民事信託の登記の諸問題(16)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(16)」からです。

信託法を審議した2006年の第165回国会では、次のような、民事信託支援業務に取り組む資格者代理人の人々が注意しておくべき参議院法務委員会の附帯決議が付されている。1つは、福祉型信託に関する附帯決議の抜粋である。

 高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託については、特にきめ細やかな支援の必要性が指摘されていることにも留意し・・・

「特にきめ細やかな支援の必要性」という表現に着目したい。信託条項の雛型や定型書式の盲目的な利用には注意しなければならない。

リンクを貼っておきます。

参議院

第165回国会 (平成18年9月26日~平成18年12月19日)

法務委員会

信託法案及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案に対する附帯決議 (平成18年12月7日)

https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/165/futai_ind.html

 特にきめ細やかな支援の必要性が指摘されていることにも留意、が信託条項の雛型や定型書式の盲目的な利用を指しているのか、分かりませんでした。

また、登記によって、実体法、手続法共に法的効果等を全く生じない無意味な情報などが過剰に並ぶ信託原簿が存在していた。

 受益者取消権(旧信託法31条)による、直接、受託者の権限外処分による取消権の対抗要件となる信託原簿から、一歩後退している信託目録になっていますが、現在の信託目録の方が記録として分かりやすくなっているのではないかと感じます。それは、信託目録の記録内容について、様々な情報があり議論がなされているからだと思います。私は信託原簿の時代に司法書士ではありませんでしたが、信託原簿が空洞化したのは、実務情報が公開されることが少なく、取り扱う専門家が一部であったことが原因なのかなと想像します。

むしろ、民事信託の登記の分野に限っていえば、従来の廃止論の経緯を忘却し、信託の専門家を称する資格者代理人の一部が「信託目録の作成は資格者代理人の腕の見せ所」や「創意工夫」などとして、法務局に対して、第三者のための公示ではなく、依頼者の利益代表としての過剰情報を提供する反面、必要情報が提供されないないなど、信託原簿時代以上に問題は深刻化しつつあるようだ(資格者代理人の法令実務精通義務違反を構成しよう)。過去の営業信託のために登記から生じた不幸が再現されないよう祈るほかない。

 法令実務精通義務違反は、司法書士法上、懲戒処分の対象となるので、もう少し明確な基準が必要じゃないかなと思います。例えば、過剰情報を提供する場合(親族など内部の個人情報に関わる。)と、必要情報が提供されない場合(第三者への公示としての登記が、意味をなさなくなる。)では、基準が異なってくるのではないかなと感じます。


[1] 898号、令和4年12月、テイハン、P134~

【文書回答事例】信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る租税特別措置法第35条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否について

税務に関する記事です。最終判断は税理士・公認会計士に相談をお願いします。

https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/01.htm#a01

1 事前照会の趣旨

 照会者(受託者)は、照会者の母(委託者兼受益者。以下「母甲」といいます。)との間で母甲の居住用家屋及びその敷地(以下「本件物件」といいます。)を信託財産とする信託契約(以下、「本件信託契約」といい、本件信託契約に係る信託を「本件信託」といいます。)を締結していたところ、本件信託は受益者の死亡を信託終了事由としていたことから、母甲の相続開始により本件信託は終了し、残余財産となった本件物件は、残余財産の帰属権利者である照会者及びその弟(以下「照会者ら」といいます。)に帰属することとなりました。

 照会者らは、母甲の相続開始日が属する年の翌年に本件物件を譲渡しましたが、その譲渡に係る譲渡所得の計算上、租税特別措置法第35条第3項《居住用財産の譲渡所得の特別控除》に規定する特例(以下「本件特例」といいます。)を適用するに当たり、本件物件が本件信託の残余財産として照会者らに帰属したこと(以下「本件帰属」といいます。)は、同項に規定する取得(相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含みます。以下同じです。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等(以下「被相続人居住用家屋等」といいます。)の取得。)に該当すると解し、その他の要件を満たす限りにおいて、本件特例の適用を受けることができると解してよいか照会します。

2 事前照会に係る取引等の事実関係

(1) 照会者らは、いずれも母甲の相続人です。

(2) 照会者は、令和2年〇月〇日、母甲との間で、委託者兼受益者を母甲、受託者を照会者、信託財産を本件物件及び金銭、本件信託の終了事由を母甲の相続開始等、本件信託終了時の残余財産の帰属権利者を照会者らとする旨の本件信託契約を締結しました。

(3) 本件信託契約においては、その信託期間を契約締結のときから委託者兼受益者が死亡したときまでとし、かつ信託期間が満了した際には信託が終了する旨定められていたため、当該契約に基づき、令和3年〇月〇日、母甲の相続開始により本件信託は終了し、残余財産となった本件物件は、照会者らへ帰属しました。

(4) 照会者らは、令和4年〇月〇日、本件物件を譲渡しました。

3 事前照会者の求める見解となることの理由

 本件特例は、譲渡をした者が「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした相続人(包括受遺者を含みます。以下同じです。)であることを要件の一つとしています。

 また、相続税法第9条の2第4項《贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利》では、受益者の死亡に基因して終了する信託に係る残余財産の帰属は、適正な対価の負担があるもの及び信託終了の直前において当該信託の受益者であった者に対するものを除いて、遺贈により取得したものとみなす旨規定されています。

 そして、本件特例が適用対象者を「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした相続人としているのは、相続人がその意思の如何にかかわらず、相続により被相続人居住用家屋等の取得をし、その後の適正管理の責任を負うことになるためと考えられますが、照会者らは、これと同様の状況にあるということができます。

 したがって、本件物件は、相続税法上のいわゆるみなし相続財産に該当すること及び照会者らは本件特例の趣旨と同様の状況にあることから、本件帰属は、本件特例に規定する「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」に該当すると考えます。

関係する法令条項等 租税特別措置法第35条

信託法第183条

回答年月日 令和4年12月20日

回答者 東京国税局審理課長

回答内容 標題のことについては、下記の理由から、貴見のとおり取り扱われるとは限りません。

 なお、この回答内容は、東京国税局としての見解であり、事前照会者の申告内容等を拘束するものではないことを申し添えます。

(理由)

租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)第35条第3項に規定する特例(以下「本件特例」といいます。)は、相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含みます。以下同じです。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等(以下「被相続人居住用家屋等」といいます。)の取得をした相続人(包括受遺者を含みます。以下同じです。)が、一定の譲渡をした場合に、その譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることができる旨規定しています。

 ところで、信託契約などにより信託の受益権を取得する行為や、信託が終了し残余財産が権利者に移転した場合などについては、法律上の「贈与」又は「遺贈」には該当しないものの、実質的には贈与又は遺贈と同様の効果をもたらすことから、相続税法においては、これらの取得又は移転などについて贈与又は遺贈による取得とみなして相続税又は贈与税の課税対象とする措置が講じられています(相続税法第9条の2)。

 この点、本件特例は、例えば措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》に規定する特例のように、相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含む旨は規定していません。 

また、本件特例は、相続人が、相続により、その意思の如何にかかわらず、被相続人居住用家屋等の適正管理の責任を負うこととなることを踏まえた趣旨の下、適用対象者を相続人に限定し、かつ、「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」をした場合に限り適用すると規定したものであると考えられるところ、信託終了による残余財産の取得は法律上の相続又は遺贈には当たらず、受託者(照会者)は信託行為の当事者であること、信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183③)を踏まえると、上記本件特例の趣旨の下では、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではないと考えられます。

 以上のことから、信託契約に基づき、委託者兼受益者の相続開始という信託終了事由の発生により信託が終了したことに伴い、当該信託に係る残余財産を帰属権利者が取得したことは、本件特例に規定する相続人による「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋等の取得」に該当するとは認められず、また、死因贈与契約に基づき当該残余財産を取得したとする事情も認められませんので、当該残余財産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることはできません。

 私には、信託契約により、当事者の意思で決めたのだから、相続・遺贈と同視することはできず、特例を認めることは出来ない、という趣旨に読めました。しかしこの指摘は、受託者兼残余財産の帰属権利者である照会者には当てはまりますが、照会者の弟は残余財産の帰属権利者であることを知らなかった可能性もあり、その点はどうするのだろうか、と考えてしまいました。残余財産の帰属権利のみを放棄することが出来る点が、全ての積極財産、消極財産を放棄することが出来る相続放棄と異なる点です。この点は、残余財産の帰属権利者が2人いる照会者の弟にとって、通常の相続・遺贈と異なり管理責任(令和5年4月1日施行)を逃れることができる点は有利といえるのかなとも思いました。

20230305追記

参考 『月刊登記情報2023年3月号(736号)』税理士白井一馬「自宅を信託財産にした場合における相続後の「空き家譲渡特例」の適用可否」

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/T/

租税特別措置法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332AC0000000026&keyword=%E7%A7%9F%E7%A8%8E%E7%89%B9%E5%88%A5

第三十五条 個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなつた場合には、その年中にその該当することとなつた全部の資産の譲渡に対する第三十一条又は第三十二条の規定の適用については、次に定めるところによる。

一 第三十一条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から三千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第二号の規定により読み替えられた第三十二条第一項の規定の適用を受ける場合には三千万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。

二 第三十二条第一項中「短期譲渡所得の金額(」とあるのは、「短期譲渡所得の金額から三千万円(短期譲渡所得の金額のうち第三十五条第一項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が三千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。

2 前項に規定する居住用財産を譲渡した場合とは、次に掲げる場合(当該個人がその年の前年又は前々年において既に同項(次項の規定により適用する場合を除く。)又は第三十六条の二、第三十六条の五、第四十一条の五若しくは第四十一条の五の二の規定の適用を受けている場合を除く。)をいう。

一 その居住の用に供している家屋で政令で定めるもの(以下この項において「居住用家屋」という。)の譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第五十八条の規定又は第三十三条から第三十三条の四まで、第三十七条、第三十七条の四若しくは第三十七条の八の規定の適用を受けるものを除く。以下この項及び次項において同じ。)又は居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この項及び次項において同じ。)をした場合

二 災害により滅失した居住用家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡又は居住用家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものの譲渡若しくは居住用家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものとともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡を、これらの居住用家屋が当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合

3 相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下第五項までにおいて同じ。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。以下この項において同じ。)が、平成二十八年四月一日から令和五年十二月三十一日までの間に、次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし、第三十九条の規定の適用を受けるもの及びその譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。以下この条において「対象譲渡」という。)をした場合(当該相続人が既に当該相続又は遺贈に係る当該被相続人居住用家屋又は当該被相続人居住用家屋の敷地等の対象譲渡についてこの項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、第一項に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、同項の規定を適用する。

一 当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(当該相続の時後に当該被相続人居住用家屋につき行われた増築、改築(当該被相続人居住用家屋の全部の取壊し又は除却をした後にするもの及びその全部が滅失をした後にするものを除く。)、修繕又は模様替に係る部分を含むものとし、次に掲げる要件を満たすものに限る。以下この号において同じ。)の政令で定める部分の譲渡又は当該被相続人居住用家屋とともにする当該相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡

イ 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

ロ 当該譲渡の時において地震に対する安全性に係る規定又は基準として政令で定めるものに適合するものであること。

二 当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(イに掲げる要件を満たすものに限る。)の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後における当該相続又は遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等(ロ及びハに掲げる要件を満たすものに限る。)の政令で定める部分の譲渡

イ 当該相続の時から当該取壊し、除却又は滅失の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

ロ 当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。

ハ 当該取壊し、除却又は滅失の時から当該譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

4項以下略

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(帰属権利者)

第百八十三条 信託行為の定めにより帰属権利者となるべき者として指定された者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

2 第八十八条第二項の規定は、前項に規定する帰属権利者となるべき者として指定された者について準用する。

3 信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、受託者に対し、その権利を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。

4 前項本文に規定する帰属権利者となった者は、同項の規定による意思表示をしたときは、当初から帰属権利者としての権利を取得していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。

5 第百条及び第百二条の規定は、帰属権利者が有する債権で残余財産の給付をすべき債務に係るものについて準用する。

6 帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。

関連

国税庁法令解釈通達

土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて 別紙

第2 所得税に関する取扱い

(居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用)

2-54 措置法第35条第1項((居住用財産の譲渡所得の特別控除))に規定する「その居住の用に供している家屋」又は「その敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利」には、個人の有する信託財産の構成物でこれらの資産に該当するもの(以下この項において「信託居住用財産」という。)が含まれるのであるが、この場合における同条の規定の適用については、次の諸点に留意する。

(1) 信託居住用財産の譲渡には、信託受益権の譲渡によるものが含まれること。

(2) 譲渡された信託財産である家屋が同条第1項に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するかどうかは、当該家屋の受益者について、措置法通達35-2又は35-3に定めるところにより判定すること。

(3) 措置法令第23条第1項((特例の対象となる家屋の範囲))に規定する「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」の判定の基礎には、その者の有する信託居住用財産が含まれること。

(4) 信託居住用財産の譲渡が措置法第35条第1項に規定する「特別の関係がある者に対してするもの」に該当するかどうかは、その譲渡に係る信託居住用財産の受益者について判定すること。

(5) 同項に規定する「その年の前年又は前々年において既にこの項又は第36条の2若しくは第36条の5の規定の適用を受けている」かどうかの判定の基礎には、その者の有する信託居住用財産の譲渡が含まれること。

20230619追記

『月刊登記情報』2023年6月号(739号)「信託契約の対象不動産を検討する際の実務上の留意点~令和4年12月20日東京国税局回答を受けて~」JFD司法書士法人 司法書士 福田秀樹

家族信託の相談会その51

お気軽にお問い合わせください。

2023年1月27日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所 司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

信託財産の「管理」と「処分」(2)―質疑応答7097登記研究508号173頁―

 家族信託実務ガイド[1]の記事、渋谷陽一郎「信託財産の「管理」と「処分」(2)―質疑応答7097登記研究508号173頁―」からです。

【7097】信託財産の所有権移転登記と信託条項

〔要旨〕信託財産について所有権移転登記の申請をする場合、信託条項に「受託者は受益者の承諾を得て管理処分をする」旨記載されているときには、受益者の承諾書の添付を要する。

実は「信託口口座」と命名されたからといって、それを倒産隔離することは容易ではないのではないか、という厳しい指摘がなされています(仮にそうである場合には「信託口口座」の費用や報酬の正当性の問題を議論する必要があり、景表法的な消費者誤認を避けるという問題も考慮する必要があります)。

 現在、私自身の業務は、金融機関との信託口口座開設の調整です。信託契約書案をFAX・メール送信する際に、次のような内容を記載します。返信が書面やメールなどで来たことはありませんが、送信した記録は残ります。現状は、この記録を残しておくぐらいしか出来ていません。

要件

(1)受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと

(2)受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者 の死亡が分かる書類と就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること

(3)受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更ができること

(4) キャッシュカードの発行

問い合わせ

  • 復代理人は、委任状と身分証明書の掲示で銀行窓口業務に対応してもらえるのでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あたかも、会社法の世界で、世界のトヨタの株主総会と、町の法人成り家族経営の商店の株主総会(家族会議)が、同一の規律で扱われているようなものでしょう(そこで、機関設計を選択し得る会社法が制定されました)。現行の信託法が目指したのは、前者のような国際的な大規模信託にも耐えられる信託の規律かもしれません。

 そのような面もあると思います。私は、会社法と信託法は、選択して組み立てることが可能な面が多く、類似点の方が多いのではないかと感じます[2]。また信託業法が適用される信託に関しては、細かな規律を守る必要があります。

書式1 信託目録 調整

番号 受付年月日・受付番号 予備

四 信託条項

1 信託の目的

高齢者の生活および介護の支援

2 信託財産の管理方法

受託者の権限

 高齢者の介護支援のための信託不動産の売却処分

特約 信託不動産の処分は受益者の承諾を得て行う(以下省略)

 高齢者の介護支援のための信託不動産の売却処分、の「高齢者の介護支援のための」については、信託目録に記録するのであれば登記原因証明情報にも記載が必要になってくるのか、気になりました。特約、という表現に関しては、条文上制限しか認めておらず(信託法26条)、拡大はないので、制限と記録してもよいのかなと思いました。

さらには、旧法では、受益者取消権の相手方として転得者まで明記されていましたが、改正法では、削除されてしまいました。どうしてでしょうか。

 受託者の行為の相手方に取消しの意思表示を行えば、転得者にもその効果が及ぶからではないかと思います[3]

参考

旧信託法

第四条

受託者ハ信託行為ノ定ムル所ニ従ヒ信託財産ノ管理又ハ処分ヲ為スコトヲ要ス

第三十一条

受託者カ信託ノ本旨ニ反シテ信託財産ヲ処分シタルトキハ受益者ハ相手方又ハ転得者ニ対シ其ノ処分ヲ取消スコトヲ得但シ信託ノ登記若ハ登録アリタルトキ又ハ登記若ハ登録スヘカラサル信託財産ニ付テハ相手方及転得者ニ於テ其ノ処分カ信託ノ本旨ニ反スルコトヲ知リタルトキ若ハ重大ナル過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキニ限ル

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(受託者の権限の範囲)

第二十六条 受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。

(受託者の権限違反行為の取消し)

第二十七条 受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するときは、受益者は、当該行為を取り消すことができる。

一 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと。

二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

2 前項の規定にかかわらず、受託者が信託財産に属する財産(第十四条の信託の登記又は登録をすることができるものに限る。)について権利を設定し又は移転した行為がその権限に属しない場合には、次のいずれにも該当するときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。

一 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について第十四条の信託の登記又は登録がされていたこと。

二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

3 二人以上の受益者のうちの一人が前二項の規定による取消権を行使したときは、その取消しは、他の受益者のためにも、その効力を生ずる。

4 第一項又は第二項の規定による取消権は、受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)が取消しの原因があることを知った時から三箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から一年を経過したときも、同様とする。

民法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(取消しの効果)

第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。


[1] 2022年11月、第27号、日本法令、P74~

[2] 2012年9月1日立命館大学大垣尚司教授「私人間信託と専門家の役割」。

[3] 道垣内弘人編著『条解信託法』、2017年、弘文堂、P151.民法121条。

加工担保法制の見直しに関する中間試案(案)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00173.html

加工

担保法制部会資料 27

目次

(前注) …………………………. 5

第1章 担保権の効力 ………………..  6

第1 個別動産を目的財産とする新たな規定に係る動産担保権の実体的効力 .6

1 担保権の効力の及ぶ範囲 ………………… 6

2 果実に対する担保権の効力 ……………….. 6

3 被担保債権の範囲 ………………………. 6

4 担保の目的物の使用収益権限…………….. 6

5 使用収益以外の設定者の権限 …………….. 6

6 担保権者の権限 …………………………. 7

7 物上代位 ………………………………. 8

8 その他 ………………………………… 8

9 根担保権 …………………. 8

第2 個別債権を目的財産とする譲渡担保の実体的効力 ………. 10

第3 集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力 ……. 11

1 動産の集合体に対する新たな規定に係る動産担保権の設定の可能性 …. 11

2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限 ………… 11

3 集合動産の構成部分である動産の設定者による処分 ……….11

4 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限 ……….12

5 担保価値維持義務・補充義務 ……………………12

6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等 ………….13

第2章 担保権の対抗要件及び優劣関係 ……………… 13

第4 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等 ………….13

1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等(2の留保所有権の場合を除く。) … 13

2 留保所有権の対抗要件等 ……………………… 14

第5 新たな規定に係る動産担保権と他の担保物権との優劣関係 ………. 15

1 動産質権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 …………. 15

2 先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 ………. 15

3 一般先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係 …….15

第6 債権譲渡担保権の対抗要件等の在り方 ……………….. 16

1 債権譲渡担保権の対抗要件等 …………………… 16

2 債権譲渡担保権相互の優劣関係 ………………………….. 16

3 一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係 …………………… 16

第7 動産・債権譲渡登記制度の見直し ……………………….. 16

第3章 担保権の実行 ……………………………………. 17

第8 新たな規定に係る担保権の実行方法 ……………………. 17

1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法 …………………… 17

2 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限及び実行通知の要否 ………………………….. 17

3 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等 ………. 18

4 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等 ……….. 19

第9 新たな規定に係る担保権の目的物の評価・処分又は引渡しのための担保権者の権限及び手続 …………………. 20

1 評価・処分に必要な行為の受忍義務 ……………… 20

2 実行完了前の保全処分 …………………….. 20

3 簡易迅速な目的物の引渡しを実現する方法 ………………. 20

 4 実行終了後に目的物の引渡しを実現する方法 ……………….. 20

第10 同一の動産に複数の新たな規定に係る担保権が設定された場合の取扱い … 20

1 劣後担保権者による私的実行の可否及び要件 ………….. 20

2 優先担保権者の同意なくされた劣後担保権者による私的実行の効果 …. 21

3 新たな規定に係る担保権の私的実行に当たっての他の担保権者への通知 ……. 21

4 担保権者間の分配方法についての合意内容の通知 …………. 21

第11 集合動産を目的とする担保権の実行について …………… 22

1 集合動産を目的とする担保権の実行の手続 ………………. 22

2 実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否 ……… 22

3 集合動産の一部について実行がされた場合に固定化が生じる範囲….. 22

第12 新たな規定に係る担保権の競売手続による実行等について…….. 22

第13 質権の実行方法に関する見直しの要否 …………………… 23

第14 所有権留保売買による留保所有権の実行 ……………….. 23

第15 債権を目的とする担保権の実行 ……………………….. 23

1 債権譲渡担保権者による債権の取立て ……………………. 23

2 債権質権者及び債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否…… 24

3 担保の目的財産が金銭債権である場合に担保権者が取り立てることができる範囲 24

4 担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、担保権者が請求することができる内容 …………………. 24

5 担保の目的財産が非金銭債権である場合の実行方法 ………….. 25

6 直接の取立て以外の実行方法 …………………………. 25

7 集合債権を目的とする担保の実行 ………………………. 25

第4章 担保権の倒産手続における取扱い ………………….. 25

第16 別除権としての取扱い ……………………… 25

第17 担保権実行手続中止命令に関する規律 ……………………. 25

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無 ………………………. 25

2 担保権実行手続禁止命令 ……………………………. 26

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期 ……… 26

4 担保権者の利益を保護するための手段 …………………… 26

5 審尋の要否 …………………………………….. 26

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力 ………… 27

7 担保権実行手続取消命令 …………………… 27

第18 倒産手続開始申立特約の効力 ………………………. 28

第19 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力 …. 28

1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力 ………… 28

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力 ………… 28

第20 担保権の実行がされた担保目的財産に係る費用の負担 ……….. 29

第21 否認 ………………………………………. 29

第22 担保権消滅許可制度の適用 …………………………. 30

1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用 ………………….. 30

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用 …….. 30

第5章 その他 ……………………………… 30

第23 事業担保制度の導入に関する総論的な検討課題 …………. 30

1 事業担保制度導入の是非 …………………………….. 30

2 事業担保権を利用することができる者の範囲 ………………. 31

3 事業担保権の対象となる財産の範囲 ……………………. 31

第24 事業担保権の効力 …………………………….. 31

1 事業担保権の設定 ……………………………….. 31

2 事業担保権の対抗要件及び他の担保権との優劣関係 …………. 31

3 事業担保権の優先弁済権の範囲(一般債権者に対する優先の範囲) …. 31

4 事業担保権設定者の処分権限 ………………. 32

5 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護 …………… 32

第25 事業担保権の実行 ………………………… 32

1 実行開始決定の効果 ………………………………. 32

2 事業担保権の目的財産の一部に対する実行及び個別資産の換価の可否 ………. 32

3 裁判上の実行による事業譲渡における債務の承継の可否 ………….. 32

4 他の債権者及び株主の保護 …………………………… 33

5 換価の効果 …………………………………… 33

6 被担保債権以外の債権の扱い …………………………… 33

7 事業継続による収益の中間的な配当 ……………….. 34

8 事業担保権の裁判外の実行 ………………………….. 34

第26 事業担保権の倒産法上の取扱い …………………….. 34

1 別除権及び更生担保権としての取扱い …………………. 34

2 担保権実行手続中止命令の適用の有無 …………………….. 34

3 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する事業担保権の効力 ………. 34

4 破産法上の担保権消滅許可制度の適用 …………………… 34

5 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用 ……….. 35

6 DIP ファイナンスに係る債権を優先させる制度 ……………… 35

第27 動産及び債権以外の財産権を目的とする担保 ……………..  35

第28 ファイナンス・リース ……………………………… 35

1 ファイナンス・リースに関する規定の要否及び在り方 ………….. 35

2 対抗要件 ………………………………………… 35

3 実行方法 ………………………………… 35

4 倒産法上の取扱い ……………………………….. 36

第29 普通預金を目的とする担保 …………………………. 36

1 普通預金を目的とする担保権設定及び対抗要件具備 …………… 36

2 普通預金を目的とする担保権の実行 ……………………. 36

3 普通預金を目的とする担保権の倒産手続における取扱い ………… 37

 第30 証券口座を目的とする担保 ……………………. 37

(前注)

1 動産を目的財産とする非占有型の担保制度や債権を目的財産とする担保制度の規律を設ける方法としては、①債務を担保する目的でされた一定の類型の契約を適用の対象として、その契約の効力を定める方法(以下「担保目的取引規律型」という。)、②質権、抵当権等と並ぶ担保物権を新たに創設する方法(以下「担5 保物権創設型」という。)が考えられる。

 担保目的取引規律型は、仮登記担保契約に関する法律が「金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの」の効力等について民法等の特則を設けているのと同様の方法である。

参考

登記研究 847号 69頁  2018年9月 登記研究編集室「【資料】 仮登記に関する先例要旨総覧(4)」

登記研究 747号 1頁  2010年5月 横山 真弓:法務省民事局商事課商業法人登記第二係長(前法務省民事局商事課商業法人登記第三係長)「 【論説・解説】 動産譲渡登記制度を活用した集合動産譲渡担保の実務」

 動産や債権を目的財産とする担保法制についてこのような方法で規定を設ける場合は、例えば、債務を担保する目的で動産の所有権を移転する契約、債務を担保する目的で動産の所有権を売主に留保する売買契約の効力等について民法等の特則を設けることが考えられる。動産や債権を目的財産とする担保取引としては、現行法においては、債務を担保するため動産の所有権を移転したり(動産譲渡担保)、留保したり(所有権留保)するなどの取引形式が用いられており、このような形式との連続性がある点で実務上も受け入れられやすいと考えられる。

 担保物権創設型は、抵当権や質権等と並ぶ新たな担保物権を創設するものであるから、この方法によって設けられた規定は、動産譲渡担保や所有権留保の形式が用いられた取引などには、直接には適用されないことになる。しかし、そうすると非典型担保が残ることになり、担保取引に関する法律関係を明確化するという点では不十分な結果となりかねない。そこで、担保物権創設型による場合には、担保物権を創設するだけでなく、債務を担保する目的で動産の所有権を移転する契約、債務を担保する目的で動産の所有権を売主に留保する売買契約などの担保取引については、新たな担保物権を設定する契約とみなすなどの規定を併せて設ける必要がある。

 担保物権創設型についてこのようなみなし規定を設けるとすれば、担保目的取引規律型と担保物権創設型は規定の方法の違いにすぎず、ほぼ同様の実質を規律することができるとも考えられる(ただし、動産譲渡担保は形式的には目的財産である動産の所有権を移転する契約であるから、例えば民法第178 条が適用されることになる。これに対して新たな担保物権を創設し、対抗要件を引渡しとする場合には、同条は当然には適用されないから、別途規定を設ける必要がある。このように、同じ実質を実現するとしても、必要となる規定が異なる場合がある。)。

2 この中間試案においては、担保取引に関する実質的なルールの内容についての試案を示すこととし、特段の言及のない限り、担保目的取引規律型によるか担保物権創設型によるかは中立的に表現することとしている。ただし、債権は現行法上も質権の目的となり得るため、担保物権創設型による場合には、債権質と区別された新たな担保権を創設する必要性自体が問題となり得る(新たな担保権を創設するのではなく、債権質に関する規定を修正するにとどめることもあり得る。)。そこで、この中間試案においては、債権を目的とする担保に関するルールを示すときは、差し当たって担保目的取引規律型によることを前提としてルールの内容を示すこととしている。

 このような観点から、担保取引によって債権者が得ることとなる権利を指す用語として、「新たな規定に係る担保権」という文言を用いる。特に動産を目的財産とする場合には、「新たな規定に係る動産担保権」という。

 「新たな規定に係る動産担保権の設定」とは、担保物権創設型によれば、新たに創設されることになる動産担保権を設定することをいい、担保目的取引規律型によれば、債務を担保する目的で一定の類型の契約を締結すること(例えば、担保目的で動産の所有権を移転する契約を締結すること)をいう。

 「留保所有権」「債権譲渡担保」「債権譲渡担保権」など、担保目的取引規律型を前提とする表現を用いる場合もある。「留保所有権」とは、売主が売買代金等を担保するために所有権を留保する取引(以下「所有権留保(売買契約)」という。)によって債権者が得る権利をいう。「債権譲渡担保」とは、担保目的で債権を譲渡する取引をいい、「債権譲渡担保権」とは、債権譲渡担保によって債権者が得る権利をいう。

登記研究 686号 1頁 2005年3月植垣 勝裕:法務省民事局参事官、高山 崇彦:法務省民事局付、中原 裕彦:法務省民事局付、坂田 大吾:法務省民事局付「【論説・解説】
「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律」の概要」
第1章 担保権の効力

第1 個別動産を目的財産とする新たな規定に係る動産担保権の実体的効力

1 担保権の効力の及ぶ範囲

 新たな規定に係る動産担保権は、目的物に従として付合した物及び設定との先後を問わず設定者が目的物に附属させた従物(注1、2)に及ぶものとする。

 ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について民法第424 条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでないものとする。

(注1) 本文において担保権の効力が及ぶとされる物をどのように表現するかについては、「付加一体物」という表現を用いることの可否も含めて今後検討する。

(注2) 設定後に附属させられた従物については解釈に委ねるべきであるとの考え方がある。

2 果実に対する担保権の効力

 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保する債権について不履行があったときは、目的物の果実から優先弁済を受けることができるものとする。

3 被担保債権の範囲

 新たな規定に係る動産担保権は、元本、利息、違約金、担保権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を担保するものとする。

ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでないものとする。

4 担保の目的物の使用収益権限

  新たな規定に係る動産担保権は、その内容に使用収益権限を含まず、設定者が目的物の使用収益をすることができるものとする。

5 使用収益以外の設定者の権限

⑴ 新たな規定に係る動産担保権は、同一の目的物の上に重複して設定することができるものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権の設定者が担保権者の同意なく目的物を真正に譲渡すること(注1)ができるかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案1.5.1】譲渡することができるものとする(注2)。

【案1.5.2】譲渡5 することはできないものとする(注3)。

(注1)ここで、「目的物を真正に譲渡する」は、担保権を消滅させる形で目的物の完全な所有権を譲渡することではなく、担保権を存続させたままで、設定者の有する権利(担保目的に制限された所有権を除いた所有権又は担保権に制約された所有権)を譲渡することを意味する。担保権者の同意を得てその担保権を消滅させ、目的物の所有権を譲渡することができることは当然の前提としている。

(注2)【案1.5.1】を採る場合であっても、所有権留保という類型を設けるときは、所有権留保については【案1.5.2】を採るという考え方もあり得る。

(注3)このとき、担保権者の同意を得て、「担保権を存続させたままで設定者の有する権利を移転すること」ができることを前提とする。

 ⑶ 新たな規定に係る動産担保権の設定者は、目的物の占有を第三者に妨害されるおそれがあるときはその第三者に対する妨害の予防を、目的物の占有を第三者が妨害しているときはその第三者に対する妨害の停止を、目的物を第三者が占有しているときはその第三者に対する返還を、それぞれ請求することができるものとする。

6 担保権者の権限

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保する債権について不履行があるまでは、目的物を第三者に譲渡すること(目的物の完全な所有権を第三者に移転させること)ができないものとする(注1)。

(注1)新たな規定に係る動産譲渡担保権の被担保債権を譲渡することに伴って担保権者が有する権利が移転することはあるが、これは別の問題である。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権について、他の債権の担保とすること(以下「転担保」という。)、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄(以下「新たな規定に係る動産担保権の処分」という。)及び順位の変更(新たな規定に係る動産担保権の処分と併せて「新たな規定に係る動産担保権の処分等」という。)の全部又は一部をすることができるものとするか、これらのうち一部をすることができるものとする場合、その範囲をどのように考えるかについては、引き続き検討する(注2)。

(注2)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

⑶ ⑵でできるものとされた新たな規定に係る動産担保権の処分等の対抗要件等については、次のとおりとする。

 ア(ア) 新たな規定に係る動産担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

(イ) 新たな規定に係る動産担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

(ウ) 担保権者が数人のために新たな規定に係る動産担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、新たな規定に係る動産担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

イ 新たな規定に係る動産担保権の順位の変更は、登記をしなければ、その効力を生じないものとする。

7 物上代位

⑴ 新たな規定に係る動産担保権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができるものとする。

 ⑵ 新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、⑴に基づいて金銭その他の物に対して権利を行使するときは、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないものとする。

⑶ 新たな規定に係る動産担保権に基づく物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣関係について、次のいずれかの案によるものとする。

 【案 1.7.1】物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、⑵の差押えがされた時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする。

【案1.7.2】物上代位とその目的債権を目的財産とする担保との優劣は、物上代位を生じさせた目的物に設定された担保権が対抗要件を具備した時点と、その目的債権を目的財産とする担保が対抗要件を具備した時点との前後によるものとする(注)。

(注)原則として【案1.7.1】の規律によるが、目的物に設定された新たな規定に係る動産担保権の設定について登記がされたときは、登記の時点を基準とする考え方がある。

8 その他

 民法第296条(担保権の不可分性)及び第351条(物上保証人の求償権)の規定を新たな規定に係る動産担保権について準用するものとする。

9 根担保権

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の設定は、【一定の範囲に属する】不特定の債権を担保するためにもすることができるものとする。

極度額を定めることの要否については、引き続き検討する。

個別の被担保債権について譲渡や債務の引受け、債権者又は債務者の交替による更改があった場合について、譲渡された債権などについて担保権を行使することができないものとする。

⑷ 元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続開始、合併又は会社分割があった場合について、次のような規定を設けるものとする。

ア 元本の確定前に根担保権者又は債務者について相続開始があった場合には、次のいずれかの案によるものとする。

【案1.9.1】根担保権者又は債務者について相続が開始したときは、担保すべき元本は、確定するものとする。

【案1.9.2】次の(ア)から(エ)までの規定を設けるものとする。

(ア) 根担保権者について相続が開始したときは、根担保権は、相続開始時に存在する債権及び相続人と設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者について相続が開始したときは、根担保権は、相続開始時に存在する債務及び根担保権者と設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に負担する債務を担保する。

(ウ) 上記(ア)(イ)の合意については、後順位の担保権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。

(エ) 上記(ア)(イ)の合意について相続の開始後6か月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始時に確定したものとみなす。

イ(ア) 根担保権者について合併があったときは、根担保権は、合併時に存在する債権及び合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者について合併があったときは、根担保権は、合併時に存在する債務及び合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。

(ウ) 設定者は、根担保権者又は債務者について合併があったときは、合併があったことを知った日から2週間かつ合併から1か月以内に、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、債務者について合併があった場合で、債務者が設定者であるときは、この限りでない。

(エ) (ウ)の請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。

ウ(ア) 根担保権者を分割をする会社とする分割があったときは、根担保権は、分割の時に存在する債権並びに分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。

(イ) 債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根担保権は、分割の時に存在する債務並びに分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。

(ウ) 設定者は、根担保権者又は債務者を分割をする会社とする分割があったときは、分割があったことを知った日から2週間かつ分割から1か月以内に、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、債務者を分割をする会社とする分割があった場合で、債務者が設定者であるときは、この限りでない。

(エ) (ウ)の請求があったときは、担保すべき元本は、分割の時に確定したものとみなす。

⑸ 根担保権の全部譲渡、一部譲渡(注)については、これを公示するための制度を設けることができるか否かを含めて、引き続き検討する。

(注)分割譲渡については、これを公示するための制度を設けることができるか否かのほか、極度額の設定の要否と関連して、引き続き検討する。

⑹ 債務者又は設定者が破産手続開始決定を受けたこと、設定から一定期間経過した後に設定者の請求があったことなど(注1)(注5 2)を被担保債権の元本の確定事由とするものとする。

(注1)担保権者等による実行の着手を元本確定事由とするか否かについては、実行に関する規律(後順位担保権者による実行の可否及びその場合の先順位担保権の消長等)や集合動産を目的とした担保の規律との関係も踏まえて、引き続き検討する。

(注2)元本確定事由に関するその他の規律については、根抵当権に関する規律を参考にして、引き続き検討する。

第2 個別債権を目的財産とする譲渡担保の実体的効力

1 前記第1の2(果実に対する担保権の効力)、3(被担保債権の範囲)、5(使用収益以外の設定者の権限)⑴、6(担保権者の権限)⑴、7(物上代位)、8(その他)及び9(根担保)は、債権譲渡担保権にも適用されるものとする。

2 債権譲渡担保権が設定され【、債務者対抗要件が具備され】た場合、①第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限され、②設定者は、担保権の目的財産である債権について、放棄、免除、相殺、更改など当該債権を消滅させる行為をすることができないものとする。

3⑴ 債権譲渡担保権について、転担保、担保権の譲渡・放棄及び順位の譲渡・放棄(以下「債権譲渡担保権の処分」という。)及び順位の変更(債権譲渡担保権の処分と併せて「債権譲渡担保権の処分等」という。)の全部又は一部をすることができるものとするか、これらのうち一部をすることができるものとする場合、その範囲をどのように考えるかについては、引き続き検討する(注)。

(注)できるものとする範囲については、実務上のニーズや公示の観点から、引き続き検討する。

⑵ ⑴でできるものとされた債権譲渡担保権の処分等の対抗要件等については、次のとおりとする。

ア(ア) 債権譲渡担保権の処分は、債務者に当該処分を通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、これをもって債務者、保証人、担保権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないものとする。

(イ) 債権譲渡担保権の処分は、登記をしなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

(ウ) 債権譲渡担保権の処分は、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

(エ) 担保権者が数人のために債権譲渡担保権の処分をしたときにおける処分の利益を受ける者の権利の順位は、債権譲渡担保権の処分についての登記の前後によるものとする。

イ 債権譲渡担保権の順位の変更は、登記をし、かつ、その登記がされたことについて第三債務者に登記事項証明書を交付しなければ、その効力を生じないものとする。

第3 集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力

1 動産の集合体に対する新たな規定に係る動産担保権の設定の可能性

新たな規定に係る動産担保権は、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲(以下「特定範囲」という。)に属する動産の集合体(設定後に新たに動産がその集合体に加入(個別動産が特定範囲に新たに入ることをいう。)をすることが予定されているものを含む。)を一括して目的とすることができるものとする(注)。

(注)集合体として一括して担保権の目的となるためには、単に複数の動産によって構成されているだけでなく、経済的又は取引上の一体性など、一体として扱うことを正当化するための何らかの要件が必要であるという考え方がある。

2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限

  新たな規定に係る動産担保権の目的物が特定範囲に属する動産の集合体であって、設定後に新たに動産がその集合体に加入することが予定されているもの(以下「集合動産」という。)である場合における設定者の処分権限や担保権者の権限について、次のような規定を設けるものとする。

⑴ 設定者は、通常の事業の範囲内で、集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は集合動産から逸出(特定範囲に含まれていた個別動産が、事実の問題として特定範囲から出ることをいう。)をさせる権限を有する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、その定めに従う。

⑵ 設定者が⑴の権限の範囲(以下「権限範囲」という。)を超えて集合動産の構成部分である動産について、担保権の負担のないものとしての処分をし、又は逸出をさせるおそれがあるときは、担保権者は、その予防を請求することができる。

3 集合動産の構成部分である動産の設定者による処分

⑴ 設定者が、その権限範囲を超えて、集合動産の構成部分である動産を、担保権の負担のないものとしての処分をした場合に、当該処分を受けた者が、その動産が担保権の目的物であることを知らないで、かつ、知らないことに過失がなかったときには、民法第192 条の適用によって保護されるものとする(注1)。

⑵ 設定行為に設定者の処分権限について別段の定めがない場合において、設定者が、集合動産の構成部分である動産を、通常の事業の範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、その処分が設定者の通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑶ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲内で、かつ、制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、制約された権限範囲を超えていることを知らなかったとき(注2)は、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする(注3)。

⑷ 設定行為に設定者の処分権限を制約する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲及び制約された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲に含まれると信じるについて正当な理由があり、かつ、制約された権限範囲を超えることを知らなかったとき(注2)は、その動産について担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑸ 設定行為に設定者の処分権限を拡大する別段の定めがある場合において、設定者が、通常の事業の範囲及び拡大された権限範囲を超えて、担保権の負担のないものとしての処分をした場合には、当該処分を受けた者は、設定者による当該処分が通常の事業の範囲又はその拡大された権限範囲に含まれると信じるについて正当な理由があるときは、その動産についての担保権の負担のない権利を取得するものとする。

⑹ 前記2⑴及び3⑴から⑸までで処分を受けた者が集合動産の構成部分である動産について権利を取得しない場合に担保権者のとり得る手段については、引き続き検討する。

(注1)集合動産から逸出をした動産の処分については別異に考えるべきであるという考え方がある。

(注2)知らなかったことにつき過失がないことが必要であるという考え方、重過失がないことが必要であるという考え方がある。

(注3)相手方が権利を取得するために、目的物が集合物から逸出をすることが必要であるかどうかについては、引き続き検討する。

4 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限

⑴ 譲渡担保の目的債権が債権発生年月日の始期及び終期並びに債権発生原因等によって特定され、特定された範囲に現に発生していない債権を含むもの(以下「集合債権」という。)である場合においては、設定者は、通常の事業の範囲内で、その特定された範囲に含まれる債権の取立て【、譲渡及び相殺、免除その他の債権を消滅させる行為】をする権限を有するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとする。

 ⑵ 設定者が⑴の権限の範囲を超えて取立て【、譲渡、免除等】をした場合の譲受人及び第三債務者の保護に関する特別の規定を設けないものとする。

5 担保価値維持義務・補充義務

 前記2⑴及び4⑴に規定する場合について、担保価値維持義務や、特定された範囲に含まれる動産又は債権について担保権の負担のないものとしての処分がされ、又は逸出をさせたときの補充義務に関する規定(注)を設けるか否かについて、引き続き検討する。

(注)例えば、「新たな規定に係る動産担保権の目的財産が集合動産又は集合債権である場合には、正当な理由がある場合を除き、設定者は、通常の事業が継続されれば当該集合動産又は当該集合債権が有すると認められる価値を維持しなければならない」という趣旨の規定が考えられる。

6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の目的物が集合動産である場合には、当該担保権は、設定者が通常の事業を継続している間は、特定範囲に含まれる動産の売買、滅失又は損傷によって設定者が受けるべき金銭その他の物に対し、行使することができないものとする。

⑵ 前記⑴につき、次のような例外を設けるかは、引き続き検討する。

ア 当事者が別段の合意をした場合

イ 権限範囲を超える処分がされた場合

 ⑶ 第三者が特定範囲に含まれる動産を滅失又は損傷させた場合における担保権者独自の損害賠償請求権については、特段の規定を設けないものとする。

参考:最判平成13年11月22日民集55巻6号P1056

登記情報 689号 15頁  2019年4月 白石大:早稲田大学大学院法務研究科教授「日本登記法研究会 第3回研究大会報告 「動産・債権譲渡登記の未来」」

第2章 担保権の対抗要件及び優劣関係

第4 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等

 1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等(2の留保所有権の場合を除く。)

⑴ 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件

ア 個別動産を目的とする新たな規定に係る動産担保権(以下「個別動産担保権」という。)の設定は、当該個別動産の引渡し(占有改定を含む。以下同じ。)がなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

集合動産を目的とする新たな規定に係る動産担保権(以下「集合動産担保権」という。)の設定は、その構成部分である動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。この場合には、当該設定に集合動産に加入した個別動産に及ぶ当該担保権の効力についても、第三者に対抗することができるものとする。

 ウ 個別動産担保権又は集合動産担保権の設定については、登記をすることができることとし、登記がされたときは、目的物である個別動産又は集合動産の構成部分である動産について引渡しがあったものとみなすものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権相互の優劣

ア 同一の個別動産に数個の個別動産担保権が設定されて競合したときは、その順位は、原則として、当該担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

イ 同一の集合動産に数個の集合動産担保権が設定されて競合したとき(その一部が重なり合って競合する場合を含む。)は、その順位は、原則として、集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による(注1)。

ウ 集合動産に一個の集合動産担保権が設定されており、その設定に、個別動産担保権が設定された個別動産が加入したときは、集合動産担保権(が当該個別動産に及ぶ効力)と個別動産担保権との順位については、原則として、次のいずれかの案によるものとする。

【案4.1.1】個別動産担保権について対抗要件を備えた時と集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

【案4.1.2】個別動産担保権について対抗要件を備えた時と当該個別動産が集合動産に加入した時の前後による。

エ アからウまでにかかわらず、登記により対抗要件を備えた新たな規定に係る動産担保権は、占有改定により対抗要件を備えた新たな規定に係る動産担保権に優先するものとする(注2)。

(注1)集合動産担保権の設定後に集合動産に加入した個別動産(加入時に、当該個別動産を目的とする個別動産担保権は設定されていない。)があるときであっても、集合動産担保権同士の競合が問題となる場面においては、設定後に加入した個別動産についても、その順位は、原則として、集合動産担保権について対抗要件を備えた時の前後による。

(注2)集合動産担保権に限ってエの規律を適用する考え方がある。

2 留保所有権の対抗要件等

⑴ 留保所有権等の対抗要件の要否

留保所有権を第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のとおりとする。

ア 目的物の代金債権を担保する留保所有権(以下「狭義の留保所有権」という。)は、これを第三者に主張するために対抗要件を必要とするかどうかについては、次のいずれかの案によるものとする(注1、2)。

【案4.2.1.1】狭義の留保所有権は、これを第三者に主張するために、特段の要件を必要としないものとする(注3)。

【案4.2.1.2】狭義の留保所有権は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする。

イ (目的物の代金債権及び)目的物の代金債権(注1)以外の債権を担保する留保所有権(以下「拡大された留保所有権」という。)は、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする(注2)。

(注1)動産を購入するための資金の融資に基づく債権など、目的物である動産と密接な関連性を有する一定の債権を担保する留保所有権についても、狭義の留保所有権に含める考え方がある。

 これに関連して、このような密接な関連性を有する一定の債権を被担保債権とする動産譲渡担保権が設定された場合には、当該動産譲渡担保権についても、狭義の留保所有権と同様に取り扱う考え方がある。

 担保物権創設型によると、目的物の代金債権【及び上記債権】を担保する新たな規定に係る動産担保権について、狭義の留保所有権と同様に取り扱うことが考えられる。

(注2)留保所有権については、登記できるとすることが考えられる。

(注3)【案4.2.1.1】によっても、(代位弁済等により)目的物の売主以外の者が狭義の留保所有権を有する場合には、その動産の引渡しがなければ、これをもって第三者に対抗することができないものとする考え方がある。

⑵ 留保所有権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

ア 留保所有権と競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、留保所有権が目的物の代金債権以外の債権を担保する限度では、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする(注4)。

留保所有権は、【【案4.2.1.2】によると引渡しがされていることを前提として、】目的物の代金債権を担保する限度では、他の新たな規定に係る動産担保権に当然に優先するものとする(注5、6)。

(注4)この場合には、前記1⑵エと同様のルール(5 登記優先ルール)を採用することが考えられる。

(注5)なお、拡大された留保所有権について、目的物の代金債権を担保する部分と目的物の代金債権以外の債権を担保する部分がある場合には、これと競合する他の新たな規定に係る動産担保権との優劣は、本文⑵イにより目的物の売買代金を担保する限度では拡大された留保所有権が優先し、それ以外の部分については、原則として、それぞれが対抗要件を具備した時の前後によるものとなる。

(注6)他の新たな規定に係る動産担保権に優先するための要件として、一定期間内に登記を備えることを求める考え方がある。

 第5 新たな規定に係る動産担保権と他の担保物権との優劣関係

1 動産質権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

⑴ 動産質権と新たな規定に係る動産担保権とが競合する場合は、動産質権については設定時(引渡時)を基準とし、新たな規定に係る動産担保権については第三者に対抗することができるようになった時を基準とし、優劣はその前後によるものとする。

⑵ 動産質権と留保所有権とが競合する場合は、動産質権については設定時(引渡時)を基準とし、第4の2⑵と同様に取り扱うこととする。

2 先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

⑴ 先取特権と新たな規定に係る動産担保権は競合するものとし、その優劣関係については新たな規定に係る担保権を民法第330条に規定する第1順位の先取特権と同一の効力を有するものと取り扱うものとする。

⑵ 新たな規定に係る動産担保権者については、民法第330条第2項前段の規定を適用しないこととし、担保権設定時に第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたとしても、これらの者に対して優先権を行使できるものとする(注)。

(注)動産質権についても、民法第330 条第2項前段の規定を適用しないようにすることが考えられる。

3 一般先取特権と新たな規定に係る動産担保権との優劣関係

雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、新たな規定に係る動産担保権に対する一定の優先権を認めるかについては、担保法制全体に与える影響も考慮しつつ、新たな規定に係る動産担保権に優先し得る一般先取特権の範囲(雇用関係の先取特権に限るか、その他の一般先取特権にも優先権を認めるか)、新たな規定に係る動産担保権の範囲(その目的物の性質等によって区別するか)、優先権の具体的な内容、優先権を行使するための要件等を引き続き検討する。

第6 債権譲渡担保権の対抗要件等の在り方

1 債権譲渡担保権の対抗要件等

  • ア 債権を目的とする譲渡担保権(以下「債権譲渡担保権」という。)の設定は、設定者ら第三債務者に対する通知又は第三債務者の承諾(以下「通知又は承諾」という。)がなければ、これをもって第三債務者に対抗することができないものとする。

イ 債権譲渡担保権の設定は、確定日付のある証書による通知又は承諾がなければ、これをもって第三債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

⑵ア 債権譲渡担保権の設定については、登記をすることができることとし、登記がされたときは、第三債務者以外の第三者については、確定日付のある証書による通知があったものとみなすものとする。

イ 債権譲渡担保権の設定の登記がされたことについて設定者又は担保権者が第三債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該第三債務者が承諾をしたときは、当該第三債務者についても、確定日付のある証書による通知があったものとみなすものとする。

2 債権譲渡担保権相互の優劣関係

⑴ 同一の債権について数個の債権譲渡担保権が設定されたときは、その順位は、原則として、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の前後によるものとする。

登記により対抗要件を備えた債権譲渡担保権と、通知又は承諾により対抗要件を備え債権譲渡担保権との優劣関係について、特別の規定を設けないものとする(注)。

(注)登記により対抗要件を備えた債権譲渡担保権は、通知又は承諾により対抗要件を備えた債権譲渡担保権に優先するものとする考え方がある。

3 一般先取特権と債権譲渡担保権との優劣関係

 雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、債権譲渡担保権に対する一定の優先権を認めるかについては、第5の3と同様に、引き続き検討する。

 第7 動産・債権譲渡登記制度の見直し

1 同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示する仕組みの導入の要否

【案7.1.1】同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示させる仕組みは、設けないものとする。

【案 7.1.2】新たに関連担保目録制度を導入し、同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を関連担保目録にできる限り一覧的に公示させるものとする。

2 新たな規定に係る担保権の処分等を登記できるようにすることの要否及びその範囲並びにその公示方法

 新たな規定に係る動産担保権の処分、新たな規定に係る動産担保権の順位の変更、債権譲渡担保権の処分及び債権譲渡担保権の順位の変更(以下「新たな規定に係る担保権の処分等」という。)を登記できるようにすることの要否及びその範囲について、実務上のニーズや公示の分かりやすさの観点等を踏まえて、引き続き検討する。その上で、登記できるとされた新たな規定に係る担保権の処分等の公示方法については、以下のとおりとする。

 【案7.2.1】新たな規定に係る担保権の処分等に関する登記を、例えば個々の動産・債権譲渡登記に付記するような形でできるものとする(【案7.1.1】を前提とする。)。

 【案7.2.2】関連担保目録に登記された動産・債権譲渡登記に係る新たな規定に係る担保権の処分等のみを登記できることとし、当該新たな規定に係る担保権の処分等に関する登記は関連担保目録上に行うものとする(【案7.1.2】を前提とする。)。

3 登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定者の範囲登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定者の範囲を、商号の登記をした商人にも拡大することについて、引き続き検討する。

第3章 担保権の実行

第8 新たな規定に係る担保権の実行方法

1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法

 新たな規定に係る担保権の実行は、次に掲げる方法であって担保権者が選択したものにより行うものとする。

① 担保権者に被担保債権の弁済として目的物を帰属させる方式(帰属清算方式)

② 担保権者が目的物を処分し、その代金を被担保債権の弁済に充てる方式(処分清算方式)

③ 民事執行法第190 条以下の規定に基づく競売

2 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限及び実行通知の要否

 新たな規定に係る担保権の担保権者が私的実行として目的物の所有権を自己に帰属させ、又は第三者に処分する権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案8.2.1】

⑴ 新たな規定に係る担保権の担保権者が私的実行をしようとするときは、被担保債権について不履行があった日以後に、設定者に対し、担保権の私的実行をする旨及び被担保債権の額を通知しなければならないものとする。

⑵ ⑴の通知が設定者に到達した時から1週間が経過したときは、担保権者は、後記3に従って目的物を自己に帰属させ、又は後記4に従って第三者に対して目的物を処分することができるものとする(注)。

(注)1週間の猶予期間を設けず、担保権者は⑴の通知が到達した時に目的物の処分権限を取得するものとする考え方がある。

【案8.2.2】

 被担保債権について不履行があったときは、担保権者は、後記3に従って目的物を自己に帰属させ、又は後記4に従って第三者に対して目的物を処分することができるものとする。

3 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等

 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等については、次のいずれかの案によるものとする。

【案8.3.1】

⑴ 担保権者が帰属清算方式による私的実行をしようとするときは、担保権者は、設定者に対し、目的物の所有権を担保権者に帰属させる旨、被担保債権の額、担保権者が評価した目的物の価額及びその算定根拠の通知(以下「帰属清算の通知」という。)をしなければならず、担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、帰属清算の通知に加えてその差額の支払又はその提供(以下「清算金の提供等」という。)をしなければならない。

 ⑵ 担保権者が帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をしたときは、被担保債権は、その時における目的物の客観的な価額の範囲で消滅し、設定者は、その後に被担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができない(注1、2)。

⑶ 担保権者が帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をした時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者は、設定者に対し、その超える額に相当する金銭を支払う義務を負う(注1、2)。

⑷ 担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をしたときは、⑴に基づいて担保権者が通知した目的物の評価額と被担保債権額の差額の支払と引換えに、設定者に対して目的物の引渡しを請求することができる。

⑸ ⑴に基づいて担保権者が通知した目的物の価額が、目的物の種類、性質等を考慮して担保権者が通常把握すべき当該目的物に係る事情に照らして著しく合理性を欠くものであるときは、⑵から⑷までの効力は、生じない。

【案8.3.2】

⑴ 【案8.3.1】の⑴から⑶まで及び⑸と同じ。

⑵ 担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をしたときは、目的物の客観的な価額と被担保債権額の差額の支払と引換えに、設定者に対して目的物の引渡しを請求することができる。

⑶ 【案8.3.1】の⑴に基づいて担保権者が通知した目的物の価額が、目的物の種類、性質等を考慮して担保権者が通常把握すべき当該目的物に係る事情に照らして著しく合理性を欠くものであるときは、⑵並びに【案8.3.1】の⑵及び⑶の効力は、生じない。

(注1)設定者の受戻しの機会等を確保するために、被担保債権の消滅時期、清算金算定の基準時及び設定者が目的物を受け戻すことができなくなる時期を、帰属清算の通知及び清算金の提供等がされた時から一定期間が経過した時とする考え方がある。

(注2)設定者の受戻しの機会等を確保するために、設定者は、被担保債権が消滅した後においても、担保権者に対して目的物を引き渡すまでの間は、被担保債権が消滅しなかったものとすれば支払うべき額を支払うことにより、目的物を受け戻すことができるものとする考え方がある。

4 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等

 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等については、次のいずれかの案によるものとする。

 【案8.4.1】

⑴ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、被担保債権は、その処分時における目的物の客観的な価額の範囲で消滅し、設定者は、その後に被担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができない(注1)。

⑵ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、担保権者は、設定者に対し、その旨、処分時における被担保債権の額、担保権者が評価した目的物の価額及びその算定根拠を通知しなければならない。

⑶ 設定者は、目的物の処分を受けた第三者からその引渡しを請求されたときは、担保権者が⑵の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えてその差額の支払)をするまでは、目的物の引渡しを拒むことができる。

 ⑷ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分した場合において、その処分時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者は、設定者に対し、その超える額に相当する金銭を支払う義務を負う。

【案8.4.2】(注2)

⑴ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、被担保債権は、その処分時における目的物の客観的な価額の範囲で消滅し、設定者は、その後に被担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができない(注1)。

⑵ 担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分した場合において、その処分時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者は、設定者に対し、その超える額に相当する金銭を支払う義務を負う。

 ⑶ 設定者は、目的物の処分を受けた第三者からその引渡しを請求された場合において、その処分時における目的物の客観的な価額が被担保債権額を超えるときは、担保権者がその差額の支払をするまでは、目的物の引渡しを拒むことができる。

(注1)設定者の受戻しの機会等を確保するために、被担保債権の消滅時期、清算金算定の基準時及び設定者が目的物を受け戻すことができなくなる時期を、目的物が処分された時から一定期間が経過した時と第三者が目的物の引渡しを受けた時のいずれか早い時とする考え方がある。

(注2)【案8.4.2】についても、担保権者が担保権の実行として目的物を第三者に処分したときは、担保権者は、設定者に対し、その旨、処分時における被担保債権の額、担保権者が評価した目的物の価額及びその算定根拠を通知しなければならないものとする考え方がある。

第9 新たな規定に係る担保権の目的物の評価・処分又は引渡しのための担保権者の権限及び手続

1 評価・処分に必要な行為の受忍義務

 新たな規定に係る担保権の被担保債権について不履行があった場合において、担保権者が目的物の評価又は処分に必要な行為をしようとするときは、設定者は、これを拒むことができない(注)。

(注)設定者は、受忍義務に加えて、目的物の評価のために必要な情報を提供する義務を負うものとする考え方がある。

2 実行完了前の保全処分

 新たな規定に係る担保権の被担保債権について不履行があった場合において、設定者又は占有者が、目的物の価格を減少させる行為若しくは実行を困難にする行為をし、又はこれらの行為をするおそれがあるときは、裁判所は、担保権者の申立てにより、次に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができるものとする。

 ⑴ 設定者又は占有者に対し、価格を減少させ、若しくは又は実行を困難にする行為を禁止し、又は一定の行為をすることを命ずること

⑵ 設定者又は占有者に対し、執行官への引渡しを命ずること及び執行官に目的物の保管をさせること

⑶ 設定者又は占有者に対し、占有の移転を禁止することを命じ、その使用を許すこと

3 簡易迅速な目的物の引渡しを実現する方法

 新たな規定に係る担保権の被担保債権について不履行があったときは、裁判所は、【担保権者が帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)又は第三者に対する目的物の処分をするまでの間/目的物の評価又は処分のために必要があるときは】、担保権者の申立てにより、清算金の見積額を供託させて、設定者又は目的物の占有者に対し、目的物を担保権者に引き渡すべき旨を命ずることができるものとする。

4 実行終了後に目的物の引渡しを実現する方法

 裁判所は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)をした担保権者又は目的物の処分を受けた第三者(以下「担保権者等」という。)の申立てにより、設定者又は目的物の占有者に対、目的物を担保権者等に引き渡すべき旨(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超えるときにあっては、その超える額に相当する金銭の支払と引換えに目的物を担保権者等に引き渡すべき旨)を命ずることができるものとする。

第10 同一の動産に複数の新たな規定に係る担保権が設定された場合の取扱い

1 劣後担保権者による私的実行の可否及び要件

 新たな規定に係る担保権が同一の動産について複数設定されているときは、担保権者は、優先する全ての担保権者の同意を得た場合に限り、私的実行をすることができるものとする。

2 優先担保権者の同意なくされた劣後担保権者による私的実行の効果

 前記1の同意なくされた劣後担保権者によ5 る私的実行の効果については、次のいずれかの案によるものとする。

【案10.2.1】 前記1の同意なくされた劣後担保権者による私的実行は、その効力を生じないものとする。

【案10.2.2】 劣後担保権者が前記1の同意なく帰属清算方式又は処分清算方式による私的実行をしたときは、劣後担保権者又は第三者は、優先担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする。

3 新たな規定に係る担保権の私的実行に当たっての他の担保権者への通知

新たな規定に係る担保権の担保権者又は設定者が私的実行に当たってとらなければならない手続については、次のいずれかの案によるものとする。

【案10.3.1】 新たな規定に係る担保権の担保権者は、私的実行に着手したときは、遅滞なく、その設定者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者に対して、その旨の通知をしなければならないものとする。この場合において、その通知は、【通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。(関連担保目録制度を導入しない【案7.1.1】を前提とする。)

【案10.3.2】 新たな規定に係る担保権の担保権者は、私的実行に着手したときは、遅滞なく、その担保権に係る動産譲渡登記の関連担保目録上においてその担保権に【関連する/後れる】担保権を有する者【(私的実行に着手した担保権者の担保権が動産譲渡登記を備えていないときにあっては、その設定者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者)】に対して、その旨の通知をしなければならないものとする。この場合において、その通知は、【通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。(関連担保目録制度を導入する【案

7.1.2】を前提とする。)

【案10.3.3】 設定者は、新たな規定に係る担保権の担保権者から私的実行をする旨又は私的実行をした旨の通知を受けたときは、遅滞なく、【劣後担保権者/その他の担保権者】に対してその旨の通知をしなければならないものとする。

4 担保権者間の分配方法についての合意内容の通知

 後順位の担保権者が優先する担保権者の同意を得て私的実行をしたときは、各担保権者の被担保債権は、目的物の客観的な価額の範囲でその優先順位に従って消滅する。ただし、各担保権者間にこれと異なる合意が成立した場合において、劣後担保権者が、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)の到達又は第三者への目的物の処分後遅滞なく、設定者に対してその合意の内容を通知したときは、この限りでない。

第11 集合動産を目的とする担保権の実行について

1 集合動産を目的とする担保権の実行の手続

集合動産を目的とする担保権の実行について、次の規定を設けるものとする。

⑴ 集合動産を目的とする担保権の私的実行をしようとするときは、担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)又は第三者への目的物の処分に先立って、設定者に対し、担保を実行する旨を通知しなければならない。

⑵ ⑴の通知が設定者に到達したに集合動産に加入した動産には、担保権の効力は及ばない。ただし、その動産が⑴の通知が到達した時点で集合動産の構成部分であった動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。

⑶ ⑴の通知が設定者に到達したときは、設定者は、その時点で集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失う。

⑷ ⑴の通知は、設定者の承諾を得なければ、撤回することができない。

⑸ ⑷の撤回は、⑴の通知の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

2 実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否

 集合動産を目的とする担保権の担保権者は、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行をしたに新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものとして再度の実行をすることはできないものとする(注)。

(注)プロジェクト・ファイナンス等の現在の実務に影響を与えることがないか、事業担保等の他の制度との関係にも留意しつつ、引き続き検討する。

 3 集合動産の一部について実行がされた場合に固定化が生じる範囲

 前記1⑴の通知の到達による前記1⑵及び⑶の効果は、その集合動産全体について生じるものとし、ただし、その通知において、【所在場所により特定された範囲/種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲】を実行の対象として指定したときは、この限りでないものとする。

第12 新たな規定に係る担保権の競売手続による実行等について

1 新たな規定に係る担保権は、民事執行法第190 条以下の規定に基づく競売によって実行することができるものとする。

2 新たな規定に係る担保権の担保権者は、設定者に対する他の債権者が申し立てた動産に対する強制執行手続及び他の担保権者が申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、配当要求をすることができるものとする。

3 新たな規定に係る担保権の担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的物を差し押さえたときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができるものとし、ただし、目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるときは、この限りでないものとする(注)。

4 【執行官/差押債権者又は担保権者】は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをしたときは、遅滞なく、その執行債務者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者に対し、その旨を通知しなければならないものとする。この場合において、その通知は、【通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。

5 強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る担保権の帰趨については、次のいずれかの案によるものとする。

【案12.5.1】 強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る担保権は、売却により全て消滅するものとする。

【案12.5.2】 強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする。

(注)劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分である動産を差し押さえた場合に、同様の規律を適用するかどうかについては、更に検討する。

第13 質権の実行方法に関する見直しの要否

 動産質権について流質契約の有効性を認めるか否かについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案13.1】 目的物の価額が被担保債権額を超える場合にその差額を清算させるなどの設定者の利益を保護する措置をとるとともに、民法第349 条を改正し、動産質権について流質契約の有効性を認めるものとする。

【案13.2】 動産質権について流質契約の有効性を否定する民法第349 条を維持するものとする。

第14 所有権留保売買による留保所有権の実行

所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、第8の3及び4の帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに第12 の民事執行法の規定に基づく競売を認めるものとする。

第15 債権を目的とする担保権の実行

1 債権譲渡担保権者による債権の取立て

債権譲渡担保権者は、その目的である債権を直接に取り立てることができるものとする。

2 債権質権者及び債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否

⑴ 債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.1.1】

ア 債権譲渡担保権者が実行をしようとするときは、被担保債権について不履行があった日以後に、設定者に対し、担保権の実行をする旨及び被担保債権の額を通知しなければならないものとする。

イ アの通知が設定者に到達した時から1週間が経過したときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする(注)。

(注)1週間の猶予期間を設けず、債権譲渡担保権者はアの通知が到達した時にその目的である債権の取立権限を取得するものとする考え方がある。

【案15.2.1.2】

 被担保債権について不履行があったときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする。

⑵ 債権質権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.2.1】 ⑴について【案15.2.1.1】を採用する場合には、これと同様とする。

【案15.2.2.2】 ⑴についていずれの案を採用するかにかかわらず、現在の規律を維持する。

3 担保の目的財産が金銭債権である場合に担保権者が取り立てることができる範囲

⑴ 債権譲渡担保権者は、譲渡担保の目的が金銭債権であるときは、その全額を取り立てることができるものとする。

⑵ 民法第366 条第2項を改め、質権者についても、質権の目的が金銭債権である場合には、その全額を取り立てることができるものとする。

4 担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、担保権者が請求することができる内容

⑴ 債権譲渡担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、債権譲渡担保権者が請求することができる内容については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.1.1】 譲渡担保の目的である金銭債権の弁済期が到来したときは、債権譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期が到来する前であっても、目的債権を直接に取り立てることができるものとする(注)。

【案15.4.1.2】 譲渡担保の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は、対抗要件を具備した担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるものとする(注)。

(注)第三債務者が担保権者に対して弁済した場合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き検討する。

⑵ 債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、質権者が請求することができる内容に5 ついては、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.2.1】 ⑴について【案15.4.1.1】を採用する場合には、民法第366 条第3項を改め、これと同様とする。

【案15.4.2.2】 ⑴について【案15.4.1.2】を採用する場合には、民法第366 条第3項を改め、これと同様とする。

5 担保の目的財産が非金銭債権である場合の実行方法

 担保の目的財産が非金銭債権である場合に、譲渡担保権者は、弁済として受けた物について【譲渡担保権(新たな規定に係る担保権)/動産質権】を有するものとする。

6 直接の取立て以外の実行方法

⑴ 債権譲渡担保権者は、目的債権を直接取り立てる方法によるほか、帰属清算方式又は処分清算方式の私的実行をすることができるものとする。

⑵ 債権譲渡担保権を民事執行法第193 条の規定に基づく債権執行によって実行することができるものとするか否かについては、引き続き検討する。

7 集合債権を目的とする担保の実行

集合債権を目的とする担保の私的実行については、特別な規定を設けないものとする。

 第4章 担保権の倒産手続における取扱い

第16 別除権としての取扱い

 破産手続及び再生手続において、新たな規定に係る担保権を有する者を別除権者(破産法第2条第10 項、民事再生法第53 条)として、更生手続において、新たな規定に係る担保権の被担保債権を有する者を更生担保権者(会社更生法第2条第11 項)として、それぞれ扱うものとする。

登記研究 799号 25頁 2014年9月 藤原勇喜:藤原民事法研究所代表「【論説・解説】倒産法と不動産登記をめぐる諸問題 ―破産法を中心として―」

第17 担保権実行手続中止命令に関する規律

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無

⑴ 新たな規定に係る担保権の実行手続(私的実行手続を含む。⑵において同じ。)を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同法第31条)の対象とする。

⑵ 新たな規定に係る担保権の実行手続を会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令(会社更生法第24 条、会社法第516 条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第27 条)の対象とする。

⑶ 債権質権の実行手続(私的実行手続を含む。)を⑴及び⑵の手続の対象とする。(注)

(注)契約による質物の処分を可能とする場合には、当該処分を⑴及び⑵に規定する担保権実行手続中止命令の対象とするかも問題となる。

担保権実行手続禁止命令

⑴ 再生手続において、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の対象とする。(注1)

⑵ 新たな規定に係る担保権についての再生手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。

⑶ 更生手続、特別清算手続及び承認援助手続において、⑴と同様に、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を対象とする、実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の規定を設けるものとする。(注1)

⑷ 新たな規定に係る担保権についての更生手続、特別清算手続及び承認援助手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。

 ⑸ 債権質権の【実行手続/直接取立てによる実行】を⑴及び⑶の手続の対象とする。(注2)

(注1)担保権実行手続禁止命令の対象となる手続に関しては、担保権実行手続中止命令と担保権実行手続禁止命令とを区別しない形で法制化すべきという考え方がある。

(注2)契約による質物の処分を可能とする場合には、当該処分を⑴及び⑶に規定する担保権実行手続禁止命令の対象とするかも問題となる。

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期

 担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令のうち、新たな規定に係る担保権の私的実行に係るものについては、被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとする(注)。また、債権質権の取立てに係る担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令についても同様の規定を設けるものとする。

(注)新たな規定に係る動産担保権については、被担保債権に係る債務の消滅後も、担保目的動産が担保権者に引き渡されるまでの間設定者による担保目的動産の受戻しを認めつつ、被担保債権に係る債務の消滅時と担保目的動産の担保権者への引渡し時のいずれか遅い方を担保権実行手続中止命令等の終期とすべきという考え方がある。

4 担保権者の利益を保護するための手段

担保権実行手続中止命令及び2に規定する担保権実行手続禁止命令は、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる。

5 審尋の要否

 新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】(注1)に対する担保権実行手続中止命令及び2に規定する担保権実行手続禁止命令は、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなく発することができ、ただし、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなくこれらの命令を発したときは、裁判所は、発令の後に(注2)担保権者の意見を聴かなければならないものとしてはどうか。

(注1)動産質権及び債権質権などの実行手続をも対象とすることが考えられる。

(注2)担保権者の意見を聴くべき時期の定め方(直ち5 に、速やかに、遅滞なくなど)については、引き続き検討する。

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力

 債権譲渡担保権の実行に当たって担保権者が担保目的債権の取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令が発令された場合の弁済の効力等に関して、次のいずれかの案によるものとする。(注)

【案17.6.1】担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合にも、第三債務者が担保権者に対して弁済することは妨げられないものとする。

【案17.6.2】担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合において、第三債務者がこれらが発令されたことを知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとする。この場合において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して、その債務を免れることができるものとする。

(注)債権質権に基づき担保権者が担保目的債権の取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は2に規定する担保権実行手続禁止命令が発令された場合の弁済の効力等に関して規定を設ける必要があるかどうかについて、引き続き検討する。

7 担保権実行手続取消命令

次のような担保権実行手続取消命令の規定を設けることについて、引き続き検討する。

 ⑴ 裁判所は、集合動産を目的とする新たな規定に係る担保権の実行通知がされた場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない(注1、2)ときは、実行通知の効力を取り消すことができるものとすること(注3)

⑵ 裁判所は、債権譲渡担保権が設定された場合における設定者に対する取立権限の付与が解除された場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない(注1、2)ときは、取立権限の付与の解除の効力を取り消すことができるものとすること(注3)

(注1)再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保を立てさせることなどをも要件とすべきという考え方がある。

(注2)担保権実行手続取消命令について、担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令に関する4と同様に、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができることとするかどうかについては、条件違反があった場合の効果などを踏まえて、引き続き検討する。

(注3)担保権実行手続取消命令が発令された場合における第三債務者による弁済の効力に関して、6のような規律を設けるべきかについては、引き続き検討する。

第18 倒産手続開始申立特約の効力

1 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に(注)新たな規定に係る担保権の目的物を設定者に属しないものとし、又は属しないものとする権利を担保権者に与える契約条項(新たな規定に係る担保権の目的財産を設定者の責任財産から逸出させることになる契約条項)は、無効とする。

2 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に設定者が新たな規定に係る担保権の目的物の範囲に存する動産をの処分等する権限や担保権の目的物の範囲に存する債権をの取立て等する権限を喪失させる契約条項を無効とする旨の明文の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

(注)再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立て以外を理由に⑴に規定する権利を担保権者に与える契約条項を無効とする旨の規定を設けるべきかどうかについては、引き続き検討する。

第19 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力

1 倒産手続の開始に生じた債権に対する担保権の効力

 将来発生する債権を目的とする債権譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約上の地位に基づいて倒産手続開始後に発生した債権に及ぶか否かについては、次の4案のいずれかによるものとする(注)。

【案19.1.1】 倒産手続が開始された後に発生した債権にも無制限に担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.2】 倒産手続が開始された後に発生した債権には担保権の効力が及ぶが、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時に発生していた債権の評価額を限度とする(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.3】 倒産手続が開始された後に発生した債権であっても、担保権者が担保権を実行するまでに発生したものには、担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.4】 倒産手続開始後に発生した債権には、担保権の効力は及ばない(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ既発生の債権について、倒産手続の開始によって取立権限を失う。)。

(注)目的債権の取立権限や目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限等何らかの基準によって場合分けをし、それぞれについて異なる規律を適用するという考え方がある。

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力

 集合動産を目的財産とする新たな規定に係る担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づいて取得した動産に及ぶか否かについては次の3案のいずれかによるものとする。

【案19.2.1】倒産手続が開始された後に取得した動産には担保権の効力が及ぶが、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時までに取得した動産の評価額を限度とする(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産につ5 いて、倒産手続の開始によっては、処分権限を失わない。)。

【案19.2.2】倒産手続が開始された後に取得した動産であっても、担保権者が担保権を実行するまで(実行通知が設定者に到達するまで)に取得したものには、担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によっては、処分権限を失わない。)。

【案19.2.3】倒産手続開始後に取得した動産には、担保権の効力は及ばない(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によって処分権限を失う。)。

第20 担保権の実行がされた担保目的財産に係る費用の負担(本項は、第19、1において【案19.1.1】を採用した場合の試案である。)

 将来発生する債権を目的として債権譲渡担保権が設定されている場合において、設定者について倒産手続が開始された後に目的債権を発生させる費用(注)を設定者が支出し、当該担保権の実行が行われたときの規律については次の2案を引き続き検討する。

【案20.1】当該債権譲渡担保権が設定された債権のいずれかについて担保権の実行(担保権者による取立てを含む。)が行われた場合、当該債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。

【案20.2】当該目的債権について担保権の実行(担保権者による取立てを含む。)が行われた場合、当該目的債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。

(注)目的債権を発生させる費用の内容については、引き続き検討する。

第21 否認集合動産又は将来発生する複数の債権を目的とする新たな規定に係る担保権において、個別の動産や債権等が次のような態様で担保権の目的の範囲に加入した場合、これを偏頗行為否認の対象とすること(注1)について、引き続き検討する(注2、3)。

⑴ 通常の事業の範囲を超えるなど、客観的に異常な動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入

⑵ 専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われたなどの設定者の主観的要件を満たす(注4)動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入

(注1)偏頗行為否認の対象とするのではなく、実体法上担保権の効力が及ばないこととすべきという考え方がある。

(注2)偏頗行為否認の対象とする場合に、設定者の支払不能等に関する担保権者の主観的要件を不要とすべきであるという意見がある。

(注3)加入後に個別動産や個別債権の処分等が行われた場合に、それを否認の成否において勘案すべきかどうかについて、引き続き検討する。

(注4)設定者の主観的要件に加えて、担保権者の主観的事情を要件とすべきであるという意見がある。

第22 担保権消滅許可制度の適用

1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用

  •  新たな規定に係る担保権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

 ⑵ 担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」(破産法第187 条第1項)として、私的実行を認めるかどうかについて、次のいずれかの案によるものとする。

【案22.1.2.1】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認め、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額についての要件を課さない

【案22.1.2.2】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額(注1)は、担保権消滅許可申立書に記載された売得金(破産法第186 条第3項第2号)の額以上である必要があるとする。

【案22.1.2.3】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めない(担保権者は、競売手続の実行の申立てによるほか、買受けの申出(破産法第188 条第1項)により対抗することとする。)(注2)。

(注1)帰属清算方式及び処分清算方式のいずれの場合でも、清算金の発生又は被担保債権の消滅の効果は、担保目的物の客観的な価額を基準として生ずることになること等を踏まえ、帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額を基準とするかどうかについては、引き続き検討する。

(注2)対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額を、担保権消滅許可申立書に記載された売得金の額に5パーセントを加えた額以上である必要があるとするという考え方がある。

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用

新たな規定に係る担保権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とするものとする。

第5章 その他

第23 事業担保制度の導入に関する総論的な検討課題

1 事業担保制度導入の是非

事業のために一体として活用される財産全体を包括的に目的財産とする担保制度(事業担保制度)を設けるか否かについて、引き続き検討する。

2 事業担保権を利用することができる者の範囲

⑴ 事業担保権者となり得る者の範囲については、制度の趣旨が適切に発揮されるためには適切なモニタリングや経営支援の知見等が必要であることや、経営への不当な介入を防ぐ観点から、金融機関などに限定する方向で、その具体的な範囲を更に検討するものとする。

⑵ 事業担保権を設定することができる者については、個人を除外して法人等に限定する方向で、組合による設定を認めるかなどその具体的な範囲については、設定を公示する手段の有無にも留意しながら更に検討するものとする(注)。

 (注)個人事業者がその事業用の財産に事業担保権を設定することも認めるという考え方がある。

3 事業担保権の対象となる財産の範囲

⑴ 事業担保権は、原則として、のれん、契約上の地位(注)、事実上の利益などを含む、設定者の有する全ての財産に及ぶものとする。

 ⑵ 当事者の合意によって一部の財産に事業担保権が及ばないようにすることができるかどうかについては、その旨の公示の可否などに留意しつつ、更に検討する。

(注)労働契約について何らかの特別な考慮が必要であるとの意見がある。

第24 事業担保権の効力

 1 事業担保権の設定

 事業担保権の設定契約に当たって必要な手続的要件については、事業担保権の設定による影響を受け得る者の利害にも配慮しつつ、更に検討する。

2 事業担保権の対抗要件及び他の担保権との優劣関係

 ⑴ 事業担保権の設定は、商業登記簿に登記しなければ、第三者に対抗することができないものとする。

⑵ 物的に編成された登記登録制度がある個別財産について事業担保権の効力が及ぶことを第三者に対抗するための要件として、商業登記簿への登記で足りるものとするか、登記登録をしなければ事業担保権の効力が及ぶことを第三者に対抗することができないものとするかについて、引き続き検討する。

⑶ 事業担保権と他の約定担保権との優劣関係については、対抗要件の先後によって定めるものする。

⑷ 事業担保権と先取特権との優劣関係について、引き続き検討する。

 3 事業担保権の優先弁済権の範囲(一般債権者に対する優先の範囲)

 労働債権や商取引債権は、無担保であっても一定の範囲で事業担保権の被担保債権に優先することとし、具体的にどのような範囲の債権を優先させるか、各債権に分配する額をどのように算出するか、優先させる債権への分配額を実行開始後に随時弁済することができるかなどについて、引き続き検討する。

4 事業担保権設定者の処分権限

 事業担保権が実行される前の段階において、事業担保権設定者がどのような範囲で事業担保権の目的となっている財産を処分することができるかについて、①事業担保権の目的である財産の処分一般について何らかの制約を設けるか、②事業担保権の目的である財産のうち一部について処分権限を制約するか、③後順位の担保権の設定に制約を設けるかなどの点を引き続き検討する。

5 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護

  事業担保権が及ぶ個別の財産について設定者の一般債権者が強制執行を申し立てた場合や、当該財産について抵当権等の担保権を有する担保権者がその実行を申し立てた場合に、事業担保権者がどのような手段を取り得るかについて、引き続き検討する。

第25 事業担保権の実行

1 実行開始決定の効果

⑴ 事業担保権の実行開始決定がされたときは、その目的財産の管理処分権は裁判所の選任する管財人に専属するものとする。

⑵ 管財人は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならないものとする。

 ⑶ 管財人は、債権者に対し、公平かつ誠実に、⑴の権利を行使し、実行手続を追行する義務を負うものとする。

⑷ 事業担保権の実行開始決定がされたときは、設定者の個別財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、事業担保権に劣後する担保権の実行等の手続は事業担保権の実行手続との関係で失効するものとし、事業担保権に優先する担保権は、事業担保権の実行手続によらないで行使することができるものとする(注)。

(注)事業担保権の被担保債権に先立って弁済を受けることができる一般債権に基づく強制執行及び仮差押えは、失効しないものとする考え方がある。

2 事業担保権の目的財産の一部に対する実行及び個別資産の換価の可否

 ⑴ 事業担保権の裁判上の実行手続において、事業担保権の目的財産の一部のみを対象として実行手続を開始することはできないものとする。

⑵ 管財人が設定者の通常の事業の範囲を超えて個別資産を換価するには、裁判所の許可を得なければならないものとする。

 3 裁判上の実行による事業譲渡における債務の承継の可否

 管財人は、裁判上の実行により事業譲渡をする場合において、事業の買受人に対し、事業担保権の被担保債務に先立って弁済を受けることができる債務その他のその債務の承継によって債権者間の衡平を害しないと認められる債務を承継させることができるものとする。

4 他の債権者及び株主の保護

⑴ 管財人は、裁判上の実行により事業譲渡をするには、裁判所の許可を得なければならないものとする。

⑵ ⑴の事業譲渡について、会社法上の株主総会の決議による承認を要しないものとする(注)。

(注)会社法上の株主総会の決議による承認に代替する手続の要否及び内容については、引き続き検討する。

 5 換価の効果

⑴ 事業担保権の目的財産は、代金の支払があった時に買受人に移転するものとする。

⑵ 事業担保権の実行としての事業譲渡による許認可等の承継については、次のいずれかの案によるものとする。

【案25.5.2.1】 ⑴の場合において、買受人は、その承継に関し他の法令に禁止又は制限 の定めがあるときを除いて、その事業に関する行政庁の許可、認可、免許等を承継するものとする。

【案25.5.2.2】 事業担保権の実行としての事業譲渡による許認可等の承継について、規定を設けないものとする。

包括承継などの構成によって、契約上の地位を相手方の承諾なく移転させることができる制度を設けるか否かについて、引き続き検討する。

6 被担保債権以外の債権の扱い

  •  実行手続の実施に必要な費用などの一定の債権を共益債権とした上で随時弁済することができるものとする(注)。

(注)共益債権とする債権の具体的な内容については、引き続き検討する。

⑵ 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権の扱いについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案25.6.2.1】 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権については、実行手続開始後は、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができないものとした上で、実行手続の中でその有無及び額を調査して確定し、これに対して配当する手続を設けるものとし、ただし、その債権を早期に弁済することにより実行手続を円滑に進行することができるとき、又はその債権を早期に弁済しなければ事業の継続に著しい支障を来すときは、裁判所は、管財人の申立てにより、その弁済をすることを許可することができるものとする。

【案25.6.2.2】 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権のうち、事業担保権の被担債権に先立って弁済を受けることができる債権は、実行手続によらないで、随時弁済するものとし、その余の債権については、【案25.6.2.1】と同様とする。

【案25.6.2.3】 実行手続開始前の原因に基づいて生じた債権は、実行手続によらないで、随時弁済するものとし、ただし、設定者に破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがあるとき又は設定者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときは、裁判所は、管財人の申立てにより、決定で、【【案25.6.2.1】/【案25.6.2.2】】と同様の扱いに移行させるものとする。

7  事業継続による収益の中間的な配当

管財人は、事業担保権の実行としての事業譲渡がされる前において、事業の継続によって得られる収益を中間的に配当することができるものとする。

8 事業担保権の裁判外の実行

  事業担保権の実行方法として、事業担保権者が設定者の同意なくその事業を譲渡することができる裁判外の実行手続を設けないものとする(注)。

(注)事業担保権の設定者による事業譲渡にも前記4⑵、5⑵などの裁判上の実行手続の規律と同様の規律を及ぼすか否かについては、引き続き検討する。

 第26 事業担保権の倒産法上の取扱い

1 別除権及び更生担保権としての取扱い

 破産手続及び再生手続において、事業担保権を有する者を別除権者として、更生手続において、事業担保権の被担保債権を有する者を更生担保権者として、それぞれ扱うものとする。(注)

(注)事業担保権について、再生手続との関係では、手続外での行使を禁止し、手続内において目的物の換価及び配当を行うこととするべきという考え方がある。この考え方を採る場合においては、配当方法に関してどのような規律を設けるべきかなども問題がある。

2 担保権実行手続中止命令の適用の有無

事業担保権を民事再生法等の担保権実行手続中止命令の対象とする。(注)

(注)担保権実行手続中止命令の効果については、引き続き検討する。

3 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する事業担保権の効力

 倒産手続開始後に発生した債権や、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づいて取得した動産について、事業担保権の効力が及ぶものとする。(注)

(注)倒産手続開始後に発生した債権や、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づいて取得した動産についても事業担保権の効力は及ぶものとしつつ、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時における担保目的財産発生していた債権又は倒産手続開始時までに取得した動産の評価額を限度とすべきという考え方がある。

4 破産法上の担保権消滅許可制度の適用

事業担保権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

5 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用

事業担保権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

6 DIP  ファイナンスに係る債権を優先させる制度

 事業担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、いわゆるDIP ファイナンスに係る債権を事業担保権の被担保債権に優先させる制度(DIP ファイナンスに係る債権をを被担保債権とする担保権を事業担保権に優先させる制度を含む。)を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

第27 動産及び債権以外の財産権を目的とする担保

 動産及び債権以外の財産権を目的とする新たな規定に係る担保権について規定を設けるか、動産や債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する規定と共通する規定としてどのようなものがあるか、どのような範囲で独自の規定を設けるかについては、個々の財産権の性質等も考慮しつつ、引き続き検討する。

第28 ファイナンス・リース

1 ファイナンス・リースに関する規定の要否及び在り方

 次のような特徴を有する契約において利用権を設定した者が有する権利を担保権として取り扱うものとする規定を設けることの要否、その具体的な要件や方式について、引き続き検討する。

① 利用権設定者が利用権者に対し、目的物の使用収益を認容するものであること

② 利用権者が利用期間に利用権設定者に対して支払う利用料の額が、目的物の取得の対価、金利その他の経費等相当額を基に算出されていること

③ 利用権者による目的財産の使用及び収益の有無及び可否にかかわらず利用料債権が発生すること

(注)いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リースについては金融の目的であるとみなすとの考え方もあり得るが、厳密な定義が可能か否かも含めて、検討する。

2 対抗要件

 利用権設定者は、特段の要件なく、利用権に設定した担保権を第三者に対抗することができるものとする方向で、引き続き検討する。

3 実行方法

 ⑴ 利用権に設定した担保権の実行方法(注)として帰属清算方式による私的実行を認め、この方法による場合の実行方法は、利用権設定者は利用権者に対して利用権を消滅させる旨の意思表示をしなければならないものとするほか、新たな規定に係る担保権の帰属清算方式による実行と同様とする。

⑵ 利用権に設定した担保権の実行方法(注)として処分清算方式による私的実行を認め、この方法による場合の実行方法は、新たな規定に係る担保権の処分清算方式による実行と同様とする。

(注)実行方法についての規定を設けず、利用権設定契約の解除のみを認めるという考え方がある。

4 倒産法上の取扱い

⑴ 利用権設定者を、破産手続及び民事再生手続における別除権者(破産法第2条第10 項、民事再生法第53 条)として、会社更生手続における更生担保権者(会社更生法第2条第11 項)として、それぞれ扱うものとする。

⑵ア 利用権に設定した担保権の実行手続を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同10 法第31条)の対象とする。

イ 現行の担保権実行手続中止命令(民事再生法第31 条)に加えて、担保権の実行手続の開始前に発令されるものとして、担保権実行手続禁止命令の規定を設け、利用権設定型担保権の実行手続をその対象とする。

⑶ 利用権者についての倒産手続開始の申立てによって利用権者が利用権を喪失するという効果をもたらす特約の有効性については、私的実行が可能な他の担保権に関する規定と同様の規定を設けるものとする。

⑷ 利用権設定型担保権を、破産法、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

 第29 普通預金を目的とする担保

1 普通預金を目的とする担保権設定及び対抗要件具備

⑴ 普通預金を目的とする担保権(注)について、以下の規定を設けるかどうかについて引き続き検討する。

ア 普通預金債権を目的とする担保権の設定がされた場合における当該担保権の効力は、設定後の預金口座への入金部分に及ぶ旨の規定

イ 普通預金債権を目的とする担保権の設定について対抗要件が具備された場合には、対抗要件具備の預金口座への入金部分についても第三者に対抗することができる旨の規定

⑵ 普通預金債権を目的とする担保権の設定の有効要件又は対抗要件として、普通預金口座に対する担保権者の支配(コントロール)等の要件を必要とするかどうかについては、特段の規定を置かないことする。

⑶ ⑴の規定を設ける場合には、設定者が法人であるときに限って普通預金債権を目的とする担保権を設定することができるとする等、普通預金債権を目的とする担保権を設定することができる場合を限定することについて、引き続き検討する。

(注)規定を設ける場合における担保権の種類については、引き続き検討する。

2 普通預金を目的とする担保権の実行

普通預金債権を目的とする担保権の設定にかかわらず、預金開設銀行は、差押えがあるまでは、設定者による預金の払戻しに応ずることができる旨の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

3 普通預金を目的とする担保権の倒産手続における取扱い

⑴ 普通預金債権を目的とする担保権について、預金残高の増加を否認の対象とするかどうかについて引き続き検討する。

⑵ 普通預金債権を目的とする担保権の、倒産手続開始後の預金口座への入金部分に対する効力について引き続き検討する。

第30 証券口座を目的とする担保

証券口座の担保化について、特段の規定を置かないものとする。

PAGE TOP