「疑わしい取引」と司法書士38

登記情報[1]の末光祐一司法書士「疑わしい取引」と司法書士(38)からです。

司法書士にとってのリスクベース・アプローチ(RBA)においては、依頼の類型を取引類型といい、取引モニタリングのためには重要な要素となる。ここで、「依頼」とは、例えば、不動産登記業務において、売買を登記原因とする所有権移転登記手続の依頼の場合は、当該登記手続の委任契約と、当該登記の原因となった売買契約の両者を含むものであり、当該委任の内容、状況、携帯及び経緯等を勘案して依頼の類型を判断すべきであると考える。


トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ報告書https://www.digital.go.jp/councils/0567fe93-b7d8-4c25-8a6c-46312c687f88/

加工トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ報告書

・P62の高リスクの類型の例、低リスクの類型の例のいくつかを、IALで分けてみます。

・P62の高リスクの類型の例、低リスクの類型の例のいくつかを、AALで分けてみます。

・P62の高リスクの類型の例、低リスクの類型の例のいくつかを、渡部友一郎弁護士の5×5のリスクマトリクスで分けてみます。

リスクベース・アプローチにおいて行うべき厳格な措置は、犯罪収益移転防止法において厳格に本人特定事項の確認を行わなければならないハイリスク取引の場合の措置(犯罪収益移転防止法4条2項)とは異なる概念であり、両者が適用となる場面や範囲は必ずしも一致しない。ハイリスク取引の場合とは取引時確認、つまり、依頼を受けた際の措置のことであるが、リスクベース・アプローチにおける厳格な措置は依頼の場面も含めて、以後、継続的顧客管理において求められる措置である。

 今まで、業務の場面毎によって、知識(司法書士業務関連法令・会則、個人情報保護法等、犯罪による収益の移転防止に関する法律等)や経験によって対応していたことを、記録に残しやすいように、リスクベース・アプローチというフィルターをかけよう、という考えなのかなと感じます。

 特に、継続的・長期間の業務において要請されているように思います。業務が面倒くさくなる面もあるかもしれませんが、何度も不動産登記の依頼を受けている個人の場合など、リスクが少ないと思われる方の場合は、リスク許容度を下げたりするなど可能であれば、業務に割く時間を減らせることもあり得るように感じます。

[1] 728号、2022年7月、(一社)金融財政事情研究会P60~

20220719連発0541号 司法書士倫理の一部改正

新旧が見つからない。私が参照した会員必携の司法書士倫理が 古いかもしれません。

○司法書士行為規範

司法書士の使命は、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することにある。

その使命を自覚し、自らの行動を規律する規範を明らかにするため、司法書士行為規範を制定する。

我々は、これを実践し、社会の信頼と期待に応えることをここに宣言する。

第1章基本倫理

(使命の自覚)

第1条司法書士は、使命を自覚し、その達成に努める。

(基本姿勢)

第2条司法書士は、その職責を自覚し、自由かつ独立の立場を保持して、司法書士としての良心に従い行動する。

(信義誠実)

第3条司法書士は、信義に基づき、公正かつ誠実に職務を行う。

(品位の保持)

第4条司法書士は、常に、人格の陶冶を図り、教養を高め、司法書士としての品位を保持する。

(法令等の精通)

第5条司法書士は、法令及び実務に精通する。

(資質の向上)

第6条司法書士は、自ら研鑚するとともに、その所属する司法書士会及び日本司法書士会連合会(以下「司法書士会等」という。)が実施する研修に参加し、資質の向上に努める。

(自治の維持及び発展)

第7条司法書士は、司法書士自治の維持及び発展に努める。

(法制度への寄与)

第8条司法書士は、法制度が国民に信頼され、国民が利用しやすいものとなるようにその改善及び発展に寄与する。

(公益的活動)

第9条司法書士は、その使命にふさわしい公益的な活動に取り組み、実践するように努める。

第2章一般的な規律

意思の尊重)

第10条司法書士は、依頼者の意思を尊重し、依頼の趣旨に沿って、その業務を行わなければならない。

2司法書士は、意思の表明に困難を抱える依頼者に対して、適切な方法を用いて意思の表明を支援するように努めなければならない。

(秘密保持等の義務)

第11条司法書士は、業務上知り得た秘密を保持しなければならず、又は利用してはならない。司法書士でなくなった後も同様とする。

2前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合は、その必要の限度において、秘密を開示することができる。

(1)本人の承諾がある場合

(2)法令に基づく場合

(3)司法書士が自己の権利を防御する必要がある場合

(4)前3号に掲げる場合のほか、正当な事由がある場合

(不当誘致等)

第12条司法書士は、不当な方法によって事件の依頼を誘致し、又は事件を誘発してはならない。

2司法書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、いかなる名目によるかを問わず、その対価を支払ってはならない。

3司法書士は、依頼者の紹介をしたことについて、いかなる名目によるかを問わず、その対価を受け取ってはならない。

(非司法書士との提携禁止等)

第13条司法書士は、司法書士法その他の法令の規定に違反して業務を行う者と提携して業務を行ってはならず、またこれらの者から事件のあっせんを受けてはならない。

2司法書士は、第三者に自己の名義で司法書士業務を行わせてはならない。

3司法書士は、正当な事由がある場合を除き、その業務に関する報酬を司法書士又は司法書士法人でない者との間で分配してはならない。

(違法行為の助長等)

第14条司法書士は、違法若しくは不正な行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。

(品位を損なう事業への関与)

第15条司法書士は、品位を損なう事業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれに自己の名義を使用させてはならない。

(相手方等からの利益授受等)

第16条司法書士は、取り扱っている事件に関し、相手方又は相手方代理人等から利益の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくはその約束をしてはならない。

2司法書士は、取り扱っている事件に関し、相手方又は相手方代理人等に対し、利益の供与若しくは供応をし、又はその約束をしてはならない。

(広告又は宣伝)

第17条司法書士は、虚偽の事実を含み、又は誤認を生じさせるおそれがある広告又は宣伝をしてはならない。

2司法書士は、品位又は信用を損なうおそれがある広告又は宣伝をしてはならない。

(記録の作成等)

第18条司法書士は、受任した事件の概要、金品の授受に関する事項その他重要と考えられる事項に関する記録を作成し、保管しなければならない。

2司法書士は、前項の記録を保管するに際しては、業務上知り得た秘密及びプライバシーに関する情報が漏洩しないように注意しなければならない。廃棄するに際しても同様とする。

補助者に対する指導及び監督)

第19条司法書士は、常に、補助者の指導及び監督を行わなければならない。

2司法書士は、補助者をしてその業務を包括的に処理させてはならない。

3司法書士は、補助者に対し、その者が業務上知り得た秘密を漏洩し、又は利用しないように指導及び監督しなければならない。

第3章依頼者との関係における規律

(依頼の趣旨の実現)

第20条司法書士は、依頼の趣旨を実現するために、的確な法律判断に基づいて業務を行わなければならない。

(受任の際の説明)

第21条司法書士は、事件を受任するにあたり、その処理の方法その他依頼の趣旨を実現するために必要な事項について説明しなければならない。

(報酬の明示)

第22条司法書士は、事件を受任するにあたり、報酬及び費用の金額又はその算定方法を明示し、かつ、十分に説明しなければならない。

2司法書士は、その報酬については、依頼者の受ける経済的利益、事案の難易、その処理に要した時間及び労力その他の個別具体的事情に照らして、適正かつ妥当なものとしなければならない。

契約書の作成)

第23条司法書士は、事件を受任するにあたり、依頼の趣旨並びに報酬及び費用に関する事項を記載した契約書を作成するように努めなければならない。

(事件の処理)

第24条司法書士は、事件を受任した場合には、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。

2司法書士は、依頼者に対し、事件の経過及び重要な事項を必要に応じて報告し、事件が終了したときは、その経過及び結果を遅滞なく報告しなければならない。

(公正を保ち得ない事件)

第25条司法書士は、業務の公正を保ち得ない事由がある事件については、業務を行ってはならない。

(公務等との関係)

第26条司法書士は、公務員又は法令により公務に従事する者として取り扱った事件については、業務を行ってはならない。

2司法書士は、仲裁人として取り扱った事件又は裁判外紛争解決手続において手続実施者その他これに準ずる者として関与した事件については、業務を行ってはならない。

(公正を保ち得ないおそれ)

第27条司法書士は、業務の公正を保ち得ない事由が発生するおそれがある場合には、事件を受任するにあたり、依頼者に対し、その事由の内容及び辞任の可能性があることについて説明しなければならない。

(不正の疑いがある事件)

第28条司法書士は、依頼の目的又はその手段若しくは方法に不正の疑いがある場合において、合理的な方法により調査を行ってもなおその疑いが払拭できないときは、その事件を受任してはならない。

(特別関係の告知)

第29条司法書士は、事件の受任に際して、依頼者の相手方と特別の関係があるために、依頼者との信頼関係に影響を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を告げなければならない。

(受任後の措置)

第30条司法書士は、事件を受任した後に前5条に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し速やかにその事情を告げ、事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

(利益相反の顕在化)

第31条司法書士は、同一の事件で依頼者が複数ある場合において、その相互間に利益相反が生じたときは、各依頼者に対してその旨を告げ、事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

(他の司法書士の参加)

第32条司法書士は、受任している事件について、依頼者が他の司法書士又は司法書士法人に、相談又は依頼をしようとするときは、正当な理由なくこれを妨げてはならない。

(受任司法書士間の意見の不一致)

第33条司法書士は、同一の事件を受任している他の司法書士又は司法書士法人がある場合において、その処理に関して意見の不一致により依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対しその事情を説明しなければならない。

(依頼者との信頼関係の喪失)

第34条司法書士は、受任している事件に関し、依頼者との信頼関係が失われ、かつ、その回復が困難である場合には、辞任する等適切な措置をとらなければならない。

(預り書類等の管理)

第35条司法書士は、受任している事件に関し、依頼者から預かった書類等を、善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。

(預り金の管理等)

第36条司法書士は、受任している事件に関し、依頼者から又は依頼者のために金員を受領した場合には、自己の金員と区別し、預り金であることを明確にして管理しなければならない。

2司法書士は、受任している事件に関し、依頼者のために金品を受領した場合には、速やかにその事実を依頼者に報告しなければならない。

(受任の継続不能)

第37条司法書士は、受任している事件の処理を継続することができなくなった場合には、依頼者が損害を被ることがないように、事案に応じた適切な措置をとらなければならない。

(係争目的物の譲受け)

第38条司法書士は、係争事件の目的物を譲り受けてはならない。

(依頼者との金銭貸借等)

第39条司法書士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸借をし、又は自己の債務について保証をさせ、若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。

(賠償保険)

第40条司法書士は、依頼者を保護するために、業務上の責任について賠償責任保険に加入するように努めなければならない。

(事件の終了後の措置

第41条司法書士は、受任した事件が終了したときは、遅滞なく、金銭の精算、物品の引渡し及び預かった書類等の返還をしなければならない。

(依頼者との紛議等)

第42条司法書士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め、紛議が生じた場合には、協議により円満に解決するように努めなければならない。

第4章不動産登記業務に関する規律

(基本姿勢)

第43条司法書士は、不動産登記業務を行うにあたり、登記の原因となる事実又は法律行為について調査及び確認をすることにより登記の真正を担保し、もって紛争の発生を予防する。

(実体上の権利関係の把握等)

第44条司法書士は、不動産登記業務を受任した場合には、依頼者及びその代理人等が本人であること及びその意思の確認並びに目的物の確認等を通じて、実体上の権利関係を的確に把握しなければならない。

2司法書士は、前項の確認を行った旨の記録を作成し、保管しなければならない。

(公平の確保)

第45条司法書士は、不動産登記業務を受任した場合には、当事者間の情報の質及び量の格差に配慮するなどして、当事者間の公平を確保するように努めなければならない。

(登記手続の中止又は登記申請の取下げ)

第46条司法書士は、当事者の一部から、不動産登記手続の中止又は不動産登記申請の取下げの申出を受けた場合においては、他の当事者の利益が害されることのないように当事者全員の意思を確認し、適切な措置をとらなければならない。

(補助者による立会の禁止)

第47条司法書士は、不動産取引における立会を、補助者に行わせてはならない。

(複数の代理人が関与する登記手続)

第48条司法書士は、複数の代理人が関与する不動産登記業務を受任した場合には、依頼者の依頼の趣旨を実現するために必要な範囲において他の代理人と連携するように努めなければならない。

第5章商業・法人登記業務に関する規律

(基本姿勢)

第49条司法書士は、商業・法人登記業務を行うにあたり、登記原因及び添付書面等の調査及び確認をすることにより真正な登記の実現に努め、もって取引の安全と商業・法人登記制度の信頼の確保に寄与する。

(実体関係の把握)

第50条司法書士は、商業・法人登記業務を受任した場合には、会社若しくは法人の代表者又はこれに代わり依頼の任に当たっている者(以下「代表者等」という。)が本人であること、依頼の内容及び意思の確認をするとともに、議事録等の関係書類の確認をするなどして、実体関係を把握するように努めなければならない。

2司法書士は、議事録等の書類作成を受任した場合には、代表者等にその事実及び経過等を確認して作成しなければならない。

(法令遵守の助言)

第51条司法書士は、商業・法人登記業務を受任し、又はその相談に応じる場合には、会社及び法人の社会的責任の重要性を踏まえ、依頼者に対して、法令を遵守するように助言しなければならない。

第6章供託業務に関する規律

(基本姿勢)

第52条司法書士は、供託業務を行うにあたり、実体上の権利関係を的確に把握し、登記手続、裁判手続その他の関連する手続を踏まえて供託の目的を達成させる。

(供託が関係する相談)

第53条司法書士は、供託が関係する相談に応じる場合には、相談者が置かれている状況を的確に把握したうえで、供託手続の役割、内容及び方法について説明及び助言をしなければならない。

第7章裁判業務等に関する規律

(基本姿勢)

第54条司法書士は、裁判の公正及び適正手続の実現に寄与する。

(紛争解決における司法書士の役割)

第55条司法書士は、依頼者が抱える紛争について、正確な知識及び情報を提供し、最善の方法をもって業務を遂行することにより、依頼者の正当な権利の擁護及びその利益の実現に努めなければならない。

(裁判書類作成関係業務)

第56条司法書士は、裁判書類作成関係業務を受任した場合には、依頼者との意思の疎通を十分に図り、事案の全容を把握するように努め、依頼者にその解決方法を説明するなどして、依頼者自らが訴訟等を追行できるように支援しなければならない。

(簡裁訴訟代理等関係業務)

第57条司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務を受任した場合には、代理人としての責務に基づき、依頼者の自己決定権を尊重して、業務を行わなければならない。

(業務を行い得ない事件)

第58条司法書士は、裁判業務(裁判書類作成関係業務及び簡裁訴訟代理等関係業務をいう。以下同じ。)に係る次の事件については、裁判業務を行ってはならない。ただし、第4号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

(1)相手方の依頼を受けて行った事件又は相手方から受任している事件

(2)相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(3)相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(4)受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

(5)受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件

(6)その他受任している事件の依頼者と利益相反する事件

2司法書士は、かつて司法書士法人の社員等(社員又は使用人司法書士をいう。以下同じ。)であった場合は、裁判業務に係る次の事件(自ら関与したものに限る。)については、裁判業務を行ってはならない。

(1)社員等として業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて行った事件

(2)社員等として業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(3)社員等として業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(受任の諾否の通知)

第59条司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務の依頼に対し、その諾否を速やかに通知しなければならない。

(法律扶助制度等の教示)

第60条司法書士は、依頼者に対し、事案に応じて法律扶助制度又は訴訟救助制度を教示するなどして、依頼者の裁判を受ける権利が実現されるように努めなければならない。

(見込みがない事件の受任の禁止)

第61条司法書士は、依頼者が期待するような結果を得る見込みがないことが明らかであるのに、あたかもその見込みがあるかのように装って事件を誘発し、受任してはならない。

(有利な結果の請け合い等の禁止)

第62条司法書士は、受任した事件について、依頼者に有利な結果を請け合い、又は保証してはならない。

(偽証等のそそのかし等)

第63条司法書士は、偽証又は虚偽の陳述をそそのかしてはならない。

2司法書士は、虚偽と知りながらその証拠を提出し、又は提出させてはならない。

(裁判手続の遅延)

第64条司法書士は、不当な目的のために又は職務上の怠慢により、裁判手続を遅延させてはならない。

(相手方本人との直接交渉等)

第65条司法書士は、受任している事件に関し、相手方に法令上の資格がある代理人がいる場合は、特別の事情がない限り、その代理人の了承を得ないで相手方本人と直接交渉してはならない。

2司法書士は、受任している事件に関し、相手方に法令上の資格がある代理人がいない場合において、相手方が代理人の役割について誤解しているときは、その誤解に乗じて相手方を不当に不利益に陥れてはならない。

第8章司法書士法第3条に定めるその他の業務に関する規律

(審査請求手続)

第66条司法書士は、審査請求手続を受任した場合には、審査請求の意義を依頼者に説明し、依頼者の権利が実現されるように努めなければならない。

(国籍に関する書類の作成)

第67条司法書士は、国籍に関する書類の作成を受任した場合には、その要件等を依頼者に説明及び助言をし、依頼者や関係者のプライバシー等の人権に配慮して、業務を行うように努めなければならない。

(検察庁に提出する書類の作成)

第68条司法書士は、検察庁に提出する書類の作成を受任した場合には、関係者の人権に配慮して、正義の実現に努めなければならない。

第9章成年後見業務等に関する規律

基本姿勢)

第69条司法書士は、成年後見業務等を行う場合には、本人の意思を尊重し、その心身の状態並びに生活及び財産の状況(以下「心身の状態等」という。)に配慮する。

法定後見等に関する相談)

第70条司法書士は、法定後見又は任意後見に関する相談に応じる場合には、本人のほか、親族、福祉、医療及び地域の関係者等の支援者(以下「支援者」という。)から、その意見、本人の心身の状態等を聴取するなどしたうえで、適切な助言をしなければならない。

(後見等開始申立書類の作成)

第71条司法書士は、後見等開始申立書類を作成する場合には、本人、申立人及び支援者の意見を聴取するなどしたうえで、本人の権利を擁護し、心身の状態等に適した内容になるよう配慮しなければならない。

(任意後見契約の締結等)

第72条司法書士は、自己を受任者とする任意後見契約の締結を依頼された場合には、見守り契約等の任意後見契約に関連する契約の必要性を検討したうえで、本人の権利を擁護し、心身の状態等に適した契約になるように配慮しなければならない。

2司法書士は、前項の任意後見契約及びこれに関連する契約を締結する場合には、本人の心身の状態等に配慮し、本人が理解できるように適切な方法及び表現を用いて契約内容を説明しなければならない。

3司法書士は、第1項の任意後見契約を締結した場合において、精神上の障害により本人の事理弁識能力が不十分になったときは、本人及び支援者の意見を聴取するなどしたうえで、任意後見契約の効力を生じさせるなど、遅滞なく適切な措置をとらなければならない。

(支援者との連携)

第73条司法書士は、成年後見人等に就任した場合には、支援者と連携を図るように努めなければならない。

2前項の場合において、司法書士は、本人のプライバシーに配慮しなければならない。

第10章財産管理業務に関する規律

(基本姿勢)

第74条司法書士は、他人の財産を管理する場合には、自己の財産又は管理する他者の財産と判然区別することが可能な方法で各別に保管するなど、善良な管理者の注意をもって行う。

(委任による財産管理)

第75条司法書士は、委任により他人の財産を管理する場合には、委任者が適切な手続を選択することができるように説明しなければならない。

2司法書士は、前項の場合には、委任者と利益相反する行為をしてはならない。

3司法書士は、財産管理の状況について、定期的に委任者に報告しなければならない。委任者から報告を求められたときも、同様とする。

(法律の定めによる財産管理)

第76条司法書士は、法律の定めにより他人の財産を管理する者に選任された場合には、その目的を達するため誠実に財産管理を行わなければならない。

(遺言執行)

第77条司法書士は、遺言執行者に就任した場合には、遺言の内容を実現するため直ちに遺言執行事務に着手し、善良な管理者の注意をもってその事務を遂行しなければならない。

2司法書士は、遺言執行者に就任している場合において、遺言者の相続財産(遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産に限る。)に係る事件であって、相続人又は受遺者の依頼により、他の相続人又は受遺者を相手方とする裁判業務を行ってはならない。遺言執行者でなくなった後も、同様とする。

(遺産承継業務)

第78条司法書士は、遺産承継業務を受任する場合には、委任契約書を作成するなどして、依頼者に対し、受任事務の内容及び範囲を明らかにしなければならない。

2司法書士は、前項の場合においては、事案に応じて、依頼者に対し、業務の中断又は終了に関する事由を明らかにしなければならない。

(事件の終了)

第79条司法書士は、他人の財産の管理を終了したときは、遅滞なく、その管理する財産を委任者など受領権限がある者に引き渡さなければならない。

第11章民事信託支援業務に関する規律

(基本姿勢)

第80条司法書士は、民事信託支援業務を受任したときは、信託目的の達成に向けて、委託者、受託者、受益者その他信託関係人の知識、経験、財産の状況等に配慮して業務を行う。

(適正な民事信託の支援)

第81条司法書士は、民事信託の設定を支援するにあたっては、委託者の意思を尊重し、かつ、信託法上の権利及び義務に関する正確な情報を提供するように努めなければならない。

2司法書士は、民事信託の設定後においては、受託者の義務が適正に履行され、かつ、受益者の利益が図られるよう、必要に応じて、継続的な支援に努めなければならない。

第12章共同事務所における規律

(遵守のための措置)

第82条複数の司法書士が事務所を共にする場合(以下「共同事務所」という。)において、その共同事務所を監督する立場にある司法書士があるときは、当該司法書士は、共同事務所に所属する全ての司法書士(以下「所属司法書士」という。)が、法令、会則等を遵守するために必要な措置をとらなければならない。

(秘密保持の義務)

第83条所属司法書士は、正当な事由がある場合を除き、他の所属司法書士が業務上知り得た秘密を保持しなければならず、又は利用してはならない。所属司法書士でなくなった後も同様とする。

(共同事務所における業務を行い得ない事件)

第84条所属司法書士は、他の所属司法書士(所属司法書士であった者を含む。)が業務を行い得ない事件については、業務を行ってはならない。ただし、業務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

(所属司法書士であった者が裁判業務を行い得ない事件)

第85条所属司法書士であった司法書士は、所属司法書士であった期間内に、他の所属司法書士が取り扱った裁判業務に係る事件で、自らこれに関与していた事件については、その事件の相手方の依頼を受けて裁判業務を行ってはならない。

(受任後の措置)

第86条所属司法書士は、事件を受任した後に第84条本文に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し、速やかにその事情を告げ、事案に応じて適切な措置をとらなければならない。

(業務を行い得ない事件の受任防止

第87条所属司法書士は、共同事務所として、当事者情報の確認その他必要な措置をとるなどをして、業務を行い得ない事件の受任を防止するように努めなければならない。

第13章司法書士法人における規律

(遵守のための措置)

第88条司法書士法人は、その社員等が法令、会則等を遵守するための必要な措置をとらなければならない。

(秘密保持の義務)

第89条社員等は、正当な事由がある場合を除き、司法書士法人、他の社員等が業務上知り得た秘密を保持しなければならず、又は利用してはならない。社員でなくなった後も同様とする。

(司法書士法人が業務を行い得ない事件)

第90条司法書士法人は、裁判業務に係る次の事件については、裁判業務を行ってはならない。ただし、第4号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合はこの限りでない。

(1)相手方の依頼を受けて行った事件又は受任している事件

(2)相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

(3)相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(4)受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

(5)受任している事件の依頼者を相手方とする他の事件

(6)その他受任している事件の依頼者と利益相反する事件

(司法書士法人が社員等の関係で業務を行い得ない事件)

第91条司法書士法人は、裁判業務に係る次の事件については裁判業務を行ってはならない。

(1)社員等が相手方から受任している事件

(2)第25条、第26条若しくは第58条第1号から第6号まで又は第92条第2項第1号から第3号までに掲げる事件として社員の半数以上(簡裁訴訟代理等関係業務に係る事件については特定社員の半数以上)の者が裁判業務を行ってはならないこととされる事件

(社員等が司法書士法人との関係で業務を行い得ない事件)

第92条社員等は、裁判業務に係る次の事件については、裁判業務を行ってはならない。ただし、第2号に掲げる事件については、司法書士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、この限りでない。

(1)司法書士法人が相手方から受任している事件

(2)司法書士法人が受任している事件の相手方の依頼による他の事件

2社員等は、かつて別の司法書士法人(以下「その司法書士法人」という。)の社員等であった場合は、裁判業務に係る次の事件(自ら関与したものに限る。)については、裁判業務を行ってはならない。

(1)その司法書士法人の社員等として業務に従事していた期間内に、その司法書士法人が相手方の依頼を受けて行った事件

(2)その司法書士法人の社員等として業務に従事していた期間内に、その司法書士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又は依頼を承諾した事件

(3)その司法書士法人の社員等として業務に従事していた期間内に、その司法書士法人が相手方の協議を受けた事件で、協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

(社員等が他の社員等との関係で業務を行い得ない事件)

第93条社員等は、他の社員等が業務を行い得ない事件については、業務を行ってはならない。ただし、業務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。

(受任後の措置)

第94条司法書士法人は、事件を受任した後に、第90条又は第91条の規定に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し、速やかにその事情を告げ、事案に応じて適切な措置をとらなければならない。

2社員等は、事件を受任した後に、前2条の規定に該当する事由があることを知ったときは、依頼者に対し、速やかにその事情を告げ、事案に応じて適切な措置をとらなければならない。

(業務を行い得ない事件の受任防止

第95条司法書士法人は、業務を行い得ない事件の受任を防止するために、当事者情報の確認その他必要な措置をとるように努めなければならない。

(準用)

第96条第1章から第11章まで(第4条、第5条、第6条、第11条第1項、第26条第2項及び第58条を除く。)、第14章及び第15章の規定は、司法書士法人について準用する。

第14章他の司法書士との関係における規律

(名誉の尊重)

第97条司法書士は、他の司法書士(司法書士法人を含む。以下、本章において同じ。)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。

(他の事件への介入)

第98条司法書士は、他の司法書士が受任している事件に関して、不当に介入してはならない。

(相互協力)

第99条司法書士は、他の司法書士と共同して業務を行う場合には、依頼者とそれぞれの司法書士との間の委任関係を明確にして、依頼の趣旨の実現に向け、相互に協力しなければならない。

2司法書士は、事件処理のために復代理人を選任する場合には、依頼の趣旨の実現に向け、復代理人と十分な意思疎通を図らなければならない。

第15章司法書士会等との関係における規律

(規律の遵守)

第100条司法書士は、自治の精神に基づき、司法書士会等が定める規律を遵守する。

(組織運営への協力)

第101条司法書士は、司法書士会等の組織運営に積極的に協力する。

(事業への参加)

第102条司法書士は、司法書士会等が行う事業に積極的に参加する。また、司法書士会等から委嘱された事項を誠実に遂行する。

附則(令和4年6月23日・24日第87回定時総会承認)

この規範は、令和5年4月1日から施行する。

Tsuyoshi Taniguchi

これ見てる人全員アウトー!!

司法書士行為規範 (品位の保持) 第4条 司法書士は、常に、人格の陶冶を図り、教養を高め、司法書士としての品位を保持 する。

加工戸籍法等の改正に関する中間試案メモ

戸籍法部会第6回会議(令和4年5月17日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/koseki20220517_00002.html

第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項

1 戸籍の記載事項への追加

戸籍の記載事項として、戸籍法第13条に次のいずれかの規定を設けるもの

とする。

【甲案】氏名を平仮名で表記したもの

【乙案】氏名を片仮名で表記したもの

(注)氏名を平仮名(片仮名)で表記したものとして戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲は、平仮名についての表記の方法を定める現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)本文第1(直音、拗音、撥音、促音)又はこれを片仮名に変換したもののほか、小書き(「ぁ」、「ァ」など)及び長音(「ー」)など、戸籍の氏名に用いることができる文字及び記号も範囲に含めることが考えられる。

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性に関する審査について、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法には規定を設けず、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による(注1)。

【乙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとする。

【丙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、次のいずれかとする。

① 国字の音訓又は慣用により表音されるもの

② 国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関連性が認められるものその他法務省令で定めるものを届け出た(申し出た)場合における当該表記

(注1)【甲案】について法令に規定することも考えられる。

(注2)【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。

戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224#:~:text=%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%89%E6%9D%A1%20%E6%88%B8%E7%B1%8D,%E8%A8%98%E8%BC%89%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82&text=%E7%AC%AC%E5%8D%81%E5%9B%9B%E6%9D%A1%20%E6%B0%8F%E5%90%8D,%E3%81%AF%E3%80%81%E5%B7%A6%E3%81%AE%E9%A0%86%E5%BA%8F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%80%82&text=%E2%91%A1%20%E5%AD%90%E3%81%AE%E9%96%93%E3%81%A7%E3%81%AF,%E3%81%AB%E3%81%93%E3%82%8C%E3%82%92%E8%A8%98%E8%BC%89%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%82

第十三条 戸籍には、本籍の外、戸籍内の各人について、左の事項を記載しなければならない。

一 氏名

二 出生の年月日

三 戸籍に入つた原因及び年月日

四 実父母の氏名及び実父母との続柄

五 養子であるときは、養親の氏名及び養親との続柄

六 夫婦については、夫又は妻である旨

七 他の戸籍から入つた者については、その戸籍の表示

八 その他法務省令で定める事項

第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項

1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集

 戸籍法第13条第1号に定める氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係るものについては、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書(出生、国籍取得、帰化、氏の変更、名の変更、就籍の届書等)の記載事項とし、これを戸籍に記載することとする(注)。

(注)例えば、「届出事件の本人の氏又は名を初めて戸籍に記載するときは、届書にその氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載しなければならない。」というような規定を戸籍法に設けることが考えられる。

2 既に戸籍に記載されている者に係る収集

 既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者は、一定期間内に本籍地の市区町村長(注1)に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出をしなければならないものとし、一定期間内に当該申出があった場合には、当該市区町村長が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする(注2)(注3)。

 一定期間内に当該申出がない場合には、本籍地の市区町村長が国字の音訓又は慣用その他法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする。

(注1)ここでは当該戸籍を管掌する本籍地の市区町村長を想定しているが、所在地の市区町村長を加えることも考えられる。

(注2)申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが第1の2により許容されるものでないとして戸籍に記載されなかった場合、その不服申立てについては、戸籍法第122条の規定を準用するものとすることが考えられる。

(注3)市区町村長の職権による戸籍への記載を促すものとしての「申出」ではなく、戸籍法上の「届出」と整理した上で、届出義務を課し、正当な理由なく期間内に届出がない場合には、過料の制裁を科す(戸籍法第137条参照)方法も考えられる。

原則

申出・・・提出機関の承認等が必要。

届出・・・提出機関の承認等が不要。

第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項

1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律

氏又は名の変更に伴わない場合の規律は、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注1)。

1 やむを得ない事由【正当な事由】(注2)によって氏を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

2 正当な事由によって名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

【乙案】【甲案】に加え、戸籍法に次のような内容の規律を設けるものとする(注3)。

氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、成年に達した時から1年以内に届け出る場合その他法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

(注1)成年に達した者が自ら氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを届け出た(申し出た)後、これを変更しようとする場合には、その変更の許否はより厳しく審査されるべきものとすることも考えられる。

(注2)変更の要件について、氏の変更(戸籍法第107条第1項)よりも緩和することとし、「やむを得ない事由」に代えて「正当な事由」とする案も考えられる。

(注3)【乙案】による変更は、一度に限ることとする。

2 氏又は名の変更に伴う場合の規律

戸籍法第107条第1項又は第107条の2の規定により氏又は名を変更しようとするときは、その平仮名(片仮名)で表記したものとともに、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならないこととする。

戸籍法等の改正に関する中間試案の補足説明

令和4年5月

法務省民事局民事第一課

戸籍法等の改正に関する中間試案の補足説明

目 次

はじめに ……………………….. 1

第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項 …. 3

1 戸籍の記載事項への追加 ………………. 3

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性 …. 5

第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項 ……. 9

1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集 …………… 9

2 既に戸籍に記載されている者に係る収集 …………………. 10

第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項 …….. 13

1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律 ……………………. 13

2 氏又は名の変更に伴う場合の規律 ……………………… 17

はじめに

 我が国に全国統一の近代的身分登録制度が設けられたのは、明治4年太政官布告第170号の戸籍法によってであり、以後、昭和22年法律第224号による戸籍法の全面改正を含め、幾度の制度改正がされてきたが、これまで、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを付することに関して、戸籍法令に規定されたことはない。

 また、昭和50年、昭和56年及び平成29年に、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍の記載事項とすることが検討されたものの、いずれもその制度化は見送られてきた。

 こうした中、令和2年12月25日に閣議決定されたデジタル・ガバメント実行計画において、「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」報告のとおり、迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図ることとされた。

 さらに、令和3年5月12日に成立し、同月19日に公布されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)附則第73条においても、「政府は、行政機関等に係る申請、届出、処分の通知その他の手続において、個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを利用して当該個人を識別できるようにするため、個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の記載事項とすることを含め、この法律の公布後一年以内を目途としてその具体的な方策について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」との検討条項が設けられた。

 なお、上記デジタル・ガバメント実行計画は令和3年12月24日に廃止され、同日閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画の中で、「デジタル社会形成整備法附則第73条の規定を踏まえ、戸籍法制の見直しに関する法務大臣の諮問に対する法制審議会からの答申が得られ次第速やかに、戸籍における氏名の読み仮名の法制化に向けた作業を進め、令和5年(2023 年)の通常国会に関連する法案を提出した上で、令和6年度(2024 年度)を目途に実現を図る。」こととされた。

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを法制化する必要性が高まった背景として、①我が国における社会全体のデジタル化の推進、特にベース・レジストリの整備を推進する方針が定められたこと、②今般の新型コロナウイルス感染症対応を契機として、行政のデジタル化を更に推進し、デジタル社会における国民サービスを拡充する必要性が高まったこと、③難読な名の読み方(読み仮名)が増えていること、④我が国における国際化の進展に伴い、例えば、まず、外来語の名又は外国で出生したり、父若しくは母が外国人である子などについては音としての名を定め、次に、その意味又は類似する音に相当する文字を文字で表記された名とする場合など、文字で表記された名よりもその読み方(読み仮名)により強い愛着がある者も少なくないと考えられることなどが挙げられる。

 そして、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの登録・公証が必要な理由は、次のとおりであると考えられる。

(1) 正確に氏名を呼称することが可能となる場面が多くなることによって、他人から自己の氏名を正確に呼称される権利・利益の保護に資する。

(2) 社会生活において「なまえ」として認知されるものの中には、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものも含まれているとの理解が広がりつつあり、これを登録・公証することは、まさしく「なまえ」の登録・公証という点からも意義がある。

(3) 情報システムにおける検索及び管理の能率を向上させるとともに、行政手続等において、公証された氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの情報を利用することによって、手続をより円滑に進めることが可能となり、国民の利便性の向上に資する。また、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを本人確認事項の一つとすることを可能とすることにより、各種手続における不正防止を補完することが可能となる。

 以上のような状況を踏まえ、令和3年9月16日開催の法制審議会第191回会議において、上川陽子法務大臣(当時)から法制審議会に対し、「個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の記載事項とする規定を整備するなど、戸籍法制の見直しを行う必要があると考えられるので、その要綱を示されたい。」との諮問(諮問第116号)がされ、その調査審議のため、戸籍法部会(部会長・窪田充見神戸大学大学院教授)(以下「部会」という。)が設置された。

 部会では、上記の問題意識を踏まえ、令和3年11月から令和4年5月までの間、約1か月に1回のペースで審議を重ね、令和4年5月17日の第6回会議において、「戸籍法等の改正に関する中間試案」(以下「試案」という。)を取りまとめるとともに、事務当局においてこれを公表し、意見照会の手続を行うことが了承された。以上の経緯により、事務当局である法務省民事局民事第一課において試案を公表し、意見照会の手続を行うこととなった。

今後、部会においては、試案に対して寄せられた御意見を踏まえ、要綱案の取りまとめに向けて、引き続き審議が行われる予定である(要綱案の取りまとめの時期及びこれを受けた法案の提出時期は、現時点では未定である。)。なお、この補足説明は、試案を公表するに当たり、これまでの部会における審議を踏まえ、試案の内容の理解に資するため、試案に掲げられた各項目について、その趣旨等を補足的に説明するものであり、事務当局である法務省民事局民事第一課の責任において作成したものである。このように、この補足説明は、飽くまでも意見募集の対象である試案の内容について検討を加える際の参考資料として作成したものであって、それ以上の意味を持つものではない。

第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項

1 戸籍の記載事項への追加

戸籍の記載事項として、戸籍法第13条に次のいずれかの規定を設けるものとする。

【甲案】氏名を平仮名で表記したもの

【乙案】氏名を片仮名で表記したもの

 (注)氏名を平仮名(片仮名)で表記したものとして戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲は、平仮名についての表記の方法を定める現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)本文第1(直音、拗音、撥音、促音)又はこれを片仮名に変換したもののほか、小書き(「ぁ」、「ァ」など)及び長音(「ー」)など、戸籍の氏名に用いることができる文字及び記号も範囲に含めることが考えられる。

(補足説明)

1 試案の概要

試案は、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍法に定める戸籍の記載事項とするに当たり、戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものと位置付けた上、戸籍の記載事項としての表記を平仮名又は片仮名のいずれかに定めることとするものである。

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの法令上の位置付け氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍法上の位置付けとしては、戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」の一部と規定する方法又は戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものとして規定する方法が考えられる。

 戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」の一部と規定する場合には、戸籍法における「氏名」に関する他の規定及び戸籍法以外の各種法令の規定において、「氏名」に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが含まれるのか、疑義が生じないように手当てをする必要があるものと考えられるところ、部会では、データ項目としての取扱いの観点から戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものと位置付けるべきであるとの意見があったことや、各種法令の規定への影響をも考慮して、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個のものと位置付けることとされた。

3 戸籍の記載事項としての表記

 令和3年5月26日内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室決定において、戸籍の記載事項は、「今後ベース・レジストリとして整備のあり方を含め検討するもの」として指定されており、戸籍に記載する氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、いわゆるマスターデータとなることや、データの利用に当たっての利便性の観点などから、戸籍の記載事項としての表記については平仮名又は片仮名のいずれかに特定すべきものと考えられる。

 この点、平仮名と片仮名とでは、長音の場合に平仮名では母音を重ねるのに対し、片仮名では長音記号(「ー」)が用いられることが多いなど、表記の方法が異なる場合があるものの、令和4年1月7日文化審議会建議「公用文作成の考え方」の解説において、「片仮名で表記されている人名、地名、外来語の長音に平仮名で振り仮名を付ける必要があるような場合には、便宜的に長音符号をそのまま用いてよい。」とされている。

 なお、常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)においては、「字音は片仮名で、字訓は平仮名で」表記されているものの、前書きにおいて、「この表は、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」とされている。

4 各案の内容

(1) 【甲案】

【甲案】は、戸籍の記載事項としての表記を平仮名と定めるものである。

 現行の戸籍事務において使用していないものの、法務省民事局長通達に定める出生届書等の標準様式には、氏名の「よみかた」欄が設けられているところ、法務省ホームページに掲載されている出生届書の記載例において、「よみかた」欄には、平仮名で記載されている。

 したがって、戸籍の届書の「よみかた」欄には、平仮名で記載されていることが多いと想定されるところ、【甲案】を採用すると、「よみかた」欄の表記と整合する場面が多くなると想定され、届書に記載された「よみかた」をそのまま戸籍に記載することが考えられる。

(2) 【乙案】

【乙案】は、戸籍の記載事項としての表記を片仮名と定めるものである。

 部会では、片仮名表記は、平仮名表記と比較して表音が容易であり、外来語の表記に違和感を覚えにくいという特徴があるとの指摘や、金融機関においては、データ通信量等の観点から、半角カナが用いられているとの指摘があった。

 また、我が国における国際化の進展に伴い、今後も増加することが想定される外国を起源とする名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、片仮名表記の方がなじみやすいとの見方もある。

5 戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲(試案の注)

 現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころとして、現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭和61年内閣訓令第1号)が定められている。「現代仮名遣い」は、平仮名による表記の方法を定めたものであることから、【甲案】を採用する場合には、戸籍に記載することができる平仮名の範囲は、「現代仮名遣い」本文第1に定められた直音、拗音、撥音、促音とすることとし、【乙案】を採用する場合には、戸籍に記載することができる片仮名の範囲は、「現代仮名遣い」本文第1に定められた直音、拗音、撥音、促音を片仮名に変換したものとすることが考えられる。

 また、戸籍先例上、小書き(「ぁ」、「ァ」など)及び長音「ー」なども戸籍に記載することができるとされていることから、これらも範囲に含めることが考えられる。

6 その他

 氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名の者も想定して、規定振りについては、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性に関する審査について、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法には規定を設けず、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による(注1)。

【乙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとする。

【丙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注2)。

氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、次のいずれかとする。

① 国字の音訓又は慣用により表音されるもの

② 国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関連性が認められるものその他法務省令で定めるものを届け出た(申し出た)場合における当該表記

(注1)【甲案】について法令に規定することも考えられる。

(注2)【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。

(補足説明)

1 試案の概要

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査においては、①氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの自体の許容性(氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを単独で見た際の許容性)と、②氏名との関連性(氏名とそれを平仮名(片仮名)で表記したものを照らし合わせた際の許容性)という2つの観点があるものと考えられる。

【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審査することとするものであるが、【甲案】だけでは、②の観点からの審査に支障を来すおそれがあるとの見方もある。

そこで、【乙案】及び【丙案】は、法の一般原則により①の観点から審査するのに加えて、②の観点からの審査基準を明記するものである。

また、【丙案】は、【乙案】を基本としつつ、名乗り訓(名前に特有の訓読み)や部分音訓(漢字の音訓の一部のみを用いた読み)などを想定し、②の観点から許容される範囲を広げるものである。

2 各案の内容

(1) 【甲案】

【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審査することとするものである。

【甲案】の権利濫用の法理における「権利」については、次のように考えることが可能である。試案の第2の1の氏又は名を初めて戸籍に記載される場合のうち、親権者が子に命名する場面においては、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについての命名権が考えられる。

【甲案】の公序良俗の法理による審査については、商標の例が参考となる。商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号において、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として、特許庁ウェブサイトにおいて、「商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。」と掲載されている。

上記の例によれば、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについても、それ自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるようなものである場合には、許容されないこととなるものと考えられる。

特許庁ウェブサイト商標審査基準

六 第4条第1項第7号(公序良俗違反)

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/index.html

(2) 【乙案】

旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては、旅券に記載されるローマ字表記の氏名について、「法第6条第1項第2号の氏名は、戸籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては、法律上の氏及び親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによる。ただし、申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申し出た場合にあっては、公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認され、かつ外務大臣又は領事官が特に必要であると認めるときはこの限りではない。」と規定されている。

旅券法施行規則(平成元年外務省令第十一号)

(旅券の記載事項)第五条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=401M50000020011

【乙案】は、これを参考として、氏名との関連性の観点による審査基準について、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとするものである。

(3) 【丙案】

【丙案】は、【乙案】を基本としつつ、氏名との関連性の観点から、名乗り訓や部分音訓などが含まれることを明確にしようとするものであり、国字の音訓又は慣用によらない場合についても一定の範囲で許容できる場合を規定するものである。

部会では、「字義との関連性」について、字義との関連性の有無の判断には困難を伴うとの意見があったことなどを踏まえ、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関連性が認められるもののほか、法務省令で定めるものにつき、「届出(申出)」を要件として許容することとしている。

【丙案】の「法務省令で定めるもの」としては、既に戸籍に記載されている者については、旅券やその他の公簿等に氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこれらを元にしたローマ字が登録され公証されている場合などが考えられる。また、名乗り訓や部分音訓によるものが考えられる。

3 各案の問題

(1) 【甲案】の問題

 【甲案】については、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの自体の許容性の観点から審査することは可能であるが、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による審査である以上、氏名との関連性の観点から審査することは困難であるとも考えられ、審査に支障を来すおそれがあるとの見方もある。

 他方で、部会では、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則による場合であっても、氏名との関連性の観点からの審査も可能ではないかとの意見があった。

 この点、例えば、「鈴木」という氏について、それを平仮名(片仮名)で表記したものを「さとう(サトウ)」とするものなど、相手方に、当該氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが常に誤記されたものと受け取られるものについては、【甲案】の規律の下でも、氏名との関連性が乏しく、広く誤解を招くなどの弊害を生ずるとの観点から、これを排除することができるか否かについて、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

(2)【乙案】の問題

 【乙案】に関しては、①慣用については、その範囲や判断基準を明確に定めることは困難である、また、②氏にあっては、慣用にない氏を平仮名(片仮名)で表記したものや字義と一致しない氏を平仮名(片仮名)で表記したものが実際上使用されている、③名にあっては、命名文化として、最初に誰かが名を平仮名(片仮名)で表記したものとして考えた漢字の読みが広まって一般的な名乗り訓となるところ、仮に新たな名乗り訓となり得るものが認められないことになると、これまでの命名文化・習慣が継承されないこととなるなどの指摘があった。

 また、【乙案】における「国字の音訓若しくは慣用による表音」及び「字義との関連性」は、氏名が漢字で表記されていることを前提としているものとも考えられ、氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名の者も想定して、規定振りについては、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

 なお、部会では、漢字の中には、反訓読みといわれる反対の意味の読みが存在するものがあるとの指摘があったところ、反訓読みによるものについては、混乱が生じることを防止するため、これを認めるべきでないとの意見があった一方で、反訓読みは中国の訓詁学の中で育まれてきたものであり、その一部は漢和辞典にも掲載されているとの指摘があった。

(3) 【甲案】を法令に規定する場合の問題(試案の注1)

試案の(注1)のとおり、【甲案】については法令に規定することも考えられる。

東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)において、「市町村長の命名についての審査権も形式的審査の範囲にとどまり、その形式のほか内容にも及び、実質的判断までも許容するものとは解されないが、例外的には、親権(命名権)の濫用に亙るような場合や社会通念上明らかに名として不適当と見られるとき、一般の常識から著しく逸脱しているとき、または、名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には、戸籍事務管掌者(当該市町村長)においてその審査権を発動し、ときには名前の受理を拒否することも許されると解される。」とされたとおり、名を初めて戸籍に記載する場合には、戸籍窓口において、許容性について法の一般原則による審査が行われているものの、現行法上、その審査に関する明文の規定はなく、戸籍法第50条第1項において、「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。」と規定されているに過ぎない。そこで、【甲案】を法令に規定する場合には、氏名についても同様に、その審査に関する明文の規定を設けることが考えられるものの、慎重な検討が必要であると考えられる。

(4) 【乙案】及び【丙案】における「慣用」(試案の注2)

 試案の(注2)のとおり、【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。具体的には、次のような考え方のいずれかが満たされていれば「慣用」があると解することが考えられる。すなわち、①不特定多数人において、氏又は名から当該氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを判読することが可能であること、②名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、多数人において当該名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されていることなどが考えられる。

4 その他

 部会では、氏名及び氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが個人の権利・利益と密接に関わるものであることは明らかであるが、その一方で、氏名は、社会において個人を識別する機能を有するものであり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものもまた、同様の機能を有するものであることから、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを定めるに当たっては、社会的な混乱を防止するため、一定の制約を受けると考えられるとの意見があった。

 また、字義との関連性などを戸籍窓口において審査することは困難であり、抽象的な規律とせざるを得ないとの意見や、戸籍窓口における混乱を防止するため、これまでの「よみかた」については審査をしないという取扱いを大幅に変更するのは相当でなく、一般的抽象的な規律を設け、個別に判断することとするのが適切であるとの意見があった。

 さらに、戸籍窓口の事務への影響や不受理件数の増大、ひいては家庭裁判所の実務への影響も懸念されるとの意見や、戸籍窓口や家庭裁判所において、どのような要件をどのようなスタンスで審理・判断することになるのかについて、議論を尽くすことが重要だとの意見、特に、【甲案】における権利濫用や公序良俗等の概念は抽象的なので、具体的基準として機能するよう、具体的に議論を尽くすべきであるとの意見もあった。

 これらの意見を踏まえると、戸籍窓口である市区町村に対し、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査に関する明確な資料を示す必要があるものと考えられ、また、家庭裁判所から市区町村に対し、当該審査の運用状況に関する調査嘱託等がなされた場合には、上記資料を提供することなどの手続的な手当についても、検討する必要があるものと考えられる。

第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項

1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集

 戸籍法第13条第1号に定める氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係るものについては、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書(出生、国籍取得、帰化、氏の変更、名の変更、就籍の届書等)の記載事項とし、これを戸籍に記載することとする(注)。

(注)例えば、「届出事件の本人の氏又は名を初めて戸籍に記載するときは、届書にその氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載しなければならない。」というような規定を戸籍法に設けることが考えられる。

(補足説明)

 戸籍の記載は、届出、報告、申請、請求若しくは嘱託、証書若しくは航海日誌の謄本又は裁判によってするとされているところ(戸籍法第15条)、実情として、届出による記載がほとんどである。

 そこで、試案のとおり、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書の記載事項とすることにより、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集することを提案している。

2 既に戸籍に記載されている者に係る収集

 既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者は、一定期間内に本籍地の市区町村長(注1)に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出をしなければならないものとし、一定期間内に当該申出があった場合には、当該市区町村長が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする(注2)(注3)。

 一定期間内に当該申出がない場合には、本籍地の市区町村長が国字の音訓又は慣用その他法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとする。

(注1)ここでは当該戸籍を管掌する本籍地の市区町村長を想定しているが、所在地の市区町村長を加えることも考えられる。

(注2)申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが第1の2により許容されるものでないとして戸籍に記載されなかった場合、その不服申立てについては、戸籍法第122条の規定を準用するものとすることが考えられる。

(注3)市区町村長の職権による戸籍への記載を促すものとしての「申出」ではなく、戸籍法上の「届出」と整理した上で、届出義務を課し、正当な理由なく期間内に届出がない場合には、過料の制裁を科す(戸籍法第137条参照)方法も考えられる。

(補足説明)

1 試案の概要

 既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集方法として、試案の(注3)のとおり、戸籍法上の「届出」と整理した上で、戸籍に記載されている者に届出義務を課すことにより、自ら届出をすることとし、法定の期間内に届出がない場合には本籍地の市区町村長が職権で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載することも考えられるが、部会では、このような整理の下では、法定の期間内に届出がされなかった場合に過料の対象となることを理由として、否定的な意見が多数であった。

 他方で、短期間にできるだけ多くの氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集するためには、過料の対象とならない市区町村長の職権による戸籍への記載を促すものとしての申出事項と整理しつつ、申出をしなければならないこととすべきであるとの意見もあった。

 以上の意見も踏まえ、効果的かつ国民にとって過度の負担にならない方法により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集することを目指し、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、職権での記載を促す申出事項と整理した上で、一定期間内に申出を容易にする方策を講じ、当該期間内に申出がない場合には本籍地の市区町村長が職権で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載する案を提示している。

 なお、氏名を平仮名又は片仮名で表記したものが試案第1の2により許容されるものでないとして戸籍に記載されなかった場合、その不服申立てについては、戸籍法第122条の規定を準用し、家庭裁判所に不服の申立てをすることができるとすることが考えられる((注2)参照)。

2 試案の内容

 試案は、戸籍に記載されている者に対し、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについての申出(職権記載の申出)の義務を課した上で、一定期間内に申出があった場合には、本籍地の市区町村長(なお、試案の(注1)のとおり、所在地の市区町村長を加えることも考えられる。)が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載することとし、他方、当該期間内に当該申出がない場合には、本籍地の市区町村長が法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとするものである。なお、職権記載の申出に義務を課すことについては、法制上、そのような仕組みとすることが可能かどうか、引き続き検討する必要があるものと考えられる。

 現在の運用として、例えば、出生や死亡があった場合、戸籍法に規定された届出人がいる場合には、届出人により出生や死亡の届出がされることになるところ、届出人がいない場合や既に亡くなっている場合であって、届出人以外の者から出生証明書や死亡診断書等の確実な資料が提出された場合には、職権記載の申出として取り扱い、本籍地の市区町村長は、戸籍法第24条第2項により出生事項や死亡事項を戸籍に記載することとなる。

 このようにして戸籍に記載する端緒となる職権記載の申出自体については特段の根拠規定がないものの、職権記載申出の義務を課すこととするのであれば、試案の第1文前半については、法令に規定する必要があり、第2文については、法令に規定する方法又は法令に規定しない方法が考えられる。

 試案の第2文を法令に規定しない方法については、以下のとおり整理することが可能である。すなわち、試案の第1の1により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが戸籍の記載事項として法令に規定されている以上、戸籍法第24条第1項の「戸籍の記載に遺漏がある」状態と評価することができ、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、試案の第1の2において【乙案】を採用する場合には、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものであり、【丙案】を採用する場合には、申出がない限り、国字の音訓又は慣用により表音されるものであることから、本籍地の市区町村長は、同条第2項の戸籍訂正により、戸籍の氏名の記載を元にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載することができると考えられる。

 なお、試案の第2文により、本籍地の市区町村長が職権により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載した場合には、戸籍法施行規則第47条の2に基づき、届出人又は届出事件の本人に戸籍訂正した旨を連絡することが考えられる。

3 申出期間

 試案の規律によると、一定期間内に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出がされなかった場合、申出義務違反の状態になるため、当該期間が適切なものとなるよう検討する必要がある。当該期間について、法の施行日から長期間とすることは相当でないものの、具体的な期間については、収集方法を踏まえて引き続き検討することとされた。

4 申出を容易にする方策

 申出期間内に多くの申出がされるよう、効果的な収集方法を検討する必要があり、いわゆるプッシュ型の取組も効果的であると考えられるところ、申出を容易にする方策の一つとして、本籍地の市区町村や住所地の市区町村が氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの若しくはこれに準ずる情報を保有している場合には当該情報又は氏名に係る国字の音訓若しくは慣用により表音されるところにより、申出人となるべき者に戸籍に記載する氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、まず通知をすることが考えられる。

5 職権記載に当たっての指針

 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、試案の第1の2において【乙案】を採用する場合には、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性が認められるものであり、【丙案】を採用する場合には、申出がない限り、国字の音訓又は慣用により表音されるものであることから、本籍地の市区町村長は、戸籍法第24条第2項の戸籍訂正により、戸籍の氏名の記載を元にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載することができるが、氏名を平仮名(片仮名)で表記されるものが複数想定されることも考えられる。そこで、【甲案】はもとより、【乙案】・【丙案】のいずれを採用する場合であっても、本籍地の市区町村長が氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載するに当たっての指針となるべきものを定める必要があると考えられる。

 また、本籍地の市区町村長による職権記載に当たり、本籍地の市区町村や住所地の市区町村が氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこれに準ずる情報を保有しており、当該情報を参照することが可能な場合には、「その他法務省令で定める方法」として法務省令に規定することが考えられる。もっとも、本籍地の市区町村と居住する市区町村が異なる者も存在することから、住所地の市区町村が保有する氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこれに準ずる情報を参照することが困難な場合についても想定する必要がある。そのような場合には、試案の第1の2においていずれの案を採用するかにかかわらず、本籍地の市区町村長が氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載するに当たっての指針となるべきものを定める必要があると考えられる。

 なお、氏を平仮名(片仮名)で表記したものについて、夫婦間で認識が異なる場合も想定されるところ、本籍地の市区町村長において、実際に使用されているものがいずれであるか判断することができない場合には、戸籍に記載しないこととすることが考えられるが、具体的な運用方法については、引き続き検討する必要がある。

6 申出期間の経過により職権記載した後の職権訂正の申出

 試案の第2文により、本籍地の市区町村長が職権により氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載した場合において、実際の氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが戸籍に記載されたものと異なるときは、当該記載に係る者は、次の3つの方法のいずれかをとることが考えられる。

 1つ目に、本籍地の市区町村長に職権訂正の申出をすることが考えられ、この場合には、戸籍法第24条第2項の規定により、本籍地の市区町村長は管轄法務局長等の許可を得て、職権で当該申出による氏名を平仮名(片仮名)で表記したものに戸籍訂正することができるとすることが考えられる(管轄法務局長等の許可を得た戸籍訂正)。なお、管轄法務局長等の許可は、包括的に承認しておくことが考えられる。

 2つ目に、利用される場面は多くないと想定されるものの、戸籍法第113条の「その記載に錯誤があること」に該当するとして、家庭裁判所の許可を得た上で、戸籍訂正を申請することも当然可能である(家庭裁判所の許可を得た戸籍訂正)。

 また、3つ目に、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更手続によることも可能であると考えられる。

 この点、部会では、本籍地の市区町村長が職権により戸籍に記載した氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、戸籍に記載されている者等の申出によるものとは異なり、職権による記載であることが分かる形(戸籍記載例を区別する方法)で管理し、その変更については、試案の第3の1の規律の例外と位置付けるという方法も考えられるとの意見があった。

第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項

1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律

氏又は名の変更に伴わない場合の規律は、次のいずれかの案によるものとする。

【甲案】戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注1)。

① やむを得ない事由【正当な事由】(注2)によって氏を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

② 正当な事由によって名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

【乙案】【甲案】に加え、戸籍法に次のような内容の規律を設けるものとする(注3)。

氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者は、成年に達した時から1年以内に届け出る場合その他法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

(注1)成年に達した者が自ら氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを届け出た(申し出た)後、これを変更しようとする場合には、その変更の許否はより厳しく審査されるべきものとすることも考えられる。

(注2)変更の要件について、氏の変更(戸籍法第107条第1項)よりも緩和することとし、「やむを得ない事由」に代えて「正当な事由」とする案も考えられる。

(注3)【乙案】による変更は、一度に限ることとする。

(補足説明)

1 試案の概要

試案は、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更に関する規律である。

 【甲案】は、氏又は名の変更(戸籍法第107条又は第107条の2)と同様に、家庭裁判所の許可を得た上で、届け出ることとするものであり、【乙案】は、【甲案】を前提としつつ、法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができるとするものである。

 部会では、家庭裁判所の許可を不要とすれば、戸籍窓口において変更の要件を審査することとなることを考えると、家庭裁判所の許可を要することとせざるを得ないとの意見を始めとして、家庭裁判所の許可を要することとすべきとの意見が複数あった。また、氏又は名の変更手続(戸籍法第107条又は第107条の2)と異なるものとすると混乱が生じることが懸念されることから、氏又は名の変更手続と同様の規律にすべきであるとの意見があった。

 他方で、家庭裁判所の許可を得るために申立てをすることは、一般的に敷居が高いと感じられることから、名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、幼少の頃から戸籍の記載とは異なるものを使用していたような場合には、家庭判所の許可を不要とすることも考えられるのではないかとの意見や、氏を平仮名(片仮名)で表記したものについて、成年に達したことを契機として、家庭裁判所の許可を得ずに変更を認めることも考えられるのではないかとの意見があった。

 こうした意見を踏まえ、【乙案】のとおり、成年に達した時から1年以内に届け出る場合など、法務省令で定める一定の場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができることとする案を提案している。

2 各案における変更の要件

(1) 【甲案】

ア 【甲案】は、氏又は名の変更(戸籍法第107条又は第107条の2)と同様に、家庭裁判所の許可を得た上で、届け出ることとするものである。

【甲案】を採用する場合、その要件については、氏の変更(戸籍法第107条第1項)と同様に、「やむを得ない事由」とすることが考えられる一方で、これを緩和すべきとの意見もあることから、緩和した要件をブラケットを付して記載している。

イ 【甲案】を採用した場合において変更が想定される場面については、現在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。

 氏の変更については、戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人である父又は母の称している氏に変更しようとするものなどの要件あり)等に規定されており、同条第1項において、「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」とされている。

 このやむを得ない事由に該当する事例としては、著しく珍奇なもの、甚だしく難解難読のものなど、本人や社会一般に著しい不利不便を生じている場合はこれに当たるであろうし、その他その氏の継続を強制することが、社会観念上甚だしく不当と認めるものなども、これを認めてよいと考えられている(青木義人=大森政輔全訂戸籍法439頁)。

 また、やむを得ない事由に関して、婚姻により夫の氏になったものの、その後離婚し、婚氏続称の届出をして、離婚後15年以上婚氏を称してきた女性が、婚姻前の氏に変更することの許可を申し立てた事案において、婚氏が社会的に定着していることを認定しつつ、①離婚時に幼少だった子が既に成人し、申立人の氏の変更許可を求めることに同意していること、②申立人は、同居の実両親とともに、9年にわたり、婚姻前の氏を含む屋号で近所付き合いをしてきたこと等の諸事情を考慮して、やむを得ない事由があると認められると判断し、申立てを却下した原審判を変更して、氏の変更を許可した事例(東京高裁平成26年10月2日決定(判例時報2278号66頁))もある。

ウ 戸籍法第107条の2に規定する名の変更については、正当な事由があ

る場合に家庭裁判所の許可を得て、届け出ることができるとされている。

 この正当な事由の有無は一概に言い得ないが、営業上の目的から襲名の必要があること、同姓同名の者があって社会生活上支障があること、神官僧侶となり、又はこれをやめるため改名の必要があること、珍奇な名、異性と紛らわしい名、外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上の支障があること、帰化した者で日本風の名に改める必要があること等はこれに該当するであろうが、もとよりこれのみに限定するものではないと考えられており、また、戸籍上の名でないものを永年通名として使用していた場合に、その通名に改めることについては、個々の事案ごとに事情が異なるので、必ずしも取扱いは一定していないが、相当な事由があるものとして許可される場合が少なくないとされている(前掲全訂戸籍法442頁)。

 また、性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が、男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において、正当な事由があると認められると判断し、原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

さらに、名の変更については、出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効であることを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。

エ  以上の例と氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの特性に鑑みれば、氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、著しく珍奇なもの、甚だしく難解なもの、永年使用しているものによるものなどを理由とした場合が、名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、珍奇なもの、難解なもの、永年使用しているもの、いわゆる性自認と一致しないものなどを理由とした場合などが考えられる。

 さらに、これらの届出のうち、実際に氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更の届出が想定される場面は、極めて限定されるが、例えば、氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、①濁点の有無や音訓の読みが変化したものを永年使用していることのほか、②本人以外が届け出たものについて、著しく珍奇なもの又は甚だしく難解なものなどが考えられる。また、名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、同様に、①濁点の有無や音訓の読みが変化したものを永年使用していることのほか、②本人以外が届け出たものについて、珍奇なもの又は難解なもの、③いわゆる性自認と一致しないものなどが考えられる。

(2) 【乙案】

 【乙案】は、【甲案】を前提としつつ、法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができるとするものであり、届出のみによる場合には、戸籍窓口において氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性を審査することとなる。なお、民法第791条第4項において、子の氏の変更につき、「前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。」と規定されていることから、これを参考としているが、部会では、民法第791条第4項に規定する子の氏の変更の場合には、復する氏が従前の氏に制限されているところ、【乙案】においてはそのような制限がないことを考慮する必要があるとの意見があった。

 また、部会では、氏名は、社会において個人を識別する機能を有するものであり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものもまた、同様の機能を有するものであるとの指摘があり、こうした観点から、家庭裁判所による審査を経ることなく、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更を認めることには否定的であるとの意見が複数あった。

 【乙案】の「法務省令で定める場合」としては、(補足説明)2(1)エの届出が想定される場面、具体的には、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条第1項の規定による性別の取扱いの変更の審判を受けたときなどを法務省令に規定することが考えられる。

3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更における届出人

 戸籍法第107条第1項において、氏の変更の届出人は、「戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者」とされていることから、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更においても、これと同様にしている(【甲案】①)。

 なお、筆頭者及びその配偶者以外の者が戸籍法第107条第1項による氏の変更の届出をすることは許されず、筆頭者及びその配偶者以外の同籍者については、分籍の上、氏の変更の届出をする必要があるとされていることから、これと同様の取扱いとすることが考えられる。

4 その他

 部会では、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更については、自分自身が手続に参加する形で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが登録された場合には、その変更はより慎重であるべきであるとの意見があった。

 この点、【甲案】については、変更の要件を、やむを得ない事由又は正当な事由よりも厳しくすることが考えられるのではないかとの意見があったほか、自分自身が手続に参加する形で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが登録されたという事実を、家庭裁判所におけるやむを得ない事由又は正当な事由に関する審査の際に、一つの事情として考慮することも考えられる。

2 氏又は名の変更に伴う場合の規律

戸籍法第107条第1項又は第107条の2の規定により氏又は名を変更しようとするときは、その平仮名(片仮名)で表記したものとともに、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならないこととする。

(補足説明)

1 試案の概要

 試案は、氏又は名の変更に伴う氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する規律であり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについても、氏名とともに家庭裁判所の許可を要することとするものである。

 なお、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、家庭裁判所の許可を不要とし、氏又は名の変更の許可を得た後、氏又は名の変更の届出時にこれらを平仮名(片仮名)で表記したものの届出をすれば足りるとすることも考えられる。この場合には、戸籍窓口において、第1の2により氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏又は名との関連性が審査され、相当でないものであれば、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの届出は受理されないこととなる。

 この点、部会では、戸籍窓口において、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの届出が受理されない場合には、再度、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更について、家庭裁判所の許可を得る必要があることなどを理由に、氏又は名とこれらを平仮名(片仮名)で表記したものについて、併せて家庭裁判所の許可を得ることとするのが相当であるとされた。

2 試案の内容

 試案の規律によると、氏名とともにこれらを平仮名(片仮名)で表記したものについても家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出る必要があり、家庭裁判所において、第1の2により氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性が審査される。

 この場合、家庭裁判所において、①氏又は名について、やむを得ない事由又は正当な事由が認められるものの、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、第1の2により相当でないものと認定された場合には、氏又は名の変更を含めて、変更の許可がされず、申立てが却下されることになるものと考えられる。

 また、②氏又は名について、やむを得ない事由又は正当な事由が認められない場合には、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについての許容性を判断するまでもなく、変更の許可がされず、申立てが却下されることになるものと考えられる。

 なお、部会では、家庭裁判所において、字義との関連性を審査することは困難であることから、家庭裁判所から市区町村に対し、当該審査の運用状況に関する調査嘱託等がなされた場合には、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査に関する資料を提供することなどの手続的な手当についても、検討する必要があるとの意見があった。

3 氏又は名を変更し氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しない場合

 部会では、氏又は名を変更しつつ、これらを平仮名(片仮名)で表記したものを変更しないとするニーズもあるのではないかとの意見があった。

 この場合、試案の規律によれば、氏又は名の変更と併せて、従前の氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、家庭裁判所の許可を得て届け出ることとなるところ、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しない場合であっても、家庭裁判所の許可を必要とする理由について整理する必要があるが、氏又は名を変更する場合には、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものもそれに伴うものであるから、結果として同じ読み方(読み仮名)であっても、潜在的には変更を伴うものであり、許容性及び氏名との関連性を審査するものと考えられる。

加工トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ報告書案

https://www.digital.go.jp/councils/0567fe93-b7d8-4c25-8a6c-46312c687f88/

令和4年(2022年)○月○○日

目 次

要約 ………………………………………. 1

1.背景 …………………………………….. 5

2.議論の範囲 ……………………………….. 7

2.1 トラストサービスが担保する範囲 7

2.2 トラストサービスの定義 8

2.3 トラストに関する関係者の整理 9

2.4 トラストの集中検討分野 10

3.トラスト確保のニーズ及び課題の洗い出し ……… 11

3.1 トラスト確保の実態調査 11

3.2 行政手続等のデジタル化の実態分析 13

3.3 海外の先行事例研究 14

3.4 有識者ヒアリング 16

4.トラストの確保のための検討 ………………… 24

4.1Identification のアシュアランスレベルの整理 24

4.2 トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討 27

4.3 行政でのトラストサービス活用推進 30

4.4 民間でのトラストサービス活用推進 33

4.5 トラストポリシーの基本方針 36

5.今後の取組 ………………………………. 38

5.1 行政のデジタル完結の推進 38

5.2 多様な主体を巻き込んだ検討の場の創設 38

5.3 e シールに関する制度整備 38

5.4 国際的に調和の取れたルール形成の推進 39

5.5 推進体制 39

6.まとめ ………………………………….. 41

構成員・オブザーバー ……………………….. 42

付録

A. 有識者からの発表資料(資料1―資料18)

B. トラストサービスに関するアンケート実態調査の報告

C. アシュアランスレベルにおける諸外国の先行事例

要約

「トラストを確保したDX 推進サブワーキンググループ」は、「データ戦略推進ワーキンググループの開催について」(令和3年9月6日デジタル社会推進会議議長決定)第4項の規定に基づき、トラストを確保したデジタルトランスフォーメーションの具体的な推進方策を検討するため、令和3 年10 月25 日、データ戦略推進ワーキンググループの下に設置された。本サブワーキンググループでは、検討を実態調査や有識者へのヒアリングを通じたトラストニーズ及び導入課題の洗い出し、実態調査を踏まえたトラスト確保のための検討、今後のトラスト実装ユースケース及び推進体制の3つの柱に分け、計11 回にかけて行った。本報告書は、本サブワーキンググループの検討結果、構成員及びオブザーバーからの主要な意見、今後の方向性をまとめたものである。

I.トラストニーズ及び導入課題の洗い出し

議論の範囲

DFFT で必要とされる「トラスト」概念については、今後さらなる明確化が必要である。「トラストサービス」が担保する範囲については、紙の持つ真正性・非改ざん性を対象としたトラストをデジタルでも担保することから取組を始める。

トラストに関わる主要なステークホルダーやステークホルダー相互の関係性を全体像として整理した。

トラスト確保の集中検討分野として、まずは、「行政機関」が関わる手続・取引において、「行政機関」から主体的にトラストサービスの活用を推進していく。行政からのトラストサービス活用推進にあたっては、特に、日本企業の大部分の割合を占める中小企業のトラストサービス活用が進むよう工夫することが重要である。また、民間における取引・手続もDX における重要な領域であることから、民間における電子的な取引・手続についても同時に検討する必要がある。

トラスト確保の実態調査

トラストサービスのニーズがある分野について調査をした結果、主に「行政」、「金融・保険」、「情報通信」「不動産」、「医療・福祉」、「運輸・郵便」の業種/分野のユースケースでのトラストサービスに対するニーズが確認された。

トラストサービスの導入課題としては、トラストサービスの認知度不足や企業間でのトラストサービス導入の足並みを揃えることの難しさの他に、事業者/サービス選定の難しさ「どのトラストサービス事業者を使えば適切かわからない」等)も挙げられた。

海外の先行事例として、エストニアの電子処方箋における、情報のやり取りや本人認証でのeID やトラストサービスの活用について考察し、日本での適用における課題について検討を行った。

「行政手続等の棚卸調査」(内閣官房(IT 室))をベースに、行政が関わる手続について、デジタル化の実態分析を行った。各府省の手続において、民間から行政への申請等ではデジタル化が進展しているが、それ以外の、主に行政から民間への処分通知/交付等では、その進展が限定的であること等がわかった。

有識者ヒアリング

トラストサービスに関わる現場でのニーズ、活用事例、社内外への導入・浸透課題等について、「監査」、「税務関連」、「金融」、「トラストサービス提供事業者」の有識者からインプットを受けた。

トラストサービスにおける政策及び法的課題として、「e シールの検討状況」、「電子契約の証拠力」について有識者よりインプットを受けるとともに、今後の改善や検討の方向性について議論を行った。

II 実態調査を踏まえたトラストサービスの検討

アシュアランスレベルの整理.

実態調査の結果から、トラストサービスの普及のためには、リスクと利便性を考慮した適切なサービスの選択やデジタルでの手続においてアナログとは異なる問題に対処する必要があることから、Identification のアシュアランスレベルの整理、トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討を行った。

行政手続へのトラストサービス活用推進. デジタル臨時行政調査会にてデジタル原則が整理され、デジタル原則の「デジタル完結」の推進において、「公的な証明書・講習・閲覧に対面書面を求める規制」等の見直しが検討されている。

規制見直しにあたっては、トラストサービスの活用が有効なことから、積極的にトラストサービスを活用していくべきである。

民間でのトラストサービス活用推進. 民間でのオンライン契約・手続等について、多様な意見を取り入れるため、マルチステークホルダーモデルで議論すべきである。マルチステークホルダーモデルの運営においては、特定の利害関係者に議論が引きずられることのない公平な議論の仕組み、ステークホルダーへの議論の参加を促す仕組み、効率的な運営の確保が必要である。また、eシールについては、民間サービスへの普及を促進するため、制度化についても検討を深めるべきである。

トラストポリシーの基本方針の整理:本サブワーキンググループでは、行政を含めたマルチステークホルダーの関係者がトラストに係る政策を検討するにあたり、考え方の指針とするため、構造改革のための「デジタル原則」に沿う形でのトラストポリシーの基本方針(国際通用性、技術中立性等)を整理した。

III.トラスト実装に向けた今後の取組

行政のデジタル完結の推進:公的な証明書に用いるトラストサービスの技術基準や活用方策について、行政が中心となって検討し、デジタル臨時行政調査会の規制見直しの集中改革期間である令和7年(2025 年度)6月までを目途にインプットを行う。あわせて、茨城県からの民間認証局の発行する職責電子証明書による電子署名活用の要望も踏まえ、署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備や国際標準規格への対応など技術基準の継続的な最新化等、公的機関が運営するトラストサービスのあり方についても検討が必要である。さらに、行政機関がトラストサービスを活用し、より円滑に処分通知等の文書発出をオンラインで行うことが可能となるよう検討を進める。

多様な主体を巻き込んだ検討の場の創設:まずは、民間同士の取引・手続に関係するトピックスとして、多様な関係者が参加しつつ、「民間オンライン取引・手続に係る課題の検討」、「電子署名法のリモート署名・e シールへの対応と技術基準の最新化検討」、「経済界からのニーズにおけるユースケースごとのガイドライン」等を検討すべきである。e シールについては、民間サービスへの普及を促進するため、制度化についても検討を進める。

国際的なルール形成への関与:Identification のアシュアランスレベルについては、デジタル庁技術検討会にインプットし、行政手続の本人確認の議論に活用すべきである。民間での本人確認レベルに関する整備は、マルチステークホルダーモデルの中で、DADC の検討結果も踏まえて検討を継続すべきである。分散型アイデンティティや自己主権型アイデンティティ(Self-SovereignIdentity: SSI)がプラットフォームに依拠しない形で自身のコントロールの下で属性を開示する手法として世界的に注目されている動向を踏まえ、国際通用性を持ったDigital Identity Wallet についても継続的に検討を行うべきである。 さらに、国際的に相互運用性が求められるトラストサービスの市場ニーズの深掘りを行うとともに、諸外国における「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」の検討動向等も踏まえつつ、「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」について、引き続き今後の検討課題とする。

これらの検討課題を進めるにあたり、令和5年(2023 年)のG7 での打ち出しを目指して、DFFT の推進に向けたトラストの概念の明確化を行うとともに、トラストポリシーの検討を続ける。

1.背景

我が国は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会として、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」としてSociety 5.0 を目指している1。また、デジタル化によるプライバシーやセキュリティの課題が顕在化する中、我が国は、令和元年(2019 年)に、国境を越えた自由なデータ流通を促進するため、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」の概念を提唱した。

上記のようなビジョンを掲げていたものの、我が国では、新型コロナウイルス感染症対応において、行政におけるデータの生成・流通・活用におけるデジタル基盤の整備が不十分であることが明らかになった。そこで、令和3年(2021 年)9月、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指してデジタル庁が設立された2。デジタル庁の目指す社会の実現にあたり、デジタルを前提としていない規制・制度の見直しなどの構造改革を行うことを目的として、令和3年(2021 年)11 月、内閣総理大臣を会長とする「デジタル臨時行政調査会」が創設され、デジタル原則に基づいて、政府の規制・行政の一体的なデジタル化が進められることになった3。

トラスト枠組みの整備については、令和3年(2021 年)4月、デジタル・ガバメント閣僚会議におけるデータ戦略タスクフォースの下に「トラストに関するワーキングチーム」が設置され、議論が行われてきた。令和3年(2021 年)6月閣議決定された「包括的データ戦略」4においては、Society 5.0 の実現やDFFT の推進を目的として、データ利活用の基盤となるトラスト基盤の構築に向けた主要な論点の整理が行われ、トラストサービスに対するニーズを分析した上で検討の順を明確にするべきとされた。このような状況を背景に、デジタル庁においては、「包括的データ戦略」の実装に向けて、トラストを確保したデジタルトランスフォーメーションの具体的な推進方策を検討するため、データ戦略推進ワーキンググループの下に、「トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ」が設置された。

トラスト基盤構築における個別の取組に目を向けると、令和3年(2021 年)4月には、「時刻認証業務の認定に関する規程」(令和3年総務省告示第146 号)が制定され、タイムスタンプの国による認定制度が新たに創設された。諸外国との関係では、令和4年(2022 年)5月12 日には、日EU 定期首脳協議において、日EU でのデジタルパートナーシップが立ち上げられ、トラストサービスの相互運用性に向けたパイロットプロジェクトの取組の継続、デジタル・新型コロナ・証明(Digital COVIDCertificates)の同等性決定5に向けた取組、Digital Identity Wallet に関する継続的な情報交換がとりまとめられるなど、トラストに関わる日本と各国との相互連携は重要性を増している。

本サブワーキンググループでは、「包括的データ戦略」の実装に向けて、実態調査や有識者ヒアリングを通じたトラストサービスのニーズ及び導入課題の洗い出し、実態調査を踏まえたトラストの確保のための検討、今後のトラスト実装のユースケース及び推進体制の整理を行った。本報告書は、本サブワーキンググループでの議論の結果及び今後の検討の方向性をまとめたものである。

2.議論の範囲

2.1 トラストサービスが担保する範囲

「トラスト」は、Data Free Flow with Trust(DFFT)の“Trust”部分を構成しており、データがもたらす価値を最大限引き出すために不可欠な要素となっている。「トラスト」は今日様々な場面で使われており、文脈ごとに意味するものが異なるため一義的に定義することは難しいが、本サブワーキンググループでトラストを確保したデジタルトランスフォーメーションの具体的な推進方策を検討するにあたり、どのような「トラスト」を確保するべきか明確化を図るため、構成員より、トラストの全体像の整理(資料1)、データトラストにかかわる主題とスコープ、課題の整理が試みられた(資料2)。

議論を通じて、Society5.0 を目指す中で、「トラスト」は様々な分野、対象、目的に応じて異なる意味合いを持つ概念であることがわかった。構成員からは、「トラスト」の確保には、従来紙が実現している真正性(作成者,発信元又は存在時刻が記載どおりであること)や非改ざん性のオンラインでの確保のみならず、データの真実性(データの内容が正しいこと、虚偽ではないこと等を含む。)の確保、情報の発信者(ソシキ、ヒト、モノ)の確からしさ、長期にわたる経時的トラスト(longitudinaltrust)の確保も含まれるべきであるという意見が上がった(図1)。一方、現在利用されている又は想定されているトラストサービスは手続面を保証するものであり、データの真実性はベースレジストリが担うべきあることも指摘された。そこで、DFFTの「トラスト」の明確化にはさらなる議論を要するため、本報告書では一義的な定義を行わないことにした。そして、将来的には「トラスト」の範囲を拡大する余地を残しつつ、まずは、フィジカル空間で紙が持つ真正性・非改ざん性をサイバー空間でも担保するトラストサービスのあり方の議論から始めることにした。

(図1)「トラスト」で確保すべきもの

2.2 トラストサービスの定義

「トラストサービス」の定義については、これまで国内外において、報告書や規則において定義付けがされている。例えば、「プラットフォームサービスに関する研究会トラストサービス検討ワーキンググループ最終とりまとめ」においては、トラストサービスを「インターネット上における人・組織・データ等の正当性を確認し、改ざんや送信元のなりすまし等を防止する仕組み」と説明している7。欧州eIDAS 規則においては、以下の通り、具体的なサービスを想定した上でトラストサービスを定義している。

8 eIDAS Article3 Definition(16) ‘trust service’

“an electronic service normally provided for remuneration which consists of:

(a) the creation, verification, and validation of electronic signatures,electronic seals or electronic time stamps, electronic registered delivery services and certificates related to those services, or

(b) the creation, verification and validation of certificates for website authentication; or

(c) the preservation of electronic signatures, seals or certificatesrelatedrelated to those services;”9

((a)電子署名、e シール、タイムスタンプの作成、検証及び有効性確認サービスとe デリバリーサービス、並びにこれらのサービスと関連する証明書(b)Web サイト認証証明書の作成、検証及び有効性確認、又は(c)電子署名、e シール及びこれらのサービスに関連する証明書の保存、から構成される、通常は対価を伴う電子サービス)10

多国間の商取引ルールの調和について議論する国際連合の組織である国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)においては、「トラストサービス」について、「データメッセージの一定の品質の保証を提供する電子サービス」として幅広いサービスが含まれる余地を残しつつ、以下のように定義している。

“Trust service” means an electronic service that provides assurance of certain qualities of a data message and includes the methods for creating and managing electronic signatures, electronic seals, electronic time stamps, website authentication, electronic archiving, and electronic registered delivery services;11

「トラストサービス」とは、データメッセージの一定の品質の保証を提供する電子サービスを意味し、電子署名、e シール、タイムスタンプ、Web サイト認証、電子アーカイブ、およびe デリバリーサービスを作成および管理する方法を含むものである。12

また、ISO/IEC 27099 Information Technology — Public key infrastructure —Practices and policy framework13では、「トラストサービス」について、“electronic service which enhances trust and confidence in electronic transactions”(電子取引に対する信頼と確信を高める電子サービス14)と定義している。

2.3 トラストに関する関係者の整理

トラストに関わる関係者を把握し、政策立案にあたって、どの部分のトラストを確保する議論をしているのか、議論の可視化に資するために、トラストに関わる主要なステークホルダーやステークホルダー同士の関係を全体像として整理した。(図2)

図2では、全体像として、主要なステークホルダーを「行政機関」、「法人」及び「個人」とし、それぞれのステークホルダー間で取り得る手続・取引例について記載した。

また、昨今、法人がプラットフォームを提供し、個人同士がサービスを提供するシェアリングサービスが発生していることから、シェアリングサービスでの手続・取引についても記載した。

2.4 トラストの集中検討分野

トラストに関わる関係者の全体像を整理する中で、構成員より、中小企業15の電子化においては、大企業が中小企業にEDIなどの自社システムを使うよう求める結果、複数のEDI への対応を求められた中小企業は、どのシステムにも対応可能なように業務を紙で行わざるを得なくなることから、トラストの確保においては、中小企業がメインプレイヤーとして捉えられることが重要であるとの意見が挙がった。また、まずは「行政機関」が積極的にトラストサービスの活用を推進していくべきという意見が挙がった。

そこで、本サブワーキンググループでは、まずは、「行政機関」が関わる手続・取引において、真正性を確保した公文書の電子施行の推進など、「行政機関」からの主体的なトラストサービスの活用の推進を集中的な分野として検討する。また、検討にあたっては、トラストサービスの活用を行政が推進するにあたり、特に、日本企業の大部分の割合を占める中小企業に対してトラストサービスが普及されるような工夫を重視する。また、民間における取引・手続もDX における重要な領域であることから、民間における電子的な取引・手続についても同時に検討することとする。

3.トラスト確保のニーズ及び課題の洗い出し

3.1 トラスト確保の実態調査

行政サービス、民間サービス等において、サービス利用者におけるトラスト確保のニーズ及び現状について、企業/個人アンケートによる調査、海外の先行事例の研究等を行った。

トラスト確保のニーズがある分野

実態調査の企業アンケートにおいて、相手先の本人確認や情報の改ざん防止が必要な手続等を調査したところ、主に「行政」、「金融・保険」、「情報通信」、「不動産」、「医療・福祉」、「運輸・郵便」の業種/分野でのユースケースでのトラストサービスへのニーズが確認された (図3) 。

(図3)トラスト確保のニーズが確認された主なユースケース



海外連携が必要なトラストサービスのユースケースとして、業種共通の社外取引(受発注書、契約書、請求書等)や「金融・保険」他の業種固有の手続等が挙げられた(図4)。

(図4)海外連携が必要な手続等

個人手続においては、トラストサービスが有効と考えられる手続等での、デジタル/オンラインでの実施経験率は半分に満たないものが殆どだった。特に、アンケート対象者の1割以上の人が過去1年間に実施した手続き等(国内送金、携帯/スマホの新規契約、健康診断結果の発行及び銀行/証券口座開設)においても、デジタル/オンラインでの実施経験率は半分未満であった(図5)。

(図5)個人手続におけるトラストサービスが有効と考えられるユースケース

トラストサービスの導入課題

企業からのトラストサービスへの課題意識として、トラストサービスの認知度不足や企業間でのトラストサービス導入の足並みを揃えることの難しさの他に、事業者/サービス選定の難しさ(「どのトラストサービス事業者を使えば適切かわからない」等)も挙げられた(図6)。

(図6)トラストサービスへの課題意識(企業全体)

本企業アンケート結果での「普及に向けて考えられる施策例への関心」として、

「電子署名以外のトラストサービスの法的効力(証拠能力)の規定」、「認知・理解促進のための啓発活動」が挙げられた。「1.トラストスコープの議論の範囲」で指摘されたように、中小企業がトラストサービスを使用できることが必要であるところ、構成員より、中小企業が利便性やコスト面を考慮できるような、導入ガイドライン、トラストサービスの低コストでの設計、監査、運用体制が必要だとの意見が挙げられた。

3.2 行政手続等のデジタル化の実態分析

「行政手続等の棚卸調査」(内閣官房(IT 室))をベースに、「行政が直接関わる手続」及び「行政が所掌する民間の手続」等のデジタル化の実態分析を行った。各府省の手続において、民間から行政への申請等ではデジタル化が進展しているが(約7割)、それ以外の、主に行政から民間への処分通知/交付等では、その進展が限定的(約2割未満)であること等がわかった(図7)。

(図7)行政から民間への処分通知/オンライン化の遅滞

主な意見

• 交付文書のデジタル化が極めて低いことは問題である。まずは行政の民間へ

の交付文書のオンライン化比率を大幅に引き上げ、オンラインや電子的なト

ラストを親しみやすくしていくのが重要。行政組織内でのプロセス改革も含

めて急速に進めるべき。

• 民間から行政への申請等ではデジタル化が進展しているとあるが、デジタル

での申請等の使い勝手の面については依然として改善の余地が大きいものが

多々見受けられる。

3.3 海外の先行事例研究

本サブワーキンググループでは、エストニアの電子処方箋におけるデジタルID やトラストサービスの活用について考察し、日本での適用における課題について検討を行った。

エストニアの電子処方箋では、患者はEmail 等で医師に連絡し、医師が電子処方箋を発行し、電子処方箋情報をデータベースに登録する。患者は、薬局にてID カードを用いて本人確認を行う。薬剤師は、データベースにアクセスして電子処方箋のデータを参照し、薬を処方する。デジタルID は、患者の薬局での本人確認、Web 処方履歴閲覧、医師/看護師の識別・資格確認に用いられる。電子処方箋データのやり取りはX-Road を介して行われ、e シール、タイムスタンプ、e デリバリー等のトラストサービスが活用されている。(図8)。

(図8)エストニアの電子処方箋サービス


構成員からの主な意見として、「電子処方箋は、法律で認められているトラストサービスや公的個人認証相当のeID による認証を用いたサービスの実装例である。医療情報という重大な個人情報を扱う点において高いアシュアランスレベルが求められる領域であり、我が国でも目指すべき方向。」と提起されたように、日本での電子処方箋における本人確認やトラストサービスの活用可能性を前向きに捉える意見があった。また、「薬の受取時に本人認証を行うなど、電子処方箋の横流しによる多重の薬の処方がされないような仕組みとするべき。」「処方箋の発行依頼に際して、原則として患者本人の確認を行わないと、誰も受け取れない処方箋を発行することがあり得るのではないか」など、電子処方箋についてトラストを確保して運営する上で考慮すべき点が指摘された。

3.4 有識者ヒアリング

トラスト確保のニーズ及び課題についての有識者発表

トラストサービスに関わる現場でのニーズ、活用事例、社内外への導入・浸透課題等について、「会計監査」、「税務関連」、「金融」、「トラストサービス提供事業者」の有識者からインプットを受けた。以下は、有識者の発表の及び主な意見を、有識者の発表資料等を参考に記載したものである。(詳細は、付録A 有識者の発表資料(資料3~13))

会計監査業務

• トラスト基盤の整備により、デジタル証憑へのアクセスの容易化による業務効率化、不正防止効果、統制の見える化が進む。さらに、異常仕訳検知、データ分析等を活用した継続的監査が可能になるというニーズがある。

データ標準が進んでいないこと及びトラストサービス導入コストに見合った便益を感じる支援策が無いことへの対応、暗号鍵管理の徹底、電子証明書の信頼性の確保、トラストサービス制度の理解向上等の課題がある。

(資料3「企業の業務プロセス変革及び監査業務のDX 化におけるトラストサービスのニーズ、課題について」)

税務関連業務

• 消費税のインボイス制度では、適格請求書のデータ発行が認められているが、電子インボイスが流通するにあたり、デジタルにおいて、紙の請求書に押印した法人の角印のような発出元証明制度(e シール)が必要になってくる。

• 企業の税務関連業務のDX 化において、慣習を変えたくないという企業風土、ワークフローシステム電子化への投資の負担が大きいこと、取引先の協力が得られないこと等が、電子取引普及の阻害要因となっている。

• 特に、中小企業では、システム投資の負担が大きいこと、電子帳簿保存法への対応の煩雑さ等が書面から脱却できない要因となっている。中小企業を含めた全ての事業者の電子化がすすめられ、デジタルトラストが確保されたデジタル社会を構築するには、法令等のさらなる規制緩和、システム導入コストや電子署名等の利用コスト等の低減を十分考慮することが必要である。

(資料4「税務関連業務のDX 化の課題について」)

金融業務

• 銀行において、個人向け口座開設やローン契約等相応の分野で電子化が進展。一方、法人の融資契約や口座開設は、提出書類の原本要求や、アンチマネーロンダリング関連手続があるため電子化の進展が遅い。また、手形取引においては小切手や紙ベースが主体。法人業務のエリアではe シールの活用余地が大きい。

• 銀行業務の対顧客手続へのトラストサービス導入においては、契約書成立の真正の立証負担(法的安定性の確保)、法人取引における正当な権限者による契約手続確保が不十分であること、サービス導入コスト(システム投資負担、ROI)、トラストサービスへの知識不足、セキュリティへの懸念、現状からのスムーズな移行負担等が課題である。(資料5「電子証明書のニーズと課題について」)

融資電子契約サービス

• 電子署名は自然人が対象である一方、証書貸付などの融資取引の契約者は法人であることが導入課題であった。

• そこで、個人が行う電子署名について、法人の意思決定に基づいての行為と紐づけるため、サービス申込書にて、法人が個人を融資契約に係る権限者及び電子契約者として指名する建付とした。また、ID を有効化するための初期暗証番号通知について、営業担当者が通知書を電子契約者に直接手渡すことにより、電子署名の本人性を担保することとした。

• 今後の課題として、ID 有効化のための非対面での初期暗証番号の確実な通知方法の確立及び個別行にとどまらない金融業界全体での電子契約の導入・デジタル化推進による顧客銀行双方の利便性・生産性の向上がある。(資料6「三井住友銀行で展開中の融資電子契約サービスについて」)

融資電子契約サービスについての主な意見

• 契約プロセスで認定認証業務の電子証明書を利用することについての、UX 上の課題はないのか。

• トランザクションの信頼性において電子証明を使っていく際、正当性の担保にあたって、エンドツーエンドでのプロセスフローを分析し、要件を明確にしていくことは重要。

• 国際間取引をする際に、企業内、法人内のトラストチェーン表現の国際的取決めが揃っていることが重要ではないか。

「電子文書への印影表示」の役割

• 多くの人は、捺印文書を見るとオフィシャルな文書であると感じることが生活習慣の中に染みついている。印鑑は、視覚的に本人の意思や書類の完全性が確認されていると信じる効果があると考えており、デジタルでも電子印鑑の活用余地があるのではないか。

• 電子印鑑は、使い慣れたツールであり一定の法的根拠はあるが信頼性(脅威耐性)は希薄。一方、電子署名は信頼性は高いが未だ一般に認知度が高いとは言えない。使い慣れたツールで信頼性が高いという両方のニーズを満たすことで、トラストサービスの普及が促進していく。

• インターフェースについては、取引の中で、印章が社内規定に入り込んでおり、運用自体を変えづらいという側面がある。新たな技術について、社内の制度設計や社内浸透へのコストや労力を省略する手段として、使い慣れたインターフェースは有効。(資料7「電子印鑑の歴史と電子契約におけるその役割について」)

「電子文書への印影表示」についての主な意見

• 印鑑や署名の画像という視覚性だけで信頼させるのは、ミスリーディングになる可能性がある。トラストサービスにおいて、技術的な検証結果を分かりやすくユーザに表示する方法は、アシュアランスレベルとセットで議論する必要がある。日本では、トラストサービスの検証方法がサービス毎で異なっている。EU では、eIDAS 規則においてトラステッドリストという信頼性の基盤、トラストアンカーを整備し、法的に有効なトラストサービスを検証できるサービスを欧州委員会が運用しており、検証のためのライブラリーもオープンソースで開発し、公開16しているように、公的に検証基盤を提供している。

• 認証業務には認定認証業務等、利用者と署名を紐づける信頼性保証の枠組みがある一方で、立会人型電子署名とNFT 印鑑における利用者の信頼性の紐づけはどうなっているのか。トラストサービスの保証レベルにおいて、立会人型電子署名をきちんと位置付ける必要がある。

• 企業内業務プロセスにおいては、電子印鑑の方式も有効なのではないか。

• 実印が「役所に対する信頼」で本人性を証明してくれるという記述については、実際に押印するプロセス、書類を渡すプロセスへの信頼が含まれていると思料するため、この辺りの整理をした方がよい。

• どのようにデジタルの世界での真正性のある書類への認知を受け入れてもらうかを議論することが重要。

トラストサービス提供事業者

グローバルDX ソリューション提供事業者

• 電子署名サービスをグローバルに提供する立場から、EU のeIDAS 規則の改善点として、各国間の個人情報保護、技術基準、相互運用性やセキュリティレベルにおけるハーモナイゼーション、デジタルID ソリューションの普及に向けた課題等を考察した。(資料8「SAP が認識するトラストサービスの現状と課題」)

電子証明書サービス提供事業者

• 電子証明書の利用事例(卒業証明書、帳票関係、車両登録書類、PCR 検査結果報告書)について紹介

(資料9「GlobalSign における電子証明書の利用事例」)

クラウド型電子署名サービス事業者

• 押印が支えた大量・迅速な商取引が、電子署名法の制定によってもデジタル化されなかったのは、同法の上振れしたトラストレベル設定がユーザーニーズに即していなかったことが原因。

• そうした過去の反省を踏まえデジタル原則を実現するためには、 「ちょうどよいトラスト」の選択肢を増やし、その普及をデジタル庁がリードすることが必要。

• すでに国内外のユーザの支持を集めるクラウド型電子署名サービスを、新しいトラスト法制において「スタンダード」と位置付けていただきたい。(資料10「「デジタル原則」を支えるクラウド型電子署名サービス普及促進の必要性)

クラウド型電子署名サービス事業者についての主な意見

• 政府の電子署名法第3条Q&A の中で示されたプロセスの固有性について、クラウド型電子署名では、どういう水準の固有性を確保しようとしているのか。今後IAL、AAL の水準を公表していくことは考えているのか。

• 当事者署名型のユーザの支持が広がっていないという説明の中で、認定認証業務の証明書の発行枚数を根拠として示しているが、当事者署名型には認定認証業務以外の当事者署名型があるので、認定認証業務が普及していないから当事者署名型が普及していないという解釈はミスリードになるのではないか。

• 「グローバル企業ユーザが選択する電子署名方式のシェア(概算)」の円グラフについては、クラウド型電子署名サービス協議会の加入企業が顧客に対して行ったアンケート結果だということを差し引いて考える必要がある。

トラストサービスの制度的課題についての有識者発表

トラストサービスにおける政策及び法的課題として、「e シールの検討状況」、「電子契約の証拠力」について有識者よりインプットを受けるとともに、今後の改善や検討の方向性について議論を行った。

e シールの検討状況

• 総務省が検討したe シールは、組織が発行するものに限定。発行主体と当該文書が改ざんされていないことを確認する仕組み。

• 発行元証明の信頼性担保のための措置の水準について、程度が軽いもので改ざんがされていないことを証明すればよいレベル、誰が出したものか確定的に言えるレベル、より高度の信頼性が担保されるレベルで、e シールをレベル分けしている。信頼性のレベルを分けて、レベルが低いものも阻害しないようにする意図がある。

• e シール用電子証明書の発行対象を特定するための識別子については、後に融通性が狭まることが無いよう、組織、個人、データ等の既存のID・番号も含めて包括的に表現可能な方式(OID:Object Identifier)を軸として今後検討すべき。

• e シールにおける認証局側の設備であるHSM については、現行のFIPS140-2 レベル3又はISO/IEC15408 のEAL4+を採用するべきだが、電子署名法の基準ではFIPS 140-1 を参照したままになっており、標準の現行化に対応したアップデートする仕組みを設けるべき。

(資料11「e シール政策の検討状況と今後の課題・ニーズ」)

e シールの検討状況についての主な意見

• (e シールに係る電子証明書発行手続について)代表者にオペレーションをさせるのは、大企業になるほどやりづらいという課題意識がある。オペレーションが簡素化できるよう検討するべき。

• e シールをサーバーサイドのスケーリングで使いたいときに、同じ証明書をコピーすることになるため、Derived Credential(派生資格)が重要になる。証明機関からの証明書により、企業内部で生成された鍵に対して署名していく形で、受け取った側が証明書のチェーンをたどっていき、正当性が検証できることが制度的に許される形が必要。

• Derived Credential については、オンラインで本人確認する際に、あらかじめ発行した鍵を使った本人確認が認められるか等の検討が重要

• 利用者がサービスごとにe シール用の電子証明書/秘密鍵を持たされることのないような工夫をするべき。

• eシールの欧州PoC では、国際相互認証に向けた枠組みの検証で行っている。SDGs、環境、人権の枠組みでも、国際的に認証されたトレーサビリティーの確保が求められているので、枠組みの整備が必要とされているのではないか。

• 国民が安心してオンラインベースでのトランザクションを行うことができるようにするためには、e シールが法的な裏付けをもって整備されることが必要不可欠。技術進歩が急速な今日において法的な規律は最小限にしていくべきだが、フィッシング詐欺等が横行している現状では、オンラインベースでトランザクションを行っている相手方が認証を受けた正当な組織であるかを法的に確認できることは、「トラスト」の基盤として極めて重要ではないか。

電子契約の証拠力

• 電子契約は、なりすまし・改ざんが容易であることから、本人性と完全性の確認が重要。電子契約が有効に成立するにあたり、必ずしも電子署名を使う必要はないが、実際上、どれだけのレベルの信頼性が必要なものか、電子署名のレベル分けが求められる。

• 電子契約については、リスクと利便性を考慮して、本人性と完全性の確認において適切なレベルの電子署名等を利用することが必要。

• 電子契約の普及に必要な法的環境整備はほぼ完了していると思料。政府の公表した電子署名法2条1項・3条のQ&A における要件を満たしているかは、当てはめの問題として、法律専門家を活用しながら契約当事者や電子契約プラットフォーム事業者がセルフチェックすることで、用途に応じた適切なサービスを取捨選択していくことが必要。

(資料12 「電子契約の有効性について」)

電子契約の証拠力についての主な意見

• レベルに合わせた基準作りが必要。リモート署名や立会人型署名については、サービスの安全性について明確な基準が無く、認定や適合性監査もできていないため、利用者や裁判官も判断に迷うのではないか。

• 信頼レベルの基準作りについて、認印相当等のアナログの世界とは異なる基準が必要ではないか。

• レベルは、「手段」で分類するだけでなく、SP800-63-3B に倣って、「脅威耐性」ベースで検討するべき。

• プロセスだけでなく、ID やクレデンシャルを発行するオーソリティに相当するレベルについて議論することが必要。

• 現行の電子署名法施行規則2条に定める基準として、暗号アルゴリズムやbit 長まで書くことは技術進歩が速い中で適切であるか懸念。

• 民訴法228 条4項「二段の推定」について、立会人型電子署名の場合における考え方について、プロセスごとに整理する必要がある。特に「一段目の推定」(本人の印鑑による印影があれば、本人の意思による押印を推定する17)が電子化される場合の「一段目の推定」については、これまで議論されていない内容であるため、今後議論する必要がある。

• 電子署名法3条Q&A18の「十分な水準の固有性」について、2要素認証以外にも、いくつか例示があると利用者にとって分かりやすい。

• トラストについての判断は、技術的内容が含まれるので、法的判断の他に技術的専門家からの判断も必要ではないか。

• 「特定認証業務」の相互運用性とその実現手段を今後検討すべき。

電子化におけるe シールの活用可能性と制度上の課題

• トラストサービスの活用にあたって、紙や書面交付を求める制度の廃止と同時に電子化の標準形も示していくことが必要。

• 申請手順の中で、契約書等の原本性が要件となる手続規制が存在している。「原本性」や「真正性」担保の観点から証明書類発行の際等に原本提出を求めているケース、大元の書類が紙である故に紙で原本提出が必要なケース、組織として正式に発行し契約等内容の真正性担保が必要なケースにおいて、e シールを活用することにより、電子化が促進されるエリアが多数存在する。

• 特に、輸出入取引において、輸出サイドのみならず、輸入で必要な契約書、輸入者の誓約書、輸入時のインボイス、授権証明書等e シールで真正性を担保することで全体の電子化が促進されるものが多数存在する。さらに、貿易取引の中で残存していた「紙」による非効率部分が解消し、広く産業全体に対して効率化される。貿易取引の電子化が進展することで、マニュアルでの検証作業がシステム化され、「貿易ベースマネーロンダリング」(Trade Based MoneyLaundering, TBML)をシステム的に検知する基盤が整備され、日本としてのAML 対策上も有意義である。(資料13 「トラストサービスのユースケース及び制約となる制度について」)

4.トラストの確保のための検討

実態調査及び有識者ヒアリングにより判明した、トラスト確保のニーズやトラストサービスの導入における課題を踏まえて、以下の検討を行った。

4.1Identification のアシュアランスレベルの整理

実態調査で、「用途に沿ったトラストサービスの事業者/サービス選定」や「トラトサービス利用について企業間での足並みを揃えることが難しい」という課題が挙がったことを受け、リスクと利便性を考慮した適切なサービスの選択が必要であること、デジタル完結におけるオンラインの手続においてアナログとは異なる問題に対処する必要があることから、今回は、Identification のアシュアランスレベルの整理を行った。

海外の先行事例の把握

• eIDAS 規則、NIST SP800 63-3、NZ 政府Identification 管理基準におけるアシュアランスレベルの規定及び適切なアシュアランスレベルを選択する基準の考え方について考察した。(資料14「欧州eIDAS におけるアシュアランスレベル」、付録C アシュアランスレベルにおける諸外国の先行事例)

• •eIDAS 規則については、トラストサービスの普及によるデジタル化と欧州デジタル統一市場の促進を目的としてeID 及びトラストサービスを制度化し、その効果について一定の評価が得られているものの、eID やトラストサービスの効果、効率性及び普及における課題が見直されている。EU では、eIDAS2.0 に向けて、これらの課題を踏まえて、EU Digital Identity Wallet の開発やトラストサービスの下位規則の整備等で対応する方向で検討している。(資料15「eIDAS2.0 とEUDIW」)

Identification のアシュアランスレベルの整理検討の進め方

• 基本的な考え方は既存の国際標準を参照した上で、ベースレジストリが整備されマイナンバーカードの公的個人認証証明書や商業登記電子証明書がある日本の実情に応じて、これらを活用した身元確認の実現を検討すべき。

• 認証情報連携や割当もIdentification アシュアランスレベルの検討に入れるべき。

アシュアランスレベルの考え方やユースケース

以下の考え方が示されるとともに、図9の通り整理が行われた。


• マイナンバーカードの発行は、自治体職員という有資格者が対面で本人確認した上で発行しているため、IAL3 相当を超えるレベル。その結果、マイナンバーカードと顔写真の本人が一致することを対面で確認したもの及びマイナンバーカードの電子証明書を使った署名がなされているものはIAL3 相当と言えるのではないか。

• マイナンバーカードの発行以外の場面では、マイナンバーカードを用いた電子署名を使って本人確認に代えるという前橋市の「まえばしID」のように全て電子にしてしまうことは可能ではないか。19そうすると、本人の写真とリアルタイムの本人の画像マッチングが本当に要るのかということが論点になる。

本人写真とリアルタイムの本人画像のマッチングは、Authenticator と肉体の紐付け、本人以外によるAuthenticator の行使の検出、という2つの異なる目的があるため、それらを分離して論じるべき。

• 新型コロナワクチン接種証明書アプリは、マイナンバーカードを利用して簡単に登録できるという点で、ID Proofing のユーザビリティやコストが改善された。

• Identification と行政データの連携が可能な仕組みの整備が必要。

• 民間サービスにおいては、身元確認を必要以上に求めるとサービス加入者が減るといった弊害もあるため、マイナンバーカード以外にもeKYC のような多様な本人確認の選択肢が必要。民間サービスにおけるオンラインでの本人確認のユースケースについては、本人確認手法のレベル分け、リスクに応じた本人確認手法選択の考え方及びガイドライン策定に向けた進め方について、Digital Architecture Design Center(DADC)から取組状況の報告を得た。

(資料16 「インキュベーションラボ・プロジェクト「サービスに応じたデジタル本人確認ガイドラインの検討」)

今後の方向性

• 本SWG で整理したIdentification アシュアランスレベルの考え方やユースケースについて、デジタル庁技術検討会の「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」20見直しにインプットを行うことが必要である。

• 行政手続におけるアシュアランスレベルだけではなく民間サービスにおいてもこれを整理することが重要。本人確認レベルに関するアーキテクチャ整備については、マルチステークホルダーモデルの中で、DADC の検討成果も踏まえて検討を進めていくべきである。

• 分散型アイデンティティや自己主権型アイデンティティがプラットフォーム

事業者に依存しない形で本人確認や資格証明手続をデジタル化する手法として世界的に注目されている動向を踏まえ、国際通用性を持ったDigitalIdentity Wallet についても継続的に検討を行うべきである。

4.2 トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討

検討の方向性

• トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方を考えることは、ID プロバイダのトラストを確保する上でも重要であり、国際通用性を見据えたトラストサービスの基準作りをするべき等の意見があったため、検討を行った。

• トラストサービス事業者の運用ポリシーとして、構成員より、組織要件、設備要件、技術要件、鍵管理要件、運用要件、監査要件、その他をトラストサービスに共通する基準、個別基準として整理し、「トラストサービスアシュアランスレベル」として整理することが提案された。(資料17「トラストサービスのアシュアランスレベルの考え方」)

• 一方、トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価においては、構成員より、担保すべき内容や論点が多岐にわたることが指摘された。

検討における課題

トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方の検討にあたり、課題及び満たすべき条件などについて、以下の議論が行われた。

• 国の役割:

トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価の最も高い20 デジタル庁「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」(2019 年2月25 日)レベルを国が担保する場合、現状の体制では、国として最新の仕様をメンテナンスし続け、監査する体制を確保することが困難。例えば、電子署名法の認定基準は、施行規則や指針などで規定されているため、

最新の国際的な技術基準に追従してメンテナンスするのが困難になっている。したがって、一つの方向性として、技術基準を法定に書くのではなく、国際規格を参照することにより、国の負担も軽減され、より効果的な政策実現が可能になるのではないか。

トラストサービスで確保されるトラストは、法律的には「推定」の話であり、推定された事実を否認するための反証が許されるため、推定された事実について国として100%の保証を求めるものではない。

• 策定作業:

技術基準について、欧州電気通信標準化機構(ETSI)、欧州標準化委員会(CEN)で標準化されている技術基準と同レベルのものを想定するのであれば、膨大な作業を防ぐ上でも、既にある基準をベースに作業を省略していく工夫が必要である。

• 対象:

何をもっての正当かがユースケースによって異なる中で、アシュアランスレベルではなく、何の正当性について議論しているのか整理が必要ではないか。

• 軸の関係性:

Identificationアシュアランスレベルとトラストサービスアシュアランスレベルは、相互依存性の無いパラメーターにするべき。

• 監査要件:

認定事業者の監査体制において、一時点の監査ではなく、運用に対する透明性をAI による自動検査などでメタデータ連携を行い、担保していくことが重要

監査要件は、認定手続の中に入るのであれば理解できるが、アシュアランスレベルの中に入るのは違和感がある。

• 国際通用性:今後議論を深めていくためには、前提として確認すべき事実や共通認識を持っておくべき用語があることが挙げられた。

eIDAS でEU 域外との相互承認国が存在しない理由・障害となっている点を明らかにし、実現可能性の有無を確認した上での議論が必要である。

国際的通用性が必要な取引として「国境を越えた契約書」が挙がっているが、契約書は準拠法を書くので国際通用性は不要ではないか。

国際通用性の確保は、相手国の法律が準拠法であっても自国のトラストサービスが利用できることをいうのではないか。準拠法だけだと、例えば、日本法が準拠法となる場合に、外国企業でも日本の法律に基づいて判断されるため、外国企業も日本のトラストサービスを利用する必要が出てくる。逆に、欧州の法律が準拠法なら、日本企業は、日本のトラストサービスではなく欧州のトラストサービスを使うことが必要になる。契約書は準拠法を書くので国際通用性は必ずしも必要ではないという意見があったが、準拠法を定めたとしても、実際に証拠性などを考えるときに国際通用性は要るのではないか。

相互承認という用語への共通認識を持った上で、何を目的とした何に関するどの国(地域)との相互承認を検討するのか明確にすべき。

国際通用性の確保に向けて、国際的基準との整合性及び関連基準(ISO/IEC 27000 Series、CAB/F baseline requirement、ETSI・CEN規格、Webtrust 監査基準等)を参照した上で、各トラストサービスに対し、これらの基準への適合性評価を行う機関の要件を国際標準(ISO/IEC17065、ETSI EN 319 403 等)を参考に規定するべき。

国内のトラストサービスが海外においてもどういう保証レベルに位置づけられるトラストサービスか検証可能でなければならない。そのためには、国際標準に従った検証基盤の構築も必要になる。

• 機動性の確保:

各基準は法令から参照される独立した技術規格として策定されるべき。

技術進化、国際標準、社会環境に準じて、規格策定及び更新を継続的に行うための専門的な組織の設置の検討が必要となる。

• 既存の制度との整合性:

トラストサービスの議論を深めるにあたり、電子署名及び認証業務に関する法律の見直し(国際技術標準の活用を含む。)の検討は避けて通れない。

電子署名やe シール等の有効活用を促進するためには、認定認証業務に代表される信頼性の高いトラストサービスについて推定効などの法的効果を検討する必要がある。

• ユーザビリティ:

電子文書の通用性は、電子的な形式であるという理由だけでは否定されないとし、これについて法令による例外を認めないようにすべき。

どのレベルを満たしたトラストサービスであるか利用者にわかりやすい形での基準策定や仕組み(認定トラストサービスの機械可読な形での公開、当該トラストサービスに基づく情報の検証)の検討が必要

• 相互運用性:

デジタルな相互接続性・運用性を確保するためには、その技術準拠性を確認するための検証基盤の提供と当該テスト通過を適時確認する必要がある。

今後の方向性

担保すべき内容が多岐にわたること及び策定にあたり考慮すべき課題が多いこから、国際的な議論や外部環境の変化を踏まえて、トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性評価のあり方について議論を進める。

4.3 行政でのトラストサービス活用推進

トラストサービスの提供する内容については、まずは、紙の持つ真正性・非改ざん性に対するトラストをサイバー空間でも担保するトラストサービスのあり方から議論を始めるべき、という意見が出た。加えて、トラスト確保の実態調査において、行政分野におけるトラストのニーズが高かったことが判明した。

一方、政府では、デジタル臨時行政調査会が立ち上がり、構造改革のためのデジタル原則が整理された。デジタル原則における「デジタル完結」の実現においては、書面、目視、常駐、実地参加を義務付ける手続・業務についてデジタル処理での完結が原則となるところ、「公的な証明書・講習・閲覧に対面書面を求める規制」等の見直しが検討されている。

「デジタル完結」にあたっては、手続・取引に応じた、本人・組織・(組織内権限者の識別を含む)存在時刻の真正性及びデータの非改ざん性を保証するトラストサービスが必要である(図10)。上記の規制見直しにあたっては、トラストサービスの活用が有効なことから、積極的にトラストサービスを活用していく(図11,12)。

具体的には、公的な証明書に用いるトラストサービスの技術基準や活用方策について、行政が中心となって検討し、デジタル臨時行政調査会の規制見直しの集中改革期間である令和7年(2025 年度)6 月までを目途にインプットを行う。

あわせて、茨城県からの民間認証局による職責による電子署名活用の要望も踏まえ、署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備や国際標準規格への対応など技術基準の継続的な最新化等、公的機関が運営するトラストサービスのあり方についても検討が必要である。さらに、行政機関がトラストサービスを活用し、より円滑に処分通知等の文書発出をオンラインで行うことが可能となるよう検討を進める。

(図12) 書面掲示、対面講習、往訪閲覧・縦覧規制の類型化とフェーズ

行政手続におけるトラストサービス活用推進を行政がスピード感を持って進め

ることにより、マルチステークホルダーモデルにて扱う民間でのトラストサービスの活用においても参照されるものとなることを目指す。

4.4 民間でのトラストサービス活用推進

マルチステークホルダーモデルでの議論

実態調査で挙がった課題に対処するため、民間でのオンライン契約・手続等については、技術進歩が進む中で使いやすいトラストサービスの実現を図る観点から、多様な関係者の視点を取り入れるためにマルチステークホルダーでの議論を行う (図13) 。

(図13)トラスト基盤構築に向けたマルチステークホルダーモデル

マルチステークホルダーモデルで扱う議題

マルチステークホルダーでの議論内容については、民間企業が参加意義を感じるテーマを扱うべきであるという観点のもと、例えば、「民間オンライン取引・手続に係る課題の検討」、「電子署名法のリモート署名・e シールへの対応と技術基準の最新化検討」、「経済界からのニーズにおけるユースケースごとのガイドライン」などが考えられる。その他、実態調査で判明したトラスト確保のニーズも踏まえ、今後マルチステークホルダーモデルで取り扱う分野を検討していく必要がある。

また、構成員より、マルチステークホルダーでの議論は、あくまで法律事項に馴染まない実務的な取扱いやベストプラクティスを巡る議論に土俵を限定しておいた方が議論が収束しやすいのではないかとの意見もあった。

マルチステークホルダーモデルの活用例①リモート署名・e シールの技術基準の検討

諮問議題

• 電子署名法において、電子文書が利用者の作成に係るものであることを示す

ための措置としての「十分な水準の固有性」に必要な電子署名の技術基準は何

か (電子署名法3条Q&A の具体化)

• 電子署名法の技術基準の海外基準への適合に向けた整理

• e シールの民事訴訟法・電子署名法上の位置づけの整理

関係者

• 事業者:トラストサービス提供事業者、クラウド型電子署名サービス協議会、

(一社)Fintech 協会、(一社)日本ブロックチェーン協会 等

• 産業界:インターネット関連事業者、トラストサービス利用事業者

• 専門家:JDTF、JT2A、JIPDEC、法学者、その他標準化団体、トラスト関連学会

• 消費者:消費者団体、弁護士団体、NPO 法人

• 労働者:労働組合

• 政府 :デジタル庁、法務省、総務省、経済産業省

マルチステークホルダーモデルの活用例②:公的機関が運営するトラストサービスのあり方について意見聴取

諮問議題

• 公的機関が運営するトラストサービスの改善課題(署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備、国際標準規格への対応)

• 民間サービス活用やトラストモデル変更等の論点整理及び官と民の役割分担と責任分界の整理

関係者

• 事業者:デジタル庁、総務省、J-LIS、トラストサービス提供事業者、クラウ

ド型電子署名サービス協議会、(一社)Fintech 協会、(一社)日本ブロックチ

ェーン協会 等

• 産業界:インターネット関連事業者、トラストサービス利用事業者

• 専門家:JDTF、JT2A、JIPDEC、法学者、その他標準化団体、トラスト関連学会

• 消費者:消費者団体、弁護士団体、NPO 法人

• 労働者:労働組合

• 政府 :デジタル庁、法務省、総務省、経済産業省、地方自治体

マルチステークホルダーモデルの運営で考慮すべき事項

公平な議論の仕組み

マルチステークホルダーモデルに参加するメンバーは、透明性確保のためにオープンエントリーの形で参加者を募集するなど柔軟性を確保した議論形態とする。一方で、トラストサービスは、取引・手続の信頼に係わることから、特定の利害関係者に引きずられないよう配慮が必要であるところ、自ら希望して議論に参加する者のみに議論が引きずられることがないように配慮する必要がある。この点、ステークホルダーとして議論に参加するべき者については、諮問を行う政府など中立的な者が議論へ参加するステークホルダーへの声掛けや議論の仕切りを行うべきであることも指摘された。

また、特定のステークホルダーの意見のみが大きくならないように、各コミュニティで意見を固めて、それぞれのコミュニティの代表者がコミュニティを代表した意見を発言する仕組みにするなどの工夫が必要であると指摘された。

議論への参加を促す仕組みマルチステークホルダーモデルへの関係者の参加を促すため、議論への貢献について、デジタル庁のサイトに参加者の貢献の記録を残すことなど可視化できる仕組みを取り入れることが必要という意見があった。一方、「トラスト」は、様々な者が行う手続・取引の信頼性に関わる内容であるため、議論に自発的に貢献する者のリードに任せるのではなく、全体的に特定の利害関係者の発言に引きずられないようにするための配慮が不可欠という意見があった。

効率的な運営

マルチステークホルダーでは、意思決定に時間がかかることから、政府が中心となってトップダウンで検討するべき課題と、ステークホルダーの意見を聞いてボトムアップで進める課題を区別して考えた上で、政府が進める政策をマルチステークホルダーモデルでも参照できるようにしておくべきという意見があった。また、マルチステークホルダーはあくまで諮問機関として、マルチステークホルダーモデルから提言された内容についての最終決定権は政府が持つべきとの意見があった。

なお、政府が中心となって検討する議題についても、多くの人にとって使いやすいトラストサービスを推進する観点から、マルチステークホルダーモデルにおいて、多様なステークホルダーモデルの意見を聞く機会を設けるべきである。

マルチステークホルダーモデルの運営においては、以上の点を考慮しつつ、マルチステークホルダーモデルの活用例に挙がった議題を中心に議論を進める中で、議論における意思決定等のルール設計についても検討を深める。

4.5 トラストポリシーの基本方針

トラストサービスにおける政策を検討する上では、専門家や一部の事業者に偏ることなく、多様なステークホルダーを交えて議論を行うこと、国際的な基準や制度との整合性を考慮しつつ国内の民間事業者に普及しやすいトラストサービスを目指すこと、グローバルに影響力を持つプラットフォーマーを含めたトラストサービスに関わる民間事業者との関係性を考慮することが重要である。また、令和4年5月12日には、日EU でのデジタルパートナーシップが立ち上げられ、トラストサービスの相互運用性に向けたパイロットプロジェクトの取組の継続等が記載されるなど、各国との相互連携は重要性を増している。

デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和3年12 月24 日閣議決定)では、包括的データ戦略に関する具体的な施策の中で、「令和4年度(2022 年度)中を目処にトラストを確保する枠組みの基本的な考え方(トラストポリシー)を取りまとめる。」とされた。21本サブワーキンググループでは、行政を含めたマルチステークホルダーの関係者がトラストに係る政策を検討するにあたり、考え方の指針とするため、トラストを確保する枠組みの基本的考え方が満たすべき性質について、「デジタル原則」を支える「トラストポリシーの基本方針」として以下に整理した。(図14)

(図14)トラストポリシーの基本方針


トラストポリシーの整理にあたっては、構成員より、トラストポリシー策定において考慮すべき要素として、①方向性(利用者と提供者それぞれへのインセンティブ(ディスインセンティブ)の設計)、②安定性(長期間の有効性と社会的有効性の確保)、③最小性(トップダウンで定義するポリシーは最小限にする)、④柔軟性(技術的・経済的アジリティの確保)が提案された。(資料18「サービス提供におけるトラスト確保を実現するポリシー策定の論点」)さらに、構成員より、トラストサービスの社会への普及があってこそ裁判における安定性につながること、トラストサービスの普及においては現場での使いやすさを考えるべきであること、国際的通用性を検討するにあたっては、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)における議論を注視すべきであること等が指摘された。

トラストポリシーの基本方針は、構造改革のための「デジタル原則」を支えるものとし、今後、デジタル庁やマルチステークホルダーモデルでのトラスト基盤構築に向けた政策検討の際の指針として活用すべきである。また、トラストポリシーの検討にあたっては、トラストサービスの普及に伴いユースケースが具体化され、トラストポリシーにおいて考慮すべき要素も具体化が進むとの考えのもと、行政及びマルチステークホルダーモデルにおいてユースケースに基づいた議論を行いつつトラストポリシーの検討を続ける。さらに、令和5年(2023 年)のG7 での打ち出しを目指して、DFFT の推進に向けたトラストの概念の明確化を行う。

5.今後の取組

トラスト確保の実装に向けては、多様なステークホルダーの意見を聴取することが重要である。今後は、デジタル臨時行政調査会との連携や多様な主体を巻き込んだ検討の場を創設しつつ、官民でのトラスト確保の実装に向けて、以下の通り進める。

5.1 行政のデジタル完結の推進

公的な証明書に用いるトラストサービスの技術基準や活用方策について、行政が中心となって検討し、デジタル臨時行政調査会の規制見直しの集中改革期間である令和7年(2025 年度)6月までを目途にインプットを行う。あわせて、茨城県からの民間認証局の発行する職責電子証明書による電子署名活用の要望も踏まえ、署名の有効性を利用者が簡便に確認できる環境の整備や国際標準規格への対応など技術基準の継続的な最新化等、公的機関が運営するトラストサービスのあり方についても検討を行う。さらに、行政機関がトラストサービスを活用し、より円滑に処分通知等の文書発出をオンラインで行うことが可能となるよう検討を進めるべきである。

5.2 多様な主体を巻き込んだ検討の場の創設

民間でのオンライン契約・手続等について、多様な意見を取り入れるため、マルチステークホルダーモデルでの検討の場を創設する。マルチステークホルダーモデルの運営は、特定の利害関係者に議論が引きずられることのない公平な議論の仕組み、ステークホルダーへの議論の参加を促す仕組みの創設、効率的な運営を行う仕組みを構築する必要がある。マルチステークホルダーモデルでの議論は、民間同士の取引・手続について、例えば、「民間オンライン取引・手続に係る課題の検討」、「電子署名法のリモート署名・e シールへの対応と技術基準の最新化検討」、「経済界からのニーズにおけるユースケースごとのガイドライン」等を検討すべきである。

5.3 e シールに関する制度整備

タイムスタンプについては、国による認定制度に基づく運用が開始されているが、eシールに関しては、現状、在るべき姿の方向性や信頼性を確保するために証明機関が求めるべき基準の検討に係る指針が示されている段階である。今後、オンライン取引・手続において、発行元に関する証明のニーズが高まることが想定されるため、総務省が令和3年(2021 年)6月に公表した「e シールに係る指針」に基づき、e シールの民間サービスの信頼性を評価する基準策定及び適合性評価の実現に向け、総務省の取組を支援すべきである。

5.4 国際的に調和の取れたルール形成の推進

Identification のアシュアランスレベルについては、デジタル庁技術検討会にインプットし、行政手続の本人確認の議論に活用すべきである。民間での本人確認レベルに関する整備は、マルチステークホルダーモデルの中で、DADC の検討結果も踏まえて検討を継続すべきである。さらに、分散型アイデンティティや自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity: SSI)がプラットフォームに依拠しない形で自身のコントロールの下で属性を開示する手法として世界的に注目されている動向を踏まえ、国際通用性を持ったDigital Identity Wallet についても継続的に検討を行うべきである。さらに、国際的に相互運用性が求められるトラストサービスの市場ニーズの深掘りを行うとともに、諸外国における「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」の検討動向等も踏まえつつ、「トラストサービスの信頼性を評価する基準及び適合性」について、引き続き今後の検討課題とする。

これらの検討課題を進めるにあたり、令和5年(2023 年)のG7 での打ち出しを目指して、DFFT の推進に向けたトラストの概念の明確化を行うとともに、トラストポリシーの検討を続ける。

5.5 推進体制

トラスト基盤の構築に向けた検討の枠組みについては、以下に基づき、政府が中心となって検討する性質のものと、政府が議論の場を提供するトピックに分けた上で、

①短期的なトラストサービス実装の検討(デジタル完結に向けたトラストサービスの活用推進(行政手続きにおける本人確認ガイドラインの改定、行政手続きにおける真正性ガイドライン(仮称)の作成、公的機関が運営するトラストサービスの活用のあり方等)及び②中長期的トラスト基盤構築に向けた検討(国際通用性を持ったDigital Identity Wallet の検討、既存の法体系を踏まえたトラスト法体系整理等)に分け、推進していく必要がある。(図15)

(図15)推進体制まとめ

6.まとめ

「包括的データ戦略」では、トラスト基盤の構築に向けた論点について、「デジタル庁を中心として関係府省庁が協力して検討し、2020 年代早期の実装を目指す。これらの論点は多岐にわたることから、トラストサービスに対するニーズを分析し検討の順を明確にすることが重要である。」22とされた。本サブワーキンググループでは、実態調査及び有識者からニーズの把握を行ったところ、オンラインでの手続・取引において、行政を含む幅広い業種/業界においてトラスト確保のニーズがあることが判明した。

本サブワーキンググループでの議論を通じて、包括的データ戦略でまとめられた論点について一定の進捗が見られた。例えば、「認定スキームの創設」については、実態調査や有識者ヒアリングから、オンライン取引・手続において、発行元に関する証明のニーズが高まることが想定されることがわかったことから、e シールの制度化が検討されることになった。「トラスト基盤の構築」については、行政を含めたマルチステークホルダーの関係者がトラストに係る政策を検討するにあたり、考え方の指針とするための「トラストポリシーの基本方針」が作成されたことは、トラスト基盤構築の前提として重要なものだった。さらに、「国際的な相互承認」については、今後、議論を深めていくためには、前提として確認すべき事実や国内外で共通認識を持っておくべき用語があることが指摘された。また、本サブワーキンググループ中に「日EU デジタルパートナーシップ」が立ち上げられ、日EU でトラストサービスの相互運用性に向けた取り組みが規定されたことは、相互承認に向けた日EU の相互理解に資するものとして有益である。「認定基準」についても、今後、マルチステークホルダーモデルにおいて、「リモート署名・e シールの技術基準の検討」等が議論される中で、議論が深まることが期待される。諸外国に目を向けても、オンラインでの手続・取引の増加に伴い、政府によるオンラインでの本人確認の基準作りやID・トラストサービスの活用が進んでいる。令和5年(2023 年)G7 議長国として、我が国がDFFT の具体化をリードすること、デジタル臨時行政調査会における「デジタル完結」

の実現に向けてトラストサービスの活用を促進することは大変重要であることから、今後もトラスト基盤の確立に向けた議論を進める。

最後に、会合中に挙がった有識者からの基本的な考え方を踏まえ、本サブワーキンググループにおいて「デジタル原則」に沿う形での「トラストを確保する枠組みの基本的な考え方(トラストポリシー)」の基本方針を作成した。トラストポリシーはトラストサービスの普及と並行して具体化が進むものである。今後もサービス提供におけるトラスト確保について、行政及びマルチステークホルダーモデルにおいてユースケースに基づいた議論を続けつつ、トラストポリシーの検討を続ける。

構成員・オブザーバー

(構 成 員)

太田 洋 西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

崎村 夏彦 東京デジタルアイディアーズ株式会社 主席研究員

佐古 和恵 早稲田大学 基幹理工学部情報理工学科 教授

◎ 手塚 悟 慶應義塾大学環境情報学部 教授

濱口 総志 慶應義塾大学SFC 研究所 上席所員

林 達也 LocationMind 株式会社 取締役

宮内 宏 宮内・水町IT 法律事務所 弁護士

宮村 和谷 PwC あらた有限責任監査法人 パートナー

高村 信 総務省サイバーセキュリティ統括官付参事官

土手 敏行 法務省民事局商事課長

奥田 修司 経済産業省商務情報政策局サイバーセキュリティ課長

(オブザーバー)

伊地知 理 一般財団法人日本データ通信協会 情報通信セキュリティ本部 タイムビジネス認

定センター長

井高 貴之 厚生労働省 医政局 研究開発振興課 医療情報技術参与

太田 大州 デジタルトラスト協議会 渉外部会長

小川 博久 日本トラストテクノロジー協議会 運営委員長 兼 株式会社三菱総合研究所

デジタル・イノベーション本部 サイバー・セキュリティ戦略グループ 主任研究員

小川 幹夫 全国銀行協会 事務・決済システム部長

奥野 哲朗 厚生労働省 医薬・生活衛生局 総務課 課長補佐

金子 聖治 厚生労働省 医薬・生活衛生局 総務課 指導官

小松 博明 有限責任あずさ監査法人 東京IT監査部 パートナー

佐藤 創一 一般社団法人新経済連盟 政策部長

佐藤 帯刀 クラウド型電子署名サービス協議会 協議会事務局

柴田 孝一 セイコーソリューションズ株式会社 DX サービス企画統括部 担当部長

兼トラストサービス推進フォーラム 企画運営部会 部会長

島井 健一郎 厚生労働省 医政局 研究開発振興課 医療情報技術推進室 室長補佐

島岡 政基 セコム株式会社IS 研究所 主任研究員

袖山 喜久造 SKJ 総合税理士事務所 所長

豊島 一清 DigitalBCG Japan Managing Director

中須 祐二 SAP ジャパン株式会社 政府渉外 バイスプレジデント

中武 浩史 Global Legal Entity Identifier Foundation ( GLEIF ) 日本オフィス 代表

小倉 隆幸 シヤチハタ株式会社 システム法人営業部 部長

西山 晃 電子認証局会議 特別会員(フューチャー・トラスト・ラボ 代表)

野崎 英司 金融庁 監督局 総務課長

肥後 彰秀 独立行政法人情報処理推進機構(IPA) デジタルアーキテクチャ・デザインセンタ

ー(DADC)インキュベーションラボ デジタル本人確認プロジェクトチーム プ

ロジェクトオーナー

三澤 伴暁 PwC あらた有限責任監査法人 パートナー

山内 徹 一般財団法人日本情報経済社会推進協会 常務理事・デジタルトラスト評価センター長

若目田 光生 一般社団法人日本経済団体連合会 デジタルエコノミー推進委員会企画部会

データ戦略 WG 主査

(デジタル庁(事務局))

デジタル社会共通機能グループ 楠 正憲グループ長、犬童 周作グループ次長 他

(50 音順・敬称略、◎主査)

有識者からの発表資料

付録A

トラストを確保したDX推進SWGにおけるトラストの全体像

20211118

慶應義塾大学

手塚悟


トラストのレベルは、身元確認(IAL)、クレデンシャルの強度(AAL)、トラストサービス事業者の信頼度(TAL)で決定され、手続き記録の真正性(証拠力)が求められる程度で電子署名もしくは電子認証が選択されうる。

従来は業務アプリケーション毎の判断で本人を確認しクレデンシャル(パスワード等)を発行し利用者を特定していたが、社会的混乱を防ぐためベースレジストリと紐づけたデジタルIDをトラストサービス事業者から発行するスキームの創設が重要となる。

そのためにはデジタルIDの保証レベルや、デジタルIDを発行するトラストサービス事業者に求められる保証レベルを検討する必要がある。


トラストの認定の枠組み

トラストの認定の枠組みの検討

認定基準の策定が重要


企業の業務プロセス変革及び監査業務のDX化におけるトラストサービスのニーズ、課題について

2021年11月18日有限責任あずさ監査法人小松博明













SKJ総合税理士事務所所長・税理士袖山喜久造

デジタル庁:トラストを確保したDX推進サブWG

「税務関連業務のDX化の課題について」~改正電子帳簿保存法による対応~

民間企業等の税務関連業務のDX推進上の課題について

1.業務においての取引書類

会社が行う業務で取引先とやり取りする取引書類は、ほぼ税法(特に法人税法や消費税法)で保存が必要な書類となります。取引書類は税法等で保存義務が規定され、税法等の規定による保存が必要となります。

2.取引書類の社内処理

取引において取引先に発行又は受領する書類は、社内において必ず処理が必要です。会社内の業務処理を書面で行うか、データで行うかにより業務効率、適正性が異なってきます。書面処理は各担当者の属人的能力に依存します。データ処理の場合にはシステムにおいて一定程度の適正性や確実性が担保可能であり、業務効率も向上することになります。

3.社内処理の電子化の課題

①取引書類をデジタルデータに変換する必要(発行元が作成したデータを活用)

②社内処理をデータ処理が可能となるワークフローシステムの導入が必要(DXの活用)

➂社内システムに取引情報を入力する必要(DXの活用)

➃取引書類データは、電子帳簿保存法の入力や保存要件を満たす必要(電帳法要件を満たしたシステム導入)

➄税務関連帳簿書類を法定期間保存する必要(安全性のあるストレージ)

⑥重要な取引書類については、データの真正性を確保する必要(改ざん等の防止)

⑦取引書類の授受をデータで行う場合には、発行元の証明が必要(角印に代わる措置)

4.電子化の阻害要因

①電子化するためのコスト(特に中小企業も利用できるパッケージやソリューションが必要)

②取引先の協力が得られない(取引書類のデータ発行や受領の理解をどのように得るか)

➂誤送信リスクや発行元の信用ができない(専用システムの利用や信頼できる認証局による電子証明書が必要)

➃電子化の利便性が感じられない(社内処理は一気通貫でデジタル化を進める必要)

➄現在のやり方を変えたくないという社内風土(トップダウンで業務改革を行う風潮を醸成する)

民間企業等の税務関連業務のDX推進上の課題について

5.税務関連業務の電子化

法人税、消費税法の税務申告においては、電子申告が義務化(資本金1億円超の法人等)され、申告時には申告書類はデジタル化されている。また、ほとんどの企業において会計帳簿はデータで作成されているが、社内処理は依然として書面で行う方法が定着している。

書面処理をデータ処理に変更することは、社内運用のリスクがあり消極的な企業が多いことは事実である。

税法関連帳簿書類等の電子化関係法令



電子証明書ニーズと課題について

中武浩史

GLEIF Japan

18 th November 2021

1. 銀行における電子化の現状

2. 海外におけるe-シールの活用事例

3. 普及に向けての課題

4. 今直面する課題:具体的事例

1. 銀行における電子化の現状

インターネットバンキング(個人・法人)、税公金収納、個人向け新規口座開設、個人向けローン契約等、相応の分野で電子化は進展

業務別では、法人融資契約(まだ窓口が主体、提出書類が電子でない)、法人口座開設(実質的支配者の確認等AML/CFT等に課題)といった法人契約に関わる分野の電子化は必ずしも進んでいない

手形は電子債券に移行が進む一方、小切手・その他証券(株式配当金領収書等)はまだまだ

電子化で残された法人業務(小切手・領収書等含)エリアはeシール活用の余地大

出典;金融庁金融業界における書面・押印・対面手続の見直しに向けた検討会令和2年8月19日第5回全国銀行協会発表資料より


2. 海外におけるe-シールの活用事例

1) 欧州eIDAS指令の元での(スペイン・イタリア)等の事例

 法人税申告でのeシール利用義務

 UBLフォーマットを用いた公的セクターへのインボイスへのeシール付与義務

 その他電子書類手続き

— 雇用契約、サービス契約、SLA、発注書等契約の発行と受諾

2) 香港の事例

 USBないしソフトウエア形式で組織に対しての電子証明書発行(eシール+電子署名的位置?)

 主に貿易取引の通関申告等での利用を目的に20年以上前から運用

— 香港では手数料の観点で主に利用が多い電子小切手発行の裏付けとして活用(携帯で電子小切手発行が可能)

— 日本の手形小切手電子化検討の中で、小切手は8割を占める。オンラインバンキングへの移行が主軸であるが、より簡便で安価な香港の手法は普及に向けた良い参考になる

3. 普及に向けての課題



4. 今直面する課題;具体的事例

日本ーEU間での契約締結

1. 日本の不動産契約に欧州企業が調印

2. 欧州ではeIDAS配下、電子署名、eSeal付与が標準であり電子的に署名

3. 日本企業側では直筆でのサイン、署名の登記証明を要求

4. 更に欧州企業が何者か、登記事項含めた情報も要求

5. 欧州ではデジタル上で確認されるものが全てであり、法的にも有効

eシールでの電子的有効性が担保され、LEIで企業情報にもアクセスし、信用の補完が必要な典型的事例

三井住友銀行で展開中の融資電子契約サービスについて

2021年12月13日一般社団法人全国銀行協会(株式会社三井住友銀行事務統括部上席推進役)楠俊樹

融資電子契約サービスについて

電子署名スキーム【図表】取引実績

融資業務フロー効果

電子署名法準拠の当事者署名型電子署名を活用し、融資の契約プロセスを電子化

お客さまは銀行への往訪や書類への記入・押捺なく契約締結が可能





2021年12月13日シヤチハタ株式会社システム法人営業部部長小倉隆幸

電子印鑑の歴史と電子契約におけるその役割について

第2回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ(2021年12月13日Mon.)

2021/12/13 © Shachihata Inc. 2

電子印鑑、開発の理由

社内に息づく、“自己否定”の精神~スタンプ台から浸透印へ、そしてデジタルスタンプへ~

1995年、創業以来初のソフトウェアをリリース

「PCで作成するのに、承認印を捺すためだけに印刷する」こんな無駄を省くため、開発を手がけた

→ いち早く対応、ノウハウを蓄積

時代背景と法整備の推進

共に進化し続けて25年

進む法整備と電子印鑑の歴史

∎1998年7月施行:電子帳簿保存法

∎2001年4月施行:電子署名法

∎2001年4月施行:IT書面一括法

∎2005年4月施行:e文書法

共に進化し続けて25年

→ 法整備だけでは進まず、せざるを得ない状況下で動く

在宅勤務推進がリモートワークに大きく影響

∎電子印鑑の普及は法整備の影響が少なかった

∎働き方改革がクラウド化を加速

∎環境変化により、ドラスティックな展開をした

→ 人は変化を嫌う

印鑑の役割について

2021/12/13

© Shachihata Inc. 12


最高裁S39.5.12判決

本人等の印章により事実が確定された場合、反証がない限り、本人の意思に基づいて成立したものと推定

民事訴訟法第228条

本人等の署名・押印がある場合、真正に成立したものと推定

=認印と同様の効力がある電子印鑑の効力は?

「たぶんその人が捺したのだろうの判断」に基づく

裁判になったときの証拠能力は低い

一方、公開鍵暗号方式だけによる電子契約では、公開鍵暗号方式の効力は?

一般利用者による知識/ 理解は低い=電子署名として十分な効力がある

信頼された「認証局」により、本人であることを証明


2021/12/13

© Shachihata Inc.

※ 本資料に記載された会社名・商品名は、一般に各社の登録商標または商標です。

SAPジャパン株式会社

バイスプレジデント政府渉外中須祐二

SAPが認識するトラストサービスの現状と課題

© 2021 SAP SE or an SAP affiliate company. All rights reserved. ǀ PUBLIC

SAPは幅広い業務領域において電子署名ソリューションを提供(DocuSign, OpenTextとの連携)

EUの現行ルールーeIDAS規則(2014年)

加盟国が、公共サービスへの安全なアクセスを可能にするデジタルIDシステムを市民や企業に提供する義務や、EUの国境を越えた利用を確保する義務は含まれていない。このため、国によって適用にばらつきがある。

欧州委員会が相互運用性のためのオープンソースフレームワークを提供。

デジタルID:

9つの指針:ユーザーの選択、プライバシー、相互運用性とセキュリティ、信頼性、利便性、ユーザーの同意と管理の均整、相手の認識、グローバルな拡張性

3種類の電子署名を定義: 標準電子署名(Standard)、高度電子署名(Advanced)、適格電子署名(Qualified)

* 取引の種類毎に必要な署名の種類は、各EU加盟国の国内法で定めらる第一次調査結果

トラストサービス:利用可能性と利用率、各国のセキュリティレベルの同等性、監督活動の調和

eID:実装の弱さ、市民への普及率の低さ、相互運用性の難しさ、ユーザーの利便性の低さ、通知プロセスの複雑さ、公共サービスに限定

SAPが認識するEUでの改善点(eIDAS)

各国間のハーモナイゼーション:

「個人情報」が各法域で事実上同じ意味で理解されることを保証

各国の技術基準の不一致を避ける

相互運用性とセキュリティレベル

すべての国民や企業が利用可能なデジタルIDソリューションの使用を希望または選択するとは限らず、また国民にオプトアウトする法的権利が与えられているため、普及に懸念(不信の文化)

データ保護ー重要課題

データ保護とプロファイリングの経済的・社会的影響

法律の執行度と罰則による十分な抑止力の有無

産業界にとって負担となりうる要件:

技術的実現と標準化

情報が収集された後、その使用を管理するための効果的な技術的メカニズム

中心となるIDシステムのユーザー・エクスペリエンス

GMOグローバルサイン株式会社

伊藤健太郎

February 8, 2022

GlobalSignにおける電子証明書の利用事例

①卒業証明書への署名

②帳票関係への署名

③車両登録書類への署名

④PCR検査結果報告書への署名

(C) GMO GlobalSign K.K. All Rights Reserved.

今回ご紹介をさせていただきました事例で利用がされている証明書は、EUの

Qualifaied Certificates(QC)ではありません。

あくまでも弊社のQC以外のプロダクトから発行した「組織用証明書」を利用し

た署名(eシール)の事例となります。

• その他に証明書を利用した署名事例では、「納税申告」や「FDA申請」などの活用もあります。

「デジタル原則」を⽀えるクラウド型電⼦署名サービス普及促進の必要性

2021年12⽉27⽇クラウド型電⼦署名サービス協議会代表理事橘⼤地

トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

第3回提出資料

デジタル庁および本SWGの皆様にお伝えしたいこと(サマリー)

• 押印が⽀えた⼤量・迅速な商取引が、電⼦署名法の制定によってもデジタル化されなかったのは、同法の上振れしたトラストレベル設定がユーザーニーズに即していなかったことが原因

• そうした過去の反省を踏まえデジタル原則を実現するためには、「ちょうどよいトラスト」の選択肢を増やし、その普及をデジタル庁がリードすることが必要

• すでに国内外のユーザーの⽀持を集めるクラウド型電⼦署名サービスを、新しいトラスト法制において「スタンダード」と位置付けていただきたい

c 2021 CeSSA 2

平成12年には当事者署名型を⾼度なトラストと位置付けた電⼦署名法が制定されたが、この10年ユーザーの⽀持は広がっていない

⼀⽅、事業者署名型は「ちょうどよいトラスト」として企業に受け⼊れられ、近年の⽇本では数少ない成⻑産業の⼀つとなっている

グローバルでも、電⼦署名サービスのスタンダードとして、事業者署名型の利⽤が急速に拡⼤している



Appendix

c 2021 CeSSA 10

• 2021年12月当協議会実施

紙の契約書に押印する実印/非実印の使い分けに関するアンケート

• クラウド型電子署名普及を支持するユーザーからの定性コメント

令和3年12月13日総務省サイバーセキュリティ統括官付参事官高村信

eシール政策の検討状況と今後の課題・ニーズ

デジタル庁

トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ(第2回)

eシールに係る指針の策定

• 組織等が発行する証明書

検討に当たっての主な観点

• eシールの利用者視点で、わかりやすいeシールの目的・用途

• eシール用電子証明書発行事業者視点で、参考となるeシールの仕組み

や技術基準等

3.eシールの普及・利用促進

同じトラストサービスの1つである電子署名法上の電子署名との関係性

商業登記に基づく電子認証制度上の電子署名との関係性等

1.国内の類似制度との整合性

• EU等の諸外国の仕組み・制度との整合性

• ISO等国際標準との整合性等

2.国際的な整合性

組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会

新井聡NTTネオメイトITビジネス本部プラットフォームサービス推進本部電子認証サービス担当主査

伊地知理一般財団法人日本データ通信協会情報通信セキュリティ本部タイムビジネス認定センター長

岡田勲日本電気株式会社サイバーセキュリティ戦略本部主席事業主幹

小川博久日本トラストテクノロジー協議会運営委員長

小木曽稔一般社団法人新経済連盟政策部部長

小田嶋昭浩電子認証局会議事務局

堅田英次東京海上日動火災保険株式会社IT企画部次長兼企画グループ課長

小松文子長崎県立大学副学長

小松博明有限責任あずさ監査法人東京IT監査部パートナー

柴田孝一トラストサービス推進フォーラム企画運営部会長

渋谷秀人富士通株式会社政策渉外室シニアエキスパート

袖山喜久造SKJ総合税理士事務所所長

手塚悟慶應義塾大学環境情報学部教授

中田秀明公益社団法人日本文書情報マネジメント協会法務委員会委員長

中村信次株式会社日立製作所公共イノベーションビジネス推進本部公共戦略企画部部長

濱口総志慶應義塾大学SFC研究所上席研究員

宮内宏宮内・水町IT法律事務所弁護士

山内徹一般財団法人日本情報経済社会推進協会常務理事

若目田光生一般社団法人日本経済団体連合会デジタルエコノミー推進委員会主査

株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門上席主任研究員

• eシールについて、ユースケースの具体化や有効性の検証を行うとともに、サービス提供者の認定の基準やそれに基づく民間の

認定の仕組みを検討するために有識者検討会を開催。

学識経験者、会計関係、トラストサービス提供事業者、評価機関、経済団体(利用企業)等で構成。

(座長)

(座長代理)

(オブザーバー) 内閣府、内閣官房、法務省、財務省、金融庁、経済産業省

eシールの定義

方向性

• 我が国におけるeシールの定義は以下のとおり。

発行元証明: 電子文書等の発行元の組織等を示す目的で行われる暗号化等の措置であり、当該措置が行われて以降当該文書等が改ざんされていないことを確認する仕組み。

• 我が国におけるeシールの定義はどうあるべきか。

確認事項

• eシールの定義を発行元証明とすることに賛同。

• eシールと電子署名の違いを明確にし、使う側がどちらを使えばいいのかを明確にわかるようにした方がよい。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

b)「事実・情報」:発行元証明

自然人、法人や事業所などの「組織」、さらにはIoT 時代において爆発的に増大する「機器」が存在するという事実と、当該機器が発行する情報等の信頼性を担保するためには、発行した自然人・組織・機器が信頼できるか、その発行方法が信頼できるのか、当該事実・情報が作成しようとした通りのものかなどの証明(発行元証明)が必要である。

① eシールに求められる要素

方向性

• 我が国におけるeシールは以下のようにレベル分けを行う。

レベル3: レベル2に加えて、十分な水準※1を満たしたトラストアンカー※2によって信頼性が担保されたeシール(発行元証明として機能することに関し、第三者によるお墨付き(将来的には国による認定制度等の要否を検討)があるものを想定)

主な用途例:国際取引等における証憑類、法的に保存義務が課されているデータ、排他的独占業務とされている士業の証明書等

レベル2: 一定の技術基準を満たすeシール(技術的には発行元証明として十分機能することが確認できるもの)

主な用途例:行政手続における提出書類※3、民民の契約に関連する書類、IR関連資料等の公開情報等

レベル1: 裸のeシール(eシールの定義(P8参照)には合致するが、レベル2の要件を満たす保証がないもの)

主な用途例:民民における企業間で日常的にやり取りされる電子データ全般、発行元を担保したい情報等

注) eシールのレベルを判別するための呼称については将来決定することが必要。

• eシールの用途等にあわせて、レベル感を分けて検討することが必要か。

検討事項

今後、eシールは発行元証明として様々なユースケースでの使用が期待される。

例えば、国際取引等における証憑類に使用する場面においては、当該eシールについて国際的な整合性を求められることが想定され、行政手続における提出書類等に使用する場面においては、当該eシールが一定の水準を満たしていることを求められることが想定される。

一方、eシールの普及・利用拡大の観点では、例えば、日常的に企業間でやりとりする資料等にeシールを行ったり、個人事業主や中堅・中小企業等においてeシールを活用する場面においては、低コストで簡便に利用できるeシールのニーズも想定される。

また、EUにおいては、eシール、先進eシール、適格eシールと3つのeシールが定められており、用途やeシールの効力に応じてそれぞれのeシールが使い分けられている。

これらに鑑みて、我が国におけるeシールは、用途や活用場面に応じてレベル分けを行い、利用者自身である程度選択的にeシールを

利用できるようなフレームワークにすることが適切だと考えられる。

• eシールは必ずしも完璧なものである必要はなく、例えば印鑑では印鑑登録しているものに限定していることもあれば、緩いものが使われることもあり、レベル分けされたeシールがあるのはいいこと。

• 用途等にあわせてeシールをレベル分けすることに賛同。

• eシールの法的効果として、「組織から発出されたことが推定できる」といったことを規定できるといいのではないか。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

※1 組織等の実在性確認の方法、電子証明書のフォーマット、認証局におけるセキュリティ要件等の一定の水準

※3 用途によっては、レベル3が必要となるケースも考えられる

※2 インターネットなどで行われる、電子的な認証の手続きのために置かれる基点。信頼性の起点となる認証局を想定。

① eシールに求められる要素

【】内は、本来、意思表示を目的とする“電子署名”が馴染むと考えられるユースケース主に機械的に大量に発行するものにeシールの活用が期待

【参考】各ユースケースとeシールのレベルとの関係性の一例

② eシール用電子証明書の発行対象となる組織等の範囲

方向性

• eシール用電子証明書の発行対象は、法人、個人(主に個人事業主を想定)、権利能力なき社団・財団、その他任意の団体等の組織とする。

• それよりも粒度の細かい、事業所・営業所・支店・部門単位や、担当者(意思表示を伴わない個人)、機器については、電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載することができることとする。

• eシール用電子証明書の発行対象となる組織等の範囲は以下のどこまでを含めることが適切か。

法人、個人事業主、権利能力なき社団・財団、その他の団体等の組織

事業所・営業所・支店・部門等の組織内の細かい単位

その他(組織に所属する個人、機器等)

検討事項

eシール用電子証明書の発行対象については、対象とする組織自体の範囲や組織内のより細かい区分を含むかどうか等について検討が必要となる。

対象とする組織自体の範囲については、eシールの普及・利用拡大の観点から、発行対象の実在性を認証局が確認できることを前提に、法人に限定せず幅広い対象を含めることが適当だと考えられる。

他方、発行対象として組織内の事業所等を含むかどうかについては、含めることに対するニーズもあるが、認証局においてその実在性等を確認することが極めて困難である(確認できる内容に限界があり、信頼性にも課題がある)ことや、当該発行対象自体に変更(例えば、事業所統合・廃止や部署名の変更等)が生じた場合、その都度電子証明書の再発行が必要となることが想定され、利便性が著しく低下してしまう可能性があるといった課題があげられる。

なお、EUにおいては、発行対象は法人であり、事業所や営業所といった細かい単位や機器等については、電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載可能になっている。

これらを踏まえて、eシール用電子証明書の発行対象は、法人、個人(主に個人事業主を想定)、権利能力なき社団・財団、その他任意の団体等の組織とし、事業所や営業所といった細かい単位や組織に所属する個人や機器等については、電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載することができることとすることが適切だと考えられる。

• eシールは発出元の証明であるということを考慮すると、発行対象は法人(組織)とするのがいいのではないか。

• 発行対象として、事業所等まで含めることが望ましいが、組織の体制とeシールの紐付きが強固になってしまうと、組織の体制の変更等に伴って電

子証明書の更新が頻繁に発生し、eシールの利便性の低下に繋がる可能性がある。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

② eシール用電子証明書の発行対象となる組織等の範囲

方向性

• eシール用電子証明書の発行対象を特定するための識別子については、既存のID・番号も含めて包括的に表現可能な方式(OID:Object Identifier(オブジェクト識別子)等)を軸として今後検討することが必要。

• eシール用電子証明書の発行対象を特定するための識別子はどうあるべきか。

検討事項

eシール用電子証明書には、発行対象の組織等を一意に特定可能な識別子が必要となる。

その識別子については、eシール用電子証明書の発行対象である組織等を一意に特定可能なID・番号体系が我が国で既に存在してい

れば、そのID・番号体系を活用することが望ましいと考えられるが、我が国では官民どちらにおいても複数のID・番号体系が共存している状態(参考:P13)であり、発行対象を網羅的に管理可能な識別子として使用可能なID・番号体系が現状存在していない。

また、そのような識別子(番号体系)をベースレジストリとして整理していくことも考えられるが、その整理には別途多大な時間を要することが想定され、データ戦略タスクフォース等他の検討の場で議論されていることも考慮すると、我が国におけるeシールの在り方を検討する本検討会での議論の対象外だと考えられる。

これらに鑑みて、eシール用電子証明書の発行対象を一意に特定可能な識別子については、既存のID・番号も含めて包括的に表現可能な方式(OID:Object Identifier(オブジェクト識別子)等)を軸として今後検討することが必要であると考えられる。

• 今後、インボイスでeシールが活用されることを考慮すると、公的なデータベース(識別子)として適格請求書発行事業者登録番号も検討の余地があるのではないか。

③ 組織等の実在性・申請意思の確認の方法

方向性

• 組織等よりも細かい粒度である、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器の実在性の確認については、組織の代表者の宣言の結果を尊重することとし、認証局はその結果に基づいて記載することが適当。

登記よりも小さい単位(事業所・営業所・支店・部門等)については、当該組織の代表者による宣言の結果を尊重することが適切か、または認証局が事業所等の実在性を直接確認することが適切か。

• 機器は事業所・営業所・支店・部門等と同様に扱うか。

検討事項

eシール用電子証明書の任意のフィールドである拡張領域に記載可能な事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等の実在性の確認について、認証局がそれらの実在性について何らか適切に確認した上で記載することが望ましいものの、確認の方法・程度によっては

認証局による確認コストが大きくなり、ひいてはeシールのサービス利用料にも影響が及ぶことが想定され、eシールの普及・利用拡大の観点からも課題があると考えられる。

あくまでもeシール用電子証明書の発行対象は組織等であり、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等は、任意の拡張領域に記載されるということを踏まえると、認証局に対して、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等の実在性を確認することまで求める

必要はないと考えられる。

したがって、事業所・営業所・支店・部門等や担当者、機器等の実在性の確認については、組織の代表者の宣言の結果を尊重することとし、拡張領域への記載事項については発行対象である組織等が一義的な責任を負うことが適当だと考えられる。

• 組織の確認として、事業等の細かい単位まで網羅的に認証局が確認することは、多大な負担となり、困難ではないか。

• 認証局が組織のどこまで確認するかという問題よりも、その記載した情報に誰が責任を持つかが重要。代表者が宣言していることを認証局が確認するという方法と、認証局においても何らか一定の事業所等の確認をするという方法がある。前者であれば、その事業所等の情報をeシールの証明書に記載することに果たしてどれだけの意味があるのかということについて検討が必要。後者であれば、一定の責任が認証局に出てくるが、

それにどれだけ意味が出てくるのかは検討が必要。

• 組織の確認については、認証局側ですべき確認と第三者機関(TDBやTSR等)で行っている確認との切り分けを明確に整理すべきではないか。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

• eシールに係る電子証明書の発行の手続きの整理の一例は以下の表のとおり。

第三者機関データベースにて組織等の実在性確認を行う場合、レベル3にあっては商業登記情報等の公的な機関が管理する情報と照合されたものであることが求められる。

方向性

③ 組織等の実在性・申請意思の確認の方法

組織等の実在性の確認組織(代表者)の意思の確認組織の代表者の在籍の確認

レベル3

商業登記電子証明書による電子署名が行われた利用申込(★)

• 登記事項証明書• 申込書への押印(代表印に係る印鑑証明書が添付されている場合に限る)

④ eシール用電子証明書の記載事項等

【参考】eシール用電子証明書(ITU-T X.509)の記載の一例

フィールド名値(サンプル)

バージョンV3

シリアルナンバーWWWWWWWWW

署名アルゴリズムsha256RSA/sha512RSA

署名ハッシュアルゴリズムsha256/sha512

発行者発行者を識別する情報

有効期限の開始時刻Monday, January 5, 2020 5:00:00 PM

有効期限の終了時刻Thursday, January 5, 2022 5:00:00 PM

サブジェクト発行対象となる組織等の公式名称、当該組織等を一意に特定可能な識別子等

公開鍵RSA (2048bit)

公開鍵パラメータ05 00 …

認証機関アクセス情報[1]CA証明書のURL [2]OCSPのURL

サブジェクト鍵識別子YYYYYYYYYYY

QCステートメントeシールのレベルを判別可能な情報等

証明書ポリシー[1]0.4.0.194112.1.1/0.4.0.194112.1.3 [2] http://xxxxxxxxxxxxxxx

サブジェクト別名「事業所・営業所・支店・部門名、担当者、機器」や「組織等の和文商号」等

CRL配布ポイントhttp://xxxxxxxxxxxxxxxxCA.crl

基本制約Subject Type = End Entity

鍵使用目的Non-Repudiation (40)

⑤ 設備の基準(認証局側の暗号装置)

検討事項

認証局の秘密鍵は、例えば悪意のある第三者に盗まれて悪用された場合、当該認証局の発行するeシール用電子証明書の信頼性が著しく損なわれてしまい、当該認証局からeシール用電子証明書の発行を受けた全ての組織等に影響が及んでしまうため、認証局の秘密鍵はHSM等で厳格に管理されることが必要となる。

eシールにおける認証局の秘密鍵の管理の重要性については、同じトラストサービスの1つである電子署名の認定認証業務における認証局の秘密鍵の管理と同等だと考えられるため、認証局の秘密鍵の管理に係る具体的な基準については、電子署名法の認定認証業務で規定している基準を準用することが適切だと考えられる。

ただし、国際的な整合性も踏まえて、電子署名法の基準は現行化すること※2を前提とし、念頭に置くレベルはFIPS140-2 レベル3相当もしくは、ISO/IEC 15408のEAL4+相当(プロテクションプロファイルは要検討)を求めることが適切だと考えられる。

• 国内の類似制度や国際的な通用性に鑑みて、ISO/IEC 15408(コモンクライテリア)のEAL4+又はFIPS140-2 レベル3を求めることが適当ではないか。

• 現状の日本の認証局の数を考えると、HSMの基準として日本独自のプロテクションプロファイルを作成するのはコストがかかり過ぎるので、望ましくない。ISO/IEC 15408は国際相互認証されており、プロテクションプロファイルはそのためにあるので、それを適用するのがよいのではないか。

• 電子署名法と同等の基準を設けるということでよいと思う。現状の電子署名法の規定では、特定の認証取得製品に限定しておらず、FIPSでもISO/IEC 15408でも使用できるような記載になっているため、同じような記載でいいのではないか。その上で、実際にどのような製品(FIPS認証製品なのか、ISO/IEC 15408認証製品なのか、その他の認証製品なのか等)を使っていくかは別の議論。

• 電子署名法の基準を準用するということでよいと思うが、電子署名法の現行の基準はFIPS140-1 レベル3相当であるため、まずはFIPS140-2 レベル3相当にアップデートすることが必要ではないか。

【参考】議論であがった主な意見(抜粋)

※1 耐タンパー機構による物理的な安全性が確保された鍵管理機能を備えた暗号処理装置

※2 電子署名法の現行の基準はFIPS140-1 レベル3相当であるが、理想的には現状の脅威に対抗できる要件が必要であり、例えば、現時点においてはFIPS140-2 レベル3相当にアップデートすることが望ましいとのご意見があった。

⑤ 設備の基準(認証局側の暗号装置) 20

• HSMとは、耐タンパー機構による物理的な安全性が確保された鍵管理機能を備えた暗号処理装置。

~電子署名及び認証業務に関する法律に基づく指定調査機関の調査に関する方針~(抜粋)

2.暗号装置関係

(1) 規則第4条第4号に規定する「専用の電子計算機」(以下「暗号装置」という。)とは、発行者署名符号の漏洩、破損、消失等の事象の発生を可能な限り

低い確率に抑えるための以下の機能を備えたものをいう。

ア暗号化されていない状態の暗号符号や認証データ等、保護されていない形式の重要なデータに係る暗号装置への入出力が行われるインタフェース

が存在する場合は、そのインタフェースは他のデータの入出力を行うインタフェースとは物理的に独立したものであること。

イ暗号装置は、以下の機能を有するものであるとともに、暗号装置の操作者ごとに機能ごとの権限の有無が特定されているものであること。

(ア) 操作者機能: 暗号化、署名等、通常の暗号化機能を実施するための機能

(イ) 管理者機能: 暗号装置自体の初期化、署名符号などの重要パラメータの投入等、暗号装置を管理するための機能

ウ発行者署名符号等のデータの盗難を回避するため、暗号装置は、以下のいずれかの物理的なセキュリティ対策が講じられていること。

(ア) 暗号装置がIC チップ単体からなる場合、IC チップが強固で除去困難な材質の不透明なコーティングで覆われていること。

(イ) 暗号装置にカバーが施されている場合、物理的な侵入行為に対し、暗号装置の機能の停止、内部データの無効化等の耐タンパ対策が講じられて

いること。

(ウ) 暗号装置の筐体に排気用スリットもしくは空孔が存在する場合、それらは十分小さく、かつ、検出されずに筐体の中をプローブされることを防止する

対策が講じられていること。

エ暗号装置に係る発行者署名符号の管理に関し、以下の措置が講じられていること。

(ア) 暗号装置内で発行者署名符号の生成を行う場合、安全な擬似乱数生成アルゴリズムを用いるものであること。

(イ) 暗号装置への発行者署名符号の入出力を行う場合には、以下のいずれかの方式であること。

① 発行者署名符号は暗号化された上で入出力されること。

② 発行者署名符号を2つ以上の構成要素に分割して入出力を行う場合は、暗号装置に対して直接行うこととし、発行者署名符号の各構成要素に対

する操作者の認証が行われること。また、発行者署名符号の各構成要素は、暗号装置内で分割、結合されること。

(ウ) 発行者署名符号を暗号化されていない状態で暗号装置内に保管する場合は、外部からアクセスできない仕組みとすること。

(エ) 発行者署名符号を廃棄する際には、発行者署名符号その他のセキュリティパラメータを無効化する機能を有すること。

(2) 省略

設備の基準(利用者側のeシール生成装置)

• 日本でも少なくともQSCD相当のものを使用して耐タンパ性能が確保されたところで秘密鍵が管理されるよう規程の整備が必要ではないか。Society5.0やDFFTを実現していく上で、データを自動で検証して処理し、更にそのデータが自動処理されていくということを想定していくと、検証時に秘密鍵が適切な環境で保護されているかどうかを確認できる必要がある。レベル3のeシールでQSCDを求めるかどうかは別の議論になるが、EUのQCステートメントのように、少なくとも検証時において、QSCDを使用していることがわかるような制度にした方がいい。

• 電子署名法とのバランスが重要である一方、EUとの相互運用の関係もあるので非常に難しい問題。商業登記や法的効力のある電子署名法でも署名生成装置は規定されておらず、また、実世界でも実印の管理については規定がないため、QSCDの規定は設けないという考え方が1つある。電子署名には推定効というものがあるが、eシールがそれ以上の効力を持つことは考えられないのでeシールにのみQSCDを求めるというのは全体のバランスを欠くのではないか。

• QSCDの規定を設ける場合、QSCDの使用/未使用によってeシールの効力にどれだけ違いが出るのかについては、レベル2、3問わずeシールには現段階では法的効力がないことを考えると、EUの適格として通用するかどうかではないか。

• 選択肢としては、電子署名法でもeシールでも両方QSCDを求めるか、あるいは両方求めないか、という2択になるのではないか。両方求める場合は、現状規定のない電子署名法は規制強化になってしまうことが懸念される。他方、両方求めない場合はEUと相互運用を目指す際に課題となる。従来の我が国の法制度の中での秘密鍵等の管理は本人に任されていて本人の責任であるという考え方を維持するのであれば、QSCDは必須にしないが、秘密鍵等の管理の方法として、QSCDを使用する方法もあるということやEUとやりとりする際のオプションとして使用することをガイドライン等に記載するのはどうか。

• eシールの普及という観点では、国内での申告や申請等に利用するということでレベル2の世界で考え、レベル3については欧州等の諸外国との相互運用に値する他国に恥じない基準にすることが適切ではないか。

• EU等の諸外国との相互運用の観点も重要であるが、QSCDの規定を設ける場合は実際の企業側の運用と基準がどうフィットするのかについても検討が必要ではないか。

方向性

• レベル3のeシールにおける認証局側のHSMの管理に係る基準は、基本的には電子署名法を準用することと

する。

• レベル3のeシールにおける、認証局側のHSMの管理に係る基準はどうあるべきか。

検討事項

認証局のHSMの管理については、秘密鍵を管理しているというその重要性に鑑みて、HSMが配置される部屋への入出場に係る基準、HSMに対する不正アクセス防止に係る基準、災害対策に係る基準等が一般的に求められると考えられる。

eシールにおける認証局のHSMの管理の考え方については、同じトラストサービスの1つである電子署名の認定認証業務における認証局のHSMの管理の考え方と同等だと考えられるため、認証局のHSMの管理に係る具体的な基準については、電子署名法の認定認証業務で規定している基準を準用することが適切だと考えられる。

• 電子署名法の認定認証業務で要求している基準と同等の基準を求めることが適切ではないか。

⑤ 設備の基準(認証局側の暗号装置の管理)

~電子署名及び認証業務に関する法律施行規則第4条第1項(抜粋)~

(認証設備室への入出場の管理に関する規定)

1 申請に係る業務の用に供する設備のうち電子証明書(利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項(以下「利用者署名検証符号」という。)が当該利用者に係るものであることを証明するために作成する電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成又は管理に用いる電子計算機その他の設備(以下「認証業務用設備」という。)は、入出場を管理するために業務の重要度に応じて必要な措置が講じられている場所に設置されていること。

(認証業務用設備へのアクセス等の管理に関する規定)

2 認証業務用設備は、電気通信回線を通じた不正なアクセス等を防止するために必要な措置が講じられていること。

(認証業務用設備の作動権限等の管理に関する規定)

3 認証業務用設備は、正当な権限を有しない者によって作動させられることを防止するための措置が講じられ、かつ、当該認証業務用設備の動作を記録する機能を有していること。

4 HSM自体の基準のため省略

(災害対策に関する規定)

5 認証業務用設備及び第一号の措置を講じるために必要な装置は、停電、地震、火災及び水害その他の災害の被害を容易に受けないように業務の重要度に応じて必要な措置が講じられていること。

【参考】電子署名法の認定認証業務におけるHSMの管理に係る規定

注) これらの規定は、HSMに限らず、認証業務用設備全般についての規定であることに留意

⑤ 設備の基準(利用者側の秘密鍵の管理)

方向性

• 利用者の秘密鍵の管理は発行対象である組織等の管理に委ねることとする。

• ただし、認証局から利用者に対する説明事項として、秘密鍵の管理に係る事項(秘密鍵の管理は厳格に行うこと(複製は望ましくない等))を規定することが適切。

• レベル3のeシールにおける、利用者側の秘密鍵の管理に係る基準はどうあるべきか。

① 1つの秘密鍵を複数人で共同で使用することを禁じるか。

② 又は、利用者側で秘密鍵を複製し、複数人がそれぞれ管理して使用することを禁じるか。

③ 又は、同一の組織等に対して複数のeシール用電子証明書(及び秘密鍵)を発行することを禁じるか。

検討事項

利用者の秘密鍵の管理次第では、当該秘密鍵が漏えいして悪用される懸念があることから、秘密鍵の管理は厳格に行われる必要がある。他方、仮にeシールに係る認定制度ができた場合でも、利用者側が所持している秘密鍵(生成装置に格納している場合は生成装置)の具体的な管理の在り方に関して、フレームワーク上で何らか利用者側に義務を課すことは困難であることが想定される。

電子署名法の認定認証業務においては、利用者の秘密鍵の管理に係る直接的な規定はないが、認証局に対する要求事項として、秘密鍵は十分注意を持って管理する必要がある旨を利用者に説明することが規定されており、秘密鍵の管理は利用者に委ねられている。

EUの適格eシールにおいても、秘密鍵(適格eシール生成装置)の管理は法人の管理下にあることが規定されているのみ(ただし、適格eシール生成装置を用いるため、秘密鍵の複製は不可)となっている。

これらに鑑みて、利用者の秘密鍵の管理は発行対象である組織等に委ねることが適切だと考えられる。ただし、認証局から利用者に対する説明事項として、秘密鍵の管理は厳格に行うこと(複製は望ましくない等)を規定することが適当だと考えられる。なお、秘密鍵の管理が利用者に委ねられ、利用者側での複製が望ましくないことを考慮すると、当然、認証局側での利用者の秘密鍵の複製も望ましくない。

• EUでは法人の管理下にあることが求められており、電子署名法でも実質的には同じルールになっているため、特段の要件は不要ではないか。

• QSCDを求めない以上、ファイル形式で利用者に秘密鍵を渡すことも可能であるため、ユーザー側でも複製ができてしまうことになると思うが、特に

レベル3のeシールにあっては、利用者の秘密鍵を利用者側で複製できるのは望ましくないのではないか。

• 利用者の秘密鍵の管理については、少なくとも認証局から利用者への重要事項説明として規定するべきではないか。

• 有事の際のバックアップを考えると、利用者側での秘密鍵自体の複製ができないと困るのではないか。

• 利用者の秘密鍵の複製については、同一の組織に複数のeシール用電子証明書(及び秘密鍵)を発行することで対応可能。

~電子署名及び認証業務に関する法律施行規則~(抜粋)

第六条法第六条第一項第三号の主務省令で定める基準は、次のとおりとする。

一利用申込者に対し、書類の交付その他の適切な方法により、電子署名の実施の方法及び認証業務の利用に関する重要な事項について説明を行うこと。

~電子署名及び認証業務に関する法律に基づく特定認証業務の認定に係る指針~(抜粋)

第八条規則第六条第一号に規定する利用申込者に対して説明を行うべき事項とは、次の各号に掲げる事項を内容として含むものとする。

一認定認証業務においては、虚偽の利用の申込みをして、利用者について不実の証明をさせた者は、法第四十一条の規定により罰せられること。

二電子署名は自署や押印に相当する法的効果が認められ得るものであるため、利用者署名符号については、十分な注意をもって管理する必要があること。

三利用者署名符号が危殆化(盗難、漏えい等により他人によって使用され得る状態になることをいう。以下同じ。)し、又は危殆化したおそれがある場合、電子証明書に記録されている事項に変更が生じた場合又は電子証明書の利用を中止する場合においては、遅滞なく電子証明書の失効の請求を行わなければならないこと。

四認定認証業務に係る電子証明書を使用する場合における電子署名のためのアルゴリズムは、認証事業者が指定したものを使用する必要があること。

⑥ その他(eシールを大量に行う際の処理)

方向性

• レベル3のeシールにおいて、複数の対象データに一括でeシールを行うことを認めることが適当。

• レベル3のeシールにおいて、複数の対象データに一括でeシールを行うことを認めるか。

検討事項

eシールにおいては、業務効率化の観点から、ローカル/リモート方式に限らず機械的に複数の対象データ(例えば領収書等)に対して一括でeシールを行うことに対するニーズがある。

一括処理について、我が国における実空間での手続では、複数の対象文書(例えば委嘱状等)に対して、まとめて処理(決裁・押印)することは一般的に実施されている。

また、EUの適格eシールにおいては、ローカルeシールについては特段の規定がないが、リモートeシールについてはCENの技術基準において、複数の対象データに一括で署名(eシール)指示することが認められている。

eシールの普及・利用促進の観点や国内における実運用、EUの制度を踏まえ、そもそもeシールは意思表示を伴わず、発行元証明にとどまるということに鑑みて、レベル3のeシールであっても、複数の対象データに一括でeシール行うことを認めることが適当だと考えられる。

ただし、一括でeシールを行う際には、当然利用者が指定したデータのみにeシールが行われることが求められることから、利用者が対象データに対してeシールを行う指示を行って以降、他のデータが紛れ込むことがないことはeシールサービス側で担保する必要がある。

リモートeシール方式の一例(リモートeシール利用申込及び認証局による組織の確認後)

⑥ その他(リモート方式) 

• レベル3のリモートeシールにおいては、少なくとも利用認証(eシールを行うことができる権限者(リモートeシールサービスへの登録者)であることを認証するための認証)と鍵認可(実際にeシールを行うために利用者の秘密鍵を利用できる状態にすること)を別に求めることが適切。

• ただし、上記の鍵認可の場面で複数要素認証(例えば、所持認証+知識認証)までは要求しない。

• リモートeシールサービス提供事業者が利用者の秘密鍵を管理し、利用者がそのリモート環境にある秘密鍵にアクセスしてeシールを行う方式であるリモートeシールについて、レベル3のリモートeシールを行う際にはどのような認証が必要か。

注1) なお、ローカルeシールでは、利用者自ら秘密鍵を管理していることに留意。

検討事項

ローカルeシールにおいては、一般的に利用者自身が管理している秘密鍵をPINコード等によって鍵認可を行い、eシールを行う形式が想定される。

ローカルeシールにおける認証を踏まえると、利用者の秘密鍵を利用者自身で管理するのではなく、リモートeシールサービス提供事業者が管理するリモートeシールにおいては、まずは利用者の秘密鍵が保管されているリモートeシールサービス提供事業者のクラウド環境等にアクセス(以下、「利用認証」という。)し、その後、鍵認可を行ってeシールを行う必要があると考えられる。

なお、リモート署名ガイドライン※のレベル2(電子署名法における認定認証業務と同等の信頼性を想定)においては、サービス提供を受けるための利用認証と秘密鍵(署名鍵)を利用するための鍵認可を分けて行い、かつ鍵認可は複数要素認証を行うことを要求している。

また、EUの適格eシール(リモート方式)においては、リモート署名ガイドラインのレベル2の要件に加えて、鍵認可はISO/IEC 15408(コモンクライテリア)の認証(プロテクションプロファイル: EN 419 221-5)を取得した署名活性化モジュールにて行うことを要求している。

他方、電子署名は意思表示であり、我が国でもEUでも推定規定があるのに対し、eシールは発行元証明にとどまり、我が国では現状は推定規定もないことに鑑みて、レベル3のリモートeシールを行う際には、利用認証と鍵認可(単要素認証でも可)を別に求めることで十分だと考えられる。

• レベル3のリモートeシールにおいて、組織によっては鍵認可の際は複数要素認証であったとしても単純な認証だけでは認められないことも考えられ、よりレベルの高いもの(例えばVPNを使ったシステム間連携等)を要求する可能性もある。

※ 日本トラストテクノロジー協議会(JT2A)が作成したリモート署名に関する技術的な基準を示したガイドライン

注2) レベル2のリモートeシールは、利用認証と鍵認可を別々に行わなくてもよい。

⑥ その他(リモート方式)

方向性

• 認証要素の管理は基本的には利用者が行うこととし、eシールとしての用をなさないレベル3のeシールの生成、流通を防止するため、レベル3のeシールをリモートで行う事業者(リモートeシールサービス提供事業者)

のサービスについては、一定の基準(認証要素は利用者本人が管理すること等)を設けることが適切。

• レベル3のリモートeシールにおいて、eシールを行う際の鍵認可で使用する知識要素(PINコード等)等の認証要素の管理はどうあるべきか。

利用者のみが管理することを求めるか。

リモートeシールサービス提供事業者やアプリケーション提供事業者が管理することも認めるか。

検討事項

リモートeシールにおいて、仮に利用者の秘密鍵を管理しているリモートeシールサービス提供事業者が認証要素も管理して、利用者に断りなくeシールを行うことができる可能性がある場合は、そもそも認証要素としての意義が失われ、eシールを行った利用者、すなわち発行元が誰であるかの判断ができなくなる可能性が想定され、基本的には認証要素は利用者のみが管理することが望ましいと考えられる。

加えて、eシールの場合には、eシールが行われたデータを受け取る者(例えば領収書の受領者)には、リモートeシールサービスの利用について協議を受けられない蓋然性が高い(電子署名の場合には、文書の名義人間で、どのような方式を取るかの合意があるため、リモート署名サービスの利用について、双方の合意があるとみなす余地がある)。

このため、仮にレベル3のリモートeシールにおいて、eシールを行う際の鍵認可で使用する認証要素の管理が適切に行われない可能性がある場合には、信頼性が損なわれたレベル3のeシールが存在・流通してしまうことが想定され、制度の安定性そのものに影響を与えかねないと考えられる。

なお、EUにおいては、認証要素の管理は法人に委ねられ、アプリケーション提供事業者が管理することも否定はされていない一方、リモート署名ガイドラインにおいては、利用者本人のみが秘密鍵(署名鍵)を活性化(鍵認可)できることを要求している。

これらを勘案し、認証要素の管理は基本的には利用者が行うこととし、eシールとしての用をなさないレベル3のeシールの生成、流通を防止するため、レベル3のeシールをリモートで行うする事業者(リモートeシールサービス提供事業者)のサービスについては、一定の基準(例えば認証要素の管理は不可とする等)が必要になると考えられる。なお、当然認証要素をアプリケーション提供事業者が管理することは望ましくない。

• リモートeシールサービス提供事業者に関しては、一定の基準が必要ではないか。

⑥ その他(失効に係る事項)

方向性

• 失効要求できる者は電子証明書の発行を要求できる者(法人であれば代表者又は代表者から委任を受けた者)に限定することが適切。

• 利用者において、eシール用電子証明書の失効要求ができる者の範囲はどこまでとすることが適切か。

eシール用電子証明書の発行を求めることができる者に限定する。

上記に加えて、当該eシールを行う権限を有する者でも可とする。

当該eシール用電子証明書の発行を受けた組織等に属する者であれば誰でも可とする。

検討事項

電子証明書と自然人の紐付けが1対1である電子署名とは異なり、eシールは1つのeシール用電子証明書を組織等の中の複数人が使用することが想定されるため、当該eシール用電子証明書の失効を要求できる者の範囲をどこまでとするかについて検討が必要となる。

その範囲については、①eシール用電子証明書の発行を求めることができる者に限定するか、②それに加えて当該eシールを行う権限を有する者でも可とするか、③当該eシール用電子証明書の発行を受けた組織等に属する者であれば誰でも可とするか、が主な選択肢としてあげられるが、失効要求は、eシール用電子証明書の発行申請と同様に意思表示が必要であると考えられることから、失効要求できる者は電子証明書の発行を要求できる者(法人であれば代表者又は代表者から委任を受けた者)に限定することが適切だと考えられる。

• 失効要求ができる者は、基本的には代表者もしくは委任を受けた者といった制限をかけるのがよいのではないか。

デジタル庁第2回トラストを確保したDX推進SWGプレゼン資料

電子契約の有効性について

2021年12月13日(月)

西村あさひ法律事務所弁護士・ニューヨーク州弁護士太田洋

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(書面契約と異なった)電子契約の特殊性

データ時代には、認証と改ざん防止が重要

・なりすましが容易

・改ざんが容易

⇒ 電子契約の有効性・内容の正確性に脆弱性

DXには、データへの信頼(トラスト)が確保されていることが大前提

電子契約への信頼

① 本人性確認

・電子契約の現実の作成者と表示されている作成者の同一性が

確認されていること

② 完全性確認

・電子契約のデータが改ざんされていないことが確認されていること

電子契約の有効性を考える上での前提

 電子契約についての一般的な法的定義はない

⇒ ここでは仮に「書面ではなく、電磁的記録のみによって締結される契約」としておく

⇒ 電子署名を用いなくとも、電子契約は成立し得る(ex. eメールのやりとりやLINEでのチャットのやりとりでも「電子契約」は成立し得る)

 電子契約にはレベルがある

◆ 口頭合意による契約に相当するもの≑ eメールのやりとり/LINEのトークでのやりとり

⇒ 裁判所に「最終的」かつ「確定的」な合意ではない(それ故、法的拘束力がない)と判断されるリスク

⇒ サイン頁をPDF化してメールで交換する実務があるが、当該実務は自署された書面契約が存在することを前提

◆ 三文判の印影が顕出されているだけの書面契約に相当するもの≑ 3条署名が付された電子契約≑ ①当事者署名型で、(特定認証等のない)2条署名が付され、秘密鍵が適正に管理された電子契約/②事業者署名型のうち当事者指示型で、2要素認証等が確保され、2条署名が付された電子契約

⇒ 三文判が顕出されているだけの書面契約でも、「二段の推定」は効く(最高裁判決が存在)

◆ 認印・銀行(手彫り)の印影が顕出された書面契約に相当するもの≑ ①当事者署名型で、特定認証された2条署名が付され、秘密鍵が適正に管理された電子契約/②事業者署名型のうち当事者指示型で、2要素認証等が確保され、2条署名が付された電子契約

◆ 実印(印鑑証明付き)の印影が顕出された書面契約に相当するもの≑ 当事者署名型で認定認証(準ずるものを含む)された2条署名が付され、秘密鍵が適正に管理された電子契約

電子契約が裁判上「証拠」となるために何が必要か

◼ (書面の)文書を証拠とするためには、「文書の成立が真正」であることを証明しなければならない(民訴法228条1項)

= 文書を証拠として提出する者が、当該文書の作成者であると主張している者(作成名義人)の意思に基づいて作成されたこと

= 作成名義人の印影がその者の印章と一致⇒当該印影は作成名義人の意思に基づくものと事実上推定(判例)【第1段の推定】⇒文書の成立の真正が法律上推定(民訴228Ⅳ)【第2段の推定】

◼ 電子文書を証拠とするためにもその「電子文書の成立が真正」であることを証明する必要

※ 3条推定効:その電子文書が真正に成立したものと推定する効果

= 電子文書を証拠として提出する者が、当該文書・契約の作成者であると主張している者(作成名義人)の意思に基づいて作成されたこと

= 作成名義人の電子署名がその者の秘密鍵によって生成されたことが検証⇒当該電子署名は作成名義人の意思に基づくものと事実上推定(実務法曹の多数説)【第1段の推定】⇒電子文書の成立

の真正が法律上推定(電子署名法3条)【第2段の推定】

※ 3条Q&Aは、事業者署名型のうち当事者指示型(⇒これで2条署名には該当)のものでなされた電子署名が、作成名義人の秘密鍵によって生成されたものと検証されるために必要な条件は、「他人がなりすますことができないという『固有性』を有すると評価できること」であることを明らかにしたもの

⇒ もっとも、3条Q&Aがカバーしているのは「当人認証」までであり、電子契約プラットフォームを利用した者

=作成名義人であること(身元確認)は別途確認・確保される必要あるが、これは内部統制の問題

◼ 「文書の成立の真正」の証明方法

⇒ もっとも、上記の民訴228条4項・電子署名法3条の推定規定のルートを経由しなくとも、「(電子)文書の成立の真正」を(他の証拠により)直接立証することは常に可能

わが国における電子契約を巡る法的環境整備

 クラウド型電子署名プラットフォームの利用を含め、電子契約の普及につ

いての法的環境整備はほぼ完了

⇒ ①2020年7月17日付け総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(「2条1項Q&A」)及び②2020年9月4日付け総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(「3条Q&A」)により制度整備は完了

⇒ 後は、個々の事業者が自己の責任において、利用するクラウド型電子署名プラットフォームが、上記の2条1項Q&A及び3条Q&Aの要件を満たしているかを(適宜弁護士等も活用しながら)セルフ・チェックして、用途に応じた適切なサービスを取捨選択して利用していくべきステージ

 用途に応じて適切なフォーマットの電子契約を選択することが重要

◆ 本人性確認と完全性確認は、リスクと利便性を考慮して、適切なレベルに設定することが重要

◆ いずれの電子署名を利用して電子契約を締結するかは、安全性、コスト、利便性を勘案して判断すべき

見積書、注文書、請書のような取引基本契約を前提とした個別契約や、NDAのような定型的契約は、通常は、事業者署名型のうち当事者指示型の3条署名を利用すれば十分であろう。見積書、注文書、請書等の一方当事者の意思表示を示すものについては(3条推定効によらず文書の成立の真正は直接立証する前提で)「電子印鑑」(2条署名には該当する前提のもの)サービスを利用することもあり得る

取引基本契約等の重要な契約や、M&Aに関する契約については、件数も限られていると考えられ、事業者にとっての重要性も高いので、自署された書面契約(の存在を前提にサイン頁をPDF化してメールで交換して成立を確認する実務)を用いたり、当事者署名型で認定認証(準ずるものを含む)された2条署名(秘密鍵は適正に管理する前提⇒3条署名に該当)を付した電子契約を用いることが、今後も多いものと思われる

電子契約・電子文書に関する近時の政府見解

◼ 第10回成長戦略ワーキング・グループ資料1-2「論点に対する回答」(法務省、総務省、経済産業省提出資料)(2020年5月12日)(「3省論点回答」という)

◼ 第10回成長戦略ワーキング・グループ資料2-1「論点に対する回答」(2020年5月12日)(法務省提出資料)

◼ 内閣府=法務省=経済産業省「押印についてのQ&A」(2020年6月19日)(「押印Q&A」という)

◼ 規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申」(2020年7月2日)16頁以降

◼ 総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者

自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(2020年7月17日)(「2条1項Q&A」)

◼ 総務省=法務省=経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者

自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(2020年9月4日)(「3条Q&A」)

本人確認とは

出典:経済産業省他「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」

電子署名の種類

②認証がされた電子署名

③特定認証がされた電子署名

④認定認証がされた電子署名

①電子署名法上の電子署名

電子署名(最広義)

出典:高林淳=商事法務編『電子契約導入ハンドブック〔国内契約編〕』(商事法務、2020)102頁

電子署名法上の電子署名(2条署名)

電子署名

電磁的記録に記録することができる情報について、以下の要件を満たした「措置」

① 電磁記録に記録された情報が、当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること(本人性)

② 電磁記録に記録された情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(非改ざん性)

・身元確認は必要とされていない

・当人認証は必要とされていない

・印鑑でいうと三文判を含む

認証された電子署名

◼ 認証業務

認証業務を行う者が、利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項(公開鍵暗号方式では検証に用いる公開鍵)が当該利用者に係るものであることを証明する業務(電子署名法2条2項)

⇒ 電子証明書の発行(通常)

・当人認証は必要とされている

・身元確認は必要とされていない

・認証業務は第三者である必要は無い

・認証業務に資格は不要

特定認証された電子署名

◼ 特定認証業務

電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行なうことができるものとして、電子署名法施行規則2条に定める基準に適合する電子署名について行なわれる

認証業務(電子署名法2条3項)

◼ 電子署名法施行規則2条に定める基準

電子署名の安全性が以下のいずれかの有する困難性に基づくもの

①ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である2048ビット以上の整数の素因数分解

②大きさ2048ビット以上の有限体の乗法群における離散対数の計算

③楕円曲線上の点がなす大きさ224ビット以上の群における離散対数の計算

④前三号に掲げるものに相当する困難性を有するものとして主務大臣が認めるもの← 認証業務と同じ+暗号が解読困難

手彫りの印鑑と類似

認定認証された電子署名

◼ 認定認証事業者

主務大臣が、設備・本人確認の方法・業務体制等が一定の認定基準を満たしている特定認証業務を行なう事業者について、認定をする制度によって認定された事業者(電子署名法4条)

◼ 認定認証事業者は、公的身分証等による身元確認を行なうことが求められる(電子署名法6条1項2号、電子署名規則5条)

◼ 認定をうけた認証事業者は、電子証明書等に認定を受けていることを表示することができる(電子署名法13条)

・印鑑だと、実印+印鑑証明書と類似

事業者署名型(立会人型)の電子署名とは

◼ サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービス

仕組みの面からの電子署名の分類

 基本形としての当事者型と事業者型(立会人型)

◆ 当事者が自分が保有・管理する電子署名(署名鍵=秘密鍵)を自ら付すのが当事者型

◆ 当事者が利用するクラウド型サービス提供事業者が、当該事業者の電子署名

(署名鍵=秘密鍵)を付すのが事業者型(立会人型)

 当事者型と事業者型(立会人型)それぞれの変形版

◆ 事業者型(立会人型)のうち、事業者が、当事者の指示を受けて当該事業者

の電子署名(署名鍵=秘密鍵)を付すのが当事者指示型

◆ 当事者が、認証局を運営するクラウド型サービス提供事業者から認証を受けた自らの電子署名(署名鍵=秘密鍵)を、当該事業者にクラウド上で管理して貰い、必要な場合に当該事業者のプラットフォームを利用して、リモートで当該電子署名を自ら付すタイプ(クラウド利用当事者型)も存在

リモート署名の電子署名(2条署名)該当性

◼ サービス事業者による電子署名(リモート署名による電子署名)が、当事者による電子署名といえるか?⇒ 2条1項Q&A

利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行う…サービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、『当該措置を行った者』はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得る

2条1項Q&A

◼ 「電子署名法第2条第1項第1号の『当該措置を行った者』に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、『当該措置を行った者』はBであると評価することができるものと考えられる。

◼ このため、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、『当該措置を行った者』はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。

◼ そして、上記サービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、『当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること』という要件(電子署名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。

電子署名法3条

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

①電子署名

②本人による

③これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。

本人=電磁的記録に記載された思想を表現した者

事業者署名型のうち当事者指示型を利用した署名の3条署名該当性

 利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに3条推定効の適用はあるか?

◆ 3条Q&A

⇒ 当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要

※ 〔利用者の指示に基づき、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービス〕が電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するには、更に、当該サービスが本人でなければ行うことができないものでなければならないこととされている。そして、この要件を満たすためには、問1のとおり、同条に規定する電子署名の要件が加重されている趣旨に照らし、当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要であると考えられる

固有性の要件とは?(1)

◼ 固有性の要件

⇒ 暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められること

⇒ そのためには、当該電子署名について相応の技術的水準が要求されることに

※ 電子署名法第3条に規定する電子署名について同法第2条に規定する電子署名よりもさらにその要件を加重しているのは、同法第3条が電子文書の成立の真正を推定するという効果を生じさせるものだからである。すなわち、このような効果を生じさせるためには、その前提として、暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められることが必要であり(以下では、この要件のことを「固有性の要件」などという。)、そのためには、当該電子署名について相応の技術的水準が要求されることになるものと考えられる。したがって、電子署名のうち、例えば、十分な暗号強度を有し他人が容易に同一の鍵を作成できないものである場合には、同条の推定規定が適用されることとなる

固有性の要件とは?(2)

◼ 固有性の具体例

①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス

②サービス提供事業者内部で行われるプロセス

⇒いずれにおいても十分な水準の固有性

◆プロセス①:利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合

◆プロセス②:暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み例:システム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること

電子署名法3条の推定効の意義(1)

 推定効の意味

◆ 通説:証拠評価にかかる法則を法律上規定した法定証拠法則

・証明責任は相手方に転換されない

・相手方からの反証が可能

◆ 文書の記載内容が、立証主題である事実の証明に寄与する程度(実質的証拠力)は別問題

 推定効の意味

①立証責任の転換を定めた法律上の推定の規定ではなく、相手方からの反証が許される法定証拠法則に過ぎない

②文書の成立の真正を直接立証することも可能

③推定効が認められれても、文書の記載事項・内容が真実であることまでが保証されるものではない⇒ 3条推定効は一定の意義を有するが、その機能・意味を過大評価しないことが必要

出典:総務省令和2年7月3日サイバーセキュリティ統括官室トラストサービスのユースケースに関する提案募集の結果

• 総務省において、トラストサービスのユースケースと制約事項につき提案募集を実施(令和2年)

• 広範なユースケースが提案された他、慣習・制度含めた制約事項について整理された• トラストサービスは、将来的なものも含め、他の政策との関係上も必要となる備え

他の政策との関係上想定されるニーズ

— 行政サービスデジタル化

エストニアの例でもわかるとおり、各種行政・病院・民間サービス業者等複数の組織との連携が必要になり、サービスの信頼性担保の為にも、申請組織とのデータ授受の仕組みがないと安心して利用できない(個人に紐つく電子署名ではない)

— 決済サービス事業者等、各種認定事業者の市場への参入

欧州の例でもある通り、市場の開放を行い、マーケットの活性化を促進する一方で、安心した事業者とのデータ流通の仕組みを備えることは前提として必須

— 国際的取引での活用

貿易取引等国を跨ぐ民間取引における信頼性の担保(欧州、米国、中国等)

2. ユースケース実現に対する商慣習等の制約、課題

出典:総務省令和2年7月3日サイバーセキュリティ統括官室トラストサービスのユースケースに関する提案募集の結果

• 慣習・制度含めた制約事項あり。特には制度上紙や書面交付を求めるものは依然存在

• 紙の制度廃止と同時に電子化の標準形もある程度示すことは必須商慣習等を電子化していく上での課題

— 現状でも電子証明書は公共・民間問わず文書や手続きによって利用されてはいるが、対象文書や手続によって利用できる電子証明書が統一されておらず明らかに非効率

— 過去文書含めた継続性の観点は民間を超えた標準化は必須。また、電子署名業者も様々であり、電子署名法に基づく認定制度がさらに有効に働く工夫も必要。

— 効率的かつ安全・安心にデータ流通が行える基盤作りが当WGの趣旨。利用されていないから制度が不要なのではなく、制度が整備されていないから利用されていない面あり

トラストサービスのユースケース及び制約となる制度について

Global Legal Entity Identifier Foundation ( GLEIF )

Managing Director, 日本代表中武浩史

2022年2月8日(火)

第5回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

1. トラストサービスのユースケース、他の政策との関係上想定されるニーズ

2. ユースケース実現に対する商慣習等の制約、課題

3. ユースケース実現の制約となる法令・制度関係

4. 制度・手続改革のポイント:「原本性」「真正性」

5. 「原本性」「真正性」の担保で電子化が促進されるエリア

6. 制度化による効果のまとめ

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欧州eIDAS規則におけるアシュアランスレベル

第4回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

2022年1月25日慶應義塾大学SFC研究所上席所員濱口総志

eIDAS(Electronic Identification and Authentication Service)規則*

• eIDAS規則の2つの目的

• 欧州DSM(Digital Single Market)戦略

• トラストサービスの普及による

経済発展の促進

*Regulation (EU) No 910/2014 of the European Parliament and of the Council of 23 July 2014 on electronic identification and trust services for electronic transactions in the 2

internal market and repealing Directive 1999/93/EC, https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32014R0910

eIDAS(Electronic Identification and Authentication Service)規則*

• eIDの加盟国間相互承認フレームワーク

➡eIDのアシュアランスレベルについて3段階(low, substantial, High)を規定

• トラストサービスの法的効力を規定

➡2段階の法的効力

①トラストサービスは電子形式、適格トラストサービスでない理由で法的効力が否定されない

②適格トラストサービスは法的効力が推定される

➡トラストサービスの第三者評価フレームワーク

適合性評価機関による評価と監督機関による適格ステータスの付与

法的効力

電子文書

(Art.46) 電子文書は、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式であるという理由だけで否定されない。

電子署名

(Art.25)

1.電子署名は、それが電子形式である、又は適格電子署名の要件を満たさないという理由だけで、法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を否定されない。

2.適格電子署名は、手書き署名と同等の法的効力をもつこと。

3.ある加盟国で発行された適格証明書に基づく適格電子署名は、他のすべての加盟国においても適格電子署名として認められる。

eシール

(Art.35)

1.eシールは、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式である、又は適格eシールの要件を満たさない

という理由だけで否定されない。

2.適格eシールは、適格eシールがリンクするデータの完全性及びデータの起源の正確性を推定することができる。

3.ある加盟国で発行された適格証明書に基づく適格eシールは、他の全ての加盟国で適格eシールとして認められる。

タイムスタンプ(Art.41)

1.タイムスタンプは、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式である、又は、適格タイムスタンプの要件を満たさないという理由だけで否定されない。

2.適格タイムスタンプは、それが示す日時の正確性とその日時を結びつけたデータの完全性に関する推定を享有する。

3.ある加盟国で発行された適格タイムスタンプは、他の全ての加盟国で適格タイムスタンプとして認められる。

eデリバリー(Art.43)

1.eデリバリーサービスを利用して送受信されたデータは、その法的効力及び法的手続きにおける証拠としての能力を、それが電子形式である、又は、適格eデリバリーサービスの要件を満たさないという理由だけで否定されない。

2.適格eデリバリーサービスを利用して送受信されたデータは、データの完全性、識別された送信者によるデータの送信、識別された宛先者による受信、適格eデリバリーサービスで示されたデータの送受信の日時の正確性に関する推定を享有する。

トラストサービス(電子署名)のレベル毎の技術基準、第三者評価フレームワーク

まとめ

• EUはeIDAS規則及びNIS2によって、デジタルインフラとしてトラストサービス及びeIDを整備し(ようとし)ている。

• 制度化と技術基準、事前/事後監督

• 行政機関及び規制産業における適格トラストサービスの利用を促進

• 一方で、B2B等において広く用いることができるレベルのトラストサービスについても、技術基準と民間第三者評価のフレームワークを整備されており、利用者が必要なトラストサービスを正しく選択できる環境を構築されている。

eIDAS2.0とEUDIW

第7回トラストを確保したDX推進サブワーキンググループ

2022年3月22日慶應義塾大学SFC研究所上席所員濱口総志

eIDAS規則の評価

参考資料

• Evaluation Report (2021年6月3日)

• Staff Working Document (2021年6月3日)

• Briefing from European Parliament (2022年3月7日)

*1 COM(2021) 290 final “REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL on the evaluation of Regulation (EU) No 910/2014 on electronic

identification and trust services for electronic transactions in the internal market (eIDAS)”

*2 SWD(2021) 130 final “COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT Accompanying the document REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL

on the evaluation of Regulation (EU) No 910/2014 on electronic identification and trust services for electronic transactions in the internal market (eIDAS)”

*3 Revision of the eIDAS Regulation Findings on its implementation and application

Evaluation Report(評価報告書) 概要

eIDAS2.0*

EU Digital Identity Wallet(EUDIW)

全欧州市民が利用可能なeIDの枠組み整備

トラストサービスの拡充

電子アーカイブ(e-Archiv)、電子台帳(e-Ledger)、属性の電子証明(e-Attestation of Attribute)、リモート署名(シール)生成装置の管理(the management of remote gig/seal creation devices)

下位規則の整備

技術基準を指定する下位規則の整備をEU委員会に義務付け

*Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council amending Regulation (EU) No 910/2014 as regards establishing a framework for a European DigitalIdentity (SEC(2021) 228 final) – (SWD(2021) 124 final) – (SWD(2021) 125 final)

eIDAS規則の課題とeIDAS2.0

• 希望する全EU市民、在留者、企業が利用可能

各加盟国は、本規則の発効から12か月以内にEU Digital Identity Walletを発行すること(Art.6) >3つのオプション:加盟国による発行(by member states)/加盟国の委任による発行

(under mandate from a member states)/加盟国による承認

(independently but recognized)

• EUの公的及び民間デジタルサービス利用における本人確認or属性の証明に

利用

• 自己主権型(Self Sovereign Identity)

個人識別データ(PID)及び属性の電子証明(EAA)を透明性のある、ユーザが

追跡可能な方法で、安全に、要求及び取得、保管、選択、組み合わせ、共有す

• 適格電子署名(QES)をサポート

• 保証レベル:High

EUDIWの利用

1.公的オンラインサービス

2.強固なユーザ認証を要求する民間サービス

金融、社会保障、通信等の強固なユーザ認証が法或いは契約によって求められているサービス

3.大規模オンラインプラットフォーム(Digital Service Act)DSAで定義される大規模オンラインプラットフォームではユーザからの要請に従ってEUDIWによる認証を受け入れなければならない(Art. 12b)

4.その他のオンラインサービス

行動規範(Code of Conduct)を策定し、推奨することで、他のオンラインサービスにおいてもEUDIWが受け入れられるように委員会が奨励、推進する

インキュベーションラボ・プロジェクト

2022年1月25日独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)

インキュベーションラボデジタル本人確認プロジェクトチーム

「サービスに応じたデジタル本人確認ガイドラインの検討」

本日のアジェンダ

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

採択時の目的

● 目的

日本の産業や生活を、グローバルに通用するデジタル本人確認のガイドラインが普及した、サービス提供者と利用者双方の安全性、利便性が両立した環境にする。このことにより、Society5.0に根差した市場拡大及び国際競争力に資する。

● 目標

サービスに応じたデジタル本人確認のガイドライン及び技術を、世界の動向を踏まえて整備し、広く普及させる。

・個人の民間サービス利用をスコープとする。

・既にガイドラインが定められている「行政手続き」は取り扱わない

● デジタル本人確認におけるガイドライン整備の意義

‐ 身元確認手法の、より精緻な整理

‐ どのようなサービスであればどのレベルの身元確認手法を選択する必要があるかの整理このふたつを行うことが重要である。

ガイドラインを策定する趣旨

レベルは違えど、「本人確認手法が分からない」が共通の課題

金融機関、携帯キャリア等

(法令に定められている事業者)

シェアリングエコノミー、マッチングアプリ等

(自主的に導入している事業者)

デジタル本人確認の導入を検討している事業者

法令に多くの手法が定められているが、安全性や利便性の違いが分からない。

導入済みの手法が自社のサービスに最適な手法か分からない。

対面手続に代わる手続として、どの手法をどのように導入するのか分からない。

課題

①身元確認手法の保証レベルの整理求められる対応

②サービスに応じた本人確認手法の提案6

本日のアジェンダ

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

参考

オンラインの本人確認は身元確認と当人認証からなる

本人確認の現状レベル分表作成についての参考:デジタル本人確認の保証レベルと手法例の根拠

IAL・AALのいずれかのレベルが低ければ、本人確認手法のレベルも下がることから、サービスリスクに応じてIAL・AALを選択する必要がある

身元確認と当人認証の保証レベル

出所:各府省CIO連絡会議(2019) 「行政手続きにおけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」より作成


本日のアジェンダ

1. 本インキュベーションラボの背景と目的

2. オンラインの身元確認手法のレベル分けについて

3. リスクに応じた本人確認手法選択の考え方について

4. ガイドラインの策定に向けた進め方について

事業者は、どのように本人確認手法を選択しているか

本インキュベーションラボにおける検討事項

本インキュベーションラボでは、「リスクに応じた本人確認手法を選択できる」という目的を踏まえ、まずはリスクに関して、事業者が捉えているリスクレベル等について調査・整理した

検討事項の整理

リスク対応

その他

ユーザビリティ

本人確認手法の選択軸

● 事業者がどのようなリスクを抱えて、本人確認で対応しているか

● 本人確認で対応できている点、できていない点等

● コストについては、各eKYC事業者の競争領域で、ガイドライン等では対象外

● eKYC事業者の信頼度については、認証制度等も考えられるが、本ラボのスコープ外と思料

● ユーザーにとっての負荷をどう整理するか

● 既存の手法をユーザビリティの視点でどう整理するか

前回研究会におけるリスクの整理

経済産業省「オンラインサービスにおける身元確認に関する研究会」では、リスク評価の際には、事業で扱う財とその内容や関与者、保険/補償の有無、二次被害の可能性、等を踏まえた被害程度を見積る必要性が指摘された

出所:経済産業省(2020) 「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」より

事業リスク(身元確認の必要性)の評価尺度

ヒアリングにおける示唆・事業リスクに関する整理

一般的にリスクマネジメントでは、各リスクを影響度と発生頻度のリスクマップ上にプロットし、各社が優先順位をつけて適切なリスク戦略を選択している。「リスクに応じた本人確認手法の選択」をガイドライン化するためには、リスク評価・リスク戦略等の手法を参考に「リスクの標準化」が課題となる

ヒアリングにおける示唆・ユーザビリティについて

本人確認を実施することによるUXの悪化を懸念する意見も得られた。

リスク対策と、ユーザビリティ確保の両立を実現する必要がある。

出所:経済産業省(2020) 「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書」より

ガイドライン策定後の社会

海外動向調査

・海外動向についてネットを中心に調査

・スウェーデン、シンガポール、イギリス、ドイツ、エストニア、インドの6ヵ国

・各国「サービス概要」、「利用状況」、「普及または失敗した背景」、「留意すべき日本との違い」についてまとめました。

・本人確認も含まれますが、主にデジタルIDを中心とした各国の全体的な取り組み状況についてとなります。

海外動向調査まとめ

● スウェーデンやシンガポール、エストニアの例から、デジタルIDがスマートフォンに搭載され物理的なカードを使わずに本人確認が行えることでユーザーの利便性が高まり、一気に普及していくケースがみられた。

● デジタルIDや本人確認サービスの一極集中について、スウェーデンでは、①単一IDプロバイダーへの過度の依存はリスク、②イノベーションや品質、価格面での競争が不在、③移民や銀行口座のない個人などが排除、などの問題点が指摘されている。また、シンガポールでも中央集権型のシステムであるためトラブルが発生すると機能不全となる事態や、民間企業の採用が想定通りに進むか、といった課題がある。

● イギリスでは、2000年代に入ってテロ対策や犯罪予防等の観点から、厳格に本人確認できる手段として国民IDカードの導入が議論され、IDカード法が成立したものの、費用対効果やプライバシー侵害等が問題視され、政権交代とともに同法は廃止された。この代替策として、2016年に公共サービスの共通認証プラットフォーム「GOV.UK Verify(Verify)」が導入された。政府の認定を受けた複数のIDプロバイダーのなかから、利用者自身が使用する認証サービスを選択する仕組みであるが、Verifyは当初の計画通りには普及が進んでいない。その理由として、ユーザーエクスペリエンスが不十分であることや、関係する省庁が必ずしも協力的ではないこと、民間サービスプロバイダーの求める要件を満たすものではないことなどが指摘されている。政府は、2019年に省庁横断的にデジタルIDを推進する組織を設置し、Verifyに代わる新たなデジタルIDの在り方を検討している。もっとも、識別子となる統一的な国民番号がないことが課題として指摘されている。

● シンガポールのCODEX等、階層化されたアーキテクチャーを前提にデータ層・サービス層を分離した立体的な階層構造で構築、民間にも広く開放している。

海外動向調査主な参考ソース

・「行政をハックしよう」吉田泰己(著) ぎょうせい

・日本総研「デジタル時代の社会基盤「デジタルID」」

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/11717.pdf

・エストニアの電子証明書等について(総務省)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000731090.pdf

・ドイツのパブリッシャー、共通ログインで「異業種」連携:FacebookとGoogleの2強に対抗

・インド13億人の「生体認証」国民IDに、知られざる日本企業の貢献

https://wisdom.nec.com/ja/collaboration/2019051701/index.html

・GAIN DIGITAL TRUST

https://gainforum.org/GAINWhitePaper.pdf

トラストを確保したDX推進SWG

トラストサービスのアシュアランスレベルの考え方

2022年2月8日慶應義塾大学手塚悟

トラストを確保したDX推進SWGスケジュール(案)

出典:総務省プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(2020年2月)別紙

https://www.soumu.go.jp/main_content/000668595.pdf

論点1:アシュアランスレベルの基準

• トラストサービスのアシュアランスレベルに関して、どのような基準が考えられるか

トラストサービス事業者(IDプロバイダー、クラウド署名サービス※、認証局、タイムスタンプ局等)の運営ポリシーをトラストサービスアシュアランスレベル(TAL:Trust service Assurance Level)として整理すべきである。

• 組織要件(組織の責任)

• 設備要件(ファシリテイ要件)

• 技術要件(暗号技術等)

• 鍵管理要件(適格署名生成装置等)

• 運用要件(複数人による相互牽制)

• 監査要件(内部監査、外部監査、適合性監査、認定)

• その他

これらをトラストサービスに共通する基準、個別の基準として整理し、TAL1、TAL2、TAL3のアシュアランスレベルを定義する。それぞれの認定主体としては以下を想定する。

TAL3:国が認定

TAL2:民間の第三者機関が認定

TAL1:自己が監査

※ 当事者の署名鍵によるリモート署名サービスおよび利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービス(令和2年7月17日主務三省Q&Aより)

論点2:機動性の確保

• 技術進化に対応した柔軟な見直しが求められる中、機動性の確保するための考え方

• トラストアシュアランスレベルの策定/運営の在り方

各基準は法令から参照される独立した技術規格として策定されるべきであり、変化する技術進化や国際標準に対応したメンテナンス性が確保される必要がある。

各基準は諸外国の標準などを参考に国の関与の下に、トラストサービスフレームワークに対応してクオリファイドレベル(TAL3)とアドバンスドレベル(TAL2)等に応じて作成することが必要である。

変化する技術進化や国際標準をウオッチし適時、適切に基準のバージョンアップを行う体制、運営の在り方の検討が必要である。

海外のトラストフレームワーク

サービス提供におけるトラスト確保を実現するポリシー策定の論点

LocationMind株式会社取締役

株式会社パロンゴ取締役林達也

2022/2/8 「トラストを確保したDX推進SWG #5」

 ご提案(Recap)

「先ず、隗より始めよ」

行政手続き(Government Sector)におけるサービスで実際に試す

スモールスタート可能なユースケースを選ぶ(G2B or B2G)のはどうか

「トラストサービス」の定義を行う

3 背景

eIDAS 1.0は、日本で暮らすうえでは影響を受けるものではなかった

• 議論として参考になった側面は大きく、偉大な先行者

• 一方、EUという国と国をまとめる必要がある特殊な状況下で求められる取り組み

• 実際には、背後にISO等の国際的な標準を引くことで技術的な裏打ちとしていたNIST標準は、アメリカの政府調達を主眼としており、軍事も含めた包括的なもの

• 我々は深い洞察をせず、NIST標準を文脈を意識しないで多くの参考にしてしまった

• 彼らもまた先行者であり、我々はeIDASと同じようにNISTも参考にした

• (もちろん、他の多くの国際標準も)

今まで、我々は後手であった点が多分にある

• もちろん、先行しているケースもあるが…

では、我々が、本来汗をかくべき部分はどこなのか

• 日本に固有の状況において必要な補足・補遺・補正を行うべきではないか

• なぜ、『海外のものはすごい』となってしまうのか

• 『日本版XYZ』のようなアプローチはそもそも適切なのか

民間では自分はよく「(先行)事例病」と呼んでいます

4 現状

2022年2月において我々は、デジタル庁が発足し、EUはeIDASは2.0と言い出し、NISTSP800-63-4の登場が近づき、大多数の人々がスマートフォンを常時携帯し、マイナンバーカードの改定も議論される、という『潮目』の時期にいる

コロナ禍において人類の活動のオンライン化は促進され、物理的な制約を如何にしてデジタル化し、オンラインで実現するかが焦点となった

政府だけでなく民間でも、国内・国際ともに、Identity Proofing (KYC)や

Authentication/Authorization、Notice and Consent、パーソナルデータ、データの流通や真正性、等々が重要視されるようになった

今まさに社会的環境条件が大きく変わりつつある

小さくても手を動かすべき時期

5 補足:ID Proofing / KYC関係の国内活動

デジタル庁

• トラストSWG(本WG)

• 「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」(2019年2月25日)

‣ 改定の要望・必要性が高く、取り組むべき(本項にはバイアスがかかっています)

IPA DADC インキュベーションラボデジタル本人確認プロジェクト

• 経済産業省「オンラインサービスにおける身元確認に関する研究会」の実質的な後継プロジェクト

OpenID Foundation Japan KYC WG

JNSA 「オンライン身元確認(eKYC)金融事例調査報告書」

etc…

6 前提整理

本SWGでいう「トラストサービス」の定義をきちんと行うべき

• 「eIDAS 日本語版」、ではおそらくないだろう

• では一体なんなのか、どこまでが範囲なのか

• その目的は何か? -> ユースケース?

民間との接合をどこまで視野に入れるのか

• その是非はさておき、立会人型で十分、という社会実態をどう捉えるべきか

• アメリカに近しいIT業界や、欧州に近しい自動車等製造業の差異

• 領域は違うが、「個人情報保護」や「プライバシー」の分野も、同じく各国を睨むことになっているのが民間の実態

純粋な政府主導のサービスは、そう簡単には社会受容されない

• 民間の方がはるかに進んでおり、護送船団のような発想はもう終わっている

• 代替手段があって、価値があれば(要件を満たせば)そちらが使われる

• ただし、罰則などがあれば別

サービスそのもので担保されなくても、商習慣や契約等で実態としてカバーされているものは多い

• 日々の生活がかかっている以上、これは当然

• そこに大きなペインポイントがあるか?

7 トラストサービスの位置づけ

DXを推進するとはなにか

• 目的は何をどう変えることなのか

何のためのトラストサービスか

• トラストサービスは、サービスであり手段

‣ 正確には、今まで本SWG等で議論されているインフラやコンポーネントに近いサービス

は、その一定の汎用性から手段である

• 「なんにでも使える魔法のトラストサービス」はおそらく存在しない

UXがひどくても、コストが高価でも、どうしてもそれでないと実現できないサービス

• -> 多くのひどい(行政)サービスの山

• 問題から、競争原理の一定の価値が見いだされるところ

• 是非はさておき、現在の「なんとかTech」の興隆はこの点にある

実態実務で使われているが、細部の詰めが甘いサービスを、適正に変えていく要素

• 慣習や長期的視点、消費者保護など、民間ではおろそかにされやすい、せざるを得ない側面を指摘し、強化を促す

• e.g.) 「既知であったことの証明」「発案者であることの証明」「犯罪収益移転防止」

8 「トラスト」の特性と本質

トラストの特性

• 本来は技術の話ではない

• 社会制度の大きな一部

• 一朝一夕には変えられないもの

• 時間をかけて得られるもの

• 認知の問題

• 社会受容性を伴う

トラストの本質

• 「醸成」できるようなものなのか

‣ 本来、個々人や主体が自然発生的に生じるものではないか

• それを踏まえた上で、それを社会制度として補強する

• 仮に「裏打ち」をするのであれば、「保証」も担保しなくてはならない

• 制度と技術の構成要素の話をすると混乱する

9トラストサービス

• デジタルテクノロジーを如何にして社会的にトラストしてもらえるようにするか

• 「技術的な」側面から、それを満たす条件や運用形態、あり方を論じている

• 専門性が高く、変化の速い、まだまだ試行錯誤が必要な未知の領域

• (他国は、一周目を終えて二周目に入ろうとしている…?)

トラストに関する制度

• 古くから存在し、事象をどう捉えるかを常に入念に検証せずとも、「複雑性を縮減」(ルーマン)するために、いわば「決め打ち」をするための外縁を定める行為

• 人間同士、村同士、村と人、等々、「関係性」の連鎖を「容易には改ざんし難い」要素で定めていく

‣ それでも、トラストは100%ではなく、一定の確度でしかないと多くの人は認識している

‣ そして、そのトラストは裏切られることもある(技術としてのトラストとの意識差がある)

• 社会生活を営む中で法律や制度として定める必要があるものの中に、トラストの要素は数多く存在する

‣ 人類がこれをうまくできているかは別の問題

‣ ただし、これは経験値によるラフコンセンサスの中から、いわばデファクトとして社会制

度化されているように思える

トラストSWGにおける、制度と技術の区別

10 参考: トラスト・信頼の難しさ

「信頼を考える: リヴァイアサンから人工知能まで」

(小山虎著)

本書で取り扱われる主な対象領域

• 経済学

• 心理学

• 社会心理学

• 社会学

• エスノメソドロジー

‣ (「人々の- 方法論(ethnomethodology)」)

• 動物行動学

• 哲学

• etc…

11 トラストの「正しい」連鎖

マイナンバーカードやベース・レジストリを活かす

• これらは大きな努力によって実現してきた「トラスト」

• おそらく、社会的には登記関係なども同様

• これらのデジタル化がこの瞬間の重要な転換要素

信頼できる点から点への連鎖

• Root of Trustであり、これは例えばベース・レジストリだが…

• ひとつの重要要素は「不変性」

正しい連鎖を作るには「要件」が必要

ただし、ポリシーで求めるべきは「正しい連鎖」の実現、評価方法までであって、要件はきちんと時代(四半期レベルの変動)と技術に合わせて変更可能な社会制度であるべき

12 トラストサービスが目指すべき目的

トラストサービス(未定義)は、暗黙の裡に以下の仮定をおいている

• Xをトラストサービスだと認めるYによって、Xはトラスト可能だとされる

• それを聞いたAは、自分にとってのY、またはそれに類する(と推測する)なにかへの信頼と近しいものとして、Xをトラストする

• 信頼を複雑性の縮減と捉えるならば、トラストサービスを定義し制度化することは、対象に対

する入念な検証を行わずとも利用していいことを明確化することに他ならない

トラストサービスの定義の必要性

• どういう目的の手段として信頼し利用できるサービスなのかを明確化することに他ならない

• それを使えば無条件で安心できるサービス…?

トラストサービスが目指すべき目的は何なのか

• 手段や部品だけを用意しても、使われなくては意味がない

• 毎日使うものなのか? 土地売買のような時にのみ使うものなのか?

• ユースケースの明確化が必要

‣ e.g.) 国家間の調印行為のデジタル化等

トラストするという行為は、長期的に保証されることと同義

• インターネット社会はまだまだこれは難しい事象

13 個の観点で実現されて欲しいこと(ID/認証及びID Proofingの観点で)

オンライン上の本人手段の確立

• 攻撃に耐性があること

• 文脈ごとのデファクトスタンダード

• まだまだ成熟していない途上の状態

オンライン上で選択可能なペルソナによる、選択的属性開示可能なID/認証の仕組み

• デジタル社会の共通機能として、まだまだ端緒にも至れていない

マイナンバーカードの位置づけは非常に難しいと感じる

• 日々、人生を揺るがすレベルのクレデンシャルを持ち歩くのか

• 失くした時の恐怖心もあるが、一方、持ち歩いたら実はとても便利になる可能性もある

• さらにスマートフォンに搭載されたらどうなってしまうのか

‣ もしかしたらUXによりスマホ版マイナンバーカードは豊かになるかもしれない

14 目的に合わせた適切なレベルの利用

なんにでも最高レベルのものを使えばいいわけではない

• 「実印相当」等の物理世界の既存制度の比喩表現をデジタルテクノロジーに適用するのは個人的にはとても不適切だと思うが、それであっても「なんにでも実印は捺さない」だろう

• 何をどうやって担保するのか、Single Point of Failureにならないか、リスクはどうあるのかを考えるのはとても重要

レベルは高ければいいわけではなく、使い分けられることこそが重要

• 大は小を兼ねない

高いレベルのものを定義することで、そこから下位のレベルのものを作り上げることが可能

エコシステム全体のコストとベネフィットを計算しなくてはならない

• これを数値として明確化できる材料を提示するのはポリシーの役目

• 仮定として、トラストサービスを民間が運営するのであれば、費用対効果が一定程度

明確ではなくては成立しない

‣ Web PKIやタイムスタンプ認証局での学びを活かす必要がある

‣ 我々はいまだ、放棄ドメインの再利用にすら対応が出来ていない

15 トップダウンとボトムアップ

トップダウンの必要性

• 発展途上の場合、サービスの定義をゼロから国が主導して実施する必要があった

• EUの各国をまとめあげるのは事実上困難であり、EUデジタル単一市場など、強制的にトップダウンで実施する「必要性」があった

• 問題のある認証技術や本人確認手法では社会全体に問題が波及するため、問題のある部分を、必要に応じて変更するよう定義してきたボトムアップの必然性

• デジタルの世界において、政府よりも民間が先を走っていることは避けがたい事実• トップダウンでなにが言えるほど、我々はリソースを正しく投じていない

‣ これは今から少しずつ手を付けるべき、だが…

• 現状は、民間のデファクトスタンダードが社会を動かしており、政府が行う役割は「コストであってもやらなくてはいけない最低限の対策」

マイナンバーカードの普及が一般的となり、スマートフォンの保有が当然のことになっている状況下で、Small Startした実績からフィードバックしつつ、大きなフレームの議論は、数歩先の未来を想定してゼロベースで検討すべき

極限の安全性を考えるならば、厳しい条件下でのみ要求される実務はなにで、どう運用するのかを明確にする必要がある

そしてなにより、それをどう普及させ、スケーラビリティを得るのか

• これは、上位のレベルのものが、より日常的に使いやすい下位のレベルのものを生み出すことにもつながる

最終的には、広く社会に受け入れられるかが評価のポイント

Small Start (実務主導)

先ず、きちんと我々で実績を積み重ねることが重要

日本としてSmallな検証を進めていくべき

• 絵にかいた餅ではなく、実利のあるDFFTへの道

• この瞬間、正に始めるべき議論

• 良い面も悪い面も含めて、日本の特殊性をもとに話をするべき

正しくTransformationすべきものは山ほどある

これを進めることで、トラストサービスに求められる最低限のポリシーとその体制についての知見が一定程度明確になると思われる

Big Picture (技術主導)

Small StartとBig Picture

17 DXサービスに寄与するトラスト確保を実現するポリシー策定の検討課題

最小限、サービス提供者に求めなくてはいけないことはなにか

• 資本金?上場?事業継続性?

• 100年持つサービスがどれだけあるのか

100年持たないトラストサービスに意味があるのか

• (少なくとも行政サービスは形態を変えても正しく継続し、正しく終わることが期待できる可能性は高い=信頼?)

• 持たないのであれば、どうすればいいのか

‣ サービスが提供するものが短期間に収まればよい?

インセンティブとディスインセンティブ

• 使う理由が必要

• 信頼を損なう行為には厳しい罰則を

‣ 例えば売り上げのx%など

‣ 1億円程度では防止にならない領域は多々ある

トラストサービスにおいて政府や制度でなければ出来ないことはなにか

• 我々はeIDASがなくても経済活動を行っているし、Web PKIもInternetも国家には依存していない

• 一方、個人情報保護法のように、法や制度で守られることが重要なものがある

18 ポリシー作成における要素・要点(私見)

方向性

• ブレない方向性の提示、趣旨、あるべき姿の提示

• 利用者と提供者それぞれへのインセンティブとディスインセンティブ

安定性

• 長期間の有効性

‣ 持続性と経済性

• 社会的有効性(裁判?)

最小性

• トップダウンで定義するポリシーの内容は、最小限のものが望ましい

‣ 本SWG構成員からも同論の意見があったと認識

‣ エンジニア的観点として、個人的には、法律等にbit長やアルゴリズムを書くことはナンセンスだと考える

柔軟性

• 技術的・経済的アジリティを確保するために必要な要素として、変化を受け入れ可能にしておくことは重要

トラストサービスに関するアンケート実態調査の報告

アウトライン

1. トラストサービスのニーズ及び現状についての業種/分野別エキスパートインタビュー

2. 企業/個人へのアンケート調査実施概要

3. 企業向けアンケート結果の分析

4. 個人向けアンケート結果の分析

5. トラスト基盤の整備・普及による期待効果

中小企業では、トラストサービスの課題意識として「認知/理解不足」が特に多く、今後考えられる施策例への関心は、「低コストで導入可能な方法」「法的効力(証拠能力)の規定」「業界ごとの標準化団体設置/ガイドライン策定」がトップ3 (全体同様)

導入済

デジタル化の検討・実施のための工数がかかる

又は人的リソースが不足

効力が切れる前に更新するための工数がかかる

国際的な有効性(法的効力) が担保されていない

(電子署名以外) 法的効力(証拠能力) が担保されていない

サービス導入時のコストがかかる

(例: 電子署名用の社員分のICカード&カードリーダ等)

サービス利用時のコストがかかる

どのトラストサービス事業者を使えば適切かわからない

どのような方式のトラストサービスを使えば適切かわからない(どのようなものなら安全性が担保されるかわからない)

サービスの継続性/永続性に不安がある

トラスト確保によるデジタル化の期待効果の見積り/イメージ具体化(まとめ)

トラスト基盤の整備・普及により、トラスト確保によるデジタル化の促進や、デジタル/オンラインでのトラストの強化が果たされ、「業務量削減」「人為的ミスの回避」「詐欺被害等の犯罪防止」「コンプライアンス遵守強化」等の効果が期待されている

• トラスト確保により、自社のデジタル化が進展することを期待する企業は85%あり、中でも「不動産売買/賃貸の契約」、「銀行口座開設の申し込み」、「取引書類の作成」等のデジタル化への期待が大きい

– 中でも、海外と取引があり、トラストサービスでも海外連携が必要と考えられるものとしては、「各種取引書類等の作成/授受」

「銀行口座開設の申し込み」「海外送金/振り込み」等が挙げられる

– 上記で、海外取引がある企業では、各手続き等の10%~40%程度を占める

• 上記により期待される効果として、企業からは、「業務量削減」の他、「人為的ミスの回避」「コストの削減」「詐欺等の犯罪被害防止」「コンプライアンス遵守の強化」等も挙げられている

– 例えば、銀行口座の新規開設では、従前は紙による本人確認/利用開始案内を前提としていたが、トラストを確保しながらデジタル化されることによって、企業の「業務量/郵送コスト削減」、「書面偽造による不正口座作成等の犯罪被害防止」や、職員による不正防止での「コンプライアンス遵守の強化」、また個人の「手間の削減」「手続きの迅速化」の効果が見込まれる

• なお、上記効果の概算想定規模としては、「業務量削減」では~100億時間(600万人相当) の削減が見込まれる他、「詐欺等の犯罪被害防止」100億円規模が見込まれる

1. トラストが導入された場合にデジタル化された手続きを使用したいと回答した割合を期待すると記載

Source: 企業向けアンケート調査(n=347、2021/11/24~12/7実施)

トラスト確保により、自社のデジタル化が何らかの手続きにおいて進展することを期待する企業は85%あり、ニーズのあるものに関しては概ね10~25%がデジタル化を期待

商業登記関連改正メモ

令和4年6月17日月刊登記情報誌面刷新記念オンラインスクール

柴富公行司法書士「商業登記 最新の注目論点と展望」

  • 近年の商業登記に関連する取扱いの変更(令和元年改正会社法を除く)

令和4年6月13日法務省民商第286号について

会社法34条、同法578条(合同会社は適用がない)

第1 テレビ電話会議を利用した定款認証

1.概要

 株式会社等の設立における公証人の定款認証について、従来は、認証を受ける際に公証人に提供する情報の全てについてオンラインで提供しなければ、テレビ電話会議による定款認証を受けることはできなかったが、改正により、「指定公証人が相当と認めるとき」は、テレビ電話会議によることができることとなった。

 これによって、例えば、委任状や発起人の印鑑証明書などの添付書面を事前に公証人に郵送するなどして、出頭することなく定款認証を受けることができるようになった。

2.手続き

(1)公証人に定款案及び実質的支配者の申告書をFAX又はメールで送信し確認を受け、テレビ電話会議での定款認証を受けたい旨を伝える。

(2)添付書面を送付する。

【株式会社において通常想定される添付書面等】

・委任状(定款全文を合綴し発起人が実印を押印したもの)

・発起人の印鑑証明書(3か月以内のもの)

・(発起人が法人の場合は)発起人の履歴事項全部証明書等

・定款の同一情報の交付申請書

・実質的支配者の申告書及びその添付書面

・返信用封筒

(3)定款認証日時(テレビ電話会議の日時)の予約をする。

(4)申請用総合ソフトで定款認証の申請をする。

(5)公証人指定の銀行口座に認証費用を振り込む。

(6)公証人指定のURLにアクセスし、テレビ電話会議で公証人と面談する。ブラウザは、PCではchromeであることが必要。マイクロソフトedgeでは接続できない。スマートフォンの場合は、Face Hubのアプリを使用する。

・代理人の運転免許証等の身分証明書を準備しておく。公証人が当該身分証明書と代理人が映った画面を記録する。

(7)認証後の定款の同一情報及び実質的支配者の申告受理証明書等が郵送されてくる。認証後の定款(電磁的記録)は申請用総合ソフトからダウンロードする。

3.施行日

令和2年5月11日

4.その他の情報

 令和2年5月1日法務省令第36号によって、指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成13年法務省令第24号)第9条第7項が改正されたもの。

第2 定款認証における実質的支配者の申告

1.概要

 株式会社、一般社団法人又は一般財団法人の設立における公証人の定款認証に際して、その実質的支配者となる自然人を申告し、公証人の確認を受けなければならない。

2.手続

 株式会社等の設立における公証人の定款認証に際して、嘱託人は、実質的支配者となるべき者の申告書(下記参照)を提出しなければならない(公証人法施行規則第13条の4第1項)。なお、申告書の「暴力団員等該当性」欄の記入に代えて、実質的支配者作成にかかる表明保証書を提出することもできる。

添付書面(根拠資料)の内容は、公証人の裁量に任されている

・実質的支配者を疎明するための書面

・実質的支配者の住所氏名生年月日の確認できる公文書の写し、が実務上求められているようである(平成30年11月13日法務省民総第829号第2の3参照)。

3.実質的支配者(犯罪収益移転防止法施行規則第11条第2項)

(1)議決権の過半数を直接・間接に保有する自然人がいる場合はその自然人

(2)議決権の25%超を直接・間接に保有する自然人がいる場合はその自然人

(3)出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する自然人がいる場合はその自然人

(4)法人を代表し業務を執行する自然人

※国、地方公共団体、上場会社等は自然人とみなされる。

※ただし、(1)、(2)に該当する自然人であっても、当該法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合は除かれる。

日本公証人会連合会HP(https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/20210726.html)参照

4.施行日

平成30年11月30日

5.その他の情報

 平成30年法務省令第26号によって、公証人法施行規則が改正されたもの。公証人法施行規則第14条の4が新設された。通達として、平成30年11月13日法務省民総第829号。

第3 定款認証手数料の改定

1.内容

定款認証手数料が下記のように改定された(公証人手数料令第35条)。

・定款に記載された資本金の額等が300万円以上の場合 金5万円

・定款に記載された資本金の額等が100万円以上の場合 金4万円

・定款に記載された資本金の額等が100万円未満の場合 金3万円

 なお、定款に資本金の額等の記載がない場合は、金5万円となる。設立に際して出資される財産の最低額のみの記載のある定款は、資本金の額等の記載がないものと取り扱われる。

2.施行日

令和4年1月1日

第4 商業登記所における実質的支配者リスト制度

1.概要

 株式会社の申出により、商業登記所が、当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて、所定の添付書面により内容を確認して、その写しを発行する制度

日本公証人連合会HP(https://www.koshonin.gr.jp/chg_teikanfee)

2.対象

 株式会社(特例有限会社を含む)が利用。合同会社は利用できない。

第5 商業登記の添付書面における押印義務の緩和(令和3年1月29日法務省民商第10号)

1.概要

 商業登記及び法人登記の添付書面について、原則として、法令に押印の定めのない書面については、押印の有無を審査の対象としないこととした。

2.法令に基づき押印が必要となる書面の例

・登記申請書(商業登記法第17条第2項)

・登記申請委任状(商業登記規則第35条の2第2項)

・取締役会議事録(会社法第369条第3項)

・非取締役会設置会社における取締役又は取締役会設置会社の代表取締役(又は代表執行役)の就任承諾書(商業登記規則第61条第4項、第5項)

・代表取締役を選定する旨の決議を証する株主総会議事録又は取締役の互選書(商業登記規則第6項第1号、第2号)

・登記所に印鑑届出をしている代表取締役又は代表執行役の辞任届(商業登記規則第61条第8項)

・登記所に印鑑届出をしている者がいない会社における代表者の辞任届(商業登記規則第61条第8項)

・原始定款(会社法第26条第1項)

・印鑑届出書(商業登記規則第9条第1項)

3.法令に明確な規定はないが例外的に押印が必要となる書面の例(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3)

・取締役の一致を証する書面

・不正防止申出書及び取下書

・登記された事項につき無効の原因があることを証する書面

4.押印の有無につき審査の対象としない書面の例

・株主総会議事録(上記を除く)

・就任承諾書及び辞任届(いずれも上記を除く)

・株主リスト

・原始定款以外の定款

・登記簿の附属書類の閲覧の申請書

・事業を廃止していない旨の届出

・印紙再使用証明申出書

 「法令」には、法律上の定義がないので、その範囲がどこまでなのか厳密には不明であるが、憲法、法律、政令、勅令、府省令、規則を指しているものと考えられ、通達は含まれないと考える。?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

憲法は法令には入らない

https://www.toben.or.jp/manabu/kouza.html

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・合併契約書、吸収分割契約書及び新設分割計画書

・払込みがあったことを証する書面

・債権者保護手続を行ったことを証する上申書

・原本還付をする場合における謄本(ただし、「原本に相違ない」旨の記載は必要(商業登記規則第49条第2項))

5.訂正印(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3(5))

 訂正について法令に基づく規定がある場合(例:登記申請書につき商業登記規則第48条第3項)を除き、訂正印の有無につき審査をしない。

6.契印(令和3年1月29日法務省民商第10号第4の3(6))

 契印について法令に基づく規定がある場合(例:登記申請書につき商業登記規則第35条第3項、第4項)を除き、契印の有無につき審査をしない。

7.司法書士の職責

【司法書士倫理】(実体関係の把握)第57条 司法書士は、登記手続を受任した場合には、議事録等の関係書類を確認する等して、実体関係を把握するように努めなければならない。

2 司法書士は、議事録等の書類作成を受任した場合には、その事実及び経過等を確認して作成するように努めなければならない。

第6 印鑑提出の任意化

1.内容

 商業登記における印鑑提出義務を廃止(旧商業登記法第20条を削除)し、印鑑提出を任意とした(商業登記規則第9条第1項)。ただし、本人申請の場合であって書面で登記を申請する場合は、あらかじめ印鑑を提出して申請書に当該印鑑を押印しなければならない(商業登記規則第35条の2)。

 また、代理人申請の場合であって登記申請代理人への委任状が書面で作成されている場合は、あらかじめ印鑑を提出して委任状に当該印鑑を押印しなければならない(商業登記規則第35条の2)。

 押印は必ずしも必要ではないが、貼付した収入印紙に消印をする必要がある(印紙税法第8条第2項、印紙税法施行令第5条)。

第7 電子証明書

1.概要

 商業登記申請の場面においては、それぞれ、登記申請書情報及び添付書面情報に行う電子署名に付与することができる電子証明書が決まっている。書面情報の種類とこれに使用できる電子証明書の種類の詳細は、法務省HPを参照。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html

2.商業登記規則第61条第6項の適用のある場合

 「例えば、添付書面情報が代表取締役の選任(重任を含む。)を証する情報(取締役会議事録等)である場合、変更前の代表取締役が(1)商業登記電子証明書、(2)公的個人認証サービス電子証明書又は(3)特定認証業務電子証明書(ア~コ)を記録すれば、他の取締役は(6)その他の電子証明書を記録すれば足ります。」(法務省HP)

3.その他

 例えば、商業登記所電子証明書を取得することなく、公的個人認証サービス電子証明書のみで登記を申請することも可能。また、書面でいうところの認印を押印すれば足りるものについては、いわゆるクラウド型の電子証明書の事業者でも可能なものがある。

 ただし、電磁的記録とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの」(電子署名法第2条第1項、会社法第26条第2項)全般を指す用語であるから、厳密にいうと、「商業登記法第19条の2に規定する電磁的記録」というべきであろう。?

第2部 令和元年改正会社法(原則令和3年3月1日施行)

第1 概要

1.主に下記の事項について改正。

・株主総会資料の電子提供

・株主提案権の制限

・取締役の報酬、補償契約、D&O 保険

・社外取締役の活用

・社債の管理

・株式交付制度の創設

・成年被後見人等の取締役等の欠格事由の見直し

・支店所在地における登記の廃止

・新株予約権の登記

2.成立の過程

(1)平成29年2月9日法務大臣が法制審議会へ諮問(諮問第104号)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500028.html

(2)平成31年2月14日法制審議会が法務大臣へ要綱を答申

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500033.html

(3)令和元年10月18日臨時国会(第200回国会)へ法案の提出

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html

(4)令和元年11月26日衆議院可決

(5)令和元年12月4日参議院可決、改正法等成立

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html

(6)令和元年12月11日公布

(7)令和3年3月1日原則施行

なお、株主総会資料の電子提供及び支店所在地における登記の廃止については、和4年9月1日施行

第2 株主総会資料の電子提供

1.概要

 株主総会資料の電子提供制度は、取締役が株主総会資料を自社のホームページ等に掲載し、株主総会の招集通知にそのアドレス等を記載等して株主に通知したときは、(株主の個別の同意を要せずに)株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度

2.上場会社に対しての義務付け

 上場会社などの振替株式を発行する会社については、株主総会資料の電子提供制度の採用が義務付けられる(振替法159条の2第1項)。

定款の定め

・株主総会参考書類等の電子提供制度を採用するには、定款にその旨を定めることが必要となる(会社法325条の2)。

・定款には、具体的なアドレスを規定する必要はなく、単に電子提供措置をとる旨を定めれば足りる(会社法325条の2柱書後段)。

【定款条項例】

(株主総会参考資料等の電子提供措置)

第〇条 当会社は、会社法第325条の2第1項各号に定める資料の内容である情報について、電子提供措置をとる。

・当該定款の定めは、登記事項となる(会社法911条3項12号の2)。なお、具体的なアドレスは登記事項とならない(参考文献1の46頁)とされ、この点は、電子公告と異なる。

 既存の上場会社などの振替株式を発行する会社については、当該改正法の施行日において、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなすとされており(整備法10条2項)、この場合は、施行日から6か月以内に登記をしなければならない(整備法10条4項)。

3.電子提供措置の対象となる情報(参考文献の2、6-7頁参照)

 電子提供措置をとる場合にその対象となる情報は下記のとおり(会社法325条の3第1項各号)。

・会社法298条1項各号に定める事項

・株主総会の日時及び場所

・株主総会の目的である事項があるときは、当該事項

・株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

・株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

法務省令(会社法施行規則63条)で定める事項

・書面による議決権の行使を認める場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項

・電磁的方法による議決権行使を認める場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項

・株主からの議案要領通知請求(会社法305条1項)があったときは、その議案の要領

・計算書類及び事業報告(監査報告又は会計監査報告を含む)の内容(取締役会設置会社における定時株主総会の場合)

・連結計算書類の内容(会計監査人設置会社であって取締役会設置会社における定時株主総会の場合)

・上記の修正をしたときは、その旨及び修正前の内容

 会社法325条の2の定款の定めをした会社は、上記の情報は、原則として電子提供措置をしなければならず、株主に対して書面で交付したからといって、電子提供措置をとらないとすることはできない(参考文献1の17頁)。

 ただし、書面による議決権行使を認める場合の議決権行使書面は、例外として書面を交付すれば、電子提供措置をとらないことができる(会社法325条の3第2項)。実務上は、この例外を適用することになると予想されている(参考文献2の7頁参照)。

4.電子提供措置の期間及び方法

(1)電子提供措置の期間は、株主総会の開催日の3週間前の日(それより前に招集通知を発した場合は、招集通知の発送日)から株主総会の開催日後3か月を経過するまで(会社法325条の3第1項柱書)。

(2)電子提供措置について、調査機関の調査を受ける必要はない(参考文献1の45頁)。

(3)金融商品取引法に基づき有価証券報告書を提出しなければならない会社が、電子提供の開始日までに、上記3.の情報を含む有価証券報告書をEDINETによって開示した場合は、電子提供措置をとることを要しない(会社法325条3第3項)。

5.電子提供措置をとった場合の招集通知

(1)電子提供措置をとった場合、招集通知には下記の事項を記載する(会社法325条の4第2項)。なお、本制度によって招集通知そのものを電子提供することはできない(参考文献2の10頁)。

・会社法第298条第1項第1号から第4号に掲げる事項(通常の招集通知の記載事項のうち、会社法施行規則63条部分を除くもの)

・電子提供措置をとっている旨(会社法325条の4第2項1号)

・有価証券報告書を開示用電子情報処理組織(EDINET)を用いて提出したときは、その旨(同2号)

・情報を掲載したWEBのアドレス(会社法施行規則95条の3第1項1号)

(2)電子提供措置をとった場合、招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発送しなければならない(会社法325条の4第1項)。

6.書面交付請求

・議決権行使書面には、対象株主の氏名及び議決権数を記載する必要があり(会社法施行規則第66条第1項第5号)、電子提供措置をとるとしたら、株主ごとに分けて掲載しなければならなくなるため、株主が多数の会社においては困難である。

・ただし、取締役会設置会社、書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合、のいずれかの場合

(1)会社法325条の2の定款の定めをした会社であっても、株主が請求した場合は、その情報を記載した書面を株主に交付しなければならない(会社法325条の5第1項)。

(2)当該書面交付請求は、基準日を定めたときは基準日までに(会社法325条の5第2項)、それ以外のときは株主総会招集通知の発送までに(参考文献1の33-34頁)しなければならない。

7.種類株主総会

 現に数種の株式を発行している種類株式発行会社における種類株主総会についても当該規定は適用があり、会社法325条の2の定款の定めをした会社は、種類株主総会についても参考書類等を電子提供しなければならないと解されている(参考文献2の28頁)。

8.既存の制度との関係

(1)会社法325条の2の定款の定めをした会社であるか否かに関わらず、株主の個別の同意に基づく招集通知の電磁的方法による提供(会社法299条3項)は可能である。

(2)現行法において、株主総会参考書類に記載するべき事項の一部等をWEB で開示することにより、書面の記載を省略する旨の定款で定めることができ(いわゆる「ウェブ開示制度」、会社法施行規則94条、133条3項、)、同制度は、改正後の電子提供措置と両立し得る(参考文献2の2-3頁、18-19頁)。ただし、改正法施行前後の適用関係は複雑となる(参考文献3の14-17頁)。

第3 株主提案権

1.概要

 株主提案権のうち、株主総会議案の事前提案権(会社法305条1項)について、株主1人あたりの提案する議案数は10個以内に制限される(会社法305条4項)。

2.議案の個数の考え方

(1)実質的な内容に着目して数える(参考文献1の54頁)。

(2)役員等の選任に関する議案については、まとめて一つの議案とみなす(会社法305条4項1号)。解任についても同じ(同2号)。

・電子提供措置を定める会社においては、ウェブ開示の適用の余地がなくなるとする見解(邉英基「株主総会資料の電子提供制度への実務対応」(旬刊商事法務2230号(2020年5月5日・15日合併号))54頁)もあるが、理論上は両立し得る。書面交付請求があったときの交付すべき書面の内容に差が生じることになる。

・例えば、取締役と監査役をそれぞれ選任する議案であっても、まとめて一つの議案となる(参考文献1の55頁)。

(3)会計監査人を再任しないことに関する議案は、会計監査人の数に関わらず、まとめて一つの議案とみなす(同3号)。

(4)定款の変更に関する2以上の議案について、異なる議決がされたとすれば、当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一つの議案とみなす(同4号)。

 例えば、取締役会を廃止する旨の定款変更、株式の譲渡制限に関する規定の変更その他の取締役会廃止に伴う定款変更については、どちらか一つが可決されて他が否決されると、矛盾することになる。この場合は、まとめて一つの議案とされる。なお、商号をAとする議案とBとする議案は、どちらか一つが可決されて他が否決されても矛盾しないので、二つの議案である(参考文献1の62頁)。

3.その他

(1)取締役が株主総会に提案する議案の個数に制限はない(参考文献1の59頁)。

(2)株主の議題提案権(会社法303条)、株主総会の席上における議案提案権(会社法304条)については従前と変更がなく、今回の改正で制限が課されることはない。

第4 取締役の報酬等

1.取締役の個別の報酬額の決定の委任

 改正前会社法下における実務上、取締役の個別報酬額の決定について、株主総会決議によって取締役会に委任し、取締役会決議によって特定の取締役に再委任することが認められているが、改正会社法では、条文にこれを前提とする規定が置かれ(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5第6項)、法的な安定性が高まった。

2.個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定

(1)取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させる観点から、上場会社等の取締役会は、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められている場合を除き、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として一定の事項を決定しなければならないとされた(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5)。

・取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等(下記の業績連動報酬等及び非金銭報酬等を除く。)の額又はその算定方法の決定に関する方針

・取締役の個人別の報酬等のうち、業績連動報酬等がある場合には、当該業績連動動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針

・明文規定は上場会社等についてのものであることから、中小企業等においても実務慣行が認められるのか若干の疑義がないではない。

・取締役の個人別の報酬等のうち、非金銭報酬等がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針

・上記①の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針

・取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針

・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項

イ 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位若しくは担当

ロ イの者に委任する権限の内容

ハ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

・取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(上記⑥の事項を除く。)

・その他取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項

 なお、業績連動報酬等とは、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社(会計規2③二十五)の業績を示す指標(業績指標)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等のことをいうとされた(改正会施規98 の5 二)。

 また、非金銭報酬等とは、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等のうち、金銭でないものであって、これには、募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含むものとされた(改正会施規98 の5三)。

(2)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定は、重要な業務執行の決定(会社法362条4項)であり、当該方針の決定を取締役に委任することはできないと解される(参考文献1の82頁、監査等委員会設置会社においては、会社法399条の13第5項第7号)。

(3)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定を義務付けられた会社が、当該方針を決定せず、又は、決定した当該方針に反して取締役の個人別の報酬等を決定した場合は、当該報酬の決定は違法であり、無効であると解される(参考文献1の77-78 頁)。

(4)個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定については、特別な経過措置は設けられていないので、上場会社等は、改正会社法施行日以降に当該方針を決定しなければならないと解される。もっとも、改正会社法施行日前に、既に要件を満たしている取締役会決議が存在するのであれば、施行日以後に改めて同じ内容の決議をする必要はない(参考文献3の94頁)。

3.取締役の報酬等に関する株主総会における説明義務

 改正前会社法では、取締役は、取締役の報酬等であって、不確定額である報酬等又は金銭以外の報酬等に関する事項を定め又は改定する株主総会の議案を提出する場合は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされる(旧会社法361条4項)一方で、確定報酬額を定める議案を提出するときは、取締役の説明義務が条文上明示されていない。

 改正会社法では、取締役の報酬等の内容の決定手続に関する透明性を向上させるため、確定額を定める場合を含め、取締役の報酬等に関する事項を定め、又は改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされた(会社法361条4項)。

4.金銭以外による報酬等

(1)株式を報酬等とする場合に決定すべき事項

 現行会社法上、金銭でないものを取締役の報酬等として付与する場合は、定款又は株主総会決議によって、その具体的な内容を決定しなければならないとされている(会361①三)。ところが、金銭以外の報酬の具体的な内容とはどのようなものかは解釈に委ねられており、必ずしも明確ではないため、特に株式及び新株予約権を報酬等とする場合は、明確にするべきであるとの要請があった(参考文献1の84頁)。

 そこで、改正会社法は、株式を報酬等とする場合について、定款又株主総会決議で定めなければならない事項を下記のとおりとして明確化した(改正法3611三、改正会施規98 の2)。

報酬等のうち当該株式会社の募集株式については、当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限(改正法3611三)及び下記事項

・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会規98 の2一)

・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会規98 の2 )

・取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98 の2 三)

(2)株式を報酬とする場合の払込みの要否

 現行会社法上、株式会社が募集株式の発行又は募集自己株式の処分をするときは、募集株式の払込金額又はその算定方法を定めなければならない(会199二)ため、その株式引受人は、必ず当該募集株式等と引換えに1 円以上の財産を払込み又は給付しなければならない(会208)こととされている。

 このことから、実務では、株式を取締役の報酬としようする場合は、会社が取締役に対して金銭報酬を支払う決定をし、これによって取締役が会社に対して有することとなる報酬支払請求権を現物出資する方法によって、取締役を引受人とする募集株式の発行等を行い、株式を交付することが行われている(いわゆる現物出資構成)。

 しかし、このような方法は、技巧的であることや株式を発行した場合における計算が明確でないことから、金銭の払込みを要しないで株式を交付することができるようにするべきであると指摘されていた(参考文献1の88 頁)。

 そこで、改正法では、上場会社(本稿においては、金融商品取引法第2条第16 項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社をいう。)に限定して、取締役の報酬等として株式の発行又は自己株式の処分をする場合、当該募集株式と引換えにする金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しない旨を定めることができるものとした(改正法202の2一)。

 なお、改正会社法施行後においても、上場会社であるか否かに関わらず、現在行われているような現物出資構成による株式の交付は可能である。この場合は、改正会社法361 条1 項3 号又は5 号には該当しないと考えられる。

(3)株式の取得に要するための資金としての金銭を取締役の報酬等とする場合現行会社法上、取締役の報酬等として、株式の取得に要するための資金の金銭を支給する場合であっても、会社法上は特別な規定が置かれておらず、通常の取締役の報酬支給手続きと、募集株式の発行等の手続きを行っていた。

 改正法では、この場合、定款又は株主総会決議で下記の事項を定めなければならないこととされた(改正法361、改正会施規98の4)

・取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限(改正法361)

・一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会施規98 の4)

・一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要(改正会施規98の4)

・取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98の4)

(4)新株予約権を報酬等とする場合における決定すべき事項

 改正会社法は、株式と同様に、新株予約権を取締役の報酬等とする場合について、定款又は株主総会決議で定めなければならない事項を下記のとおりとして明確化した(改正法361、改正会規98 の3)。報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権については、当該募集新株予約権の数の上限(改正法361)及び下記事項

・当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法(改正会規98の3、会236)

・当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法(改正会規98の3、会236)

・金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(改正会規98 の3 一、会236①三)

・当該新株予約権を行使することができる期間(改正会規98 の3 一、会236①四)

・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要(改正会規98 の3 二)

・当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98の3三)

・譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨(改正会規98の3四、会236)

・当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236 条1 項7 号に規定する事項の内容の概要(改正会規98 の3 五、会236)

・取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会規98 の3 六)

これは、新株予約権を取締役の報酬等とする場合は、その新株予約権の内容のうち主要なものについて、予め株主総会決議によって決定しておかなければならないことしたもの。

(5)新株予約権を取締役の報酬等とする場合におけるその行使の際の払込みの要否

 現行会社法上、募集新株予約権の発行をするときは、引換えに金銭の払込みを要しないとすることができる(会238)が、新株予約権の行使にあたっては、金銭の払込み等をしなければならないものとされている(会236)。

 このことから、実務では、新株予約権を取締役の報酬としようする場合において、行使価額を1円とするなどの方法(いわゆる1円ストック・オプション)が行われてきたが、株式を取締役の報酬とする場合と同様の理由で、払込み等を要しない新株予約権が望まれていた。

 そこで、改正法では、上場会社に限定して、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合(報酬としての金銭をもって新株予約権と引換えにする金銭の払込みに充てる場合を含む。)、当該新株予約権の行使に際して金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないものとすることができることとされた(改正法236 の3)。

(6)新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を報酬等とする場合

 新株予約権の発行に際しての払込みに充てるための金銭を報酬とすることもでき、この場合は、株主総会において下記の事項を決議する(改正法361)。

・取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限及び下記事項(改正法361)

・当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法(改正会施規98 の4、会236)

・当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法(改正会施規98の4、会236)

・金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(改正会施規98 の4、会236)

・当該新株予約権を行使することができる期間(改正会施規98 の4、会236)

・一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要(改正会施規98 の4)

・当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98 の4)

・譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨(改正会施規98 の4、会236)

・当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236 条1 項7 号に規定する事項の内容の概要(改正会施規98 の4、会236)

・取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(改正会施規98 の4)

・新株予約権の発行の手続きは、通常のものに加えて、上場会社においては、新株予約権の行使に際して払込み又は現物財産の給付を要しない旨の定めをすることもできる(改正法236)。

 なお、新株予約権の発行に際しての払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする旨の定めは置かれたが、新株予約権の行使に際しての払込みに充てるための金銭を報酬等とすることについての特別な規定は置かれていない。

(7)株式又は新株予約権の発行時における有利発行の該当性

 取締役の報酬等として株式を発行するときに、金銭の払込み等を要しないとする場合であっても、有利発行(会199、201)に該当しないと解されている。その理由として、発行される株式は取締役の職務執行の対価として交付されるものであるから、特に有利な条件に該当しないことや、株主総会決議による報酬決定(会361)の中で、発行する株式数の上限等を決定し、希釈化される株主の意志を確認していることが挙げられている(参考文献1の94 頁)。

 なお、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合における有利発行の該当性については、有利発行規制の適用の可能性自体はあり得るものの、上記株式の発行等における考え方に照らすと、実際上は、有利発行となる余地はほとんどなくなるとする見解が有力である(参考文献1の95 頁)。

(8)報酬等として株式を発行したときの資本金又は準備金として計上すべき額

 取締役等の報酬として株式を交付する場合であって、払込みを要しないとした場合の資本金及び資本準備金の計上は、下記のとおりである。

・株式報酬において、募集株式を発行する場合(事前交付型)

 取締役等の報酬として新たに募集株式を発行し、割当日後の取締役等の役務をその対価とする場合(事前交付型)は、割当日(=募集株式の発行の効力発生日)においては資本金及び資本剰余金の額は変動せず、その後の各事業年度の末日において、下記のとおり計上する。

【資本金等増加限度額】(改正会計規42 の2)

下記アからイを引いた額

ア 割当日以降各事業年度の末日までに対象の取締役等が提供した役務であって募集株式を対価とする部分の公正な評価額

イ 会社法199 条1 項5 号に定める事項として募集株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額

上記イは、当分の間、零とされている(会計規14、同附則11一)ため、実質的にはアのみである。なお、自己株式の処分を併せて行う場合は、募集株式の発行部分の割合を乗じて計算する。株主資本等増加限度額の2 分の1 を超えない額は、資本金として計上しないことができ(改正会計規42 の2)、この場合、資本金として計上しなかった額は、資本準備金としなければならない。

・株式報酬において、募集株式を発行する場合(事後交付型)

取締役等の報酬として新たに募集株式を発行し、割当日前の取締役等の役務をその対価とする場合(事後交付型)は、割当日(=募集株式の発行の効力発生日)において、下記のとおり計上する。

【資本金等増加限度額】(改正会計規42 の3、54 の2)

下記アからイを引いた額

・割当日までに対象の取締役等が提供した役務であって募集株式を対価とする部分の公正な評価額として株式引受権の額に計上された額

・会社法199 条1 項5 号に定める事項として募集株式の交付に係る費用の額のうち、株式会社が資本金等増加限度額から減ずるべき額と定めた額

上記アについて、割当日までの取締役等の役務の評価額を「株式引受権」として一旦計上し、その額がそのままアの額となる(改正会計規54 の2)。

上記イについては、上記と同じ。

なお、自己株式の処分を併せて行う場合、資本金として計上しない部分については、上記と同じ。

 募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合は、通常の募集株式の発行と同じである。つまり、当該払込金額から募集株式の交付に係る費用の額を引いた額が資本金等増加限度額となる。

第5 補償契約

1.補償契約(会社法430条の2)

 補償契約とは、役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失の全部または一部を、株式会社が当該役員等に対して補償することを約する契約をいう(参考文献1の102頁)。

2.補償対象となり得るもの

(1)役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(いわゆる「防御費用」、会社法430条の2第1項1号)

(2)役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における次に掲げる損失(同2号)

イ  当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失

ロ  当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失

3.補償対象とならないもの

(1)防御費用のうち、通常要する費用を超える部分(会社法430条の2第2項1号)

(2)株式会社が第三者に対して損害の賠償等をした場合に当該役員等が当該株式会社に対して損害賠償責任(会社法423条1項)を負う場合には、第三者に対する損害等のうち当該責任に係る部分

(3)役員等がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったことにより第三者に対して損害賠償の責任等を負う場合には、損害賠償等の全部(会社法430条の2第2項3号)。この場合であっても、防御費用は補償することができる(参考文献1の112 頁)。

(4)罰金や課徴金等(参考文献1の116頁)

4.補償の手続

(1)補償契約の内容の決定

 取締役会設置会社においては取締役会決議によって決定する。非取締役会設置会社においては、株主総会決議(普通決議)で決定する。

(2)補償の決定

 補償の決定については、条文上、特別な規定は置かれていない。会社の重要な業務執行の決定(会社法362条4項柱書)として、取締役会設置会社においては、取締役会決議が必要になる事例もあると解されている(参考文献1の109頁)。

5.報告及び開示

(1)公開会社では、補償契約を締結した場合及び補償の実行を行った場合は、一定の事項を事業報告に記載し開示しなければならない(会社法施行規則121条3号の2から3号の4、125条2号から4号、126条7号の2から7号の4)。

(2)補償契約に基づいて補償をした取締役及びを受けた取締役は、遅滞なく、当該補償についての重要な事実を取締役会に対して報告しなければならない(会社法430条の2第5項)。

6.その他

(1)補償契約に基づく補償は、取締役の報酬等とは異なると解されているようである。

(2)補償契約の締結については、利益相反取引の規定を適用しない(会社法430条の2第7項)。

(3)損害等が発生した後に、補償契約を締結し補償をすることは、条文上禁止されているわけではないが、「補償する側の取締役の善管注意義務の観点から実務上のハードルが高い」(参考文献3の101頁、参考文献2の84-85頁)と解されている。

第6 D&O保険

※典型的な事例では、会社に損害が発生し、その損害を填補することが想定されている。

1.D&O保険とは、会社と保険会社(保険者)が締結し、役員等が被保険者である保険契約であって、役員等が損害賠償等をしなければならないときに、保険金でその填補をしてくれるもの(会社法430条の3第1項参照)。

2.会社法430条の3第1項に規定するD&O保険契約の内容を決定するにあたっては、取締役会設置会社においては取締役会決議、非取締役会設置会社においては、株主総会決議(普通決議)によらなければならない(会社法430条の3第1項)。

 例えば、取締役会設置会社において取締役の全員について取締役会決議をする場合は、特別利害関係人の問題から決議ができないのではないかとの疑念が生じるが、各人ごとに保険契約の内容を決定する決議をそれぞれ行うことによって、対象となる取締役を除く取締役で決議を行うことができると解されている(参考文献1の146頁)。

3.公開会社が、会社法430条の3第1項に規定するD&O保険契約を締結した場合は、事業報告において一定の事項を開示しなければならない(会社法施行規則119条2号の2、121条の2)。

第7 社外取締役

1.社外取締役を置くことの義務付け

 上場会社等(監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社)は、社外取締役を置かなければならないこととされた(会社法327条の2)。

2.社外取締役への業務執行の委託

(1)一定の場合において、社外取締役が、会社の業務を執行することができるものとされた(会社法348条の2第1項)。

(業務の執行の社外取締役への委託)

第348条の2 株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。

2 指名委員会等設置会社と執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他執行役が指名委員会等設置会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該指名委員会等設置会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該指名委員会等設置会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。

3 前2項の規定により委託された業務の執行は、第2条第15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しないものとする。ただし、社外取締役が業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役)の指揮命令により当該委託された業務を執行したときは、この限りでない。

(2)会社法348条の2第1項の規定に基づいて、社外取締役が業務の執行を行った場合、当該業務の執行は、社外取締役としての地位に影響を与えないこととされた(会社法348条2第3項)。

第8 株式交付

1.制度概要

(1)ある株式会社(株式交付親会社)が、別の株式会社(株式交付子会社)を子会社とすることを目的として、株式交付子会社の株式を取得するための制度

(2)株式交付親会社が、株式交付子会社の株主から株式交付子会社の株式を取得する。その対価は、株式交付親会社の株式であるが、当該株式に加えて、金銭等も対価とすることができる。

(3)株式交付子会社の株主に対して株式交付親会社の株式を交付するにあたっては、募集株式の発行等の手続きによらず、独自の手続きが定められている。

(4)株式交付子会社の株主は、株式交付によってその所有する株式を株式交付親会社に譲渡するか否か、任意に決定できる。

(5)上記の結果、株式交付親会社が株式交付子会社を子会社とするだけの株式を取得できない場合は、手続き全体の効力が発生しない(会社法774条の3第2項、774条の10)。

2.手続き概要

(1)株式交付計画の作成

株式交付計画の内容(会社法774条の3第1項)

・株式交付子会社の商号及び住所

・株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)の下限

・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項

・株式交付子会社の株式の譲渡人に対する株式交付親会社の株式の割当てに関する事項

・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として金銭等(株式交付親会社の株式を除く。)を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項

イ  当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

ロ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

ハ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項

ニ  当該金銭等が株式交付親会社の社債及び新株予約権以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

・前号に規定する場合には、株式交付子会社の株式の譲渡人に対する同号の金銭等の割当てに関する事項

・株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は新株予約権付社債(以下「新株予約権等」と総称する。)を譲り受けるときは、当該新株予約権等の内容及び数又はその算定方法

・前号に規定する場合において、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対して当該新株予約権等の対価として金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項

イ  当該金銭等が株式交付親会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項

ロ  当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法

ハ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法

ニ  当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項

ホ  当該金銭等が株式交付親会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

・前号に規定する場合には、株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対する同号の金銭等の割当てに関する事項

・株式交付子会社の株式及び新株予約権等の譲渡しの申込みの期日

・効力発生日

(2)株式交付親会社による通知

株式交付親会社は、株式の申込みをしようとする者(株式交付子会社の株主)に対して、下記の事項を通知する(会社法774条の4第1項)。

・株式交付親会社の商号

・株式交付計画の内容

・法務省令(会社法施行規則179条の2)で定める事項

・対価についての参考となるべき事項、株式交付親会社の計算書類

(3)譲渡の申込み人からの申込み

申込者は、申込期日までに事項を記載した書面を株式交付親会社に交付しなければならない。

・申込みをする者の氏名又は名称及び住所

・譲り渡そうとする株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

(4)株式交付親会社の株式の割当(会社法774条の5第1項)

申込の中から、割り当てる株式の数を減少させることができる。

(5)割当通知

株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者に対し、当該申込者から当該株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の数を通知しなければならない(会社法774条の5第2項)。

(6)譲渡承認

 譲渡の対象の株式が譲渡制限株式の場合は、効力発生日の前日までに、株式交付子会社の譲渡承認を受けなければならないと解されている(会社法774条の7第2項、参考文献1の202頁、参考文献2の259-260頁参照)。

(7)株式の交付

 株式交付子会社が株券発行会社の場合は、効力発生日の前日までに、株券の交付を受けなければならない(参考文献1の217頁)。

(8)株主総会決議

 株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって株式交付計画の承認を受けなければならない。なお、簡易な株式交付の制度もある。

(9)債権者保護手続

 一定の場合のみ債権者保護手続が必要となる(会社法816条の8)。債権者保護手続が必要な場合は、対価として交付する株式交付親会社の株式以外の財産の価額が、対価として交付する株式交付親会社の株式の価額の20分の1以上の場合である(会社法施行規則213条の7)。債権者保護手続の内容は、組織再編の一般的なものと同じ。

(10)効力が発生しない場合(会社法774条の11第5項)

・効力発生日において、債権者保護手続が終了していない場合

・効力発生日において、株式交付親会社が株式交付計画に定められた株式の給付を受けられなかった場合

・効力発生日において、株式交付親会社の株主となる者がいない場合

(11)株式交付子会社

 株式交付子会社においては、特別な機関決定は必要ではない。譲渡の対象株式が、譲渡制限株式である場合は、譲渡承認をするか否かが問題となる。

(12)登記

・登記すべき事項

株式を発行した場合は、発行済株式総数の変更(種類株式を発行した場合は発行済種類株式総数の変更)

株式を発行した場合は、資本金の額

新株予約権を発行した場合は、新株予約権に関する事項

※ 対価として新規に株式を発行せず、自己株式の交付のみを行うことも可能である。この場合は、登記事項に変更がないため、登記を要しない。

添付書面

・株式交付計画書

・株式の譲渡しの申込みを証する書面(又は総数譲渡契約書)

・株主総会議事録又は取締役会議事録(簡易な株式交付の場合)

・株主リスト

・債権者保護手続を行った場合は、これに関する書面

・資本金の計上に関する証明書

・委任状

・登録免許税

増加する資本金の額の1000 分の7(ただし3万円に満たない場合は3万円)

第9 取締役等の欠格事由の変更

  • 成年被後見人及び被保佐人であっても、取締役等の欠格事由に該当しないこととなった(会社法331条1項、2号、335条1項、402条4項等)。

2.成年被後見人が取締役等に就任する場合の手続

成年被後見人が取締役等へ就任する場合は、下記の全ての手続が必要となる(会社法331条の2第1項)。

・成年被後見人の同意

・後見監督人がいる場合は、その同意

・成年後見人が成年被後見人に代わってする就任承諾

※成年被後見人の同意が必要なので、全く意思能力を欠いた人は取締役等に就任することができない。同意に必要な意思能力の程度が問題となるが、明確ではない。

3.被保佐人が取締役等に就任する場合の手続き

被保佐人が取締役等へ就任する場合は、下記のいずれかの手続が必要となる。

・被保佐人による就任承諾に加えて、保佐人の同意(会社法331条の2第2項)

・保佐人が代理権を付与されている場合は、保佐人の就任承諾に加えて、被保佐人の同意(同3項)

4.成年被後見人又は被保佐人が取締役等の資格に基づいてした行為は、行為能力の制限によっては取消すことができない(会社法331条4項)。

・「行為能力の制限」によって取り消すことができないだけであって、意思能力がない場合の法律行為の無効(民法3条の2)まで主張できないわけではないと解される。

・代表取締役として第三者との間で法律行為をしたときも、行為能力の制限によって取り消すことはできないとする見解(参考文献1の261-262頁)がある。

・未成年者で取締役等への就任が可能な程度(おおむね15歳程度)だが、そうすると、就任が可能な成年被後見人はわずかとなってしまう。

5.成年被後見が取締役等である場合、成年後見人はその職務を代理して行うことはできない(参考文献1の260頁)。

6.現に取締役等であった者が後見開始の審判を受けた場合は、委任の終了事由(民法653条3項)に該当し、取締役等を退任する。一方で、保佐開始の審判を受けても、委任の終了事由に該当しないため退任しない。

第10 支店所在地における登記の廃止

支店所在地における支店登記については、廃止されることとなった(改正前会社法930条から932条を削除)。

令和4年9月1日施行

第11 新株予約権に関する登記事項の見直し

新株予約権の発行に際して、募集事項の決定の際に、新株予約権の対価として、一定の算定式を定めていた場合であっても、登記申請の時までに確定額が定まった場合は、確定額を登記することになった(会社法911 条3 項12 号へ)。

第3部 商業登記の展望

第1 脱ハンコ=デジタル化

・政府の方針と司法書士の役割

商業登記版登記原因証明情報制度の創設は?

FATF対応と商業登記、代理人確認情報制度の創設?

第2 登記事項の見直し等

役員の任期の規定を登記事項に

役員が利義務になっているのか、任期が継続しているのか分からない。

第3 商業登記の重要性の再確認

・商業登記は、中小企業における重要な法的インフラである。

中小企業においては、商業登記の申請によって株主総会等の手が履されている側面がある。

【参考資料】

1 竹林俊憲編著「一問一答令和元年改正会社法」(商事法務、2020)

2 田中亘・齊藤真紀他編著「Before/After 会社法改正」(弘文堂、2021)

3 神田秀樹・竹林俊憲他「令和元年改正会社法の考え方」(旬刊商事法務2230 号(2020 年5月5日・15 日合併号))

4 日本弁護士連合会編「実務解説改正会社法〔第2版〕」(弘文堂、2021)

5 大阪司法書士会会員研修会レジュメ「令和元年改正会社法」

6 大阪司法書士会会員研修会レジュメ「改正会社法に伴う商業登記」

7 土井万二編代「会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A」(日本加除出版、2021)

8 日本司法書士会連合会商業登記・企業法務対策部編「令和元年改正会社法及び令和3年商業登記規則の理論と実務・書式」(LABO、2022)

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