渋谷陽一郎「受益者の登記とは何か」×谷口毅「権利能力なき社団を当事者とする信託」

渋谷陽一郎「受益者の登記とは何か」×谷口毅「権利能力なき社団を当事者とする信託」

谷口毅司法書士の「権利能力なき社団を当事者とする信託」 を読んだ際、このような方法があるんだな、税金上の対策だと思うけどよく考えついたな、条文を読んでも確かに書いてあるな、と感じていました。

ただ今回、渋谷陽一郎「受益者の登記とは何か」を読んで、自分に欠けている点を見つけた。
それは、改めて通達や登記の歴史について勉強し、ちょっと気にかかるときに調べて自分の目で、頭で100%の納得を得ようとする姿勢。

谷口司法書士の事例は、地縁団体ではない権利能力なき社団が委託者兼受益者となり、信託目録の記録のうち、受益者の欄を「受益者を定める方法の定め 」とするもので、これにより代表者に課されていた健康保険料が軽くなり、委任の終了を原因と所有権移転登記をせずによくなる。
一般社団法人や認可地縁団体を設立して法人に不動産の所有権を移転するよりも登録免許税が5分の1に抑えられ、不動産取得税、譲渡取得税が原則として課されない。

谷口司法書士の受益者欄の記載に関する部分を引用
―今回は、委託者兼受益者である権利能力なき社団が受託者に通知することで、信託目録に記録すべき受益者を変更できる、という旨の定めを置いた(不動産登記法97条1項2号)。この定めを「受益者を定める方法の定め」として信託目録に記録し、具体的な受益者の住所氏名を公示しないことが可能となった。―

なぜか鉛筆でバツが付いているが、記憶がない。
渋谷陽一郎「受益者の登記とは何か」 では、旧信託法との関係、登記先例、立法担当者の説、有力な学説、受益者の法的意味の歴史的な変化について解説がされている。
私なりにまとめると、次のようになる。
1 旧信託法との関係では、信託登記の抹消申請に影響するので、信託原簿には受益者の住所・氏名が記載されている必要があった。旧法の均衡。
2 登記先例によれば、受益者には登記能力を要する、としている。
3 近年の実務において、商業登記において取締役の本人確認が出来る情報が必要になった ことと、受益者の特定をしないで登記することとの均衡
4 現在の信託法は、改正前と比べて明らかに受益者の地位を強化していること 。
5 香川保一元最高裁判事の考えは、原則として特定可能な受益者を登記する義務がある。例外として、具体的な受益者が定まっていない場合は一時的な処置として「受益者を定める方法の定め」を登記することが可能だが、特定可能になった段階で受益者変更登記が必要。

6 立法担当者の見解は条文通りに「受益者を定める方法の定め」を登記することが可能であるし、変更は受託者または受益者の任意。

7 不動産登記実務研究会は、5の考えに近い

8 改正不動産登記法の立案担当者によれば、受益者を定める方法の定めを登記している場合、後で受益者を特定することが出来たと、受益者の住所氏名等を「併せて」登記しても「差し支えない」。

1から8までを読み、考えた上で私が谷口司法書士なら次のようにします。
受益者欄には、「委託者兼受益者である権利能力なき社団が受託者に通知することで、信託目録に記録すべき受益者を変更できる」と定め、信託契約に賃料を受け取っている人全員の氏名住所を記録する 。
受益者が変わる度、受益者変更登記を行う。

信託を利用することによって、代表者の健康保険料が高額な問題と代表者の変更による所有権移転登記(登録免許税)、不動産の買取資金の負担はすでに解消されています。

不動産取得税、譲渡取得税については税務判断なので詳しい記載は控えますが、事実関係を読む限りでは、これらの税は課されないのではないか、課されるとしても、受け取っている賃料と比較したとき過大な請求にはならないのではないかと思っています。

以上、渋谷先生の記事を読んで色々と考えることを書きましたが、私が今回一番気になったのは、谷口司法書士のような登記をしてしまうと、登記が登録に近づいていくのではないか、というところです。
 どうせ登記には方法しか書かれていないし、その方法にしても読んだだけでは分からない、だったら登記なんで意味がない、まぁ登録のようなもので埋めておけば良い、ということになると自分の首を絞める結果になるのかな、と考えます。

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