「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」を読んで

一般社団法人全国銀行協会

金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)

令和3年2月18日、一般社団法人全国銀行協会から、下の取りまとめが出されました。読みながら少し考えてみたいと思います。

https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/

Ⅰ.金融取引の代理等に関する考え方

1.銀行界を取り巻く現状(代理取引の課題)

銀行の預金は基本的には本人の資産であり、預金を払い出す場合には預金者本人の意思確認が必要となるため、家族といえども預金者の預金を払い出すことはできない。

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 基本的な考え方です。ATMを利用する場合は、現実として出来る状態になっています。私達も家族にキャッシュカード(と通帳)を渡して、5,000円下ろしてきて、とお願いしたりしているのではないでしょうか。

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銀行においては、認知判断能力が低下した顧客との取引をする場合、民法上の法定後見制度である補助人、保佐人の同意を確認のうえ本人との取引を行う、あるいは成年後見人や任意後見制度にもとづく任意後見人を介して、代理取引を行うのが一般的である。

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一般的な考え方です。ここでいう顧客とは、銀行に預金をしている人を指しています。認知判断能力というのはどのような能力でしょうか。

車の運転などで使われているようです。

高齢ドライバの認知判断能力測定システムの検討

https://ci.nii.ac.jp/naid/10018575546

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しかしながら、成年後見制度[1]の利用者総数は2018年12月末で約22万人にとどまっている[2]

銀行の実務においては、ご家族に成年後見制度の利用を促しても、月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感等を理由に制度を利用してもらえないケースがある一方、本人の医療費、施設入居費、生活費等の支払いに充当するため、親族等への預金の払出し(振込)を求められるケースも多々ある。

さらに、預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産が残っていない場合、親族等による金融商品の解約等(売却)を求められるケースも生じている。

本考え方は、銀行の窓口等において、高齢のお客さま(特に認知判断能力の低下した方)や代理の方と金融取引を行う際の参考となるよう取引のポイントや、好事例等を掲載している[3][4]

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ここでは、金融機関の困りごとが記載されています。

・成年後見制度の利用者数が少ないこと。

・利用者数が少ないから、親族等への預金の払出し、金融商品の解約等(売却)を求められても対応出来ない。

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2.状況別の対応の考え方

(1) 通常取引

 銀行での高齢顧客との取引において、本人に認知判断能力がある場合(取引

の有効性が確保できる場合)は、通常取引を行う。

(2) 認知判断能力が低下した顧客本人との取引

①認知判断能力が低下した顧客本人との取引

 認知判断能力の低下した本人との取引においては、顧客本人の財産保護の観点から、親族等に成年後見制度等の利用を促すのが一般的である。

 上記の手続きが完了するまでの間など、やむを得ず認知判断能力が低下した顧客本人との金融取引を行う場合は本人のための費用の支払いであることを確認するなどしたうえで対応することが望ましい[5]

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 「本人のための費用の支払い」がどこまで可能なのでしょうか。文面を読む限り、本人の意思による預金の払い出し(例えば孫の学費。入学金として50万円)は含まれないと考えられます。飲み会、ランチ、ご祝儀のために、とりあえず10万円引き出したいといった場合はどうでしょうか。預金残高や取引状況によりそうです。私の個人的な感覚ですが、預金残高の1%未満で、毎月預金残高の1%以上が入金されている顧客、借入れなどの付き合いがある顧客に関しては払い出しを行うのではないかと思います。

 一番は払い出しは一切しない、というのが銀行にとってはリスクがないと思いますが、出来ませんと言った場合に、何で○○と不満をぶつけられた場合に考えることになるのかなと思います。

 また、「確認」をどのように行うのかも気になります。請求書などを見せるのか、行員と面談を行い誓約書を書くことが出来れば良いのか、ケースバイケースなことが多いのでしょうが、どのような確認を行うのか気になります。

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②保佐人・補助人や任意後見人が指定された後の顧客本人による取引

 預金規定等の定めにもとづき保佐人・補助人の届出を受領している場合、保佐人・補助人の同意を確認するなど、各行の取引手順に則って対応する必要がある[6]

 任意後見契約が締結されている場合、本人の認知判断能力に問題がない時点においては、本人との取引が可能であり[7]、任意後見監督人の選任後は任意後見人と代理取引を行う。

(3) 法定代理人との取引

 法定代理人(成年後見人等)との取引は、法的な裏付けのある代理権者との取引となることから、法定代理人であることを確認のうえ、各行の取引手順に則って対応する。

(4) 任意代理人との取引

 本人から親族等への有効な代理権付与が行われ、銀行が親族等に代理権を付与する任意代理人の届出を受けている場合は、当該任意代理人と取引を行うことも可能(本人の認知判断能力に問題がない状況であれば、本人との取引が可能なケースもある)。

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 (1)から(3)までは通常の対応です。(4)については、予め届出をして可能と回答をもらっていたのに、任意代理契約公正証書を提出したら出来なかった、という経験を持っています。当行では対応していませんでした、と言われました。なので、届出をして銀行が受け付けたから大丈夫、ではなく通帳とキャッシュカードが出来上がるまでは安心することは出来ません。

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(5) 無権代理人との取引

 親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である。成年後見制度の利用を求めることが基本であり、成年後見人等が指定された後は、成年後見人等以外の親族等からの払出し(振込)依頼には応じず、成年後見人等からの払出し(振込)依頼を求めることが基本である。

 本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。対面での対応が難しい場合には、非対面ツールの活用等も想定される。

 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等[8]が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる[9][10]

 無権代理の親族等からの払出し依頼に応じることによるリスクは免れないものの、真に本人の利益のために行われていることを確認することなどにより、当該リスクを低減させることができる。

 預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産として残っていない顧客の医療費や施設入居費、生活費等の費用を支払うために、親族等から本人の保有する投資信託等の金融商品の解約等の依頼があり、やむを得ず対応する場合、基本的には上記の預金の払出し(振込)の考え方と同様であるが、投資信託等の金融商品は価格変動があることから、一旦、解約等を行った場合、預金と異なり、原状回復が困難である[11]。この点に鑑み、金融商品の解約等については、より慎重な対応が求められる。

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 要件としては、一度は成年後見制度の利用を求めることが挙げられています。それでも何らかの事情で制度利用をしない・出来ない場合です。

 本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等、複数行員による本人面談実施、医療介護費の内容等のエビデンス、非対面ツールの活用は、今までと同様の対応だと思います。

 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為などは、与信情報を持っている銀行ならではですが、これも今までもやっていたと思います。

 当初出てきた、「本人のための費用の支払い」と、今回の「本人の利益のために行われていることを確認」は同じ意味で使っているのか気になります。後者が別の意味で使われているなら、払い出しの用途の範囲は広がります。

 金融商品の解約については、成年後見制度の利用に限定するのではないかと思います。

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Ⅱ.銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方

(1) 地域における社会福祉関係機関

 地域社会においては、それぞれの地域の特性を踏まえ、地方公共団体、社会福祉関係機関および社会福祉関係者等(以下「社会福祉関係機関等」という。)が高齢者支援の仕組みを構築している。

 社会福祉関係機関としては、地域の高齢者等の保健医療・介護等に関する総合相談窓口である「地域包括支援センター」や、判断能力に不安のある方を対象に日常的な金銭の管理等をおこなう「日常生活自立支援事業」の実施主体である「社会福祉協議会」、「権利擁護支援の地域連携ネットワーク」の中核的役割を果たす「中核機関」等が代表例として挙げられる。

(2) 社会福祉関係機関等との連携

 厚生労働省は、「団塊の世代」が 75 歳以上となる 2025 年を目途に、社会構造の変化や高齢者のニーズに応えるため「地域包括ケアシステム」[12]の実現を目指すとしている。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性にもとづき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要であるとされていることに加え、地域によってその人口構成や有している資源も異なることから、各地域に設置されているそれぞれの社会福祉関係機関の役割や期待できる対応、適切な相談窓口は全国一律のものではないと考えられる。

 社会福祉関係機関等との連携に当たっては、地域福祉の枠組みがまちまちであること等も踏まえ、銀行においては、日常的に地域の社会福祉関係機関等との間で、相談しやすい関係を築くことが重要である。具体的には、以下のような対応が考えられる。

 当該地域における相談窓口や中核機関を担う組織を事前に確認[13]すること

 地域の社会福祉関係機関等の担当者との対話等を積み重ねることにより、当該地域における高齢者等への支援の仕組みがどのように構築されているのかを把握すること

 自らも地域の一員として、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)や地域ケア会議といった、地域の関係機関や関係者が集まる協議体等へ参加するなどし、日常的に地域の関係機関や関係者との関係性を強化すること

 自らも当該地域における高齢者の見守りを担う一員として、地域の社会福祉関係機関等とも協議のうえ、当該地域における連携の仕組みづくりを進めること

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 たしかに地域における会議などでは、必ずと言っていいほど金融機関の方が参加しています。これからもそのような連携を進めていくという方針なのだと考えられます。

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(3) 個人情報保護法上の留意点

 社会福祉関係機関等との連携に当たって、高齢の顧客の個人情報を提供することは必ずしも必要ではない[14]

 一方で、金融審議会市場ワーキング・グループ報告書にも記載されているとおり、「顧客に認知判断能力の低下があると思われるような兆候・行動が見られ、かつその状態を放置すれば顧客財産に重大な支障をきたすような場合で、緊急性が高いと思われる場合など、例外的ケースにおいては、個人情報保護法との関係においても家族や行政、福祉関係機関に顧客の必要情報(氏名、住所、症状等)を提供できる場合もある」と考えられる。

 個人データの提供は、個人情報保護法第23条第1項にもとづき本人からの同意を得ることが基本である。一方で、個人情報保護法第23条第1項各号[15]に該当する場合や、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第7条[16]および第9条第1項に該当すると考えられる場合であって、本人の同意を得ることが困難な場合は、それぞれの状況に応じた通報先や連携先へ個人データを提供することも認められると考えられる。

 このほか、銀行として、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)に参加することで、同協議会構成員間における個人情報提供の枠組みを活用することも考えられる[17]

 なお、家族や親族への連絡であっても、個人データを提供する際は本人の同意を得ることが基本である。ただし、個人情報保護法第23条第1項各号等に該当する場合であって、本人の同意を得ることが困難な場合は、個人データを提供することも認められると考えられる。

以 上

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 個人情報保護法、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律などを積極的に利用する方向に向かうのであれば、市区町村長申立てがこれから増えます。私は、この方向になると思います。


[1]成年後見制度は、法定後見制度(後見・保佐・補助)および任意後見制度の2つの制度で構成されている。

[2] 2012 年時点で 65 歳以上の高齢者のうち、認知症の方の数は約 462 万人と推計されている。なお、本統計は高齢者のみについての統計であり、65 歳未満(若年性認知症の方等)の数は含まれていないことについては留意が必要。

[3]なお、銀行としてより厳格な対応を行うケースや、取引のリスクが大きいと判断された場合に取引を謝絶するケースはあり得る。

[4] 法律構成や実務対応の考え方などは、日本金融ジェロントロジー協会の「法人特別会員ワーキング・グループ報告書」(2020 年 12 月 23 日)に依拠するところが大きい。

http://www.jfgi.jp/wp-content/uploads/2020/12/20201223【JFGI】法人特別会員 WG 報告書.pdf

[5]  医療費等で至急の支払いが必要な場合には審判前の保全処分を活用することも考えられる。

[6] 保佐人については、民法 13 条 1 項各号に規定された法律行為について、補助人については、その一部について同意権が設定されていることに留意。

[7] 任意後見監督人が選任される前であっても、任意後見人が顧客本人の預金取引を代理できるよう、任意後見契約とともに委任契約を締結している事例もある。その場合は、任意後見監督人が選任される前であっても委任契約の受任者である任意後見人との取引が可能。

[8] 「親族等」に銀行は含まれないことに留意する。

[9] あくまで無権代理におけるリスク許容の考え方の一例であり、無権代理の親族等からの払出依頼に応じることによるリスクは伴う。

[10] 日本金融ジェロントロジー協会の「法人特別会員ワーキング・グループ報告書」(2020年 12 月 23 日)において、金融資産の解約等について次のとおり整理されており、親族等による預金の払出し等についてもこれに準じた整理が可能と考えられる。「親族等が、本人の医療費等を支払うために、本人の金融資産を売却する行為は、他に容易に支払う方法が存在しない等、資金準備の方法として、最も本人の利益に適合するといえる場合には、本人との関係で、民法における事務管理が成立する可能性があるものと考えられる。事務管理が成立すれば、親族等は、本人に対する不法行為責任を負わないものと考えられる。」

http://www.jfgi.jp/wp-content/uploads/2020/12/20201223【JFGI】法人特別会員 WG 報告書.pdf

[11] 金融商品を解約等した後、原状回復を行う場合、簿価が書き換わることを含めた税制対応等が非常に複雑になる点に留意が必要である。

[12] 「地域包括ケアシステム」とは、地域の事情に応じて高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まいおよび自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制のことをいう。高齢化の進展のスピードや地域資源の状況などは地域によって異なるため、それぞれの地域の実情に応じた地域包括ケアシステムの構築を可能とすることが重要であるとされている。(出典:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-」)

[13] なお、地方自治体においては、「地域の高齢者等の保健医療・介護等に関する総合相談窓口である地域包括支援センター及び認知症疾患医療センターを含めた認知症に関する相談体制を地域ごとに整備し、ホームページ等を活用した窓口のアクセス手段についても総合的に整備する」(厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月))ことが期待されている。

[14] 例えば、社会福祉関係機関の担当者に、高齢の顧客の名前等の個人情報は伝えず、様子や状況等を具体的に伝えることで、対応方法に係るアドバイスを受けるケースや、社会福祉関係機関の担当者に直接店舗まで来て対応してもらうケースも考えられる。

[15] 個人情報保護法第 23 条第1項各号は、第三者への個人データの提供に当たり、本人の同意が不要である場合を定めている。特に、銀行においては、同項第2号が適用されるか否かの判断、つまりは当該事例が「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」と判断できるかという点が重要となる。

[16] 高齢顧客の様子から、養護者からの虐待を受けているおそれがあると思われる場合であって、生命または身体に重大な危険が生じているときには、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律により、市区町村への通報が義務付けられている点に留意が必要である。

[17] 一部の銀行においては、顧客の個人情報を社会福祉関係機関等に提供する可能性がある旨を、ポスター等で店内に掲示するといった取組みも行われている。掲示のみでは同意を得たことにはならないが、対外的に自らの対応を予め示しておくことで、トラブルの回避に繋がるケースもあると考えられる。

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