メールマガジン2019年07月23日号

家族信託専門コンサルタント、川嵜一夫司法書士のメールマガジンです。

川嵜先生とは、小冊子の件でお世話になっています。

以下全文引用です。

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信託の遺留分のお話し

おはようございます。

家族信託専門コンサルタントで司法書士の川嵜です。

このメルマガは、家族信託の実務家向けです。

一般の人はちょっと難しいかも。

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先週のメルマガはお休みさせていただきました。

m(_ _)m

ちょっと最近、忙しすぎて、休みが必要だなと思いましたので。

すいません。

自主休刊でした。

先週は、

火曜に新潟大学で講義。

水、木は神奈川に出張。

金は事務所で仕事。(週に1日だけ)

土曜は宮城県司法書士会で研修会。

こんな感じで、大変なんです。(汗)

ご容赦ください。

新潟大学のテーマは民事信託。学生にとって身近な話題でお話しさせていただきました。

親や祖父母が認知症になったらどうなるか。

宮城県司法書士会さんでは、民事信託を使った事業承継をテーマに研修会をさせていただきました。

上層部の人もこのメルマガを読んでいるとのこと。

恐縮してしまいました。(汗)

どちらも、100名を超える参加者で、熱気ムンムン。

私もパワー全開でお話しさせていただきました。

今日も新潟大学で講義なので、頑張ってきます!

■■ 今回は遺留分のお話し

最近のメルマガは、信託の終了シリーズ

受益者連続の信託の終了のタイミング

信託の清算と結了

帰属権利者

今回は終了シリーズの4回目です。

内容は遺留分。特に受益者連続の。

まだ判決等で確定していませんが、主流な考え方をお伝えしますね。

■■ 家族構成

父、母、長男、二男

の4人家族

お父さんが、自分の資産の多くを長男に信託

委託者:父

受託者:長男

受益者:父 ⇒ 母 ⇒ 長男(帰属権利者)

何ももらえなかった二男は、遺留分の請求をできるかという問題です。

■■ お父さん死亡時

受益権が

父 ⇒ 母

に移ります。

このとき、二男は、お母さんに遺留分の請求ができます。

7月以降は、民法が変わるので、金銭請求になるのだと思います。

■■ お母さん死亡時

受益権が

母 ⇒ 長男

に移ります。

このとき、二男は、長男に遺留分の請求ができません。

え?!

もう一度言いますよ。

このとき、二男は、長男に遺留分の請求ができません。

これ、通説的な考えです。

なぜか?

実は、信託で後継ぎ遺贈型の受益者連続が認められた理由と深く結びついています。

■■ 遺言では後継ぎ遺贈型は無効

このような遺言ね。

*************

私の財産は、妻に相続させる。

妻が私から相続した財産は、妻が亡くなったら、長男に相続させる。

*************

これは、最高裁判決で明確に無効とされています。

しかし、これが信託なら可能になる。

遺言で無効な内容が、信託では有効。

どう理論づけたらいいのか?

立法担当者たちは、頭をひねったと思います。

(と、勝手に想像(汗))

■■ ポイントは、長男は受益権をだれから取得するのか?

後継ぎ遺贈型の【遺言】では、

母の財産を、

母 ⇒ 息子

とする内容。これを「父」が遺言で、書く。

自分の財産でないものを遺言ではかけないですよね。

信託ではどうか?

受益者が

父 ⇒ 母 ⇒ 長男

と動く。

ポイントは受益権の「期限」

●母が取得する受益権

母が取得する受益権は

母が死亡するまでの不確定な「終期」つきの受益権。

これを「父」から取得します。

当然ですね。

ですから遺留分の対象になる。

●息子が取得する受益権

息子が取得する受益権は、

母が死亡してから始まる不確定な「始期」つきの受益権。

これを「父」から取得するんです。

もう一度言います。

母が死亡してから始まる不確定な「始期」つきの受益権を

「父」から取得するんです。

息子は受益権を「父」から取得するんです。

ですから、何ももらえなかった二男は、

「父」が死亡したときに、長男にも遺留分の請求をすることになります。

つまり、二男は

父死亡時

母と長男に遺留分の請求(その割合は不明)

母死亡時

遺留分の請求はできない

もちろん最高裁判決はありませんが、通説的な説です。

■■ 実は、お母さんは遺贈の意思表示をしていない

別な見方です。

遺留分の請求は遺贈や贈与に対してできますよね。意思表示がともなっています。

「お父さん、私に何も渡さない遺言書くなんて、ちょっと不公平。

だから、私にも少しちょうだい」

っていうのが遺留分の請求。

お父さんは、信託という形で意思表示していますよね。

でも、お母さんは、何も意思表示していない。

「お母さん、私に何も渡さない信託で、ちょっと不公平。

だから、私にも少しちょうだい。

って、その信託、お父さんが書いたんだっけ」

というものです。お母さん、意思表示(遺贈や信託)していないんです。

ですから、お母さんが亡くなったときに、遺留分の請求というのもちょっと違和感があります。

■■ 参考書籍

ちなみにこの考え方(終期つき、始期付きの受益権を父から取得)ですが、

信託法改正の立法担当官だった寺本昌広先生の

「逐条解説 新しい信託法」に、詳しく記載されています。

残念ながらこの本は廃版です。

アマゾンで、目玉が飛び出るような価格で中古本が取引されていますが。

でも、新井誠教授や、道垣内弘人教授などの書籍でも、同じような内容で解説されていますよ。

「条解信託法」 道垣内 弘人

https://amzn.to/30YzE5B

「信託法 第4版」 新井 誠

https://amzn.to/30NDzSv

僕もこの2冊は時々目を通しています。

特に道垣内先生の本は、逐条解説ですから、おすすめです。(ちょっと高いけど)

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最後までお読みいただきありがとうございました。

バックナンバーはこちらです。

http://abaql.biz/brd/archives/yuzzvu.html

家族信託コンサルタント

 司法書士 川嵜 一夫 (かわさき かずお)

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「つまり、二男は

父死亡時

母と長男に遺留分の請求(その割合は不明)」

「その割合は不明」、の部分について考えてみたいと思います。

前提

  • 仮に父死亡時の受益権は3000万円

考え方

父死亡時に母に移転する受益権は3000万円、長男に移転する受益権は0円

よって弟は3000万円の8分の1(4分の1法定相続分×2分の1遺留分割合)の金銭債権を母に請求。

となります。

親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない、は可能か。

家族信託専門コンサルタントで司法書士の川嵜一夫先生が、5月30日付メールマガジンに記載されていました。

「親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない。」という条項を入れて、不動産登記の信託目録にも記録する場合がある。

任意後見を利用する必要があまりない場合(親1人子一人など)に、第三者による信託終了をさせないための条項のようです。

この条項は初めてみて、機能するのかなと考えてみました。

結論としてはケースバイケースになります。

私も現在、「本信託において、信託法164条1項は適用しない。」という条項を信託契約書に入れることが多いです。理由は、委託者兼受益者が1人で信託を終了させてしまうと、民事信託・家族信託の安定性が失われるからです。

さらに、

「受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く。(1)本信託の終了に関する合意権。」という条項[1]を入れることもあります。

これは、親族に限らず民法上の成年後見人等に信託の終了に関する合意権を与えてしまうと、民事信託・家族信託が想定外のときに終了してしまう可能性があるからです。実際に機能するかは未だ分かりません。

ただし、任意後見契約に関する法律、成年後見制度の利用の促進に関する法律の趣旨、同委員会議事次第を読みながら、この表現なら調整可能だと確信したので自分で考えて入れました。信託財産に不動産がある場合、信託目録に記載はしません。信託の終了事由にいくつか記録して、「その他の事項は○○年第○○号月○○号信託契約公正証書(○○法務局所属)及びその変更を証する書面に記載」

と記録します。

さて、

「親族以外の成年後見人は、信託法164条1項の終了の意思表示ができない。」に戻ります。

この条項がどういう時に問題になり得るかというと、司法書士や弁護士が民法上の成年後見人に就いて、民事信託がされていることを知り、契約書で目にします。

「なるほど。私は法定代理人だけど、信託終了の意思表示は出来ないのか。」と考える司法書士や弁護士もいるかもしれません。

「何だこの条項は。法定代理人なんだから、信託終了の意思表示も可能に決まっている。これから自宅を売ろうとしているみたいだから、信託を終了させよう。」と考える方もいるかもしれません。

どちらが正しいのかは、成年後見人等の主観です。ただし、何が出来るかはある程度の範囲に落ち着きます。

信託を終了させたがっている成年後見人等を例に取ると、信託終了の意思表示自体は可能です。

理由は法定代理人だからです。

しかし、不動産登記は通りません。

親族以外の成年後見人だからです。よって、信託の終了を命ずる訴訟(信託法165条、166条)を提起することになります。

不動産売買契約はどうでしょうか?買主、不動産業者は受託者がどのような権限を持っているのかを調べます。その際に、受託者は忠実事務、善管注意義務を基に「成年後見人から信託終了の意思表示が届いていますけど、大丈夫ですよ。信託契約書には、信託法164条1項の終了の意思表示ができない、と書いてありますから。」と説明することになります。説明がなかった場合は、忠実義務違反、善管注意義務違反が問われます。

説明があった場合、買主は受託者と売買契約を行うでしょうか。不動産業者は仲介を行うでしょうか。私が買主だったら買いませんが、買うとしたら、この信託契約書を作成した人に対して、何かあった場合は責任を取る旨の書面を要求すると思います。

売買契約自体は、権限を持つ売主と買主の合意で締結出来て不動産登記も通るので、現金決済まで行うことが可能です(融資が絡むと別です)。

この場合も親族以外の成年後見人は、信託の終了を命ずる裁判(信託法165条、166条)その他の民法上の責任を問う訴訟を提起することになります。

預貯金はどうでしょうか。例えば、受託者が1億円分の預金を管理していて、同居している本人と自分の旅行、株式投資、金の売買、先物取引などを信託財産で信託契約に基づいて行っているとします。

この場合は、成年後見人等の管理している通帳に幾ら入っていて、その金額で業務が出来るのか、本人の1億円がゼロになっても生活していけるか、などのバランスが考慮されることになります。

金融機関は、信託契約書を保管していて、成年後見人等からの信託終了の意思表示だけでは、民事信託・家族信託専用口座を解約する可能性は低いのではないかと考えます。

信託の終了を命ずる訴訟(信託法165条、166条)の判決文などが必要になってくると思われます。

いずれにしても、訴訟になってしまうと時間とお金を費やして、精神的負担が生じます。

私の感想は、表現が少し過激かな、というものです。


[1] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第

法人の目的 信託業法に抵触しない信託の引き受け

一般社団法人の設立の際、依頼者と「将来民事信託の受託者になり得るかもしれないですね。」と定款の目的欄に主要な事業に追加して「信託の引き受け」を記載しました。

那覇公証センターに定款案を提出したところ、「信託の引き受け」を「信託業法に抵触しない信託の引き受け」に訂正の指示があり、直ぐに訂正しました。

「信託業法に抵触しない信託の引き受け」は、あらゆる書籍で観ることができます[1]

ただし、その理由については家族信託・民事信託であること、信託業法に抵触しないことを強調する、という目的に書いてある通りの理由しか今のところ聞いたことがありません(他にあれば教えてください。)。

その他に、法人の目的で「~業法に抵触しない○○」という記載の仕方はあるのでしょうか。

例えば、建設業法に抵触しない建設、宅地建物取引業法に抵触しない宅地建物取引。

私は未だ見たことがありません。

まず基本法としての信託法があり、特別法として信託業法があります。受託者においても、信託法第7条の資格要件を満たした者は、個人・法人を問わず受託者となることが出来るのが原則です。例え法人の目的に記載が無くても。

沖縄県内の現在の金融機関は、法人の目的に信託の引き受け、不動産の管理、等が入っていないと信託口口座を作成出来ません。

 例外として、仕事(業、営業、業務)として信託の引き受けを行う場合は、免許が必要国が定めた免許が必要になる、という形です。

このような考えを辿ると、家族信託・民事信託では、「信託の引き受け」の方がまともだと以前から思っているのですが。

「信託業」が×なのは、特別法があるから分かります(少し宅地建物取引業法の場合に似ています。)。

受託者の営利を目的としないのが信託法なのだから、同じことを2回書いているようで変な感じです。

でも公証センターから指摘されたら訂正します。


[1] 遠藤英嗣「新訂新しい家族信託」2016P593など。

信託口口座開設(拒否)

信託公正証書作成日の前日、信託口口座を開設予定の金融機関から口座開設を拒否されました。

初めてのことだったので、驚きというか疑問というか、こんな事もあり得るんだという貴重な経験でした。

民事信託・家族信託専用の信託口口座を作成する際、一般的に次の手順を踏みます。
1   信託契約(設定)書(案)を公証人役場へ送信して、公正証書作成日の予約を取る。
2   信託契約(設定)書(案)の内容がほぼ確定してきたら、公正証書作成予定日の2週間~1カ月前に口座を開設する予定の金融機関に信託契約(設定)書(案)を送信して、金融機関にとって不都合なことがないか調整を行う。
公正証書作成予定日を記載して、予定日までに調整が終わるようにする。
3   公正証書作成後、金融機関の窓口で口座開設の手続きを行う。

今回の信託は、次のようなものです。[1]

 1   自己信託(委託者兼受託者は父親、受益者は子)
 2   目的は暦年贈与(自己信託を設定し、信託口口座を利用して暦年贈与を行う。申告は毎年するが、贈与契約書の作成が不要となる。)

金融機関の支店担当者から本店からの指示として、口座開設拒否の理由をききました。
(1)当行の家族信託では、事業承継と認知症対策のみ対応している。
(2)当行をメインバンクとしているお客様のみ対応している

2つの条件を満たさない限り、口座開設は不可能という説明でした。

反論しても覆ることはないので諦めましたが、私に説明した支店の担当者も説明していて理屈が合わないと感じたのではないでしょうか。

もし何も感じていなかったら、金融機関って独特な世界だなと思います。

  • (1)については、今回の信託も認知症対策であること。受託者が認知症などになった場合は、母を次の受託者に指定しています。
  • (2)については、新規の顧客は不要という金融機関は聞いたことがない。

自己信託についても、同じ金融機関で担保付不動産を自己信託設定し、信託口口座を作成していました。

金融機関からの連絡後、公証人役場の予定キャンセル、依頼者への説明などを行いました。


[1] 参考として、『実践 一般社団法人・信託活用ハンドブック』2019清文社P182~

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