、不動産登記制度の対象外の事柄であり、これを「受益者の変更」の登記の中で実現させようとすることには、それが別制度であるがゆえに、根本的に無理があると考えており、「受益者の変更」の登記の中に新たなニーズを盛り込もうとする動きを危惧しています。

受益権に設定された質権の抹消まで法務局が審査することは要求されていないし、登記申請の代理を行う専門職も期待していないと思います。

ただ、質権者、受託者にとっては必要な書類を集めて確認することで、安心感を得るという意味では必要な場面もあるのかなと感じます。質権実行と抹消に関しては、別途公証センターで何らかの手続きを行うような説明も必要になってくるのかなと感じます。

報告的な内容の登記原因証明情報であれば、例えば、登記申請人である受託者と、新たな受益者となる乙が共同で登記原因証明情報を作成すれば十分であり、必ずしも甲が作成人となることまでは要しないと考えます。なお、本件の登記原因は、「年月日質権実行」が相当と考えます。

私も上の記載に賛成です。質権実行による受益者変更登記はそうなると思うのですが、売買契約による場合、例えば5年前に受益権売買契約を行ったが、旧受益者は契約した覚えはない、受益権の買主が受益権売買契約書を紛失している場合、対価のやり取りが現金だった場合、旧受益者の関与なしに、どのような報告式の登記原因証明情報を作成するのか気になります。


[1] 709号2020年12月号きんざいP40~。

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