新井誠「成年後見制度と民事信託のハイブリッド活用法」

月報司法書士[1]の記事に、新井誠中央大学教授の記事が掲載されていました。

障害者権利条約[2]が考えていく基本となっています。12条を転載します。

第十二条 法律の前にひとしく認められる権利

1締約国は、障害者が全ての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。

2締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。

3締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとる。

4締約国は、法的能力の行使に関連する全ての措置において、濫用を防止するための適当かつ効果的な保障を国際人権法に従って定めることを確保する。当該保障は、法的能力の行使に関連する措置が、障害者の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反を生じさせず、及び不当な影響を及ぼさないこと、障害者の状況に応じ、かつ、適合すること、可能な限り短い期間に適用されること並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査の対象となることを確保するものとする。当該保障は、当該措置が障害者の権利及び利益に及ぼす影響の程度に応じたものとする。

5締約国は、この条の規定に従うことを条件として、障害者が財産を所有し、又は相続し、自己の会計を管理し、及び銀行貸付け、抵当その他の形態の金融上の信用を利用する均等な機会を有することについての平等の権利を確保するための全ての適当かつ効果的な措置をとるものとし、障害者がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。

次に、条約に影響を与えたといわれる欧州評議会勧告[3]について言及し、次の2つが重要としています。

・本人を代行して意思決定をするのではなく、本人が自ら意思決定出来るように支援すること。

・次に、後見人の支援を受けてもなおできない場合に限り、本人に代行した意思決定が許されること。

意思決定の代理が先ではなく、支援が先という考えだと思います。その上で、現在の日本の民法上の成年後見制度について、補助に一元化することを提案しています。本人にとって一番制約の少ない補助から開始して、本人の状態に合わせて補助人に同意権や代理権を付与したり外したりすることで、障害者権利条約に沿った制度となるという考えです。

私も同意します。新井教授が以前から指摘していたことです。実務で機能させるためには、次の改善がされる必要があると考えます。

・補助人が家庭裁判所に同意権、代理権を付けたり外したりする手続きが今より簡単になること。

・家庭裁判所の担当職員が増えるか、事務効率を良くすること。

現在、親族が成年後見人になっている場合でも年に一度の報告書作成に戸惑っている方をみていると、補助はより複雑に感じるので親族の負担が減らないと主体的に利用してみよう、とはならないと感じます。また、家庭裁判所は今の事務量でも容量を超えているように感じます。人を増やすかコンピュータで効率化するかしないと負担が大きくなります。

 士業を利用するか、というところでは出来るだけ利用しない方向で進めるのがベストだと感じます。親族としても本人としても、あまりお金をかけたくない、という方が多いような印象を受けます。士業を利用するとしても書類作成のみ、またはピンポイントでの相談のみに絞るのが利用者にとっても士業にとっても良いと感じます。士業が監督人などになったとしても、出来ることは限られています。また報酬が毎年発生することに抵抗がある方もいらっしゃいます。

次に民事信託の活用可能性について、アメリカの撤回可能な生前信託と統一財産管理信託法を参考にしながら、記述されています。特徴は次の通りです。

・裁判所を通さずに、譲渡証書のサンプルを利用して財産を受託者に移転することで、統一財産管理信託法に服する信託が成立すること。

・成年後見制度との親和性が高い(受益者の能力喪失時にも受託者の信託事務処理の監督的規定が置かれているなど)。

具体的活用方法

・夫婦二人が金銭信託契約を信託銀行を受託者として設定する。

・信託設定と同時に、夫婦二人が同じ公的機関を任意後見人として、任意後見契約を締結する。

・信託銀行と公的機関はお互い連携できる状態にしておく。

・任意後見人に指図権を行使させる。

・特約付定期払い金銭信託

新井教授が想定する民事信託と任意後見のハイブリッド活用法は、機能すると考えます。公的機関は何を想定しているのか、図に載っていない任意後見監督人は就任するのか、信託銀行(会社)が近くにない都道府県はどうするのか、というところは措いておきます。私には公的機関が思い浮かびません。

原則的な民事信託として、受託者に親族ではなく、信託銀行を置いているのは、新井教授なりの考えがあるのだと感じました。


[1] №581 2020.7日本司法書士会連合会P4~

[2] https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

[3] 1999 Recommendations for the protection of incapacitated adults