・ある信託が、もっぱら受託者の利益を図る目的でなされているかどうかは、形式的に、受託者の行動を決定する基準としての「目的」が、自分自身の利益を図るべしとされているか否かではなく、その信託によって当事者が達成しようとした実質的な経済的効果に照らして判断されるべきことになるか?
信託の成立要件(信託法2条1項)に関わる問いです。文献にも問いのような記載があります[1]。私も「その信託によって当事者が達成しようとした実質的な経済的効果に照らして判断される」のが適切だと考えています。信託、民事信託、そして福祉型信託と呼ばれる信託に対しても同じです。福祉型信託においても、直接の身上監護は出来ないので、あくまでも経済的な効果を通して受益者の生活の質の向上、維持を目指すのが信託の受託者の仕事であり、信託期中・信託終了後における信託の成立要件の評価基準であると考えています。
・福祉型信託において、受託者が、もっぱら信託財産で大型開発行為をする意図で、受託した場合はどうか。信託条項は簡単で、かかる開発行為には触れていない。信託は成立するか?
・信託の目的にある「受益者の幸福な生活と福祉を確保する目的」を実現する意思がない場合はどうか。
この問いも信託の成立要件に関わるものです。福祉型信託であることと、受託者が大型開発行為を行う目的を持つことは、両立し得ると思います。委託者の信託行為時の意思がどのように担保されているのかが、評価の一つの基準になると思います。信託条項は簡単という記載は、あいまいで有効か否か分かりませんでした。信託行為で開発行為について触れていないからといって、信託が不成立になるわけではありません。開発行為における対価や利益が信託目的(民事信託の場合、多くは受益者のため。)のために使われていれば、信託は成立します。
受託者に、「受益者の幸福な生活と福祉を確保する目的」を実現する意思がない場合には、最初の問いで記載のあった、「その信託によって当事者が達成しようとした実質的な経済的効果に照らして判断される」のが適切ではないかと思います。
・他の専門家が作成した信託行為の内容をほとんど全て変更する場合、新たな信託行為ではなく、「信託の変更」で対応可能なことがらは何か。受託者の解任。残余財産の帰属権利者の変更。信託事務等の変更。信託監督人の設置。受益者代理人の定めがない場合における同意権者の選任。
受託者の解任は、信託法58条によって行います。信託監督人の設置は、信託法131条によって選任されます。残余財産の帰属権利者の変更、信託事務の変更、同意権者の選任は信託の変更(信託法149条、150条)に含まれると考えます。信託法に定めがある場合と、委託者、信託財産、信託の目的に反する、以外の事柄に関しては、変更の当事者、適切な利害関係人がいる限り、信託の変更で対応が可能だと考えます。
・公正証書による信託契約変更契約について、 同じ公証人であれば、受益者(受益権)は同じであり、変更公正証書の手数料は、算定不能(11、000円)となるか。
信託行為時の手数料の4分の1の価格になるのではないかと思います。
参考 公証人手数料令
(算定不能の場合の給付の価額)第十四条、(法律行為の補充又は更正の特例)第二十四条、別表(第九条、第十七条、第十九条関係)
・新規の「信託口」口座開設に、 事前の信託契約変更契約書のリーガルチェックを受ける必要があるか。
事前に口座開設している金融機関に、提出していた方が信託終了後などスムーズな事務手続きに繋がると思います。
・契約能力を計る基準として、年齢があるか。7歳というのはあるのか。
成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする「民法の一部を改正する法律」は,2022年4月1日から施行されます。
法務省HPに記載の考え方が適切だと感じます。
Q3 成年年齢の引き下げによって,18歳で何ができるようになるのですか?
A 民法の成年年齢には,一人で有効な契約をすることができる年齢という意味と,父母の親権に服さなくなる年齢という意味があります。
成年年齢の引下げによって,18歳,19歳の方は,親の同意を得ずに,様々な契約をすることができるようになります。例えば,携帯電話を購入する,一人暮らしのためのアパートを借りる,クレジットカードを作成する(支払能力の審査の結果,クレジットカードの作成ができないことがあります。),ローンを組んで自動車を購入する(返済能力を超えるローン契約と認められる場合,契約できないこともあります。),といったことができるようになります。
なお,2022年4月1日より前に18歳,19歳の方が親の同意を得ずに締結した契約は,施行後も引き続き,取り消すことができます。
また,親権に服することがなくなる結果,自分の住む場所(居所)を自分の意思で決めたり,進学や就職などの進路決定についても,自分の意思で決めることができるようになります。もっとも,進路決定について,親や学校の先生の理解を得ることが大切なことに変わりはありません。 そのほか,10年有効パスポートの取得や,公認会計士や司法書士などの国家資格に基づく職業に就くこと(資格試験への合格等が必要です。),性別の取扱いの変更審判を受けることなどについても,18歳でできるようになります。
・聴力、画像診断など医師の判断で契約に関する判断能力を計ることが100%可能か。長谷川式テストとの関係ではどうか。
100%可能というものはないのではないかと思いますが、専門外でもあるので、医師の判断を尊重しながら、司法書士としての疑問が湧けば質問をしたり、他の方法を探したりするのが良いのかなと感じています。
・残余財産の帰属権利者の変更は、信託の変更か?受益者変更権を利用するのがベストな選択肢か?
残余財産の帰属権利者(信託法第182条2項)は、信託が終了するまで権利義務を持つことはないので、信託の変更で対応することになると考えます。受益者変更権(信託法第八十九条)は、残余財産の受益者(信託法第182条1項)の変更には利用できると考えますが、残余財産の帰属権利者には利用することが出来ないと考えられます。
・1年前に、不適切な信託契約書を作成した士業に損害賠償請求が出来るか?
請求自体は可能だと思います。勝訴、回収まで出来るかは、士業の業法や民法上の定めなどにより、士業の資力も併せて考える必要があると考えます。
[1] 道垣内弘人「信託法 現代民法別巻」2017有斐閣P47~