チェック方式の自己信託設定証書(案)

自己信託設定証書
 
前文

 委託者【氏名】は、その所有する財産を信託財産とし、自己を受託者として信託を設定する(以下、「本信託」という。)。本信託はこれにより効力を生じる。

第1章 総則

第1条 (信託の目的)
□1 信託の目的は、次の各号に掲げるとおりとする。受託者は、信託の目的に従い信託財産を管理、運用、処分およびその他の目的達成のために必要な行為を行う。
□(1)受益者とその扶養義務者の安定した暮らし。
□(2)財産の円滑な管理および承継。
□(3)【                       】
□(4)【                       】
□2 信託目的の優先順位【                】

第2条 (信託財産)
□1 本信託における財産は、次の第1号から第2号までとする。本信託の翌日以降に生じた第3号から第5号までの財産も、その種類に応じた信託財産に帰属する。
□(1)別紙記載の不動産(以下、「信託不動産」という。)。
□(2)別紙記載の金銭(以下、「信託金銭」という。)。
□(3)信託財産に属する財産の管理、運用、処分、滅失、損傷その他の事由によ
     り受託者が得た財産。
□(4)受益者が信託目的の達成のために行う、自己が所有する金銭、不動産、
    債権およびその他の財産を信託財産とする追加信託。
□(5)その他の信託財産より生じる全ての利益。
□2 委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する。
□3 本信託設定日における信託財産責任負担債務は、別紙記載のとおりとする。
□4 【                  】

第3条 (信託設定者)
□1 自己信託を設定する者は、次のとおりとする。
住所【                】  
氏名【             】生年月日【       】
□2 受託者の任務は、次の場合に終了する。
 □ただし、信託法58条1項は適用しない。
□(1)受託者の死亡。
□(2)受益者の同意を得て辞任したとき。
□(3)受託者に成年後見人または保佐人が就いたとき。
□(4)受託者が法人の場合、合併による場合を除いて解散したとき。
□(5)受託者が、受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合。
□(6)受益者と各受託者が合意したとき。
□(7)【受託者が○○歳になったとき・                】
□(8)受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更
     したときを除く。
□(9)その他信託法で定める事由が生じたとき。
□3 受託者の任務が終了した場合、後任の受託者は次の者を予定する。
   【住所】【氏名】【生年月日】【委託者との関係】
 □(後任の)受託者の任務が終了した場合、新たな受託者を次の順位で予定する。
  第1順位:任務終了前の受託者が、あらかじめ書面により指名した者。
  第2順位:信託監督人が書面により指定した者。
  第3順位:その他信託法に基づいて選任された者。
□4 任務が終了した受託者(その相続人のほか、信託財産を管理すべき者を含む。)
   は、後任の受託者が信託事務の処理を行うことができるようになるまで、受益
   者への通知、信託財産の保管その他の必要な事務を行う。
□5 受託者に指定された者が、本信託の利害関係人による催告から1か月以内
   に受託者に就任しない場合は、受益者は新たな受託者を定める。
□6 後任受託者は、前任の受託者から受託者としての権利義務を承継し、次の各
   号に記載する必要な事務を行う。
□(1)債務の弁済、費用の清算。
□(2)前受託者の任務終了が辞任による場合を除いて、必要な場合の債務引受け。
□(3)その他の信託財産の引継ぎおよび信託事務を処理するための受託者の変
     更に伴う必要な手続。
□7 【                       】

第4条 (受益者)
□1 本信託の第1順位の受益者は、次の者とする。
  【住所】【氏名】【生年月日】
□2 受益者の死亡により受益権が消滅した場合、受益権を原始取得する者として
   次の者を指定する。
   第2順位
  【住所】【氏名】【生年月日】
 □【住所】【氏名】【生年月日】
 □ 第3順位
  【住所】【氏名】【生年月日】
 □【住所】【氏名】【生年月日】
□3 次の順位の者が既に亡くなっていたときは、さらに次の順位の者が受益権を
   原始取得する。
□4 受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意
   することができる。
□5 受益者に指定された者または受益権を原始取得した者が、受益権を放棄した
   場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。
□6 受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから
  1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。
□7 【委託者氏名】は、【委託者以外の受益者氏名】が受益権を取得することを承
   認する。


第5条 (受益権)
□1 次のものは、元本とする。
□(1)信託不動産。
□(2)信託金銭。
□(3)遺留分推定額。
□(4)【修繕積立金、敷金・保証金等返還準備金・        】
□(5)上記各号に準ずる資産。
□2 次のものは、収益とする。
□(1)信託元本から発生した利益。
□(2)□【賃料・             】
□3 元本又は収益のいずれか不明なものは,受託者がこれを判断する。
□4 受益者は、信託財産から経済的利益を受けることができる。
□5 【受益者氏名】は、【医療、入院、介護その他の福祉サービス利用に必要な費
   用の給付・生活費の給付・教育資金・      】を受けることができる。
□6 受益者は、事前に□【受託者・信託監督人】の書面による同意を得なければ、受益権の全部または一部を□【譲渡・質入れ・担保設定・その他の処分】することができない。ただし、信託財産または受益権に金融機関による担保権が設定されているときは、あらかじめ当該金融機関の承認を受ける。
□7 受益者は、遺留分請求があった場合は、受託者に事前に通知のうえ受益権(受益債権は金銭給付を目的とする。)を分割、併合および消滅させることができる。
□8 受益権は、受益権の額1円につき1個とする。
□9 【任意後見人の事務について同意する事項(    )・        】

第6条 (受益者代理人など)
□1
□(1)本信託の受益者【氏名】の代理人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・
  受益者が指定した日・受益者に成年後見開始または成年後見監督人選任の審判が開始したとき・    】から就任する。
□(2)本信託の信託監督人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・        】から就任する。
  【住所】【氏名】【生年月日】【職業】
□2 受益者(受益者の判断能力が喪失している場合で、受益者代理人が就任していないときは受託者)は必要がある場合、受益者代理人、信託監督人を選任することができる。
□3 受益者代理人および信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務
   に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。


第7条 (委託者の地位)
□1 委託者は、次の各号の権利義務を受益者に移転する。
□(1)信託目的の達成のために追加信託をする権利義務。
□(2)受益権の放棄があった場合に、次の順位の受益者または残余財産の帰属権
    利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利。
□2 委託者は、受益者を変更する権利およびその他の権利を有しない。
□3 委託者の地位は、受益権を取得する受益者に順次帰属する。
□4 委託者が遺言によって受益者指定権を行使した場合、受託者がそのことを知
   らずに信託事務を行ったときは、新たに指定された受益者に対して責任を負わ
   ない。

第2章 受託者の信託事務

(信託財産の管理方法)
第○条
□1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
□(1)所有権の移転登記と信託登記の申請。
□(2)本信託の変更により、信託不動産に関する変更が生じる場合の各種手続き。
□(3)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為。
□(4)信託財産責任負担債務の履行。
□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。
  □売買契約の締結および契約に付随する諸手続き。
  □賃貸借契約の締結、変更、終了、契約に付随する諸手続き及び契約から生じる
   債権の回収および債務の弁済。
  □使用貸借契約の締結、変更、終了および契約に付随する諸手続き。
  □保険契約の締結または名義変更、契約の変更および解除。
  □保険金及び賠償金の請求及び受領。
  □リフォーム契約の締結。
  □境界の確定、分筆、合筆、地目変更、増築、建替え、新築。
  □その他の管理、運用、換価、交換などの処分。
  □【                  】
  □ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・       】
   から事前に書面(電磁的記録を含む。)による承認を得なければならない。
  □【                  】
  □【                  】
  □【                  】
□(6)その他の信託目的を達成するために必要な事務。
□2 受託者は信託金銭について、次の信託事務を行う。
□(1)信託に必要な表示又は記録等。
□(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理。
□(3)信託財産責任負担債務の期限内返済および履行。
□(4)本信託の目的達成に必要な場合の、信託財産責任負担債務の債務引受。
□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。
□受益者への定期的な生活費の給付、医療費、施設費などの受益者の生活に必要な費用の支払い。
□金融商品の購入、変更および解約。
□不動産の購入、賃借。
□受益者の送迎用車両その他の福祉用具の購入。
□受益者所有名義の不動産に対する擁壁の設置、工作物の撤去などの保存・管理に必要な事務。
 □【                            】
 □その他の信託目的を達成するために必要な事務。
 □ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・       】
   の書面(電磁的記録を含む。)による事前の承認を得なければならない。
  □【○○万円を超える支出・       】
  □【                  】
□3 受託者は、信託目的の達成のために必要があるときは、受益者の承諾を得て金銭を借入れることができる。受託者以外の者が債務者となるときは、借り入れた金銭は信託財産に属する。
□4 受託者は、受益者の承諾を得て信託財産に(根)抵当権、質権その他の担保権、用益権を(追加)設定し、登記申請を行うことができる。
□5 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第三者へ委託することができる。
□6 受託者は、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合は、本信託の目的に従い受益者の承諾を得て、支出することができる。
□7 受託者は、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする合意をすることができる。
□8 受託者は、受益者(受益者代理人、信託監督人、法定代理人および任意後見人が就任している場合は、それらの者を含む。)から信託財産の管理状況について報告を求められたときは、1か月以内に報告しなければならない。
□9 受託者は、計算期間の末日における信託財産の状況を、信託財産に応じた方法によって受益者(受益者代理人、信託監督人、法定代理人、任意後見人が就任している場合は、それらの者を含む。)へ報告する。
□10 受託者は、受益者から追加信託の通知があった場合、その財産に信託の目的をはじめとした契約内容に適合しない財産がある場合は、追加信託の設定を拒否することができる。
□11 受益者に対して遺留分請求があった場合、遺留分の額が当事者間で確定しないときは、受託者は調停調書その他の権利義務が確定する書面を確認するまで、履行遅滞の責任を負わない。
□12 受託者は、善良な管理者の注意をもって、受益者のために忠実に職務を遂行する。
□13 受託者は、土地への工作物などの設置により他人に損害を与えることのないように管理する。
□14 受託者は、信託行為に記載のある事務および受益者の事前同意を得た事務に関して、信託期間中及び信託終了後、信託財産に関する瑕疵及び瑕疵により生じた損害について責任を負わない。
□15 本条項に記載のない事項は、信託法その他の法令に従う。

第8条 (信託事務処理に必要な費用)
□1 信託事務処理に必要な費用は次のとおりとし、受益者の負担により信託金銭
   から支払う。信託金銭で不足する場合には、その都度、またはあらかじめ受益
   者に請求することができる。
□(1)信託財産に対して課せられる公租公課。
□(2)信託不動産の維持、保全、修繕および改良に必要な費用。
□(3)損害保険料。
□(4)信託監督人、受益者代理人およびその他の財産管理者に対する報酬・手数
     料。
□(5)弁護士等の士業その他の第三者へ委託した場合の手数料又は報酬。
□(6)受託者が信託事務を処理するに当たり、過失なくして受けた損害の賠償。
□(7)その他の信託事務処理に必要な諸費用。
□(8)【                  】
□2 受託者が信託事務の処理に必要な費用に関して、【金額】円を超える場合、事前に信託金銭の中から支払いまたは事後に信託金銭から償還を受けるときは、受益者に対してその額のみを通知する。ただし、算定根拠を明らかにすることを要しない。

第3章 信託の終了と清算

第9条 (信託の終了)
□1 本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。
□(1)【氏名】が亡くなったとき。
□(2)信託の目的に従って受益者と受託者の合意があったとき。
□(3)信託財産責任負担債務につき、期限の利益を喪失したとき。
□(4)受益者と受託者が、○○県弁護士会の裁判外紛争解決機関を利用したにも
    関わらず、和解不成立となったとき。ただし、当事者に法定代理人、保佐人、
    補助人または任意後見人がある場合で、その者が話し合いのあっせんに応じ
    なかった場合を除く。
□(5)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。
□(6)受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続し
     たとき。
□(7)信託財産が無くなったとき。
□(8)その他信託法で定める事由が生じたとき。
□(9)【                       】
□2 本信託において、信託法164条1項は適用しない。

第10条 (清算受託者及び手続)
□1 清算受託者は、本信託が終了したときの受託者とする。
□2 清算受託者は、本信託の受託者として行っている職務を終了し、次の清算手
   続きを行う。
□(1)信託財産に属する債権の回収および信託債権に係る債務の弁済。
□(2)受益債権に係る債務の弁済。ただし、残余財産の給付を内容とするものを
     除く。
□(3)清算手続きに必要がある場合、残余財産の帰属権利者に通知のうえ、財産の処分、担保設定および残余財産の帰属権利者による債務引受けの催告。ただし、債権者があるときはその承諾を必要する。
□(4)信託事務に関する最終の計算。
□3 残余財産の帰属権利者から最終計算の承認がされ、清算受託者が残余財産を帰属権利者に引き渡したとき(残余財産の帰属権利者による債務引受けが必要な場合は、事前に債務引受けを行うことを要する。)に清算手続きは終了し、信託財産の所有権は移転する。
□4 清算受託者は、清算結了時の現状有姿(債務引受けの状態を含む。)でもって残余財産を残余財産の帰属権利者に引き渡す。
□5 清算受託者による登記、登録、届け出および通知が必要な残余財産がある場
   合は、その手続きを行う。
□6 清算受託者の変更に伴う権利義務の承継等は、本信託の受託者と同様とする。


第11条 (信託終了後の残余財産)
□1 本信託の終了に伴う□【残余財産の受益者・残余財産の帰属権利者】は、次の順位により指定する。
第1順位
住所 ○○県○○市○○町〇―〇―〇
氏名 ○○○○
生年月日 昭和〇年〇年〇月〇日
第2順位
住所 ○○県○○市○○町〇―〇―〇
氏名 ○○○○
生年月日 昭和〇年〇年〇月〇日
第3順位
住所 ○○県○○市○○町〇―〇―〇
氏名 ○○○○
生年月日 昭和〇年〇年〇月〇日
□【                  】
□2 次の順位の者がすでに亡くなっていたときは、さらに次の順位の者を残余財産の帰属権利者に指定する。
□3 残余財産の帰属権利者に指定された者が当該権利を本信託の受益権と共に放棄した場合には、さらに次の順位の者を残余財産の帰属権利者に指定する。
□4 清算結了時に信託財産責任負担債務が存する場合で金融機関が求めるときは、合意により残余財産の帰属権利者は、当該債務を引き受ける(信託法181条)。


第4章 その他

第12条 (受益者の代理人が行使する権利)
□1 受益者代理人が就任している場合、受益者代理人は受益者のためにその権利
   を代理行使する。
□2 受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任して
   いる場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。
   ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、
   代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く。
□(1)受託者の辞任申し出に対する同意。
□(2)受託者の任務終了に関する合意権。
□(3)後任受託者の指定権。
□(4)受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同
     意を求める権利。
□(5)受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。
□(6)受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾
    権。
□(7)受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)
     設定する際の承諾権。
□(8)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信
    託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。
□(9)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意
    権。
□(10)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本
     信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。
□(11)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合
     意権。
□(12)本信託の変更に関する合意権。
□(13)残余財産の帰属権利者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権。
□(14)本信託の終了に関する合意権。
□3 信託監督人が就任している場合、受益者の意思表示に当たっては事前に信託監督人との協議を要する。

 
第13条 (信託の変更)
□1 本信託の変更は、次の各号に掲げる方法による。ただし、信託財産が金融機関に担保提供されている場合、受託者はあらかじめ当該金融機関の承認を受ける。
□(1)信託目的の範囲内において、受託者と受益者による合意。
□(2)その他信託法が定める場合。
□2 受益者が受益権を分割、併合および消滅させたときは、信託の変更とする。
□3 【                       】

第14条 (信託の期間)
 本信託の期間は、契約日から本信託が終了した日までとする。
□【                       】

第15条 (公租公課の精算)
 本信託の税金や保険料などは、本信託設定の前日までは委託者、以後は信託財産から支払う。

第16条 (計算期間)
□1 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。
□2 最初の計算期間は契約の日から12月31日までとし、最後の計算期間は1月1日から本信託の終了した日までとする【受益者が法人の場合は事業年度】。

第17条 (契約に定めのない事項の処理)
□1 本信託の条項に定めのない事項は、信託法その他の法令に従い、受益者及び
   受託者の協議により処理する。
□2 受益者及び受託者のみでは協議が整わない場合で、意見の調整を図り信託の
   存続を希望するときは、○○県弁護士会の裁判外紛争解決手続を利用する。
□3 【                        】

特約
□1 【遺留分権者の確認                  】
□2 【遺留分権者への対応                     】
□3 【信託変更の場合の届出                    】
□4 【受益者指定権者等の有無                   】
□5 【委託者による購入済みの保険、投資信託、株式の確認と今後の対応】
□6 【受託者の報酬                        】
□7 【受益者の指図権  無・有(                )】
□8 【受託者が指図に従わなくても良い場合】
□9 【法人がある場合の履歴事項証明書・規約・出資者名簿・     】
□10 【受益者・推定相続人に外国籍、日本以外の住所、居所がある方がいる場合【国名】     】
□11 【信託財産が日本以外にある場合【国名】         】
□12 【準拠法の選択【日本】・             】
□13 【任意後見人の事務について同意する事項(    )】

以上


別紙
信託財産目録

第1 不動産【自宅・貸地・貸家・墓地・         】
所在 地番 地目 地積       
所在 家屋番号 種類 構造 床面積 

第2 金銭  
【金額】円

第3 その他
【仏壇・位牌・     】
以上

別紙
信託財産責任負担債務目録

□ 1 金銭債務
    (連帯)債務者 【住所氏名】
    債権者    【金融機関本店】【金融機関名】【取扱店】
    【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て
    【当初金額】万円
    【利息】【損害金】

□2 保証債務
   (連帯)保証人 【住所氏名】
   (連帯)債務者 【住所氏名】
   債権者     【本店】【商号】【取扱店】
   【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て
   【当初金額】万円【利息】【損害金】

□3 担保権
(1)担保権者 【本店】【商号】【取扱店】
(2)【年月日】設定の【担保権の名称】
(3)登記 【法務局の名称】【年月日】【受付年月日・受付番号】
(4)被担保債権及び請求債権
   【年月日】付【契約名】に基づく残債務の全て
   【当初金額】万円 【利息】【損害金】
(5)(連帯)債務者 
   【住所】【氏名】
(6)不動産 
   所在 地番 地目 地積 共同担保目録第【番号】号
   所在 家屋番号 種類 構造 床面積 共同担保目録第【番号】号

□4 その他の債務
  不動産の賃貸借契約にかかる債務
  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み
  【賃料】
  □【存続期間・支払時期】
  □【賃借権の譲渡許可・賃貸物の転貸許可】
  □【敷金】
  □【賃貸人が財産の処分につき行為能力の制限を受けた者・財産の処分の権限
    を有しない者】
   □【土地の賃借権設定の目的が建物の所有】
   □【土地の賃借権設定の目的が事業用建物の所有】
   □【借地借家法22条前段・23条1項・38条1項前段・39条1項・高
     齢者の居住の安定確保に関する法律52条・大規模な災害の被災地にお
     ける借地借家に関する特別措置法第7条1項】

 □地役権の目的となっている承役地【所在 地番 地目 地積】
  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み
  【要役地】【地役権設定の目的】
   □【地役権の付従性の制限】
   □【工作物の設置義務等】
   □【図面確認】

 □地上権の目的となっている土地
 【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み
  【地上権設定の目的】【地代又は支払い時期の定め】□【存続期間・借地借家法
  22条前段の定期借地権・借地借家法第23条第1項の事業用借地権・大規模
  な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条2項】の定め
  □【地上権設定の目的が事業用】
  地下又は空間を目的とする地上権の場合□【地下の上限の範囲・空間の上下
  の範囲】□【土地への制限】

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各敷金返還債務

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各保証金等の預り金についての返還債務

□【                        】

以上

信託目録
1 委託者に関する事項 □【住所】【氏名】
2 受託者に関する事項 □【住所】【氏名】・【本店】【商号】
3 受益者に関する事項等 □【住所】【氏名】
□【受益者氏名】の受益者代理人
 【受益者代理人の住所・氏名】
□【受益者代理人の住所・氏名】
□【受益の指定に関する条件】
□【受益者を定める方法】
4 信託条項 □ 【年月日】【公証人所属法務局名】公証人【公証人氏名】作成に係る信託契約公正証書(【年月日】第【○○】号)
【全部・第2次、第3次受益者のみ・     】

1信託の目的
□【信託契約書第   条   項   号 】

2信託財産の管理方法
□【信託契約書第   条   項   号 】

3信託の終了事由
□【信託契約書第   条   項   号 】

4その他信託条項
□【信託契約書第   条   項   号 】

その他の信託条項は、【年月日】付信託契約書及び変更契約書記載の通り。

備考 □【受託者が法人であるので、法人の構成員全員の住所氏名と、不動産を売却するには全員の署名および実印がある承諾書(3か月以内の印鑑証明書添付)が必要なことを信託目録に記載する】

□【どの不動産が信託財産か分かるように、信託した他の不動産を信託目録に記録する。】

□【                          】

以上

本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録(任意後見契約公正証書)


別紙
本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録
(任意後見契約公正証書・附録第1号様式に基づく)

□1 代理権目録記載事項のうち、次の事項については【年月日】締結の民事信託契約に関連して、事前に□【受託者・受益者(受益者代理人)・信託監督人】の同意を得なければならない。
【A  B  C  D  E  F  G  H  I  J  K  L M  N  】

□2 代理権目録記載事項のうち、【年月日】締結の信託契約に関連して信託財産に属した財産は受益者代理人などの信託関係者が優先する。
【A  B  C  D  E  F  G  H  I  J  K  L M  N  】

以上

法制審議会信託法部会第26回~30回,国会

第26回、第29回は入っていません。
2016年加工編
法制審議会信託法部会
第27回会議 議事録

第1 日 時  平成17年12月16日(金)  自 午後1時04分
                        至 午後5時05分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて
   
第4 議 事  (次のとおり)



議        事
● それでは,これから信託法部会を開催したいと思います。
  今日は,○○幹事の方で,また適宜分けて議論していくことになります。
  それでは,分け方,資料等について説明してください。


● 今回資料が直前になりまして,大変御迷惑をおかけしまして恐縮でございます。
  資料,全部で項目は多数ございますが,1個1個がそれほど多岐にわたるものでもないこともございまして,よろしく御協力をお願いしたいと思っております。
 

 分け方といいましても,今日の場合はばらばらとしておりますので,前から淡々と進めていきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,お願いします。
● では,一番最初が,脱法信託と訴訟信託の問題でございます。
  脱法信託の禁止につきましては,パブリック・コメントのすべての意見が現行法10条を維持する試案に賛成意見でございましたので,そのとおりとするものでございます。


  訴訟信託の禁止につきましては,パブリック・コメントでは,現行法11条を維持すべきとの意見と,セキュリティ・トラストの利用局面にかんがみまして,正当な理由のある場合を例外基準として明記するか,あるいは現行法11条自体を削除すべきであるという意見とが示されております。
  

しかし,懸念が示されておりますセキュリティ・トラストにつきましては,主たる目的の解釈等によりまして有効と解することができると思われますことにもかんがみまして,現行法11条を維持することによって事案に応じた妥当な解決が図られると考えるものでございまして,このように提案させていただきます。
  以上でございます。

● それでは,脱法信託と訴訟信託について,御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。
  ○○委員。


● 訴訟信託の禁止についてのこの規定については,この形で賛成でございますけれども,ちょっとだけ要望を言わせていただきたいと思います。


  解説の中に,正当な理由がある場合については,この主たる目的の解釈,脱法行為性,反公序良俗性にかんがみた個別判断で対応できますよということで書いてあるんですけれども,御承知のとおり,この関係で,弁護士法の潜脱がされないようにということがあると思うんですけれども,


皆さん御承知の,最高裁の平成14年1月22日の弁護士法違反かどうかの判断の際には,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生じる恐れがなく,社会経済的に正当な業務の範囲内と認められる場合には,弁護士法73条に違反しないというのがございますので,このあたりを解説等に書いていただきたいなというふうに思います。


  特に,流動化の関係で,この73条の例外として,サービサー法でもって権利の実効のための債権の譲り受けというのが認められているわけなんですけれども,最近ちょっとサービサー協会の会報に載っている文なんですけれども,破産事件でサービサーが破産の申立て適格を有するかどうかというところでも同様に,相手方はサービサーの免許を持たないSPCが申立てするのは不適格だという形で対抗していたんですけれども,東京地裁の方でも,この最高裁の判断基準に基づいてSPCの方で,申立て適格があるということを認めております。
 


 それについても,平成17年1月22日,東京高裁でもその部分が維持されているということもございますので,このあたり,かなり考え方については定着しているのかなというふうに思いますので,ぜひ解釈等で,そういう解釈であれば問題ないんだというところを明確にしていただければ,実務上の指針になるのではないかなと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
● 何か,コメントがありますか。


● 御指摘の点でございますけれども,特に御懸念なのはサービサーにつきましては法律があるのでいいとしまして,セキュリティ・トラストの関係かと思うんですけれども,個人的な感触といたしまして,セキュリティ・トラストがそもそも訴訟信託に当たるのかと。担保権を取得するわけでございますが,それは常に執行行為を,最終的には意図しているとしても,任意売却という方法もあるわけでございますし,主目的とまで言えるのかどうかという点は,個人的にはどうかなという気がするわけでございます。

  しかし,仮にそれが訴訟信託,訴訟を主たる目的とする信託に当たるといたしましても,四宮先生の教科書,あるいは前に日弁連からいただいた資料,あるいはそれをおまとめになられた○○委員の御意見などを見ましても,正当な理由がある場合には,これは許容されていいのではないかということは解釈で対応できるということで,我々としても,そこはそういう方向で行きたいと思っておりまして,その一環といたしまして,今○○委員の方から御指摘のございました最高裁の判例の説示につきましても,解釈基準を明らかにする中で言及していきたいというふうに考えているところでございます。


● ほかに。
  ○○委員。

● ○○委員と同じ趣旨を述べ上げるわけですけれども,銀行界としては,御説明あるとおり,セキュリティ・トラストの観点から今そこお話ありましたように,正当な目的で取引をする場合には,規制が障害にならないようにということで,法律上の明確化をパブリック・コメントでも要望していたところでございます。


  もちろん,法律上の明確化というのは望ましいわけなんですが,立法上の困難ないしは解釈上の対応で可能ということであれば,○○委員もおっしゃったように,ぜひとも今後の運営で使いやすいようにという観点から,立法時の解説等で,この点を明らかにしていただきたいと思っております。
  以上です。


● そこは,そのように対応させていただきたいと思います。
● ほかにいかがでしょうか。--よろしいですか。
  どうぞ,○○委員。


● 立場上,○○幹事の御発言どおりのことで,あえてもう1度繰り返させてお時間的に申しわけないんですけれども,訴訟信託の禁止の信託法,現状の11条というのは,別に弁護士会にとって,もちろん関連は深いところではありますけれども,種々,多々の判例等もございますし,また判例の蓄積で主たる目的が何かというところで既に解決されている問題があって,もともと権利濫用無効の議論でありますし,また以前,かなり以前の議論に立ち戻ると,任意的訴訟担当との関連での正当理由という議論ではありましたから,ですから,すべて繰り返す議論は時間的にもったいないんですけれども,このただし書きいれるということは種々,いろいろ問題ありますから,現状のままでよろしくお願いしますということ。

  ○○委員も,また○○委員も,現状のまま,ただし最高裁の判例云々ということだったと思うんですけれども,あの判例自体はまさしく最高裁の判例で,弁護士法73条の関連で,読み方といいますか,正当業務性ということなので,違法阻却のような視点というふうに考えるんですけれども,それは別にこの条文だけではなくて,すべての法理に当てはまる問題だと思います。


  ですから,11条に関して最高裁の判例が特に強く当てはまるとか,または当てはまらないという議論では,特にないかと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。
  それでは,脱法信託,訴訟信託については,これでよろしいでしょうか。
  それでは,次行きましょうか。


● 次は,第12,信託財産に対する強制執行等についてというところでございます。

  これは第22回部会で御議論いただきましたが,その提案から実質的な変更があった部分についてのみ,2点御説明いたします。

  第1に,受託者が信託事務を処理するに当たりましてした不法行為に基づく損害賠償請求権を有する債権者が,信託財産に掛かっていけるかという問題が従来よりあったわけでございまして,結局これは,受託者の無資力のリスクを受益者と被害者のいずれが負担するのが妥当かという問題であると位置づけられると思います。


  そのように位置づけた上でパブリック・コメントの多数意見なども踏まえまして,結論としては,事実的不法行為であるか取引的不法行為であるかを問わず信託財産に掛かっていけるとしてはどうかと提案したものでございます。


  これに対しましては,受託者の行為が信託財産のために行われた場合に,たまたま相手方がそれによって被害を受けたときに,受託者が無資力であるからといって信託財産に全然掛かっていけないというのはおかしいのではないかという指摘もございまして,前回に引き続きましてこのような提案をしたということになります。


  次に,第2に,4のいわゆる信託宣言によって信託が設定された場合の信託財産に対する強制執行の権利の特則に関しまして,期間制限を設けるべきであるという指摘があったことを踏まえまして,ここでは4の②のとおり,信託設定のときから2年間の期間制限を設けることとしております。


  以上でございます。
● それでは,この第12につきまして,いかがでしょうか。
  ○○委員。


● 先に,信託宣言の新たな規定の御提案についてございます。2年間ということについて意見を述べたいと思います。

  信託宣言の強制執行等の特例について,期間制限をどれぐらいの期間に設定すべきかというのは議論があると思います。多分,会社設立無効の関係かなとは思いますけれども,この2年という期間を設定した理由についてちょっとお尋ねしたいわけなんですけれども。


  では,それはさておき立法論としてこの2年が妥当かどうかということを考えますと,証券化の立場からは,取引安定性を考えると短ければ短い方がいいなということもありますし,ただ債権者の立場からすると,保全の可能性ということがあると長ければ長い方がいいかなということのバランスで悩むところでございます。

  そういうことでございまして,一概に決めるのは難しいというふうには認識しております。ただ,一応銀行として債権者の立場から考えますと,少なくとも債務者を通常モニタリングをしていて,詐害的な信託設定がないかどうかということ,また,そう認識したときに対応が可能な期間を確保したいという,そういう期間がどれくらいなのかなというふうに考えますと,実務上,通常少なくとも1年ごと債務者の決算書を聴取して,どういう財政状況なのかということをモニタリングをしますものですから,このモニタリングの間隔を考えれば,あとそれを認識して詐害信託への対応準備期間を考えれば,この御提案のとおりに2年は最低限必要だなというふうには思っております。

  ということを述べたいと思います。
  以上です。

● 詐害行為取り消しの場合2年ですから,それに合わせてという。
● ただ,この場合は,知ってからではなくてという話なので……。

● もちろんそうです。ちょっと早くなりますけれどもね。
● 念のためですけれども,この特別な規律に基づく強制執行は,設定のときから2年という客観的な時点から起算されますが,仮に2年が経過してこの権利が失われましても,一般の詐害行為取消権,あれは知ったときから2年ですから,そちらの方で訴訟を提起して取り消していくという方法は残るということを付言させていただきます。

● ですから,一応特例としてやりやすいというのを,設定してから2年間にするのか3年にするのかという,そういう議論が今なされていると思っていますけれども,その2年間といった,その設定の理由というのうが,もちろん詐害行為取消権の2年というのもあるんですけれども,あれは認識してからという話ですから,それを,設定してから2年間という,一種の特例を求めるときの期間として今回御提示があったというふうに理解しているわけですので,その2年間というのはどういう理由からなされたのかということをお尋ねしたいと,そういう趣旨でございます。


● それにつきましては,ただいま○○委員から御指摘がありました会社の設立無効の訴えですか,古い条文ですと商法428条で会社法ではどこに行ったかちょっとすぐにはわからないんですが,それにつきましては,成立の日より2年内に訴えをもって主張することができると,これを基本的に参考にしているということでございます。

● ほかに。
  ○○委員。


● この12の部分について,ちょっと私,議論を必ずしも十分フォローしていないのであれなんですが,1の信託財産に対する強制執行等の禁止で(8)の部分に下線が引いてあって,さっき御説明伺いましたが,ちょっとはっきりした自信はありませんが,これは英米信託法のルールとは異なるものだということだけは,やっぱりテークノートしておく必要があって,受益者と無実の被害者とどっちを保護するんだというときに,比較考慮すると当然こうだというのは,幾らでも本当は反論の余地があるということだけ申し上げさせていただきます。

● おっしゃるとおり,伝統的な信託法の理論とは違うということですね。


● そうですね。
● この不法行為によって生じた権利を含めるということについては,今○○委員から御指摘もありあましたように,いろいろ御意見があり得るところだというふうには,もちろん認識しております。

  ただ,アメリカ法がどうかというのをここでまた一から議論するというのは適当ではないと思いますけれども,英米法の中でも,今言いましたように,伝統的な法理は確かに不法行為債権は信託財産に係っていけないといいますか,当てにできないわけですけれども,たしかUTCなんかでは,それを少し修正する方向に動いているのではなかったかというふうにも記憶しておりますが,しかし伝統的な法理でないことは確かですね。


  ですから,皆さんから御意見がなければ,時間の節約で,私がちょっと感じたことを申し上げますと,信託事務を処理するについてという,一応枠といいますか,そういう行為を受託者がするについてした不法行為ということで,ちょうど715条とか,あるいは44条とかああいうところの規定の仕方と同じにそろえてあるわけですが,ちょっと気になりましたのは,信託財産に欠陥があるという,工作物責任が問題となるような場面なんですが,恐らく715条とか44条の場合には,これ問題は生じなくて,つまり717条で責任を追及するときには,被用者を通ってから使用者に行くというルートをとらないで,いきなり使用者,その財産の所有者に対して係っていくんだと思うんですね。それは法人の44条の場合も同じなんですが。

  そういうことで,44条とか715条の場合には生じない問題ですけれども,信託の場合には,工作物に欠陥があったときに,恐らく原案の趣旨は,それはこの条文でいけるという趣旨なんでしょうけれども,715条の文言と同じような文言であるために,そこが,こっちの方が広いんだという理解の仕方をすればいけると思いますけれども,通常715条そのものだといけない可能性があるのかなということをちょっと思いました。

● そこは文言を修正してということで……。
● 文言修正するのがいいのか,そこは……。


● この文言でいけるのではないかと,我々としては思っているわけでございますけれども。


● ですから,そこは明確にしておいた方がいいと思いますけれども。
  715条だと,恐らくいけない。


● 715条ではいけない。
● 恐らくいけないのね。
  あそこと同じように信託事務を処理するについてという表現なので,ここは工作物責任の場合にもいけるという趣旨であるということを明確にした方がいいと思うんですね。

  先に,○○委員でいいですか。

● ちょっと確認だけなんですけれども,信託財産に属する工作物による責任についてのお話が今ございました。

  それ以外に,受託者の被用者についてどうなるのかということが,(8)では必ずしも明確ではないように思うんですが,その場合の715条とか自賠法3条は,(9)に入ると読んでよろしいんでしょうか。


● 被用者が直接の責任を負うわけですか。被用者が実際に,現実に違法行為を行って,その背後に受託者がいるという場合に,被用者は直接普通の709条の責任を負っていくということになるのではないんでしょうか。


● 信託財産に係っていくことはできるかどうかということなんです。

● それは,一応受託者に責任が715条を経由して係っていくことによって信託財産にいけるのではないかというのが,その715条と同じような考え方でこちらはいるわけでございますが。


● そうすると,(8)で,今のは含まれるという理解ですね。
● はい。
● わかりました。


● ですけれども,ちょっと表現が,このままでいければいいと思いますし,今のような工作物責任とか,715条を通って受託者にいくときも,この(8)で含まれるようにということを明確にした方がいいということだと思いますね。
  ほかに。


  ○○幹事。
● 先ほどの○○委員のおっしゃった工作物責任の件なんですが,念頭に置いていらっしゃる例をちょっと確認したいんですが,2通りありまして,信託財産として引き渡されたときに既に瑕疵があって,それによって何かが生じたと,それは土壌汚染なんかの場合によくそういうような問題起こるわけですが,それでもう1つ,信託事務の処理として,例えば建物を建てるというときに,それに瑕疵があって工作物責任が生じたという場合とあると思うんですけれども,後者がこの(8)に含まれることは明らかであろうという気がするんですが,前者も含まれるという御趣旨で今議論がされたんでしょうか。

● 私はそのつもりで申し上げて,普通の715条だとそういうのは入ってこなくなるけれども,ここでは信託財産に責任を負わせていいのではないかという前提で,そういうのを含むというふうに申し上げたつもりです。


  それが適当かどうかという御意見でしょうか。
● 適当かどうかという感じがしますけれどもね。
● 典型的には,今のように土壌汚染も委託者の段階から汚染があって,そういうのを引き受けた。だけれども,これはしかし工作物責任というよりは,あるいは別な法律の責任かもしれませんけれども,信託事務の処理というのを介さないで当然に無過失責任を負わされるような場合があったときに,それが不法行為責任だとして,この(8)でやはりいけるべきではないだろうかという。


● 2通り話がありまして,工作物責任とか土壌汚染の責任とかを,どちらかといえば,所有者という個人が負うというものよりも何か土地自体の債務みたいに考えるということですと,その信託財産に係っていけるという結論は,それはそれなりにわかるところはあるんですけれども,もしそれがそうならば,それを(8)で読むというのはかなり無理があって,先ほど○○委員がおっしゃったように,この不法行為の問題において,信託事務を処理するについてしたという文言というのは極めて大切なんだと思うんですね。

  つまり,受託者という人が勝手に何かをやったということになりますと,それが取引であって,全く信託の事務の範囲に属さないようなことを勝手にやったということになりますと,それは信託に帰属しないという結論が導かれるのに対して,それが不法行為であるならば必ず帰属するということにはならないはずで,英米の伝統的な法理というのは,恐らく,不法行為であるとそれが信託の本旨に従っているわけはないのだから帰属しないという,こういう枠組みなのではないかというふうに思うんですね。

  そうしたときに,しかし信託事務の処理についてした場合には,やはり不法行為でも負わせるべきではないか。

もちろん,取引的不法行為の場合には,錯誤等でいけば当然に信託財産が差し押さえ得るのに,不法行為構成でいくといけないというのはそれはおかしいというのは,これはよくわかるわけで,しかし,勝手に受託者がやった行為について何らかの形で受益者に負担がいくというわけではないわけであって,まさにそれは信託事務を処理するについてしたというところの解釈の問題であって,そこの解釈を,あまりあいまいといいますか拡大をして,工作物責任なんかもここで読めるのだという形でもっていくというのは,今後この文言が,これがそのまま条文になるとは限らないわけですけれども,これが,例えばこのままの形で条文になったときに,この文言の解釈というものが無限定になる恐れというものを感じてしまうのですが。

● まさにそういう,無限定というのとはちょっと違うかもしれませんけれども,この文言で,果たして今のような工作物責任が入るのかどうかというのは私も疑問だったので,どうですかということを皆様に申し上げたつもりでございます。


  どんな対応が可能なのか,もし○○幹事の方で,結論はいいんだけれどもということであれば,何か御提案をいただけるとありがたいんですが。


● 聞かれると困るんですが。
● 結論はよろしいという御意見ですか。土地工作物責任に関しては。少なくとも。

● それはそうなんだと思いますけれどもね。
● むしろ信託財産自身が負うべきだというぐらいの議論があるわけだから,信託財産でいけないというのは,何かおかしい感じはしますよね。
● また,受託者が別個,受益者に対して何らかの責任を負うかどうかという問題を,一応わきに置いて考えて,土壌汚染や工作物責任によって被害を受けたものとの関係で言えば,その財産について差押え等ができても,それはおかしくはないというふうに思いますけれども。

● どうですか。
● 結論はおっしゃるとおり,信託財産自体に瑕疵があってという場合に,やはり信託財産が責任を負うというのは御指摘のとおり,実質的判断としてはよろしいと思いまして,我々は,あとそれが果たして(8)で読めるかというところにつきましては,読めるのではないかという気がしておったわけでございますが,今○○幹事がおっしゃったように,この(8)が無限定に広がるという懸念があるという御指摘も踏まえて,ちょっと書きぶりなどは検討させていただきたいと思っております。
● これ,工作物責任だけに限定されるんだったら,恐らく大したことないのかもしれませんけれども,似たようなものがあるというときになかなか書きにくいかもしれませんね。
  ちょっと書きぶりは検討させていただくとして,何か御意見が,どなたか手を挙げられましたか。
  


土壌汚染なんかも,土壌汚染対策法上の責任が何なのかというのもあまりはっきりしないですよね。不法行為なのかどうかということも含めて。
  ○○幹事。


● 詰めてはいないんですけれども,(8)で工作物責任のようなものが読めるかという点については,やはり読みにくいのではないかという気はいたします。
 


 ただ,それに対する対応を,(8)の文言を少し広げる,あるいは読み込めるような形で図るのか,この文言はやはり限定機能があるので,それは生かした上で,例えばまたはで何かつなぐとか,もう1つ号を立てるとか,そういうやり方もあるのではないかと。
  


どちらがいいのかと言うと,私自身は,これとは別にもう1つの概念として,信託財産によって生じた損害に対する権利だとか,何か文言の工夫ができるのであれば,ここの部分をただ単に広げる形で盛り込むよりは,まだそちらの方がいいのではないかと思います。

● 恐らくその方がよさそうな気がいたします。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっとすみません。私,今の話と関係なくて。
  土地工作物責任のお話は,実際には信託財産が不動産である場合も多いので,非常に大きな問題ですね。アメリカであれ,日本であれ。だから,そこで問題がこうやって議論されるのはいいことだと思うんですが,前の一般論のところで,ちょっと先ほど○○委員の方も一言おっしゃってくださったので,少し敷衍だけ。

  つまりこういう例なんですけれども,例えば,私が車運転していますね。受託者もやっているんですね。あるとき受益者のもとへ,何らかの報告義務か何だか,この信託についての説明文書を持って駆けつける途中で人をはねます。不法行為ですね。

  それと関係なく私が人をはねます。はねられた人がやってきて,関係ない場合は私に掛かってくるだけですね。当たり前ですけれども。


  前者の場合にだけ,たまたまいろいろ発見してみたら,とにかく受託者であると。信託財産であると。それがあるではないかと。○○委員はもう破産もしていると。

これで,このはねられた人が保護されるという法理は,英米にはありませんので。UTCであれ,何であれ。
  だからそれは,はねてくれというふうにだれもお願いしてはいないんだし。それから使用者責任との大きな違いは,受益者には指揮権,監督権もないというのが原則ですので。

  そうすると,これで何で,つまりかわいそうな受益者とかわいそうな被害者がいて,これは,当然この被害者だよという話にはならないということだけ,ちょっと申し上げておきたいということです。

● 何かありますか。
● ○○委員からは,これまでそのような御教示をちょうだいしたところでございますが,一応今2つ挙げられた事例で,一方と他方で責任財産異なるというのは,通常の例えば民法の44条とか715条の行うについての「ついて」というところで,同じように起こり得るような,一般的に見ればそういう話なのだと思います。

  それで,受益者は指揮監督権はないだろうというのは,それはそういうことなのかもしれませんけれども,そういう理屈で推論していきますと,例えば株式会社であっても別に株主は業務執行権があるわけではないと。

それで,取締役がその職務について何か損害を与えましたというときに,株主はその損害を負わなくていい,すなわち会社財産は責任財産にならなくていいというような結論にはなっておりませんので,損失をどちらが負担するかという点から考えたときは,その契約関係によって利益を得ているのはだれかと,それによって,ここで言うと,受託者の無資力リスクというのをどちらが負うべきであろうかという観点から考えたときには,一定程度の考え方として成立するのではないかというのが,これまでの部会での議論ではなかったかなというふうに思いますので,ちょっと改めて確認させていただきたいと思います。


● ○○委員の挙げられた具体的な例がどうかというのは,信託事務の処理をするについてした,まさに今のような,取引的な不法行為でない場面の限界というのが多少問題であるというのはこの場でも議論されてまいりまして,今まで,したがって取引的な不法行為に限定した方がいいという意見まで強いものがあったかどうか,ちょっと今記憶しておりませんが,それに近い意見もあったのかと思います。

  ただ,取引的な不法行為かそうでないかという区別もなかなか実際に難しい場合もあって,多くは,しかし実際上ここで生じるのは取引的な場面で,取引的でない今のような場面についてどこで区切るかというのは,やはりこの信託を処理するについてという,その文言で切るしかないわけですけれども,信託の趣旨を考えてというんでしょうか,そこは適切に裁判所で判断してもらうということかと思います。


  ○○委員。
● しつこいんですが確認ですけれども,今出ている715条と信託との関係と,それから先ほど申し上げました受託者の被用者について信託財産に係っていくことができるかというのは,2つの異なるレベルの問題ですと。


● そうですね。
● 後者については,715条の責任を代位責任だというように理解した場合には,必ずしも受託者がした不法行為とは言いにくいのではないかと思います。


ですから,もし717条との関係で(8)を明確化するのであれば,715条も入り得るということは明確にしていただければと思いますが。


● 結論は,ここも全く私は異論がないんですが,どういうふうに……。ちょっと,すみません。歯切れの悪いこと言っているんですけれども,何を気にしているかというと,限定責任信託などの場面で,受託者が,少なくとも709条自身の不法行為を負ったときには,これは限定責任という利益を享受できなくて無限責任を負うと。

  恐らくそこは了解ができていると思うんですけれども,そこで715条の,つまり受託者の被用者が不法行為責任を行って715条の責任を負わされたときに,限定責任の方はどうなるかという問題はあまり,多少念頭には皆さん置かれたと思いますけれども,そう明確に議論されていないところはございまして,それへの影響というのを,ちょっと今どうなるかということを懸念したものですから,少し今慎重な言い回しをしております。


  これについては,○○委員,もしその2つ念当に置きながら議論すると,どういうことになるでしょう。


● 限定責任信託についても715条,717条がどうなるかということは,たしか事務局の方から,何かコメントを当時いただいていたと思いますので,またそれを参照していただいて,平仄のとれた形になればと思いますけれども。


● では715条は,ここではとにかく信託財産に係っていけるという意味での結論が明確になるように,表現等は少しこちらで任せていただくということでよろしいでしょうか。


  それでは,特にほかに御意見がなければ。--よろしゅうございますか。
  ○○委員の御指摘の点も踏まえまして,ここで,議事録には十分残るということになると思います。


  それでは,次に参りましょうか。
● では,次は忠実義務の問題でございまして,ここは第23回で部会で御議論いただきましたが,そこに引き続きまして,利益取得行為にかかる部分は除きまして,それ以外のところ,利益相反行為と競合行為の禁止のところにつきまして御審議をいただければと思っております。


  これは,ポイントとして6点ほど簡単に御説明いたします。
  第1に,提案の1でございますが,忠実義務の射程が信託財産の計算でする行為のみならず,固有財産の計算でする行為,典型的には競合行為でございますが,そこにも及ぶことを明らかにする表現を用いることが望ましいという指摘がございました。そこで,今回は「信託事務の処理」という後に「その他の行為」というのをつけ加えることを提案するものでございます。

  次に第2点といたしまして,提案2の(1)のウのところ,二重線引いてございますが,そこに関しまして,受託者と受益者との利益が相反する第三者との取引類型でございますが,この場合の利益相反関係というのが厳密な意味での受託者個人が利益を得る場合に限らず,間接的に受託者が利益を得る場合も含むことを明確にすべきであるという御指摘を踏まえまして,この「受託者」の後に「又はその利害関係人」ということを加えて,その趣旨を文言上明らかにしたというつもりでございます。

  第3に,(2)の③の二重線でございますが,これは禁止の例外に関しまして,現行法の22条2項の趣旨を維持するとしたものでございます。


  次に第4点といたしまして,④のところでございますが,これは試案の段階におきましては,ここで言いますと前段でございますが,「受益者の利益を害しないことが明らかであって,かつ,受託者がその行為をすることについて合理的な必要性が認められるとき」としておりまして,他方,前回提案のときにおきましては,後段の方でございますが,そのときの文言としては「信託の目的,その行為の性質及び対応,その行為をするに至った経緯その他の事情に照らして受託者がその行為をすることについて正当な理由があると認められるとき」という文言としておりました。


  ここでは,いわばそれを合体させました上で,その考慮事情といたしまして,前の事情と若干かえまして,ここでは受託者と受益者または信託財産との間の利害関係により着目した要素を具体的な考慮事情として挙げることとしたものでございます。

  続きまして,5番目でございますが,提案3の競合行為の禁止のところでございまして,前回の提案におきましては,2案提示しておりまして,1つは,自己または第三者の利益を図る目的であったか否かという,受託者の主観的要件をもって競合行為の正否を判断するという案と--これを甲案と申しますが--それからもう1つは,信託事務の処理として行うべき行為であったか否かによって競合行為の正否を判断すると。その上で正当な理由があるときには例外になるという要件を併せて設定するという考え方--これを乙案と言いますが--そのように提案しておりました。


  これに対しまして,甲案に対しましては,受託者の主観的目的を受益者が立証するのは困難である上に,禁止対象が狭すぎるのではないか等の批判がされまして,他方,乙案に対しましては,その「べき」というところで結局規範的要件を設定する以上,これに加えて,さらに正当な理由という規範的な例外要件を設ける必要はないのではないか等の批判がされました。
  


その上で,部会におきましては,この両案の収れんの方向性といたしまして,客観的判断によるべきものとしつつ,受託者と受益者との間の利益相反的な要素を組み込んでいくことで解決する方向性が示されたところでございます。

  ここでは,この最後の見解に従いまして,2つの要素,すなわち,1つは受託者が受託者として有する権限に基づいて信託事務として処理することができる行為をすることという純客観的な要件と,それからもう1つは,その行為をしないことが受益者の利益に反するという,客観的ではありますが規範性を含む要件と。この2つの要件を満たした場合に,初めて忠実義務違反に反する競合行為に当たるのだとしてはいかがかということを提案するものでございます。


  第6に,(注1)に関しましてでございますが,前回までの提案におきましては,受託者の受益者に対する通知義務は,正当な理由を根拠として利益相反行為が,あるいは競合行為がされた場合に限っていたわけでございますが,この通知義務が,受託者の形式的に利益相反行為,または競合行為に該当する行為を行った場合には,いずれの例外に該当するかを問わず,常に課されるべき義務であるという指摘がありましたことを踏まえまして,そのように改めているものでございます。

  最後に,前回の提案におきましては,受益者と第三者の利益が相反する場合は,善管注意義務の問題となるという整理をいたしましたところ,これは(※5),一番最後8ページのところに係るところを説明しているわけでございますが,このような善管注意義務違反という整理を是としながらも,任務懈怠等の単純な善管注意義務違反行為については損失てん補の問題にとどまるとしても,例えば第三者の利益を図るような善管注意義務違反の行為については,代理人の権限濫用に関する一般法理,具体的には民法93条ただし書きの類推適用によって行為の無効を来すとの考え方との平仄を図るべきではないかという指摘がございました。

  このような指摘を踏まえまして,(※5)におきましては,このような一般法理の適用があり得るということの理解を前提とすることとしたことを明らかにしたものでございます。
  以上でございます。

● それでは,忠実義務について,いかがでしょうか。
  ○○委員。


● それでは,何点か御意見等を申し上げたいと思います。
  まず最初に,間接取引の禁止のところで,2の(1)のウ,これについて,信託財産のためにする行為というものが入ったということについては,これは前回申し上げたことでもありますので,入れていただいたことについて感謝申し上げます。


  それとの半面で,利害関係人という言葉が入っておりまして,これについては,多分配偶者とか子供ということを前提にしたワードだと思うんですけれども,ちょっと利害関係人というと,例えば債権者みたいなものも入ってくるということも考えられますので,最終的には解釈論ということになるかもしれませんけれども,この辺について明確化していただきたいということが1つ。
  


それともう1つは,これは前回申し上げて,ひょっとして回答いただいたのかもしれないんですけれども,(2)のところの②の,「受益者の承認に代えて」,「他の受託者によって決する」というところがあるんですけれども,これは他の受託者によって決することができるけれども,受益者が承認すればそれでいいというふうに理解していたんですけれども,前回多分お聞きして回答いただいたのかどうかあまり記憶が定かでないので,これを再度御回答いただきたいということ。

  それと,最後にもう1つ,競合行為のところなんですけれども,ここについては前々から,信託銀行については生まれたときから銀行勘定と信託勘定で基本的には競合的な取引をやっているということで御配慮いただきたいということで,それに対して7ページのところで,象徴的な例であります競合貸付的なところの部分について,競合行為には当たらないというような形での御説明文がありまして,これについても非常にありがたいというふうに思っておるんですが,それがあらわれるような本文のところの書きぶりというのを,もう少し明確な形で御配慮いただけないかなということ。
  


それと,あともう1つ,通知のところなんですけれども,もちろん先ほどの競合貸付的なところが明確に競合取引ではないということであればそもそも問題ないんですけれども,先ほど申し上げたように,信託銀行というのは両方の取引を恒常的に行っておりますので,その辺の危険性というかそういうものが非常に多くありますので,そうしますと,競合行為的なところで通知を常に行わないといけないということになりますと,あらゆることを考えないといけないということもありますので,この辺のところの御配慮をいただけないかというところであります。

  以上です。

● では,順次お答えいたしますが,まず第1点目の利害関係人というところにつきましては,おっしゃるとおり解釈論と考えておりますが,我々が典型的に想定しておりましたのは,実質的に受託者と同視できるもの,すなわち,おっしゃったとおり妻とか子供と,そういうものでございまして,債権者のようなものは含まれないというふうに考えております。その点は,説明等で明らかにしていきたいというふうに考えております。
  


2点目の「代えて」につきましてですが,これは前回御質問があったことは認識しておりましたが,恐縮ながら回答はしておりませんので,今日初めて回答するということになるわけでございます。


  このときの理解といたしましては,現在でも同じでございますが,受益者はいるわけでございますが,受託者が複数いるときには,理念的には,その場合受託者が前面に出ていくのが信託のある姿ではないか。


  あと,会社法をごらんになっていただければおわかりのとおり,例えば利益相反取引とか競合取引につきましても取締役会が承認するということになっておりまして,これは実質的には共同受託者が承認するというものと同視できるのではないかということから,このようにしているわけでございます。
 


 そうすると,この場合,受益者がいても,その同意というのはこの②の規定によると無視されることになりまして,受託者の承認のみが対象となるわけでございますが,しかし,例えば職務分掌があるような場合につきまして,他の受託者よりも受益者の方が承認するのが的確ではないかというようなことも想定し得るのではないかと思います。


  そういうことを考えますと,それに対応するには,例えば①のところで,信託行為で許容する場合の条件として,受益者の承認があった場合にはその行為をすることができるとか,そのような定め方をすることによって対応していくことができるのではないかというふうに考えているところでございます。


  それから,最後に通知義務でございますが,おっしゃる趣旨は,本文中に書いた競合貸付を外していただいたことは実質的にありがたいと言っていただいたことは,まことにありがたいわけでございますが,ただ文言に反映するというのはなかなか難しいかなと思っております。


  それは,しかし,結局は通知を課されるのが常に義務になるというところの御懸念かというふうに拝察するわけでございますが,御承知のとおり,これただし書きがございますので,もしもそういう御懸念があるということであれば,ただし書きをもって通知を不要というふうに定めれば対応できますので,我々としては,競合行為の文言についてはこのままとした上で,もしも御懸念があれば,通知についてはそのような信託行為での対応が望ましいと考えているところでございます。

● では,いかがでしょうか。
  ○○委員。


● 御説明いただきましてありがとうございます。
  最後にお願いなんですけれども,今申し上げたように,競合的な取引というのは非常に信託銀行にとって重要な問題ですので,文言に反映できないということであれば,変な話ですけれども,あらゆるところで書いていただくとか,この場において今そういう回答をいただきましたので,常にそういう形の解釈をお願いしたいというふうに思います。


● そのところは十分対応したいですし,議事録も残っておりますので,そこは大丈夫だと思います。


● どうぞ,○○委員。
● 今○○委員がおっしゃったこと,ちょっとこだわりの話になるかもしれませんが,もちろん解釈等で解決するのであれば,そのように明確にしていただきたいんですが,この条文をちょっと並べたことを考えたときに,2の(2)の④のところで,実質的な解釈基準というものを含めた規律がありながら,3の競合行為のところで,実際には7ページの御説明の判断基準というのは大分かぶっているところがあるわけなんですけれども,そこについては解釈論であるということになりますと,ちょっとバランスがよくないのかなと。


  そうすると,反対解釈もされる余地もあるのかなと,ちょっと心配的な,そういうレベルの話でございますけれども,そういうことも踏まえて,もし解釈論でいくということであれば,その旨明確に御配慮いただければというふうに思っています。


● そこはその方向で,解釈論の方向で対応したいと考えております。
● ○○委員。


● せっかく○○委員が言ってくださって,私もそうかなと思ったんですけれども,2の(2)の②のところで,だから,受益者の承認を得たときというのが,これは普通ですね。しかしその後は,それは,共同受託者の場合は要らないよということですね。

● ええ。共同受託者の場合には,受託者が承認権あって受益者の承認は関係なくなるというのが,ここの考え方でございます。


● 共同受託者を置くのは,取締役会と同じだという会社法との類推をしているわけですか。


● 発想として似たところがあるのではないかと。任務遂行に当たって慎重にやるということとか機動的な運用とかあるわけでございますが,会社法にもそのように,ある取締役が利益相反行為をしたときには,それを除く取締役会で承認決議をするということがありますので,ここも,共同受託者がいる場合には,その者で承認決議をしていればいいのではないかというふうに考えているわけでございます。

● ここでの考え方といいますのは,共同受託の場合というのは,受託者間で相互に監視していると,要するに1人の受託者が悪いことをしないように他の受託者はいると,そういうことを委託者は期待しているというような考え方が前提になっておりますので,そうだとすると,受益者の承認にかえて他の受託者がその承認をするということについても,合理的な理由があるのではないかというふうに考えているというのを付言させていただきます。

● 御趣旨はわからないでもないですが,受益者の承認にかえてという,それこそ○○委員がおっしゃったように,④のところで,すごく一般的なこういう外す規定を一方で置きながら,今度は手続き的なところで,②で,そういう形でも外しておくということなんですね。

  だから2面で,とにかく忠実義務を外しやすいようにしているというふうに考えてよろしいわけですね。


● ②自体は,本来は受益者の承認という,非常に明確な解除事由ですよね。②自体は。
● ただ,ちょっとすみません,共同受託者というのが,○○関係官がおっしゃったように,まさに,結局モニタリングのシステムを--一種のガバナンスですよね--信託にガバナンスがあるかという議論があって,共同受託者というのはガバナンスの足らざるところを補うために置いておくものだという話なんですが,それを逆手にとって,ここで,忠実義務の免除をこういう形でやれるんですよというのが,ある趣旨で置かれているものをちょうど逆の方向に使っているという印象をぬぐえないということだけ,ちょっと一言申し上げます。

● これに関連してちょっと議論が出れば,私も個人的な意見を申し上げようと思ったんですけれども,今たまたま○○委員の意見が出ましたので。
  

私も,個人的にはちょっと大丈夫なのかなということを感じていまして,それは,共同受託者ですので,例えば自己取引なんかをするときにも,その財産がいわば合有の形になっていて,そのときに利害関係のある合有の1人を外して,例えば3人いたときに,ほかの2人でもって行為ができるのかというのはちょっと気になったんですね。


  それで,そのときに,受益者が承諾しているので,その当の利害関係のある受託者も含めて3人で自己取引としての信託財産を利害関係のある受託者に,例えば移転するというのはできると思いますけれども,それを外してしまってできるかどうかと。


  取締役会の場合には,個々の理事は別にそういう処分権限そのものを持っているわけではないので,そっちはあまり問題ないと思うんですが,信託の場合,果たして大丈夫かなということだけ,ちょっと気になったものですから,もし,何か。


● そこのところは解釈論に結局はなってしまうのかもしれませんけれども,例えば3人受託者がいて,1人の受託者に対して信託財産を売却するという場合に,だれが意思決定をするのかというのが1つ問題になり得て,その場合には利害関係のある受託者以外の受託者で意思決定をして,もう1人の受託者に対して信託財産を売却すると,そういう形になるのであれば,結局利害関係のある受託者というのは信託財産の売却の意思決定については登場してきませんので,結局利害関係のない受託者2人で意思決定をして売却をするという形になる。

それによって,ここで言っているところの受託者の承認というのがあったということになるのではないかと思います。
 


 ただ,もう1点,ここの(注2)のところに書いてあるんですけれども,要するに受益者の承認にかえて受託者の承認でいいということについて,信託行為でそういうことはいけませんよと,やはり受益者の承認にしてくださいというのは,先ほど○○幹事が申し上げたことと重複するんですけれども,そういうことはできますので,委託者の方でそういう形にしたいのであればそういうことができるというようには,一応なっております。
● そうですね。
  ○○幹事。

● 共同受託者は危ないという問題もあるのですが,それ以前に,他の受託者が承認する場合にはよいというのは,これは機能的には証明責任を転換する機能しか持たないわけですよね。


  つまり,他の共同受託者が不当な承認をしたということになると,その時点で善管注意義務違反の問題がさらに生じてくるということで,つまり,自己取引であるというふうに受益者が主張して責任の追及をしたときに対して,共同受託者の承認を得ているというふうに言えば,それが不当であるということを個別に立証しなければならないという,こういう形になる条文だと理解してよろしいんでしょうか。

  そして,それがそうだと仮に仮定したときに,それがいいのかというのがありまして,④というふうなのがあるんだから,受託者に,これは適切なんだというふうに証明させればそれでいいではないかというのもあり得ると思いますし,さらに,仮によいといたしましても,その証明責任の転換ということが妥当であるとしましても,そうすると①から④までの中でかなり異質なものになってしまうんですよね。②の第2文というのは。


  それを,ほかのものは,例えば④の事情というのとか③の事情というのは,そのことが立証できれば,もはや善管注意義務違反は問われないという結論を導くのに対して,②の後段だけがちょっと特殊な内容を持つことになって,それを並べていいのかなという気も若干するんですが。


● どうぞ。
● 確かにおっしゃるようなところもあるような気がいたすんですが,例えば①の信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるときというものについても,自己取引することはできますよと書いてあっても,あとは価額について善管注意義務の問題ということはあります。

● その限りでは,似たような構造がここでもあると。
  ほかにいかがでしょうか。


● そうすると,ちょっと前半申し上げた,他の共同受託者の承認が不当であるということは,もちろん主張して責任を追及することができるということですよね。


● はい,そうです。
● 責任の追及というか,他の受託者の承諾が承諾としての意味を持たないと,自己取引が解除されないわけですね。


● いや,そこは難しい。
● 承諾があれば自己取引の問題はクリアされて,あとは受託者の責任の問題が,別途善管注意義務違反として生じてくるのではないかという考えをしております。


● どうぞ。
● 結構難しいんですよね。

  そして自己取引違反自体も善管注意義務違反として処理をするということですから,自己取引義務違反としての善管注意義務違反と,自己取引避止義務違反ではないのだが,そのときの判断の善管注意義務違反というものとがあり得るというふうに,善管注意義務の中で2段階になってしまっているということですよね。


● 僕自身が勘違いしているのかもしれない。
  自己取引自体は善管注意義務違反に,今位置づけているの。

● いや。
● それは違うでしょう。


● 自己取引は善管注意義務違反の問題ではないです。
  それ自体は承認があれば,有効,無効の問題では……。


● 有効,無効の問題になるわけですよ,それは。
● はい。ただし,それと別途善管注意義務違反の問題は,別の類型としてあり得ますのでと。


● ごめんなさい。申しわけございませんでした。
● どうぞ。


● そうすると,今のは,行為の効力自体は有効であって,それを否定することはできないという御趣旨ですか。


● 受益者であればインフォームド・コンセントの問題になると思うんですが,受託者が承諾をしていれば,一応そこで行為の有効性はクリアされて,ただ受託者の承認が注意義務違反だということで,受託者の責任を問うていくという順番になるのではないかと思っておりますが。


  受託者が承認しているのもかかわらず,その承認が不当だったから行為が無効というのは難しいのではないかなという気がしているんですけれども。


● 完全な第三者ではなくて,自己取引だとすると,受託者の1人が信託財産を譲り受けるという場面ですよね。


● はい。他の1人ですね。そうすると,それが,善管注意義務違反が,いわば行為の有効,無効を左右するものにまで昇格するというようなことがあり得るという。


● 善管注意義務違反が問題なのか。
  要するに,本来受益者の承諾が必要なんだけれども,それにかわってこういう場合には,ほかの受託者の決定でいいと。それが結局,本来不当な決定だということになると,この②の要件といいますか②自体が落ちてしまって,自己取引がだめになるというふうに,ちょっと私はそう考えたんだけれども。


● 不当な承諾というのが,例えば知らずに承諾したとか,そういう場合でございますか。

  受益者だと,重要な事実を開示して承認を受けるというのが必要で,重要な事実も知らずに承認したら,これはだめだと。受託者が承認しているときにもかかわらず,その承認が承認としての意味を持たないというのは,どういう場合だろうかなとは。

● ②の中にちょっと違うタイプが入っている……。
  どうぞ,○○関係官。


● 例えば,利害関係のある受託者が他の受託者を支配しているような状況があって,他の受託者が承認をしたというような場合であれば,受託者による承認というのが行為の有効,無効に影響するということもあり得るのに対して,そういう別に状況にない中で他の受託者が承認をした場合であれば,有効とした上で,あとは善管注意義務違反,要するに,価額が適当でなければ善管注意義務違反の問題になるというようなことではないかというふうに考えておりますが。


● どうぞ,○○幹事。

● ちょっと感想的な意見を言って恐縮なんですけれども,共同受託者の場合に会社と同じように考えるというのは,会社の場合には機関としてしっかりしていますし,諸制度整っているというものと同じように扱うことは,ちょっとできないのではないかなという感じがするのと,それからもう1つ,やはり「受益者の承認に代えて」という言い方というのは,ちょっとやっぱりあまり軽々に用いるべきではないのではないかという気がしておりまして,もしこういった形で共同受託者の承認ということを制度として持つ場合にも,「代えて」というのとは,ちょっとやっぱり別のものというふうに考えるべきなのではないかと思うんですけれども。

● さっきのような結論だと,ちょっと結論も大分違うし,少し……。といって,独立の項目になるのかどうかよくわかりませんけれどもね。
  何かほかに御意見がございましたら。
  ○○幹事。


● 会社法の話題が出てまいりましたので,会社法と今問題となっております第19の(2)の②との局面との相違点について,一言申し上げさせていただきたいと思うのですが。

  まず第1点は,○○幹事が御指摘されましたように,会社の場合は,やはり取締役会という機関決定になっていると。利害関係のある取締役を除いて,やはり機関としての取締役会が決定をしているというのであって,多分共同の受託者が何人もいても,それでボードを構成しているわけではないので,状況が違うのではないかと。


つまり,会社法の方でも,取締役会が存在しないときには,このような利害関係の,利益相反が起こった場合の承認というのは社員総会にいくというのが原則だと思いますので,その点が1つ違うのかと思います。


  それからもう1点は,これは実質論なのですけれども,やはり会社の場合に,なぜこういった利益相反取引について,ボードがあれば,利害関係がある者を除いたボードの判断にゆだねているかというと,利益相反行為が非常に多種多様なものが含まれるようになって,会社にとってプラスになるものも多いと。

  特に企業結合関係が非常に複雑な形になってまいりますと,形式的にはこの利益相反に当たるけれども,会社にとってはプラスになるというのが,そういったたぐいの行為が出てきまして,それについての,いわばビジネスジャッジメントを行うという,そういう趣旨だと思います。


  信託においても,恐らく商事的な側面では,ビジネスジャッジメントを働かせるという局面が大いに考えられるとは思うのですけれども,信託法がカバーしているすべての局面において,そのようなジャッジメントを他の受託者にゆだねることを想定しているだろうかと。逆に,典型的な民事信託だったらば,他の受託者がいたら,むしろノーと言わなければいけないのが普通の注意義務ではないかという気もするのですが。


  そのあたり,第2点目の方はちょっと御質問も含まれますけれども,典型的な,例えば民事信託において利益相反の状況があったときに,他の共同受託者はどういうふうに行動するのが善管注意義務にのっとった承認の付与と言えるのかどうか,その点についての感触といいますか,お考えをお聞かせいただければと思います。

● 感触でございますが,○○委員がおっしゃられましたように,ビジネスジャッジメントでしょうか,形式的には自己取引あるいは利益相反取引になるけれども,それをする方が,信託財産ないしは受益者のために利益になるだろうという場合はあると思われますので,そういう事情を考慮して承認するのであれば,善管注意義務違反には違反しないと。


  しかし,それがむしろ否定した方が信託財産のためだというときであれば,これを承認すれば,これは少なくとも善管注意義務違反の問題にはなるだろうという,一般論でございますが,そういう考え方をしておるわけでございます。


● なかなか,判断自体はいろいろ難しい。かなり裁量性もあるかもしれませんね。ほかの受託者の。

  正当な市場価格で売却される場合であっても,望ましくないのでだめだということもあり得るんですね。

● それもあり得ると思いますね。
  やはりケースバイケースとしか言いようがないという感じはいたします。

● ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ。

● 実質的なお話になるかもしれませんが,受益者の承認にかえて他の受託者等の決定にゆだねたときに,受益者の承認にゆだねるのが,常に受託者にとって義務が易しいことなのかどうかというのは,ちょっと実質問題わからないようなところもありまして,例えば,合理的無関心と言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが,受益者の承認を得たということを一種の隠れみの的な形で運用されるという場合もあり得るところ,受託者が責任をとりなさいというふうにした上で,事後的にそれははっきりしてくるわけですから,そのときに何かあったら,だれか受益者がおかしいと,1人だれかが言えば,ひょっとしたら責任を問われなければいけないという厳しいプレッシャーの中で,他の受託者は判断しなければいけないということになるかもしれないと。


  そういう点も考えますと,実際の運用で見たときに,常に受益者の承認を得たというところに一本化すればそういう利益相反的な行為を防止できるかどうかというのは,ちょっと一概には明らかではないかなというような気がいたします。

  例えば,会社でも従来,損益計算書とか貸借対照表というのは,全部株主総会の承認だという話だったんですが,それが隠れみの的にというようなお話の中で,取締役会で決めなさいと,しかしその後,決めた後で何かおかしなことがあったら,それは決定権者たるあなたたちが責任を負いなさいということで,責任の所在を明確化することによってそれぞれの利益を確保しようとしていったというような流れの中もございますので,他の受託者に考えさせるというか承認の権限を与えたということをもって,直ちに受益者の利益がということでは必ずしもないのではないかという,それはちょっと実質的な判断で,法制的な議論ではないかもしれませんけれども,その点もいかがかなというふうにも思っております。

● いろいろなレベルの議論がありますけれども,根源的な議論は○○委員から言われている問題ですけれども,ちょっとそれはさておく--さておくというのは無視するという意味ではありませんけれども--易しい方からという。


  これは,先ほどから会社の場合と必ずしも同じではないのではないかという御議論もあり,必ずしも,共同受託者の場合,受益者の承認というのを原則として排除するというほどではなくていいのではないかという感じもするんですけれども,そこは会社法との平仄上,あるいは共同受託という考え方からおかしいということですか。

● ここでは受益者が多数になるような場合もあり得ますので,そういう意味では,受託者が複数の場合にはそちらの受託者の決定というのを優先してもいいのではないかというようなことと,確かに○○幹事おっしゃるように,会社の場合には取締役会というボードがあるのに対して,信託の場合は特にそういうボードはないと。


  そうは言いましても,ここでの考え方というのは,共同受託の場合には,原則としては複数の受託者で意思決定をして執行をしていくという意味では,実質的にはボードがあるのと同じではないかというように考えると,会社法と同じようなアナロジーで考えていくというのが適当ではないかというような考え方からつくったものではあるんですけれども。

● いかがでしょう。

● もう1点,民事信託におきましても,先ほど○○関係官の方が申し上げたことと重なるのかもしれませんけれども,受益者の中には無関心な者もおりますし,十分な意思能力がないような者もいると。そういうようなケースにおいて,委託者があえて複数の受託者を選任しているというのは,先ほど申し上げましたとおり,相互監視義務等もありますし,受託者というのは重い義務を受益者に対して負っていますので,そういう前提のもとであれば,他の受託者の意思決定によって自己取引等を解除するということを第1原則としてもいいのではないかと。

  そう考えますと,商事であっても民事であっても同じルールにのっとらせてもいいのではないかというふうに考えてきたということであります。

● 他の受託者が決定するという,○○委員のように多少問題はあるかもしれませんけれども,そのルールが,特に受益者が多いときなんかには確かに必要でしょうし,他の受託者が決めるということはいいとして,それが第1原則になるかどうかというところあたりですかね。1つはね。


  それからもう1つ,ちょっと今話を伺っていて,逆に受益者の同意というときにどうなるかということが気になったんですけれども。共同受託者の場面ですよね。


受益者の同意を得ると……何を同意するんだろう。つまり,同意を得ても,結局3人の共同受託者だったら3人の共同受託者で決定するんですよね。


  ですから,受益者の同意があると,通常はほかの受託者がもちろんそれに従うんでしょうけれども,受益者の同意があってもほかの受託者がだめだという余地はあるのかな。


● 条文の書きぶりでございますが,「代えて」ですから,ここでは言ってみれば受益者の同意は無関係であると。受益者の同意があろうがなかろうが,他の受託者,例えば3人いれば1人と利益相反行為が生じますので,残りの2人の受託者がオーケーと言えば,それだけでいいと。

● このルールはね。
● はい。
● 共同受託者の場合にも受益者の同意で構わないという……。
● そういう規定を置けばいいですが,このルール自体はそういうものではないですね。


● 多分,○○委員がおっしゃっているのは,受益者の承認に加えて他の受託者の承認も必要だということでしょうか。

● という場面が出るかどうかということ。
● そういう場面が出るとすれば,もちろん他の受託者がオーケーと言っていても受益者がだめと言えばだめですし,受益者がオーケーと言っても,そっちは他の受託者がだめと言ったら……。

● 普通は従うでしょうけれどもね。
● ええ。従うんだと思いますけれども,受益者が,例えばちょっと浪費家で,何でもオーケーしてしまうような人だった場合には,やはり善管注意義務というのを受託者は負っていますから,その場合にはノーと言うべきであるということだと思います。

● さて,いろいろな御意見が出ましたけれども,何か御感触があれば。
  ○○委員。


● すみません。こんな大議論になるとは思いませんでしたけれども。
  極めて実務的な形で落として考えますと,1つは,非常に軽微なものであったら共同受託者の同意を得て行うというのが,信託事務の円滑化のためには必要だろうなと思います。

  ただ,今度は逆に,割と重い話であったとしたら,同意を受ける方の側に立ってみると,これはやはり受益者の意見を聞いてくださいとか,同意をとってくださいというのが行動パターンになるのではないかなというふうに思いまして,そういう観点からいきますと,同意というのも,共同受託者の他の受託者の同意というものに加えて,受益者の一般の承認というものも加えていただけたらなと思います。

  共同受託者で同意する場合については,当然監視義務とか善管注意義務とかを踏まえた形で回答することになりますので,その辺については,1つの責任が加わるということになると思いますので,それはそれで意味があるのではないかと思いますし,軽微なものについても円滑化の観点から意味があると思いますので,共同受託者の同意というのも,なくするということではなくて,加えて受益者の承認というものも入れていただけたらなというふうに思います。

● いかがでしょうか。
  現在の案のままですと,今のようなことをしようとすると,信託行為に,そういう形で承認を求めるということを規定しなくてはいけないということになって,信託行為に書いていないとできなくなる。

● 受益者が複数の場合に,想定していない場面が出てきて,なかなか受益者の承認を得るのが大変だというのは,今回の信託法改正の大きなポイントの1つですよね。


だからそのために,受益者集会とか,あるいは受益者代理とか,いろいろな受益者側の方の仕組み,信託管理人であるとか,いろいろな仕組みをつくってという話を,ここで急に,今度は受託者サイドのところでもこれでいいんですよというのが,何だか非常に,私にとっては違和感があるということです。
  だから受益者複数の場合についてはこういう形で対処したではないですかという話の方へ持っていくのが普通なのではないんでしょうか。


● ○○委員の御意見はよく理解しているつもりでございます。
  ちょっといろいろ温度差のある御意見があると思いますが,○○委員の意見に完全に沿う形ではありませんけれども,この②の,受益者の承認にかえて決するという第1ルールを,もし必ずしも第1ルールにしないで--しないでというか,しないときにどうなるかというのは,まだちょっとさっき言ったように少し疑問を感じているんですけれども--やっぱり受益者の承認を得るというのが大原則であり,共同受託者の場合にも,受益者の承認を--書きにくいのかな。


以外とそれは--受益者の承認を得るというのを……。
  僕もちょっとまとめにくいんだけれども。共同受託者の場合にも,受益者の承認を原則として排除するのではなくて,受益者の承認があればできるようにすると。これは○○委員が言われたことなんだと思いますけれども。


  それだけだと,まだ○○委員の御懸念には十分には対応できないんですが,ただ受託者としては,多くの場合,特に重要な問題であれば受益者の承認を得るであろうし,また得ないと後でもって責任を負わされる可能性もあるわけですから,不安定なので,多くの場合は受益者の承認を得るであろうということになると,事実上,○○委員の御心配もかなりの部分はカバーできる。

  それでも困ると。受益者の承認を得ないでほかの受託者だけで決めてしまう可能性があり得て,これも選択肢としてはそういう方法でもって承諾するということはあるわけですけれども,それをとられては本当に困るというときには,今度はこれは,信託行為でもってそういうのはだめだということを明確にしてもらうというふうにすれば,最後のところでは○○委員の御意見というのも,ある程度は考慮される。


● すみません。本当に。私も,時間を,時宜に遅れているかもしれないことでこうやって引き延ばしても申しわけないんですが,今のような,本当にそういう場合は④で対処できるようなことなのかと思いますのでね。どうもという感じが,どうもつきまとうということなんです。

● ④は,最後の手段みたいな--最後の手段と言うとちょっと正確ではないかもしれませんけれども--受益者の利益を害しないことが非常に明確だというようなタイプについて対応しようというものですよね。④はね。


  ②はやっぱり,ちょっとそういうものではなくて,もうちょっと重要なもので,実質的に判断が必要で重要な事実を開示して,やはり受益者が承諾するということが望ましいというタイプで,そこはオーバーラップする場合もあるかもしれませんけれども,②と④は,一応この際それぞれ独立の意義があるという前提で考える。その上で②の中身としてどんなのがいいかということなんだと思いますが。


● そうですか。
  例えばですが,○○委員おっしゃったように,共同受託者の場合もやっぱり受益者の承認を得るということが原則であると。しかし受益者の承認を得ることが著しく困難である場合とかという場合には,共同受託者の中で利害関係のない他の受託者による判断にするとか,そういう補充的な話は……。


  言ってみたということですけれども。申し上げてみたという。

● 条文化という観点からすると,どういう場合に著しく困難なのかというのがなかなか難しいのではないかなという気がいたしますけれども。


● どうぞ,○○委員。

● 言葉だけの問題ですが,著しくというのが不明確だとしましても,この2の(2)の②のところに,「受益者の承認に代えて,受益者の利益と相反する関係にない他の受託者によって決することができるものとする」というように入れれば,受益者の承認があればそれでよいと。


それがない場合であっても他の受託者によって決することができるというようにしておいて,他の受託者が決する場合に不当な決定をした場合には,善管注意義務に反するという責任を問うということだと,少しは○○委員のお考えが入るのかなと思うんですが。

● 私もちょっとごたごた言ったのは,今○○委員がきれいにまとめてくださった,そういう趣旨のつもりなんですが。
  ○○幹事。


● もし受託者の承認でこの忠実義務が解除されるとしましたらば,他の受益者の利益と相反する関係にないというだけではやはり不十分で,当該受託者と,問題となる取引を行おうとしている受託者からの独立性という要件が,やはり最低限必要になるのではないかと思いますし,さらに詰めるべき点があると思います。

  ただ,繰り返しになりますが,やはり基本は受益者の意思というのが問題となるはずであって,私は先ほど御質問したのを,もう1度時間をとって恐縮ですが,言いかえますと,受益者がその取引はだめだと言っているのに承認をした受託者が,自分は善管注意義務を果たした承認をしたんだというときに,一体どこまで何を立証すればいいのかということだと思うのですけれども,やはり受託者として承認をする場合には,むしろ普通に考えると,非常に承認することが難しいというふうに考えるのが普通ではないかと思います。

  ですから,かえってこのような規定を置くと,むしろ正当な利益相反行為みたいなものもブロックされてしまうという,そういう恐れがかえって出てくるのではないかというような気さえするぐらいで,先ほどのようなことを申し上げたのですけれども,やはり受益者の意思が,まず第1の基本になるということだと思います。


● いかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 今の○○幹事の意見と似たような意見になるんですけれども,利益相反行為ですからやってはいけないというところでスタートしている行為で,それについて受益者の承認がないのにほかの受託者が決められるという,そういう制度は,よくよく考えるとやっぱりよくないのではないかと。


  この④があるので,それで,合理的に必要とか利害を害しないとか,そういうこともできることになっているわけですから,ここはやはり「受益者の承認に代えて」という,この制度はつくらないようにした方がいいのではないかというふうに,私は思いました。


● ○○委員の御意見に近い御意見だと思いますけれども,他方で,いろいろな条件があるかもしれませんけれども,とにかく受益者の承諾を常に得なくてはいけないということになると,非常に多数の受益者がいたようなときに非常に困ることも生じ,利害関係のない受託者だけで決定できるという制度を残しておくことは,さらに,○○幹事の言われたように,いろいろな条件が必要かどうかということは検討する必要があるかもしれませんけれども,ほかの受託者だけでも決定できるという制度はあること自体は,それなりに必要なのではないかという感じはちょっとするんですね。私としては。

  ただ,受益者の承諾というのが原則であるといいますか,少なくともそれを求めるようにし--その後の条件が難しいんですが--それが難しいときとかいうときに,利害関係のない,それ以外の受託者で決定できるという方法でも構わない。

  せめて,何か2本立てにして,それでその両者を結びつける条件はちょっとなかなか難しいので,

うまくいい方法があるかどうか。
  ○○委員。


● ちょっと当たり前過ぎて,発言はばかってしまっているんですけれども,デフォルト・ルールをあくまで議論しているんであって,なおかつ問題があるかもしれないと言っているのは,いわゆる民事信託のような小規模な信託ではなくて,大規模な商事信託の事例だと思いますから,ですから信託行為に定めがあったとしても,もともと潜在的に利害関係がある共同受託者の承認にかえるような信託行為の定めというのは有効なんだろうかという,もし多少疑義があるとしたら,そこだけ払拭するようなことをして,デフォルト・ルールは,やっぱり○○委員がおっしゃったよりか皆さんが議論しているようなところに落としても,○○委員がおっしゃるような問題はないのかなと。

  それはそうだけれどもという議論なのかもしれませんけれども。信託行為の議論があまり出てこなかったもので,ちょっと発言させていただいたんですが。

● まだいろいろな……。
  何か,○○関係官,意見がありますか。


● 確かにおっしゃるとおり,これはデフォルト・ルールの問題ですので,原則としては受益者の承認を必要とするというふうに②を書いておいて,①のところで,他の受託者の承認というのもできますよというふうにするというのも当然あり得る話だと思いますし,この④のところで正当な理由というものもありますので,このようなことを,この部会での審議も踏まえてもう1度ちょっと検討させていただいて,もう1度御意見をお伺いしたいというふうに思いますけれども,それでよろしいでしょうか。

● よろしいでしょうか。皆様の御意見を一応……。
  どうぞ。


● 今の点なんですけれども,①の方は,その行為をすることというふうになっていて,行為はある程度限定する必要があるという前提ですよね。要するに,共同受託者が同意をすればそれで足りるというのは,抽象的なのでだめだという前提でよろしいか。

● 1つの行為について,他の受託者が承認をすればオーケーですよというふうに定めを置くことができるという趣旨です。


● おっしゃるとおりです。
  それでは今の御意見を踏まえて……。


● ちょっと一たん引き取らせていただいて,再度御意見を,いろいろ出ましたので,踏まえてもう1回提示いたします。


● ほかに,忠実義務に関してはいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。

● 確認というかちょっと教えていただきたいんですけれども,説明でいきますと8ページの(※5)の部分ですけれども,民法の93条の心裡留保の議論ということなんですが,ちょっと確認というか理解のために御質問させていただくんですが,これは間接取引の場合で,受託者がみずから,または利害関係人に利益を図る意図で第三者と取引をした場合だという前提だと思うんですけれども,そうすると,後ほど議論するところの31の権限外行為と極めて類似の状況というか,同じ状況なのかなと思うんですけれども--間違っていればちょっと教えていただきたいんですけれども--仮に同じ状況だといたしますと,権限外行為の方は第三者の故意,重過失を問うというところで取引の安全を期待していると思うんですけれども,こちらの方の,仮に権限外行為であっても,受託者が自分の利益を得るような行為であるということを相手は過失によって知らなければ,こっちの方では過失責任であると,こういうような切り分けをしたという趣旨なのか,それとも私が何か根本的に理解が間違っているのかとか,その辺をちょっと,両者の関連を教えていただければと思うんですが。

● (※5)でよろしいですか。
● はい。

● ここは,まず前提といたしまして,受託者が全くの第三者と取引をして,その場合に,その第三者の利益を図るということを考えていましたと。それについて第三者の方が知り,または知り得べきだったと。実際に売却する内容はどういうものかというと,権限内だけれども価額が不適当であったという話ですので,受託者が自分の利益を図るということを,原則は前提にしてはいないということですけれども。

● すみません。そういうのは権限外なのか内なのかと,結構微妙だと思いますし……。
● 微妙ではあると思います。

● 内であれば,より第三者が保護されるべきような気がする……気がするというか,第31の議論との関連ですと。


● 前回の部会のときもそういう議論はたしか出たかと思うんですけれども,やはり第三者の方が受託者の意図というのを知っている以上は,そのような第三者は保護する必要はないのではないのかと。それについては,代理とのアナロジーでいけば,同じように考えていけばいいのではないかというふうな考えではあるんですけれども。

● 恐らく,権限内かどうかという問題で言えば権限内ではあるが,まさに濫用的な場合については,権限濫用と同じように単なる善管注意義務違反の単純な問題にはなりませんよと。これは代理の場合と同じですよね。

  代理の場合も,いわゆる権限濫用というのは,一応善管注意義務違反の問題ですけれども,心裡留保の規定が類推適用されるような場合には,単に損害賠償の問題ではなくて効果にも影響することがあると。それをここで持ってきただけ,だけと言うとあれですけれども,ここでも持ってくるということで民法の理論と一応平仄を合わせたということなんですが。

  ですから,完全な権限外の問題は,やっぱり31条の方の問題になってくるわけですよね。

  そこの間で,非常に連続的なものなので,そういう意味で平仄が合っているのかどうかというのは注意しなくてはいけないんだろうとは思います。
  ○○幹事,どうぞ。


● ○○委員がおっしゃったことに関連して2点あるんですが,先ほど○○委員の説明は○○委員の御疑問に十分に答えていないのではないかというふうに思うのは,代理の場合には,権限外のときには,相手方が権限内であるというふうに信じることに正当な理由があったというふうに,みずからの方で立証しなくてはいけないと。それが権限内のときには,本人の側が,お前は当該代理人の権限濫用を知り,または知り得べきであったではないかというふうに立証しなくてはいけない。

  つまり,やっぱり権限内のときの方が,本人は保護されにくいシステムになっているのに対して,こちらの場合には,両方とも,逆に権限内の方が厳しくなり得るのではないか。


31条の悪意,重過失というものの立証責任も受益者サイドにあると仮定すると,そこでバランスが崩れているのではないかということですので,代理ではバランスはとれているんだけれども,ここでは崩れているという御指摘ではないかというふうに思うのが第1点です。


  それも大変鋭い御指摘だと思うんですが,第2点は,私前回このことについて発言させていただいて,多少,私混乱したことを申し上げてしまったんですが,ここには受益者の利益と第三者との利益が相反する場合という話だけが書いてあるんですが,これ,自己取引で,例えば当該取引をやってもよいということが信託行為には書いてあると。

しかし,当該取引をするのに当たって自分の利益を図ろうというふうに,または第三者の利益を図ろうというふうに受託者が思っており,そしてそのことについて相手方が知り,または知り得べきであったということになりましても,これは同じく93条ただし書きを類推適用されるのではないかと思うんですね。


  だから,この(※5)の書き方をこのままやりますと,これは受益者の利益と第三者の利益が相反する場合についてだけはこうなんですよみたいなことになっているんですが,これは一般法理として適用される話ではないかという気がするのが第2点です。

● では,○○関係官。
● そこは,この(※5)につきましては,解釈問題と考えておりますけれども,確かに事務局内でも,そのように自分の利益を図る目的を第三者が知っている場合であっても同じではないかというような議論が出まして,そのあたりも確かにそうだなと,今○○幹事がおっしゃっていたのもそのことだろうと思いますけれども。

● 前半の御指摘もそのとおりだと思いますね。
  いずれにせよ,いずれにせよと何か逃げるようですけれども……。


● 少なくとも,どちらも受益者が本件では立証責任があって,しかし権限外だと重過失が必要だと。権限内だと軽過失でも無効と言えるというのは確かにバランスが崩れてはいるわけですが,しかし,片や31条の規律をちょっとこれから動かすというのは難しいところがございますし,こちらは民法の一般論ということなので,あとは解釈によって対応していくしかないのかなという気がするところでございます。

  93条ただし書きが軽過失になっているので難しいんですが,例えば信託の局面では重過失でなくてはだめとか,そういう手段を講じるという方法でバランスをとるというようなことかな。一般論ですと,そういうことも不可能ではないと思っております。

● いろいろ問題点があることは承知しておりますけれども,一応条文に出る部分に関連してはよろしゅうございますでしょうか。
  ○○幹事。


● 今の点はそれ以外なくて,あとは解釈論の世界だろうということは思います。


  条文に関しましては,1点だけ,2の(2)の④の一般条項的なものの書き方なんですが,一般条項だからいろいろな事情が考慮されるんだし,どう書いてもそう変わらないではないかと思われるかもしれませんけれども,やはりよく使われる可能性がなくはありませんので,考え方は整理して書くべきだろうと思うわけです。


  具体的に言いますと,④だけをそのまま見ましても,最初に「合理的に必要と認められ」と,この「合理的」というのは一体何によって決まってくるのかということが明確ではありませんし,次が,「利益を害しないことが明らかであるとき,その他」云々とあって,正当な理由があるときですが,何に正当な理由があるときというのが必ずしも明確ではないなど,ちょっとまだまだ洗練する余地があるのではないかなと思います。


  考えてみますと,多分,大きく分けると2つのパターンがあるのではないかと思います。1つは,受益者の利益を害さないものだから許されるというパターンと,もう1つは,受益者の利益を,一見すると害するように見えるんだけれども,しかし受託者の側がそのような行為を行うことに正当な利益がまさにあるという2つのパターンが,やはりこの中には含まれているのではないかなと思います。

  としますと,やはりそのことが明確になるような書き方をしていただく方が,解釈の指針が与えられるのではないか。そうしますと,恐らくは一番最初にある「合理的に必要と認められ」というのが,今言いました,受託者の側にそのような行為をすることについて正当な利益があるという場合の中に吸収されていくのではないかなという気がいたします。


  ですので,受益者の利益を害さないということ,並びに受託者の側にそのような行為をすることについて正当な利益がある場合と,書き方はここから先より洗練していただいたらよろしいと思うんですけれども,そのような整理をもとに書いていただくというのはいかがだろうかという提案です。

● いかがでしょうか。
  どうぞ。


● 今の御指摘を踏まえて,ちょっと書きぶりについては検討したいと思います。


● それでは,大変いろいろ御議論いただきましたけれども,今検討するというふうに申し上げた点を別として,それ以外の点については御承認いただいたということでよろしゅうございますか。


● 細かい話で恐縮です。
  ○○委員が冒頭質問されたことで,ちょっと確認をさせていただきたいんですが,2の(1)のウの間接取引のところで,利害関係人ということで,これは解釈論問題であるということでございまして,先ほど事務局の方から,経済上,実質上同視できるものということが御提示されました。


  ちょっとこの解釈に当たっては,もうちょっとなるべく明確化を望みたいという趣旨で発言するわけなんですけれども,すなわちここで例として述べられているのは個人であって,その例として配偶者,子供ということが例示がありました。


生計を同一する者であればそれはわかりやすいと思いますけれども,個人の場合でも,では孫はどうなんだとか,ほかの地縁あるものはどうなんだといろいろなものがあるわけでして,そういう状況があるわけでもそういう解釈ということだと思っております。


  御質問したいところは,では法人の場合はどうなのかということでございまして,例えば受託者の100%子会社ということであればどうなのか。例えば,受託者の100%子会社のために物上保証を信託財産において行うという場合は,これは経済実態上も同視されるものということとみなされそうでございますけれども,では50%子会社はどうなのかとか,では役員が同じであればどうなのか,これもいろいろ議論がございます。

  そこで,ここの議論というのは,そういう解釈で解決されるものだと思いますけれども,やはりこれは一応禁止されるというルールでございますので,それが当たるかどうかということについての基準というのを,なるべく明確化する基準を提示していただきたいと,そういうことでございます。
● 何かありますか。


● 最終的には解釈によらざるを得ないわけですが,直感的には,100%子会社はいいのではないかというか,これに入るのではないかという気がいたします。あとは,では50%はどうかとか,役員が共通だったらどうかというのは,言ってみれば法人格否認の法理と同じような局面で,形骸化事例とか濫用事例とか,そういうものに当たると実質的に判断されれば,ここで受託者同視できるのではないかということで,あれが1つの解釈指針になるかなという気がしておりますが,具体的には,やはり受託者と同視できるようなものであって受益者の利益に反するという観点から,このようなものに利益を共有させるのは,結局受託者との利益相反と同視できるんだというのが最終的な基準になるのではないかという気がしております。

● どうもありがとうございました。
  それでは,次に行きましょうか。

● では,次は分別管理義務でございまして,ちょっと飛びますけれども,10ページでございます。


  この点でございますが,この件は,第21回部会で提案しておりましたが,そのときは信託財産の性質に応じた個別具体的な分別管理の方法につきましては,信託法に定めを置くよりも,法務省令の定めによる方法によるとすることの方が,明確かつ柔軟な対応が可能となると思われるとの観点で,考え方自体は試案と変更はなかったんですが,「受託者は信託財産が適切に確保される方法として,法務省令に定める方法により分別して管理しなければならない」という趣旨の規定を提案しておりました。

  これに対しまして,そのときの部会では,分別管理義務は非常に重要な義務でありまして,基本的な管理方法については法律レベルで書いておいて,あとの細かいところは法務省令で対応できるとの規定にする方が望ましいという意見が,比較的多数出されました。


  そこで,今回の提案におきましては,登記登録できる財産ですとか動産,金銭,債権などに関する原則的な管理方法を法律上明文で規定しまして,保振機構を利用する場合など,それ以外の場合につきましては,法務省令の定めにゆだねるとすると。


  それから,あと分別管理義務の方法については,1の本文にありますただし書きのとおり,信託行為をもって別段の定めを設けることはできると。しかし2にありますとおり,登記登録義務を完全に免除してしまうことまではできないというところまでは,法律上明文で規定することを再度提案するものでございます。

  もっとも規定ぶりの問題にとどまるものでございまして,実質的な考え方自体は,試案段階から終始変更はしていないということだけは申し添えさせていただきます。

  以上でございます。

● それでは,これについて御議論お願いします。
  ○○委員。


● それでは1点だけ確認ということで,前回の提案から実質的な変更はないという御説明でしたので安心はしておるんですけれども,くどくて恐縮なんですけれども,2のところで,信託の登記または登録をする義務について免除できないというふうな形での記載がありますけれども,これについては前回の提案同様,信託行為に受託者が経済的な窮境に至ったときには,遅滞なく信託の登記または登録をする義務があるとされていると認められている限りにおいては,分別管理義務は課せられているというふうに解してよいということでよろしいでしょうか。

● そのように解していただいて結構でございます。
● ほかに。
  ○○幹事。


● すみません。分別管理義務について,ちょっと何点かあるんですが。
  まず,前回の議論を経て,今回具体的な規定を置いていただいた点は非常にありがたいというふうに考えております。その上でということなんですけれども,1つありますのは,預金について,できればこれは口座を別にすべきということを明示するということは御検討いただけないかと。

  これは,特に民事信託等を考えた場合には,やはり将来的に弁護士がやる場合もありましょうし,また一般の方が受託者になるという場合もあり得るかという気もするんですけれども,そういうふうな場合に,やはり預金口座は別であるということは,それを確保するということはやはり重要なことではないかというふうに考えておりまして,その点を条文上も明らかにするということはお願いできないだろうかと。


  この点については,強行法規とまでするかどうかについては議論があり得ると思いますので,そこは実務上の商事信託等の必要性にかんがみてということでよろしかろうかと思うんですけれども,少なくとも条文上そういった原則を明らかにするということを御検討いただけないかというのが第1点です。


  それから,この間の議論の中で,ちょっと私の理解があまり十分ではなかったのかもしれないんですが,この御提案の中で,1の②のロの中の金銭はいいんですが,その他のイに掲げる財産ですから動産以外の財産ということになろうかと思うんですけれども,これについても,基本的な考え方としては,これまでの議論としては,どちらかというとイに書いてある「信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産と外形上区別することができる状態で保管する方法」というのが,むしろ原則的な管理の方法なのかなというふうに理解をしておったんですけれども,


債権や有価証券等がこのその他の財産に当たるということになろうかと思うんですけれども,デフォルト・ルールとして,原則的な規定の仕方としては,やはりこれはロではなくてイの方に含めるべきなのではないかという感じがしております。


  それから,あと,これは若干ちょっと意見を述べさせていただいたところでもあるんですが,1のただし書きのところなんですが,「信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる」とあって,これは2の規律と合わせ読みますと,免除することもできるというようなふうに読めるかなという気がするんですが,やはり全く免除を認めるというところまではちょっと行き過ぎなのではないかという気がしておりまして。

  この表現ですと,例えば金銭についてはその計算を明らかにする方法が規律されておりますけれども,これも,では免除できることになるのかということになりますと,他方で規定されております帳簿作成義務等との関係でも,ちょっと誤解を与えかねないような表現になっているのではないかという気もしておりまして,ちょっとこの辺のところはぜひ御検討いただけないかというふうに考えております。


  具体的には,この信託行為の別段の定めというのはもう少し限定をして,例えば別段の定めの範囲を,分別管理の方法について別段の定めとか,そういった形で規律するということをお願いできないかというふうに考えています。


  この分別管理については,いろいろな消費者事件等の関係では,かなりこれが守れないためにいろいろな被害が拡大しているという事情もありますので,ぜひそういった事情もちょっとおくみいただいて,規律について御配慮いただけないかということです。


  以上です。
● どうぞ,○○関係官。
● 最後に御指摘いただいたところにつきましては,私どもとしましては,これは○○幹事当然御認識のとおりで,当部会においてそれ以外の理解をする人はいないと理解していますけれども,当然計算を明らかにする方法と書いてあって,信託行為に別段の定めがあるとしても帳簿作成義務みたいなものは当然に係ってまいりますので,それまでしなくていいと,それで帳簿作成義務については--帳簿等作成義務と言った方がいいかもしれませんが--あれ自体は強行規定で外すことはできないということですので,法制上はそれで当然であるというふうに理解しておりましたので,誤解する余地があるかないかどうか,書きぶりの工夫があるかないかどうかというのは,最後は法制的な整理としてこちらの方で考えさせていただければというふうに思います。


  それから,前段のロの物理的分別が原則ではないかという御指摘ですけれども,例えば債権というものを物理的分別と言ったとしても,それは何か物があるわけではございませんので,そういうのは通常は帳簿で明らかにするということなのではないかというふうに思います。


  物理的に外形上区別することができるような,動産のようなものについてはそれはそうですけれども,そうでないものについては,帳簿等で明らかにするということ以外に,金銭債権を物理的に分別するといっても,それが何のことを言っているのかわからないかと思いますので,それは,そういうものは,むしろロの計算を明らかにする方法ということなのではないかというふうに思います。


  預金債権を口座を別にしろというのを,一応基本法の中で,金融機関に預けている債権とかそんなふうに特出しして書くかどうかですけれども,それはむしろ,一応,金銭とかその他のイに掲げる財産以外の財産は計算を明らかにする方法というところを,これを原則としまして,それでその余の財産について,社会的な事情に照らして,①,②以外の方法よりももう少し適切な方法があれば省令で個別に列挙して書いていくという方向で,ちょっと検討させていただければというふうに思いますけれども。

● いかがでしょうか。
● 今の点なんですが,このイの外形上区別というのは,物理的なものと,それから例えば債権や何かの場合には口座を別にするとか,外形上何らかの形でとれる場合あるのではないかという気がちょっとしておるんですけれども。
  


できるだけ,別にしておくことをきちんと法文上はデフォルトとして定めておいた方がよろしいのではないかという趣旨の意見なんですけれども。


● 同じようなことかもしれませんが,我々としては物理的分別はもちろん1つの方法なんですが,やはり財産の形態に応じて最も適切な方法をとるというのがいわば本当の原則でございまして,そうすると,動産であれば物理的分別,有価証券も,これは動産ですかね,だから物理的分別,金銭債権であれば帳簿というのは,むしろ,それはそれぞれの財産によって原則であって,別に物理的分別がすべての原則とまでは考えていないというものでございますので,このように並列して書いていても,それは権利の種類に応じて最も適切な方法を明らかにしているという御理解でいいのではないかなという気がするところでございます。


  あと,口座によって分けるというのは,これ前も議論がございましたが,なかなかそれは現実的な対応が難しいというところもございまして,もし口座を別にすることが特に民事信託なんかで必要であれば,それはただし書きによって定めるということで対応することができるのではないかなという気がするところではございますので,ちょっと付言させていただきました。

● ほかに,御意見ございますか。
  ○○委員。


● 今のに関連しますが,ちょっと素朴な読み方の問題なんですけれども,2で,1の①に掲げる財産については免除できないという書き方をしているので,そうすると1の①以外は免除できるんだと。そうすると,1の②のロで,計算を明らかにすることを免除できると,そう読めることはそうですよね。


  そうすると,これはどういう意味なのかというのがちょっとわからないんですけれども。
● それは先ほどお答えしたとおりですけれども,これは考え方としては○○幹事のおっしゃったとおりで,帳簿等の作成義務というのは当然係ってきますので,そちらの方から考えたときに,信託財産の計算を,どういう収支があってというようなことは帳簿等作成義務の方から読めるのではないかと,とりあえずは考えていたと。


● だったらば,これは1の②のロは免除できないことにすればいいかなという,それだけのことなんですけれどもね。


● わかります。要するに帳簿作成義務の方から来るんではなくて,分別管理の問題として最低限計算はしなくてはいけない。そこは免除できない。

  実質は同じことになるんだと思いますけれども,理論的な説明としてどうするかということですね。

  これは,計算というのは,ほかにもこのロの計算だけではなくて,債権なんかも最低限計算は必ず必要なんでしょうし,それをうまくまとめて,そういうものは最低限しなくてはいけないということは,書こうと思えばできるかもしれないね。


● 書きぶりで,ちょっと調整をさせていただきたいと思うんですが。
● ほかに,よろしいでしょうか。
  これは,いろいろな財産の多様性も考えながら,そういう意味で柔軟な対応--柔軟というのは別に基準を緩くするという意味ではなくて--それぞれの財産の特徴に合わせて必要な分別管理義務を定めたいということと,それから法律の中では基本的なことを書きたいというのをうまく調和させるというのがねらいですけれども,多少ここに書いていない,今の預金などの問題というのは出てくるかもしれませんけれども,これも,場合によっては法務省令の方でうまく書けるのであれば書くということで対応したいというふうに考えておりますが。

  よろしゅうございますか。
  ○○幹事。


● 随分煮詰ってからこんな発言をするのはまことに恐縮なんですが,○○幹事がおっしゃったことにも関連するんですけれども,現行法の条文というのは分別管理しなさいと。金銭に関しては計算を明らかにすることでもよいと。これは,計算を明らかにするというのが,推奨されている分別方法なんですかね。

  だから,取り分けて物理的にしておくということが不可能な場合が多々あるというのは十分にわかるんですが,原則形態を,計算を明らかにするというところにするというところに,恐らく○○幹事がおっしゃっていた違和感があるのではないかという気がするんですけれども。


● これはしかし,パブリック・コメントで,金銭については計算ということで,パブリック・コメントを経た上で,特段の反対もなくというか現代的事情ではこうだという中で,一応できているというふうに理解はしているんですけれども。


● どうぞ。
● 現金は少ないと思いますので,あまり問題ではないかもしれませんが。
● どうぞ,○○幹事。


● 私も金銭はおっしゃるとおりだと思うんですけれども,金銭以外のものについては,やはり推奨する管理のあり方をもう少し書いた方がいいのではないかなという気がしておるんですけれども。


● できるだけそういう御意見を,今少なくとも法務省令のレベルではできるということだと思いますけれども,法律の中にうまく書けるかどうかということですね。これも併せて少し検討いたしますけれども,基本的には,この現在の線を,少なくともここに書いてあることは御承認いただけるとありがたいと思います。

  ○○委員。

● この金銭に計算という言葉は合うと思うんですけれども,金銭債権以外のものの場合には,法務省令がもしこの計算という言葉に多少拘束されてしまうと,なかなか書きづらいような気もするんですけれども,何となく信託財産であることを明らかにするような表示をするとか,何か,この計算という言葉が信託法における解釈ではそういう趣旨なんだという理解で議論は進んでいるのかと思うんですが,その辺は最後なので,もともとちょっと違和感があったんですけれども,ちょっと細か過ぎるかなと思っていたんですが。

● どうですか。
● 計算の意味につきましては,財産の帰属と収支を明らかにするという意味で,ここではそういう用語で用いておりまして,それで法務省令で定めるものは,管理する方法としてということですから,別に分別管理の方法ということであれば,財産の形態によりますけれども,省令として書く方法は柔軟に対応可能かなというふうには思っております。

● わかりました。
● 何とか対応できる。
  それでは,分別管理のところも御承認いただいて,あと法務省令などで定めるときの定め方などは引き続き検討させていただくと。しかし法律レベルでは,これを御承認いただくということにしたいと思います。


  それでは,少し休憩いたしましょう。

          (休     憩)

● それでは,再開したいと思います。
  では,○○幹事,お願いします。


● では続きまして,第26の消滅時効のところにつきまして,御説明いたします。

  この問題につきましては,第23回部会のときには,時間がせいていたこともあって最後に極めて短時間で終わってしまったというところがあり,そのときは試案のとおりだったんですが,今般改めて規律をかなり見直しまして,改めて提案するものでございます。

  まず,提案1でございますが,これは損失てん補責任等を基本的に債務不履行責任と位置づけた上で,その消滅時効の起算点を,民法166条1項に従い権利を行使することができる時,すなわち受託者の任務違反行為により信託財産に損失または変更が生じたときとしまして,その消滅時効期間については,167条1項に従いまして原則として10年間,ただし営業信託では5年間とするものでありまして,これは試案及び前回の提案から変更はございません。

  次に提案2は,受益者が損失てん補請求権を有する場合の特則,受益者についての特則を定めたものでございます。

  まず(1)でございますけれども,消滅時効の起算点につきましては,自己が受益者として指定されたことを知るに至るまで時効の進行は開始しないとするものでございまして,この点は試案及び前回の提案から変更はございません。


  これに対しまして,変更した点でございますけれども,消滅時効が進行を開始するためには,さらに受益者において受託者が任務違反行為があったことを知ったことをも要するとしていた点でございます。


つまり,今回の提案の考え方によりますと,消滅時効の起算点につきましては,受益者として指定されたことを知るに至るまでの間は進行しないという要件は付加されるわけですが,それ以外は民法166条1項に従いまして,「権利を行使することができる時」,つまり受託者の任務違反行為によって信託財産に損失または変更が生じたときとの要件に従うことになりまして,受益者がこの事実を認識するに至ることまでも必要とするかは解釈にゆだねることとしてはどうかと考えるものでございます。

  そもそもこのような問題意識が生じた発端といいますのは,受益者に後者の認識をも要求した上で,さらに10年間という消滅時効の期間を認めるとなりますと,消滅時効の完成まで非常に長期を要することにもなり得るわけでして,現行法にも例が見当たりませんし,いわば受益者にとっては,知るまでは進行しないし,かつ10年間と,いわばいいとこ取りをするような結果になってしまうので,問題はないかという懸念があったことでございます。


  部会におきましても,認識を必要とするかわりに,例えば3年とか5年とか期間を短縮できないかとの指摘もあったと記憶しておりますが,不法行為責任と位置づけるのであれば,例えば3年とすることもあり得るわけですが,債務不履行責任と位置づける以上は,期間を短縮化するといっても,その基準もなく難しいと言わざるを得ないところでございます。

  ところで,御承知のとおり,通説や従来の判例によりますと,この「権利を行使することができる時」の意義については,権利を行使する上で法律上の障害,例えば履行期の未到来等のないことを意味し,権利を行使することができるということを権利者が知らなかった等の事実上の障害は時効の進行を妨げないと解されてきておりました。しかし,近時は,この権利を行使することができることを現実に期待または要求することができる時期まで起算点を遅らせる裁判例や学説が見られるようになってきております。


  このように,受益者以外の権利者一般につきましては,民法166条1項の条文を前提とした上で,事案に応じて解釈により権利者の保護を図るという方法がとられている中で,ただ,受益者についてのみ,この民法166条1項の条文から離れまして,法文上の要件として常に任務違反行為による損害の発生の認識まで必要とするのは,解釈によるのであればともかく,実際に法文化するとなると,バランス上も妥当性を欠くように思われるわけでございます。


  そこで,前回の提案を改めまして,今回の提案のように,いわば民法一般の条文や解釈と同様のオーソドックスな方向に改めたものでございます。


  次に,2の(2)でございますが,試案及び前回の提案では,受益者に限らず他の受託者や委託者が損失てん補等請求権を有する場合についても除斥期間を設けることとしておりましたが,これを改めまして,消滅時効の起算点をその主観的認識に係らしめる受益者が権利者にある場合についてのみ,いつまでたっても消滅時効が起算点に至らない可能性があることを踏まえまして,権利関係の安定性の観点から,除斥期間の規定を併せて導入することとするものでございます。

  最後に(注2)でございますが,法人役員が連帯責任を負うこととなる損失てん補等責任についても,消滅時効及び除斥期間の規定を設けることとするものでございまして,消滅時効期間についてのみ信託類型を問わず一律に10年間とするほかは,提案1及び2の規定がそのまま当てはまることになるものと考えているところでございます。


  以上でございます。
● それでは,この時効に関連していかがでしょうか。
  ○○委員。


● 適用関係を教えてほしいんですけれども,損失補てん責任等の「等」なんですが,原状回復義務とか,あと一番関心のあるところですと利益吐き出し責任。そうすると,今申し上げたいずれの類型につきましても債務不履行責任ではないという整理,もともと発端は債務不履行責任かもしれませんけれども,利益吐き出し責任ですと,それは不当利得返還請求とか,原状回復不能であれば形成権かもしれませんけれども,物権的な請求権に近いものかと思うんですけれども,この「等」はどこまでカバーされているという理解なんでしょうか。


● 「等」は,我々の理解では損失てん補と原状回復は当然と。利益吐き出しは,なおペンディングですので,これは,もし入ればここに入ってくるし,その規律は同じことになると思うんですが,そこまで含んでおります。


  今おっしゃったところですが,我々の理解では,損失てん補と原状回復は基本的に受益者に対する信託事務遂行義務の不履行の問題で,債務不履行の責任ではないかと。


仮に利益吐き出し責任が入るとしても,これも信託の受託者として果たすべき債務の不履行によって生ずるものと認識しておりまして,それであれば同じ債務不履行という考え方でいけるのではないかと思っているところでございます。
● どうぞ。
● その趣旨は理解できるんですけれども,結構先鋭な対立があるのは,損害とみなすのか違うのかというところで,そうすると,債務不履行と性格づけられるからという理由づけになりますと,逆に利益吐き出し責任の方の甲案に近い議論が,ここで何か1つ形成されてしまうのかなというようなちょっと懸念もありまして,もちろん数字を持ってくるときに何らかの根拠が必要だということがあって,それは,そういう趣旨で述べているということはわかるんですけれども,その債務不履行と性格づけられるところは,利益吐き出し責任との関連ではちょっと強過ぎる趣旨ではないのかなと思って,ちょっと懸念があるんですけれども。


● 何かありますか。
● 利益吐き出し責任につきましては,まだ検討結果が出ておりませんので,そこまで厳密に詰めたわけではないので,これである立場をにおわせているわけでは全くないんですけれども,「等」と書いたのは,単純に原状回復は入りますねという趣旨は込めているということでございまして,利益吐き出し責任については(注1)に書いてありますとおり,なお検討事項ということですので,それがもし利益吐出しが入るということになった暁には,どのような規律が必要かというのはまた別途考える必要があるかなという気はしますが,何か基本的にはこれで問題ないのではないかという気がするわけですが,そこだけ不法行為にした方がいいという御趣旨でございますか。

● いや。法的な性格づけをあえてしなくてもという趣旨なんですけれども。
● そうすると,結論的には,この規律の対象で10年間,それはよろしい。

● そうですね。結論については特に。
● わかりました。
  書きぶりのところで,債務不履行と言ってしまうということですか。


● そうです。はい。
● それでは,そういう点は注意した方がいいということでいきたいと思います。


  ほかにはいかがでしょうか。
  ○○幹事。

● 適用がどういうことになるかということだけを確認させていただきたい趣旨なんですけれども,受益者が有するものの消滅時効は,信託管理人が選任されていて受益者自身がまだ存在しないというような場合は,どのようなことになるのでしたでしょうか。


  すみません。消滅時効の規律の内容を確認したいという趣旨なのです。

● 信託管理人がいれば,やはり法定代理人がいた場合と同じようになるんですかね。基本的には受益者が生まれて知るに至るまでは進行しないということでしょうか。


  法定代理人がいたら,法定代理人が知ったら消滅時効進行するということであれば,もしかすると信託管理人が選任されたときから進行するという発想もあり得るかなと,今ちょっと思っているところですが,ちょっと十分分析していなくて,むしろお伺いしていて恐縮なんですけれども。

● 申しわけありません。まさに両方の考え方があるのではないかと思ったものですから,明らかにしておかなくていいだろうかという問題関心でお伺いをしました。


● どちらの方が合理的だと,○○幹事としては思いますか。代理人的に考えるのか,別途に……。


● 受益者が,例えば未存在というような例のときに,信託管理人によって権利行使をさせるということからすると,権利行使の機会は確保されているということからすると,消滅時効が進行してもいいのかなというふうには思ってはいるのですけれども。


● 何か結論としては,やっぱり信託管理人がいて,本来損失てん補請求できる状況で,あるいは受託者の方からしても,未存在,将来の受益者の権利を保護する立場から今のような損失てん補請求するという権限を持っている信託管理人がいて,その状態のもとで時効期間が完成すると,受益者についてもなくなるというのが,何かわかりやすいですよね。

  そうではないと,全く別の,信託管理人と受益者の関係をどういうふうに理解するのかという,また難しい問題になりそうな気がするけれども。

  何か,皆さん,この中で御意見があれば,伺いたいと思いますけれども。い
かがでしょうか。


  基本的には,今のような受益者未存在の場合の受益者の利益は信託管理人が図るという立場だとすると……。

● 信託管理人が選任されたときから進行を始めるということですかね。
● それがわかりやすいけれどもね。それでは不十分だという点が,もしあるとするとどんな点かということですね。


  ○○幹事としては,今のでよろしいですか。


● 明確になることが望ましいのではないかというふうに考えておりまして,基本的には今のようなことでどうかと思っているのですが,もちろん,実は別の考え方をとったとしても,あとは20年でいくんだというのも十分あり得ることだと思いますので,どちらであるかが明らかになればいいのではないかと思っております。

● それであれば,基本的には○○幹事がおっしゃったことについて皆さん黙示の同意があるのかなという気がしますので,そちらの方向で考えてみますが,最終的には,どちらかに決めて,お諮りしたいと思っております。


● ほかにいかがでしょうか。
  今まで○○委員が,いろいろ時効に関連しては御発言もございましたけれども,このような案で。


● 権利を法律上行使できるときからという一般的な時効の規律と,それから任務違反が受益者にわかりにくいからディスカバリールールをとるということとの兼ね合いで,こういう本日の御提案が出ているかと思います。これはこれで1つのあり方かなというふうに思います。


  ただ,1点だけ確認したい点なんですけれども,26の1で「債務の不履行によって生じた責任に係る債権の消滅時効の例による」という原則を立てて,それで解説の中で,11ページの1,提案1についての第3パラグラフのところで,「「権利を行使することができる時」,すなわち,受託者の任務違反行為により信託財産に損失又は変更が生じた時」と置きかえているわけですが,これは直ちに置きかえられるかどうかについては議論があり得ると思います。

  ですから,むしろ端的に,説明文の方の規律を表に出していただいた方が紛れがないのではないかなというふうに思います。現に,除斥期間のほうについては,2の(2)に表に出しているわけですから,その方が疑義がないかなというふうに思います。


● いかがでしょう。
● 解釈は御支持いただいたと思いますが,ここでの起算点というのは,任務違反行為によって結果生じたときというふうに考えておりますが,あとは,そうすると,要綱案あるいは条文案の中にどういう書きぶりをするかというところですので,御指摘の趣旨も踏まえて,できるかどうかちょっとわかりませんが,書きぶり検討したいというふうに思います。


● と申しますのは,債務不履行によって生じた責任と書きますと,例えば不作為による任務違反などについては,ややあいまいになってくるかなという感じがいたしますので,今申し上げたようなことでございます。
● そうですね。

  今のような対応でよろしいのではないでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
  もうちょっと細かい点で,解釈問題だと思いますので,これ以上ここで条文という形で対応する必要はないんですけれども,受託者が法人であるときの法人自身の消滅時効と,それから役員が連帯責任を負うというときの,その役員の連帯責任の時効期間が,一応,今(注2)というところですが,法人自身の方は,受託者自身の方は5年の商事の消滅時効というのがあり得るわけで,そのときに,この役員の方の消滅時効の期間というのは,ここでは一応今10年間とするということが書いてあるんですが,これがどういう関係になるのかということだけは,これは後で解釈問題として解決すればいいんだと思いますけれども,簡単に言えば,法人の方は5年でもって時効は完成しているときに,役員の責任が残るのか残らないのか。あるいは時効の絶対効,連帯責任ですから,負担部分についての絶対効ということでどうなるのかと。

  どっちが負担部門を追っているのかということから始まって,ちょっと(注2)がどうなるかというのは,少し個人的には気になっております。ただ,解釈で解決すればいいことかなというふうには思いますが。


  ほか,よろしいでしょうか。これ自体はいじる必要はないと。
  それでは,時効の部分は終えまして,次に移りましょう。


● では次は,第31の権限違反行為の取り消しでございます。

  4に関してのみですが,取り消しの原因を知ったときから1か月という期間制限,通説は除斥期間と解されておるんですが,四宮先生は短期消滅時効期間と言っておりまして,我々も時効によって消滅するということで明記しているわけでございますが,1か月は短過ぎるという批判が,当部会でもパブ・コメでも四宮先生も言われているところでございまして,3か月に延長することを提案するものでございます。
  以上でございます。

● これはいかがでしょうか。
  ここでは,一応期間制限,もちろんほかのことについて議論してはいけないという趣旨ではありませんけれども,他の点は一応固まったという前提のもとで,この権利行使の期間について,時効の期間だけ。
  ○○委員,どうぞ。

● 前も発言したと思うんですが,弁護士の感覚で言うと,こういう権限違反行為があったということを知った人が相談に来るまで1か月,2か月たってからで,それからすぐに弁護士が行動するというのは無理な場合が多くて,3か月というのはきついなというのが多くの弁護士の感想でした。


  半年ならしようがないかというぐらいの感覚的なものはあるので,それはお伝えしておきたいと思います。


● いかがでしょうか。今のに関連して。
  受託者サイドなんて言っては申しわけないけれども,○○委員,独立の見解として。


● これは前回も申し上げたところですけれども,商事信託での受託者という立場で考えますと,基本的には1か月でも長いということで,日々刻々信託財産が動いている中にあっては,1か月でも非常に厳しいのではないかなというふうに考えておりますが。


  今回御提案3か月ということで,これについては基本的には反対したいところなんですけれども,○○委員ほか御意見等がございましたのでいたし方ないのかなというふうに思っておりますが,これが6か月とか1年とかそうなると,やっぱりどうしても,なかなか巻き戻しというのは苦しい話になってしまいますので,3か月というところ以上はどうしても勘弁していただきたいなというふうに思います。

● ほかに。
  では,○○幹事。

● 今の意見の後に申し上げるのはちょっと気が引けるところあるんですけれども,多少,ちょっと弁護士会の方で意見が出ていたのが,ほかの法律の規律との関係でバランスがどうなんだろうという意見が出ていました。


  それで,民法の規律を拝見しますと,取り消しの行使期間は,追認できるときから5年と,行為のときから20年とか長いんですけれども,瑕疵担保責任でも,知りたるときから1年,行為のときから10年というようなことになっていて,やはりこの3か月,1年というのはかなり短いのではないかという感じがしております。


  今御指摘の信託が日々動いているという問題あるんですけれども,少なくとも受益者の犠牲のもとに,悪意,重過失の第三者が免責される期間としては,やはり3か月,1年というのは短いのではないかと。


  ちなみに,日弁連の意見書の中では,知ったときから1年,行為のときから10年という意見を挙げさせていただいているんですけれども,こういった期間というのもあり得るのではないかというふうに,個人的には考えております。

● ほかに,御意見ございますか。
  これもいろいろ御意見があるところ,まさに対立する御意見があるところですが,一応,現在の法律の1か月というのはとにかく変えようということで,今両端からの御意見がありましたけれども,多少両方が歩み寄れるところとして,今のところ3か月,これでももちろん短いという御意見,よくわかります。私も,個人的には6か月ぐらいはどうかというふうに思いますけれども,しかしみんなが合意できそうなというところで,3か月ぐらいで御承認いただければそうしたいというふうに思いますが,いかがでしょうか。

  それでは,弁護士会からの御意見はわかりますけれども,3か月で,とりあえず今回は少しは延ばしたということで,若干のプラス方向に動いたということで御承諾いただければと思います。

  信託法が,今後どのぐらい先にまた見直されるかわかりませんけれども,ベースが大分進歩したということであれば,また次回なりに,いろいろそのときの関係者の方々の御努力で改正されることもあるのではないかと思います。


  それでは,第31につきましても御承認いただいたということで,次に行きたいと思います。

● では次は,第32と,ここだけ第33と2つ併せて御説明をしたいと思います。

  まず第32でございますが,提案内容自体には変更ありません。
  2でございますけれども,本件につきましては第24回部会で取り上げておりましたが,受託者の費用前払請求権の行使可能時期との関連で,理論的にはこの請求権が民法649条によるのか民法460条によるのかと,どちらの性質によると見るのが妥当かというような御指摘と,あと前払いを受けることのできる時期についてはどのように考えるべきかという,解釈問題とは思いますが,その2点についての御指摘がございました。

  まず前者でございますが,前払請求権の性質につきましては,受託者というのは信託財産から直接支出することができまして,自己の固有財産で立替払いをすべき義務を負っているというわけではないという受託者の義務内容,権限の内容ですとか,受託者は信託との関係で信用を供与すべき立場にあるとまでは言えないという実質的な観点にかんがみますと,受託者は保証人とはやはり性質の異なるものでありまして,他人のために事務処理をするものに当たるものとして,この前払請求権は,民法649条の受任者の前払請求権の性質を有すると見るのが素直ではないかと思うところでございます。

  後者の行使可能時期でございますが,これも解釈の問題と申し上げたところでございますが,民法460条のように厳格に解する必要はなくて,債務が弁済期になくても,弁済期まで待っていたのでは信託財産から弁済できなくなる蓋然性があるというような場合であれば,行使できるのではないかというふうに思っているということを記載させていただきました。

  次に,第33の報酬請求権についてでございますが,これも提案内容自体は変更はございません。


  前回提案に御指摘があったのは,受託者が信託報酬を受ける前の受益者に対する通知義務について,任意規定という提案をしていましたけれども,これに対しましては,受益者または委託者に対する通知義務を強行規定とすべきではないかという御意見をいただきました。

  その結果,検討いたしまして,資料に記載いたしましたとおりでございまして,受益者に対し一定の条件,すなわち信託行為で報酬の額とか算定根拠を定めていない場合については,通知義務は強行規定とすると。

通知したくなければそういうことを定めればいいわけでございまして,そういうふうに改めるとともに,委託者に対する通知については特段の規定は設けないこととしてはどうかと考えるものでございます。
  以上でございます。


● それでは,今の第32と第33につきまして,いかがでしょうか。
  これは,提案自体は変更ございません。同じ提案のもとでの考え方を示したものでございます。

  それでは,よろしければ,次行きましょうか。

● では,第34でございます。
  まず,これは受託者が複数の信託に関する問題で,第25回部会で御審議いただいたところでございますが,今回はそこから提案内容に変更があった点についてのみ,3点御説明いたしたいと思います。


  まず第1に,1と書いてございますところですが,職務分掌がない一般の共同受託の場合におきまして,ある受託者が,他の受託者を顕名することなく対外的な執行行為を行った場合につきまして,これまでの提案では,その行為者の固有財産のほか信託財産にも効果が及ぶとしておりました。しかし,組合の場合には,他の組合員を顕名していない場合には,その他の組合員の固有財産はもちろんのこと,組合財産にも効果が帰属しないと解されております。

  そうすると,信託の場合にも同様に,信託財産にも効果は帰属せず,当該行為者の固有財産のみに効果が帰属すると考えることが相当と思うものでして,これは従来の考え方をここで変更させていただいたという点が第1点目でございます。

  第2に,(注4)についてと書いてあるところでございますが,受託者の複数の信託で,3人のうち1人が欠けて2人になったというような場合におきまして,1人補充するというときでございますが,残りの受託者の合意をデフォルト・ルールとしてではありますが,必要とするかについて,前回部会では両案併記しておりました。

  この点につきましては,この資料中にるる書かせていただきました理由から,デフォルト・ルールとしては,委託者と受益者の合意のみによって,欠けた受託者の分の新受託者の選任を認めることとしてはどうかと考えるものでございます。

  第3に,(注5)についてと長く書かせていただいたところでございますが,これは前からいろいろ問題になっているところでございまして,信託債権者が,信託債権に関して,共同受託者の1人に対して取得した債務名義をもって信託財産に掛かっていけるかという点につきまして,前回の提案におきましては,職務分掌の有無にかかわらず,受託者全員に対する債務名義を取得する必要があるという見解を展開いたしましたところ,特に職務分掌の定めがある場合につきまして,取引をするときには1人でいいけれども,執行するためには全員に対する債務名義を取らなければならないというのは,本来執行の局面で担保されているはずの取引上の権利が,実は担保されていないことになって,整合性を欠くのではないかという指摘がございました。

  この点につきまして,資料の3,(注5)についてというところで書かせていただきましたとおり,職務分掌型の信託の場合には,分掌された職務に関する管理処分権は分掌された職務を執行する受託者に専属しますので,当該受託者は,他の受託者のための法定訴訟担当者となるものと構成した上で,あとは執行文付与のあり方を検討するというアプローチも十分あり得るところであると思われます。

  そこでまずは,このように,ある受託者を他の受託者のための法定訴訟担当と考えることの是非につきまして,ぜひ御意見を賜れればと思っております。


  なお,以上はあくまでも職務分掌型の共同受託の場合でございまして,一般の共同受託の場合につきましては,ある受託者に専属的な管理処分権が帰属していると言うことはできませんので,法定訴訟担当という構成は無理でございまして,また,顕名しない限り実体的な効果も信託財産に帰属しない以上は,信託財産に係っていくためには受託者全員に対する債務名義を要求しても,取引相手方にとって酷ではないと思われますので,組合と同様に,受託者全員に対する債務名義を要するものと考えております。

  ということで,職務分掌のある場合についての法定訴訟担当と考えることの是非について御意見を賜れればと思っております。
  以上でございます。

● それでは,この部分について,いかがでしょうか。
  非常に込み入った議論も若干ございますけれども。
  ○○幹事,どうぞ。


● 最後の職務分掌型信託の場合の訴訟法上の取り扱いですけれども,結論としては,この資料にありますとおり,訴訟担当として構成するということでよろしいのではないかと思います。
 

 訴訟追行権というのは,実体法上の管理処分権を軸にして考えることになると思いますけれども,職務分掌型の信託の場合には,当該受託者というのは当該職務については管理処分権を実体法上与えられているということだと思いますので,それを訴訟手続に反映させれば,訴訟追行権あるいは訴訟担当として考えることになるんだろうと思います。


  執行のあり方が問題になるわけですけれども,これは今ここで議論した方がよろしいですか。それとももう少し……。


● いただければ,ぜひ。
● そうですか。

  考え方としては,単純執行文でいいのか承継執行文が要るのかというあたりが問題になるんだろうと思います。


特に信託財産が不動産の場合には,これ合有登記がされているわけですので,受託者1人の名前で債務名義ができているときに,それに対して強制執行できるのかということが問題になるんでしょうが。

  単純執行文でいければいいのかもしれませんが,仮に承継執行文が必要だとしても,民事執行法の27条の2項で,簡易にそれは出せるのかどうかということが問題になるんでしょうが,ここまでは信託事務処理のために債務名義上の実体法上の請求権が発生したんだということさえ言えればいいわけで,近い例で申しますと,民事訴訟規則の15条で,訴訟行為を必要とするのに必要な授権というのは書面で証明しなければならないとなっていますが,この程度の証明があれば執行分が出せるというふうに考えるのであれば,仮に承継執行文が必要だとしても,十分執行手続としてワークするのではないかと思います。
  以上です。

● どうもありがとうございました。
  ほかに,よろしいでしょうか。今までの御議論をかなり取り入れてはいると思いますが。
  よろしいですか。
● 今の執行以外の点でよろしいんですか。
● はい。

● 非分掌型の場合に,顕名がないと信託財産にも効果が帰属しないという点についてなんですが,この場合の相手方の保護はどうなるのかについてを確認したいんですが,権限違反行為の場合との比較ですとか,あるいは職務分掌型だと誤信した場合とか,相手方の保護も考えるべき場面があるのではないかと。
  特に,組合の場合にも表見代理を認めるという考えがあるものですから,それとの関係でどうなるのかということです。

● それでは,お願いします。○○関係官。
● そのあたりは組合と同じように考えておりまして,組合についても解釈によって第三者の保護をというのを図っていると。一般的に顕名主義というのになっていて,第三者が,民法の100条とか112条とか111条とか,あのあたりで保護されていると。
  それと同じようなことはここでも考えられるのではないかというふうに考えておりまして,それ以上に明文の規定を置く必要というのはないのではないかというふうに考えております。

● よろしいですか。
● 相手方が保護され得る場合があるということはわかりました。
  例えばですが,今の例で,職務分掌型だと誤信したという場合,どうなるんでしょうかね。つまり,単独でできると思っていた。

● そのあたりも,ちょっとこれは個人的な考え方ですけれども,そのように考えることについて正当な理由があって,それが民法の一般的な原則に従って第三者が保護されるべき場合に当たるのであれば,保護される場合もあり得るということだと思います。

● 今の場合の保護も,表見代理ということですか。
● だと思います。
● でしょうね。
● 顕名していないということですね。代理権踰越だったら110条とかですね。顕名でなかったら100条の方でいくのではないかと思いますが。


● 他の受託者を明らかにせずにやっているわけですね。
  非分掌型なんですけれども,相手は職務分掌型だというふうに思っていて,したがって,その人が単独でできるというふうに考えていたという場合ですね。組合ですと,その常務を単独でできるとか,それを越えたらどうなるかという,そういう話なんですが。

● 今のは単純な非顕名ではなくて,積極的にといいますか,分掌型だというふうに信頼したということに十分な理由があれば,そうするとやっぱり表見代理でいけますかね。

● そうですね。表見代理で帰責事由と正当理由とのバランスということになってくるかなと思います。
● そうすると,表見代理とそれから顕名の場合の100条とかの法理と両方が係ってくるという理解でよろしいですか。


● そういう場合もあると思います。そこは,どういうふうに行為者がやったのかということによって適用条文は変わってきますが,いずれにしても一定の場合に第三者が保護される余地は,民法の原則によって残っているというふうに考えております。

● ○○委員。
● また執行のところでちょっと質問なんですけれども,ちょっと私の理解が間違っているかもしれませんが,職務分掌型というものが大分以前の議論ですと,いわゆる適格年金のようなもので議論したと思うんですが,たしか前回ぐらいの議論のときに,そういうものはある意味では,この共同受託の規律以外のものになるよというような整理の仕方になっていたと思うんですけれども。
  


それはそれとして,そうすると,今日の議論でも,何となく私の中での理解でも,職務分掌というのは共同受託のある特定の方が,信託財産を信託行為上も実質においても扱っているような感じで何となく認識してはいるんですけれども,ただ,職務分掌というのは必ずしもそういう規律では議論されていなかったというか,ちょっと前にも言っていたんですが,別に職務分掌は職務分掌と言っているだけでして,信託財産の帰属,実質管理とはまた別の議論だったような気がするんですけれども。


  そうすると,信託財産と切り離して職務分掌というものがあり得るとすると,その職務分掌になった--いろいろな職務分掌それぞれがしているんですけれども--その人1人をつかまえて,信託全体に法定訴訟担当が及ぶと。


及ぶのが適切な場合もあるし,適切ではないような職務分掌もあるような気もしますし,なおかつ信託財産を,特に管理する職務分掌になっていないある受託者が法定訴訟担当で行為をし,先ほどの○○幹事の議論のように,承継執行文を得るというのは,何となくちょっと頭の中の整理がしがたいところがあるんです。

  要するにぐじゃぐじゃ言って申しわけないんですが,信託財産と職務分掌の関係が,もう1つ規律として何か必要なのではないのかなということを,ちょっと思った次第です。

  あと,不動産の場合ですと,一応合有登記がなされているという前提ですけれども,不動産以外のものですと,特に職務分掌があっても合有という整理なんでしょうが,ただ,名義は別の人の完全な名義になっていると。

  要するに,A,B,Cという受託者3名いて,A,B,Cがそれぞれ異なった形での職務分掌になっていて,あるBさんの名義になっている預金があるとかBさんの名義になっている何か財産があると。でも信託法上は合有であって,Aさんあての訴訟を起こして,職務分掌型であって法定訴訟担当で承継執行文ですというのは,果たして,そんなに執行わかりませんけれども,先ほどの○○幹事のおっしゃったような規則の15条で簡単にもらえるものなのかどうかと,その辺もちょっと教えていただければと思うんですけれども。

● どなたか。では,○○関係官。

● まず,執行の点につきましては,今検討中ということでございまして,果たしてそういうようなことができるのかどうか。単純執行文という形でできるのかどうか,それとも承継執行文というのが適当なのかどうかについては,もうちょっとお時間をいただいて検討させていただきたいというふうに思っております。


  ○○委員の1点目の,職務分掌のものというのはどういうものがあるのかというのは,ここでまず,原則形態というか一般的に想定しておりましたのは,例えばAという信託財産とBという信託財産があって,それが受託者1,2,3の合有になっていると。


Aという信託財産については,受託者1が単独で意思決定をし売却等もするというようなものを考えておりまして,その場合は,確かに信託財産自身は合有にはなっているけれども,売却という権限については受託者1が単独で意思決定をしているので,実体法上の管理処分権というのも受託者1が持っていると言うことができるのではないかと。


  そうだとすると,重複してしまいましたけれども,実体法上の,管理処分権は受託者1が持っている以上,法定訴訟担当として構成して,その受託者に対して債務名義を取れば,他の受託者にも既判力,執行力は及ぶと考えてもいいのではないかというふうに,今回は考え方を改めた次第ではあるんですけれども。


  十分答えたかどうかわかりませんけれども。
● ほとんどの側面答えていただいたので。
  では,今の事例ですと,受託者Aに対して職務分掌があるからといって,Bが実際に職務分掌で管理している信託財産に対しては係ってはいけない。あくまで職務分掌というのは信託財産と密接に関連していて初めて意味が出てくるという。

● 今のは不動産の売却の話をしましたけれども,例えば借入権限というのを受託者1が持っているというようなケースであれば,受託者1を被告として債務名義を取りますと。ほかの受託者が管理している信託財産にも執行することはできますと。それはなぜかと言うと,信託財産自体は共同受託者3名の合有ですから,そういう観点からはいけますということになると思いますが。

  そういうことが適当でないと思われる信託については,先ほど○○委員がおっしゃいましたとおり,年金信託のように別々のものであるというふうにしておけば足りるのではないか。要するに,共同受託にして信託財産が合有であるという前提をとる以上は,職務分掌型の信託で他の受託者が信託事務処理を独立してやっていたとしても,信託財産の限度では,他の受託者がやったことについても信託財産は責任を負わなければいけないというように考えている次第です。

● 今のでもちろん理解してはいるんですが,職務分掌というものが,いろいろな執行とか訴訟の面でも極めて重要になってくるメルクマールになっているんですけれども,職務分掌自体が--その言葉自体で解釈論で物語ってしまうのかもしれませんけれども--訴える場合でも訴えられる場合でも,共同受託なのか職務分掌なのかというのが必ずしも十分議論されていないと。かつては適格年金で議論しましたが,あれは別だということになってしまったところで,ちょっとわかりにくくなっているのかなと。それによって訴訟法的手続にも随分影響してしまうという点は大丈夫なのかなと,ちょっと思う次第なんですけれども。

● そこのところは,事務局としても意識してはいるところなんですけれども,なかなか信託の場合は,登記,商業登記みたいなものもないところもありますので,やはり信託行為を見て,署名して,訴訟上もということにならざるを得ないのかなというふうには思っていますけれども。


● ○○委員。
● 確かに,職務分掌という言葉が何か厳密に定義されているわけではないので議論がしにくいのかもしれませんが,スペクトラムの中に位置づけておくと,一番端っこには多分全く別々の信託が合って,受託者1が信託財産Aを信託で受けていて,受託者2が信託財産Bを受けていて,これは全然別でということであれば,もちろん受託者1に対して判決とったとしても,財産Bに対して強制執行できないのは当たり前ですね。これは一番ばらばらがはっきりしている場合で。

  それからもう片方では,共同受託で,しかも職務分掌も非排他的な管理処分権しかない。つまりお互いにみんなで決めるしかなくて,1人の人間を相手にして何か訴訟をやっても全員に対しては効力が及ぼさないと。こういう場合には,ここの資料で言いますと,20ページの下の方の(※2)で,非分掌型の信託と考えざるを得ない。

  職務分掌型というのは,その真ん中でして,共同受託なんだけれども,全体に対して効果を及ぼすには1人をつかまえればいいというものなんだろうと思います。これは今御説明があったとおり,それは何か特定の文言さえ信託行為の中から引っ張り出せば自動的に決まるというものではなくて,共同受託で受けている信託財産に対する管理処分権がだれに帰属するのかということを,信託行為の中から読み込んでいく行為にならざるを得ないのではないかという気がいたします。

  以上です。

● よろしいでしょうか。
  恐らく今のような御説明でよろしいのではないかというふうに思いますが。
  それでは,共同受託といいますか,共同受託全体というよりは今ここで御説明申し上げた点につきましても,御承認いただいたということでいきたいと思います。

● すみません。もう1点だけよろしいでしょうか。
● どうぞ。
● すみません。ごく短く済ませますが。
  記録に残すというだけの趣旨なんですけれども,受託者Aを,受託者の1人をつかまえて債務名義つくっても,それが信託財産に対して強制執行していいかどうかは,さっき言ったように,特に共同受託の場合には問題になることがあり得るわけですが,仮に限定責任信託ならば,給付訴訟の給付文言の中に信託財産の限度でというのがもし入っていれば,それは,その信託の財産に対して執行できるということは非常に明らかなので,そういう場合には,なるべく,そういう信託財産の限りでという責任財産を明示するような判決主文,これはちょうど限定承認なんかでも似てくるわけですけれども,すべきなんだろうと思います。

  これは,ない場合は確かに問題で,その債務名義で受託者の固有財産に対しても執行できるわけですから,この場合は確かに問題になるんですが,その場合には,先ほど言った承継執行文の問題にするか,さもなければ信託財産と固有財産の両方に係っていけるということをどこかで事実判断していく。信託財産にも係っていけるということを手がかりにして,強制執行していくということになるんだろうと思います。


  以上です。すみません。
● どうもありがとうございました。
  よろしいですか。

  それでは,次に参りましょう。
● では続きまして,受益権取得請求権についてでございますが,資料で言いますと22ページからでございますが,これは,これまでいろいろ御議論いただいた中身につきましては決まったものと考えておりまして,今回は手続等,請求手続と取得価額の決定手続に関する提案でございまして,基本的には新設合併とか,あるいは一般的な株式買取請求権に関する会社法の806条とか807条,あるいは116条,117条あたりの内容を参考にした上で,ここではそれも踏まえつつ,しかし独自に意思決定日とか,取得請求日という2つの基準日を設けまして,合理的と思われる流れを設定した趣旨でございます。
  以上です。


● 手続的な流れを明確にしたということですが。
  ○○委員。

● 4のところの,受益権の取得価格の決定等のところなんですけれども,この規律というのは基本的に強行規定だと思うんですけれども,これについて任意規定化というようなことはできないんでしょうか。

  特に,価格の決定のところの部分について,非常に単純な信託であれば,例えば額面とか,そういうようなものであればそれだけで終わってしまうような気がしまして,そこの時点でまた協議を行ってというのはかなり迂遠なところもありますので,そういうことができないかどうかということと,あと,こっちの方は難しいかもしれませんけれども,信託財産というのも非常にいろいろな種類のものがありますので,換価処分するのに時間がかかるとか,60日というのでどこまでいけるかという部分もありますので,そういう意味合いも兼ねて,任意規定化というのができるのであればお願いできないかなということですが。


● いかがですか。


● 任意規定というところでございますが,そうすると受託者と委託者で決めてしまうということでございますが,やはりここは受益者の協議に参加するということも重要ではないかと思っておりますし,あと,例えば客観的な価額があるようなものであれば,それは協議と書いてあっても事実上それで決まるのではないかと,それほど協議がもめてということもないのではないかと思われますので,ここは,やはり協議は必要という強行規定でいければと考えておりますし,日数につきましても,これもほかの規律を参考にしているわけでございまして,なかなかこれを任意規定にするのは,やはり手続の流れですので明確に法律にしておいた方がスムーズに処理できて,いたずらに遅滞することがなくてよいのではないかというふうに思っております。


  逆に,短期間に設定し過ぎますと受益者の利益を害しますし,長期ですと手続が遷延しますので,そういう意味でも,このような期間を強行規定として定めることで御理解いただければというふうに思っております。


● ○○委員。
● 期間のところについてはなかなか難しいのかなというふうに思っているんですけれども,価格の決定のところの部分について,自益信託であらかじめそういうことを決めておくというような考え方で,信託契約に書くことによって,仮に事前に決めておくといいますか,そういう考え方というのはとれないんでしょうか。


● ○○関係官,どうぞ。
● そこのところは,先ほど○○幹事申し上げましたとおり,受益者の保護ということもありますし,事前に決めておくといっても,どういう形で決めるのかというところもあるし,さらに受益権取得請求というのが認められるのは,前からここで議論していただきましたとおり,非常に限られたものであるということを考えますと,なかなかそこで,信託行為にこういうふうに書いてあるからそれでいいではないですかということは言いづらいということと,実際に受益権の取得価格というのは,意思決定がされて,そのころの時価というふうな考え方になりますので,その時価というのを事前に決めておくというのが果たして合理的なのかどうかというのは,ちょっと疑問があるところではないかと思いますけれども。

● よろしいですか。
  多少簡易化というのができればありがたいという御趣旨の発言ではございましたけれども,取得価格についてこういう手続でもってきちんと決めるというのは,やはり原則にしたいということで御承認いただければと思います。
  ○○幹事。


● 2つあって,1つはあるいは確認になるのかもしれませんが,まず4(1)の協議が整ったということの意味ですけれども,これは受益者と受託者で,例えば仲裁契約を結んで第三者の決定に従いますということにした場合には,協議が整ったというのは,いわば仲裁判断が出た,第三者が決断を下したというふうに理解してよろしいんでしょうね。ここは。

● それはそうだと考えております。
● そうすると,もう1歩進んで,先ほどの御発言の問題意識につながるわけですが,事前に仲裁契約をしておく,例えば,信託行為の中で第三者の決定に従いますということをあらかじめ書き込んであるのはできないというのが,今の事務局の御趣旨でしょうか。

● そこのところは,解釈問題だと思うんですけれども,自益信託であればできてもいいのかもしれませんが,他益信託は少なくともだめではないかと思うんですね。信託行為の同意者に受益者は入っておりませんので。


  そのあたりは,今すぐには何とも。
● つまり,4の(2)で,必ず裁判所の手を煩わせないといけないのか,何かほかの道があるのかという問題意識です。
  すみません。これで,以上です。


● 何か,名案がありますか。
● 仲裁というのは,不服申立てとかもできるんですよね。
● むしろ一審限りで終わるから仲裁のメリットがある。


● 一審限りで終わる。
● もちろん,仲裁判断の取り消しの事由があれば別ですけれども,そういうものがなければ,それでおしまいというのが。


● 協議というと,やはり結論が出ないと協議が整ったと言えないのではないかという気がいたしまして,信託行為で仲裁判断にゆだねますよと書いてあるだけで協議が整ったというのはちょっと厳しいのではないかなという気が,今の時点ではしております。


● 先ほどお尋ねしたのは,4の(1)の方です。
  要するに,価格の決定が問題になりますという具体的なシチュエーションの出た後に仲裁の合意をすれば,それはよろしいのではないかと。


● その後で合意をして,しかしまだ判断は出ていないという段階。
● 協議が整ったというのは,要するに,第三者が……。
● 仲裁しますよという協議が整った。
● その仲裁判断が出たときには,それから起算して60日。それはよろしいんですか。

● それは大丈夫です。そっちは大丈夫です。
  仲裁契約をした段階でいいかと言われると,それはちょっと……。
● それは,まだ額が決まっていないので,起算点が来たと考えようもないと思うんですけれども。

● よろしいですか。
  どうもありがとうございました。
  それでは,これも以上のような御議論ございましたけれども,基本的に御承認いただけたというふうに思います。
  それでは,次に参りましょう。
● では次に,信託の変更につきまして,5に関してのみ,裁判所による信託行為の変更についての規定についてでございます。


  現行法におきましては,信託財産の管理方法に限定されている変更対象の範囲についてでございますが,ここでは実務上の具体的ニーズですとか,受益者の利益に適合しないと観念しやすいものであるかどうか,あるいは,性質上,裁判所の判断になじみ得るものかどうか等の観点から,信託事務の処理の方法,現行法にある信託財産の管理方法の変更はもちろん含まれると考えておりますが,あとは,例えば信託事務処理の委託が禁止されている場合に,それを解除するとか,それから信託財産の処分が禁止されている場合に,その禁止を解除するとか,こういうものを念頭に置いているわけでございまして,この限度にまで広げることとしております。


  また,このように裁判所の判断の対象事項を現行法よりも広げる以上は,変更後の内容について多様な選択肢もあり得るということになりますので,どのような内容の変更を求めるのかを申立人が特定して請求しなければ,裁判所による現実的,実効的な判断が困難となりまして,それは翻って,申立人を初めとする信託関係者の本来の意図,あるいは利益にも反することになりかねないと思われます。
 

 そこで,この変更の申立てをするに当たっては,申立人は変更後の信託行為の定めを明らかにしてしなければならないこととしたものでございます。
  以上です。


● それでは,これについて御議論ください。
  これも,いろいろな御意見ございまして,もっと広く変更できるようにすべきであるという意見から,それは難しいという両方の御意見がございまして,何とか妥協できるといいますか皆さんが合意できる,そういう部分を,一応今書いたものでございます。


  ○○幹事。
● 質問で,今ひょっとしておっしゃったのかもしれませんけれども,5の②で,定めを明らかにして申立てはする。裁判所の側の主観としては,これを認めるか認めないかどちらかにしてほしいということだったので,それはいいのかもしれませんけれども,しかし,事実を見ていくうちに,申立てではこういう内容の信託行為の変更を申立ててはいるんだけれども,しかしそれとは異なる方が公平にかなうのではないかというときに,この申立てとは異なる内容の変更は,命じられるという前提なんでしょうか。そうでないということなんでしょうか。


● そこは,申立ての中に含まれていると考えられればできると思いますし,あるいは訴訟運営の過程では,裁判所と当事者の間で協議をしていくうちに,当事者が申立てを変更することによって当然対応できるではないかというようなことで,現実的にはそのような方向で対応していけば大丈夫ではないかというふうに考えているわけです。

● これ,前のときに私申し上げたような記憶がちょっとあるんですが,同様の制度の1つとして民法上では事情変更の原則というのがあって,事情変更の原則については,もちろん細かい点では争いがあるのかもしれませんけれども,一般的な理解としては,あくまでも変更した事態に対応した契約内容が公平にかなうものとしてあるわけであって,それを裁判所は宣言するというようなイメージでとらえているのではないかと思います。

  ですので,当事者が変更の内容を明らかにして求めるということも必要ではありませんし,仮にそういうことを当事者が明らかにしていても,裁判所は何らそれに拘束されるのではなくて,変更した事態に即して,信義則かどうかわかりませんけれども,公平にかなった変更内容を明らかにするという理解だと思うわけですね。


  こういう理解をとるのか,それともやっぱり私的自治であって,当事者がこういう内容で変更してほしいというのを求める,そちらをやはり優先するのかという,制度のたて方としては,考え方としてはこういう2通りがあると思うんですよね。


  そのどちらをとるかというときに,今日の,今の御提案というのは,信託契約なんだから,あくまでも当事者が契約内容をこういうふうにしてほしいというのを決めることができるわけであって,他人は,裁判所はそれを押しつけることはできないという理解を前提にしたというふうに考えてよろしいんでしょうか。

  これは,事情変更法理にもかかわる非常に重要な立場決定の1つだと思いますので,確認をさせていただければと思います。
● 押しつけることはできないと言えばそういうことでして,そういうことを言えば,本当は何でも裁判所にやってくれと言われて,では裁判所で決めるという制度もあり得るとは思うんですが,ここでは,裁判所は現実的な判断の可能性ですとか,あと,それがどういうふうな変更をするのか,これ1人でできますので,どのような変更をすることがむしろ当事者の利益にかなうのかという観点からしますと,やはり変更後の信託行為の定めを申立ての趣旨として明らかにすることが目的にかなうのではないかということと,あとそれから,それについては,申立ての趣旨を前提として裁判所が判断していくという方向が,基本的にですが,いいのではないかというふうに考えているわけでございます。


● 苦心してお答えいただいているのは非常によくわかるわけなんですけれども,ポイントはやはり,当事者の申立てに裁判所は拘束されるかされないかだと思うのですね。


  拘束されるという制度の立場をとるのか,それとも,明らかにしないと判断できないので明らかにしてくれと,しかし拘束はされないという立場をとるのか,どちらなのかはやはりはっきりしておく必要があるのではないでしょうか。


  どちらもそれぞれ理由は立つのだろうと私は思います。ただ,事情変更法理で,今まで裁判所で実際の変更を認めたものというのが少なくとも最上級審レベルで全然ありませんので,現実には問題になっていないのですけれども,しかし勝本先生以来の理論においては,裁判所が決めるものだという理解--ドイツの理解を前提にしてだと思いますけれども--とられている中で,ではどうするという問題だろうと思うんですね。


  すみません。問い詰めるようで本当に申しわけないんですけれども,ちょっと気になるものでして。

● 拘束というと言葉が非常にかたいわけでございますが,やはり幅を持って,それを前提として判断するということがここの制度の考え方でございまして,両極端,もちろん,非訟なんだからという考え方もあれば,裁判所としての判断の可能性,あるいはそれの当事者への利益の適合性という両方の視野があるわけでございますが,その中で,このように申立ての趣旨を前提として,もちろん一言一句を拘束されるわけではございませんし,例えば申立ての趣旨で2つ,主位的,予備的とあれば,その間をとるというようなことは,それは実質的に申立ての中に含まれているということでできるというふうに思うので,そこまでだめだということは言う必要はないと思うんですが,例えば売却を求めているところについて賃貸にしろと,そういうところまではやはり難しいのではないかなというのが,この提案の考え方でございます。


● これは裁判所の方,どんなお考えなんですか。


● 基本的に裁判所に対する変更の申立てというのは,当事者間で変更についての協議を重ねたけれどもどうしてもデッドロックに乗り上げてしまった,その事態を何とか打開しようというのが基本にあるように思いまして,合意ではどうしても解決できない部分について,申立てをベースに裁判所がその当否を判断するというのが,裁判所の判断方法としては,現実的に機能するという意味では一番適切なのではないかというふうに考えているところです。

● 別に私の方でも問い詰めるわけではありませんけれども,とにかくきちんとこういうふうに変更してほしいという当事者の申立てがあって,裁判所はそれを認めるか認めないかの判断をするのが通常といいますか,それは判断の仕方としても簡単である。だけれども,たまたま裁判所がもうちょっと違うことを判断したいというときに,その自由はない方がいいと,そういう……。


  要するに○○幹事が言われたのは,そういうときに裁判所の実質的な判断で,当事者の申立てに拘束されないでちょっと違った判断ができるという立場もあり得るのではないかということを言われたわけですね。それに対しては,裁判所の自由が少し広がるわけですけれども,あまり広がると困るという御趣旨が含まれておりますか。先ほどの御意見の中に。


● それが広がり過ぎてしまいまして,どんな選択肢を選ぶのかというところについても裁判所が適切に判断するということになってしまいますと,なかなか判断ができないような場面というのが生じるのではないかというふうに考えております。


  現実的には,先ほど○○幹事おっしゃったように,こちらの方がいいのではないかというような心証を抱いたようなケースは,適切な訴訟指揮の中を通じて申立て等を適宜直していただくような形で対応して,あまり困った事態にならないような形で運用できるのではないかというふうに考えております。


● これは,事情変更の原則との関係で言うと,事情変更の原則に基本的には依拠しているかもしれないけれども,そのままではない--という言い方はちょっとあいまいだけれども--事情変更の原則の一般的な法理に事実上影響を与える可能性はあるけれども,それ自体を変更するものではないんだと。

● 事情変更の原則の昔からある通説的な理解が本当にそれでいいのかどうかということ自体,実は大きな問題でして,そういう意味では,こういうお立場をとった1つの制度ができるというのは,むしろ理論に影響を与えるという○○委員の御指摘というのはそのとおりかなという気がいたします。


  これがいいとか悪いとかいう問題ではなく,理論の方に波及するかなという気がいたします。


● ほかによろしいでしょうか。
● 質問なんですけれども,これ例えば,委託者の方から,申立てが変更後の信託行為の定めを明らかにしてされた場合に,それに対する対案と言いますか,そういうのを受託者とか受益者というのは出すことができるものなんでしょうか。

● それは,出して併合して審理するんですかね。
  事件のたてつけは,非訟事件手続法の方のそれを信託法の方に入れて考えるんですが,実際には意見を聞いたりすることもあるでしょうし……。

● 非訟事件手続法の一般的な法理に従うということになりますので,裁判所が職権で,例えば受託者なり受益者の意見を聞くということも当然できて,その中で受託者とか受益者が,こういうふうな対案がいいですと言うことはできると思います。

  先ほど○○幹事が申し上げましたとおり,そのような対案が出てきたら,それをまた申立ててもらって,その中で判断していくということはあり得るんだろうとは思っていますけれども。それも非訟事件手続法の総則の規律に従うことになります。


● よろしいですか。
  では,○○委員。


● すみません。大した話ではないんですけれども,私,借地非訟事件の鑑定委員等やっていまして,そういう裁判所の機能を,やはり形だけではなくて本当に重視しようという趣旨で,なおかつ裁判所はみずから判断できないではないかといったときに,当事者がちゃんとやってくれれば訴訟事件と同様大丈夫かもしれませんけれども,当事者非訟であって,本来だったら信託銀行の方の意見も聞きたいとか信託法の学者の方の意見も聞きたいと思ったときに,ツールが何もないことになってしまうのではないのかなと,ちょっと懸念もあるので,借地非訟のように大げさではなくても,また頻繁でもないかもしれませんけれども,そういうような意見を求め,それを参照しながら裁判所は判断する--最後はフリーハンドですけれども--というようなたてつけも,せっかくだから--大した話ではなくて恐縮ですけれども--検討してもよろしいのかなと思った次第です。

● いかがですか。
● その点については,先ほど申し上げたところにも関連するかと思うんですけれども,裁判所は必要に応じて職権で調べることができるということに加えてというお話でしょうか。


● そうです。
  あの場合には,普通の一般の人と鑑定士と弁護士と必ず3名で意見を出しますけれども,この場合でも,恐らく,いろいろなものあるでしょうけれども,事案に即して信託銀行の方と学者の方と普通の感覚を持った方みたいな,そうすると,ある意味では裁判所負担の軽減という趣旨もあるかもしれませんけれども,より公平--公平なのかわかりませんけれども--の判断ができるのではないのかなと。


  通常,非訟事件法にゆだねるだけではなくて,何か特別法があってもよいのかなと思った次第ですけれども。


● そのあたりは,職権で裁判所が信託銀行の人を聞くとか,そういうことも当然できると思いますので,そういう形で一般的に解決可能ではないかというふうに思いますけれども。


● おっしゃっているのは,現行法ですと11条で,裁判所は職権をもって事実の探知,及び必要と認める証拠調べをなすべしと,この辺の関係でございますれば……。

● 借地非訟の場合,ちょっと特別かもしれませんけれども,まず,すごいたてつけができ上がっていますよね。

● これで別に,裁判所が自分で必要と思えば証拠調べをすれば,○○委員がおっしゃるような信託の事案であれば,それに即した人から事情を聞くということはこの規定をもって対応できるので,それはこの運用ではないかなという気がいたしますが。それでもしよろしければ……。


● いや,いいんです。裁判所,いつも困るという話があったので,どうしたら困らないのかなと思った次第なんですけれども。

● ここで今のような御意見が出ましたので,今後は非訟事件手続法の中で,今のような職権で調べるときに○○委員が提案されたようなことをしてくれればいいということですね。


● はい。
● きちんとしたたてつけができていなくても。
  それでは,この信託の変更につきましても御了解いただいたということで,次に参りましょうか。
● では次は,第62の,いわゆる後継ぎ遺贈型の受益者連続の問題でございます。

  この問題につきましては,その有効性につきましてパブリック・コメントと第24回部会での結果がございましたが,それを総じて申しますと,遺留分制度の潜脱は認められないと,それから一定の期間に係る制限を設けると,その2点を前提とすれば,その有効性を認めていいのではないかという意見がほとんどであったと言うことができます。


  まず期間制限の点でございますが,一定の年数で区切るというのは必ずしも信託の目的の実現に沿わない可能性があることですとか,あと胎児の相続権に関する規定を受益者に準用している民法の規定などにもかんがみますと,胎児も含む現存する,信託行為のときに既に生きている,あるいは胎児を受益者とするものであれば可能と考えるのが無難ではないかと思われるわけでございます。
  


また,遺留分制度との関係につきましては,当然のことながらその潜脱は認められないと考えているわけでございます。
  もっとも,このテーマにつきましては当部会で十分な議論を尽くしたとは言いがたいところでございまして,将来個々のケースにおきまして,相続法等に照らして問題がないことを個別に確認していくのではないかと思われるところでございます。

  そこで結論といたしましては,信託行為において,先に述べました考え方を基本とする一定の期間制限を設けるとともに,遺留分減殺の対象とすることで一般に有効に成立するものであるという解釈を明確にしつつ,あとはこの新たな信託法において特段の規定を設けることとはせず,個々のケースの具体的判断にゆだねることとしてはどうかと考えるものでございます。


  以上です。
● それでは,これについて御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
  ○○委員。
● これは随分議論してきたところですし,事務局としても,恐らくはかなり力を入れてきたところだと思うんですが,恐らく今まで議論してきた趣旨は,解釈論を明確にするという視点よりも,そうした解釈論を--というのは解釈論ですから必ず反対説もありますし--ですからそういう解釈論だけではやっぱり制度設計では不十分だというところで,条文化しましょうという趣旨もこれまであったのではないのかなと思う次第なんですけれども,やっぱり今回解釈論にゆだねるというような結論に至ったのは,ちょっと何となくぴんと来ないところもありますし。


  あと期間のところも,これは,幾らここでこういう解釈論があると言っても,できるできない以上に,期間はどこまでかというのは今後ともどの説をとっても有力説になり得ないと言いますか--というのは論理的根拠がどれもないわけでして,永久はだめという以外はないわけですが--この辺の,特に期間の点については,せっかく信託法ができるわけですから,やっぱり制度設計としては何か入れないと解釈論にゆだねようがないのではないのかなとも思うんですけれども。

  何か少しでも足がかりになるような,手がかりになるような規定を--もちろん多くの側面においては解釈論にゆだねることになるんでしょうけれども--入れることはできないんでしょうかという質問。

  また,なぜこういう結論になったのかというあたりなんですが,いかがでしょうか。


● この問題につきましては,御承知のとおり,試案におきまして有効性について問うということにしたわけでございまして,事務局としては,その時点では少なくとも有効か無効かという判断は分かれ得るんだということと,決して条文化を見越したというわけではなくて,そのときの議論の次第によっては,今後の条文化をするのか,それとも解釈にゆだねるのか,あるいは否定だというふうになるのかを考えたいと思っていたわけでございまして,決して最初から条文に落とすことを念頭に置いてやっていたというわけではないのです。


  ここで一定の解釈指針を示すと,それだけでも非常に積極的な意義はあると思うんですが,部会において一応の有効性を確認し,かつ遺留分減殺の対象にはなるでしょうということと,期間制限は必要であろうということは,コンセンサスをいただければ,それは今後の実務での指針にはなると思うのでございますが,


ただ,現在なかなか,実務上こういう受益者連続型の,後継ぎ遺贈型の信託というのが必ずしも世の中にまだ発展していないという我が国の事情ですとか,あと形態によってやっぱりいろいろな類型があるのではないかと。


  例えば,生活保障のために賃貸借の上がりを給付するというようなものもあれば,言ってみれば,家を自由に使っていいと,所有権ではないですけれども非常にそれに匹敵するような利用権を与えるような受益者連続の形態もあるだろうと。

さまざまな形態がある中で,やはりそれによってどのような期間を設定するのがいいかというのも決められていくのがしかるべきではないかと思いますし,あと,遺留分の考え方につきましても,いつの時点で移転があったと見るのかというのも,その受益者連続の信託の設定の仕方によって違ってくるのではないかという気もするわけでございます。


  前回,最初の人が死亡したときに算定するのが適当ではないかという御意見もいただいておりまして,それはなるほどと十分思っているわけでございますが,それ以外の方法が果たしてあり得ないのかどうかというところも現時点では十分わからないというところがございまして,そうすると,かえって十分な議論を尽くさないまま規定を設けるというのは,逆に言うと,将来の発展の可能性というのもそこに羈束されるということもございまして,現時点では,最低限こういう条件を満たせば有効だと思われるというところをコンセンサスをいただいた上で,あと今後の実務の発展を見つつ,必要な時期にまた必要な対応をとるというのが現実的ではないかなというふうに考えている次第でございます。

● ほかにいかがでしょうか。
  これは私の個人的な意見で,多数意見でないことを前提の上で申し上げますけれども,私は,こういうものの規定ができれば,とりあえずそれはいいのではないかというふうに思います。その際に,しかし何がどういう形で規定ができるのかというところが結構難しい。


  1つは期間制限であり,もう1つは遺留分の減殺請求権なんですが,期間制限の方は,ここにきょうも,これも解釈の1つということなんだと思いますけれども,現存する者,胎児も含む,その者の間でならば,そういう者を連続受益者とするならば,期間制限の問題はクリアできる。つまりむやみに長い期間の信託が設定されるわけではないので,それで構わないのかなというふうに思います。

  さらに,これもまたちょっと私の個人的な意見で申しわけないけれども,ただ場合によってはそれでも少し短いという場合があるかもしれませんが,それは,委託者が生存中に,自分が死ぬまでの間に新たに出現した関係者というのがいれば,それを加えるぐらいというのがあり得るかなという感じではあります。これは信託の変更という形をとるのか,それはいろいろありますが。
  期間制限については,○○委員が言われたように,ちょっと1つの立場をとってしまうのは,もしかしたら信託の設定範囲を狭くしてしまう可能性もありますけれども,1つの,今申し上げた③の立場をとるということで割り切ってしまえばそれでいいのかなと。

  もう1つは,やっぱり遺留分減殺請求権については,どの段階でどうするかというのが,これは今○○幹事から説明ありましたように,いろいろな場合があり得るかもしれなくて,遺留分減殺請求権は潜脱できませんということは最低限明らかになるけれども,それだけで規定がうまくできるのかどうかというところが少し気になっております。


  うまい形での御提案と言いますか規定の仕方が皆さんの議論の中で出てくれば規定はできるのかもしれませんけれども,なかなか,遺留分減殺請求権は潜脱はできないというだけただ書くという規定でいいのかどうかという,そこら辺ですね。そこら辺がちょっと何かあいまいな感じの規定になるので,そういう規定をつくるという側からすると,少し気になるということでございます。

  それから,もう1つは,これは物の本などにも多少議論されている点でございますけれども,信託の種類によっては,実際上所有権とあまり変わらなくて,条件つきの所有権というものを転々と承継させるというタイプとほとんど変わらなくなってくるという場面があるので,それとの区別。信託は理論上は所有権そのものではなくて受益権なので,理論上ははっきりしているんですが,しかし実際上,所有権と同じような形で連続受益者がつくられるということに対する批判が出てきたときに,それにどの程度対応できるのかというような点も少し詰めなくてはいけない。


  今の,最後の点については,これも簡単に言えるかどうかわからないけれども,受益者の方の指図とか,受益者の方から信託財産を処分するということまではイニシアチブをとって言えないというところに最低限信託の縛りというのが係っていて,その点で条件つきの所有権を,あるいは期限つきの所有権を承継させるというのとは違うという説明が出来るかなというぐらいには思っております。


  ただ,ちょっといろいろなことを申し上げましたけれども,うまい規定ができるのかどうかというあたりについて御意見が伺えればと思うわけです。そこがうまくいかないと,最低限この解釈でもってこういうのができますということを言うことにもそれなりに意味はあると思いますが。そんなところですね。
  ほかに,何か御意見があれば。
  ○○委員。

● 解釈にゆだねるという場合に,期間制限の方なんですが,③の考え方を基本とするということで結構だと思うんですけれども,そこから大きく外れるものについては,信義則に照らして無効とするという,ここがよくわからないんです。

  大きく外れるものというのは,例えば現存するものなんだけれども,3代,4代にわたって指定するということがあり得るのではないかと思います。高齢者が自分の配偶者,息子,孫,ひ孫というように。それもやっぱり大きく外れるに入るのかなというような気がしますが,それ以外のことを考えていらっしゃるのかどうかと。


  それからもう1つは,信義則がここで出てくるというのは,ちょっとどうかなという感じがしまして,むしろ公序の問題なのではないかと思いますが,いかがでしょうか。


● いかがでしょうか。
● おっしゃるとおり,後段の部分につきましては,相続法とか,それから世襲財産を認めるかとかの,そういう問題の関連ですので,確かに信義則と言うともうちょっとパーソナルな問題なので,公序ということでいいのではないかなという気がしております。


  前段は,しかしどういう信託かにも,生活保障を目的としたのか家業承継を目的としたのか類型によっても違うと思うんですが,たとえ3代,4代であっても,別に現存しているものであれば,ここでは,それは大きく外れるというようには言えないのではないかなというふうに思っているわけでございますが,何代もいるとまずいという,また問題があれば教えていただきたいんですけれども,ここでの考え方は,現存しているということさえ言えればいいのではないかなというふうに考えているわけでございます。
  

逆に,そうしないと,メルクマールがあまりにも不明確になるのもいけないのではないかという気がしているわけでございます。
● あまり何代も拘束するべきではないのではないかなという,直感的な感覚があるわけです。それは,あまり拘束すべきでないということと,それから複雑化するということと両方ございまして,今3代,4代と申し上げましたけれども,同世代であればもっともっと可能になるかもしれません。それは,やっぱりちょっと長過ぎるのではないかなという気がいたしましたので。

  ただ,もちろんそれを書くということではなくて,大きく外れるということの解釈にゆだねるということでよろしいかと思いますが。私は,個人的にはそういう感覚を持っているということだけです。


● これはただ,同世代の場合には,まず普通の生前の場合にはできるわけですね。問題なく。生前信託というんでしょうか,途中に相続が絡まないような形で連続受益者を定めるということ自体は,一般論としてできると。途中に相続が入って,次の世代,次の世代とどんどん後の後まで決めるというのはどうもまずいということで。

  ですから同世代の場合には実際上はあまり問題にならないのかなという感じ。
● 実際にはないんだと思いますけれども,例えば10年置きぐらいの年齢差の人に対して順番に指定していく。もしそれが,先に死んだらこうなるとか,いろいろ複雑なことをすべて可能にするというのは,どうも適当ではないのではないかということなんです。
● ○○委員,どうぞ。

● 先ほどの○○委員の意見に対してなんですけれども,先ほど私が申し上げたように,何か足がかりがあれば,これも立法する非常に参考になると思うんですけれども。ですから,この信託はできますとか,そういう規定自体が,もともと解釈の議論なのかもしれませんけれども。

  ○○委員おっしゃったように,2つ,遺留分の点と,あと永久信託の禁止の点です。遺留分の方は,それもまた解釈論かもしれませんけれども,この後継ぎ遺贈型信託を認める考え,または非常にやや問題だという考え,いずれにしましても永久信託の禁止との関連だと思うんですけれども。

  まず最初の質問としましては,そもそも一般論として,永久信託禁止のような規定が今回の信託法改正の中で規定されるのかどうかということと,規定されるのであれば,その中で,一見制限的なんですけれども,それはできることを前提としての条文のような形で,後継ぎ遺贈型とはっきり言う必要はないとは思うんですけれども,現存しない受益者を対象にするとか許容しないとか,何らかの,制限的であるんだけれども,それはできることを前提として永久信託を禁止したという趣旨のものが入れば,それはできることを前提としての条文ですという議論ができると思うんですけれども。


  特にその永久信託の点は,どんなような,今考えでいらっしゃるのか教えていただければと思うんですが。
● 永久信託禁止のような規律を入れるということは,当面予定しておりませんので,あとは,公序良俗とかで判断するしかないのかなというふうに思っているわけでございます。

  ただ,目的信託につきましてのみ,この前御審議いただいたように,20年間という制限を設ける方向で考えておりますが,それ以外については,特段規定はないということでございます。今の検討状況ですが。

● すみません。そうすると,解釈論でこれが一応法制審における議論だということでは残るとは思うんですけれども,解釈論で現存する人だけに限るというのが,果たして公序というところまで議論が持っていけるのかなと思わないわけではないんですけれども。

  それは,いずれにしても,これを認めるような足がかり,ほとんど解釈論にゆだねることは全然構わないと思うんです。できることだけは解釈論にゆだねられて,できることを前提として,その後のことは制度設計で今詰めるわけにもいかないので,解釈論にゆだねるということでいいと思うですけれども。


  ですから,今後立法作業,また現在もそうかもしれませんけれども,いろいろな条文でこれを考えたときには,この条文が,ある意味では濫用されてもいけないとか思うものがあれば,そこで制限的な規定を入れていただくとか。何か,すべて解釈論ですというのは何となく……。その手がかりは何かありませんかというのは○○委員の御質問なんでしょうけれども,永久信託のあたりで何か入れられないかなというのは,私の方のお願いなんですけれども。


● すみません。今,○○委員のお話を伺っていてちょっと。
  恐らく,あまりに長期間の財産処分をさせてはいけませんよというお話というのは一般的にある。これはもちろん,皆さん御異論はないわけですが,恐らくそれも,信託の目的とか信託財産の内容とか,そういったものとの関係で,果たして公序良俗違反だと言わなくてはいけないのかそうでないのかということは決まってくるような性質の話ではないかという前提でこちらはとらえておりまして,そうすると,一般的に条文化というのはなかなか難しいのではないか。


  つまり,信託の形態,信託財産の内容,使われ方等々によって決まってくる話ですので,信託の期間設定について,目的信託のようにまた別の政策判断から短いところでというのはともかくとしまして,ある種のものについては長いものもいいでしょうし,ある種のものについてはあまり長いのは望ましくない。
  

恐らく,この後継ぎ遺贈型の受益者連続と言われるものは,相続法との関係があるので,どちらかというと短めの方がいいのかなというような判断があるところなんだろうと思うんですが,では,この後継ぎ遺贈型の受益者連続というものに着目して,一体どのような解釈のよすがとなるようなものを入れたらいいのかというのは,こちらとしてもなかなかいい妙案がございませんで,もう少しそのあたり,どういった条文であれば,あるいはどういった規範を書けば過不足なくうまくいくのかというところだと思うんですね。


  つまり,短くし過ぎるのも問題だ。これはもちろん言われるところでしょうし,長過ぎるのも問題だと言われるところでして,そのあたり,事務局の方も知恵を出せたらいいなというのはもちろんあるんですが,非常に難しいあたりの議論なのかなと思っておりまして。
  すみません。感想だけ。

● そういう状況で,一応原案はこういう形になっておりますが。
  ○○委員。
● 立法化の問題まで,いろいろ難しいハードルがあるんだと思いますが,ここに書かれている考え方の確認だけなんですけれども,③の現存する受益者であればという,これがよいという見解が示されていますが,この受益者というのは法人も含むという,そういうお考えでしょうか。その点はどうか。

● ここでは,相続法との関係でこういうものを限定するという趣旨で,実は今議論になりました永久権禁止の原則とかそういう問題になったので,法人の話も,出なければちょっと私も申し上げようと思ったんですけれども。


  受益者が法人であるという場合には,かなり長いものつくれるわけですよね。かなり長いといいますか,法人が続く限りというのもできなくはない。それに対して,それはこういう相続と全く関係ない場面で非常に長期の信託ができるわけですが,それをまさに禁止するかどうかという。

  永久権禁止のというのは必ずしも法人を念頭に置いていませんけれども,あまり長期なものは望ましくないので何かルールを設けるかというときには,まさに法人というのが一番長いものができると。それをどうするかという非常に難しい問題が出てきて,それは,しかしここでは直接扱わないという……。

● 考えていないという,入らないというそういう御趣旨ですかね。

● はい。
● よくあるのは,相続的な発想でいけば,自分が亡くなったら妻を相続人として,妻が亡くなったら,その後妻の親族にはやりたくないと,公益のどこかの法人にやりたいよと,その先までコントロールしたいという,そういう需要というのはあるんですけれども,そういう場合は,ここでは想定されていない。


● それはまた,ちょっと別な問題だと思いますが,私益信託と公益信託を結びつけるようなタイプですね。
● あるいはその先が,2番目の受益者が公益でない法人ということがあり得るかという……。


● それも,ここでは少なくとも念頭には置いていなかった。
  法人を受益者にする場合には,何か固有のやっぱり問題があると思いますので,それはそれで,どこかで本来議論した方がよかったのかもしれませんけれども,あまり期間制限そのものについてはここでは設けないという--目的信託以外は--そういう考え方できましたので,今まで,法人が受益者であるために長くなるという問題については議論してこなかったんですね。

  これも,仮に長くなったとしても,現在の信託法は,恐らくそれは当然に無効にするわけではなくて,公序良俗に反するというような何か理由があれば無効になることがあり得るということですかね。あるいは一部無効という形で,どこかで期間制限かぶってくると。しかし,それは解釈の問題にゆだねたいという。

  何か,御意見。
  どうぞ,○○幹事。

● ○○委員の発言と少し異なりますが,第62でございますけれども,事務局の提案のままであれば特に申し上げることはないのかもしれませんが,③を基本とする方向でというところに,1つ疑問というか教えていただきたいことがあります。

  現存する受益者であれば可能ということですが,これは受益者連続のタイプの信託においては現存する受益者であれば可能というふうに理解したらいいのか,それとも一般論として,信託の受益者は現存する受益者に限るという趣旨なのか。

● それではまずいですよね。

● 日本では行われているのかどうかわかりませんが,英米であると聞かれる,まだ生まれていない子供を,あるいは孫を受益者とするというのを,今こういう議論の余波で封じてしまうのは適当ではないだろうなと思いますので,ルールをつくらないならば,そういうことも将来の解釈論の中で明らかにしていくということになるかもしれませんが,受益者連続の第2次受益者以降とか何かそういう趣旨なのかなと思うんですが,そう理解してよろしゅうございますでしょうか。


● 我々の理解は,ここは現存,胎児も含んでいるわけでございますので,実質的には似てくるんですが,現存する受益者に限っているのは,当然この受益者連続タイプでの期間を限るための規律でございますので,一般の信託は当然現存していることは要しないということになります。

● そうすると,受益者連続というのは何なのかということですが,複数の受益者がいて,縦につながっているというんでしょうか,1人の受益権が終わったところで2人目の受益権が生ずるものと,そういうふうに考えたらよろしいですか。


● 縦に。ええ,そういうことですが。
● わかりました。
● ちょっといろいろな議論が発生しますけれども,もちろん連続受益者自体は,一般論として信託で許容していると。ですから,ここで議論しているのも,相続というのが,あるいは途中で死亡という形である受益者の受益権が消滅し,次の,その後死亡をきっかけとして次の受益者に移っていくという,そういうタイプのものに限っての限定であるということなのではないでしょうか。

● そうしますと,ちょっとあまりいい発言でないかもしれませんが,今○○委員が最後におっしゃったところは,確かに後継ぎ遺贈という問題をとらえていると思うんですけれども,死亡を原因とせずに受益権が終了するタイプの受益者連続であれば,現存する受益者,胎児を含む,でなくてもいいということになりますでしょうか。

● それはちょっと正面から議論していないと思いますけれども……。
● 理屈上は,ちょっと私,先ほどのポイントを得た発言だったかどうかわかりませんが,後継ぎ遺贈型の受益者連続の期間というのを限るためにこうしているわけですので,一般の受益者連続では別に構わないわけですから,単に受益者を縦につなげているということであれば,こういう現存を要するというような制限はかぶってこないということになります。


● 脱法的なのはありますよ。80歳になったら次に移るとかね。変なことをやろうとしたらできるかもしれないけれども。

  どうぞ,○○幹事。
● この解釈論にゆだねるというのは,それでよろしいかどうかという問題はちょっと置くとしまして,問題は,公序違反であろうというときに,今までの議論も,通常の議論及びこの部会での議論も,そこで言う公序というときにイメージするのは,やっぱり相続秩序というものがあって,それに反するような形での信託の使われ方をするのはよくないであろうというイメージだっただろうと思います。

  そして,そういう側面があるというのもまさしくそのとおりだろうと私も思いますが,今の議論を見ましても,ちらほらと,それで相続秩序そのものとはちょっと違う意味での公序もかかわっているという気が私自身はしていて,むしろそっちの方が重要ではないかなと思っている部類です。


  相続秩序だけですと,遺言制度がまさに認められているわけでして,そしてまた遺留分制度が認められているわけですので,民法が定める法定相続そのものとは異なった扱いというのが認められているというのがありますので,秩序といいましても少し緩やかな秩序かなと思います。


  しかし,もう一方にあり得る公序というのは,やはり所有権を初めとする財産権のあり方でして,それがやはりそれぞれの所有者,あるいは財産権の有する者がそれぞれの総意によってその使い方を決めていくことによって,世の中というのはうまく回っていくんだというのがあると。そして自然人の場合ですと,その自然人が,やっぱり寿命がありあますので,その人がかわっていくことによって,その時代,そのときに応じた使われ方をしていくので世の中うまくいくと,こういう意味での,広い意味での財産権秩序というのがあるんだろうと思います。

  それを,ある世代の人間がその後の財産の使われ方を決めてしまって,その後の人間がそれにのみ拘束されて,それがついてくる。永久である必要はありませんけれども,それが人の寿命を超えて長期に使われていくことによって,やはり本来予定されている財産権秩序が崩されてしまうと。そこに公序違反というのがあるという側面があり,かつ私はこちらの方がむしろ重要ではないかなという気がいたします。


  そういう観点から,ここで言う公序違反のあり方というのは決められるという側面もあろうかという気がいたします。そういう意味では,現存する受益者であれば可能というのが,今のような意味での公序とどうつながっているのか,つながっていないのかというようなことが問題になってくるかと思います。


  しかし,これはやはり,ちょっと当面はまだ解釈論にゆだねて,議論が熟すのを待つしかないのかなという気が,個人的にはいたしますが。
  以上です。

  こういう公序のイメージがあるということを,ちょっとやはり議事録に残しておくのも意味があろうかなと思っただけです。


● 今おっしゃった点はまさにそのとおりでして,○○委員がお帰りになったので私の説明が正しいかどうかも御判断できないかもしれませんけれども,いわゆる死手法というんでしょうか,一方で,死亡した人間が後々の財産のあり方を拘束するというのは好ましくないという考え方があって,しかし他方で,ある程度自分の財産の自由な承継の仕方というものも,あるいは利用の仕方というものも財産を持っているものが決めることができるという,その自由と,それからあまり長く拘束させるのは適当でないというものの,いわばバランスをどこにとるかという問題で,これはまさに1つの公序の問題なんだろうと思いますね。

  具体的に,それに合うためにどういうルールがそこから導かれるのかとか,あるいはどういう期間制限であれば,今のような観点からの公序の問題をクリアできるのかというのは,あまり今までそんなに議論されているわけではありませんので,そういう点は,確かにこれから詰めて議論しなくてはいけないというところだと思います。

  ただ,そこがそういう意味で,あまり議論としてもいろいろな可能性があるがために,逆にここで,こういう立場いいだろうというときも,相当根拠づけをしっかりしておかないと,将来,裁判官にあまり参考にしてもらえないということがあるかもしれない。

● この議論,これ以上は,すみません,一言。
  ○○幹事おっしゃるのは広い意味でわかりますけれども,もともとは福祉的な意味でも使われることが念頭に置かれていると思うんですよね。


  ある資産家が,ずっと自分の財産をどうこうしようというのに対して,我々も含めて,それはすばらしいことだという議論ではなくて,次の世代で,やはり自分で管理能力が十分ないところでだまされたりとかお金なくしたりとか,そういう福祉型について,ある程度これが役立っていくのではないかという視点なので,それも広い意味で--狭いのかもしれませんが--もう1つの大事な世の中の秩序だし,公序だと思うんですよね。


  ですから,それが広い意味での財産権秩序であって,というところから,そういう福祉型が全部否定的に扱われる,または議事録に今の○○幹事の発言が残っていることによって,結局分かれていたでしょうという議論で,せっかく設定したものが無効だとか言って,また紛争事になるというのも非常に寂しいことであるし,○○委員おっしゃったように,そういう議論がある以上,やはりできるというところで,でも濫用型はいけないよとか,ある意味では制限的な形でも,何か書いていただければ足がかりになると思うんですけれども。


  同じこと何度も繰り返して,これで最後にしますけれども。


● ○○幹事の発言を私の自分の方に引きつけての理解は,そういう問題から見るべきであるけれども,生存者間の間であればまあまあいいのではないかという--行き過ぎですか--御意見だったようにも理解できました。
  それでは,ほかに御意見がなければ……。
  どうぞ,○○委員。

● すみません。内容のことではなくて恐縮なんですけれども,最終的には,結論的としてというところに書かれているので,一定の条件があって一般には有効に成立するものであるという解釈を明確にしつつというふうに書かれているんですけれども,これはどういう形で解釈を明確にしていただけるんでしょうかということなんですが。


● どうですか。
● この時点,この場での皆さんの,基本的にこの考え方でいいのではないかというような……。
● があって,それで--すみません。これから後の手続的な問題というのはよくわからないんですけれども--要綱案とかというものがあって,例えばそういうものに書かれるというようなことなんでしょうか。そうではなくて……。
● 要綱としては出てこないですね。規律にしない予定ですので要綱案としては出ませんが,議事録とか,今後の運用の参考にということでございます。

● というのは,要するに,この場の議論でこういうような議論があって,方向性が何となくこんな感じでしたねということが,ここで言う解釈とことになりますかね。
● ええ,そういうことです。
● どうぞ,○○幹事。
● もしそうであれば,念のため確認させていただきたいのですけれども,③の考え方を基準とするということの意味なんですけれども,例えば,生存中は配偶者で,配偶者が死亡した場合には子供にというので打ちどめの信託を設定すると。ただ,その子供はまだ生まれていないと,例えば婚姻をしてすぐぐらいにこれはこういうことでというふうに,それはだめという理解なんでしょうか。


● それはできるのではないんでしょうか。現存している奥様と,生まれてくるであろう……。
● 胎児ではないので。
● ではだめですね。
● なので,③を基本とするというのは,③がぎりぎり外枠で必ずきっちりというわけではなくて,そこにさらに相当性の判断が入るという理解でよろしいでしょうか。


● 基本はこれですが,若干の幅とかは,もちろんその目的によってあり得るのではないかという気がいたしますので,今おっしゃったような例は,解釈の範囲ですが,生まれてくる子供のためにというのは,無効とまでしなくてもいいのではないかなという気はいたしますけれどもね。
● 若干③を広げるという方向でのあれですね,合理性があれば。
● 両方あり得る……。
● 両方あり得るかもしれませんが。
● もう一つというのは,したがって,比較的考え方を根幹に据えつつという程度のことかなと。


● そのぐらいですね。
  それでは,大分長く御議論いただきましたけれども,一応,以上の原案でまとめたいと思います。
  それでは,最後ですか。

● 公益信託についてでございます。
  公益信託につきましては,前回の部会におきまして,現行の主務官庁制を廃止すること,ただしその時期については公益法人法制の改正の動向及び内容を踏まえて,来年度以降のしかるべき時期として,それまでの間は,あくまでも暫定的にではございますが,主務官庁制を初めとする現行法の実質を変えないとすること,ただし私益信託分の全面改正を踏まえまして,実質を変えないために最低限必要となる調整規定を設けるとすることについて,御了解をいただいたところでございます。


  このような御了解を踏まえまして,今回の改正におきましては,公益信託のいわば上位概念として,20年間の期間制限のもとでの目的信託制度を導入される方向であるということに伴いまして,まず,公益信託については,一定の公益目的を有するとしてその存立を主務官庁が許可した目的信託を言うものとすること。それから第2点目として,公益信託については期間制限を設けないとすること。2に書いてございますが。この2点を規律として設ける必要が出てくるかと思います。

  それ以外の点については,私益信託の改正に応じまして,必要な限度で所要の規定を整備することとしたいと。基本的には現行法を当面維持していくことを提案するものでございます。
  以上です。
● これはある意味の基本的な方針についての御意見ということですが,いかがでしょうか。
  応急措置的なもので,公益法人制度の方の公益性の認定についての枠組みができた段階で,しかるべき改正をするということで。
  これは,よろしいですね。ほかに,なかなかちょっとありようがありませんので。
  それでは,これも御承認いただいたということで,めでたくというか一応終わったということになりますか。


● では次回の予定ですが,次回は1月20日と言いたいところなんですが,なお,いくつかの論点が残っておりますので予備日を設定いたしました。
  一応2つ設定しまして,1つは……出られる方だけでやむを得ないです。申しわけないですが……1月12日木曜日に,1時から5時まで,法曹会館の高砂の間でございます。
  それからもう1つが,1月17日火曜日に1時からやはり5時まで,これは17階の東京高検会議室というところでございます。
  あとは1月20日の金曜日にここの場所でということでございまして,一応予備日2回とあわせて3回あるわけでございますが,3回やるか2回やるかは次回の進行を見てというところでございます。

  では,今年はこれで終わりますので,どうもありがとうございました。
● 予備日2回あるうち,1つ減らすことがあるかもしれないけれども,12日の方はとにかくやるということですね。
● ええ。12日はやらせていただきまして,そこで万が一積み残しが出てしまったら17日ということもあります。ちょっとそこは,12日の様子を見て検討したいと思います。
● それでは,今日は,どうもありがとうございました。
  これで本日の会議を終わります。
-了-

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法制審議会信託法部会第21回~25回

2016年加工編


法制審議会信託法部会
第21回会議 議事録

第1 日 時  平成17年9月30日(金)  自 午後1時02分
                       至 午後5時45分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題
   第16 委託者の占有の瑕疵の承継について
   第17 信託事務遂行義務について
   第21 分別管理事務について
   第22 信託事務の処理の委託について
   第23 帳簿作成義務等について
   第25 受託者の損失てん補責任について
   第29 検査役選任請求権について
   第32 費用等の補償請求権について
   第37 受託者の解任及び辞任について
   第39 前受託者等の義務等について
   第48 受益権の譲渡について
   第52 受託債権等の消滅時効等について
   第53 私益信託における委託者の権利義務等について
   第63 遺言信託について
   第64 契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務について
   第71 受益者が複数の場合の損失てん補請求と原状回復請求の関係

第4 議 事 (次のとおり)



議        事

● それでは,これから信託部の部会を開催したいと思います。
  皆さんお忙しい中おいでいただきまして,ありがとうございました。
  それでは議事の進め方につきまして,○○幹事からお願いします。


● それでは本日の議事でございますが,全部で16項目ございますけれども,16から22までを1番目,23から29までを2番目と,32から39までが3番目,48と52を4番目にやりまして,最後に53から64と。


あと71は新たなテーマでございますので,これだけちょっと独立して御議論いただければと。細かく言いますと6つになりますか,そういう感じでやらせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

● それでは続けて。
● それでは,まず第16の委託者の占有の瑕疵の承継について御説明を申し上げます。

  結論的には,試案にありました乙案を採用しまして,13条1項の趣旨を維持することを提案するものでございます。なお,2項は削除することを提案いたします。


パブリック・コメントの結果でございますが,信託の安定性や受益者の利益の観点から,1項を削除すべきであるという意見と,信託の濫用防止の観点から1項を維持すべきであるとの意見がございましたが,維持すべきであるとの意見が多数を占めました。


また,委託者が信託を濫用的に利用することによって,占有の瑕疵の治癒を図るという弊害を防止すべきであるとの要請は改正法のもとでも妥当すると考えられます。


そこで,1項の趣旨を維持してはどうかと提案するものでございます。
  また2項は,占有の行使力の点で特殊性を有する有価証券についても,占有の瑕疵が承継されることを示す注意規定であると解されておりますが,信託の場合におけるこのような特殊性をあえて2項を置かずとも1項により明らかであると解されます。


そこで,2項の注意規定は削除してはどうかと提案するものでございます。

  なお,パブリック・コメントでは,いわゆる自益信託と他益信託とで区別して取り扱ってはどうかという意見もございました。


しかし,両者の区別は相対的なものでございまして,例えば,とりあえずは他益信託で設定し,その後直ちに委託者が受益権を譲り受けるという形をとった場合でも,この見解によりますと占有の瑕疵を治癒できることになってしまいまして,妥当ではないと思われます。


そこで,この区別する意見は採用しないということとしております。
  また,学説上,13条を根拠といたしまして,権利変動に関する対抗の問題でも,自益信託の信託財産すなわち受託者には第三者たる資格を認めるべきではないという解釈が存することを踏まえまして,仮に1項を維持し,委託者の占有の瑕疵が承継されるということになりましても,受託者が第三者たる資格を否定される根拠とはならないという旨を明示すべきであるという意見がございました。


しかし,本提案の立場は,自益信託か他益信託かの区別を採用しないものでございますので,この学説の考え方を採用する前提を欠くというべきものでございます。


さらに申しますと,委託者からの倒産隔離が信託における重要な機能の一つであることには異論はないところでございまして,そのことは,委託者の債権者は,原則として詐害信託取消権を行使できる場合以外には,信託財産に対してかかっていけないとしていることからも明らかでございます。


1項は,あくまでも占有の瑕疵の承継についての局面に関するものでございまして,これを維持したからといって,それ以外の委託者の倒産からの隔離の場面におきまして,受託者が委託者とは,法律上独立の地位を有するものであることは,明示するまでもなく否定するものではございません。

  もっとも,受託者にこのような法律上独立の資格を認めることと,権利変動に関する対抗の局面や権利の瑕疵の承継の局面において,通常の取引の局面とは異なる信託の特質性を考慮した解釈を行うこととは矛盾しないものでございまして,受託者が権利変動の局面において対抗要件を必要とする第三者に当たるか,あるいは権利の瑕疵が原則として切断されるべき第三者に当たるか,といった点につきましては,一律に決するのではなくて,当該信託のスキーム,殊に受益者の利益を保護すべき必要性の程度に応じまして解釈によって対応することが,適切な結論を導くと考えるものでございます。


  以上が,第16についてのパブリック・コメントを踏まえた再提案ということでございます。

  続きまして,第17の信託事務遂行義務についてでございますが,これは試案のとおりとすることを提案するものでございまして,試案につきましては賛成意見が大勢を占めております。


もっとも「信託の本旨に従い」という抽象的表現を多用すべきではなくて,現行法4条のとおり「信託行為の定めに従い」とすべきであるとの意見もございました。


しかし,民法の委任におきましても,「委任の本旨」という文言の用いておりまして,「信託の本旨」というものを用いることは,このような立法例とも平仄が合うものと考えられます。


そこでこの提案でも「信託の本旨」との文言を用いることが相当と判断したものでございます。

  続きまして,第21の分別管理について御説明申し上げます。パブリック・コメントにおきましては,試案の方向に賛成する意見が大勢を占めましたが,金銭債権など物理的管理を観念し得ない金融資産ですとか,信託財産の管理を第三者に委託した場合などにつきまして,規定の明確化を望む意見がございました。


そこで,分別管理の方法につきましては,信託財産が適切に確保される方法として,法務省令で定める方法によるべきものとする,ということに規律を改めることを提案するものでございます。


このように法務省令で定める方法に委ねるとすることによりまして,信託財産の性質に応じた具体的な分別管理の方法,すなわち登記登録ですとか,帳簿によるか,物理的分別が必要か,などという点。


それから証券保管振替機構ですとか,海外カストディ等の適切な第三者に信託財産,特に券面のある有価証券の管理を委託した場合の分別管理のあり方,さらには新たな財産の取得の形態が開発された場合における分別管理のあり方,などにつきまして,信託法自体に定めをおく場合よりも,より具体的かつ明確に,さらに時期に応じた柔軟な対応が可能となると思われるからでございます。


なお,法務省令の制定の際には,改めてパブリック・コメントを通じて内容を確定していくことになりますが,想定される方向性といたしましては,基本的には試案及び補足説明に記載した内容を踏襲いたしまして,この資料の7ページに記載したような方向性で考えているところでございます。


  また,試案の補足説明におきましては,この資料の5ページの下の方に,少し小さなポイントで記載いたしましたとおり,信託財産が信託の登記または登録をすることができる財産である場合においても,信託行為において受託者が経済的な窮境に至ったときには,遅滞なく信託の登記登録をする義務があるとされていると認められる限りは,分別管理義務が課されていると解してよいと述べたことに関しまして,1つは一般的にこうした取り扱いを許容すべきではないという方向性の意見,その対極といたしまして,信託行為で定めれば登記登録義務を完全に免除できるものとすべきであるという意見,それからいわば中間的な意見といたしまして,現行実務では抵当権付債権の信託がされる場合の抵当権ですとか,重要性が低く,あるいはすぐに除去される予定の建物などについては,一時的とはいえ登記を免除することが一般的でありますので,この趣旨を明確化すべきであるという意見,などが寄せられました。


  しかし,最初の2つの両極の意見につきましては,まず信託の登記登録義務を完全に免除してしまうということは,要するに受託者からの倒産隔離を放棄してしまうものでございまして,もはや信託としての意義を認めることはできず,相当ではないと思われますし,他方におきまして,補足説明が許容しているような一時的な免除というものは,分別管理義務の主たる目的である,受託者からの倒産隔離を害することなく信託財産の効率的運用を通じて受益者の受益に資する場合があると評価できるのでありまして,信託行為に定めがあることを前提に,このような一時的な免除を認めることまで否定する必要はないというふうに思われるところでございます。
  


なお,最後の意見につきましては,経済的な窮境と申しますのは,信託財産の倒産隔離効果を確保するために信託の登記登録をすべき現実的な要請が顕在化する典型的な場合,これを挙げたものでして,抵当権付債権の信託における抵当権ですとか,除去予定の不動産の信託についても,信託の登記をすべき現実的な要請が顕在化する一定の事情が発生するまでは,登記登録義務を免除することができる,といたしましても,なお信託の意義を失うものではなくて差し支えないと思われます。


もっともいかなる事情が生じようとも,登記登録義務を免除してしまうということは,先に申しましたとおり,信託の意義を認めがたく妥当ではないと思われます。以上のような考え方を前提といたしますと,補足説明に述べたような,この小さなポイントの考え方を維持することでよいと思われるというのが,事務局の見解でございます。


  最後に,信託事務の委託について,第22について御説明を申し上げます。本日はこの第22のうち,提案の2の(1)にかかります甲案と乙案についてのみ審議願いたいとの趣旨でございます。後日,改めて全体について本日の御審議を踏まえて御提案する予定でございます。
  

この点につきまして,パブリック・コメントの結果は,受託者は原則として選任監督責任のみにとどまるとする甲案が,より多数意見を占めました。


なお,甲案と乙案を指示する理由として挙げられている意見の趣旨は,それぞれ資料の8ページと9ページに記載させていただいたとおりでございます。


いずれの考え方をとるべきかを改めて御審議願いたいわけですが,ただ社会の分業化,専門化が進んだ現代社会の経済実態を重視しまして,現行に比べて信託事務の趣意を他人に委託できる場合を実質的に拡大するという提案1の趣旨からいたしますと,甲案の考え方の方が一貫しているように思われるところでございまして,乙案によるときは結局受託者が相当な委託をもちゅうちょしたり,信託報酬の上昇を招くことになりまして,かえって受益者の利益にも資さない結果になるのではないかと懸念されるところでございます。

また,甲案をとった上で,現行法26条3項を削除するとなりますと,受益者の保護が後退するのではないかとの意見に対しましては,資料の9ページから10ページ,ぽつが3つございますが,そこに書きましたような方法があることにかんがみますと,決して受益者の利益の方が現行法よりも劣る結果になるとは言えないのではないか,と思われることにつきまして付言させていただきます。
  以上でございます。


● それでは,今説明があったところについて,順次御議論いただきたいと思います。


これからいろいろ決めていかなくてはいけないわけですので,合意ができるものについては決めていきたいと考えておりますし,また,いろいろ意見が対立するものについても,もしある方向性が出せるものであれば,その方向性を確認しながら進んでいきたいというふうに考えております。いずれにせよ,今の範囲で御自由に御議論をお願いいたします。


  皆さんから御意見がなければ,ちょっときっかけにということですけれども,順次ということで,この占有の瑕疵の承継ですが,現行13条の1項の趣旨のこれは非常にもっともなことで,一番典型的には,自益信託で設定して委託者には本来その瑕疵があって,例えば短期の取得時効などが認められない,そういう瑕疵のある占有であるときに,受託者に占有を移して,それは独立の占有だということで,そこで取得時効が認められるというのはおかしい,というのがその趣旨ですよね。

やはりそういう趣旨は生かした方がいいだろうということで,その点については全く問題がないというふうに思います。


ただ,この規定だけがあったとき,13条以降ないし今度の第16のこの規定があったとき,これはちょっと確認ですけれども,本当に委託者と全然関係ない受益者が設定されて,委託者と全く関係のない者が受益者になって信託が設定されて,その信託のもとで受託者の,例えばその今の取得時効とかですね,こういうふうなものは今後一切認められないということになるのか,あるいは何か余地があるのか,ここら辺はどうですかね。

● そこはこの規定を維持しますと,原則として信託財産の瑕疵を承継されるということになりますので,基本的に難しいということになると思われます。

● 私はですね,そもそも,ちょっと日本の法理とうまく合うかどうかわかりませんけれども,今の他益信託の受益者というのは,無償の受益者ですのでね,あんまり強い保護は与えなくてもいいかもしれないというふうに一方では思うんですが,ただ贈与などと比較すると,一切取得時効が認められる余地がないというのはどうかという気もちょっとするのでね,そこら辺のバランスをどう考えたらいいかというのは,この立場をとるのであれば少し説明を要するのではないかという気がします。

  ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● ちょっと飛んでしまってもよろしいですか。21の分別管理義務のところなんですけれども,前回の要綱試案のところから変わって,政省令で定める方向をとりましょうというような御提案ですけれども,この方向性につきましては,やはり信託財産というものが多様化してきて,今後もますますいろいろなものが出てくるだろうということで,典型的な規律というのがいつまで持つかわからないという部分がありますので,そういう観点からいくと,割と柔軟に対応できるようなこういう省令で定める方法というのは,方向性としてはいいんではないかなと。こういう方向は賛成するということでございます。

  ただ,当然のことながら,細かく規定される限りにおいては,当然解釈というのがものすごく限定されますので,実務の立場からいくと,それでちょっと違ってしまえば全然適合しなくなるという,そういうような恐れもありますので,ここら辺については実務上の配慮というのをお願いしたいと。


具体的にはですね,例えばということで,ここでは7ページで動産というのが物理的な保管管理というふうに書いてありますけれども,例えばその動産においても動産信託で,もうちょっと具体的にいうと,例えばパソコンを信託をしているような場合については,ユーザーのところに貸し出したりしていますので,そうするとその物理的な管理というのに当たらないような,文言上かもしれませんけれども,そういう管理方法もありますので,その省令を書かれるときには,その辺のところの御配慮もお願いしたいと。


  あとは有価証券を預託した場合,これについては御配慮いただけるということで書かれていますけれども,証券の振替機構であるとか,カストディであるとか,あとここだけで切れてしまえばいいんですけれども,ほかに預託するようなものもありますので,ここで切ってしまうのか,それともそういうものを全部含めた形で規定されるのかというのは,ここら辺も実務上大きな問題があると思いますので,そういうところを御配慮いただきたいと。


そこら辺が明確に規定できるということで,こういう方法をとられるということですので,そういうことを期待しまして,ぜひとも実務上の配慮をお願いしたいということであります。


● 今の御意見についてですが,資料の7ページのところに書かせていただきましたけれども,もちろん法務省令を制定する際には,またパブリック・コメントを通じて内容を確定していくわけでございますが,今,○○委員から御指摘がありました,物理的な分別管理に限るのはちょっと規則が厳しいという点につきまして,資料7ページに「信託行為において別段の定めを置くことも許容されることを定めていく」という方向性で考えておりますので,最終的にはパブリック・コメントになるとはいえ,その点は,今までの提案と変えるところはなくて,御懸念には当たらないのではないかと思っております。


  それから,第三者に例えば有価証券を預託する場合も,まさに法務省令に落としておりますのは,いろいろな形態がこれから生み出されてくるということに柔軟に対応できるということを考慮してのものでございますので,現行法にありますような証券保管振替機構ですとか,海外カストディ以外についての預託の方式について,どのような分別管理をすべきかということについても,当然しかるべく協議の上,対応していきたいと思っております。

● はい。先に○○委員,どうぞ。
● この21番分別管理のところですが,まず今回の御提案のとらえ方としては,分別管理義務は強行規定であるけれども,法務省令で信託行為で別段定めを置くことも許されるというのは,要するに分別管理の方法について信託行為では定められると,そういうような理解でよろしいんでしょうか。

● 大きな問題だと思いますけれども,どうですか。
● 先ほどちょっと御説明したところの補足でございますが,法務省令で定めますのは,あくまでも分別管理の方法なのでございますが,ただその法務省令で定めることによって,何か定めた方法をとったから任意規定になるとかいう話ではなくて,あくまでも法務省令で定めるのは,基本的には分別管理の方法であって,この規定自体は強行規定であるということの性質自体が変わるものではないのだというふうに思います。


  ただしその動産,これは補足説明のときから考え方を変えているわけではございませんが,その登記登録することができないような財産については,信託行為で固有財産と集合して管理するというようなことを,許容されていくことにはなるのだろうというふうに思います。


その場合には,また今後扱うことになる識別不能のルールで,倒産隔離のルールはまあ働いてその信託の倒産隔離的な機能というのは維持される,という整理になるのかというふうに思います。


● わかりました。それでこの7ページの法務省令制定の際の考え方として,次のようなことだということで書かれているところで,債権がですね,信託帳簿上の計算管理というふうに書かれていますけれども,例えば預金債権でこの委託者1人,受託者1人,受益者1人というのは,素朴な信託で考えてみますと,口座は自分の固有財産の口座とは別の口座で,信託財産を分けて管理することを義務づけるというのは相当であるし,それを実行するのは簡単だと思いますので,そういうかなりきめの細かいつくり方になっていくのではないかという気がしますが,そうでしょうか。

● 処理の定め方については,またパブリック・コメントの際に検討されていくこと,より具体的に検討されていくことになると思いますが,基本的な考え方としましては,原則は口座を別々に個人の固有財産にかかる口座と別々に開設すること自体は困難なことではないと思いますので,受託者なにがしと書いて,それで固有財産と別の管理でやるというのが恐らく原則になりながら,ただ帳簿上,出し入れをはっきりときちんと管理している限りにおいて,どこまで認められるかという御要望もまたちょっとあるかもしれませんが。原則はおっしゃられたような形になるのではないかなと思います。

● 今の第1点と第2点に関係するんですけれども,この分別管理義務の規定が一応強行規定という形で規定されていて,だけど先ほど○○幹事から説明がありましたように,5ページの小さい字で書いてあるように,その一定の範囲での分別管理の措置をとらなくても許容されるようなことがあるという意味で,強行規定で出発しながら,ある程度緩くしている部分があるわけですね。


今,○○委員の質問は,その大きなレベルの条文のレベルよりはもう一つ下の,法務省令で規定したときの信託行為において別段の定めを置くということの意味であったわけですけれども,もう一つ上のレベル,法律のレベルでこの分別管理義務というものが,多少その性格がはっきりしないところがあって,繰り返しになりますけれども,強行規定で出発しながら多少許容されるところがある。


分別管理の処置をとらなくても分別管理義務に反したことにならない,という解釈を許容すると。


これは我々ここで議論してきたことなので,我々共通の理解があると思うんですけれども,条文にしたときですね,それが明確に出るのかどうかというのが気になっておりまして,もし今のようなある種の許容性というのを認めるのであれば,それはもうちょっと明確にした方がいいのではないかということを,ちょっと私は個人的に思っております。


これはちょっと○○委員の信託行為による別段の定めということとも少し関連する問題です。
  もう1点はですね,これも今,法務省令でもってどの程度のことを書くのかということと関係するんですが,分別管理義務というのは非常に重要な義務ですので,法律のレベルでも,例えばこの7ページ書いてあること,この程度のことは法律のレベルで書いておいて,さらに細かいこと,あるいはさっきの証券保管振替機構を使う場合の話とか,いろいろなことがたくさんほかにもあるでしょう。


こういうものは法務省令で対応できるように,そういうふうにした方がいいのではないかということを,ちょっと思っております。事務局とは少し違う考え方ではありますけれども,皆さんの御意見を伺えればと思います。


● 私,議論をしたことをすぐに忘れてしまいますし,そもそもこの話は私が考えついた話ではなくて,ここにいらっしゃるある幹事の方に教えていただいた問題ですので,その幹事の方に発言していただいた方がいいのかもしれないんですが,抵当権付債権の信託のときの抵当権の登記の話なんですが,例えばある債権について譲渡がなされたというときに,抵当権がそれに対して随伴していくわけですが,指名債権譲渡の対抗要件を備えていればですね,その抵当権についての登記をしなくても第三者に対抗できる,と言葉遣いは難しいんですけれども,それで抵当権行使できるんじゃないかという気がするというのか--。


そもそも抵当権者として登記面状に記載されている人が倒産した,破産したというときに,倒産財団,破産財団にその被担保債権が譲渡されている抵当権だけが帰属するということは考えられないわけでして,からっぽになりますから,そうするとそこでは第三者に対抗の問題が生じてこないわけですよね。


そこで,その被担保債権の方について,その信託の分別管理なり,あるいはひょっとしてその登記登録というのがあるかもしれませんが,こうしておけば抵当権についてはしておかなくてはいいのではないかというのが,恐らくパブリック・コメントに出てきた意見なのではないかと思いまして,私は他の法制度との関係で考えますと,またそして第三者に対抗できるという意味から考えますと,そのパブリック・コメントの意見というのは,ごもっともなところがあるんではないかという気がするわけです。


  さらにまた,例えば信託銀行が受託者となって,ある行為をしているというときに,例えば根抵当権を取得している。


根抵当権が銀行取引によって生じた債権であると--銀行取引だという言葉にするとまた問題があるかもしれませんが--ある種の広く被担保債権が規定されていると。


しかるに,例えば信託銀行が第三者に貸付をするというときに,その貸付の原資が銀行勘定の固有資産であるという場合と,信託の事務として貸し付けるという場合とがあり得るわけでありまして,しかしながら,それを両方とも根抵当権の被担保債権基準によりますと,被担保債権として含まれるという場合には,別段その信託の登記というものがなされていなくても,当該信託財産に含まれている債権というのは,担保つきのものになるのではないかという気がするんですよね。


したがって,すぐに壊す建物というのと,抵当権付債権の信託のときの抵当権というのが,並べてやっぱりやらなければいけないというふうに論じられるものなのか,この抵当権付債権における信託のときの抵当権の登記というものは,もうちょっと細かく考える必要があるのではないかという気がするのですが,いかがでしょうか。

● 私も実務の方からお伺いしているような話でもあるのですけれども,○○幹事の最初におっしゃられた抵当権付債権が譲渡されたときに,確定日付ある通知とか承諾があれば,第三者に対しても債権についてのそれがあれば,抵当権の登記を移さなくても対抗できるじゃないかというようなお話は,確かにそういう話になってこれまで進んできているところは,御意見の中でもあったかと思うのですけれども。


  1点目として,さもさりながら実務の方に聞くと,じゃあ債権の譲渡人の方でですね,転抵当とかを設定してしまったとかいうときに,本当に登記がなくて対抗できるんだろうかというようなところは,多少なりともその不安感を感じながらやっているというようなお話を伺ったこともあるのですけれども,そういう不安感もありながらやっている中で,例えば抵当権を実行するときとかいうことになりますと,いずれにせよ,これは移転の登記を経た上できちんとやっていかないといけないと思いますので,何も今回の手当てをしたからといって,現行の抵当権の実行があるときまで,抵当権の移転の登記を留保するという実務をやめましょう,というか,やめてくださいと言っているつもりもございませんで,今回の提案に基づいても,現行の実務はそのまま維持されて矛盾なくできるんではないかというのが,説明させていただいた趣旨なのですけれども。


● 第2点も伺いたいのですが,第1点のことから申しますと,例えばですね,ある信託銀行が債権の譲渡を受けたというふうにします。


そしてそれが信託財産に帰属したと。そうしたときに,実行しなければ,実行する際には当該信託銀行が抵当権者のところに記載されている状態にならないと実行できない。


それはそのとおりだと思うんですね。しかしながら,それが信託財産であるということを登記しなくても実行できますよね。

したがって,その実行のときには信託の登記が必要ではないか,ということにはならないんじゃないかと思うんですが。


● おっしゃる趣旨は,移転の付記登記さえされていれば,信託の登記がなくても実行はできるという趣旨でございます。


ただ実務上,移転登記だけして信託登記をしないといったことはできないといいますか,一緒にせざるを得ないという事態になっていますので,そうすると両方しないか,まとめてするかということになると,両方しないんでは実行できませんので,移転の付記登記と合わせて信託の登記を,実行の局面になったらせざるを得ないんではないかと。


しかしそれは,我々のその提案の窮境な状態というのを,「など」というふうに読めば,実行の必要性が生じた場合にも受益者の保護の必要性が生じて,信託の登記登録義務が生ずるという余地があるのではないかというふうに考えているところでございます。

● 根抵当権の方はいかがでしょうか。
● 今回の提案に基づきましても,現在の現行実務で行われていることについては,個々の被担保債権それぞれが信託財産,固有財産のいずれかに帰属するかということが明らかにされている限りにおいて,現在の実務はそのまま,別にこの規定に違反するということを言われることなく,肯定されてよいのではないかというふうに考えますけど。


● ○○委員の関係,そういうことですか。


● 根抵当権の場合につきましては,明確に,例えば信託勘定で幾ら出していて銀行勘定で幾ら,例えば100万円ずつ出していますという,そういう単純なものというのがほとんどなくてですね,根抵当権を1つばんと設定しますと,まず銀行勘定から幾ら出しています,信託勘定から別途長期の資金を出しました,救済の必要が出てきたので,じゃあまた銀行勘定から出しました,とかという形で,状態というのが日々,ある意味極端な言い方ですけれども,日々動いているような状態ですので,我々の方の不安としたら,それで何らかの受託者についての信用力が低下したような場合,破綻に近いような状態になったときに,果たしてそれが保全されるのかどうか。


というのは,そこが明確に,どこの部分がどう担保されているというのが,明確でない部分がありますので,そういう意味合いで非常に不安な部分があると。


そこで,その辺のところの規律というのをお願いしたいというふうに,前々から言っていたものなんですけれども。


● 先ほどの1点目の話にまた戻るようなところもあって,ちょっと確認だけさせていただきたいんですけれども,抵当権について信託の公示をしなくていいかどうかというようなお話で,先ほども少しお話出ましたけれども,抵当権は処分,委託者の権利違反で処分してしまうというような,転抵当ですとかね,お話が出ましたけれども,それとの関係での公示の問題というのがあるのかどうか。


それからちょっと考えられないのかもしれないんですが,抵当権をある種の価値権を把握しているというのは,これはありますので,抵当権そのものをその他財産権として強制執行するというようなことは,それはないという前提で考えた上で,それでしたらその信託の公示をしなくてもいいだろうと,いうようなお話をされていたということでございましょうか。


● そうですね。○○幹事が聞かれたのは。

● そうですね,結局,倒産隔離というふうに申しましても,かなりその意味合いがですね,倒産財団に含まれるか含まれないかというのが,倒産隔離という話として出てくるわけですが,倒産財団に空の抵当権だけが含まれるということにはならないですよね。


先ほど抵当権の処分の話が出たところで,処分は結構厄介なんですけれども,本当を言えば,空っぽのその抵当権ですと,処分されてもそれは抵当権の価値というのは被担保債権額に依存しますので,転抵当を受けてもですね,だめなんじゃないかと思うんです。


その辺は解釈論でございますので余り口出しはしないこととしましても,譲受人との形に,抵当権との処分を受けた人との関係が問題となるというのは,もし仮にそうだと仮定しても,倒産隔離が問題になるわけではないような気がしますので,そのちょっと意味合いが少なくとも,かなり違うのではないかという気がするんですね。

○○関係官がおっしゃるとおり,抵当権だけを差し押さえるということは考えられないわけでして。


● いずれにせよ,これは何か具体的に細かく,それで大丈夫だということを書く必要があるのかどうかという,そういう問題ですよね,○○委員が心配されているのは。


少なくとも法律のレベルで分別管理義務を負わせているというレベルの話としては,全く影響がない問題,実務的な現在のあれを変えるわけではなくて。

そういうことですので,何かさらにつけ加えて言っておきたいことがあれば伺いますけれども,これ以上細かいことも--。
  はい,○○委員。

● 21番分別管理に関して,ちょっと最初の問題に戻るような話で恐縮なんですけれども,やはり前回の試案の作成時点における考え方が変わっていないということを,この場で確認したいと思っている,と言いたいところなんですけれども,つまり試案時点では,まさしく本文に信託行為に別段定めある場合には,そもそもその分別管理が登記登録のないものについては免除されることもあり得る,ということを前提にして書かれていたと思うんですね。

現に,補足説明の51ページにそのようなことが書いてございますが,読みますと「信託行為において別段の定めを置くことにより,分別管理義務を免除できるものとした」というふうなことが書いてあります。


今回の書きぶりになりますと,政省令レベルで外すということもあるのかもしれませんが,やはりちょっと原則が変わったように思えて仕方がないんです。
  

じゃあ,この試案がパブリック・コメントを受けてこのように変わることに,何か合理的な理由があるのかどうかというのを,今さっきお話があったのかもしれませんけれども,私,ちょっと聞き漏らしたかもしれませんが,ちょっと私にはよく理解できないものでございます。


やはり,柔軟性を確保するためには,こういうことについて法律レベルで書いておく必要があると思います。冒頭,○○委員がおっしゃったとおり,政省令にすることはもちろんきめ細かい対応ができるということのためにはよろしいかと思いますけれども,やはり重要なことについては法律で定めるということも,必要ではないのかなというふうに思いました。
 


 それから,これからちょっと個別についての意見なんですけれども,2つございまして,1つは先ほどから出ていますカストディといいましょうか,第三者に委託するものでございますけれども,その考え方についてちょっと意見を述べたいと思います。


すなわち,これは信託業法でも同じような考え方をとっているんですけれども,委託先においても受託者の同等の分別管理を求めるかどうかということでございますけれども,私は少なくとも実体法レベルでは,そこまでは求める必要はないというふうに思っております。


  例えばどういうことかといいますと,有価証券における帳簿であれば,受託者を置いているところは,信託A,B,Cとかなったとしても,第三者委託のところで出てくると,そこは単に受託者名だけで十分ではないのかなと思っています。


何とならばということでございますけれども,それはやはり分別管理の意味というのが,受託者が倒産した場合に財産がごちゃごちゃにならないことと,受託者の倒産リスクから分離するということが目的だというふうに思っております。


したがいまして,第三者のところでこれがその受託者のものか,また信託Aなのか,信託Bなのかということが,もちろん明らかになることは望ましいんですけれども,明確化ならないとしても,例えばその受託者の方の帳簿等で明確化されていれば十分ではないのかなというふうに思っております。


したがいまして,そこのバランスについて御配慮いただければというふうに思っております。


  それから2つ目に,個別に政省令できめ細かく定めるということに関連するわけなんですが,世の中いろいろありまして,その中に例えば,これも寄託物ですけれども,その請求権というのは2つありまして,1つは所有権に基づく引渡し請求権というのがあると思うんですけれども,もう1つは何らかの寄託契約に基づく請求権というのがあると思うんです。


かように,例えば同じ経済的主張であったとしても,法律の性質決定が,例えば債権と所有権とこう一緒になっていたもの,ということもままあると思うんですね。


そうした場合に,これは決め方の問題だと思うんですけれども,例えば1つの決め手である債権はどうである,動産であるという法的な性質にしたがって定めるという方法もあると思うんですが,もう1つはいわゆる経済的な実体に即してカストディはこうである,こうであるというふうなことがあると思うんですけれども,場合によってはどれに当てはまったらいいんだろうかとか,そういったことで非常に混乱することもあるのかなというふうに思っているわけです。

  したがいまして,これは○○委員の指摘にもあるわけですけれども,実際にその政省令を決める場合には,きめ細かくするということは大切なんですけれども,そこは実務に応じて逆に問題になることもあるかもしれませんものですから,そこら辺も十分な検討が必要だと思いました。

● 第1点は,先ほどちょっと私も申し上げた,強行規定ではあるけれども任意法規的な性格を多少持つのか,持たないのかという問題ですね。ちょっとニュアンスが違ってきて--。今,何か補足説明ありますか。


● 今の御意見についてですが,まず試案に書いた考え方と現時点での我々の考え方,別に何も変わっているわけではございません。


ただ,今伺っていても我々が理解しましたように,例えば海外カストディに預けたときにどのような分別管理をすべきかとか,あるいは寄託物についてはどういう分別管理が正しいかとか,かなり非常に今,些細というか,複雑な問題でございまして,到底それを全部法律に書くということはできないというのも御理解いただけるところかと思います。
 

 じゃあ,基本的な部分を書いたらどうかという,もちろんそういう御指摘は十分あり得るところかと思うんですが,ただその一部を法律に書いて,一部を省令に書くというのも,なかなか見栄えの問題もありますし,あと実際どこで切り分けるかという難しい問題もございまして,それであればこの試案の考え方を維持することを前提として,将来的にはもちろんもう1回パブリック・コメントには付すわけではございますが,まとめて省令で書くという選択肢もあるのではないかというのが事務局の考え方でございます。

● 今のような点について若干意見なんですけれども,まず冒頭の方で○○委員の方からありました分別管理義務を免除できるというその補足意見のコメントについては,その言葉を額面どおり受け止める限りでは,なかなか賛成できないというふうに考えております。


ただ,試案の段階と今回の御提案と,若干分別管理義務の射程範囲が異なってきているのかなという感じがしておりまして,補足説明の段階では分別管理義務の内容については,物理的なその分別という前提で,恐らくとらえられていて,それによってその帳簿作成義務が免除されるものではないということが,恐らく前提になっていたのではないかというふうに理解しております。


今回,分別管理義務を考えるに際しては,帳簿作成義務のところまで取り込んだ形で,義務の中身を措定するというような立て方をされたのかなというふうに受け止めておりまして,もしそういうことであれば,そういった考え方もあり得るのかなというふうには考えております。


  ただ若干,先ほど問題になっておりました債権,特に預金との関係で,その先のことを御検討いただけないかなというふうに考えておりますのは,例えばその預金口座を分別するということを考えた場合に,もちろん別口座にするというのは原則だということをうたうということであれば,それはそれでお願いしたいことであるんですけれども,やはり実務上の要請から,それを帳簿だけの管理にするということも許容すべきだということが,恐らく議論としてはあるんだと思います。


その場合にも,そういったことが許容されるとしても,ただ単に帳簿だけつければいいということになるんであれば,それに対応する口座残高が確保されないという事態が起こったときに,やはりこれは分別管理義務が尽くされたことにはならないのではないかというふうに思われます。


そうすると,もし債権で帳簿上の計算管理で分別管理義務が尽くされるということを考えたときには,やはりそれとともにそれに対応する,例えば預金であれば口座残高であるとか,そういう財産が確保されるような措置といいますか,そういったものをあわせて求めていく必要があるのではないかというふうに考えているところです。


この点については,もちろん将来的にはパブリック・コメントのレベルの問題かもしれませんけれども,ぜひ債権,特に預金については,帳簿上の管理計算ということを考える際にも,そういった財産確保ということも含めた形での御検討をお願いできないかというふうに思います。


  それからもう1つ,この規定の規定ぶりといいますか,どういった規定をつくるかということとの関係の御意見なんですけれども,これはもし民事信託ということを考えた場合には,一般の人たちが,やはり法律の条文を読んで分別管理義務の内容がわからない,わかりにくいというのは,できればわかりやすくしてほしいという感じがちょっとしておりまして,やはり法務省令を見なければわからないというよりも,原則的な管理方法については,できれば条文に挙げていただいて,ただし法務省令によることができるとか,そういった形の規律をしていただけると,民事信託とかそういった分野との関係ではありがたいかなというふうに考えております。
  以上です。

● はい。ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。


● すみません。今,議論をお聞きしていまして,ちょっとわからなくなったところがありますので,2点ばかり確認させてください。


  1点目はですね,例えば債権の場合ですけれども,信託ごとまたは固有勘定と信託財産ごとで口座を分けるということが,ここでいう分別管理なんでしょうか。


私自身は,その債権というのが帳簿上の計算管理と書いてありましたので,その必要性はないというふうに考えておりましたが,そこは口座を分ける必要性があるのかということと,もう1つは,先ほど○○委員の方から,預託しているような場合については,所有権であったり債権であったりということがあるということですけれども,所有権の場合,共有というもの自体の概念というのは別に認められているのでしょうか,認められているものだと私は思っていたんですけれども,その2点,ちょっとお伺いしたいのですが。

● まず口座を開けるかどうかという点については,前も議論がございまして,そのとき私の方から,口座まで分ける必要はなくて帳簿一本でいいんではないかと答えた記憶がございます。


ただ,書物によっては口座も分けるべきではないかという議論もございましたし,私がそういうふうに答えたときに,ある幹事の方から,じゃあ差押えが来たときに競合の有無がわからなくなるのではないかという御指摘もございまして。なお,その分別管理プロパーの問題からいたしますと,帳簿で区別していれば口座まで開ける必要はないんではないかという気がするものの,ちょっとその点はまだこちらで結論が出ているわけではございませんので,今の御意見なども踏まえて,将来的には法務省令に落とすことができれば,法務省令のパブリック・コメントの段階までに確認,検討していきたいというふうに思っているところでございます。


  それから2点目の共有というのは,別に信託でも共有はあり得ると思うんですが,共有持分権が信託財産に帰属するという御理解でございますか。そういうことはあると思いますが。

● 帳簿については,例えば所有権ですので,動産みたいなものも当然あろうと思いますし,運用ということを前提に考えると,一番最初に複数の信託財産からまたは固有財産と一緒に当然物を買うということはあり得ますので,そうすると自動的に共有状態になってしまうというふうに考えられますので,当然そういう管理形態というのはあり得るというふうに考えてよろしいわけですよね。


● ○○委員,どうぞ。
● 先ほど分別管理のところでですね,○○幹事の方から,前は口座の物理的な区分,口座を設けての物理的な分別管理までは求めるものではないという説明があったので,ずっとそのつもりで考えてきていたんですけれども,債権の流動化の場合ですね,実際我々受託者ではないんですけれども,受託者から実際に流動化した債権の回収の委託を受けているという状況の中で,もし受託者の方の分別管理義務がかなりそういう物理的なものまで強化されるということになりますと,やはり委託者の方にもさらにそれが及んできてですね,例えば当社のように1,000万件くらいの債権のうちですね,もちろん固有の債権もありますし,A信託銀行,B信託銀行とか複数の信託銀行にお売りをして流動化しているようなケースで,かつ,個別の発生時期によって複数の流動化があるわけですね。


こういったものが一つの対お客様との関係では1日の約定日の中で1,000万件の入金があるわけですけれども,それが実際には多数の固有財産と複数の信託財産と,それに最終的に帰属するわけですけれども,そういったところの管理義務といったところがですね,次の信託事務処理の委託のところの,受託者の責任の範囲との問題とも絡まって,また業法の方とも絡まってですね,かなり重たくなってしまうのかなと。


不必要に義務が出てきて,せっかく帳簿上の管理でできるだけ効率的にこれをやっていこうという形で,業法の方も流動化型の信託会社,A信託会社も認められるような形で体制が行われてきているわけですけれども,そこが非常に,歯車が逆に動くのではなかろうかなというふうに,そういう印象を持ちましたので,ちょっと発言をさせていただきました。

● ちょっと伺いたいんですけど,これ流動化の場面で,信託財産だったら信託財産間のね,複数の信託財産間でもってそれぞれ別に例えば預金しなくちゃいけないとか,債権として物理的に--物理的という言葉はちょっと適当じゃありませんけれども--債権として分けなくちゃいけないというのは大変だろうというのはよくわかりますけれども,固有財産との関係でもその帳簿上の計算管理でないとやっていけないと,そういうことですか。

● 実際には,個別の債権ごとに譲渡している単発の債権もありますし,カード債権のように日々発生するようなものがございますので,そういったものについて,一括して請求管理,それから誰が債権者であるか,固有財産なのか信託済みの財産なのかということの区別をした上でですね,かつどの信託に入るべきものなのかというのは,コンピューター上で全部管理はされているんですね。


ですからその分が請求の時点では一律に,対銀行さんに対しては,一律に当社の口座に一たん入れさせていただきますけれども,その後の入金結果を一つ一つの分類に基づいて,固有財産に属するものと信託の何々口,信託の何何口というふうに分別の作業をやって,定められた期間までにその回収金を引き渡す,こういうことをやっているわけなんですね。


● まだ十分理解していないのかもしれないけど,その今,流動化の資産として債権などが問題となっている場合を考えられて--。


● 今のは,預金の方をちょっと考えたんですけれども。

● その回収というか,取り立ての段階の話をされているんですね。

● 取り立てた後の,信託銀行に引き渡すまでの管理というのがですね,現状もいろいろな方法で確実に引き渡されるような契約上の手当てとか,担保とか,そういったところで対応はされているんですけれども。


● 仕組みがよくわかっていないせいかもしれないけれども,固有財産がその中に入っているというのはどういうことなんですか。


● 一たん回収した段階では,すべての当社の固有財産に属する債権も,既に信託譲渡済みの債権も,一たんは同じお金として,色がついていませんので,お客様の口座を開いている銀行の当社の預金,固有財産としての預金口座の中に一たんはすべて収納されるわけですね。


● 債権回収というのは,なかなか難しい問題がありそうで。
  どうぞ,○○委員。


● たぶんそこでその銀行の口座に入金をしたところの部分というのは,多分それは信託固有の口座ではないかなというふうには思いますので,受託者,多分委託先のところの部分での分別管理というのはいろいろな問題があってですね,今,業法で問題になっているような形の,委託先に対して分別管理を課すとか,忠実義務を課すとか,そういう観点から見ると,今,○○委員がおっしゃったような形で,割と混在化しているような部分があるので非常に難しいと思うんですけれども,受託者単体で考えたときには,固有財産のものと信託財産を同じ口座に入れるということはほとんどないと思います。
債権として出す場合については。


● ちょっと私もそういうふうに今までは理解していたんですけれども,いろいろな債権の形もあり得るので,いろいろなというのは債権の形といいますか,いろいろな場面でその信託財産,債権,債権である信託財産,それから固有財産である債権,それが問題となる場面がありますので,債権についてはもう少し細かいことをいろいろと検討しなくてはいけないのだろうと思います。


ただ,ここで今,どの程度の合意を得るかということなんですが,ここでの趣旨は今のいろいろなものについてすべて細かく全部検討して,大体の方向性はここで議論して同意を得るということではないんですね。


むしろ,その法務省令に落としていいのかどうかということ,あるいは先ほど信託行為において別段定めを設けることができるというような,そういうのを,これも条文化へ落として省令のレベルでいいのかという,これはちょっと分別管理義務の性格にも少し関係しますけれども,そういうことを御議論いただければと思います。


細かいことについては,もし法務省令に落とすということであれば,またそれについては別途検討するということになります。

  いかがでしょうか。

● 恐縮ですけれども,先ほど私が申し上げたとおり,別段の定めで構わないということが,試案では本文に載っていたのが,この案ではそうでないということに変わった理由というのは,パブリック・コメントとかを受けて変わったんでしょうか。どういう理由があったんでしょうか。


● パブリック・コメントとかで,合意によりました基本的な考え方を変えたというわけではございませんで,基本的に管理方法を法務省令に落とすのであれば,その例外も許容されるということも,法務省令の中に1項目設けて規定したらいいのではないかという,ただそれだけの理由です。


● 繰り返しになりますけれども,私はその今の信託行為によって別段定めができるというのは,この分別管理義務に関するかなり重要な点なので,そういうことはやはり分別管理義務に関する法律上のレベルの条文の中で,書き方はなかなか難しいのかもしれないけれども,ある程度明らかにしておいた方がいいだろうと,いうふうに思いますね。
  はい,○○委員。

● すみません,多分その考え方を変えたということではないんだと思うんですけれども,温度が変わったのかもしれないんですけれども,何となく今回の規律を見てみますと,特に法律レベルで今おっしゃったような形の規律にもしましょうということになりますと,その倒産隔離とのリンケージというのが,以前よりかなり強くなったのではないかなという感じがしまして,そうすると,法律レベルでもっての分別管理義務を守っていれば,イコール倒産隔離が図られると,というようなぐらいの位置づけになっているような気がするんですけれども,そういうような意図を持たれているということではないんですか。


● 問題は,法律のレベルで守っているということの,法律は余り書いてない--。
● 法律で分別管理というのを強行規定でやりましょうというお話ですから,分別管理さえできていれば,それが受託者が倒産したときについては,常に隔離が図られていると。


● 具体的なたてつけについて中身を変えたつもりはございませんで,基本的な信託の基本的な考え方自体について,分別管理を通じる基本的な考え方自体について考え方を試案から変えたということは全くございません。


その前回の試案とよく比べていただければおわかりになりますとおり,「法務省令で定める方法により--」というところを加えたのと,そのただし書きを落としたという,ただそれだけの話ですので。

仮にこれにただし書きを加えれば,明確になる余地がふえたというだけで,別に不明確になったと,わからなくなったという批判を受けるいわれはないのではないかというふうにも思います。


  それで,特に試案で分別して管理しなければならないといったって,じゃあ債権の物理的分別なんてないので,じゃあ何をやったらいいんだとかですね,別に一般の民事信託を前提にされた方だけではなくて,実際の事業者の方からもそういう御指摘は多々いただいているところですので,そうであればもう少し明確にした方が,ユーザー,信託を活用される関係当社の皆様にとってはよいのではないかという観点から,できる限り努力をしてみましょうという気持ちを込めて書いているわけでございまして,繰り返しになりますが,1つ文言が入ったという以上に前回から全く何も変わっていないわけですから,それによって基本的な考え方が変わったとか,温度差が変わったとかいうことでは全然なくて,したがって基本的な考え方は全く同じであって,ただ不明確だという批判が幾つかあったので,それをできる限り,皆様のニーズに合わせて明確化していくように努力させていただきたいと,その旨御理解いただければと思います。


● ほかにいかがでしょうか。ほかの条文でも結構です。
  はい,○○幹事。


● それでは第22の方について発言させていただければと思います。毎回のように発言しておりますので,もう言いたいことはわかったから黙っておれということもあるでしょうけれども,私なりにもう少し違う表現で問題点だけは,明らかにしておきたいと思います。

  第22の2で(1)甲案,乙案とあって,パブリック・コメントの多数というのが,甲案賛成であるということです。


これはある程度予想はしておりましたけれども,ただやはり若干,甲案,乙案の意味についての誤解とまではいいませんけれども,そういったものがあるのではないかないう気もいたしました。


と言いますのは,例えば乙案が強行法規とまでは言いませんけれども,どのような信託であれ,必ずないしは原則として,他人に任せた場合でも,任された者の故意・過失があったときには責任を負うというようなもの,つまり適切に選任監督をしていたとしても,それだけでは免責されないというふうに必ずなるのだ,ないしは原則としてそうなるのだ,ということを前提とするならば,それは違うだろうというのが,甲案に賛成された方々の意見ではないかと思います。その解釈は非常に正しいと思います。

  要するに,これまで私,何度か申してきましたように,重要なのは契約で一体何を約束したかということでして,契約で自分自身ではなく,適切に財産の管理等をしてくれる第三者を選ぶということを約束したというときには,適切な者を選任監督できなければ責任を負うし,適切な者を選任監督しておれば,それでみずからのなすべきことはやったわけですから責任を免れると,こういう約束をしたときは,当然そうなるはずでして,そして多くの商事信託,とりわけ複雑なシステムを前提にした商事信託では,このような約束,つまり適切な財産の管理等を行ってくれる者を選任し,監督するという約束を明示的に行っているでしょうし,あるいは明示的に行っていなくても,その契約の性質からすると,当然そうなっているだろうと。


その意味では,甲案を支持しておられる方々の意見というのは,全くそのとおりだろうと思います。


  ただ,適切な第三者を選任し監督するという約束を行っているときはそうなんですけれども,そうではなくて,預かった財産を適切に管理するという約束を行ったときには,やはり適切に管理できなければ責任を負わざるを得ないと,いうことになるのではないかと思います。


そして,きょうの御説明の中では,22の1で,これまでと違って他人に処理を委託できるとするならば,甲案の方が平仄は合っていると。


要するに,他人を使っていいというんだから,適切に選任監督するという義務だけを負えばいいと,その方が平仄があるというふうにお考えなったのかもしれません。


それだけ見ているとそうかなとは思うんですが,ただ,何を約束したかというときに,財産を適切に管理するという約束をしたというときに,自分だけが1人で管理するんじゃなくて他人も使ってよいとすると,いうことが仮に1で認められたとしても,約束したのはあくまでも財産を適切に管理するということですから,結果として適切に管理されなければ,当然責任を負うと。


つまり乙案の内容というのが,当初の約束した内容,つまり財産を適切に管理するという約束をしたときには,やはり平仄は合っていると思います。


たとえ1があったとしても,乙案の方が平仄が合っているのではないかなと思います。

この2つの約束,つまり適切に財産を管理するという約束と,そして適切な第三者を適切に選任し監督するという約束,これどちらも可能ですし,そして自由に契約してよいだろうと思います。

  としますと,問題は,何をデフォルトにすべきかということだと思います。そのときにこれは信託法ですので,信託法の中のデフォルトとしては,契約内容はやはり適切に財産を管理するということが,やはりデフォルトでないとおかしいのではないかなという気がいたします。

もちろん,第三者を適切に選任し監督するという約束を行うことは可能ではありますけれども,これがデフォルトになりますと,何を約束しているのかというと,適切な第三者を選んで監督するということですから,これが信託かと。これだけ取り出すと委任に近いですよね。


これがやはりデフォルトではなくて,財産を適切に管理するということが,やはりデフォルトの契約内容ではないのかと。


そうでないと,何のために善管注意義務や忠実義務のようなお話をしているのかわからなくなってしまうと。そういう意味では,約束の内容のデフォルトはもし適切に財産を管理するという内容ですと,それを貫くならばやはり乙案というのが筋が通っているのではないかなという気がいたします。


  その上で,先ほども申しましたように,それに対してそれと異なる特約をすることはもちろん自由ですし,そしてまた,先ほど言いましたような契約の性質からすると,当然特約があると解釈できる場合が多いと思いますので,恐らく甲案を賛成された方が抱いておられるような危惧は,発生しないであろうというふうに思われます。

  それが1つで,もう1つだけちょっとつけ加えておきますと,民法で従来言われてきましたものとの整合性という点ですが,これはこの中にも若干指摘されていますけれども,復代理に関する規定がこれに対応するものとしてありまして。


復代理の規定ができますときに,多分この会の一番最初に申し上げたと思いますけれども,もともとの旧民法というのは,実は乙案の考え方でできておりまして,自由に他人に任してよい。


そのかわり,復代理人が適切な行為を行わなかったときには,責任を負わないといけないと,いうような形でなされていたと,いうのが現在の民法105条以下の規定ができるときには,旧民法とは違いまして,他人を自由に使ってはいけない。

自分でしないといけないというふうに,そこの原則を入れかえて,ただ例外的に特別な理由があって使ってよいときには,選任監督の過失に限られるというふうにしましょうと,いうふうにしたと。


  こういう2つの考え方があったんですが,今回の1で自由に使ってよいということにして,しかし,旧民法だと乙案なんですが,しかし1を採用しつつ甲案をとるというのは,旧民法とも現行民法とも違う新たな立場をとるということを意味しております。


これが果たしてうまく説明が可能なのかなというのが,民法学者の立場としては,やや心配があるところです。一体何が当事者間で約束されたことなのかと,それに応じて責任の範囲も決まってくるというのが,現在のかなり有力な流れでして,そこからしますと,やはり何度も言いますように,適切に財産を管理するという約束をしたのか,それとも第三者を選んで監督するということを約束したのか,そのどちらかに応じて責任の内容は決まってくる。


問題は,どちらをデフォルトにするかだということだと,いうことがこの問題の所在であるということを,結局同じことを言っているじゃないかということなのかもしれませんけれども,ちょっとこの場で申させていただきました。
  以上です。

● いかがでしょうか。
  信託において,今○○幹事が挙げられた復代理も含め,あるいは旧民法も含めてそういうのと,なぜ信託が違うのかというルールの違いをですね,やっぱり何か説明があった方がいいんだと思いますね。

ある種の政策的な判断もありますけれども,理論的にそれが耐え得るというためには説明があった方がいい,というふうに私も思います。


  なかなか私自身も十分説明できるのかどうかわかりませんけれども,信託をお持ちの受託者の負う一番中心的な義務は,適切に財産を管理する,あるいは財産の管理だけではないかもしれない,処分もありますけれども,まあ管理するということなんですけれども,やはりどういう形で管理するかというところについての,そこまで含めてのデフォルト的な合意があって,やっぱり従来は受託者が管理するというときには,受託者1人で管理するというのから出発して,他人を使ってもいいけれどもそのときにはもちろん受託者は全面的な責任を負いなさい,というそういう形で管理すること,管理の方式も含めて,形式も含めてもちろん考えていたわけですが,今度新しい,この現在のもとでは,もちろん信託財産を管理することが中心でありますけれども,適切な場合には第三者を使って管理するという何か合意で,反対に言えば,やっぱり自分で管理するという出発点を完全に捨てた,そういうところが今度の信託法の考え方ではないかというふうに思います。

  これだけではまだちょっと納得されないかもしれませんけれども,復代理とかいうところは,いろいろな規定の,そこでもあり得ると思いますけれども,やっぱり信託と違って代理権に基づいて何かを決定するという世界は,たとえ復代理人を使っても本来,やっぱり元の代理人の権限に集約されて,その代理人が決定すべき世界で,ちょっと信託と少し違うのかなという感想です。十分説明になっていないかもしれませんが,とりあえずそんな感じは持ちますね。
  ○○委員,どうぞ。

● やっぱり22ですが,これは既に出ていた話なのかもしれませんが,ちょっと確認ですけれども。この22には甲案,乙案それぞれありますけれども,これはいずれも立証責任を考えた上でのこういう表現だったということだったのでしょうか。


この請求原因がこの受任者の行為により,損害が発生したと。したがって,受託者は損害賠償なり,てん補責任で何らかの責任を負えというのが請求原因で,抗弁でこの受託者は選任,及び監督について過失がなかった,あるいは受任者に故意過失がなかったということを立証するという,そういうこれはお考えだったでしたでしょうか。


● どうですか。


● 立証責任について,大分議論がございまして,その点ももちろん無視しているわけでは全くないんですが,一応ここは実体上どういう規律を置くのが妥当かという観点から提案しているわけでございます。


ただ今の御指摘を踏まえて考えれば,確かに甲案であれば,受託者の方で自分に選任監督に過失がなかったということを立証することになると思いますし,乙案であれば,受任者の方に故意過失がなかったということを受託者の方で立証するということになるというふうに考えるところでございます。

● はい。
● もう1点ですけれども,甲案と乙案で,甲案の方が受益者の保護が後退することになるのではないかという意見に対しては,そうはならないのではないか,というような論調で書かれていますけれども,具体的にですね,受任者が故意または過失で信託財産に損害を与えた場合--受任者ですから受託者から委任を受けた人ですね--そういう場合に,選任監督に過失がなかったということを前提として,甲案,乙案で考えてみますと,26条3項は削除するという前提で,甲案の場合は,その場合は受任者は受託者の方と,信託財産に対して損害賠償義務があると,そういうことになりますよね。


それで乙案の方だと,受託者が損失てん補責任ですか,それを負うということになるので,結局責任を負う人が受任者なのかあるいは受託者なのか。


26条3項を削除しますから,どっちか片方のみにしかならないと思いますけれども,ということになるので,結局,その受託者が資力不足の場合どうだとか,そういったところで違いが出てくるような感じがします。


  それから,もう1つあるのがこの免責規定ですね。この受託者,受任者間で免責規定がある場合に,信託財産というか受託者が受任者に対して損害賠償請求しろとは言えないと。免責規定があるためにですね。


そういう場合に,受託者が任務違背になるから,受託者に損失てん補責任が発生するので,この受益者の保護としては十分なのではないかというようなことが書かれていて,その場合は結局,受任者の故意・過失のほかに受託者の任務違背も立証しなければなりませんので,受益者の立場からすれば,立証すべき事項がふえるということになりますので,やはりその限度では受益者の保護は後退していると,いうことにはなるかと思います。だから,あとはその程度ならばいいじゃないかというふうに見るかどうかと,そういうことかなというふうに思います。

● 私もそう思いますけれども,どうですか。


● 確かに資力の点とか細かいところは,いろいろ分析すれば,現行法の場合に比べて受益者の保護が欠ける部分がゼロとは言えないと思っておりますが,しかしその全体的な規律を総じて眺めますと,受託者の方の責任を追及することによって,受益者はしかし,ほぼ相当な損失の回復を受けることができるのではないかというふうに思われますので,あえてここで26条3項を維持するまでの必要性はないんではないかという価値判断が入っているということは否定できないところでございます。

● それは全然違わないとはやっぱり言えないと思うんですよね。でも一番大きなのは,今,言われましたけれども,受託者に対しては選任監督の過失がないということで,受託者にはいけなくて,受任者の方に過失があるのでそこにいかなくちゃいけない。


信託財産の方に損害を与えている,受任者が与えていますから,信託財産からの損害賠償請求があるということで,それを行使するといいますかね,受託者が行使する。


受託者が行使できなければ,場合によっては受益者がかわりに,代権的に行使することも考えられるかもしれませんけれども。そこの部分ですよね,一番もし大きな違いがあるとすれば。


ただ実体法的には,今のように信託財産に対する損害を与えているので,損害賠償請求権が信託財産にはあって,それを行使することで,まあ何とか受益者には損失を与えないようにすると,いうのがこの仕組みで。


全然違いがゼロだとは言いませんけれども,一方でこうやって社会的な分業のもとで,第三者を使わざるを得ない外国のカストディアなども使わざるを得ないと,そういう条件のもとで,どういうルールが適切だろうかということで選択された,提案されたルールだというふうに思います。

  ほかにいかがでしょう。はい,○○委員。

● 細かいことなんですが,大きなことはさっき○○幹事がおっしゃったことと,○○委員がおっしゃったことと,つまり信託の原型をどう見るかということの転換をここでどうとらえるかということに尽きると思うんですが,仮に甲案をとった場合のただし書きでございますけれども,そのただし書きでさらに軽減するという別段の定めが可能か。それはどこまで可能か。例えば選任監督について,重過失がなければとか,あるいは故意がなければとか,あるいは一切というようなことまで可能かどうかということでございますが,そこはいかがでしょうか。


● 重過失まで軽減することは,まあできると思っておりますが,さらにそれを越えて故意とか一切責任がないというのは,公序良俗といいますか,条理の範囲から難しいのではないかという気がしております。


これは規律から明らかではないですが,一般的にその重過失は可能だというのが,一般的な理解だと思いますが,そこを越えてまで信託行為を緩めていいというのは,難しいというふうに解釈していいんではないかと思っております。


● 今の規律は解釈に委ねるということであって,さらに,例えばこの甲案がぎりぎりで重過失なんかとんでもないという意見もあり得ると思うんですけれども,それはもう解釈任せということになるんでしょうか。


● 重過失に緩めることが信託行為に書いてあって,それがそれを承知の上で,受益者が受益を取得しているという事態があれば,それはそれでやむを得ないんではないかと思っております。


● 重過失はだめなんじゃないですか。
● はい。

● これ公序良俗の一般の議論に委ねるということですよね。
  ほかにいかがですか。○○幹事。

● 今日ちょっと初めて参加させていただきましたので,この会にどういうスタンスで臨めばいいのかということが,私自身ちょっとまだ図りかねているので教えていただきたいんですけれども。

  今の論点でいきますと,業法においては乙案,事実上の無過失責任を維持するというのが,まあ私の当たり前の感覚なものですから,そういう場合に,信託法と信託業法でそういった違いが出てくるということについて,そもそもこの場ではどういうふうにお考えになっていて,この場における業法を所管するものがどういう構えで意見を言うということが期待されているんでしょうか。


質問なんですが。
● 私から答えるべき問題かどうかわかりませんけれども,皆さんがそれぞれ違った理解を持っているかもしれませんが,ここでは信託に関する一般的なルールというのをとにかく改正というか,現在の社会に合ったようなものに変えていこうということで,現在の信託業法は,今までの信託法に基づいてつくられたものだという前提で考えております。


その上で,現在そのもとになっている信託法レベルの義務,受託者の義務などを見直しをする。そうしますと,現在の信託業法とこう食い違ってくる場面が出てくるかもしれませんが,そのときに--ここら辺からは私の個人的な意見ですけれども--できれば,それは信託,新しいこの信託法のルールに従って信託業法が調整をしていただければ一番ありがたいなと。


ただ,場合によっては,信託業法の観点から,特にこれは業法の場合には必要な規制なんだということで,正当化はあり得るかもしれません。


○○幹事には,どういう立場で御発言をお願いするというそこまでは僭越ながら私が言える立場ではありませんけれども,私は今のように,信託法と信託業法の関係を考えておりますので,それを前提に何か御発言をいただければありがたいと思っております。


● すみません。じゃあ先ほど私は,○○幹事がおっしゃったことに100%同感でございます。


● この点--はい,どうぞ。

● ちょっと事務局の方としては,これ甲案,乙案どちらがいいかというのを伺っている立場なので,事務局の立場を明らかにするというスタンスにはそもそもないわけではございますが,ただ信託における適切な管理処分のあり方は,当事者はどういうふうに見ているのがデフォルトとして考えるべきかというのはまさにおっしゃるとおりで,それについては全く賛同するところでございます。
  


ただ,これまでの信託法ですと,本来委託はできないというのが前提になっていたわけでございますが,今回の信託法のもとにおきましては,相当な場合にはまず委託できる。


これは自由に委託できるわけではなくて,あくまで善管注意義務のもとで相当だと思われる場合には,まず委託できるという規律があるわけでございまして,しかもその場合には,受託者は選任監督の責任はありますと。


さらに受任者は全く無責任というわけでは当然なくて,受任者の方は通常の故意・過失責任を負いますと。


そういうその相当な場合には委託できて,受託者は責任を一定限度負って,さらに受任者も故意・過失責任を負うという,一体のものとして,そういうのが現在の信託のスキームなんであると。


そういう理解を前提として,信託がつくられ,それに受益者も当事者として加わってくるということになりますと,受益者もそういうふうに,相当な場合には自分の利益のために委託してもいいんだという意思を持っているのが,むしろ合理的な意思の推測にかなうわけであって,それがその信託における適切な管理処分のあり方についての当事者の一般的な意思であるということも,不可能ではないような気がするというのが,事務局の--というか,私個人かもしれませんが--考えでございます。

  そうすると,決して甲案というのが,通常の信託投資の意思に反していて,むしろ乙案の方がかなうかというわけではなくて,甲案になっても,この新たな相当な場合には委託できるという信託法のスキームの中では,十分当事者の意思を反映したものという理解もあり得るのではないかという気がするところ,ということをちょっと付言させていただきます。


● ほかの方,いかがでしょうか。
  先ほど○○幹事が説明されたように,ある意味で出発点が全然違うというわけではなくて,第三者に委託するということがむしろ前提となっている,というもとでも,○○幹事の意見は甲ではなくて乙ではないかという,そういう意見だったわけですね。


● すみません。きょうのこの場においては,乙案の意見が多いと思いますけれども,甲案,乙案については,いろいろ実務の人数とか,今さっき○○幹事の方からありました全体のその規制のあり方といいますか,受益者の合理的な期待をもって考えるべきであって,そこはパブリック・コメントにも反映されていることも,両方併せ考えて決めるべきではないかなというふうに思っておりまして。


  ちょっと甲案の方,私自身が甲案絶対賛成という,そういう立場ではないんですが,甲案もやはり十分に傾聴すべき意見だというふうに思っておりまして,あえて発言したいと思っておりまして。


と言いますのは,やはり実務においては,ここの御説明,甲案指示の理由のところの②というところが多いかと思っております。


相当の理由ということになるかもしれませんけれども,現在においてはいろいろな操作というのは十分必要なことで,それをなくしてできないという業務がございまして。


そうした場合に,それを使うことが相当な理由ということであり,かつそれが委託先が責任を負うということ自体が,全部受託者にこうリスクとして寄せてこられるということになると,結局全体として,そういう信託スキーム自体が成り立たないというようなこともあり得ますので,ここは非常にバランスの問題が重要じゃないかなというふうに思っております。


もちろん,先ほど○○幹事がおっしゃられたように,行政の立場から何らかの規制が必要でありますし,またそれは,現行信託業法もこの部分についての督促がございますので,そこは一応分離して,そこら辺においてもバランスが必要だと思うんですけれども,そこは別途検討していただければとは思っております。


● ありがとうございました。
  これは確認ですけれども,業法の立場は今,乙案だと思いますけれども,乙案で別段の定めは許すんでしたっけ。別段的な定めで甲案的な立場をとるということはあり得るわけなんですね。


● 別段の定めで受託者の責任を軽減・監督にするのはできるという--。

● ええ,軽くなるのはもちろんできるんだけれども。今,○○委員が言いましたけれども,確かに甲案でなくてはいけないという絶対の理由というのは,もちろんあるわけではなくて,ある程度全体のその先のパブリック・コメントとかですね,それから今までの議論の中での多数意見というものを反映させて,甲案が今のところ優勢であるということだと思います。

今ここでは,○○幹事の御意見もありますし,○○幹事の御意見もありますし,今ここで甲案と決めるわけではございませんけれども,大体大勢がどういうものであったかということを確認はさせていただきたいというふうに思っております。
  よろしいですか。○○委員。


● やはり実務の立場から一言だけ言わせていただきたいんですけれども,これも前々から申し上げているところですし,きょうも議論が出てきたところでございますけれども,やはりその信託法をこう変えましょうと,現代化しましょうというところの中の1つの大きな柱として,当然その分業化,専業化というのが非常に進んでおりますので,それに対応するために,この1項のような形の規定が設けられて。この1項の規定を受けて,それじゃあ受託者の責任をどうするんだといった場合については,私自身はもう甲案しかないのかなというふうに考えています。

  業法的な観点からいくと,別途の考え方というのはおありになるんだと思うんですけれども,信託法上の観点からいうと,受託者が受益者のために自分が執行したり,他人に委託しながら一番ベストの形のものを選択して実務を遂行していくと。


そういうことをやっていくに当たって,選任するということ自体も1つの信託事務であると思いますので,そういう観点からいくと,全面的に受託者が責任を負ってというよりも,基本的には,やはりその選任監督というのがしかるべき規律なんではないかなというふうに考えています。


  それと非常に,あとはちょっと乱暴で個人的な見解なんですけれども,私の今までの実務的な感覚からいきますと,やはりその委託先が何らかの過失によって損害を与えました,といったときには,受託者としては基本的にその過失がどういうところにあって,どんな責任があるんだということを追及していって,当然場合によっては訴訟も提起しですね,それで信託財産を補てんすると,そういうふうに動くわけですけれども,乙案でありますと,基本的に委託者対受託者と受任者というような形の闘い方になってしまいますので--すごく乱暴な議論だということはわかっているんですけれども--そういう観点から言ってもですね,実際に受任者からその過失について信託財産を取り戻すというのは,甲案の方が非常にやりやすいかなというふうに感じておりますし,今まで実務的にもそういうふうに追及していく際に,それが何となく自分の責任になるんじゃないかというような不安もありましたので,甲案の規律というのは非常にありがたいなというふうに思っております。

● はい。

● 今の点に必ずしも関係するかあれなんですけれども,甲案,乙案を考えた場合に,今の受託者の受任者に対する責任追及を考えた場合に,甲案ですとまずは選任監督に過失があったかどうかということを受託者は考えるんじゃないかという気がするんですけれども,そうであるとすれば,その受任者への責任追及の実行を確保する観点からは,乙案の方がむしろ適切な行動を導くのではないかなという感じがするんですが。


  その点ともう1つ,これはほかの論点とも絡む点で御考慮いただけないかなと思っておりますのが,できれば民事信託のことを考えますと,そういった民事信託を利用する人たちの使いやすいといいますか,意識に合ったような規律をデフォルト・ルールとして掲げていただけるとありがたいというふうに思っております。


これは乙案の中でも,信託行為に別段定めがあるときには別段の定めが許されるというふうになっておりますものですから,恐らくそういった別段の定めをつくりやすい立場にあるのは,商事信託とかそういう分野に携わっている方々だというふうに思いますし,なかなか民事信託のことを考えた場合に,当事者の間でこの別段の定めを細かく決めていくということは,実際上なかなか難しかろうかというふうに考えております。


そういったことを考えたときには,デフォルト・ルールとしては,できれば民事信託の意識に適合するような形でのものをつくっていただけると助かるかなと考えております。
  以上です。


● それは具体的にどっちになるんですか。

● いや,そうすると乙案かなというふうに考えております。

● 民事信託の場合を考えた場合には。

● 今,個人間で信託契約をしてやっていく場合には,やはり乙案に従った形で責任を負うというのが,通常の考え方なんではないかなという気がしております。


● それは逆にとったんだね。
  はい,どうぞ。


● 前提としてですね,先ほど甲案によるときに,受託者が受任者に対して責任追及していくときに,その選任監督について過失がないと責任追及ができないとかおっしゃいましたですかね。


そんなふうにお伺いしたのですが,選任監督について過失がなければその責任を免れるものとするというのは,それは受益者に対しての話で,受託者,受任者の間は受託者と受任者のその選任契約で,仮にその選任監督について過失がなかったとしても,受託者,受任者間で受任者が債務不履行すれば,それは当然責任追及できるということで,わざわざ選任監督について過失を証明しないと責任追及できないなんてことはないんだと思いますけれども。

● それはおっしゃるとおりであります。そういうことを前提としたときに,受託者の立場でまず何を考えるかというときに,選任監督についての過失の方をまずお考えになってしまうんじゃないかなという,それがなければみずからはその責任を負わないというようなことで,安心されたりしないかなということをちょっと心配しているところです。


● 要するに,受任者に対する責任追及をする努力をしない可能性があると。

● どちらかというと乙案の方がしていただけるのではないかという期待をしておるところなんですけれども。

● そういうことをしないと,逆に善管注意違反に問われることになりますので,決してそういうことはないんではないかという気はいたします。


発想の順序として,まず自分の責任を免れたいなというのは,それは人間の条理かもしれませんが,しかしその後で受任者に故意過失があれば,それを責任追及すべきであって,それをしないと損失てん補責任は自分にかかってきちゃいますので,結果的にそういう恐れはないんではないかという気はいたしますが。


● 要するに,受託者の立場でそういうやりとりをしていく際に,何をこう考えるかということで考える,ということで意見を申し上げさせていただいた限りです。


● 2段階になっているわけですよね,自分自身の責任とそれから受任者に対する損害賠償請求権というのは信託財産になりますから,それはやっぱり適切に行使しないと,今度は今,○○幹事から説明があったように善管注意義務違反になるという。
  ○○委員。


● 今の件ですけれども,やはりその受託者的な立場になりますと,選任監督責任とはいえ,当然訴訟の提起された相手方といいますか,受けるのはみずからの受託者ですので,当然のことながら,それに対してはそういうことではありませんと,選任監督責任はありませんということを言います。


当然その選任監督がありませんというところを言う際にですね,やっぱり受任者のところについても過失があったことが,過失ではありませんという形の立証をしていく可能性も結構あるんじゃないかと思うんですよね。


すみません,そういうことをやりますと言っているんではなくてですね,甲案と乙案の比較からすると,どちらかというとそういう傾向に動いてしまうのかなというふうに思います。


● それではいろいろ御意見が,ごめんなさい,まだ終わっていなかった。
  じゃあ先に○○委員が,まだ初めてですから。

● 弁護士会で意見が分かれたわけで,私はちょっと甲案の方がいいのかなと思って一言発言するんですが,パブリック・コメントでも日弁連は乙案なんですが,弁護士会によっては甲案のようなんで。


民事信託の場合を考えて,受益者の視点に立つと,○○幹事がおっしゃる視点はわかるところがあると思うんですけれども,じゃあ私が民事信託で受託者になっているとする。


不動産を預かる,といっても,私が管理行為を全部やるわけにはいきませんから,そうするとやはり選任監督のところはデフォルト・ルールであって,もしかしたら選任監督に過失がなくてもあってもいいんだ,免責されるんだということはまずおかしいと思うんですけれども。


  やっぱり選任監督のところをしっかりするというところで,その中で管理業者を選任していくとかですね,そういう状況もあり,そういう状況の方がより適切なのかなと。

そうじゃないと何かおっかなくて預かれないなと思ってしまうし,およそ天変地変以外はですね,必ず過失があって損害が発生するわけですから,それに対して連帯責任を受託者が負わなきゃいけないと,もちろんその後で求償関係で受任者の方に請求していけばいいのかもしれませんけれども。


なかなかそれがたてつけであるということになると,ちょっと厳しいのかなと。

これはなかなか難しいところになりまして,やっぱりデフォルト・ルールでどこまで緩和できるのかという視点もあると思うんですけれども。

  また受託者の方がですね,選任監督さえスキャンすればいいんだということで,全部外に出してしまって楽にするという趣旨ではないんですけれども,先ほど○○委員がおっしゃっていたかもしれませんけれども,今後の信託を幅広く利用するというときにですね,受託者ができることというのは非常に限られていると思うので,その選任監督のところでしっかりと善管注意義務を果たす,忠実義務を果たす。


ですから選任監督というのも,もしかしたら民法上の選任監督というよりもっと非常に重い意味での選任監督義務が課せられていると。ですから,そこでのデフォルト・ルールでそれを緩和するということは,非常に問題があることではないのかなとは思うんですけれども,その選任監督が非常に重い義務であるということを前提とすればですね,受託者の視点に立っての議論になってしまいますけれども,甲案でも十分信託でも機能するのかなと思いますし,受益者も納得してもらえるのかなというふうに思うんですけれども。


● そうですね,この選任監督上の過失についての解釈,これがどの程度重い判断をされるかというのは,非常に重要な問題ですね。
  じゃあ,○○委員,どうぞ。

● 私も○○委員と同じようなことを申し上げようと思ったんですけれども。

  要は,リスクの負担を誰に分配するのが適当かという話だと思うんですけれども,仮に例えばその郵便であるとか,保振であるとか,誰もが使わなければならないようなことがあって,たまたまその受任をした者に過失があって,事故が起きたといったときに,結局その信託を使わなかったとしても,その委託者であった人はそれを郵便とか使ったわけですから損害を被ったと。


じゃあ,もし乙案になれば,信託を使えば,リスクがある意味信託会社が保険みたいな形でとるという形になると,それが妥当なのかどうかという話だと思うんです。


  今の時代,非常に極端な例で,誰もが使うという場合だと思うんですけれども,じゃあ場合によってはこれはそうした方がいいなと。だけど誰がベストなのかと。


いろいろな絶対必要な,あるいはそうじゃないというような場合には,それなりの責任が受託者に求められると。それなりのリスクテイクが受託者に求められると思うんですけれども,そこはやはり受託者の選任監督義務をもちろん相対的な考えになりますけれども,ものによっては重くとらえて,何でこんな人に頼んだんだ,こんな危ないところに,というところで,結局は責任を追及していくというふうに,リスクの分配を図った方が適当ではないのかと。


そういう意味で,甲案,乙案ということを比べれば,甲案の方がいいのではないかなというふうには思いました。


● どうもありがとうございました。
  それでは,よろしいでしょうか。
  ○○幹事。


● すみません。甲乙案が決まる,追加するという状況で案を絞る方向に入っているのに恐縮なんですが,2点だけ気にかかることがございますので,その点を確認ないしは御教示いただきたいと思っておりまして。


  甲案による場合ということなんですけれども,1つは選任及び監督の内容をどう考えるかということが出まして,それに関連しまして,その説明の10ページ等で書かれております不相当な免責規定を置いた場合,先ほどの○○委員の御指摘により,あるいはまたここでの説明というのは,選任監督とは別の問題としての善管注意義務違反だというふうに整理されているかと思うのですけれども,不相当な免責条項というのが無効ではないという前提なのかもしれませんけれども,こういう形で選任等の契約を締結してくるということが,選任監督の内容として,果たしてそもそも適切なのかというのが気になっておりまして。選任というのは,ただ単にどういう人を選ぶかということだけではなく,その契約によってどのような義務が負われ,どのような責任を負わせる形で他人に委託できるのかということになってくるんではないかという気がしておりますので,その契約内容等も含めて選任監督を尽くしたかということが言われるべきではなかろうかという気がするのですが,自信もないところですので,どう考えたらいいか,改めて確認させていただきたいと思います。

  もう1つ,甲案による場合ですけれども,甲案のような形をとりますと,むしろ選任及び監督にその義務内容が縮減されるというのが適切であるような場合が,1の相当な場合であるという形になって,逆に1の相当の場合はかなり絞られることにならないのかと。先ほど来,使わざるを得ない場合がかなり出されておりまして,これは○○幹事がおっしゃったように,乙案によってももう使わざるを得ないような場合というのは,選任監督というか,義務自体がそれなのですから,甲案でも乙案でも同じ結論になると思うんですけれども,もう少し自由に,よほどまずいという場合でない限り自由に使いたいというようなときに,果たして甲案によるとかえって1の場面が狭まらないか,というのが若干気になるところではあるんですが,その点はどう考えたらいいでしょうか。


先ほど○○幹事から,ここの相当の場合というのは自由に使っていいということではないという御説明もありましたので,改めて確認させていただきたいと思います。


● ○○幹事の御指摘のまず1点目の,不相当な免責条項を置いたこと自体が善管注意義務違反だということについて。それをしかし,例えばその内容は甲案によるときにそういう条項を置いたことが,甲案の選任監督責任のところで考慮されるべきではないかと。


仮にそこで考慮するというふうに考えたとしましても,それも選任監督の際に善管注意義務を果たしたかどうかということでありまして,適応の場面を2の(1)の選任監督についての過失で考えるか,そうではないところで考えるかという適応の場面を考えたとしましても,実際の注意義務を勘案するときには,具体的なその帰結については異ならない,ほぼ異ならないことになるのではないかというふうにちょっと思ったものですが,ちょっとまだ御指摘をよく理解していないかもしれませんが,とりあえずそんなふうに思いました。


  それから,2点目の相当な場合が甲案をとるときは狭まらないかというのは,一応私どもの原案では,その信託目的に照らして相当な場合ということで,中身自体は信託行為の解釈によって,その信託目的に照らして,ここはあなたの能力に頼んだところだよという場面と,そうではないと,社会的一般的にここまでは頼んでないだろうというところは委託することができるということで,必ずしもその法社会学的にそういうことになるんではないかという御指摘は,肝に命じなければいけないかもしれませんけど,法律論としては一応客観的に信託目的に照らしてどうかという観点から考えられると,いうことではないかなととりあえず思ったのですけれども。いかがでしょうか。


● はい,どうぞ。
● すみません,余りこだわるようなところではないんですが,では1点目の方は先ほどのような例ですと,選任監督における過失があると認定される場合も十分あり得るというお答えだったと理解してよろしいでしょうか。


● そこの問題かどうか,ちょっと僕らもはっきりわからない--,まあそういう場合もあるかもしれませんけどね。従来,普通に考えている選任監督とはちょっと違いますよね。


● 従来は誰を選ぶかということに力点を置いていたと思うんですけれども,先ほど来,信託における選任監督とは何か,あるいはそれは非常に重いものではないかと言われるときに--。


● ですから,それを含めることも可能かもしれませんけれども--。

● 先ほどの議論のところでは,選任監督の注意義務の話と全く別立てに,さらに善管注意義務違反のようなことを受益者が言っていかなければいけないのか,という点が議論になったように思われましたので。ただ非常に細かいことかもしれません。


● 少なくとも,選任監督以外の問題として,善管注意義務違反というのは一般的にはあると思いますので,ただ,今のような受任者を選ぶとき,受任者と契約するときの事柄,典型的には不相当な不適当な免責,特約を入れたような場合ですけれども,これはそうですね。


ちょっと僕の個人的な感じですけれども,本当は選任監督というよりは,先ほど事務局の方の説明からは,信託目的に照らして相当なという,これは信託目的の関係での相当な問題だ,というふうに説明されましたけれども,そこの問題ではないかという気がするんですね。


人だけではなくて,どういう形でもって人を選ばなくてはいけない,契約をしなくちゃいけないのか,受任契約をしなくちゃいけないのか,受任契約といいますか委任契約ですか,しなくてはいけないのか,それも相当性の問題の中に入ってくるような感じを,私はちょっと思いますね。

  この原案自体はどういうふうにできているかというのは,よくわかりますね,恐らく--。


● 原案は一応今,○○関係官が説明しましたように,1項については客観的に相当かどうかで,2項の方はそれを別の問題であると。


前の部会では,たしか1項と2項を連動して考えるべきではないかという御指摘もあったわけですが,事務局の考え方は一応分けて考えているというものでございます。


● その上で,不相当な契約みたいなものをどうするかという--。

● はい,それはもう2項の方の問題で。
● 2項の方で,はい。

  よろしいですか。これはこういう規定ができても,それについてのような考え方,解釈の問題として,まだいろいろな議論の余地があると思いますけれども。

  とりあえず,それでは今の16から22までですけれども,幾つかの規定については若干御意見がございました。


分別管理義務のところ,それから今の22の信託事務の処理の委託については,いろいろ御意見がございましたが,私の見た限りでは,皆さん,特に別に御発言をされなかった方は,原案で大体よろしいという御意見だというふうに伺えると思いますので,大勢としてはこの原案を賛成していると--。


若干意見はあるけれども,大勢は甲案の方を指示していると,そういう理解をいたしますが,それでよろしいでしょうか。今ここで最終的な決定をするわけではございません。


後でもう1回,本当にこの決定する段階というのはまたありますので,そのときにもう一度チャンスがございますが,ここでの大勢は今のようなものであったというふうに私は理解しましたが,よろしいですか。
  それでは,説明だけお願いしますね,次。

● では,帳簿作成義務から3つほど,時間の関係もありますので,説明だけいたします。

  第23でございますが,まず提案の1に関しまして,(2)と(4)の書類の保存期間について,試案では一律に書類作成のときから10年間としておりましたのに対して,起算時を,信託事務の終了時とすべきという意見がございました。


しかし,この意見のように,一律に信託事務の終了時から10年間という保存義務を課しますと,長期間存続する信託においては,受託者の負担が過大になることが懸念されるわけですが,他方,試案のように一律に書類作成時から10年といたしますと,信託の終了以前に重要な書類が廃棄されてしまうということがあり得て,受益者の権利保護に欠けるということが懸念されます。


  そこで,試案を改めまして,受益者にとってより関心の高いと思われます(3)(4)の信託財産の状況に関する書類,これはいわば資産や損益に関するBSやPLに相当するようなものでございますが,これにつきましては(4)のとおり信託の清算事務の結了のときまで保存義務を課す一方,これには当たらない帳簿その他の書類と,それから信託事務の処理に関する書類,(2)でございますが,これにつきましては,せいぜい書類作成時から10年間,それより前に信託が終わればそれまでということですが,せいぜい10年間の保存義務を課すということにして,受益者の利益と受託者の利益とのバランスを図ってはどうかと提案するものでございます。


  次に3の(1)の受託者に説明を求める権利に関しましては,資料12ページの2の(1)に書きましたところでございますが,試案を改めましてデフォルト・ルールとして委託者にもこの権利を認めることとしております。


これは後で説明いたしますが。それとあわせて,委任における受任者の報告義務に関します民法645条にならって書きぶりを修正しております。


この義務というのは,信託事務処理の経過の概要を説明する程度のものでありますので,その反面として,理由の明示は不要でありますし,法定の請求拒否自由も認められないものと考えております。


  それから,提案3(2)の書類の閲覧請求権に関しましては,これは理由を明示することは不要とするべきであるという意見がございました。


しかし,受託者にとりまして理由を明示されないと,どのような書類を開示すればよいかということが不明であります。資料12ページの2の(2)から13ページにかけて書いてあるところでございますが。


それから,閲覧拒否自由に該当するか否かの判断も困難であると。他の立法例,会社法を初めとして理由を明らかにすることが要求されていることですとか,株主の会計帳簿等閲覧請求権に関する最高裁の判例によりますと,理由を基礎づける事実の立証までは要しないと,具体的な理由の明示は必要だけれども,その立証までは要しないというように解されていて,この趣旨は信託にも当てはまるであろうと思われることなどに照らしますと,試案のとおり理由の明示を要求すべきものと考えるところでございます。

  それから最後でございますが,提案の(注1)と(注2),資料でいいますと13ページ以下にかかるところでございますが,これは受託者側における一定の情報を秘匿するニーズに配慮した制限を許容すべきであるという方向性の意見と,受益者側の帳簿等閲覧請求権の実効性に配慮した制限にとどめるべきであるという方向性の意見とが対立しております。


そこで資料14ページに記載しておりますとおり,甲案,乙案,丙案の3案を提示して意見を問うものでございます。

事務局としては,一応の考えはございますが,まずは皆様の御意見をぜひとも伺えればというところでございます。

  続きまして15ページの方に移りますが,損失てん補請求権ですが,これはパブリック・コメントでは賛成意見のみが寄せられましたので,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。


ただし,この責任を任意に履行しない場合の債務名義の内容や強制執行の方法について問う意見がございましたが,分析しますと,この場合債権者としては,受託者に対する損失てん補または原状回復の作為請求をすると。


その上で,損失てん補につきましては,固有財産から信託財産に財産を移転するということになりますので,間接強制の方法によるということになると思われますし,原状回復につきましては,代替的作為義務であれば,原則として代替執行,現行法では間接強制もできるとなっておりますので,その両方,どちらかによると。


それが不代替的作為義務であれば,間接強制の方法,執行法の171条から173条の方法によって強制執行していくということになるものと思われます。


  最後に,検査役選任請求権でございますが,パブリック・コメントにつきましては,試案についておおむね賛成意見が占めましたものの,(注3)のところに関しまして,試案のように受託者が請求をした以外の,受益者全員に対して常に通知しなければならないというのは厳格に過ぎるという意見がございました。

前は強行規定としておりましたので,その点についての指摘でございます。そこで検討いたしましたものが,資料17ページ以下に記載しておりますが,調査の結果,事務処理に問題がないことが判明した場合における受託者,それからその通知費を負担することになる信託財産の負担の軽減の必要性という点,それから受益者として指定された者に対して受益権取得の事実を知らせたくないという委託者の意図の尊重という点,それから調査の結果,重大な違反が判明した場合には,(注4)にありますとおり裁判所による命令というものの可能性があるということ,あと会社法の上でも同様な規定があるということにかんがみまして,受益者に対する通知義務につきましては,任意規定とすることに改めることを提案して二重線を引かせているところでございます。ほかには変更点はございません。
  とりあえず,以上のところまで説明させていただきます。

● それでは,議論は休憩の後ということにいたしまして,ちょっと休憩ということにさせていただきたいと思います。


          (休     憩)

● それでは時間になりましたので,再開をしたいと思います。
  ただいま説明がありましたところについて,また御自由に御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。

  はい,○○幹事。
● 25まできましたでしょうか。
● 25まできました,はい。


● 何か学生が先生にする質問のようなもので申しわけないんですけれども,25とですね,先ほど大分時間をかけて議論をした22とを合わせてみると,どういうふうに考えたらいいかということを教えていただきたい点があります。


  第22の2で,仮に甲案でとった場合には,受託者は選任及び監督について過失がなければ,その責任を免れるものとすると,先ほどこの書きぶりは選任監督に過失がないことを受託者が主張するべきだろうと,ということでしたが,その前提にはある場合には受託者が責任を負うというものがあるはずだと思います。


それが恐らく第25になるのではないかと思いますが,そうするとここは受託者が信託財産に関して,その任務に違反する行為をした場合において,ここに掲げている事由に該当するときには,ここに書いてある請求を受益者はすることができるということですので,そうすると任務違反をしたと。


要するにアウトソースをしている場合にもですね,任務違反をしたということをまず受益者等が主張し,そしてそれに対して受託者は,いやこれは他人にアウトソースしているのであって,加えて私はそれの選任監督に過失がなかった,ということを言えれば免責されるという構造になるように,2つを読み合わせるとなると思われるんですが。


  だから,実質的に考えると,この任務に違反する行為というのが,結局何なのかということで,先ほども議論で,甲案をとった場合に甲案はどういう意味を持つか,というのが少し明らかになったと思うんですが,そこでの任務,まさに選任監督,アウトソースしたその先で起こった事故であれば,選任監督がその任務になるんだろうということですので,古い考え方で任務違反を客観的に考えて,過失を主観的に考えるという立場をとらなければですね,今恐らくこういう問題についてはとらないという考え方の方が一般的だと思いますので。


そうすると,両者がかなり競合しているように思われますので,もし今まで申し上げた私の疑問が成り立つのであれば,整理を要するのではないかなと思います。
  以上です。


● もっともですね。これ困るね。どうしますかね。どう考えますかね。

  端的に言えば,第22の信託事務の外部委託のときの任務違反というものをどう考えるかということですね。求償責任にも関連してね。何かうまい,それこそ○○幹事が質問するということは,○○幹事もそれなりに--。


● いや,わかりません。すみません,第25というのは当然のことですが第22だけを受けているのではなくて,自分自身でやることを主として念頭に置いてつくられているんだろうと思いますが,その第22で甲案のような考え方をとったときには,第25とのすり合わせが,書く必要があるのかどうかわかりませんけれども,整理が必要なのではないかなと思います。


● 25自体はもう一般的なもので,ここでの要件,任務違反というのが要件で,こっちをいじるということは恐らくできないので,22の方で--。


● 22の2についてですね,これはあるいは甲案,乙案どちらにも共通するのかもしれませんが,やはりこの無過失の受託者が主張して免責されるという,この構造が25に合っていないんじゃないでしょうか。


● 過失任務違背とほぼ同じに考えますとね,ええ。

● あるいは任務違背と区別される意味での過失というのを考えるか。

● だけど今度は逆に,そういうふうに考えても,任務違背と過失を別にしても,22の場合の任務違背って一体何かというのが出てくるんですよね。


  これはさっきの甲案,乙案,乙案の場合だとそういう問題は生じないのかな。余り表面化しないというだけですかね。


● しかし,乙案は受任者というんでしょうか,委託を受けた第三者の故意過失ですから,今の競合問題は生じない,ええ。


● はて,何か事務局でいい案があればあれだけど。

● 今,名案は思いつきませんが,御指摘の点を踏まえて書きぶりと思いますので,検討したいと思っております。

● うん。ほかにいかがでしょうか。
  ちょっとこれは個人的な意見です。25の損失てん補責任のところで,ここで原状回復と損失てん補というのが出てきまして,その2つの関係をどうするのかというのが,ここ自体,これはちょっとただ聞き流していただきたいというのは,これから申し上げることは私は積極的にこの25で改正した方がいいということではなくて,後のほうで受益者が複数いるときに,やはり損失てん補とそれから原状回復との関係というのが問題となって,後の方では原状回復を原則的な救済手段とするという考え方が出てくるんですね。


  そうしますと,この25のところでも,受益者が1人しかいないときにも,論理的には全く同じではないかもしれないけど,受益者1人のときにも原状回復と損失てん補というものが,2つの救済手段の関係がですね,つまり両方が考えられるとき,全く選択的なのか,それとも原状回復というものが優先するのか。


これは特に受託者の方からその原状回復に相当するような行為を自分で申し出ると。


自分でこういうふうに回復するから,だから損害賠償じゃなくて原状回復でいきたいと,いうことを受託者が言えるかと。そんな問題とも関連いたします。


ちょうど契約だと債務不履行とかいろいろな責任のところでキュアーというのが治癒というふうに言っていますけれども,債務者の方から損害賠償を請求されたり,解除を請求されたりした者が,治癒をする。


債務不履行瑕疵を治癒するという行為がありまして,それと似たような問題があるのかなと。最近の1つの大きな流れは,そういう治癒というのを認めていこうという考え方がありますので,そういう考え方を,一方で少し頭の隅に置きながら,この規定をどう考えたらいいかというふうなことをちょっと思っています。


ただそれを言い出して,原状回復と損失てん補の関係を全部もう一回見直すということになると非常に大変なので,私としてはそんな問題もありますというくらいの,非常に消極的な発言で申しわけないけれども,ことだけ指摘しておきたいと思っています。


  ほかに。25はよろしいですか。今まで少なくとも余り違う御意見はなかったと思いますし。検査役の選任と--。
  ごめんなさい,○○幹事。

● いいですか。25でそれぞれ1の損失てん補責任等a,bがあって,aまたはbに定める事項の請求をすることはできる,とありますけれども,一部について変更と損失ってもう完全に分けられるものではなくて,重なって起こり得ると思うんですよね。


その場合に,変更できる部分については,変更じゃない,回復できる部分については回復請求し,その他についてはてん補というのは当然あり得るということですよね。


ですから。これも書きぶりの問題だと思うんですけれども,そういった趣旨がよりクリアになるような書きぶりをしていただいた方がいいんじゃないかと思います。


● 原状回復して損害がなおあるという場合,幾らでもありますからね。わかりました。それは書きぶりの問題としてこちらで対応したいと思います。

  ほかに,25はよろしいでしょうか。
  それであれば,29検査役の選任請求について。○○委員,どうぞ。


● 23で--。

● 前の方ね。ごめんなさい,飛ばしちゃった。帳簿作成義務,はい。

● 帳簿作成義務等のところで,ちょっと2点申し上げたいと思います。

  1点目は1の(4)のところの信託財産の状況に関する書類についての保存義務のところでございますが,要綱試案では10年というところが,信託の結了の,清算事務の結了のときまでというふうに変わっておりまして,もちろんこれよりも短いものもあるんだと思うんですけれども,信託の中にはやはり期限がない,半永久的なものがありまして,例えば年金であるとか,そういうものも考えますと,半永久的な形で保存義務というのはちょっとしんどいかなという感じがいたしまして,この辺のところちょっと御配慮をいただけないかなというふうに思っております。


  それと2点目が注1と2のところの,甲乙丙案のところですけれども,これについてはその基本的には乙案支持ということで,ここの部分につきましては,甲案につきましては当初から当方の方でいろいろとお願いしていた分でございますし,丙案につきましても文書というのが非常に種類も多いですし,重要なものから軽微なものまでいろいろあるということですので,そこら辺のところ,契約によって開示しないでいいものができればいいんではないかと思いますし,特に顧客のプライバシーであるとか,営業上のノウハウ,特に今後は多分,知財なんかは非常にデリケートな問題なんかが出てくると思いますので,そういうところを契約で閲覧拒否というのができれば,そういうニーズに合致するんではないかなと思っておりまして,ここの分については乙案に賛成ということでございます。
  以上です。


● 第1点目は質問みたいなものかもしれない。半永久的な--期間。

● 半永久的な信託があって,年金信託などでというお話かと思うんです。ただここでは書類の範囲が限定されていて,我々が説明するところではBSとかPLみたいな,そういうたぐいのものくらいは,最後まで持っておいていただけないか。


それはその信託全般を並べるときに,やっぱりそれぐらいの資料は残しておいていただきたいというのが趣旨であるということが1点ございますのと,それから一応ただし書きがついておりますので,かなりの年限がたったものについては,委託者といいますか,受益者といいますか,そちらの方に引き渡すというようなことで対処しようとかですね,そういう余地があるのじゃないかないうところを踏まえていただければというふうに思っております。

● どうしてもという現行の実務からいくと,少し変えないと。少しといいますか,変えないといけない部分というのが結構あるんではないかな,というふうに考えておりまして,そういう観点から御配慮いただけれえばありがたいなと思うんですけれども。


そういうことをやらないといけないということであれば,ちょっとそこは検討したいとは思いますけれども。


● 具体的なイメージとしては,信託財産の状況に関する,どんな信託財産がどれだけあるかとかですね,そういうことだと思いますけれども,毎年,毎年といっても書類はもっと短期間でつくるかもしれませんが,最低限毎年1回分はあるでしょうね。こういうのをずっと積み重ねて保存しておくという,そういうことになるんですかね。そういうことのようですね。
  はい,○○委員。

● 23の関係ですが,3の(2)で受益者は理由を明示して閲覧または投資者を求めることができるという,この理由を明示してというところの関係で,これはどの程度のものを想定されているのかというのがちょっとお伺いしたいんですが。


受益者である以上,信託財産の現状を知りたいというような当然の要望のはずなので,信託財産の状況を知りたいというのが「理由を明示して」ということになるのかどうか。それはいかがでしょうか。


● 一般論から言いますと,この最高裁の判例を挙げてあるとおりでございまして,どんな書類を閲覧させていいのかと,それから請求の拒否事由に当たるかどうかという判断が可能な程度の主張はほしいと。

もちろん裏づけ資料までは要らないということですが,その判断が可能になる程度の理由の明示は必要ということになりますので,今,おっしゃった信託財産の状況を知りたいということでは余りに広すぎるので,もう少し具体的な理由というのを言う必要はあるのではないかという気がいたします。程度問題ではありますが,それだと全部という感じがするんですけどね。

● そういうことですと,この理由を明示してというのを入れるのに,まず反対したいということなんですが。いろいろな信託がありますけれども,一番素朴な形の信託でいくと,やっぱり受益者がこの信託財産の現状を知りたいんだというのは当然の話なので,それ以上のことを言え,言わないと見せないぞということになると,大変この,理由の明示がないから見せないということで,何かこう悪用される恐れがあると。


これは立派な信託銀行のレベルの話ではなくて,もっと個人レベルで信託がたくさん利用されるということになった場合に,大変困るのではないかと。やっぱりデフォルト・ルールとして,そういう理由,財産の現状を知りたい,今どんな財産がどれだけあるのか知りたいんだという,そういう程度の理由で十分だという,そういう制度の方がいいと思うんですけれども,いかがでしょう。

● ただ,今どういう信託財産があるかというのは,信託財産状況に関する書類として1の(3)に当たりまして--。

● 年に1回しか来ないんですよね。

● 年に1回,まあ未満でもいいわけでございまして,それを見ることによって,あとはその説明,説明というか状況報告義務を求めるということによって,相当程度カバーできるんではないかなという気がいたしますので。


しかも会社法とか,中間法人法でも理由の明示ということは要求されていますので,信託だけ理由の明示がなくても一切財産状況の書類が見れるというのは,少し幅が広すぎるんじゃないかという気がしているところでございます。


● その点は,例えばほかの会社法でこういう場合に拒絶事由があると。それを参考に決めるという,そういう書き方がされていて,それを広げる方向で何か検討されているようなんですが,その点も含めてですね,何か全体に拒否的な方向に行き過ぎていないかという心配があるんですが。


● 最後の点は,必ずしも広げるのがいいと我々が思っているわけではなくて,そこはまさに甲案,乙案,丙案で御議論ぜひともいただきたいところで,確かに乙案は先ほど御支持があったものは,あるいは甲案でもそうですが,広げるという方向に,方向性としてはあるわけでございますが,果たしてそれでいいのかという観点から,御議論いただければというふうに思っているところでございます。


● もっともな趣旨が含まれていると思いますけれどもね。どういうのが一番--○○委員が言われているのも,帳簿閲覧請求権一般の問題としてさっきの3の(2)のところですけれども,これが1の(2)か,だから,もし1の(2)が全体を受けているとすれば広すぎるかもしれない。


信託財産の状況だけであれば,おっしゃることはそれなりに相当,妥当するような気もしますけれどもね。


● ええ,私もそんな気がします。

● 一応,今,○○幹事が言ったように,信託財産の状況に関しては,1の(3)があることはあるけれども--こういうのは--。

● もしかすると,想定する信託がやっぱり違うことによって,明示すべき理由の範囲が,それは個別の信託を前提にして考えなくちゃいけないと,変わるということを前提にすれば,同じような思いでいるのかなという気もいたします。


  つまり,今,○○委員がおっしゃっている話というのは,恐らく個人と個人の間でやられていて,信託財産が別にそんなにいっぱいあるとか,そういうような話ですとか,あるいは帳簿につきましてもものすごく多数に上ってというような,いわゆる商事的な理由ではない状況を考えれば,見たいですよという,なぜ見たいのかといえばそれはやっぱり心配だからだということなんだろうと思うんですけれども,見たいですよと言えば出すのは簡単ではないかと。


つまり今,信託財産に入っているのはこれとこれとかですね,その程度のことだから,それを見せる理由としては,つまりどの範囲かというのを限定するという趣旨も,この理由の明示には含まれているというふうなことのようなんですけれども,範囲を限定するといっても2つしかないんだから,あんまり限定する理由もないし,それであれば理由は,心配だからちょっと今どういう状況になっているのか,信託財産の内訳はどうなっているのか教えてくれ,というので足りるのではないかと言われれば,それはそうなのかもしれないなと。


  ただその信託についても,当然御存じのようにいろいろ違いまして,合同運用していたらどうかとか,そういうような条件がありますので,一般には入れますけれども,個別の当てはめでは,やっぱり解釈はそれぞれ事柄の性質に応じて変わってくるんだろうとは思います。そういう御理解では難しいのでございましょうか。

● 一番最初の質問が,そこにかかわるような質問だったんで,そういうような解釈ならば,こういう書き方でもいいかなというふうに思いますけれども。


● 確かに,つい我々もこの会社と同じようにたくさんの受益者がいて,またたくさんの財産が日々いろいろ変動してたり,複雑な信託を念頭に置いてこれを考えてきましたけれども,非常に単純な信託におけると,民事信託なんかの場合だったら,もうちょっとこの理由というものを,少なくとも判例が言っているよりは,緩く解する余地はあるんじゃないかという気はしますよね。まあ,そういうことで。

  はい,どうぞ。

● 今のことと関連するような話ですけれども,今も議論があったように,理由明示について,信託の性質に基づいてかなりリアルに会社に被害あるということであれば,それではいけないのかなという気がします。


そうすると恐らく会社法ですとか,あるいは中間法人が想定しているような規律ですとか,あるいはその最高裁の判例が示しているような規範とはちょっとやっぱりずれてくるのではないかなというふうな気がするんです。


それで弁護士会の方でもその議論をしていた中で,やはりここらあたりの規律というのは,会社ですとか中間法人とは大分やっぱり様相が違うのであろうと。


したがって,その解釈としては御指摘あったような,特に個人信託の場合にはそういったその解釈があり得るんではないかというようなこともあったところで,それはぜひそういった方向で整理していただけないかというふうに考えております。


  具体的には,実は今回御提案いただいた3の(1)のところで信託事務の処理の説明を求めることができるということになっていますので,この説明を求めていく中で,帳簿等の閲覧請求を求めることに多分なっていくのではないかなという気がしておりますけれども,そういったときに理由の明示をつい立てとして,特に個人信託の場合に受益者が困るような状況がないように,ぜひ規律をお願いできないかというふうに考えております。


  全体のここの枠組みとしては,多分閲覧を認めるかどうかということを考える際に,3段階ハードルというか検討するところがあるんじゃないかと思うんですけれども,今の理由の明示のところと,それから一定の拒否事由に該当するかどうかどうかというところと,それからあとは対象となる書類の範囲を制限するというところとの関係で,恐らくどこの段階でどういうふうに規律するのが一番切りわけとして適当なのかという問題かなという気はしておるんですけれども,ぜひ適切に切りわけができるような規律をお願いしたい。


理由の明示の点に関しては,それがないと拒絶事由の該当性が判断できないじゃないかというような議論があると思うんですけれども,それは恐らく拒絶事由として,どういった事由を設けるかということに絡んでくる問題かと思いますが,例えばこの検討課題の15の13ページの一番下あたりで御指摘いただいております,信託財産に属する債権に係る債務者の情報ですとか,知的財産権の信託におけるライセンス契約における内容等の取得については,これは理由云々という問題よりも,むしろ情報の性質にかかわる問題ではないかなという気がしておりまして,そうするとその理由の明示との関係は薄いんじゃないかという気もしますし,また会社法の規定の中では,競業者からの請求を排除するような規定もありますが,これも理由とはちょっと関係がないかな問いう気がしておりまして,そういった観点からもこの理由の明示の問題について,御検討いただけないかなと。


  ちなみに拒否事由に関しましては,会社法等の規定に基づいてというようなことが提案されておりますけれども,これは恐らく追っての御検討ということになろうかと思うんですけれども,競業については,例えばどういった形で競業を考えるのかとか,そういった点についてよくわからないというような議論が多少ありましたので,その点だけ御紹介しておきます。
  


それから,先ほどの13ページの下の中で,受託者の営業上の秘密ということがうたわれておるんですが,これについては多少弁護士会で意見交換した中でも,ちょっとなかなかピンと来ないというとあれですけれども,例えば債権の債務者情報ですとか,ライセンス契約の内容等については,これは受益者の立場から,それをある程度出さないことが受益者の立場からも利益になるということが想定されるのに対して,やや受益者の立場とは対立的な受託者の営業の秘密ということを保護するという点では,かなり慎重に御検討をお願いしたいというような意見がありましたので,ぜひその点についてはよろしくお願いしたいと思います。


  それから,あと14ページの甲案,乙案,丙案についてなんですが,これについては若干留保つきで丙案を支持したいと考えています。

甲案についてはここに記載してある合理的に認められる限度を越える請求ということがあったときには,こういうふうになりますと,なかなか基準として判断が難しい。


これは基本的には受託者の側で,これに該当するかどうかを判断することにとりあえずはなるということになると思いますので,ややこれでは受託者の方が拒絶しやすくなり過ぎないかということを懸念しております。


丙案についてですけれども,これは先ほどの知財の関係ですとかを考えるとこういったことはあり得るではないかというふうにかんがえております。


ただ,丙案の内容ですと,文書を開示,閲覧させるかどうかという問題,文書全体というような書き方のようにお見受けするんですけれども,文書によっては,文書自体は出すけれども,例えば氏名の欄を伏すとか,かぶせるとか,そういったことも対応としてはあり得ると思いますので,できるだけ拒絶事由ですとか,あるいはいろいろな法益を保護することとの関係で,配慮しなければならないというところは理解できるんですけれども,そういったできるだけ受益者の開示請求を認めるような形での規律をお願いできると助かるのかなと考えております。
  以上です。


● どうもありがとうございました。
  ○○委員。

● 内容的なことではなくて,表現だけの問題なんですが,11ページの2,受託者の情報提供義務という見出しでございます。


これは試案の段階では,信託財産の状況に関する報告義務となっていたのが,非常にこう一般的な見出しになっている。その結果,3の(1)あるいは(2)との関係が,この2の見出しとどういう関係にあるのかというのがちょっとわかりにくい。


さらに言うと,2に情報提供義務という見出しをつけることによって制限的な影響はないだろうかと。


これだけだ,というふうになってしまわないだろうかという気がいたしますので,この見出しに変えられた御趣旨をお聞かせいただくとともに,もう少し整理した方がいいんじゃないかなというふうに思います。


● 今回お渡ししている資料では,見ておわかりになるとおり,変更箇所については二重下線を引いておりまして,今の見出しのところに引いておらないんですが,恐らく何か貼りつける際に間違えたというか,試案の表現がそのまま書いていたつもりだったのですが,いつの間にか間違っていたようでして,試案のとおりでございます。変更したつもりのところは,すべて傍線を引いてわかりやすくしているつもりでございます。申しわけございませんでした。


● 私の持っている資料が間違っているのかもしれませんが--。
  それはそれで結構なんですが,その結果今申し上げたように,一般的なことで情報提供義務という大きな見出しにすることに伴って,それがかえって混乱が生じないかということなんですが。


● 試案のとおり,信託財産の状況に関すると。報告義務という見出しを変えます。元に戻します。


● 元に戻すということですね。はい,わかりました。
● といいますか,変えたつもりではなかったということです。すみません。


● 先ほど14ページの甲,乙,丙というふうに3つ案がございます。これもさっき○○幹事から説明がありましたように,事務局としてはそれなりに考え方があるようですけれども,皆さんの御意見をむしろ,ある程度の御意見を伺っておきたいということですので,もし御意見があればお願いしたいと思いますが。


○○委員は乙案を主張され,それから○○幹事は丙案を主張されたという状況でございますが--。いかがでしょうか。

  そうですね,もしあれでしたら事務局の考え方を。

● まず甲案につきましてですけれども,まず1つは会社法にない閲覧拒否事由を加えることが適当かという問題があると。


それから甲案によりますときは,最終的に先ほど御指摘があったとおり閲覧対象から外れるかどうかというのは,現実に閲覧請求がされた上で,閲覧拒否事由に当たるかどうかが判断されるまでは明らかではないということになりますと,受託者,その信託の他の受益者ですとか,あるいは信託外の第三者,信託債権の債務者などにとっての予見可能性という点からは,どういう書類が外れるのかは実際やってもらわないとわからないという点で,いささか難点があるんじゃないかという気がしているところでございます。


  それから乙案についても同様に,会社法にない閲覧制限事由を加えるということの問題と,甲案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限を認めるという点は,受益者の閲覧請求権の制限について,委託者の意思も反映できるという点で妥当とは思われるんですが,他方,一定の重要な書類については,この閲覧制限は認められず閲覧に供されてしまうという点がございますので,やはり予見可能性という点からはそれに反する嫌いがあるということと,なお信託行為の定めのみによって閲覧制限ができるといたしますと,受益者に閲覧請求権に対する配慮にやはり欠けるところがあるのではないかという気がするわけでございます。


  丙案でございますが,甲案と乙案と異なりまして,会社法にはない閲覧拒否事由を加えるという問題点はございませんことと,乙案と異なりまして,信託行為の定めによる閲覧制限のためには,受益者の個別の同意をも必要とするとしておりますので,委託者の意思にも受益者の意思にも,利益にも配慮した内容となっております。


もっとも乙案と同様に,一定の重要な書類については,この閲覧制限が認められないわけですが,最後に書いてあります当該請求によって,受益者以外の第三者の利益を害する恐れのある情報の記載された文書につきましては,その重要性ということではなくて,受益者の同意をもって,あらかじめ一律に閲覧制限を対象としていくことができますので,予見可能性という点からもすぐれているのではないかという気がするわけでございます。


総じて受益者らと受託者,信託以外の第三者の利害調整がバランスよく図られる内容と,丙案はなっていると思われるのが,事務局の考え方ということでございます。


● いかがでしょうか。
  ○○委員 


● ちょっと確認なんですけれども,丙案のところの先ほどの御説明で,信託行為の定めで委託者の方の意思をと,受益者の個別の同意によって受益者の意思をということですけれども,当然自益信託であれば,信託契約に書いてあればいいということですね。


● 要するに,信託契約の設定と合わせてこういう同意もされているというふうに,2つの契約があったと見ることができます。その辺は大丈夫と思います。

● あるいは,まだ皆さんの御意見が必ずしも,考慮中ということなのかもしれませんが。


それでは,ちょっとまだ皆さんの意見が十分固まっていないということだと思いますので,この点はもう一度いずれ確認したいと思います。


  先ほど説明があったほかの点はいかがでしょうか。そうしますと,検査役の選任の請求はこれでよろしいでしょうか。


  それでは,特に反対はないというふうに判断いたしますので,ここまでは基本的に承認をいただいたと。さっきの甲乙丙に関しては,もう一度ぐらい御意見を伺う機会を設けたいと思います。

  それでは,次にいきましょうか。

● それでは次,第32から3つほどでございますが,まず19ページの費用の補償請求権のところでございます。

  本日は,この中で提案2の受益者から費用の補償を受ける権利についてのみ,御審議願いたいという趣旨でございまして,その上で後ほどまた全体について改めて御提案申し上げます。


  パブリック・コメントの結果というのは,甲・乙案というのが数の上でも,実質的にもほぼ同数にわかれております。それぞれの案を支持する理由として挙げられている意見の要旨は,この20ページから21ページのとおりでございますが,総括して言いますと,受益者の補償債務というのが,受益者が信託の利益を享受する反面として負担されるべき性質のものであるという甲案的な考え方をとるか,債務の負担に関する一般原則に照らして信託行為の当事者ではない受益者が,当然に補償債務を負担するというのは不自然であるという乙案的な考え方をとるかというところであろうと思われます。


なお,資料21ページの太字2に書きましたとおり,この甲案,乙案以外に仮に甲案がされない場合にはという留保も付したものもございますが,その上で信託行為に定められるときは受益者から補償を受ける権利を有するものとすべきであると。

補足説明の注に書いておきましたが,旧乙案の見解を支持するものも複数ございました。以上のようなパブリック・コメントの結果を踏まえまして,いずれの考え方を採用すべきか御審議いただきたいと思います。


  次に,第37の方に移りますが,受託者の解任につきましてでございますが,委託者及び受益者に自由な解任権を認める試案に反対する少数意見もありましたが,パブリック・コメントの大多数の意見は,試案に基本的に賛成するというものでございます。


もっとも,裁判所に対する受託者の解任請求の要件はより厳格化されてよくて,軽微な任務違反についてまで解任権を付与するのは妥当でない,との意見がございました。


現行法の47条の任務違反につきましても,ささいなミスや怠慢や不正確な行為については,解任事由に当たらないと解されております。


そこで,このような理解を正確に反映すべく,裁判所による解任事由に当たるためには,任務に違反したことだけでは足りず,その結果として信託財産に著しい損害を与えたことが必要であると,いうことを明記するように試案を改めることを提案しております。


  さらにパブリック・コメントにおきましては,多数の一般投資家を対象とする金融商品の場合には,受益者に対しての評価はさまざまなものになると考えられることから,一部の受益者による解任の可能性は回避すべきであって,一部の者からの裁判所に対する解任請求権についても,一定の制約が課されるべきであるという意見がございました。


  しかし,考えてみますと,受益者が多数による場合におきまして,委託者との合意による解任権を行使するには,そもそも原則として全員の同意を要するものでありますし,この自由な解任権の規律というのは,1(3)のとおり任意規定でございまして,信託行為の定めをもって受託者の解任のためには一定の非違行為を必要とするとか,受託者自身の同意を必要とするというような制限を課すことも可能でございます。

また,裁判所に対する解任請求権につきましても,解任事由があるとされるためには一定の重要な事実が必要とされることにかんがみますと,この提案のもとでも,金融商品のスキームの安定性が損なわれるとの懸念は当たらないと思われます。


  なお,辞任に関しましては,パブリック・コメントの大多数が試案に賛成する意見でございましたので,試案の規律をそのまま維持することとしたいと考えております。


  次に,第39の前受託者の義務というところでございますが,試案につきましては以下の2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,以下の2点につきまして,変更すべきとの意見がなければ,試案をそのまま維持することとしたいと考えております。


  第1点は,この試案と同じ文言でございますが,1の(1),2の(1),それから3の(2)におきまして,前受託者等の受益者及び他の受託者に対する通知義務,これをこの試案ではデフォルト・ルールとしているわけでございますが,これを強行規定とすべきであるという意見がございました。


しかし,受託者に通知義務を課した趣旨というのは,受託者が欠けた場合におきまして,通常は受益者や他の受託者には速やかに新受託者を選任して,信託財産を適切に管理処分させる必要性があるということに配慮したものでございまして,そうすると,信託行為においてあらかじめ受託者が欠ける事態に備えて,後継の受託者を定めているような場合には,このような必要性は既に満たされていると言えるわけでございます。


それにもかかわらず,通知費用の負担をあえて信託財産に課してまで,他の委託者,場合によっては多数に及び得る受益者に対する通知を義務づける必要はないものと思われますので,試案を維持して任意規定にすることを提案するものでございます。


  第2点は,試案の1(1)につきまして,受益者以外の者に受託者の解任権が付与されている場合に,解任された受託者ではなくて,解任権者が受託者に通知することが期待されるのであって,解任されたものが通知することは期待されないのだから,解任された前受託者に通知義務を課すのは適当でない,という御意見がございました。


しかし,この意見のもとにおきましても,裁判所による解任の場合に誰が通知するのかという問題が残ります上に,信託行為によって解任権が付与された第三者が解任権を行使する場合には,解任事由も当該信託行為において定められるべきところでございますが,裁判所によって解任される場合と異なって,必ずしもその受託者に重大な非違行為があった場合には限られないわけですので,通知はおよそ期待できないとまでは言い切れるかは疑問がないわけではございません。

  それから,解任権者は受益者や他の受託者を把握しているとは限りませんので,解任権者に通知義務を課すといたしますと,多大な負担を課すことになったり,実効的な通知が困難になる恐れもございます。


また必要があれば,解任権を付与する信託法の定めにおいて,解任権者に通知義務があることを規定することで,対処することも可能でございます。


  以上の点をかんがみますと,通知義務のデフォルト・ルールにつきましては,解任の場合にも前受託者に義務づけるということが相当で思われるということで,そのまま試案を維持することを提案するものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ここまでまた御議論いただきます。
  いかがでしょうか。それではですね,皆さんから御意見を伺いますが,きょう欠席された○○委員から第32の受益者に対する補償請求権についての意見を書面でいただいておりますので,ちょっとそれを読ませていただきます。

● それは○○関係官の方から御紹介させていただきます。


● それでは,私の方から御紹介させていただきます。文章をそのまま読ませていただきます。


  受益者に対する補償請求権について,我が国では現行信託法36条のもとでそれが認められており,ただし放棄可能ということの解釈によって,実際にはその意味を失う可能性があるということだと理解しております。


今次改正において,この問題が焦点の1つとなっており,既に私はみずからの意見を繰り返し述べているところですが,ここに再度申し上げる機会をいただければ幸いです。


  受益者に対する補償請求権は,英米信託法では認められないものであり,それは信託の本質にかかわるものです。それは次のような意味です。


受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶようであれば,勢い受益者は信託の運用に口を出したくなる,あるいは出さざるを得なくなり,それは共同事業であってもはや信託ではなく,英米法ではパートナーシップと見なされます。


だからこそ,受益者にも無限責任が及ぶことが認められることになります。繰り返しになりますが,これは信託ではありません。


仮に,受益者に終局的なリスク,無限責任が及ぶのに,受益者には一切口を出させないということであれば,信託はもっとも危険なスキームになります。


会社よりもリミテッド・パートナーシップよりも危険なものになります。投資スキームとしてばかりではなく,民事的な関係でも同じく危険なものであって,全財産を裁判所の監督のない後見人に委ねるようなものです。


  以上を要約すると,信託のあり方について,日本独自のことを考えるのは一般論としては否定しませんが,受益者に対する補償請求権は,概念的に信託というものの本質にかかわる点であり,しかも実際上も信託に対する不信を抱かせるような利用法に道を開くものであって,補償請求権なしということを明示するような改正が強く望まれることを申し上げます。御高配のほどよろしくお願いいたします。
  以上です。


● 以上のような意見が出ましたので御紹介します。
  それでは皆さんの方から,御意見をいただけたらと思いますが,いかがでしょうか。

  ○○委員。
● 私の方も,この点に関しましては繰り返し申し上げていますので,そんなに追加で申し上げることもないんですけれども,先ほど○○委員の方からの御意見ということで紹介されました,例えば共同で事業を行うようなものについては,パートナーシップというふうに見なされて,それはトラストではありませんと,そういうことから補償請求権はないんです,ということですけれども,日本における信託といいますのは,○○委員がおっしゃっている信託というのも当然ありますし,もう何回も言っていますけれども,土地信託みたいな形で共同の事業的な形で進める信託もあると。


要するに,かなり受益者の意思というのが反映されて,指図等を受けるようなものもあると。


なおかつ,特定金銭信託等については,運用の指図そのものを受益者が行うというものもあります。

そういう観点からすると,○○委員のいう英米法においては補償請求権があるということではないというふうに思っておりまして,それを日本に置きかえた場合については,受益者に対して補償請求権があってもそこはおかしくないんではないかなというふうに考えております。
  以上です。

● ほかにいかがでしょうか。この部会--。
  ○○幹事,どうぞ。


● 私もパブリック・コメントを経てなお意見は変わらないということで,以前にかなり長い時間をちょうだいして説明をさせていただいたかと思いますけれども,私自身は結論として,その○○委員の御見解として示されたところにやはり賛成で,乙案の方が適切ではないかと。


ただ,確かに共同事業的なあるいは受益者が指図をするというタイプのものもおよそ信託として認められないかどうかというと,そこは私自身はかなり疑念を持っておりますけれども,どちらがあるべき,あるいは典型的な信託像なのかというふうに考えたときには,受益者が指図をし,共同事業的なものはかなり特別なものではないかと。

またそういったときは,まさにみずから信託行為にかかわっており,その中で対応していくものでしょうし,乙案の立場によっても補償請求は最終的に認められるという点ではかわりがないのではないかと,いうふうに思っております。


  パブリック・コメントの中で寄せられた各種の理由につきましても,ざっと申し上げますと,甲案支持の理由として出されているところは,利益を享受する受益者が負担すべきであるという利益を得る者が損失もという報償責任的な考えかというのは,単純にそういうことではなく,指揮命令があるとか,やはり一定のコントロールを及ぼしているという場合にこそ認められるものではないかと思われますし,第2点目の受託者がリスクをコントロールできない場合があるということについても,より受益者の方がコントロールできるというのが信託なのかというと,そうではないだろうと思われます。


  第3点につきましては,これはむしろ別途手当てをすると。最終的には信託の終了に向けて各種の手当てを講じていくということですので,ここの部分は十分な手当てが図られると思われますし,また,第4点目で出されている受益者間の公平を害するということですが,むしろ指図があるような共同事業的なという場合の受益者を考えますと,そういう能動的な受益者と受動的な受益者がいるときに,一律に同じように補償債務が負わされるということの方がかえって不公平ではないか,というふうにも思われます。


そもそも基本的な考え方が違うところかと思われますから,ある意味水かけ論かもしれませんけれども,やはりパブリック・コメントを経てなお,乙案の方が適切ではないかというふうに考えております。


● ほかにいかがでしょうか。
  ○○委員。

● 確認をさせていただきたいんですけれども,そもそも私どもの立場としては,甲案支持ということで専ら議論あるところが,ここに書かれている理由の1のところでありますけれども,それはちょっとさておきですね,2のその他意見について出されたものについて,ちょっと前に議論が出たのかもしれませんけれども,ちょっと確認をしたいんですけれども。


  すなわち信託行為で負担をするということを書いた場合に,それは例えば受益権が譲渡されたとき,そうしたときにその譲受人というのは,当然に補償債務を負うのかどうかということですけれども。


民法でいくと債務引受になりますから,なかなか当然にということにはならないとは思いますけれども,ここに書かれている前提となっているのはそれのどちらなのかと。


仮に,そうではないと,単に自益信託だから信託契約にサインをしたわけだから,当然別途の合意と同様に補償債務を負っているだけであって,受益権の譲受人はそうではないというような,もし整理になるのであれば,逆に2の御解説の「その反面として,乙案を支持する立場から--」というところで,「信託行為に定めがある場合だけでは足りず」というところがちょっとよく理解できなくなってしまうわけで,何とならば別に,信託行為,少なくとも受益権である場合は,別にその別途の合意というのは信託行為に書かれようが,別途の合意であろうが,別途の契約であればそれは意思の合致があるわけですから,乙案をとったとしても,その合意がある限りにおいては,信託行為が定めがあった場合には,自益信託について補償債務を負うということが1つの整理ではないのかなというふうに思っておりまして。


ちょっとこの点についてお尋ねしております。仮に,もし受益権の承継に伴って,補償債務が当然に承継されるということであれば,甲案と乙案のその違いというのが,非常に隣接的になるのではないかなというふうに思いました。

● はい。
● 受益権譲渡の場合の考え方で,質問と1対1で対応しているかどうかわかりませんが,まず信託行為の定めを置いた場合に補償義務が生ずるというのは,これは何度も言うことでございますが,受益権の中に権利義務が含まれる,一体の物となると。


そうしますと,受益権が譲渡されれば補償債務もくっついていきまして,新受益者が補償債務を承継すると。


そのかわり,前受益者は特段の手当てをしない限り,補償債務を免れるという形になると思います。


これに対しまして,個別の合意によって補償義務を負担するということになりますと,受益権の譲渡があったからといって,新受益者が補償義務を負ういわれはないわけでございまして,別途合意をしない限り新受益者は補償義務を負わない。


そのかわり,前の受益者は譲渡したからといって,責任を免れるものではない。そのような結論になるというのが,我々の理解でございます。


● 乙案にとってもそういう--。
● 乙案がそうなるわけですね。乙案がこうおっしゃったように別途の合意ですから,譲渡人は残るけれども譲受人はないということになります。


● ほかにいかがでしょうか。
  私の理解では,この部会の中では今まで御発言いただいた方の中では,甲案の支持よりも乙案の方が多かったように思いますが,そういう理解でよろしいでしょうか。


  まだこれは恐らく,○○委員あるいは○○委員,甲案の方がいいという御意見をきょうも表明されましたが,それがパブリック・コメントの中は半々だったかもしれませんけれども,そのパブリック・コメントを踏まえた上でも,きょうは○○幹事が乙案の方が適当であるという意見を表明されました。

ほかの方々は,特に御意見を判明されませんでしたけれども,乙案が適当であるという御意見だというふうに理解させていただいてよろしいでしょうか。


  それじゃあ,これはきょう最終的な決定をするというわけではございませんけれども,いろいろな後のたてつけというんでしょうか,ほかの関連もありまして,放棄のところとかいろいろなところに影響しますので,基本的には乙案をベースにしてこれからほかの点も詰めていきたいというふうに思います。


よろしいでしょうか。
  ほかの点については,いかがでございましょう。今の32が一番大きな争点の1つだったわけですが,そこは解決したとして,37,39あたりはいかがでしょうか。


  これも先ほど一応事務局から説明がありましたが,その説明を了承するということでよろしゅうございますか。


  じゃあ,そういうことで37,39は御承認いただいたというふうに考えたいと思います。

  それでは先にいきましょうか。
● では次は,受益権の譲渡と消滅時効につきまして,御説明を申し上げます。
  第48,27ページからでございます。試案につきましては,次にあります2点を除きまして,賛成意見が大多数を占めましたので,これから申し上げます点について御異論がなければ,試案をそのまま維持するということとしたいと思います。

  まず,試案の3に関しまして,受益権の譲渡の場合においても,異議をとどめない承諾に抗弁切断の効果を認めるべきであるという意見がございました。

しかし,受益権の性質を権利義務の総体と位置づけた場合というか,今の一応のまとめですと,権利の相対と位置づけるという方向性でございますが,その場合でも単純な指名債権の場合と異なりまして,受益権というのは性質・内容の異なる各種の権利を包含するものでございますので,契約上の地位の移転の場合に準じまして,抗弁切断の効力を付与しないということも十分にあり得ると思われます。

また,仮に承諾に異議をとどめない限り抗弁が切断とされるといたしますと,受託者としては抗弁を承継させるためには,受益権の包含する権利総てに関して,いちいち異議をとどめる必要があることになりまして,受託者に相応の負担を課すことになると思われます。


また,異議をとどめない限り抗弁が切断されるとしますと,例えば信託行為が無効であって受益権が発生しない場合におきましても,受託者はその瑕疵を対抗することができないということになりまして,そのような結論というのは受益証券の有因性となじまないという指摘があり得るところでございます。


  これらの事情にかんがみますと,受益権譲渡の場合には,受託者の抗弁は常に承継されるとの試案の考え方が相当であって,反対意見は採用しないとすることでよいと思われるがいかがでしょうか,というのが第1点でございます。


  次に,試案の1の(2)につきまして,受益権の譲渡に関する信託行為の別段の定めを対抗できない第三者の要件について,善意に加えて無重過失,重過失がないことを要請すべきであるとの意見がございました。


ところで,この第三者について,善意のみならず無重過失が必要とされるという考え方自体には異論はございません。


しかし,指名債権の譲渡に関する民法466条2項におきまして,譲渡禁止特約を対抗できない第三者に当たるためには,善意のみならず無重過失を要すると判例上解されておりますが,その上で同項は現代語化された後も,善意とのみ規定されておりまして,そうしますと試案のとおり,善意とのみに規律しても,ここに無重過失まで読み込むことは当然に可能でありますし,民法の規定にも平仄が合うと思います。


そこで,試案を維持して無重過失の要件を明文化しないということでよろしいのではないかと思われます。


以上につきまして,御異論がなければ原案維持ということにしたいと思います。

  次に,29ページの消滅時効の点でございますが,試案につきまして,次の3点を除いて賛成意見が大勢を占めております。

  まず,第1に残余財産に関する権利の消滅時効に関する試案の2につきまして,信託終了後の帰属権利者の権利に関しては,残余財産が金銭以外の財産権である場合には,帰属権利者に所有権が移転して,帰属権利者が所有権に基づく物権的請求権を有することになりますが,物権的請求権が消滅時効にかかるか否かについては,消極的に解する見解が有力であるという疑問の指摘がございました。


試案におきまして,消滅時効にかかる残余財産分配請求権として観念しておりましたものは,あくまでも受益債権と同列に論ずべきものでありまして,つまり債権的な信託財産の給付請求権でありましたが,その趣旨を明確にするためには,試案では残余財産に関する権利としておりましたところを,残余財産の給付に関する債権と改めて明確化してはどうかと考えるものでございます。

  次に,試案の1(2)につきまして,通知だけではなくて権利行使の催告も必要とすべきであるという意見がございました。しかし,受益債権の消滅というのは,あくまでも消滅時効の援用によって生ずるものでございまして,通知に対する受益者の不回答によって生ずるものではありませんので,権利消滅の前提として権利行使の催告を要するという,論理的な関係にはないと言えます。


また,受託者にこのような通知義務を要求しましたのは,受益者に対する忠実義務ないし公平義務を負っている受託者の地位にかんがみまして,本来禁止されるべきものとは言えない時効援用権に付随して,いわば最低限の義務を課したにとどまりまして,それ以上に受託者の負担を重くする必要性があるかは疑問でございます。


さらに受益債権の存在及び内容の通知に加えて,権利行使の催告まで行うということをするか否かによって,受益者の利益に大きな違いが生ずるとも考えがたいところでございます。


そこで,権利行使の催告も必要であるという意見は,採用しないということでよろしいのではないかと思われますが,御意見を賜れればと存じます。


  最後に,1の(3)に関しまして,受益者の所在不明以外に正当な理由があるという場合は想定できないから,正当な理由は削除すべきであるという意見がございました。


しかし,この資料の31ページの①,②で挙げた事例など,事情のいかんによりましては,常に受益者に対する通知義務を課すことが相当ではないと思われる場合もあるわけでございまして,そうしますと,所在不明以外にも正当な理由がある場合には通知不要とする規律を設けることに合理性があると考えられます。

そこで,正当な理由がある場合を削除すべきとする意見につきましても,採用しないということでいきたいと考えておりますが,御意見を賜れればと存じます。
  以上でございます。


● それでは,ここまでで御意見を伺いたいと思います。
  はい。では,○○幹事。


● ここで聞くことではないのかもしれないんですが,48の受益権の譲渡の3の抗弁の話で確認させていただきたいんですが,これ有価証券が出た場合というのは,どう考えているんでしょうか。


有価証券のところを見たら,抗弁の話は全く書いていないように記憶しているんですけれども。


たしか67なんですけれども。この考え方は基本的にそのまま有価証券ででも当てはまるとお考えなんでしょうね,多分。つまり,理由づけが一体として地位を譲り受ける,包括承継的な性格なんだというんであれば,その譲り受けのやり方が有価証券であろうが,この民法の債権上と類似--類似と言ったのは,包括承継的な性格があるから,そう言ったんですけれども--それであろうが同じで,ただ善意取得についてだけ,証券の所持に基づく権利者としての推定が働くからそこは違うと。そういうふうに理解したんですが,それでよろしいんでしょうか。


● そういう御理解で結構かと存じます。
● 受益権の譲渡に関してはよろしいですか。
  それでは今,○○幹事が指摘されたのが,もちろんこの前提になっている理解ですけれども,それも含めまして,受益権の譲渡48についてを御承認いただいたというふうにしたいと思います。52の時効はいかがでしょうか。


若干の改正部分がありますけれども。
  はい,どうぞ。

● 本文については,これで結構かと思います。1つだけ御質問ないし御確認なんですが,31ページに正当な理由の例を2つ挙げておられますが,そのうちの第1の例の方なんですけれども,最終計算の承認行為があった後は云々とありますけれども,これは試案でいうと58信託の清算についての6の最終計算を指しているのでしょうか。


そうだとしますと,それに伴う免責の効果があることになると思いますが,それと時効との関係はどうなのかということです。

  もう1つ,この①についてより一般的なことなんですが,信託行為で定めることによって,その時効あるいは援用に伴う忠実義務の規範をどこまで自由に変えることができるのか,という問題がさらにあると思います。


そういう意味で,①については少しわかりにくいことがあると思いますので,御説明いただければと思います。


● はい,いかがでしょうか。
● ①の例というのは,おっしゃるとおりでたしかに信託行為でどのような定めを置いた場合に,それがそのまま正当な理由として認められるかどうかというところの1つの問題だろうと思います。


最終計算の局面のところで,確かに免責というのは入っておりますけれども,私どもの理解ではここでの免責は,若干範囲狭いものではないかというふうに考えておりまして,つまりどのような責任でも免責されるわけではない,ということになりますと,それと並存的にあらかじめ受託者が信託行為の中で消滅時効も--共益債権についてということになるんだろうと思いますけれども--定めておくということもあっていいのではないかなというふうに考えて,ここではとりあえず例に挙げたと。


つまり,そういうことを受託者サイドとして現実的にやるのではないかと,やり得るのかなということで,とりあえず書いたというところでございます。


  じゃあそれを越えて,今はこのような信託行為の歯どめを例に挙げたのですけれども,じゃあ一体どのような例がそのほかにも許容されるかというのは,ちょっとなかなか一概には申し上げにくいところはありまして。信託行為で消滅時効の援用を自由にできますという例を挙げていないのは,何でもかんでもというわけにはいかないのだろうなというのが,1つの判断ではあった。


ただ,じゃあどのような条件でというところまでは,ちょっとまだ解釈に委ねざるを得ないのかなというようなところで考えていたということでございますが。


● 今の御説明の中で,最終決算に伴う免責の効果については,またその部分で具体的に検討すればよろしいかと思います。


それから,信託行為に定めれば何でもこの時効に関する規範を左右できる,というのは適当ではないという御説明は,私もそのとおりだと思うんですが,であればこそ,①の例というのよりも,もう少しほかの例の方がいいんじゃないかなという気がいたします。

● わかりました。これはちょっと適当な例に考える,変えるかどうかね。
  ほかに御意見ございますか。
  はい,どうぞ。


● 何回か出た話の蒸し返しのようで恐縮なんですが,これ消滅時効,時効消滅したときには,その弁済の事実があるにもかかわらず,それを証する資料がないという場合は別なんですけれども,弁済していないんだけれども期間が経過したということで,かつそれを消滅時効を援用したという場合には,その財産は信託財産ではなくなるんですか。


当該その受益者がそのときに給付する権利がなくなるだけ,給付を請求する権利がなくなるだけであって,信託財産であることの性質は変わらないんでしょうか。


● 一番端的に申しますと,受益債権について受益者が放棄したのと同じ状態になるんだと思っておりまして,そうしますと,信託財産性というのが失われるということではなくて,それに対して実質的な次順位の方が取り分をとられるということになっており,例えば残余財産として,残余財産を帰属権利者にいくとか,そういうような関係になるんだというふうに整理しております。


● それが適当だと思いますね。よろしいでしょうか。
  それでは,52の消滅時効のところも御承認をいただいたというふうに考えたいと思います。


  それでは,先にいきましょう。
● では,続きまして遺言信託と契約信託の問題,第63と第64についてでございます。


  まず第63の36ページ以下でございますが,パブリック・コメントによりますと,遺言による信託設定を許容する試案に対しては,1件反対意見がありましたが,それ以外は賛成意見であったということ。


それから3につきましては,受託者の選任請求に関するものでございますが,反対意見はなかったので,1,3についてはいずれも原案どおりとしたいと思っております。


問題は2でございますが,これはやはり実質的にも意見が同数にわかれたところでございます。


  ところで,この甲案と乙案,補足説明にもいろいろ書かせていただきましたが,ちょっと切り口を変えて御説明しますと,まず委託者の地位が相続になじむか否かという法的性質論から考えてみますと,資料の37ページのイ以下に書きましたとおり,遺言信託における委託者の地位は,その性質上相続になじまないという乙案のA説の考え方と,それから遺言信託における委託者の地位についても民法の一般原則と異なるところはなくて,その性質上は相続の対象となるという乙案B説の考え方,それから当然ながら甲案の考え方とに分けることができると思われます。


その上で,この乙案A説によりますと,委託者の意思を介した説明をするのではなくて,そもそも委託者の地位の相続性を否定してしまいますので,法律行為の当時者としての地位,例えば詐欺を理由とする取消権や信託財産の受託者への引き渡し義務といったものが観念できると思われますが,こういうものあるいは信託法上の法定帰属権利者としての地位も承継されないこととするのか,仮に相続される権利義務があるとすると,その区別の基準や承継の法的根拠--相続ではないとするとどういう根拠で承継されるのか--というような問題について解決する必要が生じてくると思われます。


  一方,委託者の地位の法的相続性を肯定する甲案と乙案のB説では,このような問題は生じてこないと思われるわけですが,この両者の結論としては,正反対となりますのは,法的性質論とは別に,受益者と委託者の相続人との利害関係にかんがみまして,委託者の通常の意思をどのように考えるかについての実質論からの違いから生ずるものと思われます。


つまり甲案におきましては,委託者の相続人も委託者の地位を相続により承継することを原則とした上で,受益者との利害対立の恐れを回避するために必要があるのであれば,被相続人としては,信託行為である遺言において委託者の権利を縮減ないし消滅させるという定めを置けば足りるというふうに考えるものと思われます。

これに対して乙案B説によりますと,委託者の相続人と受益者とは信託財産に関して類型的に利害が対立する関係がある,という理解を前提といたしまして,被相続人の合理的な意思というのは,委託者の相続人に委託者の地位を承継させないということを,類型的に意図しているとみるのが相当である,としまして,このように委託者の意思の推定のもとに,原則として委託者の死亡を契機として,法的帰属権利者としての地位以外の委託者の権利義務を喪失する,という定めが置かれていると,いわば擬制するものと言えると思われます。

  それから次に,委託者の相続人は委託者の権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとします,結論において共通するこの乙案A説とB説でございますが,信託行為の定めによってデフォルト・ルールと異なる取り扱いをしようとする場合の説明の仕方が異なってくると考えられます。


つまり,乙案B説におきましては,委託者の地位の相続性自体は肯定するものでありますところ,委託者の相続人が委託者の地位を有しないことをデフォルト・ルールとするのは,あくまでも委託者の意思を推定したことによるものに過ぎませんので,委託者が信託行為である遺言において明示的に相続人は委託者の権利義務を有するということになるということ。


つまり,相続を契機として委託者の権利義務が消滅するということはない,ということを定めれば,この定めが優先しまして,民法の一般原則に戻って相続人が委託者の地位を承継することとなると。


このように被相続人の意思を介した説明が可能であると思われます。正確に申しますと,ここでの信託行為の定めは,権利の相続性という属性を決定しているのではなくて,相続されるべき権利の範囲を信託行為によって決定しているのでありまして,あとは一般的な相続のルールにのるというふうに考えているわけでございます。

  なお,パブリック・コメントにおきましては,乙案を支持する見解の中でも,このB説のように委託者の地位を相続性自体を否定するのではなくて,委託者の通常の意思を推定に根拠を求める見解が多かったという印象でございます。
 

 これに対しまして,乙案A説によりますと,そもそも相続性を否定しますので,委託者が信託行為である遺言におきまして,相続人に権利義務を付与すると定めた場合におきまして,遺言によっているにもかかわらず相続以外の理由,つまり第三者のためにする契約というような特殊な法律行為として相続人が委託者の権利義務を原始的に取得するのだというように説明すると思われます。


しかし,この考え方につきましては,かなり技巧的な法解釈をとることが妥当であるかどうか。あるいは私人が遺言によって裁判所に対する権利を創設することになるということになりますが,このようなことが説明可能であるのか。


仮に相続人が委託者の権利義務を欲しないときに,相続放棄ではないわけですので,いかなる方法が可能であるかなどの問題を解決する必要が生じてくるというふうに思われるところでございます。


以上が乙案A説の場合の難点という感触でございます。
  次に,第64の契約による私益信託における委託者の相続人の権利義務につきましてでございますが,これも同様に甲案,乙案を挙げておりますけれども,パブリック・コメントの結果といたしましては,委託者の信託上の地位の相続承継を原則として肯定する甲案の方が優勢でございました。

それぞれの理由として述べているところは,この39ページに書かせていただいているとおりでございます。これも法的性質論から分析いたしますと,この資料の41ページの(3)というところに書いてございますけれども,委託者の地位はその性質上相続性になじまないとする乙案のA説の考え方と,相続性自体は問題ないと,対象となるという乙案B説の考え方と,甲案の考え方にわかれるということになると思います。

  なお,この資料におきましては,42ページの「いずれにしても--」以下に書いているところでございますが,これは基本的な視点でございますけれども,委託者の地位の相続性という法的性質論に関する限りは,遺言信託の場合と契約信託の場合とで特段区別される点はなくて,両者は統一的に解されるべきであると考えているわけでございます。


委託者の地位がその性質上,相続になじむかどうかということ。つまり,帰属上の一身専属性があるかどうかということは,設定方法によって変わることはなくて,あとは委託者の相続人と受益者との利害関係の相反性という実質的な点を考慮して,相続されるかどうかを決定することになると考えられるわけでございます。


その上で,委託者の地位の相続性を否定する乙案のA説の考え方によりますと,すべての権利義務の承継が否定されるのか,承継される権利義務があるとすればその区別や承継の法的根拠は何かという問題が生ずることにつきまして,先ほど述べさせていただいたとおりでございます。
 

 次に,委託者の地位の相続性を肯定する点において共通する甲案と乙案B説が,結論として正反対になることにつきましても,性質論から離れた実質論から生じるものであるということは,先ほど述べたところと同様でございます。


  また,委託者の相続人が権利義務を有しないことをデフォルト・ルールとする結論において共通する乙案のA説とB説におきまして,信託行為の定めによって異なる取り扱いをする場合の説明の仕方が異なってくるということ。

特に原則として相続性を否定した上で,しかし契約信託において権利義務を付与するという定めをした場合に,若干特殊な説明を必要とすることになるという点も,遺言信託に関して述べたところと同様でございます。

  なお,特に遺言信託ではなくて,契約信託の場合におきまして,乙案B説のような考え方,つまり法的性質論としては地位の相続性を肯定するものの,実質的観点から委託者の地位の承継を否定するという考え方,これが相当であるかどうかという点につきましては,このような前提となる理解が,自益信託の場合にも妥当するのかどうか,他益信託の場合についても信託の経済的利害,信託が経済的利益に基づいて設定されている場合ですとか,公益,準公益や扶養目的として設定されている場合には,相続人による権利行使を認める方が目的達成のためには望ましく,委託者自身にもかなうのではないか。


あるいは委託者の地位の承継を実質的に否定する考え方というのは,委託者の地位の移転を認める考え方との平仄が果たして合うのであろうか。


さらに言えば,委託者の相続人による不適切な権利行使が懸念されるという点は,遺言信託ではなくて契約による信託による場合においても,委託者の地位の相続を意図しないことが一般的であると類型的に推定するに足りるほどの社会的事実があるものと言えるか等の問題点をクリアする必要があると思われるところでございます。


これが契約の場合には,特に乙案をとった場合に特に検討する必要があると思われる点についてのお話でございます。


  次に,第53のところに戻りますが,試案に対しましては以下の3点を除きまして,賛成意見が大勢を占めております。32ページ以下でございます。


  まず試案では,委託者の権利を基本的に現行法よりも後退させる考え方をとっているのに対しまして,これとは逆に,委託者に原則として従来どおりの権利を残すべきであるとの意見がございました。


もともと信託においては,委託者が受託者を選任したのであって,信認関係も委託者と受託者間にあったのだから委託者の方が監督に適切である,というような理由を挙げるものでございます。

しかし,受益者の保護をいう点につきましては,試案の考え方におきましても,委託者としては信託行為に定めを設けて監督的権能を留保することができるということに加えまして,法定代理人が受益者の利益を代弁することも可能であると思われます。


また,受託者が委託者との間においても信認関係を有することを否定するわけではないのですが,委託者と受益者の意見衝突を避けて,信託の運営を効率化させるためには,委託者の権利と受益者の権利のいずれか一方を尊重する選択をせざるを得ないわけでございますが,信託の設定後は受益者こそが当該信託にもっとも強い利害関係を有すると考えられることにかんがみますと,受益者の権利の方を後退させるのは適当ではなくて,委託者の権利の方を後退させる方が妥当であると思われます。

これらの事情にかんがみまして,試案の考え方を従来どおり維持したいと考えております。


  第2に,別表の権利のうち,4の説明請求権と6と12の差止請求権につきまして,原則として委託者にも付与すべきであると。

試案では,デフォルト・ルールとしてはなしとしておりましたが,デフォルト・ルールとしてありとすべきであるという意見がございました。


ところで,この6と12の差止請求権につきましては,資料34ページに書きました理由によりまして,試案どおり委託者には原則として付与しないということでよいと思われます。


これに対しまして,4の説明請求権につきましては,これまで原則として認めておりました21の信託財産に関する書類の閲覧請求権に加えて,この信託事務の処理の状況に関する報告を受ける権利というのを,原則として認めることによりまして,委託者としては信託財産の状況のみならず信託事務の処理の状況も合わせて,信託の概況全体を把握できることになりまして,信託目的の設定者によりふさわしい地位を有することになると思われます。


つまり,信託の委任的側面として信託事務の処理の状況の報告を受ける権利というのを認め,財産的側面として信託財産の状況に関する書類の閲覧請求権を原則として有する,ということになるわけでございます。

そこでこの4につきましては,試案を改めましてデフォルト・ルールとして,委託者が有する権利と位置づけるべきと考えるところでございます。


  第3に,委託者の地位の移転に関しまして,試案に明記しておりました信託当事者全員の合意を得て移転する方法に加えまして,信託行為の定めによって移転することもできることを明記すべきであると,いう意見がございました。


この資料でいいますと,本文の2に関するところでございますけれども,この意見につきましては,補足説明でも実は備考欄の注で付記していたところでございますが,信託行為の定めに従って委託者の地位の移転を否定する理由はないと思われますので,これを本文中に明記することとしてはどうかと考えるところでございます。

● それでは,委託者に関連する問題ですけれども,53からいかがでしょうか。
  

53のところは,ある意味で原案的というんでしょうか,修正も含めて原案という形で出ているわけですが,遺言信託のこの63の2のところ,甲案と乙案が出ておりますし,また64のところも契約による私益信託の場合においての,委託者の,相続人の権利義務です。


これも甲案と乙案がございますので,これは皆さんの御意見を伺って決めていきたいと考えております。


  私の記憶も余りはっきりはしませんけれども,私がまとめることに対して御異論があれば,また御異論いただきたいと思いますけれども。


  委託者の地位につきまして,遺言信託に関しては,これは最後の甲案,乙案をとるかとは別にですね,遺言信託の場合の相続人というのは遺言者,つまり信託を設定した遺言者としたがってまたさらに言えば受益者と,利害対立する関係にあるので,相続人には権利を与えない方がいいのではないかという御意見が多かったように思います。


そのときの法律構成の仕方として,ここはいろいろな御意見があったと思いますけれども,一切委託者の地位というものを相続しないんだと,遺言信託の場合ですけれどもね,そういう考え方と,これは今甲案ですが,それから乙案のように一応相続性を否定するわけではないけれども,遺言者の意思,委託者の意思というのは相続人に権利を与えないことだというふうに考えて,結局相続人には権利義務を与えないという立場と,両方あり得る。


今のが乙案のB説ですけれども,これは必ずしも十分ここでは御議論はいただいてないように思います。


しかし,まあ結論は今申し上げたように,少なくとも遺言信託の場合については,委託者の相続人には権利義務を与えない方がいいのではないかという御意見であったのではないかと思いますが,いかがでしょうか。


  今のまとめ方でよろしかったかな。
  どうぞ,では○○委員。

● 意見が出ないので,今の乙案B説に賛成します。これは遺言者の意思からすれば,相続人に承継させないと。そういう意思であると。


だから乙案のA説の方は,理屈がやっぱり難しくなってしまう。Bの方は信託行為の定めで承継させることもできるんだという,そういう設定ですから,大変合理的でいいかと思います。


● どうもありがとうございました。
  ほかに御意見ありますでしょうか。


  私も個人的には,乙案のB説がいいのではないかというふうに思います。ただ,その何かやっぱり規定が必要なのかなと。つまり,遺言の解釈だけで一般論として,相続性があるというのを前提でなるべく,だけど遺言者の意思を根拠にして,一般的な意思を根拠にして,委託者の相続人に委託者の権利義務を与えない,相続させないというわけですが。


何か規定が,そういうことを可能にする規定が信託法の中に必要なのかもしれない,というふうに思うんですね。単に解釈だけでそういけるかというと,ちょっとそこは危惧をしているところなんですが,この点についても何か御意見があればと思いますが。


  これはどうですかね。何か--。
● 事務局としても,遺言信託だったら当然そうだというふうに読み込むのはなかなか難しいので,乙案B説の場合でも,規定があった方がいいんではないかなという感触を持っているところでございます。


将来的には,法制的なことですが,そういう印象でございます。
● そういうことでよろしいですか。
  では,余り反対はなさそうでございますので,今の乙案のB説でいくということで,何か適当な規定も考える。

  生前のといいますか,契約による私益信託の場合の甲案,乙案はいかがでしょうか。パブリック・コメントとしては甲案の方が多かったということですね。

それから説明の仕方,それから実質を考えても,甲案の方が支持者が多かったようでございます。この部会では--ちょっと私もはっきり覚えておりませんけれども--甲案を積極的に否定される方は,そんなに多くはなかったように思いますね。

  じゃあ,どちらがいいかということを理由づけは結構ですけれども,御意見だけでもいただかないと方向が決まらない。

  指名してあれですけれども,○○幹事,いかがですか。

● 私は実を申しますと,遺言信託においても,そんなにA説がとれないものかなという感じがして,実を言うとそういう気はしておりまして,相続人が何らかの権利取得をするというのも,相続人という立場にある人にそのような権利義務を認めるということで,いろいろ説明はつくんじゃないかという気は,実はしておったのですが,しかし乙案であることにかわりはありませんので,B説でということであればB説でもよろしいかなというふうに思っております。


  ただ,恐らくA説かB説かというのは,この契約による設定の場合に,もう少し変わってくるところがあるのかなという気がしておりますが,ただ,そうですね--。


● 整合性を考えなくてはいけないところがあるかもしれませんね。

● はい。むしろ結論を先にありきなのかもしれませんけれども。
● そんな結論はありません,こちらとしては。


● 私自身は,もうちょっと理論的な説明のところをおきますと,かなり委託者の意思というものが相当に尊重されていい話ではないかという気がしておりまして,委託者自身がもう自分で終わりたいというのであれば終わらせ,別の人に移転したいというのであれば,別の人に移転させるということでいいのではないかというふうに考えておるのですけれども,ただ一方で,委託者の地位の移転のところで,他の委託者,受益者及び受託者の同意を得て移転することを妨げないということですから,基本的に全関係者の同意を得ないと誰に自分の地位を承継させたいかということは決められないという設定になっており,かつ大もとのところ,それをやりたくなければ信託行為のところであらかじめ定めておいて,委託者の一方的な意思表示によって移転できるとか,そういうふうに定めておくという法制なので,そう委託者自身の意思が最大限尊重されるというようなことには,全体としてなっていない。


ある程度制約がかかってくるという仕組みなんだろうと思っていまして,それが本当にいいのか,っていう気にはなっているのですが。そうですね--。


● それは遺言信託の場合は,遺言者が自分で信託を設定するときにあらわす意思であるから,それはその委託者の地位を後から移転する場合と違って,その意思だけを考えればいいということで済むわけですよね。

● 自分は抜けるわけですので,最初から別の人しかあり得ないわけですから,別の人に最初から設定できるという想定ですよね。


その際はやはり,相続人でしかやっぱりあり得ないかというと,第三者を指定してもよろしいわけでしょうか。委託者としての各種の監督権限はだれだれに与えるという,信託行為で決めてよろしいものでしょうか。


● 不可能じゃないかもしれないですね。
● 可能かどうかによって,また違ってくるのかなという気はしているんですけれども。


● 委託者の地位を承継させるというのは,それはちょっと違うと思いますけれども,信託行為の中で委託者が持っているような権限を,信託行為としてだれに与えるかというのは,全く不可能ではないような気がしますけれどもね。


● 恐らく今言われたのは,それこそ細分化すれば,損失てん補はこの人を委託者として,また解任の申立権はこの人を委託者として,というようなことが可能になるんだとすると,まだそこまでは言えないんだろうと思いますけれども。


● 委託者なのかどうかね,それが。いろいろな権限を与えるということは可能性があるような気がするけど--。


● そこを自由に決められるのであれば,もう相続も否定してしまって,意思一本でというふうに実は考えていたのですけれども,そこは委託者の地位としてはもちろん別で,ある程度相対であって,かつ全体として移っていくとすると,相続による承継をするというのでもいいのかなという程度なんですが。すみません,ごちゃごちゃと申し上げながら。

委託者の地位という点では,無理だろうということでしょうかね。ですから,自分はこれだけ持っているけど,相続人に対してはこの半分しか与えないとか,そんなことは基本的にできないという--。


● 個別的に委託者の地位の,地位に含まれるような各種の権利ございますけれども,そのうちの一部だけ個別に承継させるというのは,相続人でありましたり,それから個別の承継がもちろん念頭に置かれると思いますけれども,そういった切り売りのようなものではなくて,地位に基づいて各種の権利を法律上認めているということだと思いますので,ある程度の一体性というものが必要だという理解をしております。

● ありがとうございます。

● 最後,結論がよくわからなかった,契約の場合はどういうことになるんですか。関連するということだったと思いますけれども。


● いや,そうであるでの法理でよろしいんじゃないかと。

● ほかに何か御意見がございますでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 私ども自身,別にどっちの案ということではないんですけれども,単なる関心なのかも,ちょっと御確認したいところがございまして,それは法律関係が複雑になるのか,ならないかということについて,僕の意見でもありましたのでちょっとその観点から御質問したいんですけれども。仮に承継された場合に,複数になると思うんですけれども,その複数,多分2人とか3人とか承継された場合に,監督権を行使する場合には共同して行うことになるんでしょうか。


それとも一種の共有というふうに考えて,監督権の行使というのが管理権みたいなものだから,おのおの1人ずつが係る監督権を行使できるというふうになるんでしょうか。


そうするのであれば,結局受託者からすると,監督権を行使される人がふえてしまうと,そういう単純な整理ということでよろしいんでしょうか。


● 準共有っていうふうになるんだと思いますけれどもね。だから全員でという。相続人が数人いたときには,委託者の地位の権利行使をするときには,まとまってしなくちゃいけないということになるんだと思います。


内部でどういうふうに決めるかはまた別ですけれどもね,多数決で決めたいかどうかは,その内部で決めることができると思いますけれども,合意がなければ準共有ということで説明すると思います。

● だから,受託者の側の権利を行使するときにも全員でという。

● 恐らく,例えば書類帳簿閲覧請求権みたいな,単独で行使しようと思えばできなくはないのがありますけれども,これもやっぱりまとまっていくんだというふうに思いますけどね。僕はそう思うけれども,どうなんですか。

● 基本になるのはそうかなと思いました。あとはちょっと考えたこともないんですが,その権利の性質によって果たして処分までいくものなのか,管理的なものなのかによってわかれてくるのかなと。


帳簿ぐらいですとどうでしょうかね。管理行為だったら過半数とか,あるいは保存行為だったら1人でもできるでしたでしょうか。そこら辺は権利の性質によってではないかなという気がいたします。

一概にはちょっと言えないですが。基本になるのはそうだと思います。

● 私が余りリードしては,本当にそれほど強いどっちかっていうわけじゃないので。皆さんの御意見を伺って決めたいと思いますけれども。今の何人かの御意見は,契約の場合は甲案で構わないという,そういう御意見だというふうに変わってよろしいでしょうか。

  それでは,規約64の場合には甲案で,それから遺言の場合には乙案のBという線でいければと思います。そういうふうに組み合わせをとったときに,先ほど○○幹事が言われた整合性の観点から言えば,一応相続性はあるというもとで扱いますので,整合性はとれているということになりますね。

  それでよければ,じゃあ残りの最後のところで。

● すみません,53に一言言いたいんですけれども,受託者の権利義務ということで,今回説明請求権をこのデフォルト・ルールで認めていただくということでいただいているんですけれども,先ほどちょっと話も出たところなんですけれども,帳簿閲覧請求権はどうでしょうかということなんですけれども。


これは委託者の立場で何か問題があったときに,とり得る対応を考えたときに,説明請求権を行使して説明を受けるというのが,まず第1段階あると思うんですけれども,その次にとり得る手段というのが,考えられるところが,受託者監督人を選任するか,あるいはその解任とかいうことになるとちょっとドラスティックなところにいきなりいってしまうような気がしておりまして。

できれば,その帳簿等を見られると助かるかなという気がしておるんですけれども。その点,もし御検討いただけると助かるかなという気がしますが。


● 今の説明請求権と帳簿のところございますけれども,こちらの方ではパブリック・コメントに付された意見も踏まえて,意見の方も説明を求めるという方だけで,帳簿などの細かい資料についての閲覧というのはさすがに行き過ぎだろうという,恐らくそういう御判断で意見が寄せられていましたものですから,それに従ったというのが1つと,もちろんそれに加えて,じゃあもう一歩進んだらどうかという点も問題になります。


  その点については,こちらでももちろん検討はしたわけなんですけれども,やはり信託についての状況を知りたい,ということについては,契約当事者ですので当然に付与しましょうという判断は適当だろうと思っているんですが,それに加えて,信託についてのその先にある帳簿ですとか細かいような資料になりますと,これについては,信託によってはかなりのものがいろいろ出てきたりしますので,信託が大きな信託,あるいは商事的な信託ということになるのかもしれませんけれども,そこにはやっぱり受託者の負担という点もあるのかもしれませんし,利害対立あるいはそういったもろもろの委託者の地位について後退させるとしたことについての,制度的な理由かと思うんですけれども,そういったものがあり,信託についての説明を求めるというのと,やはり帳簿その他のものについて閲覧あるいは謄写をさせるというのとでは扱いを変えた方が,今回の委託者に関する全体の考え方の中ではふさわしいのではないかなというふうに考えたというところでございますが。

● 今のは説明ではありますけれども,何かさらにもし御意見があれば。

● 全体の御意見のあれでしょうから,この点には余りこだわろうという気はないんですけれども,実際上のことを考えるとその方が助かるかなという気がちょっとしておるという,意見だけ申し上げさせていただければと思います。


● 御意見を伺って,もし検討してみて委託者も加えた方がいいということになれば,また提示いたしますが,一応原案ということでよろしいでしょうか。

  それじゃあ,次いきましょう。

● 受益者が複数の場合の権利の関係でございまして,提案1というのは,受益者が複数の場合における損失てん補請求権と原状回復請求権につきまして,資料ですと45ページの(注2)のとおりに,各請求権がいわゆる単独受益者権であるという考え方をとることを前提といたしまして,ある特定の任務違反行為について,受益者ごとに別々の請求権を行使した場合に,受託者がいずれの義務を履行すべきかという点について検討したものでございます。


ですから,(注2)が前提となっております。
  ところで,信託における受託者というのは,信託の本旨に従いまして,信託財産をあるべき姿で管理処分することが求められていると思われます。


そこで,みずからの任務違反行為によって信託財産に損失及び変更を生じさせた受託者としましては,受益者に対して信託財産をあるべき姿に戻すこと,すなわち信託財産の原状を回復することをその債務の内容として負担しているものと思われます。


そうすると,原状を回復請求権と損失てん補請求権とが競合して行使された場合は,原状回復請求ができないとする特別の事情がない限り,原状回復請求が優先するものと考えるのが相当であると思われるわけでございます。


そこで両者が競合して行使された場合には,提案1のとおり受託者は原則として原状回復義務を履行することを要しまして,その上でなお信託財産に損失が生じております場合には,資料45ページの(注1)に書きましたとおり,その損失についてさらに損失てん補義務を履行すべきこととなるとしてはどうかと考えるものでございます。


  次に,提案2でございますが,一部の受益者から損失てん補請求がされた受託者がとることのできる対応について,検討したものでございます。


原状回復の優先性を前提といたしますと,一部の受益者の損失てん補請求に応じて,受託者が損失てん補義務を履行してしまった場合に,他の受益者はもはや原状回復請求をすることができないとの考え方をとるのは妥当ではないと思われます。


その反面,受託者が自発的ではなくて請求に応じて,損失てん補義務を履行した場合においても,その後に原状回復請求権がなされれば,受託者は常に原状回復にも応じざるを得ないといたしますと,受託者は二重に義務履行を強いられることになりまして,酷に失すると思われるわけでございます。


そこで,一部の受益者から損失てん補請求権を受けた受託者は,この義務を二重に履行せざるを得なくなる事態を避けるために,提案2のとおり,他の受益者に対して原状回復請求をするかどうかを催告することができるといたしまして,催告に対して回答しない受益者は,もはや原状回復請求をすることはできなくなるとしてはどうかと考えているわけでございます。
  


ところで,視点を変えて付言いたしますと,受益者からの請求のされ方については,どちらもまだ何も請求されていない場合,それから一部の受益者から原状回復請求されている場合,全部の受益者から原状回復請求がされている場合,一部の受益者から損失てん補請求がされている場合,全部の受益者から損失てん補請求がされている場合と,こういう5通りがあると思われるわけでございます。

まず,提案1で述べましたような優先性からいたしますと,一部または全部の受益者から原状回復請求がされていれば,受託者は原状回復義務を履行すべきことになると思われます。


そこで,まだどの受益者からも請求がない場合について,検討してみたところでございますが,この両請求というのは,いずれも受託者の任務違反行為に対する受益者の救済手段ですので,救済対象である受益者が原状回復ではなく損失てん補の方を望むのであれば,その意思を尊重するのが適当であるように思われるところでございます。


原状回復の優先性というのも,それは一般的には受益者の利益にかなうものと考えられることを根拠にするものですので,まずは救済対象である受益者の選択を尊重しつつ,選択が競合したときに原状回復の方を優先すればよいと考えるわけでございます。


  そうしますと,いまだ請求がない場合におきましても,受益者の選択の尊重ということを重視しますと,受託者としては受益者全員の意思をまずは確認するのが一貫した考え方ということになると思われますが,しかし請求が全くない段階におきまして,任務違反行為を自覚した受託者としてみずから責任を履行するのではなくて,あらかじめ受益者の意思を確認すべきだというのも,いささか違和感のあるところでございます。


そこで,いまだ請求がない場合におきましては,受益者の意思の尊重の要請を働かせるべき局面には至っていないものと考えまして,受託者において原状回復と損失てん補のいずれを履行することもできると考えてはどうかと思うわけでございます。


ただ,信託の性質と受益者の保護の要請からきます原状回復の優先性といいますのは,この場面でも尊重されるべきでございまして,損失てん補をしたものの後から原状回復請求がされた場合には,受託者は原状回復を履行せざるを得ないことになると思われるわけでございます。

そうすると,受託者としては二重の義務履行をしなければならなくなる危険性を回避するためには,原状回復の方を履行しておくべきことになろうと思われるわけでございます。


以上は,資料の45ページの(注3)というところの考え方でございまして,このように考えてはいかがかと思うわけでございます。


  そうすると,次に資料45ページの(注5)に書きましたとおり,全部の受益者から損失てん補請求のみがされていた場合について,それにもかかわらず受託者が原状回復の方を履行して損失てん補を免れることができるかという点が問題となってまいります。


もちろんこの場合,受託者としては損失てん補義務を履行しておけば,一切の責任を免れることになると思われますが,例えば任務に違反して信託財産の株式を売却したというような場合におきまして,任務違反行為のときの株価に比して現在の株価の方が下がっているというときには,受託者としては現状回復の方が得策だと判断する可能性があるわけでございます。

原状回復の優先性にかんがみますと,全部の受益者から損失てん補請求がされているとしても,なお受託者の方で原状回復の方を履行することが許されそうでございますし,受託者が現状回復をしてしまえば,結局損失の要件が欠けることになりまして,もはや損失てん補請求を追及し続けることができなくなると,いうようにも考えられるところでございます。

しかし他方,受益者の意思の尊重ということを重視すれば,全部の受益者が損失てん補請求をしているのに,受託者の方でいわば勝手に原状回復をするのは妥当でないように思われますし,原状回復がされれば,常に損失が回復されたものと言えるかという点につきましても,反対の見解があり得るところでございます。


このような(注5)の問題については,どのように考えたらよいかという点が,この(注5)の問題提起の趣旨でございます。なお,類似の問題は,一部の受益者のみから損失てん補請求が現にされている場合にも生ずると思われるところでございます。

  最後に,以上の説明でございますが,これは受益者に両請求権のいずれを行使するかの選択権があることを前提にしたものでございますが,これまでお話申し上げましたとおり,選択権があることに起因してかなり複雑な法律上の問題が生じてくることは否定できないところでございます。


そこで,資料46ページの(注6)に記載いたしましたとおり,法律関係の簡明化の観点などからいたしますと,受益者は原則として原状回復請求のみが可能であって,特別な事情がある場合には,逆に損失てん補請求のみが可能であるというふうにする考え方もあり得るところでございます。

この点につきましても,どのように考えるべきか,御意見を賜れればと思っております。
  以上でございます。


● それでは,この点について御意見を伺いたいと思います。なかなかこれを考えると難しい問題をたくさん含んでいるんですが,いかがでしょうか。

  はい,○○幹事。

● 難しいところで,何が問題なのかをちょっと突き止めたいという意味での質問をさせていただければと思います。

  これは前の第25で,15ページですが,の書きぶりをどうするかということで,先ほど指摘させていただいたところとも関係するかと思います。


要するに,原状回復請求と損失てん補請求,それぞれの内容がどういうものかということをもうちょっと詰めないと,難しくなるのかなと思います。


いずれにしましても,原状回復の優先性という御提案の考え方は,私も基本的にそれでよろしいかと思うんですが,それはあくまでも両者が重なる範囲内においてだと思うのですね。


ですから,重なるというのがどういう場面か。同一な任務違反行為に基づき,であっても,何て言うんでしょう,損失てん補請求の方からいいますと,原状回復請求にあるいは原状回復にかわる損失てん補というものと,原状回復をしてもなお残る損失のてん補というのがあり得るんだと思います。

請負でいいますと,修補と損害賠償の関係はまさにそうでして,修補にかわる損害賠償と,修補とともにする損害賠償というのは区別されておりますけれども,それと同じようなものがここでもあるのかなという気はいたします。


  ただ,原状回復としてどういうものをイメージするかによって,それがまた実際上は変わってくるのかもしれませんが,いずれにしましても,損失てん補に関して2つ分けられるとしますと,原状回復請求の優先性というのはあくまでも原状回復にかわる損失てん補と原状回復の関係に言えることであろうと。


原状回復とともにする,原状回復しても補われないような損失は,またそれとは別ではないかなという気がいたします。それがわかるような書きぶりをこの第71でもすべきかと思いますし,それが第25の書きぶりにもまたはね返ってくるのではないかなという気がいたします。


どうすればいいかというのは,なかなかちょっと具体的に御提案することができないんですけれども,そういったあたりが実は問題じゃないかなという気がいたしました。
  以上です。


● 全くそれはその点から同感ですが,規定の仕方を言われますけれども,○○幹事が今言われたように,原状回復とそれから損失てん補の優先性が問題になるのは,まさに重なっている部分だけであって,重なっていない部分は別途損失てん補が請求できると。


それは受益者が多数であっても同じであると。単独の場合はもちろんですけれども。という理解でよろしいんじゃないかと思います。具体的な何かいい例がもしあれば--。


● 具体的にいい例かどうかわかりませんけれども。
  例えば信託財産,ちょっと今ある例と違うかもしれませんけれども,信託財産に何か機械があってそれで何か生産していましたと,それでその機械が壊れてしまいましたと,したがって原状回復しろと言ってその機械を修理するなり設備を直すなり,新しい機械を入れるなりする,というのが1つの原状回復であると思うんですけれども,その壊れていた期間,それが稼動して売り上げが上がって利益があったじゃないか,というのはまた,その壊れていて放っておいたので,その間活動ができなくてその収益が落ちたじゃないか,というのはまた損失ということで追及できるというのが,いい例かどうかわかりませんが,それが1つの例かなと思います。


● はい。○○幹事。
● 今,○○幹事がおっしゃったことと矛盾することではないという趣旨で発言をしたいんですけれども,○○幹事は損失のてん補と現状の回復という効果の方からおっしゃいましたが,損失と変更というこの要件について,事務局がどう考えていらっしゃるのかというのを少し伺いたいと思います。


  例えば金銭がなくなった,盗まれたということが明らかだと,いうときにはこれどっちと言ってもいいんだと思う,原状回復も恐らく金銭の支払いになるでしょうから,一緒だと思うんですが,損失と考えて損失てん補,aの方の号で考えていらっしゃるのかなと思います。


それに対して,ある会社のですね,新日鉄でもソニーでもいいですけれども,株券が1万株盗まれたというときに,先ほど○○幹事が価格が変動したときの考え方を例として挙げられましたが,そのときは変更が生じたというふうに考えて,原状回復がまずあると。


しかし損失が生じたとも考えられると。同じ事実について,変更と損失,要件の方では両方に当たるということがあり得るという前提があって,原状回復の救済方法としての優先性,何かそういう話になるんでしょうか。

そこが,ある一つの事実である部分が損失,ある部分が変更がある,というのは認めた上でですね,同じ部分について損失でありかつ変更であるということを,あると考えているのか,それとも変更である以上は損失ではない,と考えるのか,そこがちょっとわからないので教えてください。


● そこはやはり,その物の見方で両方あり得るんではないかと思っておりまして,その株券を失った場合というのもまさに原状回復であれば同じ物を返すということですし,それを金銭的に損失と見れば損失てん補だと。


どっちでいくかというのは,受益者の自由でございますけれども,どちらでも,それは構成の仕方次第ではないかと思っております。

● ○○幹事が特に強調されたのは,25の1のa,bというところに書いてある要件のところですね。同じ事実が損失にも該当し,変更にも該当することがあるかと,簡単に言えば,ね。


● 今,あるということで。わかりました。
● はい。ほかにいかがでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 71の1,2ともですけれども,例えば1番の原状回復請求の優先性であるとか,受託者の催告の規律という,いずれも少人数の非営業信託というのであればこういうのが妥当しますし,そういう規律なんだろうなというふうに思うんですけれども,やはり営業信託でなおかつ集団投資スキーム的なもの,これについてちょっと考えた場合,なかなかやっぱりワークしないんじゃないかなという感じがいたします。


  1つは,営業信託ですから,○○委員がよく言われる,金もうけの信託ということの観点からいきますと,やはり金銭賠償というのを投資者が念頭に置いてやっておりますので,損失てん補というのがやっぱり最初に来るんだろうなというのが1つ,それとあと実際上の問題で考えた場合ですけれども,ワンワン方式で1対1で考えればわかりやすいんですけれども,例えば投資信託みたいなもので,株の売買を日々やっていますというのと,受益者の入れかわりも激しくありますといったときに,それじゃあ原状回復というのは何か1つすぱっと切れば,そのときの財産はどれだけあって,じゃあその分を補てんしないといけないというのは出てくるかもしれませんけれども,それは多分大変な作業だろうなという感じがいたします。そういうことが1点。

  それとあと,我々信託銀行で信託事務をやっていましたら,やはり失敗もありまして,補てんすることもあります。そのときに基本的に金銭で補てんする場合もありますし,例えば株式とわかっていれば株式でそこを入れるという場合もあります。


ただ,例えばそれが数万円の場合もありますし,場合によったら数十円とかですね,そんなような場合もあると。そうすると,それをいちいち催告してどうなんでしょうかと,数千人,数万人のお客さんに聞くと,そういうのはやはり非現実的なところではないかなというふうに考えています。


  そういう観点からいきますと,1つは営業信託というものについて,デフォルトとして金銭賠償という形,損失てん補というのをデフォルト・ルールにしていただけないかということが,要望として1つあります。

それが難しいということであれば,せめて信託契約,信託行為に書くことによって,てん補であるとか原状回復とかですね,そういう方法を記載してそれに従うような形にしていただけないかなというふうに思っております。


● 後者は可能だと思いますけれどもね。
● 後者はあり得る。前者はなかなかそれは厳しいかなという感じです。


● 少し確認させていただきたいんですが,商事,営業信託であれば金銭であるという認識でいるというふうに今,発言されたと思うんですけれども,その実際にいろいろと今言われたようにミスをするということは当然あって,それを戻していると思うんですけれども,それは原則お金で戻しておられると,今,そういうおっしゃり方をしたんでしょうか。

● それは,その物自体が明確であれば,それはまさに原状回復するのを前提に考えていますけれども,例えば本当に原状回復といったって,例えば数万円のものがあったときに,それじゃあそれを原状回復するんですかといったら,その場合はその,どういうんですか,原状回復という定義というか,意味自体がどうなのかよくわからないのですけれども,それだけ損失が出たときに,物自体が外に出たことによって損失が出た,といったらそれを戻すという行為について,わかる限りにおいてはやっていますけれども,それがどこまで調査してですね,やっていけばいいかというのはわかりませんので,そこはその金銭賠償でやることというのが,金額が低額の場合には多いんじゃないかと思います。

● 今のは恐らく原状回復を認めることについての問題というのを御指摘されているんだと思うんですが,どちらかというと我々としては,商事信託,営業信託においても原状回復というのが受託者が人から財産を預かっているので,まず第一義的なものじゃないか,というふうに考えております。

その中で,試案の考え方というのは,原状回復は難しいですよというような場合はしなくてもいいです,というような考えをとっておりますので,今言われたところと試案において原状回復を認めているというのが,余り矛盾するような感じがしないのですけれども。実際の営みに近いような規範に,原状回復はなっているんじゃないかという気がするのですけれども。

● そういう形で明確に認めていただけるんであればですね,その原状回復するためにどれだけ特別の事情ですか,そういうものがあるのかないのかというのが,やはり複雑な信託になればなるほどわかりづらいですよね。


そうすると,ひょっとしたらこれをもうちょっと調査すれば,きちんと財産というのがわかって,それを原状回復できるのかもしれないけれども,まあそこまですることはないでしょう,ということも結構あるんじゃないかと思うんですよ。


明確に,例えば土地信託で建物の一部がどうかなりました,と言ったらそれはそれを修復しましょう,という話になると思うんですけれども,複雑な信託でなおかつ当事者が多くて,お金の出入りも多いというものについて,果たしてそういうのがわかるのかどうか。

そういうものをそんな調査をかなり要して,手間暇かかって仕方がないものについては,別にそれは金銭賠償でもいいですよというんだったら,それはそれで構いませんけれども,


● その調査がしにくいので金銭賠償ということなんですが,その金銭賠償すべき額というのは当然,その適切な額を算定しなくちゃいけないわけで,受益者との間でももちろんそういう義務があるということだと思うのですが,原状回復は調査してもなかなかできないんだけれども,お金に換算するのは非常に簡単だというのが,何となくよくわからないんでございますけれども。どういった例を,複雑な信託というのは--。

● 例えば,運用しているのが,たくさんの運用財産があった場合,例えば投資の中だったら基準価格が間違っていましたという形があって,入ってきたお客さんに対して高い基準価格だったらお金は高い基準価格で購入していますから,そういうお客さんに対してどういう形で対応していくかというふうに考えたときに,やっぱり考えていくとわからないところってたくさんあるんですよね。

● 今のは,仮に原状回復でやろうとしたら,どういうふうにしたらいいかというのはよくわからないと,そういう意味ですよね。確かに。


● ですから,そんなのは金銭賠償でいいですよ,っていうふうに割り切るというか,この規律というのはそういうことなんですよ,というんだったらそれは安心できるわけですけれども。


● どこまでカバーするかわかりませんけれども,25の方でしたか,原状回復と損失てん補の一般原則の方ですけれども,そこは著しく困難といわれて,これはちょっとあれかもしれないけれども株の費用がかかるとか,そういう場合は原状回復ではなくて損失てん補で構わないという考え方で,それでうまくカバーできないかという感じがするのが1つです。


しかしそれではうまくいかないので,損失てん補だけにというわけにはいかないでしょうけれども,受託者の方で,責任を負う方の受託者の方でどっちか選べるということになると,ちょっとこれは行き過ぎで,なかなかそこまでは行けない気がするんですね。

● そこのルールみたいなものを信託契約に書くというのは,それは別に構わないということですね。


● それは構わないと思いますね,僕の意見ですが。
  はい。


● これはやっぱりかなり難しい話で,催告権にも絡むんですけれども,受託者がすべき事柄なんですけれどもね。まず損失てん補請求を受けたとしますよね。


それに対して,原状回復を自発的にやったら,それはそれでいいわけですか。今,○○委員は--。


● 僕はさっきそういうことを言ったけれども--。
● だめかもしれないという。


● そこまで強くは言わなかったわけね。そういうこともあり得るんじゃないかという話をしたので。

● それで,そうすると催告はしなくてよいわけですね。
● そう,その立場をとればね。


● それとですね,その損害賠償をしてきた人がいるときに,損失てん補請求をしてきた人がいるときに,原状回復をすると過分な費用がかかるというふうな事情があるときには,催告はしなくていいんでしょうか。


● これは催告義務の関係ね。催告がなかなか難しいものがたくさんあるような気がする。


● これやっぱり催告は本当に,その商事信託で受益者が多数になると,やっぱり大変なことだと思いますので,どうやったら催告をすることを免れるのかというのは,考えておいた方がいいような気がするのですが。


● これは催告義務というよりは,催告することができるということですので,ちょっと紋切り型で恐縮ですけれども,自信があれば,来られてもただし書きでいけるというふうにすればやらなきゃいいし,自信がなかったらやるしかないということだと思うんですけれども。


● はい,○○委員。
● 例えば訴訟が提起されてですね,損害賠償請求の提起がされて,そういう観点からいくと訴訟告知をしても,まあわかる限りやりますということかもしれませんけれども,それで例えば負けてしまったらどうなるんですか。

● 訴訟をしなかった--。
● いや,ごめんなさい,訴訟告知をしても,全員にできるということは多分できないと思いますので,じゃあそれで訴訟をやったら負けてしまいましたっていって,そのうちをてん補しました,でもある人が出てきて,いや原状回復でないと嫌だというふうに--。

● それはしかし,その告知できない人には効力が及んでおりませんので,その人が請求するのは自由になりますので,我々の提案の考え方ですと,原状回復が来たらそれに応じなきゃいけないということになってしまいますね。


● そうすると,原状回復もやるということになってしまうという--。
● 損失てん補した部分については,不当利得として信託財産に求償していくと。そういう帰結でございます。


● 今までに少し関連するところなんですが,受益者が多数おりまして,受託者の1つの行為を理由に多数の受益者から損失てん補なり原状回復の訴訟が提起された場合に,そういった訴訟全般について,合一的に判断するというようなことについては,特に考慮する必要はないという前提でよろしいのかどうか,ということが1点目でして。


  それから第2点目で,その原状回復の裁判と損失てん補の裁判が2つ係属している場合に,それぞれの訴訟がどういった形で影響を与えるのかという点について,少しイメージが沸かないところがありますので,受託者として抗弁としてそういった原状回復の裁判がなされているということを,もう一方の訴訟に対して出せば,何らかの効力が生じるという整理になるのか,そのあたりについて御教示いただければと思います。

● 私の方から御説明いたしますと,まず原状回復請求訴訟と損失てん補請求訴訟について,類似必要的共同訴訟という形にして,両方が違う裁判所に提起された場合には,同一の審判をしなければいけないというふうにするという方法もあるのかとは思うんですけれども,なかなかそこまで,例えば期間を区切って一定の期間までにそのいずれかの請求をしなければいけない。訴えを提起しなければいけないという形にするのは,やはりその受益者の保護という観点から難しいのではないかと,いう形がいたしますので,今の前提というのは,各受益者が訴えを提起できて,仮に原状回復請求と損失てん補請求訴訟が両方起きた場合には,その受託者,被告である受託者の方が,現状回復請求訴訟も一緒に来ていますという形で,一緒に併合して審判をしてくれという形にして,同一の裁判所でやるようになれば,当然この原状回復優先性というルールが働きますので,原状回復の方を判断していくという形になるというようなことを考えておりますけれども。

● そうしますと,損失てん補の請求の方はその場合どういった終わり方になるんでしょうか。


● そちらの方は,現状同一な任務違反行為に基づいて原状回復がされましたと。原状回復がされたことによって,損失が発生していないということになれば,棄却されるということになると思いますけれども。

● いや,裁判のことまで考えるといろいろ難しいですね。これはまあ,きょう,ある意味で初めてお出しするもので,原状回復と損失てん補については,一般原則の方は既に御議論いただいておりますけれども,それとも若干は関連するし,きょうはここでは御承認いただくということとかしないでですね,次回以降もう一回検討するということでよろしいでしょうか。


ただ御意見があれば,伺っておきたいと思いますが。今,大体出たような御意見を,またこちらで検討したいと思います。よろしいでしょうか。
  どうぞ,○○委員。


● 1点だけ確認なんですけれども,先ほど損失てん補か原状回復かを信託契約に書いてということはいいんではないかということですけれども,催告の仕方とかというのもよろしいんでしょうか,考え方として。


● 例えば公告であるとか,そういうことでございますか。そこまではちょっと十分均一考えておりませんが,そこも合わせて検討したいというふうに思います。


● ちょっと催告のところはね,受益者多数だとちょっとネックになりますよね,たしかにね。
  はい,どうぞ。○○幹事。


● 今のことにも関係するんですが,信託契約でどちらの請求権を選択するか。例えば多数決あるいはその他の集団的意思決定の対象にすることは,これは認めないという前提と理解してよろしいでしょうか。


● そうすれば話は簡単なんでございますが,ここはやはり受益者の保護という観点からは,単独受益者権という規律がいいのではないかというのを前提にしていきたいと。これは後日,また議論されるところでございますが,一応それが前提の上での話でございます。

● バランス論として,受託者の責任を免除するのは,これは多数決でできるという御提案ではなかったでしょうか。


● 受託者の責任を免除するためには,原則として全員一致ということで,その多数決にするかどうか,多数決できるかどうかにつきましては,確かに我々の従前の提案というのはできるとすることが相当なんではないかと,いうことはしておりますけれども。


● 免責は多数決でできるけれども,救済の方法を選ぶことはできないと,多数決では。


● これは1人でできるんです。各自がそれぞれどの請求をするかでひしてしまうということで,多数決にできるかというか,信託行為で多数決でないとできないとしてしまうかという意味でございますか。

● 多数決で,少なくとも多数決で決められて,多数決ができなかったときには原則に戻るといいますか。


● 原則1人でできるという強行規定に考えておりまして,それをその信託行為で加重することはできないというふうに考えておりますので,常に1人でできるという方向で考えているところでございます。


● 請求権自体は多数決で免除できる。
● 責任は原則全員一致なので,本当は全員一致が必要なんですが,多数決でも許されると。こちらの方は,本来一人一人ができることでございまして,それを過重することはできないと。出発点が全然逆でございますので--。ちょっと検討してみますけれども。


● なかなか--。
  どうぞ,はい。
● なかなかあのわからないんですけれども。今の1人が請求した後に,多数決で免責することはできない。

● それはできるんです。それはできます。免責自体はできますから。
● 免責ができるっていうのはもう,その1人が損害賠償請求訴訟を起こしても,棄却になるわけですよね。


● 棄却でしょうね。結論的にはそうなってしまいます。
● そうすると,幾つかあと検討していただければありがたいんですが,これは例えば100万円損害が生じたといって損失てん補請求権をしたある受益者がいて,で,それに100万円支払ったと。しかしその後の人がやってきて,実は200万円だったからもう100万円払えというふうに言えば,それも認められるわけですね,ずっと。


● それは本当に200万であれば,残りの100万は認められるということになります。追加的な部分ですね。
● はい。
● よろしいでしょうか。何かほかに御意見があれば,伺っていきたいんですけれども。この規定自体がもうちょっと検討しないと。
  はい,どうぞ。

● 1点お伺いしたいことがありまして,損失てん補請求が受益者からされましたという場合に,原状回復を履行することが受託者の方で自発的にできるのかと。


受益者の方で原状回復か損失てん補請求かの一方の方を選択した以上,受託者はそれに従うべきなのかどうかという,ここの(注5),(注6)で書いたところについて,この点につきましてはどのように考えるべきかというのを,いろいろ事務局の方でも考えておりまして,例えば注文者のところですと,瑕疵修補請求と損害賠償請求の方は選択的に行使することが,原則としてできるという形になっておりますので,このあたりどのように考えたらいいのかというのを今後検討する参考に,御議論いただけると助かるんですけれども。


● なおさら難しいんだな。
  直ちに,すぐにこれだという意見がなかなか出にくい,難しい問題だと思いますので,もし御意見があれば,今の--。
● 今の話は2つに分けて考える必要があるような気がするんですが,つまり,損害賠償請求訴訟が起こって,それで判決が出てですね,それは履行方法と原状回復をしたということになりますと,そもそもその債務名義の内容と原状回復の内容とがイコールとは限らないわけですが,そういう判断の手続というものがどこかに必要となってきますよね。


  それに対して,口頭弁論終結時までの間に原状回復してしまいますと,損害がないという抗弁ができるような気がして。そうすると,自発的な原状回復をしますと,実質的にはいずれにせよ選択的にできるという結論が出てくるんじゃないかという気がしたりもするんですが,よくわかりませんけれども。余り自信はないですけれども。

● 私も○○幹事と同じ意見です。損失てん補請求される前に変更が生じて,損失てん補請求される前に自発的に回復する場合というのがありますよね。そのときに一たん変更があったんだから,損失てん補請求をそれ以上認める必要はないと思うんですね。そうであるならば,さらに損失てん補請求が一たんされたということで,みずから変更された状態を回復するということで,受益者から訴えられるということを避ける利益を,受託者から奪う必要はない。したがって,訴訟が提起されたとか,あるいは訴訟前でその損失てん補請求をされたからといって,受託者がとり得る方策は限定されないんだろうと。


  多分最後のところは,○○幹事の話の最初のところですが,判決が出てしまうと,それに基づく執行というのを封じるには,請求異議を出さないといけないですよね。請求異議で修補したんだからというのでは通らないんじゃないかなと。金銭の支払いを命じる,これは支払いじゃなくて作為なんですかね,こういう勘定から信託勘定に移しなさいという作為を命ずる判決に対して,修補したというのでは請求異議が認められる事由にはならないんだろうと。実質的にはやっぱり履行になってないんだろうというふうに思います。


● はい,どうぞ。
● 今,○○幹事,○○幹事,お2人とも,損害の基準時というのはやっぱり口頭弁論終結時になるんであるという,まず御見解だと思うんですが,すみません,私の理解が間違っているのかもしれませんけれども,一般的には債務不履行時を原則としてという理解なんですけれども,ここはなぜ口頭弁論終結時に遅れるのかと,それがその信託だからなのか,どういう理由なのかがちょっとよくわからなかったんですけれども。そこはどのような御説明が--。それとも前提が違うのかもしれませんが。

● それは損害賠償の額の評価時点というのと,損害賠償債権が存続しているかどうか,という問題は違うという話じゃないでしょうか。


● 損害の存在なんだろうと思うんです。損害の存在は口頭弁論終結時がやはり基準時であって,そこでその要件が満たされなくなってしまうので,損害賠償額のあるいは損害額の基準時の問題には入らないということなんじゃないでしょうか。


● 大体わかってきました。そうしますと,例えば価値の修補と損害賠償が選択できるというような場合について考えますと,私は君に瑕疵修補してくれなくていいから,お金で返してくださいということを言ったんだけれども,いやいや私は直したからと言われたら,それを受け取った上で,本当に瑕疵修補されているかなというのを調査するというのが結論になる。まあそれと同じ結論になんだろうと,そういうことになるわけですね。


● わかりました。
● なかなかね,請負なんかのことを考えるとちょっと難しい。信託はちょっと--。


● そうなんですけれども。請負はですね,そういうのが問題になるときに,注文者が引き渡し後のことが多いので,人のものをさわれるかという問題がそこに出てくるのに対して,自分の占有物に対してある一定のことをするという信託の場合と,なかなか微妙に違った問題が起こってくるのかもしれないですよね。事実としてはね。


● はい,○○委員。
● 最初に○○幹事がおっしゃったところに戻ると思うんですけれども,原状回復にかわるてん補と,原状回復とともにするてん補で,ともにするということは登記事実として残るわけで,あとは何をすれば原状回復をしたことになるかという問題だと思うんですよ。ですから,その組み合わせだけでそんなに難しいことはないのではないかと思うんですけれども。

● といってもまだ難しい問題がありそうだけれども。
  はい,○○委員。


● 架空の問題ではなく,現実的といいますか,あり得る現実性,本当かどうかわかりません,年金なんかですとおびただしい数の受益者がいらっしゃると思うんですけれども,あとまだ年金受給者にはなっていなくても将来の受給者の方のような方もいるとおもうんですけれども,そういう場合に受託者が何かこの損失てん補請求といいますか,何らかの形で信託財産を毀損してしまったときの解決が,やっぱり効率的に解決される必要があると思うんですけれども。


  その場合のことを考えると,個別の何人かの受給者たる受益者が訴訟を起こしてですね,多くの訴訟がほとんど和解で終わると思うんですが,和解で終わる分,和解では終わらせられないということがまず大きな問題として1つ生じるのかなと思いますし,訴訟告知をするといってもできないケース,または現在確定していない受益者がいるということになりますと,何か永久に,永久というと大げさだけど半永久的に訴訟は,とにかく判決で確定し,その確定した判決が間違ったということでちゃんと抗弁として利用でき,抗弁になるんですかね,既判力が及んでいませんからその判決が正しいんだということを主張して,みたいなことになってしまうので,何か多少既存の法的な,民訴的な視点でもそうですけれども,理屈もそうですけれども,効率的な解決が図れるようにしておかないと,数えられる範囲の複数の受益者の場合は構わないと思うんですが,ちょっとそれが何千,何万とかいう状況になってきますと,個々に権利があるということは非常に受益者保護にとってはすばらしいことだと思うんですが,解決できないという視点からすると,非常に何か社会的な問題になり得るのではないのかなというふうに感じたんですが。

● おっしゃるとおりですね。今御議論いただいているのも,いろいろな点を御議論いただいておりまして,損失てん補と原状回復,2つの救済手段の間の単なる抽象的な関係といいますか,1人の受益者の場合にも生じる問題ですよね。


それが多数の受益者でもって,今○○委員が言われたように,あるいは○○委員も指摘されましたけれども,多数の受益者のときの優先関係のルールというのを設けたときに,果たしてうまく機能するのかどうかという,そういう問題を御指摘いただいたと思いますけれども,これはもう一度検討したいと,そのように考えております。

● 今の○○委員の関係で,事務局の中でも1人の受益者が訴訟を提起したその効果が他の受益者にも及ぶ,というような制度をつくれないかどうかということを検討はしてみたんですけれども。


  例えば株主代表訴訟のような形にすれば,1人の株主が訴えを提起して,その効果が会社に及ぶと。会社に及ぶということの反射的な効果として,他の株主に及ぶということで,1人の株主の訴えの提起が究極的には他の株主に及ぶということなので,それと同じような制度にすることによって,1人の受益者は訴えを受託者に提起しましたと。

その訴えの確定判決の効果が,他の受益者にも及ぶというようなことができないかなというふうに考えたんですけれども,やはり他の受益者にとってみると,自分のあずかり知らないところで確定判決の効果が及んでしまって,それによって損失てん補請求とか原状回復請求をするという機会が奪われてしまうと。


そうだとすると,何らかの訴訟告知を受託者に義務づけるとか,訴えを提起した受益者に義務づけるとか,そういう制度も一応あり得るのかと思うんですけれども,そうだとすると受託者が任意に訴訟告知をするという,現行の民事訴訟法にあるような制度を用いるとしておけば足りて,特に他の受益者の情報を知らないことがありますので,訴えを提起した受益者が訴訟告知をするというのは現実的ではありませんし,かといって,受託者に義務的に訴訟告知をさせるというよりは任意で,この場合には訴訟告知をしようというケースと,これはほかの受益者は多分言ってこないだろうから訴訟告知はしなくていいだろうというような,それを選択というのかどうかわかりませんけれども,そういう裁量の余地は与えておけば足りるのではないかなということで,今のところはそういう制度は設けていないということなんですが,これはあくまで事務局の中で考えたことに過ぎませんので,ここで何か御意見等ありましたら,ぜひ述べていただけますと大変助かりますけれども。

● いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
  それでは,ただいま出てきたような御意見をまた参考にしながら,もう一回練り直して,もう一回御提出したいと思います。
  それでは終わります。
  どうもありがとうございました。
-了-

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2016年加工編
法制審議会信託法部会
第22回会議 議事録

第1 日 時  平成17年10月7日(金)  自 午後1時00分
                       至 午後5時00分

第2 場 所  法曹会館 高砂の間

第3 議 題
   受託者による受益権の全部の継続保有の禁止について
   信託財産と固有財産等との識別不能について
   信託財産に対する強制執行等について
   善管注意義務について
   法人役員の連帯責任について
   受託者の権限違反行為について
   報酬請求権について
   受託者の職務の引受けについて
   信託管理人等について
   受益債権と信託債権との優先劣後関係について
   営業信託の商行為性について
   受益権の有価証券化について

第4 議 事 (次のとおり)

議        事

● ただいまから第22回信託法部会を開催したいと思います。
  いつものように,幾つものテーマがございますので,これを適宜区切りながら議論していきたいと思いますけれども,その区切り方につきましては○○幹事から説明をお願いします。


● テーマは全部で17ございますが,一番最初は,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止と信託財産と固有財産等との識別不能の問題,善管注意義務,法人役員の連帯責任,それから報酬請求権と受託者の職務引受けを御審議いただきまして,次に,信託財産に対する強制執行と受託者の権限違反行為の問題を御審議いただきたいと思います。


そして,あと残りを後半で分けさせていただいて,全部で4つに分けたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
● それでは,お願いします。


● では,資料の一番最初,受託者による受益権の全部の継続保有の禁止というところでございますが,パブリック・コメントにおきましては,試案の考え方,すなわち受託者は受益権の全部を保有する場合でも,受託者と受益者を同一人が兼任する状態が解消されることがあり得ることに鑑みますと,兼任状態が生じたことをもって直ちに信託を無効とする必要はないという考え方に対し賛成意見が多く寄せられました。


  ところで,この規律によっても,このような兼任状態は相当期間を超えて継続することは許されないものでございます。


この点につきまして,試案では,信託の終了事由として「兼任状態を解消するのに必要な期間を超えて,受益権の全部を保有していたとき」としておりましたところ,この期間の明確化を図るべきであるとの意見が寄せられました。

  この規律の趣旨といいますのは,受託者と受益者の兼任状態が生じている場合においては,実質的には受益者の受託者に対する監督関係が存在せず,信託のあるべき構造が損なわれているのでありまして,このような状態が長期間継続するのは望ましくないと考えるものでございます。


  ところで,これと類似の状況としましては,受託者の全部が欠けている場合がございます。


本規律の場合には,信託事務処理を行う者が欠けているわけではございませんで,監督関係が期待できないにとどまるわけですが,いずれの場合も信託の一部に機能不全の状態が生じていることには変わりないと思われます。


  そこで,このような不健全な状態を解消するためのいわば入院期間といたしまして,受託者の全部が欠けた場合には,「新受託者が就任しないまま1年を経過したとき」をもって信託が終了すると提案していること,これと同様に,受託者と受益者との兼任状態が生じている場合についても,1年間をもって兼任状態を解消するために必要な期間と考えるものでございます。
 

 以上によりまして,資料ですと42ページ,第57の1のcにございますが,兼任状態を解消しないまま1年を経過したときには信託が終了するものとして,期間を明示することを提案するものでございます。
  続きまして,第10の識別不能についてでございます。
 

 試案の考え方,すなわち信託財産と固有財産等とで識別不能状態にある各財産について,共有を擬制しまして,その持分の割合は均等であると推定しまして,さらに共有された財産の分割に関する規律を設ける。この考え方に対しましては,賛成意見が多数寄せられました。


  なお,この提案1の二重下線部は,(※2)に書いてありますとおり表現ぶりを見直したにとどまりまして,実質を変えているものではございません。
 


 その上で,資料3ページの2の(1)から(4)で個別の意見について検討しているところでございます。


  まず,(1)といいますのは,共有持分の割合を識別不能当時の価格の割合に応じるものとの提案に対しまして,時点についての処理が硬直的であり,その時々の割合に応じて共有割合を算定する,あるいはできることとすべきではないかとの意見について検討したものでございます。


  しかし,識別不能となった財産が同種・同等のものであれば,その後に財産の一部滅失ですとか価格変動が生じてもその効果は持分に比例して吸収され,持分割合は変化しないことになります。


また,仮に識別不能となった財産の品質等に若干の差があるために,本来であれば価格変動の効果は財産ごとに異なり,持分割合に影響するはずのものであったといたしましても,ここでの規律は識別不能の場合を対象にしているものでございます。


そうしますと,価格変動のあった財産が固有財産に属するものであったのか,あるいは信託財産に属するものであったのかが特定できないことが前提でございますので,価格変動の効果は信託財産と固有財産とで従前の持分割合に比例して吸収されるものとして処理せざるを得ず,結局,持分割合は変化しないことになると思われます。

  以上の次第で,この意見は採用しないこととしたいと考えております。
  次に,資料4ページの(2)ですが,「価格」の意義に関する御意見がございました。


  ただ,ここでの「価格」と申しますのは,民法第244条における一定時点における価格,すなわち時価を指すものでございますが,民法でも,この価格の意義をより詳細にした規定は置かれていないことなどに鑑みまして,この意見も採用しないこととしたいと考えております。


  次に,(3)でございますが,試案におきまして,識別不能当時の価格の割合の立証が困難な場合に備え,共有持分の割合を均等と推定することに対する意見についてでございます。


  まず,アでございますが,受託者の分別管理義務違反により識別不能となった場合につきましては,固有財産よりも信託財産を優先して保護すべきであるという旨の指摘についてでございます。
 

 しかし,この場合,受託者は損失てん補責任を負うわけでございますし,損失てん補責任の実効性の如何と信託の倒産隔離機能とは別個の問題でございますので,識別不能当時の時価の割合が証明できない場合に備えて持分割合を均等と定めることといたしましても,公平にかないこそすれ,信託の倒産隔離機能ですとか信託への信頼が害されることにはならないと思われます。
 

 次に,イでございますが,持分を均等と推定した場合には,計算上,信託に帰属すべき財産の総額を超える財産が信託財産と推定されるということが起こり得るから,均等との推定規定を設けることは妥当でない旨の指摘でございます。


  しかし,この場合,少なくとも信託財産に帰属すべき持分が一定の割合を超え得ないことが認められるわけでございますので,その割合を限度として持分の割合が認定されることになりまして,そもそも推定規定が働くことにはならないという整理をすればよいのではないかと思われます。

  最後に,資料5ページの(4)でございますが,これは受益者が複数の場合の共有物分割訴訟につきまして,受益者全員が訴訟当事者になる必要があるとしても,訴訟を提起するとの意思決定については信託行為の定めや受益者集会等により定めることができるとすべきであるとの指摘についてでございます。

  この点につきましては,このような意思決定については,信託行為の定めをもって第三者に意思決定権を付与したり,多数決制度によることなども可能であると考えております。


  なお,(※3)にございますとおり,共有物分割の手続の概要につきましては,試案に示したところに対して特段の異論は示されておりません。


  続きまして,強制執行のところは飛ばしまして,第18の善管注意義務に移らせていただきます。資料は10ページになります。


  これも試案の考え方,すなわち現行法第20条を維持して受託者は善管注意義務を負うこととした上で,これが任意規定であることを明らかにすること,そして,現行法第21条は削除することについては,いずれも賛成意見が大勢を占めております。


  なお,受託者の善管注意義務が任意規定であることを明らかにしていることに関しまして,善管注意義務の免除までは許されないことを明らかにすべきであるとの意見がございました。


  この点につきましては,受託者の善管注意義務を完全に免除する定めがある場合には,委託者は,信認関係を本質とする信託の設定意思をそもそも有していなかったと考えるのが合理的でありまして,それ以外に善管注意義務の免除は許されないとの特段の規定を要するものではないと考えております。


  また,善管注意義務に関する個別的,具体的な規定を設けることの当否に関しましては,両様の意見が示されております。


この点につきましては,資料10ページから11ページの①から④に示した理由によりまして,この提案以上に個別的,具体的な規定は要しないものとすることでよいのではないかと考えております。

  続きまして,第27,法人役員の連帯責任について御説明いたします。
  試案に対しましては,賛成意見が大勢を占めております。


  この提案,すなわち試案と同じでございますが,現行法第34条の規定の明確化と合理化を図ったものでございます。3点ございまして,まず1つは,受益者と直接の契約関係にはない理事等が責任を負うのは,受託法人が損失てん補責任等を負う場合であることを明確にしたこと,次に,受託法人の任務違反行為に理事等が関与しただけでは足りず,任務違反行為につき悪意・重過失があることを要求したこと,さらに理事等が負う連帯責任の内容も,損失てん補責任等であることを明確にしたこと,この3点の明確化,合理化を図ったものでございます。


  このように,試案の内容といいますのは,受益者との間で直接の法的関係にはない理事等の責任の内容を明確かつ合理的な範囲に限定し,理事等の利益と受益者の利益とを適切に調整する内容であると思われます。


そこで,試案のとおり維持することとしております。
  なお,仮に利益吐き出し責任を設ける場合については,この責任に関する理事等の責任負担のあり方について,別途検討することとしたいと考えております。


  続きまして,また1つ飛ばしまして,16ページの受託者の報酬請求権についてでございます。


  本日は,この第33のうち,提案2の(2)の甲案と乙案について御審議願いたいと考えております。


  パブリック・コメントの結果ですが,乙案,すなわち受託者が受益者から補償を受けるためには,受益者との個別の合意を必要とするという考え方の方が多数意見を占めております。


  なお,甲案または乙案を支持する理由として挙げられております意見の要旨は,それぞれ資料の17ページに記載したとおりでございます。


  いずれの考え方を採用すべきか御審議願いたいわけでございますが,あえて1点だけ付言いたしますと,原則無報酬であり,一定の事情があって初めて発生する信託報酬請求権と異なりまして,当然に発生する費用償還請求権につきましても,前回部会におきましては,受益者と受託者との個別の合意がない限り責任を負わないとする乙案の考え方で基本的なコンセンサスをいただいているところでございます。


このことに鑑みますと,論理必然ではないとは言えますが,やはり受益者から信託報酬を受ける権利についても乙案を採用するのが一貫しているように思われるところでございます。

  最後に,第35の受託者の職務の引受けについて御説明申し上げます。
  試案の考え方,すなわち被指定者に対する利害関係人の催告権を認めまして,回答がない場合には就任拒絶と見なすという考え方につきましては,寄せられた意見は,すべて賛成するものでございました。


もっとも回答の相手方につきまして,催告者に対しても常に回答すべきであるとの意見がございました。


  この後者の意見に触発されまして,回答の相手方について再検討いたしました結果,試案におきましては,回答の相手方を受益者としておりましたのを改めまして,原則として委託者,委託者が死亡している場合には委託者の相続人としてはどうかと,改めて提案するものでございます。

  被指定者が催告を受けて回答すべき相手方を考えるに当たりましては,まずは催告に基づくのではなくて,いわば自主的に信託の引受けの意思表示をすべき相手方を考えまして,その上で,催告に対する回答の相手方についてもこれと同様とするのが相当と思われます。


遺言指定者の就職に関する民法第1007条,第1008条の規定とも,この考え方が平仄が合うところでございます。


  なお,このように考えますと,少なくとも催告者のみを回答の相手方とする選択肢はとり得ないことになるわけでございます。


  そこで,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方について検討した結果が,資料19ページの(2)の①から④のとおりでございまして,かいつまんで申しますと,まず①が,受益者または信託管理人に対する回答がそもそも不可能な信託があり得るということ,②といたしまして,受益者の有無に対応して回答の相手方を変えるのは煩雑でございますし,被指定者が判断を誤るおそれもあるということ,③として,受益者に対して受益権取得の事実を通知したくないという委託者のニーズを尊重するということ,④といたしまして,委託者と被指定者は実質的には信託の設定という法律行為の対立当事者に準じる関係にあるものと考えられまして,そうすると,被指定者の意思表示は,いわば委託者からの契約の申し込みに対する承諾の意思表示に類するものと見ることができると思われますので,委託者に対して意思表示すべきものとするのが自然であることなどが考えられます。

  以上を総合いたしますと,資料19ページの(3)にありますとおり,被指定者が催告に基づかずに意思表示をすべき相手方,そして,これと同様に解すべき催告を受けた場合の回答の相手方につきましては,委託者とするのが適当と考えられるわけでございます。


  また,資料20ページの(※2)に書きましたとおり,委託者と被指定者が実質的には法律行為の当事者に準じる関係にあるという点を考慮いたしますと,委託者の死亡の場合には,法律行為の当事者としての地位を相続する相続人において,被指定者からの回答の相手方としての地位についても承継すると考えるのが適当であると思われます。


そこで,委託者が死亡している場合には,被指定者は委託者の相続人に対して回答すべきものとしております。


  なお,パブリック・コメントにおきましては,催告者に対しても常に回答すべきとの意見がありましたが,この点につきましては,資料20ページの(4)のとおり消極に考えております。


すなわち,催告に対する回答の場合のみ,委託者だけでは足りず催告者に対しても回答すべきとするほどの必要性があるかは疑問でございますし,催告者といたしましては,被指定者本人または委託者から回答の結果を知ることにさほどの困難があるとは思われないこと,さらに,遺言執行者の就職に関する民法の規定におきましても,催告があった場合でも,相続人のみに対する回答で足りるとされていることなどに鑑みまして,催告者に対する回答を法律上,義務づけるまでの必要性はないと考えられるからでございます。

  以上で,とりあえずの説明は終わらせていただきます。

● それでは,今の範囲で御議論をお願いします。


● 第5について,細かいことで恐縮ですが,(注)の第三者名義の場合というところで,中間試案では「同様とする」ということで本文と同様のような形で書かれていますけれども,以前の法制審での議論でも,また補足説明においても,その場合には直ちに無効であるといいますか,有効でないと書かれているんですけれども,以前も議論--余り議論にならなかったかもしれませんけれども,受託者が固有財産の保有をすること自体が違法とは見なされない以上,例えば受託者の子会社がそれを保有したとしても,何か違法,脱法とかいう目的が他に存在すればまた別ですけれども,単純な保有であれば同様とするということでしばらくの間,継続し,また,今の御提案のように,1年という期間を設けて,それで解消するというようなことでもよろしいのかなと思うんですけれども。
  


そういう視点で,この「同様とする」という趣旨が,従前どおり本文と同様なのか,また,補足説明にあるように,今の状況においても直ちに無効であるというような考えなのか。


無効だとすると,何か本文との間の平仄が立たないような気がするんですけれども,その辺はいかがでしょうか。


● ここで書いておりますのは2つの場合がございまして,1つは,明らかに脱法的な場合,すなわち事実上,自分が利益を得ているのに傀儡の者を受益者として立てている場合。こういうものについては,直ちに無効でいいのではないかと思っております。


  他方,正当な理由があって,受託者の固有財産が同一の信託の受益権を取得するわけではないが実質的には利益を得ることになるというような場合があり得ると思うんですけれども,そういう正当な理由で受託者の固有財産が信託の利益を享受しているという形式になる場合につきましては,この第5の規律の対象外でありまして,永続的に続いていいのではないかと考えているわけでございます。

● 同じく第5についての確認ですが,1年間の解消がなかった場合ということで,期間の明確化が新たに提案されていると認識しているんですけれども,これはデフォルト・ローとしてということですか。


すなわち,この第57の1のe,つまり受託者が欠けた場合を参考に1年と言われているわけですけれども,その第57の1のeというのはデフォルト・ロー,信託に定めがあれば別だということで規定されていると思うんですが,そうすると,本件での御提案もこの点はデフォルト・ローであるということでございますか。


  考えてみるに,やはり信託にはいろいろあるわけですから,明確化と言ったとしても,単純に1年ということで規するべきではなくて,物によっては変えることがあるのかなと思っていますので,その場合でもデフォルトの方がよろしいのではないかと思っていますけれども,いかがでしょうか。


● 例えば6か月で終了するとか,そういう場合でございますね。

  それは恐らくfの事由で問題になりまして,信託行為に定める終了事由が生じたときで,終了するという方向に持っていけばいいのではないかと思っております。長くする方はだめです。


短くする方はできますが,それはdがデフォルト・ルールというよりは,終了事由をfで定めたと考えればいいのではないかと整理しているところでございます。


● ですから,この第5の規定は,1年間入れる場合に,これはデフォルト・ローではなくて強行法規ということですか。


● これは,言ってみれば信託の構造に関する一種のポリシーというか,考え方を明らかにしたものでございまして,具体的な効果というのは第57の方でございますので,第5はデフォルト・ローではなくて,これは強行規定でございます。


第57の方は,多少の信託行為での変更は可能という位置づけでございます。

● まあ,そういうものでしょうね。
● 御説明の中では何度も出てきた言葉なので,指摘をするのは恐縮なんですが,1年というクリアな期間が書かれますと,1年なら常にいいんだという感じが漂ってくるような気がするんですね。


○○委員も○○幹事も,脱法のような場合にはもちろんだめだけれどもとおっしゃいましたので,もし最終的な要綱でその補足説明をつけるということですと,合理性があるような場合で必要性が認められるんだ,しかし,もちろん脱法的な場合はだめなんだということについてもお書きいただければと思います。

● 趣旨は確かに,脱法的なものはだめだというのは共通の理解ではありますので,書き方が難しいかとは思いますけれども,どこかに書ければ,それは。理解は同じですよね。


  これもポリシーは比較的明確だと思いますけれども,条文として書くときには,意外と難しい条文の1つであると思っています。


今のようにいろいろな例外というのかな,直ちにだめになる場合とか,この適用を受けない場合とかいろいろありますので,そこら辺の規定の仕方は難しいと思いますけれども,中身についての共通の理解としてここで確定しておきたいと思いますが,なお中身について,いかがでしょうか。


  ただ,○○幹事の言われたことは重要だと思いますけれども,今までは「相当の期間」ということで,「相当な期間」というのはケース・バイ・ケースで定まる可能性があったのが,今回は,直ちにだめになるものは別として,それ以外は1年間は大丈夫だということになるわけですよね。


それは明確性を図るがゆえに,多少割り切りをすることになるんだと思います。

それがいいかどうかということですね。いかがでしょうか。これも一つの選択肢ということで,よろしゅうございますでしょうか。

  それでは,第5については,書きぶりについてはなお検討するにしても,中身については以上のように確定させていただくとして,それ以外の点,識別不能あるいはそれ以外のことについて,いかがでしょうか。


● 先ほど御説明の中で,ある一定割合以上には信託財産が存在しないことがはっきりしている場合にどうするかという問題なんですが,例えば,信託財産があるとしてもせいぜい3割であるといったことが明らかになっていたときに,英米法では,たしか証明できないときにはなるべく信託の財産が多いと推定するという判例上の準則がありますので,3割が限度であるということになりますと,3割ということになると思うんですね。


  しかしながら,この案は,一般的に信託財産の方を優先するというのがないものですから,せいぜいあっても3割である,しかし実際には何割かよくわからないというときに,3割にはならないような気がするんですね。


だからこそ,それならば3割しかない,せいぜいあっても3割だというのに半分になるのかという話が出てくるのであって,必ずしもそれを限度として認められることになるのだから構わないというふうにはならないのではないかという気がするんですが。

● ○○幹事のおっしゃったことをうまく理解できたかどうかわかりませんが,今の推定割合について御指摘されていることは,むしろ信託側が多くとり過ぎるのが問題ではないかということなんですが,○○幹事がおっしゃっているのは,どちらかというとその逆で,信託が多くとれるというルールにはなっていないのではないかということですか。

● 私は,どちらにすべきかといえば信託財産の方を多くすべきだと思うのですが,それとは無関係に,せいぜいあっても3割であるということだけが証明されたときに,この案のままで3割だというふうにできるんだろうか,不明であるということにおいては変わらないことにならないのだろうかということで,どちらを優先すべきだという価値判断を含まないで質問させていただいているつもりなんですが。

● 識別できないということの意味だけですね。
  今のは,せいぜい3割だけれども1割かもしれないし,2割--あ,逆か。せいぜい……。そうですか。1割かもしれないし,それより少ないわけですね,信託財産の方が。


だけれども,その証明ができない。そういうときにこれを適用するとどうなるか,簡単に言えばそういう質問ですね。


● ええ。その割合を限度として持分割合が認定され,したがって推定規定が働くことにはならないという御説明になっているんですが,3割なのか2割なのか1割なのかわからないときに,証明できれば,もちろんそれはそうなるわけですけれども,当然には3割という認定にはならないわけですよね。


● ある意味で,今の信託財産を有利に扱っているところがあるわけですよね,3割までは認めてしまう。


3割の推定が実際にあるわけではなくて,単にせいぜい3割だというときに3割まで認めてしまえば有利になるわけで,そういう結論がここから出てくるかと。


● ええ。認めるのならば,その趣旨の条文みたいなものが必要であろうという気がするのですが。


● 今の例は,ほうっておくと半分まで信託財産にとられてしまう受託者としてどうするかということなのかなと拝察したんですが,そうであれば,受託者としては「3割まであります」というところで自白すればいいだけのことでは--自白すればというか,もうそれで「確かにそうです」と言ってしまえば,実際の裁判上はそれで認定せざるを得ないのではないでしょうか。そういうお答えはちょっとおかしいのかもしれませんが,実際の営みの話としては……。

● そうすると,3割までしかないことは明らかになっているけれども,しかし,その場合にも,形式的には3項みたいな均等であるという推定規定が働くので,推定規定を働かせないために,受託者は自白をして話をおさめないといけないという話になりますか。裁判の流れとしてはよくわかるんですが,教科書等には書きにくいなという感じはしますよね。

● 手続ではなくて実態だと冷たい感じがしますけどね。結論は,恐らく3割でいいんだろうと……。何かございますか。


● 今の場合で,逆に固有財産の方から見て3割は超えない場合は,どのようになるんでしょうか。今のは信託財産が3割は超えないという想定ですよね。今度は固有財産の方が3割は超えないという場合は。

● 逆の側からも同じ問題があるわけですよね。
● 今の話は,信託財産を優遇するというルールを打ち立てたことになっているのか,なっていないのかということなんですけれども。


● 同じようなルールになってしまうとは思いますが。

● ちょっと間違っているかもしれないけれども,固有財産が3割を超えないときは,7割までは信託財産であることが確定し,残りの部分がわからないので,残りの3割について半分にするというわけには……


● ただ,先ほどのように受託者が自白するというようなことになると,さっきの場合は,1割か2割かわからないところを3割までは認めるということですから,信託財産のためになるわけですけれども,そこで3割と言うと,ひょっとしたら固有財産は1割かもしれないのに3割というような話をするんでしょうか。

  非常に基本的な誤解をしているのかもしれませんが。

● どちらから言っても構造は全く同じですよね。何かうまい解決がありますか。

● ここは,恐らく裁判の過程でどこか裁判所が認定しますので,今おっしゃった例で言えば,普通は3割を超える固有財産はない,7割は信託財産であるという認定をするだろうと思いますし,そのように当事者間で,この場合はどちらが自白するんでしょうか,受益者の方が,あるいは受託者の方が3割しかない,3割を超えることはないと言って,受益者の方がそれを争わないとすれば,7割は信託財産という認定ができますので,この推定規定が働かないことには変わりないと思いますし,いずれにしても,3割の範囲でどこかで認定はされるのではないかという気がするんですね。

ですから,推定規定が働かないことには変わりないのではないかと思われますけれども。


● なかなか難しいですよね。具体的にどうなるのか,まだ私もすっきりわからないけれども,○○幹事の方の例で言えば,固有財産はせいぜい3割だということで,7割まではとにかく信託財産が確定し,残りの30%についてはいろいろわからないけれども,そこで行う推定というのは,もうこの条文による推定ではなくて……


● この条文自体は全体ですからね。残りの部分だけ均等と推定するというわけではないと思いますので。


● そこはゼロから30までの間で,今の○○幹事の話だと,裁判所の方で……。

● 一番もっともらしいところで認定していくのではないかという気がいたしますけれども。


● 今,出された問題を,手続に絡めないで実体法の考え方として何かうまく書けるのであれば,御提案いただきたいと思いますけれども。


● この問題自体は,恐らく民法の方の添付のところですかね,あそこでも全く同じ構造になっているのではないか。つまり,共有持分の割合が推定という規定自体,これは民法そのものにある条文を引っ張ってきているだけなものですから,もしかしたら,そちらの方の議論を見れば何か参考になることがあるのかなと……


● いや,それは怪しい。
● ……とすると,今ここでどうのという問題ではないのかもしれません。


● 決め手はないかもしれません。
  よろしいですか,今ここで具体的にどうなるかという答えは十分出せないかもしれませんけれども,今の場合,わかっている範囲,さっきの固有財産の方がせいぜい3割であれば,とにかく7割までは信託財産だという考え方,あとをどうするかというのは,先ほどの民法の規定ともにらみ合わせながら,解釈で決まることになると思いますけれども。


● 恐らく3割である,3割は超えないことは明らかだということが,実際の裁判の中で一体どういう過程で「そこは認定できる」という話になってきたのかが,抽象的な話としてはよくわかるんですけれども,それがいま一つ,ではどういう事情なんでしょうかということが。


● そうですね,そういうものにも影響されて認定されるということですね。わかりました。


  問題意識としては,こちらでもそういうことをにらみながら考えていきたいと思いますけれども,とりあえず,よろしいでしょうか。


● 今のと違って,逆に足りない場合で,今回の検討課題の説明の中では,受託者は無過失責任を負うから,損失てん補責任があるからそちらで解決できるではないかといった御説明なんですけれども,受託者が自ら預かるケースというのは,商事信託においては余り考えられない。民事信託でもそうかもしれませんけれども。

それで,例えば有価証券であれば,第三者たるカストディアンが預かっているということになると思うんですけれども,そうすると,前回の議論で,選任,監督に過失がなければ受託者の方は責任は負いませんし,カストディアンに対する請求権は持つかもしれませんけれども,そういう場合はカストディアンも破綻しているような事例だと思うんですけれども,その場合ですと,今のこの原則に従って,信託財産が特に有利に扱われるわけではなくて,共有持分ということになる。


  それも一つの判断かもしれませんけれども,今回の説明ですと,信託に対する信頼とか信託財産がより--よりといいますかね,信頼という観点から余り問題ないのではないかという話なんですけれども,そういう場合,やはり信託財産が有利に扱われてもいいのかな,また,そういう選択肢を受託者が持ったとしても,損失の補てんにならないという方が,逆に受託者にとっても,「どうしようもありません」という説明をせざるを得ないわけではなくて--と思ったりするんですけれども,不足している場合に,第25項の規律でのほぼ不可抗力による責任です,無過失責任ですというのが当てはまらないケースというのが,今,申し上げましたように,第三者が受任している場合という現実で,そのカストディアンが破綻したときには,現実的にもあり得る話ではないのかと思うんですけれども,その辺については今の規律のまま,しようがないという考えなんでしょうか。

● 資料に書かせていただいた,信託に対する信頼が害されないのではないかというのは,制度としての信託に対する信頼は害されないのではないかと。


つまり,今,言われているところで問題になっているのは,結局のところ,適切な受託者を得なかったことによる,適切な信託事務の遂行をしなかったことによる損害なわけですけれども,そこについては信託制度の問題というよりは,やはり適切な人を選ばないと限界はあるんだろうと思っておりまして,その点については,ここの問題ではない。


むしろここで考えるべき問題というのは,識別できないような状況になったときの,いわば物権的な帰属をどういうルールにするのがいいんだろうかというところなわけでして,それに対してもう一方,適切な受託者が選ばれなかった,あるいは適切な信託事務の処理ができなかったときのルールとしては,一般的には,やはり損失てん補なり原状回復なりの方で図るんだという整理をしている。


  それに加えて,今おっしゃいました,信託事務処理の委託の問題だろうかと思いますけれども,そちらについても,また個別にどういう責任を第三者に負わせ,どういう責任を受託者に負わせるのがいいのか,一般論の中でむしろそこは考えていかざるを得ない話でして,整理としては,私どもとしてはそう考えているわけです。

● 現に英米法ですか,あちらの方では受託者の,特に分別管理義務違反のときですけれども,そういうことを加味して物権的な救済についても信託有利にという考え方はあり得ることはあり得るんでしょうけれども,ここの原案自体は,そういう責任の問題と物権的な救済の問題は区別するという形でできていて,それをどう考えるかということですね。
  今の点についても,何かほかに御意見ございませんか。

● 第10の2の(1)の共有持分の割合についてですが,その当時における割合が一体どうなのか,変動した場合どうなのかということについてパブリック・コメントで御意見があって,それに対する検討があったという認識でおります。


  これはちょっと確認したいわけで,ある意味パズル的な話なのかもしれませんが,このペーパーで検討されていますのは,その変動が減った場合ないしはその中身が変わった場合ということがあると思うんですけれども,では,増えた場合どうなのかということです。


  例えば,ちょっと例としてお話ししたいと思いますけれども,ヒツジでも何でもいいと思うんですが,固有財産と信託財産が7対3でありました。その時点で識別不能になりました。


その後,ヒツジがまた2,これは固有財産だとわかっています。ただし,そのときには価格は2倍になっていました。そして,今はもう全部が識別不能になっていますと。ですから2回識別不能になっているという状況です。


  そうした場合に,固有財産と信託財産をどういう割合で分けたらいいのかという例を考えていただければと思うんですけれども,一つの考え方としては,あくまでも2段階で7と3があったわけで,それに固有財産として2が加わったのだから,これは7+2対3,つまり9対3である。信託財産が25%という話になると思います。

  もう一つの考え方として,その当時における価格ということを考えますと,新たに加わった固有財産の2というのは価格が2倍ですから,4である。


そうすると,算数なんですけれども,7+4=11対3,したがって,信託財産は21%。そうすると,考え方によって信託財産が25%か21%かということで違ってくると思うんです。


  頭の体操的な話で恐縮ですが,確認のために,これはどちらで考えたらよろしいんでしょうか。


● 後でちょっと補足してもらうかもしれませんが,私の感じでは,その場合,識別不能になったときの価格を考えて,最初の7対3は,そのごっちゃになったときの7対3で分けますよね。


後で固有財産に加わったということで,数としては,あるいは割合としてはその分が増えているわけですけれども,価格が違うので……,何というんですかね,7対3だから,10対2でまた分けるのかな。新たに2加わるわけですよね。


これは別に固有財産でなくても,全く違う,例えばもう一つ別な受益者のでもいいのかもしれないし,そういうものが加わって全体でわからなくなるのも同じで,要するに,高い価格のときに識別不能になったら,それはそのときの価格でまた全体をといいますか,今度は全部が12になっていますけれども,12を10と2に分けて,それで計算できませんか。


● それは一つの考え方だと思いますが。

● ええ,一つの考え方として。
● 仮の考え方としては,ちょっと御質問のことがよくわからないんですけれども,2段階で識別不能というものが生じるだろうと。例を確認しながらお話しさせていただきたいんですが,最初が10頭で……


● 10頭で,7と3。
● そこに後で2頭が加わりますという状況。それは固有財産。
● それは固有財産として加わった。ただ,今はもう全部識別不能になっている。だから2段階で識別不能があった。つまり,加わる場合は多分,2段階識別不能が出てくるという話で,減る場合はそういうことはないとは思うんですけれども。加わる場合は,2段階識別不能が生じ得る。


● 2段階目が起こるときにはヒツジの価格が倍になっているというのは,その12頭全部について倍になっているということですか。


● いえ,そのヒツジだけがですね。


● いろいろあると思うんですけれども,高級ヒツジみたいなものがいて……

● 例えば高級ヒツジが入ってくる。全体のヒツジの価格が2倍になるのであれば余り問題にならないと思いますけれども。まさに識別不能というのは,そういうところも一応,どういうふうに共有するかということを見なしで,ある意味で推定ですけれども,やるわけですから。


● そうすると,その2頭は高級だけれども,識別はできない状況になってしまう。そうすると,ほかの人に売るときには幾らで売れるんでしょうか。みんな倍で売れる……。


何かちょっと……,やはり識別できてしまうのではないですか。


● それが識別不能になっているという状況だということで。
● 2段階目でなくたって,第1段階目だって同じことが起こる。価格が違うとすれば。見かけは同じヒツジなんだけれども……


● おっしゃるとおりです。

● 実際分ければ……

● つまり,みんな同じように見えますという前提であるにもかかわらず値段が高いもの2頭と言われても,ちょっと。

● 2倍で調達してしまう。


● そのヒツジだけを2倍で調達してしまった。つまり,時価が関係するときには12頭全部,当初の1の値段でしか売れないんです。


● ただ,その当時の価格というのは識別不能の時点であって,売却の時点ではないですから。つまり,2加えたときには,その2というのは価格が2倍であった。


だけれども,売るときにはそれが全部また価格が下がって1になった場合。

● 価格の問題をどう考えるかはちょっと複雑ですけれども。
  余りこればっかり議論してもしようがないかもしれないけれども,後から加わる2頭以外の最初のヒツジも,これは調達価格は安いかもしれないけれども,後で2頭が加わるときに,そのときの客観的な価格があるわけですよね。


そうだとすると,そして,単に調達価格が違っただけで同じヒツジだとすると,後から加わる2頭についても調達価格をその基準にするのか,そのときの客観的な価格を基準にするのか。


  識別ができない同じものであって,そのときの客観的な価格がある時点で違うということが,そもそも想定しにくいですよね。


● そういう想定事由がないのであれば,それでよろしいんですが,加わった場合,どういうふうに考えるのかも検討する必要があるのではないかという趣旨でございます。


● 細かいところはもうちょっと詰めなければいけないかもしれませんけれども,2段階的に考えるということは,基本的な考え方だと思います。


● 私も同じことを考えていたんですが,2段階的に考えると,さらに条文を別に置かなくてはいけないかどうかがかかわってくるだろうと思うんです。


識別不能状態にある,その財産と新たな2頭とが混じるのか,それとも識別不能状態にあっても共有持分という形で識別可能であって,その共有持分との間で一緒になることを考えるのかによって規定の仕方が変わってくるのかなと思います。


● 1点,確認だけさせていただきたいんですが,御質問は,共有持分状態になっている10頭がいて,それにまた別の1頭が--1頭,1頭ですけれども,それが一緒になる。


ということになると,ここで共有持分が生じ,多分この共有持分割合に応じて,これだったら4分の1ですから,4分の1ずつA信託,B信託,C信託……というふうにぶら下がっていく,こういう状況ではないかと思います。


それは1,2,3というふうに書いておけば,当然解釈ができるのではないかと思います。


● 今の○○委員の御質問も,規定ぶりはともかく,最後の結論は,結局同じことになるという理解でよろしいですか。

  なかなか,まだ頭の体操のようなものが幾つもあるのかもしれませんけれども,今のような問題も意識しながら,条文にするときはさらに注意することになると思いますが,基本的な考え方として,大体よろしいでしょうか。


  では,今の細かい問題は宿題として残りましたけれども,基本的なことは御了解いただいたということで,第10についてはそのように扱わせていただきます。


  あと善管注意義務とか,あるいは法人の責任とか,幾つかまだ残っていますが,こちらについてはいかがでしょうか。


● 善管注意義務について,1点確認させていただければと思います。

  2,寄せられた意見についての個別的な検討の(1),善管注意義務の免除のところでございますけれども,ここには,受託者の善管注意義務を完全に免除するとの定めが信託行為に置かれている場合においては,委託者は信託設定の意思を有していなかったと解するのが合理的だと書かれているところでございますけれども,これは,こういったいわば丸投げ的な,全部免除的な特約がある場合は,そもそも信託の契約そのものがなかったと考えるのか,あるいはその特約だけが公序良俗違反ということで除かれるのかといったことについて,考え方の整理を教えていただければと思います。


  私がこれを質問いたしました背景ですけれども,私ども,業法であるところの信託業法を所管する立場でございまして,いわば商事信託の世界では,一般投資家と受託者たる信託会社との間に,経済学の言葉で言うところの「情報の非対称性」みたいなものがございまして,そういったことからすると,取引主体間の情報量と交渉力にかなり差がある場合がございます。

そういたしますと,私ども,一般投資家であるところの委託者とか,あるいは受益者を保護するという観点から申しますと,信託業法については善管注意義務の任意規定に関しては非常に慎重な検討をしなければいけないと考えておりまして,すると,一般投資家にとって,例えば善管注意義務を免除したときに,信託行為がなかったということは一体どういう意味を持つんだろうか,こんな問題意識でございます。

● 御質問自体も非常に重要な問題だと思いますし,さらにそのバックグラウンドになる今の御説明の点についても重要な問題だと思いますので,御意見を伺いたいと思いますけれども,先に,こちらから何かあれば。


● この点につきましては,事務局の中でも検討いたしました。そもそも善管注意義務の免除というものがどういう内容を含むのかという点がよくわからないというような議論をいたしまして,この点につきましては,以前の審議会でも同じような検討がされたかと思います。


  そもそも免除するというのがどういう内容かと申しますと,1つ考えられますのは,そもそも故意で何をやってもいいんだと。


例えば信託財産を壊してもいいといったことなのかなというようなことを考えまして,そういうようなことを信託行為で考えているのであれば,そもそもそういうものは信託を設定するという委託者の意思はないのだろう,そうだとすると,すべて信託というのは成立しなかった,信託行為自体が無効になるといった理解でいいのではないかと考えておりまして,そもそもここで「信託行為の定めにより免除することはできない善管注意義務は……」ということを書く意味がよくわからないということがありまして,ここで議論していただきたいことの1つとしましては,そもそも善管注意義務を免除するというのはどういうことを指しているのかということではないかと思っております。

それが明らかになって合理性があるのであれば,例えば,信託行為の定めにより,善管注意義務は価値を軽減することができるというようにする余地もあるかとは思っておりますが,そもそも免除というのが,先ほど申し上げたとおり何をやってもいいんだというのであれば,そういうものは信託ではないだろうということになるのではないか。それは解釈で明らかなのではないかというのが今の結論でございます。

● 信託財産の引渡しがあり,契約当事者間の契約があっても,この場合は無効と解する,こういうことでございますか。


● 無効という言い方がいいのかどうか,よくわからないところがありまして,所有権移転等を引用しているのかもしれませんし,いや,その場合は委任でもないのかもしれないしというふうな話ではあるのではないかと思います。


無効という言い方がいいのかどうかわかりませんけれども,信託という認定はされないのではないか,そういう趣旨でございます。


● 免除という言葉はちょっと強いかもしれませんけれども,現実的にあり得るのは,やはり損害賠償責任を心配して,そこについては故意・重過失以外は負わないとか,故意だけ負わない。そんなのないかもしれませんけれども。
  他方において,善管注意義務は義務として負っても構わない。なおかつ,信託財産を破損するようなことをわざとすれば,それは善管注意義務が免除されていたとしても,実質他人財産に近いものですから不法行為を構成すると思うので,ですから,免除,また免除に近い規定が契約上,入ったとしても,そもそもそこまで悪質といいますか,そこまで管理しないつもりはなくて,私は,それは主責任の方の心配からそういう規定になっていくのではないかと思うんですよね。

  そういう意味におきましては,やはり免除とか免除に近い規定が入っている場合には,本来その免除規定,また免除に近い規定自体が無効であって,そしてデフォルトルールとして善管注意義務が普通に課せられると解釈した方が,かえって信託も継続しますし,受益者保護にもなるのではないかと思うんですけれども。


● 普通の,いわゆる免除といいますか,今,○○委員が言われたような免責規定ですかね,その場合には,確かにこういう重過失を免責する部分はだめで,通常の善管注意義務を負わされる規定として考えれば,多くの場合はそれで解決するんでしょうね。


  どんな場合がそもそも信託にならないのか,私もまだ十分イメージがありませんけれども,免除そのものよりは,何をしていいかという行為義務の範囲の決め方とも関連して,そして何をやっても構わない,また,それによって損害が生じても責任を負わない,仮にそんなような規定があると,果たしてそういうものは信託と言えるかどうかが問題となる。そんなことではないかと私としては理解しました。事務局の説明は。

  ただ,多くの場合はそういう規定ではなくて,仮に損害が生じても責任を負わない,文言上は故意・重過失についても免責するような規定があったときに,これは故意・重過失の部分だけ否定すれば済む問題であろう,そういう感じがしますね。○○委員も,結局そういうことだったと理解してよろしいですか。

● そうですね,義務と責任を分けて規定することはあり得ますので,義務は負うけれども責任は負わないという……

● それもあり得ます。義務の方もすべて免除というか,何をやってもいいということになると,これはまた,果たして信託かどうかが問題となるということだと思います。

● 今のような極端な事例は,いろいろな考え方の中で一つの考え方を示されたと思うのですけれども,そこまでに至らない場合は,第18の「ただし,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うものとする。」というのはもちろん原則としてそうであって,このただし書きの限界というのは,公序良俗のような第90条の規定によって,つまり一般的な内容規制に関する規定によってのみ制約を受けるという理解でよろしいんでしょうか。


● 私はそう思っているけれども,どうですか。
● そういう理解です。


● そうですね。としますと,例えば今のような極端な責任を,信託と銘打ちながらおよそ責任を負わない,善管注意義務を負わない,ないしは実質的にはそれと等しいような免責規定をたくさん入れているということは,信託という契約の……,やはり公序良俗とは別の考慮から,信託である以上そのような制約がかかってくるのだという理解で先ほど御説明があったと考えればよろしいのでしょうか。


● そうですね,公序良俗そのものとは,ちょっとまた違った説明があり得るということだと思います。具体的にどういう場合がそうかというのは,なかなかいい例が……。


● すみません,先ほど御回答にあったと思うんですけれども,契約そのものが無効になるかならないかは,その時の状況次第ということなんでしょうか。


  例えば救済という観点からすると,信託という形で成立していた方が,ある意味,ほかの部分の義務が課せられていますから,できるだけそれは存続させるような形にした方が得策--得策というのは,受益者の側からして,救済額として得策ではないかと思うんですけれども。


● 確かにそういう問題もありますね。
  これはここだけの問題ではなくて,分別管理義務などについても全く同じような問題が生じると思いますけれども,分別管理義務を一切排除して,ごちゃごちゃにしていいなんていうのが果たして信託かというと,信託とは言いにくいわけですけれども,あれも信託であるというふうにしておいて,分別管理義務の免除の部分はだめだということで分別管理義務を負わせるという解決の仕方をするというのと同じ問題ですよね。


  そこは,この条文といいますか,この試案自体では,どちらになるかということまで必ずしも明確に書いてあるわけではなくて,解釈によって決まると思いますけれども,場合によっては「こんなものは信託ではない」というものがあり得るかもしれないというぐらいのニュアンスとして私は理解しています。


しかし,多くの場合は信託であることを認めた上で,排除している義務は,その部分は無効だということで本来のデフォルト的な義務が負わされるというのが,解決としては望ましいかもしれません。


● 先ほどの質問の趣旨をもうちょっとはっきり言った方がいいかなと思いますので,つけ加えさせてください。
  

通常の民法の売買とか賃貸借といった契約ですと,その契約の本質的な要素にかかわる部分について,例えば賃貸借と銘打ちながら,かなりその本質と違うようなことを当事者間で合意するというような場合に,それは賃貸借であるとか,あるいは売買であるとは言えないかもしれないけれども,しかし,契約は自由なんだから,そういう一種の無名契約のようなものとして効力を認めればいいではないかというのが民法の基本的な考え方だと思うんですね。


  ところが,信託の場合は,ちょっとそれとは違うという理解でよろしいんでしょうか。それが実はさっきの確認の一番根本にあったところなんですけれども。


● 私としては,違うとは言いたくない,そこは。基本的な構造は同じだと思いますけれども。

● 我々も,ほかの契約と違うということを申し上げているつもりはなくて,再度申し上げることになるかもしれませんけれども,これはパブリック・コメントに寄せられた意見の理解なんですけれども,第18に書いてある「信託事務を処理するに当たっては,善良な管理者の注意をもってしなければならない」これを完全に免除することはできるのかという,言われ方の問題のようなところが1つあるのかなと思っていまして,つまり,善良な管理者の注意でなくてもいい,自己財産と同一の注意でなくてもいい,何も注意しなくてもよくて,信託事務を処理するに当たって,信託目的に従って行動しなくもいいぐらいのことを言われる,それが完全な免除なんだろうか,そこまで言われているのであれば,それはもう信託ではない。

つまり,自己のために財産を使う,それはもう信託ではないという整理を我々としてはしておりますので,そこまで言われるのであれば,それは信託ではないということになってしまうのではないだろうか。


  それに対して--すみません,今,先生方がいろいろおっしゃっているのは,いや,そうではなくて,もう少し個別的な義務の軽減,あるいは免除の話なんだよということで,ちょっとパブリック・コメントに寄せられた意見の受けとめ,あるいは第18のただし書きの理解というか,そこのあたりがもしかしたら少し違っていたのかなという感じがするのですが。

● さらにつけ加えていますと,○○委員が非常に悩んでおられる,余り極端なことを言いたくないというお気持ちは非常によくわかるわけでして,要するに,善管注意義務を外したような財産管理契約という無名契約を考えるならば,それは信託ではないかもしれないけれども,そういう契約はあり得る,一般論からするとそういうふうになりそうだけれども,何とかそこから先をうまく説明できないものだろうかということだろうと思うんですね。
  


もう一つの考え方は,信託と言うかどうかは別として,他人の財産を扱いながら,およそ全く善管注意義務のようなものを負わない,受託者に相当する者がかなり適当なことをやれるといった契約自体が,公序良俗と言うかどうかは別として,やはり一般法理として,そのような財産を預ける者にとって非常に危険な,一方的な契約は許されないからではないんでしょうか。


そういう意味では,一般法理の一つのあらわれとして,この種の善管注意義務を外すような財産管理契約というのは,やはり無効なのだということが出てくるのではないでしょうか。


  その上で,その契約全体が無効なのか,それとも財産管理を約束した以上は善管注意義務に相当するものは必ず負うという強行法規のようなものがあるわけであって,それがそのまま適用されるだけであって,外せないというふうに考えるのか,どちらで考えるのが,より他の説明と整合的だろうかという話で済むのではないかなと,私は最初,直感で思ったのですけれども,どうもそうではない展開をしていたので,確認させていただいたということです。

● ○○幹事がおっしゃった,そういうのは公序良俗から無効だというお話ですが,ある財産を寄附したり,贈与だってできるわけですから,そういうものは,いわゆる財産管理契約でなかったのだというだけの話で,無名契約とさせない,したがって認めないということまでする必要があるかどうか,ちょっと今……。

完全に贈与して所有権を移転してしまうことだって当然できるわけですね,世の中的には。


それと信託の中間にあるようなものだと。そういうものを財産管理契約と言うかというと,そうではないのだろうという,それだけの話なのではないかという気が,ちょっと。


● 自分の財産を管理するという,そういう枠組みでの話ですよね。

  これはむしろ○○幹事に確認ですけれども,他人の財産を管理するもので,しかし善管注意義務を,ここでも完全に排除するということは微妙ですが,完全に排除するのはだめかもしれないけれども,それを軽減するようなものはあり得る,そういう御理解でよろしいですか。それはそれでいい。


● ええ。ですから,どこまでに限界があるのかというもので,それが,何かこれは信託だから,信託と言えないからというのでは,ちょっと説明が,ほかの契約と違い過ぎていて,そういう説明も,信託は特別だという説明はあり得るとは思うんですけれども,そうでない説明の仕方もあり得るのかなと思った次第です。


  結論は,そんな大きい違いがあるとは思いません。全部無効か一部無効かというのは残りますけれども。


● そうですよね,普通の財産管理,信託も含めてだけれども,普通の財産管理の場合の契約に共通する,いわば解決の仕方を提示したということですよね。


  恐らくそれで十分済むといいますか,信託でないというような場合を,これもたまたまパブリック・コメントがこういう形で出てきたので,それに対する一つの答え方として,そういう答え方がちょっと目立った形になりましたけれども,恐らく一般論から出発して,第18の善管注意義務の問題を考えるのであれば,信託行為で別段の定めがあれば,ある程度軽減できるけれども,それには一定の限界があって,およそ故意・重過失の場合でも構わないというものはもちろんだめで,そういう限界がある。


これはしかし信託の場合だけでなく,委任であれ,ほかの場合であれ同じような問題がある,あるいはそういう理解が一番一般的な理解としてわかりやすいかもしれません。


  特にこちらもそれで異論があるわけではありませんからね。

● 今の議論,何も異論はございませんけれども,このパブリック・コメントといいますか,提案されている文章の中に,今,議論になっているのは,むしろ認定規定化の限界といいますか,その辺が議論になっているのかなという気がしておるんですけれども,その限界があるということが表現として出てきていないかなという気がしておりまして,そこが1つ,もしそういったことも盛り込めるのであれば,何らかの形ではっきり書いた方がいいのではないかという気がするのと,それから,先ほど業法のお話が出ましたけれども,この辺については弁護士会や何かでも多少議論があったところですけれども,信託の一般法のレベルの問題と,それから業法のレベルの問題は,やはりちょっと違うのではないかという気がしておりまして,信託の一般法としては,こういった形で別段の定めを置くことが適当だと思いますけれども,両方のレベルで同じように任意法規化するかどうかについては,やはりいろいろ議論があり得るところだと思いますので,そこは,そういった観点も踏まえた方がよろしかろうと思っています。

● 2番目の論点も非常に重要な問題だと思いますので,また御意見を伺いたいと思います。


  最初の方に関して言えば,ここで「別段の定め」の限界がうまく書けるかどうかという問題なんですが,これは私の個人的な意見ですけれども,一般的に公序良俗の問題としても,故意・重過失の免責までは含んではいけないというのが大体決まった考え方ですので,少なくともそういう限界については,ここでわざわざ書かなくても一般的にはかぶってくるだろうというふうには思います。


  2番目の論点は,もうちょっと実質的に重要な問題だと思いますけれども,これは私よりもお詳しい方がほかにおられますので,信託一般法と,それから業法との関係みたいなものですね,この場は「業法はこういうふうにあるべきだ」ということを議論する場ではございませんけれども,何か御意見があれば。

● これはファクトの御説明ということでお話しさせていただけるとありがたいんですけれども,実は,ここの善管注意義務のところは,前回の信託業法の改正のときに,いえば強行規定に近い形で新しく導入させていただいたところで,その考え方としては,当時の立法担当者の意思としては,信託業への信頼性確保の観点から,一般的な義務規定を業法上も規定することが適当で,監督に当たっての受益者保護のための行動する根拠,あるいは職業としての受託については,一般の受託者よりも相当程度,やはりそういう義務の重いところを考えなければいけないということから,確かに○○幹事おっしゃるように,そこは一般法であるところの信託法と,それから,いわばプロの法律たる業法として規範の定めとは違う,そういう整理をしております。それがファクトです。


● この場で余り議論することは適当でないのかもしれませんが,仮にこの信託法が一般法でもって任意規定--任意規定といっても一定の限界があるわけですが,先ほどから問題となっているような故意・重過失みたいな場合には,もちろんだめだと。


ですから,ある種の軽減ができるだけである。そういうものが信託法に一般法でもって入ってきたときも,やはり業法は別に考えた方がいいのではないか,そういう御意見ということですか。


  先ほどまでは,今まではこれ自体が強行法規であったという前提だったわけですけれども。


● ○○委員おっしゃるとおり,もちろん,この信託法の改正を受けて私どもの業法をどうするかという議論があり得るわけで,そこはいろいろな考え方があると思いますが,先ほど申し上げましたように,私どもといたしましては,やはり受託者,それから委託者の間に情報の非対称性がある場合が結構多うございますので,そういった観点を踏まえて慎重に検討せざるを得ないのではないか,こんな感じでございます。


● 業法の観点からは,もちろんそうでしょうし,一般法の定め方としては,信託法としてはこれでよいかと思うんですけれども,先ほど何度も出ていますように,契約の内容規制に関する一般法理によって,やはり制約を受けてくることになる。


公序良俗がその代表例でしょうけれども,それによって制約を受けてくるというときに,やはりどういう契約であり,どういう主体がだれに対してどういう契約をしているのかというのは,やはり内容規制に当たって大きい意味を持ってくるんだろうと思います。


  やはりプロの業者が通常の一般の人間に対して契約するときには,やはり善管注意義務を負いませんよとか,相当軽減していますよというようなものが信託として行われている場合には,考え方によっては,厳しい内容規制が入ってくる可能性があるだろうというのは,やはり確認しておく必要があるのではないでしょうか。


  ここでただし書きが入ったので「よほどひどいものでない限り大丈夫」一般的にそう簡単に受けとめてよいかどうかはちょっと別問題として,次の問題としてあるというのは押さえておく必要があるかと思います。


● 業法と一般法は違うということもよくわかりますし,○○関係官がおっしゃったような形で,例えば情報に格差がある者同士,受託者と受益者について,それなりの規制をしなければいけないというのも理解できますけれども,もう御承知のように,信託というのはいろいろな種類がありまして,営業信託におきましても多種多様な信託があって,その状況が,今,おっしゃったような状況そのものにおさまるものでもありませんので,これもよく御承知のことだと思いますけれども,業法というのはその辺のところを割と,さじ加減という言い方はおかしいですけれども,いろいろな対応に応じた形で臨機応変に規制ができると思いますので,その辺のところを御配慮いただけたらなと考えております。

● ちょっと的外れになってしまうかもしれませんけれども,善管注意義務を免除するという意味なんですけれども,これは受託者の自己のものに対する注意義務まで軽減することになるのか,それとも一切何の注意義務も負わないということになるのかがよくわからないんですが,もし,善管注意義務を免除することが自己のものに対する注意義務にレベルを落とすということであれば,例えば貸付債権の信託を想定した場合で,受託者が信託銀行ですと,銀行業務も営んでいますと。


そして銀行業務として貸し出しをやっているので,それなりに貸付債権を,自己のものであってもきちんと管理しています,杜撰なことはやっていませんということがある程度わかる場合に,それを期待して,それでもいいというようなこともあり得るのではないかという気がしておるんですけれども。

● そこのところは,やはり免除をどういうふうに考えるのかという点に戻るかと思うんですけれども,委任でも同じような話がありまして,善管注意義務につきましては,自己の財産におけると同一の注意までは軽減することができる。

ただし,免除まではすることができないという議論がありますので,ここにおける善管注意義務につきましても,自己における財産と同一の注意までは軽減することができるというのを当然の前提にしておりまして,それ以上に免除はできないのではないか。


その免除というのが,何をやってもいいですよというのであれば,それは許されない。それは先ほど議論ありましたとおり,公序良俗とか契約の本質とかで制約されるのではないかという考え方でございまして,もう一度申し上げますと,自己の財産におけると同一の注意までには軽減できるというのを前提にしております。


● その点,よろしいですか。
● わかりました。


● ほかに,よろしいでしょうか。結構重要な,象徴的な問題であると思いますので,御意見があれば伺いたいと思います。


● 議論の整理だけですが,昔からある問題で,善管注意義務というのが債務の範囲を決めたことなのか,それとも過失の程度を決めたものなのかという問題が根底にあって,さらに債務の内容と過失とが峻別できるものなのか,それとも裏表なのかというのがあると思います。


それをどこから見るかによって,契約として認められるかどうかということと,それから公序によって規制されるのかというのは視点が変わってくるんだろうと思います。


● おっしゃるとおりでございます。
  よろしいでしょうか。それでは,ただいまのような御意見を踏まえながら,この規定について基本的には御了承いただいたと思いますけれども,説明等につきましてはさらに検討するといいますか,これでいいかどうか確かめながらまとめていきたいと考えます。


  それでは,法人の役員の連帯責任と報酬請求権,受託者の職務の引受け,残りの部分についていかがでしょうか。


  法人の役員の連帯責任につきましても,現行の規定からすると大分軽くなるようでありますけれども,これは,そもそもその法人である受託者が一応責任を負って,それが財産が足りないようなときに,またさらにその法人の理事に負わせるという信託にとっては二重の仕組みになっているわけで,ここは他には余りない制度なので,軽減してもいいのかなということであります。

  報酬請求権は甲乙がございますので,これは少し御意見を伺っておいた方がよろしいと思います。


● 例のごとく甲案支持でございますけれども,費用の補償請求権といいますのは,なかなか予見ができないところもありますけれども,報酬につきましてはある程度,どういうものかはお互い理解しているところでもありますので,信託契約に書けば受益者にいけるという形であっても別にいいのではないかと考えておりまして,やはり基本的には甲案支持ということでございます。

● 同じく銀行会ということになるかもしれませんけれども,少数派であることも認識しつつ,一応甲案という立場であることを明確にしておきたいということと,それから,1点御質問がございます。


  前回の○○委員の話にも関連するかもしれませんけれども,例えば複数の受益者がいた場合に,交渉の結果,片一方が有償,片一方が無償になったといったときに,事実上,有償であった方が口を出すことになると思うんですが,そうした場合に,受託者としての公平義務との関係が出てくるのではないかと思っております。
 


 ただ,法律的に考えると,その委任は無償が前提であって,かつ基本的には有償か無償かというのは善管注意義務等に余り影響を及ぼさないという理解でいるわけで,ですから結果として,法律的にはお金をもらおうがもらうまいが公平義務には影響しないという整理なのかもしれませんが,ただ,やはり事実上「もらったからには私にいいことしてよ」という話になると,公平義務としてはなかなかしんどい。


もしそれが事実上の話であって,それは受託者としてちゃんと公平義務を実現するために頑張って公平にしなさいということであれば,結果的に受託者としては,そういう,ある意味トラブルといいましょうか,そういう説明がしにくくなると,やはり個別にこの人はとったり,この人はとらなかったりというような扱いはできなくなってしまう,そういう整理になるのかなと思ってはいるんですけれども,そういう意味で,ちょっと確認なんですけれども,有償,無償に関して受託者の義務というのは変わり得るのかどうかを,いま一度確認しておきたいと思います。

● そこは有償であろうが無償であろうが公平義務には変わりなく,平等に扱うべきだと考えているところでございます。


● よろしゅうございますか。甲案御支持の方もおられましたけれども,ほかの方。

● バランス上ということで,乙案支持の意見も十分あることを申し上げたいということで,理由につきましては前回,費用等の償還について申し上げましたし,事務局の方で用意してくださった文書が十分に伝えていると思いますので,この点についても乙案がよろしいのではないか。


受益権の譲渡ですとか放棄ですとか法律関係も,そちらの方が非常に明確になるのではないかと考えております。


  それから,今,○○委員から御指摘のあった公平義務につきましても,これはもう既にお答えになったとおり,それによって変わるものではない。


  有償,無償というお話ですけれども,分配の局面においても管理の局面においても,それが一体どういうふうに変わってくるのか,受益権の内容に反映するものではないわけですから,それによって変わることがないのは当然であると考えております。

● 今のバランスをとるための発言なんですが,私も乙案でよろしいかと思います。


  理由はここに書いてあることと,さらに考えてみると,委任と事務管理との比較というのを考えてみました。


委任の場合は,契約があって特約があれば報酬が支払われる。事務管理の場合には,そもそも報酬はなくて,費用補償の問題だけが出てくる。


受益者との間には契約関係がないわけですから,むしろバランスから言っても,報酬というのは別段の合意がない限りは発生しないという乙案の方が筋が通るのではないかと思っています。


● バランスはもうとれたので,それはいいんですが,乙案の読み方なんですけれども,これは信託行為に定めがあって,その上で合意をするということなんでしょうか。


そして,その信託行為の定めとして要求される内容なんですが,抽象的に報酬が取れるという話なのか,それとも受益者との個別の合意をすれば受益者からも取れるという信託行為の定めが必要なのかということなんですが,私の個人的な考え方としては,報酬が取れるというのは,やはり信託財産から取れるという意味であろうと思いますし,委託者が信託の設定のときに,例えば無償で受益者に何かの利益を得させようと考えてやったにもかかわらず,受託者が受益者に「あなたからもお金をもらえば嬉しいな」と言って個別に合意するというのも妙な話でございますので,基本的には信託行為の中に,受益者との合意によって受益者から取ることもできるまでの定めが必要なのではないかと思うのですが,そのあたりの理解についてお教えいただければと思います。

● 事務局としては,信託行為に定めは不要であって,信託外で受託者と受益者が合意するということでいいのではないかと考えていたところでございます。


● そうすると,何の対価なんですか。信託行為の信託の設定によって,受益者に対する給付義務なら給付義務,ないしは財産の管理義務なら管理義務が発生しているわけですよね。


その上で受益者と個別に合意をして受益者から取るのは,何の対価なんですか。


● 対価と言うと,信託財産から取れるわけでございますので,受益者から取るのは,対価性といいますと,やはり受益者の利益をおもんぱかって信託財産の管理・処分をしたことの対価ではないかという気がいたします。

● いろいろな考え方があり得るかもしれないけれども,基本が信託財産から取れて,そこには対価性があって,受益者からも取れるというのは,一種受益者が担保するというような関係になるのかもしれませんね。だからこそ,また当然に生じるものではなくて,特別な合意が必要である。


● ○○委員の御説明はわかるんですが,それというのは,例えば信託報酬が信託財産から取れないといった状況があるときに,それが信託の終了に結びついてしまうというふうなとき,ないしは信託財産のうちで核となる信託財産を売却しないと信託報酬が取れないので売却をしてしまって,目的が達成できなくなって終了しそうになる。


それは困るということで受益者が払うということだと思うんですが,それというのは,ある意味では代位弁済のようなものでありまして,受益者が報酬支払義務を負っているという関係とは少し違うのではないかという気がするのですが。


● ええ,その2つは違うと思うけれども。ちょっと○○幹事の御意見を十分理解していなかったかもしれませんけれども,仮に今,信託の報酬だけに限定して考えると,これはその信託財産を管理して,そのサービスを提供することの対価として,それは当然発生する報酬請求権ですけれども,これは信託財産から取れる。


これが普通の形であると考えるわけですよね。その信託財産以外になお受益者からも取れるというふうにするためには,これは何か特別な合意が必要なのではないか。


● その信託報酬の額は,信託行為の定めに例えば「月々100万円」と書いてあって,受益者と個別に合意して30万円取れることになったら,信託財産かは70万円しか取れないんでしょうか。


そうなると,それは私が言っている代位弁済のような,第三者弁済のようなものではないかという話なんですが。


● ○○幹事がおっしゃっているところで,もう御趣旨は明確なのかもしれませんが,念のため確認だけさせていただきたいと思います。


  信託行為に定めていなくてはいけないのですかというお話は,受益者から信託報酬を取るということの意味なのかもしれませんけれども,まず信託財産から信託報酬を取れるということが書いていなければ,それはだめですと。


ただ,信託財産からではなくて「受益者から信託報酬を受けることができます」ということが信託行為に書いてある必要は当然ないわけで,言われているところは,信託報酬を信託財産から幾ら幾ら受けることができますとあって,それと同じ内容のものを受益者からとりたいのであれば,受益者との間で個別の合意を結んだらどうですか,そういうことを表現しているのが乙案の趣旨かと,それが第三者の弁済と同じようなものではないか,こういう御趣旨ですか。


  すみません,うまく言えていないような気がするのですが。


● そうすると,減るわけですね。受益者から取れた分だけ信託財産から取れなくなるわけですよね。


● それは,そうでしょうね。
● ええ,そういう関係です。


● 示せば減るけれども,合意をしなければ減らないのではないでしょうか。


ですから,何を例にするのが一番いいか,よくわかりませんけれども,保証人なのか連帯債務者なのか,そういう複数の責任財産に共同で帰属する,そういう債務というか,受託者から見ると請求権になるのではないでしょうか。


● 私が考えているのも,そういうことですけれども。


● ですから最初のところに戻って,何の対価かということに対する私の答えは,他の信託事務処理の対価なんだろうと思います。


そして,では何で対価を受益者が払うのか。合意で払うわけですけれども,その経済的な実質が基礎にあるのかというと,信託財産から利益を受けるのは受益者なので,そこをバイパスしてといいましょうか,直接取っても何ら経済的にバランスを失することにはならないだろうと思います。

  ただ,だからといって甲案がいいわけではなくて,乙案を私も支持するところでありますが,乙案は,そういうふうに説明できるんだろうと思います。


● ○○幹事の御意見と同じことですが,ある種の保証人みたいなものだということですよね。


● 申しわけありませんでしたが,大体頭の整理がつきました。そうしましたら,ゴシックで「信託報酬を受ける権利の行使方法」と書いてあるところが重要な意味を持ってきて,これは,信託報酬を受ける権利というものは信託行為によって定められている一つの権利であって,その行使方法として,受益者からの信託報酬の取得という行使方法が合意によって成立し得るということであると読むことができるような気がします。


  かつ,そうしますと,これは言葉遣いだけの問題ですが,2の(2)の「受益者から信託報酬を受ける権利」というのは,もうちょっと丁寧な言葉遣いをした方が,その趣旨がとりやすいのかなという気がするわけで,それは誤解をするのはおまえだけだと言われればそれまでなんですが,そういう気がいたします。


● 御趣旨はよくわかりました。その部分は少し表現を,今,議論して大体了解を得たような中身があらわせるように検討したいと思います。
  それでは,報酬のところもよろしいでしょうか。
  


さっきバランスと言われましたけれども,バランスだけだとどっちにしていいかわからないので,大体の方向としてどちらが多いのかを確認させていただければと思いますが,ほかの皆様の中で御意見は。


● 数を数えるなら,乙案の方に賛成いたします。
● よろしいですか,乙案。では,乙案が多数であるということだけ確認させていただきました。


  それでは,あと残り特に御意見がなければ,職務の引受け等,これは御了解いただいたということでよろしいでしょうか。


● 委託者に相続人がなくして死亡したときにはどうなるかについて,お教えください。


● 相続人不存在の場合ですね。相続財産法人の管理人に対して回答するということに……


● それならそれで,わかりました。

● ちょっと細かいことなんですけれども,相続の場合なんですけれども,遺言執行者等が選任されているときはどうなるんですか。


● 難しい問題ですね。いかがですか。


● そこは遺贈の場合の規律で,文言上は「遺贈義務者に対して」となっているわけでございますが,この場合,遺言執行者も含めていいのではないかと見解が分かれているところで,どちらとも言えないところでございます。


  どちらがいいかちょっと迷っているところでございますが,実質的には,遺言執行者がいればその人に回答するのがよりベターだと思うんですね。


ですから,遺言執行者がいる場合には遺言執行者ということでいいのかなという気がしておりますが。


● 現実的には,やはり遺言執行者だろうという感じはするんですけれども。遺言信託で仮に問題となるとすると,そもそも受託者が引き受けるかどうか問い合わせてくるのは遺言執行者ですよね,その段階では。


後で催告するのは,また別の人間があり得るかもしれないですけれども,やはり遺言執行者が正面に出ていますから,それがよさそうですけれども,相続の理論だとかいろいろなものとの兼ね合いで,そういう解釈でいけるのか,いけないのか。


  実質は余り問題ないと思うんですけれども,そんなところが問題なんだろうと思います。


  そういう意味で,これは遺言執行者を排除するつもりではなくて,原案としては,むしろ遺言執行者で構わないんだけれどもという……。


● 遺言執行者がいれば,この相続人に含めて解釈することは妨げないのかなと。そうすると,どっちに解釈してもいいということにはなると思いますが。


● そうしますと,この催告の相手方とかというのは,やはり遺言執行者等の問題というのは特殊なもので,基本的に委託者の地位自体の,どう言うんですか,基本的にはばらばらにしてはいけないわけですよね。


● 余り望ましくないでしょうね。


● あと,例えば委託者の地位自体,流動化等であれば当然移転させることもありますけれども,こういったものについてもそれに連れて移転するということですか。


● 法律行為の当事者としての地位が移転すれば,新たに委託者となった者が相手方になるのではないかと考えているところでございます。


● 民法の第1015条に「遺言執行者は,相続人の代理人と見なす。」という規定がありまして,また,第1012条を見ますと,遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるとなっておりますので,これは具体的に注釈等は見ていないんですけれども,相続人の代理人と見なされる以上は,確答する相手方として遺言執行者というのも当然いいのではないかという気が個人的にはいたしますけれども。


● 今のだと,専属的ではないということですかね。大体そんな解釈でよろしいのではないかと思いますが,よろしいでしょうか。


  それでは,これも今の解釈についてはもうちょっと詰めたいと思いますけれども,今のように,遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対する確答でよろしいという--あ,どうぞ。

● 遺言執行者ですから,もちろん遺言信託の場合を前提としてということだと思いますので,契約信託で指定されているような場合は,また違ってくるという理解でよろしいでしょうか。


● そうですね,遺言信託の場合のことを考えております。


● もう一つ。先ほど若干議論があった点なんですけれども,だれに回答すべきかというのは,あくまで受託者側で調査すべき事項ということになりますでしょうか。


それとも,その確答を求める側が「だれだれに確答されたい」というようなことを明らかにすることになるのでしょうか。そこだけ確認させてください。


● 遺言執行者の就職の催告権というのが第1007条にございますが,あれも相続人に対して回答する。ああいうところも催告者が相続人を一々通知してやらなければいけないことになっているのかどうかという点は,いかがでしょうか。


  私の考えでは,受託者に指定された人の方で,相続人を探して回答する,あるいは遺言執行者がいれば遺言執行者でも相続人でもどちらでもいいんですが,催告する人がそれを一々通知してあげる必要はないと考えております。


● それでは第1区分,第8まではここまでとして,次に移りたいと思います。


● 次は,第12と第31について,関連いたしますので一緒に御説明いたします。

  資料ですと7ページでございますが,提案第12につきましては,ほぼすべての意見が改正試案の方向性について賛成でございました。

  以下では,第1点として,資料13ページにおける第31の受託者の権限違反行為の取消しとの関係で,この提案の1の(4)における「当該権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手側が知らない場合」の要件に対する考え方が1点。


第2点といたしまして,(注)に記載した不法行為に関する問題について,この2点について御説明いたしたいと思います。


  まず,資料8ページの2(1),これが第1の問題を検討したところでございまして,試案におきましては,信託財産に属する財産について権利の設定または移転をする権限違反行為については,当該行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない限り,当該財産に掛かっていける,このような考え方を示しました上で,第31の補足説明の中におきまして,2つの考え方を示しておりました。


すなわち,取引相手方が信託財産のための行為だとは知らなかったと主張することにつきまして,1つは,取引対象となった財産について,現に信託の登記・登録がされていれば知らなかったとの主張はできないという考え方。


もう一つは,信託のためだとは知らなかったことについて,相手方に重過失があれば知らなかったとの主張はできないという考え方,この2つの考え方があり得ることを指摘いたしました。


  この点につきまして,この提案におきましては,前者の考え方,すなわち信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張ができないとする考え方をとってはどうかと提案するものでございます。


  後者の重過失の場合には主張できないとする考え方によりますと,取引の相手方に対しまして,信託の受託者と取引をしているのかどうかの注意義務を課すことになると思われますが,これは取引の相手方に困難を強いるものであるように思われるわけでございます。


これに対しまして信託の登記・登録のある財産の場合におきましては,受託者の債権者がこのような財産に強制執行をした場合は,信託であることを対抗されて強制執行が排除されてしまうということに対比いたしますと,取引の相手方についても当該財産が信託財産であることを対抗されてもやむを得ないと思われる点が1点。


  それから,取引の相手方といたしましても,登記・登録のできる財産について取引しようとするのであれば,信託の登記・登録の有無ぐらいは調査すべきこととされてもさほどの困難を強いるものとは思われないという点が第2点。


  もう一つは,受託者の債権者の場合には執行が常に排除されてしまうわけですが,これと異なりまして,取引の相手方の場合には,信託のためだとは知らなかったという主張が許されないことになるにとどまりまして,なお受託者の権限違反行為について,善意・無重過失であれば救済される余地がありまして,取引の安全に対しても配慮した内容となっていることなどの点を指摘することができると思われます。

  これらの事情にかんがみますと,信託の登記・登録がある場合には,信託のためだとは知らなかったとの主張を許さないとする考え方を採用することが適切であると思われたわけでございます。


  そこで,今回の提案と試案との違いといいますのは,この1点についてのみでございまして,すなわち,現に信託の登記・登録のある財産については,取引の相手方において信託のためだとは知らなかったと主張することは許されず,信託のためであることを知っているものといわば同視されることになりまして,その結果,第12の1(4)から外れまして,一たん第31の権限違反行為についての取消権行使の可否のテストに服させることとした点でございます。

  これに対応いたしまして,資料13ページの第31の方におきましては,現に信託の登記・登録のある財産,典型的には不動産につきましては,「当該行為が信託財産のためにされたものであることを知り」という要件が常に満たされるものと考えまして,(2)から(1)の方に特出ししております。あとは権限違反行為についての悪意・重過失のみを問うことといたしました。
  


このような検討を加えました結果,本提案の内容を具体的に示しますと,資料14ページに書いてある①ないし④のとおりになるわけでございまして,①では,現に信託の登記・登録がされている不動産の権限取引の場合には,信託のためであることを知っているものと同視されることになりますので,第31の1(1)により取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取引ができないとすれば,取引の相手方は第12の1(3)によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。

  これに対しまして,資料14ページの②のとおり,現に信託登記がされていない信託不動産の権限外取引の場合には,第31の1のいずれにも当たらないわけでございますが,これは要するに,信託財産であることの対抗ができないという理由によりまして,権限違反についての認識を問うまでもなく,取消権の行使ができないことを意味するわけでございます。


しかし,取消権の唯一の根拠であります第31により,取消しができないことには変わりがございませんので,取引相手方は,やはり第12の1(3)により,この信託不動産に掛かっていけることになると考えております。

  次に,信託の動産の権限外取引について考えてみますと,取引相手方が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,14ページの③のとおり,第31の1(2)のイによりまして取消権の行使の可否が決せられることになりまして,ここで取消しができなくなりますと,第12の1(3)によりまして,やはり信託財産に掛かっていけるとなります。


  これに対しまして,信託のためと知らない場合には,第31の規律,すなわち当事者双方が信託のためとの認識自体は共有している場合に当たらないことになりまして,単に第12の1(4)の方によりまして,この信託不動産に掛かっていけることになります。


  最後に,信託のための権限外借入行為についてはどうかといいますと,貸付債権者が信託のためと知っているか否かによって分かれまして,信託のためと知っている場合には,資料14ページの④のとおり,第31の1(2)のロによりまして取消権の行使の可否が決せられまして,取消しができないとすれば,第12の1(3)によりまして,信託財産に掛かっていけることになります。


  これに対しまして信託のためと知らない場合には,第31の対象とならず,第12にも当てはまる場合がありませんので,結局,貸付債権者は信託財産には掛かっていけないということになります。


  以上がこの提案の考え方の,第12の1と第31の1との関係でございます。


  次に,不法行為の被害者が信託財産に掛かっていけるかという問題につきましては,パブリック・コメントの結果では,掛かっていけるとの意見の方が多数を占めております。


ただ,純然たる事実行為による不法行為の場合については,信託財産の独立性への配慮から,消極に解する見解もございました。


  この問題は,結局,受託者の無資力のリスクを被害者と受益者のいずれが負担するかという問題と言えますが,第1に,事実的不法行為といえども信託事務処理により生じたものに限定されているということ,それから,事実的不法行為と取引的不法行為との区別は必ずしも明確ではございませんが,取引的不法行為の場合に信託財産に掛かっていけることには,ほぼ異論がなかったことなどにかんがみますと,不法行為の被害者は,取引的不法行為であるか事実的不法行為であるかを問わず信託財産に掛かっていけるとすることが適当ではないかと思われます。

  なお,最後に資料7ページの末尾から8ページの冒頭に記載いたしました信託の設定時に債務の引受けがあった場合における当該債務に係る債権など個別のものにつきましては,信託財産に対して強制執行等ができる権利に当たる旨を明確化する方向で検討したいと考えております。


  続きまして,第31の方でございますが,資料で申しますと13ページからになります。


  本文については特段の異論は見られませんで,むしろ試案で(注)で示していた,この□の3点それぞれについて,意見が分かれております。


  なお,提案1の一部を変更したことは,さきに第12の関連で御説明したとおりでございます。


  まず,第1の□の取引相手方の悪意・重過失の証明責任についてでございますが,パブリック・コメントの結果では,取引の安全の観点から受益者に証明責任を負わせるべきであるという考え方と,受益者は十分な情報を有していないのが通常であるから,取引相手方に証明責任を負わせるべきであるとの考え方との両論がございました。


  この点につきましては,受益者が信任を寄せた受託者が権限違反を犯した場合であるということですとか,受託者の権限外行為も一応有効である上に,受益者が取引の当事者でないにもかかわらず第三者間の取引を一方的に取り消すものであることなどを考慮いたしまして,現行法どおり,受益者の方が証明責任を負うこととしてはどうかと考えるものでございます。


  次に,取消権の消滅期間につきましても,パブリック・コメントの結果は,取引の安全の観点から,現行法どおりの短期の消滅期間を定めるとともに,催告権は不要という意見と,受益者に対する催告権を導入することを前提に,消滅期間を延ばすべきであるという考え方とがございました。この点については,御意見を伺えればと考えております。

  最後に,有限責任取引の場合におきまして,善意・無重過失の相手方から受託者に対して民法第117条における無権代理人の責任と同様の責任の追及,すなわち受託者の固有財産からの履行または損害賠償の請求を認めるかという点につきましても,パブリック・コメントの結果は賛否両論が見られました。

  ところで,試案の補足説明で記載しておりましたが,無権代理人の取引の相手方が表見代理により本人に対して履行の請求をするためには,基本代理権ですとか正当事由の存在の立証責任を負担しなければならず,これは必ずしも容易ではないと思われます。


これに対しまして受託者の権限違反行為の場合には,受託者との取引の相手方が信託財産に掛かっていくためということになりますと,受託者の権限違反についての善意・無重過失のみが要求され軽過失は救われるわけですし,その証明責任も,先ほどの考え方によれば受益者側が負担することになるなど,利益状況はそもそも相手方にとってかなり有利なものとなっていると言えます。


そうすると,有限責任取引を締結した相手方に対しましては,約定どおり信託財産に対する請求の余地を認めておけば足り,それ以上に固有財産に対する請求という選択肢までもあえて付与する必要はないと思われるものでございます。


  説明は,以上でございます。

● それでは,ここで休憩いたしたいと思います。

          (休     憩)

● 再開したいと思います。
  先ほどの第12と第31,いかがでしょうか。


● 内容の確認でお聞かせいただければと思います。
  第12の1(3)と(4)に二重線が引いてあります。そして,(3)と(4)の関係を伺わせていただければと思うんですが,(3)というのは,第31云々で取消しがされていないものにより生じた権利で,(4)が,同じく権限違反行為なんですけれども,権限違反行為が信託財産のためにされたものであることを相手方が知らない場合に限る--によって生じたものだということなんですが,(4)の行為も,意味合いとしては,そもそも第31で取り消せない行為ということなんでしょうね。

そして(3)というのは,想像ですけれども,取り消せるけれども取り消していないという御趣旨なんでしょうかね。


多分そういう仕分けなのかなと思ったんですが,ただ,そうしますと,(3)と(4)をわざわざ並べる必要があるのかという気もちょっとしまして,要するに,取り消されない場合に一元化できるのかなという気がしただけで,意味内容の確認をさせていただければと思います。


● 今の御指摘は,実質的な内容は,先ほど○○幹事の方から御説明申し上げたとおりなのですが,ちょっと私どもの書き方がよくなかったかなと思います。


  補足説明,改正試案の場合におきましては,(3)は権限違反の行為で,相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合として,(4)は,例えば,動産などのようなものについて権利の設定をする場合で,相手方が信託財産のためであるということを知らない場合という整理をしていたところ,(3)の知っている場合というときにつきまして,補足説明で書かせていただきましたけれども,信託の登記とか登録がある場合においては,それは相手方が知らなかったなんていうことは言わせる必要はないのではないかという御意見があったことを踏まえまして,したがいまして,その点については,信託の登記または登録があれば,相手方に「信託のためにしたことは知らなかったんだ」とは言わせないということで,したがって,第31の方は,第31の1の(1)の相手方が知っている場合を除いたわけでございます。

  それで,それ以外の(2)のものにつきましては,やはり相手方が知っている場合という要件は引き続きかかってくるとしないといけないかと思います。


したがいまして,ここで第31の1(1)または(2)に掲げるというふうにザクッと書いてしまったのでございますが,(2)に掲げる受託者の行為というのを文理に忠実に読みますと,確かに第31の1の(2)のイに掲げる行為ですから,借入行為と登記・登録ができない動産についての権利移転・設定行為をそのまま指すことになってしまいますので,○○幹事から御指摘のありましたように,(3)の中に(4)が含まれることにもなってしまうほか,改正試案を出す前に○○幹事や○○幹事から御指摘のあったような,相手方が信託のためだとは知らなかった場合について,取り消せないからといって信託財産に対して執行を認める必要はないではないかという御意見にも答えたような形には文理上,なっていないように読めてしまうかもしれませんが,ここの趣旨は,その実質を変えたわけではございませんで,条文ではないというところに甘えさせていただいて,第31の1(2)に掲げるという意味,第31の1の(2)の相手方が信託財産のためにされたものであることを知っている場合に限定した上で,第31の1による取消しがされていない場合と分けております。

● どういう場合はどうかという御説明は,おおむね「そうかな」と思って聞いたのですけれども,その上で,こうまとめていいのかということだけなんですが,(4)の場合は,相手方が知らないわけですから,第31では取り消せないですよね。

(3)の場合は,そもそも取り消せない場合も含まれているし,取り消せるけれどもまだ取消しが行われていない場合も含むということですよね。要するに,(3)(4)は,いずれにせよ第31によってもう決まることであって,つまり取り消すことがそもそもできなければだめだし,取り消せるとしても取消しの意思表示をしなければだめだ,そう理解してよいかということだけです。

● その点についてはそうなんですが,書き方の点で,第12の1の(3)の中に(4)は含まれているから,(4)を削ればいいかというと,そういう問題ではなくて,例えば借り入れなどをしたときに,信託財産のためにしたと思って受託者はやったんだけれども,相手方は,それは信託財産のためにしたことは知りませんでした,それが権限違反でしたというときに,確かにその場合,その受益者は取り消すことはできません。

だけれども,だからといって信託財産に執行できるというわけではなくて,その場合は権限違反で借り入れをしただけなんだから,それは固有財産に帰属させて,固有財産に執行させればいいでしょうという帰結になりますので,すみません,ちょっと書き方が悪い上にこんなことを申し上げて恐縮なんですが,(4)は(3)に含まれるので(4)を削ってそれで終わるかというと,そういう問題ではなくて,第31の1(1)によって取消しがされていないものと,第31の1(2)と書いて(信託財産のためにされたものであることを相手方が知っている場合における当該権限違反行為に限る。)という限定をつけた上で取消しがされていないものという,そういう整理になるかなということを申し上げたところであります。


● これは第31についての確認ですけれども,今,借り入れの例を挙げられましたけれども,これは第31の方で言うと,1の(2)のロに当たらないんですか。


● 借り入れですか。
● ええ。


● ロに当たります。したがって,受益者の取消しはできない。だけれども,第31で取消しができないものが全部信託財産に執行できますかというと,それはそうではないですよねというために,(3)のところで相手方が知っている場合に限るという限定を,借入行為についてはつけないといけない。そこを丁寧に書き分けないといけない。

● それが今の(3)の表現で落ちているということですか。
● そうです。そこは申しわけございませんでしたというか,経緯からそういうふうに書いてしまったのですが,説明ではそういう説明をさせていただいておりまして,条文を意識したものではないとはいえ,試案の書きぶりは,ちょっと正確ではなかったかなと思います。

● とりあえず,確認だけですので。
● 今の第31の1の(2)のロが借り入れに当たるということで,それは外すんだという御説明だと思いますが,このロについては,例えば権利の変更行為も入るのではないかと思うんですけれども,それも落ちてしまうことになるんでしょうか。

● 権利の変更と申しますと,例えば……。すみません,ちょっと具体的に。
● 一般的に言えば,不動産の対抗要件のところで権利の設定または変更というように言われている,その変更。いろいろなものがあると思いますけれども,この文字面だけですと,設定・移転行為以外ということですと,そういうものも入り得るのではないか。


それをまとめて除外するのが適当かどうか。むしろ借り入れについてが特別のルールがあり得るのではないかと思ったんですけれども。


● 権利の変更について……,そうですね,今まで具体的には考えてこなかったけれども,この表現だとそれが借り入れと同じ扱いになってしまうわけですよね。


今まで変更のことは余り考えていなかったけれども,借り入れと同じに扱った方がいいという積極的な意見があったわけではなかったですね,確かに。


  それは,もしそういう御意見であれば,表現をそれに揃えるように書き直すことはできると思います。いずれにせよ,借り入れがとにかく一つのキーポイントだったわけで。

  ごめんなさい,この点また戻るかもしれませんけれども,もし○○委員が関連することであれば。


● 十分理解しての質問かどうかわかりませんが,ただ,大ざっぱな質問なもので通用すると思うんですが,重過失の議論なんですけれども,今「信託財産のためにすることを知り」というところに重過失を入れるべきではないかというふうなことを言わんとしているんですけれども,そう言うことが,信託財産のためにしていなければ,そもそも信託財産に掛かっていけないんだと思って,仮に受託者の行為が信託財産のためであってもという議論だとすると,ちょっと言っていることが矛盾してしまうんですけれども,言わんとしていることは,民事信託を考えた場合,御説明にあったように,受託者名義ですから取引の相手方はわかりませんけれども,通常の場合というか,商事信託であれば信託会社は専業義務を課せられていますし,信託銀行であれば何々信託銀行ということですし,まして動産であれば分別管理ということで,分別して管理されていますから,ですから,取引の相手方というのはかなりの程度,ちょっとした注意義務をもってすれば信託財産であること等はわかると思うので,そういう場合でも取引の相手方を保護するような議論--と私は理解しているんですけれども,そうではないとすると意味がない議論になってしまうんですが,そういうのはどうなのかなと。

  要するに,分別管理,それから信託会社における専業義務という視点から,信託財産のために行動することは取引の相手方だったらわかり得るのではないか。


それからあと,信託の公示制度そのものがかなり軽減化されているという現実が,他方において分別管理で賄われるという全体の建てつけですから,そういう意味において,幾ら同じ受託者名義とは言いながらも,信託との取引ということが注意義務としてある程度は課せられてもいいのではないかというコメントと,あと,不動産とか登記・登録を要するものに関して,登記・登録がすべての判断の基準という建てつけのようですし,基準としてのわかりやすさはあると思うんですけれども,あと,以前にも議論した,背信的悪意者みたいなものは入るかもしれないという話だったと思うので,その辺の確認と,仮に登記・登録していなくても,信託銀行が信託財産として預かっていることを相手方が知っていれば,それはそれで悪意として,その効果というものは考えてもよろしいのではないかと思うんですが。

  細かいところの理解が間違っているかもしれないので,検討違いの議論かもしれませんけれども,そういう視点から何か御見解をいただければと思うんですが。


● ○○委員のおっしゃった最後の,当該財産が信託銀行が信託財産のために預かっていることを知っているかというのは,もう文言ばっちり,「信託財産のためにされたものであることを知り」というところに当たるかと思いますので,あとはその権限違反について,善意・無重過失であるか悪意があるかどうかを論ずればよろしいのかと思うのですけれども……

● それは,登記・登録を要するものであっても,もうそれはそこで決めるということですか。


● 登記・登録を要するものについては,信託の登記・登録がされていれば,相手方が信託のためにしていることを知らなかったとは言わせないというのが第31の1の(1)ですので,信託の登記・登録があるものについて,その登記・登録があれば相手方は「いや,私はあなたが信託のためにやったとは知らなかったよ」という主張はできなくて……

● 登記・登録を要するものが登記・登録していないんだけれども,分別管理され,信託財産として管理されていることを相手方が知っている場合。


● その場合は,信託の登記・登録をすることができる財産であれば,相手方は,これも前回,○○委員の御発言にもあったかと思いますけれども,背信的悪意者に当たらない限りは,それは信託の対抗問題として,相手方というか,受託者が信託であるということを相手方に言えないわけですから,先に履行してとってきてしまえば,それはもう対抗問題として相手方が勝つことになるのではないかと思います。

● 背信的悪意者というのは,結局悪意・重過失……,ちょっと昔の議論を忘れてしまったんですけれども,それほど加重されていなかったような気もするんですけれども。--いや,ちょっとわかりません。私の理解が間違っているかもしれませんけれども。

● 背信的悪意者ということであれば,それはもう受益者,これは信託であるということは対抗できますよという話になって,あとは軽減違反について別途,善意・無重過失かどうかというところで決せられることになるかと思います。


  あと,ちょっとつけ加えですが,信託の登記または登録をすることができない動産のようなものを売るときに,これも○○委員から,民事であれば確かにこの主張は妥当するけれども,商事であればいかがかという御指摘があったかと思うのですが,確かに分別管理はしてあるわけですけれども,何か実際の売買のときに,商事であれば動産をポッと出されたときに,それは信託財産の財布から来たか固有財産の財布かということを常に考えなければいけないという注意義務を若干なりとも課すことが適切かどうかということで,とりあえずこの案では重過失は問わずに,悪意か善意かだけを問うという案にさせていただいているということかと思います。

● そこは判断の分かれるところだから,いろいろな考えがあるのかもしれませんけれども,普通,民法的な議論をすると,故意と重過失はかなり同視されるような行為として考えますよね。


ですから,そういう意味において,悪意のみというのも何か強いような……。将来の解釈に委ねるという趣旨であれば,それはそれでいいのかなと思うんですけれども,ここの規律だけ「重過失」という言葉が結構はっきり出てくることによって,悪意は悪意だけみたいな感じもしますし,将来的に軽過失でいいんだという議論が逆にしにくいような規律にもなっているのかなと。


民法一般としては,やはり外観法理にしろ何にしろ--と言ったらちょっと間違っているかもしれませんけれども,やはり過失があれば責任があるということかと思うんですけれども,ここだけちょっと,ある意味では将来の解釈論が確定してしまっているのが分別管理,先ほども言ったように,信託の専業義務という視点からすると,信託財産が結局受託者,その受託者を信じたあなたが間違っていたんだと言われてしまえばそれまでかもしれませんけれども,分別管理されているものを取引した人が,重過失があるにもかかわらず保護されるようなシチュエーションというのは,民法的な視点からも信託を守る視点からも,何かちょっと感覚的にそぐわないところがありまして,再度確認している次第ですけれども。


● いろいろな問題があったと思いますけれども,1つは,信託の対抗という問題を正面に出しているために,信託の登記・登録ができるのにしていないと,もう信託を対抗できないということで,あとは背信的悪意者でないと受益者というか,信託が保護されないとなっていることがどうかというのが後半の問題ですよね。


  これは信託の対抗がもうできないと言われてしまうと,あとは背信的悪意者しかとにかく保護しようがないので,そこで過失があってもだめだとはなかなか言いにくい構造になってしまっている。これをどうするかが1つの問題であることは確かですね。

  もう一つは,あるいは○○委員の問題意識と私のと完全にオーバーラップするかどうかわかりませんけれども,信託の登記・登録をした場合であって,ですから,これは相手方はもちろん信託財産であることを知っているし,そういうときに相手方に要求される要件が,故意・重過失があれば取消しができて,しかし,軽過失があった程度では取消しができないという部分,ここもちょっと私は,個人的にはこれでいいのかどうかちょっと気になっていまして,特にこれ,今までの信託法第31条の取消権というのは,これも硬直的で,これを直そうというのが出発点だったわけですけれども,少なくとも今までの信託法第31条の取消権の場合には,登記・登録があると,これは相手方の善意だろうが無過失だろうが,それに関係なく常に取り消せるというので,これはちょっと極端である,とにかくこれを変えようと。

  変えようとなったんですけれども,今度は反対側の方に振り子が完全にいってしまって,故意・重過失の場合にしか信託の方は保護されない。おまけに挙証責任も受益者の方で証明しますので,受益者の方で,信託財産の取引の相手方が悪意または重過失があることを証明しないと保護されないということになって,従来の第31条の下で保護されていた受益者,あるいは保護されていた信託からすると,極端に取引の安全の方に移行してしまっているのではないかという気が個人的にはしております。

  信託財産というものはそういうものだと割り切ってしまうのも1つかもしれませんが,そこまで極端な議論をしなくても,法人などの場合で取締役が定款などで定められている,制限されている権限に違反して取引をした場合とのバランスみたいなものを考えた方がいいのではないか。

これも事務局にはちょっと調べていただいたわけですけれども,民法で言うと第54条の問題ですかね,全く同じ問題かどうかわかりませんけれども,取締役の権限が制限を受けているときに,その制限に反して取締役が取引をした。


そのときに第51条,条文上は確かにこれ,善意としか書いてありませんけれども,いろいろな解釈によっては善意・無過失の相手方を保護する,ですから過失があれば逆に保護しない,そういう規定として理解している人たちもいると思うので,民法第54条とのバランスみたいなものを少し考えた方がいいのではないかと思っておりまして,○○委員と多少共通するところがあるんだろうと思いますが。

● そのとおりですね。
● ただ,民法第54条は,条文上は善意だけになっているので,そこはちょっと問題と言えば問題なんですが。


● 他の箇所でもそうなんですけれども,民法と平仄を合わせるということで善意としか書かずに,ただし解釈論で多分,過失も入るでしょうと。ここも将来の解釈論に委ねるような規律,だから過失か重過失かこの場で決めずに,「善意」とかいう言葉を使うことによってという規律でもよいのかなという気がしております。


● さっき言われたように「重過失」とまで書いてしまうと,過失についての解釈がそこで決まってしまうのでということ。


● はい。

● ほかに,いかがでしょうか。
● 余り強く申し上げるつもりは全くないのですけれども,今の重過失の点で,権限違反の方も問題になっておりますけれども,もともとの信託への帰属の方で,御提案は登記・登録で一律に決するということで,重過失のような判断はしないということ,それも一つの割り切り方かなというふうには思っているのですが,ただ,それで大丈夫だろうかということも考えなくはないですので,その点だけお話しさせていただきたいと思います。


  1つは,もう既に出ておりますように,少し調べればわかるようなものについて調べなくていいかという点でございまして,特に,結局取消しが問題になるということは,権限違反について,悪意であるとか,あるいは重過失があるという要件を満たさないといけないわけですので,そのことは知っているというような状況において,それが果たして信託のための取引なのかどうか若干の調査をしなくていいのだろうか。

先ほど例に挙げられました動産のようなものは,安心してやってよいというのが適切であるとすれば,そのときには,もうそれで既に重過失はないと判断されると思いますので,どうなのかというのが若干気になっております。


  もう一つは,登記・登録との関係なのですけれども,これは恐らく信託の登記・登録のあり方とも関係してくるものではないかと思うんですが,現行法のような形であれば,もう登記・登録があれば当然に悪意擬制と同じという扱いで,それでよろしいと思うんですが,もう少し登記・登録のあり方が柔軟に,あるいは必ずしも現行のように確固としたものでないものが出てきたときに,当然登記・登録はチェックして取引すべきだということが常に言えるのかどうか,若干気になるところでして,これは事例自体は全然違う話ですから,引くのが適切でないことは理解しているんですけれども,動産の譲渡登記などですと当然それは見てしかるべきで,当然悪意擬制がされるような性質のものでもないということがありますので,登記・登録制度のあり方によっては,もう少し考える余地があるのではないか。

そうだとすると,登記・登録を見てしかるべきということは,当然重過失があるというので判断できるという仕組みも,より適切な結果を導けるのかなという気はしているのですが。


  ただそういう観点もあるのではないかということだけ,補足的に申し上げます。


● その点は,全くそのとおりだと思います。
● 今,○○幹事が御指摘になったポイントでございますが,2つ目の登記・登録されているものについて,信託の登記・登録のあり方が変わってくるような場合で,まさしく御指摘のあったとおり,動産の登記というのは別に,今回の場合,動産の登記をしてあったから信託云々という話ではなくて,(1)の話は信託の登記・登録がある財産についての話でございますので,動産の登記があれば,それを見たって信託のことはわからないことは,もちろんわからないわけでありますけれども,仮に,例えば信託の登記とか登録を免除しているというか,一時的に免除しているといったときに,第三者と受託者の取引をして,それで第三者の方が権利移転の登記も移してしまったようなときに,受益者と第三者とでどちらが勝つかといえば,それは第三者が勝つのではないか。


そこは権限違反云々という主観的要件を問題にすることもなく,そういうことになるのではないかと思いますので,信託の登記・登録の運用のあり方が確かに変わってくることは変わってくると思うんですけれども,第三者と受益者とでその財産を取り合いになったときに,ルールとしてどういうふうに決するかというふうに考えますと,その場合は,まず受益者としては,権利移転の登記をする前に信託の登記・登録をしなさいということを受託者に言って,受託者がそれを移した後で,それをもって取消権を行使するとかいうようなことになるのではないかと思います。

  すみません,ちょっとお答えになったかどうかわかりませんけれども。


● いずれにせよ,さっきから問題になっているポイントは恐らく大きく2つあって,登記・登録できるけれどもしていない,しかし,何らかの形でそれが信託財産であることがわかるような場合に,どこまで受益者というか,信託の方を保護し,取引の相手方の方が多少負担をすることになるのか。

今のところ,登記・登録できるのにしていないものは,もう一切信託が対抗できないので,これは当事者間の合意でもって免除している場合も同じような扱いになるということですね。これについての御意見がさっきから上がっている。


  ○○幹事の御意見は,私の理解では,登記・登録ができる場合で,かつしていて,そのときの相手方の主観的な要件の問題で,この原案がいいのかどうかは,どういう登録制度があるかによって違ってくるだろう。


現在の不動産の登記のように信託財産目録があって,そこでかなり詳しく信託財産の中身が判断できるようなものについては,例えば,それを見なかったら悪意というふうな推定が働くんですかね,そういうことで解決できるけれども,そういう信託財産目録のような,情報を完備しているような登記・登録制度ばかりではないので,そういうものについては果たして適当なのかどうか,不動産の登記と同じように扱っていいのかどうか,そういう問題ですよね。


  これも登記・登録制度がどうなっているのか,よくわかりませんけれども,今のところ不動産に関しては,現在の信託財産目録というのは大体同じような制度が引き継がれていく方向にあると理解してよろしいんですか。


それ以外のいろいろな登記・登録制度ですよね,こっちがまだはっきりしない。そういうもとで,どういうルールがいいか。


● 今の登記・登録制度のところで,信託目録が現在の制度と同じようなというお話がありますけれども,そこはそんな形なんでしょうか。少なくとも権限といいますか,そういう部分は書かれないというふうに,何となく……

● すみません,私がちょっと先走ったことを言ったかもしれませんが。

● またここの議論をしていただこうと思ってはいるのですけれども,逆に言えば,権限のところを書かれないというような整理がされた記憶もないんですが,いずれにしても,信託がどれであるかを信託の公示を見てわかるようにしなくてはいけませんね,少なくとも不動産についてはという,そこはたしか昔,パブリック・コメントをする前に御議論いただいたのかと思っております。

  その際に,では,どういう情報が特定のために必要なのかという観点から考えると,権限だけは要らないだろうといった議論がそう簡単にできるのか。


つまり,契約を特定するという作業の中で何が必要なのかという話を,またいずれしていただきたいとは思っておりますけれども,逆に言えば,権限は要らなくなるというのは,確かに効力の問題としては,権限の有無と信託の公示は切り離されましたけれども,それと,公示の際に何を書かせなくてはいけないのかというのとは直接にはリンクしない問題ではないかという感じがしております。


● また別途議論させていただきます。
● 公示の中身については,また御議論いただけると思います。

● 先ほど来,問題になっております,信託の登記とか登録をしていない場合に相手方が,それは信託財産であるとわかって取引をした場合については,例えば信託財産,受託者の固有財産に属する債務に係る債権者が信託財産だとわかっていて登記・登録をしていなかったら,そこは登記で差し押さえてしまったら,どっちが早く登記をとったかというような話で決することになりますので,確かに心情的に多少なりとも忸怩たるものはございますけれども,第3条でそういう整理をした以上は,やはりそうなるのではないか。

この嫌らしさというのは,通常の二重譲渡のときに,AさんがBさんに売ったことがわかっていて,もうBさんにいってしまったときでも,後から売買契約して登記を先に備えてしまえば勝てるという,その通常の対抗要件主義をとって決するというふうにしたことと同じ,そのときに思う気持ちと同じようなことなのではないか。

  それで,信託の登記・登録が制度として整備されている以上は,登記・登録を見ればどれがこの信託に属する財産かというのは,やはり明確になるように制度整備を図っていかなければいけないのかなとは思いますけれども。


  他省庁が所管しているものまですべて明確に確認したものではないので,その点はもう一度,信託の登記・登録制度自体は見てみる必要があるかと思いますけれども,現行法の建前は一応そこは区別されているんだ,特定できるんだという建前でできているのではないか。


そうではないと,信信間だって対抗要件で決するわけですから,それが登記で明らかになっていないということになると,法の建前自体がおかしいということになってしまうのではないかなとちょっと思いますので,補足させていただきました。


● 前回もちょっと質問させていただいたんですけれども,対抗問題であるということで,今,ちょっと話があるんですけれども,典型的な対抗問題とはちょっと違うのではないかという気がずっとしておりまして,必ずしも対抗問題としてとらえる必要があるのかなという気がしております。

  受益者の立場からすると,登記にそこまでの意味を持たせるのはちょっと厳しいなという気がしておりまして,これは私の方から申し上げるべき意見かどうかわかりませんけれども,ここで登記に重い,そういう登記によって取消しができるかどうか切り分けられることになりますと,かえって公示のところで多少柔軟にしたいという要請があるところとぶつかる場面が出てきはしないかなという気がちょっとしておって,そういったことですとか,先ほど○○委員から話がありました信託銀行等の実情等をお聞きすると,どちらかというと,登記・登録では切り分けずに,もう悪意・重過失だけで取消しの有無を切り分ける方がすっきりするように思うんですけれども。

● 以前からそういう意見もあったわけでして,ほかに御意見ございますか。
● 一般的要件の証明責任についてですが,お書きになられているところは14ページから15ページにかけてなんですが,少なくとも民法でこの種の問題をお話しするときは,権限がある場合とない場合を分けて,権限がある場合でも,さらに内部的な手続違反だとか,あるいは内部的な義務違反がある場合という分け方をした上で,どういう議論をするかというと,権限があれば効果は帰属するし,権限がなければ効果は帰属しない。

ただ,権限がなければ効果は帰属しないけれども,一定の特別な要件を満たす場合には,例外的に効果が帰属する場合を認めるという考え方だと思うんですね。


  そうしますと,権限外の場合は,やはり特別な要件,善意だったとか善意・無過失だったというようなことは,あくまでも相手方の方で証明責任を負うというのが通常の考え方だと思います。


その上で推定などで変わってくるのはもちろんありますけれども,それがベースですね。それに対して,権限はあるんだけれども内部的な義務違反だという場合は,内部的な義務違反があるというだけでは効果の不帰属は基礎づけられなくて,やはり権限があるわけですから,効果は帰属してしまう。


だから,義務違反があって,かつ相手方がそれを知っていたではないかとか,過失がある,あるいは重過失があるということまであわせて言わないと効果の不帰属は基礎づけられないので,この場合は財産を持っている側がそこまでの主張,立証をしないといけない。
  


この14ページから15ページに書かれている内容というのは,むしろ内部的な義務違反の場合に寄せて考えようというような御説明に近いのかなというふうに伺ったんですけれども,やはり権限という言葉を使う以上は,権限がないならば効果はもう帰属しないわけであって,そうすると,例外的に効果が帰属するということを,つまり受益者の側としては権限外だということを言えば足りて,相手方の方で,いや,知らなかったし重過失もないんだと立証責任を負う方が,少なくとも民法の考え方からは自然なのかなというふうに伺いました。


  ただ,これ商法はどうなっているのか,やや心配なところはありますけれども,少なくとも民法の普通の考え方からすると,この14ページから15ページに書かれていることは権限外なんだけれども,それについて相当政策的な操作をしておられるのかなという気がいたしました。

● 今の御指摘につきまして,相手側,受託者側,こちら側というお話がございましたけれども,受益者は,経済的な利益の実質的な帰属先という観点からいきますと,確かにこちら側なのでございますけれども,やはり受託者とは違う第三者なのでございまして,受託者と取引の相手方との取引を,取引当事者でもない第三者たる受益者がその効果を取り消すという話ですから,例えば第54とかいうようなときに,無効をどちらが証明するか,しないかということを考えるときには,実際に取引をやった理事の方と,それから相手方との証明責任,どうですかということを多分,考えて議論しているのだと思うのですけれども,本件におきましては,全くの取引当事者でない受益者がパラシュートのようにおりてきて「取消し」と言うわけですから,一般の民法のときの証明責任と同様に考えるべきなのだろうかと。


  そういうことを踏まえて,現行法は受益者の方に証明責任を課しているのではないかというのがこれまでの議論,資料等を拝見して考えたことなのですが,いかがでございましょうか。


● お考えは,もちろんわかるようなところはあることはあるんですけれども,法人の場合だって,法人自身がこれは権限外だというようなことを言う場合もあれば,それ以外の者が言う場合もあって,いろいろだろうと思うというのが1つと,それから,やはり受益者が言うのであれば,権限外だということを言わないとだめなわけで,権限外だということが言えてしまうと,もう本来は効果が帰属しないというふうになるのが民法の考え方からすると筋なのかなと。

そうすると,それ以上なぜまだ主観的要件まで言わないといけないのかというのは,ちょっと平仄が合わないのかなと。

少なくともここまで,しかも○○委員がおっしゃいましたように取引安全をかなり重視したような制度の仕組みになっている上に,証明責任のところまでさらに変えていくというのは,ちょっと--御説明わかることはわかるんですけれども,かなり一般原則から踏み出しているなという感じが否めないところです。


● 先ほど商法の方は御存じないと言われたんですが,例えば商法第42条,もう番号は変わったかもしれませんが,六法に載っているので言えばですけれども,表見支配人などのケースですと,悪意ならばそうではありませんという形でありまして,ある種の肩書を与えた場合には当然効果が帰属して,悪意ならそうではありませんといった形になっております。


代表取締役も似たような発想でして,ある種の包括的な代理権,代表権みたいなものを与えられるような外観を持っている場合,及び商法の場合は迅速な取引の補償といった別の要素があるんですけれども,あわせて証明責任が引っくり返っているんですね。


信託の場合,どちらかというと,当然に商事信託ばかりとは言えませんから,商法的な,迅速な取引の安全の保護という発想は正面に出しにくいかもしれませんけれども,包括的な代表権,代理権が与えられているような外観に近いような基盤は,あると考えるなら,この証明責任は一応は説明できる。

それが最終的に商法と同じだからいいんだというふうな,そんな簡単な説明はできませんけれども,全く説明がつかないわけではないような気がしました。


  あわせて,第31について質問させて痛きたいんですが,私,おくれて来て聞き逃したのかもしれないんですけれども,1の(2)の方で「信託財産のためのものであることを知り」と掲げられていますが,後半は権限についての悪意・重過失なんですけれども,意味が非常に違うような気がするんですね。

後半の悪意というのは,いわゆる表見法理などの悪意と同じような意味なんですが,前半は,悪意だから保護されないとかそういう話ではなくて,そもそも信頼できる信託財産の取引をしているという前提でやって,なおかつそれが権限外であることを知っていたからだめだという話,それを並列して悪意として書くような話なのか。


何かちょっと構造が違うわけですね。要件として書けばこうなのかもしれませんけれども,その辺わかりにくくなっているので,書き方だけなのかもしれませんけれども……


● 趣旨は,今,○○幹事が言われたとおりだと思います。
● その趣旨を,条文で書くときも何か工夫していただければと思います。


● 1の(2)の「信託財産のためにされたものであることを知り」ということですけれども,これ,取消しの積極要件という位置づけだとするならば,受益者の側で,当該行為が信託財産のためにされたものであり,かつそのことを相手方が知っていることを立証しないといけないということなんでしょうか。

でも,何か自然な流れというのは,当該行為は信託財産のためになされたものではないんだということを受益者の方が言い,それに対して相手方が,「いや,仮にそうだとしても自分は知らない」というようなことを言って争うのが普通の流れのような気がして,考え方はわからないではないんですけれども,何かどうも,前からずっとなんですけれども,もう一つ何か頭の中にしっくり入ってこないなという点と,今ちょっと言われた若干性格が違うのではないかというのと,リンクしているのかなという気がどうしてもします。

● これはいろいろな御議論がありますので,大きな方向はそれなりに御了解いただいていると思いますけれども,今の証明責任とか,それから--もちろん大きな方向も若干御議論あったわけですが,これでいいかどうか,もう一回確認していただくということでよろしいですか。

● 整理はついているのに私が読めていないだけかもしれませんが,強制執行というのは,引き渡しの強制を求めるというのも含まれますよね。


だから,信託財産に属する財産が売却されたという場合の,その履行を求める強制執行と,例えば,それが債務不履行になったとかいうふうなことで損害賠償請求権を持った,それで強制執行をしていく,損害賠償請求権の金銭債権の満足のために強制執行をかけていくという場合とは,かなり違うような気がするんですが,それは区別されているんですか。


  「信託財産のために」という言葉を使うときには,これは総信託財産という感じで,「信託財産に属する財産」というのは個別の財産という感じで,第31条では何となくわかるんですが,その言葉遣いも何となくそれでいいのかなという気もしますし,強制執行のときなどで第12の1の(4)などのときに,当該財産に対して引渡しを求めていくことができるというのと,損害賠償の問題とは,どう区別すればいいのかがよくわからなくてクリアなことが言えないんですが,御意見があればお聞かせいただき,あれでしたら再検討の際にその辺を書き分けていただければありがたいと思うんですけれども。

● ○○幹事の御指摘は,例えば信託財産に属する動産について取引をしましたというときに,相手方は確かに信託だということを知らなかったので,この財産だと信じたから,その信頼を保護していいではないかというのはあるにせよ,それで債務不履行になって損害賠償請求権の金銭債権に化けたときに,だからといって信託財産という,そちらの方にいかせるのは信頼の保護としてちょっと行き過ぎなところがあるのではないか,そういったものをきちんと(4)で書き切れているのかというお話だと思いますので,書き方をもう少し検討します。

● では,それも含めて検討させていただきます。


  それでは,不法行為についても御感触だけ伺っておきたいと思いますが,受託者の不法行為に基づく債権が発生したときに……


● 今,事実的不法行為と取引的不法行為の区別も必ずしも明確ではないし,信託事務処理過程における不法行為だからという,この2つの理由で信託財産に掛かっていってもいいのではないかという結論と書かれているんですけれども,やはり,区別が不明確というのはそのとおりかもしれませんけれども,被害者の方が信託事務処理であることを認識し,信託財産の存在を認識しているケースと,たまたま受託者が,余りいい例ではないかもしれませんけれども,交通事故を起こしたと,不動産の信託で。


それが一応,信託事務処理過程においてのことかもしれませんが,それが,わかりませんが,それが事実的と仮に呼んだときに,区別していい,また,区別しないと何か,信託の方がもしかして本来守るべき--というのも勝手な価値判断かもしれませんけれども,倉庫で物を預かっている場合,委任で他人の物を預かっている場合には,その物にかかわっていくわけでもないにもかかわらず,信託のときだけ何か,被害者の方が実は予想もしなかった財産にまで掛かっていけることができるような状況になってしまうと思うんですよね。

ですから,どこかで区別した方がいいと思って,結局は事実的不法行為と取引的不法行為で分けようではないかというのが一つの今までの議論だったと思うんですけれども,まだそこの区別が不明確だからということで,やはり恣意的に信託財産というふうに持っていってしまっていいのかなというところは,ちょっとまだ判断しかねるところがあるんですけれども。

● おっしゃることは,よくわかるつもりであります。取引的な不法行為に関しては,特に御異論はないということですね。


  確かに交通事故などの例を挙げられますと,果たしてその信託事務の執行の過程で自動車を運転して事故を起こしたときに,信託財産に掛かっていけるかというと,それはちょっと行き過ぎかなという感じもしないではないですね。

ただ,一方で,第715条と同じでいいではないかという意見もあり得るとは思いますけれども。

  皆さんの感触を。


● 私は,区別が難しいということと,それから,今,第715条を挙げられましたけれども,その同じような考え方で,どちらについても信託財産に対して掛かっていくことができるというのでいいのではないかと,もう割り切って考えました。

  割り切ってしまうと,さらにその先にまで行きまして,受託者の被用者についての場合,第715条の場合であるとか自賠法第3条の場合だとか,第717条の場合も,そこではもう切れなくなってしまうのではないかと思います。


● なるほど。

  まだ両論あるようでございまして,今日は○○委員も来ておられないので,ちょっと慎重を期して,全体の見直しの際にもう一回検討したいと思います。


● 例えば,年金の事務処理過程で事故を起こす,あり得ると思うんですよね。

そういう場合も,実は被害者の方が年金の財産にかかわっていける。何となく変というか,相手方が知っていても掛かっていけるんですかね。


● 信託財産の執行ということですか。

● ええ。信託銀行が年金事務処理をしていて,不法行為--だから取引的不法行為かもしれません,場合によっては債務不履行で構成できるけれども,どうも不法行為で構成した方が信託財産に掛かっていけそうだという判断のもとに掛かっていくということが,何となく不自然に思われるんですよね。

交通事故というのはちょっと,わかりやすい分だけ,また逆に違った意見もあるかもしれませんけれども。


● 私も,どういう要件でもっていくのがいいのか,第715条と全く同じ要件でいいのか,そこはもうちょっと検討した方がいいだろうという気がしますけれども,ただ,受託者の行為が信託財産のために行われた行為で,たまたま相手方がそれによって被害を受けたときに,受託者が無資力という場合もあり得るわけですが,そのときに信託財産に全然掛かっていけないというのはいいのかどうか,そういう判断なんですけどね。

  要件も含めて,少し検討させていただければと思います。


● これは私もどちらがあれという意見を持ち合わせているわけではないんですけれども,これ,もし不法行為で掛かっていけるとした場合,強制執行を認めた場合に,その後処理といいますか,信託財産から財産が出ていくわけですけれども,その後の,例えば受託者がそれを埋めなければならないのかとか,そういった点については。

● 受益者が,受託者に対して損失てん補責任追及をしていく。


● そうすると,基本的には,それは損失てん補請求の枠組みで処理されるという前提ですね。


● はい。
● それでは,これもいろいろ御意見いただきましたので,もう一回検討したいと思います。


  次に,13ページに□で2つほど,パブリック・コメントで出てきた意見に対してですけれども,消滅時効の話と無権代理人の責任について,代理と同じように考えるべきかどうかという話ですが,これはどうでしょうか。何か御感触があれば。

● まず,この1か月というこの期間ですけれども,やはり実務的な感覚で言うと短か過ぎる。


特に弁護士が日常的に,仮にこの取消権行使で相談を受けて何かする,そういう発想でいくと,取消権を行使するなと言うに等しいぐらいの期間であるという意見が多くの弁護士から出ています。

  それから,1年という方の期間ですが,これも報告自体が1年に1回義務づけられているような制度なので,短か過ぎると。


例えば,1月1日に何かそういう行為が行われて,12月31日に報告によってそのことが初めてわかった。そうすると,次の日にはもう1年たってしまうよということになりますし,これももう何年か,3年なり5年なりといった期間にしてもらわないと,なかなか使いようがないのではないかという感じがいたします。

  先ほどの立証責任が,本当は一番扱えるかどうかというところが大きいんですが,それに加えてこの期間の問題というふうに思います。


● 取消権の期間のところですけれども,先ほど○○委員の方から,受益者側から見たら1か月ではどうしようもないのではないかというお話でしたけれども,受託者の事務処理上の問題からしますと,当然商事信託でかなり大量の信託財産を日々動かしているという観点からいきますと,1か月でもなかなか,どうなるかよくわからんなというところがありまして,とはいうものの,やはりそういう期間設定も要るとすれば,やはり現行法と同じぐらいの期間が望ましいのではないかと考えております。

● ほかに,この点について御意見は。

  今,時効期間については両論の御意見があったと思いますけれども,無権代理の方は,これは一応原案といいますか,先ほどの説明ではなくていいというふうに考えておりますが,それでよろしいでしょうか。


  では,こちらはそういうことで。
  時効の期間につきましては両方に分かれているので,どちらが多数とも今,簡単には言えませんけれども,今度,見直しのときにもう一度伺いますので,そのときまでに御意見を固めておいていただければと思います。


  それでは,先を急がせていただければと思います。

● それでは,続きは第44の信託管理人等と,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係,あと,営業信託の商行為性と受益権の有価証券化という4つの論点を先にやらせていただきたいと思います。


  まず,信託管理人でございますが,受益者が現に存しない場合に限定して信託管理人の選任を認めるとの試案の考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。

まず,資料22ページの(イ)でございますが,受益者の一部が未存在の場合にも,信託の変更等の意思決定を可能とするためには,信託管理人の選任を認めるべきではないかとの意見がございました。

しかし,事務局の考え方でございますが,受益者の一部について未存在の者を指定した委託者としては,残りの受益者によって信託に関する意思決定がされることを期待していると考えることが合理的であると思われます。


そうすると,一部の受益者が未存在であるからといって信託に関する意思決定ができなくなるわけではございませんので,未存在の受益者のために信託管理人の選任を認める必要はないのではないかと思っております。


  もっとも,未存在の受益者と現存する受益者との間で利益相反関係があるときには,現存する受益者のみで意思決定がされるような場合があって,これが問題となるわけでございますが,この場合は受託者の公平義務の遵守に期待するほか,委託者において後述いたします信託監督人を選任して受託者の公平義務の遵守を監督させることなどによって,未存在の受益者の利益を図ることができるのではないかと考えております。


  次に,資料23ページのイの(ア)から(ウ)に関してでございます。
  まず,(ア)でございますが,信託の利益の受領権については,受益者との委任関係にない信託管理人が配当を受領して保管しておくよりも,受託者が信託財産の一部として管理しておくことの方が委託者の意思にかなうと思われますので,信託管理人にはこの受領権までは認めないこととしております。
  


ただ,信託管理人が受益者を保護するために受益債権を保全するための権利の行使,例えば受益債権の消滅時効中断のための措置をとるようなことまで否定するわけではございません。

  次に,(イ)の点でございますが,信託管理人の権限は,自益的な権利に限るべきであるとの意見がございました。しかし,信託管理人が未存在の受益者にかわって受託者を監督することが期待されているということですとか,受益者未存在の間にも信託の変更の必要性が生じたような場合におきまして,信託管理人にその同意権を付与することが相当と考えられることなどから,信託管理人には別表1,別表2,これは28ページから29ページにございますが,ここにありますとおり,共益的な権利や,信託に関する意思決定への合意権なども付与することが相当と考えております。

  (ウ)でございますが,信託管理人が選定されている場合には,最終計算は信託管理人の承認でよいとすべきであるとの意見がございました。

この点については,受益者が未存在の状態でも信託が終了することはあり得ますので,これを認めてよいのではないかと考えております。


  なお,この最終計算の承認権につきましては,これを受託者に対する監督的な権利であると位置づけますと,これは信託監督人等の話に多少入ってしまうんですが,別表1の範疇,監督権に属することになりまして,そうすると,後述の信託監督人とか受益者代理については,受益者と重畳的にのみ行使し得ることになると思われます。


  他方,これを受託者の責任の免除に類するものと考えれば,別表2の範疇に属することになりまして,信託監督人には認められませんし,受益者代理は専属的に行使できることになると位置づけるのかなと考えられるところでございます。


  それから,信託管理人に関する最後,資料24ページの(ウ)でございますが,資格について何らかの要件を設けたり,不適格者の範囲を広範なものとすることについてでございますが,消極的に考えております。

ただ,受託者不適格者に関する規律に準じまして,未成年者,成年被後見人,被保佐人,そして監督されるべき受託者自身を不適格者としてはどうかと考えております。


  次に,2の信託監督人についてでございますが,受益者が受託者を適切に監督できない場合に,受益者にかわって受託者を監督する者として,信託監督人は重要な役割を果たすという観点から,信託監督人制度を設けるとの考え方に対しては賛成意見が多数を占めております。


  もっとも,資料24ページの(ア)のとおり,信託監督人制度と受益者代理制度とを併存させることは不要であって,受益者が現に存しない場合の信託管理人制度と,受益者が現存する場合の受益者代理制度とを設ければ足りるとの意見がございました。


しかし,次のページの(イ)に書きましたとおり,信託監督人といいますのは,すべての受益者のための別表1の共益的権利を行使するものでありまして,信託の機関としての法的性格を有して,自己の名をもって権利を行使する。

ですから「信託監督人」という名称に仮称を変えているわけでございますが,そういう性質のものであるのに対しまして,受益者代理はあくまでも受益者の全部または一部のための代理人としての法的性格を有するものでございます。

  このような性格の違いにかんがみますと,併存させることが相当と考えております。


  それから,資料25ページの(ウ)でございますが,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為で信託監督人を選任していないという委託者の意思に反しない範囲で限定的に認めることが相当と考えております。


  そこで,裁判所による信託監督人の選任につきましては,信託行為の当時には予見できないような特別な事情が生じまして,受益者が受託者を適切に監督することが困難な場合に限られるべきであると考えております。

  したがいまして,他に受益者が多数であるというだけでは,この要件を満たさないと考えられますし,受益者が複数いる場合におきまして,一部の受益者によって受託者の監督が適切に行われているときにも,裁判所による選任要件を満たさないものと考えております。


  最後に,資料26ページのイでございますが,信託監督人が選任された場合に,受益者にも重畳的に権利の行使を認めることにつきまして,信託事務処理の円滑性を害するのではないかという意見がございました。

  しかし,そもそも信託監督人が行使する権利といいますのは,受託者の監督のために各受益者がそれぞれ単独で行使できる権利でございますので,重畳的な権利の行使を認めましても,いわば単独で権利行使できる受益者が1人増えたのと実質的には変わらないわけでございまして,信託事務処理の円滑性を害するとの批判は当たらないと考えております。


  最後に,3の受益者代理でございますが,受益者が特定多数の場合ですとか,時々刻々とと変わるため不特定とされる場合につきまして,受益者保護の観点から受益者代理の制度を創設するとの考え方に対しては,賛成意見が多数を占めております。


  まず,受益者代理の選任方法につきまして,26ページの3の(2)のアのとおり,受益者が時々刻々と変わる場合におきまして,裁判所による選任を認めないことに異論がございました。

しかし,この場合には,ある特定の時点を切ってみれば受益者は特定しているのでございますので,それにもかかわらず,信託行為の定めという私的自治によらずに裁判所が受益者代理を選任して受益者の意思決定権限を喪失させてしまうことになりますと,委託者の意思に反しますし,受益者の利益にも資さないことになると思われます。

  そこで,試案と同様に,裁判所による受益者代理の選任は認めないこととしております。


  それから,26ページのイの(ア)から(ウ)までの点でございますけれども,まず(ア)のとおり,受益者代理に対して信託の基礎的な変更に関する同意権を付与することに反対する意見がございました。

  しかし,信託行為の定めをもって受益者代理が選任されている場合には,受益者も受益者代理が選任されて意思決定権限を専属的に有することを認識しているわけでございますので,基礎的な変更に関する同意権を認めるとしても,不測の不利益を受益者に与えることにはならないと考えております。

  次に,(イ)でございますが,受益者代理が受益者に変わって信託の利益を受領する権限を信託行為で付与できるとすることについて,反対の意見がございました。


しかし,受益者以外の者が受託者から配当を一たん受領した上で受益者に配当を交付するというニーズは,現行の信託実務においても強く認められまして,信託行為の定めによりこのような方法を採用することを否定するまでもないと思われますし,受益者代理は受益者に対して民法上の受任者と同様の義務及び責任を負うことにかんがみますと,受益者代理に信託の利益の受領権を信託行為で付与することを認めても差し支えないと考えております。

  それから,(ウ)でございますが,受託者の受益者に対する通知義務の取扱いにつきましては,多数の受益者にかえて受益者代理に対して通知することを認めれば,信託のコストの削減につながるということ,受益者代理は受益者の代理人であるとの位置づけであるところを,一般代理では代理人に通知すれば本人に重ねて通知することまでは要しないと考えられていることなどにかんがみまして,受益者代理にのみ通知すればよいと解しております。


  最後に,28ページのウでございますが,社債管理者に関する会社法の規定に倣いまして,受益者代理が複数の受益者を代理して権利を行使する場合には,個別の受益者を表示することを要しないものとしてはどうかと考えておりまして,そのことは資料21ページの3の(2)のイで新たに規律を設けているところでございます。

  続きまして,第51の受益債権と信託債権との優先劣後関係に移らせていただきます。


  試案におきましては,本提案と同一の内容をパブリック・コメントに付しましたところ,甲案を支持する見解が多数を占めました。


  資料30ページの2以下に記載いたしましたとおり,甲案を支持する見解
といいますのは,実体法上,信託債権を優先されるとした方が公平の観念にかなうということ,あるいは一般の信託においては受託者の固有財産も責任財産となるとはいいましても,信託債権者の信託財産に対する信頼を保護すべきであることなどを主たる理由とするものでございます。

  これに対しまして乙案を支持する見解といいますのは,いわゆるABLスキームなどにおきましては受益債権と信託債権の経済的同一性をとらえまして,両方を同順位として組成している投資商品があること,あるいは信託行為により受益債権の劣後特約を締結することにより,柔軟なスキームの構築が可能となることなどを主たる理由とするものでございます。

  しかし,事務局の考え方でございますが,乙案の言う受益債権と信託債権との経済的同一性といいますのは,ABLスキームなど一部の信託についてのみ妥当するものであるということ。


確かに,乙案のように原則として両者を同順位とした上で,別途信託行為により受益債権を一律に劣後させる旨の定めを置くことができるとした方が,より柔軟なスキームの構築に資する面があることは否定できないと思われますが,甲案によりましても,取引による信託債権につきましては受益債権と同順位とする旨の特約を取引の都度,締結することなどによりまして,ABLスキームなどに対応し得るだけの柔軟性は確保できると思われることなどを指摘することができると思われます。

  以上のようなパブリック・コメントの概要と,とりあえずの検討結果を踏まえまして,いずれの考え方をとるべきかという点について御審議をいただければと思います。

  続きまして,資料50ページ,営業信託の商行為性に移らせていただきます。

  試案に対しては賛成意見のみでございます。ただし,信託法と信託業法との建てつけが強く関連されているとの理解を前提に,民事信託の拡充を図るという見地から,弁護士による信託の引受けは営業に該当しない旨のただし書きを付すことが相当であるという意見がございました。

  しかし,この規律は,営業的商行為に関する商法第502条に1号を付加するのと同様の効果を有するところでございますが,商法第502条には,特定の業種の事業については営業の解釈から当然に外れることを前提とした除外規定は置かれておりません。


このことにかんがみますと,特に信託の引受けに限ってこの意見のような除外規定を設ける必要はないものと考えております。


  なお,念のため,本提案はあくまでも私法上の商行為に関する規律でございまして,信託業法における信託業の解釈とは,理論的には別個の問題であることを付言させていただきます。


  続きまして,第67の受益権の有価証券化についてでございます。

  試案の考え方に対しましては,基本的に賛成する意見が多数でございましたので,以下では,個別的な意見に対する検討結果について御説明申し上げます。


  まず,資料51ページの(2)のアのとおり,そもそも受益証券の発行を信託法によって一般的に認める必要はないとの意見がございました。


しかし,有価証券の発行手続や効力に関する規定を,私法である信託法に設けることは当然でございまして,あとは受益者保護等の見地から,必要があれば業法をもって対処すればよい問題であると思われます。


  次に,受益権につき有価証券が発行されている場合には,受益権の譲渡に受益証券の交付を要することになるわけでございますが,資料52ページのイに書きましたとおり,受益証券が発行されているとは知らずに指名債権譲渡の方法によって受益権を譲り受けてしまった譲受人は,受益権は取得できないこととなって,その利益が害されることになりますので,受益証券の発行に関する公示制度を設けて,取引の安全を図るべきであるとの意見がございました。

  しかし,譲受人としては,受益証券の発行の有無をあらかじめ受託者に確認することが可能でございまして,(※1)のとおり,受益者名簿または受益権の原簿の作成,閲覧の制度を設けることもあわせて考えますと,このような公示制度まで設ける必要はないと考えております。

  次に,ウでございますが,受益証券を発行した信託を利用することにより,不動産の善意取得が認められたのと同様の結果になるのは不合理ではないかとの指摘がございました。


  しかし,受益証券が発行されている信託においては,不動産を信託財産に含めることを禁止するというのはおよそ非現実的でございますし,不動産の善意取得と類似の状況が生じますのは,主として不動産のみが信託財産である信託におきまして,単数ないし少数の受益権が証券化されている場合であると思われますが,合理的な判断としては,このような場合には流通性の付与を目的とした有価証券化がされることはないと考えております。

  結局,信託財産中に不動産を含めまして,これを受益権に化体させることにより善意取得の可能性を含む流通の強化を図ることは,信託の,いわゆる転換機能を重視する以上,むしろ当然あり得べき結論でございまして,先の批判は当たらないものと考えております。

  それから,資料53ページのエでございますが,無記名式の受益証券が発行された場合においても,受益者名簿が作成された場合には,受益者名簿への記載をもって受託者対抗要件とすべきであるという意見がございました。

  試案では,無記名式の受益証券については,受益者名簿の作成にかかわらず受益証券の占有をもって受託者と第三者の双方に関する対抗要件としておりまして,会社法における無記名社債についても同様の措置がとられております。

しかるに,無記名式の受益証券につきまして受益者名簿が作成されていない場合には,受益証券の占有で,受益者名簿が作成されている場合には受益者名簿の記載で対抗要件とするというような3つの選択肢といいますか,複雑な選択肢まで認める必要が果たしてあるのか,御意見を伺えればと考えております。

  最後に,提案に付記した(注)についてでございますが,まず,受益権を振替制度の対象にするかという(注3)につきましては,パブリック・コメントの結果を踏まえまして,積極的な方向で検討を進めたいと考えております。


  次に,(注4)の,いわゆる(仮称)信託債の制度に関しましては,パブリ
ック・コメントの結果,このような制度の整備に賛成の意見が多数寄せられまして,その場合,責任財産は信託財産のみとして,その発行には取締役会の決議を要しないものとすべきとの指摘がある一方,個人の受託者にも発行のニーズがあるとの指摘はございませんでした。

  そこで,資料53ページの①,②に書いてございますとおり,ここでの(仮称)信託債につきましては,株式会社が有限責任信託,仮に入ればでございますが--において発行する取締役会の決議が不要な社債であると構成することによって,ニーズにこたえた適切な落ち着きどころと言えるのではないかと考えております。


  この点についても,御意見があればお伺いしたいと思っております。

● それでは,たくさんありますけれども,よろしくお願いします。


● 第44の信託管理人等について,1点,御質問をお許しください。

  この信託管理人,信託監督人,受益者代理の制度でございますけれども,具体的にこの管理人,監督人,代理についてはどういった類型を考えておられるか。


自然人なのか法人なのか,あるいは業をもってなすものがここに入るのか,そういったことをイメージで教えていただければありがたいんですが。


● 特にどのというか,法人であれ個人であれ業者であれ,特にこちらでは特定の類型を念頭に置いているわけではなくて,適切に信託行為なり裁判所で選任されればいいのではないかと考えております。


● 第44の信託管理人等の22ページの(ウ),最終計算の承認のところなんですけれども,信託管理人の方についてはいいでしょうということで,あと,信託監督人とか受益者代理が選任されているときに最終計算の承認権限かどうかというところで,相当ではないということなんですけれども,これはまさに実務的な問題として,これとはちょっと違うところで,実際に配当を受領するといったところがありましたけれども,例えば顧客分別金信託とか社内預金引当信託,これは終了したときに資金を受け取ることになっていまして,受け取ると,やはりその人が最終計算の承認をするというのが一般的なことですので,今現在の実務はそういう形になっているんですね。

  といいますのは,各受益者は受託者の方からは顔が見えないということですので,各受益者に対して直接最終計算の承認をするということが実際にできないわけですね。このタイプの信託というのは,大体不特定多数の方々の財産を保全するための信託ということで,これから先も結構出てくるのではないかと思われる信託ですので,ここの部分については認めていただかないと,実務上しんどい部分があるかなと思います。

● 御意見はよくわかります。


● この資料を書きましたときは,ここまで受益者代理に認めるのは適当ではないのではないかといったことも考えたんですが,別表2をごらんいただきますと,例えば受託者の責任の全部又は一部の免除というのは受益者代理ができるとしておりますので,このように考えますと,受益者の代理人という受益者代理は,やはりこのような承認もできるようにした方がよろしいのではないかというふうに,今,事務局内部では考えておりまして,そのような考え方の当否につきまして,ここで御審議いただければと考えております。

● それに賛成するということですね。

● これは質問なんですけれども,22ページの(注3)のところで,これは今回変わったわけではありませんけれども,信託行為の定めで信託管理人と信託監督人または受益者代理の権限を変更することができるということなんですけれども,この権限の変更の範囲といいますのは,どこまでなんでしょうか。


  例えば,信託監督人といいますのは別表1の権利だけということですけれども,例えば別表2の権利というのは,これは契約によって変わるんでしょうか。

● ここのところも,第三者にどこまで別表2の権限を委ねることができるのかということと関連するかと思うんですけれども,仮にそちらの方でOKということになるのであれれは,信託監督人にそういう権限を与えることもできますが,ただ,その場合に,自己の名前でするのかどうかというのは第三者の方と平仄を合わせる。

少なくとも信託監督人が自己の名前で裁判所の権利を行使できるのは,ここに書いてある別表1の権利に限られることになるのではないかと思います。

● 1つは,信託監督人の裁判所による選任の要件のところなんですけれども,例えば高齢者や障害者が受益者である場合に,そういう立場にあるので十分監督ができないといったことになったときには,この要件は充足されることになるんでしょうか。

  実は,前回の中で,委託者の権限について制限するというような方向で確認いただいていると思うんですけれども,その中で,委託者側のとり得る手段として,この信託監督人を選任できるということがあったものですから,これが実際上,もし対応を考えるとすれば重要なところかなと思ったりしているものですから,ちょっと質問させていただいたんですけれども。


● その場合,その人だけが受益者ということで,ほかに適切に監督できる受益者がいないのであれば,それは選任要件を満たすと考えております。OKということでございます。

● そうすると,当初からそういう状態であっても,途中でそういう必要が出てきた場合には可能であると。


● 大丈夫です。
● 2つ目ですけれども,この御説明の中で,26ページから27ページの信託の基礎的な変更に関する同意権というところで,例として,会社の年金の受給権者に関するものが挙げられています。

この基礎的な変更まで認めるかどうかについては議論があり得るところかというふうには思っておるんですけれども,ここまで例として挙げられると,ちょっと難点が多いのかなと思っております。

  例えば,年金の関係で,軽微なものといいますか,余り重大でないものについては受益者代理で同意をすることは必要なことかなとは思いますけれども,例えば,ここには基礎的な変更に関する例として出てきているものですから,そこまでということになりますと,例えば受益権の引き下げ,かなり引き下げることを代理でできるかということになると,それはやはり行き過ぎではないかと思われますので,この点については,少なくとも例としては,余り適切ではないのではないかと思われます。御検討いただければと思います。


  3つ目に,これは意見なんですが,別表2の中で,先ほどもちょっと出ました12番の受託者の責任の免除に関する合意権なんですけれども,ここについては,受益者代理にこれを認めるということは,私の意見としては消極です。

やはり受益者の責任については余り簡単に免除できるというような規律をすることは,慎重であった方がいいと思いますので,この点については慎重に御検討いただけないでしょうかということです。

● まず,基礎的な変更の権限を受益者代理に与えるのかどうかという点ですけれども,ここは後で検討いたします第54の信託の変更のところと密接に関連するのですけれども,少なくとも受益者代理のところに限って申し上げさせていただきますと,受益者代理は委託者と受益者だけで解任もできますし,受益者代理と受益者との間につきましては善管注意義務の関係にありますので,仮にいけない同意等をすれば,損害賠償請求等もすることができるとなっておりますので,御懸念の点は,それで大分解消できるのではないかと思われますし,そもそも第三者に変更権限を委ねることにつきましても,事務局内部としましては,契約事由の原則があるので,そこをできないと言うのが果たして妥当なのかどうか。これはもちろん後で議論していただく点でございますが,そのように考えております。
  

それと同じように,責任の全部または一部の免除というものにつきましても,ここは受益者が多数の場合につきましては,やはり余り信託事務処理に関心を持っていないようなケースもあるかと思われますので,やはりこの点は信託の設計の中で,信託行為の定めに受益者代理を置くようなケースにおきましては,ここまで認めてあげても結構なのではないか,仮にこういうものが妥当でないと受益者が思う場合には,そもそもその信託の中に受益者は入ってこないということになるかと思いますので,それでカバーできるのではないかというのが現在の考え方でございます。

● 受益者代理について多少気になっている点が2点ございまして,1つは,受益者代理,「代理」という言葉がついているんですけれども,基本的にはこれは信託行為で定められるということで,具体的に受益者から何か授権があるというような関係ではないので,そこがちょっと,「代理」という言葉から感じるところとちょっと違うのかなという気がしておりますのと,信託の変更の場合には,変更の仕方について信託契約の中に書かれることになるんだろうと思いますけれども,この受益者代理の場合には,信託契約の中にどう書かれるかわかりませんけれども,もし代理を選任するということだけ書いて,その権限内容等が書かれないことになるのであれば,契約を見ただけではちょっとわからないといった問題もあるのかなという気がしておりまして,受益者の予測可能性等の観点からも,信託の変更の場面とはちょっと違うかなという気がしております。

● 一つの論点であることは確かだと思います。

  ほかに,いかがでしょうか。

● 信託行為の定めで裁判所の行為の代理権も与えられるという点が,やはり
……。


社債型の信託を考えれば理解できないことはないと思うんですけれども,これは信託制度ですから,あらゆる民事,普通の信託でも何でも可能なんですけれども,そこの段階でやむを得ない状況がある場合というのではなくて,いずれにしても信託行為の定めによって受益者代理が定められて,そうすると裁判所の権限も与えられるということになると,裁判における弁護士代理の原則とか,その辺が潜脱されるおそれもあるのではないか。

  それはそれとして違法である,脱法であるという議論をすることになるのかもしれませんけれども,一応そういう懸念が会内での議論ではされましたということをお伝えしたいと思います。


● その点に関しましては,現行法第8条につきましても,受益者が不特定の場合には信託管理人を選任することができるとなっておりまして,その中には,転々変化する受益者がいるから信託管理人を置くことができるんだという説明が立法・制定当時にはされております。

そう考えますと,今回の受益者代理というのは受益者が不特定の場合について,信託行為の定めで受益者を代理を置くということでして,現行法第8条第1項ただし書きの場合とほぼ同じことを考えていると言えますので,現行法の考えを維持しているという意味では,確かにおっしゃるとおり,弁護士代理の原則との問題があるかなということは認識してはおるのですけれども,どうにかなるのではないかなと考えてはいるんですけれども。


● 受益者代理にこれだけの権限を与えるのは,事務局の方もこんなに権限を与えてしまっていいのかと当初思っていたというお話がありましたけれども,私は今でも,こんなに権限を与えてしまうのか,なかなか受け入れ難いなと思っているところがあるんですが,いずれにせよ,権限を与える以上,義務も何かつくる必要があるのかなと考えたんですが,多数の受益者の場合の信託ばかりでなくて,どういう信託でも結局つくれることになりますから,何か義務の規定を考えられた方がいいのではないかと思いました。


● その点につきましては,(注4)で「信託管理人等の義務及び責任は,民法の受任者の義務及び責任と同様とするものとする。」という規定を置く予定ではございますが,これ以上に重い義務を課した方がいいという御意見でしょうか。


● そうです。
● 確かに権限が広いので,十分な義務も伴っていないといけないと思いますけれども,ここに書いてある以上にどんなことができるか,ちょっと検討してみたいとは思います。


  いかがでございましょう。ほか,よろしいですか。
  この信託管理人,それから監督人,受益者代理,結構重要な制度でして……


● 先ほどの義務を重くするという点につきましては,この部会の中でも御検討されたかと思うんですけれども,そのときの御検討の結果といいますのは,ここで仮に受任者の義務を重くすることになりますと,委任のところにおける受任者の義務との平仄が合わなくなるのではないか,そう考えますと,ここでは受任者の義務と同様にするということにした上で,解釈に委ねておくのが適当ではないかということではなかったかと思うんですけれども,その点はいかがでしょうか。

● そのときの受益者代理権限と今回の受益者代理の権限が随分違っているので。


● そのときも,「信託管理人」という名前であったかもしれませんが,できる権限について,このように広く認めるというところは同じであったと認識しておるんですけれども。


● 現行法との比較で言うと,今まで信託管理人という一つの制度で,実はいろいろなものをたくさんその中に盛り込んでおりまして,それを機能分化して整理すると,こういうふうに分かれて,これである程度適切な対応ができるのではないか。

いろいろ不十分であったり,細かいところでいろいろな問題はまだあると思いますけれども,基本的に,この信託管理人,監督人,受益者代理というふうに分けて考えると,今までの需要にも応ずることができるし,適切な対応ができるのではないかということだと思います。

  ただ,細かいところで今のように,受益者代理にもうちょっといろいろな義務があった方がいいとか,いろいろな問題があるわけでございますが,規定ぶりはもうちょっと検討いたしますけれども,もし基本的な御承認がいただければ……。

先ほどの御意見は踏まえながらまた検討したいと思いますけれども,いかがでしょうか。

● 受任者の義務だけで足りるかということで,公平義務のようなものはあり得るんでしょうか。社債管理者はそういう義務をたしか課されているんですが,あれは善管注意義務からも,当然には出てこないという前提で入っていたと思うんですが,多数の受益者を相手の管理人,例えば受益者代理などであれば想定し得るとすれば,多少考える必要があるような気は--重く,軽くではなくてですね。

● それは規定の形になっているんですか。
● 商法ですか。なっています。


● ある程度,類推適用がそんな簡単にできるかどうかわかりませんけれども,今の公平義務みたいなものが,例えば解釈なりで加わる可能性があるのではないかという感じは,ちょっとしているんですけれども。規定がないとどうかという気がいたしますけれども。


  いかがでしょうか。大筋では御承認いただけるということで,よろしいでしょうか。

  ほかの点は,いかがでしょうか。
● 第51の受益債権と信託債権の優先劣後関係について,確認と意見を述べたいと思います。


  そもそもこの問題については審議の後半に入れておりまして,十分な審議がなされているかというと,もうちょっと議論が必要なのかなと思っております。


問題の立て方であるとか受益債権の考え方について,パブリック・コメントにも出ましたように若干の混乱が,また認識の違いがあるように思われまして,実際に資料30ページの(注1)にありますように,こういうような問題の立て方についての認識の分かれがあると思っております。

本点については,そこら辺の問題の立て方について,まずは共通認識を持っておかなければならないと思っています。


  そこで,一つの確認なんですけれども,私はこの問題について,以下の3つのレベルに分けて考える必要があると思っておりまして,一つの整理の仕方なんですけれども,1つは,いわゆる受益債権について,例えば信託計算が終わって期限が到来して,具体化された債権についてどうであるのかという話です。

2つ目は,期中の債権でありまして,典型的な問題状況としては,いわゆる社債型の1年に100万円払うというような受益債権である。これを債権と言うのかどうかはまた別の議論になりますけれども,そういう期中においてどうなのかという話です。


3つ目につきましては,信託が終了したときに残余財産の分配において受益債権がどうなのかという話です。

  私は,この3つに分けますと,ここで論じるべきものは2番目なのかなと思っております。すなわち,1番目について具体化された債権については,恐らくこれは受益債権であれ信託債権であれ,通常の一般債権であるわけですから,これは同順位であるということについて,余り異論がないような気がしております。

ですから,ここで余り論じる必要はないのかなと思っております。それから,3番目の残余財産の分配権については,これは受益債権の方が劣後するということも認識は同じであるのかなと思っております。そこで,2番目がここで議論するべきものなのかなと思っております。

  まずはこのような問題の立て方でよいのかどうかということを,提案なのかもしれませんけれども,ちょっと御確認したいと思います。


  そこで,私ども銀行界としてもいろいろ議論した中で,そういう問題の立て方とか状況がよくわからないなという中で,意見としては甲案,特に信託債権者の立場から,甲案の方がいいのかなと現時点で思っているわけでございますけれども,それについての理由を述べたいと思います。

  1つは,前提としては,やはりエクイティといいましょうか,実務的な認識としては,一部例外的な実務運用はあるかもしれませんけれども,全般としては,やはり信託債権と受益債権と比べれば信託債権の方が優先すると思っているわけでございます。

そのように実務運用がされているということでございます。

  2番目に,経済実態的に考えますと,仮にそれが,信託という財産があって,それに対してのファイナンスということを考えれば,今まで信託債権が優先するというふうに考えていましたので,引当財産というのは信託財産であると思って与信の判断をしていたということでございます。

ところが,これが仮に受益債権も同列である,かつ,それがいわゆる社債型の定期給付型も同順位であるということになりますと,その債権の額が一体幾らなのかということは,もちろん信託契約とか見なければなりませんし,また,それの変更もあり得ることを考えれば,当然のことながら,自己の信託債権の同順位者というのがもちろん増える,プロラタになるわけですけれども,増える。

また,その受益債権の金額も十分に計算できないということもあり得るわけです。


  そうしますと,その信託財産に係る与信全体を見ますと,いえば信託債権者からすると,隣にいる受益債権の金額がわからないだけ,ある意味,保守的に与信判断をすることになると思いますので,全体の枠としては与信額が下がるのではないかと思っています。


いわゆる萎縮効果になってしまうのかもしれませんけれども。

  そうすると,いわゆるファイナンスの観点から,また経済的な観点からすると,やはり債権者をまず保護して,そして受益債権を劣後させる方が,デフォルト・ローであることを前提にしますけれども,その方が経済的には妥当だと思っています。

  2番目に,実務的な観点からして,受益債権というのもいろいろ,設計によっては劣後債権,優先債権とかあるわけでして,これが信託債権と並びますと,この3つの中で一体どれが優先するのか,よくわからなくなってしまうのではないかと思っています。


信託債権があって受益債権があって,これが同順位であるとなるのが乙案なんですけれども,その中で,受益債権の中で優先劣後というのが出てくると,では,その2つの受益権の中では優先劣後があるわけですけれども,信託債権との関係が,そこだけではわからないわけですから,これは実務的にもなかなかうまくいかないのではないかと思っています。


  これは一部パブリック・コメントにもありますけれども,あとは理論的な話で,これは一つの商品設計的な議論だと思うんですが,やはり受益債権というのは受益権としてのコントロール権を持っているわけですから,株券とも同じだと思うんですけれども,そういうものがあるからこそ,一般債権よりは劣後することが妥当ではないかと思っております。

  他方,乙案に関してのニーズがあることは認識しておりますけれども,これはやはり信託全体からすると,私どもの認識では,それほどないのではないかと思っておりまして,そうすると,全体的にはどちらをとるかということであれば,甲案の方がよろしいのではないかと思っております。

  無論,甲案としたとしても,これはデフォルト・ローであって,先ほど○○幹事から,同順位としたいのであれば同順位の特約を設ければいいという御説明がありましたけれども,そういうふうな対応でやればいいと思いますし,現状もそうしているのではないかと私は思っております。


  ただ1点,御提案とすれば,この提案では乙案のときの劣後特約が有効であるということを裏の意味から認めることを明記する,明確化しておりますけれども,甲案であったとしても,今度は逆に,同順位特約が信託法上,有効であるということの明確化を図っていただければありがたいなと思っております。

● 今の○○委員のお話,また,この甲案,乙案の今回の検討課題の中の説明でも,立法提案ですから,ある意味では政策的な視点からの議論が中心になっていると思うんですけれども,この論点に関しましては,まさしく検討課題の中でも書かれているように,実体法の問題ということなので,やはりまずそこから考えていく,そしてその後に,甲案,乙案どちらがいいかというわけではなくて,仮に実体法上,劣後することにいろいろな問題があるとしたら,その問題点について逐一条文といいますか,立法的に対応しておく,こういうことをしないと,一般的に優劣を決めてしまった場合,今,デフォルト・ルールというお話がありましたけれども,相対でのデフォルト・ルール--相対で契約するのは別にデフォルト・ルールというわけではありませんから,一般的にだれかとだれかが約束したからといって優先劣後が全部引っくり返ることはないと思うので,デフォルト・ルールではないと思うんですよね。実定法上,もう順位が決まるということだと思うんです。


  そうすると,余り例はないかもしれませんけれども,実体法の議論ですから議論しても構わないと思うんですが,例えば信託受益権に担保をつけたい。

それは受託者にとっても将来何らかの形で,その信託財産が毀損されたら嫌だとかですね。そのときに,受益債権に担保をつけるといったときに,その担保は有効や否や。


民法的には有効なはずですけれども,ところが,担保付債権が無担保の一般債権より劣後するというシチュエーションが生じるわけですね。それが一つの例。


  もう一つ二つ,似たような例としては,一般債権が強制執行したときに,配
当加入していたときにどういう扱いになるかということもありますし,逆に,担保をつけなくても受益権者が,受託者が配当してくれないので強制執行していった,そのときに,他の一般債権者が入ってきたときに,強制執行した人が実は劣後的に扱われる。


それは扱えばいいではないかという一つの議論があるかもしれませんが,そういう実体法上の問題がある。


  もっと由々しき状況としては,信託の破産とか受託破産とか,そういう状況に関連するのかもしれませんけれども,一般的に劣後するということは,最終的に信託債権が弁済できないときに,受託者から受益者に対する受益権,受益債権の支払いというものが,ある意味,法的には,本来払うべきものでなかったのに払ってしまったということで,受益者は不当利得を得た,株に関して言えば違法配当を得たようなシチュエーションが生じてしまうのではないかと思うんですね。


払った時点においては,それは認識しなかったかもしれませんけれども,最終的にはそういう状況が生じる。また,そういう状況が生じるがゆえに,受託者としてはやたらに払うわけにはいかないというような,やや萎縮的な効果も出るかもしれません。


  ……等々いろいろ考えていきますと,やはり手続法レベルの議論は別としまして,一般的に債権に優劣をつけるということは,実体法上,いろいろな問題が生じてしまう。だから,そこから先の,とはいいながらも甲案がいいんだという議論は政策的な議論ですから,それはそれで傾聴に値しますけれども,そうすると「受益権とはこういうものである」とか,いろいろと例外的な扱いということを議論し,規定していく必要が出てくると思うんですね。

  ここから先は判断の分かれるところですが,そういうような非常に難しい問題を果たして議論していくというか,個々に解決していくべきかどうかというと,従前でも,この議論というものは特にクローズアップされずに,またはそれぞれ思うところもあってやってきたのかもしれませんけれども,今の段階で優劣をつけることによる立法というものが,逆にどれだけ意味が出てくるのかなという意見を持ちます。意見です。


  その辺は価値判断の問題だと思うんですけれども,実体法の問題としては,多少頭の体操的なところがあるかもしれませんけれども,やはり債権に優劣をつけるということは,いろいろなところでひずみが生じるのではないかと思いました。


● なかなか難しい問題をたくさん提起されましたね。

  時間の関係もありますので,議論が途中になるかもしれませんけれども,あとお一人ぐらい。


● 最後,どうせ詰め切れないと思いますので,一言だけ申し上げますが,○○委員の3つの分け方,見事だと思うんですけれども,計算して確定している受益債権,既に発生している。

これは当然に平等ですよねというのは,必ずしも当然でないような気がします。
つまり,株式の配当ですと,配当制限等がいろいろあって,むやみに配当してはいけないというのがあるわけですので,それが決定したという場合と,例えば信託行為で月々何十万円と決めて受益とさせることになって,それが弁済期が到来したということになりましても,それは本来は債権者に弁済した残りの額を払うべきなのであって,30万円の弁済期が到来したからといって当然に平等になるわけではないような気がいたしますので,結論としては平等にするということでいいのかもしれませんけれども,「異論がない」とおっしゃられたので,異論もあり得るのかなということを,もし検討する際には考慮に入れていただければと思います。

● そこも含めて,恐らく議論があるところだと思います。

● 私も3つに分けられたところで,ちょっと。

  3番目の残余財産なんですが,ここは恐らくパブリック・コメントでは,すみませんが,私どもの補足説明の書き方が悪くて勘違いされた方がいらしたと思いますけれども,恐らく部会の中では皆さん同じようなお考えで,②は定期的な話で,まさに今の①のところ,その具体化した,あるいは確定したから何か性質が変わるんだというところが私もよくわからないところがございまして,これは確認なんですけれども,受益債権ですと物的有限責任になりますということなんですけれども,その性質自体も失われる,そんなことはないわけでございますよね。


● それは同じでしょうね。
● 「独立性がある債権になります」と言ったからといって,物的有限責任制は失われない。


だけれども,順位としては平等になるというのは,どういう理屈でそういうことになるのかなと。つまり,受益債権と言えば物的有限責任だというような,コアといいますか,そういう重要な性質があって,そこは変わらないんだけれども,順位の問題としては,弁済期が来たからというような異存があり得るのかどうか,その辺が私にはいま一つわからなかったんですが,今日はもう時間がないので,また次回以降かと思いますけれども。


● これは予想どおりというか,政策である程度決めるべき場所かもしれませんけれども,理論的には非常に難しい問題を抱えておりまして,すみませんが今日はたくさん残してしまいまして,また次回,もうちょっと効率的にやりたいと思いますけれども,今の問題も含めて,これはもう一度ここで御議論していただくことにいたします。


● ほかの論点でも議論があるんですが,それは次回以降,持ち越しということでよろしいですか。


● すみません,次回にさせてください。それでは,これで終わります。
-了-

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

2016年加工編
法制審議会信託法部会
第23回会議 議事録

第1 日 時  平成17年10月21日(金)  自 午後1時03分
                        至 午後6時40分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  信託法の見直しについて

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

● それでは,これから法制審議会の信託法部会を開催したいと思います。
  前回の積み残しも若干ありますので,それを含めてまた適宜区切って行っていきたいと思いますが,最初にちょっとお断りをしておきたいのですが,私が大学の仕事の関係で途中で退席をさせていただきまして,その後,議論が残っていた場合には○○委員に部会長代理として議事の進行をお願いしたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。


● 最初に,審議スケジュールのことでお手元にお配りしました紙について御説明いたします。おかげさまで部会の審議も着々と進んでいるわけでございますが,しかし,御承知のとおりなお議論すべき論点も多々ございまして,あくまで予備日という位置づけではございますが,1月20日ということで,部会長とも相談の上,案として提示させていただきました。


予備日とはいってもほぼ確実な予備日ではございますが,ただ実質的な議論は12月中に終えまして,1月20日は実質的議論はほとんどないものを期待しているところでございますので,そういうことで1月20日を追加するということで御了承いただければと思いますが,よろしいでしょうか。


  では,そのようにさせていただきますので,どうぞ御協力をお願いいたします。


● では,本日の議事に入ってください。


● それでは,本日の議事でございますが,まずは前回の積み残しからやらせていただきたいと思います。前回の最後の時間で,信託管理人等と受益債権と信託債権との優先劣後関係,それから営業信託の商行為性と受益権の有価証券化,この4つについて御説明いたしまして,信託管理人等につきましては議論が終わっていると承知しておりますので,本日は前回途中になりました受益債権と信託債権との優先劣後関係からまた御意見をちょうだいできればというふうに思っております。


● それでは,積み残された議論につきましていかがでございましょうか。
  優先劣後関係につきましては,これもかなり理論的には重要な問題だと思います。


従来余りはっきりしていなかった点でございますが,ある程度明確にし,まだ解釈でいろいろ多少グレーゾーンが残るかもしれませんけれども,大体こんなところでいいかどうかということですね。


  では,○○委員から先にどうぞ。

● 前回の議論の続きということでちょっと確認ということですが。優先劣後に関して,議論の土台を明確化してほしいという問題提起をしたわけでございますが,その後に○○委員の方から,例えば株式会社における違法配当の場合には結果として債権者が株主に対して取り返すことができることがあるという御指摘であるとか,あと○○関係官の方から債権の方に有限責任性があるというような指摘があったと思いますけれども。


ただ,もちろん受益債権と信託債権についていろいろな制限があるということは承知しておりますが,ここで多分議論すべきということはそういう特質は別として,じゃあ,例えば倒産した場合に配当表において一義的にそれが劣後債権となるのかどうかというその基本的な考え方をここで議論するのがよいのではないのかなと,そういう問題提起でございます。


  ちょっと前回の意見を再度繰り返させていただきました。

● そうですね。私が申し上げたのもある程度そういうことなんですけれども,これ細かい問題はいろいろ残るかもしれませんが,基本的にはどういう立場をとるのか。


ただ,基本的といいましても,この受益権が具体化する前と具体化する後で違うかもしれませんので,そういうことも含めて,しかし,基本的な考え方を一応ここで確認しようと,そういうことです。

  では,○○委員。

● ちょっと前回の繰り返しになるので一言だけで。やはり理論的なというと大げさですけれども,ちょっと理屈の面での幾つか指摘を前回させていただきましたけれども,ぜひその辺についてクリアにならなければなかなか難しいのではないのかということと--これはほぼ前回の繰り返しですけれども。


  あと,ちょっと別の研究会で議論したときに出た議論なんですけれども,例えば既発生の信託債権といってもいろいろなバリエーションがあり得るのではないかということ考えられると思います。例えば実際に信託の解約で済むようなもの--例えば信託元本を10年に分けて10回ずつ払いますと。


ですから,収益部分の株式配当のような収益部分に対する信託元本を配当しますと,配当といいますか配りますと。ですから,その信託の解約でもいいと思うんですけれども。


じゃあ,それがどの時点で既発生で,どの時点で未発生なのかとか,いろいろなバリエーションがあって,それぞれについての優先劣後を考えていくんだろうかというようなことも考えます。

  また,理論的に,民法の世界の議論かもしれません,理論的に債権について優先劣後を設定するというのは極めて困難な問題が多いのではないか。


私の投資実績,例えば中間法人の出資とか債権だと思うんですけれども,そういうのに関しては例えば払い戻しができないとか,要するに弁済をしないという形で優先劣後性をある程度担保していると思うんですけれども,信託債権についてはそういうことはもともと意図されているものではありませんし,株式についても本来出資したものは戻ってこない立て付けになってますけれども。


信託というのはやはり受益者に配当して初めて意味があるわけですから,それに対して一般的に劣後ですということにしたときの弊害もありますし,それは考え方というか政策的理論だからいいですけれども,理屈の面でなかなかすべてのシチュエーションに立法的に対応するというのはどうしても漏れが出てきてしまうのではないのかなと,こんなふうに思いますけれども。


● 重要な御指摘だと思います。なかなかすべてを見渡した上でどういうルールが建てられるのかということだと思いますけれども,なかなかそれが難しいであろうと。


特に優先劣後をつけるとなると難しいだろうと,そういう御指摘ですね。
  ほかに御意見ございますでしょうか。


● パブリックコメントの結果をちょっと見せていただくと,この点については必ずしも甲案支持が圧倒的多数というふうに私感じませんで,乙案を支持している意見,あるいは補足,どちらでもないけれども,いろいろな意見が寄せられているわけですけれども。それ踏まえて,ちょっと意見というよりは質問になってきてしまうかと思うんですが。

提案の中で乙案の方の注として,乙案を採用した場合において信託行為によって劣後特約が一律に効力を有しないことにはならないことを前提としているというようなことを書いてあるんですが。


甲案についても,特約による同順位の合意を強制力あるものだという形で認めるということはできないんでしょうか。


  甲案について合意による同順位化を認めるというふうなことにすれば,ひょっとしたら恐らく,いろいろな意見を提出された方はいらっしゃるかと思うんですけれども,大多数の方の,少なくとも実務面でのニーズは満たされてくるのではないかなというふうな気がしておるんですけれども,いかがでしょうか。
● どうぞ,何か。


● 甲案の場合ですと,信託行為で定めたことによって信託債権を劣後させるということはできませんけれども,ただ個々の取引において受託者と信託債権者が合意することによって受益債権と同順位するという特約もすることは可能だと考えております。


ですから,契約ごとにやらなければいけないという手間はかかりますけれども,そういう特約も当然できるのではないかという前提で考えております。


● よろしいですか。そこまでは恐らく甲案を指示される方も大体認めてくださると思っていますけれども。甲案というのは,私が言うべきことではないかもしれませんけれども,信託実務などではある程度こういうものだという前提で考えてきたものでありまして,そういう意味ではどういう順位にするという立場は多少実務的な感覚からするとかなり大きな変更を強いられるというところがあるわけですね。

ただ,理論的に甲案というのは難しいということになってしまえばもちろん甲
案はとれないと思いますけれども,いかがなものでしょうか。ほかに御意見ございますか。
 
 ○○委員などはどういうふうに。信託協会はもう既に御意見が出ているかもしれませんが。


● 信託協会というふうにいいますと意見が割れておりますので,明確にどちらかということは言えないんですけれども。いわゆる実務的感覚といいますか,今まで信託業界にとってはやはり甲案といいますか劣後するというような感覚のもとで実務を行ってきたというところがあります。

ただし,やはり乙案のところのよさというものもありますので,今のところは業界内で議論していても両案あるというところですので。


● 確かにどちらも特約である程度乙案から出発しても優先劣後つけることはある程度できるし,甲案から出発しても同順位にする特約もある程度可能であるというので,両者はかなり接近はするんでしょうけれども,非常に細かいことをいうといろいろそのしやすさというか,難易度があったりするんだと思いますが。


  ここでの御意見は,甲案,乙案,相半ばしているとそんな認識でよろしいんでしょうか。今までもし御意見を言っておられない方は,あえすどちらを強く支持するほどではないというそういう御意見だということでございましょうか。

  はい,○○幹事。


● どちらを支持するというわけではないんですけれども,解釈論的にはいろいろわからないところがありまして,もちろん債権について責任財産限定特約がついている場合とついていない場合で大分利益状況が違うんだと思うんですが,仮に受託者が債権者に対して固有財産から弁済したということになりますと,その求償権というのは現行法ですと他の債権者が先立つことになるわけですよね。


そうなりますと,その信託債権より恐らく勝つんじゃないかなという気がするんですが。


  それでいいのか,そういう解釈論でいいのかというのが1つ前提にありまして,そうなりますと甲案かなというふうに思うんですが。


先ほどから出ております特約との関係でそのシステムというのがどういうことになるのかというのがちょっと頭の中で整理がついておりませんで。


つまり,債権者同順位であると,破産状態では同順位であるというふうになったときに,では,受託者が固有財産から支出したということになりますと,その求償権というのは同順位であるという性格を持った形で生じるというふうに考えないと,受託者が弁済すると債権者がといいますか,同等ではなくなるという,受益債権の額が減っていくということになりますので,その辺もちょっと解釈論的にはよくわからないですね。


  さらにもっと言えば,これ私発言したのかだれかの発言なのか思って書いたかわからないんですが,私のところのメモには受益債権に担保を信託財産からつけたらどうなるのだろうかという鉛筆書きのメモがあるんですが,これはどなたかが発言されたのか,自分が思ったのか,2週間たつと全部忘れてしまいますのであれなんですけれども。

そういうときにはどうなるのかなというのがわからないんです。私は基本としては甲案の上でそういうふうなところについての解釈的な整備をしていくということなのかなと思っていますが。

● ほかに,○○委員,どうぞ。

● 私も甲乙どちらかというわけではないんですが,甲案が理論的に不可能かというとそれは必ずしもそうでもないんじゃないかという気がいたします。


すべての債権は平等であってという原則があるのかもしれませんけれども,しかし,それは一定の場合に比例弁済を受けるということであって,政策的にあるカテゴリの債権を優先するあるいは劣後するということはできなくはないんじゃないかなというふうに思います。


  ですから,最終的には実務の御要請との関係にも立つと思いますが,理論的に甲案が不可能だというわけではないのではないかと思います。


● ○○委員。


● 基本的というところで○○委員に反論するのは極めて大変なチャレンジなんですが。

先ほど○○幹事もおっしゃられた,債権だと担保つけられますけれども,そのときに一般債権との関係で担保実行しようとしたときの関連はどうなるんだろうかということと。


あと,前回も申し上げたかと思うんですけれども,年金なんかであり得るかもしれません,ずっと配当していって企業が破綻して,最後の方の配当をしようとしたところにちょっと足りなかったと,信託債権も残っていたというような状況のときに,以前に配当された方々は不当利得,全員といいますか比例配分でしょうけれども,不当利得になると思うんですね。


実行の理論は別としまして。そういう場合に,政策的にそれでいいのかという議論もありますけれども,これは政策の議論なんですかね。


そういうことになるとすると,結局最後まで銀行の劣後ローンとかそういうのもそうですけれども,要するに債権に順位があるというとやはり既に上位債権は全部払った後に初めて払うというところまでその優先劣後性というのが担保されることになるんじゃないかと思うんですけれども。


  ちょっと後者の方がやや理論的なのかもしれませんけれども。政策的かもしれませんけれども。配当管理の点,○○委員が書かれた信託協会のところにもちょっとその辺の議論はされていたと思うんですけれども。


それは強制執行との関連でもそうやっていうんですが,その辺はどういうふうに理論的に解決されるのかお伺いできればと思うんですが。


● 何かございますか。
● その優先劣後が一体どの舞台,場面で出てくるかという問題だと思うんですね。それで,その執行の場面でどういう順位をつけるか。それは,実体法ルールに従って配当するということになると思うんです。


それから,破産の場面でどう扱うのかというような,その場面場面で優先劣後が決まってくるわけでして。それぞれの場面においては,優先劣後というのは政策的に決まり得ることだろうと思うんです。


そうしますと,一律にある債権について優先させられ劣後させるということが絶対に不可能だということにはならないだろうということです。


● わかりました。どうぞ。


● ○○委員がおっしゃっている,○○幹事がおっしゃったところなんですけれども。劣後するという前提のもとでの受益債権に担保をつけるというのがおかしいのではないかというか,どうなるんだろうということなのですが。


すみません,ちょっとよくわからなかったんですけれども,一般債権に担保をつけることは可能で,そうすると労働債権と優先権のある債権が結局優先していってしまうわけなんですけれども。


それとはちょっと違うことになり得るだろうということなんでしょうか。つまり,抵当権なら抵当権の効力が勝つのは当然なのかなという感じがいずれにしてもするのですが。


● 劣後に担保がついたときに一体順位がどれぐらい繰り上がるのかという議論だと思うんですね。それは倒産の手続の中に入っても劣後的債権との順位はどうなんだろうかとか。


劣っているもの同士の中でもいろいろな順番づけがまた出てくると思いますし,担保というのは普通は1ランク上といいますか,担保がつくことによって一般債権よりも優先弁済権が確保されますけれども。劣後債権に優先弁済権が確保された都に一般債権との関連ではまだ一般債権は超えられないんじゃないのかと思うんですよね,一般的に劣後していれば。


そこも立法的に対応して担保つけた場合には,一般債権よりも上になりますという2段階しますということで対応するのであれば,それは1つの考え方かなと思いますし。


  ○○委員がおっしゃるように,それは執行のところで法整備をするということであればそれはそれかもしれませんけれども。理屈では別につけられないんじゃなくて,つけた後の一般債権との順位はどうなるのかという質問なんですけれども。

● 恐らく一般債権よりも優先権のある債権等々,先取特権ですね,そういうものよりも上にいくというのが抵当権の効力として認められているので,そちらが優先していくんじゃないのかな。


つまり1個上がる2個上がるという議論というよりは抵当権の効力として優先権のある債権よりも,先取特権よりも上にいく,あるいは一般債権よりも上にいくということにならざるを得ないのかなという気がするのですが。そういう整理ではよろしくないのでしょうか。

● それはそれでもいいというか,よくもないんですけれども,気がするんですけれどもね。弁済はされたけれども,受領した後はとっている人が先受領してしまったみたいなことになるんじゃないかなと思うんですけれども。


ですから,普通劣後債権とか無担保であることが多分前提だと思うんですよね。

銀行の劣後や何かで。担保つけるということ自体の,議論自体の整合性がなくなってしまうので。


● 今まで余り議論したことのない問題で。
  どうぞ,○○幹事。


● 感想めいたことで恐縮なんですけれども。一般的にはやはり○○関係官のおっしゃったようなことになるのではないかと。抵当権という形で担保権がついているのであれば,被担保債権が本来は劣後する性格の,もともとは一般債権であれば劣後するものであったとしても,担保債権になっている以上はそちらでカバーされるのであれば,優先的な地位がそのまま付与されることになるのではないかと,破産手続後に発生した利息ですとかそういうのは本来劣後的な破産債権でなるところ,被担保債権であればカバーされるということになるのではないか。間違っていたらまた訂正していただきたいのですが。

  ただ,○○幹事のおっしゃった点は,本来資本的なというか,そういうような性格であるものについておよそそのような優先的地位を付与することが受益債権の性質に反しないかという問題提起ではないかというふうに思いまして。例えばこういうことがあるのかわかりませんけれども,株主の地位から発生する一定の請求権を被担保債権として抵当権をつけることができるのかとか,約定劣後破産債権になるようなものに論理矛盾に近いわけですけれども,担保権をつけることができるのかとか。


そういう点から出てくる御議論なのではないかと思います。

  ただ,その点につきましても,もともと甲案であれ乙案であれ,合意によって債権の順位を左右するということは可能であるという前提で,したがって,もう少し高くするということは妨げられない,あくまでデフォルトの問題だという整理をしているということと受益債権というのはやはりそういう完全なエクイティーよりはもう少し操作性の余地のあるものと。


ただ,それによって実質的に劣後する人の合意なくして設定できてしまうということが若干嫌らしい面はあるのかもしれませんけれども,そういうふうに考えますと,○○関係官のお答えのようなことになるのではないかというふうに今は理解しております。

● ○○委員も同じ問題に関連してでしょうか。
● ちょっとごめんなさい,混ぜ返す話になるかもしれませんけれども。劣後という意味がやはり大切であって,例えば劣後債権と相殺をするという場合に,例えば一般債権と劣後債権と相殺を考えるときに,例えば相殺適状状況が劣後債権の方が早かった場合に相殺してしまったというときに,結果としてどちらが優先しますかというと劣後債権が優先することもあるわけです。

また,劣後といっても例えば銀行劣後債みたいに劣後のやり方として停止条件付きな劣後債権ということであれば,そもそも担保をつけたとしても当該被担保債権が発生しないからそれは劣後になるという話だと思いますので。

  ですから,ここは私のきょうの一番の話と同じで,やはり想定するシチュエーションをどこに置くかということを定めて,基本的にはどう考えるかということを議論しなければ,多分いろいろなパーツパーツでやるといろいろな状況があってそれは違いますよねという議論になるので,非常に混迷するのではないのかなと。実際にその内部で検討したときも非常に混迷していますので。


そこまでいろいろ議論するのであれば,非常にこの議論,テーマというのは重いというかもっと検討すべきことが多いとは思っております。


● それはおっしゃるとおりでして,今もいろいろなシチュエーションごとに必ずしも同じでなくて多少政策的な観点からもバリエーションがあり得るということでもありますし,すべてを詰めきって議論するというのは非常に大変な問題なんですね,これは。


そういう意味で理論的に本当にこれで耐え得るかというところはもうちょっと検討しなくてはいけないと思いますけれども,ここでは皆さんの御意見の中で必ずしもどちらでなくてはいけないというほど強い御意見はなかった。


ただ,理論的にはどちらの方がいいのではないかということで,今,甲案を支持される方と乙案を支持される方とが両方おられるという状態ですけれども。しかし,理論的に十分どちらかでも耐え得るものであればどちらでもそれほど異論はないと,そういう御意見だったというふうに一応理解いたしましたが,それでよろしいでしょうか。

  もしそれよろしければ,これは理論的に詰めますけれども,甲案であっても乙案であっても理論的に詰めた結果であればどちらでも構わないという御意見だったのかなと思いますが。


  ○○関係官,何か補足がございますか。

● これはもしかしたらこういう考え方があるのかという程度のお話ではあるんですが。甲案と乙案の違いのところで,特に甲案側からの意見として,会社であれば配当規制のようなものがあるけれども,信託においては一般的に配当規制はとにかく今はないということなので,やはり甲案がいいのではないかというような御意見がありまして。


あるいは乙案の方がいいという御意見の中にも実は一般の信託においても配当規制,会社と同じような配当規制というのは通常での信託にというのは無理なのかもしれないですけれども,例えば純資産額がマイナスになっているときに,それを超えて受託者が弁済というか,支払をしたというときには,何らか受託者が責任を負うとか,あるいは受益者のところに取り戻しに行くというか,不当利得の返還を請求するというようなこととセットで乙案なんだというようなお考えもあるやに聞いているんですけれども。

  その乙案を御支持される,御支持というか,いいかもしれないというような御見解の方の中にはやはりそういうほかの,つまり,ここでどういうようにするというだけにとどまらず,そのほかのもう少し手当とセットで乙案がよいのではないかという意見もありそうだという話も少し伺ったのですが,その辺いかがか,もしよろしければとお話を伺えればという気が。


● いかがでしょうか。○○委員の意見は少しそれに近いですか。
● ですね。私は近いといえば近いし,甲案というのは理屈で成り立たないんじゃないかといまだにちょっと思っているところがあって。


政策的に甲案の趣旨はわかるし,乙案にとってもセットでという議論もわかるんですけれども。ですから,そういう趣旨だといったらいいんでしょうか。


● わかりました。どうぞ。

● 先ほどの,ちょっと私どもの立場を明確にするために発言するだけなんですけれども。


どちらでもいいという強い希望があるというわけではないんですけれども,どちらかということであれば,銀行業界としては債権者の立場から立つと甲案の方が望ましいなということは前回の審議でもお話ししましたとおりでございます。


ただ,強い希望があるのかと言われると,そこはまだ検討中だということでございます。


● わかりました。恐らく御意見の分布はこういうことだと思いますけれども。多少政策的な観点を入れると甲案の方がいいのではないかという御意見が,政策的な観点からは多少多いのではないかと思います。


理論的に甲案で本当に大丈夫なのかということについての,しかし,御懸念もあり,そういう観点から乙案を支持される方もおられる。意見分布としては大体そういうことなのではないでしょうか。

  その政策的な観点からということであれば,甲案の方が支持者は若干多いと。

しかし,本当にこれで理論的に大丈夫かということは,まだちょっと詰めますけれども,基本的に甲案でいけるかどうかという観点から議論させていただいて,やはり理論的に難点があるということであれば,また乙案に戻ることはあり得るかもあれませんが。


とりあえず今の段階でそういう整理をさせていただくということでいかがでしょうか。


  それでは,理論的に本当に大丈夫かという観点から甲案をもう一回詰めていただくけれども,甲案の方で基本的にいくということでよろしいでしょうか。


  はい。それでは,あと営業信託の商行為性と受益権の有価証券化ですね。

● 私ちょっと発言しますと申し上げたので,すみませんけれども,しばらくちょっと発言させていただきたいんですけれども。日弁連としてパブコメで書きましたように,信託業法と信託法はそもそも実体法と業法というので違うんだと,これはだれから見てもそのとおりなんですけれども。

商行為に関する信託法の定義規定,現行法でも今回の改正案でもそうですけれども,と,信託業法における定義規定がほぼ,ほぼというか全くといっていい,同じ表現を使われております。


それぞれの業法に応じて解釈が違うんだという議論も今後あり得るのかもしれませんけれども,現在のところ信託業法の解釈でも商行為法における解釈と同じ解釈をとられているようでして,昨日も議論したときに国会答弁みたいなところまでいきまして,営利を目的として反復継続ということで,反復継続はしても営利目的が例えば弁護士とかにはならないんじゃないか。


弁護士である必要はなくてNPOの場合もならないんじゃないかというような議論があったところ,いや,国会答弁においては営利性というのは収支合い償うことというふうに答弁されていると。

それは商行為法における営利性の,商行為の502条の営利性に関する通説の見解ですから,特段それはそれでいいと思うんですけれども。

  そうすると,収支合い償うことということは弁護士が報酬を得てやることということも入ってしまいますし,弁護士ということを強調すると余り皆さん御賛同いただけないかもしれませんけれども。両方とも違う法律だと言いながらも,今申し上げましたように,文言も同じですし解釈も同じだろうということの結論としましては,民事信託においても収支合い償うことが前提で反復継続すればすべて信託業法の対象となってしまうと。


もちろん,信託業法というのは非常によくできた精緻な法律ですから,それによって悪質な信託行為,信託業が取り締まれるという側面もありますけれども,かたや実体法としての信託が使われればたまたま民間の人が一生に一回やる場合だけであるということですと,ここでの信託法の改正の議論,また弁護士会でも相当時間を割いて議論しておりますけれども,高齢化社会において今度信託法改正によって民事信託というのをいろいろな形で使っていきましょうという議論からすると,ちょっと流れというか方向が違うのではないかと。

もちろん,民事信託一般について信託業法とは別な形で何らかの規制法ないし規律というものを設けられるかどうかは全然別の議論ですけれども,商事信託を前提としている信託業法が民事信託についてもほぼすべからく適用になってしまうという状況というのはやはり問題ではないか。


特に弁護士会としましても今後この民事信託の分野で活躍したいというふうに思っているわけですから,そのときに信託業法の世界に入る。現行法ですと株式会社しかできませんから,弁護士はそこから排斥されているといういうことになります。


  ということで,両者違う法律なんだということは今申し上げたように,とはいいながらももう理屈の解釈論でも同じなんですよということが1つと。


それから,じゃあ,例外規定を設けることは解釈論でも可能じゃないですかというのは今回の検討課題での御説明ですけれども,それは今申し上げたように,解釈論,営業についての解釈論というのは商行為法で何か争いがある議論ではなくてもうほぼ確立された一般通説ですから,その中で新たに解釈論を展開するというのは,孤立無援で頑張ることは不可能ではないかもしれませんけれども,普通の弁護士であればそこまでチャレンジングにやるということはあり得ないわけでして。


ということで,解釈論での対応というのは極めて困難であると思います。

  ただし書きのことの適正さという議論もございますけれども,趣旨は違いますけれども,商法502条の本文にはただし書きがあります。


小規模事業者に関しては商行為にならないというようなただしがありまして。信託業というのはすべからく一般的法的性格として商行為性を帯びているのだということであれば,本来ただし書きがあることが不適切ということになるかもしれませんけれども,信託というのは民事信託から発展して商事信託が盛んであるという現状からしましても,信託行為そのものがそもそも行為として,受託行為するということはそもそも行為として商行為性を帯びているわけではありませんので,という意味においてはただし書きをおくということは502条の立てつけからしましても信託法,信託の受託という視点からしましても,特に不思議ではない,おかしくはないのではないのかなと思います。

  あと,また弁護士会で議論したとき,立法例というところまでいきまして,そうすると何か--何かといいますか,手元には資料あるんですけれども--米国のイリノイ州のフィディシャリアクトの中に信託業に対する例外規定として,弁護士業だけじゃなくて幾つか載っているんですけれども,会計士さんとかですね,やはり弁護士の業務として受託をする場合にはそれは例外ですというような例外規定もございます。


  ですから,一見弁護士会の身勝手なパブコメのように思われるかもしれませんけれども,決してそんな趣旨ではございませんでして,立法例もありますし,やはり弁護士が今後活躍する,弁護士である必要はなくて,その方,それ以外の正当な業務をされる方々でも適切なただし書きの文言が考えられればそこに含めても構わないと思うんですけれども,商行為に該当しないということを明確にしていただくことによって,信託業法の適用がないということがまた明らかになると思います。

● ほかいかがでしょうか。

● まず,信託はそもそも商行為性がそれ自体あるものではないというお話ですけれども,例えば商法502条を見ますと,寄託の引受とかあるいは作業または労務の請負とか,ここらになってくるとこれもやはり当然に営業行為といえるかと,商事性を帯びるかというと,やはりそうも言えないのではないかという気がしますので。


信託だけ特別扱いできるかというのは商法502条との関連でいうとなかなか難しいのではないかなという気がするというのがまず1点でございます。


  それから,おっしゃるとおり,弁護士の方とかNPO法人が民事信託のために活躍していただきたいというのは,それは発想自体は非常に歓迎しているところでございますけれども,じゃあ,どこまでの範囲が主体が果たして商行為性を省かれるのかという規律の仕方も難しいところでございますし,民事信託という言葉自体もなかなか定義しにくいというところがございまして。あとは仮に少額の報酬であっても,1件10万円とかそういうのでも反復継続して民事信託やればやはりそれは商法の観点からいうと商行為と言わざるを得ないのではないかなという気がしているのでございます。

  ○○委員のおっしゃる趣旨は,問題はむしろ商法あるいは信託の引受が営業的商行為になるというところではなくて,むしろ業法が弁護士の方が活躍するにあたっての支障になると,そちらの方の問題ではないかなという気がするわけでございますが。


そこは何か商法の適用があるとまずいということなんでしょうか。それともやはりこれは業法の方から引っ張られている議論だというふうに理解させていただいてよろしいんでしょうか。


● 繰り返しになってしまうんですけれども,信託業法は同じ定義を使っていることによって実質商行為についての信託の受託について業として取り締まっている法律ではないのかなと,こういうふうに解釈されるんですけれども。


その場合,今の御発言にありましたように,現行法でも弁護士がやることは解釈論として十分できるんだろうと。それはある意味では弁護士会が萎縮しているだけであって何の問題もないんだということであれば,日弁連としても確認規定はぜひ入れてほしいとは思いますけれども,現行法における解釈がネックになったということでそれはそれでありがたいことだとおもうんですけれども。

  商行為ということが信託業法の対象とほぼオーバーラップしていると,こういうふうに解釈されるものですから,そこで弁護士が行う反復継続している信託の受託というものは商行為ではないということを明記していたたくことには意味がありますし。例えば弁護士は委任業務,請負業務というものを民法的に言えば反復継続してやることを業としておりますけれども,だれもが常識としてそこで報酬を得たとして収支合い償っていると思うんですが,商行為とは思っていない,思っていないというか商行為ではないはずですから。今の仮にそれが法律事務の処理として民事信託を継続して行う,弁護士も専門化しておりますから,高齢者を対象とするような専門の弁護士であれば継続反復して何らかの形で高齢者とか弱者のために受託者になると思うんですが。


それは決して今の○○幹事の御発言とは違って,現行上においても商行為にはならないとこういうふうに理解するんですけれども。はからずもそういう御発言があるぐらいですから,やはりここでは明確にした方がいいんじゃないのかなと今ちょっと強く思いましたけれども。


● なかなか商法とも関連して難しい,商法の先生はきょうはおられないのかな。

  どうぞ。
● 商法の専門ではございませんけれども,信託業法という話が出たもので。

● はい,どうぞお願いします。
● 補足だけさせていただきますと。○○委員が御指摘のとおり,先般の国会答弁,信託業とは何か。


例えば反復継続であるとか収支に対するような形である営利目的であるか,そういったことも考慮して,これは事実でございますし,私どもの解釈も変わっておりません。


問題は,恐らく私ども信託業法の中でいわば参入規制に当たるところがあって,いかなるものが信託業できるのかというところにあるわけですけれども。御指摘のように,これは株式会社経営体でやっていただいて登録または許可制というふうになっています。


  事実,これは事実の御説明だけなんですけれども,実は私の記憶に間違いがなければ,あれば訂正しますけれども,確かに法曹関係の方が株式会社をつくられて信託会社として参入しておられるというケースも最近ございます。
  以上です。

● その例は信託業法にのっとるために会社をつくったんだというふうに当然理解できますし。そこで法律業務やるとすると,株式会社は法律業務できませんから,逆に弁護士法違反の問題が生じているのではないかと,これが日弁連での議論なんですけれどもね。


  ですから,それはそういうふうに何か問題点を指摘するというよりも,やはり弁護士が,営業として,商売としてやるという弁護士さんがいれば別ですけれども,弁護士がある意味では多少純粋な気持ちで,もちろん収支合い償う必要はありますけれども,高齢者から財産を預かるというような場合,高齢者といいますか弱者から財産を預かるというような場合に,じゃあ,わざわざ株式会社をつくってやらないといけないんだと。かたやそれは弁護士法違反じゃないですかという議論もかいくぐらなきゃいけないというような制度ではないんじゃないのかなと思うんですけれどもね。

  悪質な例をとらえると信託業法というのはより広くカバーすべきだという議論になってしまいますが,ここではどちらかというと純粋な議論とか悪質な弁護士じゃなくてまっとうな弁護士が純粋な気持ちでやるという前提で構わないと思うんですけれども。


現在の信託業法でも営利を目的として信託の引き受けをするというところで,弁護士が報酬を得て高齢者から財産を一度ならず2回預かった場合にはそれは信託業法違反であると,このような解釈になるのでしょうか。


● 個別の多分事例に照らしてみてそのとき考えてみるということになるんだと思うんですけれども。


● 純粋な事例で,悪質事例じゃなくてですね。
● どうなんですかね。


● 悪質なものまでそれでいいんですかという議論になっちゃうのはもちろん心配だと思うんですけれどもね。


● まさにそこのところを気にしているわけでして。主観的な要件が入るもんですから,そのときの個別の案件のいろいろな要素絡めて見てそのときに監督あるいは業法の立てつけの観点から判断していくということになるのだろうと思うんですね,そこは。


アプリオリにこのケースはもうガバッと排除してくれというのはなかなかそれは難しいと思います。

● 取締監督当局としてそういう御発言されるのは同じ立場に立てば理解できるんですけれども,結局そういうことによって弁護士会は今までも,また今の解釈のままですと今後とも受託者になるという選択はとっていないですね。


ですから,信託法改正になってこれほど議論して,また日弁連のバックアップチームが毎回何時間も議論して,結局弁護士会は何もできないという,株式会社をつくるということは弁護士会株式会社をつくるなんていうことは現実的にあり得ませんから。


もちろん個人的に商売といいますかね,本当に営業目的で株式会社をつくるようなケース,大阪とか東京で1件ずつあったという話を聞いておりますけれども。そういう目的じゃない場合にもできるようにしていただけるというのが解釈論として正しい方向ではないのかなと思うんですけれども。

● これは弁護士会の問題だけでなくて,業法に関連しますと私も個人的には,この中でもそういう御意見持っている方がおられると思いますけれども,やはり先ほど○○幹事からも説明ありましたように,非営利法人ですかとこれからは場合によっては公益法人が幾つもの公益信託を受託するということが現実的な問題としてあり得る。


そのときに,これは業法の問題ですから,ここで今議論しなくてもいいかもしれませんが,業法の問題としては収支合い償うというところの解釈によるのかもしれませんけれども,それによって,公益法人の場合は弁護士とまたちょっと違う点もあるかもしれません,必ずしもそれでもって収益というか利益が上がらなくても,それこそトントンでゼロであっても公益法人の場合に受託するということはあり得ると思いますけれども。


そういう形態による信託の受託,場合によっては反復受託が業法でいうところの業としての信託でないという解釈ができるとそれは非常にありがたいのではないかというふうに思いますので,ちょっと要望ですけれども。


  ただ,その問題とここでいう商行為とするかどうかという問題とが,確かに関連はあるのかもしれませんが,理論的には直接は関連がないということでよろしいですか。


つまり,両者が実質上影響するというのではないかということですよね。

● ちょっとこの論点ばかり議論して申しわけないんですけれども。そこは理論的に違うというのは恐らく法律家としては当然でそうだと思うんですけれども,ただし,ただし書きを置くという点については,弁護士は収支合い償う目的を持って継続反復したとしても,それは商行為にならないという。


ですから,あくまで商行為性の有無だけの議論としてそれについてはぜひ御検討いただければと思いますし,それは弁護士がということだけじゃなくて,今先生御指摘されたようなほかの形態であっても一定の場合には商行為にならないという例外規定,たまたまこれ以外にもあるのかもしれませんけれども,イリノイ州のフィディシャリアクトの中では10項目にわたって例外規定が書かれていますけれども,その中の一部は弁護士に限らず会計士さんもそうかもしれません。


あと,業法上お金を扱った,資産を扱わざるを得ない場合,それを今後信託宣言するかもしれませんけれども,そのときにそれが業法ですということにならないと思いますね。

  ですから,例外規定を検討するということにはぜひこの場の議論としてはそこまでの要望にしたいと思うんですけれども,ぜひ今後とも御検討いただければと思うんですけれども。

● それはちょっと検討はしてもらうということにいたしますが,ただこれ本当に商法とも関係する恐らく問題でもあると思いますので,直ちに適切な回答が出るかどうかわかりませんけれども,要望事項として検討するということにしたいと思います。

  ほかにこの点についていかがでしょうか。

  よろしゅうございますか。それでは,金融庁の方には業法との関係についてはいろいろ御配慮をお願いしたいとは思いますけれども,ここでの検討課題としては商行為の問題でして,これについてはただし書きというのは可能なのかどうかということについての御要望があったということで一応まとめさせていただきたいと思います。


  それでは,あと残り1つ,有価証券化はいかがでしょうか。

  ○○幹事,どうぞ。

● 恐らくここにいろいろな先生がおられると思いますけれども。この受益権の有価証券化,現行の証券取引法やこれを改組拡大するプロジェクトである投資サービス法と密接に関わっておりますので,現在金融庁が検討していることを御紹介しながら幾つかコメントをしておきたいと思います。


  証取法のカバレッジが狭く投資家保護の必要性に機動的に対応できていない背景に,法律の構造が画一的で硬いということが挙げられてきました。


すなわち,有価証券に指定すると,発行体には原則開示義務が課せられ,販売するのは原則証券会社になり証取法の行為規制がついてきますので,もっと自由にお金を集めたいという人はなるべく証取法以外の手段を模索するということになっております。

  例えば組合という法形式によるファンド,最初はベンチャーファンドとして使われておりましたが,そのうち公開株式や金銭債権などにも投資したいということになってきますと,それは投資信託とどう違うんだということになりまして,昨年の証取法改正で一定の類型の組合への出資持分がみなし有価証券ということになりました。


  このように必要が生じるたびに証取法を改正して有価証券を追加するのはいたちごっこになりますので,投資家保護のための基本的なインフラとして分立した投資関連の法制を一元化し,有価証券の概念もより包括的にくくり直そうとうい構想が投資サービス法でございます。


  一元化するとさまざまな投資商品というのが対象になりますので,当然規制も画一的では困るということになりまして,投資商品によっては開示は相対でもいいとか,販売業者として証券会社並みの要件はいらない,例えば自己資本規制というのは必要ないとか,公益性も投資商品の性質に応じて,○○委員の言葉でいう柔構造化,柔らかい弾力的な構造に仕組んでいくといことになります。

  この法律のもとでは当然信託受益権についても投資商品の1つとして規定する方針でございまして,信託受益権という投資商品の性質に応じた規制の柔構造化が図られるということになります。

要は,伝統的な投資商品である株式や社債のみならず,組合であれ信託であれ合同会社であり,投資のビークルとして使われるものは投資サービス法に取り込んで,過不足のない規制の枠組みを整理していこうとしております。


したがって,ここにございますように,信託法で受益権の有価証券化を可能とするのであれば,その仕方,施行のタイミングなどについては今後よくよく御相談をさせていただきたいということでございます。

  つまり,今申し上げた投資サービス法の施行前に信託受益権を証取法の有価証券にしますと,先ほどの硬い構造が適用されますので,受益権の販売業者を新たに証券会社にならなければならないとか,株式などと同じ発行継続開示規制が課せられるということになりますし。


逆に,信託受益権を証取法上の有価証券にしませんと,同じ有価証券でありながら投資家保護のルールに差異が生じますし,振替制度の対象とすることもできないということになります。


  両方の法制というのが同じタイミングでいきますと受益権販売業者も自動的に投資サービス法の販売業者,投資サービス業者に吸収されて過不足ない規制がかかるということでございます。


  また,この資料,受益権について有価証券,受益証券を発行できるようにするという提案は券面の存在を前提にしているように見えますので,証取法の構造について念のため申し上げておきますと,先ほど組合の出資持分を見なし有価証券に指定したと申し上げましたが,券面が存在するかどうかという区分はしておりません。


株券や社債券のように券面が存在するものは存在しない場合もみなし有価証券,有価証券とみなすという構造になっておりまして,株券不発行会社の株式もみなし有価証券でございます。


先ほどの振替制度も証取法上の有価証券しか対象にできませんのが,信託受益権全般が券面の有無に関わらず証取法上の有価証券になりますと振替制度の対象にできるということになります。


  なお,やや細かいところですけれども,証取法の発行継続開示規制の適用上は信託自体を発行者とみなす必要があるという指摘があったという記述がありますが,財産である信託を発行者とみなすということはあり得ないので,信託の当事者である受託者ないしは委託者または両方が開示義務者ということでございます。

  いずれにしても現在の証取法を前提に信託受益権の有価証券化を検討しますと,双方の関係の整理とかつなぎが結構なものになってしまうんですけれども,たまたま私たちまさに信託のようなさまざまな性格を持ち得るツールを投資のビークルとしてみるとどう整理すべきかという検討を並行的にやっておる最中ですので,両方がうまくつながっていくように御相談させていただきたいということでございます。
  以上です。


● それはぜひ連携を持ちながら進めていけるとありがたいと思います。

  この有価証券化についてのこの提案につきましてはいかがでございましょうか。

  ○○委員。
● まず,投資サービス法の御議論かと思うんですけれども。投資のビークルとして信託が利用された場合という前提で,なおかつ前提かと思うんですけれども。


その場合に,現行法でもいろいろな法律の適用がありますから,いろいろな証取法だけじゃなくて,証取法の適用がなければ信託業法,不動産特定事業法とかいろいろありますけれども。


投資ビークルとして利用される場合というのはそれはそれで当然といいますか,1つの流れかなとは思うんですけれども。信託の場合には,先ほどの議論でもそうですし,民事信託としての利用というものを強く日弁連としてもまたこの審議会でも考えておりまして,その場合に民事信託についてまで過剰な規制が及ぶということはまた,過剰といっては申しわけないですけれども,民事信託で本来民法の行為が実は投資サービス法ですといって,なぜならば民事信託と商事信託というのは区別はつきませんという議論に巻き込まれていくんじゃないのかなという--懸念のしすぎかもしれませんけれども,持たないわけではないです。


というのは,投資サービスというのは広く横断的にというのが前提ですし,信託というのはそこに財産を入れて転換機能を果たすわけですから,その転換機能の結果,その信託受益権を販売するのか,それを弱者のためにまた相続のために利用するのかとか,そこの差だけのような気もしますから,その辺の民事信託における利用というものが投資サービス法に一たん入ってその後に出るというような,それによって制度が担保されているんだということになりますと,実体法としての信託法というものが何のための議論なのかという議論にもなりますし,やはり制度としては違うんじゃないか,先ほどの議論ともつながると思うんですけれども。


商売として民事信託やる方はそっちで下がってもいいのかもしれませんけれども,通常の弁護士の場合でもその他公益法人の場合でもそうですけれども,本来投資サービスの適用ではないのではないかと,その辺についてはぜひ御配慮いただきたいということと。


  あと,有価証券化できる受益権というのは株券と同様じゃないかというような趣旨のもし御発言だとしますと,株券というのは別に発行する前から,発行しても発行しなくてもそれが有価証券であるということはまた議論する余地すらなく明確ですけれども,この場合にはもともと信託受益権という指名債権類似ですけれども,法律上の権利について一定の場合,また当事者が選択した場合,有価証券化ができるという議論ですから。


もともとの有価証券と信託受益権というのはやはり法的性質が根本から違うんじゃないかというふうに思います。


  なおかつ,私法上の有価証券と証取法上の有価証券というのはもともと概念的にも,先ほどの議論にもつながりますけれども,根本的に違うわけですから,私法上の有価証券がすべからく証取法の対象になるという議論ではもちろんないかとは思うんですけれども。

仮に今後議論が拡張して証取法の議論でも投資サービス法の議論でも私法上の有価証券について,証取法上の有価証券が発行できるということはそれは投資性がある,流通性があり得るんだという議論になりますと,やはり民事信託においての有価証券の利用というのは今のところ余り深く考えられていませんけれども,それが利用されるケースもあり得るかと思うので。


ですから,その辺について民事信託において萎縮効果がないようにぜひ御配慮いただきたいというふうに思うんですけれども。


● 重要な御指摘だと。
  ○○委員,どうぞ。


● 先ほど○○委員の方から民事信託ということでの御指摘ございましたが,信託業界の方としましても,私法信託といいますよりも営業信託というふうに考えていただいた方がいいと思うんですけれども。


私法上の有価証券化につきましては,もう何年も前から信託業界としてはお願いしていた件でありますけれども。その理由といいますのは,当然今はほとんどないですけれども,今後の信託の発展のことを考えますと,当然受益権の中には転々流通させて受益権が多数の者で,なおかつ転々流通させた方がいいような種類のものがあるということでこういうお願いをしてきまして,法務省の方からもこういう御提案をいただいたということでございますけれども。


  そのときの私どもの考え方というのは,基本的には有価証券化するというのはある一定の受益証券に限定したものであって,転々流通する必要のないものについては基本的には当然必要がないわけでから,私法上の有価証券としても必要もありませんし,ましてや業法的な問題としての例えば証取法とかの対象になるというようなことは今まで考えてもみなかったもんですから,ちょっと驚いているような状況でございます。


  営業信託におきましても,今回の御提案で出ていますけれども,遺言代用の信託であるとか,後継ぎ遺贈型信託というのが当然ありますから,これが証取法であったり投資サービス法,投資サービス法の範囲というのがまだ検討中ですので,どういう形になるかそこがよくわかりませんけれども,投資のビークルというような形の観点で見られるというのはやはりちょっと違うんではないかなというふうに考えておりまして。


  今,法務省の方でもこういう私法上の有価証券化の方を御検討されていますし,金融庁の方では投資サービス法等を御検討されておりますので,私どものニーズというのはこういう状況でございますので,お含めいただいて,両省庁でいろいろと御協議いただいて,すべからくうまくいくような形でお願いしたいと思います。


  以上でございます。

● 今大体共通する御意見だったと思いますけれども,○○委員,どうぞ。

● 私は○○委員とほぼ同じことで,かぶってしまうんですけれども,私法上の有価証券を認めるということについては,先ほど○○委員がおっしゃられたように,流動化の観点からも非常に喜ばしいということで歓迎している立場なんですけれども。


先ほどの○○幹事のお話のように,将来の投資サービス法の関係であればそれはそれまたいろいろなこれからの議論がされていかれると思いますので,そこについてはここでコメントするということではないとは思うんですけれども。

現行の証取法の対象の有価証券となると,先ほどもある程度の御配慮をいただいているような御発言だったかとは思いますけれども,いろいろ障害が出てくるのではないかなというふうに考えております。


  流動化の場合,現行信託受益権が投資家の方で持ちきりになっているケースがかなり多いとは思いますけれども,今後もっとこの市場拡大する場合においては転々流通するということが当然考えられますし,その場合の権利移転が容易になるという点では有価証券化というのは非常に望ましいわけでございます。


  しかしながら,最初からそういうふうに転々流通するというふうに仕組む場合と,そうじゃなくて,一定程度まで特定の投資家が持っていて,その後に改めてまたそれを分割して流通させるとかいろいろな手法がございます。


そういったことを考えますと,最初から一律に有価証券化された場合についてはやはり証取法の規制になるということは,先ほどもお話ありましたように,硬い規制の中の問題でありますとか,オリジネーターとしてその取扱いの資格の問題とかそういったことも出てまいりますので,ぜひそのあたりも配慮していただきまして,一律の規制にならないようにということでお願いしたいというふうに思います。


● どうぞ。

● 経済産業省でございますけれども。投資サービス法についてはいろいろとそのファンドの多様な形態とかそういうこともありますので,そこは個別に実態に合った本当に必要な規制にしてもらいたいということで,これは当省と金融庁の方でもお話をさせていただいているところであります。


  その関係でいきますと,そういった意味では本件につきましてもそういった意味で実態にいかに合わせて必要に合わせてということが確保されることが必要だというみなさんの御意見に全く同感でございます。


  それから,○○幹事からお話がありました投サ法,新しくできる制度では非常に柔構造の規制になるので,こちらにうまくつながるようにというそういった御趣旨の発言だと思いますので,そういった意味でぜひ,特定の今の証券取引法で硬い規制の方に入って,この新しい信託の制度がいろいろな意味で動かなくなるということをどうやって防ぐかというそういう方向性での御議論かと思いますので,ぜひそういった方向で政府内でも意見を調整させていきたいと思います。

● どうもありがとうございました。先ほどから出ている議論は,やはりこの有価証券化といっても受益権の有価証券の場合には,もちろん投資のために有価証券化される場合がほとんどでしょうけれども,将来的にはそうでない場合もあり得て,そういうものについては,これは投資サービス法との関係の問題なのでここでの問題ではないかもしれませんけれども,投資サービス法の関係では御配慮をお願いしたいということでございました。


  それでは,有価証券化の中身については特に御異論がないというふうに了解してよろしいでしょうか。


  では,先に○○委員,その後○○関係官,お願いします。

● 注4の部分なんですけれども,信託財産のみを引き当てとする債権,信託債を認めるかどうかというところで,今回有限責任信託に限定するというようなことを提案されているわけですけれども。


信託債権を認めるのであれば,必ずしも有限責任信託に限定せず,既存の形態の信託であっても特に構わないのではないかなという気がいたします。


  それとあと,受託者が株式会社である必要も必ずしもないのかなという気がいたします。


● 信託財産を引当てにした債権,ちょっと一種の社債みたいなものかもしれませんけれども,そういうのを発行するのを有限責任に限定しないで,既存のものについても認めたらどうかと,そういう御意見。

● そうです。現実にABLと呼ばれている仕組み,アセット・バックト・ローンと呼ばれている仕組みで,受託者が信託財産のみを引当てに借入を行うということは広く行われいるわけですけれども,それに代用するということを考えれば,実態的には変わらないと思うんですけれども,それをただ単に債権に置き換えるということが可能になってもいいんじゃないかというのが。

  それとあと,受託者が株式会社である必要があるかということなんですけれども,これは恐らく社債が発行できるのは株式会社だからというところからきているのかもしれませんけれども,受託者は必ずしも株式会社に限らないんじゃないかなと。


外国法に基づく会社であるとか,その他いろいろな形態はあり得るのではないかなと。


場合によっては法人であるということを要求するということはあり得るかとは思いますけれども,株式会社でなくても,例えば学校法人債とか医療法人債いったものも現実にございますし,それとバランスとる上では株式会社に,受託者が株式会社であることを要求する必要はないんじゃないかなという気はいたします。


● わかりました。
  ここまで何かありますか。


● こちらの意見というのは別にその株式会社に限定したらどうかということを申し上げているつもりではありませんでして,恐らく実務上のニーズという意味ではさすがにこういったことをやるのは信託業務なのかなということで,とりあえず今の規制ですと株式会社ということですし,寄せられている意見も恐らくは株式会社が発行するということなのかなということで社債というふうに書き,その上で取締役会決議というのをまずは書いたということですので,具体的なニーズとしてこういう形態の法人でというのがあれば,それはそれでということなのかなというふうに思います。

  それから有限責任信託にするかどうかという話は,まさに個別の責任限定特約を置き換えて債権の性質として信託財産に責任が限定されると,そういったものをつくってはどうかという御趣旨のそういう立法提案だったのかなということでして。


そうしますと,限定責任信託というところと規制の調和というのが必要になってくるんじゃないか,そういう指摘がありましたということでございますので,それが必要と考えるのか,それともそうではないのかというところが1つ議論していただくとよろしいのかなということなんですが。

● そういう意味では原案は別に限定しているわけでは必ずしもないと。
● すみません,手短に。


● すみません,さっき○○関係官も手を上げて,関連して。

● 実は,注4,○○委員の御発言と関連するものですから,ちょっとすみません。

少しだけ心配性なものですから,もう少し掘り下げて御質問したいんですが。恐らくこれは信託の事務及び管理ができるということから信託に係る借入,アセット・バックト・ローンみたいなものができるというところから始まって,じゃあ,その借入でやればよいのであればこの信託債というのが発行できるのではないかという,こういうロジックでこの信託債という仕組みが考えられているのでしょうか。

  ちょっと,なぜ信託債というのがここで突然出てきているのかいうそのロジックみたいなものを御説明いただけるとありがたいです。


なぜならば心配性だと申し上げた理由は,さっき○○幹事から申し上げたのと同じ理由で,社債に関してもいろいろな発行開示規制等も,流通する場合にはですね,関わらざるを得ないと考えている場合があるものですから,ちょっとその背景を伺おうと思いまして。


● はい,いかがでしょうか。
● この注4の記載が出てきたというのは,もともと前段階の研究会でやっておったときもそうですし,この法制審でも指摘がされたから入れたということでございまして。


恐らくそのときは言われておりましたのは,信託財産を引当てとする社債,あるいは社債という必要はないんですけれども,債権ですね,券面を発行したいというニーズが実務上ありますという話がありまして。

しかもそのときには,責任が限定されたタイプを望んでいるんですというような話がございました。


恐らく御提案者の方たちはそれが信託債というような性質のものであって,社債というような位置づけではなくて,もうちょっと別の社債なんかとはまた異なるタイプの券面だというお話だったのかなと思うんですけれども。


  そういった御提案を踏まえてこちらの方で検討していったところ,とりあえずのところは社債であって,しかも責任が限定されるタイプの社債なんだというふうに整理するのではないかなと。


特に株式会社が発行する場合には。そういう整理で,しかもなおかつ限定責任信託との整合性をどういうふうにとるのかといったところを議論していただく必要があるのではないかということでこうしてきたということでございます。


  それと,開示の話とか証取法上の開示の話とかというのはその上でお考えいただくというような話になるんじゃないかなと思いますけれども。


● よろしいでしょうか。バックグラウンドは今のようなことだということです。

  それでは,○○委員,どうぞ。


● 手短かに。実務のニーズですけれども,例えばジェイリートなんてリート債というのが盛んに発券されています。


ですから,ローンでできるからツールとして債権というのも必要だという,そのとおりなんですけれども。これができるようになると非常に使われることになると思います。

他方,法的考え方ですけれども,これを社債と裏づけちゃいますと,それこそ何々銀行,何々信託銀行債社債ということになって,それ自体投資家にとっても非常に混乱を来すものだと思いますし。


私の記憶が間違っていなければ,海外の信託財産が社債を発行しているケースも,法的には受託者なんですけれども,信託財産というのは全面的に出てきて債権だという格好をしていまして。


いわゆる企業の社債だというようなイメージではなかったと思うんですね。ちょっとそれは事実関係の問題ありますから余り強くは言えませんけれども。


  ですから,社債という整理をすると,会社法の問題とか,もちろん証取法の関係とかありますけれども,複雑になりますし,なおかつこれ特に責任財産限定特約つきの債権とみていただいてといいと思いますが。


その場合に,信託銀行にとって別に多額な借財をしているわけでもありませんし,本来社債規制の中が前提としていることと全然違うものですから,立法論である以上,これは信託債という社債とは性質の異なったものだよ,特に責任財産限定特約がついている場合という前提でいいと思うんですけれども。


というような議論がされると,また機動的に信託で借入をするのとほぼ同じように機動的に発行できて,それが実際に市場とかのニーズにも見合うのではないのかなと思うんですけれども。

● 恐らくこちらの趣旨もそういう意味で社債であることを積極的に主張しているということではありませんので,今,○○委員が言われたようなものであるというふうに理解しております。


  説明等につきましては,またもうちょっと適切な説明で検討するということでよろしいですかね。

● 基本的には社債と言わざるを得ないのではないかという話と,あと恐らく社債の規定を相当借りてこざるを得ないのかなというようなところもあって社債と言っているわけですが。


仮に限定責任信託となりますと当然名称を付すと,限定責任信託として取引行為を行うには名称を使用するということになるんだと思いますので,登記もしておりますし。そういったことが券面上には表示されるというようなことにはなるわけですけれども,それとはまず……。


● おっしゃったように,それはそれでそうだと思うんですけれども,限定責任信託がきょうも議論されますし,制度設計によってどの程度利用されるかという議論もあるとは思うんですけれども。

現状,ノンリコースローンというのは非常にボリューム等も多くて非常に使われていますから,ノンリコースローンの代替として,またローンとしての貸付ができないけれども,それは貸金業とかいう手順ありますけれども,社債という形式であれば投資家として投資してもいいという機関投資家というのは多々あると思うので。


  ですから,限定責任信託を利用しなくても責任財産限定特約つきの債権形式であれば,社債とは違った規律,また社債の特例としての規律というものを考えてもいいというような議論があってもよろしいのではないかなという提案なんですけれども。

● そうすると,まさにその信託についての限定責任の信託におけるいろいろな規制と,それからその特約とのバランスをどう考えるのかというようなところなんだろうと思うんですけれども。恐らく有価証券ということにしますと,転々流通しても次の譲受人に対してその限定責任の効力が対抗されるというようなことになりますので,恐らく,これはパブリックコメントで寄せられた意見ですけれども,限定責任と同じような規制をやはりかけておかないとまずいのではないかというような話はあったわけなんですが。


そこは特約があるからその効力を譲受人との間で認めていいだろうと,そういう御趣旨。


● そうですね,実際今SPC形式で社債形式で出す責任限定特約付社債ということで一応流通する可能性があって発行しております。それは有効であるということは,多分それほど疑われていないと思います。

● それも含めて検討してもらいましょう。

  ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。

● 今伺っておりまして,結局受益権が信託法に定めて受益証券になった場合の規制の仕方については別途検討するとしまして,この1,2についてはこのとおりでいいというふうに事務局としては理解しておりますので,それでよろしければこの方向で進めたいと思います。


  この資料の中では1点,無記名式の受益証券については受益証券の占有によるというのが受託者対抗要件として我々考えているわけでございますが,その中でもエというところに書いてあるんですけれども,受益者名簿を作られた場合には受益者名簿への記載をもって無記名式であっても対抗要件をするべきだという要望はあったわけでございますが。


そうしますと,無記名式でありながら,場合によっては受益者名簿への記載が対抗要件になり,場合によっては占有が対抗要件になるということで非常に区々になりまして,会社法上の無記名社債でもそこまでの区別はされておりませんので,事務局としてはこの提案のとおり占有をもって一律に無記名式の受益証券については受託者対抗要件とするという方向でいいのではないかというふうに思っておりますが,そこについてもそれでいいということで御承認いただいたということでよろしいでしょうか。

● いかがでしょうか。その方が簡易であるということだと思います。わかりやすいと。よろしいですか。

  では,これはそれは了解していただいたということで。


● では,前回の積み残し分の最後として,信託の変更・併合・分割それから終了関係を説明させていただきたいと思います。


  資料33ページからでございますが,提案の1と2については特段異論がございませんでしたので,変更はありません。提案3と,それから(注2)との関係で,資料ですと34ページの2の(1)のとおり,信託行為の定めに基づいて第三者に信託の変更権限を付与したという場合に,変更できる範囲を制限するべきか否かという問題点について検討したところを御説明申し上げます。


なお,パブリック・コメントの結果としては両論あるというところでございました。


  ところで,制限を設けるべきであるという見解というのは,変更できる範囲に制限を設けないと関係者,特に受益者の予見可能性を害する恐れがあるということを理由としております。


しかし,事務局としてはその必要はないと考えるわけでございますが。その理由といいますのは,ここにも書いてございますけれども,まず信託行為において第三者に信託の変更権限が与えられ,しかもその範囲に特段の制限が課されていない場合におきましては,受益者としては,信託行為の内容,すなわち第三者にこのような制限のない変更権を付与されているということは認識できるはずでありまして,それにもかかわらず予見可能性を一般的に害するとまでいえるか疑問がないではないということ。

  それから,第三者の変更権限も信託行為に与えられたものである以上は信託目的に従うなどの制約は当然かかるであろうということ。


また仮に受益者を害するような変更がなされた場合には,その内容にもよりますが,受益権取得請求権をもって救済を図ることも可能でございますし。


さらに,仮に第三者による変更が余りにも不合理な場合にはその変更が公序良俗違反として無効とされることもあるというふうに考えます。


そういうことからこのような制限は設けなくていいのではないかというのが事務局の見解ということでございます。


  このような方法によっても救済できない場合は,もはや信託法の守備範囲外の問題でありまして,消費者契約法等の問題で対処すべきではないかと考えているわけでございます。


  次に,提案4と(注3)と(注4),裁判所の変更の問題でございますが。これにおきましては,試案では,変更の対象を現行法どおり信託財産の管理方法に限るという甲案と,より広い範囲まで認める乙案とを対比してパブリック・コメントに付しております。


  その結果,資料ですと35ページにありますが,甲案にとどめるべきである見解,すなわち裁判所の判断対象としての適格性ですとか,信託スキームの安定性,私的自治を重視する見解と,私的自治で対応できない場合の裁判所の後見的関与に対する期待から乙案を支持する見解とに分かれております。

いずれの考え方が適切かにつきまして,特に乙案の方向に進む場合には具体的にいかなるニーズあるいは事例が想定されるのか,あるいは乙案を合理的に限定するような第3の考え方はないかといった点も含めて御審議をいただきたいと思っております。


  なお,甲案の中で示しておりました変更の要件につきましては,より明確な要点にすべきであるという指摘がございました。そこで試案におきましては,「信託財産の管理方法が信託の目的に適合しなくなることとなったとき」,としておりましたが,ここではそれを改めまして「信託財産の管理方法が信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなることとなったとき」と改めまして明確化を図っているということを付言させていただきます。


  続きまして,信託の併合の方でございます。パブコメではほぼすべての意見が試案に基本的に賛成するものでありましたので,ここでは試案をそのまま維持しております。以下パブコメで指摘のあった2点につきましてのみ考え方を御説明したいと思います。


  まず第1点は,信託の併合におきまして,信託の変更における第54の2の(1),資料ですと33ページになりますが,それを準用しているというところについての指摘でございます。


指摘の内容といいますのは,結局信託の併合というのは信託の関係全般に影響を及ぼす重大な事項であることにかんがみますと,併合の有効性が事後的に争われることになる可能性は可及的に排除すべきであって,三者間の合意の例外となる信託の目的に反していないことが明らかであるとか,受益者の利益に適合することが明らかという要件についてより明確化を信託の変更の場合よりも図るべきではないかという主張かと推測するわけでございます。


  しかし,受託者は信託財産に固有の利害を有しておりませんので,リスクを犯してまで信託の併合による利益を追求するよりは,事後的に併合が無効とされ責任を追求されるような事態を避けようとするのが合理的な行動だと思われるわけでして,そうしますと,仮に受益者の利益に適合すると明らかといえるか疑問があるような場合には慎重を期して受益者の同意を得た上で信託の併合を実行するという運用がされることになると思われるわけでございます。

  そうすると,この明らかという法律上の要件についてはこれ以上明確化する必要はないのではないかと考えているわけでございます。


  なお,信託の併合の関係で,提案では第54の4,すなわち裁判所による信託の変更の規律も準用するという形になっておりますが,第54の4における裁判所による変更の範囲に関する審議の結果如何,特に変更の範囲を信託財産の管理方法に限るという甲案が採用される方向となりました場合には,信託の併合という行為の性質上,裁判所による変更の規律は信託の併合には準用されず,裁判所に対して信託の併合を請求することはできないということになると思われるということ,すなわち準用の対象は第54,ただし(2)及び4を除く,そのようになるのではないかと思われることを付言させていただきます。


  第2点は,この2の(1)の一定の事項が明らかにされる手続を明確化する必要があるとの指摘でございます。これは例えば会社法における合併契約等の備置に関する厳格な手続的規定を信託法にも導入することを示唆するものと解するわけでございます。

しかし,この信託の併合の規律というのは大規模な信託に限らず,小規模・個人的な信託も含めまして,あらゆる規模,類型の信託の併合に適応されるものですので,それにも関わらず重厚な手続を課すこととなりますと,機動的な信託の併合の支障となりまして受益者の利益にも資さない結果となる恐れがあると思われます。


  そこで,2の(1)の一定の事項につきましては,最低限,関係当事者が併合に合意する時点で明らかにされていることが確保されていれば足りまして,それ以上の手続規定は設けず,各事項について合意に至るスケジュールについては関係当事者の事情に応じて柔軟に定めることとしてよいのではないかと思われるわけでございます。


  次に,信託の分割の方でございますが,これもほぼすべての意見が賛成意見でしたので,試案をそのまま維持しております。

  なお,信託の併合の場合と同様に,一定の事項を明らかにする手続を明確化する必要があるという指摘がございますしたけれども,この点につきましては,ただいま申し上げましたように,最低限,関係当事者間において分割の合意がされる時点において明らかにされていれば足りると考えているところでございます。


  また,(注3)になりますが,信託の分割によって信託債権者を信託財産ごとに切り分けるニーズがあるという試案の問題提起に対しましては,不動産流動化の実務においてこのような切り分けのニーズがあるとの意見がございましたので,一定の債権者保護手続を条件にそのような切り分けを可能とする規律を整備することを考えております。


  なお,信託の併合のところで述べましたように,信託の分割につきましても,裁判所による変更の範囲に関する審議の結果によりましては,裁判所による変更の規律は信託の分割には準用されないということになると思われることを付言させていただきます。


  続きまして,信託の終了事由,第57の方に移らせていただきます。パブコメでは試案に対しておおむね賛成意見が占めましたが,1のcの裁判所に対する終了請求権に関する規律と,1のdの兼任状態を解消するに必要な期間を超えた場合に関する規律について異論ないし意見が示されております。


  このうち1のdの兼任状態の解消の問題につきましては,解消するのに必要な期間という試案の提案を明確化を図る必要があるというものでございましたが,これは前回部会で述べましたとおり,1年間という期間を明記することとしております。


これに対しまして,1のcの裁判所に対する終了請求権の問題につきましては,まず試案では信託を継続することが信託の本旨に適合しないこととなった場合という要件を要件としていたことにつきまして,信託の本旨を初めとしてこのような要件を認定することが困難であるという指摘がございました。


  そこで,この指摘を踏まえまして,この提案では「信託を終了することが信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかである場合」と改めて要件の明確化を図っているものでございます。


  ちなみに1のaと1のcの関係でございますが,信託の目的が達成不能とまではいえないものの終了させる方が受益者のためになるときには1のcにより終了させることになるというふうに考えております。


  また,この1のcに関しまして,流動化取引におけるスキームの安定性の観点から,委託者が請求権者となっていることに反対する意見がございました。


確かに信託をファイナンス目的で利用する場合におきましては,委託者がいったん受益者となった上で受託者が第三者から借り入れた金銭によって委託者に受益権を償還しまして,その結果委託者が劣後受益権を持ち,第三者が信託債権を持つという状態に至ることがあるわけでございますが,この場合,唯一の受益者である委託者としてはもはや本来のファイナンス目的を達成しているともいえますので,信託を終了させても債権者は害されるものの,委託者兼受益者の経済的利益は害されないようにも思われるわけでございます。

  しかし,この場合におきましても,信託の目的その他の事情としましては,当初から折込み済みの第三者からの借入も含めた一連のスキームが円滑に機能することによってファイナンス目的を達成することにあると考えるのが妥当であると思われるわけでして,そうしますと,単に受益権の償還を受けたからといって第三者の信託債権が残っている状態で信託のスキームを終了させてしまうこととなれば,信託の目的その他の事情に照らして受益者の利益に適合することが明らかであると認めることは難しいと,できないということになるのではないかと思われます。


したがいまして,委託者を請求権者に含めても意見にかかるような不都合はないと思われるところでございます。なお,念のため申立権の不行使の特約をもって対処することも可能であるということも言うまでもないところでございます。


  続きまして,資料44ページの(注1)から(注3)の問題について御説明いたします。まず,(注1)につきましては,今後信託の利用の進展が予想されることも踏まえまして,信託の濫用防止の観点から会社の解散命令の制度に準じた信託の終了命令のような制度を設けることが相当と考えるものでございまして,パブコメの結果も制度設置に賛成する意見が多数でございました。


  それから,(注2)につきましては,信託行為に職務分掌の定めがある場合におきましては,欠けた受託者の権限は他の受託者が承継するということになるわけでございますが,信託行為に職務分掌の定めがあるときにおきましては,欠けた受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うことにするということを考えております。

  この資料の作成時には単独受託者につき任務終了があった場合と同様と考えていると,(注2)の説明の4行目に書いてございますが,これは現在では考え方が変わっておりまして,相続人でありましても信託財産の保管とか信託事務の引継ぎに必要な行為をするわけですから,まして残りの受託者はそれぐらいの義務は課されてもいいのではないかという考えに基づきまして,任務の終了した受託者の行っていた職務のうち信託財産の保管及び引継ぎに関する事務を残りの受託者が行うということにしたいと考えているわけでございます。


  ただし,この考え方のもとにおきましても,共同受託者の一部の任務が終了したことによりまして信託財産の保護に欠ける状態が生じていることに変わりはございませんので,任務の終了した受託者と同一の権限を有する新受託者が1年以内に選任されない場合には,やはり信託は終了するということには変わりがないと考えているところでございます。


  それから,最後に(注3)でございますが,これは民法653条の定める委任の終了事由といいますのは,委任者または受任者の死亡・破産ですとか,受任者の後見開始,資料では禁治産という不適切な用語を用いておりまして,おわびして訂正申し上げたいと思いますが,後見開始という当事者の一方に関わる事情でございまして,知らない相手方に対抗はできないということが非常に言いやすいわけでございますが,信託の終了事由の方は,信託当事者の全員が了知し得る事情であるか,あるいは信託当事者のだれもがあずかり知らない事情であるかというような違いが委任の場合とあるわけでございまして,そうすると信託の終了事由が生じたことを知らないことによって不測の不利益を被る当事者の救済をいかに図るべきか。

そもそも図るべきか,ということについて一体どのように対処したら方がいいのか,非常に複雑な問題が生じそうな気がいたしますが,御意見を伺えればというふうに思っております。

  次に,信託の清算のところでございますけれども,パブコメにおきましては,試案全体につきましては特段の反対意見がございませんでしたので,個別意見について若干御説明を申し上げます。


  まず,資料47ページの2(1)に書きましたが,提案の2の1の清算受託者の職務の内容,それから,提案3の帰属権利者等への残余財産の給付の制限に関しまして,信託行為に別段の定めがあるときはその定めに従うものとするということとすべきであるとの意見がございました。


  しかし,この意見があげますような不動産流動化のための信託では現状有姿のままで不動産と債権債務関係がそのまま受益者に交付されるのが通常であるという例につきましては,こういう信託のスキームであることを関係当事者全員が合意しているのでありますから,あえて信託行為が優先する旨の定めを置かなくても当然許されることになると考えられれば足りると思うわけでございます。

  むしろ一般的には,清算受託者は信託が終了した以上,信託債権者を含む全関係者に対しまして,いわば中立的な立場に立つものとして速やかに現務を結了して信託債権者に弁済してから残余財産を帰属権利者に引き渡すという義務を負うことになると考えるべきであると思われます。


  そうすると,全債権者の同意もないのに,単に信託行為の定めのみをもちまして清算手続を行うこととしたり,行わないこととしたり,信託財産に属する債務の弁済前でも帰属権利者等に対する信託財産の交付ができるとするのは不適当でありまして,これが可能であるかのような誤解を招きかねない規律を設けるのは妥当ではないと思われます。


したがいまして,この意見は採用しないこととしたいと考えております。

  それから,資料48ページの(2)に記載したところでございますが,受託者が長期不在のため信託が終了した場合には,裁判所が職権で清算受託者を選任することができるとすべきであるという意見がございました。


しかし,清算受託者も受託者であることには変わりがありませんのが,受託者の選任に関する規律にしたがいまして,委託者と受益者との合意,または利害関係人の裁判所に対する請求によって清算受託者を選任することができますので,この意見に対しましては既に試案の内容をもって答えているものと思われます。


  なお,意見の中にはさらに信託財産管理人が当然に清算受託者に就任することとすべきであるという意見ですとか,裁判所の職権で清算受託者を選任できることとすべきであるという意見もありましたが,いずれも資料48ページに①,②で書いた理由から採用しないものとしております。

  最後に,資料48ページの(3)に書きましたとおり,必要財産を留保して信託財産を既存権利者に引き渡した後で留保財産では債務の弁済が足りないこととなったときの措置を定めておくべきであるという指摘がございました。


  この点につきましては,株式会社等の有限責任制度に見られる債権者保護措置としまして①の受託者の損失てん補責任,それから②の受託者から帰属権利者に対する返還請求権,それから③の信託債権者から帰属権利者に対する返還請求権を整備することが相当であると考えているものでございます。
  以上でございます。

● それでは,ただいまの信託の変更のところから最後のところまで,いかがでしょうか。
 

 ○○幹事,どうぞ。
● それでは,信託の変更の4の点につきまして,裁判所としての意見を言わせていただきます。裁判所といたしましては,甲案に賛成する立場で意見を述べさせていただきたいと思います。


  変更の場面につきまして,管理方法の変更に限定しない乙案につきましては,パブリックコメントを通じて実務庁の方にも意見を聞いてみたんですが,やはりどういった事案を念頭においているのか,それからどのようなものを対象に判断をするのか,それからどういった要件に基づいて,その要件に基づいて判断した結果,どのような法律効果を生じるのかというあたりについて全く理解することができないような状況でして,やはり裁判所として判断ができるようなたぐいのものではないのではないかという議論が体制を占めたところでして,このままこのような制度になってしまいましても結局変更というものにつきましてうまくニーズに裁判所として応えていくことができないのではないかということで,結局そういったものに応えていけないということになるのではないかということに帰着いたしました。

  それで,ここからは意見といいますか,御質問させていただきたいところなんですが。


もし仮にそういった具体的なニーズがあるのであれば,そのニーズをうまく変更に反映できるような何らかの制度設計というものを,きょう来ていらっしゃる法務省の方々ですとか学者の先生方に何かいい案が対案としてあるのであれば,そちらの方で検討できないかというのが裁判所としての考え方でございます。

  以上です。
● いかがでしょうか。

  確かに乙案ですといろいろなのが出てきて大変は大変なんですけれども。ただ,契約なんかでも,余り裁判所は認めないかもしれませんけれども,事情変更の原則で契約の改定とかいうのは理論的にはあり得るわけですよね。

余りそれも範囲は限定されていない。実際上は当事者がこういうふうに変更した方がいいだろうということを申立てるんだと思いますけれども,なかなか対案は難しい。


● そういった場面ですと,この変更の要件にありますように,例えば受益者の利益に適合することが明らかであるとか,信託の目的に反しないことが明らかであるとか,そういった明らかであるというような事情の方が先に満たしてしまうのではないかというふうに思われるところでして,やはり裁判所の判断にはなじまないというところは変わりはないだろうというふうに思っております。


● ほかにいかがでしょうか。○○幹事。


● この乙案に対するパブリック・コメントの乙案に賛成する意見の理由を拝見していますと,裁判所の後見的な作用を期待するという意見,これはあたかも家事事件における裁判所の関与のようなものを期待してらっしゃるのかなと思うんですが,ただ(注4)がついておりまして,これがあることによって乙案の意味は大きく変わってくるのではないかと思うわけであります。


  (注4)は,余りに無範囲な無限定なものが裁判所に持ち込まれることを恐らく懸念して,当事者は必ず変更内容を提示して請求しなければいけないと。


裁判所は提示された内容の許可,不許可しかしないんだということです。こうなりますと乙案のもともと,多分(注4)がなかった乙案とは全然意味が変わってきて,もともと乙案のアイデアというのは当事者は自分では無力で保護すべきものであって,裁判所が広く手を差し伸べていろいろ助けてあげようという発想だったはずなのに,(注4)がつくことで,自分で裁判所が「うん」と言ってくれる内容をつくらなきゃいけないということになってしまったわけで。


  この乙案だとすると,一面では今裁判所の方から御懸念がありましたような,懸念というのは(注4)をつけ加えると余りなくなってくる,逆にですね,裁判所は不適切だとか不許可と言っちゃえばそれでいいといことになるわけですが,ただそれはもともと乙案の意図したところなんだろうかという気がするわけでございます。

  私,結論としてはこれは甲案で仕方がないのかなと思うんですが,乙案のようにすると,結局この(注4)のようなものがつかざるを得ないとすれば,それは乙案というのはなかなかとりにくいんだろうということであります。
  以上です。

● 乙案のもともとのというのはいろいろな源流があるかもしれませんけれども,やはり信託財産の管理方法に限らず,変更必要とするけれども,当事者間の合意がなかなか得にくいという場合に,裁判所の判断でできるとありがたいということで。


合意ができにくいというのは当事者が判断能力がないからというよりは,いろいろ利害も錯綜していていできないという場合も当然含まれているわけですよね。


  しかし,○○幹事の趣旨を逆にとってしまうことになるかもしれませんけれども,(注4)がつくことによって乙案といってもそれほど裁判所にとって大変なことではないのだから,乙案でもいいのではないかという意見にもなり得るところではありますね。

  何か御意見があれば。いかがでしょうか。これもなかなか具体的なニーズでこういう場合があってというのが,あるいはしょっちゅうこういう場合があるんだというそういう具体的なイメージがあるわけではないので,なかなか抽象的なところだけで議論しておりますので,そういう意味では決め手がないのかもしれませんけれども,もし御意見があれば。

  ○○幹事,どうぞ。
● 意見というよりは質問なんですけれども。やはり(注4)についてなんですが,恐らく先ほど○○委員がおっしゃられましたように,事情変更の原則で日本の裁判所では契約改定というのは理論的には認めるのかもしれませんけれども,実際には認めていないところなのではありますけれども,理論的に言うならば,契約改定を認める場合に事情変更の原則のもとで当事者の側がこういう内容への改定を請求するというようなことをしないといけないというふうに考えているかというと,恐らくそうではないと思うんですね。


要するに事態は変更して,その変更した事態に則して公平とか考えられる契約内容を確定するということであって,当事者がこれという必要があるかどうかというのが,日本では余り議論していませんけれども,もとになってますドイツの議論を見ましても,当事者の側にそのようなこういう内容での改定を請求する権利があるというような議論の立て方はどうもしていないようですので。


ちょっと違う考え方がこの(注4)ではあるのかなという気がいたします。そういう意味では事情変更の議論からしてスッと出てくるものかどうかというのがやや疑問があるというのが(注4)の内容であり,かつ,そして,ここから先はむしろ○○幹事にお聞きすべきなのかもしれませんけれども,この内容で改定してくれといったら裁判所からけられた場合に,じゃあ,この内容でという別の内容でというふうになっていく可能性についてはどう考えればいいのかというような問題等はらんでるんじゃないかなと思います。


つまり,いつまでたっても終わらない可能性もあると。

  そういった問題をはらんているということからしますと,乙案を前提にして(注4)をつけるというのはちょっといろいろな意味で問題があるのではないかなという気がいたします。


ちょっとその点お聞かせいただければと思います。

● ○○幹事,いかがですか。

● これは現行法でそうですけれども,非訟事件ですので規範力がないということですから,裁判所がその変更申立てがあってそれを退けて,それはしかしもちろん規範力の問題以前かもしれませんけれども,いくらでも続くことはあります。


正しい答えがどこかにあるとして。近いところまでずっとグルグル回っていつまでも手続が終わらないということも理論上はもちろんあり得ますが。

ただ多くの場合には,こうは言いながら,非訟事件の中ですぐ近くまできてるんだったら裁判所がこんなあたりはどうですかみたいなことは事実上あって,しかるべき許可がされるということがあるんだろうと思いますけれども,ただそれに多くを期待してくれるなというのが先ほどの裁判所からの御意見ではないかというふうに私は忖度いたしました。


● 通常の契約の場合は当事者2人しかいないという前提ですので,問題は今言われたような形で処理可能なのかもしれませんけれども,信託の場合はいろいろな当事者がほかに複数存在するわけであって,そううまくいくのかなという不安はちょっとあるかなと。


そういう意味ではやはりちょっと(注4)というのは現実に,理論的にもそうですし,現実にどうなんだろうかなというのはちょっと感じるところです。


● 何かございましたか。
● 先ほどの(注4)に関しましてですが,これも許可,不許可と申しましても,結局は法律要件,効果がほかのものと違いまして具体的に書かれているわけではございませんので,結局許可,不許可の判断に当たりまして裁判所としては何をよりどころにして許可,不許可の判断をすべきなのか,その反対する当事者の方々とは別の判断を下す根拠はどのあたりにあるのかというあたりについては以前問題としては残っているように思いますので,その点にもつきましてもやはり問題があるように考えております。

● はい,いかがでしょうか。何か御意見があれば。

● ちょっとずれるかもしれませんけれども,この信託の変更と,それから併合分割についての論点でございますけれども,受益者の権益の保護ということで遅滞なく通知するとか,あるいはそういったいろいろな要件をはめていただいているわけでございますけれども,どうしても私ども信託業法所管省からいうと,受益者の保護の方にかなり重点がかかるケースが考えておられまして。


例えばなんですけれども,1点御質問させていただきたいのは,例えば受益権者が多数おりまして受益権者代理などを定めている場合で,それで例えば信託行為で別段の定めをしていれば信託の併合分割なんかはそれに従うということになるわけですが。

例えば受益権者の代理にそういった信託の併合分割というようないわば大きな権限を委ねている場合,果たして本当にその受益権者の権限を保護できるのかという観点から,例えば受益権者でありというものについて例えば具体的に義務を負わせるとか禁止行為とか責任を規定する,そんな考えはございますでしょうか。質問でございます。


● いかがですか。
● 受益権代理のことでございますれば,受益権代理は受益者の代理人という位置づけでございますので,善管注意義務とか委任の規定を準用しますと。


受益者との関係で善管注意義務をもって事務を処理するという義務は課されることになります。

● 了解しました。
● ○○委員。

● 以前も議論になったかもしれません,仮に弁護士が受託者となって財産を預かって,不動産だとして不動産の管理方法の変更というとき,その売却まで入るのかどうかというと,恐らく今の信託業法でも管理型と運用型と分けて,管理には売却というか処分はいけないというようなたしかそんな解釈だったと思うので。


そうすると,売却を仮にすべきであるというようなときに,それは上の方の受託者の決定でいいのかしもしれませんけれども,信託の目的ということの解釈論を,当然争いがあるという前提で争いがあった場合,裁判所に頼むというか,裁判所のせいにするとか裁判所を頼りきるわけではなくて,一定の解釈論を確立する,自分がそう思っても紛争の解決になりませんから,そうすると何もしない方が安全だということになってしまうと思うんですけれども。


  とすると,乙案が幅広く無制限に使われたら困るという趣旨はよくわかるんですけれども,信託の変更の例外規定の確認的な意味で使われるのではないかということでたしか今までの法制審でも議論されていましし,そのたびに裁判所を頼るのはということの議論はあるかと思うんですけれども,やはり一定の法律解釈を裁判所の後見的な役割として確認できるという制度があった方が紛争を未然に防ぐという意味においても非常に有用ではないのかなと思うんですね。


  ですから,無制限の乙案ではないし,また(注4)がちょっと拘束的であってちょっと違った方向がいいといったときにどうなのかわかりませんけれども,ある意味では,繰り返しになりますけれども,2に書いてある1の例外規定の確認的な意味での後見的作用としての裁判所の役割ということが恐らく現実的には必要になってくるのではないかと思います。


● その役割も果たすでしょうね。
  はい,どうぞ。


● 先ほど来,(注4)の評判が余りよろしくないのですけれども,もともと原案を議論しておったときには事情変更の方に対応するためというふうに考える中で,裁判所の方々からどこまで判断できるかという問題が御提示いただいた中で,(注3)のようないろいろな要件をプラスすること,それから○○幹事がおっしゃられたようなお話もあるのですけれども,当事者としては何も判断能力がないというだけではございませんで,事情変更があってやはり明らかにこういうふうにした方がいいというふうに思うような場合もあり得るだろうということで,それでそういった幾つかの御指摘に対応するために生まれてきたのが(注4)だというふうに理解しております。

  それで,○○幹事の御指摘があったように,事情変更の法理にぴったり当てはまるかと言われると,確かに忸怩たるものがあることは否定しがたいところではありますけれども,そのさまざまな実務の必要性と裁判所の御判断される能力というものを勘案した中で生まれてきたのが(注3),(注4)ではないかというふうに思います。


  それで,先ほど仮に(注4)をとって許可,不許可だけにしたときでも,裁判所の方として何を基準に判断されるかがよくわからないというお話がございましたけれども,それは単純に,別に事務局として甲案,乙案どちらにコミットするものでもございませんけれども,その点だけを申し上げれば,それは事情変更があったということを勘案して,当該変更された内容がその信託目的の趣旨に照らして適当かどうかという通常の法律判断の中で判断されるということに,禅問答のようですけれども,ありていに言うとただそれだけの話ではないかなという気がちょっといたしますけれども。


● 確認ですけれども,○○委員の意見は,やはり乙案に一応賛成だということですね。

● ええ。基本的なことですけれども,仮に受託者で変更したいと思って,それを非訟事件じゃなくて訴訟事件として法律関係の確認をするということが可能であれば乙案もいらないのではないかと,そのときにはちょっと受益者か何かを確認して訴えるんですかね。


やはり法律関係確定させたいという希望はどの変更にとってもあり得ると思うんですね。

  反対がなければもともと三者合意でいけるわけですが,必ず反対があるからこそ2があるわけでして。そのときに権利関係確認するときに,また乙案以外の何か訴訟,法的手段,手続的な手段があればそれによって恐らくスムーズに進行できるのではないかと思うんですけれども。

● 今の御指摘なんですが,その変更された後の権利を前提に給付訴訟を提起するということについては,通常の訴訟どおり特に妨げられるものはないという理解だとすれば,先ほどの解釈論を固めるですとか,そういったことについての御懸念も払拭できるというふうに理解してよろしいのでしょうか。

● そうですね,そうだと思います。ただ,給付訴訟,給付だけじゃなくて契約関係を変えるわけですから,すみません,私の未熟さかもしれませんが,なかなか従前の訴訟形態,要するに契約当事者なりある一当事者が契約関係変えてほかの方にその契約関係でいいという確認訴訟を起こすということは現行の通常の発想でも可能,給付訴訟じゃないと思うんですね,給付に至る前の話だと思うんですが。不動産を処分するとかですね。


● その受託者の決定によって変更された法律の。


● 1の例外全部そうだと思うんですけれども,三者の合意じゃないということですね。


● ええ。十分検討できているわけではないんですが,それは訴訟として提起された場合には,何らかの判断をするようなものになるのではないかという気がいたしますが,その点につきましては。


● 私が言っているのはコンテクストで乙案というのは非常に現実的には有用ではないかという議論だと思うんですけれどもね。


● 重複になる部分もあるのですけれども,今,○○委員のおっしゃったことは,やはり給付訴訟なり確認訴訟なりでできる枠組みのことを多分おっしゃっているのであって,もともとの4のアイデアというのは形成作用を多分問題にしているんだと思うんですね。


先ほど私は判断能力がないというようなことを言ってちょっとそれは撤回いたしますけれども。つまりだれもが交渉を押し切る力を持ってなくて,泥んこになってる状態でどうしたらいいかということじゃないかと思うんです,問題状況は。


そのときに,この33ページの2では処理できないことについて権利関係を新しくつくるのが4の本来のもともとの役割だと思うんですね。先ほど申しましたけれども,だとすると,(注3),(注4)のない乙案というのはもともとそれは非常に広い権限で,しかし,それを縛りましょうというのは先ほどの(注4)でありまして。


それは現行法どおり,対象事項を絞ろうというのは甲案だろうということだと思うんですね。


  ですから,乙案をとっても(注4)のような形で,先ほど事務局から追加で御説明ありましたけれども,なかなかなお硬直的だなという感じが払拭できないものですから,どちらかというのであれはまだ甲案の方が,現行法維持の法がいいのではないかというのが先ほど申し上げた趣旨です。


● はい。なかなか難しいですね。私の個人的な意見は別に言っても,言うのも適当ではないと思いますけれども。先ほど○○委員が挙げられたように,信託財産の管理だけれども,やはり売却しなくちゃいけなくて,そのときに受益権あるいは利害関係人の合意が必ずしも十分にとれない,意見が対立している,そんなようなときにやはり甲案よりは少し広い範囲で判断がもらえるとありがたいことはありがたいですね,裁判所に。

  わかりました。どうぞ。○○幹事。

● 乙案がいいかどうかはわからないんですけれども,甲案の意味がいまひとつよくわからないんですけれども。


ちょっと私が聞き逃しているないしは理解できていないだけなのかもしれませんけれども。甲案というのは受益者の利益に合致しなくなる,なっているというのが前提ですよね。


そして,信託財産の管理方法は変更した方がよいという場合というのは,2の(2)のbで一般的には受託者にいける場合ということなんでしょうか。その変更請求をできる場合ということになるんでしょうか。


  もし仮にそうだとしますと,本当に裁判所の関与が必要になってくるのは,例えば子どもが3人いて経済状態が同じだから月々30万円ずつ給付するというふうになっているときに,1人が大きなけがをしてしまったとか病気になってしまったということを考えて。そうしますと,親がそもそも信託を設定した趣旨というものが子どもに安定した生活を送らせるということにあったというふうにみたときに,10,10,70というふうに変えるというふうな,受益者間の利益が対立する,つまり受益者の利益に適合するようにするのではなくて,信託目的を達成するように,どちらかといえば複数受益者のうちのある種の受益者の利益を犠牲にする場合というときにこそ働くんじゃないかという気がするんですが。


  そうしますと,乙案が難しければそれは仕方がないんですけれども,甲案にそんなに価値があるのかというのがちょっとよくわからないんですけれども。


● 甲案はやはり狭いんでしょうね,そういう意味で。今のように受益者の間の分配を変えるよなんていうのは甲案の枠ではやはりできない。


まさにそういうことが必要だというふうに○○幹事は考えられるとすれば,それは甲案では実現不可能である,だから,乙案だという脈絡なわけですけれども。


● 甲案にそんなに意味があるとは思えないということなんですけれども。

● ですから,これは信託財産の管理方法だけの小規模な何か変更で,しかしこの2の各号といいますか,当事者間の合意あるいは単独で何かできるようなのにはぴったりと当てはまらない,そういう場合を救済するということなんでしょうね。○○幹事はそういうものはもうないんじゃないかと,むしろ……


● ないというか,極めて狭いですよね,2の(2)のbで。


● 大体これが解決できちゃうから余りないんじゃないかというそういう趣旨ですね。


  そういうことも言えるかもしれないし。甲案自体が確かに非常に狭いので,できれば少し拡張したいと思いますけれども。

  何か,どうぞ。

● 私は乙案が難しくなるという,私そういう意図はもともと持っていないんですけれども,しかし,にもかかわらずなんですけれども。


やはり事情変更の原則と違うものだと割り切ってしまえばいいんですけれども,割り切れるのかなというのがずっと引っかかってるもので,あえてなんですけれども。


やはり(注4)で当事者が変更内容を提示して,それがよいか悪いかのみだというのはやはり,先ほど日本の事情変更の原則では余り議論されてないとは言いましたけれども,しかし,当事者がどのような内容に変更しろと言ってるのかに拘束されずに,裁判所としては当該事態において事情変更の原則要件を満たしている限りは適当と考える契約内容を確定できるということは多分,少なくとも日本の今の議論の中では異論がないんじゃないかなと思います。


  ただ,本当にそれでいいのかどうかという段になりますと,私個人的にはちょっと本当にそんな裁判所の後見的な介入を広く認めるのがいいのかどうかという,私個人的には疑問は感じてはいるんですけれども,ただ一般に言われている議論がそのようなものだとしますと,信託に関しては(注4)のようにいくのだというのは何かより積極的な理由が必要になってくるのではないかなと,その理由が本当にあるのだろうか,出せるのだろうかというのがちょっと疑問があります。


  ○○委員がおっしゃいましたように,信託でももちろんそうですけれども,契約はもっとより広いものであっていろいろなシチュエーションが出てくるけれども,一般法理として事情変更の原則そのように認められていてそのように言われていると。


しかし,信託は違うんですよというのはなかなかちょっと言いがたいので。ここで(注4)のようなものを認めるとしますと,何か大きく一歩踏み出すのかなという感じがします。


個人的にはそれもいいのかなと実は思っているところはあるんですけれども,ちょっとそこをしっかり考えてやりませんと影響が大きいかなという気がいたします。何度も同じことで恐縮ですけれども。
  以上です。


● わかりました。これも単なる意見分布,御意見おっしゃらない方もおられると思いますけれども,もしかしたら私のまとめ方が正しくないかもしれませんが,やはり甲案は狭いという認識を持っている人が多いことは多い。


乙案がこのままの形でいいのか,またこの(注4)をくっつけることはかえって理論的にはすっきりしないという御意見も今ありましたけれども。できれば甲案よりは少し広いものが本当は望ましいのではないかという御意見が多いことは多いのではないかというふうに思っております。

  今後,ここではちょっと時間でこればかりやっているわけにもいきませんのてで,甲案よりは少しやはり広げる方向で何とかできないかということで少し検討はしていただくと。


しかし,どうしても裁判所が難しいということになると,拒絶権があるというふうには私思いませんけれども,しかし,理論的な意味で難しいということであればそれは挫折するかもしれませんが,とりあえず少し広めに考えるということで,少し議論は進めさせてください。


● すみません,1点だけ。先ほど私が挙げたような例を考えますと,ちょっと私今慌ててほかのところを見ていて確認できないまま発言するんですが。


54の2の(2)のbの受益者というのは多数決とかで,複数受益者のときに多数決とかで決まる受益者であり,4の受益者というのは単独受益者でいいということですね。

  だから,どうも申しわけございません。

● 54の別のところなんですけれども,1つだけ。これは説明の部分の説明の仕方のお願いなんですが,35ページに極めて非常識な信託行為の定めはというところがございます。それが公序良俗に違反する点はわかるんですが。


その次に,別段の定めに基づいて不合理な変更がなされた場合も公序良俗違反と認定されることもあるというこういう説明なんですが。不合理な変更をするときはむしろ権利濫用になるのではないかなという気がいたします。


公序良俗だけですとかなり限定的な感じがいたしますので,説明だけですけれども,お願いできればと思います。


● そうですね。そっちの方が理論的かもしれません。では,これは改めさせていただきます。
  それでは,今から休憩にいたします。

          (休     憩)

● それでは,変更の点はいずれにせよ重要な問題がたくさんまだ残っておりますので,よろしくお願いします。


  では,○○委員,どうぞ。

● 信託の変更権限を第三者に与えるというその件で,35ページのところですね。これで制限を特に設けることなく与えるというそういう考えが示されていますけれども,最後のところに書いてある「消費者契約法等で対処する」というこの一言で具体的に消費者契約法でどのような対処をすることを考えられたのかをちょっと伺いたい。


● いかがでしょうか。
  今のところすぐ思いつくのは,○○幹事の方が詳しいかもしれないけれども。第三者に非常に広範な権限を与えて,それが……


● 前回というか,前ここ議論になったときに出てきたのが,第三者への一方的な変更権限を与えることで,不当条項にならないかと,ここのことだと思うんですが。


● そうですね,一般的な条文としてはそれしかないでしょうね。

● ええ。それで,この消費者が委託者兼受益者で,その消費者と受託者との信託行為,信託契約,その中に例えば受託者に変更権限を与えるとそういう条項が入っていった場合に,それが消費者契約法を適用されることによって不当条項として無効となることがあり得ると,それはあり得るかなというふうに思います。


● 一般論としてね。
● それとはまた別の形の信託特有の問題として,受益権の転々譲渡ということ,いわゆる金融商品としての受益権というのを考えた場合に,受益権を取得した人というのは信託契約の契約当事者には入っていないので,例えば受託者に一方的な受益権の内容を変更する権限があるというような信託の受益権であった場合に,そのことを知って取得すればそれはそれということになるのかもしれませんが,知って取得するとは限らないと。


そういう場合に,この受益権を取得した人は消費者契約法ではやはり余りぴったり適用できないのか,それとも受益権を取得する契約の中にこの受益権はこういう受益権であるというものがあって,その受益権の内容として受託者が一方的に変更権限を有する受益権であるというのが入っていて,それが消費者契約法,受益権の譲渡契約に消費者契約法が適用されて,それで受益権の内容を一方的に受託者が変更できるという条項だけが,その受益者との関係でだけ無効になるというようなことがあり得るのかどうか。


  そうすると,多分受益者が多数いる場合はちょっと余り混乱して変なことになるし。そういう場合は消費者契約法というのは使えないということになるような気もするんですが,これは消費者契約法に詳しい学者の先生方の御意見を伺いたいんですけれども。

● 契約関係が移転するとかそういう場合の話ですよね。基本的には消費者契約法,いやいや,これも私も余り詳しくないのだけれども,最初の当事者間で一応まず固定して考えて,そこで消費者契約法を適用したときに不当条項になるかどうかによってその後の,もしそこで不当条項だということになればその地位を譲り受けた人間もそれを主張できるというだけじゃないかと思うんですが。


  ですから,実体法的にバラバラになることはなくて,その場合には,ただ,ある受益者は主張しないという場合はあるかもしれない。ある受益者は主張する。


だけれども,当初の関係でもってその契約自体が消費者契約法でいうところの条項が不当条項に当たるかどうかというのを判断するというのが基本なんじゃないでしょうか。どうですか,○○幹事あるいは○○幹事。

● こういうのは質問した方が楽だということで質問なんですが。そうなのかなという今の御説明聞いて思うところなんですけれども,しかし,○○委員が後半の方に言われた受益権の取得契約に,一方が事業者であり他方が消費者であるというような場合に,消費者契約法が適用されないかという多分それは適用されるだろうと思うんですよね。

それ自体はやはり消費者契約ですから。問題は,その場合に受益権という目的物がどういうものであるかということがその信託行為によって定まっていて,その信託行為の中に不当条項に相当するようなものが仮にあったという場合に,これに消費者契約法は適用されないのだということをどうやって説明すればいいのかなというのがちょっとまだ確信持てないもので,私が聞くのはいかがなものかと思うんですが。どうなんでしょうかということですね。ちょっとまだ答え出てないので。


むしろどういう理由があり得るんだろうかということですね。それ自体消費者契約であることは間違いないという場合に。


● 何かありますか,○○幹事。
● 今のお話というのは大もとの受益権のところで不当条項があり,その受益権の中身を規定している信託契約の中に不当条項があり,それが消費者契約法の適用を排除するかどうかという……

● そこは事業者だったような場合ですかね。
● 信託行為そのものが,先ほど言われましたように,消費者契約だという前提でいける場合というのは割とすっといくのかなと思うんですけれども。


そういう論理では仮に難しいというようなことになった場合に,もう1つの論理考えられるというのが○○委員の御指摘で。仮にそれが何か難しいのかなというふうに考えるときに,じゃあ,一体どうして消費者契約であることは間違いないけれども,不当条項規制というのが直接は妥当しないということになるとするならば,それをどう説明すればいいのかなというのがちょっとわからない。

もし説明できないとすると適用されるのかなという気もしてくるということですね。

● どんな例が適当なのかわかりませんけれども,最初の受託者と受益者の間で,受益者というか,自益信託型で,その委託者兼受益者がそれ自体も事業者で受託者に一方的な権限を与えている,しかし,その事業者はそれを販売して受益者に消費者に販売している,例えばそんな場合ですよね。

そうすると,やはりその場合には受益権を販売するという契約は消費者契約で,もう商品の中身といいますか,販売する中身はもう既に決まっているんだけれども,契約はその販売の中身そのものというか,それを移転するという行為ですけれども,やはり消費者契約を適用してその販売の中身の不当な条項は無効になるというふうに考えるんですかね。結論はその方がよさそうな気がしますけれども,ちょっと理論的にまだ。

● その適用をちょっと排除するような理由づけというのが,契約内容そのものは譲渡契約だけであるというふうに本当に言い切れるのかですよね。


商品自体の性状を決定しているものがあるわけであって,このような性質を持った目的物を譲渡するという契約ですから,契約内容は構成しているんじゃないかなという気は……

● そういうふうに考えれば適用される可能性は。

● はい,してくるかという気はして,そうじゃないということをどう言えば言えるだろうということですね。

● はい。そういう意味ではちょっとここでは結論は出ないかもしれませんけれども,消費者契約法がやはり今のような譲渡契約の段階でも適用される可能性はあるのではないかという有力な意見があった。
  どうぞ。

● 今の議論をお聞きしていて,もしこれ受益者の立場で,例えば何かその種の裁判をやらなきゃならないということになった場合には,ちょっとなかなか難しそうかなという気がしていて。もう少しやはり受益権の変更については何らかの手当というのがないと,ちょっと受益者としては……


● 要するに,不当条項で争うよりはもっと信託法の中に制限があった方がありがたいと,そういう御趣旨ですね。


● ええ。まさに変更権を第三者に与えるときに無制限でいいのかどうかというそういう問題だと思いますけれども,ここについて何か御意見ございますでしょうか。○○委員。

● 今変更の内容について制限を設けたらどうかというお話ですけれども。そこの制限というのは事項についてということを多分想定されているんだと思うんですけれども。

そうであるとすると,(注2)のところにありますけれども,基本的に合同運用というものが広く一般に信託で使われておりますけれども,その場合の意思決定といいますか,変更するときの意思決定というのがうまくいかないということになるんじゃないかと思いますので。ここは事項についての制限というのはちょっと見合わせていただきたいなというふうに思っております。

● という御意見がございました。いかがでしょうか。

  こういう限界を設けるときには何か案はございますか。○○委員。

● 先ほども私の意見も消費者契約法だけだと不安だなという前提で制限が一定限度設けられるべきではないかというそういう意見で。その場合の制限としてはやはりこの目的とかそういう基礎的事項として別の項目のところにたしか列挙されていたのがあったと思うんですが,そういったものにしたらどうかなというふうには考えたんですが。どこでしたっけ,ちょっと。

● 取得請求権のところでの対象事項のような制限を設けるということでしょうか。


● そうですか。事務局としてはああいうのは,取得請求権の方で対処できるんだから,ここは無制限でいいんじゃないかということなんですか。


● 結局両方が相関関係にあるわけですよね。取得請求権の方を余り制限しすぎちゃうとここで変更権を全く無制限にして取得請求権も制限されていると,かなり,というそういう選択が最悪の選択かなというふうな懸念があるんですね。


ですから,どこまでカバーできるかという問題とも言えると思います。


● 今説明ありましたように,取得請求権の方では一応一定の配慮をしているということですね。


● 取得請求権の方は事務局としては強行規定でいって配慮しようと思っていますので,その上にかつ信託目的の制限とかあるいは変更の公序良俗違反,あるいは権利濫用であれば排除されるということなども合わせて考えますと,変更の範囲についてまで制限を設ける必要はないのではいかというのが事務局の考えでございます。

● すみません,その取得請求権の方は反対した受益者は請求できるとかそういうのではなくて,特に不利益を受ける人が請求できるというそういう前提のされ方をしていたと思うんですが。


そうなると,前もちょっと話題になりましたけれども,当初方針を変えちゃうというような場合でもとにかくただつき合っていくしかないということになって,投資信託なんかを例に考えると大変困った事態になっちゃうなというそういう心配をしたんですね。

● 反対受益者の取得請求権のところにつきましては,○○委員のおっしゃるとおり,信託目的の変更につきましても受益者が不利益を被る場合に限って取得請求権を認めたらどうかという提案を今まではしておりました。


これにつきましては,次回以降検討する予定でございますが,パブリック・コメントではその不利益を被るという場合に限らず認めるべきではないかというような意見もございましたので,これも踏まえてもう少し信託目的の変更につきましては,例えば重大な変更という形で取得請求を認めた上で,その場合には不利益を被った受益者以外の受益者,一般の受益者につきましても取得請求を認めるという方向もあり得るのかなというふうに今では考えておりまして。その点につきましては今後検討したいと思っております。

● いかがでしょうか。

  これはその取得請求権と密接に関連する問題でありまして,とりあえずといいますか,とりあえずここでは制限をしないという原案でいかしていただいて,取得請求権のところでもしやはり十分ではないということであればまた戻って議論していただくこともあり得るということで先に進ませていただいてよろしいでしょうか。

  それでは,そういうことでお願いします。

  ほかの信託の併合,分割,終了事由,清算で何かありますでしょうか。


● 先ほどの信託の変更との関係なんですが,4の議論のところで甲案の管理方法の変更という意味では狭すぎるというお考えで,それより広げることができるかどうかを今後検討していくというような方向性が示されたところですが。それを前提といたしまして,併合ですとか分割の場面にその規定を準用していくのかどうかというところなんですが,併合分割につきましては,やはり単なる事情変更のような発想とは全く違うものがありまして,信託の構造自体を変えていく,会社でいうところの合併だとか分割みたいな判断をやらなければならないところありますので,やはり簡単にそういったことを併合分割に準用していくということにつきましてはやはり裁判所の判断という意味ではなじまないということと,裁判所としては判断すべきものではないのではないかというふうに考えているところですので,御検討いただければというふうに思っております。


● 1つの信託の中身の変更とほかの信託との問題というのは確かに性質が違うということは十分踏まえた上で,先ほどの○○委員のとりまとめも踏まえつつ,どこまで広げるか,その場合には信託の併合,分割は,しかし,除外すべきかというところは十分留意した上で検討したいと思っております。


● あり得る選択肢ですね,今みたいなのは。

  ほかに,では,まず○○幹事からどうぞ。

● 投資信託についても併合の規定がありませんので日本ではできないということで,これを何とかしてくれという要請がここ数年ずっとメーカーサイドからいただいておるんですね。


投資家サイドではなくて。諸外国で投資信託ファンドの併合というのは,例えば投資家に人気が出なくて規模が小さいままのファンドをたくさん維持するのが大変だから併合しようとか,あるいはパフォーマンスが悪いファンドをいいファンドで埋め合わせようとか,もっぱらと言い切っていいかどうかわかりませんけれども,メーカーの都合で行われるということで,信託一般にこれを広げていいのかどうかわかりませんけれども,金融というものをながめている目からこの話を見ると,受益者による何の関わりもないままに行われるというのはやはり相当に違和感があるということは申し上げておきたいと思います。

● いかがでしょうか,今のような御意見も踏まえまして。

  今の御意見はある意味で受益者の利益のためになるようなものはいいかもしれないけれども,受託者のむしろ都合というか効率性とかそういうことでもって合併するのは適当ではていと,そんなことですかね。


● 投資信託の話をどこまで一般化できるかわかりませんけれども,商品として失敗したようなものを併合するというニーズが別に悪いとは申し上げない,それはそういうニーズがあると思うんですけれども,そうであれば当然受益者集会がいいのかその他のガバナンスの方法がいいのかわかりませんけれども,受益者の意思と無関係にメーカーの都合で併合分割が行われるということが私の常識ではちょっと考えにくいというそういう意味で申し上げました。


● 提案させていただいております案におきましては基本的には多数決原理だって別に信託行為の定めがないと適用になるものではございませんで,原則54の1と同じように委託者,受益者及び受託者の合意により行うことができるということでございまして,多数決原理が書いてなければ受益者全員の同意がないとできないというのが出発点になっているわけでございます。

  それで,2で,(1)で信託の目的に反しないことや受益者の利益に適合することが明らかであるとき等々の要件を満たしたときに受益者の関与が一定限度外れるということだけでございまして,別に受益者の利益を無視したままできるようにするという立て付けにはしていないわけでございます。


  このような手当は必要となると考えられます1つの例としまして,例えばそれこそ会社でいうところの簡易合併とかいったようなくじらがめだかを飲み込むような信託の併合のときに,くじら側信託の受益者の全員の同意を一律にとらなければいけないということが果たして受益者,皆さんの便益にかなうのだろうかというと,そういうことではないのではないかということでございます。

  それから,米国におきましてはむしろ我々よりもさらに進みまして,もちろん受託者の義務つきという前提でありますけれども,併合などにつきましても受託者の裁量でできるというようになっているというふうに理解しておりますので,それを踏まえますと私どもの方が,そういう言い方が適当がどうかわかりませんが,適時適切に皆様方の利害に配慮した規定になっているのではないかというふうに考えているところであります。

● ほかにいかがでしょうか。合併だけではなくて分割も含めて。
  ○○幹事。

● 清算ですが。質問です。第58の清算を本日の最初の方での話題になった第51と関係させてお伺いしたい点がございます。第51は甲案,乙案一定の方向性,○○委員から示されましたが,まだ両方の可能性残っていようかと思いますので,それぞれとの関係で事務局に御説明をいただけるとありがたいと思います。

もし甲案をとった場合,第51で甲案をとった場合ですが,第58で2の(1)のbのところで,信託財産に属する債務の弁済というのがありますが,ここでは第58ではひとくくりになっているけれども,この中に第51が埋め込まれて,甲案に従ってまず信託債権に弁済が行われ,そしてその後受益債権に行うべしと,そういうふうに読むのだろうかということが質問です。


  そしてもう1つは,どこで読んだらいいんでしょうか,第58の2の(1)のc,そして3,それから4のあたりを組み合わせることになると思いますが。残余財産の帰属についても,本来の帰属権利者と,それから残余財産受益者というのが2通りありますが,この受益者の方に着目したときには,残余財産受益者とそうではない一般の受益者との関係は清算の局面においては3のところで結局弁済の順序がつけられていると。


同じ,広くいうと受益者になるけれども,残余財産受益者と一般の受益者はここでは弁済の順序がつけられているので,それは第51のような規律を考えるならば,書いてくださいという趣旨ではないんですけれども,残余財産受益債権はその他の一般の受益債権に劣後すると,そういうものがあると考えたらいいのかどうかということです。2つ目
  

それから,次に乙案の方ですが,もし乙案に立った場合には,第58の2の(1)のbでは,信託財産に属する債務の弁済というのは受益債権であろうが信託債権であろうが同じなので,まさにこの58の2の(1)のbのとおり,中は区分けせずに弁済をしていくというふうに考えていいのか。


  そして,もう1つは,甲案をとったときの2つ目の質問と並ぶものになりますが,2の(1)のc,それから3,それから4の(1)のbというあたりを組み合わせて出てくるところですが。


いわゆる残余財産,受益者が持っている残余財産の給付を内容とする受益債権について着目するならば,この受益債権については第51の乙案をとったとしても信託債権に劣後すると。


ここでは順序で定めていますが,実体法の優先劣後の関係におき直すことができて,第51のところの乙案をとっても同順位とすると,これでいいですが,書くとするならばですね,ただし,残余財産受益者が有する受益債権については信託債権及び残余財産受益者が有する受益債権以外の受益債権に劣後するとそういうふうに考えていいのでしょうかということをお伺いできればと思います。


● まず,甲案の方を前提としますと,2の(1)のbのところでいうところの信託財産に属する債務,これは本当は2つに分けられて,時期的前後関係からいくとまず信託債権を払って,その後受益債権にいきますということになるんじゃないかという御質問だと思いますが,それはそのとおりでございます。


  他方,乙案の方についてもおっしゃったとおりでございまして,乙案をとれば恐らく同時期にどんどん払ってくださいというような一応の順序になるだろうということかと思います。


  それから,甲案をとった場合の残余財産との関係ですね,特に残余財産受益者というのを今回新しく作っておりますけれども,そちらとの関係で順位が違うという表現をどういう意味にとらえるかということかと思うんですけれども,一等第51のところはまさに優先順位,つまり執行手続などにおいてどの順序で分配するかというような話ですので,普