任意補助人 試論

 

1、 任意補助人はどんなものか

 任意補助人という用語は現在のところ、私の知る限りでは利用されていない。任意後見制度の代理権目録を利用して、民法上の補助人と同じような役割が出来ると考える 。利用者本人が、自身の症状に合わせながら任意保佐人、任意後見人と段階を経て同意権、代理権を受任者に与えていくことが可能となる。また民事信託の受託者や信託監督人、受益者代理人との連携を考えることができる。民法上は最も本人の意思を尊重できる補助制度が、後見制度に比べて20分の1以下の利用件数しかない事実 には様々な理由を考えることができる(法定後見をやむを得ず申立てたなど。)。本人が決めた者に受任者が確定される任意後見制度の中で、実質的に補助類型の仕組みを作ることが出来れば使い勝手の良い制度になると考える。

2、 先行研究
 夫婦の任意後見人となる者が中心となり、受託者である信託銀行に指示を出して財産管理の負担を軽くし、任意後見人は身上監護の割合を多くしていく、というものがある 。
 任意後見契約における代理権目録において、民事信託との調整を図ることが可能か、消極的内容を記載することは可能か、という問題提起がなされている 。
 本稿では任意後見人と民事信託の受託者は同一人であっても構わないという立場を採るが、同一人である場合の利害関係・利益相反関係を整理するものがある 。
 また任意後見支援型信託の文例も研究されている 。この研究での契約書例は、任意後見監督人の選任の申立て等を停止条件として信託契約が発効するため、信託専用口座を作成する際に金融機関との事前調整を要する場合があると考える。金融機関には、信託専用口座を作成する際に委託者の本人確認及び意思確認を行うところがあり、任意後見人が信託契約書を持って行ってすぐに受け付けてくれるとは限らない。

3、 方法

 任意後見契約締結後に任意後見監督人の選任の申立てを行う要件として、本人が補助・保佐・後見の各要件に該当する精神の状況にある者全てとしていることから 、補助類型に該当した時点で任意後見監督人の選任申立てを行うことを前提とする。最初に代理権又は同意権を与えるのは、年金受取口座の管理や要介護認定の申請等の一部の事務に限る。よって、任意後見契約締結後に直ちに任意後見監督人の選任申立てをすることも妨げられない。その後に本人の心身の状態に応じて同意権、代理権を付与、または同意権から代理権への変更が順次行われるように最初の任意後見契約の中で仕組みを作っておくことが望ましい 。何故なら任意後見契約における代理権目録には変更に関する規定がなく、任意後見人の同意権や代理権を徐々に増やしていこうとすると、その度に任意後見契約を締結する必要がある。又は法定後見へ移行 する選択肢もある。

(1)本人または任意後見監督人の同意又は承認
(2)本人または民事信託の受託者、信託監督人、受益者代理人の同意又は承認
(1)または(2)、もしくは(1)と(2)の併用による。
例えば、身上監護事務に関しては任意後見監督人による同意を、財産管理に関する事務については信託監督人による同意を要件とすることが考えられる。この同意は民法上の補助・保佐制度において家庭裁判所が行う同意権付与・代理権付与の審判に該当する 。

4、 議論
任意後見監督人は、家庭裁判所によって選任され 公的な役割を担う。上記の例で財産管理に関する事務について、信託監督人による同意によって任意後見人に代理権が付与された場合、信託財産ではない財産について監督を行うのは任意後見監督人である。信託監督人と任意後見人の連絡体制を整えるか、信託監督人は信託財産及び民事信託の受託者のみを監督し、その他の財産に関する事務の同意は任意後見監督人に同意権を与えるなど後に利害が対立する可能性が少なくなるようにする必要がある。
任意後見監督人を承認権者、同意権者とするには、任意後見契約締結時にその住所及び氏名が特定されていなければならない 。任意後見監督人は、家庭裁判所が選任するので任意後見契約締結時は特定することが出来ない。よって任意後見監督人を承認権者、同意権者とすることは、現状において不可能である。


5、今後に向けて
 任意後見人の代理権目録が一定の手続きを経て変更可能となることが望まれる。また任意後見監督人、家庭裁判所による監督を、本当に必要な方に必要な限度で行う、監督の方法を面談中心にして、事務(通帳を全部コピーして報告)などを簡易に(例えば写真に撮ってメールする、銀行が提供するアプリを利用する等)して親族の負担を減らさなければ、一部の横領と呼ばれることをやっている方のために、利用を考える人の拒絶反応が今後も強くなっていくのではないかと考える。

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任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式の注4及び第2号様式の注3
民法15条から19条まで、民法876条の6から876条の10まで。
最高裁判所事務総局家庭局平成28年の実情調査では、後見開始申立て26,836件に対して、補助開始申立ては1297件。
新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版「信託制度と成年後見制度の融合」P147~P153
渋谷陽一郎「民事信託と任意後見の交錯と協働」『信託フォーラムvol.9』P39~P45
山中眞人、山﨑芳乃「事例から考える民事信託と任意後見の併用」『信託フォーラムvol.9』P46~P53
遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P444~P451。

司法書士試験(案)民事信託・家族信託

 


参考

日本司法書士連合会財産管理業務対策部民事信託業務モデル策定ワーキングチーム『民事信託業務モデル「民事信託の実務―高齢者の財産管理―」』2017年3月

別紙1の登記がされている土地(以下「甲土地」という。)について、司法書士法務直子は、平成30年3月1日、甲野花子から後記【事実関係】〇から〇までの事実を聴取し、後記【事実関係】〇及び〇のとおり登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という)となる信託契約書の起案をしたほか、当該聴取に係る関係当事者全員から今回の登記の申請手続に必要な全ての書類を受領し、登記の申請手続について代理することの依頼を受けた。

 平成30年5月1日、司法書士法務花子は、依頼を受けた信託契約書を作成し、必要な登記の申請手続を行った。

【事実関係】

第1 Bの親族関係は図1の通りである。

第2 司法書士がBからの聴き取りを行った内容は次の通りである。

1、Aの妻は10年前に他界した。

2、Aは妻が他界した後、北海道に1人で暮らしていた。

3、3年程前から、Aの体力や気力に衰えがみられ、日常生活や財産管理を1人で行うことが難しくなってきた。

4、Aは、福岡県にあるB夫婦の家で一緒に暮らすことになった。

5、Aは当初、慣れない土地での生活に多少戸惑っていたが、転居して半年が経ち、現在は趣味のカラオケのレッスンに励むなど充実した生活を送っている。

第3 司法書士がAから聞き取りを行った内容は次の通りである。

1、妻が他界し、しばらくは1人暮らしをしていたが、足を悪くして遠出ができなくなった。また、一度財布を失くしてしまい財産管理に不安を覚えるようになった。

2、そんな時、福岡に住む子のB夫婦から申し出があり、同居してみることにした。

3、最初は慣れない土地で不安だったが、現在はここでの生活も慣れてB夫婦も何かと手助けしてくれるので頼りにしている。

4、1つ心配なのは、残してきた北海道の土地と建物である。自分が築いてきた土地建物には愛着があり、管理放棄地にはしたくない。親類で誰も使う者がいなければ、誰かに貸したり、売って利用して欲しい。

問1 A及びBに対して、司法書士としてどのような方法を提示することができますか。(1)方法と(2)その効果(3)他の方法との違いを挙げて下さい(複数回答可)。

問2 AとBが、Aを委託者兼当初受益者、Bを受託者とする民事信託を利用すると決定した場合、他に確認することはありますか。あればその理由と共に記載してください(複数回答可)。

問3 AとBの民事信託契約書を作成することになった場合、司法書士法上、留意する点は何でしょうか。あれば理由と共に記載してください(複数回答可)。

問4 AとBの民事信託契約について、不動産登記を依頼されました。司法書士として、信託目録に記録が必要だと考える事項をその理由と共に記載してください(複数回答可)。なおAとBは、必要な事項は記録することを希望している。

北山亭メンソーレ氏との家族信託講座、高座

 


2018年6月13日に、何とか協会という所で講座をさせていただきました。
ありがとうございます。
今回は初めて落語家の北山亭メンソーレさんと組んでみました。
どうなるんだろうと、自分で企画したくせに楽しみと少しの不安がありましたが。

やりやすい。私が説明すると「例えば、こういうことですか」「皆さん、○○だと○○です。」などの入り方がほぼ的確です。
事前にある程度の台本を渡して、こんな感じでいきましょうとはやり取りしましたが、読み合わせもなしで私も台本通り喋るわけではありません。
理解が速いというか例え、要約が上手いというか。

落語もやってもらいました。
ちなみに簡単なプロフィールを送ってください、とお願いしたら下のようなものを送ってくれました。

北山亭メンソーレ


プロフィール
うちな~噺家
北山亭メンソーレ
生年月日 1982年3月8日
出身地  沖縄県今帰仁村

大学在学中 落語に出会う 
2004年   上京
  立川志の輔師匠に師事
  立川メンソーレとして
  落語家デビュー
2010年 落語家を廃業し帰沖
北山亭メンソーレと名乗り自主公演や小中高校での学校公演
敬老会、懇親会などの各種イベントでの落語や司会、
ラジオのパーソナリティーとして活動
 
月一定期公演
  わが街の落語会   那覇市松尾 わが街の小劇場にて  
出演番組
  ラジオ沖縄
・「カラフル」             毎週水曜日9時半~
  ・「ROK皿回しアワー てるてるソーレ」  毎週土曜日13時半~

自己信託の受託者と、委託者兼当初受益者兼指図権者の違い

1、代理権を制限する方法

□1   本信託における受益者代理人は、次の各号に掲げる代理権を有しない。

□(1)本信託の変更権のうち、受益者代理人の代理権、□【信託の目的、残余財産の帰属権利者、信託の変更方法】を変更する権利。

□(2)別紙信託財産目録□【1・2・3】を売却に関する同意権。

 

 

2、代理権を限定する方法

□2   本信託における受益者代理人は、次の各号に掲げる代理権のみを有する。

□(1)受益者が受ける□【医療、入院、介護その他の福祉サービス利用に必要な

費用の給付・生活費の給付・教育資金】を受託者へ請求する権利。

□(2)別紙信託財産目録□【1・2・3】を売却する権利。

□(3)本信託の終了に関する合意権。

□(4)信託法92条1項各号の権利。

 

 

 

 

 

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チェック方式の民事信託契約書の評価

(一社)家族信託普及協会代表理事で司法書士の宮田浩志先生にチェック方式の民事信託契約書を基にした契約書(案)の評価を頂きました。

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ご参考までに本契約書の出典元はどこでしょうか?
商事信託をベースにしているようですが・・・。


補足:前文の「・・・を理由として」にかかる部分
委託者の高齢による物忘れが目立ち始めたこと、受託者の財産管理を事実に合わせることを理由として信託を利用する。
◆前文:
「・・・を理由として」という表現がしっくりきませんが・・・。

補足:受託者が個人である件で、受託者の任務終了事由に「(4)受託者が法人の場合、合併による場合を除いて解散したとき。」の条項について
◆第3条第2項第4号:
受託者を法人にしないのであれば、この条項は要らないでしょう。

補足:(受託者)第3条第2項第5号 受託者の任務は、次の場合に終了する。(6)受益者と各受託者が合意したとき。
◆第3条第2項第5号:
「受益者と各受託者が合意したとき」
の「各」は要りますか?


補足:(受託者)第3条第2項第6号 受託者の任務は、次の場合に終了する。
(6)受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更
したときを除く。
◆第3条第2項第6号「受託者が唯一の受益者となったとき」に受託者の任務が終了してしまいますので、1年以内に状態の変更をする余地はなくなります。


補足:「・・・権利義務について同意することができる。」の本文。第二次以降の受益者に関する条項。「4 受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意することができる。」
◆第4条第4項:
「・・・権利義務について同意することができる。」とは、どのようなことを想定しておりますか?

補足:「1年以内」の本文。第二次以降の受益者に関する条項。「6 受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。」
◆第4条第6項:
「1年以内」とありますが、受益権の放棄は遡及効がありますので、もっと検討期間は短い方がいい気がしますが・・・。

補足:第4条第7項「7【委託者】は、【受託者】が受益権を取得することを承認する。」
◆第4条第7項:
本項は必要ないと考えます。

補足:第5条第1項〜4項「第5条(受益権)1次のものは、元本とする。
(1)信託不動産。(2)信託金銭。(3)上記各号に準ずる資産。
2 次のものは、収益とする。
(1)信託元本から発生した利益。
3 元本又は収益のいずれか不明なものは,受託者がこれを判断する。
4 受益者は、信託財産から経済的利益を受けることができる。」
◆第5条第1項〜4項:
必要ないと考えます。

補足:第6条2項(受益者代理人など)
2 受益者代理人および信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務に
抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。
◆第6条2項:
本条第2項は、どのような趣旨でしょうか?

補足:第7条2項(委託者の地位)2 委託者が遺言によって受益者指定権を行使した場合、受託者がそのことを知らずに信託事務を行ったときは、新たに指定された受益者に対して責任を負わない。
◆第7条第2項:
不要でしょう。

補足:第8条1項「1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の移転登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
(3)信託目的の達成のために必要があるときは、受益者の承諾を得て金銭を借入れることができる。
(4) 受託者は、受益者の承諾を得て信託財産に(根)抵当権、質権その他の担保権、用益権を(追加)設定し、登記申請を行うことができる。
(5) 受託者がその裁量により行う次の事務
  ア 損害保険の契約締結又は付保
  イ リフォーム契約
  ウ 第3者への委託
  エ 境界の確定、分筆、合筆
  オ その他の管理、運用、換価(売却)、解体などの処分」
◆第8条第1項:
賃貸権限は盛り込みませんか?
「・・・ができる」という表現と体言止めの条項が混在しているので統一感が無いように感じます。

補足;第10条(受託者)
1 受託者は、次の者とする。
住所 氏名 生年月日 委託者との関係 
2 受託者の任務が終了した場合、後任の受託者は、次の者とする。
住所 氏名 生年月日 委託者との関係 
◆第10条:
受託者の任務終了事由は、敢えて盛り込みませんか?

補足:(信託の期間)第15条 本信託の期間は、本信託契約をした日から本信託が終了した日までとする。
◆第15条:
当たり前ですので、置かなくても良いでしょう。


◆第20条:
「●●が死んだとき」に信託が終了するとありますが、
信託終了時の受益者に帰属させる規定だけで整合性が取れますか?

補足:第21条2項(受益者の代理人等)
第21条
2 受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任して   いる場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。
 ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く。
(1)受託者の辞任申し出に対する同意権。
(2)受託者の任務終了に関する合意権。
(3)後任受託者の指定権。
(4)受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同   意を求める権利。
(5)受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。
(6)受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾    権。
(7)受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)設定する際の承諾権。
(8)本信託の変更に関する合意権。
(9)残余財産の帰属権利者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権
(10)本信託の終了に関する合意権。
3 信託監督人が就任している場合、受益者の意思表示に当たっては事前に信託監督人との協議を要する。
◆第21条第2項:
これはどこの出典ですか?
この条項を入れても、本当に必要な事態になれば、後見人は信託に関わることは理論上できると思いますが。この条項で排除できるという解釈が成り立ちますか?



もっと全体をきちんと精査してからリーガルチェックのお申込みをして下さい。
まだチェックをする段階にない契約書レベルです。
また、余分な条項が散見されます。
各条項を置く意味をきちんとお客様や専門職に説明できるようにして下さい。
置く意味の説明ができないものは、置く必要が無いことも多いでしょう。
もっと設計や契約書は、シンプルに分かりやすくできると思います。

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というような評価でした。0点ですね。
商事信託の契約書を見せていただければ、確かに似ているな、いや違う、と判断できるのですが。

第3条第2項第6号の指摘については誤りです。受託者が唯一の受益者となったときに受託者の任務が終了という法令の規定はありません。設定時(信託法2条2項かっこ書き)や信託法163条1項2号と混合しているのでしょうか。
それとも後任受託者に代わるからでしょうか。受益者を複数にすることも可能なのでこの想定をすることも出来ません。

第20条については改善の余地があると私も思っているのですが、少し考えてみます。

他は根拠が示されていないこと、建設的でない反論に関しては、議論しないようにしていることを理由としてそのままにしておきます。

出典はどこかにあれば教えていただきたいと思います。

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