琉球新報かふうVoil.611 よくわかる不動産相続Q&AFile.5

 

1、相談者は会社を定年退職して、10年。
2、妻は他界し、長男の一郎家族と一緒に暮らしている。
3、子は、一郎の他に、次男の次郎、三男の三郎がいる。
4、財産は、住宅ローン完済済みの自宅である土地、建物(時価3000万円)
と1500万円の預金
5、相談者の意思は、長男の一郎にはトートーメと仏壇を継いでもらうために自宅をあげようと考えている。
6、次郎は三郎が、何か言ってくることはないと思うのですが、円満に一郎に自宅を譲るにはどのようにしたらいいか。

何もしなかった場合
一郎、次郎、三郎の3人が相続人。
相続分は3分の1ずつ。
一郎が自宅を取得するには、預金を含めて遺産分割協議が必要。
遺産分割協議がまとまらない場合は、自宅は共有の可能性。または、少しお金を払って納得してもらう。
仏壇は?


公正証書遺言を作る前に
(1)実際に遺言書を作成する人は多いか
縁起が悪い、子供たちがちゃんとやってくれる、実際に作ったとしても他の人には言わない、などがありあまり多くもなく、広まりにくいのではないかと思います。
(2)遺言書を作成するタイミング
 作れる時、作りたい時、だと考えます。自筆証書遺言でも良いと思います。変更、撤回可能ですし、認知症などになると作成することが出来なくなります。

公正証書遺言を作成した場合
自宅は一郎に
預金は次郎と三郎で均等に

家族信託・民事信託を利用した場合
信託する財産 自宅、預金、仏壇
受託者 一郎
受益者 相談者
次の受益者 自宅と仏壇に関しては一郎、残った預金は次郎と三郎に均等に

公正証書遺言と違うところ
仏壇を継ぐ人を法的に決めることができる。
自宅のリフォームが必要になった場合、相談者が認知症などであっても、一郎が契約することができる。

アパートの所有権と、その賃貸人たる地位を分離して相続

子ども2人の夫婦で、夫が亡くなり将来は子ども2人へ適切に引き継いでもらいたい、配偶者が元気なうちは、生活に必要な分を確保したい、というような事例です。

アパートに関して、アパートの所有権と、賃貸人の地位を分離して相続することを検討しても良い、二次相続を考慮すると節税にもつながると思われます、というような考えがあって、初めて知りました。たしかに不動産の所有権と、賃貸借契約の賃貸人の地位は別に考えることができます。

この場合、固定資産税などの支払いは所有者である子ども(2人か1人)が行い、修繕、賃料の受取り、ローン返済を配偶者が行うことになるのかなと思いました。
配偶者が亡くなったときは、賃貸人の地位とローンが残っている場合は、債務者の地位を子どもが話し合いで決める、ということになるのでしょうか。


家族信託をもし使うのであれば、配偶者が亡くなった場合でも相続税がかからないように(この場合だと約4200万円)遺産分割協議をします。

その後、子の1人を受託者にして、配偶者を委託者&最初の受益者にする信託契約を締結します。信託する財産には自宅も含めることができます。残っているローンは、信託することができません。
子2人がアパートの共有持ち分を持っている場合は、それを信託するかはケースによります。
配偶者の生活費は、アパートの持分に応じた賃料から、金融機関から連帯債務が認められれば、持分に応じた債務返済分と修繕引当金を差し引いた額を充てます。
配偶者が亡くなった場合は、子2人で残った財産と債務を分けます。分けたあと、信託を終了するということができます。


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参考
かふうVol.604
「よくわかる不動産相続Q&A」

家族信託の融資について、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任した場合、受益者にも債務履行を請求できるのか。

(1)信託行為後の融資

(2)受託者は信託財産のためにする意思で融資を受けた

(3)融資は受託者の権限内の行為

(4)融資された金銭は信託財産責任負担債務となる

(5)信託口口座へ入金がされている

(6)限定責任信託ではなく、責任財産限定特約もされていない

(7)受益者は連帯債務者、連帯保証人、担保設定者ではない

(1)から(6)の事実を前提とします。

1、受託者(債務者)が死亡した場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者には移らないと考えることができます。後継受託者は、自らが債務者となって債務を負ったわけではないからです。

2、債務は死亡した受託者の相続人に及びます(信託法76条、民法896条)。

3、債権者は、死亡した受託者の相続人に対して債務の履行を請求することができます。

4、また相続人が債権者に対して債務の履行を行った場合、新受託者や信託財産法人管理人に償還を請求することができます(信託法75条6項)。

・ただし、受益債権など、信託財産に属する財産のみを持って履行する責任を負う債務については、前受託者は履行責任を負いません。

5、したがって、受益者が亡くなった受託者の相続人でない限り、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任したという理由において、債権者は受益者に対して債務の履行を請求することはできないと考えます。

受益権の譲渡を他の人にも証明するには

1、受益権の譲渡と制限

受益権は、原則としてあげたり売ったりと譲渡することができます(信託法93条)。

例外は、

(1)受益権の性質が譲渡を許さないとき

(2)信託行為に譲渡制限の定めがあるとき

です。

(1)の例として、特別障害者扶養信託が設定されているときが挙げられます[1]。守りたい受益者として、「この人!」と決まっているので、これを譲渡することは出来ません。

(2)の例として、「受益権を譲渡することはできない。」などの定めが信託契約書に記載されているとき。なお、定めがあるのに譲渡した場合、譲り受けた人をどこまで保護するかに関して、今後少し改正があります。

【現行】

(受益権の譲渡性)

第九十三条 受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定は、信託行為に別段の定めがあるときは、適用しない。ただし、その定めは、善意の第三者に対抗することができない。

【改正後】

(受益権の譲渡性)

第九十三条   受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定にかかわらず、受益権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の信託行為の定め(以下この項において「譲渡制限の定め」という。)は、その譲渡制限の定めがされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。

【解説】

2項は、1項全体の例外規定へ。

2、受益権の譲渡を他の人にも証明するには

(1)受益者が受託者に通知書を送る、渡す

(2)受益者が受託者の承諾書を得る

(1)、(2)のいずれかを文書にして、確定日付を公証人役場でもらわなければなりません。

方法の例として、通知書を送るなら、通知書を作って内容証明郵便にして送る。

 承諾書を得るなら、承諾書を作って受託者に住所と名前を書いて印鑑を押してもらい、確定日付をもらいにいく。

3、登記との関係

受益権が譲渡されて受益者が変わり、信託目録に受益者の住所と氏名が登記されている場合、変更登記が必要となります(不動産登記法97条、103条)。

 1、2、で示した通り、受益権の売買と同時に買主へ融資が行われる場合、受託者への通知書や承諾書で決済ができるはずです。しかしそれに加えて登記を必要とする場合も多いようです。

その理由としては、取引関係者は、受益権の売買と買主への融資は、所有権の売買と買主への融資と実質的に同じと考える。取引関係者は、信託登記を完了することで、1、2、をはじめ信託の実体まで含めて有効な取引が成立したと考える、などが挙げられます。

4、会社の株式譲渡との比較

(1)「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない[2]」という譲渡制限の定めがある場合

(1)の定めがある場合に、承認を受けないで譲渡した場合の効果はどうなるのでしょうか。

譲渡そのものは有効であるが、会社が承認するかは会社の自由であり、承認する場合は、譲受人を株主として扱い株主名簿の書き換えを行わなければならないと考えます。譲渡を承認しない場合は、今まで通り譲渡人を株主として扱うか、会社が株式を買い取る(会社法140条)ことになると考えます。

譲受人が譲渡制限を過失なく知らなかった場合でも保護されないという面では、会社法の方が譲受人にとっては厳しい処置を採って、その分株式の買取りで対応するという規律になっています。

【条項例】

(受益権の譲渡等)

第○条 受益者は、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることはできない。

・金融機関が受益者の場合など

(受益権の譲渡等)

 受益者は、受託者に事前に通知を行い、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができる。

・受益権の内容に含める例

(受益権)

第○条

1~4略

5 受益者が、受益権を譲渡、質入れ、分割及び担保設定その他の処分をする場合、受託者の事前承諾を必要とする。


[1] 新井誠監修『コンメンタール信託法』P300

[2] 法務省HP 2017年6月22日閲覧

家族信託・民事信託の不動産取得税

・非課税の場合

1、信託設定のとき、委託者から受託者へ所有権移転(新築建物は、受託者に課税されますが、住むための建物の場合は軽減、控除、免税点措置などがあります。)した場合の受託者(地方税法第73条の7、3号)

2、信託継続中に受託者が変更になった場合の新受託者(地方税法第73条の7、5号)

3、受益権を譲渡した場合の譲受人

3、の受益権を譲渡した場合は、なぜ不動産取得税がかからないのでしょうか。不動産取得税は、不動産の所有権が流通した場合にかかる税です。受益権を譲渡したことで、実質的には流通していると考えることもできるように思えます。

私見ですが、不動産取得税の考え方は、

(1)受益権を譲渡した際には、受益権という地位の移転があったものとして、不動産取得税の対象から外れる。

(2)ただし、譲受人が受託者と合意して信託を終了させたときは、不動産の所有権が流通したものとして課税する。

(3)例外として、ア、信託終了時に受託者が、委託者に所有権を移転する場合、イ、委託者が死亡することによって信託が終了し、受託者がその相続人に所有権を移転する場合は、形式的な所有権の移転なので非課税(地方税法第73条の7、4号)

・受託者が他の人から土地を購入した場合の受託者

→課税

・受託者が建物を新築した場合の受託者

→課税

・委託者が信託契約をする前に、所有者として土地を購入した場合や建物を新築した場合も同じように所有者に課税されるので、変わらないと考えて良いと思います。納税も信託財産から行い、その信託財産は委託者の財産から出したものです。軽減、控除、免税点措置なども受託者が利用することができます。

なお、詳細はお近くの税理士へご相談ください。

地方税法

(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)

第73条の7 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。

1 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得

2号(略)

3 委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得(当該信託財産の移転が第73条の2第2項本文の規定に該当する場合における不動産の取得を除く。)

4 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託により受託者から当該受益者(次のいずれかに該当する者に限る。)に信託財産を移す場合における不動産の取得

イ 当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者

ロ 当該信託の効力が生じた時における委託者から第1号に規定する相続をした者

ハ、ニ(略)

5 信託の受託者の変更があつた場合における新たな受託者による不動産の取得

(不動産取得税の納税義務者等)

第73条の2 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する。

2  家屋が新築された場合においては、当該家屋について最初の使用又は譲渡(独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社又は家屋を新築して譲渡することを業とする者で政令で定めるものが注文者である家屋の新築に係る請負契約に基づく当該注文者に対する請負人からの譲渡が当該家屋の新築後最初に行われた場合は、当該譲渡の後最初に行われた使用又は譲渡。以下この項において同じ。)が行われた日において家屋の取得がなされたものとみなし、当該家屋の所有者又は譲受人を取得者とみなして、これに対して不動産取得税を課する。

但し書き、3項以下(略)

信託業法の「営業」

営業って何でしょう。営業に当たるか当たらないかによって、家族信託・民事信託における、受託者資格が決まります。

考え方1[1]

1、営利の目的を持って

2、一定の計画に従い反復継続すること

3、対公衆性すなわち不特定多数の者を相手方とすること

このうち、1つでも欠けている場合は、信託業法の許可を得ないで済む、個人間で信託行為をして問題ない。利益を上げる目的でない場合や、特定多数の委託者、不特定少数の委託者の場合など。

多数、少数ってどのくらいでしょうか。多数は特定されていれば1000名でも良いのでしょうか。委託者が1人でも誰だか分からないと、受託者は不安で信託を引き受けるのは怖いと考えるのではないでしょうか。

考え方2

受託者が、反復継続して信託の引き受けを行う意思をもっている場合、営利の目的を持っていなくても「営業」にあたり、信託業法の許可が必要になる[2]

なぜ許可が必要なのでしょうか。反復継続して信託の引き受けを行う業者と顧客との間に情報量や交渉力の格差が生じうること、受託者が預かった信託財産を自己名義で管理運用するという大きな権限を有することから受託者の義務を加重する必要がある等の理由があるようです[3]

 情報量や交渉力の格差が生じると信用できるということにはならないのか、と少し疑問です。大きな権限を持つから義務も加重する必要がある、というのは納得できます。

自己信託

自己信託については、これを「営業」として行ったとしても、信託業に該当することはなく、信託会社としての免許・登録は不要[4]であるが、多数(50名上)の者が受益権を取得できる場合には、自己信託会社としての登録が必要となる(信託業法50の2条、信託業法施行令15条の2)。

 なぜ、40名ぐらいだと可能なのでしょうか。権限が大きくなるからでしょうか。

よく分からないことが分かった、というくらいしか言えませんが、受託者をみて無理そうだなと思ったら信託銀行にお願いしたり、途中から変更したりすることが必要だと考えます。

食堂入り口のドアに「営業中」の札が下がっていれば、営業していることが分かります。

「営業終了」の札が下がっていると、今日の営業は終了したことと、明日は定休日でない限り営業するということが分かります。

「都合により休業中」の札が下がっていると、今は休業していることと、今後、都合が許せば営業するということが分かります。

「○月○日をもって閉店」などの札が下がっていると、閉店して営業をしないということが分かります。

食堂を持ち出すのは安易かもしれません。しかし、受託者の主観は相手から見えない以上、客観的な基準が必要だと考えます。

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信託業法第2条第1項

(定義)

第二条  この法律において「信託業」とは、信託の引受け(他の取引に係る費用に充てるべき金銭の預託を受けるものその他他の取引に付随して行われるものであって、その内容等を勘案し、委託者及び受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)を行う営業をいう。

商法第502条第13号

(営業的商行為)

第五百二条  次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為は、この限りでない。

十三  信託の引受け


[1]弁護士山中眞人『信託フォーラムvol.6』P92

[2]小出卓也『逐条解説 信託業法』 2008 (株)清文社P17

[3]小出卓也『逐条解説 信託業法』 2008 (株)清文社P17

[4] 平成19年信託業法パブリックコメント「その他」

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