オーナーの認知症に備えた委任状(管理業務委任状)

自分なら利用するかといえばしませんが、こういう認知症への備えもあるようです。

対象

賃貸物件の所有者とその家族

利用する場面

所有者が認知症になる前に、なった後のことを家族などに委任しておく

特徴

1、後見開始の審判を受けた場合であっても、自動的に代理権は消滅しない。

2、委任できる事項が多い

(1)賃貸借契約(サブリース業者との間のサブリース原賃貸借契約を含む)の締結

(2)転貸の承諾

(3)賃料その他の契約条件の変更

(4)賃貸借契約の解除

(5)賃貸物件の修繕工事

(6)賃貸物件の原状回復工事に関する請負契約の締結

(7)その他これに付随する一切の行為

3、賃貸住宅管理業者との管理業務委託契約は解除することができない。

4、成年後見制度(おそらく任意後見を含みます)を利用することができるまでの間に使用するためのもの

参考:

(公財)日本賃貸住宅管理協会HP(2017年5月11日閲覧)

 サブリース業者との契約解除も可能か?

(公財)日本賃貸住宅管理協会のQ&AのQ4では、サブリース業者との契約解除も可能と記載されています。(2021年6月17日閲覧)

https://www.jpm.jp/proxy_form/Q&A.pdf

 私の依頼者には、確実に可能とは答えられません。委任状は、民法上の委任契約ですが簡単に作ることが出来る一方、作成時期や内容を証明するのに手間がかかる場合があるからです。作成時期や内容を証明しないといけない場合(訴訟等)、委任者は認知症などに罹患していることが想定されています。

 賃貸住宅管理業者との管理業務委託契約は解除することができない、とあるが、サブリース業者の場合は契約解除は可能か?

(公財)日本賃貸住宅管理協会の解説では、「賃貸住宅管理業者との管理業務委託契約は解除することが出来ない」との記載はないので、解除することが可能と読めます。

https://www.jpm.jp/proxy_form/Q&A.pdf

 現在、親が所有している土地について、サブリース業者との賃貸借契約解除に向けて話合い中です。父から交渉を任されているのですが、裁判になった場合に備えて委任状を作成しようと考えています。

 私なら、任意後見契約を薦めると思います。理由は、任意後見契約に関する法律に基づくので東京法務局が発行する登記事項証明書により代理権の証明が容易だからです。サブリース業者との交渉や弁護士への委任も、登記事項証明書に基づき行うことが出来ます。

受益権をいくつに分けるか

自益権・・・信託財産から経済的利益を受けることを目的とする権利。

共益権・・・信託の運営に参加し、信託事務の監督・是正をすることを目的と

する権利。

処分権・・・受益権を他の人に譲渡することができる権利。

参考

信託法2条、

信託法38条、44条、111条など

信託法93条、103条

『法律学小事典』(株)有斐閣

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株式会社の株式の場合は、自益権(剰余金の配当を受ける権利など)、共益権(議決権など)、処分権(譲渡する権利)があります。

似ているようですが、処分権について、株式の場合は譲渡の「制限」ができるのみです。受益権の場合は、譲渡を禁止することができます。

これは、株主は株式の所有者であるのに対して、受益者は受益債権という債権者であることからきていると考えることができます。受託者に対して、確実に受益するための共益権もまとめて受益権というため、一種の地位の譲渡と考えることができるかもしれません。でも、受益者って信託行為の当事者にはならないのに。譲渡が禁止された受益権は要らないっていう場合は、最初に受益権を放棄しないといけないですね。

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参考

民法125条、178条、272条、314条、466条、612条、625条)

信託法93条、99条

会社法105条、107条

金子登志雄『事例で学ぶ会社法実務―設立から再編まで―』東京司法書士協同組合

2017年5月14日琉球新報 (株)沖縄銀行若松支店 金城寧支店長

けいざい風水「注目される「家族信託」」について

読者に分かりやすく説明することが目的であれば良いと思うのですが、使われている言葉が誤解を与えるのではないかと思い、指摘させていただきます。

「預かる」という言葉を使ってしまうと、法律上寄託(民法657~)となるのではないでしょうか。預金が消費寄託であるように、馴染みがある言葉で良いのかもしれませんが、所有権が移転するという点や受託者の責任などにおいて、「預ける」と「信託する」では違ってくるので、安易に使ってしまうと銀行預金と同じような感覚で信託を利用する方が出てくるのではないでしょうか。

※で、所有権は受託者に移転することが明記されていますので、これが税務上の説明のためだけでなければ良いと思います。

 「例えば」で、子が「受益者」となっていますが、「父親の次の受益者」または「父親とともに受益者」ではないでしょうか。分かりやすいように省いているのであれば良いと思うのですが、「例えば」の通りにやると、信託行為時に子が受益権にお金を払わない限り、贈与税がかかります(相続税法9条の2)ので、実際に利用する方はあまりいらっしゃらないのではないかと思います。

「原則として財産処分などができず」は、「原則として財産処分には、本人のためになることを示して、家庭裁判所の許可を得ることが必要」または「原則として相続人のための財産処分はできず」ではないでしょうか。

「家族信託は本人の判断能力がある状態でも」は、「家族信託は本人の判断能力があるときのみ」ではないでしょうか。

3月末時点で(株)沖縄銀行では信託口口座が開設できないのですが、今は開設

することが出来るから記事にも記載しているのでしょうか。

相続の相談を受けている人への意見をいう前に

―事例検討について―

相続に関係のある異業種(士業、保険、不動産関係の方など)と事例検討会に参加しました。

自身が相談を受けている相続の事案について紹介し、他の方が意見を言う、というような進め方です。自分の意見を言う前提として事実関係を確認しながら進めていきます。

ここで意見の言い方にそれぞれ人によって違いが出てきます。「私だったら~」派、「○○すべき。なぜなら○○」派、「○○した方が良いですよ。」派など。

 私もそうならないように気を付けているのですが、2番目、3番目は言わないようにしています。

専門家などが、「○○すべき。なぜなら○○」と言った瞬間、他の人が何も言えなくなってしまうことがあります。これではそこから先がありません。それに相続の相談をしている人と一度も会っていない、話していないのに、そこまで自信のある言い方は無理があると考えてしまいます。

「○○した方が良いですよ。」と言われても、それをするかどうかは実際に相談を受けている方なので、「○○する方法があります。」くらいにしておかないと、この人責任取れるのかなと思ってしまいます。

こういうのがあるので事例検討やディスカッション、議論などは、「言うべからず集」でも作ってからやった方が効率いいのじゃないかと思っています。

それか、「議論」に対する考えに共通認識がある人同士だと、考え方が違っていても前に進んでいきます。

信託したアパートの賃料

1、賃貸不動産であるアパートを信託しました。委託者兼受益者はA、受託者はAの子です。

2、所有権移転及び信託の登記を済ませました。なお、信託目録の信託財産の管理方法として、「賃料の受取および回収」の記載があります。

3、アパート家賃の振り込み先口座となる信託口口座も開設しました。

4、AとAの子は、アパートの住人に対して、「所有者」がAからAの子に変わったので、今後はこの口座への振り込みをお願いします、と信託口口座が記載された書類を渡して一戸一戸挨拶をして回りました。

5、アパートの住民は、所有者が変わったのだと理解して賃料を信託口口座へ振り込みました。

・この場合、振り込まれた賃料は、信託財産になるのでしょうか。

原則として、信託財産であるアパートの住人から振り込まれた賃料は、信託財産となります。

AとAの子がアパートの住民に対して、信託財産であるアパートの賃料を、信託口口座へ振り込みをお願いする行為は、信託のためにする意思があると推定されます。

Aも一緒に挨拶に回っていることから、信託目的に反することはなく、Aの子の権限の範囲内と推定されます。

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ベストプラクティス

4、の説明で所有者が変わったとの説明は、間違いではないと考えますが、誤解を招く可能性もあるかもしれません。賃貸人が変わったと説明し、登記記録のコピーも一緒に渡す方法もあるのではないでしょうか。

渡す時には、所有権移転にマーカーをひき、登記の際、信託目録には受託者の権限として賃料の受取りを明記して、そこにもマーカーをひくと良いのではないかと考えます。

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アパートの賃料は、当然に信託財産になるのか。

賃料は、信託財産であるアパートの管理により得た財産であるため、当然に信託財産になると考えます(信託法21条1項3号)。

受託者から受益者へ賃料の給付を行い、受益者の手元、口座にお金が入ったとき、このお金のことを難しい言葉にすると、何と呼べばいいでしょうか。条文の言葉を借りれば、「受益権を有する受益者が受託者から信託財産に係る給付として受けた金銭」

となります。

民法上の法定果実は、出てこないのではないかと考えます。

なお異なる説として、渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』日本加除出版(株)2017 P254

「なお、賃料は信託不動産の法定果実(民法88条2項)であるが、信託行為の定めによって信託財産としている。」

私がこの文章を書くなら、

「賃料は、大きな枠で捉えると不動産の使用の対価として受け取る法定果実(民法88条2項)です。ただし信託不動産に関しては、信託行為が効力を生じることにより信託法が適用され、16条により当然に信託財産に属する財産となります。信託が終了すると、賃料は法定果実に戻ります。」

となります。

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参考:

信託法16条、21条、26条、27条、32条4項、97条

民法88条

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