⑰ これらが司法書士の主な仕事です(終)

The shiho-shoshi lawyer’s work the following.

不動産の登記手続きについて代理すること

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register of real property.

大切な財産である土地や建物の売買や相続、抵当権や賃借権などの設定といったさまざまな権利変動について、登記の専門家として、手続を代わって行います。

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register of real property as professional of registry when people sell or succeed their important real property of the rand or the building, and people establishment of the mortgage, and the lease. 

会社・法人の登記手続きについて代理すること

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register of corporation.

会社や各種法人を設立したり合併するなどの登記手続や、増資・役員変更などの登記手続を代わって行います。

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register that is following, registration of a company, merger, capital increase, and change of director.  

また、会社法に基づき、個々の会社の実情に沿えるように企業法務の役割をにないます。

Also, the shiho-shoshi lawyer’s take the role of business legal that is based on the companies act to meet real state of each corporation.

参考I reference.

司法書士アクセスブック

よくわかる相続

日本司法書士会連合会

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ムーチーありがとうございました。

アパート建築おめでとうございます。

2016年加工税制調査会(第25回総会)議事録

 

日 時:平成27年10月27日(火)午後14時00分~

場 所:財務省第3特別会議室(本庁舎4階)

○中里会長

25回「税制調査会」を開会します。

タイトな日程での開催となっていまして、御迷惑をおかけしていますが、どうぞよろしくお願いします。

前回までで個人所得課税のセッションを3回行い、個人所得課税の歩みや構造的特徴の把握といったところを皮切りに、税率構造や控除のあり方等についての議論を行い、また、働き方の多様化や老後に備えるための自助努力への支援に関連する問題などに関連して、非常に実りの多い議論をいただいてきました。

この四半世紀の間に経済社会の構造が大きく変化してきた中にあって、個人所得課税について果たしてどのような見直しが必要かといった方向性に関する論点も様々な形で出していただけたのではないかと思っています。

今回は、前回申し上げましたとおり、資産課税について、これまでの歩みやその構造を把握しつつ、今後の検討課題の洗い出しなどを進めていきたいと思っています。

それでは、申し訳ありませんが、カメラはここで御退室いただきたいと思います。

(報道関係者退室)

○中里会長

それでは、早速、資産課税の議論に入っていきたいと思いますが、前半は資産課税の国税部分について事務局から説明いただき、委員の皆様から意見をいただくとともに、後半は地方税部分について同様に事務局から説明いただき、改めて委員の皆様から御意見をいただくという二部構成で進めていきたいと思います。

それでは、最初の方ですが、まず、財務省の新発田税制第一課企画官から説明をお願いします。

○新発田主税局主税企画官

どうぞよろしくお願いします。

それでは、お手元の資料の総25-1「説明資料〔相続税・贈与税〕」の目次を御覧ください。

本日は、相続税及び贈与税につきまして、今後の検討課題を洗い出していただくに当たり、関連する経済社会の構造変化のファクトファインディングなどを示すとともに、相続税、贈与税の意義やこれまでの沿革、現行制度の概要を確認いただくという構成で説明していきたいと思います。

早速ですが、2ページ目をお開きください。

骨太の方針では、資産課税関連では、下の方にありますように、世代間・世代内の公平を確保、資産格差が機会格差につながることを避ける必要があること。

また、老後扶養の社会化が進展する中で、遺産の社会還元といった観点が重要となっていること等を踏まえた見直しを行うとの基本方針が示されています。

続きまして、3ページです。

左側には資産課税を巡る構造変化ということで、人口や家計・再分配といったこれまでの実像セッションで議論いただいたものに加え、それらと比べるとサブカテゴリー的な位置付けになりますし、若干重なり合う部分もありますが、資産形成、相続と掲げています。本日は、まず、これらの切り口からファクトファインディングを試みたいと思います。

また、右側には、これまでの議論や先ほどの骨太の方針を踏まえ、資産課税に関する検討に当たり、主な視点としてキーワード的に七つほど並べています。もちろん、これらに限りませんし、あくまで議論の手がかりとして示した次第です。

5ページをおめくりください。

左側は家計資産の推移です。80年代にかけて急激に増加した家計資産残高は、90年代以降、おおむね横ばいとなっています。内訳を見ますと、不動産等の非金融資産が減少する一方で、金融資産が増大しています。

また、右側でフローの所得に対する各資産の割合を見ますと、正味資産ベースではストック化が引き続き進展しており、金融資産のウエートが高まっています。

6ページです。

こちらは相続税の対象となる相続財産の構成の推移を示しています。えんじと黄色の有価証券と現・預金の割合ですが、昭和63年の20%弱から平成25年には42.5%と倍以上、実額ベースでも約2.5倍増加しています。家計資産と同様に、相続財産においても金融資産のウエートが高まっている傾向が確認いただけるかと思います。

7ページです。

金融資産の年代別分布を見ています。左のグラフで1989年と2009年を比較すると、青とオレンジの60歳代以上の保有割合はほぼ倍増しています。この割合を資金循環統計のデータに当てはめますと右側ですが、40歳代以下の若い世代の保有額は減少している一方、60歳代以上の高齢者では増加しています。足元の2014年では60歳代以上の方々が約1,700兆円の家計金融資産の6割に当たる1,000兆円近くを保有していると考えられます。

次の8ページは、以前の事務局説明資料です。若い世代と比べると、相対的に貯蓄の多い高齢者世帯においても貯蓄額が多い世帯と少ない世帯に分かれ、ばらつきが見られるということでした。

9ページでは、左側で資産形成の原資となる所得の推移を見ています。生産年齢人口の減少や経済成長の鈍化により、マクロの賃金・俸給額は90年代後半から減少傾向にあります。右のグラフでは、資金循環統計を用いて家計金融資産の残高の変動を要因分解しています。

90年代後半から資金の純流入、青い棒グラフですが、減少しています。近年の残高の変動は、むしろ株式等の評価損益の変動による影響が大きくなっていることが伺われます。貯蓄の低下と併せ考えますと、このような傾向が今後も続くとするならば、家計金融資産が安定的に増加していくということはなかなか見込みにくいのではないかと考えられます。

次の10ページは現役世代の収入別世帯分布の経年変化です。90年代半ばと比較しますと、若年世代を中心に現役世代の世帯収入は低下しています。11ページは、世代別の純貯蓄額の経年変化です。こちらも若年世代を中心に現役世代の純貯蓄額は低下しています。これらを踏まえますと、現役世代にとりましては、高齢世代とは異なり、所得の一部を貯蓄し、資産を形成していくという道筋が細くなってきていると考えられるのではないかということです。

続きまして、12ページです。

まず、左側で貯蓄現在高の五分位階級別に純資産の割合を経年変化で見ています。1985年と比べますと、上位20%の世代の保有割合が増加しており、全体の60%を占めています。右側では、貯蓄階級別に世帯割合の推移を見ています。200万円未満と4,000万円以上のところに太線を引いていますが、それぞれの割合が増加しています。

以上をまとめますと、家計の資産形成の変容として、一つには金融資産のウエートが増加していること。二つ目は、高齢世代の金融資産保有割合が大きく増加していますが、世代ごとのばらつきが多いこと。三つ目として、その一方で、現役世代にとっては資産形成の道筋が細くなってきていることが言えようかと思います。

続きまして、相続の変容についてファクトファインディングを試みたいと思います。

15ページをおめくりください。

こちらは申告データから調べたものですが、被相続人の高齢化が一層進んでいます。足元の平成25年では全体の約7割が80歳以上、90歳以上が4分の1近くを占めています。

すみれ

「長生きになったってことだね。」

したがいまして、多くのケースでは相続人となるお子さんの年齢は50代、さらには60代以上となり、相続人自身も高齢者となる、いわゆる老老相続が増えています。

16ページは、以前の事務局説明資料です。世帯主の年齢が上がるにつれて、保有資産額が増加しているということでした。相続人の高齢化により、相続人の資産形成も相当に進んでいると考えられます。

次の17ページは、特に宅地の保有状況について見たものです。

赤い囲いの部分を御覧いただきますと、60歳代以上の高齢者が金額ベースですと現住居の宅地の約6割、現住居以外の宅地の約7割を保有しています。右側のグラフは現住居以外の宅地を相続により取得した年齢の推移です。こちらも年々上昇していまして、老老相続によって既に自宅をお持ちの方が二つ目の宅地資産を取得している状況が見てとれるかと思います。

続きまして、18ページです。

こちらは高齢者の貯蓄動機の経年変化です。貯蓄目的として、病気や介護に対する備えを挙げる方が近年では6割超を占めており、生活の維持と合わせて8割強の方が、長寿化が進む中で老後資金が不足するリスクへの備えを挙げている点には留意する必要があるかと思います。

続きまして、老後扶養の社会化です。

20ページは以前の事務局説明資料ですが、高齢者がいる世帯の姿が変容しており、三世代世帯の割合が大幅に減少する一方で、単独世帯や夫婦のみの世帯が増えているということでした。

次の21ページは以前厚生労働省から説明いただいた資料です。ライフサイクルで見た場合に、高齢者になりますと直接税、保険料の負担が減る一方で、医療、介護、年金という形で大きな給付を受けるという姿が見てとれたということであったかと思います。

22ページも以前の事務局説明資料ですが、年齢階層別の受益と負担の関係を見ますと、高齢者はネットでの受益となっているということでした。このように公的な社会保障制度の充実はこれまでの家族による私的な扶養に代わって、老後扶養を社会的に支えているわけですが、このことが高齢者の資産の維持形成に寄与していることを踏まえますと、相続によって次世代の一部に引き継がれることとなる資産には、老後扶養の社会化を通じて蓄積されたものという側面もあるのではないかと考えられます。

続きまして、相続に関する意識の変容を見ていきます。

24ページは遺産相続に関する意識について見たものです。

左の平成16年の調査では、オレンジの「残す財産がないので、遺産を残すことは考えていない」という回答が最も多く、次いで、残すかどうかは考えていないという回答があります。

遺産を残すことに肯定的な回答は合計で3分の1程度です。子供になるべく多く残したいとされる方が多いものの、子供のためだけではなくて、面倒を見てくれたボランティアにも残したい、あるいは社会公共の役に立たせたいという考え方をお持ちの方もいらっしゃいます。

最近のものでは、右側、こちらは国境なき医師団による意識調査です。これによりますと、社会の役に立てるために自分の遺産を寄附したい、あるいは寄附しても良いという方は四人に一人の割合でいらっしゃるようです。

25ページは日米英の遺贈の状況です。そもそものデータの制約がありますから単純な比較は困難ですが、NPOの調査によりますと、米英の生前寄附及び遺贈の状況は左のグラフのようになっています。我が国の遺贈に関する網羅的なデータはありませんが、相続税の申告から把握できる範囲では、被相続人による遺贈や相続人が申告期限までに寄附した財産の額というものは約300億円程度ということです。

続きまして、26ページ、若干アネクドータルなデータになりますが、最近相続を家族が争うという意味で争族化しているという話を耳にします。この20年の推移を見ますと、相続に関する相談や遺産分割事件数は死亡者数を大きく上回って増加しています。また、右のグラフを見ますと、遺産分割事件の約4分の3は5,000万円以下、すなわち平成24年当時ですと相続税が全くかからない遺産額での争いとなっています。遺産を巡る争いは必ずしも富裕層に限った話ではないということです。

すみれ

「相続に関する相談や遺産分割事件数は、死亡者数の「増加率」を上回っているんだよね。」

次に、ファクトファインディングの最後として、今後の人口動態上の変化を展望します。

28ページをおめくりください。

人口動態上、今後、死亡者数が増加します2040年のピーク時には、年間約167万人と、現在より25%程度多くの方がお亡くなりになると推定されています。

また、さらに高齢化が進む結果、75歳以上の方が死亡者全体に占める割合も10パーセント近く増え、約84%となることが見込まれています。この結果からは、今後、現在よりもさらに多くの相続件数が発生するとともに、そのタイミングもさらに後ずれする結果、老老相続が本格化することが見込まれるのではないかということです。

29ページは出生率と法定相続人の数の推移を並べたものです。

出生率の低下に伴い、被相続人一人当たりの法定相続人の数も減少しています。足元では2.97人と3を割り込んでいます。過去の出生率の低下を踏まえれば、相続人の数は今後さらに減少していくことが見込まれます。資産課税のあり方を考える際には、以上で御覧いただきましたように、経済社会の構造変化の中で資産形成や相続の実態が変容していることや、今後の人口動態上の変化にも御留意いただければと思います。

続きまして、相続税の現状について説明します。

31ページを御覧ください。

相続税、贈与税の国税収入におけるウエートは、円グラフの時計で言うと6時半辺りを御覧いただきますと、足元の平成27年度予算ベースで全体の3%、金額で1.8兆円弱ということです。

32ページでは、相続税の課税根拠や役割について確認させていただきたいと思います。

ここでは平成12年の中期答申を参照していますが、基本的に遺産の取得という無償の財産取得に担税力を見出して課税するものであるということですし、個人所得課税の補完、そして、累進税率の適用により、富の再分配を図るという役割を果たしていると整理しています。

また、このほかにも、被相続人の生前所得の清算、さらには老後扶養の社会化に伴う資産の引き継ぎの社会化といった役割を提示いただいています。

33ページを御覧ください。

こちらは相続税の課税対象です。相続税の課税対象は、相続または遺贈により相続人が取得した財産ですが、実際の計算に当たっては、右の吹き出しにありますように非課税財産を除外し、また、後ほど説明しますような課税価格を減額する調整を加え、さらに基礎控除の金額を控除したものがベースとなります。

この意味で、一般的なイメージでの遺産とは必ずしも一致しない点に御留意いただければと思います。

34ページでは、相続税の課税の仕組みをフローチャート的に図示しています。左から順に御覧いただきますと、まず、今、説明したように、算出しました課税遺産額を法定相続分で按分した上で、相続人ごとに超過累進税率を適用して税額を算出します。これらを合計したものが中央にある相続税の総額というものです。したがいまして、この総額は遺産分割のいかんに関わらず一定ということになります。

次に、その総額を実際の相続割合に応じて按分し、配偶者といった個々の相続人の事情を考慮した税額控除を適用した上で、実際の納付税額が一番右にある緑の箱のように算出されます。

35ページですが、相続税の課税の仕組みには大きく分けて左下にありますアメリカやイギリスのような遺産に課税する遺産課税方式というものと、右にありますフランスやドイツといった各相続人が取得した財産に課税する遺産取得課税方式という二つがあります。我が国は後者の遺産取得課税を基本としつつ、税額計算においては遺産課税的な要素をミックスしたハイブリッド型を採用しており、法定相続分課税方式とも呼ばれています。

すみれ

「法定相続分課税方式、か。」

36ページの主要国の国際比較は、時間の関係上、説明を割愛させていただきます。

37ページ以降です。こちらでは、我が国の相続税、贈与税の創設以来の沿革について、ポイントを絞って紹介させていただきます。

現行の課税方式が導入されたのが昭和33年ですから、便宜、その前後に分けて説明をさせていただきます。

相続税が創設されましたのは明治38年、直接の目的は日露戦争の戦費調達ですが、恒久財源として創設されています。導入時には遺産課税方式を採用していました。また、民法上、存在した家督相続を優遇するといった仕組みをとっていました。戦後、昭和22年には民法改正により、家督相続制度が廃止されたことを受けた見直しが行われました。

昭和25年にはシャウプ勧告を受けて、富の集中排除の観点から遺産取得課税方式に転換しています。その後、昭和33年には現行の法定相続分課税方式が導入されています。この背景には、当時、遺産取得課税方式の下で遺産分割調査が困難であったこと、あるいは税負担回避目的での仮装分割が横行していたという問題があったことが指摘されています。

以上をまとめますと、課税方式については両方の課税方式を実施した経験を踏まえ、現行方式に至っている。二つ目として、民法の相続法制との関連が強いということが言えようかと思われます。

38ページでは、参考までに課税方式に関するこれまでの議論を一部紹介しています。昭和32年の答申では、現行の遺産所得課税体系をとりつつ、遺産額と相続人の数という客観的事実により税額が定まる点や、実際に遺産分割の程度により負担が異なってしまうという遺産取得課税の弊害を除去できるという点で最も合理的であると整理されています。

続いて、このような評価には昭和61年の答申をこちらでは参照していますが、大きな変化はありませんでしたというところです。その後、平成21年度改正に向けた議論の中で、税額計算も含めた遺産取得課税方式への移行が検討されましたが、現行方式に対する肯定的な評価もありました。したがいまして、最後のところですが、結論部分だけ紹介しますと、課税の公平性や相続のあり方に関する国民の考え方とも関連する重要な問題であることから、課税方式の見直しについては幅広い国民の合意を得ながら議論を進める必要があるという形で整理されたというところです。

続きまして、39ページをおめくりください。

所得税のセッションでも言及がありましたが、この間、昭和25年に富裕税が導入され、3年後の昭和28年に廃止されています。

すみれ

「富裕税、3年間、と」

制度の説明と、次のページの国際比較は省略しますが、廃止された理由として、一番下にありますが、財産の把握が困難であり課税の公平確保が困難であったという点、あるいは無収益財産への課税であり、納税者に無理が生じたという点、あるいは徴税コストが高かったという問題が指摘されているというところです。

41ページ、42ページは現行の課税方式を採用した後の主な改正を年表の形でまとめています。

ポイントとしましては、経済の高度成長やストック化、あるいはバブルによる急激な地価の高騰等を背景に、負担軽減の観点から累次、全体としては基礎控除を引き上げ、税率構造を緩和すると同時に、右から二つ目の列にありますような配偶者や家族の居住や事業の継続、あるいは農地や中小企業といった個別の事情に配慮した特例措置の拡充を行ってきたということがここ数年前までの大きな流れであったと言えようかと思います。

43ページです。

こちらは今の年表のうち、バブル期以降の基礎控除や税率構造にかかわる改正の動きを地価の動向と合わせてビジュアル的に示したものです。地価高騰に伴い、負担を軽減してきた一方で、地価下落以降も基礎控除の水準は据え置かれています。税率構造は平成15年度改正でもさらに緩和されてきたということでした。

44ページです。

この結果としまして、相続税の課税件数はこちらの赤い折れ線ですが、足元でお亡くなりになる方100人に対して約4人、負担割合、緑の折れ線ですが、約12%前後に低下するなど、資産再分配機能が大きく低下してきたということです。

45ページ以降では、この間の相続税のあり方を巡る議論を振り返っています。平成12年の中期答申では、相続課税にどの程度の累進性を持たせるかという点につきまして、格差が拡大し、資産集中が進めば機会の平等の確保が困難になるといった見方と、資産家層に過重な負担を求めれば、自らの資産を大きくして子供に引き継がせたいという意欲をそいで経済の活性化にマイナスの影響を及ぼすといった二つの考え方を提示した上で、どの程度の累進性を持って税制全体を通じた再分配を行っていくかは、その時々の経済社会状況やあるべき社会像によって異なってくるとしています。

また、相続税の課税対象者の範囲につきましては、租税が公的サービスの費用を国民皆で広く分かち合うものであることも考えると「相続課税の対象者の範囲」については相続課税がある程度の資産家層を対象とする税であると位置付けるとしても、そのあり方を見直していく余地があるのではないでしょうかといった考え方が示されていました。

46ページを御覧ください。

しかしながら、実際には平成15年度改正で最高税率の引き下げを含む税率構造のさらなる緩和が行われました。このため、平成19年の答申では、経済のストック化や高齢化の進展、老後扶養の社会化といった相続税を巡る環境変化からすれば大幅に緩和されてきた負担水準を放置することは適当でなく、資産再分配機能の回復が重要という考え方が示されたところです。

47ページを御覧ください。

その後、平成23年度の税制改正大綱では、地価動向を踏まえた基礎控除の水準調整をはじめとする課税ベースの拡大を図るとともに、税率構造について見直しを図ることにより、相続税の再分配機能を回復し、格差の固定化を防止する必要がありますとされたところですが、下にありますように、法案の修正が行われまして、平成25年度改正まで見送られたというところです。

48ページ以降は、このような経緯を経た平成25年度改正の概要の説明です。

第一に、基礎控除につきましては、物価、地価が現在と同等であった昭和50年代後半の水準まで引き下げるという考え方の下、具体的には当時の水準を現在価値に修正し、3,000万円プラス法定相続人一人当たり600万円に引き下げています。

次に、税率構造については、所得課税の最高税率が住民税と合わせて55%に引き上げられたことを踏まえ、最高税率を55%に引き上げるとともに、45%のブラケットを新設し、より高額の遺産額を中心に再分配機能の回復を図るという考え方で税率構造を見直しています。

49ページは税率構造を過去と比較したものです。

赤い線が現行制度のものとなります。黒い線の平成15年度改正と比べると、高額の遺産額のところがやや上に上がっていますが、それ以前のものと比べますと税率構造は緩やかであることが見てとれると思います。

50ページ、51ページは実効税率の推移になります。ここでは、配偶者プラス子二人が相続する、いわゆる一次相続の場合と、子二人が相続する二次相続の場合に分けて示しています。いずれも赤い線が現行制度における負担カーブになります。一次相続の場合には、配偶者控除により法定相続分または1億

6,000万円のいずれか大きい金額に対応する税額が控除されますから、二次相続と比べますと負担は半分程度に減少します。なお、子二人が二次相続する場合、実効税率が50%を超えてくるのは、このグラフからはみ出した33億円程度ということです。

いずれの場合におきましても、基礎控除の引き上げにより、カーブの立ち上がりが低いところから始まっていますが、傾き自体は平成15年度改正とほぼ平行になっていることが見てとれるかと思います。

52ページは改正前の統計ですが、課税価格階級別の分布割合とそれぞれの納付税額の構成をグラフ化したものです。件数ベースでは課税価格2億円以下の方が全体の約7割を占める一方で、納付税額ベースでは大体14%程度となっています。

53ページは平成25年度改正における、いわゆる小規模宅地の特例の見直しです。同居する親族が居住用の宅地を取得した場合に、その宅地の課税価格を80%減額する特例が設けられています。平成25年度改正では相続税の見直しに伴い、相続人の居住や事業の継続に配慮する観点から、適用対象となる面積の上限を宅地については330平米に拡大する等の措置を講じています。

この特例がどのように効いてくるか示したものが次の54ページです。

ここにある例をとりますと、これまでお子さんが同居していなかった場合、土地の課税価格はそのまま7,500万円になりますが、同居していた場合には8割減額の1,500万となりますから、1億500万円の遺産に対するお子さん二人の相続税負担は860万円から30万円、一人15万円に軽減されます。

すみれ

「同居って大きいんだね。」

先ほどの51ページの実効負担カーブでは、課税価格は1億500万円ではなく4,500万円の場合の実効税率を見ていただくということになります。

55ページを御覧ください。

平成25年度改正では、このほか事業承継税制についても見直しが行われましたが、説明については省略させていただきます。

なお、これらの平成25年度改正につきましては、本年1月1日から施行されたところです。相続税の申告期限は死亡したことを知った日から10カ月ですから、実際に改正後の申告書が提出されるのは来月以降ということになります。

したがいまして、本改正による影響等々について分析できる状況にはまだ至っていないという点を付言させていただきます。

56ページ以降では、世代をまたいだ相続税負担というところで御覧いただきたいと思います。

前提条件ですが、まずは遺産額2億円のケース。これは右に参考で示していますように、相続税の平均課税価格とほぼイコールであり、課税件数の約7割が含まれます。また、小規模宅地の特例等は考慮しておらず、基礎控除と配偶者控除のみを適用し、各人は法定相続分で遺産を取得し、取得した遺産には手をつけないということにしています。

子や孫一人一人の取得財産額に占める相続税の割合は右下の囲いにありますように、お子さんで1億円に対し1,060万円、お孫さんで4,470万円に対し132万円となります。

これを全て総計したものが右上の円グラフとなります。三代にわたって相続が行われた結果、三世代全体での相続税負担の合計は13.2%になります。お孫さんaという方から見ますと、自身の財産は赤線で囲まれた部分の4,338万円と、全体の約2割ですが、これは均分相続を通じて兄弟やいとこが同額の財産を取得していることによります。これらを合わせた家族内での私的移転を合計すると86.8%になるということです。

以下、似たようなケースを若干前提を変えて行っています。

次の57ページは、同じ2億円で一人っ子が続くケースです。一人当たりの相続財産が増えるため累進がかかってくることから、トータルで見た税負担は増えますが、孫の取得する財産は全体の4分の3に増加します。

58ページは遺産額を20億円に変えたケースです。課税価格が20億円を超えるケースは参考にもありますように、死亡者1万人に対して1.5人になります。それぞれの負担割合は先ほど御覧いただいたように子供で41.5%、孫で約25%ということです。また、孫Aの取り分は右の円グラフで申し上げますと、金額にして2億1,769万円ということになります。

59ページは同じ20億円で一人っ子のケースです。この場合のトータルした相続税額は約13億5,000万円となる一方で、お孫さんの取得する財産は約6億5,000万円となります。

規模感をつかんでいただくために参考までに申し上げますと、大学卒業の男性が大企業に就職し、定年後67歳まで働いた場合の退職金込みの生涯賃金が3億7,000万円、中小企業の場合ですと3億円ということです。

なお、このシミュレーションでは、先ほど説明した小規模宅地の特例や事業承継税制あるいは農地の納税猶予といった特例措置は勘案していませんから、これらが適用されるようなケースにおける実際の税負担割合がまた異なるものになるという点には御留意いただければと思います。

続きまして、贈与税について説明させていただきます。

61ページは贈与税の課税根拠及び役割です。

ここでも平成12年の中期答申を参照していますが、贈与という無償の財産取得に担税力を見出して課税するというものであり、相続税の存在を前提に、生前贈与による相続課税回避を防止するという意味で、相続税の補完という役割を果たしているということです。

62ページは贈与税の基本的な仕組みを示しています。贈与税は基本的に暦年課税という方式をとっており、1年間に贈与により取得した財産を合計し、110万円の基礎控除を差し引いた上で残りの課税財産額に超過累進税率を適用し、税額を導き出すということです。贈与税の税率構造は相続税の課税回避を防止する観点から、相続税と比べ相対的に高い負担となるように設定されています。

結果として、生前贈与に対し抑制的に働いてきたきらいがあります。このため、高齢化の進展により次世代への資産移転が後ろ倒しになる中で、資産移転の時期の選択に中立的な税率の構築が求められてきたところです。このような背景の下で、平成15年度改正で導入されましたものが63ページの相続時精算課税制度です。

63ページを御覧いただきますと、相続時精算課税は暦年課税との選択制になっていますが、ポイントだけ申し上げますと、累積で2,500万円の非課税枠を設定し、2,500万円を超えた部分については一旦一律20%で課税した上で、相続時にこれまでの贈与分も含め加算して相続税を計算し、先に払った分は相続税額から控除するというものです。ここにある事例では、最終的な相続税額はゼロですから、先に払った100万円は還付されることになります。

参考として、暦年課税を選択した場合の納税額との比較を右側に示しています。

64ページは、相続時精算課税制度導入時、平成14年の税制調査会の答申を引いています。

高齢化に伴い、相続による資産移転時期が後半にシフトしていることから、資産移転の時期の選択に対する中立的確保が重要であり、このような観点から相続税・贈与税の調整のあり方を検討すべきとの御指摘をいただいたところです。

65ページは贈与税の課税状況です。このグラフですと、オレンジの折れ線ですが、相続時精算課税制度を利用いただいている方の推移と相続時精算課税に基づく贈与の実額については棒グラフの茶色の部分をそれぞれ御覧いただければと思います。

導入当初と比べますと、件数、金額ともに若干減少傾向にあるということが言えようかと思います。

66ページは、先ほど御覧いただきました税制抜本改革法の附則における贈与税関係の指摘に下線を引いたものです。高齢者が保有する資産の若年世代の早期移転を促し、消費拡大を通じた経済活性化を図る観点からの贈与税の見直しということで措置を講じたというところです。

67ページをおめくりください。

平成25年改正では贈与税について、お子さんやお孫さんが贈与を受けた財産に係る税率を緩和するといった措置が講じられましたほか、相続時精算課税制度の対象者にお孫さんを追加するといった見直しを行ったところです。

68ページには、贈与税の税率の税率構造のこれまでの推移を並べていますから、御覧いただければと思います。

さらに、続きまして、69ページ以下ですが、近年ではリーマンショックへの対応やデフレ脱却、経済活性化の観点から、高齢者の保有資産の早期移転を促進するため、住宅や教育といった用途に限定した上で、一括贈与に係る非課税措置を設けたところです。

69ページから72ページにかけて資料を添付していますが、詳細については説明を割愛させていただきます。

住宅については平成21年、教育については平成25年、結婚・子育ては平成27年にそれぞれ創設されたということですし、その後、住宅と教育については拡充、延長が図られてきたというところです。

平成27年度改正では、いずれについても平成31年までの時限措置とされています。時限措置とした趣旨につきましては、一つにはデフレ脱却、経済再生といった政策目的に照らし、早期の資産移転促進による効果の発現を促すものであるということ。

もう一つには、このような非課税措置が格差の固定化につながりかねないという恐れを踏まえ、再分配機能が損なわれることのないよう、その効果や影響をよく見ながら、適用期限を迎える際に必要な見直しを行うこととしていることによるものということでした。

73ページに飛ばせていただきますと、こちらは、これらの措置の延長を盛り込んだ法案の国会審議における衆議院・財務金融委員会における附帯決議です。立法府からは、税制のあり方についてデフレ脱却・経済再生に向けた対応とともに、今後も格差の固定化につながらないよう機会の平等や世代間・世代内の公平の実現といった考え方の下で不断の見直しを行うことといった決議をいただいているところです。

最後のページの贈与税の国際比較については、説明は割愛させていただきます。

ありがとうございます。

○中里会長

ありがとうございました。

それでは、今の新発田企画官の説明につきまして、委員の皆様から質問、御意見がありましたら、お願いします。

井伊委員、どうぞ。

○井伊(重)委員

質問ですが、先ほど相続税法の改正に伴っての具体的な事例はまだ出ていないというところの説明はあったのですが、見込みとして、今回の税法改正でどれぐらいの人が相続税の適用対象に拡大されるのか。4%が何%に拡大したのかというところと、その比率です。13%がどれぐらいに拡大する見込みなのかという、そこのところを教えていただきたいです。

○中里会長

よろしいですか。お願いします。

○新発田主税局主税企画官

ただいまの質問にお答えいたします。43ページを御覧いただけますでしょうか。説明を省略してしまって恐縮ですが、43ページで先ほど御覧いただきました地価の公示と相続税の改正の推移を並べた表の一番下のところに、これまでの課税件数の推移を並べています。

一番右のところですが、今回の平成25年度改正に伴いまして、どの程度課税件数が増えるかということでは、当時の見込みでは今の4.3人というところが6人台程度になるのではないかというように見込んでいるところです。

もう一つの課税割合のところについては、手元にデータがありませんから、お答えできない状況です。

○中里会長

たしか年明けぐらいにならないと統計も出てこないという感じでしたか。

○新発田主税局主税企画官

そうです。毎月毎月の税収は大体その辺りから出てくると思いますが、傾向としてということになると、年明け以降、もう少し様子を見た上でということになろうかと思います。

○中里会長

そのようなわけで、これは仕方がないことですから、よろしいですか。

ほかにいかがでしょうか。

梅澤特別委員、どうぞ。

○梅澤特別委員

ありがとうございます。

二点質問です。一点目は、相続税に関して、相続の総額に対する実効税率の国際比較というものはどこにありますでしょうか。最高税率を見ると日本は諸外国より高く見えるのですが、これは見かけ上の話かもしれないため、実効税率でどのようであるのかということを教えてください。

二点目は、相続税と贈与税で、贈与税の方で資産移転の時期の選択に対しての中立性を確保することが重要という立法趣旨で改正が行われたという話ですが、実際に税率の階段を見るとまだまだ明らかに贈与税の方が税率は高く見えます。

ここのところをもう思い切って相続税と贈与税の税率構造を一致させる、あるいは大分相続税の方に寄せていくというような議論はあるのでしょうか。あるいは現実的なのでしょうか。

以上、二点、お願いします。

すみれ

「補完だったら同じ税率でも良いような気もする。どっち側に寄せるかは分からないけど。」

○中里会長

お願いします。

○新発田主税局主税企画官

まず、一点目のお尋ねですが、実際の実効負担の割合については、今、手元に資料がありませんから、次の機会なりで改めて可能な限り調べさせていただければと思います。

二つ目の相続税と贈与税の関係ということですが、最後の贈与税と相続税の関係のうち、贈与税の主要国の国際比較を付けています。各国との関係で申し上げますと、過去の生前贈与につきまして累積をする、全て足し合わせるといったような考え方をとっている国では、贈与税と相続税については税率が一致しているケースが多くあります。

逆に、日本の場合には、暦年課税ということで相続税と贈与税が別建ての関係になっているため、そのような関係もありまして、やや税率が相続税の課税回避防止といった観点でよりきつい負担になっているということですから、様々議論はいただけると思いますが、生前贈与による相続税負担の回避、防止という観点からは、相続税と贈与税の関係というものは、税率もさることながら、税率だけではなくてまとめて精算するといったような仕組みというものも諸外国では取り入れられているところです。

先ほど申し上げました相続時精算課税ですと、こちらの場合には20%で仮払いということですが、20%で仮払いをする代わりに贈与してから以降の全ての贈与を精算するということですから、そのような仕組みになりますと別建ての場合に想定しているような懸念が解消されると考えています。

○梅澤特別委員

ありがとうございます。

○中里会長

田近委員、どうぞ。

○田近委員

御説明、ありがとうございました。

相続税の全体の流れをどのように理解して良いのかということで、確認も込めて質問ですが、42ページに相続税、贈与税の主な改正ということが書いてあって、要するに平成4年を見ると相続税の基礎控除というものが引き上げられる。

相続税の税率構造というものも最高税率となる境目を5億円から10億に引き上げる。特例も引き上げるということで、基礎控除、税率構造、特例もある意味で課税を緩和するという動きです。

平成6年も同じく全て緩和するという動きで、平成11年は特例のところを緩和する。平成13年も特例のところを緩和して、贈与税の基礎控除も60万円から110万円に引き上げた。これは大きいです。そのようにすると、平成15年も同じような流れで、ただし、相続時精算課税ということで、途中で贈与しても死んだときに精算するという制度ができた。平成21年が今度は事業承継税制、これは後で質問させていただきます。平成21年に住宅資金の非課税枠、平成25年に教育資金の例の祖父、祖母が孫に1,500万円までということですと。

実は平成27年が新しい動きで、基礎控除を5,000万円から3,000万円にした、そして税率構造も増やして最高税率も増やした。ただし、小規模宅地はある意味で緩和したということです。

そうすると、これから税制調査会で何を議論していくのか。相続税の再分配機能を重視するような考え方なのか、年金、医療、介護等で社会保障の給付を受けている老後扶養の社会化なのか。

もう一つ、実は、私は大きな議論があったと思うことは、平成21年度のときに遺産取得課税を前提にしながら、要するに相続人の実額課税を議論したわけです。

民法の取得分の計算ではなくて、実額で行うと。その動きもあったのですが、それが途絶えていると言いますか、その後消えているということで、質問と同時に意見でもあるのですが、このような流れで、実態も踏まえて、我々の税制調査会での相続税のイシューは一体何なのであろうかということが大きな問題としてあると思います。

あと一点、事実確認等、今日でなくても結構ですが、先ほどの42ページですが、平成21年に事業承継税制というものが作られました。これは非常に重要な、特に中小企業のオーナーの方には大きな税制であると思うのですが、55ページに事業承継税制の概要があります。要するに事業承継、中小企業のオーナーが、仮に父親が社長でお亡くなりになった。それを相続する人たちの税が余りにも重いため、それを軽減してあげましょう。

ただし、それは簡単に認めるわけではなくて、相続人が、代表者であること。しっかりと雇用を確保して、5年間続けてください。そうすれば軽減するという制度ですが、質問は、この制度がそれ以降改正されたかどうかということと、この制度をどのように利用されているかという実態について、これは今日でなくても結構ですが、ぜひ事業承継税制のその後を制度面と実態面で伺いたいということです。

指摘したかったことは、この相続税の流れを踏まえて、前段の説明いただいた実態を踏まえて、税制調査会のアジェンダは一体何になっていくのであろうかということは指摘とともに感想を述べました。

○中里会長

よろしくお願いします。

○新発田主税局主税企画官

ファクトの面について、先ほど田近委員から事業承継税制のところで質問がありましたから、件数についてはまた改めて報告させていただきたいと思いますが、事業承継税制が入りましたのが平成21年度ですが、足元の改正でも、先ほど言及していただいた代表者であることというものが親族でなければいけなかったものが従業員等でも良くなった、あるいは雇用の8割というものは今、平均というようにこちらに書いてありますが、以前は平均ではなかったため、そのような意味で使い勝手を良くしたいという形での見直しはしていますが、具体的な適用件数につきましては、また改めて報告させていただきます。

○中里会長

田近委員、それでよろしいですか。

○田近委員

その後の制度改正での利用の実態については、次回以降で十分です。

○中里会長

調べていただくということですね。では、田中特別委員、どうぞ。

○田中特別委員

田近委員から事業承継税制の話が出ました。中小企業からすれば、事業承継税制で猶予をしていただくということは唯一の手がかりなのですが、なかなか利用が難しいということが実態であると思います。

猶予できるものが80%であり、実際に株の過半数を持っていなければいけないわけです。実際には父親が会社を作ったときには株主が何人かいなければいけないため子供たちの名前で株主を分けて、その後、後継者が一生懸命会社を大きくしたが、結果的には株が分散していて、なおかつ株価が非常に高くなってしまっていて相続がしにくくなっている。一生懸命行っているのに相続しにくいというような現象が一番大きな問題であろうと思います。

そのときに、取引のない株をどのように評価するかということが問題であるため、実際には評価は全部資産として売ったときの値で出していくと捉えていますから、会社の継続が難しくなっているということと思います。

そのために猶予制度を取り入れていただいているということだと思いますが、なかなか難しい。

株の評価については、類似業種を参照にしても、今、例えば何も中小企業の環境が変わっていないのに上場株が上がってしまうと、そのまま上がってしまうということもあって、それもどのように評価したら良いのかということはぜひ相談をしたいというところであると思います。

今の事業の承継についてもそうですし、その前にある小規模宅地等の特例といったような、要するに居住に関することや、商売に関することについてフローとストックがどのような影響を与えるかというようなことは重要な問題であると思います。

我々としても環境が急に変わってしまう、継続できないということについては困るということを感じています。

○中里会長

御意見ということですね。

○田中特別委員

はい。

○中里会長

では、野坂委員、お願いします。

○野坂委員

説明ありがとうございました。質問がまず一つあります。

31ページに国税の中で各税目の占める割合が出ています。相続税は先ほど3.0%で1.8兆円弱であるという説明がありました。全体の国税の中では相続税の割合はかなり低いという印象を持ったのですが、これまで様々な改正を行ってきた中で、国税の中で相続税の占める割合の推移、これについて基礎的なデータを見せていただければと思います。

丁寧に様々な説明、大変参考になったのですが、この中で何点か質問があります。

意識調査に絡めてアメリカなどとの比較、遺贈の割合の比較が出て日本は非常に少ないということでしたが、これを示した意味と言いますか、狙いと言いますか、日本がもっと遺贈しやすい社会にした方が良いという意味で出してこられたのか、日本が遺贈しにくい社会と言うべきなのか、資料がつけられた背景、意図が何かあるのであれば教えていただきたいです。

要するに日本でも資産を持っていらっしゃる高齢者の方がいずれ社会に還元しようというような流れ、日本でもいずれ大きくなるかもしれないが、そのようなことを考えていらっしゃるのか、教えていただければと思います。

○中里会長

この点をお願いします。

○新発田主税局主税企画官

まず、最初の質問ですが、相続税の税収ということで、税収額そのものについては44ページに棒グラフがついています。こちらを見ますと、若干納付税額と実際の税収、見方が違うのですが、ほぼ同じような動きをしていると理解いただければと思いますが、やはりバブルのピーク時に4兆円ほどあった税収が今はこのような段階になっているというところです。

国税収入との比較で申し上げますと、平成5年に税収の5.1%というものがピークですが、大体足元ではほぼこの10年近く、3%前後ということです。具体的なデータについては、改めて示させていただきたいと思います。

続きまして、遺贈のところですが、どのような意図かということですが、骨太の方針の中に遺産の社会還元というキーワードが一つ入っていました。様々な意味で社会還元というものはあると思いますが、その一つに遺贈というものがあるのではないか。

その場合に、意識調査だけであると少しデータとして御覧いただく議論の素材として不十分と思いましたから、国際的な比較をつけました。もちろん、様々な寄附文化という意味でよく言われていますように、様々な意味で海外と日本で違うところがありますから、税の場でという話で全ておさまるものではないと思いますが、一応ファクトと言いますか、素材としてあくまで示させていただいているところです。

○中里会長

それでは、宮崎委員、お願いします。

○宮崎委員

ありがとうございます。

意見というよりは希望かもしれないのですが、今、改めてデータを示していただいて、内容が不動産、家、土地のようなものよりも金融資産がかなり増えている、あるいは老老相続が増えているというようなことで改めて認識をしたところです。

つまり、古典的な議論の延長線上では論じられないであろうということは想像しているのです。

さはさりながら、先ほども現金収入がない段階で不動産を相続する場合に、納めるお金がないわけですから、それを要するに切り売りしたり、分割していくというような、出ていくという話が今でもあると思います。

そうすると、例えばまちづくりというものを考えたときに、ある一定の町並みや住まい方、暮らし方を維持しようということが非常に困難になってくるわけです。

祖父母の代で持っていた不動産が四分割、六分割、場合によっては八分割され分譲住宅で売り出されるというようなことになっていきますと、子の代、孫の代、そこにいられなくなる。そうすると、孫の代になると、もうアイデンティティの形成というのでしょうか、自分のよって立つ地域、ふるさと、特性というようなものをどのように継いでいくのか。

相続というときに何を相続し、何を守るのかということを、そこも併せて考えていただければと思います。

町がどんどん型崩れして細分化されたり、流動化したりということになりますと、不動産の流動化も、セキュリタイゼーションもありますが、結局文化そのものが守られていかないのではないかと危惧するものですから、その辺りのところに配慮ができると良いと思っています。

老老介護ですと、この税制調査会でも盛んに勉強しているように、資産を持っている高齢者から苦しい若年層に対して平等的に再配分できるようにというような趣旨が随分語られてきたと思うのですが、今のデータを見る限りでは、そこまで行かないです。

中途のところでとまってしまって、孫の代に行ったときには今、申し上げたようなことになってしまうということになると、もう少し形を考えた方が良いのかもしれないということを思っています。

いずれにしても、税と社会保障も課されても良いのですが、制度の中での改革だけではなくて、ほかの日本全体の文化、社会、歴史、暮らし方や価値観など、そのようなものに波及する部分もぜひ考慮しながら議論していただけたらと思っています。

○中里会長

宮永特別委員、お願いします。

○宮永特別委員

今回の資産課税という観点と、より強い所得税など、そのようなことにも影響するのでしょうが、例えば我々の感覚というよりも一般的に考えて、これからますますグローバル化していったり、優秀な人と言いますか、様々な意味で経済を活性化させる、産業構造を変えていったりするときに素晴らしく優秀な人たちが必要な場合もあるわけです。

ある程度長く考えたときに、そのような方たちが海外に出ていってしまって、今までは日本人で日本で教育を受けて、日本の教育制度もしっかりしていて、国際的にも日本の教育制度、社会全体がまだ高いレベルで相対的にいたのですが、これからはそうでもない時代が来るときに海外に出ていってしまって、優秀な人たちが帰ってこない。

徐々に長い年月の間に日本の力が弱っていくというようなときに、グローバルに見て、大体海外は先進国であるなど、特にターゲットを決めれば良いと思うのです。

教育レベルの非常に高い国や、産業レベル、経済力が非常に強い国で、ある程度一定以上、例えば基本的に住むのに大変難しい国であれば別ですが、先進国や、ある程度これならば日本とコンピートしている、もしくは日本よりも良いと言われているような国よりも、ある程度平均的に税制面において、極端に勝っている必要はないと思うのです。

中央より少し良いところにある、もう一つは、少し日本人は心に訴えるところがあるとすれば、政府や様々なところで、ライフサイクルを通じて平均的に見ると日本は税負担が公平で、極端に重税感はないしバランスは良いというところが説明できるような全体的な説明です。

特にその瞬間瞬間は相続の時や得ている時ではなくて、平均的なライフサイクル、極端に良い場合、中央の場合、すごくうまくいった場合、うまくいかなかった場合など、そのようなところで大体これぐらいの負担で全員あまり極端なことはないが、ある程度頑張ればきっちりとなっていきますというところがあれば良いのではないかと思います。

それと、少し日本的にアピールするのであったら、社会的な再配分と言いますか、社会還元というものについて日本の税制度はこのように海外にない特徴があって、このような優しさなど、良いものを持っていますということをアピールできるような、そのようなものを考えつくことがあれば良いのではないかという感じがして、質問でも意見でもないのですが、そのような感じがしましたから、そのような観点での資料その他、これからお考えがあればまた説明のときにでもいただければありがたいと思っています。

○中里会長

税制による国の営業努力のようなことですね。

○宮永特別委員

やはりそのようなものも要るのではないかという感じがします。

すみれ

「国の営業努力、か。国も大変だね。」

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、上西特別委員、お願いします。

○上西特別委員

野坂委員がおっしゃいました遺贈をもっと行いやすくする社会という点は私も賛成です。そのために遺言が必要となるわけですが、法務省の民法(相続関係)部会で今、遺言の見直しをしているところです。遺贈しやすくなるような方向に移るのかなという気がしています。

それと59ページです。現在国税庁で平成25年までの数字が発表されていますが、20億円超のところで見ますと192件です。そして三代続いて大半が税金になるかどうかですが、先ほど説明がありましたように軽減措置を使わないでもこの図でいくと6億5,000万円は残るということですから、大抵の方については十分に残るわけです。

もちろん、キャッシュに近いものと遠いものとの差については一定の配慮が必要であると思いますが、これで実態が非常によく分かりました。

それと、相続税の役割についてです。全体に占める税収の比率を見ると、ピーク時で5%台であることから、税収の確保は当然必要ですが、役割としては再分配機能や格差の固定化などを防止する機能というものがより重要と思います。

その中で考えることが、相続税制の中での課税の公平というものも考える必要があります。その公平性というものは、社会全体と言いますか、多くの人から見た公平感というように言いかえても良いのかなと思います。公平感の裏返しというものは不公平感ですが、不公平感が高まると税に対する信頼性が失われて、ひいては勤労意欲の減退にもつながります。

とりわけ資産税、相続税の分野においての不公平感というものは重要です。多額の資産を持っている資産家のみが利用できるような手法が多く存置と言いますか放置されていると、この点において不公平感がより出てくることになります。

税制調査会は制度の基本的な枠組みやあり方を議論するところであることは承知しているのですが、実務家から見て疑義のある点について紹介をしたいと思います。

一般の週刊誌やビジネス雑誌などを見ても、最近、顕著に見られるものは高層マンション、タワーマンションを使った節税策です。都心のマンションを買って評価額を圧縮しましょうというようなフレーズが載っているぐらいですから、いかがなものかなと。

実態として、例えば3億円で取得したものが財産評価基本通達のとおり行えば、3分の1の1億円になった場合に、これが妥当かどうかということなのです。このような資産家しか使えないような制度があると、制度設計だけではなくて執行面において通達を改めるのか、または現在、著しく問題がある場合については別途措置することができるという規定があるわけなので、そのようなものも使って、時価と評価額との乖離が大き過ぎるものについては見直しを是非していただきたいと思います。

それともう一点、事業承継税制についてです。中小法人の事業の承継に伴う様々な問題解決や、雇用、技術の伝承などという点で非常に良い制度であると思うのですが、要件が厳しかったことから、利用件数が伸びなかったわけです。

平成25年度改正において相当に適用要件が緩和されたわけですが、やはり実務面から見るともう一段の見直しも検討いただきたい。例えば雇用の8割について5年間の平均となったわけですが、7人のところでしたら、その8割は5.6人ですから、6人を維持しなければいけないことになります。

また、納税猶予の継続届出書や判定の期日など算定割合の見直し等々、細かいことは申し上げませんが、現場を見ながらさらなる見直しをお願いしたいということも併せて申し述べておきたいと思います。

○中里会長

今の点について、事務局の方で何かありますか。

○新発田主税局主税企画官

前段の執行の話につきましては、国税庁の方で執行を持っていますから、そちらとも今の上西特別委員の意見の趣旨につきまして、きちんと共有させていただきたいと考えています。

○中里会長

この点はほかによろしいですか。

○田近委員

一つだけ。事業承継税制について。

○中里会長

どうぞ。

○田近委員

上西特別委員の指摘もそうですが、55ページについて、これは作るときに中小企業のオーナーに制度が濫用されるようなものであってはいけないということで、では、どこでそれを縛るのかという大変な議論がありました。

本来の事業を続けようにも、父親からもらった会社の株を資産評価してみて株数で割って、相続税が高くて仕事が続けられなくなってしまうというのは良くない。

その代わりに、仕事を続けるという要件で負担を緩和しましょうというのが雇用8割5年という縛りであったと私は思います。

非常に難しい問題で、我々と言いますか日本全体で中小企業の事業の継続をどのように考えるか。この8割5年というものがある意味でそれは守ってくださいと、その上で軽減しましょうという考えに立つのか、これが使い勝手が悪くて困るとするのか。

私自身は、この問題にはある意味でニュートラルですが、本当に大きな問題であると思います。したがって、実態を踏まえて税制調査会で議論を深めて、その中で私自身も考え方を整理できれば良いと思います。ただし、問題の所在とされる内容は、制度を作ったときはまさに8割5年の縛りが重要で、だからこの制度を作っても良いということがあったため、指摘させていただきます。

○中里会長

佐藤委員、どうぞ。

○佐藤委員

三点ほどです。

まず、相続税の位置付けですが、恐らく三つあって、一つは再分配という観点で、富の流動化と言いますか、固定化を回避する。ただし、再分配であれば、これは所得税の話も前回あったと思いますが、相続税は税金を取るというところですから、それをどのような形で移転と言いますか再分配に充てるのかということが本当は問われるため、これは特に相続税を今後再分配目的で強化するということであれば、税金をどのような形で再分配に充てているかという、その道筋は何か見せた方が良いと思います。

社会保障に限らないと思うのですが、何らかの形で富の流動化と言いますか、所得階層の流動化につながるような使途を考えて、念頭に置かないと良くないと思います。

二つ目の性格は、先ほど田近委員からありましたが、死亡時精算課税、つまり、本来自分が払うべきであった、例えば社会保険料や対価など、本当はこの後、議論が出てくるでしょうが、固定資産税なども本当は生きているうちはなかなか所得が低いため払えないが、亡くなったときに合わせて払うという、ある種、これまで払ってこなかった税金あるいは払うべき社会保険料、一般的に言えば受益に対する対価です。

社会保障であれ、行政サービスであれ、そのようなものに対する対価をまとめて払うという役割もあり得る。死亡時精算的課税。その場合であれば、当然本来払うべき社会保険料で幾らである、本来払うべき固定資産税で幾らなのかという、そこはしっかりと算定根拠をしていないといけないと思います。

三つ目は、意外と忘れられがちですが、一時期死亡消費税というものがはやったと思うのですが、相続税は消費税とむしろリンクするわけで、特に土地は非課税ですから関係ないですが、金融資産というような、さもなければ多分消費に充てられていたものであると考えるのであれば、消費税との見合いで金融資産に対する課税をどのように理解するかというアプローチもあり得るのかなと思います。それがまず言いたかったことの一つ目です。

すみれ

「死亡消費税ってはやったのか。」

二つ目ですが、私もこれをどのように整理したいのかよく分からないのですが、相続税と贈与税が向いているベクトルが全く逆で、相続税の方はどちらかというとこれから富の再分配という観点から見て強化しましょうということがある一方で、贈与税はむしろ早い段階で、寄附であれ、あるいは子供に対する移転であれ、そのような形で相続税の先取りなど、相続税の一体化ということが以前は図られていたと思うのですが、今の流れで見ると相続税はどちらかというとやめてと言いますか、軽減して、むしろ早い段階での贈与あるいは寄附を促しましょうという流れであるとすれば、実は相続税と贈与税は何らかの役割分担があるのか、あるいはそうではなくて本来の目的に即して贈与税と相続税の役割を一にするべきなのか、ここも整理が要るのかなと思いました。

あと気になることは、この後出てくる固定資産税もそうなのですが、小規模住宅に対する優遇措置というものは、先ほどのタワーマンションも近いと思うのですが、面積になぜあれほど注目するのかよく分からないのですが、小規模住宅を優遇するという形で面積に着目するからまさに小さい住宅もできてしまうわけで、ある種、確かに住み続ける人もいるわけで、すぐに売って相続税の税額を捻出しろということはむげであるということであれば、適正に評価して、別に面積は関係なく、一定額を控除するなど、基礎控除はあるわけですから、そのような住宅向けの控除を作るなど、もう少し別の工夫はあると思います。

固定資産税の方がむしろ大変なのですが、面積に注目することによって妙なゆがみを、相続税であれ、固定資産税であれ、何か与えているような気がするため、ここはむしろ課税標準は適正化する、ただし、何らかの控除という形での軽減政策を図るという、その辺りの政策の転換が必要なのではないかと思いました。

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、林特別委員、どうぞ。

○林特別委員

どうもありがとうございます。

先ほどの佐藤委員の死亡精算というものは非常に同意できるところですから、私からもその点は重要だと強調したいと思います。それが一点です。

もう一つは、ここで余り指摘されていなかったため強調したいのですが、基本的に相続税というものは自分の努力に全くよらない一時的な所得ですから、そのような所得に課税する場合、どのように考えるべきかという根本に立ち戻って考えた方が良いかなと思います。

そのように相続を一時的な所得として考えられるのなら、これは事務局への質問になるのですが、相続した財産を相続税ではなく所得税として処理している国があるのかどうなのかということも気になるところです。所得税で処理している国があるとすれば、統計が出てこないような相続の処理の仕方もあるということになります。

最後に事業継承の件ですが、事業継承については、手段としては必ずしも相続税だけで対処する必要もないのかなという気がします。ほかに産業政策的な様々な優遇措置があれば良いわけですし、また、事業継承する場合も、必ずしも御子息が継承する必要はなくて、より良い経営者がいらっしゃればその方に任せれば良いわけです。

また、企業が企業として価値があれば当然買い手も出るわけですから、そのような意味で生産性の高い企業が残るという議論も可能かなと思います。それだけではないとは思いますが、そのような視点も必要ではないかと思います。

○中里会長

それでは、高田委員、お願いします。

○高田委員

説明どうもありがとうございました。私の場合は感想めいた話になってしまうのですが、先ほど、今の相続税のところの税収、全体において3%ほどということでありますから、そんなに大きな税目ではないと思うのですが、私自身感じますことは、資産課税というものはマクロ経済的に考えると実態以上にかなり大きな影響を与えてきたのではないかという点でして、例えばバブル期の中における不動産に対する課税や、このようなものは大したものではなかったわけですが、非常に大きな期待形成というものを金融資産、場合によっては不動産という資産価格にかなり影響を与えたということもありまして、そのような意味では、この議論というところに関しては、かなり資産形成もしくは資産価格に関するマクロ経済的な相当なインパクトを持ち得るという視点を我々持っておく必要があります。

従って、実態以上にかなりの影響があるという点は重要な論点ではないかなというように考えています。

そのような観点から考えました場合に、先ほどからこちらの中でも議論があったわけですが、相続の高齢化が進む中で、当然のことながら、従来であれば普通の相続の中で資産の移転というものが、若年層に行われてきました。

しかし今日、従来のような形での移転が行われにくくなってくる。この状況が今後ますます強まってきやすくなってくる。当然、先ほどのマクロ経済的な関係で言えば、例えば限界的な消費性向や、投資性向のようなものもかなり違ってきますから、当然、これは経済活性化の観点から考えますと、若年層への贈与の促進、何らかの形での促進が有効なわけです。

そのような意味で、従来から議論している格差という関係からすれば、例えば今回もありましたような贈与制度や、また、資産形成等について言えば、ジュニアNISAのようなものも出てきているわけです。このような制度の創設というものもこのような考え方にあるわけです。その考え方はこちらのペーパーの中でも66ページのところにそのような視点も出てきているわけですが、当然また同様に73ページの附帯決議のところにありますように、格差の固定化というところとの天秤をどのように図っていくのかというところは当然あるわけです。

しかしながら、このようなマクロ経済的な観点からすれば、一括贈与についても、ジュニアNISAなどにしても、デフレの脱却ということからすると、時限措置があるわけですが、一方で、政策的な期待の形成という観点から言えば、ある程度恒久的な対応にしていかないとどうしても期待形成には影響を及ぼしにくくなるという部分もあります。

その辺りの議論というものも同様にしていく必要があるのではないかと思います。したがって、当然のことながら、格差と言いますか、同世代の中においての格差はありながらも、若年層と高齢層という格差の観点から見ると、様々な資産の若年層への移転というようなものは重要な状況になってくると思いますから、そのようなマクロ的な政策意図というものもかなり今後は重点的に議論しておく必要があるのではないかと感じた次第です。

○中里会長

ありがとうございます。

事務局からお願いします。

○新発田主税局主税企画官

先ほど林特別委員から、相続税がない場合で所得として捉えるケースがあるのかということでした。詳細につきまして、また改めて示させていただければと思いますが、G7の国で申し上げますとカナダは相続税がない国ですが、カナダについては、みなし譲渡課税ということですから、それはどのような法形式と言いますか、どのような税目で税金を取るかということはまた別の話かと思いますが、いわゆる移転する所得という形では、何らかの形では捉えられているということかと思います。

○中里会長

含み益を相続時に所得税で課税してしまうということですね。スウェーデンは何か資産税か何かで別途補っているような記憶がありますが、結構どこも努力しているのかもしれません。

岡村委員、お願いします。

○岡村委員

今、高田委員からも指摘がありましたが、本日のファクトの中では、やはり老老相続が増えているということが非常に大きいことではないかと思います。やはり古い世代から次の世代への富の移転、特に社会の生産に役立つようなものをいつまでも年寄りが握り続けるということは余り良くないのかもしれないと思います。

この2015年の基本方針でも、持続的成長を支えるということですから、相続税といったものがこの持続を妨げるような形で入ってくることは好ましくない。しかし、他方では、もちろん機会格差を増やすようなことは、これも避けなければならないということになるのではないかと思います。

アメリカの例になるかもしれませんが、アメリカは1976年にユニフィケーションと言いますが、遺産税と贈与税の一体化の改革をしました。これは日本で言うと相続時精算課税制度の拡大バージョンになるかもしれません。背景には、アメリカは、遺産税は遺産を残した人、贈与税も贈与を受けた人ではなくて贈与した人に課税をされる制度になっていて、この中で比較的ユニフィケーションが行いやすかったということがあるかもしれません。しかし、日本もこれだけ老老相続が増えてくるということですと、死亡時まで資産を保有し続けるということではなくて、もう少し早い段階で次の世代に回す、そのようなことに役立つような税制ということも考えても良いのかもしれません。

アメリカでは、エステート・フリーズという、これは節税なのか、租税回避なのか分かりませんが、税負担軽減のテクニックがあります。決して悪い意味ではなくて、少し日本でもこの考え方、つまり、親の世代が、まだその事業が十分に成長していない段階で法人を作って、その株式を早期に次の世代に贈与してしまう。

そして、贈与された株式を持ちながら、次の世代の手の中で当該企業が成長していって、親が亡くなったときにはかなり立派な企業になっている。うまくいけばですが。それで遺産税を減少させるというのがエステート・フリーズです。もちろん、その事業実態が実は親が行っているということであると租税回避になるわけですが、次の世代が行っているのであれば、むしろ実態に合っているかもしれません。そのようなテクニックがずっと使われてきたわけです。

この事業承継税制の議論が先ほどから出ていますが、相続があったから、というよりは、その前の段階を考えていくような基本的な発想の転換のようなことを行えば、もう少しうまくいくのかなと思いました。

○中里会長

それでは、山田特別委員、お願いします。

○山田特別委員

ありがとうございます。

所得税中心でずっと議論が進んできていまして、相続税について議論する機会が多分今日しかないのではないかと思うものですから、今日の説明とは直接関係ないこともあるかもしれませんが、お聞きいただければと思います。

相続税ももっと薄く広く負担していただく税制にするという点を考えて良いのではないかと思う点です。何故かと言いますと、所得税などの税収のことを考えると、高額所得者に多く負担していただこうとしても税収に与える影響というものはそれほど大きくない。薄く広く多くの人から、たとえ5%でも10%でも負担していただく税制にすると、大きな額の税収になるという点を考えると、相続税の基礎控除を高くし過ぎてしまうと良くないのではないか。

今年から下げているから良いではないかという考え方もあるのでしょうが、もっと下げても良いのではないかということです。但し、徴税のことも考えての検討も必要です。

それと関連するのですが、所得税の検討の際に老夫婦の金融資産が2,000万円ほどになっているとのことでした。したがって、その辺りからも負担していただくということはどうかという検討もあったわけですが、あのとき違和感がありまして、老夫婦はそれから先の人生を非常に心配しているわけですから、その財産に着目した財産税のような取り方ということは酷なのではないかと私は感じ、それが生み出す所得に負担していただくという考え方であったら良いと思うというように申し上げたわけです。

その延長線で、そのような方々が結果として使い残して遺産になったという場合には、少し国庫に納めていただいて良いのではないかと思うものですから、その点で課税最低限の引き下げというものはもう一段考えても良いのではないかということです。

もう一つは、今日の話の中に全くなかったのですが、取引相場のない株式の評価につきまして、専門的な言葉になって済みませんが、類似業種比準方式というものがありまして、30年ほど前には比準要素として配当と所得と純資産と3分の1ずつ、同じ割合であったのですが、時を経るごとに所得のウエートが高くなっているわけです。

これはどのような影響が出るかというと、例えばベンチャーなどで頑張って、純資産はまだたまっていないが、すごく利益を出す会社がありますと、この会社の株式の評価は非常に高くなるという状態です。それとは逆に、含み資産たる土地のような資産は多くあるが、利益が低いというケースは評価額は低く算出されます。

そうすると、資産の有効活用度が低い会社の相続税上の評価は低くて有利ということになってしまう訳で、国民経済的には果たしていかがなものかという評価制度がなっているわけです。

私は実務家として、このように変化してきた評価は間違っているのではないかと思っていまして、この点から、もう一回純粋に取引相場のない株式の相続税、贈与税の評価はどのようにあるべきかの議論を行っていただくとありがたいと思います。

○中里会長

ありがとうございます。それでは、国税はここまででよろしいですか。

梅澤特別委員、何かありますか。どうぞ。

○梅澤特別委員

先ほど宮永特別委員が言われたグローバル化の視点でしっかりと考えましょうということは私も大賛成です。林特別委員がおっしゃられた所得税と相続税は違うから所得税は本人の努力の部分も勘案する必要があるが、相続税はそうではない。したがって、違う考え方で臨んで良いのではないかということも賛成です。

その上で、事務局に一点追加で質問と言いますかお願いですが、議論になってきました事業承継のしやすさということに関しても、主要諸外国との比較する参考情報を少しいただけませんでしょうか。岡村委員が言われたようなアメリカの話というものも大変参考になりましたし、なぜこれを申し上げているかというと、相続税はかなり厚く取れば良いとは、私も思うのですが、一方で、自分の周りで成功したアントレプレナーでまだ未上場という人たちが相当海外に出ている動きも見えます。

上場している企業もそうですが、未上場でもそのようなものが見えます。これは日本であると特に株式の評価額が高くなってしまったような未上場企業に関しては事業承継が様々難しい部分があるのかなと見てとれるのです。その辺り、実態がどのようであるのかということを確認したいという趣旨です。

○中里会長

これはお調べいただくということになりますか。

○新発田主税局主税企画官

済みません、今、手元にありませんから、こちらにつきましても調べさせていただきたいと思います。

○中里会長

よろしくお願いします。

宮崎委員、どうぞ。

○宮崎委員

先ほど上西特別委員がおっしゃった不公平感と言いますか、制度がしっかりと働いているかどうかということと、林特別委員がおっしゃった全く努力をしないで相続が来るということです。

そのときに、老老相続と老老介護が裏側にあって、自分の命を削って必死に介護をしている人と、ぽんと施設に預けて面会にも行かなくて、相続が来たら奪い合うというような、そのような人が同じ制度の中で考えられることは不公平なような気がするのです。

その辺りのところをしっかりと区別して労に報いるような、あるいは親子の愛情やきずななど、そのようなものも勘案できるような制度ができるのかどうかということを伺いたいと思います。

○中里会長

基本的には民法の問題であると思いますが、もし何かありましたら、どうぞ。

すみれ

「少し信託法の問題でもあるかな。」

○林特別委員

相続税の控除額を見れば、苦労されているような家庭にはそもそも相続税は課されないでしょうし、相続税が問題になるような家庭では、資産が十分にあるでしょうから、多分そのような苦労はされていないと思います。資産を使えば良いだけだと思います。

○中里会長

よろしいですか。どうぞ田中特別委員、お願いします。

○田中特別委員

事業承継についても先ほど市場によって売買ができればそれが正解であるというようなお話をされていますが、先ほど来言っていることは、資産価値と運用価値が違うということの問題であって、それについては林特別委員が言うような簡単な解決策ではないということを言いたいです。生活についても同じであると思います。

○中里会長

実態を知るとそう簡単に行かない場合も確かにあるかもしれません。国税の部分はこれでよろしいですか。様々なお考えが当然出てくると思いますから、どうぞ御遠慮なくおっしゃってください。

それでは、お待たせしました。自治税務局の佐藤固定資産税課長から説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

それでは、資産課税の地方税パート、固定資産税についてです。

総25-2の資料です。

目次です。固定資産税の概要と沿革、基本的なところを整理しまして、土地に係る固定資産税の負担水準の状況です。それから、ページ数は多くありませんが、固定資産税をめぐる経済社会構造の変化について材料を提示させていただきまして、議論いただければと思っています。

2ページです。固定資産税の概要です。

課税客体は土地、家屋、償却資産の三資産。課税主体は市町村です。

納税義務者は土地、家屋、償却資産の所有者ですが、昨年度の実績で土地、家屋ともに4,000万人強、償却資産が419万人です。課税標準は価格で適正な時価、土地、家屋は3年ごとに評価替えを行っていまして、ちょうど今年度、平成27年度が3年に一回の評価替えの年です。次回は平成30年度です。

税率は標準税率を採用していまして1.4%、免税点を設けています。土地が30万円、家屋が20万円、償却資産が150万円。

賦課課税でして、賦課期日が当該年度の初日の属する年の1月1日です。

税収は8兆5,000億円余りということでして、土地、家屋がそれぞれ3兆3,000億円、3兆6,000億円。償却資産が1兆5,400億円、合わせて8兆円という大変大きな税収規模を誇る基幹税です。

3ページに地方税収に占めるウエート、市町村税収に占めるウエートを円グラフで整理しています。

地方税収35兆円に占めるウエートは約4分の1の24.2%、市町村税収20兆円余りに占めるウエートは約4割の41.6%ということで、個人住民税とともに基幹的な役割を市町村の行政サービスの実施に当たって担っているものです。

4ページに市町村の歳出と固定資産税収の推移をグラフで整理しています。昭和60年代以降は市町村歳出、固定資産税収ともに増加をしてきました。市町村歳出は平成11年度以降減少してきましたが、平成19年度以降、特に民生費、衛生費等の増により増加傾向にあり、平成25年度は54.9兆円。それに対しまして、固定資産税収は昭和60年度から徐々に上昇してきましたが、平成11年度の9.2兆円をピークとして、なだらかではありますが減少傾向です。平成25年度8兆7,000億円ということで、ちょうど平成20年度辺りから歳出と固定資産税収がVの形になってきているということです。

5ページが市町村歳出で社会保障に充てられます民生費・衛生費です。これは一番上に折れ線がありますように、平成20年代に入りまして大幅に上昇してきています。その中で先ほどと重複しますが、固定資産税については若干の減少というような状況です。

6ページは時間の関係で詳細な説明は省略しますが、地方財政全体の中で一般行政経費、この中に社会保障関係費が当然含まれているわけですが、その影響で増加している一方で、行政改革等で給与関係経費、投資的経費は減少しています。

全体として抑制基調にある中で一般行政経費の財源を確保することが課題になっているということです。

7ページに市町村税収全体に占める固定資産税収の割合を整理しています。ここで申し上げたいことは、先ほど市町村税収の約4割が固定資産税ということを挙げました。

市町村の規模別でいきますと、大都市は法人関係税もありますから固定資産税のウエートは4割を若干切り、これは政令市と東京都23区分でありますが、その一方で、町村については固定資産税収が税収の半分を占めているということで、特に小規模な自治体で非常に重要なものとなっていると言えようかと思います。

8ページに政令市における税収の構成比較ということで、このグラフは上から財政力指数の高い市、川崎市以下並べていますが、傾向はほぼ一致していまして、左が個人市民税、中央が固定資産税でありますが、両方合わせて6割以上から8割程度を占めており、固定資産税については、この政令市におきましても大体4割前後を占めているということです。

9ページは固定資産税収の動向を時系列で整理してみました。全体の数字は先ほど申し上げたとおりですが、土地については、平成11年度の3.8兆円をピークとしまして、なだらかではありますが減少して、平成27年度は3兆3,000億円余り、4,000億円強の減少です。

その一方で、家屋については、これは土地も共通ですが、3年おきに評価替えを行い、その年に一旦落ちては少し復元、落ちては復元ということを繰り返しています。平成10年度以降は、3.5兆円、3.6兆円、3.7兆円辺りで均衡しているという状況です。

償却資産は若干景気の動向にも左右されますが、平成10年と比べますと1,500億円ほど落ちていますが、平成27年度は1.6兆円というような状況、になっています。

10ページに主要税目の税収の時系列での推移を固定資産税中心に整理したものです。やはり御覧いただきますと、固定資産税収は平成元年度から徐々に上昇しまして、平成11年度をピークとして若干減少していますが安定的に推移しています。

個人住民税も比較的安定している税目ですが、固定資産税と比べると若干上下にぶれています。平成18年以降、上に上がっていますものは、税源移譲の関係です。

その一方、地方法人二税につきましては御覧のような状況で、平成元年度の10兆円から平成14年度には5.7兆円に落ちていますし、また、リーマンショック時には大きく下振れしました。地方消費税については、これが一番安定的と言えようかと思いますが、税率の引き上げによって平成26年度、平成27年度と上昇してきています。

11ページは地域別の偏在度です。これはいつも様々な税目で示しているものです。固定資産税は一番右にありますが、人口一人当たりの税収額は、最大の東京都が最少の長崎県の2.3倍ということで、清算後の地方消費税に次いで比較的偏在の少ない税であると理解いただければと思います。

12ページに固定資産税の性格として、平成12年の中期答申で整理いただいたものを付けています。確認のため申し上げると、固定資産税は安定的で税収の変動が少なく、どの地方団体にも税源が広く存在し、その偏在が少ないという性格を持っている。引き続き安定的な確保に努める必要があるとされています。

また、個別税目の整理の中では、固定資産の価値に応じて毎年経常的に課税する財産税であるということ。それから、資産の保有と市町村の行政サービスとの間に一般的な受益関係が存在していること。また、固定資産税は資産価値に応じて課税される物税であり、資産の所有者の所得などの人的要素は考慮されない、と整理いただいています。

13ページには、参考までに付けていますが、金子教授の租税法の中から。また、平成15年の最高裁判決では、固定資産税は土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるとされています。

14ページでは固定資産税の仕組みを簡単に整理しています。

まず、固定資産評価基準により評価額を算定します。土地、建物は三年ごとに算定し、それ以外の年度は原則据え置きです。なお、宅地については、平成6年度の評価替えの際に地価公示価格等の7割を目途として評価することとされました。償却資産は毎年評価替えをしています。

その上で、課税標準について政策的な特例措置があります。ここに記載しているものは住宅用地の特例です。また、負担調整ということで、税負担を緩やかに上昇させるための課税標準額の調整措置というものを講じています。これに税率を掛けて税額を出します。税額の特例については、また後ほど資料もありますが、新築住宅の税額の特例で一般住宅について3年間2分の1にするといったものがあります。

15ページが評価の仕組みでして、固定資産評価基準に基づいて市町村長が評価を行います。これは地方税法に定めのある固定資産評価基準というものを総務大臣が告示しているもので、これに従った評価が行われています。

土地については、地目別に売買実例価格を基礎として評価額を算定します。家屋については、いわゆる再建築価格ということで評価対象家屋と同一の家屋を評価の時点でその場所に作った、新築したという場合に必要とされる建築費に経年減点補正という年数の経過に応じて定める減価を行って評価しています。

償却資産については取得価格方式でして、その後の経過年数で減価をしまして評価額を算定しているということです。

16ページは土地の評価のイメージですが、省略させていただきます。

17ページは宅地等に対する固定資産税の課税の仕組みでして、これは平成27年度、今年度の評価替えから3年間の現行制度を図で整理したものですが、固定資産評価額を先ほどの方式により算定しまして、小規模住宅用地には、先ほど佐藤委員からも指摘がありましたが、200平米以下の部分については課税標準の特例の6分の1というものがかかってきます。

これにより算出した額と、前年度の課税標準額に当該年度の評価額に6分の1の特例率を掛けた後の5%分を足し合わせた額とを比較し、いずれか低い方の額を課税標準として課税します。なお、一般住宅用地は特例率が3分の1でして、これは小規模住宅の200平米を超える部分に関しては特例率が3分の1というものです。以下同じです。

商業地等の宅地については、課税標準額の上限を評価額の7割としています。また、前年度の課税標準の現年度の評価額に対する割合というものを負担水準というように呼んでいますが、これが60%から70%の中にある場合には、前年度の課税標準に据え置くという特例を残置しています。60%以下の場合ですと、前年度の課税標準額に現年度の評価額の5%分を足し合わせたものに引き上げていくということです。

下に(B)というものがありますが、これは評価額と比較して下回っているという場合には20%まで引き上げるという最低水準を定めているということです。

18ページは、上に住宅用地、小規模住宅用地並びに一般住宅用地の特例を再度整理しているものでして、経緯としては昭和48年度、昭和49年度にそれぞれ住宅用地の特例と小規模住宅用地の特例が2分の1の特例率、4分の1の特例率で創設をされました。これはいわゆる列島改造ブームの後の地価上昇の際です。

平成6年度に、7割評価を入れたバブルの後ですが、住宅用地特例の拡充ということで小規模住宅用地の特例率を6分の1まで、一般住宅用地の特例率を3分の1まで深掘りしています。

新築住宅にかかわる固定資産税額の減額の特例ですが、先ほど少し申し上げましたが、一般の住宅については3年度分を2分の1としいます。ただし、対象床面積は120平米を限度としています。なお、優良な住宅については、5年度分となっています。

19ページですが、固定資産税は標準税率と申し上げましたが、平成16年度にそれまで設けていました制限税率2.1%を撤廃しています。超過税率を実施している地方団体は意外に多くありまして、下の表にありますように特別区は一つの自治体としてカウントして、全国1,719の地方団体のうち、超課税率を採用している団体が全体の8.9%、153あります。特に人口5万人未満の市につきましては、264ある中で50団体が超過税率を採用しています。比率として18.9%です。

財政状況が悪化した自治体で税収の確保を図る、あるいは地価の下落が著しいようなところで税収の確保を図るというような観点で導入されている例が多いと聞き及んでいます。

20ページは固定資産税の賦課徴収の流れですが、省略させていただきます。

22ページからが沿革です。昭和25年度に市町村税として創設されました。それまであった地租、家屋税、電柱、船舶、軌道等の償却資産に係る諸税はこのときに廃止されています。

当初の標準税率は1.6%、制限税率は3%でしたが、その後、標準税率は昭和29年度に1.4%に下げられています。

昭和30年度から3年ごとの評価替えの仕組みができまして、昭和36年3月に全国統一の評価方法を採用すべきであるということで、昭和37年度の地方税法の一部改正で固定資産評価基準というものを定めるということが規定されました。それ以後、この基準に基づいて評価しているところです。

ただし、23ページの中央にありますが、昭和39年度に、大変多くの土地投機がありまして、昭和38年度評価額に対する上昇率は土地が4.4倍ということでした。そこで昭和39年度に宅地についての暫定的な措置ということで、昭和38年度の課税標準額の1.2倍を上限として税額を算定することとしました。これが負担調整の始まりではないかと思っています。

先ほどから新築住宅に係る税額の特例の話を申し上げてきましたが、昭和39年度に法律でこの特例措置が定められたということです。

24ページですが、大変な地価の上昇があり、そのときに税率で調整してはどうかというような議論があったようですが、その際の税制調査会の答申としまして、税率の引き下げのみによって調整する方法では適当ではない。土地については課税標準の特例を設けて調整する方法について今後検討することが適当であるというような整理がされたということが残っています。

昭和41年度に入りまして、ここに記載のような負担調整率、昭和38年度の課税標準額に対しての当該年度の価格の割合、上昇率に応じて前年度の課税標準額に1.1から1.3

あるいは1.4という率を掛けるというような措置が講じられたということです。

26ページです。昭和46年の長期税制のあり方についての答申で、今、申し上げましたような前年度の課税標準に1.1あるいは1.2、1.3、1.4というものを掛けるということで、評価額をいて課税するという方向からかなりずれてきたということがあったため、このときに土地利用政策、住宅政策等の関連も相互に考慮しつつ、税負担の軽減、激変緩和について配意すべきである、評価額に基づいて課税する方向で検討すべき、という前提でこのようなことが定められました。

ところが、御案内のように昭和46年以降、3年間で地価公示価格の全国数値が二倍ほど上がるというような状況もあったため、昭和48年度に昭和46年の答申を踏まえて、負担調整措置として評価替えの翌々年度に課税標準が評価額に到達するような調整措置を導入しました一方、特例措置として先ほど説明しました住宅用地について課税標準額を価格の2分の1とする特例措置、いわゆる住宅用地特例をここで初めて創設したということです。

27ページにいきまして、昭和49年度の答申では、先ほどの佐藤委員の御意見にもありましたが、200平米以下の小規模の住宅用地について課税標準額を価格の4分の1にするという特例措置をさらに深掘りしたわけですが、その際の昭和48年12月の答申におきましては、200平米以下の土地というものを住民の日常生活に最小限必要と認められる小規模の住宅用地の税負担をさらに軽減するというような趣旨で入れられたということです。

実はこの後、地価の上昇は非常に緩やかでして、昭和50年から昭和62年の12年間で地価公示価格は、全国が1.5倍というようなことでしたから、この間は固定資産税の負担調整の仕組みを大きく変更するということはありませんでした。

28ページは土地基本法と平成3年度の税制改正に関する答申を入れています。いわゆるバブル経済がありまして、土地の評価の適正化・均衡化を図っていこう、平成6年度の評価替えにおいて地価公示価格の7割を目指した評価の均衡化、適正化を図ろうとなってきまして、28ページから29ページにかけて、そのときの答申を掲げさせていただいています。

そうした中で評価が大きく上がるため、評価は評価として、税負担については急激な変化が生じないような調整措置を講ずべきであるということも答申をいただいたところです。

平成4年に地価公示価格の7割程度を目途とする評価の水準について、そのようなことが決定されました。30ページですが、平成6年の評価替えに当たりましては、特例措置として小規模住宅用地、一般住宅用地の課税標準をそれぞれ4分の1から6分の1、2分の1から3分の1に深掘りしました。このときにはさらに暫定特例として価格の上昇率に応じて、これに連動する形で上昇率の高いところには4分の3から2分の1の率を乗じたというようなことも行っていますし、よりなだらかな負担調整措置も導入して、調整期間12年度程度で評価額に到達するような、そのために、このようなあらゆる措置を組み合わせて対応したということです。

その後、31ページですが、評価の均衡化というものは図られたわけですが、平成9年度には負担水準の均衡化を図ろうということで、そのための負担、調整措置の導入が図られました。先ほども説明申し上げましたから重複は避けますが、いわゆる負担水準という概念、ここに記載の前年度の課税標準額と当該年度の評価額の割合ですが、これに応じて課税標準額を決めていこうということで、例えば商業地等でいきますと、負担水準が80%以上の場合には80%まで引き下げる。

通常の場合、60%から80%の間にある場合には前年度の課税標準額を据え置く。60%を下回る場合にはなだらかな調整率の引き上げを図るということにしたわけです。

評価のところにありますが、据え置き年度、評価替えの翌年度、翌々年度においても、地価の下落に応じて評価額を修正できる措置を導入しました。この仕組みが基本的には続いてきているということですが、32ページにありますように、平成18年度、ここでは、負担水準が低い土地について、これまでかなり負担水準が低い場合でも先ほどのなだらかな負担調整措置をかけるということをしていましたが、負担水準が20%を下回っている場合には20%まで引き上げるということです。

33ページの下の方を御覧いただければと思います。平成24年度の左に商業地等がありまして、こちらは先ほど申し上げました現在の仕組みと同じですが、住宅用地につきましては据え置き特例を設けていたゾーンを段階的に撤廃するということで、平成24年に、平成25年に90%と100%の間に設けていました据え置きゾーンを平成26年度に撤廃しています。

それでは、次に土地に係る固定資産税の負担水準の状況について説明します。

まず、35ページ、平成21年度の答申を付けていますが、納税者の税負担にも配慮しつつ、負担の均衡化、適正化を促進する必要があるとされました。

36ページは、住宅用地についての課税標準額の据え置き特例について、時系列で整理したものです。説明は省略します。

こうした措置を講じてきました結果、37ページですが、小規模住宅用地における評価額に対する課税標準額の割合は、平成6年度、大変なばらつきがありましたが、平成26年度におきましては、100%から90%の間のゾーンに99%以上が収れんするという状況になっています。

38ページですが、小規模住宅用地について評価額の状況がどのようになっているか、課税標準額の状況がどのようになっているのかということをグラフで整理しています。一番上が地価公示価格です。その下が1平米当たり評価額ということで、平成6年度に7割評価を導入したその時点を指数100としまして、平成25年度の評価額については平成6年から6割減の43.9ということになっています。

下にいきまして、小規模住宅用地は課税標準の6分の1の特例を入れていますから、点線がその課税標準額の上限となります。したがって、平成6年度は評価額100に対しまして上限が16.7、6分の1で、一番下のひし形の折れ線が1平米当たりの課税標準額の実態の数字でして、平成11年度をピークに若干の減ということになっていますが、平成25年度を御覧いただきますと、上限にほぼ張りついてきているという状況がありますから、このまま地価の下落が続きますとストレートに税収の減になってくるということです。

39ページからが商業地等で、同じ仕組みですから重複の説明は割けますが、40ページには据え置きゾーン、負担水準の60%から70%のところに99.5%が収れんをしています。ただし、据え置き特例を商業地等の方は現在まだ残しているわけですが、その課題が発生しています。

41ページですが、評価額と課税標準額の逆転現象ということです。左の事例1、これは地価が上昇した場合、東京都のような場合ですが、評価額がn年度に9億円、課税標準額が6億円でした。これが評価額が上昇して10億円になりました。

そうしますと、負担水準が(A)評価額とn年度の課税標準額(B)6億円を比較して60%でありますから、これは据え置きゾーンに入っているため据え置きです。したがって、評価額10億円に対して課税標準額6億円になります。

ところが、右の事例2、これは地価下落のケースです。n年度に評価額が10億円で、課税標準額が7億円の場合、評価額が右の(A´)9億円に下落しました。その場合の負担水準は9億円分の(B´)7億円で、78%ですから、70%まで引き下げるということになりますと、課税標準額が6.3億円ということでして、左の方が評価額10億円で課税標準額が6億円、右は評価額9億円で課税標準額は6.3億円という、このような状況が発生しているということです。

43ページに宅地における負担水準の推移ということで、商業地等と一般住宅用地と小規模住宅用地につきまして、課税標準、上限がそれぞれ70%あるいは3分の1で33.3%、16.7%となっておりますが、ほぼ上限に張りついてきているというような状況ですが、商業地等については若干下げてきているということでして、これについては44ページに商業地等に係る負担水準の状況というものを付けています。

7割というものが上限になっているわけですが、実際に前年度の比較でありますから、負担水準が70%を超えるというところの地価が下落したところですが、人口減少が著しいような地方部では70%を超えて、頭を今、押さえているという状況ですが、東京都を御覧いただきますと、63%にとどまっています。

したがって、先ほど若干右に垂れてきていましたが、これは東京都の下がりの分が大きいのではないかと思っています。

以下、一般住宅用地等も同じですから、これは説明を省略します。

最後に、経済社会構造の変化ということで48ページに法人税の改革についての当税制調査会からいただいたものですが、住民税や固定資産税について充実を検討すべきとされています。

また、49ページには、これは過去に出しました人口の今後の推移、見通し。

50ページから都道府県別の人口変化のこれまでの経過と今後の推移の見込み。

52ページに地価公示価格の年別の指数の推移。

53ページに地価公示価格の前年度変動率で足元は三大都市圏では上昇、それ以外では下落幅が縮まってきたということです。

54ページから3枚ほど最近の固定資産税の納税額の状況を付けていまして、54ページは世帯主の年齢別に固定資産税の納税額を整理したものですが、60歳以上の年齢階級が固定資産税の納税者全体の6割強を占めています。また、60歳以上の年齢階層のうち、納税額が10万円未満の納税者が全体の4割、納税額が20万円以上、逆に高い方が1割弱ということで、若干二極化と言えようかと思いますが、60歳以上の年齢階級の固定資産税の納税のウエートが高いです。

55ページですが、これは高齢者夫婦世帯の住宅宅地の資産額階級別の年間収入と貯蓄現在高で、折れ線グラフがその世帯の分布割合でして、500万円から3,000万円の階級が全体の3分の2を占めています。500万円の階級では6.6%、1億円以上の階級は4.1%ということですが、棒グラフにあります指数で見ますと、年間収入は500万円未満の層からなだらかに上昇しています。貯蓄現在高も資産額に応じて上昇しています。その上昇率は年間収入よりは高くなっているという状況です。

最後に、56ページ、年齢階級別の一世帯当たりの租税社会保険料負担ですが、固定資産税のところを御覧いただきますと、折れ線が負担のある世帯の割合です。

29歳以下では11%しか固定資産税を負担している世帯はありませんが、それ以後、年齢を追って上昇しまして、50代以降は75%から80%、全体平均72%。負担がある世帯の平均の負担額ですが、全ての世代を通じて、29歳以下は若干低いですが均衡的です。個人住民税、所得税等は違う傾向が出ています。

○中里会長

どうもありがとうございました。

それでは、今の説明について、委員の皆様から質問や意見がありましたら頂戴したいと思います。いかがでしょうか。

山田特別委員、どうぞ。

○山田特別委員

15ページの家屋の評価に関して、意見ですが、いわゆる会計には減損という考え方があるわけですが、ここに書いてある家屋の評価に関しましては、再建築価格と経過年数に伴う減点補正率しかない。すなわち、減損という考え方がないということは、建物を一回作ってしまったが、非常に収益力は弱いといういわゆる、投資の失敗、そのようなケースにおける建物に係る固定資産税の収益に対する割合が高い、すなわち税負担が重たいという状況がありまして、事業再生が非常に難しいというケースがあります。事業再生ができた方が再活性化して、雇用も増えますしまた訪れる人なども増えて、その地域のためにもなるわけですので、建物に減損という考え方があって良いのではないか、あるべきではないかと思うため、ぜひ検討いただきたいと思います。よろしくお願いします。

○中里会長

それでは、田近委員、どうぞ。

○田近委員

御説明ありがとうございました。

固定資産税について先ほど来、小規模宅地の評価の話は出ているのですが、17ページに固定資産税の課税の仕組みということで、これもまた理解が間違っていたりしたら指摘いただくとして、小規模住宅用地、一般住宅用地、商業地等の宅地、いわゆる課税対象価格というものが固定資産評価額で地価公示額の7割。それに7割を掛けて、つまり地価公示価格の49%をもって固定資産税の評価額にしましょうというものが骨太のところです。

小規模住宅、一般用地、一般住宅については既に指摘があったため、これも見直しが必要であるということは長年言われてきているし、商業地等ですが、今日改めて話を聞いて非常に興味深いことを伺ったと思って、要するに、今、言ったように、公示価格の7割をもって固定資産評価額にし、その7割をもって課税価格にする。

ただし、評価額が低いところがあったため一気に上げることは大変であるというところで、評価額の6割から7割がグレーゾーンと言いますか、ニアストライクゾーンというものを設けていたわけです。そして、その間に公示価格が下がってきたため自然に公示価格に対する評価額というものが結果的には上がってきたというところで、今日、非常に興味深いものを見せていただき、40ページがその説明の続きで、平成26年度、まさに申し上げたように100に対して7割が本来あるべきところ。ニアストライクゾーンを60から70にしたら、ほとんどニアストライクゾーンでいる。そうすると、60から70にとってしまったがゆえに、変な逆転現象が起きるというものが今日の説明で、この話はもう何十年行っているか分からないですが、もう7割がルールならば、7割にするということは原則で、この6割、7割のニアストライクゾーンで逆転があるということは問題として深掘りする必要がどこまであるのか。

皮肉なことにと先ほどから言っていますが、地価が下がってきてしまったため、ストライクゾーンにどんどん入ってきてしまった。そのようであるならば7割でも決めるということが一つの考え方であるのかなと思いました。

あと19ページに固定資産税の税率採用ということで、標準税率が1.4%。標準税率というものは先ほど言った地価の49%に対する1.4%ということですが、説明いただきたいことは、資料が必要なら後日で良いのですが、超過税率を採用しているものが全体の8.9%の市町村があるのですが、一体どのような市町村であるのか。

それが宅地なのか、住宅共用地なのか、商業地等なのか、この表から我々が持つべき像は一体どのようなものかということを伺いたいということで、商業地等の問題は非常に興味深く伺って、もう6割から7割のニアストライクゾーンというものがどこまで必要かということが私の意見です。理解が違っていたら修正してください。

○中里会長

佐藤固定資産税課長、もしコメントがあればどうぞ。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

まず、今、商業地等の6割から7割の据え置き特例について意見をいただきましたが、自然な流れとしてはまさに住宅の方では据え置き特例を平成26年度になくしましたから、そのようなことになるのであろうと思いますが、これは当然負担増になる場合があるわけでして、そこをどのように理解を得ながら進めていくか、よく議論していく必要があると思っています。

今、超過税率について意見、質問がありました。実施している自治体についてはまた資料を用意したいと思いますが、税率につきましては、固定資産税は土地、家屋、償却資産で同一税率ということにしていますから、土地だけを上げるというようなところは現実にはありません。

○中里会長

それでは、増井委員、どうぞ。

○増井委員

56ページのグラフを大変興味深く拝見しました。ここで出ている負担ということについて、質問があります。端的に申しまして、日本の固定資産税は誰に帰着しているかという問題です。

○中里会長

田近委員、どうぞ。

○田近委員

一義的にはその土地の資産の流動性がそれほどないとすれば、それは資産を持っている人にかかると思いますが、増井委員はそれ以上御存知ですから、何か問題意識があればそれを基に議論した方が良いように思います。

○増井委員

特に再分配との関係では、ここで出ている負担という概念は納税をするというポイントを捉えています。それが実際に誰に帰着しているかということまである程度見通しがないと、かゆいところに手が届かない。そのような感じがしたものですから,日本の固定資産税が実際に誰に帰着しているかをお伺いしたかったわけです。

○中里会長

借家人などにどこまでいっているかということのデータが欲しいということですね。データといっても、そこは難しいのかもしれませんが、分かりました。それでは、梅澤特別委員、どうぞ。

○梅澤特別委員

不動産資産の形成をなるべく多くの人で進めようという政策で多分ここまでの制度が来ているのであろうと理解しました。高度成長期は全員がその夢を持てたため、ある意味で国民の福祉と経済成長に資する合理的な政策であったと思うのですが、既にその夢は破綻しました。

これからの公平を考えたときに、小規模の住宅を持っている人を最も優遇するということが本当に公平なのでしょうかという問題を立てても良い時期ではないかと思います。都市の再編成、コンパクトシティー化、人口の流動化など、潜在力の高い土地をなるべく流動化して、その活用を進めて都市全体の価値を上げていく、このようなことが社会ニーズとして重要なときに、小さな土地にしがみつく国民を大量生産するような政策はもう捨てませんかという問題提起です。

○中里会長

先ほどの山田特別委員の指摘について、佐藤固定資産税課長の方ですか。

○三宅自治税務局資産評価室長

すみません、先ほどの山田特別委員の家屋の評価についての意見に対して答えたいと思います。

先ほど資料、15ページのところで家屋評価を入れてある部分についての御指摘ですが、家屋の評価については、再建築価格に時の経過に伴う経年減点補正を乗じるということに対して、減損の考え方も導入ということでどうであろうかという意見であったと思うのですが、これは極めて基本的な部分だけ書いていまして、固定資産評価基準に定めているものは、災害などで随分家が傷んでしまった場合の損耗による減価や、あるいは需給事情による補正というものもありまして、極めて例外的ですが、需給事情による補正としては、最近の建築様式に適用しないような家屋や、環境不良地域に存在する家屋などということを判断して、市町村がそのような補正を講じることもできることとされています。

○中里会長

佐藤固定資産税課長の方で、先ほどの梅澤特別委員の指摘について、何かもしコメントがございましたら。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

大変重い課題であると思います。幅広い政策的な議論が必要であると思いますから、それだけにとどめさせていただきたいと思います。

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、高田委員、どうぞ。

○高田委員

御説明、どうもありがとうございました。

印象と言いましょうか、感想に近いのですが、4ページ目の固定資産税の税収の推移がこの30年間ほどずっとあるわけで、これが30年近くほとんど変わらないと言いますか、非常に安定している税収ということであると思うのです。

一方で、説明がありました、例えば38ページの住宅や、42ページ、商業地等のところがあるわけですが、いわゆる資産価値という観点から考えた場合に、これを資産税として資産価値全体の実効税率のようなことを考えた概念で考えると、実はバブル期は非常に軽くて、今は相当重い税になっています。これが例えば特に地方などにおいては負担感につながって、活性化のところでどのように出るかというところにもう少し経済学的なマクロベースで着目すべき議論ではないかと私は感じています。

相当バブル期においては軽くなっていたものが、今となっては価格自体、総額自体が半分以下です。商業地等においては3分の1以下ほどになっていますから、そのような意味では実際上相当負担が重くなっています。そのため、その辺りをどのように考えながら対応していくのか。それの劇症緩和を続けてきた歴史ではあるわけですが、マクロ的にはそのような状況を念頭に置く必要があるのではないかと感じる次第です。

○中里会長

それでは、林特別委員、どうぞ。

○林特別委員

どうもありがとうございます。

まず、質問ですが、資産課税ということですが、都市計画税が議論されていないということはどのようなことかなと思っています。単なる質問ですから、ご説明のみいただければと思います。

特に先ほど田近委員がおっしゃった19ページの超過税率との関連で、これも都市計画税を持っているところと持っていないところが関係しているのではないでしょうか。あくまでも読みですが、この辺りの相場観も教示していただければと思います。

もう一つ目は、これはコメントになりますが、やはり先ほど出た相続税もそうですが、固定資産税というものは土地利用に対してもかなり影響を与えると思います。

シャッター街の話もそうですし、特に農地に関してもそうです。農地に関してもかなり悪い影響があるのではないかと思っていますが、今後のコンパクト化、まちづくり等々考えるときには、相続税もそうですが、固定資産税も非常に重要な税であると思っています。

最後に、特に土地部分ですが、今まで議論されていたように様々な負担調整措置が入って非常に分かりにくい制度になっているということです。これは地価が上昇してきたという歴史的な経緯を説明していただきましたが、経済学者が分析した研究でも、今後地価が必ず下がるということは様々な研究で提起されていますから、過去、地価の上昇部分で様々課税し、かつ固定資産税を複雑にしてきた制度を税制確保という観点からでもかなり整理していかなければいけないかなと思っています。

特に地価は全国どこでも同じような速度で下がるということではないと思います。

やはり地方部分から土地価格はかなり下がってくることは懸念されると思いますから、この点、政策的にも税制的にもしっかりと対応していかなければいけないと思います。

○中里会長

都市計画税のことについて、お願いします。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

資料は特に入れていませんでしたが、超過税率を採用している自治体で都市計画税を課税していないところがあるのではないか。それは一定の関係がありますから、また整理して資料として出させていただきたいと思います。

○中里会長

それでは、田中特別委員、どうぞ。

○田中特別委員

先ほどの株価について関係することは、特に土地の評価がどのようであるかということも関係していると思います。土地の評価が売買実例価格を参考にして行っているため、運用益ではないです。したがって、資産価値に比べて運用が少ないとそれはそのときに処分をしてしまうということになってしまうということであると思います。

それと同じように、固定資産税についても影響が出ている。特に日本全国の平均を指標としてここで整理はしていますが、大都市と地方は違うというように思います。大都市部では、商業地域で固定資産税が非常に高くなっていて事業に影響が出てくるようなこともあるでしょうし、まして、工場地域については継続ができていかないということになっています。そのようなことについて、土地の評価をどのようにしていくか、どのように利用していくことが良いのかということの観点からも、ぜひ再検討していただきたいと思います。

それと同時に、事業者から言うと償却資産まで税金がかかるのか。事業の原資について資産税として課税されるのかということも大きな影響があるということで、このようなことが事業にとって影響がある。徴収側ではなくて納める側としての実情を話させていただきました。

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、そろそろ本日の会議を終わりにしたいと思います。ここまで非常に短い間に経済社会の構造変化を把握するための実像のセッション、個人所得課税、本日の資産課税と、皆様の御協力により、大変精力的な議論を続けてきました。

これまでも、中期答申に向けて、秋の適当なタイミングで個人所得課税を中心に論点の整理のようなものを行う必要があるのではないかということを私から申し上げてきましたが、次回からは、これまでの議論を踏まえつつ、どのような整理をさせていただくことが良いのか、委員の皆様に御相談していきたいと思っています。

したがいまして、次回については、まず、本日いただいた資産課税についての宿題、これについての報告を行っていただくとともに、論点の整理に向けた起草会合を行っていきたいと思っています。ただし、そこで議論のプロセスで様々なやりとりを自由に行っていただくために、これは申し訳ありませんが、非公開という形にしたいと思います。ただし、会議終了後の記者会見はいつもどおり私の方で行いますから、その場で議論の流れに関してはプレスの皆様に御紹介したいと思っています。この点、お許しいただきたいと思います。

会議の詳細は、改めて事務局から御案内します。

以上です。本日はどうもお忙しい中、ありがとうございました。

[閉会]

(注)

本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、速記録に基づき、内閣府、財務省及び総務省において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。

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すみれ「遺言控除って出てこなかったね。お疲れ様でした。津島佑子さん、ご冥福をお祈りします。」

○在ブラジル沖縄在籍者の滅失戸籍等の再製手続について

那覇地方法務局戸籍課長依命通知 昭54・5・30戸第五六六号

○在ブラジル沖縄在籍者の滅失戸籍等の再製手続について

【昭和五十四年五月三十日戸第五六六号管内市町村長(平良、石垣支局管内を除く)宛那覇地方法務局戸籍課長依命通知】

 標記の件については、本日30日付戸第五六五号をもって、当局長から通達されたところでありますが、次の諸点に留意のうえ、処理願いたく命により通知します。

一 戸籍の滅失後に送付された届書については、当該届書に基づいて所要の処理をすることとなるが、当該届書の戸籍受付備考欄に「年月日記載」と記入し、また、復帰前に貸与を受けた届書等、戸籍受附帳に記載したうえで処理し、処理済となった届書等は、当月分の他の届書類とともに送付する。

二 届書の処理は、在ブラジル日本公館及び本土の市町村において当該届書が、昭和二十二年一月一日から昭和三十一年十二月三十一日までの間に受理されたものであれば、一九六〇年(昭和三五年)六月八日法民第四五八号琉球政府法務局長通達に基づく、いわゆる貸与届書処理要領に準じて処理する。

三 通達第四項但し書きによって、他の同籍者について戸籍の再製をするときは、当該戸籍の滅失前にした戸籍謄抄本発行後、永年を経過しているところから、その後その者の本籍が転籍していることも考えられるので、複本籍の生ずることのないよう十分な調査が必要である。

四 通達第五項によって、すでに再製された戸籍を訂正する場合、父母の氏名等その訂正が他の戸籍にも及ぶときは、当該父又は母からの申出若しくは、関係人全員から申出を徴するのが相当である。

五 通達第六項により、すでに再製された戸籍に再製遺漏者を記載したときは、同日付で改製原戸籍を編製する。

  なお、記載許可申請をする場合、父母との続柄等他の同籍者について訂正を要するときは、同一申請書を用いてさしつかえない。

六 通達第七項による家督相続戸籍は、市町村長限りの職権で再製する。

七 通達第八項による除籍等の再製資料についてhは、この種の再製資料を得ることがきわめて困難な現状であることにかんがみ、当該関係戸籍の再製が完了するまでの間、永年保存とし、充分な管理を要する。

八 その他、この通達に基づく取り扱いについては、昭和四十七年一二月六日付戸第三四四号当局長通達(海外に在住する沖縄在籍者の戸籍訂正について)、昭和四十七年十二月十八日付戸第三八一号当局長通達(戸籍整備法に基づいて再製された戸籍の記載遺漏、錯誤等の訂正について)、昭和四十八年八月二十日付戸第一五二八号当局長通達及び同日付戸第一五三〇号当職依命通知(戦災滅失戸籍の再製完了までの間に届出された事件等の取り扱いについて)を参考されたい。

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すみれ

「一文が長いよー。」

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第2章 家族法 

第2章 家族法

第1節 はじめに

  ネパールにおける家族間紛争に関する規律は 1853年国法(ムルキ・アイン)にお ける家族に関する諸条項であり、2010 年民法典草案は、これらの規定を整理した上 で、全面的に改正したものである。以下、ネパールにおける家族法を検討するに当た っては、次の点に触れる必要があると思われるが、ここでは民法典条文にのみ限って触れることにする。 

 第一には、実体法である家族に関する諸条項、第二には家族関係の登録制度、第三 には家族構成員間の紛争を処理する手続(司法外の紛争処理も含まれる)などを明らかにすることによって、家族構成員間の紛争が生じた場合の法的処理の仕組み全体を理解することが可能となる。

  また、家族に関する条項を理解する前提として、いくつかの点に留意しておかなくてはならない。ネパール社会は、民族・宗教・カーストが複雑に入り組んでおり、例えば、民族(社 会的身分であるカーストと関係する)は30以上、宗教はヒンドゥー教徒 80.6%, 仏教徒 10.7%, イスラム教徒 4.2%, キラント教徒 3.6%, その他 0.9%(2001 年国勢調査)などと言われており、家族形態や家族関係を律する規範は単一ではないと思わ れる。

とりわけイスラム教徒の家族問題については、シャーリア(イスラム法)を適用するべきであるという主張が強くみられるので、国家による制定法との齟齬が出る可能性は高い。さらに、国境地域では、ネパール住民が隣国の住民と通婚関係をもつことは珍しくないので(インド国境はネパール国民にとっては事実上フリーパスなのでモノの自由な往来だけでなく人の自由な往来によってインド人との婚姻やインドに居住するネパール人との通婚などの可能性は高い)、家族関係あるいは親族関係を 規律する規範は国家法およびそれぞれの地域の法慣行などが重なり合って一層複雑 になるといえよう。

すみれ

「通婚、か。」

 また、地理的にもインドと国境を接する低地からチベットと接する高地まで、生活環境は大きく異なっている。同時に、カトマンズやポカラなどの都市を除いた地方では、村落ごとに文化や慣行が大きく異なることも珍しくない。さらに家族関係の登録に関しては、15歳以上で読み書きできる人の割合は 48.6%(うち男性 62.7%、女性 34.9% (2001 年国勢調査))という現状では、どこまで登録制度が有効に機能するか留保が必要と思われる。 

番人

「2001年だから、今はどのくらい上がっているかな。」

財産法をめぐる法的問題と若干異なり、家族に関する法的問題は当該社会の文化や慣習に強く影響されるので(生ける法)、国家法である民法と生ける法との関係をどのように理解するかが重要となる。例えば、男女平等が明確にされた憲法原則と家族法の規定に齟齬がいくつも見られるが、それはネパール社会に現在でも生きている規範の原理と近代的憲法の原理の対立から生じた「妥協」の産物であるといえ、近代法 原則を今後ネパール社会に定着させるための過渡的段階と解することができる。 

また、2010 年民法典法案(家族法)には国際養子に関する条文が独立して置かれ るなど、他の国の家族法とは趣を異にしているが、これも、国境を超える人身売買が 社会問題化しているネパール社会の置かれた特殊な状況の反映である。

  このように、家族に関する条項は現在ネパール社会が置かれている状況を強く反映 した部分のあることを指摘しておきたい。 

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第2節 総論

第1項「1853年国法(Muluki Ain)」家族法条項

  家族に関する現行諸条項は、1853 年の制定以降、何度も改正が加えられて次の構成になっている。第3 部は全 22章で構成されており、家族に直接かかわる条項は、第 12章「夫と妻」 (全 6 条)、第 13章「分割」(全 35 条)、第 14 章「女性の持分と財産」(全 8 条)、 第 15章「養子」(全 13 条)、第 16 章「相続」(全 20 条)、となっている。

家族にか かわる条項は、いわゆる「民事法」だけでなく、第4部の刑事法にも見られ、第 11 章「人身売買」(全 5 条)、第 13章「性交の意思〔セクシャルハラスメント〕 」(全 6 条)、第 14 章「強姦」(全 11 条)、第 15章「近親相姦」(全 12条)、第 16章「獣姦」 (全 5 条)、第 17章「婚姻」(全 11 条)、第 18 章「姦通」(全 6 条)、など特異な構造となっている。

 ネパール社会では、男系秩序が優先することや男性優位の社会構造となっていることから、第2節 総論 第1項「1853年国法(Muluki Ain)」家族法条項  家族に関する現行諸条項は、1853 年の制定以降、何度も改正が加えられて次の構成になっている。

 第3 部は全 22章で構成されており、家族に直接かかわる条項は、第 12章「夫と妻」 (全 6 条)、第 13章「分割」(全 35 条)、第 14 章「女性の持分と財産」(全 8 条)、 第 15章「養子」(全 13 条)、第 16 章「相続」(全 20 条)、となっている。家族にか かわる条項は、いわゆる「民事法」だけでなく、第4部の刑事法にも見られ、第 11 章「人身売買」(全 5 条)、第 13章「性交の意思〔セクシャルハラスメント〕 」(全 6 条)、第 14 章「強姦」(全 11 条)、第 15章「近親相姦」(全 12条)、第 16章「獣姦」 (全 5 条)、第 17章「婚姻」(全 11 条)、第 18 章「姦通」(全 6 条)、など特異な構造となっている。 

ネパール社会では、男系秩序が優先することや男性優位の社会構造となっていることの結果と思われるが、男性と女性に関して別々に規定されている事項が散見される。 例えば、婚姻要件や離婚要件などは、男性と女性とでは別個規定されており、その内 容も異なっている。また、家族共同財産分割などでも男性にかかわる条項がある一方 で、婚出した娘に対する言及がないなど、いくつかの事項では男女別の条項となって いる点に特色がみられる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第2項「2010年民法典草案」について

  すでに触れられたように現行法は制定されてから幾度も改正を経たが、社会の変容 により全面的な改正が必要となり、現代のネパール社会および家族の状況に対応でき る内容の民法典草案が 2010 年に作成された。

憲法草案にも盛り込まれている男女平等や個人の尊重理念に基づくと同時に、ネパール社会において現実に展開している家族をめぐる「生ける法」にも配慮しながら、法案が作成された。民法典草案第 3 部が 家族にかかわる条項であるが、第 1 章「婚姻」(全 18 条)、第 2 章「婚姻の効果」(全 8 条)、第 3章「離婚」(全 12条)、第 4章「親子関係」(全 19条)、第 5章「親権」 (全 11 条)、第 6章「後見」(全 18 条)、第 7章「保佐」(全 14条)、第 8章「養子」 (全 19 条)、第 9 章「国際養子」(全 22条)、第 10章「家族共同財産分割」(全 32 条)10、第 11 章「遺言」(全 16条)、第 12章「相続」(全 14条)、という構成となっ ている。

ただ、家族共同財産分割など家族構成員と財産にかかわる事項については、 いわゆる財産法の諸条項の中にも規定されている。とくに家族共同財産分割に関する 事項については、第 3部 10章以外にも関係する規定がおかれている。

ネパール社会における家族をめぐる法的事項の特殊性から、行為能力に問題のある者の保護制度が後見と保佐のみとなり、また、人身売買などの被害から未成年者を保護するための国際養子が独立した章となっている。さらに、これまでネパール法にはかった遺言に関する条項が新たに加えられることとなった。

すみれ

「人身売買から守るために国際養子の章があるんだ。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第3節 現行家族法の概要

 第1項 財産関係における女性の法的地位

 ネパール社会における女性の社会的経済的地位が「低い」ので、特別な法的救済が必要とされており、財産関係と女性に関する特別な規律が第3部に設けられている(以後、特に断らない限り第 3部のみを対象とする) 。

(1)特有財産

  未婚・既婚・寡婦を問わず、女性は自己の努力で得た動産ならびに不動産を自由に処分することができる(第 14 章 1 条)。また、家族と同居していない女性は、家族共同財産分割持分としての動産・不動産を自由に処分することができる(第14章2条)。 ただし、女性が負っている債務に関しては、女性が使用できない不動産によって返済することはできない(第 14章 3条)。

 (2)特有財産の種類

  女性が、父母両系の家族から受領した、もしくは自己の努力で得た動産・不動産は 「嫁資(Daijo)」といわれる。また、女性が、夫側のすべての相続人の家族共同財産持分権者(coparcener)・夫側の家族共同財産持分権者の書面による贈与もしくは夫 側の他の親族、知人による贈与、または自己の努力で得た動産・不動産は、「女性特有財産(Pewa)」といわれる(第 14 章 4条)。

すみれ

「自分の財産と、家族の財産があるんだ。」

 (3)特有財産の処分 

女性は、嫁資および女性特有財産を自由に処分することができる。(第 14章 5条)。 女性が財産の処分に関して書面を作成したのちに死亡した場合には、書面に従って財産は処分されることになるが、書面を残さないで死亡した場合には、女性と同居していた子、同居していた子がいない場合には別居していた子に財産は承継される。

女性が既婚者の場合、子がいないときに夫へ、夫がいないときには婚出した娘へ、婚出した娘がいない場合には男の孫もしくは未婚の娘へ、それらもいない場合には、相続人 (Hakwala)へ承継される12(第 14 章 5条) 。 

女性が、嫁資および女性特有財産以外の財産を、信仰目的の寄付、通常の贈与もしくは売却した場合、女性が財産を移転した者と婚姻した場合には、当該財産の移転は効力を発生せず、当該財産にもともと権利を有する者は、その返還を求めることができるとされている(第 14 章 7条) 。

(4)特有財産に関する訴えと時効 

特有財産に関する訴えは、第 14 章 7条の場合には婚姻の日、その他の場合には、原因となる事実が生じた日から 2年以内に提起しなくてはならない(第 14章 8 条) 。

(5)女性の特有財産に関する特色 

男性の財産は基本的には男系で承継されていくことになっているので、女性固有の財産については女性の意思を重視することや、女性とかかわった者へ第一に移転するという規定をおくなど、女性固有の財産に関する規定がおかれている。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第3項 婚姻の効果

(1)財産上の効果

  婚姻により生じる財産関係については第 3部に規定がおかれている。ただし、婚姻財産というのではなく家族共同財産に関する条項14として規定されているので、婚姻の効果というよりも家族構成員に認められた法的地位と言えよう。財産をめぐる、妻の権利、息子の権利、未婚の娘の権利、死亡した息子の寡婦(「嫁」)の権利という構成で規定が組み立てられている。 

妻は、家族共同財産に対して有する持分は他の家族共同財産持分権者と同じである (第 13章 1 条・2条)。妻が複数いる場合には、それぞれの妻は夫の持分を等分することになる(第 13 章 4条)。夫が夫の家族共同財に対して有する持分の分割前に死亡した時には、妻は夫の持分を請求することができる(第 13 章 5条)。

 妻は、夫の生存中は、夫の同意なしに、家族共同財産を取得して別居することはできない(第 13 章 10条)。 

すみれ

「妻に厳しいね。」

夫が妻の存在を公にしていない場合には、妻は夫の死後に夫の財産への持分はない (第 13章 8 条) 。

 なお、女性は婚姻をすると実家の家族共同財産分割請求が認められないことがある (第 13章 1A 条)。

 (2)妻が持分を有する場合の対象となる財産

 別居している夫が、自己が家族共同財産持分として分割された財産と妻および息子に帰属する財産とをまとめて管理している場合、当該財産とそこに含まれる少額調整財産(jieuni)(老親扶養のために家族共同財産分割持分の中に認められた一定の額)が分割されるときには、再婚した妻とその間に生まれた子も含まれることになる。

 なお、まとめられた財産管理が始まった後に、再婚した妻とその間に生まれた子は、 すでに別居している他の家族が有する財産への持分を請求することはできない。夫が 自己の持分を分割してもらった後で、再婚した妻とその間に生まれた子は、夫の持分に対してのみ家族共同財産分割持分を有する(第 13章 11 条)。これらの対応は、家族の財産と同居とが密接に関係していることを示している。

 (3)婚姻に要する費用の特例

  家族共同財産から、未婚の息子と娘の数にかかわりなく結婚費用を取り分けておく ことができる。財産総額によってその割合は 5%から 20%になるが、婚姻時に等分に分割される。特定の子の婚姻のための費用が相当額に上る場合、取得分は他の子の取得分の 4分の 3までとされる(第 13 章 17条) 。

(4)家族構成員の財産帰属形態

  同居して台所をともにしている家族の場合、家族共同財産請求権者により共同して取得した財産および債務は、同居するすべての家族共同財産請求権者に平等に分割される。ただし、自己の努力あるいは贈与もしくは相続などで得た財産ならびに第 3 部 14章で規定される女性の特有財財産は、その者により自由に使用でき、他の家族共同財産持分権者に対して分割する義務はない。 持分を取得しないで台所を分けて生活している場合、持分を登録しないで使用してきた場合、自己の利益や損失に責任をもち、また、かかる持分によって生計を維持しているときには、台所を分けて生活しているとし、かかる者の収入や債務はその者のものとする(第 13章 18 条) 。

すみれ

「どこに登録するんだろ。」

 以上のような規定から判断すると、家族の財産は、団体的な考え方のもとにおかれ ており、同居すること、かまどを一にすることなどが家族財産への持分を決める場合 の大きな要素になっていると言えよう。

 (5)夫が財産に対して有する権限

  夫もしくは父は、妻、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡婦が家族共同財産に対する持分を分割していない場合、当該財産は以下のように扱われる。

  第一に、夫もしくは父は、祖先から承継した動産の全部もしくは不動産の半分を、家族の生計のために、妻たちの同意なくして使用することができる。かかる者の同意なくして不動産の半分以上を使用した場合、有効な使用とはされない(第 13章 19条 1 項)。

夫もしくは父に家長としての権限を与えると同時に、他の家族構成員の財産的保護が図られている。

すみれ

「家長というのがあるんだね。」

  第二に、夫は、自己の努力で得た動産・不動産に関して、妻が一人のみで、その妻から生まれた息子と未婚の娘のみの場合、かかる財産を自由に使用することができる。 また、妻、その妻から生まれた息子、未婚の娘の場合も、前述の自己の財産については自由に使用できる。夫に複数の妻がおり、それらの妻の間にできた息子と未婚の娘がいる場合にも、かかる財産を自由に使用することができるが、お気に入りの妻(favorite wife)、息子、未婚の娘に対して、贈与(Bakas)もしくは他の方法で、かかる財産を移転することができる(第 13章 19 条 2項) 。

すみれ

「お気に入りの妻って何だろ。」

 そして、かかる財産の使用については、妻、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡婦の同意を得なくとも有効である。他方、自由に使用が許されない財産については、祖先から承継した動産・不動産を、お気に入りの妻(favorite wife)、息子、未婚の娘に対して与える場合には、かかる者が 21歳を超えており家族共同財産分割持分を得ていないことが条件とされる(第 13 章 19条 3項)。

 自己の自由な使用が認められない財産の場合、自己の家族共同財産分割分を超えない範囲で、かかる財産を処分することができる(第 13章 19条 4項)。

(6)夫以外の者が財産に対して有する権限

  特定の妻、息子、未婚の娘、息子の寡婦などが、家族共同財産分割手続の前に、特定 の財産を書面によって贈与されている場合には、かかる財産を自由に使用することがで き、家族共同財産分割時に改めて分割対象とされることはない。ただし、贈与が効力を もたない場合には、家族共同財産分割時に全体財産に組み込まれて分割対象とされる (第 13章 19 条 5項)。

(7)家族共同財産分割手続き

  家族共同財産持分請求権者(妻など)から分割の請求が出た場合、裁判所の判決 (verdict)がなされる前に、かかる財産すべての取引に責任ある家長(the head of the family)は、分割対象になる財産についてすべて開示していると宣誓し、債務を含む 動産・不動産目録を作成して分割が行われる。財産目録作成の義務を負っている者が、 裁判所の命令に従わない場合には、全財産の目録が開示されるまで 6 月を上限に収監され、財産目録が開示されたときに収監が解かれ、家族共同財産の分割が行われる(第 13 章 20条) 。 

すみれ

「家長は、権利もあるけど同じくらい責任もあるんだ。」

財産目録作成の義務を負っている者が、裁判所の命令に従わず収監された場合には、 当該の者は収監時から 2 か月ごとに財産目録を提出しなければならない。家族共同財産持分請求権者にも、分割されるべき財産の正確な財産目録を書面で提出するよう通知がなされる。収監された者が、収監の日より 6月以内に財産目録を提出した場合には、受理され財産は法に従って分割される。 

なお、円滑な分割手続きをするために、財産の確定をするために家屋への立入や、 財産目録未提出の者に対する罰金などの規定がおかれている(第13章24条、26条) 。

(8)家族共同財産分割終了後の問題

  有効に分割が完了した場合には、その後に当該持分財産に瑕疵が発見されても、当該財産の取り換えなどを求めて争うことはできない(第 13 章 25条)。隠匿された財産がのちに発見された場合には、財産を隠匿した者は、持分を失い、 他の家族共同財産持分権者がその持分を分割取得する(第 13章 27条)。分割された財産に良し悪しがある場合、家族共同財産持分権者は良し悪しのある財 産について争うことができるが、争いある時は「くじ」によって分割するとされる(第 13 章 28条)。

すみれ

「どこか他の国でもくじ引きがあったような。」

家族共同財産の分割後 3年以内に、当該分割財産である動産・不動産が他人のものであることが明らかになった場合には、当該家族共同財産持分権者は、他の家族共同財産持分権者から代替の財産を受け取ることができる(第 13章 29条) 。

分割財産に対しての異議は、家族共同財産分割が行われた時から 3 か月以内に訴えによるものとする。その後の異議は認められない。なお、原告が期日に出頭しない場 合でも、ただちに棄却されるのではなく、相当の理由があるかどうかに基づいて判断 が可能である(第 13章 32条)

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第5項 寡婦(寡夫)の法的地位(相続)

  妻は、夫の死亡に際して、夫の葬儀の後に残った、夫ならびに同居または別居の夫の父の収入ならびに債務を含むすべての財産に対して、妻たち(複数の場合がある)と子と平等の持分を有する(第 13 章 14条) 。 

寡婦は、家族共同財産に対する自己の持分を取得して、別居することができる。子 がいない寡婦が再婚する場合、当該持分を処分することができる。子がいる寡婦が再 婚する場合、寡婦は(母は)、当該財産を用いて、子が成人になるまで、子を監護し、 教育し、指導しなくてはならない。当該財産は、この目的のために処分することができる。

  寡婦が(この場合は女性のみ)再婚して子がいない場合、寡婦の持分は、前夫の子どもに帰属し、前夫の子がいない場合には、寡婦の死後、前夫の相続人に帰属する(第 13 章 12条)。

現行法は、既婚女性の保護のために、終的には男系に財産が帰着するという限界はあるものの家族共同財産に対する持分を息子の寡婦に認めて寡婦の経済的保護を図っている。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第5項 親子法の特色

  親子に関する条項は、家族に関する各章に散らばって規定されている。嫡出子や非嫡出子の明確な区別は見られず、家族集団の中で同居するか否かによって保護の対応が変わっている。また、子にも家族共同財産に対して持分を認めるなど、家族関係、とりわけ親子関係における家族という集団の観点からの保護規定が特色といえよう。

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第7節 相続に関する規律

 第1項 相続の手続

(1)相続人の範囲  第一に、相続人(heir)の範囲は 7親等(seven generations)内にある家族共同財 産持分権者のもっとも近親の者をいう(第 16 章 1条) 。

 第二に、祖先からの承継財産(ancestral property)については、夫、妻、息子、 未婚の娘、男孫(息子の息子)、男孫の未婚の娘が相続(inherit)する。息子がいない場合には、死亡した息子の寡婦が息子同様に承継権を有する。上記の何人もいない場合には、次順位は、婚出した娘、その息子もしくはその未婚の娘である。

これらの者がいない場合には、法定の相続人が財産を承継する(第 16章 2条) 。

第三に、夫、妻、息子、未婚の娘、男孫、男孫の未婚の娘が、別居して被相続人の世話をしていなかった場合、被相続人の世話をした既婚の娘、義理の息子、義理の息子の息子もしくは娘は、相続が認められる。他方、かかる者以外の相続人には相続権はない(第 16 章 3条) 。

すみれ

「実際にも、お世話をしたことがちゃんと認められているのかな。」

  第三に、家族共同財産を、自己の分、妻たち(複数の妻がいることが前提となっている)、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡婦にそれぞれの持分を与え、自分の持分とかれらの持分と一緒に管理している場合、妻、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡 婦と同居していた者が死亡した時には、同居していた者のみが、相続権を有する。証書があればそれによる(第 16章 6 条)。

  第四に、夫、妻、息子、未婚の娘、男孫、未婚の孫娘が被相続人の世話をしなかった場合、同一の父を被相続人とする同朋が、被相続人の面倒をみた場合には、相続は 面倒をみた者にのみ生じ、他の相続人は相続することはできない(第 16章 7条)。

 第五に、息子や未婚の娘が家族共同財産分割持分を分割した後に、息子、未婚の娘もしくは息子の妻(daughter-in-law)と同居したにもかかわらず、かかる者が世話をしなかったために、自己の全家族共同財産ならびに他の財産を持参して、他の息子、 未婚の娘もしくは息子の妻(daughter-in-law)と同居した後に死亡した場合、同居して世話をした者のみ相続権を有する。ただし、同居が数日(some days)の場合にはこの限りではない(第 16章 9条) 。

  第六に、息子と未婚の娘のみの場合、妻と別居している、あるいは息子もしくは未 婚の娘と同居している者が死亡すると、妻は夫の財産に対して家族共同財産分割持分を有する。他方、妻が死亡した場合、夫は妻の持分を有することになる。妻が別居して家族共同財産分割持分を分割してもらったのちに死亡した場合、息子もしくは未婚の娘、彼らがいないときには夫が、相続する。どちらもいない場合には、義理の息子か未婚の娘(妻の連れ子のこと)が相続する(第 16章 10 条) 。

  第六に、被相続人が近親によって世話をされないで死亡した場合、死亡時に世話をしていた者が死亡した者の動産・不動産すべてへの権利を有する(第 16章 11 条) 。

すみれ

「第六が二つある。」

  第七に、兄弟と未婚の姉妹の相続については、自己の家族共同財産分割持分を取得した後で別居している兄弟と未婚の姉妹は、同居している兄弟と未婚の姉妹が死亡した時には、別居している者は相続することはできない。異母兄弟姉妹であっても、同居している場合には、相続権を有する。なお、自己の家族共同財産分割持分を分割して独立して生計をたてている全血の兄弟もしくは未婚の姉妹は、同居者の相続だけでなく別居している全血の兄弟もしくは未婚の姉妹について相続することができる。母を異にする兄弟もしくは未婚の姉妹は相続権がない(第 16 章 12条) 。

  このように相続に対して権利を有する者は、同居の者、相互に扶養したと思われる者、保護の必要な者というように、家族の共同財産を核として生活している者、とりわけ男系の者に財産が移転してゆく仕組みとなっている。

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 (2)相続放棄や相続人をめぐる問題 

第一に、相続放棄が可能であるが、被相続人の葬祭は相続に関係なく相続人の義務とされている(第 16章 15条)。

ポリー

「葬祭は関係ないですよね。」

  第二に、相続放棄(相続できなかった者)をした者の債権者は、葬儀などが行われた後の残余財産について権利を有する。債権者がいない場合には、すべての財産、債権者がいる場合には清算を終えたのちに残った財産は国庫に帰属する(第16章16条)。

  第三に、住民が死亡した地域に相続人がいない時には、死亡した地域の徴税官などがその旨を公示した上で、財産目録を作成し、相続人に通知を行い、一定の期間(3 か月)内に相続人が出頭した場合には、財産から 10%(の価格)を差し引いてを財産を引き渡す。相続人が出頭しない場合もしくは不明の場合には、国庫への帰属手続きがとられることになる(第 16章 17 条) 。

  第四に、相続欠格については、怒りもしくは怨恨で他者を謀殺した者もしくはその子は、死者もしくはその子の相続をすることができない(第 16章 19 条)。  第五に、相続をめぐる訴えの時効は、相続が生じた時より 3 年である(第 16章 20 条) 。

第2項 相続に関する条項の特色 

相続に関する条項は、被相続人と財産を承継できる者の関係、被相続人をめぐる扶 養の状況、家族共同財産とその他の財産の関係など、ネパールの特殊な家族(親族) 関係と財産帰属関係が反映されたものである。また、男子の財産は、先祖から承継されてきたものについては、帰属過程でどのような変転をしても結果的には男系の支配におかれる構造をもっている。 

他方、相続時には、死亡した息子の寡婦(「嫁」)にも一定の権利を認めるなど、同居している事実や被相続人の世話をした事実などと財産承継を連動させ家族構成員の保護が図られている。 

2003年の改定で男女の不平等など大幅に改正されたところもあるが、婚出した娘には条件付きでのみ相続権を認めるなど、子どもの間での財産承継には依然として差別がみられる。さらに家族財産分割手続きなどにおいては、手続きの実効性を高めるためと思われるが、手続違背者に対する刑事罰がおかれており、人の死亡における財産移転が単なる私事ではないととらえられているところも特色と言えるだろう。

番人

「刑事罰か。」

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第8節 2010 年民法典草案 第1項 基本原則の特色

  第1 章で触れたように、ネパール社会の変容によって現行法である Muluki Ain で は条項の整理や改正もしくは追加が必要となり、2010 年民法典草案が作成されるよ うになった。第 3部が家族に関する条項であり全 203 条である。ただ、家族関係をめ ぐる紛争に直接かかわる条項は財産法の中にも散らばっており、まとまりを若干欠くものとなっている。 

家族法の基本原則は、憲法草案の基本原則でもある個人および男女の平等である。 しかし、他方では、家族財産や扶養をめぐって家族集団を重視する団体主義的な原則も見られ、ネパール社会の「現実」を反映したものとなっている。

理論的には相反する条項が見られる妥協的な側面は否定できない。また、家族関係をめぐる紛争とその 処理原則には地域的な多様性が顕著にみられるために、判断基準などを地域の慣行に 委ねることを認める条項もあり、国家法としての統一性が完全ではない。ただ、ネパ ール社会は人種の多様性(少数民族の多さ)や南北または高地低地による社会構造の違いなどが顕著であり、地域の実態を重視することも不可避であろう。

すみれ

「不可避っていうか重視した方がいいんじゃないか。」

現行法と 2010 年民法典草案の関係は以下の表のようになっている。 

2010 年民法典草案 現行法 第 3部「家族法」 (第1章) 「婚姻」 (67~84 条) 

(第2章) 「婚姻の効果」 (85~92条) 

(第3章) 「離婚」 (93~104 条) (第4章) 「親子関係」 (105~123条) (第5章) 「親権」 (124~134 条) (第6章) 「後見」 (135~152 条) 

(第7章) 「保佐」 (153~166 条) (第8章) 「養子」 (167~185 条) (第9章) 「国際養子」 (186~207条) (第10章) 「家族共有財産分割」 (208~239条)  (第11章) 「遺言」 (240~255 条) (第12章) 「相続」 (256~269 条)  

← 「1853年国法」 (第4部:第17章) ・ 「1853 年国法」(第 4部:第15 章) ← 「1853年国法」(第 3部:第 13 章など に関連条文) ← 「1853年国法」(第 3部:第12 章) ← 「1853年国法」(第 4部:第12 章) ← 「1991年子ども法」 ← 新設( 「1853 年国法」(第 1 部:第 1章 などに関連条文) ← 新設 ← 「1853年国法」(第 3部:第15 章) ← 新設 ← 「1853年国法」 (第3部:第13章) ・ 「1853 年国法」(第 3部:第14 章) ← 新設 ← 「1853年国法」(第 3部:第 13 章・第 16 章)

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第7項 後見(135~152 条)

 (1)後見制度の概要

  行為能力を十分持たないために保護が必要な者に対して後見制度がおかれている。 未成年の子の場合には保佐制度として独立した規定があるので、後見制度では、多くの場合、成人の保護が考えられていると思われる。未成年の子に関する記述もあるが、未成年の子の保護という視点から見ると、保佐制度と明確な差異があるとは思えない。 

後見人の順位(第 6章 136 条 1項) 1. 同居する夫または妻

2. 父または母

3. 息子、死亡した息子の寡婦、未婚の娘

4. 別居している夫または妻

5. 別居している息子、死亡した息子の寡婦、未婚の娘

6. 父方の祖父または祖母

7. 孫息子もしくは未婚の孫息子

8. 母方の祖父または祖母、叔父または叔母

9. 兄弟、未墾の姉妹

10. 既婚の孫娘

11. 既婚の姉妹

*なお、同順位者がいる場合には、当事者の合意もしくは裁判所が決定する。

*14歳になっている者で判断能力のある者は、当人の判断による。 ただし、書面を作成しなくてはならない。

(2)後見人選任手続き 

第一に、被後見人が行為能力を欠くときには、上記の者が後見人となるが、それ以外の者が後見人となるときには、裁判所の承認を必要とする(第 5章 137条) 。また、子どもが施設などに収容されている場合は、機関が後見人となる(第 6章 138条) 。

 また、父母が死亡した場合、父が死亡した後に母が再婚した場合、もしくは、父母の双方に精神的異常がある場合には、同居する後見人が親権を行使して子の監護にあたるものとされる(第 5章 131条)。このように、保護の必要性が発生した場合には、当然に後見人としての職に就くという仕組みとなっている。

 第二に、関係する当局もしくは関係人は、上記の者以外の後見人の選任を裁判所に 申請することができる。裁判所は諸般の事情を検討して後見人を選任するが、その者の同意を得るものとする(第 6章 139 条 1項・3項) 。

 第三に、後見人には、①行為能力に問題のある者、②被後見人の権利や利益に反する行為をした者、③3年以上の懲役に処せられた者、④裁判所が後見人として不適格とした者、などは就くことができない(第 6章 141条)。

  第四に、裁判所は後見人を選任する場合、必要と判断すると後見監督人を選任することができる。後見監督人は、後見事務を監督し、後見の終了とともに後見監督も終了する(第 6 章 140条) 。

(3)後見の業務

  後見業務の内容は、被後見人の監護や療養などであり、その費用は被後見人の財産もしくは後見人自身の財産を持って充てるとされている(第 6章 142 条 1項)。被後見人の動産を通常充てるが、それがない場合には、裁判所の許可を得て被後見人の不 動産を処分して後見費用に充てることができる(第 6章 142 条 2項)。後見人は、被後見人の財産管理を行うが、当該財産を使って投資などで利益をあげることができる (第 6章 143 条)。

  後見人は、被後見人のために訴訟を起こすことができる(第 6章 145 条)ほか、後見業務のために必要な行為をすることができる(第 6章 146 条)。ただし、後見業務に条件が付けられている場合には、その範囲で後見業務を行わなくてはならない(第 6 章 147条) 。 

後見人は、後見業務に関して財産管理の帳簿を作成管理しなければならない。被後見人が成人に達した場合もしくは行為能力を回復した場合には、その時より 1年以内 に、死亡した場合には 6 か月以内に、後見人は帳簿などを提出しなければならない(第 6 章 144条) 。

 なお、夫、妻、親、息子、娘、祖父母、孫息子、孫娘が後見人の場合には、不動産 の処分や帳簿などの提出をしなくてよいとされている(第 6章 142条、144 条)。後 見人になる場合も同じことが言えるが、こうした免除条項は、親族がきちんと世話や 財産管理をするという前提に立っていると言えよう。

(4)後見の終了 

第一に、後見は、

①後見人が辞任の申立てをして裁判所が認めた場合、

②後見人もしくは被後見人が死亡した場合、

③被後見人が行為能力を回復した場合、

④被後見人の申し出により裁判所が後見人を交代させた場合、には終了する(第 6章 148条 1 項)。

ただし、後見人は、次の後見人が選任されるまで被後見人の面倒をみなくてはならない(第 6章 148条 2項)。後見人が死亡した場合、後見人の地位は相続されない(第 6章 149 条) 。  第二に、後見業務が終了した場合、後見人は後見業務のために自己の負担による出 費を被後見人の財産で清算することができる。ただし、夫、妻、親、息子、娘、祖父 母、孫息子、孫娘が後見人の場合、清算は許されない(第 6章 150条)。ここにも「身内」は相互に支援をしあうという考え方がうかがえる。

番人

「後見人の地位は相続されないんだ。それが普通のような気もする。」

 第三に、後見人が悪意もしくは害意で被後見人の財産に損害を与えた場合には、後見人が利益を得たか否かにかかわらず、その賠償の賠償の責任がある(第6章151条) 。 

(5)後見制度の特色

 後見業務は他の国の立法と大きく変わるところはないが、被後見人の財産などに関する監視体制が十分とは言えないこと、当然に後見人になる仕組みであること、親族に信頼を置いて後見業務を行うとする点などは、性悪説に立つとも言える近代国家の法としては、被後見人保護に薄い。ただ、ネパール社会の親族構造と親族に期待され る役割がこうした条文に反映していると思われる。

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第8項 保佐(153~166 条)

 (1)保佐制度の概要 

未成年子に対する保佐人については、両親が死亡した場合、両親が行為能力を欠如した場合、両親が行方不明の場合、両親が子の保護や世話に関する取り決めをせずに外国にいる場合で後見人が選任されていない時には、保佐人が子の保護にあたる。子の保護を図るために別に保佐人を置くことができる(第 7 章 153条)。  成人に対する保佐人については、行為能力を欠く者に後見人がいない場合には、保 佐人が被保佐人の世話および財産の管理を行う(第 7章 154 条 1項) 。

(2)保佐人の選任

保佐人には、前記の状況にある子を引きとって監護している者あるいは行為能力を 欠く者を看ている者が就くことになる(第 7章 153条 1項・154条 2 項)。なお、10 歳未満の子の父が死亡した時には、母が再婚している場合でも、保佐人となる(第 7 章 155条)。子が機関で養育されている場合には、機関の長が保佐の業務を行う(第 7 章 156条)。保佐人になる者がいない場合には、地方当局の申し立てに基づき、裁判所は適任者を選任するとされる(第 7章 157 条) 。

  保佐人には、自然人の場合には、破産していない者、法人の場合には登録をしたも のが就くものとされる(第 7章 158 条) 。  保佐人が外国に行くなど保佐の業務を遂行できない場合、代理人を決めることがで きる。代理人は財産を管理することができるが、保佐人が返還を求めた場合には、当該財産を返還しなければならない(第 7章 165 条) 。

(3)保佐の業務  

保佐人は被保佐人の財産管理を行うことができ、また、身上監護を行うことができる(第 7章 159 条)。保佐業務に必要な経費は、被保佐人の財産を充てることができる(第 7章 160 条) 。

 保佐人は必要な場合には、裁判所の許可を得て不動産を処分することができる(第 7 章 161条)。

  保佐人は、被保佐人の財産を相当の注意を持って管理しなくてはならない(第 7章 162 条 1項)。保佐人が害意をもって適切な管理をしなかったことにより損害が生じた場合には、その賠償の責任が生じる(第 7 章 162条 2 項)。

また、被保佐人の不動産を保佐人に譲渡しても無効であり、所有権の移転は生じない。ただし、売買の日 から 3 年以内に相続があった場合を除くとされている37(第 7章 163条) 。

(4)保佐開始・終了の要件 

第一に、保佐は、①未成年子が 18 歳に達した場合、②行為能力を回復した場合、 ③父もしくは母あるいは両親が子の監護をする場合、④後見人が選任された場合、⑤ 行方不明の者が現れた場合、⑥保佐人の職を裁判所によって解かれた場合、⑦親が外 国から帰国した場合、⑧保佐人が適格性を失った場合、⑨保佐人が死亡した場合、などに終了する(第 7章 164 条) 。

  第二に、保佐人が被保佐人の財産を適切に管理しなかった場合には、裁判所は保佐人の職を解くことができる(第 7章 162条 3項) 。  第三に、保佐が終了した場合には、対象となる財産を保佐人は本人に返さなければならない(第 7章 164条 2項) 。

(5)保佐制度の特色 

後見人が不在の時に活用される制度が保佐であるようだが、ネパール社会では初めての制度と言われている。

すみれ

「利用はあるのかな。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第11項 家族共同財産分割(208~239 条) 

(1)家族共同財産制度の特色 

家族共同財産は、ヒンズーの伝統的な制度であり、息子は出生により持分を分割してもらい、娘は婚姻時に持分を与えられるというものであったと言われる。しかし、 現代社会では、祖先から承継した財産を息子も娘も取得するという考え方に変わってきており、家族共同財産持分権者は、夫、妻、父、母、息子、娘となっており、家族集団で生活する者に平等な持分が認められている(第 10章 208条・209 条 1項)。

 (2)家族共同財産持分権者と持分

  当該財産の持分を請求できるものは、上記に記載された者のほか、共同財産が分割される時に、胎児であった者にも持分権が認められる。だたし、死産の場合には、胎児の持分は他の者に平等に分割される(第 10 章 209条 2 項・3 項) 。 

また、子は親が婚姻しているか否か、婚姻が無効とされたか否か、婚姻を解消して いるか否かにかかわらず、親の財産に対して家族共同財産分割持分を有する(第 10 章 210条)。  父親が不明な場合、子は母に対する請求権のみ認められるが、婚姻が公にされてい ない場合、妻は夫へ子は父へ家族共同財産分割持分を請求することはできない(第 10 章 211条) 。

 同居する兄弟の妻もしくは子は、その夫もしくは父が有する持分のみを請求することができる。夫もしくは父が死亡した場合も同じである(第 10章 212 条 1項 2項) 。

 また、妻が複数いる場合には、夫の持分の限りで妻たちには権利が認められる(第 10 章 212条 3項)。

番人

「妻が複数、か。」

  夫が妻および子の財産と自己の家族共同財産分割持分をまとめて管理している場 合、夫が他に妻をもち、その妻との間に子が出生すると、新たな妻と子は、夫・父の 持分のみに対して家族共同財産分割持分を有する(第 10章 213条 1項)。次に、夫が 家族共同財産分割持分を取得しない前に、他の女性と婚姻した場合、新たな妻は夫が 得られる持分に対してのみ、自己の持分が認められる(第 10章 213 条 2項) 。

(3)家族共同財産と家族構成員の扶養

 家族共同財産分割持分を有する者(同居する夫、妻、父、母、息子、娘)は、自己 の社会的地位や収入に応じて相互に扶養し世話をしなくてはならない(第 10章 214 条 1項)。親は子に対して適切に子を監護養育しなくてはならないとされている(第 10 章 214条 2項)。  前述の義務を負う家族構成員が、扶養の責任を果たさない場合には、家族共同財産 分割持分を有する者は、財産の分割を求めることができる(第 10章 214条 3項)。 

これらの規定から判断すると、家族共同財産は、個人に帰属するというよりも家族生活を支える財産として集団に帰属すると解されており、その点で、財産共有と扶養ならびに同居が関連するとして重視されていると思われる。

(4)家族共同財産の分割

 第一に、家族構成員が合意した場合は、何時でも家族共同財産の分割をすることができる。夫、父、家長は、適切と判断した場合には、当該家族構成員との同居よりも 財産を分割して別居することを選択できる(第 10章 215 条) 。 

第二に、特段の事由がある場合の財産分割請求に関しては、①夫婦の一方が他方を家から追い出した場合、②夫婦の一方が他方に対して身体的精神的な傷害を与えた場合、には、夫婦の一方は家族共同財産を分割して別居を求めることができる(第 10 章 216条 1項)。夫が新たな婚姻をしたとき、妻は家族共同財産を分割して別居することができる(第 10章 216条 2項)。家族共同財産分割持分を得て別居した妻が、他の男性と再婚した場合には、その持分は前夫との間にできた子、それがいない時には、前夫もしくは直近の相続人に返還されるものとされる(第 10章 216 条 3項) 。

 第三に、寡婦は何時でも家族共同財産分割持分を請求して別居することができる (第 10章 217 条 1項)。ただし、再婚した場合には、前夫との間にできた子、それがいない時には前夫に返還し、それらもいない時には自己のものとすることができる (第 10章 217 条 2項) 。 

第四に、同居する者が家族共同財産の分割を行う場合、①同居する家族の債務を考慮に入れる、②財産の価額に争いがある場合には、まず合意で、合意がまとまらない 時には「くじ」で、分割を行うものとする(第 10章 219 条 2項・3 項)。分割をめぐ って争いがある場合には、争いが終結するまで分割は行われない(第 10章 219 条 4 項) 。  第五に、財産の分割は書面をもって行われるが(第 10章 219条 5項)、分割を行う 書面には次の事項が特定されなくてはならない。①氏名、年齢、住所、持分権者の父 及び祖父の氏名、②対象となる財産、③債務ならびに財産、④持分権者が同居してい る者の関連事項、⑤持分権者が財産についてすべて開示している旨の宣言、⑥分割が 父、母、夫、妻の死亡による場合には、その詳細、⑦該当する財産が他人に委託され た場合には、その詳細、⑧その他必要な事項、とされている(第 10 章 220条) 。  第六に、分割手続きでは、証人の立会いのもとに書面が作成され、証人が署名押印 などを行って登録がなされる(第 10 章 221条)。

  第七に、家長は自己の持分が分割されていない場合、同居する家族の財産を持分権者に提供することはできない。ただし、他の家族共同財産持分権者の合意がある場合、または、合意がないときでも自己の持分の範囲である場合はこの限りでない(第 10 章 222条) 。

 第八に、家族共同財産持分権者は、自分が他の持分権者と別居して自活し始めた年 月日および不動産や債務などの目録を開示することによって、自己の持分を請求する ことができる(第 10章 223条 1項)。この申立てに対して他の家族共同財産持分権者 は、申立て者がすでに持分を分割済であるか否か、財産目録を提供するか否かなどに 関して陳述書を提出しなくてはならない(第 10 章 223条 3 項)。分割の申立てがなされた場合には、裁判所は、提供された財産目録などをもとに、家族共同財産持分権者 などから事情を確認して、持分の分割を行うことになる(第 10章 225 条)。分割が行 われた後に、新たに家族共同財産が見つかった場合には、裁判所は当該財産を分割し なくてはならない(第 10 章 226条 3項) 。 

第九に、財産目録が提出されない場合もしくは提出が遅れる場合、裁判所は、財産 目録が提出されるまで、家族共同財産の分割を停止することができる(第 10章 228 条 1項)。財産目録が提出された場合には、裁判所は分割手続きを行わなければなら ない(第 10 章 228条 2 項) 。  第十に、対象となる財産については以下の対応がなされる。  公平な分割が行われるためには、分割の対象となる財産の隠匿行為を行った者は、 持分を喪失するとされる(第 10章 229条 2項)。また、家族共同財産の確定のために 必要な場合、裁判所は、当事者ならびに地方機関の係官を含む2名の立会いのもとに、 施錠された家屋に立ち入ることができる(第 10 章 227条)。さらに、分割された財産 に瑕疵があって利用ができない者に対しては、すべての家族共同財産持分権者が等し い割合で補償しなくてはならない(第 10章 230 条) 。

 家族共同財産持分権者が分割を求めた場合、財産目録において財産もしくは収入に ついて支払い(分割)を保留する旨が記載されているときには、分割対象となる財産 の範囲をめぐる紛争を防ぐために、裁判所は当該財産や収入を分割が終了するまで保留することができる(第 10章 233 条) 。

 また、家族共同財産持分権者が分割対象となる財産に抵当権などを設定しているこ とが明らかになった場合には、裁判所は、家族共同財産持分権者全員の合意を得て、 ①当該財産を放棄する、もしくは②同居家族の財産(property of undivided family) からの負担により抵当権の解除をするという条件をつける、という形で家族共同財産 分割を行うことができる(第 10章 232条 1項)。家族共同財産持分権者全員の同意が 得られない場合でも、家長として行動している者もしくは成人の者が上記の抵当権な どを設定していることが明らかになった場合には、裁判所は上記同様の対応をするこ とができる(第 10章 232 条 2項)。上記の場合のほか、家族共同財産持分権者が分割 対象となる財産に抵当権などを設定していることが明らかになった場合、裁判所は共 同財産(common property)40に対する当該人の持分からの負担で上記同様の対応を することができる(第 10 章 22条 3 項) 。

 分割の対象となった財産が囲繞地の場合には、家族共同財産持分権者は、囲繞地利 用のための通路を提供するものとされる(第 10 章 234条)。

第十一に、ひとたび分割が終了すると、家族共同財産持分権者の合意がない限り、 その財産が気に入らないなどの理由で分割された財産を交換することはできない(第 10 章 231条)。

  第十二に、同居する家族が有する債務は、債権者の同意がない限り家族共同財産持 分者の一人に移転することはできない(第 10 章 235条 1 項)。上記の条件に反して、 一人に移転した場合には、家族共同財産持分者全員が等しい割合で債務の弁済の責任 を負うとされている(第 10章 235 条 2項) 。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

 (5)表見家族共同財産持分権者

  家族共同財産分割請求権を有しない者が、持分請求の陳述書を提出した時には、裁 判所は、請求額が特定されている場合にはその額を、特定されていない場合には相当 額を、損害賠償として支払うよう命じることができる(第 10章 236 条) 。

 (6)家族共同財産分割持分の放棄

 家族共同財産分割持分は、他の家族構成員の合意がある場合には、その一部もしく は全部を放棄することができ、また、持分に相当する現金に代えることができる(第 10 章 218条)。

(7)家族共同財産分割制度の特色

  家族共同財産制度はネパールの独特のものであるといえる。家族(男系家族)集団 に帰属する財産として位置付けられ、その利用や処分には制約が付けられている。一方で個人の財産としての性質を有し、他方では家族構成員のための生活保障としての 性質をもっている。現実の生活では、こうした財産の集団的帰属が必要なのであろうが、近代法的な視点からは問題がいくつもあるので、遺言規定との関係で、本民法典が制定施行されたときには効力を失うとされている。

すみれ

「問題があるのか。近代法的な視点から。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

 第12項 遺言(240~255 条)

(1)遺言制度の概要 

遺言制度はネパールでは初めて法制度化されたものである。従来家族共同財産分割制度が家族構成員間の財産移転を規律してきたが、ネパール社会の変容に対応できない状況もあった。そこで、個人が自己の財産を処分するための制度として遺言制度が 設けられることになった。

そして、民法典が施行されると、夫婦、親子、その他の親 族にかかわる家族共同財産分割持分をめぐる諸条項は効力を失うとされている(第 11 章 254条 1項・2 項)。ただ、離婚の場合には、夫婦の合意もしくは夫に有責原因が ある場合には、妻の申立てに基づいて、裁判所は夫の収入や資産ならびに子の数を考慮して、適切と思われる支払いを夫に命じることができる(第 11 章 254条 3項)など、家族共同財産をめぐる条項が効力に変化があっても、一定の保護は残されている。

なお、妻の資産収入が夫のそれよりも大きい場合にはこの限りではない(第 11 章 254 条 4項)。

 (2)遺言作成能力

  18歳になった者で意思能力のある者は自己の財産に関して、条件をつけるか否か を問わず、遺言することができる。ただし、共同遺言は認められない(第 11 章 240 条)

(3)遺言作成の過程

 第一に、通常の遺言の場合、遺言者は遺言書を 2 通作成して遺言作成担当の係官の 面前で、行為能力ある証人 2 名の立会いのもと、係官が遺言書を読み上げ、遺言者が その内容を了解して同意すると、作成場所および作成日時を明記して、遺言書に署名 封印する。遺言書 1通は当局に保管し、他の 1 通は遺言者が保管する(第 11 章 241 条 1項~5項)。

遺言作成時に立ち会う係官は、土地税事務所、在外国公館、公証人である。なお、不動産の移転について公証人は除く(第 11 章 242 条)。  第二に、証人としての欠格事由は、①18歳に達しない者、②正常な判断のできな い者、③当該の遺言書を確証する係官、④公証人による遺言の場合には、公証人、公 証人の同居する配偶者、公証人もしくは公証役場の職員の 3親等以内の親族、⑤遺言 により財産を取得する受遺者もしくはその卑属である(第 11 章 247 条) 。

  第三に、遺言者は、遺言により自己の財産のうち 4分の 1を分離して、①財産もし くは収入のない配偶者、②財産もしくは収入のない障害をもつ子、③21歳に満たな い子(21歳まで)、に与えなくてはならない(第 11 章 252 条)。

遺留分に近い規定である。

番人

「遺留分よりも事情に合ってるね。」

(4)「封印遺言(sealed testamentary will)」

  本遺言の場合、遺言者が遺言を作成して当局に持参し、係官は遺言書を確認して封印した上で、遺言書に「封印遺言」と記載して遺言者および係官が署名するものであり、証人は不要である(第 11 章 243 条 1項~3 項) 。  封印遺言では、相続開始時まで受遺者の名前は公にされない。かかる情報が公にさ れた場合には、担当する係官はその責任を負うことになる(第 11 章 243条 5項・6 項) 。 

遺言者が死亡した時、相続第一順位者は、担当係官 1名以上の立会いのもとで、遺 言を開封する(第 11 章 243条 8項)。遺言で特定された受遺者は、土地税事務所に対 して、財産の名義変更(title)を求めるために遺言を提出し、土地税事務所は保管す る遺言との照合を行い、称号が終わると、財産の名義が変更される(第 11 章 243 条 9 項~11項) 。

(5)「自筆証書遺言」

  遺言者が遺言内容を詳細に記載した遺言書に署名すると遺言書は有効に成立する が、不動産の権利移転についてはこの限りではない(第 11 章 244 条)。

 (6)「視覚障害者による遺言」  視覚障碍者が遺言を作成する場合には、担当係官が遺言内容を口授し、証人 1 名が 同じく口授し、その上で、遺言者が遺言内容を理解して署名する(第 11 章 245 条) 。

(7)「聴覚障碍者による遺言」  聴覚障碍者が遺言書を作成する場合、遺言書の内容を口授するとともに記載したも のを遺言者に見せて内容を理解得る(第 11 章 246条 1項)。聴覚障碍者が、内容を理解しない場合、非識字者の場合には、①シンボルを使って内容を説明する、②同居する配偶者もしくは子に内容を説明する、③遺言者が 2名を選任する、などの方法がとられることになる(第 11 章 246条 2項) 。

 (8)遺言と効力 

遺言者は、条件を付けて遺言により財産を処分できるが、条件が成就するまで遺言は効力を生じない(第 11 章 248 条)。遺言者が死亡すると遺言が発効し、財産の名義は受遺者に移転することになる(第 11 章 253 条 1項) 。

(9)遺言の取消

 第一に、遺言は、①受遺者が遺言者より先に死亡した時、②受遺者が遺産を取得す る目的で遺言者を殺害した時、には事実上取り消されたもの(revoke)とする(第 11 章 249条)。また、受遺者が財産の承継を拒否した場合には、遺言は事実上取り消さ れ、相続法の原則に基づいて相続人に財産は分割される(第 11 章 251 条 1項) 。  第二に、遺言者は、すでに作成した遺言を新たな遺言を作成することによって、い つでも取り消すことができる(第 11 章 250条 2項) 。 

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第13項 相続(256~269 条)

 (1)相続人と順位 

相続人は以下の表の順位で相続する(第 12章 258条 1項)。被相続人が、家族財産 (family property とされるが家族共同財産分割持分と思われる)を分割した場合、被相続人と同居する親族が相続人となる(第 12 章 259条)。また、被相続人の面倒を生前に見た親族は、相続順位が遠い場合でも相続する(第 12章 260 条)。同順位の相続人が相続放棄をした場合には、同順の相続人が放棄した財産を承継し、同順位の者がいない時には、次順位の者が相続する(第 12 章 258条 4項) 。

すみれ

「面倒をみたことを証明したりする必要があるのかな。」

 被相続人が家族共同財産分割持分を分割した後に同居をしていた相続人が、被相続人の面倒をみなかった場合には、別居している相続人に相続が開始する(第 12章 261 条)。

相続人以外の者が被相続人の面倒を見ている場合、この者が被相続人を相続す ることになる(第 12章 262条)。基本的には、同居と扶養が相続の重要な要素となっている。  被相続人を殺害した者もしくは殺害した者の卑属は相続欠格とする(第 12章 264 条) 。 

相続人の順位(第 12章 258条 1項)

1. 夫もしくは妻(同居していること)

2. 息子、娘、同居している死亡した息子の寡婦

3. 父、母、継母、同居する息子の子(孫息子もしくは孫娘)

4. 別居している夫、妻、息子、娘、父、母、継母、婚出した娘

5. 祖父母、同居する兄弟姉妹

6. 同居している叔父、叔母、甥、姪

7. 別居している息子方の子(孫息子もしくは孫娘)

8. 同居している兄もしくは弟の妻

9. 別居している兄弟姉妹

10. 別居している祖父母、孫の妻

11. 男系かつ 7親等内の親族 *条文と説明書の記述が異なるが、説明書案の記述に従った。 

(2)相続分

  同順位者の相続分は平等である(第 12章 258 条 3項) 。

(3)相続の放棄

 相続人は、相続放棄をする場合には、相続開始後 3年以内に書面をもって裁判所にその旨を申し立てなければならない(第 12章 263条 2項)。また、相続開始後 3 年以内に相続を承認しないと放棄したものと扱われる(第 12 章 263条 3項)。

なお、相続を放棄しても被相続人の葬儀などは執り行わなくてはならない(第 12章 263 条 4 項)。

相続放棄があった場合、相続財産は、葬儀費用ならびに相続債務の弁済に充てられ た後、残余があれば所定の手続きを経て地方機関(local body)に帰属し、公的目的のために使用されることになる(第 12章 267 条 1項~9 項)。ネパール国内で死亡したネパール国籍を持たない者に相続人がいない場合、同様の手続きにより地方機関に 財産が帰属し利用される(第 12章 268条)。

(4)相続人の権利義務 

相続人は、①被相続人の葬儀などを行う義務、②被相続人の債権者に債務を弁済する義務、③被相続人の債務者に対する債権、を有する(第 12章 265 条 1項)。相続人以外の者が、被相続人の葬儀などを行った場合、相続人は葬儀などの実費に 25%を加 えた額を、葬儀を行った者に支払わなくてはならない(第 12章 265 条 2項)。 相続人は相続債務を被相続人の財産の範囲で弁済する義務を有する(第 12章 266 条) 。

(5)相続制度の特色 

ネパールでは家族財産が家族構成員の共同財産として扱われるために、相続開始以前に共同財産分割持分の分割などが行われている。そのため、相続時に被相続人の財産を一挙に分配するという仕組みにはなっていない。この点で、相続手続きに詳細な規定を必要としないのかも知れない。 

すみれ

「家族が出来た段階で、既に遺産分割みたいな状態になっているんだ。」

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第3章 ネパールにおける財産法の現状と展望

第1節 財産法の現状分析

第1項 ムルキ・アインにおける財産法 

ネパールの現行法のベースにあるムルキ・アインは,独特な体系をもっている。そ れは,第Ⅰ部(基礎的事項について)に続き,第Ⅱ部では,裁判手続(第 1章)と刑 罰(第 2章)から始まっている。

これは,ムルキ・アインが基本的に訴権体系をとっており,実体法と手続法が明確に分離されていないことを示唆している。そこでは, 訴訟手続,文書,証言,その他の方法による証明方法に関するルールがまずは定められている。また,民事と刑事が両方の規定が入っている点にも特色がある。 

このような特色をもつムルキ・アインのうちで,財産法に関する規定としては,第 Ⅳ部の刑事法に関する規定を除けば,以下のものが挙げられる。

すなわち,―― 第Ⅱ部・第2 章(保証について),第 3章(土地の埋蔵物の発見について),第 6章(遺 失物拾得について),第 7章(信託について),第 8 章(土地の耕作について),第 9 章(土地の明渡しについて),第 10 章(土地の侵害について),第 11 章(建物の建築 について),第 17章(一般取引について),第 18章(寄託について),第 19章(贈 与について),第 21 章(証書の登記について)である。

これらは,内容的には,(ア)土地の譲渡に関する法規,(イ)信託に関する法規, (ウ)不動産・動産の原始取得に関する法規,(エ)土地の利用に関する法規,(オ)土地の侵害に対する救済に関する法規,(カ)担保に関する法規などに分類することができる。

  このうち,本節では,ネパール財産法の現状として,ネパールにおける財産権の保護と取引に関する法制度について概観し,ネパール財産法の現状を探る手がかりとしたい。

まず初に,土地を中心とする不動産取引について概観する。ついで,公用収用に対する損失補償について概観する。後に,その他財産法に関連する現行法の特色を概観する。 

第2項 不動産取引

  不動産取引に関しては,ムルキ・アイン第Ⅲ部・第 21 章(証書の登記について) 等のほか,1964 年土地法(the Land Act, 1964),土地税法(the Land Revenue Act, 1977)等が存在する。 

1964年土地法以前は,ネパールにおける土地の所有権は伝統に従い,国家(国王) および国王の家臣ならびに以前の支配者に帰属し,政府の役人および私人は国家(国 王)の権力が付着した供与物としての土地利用権を付与されていたにすぎない。1964 年土地法により,所有上限の範囲内ではあるが,私人たる土地保有者および農夫に土地所有権が付与された。

 ムルキ・アイン第Ⅲ部・第 21章は,証書の登記手続を具体的に定める手続規定の中に,実体法規を組み込んでいる。

  売買に基づく所有権移転の証書,各種形態の抵当権設定の証書等は登記されなけれ ばならない(第 21 章・1条) 。  証書の登記を申請するには,自然人の場合は,証書に本人の名前のほか,父母,祖 父母の名前も記載しなければならない(第 21 章・31 条)。  不動産の登記においては,境界が明示されなければならない(第 21 章・15条) 。

すみれ

「登記は義務なんだ。家族関係も書かないといけないんだね。それも登記されるのかな。」

 土地の売買による所有権移転の証書は,所有権の証拠および管轄登記所への土地税の支払いの受領証が提出されなければ,登記されないものとされている(第 21 章・ 17 条)。また,証書を登記するためには,少なくとも 2人の証人が譲渡人ならびに譲受人の同一性およびこれらの者の住所を証明し,署名または拇印の押捺をしなければならない(第 21章・21 条) 。 

証書の登記はいずれの登記所でも行うことができる。登記の申請を受けた登記所は, 土地・建物については,その所在場所を管轄する登記所にその謄本を送付し,管轄登記所が当該証書に連番を付して登記簿に登記する(第 21 章・29 条)。 

内容が競合する証書が 2通以上作成されたときは,初に登記されたものが有効とみなされる(第 21 章・39条) 。  登記された証書の閲覧およびその謄本の付与は,誰にでも認められる(第 21 章・ 26 条)。費用は,謄本が 1枚 2ルピー,閲覧が 1ルピーである(第 21 章・39条) 。 

不動産取引の実務でも,売買等の契約書のほかに,土地の譲渡証書が作成され,それが登記される仕組みになっている。土地の譲渡証書は,大判のネパール和紙に,簡単な土地の形状とともに,土地の表示,地積・地目,近隣の権利者(先買権者),家族の共同財産の場合にはその家族員の表示,譲渡人と譲受人の署名・指紋の押捺等がされている。

番人

「指紋は印鑑の代わりかな。」

  この譲渡証書は,必要な審査が終わると,土地税事務所の公印が押されたうえで,地番ごとに簿冊に編綴され(これがネパールにおける土地譲渡の登記にほかならない),土地税事務所に保管されている。これが土地登記簿の本体である。なお,建物 については別個の登記簿は設けられてはいない。

また,土地税事務所には,土地登記簿とは別に,所有者名ごとの写真付き帳簿も備え付けられている。この帳簿には,当該所有者が所有する物件,それについての取引記録が記載されている。まさに人的編成の帳簿である。

ポリー

「人で分けてまとめる国って結構多いんですね。」

そこに挙げられた物件情報は, 土地登記簿と連動している。  さらに,土地税事務所とは別に,土地の測量事務所があり,地図を管理している。 そこでは,管轄区域内の土地関する構図が作成されており,各筆の土地にはすべて番号が付されている。これは,土地登記簿の情報とリンクしており,これによって土地の同一性は容易に確かめることができる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

1.  土地の収用に対する損失補償

(1)1977年土地取得法の特色 

ある国で財産(権)がどの程度尊重され,保護されているのかを測定する指標と して,土地の公用収用の制度とその運用は有力な手がかりになる。なぜなら,国家 (政府)が強制権力を背景に,公益の実現を理由にして国民の財産権を強制的に収用または使用しようとする場合に,公共事業による公益の実現と,制限されようとしている国民の財産権の調整を図るために,どれだけ慎重な手続を履み,かつどれだけ損失補償をしているかということが,その国家(政府)が国民の財産権をどれ だけ尊重しているかを如実に示しているからである。

  ネパールにおける現在の用地取得は,1961 年土地取得法に代わる 1977 年土地取得法に基づいて行われている。かつて政府は国民の土地を自由に取得することができたが,その後,財産権保障の要請が高まるに従い,法定手続の遵守および損失補償の支払いが求められるようになってきた。

同法は,公益目的を実現するために 土地を強制的に取得する制度の中核であるが,「公益目的」とは,一般公衆の利益・ 便益・利用のほか,ネパール政府によって引き受けられた機能(例えば,政府が同 意したプロジェクト,様々なレベルの地方公共団体によって引き受けられたプロジ ェクト)を含むものとして,比較的緩やかに捉えられている(2 条 b 項)。

他方,ネパールでは「土地」には土地に継続的に設置された建物,樹木,壁等も含むと観念されていること(2条 a項)に留意する必要がある。   土地収用権限の主体は,あくまでもネパール政府(3条)であり,政府自身の必 要性によるほか,事業主体(地方政府の開発委員会,会社,国有企業)の要請(例 えば,労働者の宿舎,製造物や原材料を貯蔵する倉庫の建設,国有企業のプロジェ クトなど)に応える形で,ネパール政府が土地収用権限を発動することも可能とさ れている(4 条)。

その際,事業主体の要請に基づく土地取得手続は,

①土地取得 に必要な費用の政府への支払い,

②建設期間,利用形態などを記した証書の作成(4 条 2項)に基いて行われる。

 政府は,本法の実施を目的とする規則制定権をもつとされているが(42条),規則は未制定で,代わりに各地方のプロジェクトごとの移転政策(Resettlement Policy)が策定されている。

 (2)土地の任意取得

  政府は土地所有者との任意の交渉により,「いかなる土地も,いかなる目的のためにも,取得することができる」ものとされ(27 条),この場合は土地取得法に規定された手続に従う必要はないものとされている。

その結果,とくに政府・国有企業以外の事業主体(会社等)が政府に要請しては,一般的に任意交渉を行うとされる。任意交渉で合意に至らなかったときは,関連する政府機関に強制取得の手続を要請することになる。

例えば,ネパール石油会社が販売店の建設用地を取得するた めに地権者と任意交渉したが,合意に至らなかったときは,商業省に申請し,商業省が当該地方における郡行政事務所に土地取得(収用)手続の開始を要請することになる。これに対し,政府や国有企業が土地を必要とするときは,比較的早期に強制取得の手続がとられるようである。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

(3)土地の強制取得

 (ⅰ)土地取得のための第一次手続は,

①政府による土地取得の決定後,原則とし て官報告示クラス 3以上の公務員(責任官)が任命され,この者が取得すべき土地 およびその場所を確認・調査することにより,強制取得の手続が開始される(5条) 。 責任官は,

②告示のコピーを公示し(6 条 1 項),

③同公示から 3 日経過以後に立 入りによる土地調査・図面作成・土質調査,用地幅杭の打設(6 条 2 項)を行うことができる。これらの調査・準備作業のために,用地上の作物・樹木・壁・その他 の障害物の除却が必要なときは,「可能な限り関係者の立会いの下で」 (6条 3項) 行うものとされている。

④作物・樹木・壁等の除却,土石・溝の除却,土地の穿孔 等によって生じる損失に対しては,補償が行われる(7 条 1 項,2 項)。補償額は 第一次手続の責任官が決定する。

補償額に不満の場合,地権者は地方長官(the Chief District Officer)に不服申立てができるが,その判断が終決定とされている(7 条 3 項)。⑤責任官は第一次手続の開始から 15 日以内に調査結果を提出し,土地が取得に適しているかを判断して,前記④の損失補償額・明細等を含む必要事項を 記載した報告書を地方事務所に提出する(8条) 。

(ⅱ)強制取得のための第二段階は,土地取得の告示である。すなわち,(ア)当 該土地を取得すべき旨の第一次手続の報告書に基づき,地方長官が告示を発出する (9条 1項,10条) 。

告示の記載事項は,

①土地取得の目的,

②土地のみの取得か, 土地上の建物,壁・作物等の定着物の取得も含むか(後者の場合,地権者は定着物 も取得するよう申請できる。29 条),

③土地が所在する市町村名と区番号,

④土地の区画番号(調査・測量済の土地の場合),または土地の同一性・境界を明らかに する個別事項(調査・測量済でない土地の場合),

⑤土地の範囲,

⑥その他必要な 個別事項,

⑦地権者が補償金を請求するために提出すべき申請書(土地の権原を証明する文書を含む)の提出(低 15 日以上の期限を付加しなければならない)に 関する個別事項(10条 a 項),

⑧被取得者が土地上の建物の除却,樹木・作物等の 定着物の収去を許容された場合における作業期限(10 条 b 項。当該期限内に定着 物の収去がされなかった場合,地方長官はそれらを無補償で没収することができる。 36 条)である。

(イ)土地取得の告示は,そのコピーが公示されなければならない(9 条 2 項) 。

 告示自体が公示行為であるが,地権者への告示の周知が必ずしも確保されない状況にあることから,同告示のコピーが,

①プロジェクトが行われる地方事務所,

②郡事務所,

③市町村事務所,

④土地税事務所(土地取得告示およびそのコピーの公示 後,該当する土地税事務所は,土地登記の記録に,土地取得の告示がされている旨 を公示する(9 条 4 項)。これにより,事実上の土地取引の凍結が図られている)。

⑤用地周辺の街路,

⑥その他地方長官が適切と考える場所に公示されなければならない。

 (ウ)さらに,土地取得告示およびそのコピーの公示にもかかわらず,地権者が土地取得について知りえないと地方長官が判断した場合,地方長官が個別に告知するものとされている(9 条 3 項)。その際,損失補償額が決定されている場合は,補償金を受領すべき期間と事務所名も告知する(9 条 3 項)。

このことは,損失補償が地権者による取立債務であることを意味している。個別の住所表記すらないネパ ールの現状に鑑みて,このことはやむをえない面もあるが,財産権の保障の制度と しては,現状では欠陥といわざるをえない。

 (ⅲ)土地取得の第三段階は,土地取得に対する不服申立て,およびそれがあった 場合に審理手続である。

(ア)不服申立ては,土地取得告示の公示後 7 日(プラス 移動に必要な期間)以内に,①被収用地の所有者,および②借地人(土地所有者の 同意を得て土地上に建物を建築・所有する者)は,土地取得が行われるべきでない 理由を添えて,地方長官を通じ,内務省に不服申立てができるものとされている(11 条 1項) 。

(イ)審理は,内務省が,第一次手続の責任官と,また,必要に応じて地 方長官と協議して行う (11条2項) 。 内務省は,審理に当たり,地方調査(sarjameen), 証人召喚,陳述記録,文書調達に関して,地方裁判所に付与された権限の行使が認 められている(11 条 3項) 。

(ウ)審決は,原則として,不服申立て受理後,15 日 以内に行うものとする(11 条 4項)。 (ⅳ)土地取得の第四段階は,占有取得である。これは,①土地取得の告示および 公示に対して不服申立てがなかったときは不服申立期間経過後に,同じく不服申立 てがあったときは土地取得を認める審決後に,地方長官が用地の占有を取得し,プ ロジェクトの事務所または事業主体に引き渡すことによって行われる(12条1項) 。 その際,②土地と共に建物も取得される場合において,当該建物を所有者が占有し ているときは,補償額の 50%以上が支払われるか(補償額が決定している場合) ,

またはその者が住居を移転するために要する合理的な費用が予め支払われるのでなければ(補償額が決定していない場合),地方長官は占有を取得することができ ない(12 条 2 項)。なお,③占有取得が円滑に行われない場合,地方長官等,本法 に基づいて権限を付与された公務員は,職務遂行上必要なときは,郡長官または警 察に支援を要請することができる(38条) 。

(ⅴ)土地取得の第五段階は,土地所有権の移転である。①土地所有権は,地方長 官による土地の占有取得(12 条)の後,政府または土地取得を必要とする事業主体に帰属するものとされている(22 条)。②地方長官は,土地の占有取得後,土地登記記録を保有する土地税事務所に対し,政府または事業主体への所有権移転登記を文書で依頼する。当該土地税事務所は,土地税記録における従前の記録を削除し, 政府または事業主体の所有権を記録して,その旨を地方長官および従前の所有者に 対し,可能な限り速やかに通知するものとされている(23 条 1項)。もっとも,③ 登記記録の変更および所有権の移転は,登記記録が実際に行われた日にかかわらず, 所有権の発生日に生じたものとみなされる(23 条 2項) 。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

 (4)損失補償 

(ⅰ)補償は,金銭(現金)で支払われるものとされている(13条 1項) 。

 (ⅱ)補償額の決定は,補償額決定委員会による。その構成メンバーは,①郡長官 (議長),②土地管理事務所長または土地税事務所長,③プロジェクトの責任者ま たは郡長官に任命された者,④郡開発委員会からの代表者である(13 条 2項)。

補償額は,補償額決定委員会による決定後,郡長官によって政府に通知される(19 条)。他方,補償額の決定は,新聞での公表,市町村への通知等によって公示され る。

(ⅲ)現物(代替地)補償は,土地の全部を収用される者から要求がある場合に,政府にとって可能であれば,代替地と交換することができるものとされている(14 条)。

なお,宗教上の信託地である Guthi land の場合は,The Guthi Cooperation Act, 1976 に従って補償が行われる(15 条) 。これは,一種の公共補償と解される。 現実問題としては,大規模な住民移転を伴うときは,政府は移転先の土地を用意 することが通常である。また,少数民族に対しては,一般市民よりも有利な条件が提供されている(それに関する移転政策による)。

番人

「宗教上の信託地、か。」

 (ⅳ)補償請求権者に土地税,その他の租税等の滞納金があるときは,補償金の支払時に差し引かれるものとされる(21条) 。

 (ⅴ)補償請求権者が補償金を期限までに受領しなかったとき,または受領を拒んだときは,地方長官は 3 か月間の終期限を明記した通知を発出する。同期限内に 補償金を受領しなかった補償請求権者は,補償請求権を喪失するものとする(37 条) 。

(ⅵ)損失補償基準 

(ア)政府・地方自治体・国有企業による土地取得の場合(16 条 1 項)は,

①定着物に対する補償(政府のガイドラインによる),および

②住居,営業場所の移転 によって被った損失とされている。ここに土地価格が入っていないのは,伝統的に は,国(政府)は無償で土地を強制収用できたことが反映しているものとみられる。

もっとも,実際には,(イ)にみる場合と同様に,財産権保障の要請,憲法上の財 産権の保障の強化とともに,実務上は土地価格分も支払われている。この点が, 1977 年土地取得法の改正が検討されている背景の一つと考えられる。

(イ)他方,(ア)以外の事業主体による土地取得の場合(16条 2項)は,

①土地 取得告示(9条)の公示時点の土地価格,

②土地と共に取得される作物,建物,壁, 小屋等の価値,

③住居,営業場所の移転によって被った損失が補償すべきものとされている。

 (ウ)土地保有制限(1964 年土地法)を超える土地を政府・地方自治体・国有企業が取得する場合,補償額は 1964 年土地法の下で支払可能な額を超えないものとする(17条)。

(ⅶ)補償請求権者

 ①土地取得告示に明示された期限内に受領された申請に基づき,地方長官は補償請 求権者のリストを作成し,被補償者への情報提供のために告示する(18 条 1 項)。

 ②補償請求権者リストの内容に対して不服のある者は,補償請求権者リストの告示時から 15 日以内に内務省に不服申立てができる(18 条 2 項)。

③不服申立てが, 所有権または占有権に関する紛争を含んでいないときは,内務省は原則として 15 日以内に処理する(18条 3項)。

④不服申立てが,所有権または占有権に関する紛 争を含んでいるときは,補償は裁判所の確定判決によって権原が証明された者に支 払われる旨,および補償金を保管する事務所の名前を示した告示が提示される(18 条 3項)。この場合,確定判決によって権原を証明した者は,確定判決から 2年以 内に前記事務所に保管中の補償金を受領しなければならない。同期限内に受領されなかった補償金は,同期間満了後に統合基金に移管される(18 条 4項)。

⑤借地の場合,借地人は,補償額の 50%について補償請求権をもつ。借地人が土地所有者 の同意を得て建築した建物に対する補償金は,その全額を借地人が受領する(20 条) 。

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(5)特別状況下における土地取得の特別権限

 河川における突然の流路変更,その他の自然災害,その他の異常事態が発生した場合において,交通・通信施設の維持,生命・財産の確保,公共財産の保護のために,政府が土地を取得する緊急の必要が生じたときは,政府は地方長官に対し,土地取得手続の開始を命じることができる(25条 1項)。この場合,地方長官は,略式の土地取得告示を発出した後,土地を占有することができ,それによって政府が 所有権を取得する(25条 2項・3項)。そして,地方長官は,土地税事務所における登記記録の変更を嘱託する(25条 8 項)。

補償額の決定,土地,土地上の作物・ 樹木・建物・壁等に対する補償は一般の場合と同様であるが,補償額に関するほかは不服申立てができないものとされている(25 条 4項~6 項)。補償額に関する不 服申立ては,補償決定委員会による決定通知の発出日から 15日以内に内務省に対して行う。この場合,内務省の判断が終決定である(25 条 7項) 。

 (6)土地取得の中止 

 政府は,土地取得手続のどの段階においても,土地取得の中止を決定することができる。この場合,地方長官は被取得者への情報のために,このことを告示する(30 条 1項) 。

  土地取得の第一次手続(6 条)が行われた後に中止決定がされたときは,第一次 手続によって生じた損失に対する補償が行われる(31条)。

 (7)取得後の土地の管理

 (ⅰ)政府は,土地取得後,その使用目的に従った使用を開始するまで,契約によ り,同土地を耕作のために他人に利用させることができる。この場合において,耕 作者は土地の耕作に関する現行ネパール法上の借地権をもたないものとする(31 条)。これは,いわゆる占用許可に該当するものと解される。

(ⅱ)政府または事業主体による土地取得後,その書面の同意を得ずに,建物,小 屋,壁等を建築し,または土地を耕作したときは,政府または事業主体はそれらを 無補償で接収することができる(32 条)。無許可建築物等の接収である。

 (8)取得された土地が不要になった場合

  (ⅰ)政府または国有企業は,土地取得後,当初の目的のために当該土地が不必要 になった場合,またはその目的のために他の土地が十分にある場合,政府は公益目 的のために,国有企業は 4 条 1 項所定の活動のために,当該土地を使用すること ができる(33 条。土地の使用目的の変更) 。

(ⅱ)政府または国有企業が土地を何らの用途にも使用しない場合,これを被取得者に返還し,補償金の返還を求めることができる(34 条 1 項。被取得者への土地 の返還)。その他の事業主体が取得した土地を 4 条 2項の証書で合意された目的の ために使用しないときも,同様である(34条 2 項)。ただし,被補償者が補償金を 返還しないかぎり,土地は返還されない(34条 3項)。この場合,地方長官は当該 土地を管轄の土地税事務所に登記名義の変更を書面で嘱託し,同事務所はその終了を地方長官に報告する(34条 5項)。

(ⅲ)被取得者が土地の返還(34 条)を拒んだとき,または所在不明のときは,何ぴとに対しても売却することができる(35条。返還に代わる土地の売却) 。

(9)罰則の適用

 (ⅰ)土地取得手続に対する妨害等をした者は,1000 ルピー以下の罰金,1 か月 以内の禁錮またはその併科に処される(39 条) 。

(ⅱ)罰則の適用に関する第一審の管轄権は,郡長官に属する(40 条 1 項) 。

(ⅲ)郡長官の判断に対する上訴は, 35 日以内に控訴裁判所に対して行われる。

(10)現行用地補償制度の問題点

 (ⅰ)第一に,土地所有者の確認・確定の困難が挙げられる。ネパールでは,個別の住所表記の制度が未整備であり,政府による住民の所在,その世帯構成等の把握状況は低い。その結果,土地取得の告示,補償額決定の通知等の送達方法の整備も困難になっている。 

他方,土地が未登記のゆえに,所有者の確定が困難な事例も少なくないとされる が,登記制度は比較的整備されている。  政府による住民把握状況の不完全さは,補償金請求権の取立債務(1977 年土地 取得法 9条 3 項)を必然化させる原因にもなっていると考えられる

ポリー

「家族で一人というような感じなんでしょうか。」

(ⅱ)第二に,土地取得および損失補償に対する救済手続(とくに司法的救済)の 未整備がある。例えば,

①土地調査等の段階で障害物除却・土地穿孔等による損失 の補償額に不満の場合,地方長官の判断が終決定である(7 条 3 項)。

②土地取得に対する不服は,用地の所有者および借地人が地方長官を通じて内務省に申し立 てうるにとどまる。内務省は,第一次手続の責任官および必要に応じて地方長官と 協議して審理し,地方裁判所に付与された調査権限の行使が認められる。

③補償請求権者リストの内容に対する不服も,所有権または借地権に関する紛争以外は,内務省に申し立てることができるのみである。

④災害,その他の緊急事態が発生した 場合の土地取得に関する略式の土地取得手続に対しては,補償額関する不服申立てのみが認められ,内務省の判断が終決定である。

  このように,土地取得および損失補償に関しては,司法手続の保障が十分ではなく,刑事手続に関してのみ,裁判所が部分的に関与するにすぎない。この点は,今後の制度改正で問題にされるものと予想される。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

(ⅲ)損失補償基準の未整備

  ネパールの現行補償基準の具体化は,

①各地方のプロジェクトごとに政府が策定する移転政策等によっており,統一的な補償基準(とくに法律を具体化する規則以 下のルール)が未整備である。また,その点と関連して,

②任意取得に関する裁量 の広さも問題である。その結果,土地所有者が補償額に満足せず,交渉が難航する ケース(ゴネ得的問題か)が頻繁に起こっているとされる。

(ⅳ)一旦立退きに合意しておきながら,履行しない(不法占拠)等の場合  

ネパールでも,用地取得後に,法外な補償要求や,建設工事等に地権者自身やその仲間を加えよといった不当要求が行われたり,要求に応じない場合に工事等の妨害がされることもある。そのような場合,軍に支援を要請して強制的に立ち退かせたケースもある。  この問題には,前述した明確な補償基準の未整備に加え,既存の関連法令の執行(enforcement)が不十分であるという問題も関わっていると考えられる。

番人

「こんな時に軍が出てくるんだ。」

(ⅴ)公共事業・土地取得・損失補償をめぐる政府・被取得者との争いに対する政治(政党)の介入 

損失補償に関する制度の未整備は,公共事業の計画・遂行,そのための土地取得 や損失補償の問題に,政党が,政略的な利害関心から,政府と地権者との紛争に介 入し,問題をより複雑かつ深刻にする余地も許しているように思われる。

(ⅵ)住民移転について

 土地収用に際しては,住民移転を伴う場合がとくに問題になる。この点については, 後述する土地取得法(Land Acquisition Act)の改正とともに,アジア開発銀行の支援をえながら,生活再建措置(Resettlement Policy)の見直しについて,国家計画委員会が中心となって検討している。

現在,大規模な住民移転を伴うプロジェクトの場合,政府は 移転先の土地を用意することに努めている。また,とりわけ少数民族に対しては,一般 市民よりも有利な条件を提供することが行われている。

(ⅶ)公共事業の遅れの原因について

  公共事業の遅れがしばしば指摘され,マスコミ報道もされているが,その原因として は,土地収用の対象となっている土地の住民が,土地登記をしておらず,所有者である ことを証明できないために,係争となるケースがある。これに対する対応としては,正 式の書類がなくとも,他の証拠で確認することにより,損失補償の対象としている。

 その他の原因としては,国家的に重要なプロジェクトでも地元住民が利益を感じない 場合,政党間で公共事業のメリットをめぐって争いになる場合,住民が一つのプロジェ クトからあらゆるものを得ようとして,過度の期待をもち,過当な要求をする場合等が ある。 

(ⅷ)土地の登録・登記について

 住民が土地を所有しているが,登記をしていない場合,公共事業のプロジェクトのチー ムが現場に出向き,VDC など地元関係者から話を聞いて,本当に所有者か否かを確認 する等の措置をとっている。登記されている土地であれば,所有権をめぐって争いにな ることはない。

土地の所有者が出稼ぎ等で不在の場合は,補償金を地方行政に預け,本人が帰ってきた時に交付するように措置している。土地登記は,全国全ての場所で,土地管理局事務所が同一のシステムで行っている。

すみれ

「管轄とかはないのかな。」

 (11)法改正に向けた動き

  財務省をフォーカル・ポイントとし,公共事業省,土地管理省,地方開発省等からな るチームが改正案を検討中である。改正内容の焦点としては,――

 ①政府が補償金を支払う一方で,開発税(development tax)を徴収する,

 ②土地取得前の用地の転売を防ぐ措置をとる,

 ③補償金は初の 1回のみ支払うものとする,

 ④補償金決定のプロセスを明確化するといった点が重視されている。

 (12)日本の用地補償制度・実務経験・制度運用技術の提供可能性

  財産権の保障と損失補償に関しては,日本は土地収用法および関連政省令,通達等の ほか,任意買収に関しても,閣議決定,それに基づく損失補償実務者間の申合せ等に基 づく緻密な損失補償基準を策定し,必要に応じて見直しと改訂を進めてきた実績がある。

また,それに基づき,各起業者がそれぞれ個性ある多様な現場に応じた法令の運用技術 を蓄積してきた。これらの法領域でも,日本の法整備の経験を,インフラ整備が急務と なっている現在のネパールに提供する価値があるように思われる。

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第4項 財産法に関する現行法のその他の特色

(1)贈与・寄付について

  物の所有者はその物を特定の相続人または第三者に贈与し,あるいは不特定の者に 対して寄付することができる。その物が共同所有者(coparcener(s))による所有の客体であるときは,他の共同所有者の同意を得なければならない(「国法」第Ⅲ部・第 19 章・1 条)。  すでにある者に贈与または寄付した動産または不動産について,別の者に贈与また は寄付した者は,500ルピー以下の罰金に処するものとされている(「国法」第Ⅲ部・ 第 19章・4条)。このように二重贈与はまずは刑事罰の対象とされており,そのような行為自体が否定される一方,その民事上の効果がどうなるかということは,直接には規定されていない。

このことは,第 2 の贈与・寄付はなしえず,したがって,当然に無効であるという理解を前提にしているように思われる。ここにも,第一次的には 行為規制的なネパール法の特色が現れているように思われる。

  もっとも,すでにある者に贈与または寄付した場合でも,それが死因贈与または寄付の効果をもつものであるときは,贈与者または寄付者は何時でもその証書を無効にすべく,管轄登記所に申立てをすることができる。この撤回の申立てが行われたときは,ただちに当該贈与または寄付の証書にそれが撤回されたことを示し,その所長が署名した付箋またはメモを挿入し,かつそのことを 7日以内(通知の伝達に必要な期 間を除く)に申立人に通知しなければならない。この申立てに必要な費用は 500 ルピ ーである(「国法」第Ⅲ部・第 19章・2 条)。

(2)担保について

 債権担保の手段として,自己が所有する動産または不動産の占有を債権者に移して設定される担保(収益担保)と,担保目的物の占有を債権者に移さずに設定される担保(非占有担保)の 2種類がある。いずれも証書によって設定される。

  収益担保の場合は,担保設定時から目的物から得られる収益(果実)を債権者が享 受し,弁済に充てることができる。これに対し,非占有担保の場合は,弁済期到来時から目的物の占有を債権者に移し,それ以後債権者が目的物から得られる収益(果実)を享受し,それを弁済に充てることができる。この収益(果実)の取得ができる期間は,収益担保の場合には担保実行時から2年間,非占有担保の場合には弁済期が到来し,債権者が占有を取得して 2年間に制限されている(「国法」第Ⅲ部・第 17章・3 条)。

その一方で,債務者は,収益担保の場合は設定後 10 年間は,債務および利息を弁済し,目的物を買い戻すことができる(「国法」第Ⅲ部・第 17 章・14条)。また,非占有担保は設定後 5年間は有効である(「国法」第Ⅲ部・第 17 章・15条)。

 また,収益担保または非占有担保が設定された場合,その債権額の範囲内であれば, 転担保も可能である(「国法」第Ⅲ部・第 17章・29 条) 。

  さらに,すでに担保が設定されている物件について,再度担保が設定されたときは, 第二の担保設定は効力をもたない。その前後は,担保設定の証書の日付によって判断される(「国法」第Ⅲ部・第 17章・25 条)。すなわち,二重の担保設定は認められない。二重担保の設定をした者は罰金の支払義務を負う。

その額は,担保設定時に(違約罰として)定められていればそれによる(まずは第二担保の設定契約に定められていればそれにより,その定めがないときは,第一担保の設定契約に定められていれば,その定めによる),そうした定めがない場合は 500 ルピー以下である(「国法」第Ⅲ部・ 第 17章・28 条)。

もっとも,二重の担保設定であることを知らずに第二担保の設定 を受け,かつその担保の実行として担保目的物の所有権を取得した債権者は,第一担保権者に対して被担保債権を弁済することにより,その目的物の所有権を取得することが認められる(「国法」第Ⅲ部・第 17章・26 条)。このように,担保取引の実情に わせて,低限の取引安全の保護が図られていることが注目される。

 このような担保制度は,

①所有者が担保流れによって所有権を失うリスクを抑制し ようとする傾向をもつ。また,

②担保権の実行方法として,競売による競売代金から 債権を回収する方法ではなく,債権者に占有を許可してその収益(果実)から債権を回収する方法を採用している。これは,担保物の競売市場が形成されていないという現実の中で,可能な限り費用を節約し,かつ実効的な担保物権の実行手続を経験的に模索した結果であるとも考えられる。いずれにせよ,担保権に対しては相当に強い規制が加えられていることが窺われる。 

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第2節 民法典草案における財産法の提案

 第1項 概観

  ネパールの現行法における財産法の現状を踏まえ,それが今後どのように改正され ようとしているか,その動向を民法典草案を題材にして探ってみたい。  民法典草案における財産法は第Ⅳ部に当たる。それは,次表に示した 15 章から構成されている。 

2010 年民法典草案

現行法第 4部「財産法」

 (第 1 章)財産(権)に関する一般規定

(第 2 章)所有権および占有に関する規定

(第 3 章)財産の使用に関する規定

(第 4 章)土地の耕作,使用および登記に関する規定

(第 5 章)政府財産,公共財産およびコミュニティ財産に関する規定

(第 6 章)信託(トラスト)に関する規定

(第 7 章)用益権に関する規定

(第 8 章)役権に関する規定

(第 9 章)建物賃貸借に関する規定

(第 10 章)寄付および贈与に関する規定

(第 11 章)財産の移転および取得に関する規定

(第 12 章)不動産の抵当に関する規定

(第 13 章)不動産の先買に関する規定

(第 14 章)権原証書の登記に関する規定

(第 15 章)(消費貸借・使用貸借)取引に 関する規定 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 8章) 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 7章)  

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 4章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 19 章) ← 「1964年土地法」 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 2章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 21 章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 17 章)

  このような財産法(財産編)の構成を現行法と対比してみると,つぎのような特色 が認められる。すなわち,――

(1)新たな規律  

新たな規律として,所有権と占有権の相違が明確にされていること,用益権および役権についての規定が設けられたことが注目される。

(2)契約関連の規律の編入

 大陸法系諸国の民法典では一般的に契約類型として規律されることの多い法律関係が,財産法に編入されている。例えば,――

①賃貸借一般が契約に規定されている一方で,建物の賃貸借は財産法に入っている。  ②寄付・贈与が契約ではなく,財産法に入っている。

 ③一般取引(消費貸借など)が財産法に入っている。

  以上の概観を踏まえ,以下では,前記の表に示したような各章に規定された財産法関連の規定について,主要なトピックごとに,その特色を分析する。

(3)財産法関連規定の債務法への編入

 ムルキ・アイン第Ⅱ部・第 6 章(遺失物拾得について)は,2010年民法典草案では, 新たに設けられた不当利得に関する章(第Ⅴ部・第 16章・699 条)に編入されている。この点については,規定の位置づけおよび内容に関し,今後議論が起こることも 予想される。

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第2項 財産および財産権の概念 

民法典草案においても,財産と財産権との区別(より一般的には,権利の客体と権利との区別)は明確ではない。 

財産としては,現金,動産,不動産に加え,行為も財産として捉えられ,売買,その他の処分の対象となる(草案 270 条)。

すみれ

「○○すること、が財産なんだ。」

なお,民法典草案で「物」(goods)という場合には,動産と不動産の双方が含まれる(草案270条説明)。

不動産には,土地,建物,土地・建物への附属物,地中(に埋め込まれたまま)の 鉱物,石,自然流水,地下水,河川・池・湖に恒常的に浮かばせる形で設置された建 物・その他の構造物,樹木・その果実が含まれる(草案 272 条) 。

 動産は,移動可能な物一般のほか,社債・株式・手形・小切手等の有価証券,知的 財産,担保化された権利,暖簾,販売権,その他の不動産以外の物が含まれる(草案 273 条)。動産の概念の中に無体財産(non-material or intangible property)も含まれるものとして観念されている点に特色がある(草案 271条,273 条)。

  所有主体ないし所有形態による財産(権)の分類にも特色がある。すなわち,財産 (権)はその所有形態により,――

①私有財産,

②家族共同財産,

③共有財産,

④コミュニティ財産,

⑤公共財産,

⑥政府財産,

⑦信託財産の 7 種類に分類される。

 ①私有財産は,その取得原因によって定義され(自らの知識,技術または努力によ って獲得されたもの等。草案 270条 1項),その効果として,排他的処分の権原が認 められる(草案 275条 2 項) 。 

②家族共同財産は,家族員によって共有されている財産である。世襲財産,家族員による共有財産,家族員による共有財産の耕作や取引から得られた財産は家族共同財産とみなされる(草案 276 条 1項) 。

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 また,法律に別段の定めがない限り,「配偶者によって取得された財産」やそれに由来する財産も,すべて夫婦による家族共同財産とみなされる点に特色がある(草案 276 条 2項)。

これは,夫婦をはじめとする家族員のコミュニティの観念が根強いこ とを窺わせる。 

③共有財産は,家族員(members of undivided family)以外の複数の者によって所有される財産である(草案 277条)。各共有者は持分をもち,それは証書によって明確にされるが,証書がないときは共有者の持分の権原は等しいものとみなされる(草案 277 条 2項) 。  共有財産に変更を加えるためには,前共有者の同意を要する(草案 278条) 。 

共有財産の維持・管理も全員の同意を求めるべきであるが,全員の同意が得られないときは,過半数(頭数)の決定により,過半数の同意が得られないときは,大の持分権者が決定権をもつ(草案 280 条 1~3項)。他方,共有物の維持・管理のために 生じた費用は,共有者が持分に応じて負担する。ある共有者Aが他の共有者Bの分も 負担したときは,Bは 1 年以内に償還する義務を負い,それを履行しないときはAは Bの持分を時価で買い取る権利をもつ(草案 280 条 4~6項) 。

 共有物に関して訴えを提起し,または訴えを受けることは,全共有者が共同でしな ければならないが,それができない共有者がいるときは,他の共有者が 1 人または数 人で全共有者を代表して,訴えまたは訴えを受けることができる(草案 281 条)。 共有者はいつでも共有物の分割を請求することができる(草案 282 条) 。 ④政府財産,⑤公共財産および⑥コミュニティ財産については,後述。

第3項 政府財産,公共財産およびコミュニティ財産

(1)政府財産  政府の庁舎,その他の建物およびそれらの敷地,道路ならびに鉄道,山林およびそ の樹木,河川・流水・池沼・その土手,運河・通水路・未耕作地,山岳・砂漠,その 他公共財産でも,コミュニティ財産でも,信託財産でも,私有財産でもない財産(権) は,政府財産とみなされる(草案 318 条) 。 

政府財産を処分するためには,政府が,各省庁の当該機関の同意を得て,行うことができる(草案 327 条)。その前提として,政府財産も各省庁の機関によって所有されていること,各省庁の機関が法人格をもつものとされていることに留意する必要がある

 (2)公共財産 

古代からの建物・土地・下水・道路,泉・湖岸・その土手,放牧地・墓地,宿泊施 設・記念物・宗教的な瞑想施設・寺院・神社・僧院・教会・市場,催事場,運動場, その他政府が官報の公告によって公共財産として規定した財産は,公共財産とみなされる(草案 319 条) 。  もっとも,湖岸ならびにその土手は,政府財産としても挙げられており(前述(1) , 草案 318 条),両者の関係に不明確な点が残っている。

 (3)コミュニティ財産  コミュニティがその利用のために保有する土地,建物,その他の財産は,コミュニ ティの財産とみなされる(草案 321 条) 。

  コミュニティがその財産を早利用する必要性がなくなったときは,そのコミュニティの全世帯主の同意により,土地税事務所に申請して所定の手続をすることにより, コミュニティ財産を公共財産に編入することができる。土地税事務所は,その旨の登録を行い,その結果を郡の行政事務所および地方政府に通知しなければならない(草 案 328条) 。

(4)公有財産の管理  政府財産,公共財産およびコミュニティ財産(以下,公有財産という)については, 土地税事務所が,地方政府の支援を得て,それに関する情報を管理し,かつ定期的に その内容を更新するものとされている。すなわち,公有財産の位置ないし所在(土地・ 建物の場合は,その所在地と地番),その管理者の詳細,その他必要な事項である(草 案 321条 1項・2 項)。コミュニティ財産の場合は地方政府がそうした情報の準備と 更新を行う(草案 321条 4項) 。  土地税事務所は,これらに関する情報のコピーを郡の行政事務所(District Administration Office)および地方政府に交付しなければならない(草案321条4項) 。  公有財産は政府,公共団体およびコミュニティがそれぞれ維持・管理しなければな らない(草案 323条)。公有財産を個人の名前で登記することは認められない(草案 324 条) 。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第4項 所有権と占有の区別 

所有者は財産の使用,売却・その他の方法による権原の移転,担保化,果実の取得 等をする権原をもつ(草案 286 条)。

  他方,法律に従って財産を占有する意図をもつ者は,占有権をもつことが認められる(草案 287 条)。ただし,所有者でない者は,占有者の同意または法律の規定によって占有権を取得できる。占有権は,平穏,公然かつ善意で取得されたのでない限り,合法的に取得されたものとはみなされない(草案 288 条)。

占有は代理人によっても取得することができる(草案 289条)。占有権をもつ者は,法律によるのでなければ占有を妨げられない。

また,目的物から生じる便益を利用することができる。さらに,善意の占有者は目的物の維持・管理に要した費用を所有者に償還請求することができ,償還を受けるまでは目的物を留置することができる(草案 290条)。

  このように占有権は所有権からひとまず区別されている。そして,強暴,隠秘または悪意で占有(権)を奪った者は,占有(権)を奪われた者に対し,目的物およびその占有から得た利益を返還しなければらなず,自己の過失によって生じさせた損害があれば,それを賠償しなければならない(草案 293条)。

  占有権の効果として,反対占有権(adverse possessory right)が認められている。すなわち,動産の場合は 3 年間,土地の場合は 30 年間占有を継続することにより,反 対占有権を取得する。これは所有権と同様の機能をもつものであり,取得時効に相当する。ただし,政府財産,公共財産,コミュニティ財産に対しては,反対占有権は成立しない(時効取得は認められない)。また,契約があればそれが優先する。さらに,強暴または隠秘に行われた占有によっては,反対占有権は取得することができない (草案 292条)。

番人

「反対占有権、か。」

第5項 財産の使用に関する一般規定

 所有権の効果として,目的物の使用権が認められる(草案 295 条)。ただし,ネパ ール政府が公益のために法律に従って個人の財産を取得することは認められる(草案 295 条)。

  何ぴとも他人の財産(権)を侵害してはならない。民法典草案は,この点について 細かな行為規範を定めている(草案 295条 3項・4 項,草案 296 条)。そして,財産 (権)の侵害を予防するための措置(security measure)をとるべき義務まで規定している。もっとも,隣の土地または建物から生じるガス,臭気,煙,騒音は,それが事業によるものでない限り(日常生活上生じるものである場合),自己の土地・建物に 対する侵害とはみなされない(草案 297条) 。

  財産(権)不可侵義務の一環として,何ぴとも土地所有者の書面による同意なしには,他人の土地の上に建物を建築することができないものとされる。もし書面による同意なしに他人の土地の上に建物を建築したときは,以下のように処理される(草案 298 条) 。  ①土地所有者は,もし望むならば,その建物を市場価格よりも 25%安い値段で買い取ることができる。 

②土地所有者が①の買取権を行使しないときは,建物所有者は,土地所有者の同意を得て,当該土地を市場価格よりも 25%高い値段で買い取ることができる。

③土地所有者も建物所有者も①・②の買取権を行使しないときは,建物所有者は当該建物を建築から 6か月以内に収去しなければならない。 

④建物所有者が③の収去義務を履行しないときは,当該建物は土地所有者に帰属する。

  以上の規定は,民法典草案が,土地と建物を別不動産と捉えていることを前提とし ている。 建物を建築する際に,窓を設置するときは,建物を境界から 5フィート以上離さなければならない(草案 299 条)。

何人も雨水や排水を他人の土地や公道に直接に流してはならないほか,トイレ用タ ンクの掘削,井戸の掘削,樹木の植栽等について,相隣関係規定が定められている(草 案 300条~303 条)。例えば,A所有地に植栽された樹木の枝または根がB所有地を 侵害しているときは,「植栽者」は当該枝または根を切除しなければならず,もし植 栽者がそのようにしないときは,Bが自ら当該枝または根を切除することができる。また,Bはその費用を植栽者に対して償還請求することができる(草案 303 条)。も っとも,Aが植栽した土地をCに譲渡した場合は,Cが切除義務を負うと解すべきで あろう。 

なお,相隣関係に関する規定は,次に述べる第 4 章(草案 306 条以下)にも存在する。 

第6項 土地の耕作,使用および登記

  土地所有者Aがその土地の耕作のために通水路を設ける必要があるときは,Aは通 水路の設置を求める土地の所有者Bに同意を求めることができる。その際,Aは代わりの土地の提供,当該土地の市場価格,または合理的な損害の賠償をしなければならない。

ただし,Bの土地が公共財産または政府財産の場合は,この限りでない(無償で利用できる)(草案 307 条)。このほか,流水の利用,通水路の利用に関し,詳細な規定が置かれている(草案 308 条~314条)。河川に隣接する土地の所有者は,河川が流れを変えた場合,その結果生じた土地を取得し,その土地を耕作することができる(草案 314 条)。

  土地の登記に関して,他人の土地を自己の名前で登記してはならない旨が,あえて規定されている(草案 315 条)。そして,土地の所有名義人が死亡した場合,または土地に対する権利が移転したときは,関係者は35日以内に登記の移転を申請しなければならない。35 日を経過したときは,100ルピーを支払わなければならない(草案 316 条) 。

すみれ

「あえて規定されているのか。やる人も多い事情があるのかな。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第7項 用益権 

民法典は用益権(usufruct)について規定を設けた。これは現行法にはない,新たな 制度の導入である。実際に用益権に対するどのような需要がネパール社会あるのか, また,今後民法典が施行され,この制度が導入された場合に,どのような形で利用され,普及してゆくかが注目される。 

用益権は契約または遺言によって設定され,ある財産の所有者Aが他人Bに対し, 当該財産から得られる果実,便益,収入,利用利益等を獲得させるものである(草案 371 条,372 条)。用益権者Bは,あたかも所有者と同様に,当該目的物を利用し, 果実等の利益を享受することができる。

ただし,用益権者は,目的物の性質により, または所有者の事前の同意がなければ,目的財産自体を変更したり,損傷するような利用をすることはできない(草案 376 条)。

用益権の存続期間は契約または遺言によって定められるが,そのような定めがない場合は,用益権者が自然人のときは用益権者が死亡するか,用益権が効力を生じてから 49 年間が経過するか,いずれか早い期限の到来時点で終了する(草案 382 条 1項 a号)。

用益権者が法人のときは,法人が解散するか,用益権が効力を生じてから 29年間が経過するか,いずれか早い期限の到来時点で終了する(草案 382条 1 項 b号)。用益権者が服するある場合は,契約ま たは遺言に別段の定めがない限り,死亡または解散によって用益権を失った者の持分 は所有者に復帰する(草案 382条 3 項) 。

ポリー

「50年は長いという感覚ですね。」

  用益権者は目的物の賃貸や担保設定をすることもできる。そのためには証書を作成 し,登記する必要がある。ただし,賃料が月額 1,000ルピーを超えない場合は,証書の作成を要しない(草案 377条)。また,賃貸や担保設定をしたときは,用益権者は所有者に通知しなければならない。

さらに,用益権の有効期間を超えて存続するよ うな賃貸や担保設定はすることができない(草案 377条 1 項)。また,賃貸や担保設定の証書には,目的財産が用益権の対象財産であることを示さなければならない(草 案 377条 2項)。これに反する賃貸借や担保設定は無効である(草案 377 条 3項)。

  不動産に用益権を設定する場合は,証書を作成し,登録しなければならない(草案 373 条 1項)。家族共同財産に用益権を設定する場合は,家族員の同意を得なければならない(草案 373条 2 項)。用益権者は,所有者と同様の注意義務を負う(草案 378 条 1項)。

また,財産の維持に必要な費用を負担しなければならない(草案 378条 3 項)。なお,目的財産自体の財産税は所有者が支払うが,収益に対する毎年の課税は用益権者が支払わなければ ならない(草案 380 条)。さらに,用益権者は目的物が滅失・損傷を受けないようにしなければならず,滅失・損傷した場合には賠償責任を負う。ただし,自然災害による場合はこの限りでない(草案 379 条)。第三者が目的財産について権利を主張したり,侵害したりしたときは,そのことがあってから 15日以内に所有者に通知しなければならない(草案 381 条) 。  用益権者が目的財産に損害を与えたり,約定どおりの利用をしていないときは,目的物の所有者は用益権の設定を取り消すことができる(草案 383 条)。  他方,用益権者は用益の必要がなくなったときは,少なくとも 45 日前に所有者に通知して,用益権を放棄し,目的物を所有者に返還することができる(草案 384 条) 。 

すみれ

「使っている人に税金の請求がくる仕組みになるんだ。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第8項 役権

  役権(servitude)の概念は,現行法には存在せず,民法典によって初めて導入されるものである。民法典草案が導入しようとする役権は,不動産の所有者が,その不動産の便益を増すために,他人の不動産の全部または一部を,その目的に応じて利用す る権利である。役権は,契約によって設定され,または当該不動産が存在する地方の慣習もしくは法律の規定によって認められる(草案 387条)。役権は,承役不動産の譲渡や分割によっても影響を受けずに存続する(草案 389 条 1項・2 項) 。

なお,第Ⅳ部・第 8章が規定する役権には,いわゆる法定役権も含まれている。緊急事態の場合において,犠牲者を救うために,他人の土地や建物を利用する権利である(草案 391 条)。ある土地所有者にとって,公道へのアクセスが自然災害によって遮断された場合は,公道に至るまで他人の土地を合理的な場所と範囲において通行す 権利が認められる(草案 392 条)。

土地の分割や譲渡によって公道に通じない土地を生じるときは,予め通路を確保しなければならない(草案 393条 1 項)。また,ある者の土地に下水道,上水道,電線,ガス管または電話線といった生活上の基本的サ ービスの提供を受ける必要があるときは,その者は他の者がもつ土地を利用し,これらの設備を敷設する権利をもつ。

その場合には,要役財産の所有者は,承役財産の所有者に対し,合理的な損賠賠償の支払義務を負う(草案 394 条)。このほか,通行権 に関するその他の規定(草案 396条,399条。人間による通行のほか,家畜による通 行を認める),水の利用に関する規定(草案 395 条,396条)などがある。

第9項 財産(権)の移転および取得 

売買や交換(草案 459 条参照)による財産(権)の移転は,譲渡人における所有権 の消滅と譲受人における所有権の発生として観念されている(草案 443 条 1項) 。 

共有財産は共有者全員の同意がなければ譲渡できず,同意しない共有者があるときは,他の共有者はその持分を譲渡できるにすぎない(草案 445条)。これは,ごく一 般的に認められる共有法理である。他方,家族共有財産は,家族員の書面による同意がなければ譲渡できない(草案 446 条)。

しかしながら,世帯主は,家計を維持するために必要なときは,動産についてはその財産の全部を,不動産についてはその半分を,家族員の同意なしに譲渡することができる(草案 447条)。この点に,一般の共有財産との違いがある。

すみれ

「世帯主は強いんだね。」

  また,寄付・贈与の場合と同様に,売却等による譲渡の場合にも,他人物譲渡はで きないものとされており,その旨の証書を作成しても無効である。したがって,その ような証書に基づいて引渡しがされたとしても,相手方はそれを所有者に返還しなければならない(草案 448 条 1項~3項) 。 

なお,即時取得制度は認められていない。もっとも,盗品・遺失物が譲渡されたときは,盗難または遺失から 3 年間は,所有者は所有権を証明することにより,取得者に対して返還請求することができる。この場合,取得者はまず当該財産の維持・管理にかかった費用の償還を請求できる。

さらに,取得者が当該盗品・遺失物を公の市場で購入したときは,取得者が当該財産の取得に際して支払った費用,または当該財 産の現実の価値の償還を受けるまでは,当該財産を返還する義務はない(草案 448 条 4 項~6項)。その限りで,取得者は保護されることになる。なお,ここでの取得者は, 善意であることが前提とされているものと解される。 

さらに,やはり寄付・贈与の場合と同様に,二重譲渡はできないものとされている。その結果,不動産の場合には初に証書が作成・登記された譲渡が,動産の場合には初に行われた取得が有効であり,不動産に関する第二の譲渡の証書または動産に関する第二の譲渡行為は無効である(草案 449条) 。

  後に,外国人に対する不動産の譲渡および担保設定は,政府による事前の同意がなければ無効である。政府の事前同意なしに不動産の譲渡行為がされたときは,当該不動産は政府に移転する。譲受人たる外国人は,支払った代価を無担保の債権者として,譲渡人に返還請求するほかない(草案 460 条) 。 

すみれ

「政府の同意を得るのは厳しいのかな。」

第10項 不動産の先買権

  前述したように,ネパールはコミュニティ財産,家族財産等の制度を維持しているが,それと密接に関連する形で,不動産の所有者が当該不動産を譲渡した場合に,当該不動産に対して一定の密接な関係をもつ者による先買権の制度が存在する。

これもネパール民法の特色として看過することができない。  先買(Hak safa)の制度は,すでに現行法に存在し,実際にも利用されている。それに関する規定は,ムルキ・アインの諸章(一般取引,土地の耕作,寄付および贈与,登記に関する章)に分散している。民法典草案は,これを 1章に取りまとめ,包括的に規定しようとするものである。 不動産の所有者が,その不動産を他人に譲渡しようとする場合,当該不動産と一定の緊密な関係をもつ者は,所定の手続に従い,当該不動産を優先的に取得することができる(草案 482条) 。

  そのような先買権をもつ者としては,当該不動産に隣接する不動産を所有する相続 人がある。この相続人は,買主が支払った代価および証書作成費用等を当該買主に提供することにより,当該不動産を優先的に取得することができる(草案 483条 1項)。

 そのような相続人が複数いる場合は,近親の相続人が優先する。そのような相続人が複数いるときは,その全員が平等の割合で先買いすることができる(草案 483 条 2 項)。

近親の相続人が先買権を行使しないときは,次順位の相続人に先買権が移転する(草案 483 条 3項)。さらに,近隣の相続人がいない場合,またはそのような相続人がいても先買権を行使しないときは,当該不動産の賃借人がいれば,その者が先買権をもつ(草案 484条)

なお,建物の一部が売却されたときは,当該建物のたの部分を所有する者が優先的に先買権をもつ(草案 485 条)。ただし,区分所有建物(コンドミニアム)が譲渡されたときは,先買権の規定は適用されない(草案 487 条)。

番人

「コンドミニアムは別扱いか。」

  先買権をもつ者がそれを行使するときは,管轄する土地税事務所で手続を行う。先 買権行使の申立てがあったときは,管轄土地税事務所は初に当該不動産を購入した買主を,交通に要する期間を除き,7日以内に出頭するよう召喚する(草案 488 条)。

  先買権者は,該当不動産の譲渡があったことを知った時から 35日以内,かつ譲渡の登記がされた時から6か月以内に先買権を行使しなければならない(草案490条)。 この期間制限により,不動産売買における取引安全と先買権者の利益保護との調整が図られているものと考えられる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第11項 権原証書の登記

 不動産の譲渡等,証書の作成・登記が必要な場合が規定されている。これは,すで に現行法であるムルキ・アイン第Ⅲ部・第 21 章に規定されている。民法典草案第Ⅴ 部・14 章はこれを承継し,必要な修正を加えている。  証書は管轄事務所(現行法では,管轄土地税事務所)で登記されなければならず(草 案 491条),登記されない証書は,証書としての法的に承認されない(草案 492 条 2 項)。

証書の作成・登記が必要な場合は,

①不動産の譲渡,

②抵当権(譲渡担保)の設定,

③遺言による不動産の寄付・贈与,

④不動産の交換,

⑤家族共同財産の分割または放棄,

⑥信託の設定,

⑦世帯の分割,

⑧月額 10,000ルピー以上の建物の賃貸借,

⑨不動産に対する用益権の設定,

⑩民法,その他の法律によって登記が必要とされる その他の証書である(草案 492条 1 項)。

 もっとも,法律上登記が必要とされるこれらの証書のほかにも,当事者が任意に証書を作成し,その登記を管轄事務所に求めることができる(草案 493 条),とされていることに留意する必要がある。証書を作成し,登記するためには,所定の費用を支 払わなければならない(草案 497条)。もしも競合する内容の複数の証書が登記されてしまったときは,初の登記が有効 なものとされる(草案 500 条) 。 

第12項 不動産の抵当 

不動産の抵当の制度は,すでにネパールの現行法に存在する。  不動産の抵当には 2種類のものがある。1つは設定と同時に債権者に占有を移す用益抵当(usufructuary mortgage)であり,もう 1 つは設定後,債務者の債務不履行があった時に債権者が占有する権利をもつ非占有抵当(mortgage without possession) である(草案 464条 1項・2 項)。抵当債権者は,用益抵当の場合は証書の登記後ただちに,非占有抵当の場合は債務不履行後 2年以内に占有をしなければならない(草案 466条)。

番人

「質権みたいなものかな。」

用益抵当の債権者は利息を収受することができない一方,非占有抵当の債権者は利息を徴収することができる(草案 470 条)。用益抵当は,証書に別段の定めがない限り,10 年間を超えて占有をすることはできない。

10 年経過後は,たとえ 抵当不動産が返還されなくとも,債権者の債権は無担保債権となる(草案 471条) 。 他方,非占有抵当の存続期間(占有開始前)は 5年間を超えることができず,占有開始後は 10年間を超えて占有することはできない。それを超えて占有しても,無担保の債権となる(草案 472 条)。

いずれにしても,抵当の対象となる不動産は,債権者によって収益可能な性質のものに限られる(草案 464条 3 項)。これは,後述する抵当の執行方法と関連する。また,権原のない不動産を抵当にすることはできない(草案 464条 4項)。

  不動産の抵当を設定するためには,証書を作成し,登記しなければならない(草案 465 条)。  抵当不動産は,その全部もしくは一部,または果実のみを転抵当に付すこともできる(草案 474 条,475条)。しかし,同一不動産を二重抵当に付すことはできない(草 案480条) 。  用益抵当にせよ,非占有抵当にせよ,債権者が当該不動産の占有を始めた後は,その果実等を収取し,債務の弁済に充てることになる。抵当債権者は当該不動産の占有を開始した後は,所有者と同様の合理的な注意をもって当該不動産を管理し,保護する義務を負う。

また,土地税を除き,収益に対する租税は抵当債権者が負担する(草 案 469条)。抵当債権者が抵当不動産に損害を加えたときは,賠償責任を負う(草案 478 条) 。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第13項 信託(トラスト) 

ある者Aが所有する財産(権)を,他の者Bが,受益者Cのために,必要な運用や管理をするために,信託が設定される(草案 333 条)。

信託は,前述したように,現行法にも存在する制度である。  受益者としては,個人だけでなく,団体,一般公衆,法人,その他の社団も,信託財産から便益を受けるかぎり,受益者として含まれる(草案 333 条説明)。 

すみれ

「あるんだ。」

信託には公的信託と私的信託がある。公的信託は,経済開発のためのインフラ整備や開発事業のために基金を設立し,運営し,利用することなど,公益の増進に寄与することを目的とするものである(草案 334条 2 項)。

これに対し,特定の個人や団体に対する便益,便宜,施設の提供等を目的とするものは,私的信託とされる(草案 334 条 3項)。なお,信託が公的目的と私的目的の双方を達成するために設立されたときは,公的信託とみなされる(草案 334 条 4項)。

番人

「公益、私益じゃなくて、公的、私的っていう呼び方もいいね。」

公的信託と私的信託はいくつかの点で重要な違いがある。例えば,私的信託の場合,信託行為文書(instrument of a trust) に別段の定めがない限り,受益者が 1人でその者が契約を締結するのに必要な能力を具備したとき,または複数の受益者のすべてが能力者となり,かつ全員が同意したと きは,受託者に対し信託財産の移転を指示することができ,かかる指示を受けた受託者はそれに従って信託財産の所有権を移転しなければならない(草案 362条)。

また, 私的信託の場合,受益者は,契約締結するのに必要な能力を具備したときは,受益の全部または一部を放棄することができるが,すべての受益者がすべての受益を放棄したときは,信託は解除されたものとみなされる(草案 363 条) 。 

信託は,信託財産の内容の詳細とその価格,受益者・受益の内容・その条件や期限の詳細等,所定の事項を記載した申請書を登記官に提出することによって行われる。

すみれ

「不動産以外もかな。公正証書のような役割もしているのかな。」

その際には,信託行為文書,受託者の氏名・写真・同意証書,委託者の同一性を証明する文書のコピー,信託の登記料を支払った旨の領収書も併せて提出することが求められる(草案 335条 1項・2 項)。

このうち,信託行為文書には,委託者の氏名・住所等,信託財産の対象と性質,受託者の氏名・住所・職業等,受益者の詳細,信託財産の利用方法,受託者の職務機関や報酬等を受ける場合の詳細,信託の期限・その他 の終了事由とその帰結,信託の運営・管理・監査の方法等を記載しなければならない(草案336条)。

 信託は,所定の手続により,遺言によっても設定できる(草案 335 条 3項)。

外国人または外国法人も信託の設定をすることができる。その場合には,受託者の少なくとも 1 人がネパールに恒常的な住所(permanent residence)をもっていなければならない(草案 335条 4項) 。 

信託の登記申請がされたときは,登記官は信託の目的や信託財産の詳細について必要な質問をしたうえで,合理的であると判断したときは,申請から 35 日以内に,信託の登記を行い,信託登記証明書を発行する。信託は登記によって設立される(草案 337 条 1項・2項)。

ただし,私的信託は,登記をしなくとも運営することができる(草 案 337条 3項)。他方,申請書に不備があったり,信託の名前がすでに登記された信託のそれと同一または類似していたり,信託の目的等が公益上不適切であるとか,違法であるとか,曖昧であって実行可能性がない等の事情がある場合は,登記官は信託の登記を拒絶することができる(草案 338 条)。 

信託が設立されたときは,3か月以内に,委託者は信託財産を受託者に移転しなければならない(草案 339 条 1項) 。この期間内に信託財産が移転されなかったときは, 信託は解除されたものとみなされ,登記は効力を失う(草案 340 条)。

  受託者は,信託行為文書に別の定めがない限り,委託者が指名する。受託者が信託行為文書で指定されていなかったり,委託者が指名しなかったりして,決まらないと きは,委託者自身が受託者とみなされる(草案 343条 2項・3 項)。受託者の数は, 低 1 名・大 7 名とされる(草案 345条)。法人も受託者となることができる(草案 346条) 。

 受託者の権限については,さまざまな規制がある。例えば,受託者は,信託行為文書に別段の定めがない限り,管轄登記官の事前の同意なしには,信託財産たる不動産の全部または一部を売却および担保とすることができない(草案 341 条)。

また,信託財産から取得された収益で,信託目的の達成のためにただちに必要とされないものは,信託行為文書に別段の定めがない限り,信託目的の達成のための投資に利用することができる。その際には,信託行為文書に別段の定めがない限り,低 25%はネ パール国債の購入に充てなければならない。

すみれ

「国債買う義務があるの。」

また,商業銀行の定期預金口座への預金は大 25%にとどめなければならない。さらに,開発銀行の定期預金口座への預金は大 10%,商業銀行の普通株の購入は大 5%,融資会社の定期預金口座への預金は大 10%,公開有限会社の普通株の購入は大 5%に制限されている(草案 342 条 4項)。

  受託者がその義務の履行に反し,受益者に損害を与えたときは,その損失を補填しなければならない。義務に違反した受託者が複数いる場合は,連帯責任を負う(複数の受託者がただちに連帯責任を負うのではない)(草案 357 条 3項・4 項) 。 

受託者が欠けた場合において(草案 347 条参照),信託行為文書に受託者の承継者名簿が付されていないときは,受託者の死亡により,長男,義理の娘または娘がその順で受託者の地位を承継する。この者が能力者でないときは,その後見人が代理して受託者の職務を行う(草案 348 条)。  信託財産は,課税上は受託者の財産とはみなされず(草案 366 条),実質的に受益者の財産として取り扱われる(草案 364条)。

  なお,信託財産について,例えば,受託者が横領,詐欺等をした場合に,受益者がその責任を追求するときは,受益者の権利は消滅時効にかからない(草案 370条)。そのようにして受託者の重い責任が維持されている。 

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第14項 寄付および贈与

  寄付(donation)とは,ある財産の所有者が他人または他の組織に対し,宗教的・社会的・公益的な利益またはコミュニティの利益のために,当該財産を譲渡するもので ある。

それは,相続人に対して行うことはできない(草案 424条 1項)。

  他方,贈与(gift)とは,ある財産の所有者が他人または他の者に対し,その功績を讃えたり,贈与者の利益(見返り)を期待したり,家族員に対する愛情等に基づいて,当該財産を譲渡するものである。それは,相続人に対しても行うことができる(草案 424 条)。

  寄付・贈与は,現金または 1,000 ルピーの価値を超えない動産を除き,証書を作成して行わなければならない(草案 432 条) 。いずれにせよ,寄付・贈与は合意に基づくものであるから,相手方が寄付・贈与の 受領を拒絶したときは,贈与は無効である(草案 435 条)。 

寄付者は,相手方が寄付者に対して犯罪を犯したときは,寄付を撤回することがで きる(草案 437 条 a号)。また,贈与者は,受贈者が贈与者に対して誤った申立てや告訴をしたときは,贈与を撤回することができる(草案 437 条 b号)。さらに,受贈 者が贈与の証書に規定された義務履行等をしなかったときも,贈与者は贈与を撤回す ることができる(草案 437 条 c号) 。 

興味深いことに,民法典草案は,他人物寄付・贈与および二重寄付・贈与を禁止している。他人物寄付・贈与はしてはならないものとされ(草案 425条),二重寄付・ 贈与行為が行われたときは,第一寄付・贈与のみが有効で,第二寄付・贈与は法的に 無効であるとされる(草案 426 条)。 

第15項 建物の賃貸借

 建物の賃貸借に関する規定が第Ⅳ部・第 9章に編入されている点に,民法典草案の 1 つの特色が認められる。

 建物賃貸借の長存続期間は5年間とされている(合意による更新は何度でも可能) (草案 403条)。  賃貸人の義務としては,賃借人に利用させる義務,特別の合意がない限り,水道・ 電気・下水道のサービスを供給し,衛生状態を維持する義務,住居の安全を確保する義務,その他合意を遵守する義務がある(草案 407条)。また,土地および建物の税金は,所有者(賃貸人)が支払義務を負う(草案 410 条)。

  賃借人の義務としては,約定通りに賃料を支払う義務,自己の所有物と同じように建物の安全,衛生状態を保ち,損傷しないように注意する義務,隣接居住者の安全を脅かさない義務,その他合意を遵守する義務がある(草案 408条)。

また,事業のために建物を賃借する者は,損害保険契約を締結する義務を負う(草案 411条)。もし この賃借人が損害保険に加入していなかったときは,建物に生じた損害は,自然災害 や暴動,放火等によるものであっても,その危険は賃借人が負担すべきことになる。 また,建物の修繕義務は,別段の合意がないときは,賃借人が負担する(草案 412条) 。

 賃借人は,賃貸人の同意がある場合にのみ,目的建物の全部または一部を第三者に転貸することができる(草案 413条)。  賃借人は存続期間の満了前であっても賃借権を放棄して建物から退去することはできるが,少なくとも 35 日前に書面で賃貸人に通知しなければならない。他方,賃借人は,賃貸人が当該建物を自ら使用する必要が生じ,少なくとも 35 日前に文書で明渡しを請求してきたときは,明け渡さなければならない(草案 419 条 1 項 c 号))。

また,賃借人が賃料を支払わずに 3 か月以上行方不明のときは,賃貸人は賃借人が建 物に置き去った物を留置し,地方政府の代表者,警察官または警察官が利用困難なと きは当該地方の 2 人の者を証人として,その物を自己に帰属させることにより,未払賃料(の一部)を回収することができる(草案 422条)。  以上のように,概して,賃貸人の権利・義務と賃借人のそれらとを比較すると,賃貸人に相対的に有利な規定であると考えられる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第16項 一般取引に関する規定 

一般取引(消費貸借取引)が財産法に編入されていることも,民法典草案の特色である。これも現行法に由来する。これは,当事者の一方が他方から,一定量の金銭,その他の物を受領したときは,受領者が同じ(種類・品質・数量)の物を返還するものとされた場合に成立する(草案 502 条)。これは消費貸借取引に相当するが,かならず証書を作成・登記して行わなければならない(草案 504 条)。

すみれ

「ここでも登記か。」

証書には,取引当事者(婚姻している場合には,その配偶者),その父母,祖父母の氏名・年齢・ 住所,取引が行われた理由,取引の量,物の価格・性質,借入額(取引がそれに当たる場合),利率(利息の約定がある場合),借主の債務不履行の場合に債権者が返還を 受けるべき代わりの財産があるときはその内容,証書の登記場所と日時,その他取引 の性質上必要な事項が記載されなければならない(草案 505 条)。

このように一般取引は,消費貸借などに用いられるが,不動産取引と同様に,証書の作成・登記によっ て行われる点で,財産編の中に編入されていると考えられる。  証書に利息の約定が記載されていないときは,債権者は債務者に利息の支払いを請求することができない(草案 507条) 。

第3節 小括

ネパールにおける財産法の特色として,以下の点が挙げられる。

第1項 財産(権)の概念について 

①財産と財産権の区別(一般的に権利とその客体との区別)は必ずしも明確ではないように思われる。 

②動産の概念が広く,知的財産(権)や有価証券を含むものと観念されている。

③土地と建物は別不動産と捉えられている(草案 298条参照)。

④法律に別段の定めがない限り,「配偶者によって取得された財産」やそれに由来する財産は夫婦による家族共同財産とみなされており,夫婦をはじめとする家族員のコミュニティの観念が根強い。

⑤公共財産と区別されたコミュニティ財産が存在する。それは土地税事務所により, 当該コミュニティの名前で登録され,管理される。

⑥政府財産は各省庁の機関が独自に所有するものと構成されている。 

第2項 財産(権)の取引について

①全体として,動的安全よりも,静的安全を重視している。財産の意義,所有形態, 利用についての規定が,財産の取引や担保化についての規定に先立つ。 

②寄付・贈与に関して,他人物寄付・贈与および二重寄付・贈与を禁止している。 他人物寄付・贈与はしてはならないものとされ(草案 425。行為規範的),二重寄付・ 贈与行為が行われたときは,第一寄付・贈与のみが有効で,第二寄付・贈与は法的に無効であるとされる(草案 426 条)。

③売却等による譲渡の場合にも,他人物譲渡はできないものとされており,その旨の証書を作成しても無効である。したがって,そのような証書に基づいて引渡しがされたとしても,相手方はそれを所有者に返還しなければならない(草案 448条 1 項~3 項) 。 

また,二重譲渡もできないものとされている。その結果,不動産の場合には初に証書が作成・登記された譲渡が,動産の場合には初に行われた取得が有効であり, 不動産に関する第二の譲渡の証書または動産に関する第二の譲渡行為は無効である(草案 449条) 。 

④即時取得制度は認められていない。もっとも,盗品・遺失物が譲渡されたときは, 盗難または遺失から 3年間は,所有者は所有権を証明することにより,取得者に対して返還請求することができる。この場合,取得者はまず当該財産の維持・管理にかかった費用の償還を請求できる。さらに,取得者が当該盗品・遺失物を公の市場で購入したときは,取得者が当該財産の取得に際して支払った費用,または当該財産の現 実の価値の償還を受けるまでは,当該財産を返還する義務はない(草案 448条 4 項~6 項)。その限りで,取得者は保護されることになる。

なお,ここでの取得者は,善意であることが前提とされているものと解される。

 ⑤不動産の譲渡に対しては,近隣の親族等の先買権という大きな制限が付着している。もっとも,先買権の行使期間をある程度制限することにより,取引安全との調整を図っている。  

⑥財産所有権の移転は,動産の場合は引渡主義,不動産の場合は登記主義をとっている。これは現行法を承継するものであり,コモン・ローをの考え方をベースにするものと解される。

第3項 担保について

  担保権については,占有担保(不動産質)のタイプと非占有担保(譲渡担保)のタ イプがある。いずれも執行の便宜を相当考慮している。すなわち,前者の場合は,基 本的に果実を担保権者に帰属させることによる。後者の場合は,基本的に非占有担保 (譲渡担保)権者が目的物の所有権を取得し,または処分することによる。これは, 執行システムの未整備をカバーするための工夫と解することもできる。 

第4項 その他  ①信託(トラスト)を民法典に導入している。これは,コモン・ローとシビル・ロ ーとの折衷構造の一例といえる。  ②何ぴとも他人の財産(権)を侵害してはならないといった,細かな行為規範を定 めている(草案 295条 3 項・4 項,草案 296条)。これらはある意味では当然のこと ともいえるが,それらをあえて規定している点に,行為規範を重視するネパール民法 の特色がよく表れているといえよう。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第4節 小括 

これまでの検討を踏まえて、ネパール契約法および不当利得法・不法行為法の現状 と今後の立法動向について所見を述べる。 

現在のネパールにおいて契約法を規律する主たる法律は、1854 年に制定された「ム ルキ・アイン」 (1963年に一部改正)と 2000 年に制定された「契約法」であり、前者は「賃金」 、「一般取引」(金銭消費貸借・使用貸借契約)、および、「寄附・贈与」 に関する規定を、また、後者は、契約法の一般規定(成立要件、有効要件、履行・義務、違反・救済)と幾つかの個別契約に関する規定(保証・補償契約、寄託契約、担保・預託契約、物品売買契約、代理契約、貨物運送契約)を置く。

後者の制定法は、 イギリスの判例法を成文化して制定されたインドの「1872 年契約法」を模範としているが、あくまでもネパール側が主体的、選択的に同法の一部を取り入れたという経緯があり、その内容は必ずしも同一ではない。しかし、 「2000 年契約法」の構成や内容が英米法の影響を強く受けているのは事実である。それに対して、前者のムルキ・ アインにおいて規律される契約は、ネパールの慣習法や法実務に基づいた内容となっている。

  2010年に完成した「民法典草案」においては、上述した二つの現行法の契約法に関わる諸規定が、一定の修正や新設条項を盛り込みつつ、同草案の第 4部(財産法)の一部と第 5 部(契約法および義務に関する法)に踏襲されている。

従って、将来、 同草案をベースとした民法法案が公布・施行されたとしても、現行法上の規律と大きな乖離はなく、ネパールにおける契約法実務が混乱するような事態にはならないと予 想される。

 もっとも、今回の民法典草案の起草過程では、契約法の統一を目指す国際的な趨勢をも視野に入れて、現行ネパール契約法の「現代化」が図られた部分も多く見られる。

例えば、

①契約の解釈に関する一般規定の導入、

②共通錯誤や一部無効の規定の導入、

③契約が取り消された場合の第三者保護規定の導入、

④事情変更の原則の効果として の契約改訂権・再交渉権の導入、

⑤履行遅滞に関する規定の導入、

⑥物品売買契約における売主の保証責任規定の充実化、

⑦保証契約における継続的保証の導入、

⑧代理契約における表見代理規定の充実化、

⑨被用者 10名以下の雇用契約を規律するルー ルの充実化などが挙げられよう。

また、今回の民法典草案では、

⑩賃貸借契約(建物 賃貸借を除く)と

⑪分割払い契約に関する章が新設され、これらの契約を規律するル ールが置かれることとなった。

 残された課題としては、

①一方的錯誤を規律するルールの不備、

②契約違反に対する救済としての損害賠償につき、その範囲を確定するルールが精緻化されていない点、

③過失相殺に関する規定の不備、また、

④多数当事者間の債権債務関係を規律するル ールが単純であることなど、これらは幾つかの例にすぎないが、個々の契約ルールに 関して今後改善を期待したい点がある。

また、贈与契約や金銭消費・使用貸借契約に関する規定が第 4部の財産法に置かれており、賃貸借契約に至っては、建物賃貸借が第 4 部に、その他の賃貸借が第 5部に規律されているなど、契約法の体系性という観点からは分かりにくい構成となっている。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

その他、消費者契約や電子的取引への対応なども、今後の課題として浮上するであろう。  後に、比較法的見地から見た(ネパール民法草案における)契約法の位置づけについて言及する。民法典草案における契約法の多くの部分が、現行の「2000 年契約法」を踏襲している結果、同草案の契約法ルールも英米法(とりわけインド契約法) の影響を強く受けていると評価できる。

しかし、それは英米法系に属する契約法であることを意味しない。例えば、英米法系の契約法の特徴として、契約の成立要件として「約因」を要求すること、また、契約責任は帰責事由を要しない厳格責任であるこ となどが挙げられるが、ネパール民法においては、前者の要件は不要としており、後者の点については過失責任を想定した規定も置く。また、今回の契約法の現代化の過程では、CISG や PICC などの国際取引に関わる条約やモデル法を参考にしたルール も導入しており、さらには、ネパール慣習法やムルキ・アインの影響も残っている。

以上のことから、ネパール民法における契約法は、英米契約法のルールや構成を基礎としつつも、それに限定されない多様なルールを内包した内容となっているのである。

  民法典草案第 5 部に導入された「準契約」、「不当利得」 、「不法行為」および「欠陥 製品に対する責任」の各章は、すべて新設規定である。不当利得法については、英米法系の「準契約」と大陸法系の「不当利得」の両制度を導入している点は比較法的に見てユニークであり、家族法、財産法、また契約法を補充するルールとして、その運用が期待される。

不法行為法についていえば、現在のネパールには、わずかの個別立法を除けば、一般不法行為法に対する規律は存在せず、他者への侵害行為はもっぱら刑事責任を課すことで対応している。その意味で、民法典草案に「不法行為」に関する章が設けられた意義は大きい。

もっとも、契約責任が認められる場合や、侵害行為が刑事責任を問われる場合には、不法行為責任は成立しないので、同責任が生じる場面は限定されている。その克服が今後の課題だと思われる。不法行為法の内容それ自体は、日本民法上の不法行為規定と類似している点が多いが(過失責任主義を前提とする)、いずれにせよ、不法行為法は「判例法による法形成」による発展が期待される領域であるため、同章で規定された不法行為法がネパール社会においてどのように 定着、進展していくかは未知数である。なお、併せて導入された「欠陥製品に対する 責任」(製造物責任)の章についても、同じことが当てはまるであろう。

第5章 むすび 

現行ネパール民法は、すでに指摘したように民事法と刑事法、実体法と手続法が混在しているために、紛争処理基準としては極めて使い勝手の悪いものである。また、 発展するネパール社会の現実にも十分応じることができないものとなっている。そこで、2010 年民法典草案が作成されたが、ネパールの不安定な政治状況のもとで、制定のめどは立っていない現状にある。

番人

「草案ができても、大変だね。」

2010 年民法典草案は、現行法に比べると、構成が全面的に変わっただけでなく内容の整理や新たな規定の追加などにより整備されたものとなっている。ただ、新たな立法をめぐっては、裁判官や検察官の間では理解は広まるとしても、利用者である国民にどのようにして周知していくのかを含め弁護士への実効性ある情報提供をどのようにするのか、弁護士の中には現行法でも取り立てて問題はないという意見への対応など、多くの課題が残されている。

さらに、すでに触れたように、新法案は現状に「妥協する」部分もあって近い将来に制定されたとしても、施行後には修正の必要が出てくると思われる。また、立法作業に時間を要することになると、法案を修正する必要があるとの指摘もでてくることも予想され、 民法草案をめぐる状況は現段階では流動的と言えよう。

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ベトナム社会主義共和国 2020 年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト (PHAP LUAT 2020)より

2016年加工

2020 年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト (PHAP LUAT 2020)より

国会 ベトナム社会主義共和国

法律番号:91/2015/QH13 独立・自由・幸福

民法典

ベトナム社会主義共和国憲法に基づき, 国会は民法典を発行する。

第四編 相続

第XXI章 総則

第609条 相続権

個人は自己の財産の処分のために遺言を作成し,法令に基づいて相続人に自己の財産を残し,遺言又は法令に基づいて遺産を享受する権利を有する。

個人でない相続人は遺言に従って遺産を享受する権利を有する

第610条 個人の相続に対する平等権

すべての個人は,自己の財産を他人に残す権利,遺言又は法律に基づいて遺産を享受する権利に関して平等である。

第611条 相続開始の時点・場所

1. 相続開始の時点は,財産を有する者が死亡した時点である。裁判所が人の死亡宣告をした場合,相続開始の時点は,本法典第71条2項で確定される日である。

2. 相続開始の場所は,遺産を残した者の最後の居所である。最後の居所が確定されない場合,相続開始の場所は,遺産の全部がある場所又は大部分がある場所である。

第612条 遺産

遺産は,死亡した者の固有の財産,他人との共有財産のうち死亡した者の財産持分から構成される。

第613条 相続人

個人である相続人は,相続開始時点において生存している者又は遺産を残した者が死亡する前に胎児となって相続開始時点の後に出生し生存している者でなければならない。遺言に基づく相続人が個人でない場合,相続開始時点において存在していなければならない。

第614条 相続人の権利と義務の発生時点

相続開始時点から,相続人は死亡した者が残した財産に対する権利,義務を有する。

第615条 死亡した者の残した財産的義務の履行

1. 他の合意がある場合を除き,相続人は,死亡した者の残した財産の範囲内で財産的義務を履行する責任を負う。

2. 遺産が分割されていない場合,死亡した者の残した財産的義務は,遺産管理者によって,死亡した者の残した財産の範囲内で,各相続人との合意に基づいて履行される。

3. 他の合意がある場合を除き,遺産が分割された場合,各相続人は,死亡した者の残した財産的義務を,自己が受け取った財産部分を超えないように履行する。

4. 個人でない相続人が遺言に基づいて遺産を享受する場合,個人の相続人と同じように死亡した者の残した財産的義務を履行しなければならない。

第616条 遺産管理者

1. 遺産管理者は,遺言により指定された者又は各相続人との合意により選定された者である。

2. 遺言で遺産管理者を指定せず,各相続人がまだ遺産管理者を選定できない場合,遺産を占有し,使用し,管理している者は,各相続人が遺産管理者を選定できるまで,その遺産を引き続き管理する。

3. この条第1項及び第2項の規定に基づき相続人がまだ確定されず,遺産管理者がまだいない場合,その遺産は権限のある国家機関によって管理される。

第617条 遺産管理者の義務

1. 本法典第616条1項,3項に規定する遺産管理者には,次の義務がある。

a) 遺産のリストを作成する;法律の他の規定がある場合を除き,他人に占有されている,死亡した者の遺産に属する財産を回収する。

b) 遺産を保管する;文書による各相続人の同意を得なければ,財産の売却,交換,贈与,質入れ,抵当の設定又はその他の形式による財産の処分をすることができない。

すみれ

「日本の遺言執行者とは、また違うみたい。」

c) 各相続人に遺産の状態について通知する。

d) 自己の義務に違反して損害を加えた場合,損害を賠償する。

đ) 相続人の請求に基づき遺産を引き渡す。

2. 本法典第616条2項に規定する遺産の占有者,使用者,管理者には,次の義務がある。

a) 遺産を保管する;財産の売却,交換,贈与,質入れ,抵当の設定又はその他の形式による財産の処分をすることができない。

b) 各相続人に遺産について通知する。2020年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト(PHAPLUAT2020)

c)自己の義務を違反して損害を加えた場合,損害を賠償する。

d)遺産を残した者との契約による合意又は相続人の請求に基づき遺産を引き渡す。

第618条遺産管理者の権利

1. 本法典第616条1項,3項に規定する遺産管理者は,次の権利を有する。

a) 相続財産に関係する第三者との関係において相続人を代理する。

b) 各相続人との合意により報酬を得る。

c)遺産の保管費用の支払いを受ける。

2. 本法典第616条2項に規定する遺産の占有者,使用者,管理者は次の権利を有する。

a) 遺産を残した者との契約による合意又は相続人の同意に基づき,遺産を引き統き使用することができる。

b) 各相続人との合意に基づき報酬を得る。

c)遺産の保管費用の支払いを受ける。

3.各相続人間で報酬額について合意に達しない場合,遺産管理者は合理的報酬額を得る。

第619条同時点に死亡した互いの遺産の相続権を有する複数の者の相続

互いの遺産の相続権を有する複数の者が,同時点で共に死亡したか,いずれの者が先に死亡したか確定できないことにより同時点に死亡したと見なされる場合(以下,「同時点で共に死亡した」と総称する。),それらの者は,互いの遺産を相続することができない。各自の遺産は,その者の相続人によって受け取られる。ただし,本法典第671条の規定に基づく代襲相続の場合を除く。

第620条遺産受領の拒否

1. 相続人は,遺産の受領を拒否する権利を有する。ただし,その拒否が他人に対する自己の財産に関する義務の履行を逃れる目的である場合を除く。

2. 遺産受領の拒否は,文書によりなされ,周知のため遺産管理者,他の各相続人,遺産分割の任務を引き受ける者に通知されなければならない。

3. 遺産受領拒否は,遺産分割前に表明されなくてはならない。

すみれ

「相続放棄のようなものかな。」

第621条遺産を享受する権利のない者

1. 次の者は,遺産を享受する権利がない。

a) 遺産を残した者に対する故意による生命・健康の侵害行為又は著しく苛め,虐待する行為,その者の名誉,人格を著しく侵害する行為に関して有罪判決を受けた者

b) 遺産を残した者に対する扶養義務に著しく違反した者

c)他の相続人が享受する権利のある遺産の一部又は全部を得る目的で,他の相続人の生命を故意に侵害した行為に関して(有罪)判決を受けた者

2020年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト(PHAPLUAT2020)

d)遺産を残した者の意思に反して遺産の一部又は全部を得る目的で,遺言の作成において,遺産を残した者に対して詐欺,強追又は妨害;遺言の偽造,遺言の変造,遺言の破損,遺言の隠匿をする行為をした者

2. 遺産を残した者が,この条1項に規定する者の行為を知っているが,そのまま遺言に従って遺産をそれらの者に提供する場合は,それらの者は,遺産を享受する。

第622条実際に相続する者4がいない財産

遺言,法令に従った相続人がいない場合,又は相続人がいるが,遺産を享受する権利がないか,遺産の受領を拒否する場合,財産に関する義務を履行した後に残った,実際に相続する者がない遺産は国家に属する。

第623条相続の時効

1. 相続人の分割請求の時効は相続開始から不動産につき30年,動産につき10年である。この期間が満了したときは,遺産はその遺産を管理している相続人に属する。遺産を管理している相続人がいない場合,遺産は次のように解決される。

a) 本法典236条の規定に基づき遺産を占有する者の所有権に属する。

b) この項第a号に規定する占有者がいない場合は,遺産は国家に属する。

2.相続人が自らの相続権の確認又は他人の相続権の否認を請求する時効は,相続開始から10年である。

3.相続人に対する死亡した者が残した財産についての義務履行請求権の時効は,相続開始から3年である。

第XXII章遺言による相続

第624条遺言遺言は,死亡時に,他人に自己の財産を移転することを目的とする個人の意思を表明するものである。

第625条遺言者

1. 本法典第630条1項a号の規定に従った条件を十分に備える成年者は,自分の財産を決定するため遺言をする権利を有する。

2. 満十五歳から十八歳未満の者は,遺言をすることにつき父,母,又は後見人の同意を得たときは,遺言をすることができる。

第626条 遺言者の権利

遺言者は,次の権利を有する。

1. 相続人を指名する。相続人の遺産を享受する権利を排除する。

2. 各相続人に対する遺産の分け前を決める。

3. 遺贈,祭祀のために遺産における財産の一部を保存する。

4. 相続人に義務を引き受けさせる。

5. 遺言保管者,遺産管理者,遺産分割者を指名する。

第627条 遺言の形式

遺言は文書によりなされなければならない;文書により遺言することができないときは,口頭で遺言することができる。

第628条文書による遺言

文書による遺言は,次のものからなる。

1. 証人のない文書による遺言

2. 証人のある文書による遺言

3. 公証された文書による遺言

4. 確証された文書による遺言

第629条 口頭による遺言

1. ある者が,死亡の危急に迫っており,文書による遺言をすることができない場合,口頭による遺言をすることができる。

2. 口頭による遺言をした時点から3か月の後,遺言者が存命で意識がはっきりする場合,口頭による遺言は当然取り消される。

第630条 合法的な遺言

1. 合法的な遺言は,次の条件を満たすものである。

a) 遺言者は,遺言作成時において,意識がはっきりしていて,詐欺,強迫,強制を受けていない。

b) 遺言の内容が法律の禁止事項に違反せず,社会道徳に反しない。遺言の形式が法律の規定に反しない。

2. 満十五歳から満十八歳未満の者の遺言は,文書によりなされなければならず,父,母,あるいは後見人の遺言作成についての同意を得なければならない。

3. 身体障害者又は識字できない者の遺言は,証人が文書で作成して,公証あるいは確証されなければならない。

4. 公証,確証のない文書による遺言は,この条第1項に規定される各条件を全て満たす場合に限り,合法的と看做される。

5. 口頭で遺言をする者が少なくとも二人の証人の前で最後の意思を表明して,その表明の日の後に証人が筆記してその文書に共に署名するか又は指印を押した場合,その口頭による遺言は,合法的なものと看做される。口頭で遺言をする者が最期の意思を表明した日から5営業日以内に,遺言は公証人あるいは確証権限を有する機関により証人の署名又は押印を確認されなくてはならない,

第631条 遺言の内容

1. 遺言は,次の主要な各内容からなる。

a) 遺言をした年月日

b) 遺言者の氏名と居所

c) 遺産を受領する,個人の氏名,機関,組織の名称

d) 残した遺産と遺産の存在場所

2. この条第1項で規定する各内容のほか,遺言はその他の各内容を有することができる。

3. 遺言を略字や記号で書くことはできない。遺言が複数の頁により構成されているときは,各頁に番号を記し,遺言者が署名又は指印する。

遺言が消去,修正された場合,遺言を自ら書いた者又は遺言の証人は,消去,修正の隣に,名前を記載しなければならない。

第632条 遺言の証人

次の場合を除き,何人も遺言の証人となることができる。

1. 遺言者の遺言又は法令による相続人

2. 遺言の内容に関係する財産の権利,義務を有する者

3. 未成年者,民事行為能力喪失者,行為認識制御困難者

第633条 証人のいない文書による遺言

遺言者は,自筆で遺言書を書き,署名しなければならない。

証人のいない文書による遺言は,本法典第631条の規定を遵守しなければならない。

第634条 証人のいる文書による遺言

遺言者が自筆で遺言書を書かない場合,遺言書を自らタイプ打ちをする,又は他人に書くこと若しくはタイプ打ちをすることを依頼することができるが,少なくとも二人の証人がいなければならない。遺言者は,証人の面前で遺言書に署名し,又指印をしなければならない。証人は,遺言者の署名又は指印を確認し,その遺言書に署名する。

証人のいる文書による遺言をするにあたっては,本法典第631条及び第632条の規定を遵守しなければならない。第635条 公証又は確証のある遺言

遺言者は,遺言書の公証又は確証を請求することができる。

第636条 公証営業組織又は社級人民委員会における遺言の作成の手続

公証営業組織又は社級人民委員会における遺言の作成は,次の手続を遵守しなければならない。

1. 遺言者は,公証人又は社級人民委員会の確証権限者の前で,自分の遺言の内容を宣言する。公証人又は社級人民委員会の確証権限者は,遺言者が宣言した遺言の内容を書き取らなければならない。遺言書が,正確に書き取られ,自分の意思が適切に表明されたことを確認した後,遺言者は,その遺言書に署名し,又は指印を押す。公証人又は社級人民委員会の確証権限者は,遺言書に署名する。

2. 遺言者が遺言書を読めない,又は聞けない,署名できない,指紋を押すことができない場合,証人を依頼し,その証人は,公証人又は社級人民委員会の確証権限者の面前で,確認署名をしなければならない。公証人又は社級人民委員会の確証権限者は,遺言者及び証人の面前で遺言書を認証する。

第637条 遺言を公証し,確証することのできない者

公証人,社級人民委員会の確証権限者が次の各場合のいずれかに属する場合,遺言を公証し,確証することができない。

1. 遺言者の遺言又は法令に基づく相続人

2. 遺言又は法令に基づく相続人である父,母,妻又は夫,子がいる者

3. 遺言の内容に関係する財産の権利,義務を有する者

第638条 公証され,確証された遺言と同一の価値を有する文書による遺言

1. 公証又は確証を請求することができない場合に,大隊以上の隊長に確認される軍人の遺言

2. 船,飛行機に乗っている者の,その船,飛行機の長によって確認される遺言

3. 病院,治療施設,その他静養施設で治療している者の,病院,施設の責任者に確認される遺言

4. 山岳地帯,島嶼部において考察,探査,研究をしている者の,部門責任者によって確認される遺言

5. 外国滞在中のベトナム人の,その国のベトナムの領事機関,外交代表者に承認される遺言

すみれ

「これはベトナムの人にとっては良いかも。」

6. 臨時的に拘置されている者,暫定留置されている者,監獄にいる者,教育施設, 治療施設において行政処罰措置を受けている者の,その施設の責任者に確認される遺言

第639条 公証人によって遺言者の所在地で作成される遺言

1. 遺言者は,公証人に対し,自己の所在地に来て遺言を作成するよう請求することができる。

2. 遺言者の所在地で作成する手続は,本法典第636条の規定に基づき公証営業組織における手続と同じように行われる。

第640条 遺言の修正,補充,代替,撤回

1. 遺言者は,いつでも遺言を修正し,補充し,代替し,撤回することができる。

2. 遺言者が遺言を補充する場合,作成済みの遺言と補充した部分は,同等の法的効力を有する。作成済みの遺言の一部と追加した部分が矛盾するときは,追加した部分のみ,法的効力を有する。

3. 遺言者が新遺言を遺言に代替する場合,前の遺言は撤回される。

第641条 遺言の寄託

1. 遺言者は,公証営業組織に対し,遺言書を保管するか,他者に遺言を寄託するよう請求することができる。

2. 公証営業組織が遺言書を保管する場合,本法典又は公証に関する法令の規定に基づき保管,保存しなければならない。

3. 遺言書を保管する者は,次の義務がある。

a) 遺言の内容の秘密を保持する。

b) 遺言書を保存,保管する;遺言書を紛失し,破損した場合,遺言者に直ちに通知しなければならない。

c) 遺言者が死亡した時,遺言書を相続人又は遺言を公表する権限を有する者に引き渡さなければならない。遺言書の引渡しは,文書によりなされなければならず,少なくとも二人の証人の前で,引渡人と受取人に署名される。

すみれ

「コピーはもらえないのかな。」

第642条 紛失し,破損した遺言

1. 相続開始の時点以降,遺言書が紛失又は破損して,遺言者の意思が十分に表明することができず,遺言者の願望を事実どおりに証明する証拠がない場合,遺言がないと看做され,法定相続に関する規定を適用する。

2. 遺産がまだ分割されないうちに遺言が見つかった場合,遺産は,その遺言に従って分割される。

3.遺産分割請求の時効期間経過前で,遺産分割後に遺言を見つけた場合,遺言に従った相続人が請求すれば,遺言に従って再分割しなければならない。

第643条 遺言の効力

1. 遺言は,相続開始の時点から効力を有する。

2. 遺言は,次の場合において,全部又は一部の効力を有しない。

a) 遺言に従った相続人が,遺言者より前に又は同時に死亡した

b) 相続人であると指定された組織,機関が相続開始時に存在しない。

遺言に従った相続人が複数いるが,その中に遺言者より前に若しくは同時に死亡した相続人がいる,又は遺言に従った相続人であると指定されたいずれかの機関,組織が相続開始時に存在しない場合,その個人,機関,組織に関係する遺言の部分のみが効力を有しない。

3. 相続人に残された遺産が相続開始の時点において存在しない場合,遺言は効力を有しない;相続人に残された遺産の一部だけが存在する場合,存在する遺産に関する遺言の部分は効力を有する。

4. 遺言に合法でない部分があるが,残りの部分に影響を与えない場合,その合法でない部分のみが効力を有しない。

5. 一人の者が,一つの財産に対して複数の遺言書を残した場合,最後の遺言書のみが効力を有する。

第644条 遺言の内容にかかわらない相続人

1. 遺言者から遺産を享受させてもらえない又は遺産が法律に基づき分割された際の法定相続人の一人分の三分の二より少ない遺産の分しか享受することができない場合,次の者は,法定相続人の一人分の三分の二と同等の遺産の分を享受することができる。

a) 未成年の子,父,母,妻,夫

b) 成年者となっているが,労働能力がない子

2.この条1項の規定は,本法典第620条の規定に基づき遺産受領を拒否した者,又は第621条1項の規定に基づき遺産を享受する権利を有しない者に対しては適用されない。

第645条 祭祀に用いられる遺産

1. 遺言者が遺産の一部を祭祀用に残した場合,その遺産の分は相続の対象にならず,遺言で指定された者に引き渡され,祭祀のために管理される;指定された者が遺言を適切に,又は各相続人の合意に基づいて実施しない場合,各相続人は,祭祀用の遺産を祭祀のために管理するその他の者に引き渡す権利を有する。

遺言者が祭祀用の遺産管理者を指定しない場合,各相続人は,祭祀用の遺産管理者を選任する。

遺言に従った相続人全てが死亡した場合,祭祀用の遺産は,法定相続人の中でその遺産を合法的に管理している者に属する。

2. 死亡した者の全財産がその者の財産義務を精算するのに十分ではない場合,祭祀用の遺産を残すことができない。

第646条 遺贈

1. 遺贈とは,その他の者に贈与するために,遺言者が遺産の一部を残すことである。遺贈は遺言に明確に記載されなければならない。

2. 受遺者が個人の場合,相続開始時点において生存している又は遺産を残した者が死亡する前に胎児になって相続開始の後に出生し生存していなくてはならない。受贈者が個人でない場合,相続開始時点で存在していなくてはならない。

3. 受遺者は,遺贈される遺産の分に対する財産義務を履行しなくてもよい。遺言者の全財産が遺言者の財産義務を精算するのに不足している場合,遺贈用の遺産は遺言者の残りの義務履行に用いられる。

第647条 遺言の公表

1. 文書による遺言が公証営業組織に保管される場合,公証人が遺言の公表者となる。

2. 遺言者が遺言の公表者を指定した場合,その者は遺言を公表する義務を負う;遺言者が遺言の公表者を指定しない又は指定したが指定された者が遺言の公表を拒否する場合,残りの相続人が合意により遺言公表者を選定する。

3. 相続が開始した後,遺言の公表者は,遺言を複写して,遺言の内容に関係するすべての者に送付しなければならない。

4. 遺言の写しを受け取った者は,遺言の原本との対照を請求する権利を有する。

5. 遺言が外国語で作成される場合,その遺言書はベトナム語に翻訳され,公証又は確証されなければならない。

第648条 遺言の内容の解釈

遺言の内容が明確でなく,相互に異なる複数の理解方法がある場合,遺言に従った相続人は,死亡した者の生前の事実どおりの願望に基づき,死亡した者と遺言による相続人との関係を考慮して,遺言の内容を解釈する。それらの者が,遺言の内容の理解方法について一致しないときは,裁判所に対し,解決を請求する権利を有する。

遺言の内容の一部を解釈することができないが,遺言の残りの部分に影響を与えないときは,解釈できない部分のみが無効となる。

第XXIII章 法定相続

第649条 法定相続

法定相続は,法令が規定する相続の順位,条件と相続の順番に従った相続のことである。第650条 法定相続のいくつかの場合

1. 法定相続は,次の場合に適用される。

a) 遺言がない。

b) 遺言が合法でない。

c) 遺言による相続人が全員遺言者より前に死亡した又は遺言者と同じ時点で死亡した;遺言による相続人である機関,組織が相続開始の時点において存在しない。

d) 遺言による相続人と指定された者が遺産を享受する権利を有しない又は遺産受領を拒否した。

2. 法定相続は,次の遺産の部分に対しても適用される。

a) 遺言において処分されない遺産の部分

b) 遺言の無効な部分に関係する遺産の部分

c) 遺産を享受する権利を有しない,又は遺産の受領を拒否した,遺言者より前又は同じ時点で死亡した遺言による相続人;相続開始の時点において存在しない,遺言により遺産を享受する機関,組織,に関係する遺産の部分。

第651条 法定相続人

1. 法定相続人は,次の順序に従って規定される。

a) 第一相続順位は,死亡した者の配偶者,実父,実母,養父,養母,実子,養子からなる。

b) 第二相続順位は,死亡した者の父方の祖父母,母方の祖父母,実の兄弟姉妹,父方の祖父母,母方の祖父母である死亡した者の実孫からなる。

c) 第三相続順位は,死亡した者の曾祖父母,死亡した者の伯父・伯母,叔父・叔母,死亡した者の実の甥・姪,死亡した者の実の曾孫からなる。

2. 同じ相続順位にある複数の相続人は,相互に均等の遺産部分を享受する。

3. 死亡したか,遺産を享受する権利を有しないか,相続権を取り消されたか,遺産の受領を拒否したかの理由で先相続順位の者がいない時にのみ,次相続順位の者は相続を享受することができる。

第652条 代襲相続

遺産を残した者の子が,遺産を残した者より先に死亡した又は同時に死亡した場合,遺産を残した者の孫は,自分の父又は母が存命していれば享受する遺産の部分を享受することができる;遺産を残した者の孫も,遺産を残した者より先に死亡した又は同時に死亡した場合,曾孫は,自分の父又は母が存命していれば享受する遺産の部分を享受することができる。

第653条 養子と養父,養母と実父母との相続関係

養子と養父,養母は,互いの財産を相続することができ,また本法典第651条,第652条の規定に基づき遺産を相続することもできる。

第654条 継子と継父,継母との相続関係

継子と継父,継母は,親子のように面倒をみて,扶養している関係であるときは,互いの財産を相続することができ,加えて本法典第652条,第653条の規定に基づき遺産を相続することもできる。

第655条 妻,夫が共有財産を既に分割した;妻,夫が離婚申請中である,又は他の者と結婚した場合における相続

1. 婚姻している間に妻,夫が共有財産を既に分割し,その後,一方が死亡した場合,存命者は,遺産を相続することができる。

2. 妻,夫が離婚申請中であるが未確定である又は離婚を認めた裁判所の判決,決定に法的効力が生じていない間に,一方が死亡したときは,存命者は,遺産を相続することができる。

3. 死亡した者の寡掃又は寡夫は,別の者と結婚しても遺産を相続することができる。

第XXIV章 遺産の精算と分割

第656条 相続人の集合

1. 相続開始が通知された,又は遺言が公表された後,相続人は,次のことを合意するために集合することができる。

a) 遺産を残した者が遺産管理人と遺産分割人を指定しない場合,遺産の管理人と遺産の分割人の選定,それらの者の権利と義務の確定

b) 遺産の分割方法

2. 相続人の全ての合意は,文書によりなされなければならない。

第657条 遺産分割人

1. 遺産分割人は,同時に,遺言で指定された又は相続人の合意によって選定された遺産管理人であってもよい。

2. 遺産分割人は,遺言どおりに,又は法定相続人の合意どおりに,遺産を分割しなければならない。

3. 遺産を残した者が遺言で許可した,又は相続人の合意がある場合には,遺産分割人は報酬を受け取ることができる。第658条 精算優先順位

財産義務及び相続に関する費用は,次の順序に従って精算される。

1. 慣習に従って死亡した者の埋葬にかかる合理的な費用

2. 未済の扶養料

3.遺産の保管費用

4. 死亡した者に依存している者に対する支援金

5. 労働賃金

6. 損害賠償金

7. 税金,国家予算に納入しなければならない他の金額

8. 個人,法人に対するその他の債務

9. 罰金

10. その他の各費用

第659条 遺言による遺産の分割

1. 遺産の分割は,遺言者の意思に基づいて行われる;遺言が相続人ごとの相続分を明確に確定していないときは,遺産は,遺言に指定された者に対して均等に分割される。ただし,他の合意がある場合を除く。

2. 遺言が現物による遺産の分割を確定している場合,相続人は,現物とその現物から生じる天然果実と法定果実を受け取るものとし,現物が遺産分割の時点で価値が滅少していてもその現物を引き受けなければならない;他人の故意過失によって現物が滅失した場合,相続人は,損害賠償を請求する権利を有する。

3. 遺言が財産の総価値に対する比率で遺産の分割のみを確定している場合,この比率は,遺産の分割時点における遺産の残存価値に基づいて決められる。

第660条 法令による遺産の分割

1. 遺産を分割するとき,同相続順位の相続人が胎児で未出生であっても,他の相続人の享受する分と同じ遺産の部分を取っておかなければならない。その相続人が出生後も生きていれば,その遺産の分を享受する。出生前に死亡したならば,他の相続人が享受する。

2. 相続人は,遺産の現物分割を請求する権利を有する;現物で均等に分割できない場合,相続人は,現物を価格鑑定すること及び現物を受け取る者について合意することができる;合意できなければ,現物は売却され,分割される。

第661条 遺産分割の制限

遺言者の意思又は相続人の全ての合意により,遺産が一定期間の後に分割される場合,その期限が満了した後にのみ,遺産は分割される。

遺産相続の分割請求で,遺産分割が存命している妻又は夫及びその家族の生活に著しく影響を与える場合,存命当事者は,裁判所に対し,相続人が享受する遺産の部分の確定と一定期間において分割させないよう請求する権利を有する。この期限は相続開始の時点から

3年を超えない。3年の期限が満了しても,存命当事者は,遺産分割が依然として家族の生活に著しく影響を与えることを証明することができれば,裁判所に対し,3年を超えない期間の一回延長を請求することができる。

第662条 新しい相続人が出現する又は相続権が取り消される相続人がいる場合の遺産の分割

1. 遺産の分割後,新たに相続人が出現した場合,遺産の現物による再分割はしないが,遺産を受け取った相続人は,受け取った遺産分に相当する割合で遺産分割時点における新相続人の遺産分に相当する金額にて新相続人に対して清算を行わなければならない。ただし,他に合意がある場合を除く。

2. 遺産の分割後相続権が取り消される相続人がいる場合,その者は遺産を返還し,又は遺産分割時点に享受した当人の遺産の価値に相当する金額を他の相続人に対して清算しなければならない。ただし,他に合意がある場合を除く。

第五編 外国的要素を持つ民事関係に適用する法令

第XXV章 総則

第663条 適用範囲

1. この編は,外国的要素を持つ民事関係に適用する法令について規定する。

その他の法律に外国的要素を持つ民事関係に適用する法令に関する規定があり,本法典第664条から第671条の規定に反しない場合は,その法律が適用される。反する場合は,本法典第五編に関連を有する規定が適用される。

2. 外国的要素を持つ民事関係とは,次のいずれかに属する民事関係をいう。

a) 参加する少なくともいずれか一方の当事者が外国の個人,法人である。

b) 参加する各当事国はともにベトナムの公民,ベトナムの法人であるが,当該関係の確立,変更,実施,消滅が外国において生じている。

c) 参加する各当事者はともにベトナムの公民,法人であるが,当該民事関係の対象が外国に所在する。

第664条 外国的要素を有する民事関係に適用する法令の確定

1. 外国的要素を有する民事関係に適用する法令は,ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約又はベトナム法に従って確定される。

2.ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約又はベトナム法に,各当事者が選択権を有するとの規定がある場合,外国的要素を有する民事関係に適用する法令は,各当事者の選択に従って確定される。

3.この条第1項及び第2項の規定に基づき適用する法令を確定できない場合,適用法令は,その外国的要素を有する民事関係と最も密接に関係する場所を有する国の法令である。

第665条 外国的要素を有する民事関係に対する国際条約の適用

1.ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約が,外国的要素を有する民事関係に参加する各当事者の権利義務に関する規定を有する場合,その国際条約の規定を適用する。

2.ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約が,外国的要素を有する民事関係に適用する法令について,この章の規定及び他の法律と異なる規定を有する場合,その国際条約の規定を適用する。

第666条 国際慣習の適用

本法典第664条2項が規定する場合において,各当事者は国際慣習を選択することができる。その国際慣習の適用結果がベトナム法令の基本原則に反する場合には,ベトナム法令を適用する。

第667条 外国法令の適用

適用する外国法令に相互に異なった理解の仕方がある場合,その国において権限を有する機関の解釈に従って適用しなくてはならない。

第668条 参照25法令の範囲

1. 参照法令は,この条第4項に規定する場合を除き,適用法令の確定に関する規定及び民事関係に参加する各当事者の権利義務に関する規定からなる。

2ベトナム法令を参照する場合,適用する民事関係に参加する各当事者の権利義務に関するベトナム法令の規定を適用する。

3第三国の法令を参照する場合,適用する民事関係に参加する各当事者の権利義務について第三国の法令の規定を適用する。27.

4本法典第664条2項に規定する場合,各当事者が選択する法令は,民事関係に参加する各当事者の権利義務に関する規定であり,適用法令の確定に関する規定を含まない。

第669条 複数の法令体系を持つ国の法令の適用

複数の法令体系を持つ国の法令が参照される場合,適用法令はその規定の国の法令が規定する原則に基づいて確定される。

第670条 外国法令を適用しない場合

1. 参照される外国法令は,次の場合には適用することができない。

a) 外国法令の適用結果がベトナム法令の基本原則に違反する。

b) 訴訟法の規定に基づき必要な各措置を適用したにもかかわらず,外国の法令の内容を確定することができない。

2. この条第1項の規定に基づき外国法が適用されない場合,ベトナム法令が適用される。

第671条 時効

外国的要素を有する民事関係の時効は,当該関係に適用する法令に基づき確定される。

第XXVI章 個人,法人に適用される法令

第672条 無国籍の者,多国籍の者に対する適用法令確定根拠

1. 参照される法令が個人が国籍を有する国の法令であるが,その者が無国籍である場合,適用法令は,外国的要素を持つ民事関係が生じた時点でその者が常住していた地の国の法令である。その者が外国的要素を持つ民事関係が生じた時点で複数の居所を有していた,又は居所を確定することができない場合,適用法令は,その者が最も密接な関係を有する地の国の法令である。

2. 参照される法令が個人が国籍を有する国の法令であるが,その者が多国籍者である場合,適用法令は,その者が外国的要素を持つ民事関係が生じた時点で国籍を有し,常住していた地の国の法令である。その者が外国的要素を持つ民事関係が生じた時点で複数の居所を有していた,居所を確定することができない,又は居所と国籍を有する地が相互に異なる場合,適用法令は,その者が国籍を有し,かつ,最も密接な関係を有する国の法令を適用する。

参照される法令が個人が国籍を有する国の法令であるが,その者が多国籍者であり,その中にベトナム国籍がある場合,適用法令はベトナム法令である。

第673条 個人の民事法律能力

1. 個人の民事法律能力は,その者が国籍を有する国の法令に従う。

2. ベトナムに所在する外国人は,ベトナム法令が他の規定を有する場合を除き,ベトナム公民と同じ民事法律能力を有する。

第674条 個人の民事行為能力

1. 個人の民事行為能力は,この条第2項に規定する場合を除き,その者が国籍を有する国の法令に従う。

2. 外国人がベトナムにおいて民事取引を確立,実施する場合,その外国人の民事行為能力はベトナム法令に従って確定される。

3. ベトナムにおける個人の民事行為能力喪失,行為認識制御困難又は民事行為能力制限の確定は,ベトナム法令に従う。

第675条 失踪又は死亡した個人の確定

1.失踪又は死亡した個人の確定は,この条第2項に規定する場合を除き,その者に関する最後の情報があった時点の前にその者が国籍を有していた国の法令に従う。

2.失踪又は死亡した個人のベトナムにおける確定は,ベトナム法令に従う。

第676条 法人

1. 法人の国籍は,法人が設立された地の国の法令に従って確定される。

2. 法人の民事法令能力;法人の名称;法人の法定代表者;法人の組織,再編,解体;法人と法人構成員の関係;法人及び法人構成員の法人の義務に対する責任は,この条第3項が規定する場合を除き,法人が国籍を有する国の法令に従って確定される。

3.外国法人がベトナムにおいて民事取引を確立,実施する場合,その外国法人の民事法令能力はベトナム法令に従って確定される。

第XXVII章 財産関係と身分関係に対して適用される法令

第677条 財産の分類

財産の動産,不動産への分類は,財産がある地の国の法令に従って確定される。

すみれ

「財産がある国の法令、か」

第678条 所有権及び財産に対するその他の権利

1. 所有権及び財産に対するその他の権利の確立,履行,変更,消滅は,この条2項が規定する場合を除き,財産がある地の国の法令に従って確定される。

2. 輸送中の動産に対する所有権及び財産に対するその他の権利は,その他の合意がある場合を除き,動産の輸送先の地の国の法令に従って確定される。

第679条 知的所有権

知的所有権は,知的所有権の対象が保護を求められる地の国の法令に従って確定される。

第680条 相続

1. 相続は,相続される遺産を残した者が死亡の直前に国籍を有していた国の法令に従って確定される。

すみれ

「国籍で決まるんだ。」

2. 不動産に対する相続権の行使は当該不動産の所在する地の国の法令に従って確定される。

第681条 遺言

1. 遺言の作成,変更又は撤回の能力は,遺言作成,変更又は撤回の時点で遺言作成者が国籍を有する国の法令に従って確定される。

2. 遺言の形式は,遺言が作成された地の国の法令に従って確定される。遺言の形式も,次の各国のいずれかの法令と合致する場合,ベトナムにおいて公認される。

a) 遺言を作成した時点又は遺言作成者が死亡した時点で,遺言作成者が常住していた地の国

b) 遺言を作成した時点又は遺言作成者が死亡した時点で,遺言作成者が国籍を有していた地の国

c) 相続遺産が不動産である場合,不動産の所在地。

第682条 後見

後見は,被後見人が常居する地の国の法令に従って確定される。

第683条 契約

1. この条第4項,第5項及び第6項に規定する場合を除き,契約関係における当事者は,契約に対する適用法令の選択につき合意することができる。適用法令につき各当事者間に合意がない場合,その契約と最も密接な関係を有する国の法令が適用される。

・・・中略・・・・・

第六編 施行条項

第688条 経過規定

1. 本法典が効力を有する日の前に確立された民事取引については,次のように規定される法令を適用する。

a) まだ実施されていないが,内容,形式が本法典の規定と異なる民事取引については,取引主体は引き続き民法典33/2005/QH11及び民法典33/2005/QH11を詳細に規定する各法規範文書の規定に基づき実施する。ただし,民事取引当事者が取引の内容,形式を本法典に合致させ,本法典を適用するために修正,補充する合意を有する場合を除く。

実施中の民事取引で内容,形式が本法典と異なる場合,民法典33/2005/QH11及び民法典33/2005/QH11を詳細に規定する各法規範文書の規定を適用する。

b) まだ実施されていない又は実施中であるが,内容及び形式が本法典の規定と合致する民事取引は,本法典の規定を適用する。

c) 本法典が効力を有する日の前に実施が完了したが紛争が生じている民事取引は,民法典33/2005/QH11及び民法典33/2005/QH11を詳細に規定する各法規範文書の規定を適用して解決する。

d) 時効は,本法典の規定に基づき適用する。

2. 本法典が効力を有する日の前に民事に関する法令の規定に基づき裁判所が解決した事件の,監督審,再審の手続に従った異議申し立てのために,本法典を適用しない。

第689条 施行効力

本法典は,2017年1月1日から施行効力を有する。

民法典33/2005/QH11は,本法典が効力を有した日から効力を失う。

本法典は,ベトナム社会主義共和国第13期国会第10会期において採択された。

国会議長

グエン シン フン

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すみれ・ポリー・番人

「お疲れ様でした。上原ひろみさんすごいですね。」

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