渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第7章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第7章民事信託支援業務と司法書士の使命

前提として、私の解説では、組成という用語を使わないようにしています。引用としては利用します。

P440

司法書士が、法3条業務として民事信託支援業務を行うことの制度的意義は、司法書士が、私人間の法律関係の規律に直接的にかかわることである。市民の相談役として、国民の権利を擁護する法律事務の専門家にふさわしい。過去の一部の司法書士業務にみられたような公的機関の権威を背景にしない(私人対公的機関という構図ではない)、司法書士自らの法律知識・技術と倫理観を頼りに、市民の相談役として、私人間の水平的な関係にかかわる業務となる。

→過去の一部の司法書士業務にみられたような公的機関の権威を背景にしない(私人対公的機関という構図ではない)業務、とは何か、私には分かりませんでした。法定後見人などの業務のことを指しているのでしょうか。

 制度的意義については、必要とされていること、司法書士が出来ることについて、私なりにもっと考える必要があると感じます。

しかし、実体法で、かつ、司法の基本法の研究に正面から取り組む機会は、そう多くないのではあるまいか(会社法の研究は商業登記法を介する形で行われ、民法は不動産登記法の枠組みを介することで凝縮され緻密化した)。

→信託法においても、専門である信託目録を含む信託に関する登記を介して研究に取り組む方が、司法書士にとっては理解が速いのではないかと思います。また、遺言書(案)作成、成年後見制度、任意後見制度に関わってきた経験も活きる場面です。

P443

家族信託の泰斗である遠藤英嗣弁護士は、一部の専門家による家族信託の組成業務(業務誘致)それ自体に関して、消費者被害の懸念があるとして警告を発している。報酬の高額性も指摘する。

 

→法令で確定していること以外、確かな、確実な、絶対に、などの文言を控えることが必要なのかと感じました。

 報酬の高額性について、遠藤英嗣弁護士の最低手数料は28万円となっています。その下に、価格0.50%の目安の事例、などが列記されています。

http://www.kazokushin.jp/publics/index/43/

 こられが、弁護士が民事信託支援業務を行う際の、参考と考えていいものなのでしょうか。司法書士としてはこの料金と比較して、どのくらい低ければよいのでしょうか。財産に一定割合をかけた報酬額をしない、ということがまず挙げられるかもしれません。ただ、司法書士の旧報酬基準でも、例えば抵当権設定登記の債権額が高額である場合、加算しています。作成する書類は同じで、書きこまれている数字が違うだけです。割合加算と何が違うのか、私には分かりませんでした。

 旧報酬基準との関係でいえば、枚数加算は利用しやすいのではないかと思います。例えば、受託者の権限に関する条項のメニューを1枚作成したから、○○円、と個別に計算し、積み上げていく方式は、今までの司法書士業務と馴染むのではないかと思います。相談回数や書類のやり取りが多いほど報酬が高くなりますが、その時には、一般的に委託者の理解も進む可能性が高く、納得感も得られるのではないかと考えます。

P445

成年後見制度導入段階の平成11年、日司連理事であった斎木賢二司法書士は、成年後見業務を人権問題であると明言しているが、同様に、認知症対策をうたう家族信託も人権問題であることを忘れてはならない。

→成年後見業務も、家族信託も人権問題であることを知りませんでした。

P468

司法書士にとっての「支援」という言葉は、一般用語としての支援とは異なる。司法書士職務としての公益性・公平性・庶民性などの正義の概念を含む歴史的概念である。それは司法書士の報酬の思想にも深く関連しているのである。

→初めて知りました。司法書士行為規範には、利用されています(10条など。)。

P470

そこで、司法書士試験をもって、信託法の知識・思考を試験する国家試験とすべきである。厳しい受験勉強の過程こそが法律(信託法)を体系的に万篇なく身に付ける最良の機会なのだ(実務家としての学習は摘まみ食い的となり、体系性と網羅性が足りなくなりがちだ。司法書士実務家向けの信託研修では、受験予備校の民法や会社法の講座のような信託法の体系的講義を行う時間はない)。

→司法書士試験に、信託法を入れることには基本的に賛成です。ですが、試験勉強だけが勉強ではありません。実務に出てからでも勉強の場はあります。学会に入会して論文を書く、近くの大学で信託法の研究者がいる場合は、単位履修生などで聴講する、など他に方法はあります。また、受験予備校の講座を受けることが前提になっているように読めますが、私は受験予備校の講座を受けていません。私のような司法書士もいると思います。

最後に

 七戸克彦九州大学教授に関する記述が、私が読んだ限り、1か所(P447)だったのが気になりました。現在の研究者の中では、司法書士制度・土地家屋調査士制度に詳しい方だと思います。

 大垣尚司青山学院大学教授に関する記述がなかったのも気になりました。現在の民事信託の類型(認知症対応など)の7割近くは、大垣尚司教授の考えによるものだと考えています(平成24年9月1日、司法書士会館地下1階「日司連ホール」、「民事信託をいかに推進させるか」基調講演講師、大垣尚司「個人間信託と専門家の役割」など。)。

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