渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務支援案100条(5)」

 

市民と法[1]の記事からです。

【表】の信託組成相談の業務の法的性格の中に「誰でもできる相談」という項目が加わっているのが印象に残りました。金融機関の職員などを指しているのでしょうか。

信託契約書を作成する段階、不動産、商業・法人登記申請を代理する段階で個別に委任契約を締結する、というのは司法書士法3条に照らして妥当だと考えます。包括受任を行うこと自体が双方代理→利益相反と事実認定されてしまいかねないのは業務を行う上で、1つのリスクとして覚えておく必要があると感じました。

最も注意すべきことは、民事信託支援業務において、信託組成支援に関する部分は、その対象財産たる不動産の価額からして(簡裁訴訟代理の範囲を超えて)、法律整序事務であることである。

 私がこれまで取り扱ってきた民事信託業務においても、不動産、自社株式、お金、借地権など140万円未満という事例はありません。民事信託業務の性格からしても法律整序事務を超えることは難しいのかなと感じます。極端に考えると、司法書士が不動産仲介業を行っても良いのか、という問いに置き換えることも出来ると思います。

最近では、一部の士業者の説得によって、依頼者が、信託の枠だけをつくっておくような信託組成が、信託銀行の担当者から警告されている。

 資産を分散させるために、とりあえず管理会社を作っておく、というような発想に近いのかなと感じました。ただ、それが絶対に駄目なのかというと、現在のところ私には分かりません。とりあえずお墓を買っておく、とりあえず保険に入っておく、ということは普段聞く話です。また信託銀行の富裕層と呼ばれている方に対する営業で、そのようなお話を聞くこともあります。

 他に懸念するのは、依頼者からの申立てを除いて司法書士会からの懲戒処分があるとすれば、司法書士関連団体の役員や日本司法書士会連合会の委員・役員ではなく、少数派の、言う事を聞かない自分の頭で考えて行動する司法書士じゃないかということです。

 私に届く(一社)民事信託推進センターからの通知や対応、岡根昇法書士などからの陰湿な攻撃で既に表面化しています。まだ懲戒事例が蓄積されていないので、切っても影響が少ない司法書士や司法書士法人は、処分しやすいのかもしれません。司法書士会、日司連に完全な自浄作用はもとから希望していませんが、街の、市民の法律家を名乗るのであれば法令に基づいて処分して欲しいところです。

 説得、セールス、過剰宣伝、他人の法律関係への介入。この線引きが私にはなかなか難しいです。私はホームページで情報発信をしていますが、ホームページの記事で既に説得、セールスしているんじゃないか、と言われれば、違います、とはいえません。「信託は、法律家であれば誰でもできるものではありません。」、「これまで100件以上実行しています。」「民事信託の担い手である専門家は、日々の業務の合間に、手探りで民事信託を勉強せざるを得ない方が多いのが実情です。」などは使わないようにしていますが、注意するのはそれぐらいです。

 司法書士の家族信託コンサルティングの過剰報酬額についての指摘には、適切な計算方法が明示されてこそだと思います。これからはホームページで明示していく士業も増えていくと思いますし、見積書を他の士業にみてもらう依頼者も増えていくのではないかと思います。

 私はどちらかというと、司法書士が司法書士に対する家族信託支援を行う際の報酬を受け取る根拠や理論構成について興味があります。法律相談・法律事務以外で構成出来ないと思います。出来るのであれば教えて下さい。ただ、以前から家族信託だけではなく、司法書士から司法書士に対する集客、業務、経営コンサルティングはあって、学校や研究会・法人という形で月3000円から4万円の会費を徴収してそれなりに成り立っている様子をみると、そういう時代なんだろうなと諦めます。

 

 

 

[1] 127号2021年2月P31~民事法研究会

2021年1月30日受取 通知書 一般社団法人民事信託推進センター会員宮城直殿 令和 3 年 1 月 29日 一般社団法人民事信託推進センター代表理事 山崎芳乃 同押井崇 

記 当法人は、令和 2 年 10 月 15 日付通知書において、貴殿に対して、ウェブサイト「not e」 から、当法人が主催する「民事信託実務入門講座」の講義レジュメの掲載を削除するよう要求しました。しかし、貴殿はその通知書を貴殿のホームページ内に掲載し、当法人の要求には応じず、当法人に対して何らの回答もありません。貴殿は、その後も、貴殿のホームページ上において、当法人の会員および受講者に向けた「民事信託実務入門講座」をはじめとする当法人主催の講座に関する 研究発表内容を取り上げ、研究発表者の個別氏名を公開しています。さらに、貴殿が、同講座に関するレジュメ等一式を、前述の「note」において販売していた行為も確認されています。貴殿のこれらの行為は、当法人の名誉を傷つけるものであり、また、当法人定款第 5 条で定める「当法人の事業に賛同している」会員とは到底言い難く、看過することはできません。よって、当法人は、貴殿に対して、2 月 12 日(金)までに、上記一連の行為に関する貴殿の弁明及び見解等を、書面で回答することを求めるものです。以上

「預金を信託財産とする受託者の死亡及び預金口座への差押に対する実務対応シミュレーション」

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2021年01月26日一般社団法人民事信託推進センター

第1回 テーマ別民事信託研究会 金森健一弁護士

研修の前に以下のメールが届きました。

2021年01月22日一般社団法人民事信託推進センター事務局

平素より当社団の活動にご協力いただきありがとうございます。

さて、標記研究会開催に際して、Zoomに、議論参加者として招待させていただきます。

2021年01月26日一般社団法人民事信託推進センター事務局

「第1回 テーマ別民事信託研究会」の参加登録ありがとうございました。

当日は聴講者として参加をお願いいたします。

 また、質問等はQ&Aではなく、当日のご発言にてお願いいたします。当会は約2時間の中で議論をすることにより理解を深めるための勉強会です。講演会ではありません。(このような趣旨から、当日の議論の動画はHP掲載をせず、公開することもありません。)?レコーディングされていましたが。。。

研修当日に講義参加者から聴講者に代わるのは良いのですが、チャットで講義参加者以外とやりとりする機会がなく、少し残念な印象です。オフライン研修・zoomの良いところだと思うのですが、使える機能は使った方が良いのではないかなと思います。雑談からの発見や事例共有もあると思います(講演会ではないからこそ。)。昨日も遠慮気味に2件コメントしましたが、誰からも返信がありませんでした。本稿は、未定稿であり、他に掲載する予定もございますため無断引用はご遠慮ください。研修資料に無断引用はご遠慮下さい、とありました。理由は、1、未定稿であること、2、他に掲載する予定があることです。1、に関しては、確定稿(決定稿・確定原稿)が紙の記事になるという意味だと思うのですが、確定稿に関して議論になる場面もあることからすると、引用は駄目という理由としては弱くないかな、というのが感想です。2、に関して、1と同じ理由です。加えるとすると、この勉強会を使って他に掲載する予定の記事が充実する可能性もあると思います。逆に記事の質が落ちる可能性があれば教えて下さい。そのような機会を設けて引用は駄目、という理由が私には分からなかかったので、知っている方がいらっしゃったら教えて下さい。論文の査読を受けて、査読者から指摘があった場合、草稿を他の人に見せて意見を聴く場面を設けたとします。他の人が引用を行った場合、何か問題があるのでしょうか。転載、加工、自分で考えたかのように表現するのは問題があると思いますが、引用に問題がある理由が分かりませんでした。

・引用についての備忘録

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・(一社)民事信託推進センターから著作権法違反の通知が届きました。

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・準第3者異議訴訟・・・第3者異議の訴えの準用(信託法23条による民事執行法38条の準用)。略語で法令用語ではない。信託法の範囲内で、第3者異議の訴えと同じように扱う、という意味。原則として受益者が異議を申し立てることを想定されているようです。実際に申し立てるのは受託者になると思います。

・請求異議訴訟を提起する場合の請求の趣旨は、第三者異議訴訟の場合と同じでは駄目なのか?・・・請求権の消滅原因事実も主張立証する必要があるので、同じではない。請求異議訴訟は、原告の請求権そのものを消滅させるために提訴する。第三者異議訴訟は、原告の請求権そのものは認めるけれど、その物は被告の物じゃないから取って行かないで下さい、と強制執行を止めるために提訴する。

請求異議訴訟の訴訟物

・債務名義の執行力の排除を求める形成権たる執行法上の異議権(大阪高判昭和55年5月28日)

請求異議訴訟の要件事実(債務名義が裁判の場合)

1.原告を債務者とする請求権につき確定判決の存在

2.1の請求権の口頭弁論終結後の消滅、阻止事由

第三者異議訴訟の訴訟物

・具体的執行又は執行処分に対する執行法上の異議権

第三者異議訴訟の要件事実

1.具体的執行行為が開始されたこと

2.1の執行の目的物について原告の所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利の発生原因事実

・請求異議の請求の趣旨において、固有財産限定債権であることを記載する必要があるか。固有財産限定債権とは何だろう?法令用語として探すことは出来ませんでした。固有財産等責任負担債務(信託法22条1項本文)を債権者からみた用語、限定責任信託(信託法216条)を参考にした用語なのかなと想像しました。

・信託財産の独立保全機能は、預金契約の特約がなされてはじめて生じることが確認されたのか?

・・・1、屋号口座、2、受託者名義で、信託契約公正証書に口座情報が記載されている口座、3、通常の信託口口座(名義が信託口口座であり、金融機関のシステム管理上も受託者の個人口座とは別人格の口座として管理されている口座の3つに大別してみます。全ての口座について、預金契約の特約がなされない限り、信託財産の独立保全機能は働かないのか。限定責任信託との取引では、登記事項証明書を確認して信託財産の独立保全機能を確保することが出来ます。登記事項証明書が法令にも明確に記載されていて、公的な証明書として一番の証拠力を持つと考えてみます。上に挙げた3つの口座は、法令への記載(あえて書くなら信託法34条)、公的な証明(間接的に信託行為に係る公正証書)について、若干弱い印象を受けます。私は、1、2、3の順で証拠力が高くなる(執行停止許可の決定が出るまでの時間が速くなる。)と考えます。2と3の違いである金融機関内部の情報については、提訴時には受託者(または受益者)が主張・立証することが難しくなります。金融機関としては、第三債務者の陳述書において説明して頂けると執行事務もスムーズに流れるのではないかと考えます。例えばオリックス銀行であれば、家族信託預金特約の説明書を第三債務者の陳述書に添付し裁判所に提出する方法を考えることが出来ます。

オリックス銀行「信託口口座「eダイレクト預金<家族信託預金特約」について>」

https://www.orixbank.co.jp/personal/trust/familytrust/pdf/edirect.pdf

本口座の預金は受託者個人名義の付保対象預金等と名寄せされます。

・信託口口座を開設することは、金融機関にとってコスト負担が高いのか。

・・・私の実感では顧客によるのだと思います。数億の借入れや預貯金があったり、取引期間が長かったりする顧客に対して信託口口座を作成するするということは、少なくとも依頼者(委託者)が認知症などを発症してから亡くなるまでは取引を継続することが出来て、信託終了後の所有者が引き続きその金融機関で取引を継続する可能性も高くなります。

・信託口口座を開設することは、依頼者にとってコスト負担が高いのか。

・・・現在、沖縄県内では、信託口口座を開設するために金融機関に費用を支払う必要はありません。ただし、信託行為を公正証書にすることが求められるので、その分の費用と、公証センターとのやり取りは多少高く感じる方もいらっしゃると思います。

・請求異議訴訟では、固有財産限定責任債務かどうかは既判力で排除される?

・・・私は、確定判決が債務名義となっている場合は既判力が働くのではないかと考えます。

・請求異議訴訟、第三者異議訴訟において、異議事由の限定はあるか。口頭弁論で受託者が信託財産かどうかを主張する義務がある?

・・・主張する義務はあると考えます。

・債務不履行(民法415条)ではなく、不法行為(民法709条)だから難しい?

・・・債務不履行による損害賠償の場合は、債務を履行したということを受託者が立証する必要があり、その中で信託事務として履行したのか否か主張することが出来ます。不法行為による損害賠償においては、損害を受けた側がどのような損害を受けたのか、主張立証する必要があります。その中で受託者は、「あの加害行為は信託事務として行ったものです。」「あの時は個人的な行為という認識でした。」と立証を行うのは難しいかもしれません。

・第三者に対する陳述書に対して、金融機関が「支払う」という回答をすることができるか。供託までいくか。

・・・金融機関が信託契約について、事前審査を行っている場合、「支払う」という回答を行うことは出来ないと考えます。「差し押さえるべき債権が不特定」という回答になるのではないでしょうか。また受託者個人の名義以外の名義には、差押えの効力が及ばないと考えることも出来ます。

権利供託は可能だと考えます。また、民事執行事務・供託手続について、電子申請が一連の流れの中で可能となれば、利用は進み金融機関の負担も軽くなるのではないかと感じます。

債権差押命令申立書の差押債権目録に、支店以上に細かく(信託口、受託者)など書けるか?

・・・可能だと考えます(民事執行規則133条2項、「民事執行の実務第3版債権執行編上」きんざい平成27年P100)。

 受託者の交代があった場合、旧受託者名義口座から払うのか、新しい名義に替えて支払うのか。

・・・信託行為の内容、受託者の交代の理由によりますが、原則として新しい名義に替えて支払うことになると考えます(信託法75条、76条)。

 受託者の交代は包括承継(相続か会社分割)か特定承継か。信託法に基づく包括承継であれば、金融機関は受託者の相続人に支払うと過失がないとはいえない?

信託法に基づく包括承継なら新受託者は屋号口座でも訴訟で勝てる?

・・・包括承継か特定承継かは信託行為の内容によって変わってくるのではないかと考えます。包括承継であれば、金融機関が受託者の相続人に支払うと過失があると判断される可能性があるかといえば、あり得ると考えます。特定承継と構成しても、金融機関が受託者の相続人に払い戻した場合、その審査方法によっては過失有りと認定される可能性はあると考えます。包括承継なら新受託者は屋号口座でも金融機関との訴訟に勝てるか、については勝てる可能性が高いと思いますが信託口口座より時間がかかると思います。

参考

 法令執務研究会編「新訂ワークブック法制執務」ぎょうせいP718

別冊NBL編集部編「信託法改正要綱試案と解説」商事法務P92

遠藤俊英ほか監修「金融機関の法務対策5000講1巻」(一社)金融財政事情研究会2018P1171 

道垣内弘人編「条解信託法」弘文堂2017P114

遠藤俊英ほか監修「金融機関の法務対策5000講1巻」(一社)金融財政事情研究会2018P1417

平成31年(受)第427号,第428号 遺言無効確認請求本訴,死因贈与契約存在確認等請求反訴事件令和3年1月18日 第一小法廷判決

 

[blogcard url=”https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89956″]

事件番号 平成31(受)427号

事件名  遺言無効確認請求本訴,死因贈与契約存在確認等請求反訴事件

裁判年月日 令和3年1月18日 法廷名  最高裁判所第一小法廷

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小法廷と大法廷の違い 裁判所HP

[blogcard url=”https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20915005.pdf”]

Q 最高裁判所の大法廷と小法廷とは,どう違うのですか?

A 最高裁判所には,最高裁判所長官を含む15人の裁判官全員で構成する大法廷(定足数9人)と5人の裁判官で構成する三つの小法廷(定足数3人)があります。すべての事件は,まず小法廷で審理して,ほとんどの事件がこの審理及び裁判で終了します。小法廷で審理した事件の中で,法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するときなどに限って,事件を大法廷に移して審理及び裁判をすることになります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

裁判種別 判決

結果 破棄差戻

原審裁判所名     名古屋高等裁判所

原審事件番号     平成30(ネ)464号

原審裁判年月日 平成30年10月26日

判示事項           

 自筆遺言証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって同証書による遺言が無効となるものではないとされた事例

平成31年(受)第427号,第428号 遺言無効確認請求本訴,死因贈与契

約存在確認等請求反訴事件

令和3年1月18日 第一小法廷判決

主 文

 原判決を破棄する。

 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

 理 由

平成31年(受)第427号上告代理人菊地隆太ほかの上告受理申立て理由及び同第428号上告代理人後藤武夫ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除された部分を除く。)について

1 本件の本訴請求は,亡Aが作成した平成27年4月13日付け自筆証書(以下「本件遺言書」という。)による遺言(以下「本件遺言」という。)について,被上告人らが,本件遺言書に本件遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているなどと主張して,上告人らに対し,本件遺言が無効であることの確認等を求めるものである。

2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人らはAの妻であるX1及び同人とAとの間の子らであり,平成31年(受)第428号上告人ら(以下「上告人Y2ら」という。)はAの内縁の妻であるY2及び同人とAとの間の子らである。

(2) Aは,平成27年4月13日,入院先の病院において,本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日,弁護士の立会いの下,押印した。本件遺言の内容は,第1審判決別紙遺産目録記載の財産を上告人Y2らに遺贈し,又は相続させるなどというものであった。

(3) Aは,平成27年5月13日,死亡した。

3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの本

訴請求を認容すべきものとした。

自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず,本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。自筆証書である遺言書に記載された日付が真実遺言が成立した日の日付と相違しても,その記載された日付が誤記であること及び真実遺言が成立した日が上記遺言書の記載その他から容易に判明する場合には,上記の日付の誤りは遺言を無効とするものではないと解されるが,Aが本件遺言書に「平成27年5月10日」と記載する積もりで誤って「平成27年4月13日」と記載したとは認められず,また,真実遺言が成立した日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するともいえない。よって,本件遺言は,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。

 

4 しかしながら,本件遺言を無効とした原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決・裁判集民事120号531頁参照),前記事実関係の下においては,本件遺言が成立した日は,押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり,本件遺言書には,同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず,これと相違する日付が記載されていることになる。

しかしながら,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。

したがって,Aが,入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決

[blogcard url=”https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/525/074525_hanrei.pdf”]

抜粋

・民法九六八条によれば、自筆証書によつて遺言をするには、遺言者がその全文、日附及び氏名を自書し印をおさなければならず、右の日附の記載は遺言の成立の時期を明確にするために必要とされるのであるから、真実遺言が成立した日の日附を記載しなければならない。

民法968条1項

[blogcard url=”https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089″]

(自筆証書遺言)

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

 

5 以上によれば,本件遺言を無効とした原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決中本訴請求に関する部分は破棄を免れず,本件遺言のその余の無効事由について更に審理を尽くさせるために,これを原審に差し戻すのが相当である。そして,本件の反訴請求は,上告人Y2らが,被上告人らに対し,本訴請求において本件遺言が無効であると判断された場合に,予備的に,死因贈与契約の成立の確認等を求めるものであるところ,本訴請求について原判決が破棄差戻しを免れない以上,反訴請求についても当然に原判決は破棄差戻しを免れない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・上告って

 高等裁判所がした判決に対して,判決宣告があった日の翌日から起算して14日以内に最高裁判所に不服申立てをすることです。

裁判所HP

https://www.courts.go.jp/hiroshima-h/vc-files/hiroshima-h/file/202017.pdf

・破棄差戻しって

 憲法解釈の誤りがあるか、法律に定められた重大な訴訟手続の違反事由があるから、もう一回元の裁判所で審理してもらう。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_01_02_04/index.html

「家族信託ファクトブック2020―第3章 一般向けアンケート結果の報告)―」より

「家族信託ファクトブック2020」(2020年11月、一般社団法人家族信託普及協会)からです。

回答者300名

年齢・性別 40代を筆頭として50代、60代、70代、80代と続く。男性の割合が各年代において6~9割。

相続における立場 自身が親、自身が推定相続人(親が認知症など)、自身が推定相続人(親が認証などではない)が各約3分の1

住居形態 一戸建て約8割、マンション2割

地域 二桁の回答者は、北海道、関東の一部、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県。沖縄県は0件。

Q1.あなたは今後の相続について、検討を始めていますか。

Q2.検討していない理由は何ですか。

Q3-1.今回のコロナ禍を受けて、「相続」や「親が認知症になった際の財産管理」

について家族と話す機会は。

Q3-2.今回のコロナ禍を受けて、「相続」や「親が認知症になった際の財産管理」

にまつわる対策について、感じ方の変化は。

Q4.財産について、お考えに近いものをお答えください。

Q5.財産の分配についてもお答えください。

Q6.相続について、家族と話をしていますか。

Q7.主にどういう点について相談されましたか。

Q8.お話のきっかけは何でしたか。

Q9.お話(ご相談)をしていかがでしたか。

Q10-1.相続について話さない理由は何ですか。

Q10-2.親が認知症の場合の相談相手。

Q11.あなたは、ご自身の家族に対する感謝の気持ちや想いを、伝えたことがありますか。

Q12.あなたは自分の資産内容を把握していますか。

Q13.以下の項目の中であなたが行なっていることをお答えください。

遺言書の作成、エンディングノートの作成、専門家への相談、後見人の指定、書籍での学習、セミナー等への参加

Q14.遺言書を作成したタイミング、及び作成の理由は。

Q15.専門家に相談しない理由は。

Q16.相続について不安に感じることをあげてください。

Q17.あなたは相続に関する情報はどこから入手されましたか(する予定ですか)。

Q18.あなたは、平成27年から相続税の基礎控除が引き下げられ、相続税を支払うべき対象が十全より拡大していることをご存じですか。

Q19-1.あなたは、令和元年より相続人ではない親族でも被相続人の介護などで財産の増加・維持に貢献している場合は相続税時、相続人へ金銭の請求権が発生することを知っていますか。

Q19-2.無償の介護・看病等を行った相続人以外の親族に対する財産の配分は。

Q20.あなたは、親が認知症になった場合、銀行口座などが凍結されて、後見人以外は配偶者や子供であっても、お金を引き出すことができなくなることをご存じですか。

Q21.あなたは、親が認知症になった場合、土地の売買などの契約行為が被相続人自身にできなくなることをご存じですか。

Q22.あなたは、親が認知症になった場合、「成年後見制度」を利用すると対象者が亡くなるまでやめられないことをご存じですか。

Q23.あなたは、親が認知症になった場合、「成年後見制度」を利用すると弁護士等、後見監督人へ報酬が発生することをご存じですか。

Q24.仮に親世代が認知症を発症した場合、成年後見制度を利用したい(してほしい)と思いますか。

Q25.成年後見制度を利用する場合、後見人にふさわしいのは誰ですか。

Q26.家族信託という制度をどの程度ご存じですか。

Q27.あなたは家族信託をどこで知りましたか。

Q28.家族信託を利用したいと思いますか。

Q29.家族信託のメリットは何だと思われますか。

まずは、29問あるアンケートに300名もの方々が答えて下さっているのが有難いなという感想を持ちました。協会主催のセミナーを受講した際にアンケート用紙が配られたのか、ウェブで行ったのか、期間はどのくらいだったのかは記載されていませんでした。

Q1.については、親、子世代とも約6割が何らかの検討を始めてとの結果です。何かしらしなくちゃいけないんだろうな、と考えているような時期かもしれません。

Q2.について、検討するほどの財産がないから、というのが1位を占めています。各家庭で検討すべきか、そうでないかは違って来るのだと思います。時間の経過とともに変化することもあると思います。定期的にチェック出来るようなアプリなどがあると良いのかな、と感じました。LINEでの簡単な相談が出来たりするのも良いのかもしれません。まず一歩踏み出すと結構意識が変わったりすることがあります。また、過去に専門家に相談して嫌な思いをした方もいるのかもしれません。費用がかかりそうだから、というの理由がなかったのが意外でした。

Q3―1.3-2.について、特徴的なのは認知症の親を持つ子世帯で、相談の機会が増えたという回答も、減ったという回答も、それぞれ平均を上回っています。また、コロナ禍の中で親や配偶者の認知症が進んでいるようにみえるので、作成した遺言書を書き直した方が良いのか、と相談にいらっしゃる方もいました。同居、別居でも違うのかなと感じます。

 今回のコロナ禍を受けて、「相続」や「親が認知症になった際の財産管理」にまつわる対策についての感じ方の変化として、何らかの対策はしておくべきだと現実的に感じた方の割合が約2割います。私たちが経験したことのない状況で何らかの危機感、不安を感じるのは納得感があります。私も同様で、コロナ禍以前と以後では、業務に関する感じ方は変化しています。

Q4.について、できるだけ多くの資産を子に遺すのがよい、資産は親が適度に使い、残った分を子に相続させるのがよい、の2項目で約7割を占めます。どちらにしてもどのような形の資産を、誰に渡す(残す)のかについては、回答者の方はある程度具体的な意向があるのだなと感じます。

Q5.について、親は子供たちに対し、均等に配分するのが平等と考えているののが6割。子のほうは親への貢献(家業の承継や介護)を考慮してほしいとの回答が5割近くに達しています。親の意思が固く決まっている場合は良いと思います。生前贈与でも対応できる部分はあります。子の要求を親に求めると、親がどのように決めても子の不安が残る事案が少なくないような気がします。先に子ども同士で合意してから、親に聞いてみるのが親の負担が少ないような気がします。子どもといっても30代~60代だと思われるので、とても不平等だ、ということでもない限りは、譲歩し合うこともできるのではないでしょうか。

 債務がない(または資産より少ない)だけでも、話し合いはやりやすいものということを少しでも頭に入れても良いのかなと感じます。

Q6,Q7.Q8. Q9.について、4 人に1 人強が家族で相続に関する話をしるようです。相続だけに限らず、介護や認知症になった際の対応、万一の際の葬儀やお墓についてなど、広く親の老後について話されているようです。

 話のきっかけとなったのは「親の怪我や病気」が5割超でした。具体的な健康不安を感じた時や、親戚など身近な不幸に接した時などに、改めて先のことを話し合っておかなければと思われる方が多いのは、納得感があります。話をした結果、72%の方にとって、こうした親子のコミュニケーションが、具体的な相続対策を検討するよいきっかけとなっているようです、との記載がありますが、ここについては私は分かりませんでした。親と子供全員なのか、一部の子だけなのかで変わってくるのではないかと思います。

Q10-1. Q10-2.について、相談したいが話をするきっかけがない、何も検討していないので相談できないが5割超を占めています。親子ってそういうもんだよなぁ、と感じます。親が認知症の場合の相談相手に、自分の配偶者を挙げている方が回答100名のうち、9名いらっしゃいます。第三者的な方の意見を聴くのは有意義なことだと思います。ただし、他の兄弟姉妹からみるとあまり良い気持ちをしない方がいらっしゃる場合もあります。この辺は難しいところだな、と感じます。

Q11.については、質問の趣旨が分かりませんでした。

Q12.Q13. Q14. Q15.について、資産内容の把握をしている方は、預貯金など管理しやすいものは高く、老後の生活資金など不確定のものは低いです。普通の結果だと思います。

 遺言書・エンディングノートを作成した、または作成を検討している方と書籍での学習をされている方が2割を超えています。自分で決めておきたい、という方は一定数いるのが分かります。遺言書を作成したタイミングとして、還暦、古希など一定の年齢に達した際という項目が一番多く48パーセントでした。私の依頼者にそのような方はいなかったので、記念のようで良いなと感じました。

 専門家に相談しない理由として、信用できる専門家が身近にいないから、何を相談すればよいかわからないから、知人などの例を見ても、事前に相談しなくても特に問題はないと思われるから、で8割以上を占めます。ファクトブックでは、専門家への敷居の高さを原因としています。私は少し違うと思います。顔が見えない、人柄が分からない、費用がどのように計算されているのか分からない、など公開されている情報の中身があまりないことが原因ではないかなと感じます。

Q16. Q17. Q18. Q19-1. Q19-2.について、3割強が相続について家族間で相談しにくい、1割強が相続に関する知識がないと回答しています。人生で1度か2度くらいしか経験しないことなので、当然のことかなと感じます。相続という大きな括りではなく、1つ(例えば葬儀費用)などについてだけ決めておくだけでも違ったりするのではないか、と感じます。

 相続に関する情報については、雑誌や書籍、ホームページ、家族親戚など、様々なところから収集しているという結果です。今の時代だと訊いていないのに流れてくる状態だと思います。情報過多になっても疲れて結局何もしないで良いや、となってしまいがちなので、難しいなと感じます。

 相続税の基礎控除の引き下げについては、不動産を持っている方は知っている方が多いという印象です。令和元年の民法(相続関係)改正の寄与分については、知っている方が3割いるようです。意外と多いなぁという印象です。

Q20.からQ29.について、成年後見制度と家族信託制度に関する質問です。

 現在、一定限度で親が認知症になった場合でも、銀行口座から配偶者や子供であっても、お金を引き出すことができるようになっている金融機関もあるようです。今後もその流れは広がるのではないかと思います。

 親が認知症になった場合、土地の売買などの契約行為が親にできなくなることをご存じですか、の項目に6割の方は知らなかった、と回答しています。土地の売買、区画整理、銀行融資、保険金受取などがない限り、契約行為でも出来てしまう実態があるので、6割の方が知らないのも無理はないと思います。例えば200万円位のペンキの塗り替え工事を所有者である親のお金を使って子どもがサインする、ということは日常的に行われています。

 成年後見制度を利用すると対象者が亡くなるまでやめられない、というのは誤りです。後見事務の負担が大きく無理であれば辞任することが出来ます。その代わりに市民後見人か他の親族・士業などが就くという建てつけです。

成年後見制度を利用したい人は、約1割です。多くはないですが少なくもないと思います。

なお、家族信託を利用したい人の割合は1割超とあまり変わらないのが意外でした。

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