信託法91条の読み方

(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)

第九十一条   受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

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3つの定めのある信託は、

1、最初の受益者が死亡

2、死亡した受益者の受益権が消滅する

3、他の者が新たな受益権を取得して2番目の受益者となる

(1)2番目の受益者が死亡した場合、死亡した受益者の受益権が消滅して、他の者が新たな受益権を取得して3番目の受益者となる定めを含む。

(2)1番目の受益者が死亡した場合、2番目の受益者として定められた者が複数いて、その1人に受益権取得について始期が付いている場合を含む。

1、信託設定時より、30年経過時

2、(1)受益者がおり、次の順位の受益者がいない場合・・・死亡したときまたは受益権が消滅すると信託は終了。

(2)いずれ受益権を取得する定めがあり生まれている特定の者(2次受益者など)が受益権を取得した場合・・・・その者が死亡したときまたは取得した受益権が消滅したときに信託は終了する。

・見出しの「新たに」と条文の「新たな」に違いはあるか。

見出し

(受益者の死亡により他の者が「新たに」受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)

条文(抜粋)

受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が「新たな」受益権を取得する旨の定め

「新たに」は、「他の者が」について、受益権を取得する者を限定する。

「新たな」は、「受益権を取得する旨の定め」について、文をまとめ、(一旦)終える働きをする。

結論

助詞の使い方であって意味はない。

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受益者連続型信託の契約方法は、何種類あるのか。

(1)「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め」と、「受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定め」の2種類がある[1]

(1)、のような考え方を採ると、最初の方法では受益者の死亡により、受益権は消滅、発生を繰り返します。2番目の方法では受益者の死亡により、受益権はそのままの状態で次の受益者に承継されます。

条文は2番目の方法はかっこ書きであり、本文の、「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の「定め」」にかかっています。本文の「定め」の中には、かっこ書きの「受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の「定め」」も含みます、という構成になっています。[2]

 構成から考えると、かっこ書きの定めも含めて受益権は消滅、発生を繰り返すことになります。

なぜかっこ書きを付けているのかというと、第2次受益者だけでなく、第3次受益者、第4次受益者と続けて定めることが出来ることを明示するためではないかと考えることができます。

このように考えると、受益者の死亡を始期又は停止条件として、次の受益者が増える場合、減る場合、受益権の単位が変更となる場合など、様々な定めを置くことができると考えることができます。


[1] 河合保弘『家族信託実務ガイド』2017日本法令P86

[2] 法制執務研究会『ワークブック法制執務』ぎょうせいP642

Financial Adviser(ファイナンシャル・アドバイザー)」 2017年5月20日

Financial Adviser(ファイナンシャル・アドバイザー)」 5月20日 

〈ワイド特集〉

資産管理・承継の新トレンド!家族信託を使いこなす

●〈Q&Aで学ぶ〉家族信託のメリットと注意点

 Q1 そもそも家族信託とは何か。普及してこなかった理由は?

 Q2 家族信託の活用が効果的だと考えられるのはどんな場合?

 Q3 「家族信託」はどんな家庭で利用されている?

 Q4 成年後見制度と家族信託は、どう使い分ける?

 Q5 商事信託と家族信託は、どう使い分ける?

 Q6 家族信託には遺言の機能もあるが、遺言との違いは?

 Q7 家族信託の普及にあたりリスク要因となり得る点は?

 Q8 家族信託に関して新たな動きが出てきていると聞くけど…

 Q9 FPは家族信託をどうとらえ、どのように関わるべき?

●契約締結の流れと利用時のチェックポイント

●〈ケーススタディ〉家族信託はこう活用する!

 CASE1 認知症になっても計画・実行中の相続税対策を遂行したい

 CASE2 老親の自宅を空き家にせずにスムーズに売却したい

 CASE3 認知症を患う妻に財産を遺したうえで、妻亡き後の承継先まで指定しておきたい

 CASE4 再婚予定の後妻に財産を遺すことについて前妻の子の理解を得たい

 CASE5 生前の遺産分割の合意を法的に有効にさせておきたい

 CASE6 自社株を後継者に引き継がせたいが、経営権は手元に残しておきたい

 CASE7 自社株を後継者に相続させたいが、兄妹への代償分割の原資がない

 CASE8 将来の不動産共有を回避したいが代償資産がない

 CASE9 親亡き後、障がいのある1人息子の生活を守りたい

●三井住友信託銀行の取組みにみる民事信託の支援事例

執筆:宮田浩志

このような雑誌が発売されています。

雑誌自体買ってはいないのですが、私だったらどう書くか目次をみながら想像してみます。

Q1 そもそも家族信託とは何か。普及してこなかった理由は?

A1 家族信託とは、家は雨風を凌ぐ家、族は多様性を持つ家族、親族その他の共同体と家族を定義して、その人達のための信託ということができます。

 普及してこなかった理由として考えられるのは、

(1)成年後見制度と同様に家族の中での法的手続きは面倒

(2)利用しなくても今何とかなっている

(3)専門家の報酬が高い

(4)セミナーなどの講師は家族信託を本当に理解している専門家は少ない、と言う人が多い。ということは実は多い。

でしょうか。

Q2家族信託の活用が効果的だと考えられるのはどんな場合?

A2現在の民法で達成することができない目的がある場合に利用すると効果的です。例えば、認知症になっても自宅や賃貸不動産を適切に管理したい、孫の生活費、学費を定期的に給付したい。共有不動産があって、共有物分割を利用せずに管理一本化したい、などでしょうか。

Q3 「家族信託」はどんな家庭で利用されている?

A3 制限はありません。どのような家庭でも利用されています。

Q4 成年後見制度と家族信託は、どう使い分ける?

A4 成年後見制度を利用して、日常生活に必要な身上監護と財産管理を行います。家族信託を利用して不動産や株式、将来定期的に給付したいまとまったお金などを管理します。結果的に併用を考えることが多くなるのではないでしょうか。

Q5 商事信託と家族信託は、どう使い分ける?

A5 受託者が家族という括りをしていないので、受託者候補に適任者がいない場合など、依頼者に必要であれば、信託銀行、信託会社を紹介させていただくこともあります。それも家族信託です。

Q6 家族信託には遺言の機能もあるが、遺言との違いは?

A6 家族信託の場合は、所有権を相続させるのではなく受益権という債権を取得させることになります。また遺言では、遺留分減殺の順序指定、割合指定と死後認知をすることができるのに対して、家族信託では出来ません。

Q7 家族信託の普及にあたりリスク要因となり得る点は?

A7 信託契約書その他の書類や信託業務の標準化がまだなされていないことです。

Q8 家族信託に関して新たな動きが出てきていると聞くけど…

A8 何でしょう。分かりません。

Q9 FPは家族信託をどうとらえ、どのように関わるべき?

A9 FPの専門性を活かし、保険との類似性、将来の生活設計に対するリスクの説明、その中で家族信託が利用できそうだと思えば制度を紹介することもできるのではないでしょうか。

受託者が、指図権者の指図に従わなかった場合の法律関係の整理

1、取締役会を設置していない株式会社において、現経営者を委託者兼受益者、後継者を受託者として、会社の全株式を信託する。

2、指図権(指図権者は受益者)の定めを信託行為に記載し、株主総会での議決権の行使は、現経営者が元気なうちは、その指図に従う。

3 株主総会の際、受託者が受益者の指図に従わず、自らの意思で議決権を行使した(例えば現経営者を解任し、自らを経営者に選任した)。株主総会収集通知の議題は、計算書類の報告および承認の件。指図権は、信託行為に定められている基準の通り適正に行使され、受託者も理解している。

・株主総会の決議は、無効や取消の対象になるか?

株主総会の決議は有効に成立しますが、決議の不存在、無効、取消しの対象にはなり得ると考えます。

信託法上、指図権者(受益者)は、受託者に対する債権者であり、会社との直接の関係はありません。

会社法上、現経営者は会社の代表取締役であり、信託行為によって株式の所有権は受託者に移転しているので、会社の株主は後継者です。このような前提から、 

(1)株主総会の決議の方法が著しく不公正なとき。

(2)株主総会の決議について手続的な不適切の度合いが著しく、決議が存在するとは認められないような場合。

(3)株主総会の決議が法令に違反する場合。

のいずれか、または双方に当てはまる可能性があると考えます(会社法830条から834条)。

かふうvol.608特別受益・寄与分

1、亡くなった方

母(被相続人)

2、相続人

長男、次男の2人

3、相続財産

農地4000万円

4、寄与分

次男800万円(40年間無償で農業を手伝ったから)

5、特別受益

長男300万円(亡き母から40年前に100万円を貰ったから)

6、相続額

長男1450万円

次男2550万円

この結果、納得の方がいるでしょうか。

亡き母は1450万円の現金を残してくれたのでしょうか。

次男はどうやってお金を準備するのでしょうか。

もし、亡き母が病院や老人ホームなどに通っていて次男1人で付き添いを全部行っていたとしても、現在の民法では原則として評価されません。亡き母の遺産の維持・増加に貢献する行為ではなく、病院や老人ホームなどへの送迎や付き添い、お見舞いは親族として当たり前のこととみなされるからです。

 私なら、実質的な公平、という言葉の前に「現在の法律上」と付けるか形式的公平とします。

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参考

・琉球新報かふうvol.608よくわかる不動産相続Q&A File.4

・『別冊NBL157民法(相続関係)等の改正に関する中間試案』

判例 受託者の租税債権滞納による信託財産に係る賃料債権の差押え

平成28年3月29日  最高裁判所第三小法廷  判決

1、差押権者の意思により充当を判断できるか。

できないと考えます。

2、債権者は信託登記のされていない建物を差押えすることは出来なかったのか。

できます。

3、固有財産(建物)と信託財産(土地)とを一括しての賃貸は、分別管理ではなく、運用である。

→そうであると解釈しても、賃料の入金額のうち、最低でも受益者への給付額は差押えが出来ない状態に保つ必要があると考えます。

4、分別管理義務は、信託財産を他の財産と区別して管理する義務であって、同一の契約に基づいて処分するなど、合同して運用することまでは禁止するものではないのか。

→禁止されていないのでしても良いのですが、最低でも受益者への給付額は差押えが出来ない状態に保つ必要があると考えます。

5、1つの債権のうち一部が信託財産に属することは、問題ない。

→1つの債権にすることは、問題ありませんが預金債権で受託者名義だと差押えは行われるので、最低でも受益者への給付額は差押えが出来ない状態に保つ必要があると考えます。そのためには、金庫で保管する、信託口口座を作成することになると考えます。

6、1つの債権のうち、どの部分がそれぞれ信託財産と固有財産に帰属するか明らかになれば、第3者への対抗力を失わない。

→第3者への対抗力は失われないと考えますが、差押えされるかどうかとは別だと考えます。

7、信託財産に属する旨を主張できる状態とは

→受託者の債権者からの差押えの効力が、信託財産に及ばない状態に置くことだと考えます。

8、「委託者氏名 受託者氏名 信託口」ではなく、「受益者氏名 受託者氏名 信託口」ではないのか。

→最初は委託者が財産を出しており、受益者が受け取るのは受託者の信託事務処理の義務上当然のことだからだと考えます。

9、何のための「信託口口座」か。

→受益者のため。受託者の債権者からの差押えが及ばないようにするため。義務の加重との解釈もありますが、予防と考えると費用、時間が抑えられるのではないかと考えます。

10、信託口の預金通帳を作成すると同時に計算の方法による分別管理にもなるか。

→使途ごとに、その都度の入出金で書き込みがあれば「計算の方法による」にも当てはまると考えます。

11、信託口口座を開設しても、受託者の義務違反となる場合。

→受託者の債権者からの差押えと取り立てに異議なく応じた場合。

 受託者個人の死亡により、口座が凍結されたが新受託者は金融機関に信託財産であることを意思表示しなかった場合。

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