令和4年6月17日月刊登記情報誌面刷新記念オンラインスクール
柴富公行司法書士「商業登記 最新の注目論点と展望」
- 近年の商業登記に関連する取扱いの変更(令和元年改正会社法を除く)
令和4年6月13日法務省民商第286号について
会社法34条、同法578条(合同会社は適用がない)
第1 テレビ電話会議を利用した定款認証
1.概要
株式会社等の設立における公証人の定款認証について、従来は、認証を受ける際に公証人に提供する情報の全てについてオンラインで提供しなければ、テレビ電話会議による定款認証を受けることはできなかったが、改正により、「指定公証人が相当と認めるとき」は、テレビ電話会議によることができることとなった。
これによって、例えば、委任状や発起人の印鑑証明書などの添付書面を事前に公証人に郵送するなどして、出頭することなく定款認証を受けることができるようになった。
2.手続き
(1)公証人に定款案及び実質的支配者の申告書をFAX又はメールで送信し確認を受け、テレビ電話会議での定款認証を受けたい旨を伝える。
(2)添付書面を送付する。
【株式会社において通常想定される添付書面等】
・委任状(定款全文を合綴し発起人が実印を押印したもの)
・発起人の印鑑証明書(3か月以内のもの)
・(発起人が法人の場合は)発起人の履歴事項全部証明書等
・定款の同一情報の交付申請書
・実質的支配者の申告書及びその添付書面
・返信用封筒
(3)定款認証日時(テレビ電話会議の日時)の予約をする。
(4)申請用総合ソフトで定款認証の申請をする。
(5)公証人指定の銀行口座に認証費用を振り込む。
(6)公証人指定のURLにアクセスし、テレビ電話会議で公証人と面談する。ブラウザは、PCではchromeであることが必要。マイクロソフトedgeでは接続できない。スマートフォンの場合は、Face Hubのアプリを使用する。
・代理人の運転免許証等の身分証明書を準備しておく。公証人が当該身分証明書と代理人が映った画面を記録する。
(7)認証後の定款の同一情報及び実質的支配者の申告受理証明書等が郵送されてくる。認証後の定款(電磁的記録)は申請用総合ソフトからダウンロードする。
3.施行日
令和2年5月11日
4.その他の情報
令和2年5月1日法務省令第36号によって、指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成13年法務省令第24号)第9条第7項が改正されたもの。
第2 定款認証における実質的支配者の申告
1.概要
株式会社、一般社団法人又は一般財団法人の設立における公証人の定款認証に際して、その実質的支配者となる自然人を申告し、公証人の確認を受けなければならない。
2.手続
株式会社等の設立における公証人の定款認証に際して、嘱託人は、実質的支配者となるべき者の申告書(下記参照)を提出しなければならない(公証人法施行規則第13条の4第1項)。なお、申告書の「暴力団員等該当性」欄の記入に代えて、実質的支配者作成にかかる表明保証書を提出することもできる。
添付書面(根拠資料)の内容は、公証人の裁量に任されている
・実質的支配者を疎明するための書面
・実質的支配者の住所氏名生年月日の確認できる公文書の写し、が実務上求められているようである(平成30年11月13日法務省民総第829号第2の3参照)。
3.実質的支配者(犯罪収益移転防止法施行規則第11条第2項)
(1)議決権の過半数を直接・間接に保有する自然人がいる場合はその自然人
(2)議決権の25%超を直接・間接に保有する自然人がいる場合はその自然人
(3)出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する自然人がいる場合はその自然人
(4)法人を代表し業務を執行する自然人
※国、地方公共団体、上場会社等は自然人とみなされる。
※ただし、(1)、(2)に該当する自然人であっても、当該法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合は除かれる。
日本公証人会連合会HP(https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/20210726.html)参照
4.施行日
平成30年11月30日
5.その他の情報
平成30年法務省令第26号によって、公証人法施行規則が改正されたもの。公証人法施行規則第14条の4が新設された。通達として、平成30年11月13日法務省民総第829号。
第3 定款認証手数料の改定
1.内容
定款認証手数料が下記のように改定された(公証人手数料令第35条)。
・定款に記載された資本金の額等が300万円以上の場合 金5万円
・定款に記載された資本金の額等が100万円以上の場合 金4万円
・定款に記載された資本金の額等が100万円未満の場合 金3万円
なお、定款に資本金の額等の記載がない場合は、金5万円となる。設立に際して出資される財産の最低額のみの記載のある定款は、資本金の額等の記載がないものと取り扱われる。
2.施行日
令和4年1月1日
第4 商業登記所における実質的支配者リスト制度
1.概要
株式会社の申出により、商業登記所が、当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて、所定の添付書面により内容を確認して、その写しを発行する制度
日本公証人連合会HP(https://www.koshonin.gr.jp/chg_teikanfee)
2.対象
株式会社(特例有限会社を含む)が利用。合同会社は利用できない。
第5 商業登記の添付書面における押印義務の緩和(令和3年1月29日法務省民商第10号)
1.概要
商業登記及び法人登記の添付書面について、原則として、法令に押印の定めのない書面については、押印の有無を審査の対象としないこととした。
2.法令に基づき押印が必要となる書面の例
・登記申請書(商業登記法第17条第2項)
・登記申請委任状(商業登記規則第35条の2第2項)
・取締役会議事録(会社法第369条第3項)
・非取締役会設置会社における取締役又は取締役会設置会社の代表取締役(又は代表執行役)の就任承諾書(商業登記規則第61条第4項、第5項)
・代表取締役を選定する旨の決議を証する株主総会議事録又は取締役の互選書(商業登記規則第6項第1号、第2号)
・登記所に印鑑届出をしている代表取締役又は代表執行役の辞任届(商業登記規則第61条第8項)
・登記所に印鑑届出をしている者がいない会社における代表者の辞任届(商業登記規則第61条第8項)
・原始定款(会社法第26条第1項)
・印鑑届出書(商業登記規則第9条第1項)
3.法令に明確な規定はないが例外的に押印が必要となる書面の例(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3)
・取締役の一致を証する書面
・不正防止申出書及び取下書
・登記された事項につき無効の原因があることを証する書面
4.押印の有無につき審査の対象としない書面の例
・株主総会議事録(上記を除く)
・就任承諾書及び辞任届(いずれも上記を除く)
・株主リスト
・原始定款以外の定款
・登記簿の附属書類の閲覧の申請書
・事業を廃止していない旨の届出
・印紙再使用証明申出書
「法令」には、法律上の定義がないので、その範囲がどこまでなのか厳密には不明であるが、憲法、法律、政令、勅令、府省令、規則を指しているものと考えられ、通達は含まれないと考える。?
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憲法は法令には入らない
https://www.toben.or.jp/manabu/kouza.html
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・合併契約書、吸収分割契約書及び新設分割計画書
・払込みがあったことを証する書面
・債権者保護手続を行ったことを証する上申書
・原本還付をする場合における謄本(ただし、「原本に相違ない」旨の記載は必要(商業登記規則第49条第2項))
5.訂正印(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3(5))
訂正について法令に基づく規定がある場合(例:登記申請書につき商業登記規則第48条第3項)を除き、訂正印の有無につき審査をしない。
6.契印(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3(6))
契印について法令に基づく規定がある場合(例:登記申請書につき商業登記規則第35条第3項、第4項)を除き、契印の有無につき審査をしない。
7.司法書士の職責
【司法書士倫理】(実体関係の把握)第57条 司法書士は、登記手続を受任した場合には、議事録等の関係書類を確認する等して、実体関係を把握するように努めなければならない。
2 司法書士は、議事録等の書類作成を受任した場合には、その事実及び経過等を確認して作成するように努めなければならない。
第6 印鑑提出の任意化
1.内容
商業登記における印鑑提出義務を廃止(旧商業登記法第20条を削除)し、印鑑提出を任意とした(商業登記規則第9条第1項)。ただし、本人申請の場合であって書面で登記を申請する場合は、あらかじめ印鑑を提出して申請書に当該印鑑を押印しなければならない(商業登記規則第35条の2)。
また、代理人申請の場合であって登記申請代理人への委任状が書面で作成されている場合は、あらかじめ印鑑を提出して委任状に当該印鑑を押印しなければならない(商業登記規則第35条の2)。
押印は必ずしも必要ではないが、貼付した収入印紙に消印をする必要がある(印紙税法第8条第2項、印紙税法施行令第5条)。
第7 電子証明書
1.概要
商業登記申請の場面においては、それぞれ、登記申請書情報及び添付書面情報に行う電子署名に付与することができる電子証明書が決まっている。書面情報の種類とこれに使用できる電子証明書の種類の詳細は、法務省HPを参照。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html
2.商業登記規則第61条第6項の適用のある場合
「例えば、添付書面情報が代表取締役の選任(重任を含む。)を証する情報(取締役会議事録等)である場合、変更前の代表取締役が(1)商業登記電子証明書、(2)公的個人認証サービス電子証明書又は(3)特定認証業務電子証明書(ア~コ)を記録すれば、他の取締役は(6)その他の電子証明書を記録すれば足ります。」(法務省HP)
3.その他
例えば、商業登記所電子証明書を取得することなく、公的個人認証サービス電子証明書のみで登記を申請することも可能。また、書面でいうところの認印を押印すれば足りるものについては、いわゆるクラウド型の電子証明書の事業者でも可能なものがある。
ただし、電磁的記録とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの」(電子署名法第2条第1項、会社法第26条第2項)全般を指す用語であるから、厳密にいうと、「商業登記法第19条の2に規定する電磁的記録」というべきであろう。?
第2部 令和元年改正会社法(原則令和3年3月1日施行)
第1 概要
1.主に下記の事項について改正。
・株主総会資料の電子提供
・株主提案権の制限
・取締役の報酬、補償契約、D&O 保険
・社外取締役の活用
・社債の管理
・株式交付制度の創設
・成年被後見人等の取締役等の欠格事由の見直し
・支店所在地における登記の廃止
・新株予約権の登記
2.成立の過程
(1)平成29年2月9日法務大臣が法制審議会へ諮問(諮問第104号)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500028.html
(2)平成31年2月14日法制審議会が法務大臣へ要綱を答申
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500033.html
(3)令和元年10月18日臨時国会(第200回国会)へ法案の提出
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html
(4)令和元年11月26日衆議院可決
(5)令和元年12月4日参議院可決、改正法等成立
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html
(6)令和元年12月11日公布
(7)令和3年3月1日原則施行
なお、株主総会資料の電子提供及び支店所在地における登記の廃止については、令和4年9月1日施行
第2 株主総会資料の電子提供
1.概要
株主総会資料の電子提供制度は、取締役が株主総会資料を自社のホームページ等に掲載し、株主総会の招集通知にそのアドレス等を記載等して株主に通知したときは、(株主の個別の同意を要せずに)株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度
2.上場会社に対しての義務付け
上場会社などの振替株式を発行する会社については、株主総会資料の電子提供制度の採用が義務付けられる(振替法159条の2第1項)。
定款の定め
・株主総会参考書類等の電子提供制度を採用するには、定款にその旨を定めることが必要となる(会社法325条の2)。
・定款には、具体的なアドレスを規定する必要はなく、単に電子提供措置をとる旨を定めれば足りる(会社法325条の2柱書後段)。
【定款条項例】
(株主総会参考資料等の電子提供措置)
第〇条 当会社は、会社法第325条の2第1項各号に定める資料の内容である情報について、電子提供措置をとる。
・当該定款の定めは、登記事項となる(会社法911条3項12号の2)。なお、具体的なアドレスは登記事項とならない(参考文献1の46頁)とされ、この点は、電子公告と異なる。
既存の上場会社などの振替株式を発行する会社については、当該改正法の施行日において、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなすとされており(整備法10条2項)、この場合は、施行日から6か月以内に登記をしなければならない(整備法10条4項)。
3.電子提供措置の対象となる情報(参考文献の2、6-7頁参照)
電子提供措置をとる場合にその対象となる情報は下記のとおり(会社法325条の3第1項各号)。
・会社法298条1項各号に定める事項
・株主総会の日時及び場所
・株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
・株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
・株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
法務省令(会社法施行規則63条)で定める事項
・書面による議決権の行使を認める場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項
・電磁的方法による議決権行使を認める場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項
・株主からの議案要領通知請求(会社法305条1項)があったときは、その議案の要領
・計算書類及び事業報告(監査報告又は会計監査報告を含む)の内容(取締役会設置会社における定時株主総会の場合)
・連結計算書類の内容(会計監査人設置会社であって取締役会設置会社における定時株主総会の場合)
・上記の修正をしたときは、その旨及び修正前の内容
会社法325条の2の定款の定めをした会社は、上記の情報は、原則として電子提供措置をしなければならず、株主に対して書面で交付したからといって、電子提供措置をとらないとすることはできない(参考文献1の17頁)。
ただし、書面による議決権行使を認める場合の議決権行使書面は、例外として書面を交付すれば、電子提供措置をとらないことができる(会社法325条の3第2項)。実務上は、この例外を適用することになると予想されている(参考文献2の7頁参照)。
4.電子提供措置の期間及び方法
(1)電子提供措置の期間は、株主総会の開催日の3週間前の日(それより前に招集通知を発した場合は、招集通知の発送日)から株主総会の開催日後3か月を経過するまで(会社法325条の3第1項柱書)。
(2)電子提供措置について、調査機関の調査を受ける必要はない(参考文献1の45頁)。
(3)金融商品取引法に基づき有価証券報告書を提出しなければならない会社が、電子提供の開始日までに、上記3.の情報を含む有価証券報告書をEDINETによって開示した場合は、電子提供措置をとることを要しない(会社法325条3第3項)。
5.電子提供措置をとった場合の招集通知
(1)電子提供措置をとった場合、招集通知には下記の事項を記載する(会社法325条の4第2項)。なお、本制度によって招集通知そのものを電子提供することはできない(参考文献2の10頁)。
・会社法第298条第1項第1号から第4号に掲げる事項(通常の招集通知の記載事項のうち、会社法施行規則63条部分を除くもの)
・電子提供措置をとっている旨(会社法325条の4第2項1号)
・有価証券報告書を開示用電子情報処理組織(EDINET)を用いて提出したときは、その旨(同2号)
・情報を掲載したWEBのアドレス(会社法施行規則95条の3第1項1号)
(2)電子提供措置をとった場合、招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発送しなければならない(会社法325条の4第1項)。
6.書面交付請求
・議決権行使書面には、対象株主の氏名及び議決権数を記載する必要があり(会社法施行規則第66条第1項第5号)、電子提供措置をとるとしたら、株主ごとに分けて掲載しなければならなくなるため、株主が多数の会社においては困難である。
・ただし、取締役会設置会社、書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合、のいずれかの場合
(1)会社法325条の2の定款の定めをした会社であっても、株主が請求した場合は、その情報を記載した書面を株主に交付しなければならない(会社法325条の5第1項)。
(2)当該書面交付請求は、基準日を定めたときは基準日までに(会社法325条の5第2項)、それ以外のときは株主総会招集通知の発送までに(参考文献1の33-34頁)しなければならない。
7.種類株主総会
現に数種の株式を発行している種類株式発行会社における種類株主総会についても当該規定は適用があり、会社法325条の2の定款の定めをした会社は、種類株主総会についても参考書類等を電子提供しなければならないと解されている(参考文献2の28頁)。
8.既存の制度との関係
(1)会社法325条の2の定款の定めをした会社であるか否かに関わらず、株主の個別の同意に基づく招集通知の電磁的方法による提供(会社法299条3項)は可能である。
(2)現行法において、株主総会参考書類に記載するべき事項の一部等をWEB で開示することにより、書面の記載を省略する旨の定款で定めることができ(いわゆる「ウェブ開示制度」、会社法施行規則94条、133条3項、)、同制度は、改正後の電子提供措置と両立し得る(参考文献2の2-3頁、18-19頁)。ただし、改正法施行前後の適用関係は複雑となる(参考文献3の14-17頁)。
第3 株主提案権
1.概要
株主提案権のうち、株主総会議案の事前提案権(会社法305条1項)について、株主1人あたりの提案する議案数は10個以内に制限される(会社法305条4項)。
2.議案の個数の考え方
(1)実質的な内容に着目して数える(参考文献1の54頁)。
(2)役員等の選任に関する議案については、まとめて一つの議案とみなす(会社法305条4項1号)。解任についても同じ(同2号)。
・電子提供措置を定める会社においては、ウェブ開示の適用の余地がなくなるとする見解(邉英基「株主総会資料の電子提供制度への実務対応」(旬刊商事法務2230号(2020年5月5日・15日合併号))54頁)もあるが、理論上は両立し得る。書面交付請求があったときの交付すべき書面の内容に差が生じることになる。
・例えば、取締役と監査役をそれぞれ選任する議案であっても、まとめて一つの議案となる(参考文献1の55頁)。
(3)会計監査人を再任しないことに関する議案は、会計監査人の数に関わらず、まとめて一つの議案とみなす(同3号)。
(4)定款の変更に関する2以上の議案について、異なる議決がされたとすれば、当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一つの議案とみなす(同4号)。
例えば、取締役会を廃止する旨の定款変更、株式の譲渡制限に関する規定の変更その他の取締役会廃止に伴う定款変更については、どちらか一つが可決されて他が否決されると、矛盾することになる。この場合は、まとめて一つの議案とされる。なお、商号をAとする議案とBとする議案は、どちらか一つが可決されて他が否決されても矛盾しないので、二つの議案である(参考文献1の62頁)。
3.その他
(1)取締役が株主総会に提案する議案の個数に制限はない(参考文献1の59頁)。
(2)株主の議題提案権(会社法303条)、株主総会の席上における議案提案権(会社法304条)については従前と変更がなく、今回の改正で制限が課されることはない。
第4 取締役の報酬等
1.取締役の個別の報酬額の決定の委任
改正前会社法下における実務上、取締役の個別報酬額の決定について、株主総会決議によって取締役会に委任し、取締役会決議によって特定の取締役に再委任することが認められているが、改正会社法では、条文にこれを前提とする規定が置かれ(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5第6項)、法的な安定性が高まった。
2.個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定
(1)取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させる観点から、上場会社等の取締役会は、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められている場合を除き、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として一定の事項を決定しなければならないとされた(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5)。
・取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等(下記の業績連動報酬等及び非金銭報酬等を除く。)の額又はその算定方法の決定に関する方針
・取締役の個人別の報酬等のうち、業績連動報酬等がある場合には、当該業績連動動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針
・明文規定は上場会社等についてのものであることから、中小企業等においても実務慣行が認められるのか若干の疑義がないではない。
・取締役の個人別の報酬等のうち、非金銭報酬等がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針
・上記①の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針
・取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針
・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項
イ 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位若しくは担当
ロ イの者に委任する権限の内容
ハ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(上記⑥の事項を除く。)
・その他取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項
なお、業績連動報酬等とは、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社(会計規2③二十五)の業績を示す指標(業績指標)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等のことをいうとされた(改正会施規98 の5 二)。
また、非金銭報酬等とは、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等のうち、金銭でないものであって、これには、募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含むものとされた(改正会施規98 の5三)。
(2)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定は、重要な業務執行の決定(会社法362条4項)であり、当該方針の決定を取締役に委任することはできないと解される(参考文献1の82頁、監査等委員会設置会社においては、会社法399条の13第5項第7号)。
(3)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定を義務付けられた会社が、当該方針を決定せず、又は、決定した当該方針に反して取締役の個人別の報酬等を決定した場合は、当該報酬の決定は違法であり、無効であると解される(参考文献1の77-78 頁)。
(4)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定については、特別な経過措置は設けられていないので、上場会社等は、改正会社法施行日以降に当該方針を決定しなければならないと解される。もっとも、改正会社法施行日前に、既に要件を満たしている取締役会決議が存在するのであれば、施行日以後に改めて同じ内容の決議をする必要はない(参考文献3の94頁)。
3.取締役の報酬等に関する株主総会における説明義務
改正前会社法では、取締役は、取締役の報酬等であって、不確定額である報酬等又は金銭以外の報酬等に関する事項を定め又は改定する株主総会の議案を提出する場合は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされる(旧会社法361条4項)一方で、確定報酬額を定める議案を提出するときは、取締役の説明義務が条文上明示されていない。
改正会社法では、取締役の報酬等の内容の決定手続に関する透明性を向上させるため、確定額を定める場合を含め、取締役の報酬等に関する事項を定め、又は改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされた(会社法361条4項)。
4.金銭以外による報酬等
(1)株式を報酬等とする場合に決定すべき事項
現行会社法上、金銭でないものを取締役の報酬等として付与する場合は、定款又は株主総会決議によって、その具体的な内容を決定しなければならないとされている(会361①三)。ところが、金銭以外の報酬の具体的な内容とはどのようなものかは解釈に委ねられており、必ずしも明確ではないため、特に株式及び新株予約権を報酬等とする場合は、明確にするべきであるとの要請があった(参考文献1の84頁)。
そこで、改正会社法は、株式を報酬等とする場合について、定款又株主総会決議で定めなければならない事項を下記のとおりとして明確化した(改正法3611三、改正会施規98 の2)。
報酬等のうち当該株式会社の募集株式については、当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限(改正法3611三)及び下記事項
・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会規98 の2一)
・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会規98 の2 )
・取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98 の2 三)
(2)株式を報酬とする場合の払込みの要否
現行会社法上、株式会社が募集株式の発行又は募集自己株式の処分をするときは、募集株式の払込金額又はその算定方法を定めなければならない(会199二)ため、その株式引受人は、必ず当該募集株式等と引換えに1 円以上の財産を払込み又は給付しなければならない(会208)こととされている。
このことから、実務では、株式を取締役の報酬としようする場合は、会社が取締役に対して金銭報酬を支払う決定をし、これによって取締役が会社に対して有することとなる報酬支払請求権を現物出資する方法によって、取締役を引受人とする募集株式の発行等を行い、株式を交付することが行われている(いわゆる現物出資構成)。
しかし、このような方法は、技巧的であることや株式を発行した場合における計算が明確でないことから、金銭の払込みを要しないで株式を交付することができるようにするべきであると指摘されていた(参考文献1の88 頁)。
そこで、改正法では、上場会社(本稿においては、金融商品取引法第2条第16 項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社をいう。)に限定して、取締役の報酬等として株式の発行又は自己株式の処分をする場合、当該募集株式と引換えにする金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しない旨を定めることができるものとした(改正法202の2一)。
なお、改正会社法施行後においても、上場会社であるか否かに関わらず、現在行われているような現物出資構成による株式の交付は可能である。この場合は、改正会社法361 条1 項3 号又は5 号には該当しないと考えられる。
(3)株式の取得に要するための資金としての金銭を取締役の報酬等とする場合現行会社法上、取締役の報酬等として、株式の取得に要するための資金の金銭を支給する場合であっても、会社法上は特別な規定が置かれておらず、通常の取締役の報酬支給手続きと、募集株式の発行等の手続きを行っていた。
改正法では、この場合、定款又は株主総会決議で下記の事項を定めなければならないこととされた(改正法361、改正会施規98の4)
・取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限(改正法361)
・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会施規98 の4)
・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会施規98の4)
・取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98の4)
(4)新株予約権を報酬等とする場合における決定すべき事項
改正会社法は、株式と同様に、新株予約権を取締役の報酬等とする場合について、定款又は株主総会決議で定めなければならない事項を下記のとおりとして明確化した(改正法361、改正会規98 の3)。報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権については、当該募集新株予約権の数の上限(改正法361)及び下記事項
・当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法(改正会規98の3、会236)
・当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法(改正会規98の3、会236)
・金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(改正会規98 の3 一、会236①三)
・当該新株予約権を行使することができる期間(改正会規98 の3 一、会236①四)
・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要(改正会規98 の3 二)
・当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98の3三)
・譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨(改正会規98の3四、会236)
・当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236 条1 項7 号に規定する事項の内容の概要(改正会規98 の3 五、会236)
・取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98 の3 六)
これは、新株予約権を取締役の報酬等とする場合は、その新株予約権の内容のうち主要なものについて、予め株主総会決議によって決定しておかなければならないことしたもの。
(5)新株予約権を取締役の報酬等とする場合におけるその行使の際の払込みの要否
現行会社法上、募集新株予約権の発行をするときは、引換えに金銭の払込みを要しないとすることができる(会238)が、新株予約権の行使にあたっては、金銭の払込み等をしなければならないものとされている(会236)。
このことから、実務では、新株予約権を取締役の報酬としようする場合において、行使価額を1円とするなどの方法(いわゆる1円ストック・オプション)が行われてきたが、株式を取締役の報酬とする場合と同様の理由で、払込み等を要しない新株予約権が望まれていた。
そこで、改正法では、上場会社に限定して、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合(報酬としての金銭をもって新株予約権と引換えにする金銭の払込みに充てる場合を含む。)、当該新株予約権の行使に際して金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないものとすることができることとされた(改正法236 の3)。
(6)新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を報酬等とする場合
新株予約権の発行に際しての払込みに充てるための金銭を報酬とすることもでき、この場合は、株主総会において下記の事項を決議する(改正法361)。
・取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限及び下記事項(改正法361)
・当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法(改正会施規98 の4、会236)
・当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法(改正会施規98の4、会236)
・金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(改正会施規98 の4、会236)
・当該新株予約権を行使することができる期間(改正会施規98 の4、会236)
・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要(改正会施規98 の4)
・当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98 の4)
・譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨(改正会施規98 の4、会236)
・当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236 条1 項7 号に規定する事項の内容の概要(改正会施規98 の4、会236)
・取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98 の4)
・新株予約権の発行の手続きは、通常のものに加えて、上場会社においては、新株予約権の行使に際して払込み又は現物財産の給付を要しない旨の定めをすることもできる(改正法236)。
なお、新株予約権の発行に際しての払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする旨の定めは置かれたが、新株予約権の行使に際しての払込みに充てるための金銭を報酬等とすることについての特別な規定は置かれていない。
(7)株式又は新株予約権の発行時における有利発行の該当性
取締役の報酬等として株式を発行するときに、金銭の払込み等を要しないとする場合であっても、有利発行(会199、201)に該当しないと解されている。その理由として、発行される株式は取締役の職務執行の対価として交付されるものであるから、特に有利な条件に該当しないことや、株主総会決議による報酬決定(会361)の中で、発行する株式数の上限等を決定し、希釈化される株主の意志を確認していることが挙げられている(参考文献1の94 頁)。
なお、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合における有利発行の該当性については、有利発行規制の適用の可能性自体はあり得るものの、上記株式の発行等における考え方に照らすと、実際上は、有利発行となる余地はほとんどなくなるとする見解が有力である(参考文献1の95 頁)。
(8)報酬等として株式を発行したときの資本金又は準備金として計上すべき額
取締役等の報酬として株式を交付する場合であって、払込みを要しないとした場合の資本金及び資本準備金の計上は、下記のとおりである。
・株式報酬において、募集株式を発行する場合(事前交付型)
取締役等の報酬として新たに募集株式を発行し、割当日後の取締役等の役務をその対価とする場合(事前交付型)は、割当日(=募集株式の発行の効力発生日)においては資本金及び資本剰余金の額は変動せず、その後の各事業年度の末日において、下記のとおり計上する。
【資本金等増加限度額】(改正会計規42 の2)
下記アからイを引いた額
ア 割当日以降各事業年度の末日までに対象の取締役等が提供した役務であって募集株式を対価とする部分の公正な評価額
イ 会社法199 条1 項5 号に定める事項として募集株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額
上記イは、当分の間、零とされている(会計規14、同附則11一)ため、実質的にはアのみである。なお、自己株式の処分を併せて行う場合は、募集株式の発行部分の割合を乗じて計算する。株主資本等増加限度額の2 分の1 を超えない額は、資本金として計上しないことができ(改正会計規42 の2)、この場合、資本金として計上しなかった額は、資本準備金としなければならない。
・株式報酬において、募集株式を発行する場合(事後交付型)
取締役等の報酬として新たに募集株式を発行し、割当日前の取締役等の役務をその対価とする場合(事後交付型)は、割当日(=募集株式の発行の効力発生日)において、下記のとおり計上する。
【資本金等増加限度額】(改正会計規42 の3、54 の2)
下記アからイを引いた額
・割当日までに対象の取締役等が提供した役務であって募集株式を対価とする部分の公正な評価額として株式引受権の額に計上された額
・会社法199 条1 項5 号に定める事項として募集株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額
上記アについて、割当日までの取締役等の役務の評価額を「株式引受権」として一旦計上し、その額がそのままアの額となる(改正会計規54 の2)。
上記イについては、上記と同じ。
なお、自己株式の処分を併せて行う場合、資本金として計上しない部分については、上記と同じ。
募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合は、通常の募集株式の発行と同じである。つまり、当該払込金額から募集株式の交付に係る費用の額を引いた額が資本金等増加限度額となる。
第5 補償契約
1.補償契約(会社法430条の2)
補償契約とは、役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失の全部または一部を、株式会社が当該役員等に対して補償することを約する契約をいう(参考文献1の102頁)。
2.補償対象となり得るもの
(1)役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(いわゆる「防御費用」、会社法430条の2第1項1号)
(2)役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における次に掲げる損失(同2号)
イ 当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失
ロ 当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失
3.補償対象とならないもの
(1)防御費用のうち、通常要する費用を超える部分(会社法430条の2第2項1号)
(2)株式会社が第三者に対して損害の賠償等をした場合に当該役員等が当該株式会社に対して損害賠償責任(会社法423条1項)を負う場合には、第三者に対する損害等のうち当該責任に係る部分
(3)役員等がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったことにより第三者に対して損害賠償の責任等を負う場合には、損害賠償等の全部(会社法430条の2第2項3号)。この場合であっても、防御費用は補償することができる(参考文献1の112 頁)。
(4)罰金や課徴金等(参考文献1の116頁)
4.補償の手続
(1)補償契約の内容の決定
取締役会設置会社においては取締役会決議によって決定する。非取締役会設置会社においては、株主総会決議(普通決議)で決定する。
(2)補償の決定
補償の決定については、条文上、特別な規定は置かれていない。会社の重要な業務執行の決定(会社法362条4項柱書)として、取締役会設置会社においては、取締役会決議が必要になる事例もあると解されている(参考文献1の109頁)。
5.報告及び開示
(1)公開会社では、補償契約を締結した場合及び補償の実行を行った場合は、一定の事項を事業報告に記載し開示しなければならない(会社法施行規則121条3号の2から3号の4、125条2号から4号、126条7号の2から7号の4)。
(2)補償契約に基づいて補償をした取締役及びを受けた取締役は、遅滞なく、当該補償についての重要な事実を取締役会に対して報告しなければならない(会社法430条の2第5項)。
6.その他
(1)補償契約に基づく補償は、取締役の報酬等とは異なると解されているようである。
(2)補償契約の締結については、利益相反取引の規定を適用しない(会社法430条の2第7項)。
(3)損害等が発生した後に、補償契約を締結し補償をすることは、条文上禁止されているわけではないが、「補償する側の取締役の善管注意義務の観点から実務上のハードルが高い」(参考文献3の101頁、参考文献2の84-85頁)と解されている。
第6 D&O保険
※典型的な事例では、会社に損害が発生し、その損害を填補することが想定されている。
1.D&O保険とは、会社と保険会社(保険者)が締結し、役員等が被保険者である保険契約であって、役員等が損害賠償等をしなければならないときに、保険金でその填補をしてくれるもの(会社法430条の3第1項参照)。
2.会社法430条の3第1項に規定するD&O保険契約の内容を決定するにあたっては、取締役会設置会社においては取締役会決議、非取締役会設置会社においては、株主総会決議(普通決議)によらなければならない(会社法430条の3第1項)。
例えば、取締役会設置会社において取締役の全員について取締役会決議をする場合は、特別利害関係人の問題から決議ができないのではないかとの疑念が生じるが、各人ごとに保険契約の内容を決定する決議をそれぞれ行うことによって、対象となる取締役を除く取締役で決議を行うことができると解されている(参考文献1の146頁)。
3.公開会社が、会社法430条の3第1項に規定するD&O保険契約を締結した場合は、事業報告において一定の事項を開示しなければならない(会社法施行規則119条2号の2、121条の2)。
第7 社外取締役
1.社外取締役を置くことの義務付け
上場会社等(監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社)は、社外取締役を置かなければならないこととされた(会社法327条の2)。
2.社外取締役への業務執行の委託
(1)一定の場合において、社外取締役が、会社の業務を執行することができるものとされた(会社法348条の2第1項)。
(業務の執行の社外取締役への委託)
第348条の2 株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
2 指名委員会等設置会社と執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他執行役が指名委員会等設置会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該指名委員会等設置会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該指名委員会等設置会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
3 前2項の規定により委託された業務の執行は、第2条第15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しないものとする。ただし、社外取締役が業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役)の指揮命令により当該委託された業務を執行したときは、この限りでない。
(2)会社法348条の2第1項の規定に基づいて、社外取締役が業務の執行を行った場合、当該業務の執行は、社外取締役としての地位に影響を与えないこととされた(会社法348条2第3項)。
第8 株式交付
1.制度概要
(1)ある株式会社(株式交付親会社)が、別の株式会社(株式交付子会社)を子会社とすることを目的として、株式交付子会社の株式を取得するための制度
(2)株式交付親会社が、株式交付子会社の株主から株式交付子会社の株式を取得する。その対価は、株式交付親会社の株式であるが、当該株式に加えて、金銭等も対価とすることができる。
(3)株式交付子会社の株主に対して株式交付親会社の株式を交付するにあたっては、募集株式の発行等の手続きによらず、独自の手続きが定められている。
(4)株式交付子会社の株主は、株式交付によってその所有する株式を株式交付親会社に譲渡するか否か、任意に決定できる。
(5)上記の結果、株式交付親会社が株式交付子会社を子会社とするだけの株式を取得できない場合は、手続き全体の効力が発生しない(会社法774条の3第2項、774条の10)。
2.手続き概要
(1)株式交付計画の作成
株式交付計画の内容(会社法774条の3第1項)
・株式交付子会社の商号及び住所
・株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)の下限
・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項
・株式交付子会社の株式の譲渡人に対する株式交付親会社の株式の割当てに関する事項
・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として金銭等(株式交付親会社の株式を除く。)を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
イ 当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ロ 当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ハ 当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項
ニ 当該金銭等が株式交付親会社の社債及び新株予約権以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
・前号に規定する場合には、株式交付子会社の株式の譲渡人に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は新株予約権付社債(以下「新株予約権等」と総称する。)を譲り受けるときは、当該新株予約権等の内容及び数又はその算定方法
・前号に規定する場合において、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対して当該新株予約権等の対価として金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
イ 当該金銭等が株式交付親会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項
ロ 当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該金銭等が株式交付親会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
・前号に規定する場合には、株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
・株式交付子会社の株式及び新株予約権等の譲渡しの申込みの期日
・効力発生日
(2)株式交付親会社による通知
株式交付親会社は、株式の申込みをしようとする者(株式交付子会社の株主)に対して、下記の事項を通知する(会社法774条の4第1項)。
・株式交付親会社の商号
・株式交付計画の内容
・法務省令(会社法施行規則179条の2)で定める事項
・対価についての参考となるべき事項、株式交付親会社の計算書類
(3)譲渡の申込み人からの申込み
申込者は、申込期日までに事項を記載した書面を株式交付親会社に交付しなければならない。
・申込みをする者の氏名又は名称及び住所
・譲り渡そうとする株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
(4)株式交付親会社の株式の割当(会社法774条の5第1項)
申込の中から、割り当てる株式の数を減少させることができる。
(5)割当通知
株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者に対し、当該申込者から当該株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の数を通知しなければならない(会社法774条の5第2項)。
(6)譲渡承認
譲渡の対象の株式が譲渡制限株式の場合は、効力発生日の前日までに、株式交付子会社の譲渡承認を受けなければならないと解されている(会社法774条の7第2項、参考文献1の202頁、参考文献2の259-260頁参照)。
(7)株式の交付
株式交付子会社が株券発行会社の場合は、効力発生日の前日までに、株券の交付を受けなければならない(参考文献1の217頁)。
(8)株主総会決議
株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって株式交付計画の承認を受けなければならない。なお、簡易な株式交付の制度もある。
(9)債権者保護手続
一定の場合のみ債権者保護手続が必要となる(会社法816条の8)。債権者保護手続が必要な場合は、対価として交付する株式交付親会社の株式以外の財産の価額が、対価として交付する株式交付親会社の株式の価額の20分の1以上の場合である(会社法施行規則213条の7)。債権者保護手続の内容は、組織再編の一般的なものと同じ。
(10)効力が発生しない場合(会社法774条の11第5項)
・効力発生日において、債権者保護手続が終了していない場合
・効力発生日において、株式交付親会社が株式交付計画に定められた株式の給付を受けられなかった場合
・効力発生日において、株式交付親会社の株主となる者がいない場合
(11)株式交付子会社
株式交付子会社においては、特別な機関決定は必要ではない。譲渡の対象株式が、譲渡制限株式である場合は、譲渡承認をするか否かが問題となる。
(12)登記
・登記すべき事項
株式を発行した場合は、発行済株式総数の変更(種類株式を発行した場合は発行済種類株式総数の変更)
株式を発行した場合は、資本金の額
新株予約権を発行した場合は、新株予約権に関する事項
※ 対価として新規に株式を発行せず、自己株式の交付のみを行うことも可能である。この場合は、登記事項に変更がないため、登記を要しない。
添付書面
・株式交付計画書
・株式の譲渡しの申込みを証する書面(又は総数譲渡契約書)
・株主総会議事録又は取締役会議事録(簡易な株式交付の場合)
・株主リスト
・債権者保護手続を行った場合は、これに関する書面
・資本金の計上に関する証明書
・委任状
・登録免許税
増加する資本金の額の1000 分の7(ただし3万円に満たない場合は3万円)
第9 取締役等の欠格事由の変更
- 成年被後見人及び被保佐人であっても、取締役等の欠格事由に該当しないこととなった(会社法331条1項、2号、335条1項、402条4項等)。
2.成年被後見人が取締役等に就任する場合の手続
成年被後見人が取締役等へ就任する場合は、下記の全ての手続が必要となる(会社法331条の2第1項)。
・成年被後見人の同意
・後見監督人がいる場合は、その同意
・成年後見人が成年被後見人に代わってする就任承諾
※成年被後見人の同意が必要なので、全く意思能力を欠いた人は取締役等に就任することができない。同意に必要な意思能力の程度が問題となるが、明確ではない。
3.被保佐人が取締役等に就任する場合の手続き
被保佐人が取締役等へ就任する場合は、下記のいずれかの手続が必要となる。
・被保佐人による就任承諾に加えて、保佐人の同意(会社法331条の2第2項)
・保佐人が代理権を付与されている場合は、保佐人の就任承諾に加えて、被保佐人の同意(同3項)
4.成年被後見人又は被保佐人が取締役等の資格に基づいてした行為は、行為能力の制限によっては取消すことができない(会社法331条4項)。
・「行為能力の制限」によって取り消すことができないだけであって、意思能力がない場合の法律行為の無効(民法3条の2)まで主張できないわけではないと解される。
・代表取締役として第三者との間で法律行為をしたときも、行為能力の制限によって取り消すことはできないとする見解(参考文献1の261-262頁)がある。
・未成年者で取締役等への就任が可能な程度(おおむね15歳程度)だが、そうすると、就任が可能な成年被後見人はわずかとなってしまう。?
5.成年被後見が取締役等である場合、成年後見人はその職務を代理して行うことはできない(参考文献1の260頁)。
6.現に取締役等であった者が後見開始の審判を受けた場合は、委任の終了事由(民法653条3項)に該当し、取締役等を退任する。一方で、保佐開始の審判を受けても、委任の終了事由に該当しないため退任しない。
第10 支店所在地における登記の廃止
支店所在地における支店登記については、廃止されることとなった(改正前会社法930条から932条を削除)。
令和4年9月1日施行
第11 新株予約権に関する登記事項の見直し
新株予約権の発行に際して、募集事項の決定の際に、新株予約権の対価として、一定の算定式を定めていた場合であっても、登記申請の時までに確定額が定まった場合は、確定額を登記することになった(会社法911 条3 項12 号へ)。
第3部 商業登記の展望
第1 脱ハンコ=デジタル化
・政府の方針と司法書士の役割
・商業登記版登記原因証明情報制度の創設は?
・FATF対応と商業登記、代理人確認情報制度の創設?
第2 登記事項の見直し等
・役員の任期の規定を登記事項に
役員が権利義務になっているのか、任期が継続しているのか分からない。
第3 商業登記の重要性の再確認
・商業登記は、中小企業における重要な法的インフラである。
・中小企業においては、商業登記の申請によって株主総会等の手続が履践されている側面がある。
【参考資料】
1 竹林俊憲編著「一問一答令和元年改正会社法」(商事法務、2020)
2 田中亘・齊藤真紀他編著「Before/After 会社法改正」(弘文堂、2021)
3 神田秀樹・竹林俊憲他「令和元年改正会社法の考え方」(旬刊商事法務2230 号(2020 年5月5日・15 日合併号))
4 日本弁護士連合会編「実務解説改正会社法〔第2版〕」(弘文堂、2021)
5 大阪司法書士会会員研修会レジュメ「令和元年改正会社法」
6 大阪司法書士会会員研修会レジュメ「改正会社法に伴う商業登記」
7 土井万二編代「会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A」(日本加除出版、2021)
8 日本司法書士会連合会商業登記・企業法務対策部編「令和元年改正会社法及び令和3年商業登記規則の理論と実務・書式」(LABO、2022)