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https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000099.html
(令和4年11月国土交通省不動産・建設経済局)
はじめに
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和4年法律第38号)により、管理不全状態の所有者不明土地等について、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号。以下「法」といいます。)に、市町村長による代執行などの行政的措置を可能とする制度が創設され、令和4年(2022年)11月1日に施行されました。併せて、管理人に対する地方裁判所による管理命令などの民事的措置を市町村長が裁判所に請求できる制度が創設されました。(下図参照)
このうち行政的措置は、行政指導である勧告(法第38条)、不利益処分である命令(法第39条)・代執行(法第40条第1項)の3つに大別されます。なお、これらの措置に先立って、市町村が確知所有者等に対して行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第6号に規定する助言・指導などの行政指導を実施することが考えられます。土地の適正管理を目的とする条例が策定されている市町村によっては、行政指導については規定されているものの、勧告・命令・代執行等については規定されていない場合がありますが、今般の法改正に伴って条例の規定がなくても、法に基づいて勧告・命令・代執行を行うことが可能となります。
本ガイドラインは、法第3章第3節に基づく勧告等の対象となる管理不全所有者不明土地及び管理不全隣接土地の判断の参考となる基準や、勧告・命令・代執行に係る手続の基本的な考え方を示すことで、各市町村における措置の適切な実施の一助となることを期するものです。
事前準備等を含め、勧告・命令・代執行などの行政的措置について時系列に章立てをしていますので、講じようとする措置に応じて、各章を御参照ください。
なお、本ガイドラインは、各措置について、法令に抵触しない範囲で、手続を付加し、又は省略することを妨げるものではなく、各市町村においては、本ガイドラインを参考に地域の実情に応じた判断基準を定めるなどした上で、所有者不明土地の管理の適正化のための措置を適切に実施するようにしてください。
また、市町村は、土地所有者等の探索に関する専門的知識の習得や所有者不明土地の管理の適正化を図る事務・事業の準備・実施のために国土交通省の職員の派遣を要請することができるとともに(法第53条第2項)、国土交通省が事務局となって運営する「土地政策推進連携協議会」においても管理不全所有者不明土地についての代執行等を支援することとしていますので、所有者不明土地の管理の適正化のための措置でお困りの際は、お気軽に国土交通省に御相談ください。
本ガイドラインは、今後、法に基づく措置の事例等の知見の集積を踏まえ、適宜見直される場合があることを申し添えます。
第1章対象となる土地
1対象となる土地の定義
法第3章第3節の「所有者不明土地の管理の適正化のための措置」の対象となる土地は、「管理不全所有者不明土地」と「管理不全隣接土地」の2種類です。本ガイドラインでは、両者を合わせて「管理不全所有者不明土地等」といいます。それぞれの土地の定義は、次のとおりです。
管理不全所有者不明土地:
所有者不明土地のうち、所有者による管理が実施されておらず、かつ、引き続き管理が実施されないことが確実であると見込まれるもの(法第38条第1項)
管理不全隣接土地:
市町村長が管理不全所有者不明土地の確知所有者に対し災害等防止措置を講ずべきことを勧告する場合において、当該勧告に係る管理不全所有者不明土地に隣接する土地であって、地目、地形その他の条件が類似し、かつ、当該土地の管理の状況が当該管理不全所有者不明土地と同一の状況にあるもの(法第38条第2項)
【参考】
「所有者不明土地」は、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」と定義されています(法第2条第1項)。
土地所有者の探索の方法は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法施行令(平成30年政令第308号。以下「令」といいます。)第1条及び所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法施行規則(平成30年国土交通省令第83号。以下「規則」といいます。)第1条から第3条に規定されています。
「所有者不明土地」の定義に当てはまる土地であっても、地目が、田、畑、山林などの場合は、まずは、農地法(昭和27年法律第229号)・農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)や森林法(昭和26年法律第249号)・森林経営管理法(平成30年法律第35号)に基づいて必要な措置を講じることが考えられます。
また、多数の人命や財産に関わるような規模の災害等の防止については、宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号。宅地造成等規制法の一部を改正する法律(令和4年法律第55号)による改正後は宅地造成及び特定盛土等規制法)や、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和 44 年法律第 57 号)に基づく改善命令や対策工事等により対応することが望ましい場合もあると考えられます。
このような場合については、これらの他の法令に基づいて措置を講ずることが原則であり、対応の方法について、市町村長と他の法令に基づく権原を有する者とが必要な調整を行うことが必要です。他の法令に基づく措置が実施されない場合、法に基づく措置を実施するほうが合理的である場合等には、市町村長が、法に基づく措置を実施することが求められます。
なお、所有者不明土地にある空き家が倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態の場合には空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)に基づく措置を講じることが考えられます。
2 対象となる土地に該当するか否か、当該土地に勧告等をするか否かの判断
管理不全所有者不明土地等に対する措置を講じるに当たっては、まず、下記(1)を参考に管理不全所有者不明土地等と認められるかを判断した上で、次に、下記(2)を参考に周辺の地域における災害の発生や環境の悪化の程度等について考慮して判断します。
(1)「管理不全所有者不明土地」、「管理不全隣接土地」の判断の参考となる基準
「管理不全所有者不明土地」については、具体的には、以下の場合に「所有者による
管理が実施されておらず、かつ、引き続き管理が実施されないことが確実」と判断します。
・所有者が全員不明で、現に管理が実施されていない場合
・所有者の一部が判明しているが、その所有者が現に管理を実施しておらず、今後も管理を実施する意向がない場合
このため、所有者不明土地が共有の場合において、確知所有者が現に土地の管理をしている場合や、所有の自覚がなかった所有者や土地の現況を認識していなかった所有者に対して市町村長が通知・助言等をすることなどにより、適切な管理が実施されることが見込まれる場合は、勧告をする状況に該当しません。
なお、所有者が全員不明の場合には、確知所有者がいないため、勧告、災害等防止措置命令を行うことはできず、事態を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、代執行を検討します。
管理の実施の有無については、周辺の土地や近隣住民等に悪影響を与えないために必要となる保全行為の実施状況を基に判断します。
例えば、以下のような場合には、土地の管理が適正に行われているとはいえません。
・土地から土砂が流出する、放置物や塀等の工作物が倒壊・損壊するなどにより、周辺の地域に被害を生じさせる事態が発生している、又はそのおそれがある
・雑草、竹木等が管理されないまま繁茂し、枯草火災、害虫発生、不法投棄等を引き起こすなどにより、周辺の環境を著しく悪化させる事態が発生している、又はそのおそれがある
「管理不全隣接土地」を勧告の対象とした趣旨は、所有者不明土地とこれに隣接する所有者が判明している土地とが一体となって管理不全状態に陥っているケースが多く、こうした状態を解消するためには、所有者不明土地だけを勧告の対象としたのでは不十分であり、隣接する土地についても、併せて措置することを可能とすることが適当であるためです。
管理不全状態であるか否かは1筆ごとに判断されます。管理不全所有者不明土地に隣接する土地が複数ある場合には、管理不全隣接土地が複数の筆の土地であることがあり得ます。地目、地形その他の条件が類似しているか否かについては、登記簿等に記載された地目や地形等の物理的な状態によって判断します。
管理の状況が管理不全所有者不明土地と同一の状況にあるか否かについては、土砂の堆積、工作物の放置、草木の繁茂の状態などの現場の状況に応じて判断します。例えば、土地の境界にあったと推察される塀が崩壊し双方の土地にがれきが散乱している場合や、草木・樹木が繁茂している状況に大きな違いが見られない場合には、管理の状況が同一の状況にあるものとして取り扱うことが考えられます。
(2)勧告等の対象となる管理状態の判断の参考となる基準
令和3年の民事基本法制の見直しによって、所有者不明土地の管理に関する民事法制度の整備が行われ、裁判所が、所有者不明土地について、利害関係人の請求により、選任した管理人に管理命令を発令できることとされました。これを受けて、法では、管理不全所有者不明土地について、その周辺の地域における災害の発生や著しい環境の悪化を防止するため、市町村長が、対象となる土地の利害関係の有無にかかわらず、所有者不明土地の管理命令の発令を裁判所に請求することにより、管理の適正化を図ることが可能とされました。
一方、災害等の発生の防止は、所有者不明土地への利害関係に限らず、周辺住民等の生命・身体の保護や、公共施設の機能を確保する観点からも公益性が高いものであることから、民事手続による調整を基本としつつ、災害等の地域生活への重大な影響を回避する観点から、所有者不明土地の管理の適正化のために、行政主体が自ら必要最小限度の措置を講ずることが可能とされました。
土砂の流出又は崩壊その他の事象による災害の発生については、周辺住民等の生命・身体や財産、土地周辺の道路等の公共施設の機能に影響を与えるか否かにより判断します。
このため、管理不全所有者不明土地等から土砂の流出等が起こるとしても、当該管理不全所有者不明土地等の周辺の土地に流出するおそれがない場合には、勧告をする要件に該当しません。
「その他の事象」については、次のような場合が想定されます。
・ 塀、擁壁や樹木などが損壊・倒壊すること
・ がれきなどの放置物が飛散すること ・・・台風前後
これらの事象についても、周辺の土地に影響を与えるかどうかによって判断します。
環境の著しい悪化については、次のような事象の有無により判断します。
・ 雑草、竹木等が管理されないまま繁茂し、周辺に被害が及ぶような害虫発生の原因となり、又は火災、不法投棄等を誘起するおそれがあること
・ 廃棄物が放置され、周辺に被害が及ぶような悪臭の発生や汚物の流出の原因となること
なお、隣地の竹木の枝が境界線を越えて敷地内に入ってきているなど隣人間のトラブルについては、周辺の地域における「災害の発生」や「環境の著しい悪化」には当たりません。
事態の発生を防止するために必要かつ適当であると認める場合については、土地の現況や、地形、土壌、気象等の物理的状況、周辺の土地利用状況、当該土地及び周辺の地域における過去の災害や環境を悪化させる事態の発生状況など、個々の土地の特性を踏まえて判断します。
第2章 事前準備等
管理不全所有者不明土地については、行政指導である勧告(法第38条第1項)、不利益処分である災害等防止措置命令(法第39条)・代執行(法第40条第1項)の3つの措置を行うことができます。また、管理不全隣接土地については、行政指導である勧告(法第38条第2項)を行うことができます。
また、このほかに民法の令和3年改正[1]で創設された、裁判所による所有者不明土地管理命令(第264条の2第1項)又は管理不全土地管理命令(第264条の9第1項)を活用することも考えられます。
なお、請求などの民事的措置は、裁判所による発令の必要性の確認や、公告、陳述聴取などの手続に一定の期間を要しますので、緊急的な対応を要するようなときは、市町村長が自ら必要な措置を講じることができる行政的措置によって、迅速に対応することが考えられます。
まずは、管理不全所有者不明土地の確知所有者や管理不全隣接土地の所有者の事情を把握し、他法令に基づく措置や民事的措置を含め、何が最もふさわしい措置かを検討します。
- 管理不全状態の土地の所有者探索
管理不全状態の土地について、その所有者を確知しようとする場合、不動産登記法(平成16年法律第123号)第119条の規定に基づき登記事項証明書の交付を請求することが考えられますが、登記事項証明書に記載された所有者と連絡が取れないことも想定されます。
これまでは、地域福利増進事業、収用適格事業又は都市計画事業の実施の準備のために限り、土地所有者の探索のための固定資産課税台帳等の地方公共団体が保有する土地所有者等関連情報の利用・提供が可能でしたが、令和4年の法改正により、所有者不明土地の管理の適正化のための勧告の実施や所有者不明土地管理命令又は管理不全土地管理命令の請求等の実施の準備のため必要がある場合についても、土地所有者等関連情報の利用・提供が可能になりました(法第43条)。
- 所有者不明土地の確知所有者等の事情の把握
1の所有者探索によって判明した所有者不明土地の確知所有者や管理不全隣接土地の所有者(以下「確知所有者等」といいます。)は、当該土地の所在地と異なる場所に居住していることが一般的であり、当該土地の状態を把握していない場合や、当該土地を相続により取得した等の事情により、自らが当該土地の所有者であることを認識していない場合も考えられます。したがって、まずは確知所有者等に連絡を取り、当該土地の現状を伝えるとともに、当該土地の管理に関する今後の改善方策に対する考えのほか、処分や活用等についての意向など、事情の把握に努めることが望ましいと考えられます。
例えば、
・ 確知所有者等に改善の意思はあるものの、その対処方策が分からない
・ 遠隔地に居住しているため、又は身体的理由等により自ら対策を講ずることが困難である
等の場合には、直ちに立入調査(法第 41 条第1項)や勧告の手続を開始するのではなく、状況に応じて、土地の管理、譲渡等に関する相談窓口や活用可能な助成制度を紹介すること等により、解決を図ることも考えられます。
また、家庭裁判所に対し、不在者財産の管理命令(民法第25条第1項)又は相続財産の清算人の選任(同法第952条第1項)を請求すること(法第42条第1項)や、地方裁判所に対し、所有者不明土地管理命令(民法第264条の2第1項)又は管理不全土地管理命令(同法第264条の9第1項)を請求すること(法第42条第2項から第4項)もできます。
一方、災害の発生の危険が切迫している場合や、周辺地域の環境悪化を防止するために速やかに措置を講じる必要があると認められる場合は、市町村長は所定の手続を経て勧告、災害等防止措置命令又は代執行に係る措置を迅速に講じることが考えられます。
なお、管理不全所有者不明土地の確知所有者がいない場合には、勧告や災害等防止措置命令の手続を経ずに、代執行に係る措置を講じることが認められています(法第40条第1項第1号)。
3「所有者不明土地の管理の適正化のための措置」の事前準備
(1)立入調査(法第41条第1項)
市町村長は、法第38条から第40条までの規定の施行に必要な限度において、その職員に、管理不全所有者不明土地等に立ち入り、その状況を調査させることができます
(法第41条第1項)。
この立入調査は、勧告、命令又は代執行の実施に当たって、管理不全所有者不明土地等における土砂の流出等の災害の発生や、周辺地域の環境悪化等の事態を生じるおそれがあるかどうかに関して調査し、適切な判断を行うために設けられたものであり、必要最小限度の範囲で行うべきものです。
- 確知所有者等に対する事前の通知
市町村長は、管理不全所有者不明土地等の確知所有者等がいる場合に立入調査を行おうとするときは、その円滑な実施や、対応方針の早期決定等の観点から、当該確知所有者等にその旨を一定の時間的猶予をもって事前に通知することが望ましいと考えられます。
- 身分を示す証明書の携帯と提示立入調査をする職員は、その身分を示す証明書(参考様式1)を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示する必要があります。(法第41条第2項において準用する法第13条第6項)。
【法律】(裁定)
第十三条 (略)
2~5 (略)
6 前項の規定により立入調査をする委員又は職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。
7 第五項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(立入調査)
第四十一条 市町村長は、この節の規定の施行に必要な限度において、その職員に、管理不全所有者不明土地又は管理不全隣接土地に立ち入り、その状況を調査させることができる。
2 第十三条第六項及び第七項の規定は、前項の規定による立入調査について準用する。
- 留意事項
- 法に基づく立入調査は行政調査であり、法第3章第3節(法第38条から第40条までの施行という行政目的の達成のためにのみ認められるものであり、別の目的のために当該立入調査を行うことは認められません。特に、犯罪捜査のために行政調査を行うことは許されず、この点は法第 41 条第2項において準用する法第13条第7項に明示されています。
- 管理不全所有者不明土地等は、確知所有者等の意思を確認することが困難な場合があるところ、土砂の流出、崩壊等の危険があるなどの場合に、当該土地の門扉が閉じられている等敷地が閉鎖されていることのみをもって敷地内に立ち入れないとなると、法の目的が十分に達成できないおそれがあります。また、立入調査を行っても、現に居住や使用がなされている土地に比してプライバシーの侵害の程度は相対的に軽微と考えられます。
このため、門扉が閉じられている等の場合であっても、物理的強制力の行使により立入調査の対象とする土地の工作物等を損壊させるようなことのない範囲内での立入調査は許容され得るものと考えられます。
- 勧告等を実施するために管理不全所有者不明土地等に立ち入った結果、周辺地域への災害の発生又は環境の著しい悪化のおそれがないことが判明した場合であっても、当該管理不全所有者不明土地等に立ち入った時点において「勧告等が必要と認められる場所」であった以上、立入調査は適法な行為と解されます。
(2)管理不全所有者不明土地等に関係する権利者との調整
勧告等をしようとする管理不全所有者不明土地等について、所有者探索等の過程で、抵当権等の担保物権や賃貸借契約による賃借権が設定されていること等が判明することもあり得ます。
この場合、勧告等の措置は客観的事情に基づきなされる措置であるため、管理不全所有者不明土地等に抵当権等が設定されている場合でも、市町村長が勧告等を行うに当たって、関係する権利者と必ずしも調整を行う必要はなく、基本的には当該抵当権者等と管理不全所有者不明土地等の確知所有者等とによる解決に委ねられるものと考えられます。
第3章 勧告
1 管理不全所有者不明土地に係る勧告
- 管理不全所有者不明土地の所有者が全部不明の場合
管理不全状態の土地の所有者を探索した結果、所有者を全員確知できなかった場合、当該土地は管理不全所有者不明土地に該当しますが、確知所有者がいないため、法第
38条第1項に基づく勧告を行うことはできません。
この場合、事態を放置した場合の影響等も考慮した上で、所有者不明土地管理命令(民法第264条の2第1項)の請求(法第42条第2項)や管理不全土地管理命令(民法第264条の9第1項)の請求(法第42条第3項)、代執行について検討します。
- 管理不全所有者不明土地が共有状態にあり、その内の一部の所有者が不明の場合
ア勧告の実施
管理不全状態の土地の所有者を探索した結果、所有者を一部確知できなかった場合であっても、当該土地は管理不全所有者不明土地に該当します。この場合において、市町村長は、当該土地の確知所有者に対し、必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、期限を定めて、必要な措置を講ずべきことを勧告することができます(法第38条第1項)。
勧告に先立って、市町村が確知所有者に対して、土地の管理、譲渡等に関する相談窓口や活用可能な助成制度の紹介等の情報提供、行政手続法(平成5年法律第88号)第2条第6号に規定する助言・指導などの行政指導を実施することにより、まずは確知所有者による自発的な管理を促すことが重要です。
なお、土地を適正に管理する責務は、共有持分の多寡にかかわらず、それぞれの土地所有者がその土地全体について有していると考えられます。このため、確知所有者が複数存在する場合には、それぞれの確知所有者の共有持分の多寡にかかわらず、確知所有者全員が勧告の対象となります。
ただし、所有者の探索を完了していなくても、不明所有者が存在するなど所有者不明土地であることが確認できている場合には、探索の過程で判明した所有者から順次勧告を行うことは妨げられません。
【法律】(勧告)
第三十八条 市町村長は、所有者不明土地のうち、所有者による管理が実施されておらず、かつ、引き続き管理が実施されないことが確実であると見込まれるもの(以下「管理不全所有者不明土地」という。)による次に掲げる事態の発生を防止するために必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、当該管理不全所有者不明土地の確知所有者に対し、期限を定めて、当該事態の発生の防止のために必要な措置(次条及び第四十条第一項において「災害等防止措置」という。)を講ずべきことを勧告することができる。
一 当該管理不全所有者不明土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させること。
二 当該管理不全所有者不明土地の周辺の地域において環境を著しく悪化させること。
2 (略)
勧告を行う場合は、その管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して、
・ 当該勧告に係る措置の内容及びその事由
・ 当該勧告の責任者を示すほか、併せて
・ 勧告に係る措置を実施した場合は、遅滞なく当該勧告の責任者に報告すること
・ 正当な理由がなくてその勧告に係る措置を講じなかった場合、市町村長は管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して法第39条に基づく災害等防止措置命令を行う可能性があること について示すことが望ましいと考えられます。
勧告は、措置の内容を明らかにする観点から、書面(参考様式2)で行うものとします。
また、勧告の送達方法について具体の定めはなく、直接手交、郵送などの方法から選択することが考えられます。勧告は、相手方に到達することによって効力を生じ、相手方が現実に受領しなくとも相手方が当該勧告の内容を了知し得るべき場所に送達された時点で到達したとみなされるため、的確な送達の方法を選択すべきです。郵送の場合は、より慎重を期す観点から、配達証明郵便又は配達証明かつ内容証明の郵便とすることが望まれます。
なお、市町村長が管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して必要な措置に係る勧告を講じるに当たって、当該確知所有者が複数存在する場合には、市町村長が確知している確知所有者全員に対して勧告を行うことが必要です。
市町村長による勧告を受けた管理不全所有者不明土地の一部について当該勧告後の売買等により一部の確知所有者が変更したとしても、変更のなかった確知所有者に対する効力は引き続き存続します。なお、新たに管理不全所有者不明土地の確知所有者となった者に対しては、改めて勧告をすることが必要です。
また、勧告後の管理不全所有者不明土地の売買等により、全ての確知所有者が変更してしまった場合には、勧告の効力が失われるため、新たに当該管理不全所有者不明土地の確知所有者となった者に対し、改めて勧告をすることが必要です。
なお、勧告に係る措置を示す際には、下記に留意してください。
- 当該管理不全所有者不明土地の確知所有者が、具体的にいつまでに何をどのようにすればいいのかを理解することができるように、講ずべき措置の内容や時期を明確に示すことが必要です。すなわち、「擁壁が崩落しそうで危険なため対処すること」といった抽象的な内容ではなく、例えば「擁壁が崩落しないよう、傾斜している増し積み部分を撤去すること」等の具体的な措置内容を示すべきです。また、工作物を除却する場合には、工作物全部の除却なのか、一部の特定物の除却なのか等除却する範囲を明確に示すことが必要です。
勧告に係る措置の内容が残置物等(廃棄物を含みます。以下同じです。)に対する措置を含む場合は、勧告書(参考様式2)において、
・ 対象となる管理不全所有者不明土地に存する残置物等については、措置の期限までに運び出し、適切に処分等すべき旨
・ 管理不全所有者不明土地に存する工作物等の除却により発生する残置物等については、措置の期限までに関係法令※1に従って適切に処理すべき旨を明記することが望ましいです。
※1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第 137 号)、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成 12 年法律第 104 号)などが挙げられます。
- 措置の内容は、災害の発生等の防止という目的を達成するために必要かつ合理
的な範囲内のものとする必要があります。
市町村長が、法に基づいて管理不全所有者不明土地の確知所有者に対して勧告した場合には、関係部局に情報提供を行うことが望まれます。
また、措置の期限は、管理不全所有者不明土地の管理状況、周辺の地域への悪影響の度合いや切迫度、災害等防止措置の内容等に応じて、社会通念上、合理的に必要な期間を勘案して決定します。
2 管理不全隣接土地に係る勧告
管理不全隣接土地に係る勧告は、1(2)の管理不全所有者不明土地の確知所有者に係る勧告と同様に対応します。
管理不全隣接土地の所有者に対する勧告(法第 38 条第2項)
管理不全所有者不明土地について勧告をする場合に、管理不全隣接土地による次に掲げる事態の発生を防止するために必要かつ適当であると認める場合には、その必要の限度において、当該管理不全隣接土地の所有者に対しても、期限を定めて、当該管理不全隣接土地について、当該事態の発生の防止のために必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
・ 当該管理不全隣接土地及び当該管理不全隣接土地に係る管理不全所有者不明土地の両方の土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させること。
・ 当該管理不全隣接土地及び当該管理不全隣接土地に係る管理不全所有者不明土地の両方の土地の周辺の地域において環境を著しく悪化させること。
3 管理不全状態の解消に係る補助
管理不全所有者不明土地等において実施される管理不全状態の解消のための措置は、令和4年度予算で法改正に併せて創設された所有者不明土地等対策事業費補助金により補助を受けることができます。
補助対象となる管理不全状態の解消のための措置は、通常適当と認められる方法により実施される門、塀等の工作物又は樹木の除去等です。これらの除去等により発生する残置物等を処理するのに要する費用を含みます。
なお、土地所有者等がこの補助を受けるには、市町村が作成する所有者不明土地対策計画において、管理不全状態の土地の解消に向けた取組を実施することを記載していることと、市町村が土地所有者等による管理不全状態の解消に対する助成制度を設けていることが必要です。
第4章 災害等防止措置命令
市町村長は、管理不全所有者不明土地の勧告の相手方である確知所有者が、正当な理由がなくて勧告に係る災害等防止措置を講じないときは、その確知所有者に対し、相当の期間を定めて、当該災害等防止措置を講ずることを命ずることができます(法第 39 条前段)。
ただし、管理不全所有者不明土地が共有状態にある場合、確知所有者が災害等防止措置の実施に必要な共有持分を有しないときには、命令の対象にはなりません。災害等防止措置の実施に必要な共有持分については、その災害等防止措置の内容によって異なるため、その判断は個別具体的に行う必要があります。例えば、講ずべき災害等防止措置の内容が、所有者の持分の過半数の同意を得る必要がある行為を伴う措置である場合、確知所有者が1/3の共有持分しか有していないときには、確知所有者に対し、命令を行うことはできません(法第 39 条後段)。
災害等防止措置の実施に必要な共有持分の考え方は下記のとおりです。
(1)「土地の現状を維持する行為」を講ずべき場合
災害等防止措置の内容が、土地の現状を維持する行為(保存行為)に該当する場合は、共有持分に関係なく、確知所有者に対し、命令を行うことができます(民法第252 条第5項)。
○具体例:
・ 土地の一部が陥没している場合に、その穴を塞ぎ、陥没前の状況と同様の状況に修復する行為
・ 崩壊している箇所をシートで被う行為
(2)「土地の形状又は効用の著しい変更を伴う行為」を講ずべき場合
災害等防止措置の内容が、土地の形状又は効用の著しい変更を伴う行為(変更行為)に該当する場合は、所有者全員の共有持分が必要である(民法第 251 条第1項)ため、不明所有者がいる場合には、確知所有者に対し、命令を行うことはできません。この場合、事態を放置した場合の影響等も考慮した上で、所有者不明土地管理命令や管理不全土地管理命令の請求、代執行について検討することが考えられます。
○具体例:
・ 高低差の大きな土地から土砂が流出しないよう、擁壁を新たに設置して敷地全体を平らにする行為
(3)「(1)及び(2)以外の行為」を講ずべき場合
災害等防止措置の内容が、(1)及び(2)以外の行為(土地の管理行為及び土地の形状又は効用に変更を加える行為であって、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更))に該当する場合は、所有者の共有持分の過半数が必要である(民法第 251 条第1項・第 252 条第1項)ため、確知所有者の共有持分が過半数に満たない場合には、確知所有者に対し、命令を行うことはできません。この場合、事態を放置した場合の影響等も考慮した上で、所有者不明土地管理命令や管理不全土地管理命令の請求や、代執行について検討することが考えられます。
○具体例:
・ 樹木が巨木化し、台風の際に倒壊のおそれがある場合に、全て伐採を行う行為
1 確知所有者への通知
市町村長は、措置を命じる確知所有者に対し、所定の事項を記載した災害等防止措置命令書(参考様式3)を交付するものとします。
記載する主な事項は、
(1)命令に係る災害等防止措置の内容
命令に係る災害等防止措置は、法第 38 条第1項に基づき行った勧告に係る措置であり、措置の内容は明確に示す必要があります。
(2)命令に至った理由
根拠法令の条項及びその管理不全所有者不明土地がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているか、その結果どのような措置を命ぜられているのか等について、確知所有者が理解することができるように提示すべきです。
(3)措置の期限
措置の期限は、3の「相当の期限」を勘案して決定します。
2 不服申立てをすべき行政庁等の教示
この命令は行政争訟の対象となる処分となりますので、この命令に対して不服がある場合は、行政不服審査法(平成 26 年法律第 68 号)第2条の規定により命令をした市町村長に審査請求を行うことができます。このため、命令においては、
・ 当該処分につき不服申立てをすることができる旨
・ 不服申立てをすべき行政庁
・ 不服申立てをすることができる期間
について、書面で示す必要があります(同法第 82 条第1項)。
また、行政事件訴訟法(昭和 37 年法律第 139 条)の規定により、当該市町村を被告とする処分の取消しの訴えを提起することができます。このため、命令においては、
・ 当該処分に係る取消訴訟の被告とすべき者
・ 当該処分に係る取消訴訟の出訴期間
についても、書面で示す必要があります(同法第 46 条第1項)。
なお、本項による市町村長の命令に違反した者は、法第 62 条第 1 項第4号の規定により、30 万円以下の罰金に処することとされています。
- 相当の期限
「相当の期限」は、管理不全所有者不明土地の管理状況、周辺の地域への悪影響の度合いや切迫度、災害等防止措置の内容等に応じて、社会通念上、合理的に必要な期間を勘案して決定します。例えば、命令を受けた者が当該措置を行うことにより、その周辺への悪影響を改善するのに通常要すると思われる期間として、工事の施工に要する期間を勘案して決定することが考えられます。
- 命令の発出
命令はその内容を正確に相手方に伝え、相手方への命令の到達を明確にすること等処理の確実性を期す観点から、1のとおり書面で行うものとします。
勧告で残置物等に対する措置を含めている場合は、災害等防止措置命令書(参考様式3)において、
・ 対象となる残置物等については、措置の期限までに運び出し、適切に処分等すべき旨
・ 工作物等の除去により発生する残置物等については、措置の期限までに関係法令に従って適切に処理すべき旨を明記することが望まれます。
第5章 必要な措置が講じられた場合の対応
管理不全所有者不明土地の確知所有者が、勧告又は命令に係る措置を実施し、問題が解消されたことが確認された場合は、当該土地では災害等防止措置を講ずる必要はなくなります。市町村においては、当該土地が災害等防止措置を講ずべき土地でなくなったと認められた日付、講じられた措置の内容等をデータベース(第7章参照)に記録し、関係部局と情報共有することが望まれます。
また、必要な措置が講じられた土地の確知所有者に対しては、例えば、当該確知所有者から措置が完了した旨の届出書の提出を受け、当該届出書を受領したものの写しを返却する等により、当該確知所有者に対し管理不全所有者不明土地でなくなったことを示すことも考えられます。
管理不全隣接土地の所有者が、勧告に係る措置を実施した場合も同様の取扱いとすることが考えられます。
第6章 代執行
法第 40 条第1項は、行政代執行の要件を定めた行政代執行法第2条の特則であり、「市町村長は、次の各号のいずれかに該当する場合において、管理不全所有者不明土地における災害等防止措置に係る事態を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該管理不全所有者不明土地の所有者の負担において、当該災害等防止措置を自ら講じ、又はその命じた者若しくは委任した者に当該災害等防止措置を講じさせることができる」と規定し、以下の場合に代執行ができるものとしました。
(1)管理不全所有者不明土地の確知所有者がいない場合
(2)確知所有者が災害等防止措置の実施に必要な共有持分を有していない場合
(3)災害等防止措置を講ずべきことを命ぜられた確知所有者が、当該命令に係る期限までに当該命令に係る災害等防止措置を講じない場合、講じても十分でない場合又は講ずる見込みがない場合
代執行によって講じることができる措置については、他人が代わってすることのできる義務(代替的作為義務)に限られ、
・当該管理不全所有者不明土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させることを防止するため、必要かつ適当であること
・当該管理不全所有者不明土地の周辺の地域において環境を著しく悪化させることを防止するため、必要かつ適当であることを満たすことが必要です。
上記(1)に該当する場合は以下の2及び3の内容を、上記(2)に該当する場合は以下の2から4までの内容を、上記(3)に該当する場合には以下の1から4までの内容をそれぞれ参考にしてください。なお、費用の徴収を実施するに当たっては、持分の多寡にかかわらず確知所有者それぞれに対して費用の全額を請求することも可能ですが、所有者の判明状況や講じた措置の内容に応じて、例えば共有持分に応じた負担を求めることにするなどの対応も考えられます。
1 代執行令書による通知(上記(3)の場合に限る。)
義務者(災害等防止措置を講ずべきことを命ぜられた確知所有者)が指定の期限までにその義務を履行しないときは、市町村長は、代執行令書(参考様式4)をもって、
・ 代執行をなすべき時期
代執行令書による通知と代執行の実施時期の時間的間隔について定めはなく、市町村長の裁量に委ねられますが、例えば、義務者が対象地から残置物等を搬出すること等に配慮して設定することが望ましいと考えられます。
・ 代執行のために派遣する執行責任者の氏名誰を執行責任者とするかは、代執行権者が適宜決定します。
・ 代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知します。
なお、代執行令書を通知する際には、災害等防止措置命令を行う際と同様に、行政不服審査法第 82 条第1項及び行政事件訴訟法第 46 条第1項の規定に基づいて、書面で必要な事項を相手方に示す必要があります。
- 執行責任者の証票の携帯及び呈示
法における代執行権者である市町村長は、執行責任者に対して、「その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票」を交付する必要があります。
また、執行責任者は、執行責任者証(参考様式5)を携帯し、相手方や関係人の要求があるときは、これを提示する必要があります。
- 代執行の対象となる管理不全所有者不明土地に存する不動産及び動産の取扱い
代執行によって実施すべき措置の内容が、当該管理不全所有者不明土地における土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させることや周辺の地域において環境を著しく悪化させることを防止しようとするものであるときは、代執行令書(参考様式4)(確知所有者がいない場合は、事前公告)において、
・ 対象となる敷地に存する残置物等については、履行の期限又は代執行をなすべき時期の開始日までに運び出し、適切に処分等すべき旨
・ 代執行により発生する残置物等については、関係法令※1に従って適切に処理すべき旨
・ 履行の期限までに履行されない場合は、代執行する旨を明記することが望ましいと考えられます。
代執行により発生した残置物等であって所有者が引き取らないものについては、関係法令※1に従って適切に処理するものとします。
代執行時に、相当の価値を有すると認められる残置物等、社会通念上処分がためらわれる残置物等が存する場合は保管し、所有者に期限を定めて引き取りに来るよう連絡することが考えられます。
その場合、いつまで保管するかは、他法令※2 や裁判例※3 も参考にしつつ、法務部局と協議して適切に定めます。あわせて、現金(定めた保管期間が経過したもので、民法第 497条に基づいて裁判所の許可を得て競売に付して換価したその代金を含みます。)及び有価証券については供託所(最寄りの法務局)に供託をすることも考えられます。
また、代執行によって実施すべき措置の範囲が管理不全所有者不明土地の一部の場合で残置物等が措置の弊害となるときは、敷地内等の適切な場所に移すことが望ましいと考えられます。
※1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第 137 号)、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成 12 年法律第 104 号)などが挙げられます。
※2 遺失物法(平成 18 年法律第 73 号)第7条第4項、河川法(昭和 39 年法律第 167 号)第 75 条第6項、都市公園法(昭和 31 年法律第 79 号)第 27 条第6項、屋外広告物法(昭和 24 年法律第 189 号)第8条第3項などが挙げられます。
※3 さいたま地裁平成 16 年3月 17 日
4 費用の徴収(法第 40 条第2項で準用する行政代執行法第5条・第6条)(上記②・③の場合に限る。)
代執行に要した一切の費用は、行政主体が義務者から徴収します。当該費用について、行政主体が義務者に対して有する請求権は、行政代執行法に基づく公法上の権利であり、義務者から徴収すべき金額は代執行の手数料ではなく、実際に代執行に要した費用です。したがって、作業員の賃金、請負人に対する報酬、資材費、第三者に支払うべき補償料等は含まれますが、義務違反の確認のために要した調査費等は含まれません。
市町村長は、文書(納付命令書)において、
・ 実際に要した費用の額
・ その納期日
を定め、その納付を命じる必要があります(行政代執行法第5条)。行政代執行法においては、代執行の終了後に費用を徴収することのみが認められ、代執行終了前の見積による暫定額をあらかじめ徴収することは認められていません。
費用の徴収については、国税滞納処分の例※4による強制徴収が認められ(行政代執行法第6条第1項)、代執行費用については、市町村長は、国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を有します(同条第2項)。
代執行時に確知所有者がいなかった場合で、代執行後に所有者が現れたときは、その所有者から徴収することが考えられます。また、代執行後に、民法に基づく財産管理制度の活用等により土地の処分がなされた場合には、得られた財産から費用を支弁することも考えられます。
※4 納税の告知(国税通則法(昭和 37 年法律第 66 号)第 36 条第1項)、督促(同法第 37 条第1項)、財産の差押え(国税徴収法(昭和34 年法律第147号)第47 条)、差押財産の公売等による換価(同法第89条以下、第94条以下)、換価代金の配当(同法第128 条以下)の手順。
第7章 その他
- データベース(台帳等)の整備
管理不全所有者不明土地等については、その所在地、現況、確知所有者等の氏名等、管理不全所有者不明土地等に対する措置の内容及びその履歴を記録するデータベースを整備するなど、その状況を適切に把握することが望ましいと考えられます。
- 関係部局との情報共有
管理不全所有者不明土地等に対する措置に係る事務を円滑に実施するには、当該市町村の関係内部部局との連携が不可欠であることから、所有者不明土地対策担当部局は、必要に応じて管理不全所有者不明土地等に関する情報を関係内部部局に提供し、共有することが望ましいと考えられます。
その際、個人情報が漏えいすることのないよう、細心の注意を払うことが必要です。
[1] 本ガイドラインでは、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第 24 号)による改正後の条文を記載しております。
参考様式1(法第41条第1項関係) (表 面)
参考様式2(法第38条第1項)
○ 年 ○ 月 ○ 日
○ ○ 第 ○ ○ 号
○○市○○町○丁目○番○号
○○ ○○ 殿
○○市長 ○○ ○○
(担当 ○○部○○課)
勧 告 書
貴殿の所有する下記の土地は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号。以下「法」という。)第38条第1項に定める「管理不全所有者不明土地」に該当すると認められたため、貴殿に対して対策を講じるよう指導してきたところでありますが、現在に至っても改善がされていません。
ついては、下記のとおり災害等防止措置を講じるよう、同項の規定に基づき勧告します。
記
1.対象となる土地所在地 ○○市△△町△丁目△番△号用 途 ○○
所有者の住所及び氏名 ○○市○○町○丁目○番○号 ○○ ○○
2.勧告に係る災害等防止措置の内容
(何をどのようにするのか、具体的に記載)
(対象となる土地に残置物等がある場合は、当該残置物等に対する取扱いについても明記することがのぞましい。)
(例)
対象となる土地に残置されている残置物等を措置の期限までに運び出し、適切に処分等すること。
災害等防止措置を講じることにより発生する残置物等を措置の期限までに関係法令に従って適切に処理すること。
3.勧告に至った理由
(対象となる土地がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているか、当該状態が、①土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させるおそれのある状態、②周辺の地域において環境を著しく悪化させるおそれのある状態 のいずれに該当するか具体的に記載)
4.勧告の責任者 ○○市○○部○○課長 ○○ ○○ 連絡先:○○-○○○○-○○
5.措置の期限 ○年○月○日
(注 意)
- 上記5.の措置の期限までに上記2.の災害等防止措置を講じた場合は、遅滞なく上記4.の者まで報告すること。
- 上記5.の措置の期限までに正当な理由がなくて上記2.の災害等防止措置を講じなかった場合は、法第39条の規定に基づき、当該措置を講ずべきことを命ずることがあります。
参考様式3(法第39条)
○ 年 ○ 月 ○ 日
○ ○ 第 ○ ○ 号
○○市○○町○丁目○番○号
○○ ○○ 殿
○○市長 ○○ ○○
(担当 ○○部○○課)
災害等防止措置命令書
貴殿の所有する下記の土地は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号。以下「法」という。)第38条第1項に定める「管理不全所有者不明土地」に該当すると認められたため、○年○月○日付け○○第○○号により、同項の規定に基づき勧告しましたが、現在に至っても勧告した災害等防止措置が講じられていません。
ついては、下記のとおり災害等防止措置を講じるよう、法第39条の規定に基づき命じます。
記
1.対象となる土地所在地 ○○市△△町△丁目△番△号用 途 ○○
所有者の住所及び氏名 ○○市○○町○丁目○番○号 ○○ ○○
2.命令に係る災害等防止措置の内容
(何をどのようにするのか、具体的に記載)
(対象となる土地に残置物等がある場合は、当該残置物等に対する取扱いについても明記することがのぞましい。)
(例)
対象となる土地に残置されている残置物等を措置の期限までに運び出し、適切に処分等すること。
災害等防止措置を講じることにより発生する残置物等を措置の期限までに関係法令に従って適切に処理すること。
3.命令に至った理由
(対象となる土地がどのような状態にあって、どのような悪影響をもたらしているか、当該状態が、①土砂の流出又は崩壊その他の事象によりその周辺の土地において災害を発生させるおそれのある状態、②周辺の地域において環境を著しく悪化させるおそれのある状態 のいずれに該当するか具体的に記載)
4.命令の責任者 ○○市○○部○○課長 ○○ ○○ 連絡先:○○-○○○○-○○
5.措置の期限 ○年○月○日
(注 意)
- 上記5.の措置の期限までに上記2.の災害等防止措置を講じた場合は、遅滞なく上記4.の者まで報告すること。
- 本命令に違反した場合は、法第62条第1項第4号の規定に基づき、30万円以下の罰金に処せられます。
- 上記5.の措置の期限までに上記2.の災害等防止措置を講じない場合、講じても十分でない場合又は講ずる見込みがない場合は、法第40条第1項の規定に基づき、当該措置について行政代執行の手続きに移行することがあります。
- この処分について不服がある場合は、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条及び第18条の規定により、この処分があったことを知った日かの翌日から起算して3か月以内に○○市長に対し審査請求をすることができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には審査請求をすることができなくなります。
この処分の取消を求める訴訟を提起する場合は、行政事件訴訟法(昭和37年法律第 139号)第8条及び第14条の規定により、この処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に、○○市長を被告として、処分の取消の訴えを提起することができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には処分の取消の訴えを提起することができなくなります。なお、処分の取消の訴えは、審査請求を行った後においては、その審査請求に対する処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起することができます。
参考様式4(法第40条第1項)
○ 年 ○ 月 ○ 日
○ ○ 第 ○ ○ 号
○○市○○町○丁目○番○号
○○ ○○ 殿
○○市長 ○○ ○○
(担当 ○○部○○課)
代執行令書
○年○月○日付け○○第○○号により、貴殿の所有する下記の土地について、下記の災害等防止措置を○年○月○日までに講じるよう命令しましたが、指定の期日までに義務が履行されませんでしたので、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成 30年法律第49号。以下「法」という。)第40条第1項の規定に基づき、下記のとおり代執行を行いますので、通知します。
代執行に要する全ての費用は、法第40条第2項において準用する行政代執行法(昭和23 年法律第43号)第5条の規定に基づき貴殿から徴収します。また、代執行によりその物件及びその他の残置物等について損害が生じても、その責任は負わないことを申し添えます。
記
1.代執行の対象となる土地所在地 ○○市△△町△丁目△番△号
用 途 ○○(附属する門、塀等を含む。)
2.○年○月○日付け○○第○○号により命令した災害等防止措置の内容
(何をどのようにするのか、具体的に記載)※災害等防止措置命令書と同内容を記載
(対象となる土地に残置物等がある場合は、当該残置物等に対する取扱いについても明記することがのぞましい。)
(例)
対象となる土地に残置されている残置物等を措置の期限までに運び出し、適切に処分等すること。
災害等防止措置を講じることにより発生する残置物等を措置の期限までに関係法
令に従って適切に処理すること。
3.代執行の時期 ○年○月○日から○年○月○日まで
4.執行責任者 ○○市○○部○○課長 ○○ ○○
5.代執行に要する費用の概算見積額 約○,○○○,○○○円
(注 意)
- この処分について不服がある場合は、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条及び第18条の規定により、この処分があったことを知った日かの翌日から起算して3か月以内に○○市長に対し審査請求をすることができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には審査請求をすることができなくなります。
この処分の取消を求める訴訟を提起する場合は、行政事件訴訟法(昭和37年法律第 139号)第8条及び第14条の規定により、この処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に、○○市長を被告として、処分の取消の訴えを提起することができます。ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過した場合には処分の取消の訴えを提起することができなくなります。なお、処分の取消の訴えは、審査請求を行った後においては、その審査請求に対する処分があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起することができます。