信託財産

民事信託契約書のうち、信託財産を取り上げる。

1     信託財産
1―1            【条項例】

(信託財産―預金)

第○条 

1 委託者は信託契約締結後、信託財産目録記載4の預金を払い戻し、受託者に引き渡す。

2 受託者は、前項の払戻金を信託財産に属する専用口座を開設する方法により受託者自身の財産と分別して管理する。

(信託財産―不動産)

第○条 

1 信託財産目録1,2及び3記載の信託不動産の所有権は、本信託開始日に、受託者に移転する。

2 委託者及び受託者は、本契約後、前項の不動産について所有権移転の登記申請を行う。

3 受託者は、前項の登記申請と同時に、信託の登記の申請を行う。

4 前2項の登記費用は、受託者が信託財産から支出する。

(農地)

第○条 信託不動産のうち、農地法の適用を受ける土地については、次のいずれかのときに、本信託の効力を生じる。

(1)農地法に基づく許可を受け、許可通知書を受け取ったとき

(2)農地法に基づく届け出を行い、受理通知書を受け取ったとき

(3)農地法の適用対象から外れた場合

図 1 農地と信託財産

チェック方式

(信託財産)

第○条

1 本信託における財産は、次の第【  】号から第【  】号までとする。本信託の翌日以降に生じた第【  】号から第【  】号までの財産も、その種類に応じた信託財産に帰属する[1]

  • 別紙記載の不動産(以下、「信託不動産」という。)。
    • 別紙記載の金銭(以下、「信託金銭」という。)。

□(3)信託財産に属する財産の管理、運用、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産。

  • 受益者が信託目的の達成のために行う、自己が所有する金銭、不動産、債権およびその他の財産を信託財産とする追加信託[2][3]
    • その他の信託財産より生じる全ての利益。
    • 委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する[4][5][6][7][8]
    • 本信託設定日における信託財産責任負担債務は、別紙記載のとおりとする。
    • 【                  】
1―2            信託設定時の信託財産

 信託財産を構成するための要件は、(1)金銭に見積もり得ること、(2)第3者に移転することが出来ることの2つをいずれも満たすことである[9]。(1)は、誰にとって金銭的な価値があればいいのか。原則として受益者にとって(付随して信託目的のために)、と考える。課税対象となるかという観点からは、国税庁の判断が1つの目安となる。

要件を満たす例として、金銭、不動産、債権などが挙げられる[10][11]。満たさない例として生命、譲渡制限や禁止条項のついた預貯金債権などが挙げられる。改正民法においては、譲渡制限のある預貯金債権を信託財産とする信託契約は有効であるが、受託者が悪意又は重過失の場合、債務者に対抗することができない(改正民法466条の5)。

 信託財産は、①委託者の財産から分離可能②受託者による管理ができる③承継できる価値がある、の3つがあれば良いという見解がある[12]。例として価値のない紙幣や大事な系譜の一部が挙げられているが、委任契約や遺言、法人制度の利用でも目的は達成できる。条件付きの贈与契約でも目的を達成できる可能性がある。信託財産になるかと問われた場合、信託財産にすることもできる、という回答をすることになる。受益者連続型の信託利用を想定しているとしても、受益者は受益権を放棄できることから、敢えて信託財産にする必要性、受益者のためになるのか、受託者の財産と別扱いで管理する意味はあるのかを再考する必要がある。ただし、主たる信託財産が金銭や不動産であり、それと共に価値のない紙幣や大事な系譜を加えることは、契約当事者の意思であり問題はない。

なぜ、ある財産を信託財産にしなければならないのか。信託財産を構成した結果、現れる効果は①目的達成のために、委託者の財産から分けることが必要であり(委託者の破産や死亡など)、②管理処分行為を託された者については、利益を受ける受益者のために適切な義務を規定することができるとの結論に辿り付く。

2     債務
2―1            債務は信託財産となりうるか

 信託法36条は、「委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。」として、信託財産に属する財産と信託財産責任負担債務を分けていることから[13]、債務は信託財産とはなりえない。

受託者が債務引受をして、その債務を信託財産責任負担債務とした場合は、受託者は信託財産としてではなく、信託の目的に沿って管理・処分していくことになる。

2―2            信託財産責任負担債務

 信託設定前の抵当権は、受託者が債務を負うわけではないので、負担のついた信託財産である[14]。抵当権が登記されているのみの段階では、債務を負うのは受託者および信託財産ではなく、債務者である。被担保債権に係る債務が履行遅滞に陥っている場合は抵当権実行の可能性が高まり、信託法21条1項2号の信託財産責任負担債務となる。しかし履行遅滞に陥っている債務を負っている委託者が信託行為を行うことは、詐害信託の恐れがある。結果として信託設定前の抵当権を信託法21条1項2号の信託財産責任負担債務として処理することは不可能である。抵当権の被担保債権に係る債務については、債権者の承諾を得て信託行為に記載し、信託法21条1項3号の信託財産責任負担債務とする。

 なお信託設定前の抵当権は、信託設定前に生じた権利であり当然に信託法21条1項2号の信託財産責任負担債務を構成するという説もある[15][16][17]

図 2信託財産責任負担債務の構成(信託法21条)

2―3            信託財産責任限定債務

図 3 信託財産責任限定債務の構成

3     占有の承継
3―1            条項例

(信託財産に属する財産の占有の瑕疵の承継)

第○条 受託者は、信託財産に属する財産の占有について、委託者の占有の瑕疵を承継する。

不動産が信託された場合、自己信託を除いて、受託者は不動産の占有についての瑕疵を委託者から承継する。占有について瑕疵のある不動産を信託しても信託契約の当事者以外に対して、信託財産であることの対抗することができない。なお信託法15条は、信託設定時の信託財産に関する規定であり、信託設定後は受託者の信託事務処理に対する規律に従う。

4     信託財産に関するリスク

信託財産に関するリスクとして1点信託金銭に関して信託財産の独立性が担保される措置が可能かを挙げる。

5     リスクに対する対応

1点目に関しては、口座開設の要件として(1)受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと、(2)金融機関が受託者個人に対して有している債権を自働債権、信託財産を受働債権として総裁が行われないこと(3)受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者の死亡が分かる書類と新受託者の就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること(4)受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更又は残余財産の引き渡しが可能であることが求められる。口座名義は問わない。また受益者個人の通帳を管理する者が誰であるか、管理可能かを確認する必要がある。

6     信託財産目録・信託財産責任負担債務目録
6―1            信託財産目録の例(チェック方式)

別紙

信託財産目録

第1 不動産【自宅・貸地・貸家・墓地・         】

所在 地番 地目 地積       

所在 家屋番号 種類 構造 床面積[18] 

第2 金銭  

【金額】円

第3 その他

【仏壇・位牌・     】

以上

6―2            信託財産責任負担債務目録の例(チェック方式)

別紙

信託財産責任負担債務目録

□ 1  金銭債務

    (連帯)債務者 【住所氏名】

     債権者    【金融機関本店】【金融機関名】【取扱店】

    【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て

    【当初金額】万円

    【利息】【損害金】

□2 保証債務

   (連帯)保証人 【住所氏名】

   (連帯)債務者 【住所氏名】

    債権者     【本店】【商号】【取扱店】

   【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て

   【当初金額】万円【利息】【損害金】

□3 担保権

(1)担保権者 【本店】【商号】【取扱店】

(2)【年月日】設定の【担保権の名称】

(3)登記 【法務局の名称】【年月日】【受付年月日・受付番号】

(4)被担保債権及び請求債権

   【年月日】付【契約名】に基づく残債務の全て

   【当初金額】万円 【利息】【損害金】

(5)(連帯)債務者 

   【住所】【氏名】

(6)不動産                                                               

   所在 地番 地目 地積 共同担保目録第【番号】号

   所在 家屋番号 種類 構造 床面積 共同担保目録第【番号】号

□4 その他の債務

  不動産の賃貸借契約にかかる債務[19]

  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み[20]

  【賃料】

  □【存続期間・支払時期】

  □【賃借権の譲渡許可・賃貸物の転貸許可】

  □【敷金】

  □【賃貸人が財産の処分につき行為能力の制限を受けた者・財産の処分の権限を有しない者】

   □【土地の賃借権設定の目的が建物の所有】

   □【土地の賃借権設定の目的が事業用建物の所有】

   □【借地借家法22条前段・23条1項・38条1項前段・39条1項・高齢者の居住の安定確保に関する法律52条・大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条1項】

 □地役権の目的となっている承役地[21]【所在 地番 地目 地積】

  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み

  【要役地】【地役権設定の目的】

   □【地役権の付従性の制限】

   □【工作物の設置義務等】

   □【図面確認】

 □地上権の目的となっている土地

 【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み

  【地上権設定の目的】【地代又は支払い時期の定め】□【存続期間・借地借家法22条前段の定期借地権・借地借家法第23条第1項の事業用借地権・大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条2項】の定め

  □【地上権設定の目的が事業用】[22]

  地下又は空間を目的とする地上権の場合[23]□【地下の上限の範囲・空間の上下の範囲】□【土地への制限】

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各敷金返還債務[24]

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各保証金等の預り金についての返還債務

□【                        】

以上

6―3            追記 不動産登記記録中の信託目録に共同担保目録のような一覧性を持たせるための信託契約書の条項例

信託財産

第○条

1 本信託における財産は、次の第1号から第3号までとする。

  • 所在 地番 地目 地積
    • 所在 地番 地目 地積
    • 所在 家屋番号 種類 構造 床面積

 信託目録中のその他の事項欄に、信託契約における全ての信託不動産を記録することができ、どの不動産が同一の信託なのか分かりやすくなる。信託不動産に変動がないには有効だが、売却や信託財産の変更などがあった場合は、全ての不動産の信託目録変更登記が必要となることに留意する必要がある。


[1] 信託法16条、民法89条。

[2] 追加信託の法的な構成は、新たな信託設定と信託の併合を同時に行うものとして道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P398。

[3]信託法16条1項1号の「その他の事由により受託者が得た財産」も追加信託に含まれるものとして、遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P123。

[4] 民法903条3項但し書。中田直茂「遺言代用信託の法務」『金融法務事情2074』2017金融財政事情研究会。

[5]道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P63は、死因贈与。

[6]能見喜久「財産承継的信託処分と遺留分減殺請求」『信託の理論的進化を求めて』2017トラスト未来フォーラム研究叢書P123は、遺贈と生前贈与の中間であり、死因贈与に近いので、死因贈与に類する扱いをすることになろう、とする。

[7][7]岩瀬美智子「遺言代用信託についての遺留分に関する規律のあり方」『信託法研究41号』2016信託法学会P37は、委託者の権利が制限されていない原則的な規律による遺言代用信託については、遺贈とする。

[8] 注4から注7までのどの見解を採っても、遺留分減殺請求の順序には影響を及ぼすが、特別受益となる。

[9]四宮和夫『信託法〔新版〕』1989有斐閣P133

[10] 情報についてトラスト未来フォーラム76 三枝健治「情報の信託「財産」性についての一考察」

[11] 人格権について米村慈人「人格権の譲渡性と信託」水野紀子ほか『信託の理論と現代的展開』

[12] 遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P102

[13] 民法177条。道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P33

[14]道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P120

[15]寺本昌広『逐条解説新しい信託法』2008商事法務P84

[16]村松秀樹他『概説新信託法』2008金融財政事情研究会P56

[17]伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017日本加除出版P261

[18] 未登記建物の場合、固定資産評価証明書などから所在・構造・床面積を特定し、未登記である旨を付記する。表題、権利登記申請については、横山亘『信託に関する登記』2016テイハンP286~。

[19] 賃借人に使用収益させる(改正民法601条)、修繕義務(改正民法606条本文)、必要費の償還(民法608条)、

[20] 民法177条、借地借家法10条。

[21] 民法210条、280条。

[22] 不動産登記法78条1項4号、借地借家法23条1項、2項。

[23] 民法262条の2

[24] 改正民法605条の2第4項

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