渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」第5章

渋谷陽一郎「裁判例・懲戒事例に学ぶ民事信託支援業務の執務指針」、2023年1月、民事法研究会、第5章民事信託支援業務に関する懲戒事例と懲戒規範

前提として、私の解説では、組成という用語を使わないようにしています。引用としては利用します。

P346、P347

苦情が聞かれた、苦情も聞かれる、とも噂されるなどの記述について

→このような表現から結論が導いても良いのか、分かりませんでした。

P355

また、通常、子どもである受託者となるべき者の側から、本懲戒事例のように、自分たちのものにできないかとの旨の不法・不適切な動機を開示してくる場合は少ない。あくまでも、表面上、高齢の親のためであると言い張るだろう。そのような場合、司法書士は、どのようにして真の動機を知るのか、知りうべきか、知ることができるのか(そのメルクマークは何か)。

→信託設定時、外形上、明らかに子どもである受託者の利益のために設定されていると認められる信託でない限り(信託法8条)、結果として委託者・受益者に損害が出るかどうかになると考えられます。

P357

それでは、成年後見人事案でない場合で、親の財産の先取りや他の推定相続人からの囲い込みを意図した家族信託を組成した後、実際、信託財産を着服した場合、どの時点で犯罪の実行の着手と評価されるのだろうか、組成時だろうか、着服時だろうか。あるいは、家族信託だけの場合も、業務上横領罪であると評価されるのだろうか。

→犯罪の実行の着手と評価される時期について、外部に対して、明らかに受託者自身が自己の利益のために領得する意思を発現した場合を除いて、着服時だと考えられます。

家族信託だけの場合も、信託行為の内容によっては、法定後見制度、未成年後見制度と同様に業務上横領罪であると評価される可能性はあると考えられます。このような場合、公益信託の存在が評価に影響を与えるのではないかと思います。

最高裁判所第二小法廷平成24年10月9日決定

1 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項は準用されない。

2 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があることを量刑上酌むべき事情として考慮するのは相当ではない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82627

最高裁判所第一小法廷平成20年2月18日決定

家庭裁判所から選任された未成年後見人が業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合,未成年後見人と未成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,その後見事務は公的性格を有するものであり,同条項は準用されない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=35770

P358

会則違反について―中略―違法行為の射程は、信託組成支援業務の違法に留まると考えます。理由として、信託組成支援業務の違法により、信託の違法が生じているので、司法書士が実際に行った信託組成支援業務の評価に留めることが、妥当だと考えたからです。

P361

しかし、医師でもない司法書士に、認知症患者の積極的な意思能力の有無を判断する責任を負えるのか検討を要する。そのようなノウハウはあるのか。証拠保全方法はどうなるか。

→通院先のカルテや、施設・デイサービスの介護日誌などをコピーして保存する方法があるかと思います。

P365

他人の作成した信託契約書に対する有償でもって行う鑑定を法的根拠および公益意識なく反復継続し、それが不完全かつ悪質であり、かような鑑定により損害を生じたこと

→公益意識の有無、不完全かつ悪質、損害の有無が必要なのか、疑問に思いました。

P366

インターネットやSNS等を濫用し、公然と、書籍・資料等の無断転載等を行い、引用を逸脱し、違法となる著作権法違反(刑事罰)の行為

→多数決で、一方的に除名処分などをせず、根拠をもって立件や懲戒処分申立てをしていただきたいと思います。お互いに敬意があれば、メールでの議論で済むとは思うのですが。

P381

司法書士との長年にわたる継続的な依頼者の事案であるなどの特段の事情がある場合を除いて、医師でもない司法書士が、認知症患者の判断能力が戻ったなどの判断は容易ではない。

→前提として、認知症と診断されたことは、判断能力の喪失とイコールではありません。

なお、公証人が、判断能力ありと判定した場合は、司法書士の確認義務の程度はどうなるのか、などの応用問題がある。

→公証人が、判断能力ありと反転した場合、というのは、公正証書を作成した場合、と言い換えます。公証人が、この方には判断能力がある、と断定することを私は聴いたことがないからです。その場合でも、司法書士の確認義務は変わりません。司法書士と公証人は独立して仕事をしているからです。

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