2016年加工編
法制審議会信託法部会
第21回会議 議事録
第1 日 時 平成17年9月30日(金) 自 午後1時02分
至 午後5時45分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題
第16 委託者の占有の瑕疵の承継について
第17 信託事務遂行義務について
第21 分別管理事務について
第22 信託事務の処理の委託について
第23 帳簿作成義務等について
第25 受託者の損失てん補責任について
第29 検査役選任請求権について
第32 費用等の補償請求権について
第37 受託者の解任及び辞任について
第39 前受託者等の義務等について
第48 受益権の譲渡について
第52 受託債権等の消滅時効等について
第53 私益信託における委託者の権利義務等について
第63 遺言信託について
第64 契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務について
第71 受益者が複数の場合の損失てん補請求と原状回復請求の関係
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● それでは,これから信託部の部会を開催したいと思います。
皆さんお忙しい中おいでいただきまして,ありがとうございました。
それでは議事の進め方につきまして,○○幹事からお願いします。
● それでは本日の議事でございますが,全部で16項目ございますけれども,16から22までを1番目,23から29までを2番目と,32から39までが3番目,48と52を4番目にやりまして,最後に53から64と。
あと71は新たなテーマでございますので,これだけちょっと独立して御議論いただければと。細かく言いますと6つになりますか,そういう感じでやらせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
● それでは続けて。
● それでは,まず第16の委託者の占有の瑕疵の承継について御説明を申し上げます。
結論的には,試案にありました乙案を採用しまして,13条1項の趣旨を維持することを提案するものでございます。なお,2項は削除することを提案いたします。
パブリック・コメントの結果でございますが,信託の安定性や受益者の利益の観点から,1項を削除すべきであるという意見と,信託の濫用防止の観点から1項を維持すべきであるとの意見がございましたが,維持すべきであるとの意見が多数を占めました。
また,委託者が信託を濫用的に利用することによって,占有の瑕疵の治癒を図るという弊害を防止すべきであるとの要請は改正法のもとでも妥当すると考えられます。
そこで,1項の趣旨を維持してはどうかと提案するものでございます。
また2項は,占有の行使力の点で特殊性を有する有価証券についても,占有の瑕疵が承継されることを示す注意規定であると解されておりますが,信託の場合におけるこのような特殊性をあえて2項を置かずとも1項により明らかであると解されます。
そこで,2項の注意規定は削除してはどうかと提案するものでございます。
なお,パブリック・コメントでは,いわゆる自益信託と他益信託とで区別して取り扱ってはどうかという意見もございました。
しかし,両者の区別は相対的なものでございまして,例えば,とりあえずは他益信託で設定し,その後直ちに委託者が受益権を譲り受けるという形をとった場合でも,この見解によりますと占有の瑕疵を治癒できることになってしまいまして,妥当ではないと思われます。
そこで,この区別する意見は採用しないということとしております。
また,学説上,13条を根拠といたしまして,権利変動に関する対抗の問題でも,自益信託の信託財産すなわち受託者には第三者たる資格を認めるべきではないという解釈が存することを踏まえまして,仮に1項を維持し,委託者の占有の瑕疵が承継されるということになりましても,受託者が第三者たる資格を否定される根拠とはならないという旨を明示すべきであるという意見がございました。
しかし,本提案の立場は,自益信託か他益信託かの区別を採用しないものでございますので,この学説の考え方を採用する前提を欠くというべきものでございます。
さらに申しますと,委託者からの倒産隔離が信託における重要な機能の一つであることには異論はないところでございまして,そのことは,委託者の債権者は,原則として詐害信託取消権を行使できる場合以外には,信託財産に対してかかっていけないとしていることからも明らかでございます。
1項は,あくまでも占有の瑕疵の承継についての局面に関するものでございまして,これを維持したからといって,それ以外の委託者の倒産からの隔離の場面におきまして,受託者が委託者とは,法律上独立の地位を有するものであることは,明示するまでもなく否定するものではございません。
もっとも,受託者にこのような法律上独立の資格を認めることと,権利変動に関する対抗の局面や権利の瑕疵の承継の局面において,通常の取引の局面とは異なる信託の特質性を考慮した解釈を行うこととは矛盾しないものでございまして,受託者が権利変動の局面において対抗要件を必要とする第三者に当たるか,あるいは権利の瑕疵が原則として切断されるべき第三者に当たるか,といった点につきましては,一律に決するのではなくて,当該信託のスキーム,殊に受益者の利益を保護すべき必要性の程度に応じまして解釈によって対応することが,適切な結論を導くと考えるものでございます。
以上が,第16についてのパブリック・コメントを踏まえた再提案ということでございます。
続きまして,第17の信託事務遂行義務についてでございますが,これは試案のとおりとすることを提案するものでございまして,試案につきましては賛成意見が大勢を占めております。
もっとも「信託の本旨に従い」という抽象的表現を多用すべきではなくて,現行法4条のとおり「信託行為の定めに従い」とすべきであるとの意見もございました。
しかし,民法の委任におきましても,「委任の本旨」という文言の用いておりまして,「信託の本旨」というものを用いることは,このような立法例とも平仄が合うものと考えられます。
そこでこの提案でも「信託の本旨」との文言を用いることが相当と判断したものでございます。
続きまして,第21の分別管理について御説明申し上げます。パブリック・コメントにおきましては,試案の方向に賛成する意見が大勢を占めましたが,金銭債権など物理的管理を観念し得ない金融資産ですとか,信託財産の管理を第三者に委託した場合などにつきまして,規定の明確化を望む意見がございました。
そこで,分別管理の方法につきましては,信託財産が適切に確保される方法として,法務省令で定める方法によるべきものとする,ということに規律を改めることを提案するものでございます。
このように法務省令で定める方法に委ねるとすることによりまして,信託財産の性質に応じた具体的な分別管理の方法,すなわち登記登録ですとか,帳簿によるか,物理的分別が必要か,などという点。
それから証券保管振替機構ですとか,海外カストディ等の適切な第三者に信託財産,特に券面のある有価証券の管理を委託した場合の分別管理のあり方,さらには新たな財産の取得の形態が開発された場合における分別管理のあり方,などにつきまして,信託法自体に定めをおく場合よりも,より具体的かつ明確に,さらに時期に応じた柔軟な対応が可能となると思われるからでございます。
なお,法務省令の制定の際には,改めてパブリック・コメントを通じて内容を確定していくことになりますが,想定される方向性といたしましては,基本的には試案及び補足説明に記載した内容を踏襲いたしまして,この資料の7ページに記載したような方向性で考えているところでございます。
また,試案の補足説明におきましては,この資料の5ページの下の方に,少し小さなポイントで記載いたしましたとおり,信託財産が信託の登記または登録をすることができる財産である場合においても,信託行為において受託者が経済的な窮境に至ったときには,遅滞なく信託の登記登録をする義務があるとされていると認められる限りは,分別管理義務が課されていると解してよいと述べたことに関しまして,1つは一般的にこうした取り扱いを許容すべきではないという方向性の意見,その対極といたしまして,信託行為で定めれば登記登録義務を完全に免除できるものとすべきであるという意見,それからいわば中間的な意見といたしまして,現行実務では抵当権付債権の信託がされる場合の抵当権ですとか,重要性が低く,あるいはすぐに除去される予定の建物などについては,一時的とはいえ登記を免除することが一般的でありますので,この趣旨を明確化すべきであるという意見,などが寄せられました。
しかし,最初の2つの両極の意見につきましては,まず信託の登記登録義務を完全に免除してしまうということは,要するに受託者からの倒産隔離を放棄してしまうものでございまして,もはや信託としての意義を認めることはできず,相当ではないと思われますし,他方におきまして,補足説明が許容しているような一時的な免除というものは,分別管理義務の主たる目的である,受託者からの倒産隔離を害することなく信託財産の効率的運用を通じて受益者の受益に資する場合があると評価できるのでありまして,信託行為に定めがあることを前提に,このような一時的な免除を認めることまで否定する必要はないというふうに思われるところでございます。
」
なお,最後の意見につきましては,経済的な窮境と申しますのは,信託財産の倒産隔離効果を確保するために信託の登記登録をすべき現実的な要請が顕在化する典型的な場合,これを挙げたものでして,抵当権付債権の信託における抵当権ですとか,除去予定の不動産の信託についても,信託の登記をすべき現実的な要請が顕在化する一定の事情が発生するまでは,登記登録義務を免除することができる,といたしましても,なお信託の意義を失うものではなくて差し支えないと思われます。
もっともいかなる事情が生じようとも,登記登録義務を免除してしまうということは,先に申しましたとおり,信託の意義を認めがたく妥当ではないと思われます。以上のような考え方を前提といたしますと,補足説明に述べたような,この小さなポイントの考え方を維持することでよいと思われるというのが,事務局の見解でございます。
最後に,信託事務の委託について,第22について御説明を申し上げます。本日はこの第22のうち,提案の2の(1)にかかります甲案と乙案についてのみ審議願いたいとの趣旨でございます。後日,改めて全体について本日の御審議を踏まえて御提案する予定でございます。
この点につきまして,パブリック・コメントの結果は,受託者は原則として選任監督責任のみにとどまるとする甲案が,より多数意見を占めました。
なお,甲案と乙案を指示する理由として挙げられている意見の趣旨は,それぞれ資料の8ページと9ページに記載させていただいたとおりでございます。
いずれの考え方をとるべきかを改めて御審議願いたいわけですが,ただ社会の分業化,専門化が進んだ現代社会の経済実態を重視しまして,現行に比べて信託事務の趣意を他人に委託できる場合を実質的に拡大するという提案1の趣旨からいたしますと,甲案の考え方の方が一貫しているように思われるところでございまして,乙案によるときは結局受託者が相当な委託をもちゅうちょしたり,信託報酬の上昇を招くことになりまして,かえって受益者の利益にも資さない結果になるのではないかと懸念されるところでございます。
また,甲案をとった上で,現行法26条3項を削除するとなりますと,受益者の保護が後退するのではないかとの意見に対しましては,資料の9ページから10ページ,ぽつが3つございますが,そこに書きましたような方法があることにかんがみますと,決して受益者の利益の方が現行法よりも劣る結果になるとは言えないのではないか,と思われることにつきまして付言させていただきます。
以上でございます。
● それでは,今説明があったところについて,順次御議論いただきたいと思います。
これからいろいろ決めていかなくてはいけないわけですので,合意ができるものについては決めていきたいと考えておりますし,また,いろいろ意見が対立するものについても,もしある方向性が出せるものであれば,その方向性を確認しながら進んでいきたいというふうに考えております。いずれにせよ,今の範囲で御自由に御議論をお願いいたします。
皆さんから御意見がなければ,ちょっときっかけにということですけれども,順次ということで,この占有の瑕疵の承継ですが,現行13条の1項の趣旨のこれは非常にもっともなことで,一番典型的には,自益信託で設定して委託者には本来その瑕疵があって,例えば短期の取得時効などが認められない,そういう瑕疵のある占有であるときに,受託者に占有を移して,それは独立の占有だということで,そこで取得時効が認められるというのはおかしい,というのがその趣旨ですよね。
やはりそういう趣旨は生かした方がいいだろうということで,その点については全く問題がないというふうに思います。
ただ,この規定だけがあったとき,13条以降ないし今度の第16のこの規定があったとき,これはちょっと確認ですけれども,本当に委託者と全然関係ない受益者が設定されて,委託者と全く関係のない者が受益者になって信託が設定されて,その信託のもとで受託者の,例えばその今の取得時効とかですね,こういうふうなものは今後一切認められないということになるのか,あるいは何か余地があるのか,ここら辺はどうですかね。
● そこはこの規定を維持しますと,原則として信託財産の瑕疵を承継されるということになりますので,基本的に難しいということになると思われます。
● 私はですね,そもそも,ちょっと日本の法理とうまく合うかどうかわかりませんけれども,今の他益信託の受益者というのは,無償の受益者ですのでね,あんまり強い保護は与えなくてもいいかもしれないというふうに一方では思うんですが,ただ贈与などと比較すると,一切取得時効が認められる余地がないというのはどうかという気もちょっとするのでね,そこら辺のバランスをどう考えたらいいかというのは,この立場をとるのであれば少し説明を要するのではないかという気がします。
ほかにいかがでしょうか。
どうぞ,○○委員。
● ちょっと飛んでしまってもよろしいですか。21の分別管理義務のところなんですけれども,前回の要綱試案のところから変わって,政省令で定める方向をとりましょうというような御提案ですけれども,この方向性につきましては,やはり信託財産というものが多様化してきて,今後もますますいろいろなものが出てくるだろうということで,典型的な規律というのがいつまで持つかわからないという部分がありますので,そういう観点からいくと,割と柔軟に対応できるようなこういう省令で定める方法というのは,方向性としてはいいんではないかなと。こういう方向は賛成するということでございます。
ただ,当然のことながら,細かく規定される限りにおいては,当然解釈というのがものすごく限定されますので,実務の立場からいくと,それでちょっと違ってしまえば全然適合しなくなるという,そういうような恐れもありますので,ここら辺については実務上の配慮というのをお願いしたいと。
具体的にはですね,例えばということで,ここでは7ページで動産というのが物理的な保管管理というふうに書いてありますけれども,例えばその動産においても動産信託で,もうちょっと具体的にいうと,例えばパソコンを信託をしているような場合については,ユーザーのところに貸し出したりしていますので,そうするとその物理的な管理というのに当たらないような,文言上かもしれませんけれども,そういう管理方法もありますので,その省令を書かれるときには,その辺のところの御配慮もお願いしたいと。
あとは有価証券を預託した場合,これについては御配慮いただけるということで書かれていますけれども,証券の振替機構であるとか,カストディであるとか,あとここだけで切れてしまえばいいんですけれども,ほかに預託するようなものもありますので,ここで切ってしまうのか,それともそういうものを全部含めた形で規定されるのかというのは,ここら辺も実務上大きな問題があると思いますので,そういうところを御配慮いただきたいと。
そこら辺が明確に規定できるということで,こういう方法をとられるということですので,そういうことを期待しまして,ぜひとも実務上の配慮をお願いしたいということであります。
● 今の御意見についてですが,資料の7ページのところに書かせていただきましたけれども,もちろん法務省令を制定する際には,またパブリック・コメントを通じて内容を確定していくわけでございますが,今,○○委員から御指摘がありました,物理的な分別管理に限るのはちょっと規則が厳しいという点につきまして,資料7ページに「信託行為において別段の定めを置くことも許容されることを定めていく」という方向性で考えておりますので,最終的にはパブリック・コメントになるとはいえ,その点は,今までの提案と変えるところはなくて,御懸念には当たらないのではないかと思っております。
それから,第三者に例えば有価証券を預託する場合も,まさに法務省令に落としておりますのは,いろいろな形態がこれから生み出されてくるということに柔軟に対応できるということを考慮してのものでございますので,現行法にありますような証券保管振替機構ですとか,海外カストディ以外についての預託の方式について,どのような分別管理をすべきかということについても,当然しかるべく協議の上,対応していきたいと思っております。
● はい。先に○○委員,どうぞ。
● この21番分別管理のところですが,まず今回の御提案のとらえ方としては,分別管理義務は強行規定であるけれども,法務省令で信託行為で別段定めを置くことも許されるというのは,要するに分別管理の方法について信託行為では定められると,そういうような理解でよろしいんでしょうか。
● 大きな問題だと思いますけれども,どうですか。
● 先ほどちょっと御説明したところの補足でございますが,法務省令で定めますのは,あくまでも分別管理の方法なのでございますが,ただその法務省令で定めることによって,何か定めた方法をとったから任意規定になるとかいう話ではなくて,あくまでも法務省令で定めるのは,基本的には分別管理の方法であって,この規定自体は強行規定であるということの性質自体が変わるものではないのだというふうに思います。
ただしその動産,これは補足説明のときから考え方を変えているわけではございませんが,その登記登録することができないような財産については,信託行為で固有財産と集合して管理するというようなことを,許容されていくことにはなるのだろうというふうに思います。
その場合には,また今後扱うことになる識別不能のルールで,倒産隔離のルールはまあ働いてその信託の倒産隔離的な機能というのは維持される,という整理になるのかというふうに思います。
● わかりました。それでこの7ページの法務省令制定の際の考え方として,次のようなことだということで書かれているところで,債権がですね,信託帳簿上の計算管理というふうに書かれていますけれども,例えば預金債権でこの委託者1人,受託者1人,受益者1人というのは,素朴な信託で考えてみますと,口座は自分の固有財産の口座とは別の口座で,信託財産を分けて管理することを義務づけるというのは相当であるし,それを実行するのは簡単だと思いますので,そういうかなりきめの細かいつくり方になっていくのではないかという気がしますが,そうでしょうか。
● 処理の定め方については,またパブリック・コメントの際に検討されていくこと,より具体的に検討されていくことになると思いますが,基本的な考え方としましては,原則は口座を別々に個人の固有財産にかかる口座と別々に開設すること自体は困難なことではないと思いますので,受託者なにがしと書いて,それで固有財産と別の管理でやるというのが恐らく原則になりながら,ただ帳簿上,出し入れをはっきりときちんと管理している限りにおいて,どこまで認められるかという御要望もまたちょっとあるかもしれませんが。原則はおっしゃられたような形になるのではないかなと思います。
● 今の第1点と第2点に関係するんですけれども,この分別管理義務の規定が一応強行規定という形で規定されていて,だけど先ほど○○幹事から説明がありましたように,5ページの小さい字で書いてあるように,その一定の範囲での分別管理の措置をとらなくても許容されるようなことがあるという意味で,強行規定で出発しながら,ある程度緩くしている部分があるわけですね。
今,○○委員の質問は,その大きなレベルの条文のレベルよりはもう一つ下の,法務省令で規定したときの信託行為において別段の定めを置くということの意味であったわけですけれども,もう一つ上のレベル,法律のレベルでこの分別管理義務というものが,多少その性格がはっきりしないところがあって,繰り返しになりますけれども,強行規定で出発しながら多少許容されるところがある。
分別管理の処置をとらなくても分別管理義務に反したことにならない,という解釈を許容すると。
これは我々ここで議論してきたことなので,我々共通の理解があると思うんですけれども,条文にしたときですね,それが明確に出るのかどうかというのが気になっておりまして,もし今のようなある種の許容性というのを認めるのであれば,それはもうちょっと明確にした方がいいのではないかということを,ちょっと私は個人的に思っております。
これはちょっと○○委員の信託行為による別段の定めということとも少し関連する問題です。
もう1点はですね,これも今,法務省令でもってどの程度のことを書くのかということと関係するんですが,分別管理義務というのは非常に重要な義務ですので,法律のレベルでも,例えばこの7ページ書いてあること,この程度のことは法律のレベルで書いておいて,さらに細かいこと,あるいはさっきの証券保管振替機構を使う場合の話とか,いろいろなことがたくさんほかにもあるでしょう。
こういうものは法務省令で対応できるように,そういうふうにした方がいいのではないかということを,ちょっと思っております。事務局とは少し違う考え方ではありますけれども,皆さんの御意見を伺えればと思います。
● 私,議論をしたことをすぐに忘れてしまいますし,そもそもこの話は私が考えついた話ではなくて,ここにいらっしゃるある幹事の方に教えていただいた問題ですので,その幹事の方に発言していただいた方がいいのかもしれないんですが,抵当権付債権の信託のときの抵当権の登記の話なんですが,例えばある債権について譲渡がなされたというときに,抵当権がそれに対して随伴していくわけですが,指名債権譲渡の対抗要件を備えていればですね,その抵当権についての登記をしなくても第三者に対抗できる,と言葉遣いは難しいんですけれども,それで抵当権行使できるんじゃないかという気がするというのか--。
そもそも抵当権者として登記面状に記載されている人が倒産した,破産したというときに,倒産財団,破産財団にその被担保債権が譲渡されている抵当権だけが帰属するということは考えられないわけでして,からっぽになりますから,そうするとそこでは第三者に対抗の問題が生じてこないわけですよね。
そこで,その被担保債権の方について,その信託の分別管理なり,あるいはひょっとしてその登記登録というのがあるかもしれませんが,こうしておけば抵当権についてはしておかなくてはいいのではないかというのが,恐らくパブリック・コメントに出てきた意見なのではないかと思いまして,私は他の法制度との関係で考えますと,またそして第三者に対抗できるという意味から考えますと,そのパブリック・コメントの意見というのは,ごもっともなところがあるんではないかという気がするわけです。
さらにまた,例えば信託銀行が受託者となって,ある行為をしているというときに,例えば根抵当権を取得している。
根抵当権が銀行取引によって生じた債権であると--銀行取引だという言葉にするとまた問題があるかもしれませんが--ある種の広く被担保債権が規定されていると。
しかるに,例えば信託銀行が第三者に貸付をするというときに,その貸付の原資が銀行勘定の固有資産であるという場合と,信託の事務として貸し付けるという場合とがあり得るわけでありまして,しかしながら,それを両方とも根抵当権の被担保債権基準によりますと,被担保債権として含まれるという場合には,別段その信託の登記というものがなされていなくても,当該信託財産に含まれている債権というのは,担保つきのものになるのではないかという気がするんですよね。
したがって,すぐに壊す建物というのと,抵当権付債権の信託のときの抵当権というのが,並べてやっぱりやらなければいけないというふうに論じられるものなのか,この抵当権付債権における信託のときの抵当権の登記というものは,もうちょっと細かく考える必要があるのではないかという気がするのですが,いかがでしょうか。
● 私も実務の方からお伺いしているような話でもあるのですけれども,○○幹事の最初におっしゃられた抵当権付債権が譲渡されたときに,確定日付ある通知とか承諾があれば,第三者に対しても債権についてのそれがあれば,抵当権の登記を移さなくても対抗できるじゃないかというようなお話は,確かにそういう話になってこれまで進んできているところは,御意見の中でもあったかと思うのですけれども。
1点目として,さもさりながら実務の方に聞くと,じゃあ債権の譲渡人の方でですね,転抵当とかを設定してしまったとかいうときに,本当に登記がなくて対抗できるんだろうかというようなところは,多少なりともその不安感を感じながらやっているというようなお話を伺ったこともあるのですけれども,そういう不安感もありながらやっている中で,例えば抵当権を実行するときとかいうことになりますと,いずれにせよ,これは移転の登記を経た上できちんとやっていかないといけないと思いますので,何も今回の手当てをしたからといって,現行の抵当権の実行があるときまで,抵当権の移転の登記を留保するという実務をやめましょう,というか,やめてくださいと言っているつもりもございませんで,今回の提案に基づいても,現行の実務はそのまま維持されて矛盾なくできるんではないかというのが,説明させていただいた趣旨なのですけれども。
● 第2点も伺いたいのですが,第1点のことから申しますと,例えばですね,ある信託銀行が債権の譲渡を受けたというふうにします。
そしてそれが信託財産に帰属したと。そうしたときに,実行しなければ,実行する際には当該信託銀行が抵当権者のところに記載されている状態にならないと実行できない。
それはそのとおりだと思うんですね。しかしながら,それが信託財産であるということを登記しなくても実行できますよね。
したがって,その実行のときには信託の登記が必要ではないか,ということにはならないんじゃないかと思うんですが。
● おっしゃる趣旨は,移転の付記登記さえされていれば,信託の登記がなくても実行はできるという趣旨でございます。
ただ実務上,移転登記だけして信託登記をしないといったことはできないといいますか,一緒にせざるを得ないという事態になっていますので,そうすると両方しないか,まとめてするかということになると,両方しないんでは実行できませんので,移転の付記登記と合わせて信託の登記を,実行の局面になったらせざるを得ないんではないかと。
しかしそれは,我々のその提案の窮境な状態というのを,「など」というふうに読めば,実行の必要性が生じた場合にも受益者の保護の必要性が生じて,信託の登記登録義務が生ずるという余地があるのではないかというふうに考えているところでございます。
● 根抵当権の方はいかがでしょうか。
● 今回の提案に基づきましても,現在の現行実務で行われていることについては,個々の被担保債権それぞれが信託財産,固有財産のいずれかに帰属するかということが明らかにされている限りにおいて,現在の実務はそのまま,別にこの規定に違反するということを言われることなく,肯定されてよいのではないかというふうに考えますけど。
● ○○委員の関係,そういうことですか。
● 根抵当権の場合につきましては,明確に,例えば信託勘定で幾ら出していて銀行勘定で幾ら,例えば100万円ずつ出していますという,そういう単純なものというのがほとんどなくてですね,根抵当権を1つばんと設定しますと,まず銀行勘定から幾ら出しています,信託勘定から別途長期の資金を出しました,救済の必要が出てきたので,じゃあまた銀行勘定から出しました,とかという形で,状態というのが日々,ある意味極端な言い方ですけれども,日々動いているような状態ですので,我々の方の不安としたら,それで何らかの受託者についての信用力が低下したような場合,破綻に近いような状態になったときに,果たしてそれが保全されるのかどうか。
というのは,そこが明確に,どこの部分がどう担保されているというのが,明確でない部分がありますので,そういう意味合いで非常に不安な部分があると。
そこで,その辺のところの規律というのをお願いしたいというふうに,前々から言っていたものなんですけれども。
● 先ほどの1点目の話にまた戻るようなところもあって,ちょっと確認だけさせていただきたいんですけれども,抵当権について信託の公示をしなくていいかどうかというようなお話で,先ほども少しお話出ましたけれども,抵当権は処分,委託者の権利違反で処分してしまうというような,転抵当ですとかね,お話が出ましたけれども,それとの関係での公示の問題というのがあるのかどうか。
それからちょっと考えられないのかもしれないんですが,抵当権をある種の価値権を把握しているというのは,これはありますので,抵当権そのものをその他財産権として強制執行するというようなことは,それはないという前提で考えた上で,それでしたらその信託の公示をしなくてもいいだろうと,いうようなお話をされていたということでございましょうか。
● そうですね。○○幹事が聞かれたのは。
● そうですね,結局,倒産隔離というふうに申しましても,かなりその意味合いがですね,倒産財団に含まれるか含まれないかというのが,倒産隔離という話として出てくるわけですが,倒産財団に空の抵当権だけが含まれるということにはならないですよね。
先ほど抵当権の処分の話が出たところで,処分は結構厄介なんですけれども,本当を言えば,空っぽのその抵当権ですと,処分されてもそれは抵当権の価値というのは被担保債権額に依存しますので,転抵当を受けてもですね,だめなんじゃないかと思うんです。
その辺は解釈論でございますので余り口出しはしないこととしましても,譲受人との形に,抵当権との処分を受けた人との関係が問題となるというのは,もし仮にそうだと仮定しても,倒産隔離が問題になるわけではないような気がしますので,そのちょっと意味合いが少なくとも,かなり違うのではないかという気がするんですね。
○○関係官がおっしゃるとおり,抵当権だけを差し押さえるということは考えられないわけでして。
● いずれにせよ,これは何か具体的に細かく,それで大丈夫だということを書く必要があるのかどうかという,そういう問題ですよね,○○委員が心配されているのは。
少なくとも法律のレベルで分別管理義務を負わせているというレベルの話としては,全く影響がない問題,実務的な現在のあれを変えるわけではなくて。
そういうことですので,何かさらにつけ加えて言っておきたいことがあれば伺いますけれども,これ以上細かいことも--。
はい,○○委員。
● 21番分別管理に関して,ちょっと最初の問題に戻るような話で恐縮なんですけれども,やはり前回の試案の作成時点における考え方が変わっていないということを,この場で確認したいと思っている,と言いたいところなんですけれども,つまり試案時点では,まさしく本文に信託行為に別段定めある場合には,そもそもその分別管理が登記登録のないものについては免除されることもあり得る,ということを前提にして書かれていたと思うんですね。
現に,補足説明の51ページにそのようなことが書いてございますが,読みますと「信託行為において別段の定めを置くことにより,分別管理義務を免除できるものとした」というふうなことが書いてあります。
今回の書きぶりになりますと,政省令レベルで外すということもあるのかもしれませんが,やはりちょっと原則が変わったように思えて仕方がないんです。
じゃあ,この試案がパブリック・コメントを受けてこのように変わることに,何か合理的な理由があるのかどうかというのを,今さっきお話があったのかもしれませんけれども,私,ちょっと聞き漏らしたかもしれませんが,ちょっと私にはよく理解できないものでございます。
やはり,柔軟性を確保するためには,こういうことについて法律レベルで書いておく必要があると思います。冒頭,○○委員がおっしゃったとおり,政省令にすることはもちろんきめ細かい対応ができるということのためにはよろしいかと思いますけれども,やはり重要なことについては法律で定めるということも,必要ではないのかなというふうに思いました。
それから,これからちょっと個別についての意見なんですけれども,2つございまして,1つは先ほどから出ていますカストディといいましょうか,第三者に委託するものでございますけれども,その考え方についてちょっと意見を述べたいと思います。
すなわち,これは信託業法でも同じような考え方をとっているんですけれども,委託先においても受託者の同等の分別管理を求めるかどうかということでございますけれども,私は少なくとも実体法レベルでは,そこまでは求める必要はないというふうに思っております。
例えばどういうことかといいますと,有価証券における帳簿であれば,受託者を置いているところは,信託A,B,Cとかなったとしても,第三者委託のところで出てくると,そこは単に受託者名だけで十分ではないのかなと思っています。
何とならばということでございますけれども,それはやはり分別管理の意味というのが,受託者が倒産した場合に財産がごちゃごちゃにならないことと,受託者の倒産リスクから分離するということが目的だというふうに思っております。
したがいまして,第三者のところでこれがその受託者のものか,また信託Aなのか,信託Bなのかということが,もちろん明らかになることは望ましいんですけれども,明確化ならないとしても,例えばその受託者の方の帳簿等で明確化されていれば十分ではないのかなというふうに思っております。
したがいまして,そこのバランスについて御配慮いただければというふうに思っております。
それから2つ目に,個別に政省令できめ細かく定めるということに関連するわけなんですが,世の中いろいろありまして,その中に例えば,これも寄託物ですけれども,その請求権というのは2つありまして,1つは所有権に基づく引渡し請求権というのがあると思うんですけれども,もう1つは何らかの寄託契約に基づく請求権というのがあると思うんです。
かように,例えば同じ経済的主張であったとしても,法律の性質決定が,例えば債権と所有権とこう一緒になっていたもの,ということもままあると思うんですね。
そうした場合に,これは決め方の問題だと思うんですけれども,例えば1つの決め手である債権はどうである,動産であるという法的な性質にしたがって定めるという方法もあると思うんですが,もう1つはいわゆる経済的な実体に即してカストディはこうである,こうであるというふうなことがあると思うんですけれども,場合によってはどれに当てはまったらいいんだろうかとか,そういったことで非常に混乱することもあるのかなというふうに思っているわけです。
したがいまして,これは○○委員の指摘にもあるわけですけれども,実際にその政省令を決める場合には,きめ細かくするということは大切なんですけれども,そこは実務に応じて逆に問題になることもあるかもしれませんものですから,そこら辺も十分な検討が必要だと思いました。
● 第1点は,先ほどちょっと私も申し上げた,強行規定ではあるけれども任意法規的な性格を多少持つのか,持たないのかという問題ですね。ちょっとニュアンスが違ってきて--。今,何か補足説明ありますか。
● 今の御意見についてですが,まず試案に書いた考え方と現時点での我々の考え方,別に何も変わっているわけではございません。
ただ,今伺っていても我々が理解しましたように,例えば海外カストディに預けたときにどのような分別管理をすべきかとか,あるいは寄託物についてはどういう分別管理が正しいかとか,かなり非常に今,些細というか,複雑な問題でございまして,到底それを全部法律に書くということはできないというのも御理解いただけるところかと思います。
じゃあ,基本的な部分を書いたらどうかという,もちろんそういう御指摘は十分あり得るところかと思うんですが,ただその一部を法律に書いて,一部を省令に書くというのも,なかなか見栄えの問題もありますし,あと実際どこで切り分けるかという難しい問題もございまして,それであればこの試案の考え方を維持することを前提として,将来的にはもちろんもう1回パブリック・コメントには付すわけではございますが,まとめて省令で書くという選択肢もあるのではないかというのが事務局の考え方でございます。
● 今のような点について若干意見なんですけれども,まず冒頭の方で○○委員の方からありました分別管理義務を免除できるというその補足意見のコメントについては,その言葉を額面どおり受け止める限りでは,なかなか賛成できないというふうに考えております。
ただ,試案の段階と今回の御提案と,若干分別管理義務の射程範囲が異なってきているのかなという感じがしておりまして,補足説明の段階では分別管理義務の内容については,物理的なその分別という前提で,恐らくとらえられていて,それによってその帳簿作成義務が免除されるものではないということが,恐らく前提になっていたのではないかというふうに理解しております。
今回,分別管理義務を考えるに際しては,帳簿作成義務のところまで取り込んだ形で,義務の中身を措定するというような立て方をされたのかなというふうに受け止めておりまして,もしそういうことであれば,そういった考え方もあり得るのかなというふうには考えております。
ただ若干,先ほど問題になっておりました債権,特に預金との関係で,その先のことを御検討いただけないかなというふうに考えておりますのは,例えばその預金口座を分別するということを考えた場合に,もちろん別口座にするというのは原則だということをうたうということであれば,それはそれでお願いしたいことであるんですけれども,やはり実務上の要請から,それを帳簿だけの管理にするということも許容すべきだということが,恐らく議論としてはあるんだと思います。
その場合にも,そういったことが許容されるとしても,ただ単に帳簿だけつければいいということになるんであれば,それに対応する口座残高が確保されないという事態が起こったときに,やはりこれは分別管理義務が尽くされたことにはならないのではないかというふうに思われます。
そうすると,もし債権で帳簿上の計算管理で分別管理義務が尽くされるということを考えたときには,やはりそれとともにそれに対応する,例えば預金であれば口座残高であるとか,そういう財産が確保されるような措置といいますか,そういったものをあわせて求めていく必要があるのではないかというふうに考えているところです。
この点については,もちろん将来的にはパブリック・コメントのレベルの問題かもしれませんけれども,ぜひ債権,特に預金については,帳簿上の管理計算ということを考える際にも,そういった財産確保ということも含めた形での御検討をお願いできないかというふうに思います。
それからもう1つ,この規定の規定ぶりといいますか,どういった規定をつくるかということとの関係の御意見なんですけれども,これはもし民事信託ということを考えた場合には,一般の人たちが,やはり法律の条文を読んで分別管理義務の内容がわからない,わかりにくいというのは,できればわかりやすくしてほしいという感じがちょっとしておりまして,やはり法務省令を見なければわからないというよりも,原則的な管理方法については,できれば条文に挙げていただいて,ただし法務省令によることができるとか,そういった形の規律をしていただけると,民事信託とかそういった分野との関係ではありがたいかなというふうに考えております。
以上です。
● はい。ほかにいかがでしょうか。
○○委員。
● すみません。今,議論をお聞きしていまして,ちょっとわからなくなったところがありますので,2点ばかり確認させてください。
1点目はですね,例えば債権の場合ですけれども,信託ごとまたは固有勘定と信託財産ごとで口座を分けるということが,ここでいう分別管理なんでしょうか。
私自身は,その債権というのが帳簿上の計算管理と書いてありましたので,その必要性はないというふうに考えておりましたが,そこは口座を分ける必要性があるのかということと,もう1つは,先ほど○○委員の方から,預託しているような場合については,所有権であったり債権であったりということがあるということですけれども,所有権の場合,共有というもの自体の概念というのは別に認められているのでしょうか,認められているものだと私は思っていたんですけれども,その2点,ちょっとお伺いしたいのですが。
● まず口座を開けるかどうかという点については,前も議論がございまして,そのとき私の方から,口座まで分ける必要はなくて帳簿一本でいいんではないかと答えた記憶がございます。
ただ,書物によっては口座も分けるべきではないかという議論もございましたし,私がそういうふうに答えたときに,ある幹事の方から,じゃあ差押えが来たときに競合の有無がわからなくなるのではないかという御指摘もございまして。なお,その分別管理プロパーの問題からいたしますと,帳簿で区別していれば口座まで開ける必要はないんではないかという気がするものの,ちょっとその点はまだこちらで結論が出ているわけではございませんので,今の御意見なども踏まえて,将来的には法務省令に落とすことができれば,法務省令のパブリック・コメントの段階までに確認,検討していきたいというふうに思っているところでございます。
それから2点目の共有というのは,別に信託でも共有はあり得ると思うんですが,共有持分権が信託財産に帰属するという御理解でございますか。そういうことはあると思いますが。
● 帳簿については,例えば所有権ですので,動産みたいなものも当然あろうと思いますし,運用ということを前提に考えると,一番最初に複数の信託財産からまたは固有財産と一緒に当然物を買うということはあり得ますので,そうすると自動的に共有状態になってしまうというふうに考えられますので,当然そういう管理形態というのはあり得るというふうに考えてよろしいわけですよね。
● ○○委員,どうぞ。
● 先ほど分別管理のところでですね,○○幹事の方から,前は口座の物理的な区分,口座を設けての物理的な分別管理までは求めるものではないという説明があったので,ずっとそのつもりで考えてきていたんですけれども,債権の流動化の場合ですね,実際我々受託者ではないんですけれども,受託者から実際に流動化した債権の回収の委託を受けているという状況の中で,もし受託者の方の分別管理義務がかなりそういう物理的なものまで強化されるということになりますと,やはり委託者の方にもさらにそれが及んできてですね,例えば当社のように1,000万件くらいの債権のうちですね,もちろん固有の債権もありますし,A信託銀行,B信託銀行とか複数の信託銀行にお売りをして流動化しているようなケースで,かつ,個別の発生時期によって複数の流動化があるわけですね。
こういったものが一つの対お客様との関係では1日の約定日の中で1,000万件の入金があるわけですけれども,それが実際には多数の固有財産と複数の信託財産と,それに最終的に帰属するわけですけれども,そういったところの管理義務といったところがですね,次の信託事務処理の委託のところの,受託者の責任の範囲との問題とも絡まって,また業法の方とも絡まってですね,かなり重たくなってしまうのかなと。
不必要に義務が出てきて,せっかく帳簿上の管理でできるだけ効率的にこれをやっていこうという形で,業法の方も流動化型の信託会社,A信託会社も認められるような形で体制が行われてきているわけですけれども,そこが非常に,歯車が逆に動くのではなかろうかなというふうに,そういう印象を持ちましたので,ちょっと発言をさせていただきました。
● ちょっと伺いたいんですけど,これ流動化の場面で,信託財産だったら信託財産間のね,複数の信託財産間でもってそれぞれ別に例えば預金しなくちゃいけないとか,債権として物理的に--物理的という言葉はちょっと適当じゃありませんけれども--債権として分けなくちゃいけないというのは大変だろうというのはよくわかりますけれども,固有財産との関係でもその帳簿上の計算管理でないとやっていけないと,そういうことですか。
● 実際には,個別の債権ごとに譲渡している単発の債権もありますし,カード債権のように日々発生するようなものがございますので,そういったものについて,一括して請求管理,それから誰が債権者であるか,固有財産なのか信託済みの財産なのかということの区別をした上でですね,かつどの信託に入るべきものなのかというのは,コンピューター上で全部管理はされているんですね。
ですからその分が請求の時点では一律に,対銀行さんに対しては,一律に当社の口座に一たん入れさせていただきますけれども,その後の入金結果を一つ一つの分類に基づいて,固有財産に属するものと信託の何々口,信託の何何口というふうに分別の作業をやって,定められた期間までにその回収金を引き渡す,こういうことをやっているわけなんですね。
● まだ十分理解していないのかもしれないけど,その今,流動化の資産として債権などが問題となっている場合を考えられて--。
● 今のは,預金の方をちょっと考えたんですけれども。
● その回収というか,取り立ての段階の話をされているんですね。
● 取り立てた後の,信託銀行に引き渡すまでの管理というのがですね,現状もいろいろな方法で確実に引き渡されるような契約上の手当てとか,担保とか,そういったところで対応はされているんですけれども。
● 仕組みがよくわかっていないせいかもしれないけれども,固有財産がその中に入っているというのはどういうことなんですか。
● 一たん回収した段階では,すべての当社の固有財産に属する債権も,既に信託譲渡済みの債権も,一たんは同じお金として,色がついていませんので,お客様の口座を開いている銀行の当社の預金,固有財産としての預金口座の中に一たんはすべて収納されるわけですね。
● 債権回収というのは,なかなか難しい問題がありそうで。
どうぞ,○○委員。
● たぶんそこでその銀行の口座に入金をしたところの部分というのは,多分それは信託固有の口座ではないかなというふうには思いますので,受託者,多分委託先のところの部分での分別管理というのはいろいろな問題があってですね,今,業法で問題になっているような形の,委託先に対して分別管理を課すとか,忠実義務を課すとか,そういう観点から見ると,今,○○委員がおっしゃったような形で,割と混在化しているような部分があるので非常に難しいと思うんですけれども,受託者単体で考えたときには,固有財産のものと信託財産を同じ口座に入れるということはほとんどないと思います。
債権として出す場合については。
● ちょっと私もそういうふうに今までは理解していたんですけれども,いろいろな債権の形もあり得るので,いろいろなというのは債権の形といいますか,いろいろな場面でその信託財産,債権,債権である信託財産,それから固有財産である債権,それが問題となる場面がありますので,債権についてはもう少し細かいことをいろいろと検討しなくてはいけないのだろうと思います。
ただ,ここで今,どの程度の合意を得るかということなんですが,ここでの趣旨は今のいろいろなものについてすべて細かく全部検討して,大体の方向性はここで議論して同意を得るということではないんですね。
むしろ,その法務省令に落としていいのかどうかということ,あるいは先ほど信託行為において別段定めを設けることができるというような,そういうのを,これも条文化へ落として省令のレベルでいいのかという,これはちょっと分別管理義務の性格にも少し関係しますけれども,そういうことを御議論いただければと思います。
細かいことについては,もし法務省令に落とすということであれば,またそれについては別途検討するということになります。
いかがでしょうか。
● 恐縮ですけれども,先ほど私が申し上げたとおり,別段の定めで構わないということが,試案では本文に載っていたのが,この案ではそうでないということに変わった理由というのは,パブリック・コメントとかを受けて変わったんでしょうか。どういう理由があったんでしょうか。
● パブリック・コメントとかで,合意によりました基本的な考え方を変えたというわけではございませんで,基本的に管理方法を法務省令に落とすのであれば,その例外も許容されるということも,法務省令の中に1項目設けて規定したらいいのではないかという,ただそれだけの理由です。
● 繰り返しになりますけれども,私はその今の信託行為によって別段定めができるというのは,この分別管理義務に関するかなり重要な点なので,そういうことはやはり分別管理義務に関する法律上のレベルの条文の中で,書き方はなかなか難しいのかもしれないけれども,ある程度明らかにしておいた方がいいだろうと,いうふうに思いますね。
はい,○○委員。
● すみません,多分その考え方を変えたということではないんだと思うんですけれども,温度が変わったのかもしれないんですけれども,何となく今回の規律を見てみますと,特に法律レベルで今おっしゃったような形の規律にもしましょうということになりますと,その倒産隔離とのリンケージというのが,以前よりかなり強くなったのではないかなという感じがしまして,そうすると,法律レベルでもっての分別管理義務を守っていれば,イコール倒産隔離が図られると,というようなぐらいの位置づけになっているような気がするんですけれども,そういうような意図を持たれているということではないんですか。
● 問題は,法律のレベルで守っているということの,法律は余り書いてない--。
● 法律で分別管理というのを強行規定でやりましょうというお話ですから,分別管理さえできていれば,それが受託者が倒産したときについては,常に隔離が図られていると。
● 具体的なたてつけについて中身を変えたつもりはございませんで,基本的な信託の基本的な考え方自体について,分別管理を通じる基本的な考え方自体について考え方を試案から変えたということは全くございません。
その前回の試案とよく比べていただければおわかりになりますとおり,「法務省令で定める方法により--」というところを加えたのと,そのただし書きを落としたという,ただそれだけの話ですので。
仮にこれにただし書きを加えれば,明確になる余地がふえたというだけで,別に不明確になったと,わからなくなったという批判を受けるいわれはないのではないかというふうにも思います。
それで,特に試案で分別して管理しなければならないといったって,じゃあ債権の物理的分別なんてないので,じゃあ何をやったらいいんだとかですね,別に一般の民事信託を前提にされた方だけではなくて,実際の事業者の方からもそういう御指摘は多々いただいているところですので,そうであればもう少し明確にした方が,ユーザー,信託を活用される関係当社の皆様にとってはよいのではないかという観点から,できる限り努力をしてみましょうという気持ちを込めて書いているわけでございまして,繰り返しになりますが,1つ文言が入ったという以上に前回から全く何も変わっていないわけですから,それによって基本的な考え方が変わったとか,温度差が変わったとかいうことでは全然なくて,したがって基本的な考え方は全く同じであって,ただ不明確だという批判が幾つかあったので,それをできる限り,皆様のニーズに合わせて明確化していくように努力させていただきたいと,その旨御理解いただければと思います。
● ほかにいかがでしょうか。ほかの条文でも結構です。
はい,○○幹事。
● それでは第22の方について発言させていただければと思います。毎回のように発言しておりますので,もう言いたいことはわかったから黙っておれということもあるでしょうけれども,私なりにもう少し違う表現で問題点だけは,明らかにしておきたいと思います。
第22の2で(1)甲案,乙案とあって,パブリック・コメントの多数というのが,甲案賛成であるということです。
これはある程度予想はしておりましたけれども,ただやはり若干,甲案,乙案の意味についての誤解とまではいいませんけれども,そういったものがあるのではないかないう気もいたしました。
と言いますのは,例えば乙案が強行法規とまでは言いませんけれども,どのような信託であれ,必ずないしは原則として,他人に任せた場合でも,任された者の故意・過失があったときには責任を負うというようなもの,つまり適切に選任監督をしていたとしても,それだけでは免責されないというふうに必ずなるのだ,ないしは原則としてそうなるのだ,ということを前提とするならば,それは違うだろうというのが,甲案に賛成された方々の意見ではないかと思います。その解釈は非常に正しいと思います。
要するに,これまで私,何度か申してきましたように,重要なのは契約で一体何を約束したかということでして,契約で自分自身ではなく,適切に財産の管理等をしてくれる第三者を選ぶということを約束したというときには,適切な者を選任監督できなければ責任を負うし,適切な者を選任監督しておれば,それでみずからのなすべきことはやったわけですから責任を免れると,こういう約束をしたときは,当然そうなるはずでして,そして多くの商事信託,とりわけ複雑なシステムを前提にした商事信託では,このような約束,つまり適切な財産の管理等を行ってくれる者を選任し,監督するという約束を明示的に行っているでしょうし,あるいは明示的に行っていなくても,その契約の性質からすると,当然そうなっているだろうと。
その意味では,甲案を支持しておられる方々の意見というのは,全くそのとおりだろうと思います。
ただ,適切な第三者を選任し監督するという約束を行っているときはそうなんですけれども,そうではなくて,預かった財産を適切に管理するという約束を行ったときには,やはり適切に管理できなければ責任を負わざるを得ないと,いうことになるのではないかと思います。
そして,きょうの御説明の中では,22の1で,これまでと違って他人に処理を委託できるとするならば,甲案の方が平仄は合っていると。
要するに,他人を使っていいというんだから,適切に選任監督するという義務だけを負えばいいと,その方が平仄があるというふうにお考えなったのかもしれません。
それだけ見ているとそうかなとは思うんですが,ただ,何を約束したかというときに,財産を適切に管理するという約束をしたというときに,自分だけが1人で管理するんじゃなくて他人も使ってよいとすると,いうことが仮に1で認められたとしても,約束したのはあくまでも財産を適切に管理するということですから,結果として適切に管理されなければ,当然責任を負うと。
つまり乙案の内容というのが,当初の約束した内容,つまり財産を適切に管理するという約束をしたときには,やはり平仄は合っていると思います。
たとえ1があったとしても,乙案の方が平仄が合っているのではないかなと思います。
この2つの約束,つまり適切に財産を管理するという約束と,そして適切な第三者を適切に選任し監督するという約束,これどちらも可能ですし,そして自由に契約してよいだろうと思います。
としますと,問題は,何をデフォルトにすべきかということだと思います。そのときにこれは信託法ですので,信託法の中のデフォルトとしては,契約内容はやはり適切に財産を管理するということが,やはりデフォルトでないとおかしいのではないかなという気がいたします。
もちろん,第三者を適切に選任し監督するという約束を行うことは可能ではありますけれども,これがデフォルトになりますと,何を約束しているのかというと,適切な第三者を選んで監督するということですから,これが信託かと。これだけ取り出すと委任に近いですよね。
これがやはりデフォルトではなくて,財産を適切に管理するということが,やはりデフォルトの契約内容ではないのかと。
そうでないと,何のために善管注意義務や忠実義務のようなお話をしているのかわからなくなってしまうと。そういう意味では,約束の内容のデフォルトはもし適切に財産を管理するという内容ですと,それを貫くならばやはり乙案というのが筋が通っているのではないかなという気がいたします。
その上で,先ほども申しましたように,それに対してそれと異なる特約をすることはもちろん自由ですし,そしてまた,先ほど言いましたような契約の性質からすると,当然特約があると解釈できる場合が多いと思いますので,恐らく甲案を賛成された方が抱いておられるような危惧は,発生しないであろうというふうに思われます。
それが1つで,もう1つだけちょっとつけ加えておきますと,民法で従来言われてきましたものとの整合性という点ですが,これはこの中にも若干指摘されていますけれども,復代理に関する規定がこれに対応するものとしてありまして。
復代理の規定ができますときに,多分この会の一番最初に申し上げたと思いますけれども,もともとの旧民法というのは,実は乙案の考え方でできておりまして,自由に他人に任してよい。
そのかわり,復代理人が適切な行為を行わなかったときには,責任を負わないといけないと,いうような形でなされていたと,いうのが現在の民法105条以下の規定ができるときには,旧民法とは違いまして,他人を自由に使ってはいけない。
自分でしないといけないというふうに,そこの原則を入れかえて,ただ例外的に特別な理由があって使ってよいときには,選任監督の過失に限られるというふうにしましょうと,いうふうにしたと。
こういう2つの考え方があったんですが,今回の1で自由に使ってよいということにして,しかし,旧民法だと乙案なんですが,しかし1を採用しつつ甲案をとるというのは,旧民法とも現行民法とも違う新たな立場をとるということを意味しております。
これが果たしてうまく説明が可能なのかなというのが,民法学者の立場としては,やや心配があるところです。一体何が当事者間で約束されたことなのかと,それに応じて責任の範囲も決まってくるというのが,現在のかなり有力な流れでして,そこからしますと,やはり何度も言いますように,適切に財産を管理するという約束をしたのか,それとも第三者を選んで監督するということを約束したのか,そのどちらかに応じて責任の内容は決まってくる。
問題は,どちらをデフォルトにするかだということだと,いうことがこの問題の所在であるということを,結局同じことを言っているじゃないかということなのかもしれませんけれども,ちょっとこの場で申させていただきました。
以上です。
● いかがでしょうか。
信託において,今○○幹事が挙げられた復代理も含め,あるいは旧民法も含めてそういうのと,なぜ信託が違うのかというルールの違いをですね,やっぱり何か説明があった方がいいんだと思いますね。
ある種の政策的な判断もありますけれども,理論的にそれが耐え得るというためには説明があった方がいい,というふうに私も思います。
なかなか私自身も十分説明できるのかどうかわかりませんけれども,信託をお持ちの受託者の負う一番中心的な義務は,適切に財産を管理する,あるいは財産の管理だけではないかもしれない,処分もありますけれども,まあ管理するということなんですけれども,やはりどういう形で管理するかというところについての,そこまで含めてのデフォルト的な合意があって,やっぱり従来は受託者が管理するというときには,受託者1人で管理するというのから出発して,他人を使ってもいいけれどもそのときにはもちろん受託者は全面的な責任を負いなさい,というそういう形で管理すること,管理の方式も含めて,形式も含めてもちろん考えていたわけですが,今度新しい,この現在のもとでは,もちろん信託財産を管理することが中心でありますけれども,適切な場合には第三者を使って管理するという何か合意で,反対に言えば,やっぱり自分で管理するという出発点を完全に捨てた,そういうところが今度の信託法の考え方ではないかというふうに思います。
これだけではまだちょっと納得されないかもしれませんけれども,復代理とかいうところは,いろいろな規定の,そこでもあり得ると思いますけれども,やっぱり信託と違って代理権に基づいて何かを決定するという世界は,たとえ復代理人を使っても本来,やっぱり元の代理人の権限に集約されて,その代理人が決定すべき世界で,ちょっと信託と少し違うのかなという感想です。十分説明になっていないかもしれませんが,とりあえずそんな感じは持ちますね。
○○委員,どうぞ。
● やっぱり22ですが,これは既に出ていた話なのかもしれませんが,ちょっと確認ですけれども。この22には甲案,乙案それぞれありますけれども,これはいずれも立証責任を考えた上でのこういう表現だったということだったのでしょうか。
この請求原因がこの受任者の行為により,損害が発生したと。したがって,受託者は損害賠償なり,てん補責任で何らかの責任を負えというのが請求原因で,抗弁でこの受託者は選任,及び監督について過失がなかった,あるいは受任者に故意過失がなかったということを立証するという,そういうこれはお考えだったでしたでしょうか。
● どうですか。
● 立証責任について,大分議論がございまして,その点ももちろん無視しているわけでは全くないんですが,一応ここは実体上どういう規律を置くのが妥当かという観点から提案しているわけでございます。
ただ今の御指摘を踏まえて考えれば,確かに甲案であれば,受託者の方で自分に選任監督に過失がなかったということを立証することになると思いますし,乙案であれば,受任者の方に故意過失がなかったということを受託者の方で立証するということになるというふうに考えるところでございます。
● はい。
● もう1点ですけれども,甲案と乙案で,甲案の方が受益者の保護が後退することになるのではないかという意見に対しては,そうはならないのではないか,というような論調で書かれていますけれども,具体的にですね,受任者が故意または過失で信託財産に損害を与えた場合--受任者ですから受託者から委任を受けた人ですね--そういう場合に,選任監督に過失がなかったということを前提として,甲案,乙案で考えてみますと,26条3項は削除するという前提で,甲案の場合は,その場合は受任者は受託者の方と,信託財産に対して損害賠償義務があると,そういうことになりますよね。
それで乙案の方だと,受託者が損失てん補責任ですか,それを負うということになるので,結局責任を負う人が受任者なのかあるいは受託者なのか。
26条3項を削除しますから,どっちか片方のみにしかならないと思いますけれども,ということになるので,結局,その受託者が資力不足の場合どうだとか,そういったところで違いが出てくるような感じがします。
それから,もう1つあるのがこの免責規定ですね。この受託者,受任者間で免責規定がある場合に,信託財産というか受託者が受任者に対して損害賠償請求しろとは言えないと。免責規定があるためにですね。
そういう場合に,受託者が任務違背になるから,受託者に損失てん補責任が発生するので,この受益者の保護としては十分なのではないかというようなことが書かれていて,その場合は結局,受任者の故意・過失のほかに受託者の任務違背も立証しなければなりませんので,受益者の立場からすれば,立証すべき事項がふえるということになりますので,やはりその限度では受益者の保護は後退していると,いうことにはなるかと思います。だから,あとはその程度ならばいいじゃないかというふうに見るかどうかと,そういうことかなというふうに思います。
● 私もそう思いますけれども,どうですか。
● 確かに資力の点とか細かいところは,いろいろ分析すれば,現行法の場合に比べて受益者の保護が欠ける部分がゼロとは言えないと思っておりますが,しかしその全体的な規律を総じて眺めますと,受託者の方の責任を追及することによって,受益者はしかし,ほぼ相当な損失の回復を受けることができるのではないかというふうに思われますので,あえてここで26条3項を維持するまでの必要性はないんではないかという価値判断が入っているということは否定できないところでございます。
● それは全然違わないとはやっぱり言えないと思うんですよね。でも一番大きなのは,今,言われましたけれども,受託者に対しては選任監督の過失がないということで,受託者にはいけなくて,受任者の方に過失があるのでそこにいかなくちゃいけない。
信託財産の方に損害を与えている,受任者が与えていますから,信託財産からの損害賠償請求があるということで,それを行使するといいますかね,受託者が行使する。
受託者が行使できなければ,場合によっては受益者がかわりに,代権的に行使することも考えられるかもしれませんけれども。そこの部分ですよね,一番もし大きな違いがあるとすれば。
ただ実体法的には,今のように信託財産に対する損害を与えているので,損害賠償請求権が信託財産にはあって,それを行使することで,まあ何とか受益者には損失を与えないようにすると,いうのがこの仕組みで。
全然違いがゼロだとは言いませんけれども,一方でこうやって社会的な分業のもとで,第三者を使わざるを得ない外国のカストディアなども使わざるを得ないと,そういう条件のもとで,どういうルールが適切だろうかということで選択された,提案されたルールだというふうに思います。
ほかにいかがでしょう。はい,○○委員。
● 細かいことなんですが,大きなことはさっき○○幹事がおっしゃったことと,○○委員がおっしゃったことと,つまり信託の原型をどう見るかということの転換をここでどうとらえるかということに尽きると思うんですが,仮に甲案をとった場合のただし書きでございますけれども,そのただし書きでさらに軽減するという別段の定めが可能か。それはどこまで可能か。例えば選任監督について,重過失がなければとか,あるいは故意がなければとか,あるいは一切というようなことまで可能かどうかということでございますが,そこはいかがでしょうか。
● 重過失まで軽減することは,まあできると思っておりますが,さらにそれを越えて故意とか一切責任がないというのは,公序良俗といいますか,条理の範囲から難しいのではないかという気がしております。
これは規律から明らかではないですが,一般的にその重過失は可能だというのが,一般的な理解だと思いますが,そこを越えてまで信託行為を緩めていいというのは,難しいというふうに解釈していいんではないかと思っております。
● 今の規律は解釈に委ねるということであって,さらに,例えばこの甲案がぎりぎりで重過失なんかとんでもないという意見もあり得ると思うんですけれども,それはもう解釈任せということになるんでしょうか。
● 重過失に緩めることが信託行為に書いてあって,それがそれを承知の上で,受益者が受益を取得しているという事態があれば,それはそれでやむを得ないんではないかと思っております。
● 重過失はだめなんじゃないですか。
● はい。
● これ公序良俗の一般の議論に委ねるということですよね。
ほかにいかがですか。○○幹事。
● 今日ちょっと初めて参加させていただきましたので,この会にどういうスタンスで臨めばいいのかということが,私自身ちょっとまだ図りかねているので教えていただきたいんですけれども。
今の論点でいきますと,業法においては乙案,事実上の無過失責任を維持するというのが,まあ私の当たり前の感覚なものですから,そういう場合に,信託法と信託業法でそういった違いが出てくるということについて,そもそもこの場ではどういうふうにお考えになっていて,この場における業法を所管するものがどういう構えで意見を言うということが期待されているんでしょうか。
質問なんですが。
● 私から答えるべき問題かどうかわかりませんけれども,皆さんがそれぞれ違った理解を持っているかもしれませんが,ここでは信託に関する一般的なルールというのをとにかく改正というか,現在の社会に合ったようなものに変えていこうということで,現在の信託業法は,今までの信託法に基づいてつくられたものだという前提で考えております。
その上で,現在そのもとになっている信託法レベルの義務,受託者の義務などを見直しをする。そうしますと,現在の信託業法とこう食い違ってくる場面が出てくるかもしれませんが,そのときに--ここら辺からは私の個人的な意見ですけれども--できれば,それは信託,新しいこの信託法のルールに従って信託業法が調整をしていただければ一番ありがたいなと。
ただ,場合によっては,信託業法の観点から,特にこれは業法の場合には必要な規制なんだということで,正当化はあり得るかもしれません。
○○幹事には,どういう立場で御発言をお願いするというそこまでは僭越ながら私が言える立場ではありませんけれども,私は今のように,信託法と信託業法の関係を考えておりますので,それを前提に何か御発言をいただければありがたいと思っております。
● すみません。じゃあ先ほど私は,○○幹事がおっしゃったことに100%同感でございます。
● この点--はい,どうぞ。
● ちょっと事務局の方としては,これ甲案,乙案どちらがいいかというのを伺っている立場なので,事務局の立場を明らかにするというスタンスにはそもそもないわけではございますが,ただ信託における適切な管理処分のあり方は,当事者はどういうふうに見ているのがデフォルトとして考えるべきかというのはまさにおっしゃるとおりで,それについては全く賛同するところでございます。
ただ,これまでの信託法ですと,本来委託はできないというのが前提になっていたわけでございますが,今回の信託法のもとにおきましては,相当な場合にはまず委託できる。
これは自由に委託できるわけではなくて,あくまで善管注意義務のもとで相当だと思われる場合には,まず委託できるという規律があるわけでございまして,しかもその場合には,受託者は選任監督の責任はありますと。
さらに受任者は全く無責任というわけでは当然なくて,受任者の方は通常の故意・過失責任を負いますと。
そういうその相当な場合には委託できて,受託者は責任を一定限度負って,さらに受任者も故意・過失責任を負うという,一体のものとして,そういうのが現在の信託のスキームなんであると。
そういう理解を前提として,信託がつくられ,それに受益者も当事者として加わってくるということになりますと,受益者もそういうふうに,相当な場合には自分の利益のために委託してもいいんだという意思を持っているのが,むしろ合理的な意思の推測にかなうわけであって,それがその信託における適切な管理処分のあり方についての当事者の一般的な意思であるということも,不可能ではないような気がするというのが,事務局の--というか,私個人かもしれませんが--考えでございます。
そうすると,決して甲案というのが,通常の信託投資の意思に反していて,むしろ乙案の方がかなうかというわけではなくて,甲案になっても,この新たな相当な場合には委託できるという信託法のスキームの中では,十分当事者の意思を反映したものという理解もあり得るのではないかという気がするところ,ということをちょっと付言させていただきます。
● ほかの方,いかがでしょうか。
先ほど○○幹事が説明されたように,ある意味で出発点が全然違うというわけではなくて,第三者に委託するということがむしろ前提となっている,というもとでも,○○幹事の意見は甲ではなくて乙ではないかという,そういう意見だったわけですね。
● すみません。きょうのこの場においては,乙案の意見が多いと思いますけれども,甲案,乙案については,いろいろ実務の人数とか,今さっき○○幹事の方からありました全体のその規制のあり方といいますか,受益者の合理的な期待をもって考えるべきであって,そこはパブリック・コメントにも反映されていることも,両方併せ考えて決めるべきではないかなというふうに思っておりまして。
ちょっと甲案の方,私自身が甲案絶対賛成という,そういう立場ではないんですが,甲案もやはり十分に傾聴すべき意見だというふうに思っておりまして,あえて発言したいと思っておりまして。
と言いますのは,やはり実務においては,ここの御説明,甲案指示の理由のところの②というところが多いかと思っております。
相当の理由ということになるかもしれませんけれども,現在においてはいろいろな操作というのは十分必要なことで,それをなくしてできないという業務がございまして。
そうした場合に,それを使うことが相当な理由ということであり,かつそれが委託先が責任を負うということ自体が,全部受託者にこうリスクとして寄せてこられるということになると,結局全体として,そういう信託スキーム自体が成り立たないというようなこともあり得ますので,ここは非常にバランスの問題が重要じゃないかなというふうに思っております。
もちろん,先ほど○○幹事がおっしゃられたように,行政の立場から何らかの規制が必要でありますし,またそれは,現行信託業法もこの部分についての督促がございますので,そこは一応分離して,そこら辺においてもバランスが必要だと思うんですけれども,そこは別途検討していただければとは思っております。
● ありがとうございました。
これは確認ですけれども,業法の立場は今,乙案だと思いますけれども,乙案で別段の定めは許すんでしたっけ。別段的な定めで甲案的な立場をとるということはあり得るわけなんですね。
● 別段の定めで受託者の責任を軽減・監督にするのはできるという--。
● ええ,軽くなるのはもちろんできるんだけれども。今,○○委員が言いましたけれども,確かに甲案でなくてはいけないという絶対の理由というのは,もちろんあるわけではなくて,ある程度全体のその先のパブリック・コメントとかですね,それから今までの議論の中での多数意見というものを反映させて,甲案が今のところ優勢であるということだと思います。
今ここでは,○○幹事の御意見もありますし,○○幹事の御意見もありますし,今ここで甲案と決めるわけではございませんけれども,大体大勢がどういうものであったかということを確認はさせていただきたいというふうに思っております。
よろしいですか。○○委員。
● やはり実務の立場から一言だけ言わせていただきたいんですけれども,これも前々から申し上げているところですし,きょうも議論が出てきたところでございますけれども,やはりその信託法をこう変えましょうと,現代化しましょうというところの中の1つの大きな柱として,当然その分業化,専業化というのが非常に進んでおりますので,それに対応するために,この1項のような形の規定が設けられて。この1項の規定を受けて,それじゃあ受託者の責任をどうするんだといった場合については,私自身はもう甲案しかないのかなというふうに考えています。
業法的な観点からいくと,別途の考え方というのはおありになるんだと思うんですけれども,信託法上の観点からいうと,受託者が受益者のために自分が執行したり,他人に委託しながら一番ベストの形のものを選択して実務を遂行していくと。
そういうことをやっていくに当たって,選任するということ自体も1つの信託事務であると思いますので,そういう観点からいくと,全面的に受託者が責任を負ってというよりも,基本的には,やはりその選任監督というのがしかるべき規律なんではないかなというふうに考えています。
それと非常に,あとはちょっと乱暴で個人的な見解なんですけれども,私の今までの実務的な感覚からいきますと,やはりその委託先が何らかの過失によって損害を与えました,といったときには,受託者としては基本的にその過失がどういうところにあって,どんな責任があるんだということを追及していって,当然場合によっては訴訟も提起しですね,それで信託財産を補てんすると,そういうふうに動くわけですけれども,乙案でありますと,基本的に委託者対受託者と受任者というような形の闘い方になってしまいますので--すごく乱暴な議論だということはわかっているんですけれども--そういう観点から言ってもですね,実際に受任者からその過失について信託財産を取り戻すというのは,甲案の方が非常にやりやすいかなというふうに感じておりますし,今まで実務的にもそういうふうに追及していく際に,それが何となく自分の責任になるんじゃないかというような不安もありましたので,甲案の規律というのは非常にありがたいなというふうに思っております。
● はい。
● 今の点に必ずしも関係するかあれなんですけれども,甲案,乙案を考えた場合に,今の受託者の受任者に対する責任追及を考えた場合に,甲案ですとまずは選任監督に過失があったかどうかということを受託者は考えるんじゃないかという気がするんですけれども,そうであるとすれば,その受任者への責任追及の実行を確保する観点からは,乙案の方がむしろ適切な行動を導くのではないかなという感じがするんですが。
その点ともう1つ,これはほかの論点とも絡む点で御考慮いただけないかなと思っておりますのが,できれば民事信託のことを考えますと,そういった民事信託を利用する人たちの使いやすいといいますか,意識に合ったような規律をデフォルト・ルールとして掲げていただけるとありがたいというふうに思っております。
これは乙案の中でも,信託行為に別段定めがあるときには別段の定めが許されるというふうになっておりますものですから,恐らくそういった別段の定めをつくりやすい立場にあるのは,商事信託とかそういう分野に携わっている方々だというふうに思いますし,なかなか民事信託のことを考えた場合に,当事者の間でこの別段の定めを細かく決めていくということは,実際上なかなか難しかろうかというふうに考えております。
そういったことを考えたときには,デフォルト・ルールとしては,できれば民事信託の意識に適合するような形でのものをつくっていただけると助かるかなと考えております。
以上です。
● それは具体的にどっちになるんですか。
● いや,そうすると乙案かなというふうに考えております。
● 民事信託の場合を考えた場合には。
● 今,個人間で信託契約をしてやっていく場合には,やはり乙案に従った形で責任を負うというのが,通常の考え方なんではないかなという気がしております。
● それは逆にとったんだね。
はい,どうぞ。
● 前提としてですね,先ほど甲案によるときに,受託者が受任者に対して責任追及していくときに,その選任監督について過失がないと責任追及ができないとかおっしゃいましたですかね。
そんなふうにお伺いしたのですが,選任監督について過失がなければその責任を免れるものとするというのは,それは受益者に対しての話で,受託者,受任者の間は受託者と受任者のその選任契約で,仮にその選任監督について過失がなかったとしても,受託者,受任者間で受任者が債務不履行すれば,それは当然責任追及できるということで,わざわざ選任監督について過失を証明しないと責任追及できないなんてことはないんだと思いますけれども。
● それはおっしゃるとおりであります。そういうことを前提としたときに,受託者の立場でまず何を考えるかというときに,選任監督についての過失の方をまずお考えになってしまうんじゃないかなという,それがなければみずからはその責任を負わないというようなことで,安心されたりしないかなということをちょっと心配しているところです。
● 要するに,受任者に対する責任追及をする努力をしない可能性があると。
● どちらかというと乙案の方がしていただけるのではないかという期待をしておるところなんですけれども。
● そういうことをしないと,逆に善管注意違反に問われることになりますので,決してそういうことはないんではないかという気はいたします。
発想の順序として,まず自分の責任を免れたいなというのは,それは人間の条理かもしれませんが,しかしその後で受任者に故意過失があれば,それを責任追及すべきであって,それをしないと損失てん補責任は自分にかかってきちゃいますので,結果的にそういう恐れはないんではないかという気はいたしますが。
● 要するに,受託者の立場でそういうやりとりをしていく際に,何をこう考えるかということで考える,ということで意見を申し上げさせていただいた限りです。
● 2段階になっているわけですよね,自分自身の責任とそれから受任者に対する損害賠償請求権というのは信託財産になりますから,それはやっぱり適切に行使しないと,今度は今,○○幹事から説明があったように善管注意義務違反になるという。
○○委員。
● 今の件ですけれども,やはりその受託者的な立場になりますと,選任監督責任とはいえ,当然訴訟の提起された相手方といいますか,受けるのはみずからの受託者ですので,当然のことながら,それに対してはそういうことではありませんと,選任監督責任はありませんということを言います。
当然その選任監督がありませんというところを言う際にですね,やっぱり受任者のところについても過失があったことが,過失ではありませんという形の立証をしていく可能性も結構あるんじゃないかと思うんですよね。
すみません,そういうことをやりますと言っているんではなくてですね,甲案と乙案の比較からすると,どちらかというとそういう傾向に動いてしまうのかなというふうに思います。
● それではいろいろ御意見が,ごめんなさい,まだ終わっていなかった。
じゃあ先に○○委員が,まだ初めてですから。
● 弁護士会で意見が分かれたわけで,私はちょっと甲案の方がいいのかなと思って一言発言するんですが,パブリック・コメントでも日弁連は乙案なんですが,弁護士会によっては甲案のようなんで。
民事信託の場合を考えて,受益者の視点に立つと,○○幹事がおっしゃる視点はわかるところがあると思うんですけれども,じゃあ私が民事信託で受託者になっているとする。
不動産を預かる,といっても,私が管理行為を全部やるわけにはいきませんから,そうするとやはり選任監督のところはデフォルト・ルールであって,もしかしたら選任監督に過失がなくてもあってもいいんだ,免責されるんだということはまずおかしいと思うんですけれども。
やっぱり選任監督のところをしっかりするというところで,その中で管理業者を選任していくとかですね,そういう状況もあり,そういう状況の方がより適切なのかなと。
そうじゃないと何かおっかなくて預かれないなと思ってしまうし,およそ天変地変以外はですね,必ず過失があって損害が発生するわけですから,それに対して連帯責任を受託者が負わなきゃいけないと,もちろんその後で求償関係で受任者の方に請求していけばいいのかもしれませんけれども。
なかなかそれがたてつけであるということになると,ちょっと厳しいのかなと。
これはなかなか難しいところになりまして,やっぱりデフォルト・ルールでどこまで緩和できるのかという視点もあると思うんですけれども。
また受託者の方がですね,選任監督さえスキャンすればいいんだということで,全部外に出してしまって楽にするという趣旨ではないんですけれども,先ほど○○委員がおっしゃっていたかもしれませんけれども,今後の信託を幅広く利用するというときにですね,受託者ができることというのは非常に限られていると思うので,その選任監督のところでしっかりと善管注意義務を果たす,忠実義務を果たす。
ですから選任監督というのも,もしかしたら民法上の選任監督というよりもっと非常に重い意味での選任監督義務が課せられていると。ですから,そこでのデフォルト・ルールでそれを緩和するということは,非常に問題があることではないのかなとは思うんですけれども,その選任監督が非常に重い義務であるということを前提とすればですね,受託者の視点に立っての議論になってしまいますけれども,甲案でも十分信託でも機能するのかなと思いますし,受益者も納得してもらえるのかなというふうに思うんですけれども。
● そうですね,この選任監督上の過失についての解釈,これがどの程度重い判断をされるかというのは,非常に重要な問題ですね。
じゃあ,○○委員,どうぞ。
● 私も○○委員と同じようなことを申し上げようと思ったんですけれども。
要は,リスクの負担を誰に分配するのが適当かという話だと思うんですけれども,仮に例えばその郵便であるとか,保振であるとか,誰もが使わなければならないようなことがあって,たまたまその受任をした者に過失があって,事故が起きたといったときに,結局その信託を使わなかったとしても,その委託者であった人はそれを郵便とか使ったわけですから損害を被ったと。
じゃあ,もし乙案になれば,信託を使えば,リスクがある意味信託会社が保険みたいな形でとるという形になると,それが妥当なのかどうかという話だと思うんです。
今の時代,非常に極端な例で,誰もが使うという場合だと思うんですけれども,じゃあ場合によってはこれはそうした方がいいなと。だけど誰がベストなのかと。
いろいろな絶対必要な,あるいはそうじゃないというような場合には,それなりの責任が受託者に求められると。それなりのリスクテイクが受託者に求められると思うんですけれども,そこはやはり受託者の選任監督義務をもちろん相対的な考えになりますけれども,ものによっては重くとらえて,何でこんな人に頼んだんだ,こんな危ないところに,というところで,結局は責任を追及していくというふうに,リスクの分配を図った方が適当ではないのかと。
そういう意味で,甲案,乙案ということを比べれば,甲案の方がいいのではないかなというふうには思いました。
● どうもありがとうございました。
それでは,よろしいでしょうか。
○○幹事。
● すみません。甲乙案が決まる,追加するという状況で案を絞る方向に入っているのに恐縮なんですが,2点だけ気にかかることがございますので,その点を確認ないしは御教示いただきたいと思っておりまして。
甲案による場合ということなんですけれども,1つは選任及び監督の内容をどう考えるかということが出まして,それに関連しまして,その説明の10ページ等で書かれております不相当な免責規定を置いた場合,先ほどの○○委員の御指摘により,あるいはまたここでの説明というのは,選任監督とは別の問題としての善管注意義務違反だというふうに整理されているかと思うのですけれども,不相当な免責条項というのが無効ではないという前提なのかもしれませんけれども,こういう形で選任等の契約を締結してくるということが,選任監督の内容として,果たしてそもそも適切なのかというのが気になっておりまして。選任というのは,ただ単にどういう人を選ぶかということだけではなく,その契約によってどのような義務が負われ,どのような責任を負わせる形で他人に委託できるのかということになってくるんではないかという気がしておりますので,その契約内容等も含めて選任監督を尽くしたかということが言われるべきではなかろうかという気がするのですが,自信もないところですので,どう考えたらいいか,改めて確認させていただきたいと思います。
もう1つ,甲案による場合ですけれども,甲案のような形をとりますと,むしろ選任及び監督にその義務内容が縮減されるというのが適切であるような場合が,1の相当な場合であるという形になって,逆に1の相当の場合はかなり絞られることにならないのかと。先ほど来,使わざるを得ない場合がかなり出されておりまして,これは○○幹事がおっしゃったように,乙案によってももう使わざるを得ないような場合というのは,選任監督というか,義務自体がそれなのですから,甲案でも乙案でも同じ結論になると思うんですけれども,もう少し自由に,よほどまずいという場合でない限り自由に使いたいというようなときに,果たして甲案によるとかえって1の場面が狭まらないか,というのが若干気になるところではあるんですが,その点はどう考えたらいいでしょうか。
先ほど○○幹事から,ここの相当の場合というのは自由に使っていいということではないという御説明もありましたので,改めて確認させていただきたいと思います。
● ○○幹事の御指摘のまず1点目の,不相当な免責条項を置いたこと自体が善管注意義務違反だということについて。それをしかし,例えばその内容は甲案によるときにそういう条項を置いたことが,甲案の選任監督責任のところで考慮されるべきではないかと。
仮にそこで考慮するというふうに考えたとしましても,それも選任監督の際に善管注意義務を果たしたかどうかということでありまして,適応の場面を2の(1)の選任監督についての過失で考えるか,そうではないところで考えるかという適応の場面を考えたとしましても,実際の注意義務を勘案するときには,具体的なその帰結については異ならない,ほぼ異ならないことになるのではないかというふうにちょっと思ったものですが,ちょっとまだ御指摘をよく理解していないかもしれませんが,とりあえずそんなふうに思いました。
それから,2点目の相当な場合が甲案をとるときは狭まらないかというのは,一応私どもの原案では,その信託目的に照らして相当な場合ということで,中身自体は信託行為の解釈によって,その信託目的に照らして,ここはあなたの能力に頼んだところだよという場面と,そうではないと,社会的一般的にここまでは頼んでないだろうというところは委託することができるということで,必ずしもその法社会学的にそういうことになるんではないかという御指摘は,肝に命じなければいけないかもしれませんけど,法律論としては一応客観的に信託目的に照らしてどうかという観点から考えられると,いうことではないかなととりあえず思ったのですけれども。いかがでしょうか。
● はい,どうぞ。
● すみません,余りこだわるようなところではないんですが,では1点目の方は先ほどのような例ですと,選任監督における過失があると認定される場合も十分あり得るというお答えだったと理解してよろしいでしょうか。
● そこの問題かどうか,ちょっと僕らもはっきりわからない--,まあそういう場合もあるかもしれませんけどね。従来,普通に考えている選任監督とはちょっと違いますよね。
● 従来は誰を選ぶかということに力点を置いていたと思うんですけれども,先ほど来,信託における選任監督とは何か,あるいはそれは非常に重いものではないかと言われるときに--。
● ですから,それを含めることも可能かもしれませんけれども--。
● 先ほどの議論のところでは,選任監督の注意義務の話と全く別立てに,さらに善管注意義務違反のようなことを受益者が言っていかなければいけないのか,という点が議論になったように思われましたので。ただ非常に細かいことかもしれません。
● 少なくとも,選任監督以外の問題として,善管注意義務違反というのは一般的にはあると思いますので,ただ,今のような受任者を選ぶとき,受任者と契約するときの事柄,典型的には不相当な不適当な免責,特約を入れたような場合ですけれども,これはそうですね。
ちょっと僕の個人的な感じですけれども,本当は選任監督というよりは,先ほど事務局の方の説明からは,信託目的に照らして相当なという,これは信託目的の関係での相当な問題だ,というふうに説明されましたけれども,そこの問題ではないかという気がするんですね。
人だけではなくて,どういう形でもって人を選ばなくてはいけない,契約をしなくちゃいけないのか,受任契約をしなくちゃいけないのか,受任契約といいますか委任契約ですか,しなくてはいけないのか,それも相当性の問題の中に入ってくるような感じを,私はちょっと思いますね。
この原案自体はどういうふうにできているかというのは,よくわかりますね,恐らく--。
● 原案は一応今,○○関係官が説明しましたように,1項については客観的に相当かどうかで,2項の方はそれを別の問題であると。
前の部会では,たしか1項と2項を連動して考えるべきではないかという御指摘もあったわけですが,事務局の考え方は一応分けて考えているというものでございます。
● その上で,不相当な契約みたいなものをどうするかという--。
● はい,それはもう2項の方の問題で。
● 2項の方で,はい。
よろしいですか。これはこういう規定ができても,それについてのような考え方,解釈の問題として,まだいろいろな議論の余地があると思いますけれども。
とりあえず,それでは今の16から22までですけれども,幾つかの規定については若干御意見がございました。
分別管理義務のところ,それから今の22の信託事務の処理の委託については,いろいろ御意見がございましたが,私の見た限りでは,皆さん,特に別に御発言をされなかった方は,原案で大体よろしいという御意見だというふうに伺えると思いますので,大勢としてはこの原案を賛成していると--。
若干意見はあるけれども,大勢は甲案の方を指示していると,そういう理解をいたしますが,それでよろしいでしょうか。今ここで最終的な決定をするわけではございません。
後でもう1回,本当にこの決定する段階というのはまたありますので,そのときにもう一度チャンスがございますが,ここでの大勢は今のようなものであったというふうに私は理解しましたが,よろしいですか。
それでは,説明だけお願いしますね,次。
● では,帳簿作成義務から3つほど,時間の関係もありますので,説明だけいたします。
第23でございますが,まず提案の1に関しまして,(2)と(4)の書類の保存期間について,試案では一律に書類作成のときから10年間としておりましたのに対して,起算時を,信託事務の終了時とすべきという意見がございました。
しかし,この意見のように,一律に信託事務の終了時から10年間という保存義務を課しますと,長期間存続する信託においては,受託者の負担が過大になることが懸念されるわけですが,他方,試案のように一律に書類作成時から10年といたしますと,信託の終了以前に重要な書類が廃棄されてしまうということがあり得て,受益者の権利保護に欠けるということが懸念されます。
そこで,試案を改めまして,受益者にとってより関心の高いと思われます(3)(4)の信託財産の状況に関する書類,これはいわば資産や損益に関するBSやPLに相当するようなものでございますが,これにつきましては(4)のとおり信託の清算事務の結了のときまで保存義務を課す一方,これには当たらない帳簿その他の書類と,それから信託事務の処理に関する書類,(2)でございますが,これにつきましては,せいぜい書類作成時から10年間,それより前に信託が終わればそれまでということですが,せいぜい10年間の保存義務を課すということにして,受益者の利益と受託者の利益とのバランスを図ってはどうかと提案するものでございます。
次に3の(1)の受託者に説明を求める権利に関しましては,資料12ページの2の(1)に書きましたところでございますが,試案を改めましてデフォルト・ルールとして委託者にもこの権利を認めることとしております。
これは後で説明いたしますが。それとあわせて,委任における受任者の報告義務に関します民法645条にならって書きぶりを修正しております。
この義務というのは,信託事務処理の経過の概要を説明する程度のものでありますので,その反面として,理由の明示は不要でありますし,法定の請求拒否自由も認められないものと考えております。
それから,提案3(2)の書類の閲覧請求権に関しましては,これは理由を明示することは不要とするべきであるという意見がございました。
しかし,受託者にとりまして理由を明示されないと,どのような書類を開示すればよいかということが不明であります。資料12ページの2の(2)から13ページにかけて書いてあるところでございますが。
それから,閲覧拒否自由に該当するか否かの判断も困難であると。他の立法例,会社法を初めとして理由を明らかにすることが要求されていることですとか,株主の会計帳簿等閲覧請求権に関する最高裁の判例によりますと,理由を基礎づける事実の立証までは要しないと,具体的な理由の明示は必要だけれども,その立証までは要しないというように解されていて,この趣旨は信託にも当てはまるであろうと思われることなどに照らしますと,試案のとおり理由の明示を要求すべきものと考えるところでございます。
それから最後でございますが,提案の(注1)と(注2),資料でいいますと13ページ以下にかかるところでございますが,これは受託者側における一定の情報を秘匿するニーズに配慮した制限を許容すべきであるという方向性の意見と,受益者側の帳簿等閲覧請求権の実効性に配慮した制限にとどめるべきであるという方向性の意見とが対立しております。
そこで資料14ページに記載しておりますとおり,甲案,乙案,丙案の3案を提示して意見を問うものでございます。
事務局としては,一応の考えはございますが,まずは皆様の御意見をぜひとも伺えればというところでございます。
続きまして15ページの方に移りますが,損失てん補請求権ですが,これはパブリック・コメントでは賛成意見のみが寄せられましたので,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。
ただし,この責任を任意に履行しない場合の債務名義の内容や強制執行の方法について問う意見がございましたが,分析しますと,この場合債権者としては,受託者に対する損失てん補または原状回復の作為請求をすると。
その上で,損失てん補につきましては,固有財産から信託財産に財産を移転するということになりますので,間接強制の方法によるということになると思われますし,原状回復につきましては,代替的作為義務であれば,原則として代替執行,現行法では間接強制もできるとなっておりますので,その両方,どちらかによると。
それが不代替的作為義務であれば,間接強制の方法,執行法の171条から173条の方法によって強制執行していくということになるものと思われます。
最後に,検査役選任請求権でございますが,パブリック・コメントにつきましては,試案についておおむね賛成意見が占めましたものの,(注3)のところに関しまして,試案のように受託者が請求をした以外の,受益者全員に対して常に通知しなければならないというのは厳格に過ぎるという意見がございました。
前は強行規定としておりましたので,その点についての指摘でございます。そこで検討いたしましたものが,資料17ページ以下に記載しておりますが,調査の結果,事務処理に問題がないことが判明した場合における受託者,それからその通知費を負担することになる信託財産の負担の軽減の必要性という点,それから受益者として指定された者に対して受益権取得の事実を知らせたくないという委託者の意図の尊重という点,それから調査の結果,重大な違反が判明した場合には,(注4)にありますとおり裁判所による命令というものの可能性があるということ,あと会社法の上でも同様な規定があるということにかんがみまして,受益者に対する通知義務につきましては,任意規定とすることに改めることを提案して二重線を引かせているところでございます。ほかには変更点はございません。
とりあえず,以上のところまで説明させていただきます。
● それでは,議論は休憩の後ということにいたしまして,ちょっと休憩ということにさせていただきたいと思います。
(休 憩)
● それでは時間になりましたので,再開をしたいと思います。
ただいま説明がありましたところについて,また御自由に御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。
はい,○○幹事。
● 25まできましたでしょうか。
● 25まできました,はい。
● 何か学生が先生にする質問のようなもので申しわけないんですけれども,25とですね,先ほど大分時間をかけて議論をした22とを合わせてみると,どういうふうに考えたらいいかということを教えていただきたい点があります。
第22の2で,仮に甲案でとった場合には,受託者は選任及び監督について過失がなければ,その責任を免れるものとすると,先ほどこの書きぶりは選任監督に過失がないことを受託者が主張するべきだろうと,ということでしたが,その前提にはある場合には受託者が責任を負うというものがあるはずだと思います。
それが恐らく第25になるのではないかと思いますが,そうするとここは受託者が信託財産に関して,その任務に違反する行為をした場合において,ここに掲げている事由に該当するときには,ここに書いてある請求を受益者はすることができるということですので,そうすると任務違反をしたと。
要するにアウトソースをしている場合にもですね,任務違反をしたということをまず受益者等が主張し,そしてそれに対して受託者は,いやこれは他人にアウトソースしているのであって,加えて私はそれの選任監督に過失がなかった,ということを言えれば免責されるという構造になるように,2つを読み合わせるとなると思われるんですが。
だから,実質的に考えると,この任務に違反する行為というのが,結局何なのかということで,先ほども議論で,甲案をとった場合に甲案はどういう意味を持つか,というのが少し明らかになったと思うんですが,そこでの任務,まさに選任監督,アウトソースしたその先で起こった事故であれば,選任監督がその任務になるんだろうということですので,古い考え方で任務違反を客観的に考えて,過失を主観的に考えるという立場をとらなければですね,今恐らくこういう問題についてはとらないという考え方の方が一般的だと思いますので。
そうすると,両者がかなり競合しているように思われますので,もし今まで申し上げた私の疑問が成り立つのであれば,整理を要するのではないかなと思います。
以上です。
● もっともですね。これ困るね。どうしますかね。どう考えますかね。
端的に言えば,第22の信託事務の外部委託のときの任務違反というものをどう考えるかということですね。求償責任にも関連してね。何かうまい,それこそ○○幹事が質問するということは,○○幹事もそれなりに--。
● いや,わかりません。すみません,第25というのは当然のことですが第22だけを受けているのではなくて,自分自身でやることを主として念頭に置いてつくられているんだろうと思いますが,その第22で甲案のような考え方をとったときには,第25とのすり合わせが,書く必要があるのかどうかわかりませんけれども,整理が必要なのではないかなと思います。
● 25自体はもう一般的なもので,ここでの要件,任務違反というのが要件で,こっちをいじるということは恐らくできないので,22の方で--。
● 22の2についてですね,これはあるいは甲案,乙案どちらにも共通するのかもしれませんが,やはりこの無過失の受託者が主張して免責されるという,この構造が25に合っていないんじゃないでしょうか。
● 過失任務違背とほぼ同じに考えますとね,ええ。
● あるいは任務違背と区別される意味での過失というのを考えるか。
● だけど今度は逆に,そういうふうに考えても,任務違背と過失を別にしても,22の場合の任務違背って一体何かというのが出てくるんですよね。
これはさっきの甲案,乙案,乙案の場合だとそういう問題は生じないのかな。余り表面化しないというだけですかね。
● しかし,乙案は受任者というんでしょうか,委託を受けた第三者の故意過失ですから,今の競合問題は生じない,ええ。
● はて,何か事務局でいい案があればあれだけど。
● 今,名案は思いつきませんが,御指摘の点を踏まえて書きぶりと思いますので,検討したいと思っております。
● うん。ほかにいかがでしょうか。
ちょっとこれは個人的な意見です。25の損失てん補責任のところで,ここで原状回復と損失てん補というのが出てきまして,その2つの関係をどうするのかというのが,ここ自体,これはちょっとただ聞き流していただきたいというのは,これから申し上げることは私は積極的にこの25で改正した方がいいということではなくて,後のほうで受益者が複数いるときに,やはり損失てん補とそれから原状回復との関係というのが問題となって,後の方では原状回復を原則的な救済手段とするという考え方が出てくるんですね。
そうしますと,この25のところでも,受益者が1人しかいないときにも,論理的には全く同じではないかもしれないけど,受益者1人のときにも原状回復と損失てん補というものが,2つの救済手段の関係がですね,つまり両方が考えられるとき,全く選択的なのか,それとも原状回復というものが優先するのか。
これは特に受託者の方からその原状回復に相当するような行為を自分で申し出ると。
自分でこういうふうに回復するから,だから損害賠償じゃなくて原状回復でいきたいと,いうことを受託者が言えるかと。そんな問題とも関連いたします。
ちょうど契約だと債務不履行とかいろいろな責任のところでキュアーというのが治癒というふうに言っていますけれども,債務者の方から損害賠償を請求されたり,解除を請求されたりした者が,治癒をする。
債務不履行瑕疵を治癒するという行為がありまして,それと似たような問題があるのかなと。最近の1つの大きな流れは,そういう治癒というのを認めていこうという考え方がありますので,そういう考え方を,一方で少し頭の隅に置きながら,この規定をどう考えたらいいかというふうなことをちょっと思っています。
ただそれを言い出して,原状回復と損失てん補の関係を全部もう一回見直すということになると非常に大変なので,私としてはそんな問題もありますというくらいの,非常に消極的な発言で申しわけないけれども,ことだけ指摘しておきたいと思っています。
ほかに。25はよろしいですか。今まで少なくとも余り違う御意見はなかったと思いますし。検査役の選任と--。
ごめんなさい,○○幹事。
● いいですか。25でそれぞれ1の損失てん補責任等a,bがあって,aまたはbに定める事項の請求をすることはできる,とありますけれども,一部について変更と損失ってもう完全に分けられるものではなくて,重なって起こり得ると思うんですよね。
その場合に,変更できる部分については,変更じゃない,回復できる部分については回復請求し,その他についてはてん補というのは当然あり得るということですよね。
ですから。これも書きぶりの問題だと思うんですけれども,そういった趣旨がよりクリアになるような書きぶりをしていただいた方がいいんじゃないかと思います。
● 原状回復して損害がなおあるという場合,幾らでもありますからね。わかりました。それは書きぶりの問題としてこちらで対応したいと思います。
ほかに,25はよろしいでしょうか。
それであれば,29検査役の選任請求について。○○委員,どうぞ。
● 23で--。
● 前の方ね。ごめんなさい,飛ばしちゃった。帳簿作成義務,はい。
● 帳簿作成義務等のところで,ちょっと2点申し上げたいと思います。
1点目は1の(4)のところの信託財産の状況に関する書類についての保存義務のところでございますが,要綱試案では10年というところが,信託の結了の,清算事務の結了のときまでというふうに変わっておりまして,もちろんこれよりも短いものもあるんだと思うんですけれども,信託の中にはやはり期限がない,半永久的なものがありまして,例えば年金であるとか,そういうものも考えますと,半永久的な形で保存義務というのはちょっとしんどいかなという感じがいたしまして,この辺のところちょっと御配慮をいただけないかなというふうに思っております。
それと2点目が注1と2のところの,甲乙丙案のところですけれども,これについてはその基本的には乙案支持ということで,ここの部分につきましては,甲案につきましては当初から当方の方でいろいろとお願いしていた分でございますし,丙案につきましても文書というのが非常に種類も多いですし,重要なものから軽微なものまでいろいろあるということですので,そこら辺のところ,契約によって開示しないでいいものができればいいんではないかと思いますし,特に顧客のプライバシーであるとか,営業上のノウハウ,特に今後は多分,知財なんかは非常にデリケートな問題なんかが出てくると思いますので,そういうところを契約で閲覧拒否というのができれば,そういうニーズに合致するんではないかなと思っておりまして,ここの分については乙案に賛成ということでございます。
以上です。
● 第1点目は質問みたいなものかもしれない。半永久的な--期間。
● 半永久的な信託があって,年金信託などでというお話かと思うんです。ただここでは書類の範囲が限定されていて,我々が説明するところではBSとかPLみたいな,そういうたぐいのものくらいは,最後まで持っておいていただけないか。
それはその信託全般を並べるときに,やっぱりそれぐらいの資料は残しておいていただきたいというのが趣旨であるということが1点ございますのと,それから一応ただし書きがついておりますので,かなりの年限がたったものについては,委託者といいますか,受益者といいますか,そちらの方に引き渡すというようなことで対処しようとかですね,そういう余地があるのじゃないかないうところを踏まえていただければというふうに思っております。
● どうしてもという現行の実務からいくと,少し変えないと。少しといいますか,変えないといけない部分というのが結構あるんではないかな,というふうに考えておりまして,そういう観点から御配慮いただけれえばありがたいなと思うんですけれども。
そういうことをやらないといけないということであれば,ちょっとそこは検討したいとは思いますけれども。
● 具体的なイメージとしては,信託財産の状況に関する,どんな信託財産がどれだけあるかとかですね,そういうことだと思いますけれども,毎年,毎年といっても書類はもっと短期間でつくるかもしれませんが,最低限毎年1回分はあるでしょうね。こういうのをずっと積み重ねて保存しておくという,そういうことになるんですかね。そういうことのようですね。
はい,○○委員。
● 23の関係ですが,3の(2)で受益者は理由を明示して閲覧または投資者を求めることができるという,この理由を明示してというところの関係で,これはどの程度のものを想定されているのかというのがちょっとお伺いしたいんですが。
受益者である以上,信託財産の現状を知りたいというような当然の要望のはずなので,信託財産の状況を知りたいというのが「理由を明示して」ということになるのかどうか。それはいかがでしょうか。
● 一般論から言いますと,この最高裁の判例を挙げてあるとおりでございまして,どんな書類を閲覧させていいのかと,それから請求の拒否事由に当たるかどうかという判断が可能な程度の主張はほしいと。
もちろん裏づけ資料までは要らないということですが,その判断が可能になる程度の理由の明示は必要ということになりますので,今,おっしゃった信託財産の状況を知りたいということでは余りに広すぎるので,もう少し具体的な理由というのを言う必要はあるのではないかという気がいたします。程度問題ではありますが,それだと全部という感じがするんですけどね。
● そういうことですと,この理由を明示してというのを入れるのに,まず反対したいということなんですが。いろいろな信託がありますけれども,一番素朴な形の信託でいくと,やっぱり受益者がこの信託財産の現状を知りたいんだというのは当然の話なので,それ以上のことを言え,言わないと見せないぞということになると,大変この,理由の明示がないから見せないということで,何かこう悪用される恐れがあると。
これは立派な信託銀行のレベルの話ではなくて,もっと個人レベルで信託がたくさん利用されるということになった場合に,大変困るのではないかと。やっぱりデフォルト・ルールとして,そういう理由,財産の現状を知りたい,今どんな財産がどれだけあるのか知りたいんだという,そういう程度の理由で十分だという,そういう制度の方がいいと思うんですけれども,いかがでしょう。
● ただ,今どういう信託財産があるかというのは,信託財産状況に関する書類として1の(3)に当たりまして--。
● 年に1回しか来ないんですよね。
● 年に1回,まあ未満でもいいわけでございまして,それを見ることによって,あとはその説明,説明というか状況報告義務を求めるということによって,相当程度カバーできるんではないかなという気がいたしますので。
しかも会社法とか,中間法人法でも理由の明示ということは要求されていますので,信託だけ理由の明示がなくても一切財産状況の書類が見れるというのは,少し幅が広すぎるんじゃないかという気がしているところでございます。
● その点は,例えばほかの会社法でこういう場合に拒絶事由があると。それを参考に決めるという,そういう書き方がされていて,それを広げる方向で何か検討されているようなんですが,その点も含めてですね,何か全体に拒否的な方向に行き過ぎていないかという心配があるんですが。
● 最後の点は,必ずしも広げるのがいいと我々が思っているわけではなくて,そこはまさに甲案,乙案,丙案で御議論ぜひともいただきたいところで,確かに乙案は先ほど御支持があったものは,あるいは甲案でもそうですが,広げるという方向に,方向性としてはあるわけでございますが,果たしてそれでいいのかという観点から,御議論いただければというふうに思っているところでございます。
● もっともな趣旨が含まれていると思いますけれどもね。どういうのが一番--○○委員が言われているのも,帳簿閲覧請求権一般の問題としてさっきの3の(2)のところですけれども,これが1の(2)か,だから,もし1の(2)が全体を受けているとすれば広すぎるかもしれない。
信託財産の状況だけであれば,おっしゃることはそれなりに相当,妥当するような気もしますけれどもね。
● ええ,私もそんな気がします。
● 一応,今,○○幹事が言ったように,信託財産の状況に関しては,1の(3)があることはあるけれども--こういうのは--。
● もしかすると,想定する信託がやっぱり違うことによって,明示すべき理由の範囲が,それは個別の信託を前提にして考えなくちゃいけないと,変わるということを前提にすれば,同じような思いでいるのかなという気もいたします。
つまり,今,○○委員がおっしゃっている話というのは,恐らく個人と個人の間でやられていて,信託財産が別にそんなにいっぱいあるとか,そういうような話ですとか,あるいは帳簿につきましてもものすごく多数に上ってというような,いわゆる商事的な理由ではない状況を考えれば,見たいですよという,なぜ見たいのかといえばそれはやっぱり心配だからだということなんだろうと思うんですけれども,見たいですよと言えば出すのは簡単ではないかと。
つまり今,信託財産に入っているのはこれとこれとかですね,その程度のことだから,それを見せる理由としては,つまりどの範囲かというのを限定するという趣旨も,この理由の明示には含まれているというふうなことのようなんですけれども,範囲を限定するといっても2つしかないんだから,あんまり限定する理由もないし,それであれば理由は,心配だからちょっと今どういう状況になっているのか,信託財産の内訳はどうなっているのか教えてくれ,というので足りるのではないかと言われれば,それはそうなのかもしれないなと。
ただその信託についても,当然御存じのようにいろいろ違いまして,合同運用していたらどうかとか,そういうような条件がありますので,一般には入れますけれども,個別の当てはめでは,やっぱり解釈はそれぞれ事柄の性質に応じて変わってくるんだろうとは思います。そういう御理解では難しいのでございましょうか。
● 一番最初の質問が,そこにかかわるような質問だったんで,そういうような解釈ならば,こういう書き方でもいいかなというふうに思いますけれども。
● 確かに,つい我々もこの会社と同じようにたくさんの受益者がいて,またたくさんの財産が日々いろいろ変動してたり,複雑な信託を念頭に置いてこれを考えてきましたけれども,非常に単純な信託におけると,民事信託なんかの場合だったら,もうちょっとこの理由というものを,少なくとも判例が言っているよりは,緩く解する余地はあるんじゃないかという気はしますよね。まあ,そういうことで。
はい,どうぞ。
● 今のことと関連するような話ですけれども,今も議論があったように,理由明示について,信託の性質に基づいてかなりリアルに会社に被害あるということであれば,それではいけないのかなという気がします。
そうすると恐らく会社法ですとか,あるいは中間法人が想定しているような規律ですとか,あるいはその最高裁の判例が示しているような規範とはちょっとやっぱりずれてくるのではないかなというふうな気がするんです。
それで弁護士会の方でもその議論をしていた中で,やはりここらあたりの規律というのは,会社ですとか中間法人とは大分やっぱり様相が違うのであろうと。
したがって,その解釈としては御指摘あったような,特に個人信託の場合にはそういったその解釈があり得るんではないかというようなこともあったところで,それはぜひそういった方向で整理していただけないかというふうに考えております。
具体的には,実は今回御提案いただいた3の(1)のところで信託事務の処理の説明を求めることができるということになっていますので,この説明を求めていく中で,帳簿等の閲覧請求を求めることに多分なっていくのではないかなという気がしておりますけれども,そういったときに理由の明示をつい立てとして,特に個人信託の場合に受益者が困るような状況がないように,ぜひ規律をお願いできないかというふうに考えております。
全体のここの枠組みとしては,多分閲覧を認めるかどうかということを考える際に,3段階ハードルというか検討するところがあるんじゃないかと思うんですけれども,今の理由の明示のところと,それから一定の拒否事由に該当するかどうかどうかというところと,それからあとは対象となる書類の範囲を制限するというところとの関係で,恐らくどこの段階でどういうふうに規律するのが一番切りわけとして適当なのかという問題かなという気はしておるんですけれども,ぜひ適切に切りわけができるような規律をお願いしたい。
理由の明示の点に関しては,それがないと拒絶事由の該当性が判断できないじゃないかというような議論があると思うんですけれども,それは恐らく拒絶事由として,どういった事由を設けるかということに絡んでくる問題かと思いますが,例えばこの検討課題の15の13ページの一番下あたりで御指摘いただいております,信託財産に属する債権に係る債務者の情報ですとか,知的財産権の信託におけるライセンス契約における内容等の取得については,これは理由云々という問題よりも,むしろ情報の性質にかかわる問題ではないかなという気がしておりまして,そうするとその理由の明示との関係は薄いんじゃないかという気もしますし,また会社法の規定の中では,競業者からの請求を排除するような規定もありますが,これも理由とはちょっと関係がないかな問いう気がしておりまして,そういった観点からもこの理由の明示の問題について,御検討いただけないかなと。
ちなみに拒否事由に関しましては,会社法等の規定に基づいてというようなことが提案されておりますけれども,これは恐らく追っての御検討ということになろうかと思うんですけれども,競業については,例えばどういった形で競業を考えるのかとか,そういった点についてよくわからないというような議論が多少ありましたので,その点だけ御紹介しておきます。
それから,先ほどの13ページの下の中で,受託者の営業上の秘密ということがうたわれておるんですが,これについては多少弁護士会で意見交換した中でも,ちょっとなかなかピンと来ないというとあれですけれども,例えば債権の債務者情報ですとか,ライセンス契約の内容等については,これは受益者の立場から,それをある程度出さないことが受益者の立場からも利益になるということが想定されるのに対して,やや受益者の立場とは対立的な受託者の営業の秘密ということを保護するという点では,かなり慎重に御検討をお願いしたいというような意見がありましたので,ぜひその点についてはよろしくお願いしたいと思います。
それから,あと14ページの甲案,乙案,丙案についてなんですが,これについては若干留保つきで丙案を支持したいと考えています。
甲案についてはここに記載してある合理的に認められる限度を越える請求ということがあったときには,こういうふうになりますと,なかなか基準として判断が難しい。
これは基本的には受託者の側で,これに該当するかどうかを判断することにとりあえずはなるということになると思いますので,ややこれでは受託者の方が拒絶しやすくなり過ぎないかということを懸念しております。
丙案についてですけれども,これは先ほどの知財の関係ですとかを考えるとこういったことはあり得るではないかというふうにかんがえております。
ただ,丙案の内容ですと,文書を開示,閲覧させるかどうかという問題,文書全体というような書き方のようにお見受けするんですけれども,文書によっては,文書自体は出すけれども,例えば氏名の欄を伏すとか,かぶせるとか,そういったことも対応としてはあり得ると思いますので,できるだけ拒絶事由ですとか,あるいはいろいろな法益を保護することとの関係で,配慮しなければならないというところは理解できるんですけれども,そういったできるだけ受益者の開示請求を認めるような形での規律をお願いできると助かるのかなと考えております。
以上です。
● どうもありがとうございました。
○○委員。
● 内容的なことではなくて,表現だけの問題なんですが,11ページの2,受託者の情報提供義務という見出しでございます。
これは試案の段階では,信託財産の状況に関する報告義務となっていたのが,非常にこう一般的な見出しになっている。その結果,3の(1)あるいは(2)との関係が,この2の見出しとどういう関係にあるのかというのがちょっとわかりにくい。
さらに言うと,2に情報提供義務という見出しをつけることによって制限的な影響はないだろうかと。
これだけだ,というふうになってしまわないだろうかという気がいたしますので,この見出しに変えられた御趣旨をお聞かせいただくとともに,もう少し整理した方がいいんじゃないかなというふうに思います。
● 今回お渡ししている資料では,見ておわかりになるとおり,変更箇所については二重下線を引いておりまして,今の見出しのところに引いておらないんですが,恐らく何か貼りつける際に間違えたというか,試案の表現がそのまま書いていたつもりだったのですが,いつの間にか間違っていたようでして,試案のとおりでございます。変更したつもりのところは,すべて傍線を引いてわかりやすくしているつもりでございます。申しわけございませんでした。
● 私の持っている資料が間違っているのかもしれませんが--。
それはそれで結構なんですが,その結果今申し上げたように,一般的なことで情報提供義務という大きな見出しにすることに伴って,それがかえって混乱が生じないかということなんですが。
● 試案のとおり,信託財産の状況に関すると。報告義務という見出しを変えます。元に戻します。
● 元に戻すということですね。はい,わかりました。
● といいますか,変えたつもりではなかったということです。すみません。
● 先ほど14ページの甲,乙,丙というふうに3つ案がございます。これもさっき○○幹事から説明がありましたように,事務局としてはそれなりに考え方があるようですけれども,皆さんの御意見をむしろ,ある程度の御意見を伺っておきたいということですので,もし御意見があればお願いしたいと思いますが。
○○委員は乙案を主張され,それから○○幹事は丙案を主張されたという状況でございますが--。いかがでしょうか。
そうですね,もしあれでしたら事務局の考え方を。
● まず甲案につきましてですけれども,まず1つは会社法にない閲覧拒否事由を加えることが適当かという問題があると。
それから甲案によりますときは,最終的に先ほど御指摘があったとおり閲覧対象から外れるかどうかというのは,現実に閲覧請求がされた上で,閲覧拒否事由に当たるかどうかが判断されるまでは明らかではないということになりますと,受託者,その信託の他の受益者ですとか,あるいは信託外の第三者,信託債権の債務者などにとっての予見可能性という点からは,どういう書類が外れるのかは実際やってもらわないとわからないという点で,いささか難点があるんじゃないかという気がしているところでございます。
それから乙案についても同様に,会社法にない閲覧制限事由を加えるということの問題と,甲案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限を認めるという点は,受益者の閲覧請求権の制限について,委託者の意思も反映できるという点で妥当とは思われるんですが,他方,一定の重要な書類については,この閲覧制限は認められず閲覧に供されてしまうという点がございますので,やはり予見可能性という点からはそれに反する嫌いがあるということと,なお信託行為の定めのみによって閲覧制限ができるといたしますと,受益者に閲覧請求権に対する配慮にやはり欠けるところがあるのではないかという気がするわけでございます。
丙案でございますが,甲案と乙案と異なりまして,会社法にはない閲覧拒否事由を加えるという問題点はございませんことと,乙案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限のためには,受益者の個別の同意をも必要とするとしておりますので,委託者の意思にも受益者の意思にも,利益にも配慮した内容となっております。
もっとも乙案と同様に,一定の重要な書類については,この閲覧制限が認められないわけですが,最後に書いてあります当該請求によって,受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報の記載された文書につきましては,その重要性ということではなくて,受益者の同意をもって,あらかじめ一律に閲覧制限を対象としていくことができますので,予見可能性という点からもすぐれているのではないかという気がするわけでございます。
総じて受益者らと受託者,信託以外の第三者の利害調整がバランスよく図られる内容と,丙案はなっていると思われるのが,事務局の考え方ということでございます。
● いかがでしょうか。
○○委員
● ちょっと確認なんですけれども,丙案のところの先ほどの御説明で,信託行為の定めで委託者の方の意思をと,受益者の個別の同意によって受益者の意思をということですけれども,当然自益信託であれば,信託契約に書いてあればいいということですね。
● 要するに,信託契約の設定と合わせてこういう同意もされているというふうに,2つの契約があったと見ることができます。その辺は大丈夫と思います。
● あるいは,まだ皆さんの御意見が必ずしも,考慮中ということなのかもしれませんが。
それでは,ちょっとまだ皆さんの意見が十分固まっていないということだと思いますので,この点はもう一度いずれ確認したいと思います。
先ほど説明があったほかの点はいかがでしょうか。そうしますと,検査役の選任の請求はこれでよろしいでしょうか。
それでは,特に反対はないというふうに判断いたしますので,ここまでは基本的に承認をいただいたと。さっきの甲乙丙に関しては,もう一度ぐらい御意見を伺う機会を設けたいと思います。
それでは,次にいきましょうか。
● それでは次,第32から3つほどでございますが,まず19ページの費用の補償請求権のところでございます。
本日は,この中で提案2の受益者から費用の補償を受ける権利についてのみ,御審議願いたいという趣旨でございまして,その上で後ほどまた全体について改めて御提案申し上げます。
パブリック・コメントの結果というのは,甲・乙案というのが数の上でも,実質的にもほぼ同数にわかれております。それぞれの案を支持する理由として挙げられている意見の要旨は,この20ページから21ページのとおりでございますが,総括して言いますと,受益者の補償債務というのが,受益者が信託の利益を享受する反面として負担されるべき性質のものであるという甲案的な考え方をとるか,債務の負担に関する一般原則に照らして信託行為の当事者ではない受益者が,当然に補償債務を負担するというのは不自然であるという乙案的な考え方をとるかというところであろうと思われます。
なお,資料21ページの太字2に書きましたとおり,この甲案,乙案以外に仮に甲案がされない場合にはという留保も付したものもございますが,その上で信託行為に定められるときは受益者から補償を受ける権利を有するものとすべきであると。
補足説明の注に書いておきましたが,旧乙案の見解を支持するものも複数ございました。以上のようなパブリック・コメントの結果を踏まえまして,いずれの考え方を採用すべきか御審議いただきたいと思います。
次に,第37の方に移りますが,受託者の解任につきましてでございますが,委託者及び受益者に自由な解任権を認める試案に反対する少数意見もありましたが,パブリック・コメントの大多数の意見は,試案に基本的に賛成するというものでございます。
もっとも,裁判所に対する受託者の解任請求の要件はより厳格化されてよくて,軽微な任務違反についてまで解任権を付与するのは妥当でない,との意見がございました。
現行法の47条の任務違反につきましても,ささいなミスや怠慢や不正確な行為については,解任事由に当たらないと解されております。
そこで,このような理解を正確に反映すべく,裁判所による解任事由に当たるためには,任務に違反したことだけでは足りず,その結果として信託財産に著しい損害を与えたことが必要であると,いうことを明記するように試案を改めることを提案しております。
さらにパブリック・コメントにおきましては,多数の一般投資家を対象とする金融商品の場合には,受益者に対しての評価はさまざまなものになると考えられることから,一部の受益者による解任の可能性は回避すべきであって,一部の者からの裁判所に対する解任請求権についても,一定の制約が課されるべきであるという意見がございました。
しかし,考えてみますと,受益者が多数による場合におきまして,委託者との合意による解任権を行使するには,そもそも原則として全員の同意を要するものでありますし,この自由な解任権の規律というのは,1(3)のとおり任意規定でございまして,信託行為の定めをもって受託者の解任のためには一定の非違行為を必要とするとか,受託者自身の同意を必要とするというような制限を課すことも可能でございます。
また,裁判所に対する解任請求権につきましても,解任事由があるとされるためには一定の重要な事実が必要とされることにかんがみますと,この提案のもとでも,金融商品のスキームの安定性が損なわれるとの懸念は当たらないと思われます。
なお,辞任に関しましては,パブリック・コメントの大多数が試案に賛成する意見でございましたので,試案の規律をそのまま維持することとしたいと考えております。
次に,第39の前受託者の義務というところでございますが,試案につきましては以下の2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,以下の2点につきまして,変更すべきとの意見がなければ,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。
第1点は,この試案と同じ文言でございますが,1の(1),2の(1),それから3の(2)におきまして,前受託者等の受益者及び他の受託者に対する通知義務,これをこの試案ではデフォルト・ルールとしているわけでございますが,これを強行規定とすべきであるという意見がございました。
しかし,受託者に通知義務を課した趣旨というのは,受託者が欠けた場合におきまして,通常は受益者や他の受託者には速やかに新受託者を選任して,信託財産を適切に管理処分させる必要性があるということに配慮したものでございまして,そうすると,信託行為においてあらかじめ受託者が欠ける事態に備えて,後継の受託者を定めているような場合には,このような必要性は既に満たされていると言えるわけでございます。
それにもかかわらず,通知費用の負担をあえて信託財産に課してまで,他の委託者,場合によっては多数に及び得る受益者に対する通知を義務づける必要はないものと思われますので,試案を維持して任意規定にすることを提案するものでございます。
第2点は,試案の1(1)につきまして,受益者以外の者に受託者の解任権が付与されている場合に,解任された受託者ではなくて,解任権者が受託者に通知することが期待されるのであって,解任されたものが通知することは期待されないのだから,解任された前受託者に通知義務を課すのは適当でない,という御意見がございました。
しかし,この意見のもとにおきましても,裁判所による解任の場合に誰が通知するのかという問題が残ります上に,信託行為によって解任権が付与された第三者が解任権を行使する場合には,解任事由も当該信託行為において定められるべきところでございますが,裁判所によって解任される場合と異なって,必ずしもその受託者に重大な非違行為があった場合には限られないわけですので,通知はおよそ期待できないとまでは言い切れるかは疑問がないわけではございません。
それから,解任権者は受益者や他の受託者を把握しているとは限りませんので,解任権者に通知義務を課すといたしますと,多大な負担を課すことになったり,実効的な通知が困難になる恐れもございます。
また必要があれば,解任権を付与する信託法の定めにおいて,解任権者に通知義務があることを規定することで,対処することも可能でございます。
以上の点をかんがみますと,通知義務のデフォルト・ルールにつきましては,解任の場合にも前受託者に義務づけるということが相当で思われるということで,そのまま試案を維持することを提案するものでございます。
以上でございます。
● それでは,ここまでまた御議論いただきます。
いかがでしょうか。それではですね,皆さんから御意見を伺いますが,きょう欠席された○○委員から第32の受益者に対する補償請求権についての意見を書面でいただいておりますので,ちょっとそれを読ませていただきます。
● それは○○関係官の方から御紹介させていただきます。
● それでは,私の方から御紹介させていただきます。文章をそのまま読ませていただきます。
受益者に対する補償請求権について,我が国では現行信託法36条のもとでそれが認められており,ただし放棄可能ということの解釈によって,実際にはその意味を失う可能性があるということだと理解しております。
今次改正において,この問題が焦点の1つとなっており,既に私はみずからの意見を繰り返し述べているところですが,ここに再度申し上げる機会をいただければ幸いです。
受益者に対する補償請求権は,英米信託法では認められないものであり,それは信託の本質にかかわるものです。それは次のような意味です。
受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶようであれば,勢い受益者は信託の運用に口を出したくなる,あるいは出さざるを得なくなり,それは共同事業であってもはや信託ではなく,英米法ではパートナーシップと見なされます。
だからこそ,受益者にも無限責任が及ぶことが認められることになります。繰り返しになりますが,これは信託ではありません。
仮に,受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶのに,受益者には一切口を出させないということであれば,信託はもっとも危険なスキームになります。
会社よりもリミテッド・パートナーシップよりも危険なものになります。投資スキームとしてばかりではなく,民事的な関係でも同じく危険なものであって,全財産を裁判所の監督のない後見人に委ねるようなものです。
以上を要約すると,信託のあり方について,日本独自のことを考えるのは一般論としては否定しませんが,受益者に対する補償請求権は,概念的に信託というものの本質にかかわる点であり,しかも実際上も信託に対する不信を抱かせるような利用法に道を開くものであって,補償請求権なしということを明示するような改正が強く望まれることを申し上げます。御高配のほどよろしくお願いいたします。
以上です。
● 以上のような意見が出ましたので御紹介します。
それでは皆さんの方から,御意見をいただけたらと思いますが,いかがでしょうか。
○○委員。
● 私の方も,この点に関しましては繰り返し申し上げていますので,そんなに追加で申し上げることもないんですけれども,先ほど○○委員の方からの御意見ということで紹介されました,例えば共同で事業を行うようなものについては,パートナーシップというふうに見なされて,それはトラストではありませんと,そういうことから補償請求権はないんです,ということですけれども,日本における信託といいますのは,○○委員がおっしゃっている信託というのも当然ありますし,もう何回も言っていますけれども,土地信託みたいな形で共同の事業的な形で進める信託もあると。
要するに,かなり受益者の意思というのが反映されて,指図等を受けるようなものもあると。
なおかつ,特定金銭信託等については,運用の指図そのものを受益者が行うというものもあります。
そういう観点からすると,○○委員のいう英米法においては補償請求権があるということではないというふうに思っておりまして,それを日本に置きかえた場合については,受益者に対して補償請求権があってもそこはおかしくないんではないかなというふうに考えております。
以上です。
● ほかにいかがでしょうか。この部会--。
○○幹事,どうぞ。
● 私もパブリック・コメントを経てなお意見は変わらないということで,以前にかなり長い時間をちょうだいして説明をさせていただいたかと思いますけれども,私自身は結論として,その○○委員の御見解として示されたところにやはり賛成で,乙案の方が適切ではないかと。
ただ,確かに共同事業的なあるいは受益者が指図をするというタイプのものもおよそ信託として認められないかどうかというと,そこは私自身はかなり疑念を持っておりますけれども,どちらがあるべき,あるいは典型的な信託像なのかというふうに考えたときには,受益者が指図をし,共同事業的なものはかなり特別なものではないかと。
またそういったときは,まさにみずから信託行為にかかわっており,その中で対応していくものでしょうし,乙案の立場によっても補償請求は最終的に認められるという点ではかわりがないのではないかと,いうふうに思っております。
パブリック・コメントの中で寄せられた各種の理由につきましても,ざっと申し上げますと,甲案支持の理由として出されているところは,利益を享受する受益者が負担すべきであるという利益を得る者が損失もという報償責任的な考えかというのは,単純にそういうことではなく,指揮命令があるとか,やはり一定のコントロールを及ぼしているという場合にこそ認められるものではないかと思われますし,第2点目の受託者がリスクをコントロールできない場合があるということについても,より受益者の方がコントロールできるというのが信託なのかというと,そうではないだろうと思われます。
第3点につきましては,これはむしろ別途手当てをすると。最終的には信託の終了に向けて各種の手当てを講じていくということですので,ここの部分は十分な手当てが図られると思われますし,また,第4点目で出されている受益者間の公平を害するということですが,むしろ指図があるような共同事業的なという場合の受益者を考えますと,そういう能動的な受益者と受動的な受益者がいるときに,一律に同じように補償債務が負わされるということの方がかえって不公平ではないか,というふうにも思われます。
そもそも基本的な考え方が違うところかと思われますから,ある意味水かけ論かもしれませんけれども,やはりパブリック・コメントを経てなお,乙案の方が適切ではないかというふうに考えております。
● ほかにいかがでしょうか。
○○委員。
● 確認をさせていただきたいんですけれども,そもそも私どもの立場としては,甲案支持ということで専ら議論あるところが,ここに書かれている理由の1のところでありますけれども,それはちょっとさておきですね,2のその他意見について出されたものについて,ちょっと前に議論が出たのかもしれませんけれども,ちょっと確認をしたいんですけれども。
すなわち信託行為で負担をするということを書いた場合に,それは例えば受益権が譲渡されたとき,そうしたときにその譲受人というのは,当然に補償債務を負うのかどうかということですけれども。
民法でいくと債務引受になりますから,なかなか当然にということにはならないとは思いますけれども,ここに書かれている前提となっているのはそれのどちらなのかと。
仮に,そうではないと,単に自益信託だから信託契約にサインをしたわけだから,当然別途の合意と同様に補償債務を負っているだけであって,受益権の譲受人はそうではないというような,もし整理になるのであれば,逆に2の御解説の「その反面として,乙案を支持する立場から--」というところで,「信託行為に定めがある場合だけでは足りず」というところがちょっとよく理解できなくなってしまうわけで,何とならば別に,信託行為,少なくとも受益権である場合は,別にその別途の合意というのは信託行為に書かれようが,別途の合意であろうが,別途の契約であればそれは意思の合致があるわけですから,乙案をとったとしても,その合意がある限りにおいては,信託行為が定めがあった場合には,自益信託について補償債務を負うということが1つの整理ではないのかなというふうに思っておりまして。
ちょっとこの点についてお尋ねしております。仮に,もし受益権の承継に伴って,補償債務が当然に承継されるということであれば,甲案と乙案のその違いというのが,非常に隣接的になるのではないかなというふうに思いました。
● はい。
● 受益権譲渡の場合の考え方で,質問と1対1で対応しているかどうかわかりませんが,まず信託行為の定めを置いた場合に補償義務が生ずるというのは,これは何度も言うことでございますが,受益権の中に権利義務が含まれる,一体の物となると。
そうしますと,受益権が譲渡されれば補償債務もくっついていきまして,新受益者が補償債務を承継すると。
そのかわり,前受益者は特段の手当てをしない限り,補償債務を免れるという形になると思います。
これに対しまして,個別の合意によって補償義務を負担するということになりますと,受益権の譲渡があったからといって,新受益者が補償義務を負ういわれはないわけでございまして,別途合意をしない限り新受益者は補償義務を負わない。
そのかわり,前の受益者は譲渡したからといって,責任を免れるものではない。そのような結論になるというのが,我々の理解でございます。
● 乙案にとってもそういう--。
● 乙案がそうなるわけですね。乙案がこうおっしゃったように別途の合意ですから,譲渡人は残るけれども譲受人はないということになります。
● ほかにいかがでしょうか。
私の理解では,この部会の中では今まで御発言いただいた方の中では,甲案の支持よりも乙案の方が多かったように思いますが,そういう理解でよろしいでしょうか。
まだこれは恐らく,○○委員あるいは○○委員,甲案の方がいいという御意見をきょうも表明されましたが,それがパブリック・コメントの中は半々だったかもしれませんけれども,そのパブリック・コメントを踏まえた上でも,きょうは○○幹事が乙案の方が適当であるという意見を表明されました。
ほかの方々は,特に御意見を判明されませんでしたけれども,乙案が適当であるという御意見だというふうに理解させていただいてよろしいでしょうか。
それじゃあ,これはきょう最終的な決定をするというわけではございませんけれども,いろいろな後のたてつけというんでしょうか,ほかの関連もありまして,放棄のところとかいろいろなところに影響しますので,基本的には乙案をベースにしてこれからほかの点も詰めていきたいというふうに思います。
よろしいでしょうか。
ほかの点については,いかがでございましょう。今の32が一番大きな争点の1つだったわけですが,そこは解決したとして,37,39あたりはいかがでしょうか。
これも先ほど一応事務局から説明がありましたが,その説明を了承するということでよろしゅうございますか。
じゃあ,そういうことで37,39は御承認いただいたというふうに考えたいと思います。
それでは先にいきましょうか。
● では次は,受益権の譲渡と消滅時効につきまして,御説明を申し上げます。
第48,27ページからでございます。試案につきましては,次にあります2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,これから申し上げます点について御異論がなければ,試案をそのまま維持するということとしたいと思います。
まず,試案の3に関しまして,受益権の譲渡の場合においても,異議をとどめない承諾に抗弁切断の効果を認めるべきであるという意見がございました。
しかし,受益権の性質を権利義務の総体と位置づけた場合というか,今の一応のまとめですと,権利の相対と位置づけるという方向性でございますが,その場合でも単純な指名債権の場合と異なりまして,受益権というのは性質・内容の異なる各種の権利を包含するものでございますので,契約上の地位の移転の場合に準じまして,抗弁切断の効力を付与しないということも十分にあり得ると思われます。
また,仮に承諾に異議をとどめない限り抗弁が切断とされるといたしますと,受託者としては抗弁を承継させるためには,受益権の包含する権利総てに関して,いちいち異議をとどめる必要があることになりまして,受託者に相応の負担を課すことになると思われます。
また,異議をとどめない限り抗弁が切断されるとしますと,例えば信託行為が無効であって受益権が発生しない場合におきましても,受託者はその瑕疵を対抗することができないということになりまして,そのような結論というのは受益証券の有因性となじまないという指摘があり得るところでございます。
これらの事情にかんがみますと,受益権譲渡の場合には,受託者の抗弁は常に承継されるとの試案の考え方が相当であって,反対意見は採用しないとすることでよいと思われるがいかがでしょうか,というのが第1点でございます。
次に,試案の1の(2)につきまして,受益権の譲渡に関する信託行為の別段の定めを対抗できない第三者の要件について,善意に加えて無重過失,重過失がないことを要請すべきであるとの意見がございました。
ところで,この第三者について,善意のみならず無重過失が必要とされるという考え方自体には異論はございません。
しかし,指名債権の譲渡に関する民法466条2項におきまして,譲渡禁止特約を対抗できない第三者に当たるためには,善意のみならず無重過失を要すると判例上解されておりますが,その上で同項は現代語化された後も,善意とのみ規定されておりまして,そうしますと試案のとおり,善意とのみに規律しても,ここに無重過失まで読み込むことは当然に可能でありますし,民法の規定にも平仄が合うと思います。
そこで,試案を維持して無重過失の要件を明文化しないということでよろしいのではないかと思われます。
以上につきまして,御異論がなければ原案維持ということにしたいと思います。
次に,29ページの消滅時効の点でございますが,試案につきまして,次の3点を除いて賛成意見が大勢を占めております。
まず,第1に残余財産に関する権利の消滅時効に関する試案の2につきまして,信託終了後の帰属権利者の権利に関しては,残余財産が金銭以外の財産権である場合には,帰属権利者に所有権が移転して,帰属権利者が所有権に基づく物権的請求権を有することになりますが,物権的請求権が消滅時効にかかるか否かについては,消極的に解する見解が有力であるという疑問の指摘がございました。
試案におきまして,消滅時効にかかる残余財産分配請求権として観念しておりましたものは,あくまでも受益債権と同列に論ずべきものでありまして,つまり債権的な信託財産の給付請求権でありましたが,その趣旨を明確にするためには,試案では残余財産に関する権利としておりましたところを,残余財産の給付に関する債権と改めて明確化してはどうかと考えるものでございます。
次に,試案の1(2)につきまして,通知だけではなくて権利行使の催告も必要とすべきであるという意見がございました。しかし,受益債権の消滅というのは,あくまでも消滅時効の援用によって生ずるものでございまして,通知に対する受益者の不回答によって生ずるものではありませんので,権利消滅の前提として権利行使の催告を要するという,論理的な関係にはないと言えます。
また,受託者にこのような通知義務を要求しましたのは,受益者に対する忠実義務ないし公平義務を負っている受託者の地位にかんがみまして,本来禁止されるべきものとは言えない時効援用権に付随して,いわば最低限の義務を課したにとどまりまして,それ以上に受託者の負担を重くする必要性があるかは疑問でございます。
さらに受益債権の存在及び内容の通知に加えて,権利行使の催告まで行うということをするか否かによって,受益者の利益に大きな違いが生ずるとも考えがたいところでございます。
そこで,権利行使の催告も必要であるという意見は,採用しないということでよろしいのではないかと思われますが,御意見を賜れればと存じます。
最後に,1の(3)に関しまして,受益者の所在不明以外に正当な理由があるという場合は想定できないから,正当な理由は削除すべきであるという意見がございました。
しかし,この資料の31ページの①,②で挙げた事例など,事情のいかんによりましては,常に受益者に対する通知義務を課すことが相当ではないと思われる場合もあるわけでございまして,そうしますと,所在不明以外にも正当な理由がある場合には通知不要とする規律を設けることに合理性があると考えられます。
そこで,正当な理由がある場合を削除すべきとする意見につきましても,採用しないということでいきたいと考えておりますが,御意見を賜れればと存じます。
以上でございます。
● それでは,ここまでで御意見を伺いたいと思います。
はい。では,○○幹事。
● ここで聞くことではないのかもしれないんですが,48の受益権の譲渡の3の抗弁の話で確認させていただきたいんですが,これ有価証券が出た場合というのは,どう考えているんでしょうか。
有価証券のところを見たら,抗弁の話は全く書いていないように記憶しているんですけれども。
たしか67なんですけれども。この考え方は基本的にそのまま有価証券ででも当てはまるとお考えなんでしょうね,多分。つまり,理由づけが一体として地位を譲り受ける,包括承継的な性格なんだというんであれば,その譲り受けのやり方が有価証券であろうが,この民法の債権上と類似--類似と言ったのは,包括承継的な性格があるから,そう言ったんですけれども--それであろうが同じで,ただ善意取得についてだけ,証券の所持に基づく権利者としての推定が働くからそこは違うと。そういうふうに理解したんですが,それでよろしいんでしょうか。
● そういう御理解で結構かと存じます。
● 受益権の譲渡に関してはよろしいですか。
それでは今,○○幹事が指摘されたのが,もちろんこの前提になっている理解ですけれども,それも含めまして,受益権の譲渡48についてを御承認いただいたというふうにしたいと思います。52の時効はいかがでしょうか。
若干の改正部分がありますけれども。
はい,どうぞ。
● 本文については,これで結構かと思います。1つだけ御質問ないし御確認なんですが,31ページに正当な理由の例を2つ挙げておられますが,そのうちの第1の例の方なんですけれども,最終計算の承認行為があった後は云々とありますけれども,これは試案でいうと58信託の清算についての6の最終計算を指しているのでしょうか。
そうだとしますと,それに伴う免責の効果があることになると思いますが,それと時効との関係はどうなのかということです。
もう1つ,この①についてより一般的なことなんですが,信託行為で定めることによって,その時効あるいは援用に伴う忠実義務の規範をどこまで自由に変えることができるのか,という問題がさらにあると思います。
そういう意味で,①については少しわかりにくいことがあると思いますので,御説明いただければと思います。
● はい,いかがでしょうか。
● ①の例というのは,おっしゃるとおりでたしかに信託行為でどのような定めを置いた場合に,それがそのまま正当な理由として認められるかどうかというところの1つの問題だろうと思います。
最終計算の局面のところで,確かに免責というのは入っておりますけれども,私どもの理解ではここでの免責は,若干範囲狭いものではないかというふうに考えておりまして,つまりどのような責任でも免責されるわけではない,ということになりますと,それと並存的にあらかじめ受託者が信託行為の中で消滅時効も--共益債権についてということになるんだろうと思いますけれども--定めておくということもあっていいのではないかなというふうに考えて,ここではとりあえず例に挙げたと。
つまり,そういうことを受託者サイドとして現実的にやるのではないかと,やり得るのかなということで,とりあえず書いたというところでございます。
じゃあそれを越えて,今はこのような信託行為の歯どめを例に挙げたのですけれども,じゃあ一体どのような例がそのほかにも許容されるかというのは,ちょっとなかなか一概には申し上げにくいところはありまして。信託行為で消滅時効の援用を自由にできますという例を挙げていないのは,何でもかんでもというわけにはいかないのだろうなというのが,1つの判断ではあった。
ただ,じゃあどのような条件でというところまでは,ちょっとまだ解釈に委ねざるを得ないのかなというようなところで考えていたということでございますが。
● 今の御説明の中で,最終決算に伴う免責の効果については,またその部分で具体的に検討すればよろしいかと思います。
それから,信託行為に定めれば何でもこの時効に関する規範を左右できる,というのは適当ではないという御説明は,私もそのとおりだと思うんですが,であればこそ,①の例というのよりも,もう少しほかの例の方がいいんじゃないかなという気がいたします。
● わかりました。これはちょっと適当な例に考える,変えるかどうかね。
ほかに御意見ございますか。
はい,どうぞ。
● 何回か出た話の蒸し返しのようで恐縮なんですが,これ消滅時効,時効消滅したときには,その弁済の事実があるにもかかわらず,それを証する資料がないという場合は別なんですけれども,弁済していないんだけれども期間が経過したということで,かつそれを消滅時効を援用したという場合には,その財産は信託財産ではなくなるんですか。
当該その受益者がそのときに給付する権利がなくなるだけ,給付を請求する権利がなくなるだけであって,信託財産であることの性質は変わらないんでしょうか。
● 一番端的に申しますと,受益債権について受益者が放棄したのと同じ状態になるんだと思っておりまして,そうしますと,信託財産性というのが失われるということではなくて,それに対して実質的な次順位の方が取り分をとられるということになっており,例えば残余財産として,残余財産を帰属権利者にいくとか,そういうような関係になるんだというふうに整理しております。
● それが適当だと思いますね。よろしいでしょうか。
それでは,52の消滅時効のところも御承認をいただいたというふうに考えたいと思います。
それでは,先にいきましょう。
● では,続きまして遺言信託と契約信託の問題,第63と第64についてでございます。
まず第63の36ページ以下でございますが,パブリック・コメントによりますと,遺言による信託設定を許容する試案に対しては,1件反対意見がありましたが,それ以外は賛成意見であったということ。
それから3につきましては,受託者の選任請求に関するものでございますが,反対意見はなかったので,1,3についてはいずれも原案どおりとしたいと思っております。
問題は2でございますが,これはやはり実質的にも意見が同数にわかれたところでございます。
ところで,この甲案と乙案,補足説明にもいろいろ書かせていただきましたが,ちょっと切り口を変えて御説明しますと,まず委託者の地位が相続になじむか否かという法的性質論から考えてみますと,資料の37ページのイ以下に書きましたとおり,遺言信託における委託者の地位は,その性質上相続になじまないという乙案のA説の考え方と,それから遺言信託における委託者の地位についても民法の一般原則と異なるところはなくて,その性質上は相続の対象となるという乙案B説の考え方,それから当然ながら甲案の考え方とに分けることができると思われます。
その上で,この乙案A説によりますと,委託者の意思を介した説明をするのではなくて,そもそも委託者の地位の相続性を否定してしまいますので,法律行為の当時者としての地位,例えば詐欺を理由とする取消権や信託財産の受託者への引き渡し義務といったものが観念できると思われますが,こういうものあるいは信託法上の法定帰属権利者としての地位も承継されないこととするのか,仮に相続される権利義務があるとすると,その区別の基準や承継の法的根拠--相続ではないとするとどういう根拠で承継されるのか--というような問題について解決する必要が生じてくると思われます。
一方,委託者の地位の法的相続性を肯定する甲案と乙案のB説では,このような問題は生じてこないと思われるわけですが,この両者の結論としては,正反対となりますのは,法的性質論とは別に,受益者と委託者の相続人との利害関係にかんがみまして,委託者の通常の意思をどのように考えるかについての実質論からの違いから生ずるものと思われます。
つまり甲案におきましては,委託者の相続人も委託者の地位を相続により承継することを原則とした上で,受益者との利害対立の恐れを回避するために必要があるのであれば,被相続人としては,信託行為である遺言において委託者の権利を縮減ないし消滅させるという定めを置けば足りるというふうに考えるものと思われます。
これに対して乙案B説によりますと,委託者の相続人と受益者とは信託財産に関して類型的に利害が対立する関係がある,という理解を前提といたしまして,被相続人の合理的な意思というのは,委託者の相続人に委託者の地位を承継させないということを,類型的に意図しているとみるのが相当である,としまして,このように委託者の意思の推定のもとに,原則として委託者の死亡を契機として,法的帰属権利者としての地位以外の委託者の権利義務を喪失する,という定めが置かれていると,いわば擬制するものと言えると思われます。
それから次に,委託者の相続人は委託者の権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとします,結論において共通するこの乙案A説とB説でございますが,信託行為の定めによってデフォルト・ルールと異なる取り扱いをしようとする場合の説明の仕方が異なってくると考えられます。
つまり,乙案B説におきましては,委託者の地位の相続性自体は肯定するものでありますところ,委託者の相続人が委託者の地位を有しないことをデフォルト・ルールとするのは,あくまでも委託者の意思を推定したことによるものに過ぎませんので,委託者が信託行為である遺言において明示的に相続人は委託者の権利義務を有するということになるということ。
つまり,相続を契機として委託者の権利義務が消滅するということはない,ということを定めれば,この定めが優先しまして,民法の一般原則に戻って相続人が委託者の地位を承継することとなると。
このように被相続人の意思を介した説明が可能であると思われます。正確に申しますと,ここでの信託行為の定めは,権利の相続性という属性を決定しているのではなくて,相続されるべき権利の範囲を信託行為によって決定しているのでありまして,あとは一般的な相続のルールにのるというふうに考えているわけでございます。
なお,パブリック・コメントにおきましては,乙案を支持する見解の中でも,このB説のように委託者の地位を相続性自体を否定するのではなくて,委託者の通常の意思を推定に根拠を求める見解が多かったという印象でございます。
これに対しまして,乙案A説によりますと,そもそも相続性を否定しますので,委託者が信託行為である遺言におきまして,相続人に権利義務を付与すると定めた場合におきまして,遺言によっているにもかかわらず相続以外の理由,つまり第三者のためにする契約というような特殊な法律行為として相続人が委託者の権利義務を原始的に取得するのだというように説明すると思われます。
しかし,この考え方につきましては,かなり技巧的な法解釈をとることが妥当であるかどうか。あるいは私人が遺言によって裁判所に対する権利を創設することになるということになりますが,このようなことが説明可能であるのか。
仮に相続人が委託者の権利義務を欲しないときに,相続放棄ではないわけですので,いかなる方法が可能であるかなどの問題を解決する必要が生じてくるというふうに思われるところでございます。
以上が乙案A説の場合の難点という感触でございます。
次に,第64の契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務につきましてでございますが,これも同様に甲案,乙案を挙げておりますけれども,パブリック・コメントの結果といたしましては,委託者の信託上の地位の相続承継を原則として肯定する甲案の方が優勢でございました。
それぞれの理由として述べているところは,この39ページに書かせていただいているとおりでございます。これも法的性質論から分析いたしますと,この資料の41ページの(3)というところに書いてございますけれども,委託者の地位はその性質上相続性になじまないとする乙案のA説の考え方と,相続性自体は問題ないと,対象となるという乙案B説の考え方と,甲案の考え方にわかれるということになると思います。
なお,この資料におきましては,42ページの「いずれにしても--」以下に書いているところでございますが,これは基本的な視点でございますけれども,委託者の地位の相続性という法的性質論に関する限りは,遺言信託の場合と契約信託の場合とで特段区別される点はなくて,両者は統一的に解されるべきであると考えているわけでございます。
委託者の地位がその性質上,相続になじむかどうかということ。つまり,帰属上の一身専属性があるかどうかということは,設定方法によって変わることはなくて,あとは委託者の相続人と受益者との利害関係の相反性という実質的な点を考慮して,相続されるかどうかを決定することになると考えられるわけでございます。
その上で,委託者の地位の相続性を否定する乙案のA説の考え方によりますと,すべての権利義務の承継が否定されるのか,承継される権利義務があるとすればその区別や承継の法的根拠は何かという問題が生ずることにつきまして,先ほど述べさせていただいたとおりでございます。
次に,委託者の地位の相続性を肯定する点において共通する甲案と乙案B説が,結論として正反対になることにつきましても,性質論から離れた実質論から生じるものであるということは,先ほど述べたところと同様でございます。
また,委託者の相続人が権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとする結論において共通する乙案のA説とB説におきまして,信託行為の定めによって異なる取り扱いをする場合の説明の仕方が異なってくるということ。
特に原則として相続性を否定した上で,しかし契約信託において権利義務を付与するという定めをした場合に,若干特殊な説明を必要とすることになるという点も,遺言信託に関して述べたところと同様でございます。
なお,特に遺言信託ではなくて,契約信託の場合におきまして,乙案B説のような考え方,つまり法的性質論としては地位の相続性を肯定するものの,実質的観点から委託者の地位の承継を否定するという考え方,これが相当であるかどうかという点につきましては,このような前提となる理解が,自益信託の場合にも妥当するのかどうか,他益信託の場合についても信託の経済的利害,信託が経済的利益に基づいて設定されている場合ですとか,公益,準公益や扶養目的として設定されている場合には,相続人による権利行使を認める方が目的達成のためには望ましく,委託者自身にもかなうのではないか。
あるいは委託者の地位の承継を実質的に否定する考え方というのは,委託者の地位の移転を認める考え方との平仄が果たして合うのであろうか。
さらに言えば,委託者の相続人による不適切な権利行使が懸念されるという点は,遺言信託ではなくて契約による信託による場合においても,委託者の地位の相続を意図しないことが一般的であると類型的に推定するに足りるほどの社会的事実があるものと言えるか等の問題点をクリアする必要があると思われるところでございます。
これが契約の場合には,特に乙案をとった場合に特に検討する必要があると思われる点についてのお話でございます。
次に,第53のところに戻りますが,試案に対しましては以下の3点を除きまして,賛成意見が大勢を占めております。32ページ以下でございます。
まず試案では,委託者の権利を基本的に現行法よりも後退させる考え方をとっているのに対しまして,これとは逆に,委託者に原則として従来どおりの権利を残すべきであるとの意見がございました。
もともと信託においては,委託者が受託者を選任したのであって,信認関係も委託者と受託者間にあったのだから委託者の方が監督に適切である,というような理由を挙げるものでございます。
しかし,受益者の保護をいう点につきましては,試案の考え方におきましても,委託者としては信託行為に定めを設けて監督的権能を留保することができるということに加えまして,法定代理人が受益者の利益を代弁することも可能であると思われます。
また,受託者が委託者との間においても信認関係を有することを否定するわけではないのですが,委託者と受益者の意見衝突を避けて,信託の運営を効率化させるためには,委託者の権利と受益者の権利のいずれか一方を尊重する選択をせざるを得ないわけでございますが,信託の設定後は受益者こそが当該信託にもっとも強い利害関係を有すると考えられることにかんがみますと,受益者の権利の方を後退させるのは適当ではなくて,委託者の権利の方を後退させる方が妥当であると思われます。
これらの事情にかんがみまして,試案の考え方を従来どおり維持したいと考えております。
第2に,別表の権利のうち,4の説明請求権と6と12の差止請求権につきまして,原則として委託者にも付与すべきであると。
試案では,デフォルト・ルールとしてはなしとしておりましたが,デフォルト・ルールとしてありとすべきであるという意見がございました。
ところで,この6と12の差止請求権につきましては,資料34ページに書きました理由によりまして,試案どおり委託者には原則として付与しないということでよいと思われます。
これに対しまして,4の説明請求権につきましては,これまで原則として認めておりました21の信託財産に関する書類の閲覧請求権に加えて,この信託事務の処理の状況に関する報告を受ける権利というのを,原則として認めることによりまして,委託者としては信託財産の状況のみならず信託事務の処理の状況も合わせて,信託の概況全体を把握できることになりまして,信託目的の設定者によりふさわしい地位を有することになると思われます。
つまり,信託の委任的側面として信託事務の処理の状況の報告を受ける権利というのを認め,財産的側面として信託財産の状況に関する書類の閲覧請求権を原則として有する,ということになるわけでございます。
そこでこの4につきましては,試案を改めましてデフォルト・ルールとして,委託者が有する権利と位置づけるべきと考えるところでございます。
第3に,委託者の地位の移転に関しまして,試案に明記しておりました信託当事者全員の合意を得て移転する方法に加えまして,信託行為の定めによって移転することもできることを明記すべきであると,いう意見がございました。
この資料でいいますと,本文の2に関するところでございますけれども,この意見につきましては,補足説明でも実は備考欄の注で付記していたところでございますが,信託行為の定めに従って委託者の地位の移転を否定する理由はないと思われますので,これを本文中に明記することとしてはどうかと考えるところでございます。
● それでは,委託者に関連する問題ですけれども,53からいかがでしょうか。
53のところは,ある意味で原案的というんでしょうか,修正も含めて原案という形で出ているわけですが,遺言信託のこの63の2のところ,甲案と乙案が出ておりますし,また64のところも契約による私益信託の場合においての,委託者の,相続人の権利義務です。
これも甲案と乙案がございますので,これは皆さんの御意見を伺って決めていきたいと考えております。
私の記憶も余りはっきりはしませんけれども,私がまとめることに対して御異論があれば,また御異論いただきたいと思いますけれども。
委託者の地位につきまして,遺言信託に関しては,これは最後の甲案,乙案をとるかとは別にですね,遺言信託の場合の相続人というのは遺言者,つまり信託を設定した遺言者としたがってまたさらに言えば受益者と,利害対立する関係にあるので,相続人には権利を与えない方がいいのではないかという御意見が多かったように思います。
そのときの法律構成の仕方として,ここはいろいろな御意見があったと思いますけれども,一切委託者の地位というものを相続しないんだと,遺言信託の場合ですけれどもね,そういう考え方と,これは今甲案ですが,それから乙案のように一応相続性を否定するわけではないけれども,遺言者の意思,委託者の意思というのは相続人に権利を与えないことだというふうに考えて,結局相続人には権利義務を与えないという立場と,両方あり得る。
今のが乙案のB説ですけれども,これは必ずしも十分ここでは御議論はいただいてないように思います。
しかし,まあ結論は今申し上げたように,少なくとも遺言信託の場合については,委託者の相続人には権利義務を与えない方がいいのではないかという御意見であったのではないかと思いますが,いかがでしょうか。
今のまとめ方でよろしかったかな。
どうぞ,では○○委員。
● 意見が出ないので,今の乙案B説に賛成します。これは遺言者の意思からすれば,相続人に承継させないと。そういう意思であると。
だから乙案のA説の方は,理屈がやっぱり難しくなってしまう。Bの方は信託行為の定めで承継させることもできるんだという,そういう設定ですから,大変合理的でいいかと思います。
● どうもありがとうございました。
ほかに御意見ありますでしょうか。
私も個人的には,乙案のB説がいいのではないかというふうに思います。ただ,その何かやっぱり規定が必要なのかなと。つまり,遺言の解釈だけで一般論として,相続性があるというのを前提でなるべく,だけど遺言者の意思を根拠にして,一般的な意思を根拠にして,委託者の相続人に委託者の権利義務を与えない,相続させないというわけですが。
何か規定が,そういうことを可能にする規定が信託法の中に必要なのかもしれない,というふうに思うんですね。単に解釈だけでそういけるかというと,ちょっとそこは危惧をしているところなんですが,この点についても何か御意見があればと思いますが。
これはどうですかね。何か--。
● 事務局としても,遺言信託だったら当然そうだというふうに読み込むのはなかなか難しいので,乙案B説の場合でも,規定があった方がいいんではないかなという感触を持っているところでございます。
将来的には,法制的なことですが,そういう印象でございます。
● そういうことでよろしいですか。
では,余り反対はなさそうでございますので,今の乙案のB説でいくということで,何か適当な規定も考える。
生前のといいますか,契約による私益信託の場合の甲案,乙案はいかがでしょうか。パブリック・コメントとしては甲案の方が多かったということですね。
それから説明の仕方,それから実質を考えても,甲案の方が支持者が多かったようでございます。この部会では--ちょっと私もはっきり覚えておりませんけれども--甲案を積極的に否定される方は,そんなに多くはなかったように思いますね。
じゃあ,どちらがいいかということを理由づけは結構ですけれども,御意見だけでもいただかないと方向が決まらない。
指名してあれですけれども,○○幹事,いかがですか。
● 私は実を申しますと,遺言信託においても,そんなにA説がとれないものかなという感じがして,実を言うとそういう気はしておりまして,相続人が何らかの権利取得をするというのも,相続人という立場にある人にそのような権利義務を認めるということで,いろいろ説明はつくんじゃないかという気は,実はしておったのですが,しかし乙案であることにかわりはありませんので,B説でということであればB説でもよろしいかなというふうに思っております。
ただ,恐らくA説かB説かというのは,この契約による設定の場合に,もう少し変わってくるところがあるのかなという気がしておりますが,ただ,そうですね--。
● 整合性を考えなくてはいけないところがあるかもしれませんね。
● はい。むしろ結論を先にありきなのかもしれませんけれども。
● そんな結論はありません,こちらとしては。
● 私自身は,もうちょっと理論的な説明のところをおきますと,かなり委託者の意思というものが相当に尊重されていい話ではないかという気がしておりまして,委託者自身がもう自分で終わりたいというのであれば終わらせ,別の人に移転したいというのであれば,別の人に移転させるということでいいのではないかというふうに考えておるのですけれども,ただ一方で,委託者の地位の移転のところで,他の委託者,受益者及び受託者の同意を得て移転することを妨げないということですから,基本的に全関係者の同意を得ないと誰に自分の地位を承継させたいかということは決められないという設定になっており,かつ大もとのところ,それをやりたくなければ信託行為のところであらかじめ定めておいて,委託者の一方的な意思表示によって移転できるとか,そういうふうに定めておくという法制なので,そう委託者自身の意思が最大限尊重されるというようなことには,全体としてなっていない。
ある程度制約がかかってくるという仕組みなんだろうと思っていまして,それが本当にいいのか,っていう気にはなっているのですが。そうですね--。
● それは遺言信託の場合は,遺言者が自分で信託を設定するときにあらわす意思であるから,それはその委託者の地位を後から移転する場合と違って,その意思だけを考えればいいということで済むわけですよね。
● 自分は抜けるわけですので,最初から別の人しかあり得ないわけですから,別の人に最初から設定できるという想定ですよね。
その際はやはり,相続人でしかやっぱりあり得ないかというと,第三者を指定してもよろしいわけでしょうか。委託者としての各種の監督権限はだれだれに与えるという,信託行為で決めてよろしいものでしょうか。
● 不可能じゃないかもしれないですね。
● 可能かどうかによって,また違ってくるのかなという気はしているんですけれども。
● 委託者の地位を承継させるというのは,それはちょっと違うと思いますけれども,信託行為の中で委託者が持っているような権限を,信託行為としてだれに与えるかというのは,全く不可能ではないような気がしますけれどもね。
● 恐らく今言われたのは,それこそ細分化すれば,損失てん補はこの人を委託者として,また解任の申立権はこの人を委託者として,というようなことが可能になるんだとすると,まだそこまでは言えないんだろうと思いますけれども。
● 委託者なのかどうかね,それが。いろいろな権限を与えるということは可能性があるような気がするけど--。
● そこを自由に決められるのであれば,もう相続も否定してしまって,意思一本でというふうに実は考えていたのですけれども,そこは委託者の地位としてはもちろん別で,ある程度相対であって,かつ全体として移っていくとすると,相続による承継をするというのでもいいのかなという程度なんですが。すみません,ごちゃごちゃと申し上げながら。
委託者の地位という点では,無理だろうということでしょうかね。ですから,自分はこれだけ持っているけど,相続人に対してはこの半分しか与えないとか,そんなことは基本的にできないという--。
● 個別的に委託者の地位の,地位に含まれるような各種の権利ございますけれども,そのうちの一部だけ個別に承継させるというのは,相続人でありましたり,それから個別の承継がもちろん念頭に置かれると思いますけれども,そういった切り売りのようなものではなくて,地位に基づいて各種の権利を法律上認めているということだと思いますので,ある程度の一体性というものが必要だという理解をしております。
● ありがとうございます。
● 最後,結論がよくわからなかった,契約の場合はどういうことになるんですか。関連するということだったと思いますけれども。
● いや,そうであるでの法理でよろしいんじゃないかと。
● ほかに何か御意見がございますでしょうか。
どうぞ,○○委員。
● 私ども自身,別にどっちの案ということではないんですけれども,単なる関心なのかも,ちょっと御確認したいところがございまして,それは法律関係が複雑になるのか,ならないかということについて,僕の意見でもありましたのでちょっとその観点から御質問したいんですけれども。仮に承継された場合に,複数になると思うんですけれども,その複数,多分2人とか3人とか承継された場合に,監督権を行使する場合には共同して行うことになるんでしょうか。
それとも一種の共有というふうに考えて,監督権の行使というのが管理権みたいなものだから,おのおの1人ずつが係る監督権を行使できるというふうになるんでしょうか。
そうするのであれば,結局受託者からすると,監督権を行使される人がふえてしまうと,そういう単純な整理ということでよろしいんでしょうか。
● 準共有っていうふうになるんだと思いますけれどもね。だから全員でという。相続人が数人いたときには,委託者の地位の権利行使をするときには,まとまってしなくちゃいけないということになるんだと思います。
内部でどういうふうに決めるかはまた別ですけれどもね,多数決で決めたいかどうかは,その内部で決めることができると思いますけれども,合意がなければ準共有ということで説明すると思います。
● だから,受託者の側の権利を行使するときにも全員でという。
● 恐らく,例えば書類帳簿閲覧請求権みたいな,単独で行使しようと思えばできなくはないのがありますけれども,これもやっぱりまとまっていくんだというふうに思いますけどね。僕はそう思うけれども,どうなんですか。
● 基本になるのはそうかなと思いました。あとはちょっと考えたこともないんですが,その権利の性質によって果たして処分までいくものなのか,管理的なものなのかによってわかれてくるのかなと。
帳簿ぐらいですとどうでしょうかね。管理行為だったら過半数とか,あるいは保存行為だったら1人でもできるでしたでしょうか。そこら辺は権利の性質によってではないかなという気がいたします。
一概にはちょっと言えないですが。基本になるのはそうだと思います。
● 私が余りリードしては,本当にそれほど強いどっちかっていうわけじゃないので。皆さんの御意見を伺って決めたいと思いますけれども。今の何人かの御意見は,契約の場合は甲案で構わないという,そういう御意見だというふうに変わってよろしいでしょうか。
それでは,規約64の場合には甲案で,それから遺言の場合には乙案のBという線でいければと思います。そういうふうに組み合わせをとったときに,先ほど○○幹事が言われた整合性の観点から言えば,一応相続性はあるというもとで扱いますので,整合性はとれているということになりますね。
それでよければ,じゃあ残りの最後のところで。
● すみません,53に一言言いたいんですけれども,受託者の権利義務ということで,今回説明請求権をこのデフォルト・ルールで認めていただくということでいただいているんですけれども,先ほどちょっと話も出たところなんですけれども,帳簿閲覧請求権はどうでしょうかということなんですけれども。
これは委託者の立場で何か問題があったときに,とり得る対応を考えたときに,説明請求権を行使して説明を受けるというのが,まず第1段階あると思うんですけれども,その次にとり得る手段というのが,考えられるところが,受託者監督人を選任するか,あるいはその解任とかいうことになるとちょっとドラスティックなところにいきなりいってしまうような気がしておりまして。
できれば,その帳簿等を見られると助かるかなという気がしておるんですけれども。その点,もし御検討いただけると助かるかなという気がしますが。
● 今の説明請求権と帳簿のところございますけれども,こちらの方ではパブリック・コメントに付された意見も踏まえて,意見の方も説明を求めるという方だけで,帳簿などの細かい資料についての閲覧というのはさすがに行き過ぎだろうという,恐らくそういう御判断で意見が寄せられていましたものですから,それに従ったというのが1つと,もちろんそれに加えて,じゃあもう一歩進んだらどうかという点も問題になります。
その点については,こちらでももちろん検討はしたわけなんですけれども,やはり信託についての状況を知りたい,ということについては,契約当事者ですので当然に付与しましょうという判断は適当だろうと思っているんですが,それに加えて,信託についてのその先にある帳簿ですとか細かいような資料になりますと,これについては,信託によってはかなりのものがいろいろ出てきたりしますので,信託が大きな信託,あるいは商事的な信託ということになるのかもしれませんけれども,そこにはやっぱり受託者の負担という点もあるのかもしれませんし,利害対立あるいはそういったもろもろの委託者の地位について後退させるとしたことについての,制度的な理由かと思うんですけれども,そういったものがあり,信託についての説明を求めるというのと,やはり帳簿その他のものについて閲覧あるいは謄写をさせるというのとでは扱いを変えた方が,今回の委託者に関する全体の考え方の中ではふさわしいのではないかなというふうに考えたというところでございますが。
● 今のは説明ではありますけれども,何かさらにもし御意見があれば。
● 全体の御意見のあれでしょうから,この点には余りこだわろうという気はないんですけれども,実際上のことを考えるとその方が助かるかなという気がちょっとしておるという,意見だけ申し上げさせていただければと思います。
● 御意見を伺って,もし検討してみて委託者も加えた方がいいということになれば,また提示いたしますが,一応原案ということでよろしいでしょうか。
それじゃあ,次いきましょう。
● 受益者が複数の場合の権利の関係でございまして,提案1というのは,受益者が複数の場合における損失てん補請求権と原状回復請求権につきまして,資料ですと45ページの(注2)のとおりに,各請求権がいわゆる単独受益者権であるという考え方をとることを前提といたしまして,ある特定の任務違反行為について,受益者ごとに別々の請求権を行使した場合に,受託者がいずれの義務を履行すべきかという点について検討したものでございます。
ですから,(注2)が前提となっております。
ところで,信託における受託者というのは,信託の本旨に従いまして,信託財産をあるべき姿で管理処分することが求められていると思われます。
そこで,みずからの任務違反行為によって信託財産に損失及び変更を生じさせた受託者としましては,受益者に対して信託財産をあるべき姿に戻すこと,すなわち信託財産の原状を回復することをその債務の内容として負担しているものと思われます。
そうすると,原状を回復請求権と損失てん補請求権とが競合して行使された場合は,原状回復請求ができないとする特別の事情がない限り,原状回復請求が優先するものと考えるのが相当であると思われるわけでございます。
そこで両者が競合して行使された場合には,提案1のとおり受託者は原則として原状回復義務を履行することを要しまして,その上でなお信託財産に損失が生じております場合には,資料45ページの(注1)に書きましたとおり,その損失についてさらに損失てん補義務を履行すべきこととなるとしてはどうかと考えるものでございます。
次に,提案2でございますが,一部の受益者から損失てん補請求がされた受託者がとることのできる対応について,検討したものでございます。
原状回復の優先性を前提といたしますと,一部の受益者の損失てん補請求に応じて,受託者が損失てん補義務を履行してしまった場合に,他の受益者はもはや原状回復請求をすることができないとの考え方をとるのは妥当ではないと思われます。
その反面,受託者が自発的ではなくて請求に応じて,損失てん補義務を履行した場合においても,その後に原状回復請求権がなされれば,受託者は常に原状回復にも応じざるを得ないといたしますと,受託者は二重に義務履行を強いられることになりまして,酷に失すると思われるわけでございます。
そこで,一部の受益者から損失てん補請求権を受けた受託者は,この義務を二重に履行せざるを得なくなる事態を避けるために,提案2のとおり,他の受益者に対して原状回復請求をするかどうかを催告することができるといたしまして,催告に対して回答しない受益者は,もはや原状回復請求をすることはできなくなるとしてはどうかと考えているわけでございます。
ところで,視点を変えて付言いたしますと,受益者からの請求のされ方については,どちらもまだ何も請求されていない場合,それから一部の受益者から原状回復請求されている場合,全部の受益者から原状回復請求がされている場合,一部の受益者から損失てん補請求がされている場合,全部の受益者から損失てん補請求がされている場合と,こういう5通りがあると思われるわけでございます。
まず,提案1で述べましたような優先性からいたしますと,一部または全部の受益者から原状回復請求がされていれば,受託者は原状回復義務を履行すべきことになると思われます。
そこで,まだどの受益者からも請求がない場合について,検討してみたところでございますが,この両請求というのは,いずれも受託者の任務違反行為に対する受益者の救済手段ですので,救済対象である受益者が原状回復ではなく損失てん補の方を望むのであれば,その意思を尊重するのが適当であるように思われるところでございます。
原状回復の優先性というのも,それは一般的には受益者の利益にかなうものと考えられることを根拠にするものですので,まずは救済対象である受益者の選択を尊重しつつ,選択が競合したときに原状回復の方を優先すればよいと考えるわけでございます。
そうしますと,いまだ請求がない場合におきましても,受益者の選択の尊重ということを重視しますと,受託者としては受益者全員の意思をまずは確認するのが一貫した考え方ということになると思われますが,しかし請求が全くない段階におきまして,任務違反行為を自覚した受託者としてみずから責任を履行するのではなくて,あらかじめ受益者の意思を確認すべきだというのも,いささか違和感のあるところでございます。
そこで,いまだ請求がない場合におきましては,受益者の意思の尊重の要請を働かせるべき局面には至っていないものと考えまして,受託者において原状回復と損失てん補のいずれを履行することもできると考えてはどうかと思うわけでございます。
ただ,信託の性質と受益者の保護の要請からきます原状回復の優先性といいますのは,この場面でも尊重されるべきでございまして,損失てん補をしたものの後から原状回復請求がされた場合には,受託者は原状回復を履行せざるを得ないことになると思われるわけでございます。
そうすると,受託者としては二重の義務履行をしなければならなくなる危険性を回避するためには,原状回復の方を履行しておくべきことになろうと思われるわけでございます。
以上は,資料の45ページの(注3)というところの考え方でございまして,このように考えてはいかがかと思うわけでございます。
そうすると,次に資料45ページの(注5)に書きましたとおり,全部の受益者から損失てん補請求のみがされていた場合について,それにもかかわらず受託者が原状回復の方を履行して損失てん補を免れることができるかという点が問題となってまいります。
もちろんこの場合,受託者としては損失てん補義務を履行しておけば,一切の責任を免れることになると思われますが,例えば任務に違反して信託財産の株式を売却したというような場合におきまして,任務違反行為のときの株価に比して現在の株価の方が下がっているというときには,受託者としては現状回復の方が得策だと判断する可能性があるわけでございます。
原状回復の優先性にかんがみますと,全部の受益者から損失てん補請求がされているとしても,なお受託者の方で原状回復の方を履行することが許されそうでございますし,受託者が現状回復をしてしまえば,結局損失の要件が欠けることになりまして,もはや損失てん補請求を追及し続けることができなくなると,いうようにも考えられるところでございます。
しかし他方,受益者の意思の尊重ということを重視すれば,全部の受益者が損失てん補請求をしているのに,受託者の方でいわば勝手に原状回復をするのは妥当でないように思われますし,原状回復がされれば,常に損失が回復されたものと言えるかという点につきましても,反対の見解があり得るところでございます。
このような(注5)の問題については,どのように考えたらよいかという点が,この(注5)の問題提起の趣旨でございます。なお,類似の問題は,一部の受益者のみから損失てん補請求が現にされている場合にも生ずると思われるところでございます。
最後に,以上の説明でございますが,これは受益者に両請求権のいずれを行使するかの選択権があることを前提にしたものでございますが,これまでお話申し上げましたとおり,選択権があることに起因してかなり複雑な法律上の問題が生じてくることは否定できないところでございます。
そこで,資料46ページの(注6)に記載いたしましたとおり,法律関係の簡明化の観点などからいたしますと,受益者は原則として原状回復請求のみが可能であって,特別な事情がある場合には,逆に損失てん補請求のみが可能であるというふうにする考え方もあり得るところでございます。
この点につきましても,どのように考えるべきか,御意見を賜れればと思っております。
以上でございます。
● それでは,この点について御意見を伺いたいと思います。なかなかこれを考えると難しい問題をたくさん含んでいるんですが,いかがでしょうか。
はい,○○幹事。
● 難しいところで,何が問題なのかをちょっと突き止めたいという意味での質問をさせていただければと思います。
これは前の第25で,15ページですが,の書きぶりをどうするかということで,先ほど指摘させていただいたところとも関係するかと思います。
要するに,原状回復請求と損失てん補請求,それぞれの内容がどういうものかということをもうちょっと詰めないと,難しくなるのかなと思います。
いずれにしましても,原状回復の優先性という御提案の考え方は,私も基本的にそれでよろしいかと思うんですが,それはあくまでも両者が重なる範囲内においてだと思うのですね。
ですから,重なるというのがどういう場面か。同一な任務違反行為に基づき,であっても,何て言うんでしょう,損失てん補請求の方からいいますと,原状回復請求にあるいは原状回復にかわる損失てん補というものと,原状回復をしてもなお残る損失のてん補というのがあり得るんだと思います。
請負でいいますと,修補と損害賠償の関係はまさにそうでして,修補にかわる損害賠償と,修補とともにする損害賠償というのは区別されておりますけれども,それと同じようなものがここでもあるのかなという気はいたします。
ただ,原状回復としてどういうものをイメージするかによって,それがまた実際上は変わってくるのかもしれませんが,いずれにしましても,損失てん補に関して2つ分けられるとしますと,原状回復請求の優先性というのはあくまでも原状回復にかわる損失てん補と原状回復の関係に言えることであろうと。
原状回復とともにする,原状回復しても補われないような損失は,またそれとは別ではないかなという気がいたします。それがわかるような書きぶりをこの第71でもすべきかと思いますし,それが第25の書きぶりにもまたはね返ってくるのではないかなという気がいたします。
どうすればいいかというのは,なかなかちょっと具体的に御提案することができないんですけれども,そういったあたりが実は問題じゃないかなという気がいたしました。
以上です。
● 全くそれはその点から同感ですが,規定の仕方を言われますけれども,○○幹事が今言われたように,原状回復とそれから損失てん補の優先性が問題になるのは,まさに重なっている部分だけであって,重なっていない部分は別途損失てん補が請求できると。
それは受益者が多数であっても同じであると。単独の場合はもちろんですけれども。という理解でよろしいんじゃないかと思います。具体的な何かいい例がもしあれば--。
● 具体的にいい例かどうかわかりませんけれども。
例えば信託財産,ちょっと今ある例と違うかもしれませんけれども,信託財産に何か機械があってそれで何か生産していましたと,それでその機械が壊れてしまいましたと,したがって原状回復しろと言ってその機械を修理するなり設備を直すなり,新しい機械を入れるなりする,というのが1つの原状回復であると思うんですけれども,その壊れていた期間,それが稼動して売り上げが上がって利益があったじゃないか,というのはまた,その壊れていて放っておいたので,その間活動ができなくてその収益が落ちたじゃないか,というのはまた損失ということで追及できるというのが,いい例かどうかわかりませんが,それが1つの例かなと思います。
● はい。○○幹事。
● 今,○○幹事がおっしゃったことと矛盾することではないという趣旨で発言をしたいんですけれども,○○幹事は損失のてん補と現状の回復という効果の方からおっしゃいましたが,損失と変更というこの要件について,事務局がどう考えていらっしゃるのかというのを少し伺いたいと思います。
例えば金銭がなくなった,盗まれたということが明らかだと,いうときにはこれどっちと言ってもいいんだと思う,原状回復も恐らく金銭の支払いになるでしょうから,一緒だと思うんですが,損失と考えて損失てん補,aの方の号で考えていらっしゃるのかなと思います。
それに対して,ある会社のですね,新日鉄でもソニーでもいいですけれども,株券が1万株盗まれたというときに,先ほど○○幹事が価格が変動したときの考え方を例として挙げられましたが,そのときは変更が生じたというふうに考えて,原状回復がまずあると。
しかし損失が生じたとも考えられると。同じ事実について,変更と損失,要件の方では両方に当たるということがあり得るという前提があって,原状回復の救済方法としての優先性,何かそういう話になるんでしょうか。
そこが,ある一つの事実である部分が損失,ある部分が変更がある,というのは認めた上でですね,同じ部分について損失でありかつ変更であるということを,あると考えているのか,それとも変更である以上は損失ではない,と考えるのか,そこがちょっとわからないので教えてください。
● そこはやはり,その物の見方で両方あり得るんではないかと思っておりまして,その株券を失った場合というのもまさに原状回復であれば同じ物を返すということですし,それを金銭的に損失と見れば損失てん補だと。
どっちでいくかというのは,受益者の自由でございますけれども,どちらでも,それは構成の仕方次第ではないかと思っております。
● ○○幹事が特に強調されたのは,25の1のa,bというところに書いてある要件のところですね。同じ事実が損失にも該当し,変更にも該当することがあるかと,簡単に言えば,ね。
● 今,あるということで。わかりました。
● はい。ほかにいかがでしょうか。
どうぞ,○○委員。
● 71の1,2ともですけれども,例えば1番の原状回復請求の優先性であるとか,受託者の催告の規律という,いずれも少人数の非営業信託というのであればこういうのが妥当しますし,そういう規律なんだろうなというふうに思うんですけれども,やはり営業信託でなおかつ集団投資スキーム的なもの,これについてちょっと考えた場合,なかなかやっぱりワークしないんじゃないかなという感じがいたします。
1つは,営業信託ですから,○○委員がよく言われる,金もうけの信託ということの観点からいきますと,やはり金銭賠償というのを投資者が念頭に置いてやっておりますので,損失てん補というのがやっぱり最初に来るんだろうなというのが1つ,それとあと実際上の問題で考えた場合ですけれども,ワンワン方式で1対1で考えればわかりやすいんですけれども,例えば投資信託みたいなもので,株の売買を日々やっていますというのと,受益者の入れかわりも激しくありますといったときに,それじゃあ原状回復というのは何か1つすぱっと切れば,そのときの財産はどれだけあって,じゃあその分を補てんしないといけないというのは出てくるかもしれませんけれども,それは多分大変な作業だろうなという感じがいたします。そういうことが1点。
それとあと,我々信託銀行で信託事務をやっていましたら,やはり失敗もありまして,補てんすることもあります。そのときに基本的に金銭で補てんする場合もありますし,例えば株式とわかっていれば株式でそこを入れるという場合もあります。
ただ,例えばそれが数万円の場合もありますし,場合によったら数十円とかですね,そんなような場合もあると。そうすると,それをいちいち催告してどうなんでしょうかと,数千人,数万人のお客さんに聞くと,そういうのはやはり非現実的なところではないかなというふうに考えています。
そういう観点からいきますと,1つは営業信託というものについて,デフォルトとして金銭賠償という形,損失てん補というのをデフォルト・ルールにしていただけないかということが,要望として1つあります。
それが難しいということであれば,せめて信託契約,信託行為に書くことによって,てん補であるとか原状回復とかですね,そういう方法を記載してそれに従うような形にしていただけないかなというふうに思っております。
● 後者は可能だと思いますけれどもね。
● 後者はあり得る。前者はなかなかそれは厳しいかなという感じです。
● 少し確認させていただきたいんですが,商事,営業信託であれば金銭であるという認識でいるというふうに今,発言されたと思うんですけれども,その実際にいろいろと今言われたようにミスをするということは当然あって,それを戻していると思うんですけれども,それは原則お金で戻しておられると,今,そういうおっしゃり方をしたんでしょうか。
● それは,その物自体が明確であれば,それはまさに原状回復するのを前提に考えていますけれども,例えば本当に原状回復といったって,例えば数万円のものがあったときに,それじゃあそれを原状回復するんですかといったら,その場合はその,どういうんですか,原状回復という定義というか,意味自体がどうなのかよくわからないのですけれども,それだけ損失が出たときに,物自体が外に出たことによって損失が出た,といったらそれを戻すという行為について,わかる限りにおいてはやっていますけれども,それがどこまで調査してですね,やっていけばいいかというのはわかりませんので,そこはその金銭賠償でやることというのが,金額が低額の場合には多いんじゃないかと思います。
● 今のは恐らく原状回復を認めることについての問題というのを御指摘されているんだと思うんですが,どちらかというと我々としては,商事信託,営業信託においても原状回復というのが受託者が人から財産を預かっているので,まず第一義的なものじゃないか,というふうに考えております。
その中で,試案の考え方というのは,原状回復は難しいですよというような場合はしなくてもいいです,というような考えをとっておりますので,今言われたところと試案において原状回復を認めているというのが,余り矛盾するような感じがしないのですけれども。実際の営みに近いような規範に,原状回復はなっているんじゃないかという気がするのですけれども。
● そういう形で明確に認めていただけるんであればですね,その原状回復するためにどれだけ特別の事情ですか,そういうものがあるのかないのかというのが,やはり複雑な信託になればなるほどわかりづらいですよね。
そうすると,ひょっとしたらこれをもうちょっと調査すれば,きちんと財産というのがわかって,それを原状回復できるのかもしれないけれども,まあそこまですることはないでしょう,ということも結構あるんじゃないかと思うんですよ。
明確に,例えば土地信託で建物の一部がどうかなりました,と言ったらそれはそれを修復しましょう,という話になると思うんですけれども,複雑な信託でなおかつ当事者が多くて,お金の出入りも多いというものについて,果たしてそういうのがわかるのかどうか。
そういうものをそんな調査をかなり要して,手間暇かかって仕方がないものについては,別にそれは金銭賠償でもいいですよというんだったら,それはそれで構いませんけれども,
● その調査がしにくいので金銭賠償ということなんですが,その金銭賠償すべき額というのは当然,その適切な額を算定しなくちゃいけないわけで,受益者との間でももちろんそういう義務があるということだと思うのですが,原状回復は調査してもなかなかできないんだけれども,お金に換算するのは非常に簡単だというのが,何となくよくわからないんでございますけれども。どういった例を,複雑な信託というのは--。
● 例えば,運用しているのが,たくさんの運用財産があった場合,例えば投資の中だったら基準価格が間違っていましたという形があって,入ってきたお客さんに対して高い基準価格だったらお金は高い基準価格で購入していますから,そういうお客さんに対してどういう形で対応していくかというふうに考えたときに,やっぱり考えていくとわからないところってたくさんあるんですよね。
● 今のは,仮に原状回復でやろうとしたら,どういうふうにしたらいいかというのはよくわからないと,そういう意味ですよね。確かに。
● ですから,そんなのは金銭賠償でいいですよ,っていうふうに割り切るというか,この規律というのはそういうことなんですよ,というんだったらそれは安心できるわけですけれども。
● どこまでカバーするかわかりませんけれども,25の方でしたか,原状回復と損失てん補の一般原則の方ですけれども,そこは著しく困難といわれて,これはちょっとあれかもしれないけれども株の費用がかかるとか,そういう場合は原状回復ではなくて損失てん補で構わないという考え方で,それでうまくカバーできないかという感じがするのが1つです。
しかしそれではうまくいかないので,損失てん補だけにというわけにはいかないでしょうけれども,受託者の方で,責任を負う方の受託者の方でどっちか選べるということになると,ちょっとこれは行き過ぎで,なかなかそこまでは行けない気がするんですね。
● そこのルールみたいなものを信託契約に書くというのは,それは別に構わないということですね。
● それは構わないと思いますね,僕の意見ですが。
はい。
● これはやっぱりかなり難しい話で,催告権にも絡むんですけれども,受託者がすべき事柄なんですけれどもね。まず損失てん補請求を受けたとしますよね。
それに対して,原状回復を自発的にやったら,それはそれでいいわけですか。今,○○委員は--。
● 僕はさっきそういうことを言ったけれども--。
● だめかもしれないという。
● そこまで強くは言わなかったわけね。そういうこともあり得るんじゃないかという話をしたので。
● それで,そうすると催告はしなくてよいわけですね。
● そう,その立場をとればね。
● それとですね,その損害賠償をしてきた人がいるときに,損失てん補請求をしてきた人がいるときに,原状回復をすると過分な費用がかかるというふうな事情があるときには,催告はしなくていいんでしょうか。
● これは催告義務の関係ね。催告がなかなか難しいものがたくさんあるような気がする。
● これやっぱり催告は本当に,その商事信託で受益者が多数になると,やっぱり大変なことだと思いますので,どうやったら催告をすることを免れるのかというのは,考えておいた方がいいような気がするのですが。
● これは催告義務というよりは,催告することができるということですので,ちょっと紋切り型で恐縮ですけれども,自信があれば,来られてもただし書きでいけるというふうにすればやらなきゃいいし,自信がなかったらやるしかないということだと思うんですけれども。
● はい,○○委員。
● 例えば訴訟が提起されてですね,損害賠償請求の提起がされて,そういう観点からいくと訴訟告知をしても,まあわかる限りやりますということかもしれませんけれども,それで例えば負けてしまったらどうなるんですか。
● 訴訟をしなかった--。
● いや,ごめんなさい,訴訟告知をしても,全員にできるということは多分できないと思いますので,じゃあそれで訴訟をやったら負けてしまいましたっていって,そのうちをてん補しました,でもある人が出てきて,いや原状回復でないと嫌だというふうに--。
● それはしかし,その告知できない人には効力が及んでおりませんので,その人が請求するのは自由になりますので,我々の提案の考え方ですと,原状回復が来たらそれに応じなきゃいけないということになってしまいますね。
● そうすると,原状回復もやるということになってしまうという--。
● 損失てん補した部分については,不当利得として信託財産に求償していくと。そういう帰結でございます。
● 今までに少し関連するところなんですが,受益者が多数おりまして,受託者の1つの行為を理由に多数の受益者から損失てん補なり原状回復の訴訟が提起された場合に,そういった訴訟全般について,合一的に判断するというようなことについては,特に考慮する必要はないという前提でよろしいのかどうか,ということが1点目でして。
それから第2点目で,その原状回復の裁判と損失てん補の裁判が2つ係属している場合に,それぞれの訴訟がどういった形で影響を与えるのかという点について,少しイメージが沸かないところがありますので,受託者として抗弁としてそういった原状回復の裁判がなされているということを,もう一方の訴訟に対して出せば,何らかの効力が生じるという整理になるのか,そのあたりについて御教示いただければと思います。
● 私の方から御説明いたしますと,まず原状回復請求訴訟と損失てん補請求訴訟について,類似必要的共同訴訟という形にして,両方が違う裁判所に提起された場合には,同一の審判をしなければいけないというふうにするという方法もあるのかとは思うんですけれども,なかなかそこまで,例えば期間を区切って一定の期間までにそのいずれかの請求をしなければいけない。訴えを提起しなければいけないという形にするのは,やはりその受益者の保護という観点から難しいのではないかと,いう形がいたしますので,今の前提というのは,各受益者が訴えを提起できて,仮に原状回復請求と損失てん補請求訴訟が両方起きた場合には,その受託者,被告である受託者の方が,現状回復請求訴訟も一緒に来ていますという形で,一緒に併合して審判をしてくれという形にして,同一の裁判所でやるようになれば,当然この原状回復優先性というルールが働きますので,原状回復の方を判断していくという形になるというようなことを考えておりますけれども。
● そうしますと,損失てん補の請求の方はその場合どういった終わり方になるんでしょうか。
● そちらの方は,現状同一な任務違反行為に基づいて原状回復がされましたと。原状回復がされたことによって,損失が発生していないということになれば,棄却されるということになると思いますけれども。
● いや,裁判のことまで考えるといろいろ難しいですね。これはまあ,きょう,ある意味で初めてお出しするもので,原状回復と損失てん補については,一般原則の方は既に御議論いただいておりますけれども,それとも若干は関連するし,きょうはここでは御承認いただくということとかしないでですね,次回以降もう一回検討するということでよろしいでしょうか。
ただ御意見があれば,伺っておきたいと思いますが。今,大体出たような御意見を,またこちらで検討したいと思います。よろしいでしょうか。
どうぞ,○○委員。
● 1点だけ確認なんですけれども,先ほど損失てん補か原状回復かを信託契約に書いてということはいいんではないかということですけれども,催告の仕方とかというのもよろしいんでしょうか,考え方として。
● 例えば公告であるとか,そういうことでございますか。そこまではちょっと十分均一考えておりませんが,そこも合わせて検討したいというふうに思います。
● ちょっと催告のところはね,受益者多数だとちょっとネックになりますよね,たしかにね。
はい,どうぞ。○○幹事。
● 今のことにも関係するんですが,信託契約でどちらの請求権を選択するか。例えば多数決あるいはその他の集団的意思決定の対象にすることは,これは認めないという前提と理解してよろしいでしょうか。
● そうすれば話は簡単なんでございますが,ここはやはり受益者の保護という観点からは,単独受益者権という規律がいいのではないかというのを前提にしていきたいと。これは後日,また議論されるところでございますが,一応それが前提の上での話でございます。
● バランス論として,受託者の責任を免除するのは,これは多数決でできるという御提案ではなかったでしょうか。
● 受託者の責任を免除するためには,原則として全員一致ということで,その多数決にするかどうか,多数決できるかどうかにつきましては,確かに我々の従前の提案というのはできるとすることが相当なんではないかと,いうことはしておりますけれども。
● 免責は多数決でできるけれども,救済の方法を選ぶことはできないと,多数決では。
● これは1人でできるんです。各自がそれぞれどの請求をするかでひしてしまうということで,多数決にできるかというか,信託行為で多数決でないとできないとしてしまうかという意味でございますか。
● 多数決で,少なくとも多数決で決められて,多数決ができなかったときには原則に戻るといいますか。
● 原則1人でできるという強行規定に考えておりまして,それをその信託行為で加重することはできないというふうに考えておりますので,常に1人でできるという方向で考えているところでございます。
● 請求権自体は多数決で免除できる。
● 責任は原則全員一致なので,本当は全員一致が必要なんですが,多数決でも許されると。こちらの方は,本来一人一人ができることでございまして,それを過重することはできないと。出発点が全然逆でございますので--。ちょっと検討してみますけれども。
● なかなか--。
どうぞ,はい。
● なかなかあのわからないんですけれども。今の1人が請求した後に,多数決で免責することはできない。
● それはできるんです。それはできます。免責自体はできますから。
● 免責ができるっていうのはもう,その1人が損害賠償請求訴訟を起こしても,棄却になるわけですよね。
● 棄却でしょうね。結論的にはそうなってしまいます。
● そうすると,幾つかあと検討していただければありがたいんですが,これは例えば100万円損害が生じたといって損失てん補請求権をしたある受益者がいて,で,それに100万円支払ったと。しかしその後の人がやってきて,実は200万円だったからもう100万円払えというふうに言えば,それも認められるわけですね,ずっと。
● それは本当に200万であれば,残りの100万は認められるということになります。追加的な部分ですね。
● はい。
● よろしいでしょうか。何かほかに御意見があれば,伺っていきたいんですけれども。この規定自体がもうちょっと検討しないと。
はい,どうぞ。
● 1点お伺いしたいことがありまして,損失てん補請求が受益者からされましたという場合に,原状回復を履行することが受託者の方で自発的にできるのかと。
受益者の方で原状回復か損失てん補請求かの一方の方を選択した以上,受託者はそれに従うべきなのかどうかという,ここの(注5),(注6)で書いたところについて,この点につきましてはどのように考えるべきかというのを,いろいろ事務局の方でも考えておりまして,例えば注文者のところですと,瑕疵修補請求と損害賠償請求の方は選択的に行使することが,原則としてできるという形になっておりますので,このあたりどのように考えたらいいのかというのを今後検討する参考に,御議論いただけると助かるんですけれども。
● なおさら難しいんだな。
直ちに,すぐにこれだという意見がなかなか出にくい,難しい問題だと思いますので,もし御意見があれば,今の--。
● 今の話は2つに分けて考える必要があるような気がするんですが,つまり,損害賠償請求訴訟が起こって,それで判決が出てですね,それは履行方法と原状回復をしたということになりますと,そもそもその債務名義の内容と原状回復の内容とがイコールとは限らないわけですが,そういう判断の手続というものがどこかに必要となってきますよね。
それに対して,口頭弁論終結時までの間に原状回復してしまいますと,損害がないという抗弁ができるような気がして。そうすると,自発的な原状回復をしますと,実質的にはいずれにせよ選択的にできるという結論が出てくるんじゃないかという気がしたりもするんですが,よくわかりませんけれども。余り自信はないですけれども。
● 私も○○幹事と同じ意見です。損失てん補請求される前に変更が生じて,損失てん補請求される前に自発的に回復する場合というのがありますよね。そのときに一たん変更があったんだから,損失てん補請求をそれ以上認める必要はないと思うんですね。そうであるならば,さらに損失てん補請求が一たんされたということで,みずから変更された状態を回復するということで,受益者から訴えられるということを避ける利益を,受託者から奪う必要はない。したがって,訴訟が提起されたとか,あるいは訴訟前でその損失てん補請求をされたからといって,受託者がとり得る方策は限定されないんだろうと。
多分最後のところは,○○幹事の話の最初のところですが,判決が出てしまうと,それに基づく執行というのを封じるには,請求異議を出さないといけないですよね。請求異議で修補したんだからというのでは通らないんじゃないかなと。金銭の支払いを命じる,これは支払いじゃなくて作為なんですかね,こういう勘定から信託勘定に移しなさいという作為を命ずる判決に対して,修補したというのでは請求異議が認められる事由にはならないんだろうと。実質的にはやっぱり履行になってないんだろうというふうに思います。
● はい,どうぞ。
● 今,○○幹事,○○幹事,お2人とも,損害の基準時というのはやっぱり口頭弁論終結時になるんであるという,まず御見解だと思うんですが,すみません,私の理解が間違っているのかもしれませんけれども,一般的には債務不履行時を原則としてという理解なんですけれども,ここはなぜ口頭弁論終結時に遅れるのかと,それがその信託だからなのか,どういう理由なのかがちょっとよくわからなかったんですけれども。そこはどのような御説明が--。それとも前提が違うのかもしれませんが。
● それは損害賠償の額の評価時点というのと,損害賠償債権が存続しているかどうか,という問題は違うという話じゃないでしょうか。
● 損害の存在なんだろうと思うんです。損害の存在は口頭弁論終結時がやはり基準時であって,そこでその要件が満たされなくなってしまうので,損害賠償額のあるいは損害額の基準時の問題には入らないということなんじゃないでしょうか。
● 大体わかってきました。そうしますと,例えば価値の修補と損害賠償が選択できるというような場合について考えますと,私は君に瑕疵修補してくれなくていいから,お金で返してくださいということを言ったんだけれども,いやいや私は直したからと言われたら,それを受け取った上で,本当に瑕疵修補されているかなというのを調査するというのが結論になる。まあそれと同じ結論になんだろうと,そういうことになるわけですね。
● わかりました。
● なかなかね,請負なんかのことを考えるとちょっと難しい。信託はちょっと--。
● そうなんですけれども。請負はですね,そういうのが問題になるときに,注文者が引き渡し後のことが多いので,人のものをさわれるかという問題がそこに出てくるのに対して,自分の占有物に対してある一定のことをするという信託の場合と,なかなか微妙に違った問題が起こってくるのかもしれないですよね。事実としてはね。
● はい,○○委員。
● 最初に○○幹事がおっしゃったところに戻ると思うんですけれども,原状回復にかわるてん補と,原状回復とともにするてん補で,ともにするということは登記事実として残るわけで,あとは何をすれば原状回復をしたことになるかという問題だと思うんですよ。ですから,その組み合わせだけでそんなに難しいことはないのではないかと思うんですけれども。
● といってもまだ難しい問題がありそうだけれども。
はい,○○委員。
● 架空の問題ではなく,現実的といいますか,あり得る現実性,本当かどうかわかりません,年金なんかですとおびただしい数の受益者がいらっしゃると思うんですけれども,あとまだ年金受給者にはなっていなくても将来の受給者の方のような方もいるとおもうんですけれども,そういう場合に受託者が何かこの損失てん補請求といいますか,何らかの形で信託財産を毀損してしまったときの解決が,やっぱり効率的に解決される必要があると思うんですけれども。
その場合のことを考えると,個別の何人かの受給者たる受益者が訴訟を起こしてですね,多くの訴訟がほとんど和解で終わると思うんですが,和解で終わる分,和解では終わらせられないということがまず大きな問題として1つ生じるのかなと思いますし,訴訟告知をするといってもできないケース,または現在確定していない受益者がいるということになりますと,何か永久に,永久というと大げさだけど半永久的に訴訟は,とにかく判決で確定し,その確定した判決が間違ったということでちゃんと抗弁として利用でき,抗弁になるんですかね,既判力が及んでいませんからその判決が正しいんだということを主張して,みたいなことになってしまうので,何か多少既存の法的な,民訴的な視点でもそうですけれども,理屈もそうですけれども,効率的な解決が図れるようにしておかないと,数えられる範囲の複数の受益者の場合は構わないと思うんですが,ちょっとそれが何千,何万とかいう状況になってきますと,個々に権利があるということは非常に受益者保護にとってはすばらしいことだと思うんですが,解決できないという視点からすると,非常に何か社会的な問題になり得るのではないのかなというふうに感じたんですが。
● おっしゃるとおりですね。今御議論いただいているのも,いろいろな点を御議論いただいておりまして,損失てん補と原状回復,2つの救済手段の間の単なる抽象的な関係といいますか,1人の受益者の場合にも生じる問題ですよね。
それが多数の受益者でもって,今○○委員が言われたように,あるいは○○委員も指摘されましたけれども,多数の受益者のときの優先関係のルールというのを設けたときに,果たしてうまく機能するのかどうかという,そういう問題を御指摘いただいたと思いますけれども,これはもう一度検討したいと,そのように考えております。
● 今の○○委員の関係で,事務局の中でも1人の受益者が訴訟を提起したその効果が他の受益者にも及ぶ,というような制度をつくれないかどうかということを検討はしてみたんですけれども。
例えば株主代表訴訟のような形にすれば,1人の株主が訴えを提起して,その効果が会社に及ぶと。会社に及ぶということの反射的な効果として,他の株主に及ぶということで,1人の株主の訴えの提起が究極的には他の株主に及ぶということなので,それと同じような制度にすることによって,1人の受益者は訴えを受託者に提起しましたと。
その訴えの確定判決の効果が,他の受益者にも及ぶというようなことができないかなというふうに考えたんですけれども,やはり他の受益者にとってみると,自分のあずかり知らないところで確定判決の効果が及んでしまって,それによって損失てん補請求とか原状回復請求をするという機会が奪われてしまうと。
そうだとすると,何らかの訴訟告知を受託者に義務づけるとか,訴えを提起した受益者に義務づけるとか,そういう制度も一応あり得るのかと思うんですけれども,そうだとすると受託者が任意に訴訟告知をするという,現行の民事訴訟法にあるような制度を用いるとしておけば足りて,特に他の受益者の情報を知らないことがありますので,訴えを提起した受益者が訴訟告知をするというのは現実的ではありませんし,かといって,受託者に義務的に訴訟告知をさせるというよりは任意で,この場合には訴訟告知をしようというケースと,これはほかの受益者は多分言ってこないだろうから訴訟告知はしなくていいだろうというような,それを選択というのかどうかわかりませんけれども,そういう裁量の余地は与えておけば足りるのではないかなということで,今のところはそういう制度は設けていないということなんですが,これはあくまで事務局の中で考えたことに過ぎませんので,ここで何か御意見等ありましたら,ぜひ述べていただけますと大変助かりますけれども。
● いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
それでは,ただいま出てきたような御意見をまた参考にしながら,もう一回練り直して,もう一回御提出したいと思います。
それでは終わります。
どうもありがとうございました。
-了-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第22回会議 議事録
第1 日 時 平成17年10月7日(金) 自 午後1時00分
至 午後5時00分
第2 場 所 法曹会館 高砂の間
第3 議 題
受託者による受益権の全部の継続保有の禁止について
信託財産と固有財産等との識別不能について
信託財産に対する強制執行等について
善管注意義務について
法人役員の連帯責任について
受託者の権限違反行為について
報酬請求権について
受託者の職務の引受けについて
信託管理人等について
受益債権と信託債権との優先劣後関係について
営業信託の商行為性について
受益権の有価証券化について
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● ただいまから第22回信託法部会を開催したいと思います。
いつものように,幾つものテーマがございますので,これを適宜区切りながら議論していきたいと思いますけれども,その区切り方につきましては○○幹事から説明をお願いします。
● テーマは全部で17ございますが,一番最初は,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止と信託財産と固有財産等との識別不能の問題,善管注意義務,法人役員の連帯責任,それから報酬請求権と受託者の職務引受けを御審議いただきまして,次に,信託財産に対する強制執行と受託者の権限違反行為の問題を御審議いただきたいと思います。
そして,あと残りを後半で分けさせていただいて,全部で4つに分けたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,お願いします。
● では,資料の一番最初,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止というところでございますが,パブリック・コメントにおきましては,試案の考え方,すなわち受託者は受益権の全部を保有する場合でも,受託者と受益者を同一人が兼任する状態が解消されることがあり得ることに鑑みますと,兼任状態が生じたことをもって直ちに信託を無効とする必要はないという考え方に対し賛成意見が多く寄せられました。
ところで,この規律によっても,このような兼任状態は相当期間を超えて継続することは許されないものでございます。
この点につきまして,試案では,信託の終了事由として「兼任状態を解消するのに必要な期間を超えて,受益権の全部を保有していたとき」としておりましたところ,この期間の明確化を図るべきであるとの意見が寄せられました。
この規律の趣旨といいますのは,受託者と受益者の兼任状態が生じている場合においては,実質的には受益者の受託者に対する監督関係が存在せず,信託のあるべき構造が損なわれているのでありまして,このような状態が長期間継続するのは望ましくないと考えるものでございます。
ところで,これと類似の状況としましては,受託者の全部が欠けている場合がございます。
本規律の場合には,信託事務処理を行う者が欠けているわけではございませんで,監督関係が期待できないにとどまるわけですが,いずれの場合も信託の一部に機能不全の状態が生じていることには変わりないと思われます。
そこで,このような不健全な状態を解消するためのいわば入院期間といたしまして,受託者の全部が欠けた場合には,「新受託者が就任しないまま1年を経過したとき」をもって信託が終了すると提案していること,これと同様に,受託者と受益者との兼任状態が生じている場合についても,1年間をもって兼任状態を解消するために必要な期間と考えるものでございます。
以上によりまして,資料ですと42ページ,第57の1のcにございますが,兼任状態を解消しないまま1年を経過したときには信託が終了するものとして,期間を明示することを提案するものでございます。
続きまして,第10の識別不能についてでございます。
試案の考え方,すなわち信託財産と固有財産等とで識別不能状態にある各財産について,共有を擬制しまして,その持分の割合は均等であると推定しまして,さらに共有された財産の分割に関する規律を設ける。この考え方に対しましては,賛成意見が多数寄せられました。
なお,この提案1の二重下線部は,(※2)に書いてありますとおり表現ぶりを見直したにとどまりまして,実質を変えているものではございません。
その上で,資料3ページの2の(1)から(4)で個別の意見について検討しているところでございます。
まず,(1)といいますのは,共有持分の割合を識別不能当時の価格の割合に応じるものとの提案に対しまして,時点についての処理が硬直的であり,その時々の割合に応じて共有割合を算定する,あるいはできることとすべきではないかとの意見について検討したものでございます。
しかし,識別不能となった財産が同種・同等のものであれば,その後に財産の一部滅失ですとか価格変動が生じてもその効果は持分に比例して吸収され,持分割合は変化しないことになります。
また,仮に識別不能となった財産の品質等に若干の差があるために,本来であれば価格変動の効果は財産ごとに異なり,持分割合に影響するはずのものであったといたしましても,ここでの規律は識別不能の場合を対象にしているものでございます。
そうしますと,価格変動のあった財産が固有財産に属するものであったのか,あるいは信託財産に属するものであったのかが特定できないことが前提でございますので,価格変動の効果は信託財産と固有財産とで従前の持分割合に比例して吸収されるものとして処理せざるを得ず,結局,持分割合は変化しないことになると思われます。
以上の次第で,この意見は採用しないこととしたいと考えております。
次に,資料4ページの(2)ですが,「価格」の意義に関する御意見がございました。
ただ,ここでの「価格」と申しますのは,民法第244条における一定時点における価格,すなわち時価を指すものでございますが,民法でも,この価格の意義をより詳細にした規定は置かれていないことなどに鑑みまして,この意見も採用しないこととしたいと考えております。
次に,(3)でございますが,試案におきまして,識別不能当時の価格の割合の立証が困難な場合に備え,共有持分の割合を均等と推定することに対する意見についてでございます。
まず,アでございますが,受託者の分別管理義務違反により識別不能となった場合につきましては,固有財産よりも信託財産を優先して保護すべきであるという旨の指摘についてでございます。
しかし,この場合,受託者は損失てん補責任を負うわけでございますし,損失てん補責任の実効性の如何と信託の倒産隔離機能とは別個の問題でございますので,識別不能当時の時価の割合が証明できない場合に備えて持分割合を均等と定めることといたしましても,公平にかないこそすれ,信託の倒産隔離機能ですとか信託への信頼が害されることにはならないと思われます。
次に,イでございますが,持分を均等と推定した場合には,計算上,信託に帰属すべき財産の総額を超える財産が信託財産と推定されるということが起こり得るから,均等との推定規定を設けることは妥当でない旨の指摘でございます。
しかし,この場合,少なくとも信託財産に帰属すべき持分が一定の割合を超え得ないことが認められるわけでございますので,その割合を限度として持分の割合が認定されることになりまして,そもそも推定規定が働くことにはならないという整理をすればよいのではないかと思われます。
最後に,資料5ページの(4)でございますが,これは受益者が複数の場合の共有物分割訴訟につきまして,受益者全員が訴訟当事者になる必要があるとしても,訴訟を提起するとの意思決定については信託行為の定めや受益者集会等により定めることができるとすべきであるとの指摘についてでございます。
この点につきましては,このような意思決定については,信託行為の定めをもって第三者に意思決定権を付与したり,多数決制度によることなども可能であると考えております。
なお,(※3)にございますとおり,共有物分割の手続の概要につきましては,試案に示したところに対して特段の異論は示されておりません。
続きまして,強制執行のところは飛ばしまして,第18の善管注意義務に移らせていただきます。資料は10ページになります。
これも試案の考え方,すなわち現行法第20条を維持して受託者は善管注意義務を負うこととした上で,これが任意規定であることを明らかにすること,そして,現行法第21条は削除することについては,いずれも賛成意見が大勢を占めております。
なお,受託者の善管注意義務が任意規定であることを明らかにしていることに関しまして,善管注意義務の免除までは許されないことを明らかにすべきであるとの意見がございました。
この点につきましては,受託者の善管注意義務を完全に免除する定めがある場合には,委託者は,信認関係を本質とする信託の設定意思をそもそも有していなかったと考えるのが合理的でありまして,それ以外に善管注意義務の免除は許されないとの特段の規定を要するものではないと考えております。
また,善管注意義務に関する個別的,具体的な規定を設けることの当否に関しましては,両様の意見が示されております。
この点につきましては,資料10ページから11ページの①から④に示した理由によりまして,この提案以上に個別的,具体的な規定は要しないものとすることでよいのではないかと考えております。
続きまして,第27,法人役員の連帯責任について御説明いたします。
試案に対しましては,賛成意見が大勢を占めております。
この提案,すなわち試案と同じでございますが,現行法第34条の規定の明確化と合理化を図ったものでございます。3点ございまして,まず1つは,受益者と直接の契約関係にはない理事等が責任を負うのは,受託法人が損失てん補責任等を負う場合であることを明確にしたこと,次に,受託法人の任務違反行為に理事等が関与しただけでは足りず,任務違反行為につき悪意・重過失があることを要求したこと,さらに理事等が負う連帯責任の内容も,損失てん補責任等であることを明確にしたこと,この3点の明確化,合理化を図ったものでございます。
このように,試案の内容といいますのは,受益者との間で直接の法的関係にはない理事等の責任の内容を明確かつ合理的な範囲に限定し,理事等の利益と受益者の利益とを適切に調整する内容であると思われます。
そこで,試案のとおり維持することとしております。
なお,仮に利益吐き出し責任を設ける場合については,この責任に関する理事等の責任負担のあり方について,別途検討することとしたいと考えております。
続きまして,また1つ飛ばしまして,16ページの受託者の報酬請求権についてでございます。
本日は,この第33のうち,提案2の(2)の甲案と乙案について御審議願いたいと考えております。
パブリック・コメントの結果ですが,乙案,すなわち受託者が受益者から補償を受けるためには,受益者との個別の合意を必要とするという考え方の方が多数意見を占めております。
なお,甲案または乙案を支持する理由として挙げられております意見の要旨は,それぞれ資料の17ページに記載したとおりでございます。
いずれの考え方を採用すべきか御審議願いたいわけでございますが,あえて1点だけ付言いたしますと,原則無報酬であり,一定の事情があって初めて発生する信託報酬請求権と異なりまして,当然に発生する費用償還請求権につきましても,前回部会におきましては,受益者と受託者との個別の合意がない限り責任を負わないとする乙案の考え方で基本的なコンセンサスをいただいているところでございます。
このことに鑑みますと,論理必然ではないとは言えますが,やはり受益者から信託報酬を受ける権利についても乙案を採用するのが一貫しているように思われるところでございます。
最後に,第35の受託者の職務の引受けについて御説明申し上げます。
試案の考え方,すなわち被指定者に対する利害関係人の催告権を認めまして,回答がない場合には就任拒絶と見なすという考え方につきましては,寄せられた意見は,すべて賛成するものでございました。
もっとも回答の相手方につきまして,催告者に対しても常に回答すべきであるとの意見がございました。
この後者の意見に触発されまして,回答の相手方について再検討いたしました結果,試案におきましては,回答の相手方を受益者としておりましたのを改めまして,原則として委託者,委託者が死亡している場合には委託者の相続人としてはどうかと,改めて提案するものでございます。
被指定者が催告を受けて回答すべき相手方を考えるに当たりましては,まずは催告に基づくのではなくて,いわば自主的に信託の引受けの意思表示をすべき相手方を考えまして,その上で,催告に対する回答の相手方についてもこれと同様とするのが相当と思われます。
遺言指定者の就職に関する民法第1007条,第1008条の規定とも,この考え方が平仄が合うところでございます。
なお,このように考えますと,少なくとも催告者のみを回答の相手方とする選択肢はとり得ないことになるわけでございます。
そこで,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方について検討した結果が,資料19ページの(2)の①から④のとおりでございまして,かいつまんで申しますと,まず①が,受益者または信託管理人に対する回答がそもそも不可能な信託があり得るということ,②といたしまして,受益者の有無に対応して回答の相手方を変えるのは煩雑でございますし,被指定者が判断を誤るおそれもあるということ,③として,受益者に対して受益権取得の事実を通知したくないという委託者のニーズを尊重するということ,④といたしまして,委託者と被指定者は実質的には信託の設定という法律行為の対立当事者に準じる関係にあるものと考えられまして,そうすると,被指定者の意思表示は,いわば委託者からの契約の申し込みに対する承諾の意思表示に類するものと見ることができると思われますので,委託者に対して意思表示すべきものとするのが自然であることなどが考えられます。
以上を総合いたしますと,資料19ページの(3)にありますとおり,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方,そして,これと同様に解すべき催告を受けた場合の回答の相手方につきましては,委託者とするのが適当と考えられるわけでございます。
また,資料20ページの(※2)に書きましたとおり,委託者と被指定者が実質的には法律行為の当事者に準じる関係にあるという点を考慮いたしますと,委託者の死亡の場合には,法律行為の当事者としての地位を相続する相続人において,被指定者からの回答の相手方としての地位についても承継すると考えるのが適当であると思われます。
そこで,委託者が死亡している場合には,被指定者は委託者の相続人に対して回答すべきものとしております。
なお,パブリック・コメントにおきましては,催告者に対しても常に回答すべきとの意見がありましたが,この点につきましては,資料20ページの(4)のとおり消極に考えております。
すなわち,催告に対する回答の場合のみ,委託者だけでは足りず催告者に対しても回答すべきとするほどの必要性があるかは疑問でございますし,催告者といたしましては,被指定者本人または委託者から回答の結果を知ることにさほどの困難があるとは思われないこと,さらに,遺言執行者の就職に関する民法の規定におきましても,催告があった場合でも,相続人のみに対する回答で足りるとされていることなどに鑑みまして,催告者に対する回答を法律上,義務づけるまでの必要性はないと考えられるからでございます。
以上で,とりあえずの説明は終わらせていただきます。
● それでは,今の範囲で御議論をお願いします。
● 第5について,細かいことで恐縮ですが,(注)の第三者名義の場合というところで,中間試案では「同様とする」ということで本文と同様のような形で書かれていますけれども,以前の法制審での議論でも,また補足説明においても,その場合には直ちに無効であるといいますか,有効でないと書かれているんですけれども,以前も議論--余り議論にならなかったかもしれませんけれども,受託者が固有財産の保有をすること自体が違法とは見なされない以上,例えば受託者の子会社がそれを保有したとしても,何か違法,脱法とかいう目的が他に存在すればまた別ですけれども,単純な保有であれば同様とするということでしばらくの間,継続し,また,今の御提案のように,1年という期間を設けて,それで解消するというようなことでもよろしいのかなと思うんですけれども。
そういう視点で,この「同様とする」という趣旨が,従前どおり本文と同様なのか,また,補足説明にあるように,今の状況においても直ちに無効であるというような考えなのか。
無効だとすると,何か本文との間の平仄が立たないような気がするんですけれども,その辺はいかがでしょうか。
● ここで書いておりますのは2つの場合がございまして,1つは,明らかに脱法的な場合,すなわち事実上,自分が利益を得ているのに傀儡の者を受益者として立てている場合。こういうものについては,直ちに無効でいいのではないかと思っております。
他方,正当な理由があって,受託者の固有財産が同一の信託の受益権を取得するわけではないが実質的には利益を得ることになるというような場合があり得ると思うんですけれども,そういう正当な理由で受託者の固有財産が信託の利益を享受しているという形式になる場合につきましては,この第5の規律の対象外でありまして,永続的に続いていいのではないかと考えているわけでございます。
● 同じく第5についての確認ですが,1年間の解消がなかった場合ということで,期間の明確化が新たに提案されていると認識しているんですけれども,これはデフォルト・ローとしてということですか。
すなわち,この第57の1のe,つまり受託者が欠けた場合を参考に1年と言われているわけですけれども,その第57の1のeというのはデフォルト・ロー,信託に定めがあれば別だということで規定されていると思うんですが,そうすると,本件での御提案もこの点はデフォルト・ローであるということでございますか。
考えてみるに,やはり信託にはいろいろあるわけですから,明確化と言ったとしても,単純に1年ということで規するべきではなくて,物によっては変えることがあるのかなと思っていますので,その場合でもデフォルトの方がよろしいのではないかと思っていますけれども,いかがでしょうか。
● 例えば6か月で終了するとか,そういう場合でございますね。
それは恐らくfの事由で問題になりまして,信託行為に定める終了事由が生じたときで,終了するという方向に持っていけばいいのではないかと思っております。長くする方はだめです。
短くする方はできますが,それはdがデフォルト・ルールというよりは,終了事由をfで定めたと考えればいいのではないかと整理しているところでございます。
● ですから,この第5の規定は,1年間入れる場合に,これはデフォルト・ローではなくて強行法規ということですか。
● これは,言ってみれば信託の構造に関する一種のポリシーというか,考え方を明らかにしたものでございまして,具体的な効果というのは第57の方でございますので,第5はデフォルト・ローではなくて,これは強行規定でございます。
第57の方は,多少の信託行為での変更は可能という位置づけでございます。
● まあ,そういうものでしょうね。
● 御説明の中では何度も出てきた言葉なので,指摘をするのは恐縮なんですが,1年というクリアな期間が書かれますと,1年なら常にいいんだという感じが漂ってくるような気がするんですね。
○○委員も○○幹事も,脱法のような場合にはもちろんだめだけれどもとおっしゃいましたので,もし最終的な要綱でその補足説明をつけるということですと,合理性があるような場合で必要性が認められるんだ,しかし,もちろん脱法的な場合はだめなんだということについてもお書きいただければと思います。
● 趣旨は確かに,脱法的なものはだめだというのは共通の理解ではありますので,書き方が難しいかとは思いますけれども,どこかに書ければ,それは。理解は同じですよね。
これもポリシーは比較的明確だと思いますけれども,条文として書くときには,意外と難しい条文の1つであると思っています。
今のようにいろいろな例外というのかな,直ちにだめになる場合とか,この適用を受けない場合とかいろいろありますので,そこら辺の規定の仕方は難しいと思いますけれども,中身についての共通の理解としてここで確定しておきたいと思いますが,なお中身について,いかがでしょうか。
ただ,○○幹事の言われたことは重要だと思いますけれども,今までは「相当の期間」ということで,「相当な期間」というのはケース・バイ・ケースで定まる可能性があったのが,今回は,直ちにだめになるものは別として,それ以外は1年間は大丈夫だということになるわけですよね。
それは明確性を図るがゆえに,多少割り切りをすることになるんだと思います。
それがいいかどうかということですね。いかがでしょうか。これも一つの選択肢ということで,よろしゅうございますでしょうか。
それでは,第5については,書きぶりについてはなお検討するにしても,中身については以上のように確定させていただくとして,それ以外の点,識別不能あるいはそれ以外のことについて,いかがでしょうか。
● 先ほど御説明の中で,ある一定割合以上には信託財産が存在しないことがはっきりしている場合にどうするかという問題なんですが,例えば,信託財産があるとしてもせいぜい3割であるといったことが明らかになっていたときに,英米法では,たしか証明できないときにはなるべく信託の財産が多いと推定するという判例上の準則がありますので,3割が限度であるということになりますと,3割ということになると思うんですね。
しかしながら,この案は,一般的に信託財産の方を優先するというのがないものですから,せいぜいあっても3割である,しかし実際には何割かよくわからないというときに,3割にはならないような気がするんですね。
だからこそ,それならば3割しかない,せいぜいあっても3割だというのに半分になるのかという話が出てくるのであって,必ずしもそれを限度として認められることになるのだから構わないというふうにはならないのではないかという気がするんですが。
● ○○幹事のおっしゃったことをうまく理解できたかどうかわかりませんが,今の推定割合について御指摘されていることは,むしろ信託側が多くとり過ぎるのが問題ではないかということなんですが,○○幹事がおっしゃっているのは,どちらかというとその逆で,信託が多くとれるというルールにはなっていないのではないかということですか。
● 私は,どちらにすべきかといえば信託財産の方を多くすべきだと思うのですが,それとは無関係に,せいぜいあっても3割であるということだけが証明されたときに,この案のままで3割だというふうにできるんだろうか,不明であるということにおいては変わらないことにならないのだろうかということで,どちらを優先すべきだという価値判断を含まないで質問させていただいているつもりなんですが。
● 識別できないということの意味だけですね。
今のは,せいぜい3割だけれども1割かもしれないし,2割--あ,逆か。せいぜい……。そうですか。1割かもしれないし,それより少ないわけですね,信託財産の方が。
だけれども,その証明ができない。そういうときにこれを適用するとどうなるか,簡単に言えばそういう質問ですね。
● ええ。その割合を限度として持分割合が認定され,したがって推定規定が働くことにはならないという御説明になっているんですが,3割なのか2割なのか1割なのかわからないときに,証明できれば,もちろんそれはそうなるわけですけれども,当然には3割という認定にはならないわけですよね。
● ある意味で,今の信託財産を有利に扱っているところがあるわけですよね,3割までは認めてしまう。
3割の推定が実際にあるわけではなくて,単にせいぜい3割だというときに3割まで認めてしまえば有利になるわけで,そういう結論がここから出てくるかと。
● ええ。認めるのならば,その趣旨の条文みたいなものが必要であろうという気がするのですが。
● 今の例は,ほうっておくと半分まで信託財産にとられてしまう受託者としてどうするかということなのかなと拝察したんですが,そうであれば,受託者としては「3割まであります」というところで自白すればいいだけのことでは--自白すればというか,もうそれで「確かにそうです」と言ってしまえば,実際の裁判上はそれで認定せざるを得ないのではないでしょうか。そういうお答えはちょっとおかしいのかもしれませんが,実際の営みの話としては……。
● そうすると,3割までしかないことは明らかになっているけれども,しかし,その場合にも,形式的には3項みたいな均等であるという推定規定が働くので,推定規定を働かせないために,受託者は自白をして話をおさめないといけないという話になりますか。裁判の流れとしてはよくわかるんですが,教科書等には書きにくいなという感じはしますよね。
● 手続ではなくて実態だと冷たい感じがしますけどね。結論は,恐らく3割でいいんだろうと……。何かございますか。
● 今の場合で,逆に固有財産の方から見て3割は超えない場合は,どのようになるんでしょうか。今のは信託財産が3割は超えないという想定ですよね。今度は固有財産の方が3割は超えないという場合は。
● 逆の側からも同じ問題があるわけですよね。
● 今の話は,信託財産を優遇するというルールを打ち立てたことになっているのか,なっていないのかということなんですけれども。
● 同じようなルールになってしまうとは思いますが。
● ちょっと間違っているかもしれないけれども,固有財産が3割を超えないときは,7割までは信託財産であることが確定し,残りの部分がわからないので,残りの3割について半分にするというわけには……
● ただ,先ほどのように受託者が自白するというようなことになると,さっきの場合は,1割か2割かわからないところを3割までは認めるということですから,信託財産のためになるわけですけれども,そこで3割と言うと,ひょっとしたら固有財産は1割かもしれないのに3割というような話をするんでしょうか。
非常に基本的な誤解をしているのかもしれませんが。
● どちらから言っても構造は全く同じですよね。何かうまい解決がありますか。
● ここは,恐らく裁判の過程でどこか裁判所が認定しますので,今おっしゃった例で言えば,普通は3割を超える固有財産はない,7割は信託財産であるという認定をするだろうと思いますし,そのように当事者間で,この場合はどちらが自白するんでしょうか,受益者の方が,あるいは受託者の方が3割しかない,3割を超えることはないと言って,受益者の方がそれを争わないとすれば,7割は信託財産という認定ができますので,この推定規定が働かないことには変わりないと思いますし,いずれにしても,3割の範囲でどこかで認定はされるのではないかという気がするんですね。
ですから,推定規定が働かないことには変わりないのではないかと思われますけれども。
● なかなか難しいですよね。具体的にどうなるのか,まだ私もすっきりわからないけれども,○○幹事の方の例で言えば,固有財産はせいぜい3割だということで,7割まではとにかく信託財産が確定し,残りの30%についてはいろいろわからないけれども,そこで行う推定というのは,もうこの条文による推定ではなくて……
● この条文自体は全体ですからね。残りの部分だけ均等と推定するというわけではないと思いますので。
● そこはゼロから30までの間で,今の○○幹事の話だと,裁判所の方で……。
● 一番もっともらしいところで認定していくのではないかという気がいたしますけれども。
● 今,出された問題を,手続に絡めないで実体法の考え方として何かうまく書けるのであれば,御提案いただきたいと思いますけれども。
● この問題自体は,恐らく民法の方の添付のところですかね,あそこでも全く同じ構造になっているのではないか。つまり,共有持分の割合が推定という規定自体,これは民法そのものにある条文を引っ張ってきているだけなものですから,もしかしたら,そちらの方の議論を見れば何か参考になることがあるのかなと……
● いや,それは怪しい。
● ……とすると,今ここでどうのという問題ではないのかもしれません。
● 決め手はないかもしれません。
よろしいですか,今ここで具体的にどうなるかという答えは十分出せないかもしれませんけれども,今の場合,わかっている範囲,さっきの固有財産の方がせいぜい3割であれば,とにかく7割までは信託財産だという考え方,あとをどうするかというのは,先ほどの民法の規定ともにらみ合わせながら,解釈で決まることになると思いますけれども。
● 恐らく3割である,3割は超えないことは明らかだということが,実際の裁判の中で一体どういう過程で「そこは認定できる」という話になってきたのかが,抽象的な話としてはよくわかるんですけれども,それがいま一つ,ではどういう事情なんでしょうかということが。
● そうですね,そういうものにも影響されて認定されるということですね。わかりました。
問題意識としては,こちらでもそういうことをにらみながら考えていきたいと思いますけれども,とりあえず,よろしいでしょうか。
● 今のと違って,逆に足りない場合で,今回の検討課題の説明の中では,受託者は無過失責任を負うから,損失てん補責任があるからそちらで解決できるではないかといった御説明なんですけれども,受託者が自ら預かるケースというのは,商事信託においては余り考えられない。民事信託でもそうかもしれませんけれども。
それで,例えば有価証券であれば,第三者たるカストディアンが預かっているということになると思うんですけれども,そうすると,前回の議論で,選任,監督に過失がなければ受託者の方は責任は負いませんし,カストディアンに対する請求権は持つかもしれませんけれども,そういう場合はカストディアンも破綻しているような事例だと思うんですけれども,その場合ですと,今のこの原則に従って,信託財産が特に有利に扱われるわけではなくて,共有持分ということになる。
それも一つの判断かもしれませんけれども,今回の説明ですと,信託に対する信頼とか信託財産がより--よりといいますかね,信頼という観点から余り問題ないのではないかという話なんですけれども,そういう場合,やはり信託財産が有利に扱われてもいいのかな,また,そういう選択肢を受託者が持ったとしても,損失の補てんにならないという方が,逆に受託者にとっても,「どうしようもありません」という説明をせざるを得ないわけではなくて--と思ったりするんですけれども,不足している場合に,第25項の規律でのほぼ不可抗力による責任です,無過失責任ですというのが当てはまらないケースというのが,今,申し上げましたように,第三者が受任している場合という現実で,そのカストディアンが破綻したときには,現実的にもあり得る話ではないのかと思うんですけれども,その辺については今の規律のまま,しようがないという考えなんでしょうか。
● 資料に書かせていただいた,信託に対する信頼が害されないのではないかというのは,制度としての信託に対する信頼は害されないのではないかと。
つまり,今,言われているところで問題になっているのは,結局のところ,適切な受託者を得なかったことによる,適切な信託事務の遂行をしなかったことによる損害なわけですけれども,そこについては信託制度の問題というよりは,やはり適切な人を選ばないと限界はあるんだろうと思っておりまして,その点については,ここの問題ではない。
むしろここで考えるべき問題というのは,識別できないような状況になったときの,いわば物権的な帰属をどういうルールにするのがいいんだろうかというところなわけでして,それに対してもう一方,適切な受託者が選ばれなかった,あるいは適切な信託事務の処理ができなかったときのルールとしては,一般的には,やはり損失てん補なり原状回復なりの方で図るんだという整理をしている。
それに加えて,今おっしゃいました,信託事務処理の委託の問題だろうかと思いますけれども,そちらについても,また個別にどういう責任を第三者に負わせ,どういう責任を受託者に負わせるのがいいのか,一般論の中でむしろそこは考えていかざるを得ない話でして,整理としては,私どもとしてはそう考えているわけです。
● 現に英米法ですか,あちらの方では受託者の,特に分別管理義務違反のときですけれども,そういうことを加味して物権的な救済についても信託有利にという考え方はあり得ることはあり得るんでしょうけれども,ここの原案自体は,そういう責任の問題と物権的な救済の問題は区別するという形でできていて,それをどう考えるかということですね。
今の点についても,何かほかに御意見ございませんか。
● 第10の2の(1)の共有持分の割合についてですが,その当時における割合が一体どうなのか,変動した場合どうなのかということについてパブリック・コメントで御意見があって,それに対する検討があったという認識でおります。
これはちょっと確認したいわけで,ある意味パズル的な話なのかもしれませんが,このペーパーで検討されていますのは,その変動が減った場合ないしはその中身が変わった場合ということがあると思うんですけれども,では,増えた場合どうなのかということです。
例えば,ちょっと例としてお話ししたいと思いますけれども,ヒツジでも何でもいいと思うんですが,固有財産と信託財産が7対3でありました。その時点で識別不能になりました。
その後,ヒツジがまた2,これは固有財産だとわかっています。ただし,そのときには価格は2倍になっていました。そして,今はもう全部が識別不能になっていますと。ですから2回識別不能になっているという状況です。
そうした場合に,固有財産と信託財産をどういう割合で分けたらいいのかという例を考えていただければと思うんですけれども,一つの考え方としては,あくまでも2段階で7と3があったわけで,それに固有財産として2が加わったのだから,これは7+2対3,つまり9対3である。信託財産が25%という話になると思います。
もう一つの考え方として,その当時における価格ということを考えますと,新たに加わった固有財産の2というのは価格が2倍ですから,4である。
そうすると,算数なんですけれども,7+4=11対3,したがって,信託財産は21%。そうすると,考え方によって信託財産が25%か21%かということで違ってくると思うんです。
頭の体操的な話で恐縮ですが,確認のために,これはどちらで考えたらよろしいんでしょうか。
● 後でちょっと補足してもらうかもしれませんが,私の感じでは,その場合,識別不能になったときの価格を考えて,最初の7対3は,そのごっちゃになったときの7対3で分けますよね。
後で固有財産に加わったということで,数としては,あるいは割合としてはその分が増えているわけですけれども,価格が違うので……,何というんですかね,7対3だから,10対2でまた分けるのかな。新たに2加わるわけですよね。
これは別に固有財産でなくても,全く違う,例えばもう一つ別な受益者のでもいいのかもしれないし,そういうものが加わって全体でわからなくなるのも同じで,要するに,高い価格のときに識別不能になったら,それはそのときの価格でまた全体をといいますか,今度は全部が12になっていますけれども,12を10と2に分けて,それで計算できませんか。
● それは一つの考え方だと思いますが。
● ええ,一つの考え方として。
● 仮の考え方としては,ちょっと御質問のことがよくわからないんですけれども,2段階で識別不能というものが生じるだろうと。例を確認しながらお話しさせていただきたいんですが,最初が10頭で……
● 10頭で,7と3。
● そこに後で2頭が加わりますという状況。それは固有財産。
● それは固有財産として加わった。ただ,今はもう全部識別不能になっている。だから2段階で識別不能があった。つまり,加わる場合は多分,2段階識別不能が出てくるという話で,減る場合はそういうことはないとは思うんですけれども。加わる場合は,2段階識別不能が生じ得る。
● 2段階目が起こるときにはヒツジの価格が倍になっているというのは,その12頭全部について倍になっているということですか。
● いえ,そのヒツジだけがですね。
● いろいろあると思うんですけれども,高級ヒツジみたいなものがいて……
● 例えば高級ヒツジが入ってくる。全体のヒツジの価格が2倍になるのであれば余り問題にならないと思いますけれども。まさに識別不能というのは,そういうところも一応,どういうふうに共有するかということを見なしで,ある意味で推定ですけれども,やるわけですから。
● そうすると,その2頭は高級だけれども,識別はできない状況になってしまう。そうすると,ほかの人に売るときには幾らで売れるんでしょうか。みんな倍で売れる……。
何かちょっと……,やはり識別できてしまうのではないですか。
● それが識別不能になっているという状況だということで。
● 2段階目でなくたって,第1段階目だって同じことが起こる。価格が違うとすれば。見かけは同じヒツジなんだけれども……
● おっしゃるとおりです。
● 実際分ければ……
● つまり,みんな同じように見えますという前提であるにもかかわらず値段が高いもの2頭と言われても,ちょっと。
● 2倍で調達してしまう。
● そのヒツジだけを2倍で調達してしまった。つまり,時価が関係するときには12頭全部,当初の1の値段でしか売れないんです。
● ただ,その当時の価格というのは識別不能の時点であって,売却の時点ではないですから。つまり,2加えたときには,その2というのは価格が2倍であった。
だけれども,売るときにはそれが全部また価格が下がって1になった場合。
● 価格の問題をどう考えるかはちょっと複雑ですけれども。
余りこればっかり議論してもしようがないかもしれないけれども,後から加わる2頭以外の最初のヒツジも,これは調達価格は安いかもしれないけれども,後で2頭が加わるときに,そのときの客観的な価格があるわけですよね。
そうだとすると,そして,単に調達価格が違っただけで同じヒツジだとすると,後から加わる2頭についても調達価格をその基準にするのか,そのときの客観的な価格を基準にするのか。
識別ができない同じものであって,そのときの客観的な価格がある時点で違うということが,そもそも想定しにくいですよね。
● そういう想定事由がないのであれば,それでよろしいんですが,加わった場合,どういうふうに考えるのかも検討する必要があるのではないかという趣旨でございます。
● 細かいところはもうちょっと詰めなければいけないかもしれませんけれども,2段階的に考えるということは,基本的な考え方だと思います。
● 私も同じことを考えていたんですが,2段階的に考えると,さらに条文を別に置かなくてはいけないかどうかがかかわってくるだろうと思うんです。
識別不能状態にある,その財産と新たな2頭とが混じるのか,それとも識別不能状態にあっても共有持分という形で識別可能であって,その共有持分との間で一緒になることを考えるのかによって規定の仕方が変わってくるのかなと思います。
● 1点,確認だけさせていただきたいんですが,御質問は,共有持分状態になっている10頭がいて,それにまた別の1頭が--1頭,1頭ですけれども,それが一緒になる。
ということになると,ここで共有持分が生じ,多分この共有持分割合に応じて,これだったら4分の1ですから,4分の1ずつA信託,B信託,C信託……というふうにぶら下がっていく,こういう状況ではないかと思います。
それは1,2,3というふうに書いておけば,当然解釈ができるのではないかと思います。
● 今の○○委員の御質問も,規定ぶりはともかく,最後の結論は,結局同じことになるという理解でよろしいですか。
なかなか,まだ頭の体操のようなものが幾つもあるのかもしれませんけれども,今のような問題も意識しながら,条文にするときはさらに注意することになると思いますが,基本的な考え方として,大体よろしいでしょうか。
では,今の細かい問題は宿題として残りましたけれども,基本的なことは御了解いただいたということで,第10についてはそのように扱わせていただきます。
あと善管注意義務とか,あるいは法人の責任とか,幾つかまだ残っていますが,こちらについてはいかがでしょうか。
● 善管注意義務について,1点確認させていただければと思います。
2,寄せられた意見についての個別的な検討の(1),善管注意義務の免除のところでございますけれども,ここには,受託者の善管注意義務を完全に免除するとの定めが信託行為に置かれている場合においては,委託者は信託設定の意思を有していなかったと解するのが合理的だと書かれているところでございますけれども,これは,こういったいわば丸投げ的な,全部免除的な特約がある場合は,そもそも信託の契約そのものがなかったと考えるのか,あるいはその特約だけが公序良俗違反ということで除かれるのかといったことについて,考え方の整理を教えていただければと思います。
私がこれを質問いたしました背景ですけれども,私ども,業法であるところの信託業法を所管する立場でございまして,いわば商事信託の世界では,一般投資家と受託者たる信託会社との間に,経済学の言葉で言うところの「情報の非対称性」みたいなものがございまして,そういったことからすると,取引主体間の情報量と交渉力にかなり差がある場合がございます。
そういたしますと,私ども,一般投資家であるところの委託者とか,あるいは受益者を保護するという観点から申しますと,信託業法については善管注意義務の任意規定に関しては非常に慎重な検討をしなければいけないと考えておりまして,すると,一般投資家にとって,例えば善管注意義務を免除したときに,信託行為がなかったということは一体どういう意味を持つんだろうか,こんな問題意識でございます。
● 御質問自体も非常に重要な問題だと思いますし,さらにそのバックグラウンドになる今の御説明の点についても重要な問題だと思いますので,御意見を伺いたいと思いますけれども,先に,こちらから何かあれば。
● この点につきましては,事務局の中でも検討いたしました。そもそも善管注意義務の免除というものがどういう内容を含むのかという点がよくわからないというような議論をいたしまして,この点につきましては,以前の審議会でも同じような検討がされたかと思います。
そもそも免除するというのがどういう内容かと申しますと,1つ考えられますのは,そもそも故意で何をやってもいいんだと。
例えば信託財産を壊してもいいといったことなのかなというようなことを考えまして,そういうようなことを信託行為で考えているのであれば,そもそもそういうものは信託を設定するという委託者の意思はないのだろう,そうだとすると,すべて信託というのは成立しなかった,信託行為自体が無効になるといった理解でいいのではないかと考えておりまして,そもそもここで「信託行為の定めにより免除することはできない善管注意義務は……」ということを書く意味がよくわからないということがありまして,ここで議論していただきたいことの1つとしましては,そもそも善管注意義務を免除するというのはどういうことを指しているのかということではないかと思っております。
それが明らかになって合理性があるのであれば,例えば,信託行為の定めにより,善管注意義務は価値を軽減することができるというようにする余地もあるかとは思っておりますが,そもそも免除というのが,先ほど申し上げたとおり何をやってもいいんだというのであれば,そういうものは信託ではないだろうということになるのではないか。それは解釈で明らかなのではないかというのが今の結論でございます。
● 信託財産の引渡しがあり,契約当事者間の契約があっても,この場合は無効と解する,こういうことでございますか。
● 無効という言い方がいいのかどうか,よくわからないところがありまして,所有権移転等を引用しているのかもしれませんし,いや,その場合は委任でもないのかもしれないしというふうな話ではあるのではないかと思います。
無効という言い方がいいのかどうかわかりませんけれども,信託という認定はされないのではないか,そういう趣旨でございます。
● 免除という言葉はちょっと強いかもしれませんけれども,現実的にあり得るのは,やはり損害賠償責任を心配して,そこについては故意・重過失以外は負わないとか,故意だけ負わない。そんなのないかもしれませんけれども。
他方において,善管注意義務は義務として負っても構わない。なおかつ,信託財産を破損するようなことをわざとすれば,それは善管注意義務が免除されていたとしても,実質他人財産に近いものですから不法行為を構成すると思うので,ですから,免除,また免除に近い規定が契約上,入ったとしても,そもそもそこまで悪質といいますか,そこまで管理しないつもりはなくて,私は,それは主責任の方の心配からそういう規定になっていくのではないかと思うんですよね。
そういう意味におきましては,やはり免除とか免除に近い規定が入っている場合には,本来その免除規定,また免除に近い規定自体が無効であって,そしてデフォルトルールとして善管注意義務が普通に課せられると解釈した方が,かえって信託も継続しますし,受益者保護にもなるのではないかと思うんですけれども。
● 普通の,いわゆる免除といいますか,今,○○委員が言われたような免責規定ですかね,その場合には,確かにこういう重過失を免責する部分はだめで,通常の善管注意義務を負わされる規定として考えれば,多くの場合はそれで解決するんでしょうね。
どんな場合がそもそも信託にならないのか,私もまだ十分イメージがありませんけれども,免除そのものよりは,何をしていいかという行為義務の範囲の決め方とも関連して,そして何をやっても構わない,また,それによって損害が生じても責任を負わない,仮にそんなような規定があると,果たしてそういうものは信託と言えるかどうかが問題となる。そんなことではないかと私としては理解しました。事務局の説明は。
ただ,多くの場合はそういう規定ではなくて,仮に損害が生じても責任を負わない,文言上は故意・重過失についても免責するような規定があったときに,これは故意・重過失の部分だけ否定すれば済む問題であろう,そういう感じがしますね。○○委員も,結局そういうことだったと理解してよろしいですか。
● そうですね,義務と責任を分けて規定することはあり得ますので,義務は負うけれども責任は負わないという……
● それもあり得ます。義務の方もすべて免除というか,何をやってもいいということになると,これはまた,果たして信託かどうかが問題となるということだと思います。
● 今のような極端な事例は,いろいろな考え方の中で一つの考え方を示されたと思うのですけれども,そこまでに至らない場合は,第18の「ただし,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うものとする。」というのはもちろん原則としてそうであって,このただし書きの限界というのは,公序良俗のような第90条の規定によって,つまり一般的な内容規制に関する規定によってのみ制約を受けるという理解でよろしいんでしょうか。
● 私はそう思っているけれども,どうですか。
● そういう理解です。
● そうですね。としますと,例えば今のような極端な責任を,信託と銘打ちながらおよそ責任を負わない,善管注意義務を負わない,ないしは実質的にはそれと等しいような免責規定をたくさん入れているということは,信託という契約の……,やはり公序良俗とは別の考慮から,信託である以上そのような制約がかかってくるのだという理解で先ほど御説明があったと考えればよろしいのでしょうか。
● そうですね,公序良俗そのものとは,ちょっとまた違った説明があり得るということだと思います。具体的にどういう場合がそうかというのは,なかなかいい例が……。
● すみません,先ほど御回答にあったと思うんですけれども,契約そのものが無効になるかならないかは,その時の状況次第ということなんでしょうか。
例えば救済という観点からすると,信託という形で成立していた方が,ある意味,ほかの部分の義務が課せられていますから,できるだけそれは存続させるような形にした方が得策--得策というのは,受益者の側からして,救済額として得策ではないかと思うんですけれども。
● 確かにそういう問題もありますね。
これはここだけの問題ではなくて,分別管理義務などについても全く同じような問題が生じると思いますけれども,分別管理義務を一切排除して,ごちゃごちゃにしていいなんていうのが果たして信託かというと,信託とは言いにくいわけですけれども,あれも信託であるというふうにしておいて,分別管理義務の免除の部分はだめだということで分別管理義務を負わせるという解決の仕方をするというのと同じ問題ですよね。
そこは,この条文といいますか,この試案自体では,どちらになるかということまで必ずしも明確に書いてあるわけではなくて,解釈によって決まると思いますけれども,場合によっては「こんなものは信託ではない」というものがあり得るかもしれないというぐらいのニュアンスとして私は理解しています。
しかし,多くの場合は信託であることを認めた上で,排除している義務は,その部分は無効だということで本来のデフォルト的な義務が負わされるというのが,解決としては望ましいかもしれません。
● 先ほどの質問の趣旨をもうちょっとはっきり言った方がいいかなと思いますので,つけ加えさせてください。
通常の民法の売買とか賃貸借といった契約ですと,その契約の本質的な要素にかかわる部分について,例えば賃貸借と銘打ちながら,かなりその本質と違うようなことを当事者間で合意するというような場合に,それは賃貸借であるとか,あるいは売買であるとは言えないかもしれないけれども,しかし,契約は自由なんだから,そういう一種の無名契約のようなものとして効力を認めればいいではないかというのが民法の基本的な考え方だと思うんですね。
ところが,信託の場合は,ちょっとそれとは違うという理解でよろしいんでしょうか。それが実はさっきの確認の一番根本にあったところなんですけれども。
● 私としては,違うとは言いたくない,そこは。基本的な構造は同じだと思いますけれども。
● 我々も,ほかの契約と違うということを申し上げているつもりはなくて,再度申し上げることになるかもしれませんけれども,これはパブリック・コメントに寄せられた意見の理解なんですけれども,第18に書いてある「信託事務を処理するに当たっては,善良な管理者の注意をもってしなければならない」これを完全に免除することはできるのかという,言われ方の問題のようなところが1つあるのかなと思っていまして,つまり,善良な管理者の注意でなくてもいい,自己財産と同一の注意でなくてもいい,何も注意しなくてもよくて,信託事務を処理するに当たって,信託目的に従って行動しなくもいいぐらいのことを言われる,それが完全な免除なんだろうか,そこまで言われているのであれば,それはもう信託ではない。
つまり,自己のために財産を使う,それはもう信託ではないという整理を我々としてはしておりますので,そこまで言われるのであれば,それは信託ではないということになってしまうのではないだろうか。
それに対して--すみません,今,先生方がいろいろおっしゃっているのは,いや,そうではなくて,もう少し個別的な義務の軽減,あるいは免除の話なんだよということで,ちょっとパブリック・コメントに寄せられた意見の受けとめ,あるいは第18のただし書きの理解というか,そこのあたりがもしかしたら少し違っていたのかなという感じがするのですが。
● さらにつけ加えていますと,○○委員が非常に悩んでおられる,余り極端なことを言いたくないというお気持ちは非常によくわかるわけでして,要するに,善管注意義務を外したような財産管理契約という無名契約を考えるならば,それは信託ではないかもしれないけれども,そういう契約はあり得る,一般論からするとそういうふうになりそうだけれども,何とかそこから先をうまく説明できないものだろうかということだろうと思うんですね。
もう一つの考え方は,信託と言うかどうかは別として,他人の財産を扱いながら,およそ全く善管注意義務のようなものを負わない,受託者に相当する者がかなり適当なことをやれるといった契約自体が,公序良俗と言うかどうかは別として,やはり一般法理として,そのような財産を預ける者にとって非常に危険な,一方的な契約は許されないからではないんでしょうか。
そういう意味では,一般法理の一つのあらわれとして,この種の善管注意義務を外すような財産管理契約というのは,やはり無効なのだということが出てくるのではないでしょうか。
その上で,その契約全体が無効なのか,それとも財産管理を約束した以上は善管注意義務に相当するものは必ず負うという強行法規のようなものがあるわけであって,それがそのまま適用されるだけであって,外せないというふうに考えるのか,どちらで考えるのが,より他の説明と整合的だろうかという話で済むのではないかなと,私は最初,直感で思ったのですけれども,どうもそうではない展開をしていたので,確認させていただいたということです。
● ○○幹事がおっしゃった,そういうのは公序良俗から無効だというお話ですが,ある財産を寄附したり,贈与だってできるわけですから,そういうものは,いわゆる財産管理契約でなかったのだというだけの話で,無名契約とさせない,したがって認めないということまでする必要があるかどうか,ちょっと今……。
完全に贈与して所有権を移転してしまうことだって当然できるわけですね,世の中的には。
それと信託の中間にあるようなものだと。そういうものを財産管理契約と言うかというと,そうではないのだろうという,それだけの話なのではないかという気が,ちょっと。
● 自分の財産を管理するという,そういう枠組みでの話ですよね。
これはむしろ○○幹事に確認ですけれども,他人の財産を管理するもので,しかし善管注意義務を,ここでも完全に排除するということは微妙ですが,完全に排除するのはだめかもしれないけれども,それを軽減するようなものはあり得る,そういう御理解でよろしいですか。それはそれでいい。
● ええ。ですから,どこまでに限界があるのかというもので,それが,何かこれは信託だから,信託と言えないからというのでは,ちょっと説明が,ほかの契約と違い過ぎていて,そういう説明も,信託は特別だという説明はあり得るとは思うんですけれども,そうでない説明の仕方もあり得るのかなと思った次第です。
結論は,そんな大きい違いがあるとは思いません。全部無効か一部無効かというのは残りますけれども。
● そうですよね,普通の財産管理,信託も含めてだけれども,普通の財産管理の場合の契約に共通する,いわば解決の仕方を提示したということですよね。
恐らくそれで十分済むといいますか,信託でないというような場合を,これもたまたまパブリック・コメントがこういう形で出てきたので,それに対する一つの答え方として,そういう答え方がちょっと目立った形になりましたけれども,恐らく一般論から出発して,第18の善管注意義務の問題を考えるのであれば,信託行為で別段の定めがあれば,ある程度軽減できるけれども,それには一定の限界があって,およそ故意・重過失の場合でも構わないというものはもちろんだめで,そういう限界がある。
これはしかし信託の場合だけでなく,委任であれ,ほかの場合であれ同じような問題がある,あるいはそういう理解が一番一般的な理解としてわかりやすいかもしれません。
特にこちらもそれで異論があるわけではありませんからね。
● 今の議論,何も異論はございませんけれども,このパブリック・コメントといいますか,提案されている文章の中に,今,議論になっているのは,むしろ認定規定化の限界といいますか,その辺が議論になっているのかなという気がしておるんですけれども,その限界があるということが表現として出てきていないかなという気がしておりまして,そこが1つ,もしそういったことも盛り込めるのであれば,何らかの形ではっきり書いた方がいいのではないかという気がするのと,それから,先ほど業法のお話が出ましたけれども,この辺については弁護士会や何かでも多少議論があったところですけれども,信託の一般法のレベルの問題と,それから業法のレベルの問題は,やはりちょっと違うのではないかという気がしておりまして,信託の一般法としては,こういった形で別段の定めを置くことが適当だと思いますけれども,両方のレベルで同じように任意法規化するかどうかについては,やはりいろいろ議論があり得るところだと思いますので,そこは,そういった観点も踏まえた方がよろしかろうと思っています。
● 2番目の論点も非常に重要な問題だと思いますので,また御意見を伺いたいと思います。
最初の方に関して言えば,ここで「別段の定め」の限界がうまく書けるかどうかという問題なんですが,これは私の個人的な意見ですけれども,一般的に公序良俗の問題としても,故意・重過失の免責までは含んではいけないというのが大体決まった考え方ですので,少なくともそういう限界については,ここでわざわざ書かなくても一般的にはかぶってくるだろうというふうには思います。
2番目の論点は,もうちょっと実質的に重要な問題だと思いますけれども,これは私よりもお詳しい方がほかにおられますので,信託一般法と,それから業法との関係みたいなものですね,この場は「業法はこういうふうにあるべきだ」ということを議論する場ではございませんけれども,何か御意見があれば。
● これはファクトの御説明ということでお話しさせていただけるとありがたいんですけれども,実は,ここの善管注意義務のところは,前回の信託業法の改正のときに,いえば強行規定に近い形で新しく導入させていただいたところで,その考え方としては,当時の立法担当者の意思としては,信託業への信頼性確保の観点から,一般的な義務規定を業法上も規定することが適当で,監督に当たっての受益者保護のための行動する根拠,あるいは職業としての受託については,一般の受託者よりも相当程度,やはりそういう義務の重いところを考えなければいけないということから,確かに○○幹事おっしゃるように,そこは一般法であるところの信託法と,それから,いわばプロの法律たる業法として規範の定めとは違う,そういう整理をしております。それがファクトです。
● この場で余り議論することは適当でないのかもしれませんが,仮にこの信託法が一般法でもって任意規定--任意規定といっても一定の限界があるわけですが,先ほどから問題となっているような故意・重過失みたいな場合には,もちろんだめだと。
ですから,ある種の軽減ができるだけである。そういうものが信託法に一般法でもって入ってきたときも,やはり業法は別に考えた方がいいのではないか,そういう御意見ということですか。
先ほどまでは,今まではこれ自体が強行法規であったという前提だったわけですけれども。
● ○○委員おっしゃるとおり,もちろん,この信託法の改正を受けて私どもの業法をどうするかという議論があり得るわけで,そこはいろいろな考え方があると思いますが,先ほど申し上げましたように,私どもといたしましては,やはり受託者,それから委託者の間に情報の非対称性がある場合が結構多うございますので,そういった観点を踏まえて慎重に検討せざるを得ないのではないか,こんな感じでございます。
● 業法の観点からは,もちろんそうでしょうし,一般法の定め方としては,信託法としてはこれでよいかと思うんですけれども,先ほど何度も出ていますように,契約の内容規制に関する一般法理によって,やはり制約を受けてくることになる。
公序良俗がその代表例でしょうけれども,それによって制約を受けてくるというときに,やはりどういう契約であり,どういう主体がだれに対してどういう契約をしているのかというのは,やはり内容規制に当たって大きい意味を持ってくるんだろうと思います。
やはりプロの業者が通常の一般の人間に対して契約するときには,やはり善管注意義務を負いませんよとか,相当軽減していますよというようなものが信託として行われている場合には,考え方によっては,厳しい内容規制が入ってくる可能性があるだろうというのは,やはり確認しておく必要があるのではないでしょうか。
ここでただし書きが入ったので「よほどひどいものでない限り大丈夫」一般的にそう簡単に受けとめてよいかどうかはちょっと別問題として,次の問題としてあるというのは押さえておく必要があるかと思います。
● 業法と一般法は違うということもよくわかりますし,○○関係官がおっしゃったような形で,例えば情報に格差がある者同士,受託者と受益者について,それなりの規制をしなければいけないというのも理解できますけれども,もう御承知のように,信託というのはいろいろな種類がありまして,営業信託におきましても多種多様な信託があって,その状況が,今,おっしゃったような状況そのものにおさまるものでもありませんので,これもよく御承知のことだと思いますけれども,業法というのはその辺のところを割と,さじ加減という言い方はおかしいですけれども,いろいろな対応に応じた形で臨機応変に規制ができると思いますので,その辺のところを御配慮いただけたらなと考えております。
● ちょっと的外れになってしまうかもしれませんけれども,善管注意義務を免除するという意味なんですけれども,これは受託者の自己のものに対する注意義務まで軽減することになるのか,それとも一切何の注意義務も負わないということになるのかがよくわからないんですが,もし,善管注意義務を免除することが自己のものに対する注意義務にレベルを落とすということであれば,例えば貸付債権の信託を想定した場合で,受託者が信託銀行ですと,銀行業務も営んでいますと。
そして銀行業務として貸し出しをやっているので,それなりに貸付債権を,自己のものであってもきちんと管理しています,杜撰なことはやっていませんということがある程度わかる場合に,それを期待して,それでもいいというようなこともあり得るのではないかという気がしておるんですけれども。
● そこのところは,やはり免除をどういうふうに考えるのかという点に戻るかと思うんですけれども,委任でも同じような話がありまして,善管注意義務につきましては,自己の財産におけると同一の注意までは軽減することができる。
ただし,免除まではすることができないという議論がありますので,ここにおける善管注意義務につきましても,自己における財産と同一の注意までは軽減することができるというのを当然の前提にしておりまして,それ以上に免除はできないのではないか。
その免除というのが,何をやってもいいですよというのであれば,それは許されない。それは先ほど議論ありましたとおり,公序良俗とか契約の本質とかで制約されるのではないかという考え方でございまして,もう一度申し上げますと,自己の財産におけると同一の注意までには軽減できるというのを前提にしております。
● その点,よろしいですか。
● わかりました。
● ほかに,よろしいでしょうか。結構重要な,象徴的な問題であると思いますので,御意見があれば伺いたいと思います。
● 議論の整理だけですが,昔からある問題で,善管注意義務というのが債務の範囲を決めたことなのか,それとも過失の程度を決めたものなのかという問題が根底にあって,さらに債務の内容と過失とが峻別できるものなのか,それとも裏表なのかというのがあると思います。
それをどこから見るかによって,契約として認められるかどうかということと,それから公序によって規制されるのかというのは視点が変わってくるんだろうと思います。
● おっしゃるとおりでございます。
よろしいでしょうか。それでは,ただいまのような御意見を踏まえながら,この規定について基本的には御了承いただいたと思いますけれども,説明等につきましてはさらに検討するといいますか,これでいいかどうか確かめながらまとめていきたいと考えます。
それでは,法人の役員の連帯責任と報酬請求権,受託者の職務の引受け,残りの部分についていかがでしょうか。
法人の役員の連帯責任につきましても,現行の規定からすると大分軽くなるようでありますけれども,これは,そもそもその法人である受託者が一応責任を負って,それが財産が足りないようなときに,またさらにその法人の理事に負わせるという信託にとっては二重の仕組みになっているわけで,ここは他には余りない制度なので,軽減してもいいのかなということであります。
報酬請求権は甲乙がございますので,これは少し御意見を伺っておいた方がよろしいと思います。
● 例のごとく甲案支持でございますけれども,費用の補償請求権といいますのは,なかなか予見ができないところもありますけれども,報酬につきましてはある程度,どういうものかはお互い理解しているところでもありますので,信託契約に書けば受益者にいけるという形であっても別にいいのではないかと考えておりまして,やはり基本的には甲案支持ということでございます。
● 同じく銀行会ということになるかもしれませんけれども,少数派であることも認識しつつ,一応甲案という立場であることを明確にしておきたいということと,それから,1点御質問がございます。
前回の○○委員の話にも関連するかもしれませんけれども,例えば複数の受益者がいた場合に,交渉の結果,片一方が有償,片一方が無償になったといったときに,事実上,有償であった方が口を出すことになると思うんですが,そうした場合に,受託者としての公平義務との関係が出てくるのではないかと思っております。
ただ,法律的に考えると,その委任は無償が前提であって,かつ基本的には有償か無償かというのは善管注意義務等に余り影響を及ぼさないという理解でいるわけで,ですから結果として,法律的にはお金をもらおうがもらうまいが公平義務には影響しないという整理なのかもしれませんが,ただ,やはり事実上「もらったからには私にいいことしてよ」という話になると,公平義務としてはなかなかしんどい。
もしそれが事実上の話であって,それは受託者としてちゃんと公平義務を実現するために頑張って公平にしなさいということであれば,結果的に受託者としては,そういう,ある意味トラブルといいましょうか,そういう説明がしにくくなると,やはり個別にこの人はとったり,この人はとらなかったりというような扱いはできなくなってしまう,そういう整理になるのかなと思ってはいるんですけれども,そういう意味で,ちょっと確認なんですけれども,有償,無償に関して受託者の義務というのは変わり得るのかどうかを,いま一度確認しておきたいと思います。
● そこは有償であろうが無償であろうが公平義務には変わりなく,平等に扱うべきだと考えているところでございます。
● よろしゅうございますか。甲案御支持の方もおられましたけれども,ほかの方。
● バランス上ということで,乙案支持の意見も十分あることを申し上げたいということで,理由につきましては前回,費用等の償還について申し上げましたし,事務局の方で用意してくださった文書が十分に伝えていると思いますので,この点についても乙案がよろしいのではないか。
受益権の譲渡ですとか放棄ですとか法律関係も,そちらの方が非常に明確になるのではないかと考えております。
それから,今,○○委員から御指摘のあった公平義務につきましても,これはもう既にお答えになったとおり,それによって変わるものではない。
有償,無償というお話ですけれども,分配の局面においても管理の局面においても,それが一体どういうふうに変わってくるのか,受益権の内容に反映するものではないわけですから,それによって変わることがないのは当然であると考えております。
● 今のバランスをとるための発言なんですが,私も乙案でよろしいかと思います。
理由はここに書いてあることと,さらに考えてみると,委任と事務管理との比較というのを考えてみました。
委任の場合は,契約があって特約があれば報酬が支払われる。事務管理の場合には,そもそも報酬はなくて,費用補償の問題だけが出てくる。
受益者との間には契約関係がないわけですから,むしろバランスから言っても,報酬というのは別段の合意がない限りは発生しないという乙案の方が筋が通るのではないかと思っています。
● バランスはもうとれたので,それはいいんですが,乙案の読み方なんですけれども,これは信託行為に定めがあって,その上で合意をするということなんでしょうか。
そして,その信託行為の定めとして要求される内容なんですが,抽象的に報酬が取れるという話なのか,それとも受益者との個別の合意をすれば受益者からも取れるという信託行為の定めが必要なのかということなんですが,私の個人的な考え方としては,報酬が取れるというのは,やはり信託財産から取れるという意味であろうと思いますし,委託者が信託の設定のときに,例えば無償で受益者に何かの利益を得させようと考えてやったにもかかわらず,受託者が受益者に「あなたからもお金をもらえば嬉しいな」と言って個別に合意するというのも妙な話でございますので,基本的には信託行為の中に,受益者との合意によって受益者から取ることもできるまでの定めが必要なのではないかと思うのですが,そのあたりの理解についてお教えいただければと思います。
● 事務局としては,信託行為に定めは不要であって,信託外で受託者と受益者が合意するということでいいのではないかと考えていたところでございます。
● そうすると,何の対価なんですか。信託行為の信託の設定によって,受益者に対する給付義務なら給付義務,ないしは財産の管理義務なら管理義務が発生しているわけですよね。
その上で受益者と個別に合意をして受益者から取るのは,何の対価なんですか。
● 対価と言うと,信託財産から取れるわけでございますので,受益者から取るのは,対価性といいますと,やはり受益者の利益をおもんぱかって信託財産の管理・処分をしたことの対価ではないかという気がいたします。
● いろいろな考え方があり得るかもしれないけれども,基本が信託財産から取れて,そこには対価性があって,受益者からも取れるというのは,一種受益者が担保するというような関係になるのかもしれませんね。だからこそ,また当然に生じるものではなくて,特別な合意が必要である。
● ○○委員の御説明はわかるんですが,それというのは,例えば信託報酬が信託財産から取れないといった状況があるときに,それが信託の終了に結びついてしまうというふうなとき,ないしは信託財産のうちで核となる信託財産を売却しないと信託報酬が取れないので売却をしてしまって,目的が達成できなくなって終了しそうになる。
それは困るということで受益者が払うということだと思うんですが,それというのは,ある意味では代位弁済のようなものでありまして,受益者が報酬支払義務を負っているという関係とは少し違うのではないかという気がするのですが。
● ええ,その2つは違うと思うけれども。ちょっと○○幹事の御意見を十分理解していなかったかもしれませんけれども,仮に今,信託の報酬だけに限定して考えると,これはその信託財産を管理して,そのサービスを提供することの対価として,それは当然発生する報酬請求権ですけれども,これは信託財産から取れる。
これが普通の形であると考えるわけですよね。その信託財産以外になお受益者からも取れるというふうにするためには,これは何か特別な合意が必要なのではないか。
● その信託報酬の額は,信託行為の定めに例えば「月々100万円」と書いてあって,受益者と個別に合意して30万円取れることになったら,信託財産かは70万円しか取れないんでしょうか。
そうなると,それは私が言っている代位弁済のような,第三者弁済のようなものではないかという話なんですが。
● ○○幹事がおっしゃっているところで,もう御趣旨は明確なのかもしれませんが,念のため確認だけさせていただきたいと思います。
信託行為に定めていなくてはいけないのですかというお話は,受益者から信託報酬を取るということの意味なのかもしれませんけれども,まず信託財産から信託報酬を取れるということが書いていなければ,それはだめですと。
ただ,信託財産からではなくて「受益者から信託報酬を受けることができます」ということが信託行為に書いてある必要は当然ないわけで,言われているところは,信託報酬を信託財産から幾ら幾ら受けることができますとあって,それと同じ内容のものを受益者からとりたいのであれば,受益者との間で個別の合意を結んだらどうですか,そういうことを表現しているのが乙案の趣旨かと,それが第三者の弁済と同じようなものではないか,こういう御趣旨ですか。
すみません,うまく言えていないような気がするのですが。
● そうすると,減るわけですね。受益者から取れた分だけ信託財産から取れなくなるわけですよね。
● それは,そうでしょうね。
● ええ,そういう関係です。
● 示せば減るけれども,合意をしなければ減らないのではないでしょうか。
ですから,何を例にするのが一番いいか,よくわかりませんけれども,保証人なのか連帯債務者なのか,そういう複数の責任財産に共同で帰属する,そういう債務というか,受託者から見ると請求権になるのではないでしょうか。
● 私が考えているのも,そういうことですけれども。
● ですから最初のところに戻って,何の対価かということに対する私の答えは,他の信託事務処理の対価なんだろうと思います。
そして,では何で対価を受益者が払うのか。合意で払うわけですけれども,その経済的な実質が基礎にあるのかというと,信託財産から利益を受けるのは受益者なので,そこをバイパスしてといいましょうか,直接取っても何ら経済的にバランスを失することにはならないだろうと思います。
ただ,だからといって甲案がいいわけではなくて,乙案を私も支持するところでありますが,乙案は,そういうふうに説明できるんだろうと思います。
● ○○幹事の御意見と同じことですが,ある種の保証人みたいなものだということですよね。
● 申しわけありませんでしたが,大体頭の整理がつきました。そうしましたら,ゴシックで「信託報酬を受ける権利の行使方法」と書いてあるところが重要な意味を持ってきて,これは,信託報酬を受ける権利というものは信託行為によって定められている一つの権利であって,その行使方法として,受益者からの信託報酬の取得という行使方法が合意によって成立し得るということであると読むことができるような気がします。
かつ,そうしますと,これは言葉遣いだけの問題ですが,2の(2)の「受益者から信託報酬を受ける権利」というのは,もうちょっと丁寧な言葉遣いをした方が,その趣旨がとりやすいのかなという気がするわけで,それは誤解をするのはおまえだけだと言われればそれまでなんですが,そういう気がいたします。
● 御趣旨はよくわかりました。その部分は少し表現を,今,議論して大体了解を得たような中身があらわせるように検討したいと思います。
それでは,報酬のところもよろしいでしょうか。
さっきバランスと言われましたけれども,バランスだけだとどっちにしていいかわからないので,大体の方向としてどちらが多いのかを確認させていただければと思いますが,ほかの皆様の中で御意見は。
● 数を数えるなら,乙案の方に賛成いたします。
● よろしいですか,乙案。では,乙案が多数であるということだけ確認させていただきました。
それでは,あと残り特に御意見がなければ,職務の引受け等,これは御了解いただいたということでよろしいでしょうか。
● 委託者に相続人がなくして死亡したときにはどうなるかについて,お教えください。
● 相続人不存在の場合ですね。相続財産法人の管理人に対して回答するということに……
● それならそれで,わかりました。
● ちょっと細かいことなんですけれども,相続の場合なんですけれども,遺言執行者等が選任されているときはどうなるんですか。
● 難しい問題ですね。いかがですか。
● そこは遺贈の場合の規律で,文言上は「遺贈義務者に対して」となっているわけでございますが,この場合,遺言執行者も含めていいのではないかと見解が分かれているところで,どちらとも言えないところでございます。
どちらがいいかちょっと迷っているところでございますが,実質的には,遺言執行者がいればその人に回答するのがよりベターだと思うんですね。
ですから,遺言執行者がいる場合には遺言執行者ということでいいのかなという気がしておりますが。
● 現実的には,やはり遺言執行者だろうという感じはするんですけれども。遺言信託で仮に問題となるとすると,そもそも受託者が引き受けるかどうか問い合わせてくるのは遺言執行者ですよね,その段階では。
後で催告するのは,また別の人間があり得るかもしれないですけれども,やはり遺言執行者が正面に出ていますから,それがよさそうですけれども,相続の理論だとかいろいろなものとの兼ね合いで,そういう解釈でいけるのか,いけないのか。
実質は余り問題ないと思うんですけれども,そんなところが問題なんだろうと思います。
そういう意味で,これは遺言執行者を排除するつもりではなくて,原案としては,むしろ遺言執行者で構わないんだけれどもという……。
● 遺言執行者がいれば,この相続人に含めて解釈することは妨げないのかなと。そうすると,どっちに解釈してもいいということにはなると思いますが。
● そうしますと,この催告の相手方とかというのは,やはり遺言執行者等の問題というのは特殊なもので,基本的に委託者の地位自体の,どう言うんですか,基本的にはばらばらにしてはいけないわけですよね。
● 余り望ましくないでしょうね。
● あと,例えば委託者の地位自体,流動化等であれば当然移転させることもありますけれども,こういったものについてもそれに連れて移転するということですか。
● 法律行為の当事者としての地位が移転すれば,新たに委託者となった者が相手方になるのではないかと考えているところでございます。
● 民法の第1015条に「遺言執行者は,相続人の代理人と見なす。」という規定がありまして,また,第1012条を見ますと,遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるとなっておりますので,これは具体的に注釈等は見ていないんですけれども,相続人の代理人と見なされる以上は,確答する相手方として遺言執行者というのも当然いいのではないかという気が個人的にはいたしますけれども。
● 今のだと,専属的ではないということですかね。大体そんな解釈でよろしいのではないかと思いますが,よろしいでしょうか。
それでは,これも今の解釈についてはもうちょっと詰めたいと思いますけれども,今のように,遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対する確答でよろしいという--あ,どうぞ。
● 遺言執行者ですから,もちろん遺言信託の場合を前提としてということだと思いますので,契約信託で指定されているような場合は,また違ってくるという理解でよろしいでしょうか。
● そうですね,遺言信託の場合のことを考えております。
● もう一つ。先ほど若干議論があった点なんですけれども,だれに回答すべきかというのは,あくまで受託者側で調査すべき事項ということになりますでしょうか。
それとも,その確答を求める側が「だれだれに確答されたい」というようなことを明らかにすることになるのでしょうか。そこだけ確認させてください。
● 遺言執行者の就職の催告権というのが第1007条にございますが,あれも相続人に対して回答する。ああいうところも催告者が相続人を一々通知してやらなければいけないことになっているのかどうかという点は,いかがでしょうか。
私の考えでは,受託者に指定された人の方で,相続人を探して回答する,あるいは遺言執行者がいれば遺言執行者でも相続人でもどちらでもいいんですが,催告する人がそれを一々通知してあげる必要はないと考えております。
● それでは第1区分,第8まではここまでとして,次に移りたいと思います。
● 次は,第12と第31について,関連いたしますので一緒に御説明いたします。
資料ですと7ページでございますが,提案第12につきましては,ほぼすべての意見が改正試案の方向性について賛成でございました。
以下では,第1点として,資料13ページにおける第31の受託者の権限違反行為の取消しとの関係で,この提案の1の(4)における「当該権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手側が知らない場合」の要件に対する考え方が1点。
第2点といたしまして,(注)に記載した不法行為に関する問題について,この2点について御説明いたしたいと思います。
まず,資料8ページの2(1),これが第1の問題を検討したところでございまして,試案におきましては,信託財産に属する財産について権利の設定または移転をする権限違反行為については,当該行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない限り,当該財産に掛かっていける,このような考え方を示しました上で,第31の補足説明の中におきまして,2つの考え方を示しておりました。
すなわち,取引相手方が信託財産のための行為だとは知らなかったと主張することにつきまして,1つは,取引対象となった財産について,現に信託の登記・登録がされていれば知らなかったとの主張はできないという考え方。
もう一つは,信託のためだとは知らなかったことについて,相手方に重過失があれば知らなかったとの主張はできないという考え方,この2つの考え方があり得ることを指摘いたしました。
この点につきまして,この提案におきましては,前者の考え方,すなわち信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張ができないとする考え方をとってはどうかと提案するものでございます。
後者の重過失の場合には主張できないとする考え方によりますと,取引の相手方に対しまして,信託の受託者と取引をしているのかどうかの注意義務を課すことになると思われますが,これは取引の相手方に困難を強いるものであるように思われるわけでございます。
これに対しまして信託の登記・登録のある財産の場合におきましては,受託者の債権者がこのような財産に強制執行をした場合は,信託であることを対抗されて強制執行が排除されてしまうということに対比いたしますと,取引の相手方についても当該財産が信託財産であることを対抗されてもやむを得ないと思われる点が1点。
それから,取引の相手方といたしましても,登記・登録のできる財産について取引しようとするのであれば,信託の登記・登録の有無ぐらいは調査すべきこととされてもさほどの困難を強いるものとは思われないという点が第2点。
もう一つは,受託者の債権者の場合には執行が常に排除されてしまうわけですが,これと異なりまして,取引の相手方の場合には,信託のためだとは知らなかったという主張が許されないことになるにとどまりまして,なお受託者の権限違反行為について,善意・無重過失であれば救済される余地がありまして,取引の安全に対しても配慮した内容となっていることなどの点を指摘することができると思われます。
これらの事情にかんがみますと,信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張を許さないとする考え方を採用することが適切であると思われたわけでございます。
そこで,今回の提案と試案との違いといいますのは,この1点についてのみでございまして,すなわち,現に信託の登記・登録のある財産については,取引の相手方において信託のためだとは知らなかったと主張することは許されず,信託のためであることを知っているものといわば同視されることになりまして,その結果,第12の1(4)から外れまして,一たん第31の権限違反行為についての取消権行使の可否のテストに服させることとした点でございます。
これに対応いたしまして,資料13ページの第31の方におきましては,現に信託の登記・登録のある財産,典型的には不動産につきましては,「当該行為が信託財産のためにされたものであることを知り」という要件が常に満たされるものと考えまして,(2)から(1)の方に特出ししております。あとは権限違反行為についての悪意・重過失のみを問うことといたしました。
このような検討を加えました結果,本提案の内容を具体的に示しますと,資料14ページに書いてある①ないし④のとおりになるわけでございまして,①では,現に信託の登記・登録がされている不動産の権限取引の場合には,信託のためであることを知っているものと同視されることになりますので,第31の1(1)により取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取引ができないとすれば,取引の相手方は第12の1(3)によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。
これに対しまして,資料14ページの②のとおり,現に信託登記がされていない信託不動産の権限外取引の場合には,第31の1のいずれにも当たらないわけでございますが,これは要するに,信託財産であることの対抗ができないという理由によりまして,権限違反についての認識を問うまでもなく,取消権の行使ができないことを意味するわけでございます。
しかし,取消権の唯一の根拠であります第31により,取消しができないことには変わりがございませんので,取引相手方は,やはり第12の1(3)により,この信託不動産に掛かっていけることになると考えております。
次に,信託の動産の権限外取引について考えてみますと,取引相手方が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,14ページの③のとおり,第31の1(2)のイによりまして取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取消しができなくなりますと,第12の1(3)によりまして,やはり信託財産に掛かっていけるとなります。
これに対しまして,信託のためと知らない場合には,第31の規律,すなわち当事者双方が信託のためとの認識自体は共有している場合に当たらないことになりまして,単に第12の1(4)の方によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。
最後に,信託のための権限外借入行為についてはどうかといいますと,貸付債権者が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,資料14ページの④のとおり,第31の1(2)のロによりまして取消権の行使の可否が決せられまして,取消しができないとすれば,第12の1(3)によりまして,信託財産に掛かっていけることになります。
これに対しまして信託のためと知らない場合には,第31の対象とならず,第12にも当てはまる場合がありませんので,結局,貸付債権者は信託財産には掛かっていけないということになります。
以上がこの提案の考え方の,第12の1と第31の1との関係でございます。
次に,不法行為の被害者が信託財産に掛かっていけるかという問題につきましては,パブリック・コメントの結果では,掛かっていけるとの意見の方が多数を占めております。
ただ,純然たる事実行為による不法行為の場合については,信託財産の独立性への配慮から,消極に解する見解もございました。
この問題は,結局,受託者の無資力のリスクを被害者と受益者のいずれが負担するかという問題と言えますが,第1に,事実的不法行為といえども信託事務処理により生じたものに限定されているということ,それから,事実的不法行為と取引的不法行為との区別は必ずしも明確ではございませんが,取引的不法行為の場合に信託財産に掛かっていけることには,ほぼ異論がなかったことなどにかんがみますと,不法行為の被害者は,取引的不法行為であるか事実的不法行為であるかを問わず信託財産に掛かっていけるとすることが適当ではないかと思われます。
なお,最後に資料7ページの末尾から8ページの冒頭に記載いたしました信託の設定時に債務の引受けがあった場合における当該債務に係る債権など個別のものにつきましては,信託財産に対して強制執行等ができる権利に当たる旨を明確化する方向で検討したいと考えております。
続きまして,第31の方でございますが,資料で申しますと13ページからになります。
本文については特段の異論は見られませんで,むしろ試案で(注)で示していた,この□の3点それぞれについて,意見が分かれております。
なお,提案1の一部を変更したことは,さきに第12の関連で御説明したとおりでございます。
まず,第1の□の取引相手方の悪意・重過失の証明責任についてでございますが,パブリック・コメントの結果では,取引の安全の観点から受益者に証明責任を負わせるべきであるという考え方と,受益者は十分な情報を有していないのが通常であるから,取引相手方に証明責任を負わせるべきであるとの考え方との両論がございました。
この点につきましては,受益者が信任を寄せた受託者が権限違反を犯した場合であるということですとか,受託者の権限外行為も一応有効である上に,受益者が取引の当事者でないにもかかわらず第三者間の取引を一方的に取り消すものであることなどを考慮いたしまして,現行法どおり,受益者の方が証明責任を負うこととしてはどうかと考えるものでございます。
次に,取消権の消滅期間につきましても,パブリック・コメントの結果は,取引の安全の観点から,現行法どおりの短期の消滅期間を定めるとともに,催告権は不要という意見と,受益者に対する催告権を導入することを前提に,消滅期間を延ばすべきであるという考え方とがございました。この点については,御意見を伺えればと考えております。
最後に,有限責任取引の場合におきまして,善意・無重過失の相手方から受託者に対して民法第117条における無権代理人の責任と同様の責任の追及,すなわち受託者の固有財産からの履行または損害賠償の請求を認めるかという点につきましても,パブリック・コメントの結果は賛否両論が見られました。
ところで,試案の補足説明で記載しておりましたが,無権代理人の取引の相手方が表見代理により本人に対して履行の請求をするためには,基本代理権ですとか正当事由の存在の立証責任を負担しなければならず,これは必ずしも容易ではないと思われます。
これに対しまして受託者の権限違反行為の場合には,受託者との取引の相手方が信託財産に掛かっていくためということになりますと,受託者の権限違反についての善意・無重過失のみが要求され軽過失は救われるわけですし,その証明責任も,先ほどの考え方によれば受益者側が負担することになるなど,利益状況はそもそも相手方にとってかなり有利なものとなっていると言えます。
そうすると,有限責任取引を締結した相手方に対しましては,約定どおり信託財産に対する請求の余地を認めておけば足り,それ以上に固有財産に対する請求という選択肢までもあえて付与する必要はないと思われるものでございます。
説明は,以上でございます。
● それでは,ここで休憩いたしたいと思います。
(休 憩)
● 再開したいと思います。
先ほどの第12と第31,いかがでしょうか。
● 内容の確認でお聞かせいただければと思います。
第12の1(3)と(4)に二重線が引いてあります。そして,(3)と(4)の関係を伺わせていただければと思うんですが,(3)というのは,第31云々で取消しがされていないものにより生じた権利で,(4)が,同じく権限違反行為なんですけれども,権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない場合に限る--によって生じたものだということなんですが,(4)の行為も,意味合いとしては,そもそも第31で取り消せない行為ということなんでしょうね。
そして(3)というのは,想像ですけれども,取り消せるけれども取り消していないという御趣旨なんでしょうかね。
多分そういう仕分けなのかなと思ったんですが,ただ,そうしますと,(3)と(4)をわざわざ並べる必要があるのかという気もちょっとしまして,要するに,取り消されない場合に一元化できるのかなという気がしただけで,意味内容の確認をさせていただければと思います。
● 今の御指摘は,実質的な内容は,先ほど○○幹事の方から御説明申し上げたとおりなのですが,ちょっと私どもの書き方がよくなかったかなと思います。
補足説明,改正試案の場合におきましては,(3)は権限違反の行為で,相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合として,(4)は,例えば,動産などのようなものについて権利の設定をする場合で,相手方が信託財産のためであるということを知らない場合という整理をしていたところ,(3)の知っている場合というときにつきまして,補足説明で書かせていただきましたけれども,信託の登記とか登録がある場合においては,それは相手方が知らなかったなんていうことは言わせる必要はないのではないかという御意見があったことを踏まえまして,したがいまして,その点については,信託の登記または登録があれば,相手方に「信託のためにしたことは知らなかったんだ」とは言わせないということで,したがって,第31の方は,第31の1の(1)の相手方が知っている場合を除いたわけでございます。
それで,それ以外の(2)のものにつきましては,やはり相手方が知っている場合という要件は引き続きかかってくるとしないといけないかと思います。
したがいまして,ここで第31の1(1)または(2)に掲げるというふうにザクッと書いてしまったのでございますが,(2)に掲げる受託者の行為というのを文理に忠実に読みますと,確かに第31の1の(2)のイに掲げる行為ですから,借入行為と登記・登録ができない動産についての権利移転・設定行為をそのまま指すことになってしまいますので,○○幹事から御指摘のありましたように,(3)の中に(4)が含まれることにもなってしまうほか,改正試案を出す前に○○幹事や○○幹事から御指摘のあったような,相手方が信託のためだとは知らなかった場合について,取り消せないからといって信託財産に対して執行を認める必要はないではないかという御意見にも答えたような形には文理上,なっていないように読めてしまうかもしれませんが,ここの趣旨は,その実質を変えたわけではございませんで,条文ではないというところに甘えさせていただいて,第31の1(2)に掲げるという意味,第31の1の(2)の相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合に限定した上で,第31の1による取消しがされていない場合と分けております。
● どういう場合はどうかという御説明は,おおむね「そうかな」と思って聞いたのですけれども,その上で,こうまとめていいのかということだけなんですが,(4)の場合は,相手方が知らないわけですから,第31では取り消せないですよね。
(3)の場合は,そもそも取り消せない場合も含まれているし,取り消せるけれどもまだ取消しが行われていない場合も含むということですよね。要するに,(3)(4)は,いずれにせよ第31によってもう決まることであって,つまり取り消すことがそもそもできなければだめだし,取り消せるとしても取消しの意思表示をしなければだめだ,そう理解してよいかということだけです。
● その点についてはそうなんですが,書き方の点で,第12の1の(3)の中に(4)は含まれているから,(4)を削ればいいかというと,そういう問題ではなくて,例えば借り入れなどをしたときに,信託財産のためにしたと思って受託者はやったんだけれども,相手方は,それは信託財産のためにしたことは知りませんでした,それが権限違反でしたというときに,確かにその場合,その受益者は取り消すことはできません。
だけれども,だからといって信託財産に執行できるというわけではなくて,その場合は権限違反で借り入れをしただけなんだから,それは固有財産に帰属させて,固有財産に執行させればいいでしょうという帰結になりますので,すみません,ちょっと書き方が悪い上にこんなことを申し上げて恐縮なんですが,(4)は(3)に含まれるので(4)を削ってそれで終わるかというと,そういう問題ではなくて,第31の1(1)によって取消しがされていないものと,第31の1(2)と書いて(信託財産のためにされたものであることを相手方が知っている場合における当該権限違反行為に限る。)という限定をつけた上で取消しがされていないものという,そういう整理になるかなということを申し上げたところであります。
● これは第31についての確認ですけれども,今,借り入れの例を挙げられましたけれども,これは第31の方で言うと,1の(2)のロに当たらないんですか。
● 借り入れですか。
● ええ。
● ロに当たります。したがって,受益者の取消しはできない。だけれども,第31で取消しができないものが全部信託財産に執行できますかというと,それはそうではないですよねというために,(3)のところで相手方が知っている場合に限るという限定を,借入行為についてはつけないといけない。そこを丁寧に書き分けないといけない。
● それが今の(3)の表現で落ちているということですか。
● そうです。そこは申しわけございませんでしたというか,経緯からそういうふうに書いてしまったのですが,説明ではそういう説明をさせていただいておりまして,条文を意識したものではないとはいえ,試案の書きぶりは,ちょっと正確ではなかったかなと思います。
● とりあえず,確認だけですので。
● 今の第31の1の(2)のロが借り入れに当たるということで,それは外すんだという御説明だと思いますが,このロについては,例えば権利の変更行為も入るのではないかと思うんですけれども,それも落ちてしまうことになるんでしょうか。
● 権利の変更と申しますと,例えば……。すみません,ちょっと具体的に。
● 一般的に言えば,不動産の対抗要件のところで権利の設定または変更というように言われている,その変更。いろいろなものがあると思いますけれども,この文字面だけですと,設定・移転行為以外ということですと,そういうものも入り得るのではないか。
それをまとめて除外するのが適当かどうか。むしろ借り入れについてが特別のルールがあり得るのではないかと思ったんですけれども。
● 権利の変更について……,そうですね,今まで具体的には考えてこなかったけれども,この表現だとそれが借り入れと同じ扱いになってしまうわけですよね。
今まで変更のことは余り考えていなかったけれども,借り入れと同じに扱った方がいいという積極的な意見があったわけではなかったですね,確かに。
それは,もしそういう御意見であれば,表現をそれに揃えるように書き直すことはできると思います。いずれにせよ,借り入れがとにかく一つのキーポイントだったわけで。
ごめんなさい,この点また戻るかもしれませんけれども,もし○○委員が関連することであれば。
● 十分理解しての質問かどうかわかりませんが,ただ,大ざっぱな質問なもので通用すると思うんですが,重過失の議論なんですけれども,今「信託財産のためにすることを知り」というところに重過失を入れるべきではないかというふうなことを言わんとしているんですけれども,そう言うことが,信託財産のためにしていなければ,そもそも信託財産に掛かっていけないんだと思って,仮に受託者の行為が信託財産のためであってもという議論だとすると,ちょっと言っていることが矛盾してしまうんですけれども,言わんとしていることは,民事信託を考えた場合,御説明にあったように,受託者名義ですから取引の相手方はわかりませんけれども,通常の場合というか,商事信託であれば信託会社は専業義務を課せられていますし,信託銀行であれば何々信託銀行ということですし,まして動産であれば分別管理ということで,分別して管理されていますから,ですから,取引の相手方というのはかなりの程度,ちょっとした注意義務をもってすれば信託財産であること等はわかると思うので,そういう場合でも取引の相手方を保護するような議論--と私は理解しているんですけれども,そうではないとすると意味がない議論になってしまうんですが,そういうのはどうなのかなと。
要するに,分別管理,それから信託会社における専業義務という視点から,信託財産のために行動することは取引の相手方だったらわかり得るのではないか。
それからあと,信託の公示制度そのものがかなり軽減化されているという現実が,他方において分別管理で賄われるという全体の建てつけですから,そういう意味において,幾ら同じ受託者名義とは言いながらも,信託との取引ということが注意義務としてある程度は課せられてもいいのではないかというコメントと,あと,不動産とか登記・登録を要するものに関して,登記・登録がすべての判断の基準という建てつけのようですし,基準としてのわかりやすさはあると思うんですけれども,あと,以前にも議論した,背信的悪意者みたいなものは入るかもしれないという話だったと思うので,その辺の確認と,仮に登記・登録していなくても,信託銀行が信託財産として預かっていることを相手方が知っていれば,それはそれで悪意として,その効果というものは考えてもよろしいのではないかと思うんですが。
細かいところの理解が間違っているかもしれないので,検討違いの議論かもしれませんけれども,そういう視点から何か御見解をいただければと思うんですが。
● ○○委員のおっしゃった最後の,当該財産が信託銀行が信託財産のために預かっていることを知っているかというのは,もう文言ばっちり,「信託財産のためにされたものであることを知り」というところに当たるかと思いますので,あとはその権限違反について,善意・無重過失であるか悪意があるかどうかを論ずればよろしいのかと思うのですけれども……
● それは,登記・登録を要するものであっても,もうそれはそこで決めるということですか。
● 登記・登録を要するものについては,信託の登記・登録がされていれば,相手方が信託のためにしていることを知らなかったとは言わせないというのが第31の1の(1)ですので,信託の登記・登録があるものについて,その登記・登録があれば相手方は「いや,私はあなたが信託のためにやったとは知らなかったよ」という主張はできなくて……
● 登記・登録を要するものが登記・登録していないんだけれども,分別管理され,信託財産として管理されていることを相手方が知っている場合。
● その場合は,信託の登記・登録をすることができる財産であれば,相手方は,これも前回,○○委員の御発言にもあったかと思いますけれども,背信的悪意者に当たらない限りは,それは信託の対抗問題として,相手方というか,受託者が信託であるということを相手方に言えないわけですから,先に履行してとってきてしまえば,それはもう対抗問題として相手方が勝つことになるのではないかと思います。
● 背信的悪意者というのは,結局悪意・重過失……,ちょっと昔の議論を忘れてしまったんですけれども,それほど加重されていなかったような気もするんですけれども。--いや,ちょっとわかりません。私の理解が間違っているかもしれませんけれども。
● 背信的悪意者ということであれば,それはもう受益者,これは信託であるということは対抗できますよという話になって,あとは軽減違反について別途,善意・無重過失かどうかというところで決せられることになるかと思います。
あと,ちょっとつけ加えですが,信託の登記または登録をすることができない動産のようなものを売るときに,これも○○委員から,民事であれば確かにこの主張は妥当するけれども,商事であればいかがかという御指摘があったかと思うのですが,確かに分別管理はしてあるわけですけれども,何か実際の売買のときに,商事であれば動産をポッと出されたときに,それは信託財産の財布から来たか固有財産の財布かということを常に考えなければいけないという注意義務を若干なりとも課すことが適切かどうかということで,とりあえずこの案では重過失は問わずに,悪意か善意かだけを問うという案にさせていただいているということかと思います。
● そこは判断の分かれるところだから,いろいろな考えがあるのかもしれませんけれども,普通,民法的な議論をすると,故意と重過失はかなり同視されるような行為として考えますよね。
ですから,そういう意味において,悪意のみというのも何か強いような……。将来の解釈に委ねるという趣旨であれば,それはそれでいいのかなと思うんですけれども,ここの規律だけ「重過失」という言葉が結構はっきり出てくることによって,悪意は悪意だけみたいな感じもしますし,将来的に軽過失でいいんだという議論が逆にしにくいような規律にもなっているのかなと。
民法一般としては,やはり外観法理にしろ何にしろ--と言ったらちょっと間違っているかもしれませんけれども,やはり過失があれば責任があるということかと思うんですけれども,ここだけちょっと,ある意味では将来の解釈論が確定してしまっているのが分別管理,先ほども言ったように,信託の専業義務という視点からすると,信託財産が結局受託者,その受託者を信じたあなたが間違っていたんだと言われてしまえばそれまでかもしれませんけれども,分別管理されているものを取引した人が,重過失があるにもかかわらず保護されるようなシチュエーションというのは,民法的な視点からも信託を守る視点からも,何かちょっと感覚的にそぐわないところがありまして,再度確認している次第ですけれども。
● いろいろな問題があったと思いますけれども,1つは,信託の対抗という問題を正面に出しているために,信託の登記・登録ができるのにしていないと,もう信託を対抗できないということで,あとは背信的悪意者でないと受益者というか,信託が保護されないとなっていることがどうかというのが後半の問題ですよね。
これは信託の対抗がもうできないと言われてしまうと,あとは背信的悪意者しかとにかく保護しようがないので,そこで過失があってもだめだとはなかなか言いにくい構造になってしまっている。これをどうするかが1つの問題であることは確かですね。
もう一つは,あるいは○○委員の問題意識と私のと完全にオーバーラップするかどうかわかりませんけれども,信託の登記・登録をした場合であって,ですから,これは相手方はもちろん信託財産であることを知っているし,そういうときに相手方に要求される要件が,故意・重過失があれば取消しができて,しかし,軽過失があった程度では取消しができないという部分,ここもちょっと私は,個人的にはこれでいいのかどうかちょっと気になっていまして,特にこれ,今までの信託法第31条の取消権というのは,これも硬直的で,これを直そうというのが出発点だったわけですけれども,少なくとも今までの信託法第31条の取消権の場合には,登記・登録があると,これは相手方の善意だろうが無過失だろうが,それに関係なく常に取り消せるというので,これはちょっと極端である,とにかくこれを変えようと。
変えようとなったんですけれども,今度は反対側の方に振り子が完全にいってしまって,故意・重過失の場合にしか信託の方は保護されない。おまけに挙証責任も受益者の方で証明しますので,受益者の方で,信託財産の取引の相手方が悪意または重過失があることを証明しないと保護されないということになって,従来の第31条の下で保護されていた受益者,あるいは保護されていた信託からすると,極端に取引の安全の方に移行してしまっているのではないかという気が個人的にはしております。
信託財産というものはそういうものだと割り切ってしまうのも1つかもしれませんが,そこまで極端な議論をしなくても,法人などの場合で取締役が定款などで定められている,制限されている権限に違反して取引をした場合とのバランスみたいなものを考えた方がいいのではないか。
これも事務局にはちょっと調べていただいたわけですけれども,民法で言うと第54条の問題ですかね,全く同じ問題かどうかわかりませんけれども,取締役の権限が制限を受けているときに,その制限に反して取締役が取引をした。
そのときに第51条,条文上は確かにこれ,善意としか書いてありませんけれども,いろいろな解釈によっては善意・無過失の相手方を保護する,ですから過失があれば逆に保護しない,そういう規定として理解している人たちもいると思うので,民法第54条とのバランスみたいなものを少し考えた方がいいのではないかと思っておりまして,○○委員と多少共通するところがあるんだろうと思いますが。
● そのとおりですね。
● ただ,民法第54条は,条文上は善意だけになっているので,そこはちょっと問題と言えば問題なんですが。
● 他の箇所でもそうなんですけれども,民法と平仄を合わせるということで善意としか書かずに,ただし解釈論で多分,過失も入るでしょうと。ここも将来の解釈論に委ねるような規律,だから過失か重過失かこの場で決めずに,「善意」とかいう言葉を使うことによってという規律でもよいのかなという気がしております。
● さっき言われたように「重過失」とまで書いてしまうと,過失についての解釈がそこで決まってしまうのでということ。
● はい。
● ほかに,いかがでしょうか。
● 余り強く申し上げるつもりは全くないのですけれども,今の重過失の点で,権限違反の方も問題になっておりますけれども,もともとの信託への帰属の方で,御提案は登記・登録で一律に決するということで,重過失のような判断はしないということ,それも一つの割り切り方かなというふうには思っているのですが,ただ,それで大丈夫だろうかということも考えなくはないですので,その点だけお話しさせていただきたいと思います。
1つは,もう既に出ておりますように,少し調べればわかるようなものについて調べなくていいかという点でございまして,特に,結局取消しが問題になるということは,権限違反について,悪意であるとか,あるいは重過失があるという要件を満たさないといけないわけですので,そのことは知っているというような状況において,それが果たして信託のための取引なのかどうか若干の調査をしなくていいのだろうか。
先ほど例に挙げられました動産のようなものは,安心してやってよいというのが適切であるとすれば,そのときには,もうそれで既に重過失はないと判断されると思いますので,どうなのかというのが若干気になっております。
もう一つは,登記・登録との関係なのですけれども,これは恐らく信託の登記・登録のあり方とも関係してくるものではないかと思うんですが,現行法のような形であれば,もう登記・登録があれば当然に悪意擬制と同じという扱いで,それでよろしいと思うんですが,もう少し登記・登録のあり方が柔軟に,あるいは必ずしも現行のように確固としたものでないものが出てきたときに,当然登記・登録はチェックして取引すべきだということが常に言えるのかどうか,若干気になるところでして,これは事例自体は全然違う話ですから,引くのが適切でないことは理解しているんですけれども,動産の譲渡登記などですと当然それは見てしかるべきで,当然悪意擬制がされるような性質のものでもないということがありますので,登記・登録制度のあり方によっては,もう少し考える余地があるのではないか。
そうだとすると,登記・登録を見てしかるべきということは,当然重過失があるというので判断できるという仕組みも,より適切な結果を導けるのかなという気はしているのですが。
ただそういう観点もあるのではないかということだけ,補足的に申し上げます。
● その点は,全くそのとおりだと思います。
● 今,○○幹事が御指摘になったポイントでございますが,2つ目の登記・登録されているものについて,信託の登記・登録のあり方が変わってくるような場合で,まさしく御指摘のあったとおり,動産の登記というのは別に,今回の場合,動産の登記をしてあったから信託云々という話ではなくて,(1)の話は信託の登記・登録がある財産についての話でございますので,動産の登記があれば,それを見たって信託のことはわからないことは,もちろんわからないわけでありますけれども,仮に,例えば信託の登記とか登録を免除しているというか,一時的に免除しているといったときに,第三者と受託者の取引をして,それで第三者の方が権利移転の登記も移してしまったようなときに,受益者と第三者とでどちらが勝つかといえば,それは第三者が勝つのではないか。
そこは権限違反云々という主観的要件を問題にすることもなく,そういうことになるのではないかと思いますので,信託の登記・登録の運用のあり方が確かに変わってくることは変わってくると思うんですけれども,第三者と受益者とでその財産を取り合いになったときに,ルールとしてどういうふうに決するかというふうに考えますと,その場合は,まず受益者としては,権利移転の登記をする前に信託の登記・登録をしなさいということを受託者に言って,受託者がそれを移した後で,それをもって取消権を行使するとかいうようなことになるのではないかと思います。
すみません,ちょっとお答えになったかどうかわかりませんけれども。
● いずれにせよ,さっきから問題になっているポイントは恐らく大きく2つあって,登記・登録できるけれどもしていない,しかし,何らかの形でそれが信託財産であることがわかるような場合に,どこまで受益者というか,信託の方を保護し,取引の相手方の方が多少負担をすることになるのか。
今のところ,登記・登録できるのにしていないものは,もう一切信託が対抗できないので,これは当事者間の合意でもって免除している場合も同じような扱いになるということですね。これについての御意見がさっきから上がっている。
○○幹事の御意見は,私の理解では,登記・登録ができる場合で,かつしていて,そのときの相手方の主観的な要件の問題で,この原案がいいのかどうかは,どういう登録制度があるかによって違ってくるだろう。
現在の不動産の登記のように信託財産目録があって,そこでかなり詳しく信託財産の中身が判断できるようなものについては,例えば,それを見なかったら悪意というふうな推定が働くんですかね,そういうことで解決できるけれども,そういう信託財産目録のような,情報を完備しているような登記・登録制度ばかりではないので,そういうものについては果たして適当なのかどうか,不動産の登記と同じように扱っていいのかどうか,そういう問題ですよね。
これも登記・登録制度がどうなっているのか,よくわかりませんけれども,今のところ不動産に関しては,現在の信託財産目録というのは大体同じような制度が引き継がれていく方向にあると理解してよろしいんですか。
それ以外のいろいろな登記・登録制度ですよね,こっちがまだはっきりしない。そういうもとで,どういうルールがいいか。
● 今の登記・登録制度のところで,信託目録が現在の制度と同じようなというお話がありますけれども,そこはそんな形なんでしょうか。少なくとも権限といいますか,そういう部分は書かれないというふうに,何となく……
● すみません,私がちょっと先走ったことを言ったかもしれませんが。
● またここの議論をしていただこうと思ってはいるのですけれども,逆に言えば,権限のところを書かれないというような整理がされた記憶もないんですが,いずれにしても,信託がどれであるかを信託の公示を見てわかるようにしなくてはいけませんね,少なくとも不動産についてはという,そこはたしか昔,パブリック・コメントをする前に御議論いただいたのかと思っております。
その際に,では,どういう情報が特定のために必要なのかという観点から考えると,権限だけは要らないだろうといった議論がそう簡単にできるのか。
つまり,契約を特定するという作業の中で何が必要なのかという話を,またいずれしていただきたいとは思っておりますけれども,逆に言えば,権限は要らなくなるというのは,確かに効力の問題としては,権限の有無と信託の公示は切り離されましたけれども,それと,公示の際に何を書かせなくてはいけないのかというのとは直接にはリンクしない問題ではないかという感じがしております。
● また別途議論させていただきます。
● 公示の中身については,また御議論いただけると思います。
● 先ほど来,問題になっております,信託の登記とか登録をしていない場合に相手方が,それは信託財産であるとわかって取引をした場合については,例えば信託財産,受託者の固有財産に属する債務に係る債権者が信託財産だとわかっていて登記・登録をしていなかったら,そこは登記で差し押さえてしまったら,どっちが早く登記をとったかというような話で決することになりますので,確かに心情的に多少なりとも忸怩たるものはございますけれども,第3条でそういう整理をした以上は,やはりそうなるのではないか。
この嫌らしさというのは,通常の二重譲渡のときに,AさんがBさんに売ったことがわかっていて,もうBさんにいってしまったときでも,後から売買契約して登記を先に備えてしまえば勝てるという,その通常の対抗要件主義をとって決するというふうにしたことと同じ,そのときに思う気持ちと同じようなことなのではないか。
それで,信託の登記・登録が制度として整備されている以上は,登記・登録を見ればどれがこの信託に属する財産かというのは,やはり明確になるように制度整備を図っていかなければいけないのかなとは思いますけれども。
他省庁が所管しているものまですべて明確に確認したものではないので,その点はもう一度,信託の登記・登録制度自体は見てみる必要があるかと思いますけれども,現行法の建前は一応そこは区別されているんだ,特定できるんだという建前でできているのではないか。
そうではないと,信信間だって対抗要件で決するわけですから,それが登記で明らかになっていないということになると,法の建前自体がおかしいということになってしまうのではないかなとちょっと思いますので,補足させていただきました。
● 前回もちょっと質問させていただいたんですけれども,対抗問題であるということで,今,ちょっと話があるんですけれども,典型的な対抗問題とはちょっと違うのではないかという気がずっとしておりまして,必ずしも対抗問題としてとらえる必要があるのかなという気がしております。
受益者の立場からすると,登記にそこまでの意味を持たせるのはちょっと厳しいなという気がしておりまして,これは私の方から申し上げるべき意見かどうかわかりませんけれども,ここで登記に重い,そういう登記によって取消しができるかどうか切り分けられることになりますと,かえって公示のところで多少柔軟にしたいという要請があるところとぶつかる場面が出てきはしないかなという気がちょっとしておって,そういったことですとか,先ほど○○委員から話がありました信託銀行等の実情等をお聞きすると,どちらかというと,登記・登録では切り分けずに,もう悪意・重過失だけで取消しの有無を切り分ける方がすっきりするように思うんですけれども。
● 以前からそういう意見もあったわけでして,ほかに御意見ございますか。
● 一般的要件の証明責任についてですが,お書きになられているところは14ページから15ページにかけてなんですが,少なくとも民法でこの種の問題をお話しするときは,権限がある場合とない場合を分けて,権限がある場合でも,さらに内部的な手続違反だとか,あるいは内部的な義務違反がある場合という分け方をした上で,どういう議論をするかというと,権限があれば効果は帰属するし,権限がなければ効果は帰属しない。
ただ,権限がなければ効果は帰属しないけれども,一定の特別な要件を満たす場合には,例外的に効果が帰属する場合を認めるという考え方だと思うんですね。
そうしますと,権限外の場合は,やはり特別な要件,善意だったとか善意・無過失だったというようなことは,あくまでも相手方の方で証明責任を負うというのが通常の考え方だと思います。
その上で推定などで変わってくるのはもちろんありますけれども,それがベースですね。それに対して,権限はあるんだけれども内部的な義務違反だという場合は,内部的な義務違反があるというだけでは効果の不帰属は基礎づけられなくて,やはり権限があるわけですから,効果は帰属してしまう。
だから,義務違反があって,かつ相手方がそれを知っていたではないかとか,過失がある,あるいは重過失があるということまであわせて言わないと効果の不帰属は基礎づけられないので,この場合は財産を持っている側がそこまでの主張,立証をしないといけない。
この14ページから15ページに書かれている内容というのは,むしろ内部的な義務違反の場合に寄せて考えようというような御説明に近いのかなというふうに伺ったんですけれども,やはり権限という言葉を使う以上は,権限がないならば効果はもう帰属しないわけであって,そうすると,例外的に効果が帰属するということを,つまり受益者の側としては権限外だということを言えば足りて,相手方の方で,いや,知らなかったし重過失もないんだと立証責任を負う方が,少なくとも民法の考え方からは自然なのかなというふうに伺いました。
ただ,これ商法はどうなっているのか,やや心配なところはありますけれども,少なくとも民法の普通の考え方からすると,この14ページから15ページに書かれていることは権限外なんだけれども,それについて相当政策的な操作をしておられるのかなという気がいたしました。
● 今の御指摘につきまして,相手側,受託者側,こちら側というお話がございましたけれども,受益者は,経済的な利益の実質的な帰属先という観点からいきますと,確かにこちら側なのでございますけれども,やはり受託者とは違う第三者なのでございまして,受託者と取引の相手方との取引を,取引当事者でもない第三者たる受益者がその効果を取り消すという話ですから,例えば第54とかいうようなときに,無効をどちらが証明するか,しないかということを考えるときには,実際に取引をやった理事の方と,それから相手方との証明責任,どうですかということを多分,考えて議論しているのだと思うのですけれども,本件におきましては,全くの取引当事者でない受益者がパラシュートのようにおりてきて「取消し」と言うわけですから,一般の民法のときの証明責任と同様に考えるべきなのだろうかと。
そういうことを踏まえて,現行法は受益者の方に証明責任を課しているのではないかというのがこれまでの議論,資料等を拝見して考えたことなのですが,いかがでございましょうか。
● お考えは,もちろんわかるようなところはあることはあるんですけれども,法人の場合だって,法人自身がこれは権限外だというようなことを言う場合もあれば,それ以外の者が言う場合もあって,いろいろだろうと思うというのが1つと,それから,やはり受益者が言うのであれば,権限外だということを言わないとだめなわけで,権限外だということが言えてしまうと,もう本来は効果が帰属しないというふうになるのが民法の考え方からすると筋なのかなと。
そうすると,それ以上なぜまだ主観的要件まで言わないといけないのかというのは,ちょっと平仄が合わないのかなと。
少なくともここまで,しかも○○委員がおっしゃいましたように取引安全をかなり重視したような制度の仕組みになっている上に,証明責任のところまでさらに変えていくというのは,ちょっと--御説明わかることはわかるんですけれども,かなり一般原則から踏み出しているなという感じが否めないところです。
● 先ほど商法の方は御存じないと言われたんですが,例えば商法第42条,もう番号は変わったかもしれませんが,六法に載っているので言えばですけれども,表見支配人などのケースですと,悪意ならばそうではありませんという形でありまして,ある種の肩書を与えた場合には当然効果が帰属して,悪意ならそうではありませんといった形になっております。
代表取締役も似たような発想でして,ある種の包括的な代理権,代表権みたいなものを与えられるような外観を持っている場合,及び商法の場合は迅速な取引の補償といった別の要素があるんですけれども,あわせて証明責任が引っくり返っているんですね。
信託の場合,どちらかというと,当然に商事信託ばかりとは言えませんから,商法的な,迅速な取引の安全の保護という発想は正面に出しにくいかもしれませんけれども,包括的な代表権,代理権が与えられているような外観に近いような基盤は,あると考えるなら,この証明責任は一応は説明できる。
それが最終的に商法と同じだからいいんだというふうな,そんな簡単な説明はできませんけれども,全く説明がつかないわけではないような気がしました。
あわせて,第31について質問させて痛きたいんですが,私,おくれて来て聞き逃したのかもしれないんですけれども,1の(2)の方で「信託財産のためのものであることを知り」と掲げられていますが,後半は権限についての悪意・重過失なんですけれども,意味が非常に違うような気がするんですね。
後半の悪意というのは,いわゆる表見法理などの悪意と同じような意味なんですが,前半は,悪意だから保護されないとかそういう話ではなくて,そもそも信頼できる信託財産の取引をしているという前提でやって,なおかつそれが権限外であることを知っていたからだめだという話,それを並列して悪意として書くような話なのか。
何かちょっと構造が違うわけですね。要件として書けばこうなのかもしれませんけれども,その辺わかりにくくなっているので,書き方だけなのかもしれませんけれども……
● 趣旨は,今,○○幹事が言われたとおりだと思います。
● その趣旨を,条文で書くときも何か工夫していただければと思います。
● 1の(2)の「信託財産のためにされたものであることを知り」ということですけれども,これ,取消しの積極要件という位置づけだとするならば,受益者の側で,当該行為が信託財産のためにされたものであり,かつそのことを相手方が知っていることを立証しないといけないということなんでしょうか。
でも,何か自然な流れというのは,当該行為は信託財産のためになされたものではないんだということを受益者の方が言い,それに対して相手方が,「いや,仮にそうだとしても自分は知らない」というようなことを言って争うのが普通の流れのような気がして,考え方はわからないではないんですけれども,何かどうも,前からずっとなんですけれども,もう一つ何か頭の中にしっくり入ってこないなという点と,今ちょっと言われた若干性格が違うのではないかというのと,リンクしているのかなという気がどうしてもします。
● これはいろいろな御議論がありますので,大きな方向はそれなりに御了解いただいていると思いますけれども,今の証明責任とか,それから--もちろん大きな方向も若干御議論あったわけですが,これでいいかどうか,もう一回確認していただくということでよろしいですか。
● 整理はついているのに私が読めていないだけかもしれませんが,強制執行というのは,引き渡しの強制を求めるというのも含まれますよね。
だから,信託財産に属する財産が売却されたという場合の,その履行を求める強制執行と,例えば,それが債務不履行になったとかいうふうなことで損害賠償請求権を持った,それで強制執行をしていく,損害賠償請求権の金銭債権の満足のために強制執行をかけていくという場合とは,かなり違うような気がするんですが,それは区別されているんですか。
「信託財産のために」という言葉を使うときには,これは総信託財産という感じで,「信託財産に属する財産」というのは個別の財産という感じで,第31条では何となくわかるんですが,その言葉遣いも何となくそれでいいのかなという気もしますし,強制執行のときなどで第12の1の(4)などのときに,当該財産に対して引渡しを求めていくことができるというのと,損害賠償の問題とは,どう区別すればいいのかがよくわからなくてクリアなことが言えないんですが,御意見があればお聞かせいただき,あれでしたら再検討の際にその辺を書き分けていただければありがたいと思うんですけれども。
● ○○幹事の御指摘は,例えば信託財産に属する動産について取引をしましたというときに,相手方は確かに信託だということを知らなかったので,この財産だと信じたから,その信頼を保護していいではないかというのはあるにせよ,それで債務不履行になって損害賠償請求権の金銭債権に化けたときに,だからといって信託財産という,そちらの方にいかせるのは信頼の保護としてちょっと行き過ぎなところがあるのではないか,そういったものをきちんと(4)で書き切れているのかというお話だと思いますので,書き方をもう少し検討します。
● では,それも含めて検討させていただきます。
それでは,不法行為についても御感触だけ伺っておきたいと思いますが,受託者の不法行為に基づく債権が発生したときに……
● 今,事実的不法行為と取引的不法行為の区別も必ずしも明確ではないし,信託事務処理過程における不法行為だからという,この2つの理由で信託財産に掛かっていってもいいのではないかという結論と書かれているんですけれども,やはり,区別が不明確というのはそのとおりかもしれませんけれども,被害者の方が信託事務処理であることを認識し,信託財産の存在を認識しているケースと,たまたま受託者が,余りいい例ではないかもしれませんけれども,交通事故を起こしたと,不動産の信託で。
それが一応,信託事務処理過程においてのことかもしれませんが,それが,わかりませんが,それが事実的と仮に呼んだときに,区別していい,また,区別しないと何か,信託の方がもしかして本来守るべき--というのも勝手な価値判断かもしれませんけれども,倉庫で物を預かっている場合,委任で他人の物を預かっている場合には,その物にかかわっていくわけでもないにもかかわらず,信託のときだけ何か,被害者の方が実は予想もしなかった財産にまで掛かっていけることができるような状況になってしまうと思うんですよね。
ですから,どこかで区別した方がいいと思って,結局は事実的不法行為と取引的不法行為で分けようではないかというのが一つの今までの議論だったと思うんですけれども,まだそこの区別が不明確だからということで,やはり恣意的に信託財産というふうに持っていってしまっていいのかなというところは,ちょっとまだ判断しかねるところがあるんですけれども。
● おっしゃることは,よくわかるつもりであります。取引的な不法行為に関しては,特に御異論はないということですね。
確かに交通事故などの例を挙げられますと,果たしてその信託事務の執行の過程で自動車を運転して事故を起こしたときに,信託財産に掛かっていけるかというと,それはちょっと行き過ぎかなという感じもしないではないですね。
ただ,一方で,第715条と同じでいいではないかという意見もあり得るとは思いますけれども。
皆さんの感触を。
● 私は,区別が難しいということと,それから,今,第715条を挙げられましたけれども,その同じような考え方で,どちらについても信託財産に対して掛かっていくことができるというのでいいのではないかと,もう割り切って考えました。
割り切ってしまうと,さらにその先にまで行きまして,受託者の被用者についての場合,第715条の場合であるとか自賠法第3条の場合だとか,第717条の場合も,そこではもう切れなくなってしまうのではないかと思います。
● なるほど。
まだ両論あるようでございまして,今日は○○委員も来ておられないので,ちょっと慎重を期して,全体の見直しの際にもう一回検討したいと思います。
● 例えば,年金の事務処理過程で事故を起こす,あり得ると思うんですよね。
そういう場合も,実は被害者の方が年金の財産にかかわっていける。何となく変というか,相手方が知っていても掛かっていけるんですかね。
● 信託財産の執行ということですか。
● ええ。信託銀行が年金事務処理をしていて,不法行為--だから取引的不法行為かもしれません,場合によっては債務不履行で構成できるけれども,どうも不法行為で構成した方が信託財産に掛かっていけそうだという判断のもとに掛かっていくということが,何となく不自然に思われるんですよね。
交通事故というのはちょっと,わかりやすい分だけ,また逆に違った意見もあるかもしれませんけれども。
● 私も,どういう要件でもっていくのがいいのか,第715条と全く同じ要件でいいのか,そこはもうちょっと検討した方がいいだろうという気がしますけれども,ただ,受託者の行為が信託財産のために行われた行為で,たまたま相手方がそれによって被害を受けたときに,受託者が無資力という場合もあり得るわけですが,そのときに信託財産に全然掛かっていけないというのはいいのかどうか,そういう判断なんですけどね。
要件も含めて,少し検討させていただければと思います。
● これは私もどちらがあれという意見を持ち合わせているわけではないんですけれども,これ,もし不法行為で掛かっていけるとした場合,強制執行を認めた場合に,その後処理といいますか,信託財産から財産が出ていくわけですけれども,その後の,例えば受託者がそれを埋めなければならないのかとか,そういった点については。
● 受益者が,受託者に対して損失てん補責任追及をしていく。
● そうすると,基本的には,それは損失てん補請求の枠組みで処理されるという前提ですね。
● はい。
● それでは,これもいろいろ御意見いただきましたので,もう一回検討したいと思います。
次に,13ページに□で2つほど,パブリック・コメントで出てきた意見に対してですけれども,消滅時効の話と無権代理人の責任について,代理と同じように考えるべきかどうかという話ですが,これはどうでしょうか。何か御感触があれば。
● まず,この1か月というこの期間ですけれども,やはり実務的な感覚で言うと短か過ぎる。
特に弁護士が日常的に,仮にこの取消権行使で相談を受けて何かする,そういう発想でいくと,取消権を行使するなと言うに等しいぐらいの期間であるという意見が多くの弁護士から出ています。
それから,1年という方の期間ですが,これも報告自体が1年に1回義務づけられているような制度なので,短か過ぎると。
例えば,1月1日に何かそういう行為が行われて,12月31日に報告によってそのことが初めてわかった。そうすると,次の日にはもう1年たってしまうよということになりますし,これももう何年か,3年なり5年なりといった期間にしてもらわないと,なかなか使いようがないのではないかという感じがいたします。
先ほどの立証責任が,本当は一番扱えるかどうかというところが大きいんですが,それに加えてこの期間の問題というふうに思います。
● 取消権の期間のところですけれども,先ほど○○委員の方から,受益者側から見たら1か月ではどうしようもないのではないかというお話でしたけれども,受託者の事務処理上の問題からしますと,当然商事信託でかなり大量の信託財産を日々動かしているという観点からいきますと,1か月でもなかなか,どうなるかよくわからんなというところがありまして,とはいうものの,やはりそういう期間設定も要るとすれば,やはり現行法と同じぐらいの期間が望ましいのではないかと考えております。
● ほかに,この点について御意見は。
今,時効期間については両論の御意見があったと思いますけれども,無権代理の方は,これは一応原案といいますか,先ほどの説明ではなくていいというふうに考えておりますが,それでよろしいでしょうか。
では,こちらはそういうことで。
時効の期間につきましては両方に分かれているので,どちらが多数とも今,簡単には言えませんけれども,今度,見直しのときにもう一度伺いますので,そのときまでに御意見を固めておいていただければと思います。
それでは,先を急がせていただければと思います。
● それでは,続きは第44の信託管理人等と,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係,あと,営業信託の商行為性と受益権の有価証券化という4つの論点を先にやらせていただきたいと思います。
まず,信託管理人でございますが,受益者が現に存しない場合に限定して信託管理人の選任を認めるとの試案の考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。
まず,資料22ページの(イ)でございますが,受益者の一部が未存在の場合にも,信託の変更等の意思決定を可能とするためには,信託管理人の選任を認めるべきではないかとの意見がございました。
しかし,事務局の考え方でございますが,受益者の一部について未存在の者を指定した委託者としては,残りの受益者によって信託に関する意思決定がされることを期待していると考えることが合理的であると思われます。
そうすると,一部の受益者が未存在であるからといって信託に関する意思決定ができなくなるわけではございませんので,未存在の受益者のために信託管理人の選任を認める必要はないのではないかと思っております。
もっとも,未存在の受益者と現存する受益者との間で利益相反関係があるときには,現存する受益者のみで意思決定がされるような場合があって,これが問題となるわけでございますが,この場合は受託者の公平義務の遵守に期待するほか,委託者において後述いたします信託監督人を選任して受託者の公平義務の遵守を監督させることなどによって,未存在の受益者の利益を図ることができるのではないかと考えております。
次に,資料23ページのイの(ア)から(ウ)に関してでございます。
まず,(ア)でございますが,信託の利益の受領権については,受益者との委任関係にない信託管理人が配当を受領して保管しておくよりも,受託者が信託財産の一部として管理しておくことの方が委託者の意思にかなうと思われますので,信託管理人にはこの受領権までは認めないこととしております。
ただ,信託管理人が受益者を保護するために受益債権を保全するための権利の行使,例えば受益債権の消滅時効中断のための措置をとるようなことまで否定するわけではございません。
次に,(イ)の点でございますが,信託管理人の権限は,自益的な権利に限るべきであるとの意見がございました。しかし,信託管理人が未存在の受益者にかわって受託者を監督することが期待されているということですとか,受益者未存在の間にも信託の変更の必要性が生じたような場合におきまして,信託管理人にその同意権を付与することが相当と考えられることなどから,信託管理人には別表1,別表2,これは28ページから29ページにございますが,ここにありますとおり,共益的な権利や,信託に関する意思決定への合意権なども付与することが相当と考えております。
(ウ)でございますが,信託管理人が選定されている場合には,最終計算は信託管理人の承認でよいとすべきであるとの意見がございました。
この点については,受益者が未存在の状態でも信託が終了することはあり得ますので,これを認めてよいのではないかと考えております。
なお,この最終計算の承認権につきましては,これを受託者に対する監督的な権利であると位置づけますと,これは信託監督人等の話に多少入ってしまうんですが,別表1の範疇,監督権に属することになりまして,そうすると,後述の信託監督人とか受益者代理については,受益者と重畳的にのみ行使し得ることになると思われます。
他方,これを受託者の責任の免除に類するものと考えれば,別表2の範疇に属することになりまして,信託監督人には認められませんし,受益者代理は専属的に行使できることになると位置づけるのかなと考えられるところでございます。
それから,信託管理人に関する最後,資料24ページの(ウ)でございますが,資格について何らかの要件を設けたり,不適格者の範囲を広範なものとすることについてでございますが,消極的に考えております。
ただ,受託者不適格者に関する規律に準じまして,未成年者,成年被後見人,被保佐人,そして監督されるべき受託者自身を不適格者としてはどうかと考えております。
次に,2の信託監督人についてでございますが,受益者が受託者を適切に監督できない場合に,受益者にかわって受託者を監督する者として,信託監督人は重要な役割を果たすという観点から,信託監督人制度を設けるとの考え方に対しては賛成意見が多数を占めております。
もっとも,資料24ページの(ア)のとおり,信託監督人制度と受益者代理制度とを併存させることは不要であって,受益者が現に存しない場合の信託管理人制度と,受益者が現存する場合の受益者代理制度とを設ければ足りるとの意見がございました。
しかし,次のページの(イ)に書きましたとおり,信託監督人といいますのは,すべての受益者のための別表1の共益的権利を行使するものでありまして,信託の機関としての法的性格を有して,自己の名をもって権利を行使する。
ですから「信託監督人」という名称に仮称を変えているわけでございますが,そういう性質のものであるのに対しまして,受益者代理はあくまでも受益者の全部または一部のための代理人としての法的性格を有するものでございます。
このような性格の違いにかんがみますと,併存させることが相当と考えております。
それから,資料25ページの(ウ)でございますが,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為で信託監督人を選任していないという委託者の意思に反しない範囲で限定的に認めることが相当と考えております。
そこで,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為の当時には予見できないような特別な事情が生じまして,受益者が受託者を適切に監督することが困難な場合に限られるべきであると考えております。
したがいまして,他に受益者が多数であるというだけでは,この要件を満たさないと考えられますし,受益者が複数いる場合におきまして,一部の受益者によって受託者の監督が適切に行われているときにも,裁判所による選任要件を満たさないものと考えております。
最後に,資料26ページのイでございますが,信託監督人が選任された場合に,受益者にも重畳的に権利の行使を認めることにつきまして,信託事務処理の円滑性を害するのではないかという意見がございました。
しかし,そもそも信託監督人が行使する権利といいますのは,受託者の監督のために各受益者がそれぞれ単独で行使できる権利でございますので,重畳的な権利の行使を認めましても,いわば単独で権利行使できる受益者が1人増えたのと実質的には変わらないわけでございまして,信託事務処理の円滑性を害するとの批判は当たらないと考えております。
最後に,3の受益者代理でございますが,受益者が特定多数の場合ですとか,時々刻々とと変わるため不特定とされる場合につきまして,受益者保護の観点から受益者代理の制度を創設するとの考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。
まず,受益者代理の選任方法につきまして,26ページの3の(2)のアのとおり,受益者が時々刻々と変わる場合におきまして,裁判所による選任を認めないことに異論がございました。
しかし,この場合には,ある特定の時点を切ってみれば受益者は特定しているのでございますので,それにもかかわらず,信託行為の定めという私的自治によらずに裁判所が受益者代理を選任して受益者の意思決定権限を喪失させてしまうことになりますと,委託者の意思に反しますし,受益者の利益にも資さないことになると思われます。
そこで,試案と同様に,裁判所による受益者代理の選任は認めないこととしております。
それから,26ページのイの(ア)から(ウ)までの点でございますけれども,まず(ア)のとおり,受益者代理に対して信託の基礎的な変更に関する同意権を付与することに反対する意見がございました。
しかし,信託行為の定めをもって受益者代理が選任されている場合には,受益者も受益者代理が選任されて意思決定権限を専属的に有することを認識しているわけでございますので,基礎的な変更に関する同意権を認めるとしても,不測の不利益を受益者に与えることにはならないと考えております。
次に,(イ)でございますが,受益者代理が受益者に変わって信託の利益を受領する権限を信託行為で付与できるとすることについて,反対の意見がございました。
しかし,受益者以外の者が受託者から配当を一たん受領した上で受益者に配当を交付するというニーズは,現行の信託実務においても強く認められまして,信託行為の定めによりこのような方法を採用することを否定するまでもないと思われますし,受益者代理は受益者に対して民法上の受任者と同様の義務及び責任を負うことにかんがみますと,受益者代理に信託の利益の受領権を信託行為で付与することを認めても差し支えないと考えております。
それから,(ウ)でございますが,受託者の受益者に対する通知義務の取扱いにつきましては,多数の受益者にかえて受益者代理に対して通知することを認めれば,信託のコストの削減につながるということ,受益者代理は受益者の代理人であるとの位置づけであるところを,一般代理では代理人に通知すれば本人に重ねて通知することまでは要しないと考えられていることなどにかんがみまして,受益者代理にのみ通知すればよいと解しております。
最後に,28ページのウでございますが,社債管理者に関する会社法の規定に倣いまして,受益者代理が複数の受益者を代理して権利を行使する場合には,個別の受益者を表示することを要しないものとしてはどうかと考えておりまして,そのことは資料21ページの3の(2)のイで新たに規律を設けているところでございます。
続きまして,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係に移らせていただきます。
試案におきましては,本提案と同一の内容をパブリック・コメントに付しましたところ,甲案を支持する見解が多数を占めました。
資料30ページの2以下に記載いたしましたとおり,甲案を支持する見解
といいますのは,実体法上,信託債権を優先されるとした方が公平の観念にかなうということ,あるいは一般の信託においては受託者の固有財産も責任財産となるとはいいましても,信託債権者の信託財産に対する信頼を保護すべきであることなどを主たる理由とするものでございます。
これに対しまして乙案を支持する見解といいますのは,いわゆるABLスキームなどにおきましては受益債権と信託債権の経済的同一性をとらえまして,両方を同順位として組成している投資商品があること,あるいは信託行為により受益債権の劣後特約を締結することにより,柔軟なスキームの構築が可能となることなどを主たる理由とするものでございます。
しかし,事務局の考え方でございますが,乙案の言う受益債権と信託債権との経済的同一性といいますのは,ABLスキームなど一部の信託についてのみ妥当するものであるということ。
確かに,乙案のように原則として両者を同順位とした上で,別途信託行為により受益債権を一律に劣後させる旨の定めを置くことができるとした方が,より柔軟なスキームの構築に資する面があることは否定できないと思われますが,甲案によりましても,取引による信託債権につきましては受益債権と同順位とする旨の特約を取引の都度,締結することなどによりまして,ABLスキームなどに対応し得るだけの柔軟性は確保できると思われることなどを指摘することができると思われます。
以上のようなパブリック・コメントの概要と,とりあえずの検討結果を踏まえまして,いずれの考え方をとるべきかという点について御審議をいただければと思います。
続きまして,資料50ページ,営業信託の商行為性に移らせていただきます。
試案に対しては賛成意見のみでございます。ただし,信託法と信託業法との建てつけが強く関連されているとの理解を前提に,民事信託の拡充を図るという見地から,弁護士による信託の引受けは営業に該当しない旨のただし書きを付すことが相当であるという意見がございました。
しかし,この規律は,営業的商行為に関する商法第502条に1号を付加するのと同様の効果を有するところでございますが,商法第502条には,特定の業種の事業については営業の解釈から当然に外れることを前提とした除外規定は置かれておりません。
このことにかんがみますと,特に信託の引受けに限ってこの意見のような除外規定を設ける必要はないものと考えております。
なお,念のため,本提案はあくまでも私法上の商行為に関する規律でございまして,信託業法における信託業の解釈とは,理論的には別個の問題であることを付言させていただきます。
続きまして,第67の受益権の有価証券化についてでございます。
試案の考え方に対しましては,基本的に賛成する意見が多数でございましたので,以下では,個別的な意見に対する検討結果について御説明申し上げます。
まず,資料51ページの(2)のアのとおり,そもそも受益証券の発行を信託法によって一般的に認める必要はないとの意見がございました。
しかし,有価証券の発行手続や効力に関する規定を,私法である信託法に設けることは当然でございまして,あとは受益者保護等の見地から,必要があれば業法をもって対処すればよい問題であると思われます。
次に,受益権につき有価証券が発行されている場合には,受益権の譲渡に受益証券の交付を要することになるわけでございますが,資料52ページのイに書きましたとおり,受益証券が発行されているとは知らずに指名債権譲渡の方法によって受益権を譲り受けてしまった譲受人は,受益権は取得できないこととなって,その利益が害されることになりますので,受益証券の発行に関する公示制度を設けて,取引の安全を図るべきであるとの意見がございました。
しかし,譲受人としては,受益証券の発行の有無をあらかじめ受託者に確認することが可能でございまして,(※1)のとおり,受益者名簿または受益権の原簿の作成,閲覧の制度を設けることもあわせて考えますと,このような公示制度まで設ける必要はないと考えております。
次に,ウでございますが,受益証券を発行した信託を利用することにより,不動産の善意取得が認められたのと同様の結果になるのは不合理ではないかとの指摘がございました。
しかし,受益証券が発行されている信託においては,不動産を信託財産に含めることを禁止するというのはおよそ非現実的でございますし,不動産の善意取得と類似の状況が生じますのは,主として不動産のみが信託財産である信託におきまして,単数ないし少数の受益権が証券化されている場合であると思われますが,合理的な判断としては,このような場合には流通性の付与を目的とした有価証券化がされることはないと考えております。
結局,信託財産中に不動産を含めまして,これを受益権に化体させることにより善意取得の可能性を含む流通の強化を図ることは,信託の,いわゆる転換機能を重視する以上,むしろ当然あり得べき結論でございまして,先の批判は当たらないものと考えております。
それから,資料53ページのエでございますが,無記名式の受益証券が発行された場合においても,受益者名簿が作成された場合には,受益者名簿への記載をもって受託者対抗要件とすべきであるという意見がございました。
試案では,無記名式の受益証券については,受益者名簿の作成にかかわらず受益証券の占有をもって受託者と第三者の双方に関する対抗要件としておりまして,会社法における無記名社債についても同様の措置がとられております。
しかるに,無記名式の受益証券につきまして受益者名簿が作成されていない場合には,受益証券の占有で,受益者名簿が作成されている場合には受益者名簿の記載で対抗要件とするというような3つの選択肢といいますか,複雑な選択肢まで認める必要が果たしてあるのか,御意見を伺えればと考えております。
最後に,提案に付記した(注)についてでございますが,まず,受益権を振替制度の対象にするかという(注3)につきましては,パブリック・コメントの結果を踏まえまして,積極的な方向で検討を進めたいと考えております。
次に,(注4)の,いわゆる(仮称)信託債の制度に関しましては,パブリ
ック・コメントの結果,このような制度の整備に賛成の意見が多数寄せられまして,その場合,責任財産は信託財産のみとして,その発行には取締役会の決議を要しないものとすべきとの指摘がある一方,個人の受託者にも発行のニーズがあるとの指摘はございませんでした。
そこで,資料53ページの①,②に書いてございますとおり,ここでの(仮称)信託債につきましては,株式会社が有限責任信託,仮に入ればでございますが--において発行する取締役会の決議が不要な社債であると構成することによって,ニーズにこたえた適切な落ち着きどころと言えるのではないかと考えております。
この点についても,御意見があればお伺いしたいと思っております。
● それでは,たくさんありますけれども,よろしくお願いします。
● 第44の信託管理人等について,1点,御質問をお許しください。
この信託管理人,信託監督人,受益者代理の制度でございますけれども,具体的にこの管理人,監督人,代理についてはどういった類型を考えておられるか。
自然人なのか法人なのか,あるいは業をもってなすものがここに入るのか,そういったことをイメージで教えていただければありがたいんですが。
● 特にどのというか,法人であれ個人であれ業者であれ,特にこちらでは特定の類型を念頭に置いているわけではなくて,適切に信託行為なり裁判所で選任されればいいのではないかと考えております。
● 第44の信託管理人等の22ページの(ウ),最終計算の承認のところなんですけれども,信託管理人の方についてはいいでしょうということで,あと,信託監督人とか受益者代理が選任されているときに最終計算の承認権限かどうかというところで,相当ではないということなんですけれども,これはまさに実務的な問題として,これとはちょっと違うところで,実際に配当を受領するといったところがありましたけれども,例えば顧客分別金信託とか社内預金引当信託,これは終了したときに資金を受け取ることになっていまして,受け取ると,やはりその人が最終計算の承認をするというのが一般的なことですので,今現在の実務はそういう形になっているんですね。
といいますのは,各受益者は受託者の方からは顔が見えないということですので,各受益者に対して直接最終計算の承認をするということが実際にできないわけですね。このタイプの信託というのは,大体不特定多数の方々の財産を保全するための信託ということで,これから先も結構出てくるのではないかと思われる信託ですので,ここの部分については認めていただかないと,実務上しんどい部分があるかなと思います。
● 御意見はよくわかります。
● この資料を書きましたときは,ここまで受益者代理に認めるのは適当ではないのではないかといったことも考えたんですが,別表2をごらんいただきますと,例えば受託者の責任の全部又は一部の免除というのは受益者代理ができるとしておりますので,このように考えますと,受益者の代理人という受益者代理は,やはりこのような承認もできるようにした方がよろしいのではないかというふうに,今,事務局内部では考えておりまして,そのような考え方の当否につきまして,ここで御審議いただければと考えております。
● それに賛成するということですね。
● これは質問なんですけれども,22ページの(注3)のところで,これは今回変わったわけではありませんけれども,信託行為の定めで信託管理人と信託監督人または受益者代理の権限を変更することができるということなんですけれども,この権限の変更の範囲といいますのは,どこまでなんでしょうか。
例えば,信託監督人といいますのは別表1の権利だけということですけれども,例えば別表2の権利というのは,これは契約によって変わるんでしょうか。
● ここのところも,第三者にどこまで別表2の権限を委ねることができるのかということと関連するかと思うんですけれども,仮にそちらの方でOKということになるのであれれは,信託監督人にそういう権限を与えることもできますが,ただ,その場合に,自己の名前でするのかどうかというのは第三者の方と平仄を合わせる。
少なくとも信託監督人が自己の名前で裁判所の権利を行使できるのは,ここに書いてある別表1の権利に限られることになるのではないかと思います。
● 1つは,信託監督人の裁判所による選任の要件のところなんですけれども,例えば高齢者や障害者が受益者である場合に,そういう立場にあるので十分監督ができないといったことになったときには,この要件は充足されることになるんでしょうか。
実は,前回の中で,委託者の権限について制限するというような方向で確認いただいていると思うんですけれども,その中で,委託者側のとり得る手段として,この信託監督人を選任できるということがあったものですから,これが実際上,もし対応を考えるとすれば重要なところかなと思ったりしているものですから,ちょっと質問させていただいたんですけれども。
● その場合,その人だけが受益者ということで,ほかに適切に監督できる受益者がいないのであれば,それは選任要件を満たすと考えております。OKということでございます。
● そうすると,当初からそういう状態であっても,途中でそういう必要が出てきた場合には可能であると。
● 大丈夫です。
● 2つ目ですけれども,この御説明の中で,26ページから27ページの信託の基礎的な変更に関する同意権というところで,例として,会社の年金の受給権者に関するものが挙げられています。
この基礎的な変更まで認めるかどうかについては議論があり得るところかというふうには思っておるんですけれども,ここまで例として挙げられると,ちょっと難点が多いのかなと思っております。
例えば,年金の関係で,軽微なものといいますか,余り重大でないものについては受益者代理で同意をすることは必要なことかなとは思いますけれども,例えば,ここには基礎的な変更に関する例として出てきているものですから,そこまでということになりますと,例えば受益権の引き下げ,かなり引き下げることを代理でできるかということになると,それはやはり行き過ぎではないかと思われますので,この点については,少なくとも例としては,余り適切ではないのではないかと思われます。御検討いただければと思います。
3つ目に,これは意見なんですが,別表2の中で,先ほどもちょっと出ました12番の受託者の責任の免除に関する合意権なんですけれども,ここについては,受益者代理にこれを認めるということは,私の意見としては消極です。
やはり受益者の責任については余り簡単に免除できるというような規律をすることは,慎重であった方がいいと思いますので,この点については慎重に御検討いただけないでしょうかということです。
● まず,基礎的な変更の権限を受益者代理に与えるのかどうかという点ですけれども,ここは後で検討いたします第54の信託の変更のところと密接に関連するのですけれども,少なくとも受益者代理のところに限って申し上げさせていただきますと,受益者代理は委託者と受益者だけで解任もできますし,受益者代理と受益者との間につきましては善管注意義務の関係にありますので,仮にいけない同意等をすれば,損害賠償請求等もすることができるとなっておりますので,御懸念の点は,それで大分解消できるのではないかと思われますし,そもそも第三者に変更権限を委ねることにつきましても,事務局内部としましては,契約事由の原則があるので,そこをできないと言うのが果たして妥当なのかどうか。これはもちろん後で議論していただく点でございますが,そのように考えております。
それと同じように,責任の全部または一部の免除というものにつきましても,ここは受益者が多数の場合につきましては,やはり余り信託事務処理に関心を持っていないようなケースもあるかと思われますので,やはりこの点は信託の設計の中で,信託行為の定めに受益者代理を置くようなケースにおきましては,ここまで認めてあげても結構なのではないか,仮にこういうものが妥当でないと受益者が思う場合には,そもそもその信託の中に受益者は入ってこないということになるかと思いますので,それでカバーできるのではないかというのが現在の考え方でございます。
● 受益者代理について多少気になっている点が2点ございまして,1つは,受益者代理,「代理」という言葉がついているんですけれども,基本的にはこれは信託行為で定められるということで,具体的に受益者から何か授権があるというような関係ではないので,そこがちょっと,「代理」という言葉から感じるところとちょっと違うのかなという気がしておりますのと,信託の変更の場合には,変更の仕方について信託契約の中に書かれることになるんだろうと思いますけれども,この受益者代理の場合には,信託契約の中にどう書かれるかわかりませんけれども,もし代理を選任するということだけ書いて,その権限内容等が書かれないことになるのであれば,契約を見ただけではちょっとわからないといった問題もあるのかなという気がしておりまして,受益者の予測可能性等の観点からも,信託の変更の場面とはちょっと違うかなという気がしております。
● 一つの論点であることは確かだと思います。
ほかに,いかがでしょうか。
● 信託行為の定めで裁判所の行為の代理権も与えられるという点が,やはり
……。
社債型の信託を考えれば理解できないことはないと思うんですけれども,これは信託制度ですから,あらゆる民事,普通の信託でも何でも可能なんですけれども,そこの段階でやむを得ない状況がある場合というのではなくて,いずれにしても信託行為の定めによって受益者代理が定められて,そうすると裁判所の権限も与えられるということになると,裁判における弁護士代理の原則とか,その辺が潜脱されるおそれもあるのではないか。
それはそれとして違法である,脱法であるという議論をすることになるのかもしれませんけれども,一応そういう懸念が会内での議論ではされましたということをお伝えしたいと思います。
● その点に関しましては,現行法第8条につきましても,受益者が不特定の場合には信託管理人を選任することができるとなっておりまして,その中には,転々変化する受益者がいるから信託管理人を置くことができるんだという説明が立法・制定当時にはされております。
そう考えますと,今回の受益者代理というのは受益者が不特定の場合について,信託行為の定めで受益者を代理を置くということでして,現行法第8条第1項ただし書きの場合とほぼ同じことを考えていると言えますので,現行法の考えを維持しているという意味では,確かにおっしゃるとおり,弁護士代理の原則との問題があるかなということは認識してはおるのですけれども,どうにかなるのではないかなと考えてはいるんですけれども。
● 受益者代理にこれだけの権限を与えるのは,事務局の方もこんなに権限を与えてしまっていいのかと当初思っていたというお話がありましたけれども,私は今でも,こんなに権限を与えてしまうのか,なかなか受け入れ難いなと思っているところがあるんですが,いずれにせよ,権限を与える以上,義務も何かつくる必要があるのかなと考えたんですが,多数の受益者の場合の信託ばかりでなくて,どういう信託でも結局つくれることになりますから,何か義務の規定を考えられた方がいいのではないかと思いました。
● その点につきましては,(注4)で「信託管理人等の義務及び責任は,民法の受任者の義務及び責任と同様とするものとする。」という規定を置く予定ではございますが,これ以上に重い義務を課した方がいいという御意見でしょうか。
● そうです。
● 確かに権限が広いので,十分な義務も伴っていないといけないと思いますけれども,ここに書いてある以上にどんなことができるか,ちょっと検討してみたいとは思います。
いかがでございましょう。ほか,よろしいですか。
この信託管理人,それから監督人,受益者代理,結構重要な制度でして……
● 先ほどの義務を重くするという点につきましては,この部会の中でも御検討されたかと思うんですけれども,そのときの御検討の結果といいますのは,ここで仮に受任者の義務を重くすることになりますと,委任のところにおける受任者の義務との平仄が合わなくなるのではないか,そう考えますと,ここでは受任者の義務と同様にするということにした上で,解釈に委ねておくのが適当ではないかということではなかったかと思うんですけれども,その点はいかがでしょうか。
● そのときの受益者代理権限と今回の受益者代理の権限が随分違っているので。
● そのときも,「信託管理人」という名前であったかもしれませんが,できる権限について,このように広く認めるというところは同じであったと認識しておるんですけれども。
● 現行法との比較で言うと,今まで信託管理人という一つの制度で,実はいろいろなものをたくさんその中に盛り込んでおりまして,それを機能分化して整理すると,こういうふうに分かれて,これである程度適切な対応ができるのではないか。
いろいろ不十分であったり,細かいところでいろいろな問題はまだあると思いますけれども,基本的に,この信託管理人,監督人,受益者代理というふうに分けて考えると,今までの需要にも応ずることができるし,適切な対応ができるのではないかということだと思います。
ただ,細かいところで今のように,受益者代理にもうちょっといろいろな義務があった方がいいとか,いろいろな問題があるわけでございますが,規定ぶりはもうちょっと検討いたしますけれども,もし基本的な御承認がいただければ……。
先ほどの御意見は踏まえながらまた検討したいと思いますけれども,いかがでしょうか。
● 受任者の義務だけで足りるかということで,公平義務のようなものはあり得るんでしょうか。社債管理者はそういう義務をたしか課されているんですが,あれは善管注意義務からも,当然には出てこないという前提で入っていたと思うんですが,多数の受益者を相手の管理人,例えば受益者代理などであれば想定し得るとすれば,多少考える必要があるような気は--重く,軽くではなくてですね。
● それは規定の形になっているんですか。
● 商法ですか。なっています。
● ある程度,類推適用がそんな簡単にできるかどうかわかりませんけれども,今の公平義務みたいなものが,例えば解釈なりで加わる可能性があるのではないかという感じは,ちょっとしているんですけれども。規定がないとどうかという気がいたしますけれども。
いかがでしょうか。大筋では御承認いただけるということで,よろしいでしょうか。
ほかの点は,いかがでしょうか。
● 第51の受益債権と信託債権の優先劣後関係について,確認と意見を述べたいと思います。
そもそもこの問題については審議の後半に入れておりまして,十分な審議がなされているかというと,もうちょっと議論が必要なのかなと思っております。
問題の立て方であるとか受益債権の考え方について,パブリック・コメントにも出ましたように若干の混乱が,また認識の違いがあるように思われまして,実際に資料30ページの(注1)にありますように,こういうような問題の立て方についての認識の分かれがあると思っております。
本点については,そこら辺の問題の立て方について,まずは共通認識を持っておかなければならないと思っています。
そこで,一つの確認なんですけれども,私はこの問題について,以下の3つのレベルに分けて考える必要があると思っておりまして,一つの整理の仕方なんですけれども,1つは,いわゆる受益債権について,例えば信託計算が終わって期限が到来して,具体化された債権についてどうであるのかという話です。
2つ目は,期中の債権でありまして,典型的な問題状況としては,いわゆる社債型の1年に100万円払うというような受益債権である。これを債権と言うのかどうかはまた別の議論になりますけれども,そういう期中においてどうなのかという話です。
3つ目につきましては,信託が終了したときに残余財産の分配において受益債権がどうなのかという話です。
私は,この3つに分けますと,ここで論じるべきものは2番目なのかなと思っております。すなわち,1番目について具体化された債権については,恐らくこれは受益債権であれ信託債権であれ,通常の一般債権であるわけですから,これは同順位であるということについて,余り異論がないような気がしております。
ですから,ここで余り論じる必要はないのかなと思っております。それから,3番目の残余財産の分配権については,これは受益債権の方が劣後するということも認識は同じであるのかなと思っております。そこで,2番目がここで議論するべきものなのかなと思っております。
まずはこのような問題の立て方でよいのかどうかということを,提案なのかもしれませんけれども,ちょっと御確認したいと思います。
そこで,私ども銀行界としてもいろいろ議論した中で,そういう問題の立て方とか状況がよくわからないなという中で,意見としては甲案,特に信託債権者の立場から,甲案の方がいいのかなと現時点で思っているわけでございますけれども,それについての理由を述べたいと思います。
1つは,前提としては,やはりエクイティといいましょうか,実務的な認識としては,一部例外的な実務運用はあるかもしれませんけれども,全般としては,やはり信託債権と受益債権と比べれば信託債権の方が優先すると思っているわけでございます。
そのように実務運用がされているということでございます。
2番目に,経済実態的に考えますと,仮にそれが,信託という財産があって,それに対してのファイナンスということを考えれば,今まで信託債権が優先するというふうに考えていましたので,引当財産というのは信託財産であると思って与信の判断をしていたということでございます。
ところが,これが仮に受益債権も同列である,かつ,それがいわゆる社債型の定期給付型も同順位であるということになりますと,その債権の額が一体幾らなのかということは,もちろん信託契約とか見なければなりませんし,また,それの変更もあり得ることを考えれば,当然のことながら,自己の信託債権の同順位者というのがもちろん増える,プロラタになるわけですけれども,増える。
また,その受益債権の金額も十分に計算できないということもあり得るわけです。
そうしますと,その信託財産に係る与信全体を見ますと,いえば信託債権者からすると,隣にいる受益債権の金額がわからないだけ,ある意味,保守的に与信判断をすることになると思いますので,全体の枠としては与信額が下がるのではないかと思っています。
いわゆる萎縮効果になってしまうのかもしれませんけれども。
そうすると,いわゆるファイナンスの観点から,また経済的な観点からすると,やはり債権者をまず保護して,そして受益債権を劣後させる方が,デフォルト・ローであることを前提にしますけれども,その方が経済的には妥当だと思っています。
2番目に,実務的な観点からして,受益債権というのもいろいろ,設計によっては劣後債権,優先債権とかあるわけでして,これが信託債権と並びますと,この3つの中で一体どれが優先するのか,よくわからなくなってしまうのではないかと思っています。
信託債権があって受益債権があって,これが同順位であるとなるのが乙案なんですけれども,その中で,受益債権の中で優先劣後というのが出てくると,では,その2つの受益権の中では優先劣後があるわけですけれども,信託債権との関係が,そこだけではわからないわけですから,これは実務的にもなかなかうまくいかないのではないかと思っています。
これは一部パブリック・コメントにもありますけれども,あとは理論的な話で,これは一つの商品設計的な議論だと思うんですが,やはり受益債権というのは受益権としてのコントロール権を持っているわけですから,株券とも同じだと思うんですけれども,そういうものがあるからこそ,一般債権よりは劣後することが妥当ではないかと思っております。
他方,乙案に関してのニーズがあることは認識しておりますけれども,これはやはり信託全体からすると,私どもの認識では,それほどないのではないかと思っておりまして,そうすると,全体的にはどちらをとるかということであれば,甲案の方がよろしいのではないかと思っております。
無論,甲案としたとしても,これはデフォルト・ローであって,先ほど○○幹事から,同順位としたいのであれば同順位の特約を設ければいいという御説明がありましたけれども,そういうふうな対応でやればいいと思いますし,現状もそうしているのではないかと私は思っております。
ただ1点,御提案とすれば,この提案では乙案のときの劣後特約が有効であるということを裏の意味から認めることを明記する,明確化しておりますけれども,甲案であったとしても,今度は逆に,同順位特約が信託法上,有効であるということの明確化を図っていただければありがたいなと思っております。
● 今の○○委員のお話,また,この甲案,乙案の今回の検討課題の中の説明でも,立法提案ですから,ある意味では政策的な視点からの議論が中心になっていると思うんですけれども,この論点に関しましては,まさしく検討課題の中でも書かれているように,実体法の問題ということなので,やはりまずそこから考えていく,そしてその後に,甲案,乙案どちらがいいかというわけではなくて,仮に実体法上,劣後することにいろいろな問題があるとしたら,その問題点について逐一条文といいますか,立法的に対応しておく,こういうことをしないと,一般的に優劣を決めてしまった場合,今,デフォルト・ルールというお話がありましたけれども,相対でのデフォルト・ルール--相対で契約するのは別にデフォルト・ルールというわけではありませんから,一般的にだれかとだれかが約束したからといって優先劣後が全部引っくり返ることはないと思うので,デフォルト・ルールではないと思うんですよね。実定法上,もう順位が決まるということだと思うんです。
そうすると,余り例はないかもしれませんけれども,実体法の議論ですから議論しても構わないと思うんですが,例えば信託受益権に担保をつけたい。
それは受託者にとっても将来何らかの形で,その信託財産が毀損されたら嫌だとかですね。そのときに,受益債権に担保をつけるといったときに,その担保は有効や否や。
民法的には有効なはずですけれども,ところが,担保付債権が無担保の一般債権より劣後するというシチュエーションが生じるわけですね。それが一つの例。
もう一つ二つ,似たような例としては,一般債権が強制執行したときに,配
当加入していたときにどういう扱いになるかということもありますし,逆に,担保をつけなくても受益権者が,受託者が配当してくれないので強制執行していった,そのときに,他の一般債権者が入ってきたときに,強制執行した人が実は劣後的に扱われる。
それは扱えばいいではないかという一つの議論があるかもしれませんが,そういう実体法上の問題がある。
もっと由々しき状況としては,信託の破産とか受託破産とか,そういう状況に関連するのかもしれませんけれども,一般的に劣後するということは,最終的に信託債権が弁済できないときに,受託者から受益者に対する受益権,受益債権の支払いというものが,ある意味,法的には,本来払うべきものでなかったのに払ってしまったということで,受益者は不当利得を得た,株に関して言えば違法配当を得たようなシチュエーションが生じてしまうのではないかと思うんですね。
払った時点においては,それは認識しなかったかもしれませんけれども,最終的にはそういう状況が生じる。また,そういう状況が生じるがゆえに,受託者としてはやたらに払うわけにはいかないというような,やや萎縮的な効果も出るかもしれません。
……等々いろいろ考えていきますと,やはり手続法レベルの議論は別としまして,一般的に債権に優劣をつけるということは,実体法上,いろいろな問題が生じてしまう。だから,そこから先の,とはいいながらも甲案がいいんだという議論は政策的な議論ですから,それはそれで傾聴に値しますけれども,そうすると「受益権とはこういうものである」とか,いろいろと例外的な扱いということを議論し,規定していく必要が出てくると思うんですね。
ここから先は判断の分かれるところですが,そういうような非常に難しい問題を果たして議論していくというか,個々に解決していくべきかどうかというと,従前でも,この議論というものは特にクローズアップされずに,またはそれぞれ思うところもあってやってきたのかもしれませんけれども,今の段階で優劣をつけることによる立法というものが,逆にどれだけ意味が出てくるのかなという意見を持ちます。意見です。
その辺は価値判断の問題だと思うんですけれども,実体法の問題としては,多少頭の体操的なところがあるかもしれませんけれども,やはり債権に優劣をつけるということは,いろいろなところでひずみが生じるのではないかと思いました。
● なかなか難しい問題をたくさん提起されましたね。
時間の関係もありますので,議論が途中になるかもしれませんけれども,あとお一人ぐらい。
● 最後,どうせ詰め切れないと思いますので,一言だけ申し上げますが,○○委員の3つの分け方,見事だと思うんですけれども,計算して確定している受益債権,既に発生している。
これは当然に平等ですよねというのは,必ずしも当然でないような気がします。
つまり,株式の配当ですと,配当制限等がいろいろあって,むやみに配当してはいけないというのがあるわけですので,それが決定したという場合と,例えば信託行為で月々何十万円と決めて受益とさせることになって,それが弁済期が到来したということになりましても,それは本来は債権者に弁済した残りの額を払うべきなのであって,30万円の弁済期が到来したからといって当然に平等になるわけではないような気がいたしますので,結論としては平等にするということでいいのかもしれませんけれども,「異論がない」とおっしゃられたので,異論もあり得るのかなということを,もし検討する際には考慮に入れていただければと思います。
● そこも含めて,恐らく議論があるところだと思います。
● 私も3つに分けられたところで,ちょっと。
3番目の残余財産なんですが,ここは恐らくパブリック・コメントでは,すみませんが,私どもの補足説明の書き方が悪くて勘違いされた方がいらしたと思いますけれども,恐らく部会の中では皆さん同じようなお考えで,②は定期的な話で,まさに今の①のところ,その具体化した,あるいは確定したから何か性質が変わるんだというところが私もよくわからないところがございまして,これは確認なんですけれども,受益債権ですと物的有限責任になりますということなんですけれども,その性質自体も失われる,そんなことはないわけでございますよね。
● それは同じでしょうね。
● 「独立性がある債権になります」と言ったからといって,物的有限責任制は失われない。
だけれども,順位としては平等になるというのは,どういう理屈でそういうことになるのかなと。つまり,受益債権と言えば物的有限責任だというような,コアといいますか,そういう重要な性質があって,そこは変わらないんだけれども,順位の問題としては,弁済期が来たからというような異存があり得るのかどうか,その辺が私にはいま一つわからなかったんですが,今日はもう時間がないので,また次回以降かと思いますけれども。
● これは予想どおりというか,政策である程度決めるべき場所かもしれませんけれども,理論的には非常に難しい問題を抱えておりまして,すみませんが今日はたくさん残してしまいまして,また次回,もうちょっと効率的にやりたいと思いますけれども,今の問題も含めて,これはもう一度ここで御議論していただくことにいたします。
● ほかの論点でも議論があるんですが,それは次回以降,持ち越しということでよろしいですか。
● すみません,次回にさせてください。それでは,これで終わります。
-了-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第23回会議 議事録
第1 日 時 平成17年10月21日(金) 自 午後1時03分
至 午後6時40分
第2 場 所 法務省第1会議室
第3 議 題 信託法の見直しについて
第4 議 事 (次のとおり)
議 事
● それでは,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
前回の積み残しも若干ありますので,それを含めてまた適宜区切って行っていきたいと思いますが,最初にちょっとお断りをしておきたいのですが,私が大学の仕事の関係で途中で退席をさせていただきまして,その後,議論が残っていた場合には○○委員に部会長代理として議事の進行をお願いしたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。
● 最初に,審議スケジュールのことでお手元にお配りしました紙について御説明いたします。おかげさまで部会の審議も着々と進んでいるわけでございますが,しかし,御承知のとおりなお議論すべき論点も多々ございまして,あくまで予備日という位置づけではございますが,1月20日ということで,部会長とも相談の上,案として提示させていただきました。
予備日とはいってもほぼ確実な予備日ではございますが,ただ実質的な議論は12月中に終えまして,1月20日は実質的議論はほとんどないものを期待しているところでございますので,そういうことで1月20日を追加するということで御了承いただければと思いますが,よろしいでしょうか。
では,そのようにさせていただきますので,どうぞ御協力をお願いいたします。
● では,本日の議事に入ってください。
● それでは,本日の議事でございますが,まずは前回の積み残しからやらせていただきたいと思います。前回の最後の時間で,信託管理人等と受益債権と信託債権との優先劣後関係,それから営業信託の商行為性と受益権の有価証券化,この4つについて御説明いたしまして,信託管理人等につきましては議論が終わっていると承知しておりますので,本日は前回途中になりました受益債権と信託債権との優先劣後関係からまた御意見をちょうだいできればというふうに思っております。
● それでは,積み残された議論につきましていかがでございましょうか。
優先劣後関係につきましては,これもかなり理論的には重要な問題だと思います。
従来余りはっきりしていなかった点でございますが,ある程度明確にし,まだ解釈でいろいろ多少グレーゾーンが残るかもしれませんけれども,大体こんなところでいいかどうかということですね。
では,○○委員から先にどうぞ。
● 前回の議論の続きということでちょっと確認ということですが。優先劣後に関して,議論の土台を明確化してほしいという問題提起をしたわけでございますが,その後に○○委員の方から,例えば株式会社における違法配当の場合には結果として債権者が株主に対して取り返すことができることがあるという御指摘であるとか,あと○○関係官の方から債権の方に有限責任性があるというような指摘があったと思いますけれども。
ただ,もちろん受益債権と信託債権についていろいろな制限があるということは承知しておりますが,ここで多分議論すべきということはそういう特質は別として,じゃあ,例えば倒産した場合に配当表において一義的にそれが劣後債権となるのかどうかというその基本的な考え方をここで議論するのがよいのではないのかなと,そういう問題提起でございます。
ちょっと前回の意見を再度繰り返させていただきました。
● そうですね。私が申し上げたのもある程度そういうことなんですけれども,これ細かい問題はいろいろ残るかもしれませんが,基本的にはどういう立場をとるのか。
ただ,基本的といいましても,この受益権が具体化する前と具体化する後で違うかもしれませんので,そういうことも含めて,しかし,基本的な考え方を一応ここで確認しようと,そういうことです。
では,○○委員。
● ちょっと前回の繰り返しになるので一言だけで。やはり理論的なというと大げさですけれども,ちょっと理屈の面での幾つか指摘を前回させていただきましたけれども,ぜひその辺についてクリアにならなければなかなか難しいのではないのかということと--これはほぼ前回の繰り返しですけれども。
あと,ちょっと別の研究会で議論したときに出た議論なんですけれども,例えば既発生の信託債権といってもいろいろなバリエーションがあり得るのではないかということ考えられると思います。例えば実際に信託の解約で済むようなもの--例えば信託元本を10年に分けて10回ずつ払いますと。
ですから,収益部分の株式配当のような収益部分に対する信託元本を配当しますと,配当といいますか配りますと。ですから,その信託の解約でもいいと思うんですけれども。
じゃあ,それがどの時点で既発生で,どの時点で未発生なのかとか,いろいろなバリエーションがあって,それぞれについての優先劣後を考えていくんだろうかというようなことも考えます。
また,理論的に,民法の世界の議論かもしれません,理論的に債権について優先劣後を設定するというのは極めて困難な問題が多いのではないか。
私の投資実績,例えば中間法人の出資とか債権だと思うんですけれども,そういうのに関しては例えば払い戻しができないとか,要するに弁済をしないという形で優先劣後性をある程度担保していると思うんですけれども,信託債権についてはそういうことはもともと意図されているものではありませんし,株式についても本来出資したものは戻ってこない立て付けになってますけれども。
信託というのはやはり受益者に配当して初めて意味があるわけですから,それに対して一般的に劣後ですということにしたときの弊害もありますし,それは考え方というか政策的理論だからいいですけれども,理屈の面でなかなかすべてのシチュエーションに立法的に対応するというのはどうしても漏れが出てきてしまうのではないのかなと,こんなふうに思いますけれども。
● 重要な御指摘だと思います。なかなかすべてを見渡した上でどういうルールが建てられるのかということだと思いますけれども,なかなかそれが難しいであろうと。
特に優先劣後をつけるとなると難しいだろうと,そういう御指摘ですね。
ほかに御意見ございますでしょうか。
● パブリックコメントの結果をちょっと見せていただくと,この点については必ずしも甲案支持が圧倒的多数というふうに私感じませんで,乙案を支持している意見,あるいは補足,どちらでもないけれども,いろいろな意見が寄せられているわけですけれども。それ踏まえて,ちょっと意見というよりは質問になってきてしまうかと思うんですが。
提案の中で乙案の方の注として,乙案を採用した場合において信託行為によって劣後特約が一律に効力を有しないことにはならないことを前提としているというようなことを書いてあるんですが。
甲案についても,特約による同順位の合意を強制力あるものだという形で認めるということはできないんでしょうか。
甲案について合意による同順位化を認めるというふうなことにすれば,ひょっとしたら恐らく,いろいろな意見を提出された方はいらっしゃるかと思うんですけれども,大多数の方の,少なくとも実務面でのニーズは満たされてくるのではないかなというふうな気がしておるんですけれども,いかがでしょうか。
● どうぞ,何か。
● 甲案の場合ですと,信託行為で定めたことによって信託債権を劣後させるということはできませんけれども,ただ個々の取引において受託者と信託債権者が合意することによって受益債権と同順位するという特約もすることは可能だと考えております。
ですから,契約ごとにやらなければいけないという手間はかかりますけれども,そういう特約も当然できるのではないかという前提で考えております。
● よろしいですか。そこまでは恐らく甲案を指示される方も大体認めてくださると思っていますけれども。甲案というのは,私が言うべきことではないかもしれませんけれども,信託実務などではある程度こういうものだという前提で考えてきたものでありまして,そういう意味ではどういう順位にするという立場は多少実務的な感覚からするとかなり大きな変更を強いられるというところがあるわけですね。
ただ,理論的に甲案というのは難しいということになってしまえばもちろん甲
案はとれないと思いますけれども,いかがなものでしょうか。ほかに御意見ございますか。
○○委員などはどういうふうに。信託協会はもう既に御意見が出ているかもしれませんが。
● 信託協会というふうにいいますと意見が割れておりますので,明確にどちらかということは言えないんですけれども。いわゆる実務的感覚といいますか,今まで信託業界にとってはやはり甲案といいますか劣後するというような感覚のもとで実務を行ってきたというところがあります。
ただし,やはり乙案のところのよさというものもありますので,今のところは業界内で議論していても両案あるというところですので。
● 確かにどちらも特約である程度乙案から出発しても優先劣後つけることはある程度できるし,甲案から出発しても同順位にする特約もある程度可能であるというので,両者はかなり接近はするんでしょうけれども,非常に細かいことをいうといろいろそのしやすさというか,難易度があったりするんだと思いますが。
ここでの御意見は,甲案,乙案,相半ばしているとそんな認識でよろしいんでしょうか。今までもし御意見を言っておられない方は,あえすどちらを強く支持するほどではないというそういう御意見だということでございましょうか。
はい,○○幹事。
● どちらを支持するというわけではないんですけれども,解釈論的にはいろいろわからないところがありまして,もちろん債権について責任財産限定特約がついている場合とついていない場合で大分利益状況が違うんだと思うんですが,仮に受託者が債権者に対して固有財産から弁済したということになりますと,その求償権というのは現行法ですと他の債権者が先立つことになるわけですよね。
そうなりますと,その信託債権より恐らく勝つんじゃないかなという気がするんですが。
それでいいのか,そういう解釈論でいいのかというのが1つ前提にありまして,そうなりますと甲案かなというふうに思うんですが。
先ほどから出ております特約との関係でそのシステムというのがどういうことになるのかというのがちょっと頭の中で整理がついておりませんで。
つまり,債権者同順位であると,破産状態では同順位であるというふうになったときに,では,受託者が固有財産から支出したということになりますと,その求償権というのは同順位であるという性格を持った形で生じるというふうに考えないと,受託者が弁済すると債権者がといいますか,同等ではなくなるという,受益債権の額が減っていくということになりますので,その辺もちょっと解釈論的にはよくわからないですね。
さらにもっと言えば,これ私発言したのかだれかの発言なのか思って書いたかわからないんですが,私のところのメモには受益債権に担保を信託財産からつけたらどうなるのだろうかという鉛筆書きのメモがあるんですが,これはどなたかが発言されたのか,自分が思ったのか,2週間たつと全部忘れてしまいますのであれなんですけれども。
そういうときにはどうなるのかなというのがわからないんです。私は基本としては甲案の上でそういうふうなところについての解釈的な整備をしていくということなのかなと思っていますが。
● ほかに,○○委員,どうぞ。
● 私も甲乙どちらかというわけではないんですが,甲案が理論的に不可能かというとそれは必ずしもそうでもないんじゃないかという気がいたします。
すべての債権は平等であってという原則があるのかもしれませんけれども,しかし,それは一定の場合に比例弁済を受けるということであって,政策的にあるカテゴリの債権を優先するあるいは劣後するということはできなくはないんじゃないかなというふうに思います。
ですから,最終的には実務の御要請との関係にも立つと思いますが,理論的に甲案が不可能だというわけではないのではないかと思います。
● ○○委員。
● 基本的というところで○○委員に反論するのは極めて大変なチャレンジなんですが。
先ほど○○幹事もおっしゃられた,債権だと担保つけられますけれども,そのときに一般債権との関係で担保実行しようとしたときの関連はどうなるんだろうかということと。
あと,前回も申し上げたかと思うんですけれども,年金なんかであり得るかもしれません,ずっと配当していって企業が破綻して,最後の方の配当をしようとしたところにちょっと足りなかったと,信託債権も残っていたというような状況のときに,以前に配当された方々は不当利得,全員といいますか比例配分でしょうけれども,不当利得になると思うんですね。
実行の理論は別としまして。そういう場合に,政策的にそれでいいのかという議論もありますけれども,これは政策の議論なんですかね。
そういうことになるとすると,結局最後まで銀行の劣後ローンとかそういうのもそうですけれども,要するに債権に順位があるというとやはり既に上位債権は全部払った後に初めて払うというところまでその優先劣後性というのが担保されることになるんじゃないかと思うんですけれども。
ちょっと後者の方がやや理論的なのかもしれませんけれども。政策的かもしれませんけれども。配当管理の点,○○委員が書かれた信託協会のところにもちょっとその辺の議論はされていたと思うんですけれども。
それは強制執行との関連でもそうやっていうんですが,その辺はどういうふうに理論的に解決されるのかお伺いできればと思うんですが。
● 何かございますか。
● その優先劣後が一体どの舞台,場面で出てくるかという問題だと思うんですね。それで,その執行の場面でどういう順位をつけるか。それは,実体法ルールに従って配当するということになると思うんです。
それから,破産の場面でどう扱うのかというような,その場面場面で優先劣後が決まってくるわけでして。それぞれの場面においては,優先劣後というのは政策的に決まり得ることだろうと思うんです。
そうしますと,一律にある債権について優先させられ劣後させるということが絶対に不可能だということにはならないだろうということです。
● わかりました。どうぞ。
● ○○委員がおっしゃっている,○○幹事がおっしゃったところなんですけれども。劣後するという前提のもとでの受益債権に担保をつけるというのがおかしいのではないかというか,どうなるんだろうということなのですが。
すみません,ちょっとよくわからなかったんですけれども,一般債権に担保をつけることは可能で,そうすると労働債権と優先権のある債権が結局優先していってしまうわけなんですけれども。
それとはちょっと違うことになり得るだろうということなんでしょうか。つまり,抵当権なら抵当権の効力が勝つのは当然なのかなという感じがいずれにしてもするのですが。
● 劣後に担保がついたときに一体順位がどれぐらい繰り上がるのかという議論だと思うんですね。それは倒産の手続の中に入っても劣後的債権との順位はどうなんだろうかとか。
劣っているもの同士の中でもいろいろな順番づけがまた出てくると思いますし,担保というのは普通は1ランク上といいますか,担保がつくことによって一般債権よりも優先弁済権が確保されますけれども。劣後債権に優先弁済権が確保された都に一般債権との関連ではまだ一般債権は超えられないんじゃないのかと思うんですよね,一般的に劣後していれば。
そこも立法的に対応して担保つけた場合には,一般債権よりも上になりますという2段階しますということで対応するのであれば,それは1つの考え方かなと思いますし。
○○委員がおっしゃるように,それは執行のところで法整備をするということであればそれはそれかもしれませんけれども。理屈では別につけられないんじゃなくて,つけた後の一般債権との順位はどうなるのかという質問なんですけれども。
● 恐らく一般債権よりも優先権のある債権等々,先取特権ですね,そういうものよりも上にいくというのが抵当権の効力として認められているので,そちらが優先していくんじゃないのかな。
つまり1個上がる2個上がるという議論というよりは抵当権の効力として優先権のある債権よりも,先取特権よりも上にいく,あるいは一般債権よりも上にいくということにならざるを得ないのかなという気がするのですが。そういう整理ではよろしくないのでしょうか。
● それはそれでもいいというか,よくもないんですけれども,気がするんですけれどもね。弁済はされたけれども,受領した後はとっている人が先受領してしまったみたいなことになるんじゃないかなと思うんですけれども。
ですから,普通劣後債権とか無担保であることが多分前提だと思うんですよね。
銀行の劣後や何かで。担保つけるということ自体の,議論自体の整合性がなくなってしまうので。
● 今まで余り議論したことのない問題で。
どうぞ,○○幹事。
● 感想めいたことで恐縮なんですけれども。一般的にはやはり○○関係官のおっしゃったようなことになるのではないかと。抵当権という形で担保権がついているのであれば,被担保債権が本来は劣後する性格の,もともとは一般債権であれば劣後するものであったとしても,担保債権になっている以上はそちらでカバーされるのであれば,優先的な地位がそのまま付与されることになるのではないかと,破産手続後に発生した利息ですとかそういうのは本来劣後的な破産債権でなるところ,被担保債権であればカバーされるということになるのではないか。間違っていたらまた訂正していただきたいのですが。
ただ,○○幹事のおっしゃった点は,本来資本的なというか,そういうような性格であるものについておよそそのような優先的地位を付与することが受益債権の性質に反しないかという問題提起ではないかというふうに思いまして。例えばこういうことがあるのかわかりませんけれども,株主の地位から発生する一定の請求権を被担保債権として抵当権をつけることができるのかとか,約定劣後破産債権になるようなものに論理矛盾に近いわけですけれども,担保権をつけることができるのかとか。
そういう点から出てくる御議論なのではないかと思います。
ただ,その点につきましても,もともと甲案であれ乙案であれ,合意によって債権の順位を左右するということは可能であるという前提で,したがって,もう少し高くするということは妨げられない,あくまでデフォルトの問題だという整理をしているということと受益債権というのはやはりそういう完全なエクイティーよりはもう少し操作性の余地のあるものと。
ただ,それによって実質的に劣後する人の合意なくして設定できてしまうということが若干嫌らしい面はあるのかもしれませんけれども,そういうふうに考えますと,○○関係官のお答えのようなことになるのではないかというふうに今は理解しております。
● ○○委員も同じ問題に関連してでしょうか。
● ちょっとごめんなさい,混ぜ返す話になるかもしれませんけれども。劣後という意味がやはり大切であって,例えば劣後債権と相殺をするという場合に,例えば一般債権と劣後債権と相殺を考えるときに,例えば相殺適状状況が劣後債権の方が早かった場合に相殺してしまったというときに,結果としてどちらが優先しますかというと劣後債権が優先することもあるわけです。
また,劣後といっても例えば銀行劣後債みたいに劣後のやり方として停止条件付きな劣後債権ということであれば,そもそも担保をつけたとしても当該被担保債権が発生しないからそれは劣後になるという話だと思いますので。
ですから,ここは私のきょうの一番の話と同じで,やはり想定するシチュエーションをどこに置くかということを定めて,基本的にはどう考えるかということを議論しなければ,多分いろいろなパーツパーツでやるといろいろな状況があってそれは違いますよねという議論になるので,非常に混迷するのではないのかなと。実際にその内部で検討したときも非常に混迷していますので。
そこまでいろいろ議論するのであれば,非常にこの議論,テーマというのは重いというかもっと検討すべきことが多いとは思っております。
● それはおっしゃるとおりでして,今もいろいろなシチュエーションごとに必ずしも同じでなくて多少政策的な観点からもバリエーションがあり得るということでもありますし,すべてを詰めきって議論するというのは非常に大変な問題なんですね,これは。
そういう意味で理論的に本当にこれで耐え得るかというところはもうちょっと検討しなくてはいけないと思いますけれども,ここでは皆さんの御意見の中で必ずしもどちらでなくてはいけないというほど強い御意見はなかった。
ただ,理論的にはどちらの方がいいのではないかということで,今,甲案を支持される方と乙案を支持される方とが両方おられるという状態ですけれども。しかし,理論的に十分どちらかでも耐え得るものであればどちらでもそれほど異論はないと,そういう御意見だったというふうに一応理解いたしましたが,それでよろしいでしょうか。
もしそれよろしければ,これは理論的に詰めますけれども,甲案であっても乙案であっても理論的に詰めた結果であればどちらでも構わないという御意見だったのかなと思いますが。
○○関係官,何か補足がございますか。
● これはもしかしたらこういう考え方があるのかという程度のお話ではあるんですが。甲案と乙案の違いのところで,特に甲案側からの意見として,会社であれば配当規制のようなものがあるけれども,信託においては一般的に配当規制はとにかく今はないということなので,やはり甲案がいいのではないかというような御意見がありまして。
あるいは乙案の方がいいという御意見の中にも実は一般の信託においても配当規制,会社と同じような配当規制というのは通常での信託にというのは無理なのかもしれないですけれども,例えば純資産額がマイナスになっているときに,それを超えて受託者が弁済というか,支払をしたというときには,何らか受託者が責任を負うとか,あるいは受益者のところに取り戻しに行くというか,不当利得の返還を請求するというようなこととセットで乙案なんだというようなお考えもあるやに聞いているんですけれども。
その乙案を御支持される,御支持というか,いいかもしれないというような御見解の方の中にはやはりそういうほかの,つまり,ここでどういうようにするというだけにとどまらず,そのほかのもう少し手当とセットで乙案がよいのではないかという意見もありそうだという話も少し伺ったのですが,その辺いかがか,もしよろしければとお話を伺えればという気が。
● いかがでしょうか。○○委員の意見は少しそれに近いですか。
● ですね。私は近いといえば近いし,甲案というのは理屈で成り立たないんじゃないかといまだにちょっと思っているところがあって。
政策的に甲案の趣旨はわかるし,乙案にとってもセットでという議論もわかるんですけれども。ですから,そういう趣旨だといったらいいんでしょうか。
● わかりました。どうぞ。
● 先ほどの,ちょっと私どもの立場を明確にするために発言するだけなんですけれども。
どちらでもいいという強い希望があるというわけではないんですけれども,どちらかということであれば,銀行業界としては債権者の立場から立つと甲案の方が望ましいなということは前回の審議でもお話ししましたとおりでございます。
ただ,強い希望があるのかと言われると,そこはまだ検討中だということでございます。
● わかりました。恐らく御意見の分布はこういうことだと思いますけれども。多少政策的な観点を入れると甲案の方がいいのではないかという御意見が,政策的な観点からは多少多いのではないかと思います。
理論的に甲案で本当に大丈夫なのかということについての,しかし,御懸念もあり,そういう観点から乙案を支持される方もおられる。意見分布としては大体そういうことなのではないでしょうか。
その政策的な観点からということであれば,甲案の方が支持者は若干多いと。
しかし,本当にこれで理論的に大丈夫かということは,まだちょっと詰めますけれども,基本的に甲案でいけるかどうかという観点から議論させていただいて,やはり理論的に難点があるということであれば,また乙案に戻ることはあり得るかもあれませんが。
とりあえず今の段階でそういう整理をさせていただくということでいかがでしょうか。
それでは,理論的に本当に大丈夫かという観点から甲案をもう一回詰めていただくけれども,甲案の方で基本的にいくということでよろしいでしょうか。
はい。それでは,あと営業信託の商行為性と受益権の有価証券化ですね。
● 私ちょっと発言しますと申し上げたので,すみませんけれども,しばらくちょっと発言させていただきたいんですけれども。日弁連としてパブコメで書きましたように,信託業法と信託法はそもそも実体法と業法というので違うんだと,これはだれから見てもそのとおりなんですけれども。
商行為に関する信託法の定義規定,現行法でも今回の改正案でもそうですけれども,と,信託業法における定義規定がほぼ,ほぼというか全くといっていい,同じ表現を使われております。
それぞれの業法に応じて解釈が違うんだという議論も今後あり得るのかもしれませんけれども,現在のところ信託業法の解釈でも商行為法における解釈と同じ解釈をとられているようでして,昨日も議論したときに国会答弁みたいなところまでいきまして,営利を目的として反復継続ということで,反復継続はしても営利目的が例えば弁護士とかにはならないんじゃないか。
弁護士である必要はなくてNPOの場合もならないんじゃないかというような議論があったところ,いや,国会答弁においては営利性というのは収支合い償うことというふうに答弁されていると。
それは商行為法における営利性の,商行為の502条の営利性に関する通説の見解ですから,特段それはそれでいいと思うんですけれども。
そうすると,収支合い償うことということは弁護士が報酬を得てやることということも入ってしまいますし,弁護士ということを強調すると余り皆さん御賛同いただけないかもしれませんけれども。両方とも違う法律だと言いながらも,今申し上げましたように,文言も同じですし解釈も同じだろうということの結論としましては,民事信託においても収支合い償うことが前提で反復継続すればすべて信託業法の対象となってしまうと。
もちろん,信託業法というのは非常によくできた精緻な法律ですから,それによって悪質な信託行為,信託業が取り締まれるという側面もありますけれども,かたや実体法としての信託が使われればたまたま民間の人が一生に一回やる場合だけであるということですと,ここでの信託法の改正の議論,また弁護士会でも相当時間を割いて議論しておりますけれども,高齢化社会において今度信託法改正によって民事信託というのをいろいろな形で使っていきましょうという議論からすると,ちょっと流れというか方向が違うのではないかと。
もちろん,民事信託一般について信託業法とは別な形で何らかの規制法ないし規律というものを設けられるかどうかは全然別の議論ですけれども,商事信託を前提としている信託業法が民事信託についてもほぼすべからく適用になってしまうという状況というのはやはり問題ではないか。
特に弁護士会としましても今後この民事信託の分野で活躍したいというふうに思っているわけですから,そのときに信託業法の世界に入る。現行法ですと株式会社しかできませんから,弁護士はそこから排斥されているといういうことになります。
ということで,両者違う法律なんだということは今申し上げたように,とはいいながらももう理屈の解釈論でも同じなんですよということが1つと。
それから,じゃあ,例外規定を設けることは解釈論でも可能じゃないですかというのは今回の検討課題での御説明ですけれども,それは今申し上げたように,解釈論,営業についての解釈論というのは商行為法で何か争いがある議論ではなくてもうほぼ確立された一般通説ですから,その中で新たに解釈論を展開するというのは,孤立無援で頑張ることは不可能ではないかもしれませんけれども,普通の弁護士であればそこまでチャレンジングにやるということはあり得ないわけでして。
ということで,解釈論での対応というのは極めて困難であると思います。
ただし書きのことの適正さという議論もございますけれども,趣旨は違いますけれども,商法502条の本文にはただし書きがあります。
小規模事業者に関しては商行為にならないというようなただしがありまして。信託業というのはすべからく一般的法的性格として商行為性を帯びているのだということであれば,本来ただし書きがあることが不適切ということになるかもしれませんけれども,信託というのは民事信託から発展して商事信託が盛んであるという現状からしましても,信託行為そのものがそもそも行為として,受託行為するということはそもそも行為として商行為性を帯びているわけではありませんので,という意味においてはただし書きをおくということは502条の立てつけからしましても信託法,信託の受託という視点からしましても,特に不思議ではない,おかしくはないのではないのかなと思います。
あと,また弁護士会で議論したとき,立法例というところまでいきまして,そうすると何か--何かといいますか,手元には資料あるんですけれども--米国のイリノイ州のフィディシャリアクトの中に信託業に対する例外規定として,弁護士業だけじゃなくて幾つか載っているんですけれども,会計士さんとかですね,やはり弁護士の業務として受託をする場合にはそれは例外ですというような例外規定もございます。
ですから,一見弁護士会の身勝手なパブコメのように思われるかもしれませんけれども,決してそんな趣旨ではございませんでして,立法例もありますし,やはり弁護士が今後活躍する,弁護士である必要はなくて,その方,それ以外の正当な業務をされる方々でも適切なただし書きの文言が考えられればそこに含めても構わないと思うんですけれども,商行為に該当しないということを明確にしていただくことによって,信託業法の適用がないということがまた明らかになると思います。
● ほかいかがでしょうか。
● まず,信託はそもそも商行為性がそれ自体あるものではないというお話ですけれども,例えば商法502条を見ますと,寄託の引受とかあるいは作業または労務の請負とか,ここらになってくるとこれもやはり当然に営業行為といえるかと,商事性を帯びるかというと,やはりそうも言えないのではないかという気がしますので。
信託だけ特別扱いできるかというのは商法502条との関連でいうとなかなか難しいのではないかなという気がするというのがまず1点でございます。
それから,おっしゃるとおり,弁護士の方とかNPO法人が民事信託のために活躍していただきたいというのは,それは発想自体は非常に歓迎しているところでございますけれども,じゃあ,どこまでの範囲が主体が果たして商行為性を省かれるのかという規律の仕方も難しいところでございますし,民事信託という言葉自体もなかなか定義しにくいというところがございまして。あとは仮に少額の報酬であっても,1件10万円とかそういうのでも反復継続して民事信託やればやはりそれは商法の観点からいうと商行為と言わざるを得ないのではないかなという気がしているのでございます。
○○委員のおっしゃる趣旨は,問題はむしろ商法あるいは信託の引受が営業的商行為になるというところではなくて,むしろ業法が弁護士の方が活躍するにあたっての支障になると,そちらの方の問題ではないかなという気がするわけでございますが。
そこは何か商法の適用があるとまずいということなんでしょうか。それともやはりこれは業法の方から引っ張られている議論だというふうに理解させていただいてよろしいんでしょうか。
● 繰り返しになってしまうんですけれども,信託業法は同じ定義を使っていることによって実質商行為についての信託の受託について業として取り締まっている法律ではないのかなと,こういうふうに解釈されるんですけれども。
その場合,今の御発言にありましたように,現行法でも弁護士がやることは解釈論として十分できるんだろうと。それはある意味では弁護士会が萎縮しているだけであって何の問題もないんだということであれば,日弁連としても確認規定はぜひ入れてほしいとは思いますけれども,現行法における解釈がネックになったということでそれはそれでありがたいことだとおもうんですけれども。
商行為ということが信託業法の対象とほぼオーバーラップしていると,こういうふうに解釈されるものですから,そこで弁護士が行う反復継続している信託の受託というものは商行為ではないということを明記していたたくことには意味がありますし。例えば弁護士は委任業務,請負業務というものを民法的に言えば反復継続してやることを業としておりますけれども,だれもが常識としてそこで報酬を得たとして収支合い償っていると思うんですが,商行為とは思っていない,思っていないというか商行為ではないはずですから。今の仮にそれが法律事務の処理として民事信託を継続して行う,弁護士も専門化しておりますから,高齢者を対象とするような専門の弁護士であれば継続反復して何らかの形で高齢者とか弱者のために受託者になると思うんですが。
それは決して今の○○幹事の御発言とは違って,現行上においても商行為にはならないとこういうふうに理解するんですけれども。はからずもそういう御発言があるぐらいですから,やはりここでは明確にした方がいいんじゃないのかなと今ちょっと強く思いましたけれども。
● なかなか商法とも関連して難しい,商法の先生はきょうはおられないのかな。
どうぞ。
● 商法の専門ではございませんけれども,信託業法という話が出たもので。
● はい,どうぞお願いします。
● 補足だけさせていただきますと。○○委員が御指摘のとおり,先般の国会答弁,信託業とは何か。
例えば反復継続であるとか収支に対するような形である営利目的であるか,そういったことも考慮して,これは事実でございますし,私どもの解釈も変わっておりません。
問題は,恐らく私ども信託業法の中でいわば参入規制に当たるところがあって,いかなるものが信託業できるのかというところにあるわけですけれども。御指摘のように,これは株式会社経営体でやっていただいて登録または許可制というふうになっています。
事実,これは事実の御説明だけなんですけれども,実は私の記憶に間違いがなければ,あれば訂正しますけれども,確かに法曹関係の方が株式会社をつくられて信託会社として参入しておられるというケースも最近ございます。
以上です。
● その例は信託業法にのっとるために会社をつくったんだというふうに当然理解できますし。そこで法律業務やるとすると,株式会社は法律業務できませんから,逆に弁護士法違反の問題が生じているのではないかと,これが日弁連での議論なんですけれどもね。
ですから,それはそういうふうに何か問題点を指摘するというよりも,やはり弁護士が,営業として,商売としてやるという弁護士さんがいれば別ですけれども,弁護士がある意味では多少純粋な気持ちで,もちろん収支合い償う必要はありますけれども,高齢者から財産を預かるというような場合,高齢者といいますか弱者から財産を預かるというような場合に,じゃあ,わざわざ株式会社をつくってやらないといけないんだと。かたやそれは弁護士法違反じゃないですかという議論もかいくぐらなきゃいけないというような制度ではないんじゃないのかなと思うんですけれどもね。
悪質な例をとらえると信託業法というのはより広くカバーすべきだという議論になってしまいますが,ここではどちらかというと純粋な議論とか悪質な弁護士じゃなくてまっとうな弁護士が純粋な気持ちでやるという前提で構わないと思うんですけれども。
現在の信託業法でも営利を目的として信託の引き受けをするというところで,弁護士が報酬を得て高齢者から財産を一度ならず2回預かった場合にはそれは信託業法違反であると,このような解釈になるのでしょうか。
● 個別の多分事例に照らしてみてそのとき考えてみるということになるんだと思うんですけれども。
● 純粋な事例で,悪質事例じゃなくてですね。
● どうなんですかね。
● 悪質なものまでそれでいいんですかという議論になっちゃうのはもちろん心配だと思うんですけれどもね。
● まさにそこのところを気にしているわけでして。主観的な要件が入るもんですから,そのときの個別の案件のいろいろな要素絡めて見てそのときに監督あるいは業法の立てつけの観点から判断していくということになるのだろうと思うんですね,そこは。
アプリオリにこのケースはもうガバッと排除してくれというのはなかなかそれは難しいと思います。
● 取締監督当局としてそういう御発言されるのは同じ立場に立てば理解できるんですけれども,結局そういうことによって弁護士会は今までも,また今の解釈のままですと今後とも受託者になるという選択はとっていないですね。
ですから,信託法改正になってこれほど議論して,また日弁連のバックアップチームが毎回何時間も議論して,結局弁護士会は何もできないという,株式会社をつくるということは弁護士会株式会社をつくるなんていうことは現実的にあり得ませんから。
もちろん個人的に商売といいますかね,本当に営業目的で株式会社をつくるようなケース,大阪とか東京で1件ずつあったという話を聞いておりますけれども。そういう目的じゃない場合にもできるようにしていただけるというのが解釈論として正しい方向ではないのかなと思うんですけれども。
● これは弁護士会の問題だけでなくて,業法に関連しますと私も個人的には,この中でもそういう御意見持っている方がおられると思いますけれども,やはり先ほど○○幹事からも説明ありましたように,非営利法人ですかとこれからは場合によっては公益法人が幾つもの公益信託を受託するということが現実的な問題としてあり得る。
そのときに,これは業法の問題ですから,ここで今議論しなくてもいいかもしれませんが,業法の問題としては収支合い償うというところの解釈によるのかもしれませんけれども,それによって,公益法人の場合は弁護士とまたちょっと違う点もあるかもしれません,必ずしもそれでもって収益というか利益が上がらなくても,それこそトントンでゼロであっても公益法人の場合に受託するということはあり得ると思いますけれども。
そういう形態による信託の受託,場合によっては反復受託が業法でいうところの業としての信託でないという解釈ができるとそれは非常にありがたいのではないかというふうに思いますので,ちょっと要望ですけれども。
ただ,その問題とここでいう商行為とするかどうかという問題とが,確かに関連はあるのかもしれませんが,理論的には直接は関連がないということでよろしいですか。
つまり,両者が実質上影響するというのではないかということですよね。
● ちょっとこの論点ばかり議論して申しわけないんですけれども。そこは理論的に違うというのは恐らく法律家としては当然でそうだと思うんですけれども,ただし,ただし書きを置くという点については,弁護士は収支合い償う目的を持って継続反復したとしても,それは商行為にならないという。
ですから,あくまで商行為性の有無だけの議論としてそれについてはぜひ御検討いただければと思いますし,それは弁護士がということだけじゃなくて,今先生御指摘されたようなほかの形態であっても一定の場合には商行為にならないという例外規定,たまたまこれ以外にもあるのかもしれませんけれども,イリノイ州のフィディシャリアクトの中では10項目にわたって例外規定が書かれていますけれども,その中の一部は弁護士に限らず会計士さんもそうかもしれません。
あと,業法上お金を扱った,資産を扱わざるを得ない場合,それを今後信託宣言するかもしれませんけれども,そのときにそれが業法ですということにならないと思いますね。
ですから,例外規定を検討するということにはぜひこの場の議論としてはそこまでの要望にしたいと思うんですけれども,ぜひ今後とも御検討いただければと思うんですけれども。
● それはちょっと検討はしてもらうということにいたしますが,ただこれ本当に商法とも関係する恐らく問題でもあると思いますので,直ちに適切な回答が出るかどうかわかりませんけれども,要望事項として検討するということにしたいと思います。
ほかにこの点についていかがでしょうか。
よろしゅうございますか。それでは,金融庁の方には業法との関係についてはいろいろ御配慮をお願いしたいとは思いますけれども,ここでの検討課題としては商行為の問題でして,これについてはただし書きというのは可能なのかどうかということについての御要望があったということで一応まとめさせていただきたいと思います。
それでは,あと残り1つ,有価証券化はいかがでしょうか。
○○幹事,どうぞ。
● 恐らくここにいろいろな先生がおられると思いますけれども。この受益権の有価証券化,現行の証券取引法やこれを改組拡大するプロジェクトである投資サービス法と密接に関わっておりますので,現在金融庁が検討していることを御紹介しながら幾つかコメントをしておきたいと思います。
証取法のカバレッジが狭く投資家保護の必要性に機動的に対応できていない背景に,法律の構造が画一的で硬いということが挙げられてきました。
すなわち,有価証券に指定すると,発行体には原則開示義務が課せられ,販売するのは原則証券会社になり証取法の行為規制がついてきますので,もっと自由にお金を集めたいという人はなるべく証取法以外の手段を模索するということになっております。
例えば組合という法形式によるファンド,最初はベンチャーファンドとして使われておりましたが,そのうち公開株式や金銭債権などにも投資したいということになってきますと,それは投資信託とどう違うんだということになりまして,昨年の証取法改正で一定の類型の組合への出資持分がみなし有価証券ということになりました。
このように必要が生じるたびに証取法を改正して有価証券を追加するのはいたちごっこになりますので,投資家保護のための基本的なインフラとして分立した投資関連の法制を一元化し,有価証券の概念もより包括的にくくり直そうとうい構想が投資サービス法でございます。
一元化するとさまざまな投資商品というのが対象になりますので,当然規制も画一的では困るということになりまして,投資商品によっては開示は相対でもいいとか,販売業者として証券会社並みの要件はいらない,例えば自己資本規制というのは必要ないとか,公益性も投資商品の性質に応じて,○○委員の言葉でいう柔構造化,柔らかい弾力的な構造に仕組んでいくといことになります。
この法律のもとでは当然信託受益権についても投資商品の1つとして規定する方針でございまして,信託受益権という投資商品の性質に応じた規制の柔構造化が図られるということになります。
要は,伝統的な投資商品である株式や社債のみならず,組合であれ信託であれ合同会社であり,投資のビークルとして使われるものは投資サービス法に取り込んで,過不足のない規制の枠組みを整理していこうとしております。
したがって,ここにございますように,信託法で受益権の有価証券化を可能とするのであれば,その仕方,施行のタイミングなどについては今後よくよく御相談をさせていただきたいということでございます。
つまり,今申し上げた投資サービス法の施行前に信託受益権を証取法の有価証券にしますと,先ほどの硬い構造が適用されますので,受益権の販売業者を新たに証券会社にならなければならないとか,株式などと同じ発行継続開示規制が課せられるということになりますし。
逆に,信託受益権を証取法上の有価証券にしませんと,同じ有価証券でありながら投資家保護のルールに差異が生じますし,振替制度の対象とすることもできないということになります。
両方の法制というのが同じタイミングでいきますと受益権販売業者も自動的に投資サービス法の販売業者,投資サービス業者に吸収されて過不足ない規制がかかるということでございます。
また,この資料,受益権について有価証券,受益証券を発行できるようにするという提案は券面の存在を前提にしているように見えますので,証取法の構造について念のため申し上げておきますと,先ほど組合の出資持分を見なし有価証券に指定したと申し上げましたが,券面が存在するかどうかという区分はしておりません。
株券や社債券のように券面が存在するものは存在しない場合もみなし有価証券,有価証券とみなすという構造になっておりまして,株券不発行会社の株式もみなし有価証券でございます。
先ほどの振替制度も証取法上の有価証券しか対象にできませんのが,信託受益権全般が券面の有無に関わらず証取法上の有価証券になりますと振替制度の対象にできるということになります。
なお,やや細かいところですけれども,証取法の発行継続開示規制の適用上は信託自体を発行者とみなす必要があるという指摘があったという記述がありますが,財産である信託を発行者とみなすということはあり得ないので,信託の当事者である受託者ないしは委託者または両方が開示義務者ということでございます。
いずれにしても現在の証取法を前提に信託受益権の有価証券化を検討しますと,双方の関係の整理とかつなぎが結構なものになってしまうんですけれども,たまたま私たちまさに信託のようなさまざまな性格を持ち得るツールを投資のビークルとしてみるとどう整理すべきかという検討を並行的にやっておる最中ですので,両方がうまくつながっていくように御相談させていただきたいということでございます。
以上です。
● それはぜひ連携を持ちながら進めていけるとありがたいと思います。
この有価証券化についてのこの提案につきましてはいかがでございましょうか。
○○委員。
● まず,投資サービス法の御議論かと思うんですけれども。投資のビークルとして信託が利用された場合という前提で,なおかつ前提かと思うんですけれども。
その場合に,現行法でもいろいろな法律の適用がありますから,いろいろな証取法だけじゃなくて,証取法の適用がなければ信託業法,不動産特定事業法とかいろいろありますけれども。
投資ビークルとして利用される場合というのはそれはそれで当然といいますか,1つの流れかなとは思うんですけれども。信託の場合には,先ほどの議論でもそうですし,民事信託としての利用というものを強く日弁連としてもまたこの審議会でも考えておりまして,その場合に民事信託についてまで過剰な規制が及ぶということはまた,過剰といっては申しわけないですけれども,民事信託で本来民法の行為が実は投資サービス法ですといって,なぜならば民事信託と商事信託というのは区別はつきませんという議論に巻き込まれていくんじゃないのかなという--懸念のしすぎかもしれませんけれども,持たないわけではないです。
というのは,投資サービスというのは広く横断的にというのが前提ですし,信託というのはそこに財産を入れて転換機能を果たすわけですから,その転換機能の結果,その信託受益権を販売するのか,それを弱者のためにまた相続のために利用するのかとか,そこの差だけのような気もしますから,その辺の民事信託における利用というものが投資サービス法に一たん入ってその後に出るというような,それによって制度が担保されているんだということになりますと,実体法としての信託法というものが何のための議論なのかという議論にもなりますし,やはり制度としては違うんじゃないか,先ほどの議論ともつながると思うんですけれども。
商売として民事信託やる方はそっちで下がってもいいのかもしれませんけれども,通常の弁護士の場合でもその他公益法人の場合でもそうですけれども,本来投資サービスの適用ではないのではないかと,その辺についてはぜひ御配慮いただきたいということと。
あと,有価証券化できる受益権というのは株券と同様じゃないかというような趣旨のもし御発言だとしますと,株券というのは別に発行する前から,発行しても発行しなくてもそれが有価証券であるということはまた議論する余地すらなく明確ですけれども,この場合にはもともと信託受益権という指名債権類似ですけれども,法律上の権利について一定の場合,また当事者が選択した場合,有価証券化ができるという議論ですから。
もともとの有価証券と信託受益権というのはやはり法的性質が根本から違うんじゃないかというふうに思います。
なおかつ,私法上の有価証券と証取法上の有価証券というのはもともと概念的にも,先ほどの議論にもつながりますけれども,根本的に違うわけですから,私法上の有価証券がすべからく証取法の対象になるという議論ではもちろんないかとは思うんですけれども。
仮に今後議論が拡張して証取法の議論でも投資サービス法の議論でも私法上の有価証券について,証取法上の有価証券が発行できるということはそれは投資性がある,流通性があり得るんだという議論になりますと,やはり民事信託においての有価証券の利用というのは今のところ余り深く考えられていませんけれども,それが利用されるケースもあり得るかと思うので。
ですから,その辺について民事信託において萎縮効果がないようにぜひ御配慮いただきたいというふうに思うんですけれども。
● 重要な御指摘だと。
○○委員,どうぞ。
● 先ほど○○委員の方から民事信託ということでの御指摘ございましたが,信託業界の方としましても,私法信託といいますよりも営業信託というふうに考えていただいた方がいいと思うんですけれども。
私法上の有価証券化につきましては,もう何年も前から信託業界としてはお願いしていた件でありますけれども。その理由といいますのは,当然今はほとんどないですけれども,今後の信託の発展のことを考えますと,当然受益権の中には転々流通させて受益権が多数の者で,なおかつ転々流通させた方がいいような種類のものがあるということでこういうお願いをしてきまして,法務省の方からもこういう御提案をいただいたということでございますけれども。
そのときの私どもの考え方というのは,基本的には有価証券化するというのはある一定の受益証券に限定したものであって,転々流通する必要のないものについては基本的には当然必要がないわけでから,私法上の有価証券としても必要もありませんし,ましてや業法的な問題としての例えば証取法とかの対象になるというようなことは今まで考えてもみなかったもんですから,ちょっと驚いているような状況でございます。
営業信託におきましても,今回の御提案で出ていますけれども,遺言代用の信託であるとか,後継ぎ遺贈型信託というのが当然ありますから,これが証取法であったり投資サービス法,投資サービス法の範囲というのがまだ検討中ですので,どういう形になるかそこがよくわかりませんけれども,投資のビークルというような形の観点で見られるというのはやはりちょっと違うんではないかなというふうに考えておりまして。
今,法務省の方でもこういう私法上の有価証券化の方を御検討されていますし,金融庁の方では投資サービス法等を御検討されておりますので,私どものニーズというのはこういう状況でございますので,お含めいただいて,両省庁でいろいろと御協議いただいて,すべからくうまくいくような形でお願いしたいと思います。
以上でございます。
● 今大体共通する御意見だったと思いますけれども,○○委員,どうぞ。
● 私は○○委員とほぼ同じことで,かぶってしまうんですけれども,私法上の有価証券を認めるということについては,先ほど○○委員がおっしゃられたように,流動化の観点からも非常に喜ばしいということで歓迎している立場なんですけれども。
先ほどの○○幹事のお話のように,将来の投資サービス法の関係であればそれはそれまたいろいろなこれからの議論がされていかれると思いますので,そこについてはここでコメントするということではないとは思うんですけれども。
現行の証取法の対象の有価証券となると,先ほどもある程度の御配慮をいただいているような御発言だったかとは思いますけれども,いろいろ障害が出てくるのではないかなというふうに考えております。
流動化の場合,現行信託受益権が投資家の方で持ちきりになっているケースがかなり多いとは思いますけれども,今後もっとこの市場拡大する場合においては転々流通するということが当然考えられますし,その場合の権利移転が容易になるという点では有価証券化というのは非常に望ましいわけでございます。
しかしながら,最初からそういうふうに転々流通するというふうに仕組む場合と,そうじゃなくて,一定程度まで特定の投資家が持っていて,その後に改めてまたそれを分割して流通させるとかいろいろな手法がございます。
そういったことを考えますと,最初から一律に有価証券化された場合についてはやはり証取法の規制になるということは,先ほどもお話ありましたように,硬い規制の中の問題でありますとか,オリジネーターとしてその取扱いの資格の問題とかそういったことも出てまいりますので,ぜひそのあたりも配慮していただきまして,一律の規制にならないようにということでお願いしたいというふうに思います。
● どうぞ。
● 経済産業省でございますけれども。投資サービス法についてはいろいろとそのファンドの多様な形態とかそういうこともありますので,そこは個別に実態に合った本当に必要な規制にしてもらいたいということで,これは当省と金融庁の方でもお話をさせていただいているところであります。
その関係でいきますと,そういった意味では本件につきましてもそういった意味で実態にいかに合わせて必要に合わせてということが確保されることが必要だというみなさんの御意見に全く同感でございます。
それから,○○幹事からお話がありました投サ法,新しくできる制度では非常に柔構造の規制になるので,こちらにうまくつながるようにというそういった御趣旨の発言だと思いますので,そういった意味でぜひ,特定の今の証券取引法で硬い規制の方に入って,この新しい信託の制度がいろいろな意味で動かなくなるということをどうやって防ぐかというそういう方向性での御議論かと思いますので,ぜひそういった方向で政府内でも意見を調整させていきたいと思います。
● どうもありがとうございました。先ほどから出ている議論は,やはりこの有価証券化といっても受益権の有価証券の場合には,もちろん投資のために有価証券化される場合がほとんどでしょうけれども,将来的にはそうでない場合もあり得て,そういうものについては,これは投資サービス法との関係の問題なのでここでの問題ではないかもしれませんけれども,投資サービス法の関係では御配慮をお願いしたいということでございました。
それでは,有価証券化の中身については特に御異論がないというふうに了解してよろしいでしょうか。
では,先に○○委員,その後○○関係官,お願いします。
● 注4の部分なんですけれども,信託財産のみを引き当てとする債権,信託債を認めるかどうかというところで,今回有限責任信託に限定するというようなことを提案されているわけですけれども。
信託債権を認めるのであれば,必ずしも有限責任信託に限定せず,既存の形態の信託であっても特に構わないのではないかなという気がいたします。
それとあと,受託者が株式会社である必要も必ずしもないのかなという気がいたします。
● 信託財産を引当てにした債権,ちょっと一種の社債みたいなものかもしれませんけれども,そういうのを発行するのを有限責任に限定しないで,既存のものについても認めたらどうかと,そういう御意見。
● そうです。現実にABLと呼ばれている仕組み,アセット・バックト・ローンと呼ばれている仕組みで,受託者が信託財産のみを引当てに借入を行うということは広く行われいるわけですけれども,それに代用するということを考えれば,実態的には変わらないと思うんですけれども,それをただ単に債権に置き換えるということが可能になってもいいんじゃないかというのが。
それとあと,受託者が株式会社である必要があるかということなんですけれども,これは恐らく社債が発行できるのは株式会社だからというところからきているのかもしれませんけれども,受託者は必ずしも株式会社に限らないんじゃないかなと。
外国法に基づく会社であるとか,その他いろいろな形態はあり得るのではないかなと。
場合によっては法人であるということを要求するということはあり得るかとは思いますけれども,株式会社でなくても,例えば学校法人債とか医療法人債いったものも現実にございますし,それとバランスとる上では株式会社に,受託者が株式会社であることを要求する必要はないんじゃないかなという気はいたします。
● わかりました。
ここまで何かありますか。
● こちらの意見というのは別にその株式会社に限定したらどうかということを申し上げているつもりではありませんでして,恐らく実務上のニーズという意味ではさすがにこういったことをやるのは信託業務なのかなということで,とりあえず今の規制ですと株式会社ということですし,寄せられている意見も恐らくは株式会社が発行するということなのかなということで社債というふうに書き,その上で取締役会決議というのをまずは書いたということですので,具体的なニーズとしてこういう形態の法人でというのがあれば,それはそれでということなのかなというふうに思います。
それから有限責任信託にするかどうかという話は,まさに個別の責任限定特約を置き換えて債権の性質として信託財産に責任が限定されると,そういったものをつくってはどうかという御趣旨のそういう立法提案だったのかなということでして。
そうしますと,限定責任信託というところと規制の調和というのが必要になってくるんじゃないか,そういう指摘がありましたということでございますので,それが必要と考えるのか,それともそうではないのかというところが1つ議論していただくとよろしいのかなということなんですが。
● そういう意味では原案は別に限定しているわけでは必ずしもないと。
● すみません,手短に。
● すみません,さっき○○関係官も手を上げて,関連して。
● 実は,注4,○○委員の御発言と関連するものですから,ちょっとすみません。
少しだけ心配性なものですから,もう少し掘り下げて御質問したいんですが。恐らくこれは信託の事務及び管理ができるということから信託に係る借入,アセット・バックト・ローンみたいなものができるというところから始まって,じゃあ,その借入でやればよいのであればこの信託債というのが発行できるのではないかという,こういうロジックでこの信託債という仕組みが考えられているのでしょうか。
ちょっと,なぜ信託債というのがここで突然出てきているのかいうそのロジックみたいなものを御説明いただけるとありがたいです。
なぜならば心配性だと申し上げた理由は,さっき○○幹事から申し上げたのと同じ理由で,社債に関してもいろいろな発行開示規制等も,流通する場合にはですね,関わらざるを得ないと考えている場合があるものですから,ちょっとその背景を伺おうと思いまして。
● はい,いかがでしょうか。
● この注4の記載が出てきたというのは,もともと前段階の研究会でやっておったときもそうですし,この法制審でも指摘がされたから入れたということでございまして。
恐らくそのときは言われておりましたのは,信託財産を引当てとする社債,あるいは社債という必要はないんですけれども,債権ですね,券面を発行したいというニーズが実務上ありますという話がありまして。
しかもそのときには,責任が限定されたタイプを望んでいるんですというような話がございました。
恐らく御提案者の方たちはそれが信託債というような性質のものであって,社債というような位置づけではなくて,もうちょっと別の社債なんかとはまた異なるタイプの券面だというお話だったのかなと思うんですけれども。
そういった御提案を踏まえてこちらの方で検討していったところ,とりあえずのところは社債であって,しかも責任が限定されるタイプの社債なんだというふうに整理するのではないかなと。
特に株式会社が発行する場合には。そういう整理で,しかもなおかつ限定責任信託との整合性をどういうふうにとるのかといったところを議論していただく必要があるのではないかということでこうしてきたということでございます。
それと,開示の話とか証取法上の開示の話とかというのはその上でお考えいただくというような話になるんじゃないかなと思いますけれども。
● よろしいでしょうか。バックグラウンドは今のようなことだということです。
それでは,○○委員,どうぞ。
● 手短かに。実務のニーズですけれども,例えばジェイリートなんてリート債というのが盛んに発券されています。
ですから,ローンでできるからツールとして債権というのも必要だという,そのとおりなんですけれども。これができるようになると非常に使われることになると思います。
他方,法的考え方ですけれども,これを社債と裏づけちゃいますと,それこそ何々銀行,何々信託銀行債社債ということになって,それ自体投資家にとっても非常に混乱を来すものだと思いますし。
私の記憶が間違っていなければ,海外の信託財産が社債を発行しているケースも,法的には受託者なんですけれども,信託財産というのは全面的に出てきて債権だという格好をしていまして。
いわゆる企業の社債だというようなイメージではなかったと思うんですね。ちょっとそれは事実関係の問題ありますから余り強くは言えませんけれども。
ですから,社債という整理をすると,会社法の問題とか,もちろん証取法の関係とかありますけれども,複雑になりますし,なおかつこれ特に責任財産限定特約つきの債権とみていただいてといいと思いますが。
その場合に,信託銀行にとって別に多額な借財をしているわけでもありませんし,本来社債規制の中が前提としていることと全然違うものですから,立法論である以上,これは信託債という社債とは性質の異なったものだよ,特に責任財産限定特約がついている場合という前提でいいと思うんですけれども。
というような議論がされると,また機動的に信託で借入をするのとほぼ同じように機動的に発行できて,それが実際に市場とかのニーズにも見合うのではないのかなと思うんですけれども。
● 恐らくこちらの趣旨もそういう意味で社債であることを積極的に主張しているということではありませんので,今,○○委員が言われたようなものであるというふうに理解しております。
説明等につきましては,またもうちょっと適切な説明で検討するということでよろしいですかね。
● 基本的には社債と言わざるを得ないのではないかという話と,あと恐らく社債の規定を相当借りてこざるを得ないのかなというようなところもあって社債と言っているわけですが。
仮に限定責任信託となりますと当然名称を付すと,限定責任信託として取引行為を行うには名称を使用するということになるんだと思いますので,登記もしておりますし。そういったことが券面上には表示されるというようなことにはなるわけですけれども,それとはまず……。
● おっしゃったように,それはそれでそうだと思うんですけれども,限定責任信託がきょうも議論されますし,制度設計によってどの程度利用されるかという議論もあるとは思うんですけれども。
現状,ノンリコースローンというのは非常にボリューム等も多くて非常に使われていますから,ノンリコースローンの代替として,またローンとしての貸付ができないけれども,それは貸金業とかいう手順ありますけれども,社債という形式であれば投資家として投資してもいいという機関投資家というのは多々あると思うので。
ですから,限定責任信託を利用しなくても責任財産限定特約つきの債権形式であれば,社債とは違った規律,また社債の特例としての規律というものを考えてもいいというような議論があってもよろしいのではないかなという提案なんですけれども。
● そうすると,まさにその信託についての限定責任の信託におけるいろいろな規制と,それからその特約とのバランスをどう考えるのかというようなところなんだろうと思うんですけれども。恐らく有価証券ということにしますと,転々流通しても次の譲受人に対してその限定責任の効力が対抗されるというようなことになりますので,恐らく,これはパブリックコメントで寄せられた意見ですけれども,限定責任と同じような規制をやはりかけておかないとまずいのではないかというような話はあったわけなんですが。
そこは特約があるからその効力を譲受人との間で認めていいだろうと,そういう御趣旨。
● そうですね,実際今SPC形式で社債形式で出す責任限定特約付社債ということで一応流通する可能性があって発行しております。それは有効であるということは,多分それほど疑われていないと思います。
● それも含めて検討してもらいましょう。
ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
● 今伺っておりまして,結局受益権が信託法に定めて受益証券になった場合の規制の仕方については別途検討するとしまして,この1,2についてはこのとおりでいいというふうに事務局としては理解しておりますので,それでよろしければこの方向で進めたいと思います。
この資料の中では1点,無記名式の受益証券については受益証券の占有によるというのが受託者対抗要件として我々考えているわけでございますが,その中でもエというところに書いてあるんですけれども,受益者名簿を作られた場合には受益者名簿への記載をもって無記名式であっても対抗要件をするべきだという要望はあったわけでございますが。
そうしますと,無記名式でありながら,場合によっては受益者名簿への記載が対抗要件になり,場合によっては占有が対抗要件になるということで非常に区々になりまして,会社法上の無記名社債でもそこまでの区別はされておりませんので,事務局としてはこの提案のとおり占有をもって一律に無記名式の受益証券については受託者対抗要件とするという方向でいいのではないかというふうに思っておりますが,そこについてもそれでいいということで御承認いただいたということでよろしいでしょうか。
● いかがでしょうか。その方が簡易であるということだと思います。わかりやすいと。よろしいですか。
では,これはそれは了解していただいたということで。
● では,前回の積み残し分の最後として,信託の変更・併合・分割それから終了関係を説明させていただきたいと思います。
資料33ページからでございますが,提案の1と2については特段異論がございませんでしたので,変更はありません。提案3と,それから(注2)との関係で,資料ですと34ページの2の(1)のとおり,信託行為の定めに基づいて第三者に信託の変更権限を付与したという場合に,変更できる範囲を制限するべきか否かという問題点について検討したところを御説明申し上げます。
なお,パブリック・コメントの結果としては両論あるというところでございました。
ところで,制限を設けるべきであるという見解というのは,変更できる範囲に制限を設けないと関係者,特に受益者の予見可能性を害する恐れがあるということを理由としております。
しかし,事務局としてはその必要はないと考えるわけでございますが。その理由といいますのは,ここにも書いてございますけれども,まず信託行為において第三者に信託の変更権限が与えられ,しかもその範囲に特段の制限が課されていない場合におきましては,受益者としては,信託行為の内容,すなわち第三者にこのような制限のない変更権を付与されているということは認識できるはずでありまして,それにもかかわらず予見可能性を一般的に害するとまでいえるか疑問がないではないということ。
それから,第三者の変更権限も信託行為に与えられたものである以上は信託目的に従うなどの制約は当然かかるであろうということ。
また仮に受益者を害するような変更がなされた場合には,その内容にもよりますが,受益権取得請求権をもって救済を図ることも可能でございますし。
さらに,仮に第三者による変更が余りにも不合理な場合にはその変更が公序良俗違反として無効とされることもあるというふうに考えます。
そういうことからこのような制限は設けなくていいのではないかというのが事務局の見解ということでございます。
このような方法によっても救済できない場合は,もはや信託法の守備範囲外の問題でありまして,消費者契約法等の問題で対処すべきではないかと考えているわけでございます。
次に,提案4と(注3)と(注4),裁判所の変更の問題でございますが。これにおきましては,試案では,変更の対象を現行法どおり信託財産の管理方法に限るという甲案と,より広い範囲まで認める乙案とを対比してパブリック・コメントに付しております。
その結果,資料ですと35ページにありますが,甲案にとどめるべきである見解,すなわち裁判所の判断対象としての適格性ですとか,信託スキームの安定性,私的自治を重視する見解と,私的自治で対応できない場合の裁判所の後見的関与に対する期待から乙案を支持する見解とに分かれております。
いずれの考え方が適切かにつきまして,特に乙案の方向に進む場合には具体的にいかなるニーズあるいは事例が想定されるのか,あるいは乙案を合理的に限定するような第3の考え方はないかといった点も含めて御審議をいただきたいと思っております。
なお,甲案の中で示しておりました変更の要件につきましては,より明確な要点にすべきであるという指摘がございました。そこで試案におきましては,「信託財産の管理方法が信託の目的に適合しなくなることとなったとき」,としておりましたが,ここではそれを改めまして「信託財産の管理方法が信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなることとなったとき」と改めまして明確化を図っているということを付言させていただきます。
続きまして,信託の併合の方でございます。パブコメではほぼすべての意見が試案に基本的に賛成するものでありましたので,ここでは試案をそのまま維持しております。以下パブコメで指摘のあった2点につきましてのみ考え方を御説明したいと思います。
まず第1点は,信託の併合におきまして,信託の変更における第54の2の(1),資料ですと33ページになりますが,それを準用しているというところについての指摘でございます。
指摘の内容といいますのは,結局信託の併合というのは信託の関係全般に影響を及ぼす重大な事項であることにかんがみますと,併合の有効性が事後的に争われることになる可能性は可及的に排除すべきであって,三者間の合意の例外となる信託の目的に反していないことが明らかであるとか,受益者の利益に適合することが明らかという要件についてより明確化を信託の変更の場合よりも図るべきではないかという主張かと推測するわけでございます。
しかし,受託者は信託財産に固有の利害を有しておりませんので,リスクを犯してまで信託の併合による利益を追求するよりは,事後的に併合が無効とされ責任を追求されるような事態を避けようとするのが合理的な行動だと思われるわけでして,そうしますと,仮に受益者の利益に適合すると明らかといえるか疑問があるような場合には慎重を期して受益者の同意を得た上で信託の併合を実行するという運用がされることになると思われるわけでございます。
そうすると,この明らかという法律上の要件についてはこれ以上明確化する必要はないのではないかと考えているわけでございます。
なお,信託の併合の関係で,提案では第54の4,すなわち裁判所による信託の変更の規律も準用するという形になっておりますが,第54の4における裁判所による変更の範囲に関する審議の結果如何,特に変更の範囲を信託財産の管理方法に限るという甲案が採用される方向となりました場合には,信託の併合という行為の性質上,裁判所による変更の規律は信託の併合には準用されず,裁判所に対して信託の併合を請求することはできないということになると思われるということ,すなわち準用の対象は第54,ただし(2)及び4を除く,そのようになるのではないかと思われることを付言させていただきます。
第2点は,この2の(1)の一定の事項が明らかにされる手続を明確化する必要があるとの指摘でございます。これは例えば会社法における合併契約等の備置に関する厳格な手続的規定を信託法にも導入することを示唆するものと解するわけでございます。
しかし,この信託の併合の規律というのは大規模な信託に限らず,小規模・個人的な信託も含めまして,あらゆる規模,類型の信託の併合に適応されるものですので,それにも関わらず重厚な手続を課すこととなりますと,機動的な信託の併合の支障となりまして受益者の利益にも資さない結果となる恐れがあると思われます。
そこで,2の(1)の一定の事項につきましては,最低限,関係当事者が併合に合意する時点で明らかにされていることが確保されていれば足りまして,それ以上の手続規定は設けず,各事項について合意に至るスケジュールについては関係当事者の事情に応じて柔軟に定めることとしてよいのではないかと思われるわけでございます。
次に,信託の分割の方でございますが,これもほぼすべての意見が賛成意見でしたので,試案をそのまま維持しております。
なお,信託の併合の場合と同様に,一定の事項を明らかにする手続を明確化する必要があるという指摘がございますしたけれども,この点につきましては,ただいま申し上げましたように,最低限,関係当事者間において分割の合意がされる時点において明らかにされていれば足りると考えているところでございます。
また,(注3)になりますが,信託の分割によって信託債権者を信託財産ごとに切り分けるニーズがあるという試案の問題提起に対しましては,不動産流動化の実務においてこのような切り分けのニーズがあるとの意見がございましたので,一定の債権者保護手続を条件にそのような切り分けを可能とする規律を整備することを考えております。
なお,信託の併合のところで述べましたように,信託の分割につきましても,裁判所による変更の範囲に関する審議の結果によりましては,裁判所による変更の規律は信託の分割には準用されないということになると思われることを付言させていただきます。
続きまして,信託の終了事由,第57の方に移らせていただきます。パブコメでは試案に対しておおむね賛成意見が占めましたが,1のcの裁判所に対する終了請求権に関する規律と,1のdの兼任状態を解消するに必要な期間を超えた場合に関する規律について異論ないし意見が示されております。
このうち1のdの兼任状態の解消の問題につきましては,解消するのに必要な期間という試案の提案を明確化を図る必要があるというものでございましたが,これは前回部会で述べましたとおり,1年間という期間を明記することとしております。
これに対しまして,1のcの裁判所に対する終了請求権の問題につきましては,まず試案では信託を継続することが信託の本旨に適合しないこととなった場合という要件を要件としていたことにつきまして,信託の本旨を初めとしてこのような要件を認定することが困難であるという指摘がございました。
そこで,この指摘を踏まえまして,この提案では「信託を終了することが信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかである場合」と改めて要件の明確化を図っているものでございます。
ちなみに1のaと1のcの関係でございますが,信託の目的が達成不能とまではいえないものの終了させる方が受益者のためになるときには1のcにより終了させることになるというふうに考えております。
また,この1のcに関しまして,流動化取引におけるスキームの安定性の観点から,委託者が請求権者となっていることに反対する意見がございました。
確かに信託をファイナンス目的で利用する場合におきましては,委託者がいったん受益者となった上で受託者が第三者から借り入れた金銭によって委託者に受益権を償還しまして,その結果委託者が劣後受益権を持ち,第三者が信託債権を持つという状態に至ることがあるわけでございますが,この場合,唯一の受益者である委託者としてはもはや本来のファイナンス目的を達成しているともいえますので,信託を終了させても債権者は害されるものの,委託者兼受益者の経済的利益は害されないようにも思われるわけでございます。
しかし,この場合におきましても,信託の目的その他の事情としましては,当初から折込み済みの第三者からの借入も含めた一連のスキームが円滑に機能することによってファイナンス目的を達成することにあると考えるのが妥当であると思われるわけでして,そうしますと,単に受益権の償還を受けたからといって第三者の信託債権が残っている状態で信託のスキームを終了させてしまうこととなれば,信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかであると認めることは難しいと,できないということになるのではないかと思われます。
したがいまして,委託者を請求権者に含めても意見にかかるような不都合はないと思われるところでございます。なお,念のため申立権の不行使の特約をもって対処することも可能であるということも言うまでもないところでございます。
続きまして,資料44ページの(注1)から(注3)の問題について御説明いたします。まず,(注1)につきましては,今後信託の利用の進展が予想されることも踏まえまして,信託の濫用防止の観点から会社の解散命令の制度に準じた信託の終了命令のような制度を設けることが相当と考えるものでございまして,パブコメの結果も制度設置に賛成する意見が多数でございました。
それから,(注2)につきましては,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきましては,欠けた受託者の権限は他の受託者が承継するということになるわけでございますが,信託行為に職務分掌の定めがあるときにおきましては,欠けた受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うことにするということを考えております。
この資料の作成時には単独受託者につき任務終了があった場合と同様と考えていると,(注2)の説明の4行目に書いてございますが,これは現在では考え方が変わっておりまして,相続人でありましても信託財産の保管とか信託事務の引継ぎに必要な行為をするわけですから,まして残りの受託者はそれぐらいの義務は課されてもいいのではないかという考えに基づきまして,任務の終了した受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うということにしたいと考えているわけでございます。
ただし,この考え方のもとにおきましても,共同受託者の一部の任務が終了したことによりまして信託財産の保護に欠ける状態が生じていることに変わりはございませんので,任務の終了した受託者と同一の権限を有する新受託者が1年以内に選任されない場合には,やはり信託は終了するということには変わりがないと考えているところでございます。
それから,最後に(注3)でございますが,これは民法653条の定める委任の終了事由といいますのは,委任者または受任者の死亡・破産ですとか,受任者の後見開始,資料では禁治産という不適切な用語を用いておりまして,おわびして訂正申し上げたいと思いますが,後見開始という当事者の一方に関わる事情でございまして,知らない相手方に対抗はできないということが非常に言いやすいわけでございますが,信託の終了事由の方は,信託当事者の全員が了知し得る事情であるか,あるいは信託当事者のだれもがあずかり知らない事情であるかというような違いが委任の場合とあるわけでございまして,そうすると信託の終了事由が生じたことを知らないことによって不測の不利益を被る当事者の救済をいかに図るべきか。
そもそも図るべきか,ということについて一体どのように対処したら方がいいのか,非常に複雑な問題が生じそうな気がいたしますが,御意見を伺えればというふうに思っております。
次に,信託の清算のところでございますけれども,パブコメにおきましては,試案全体につきましては特段の反対意見がございませんでしたので,個別意見について若干御説明を申し上げます。
まず,資料47ページの2(1)に書きましたが,提案の2の1の清算受託者の職務の内容,それから,提案3の帰属権利者等への残余財産の給付の制限に関しまして,信託行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとするということとすべきであるとの意見がございました。
しかし,この意見があげますような不動産流動化のための信託では現状有姿のままで不動産と債権債務関係がそのまま受益者に交付されるのが通常であるという例につきましては,こういう信託のスキームであることを関係当事者全員が合意しているのでありますから,あえて信託行為が優先する旨の定めを置かなくても当然許されることになると考えられれば足りると思うわけでございます。
むしろ一般的には,清算受託者は信託が終了した以上,信託債権者を含む全関係者に対しまして,いわば中立的な立場に立つものとして速やかに現務を結了して信託債権者に弁済してから残余財産を帰属権利者に引き渡すという義務を負うことになると考えるべきであると思われます。
そうすると,全債権者の同意もないのに,単に信託行為の定めのみをもちまして清算手続を行うこととしたり,行わないこととしたり,信託財産に属する債務の弁済前でも帰属権利者等に対する信託財産の交付ができるとするのは不適当でありまして,これが可能であるかのような誤解を招きかねない規律を設けるのは妥当ではないと思われます。
したがいまして,この意見は採用しないこととしたいと考えております。
それから,資料48ページの(2)に記載したところでございますが,受託者が長期不在のため信託が終了した場合には,裁判所が職権で清算受託者を選任することができるとすべきであるという意見がございました。
しかし,清算受託者も受託者であることには変わりがありませんのが,受託者の選任に関する規律にしたがいまして,委託者と受益者との合意,または利害関係人の裁判所に対する請求によって清算受託者を選任することができますので,この意見に対しましては既に試案の内容をもって答えているものと思われます。
なお,意見の中にはさらに信託財産管理人が当然に清算受託者に就任することとすべきであるという意見ですとか,裁判所の職権で清算受託者を選任できることとすべきであるという意見もありましたが,いずれも資料48ページに①,②で書いた理由から採用しないものとしております。
最後に,資料48ページの(3)に書きましたとおり,必要財産を留保して信託財産を既存権利者に引き渡した後で留保財産では債務の弁済が足りないこととなったときの措置を定めておくべきであるという指摘がございました。
この点につきましては,株式会社等の有限責任制度に見られる債権者保護措置としまして①の受託者の損失てん補責任,それから②の受託者から帰属権利者に対する返還請求権,それから③の信託債権者から帰属権利者に対する返還請求権を整備することが相当であると考えているものでございます。
以上でございます。
● それでは,ただいまの信託の変更のところから最後のところまで,いかがでしょうか。
○○幹事,どうぞ。
● それでは,信託の変更の4の点につきまして,裁判所としての意見を言わせていただきます。裁判所といたしましては,甲案に賛成する立場で意見を述べさせていただきたいと思います。
変更の場面につきまして,管理方法の変更に限定しない乙案につきましては,パブリックコメントを通じて実務庁の方にも意見を聞いてみたんですが,やはりどういった事案を念頭においているのか,それからどのようなものを対象に判断をするのか,それからどういった要件に基づいて,その要件に基づいて判断した結果,どのような法律効果を生じるのかというあたりについて全く理解することができないような状況でして,やはり裁判所として判断ができるようなたぐいのものではないのではないかという議論が体制を占めたところでして,このままこのような制度になってしまいましても結局変更というものにつきましてうまくニーズに裁判所として応えていくことができないのではないかということで,結局そういったものに応えていけないということになるのではないかということに帰着いたしました。
それで,ここからは意見といいますか,御質問させていただきたいところなんですが。
もし仮にそういった具体的なニーズがあるのであれば,そのニーズをうまく変更に反映できるような何らかの制度設計というものを,きょう来ていらっしゃる法務省の方々ですとか学者の先生方に何かいい案が対案としてあるのであれば,そちらの方で検討できないかというのが裁判所としての考え方でございます。
以上です。
● いかがでしょうか。
確かに乙案ですといろいろなのが出てきて大変は大変なんですけれども。ただ,契約なんかでも,余り裁判所は認めないかもしれませんけれども,事情変更の原則で契約の改定とかいうのは理論的にはあり得るわけですよね。
余りそれも範囲は限定されていない。実際上は当事者がこういうふうに変更した方がいいだろうということを申立てるんだと思いますけれども,なかなか対案は難しい。
● そういった場面ですと,この変更の要件にありますように,例えば受益者の利益に適合することが明らかであるとか,信託の目的に反しないことが明らかであるとか,そういった明らかであるというような事情の方が先に満たしてしまうのではないかというふうに思われるところでして,やはり裁判所の判断にはなじまないというところは変わりはないだろうというふうに思っております。
● ほかにいかがでしょうか。○○幹事。
● この乙案に対するパブリック・コメントの乙案に賛成する意見の理由を拝見していますと,裁判所の後見的な作用を期待するという意見,これはあたかも家事事件における裁判所の関与のようなものを期待してらっしゃるのかなと思うんですが,ただ(注4)がついておりまして,これがあることによって乙案の意味は大きく変わってくるのではないかと思うわけであります。
(注4)は,余りに無範囲な無限定なものが裁判所に持ち込まれることを恐らく懸念して,当事者は必ず変更内容を提示して請求しなければいけないと。
裁判所は提示された内容の許可,不許可しかしないんだということです。こうなりますと乙案のもともと,多分(注4)がなかった乙案とは全然意味が変わってきて,もともと乙案のアイデアというのは当事者は自分では無力で保護すべきものであって,裁判所が広く手を差し伸べていろいろ助けてあげようという発想だったはずなのに,(注4)がつくことで,自分で裁判所が「うん」と言ってくれる内容をつくらなきゃいけないということになってしまったわけで。
この乙案だとすると,一面では今裁判所の方から御懸念がありましたような,懸念というのは(注4)をつけ加えると余りなくなってくる,逆にですね,裁判所は不適切だとか不許可と言っちゃえばそれでいいといことになるわけですが,ただそれはもともと乙案の意図したところなんだろうかという気がするわけでございます。
私,結論としてはこれは甲案で仕方がないのかなと思うんですが,乙案のようにすると,結局この(注4)のようなものがつかざるを得ないとすれば,それは乙案というのはなかなかとりにくいんだろうということであります。
以上です。
● 乙案のもともとのというのはいろいろな源流があるかもしれませんけれども,やはり信託財産の管理方法に限らず,変更必要とするけれども,当事者間の合意がなかなか得にくいという場合に,裁判所の判断でできるとありがたいということで。
合意ができにくいというのは当事者が判断能力がないからというよりは,いろいろ利害も錯綜していていできないという場合も当然含まれているわけですよね。
しかし,○○幹事の趣旨を逆にとってしまうことになるかもしれませんけれども,(注4)がつくことによって乙案といってもそれほど裁判所にとって大変なことではないのだから,乙案でもいいのではないかという意見にもなり得るところではありますね。
何か御意見があれば。いかがでしょうか。これもなかなか具体的なニーズでこういう場合があってというのが,あるいはしょっちゅうこういう場合があるんだというそういう具体的なイメージがあるわけではないので,なかなか抽象的なところだけで議論しておりますので,そういう意味では決め手がないのかもしれませんけれども,もし御意見があれば。
○○幹事,どうぞ。
● 意見というよりは質問なんですけれども。やはり(注4)についてなんですが,恐らく先ほど○○委員がおっしゃられましたように,事情変更の原則で日本の裁判所では契約改定というのは理論的には認めるのかもしれませんけれども,実際には認めていないところなのではありますけれども,理論的に言うならば,契約改定を認める場合に事情変更の原則のもとで当事者の側がこういう内容への改定を請求するというようなことをしないといけないというふうに考えているかというと,恐らくそうではないと思うんですね。
要するに事態は変更して,その変更した事態に則して公平とか考えられる契約内容を確定するということであって,当事者がこれという必要があるかどうかというのが,日本では余り議論していませんけれども,もとになってますドイツの議論を見ましても,当事者の側にそのようなこういう内容での改定を請求する権利があるというような議論の立て方はどうもしていないようですので。
ちょっと違う考え方がこの(注4)ではあるのかなという気がいたします。そういう意味では事情変更の議論からしてスッと出てくるものかどうかというのがやや疑問があるというのが(注4)の内容であり,かつ,そして,ここから先はむしろ○○幹事にお聞きすべきなのかもしれませんけれども,この内容で改定してくれといったら裁判所からけられた場合に,じゃあ,この内容でという別の内容でというふうになっていく可能性についてはどう考えればいいのかというような問題等はらんでるんじゃないかなと思います。
つまり,いつまでたっても終わらない可能性もあると。
そういった問題をはらんているということからしますと,乙案を前提にして(注4)をつけるというのはちょっといろいろな意味で問題があるのではないかなという気がいたします。
ちょっとその点お聞かせいただければと思います。
● ○○幹事,いかがですか。
● これは現行法でそうですけれども,非訟事件ですので規範力がないということですから,裁判所がその変更申立てがあってそれを退けて,それはしかしもちろん規範力の問題以前かもしれませんけれども,いくらでも続くことはあります。
正しい答えがどこかにあるとして。近いところまでずっとグルグル回っていつまでも手続が終わらないということも理論上はもちろんあり得ますが。
ただ多くの場合には,こうは言いながら,非訟事件の中ですぐ近くまできてるんだったら裁判所がこんなあたりはどうですかみたいなことは事実上あって,しかるべき許可がされるということがあるんだろうと思いますけれども,ただそれに多くを期待してくれるなというのが先ほどの裁判所からの御意見ではないかというふうに私は忖度いたしました。
● 通常の契約の場合は当事者2人しかいないという前提ですので,問題は今言われたような形で処理可能なのかもしれませんけれども,信託の場合はいろいろな当事者がほかに複数存在するわけであって,そううまくいくのかなという不安はちょっとあるかなと。
そういう意味ではやはりちょっと(注4)というのは現実に,理論的にもそうですし,現実にどうなんだろうかなというのはちょっと感じるところです。
● 何かございましたか。
● 先ほどの(注4)に関しましてですが,これも許可,不許可と申しましても,結局は法律要件,効果がほかのものと違いまして具体的に書かれているわけではございませんので,結局許可,不許可の判断に当たりまして裁判所としては何をよりどころにして許可,不許可の判断をすべきなのか,その反対する当事者の方々とは別の判断を下す根拠はどのあたりにあるのかというあたりについては以前問題としては残っているように思いますので,その点にもつきましてもやはり問題があるように考えております。
● はい,いかがでしょうか。何か御意見があれば。
● ちょっとずれるかもしれませんけれども,この信託の変更と,それから併合分割についての論点でございますけれども,受益者の権益の保護ということで遅滞なく通知するとか,あるいはそういったいろいろな要件をはめていただいているわけでございますけれども,どうしても私ども信託業法所管省からいうと,受益者の保護の方にかなり重点がかかるケースが考えておられまして。
例えばなんですけれども,1点御質問させていただきたいのは,例えば受益権者が多数おりまして受益権者代理などを定めている場合で,それで例えば信託行為で別段の定めをしていれば信託の併合分割なんかはそれに従うということになるわけですが。
例えば受益権者の代理にそういった信託の併合分割というようないわば大きな権限を委ねている場合,果たして本当にその受益権者の権限を保護できるのかという観点から,例えば受益権者でありというものについて例えば具体的に義務を負わせるとか禁止行為とか責任を規定する,そんな考えはございますでしょうか。質問でございます。
● いかがですか。
● 受益権代理のことでございますれば,受益権代理は受益者の代理人という位置づけでございますので,善管注意義務とか委任の規定を準用しますと。
受益者との関係で善管注意義務をもって事務を処理するという義務は課されることになります。
● 了解しました。
● ○○委員。
● 以前も議論になったかもしれません,仮に弁護士が受託者となって財産を預かって,不動産だとして不動産の管理方法の変更というとき,その売却まで入るのかどうかというと,恐らく今の信託業法でも管理型と運用型と分けて,管理には売却というか処分はいけないというようなたしかそんな解釈だったと思うので。
そうすると,売却を仮にすべきであるというようなときに,それは上の方の受託者の決定でいいのかしもしれませんけれども,信託の目的ということの解釈論を,当然争いがあるという前提で争いがあった場合,裁判所に頼むというか,裁判所のせいにするとか裁判所を頼りきるわけではなくて,一定の解釈論を確立する,自分がそう思っても紛争の解決になりませんから,そうすると何もしない方が安全だということになってしまうと思うんですけれども。
とすると,乙案が幅広く無制限に使われたら困るという趣旨はよくわかるんですけれども,信託の変更の例外規定の確認的な意味で使われるのではないかということでたしか今までの法制審でも議論されていましし,そのたびに裁判所を頼るのはということの議論はあるかと思うんですけれども,やはり一定の法律解釈を裁判所の後見的な役割として確認できるという制度があった方が紛争を未然に防ぐという意味においても非常に有用ではないのかなと思うんですね。
ですから,無制限の乙案ではないし,また(注4)がちょっと拘束的であってちょっと違った方向がいいといったときにどうなのかわかりませんけれども,ある意味では,繰り返しになりますけれども,2に書いてある1の例外規定の確認的な意味での後見的作用としての裁判所の役割ということが恐らく現実的には必要になってくるのではないかと思います。
● その役割も果たすでしょうね。
はい,どうぞ。
● 先ほど来,(注4)の評判が余りよろしくないのですけれども,もともと原案を議論しておったときには事情変更の方に対応するためというふうに考える中で,裁判所の方々からどこまで判断できるかという問題が御提示いただいた中で,(注3)のようないろいろな要件をプラスすること,それから○○幹事がおっしゃられたようなお話もあるのですけれども,当事者としては何も判断能力がないというだけではございませんで,事情変更があってやはり明らかにこういうふうにした方がいいというふうに思うような場合もあり得るだろうということで,それでそういった幾つかの御指摘に対応するために生まれてきたのが(注4)だというふうに理解しております。
それで,○○幹事の御指摘があったように,事情変更の法理にぴったり当てはまるかと言われると,確かに忸怩たるものがあることは否定しがたいところではありますけれども,そのさまざまな実務の必要性と裁判所の御判断される能力というものを勘案した中で生まれてきたのが(注3),(注4)ではないかというふうに思います。
それで,先ほど仮に(注4)をとって許可,不許可だけにしたときでも,裁判所の方として何を基準に判断されるかがよくわからないというお話がございましたけれども,それは単純に,別に事務局として甲案,乙案どちらにコミットするものでもございませんけれども,その点だけを申し上げれば,それは事情変更があったということを勘案して,当該変更された内容がその信託目的の趣旨に照らして適当かどうかという通常の法律判断の中で判断されるということに,禅問答のようですけれども,ありていに言うとただそれだけの話ではないかなという気がちょっといたしますけれども。
● 確認ですけれども,○○委員の意見は,やはり乙案に一応賛成だということですね。
● ええ。基本的なことですけれども,仮に受託者で変更したいと思って,それを非訟事件じゃなくて訴訟事件として法律関係の確認をするということが可能であれば乙案もいらないのではないかと,そのときにはちょっと受益者か何かを確認して訴えるんですかね。
やはり法律関係確定させたいという希望はどの変更にとってもあり得ると思うんですね。
反対がなければもともと三者合意でいけるわけですが,必ず反対があるからこそ2があるわけでして。そのときに権利関係確認するときに,また乙案以外の何か訴訟,法的手段,手続的な手段があればそれによって恐らくスムーズに進行できるのではないかと思うんですけれども。
● 今の御指摘なんですが,その変更された後の権利を前提に給付訴訟を提起するということについては,通常の訴訟どおり特に妨げられるものはないという理解だとすれば,先ほどの解釈論を固めるですとか,そういったことについての御懸念も払拭できるというふうに理解してよろしいのでしょうか。
● そうですね,そうだと思います。ただ,給付訴訟,給付だけじゃなくて契約関係を変えるわけですから,すみません,私の未熟さかもしれませんが,なかなか従前の訴訟形態,要するに契約当事者なりある一当事者が契約関係変えてほかの方にその契約関係でいいという確認訴訟を起こすということは現行の通常の発想でも可能,給付訴訟じゃないと思うんですね,給付に至る前の話だと思うんですが。不動産を処分するとかですね。
● その受託者の決定によって変更された法律の。
● 1の例外全部そうだと思うんですけれども,三者の合意じゃないということですね。
● ええ。十分検討できているわけではないんですが,それは訴訟として提起された場合には,何らかの判断をするようなものになるのではないかという気がいたしますが,その点につきましては。
● 私が言っているのはコンテクストで乙案というのは非常に現実的には有用ではないかという議論だと思うんですけれどもね。
● 重複になる部分もあるのですけれども,今,○○委員のおっしゃったことは,やはり給付訴訟なり確認訴訟なりでできる枠組みのことを多分おっしゃっているのであって,もともとの4のアイデアというのは形成作用を多分問題にしているんだと思うんですね。
先ほど私は判断能力がないというようなことを言ってちょっとそれは撤回いたしますけれども。つまりだれもが交渉を押し切る力を持ってなくて,泥んこになってる状態でどうしたらいいかということじゃないかと思うんです,問題状況は。
そのときに,この33ページの2では処理できないことについて権利関係を新しくつくるのが4の本来のもともとの役割だと思うんですね。先ほど申しましたけれども,だとすると,(注3),(注4)のない乙案というのはもともとそれは非常に広い権限で,しかし,それを縛りましょうというのは先ほどの(注4)でありまして。
それは現行法どおり,対象事項を絞ろうというのは甲案だろうということだと思うんですね。
ですから,乙案をとっても(注4)のような形で,先ほど事務局から追加で御説明ありましたけれども,なかなかなお硬直的だなという感じが払拭できないものですから,どちらかというのであれはまだ甲案の方が,現行法維持の法がいいのではないかというのが先ほど申し上げた趣旨です。
● はい。なかなか難しいですね。私の個人的な意見は別に言っても,言うのも適当ではないと思いますけれども。先ほど○○委員が挙げられたように,信託財産の管理だけれども,やはり売却しなくちゃいけなくて,そのときに受益権あるいは利害関係人の合意が必ずしも十分にとれない,意見が対立している,そんなようなときにやはり甲案よりは少し広い範囲で判断がもらえるとありがたいことはありがたいですね,裁判所に。
わかりました。どうぞ。○○幹事。
● 乙案がいいかどうかはわからないんですけれども,甲案の意味がいまひとつよくわからないんですけれども。
ちょっと私が聞き逃しているないしは理解できていないだけなのかもしれませんけれども。甲案というのは受益者の利益に合致しなくなる,なっているというのが前提ですよね。
そして,信託財産の管理方法は変更した方がよいという場合というのは,2の(2)のbで一般的には受託者にいける場合ということなんでしょうか。その変更請求をできる場合ということになるんでしょうか。
もし仮にそうだとしますと,本当に裁判所の関与が必要になってくるのは,例えば子どもが3人いて経済状態が同じだから月々30万円ずつ給付するというふうになっているときに,1人が大きなけがをしてしまったとか病気になってしまったということを考えて。そうしますと,親がそもそも信託を設定した趣旨というものが子どもに安定した生活を送らせるということにあったというふうにみたときに,10,10,70というふうに変えるというふうな,受益者間の利益が対立する,つまり受益者の利益に適合するようにするのではなくて,信託目的を達成するように,どちらかといえば複数受益者のうちのある種の受益者の利益を犠牲にする場合というときにこそ働くんじゃないかという気がするんですが。
そうしますと,乙案が難しければそれは仕方がないんですけれども,甲案にそんなに価値があるのかというのがちょっとよくわからないんですけれども。
● 甲案はやはり狭いんでしょうね,そういう意味で。今のように受益者の間の分配を変えるよなんていうのは甲案の枠ではやはりできない。
まさにそういうことが必要だというふうに○○幹事は考えられるとすれば,それは甲案では実現不可能である,だから,乙案だという脈絡なわけですけれども。
● 甲案にそんなに意味があるとは思えないということなんですけれども。
● ですから,これは信託財産の管理方法だけの小規模な何か変更で,しかしこの2の各号といいますか,当事者間の合意あるいは単独で何かできるようなのにはぴったりと当てはまらない,そういう場合を救済するということなんでしょうね。○○幹事はそういうものはもうないんじゃないかと,むしろ……
● ないというか,極めて狭いですよね,2の(2)のbで。
● 大体これが解決できちゃうから余りないんじゃないかというそういう趣旨ですね。
そういうことも言えるかもしれないし。甲案自体が確かに非常に狭いので,できれば少し拡張したいと思いますけれども。
何か,どうぞ。
● 私は乙案が難しくなるという,私そういう意図はもともと持っていないんですけれども,しかし,にもかかわらずなんですけれども。
やはり事情変更の原則と違うものだと割り切ってしまえばいいんですけれども,割り切れるのかなというのがずっと引っかかってるもので,あえてなんですけれども。
やはり(注4)で当事者が変更内容を提示して,それがよいか悪いかのみだというのはやはり,先ほど日本の事情変更の原則では余り議論されてないとは言いましたけれども,しかし,当事者がどのような内容に変更しろと言ってるのかに拘束されずに,裁判所としては当該事態において事情変更の原則要件を満たしている限りは適当と考える契約内容を確定できるということは多分,少なくとも日本の今の議論の中では異論がないんじゃないかなと思います。
ただ,本当にそれでいいのかどうかという段になりますと,私個人的にはちょっと本当にそんな裁判所の後見的な介入を広く認めるのがいいのかどうかという,私個人的には疑問は感じてはいるんですけれども,ただ一般に言われている議論がそのようなものだとしますと,信託に関しては(注4)のようにいくのだというのは何かより積極的な理由が必要になってくるのではないかなと,その理由が本当にあるのだろうか,出せるのだろうかというのがちょっと疑問があります。
○○委員がおっしゃいましたように,信託でももちろんそうですけれども,契約はもっとより広いものであっていろいろなシチュエーションが出てくるけれども,一般法理として事情変更の原則そのように認められていてそのように言われていると。
しかし,信託は違うんですよというのはなかなかちょっと言いがたいので。ここで(注4)のようなものを認めるとしますと,何か大きく一歩踏み出すのかなという感じがします。
個人的にはそれもいいのかなと実は思っているところはあるんですけれども,ちょっとそこをしっかり考えてやりませんと影響が大きいかなという気がいたします。何度も同じことで恐縮ですけれども。
以上です。
● わかりました。これも単なる意見分布,御意見おっしゃらない方もおられると思いますけれども,もしかしたら私のまとめ方が正しくないかもしれませんが,やはり甲案は狭いという認識を持っている人が多いことは多い。
乙案がこのままの形でいいのか,またこの(注4)をくっつけることはかえって理論的にはすっきりしないという御意見も今ありましたけれども。できれば甲案よりは少し広いものが本当は望ましいのではないかという御意見が多いことは多いのではないかというふうに思っております。
今後,ここではちょっと時間でこればかりやっているわけにもいきませんのてで,甲案よりは少しやはり広げる方向で何とかできないかということで少し検討はしていただくと。
しかし,どうしても裁判所が難しいということになると,拒絶権があるというふうには私思いませんけれども,しかし,理論的な意味で難しいということであればそれは挫折するかもしれませんが,とりあえず少し広めに考えるということで,少し議論は進めさせてください。
● すみません,1点だけ。先ほど私が挙げたような例を考えますと,ちょっと私今慌ててほかのところを見ていて確認できないまま発言するんですが。
54の2の(2)のbの受益者というのは多数決とかで,複数受益者のときに多数決とかで決まる受益者であり,4の受益者というのは単独受益者でいいということですね。
だから,どうも申しわけございません。
● 54の別のところなんですけれども,1つだけ。これは説明の部分の説明の仕方のお願いなんですが,35ページに極めて非常識な信託行為の定めはというところがございます。それが公序良俗に違反する点はわかるんですが。
その次に,別段の定めに基づいて不合理な変更がなされた場合も公序良俗違反と認定されることもあるというこういう説明なんですが。不合理な変更をするときはむしろ権利濫用になるのではないかなという気がいたします。
公序良俗だけですとかなり限定的な感じがいたしますので,説明だけですけれども,お願いできればと思います。
● そうですね。そっちの方が理論的かもしれません。では,これは改めさせていただきます。
それでは,今から休憩にいたします。
(休 憩)
● それでは,変更の点はいずれにせよ重要な問題がたくさんまだ残っておりますので,よろしくお願いします。
では,○○委員,どうぞ。
● 信託の変更権限を第三者に与えるというその件で,35ページのところですね。これで制限を特に設けることなく与えるというそういう考えが示されていますけれども,最後のところに書いてある「消費者契約法等で対処する」というこの一言で具体的に消費者契約法でどのような対処をすることを考えられたのかをちょっと伺いたい。
● いかがでしょうか。
今のところすぐ思いつくのは,○○幹事の方が詳しいかもしれないけれども。第三者に非常に広範な権限を与えて,それが……
● 前回というか,前ここ議論になったときに出てきたのが,第三者への一方的な変更権限を与えることで,不当条項にならないかと,ここのことだと思うんですが。
● そうですね,一般的な条文としてはそれしかないでしょうね。
● ええ。それで,この消費者が委託者兼受益者で,その消費者と受託者との信託行為,信託契約,その中に例えば受託者に変更権限を与えるとそういう条項が入っていった場合に,それが消費者契約法を適用されることによって不当条項として無効となることがあり得ると,それはあり得るかなというふうに思います。
● 一般論としてね。
● それとはまた別の形の信託特有の問題として,受益権の転々譲渡ということ,いわゆる金融商品としての受益権というのを考えた場合に,受益権を取得した人というのは信託契約の契約当事者には入っていないので,例えば受託者に一方的な受益権の内容を変更する権限があるというような信託の受益権であった場合に,そのことを知って取得すればそれはそれということになるのかもしれませんが,知って取得するとは限らないと。
そういう場合に,この受益権を取得した人は消費者契約法ではやはり余りぴったり適用できないのか,それとも受益権を取得する契約の中にこの受益権はこういう受益権であるというものがあって,その受益権の内容として受託者が一方的に変更権限を有する受益権であるというのが入っていて,それが消費者契約法,受益権の譲渡契約に消費者契約法が適用されて,それで受益権の内容を一方的に受託者が変更できるという条項だけが,その受益者との関係でだけ無効になるというようなことがあり得るのかどうか。
そうすると,多分受益者が多数いる場合はちょっと余り混乱して変なことになるし。そういう場合は消費者契約法というのは使えないということになるような気もするんですが,これは消費者契約法に詳しい学者の先生方の御意見を伺いたいんですけれども。
● 契約関係が移転するとかそういう場合の話ですよね。基本的には消費者契約法,いやいや,これも私も余り詳しくないのだけれども,最初の当事者間で一応まず固定して考えて,そこで消費者契約法を適用したときに不当条項になるかどうかによってその後の,もしそこで不当条項だということになればその地位を譲り受けた人間もそれを主張できるというだけじゃないかと思うんですが。
ですから,実体法的にバラバラになることはなくて,その場合には,ただ,ある受益者は主張しないという場合はあるかもしれない。ある受益者は主張する。
だけれども,当初の関係でもってその契約自体が消費者契約法でいうところの条項が不当条項に当たるかどうかというのを判断するというのが基本なんじゃないでしょうか。どうですか,○○幹事あるいは○○幹事。
● こういうのは質問した方が楽だということで質問なんですが。そうなのかなという今の御説明聞いて思うところなんですけれども,しかし,○○委員が後半の方に言われた受益権の取得契約に,一方が事業者であり他方が消費者であるというような場合に,消費者契約法が適用されないかという多分それは適用されるだろうと思うんですよね。
それ自体はやはり消費者契約ですから。問題は,その場合に受益権という目的物がどういうものであるかということがその信託行為によって定まっていて,その信託行為の中に不当条項に相当するようなものが仮にあったという場合に,これに消費者契約法は適用されないのだということをどうやって説明すればいいのかなというのがちょっとまだ確信持てないもので,私が聞くのはいかがなものかと思うんですが。どうなんでしょうかということですね。ちょっとまだ答え出てないので。
むしろどういう理由があり得るんだろうかということですね。それ自体消費者契約であることは間違いないという場合に。
● 何かありますか,○○幹事。
● 今のお話というのは大もとの受益権のところで不当条項があり,その受益権の中身を規定している信託契約の中に不当条項があり,それが消費者契約法の適用を排除するかどうかという……
● そこは事業者だったような場合ですかね。
● 信託行為そのものが,先ほど言われましたように,消費者契約だという前提でいける場合というのは割とすっといくのかなと思うんですけれども。
そういう論理では仮に難しいというようなことになった場合に,もう1つの論理考えられるというのが○○委員の御指摘で。仮にそれが何か難しいのかなというふうに考えるときに,じゃあ,一体どうして消費者契約であることは間違いないけれども,不当条項規制というのが直接は妥当しないということになるとするならば,それをどう説明すればいいのかなというのがちょっとわからない。
もし説明できないとすると適用されるのかなという気もしてくるということですね。
● どんな例が適当なのかわかりませんけれども,最初の受託者と受益者の間で,受益者というか,自益信託型で,その委託者兼受益者がそれ自体も事業者で受託者に一方的な権限を与えている,しかし,その事業者はそれを販売して受益者に消費者に販売している,例えばそんな場合ですよね。
そうすると,やはりその場合には受益権を販売するという契約は消費者契約で,もう商品の中身といいますか,販売する中身はもう既に決まっているんだけれども,契約はその販売の中身そのものというか,それを移転するという行為ですけれども,やはり消費者契約を適用してその販売の中身の不当な条項は無効になるというふうに考えるんですかね。結論はその方がよさそうな気がしますけれども,ちょっと理論的にまだ。
● その適用をちょっと排除するような理由づけというのが,契約内容そのものは譲渡契約だけであるというふうに本当に言い切れるのかですよね。
商品自体の性状を決定しているものがあるわけであって,このような性質を持った目的物を譲渡するという契約ですから,契約内容は構成しているんじゃないかなという気は……
● そういうふうに考えれば適用される可能性は。
● はい,してくるかという気はして,そうじゃないということをどう言えば言えるだろうということですね。
● はい。そういう意味ではちょっとここでは結論は出ないかもしれませんけれども,消費者契約法がやはり今のような譲渡契約の段階でも適用される可能性はあるのではないかという有力な意見があった。
どうぞ。
● 今の議論をお聞きしていて,もしこれ受益者の立場で,例えば何かその種の裁判をやらなきゃならないということになった場合には,ちょっとなかなか難しそうかなという気がしていて。もう少しやはり受益権の変更については何らかの手当というのがないと,ちょっと受益者としては……
● 要するに,不当条項で争うよりはもっと信託法の中に制限があった方がありがたいと,そういう御趣旨ですね。
● ええ。まさに変更権を第三者に与えるときに無制限でいいのかどうかというそういう問題だと思いますけれども,ここについて何か御意見ございますでしょうか。○○委員。
● 今変更の内容について制限を設けたらどうかというお話ですけれども。そこの制限というのは事項についてということを多分想定されているんだと思うんですけれども。
そうであるとすると,(注2)のところにありますけれども,基本的に合同運用というものが広く一般に信託で使われておりますけれども,その場合の意思決定といいますか,変更するときの意思決定というのがうまくいかないということになるんじゃないかと思いますので。ここは事項についての制限というのはちょっと見合わせていただきたいなというふうに思っております。
● という御意見がございました。いかがでしょうか。
こういう限界を設けるときには何か案はございますか。○○委員。
● 先ほども私の意見も消費者契約法だけだと不安だなという前提で制限が一定限度設けられるべきではないかというそういう意見で。その場合の制限としてはやはりこの目的とかそういう基礎的事項として別の項目のところにたしか列挙されていたのがあったと思うんですが,そういったものにしたらどうかなというふうには考えたんですが。どこでしたっけ,ちょっと。
● 取得請求権のところでの対象事項のような制限を設けるということでしょうか。
● そうですか。事務局としてはああいうのは,取得請求権の方で対処できるんだから,ここは無制限でいいんじゃないかということなんですか。
● 結局両方が相関関係にあるわけですよね。取得請求権の方を余り制限しすぎちゃうとここで変更権を全く無制限にして取得請求権も制限されていると,かなり,というそういう選択が最悪の選択かなというふうな懸念があるんですね。
ですから,どこまでカバーできるかという問題とも言えると思います。
● 今説明ありましたように,取得請求権の方では一応一定の配慮をしているということですね。
● 取得請求権の方は事務局としては強行規定でいって配慮しようと思っていますので,その上にかつ信託目的の制限とかあるいは変更の公序良俗違反,あるいは権利濫用であれば排除されるということなども合わせて考えますと,変更の範囲についてまで制限を設ける必要はないのではいかというのが事務局の考えでございます。
● すみません,その取得請求権の方は反対した受益者は請求できるとかそういうのではなくて,特に不利益を受ける人が請求できるというそういう前提のされ方をしていたと思うんですが。
そうなると,前もちょっと話題になりましたけれども,当初方針を変えちゃうというような場合でもとにかくただつき合っていくしかないということになって,投資信託なんかを例に考えると大変困った事態になっちゃうなというそういう心配をしたんですね。
● 反対受益者の取得請求権のところにつきましては,○○委員のおっしゃるとおり,信託目的の変更につきましても受益者が不利益を被る場合に限って取得請求権を認めたらどうかという提案を今まではしておりました。
これにつきましては,次回以降検討する予定でございますが,パブリック・コメントではその不利益を被るという場合に限らず認めるべきではないかというような意見もございましたので,これも踏まえてもう少し信託目的の変更につきましては,例えば重大な変更という形で取得請求を認めた上で,その場合には不利益を被った受益者以外の受益者,一般の受益者につきましても取得請求を認めるという方向もあり得るのかなというふうに今では考えておりまして。その点につきましては今後検討したいと思っております。
● いかがでしょうか。
これはその取得請求権と密接に関連する問題でありまして,とりあえずといいますか,とりあえずここでは制限をしないという原案でいかしていただいて,取得請求権のところでもしやはり十分ではないということであればまた戻って議論していただくこともあり得るということで先に進ませていただいてよろしいでしょうか。
それでは,そういうことでお願いします。
ほかの信託の併合,分割,終了事由,清算で何かありますでしょうか。
● 先ほどの信託の変更との関係なんですが,4の議論のところで甲案の管理方法の変更という意味では狭すぎるというお考えで,それより広げることができるかどうかを今後検討していくというような方向性が示されたところですが。それを前提といたしまして,併合ですとか分割の場面にその規定を準用していくのかどうかというところなんですが,併合分割につきましては,やはり単なる事情変更のような発想とは全く違うものがありまして,信託の構造自体を変えていく,会社でいうところの合併だとか分割みたいな判断をやらなければならないところありますので,やはり簡単にそういったことを併合分割に準用していくということにつきましてはやはり裁判所の判断という意味ではなじまないということと,裁判所としては判断すべきものではないのではないかというふうに考えているところですので,御検討いただければというふうに思っております。
● 1つの信託の中身の変更とほかの信託との問題というのは確かに性質が違うということは十分踏まえた上で,先ほどの○○委員のとりまとめも踏まえつつ,どこまで広げるか,その場合には信託の併合,分割は,しかし,除外すべきかというところは十分留意した上で検討したいと思っております。
● あり得る選択肢ですね,今みたいなのは。
ほかに,では,まず○○幹事からどうぞ。
● 投資信託についても併合の規定がありませんので日本ではできないということで,これを何とかしてくれという要請がここ数年ずっとメーカーサイドからいただいておるんですね。
投資家サイドではなくて。諸外国で投資信託ファンドの併合というのは,例えば投資家に人気が出なくて規模が小さいままのファンドをたくさん維持するのが大変だから併合しようとか,あるいはパフォーマンスが悪いファンドをいいファンドで埋め合わせようとか,もっぱらと言い切っていいかどうかわかりませんけれども,メーカーの都合で行われるということで,信託一般にこれを広げていいのかどうかわかりませんけれども,金融というものをながめている目からこの話を見ると,受益者による何の関わりもないままに行われるというのはやはり相当に違和感があるということは申し上げておきたいと思います。
● いかがでしょうか,今のような御意見も踏まえまして。
今の御意見はある意味で受益者の利益のためになるようなものはいいかもしれないけれども,受託者のむしろ都合というか効率性とかそういうことでもって合併するのは適当ではていと,そんなことですかね。
● 投資信託の話をどこまで一般化できるかわかりませんけれども,商品として失敗したようなものを併合するというニーズが別に悪いとは申し上げない,それはそういうニーズがあると思うんですけれども,そうであれば当然受益者集会がいいのかその他のガバナンスの方法がいいのかわかりませんけれども,受益者の意思と無関係にメーカーの都合で併合分割が行われるということが私の常識ではちょっと考えにくいというそういう意味で申し上げました。
● 提案させていただいております案におきましては基本的には多数決原理だって別に信託行為の定めがないと適用になるものではございませんで,原則54の1と同じように委託者,受益者及び受託者の合意により行うことができるということでございまして,多数決原理が書いてなければ受益者全員の同意がないとできないというのが出発点になっているわけでございます。
それで,2で,(1)で信託の目的に反しないことや受益者の利益に適合することが明らかであるとき等々の要件を満たしたときに受益者の関与が一定限度外れるということだけでございまして,別に受益者の利益を無視したままできるようにするという立て付けにはしていないわけでございます。
このような手当は必要となると考えられます1つの例としまして,例えばそれこそ会社でいうところの簡易合併とかいったようなくじらがめだかを飲み込むような信託の併合のときに,くじら側信託の受益者の全員の同意を一律にとらなければいけないということが果たして受益者,皆さんの便益にかなうのだろうかというと,そういうことではないのではないかということでございます。
それから,米国におきましてはむしろ我々よりもさらに進みまして,もちろん受託者の義務つきという前提でありますけれども,併合などにつきましても受託者の裁量でできるというようになっているというふうに理解しておりますので,それを踏まえますと私どもの方が,そういう言い方が適当がどうかわかりませんが,適時適切に皆様方の利害に配慮した規定になっているのではないかというふうに考えているところであります。
● ほかにいかがでしょうか。合併だけではなくて分割も含めて。
○○幹事。
● 清算ですが。質問です。第58の清算を本日の最初の方での話題になった第51と関係させてお伺いしたい点がございます。第51は甲案,乙案一定の方向性,○○委員から示されましたが,まだ両方の可能性残っていようかと思いますので,それぞれとの関係で事務局に御説明をいただけるとありがたいと思います。
もし甲案をとった場合,第51で甲案をとった場合ですが,第58で2の(1)のbのところで,信託財産に属する債務の弁済というのがありますが,ここでは第58ではひとくくりになっているけれども,この中に第51が埋め込まれて,甲案に従ってまず信託債権に弁済が行われ,そしてその後受益債権に行うべしと,そういうふうに読むのだろうかということが質問です。
そしてもう1つは,どこで読んだらいいんでしょうか,第58の2の(1)のc,そして3,それから4のあたりを組み合わせることになると思いますが。残余財産の帰属についても,本来の帰属権利者と,それから残余財産受益者というのが2通りありますが,この受益者の方に着目したときには,残余財産受益者とそうではない一般の受益者との関係は清算の局面においては3のところで結局弁済の順序がつけられていると。
同じ,広くいうと受益者になるけれども,残余財産受益者と一般の受益者はここでは弁済の順序がつけられているので,それは第51のような規律を考えるならば,書いてくださいという趣旨ではないんですけれども,残余財産受益債権はその他の一般の受益債権に劣後すると,そういうものがあると考えたらいいのかどうかということです。2つ目
それから,次に乙案の方ですが,もし乙案に立った場合には,第58の2の(1)のbでは,信託財産に属する債務の弁済というのは受益債権であろうが信託債権であろうが同じなので,まさにこの58の2の(1)のbのとおり,中は区分けせずに弁済をしていくというふうに考えていいのか。
そして,もう1つは,甲案をとったときの2つ目の質問と並ぶものになりますが,2の(1)のc,それから3,それから4の(1)のbというあたりを組み合わせて出てくるところですが。
いわゆる残余財産,受益者が持っている残余財産の給付を内容とする受益債権について着目するならば,この受益債権については第51の乙案をとったとしても信託債権に劣後すると。
ここでは順序で定めていますが,実体法の優先劣後の関係におき直すことができて,第51のところの乙案をとっても同順位とすると,これでいいですが,書くとするならばですね,ただし,残余財産受益者が有する受益債権については信託債権及び残余財産受益者が有する受益債権以外の受益債権に劣後するとそういうふうに考えていいのでしょうかということをお伺いできればと思います。
● まず,甲案の方を前提としますと,2の(1)のbのところでいうところの信託財産に属する債務,これは本当は2つに分けられて,時期的前後関係からいくとまず信託債権を払って,その後受益債権にいきますということになるんじゃないかという御質問だと思いますが,それはそのとおりでございます。
他方,乙案の方についてもおっしゃったとおりでございまして,乙案をとれば恐らく同時期にどんどん払ってくださいというような一応の順序になるだろうということかと思います。
それから,甲案をとった場合の残余財産との関係ですね,特に残余財産受益者というのを今回新しく作っておりますけれども,そちらとの関係で順位が違うという表現をどういう意味にとらえるかということかと思うんですけれども,一等第51のところはまさに優先順位,つまり執行手続などにおいてどの順序で分配するかというような話ですので,普