渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第4章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第4章東京地判令和3.9.17にみる民事信託支援業務と5号相談

前提として、私の解説では、組成という用語を使わないようにしています。引用としては利用します。

P274

司法書士は、医師と同様の受託強制主義の下、公益代表型の法律家として、そのような債務を負っている。

→受託強制主義は司法書士法21条を指しているものと考えられます。民事信託支援業務は、原則として、簡裁訴訟代理等関係業務ではないことが想定されます。司法書士法3条1項各号を根拠として民信託支援業務を行う場合、司法書士法21条の依頼は、相談から依頼の間に、時間を要します。相談の段階で法律整序事務であることを、司法書士が判断した上での依頼であることが必要となります。法律整序事務ではない相談は、依頼される前に断る、他士業を紹介することになります。依頼に応じた後(委任契約締結後)においても同じです。

 そして、司法書士法21条の存在によって、依頼を受けた以上、きっちりやらなければいけない、というような感覚を持つことが多いような気がします。きっちりやる、というのは、完了させるまで出来るだけミスなく、違法になりそうな場合は事前に通知したうえ、そのような事実が起きた場合、すぐ断ることも含みます。民事信託支援業務を行うにあたって、委任契約の範囲を具体的に決めることが出来れば、良い方向に向かう場面が多いように感じます。

P279

なお、本判決の事案において、分別管理された信託口口座が開設出来なかった主たる理由は、信託契約公正証書の作成(信託契約の締結)にあたって、司法書士が委託者を代理してしまったことにあったようだ。

→主たる理由は、司法書士が信託契約公正証書の作成前に、信託口口座開設予定の金融機関に、事前に信託口口座の開設要件を確認しなかったことです。

P285

それでは、司法書士は、司法書士法上の業務範囲であれば、すべての分野において情報収集義務を生じるのだろうか。どのレベルまで情報収集を行うべきなのか。

→結果論ではありますが、依頼者が通常想定していなかったような損害を与えない程度の情報集、ではないかと考えています。

P311

民事信託の専門家を自負する若い司法書士の人々には、地に足を付けた民事信託支援業務の地固めのためにも、金森コラムに対するさらなる反論を期待したい。

→私はしています。なお、反論ではなく批評です。

 司法書士の体質として、ある程度の地位を得てから、何名かで議論を固めてから組織名で、というのが多いと考えられるので、難しいのではないかと思います。沖縄県会ではそうです。著者についても、実務に就いている場合に同じことが出来るのか、金森弁護士と面識がなく、予め反論しますと断っていない場合、同じことが出来るのか、私には分かりません。

P319

あるいは、受託者ではなく、最大の利害関係者である受益者に対して、このような訴えを提起して信託財産を保全すること、を期待することができるのだろうか。

→知り得るのであれば、受託者より期待できる場合もあると考えられます。

P343

ところで、以上みてきたとおり、司法書士による民事信託支援業務の生成のプロセスは、成年後見業務や簡裁訴訟代理等関係業務などの他の司法書士業務とは全く異なる。

→似ている場面はあると思います。相談時に情報提供、リスク説明を行うことはあるのではないでしょうか。

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