家族信託で信託登記は義務か。

 家族信託・民事信託をするとき、不動産(農地を除きます。)がある場合は、登記が義務でしょうか。

信託契約を結び、委託者と受託者が所有権移転登記の申請をします。同時に受託者が1人で信託登記を申請するとします。

 登記の効果は、

1、所有権の名義は受託者になっているけれど、これは信託財産ですよと他の人に証明できること

2、登記をすることによって信託財産の独立性を保ち、信託を機能させること

3、登記をみると分別して管理がされていることが公表されており、受託者、受益者に自覚を持ってもらうことです(信託法14条、34条)。

 受託者として信託登記をすることは、法律で義務とされています所有権移転登記は義務でしょうか。信託法に義務とは書かれていません。

信託設定の流れからみると、委託者から所有権が移転して信託財産になる、という一連の流れ、または所有権の移転と同時に信託財産になる、と行為は1つだという感覚があります。

登記が「所有権信託登記」のように1つに出来れば良いのでしょうが、それが現在の技術上出来ないので、所有権移転の登記+信託の登記の2つになっているのだと考えます(不動産登記法98条)。

現に自己信託だと登記は1つで足ります。

以上から、信託の登記が義務付けられているので、その前提となる所有権移転登記も義務だと考えることができます。

義務だとしてもいつまでに、という期限はあるのでしょうか。法律に期限は書いてありません。例えば登記に必要な登録免許税が用意できないので、登録免許税が貯まってから登記する、ということは出来るでしょうか。

信託される金銭が登録免許税よりも多い場合には、登記の留保を認めることは難しいのではないかと考えられます。

そして信託される金銭が登録免許税よりも少ない場合の他、一般的にも登記の留保を認めるのは難しいのではないかと考えます。信託財産が独立していてこそ信託といえるからです。不動産については、登録免許税がもったいなければ、立て看板などで信託不動産です、と分けることも認められると良いのですが、現在のところ不動産については登記をしろ、となっています。

また、あえて信託登記をしないで、それぞれの不動産について、売却等の必要が生じたタイミングで所有権移転の登記+信託の登記をして、あるいは信託契約を合意解除して信託の登記を経ずに売却する[1]という考えはどうでしょうか。委託者であり最初の受益者の人が、認知症になったら登記をして受託者が売却する、というような信託です。

そうであれば、信託契約の中で、売却等の必要が生じたタイミングで信託自体の効力を発生させることにすれば良いと考えます。

また認知症になったら、などの停止条件を付けると法人税課税になるので、売却の日程まで決まってから始期付きの信託契約を締結する、という方法もあると考えます。


[1] 宮田浩志『家族信託まるわかり読本』2017近代セールス社 P128~

成年被後見人等になると、借入行為などができないのか

 

成年被後見人等になると、借入行為、借入れの更新・契約変更等ができないのでしょうか。
民事信託・家族信託をする理由として、挙げられることが多いようです 。

私が書くのであれば、成年後見開始の審判が下りると、原則として借入行為などは家庭裁判所の承認が必要です、となります。
また、居住用不動産に関しては家庭裁判所の許可、親族が関わっていると特別代理人の選任申立が必要となり、時間と手間がかかります。

また、成年後見制度の実務は遺言をないがしろにし、本来の制度理念からかけ離れた使い方が始まっているとの指摘もあります 。
 しかし、法定の成年後見人が就任して、遺言を見つけた、見つけられる状態にあったのに、それを無視して遺言と異なる事務行為をしたのが何件あったのか、については記載がありません。
 本来の制度理念からかけ離れた使い方が始まっているということに関しても、それは何件ほどあるのか、いつ頃から始まっているのか、許容範囲か、許容できないとすればどの程度か、後見制度支援信託の導入以外に何か対応はしたのか、その結果で改善は出来たのか、さらに別の方法で改善が必要なのか、ということには触れられていません。
 家族信託・民事信託でも同じですが、どの制度でも完璧はありません。どの程度のリスクを考えて運用していくことかを考えるのが専門家だと思います。そして与えられている条件を使って、失敗しながらも致命傷となる失敗を避けるべく実務をこなしていくのが実務家だと考えます。

そして私が違和感を覚えるのは、著者が成年後見人に1度でも就任したことがないのではないかということです。それでかわいそうなくらい頑張っている人もいるのに(私の近くにいます。)、一括りにして上から目線で批判するのがどうなものだろうと思ってしまいます。

検察、公証人出身の弁護士ということで、司法書士などから信頼が厚いのではないかと思いますが、肩書に関係なく1年半の間に3冊も同じ題名の本を出版したり、遺言信託が信託の本質だと言っていたのが、2~3年で信託契約が本当の信託だと言ったりころころ変わるなというのが印象です。

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琉球新報かふうVoil.611 よくわかる不動産相続Q&AFile.5

 

1、相談者は会社を定年退職して、10年。
2、妻は他界し、長男の一郎家族と一緒に暮らしている。
3、子は、一郎の他に、次男の次郎、三男の三郎がいる。
4、財産は、住宅ローン完済済みの自宅である土地、建物(時価3000万円)
と1500万円の預金
5、相談者の意思は、長男の一郎にはトートーメと仏壇を継いでもらうために自宅をあげようと考えている。
6、次郎は三郎が、何か言ってくることはないと思うのですが、円満に一郎に自宅を譲るにはどのようにしたらいいか。

何もしなかった場合
一郎、次郎、三郎の3人が相続人。
相続分は3分の1ずつ。
一郎が自宅を取得するには、預金を含めて遺産分割協議が必要。
遺産分割協議がまとまらない場合は、自宅は共有の可能性。または、少しお金を払って納得してもらう。
仏壇は?


公正証書遺言を作る前に
(1)実際に遺言書を作成する人は多いか
縁起が悪い、子供たちがちゃんとやってくれる、実際に作ったとしても他の人には言わない、などがありあまり多くもなく、広まりにくいのではないかと思います。
(2)遺言書を作成するタイミング
 作れる時、作りたい時、だと考えます。自筆証書遺言でも良いと思います。変更、撤回可能ですし、認知症などになると作成することが出来なくなります。

公正証書遺言を作成した場合
自宅は一郎に
預金は次郎と三郎で均等に

家族信託・民事信託を利用した場合
信託する財産 自宅、預金、仏壇
受託者 一郎
受益者 相談者
次の受益者 自宅と仏壇に関しては一郎、残った預金は次郎と三郎に均等に

公正証書遺言と違うところ
仏壇を継ぐ人を法的に決めることができる。
自宅のリフォームが必要になった場合、相談者が認知症などであっても、一郎が契約することができる。

アパートの所有権と、その賃貸人たる地位を分離して相続

子ども2人の夫婦で、夫が亡くなり将来は子ども2人へ適切に引き継いでもらいたい、配偶者が元気なうちは、生活に必要な分を確保したい、というような事例です。

アパートに関して、アパートの所有権と、賃貸人の地位を分離して相続することを検討しても良い、二次相続を考慮すると節税にもつながると思われます、というような考えがあって、初めて知りました。たしかに不動産の所有権と、賃貸借契約の賃貸人の地位は別に考えることができます。

この場合、固定資産税などの支払いは所有者である子ども(2人か1人)が行い、修繕、賃料の受取り、ローン返済を配偶者が行うことになるのかなと思いました。
配偶者が亡くなったときは、賃貸人の地位とローンが残っている場合は、債務者の地位を子どもが話し合いで決める、ということになるのでしょうか。


家族信託をもし使うのであれば、配偶者が亡くなった場合でも相続税がかからないように(この場合だと約4200万円)遺産分割協議をします。

その後、子の1人を受託者にして、配偶者を委託者&最初の受益者にする信託契約を締結します。信託する財産には自宅も含めることができます。残っているローンは、信託することができません。
子2人がアパートの共有持ち分を持っている場合は、それを信託するかはケースによります。
配偶者の生活費は、アパートの持分に応じた賃料から、金融機関から連帯債務が認められれば、持分に応じた債務返済分と修繕引当金を差し引いた額を充てます。
配偶者が亡くなった場合は、子2人で残った財産と債務を分けます。分けたあと、信託を終了するということができます。


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参考
かふうVol.604
「よくわかる不動産相続Q&A」

家族信託の融資について、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任した場合、受益者にも債務履行を請求できるのか。

(1)信託行為後の融資

(2)受託者は信託財産のためにする意思で融資を受けた

(3)融資は受託者の権限内の行為

(4)融資された金銭は信託財産責任負担債務となる

(5)信託口口座へ入金がされている

(6)限定責任信託ではなく、責任財産限定特約もされていない

(7)受益者は連帯債務者、連帯保証人、担保設定者ではない

(1)から(6)の事実を前提とします。

1、受託者(債務者)が死亡した場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者には移らないと考えることができます。後継受託者は、自らが債務者となって債務を負ったわけではないからです。

2、債務は死亡した受託者の相続人に及びます(信託法76条、民法896条)。

3、債権者は、死亡した受託者の相続人に対して債務の履行を請求することができます。

4、また相続人が債権者に対して債務の履行を行った場合、新受託者や信託財産法人管理人に償還を請求することができます(信託法75条6項)。

・ただし、受益債権など、信託財産に属する財産のみを持って履行する責任を負う債務については、前受託者は履行責任を負いません。

5、したがって、受益者が亡くなった受託者の相続人でない限り、受託者(債務者)が亡くなって新受託者が就任したという理由において、債権者は受益者に対して債務の履行を請求することはできないと考えます。

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