非典型的家族の財産アレンジメント 法律婚以外のパートナシップについて、民法では適切に処理できない可能性があり、一方が亡くなった場合における実質的に相続権の確保をしたい。

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版(株)P288~)

1、法律婚以外のパートナシップについて、民法では適切に処理できない可能性があり、一方が亡くなった場合における実質的に相続権の確保をしたい。
反対に、法律上のみの権利者による権利主張を制約したい。

2、パートナシップの開始にあたり、双方が自己の主要な財産について相手を第1受益者、自身を残余財産受益者とする自己信託を設定し、信託目的において双方が合意する財産関係を盛り込む。

3、共同生活開始後も、重要な財産については同様の自己信託の設定を行う。

4、設定者の死亡後は第1受益者が新受託者を兼ね信託財産を管理することとして、別途遺言により遺留分を侵害しない範囲で残余受益権を第1受益者に遺贈する。

5、その結果、法定相続人は信託財産ではなく残余受益権の残りを相続するにすぎず信託財産に対して直接の権利行使はできない。
住宅等について相手の居住権や利用権を確保するニーズがあるなら、信託目的にそのような内容を盛り込む。


自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)受益者の居住を中心とした安定した生活
(2)受益者が亡くなった場合の残余財産の受益者の安定した生活
(3)パートナシップが終了した場合の権利義務関係の円滑な承継

(信託財産)
第○条
1 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後に第
3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(以下、「信託金銭」という。)
 (3) 委託者、受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次のとおりである。
 住所                       
 氏名 A 生年月日

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                                            
氏名 B 生年月日 

(信託財産責任負担債務)
第○条 別紙2記載の債務は、信託財産責任負担債務とする。

(信託財産の管理方法)
第○条
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
(3)信託金銭が○○万円以下になった場合の信託不動産の処分
(4) 信託設定者が死亡し、受益者が信託不動産に居住する必要がなくなった場合の信託不動産の処分
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)信託財産責任負担債務の返済
(4)その他信託目的を達成するために必要な事務
3 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第3者へ委託することができる。
4 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は設定者、設定日以後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、固定資産税の納税通知書及び領収書と信託口通帳を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。
 (1)住所                       
    氏名 B 生年月日     

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産の所有権
 (2)信託不動産への居住権
 (3)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 信託設定者が死亡した場合の受益権の帰属は、次のとおりとする。
(1)信託不動産の居住権は、B
(2)信託金銭は、B
(3)信託財産責任負担債務は内部での取り決めとして、Bが引き受ける。
5 受益者は、受託者の同意を得て、受益権を譲渡又は質入れ、担保設定その他の処分をすることができる。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、追加信託をする権利義務のみを受益者にも移転する。その他の信託行為に記載のある権利は、亡くなったときに委託者の地位と共に消滅する。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の受益者)
第○条 本信託における残余財産の受益者は、Aとする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産
(1)土地
所在      
地番
地目      
地積

(2)建物      
所在 
家屋番号 
種類 
構造 
床面積㎡


第2 信託金銭 
金○○万円


以上


別紙2

信託財産責任負担債務
本店
商号 ○○銀行 
取扱い支店 ○○支店
設定時の債務 金○○万円
(平成○○年○○月○○日付A及びBを連帯債務者とする住宅ローン債務の2分の1の金額)


以上


遺言公正証書


第○条 遺言者は、下記不動産の受益権を、法定相続人に遺留分に応じて相続させる。
信託受益権が残る場合は、全てBに遺贈する。

1 土地
所在
地番
地目
地積

2 建物
所在
家屋番号       
種類      
構造 
床面積


第○条 遺言者は、その所有にかかる手元現金、権利を有する下記預金債権及び一切の信託受益権をB(生年月日)に遺贈する。

1 (株)○○銀行○○支店
普通預金 口座番号○○ 
口座名義人 A信託口

2 (株)○○銀行○○支店
普通預金 口座番号○○ 
口座名義人 A                  

第○条 遺言者は、次の費用等をBに負担させるものとし、遺言執行者に対し、その負担者が取得する財産から随時支出する権限を与えるものとする。
 (1)遺言者の葬儀費用
(2)遺言者の未払い租税公課、入院費用、日常家事債務などの一切の債務
 (3)遺言執行に関する一切の費用(ただし、登記・登録に係るものを除く。)
2 遺言者は、不動産の登記手続に要する費用は、本遺言により当該不動産を取得する者にそれぞれ負担させるものとし、遺言執行者は、負担者が取得する財産をその費用の支払いに適宜充当することができる。

第○条 遺言者は、本遺言の執行者として次の者を指定する。
 住所                
 氏名  ○○  生年月日             
2 遺言者は、遺言執行者に対し、遺言の執行上必要があれば本遺言対象財産を適宜換価し、換価困難な財産については無償処分する権限を与える。また、不動産の登記手続一切、預貯金の解約、名義変更、払戻しなど本遺言の執行に必要な一切の行為をなす権限を付与する。

第○条 この遺言の公正証書正本は、前記遺言執行者が保管する。

以上

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