民事信託契約書のうち、特約、代理権目録(任意後見契約公正証書)及び保佐・補助開始申立用代理(同意)行為目録を取り上げる。
1 特約
1―1 条項例
チェック方式
(特約)
- 信託契約時における遺留分権者の確認
【当初受益者(子・ )・第2次受益者( )・帰属権利者等( ) 】
□2 遺留分権者への対応
【信託財産中の金銭・不動産を留保・保険・固有財産中の金銭・不動産・ 】
□4受益者指定権者等の有無
【無し・有(受益者指定権・受益者変更権)(受益者・受託者・任意後見人・ )】
□5委託者による購入済みの【保険、投資信託、株式、 】の確認と今後の対応[1]
□6受託者の報酬【月( )万円/毎月( )日・毎年( )月受領】
□7民事信託関係者に法人がある場合の履歴事項証明書・規約・出資者名簿・連絡先・ 】
1―2 解説
民事信託契約の締結の際、定めていた方が良いと考えられる事項を列挙した。契約書と別に定めても良い。
2 代理権目録(任意後見契約公正証書)
2―1 例
別紙
代理権目録(任意後見契約公正証書)
□1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項
□2 金融機関、郵便局、証券会社とのすべての取引に関する事項
□3 保険契約(類似の共済契約等を含む)に関する事項
□4 定期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払に関する事項
□5 生活費の送金、生活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取引(契約の更新、解除を含む)に関する事項
□6 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項
□7 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申し立て並びに福祉関係の措置(施設入所措置を含む)の申請及び決定に対する異議申立てに関する事項
□8 シルバー資金融資制度、長期生活支援資金制度等の福祉関係融資制度の利用に関する事項
□9 登記済権利証、登記識別情報、印鑑、印鑑登録カード、マイナンバーカード、預貯金通帳、各種キャッシュカード、有価証券・その預り証、年金関係書類、土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類の管理
□10 居住用不動産の購入、賃貸借契約及び住居の新築・増改築に関する請負契約に関する事項
□11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明書の請求に関する事項
□12 遺産分割の協議、遺留分請求、相続放棄、限定承認に関する事項
□13 新たな任意後見契約の締結に関する事項
□14 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立て、紛争の処理(弁護士に対する委任、公正証書の作成嘱託を含む。)に関する事項
□15 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項
□16 【年月日】締結の信託契約における受託者への指図に関する事項(委任者の身上監護に必要な事項に限る。)
【1・2・3・4・5・8・9・10・11・12・13・14・15・16】
17 以上の各事項に関連する一切の事項
□18 代理権目録記載事項のうち、【年月日】締結の信託契約に関連して信託財産に属した財産は受益者代理人などの信託関係者が優先する。
【1・2・3・4・5・8・9・10・11・12・13・14・15・16】
2―2 解説
民事信託契約と併せて、任意後見契約が必要な場合がある。例えば父親が委託者兼当初受益者、子が受託者である場合に、父親に子がいない弟が存在する時である。弟が亡くなった場合は、父親の代わりに法定後見人など又は任意後見人が遺産分割協議を行う。
代理権目録の16から18までが民事信託契約との関連性を持たせるための事項である。民事信託契約との整合性が必要となる。受託者が任意後見人となる場合は任意後見監督人に対して権利関係を明らかにする。
3 参考 保佐・補助開始申立用代理(同意)行為目録
3―1 例
(別紙)【保佐・補助開始申立用】
代理(同意)行為目録
作成者【氏名】
必要な代理行為をチェック又は記入してください(包括的な代理権の付与は認められません。)。どのような代理権を付与するかは,本人の意向(同意)を踏まえ,裁判所が判断します。
1 財産管理関係
(1) 不動産関係
□①本人の不動産に関する(□売却,□担保権設定,□賃貸,□警備,□ )契約の締結,更新,変更及び解除
□②他人の不動産に関する(□購入,□借地,□借家)契約の締結,更新,変更及び解除
□③住居等の(□新築,□増改築,□修繕(樹木の伐採を含む。),□解体,□ )に関する請負契約の締結,変更及び解除
□④本人の不動産内に存する動産の処分
□⑤本人又は他人の不動産に関する賃貸借契約から生じる債権の回収及び債務の弁済
(2) 預貯金等金融関係
□①(□全ての,□別紙の口座に関する,□別紙の口座を除く全ての)預貯金及び出資金に関する金融機関等との一切の取引(解約(脱退)及び新規口座の開設を含む。)
□②預貯金及び出資金以外の本人と金融機関との(□貸金庫取引,□証券取引(保護預かり取引を含む。),□為替取引,□信託取引,□ )
(3) 保険に関する事項
□①保険契約の締結,変更及び解除
□②保険金及び賠償金の請求及び受領
(4) その他
□①(□年金,障害手当金その他の社会保障給付,□臨時給付金その他の公的給付,□配当金,□ )の受領及びこれに関する諸手続
□②(□公共料金,□保険料,□ローンの返済金,□管理費等,□)の支払及びこれに関する諸手続
□③情報通信(携帯電話,インターネット等)に関する契約の締結,変更,解除及び費用の支払
□④本人の負担している債務に関する弁済合意及び債務の弁済(そのための交渉を含む。)が現に有する債権の回収(そのための交渉を含む。)
2 相続関係
□①相続の承認又は放棄
□②贈与又は遺贈の受諾
□③遺産分割(協議,調停及び審判)又は単独相続に関する諸手続
□④遺留分減殺請求(協議及び調停)に関する諸手続
3 身上監護関係
□①介護契約その他の福祉サービス契約の締結,変更,解除及び費用の支払並びに還付金等の受領
□②介護保険,要介護認定,健康保険等の各申請(各種給付金及び還付金の申請を含む。)及びこれらの認定に関する不服申立て
□③福祉関係施設への入所に関する契約(有料老人ホームの入居契約等を含む。)の締結,変更,解除及び費用の支払並びに還付金等の受領
□④医療契約及び病院への入院に関する契約の締結,変更,解除及び費用の支払並びに還付金等の受領
4 その他
□①税金の申告,納付,更正,還付及びこれらに関する諸手続
□②登記,登録の申請
□③マイナンバー関連書類の受領
□④調停手続(2③及び④を除く。)及び訴訟手続(民事訴訟法55条2項の特別授権事項を含む。)
※保佐人又は補助人が申立代理人又は訴訟代理人となる資格を有する者であるときのみ付与することができる。
□⑤調停手続(2③及び④を除く。)及び訴訟手続(民事訴訟法55条2項の特別授権事項を含む。)について,申立代理人又は訴訟代理人となる資格を有する者に対し授権をすること
□⑥【 】
5 関連手続
□①以上の各事務の処理に必要な費用等の支払
□②以上の各事務に関連する一切の事項(公的な届出,手続等を含む。)
6 民事信託契約との関係
□①【年月日】締結の信託契約における受託者への指図に関する事項(本人の身上監護に必要な事項に限る。)
【1財産管理関係 2相続関係 4その他 】
□②代理行為のうち、【年月日】締結の信託契約に関連して信託財産に属した財産は受益者代理人・信託監督人などの信託関係者が優先する。
【1財産管理関係 2相続関係 4その他 】
以 上
3―2 解説
任意後見契約の代理権目録と同様の定めである。
[1] 元本保証のある預金や金銭信託に置き換えるものとして、小林徹「家族信託と成年後見制度」新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版。