デジタル署名検証ガイドライン第 1.0 版

デジタル署名検証ガイドライン第 1.0 版 2021年3月31日

NPO 法人日本ネットワークセキュリティ協会電子署名ワーキンググループ

https://www.jnsa.org/result/e-signature/2021/index.html

加工

目次

1はじめに …………….. – 1

-1.1 背景と目的 ……………………………………………………………………………… – 1

-1.2 スコープ …………………………………………………………….. – 1

-1.3 本書の位置付けと構成 ………………………………………… – 1

 -2 参照文献 ……………………………………………………………………………………. – 3 –

2.1 引用規格 …………………………………………………………………………………… – 3 -2.2参考文献………………………………………… …………… – 4

 -3 用語定義と略語 …………………………………………………………………………… – 5

-3.1 用語 …………………………………………………………………………………… – 5

 -3.2 略語 …………………………………………………… – 8

-4 デジタル署名 ………………………………………………………………………………… – 9

 -4.1 デジタル署名の概念モデル …………………………………………………….. – 9 –

4.1.1 デジタル署名の基本原理 ………………………………………………………… – 9 –

4.1.2 電子証明書と認証局、公開鍵基盤(PKI) ……………………………………….. – 9 –

4.1.3 デジタル署名のメカニズムと基本要件 ……………………………………… – 11 –

4.1.4 署名データの形式 ……………………………………………………………. – 13 –

4.2 時刻の保証と長期署名フォーマット …………………… – 15 –

4.2.1 時刻情報とタイムスタンプ局 …………………………………………… – 15 –

4.2.2 長期的な署名の担保と署名の延長 ………………………………………… – 15

4.2.3 AdESフォーマット ……………………….. – 18 –

5 デジタル署名の検証 ………………………………………… – 21 –

5.1 署名検証の概念モデル ………………………………… – 21 –

5.1.1 署名検証の基本要件 ……………………………. – 21 –

5.1.2 検証のアプリケーションモデル ………………………………….. – 22 –

5.1.3 署名判定結果の概念モデル ……………………………………………….. – 23 –

5.1.4 要求レベル(必須とオプション)の考え方 ………………………. – 24 –

5.2 検証プロセス …………………………………………. – 25 –

5.2.1 検証プロセスの考え方 ……………………………………………………… – 25 –

5.2.2 トラストアンカー ………………………………………………………. – 26 –

5.2.3 証明書 …………………………………………….. – 26 –

5.2.4 失効情報 ………………………………………………………….. – 26 –

5.2.5 暗号アルゴリズムの脆弱性に関する情報 …………………… – 27 –

5.2.6 タイムスタンプ …………………………………………. – 27 –

5.2.7 検証基準時刻(validation reference time)…………………….. – 27 –

5.2.8 署名要素に対する制約 …………………………………….. – 28 –

5.3 検証データの全体構造 ………………………………………. – 29 –

5.3.1 署名者による署名(AdES-BES) …………………………………………. – 29 –

5.3.2 署名タイムスタンプ付き署名(AdES-T) ……………… – 30 –

5.3.3 検証情報付き署名(AdES-X-Long) …………………………………….. – 31 –

5.3.4 アーカイブ付き署名(AdES-A) ……………………………. – 32 –

5.4 検証基準時刻と検証の観点 ………………………….. – 33 –

5.4.1 AdES-BES検証における検証基準時刻と検証の観点 ………… – 33 –

5.4.2 AdES-T検証における検証基準時刻と検証の観点…………… – 34 –

5.4.3 AdES-X-Long検証における検証基準時刻と検証の観点 ………………. – 37 –

5.4.4 AdES-A検証における検証基準時刻と検証の観点…………. – 40 –

5.5 署名の検証要件 …………………………………. – 46 –

5.5.1 アルゴリズムの有効性の確認 ……………………. – 46 –

5.5.2 CAdESの検証要件 ………………………………. – 46 –

5.5.3 XAdESの検証要件 …………………………. – 51 –

5.5.4 PAdESの検証要件 ………………………. – 58 –

5.6 タイムスタンプの検証要件 ……………………… – 66 –

5.6.1 タイムスタンプ ……………………. – 66 –

5.6.2 署名タイムスタンプ …………………… – 70 –

5.6.3 アーカイブタイムスタンプ …………………… – 71

5.6.4 ドキュメントタイムスタンプ ……………………….. – 75 –

5.7 証明書の検証要件 ……………………………………………. – 77 –

5.7.1 AdES-BESにおける証明書 …………………………………………. – 77

 -5.7.2 AdES-Tにおける証明書 …………………………………… – 81

 -5.7.3 AdES-Aにおける証明書 ……………………. – 84

 -付属書 A (規定):供給者適合宣言書及び供給者適合宣言書の別紙 . – 86 –

A.1 序文 ……

A.2 供給者適合宣言書の様式 ………………………. – 86 –

A.3 供給者適合宣言書の別紙の様式 ………………………. – 86 –

A.4 検証手順 ……………………………. – 87 –

A.4.1 共通 ………………………………………… – 87 –

A.4.2 CAdES 検証 …………………………………………………… – 88 –

A.4.3 XAdES 検証 ………………………. – 89 –

A.4.4 PAdES 検証 ……………………………………….. – 90 –

A.5 データ …………………………………………. – 91 –

A.5.1 タイムスタンプトークンデータ要素 ………………… – 91 –

A.5.2 CAdES データ要素 ……………………………………… – 93 –

A.5.3 XAdES 構文のXML要素 …………………….. – 94 –

A.5.4 PAdESのデータ要素 ………………………… – 95 –

A.6 X.509 証明書 …………………………………. – 97 –

A.6.1 X.509 証明書パス検証 ……………………………………………….. – 97 –

A.6.2 署名者証明書のX.509証明書パス検証 …………………. – 98 –

A.6.3 TSA証明書のX.509 証明書パス検証 …………………. – 98 –

付属書

B (参考): PAdES関連情報 …………………………… – 99 –

B.1 PAdES署名レベル判定 …………………………….. – 99 –

B.2 PAdES複数署名 …………………………………………. – 100 –

B.3 PAdES署名後の増分更新 ……………………………… – 101 –

B.4 PAdES署名とPDF暗号化仕様 ……………………………. – 102 –

B.5 PAdES署名のAcrobat Readerによる検証 ………………… – 103

-付属書 C (参考): 暗号アルゴリズム ……………… – 104 –

C.1 暗号アルゴリズムや鍵長の安全性確認の困難さについて …… – 104 –

C.2 AdES署名検証の暗号アルゴリズム及び鍵長の安全性判断基準の一例. – 108 –

– 1 -1 はじめに

1.1 背景と目的

 デジタル化とネットワーク化の進展に伴い、デジタルデータの保証と取り扱う人やサービスの信頼性が、これまで以上に必要とされるようになっている。中でもデータの作成責任とその真正性は、アナログ時代においては「署名」や「押印」によって担保されてきた。デジタル時代においては、それに相当する技術として「電子署名」がある。署名は文書等にそれが付与され、受領者が署名を確認することで文書等の真偽や価値の判断材料となる。しかし、可視データであるアナログの「署名」や「押印」と違い、「電子署名」は機械処理としての「署名検証」が必要であり、検証ツール(ソフトウェア)に依存することになる。さらに、電子署名は様々な要素から構成されており、その判定は注意を要する。その判定基準が検証ツールによって異なると、同じデータに対する判定が異なる結果となり、デジタル化の阻害要因となりかねない。それを防ぐため、次世代電子商取引推進協議会(ECOM)平成18 年度成果「電子文書長期保存ハンドブック」など、署名検証の判定基準について検討されてきた。本書は、電子署名のうち公開鍵暗号技術に基づくデジタル署名について検証のガイドラインを示すため、タイムビジネス協議会(TBF)2013 年作成の「電子署名検証ガイドライン」を引き継いで更新したものである。

1.2 スコープ

 電子署名とは、電磁的記録(電子文書)に関連付けられ、検証により確認可能な、電子的措置であり、その効力を持たせるために様々な方式がある。欧米では電子署名(electronicsignature)とデジタル署名(digital signature)を区別し、電子署名は広い意味で、本人と電子文書との関係を示すために本人が作成した電子データを指し、デジタル署名は、署名者の身元とデータが改ざんされていないことを、公開鍵暗号技術を使って検証できる技術を指す。本書では、デジタル署名の中でも特に規格が整備され、相互運用性、国際流通性に優れた先進電子署名(AdES)を取り上げ、以後、電子署名(又は単に署名)と記した場合はこれを指すものとする。特に規約部分では、国際標準として規定された CAdES、XAdES、PAdES のプロファイルを対象として検証の処理を示す。なお、本書では技術的な判定基準について述べるが、法的有効性に関してはスコープ外とする。

1.3 本書の位置付けと構成

 本書は、先進電子署名(AdES)の検証処理に関するガイドライン(規約部分を含む)を定めるものである。・ 規約には技術的有効性を確認するための要件を定義する。- 署名検証の共通要件と CAdES、XAdES、PAdES の固有要件とを定義する。

 規約には、技術的な安全性確保を優先して決定した値を規定する(規定値と呼ぶ)こととし、各国の法規制等に依存する要素や適用領域の事情に依存する要素は極力排除することとする。

・ アプリケーションの提供者が各実装における規定値との差分を明示するための供給者による適合宣言書の書式を提供する。

対象読者:・ 署名検証システムあるいはサービスの利用者。

・ 署名検証システムあるいはサービスの調達者。

・ 署名検証システムあるいはサービスの開発者(設計者及び実装者)。

構成:・ 1 章:本章。本書のスコープ、対象読者、構成、使い方を記す。

・ 2 章:本書が準拠すべき規格(引用規格)と参考となる文献(参考文献)を記す。

・ 3 章:用語定義と略語を記す。

・ 4 章:署名の基本概念とデータ形式を記す。

・ 5 章:署名検証の概念モデルと検証の詳細要件(規約部分)を記す。

・ 付属書:供給者適合宣言書の書式及び実装に関わる参考情報等を記す。

推奨する参照範囲:

・ 利用者は 3 章を参照し、4 章、5.1 節を読むことを推奨する。

・ 調達者は 3 章を参照し、4 章、5 章を読むことを推奨する。

・ 開発者は 2 章及び 3 章を参照し、4 章、5 章、付属書を読むことを推奨する。

2 参照文献

2.1 引用規格

[1] ISO 14533-1:2014:「商取引、産業におけるプロセス、データ要素、およびドキュメントおよび管理-長期署名プロファイル-パート1:長期署名CMS高度電子署名(CAdES)のプロファイル」

[2] ISO 14533-2:2012:「商取引、産業におけるプロセス、データ要素、およびドキュメントおよび管理-長期署名プロファイル-パート2:長期署名XML高度電子署名(XAdES)のプロファイル」

[3] ISO 14533-3:2017:「商取引、産業におけるプロセス、データ要素、およびドキュメントおよび管理-長期署名プロファイル-パート3:長期署名PDF高度電子署名(PAdES)のプロファイル」

[4] ISO 32000-2:2017:「ドキュメント管理-ポータブルドキュメントフォーマット-パート2:PDF 2.0 “

[5] EN 319 122-1:「CAdESデジタル署名。パート1:ビルディングブロックとCAdESベースライン署名」

[6] EN 319 122-2:「CAdESデジタル署名。パート2:拡張CAdES署名」

[7] EN 319 132-1:「XAdESデジタル署名。パート1:ビルディングブロックとXAdESベースライン署名」

[8] EN 319 132-2:「XAdESデジタル署名。パート2:拡張XAdES署名」

[9] EN 319 142-1:「PAdESデジタル署名。パート1:ビルディングブロックとPAdESベースライン署名」

[10] EN 319 142-2:「PAdESデジタル署名。パート2:追加のPAdES署名プロファイル」

[11] IETF RFC 5280:「インターネットX.509公開鍵インフラストラクチャ証明書と証明書失効リスト(CRL)プロファイル」。

[12] IETF RFC 6818:「インターネットX.509公開鍵インフラストラクチャの更新証明書および証明書失効リスト(CRL)プロファイル」

[13] IETF RFC 8398:「X.509証明書の国際化された電子メールアドレス」

[14] IETF RFC 8399:「RFC5280の国際化アップデート」

[15] ISO / IEC 9594-8:2017:「情報技術-オープンシステム相互接続-ディレクトリ–パート8:公開鍵および属性証明書フレームワーク」。

[16] W3C勧告:「XMLSignature構文および処理バージョン2.0」、2015年

[17] IETF RFC 3161:「インターネットX.509公開鍵インフラストラクチャ;タイムスタンププロトコル(TSP)」。

[18] IETF RFC 5816:「RFC3161のESSCertIDv2アップデート」

[19] IETF RFC 5652:「暗号化メッセージ構文(CMS)」。

[20] IETF RFC 8933:「アルゴリズムの暗号化メッセージ構文(CMS)の更新識別子の保護」

[21] IETF RFC 4998:「エビデンスレコード構文(ERS)」。

[22] IETF RFC 6283:「ExtensibleMarkup Language Evidence RecordSyntax(XMLERS)」

2.2参考文献

[i.1] IETF RFC 4158:「インターネットX.509公開鍵インフラストラクチャ:認証パス建物”。

[i.2] TS 119 172-1:「署名ポリシー;パート1:ビルディングブロックと目次人間が読める署名ポリシー文書の場合」

[i.3] TS 119 172-2:「署名ポリシー;パート2:署名ポリシーのXML形式」

[i.4] TS 119 172-3:「署名ポリシー;パート3:署名ポリシーのASN.1形式」

[i.5] TS 119 172-4:「署名ポリシー;パート4:の署名検証ポリシー信頼できるリストを使用したヨーロッパの資格のある電子署名/シール」

[i.6] IETF RFC 6960:「X.509インターネット公開鍵インフラストラクチャオンライン証明書ステータスプロトコル-OCSP」。

[i.7] EN 319 102-1&TS 119 102-1:「AdESの作成と検証の手順デジタル署名; パート1:作成と検証」

[i.8] TS 119 102-2:「AdESデジタルの作成と検証の手順署名; パート2:署名検証レポート」

[i.9] IETF RFC 5698:暗号化のセキュリティ適合性のためのデータ構造アルゴリズム(DSSC)

[i.10] 電子文書長期保存ハンドブック:次世代電子商取引推進協議会,2007.3https://www.jipdec.or.jp/archives/publications/J0004262[i.11] 電子署名検証ガイドライン V1.0.0:タイムビジネス協議会 調査研究 WG, 2013.6.5

3 用語定義と略語

3.1 用語用語は一般的なものを除き、ISO、IETF RFC、JIS、ETSI などの規格に基づく。引用規格(normative references):本書が参照する規格。

 ベース仕様(base specification):プロファイルのベースとなる仕様。例えば PAdES であれば、ベース仕様は PDF の ISO 32000-2 となり、プロファイルは ISO 14533-3 となる。

 プロファイル(profile):標準化においてプロファイルとは、ベースとなる仕様(引用規格)の部分集合(サブセット)となる。先進電子署名においては、ISO 14533 シリーズで定義された ISOプロファイルと、欧州のEN としての Baseline 署名(プロファイルと呼んでいないが事実上はプロファイル)がある。

先進電子署名(Advanced Electronic Signature (AdES)):次の要件を満たす電子署名。

1) 署名者とユニークに関係付けられている

2) 署名者を特定することができる

3) 署名者単独の制御下にある手段で生成される4) その後データが改ざんされたことを発見できるような方法でデータと関連付けられている注:以降、本書では先進電子署名を「署名」と略して用いる。

【コラム1】■AdES という呼称の経緯

 1999 年に発行された EU 電子署名指令(Directive 1999/93/EC)で”Advanced ElectronicSignature”が定義されている。”Advanced Electronic Signature”は日本では「先進電子署名」あるいは「高度電子署名」と訳される。ただし、略称となる”AdES”は用いられていない。初期 ETSI の電子署名に関する規格(例えば”ETSI TS 101 733 V1.2.2 (2000-12);Electronic signature formats”)でこの定義を参照しているが、”Advanced ElectronicSignature”の略称として”AdES”を当ててはいない。

 最初に”AdES”の略称を用いたのは”ETSI TS 101 903 V1.1.1 (2002-02); XML AdvancedElectronic Signatures (XAdES)”であり、その後、CMS の電子署名規格(ETSI TS 101 733V1.6.3 (2005-09); CMS Advanced Electronic Signatures (CAdES))でも”AdES”(実際には”CAdES”であるが)が用いられるようになった。2014 年に成立したEU のeIDAS 規則(eIDAS Regulation)でも電子署名指令の定義は引き継がれており、”Advanced Electronic Signature”に対して電子署名指令とほぼ同等の定義が与えられているが、略称”AdES”が用いられていないのは電子署名指令と同様である。またeIDAS 規則では自然人が生成する電子署名(Electronic Signature)に加え、法人が生成する e シール(Electronic Seal)の概念を導入し、”Advanced Electronic Seal”の要件を定義している。その後、ETSI では”ETSI TS 119 122-1 V1.0.1 (2015-07)”や”ETSI TS 119 102-1 V1.0.1(2015-07)”などの規格から、”AdES”を略称ではなく固有名詞として扱い、CMS、XML、PDF それぞれに対する署名として”CAdES Digital Signature”、”XAdES Digital Signature”、”PAdESDigital Signature”を、又その総称として”AdES Digital Signature”を用いるようになった。

“AdES”が”Advanced Electronic Signature”あるいは”Advanced Electronic Seal”のどちらの略称であるかが区別できないこと、両者の要件を満たす共通技術としてデジタル署名(Digital Signature)が想定されていること、ETSI が制定する規格がデジタル署名を対象としていることなどからそのような対応となったと考えられる。

 署名レベル(signature level):先進電子署名において、プロファイル定義されている 4 つの署名のレベル(生成段階)を示す。

 証明書の認証パス検証(certification path validation):証明書チェーンの有効性を確認する処理。

 (署名検証)制約(constraints)/検証制約(validation constraint):先進電子署名の有効性を検証するときに署名検証アプリケーション(SVA)が照合する、規則、値、範囲、計算結果の抽象的に定式化したもの。形式的な署名ポリシー、設定ファイル、あるいは SVA の処理に組み込まれたものとして定義できる。

 署名対象データ(data to be signed):署名されるデータ(例えば、文書や文書の部分)。注:署名対象データは、公開鍵暗号技術による署名処理の入力となる。署名対象データと署名属性を入力として与える方法の仕様は、署名フォーマットごとに標準規格で定義される。

 駆動アプリケーション(Driving Application (DA)):SVA と呼ばれる電子署名検証のためのアプリケーションに対して検証対象や制約情報を与えて検証を依頼するアプリケーション。SVA は DA に対して検証結果を返す。

 署名ポリシー(signature policy):署名の生成や検証のための規則の集合。これに基づいて、特定のトランザクションの文脈における署名の有効性が決定する。

 署名検証(signature verification):検証対象のデータに対して公開鍵暗号技術により、改ざんがないことを確認する処理。

 署名有効性検証(signature validation):署名の有効性を確認する処理。証明書の有効性検証や、署名検証を含め、署名がローカルなあるいは共通の署名ポリシーが要求することに従っているかどうかを総合的に確認することを含む処理。注:verification と validation の違い

・verification:正しいこと/事実であることを確かめる/実証する/検証すること

・validation:有効であること/妥当であることを認める/確認する/認証すること

 署名検証アプリケーション(Signature Validation Application (SVA)):本書に定義された署名有効性検証処理を実装したアプリケーション。注:署名有効性検証アプリケーションは、駆動アプリケーション(DA)との間で検証結果をやり取りする。

 検証情報(validation data):署名者や検証者によって収集された、署名の有効性検証に必要なデータ。注:証明書、失効情報(CRL や OCSP Response)、タイムスタンプなどを含む。

 検証者(verifier):署名の有効性検証や検証を行うエンティティ。

3.2 略語

BES 基本的な電子署名それ認証局

CRL 証明書失効リスト

DA 運転アプリケーション

EPES 明示的なポリシーベースの電子署名

LT 長期からアーカイブタイムスタンプ付きの長期

LTV 長期検証OCSPオンライン証明書ステータスプロトコル

OID オブジェクト識別子

PKIX Public Key Infrastructure using X. 509、IETF PKIX ワーキンググループ

RSA Rivest,Shamir,Adleman による公開鍵暗号方式全て署名検証アプリケーション

TSA タイムスタンプ機関

TSTタイムスタンプトークン

URI ユニフォームリソース識別子

4 デジタル署名

4.1 デジタル署名の概念モデル

4.1.1 デジタル署名の基本原理

 紙文書や物理的な媒体における署名(サイン)や押印は、署名対象の作成者を示すとともに、署名対象が真正であることを示すためのものである。電子文書など電子データにおいても、その作成者(文責)と非改ざん性を証明するために、様々な電子署名方式が考案されている。中でも公開鍵暗号を用いたデジタル署名は、技術の整備と標準化が進み、最も普及している署名方式と言える。デジタル署名では、公開鍵暗号の署名鍵で生成した署名は、対となる検証鍵でのみ有効性を検証できる。また署名鍵を署名者のみが保有する秘密鍵(Private key:私有鍵とも呼ばれる)とすることで、他人が同じ鍵を生成できず、検証鍵を公開して公開鍵(Public key)とすることで、誰でも検証可能となる。つまり、秘密鍵を保有する人が署名したことと、検証結果により元のデータの改ざん有無が分かる。

図 4.1.1-1 公開鍵暗号による署名・検証なお、公開鍵暗号の一種である RSA 暗号の場合、署名処理として暗号化、検証処理として復号が行われる。

4.1.2 電子証明書と認証局、公開鍵基盤(PKI)

署名の本人性を確保する上での前提事項は以下の2点である。

1 署名者本人以外が秘密鍵を使用できないこと

2公開鍵が、署名者の所有する秘密鍵とペアとなるものであることが担保できること

 本人以外が使用できないことについては、一般的にはIC カードなどに格納して本人が適切に管理することにより実現される。その上で署名の本人性を担保するには、公開鍵が誰のものであるかを保証することが重要となる。“信頼できる第三者機関”(Trusted Third Party、以下 TTP)が公開鍵の所有者(ペアとなる秘密鍵の所有者)を保証するモデルが認証局モデルである。認証局(CA)は利用者(秘密鍵の所有者)の本人確認を実施した上で公開鍵の所有名義人であることを証明する公開鍵証明書の発行を行い、利用者と公開鍵の紐付けを保証する。公開鍵証明書には発行元の認証局のデジタル署名が付与され、一般的には電子証明書とも呼ばれる(本書では以下、証明書と記す)。

 本人確認等を行い、利用者と鍵の紐付けを担う機能を取り出して登録局(RA)と呼ぶことがある。

図 4.1.2-1 認証局と公開鍵証明書

【コラム2】■電子署名の法的定義電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律(平成 12 年 5 月 31 日法律第百二号))2 条 1 項にて、「電子署名」は、以下のとおり規定されている。

―――「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。(一部省略)―――

つ まり、本人性が確認できること、及び、改ざん検知ができることが電子署名の要件となっている。従って、電子署名の有効性を検証する場合は、「本人性の確認」、「署名対象データの非改ざん性の確認」の2点を実施する必要がある。また、同法は、自然人を対象としており、電子署名に法的有効性を与えている(同 3 条)。

 なお、同法による認定を受けた特定認証業務(認定認証業務とも呼ばれる)では証明書の有効期間は5年を超えないもの(同法、施行規則第6条)とされており、認定以外の認証業務においても、署名に用いる証明書の有効期間の基準とされている。なお、認証局同士が連携して信用関係を構築することがある。階層型の信用関係の場合、上位の認証局が下位の認証局の証明書を発行し、最上位の認証局(ルートCA)は自分で自分を証明する自己署名証明書を発行する。上位の認証局に証明される認証局は中間CA(IntermediateCA)と呼ばれる。

 また、署名者は秘密鍵を安全に管理する必要があるが、秘密鍵の紛失や、秘密鍵の活性化に用いるパスワードの漏洩などにより、秘密鍵が危殆化(本人性の証明に使えなくなる状態)する可能性がある。その場合、署名者は認証局に失効申請を行い、これを受けた認証局は無効となった証明書のシリアル番号を記載した失効情報に認証局の電子署名を付与して開示する。この失効情報は証明書失効リスト(CRL:Certificate Revocation List)と呼ばれ、その更新頻度は失効した証明書の追加に合わせて実施される不定期な更新と、定期更新がある。

図 4.1.2-2 認証局の階層構造と公開鍵証明書

4.1.3 デジタル署名のメカニズムと基本要件

 デジタル署名の署名データは、署名対象文書に対して、署名鍵を用いて署名アルゴリズムによる所定の署名処理を施したものである。RSA 署名の場合、署名対象文書に対して、ハッシュ関数にて演算実施、得られたハッシュ値を公開鍵暗号方式により署名者の秘密鍵を用いて暗号化したものとなる。

 署名の有効性を検証する際は、署名データを署名者の公開鍵で検証処理を行う。RSA 署名の場合、公開鍵で復号して得られたハッシュ値と、署名対象文書からハッシュ演算をして得られるハッシュ値を比較し、双方のハッシュ値の一致を確認することにより、公開鍵と秘密鍵の紐付け、及び、署名対象文書が改ざんされていないことが確認できる。図 4.1.3-1 署名と署名検証(RSA 署名の場合)に RSA 署名のメカニズムを示す。

図 4.1.3-1 署名と署名検証(RSA 署名の場合)

 また、署名を実施する際には、その目的に応じ、以下の要件に留意する必要がある。

(1)署名文書の利用用途に応じた適切な証明書を用いること

 目的に応じて利用できる証明書の範囲(例、認定認証業務など)が示されている場合それに従うこと。認証局が開示する「証明書ポリシー」(Certificate Policy、以下 CP)に発行基準や用途が規定されているので、該当する認証局から署名者本人に対して発行された正当な証明書を利用する必要がある。

(2) 署名を実施する際に証明書の有効期間を越えていないこと

 証明書の有効期間は発行時点に設定されているが、電子署名を実施する時点においてこの有効期間を越えていないことが必要となる。

(3) 失効していない証明書を用いること

署名時点で失効していない証明書の秘密鍵を用いる必要がある。

(4) 署名文書の利用期間を通じて、署名の正当性が確認可能であること。

 法定保存期間等、署名文書の真正性の維持継続が必要な期間、署名の検証を可能とする必要がある(証明書の有効期間を越えて署名検証を行う場合は、後述の AdESフォーマットなどを採用する必要がある。)。

 なお、署名に用いられるハッシュ関数や暗号アルゴリズムは、計算機関連の技術進化とともに解読のリスクが高まるため、署名の正当性確認を可能とするためには、より長い鍵、より強度の高いアルゴリズムに移行していかなければならない。

【コラム3】■署名の基本要件(4)の規定例

 国税関係書類においては、電子帳簿保存法施行規則(第 3 条第 5 項第 2 号ロ(3))にて定められ、同法取扱通達 4-26 にてその方法について解説されている。また、医療関係書類では、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第 5.1 版」6.12 節にて定められ、法定保存期間等の一定の期間、電子署名の検証が継続できる必要があるとされている。

4.1.4 署名データの形式

 署名データは標準規格により、署名対象のデータとそのハッシュ値を暗号化した署名値及び各種パラメータ(属性)を含めて、下図の論理構成として規定されている。

図 4.1.4-1 署名データの論理構成

 署名対象データと署名データは 1 つのファイルに統合して作成することもできるが、独立した 2 つのファイルとして作成することもできる。署名対象データと署名データの形式には、図4.1.4-2 に示されるように、以下の 3 つに大別でき、利用形態に応じて選択することができる。

図 4.1.4-2 署名対象データと署名データの形式

それぞれ、以下のような特徴がある。

(1)分離形式(Detached 型)署名対象データとは独立して、署名データを作成する形式。署名対象データの種別は問わず、あらゆるファイル形式に対して署名データが作成できる。既存アプリケーションで署名対象データを取り扱っている場合など、アプリケーション側への影響が少なくて済む。一方、署名対象データと署名データを紐付けて管理する必要がある。

(2) 包含形式(Enveloped 型)署名データの中に署名対象データを格納(内包)して作成する形式。署名対象ファイルと署名データが 1 つのファイルとなるので扱いやすい。一方、アプリケーションなどで署名対象データを利用する場合、署名データから、署名対象データを取り出す必要がある。

(3)付属フォーム(エンベロープタイプ)

 署名データが署名対象データの中に含まれる(包含)形で作成する形式。(2)と同様に 1 つのファイルを管理すればよいので扱いが容易。一方で、署名対象データのファイル形式が、電子署名をサポートしていることが必要となり、作成できるファイル形式には制限がある(例:PDFやXML など。)。

4.2 時刻の保証と長期署名フォーマット

4.2.1 時刻情報とタイムスタンプ局

 署名の要件として、署名時点での証明書の有効性が問われることとなるが、そのためには署名時刻等を保証する客観的な時刻情報が必要となる。署名を生成するコンピュータの時刻情報を使用すると、故意か否かに関わらず、正確性が保証されない。この役割を担う信頼できる第三者機関(TTP)がタイムスタンプ局(Time Stamp Authority:TSA)である。電子文書に正確な時刻情報を含むタイムスタンプトークン(TST)を付与することにより、タイムスタンプ時刻以前からその電子文書が存在していたことと、それ以降、改ざんされていないことが証明可能となる。

図 4.2.1-1 タイムスタンプ局の概要(デジタル署名方式(RFC3161)の場合)

4.2.2 長期的な署名の担保と署名の延長

 鍵や証明書には有効期間があり、法定保存期間が定められた文書を保存する場合など、有効期間を越えて、署名検証が可能であることが必要となる。その際、特に「証明書検証の継続性」に対して留意する必要がある。また通常、認証局は証明書の有効期間を越えて失効情報を公開しないことが多い。すなわち、失効情報には失効した証明書のシリアル番号が記載されているが、多くの認証局では失効情報の肥大化をさけるため、失効した証明書の有効期間が過ぎるとそれらのシリアル番号は失効情報から消去される。従って、証明書の有効期間を越えて証明書の有効性の確認ができないことがある。従って、署名検証を継続する必要がある場合は、失効情報を確保しておく必要がある。このような問題を解決するために、電子署名の有効性を証明書の有効期間や失効、さらに、署名に用いた暗号アルゴリズムが脆弱化した後も維持できる署名規格として、AdES (先進電子署名)がある。このフォーマットに示されるように、証明書検証に必要な失効情報等のデータを合わせて保存し、タイムスタンプを付与することが有効である。その手順の概要は、以下となる。

(1) 署名対象データ全体に対して電子署名を付与

(2) 署名直後にタイムスタンプ(署名タイムスタンプ)を付与し、署名時刻を特定しておく

(3) 証明書検証に必要となる、以下の検証情報を収集格納する。なお、証明書チェーン上の認証局は、署名者の証明書を発行する認証局とタイムスタンプ局に証明書を発行する認証局の 2 つの認証ドメインにおける全ての認証局となることに留意されたい。

・タイムスタンプ局の証明書・署名者の証明書

証明書チェーン上の認証局の証明書

・上記全ての認証局の失効情報

(4) 上記の署名対象文書や署名値、検証情報全体に対してタイムスタンプ(アーカイブタイムスタンプ)を付与

図 4.2.2-1 長期署名フォーマットによる署名延長に上記手順のフローイメージを示す。ここで、各タイムスタンプの役割は、以下である。

・ 署名タイムスタンプ

署名が存在した時刻を特定可能にするために、署名値に付与されるタイムスタンプ

・ アーカイブタイムスタンプ

 暗号アルゴリズムの危殆化、認証局の変更、証明書の期限切れや失効があったとしても将来検証できるように、署名対象及び検証情報を包括的に保護するためのタイムスタンプ。署名の検証可能な期間を延長するために使用する。

・ コンテントタイムスタンプ(オプション)

 署名対象データそのものに対して、オプションで付与可能なタイムスタンプ。署名タイムスタンプは、署名時点以降の署名対象データの存在証明となるが、コンテントタイムスタンプは署名タイムスタンプより前に行い、署名対象データが「いつから」存在したのかを示すことができる。

・ ドキュメントタイムスタンプ

 PAdES に用いることができる DocTimeStamp で指定される汎用的なタイムスタンプのための PDF フィールドであり、PDF 文書に対してデジタル署名をせずに直接行うタイムスタンプ、署名タイムスタンプ、アーカイブタイムスタンプの 3 つの用途に用いることができる。どの用途であるかは、データのコンテキストで判断する必要がある。PAdES では、署名と署名タイムスタンプを CAdES-T 形式でも与えることができ、その場合は、署名タイムスタンプ用途のドキュメントタイムスタンプは使用しない。

図 4.2.2-1 長期署名フォーマットによる署名延長

 署名検証に必要となる情報には、署名対象データと署名値以外に、関連する証明書や失効情報、また、署名文書の利用目的に応じたトラストアンカーの制限や暗号アルゴリズムの有効性に関する情報などの様々な情報が必要となる。これら、署名検証に必要となる前提条件のことを、検証制約(Validation constraints)と呼び、以下のようなものが挙げられる(5.2 参照)。

・ 署名文書の利用目的に合致した証明書を発行する認証局のトラストアンカー

・ 証明書パスに含まれる全ての証明書、証明書の利用用途などの制約

・ 失効情報

・ タイムスタンプ

・ 検証基準時刻

・ 有効と認められる暗号アルゴリズムの制約

・ 署名データを構成する要素に対する制約

4.2.3 AdES フォーマット

 AdES では前述のとおり、署名の後、署名時刻を確定するため署名タイムスタンプを付し、その後、署名及びタイムスタンプが失効していないことを示す検証情報を付加し、期限切れ等で失効する前にアーカイブ用のタイムスタンプを付す。さらに期限切れ等が発生する前に、検証情報を付加してアーカイブタイムスタンプを重ねるライフサイクルとなる。

図 4.2.3-1 署名データのライフサイクル

各フェーズにおけるデータフォーマットの論理的な構成は以下のとおりである。

  • 署名者による署名を付した署名データ(AdES-BES)

図 4.2.3-2 署名者による署名(AdES-BES)

(2)署名タイムスタンプを付した署名データ(AdES-T)

図 4.2.3-3 署名タイムスタンプ付き署名(AdES-T)

(3)検証情報を付加した署名データ(AdES-X-Long)

図 4.2.3-4 検証情報付き署名(AdES-X-Long)

 AdES-X-Long はアーカイブタイムスタンプを付与する前段として、必要な検証情報が付与された状態である。ここでAdES-X-Long の検証情報は、タイムスタンプを付していないデータのため、改ざんの危険性がある。通常は、速やかにアーカイブタイムスタンプを付与するか、用途に従った処理を行うことになる。

【コラム4】■電子処方箋における AdES-X-Long の利用

2 018 年 7 月に厚労省から公開された「電子処方箋 CDA 記述仕様 第1版(平成 30 年7 月)」に基づき、JAHIS(一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会)では電子処方箋実装ガイドを定めている。その規約においては、処方を行った医師が電子処方箋に署名を付与した後、処方箋と医師の署名の両者を署名対象に含めた文書全体に対して調剤を行った薬剤師が署名を付与することとしている。この際、医師の署名を XAdES-X-Long の形式とした上で薬剤師が署名を付すことにより、医師の署名の検証情報を保存可能としている。

(4) アーカイブ用のタイムスタンプを付した署名データ(AdES-A)

(5) 2 回目のアーカイブ用タイムスタンプを付した署名データ(AdES-A)

また、AdES フォーマットは、署名対象ファイル種別に応じて以下の種類が規定されている。

■CadES

 汎用的な署名ファイル形式であるCMS(Cryptographic Message Syntax)をベースとしたAdES。署名対象データのファイルの形式は限定されないため、広く様々なファイルへ電子署名を付与できる。分離形式、内包形式の電子署名に用いられる。

■XAdESXML

 ファイルを対象とした電子署名形式であるXML署名をベースとするAdES。分離形式、内包形式、包含形式の全てに用いることができる。

■PAdESPDF

  ファイルの内部構造の中へ署名データを埋め込む包含形式のAdES。署名対象ファイルはPDF 形式に限定されるが、署名された PDF ファイルを単独で扱うことができ、Adobe®Reader®でも検証できる利点がある。

5 デジタル署名の検証

5.1 署名検証の概念モデル

5.1.1 署名検証の基本要件

 署名検証の基本要件は、署名の基本要件に対応して、署名の本人性と非改ざん性を確認することとなる。前者は「証明書検証」、後者は「署名値の検証」と定義され、前者は署名の基本要件である(1)~(4)を適切に確認し、後者は署名対象データの署名値を公開鍵で検証処理することで確認する。ここで署名検証はデジタル署名を付与し、一定期間経過した後に行われる行為であることに着目してみると、いつ時点における署名の有効性を確認するのかその時刻の設定によっては、証明書の失効や暗号アルゴリズムの脆弱化などの要因により、検証結果に影響を及ぼすことが考えられる。

 いつ時点における署名の有効性を検証するのか、本書ではその時刻を「検証基準時刻(validation reference time)」と定義している(5.2.7 参照)。例えば本来の署名検証の目的は署名時点における電子署名の有効性を確認することにあるので、検証基準時刻は“署名を付与した時点”とすることが理想であるが、通常、署名を付与した時刻を客観的に証明することができない。そこで、検証基準時刻はタイムスタンプを併用するなどによる客観的な署名の時刻となり、それが確認できない場合は、署名検証を実施する現在時刻となる。

証明書検証に際しては電子署名の基本要件で述べた以下の 4 点を確認することになる。

(1) 署名文書の利用用途に応じた適切な証明書を用いていたこと

(2) 署名当時に証明書の有効期間が切れていなかったこと

(3) 失効していない証明書を用いて署名していたこと

(4) 署名文書の利用期間を通じて、上記(1)~(3)が確認可能であること。図 5.1.1-1 では、(1)から(3)を図示しているが、(1)及び、(2)に関して、署名時刻がいつであったのか客観的に示すためにタイムスタンプが利用されること、また署名時点での証明書の有効性を確認するために失効情報が保管されることが必要である。

5.1.2 検証のアプリケーションモデル

 署名データの検証処理の実装には、PCやデバイス等で実行されるグラフィカルユーザインタフェースを備えたソフトウェアや、コマンドラインツール、他のアプリケーションに組み込まれるライブラリやミドルウェア、WebアプリケーションやWeb サービスなど様々な方法が考えられる。そのような様々な実装を概念的なモデルとして表現するために、この規格では駆動アプリケーション(DA:Driving Application)と署名検証アプリケーション(SVA:SignatureValidation Application)に分けて考える(図 5.1.2-1)。

 署名検証アプリケーションとは、入力された署名データの検証を行い、署名データの判定結果やレポート内容を出力するモジュールのことを言う。署名検証アプリケーションは、駆動アプリケーションから入力された署名データを検証し、検証レポートを駆動アプリケーションに返す。駆動アプリケーションは検証レポートに基づいて検証者に検証結果の表示を行う。ソフトウェアの構成によっては駆動アプリケーションと署名検証アプリケーションが一体となっている場合もある。本書では署名検証アプリケーションが実行すべき署名データの検証項目に関する要件を定めるものとする。

図 5.1.2-1 署名検証アプリケーションの概念モデル

 検証レポートには署名データの判定結果や詳細なレポート内容が含まれる。検証制約は署名検証アプリケーションが署名データの有効性を判断するときの条件を示すものである。検証制約には、例えば、検証者が信頼するトラストアンカー、証明書の検証情報(中間CA証明書や失効情報)、証明書ポリシーや暗号制約などがある。検証制約は駆動アプリケーションを介して検証者が設定できる場合や、署名ポリシー等の記述に従い駆動アプリケーションが署名検証アプリケーションに入力する場合や、署名検証アプリケーションや駆動アプリケーションのコードに組み込まれている場合もある。証明書の検証情報については検証処理の実行時にオンラインで取得する場合もある。

5.1.3 署名判定結果の概念モデル

署名データの判定結果には以下の種類がある。

● VALID (有効)

 署名者による署名やタイムスタンプの対象となったデータの改ざんがなく、かつ、署名者やタイムスタンプを発行したタイムスタンプ局の身元が信頼できると判断された状態。検証すべき項目の全てがVALID であるとき、署名データ全体をVALID と判定する。VALID である署名データは少なくとも以下の全ての内容を満たしている。

➢ 署名者による署名やタイムスタンプのハッシュ値や署名値が正しく検証できること。

➢ 署名者の証明書やタイムスタンプ局の証明書が信頼できること。例えば、信頼する認証局から発行されていることや、有効期間内にあること、失効されていないこと等。

● INVALID (無効)

 検証すべき項目のうち少なくとも1 つが INVALID と判断された場合、署名データ全体をINVALID と判定する。

● INDETERMINATE (未確定)

 入手された情報による設定では VALID もしくはINVALIDと判定するには不十分である。例えば、署名検証アプリケーションの実行時に検証に必要な失効情報を入手できず、証明書の失効状態を確認することができなかった場合には、INDETERMINATE として判定される。INDETERMINATE と判定された署名データは、他の証拠となる情報と照らし合わせた場合に、VALID もしくは INVALID として判定することもできる。

 なお、検証すべき項目に1つでも INVALID があれば、全体として INVALIDであり、処理を終了できる。しかし、他にも INVALIDの項目が存在する可能性があり、どこに問題があったかを知ることは検証として有用なことがあるため、検証処理を継続することは意味がある。逆にINVALID の結果からは、他にINVALID の項目がなかったのか、処理を打ち切ったかが分からないため、どちらの実装であるかを供給者の適合宣言書に記して、明確にすべきである。

5.1.4 要求レベル(必須とオプション)の考え方

 本書における検証要件のレベルを以下のように定める。検証要件には、電子署名としてセキュリティを担保するために制約条件の違いなどに依存せず最低限実行しなければならないもの、用途に依存するがセキュリティを担保するためには意味があるもの、用途に依存して実行要否を決定するものに分けられ、それぞれのフィールドを、必須、存在時必須、オプションと規定する。各々の処理方法は以下とする。

・ 必須[M(Mandatory)]

 この検証項目は必ず実行しなければならない。この検証項目に必要なフィールドが署名データに存在しない場合には INVALID と判定する。

・存在時必須[E(存在する場合は必須)]の場合に存在する必要があります該当するフィールドが署名データに存在する場合には、この検証項目は必ず実行しなければならない。該当するフィールドが存在しない場合には、この検証項目をスキップしてよい。

・オプション [O(Optional)]

 この検証項目を実行するか否かはアプリケーションの要件に依存する。なお、後述の署名データの構成要素におけるM(Mandatory)/O(Optional)は、署名生成時の選択基準である(PAdES の場合は、禁止[P(Prohibited)]もある)。

 また、本書の規定を基にして、さらに用途を限定したプロファイルを策定する場合、[Optional]の検証項目を[Mandatory if Exists] 又は[Mandatory]に、[Mandatory if Exists]の検証項目を[Mandatory]に再定義することは可能とする。しかし、[Mandatory]もしくは[Mandatory if Exists]の項目はセキュリティを担保するために必要な項目であり、これらを検証しない実装は供給者の適合宣言書に記して、その制約を明確にする必要がある。

5.2 検証プロセス

5.2.1 検証プロセスの考え方

 検証は、前述のとおり、署名の検証(非改ざん性の確認)、証明書の検証(本人性の確認)、及びそれらが署名生成されてからの使用期間中、有効であったことの確認をすることである。署名の延長を考慮すると、AdESの各フォーマットに対応する必要がある。フォーマットの詳細と準拠する規約を5.3 に示す。署名を延長した場合は、検証の基準となる時刻が重要であり、各フォーマットにおける検証基準時刻の考え方を5.4に示す。検証にあたっては、署名データの要素として、署名、タイムスタンプ、証明書を検証することになる。署名について5.5 に、タイムスタンプについて5.6に、証明書について5.7に示す。

図 5.2.1-1 署名検証プロセス

 なお、実際の利用用途に応じて、署名の使い方や扱いに制約を加えることがあり、検証もその制約に対応して行う必要がある。その場合、署名検証アプリケーションには、検証対象となる署名データ(署名対象のコンテンツを含む)だけでなく、外部からの情報を参照する必要がある場合がある。また、署名利用分野の必要に応じて検証結果を規約で定める規定値と異なる値としたい場合、差分を制約条件として与えることが考えられる。これらの情報を総称して検証制約と呼ぶ。検証制約の与え方としては次の方法が考えられる。

– 署名ポリシー([i.2][i.3][i.4]準拠)

– 設定ファイル(独自形式)

– 実装ロジックへの埋め込み

次項以降に検証制約とその関連情報を示す。

5.2.2 トラストアンカー署名

 データに検証情報としてルート証明書が含まれる場合がある。ところが、署名データに含まれていることを根拠にルート証明書を署名(タイムスタンプ、失効情報を含む)検証時に信頼できると、あるいは過去の署名生成時に信頼していたと判断することはできない。従って、信頼点については現在のもの/過去のものを問わず、検証処理に外部から与える必要がある。なお、欧州では認証局や各種サービスの情報を公的に一覧として整備し、確認できるようにした Trusted List がある。

5.2.3 証明書

 署名データにトラストアンカーにいたる認証パス上の証明書のセットが含まれる場合とそうでない場合がある。含まれない場合、署名検証アプリケーションに外部から与える必要がある。認証パスが複数存在する場合、通るべきパスに制限を加える必要がある場合がある。このような場合、検証処理に外部から制約条件を与える必要がある。また、証明書内の要素に対して既定値ではオプショナルなものを検証する必要がある場合や、その要素の値がある条件を満たす必要がある場合がある。このような場合も、それらの条件を検証処理に外部から制約として与える必要がある。

5.2.4 失効情報

 有効期限が切れていない証明書の失効状態を確認するために、失効情報を署名検証アプリケーションに外部から与える必要がある。署名データ(タイムスタンプ含む)に検証情報として失効情報が含まれる場合があり、それが対象となる署名データ(タイムスタンプ含む)の失効情報として適切なとき(検証基準時刻の観点から適切なタイミングに発行されているとき)にはそれを利用することができる。適切な(すなわち、検証に利用が許容される)タイミングとしては、署名やタイムスタンプ生成後、猶予期間を経ていること、次のタイムスタンプ付与又は検証の時点で、失効情報の発行周期以内で最も新しい(鮮度が高い)ものであることが求められる(詳細は 5.4 を参照)。なお、実際には、ルートCA や中間CAの失効情報、OCSPのタイミングなど、状況に応じて考慮が必要となる。

5.2.5 暗号アルゴリズムの脆弱性に関する情報

 署名データ(証明書、失効情報、タイムスタンプ等を含む)の生成には各種暗号アルゴリズムが用いられ、その種別はOID等で署名データに含まれる。ところが、各暗号アルゴリズムが利用された時点で脆弱でなかったことを示す根拠は署名データには含まれない。従って、各暗号アルゴリズムが利用された時点で脆弱でなかったことを確認するためには外部の情報を参照する必要がある。実際には、暗号アルゴリズムの利用箇所は多岐にわたるとともに、その安全性の基準等が明確でないため、何らかの制約を設けない限り確認は困難となる。その課題と解決策案は「付属書 C」に述べる。

5.2.6 タイムスタンプ

 適用領域や法制度の要請等により、信頼すべきタイムスタンプを選別する必要がある場合がある。信頼すべきタイムスタンプであるか否かを判断するために、タイムスタンプトークンに含まれるタイムスタンプポリシー、発行者、信頼点、精度等の要素に関する制約を外部から与える必要がある場合がある。

5.2.7 検証基準時刻(validation reference time)

 証明書の有効性や暗号アルゴリズムの非脆弱性を判断する際に基準とする時刻(検証基準時刻と呼ぶ)は検証対象により適切に選ぶ必要がある。対象となる証明書についての検証基準時刻は、その証明書をタイムスタンプ対象(MessageImprint)の計算対象に含む有効なタイムスタンプトークンのうち、最も古いものの示す時刻であり、該当するタイムスタンプがない場合、検証処理を実行する時刻となり、検証処理に外部から与える必要がある。また、暗号アルゴリズムについての検証基準時刻は、対象となる暗号アルゴリズムにより計算された結果を MessageImprint の計算対象に含む有効なタイムスタンプトークンのうち、最も古いものの示す時刻であり、該当するタイムスタンプがない場合、検証処理を実行する時刻となり、検証処理に外部から与える必要がある。検証基準時刻における検証の考え方を整理すると、以下となる。

• 署名、コンテントタイムスタンプ

・ 署名タイムスタンプがなければ現在時刻で検証

・ 署名タイムスタンプがあればその時刻で検証

• 署名タイムスタンプ

・ アーカイブタイムスタンプがなければ現在時刻で検証

・ アーカイブタイムスタンプがあれば最も古いアーカイブタイムスタンプの時刻で検証• アーカイブタイムスタンプ群・ 自分より新しいアーカイブタイムスタンプがなければ、現在時刻でそのアーカイブタイムスタンプを検証

・自分より新しいアーカイブタイムスタンプがあれば、その直後のアーカイブタイムスタンプの時刻で検証

5.2.8 署名要素に対する制約

 適用領域や法制度等の要請により、署名データを構成する各種要素について、規約において検証必須として規定されている要素の検証を不要としたり、逆に検証オプションとして規定されている要素の検証を必須としたりする場合がある。このようなときに外部より検証制約としてそれらの条件を指定することができる。ただし、本書で必須と規定している要素の検証を不要とすることは、安全性の観点から望ましくない。

5.3 検証データの全体構造

 この節では署名データの各形式における論理的な構成と各要素の検証方法が記述された節への参照関係について述べる。

5.3.1署名者による署名(AdES-BES)

 署名者による署名(AdES-BES)は署名者による署名のみが付与された基本的な形式である。AdES-BES の論理的な構造と、検証要件の各節との関係を図 5.3.1-1 に示す。AdES-BES の仕様が記述された各規格の一覧を表 5.3.1-1 に示す。

5.3.2 署名タイムスタンプ付き署名(AdES-T)

 署名タイムスタンプ付き署名(AdES-T)は署名者による署名(AdES-BES) とともに署名タイムスタンプを付与した形式である。AdES-T の論理的な構造と、検証要件の各節との関係を図5.3.2-1に示す。AdES-T の仕様が記述された各規格の一覧を表5.3.2-1に示す。

5.3.3 検証情報付き署名(AdES-X-Long)

 検証情報付き署名(AdES-X-Long)は、署名タイムスタンプ付き署名(AdES-T)に検証情報を格納した形式である。検証情報(証明書チェーン、OCSP レスポンス及びCRL 等)を格納することにより、認証局が存在しなくなったとしても検証情報付き署名単独で署名や署名タイムスタンプの検証を行うことができる。AdES-X-Long 論理的な構造と、検証要件の各節との関係を図5.3.3-1 に示す。AdES-X-Longの仕様が記述された各規格の一覧を表5.3.3-1に示す。

5.3.4 アーカイブ付き署名(AdES-A)

 アーカイブ付き署名(AdES-A)は検証情報付き署名(AdES-X-Long)にアーカイブ用のタイムスタンプ(アーカイブタイムスタンプ、LongTermValidation タイムスタンプ、ドキュメントタイムスタンプ)を格納した形式である。AdES-A の論理的な構造と、検証要件の各節との関係を図5.3.4-1 に示す。AdES-A の仕様が記述された各規格の一覧を表5.3.4-1 に示す。

5.4 検証基準時刻と検証の観点

 署名データの有効性を判断する場合、署名やタイムスタンプ、証明書などの有効性を確認するときの基準となる時刻(検証基準時刻)が重要である。特に、長期保存の場合には複数のタイムスタンプが用いられていることで時刻の関係が複雑となり、不適切な検証基準時刻での検証を行った場合には、不正に生成された署名データを受け入れてしまう危険性もある。この節では、検証対象と検証基準時刻の関係を示す。

5.4.1 AdES-BES 検証における検証基準時刻と検証の観点

 AdES-BES の生成プロセスと検証プロセスの関係を図5.4.1-1図5.4.1-1 に示す。図 5.4.1-1の時間軸に沿って生成プロセスと生成されるデータ、検証プロセスを示している。AdES-BESでは署名生成時刻が保証されないため、検証者が検証を行う時刻に基づき有効性を判断する。AdES-BES 検証における検証基準時刻の考え方と有効性を判断すべき項目を表5.4.1-1に示す。

5.4.2 AdES-T 検証における検証基準時刻と検証の観点

 AdES-T の生成プロセスと検証プロセスの関係を図 5.4.2-1 に示す。図 5.4.2-1 の時間軸に沿って生成プロセスと生成されるデータ、検証プロセスを示している。AdES-T 検証における検証基準時刻の考え方と有効性を判断すべき項目を表 5.4.2-1 に示す。

5.4.3 AdES-X-Long 検証における検証基準時刻と検証の観点

 AdES-X-Long の生成プロセスと検証プロセスの関係を図 5.4.2-1 に示す。図 5.4.2-1 の時間軸に沿って生成プロセスと生成されるデータ、検証プロセスを示している。AdES-X-Long 検証における検証基準時刻の考え方と有効性を判断すべき項目を表 5.4.2-1 に示す。AdES-X-Long は署名データ内に格納された証明書や失効情報を用いて検証を行うことができる。AdES-X-Long は署名タイムスタンプ付き署名(AdES-T)の検証基準時刻と同様に考える。なお、生成から時間が経過し、格納された検証情報の改ざんの危険性がある場合にはこれをアーカイブ付き署名等に利用することはできない。

5.4.4 AdES-A検証における検証基準時刻と検証の観点

5.5 署名の検証要件

 もしES がアーカイブ情報を有している場合には、検証基準時刻として最も古いタイムスタンプ時刻を利用する。それ以外の場合には、検証基準時刻として有効な検証時刻又は現在時刻を利用する。詳しくは 5.4 を参照。

5.5.1 アルゴリズムの有効性の確認

 検証制約により、検証基準時刻において利用している暗号アルゴリズムの脆弱性が見つかっておらず有効であることを確認する。

5.5.2 CAdES の検証要件

CAdES 署名は、検証基準時刻において次の検証要件に従い検証する。

5.5.3 XAdES の検証要件

XAdES 署名は、検証基準時刻において次の検証要件に従い検証する。

【コラム5】■XAdES バージョン定義と規格

 XAdESのバージョンは XML 名前空間(namespace)で指定され、その定義は ETSI TS 101903 となる。2002 年 2 月に ETSI TS 101 903 V1.1.1が公開された後で、V1.2.2、V1.3.2、V1.4.1 と合計 4 つのバージョンがある。このうちV1.1.1とV1.2.2は、V1.3.2 以降との互換性が無い為に利用してはいけない。V1.4.1は V1.3.2 がベースとなり、追加要素を加えたものである。その為に V1.4.1を利用する場合に正確にはV1.4.1+V1.3.2の要素が必要となる。ETSI TS101903 以外の規格ではどのXAdES バージョンを利用しているかをよく理解して利用する必要がある。特にW3C NoteはV1.1.1のままであり使ってはいけない。ETSI EN319 132-1 V1.1.0 (2016-04) がETSI 最新の仕様ではあるが、XAdES バージョンとしてはV1.4.1である。

【コラム6】■XAdESのSigningCertificate要素とSigningCertificateV2 要素

 XAdESのSigningCertificateV2 要素は ETSI EN 319 132-1 V1.1.0 (2016-04) から追加された新しい要素であるが名前空間は V1.3.2 となっている。これは SigningCertificateV2要素が、ETSI TS 101 903 V1.3.2 (2006-03) で定義されていた SigningCertificate 要素をそのまま置き換える目的の為に追加された要素であるからである。従来の IssuerSerial 要素下の X509IssuerName 要素では、署名証明書(X.509バイナリ)のIssuer 部からテキスト形式(RFC 2253 準拠)に変換した識別名を利用していた。しかしながら色々な事情がありこの識別名が一意にならない問題があった。この為にSigningCertificate/IssuerSerial/X509IssuerName を使った検証を行わない検証器がほとんどであった。SigningCertificateV2 要素では新たに IssuerSerialV2 要素として、Issuer と Serial を、署名証明書(X.509 バイナリ)からバイナリ(ASN.1/DER)のまま抜き出して結合する方式となった。これにより SigningCertificateV2 要素を使うことで Issuer(発行者)名が一意となるので間違いなく検証が出来るようになった。以上から過去互換性の為に SigningCertificate 要素を使い続けることに問題は無いが、新しく実装する場合には SigningCertificateV2 要素が推奨される。

【コラム7】■PDF バージョンと電子署名

 PDFのバージョンは現在1.0~2.0までが存在する。1.0~1.7までは Adobe 社が策定して仕様公開していたがその後 ISO に移管され、ISO 32000-1 で PDF1.7が正式仕様となり、ISO32000-2でPDF2.0が正式仕様となった。なお PDF 電子署名の仕様は PDF1.3 で追加された。PDF ファイルではファイルの先頭に PDF バージョンが埋め込まれているが、残念ながらファイル本体の仕様と一致しない場合が多い。PAdES 仕様は PDF2.0(ISO 32000-2)で追加されたが、ファイルの先頭で宣言されるバージョンは PDF1.7 以前の場合もあるが、これは検証エラーの対象とはならない。PAdES 仕様が ETSI で定義された時には、PDF1.7(ISO 32000-1)をベースとして PAdES 用の新しい仕様を追加したものとなっている。ETSI TS 102 778-1 V1.1.1 と ETSI EN 319142-1 V1.1.1 はいずれもPDF1.7プラス PAdES 仕様となっている。その後 PDF2.0(ISO 32000-2)が発行された時に PAdES 仕様も PDF2.0 として吸収された。

5.6 タイムスタンプの検証要件

5.6.1 タイムスタンプ

 タイムスタンプは、次の検証要件に従い検証する。ここに示す検証要件は、RFC 5280 X.509証明書インターネットプロファイル、RFC 5652 CMS、RFC 3161 タイムスタンププロトコルに準じた検証内容であり、本書に固有の検証要件はない。

5.6.2 署名タイムスタンプ

(1) 署名タイムスタンプの検証基準時刻

 もし電子署名がアーカイブ情報を有している場合には、検証基準時刻として最も古いタイムスタンプ時刻を利用する。それ以外の場合には、検証基準時刻として有効な検証時刻又は現在時刻を利用する。詳しくは 5.4 を参照。

  • 署名タイムスタンプの検証要件

署名タイムスタンプを、検証基準時刻において次の検証要件に従い検証する。

5.6.4 ドキュメントタイムスタンプ

 ドキュメントタイムスタンプは PDF のようなドキュメントに対してタイムスタンプのみを署名とは別に付与する方式のタイムスタンプである。執筆時点においてはPAdESの DocTimeStamp(PAdES-DT)仕様のみとなる。PAdES の DocTimeStamp は、PAdES-T や PAdES-A では署名タイムスタンプ的にもアーカイブタイムスタンプ的としても利用が可能である。ここでは署名抜きでドキュメントタイムスタンプを利用する PAdES-DT 仕様(ISO 14533-3 Annex B.2)について解説する。PAdES-DT 仕様も長期署名化(LTA 化)による有効期限の延長が可能となっている。CAdES 署名の代わりに DocTimeStamp のみを指定した後で、DSS/VRI 辞書とアーカイブタイムスタンプとしての DocTimeStamp を追加することで長期署名化が可能となる。DocTimeStamp 署名辞書とDSS/VRI 辞書に関しては「5.5.4 PAdES の検証要件」を参照。

5.7 証明書の検証要件

 署名やタイムスタンプの検証では署名値の検証で利用する証明書の検証を行う必要がある。証明書を検証するには、トラストアンカーとなるルート証明書までの証明書パスを辿り、有効期限、失効確認、証明書や CRL の拡張領域などを確認する必要がある。また、それらを確認するときに利用する検証基準時刻は署名フォーマット形式(AdES-BES、AdES-T、AdES-A)ごとに異なり、署名者証明書、TSA 証明書それぞれにおける検証要件も異なる。なお、署名者証明書及び TSA 証明書の検証で利用する情報は次のとおりである。

・ 署名者証明書もしくはTSA証明書

・トラストアンカーを含む証明書及び失効情報のセット

・制約条件

以下に、証明書検証の検証要件及び検証基準時刻について署名フォーマット形式ごとに解説する。本節で用いる記号の意味は以下のとおりである。

Tv:検証処理を実行した時刻

Ts:署名タイムスタンプの時刻

Ta(k):第 k 世代のアーカイブ(ドキュメント)タイムスタンプの時刻

5.7.1 AdES-BES における証明書

外国籍の人がいる場合の商業・法人登記など

令和3年度 渉外商業登記入門1(株式会社)

講師:渉外司法書士協会会員 豊田則幸  平岩綾子

Ⅰ 定義等  渉外商業登記とは?

外国人・外国法人が関与する、日本における外国会社に関する登記及び内国会社に関する登記。

 cf. 外国会社

  外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう(会社法2条2号)。

通常の商業・法人登記との違い

 外国人・外国法人が手続の主体となるため、登記手続や定款認証の手続きで必要となる書類が異なります。外国会社に関する登記については特有の登記事項があります。

 渉外不動産登記との違い

  例えば、渉外相続登記においては、被相続人の国籍により、どの国の法律に準拠するか、という国際私法上の問題があります。

 cf. 相続における準拠法

  相続は、被相続人の本国法による(法の適用に関する通則法 36 条。)。 渉外商業登記においては、日本の会社法と商業登記法が適用されるため、準拠法をどちらにするかとの国際私法上の問題はありません。

法の適用に関する通則法(相続)第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000078_20150801_000000000000000

Ⅱ 渉外商業登記の実務上の注意点、 外国企業が日本でビジネスを行う場合、どのような形態があるか

  1.駐在員事務所の設置 <事例1>日本において継続的な取引は行わず、情報収集、広告・宣伝、物品の調達、市場調査などの準備活動の拠点として設置する進出形態

 2.日本法人(子会社)の設立 <事例2>外国会社の「日本支社」として、日本の会社法に基づいて設立された内国会社(株式会社 or 合同会社)を置き、継続して取引を行う場合

  基本的には通常の会社設立手続と同様ですが、渉外商業登記の手続面において、出資者や役員が外国人や外国会社である点に注意が必要。

 3.日本における営業所(日本支店)の設置

 外国会社として営業活動の拠点たる「日本支店」を置き、継続して取引を行う場合

  外国会社が日本において継続的に取引しようとする場合には、日本における代表者を定め(会社法 817 条 1 項)、以下の区分により外国会社の登記をする必要(会社法 933 条 1 項)。 継続して取引を行うため、日本における代表者に加えて「営業所」を置く場合 → 営業所の所在地で登記。置かない場合 → 日本における代表者の住所地で登記

会社法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

(外国会社の日本における代表者)

第八百十七条 外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。

(外国会社の登記)

第九百三十三条 外国会社が第八百十七条第一項の規定により初めて日本における代表者を定めたときは、三週間以内に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める地において、外国会社の登記をしなければならない。

一 日本に営業所を設けていない場合 日本における代表者(日本に住所を有するものに限る。以下この節において同じ。)の住所地

二 日本に営業所を設けた場合 当該営業所の所在地

Ⅲ 駐在員事務所の設置

Q外国企業が駐在員事務所を設置する場合、何か登記手続きが必要になるか?

A 登記が必要かどうかは、その事務所で収益を伴う直接的な営業活動(取引先企業との契約締結、商品・サービスの販売等)をするかどうか。外国企業が考える「駐在員事務所」「支店」「支社」「ブランチ」等の名称は関係ない。外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができないため(会社法 818 条)、営業活動を行うのであれば、外国会社の登記をする必要がある旨を説明する必要。

  駐在員事務所の設置は自由に行うことができ、登記申請は不要。 駐在員事務所は会社法の概念ではなく、その名称を問わず、実質的に営業活動を行わない(行えない)。駐在員事務所として行うことができる活動は、業務に関する情報収集や本社への情報提供、広告・宣伝、市場調査、基礎研究等、日本国内での収益を伴わない活動に限定。

  収益を伴わない=売上を日本で計上しないため、原則として法人税や消費税の課税対象とはなりませんが、駐在員事務所における従業員への給与に対する源泉徴収義務や社会保険などの負担義務は負う。

  駐在員事務所である限り登記は不要ですが、事業内容によっては例外的に、各事業法において、駐在員事務所の設置につき届出等が必要な場合もある。例えば、外国銀行は日本において駐在員事務所その他の施設を設置しようとする場合には、あらかじめ当該業務の内容を内閣総理大臣に届け出る(銀行法 52 条)。

銀行法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=356AC0000000059

(外国銀行の駐在員事務所の設置の届出等)第五十二条 外国銀行(外国銀行が外国銀行支店を設けている場合は、当該外国銀行支店。以下この条において同じ。)は、次に掲げる業務を行うため、日本において駐在員事務所その他の施設を設置しようとする場合(他の目的により設置している事務所その他の施設において当該業務を行おうとする場合を含む。)には、あらかじめ、当該業務の内容、当該業務を行う施設の所在地その他内閣府令で定める事項を内閣総理大臣に届け出なければならない。

一 銀行の業務に関する情報の収集又は提供

二 その他銀行の業務に関連を有する業務

2 内閣総理大臣は、公益上必要があると認めるときは、外国銀行に対し、前項の施設において行う同項各号に掲げる業務に関し報告又は資料の提出を求めることができる。

3 外国銀行は、その設置した第一項の施設を廃止したとき、当該施設において行う同項各号に掲げる業務を廃止したときその他同項の規定により届け出た事項を変更したときは、遅滞なくその旨を内閣総理大臣に届け出なければならない。

注意点

 日本での活動内容によっては、駐在員事務所ではないと税務署に判断され、課税されるリスクもある。

株式会社の設立

  外国企業が、日本市場に本格的に参入するため、日本法人として株式会社を設立することを決定、代表取締役は日本に住所を有しない外国籍の方が就任することになりそう。この場合の注意点。主な手続内容は通常の株式会社の設立手続の場合と同様に、会社法 25 条以下の適用の問題。外国法人が出資する点、日本に居住していない外国人が役員に就任する点など、通常とは異なる点により注意。

■登記申請までの手続の流れ

1設立会社に関する情報の聴取

2発起人・役員等に関する資料の確認

3定款案の作成

4外為法上の手続(事前届出)手続の要否を確認、提出[事前届出手続が必要な場合]

5署名・押印や添付が必要となる書類の作成 公証手続が必要となる書類(署名証明書・宣誓供述書)の作成

6出資金の払込み

7定款の認証

8実質的支配者に関する申告 「定款認証及び設立登記の同時申請」も可(令和3年2月15日施行)

9登記申請

10 外為法上の手続(事後報告)所定の報告書を提出

会社法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

第二十五条 株式会社は、次に掲げるいずれかの方法により設立することができる。

一 次節から第八節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいう。以下同じ。)の全部を引き受ける方法

二 次節、第三節、第三十九条及び第六節から第九節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法

2 各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を一株以上引き受けなければならない。

cf.「定款認証及び設立登記の同時申請」について

(令和3年1月29日法務省⺠商第10号⺠事局⻑通達)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

【手順7から9を一度に行う】

同時申請の具体的手順

1捺印済の書面(実質的支配者の申告書、定款認証委任状等)や印鑑証明書を 公証役場に郵送(または電子署名済のpdfを送信)。

2公証人とのオンライン面談を設立予定日にて予約し、認証手数料を振込む。

3設立当日、法務局に設立登記を申請(同時に公証役場に定款認証申請)後、公証人とのオンライン面談を行い、定款認証。

4認証済定款は公証役場から管轄法務局に直接送信。

【24時間以内処理の要件】

1役員が5名以内。2全ての添付書面(情報)がpdfで作成され、電子署名されている。3登録免許税は電子納付。4補正がない。

【注意点】・設立登記の申請日中に定款認証がされなかった場合、設立登記申請は却下(但し、定款認証の嘱託自体は有効)。

1設立会社に関する情報の確認

 外国人・外国法人が発起人となる場合でも、通常の会社設立手続の場合と同様に、定款作成のための所定のチェックシート等により、設立会社に関する情報を確認。

cf. 代表取締役の居住要件について

 代表取締役のうち、少なくとも1名は日本に住所を有しなければならないとの居住者要件が実務上設けられておりましたが、平成 27 年 3 月 16 日付でこの制限が撤廃(平成 27 年 3 月 16 日法務省⺠商第 29 号法務省⺠事局商事課⻑通知。)。現在は、代表取締役の全員を日本に住所を有しない外国人とする株式会社の設立も可能。

法務省HP【代表取締役が日本に住所を有しない場合の申請に関する通知】平成27年3月16日民商第29号通知

 内国株式会社の代表取締役の全員が日本に住所を有しない場合の登記の申請の取扱いについて

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html#03

cf. 外国会社の日本支店の日本における代表者の居住要件については、従来どおり1名以上は日本に住所を有する者でなければなりません。

(会社法 817 条 1 項)注意点

  代表取締役の全員を日本に住所を有しない外国人とする設立登記は受理されますが、会社設立後に会社名義の銀行口座を開設することが困難なケースが多く、実際の手続きにあたっては慎重な検討が必要です。

会社法(外国会社の日本における代表者)

第八百十七条 外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

2発起人・役員等に関する資料の確認

 ・外国人個人に関する資料‐パスポート、公的身分証明書等。

 ・外国法人に関する資料 ‐登記事項証明書(またはこれに相当するもの。)。

  ・定款(またはこれに相当するもの。)。

3定款案の作成

 通常の会社設立の手続と同様に日本語で作成。 *依頼者の要望に合わせて、英語併記で作成または英文で別途作成。

4外為法上の手続 (事前届出・事後報告)

 外国為替及び外国貿易法(「外為法」)の規定により、一定の要件に該当する者(「外国投資家」)が日本国内に「支社を設立して株式または持分を取得すること」や「支店、工場その他の事業所を設置すること」などの一定の行為(「対内直接投資等」)を行う場合は日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して、以下のいずれかの手続。

① 当該行為を行なう前に届け出る「事前届出」

② 当該行為を実際に行なった後に報告する「事後報告」(外為法 27 条 1 項、55 条の 5‐1 項)

外国為替及び外国貿易法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000228

(定義)

第二十六条 外国投資家とは、次に掲げるもので、次項各号に掲げる対内直接投資等又は第三項に規定する特定取得を行うものをいう。

一 非居住者である個人

二 外国法令に基づいて設立された法人その他の団体又は外国に主たる事務所を有する法人その他の団体(第四号に規定する特定組合等を除く。)

三 会社で、前二号に掲げるものにより直接に保有されるその議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き、会社法(平成十七年法律第八十六号)第八百七十九条第三項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。以下この号及び次項第四号において同じ。)の数と他の会社を通じて間接に保有されるものとして政令で定めるその議決権の数とを合計した議決権の数の当該会社の総株主又は総社員の議決権の数(同項において「総議決権」という。)に占める割合が百分の五十以上に相当するもの

四 組合等(民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約で会社に対する投資事業を営むことを約するものによつて成立する組合(一人又は数人の組合員にその業務の執行を委任しているものに限る。以下この号及び次項第七号において「任意組合」という。)若しくは投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第二条第二項に規定する投資事業有限責任組合(以下この号及び次項第七号において「投資事業有限責任組合」という。)又は外国の法令に基づいて設立された団体であつてこれらの組合に類似するもの(以下この号及び次条第十三項において「特定組合類似団体」という。)をいう。以下この号において同じ。)であつて、第一号に掲げるものその他政令で定めるものによる出資の金額の合計の当該組合等の総組合員(特定組合類似団体にあつては全ての構成員)による出資の金額の総額に占める割合が百分の五十以上に相当するもの又は同号に掲げるものその他政令で定めるものが当該組合等の業務執行組合員(任意組合の業務の執行の委任を受けた組合員若しくは投資事業有限責任組合の無限責任組合員又は特定組合類似団体のこれらに類似するものをいう。第七十条第一項及び第七十一条第六号において同じ。)の過半数を占めるもの(以下「特定組合等」という。)

五 前三号に掲げるもののほか、法人その他の団体で、第一号に掲げる者がその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人その他の団体に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この号において同じ。)又は役員で代表する権限を有するもののいずれかの過半数を占めるもの

2 対内直接投資等とは、次のいずれかに該当する行為をいう。

一 会社の株式又は持分の取得(前項各号に掲げるものからの譲受けによるもの及び金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又はこれに準ずるものとして政令で定める株式を発行している会社(以下この条において「上場会社等」という。)の株式の取得を除く。)

二 非居住者となる以前から引き続き所有する上場会社等以外の会社の株式又は持分の譲渡(非居住者である個人から前項各号に掲げるものに対して行われる譲渡に限る。)

三 上場会社等の株式の取得(当該取得をしたもの(以下この号及び第四項において「株式取得者」という。)が、当該取得の後において所有することとなる当該上場会社等の株式の数、当該株式取得者の密接関係者が所有する当該上場会社等の株式の数並びに当該株式取得者及び当該株式取得者の密接関係者が投資一任契約その他の契約に基づき他のものから委任を受けて株式の運用(その指図をすることを含み、政令で定める要件を満たすものに限る。)をする場合におけるその対象となる当該上場会社等の株式の数を合計した株式の数(これらの株式に重複するものがある場合には、当該重複する数を控除した純計によるもの)の当該上場会社等の発行済株式の総数に占める割合が百分の一を下らない率で政令で定める率以上となる場合に行う取得に限る。)

四 上場会社等の議決権の取得(当該取得をしたもの(以下この号及び第四項において「議決権取得者」という。)が、当該取得の後において保有することとなる当該上場会社等の保有等議決権(自己又は他人の名義をもつて保有する議決権及び投資一任契約その他の契約に基づき行使することができる議決権として政令で定めるものをいう。以下この号及び次号において同じ。)の数及び当該議決権取得者の密接関係者が保有する当該上場会社等の保有等議決権の数を合計した純議決権数(議決権のうち重複するものがある場合には、当該重複する数を控除した純計によるもの。同号において同じ。)の当該上場会社等の総議決権に占める割合が百分の一を下らない率で政令で定める率以上となる場合に行う取得に限り、前号に掲げる行為を伴うものを除く。)

五 会社の事業目的の実質的な変更その他会社の経営に重要な影響を与える事項として政令で定めるものに関し行う同意(上場会社等にあつては、当該同意をするもの(以下この号及び第四項において「同意者」という。)が保有する当該上場会社等の保有等議決権の数及び当該同意者の密接関係者が保有する当該上場会社等の保有等議決権の数を合計した純議決権数の当該上場会社等の総議決権に占める割合が百分の一を下らない率で政令で定める率以上となる場合に行う同意に限る。)

六 本邦における支店等の設置又は本邦にある支店等の種類若しくは事業目的の実質的な変更(前項第一号又は第二号に掲げるものが行う政令で定める設置又は変更に限る。)

七 本邦に主たる事務所を有する法人に対する政令で定める金額を超える金銭の貸付け(銀行業を営む者その他政令で定める金融機関がその業務として行う貸付け及び前項第三号、第四号(任意組合又は投資事業有限責任組合に該当するものに限る。)又は第五号に掲げるものが行う本邦通貨による貸付けを除く。)でその期間が一年を超えるもの

八 居住者(法人に限る。)からの事業の譲受け、吸収分割及び合併による事業の承継(第一号から第三号までに掲げる行為を伴うものを除く。)

九 前各号に掲げる行為に準ずるものとして政令で定めるもの

3 特定取得とは、上場会社等以外の会社の株式又は持分の第一項各号に掲げるものからの譲受けによる取得をいう。

4 第二項第三号から第五号までに規定する密接関係者とは、第一項各号に掲げるものであつて、株式取得者、議決権取得者又は同意者と株式の所有関係等に基づく永続的な経済関係、親族関係その他これらに準ずる特別の関係にあるものとして政令で定めるものをいう。

(対内直接投資等の届出及び変更勧告等)

第二十七条 外国投資家(前条第一項に規定する外国投資家をいう。以下この条、第二十八条、第二十九条第一項から第四項まで、第五十五条の五及び第九章において同じ。)は、対内直接投資等(前条第二項に規定する対内直接投資等をいい、相続、遺贈、法人の合併その他の事情を勘案して政令で定めるものを除く。以下この条、第二十九条第一項から第四項まで、第五十五条の五、第六十九条の二第二項及び第七十条第一項において同じ。)のうち第三項の規定による審査が必要となる対内直接投資等に該当するおそれがあるものとして政令で定めるものを行おうとするときは、政令で定めるところにより、あらかじめ、当該対内直接投資等について、事業目的、金額、実行の時期その他の政令で定める事項を財務大臣及び事業所管大臣に届け出なければならない。

外国為替及び外国貿易法(対内直接投資等及び特定取得の報告)

第五十五条の五 外国投資家は、対内直接投資等又は特定取得(第二十八条第一項の規定により届け出なければならないとされるものに限る。以下この条において同じ。)を行つたときは、政令で定めるところにより、当該対内直接投資等又は特定取得の内容、実行の時期その他の政令で定める事項を財務大臣及び事業所管大臣に報告しなければならない。ただし、第二十七条第一項又は第二十八条第一項の規定により届け出た対内直接投資等又は特定取得については、この限りでない。

手続を行う主体

 対内直接投資等の事前届出・事後報告を行う主体は「外国投資家」。(直投令 3 条1項4号、直投令 6 条の 3‐2 項)

対内直接投資等に関する政令(昭和五十五年政令第二百六十一号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=355CO0000000261

財務省令和2年4月24日「対内直接投資等に関する政令等の一部を改正する政令」について

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/press_release/kanrenshiryou01_20200424.pdf

(対内直接投資等の届出及び変更勧告の送達等)

第三条 法第二十七条第一項に規定する相続、遺贈、法人の合併その他の事情を勘案して政令で定めるものは、次に掲げる行為に該当する対内直接投資等とする。

一 相続又は遺贈による会社の株式若しくは持分又は当該株式若しくは持分に係る議決権の取得

二 非上場会社(国の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい対内直接投資等に係る業種として主務省令で定める業種に属する事業を営んでいるものを除く。次号において「特定非上場会社」という。)の株式又は持分を所有する法人の合併により合併後存続する法人又は新たに設立される法人が当該株式若しくは持分又は当該株式若しくは持分に係る議決権を取得する場合における当該取得

三 特定非上場会社の株式又は持分を所有する法人の分割により分割後新たに設立される法人又は事業を承継する法人が当該株式若しくは持分又は当該株式若しくは持分に係る議決権を取得する場合における当該取得

四 非上場会社の株式若しくは持分又は議決権の取得(当該取得の後における当該取得をしたもの(以下この号において「株式等取得者」という。)の所有等株式等(直接に所有する非上場会社の株式の数若しくは非上場会社に出資する金額又は直接に保有する非上場会社の議決権の数と議決権代理行使受任(前条第十六項第四号イに該当するものに限る。)に係る議決権の数を合計した純議決権数をいう。以下この号において同じ。)と当該株式等取得者を前条第十九項第一号に規定する株式取得者等とした場合に同項各号に掲げるものに該当することとなる非居住者である個人又は法人等の所有等株式等とを合計した株式の数若しくは出資の金額又は純議決権数の当該非上場会社の発行済株式の総数若しくは出資の金額の総額又は総議決権に占める割合が百分の十以上となる場合の当該取得を除く。)であつて、次項各号に掲げる対内直接投資等に該当する非上場会社の株式若しくは持分又は議決権の取得以外のもの

(対内直接投資等及び特定取得の報告)

第六条の三 法第五十五条の五第一項の規定による報告は、主務省令で定める期間内に、主務省令で定める手続により、しなければならない。

2 法第五十五条の五第一項の規定による報告をしなければならない外国投資家が法第二十六条第一項第一号、第二号又は第四号に掲げるものに該当する場合には、当該外国投資家は、居住者である代理人(法第二十七条の二第一項又は法第二十八条の二第一項の規定により法第二十七条第一項又は法第二十八条第一項の規定による届出をせずに対内直接投資等又は特定取得を行つた外国投資家にあつては、第三条の二第三項又は第四条の三第三項の規定により送達される文書を受理する権限を有するものに限る。)により当該報告をしなければならない。

■「対内直接投資等」に該当する行為とは?(外為法 26 条2項ほか)

外為法・対内直接投資審査制度に関する手続き[日本銀行ホームページ]

「外為法Q&A」(対内直接投資・特定取得編)

届出書様式および記入の手引等

報告書様式および記入の手引等

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/index.htm

・国内の上場会社の株式または議決権の取得で、それぞれ出資比率または議決権比率が 1%以上となるもの

・国内の非上場会社の株式または持分を取得すること

・個人が居住者であるときに取得した国内の非上場会社の株式または持分を、非居住者となった後に外国投資家に譲渡すること

・外国投資家が、①国内の会社の事業目的の実質的な変更または、②取締役もしくは監査役の選任に係る議案、③事業の全部の譲渡等の議案について同意すること

・非居住者個人または外国法人である外国投資家が、国内に支店、工場その他の事業所(駐在員事務所を除く)を設置、またはその種類や事業目的を実質的に変更すること 等

■提出先 日本銀行国際局国際収支課外為法手続グループ(50 番窓口)日本銀行支店(営業課または総務課)*「日本銀行外為法手続きオンラインシステム」を利用した提出も可能 (但し、事前に利用申込みが必要。)。

対内直接投資であっても事前届出・事後報告が不要な場合

  相続、遺贈により株式、持分等を取得するとき

 事業目的が事後報告業種に該当する非上場会社の株式又は持分の取得で、出資比率が特別の関係にある者と併せて 10%未満であるとき

 日本支店を設置する場合で、事業目的が事後報告業種に該当するとき等

事前届出

いずれかに該当する場合。

⑴ 外国投資家の国籍が「対内直接投資等に関する命令 別表1」に掲載されている国または地域以外のもの

⑵ 投資先が営む事業に「指定業種」に属する事業が含まれるもの

対内直接投資等に関する命令第 3 条第 3 項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件(告示)の別表に該当しない業種

対内直接投資等に関する命令 別表1

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=355M50007fc2001

指定業種を定める告示(PDF:47KB)(対内直接投資等に関する命令第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件)

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/index.htm

財務省令和2年4月24日「対内直接投資等に関する政令等の一部を改正する政令」について

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/press_release/kanrenshiryou01_20200424.pdf

⑶ イラン関係者により行われる一定の行為に該当するもの

事前届出の書式

提出時期  対内直接投資等に該当する行為を行おうとする日の前6か月以内に、所定の様式により、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して行う。(オンライン提出も可)※対内直接投資等に該当する行為の基準となる日

日本支社設立の場合:会社設立登記の日

日本支店設置の場合:支店の開設の日

▪「国の安全」武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティ関連

▪「公の秩序」電気・ガス、熱供給、通信事業、放送事業、水道、鉄道、旅客運送

▪「公衆の安全」ワクチン製造業、警備業

▪「我が国経済の円滑運営」農林水産、石油、皮革関連、航空運輸、海運

審査期間

 日本銀行が届出書を受理した日から起算して 30 日を経過するまでは、届け出た取引または行為を行うことはできません(「禁止期間」)。ただし、国の安全等を損なう事態を生ずる対内直接投資等に該当しない場合、2週間に短縮されます。(日本銀行のホームページに掲載され、短縮が通知される。)

実行報告

 対内直接投資等に該当する行為後、45 日以内に、所定の様式により、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣に対して報告(「実行報告」)が必要。

事前届出免除制度

  一定の外国投資家が、株式、持分、議決権、議決権行使等権限の取得等のうち、国の安全等に係る対内直接投資等に該当するおそれが大きいもの以外の対内直接投資等を行う場合は、事前届出が不要となり、所定の様式による事後報告の提出で足りる。

■事後報告

事後報告が必要となるのは、次のいずれにも該当する場合。

外国投資家の国籍国が日本または直投命令別表1に掲げる国または地域であるもの

投資先が営む事業に指定業種に属する事業が含まれないもの、または、投資先が営む事業に指定業種に属する事業が含まれる場合であって、外国投資家が事前届出免除制度を利用しているもの

イラン関係者により行われる、一定の行為以外のもの

 報告書の提出時期

 行為を行った日から起算して 45 日以内に、所定の様式により、日本銀行を経由して財務大臣及び事業所管大臣あてに行う必要があります。(オンラインも可)

 署名・押印や添付が必要となる書類の作成、公証手続が必要となる書類(署名証明書・宣誓供述書)の作成。

 通常の会社設立の手続と同様に、押印が必要となる書類を日本語(または、 日英併記)で作成し、添付が必要となる書類についても取得または作成。

【押印や添付が必要となる書類】

 法令上、押印又は印鑑証明書の添付を要する旨の規定がない書面の押印は審査しない(無くても可)。(令和3年1月29日法務省⺠商第10号⺠事局⻑通達)

【商業登記法改正(印鑑提出任意化)及び商業登記規則改正(オンライン申請の利便性向上等)等に関する通達】令和3年1月29日民商第10号通達

 会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

(以下、押印やサインが無くても登記可能となる書面には△。)

①役員の就任承諾書

・取締役会設置会社の場合

 代表取締役:実印+印鑑証明書

 代取以外の役員:押印(△)+身分証(△。但し、証明文言は必要。)

外国人役員の場合

 代表取締役:サイン+署名証明書

 代取以外の役員:サイン(△)+身分証(住所記載要)に原本証明(△) or本人確認証明書(宣誓供述書)

・取締役会非設置会社の場合

 取締役:実印+印鑑証明書

 取締役以外の役員:押印(△)+身分証(△)

外国人役員の場合

取締役:サイン+署名証明書

取締役以外の役員:サイン(△)+身分証に原本証明(△)or本人確認証明書(宣誓供述書)

・定款認証委任状

 個人:実印+印鑑証明書

 法人:会社代表印+印鑑証明書+登記事項証明書

外国人・外国法人が発起人の場合

 個人:サイン+署名証明書

 法人:代表者のサイン+署名証明書+登記事項証明書(宣誓供述書)

印鑑届出書

 個人実印+印鑑証明書

代取が外国人の場合:サイン+署名証明書

印鑑証明書に代わる「署名証明書」

 外国人の署名証明書については、当該外国人が居住する国等に所在する当該外国人の本国官憲が作成したものでも差し支えない。

(平成 28 年 6 月 28 日⺠商第 100 号通達、平成 29 年 2 月 10 日⺠商第 15 号通達)

【外国人の署名証明書に関する通達】平成28年6月28日民商第100号通達(改正)平成29年2月10日民商第15号通達

 登記の申請書に押印すべき者が外国人であり,その者の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付することが できない場合等の取扱いについて

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

平成29年2月10日民商第16号依命通知(やむを得ない事情があるとして,上申書及び日本の公証人等が作成した署名証明書が使用可能な具体例)

 「登記の申請書に押印すべき者が外国人であり,その者の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付することができない場合等の取扱いについて」の一部改正について

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

 <添付可能な署名証明書(B国に居住するA国人の場合)>

本国に所在する本国官憲作成(例:A国にあるA国の行政機関) ○

日本に所在する本国官憲作成(例:日本にあるA国の領事) ○

第三国に所在する本国官憲作成(例:B国にあるA国の領事) ○

本国に所在する公証人作成(例:A国の公証人) ○

*本国官憲の署名証明書を取得できないやむを得ない事情がある場合には、以下の署名証明書も認められる場合がある。(平成 29 年 2 月 10 日⺠商第 16 号依命通知)

第三国に所在する公証人作成(例:B国にあるB国の公証人) ○

日本に所在する公証人作成(例:日本の公証人) ○

やむを得ない事情の例

・日本における本国領事若しくは日本における権限がある本国官憲が署名証明書を発行していない場合。

・日本に当該外国人の本国官憲がない場合(たとえ日本以外の国における本国 官憲において署名証明書を取得することが可能であってもOK。)。

・当該外国人の本国に署名証明書の制度自体がないため、本国官憲において署 名証明書を取得することができない場合。

・当該外国人の本国においては署名証明書の取得が可能であるが、当該外国人 が居住している本国以外の国等に所在する当該外国人の本国官憲では署名証明書を取得することができない場合等。

取締役・監査役の本人確認証明書について

▪日本在住の日本人・外国人例)住⺠票 or 住⺠票記載事項証明書 or ⼾籍附票 or 印鑑証明書。

運転免許証(運転経歴証明書) or 在留カード or 特別永住者証明書or マイナンバーカード のコピー+原本証明(△)。個人番号の「通知カード」は不可。

▪外国在住の日本人(平成 27 年 2 月 20 日⺠商第 18 号)

【代表取締役が日本に住所を有しない場合の申請に関する通知】平成27年3月16日民商第29号通知

 内国株式会社の代表取締役の全員が日本に住所を有しない場合の登記の申請の取扱いについて

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

⑴ 日本大使館で作成した証明書(在留証明)

⑵ 外国官憲の作成に係る取締役等の氏名及び住所が記載された証明書

⑶ 外国官憲の発行に係る身分証明書等のコピー+原本証明(△)

▪外国在住の外国人

⑴ 外国官憲の作成に係る取締役等の氏名及び住所が記載された証明書

 <添付可能な本人確認証明書(B国に居住するA国人の場合)>

本国に所在する本国官憲作成(例:A国にあるA国の行政機関) ○

日本に所在する本国官憲作成(例:日本にあるA国の領事) ○

第三国に所在する本国官憲作成(例:B国にあるA国の領事) ○

本国に所在する公証人作成(例:A国の公証人) ○

居住国に所在する公証人作成(例:B国の公証人) 〇

⑵ 外国官憲の発行に係る身分証明書等(住所の記載があるもの)のコピー+ 取締役本人の原本証明(△)

■外国法人の登記事項証明書に代わる「宣誓供述書」

 日本法人が発起人となる場合、定款認証時に発起人たる法人の登記事項証明書・印鑑証明書の提出が必要となりますが、この扱いは外国法人が発起人となる場合も同様。ただし、外国によっては法人の登記事項証明書・印鑑証明書の制度がないことも多く、添付ができない場合、本店、商号、目的、代表者の資格・氏名、設立準拠法等を記載した書類に準拠法国の本国官憲が認証したもの(「宣誓供述書」)を法人の登記事項証明書の代替として利用。

 実務上では外国会社の登記の添付書類に準じて、「外国法人の設立準拠法国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲」の認証を受けたものが必要。

 <A 国が設立準拠法国である外国法人の場合>

本国の公証人が作成(例:A国の公証人) ○

本国に所在する本国官憲が作成(例:A国にあるA国の行政機関) ○

日本に所在する本国官憲が作成(例:日本にあるA国の領事) ○

第三国に所在する本国官憲が作成(例:第三国にあるA国の領事) ×

6出資金の払込み

発起人が外国人・外国法人の場合、内国銀行の口座を有していないことが多く、設立時取締役の個人口座や、委任を受けた第三者の口座を使用することがある。

■預金通帳の口座名義人について

 発起人、 設立時取締役、第三者(発起人・設立時取締役の全員が日本国内に住所を有していない場合に限る)(平成29年3月 17 日⺠商第 41 号通達)

【出資の払込みを証する書面(預金通帳の口座名義人)に関する通達】平成29年3月17日民商第41号通達

 株式会社の発起設立の登記の申請書に添付すべき会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面の一部として払込取扱機関における口座の預金通帳の写しを添付する場合における当該預金通帳の口座名義人の範囲について

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

 ※発起人名義以外の口座を使用する場合、登記添付書類として払込金の受領に関する発起人の委任状が必要。

■払込取扱機関

内国銀行の日本国内本支店だけでなく、外国銀行の日本国内支店(内閣総理大臣の認可を受けて設置された銀行)、内国銀行の海外支店を含む(平成 28 年 12 月 20 日⺠商第 179 号通達 )。

【払込取扱機関(邦銀の海外支店)に関する通達】平成28年12月20日民商第179号通達

 会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面について

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

 このような支店かどうかは、銀行の登記事項証明書により確認可能。 外国法に基づき設立されたいわゆる現地法人は、内国銀行の海外支店ではなく、「払込取扱機関」に含まれません。

 <「払込取扱機関」の該当の有無>

内国銀行の日本国内本支店(例:東京銀行の大阪支店) ○

内国銀行の海外支店(例:東京銀行のニューヨーク支店) ○

外国銀行の日本国内支店(例:ニューヨーク銀行の東京支店) ○

外国銀行の海外本支店(例:ニューヨーク銀行のボストン支店) ×

法務省 Website「出資の払込みを証する書面について」

資本金の送金の際には以下の内容をアドバイス。

⑴ 外貨でなく円建てで送金すること

⑵ 銀行手数料は送金元がすべて負担すること

 (送金先銀行の手数料のほか、中継銀行の手数料にも注意が必要)

送金の目的が「会社設立のための出資金」の明示

*「払い込みがあったことを証する書面」に押印も契印も不要(令和3年1月29日法務省⺠商第10号⺠事局⻑通達) 。

【商業登記法改正(印鑑提出任意化)及び商業登記規則改正(オンライン申請の利便性向上等)等に関する通達】令和3年1月29日民商第10号通達

 会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00098.html

7 定款の認証

■手続時に必要となる書類

▪発起人が外国人個人の場合  印鑑証明書(署名証明書)

▪発起人が外国法人の場合

 登記事項証明書(登記事項証明書に相当するもの)

 本国官憲の認証を受けた宣誓供述書

 印鑑証明書(法人代表者個人の署名証明書)

8 実質的支配者に関する申告

  公証人法施行規則の改正により、法人成立の時に実質的支配者となるべき者について、その氏名、住居、生年月日等と、その者が暴力団員等に該当するか否かにつき公証人への申告が必要。(公証人法施行規則13条の4)

*公証人法施行規則改正の趣旨

  暴力団による事件や資金源の根絶(マネーロンダリング・テロ資金供与の抑止)を図るため。株式会社等を設立する際、その実質的支配者が反社会的勢力に所属していないこと等を公証人に対して申告させるように義務付け、公証人が確認する仕組みを設けることとされた。FATF(金融活動作業部会)勧告により、株式会社等の実質的支配者に関する情報を明らかにさせる仕組みを整えることが国際的な要請となっている。

公証人法施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=324M50000001009_20190701_501M60000010015

第十三条の四 公証人は、会社法(平成十七年法律第八十六号)第三十条第一項並びに一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)第十三条及び第百五十五条の規定による定款の認証を行う場合には、嘱託人に、次の各号に掲げる事項を申告させるものとする。

一 法人の成立の時にその実質的支配者(犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)第四条第一項第四号に規定する者をいう。)となるべき者の氏名、住居及び生年月日

二 前号に規定する実質的支配者となるべき者が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(次項において「暴力団員」という。)又は国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十四号)第三条第一項の規定により公告されている者(現に同項に規定する名簿に記載されている者に限る。)若しくは同法第四条第一項の規定による指定を受けている者(次項において「国際テロリスト」という。)に該当するか否か

2 公証人は、前項の定款の認証を行う場合において、同項第一号に規定する実質的支配者となるべき者が、暴力団員又は国際テロリストに該当し、又は該当するおそれがあると認めるときは、嘱託人又は当該実質的支配者となるべき者に必要な説明をさせなければならない。

実質的支配者となるべき者

⑴設立する会社の議決権の 50%を超える議決権を、直接又は間接に有する自然人

⑵⑴に該当する者がいない場合、設立する会社の議決権の 25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人全員

⑶⑴・⑵に該当する者がいない場合、出資・融資・取引その他の関係を通じて、設立する会社の事業活動に支配的な影響力を有する自然人全員

⑷⑴・⑵・⑶に該当する者がいない場合、設立する会社を代表し、その業務を執行する自然人

 議決権を直接に有するとは、自然人が発起人となり株式を保有すること。

議決権を間接に有する例。

例 1)CがB社を通じて25%超のA社の議決権を保有している例

CはB社の議決権の51%の議決権を有しています。このように過半数の議決権を有している場合、CがB社を支配していると考えます。

Cの支配法人であるB社は,新設会社A社の25%を超える議決権を有しています。この場合、CがB社を通じてA社の25%超の議決権を有していると考える。

例 2)Cが直接10%、B社を通じてA社の 15%超の議決権を保有している。

*実質的支配者に該当する者は原則として自然人ですが、発起人が上場企業又はその子会社である場合、その法人が自然人とみなされる。

*有価証券の売買を行う外国(国家公安委員会及び金融庁⻑官が指定する国又は地域に限る)の市場で上場している会社も自然人とみなされます(犯収法施行令 14条6号、犯収法施行規則18条11号。)。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令(平成二十年政令第二十号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420CO0000000020

(法第四条第五項に規定する政令で定めるもの)

第十四条

六 前各号に掲げるものに準ずるものとして主務省令で定めるもの

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(平成二十年内閣府・総務省・法務省・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第一号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420M60000f5a001

(国等に準ずる者)

第十八条 令第十四条第六号に規定する主務省令で定めるものは、次の各号に掲げるものとする。

十一 有価証券の売買を行う外国(国家公安委員会及び金融庁長官が指定する国又は地域に限る。)の市場に上場又は登録している会社

■実質的支配者該当性の根拠資料 発起人間の議決権保有割合を証するものとして定款、発起人の決定書等を添付することになります。発起人が法人の場合には、当該法人の議決権保有状況に関する資料(株主名簿等)も添付する必要がありますが、発起人が外国法人の場合には、原則として「外国官憲等の証明に係る証明書」を添付。

Cは、直接に10%、支配法人であるB社を通じて16%の議決権を保有し、直接保有と間接保有を合わせて26%、すなわち25%超の議決権を保有していると考えます。

C、D、Eは、A社の 100%親会社であるB社議決権を各 25%以上有していることから、(2)に該当し、A社の実質的支配者にあたるように思える。しかし、B社の議決権の 50%超を有する自然人はいないため、B社は特定の自然人の被支配法人にはあたらない。

A 社設立時の判断としてはB社の実質的支配者となる特定の自然人は存在せず、(2)ではなく、(4)に該当することになる。A社の代取が該当。

 実質的支配者該当性の根拠資料が外国語で作成されている場合、その訳文を添付。実質的支配者の氏名・住居に関する情報は外国語原文。

■本人特定事項等が明らかになる資料

  実質的支配者の氏名、住居及び生年月日の本人特定事項が明らかになる資料を添付することになります。パスポート等で住居の記載がない資料については、自筆で記載しているものを利用することも可能。 例)運転免許証、パスポート、個人番号カード等の写し

実質的支配者に該当する者が外国人である場合、日本国政府が承認した外国政府発行の書類(台湾や外国の地方政府発行の書類を含む)を利用。

■日本語の訳文の作成・添付

 外国語で作成された書面を添付書面として添付する場合、原則としてそのすべての日本語の訳文を併せて添付する必要があります。ただし、一定の場合には、翻訳の一部を省略することが可能。

外国官憲発行の各種証明書

 登記の内容や証明の対象とは関係のない部分の翻訳は省略して差し支えありません。(本国官憲使用欄や領収書部分等)証明書の発行主体(領事、公証人等)に関する記載の翻訳を省略することはできない。

 2つの外国語(当該外国の公用語と英語等)で同様の内容が記載がされているものについては、どちらか一方の翻訳で足り、両方の翻訳は不要。

*各種証明書の例 署名証明書、本人確認証明書、宣誓供述書、パスポートの写し等

【参考】外国会社の登記の添付書面

▪株主総会議事録等を添付する場合

 商業登記法 129 条 1 項、2 項、130 条 1 項の規定に基づき、外国会社の株主総会議事録や取締役会議事録(外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲の認証を受けたもの)を添付する場合、日本における営業所又は日本における代表者の登記とは関連しない内容については、翻訳を省略。

▪登記事項証明書に相当する書面を添付する場合

 商業登記法 130 条 1 項の変更の登記の書面として、外国における登記事項証明書等を添付する場合、変更の登記と関係のない部分については、翻訳を省略できます。*翻訳を省略した場合、日本語の訳文には省略した箇所・当該変更の登記と関係のない旨を記載

商業登記法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338AC0000000125

(外国会社の登記)

第百二十九条 会社法第九百三十三条第一項の規定による外国会社の登記の申請書には、次の書面を添付しなければならない。

一 本店の存在を認めるに足りる書面

二 日本における代表者の資格を証する書面

三 外国会社の定款その他外国会社の性質を識別するに足りる書面

四 会社法第九百三十九条第二項の規定による公告方法についての定めがあるときは、これを証する書面

2 前項の書類は、外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲の認証を受けたものでなければならない。

3 第一項の登記の申請書に他の登記所の登記事項証明書で日本における代表者を定めた旨又は日本に営業所を設けた旨の記載があるものを添付したときは、同項の書面の添付を要しない。

(変更の登記)

第百三十条 日本における代表者の変更又は外国において生じた登記事項の変更についての登記の申請書には、その変更の事実を証する外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲の認証を受けた書面を添付しなければならない。

2 日本における代表者の全員が退任しようとする場合には、その登記の申請書には、前項の書面のほか、会社法第八百二十条第一項の規定による公告及び催告をしたこと並びに異議を述べた債権者があるときは、当該債権者に対し弁済し若しくは相当の担保を提供し若しくは当該債権者に弁済を受けさせることを目的として相当の財産を信託したこと又は退任をしても当該債権者を害するおそれがないことを証する書面を添付しなければならない。ただし、当該外国会社が同法第八百二十二条第一項の規定により清算の開始を命じられたときは、この限りでない。

3 前二項の登記の申請書に他の登記所において既に前二項の登記をしたことを証する書面を添付したときは、前二項の書面の添付を要しない。

営業所の設置(外国会社の登記)

駐在員事務所、支店、支社の違いを説明した上で、実体に合致しているのかを法務・税務の面からそれぞれ検討。

①営業所設置と日本法人設立の違いは理解したが、手続面・税金面でどちらが有利なのか。

②営業所または日本法人で働く外国人の在留資格について知りたい。

③スケジュールと費用イメージを知りたい。

JETROホームページ参考情報。

https://www.jetro.go.jp/invest/setting_up/sectionl/page2.html

 企業(中国・上海)から、日本における営業所設置の依頼を受けました。日本における代表者は日本人が就任。本国で準備する書類は中国語で作成。書籍を見ると、宣誓供述書を準備すればよいようですが、宣誓供述書の実物を見たことがないのでよく分かりません。日本の会社のように、中国の会社の登記簿謄本、代表者の印鑑証明書や各議事録等に翻訳文を添付するだけではだめか?

 営業所設置(外国会社の支店)に決定している場合、営業所設置の必要書類の準備、宣誓供述書起案のための情報収集、宣誓供述書の認証、外為法の事前届出、事後報告の要否を検討。

【営業所設置の必要書類の準備】

宣誓供述書起案のための情報収集

日本における営業所設置の必要書類は、商業登記法に規定。

商業登記法第129条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338AC0000000125

会社法第933条第l項の規定による外国会社の登記の申請書には、次の書面を添付しなければならない。

1本店の存在を認めるに足りる書面

2日本における代表者の資格を証する書面

3外国会社の定款その他外国会社の性質を識別するに足りる書面

4会社法第939条第2項の規定による公告方法についての定めがあるときは、これを証する書面

2前項の喜類は、外国会社の本国の管轄官庁又は日本における領事その他権限がある官憲の認証を受けたものでなければならない。

本店の存在を認めるに足りる書面→登記事項全部証明書(韓国)、企業登録証明書(ベトナム)

宣誓供述書

日本公証人連合会

Q.アフィダビットと宣誓供述書は、同じものですか。

 アフィダビット(一般的に「宣誓供述書」と訳されています。)とは、法廷外で公証人その他宣誓を司る者の面前で宣誓した上、記載内容が真実であることを確約し、署名したものをいい、英米両国をはじめ多くの国で使われています。Affidavitと言う表題があっても、必ずしも我が国の「宣誓供述書」(宣誓認証された私書証書)と法律的に同一の性質を持つ文書とは限りません。

 しかし、Affidavitの表題を掲げ、あるいは、swear、takeanoathといった宣誓を表すような文言がある外国文書の認証については、単なる署名認証ではなく、宣誓認証が要求されていることが多いと思われます。なお、署名の真正の確認方法についても、自認認証や代理自認(代理認証)ではなく、目撃認証(面前認証)が求められることも少なくありません。ですから、嘱託人としては、その証書の提出を求める外国機関等の意向を十分理解して、これを公証人に正確に伝えることが重要です。

公証人法(明治四十一年法律第五十三号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=141AC0000000053_20150801_000000000000000

第五十八条ノ二 公証人私署証書ニ認証ヲ与フル場合ニ於テ当事者其ノ面前ニ於テ証書ノ記載ノ真実ナルコトヲ宣誓シタル上証書ニ署名若ハ捺印シ又ハ証書ノ署名若ハ捺印ヲ自認シタルトキハ其ノ旨ヲ記載シテ之ヲ為スコトヲ要ス

② 前項ノ認証ノ嘱託ハ証書二通ヲ提出シテ之ヲ為スコトヲ要ス

③ 第一項ノ認証ノ嘱託ハ代理人ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得ズ

④ 公証人ハ第一項ノ規定ニ依ル記載ヲ為シタル証書ノ中一通ヲ自ラ保存シ他ノ一通ヲ嘱託人ニ還付スルコトヲ要ス

Q. 宣誓認証とは、どういう制度ですか。

 宣誓認証制度は、公証人法58条ノ2の規定の新設により設けられた制度です(平成10年1月1日施行)。公証人が私署証書(作成者の署名、署名押印又は記名押印のある私文書のこと)に認証を与える場合において、当事者がその面前で証書の記載が真実であることを宣誓した上、証書に署名若しくは押印し、または証書の署名若しくは押印を自認したときは、その旨を記載して認証する制度です。宣誓認証を受けた文書を宣誓供述書といいます。

 公証人が、私文書について、作成の真正を認証するとともに、制裁の裏付けのある宣誓によって、その記載内容が真実、正確であることを作成者が表明した事実をも公証するものです。

 簡体字の場合、正字に引き直して登記申請。有限公司を付加する必要はない。住所の表示の一部にローマ字が符号として使用されている場合、そのまま登記申請可能。役員の住所氏名の表記は原則としてカタカナに引き直す。漢字使用国の役員については、正字に引き直した後、そのまま表記することが可能。

設立準拠法の記録

×アメリカ合衆国デラウェア州法

〇アメリカ合衆国デラウェア州一般会社法

昭和60年1月21日民四207→探せない。

登記研究86-42→探せない。

昭和44年1月14日民甲第32号民事局長通達→探せない。

外務省 公印確認・アポスティーユとは 令和2年6月22日

https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000548.html

公印確認

 日本にある外国の大使館・(総)領事館の領事による認証(=領事認証)を取得するために事前に必要となる外務省の証明のことです。外務省では公文書上に押印されている公印についてその公文書上に証明を行っています。外務省で公印確認を受けた後は必ず日本にある外国の大使館・(総)領事館の領事認証を取得して下さい。

 外務省における公印確認は,その後の駐日外国大使館・(総)領事館での領事認証が必要となる証明ですので,必ず駐日外国領事による認証を受けてから提出国関係機関へ提出して下さい。

 提出先機関の意向で日本外務省の公印確認証明ではなく,現地にある日本大使館や総領事館の証明が求められている場合があります。外務省で公印確認証明を受けた書類は,現地日本大使館や総領事館で重ねて証明することはできませんので,ご注意ください。

アポスティーユ

「外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)」(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明のことです。提出先国はハーグ条約締約国のみです。アポスティーユを取得すると日本にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして,提出先国で使用することができます。

提出先国がハーグ条約(認証不要条約)の締約国であっても,領事認証が必要となり,公印確認を求められる場合があります。事前に提出先または日本にある提出先国の大使館・(総)領事館にご確認ください。

ハーグ条約に加入していない国へ提出する公文書の証明は全て公印確認となります。

日本法人の設立(合同会社の設立)

 日本で子会社を設立することを決定したドイツの会社があるので、手続を進めてほしい、と依頼されました。簡単な構造の会社の設立を希望しているので、合同会社の設立を勧めようと思います。この場合の注意点。

《回答〉

 基本的には内国合同会社の設立と同じく、会社法第575条以下が適用。但し、外国会社が出資するということから、以下の点に注意が必要です。

(1)外為法の事前届出と事後報告の要否(2)合同会社の定款の内容(3)定款以外の添付書類

《解説》

1外為法の事前届出と事後報告の要否株式会社の設立と同様です。(料資18)   2合同会社の定款作成のための情報収集

社員となる外国人、外国法人の確認

合同会社は、定款に社員の氏名又は名称及び住所、並びに出資の目的として金銭等の価額を記載することとされています。(会社法第576 条第 1 項第4 号及び第6号)

社員が外国人又は外国法人の場合の確認方法:

個人:旅券、国籍国で交付される身分証明書、滞在国で交付さ滞れ在る許可証、運転免許証等(できれば複数の証明書)を確認。

職務執行者(住所、氏名、生年月日)の選任についても宣誓供述書に盛り込む。職務執行者の就任承諾書の宛先は、選任した社員。

外国会社から連絡を受け、日本の合同会社の持分の全てを取得することになった場合。

商業登記法(添付書面の通則)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338AC0000000125

第九十三条 登記すべき事項につき総社員の同意又はある社員若しくは清算人の一致を要するときは、申請書にその同意又は一致があつたことを証する書面を添付しなければならない。

(準用規定)

第百十八条 第四十七条第一項、第四十八条から第五十三条まで、第九十三条、第九十四条、第九十六条から第百一条まで及び第百三条の規定は、合同会社の登記について準用する。

会社法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

(持分の譲渡)

第五百八十五条 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。

2 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。

3 第六百三十七条の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員の持分の譲渡に伴い定款の変更を生ずるときは、その持分の譲渡による定款の変更は、業務を執行する社員の全員の同意によってすることができる。

4 前三項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。

(社員の加入)

第六百四条 持分会社は、新たに社員を加入させることができる。

2 持分会社の社員の加入は、当該社員に係る定款の変更をした時に、その効力を生ずる。

3 前項の規定にかかわらず、合同会社が新たに社員を加入させる場合において、新たに社員となろうとする者が同項の定款の変更をした時にその出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないときは、その者は、当該払込み又は給付を完了した時に、合同会社の社員となる。

商業登記法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338AC0000000125

(社員の加入又は退社等による変更の登記)

第九十六条 合名会社の社員の加入又は退社による変更の登記の申請書には、その事実を証する書面(法人である社員の加入の場合にあつては、第九十四条第二号又は第三号に掲げる書面を含む。)を添付しなければならない。

2 合名会社の社員が法人であるときは、その商号若しくは名称又は本店若しくは主たる事務所の変更の登記の申請書には、第九十四条第二号イに掲げる書面を添付しなければならない。ただし、同号イただし書に規定する場合は、この限りでない。

参考

月刊登記情報2022年9月号(730号)きんざい

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業弁護士菅原佐知子、三浦司法書士事務所司法書士三浦真紀「Q&A日本に進出する外国法人に関する登記第4回 外国会社を発起人とする株式会社の設立登記申請」


デジタル化と司法書士

九州ブロック司法書士会協議会令和3年度会員研修会

〔講演第1部〕デジタル化で司法書士は生き残れるか

九州大学大学院法学研究院教授   七戸克彦 令和3年9月4日

1. 平成期の「司法書士の危機」 ワープロの登場。東芝。

1-1. 平成14年:簡裁代理権

1-2. 平成16年:現行不動産登記法制定

1-3. 平成19年:長瀬訓令(業務停止2年 有期懲戒の最長)

1-4. 平成28年:債務整理最高裁判決

1-5. 令和 2 年:調査説明義務最高裁判決

1-5. 従来の判例理論

(1)調査確認義務(原則と3つの例外)

・【原則】委任者から交付された関係書類の適式性の限りで確認すれば足りる。

・【例外】①登記申請の委任者から関係書類の真否等についてとくに調査を依頼された場合、②司法書士が却下事由の存在を知っていた場合や書類の記載の不合理が一見して明白な場合、③登記義務者の本人性や書類の偽造につき疑念性があるにもかかわらず追加的な調査・確認を行わなかった場合

(2)説明(助言・警告・注意喚起)義務

・委任者以外の第三者との関係では説明義務は負わない。

1-5.令和2年最高裁判決

最(2小)判令和2・3・6民集74巻3号149頁

・A→B→X→Cの物権変動のうち、A→B登記の前件申請を弁護士D、B→C登記(中間省略登記)の後件申請を司法書士Yが受任したが、前件取引がAの成りすましによる不動産詐欺であったことから、無効となったB→(X)→Cの後件取引の中間者XがYに対して不法行為責任(説明(警告)義務違反)を追求した事案。

1-5. 令和2年最高裁判決【判旨①】

・ 登記申請等の委任を受けた司法書士は、その委任者との関係において、当該委任に基づき、当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性を形式的に確認するなどの義務を負うのみならず、当該登記申請に係る登記が不動産に関する実体的権利に合致したものとなるよう、上記の確認等の過程において、当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には、上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがあるものと解される。

1-5. 令和2年最高裁判決【判旨②】

・ 登記申請の委任を受けた司法書士は、委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し、このことが当該司法書士に認識可能な場合において、当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは、当該第三者に対しても、上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い、これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである。

2. 電子契約と司法書士

・ 不動産取引が〈電子契約〉化した場合、司法書士の①書類確認と、②契約締結および決済への立会業務(いわゆる前段業務)は、どのように変化するのか?

・最(2小)判令和2・3・6民集74巻3号149頁が電子契約だった場合、どのようになるのか。

2-2. 電子署名及び認証業務に関する法律

(定義)第2条〔第1項〕この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。〔「本人性」要件〕

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。〔「非改ざん性」要件〕

2-2.電子署名及び認証業務に関する法律

第2章 電磁的記録の真正な成立の推定

第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

民事訴訟法と対応

民事訴訟法228条4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正なものと推定する。

2-3. 印判の由来

・日本の印判の歴史には3つの系統がある。

1 封印・封字の系譜

福岡市博物館 金印

http://museum.city.fukuoka.jp/gold/

外務省 わかる国際情勢

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol12/index.html

(2)公印・職印の系譜

宮内庁 御璽・国璽

https://www.kunaicho.go.jp/about/seido/seido09.html

一家に一本、ネジザウルス!をめざす社長ブログ 

http://blog.livedoor.jp/engineerjpmaster/

(3)印鑑の系譜

踏む(押す)という所作

長崎 踏み絵 聖パウロ女子修道会(女子パウロ会)

https://www.pauline.or.jp/historyofchurches/history05.php

平戸松浦家の名宝と禁教政策―投影された大航海時代―

http://www.seinan-gu.ac.jp/museum/wp-content/uploads/2014/12/pr-2013hirado.pdf

新潟県 三行半

新潟日報 貞心尼に新説 実像に迫る

https://www.niigata-nippo.co.jp/news/local/20210830638771.html

国税庁 地券

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/tokubetsu/h15shiryoukan/a.htm

(電子署名)

第12条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請するときは、申請人又はその代表者若しくは代理人は、申請情報に電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第2条第1項に規定する電子署名をいう。以下同じ。)を行わなければならない。

2 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合における添付情報は、作成者による電子署名が行われているものでなければならない。

3. 電子署名・電子証明書と登記業務

3-1. 不動産登記令(平成16年政令第379号)

第14条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合において、電子署名が行われている情報を送信するときは、電子証明書(電子署名を行った者を確認するために用いられる事項が当該者に係るものであることを証明するために作成された電磁的記録をいう。)であって法務省令で定めるものを併せて送信しなければならない。

3-2. 署名→電子署名、押印→電子証明書

4. 不登法の真実性担保手段の欠陥

4-1. 他部局・他府省の保有する情報(戸籍・住民票・不動産課税台帳等)との連携が取れていないこと

4-2. 添付情報(とくに登記原因証明情報)に関する実質的審査が行われていないこと

4-1. 他部局・他府省の電子情報との連携

(情報の提供の求め)第151条 登記官は、職権による登記をし、又は第14条第1項の地図を作成するために必要な限度で、関係地方公共団体の長その他の者に対し、その対象となる不動産の所有者等(所有権が帰属し、又は帰属していた自然人又は法人(法人でない社団又は財団を含む。)をいう。)に関する情報の提供を求めることができる。

令和3年改正不動産登記法151条(新設)

(所有権の登記名義人についての符号の表示)

第七十六条の四 登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。

自然人を想定(法人はGビズID)。権利能力を有しないこととなった、は遺族感情を踏まえての表現。職権。条文上は、書面でも電子情報でも。要綱では、電子情報が予定されている。「検索」の記載有。

https://www.moj.go.jp/content/001340751.pdf

マイナンバーカードではなくて、住民基本台帳ネットワークを利用する理由。

戸籍法部会資料 戸籍事務へのマイナンバー制度導入のための主な検討事項

https://www.moj.go.jp/content/001340751.pdf

4-1. 他部局・他府省の電子情報との連携

第3 登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得するための仕組み

相続の発生や氏名又は名称及び住所の変更を不動産登記に反映させるための方策を採る前提として、登記所が住民基本台帳ネットワークシステムから所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得するため、次のような仕組みを設けるものとする。

(2)法制審議会答申(要綱)第2部

4-1. 他部局・他府省の電子情報との連携

① 自然人である所有権の登記名義人は、登記官に対し、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について、氏名及び住所の情報に加えて、生年月日等の情報(検索用情報)(注)を提供するものとする。この場合において、検索用情報は登記記録上に公示せず、登記所内部において保有するデータとして扱うものとする。

(2)法制審議会答申(要綱)第2部第3(続)

4-1. 他部局・他府省の電子情報との連携

② 登記官は、氏名、住所及び検索用情報を検索キーとして、住民基本台帳ネットワークシステムに定期的に照会を行うなどして自然人である登記名義人の死亡の事実や氏名又は名称及び住所の変更の事実を把握するものとする。

(2)法制審議会答申(要綱)第2部第3(続)

4-1. 他部局・他府省の電子情報との連携

(注) 上記の新たな仕組みに係る規定の施行後においては、新たに所有権の登記名義人となる者は、その登記申請の際に、検索用情報の提供を必ず行うものとする。当該規定の施行前に既に所有権の登記名義人となっている者について

は、その不動産の特定に必要な情報、自己が当該不動産の登記名義人であることを証する情報及び検索用情報の内容を証する情報とともに、検索用情報の提供を任意に行うことができるものとする。

(2)法制審議会答申(要綱)第2部第3(続)

4-2. 電子契約と添付情報の真実性担保

* 判例の【原則】と【3つの例外】は、電子契約の場合には、どのようになるか?

・【原則】委任者から交付された関係書類の適式性の限りで確認すれば足りる。

・【例外】①関係書類の真否等についてとくに調査を依頼された場合、②司法書士が却下事由の存在を知っていた場合や書類の記載の不合理が一見して明白な場合、③登記義務者の本人性や書類の偽造につき疑念性がある場合

4-2. 電子契約と添付情報の真実性担保

【原則】委任者から交付された関係書類の適式性の限りで確認すれば足りる。

・ 電子契約では、関係書類はすべて電子情報になっている。

・ 電子契約の関係書類(情報)の「適式性」審査の具体的内容は、どのようなものになるのか?

デジタルによる本人確認方法や電子署名の方法について、対面でアドバイスを行い仕事にする方法の可能性。

参考

2020年12月電子契約・電子署名の活用に関する諸問題(契約実践編)

法人間で締結される電子契約の証拠力を中心に

弁護士 宮川 賢司 / 弁護士 西 愛礼 / 弁護士 辻 勝吾/弁護士 望月 亮佑 / 弁護士 一圓 健太

https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins14_pdf/201130.pdf

・ 電子契約の場合の〈本人確認〉は、どのような方法になるのか?

4-2. 電子契約と添付情報の真実性担保

【例外①】関係書類の真否等についてとくに調査を依頼された場合には、調査確認義務・説明義務(助言忠告義務)が加重される。

・ 電子契約の締結ならびに決済への〈立会業務〉の具体的な内容は、どのようなものになるのか?

e-KYCについて

平成30年11月30日金融庁「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」の公表について

https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20181130/20181130.html

・ 電子契約・決済への立会を依頼された司法書士が負う加重的な調査確認義務・説明義務(助言忠告義務)の具体的内容は、どのようなものか?

4-2. 電子契約と添付情報の真実性担保

【例外②】司法書士が却下事由の存在を知っていた場合や書類の記載の不合理が一見して明白な場合、司法書士は債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

電子契約の場合に、却下事由の存在に関する〈悪意〉あるいは〈過失〉とは、具体的にはどのようなものになるのか?

4-2. 電子契約と添付情報の真実性担保

【例外③】登記義務者の本人性や書類の偽造につき疑念性がある場合には、調査確認義務・説明義務(助言忠告義務)が加重される。

・ 電子契約の場合に、ⓐ本人性あるいはⓑ情報の偽造につき〈疑念性がある場合〉とは、具体的にはどのようなものになるのか?

5. 電子契約と司法書士

「第3部 パネルディスカッション」に向けて――

・ 不動産取引が〈電子契約〉化した場合、司法書士には、①電子契約の有効性確認のスキルが必要となる一方、②対面での本人確認・意思確認ができなくなる時代が来る。

DX不動産推進協会

https://www.dxppa.or.jp/

(所有不動産記録証明書の交付等)

改正不動産登記法第百十九条の二 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。

3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。

4 前条第三項及び第四項の規定は、所有不動産記録証明書の手数料について準用する。

→相続人申告登記と、一部遺産分割(例えば、10筆あるうちの宅地のみ行えば、相続登記の義務化は免れれる。)を行って相続登記義務化を免れることが可能?

法定相続情報証明制度について

法務局 「法定相続情報証明制度」について

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html

名古屋法務局チャンネル 法定相続情報証明制度について

https://www.youtube.com/watch?v=djhtquCGvZc

日本司法書士会連合会 新しい相続手続「法定相続証明制度」とは

https://www.shiho-shoshi.or.jp/html/hoteisozoku/

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)施行日: 令和三年四月一日(令和三年法務省令第十四号による改正)

第六章 法定相続情報

(法定相続情報一覧図)247条、248条

・不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付け法務省民二第456号民事局長通達)

・不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務等の取扱いについて(平成29年4月17日付け法務省民二第292号民事局長通達)

・法定相続情報証明制度に関する事務の取扱いの一部改正について(平成30年3月29日付け法務省民二第166号民事局長通達)

・不動産登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う法定相続情報証明制度に関する事務の取扱いについて(通達)〔令和3年3月29 日付法務省民二第655 号民事局長通達〕

1・何が出来るか。

2020(令和2)年10月26日~各種年金等手続(例:遺族年金,未支給年金及び死亡一時金等の請求に係る手続)

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/kyotsu/jukyu/20140731-01.html

2018(平成30)年4月1日~国税局・税務署

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2017/pdf/h30kaisei.pdf

・「戸籍の謄本」で被相続人の全ての相続人を明らかにするもの

・ 図形式の「法定相続情報一覧図の写し」(子の続柄が、実子又は養子のいずれであるかが分かるように記載されたものに限ります。)(注)

・上のどちらかをコピー機で複写したもの

(注) 被相続人に養子がいる場合には、その養子の戸籍の謄本又は抄本(コピー機で複写したものも含みます。)の添付も必要です。

預貯金は?

2021年7月版 (一社)全国銀行協会 全国銀行個人信用情報センター

https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/pcic/open/kaiji_succession.pdf

○法務局発行の「法定相続情報一覧図の写し」(登記官の認証文言付きの書類原本)を提出いただく場合は、開示対象者の死亡を証する資料および法定相続人であること(続柄等)を証する資料の提出は「原則」不要。

ゆうちょ銀行 預貯金の相続に必要な書類

https://www.jp-bank.japanpost.jp/kojin/kyuyo_nenkin/nenkin/kj_kyn_nk_souzoku3.html

被相続人さまの相続関係のわかる戸(徐)籍謄本または法定相続情報一覧図の写し

※銀行、信用金庫各種金融機関によっては、未だ扱いが統一されていないようです。

(一社)生命保険協会 生命保険契約照会制度

https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/decease/

提出情報(照会対象者の法定相続人の場合)

・照会者の本人確認書類

・法定相続情報一覧図 または 相続人と被相続人の関係を示す戸籍等

・照会対象者の死亡診断書

2・費用は無料

物件費をもとにした大まかなコスト(税金)・・・1通200円。

出典 第198回国会 参議院 法務委員会 第15号 令和元年5月23日

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=119815206X01520190523&current=5

3・Q&A

Q 法定相続情報一覧図の写しの再交付の申出があった場合、法務局での保存期間(5年間)が延長されるか。

A されない。

Q 法定相続情報一覧図につづり込まれた書面については,情報公開請求出来るか。

A 不動産登記法第153条及び第155条の適用はないので、情報開示請求を行うことが出来る(行政機関が有する情報の公開に関する法律4章。)。

Q 嫡出子であってもなくても、法定相続分を同じとした平成25年9月4日以前に開始した相続について。

 被相続人の子が複数いる場合,法定相続情報証明の写しが提供された法定相続に基づく権利の移転の登記の申請等があったときは、嫡出子・嫡出でない子の法定相続分の確認のため,別途戸除籍謄抄本を求める必要があるか(民法の一部を改正する法律(平成25年法律第94号)。)。

A 法定相続情報一覧図で判明しない場合には、別途戸籍謄抄本を求める(関連問19参照)。H25.12.11民二781局長通達及び民事第二課補佐官事務連絡「民法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記等の事務の取扱いについて」

Q 兄弟姉妹が相続人の場合、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹と、父母の双方を同じくする兄弟姉妹がいる場合について、一覧図の写しが提供された法定相続に基づく権利の移転の登記の申請等があったときは、法定相続分の確認のため,別途戸除籍謄抄本が必要か(民法900条1項4号。)。

A 法定相続情報一覧図で判明しない場合には、別途戸籍謄抄本が必要。

会社法特例(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)を読みながら。

加工

中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル

「会社法特例」(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)

令和3年8月中小企業庁財務課

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm

目次

 会社法特例の概要 ……………………………………….. 2

(1)経営承継円滑化法の概要 ……………………………. 2

(2)会社法特例の手続の概要 ………………………………. 2

2 都道府県知事の認定の内容 ……………………………………………… 4

(1)対象者(法第12条第1項第1号柱書、同号ホ) ……………….. 4

①中小企業者(法第2条、施行令第1条、施行規則第1条第1項)………… 4

②上場会社等(施行規則第1条第12項、法第12条第1項第1号柱書参照) .5

(2)要件(法第12条第1項第1号ホ) ……………………. 5

①経営困難要件 ………………………………………………. 5

②円滑承継困難要件 …………………………………….. 6

3 都道府県知事の認定の申請手続……………………………. 12

(1)認定申請書の記載要領(様式第6の4) …………………. 12

①経営困難要件 ……………………………………. 14

②円滑承継困難要件 ……………………………………….. 15

(2)添付書類(施行規則第7条第1項) ……………….. 20

(3)申請先(法第17条、施行令第2条) …………… 23

4 その他都道府県知事の認定に関する諸事項 ……………………….24

(1)認定の通知及び有効期間(施行規則第7条第14項、第8条第9項) ..4

(2)認定の取消し(施行規則第9条第1項第4~6号) …………… 24

5 都道府県知事の認定後の手続(参考) ………………… 25

(1)会社法特例における異議申述手続 …………………….. 25

(2)裁判所における手続 ……………………….. 28

1 会社法特例の概要

 一般的に、株主名簿に記載はあるものの会社から連絡が取れなくなり、所在が不明になってしまっている株主を「所在不明株主」といいます。ここでは本マニュアルが対象とする所在不明株主に関する会社法特例の概要について説明します。

(1)経営承継円滑化法の概要

「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「法」といいます。

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成二十年法律第三十三号)2021(令和2)年10月1日施行

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420AC0000000033

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行令(平成二十年政令第二百四十五号)施行日: 平成二十九年四月一日

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420CO0000000245_20170401_429CO0000000013

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(平成二十一年経済産業省令第二十二号)施行日: 令和元年七月一日

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=421M60000400022_20190701_501M60000400017

また、法の施行令(政令)と施行規則(省令)を、単にそれぞれ「施行令」と「施行規則」といいます。)は、

  • 遺留分に関する民法の特例、②事業承継時の金融支援措置、③事業承継税制の基本的枠組みを盛り込んだ事業承継円滑化に向けた総合的支援策の基礎となる法律で、平成20年10月1日(①遺留分に関する民法の特例に係る規定は平成21年3月1日)から施行されています。

 ここに、令和3年の第204回通常国会において成立した④所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例(以下「会社法特例」といいます。)が4つ目の措置として追加され、令和3年8月2日から施行されています。

本マニュアルは、④会社法特例の申請等に関するマニュアルです。

(2)会社法特例の手続の概要

会社法上、株式会社は、所在不明株主に対して行う通知等が5年以上継続して到達せず、当該所在不明株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しない場合、その保有株式の競売又は売却(自社による買取りを含め、以下「買取り等」といいます。)の手続が可能です(会社法第197条、第198条)。他方で、「5年」という期間の長さが、事業承継の際の手続利用のハードルになっているという面もありました。

そこで、この点を踏まえ、非上場の中小企業者のうち、事業承継ニーズの高い株式会社に限り、経済産業大臣の認定を受けることと一定の手続保障を前提に、この「5年」を「1年」に短縮する特例を創設することとなりました。

なお、会社法特例に関する経済産業大臣の権限に属する事務は、中小企業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事が行うこととされております(法第17条、施行令第2条)。そのため、実際の会社法特例の適用においては都道府県知事の認定が必要とされることになり、認定の申請手続も都道府県において行うことになります。以下では、これを前提に説明します。

2 都道府県知事の認定の内容

【法第12条第1項柱書、同項第1号柱書、同号ホ】(抜粋)

(経済産業大臣の認定)

第十二条 次の各号に掲げる者は、当該各号に該当することについて、経済産業大臣の認定を受けることができる。

一 会社である中小企業者(金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第六十七条の十一第一項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。以下この項において同じ。) 次のいずれかに該当すること。

イ~ニ (略)

ホ 当該中小企業者(株式会社に限る。)の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じている場合であって、当該中小企業者の一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者(第十六条第二項において「株式会社事業後継者」という。)に円滑に承継させることが困難であると認められること。

(1)対象者(法第12条第1項第1号柱書、同号ホ)

会社法特例についての認定の対象者は、株式会社のうち、①中小企業者に該当し、かつ、②上場会社等に該当しない者です。

①中小企業者(法第2条、施行令第1条、施行規則第1条第1項)

法の対象となる中小企業者の範囲は、下表のとおり中小企業基本法上の中小企業者を基本とし、既存の中小企業支援法と同様に業種の実態を踏まえ施行令(政令)によりその範囲を拡大しており、その営む業種により以下のような会社又は個人とされています2。なお、医療法人や社会福祉法人、外国会社は法における中小企業者には該当しません。

②上場会社等(施行規則第1条第12項、法第12条第1項第1号柱書参照)

 会社法特例の対象となる中小企業者については、金融商品取引所に上場されている株式又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社が除かれます。この適用対象外となる会社を施行規則では「上場会社等」と定義しています3。

(2)要件(法第12条第1項第1号ホ)

①経営困難要件

[申請者の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、会社の事業活動の継続に支障が生じている場合であること]

・申請者の代表者の「年齢」が満60歳を超えている場合

・申請者の代表者の「健康状態」が日常業務に支障を生じさせている場合

・「その他の事情」が認められる場合(例えば、以下のような場合)

代表者以外の役員(例えば、代表者の配偶者や子息が就任していることもあります。)や幹部従業員(例えば、基幹工場の工場長や、いわゆる「番頭」等が該当します。)が病気や事故で倒れてしまったり、突然失踪してしまったりしたため、急に継続的かつ安定的に経営を行うことが困難となったような場合

・ 外部環境の急激な変化により突然業績が悪化し、急に継続的かつ安定的に経営を行うことが困難となったような場合(なお、当面の間、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由とする場合には、令和2年1月以後の任意の3月間における売上高又は販売数量(売上高等)が前年4同期の3月間における売上高等の80%以下に減少した、又は減少することが見込まれるケースその他経営の承継を伴う事業の再生や転業を要するケース等を想定しています。)

②円滑承継困難要件

[一部株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者(株式会社事業後継者)に円滑に承継させることが困難であること]

例えば、以下のいずれかの基準を満たす場合には、この要件を満たし得るものと考えられます。なお、以下でいう「議決権割合」は、申請者の総株主等議決権数5(a)に占める割合を意味します6。

❶認定申請日時点において株式会社事業後継者が定まっている場合

 特定の手法による事業承継が合意されており、株式会社事業後継者が当該手法を特段の支障なく遂行するために一定の議決権数が必要となるときに、所在不明株主が存在するために当該議決権数を満たせないことにより、当該事業承継を円滑に行えないことがあります。このようなケースにおいて会社法特例を利用することで当該議決権数を満たせるようになるときには、円滑承継困難要件を満たし得ることになります。

(A) 総株主等議決権数の1/10等を目安とする基準

 例えば、株式譲渡の手法による事業承継が合意されているとき7には、株式会社事業後継者が要求している議決権数(株式会社事業後継者が既に申請者の一部株式を保有する場合には、当該株式に係る議決権数を含みます。)を満たす必要があります。そのため、所在不明株主の保有株式に係る議決権数が、総株主等議決権数から株式会社事業後継者が要求している議決権数を控除した数を超えるときには、必要な株式集約に支障が生じ、将来の事業承継を円滑に行えないことがあります。このようなケースにおいて会社法特例を利用することで当該議決権数を満たせるようになるときには、円滑承継困難要件を満たし得ることになります。

 ただし、総株主の議決権の9/10以上を有する特別支配株主の株式等売渡請求8によるスクイーズ・アウト9が可能な場合には、これによる株式集約を検討し得ることから、円滑承継困難要件を満たすのは、所在不明株主が存在するために当該請求が不可能となっているとき、すなわち所在不明株主の保有株式に係る議決権割合が1/10を超えるときに限ります。

<具体的な基準>基準の内容(ⅰ~ⅳの全てを満たす場合)

図式

(ⅰ)全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計(b)が、総株主等議決権数(a)から株式会社事業後継者が要求する議決権数等(d)を控除した数を超えていること・・・[b>a-d]

(ⅱ)会社法特例による株式買取り等の手続の完了後に残る所在不明株主の保有株式に係る議決権数(b-c)が、総株主等議決権数(a)から株式・・・[b-c≦a-d]

会社事業後継者が要求する議決権数等(d)を控除した数以下であること

(ⅲ)株式会社事業後継者が要求する議決権数等(d)が総株主等議決権数(a)の過半数であること・・・[d>a×1/2]

(ⅳ)全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計(b)に係る議決権割合が、1/10を超えていること・・・[b>a×1/10]

例・基準を満たすケース:a=1000、b=150、c=150、d=900

・基準を満たさないケース:a=1000、b=50、c=50、d=900(所在不明株主の議決権割合が、10分の1を超えていないから。)

(B) 総株主等議決権数の1/3を目安とする基準

 一方、前述の(A)に記載したような手法以外の手法によるとき、例えば、事業譲渡や会社分割、新株発行10等といった原則として株主総会特別決議11に基づく手法による事業承継が合意されているときには、株主総会特別決議を安全に行うことができる議決権割合として総株主等議決権数の2/3を確保する必要があります12。

 そのため、所在不明株主の保有株式に係る議決権割合が1/3を超えるときには、必要な株式集約に支障が生じ、将来の事業承継を円滑に行えないことがあります。このようなケースにおいて会社法特例を利用することで当該議決権割合を満たせるようになるときには、円滑承継困難要件を満たし得ることになります13。

<具体的な基準>基準の内容(ⅰかつⅱを満たす場合)

(ⅰ)全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計(b)に係る議決権割合が、1/3を超えていること・・・[b>a×1/3]

(ⅱ)会社法特例による株式買取り等の手続の完了後に残る所在不明株主の保有株式に係る議決権数(b-c)に係る議決権割合が、1/3以下であること・・・[b-c≦a×1/3]

例 ・要件を満たすケース:a=1000、b=400、c=400

・要件を満たさないケース:a=1000、b=300、c=300(株式買い取り等の手続き前の所在不明株主の議決権割合が3分の1を超えている。)

❷認定申請日時点において株式会社事業後継者が未定の場合14

認定申請日時点において株式会社事業後継者が未定であって、事業承継のための特定の手法が定まっていない場合であっても、所在不明株主が存在するために必要な株式集約に支障が生じるおそれがあって、将来の事業承継を円滑に行えないことがあり、そのようなケースにおいて会社法特例を利用することで当該株式集約が可能になるようなときには、円滑承継困難要件を満たし得ると考えられます。例えば、以下のようなケースを想定しています。

(C) 総株主等議決権数の1/3を目安とする基準(❷原則)

 株式集約のためスクイーズ・アウトを行う際、株主総会特別決議に基づく手法15を選択するときには、株主総会特別決議を安全に行うことができる議決権割合として総株主等議決権数の2/3を確保する必要があります。そのため、所在不明株主の保有株式に係る議決権割合が1/3を超えるときには、必要な株式集約16に支障が生じるおそれがあって、将来の事業承継を円滑に行えないことがあります。このようなケースにおいて会社法特例を利用することで当該議決権割合を満たせるようになるときには、円滑承継困難要件を満たし得ることになります。

<具体的な基準>基準の内容(ⅰかつⅱを満たす場合)

(ⅰ)全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計(b)に係る議決権割合が、1/3を超えていること・・・[b>a×1/3]

(ⅱ)会社法特例による株式買取り等の手続の完了後に残る所在不明株主の保有株式に係る議決権数(b-c)に係る議決権割合が、1/3以下であること・・・[b-c≦a×1/3]

例・要件を満たすケース:a=1000、b=400、c=400

・要件を満たさないケース:a=1000、b=300、c=300

(D) 総株主等議決権数の1/10等を目安とする基準(❷例外)

 株式集約のためスクイーズ・アウトを行う際、総株主の議決権の9/10以上を有する特別支配株主の株式等売渡請求を選択するときには、所在不明株主が存在するために当該9/10を満たせないとき、すなわち所在不明株主の保有株式に係る議決権割合が1/10を超えるときには、必要な株式集約に支障が生じるおそれがあって、将来の事業承継を円滑に行えないことがあります。このようなケースにおいて会社法特例を利用することで当該議決権割合を1/10以下にできるときには、円滑承継困難要件を満たし得ることになります。

 ただし、申請者の代表者又は代表者であった者並びにそれらの親族17(以下「経営株主等」といいます。)のみで既に総株主等議決権数の過半数を有しており、既に申請者の支配権を確保できている場合に限るものとします。

また、本基準において円滑承継困難要件を満たし得るのは、必要な株式集約に支障が生じることで将来の事業承継を円滑に行えない相当程度の蓋然性が認められるときに限ります。

特別支配株主の株式等売渡請求を行う蓋然性が相当程度認められるときであること、具体的には、経営株主等の保有株式に係る議決権数の合計に(会社法特例の適用対象となる)所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計を加算すると、その議決権割合が9/10以上となることが必要です18。 将来の事業承継の蓋然性が相当程度認められるときであること、具体的には、株式会社事業後継者が未定ではあるものの、その候補先の選定に向けて支援機関19への具体的な相談を複数回していること20が必要です。

<具体的な基準>基準の内容(ⅰ~ⅴを全て満たす場合)

(ⅰ)全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計(b)に係る議決権割合が、1/10を超えていること・・・[b>a×1/10]

(ⅱ)会社法特例による株式買取り等の手続の完了後に残る所在不明株主の保有株式に係る議決権数(b-c)に係る議決権割合が、1/10以下であること・・・[b-c≦a×1/10]

(ⅲ)経営株主等の保有株式に係る議決権数の合計(z)に係る議決権割合が過半数であること・・・[z>a×1/2]

(ⅳ)経営株主等の保有株式に係る議決権数の合計(z)及び会社法特例による株式買取り等の手続を適用する所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計(c)の合計に係る議決権割合を足した数が9/10以上であること・・・[z+c≧a×9/10]

(ⅴ)株式会社事業後継者が未定ではあるものの、その候補先の選定に向けて支援機関への具体的な相談を複数回していること

・基準を満たすケース:a=1000、b=150、c=150、z=800

・基準を満たさないケース:a=1000、b=200、c=200、z=680(経営株主等の保有株式に係る議決権数が少ない。)

(注1)「株式会社事業後継者が定まっている場合」の判断について

 厳密には株式会社事業後継者以外の他者が株式譲渡の譲受人等となるケースも存在しますが、株式会社事業後継者により当該他者が指定されているような場合21は、「❶認定申請日時点において株式会社事業後継者が定まっている場合」に該当するものとして判断します。

なお、株式会社事業後継者は、申請者の経営者の親族の場合(親族内承継)も、それ以外の第三者の場合(第三者承継)も、いずれもあり得るものとします。

(注2)自己株式に係る議決権について(会社法第308条第2項)

 会社法特例により申請者が所在不明株主の保有株式を買い取ることで当該株式が自己株式となる場合には、申請者は当該株式について議決権を有しないこととなります(会社法第308条第2項)。しかし、円滑承継困難要件の認定に関しては、会社法特例により申請者が買い取ることで自己株式となることを見込んでいる所在不明株主の保有株式についても、議決権を有するものとみなして判断することとします。これは、会社法特例の認定審査の時点では株式の買取り又はそれ以外の売却や競売のいずれを行うか選択することが求められておらず、基準の明確化という観点から一律に取り扱う趣旨によるものです。

 なお、認定申請日時点において申請者が保有する自己株式については、同項の規定どおり議決権を有しないことを前提に判断します。

3 都道府県知事の認定の申請手続

(1)認定申請書の記載要領(様式第6の4)

【様式記載事項についての補足説明】

「1 申請者に係る以下の事項」について以下のとおり記載してください。

「(1) 主たる事業内容」には、認定申請日において営んでいる事業内容(一般機械製造業、繊維・衣服等卸売業、一般飲食店等)を記載してください。

「(2) 資本金の額又は出資の総額」には、認定申請日における(株式会社である)申請者の資本金の額を記載してください。

「(3) 常時使用する従業員の数」には、認定申請日における申請者が常時使用する従業員の数を記載してください。

①経営困難要件

(提出書類)

・申請者の代表者の「年齢」を示すための当該代表者の生年月日を公的に示す書類等(マイナンバーカード表面22や運転免許証の写し、住民票等)

・申請者の代表者の「健康状態」を示すための医師の診断書

・ 申請者の役員や幹部従業員が退職した経緯等を示すための報告書等

・ 申請者の業績が外部環境の急激な変化により突然悪化したこと等を示すための書類(令和元年12月以前の期間を含む確定申告書・法人事業概況説明書その他の過去の業績を示すための書類及び令和2年1月以後の3月間の売上台帳等)の写し等

②円滑承継困難要件【様式第6の4(別紙2)】

【様式記載事項についての補足説明】

  「①株主名簿に記載又は記録がされた氏名又は名称及び住所」には、所在不明株主の株主名簿上の氏名又は名称及び住所を記載してください。

 「②保有株式の数(種類株式発行会社にあっては、保有株式の種類及び種類ごとの数)」には、所在不明株主の株主名簿上の保有株式数(種類株式発行会社にあっては、所在不明株主の株主名簿上の保有株式の種類及び種類ごとの数)を記載してください。

 「③保有株式に係る議決権の数(以下「議決権数」という。)」には、所在不明株主の株主名簿上の議決権数を記載してください。

 「④保有株式につき株券が発行されているときは、当該株券の番号」には、所在不明株主の保有株式につき株券が発行されているときにその株主名簿上の株券番号を記載してください。

  「⑤本特例による競売及び売却に関する手続の適用」には、本特例を適用して株式買取り等に関する手続を進める場合には「適用有り」と記載してください。

 「⑥所在が不明となった経緯」には、所在不明株主の所在が不明となった経緯を記載して下さい。特に次の点は必ず記載してください。

 申請者が当該所在不明株主から最後に連絡を受け取った時期及び連絡方法

 申請者が当該所在不明株主に対して最後に発した通知又は催告の時期及び方法

株式会社事業後継者が定まっている場合はa~d)の情報を記載

a:申請者の総株主等議決権数

b:全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計

c:本特例による競売及び売却に関する手続を適用する所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計

d:株式会社事業後継者が要求する議決権数

  「a: 申請者の総株主等議決権数」には、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の数23を記載してください。

  「b:全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計」には、全ての所在不明株主の保有株式についての議決権数の合計24を記載してください。

  「c:本特例による競売及び売却に関する手続を適用する所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計」には、本特例を適用して株式買取り等に関する手続を進める所在不明株主の保有株式についての議決権数の合計25を記載してください。

 「d:株式会社事業後継者が要求する議決権数等」には、株式会社事業後継者が定まっている場合、チェックボックスを埋めた上で(□に☑等と記載した上で)、株式譲渡が予定されているときには株式会社事業後継者が要求している議決権数26(事業譲渡等が予定されているときには「a×2/3」という文言)を記載してください。

3 円滑承継困難要件に該当する事実関係等

(A)又は(B)の基準については、「❶認定申請日時点において株式会社事業後継者が定まっている場合」であることを示すため、承継に係る明確な合意があることを証する書類(例えば、承継に係る基本合意書や株式譲渡契約書の写し等)を添付し、具体的な承継手法が明記されている部分が分かりやすいように適宜加工して提出してください。なお、基本合意書の時点では具体的な承継手法まで明記しない場合もありますが、その場合は(A)又は(B)の基準としては審査できませんので、留意してください。(D)の基準については、以下の対応をしてください。

  経営株主等の保有株式に係る議決権数の合計(z)及びその内訳を明記してください。その中に代表者であった者が含まれる場合には、代表者であったことが分かる申請者の登記事項証明書(閉鎖事項証明書を含みます。)を、代表者又は代表者であった者の親族が含まれる場合には、親族関係を証するための戸籍謄本等27及び親族関係図等を添付してください28。なお、(D)の基準を満たすかどうかの判定に影響を及ぼさない場合は、これらの明記及び書類の添付を省略することが可能です29。

  株式会社事業後継者が未定ではあるものの、その候補先の選定に向けて支援機関への具体的な相談を複数回していることについて、少なくとも次の点を明記して報告してください30。

・相談先の支援機関の名称、所在地及び電話番号 ・相談の日時及び場所 ・相談の具体的な内容及びそれに対する具体的な助言内容 。ただし、当該支援機関からこれらの点について明記した書類が発行された場合には、当該書類の写しを添付することで代えることが可能です。以上を踏まえて「3 円滑承継困難要件に該当する事実関係等」を記載する場合の具体例は以下のとおりです。

・ 例

A基準・株式譲渡:別添株式譲渡契約書○条○項参照

B基準・事業譲渡:別添基本合意書第○条○項参照

C基準

D基準

【経営株主等に関する記載】

・z=800

(内訳)

・500(代表者○○)・200(前代表者○○)・100(代表者○○の母・前代表者○○の配偶者)

【支援機関に関する報告】

・支援機関への具体的な相談の経緯は以下のとおり。

①2021年4月22日13:00~14:00株式会社○○(代表取締役:○○、所在地:○○、電話番号:○○)において、担当者○○との間で以下のとおり1回目の相談を行った。

  • 2021年5月1日14:00~15:00○○センター(所在地:○○、電話番号:○○。以下「○○センター」という。)において、担当者○○との間で以下のとおり2回目の相談を行った。
  • 2021年6月5日10:00~11:00○○センターにおいて、担当者○○との間で以下のとおり3回目の相談を行った。
  • 2021年6月5日15:00~16:00○○センターにおいて、担当者○○との間で以下のとおり4回目の相談を行った。

(2)添付書類(施行規則第7条第1項)

①認定申請書の写し 実際に提出する認定申請書のコピー

②申請者の登記事項証明書 認定申請日の前3月以内に作成されたもの

③申請者の定款の写 認定申請日におけるもの(原本証明付き

④申請者の株主名簿の写し 認定申請日におけるもの(原本証明付き)

⑤申請者の誓約書 申請者が上場会社等に該当しない旨

⑥その他参考となる書類

事案ごとに異なり、具体例は以下のとおり(前述の「(1)認定申請書の記載要領(様式第6の4)」参照)

(ⅰ)経営困難要件関係

・ 申請者の代表者の「年齢」を示す書類

・申請者の代表者の生年月日を公的に示す書類等(マイナンバーカード表面や運転免許証の写し、住民票等)

・申請者の代表者の「健康状態」を示す書類

・ 申請者の代表者の「健康状態」を示すための医師の診断書等

・「その他の事情」を示す書類

・申請者の役員や幹部従業員が退職した経緯等を示すための報告書等

・申請者の業績が外部環境の急激な変化により突然悪化したこと等を示すための書類(令和元年12月以前の期間を含む確定申告書・法人事業概況説明書その他の過去の業績を示すための書類及び令和2年1月以後の3月間の売上台帳等)の写し等

(ⅱ)円滑承継困難要件関係

<(A)又は(B)の基準>

・承継に係る明確な合意があることを証する書類

・承継に係る基本合意書や株式譲渡契約書の写し等(具体的な承継手法が明記されている部分が分かりやすいように適宜加工して提出)

<(D)の基準>

・ 経営株主等の中に代表者であった者が含まれる場合にその者が代表者であったことを証するための書類

・その者が代表者であったことが分かる申請者の登記事項証明書(閉鎖事項証明書を含む。)

・経営株主等の中に代表者又は代表者であった者の親族が含まれる場合に親族関係を証するための書類

・戸籍謄本等及び親族関係図等

・認定申請書に記載されている経営株主等のうち保有株式に係る議決権割合が過半数である株主がいる場合、当該株主が申請者以外の一定の法人を通じて間接的に株式を保有していることを証するための書類

・ 当該法人の登記事項証明書、定款の写し及び株主名簿の写し

・株式会社事業後継者の候補先の選定に向けて支援機関への具体的な

・ 認定申請書に「別添報告書のとおり」等と記載する場合は任意の形式で記載した報告書等(ただし、支援機関から必要事項について明記した書類が発行された場合は当該相談を複数回していることを報告する書類(書類の写しの添付で代えることが可能)※ 基準の判定に影響を及ぼさない場合、省略可

各添付書類について、以下、留意点を説明します。

① 認定申請書の写し

 記入した認定申請書(別紙1及び別紙2を含みます。)の写しを提出してください。実際に提出する認定申請書をコピーしてください。

② 申請者の登記事項証明書

 申請者の「履歴事項全部証明書」等を提出してください。ただし、認定申請日の前3か月以内に作成されたものに限ります。

③ 申請者の定款の写し

 認定申請日時点における有効な内容を確認する必要があるため、認定申請日付けの原本証明付きの写しをご提出ください。なお、原本証明として最低限、❶当該書類に記載された内容が原本と相違ない旨の文言、❷認定申請日の日付、❸会社・代表取締役の氏名・名称を記載してください。

④ 申請者の株主名簿の写し

 会社法第121条が定める株主名簿記載事項を記載している株主名簿を提出してください。認定申請日時点における有効な内容を確認する必要があるため、認定申請日付けの原本証明付きの写しをご提出ください。なお、原本証明として最低限、❶当該書類に記載された内容が原本と相違ない旨の文言、❷認定申請日の日付、❸会社・代表取締役の氏名・名称を記載してください。

【会社法第121条】(抜粋)

(株主名簿)

第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

一 株主の氏名又は名称及び住所

二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

三 第一号の株主が株式を取得した日

四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

⑤ 申請者の誓約書

 申請者が上場会社等に該当しない旨の誓約書を提出してください。当該誓約書には、例えば、「当社は、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第67条の11第1項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社に該当しない旨を誓約します。」等と記載してください。

⑥ その他参考となる書類

・ 前述の「(1)認定申請書の記載要領(様式第6の4)」において添付書類として要求する書類を提出してください。

・前述のとおり、「資本金の額」だけでは判断できず「常時使用する従業員の数」(従業員数)の精査を要すると思われる場合等には、参考となる書類として、例えば以下のような書類の提出を求めることがあります(施行規則第1条11項に定める「従業員数証明書」参照)。

厚生年金保険・健康保険の標準報酬月額決定通知書及びその発行後の変動についての被保険者資格取得(喪失)確認通知書の写し

・被保険者縦覧照会回答票の写し

(3)申請先(法第17条、施行令第2条)

法に基づく申請等の受付は、主たる事務所が所在している都道府県31にて行っております。都道府県の担当課については、中小企業庁HPをご覧下さい。

(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm)

中小企業庁 → 事業承継 → 経営承継円滑化法による支援

4 その他都道府県知事の認定に関する諸事項

(1)認定の通知及び有効期間(施行規則第7条第14項、第8条第9項)

都道府県知事は、認定をした際には、申請者に対して認定書を交付します。

 認定の有効期限は原則として認定を受けた日(認定書の日付)の翌日から起算して2年を経過する日となります。ただし、当該2年を経過する日までに裁判所に会社法特例に基づく株式買取り等に係る事件の申立てがされた場合には、有効期限は当該株式買取り等が行われた日となります。 したがって、本マニュアルによって申請した認定を受けた後、その翌日から2年以内には裁判所に対して必要な手続の申立てを行う必要があります。

(2)認定の取消し(施行規則第9条第1項第4~6号)都道府県知事の認定は、一定の場合に取り消されることがあります。

【施行規則第9条第1項】(抜粋)

第9条 都道府県知事は、法第12条第1項の認定(第6条第1項第7号及び第8号の事由に係るものを除く。)を受けた中小企業者(以下「認定中小企業者」という。)が、次に掲げるいずれかに該当することが判明したときは、その認定を取り消すことができる。

四 当該認定中小企業者が特例株式会社である場合にあっては、次のいずれかに該当すること。

イ 法第十二条第一項第一号ホに該当する者として同項の認定を受けたにもかかわらず、法第十五条に定める所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例の適用のための手続をしないこと。

ロ 裁判所に第十五条の二第一号に掲げる特例対象株式の競売又は売却に係る事件の申立てがされた場合において、当該申立てが取り下げられ、又は却下されたこと

五 偽りその他不正の手段により当該認定を受けたこと。

六 当該認定中小企業者から第十八項の申請があったこと。

5 都道府県知事の認定後の手続(参考)

(1)会社法特例における異議申述手続

【会社法第196条~第198条】(抜粋)

(株主に対する通知の省略)

第百九十六条 株式会社が株主に対してする通知又は催告が五年以上継続して到達しない場合には、株式会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しない。

2 前項の場合には、同項の株主に対する株式会社の義務の履行を行う場所は、株式会社の住所地とする。

3 前二項の規定は、登録株式質権者について準用する。

(株式の競売)

第百九十七条 株式会社は、次のいずれにも該当する株式を競売し、かつ、その代金をその株式の株主に交付することができる。

一 その株式の株主に対して前条第一項又は第二百九十四条第二項の規定により通知及び催告をすることを要しないもの

二 その株式の株主が継続して五年間剰余金の配当を受領しなかったもの

2 株式会社は、前項の規定による競売に代えて、市場価格のある同項の株式については市場価格として法務省令で定める方法により算定される額をもって、市場価格のない同項の株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することができる。この場合において、当該許可の申立ては、取締役が二人以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない。

3 株式会社は、前項の規定により売却する株式の全部又は一部を買い取ることができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 買い取る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

二 前号の株式の買取りをするのと引換えに交付する金銭の総額

4 取締役会設置会社においては、前項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。

5 第一項及び第二項の規定にかかわらず、登録株式質権者がある場合には、当該登録株式質権者が次のいずれにも該当する者であるときに限り、株式会社は、第一項の規定による競売又は第二項の規定による売却をすることができる。

一 前条第三項において準用する同条第一項の規定により通知又は催告をすることを要しない者

二 継続して五年間第百五十四条第一項の規定により受領することができる剰余金の配当を受領しなかった者

(利害関係人の異議)

第百九十八条 前条第一項の規定による競売又は同条第二項の規定による売却をする場合には、株式会社は、同条第一項の株式の株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨その他法務省令で定める事項を公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、三箇月を下ることができない。

2 第百二十六条第一項及び第百五十条第一項の規定にかかわらず、前項の規定による催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主及び登録株式質権者の住所(当該株主又は登録株式質権者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先を含む。)にあてて発しなければならない。

3 第百二十六条第三項及び第四項の規定にかかわらず、株式が二以上の者の共有に属するときは、第一項の規定による催告は、共有者に対し、株主名簿に記載し、又は記録した住所(当該共有者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡

先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先を含む。)にあてて発しなければならない。

4 第百九十六条第一項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定は、第一項の規定による催告については、適用しない。

5 第一項の規定による公告をした場合(前条第一項の株式に係る株券が発行されている場合に限る。)において、第一項の期間内に利害関係人が異議を述べなかったときは、当該株式に係る株券は、当該期間の末日に無効となる。

【会社法施行規則第39条】(抜粋)

(公告事項)

第三十九条 法第百九十八条第一項に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

一 法第百九十七条第一項の株式(以下この条において「競売対象株式」という。)の競売又は売却をする旨

二 競売対象株式の株主として株主名簿に記載又は記録がされた者の氏名又は名称及び住所

三 競売対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、競売対象株式の種類及び種類ごとの数)

四 競売対象株式につき株券が発行されているときは、当該株券の番号

【法第15条】(抜粋)

(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)

第十五条 第十二条第一項第一号ホに該当することについて同項の認定を受けた者(この条及び次条第五項において「特例株式会社」という。)についての会社法(平成十七年法律第八十六号)第百九十七条の規定の適用については、同条第一項第一号中「前条第一項又は第二百九十四条第二項の規定により通知及び催告をすることを要しない」とあるのは「する通知又は催告が一年以上継続して到達しない」と、同項第二号中「五年間」とあるのは「一年間」と、同条第五項第一号中「前条第三項において準用する同条第一項の規定により」とあるのは「当該登録株式質権者に対してする」と、「をすることを要しない」とあるのは「が一年以上継続して到達しない」と、同項第二号中「五年間」とあるのは「一年間」とする。

2 前項の規定により読み替えて適用する会社法第百九十七条第一項の規定による競売又は同条第二項の規定による売却をする場合には、特例株式会社は、同法第百九十八条第一項に定める手続に先立ち、前項の規定により読み替えて適用する同法第百九十七条第一項の株式の株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨その他経済産業省令で定める事項を公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者(同法第百四十九条第一項に規定する登録株式質権者をいう。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、三箇月を下ることができない。

3 次の各号のいずれかに該当する場合には、第一項の規定は適用しない。

一 前項の期間が満了していない場合

二 前項の期間内に利害関係人が異議を述べた場合

三 前項の規定による催告が同項に規定する株式の株主又はその登録株式質権者に到達した場合

4 会社法第百九十八条第二項から第四項までの規定は、第二項の規定による催告について準用する。

【施行規則第15条の2】(抜粋)

(法第十五条の経済産業省令で定める事項)

第十五条の二 法第十五条第二項の経済産業省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

一 法第十五条第一項の規定により読み替えて適用する会社法第百九十七条第一項の株式(以下この条において「特例対象株式」という。)の競売又は売却をする旨

二 特例対象株式の株主として株主名簿に記載又は記録がされた者の氏名又は名称及び住所

三 特例対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、特例対象株式の種類及び種類ごとの数)

四 特例対象株式につき株券が発行されているときは、当該株券の番号

(2)裁判所における手続

東京地方裁判所民事第8部(商事部非訟係)ホームページ

「所在不明株主の株式売却許可申立事件についてのQ&A」

(https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/dai8bu_osirase/fumei_kabunusi/index.html)

※以下は令和3年8月2日時点におけるホームページの記載を抜粋したものであり、同日以降の改訂等を反映しておりませんので、ご了承ください。

Q1. 所在不明株主の株式売却許可申立事件とは?

A 株式について,下記(1)及び(2)の要件が備わったときは,株式会社は,当該株式を競売することができます。

原則競売ですが,市場価格のある株式は,会社法施行規則38条で定める方法によって算定された額で,市場価格のない株式は,裁判所の許可を得ることによって売却することもできます。

「所在不明株主の株式売却許可申立事件」とは,裁判所に対して,この許可決定を求める申立てです。

(1)株主に対してする通知又は催告が,5年以上継続して到達しなかったとき (2)その株主が,継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったとき

*会社法施行規則38条(略)

1号:市場において行う取引によって売却する場合 当該取引によって売却する価格 2号:前号に掲げる場合以外の場合 次に掲げる額のうちいずれか高い額

イ 売却日における当該株式を取引する市場における最終の価格(当該売却日に売買取引はない場合又は当該売却日が当該市場の休業日に当たる場合にあっては,その後最初になされた売買取引の成立価格)

ロ 売却日において当該株式が公開買付け等の対象であるときは,当該売却日における当該公開買付け等に係る契約における当該株式の価格

Q2. 申立ての手続はどのようにするのですか?

A

1. 申立人・・・その株式を発行した株式会社です。取締役が2名以上いるときは,取締役全員の同意が必要です。

2. 申立手数料・・・収入印紙1000円です(民事訴訟費用等に関する法律3条1項,別表第1 16項)。申立書に貼付してください。割印はしないでください。

3. 予納郵券・・・決定謄本を裁判所の窓口で受領する場合は不要です。決定謄本を郵送にて受領したい場合のみ,通常郵便料金分が必要になります。重量によって異なりますので,事前に重さを量った上で,予納してください(目安:申立書+15グラム)。

4. 管轄・・・東京都の区部(23区)及び島嶼(伊豆諸島・小笠原諸島)に本店所在地がある株式会社は,東京地方裁判所(千代田区霞が関一丁目1番4号)です。それ以外の東京都の地域に本店所在地があるときは,東京地方裁判所立川支部(郵便番号190-8571 東京都立川市緑町10番地の4)に申立てをしてください。

Q3. どんな疎明資料が必要ですか?

A (1)履歴事項全部証明書,(2)株主名簿,(3)5年間分の株主総会招集通知書及び返戻封筒,(4)5年間分の剰余金配当送金通知書及び返戻封筒,(5)(取締役会設置会社で株式会社が買い取る場合は)取締役会議事録,(6)(当該株式会社以外の者が買い取る場合は)買受書,(7)官報(公告),(8)催告書及び発出したことが判る資料,(9)株価鑑定書,(10)(取締役が2名以上いるときは)全取締役の同意書

Q4. 申立ての際に,注意すべき点は何ですか?

A 下記(1)~(7)の事実の疎明,競売に代えて売却することの相当性,売却価格の相当性といった点に注意して,申立書及び添付書類を提出してください。 なお,『5年間継続して到達しなかった』事実の疎明は重要であり,当庁では,(代表)取締役の陳述書などの代替書面による疎明は認めていませんので,必ず5年間継続分の返戻封筒を疎明資料として提出してください。

 *会社法施行規則39条(略)

1号:競売対象株式について,競売又は売却をする旨 2号:競売対象株式の株主として株主名簿に記載又は記録がされた者の氏名又は名称及び住所 3号:競売対象株式の数(種類株式発行会社にあっては,競売対象株式の種類及び種類ごとの数) 4号:競売対象株式につき株券が発行されているときは,当該株券の番号

以上

1 中小企業庁が開催した第3回「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」配付資料1(事務局説明資料)6ページ(抜粋)(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shigenshuyaku/210125shigenshuyaku.html

2 「資本金の額」だけでは判断できず「常時使用する従業員の数」(従業員数)の精査を要すると思われる場合等には、参考となる書類として、例えば以下のような書類の提出を求めることがあります(施行規則第1条11項に定める「従業員数証明書」参照)。

厚生年金保険・健康保険の標準報酬月額決定通知書及びその発行後の変動についての被保険者資格取得(喪失)確認通知書の写し

 被保険者縦覧照会回答票の写し

3 なお、法では「上場会社等」という用語を定義しておりません。

4 当面の間、令和3年1月以後の任意の3月間(令和3年内の月を含む3月間に限ります。)については、「前年」を「前々年」と読み替えることを可能とします。

5 株式会社の「総株主等議決権数」とは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の数をいいます(施行規則第1条第14項第6号イ参照)。

6 以下、a~dは、認定申請書(様式第6の4)における次の事項と対応しています。

a:申請者の総株主等議決権数

b:全ての所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計

c:本特例による競売及び売却に関する手続を適用する所在不明株主の保有株式に係る議決権数の合計

d:株式会社事業後継者が要求する議決権数等

7 以下、株式会社事業後継者が申請者の総株主等議決権数の過半数を取得することで申請者の支配権を確保するケースを前提とします。

8 以下、特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条以下)を意味します。

9 一般的に「スクイーズ・アウト」とは、会社やその支配株主が、各種の手法により、他の少数株主の株式を、その承諾なく強制的に金銭等を対価として取得し、当該少数株主を排除することを意味します。

10 株主総会特別決議が不要となる場合もあります(事業譲渡について会社法第468条等、会社分割について会社法第784条等、新株発行について第201条第1項等参照)が、基準の明確化という観点から一律に取り扱います。

11 事業の全部の譲渡等をはじめとする重要事項については、通常の株主総会決議より慎重に判断する趣旨で、特別決議として、「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない」(会社法第309条第2項)とされます。

12 (A)の基準に係る手法及び(B)の基準に係る手法の両手法を併用する場合、原則として(A)及び(B)の両基準を満たす必要があります。例えば、株式譲渡及び新株発行を同時併用する場合、既存株式の株式譲渡について(A)の基準を満たし、新株発行について(B)の基準を満たす必要があります。具体例として、既存株式についてa=1000、b=400、c=400、d=800、X(新株発行した株式に係る議決権数)=100というケースを挙げますと、A及びBの両基準においてXを考慮せずに(a=1100、b=400、c=400、d=900という数字を前提とせずに)a=1000、b=400、c=400、d=800という数字を前提にして判断します。

13 なお、株式会社事業後継者が定まっている場合であれば、株式譲渡の手法を選択するときにおいて株式会社事業後継者が申請者の総株主等議決権数の過半数を取得しないケース(いわゆるマイノリティ投資)等についても、(B)の基準での申請を認めることとします。

14 多数の申請があった場合、「❶認定申請日時点において株式会社事業後継者が定まっている場合」の認定申請に関する審査を優先する可能性がありますので、ご了承ください。

15 株式の併合(会社法第180条以下)等の手法が選択されることがあります。

16 前述の(B)に記載したような株主総会特別決議に基づく手法による事業承継を行う場合にも、同様に支障が生じるおそれがあります。

17 6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族(民法第725条参照)をいいます。

18 認定申請書に記載されている経営株主等のうち保有株式に係る議決権割合が過半数である株主がいる場合、当該株主は特別支配株主となる蓋然性が特に高いことから、当該株主が申請者以外の一定の法人を通じて間接的に保有している株式に係る議決権数も含めることを認めることとします。当該法人は、具体的には、特別支配株主完全子法人(会社法第179条第1項本文、同法施行規則第33条の4参照)の考え方を踏まえ、以下の法人α及び法人βに限るものとします。

㈠ 経営株主等がその持分の全部を有する法人(法人α)

㈡ 経営株主等及び法人α、又は法人αがその持分の全部を有する法人(法人β)

19 「支援機関」は認定経営革新等支援機関(施行規則第3条第2項第2号ホ)に限定されるものではなく、例えば、マッチング支援等を業とするM&A専門業者やオンラインでマッチングの場を提供するM&Aプラットフォーマー、金融機関、商工団体、士業等専門家(公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士等)、全国48か所に設けられた事業承継・引継ぎ支援センター等、民間機関・公的機関を問わず、事業承継・M&Aの支援機関を広く含みます。

20 少なくとも同一の支援機関に具体的な相談を複数回して、具体的な助言を得ていることを要します。

21 例えば、個人Xが株式会社事業後継者となり、Xが一定数の株式を保有するY社が株式譲渡の譲受人となるような場合が該当します。

22 裏面にはマイナンバー(個人番号)が記載されておりますが、会社法特例の認定審査には不要ですので、裏面の写しは提出しないでください。

23 前述のとおり、自己株式に係る議決権の数も除きます(会社法第308条第2項)。

24 全ての所在不明株主の「③保有株式に係る議決権の数(以下「議決権数」という。)」の合計です。

25 「⑤本特例による競売及び売却に関する手続の適用」に「適用有り」と記載のある全ての所在不明株主の「③保有株式に係る議決権の数(以下「議決権数」という。)」の合計です。

26 前述のとおり、株式会社事業後継者が既に申請者の一部株式を保有する場合には、当該株式に係る議決権数を含みます。

27 「戸籍謄本等」とは、「戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書及び除かれた戸籍の謄本若しくは抄本又は除かれた戸籍に記載した事項に関する証明書」をいいます(施行規則第1条第9項参照)。なお、必要に応じて「法定相続情報一覧図」(施行規則第1条10項参照)で代えることも可能です。

28 前述のとおり、認定申請書に記載されている経営株主等のうち保有株式に係る議決権割合が過半数である株主がいる場合、当該株主が申請者以外の一定の法人を通じて間接的に保有している株式に係る議決権数も含めることを認めています(注18参照)。その際には、当該法人の登記事項証明書、定款の写し及び株主名簿の写しも添付してください。

29 例えば、代表者及び代表者であった者の議決権数だけで(これらの者の親族の議決権数まで含めなくとも)、(D)の基準を満たしているような場合には、これらの者の親族についての明記並びに戸籍謄本等及び親族関係図等の添付を省略することが可能です。

30 様式第6の4(別紙2)「3 円滑承継困難要件に該当する事実関係等」には「別添報告書のとおり」等と記載し、任意の形式で記載した報告書等を別途、添付して頂く形でも結構です。

31 申請者の本店が所在する都道府県であり、登記上の「本店」欄により判断します。

32 所在不明株主の株式売却許可申立事件における管轄裁判所は、「会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所」(会社法第868条第1項)です。

33 株式の競売の場合にも裁判所における手続が必要となりますが、株式の売却(買取りを含みます。)の場合とは異なり、株券が発行されている場合には、当該株券が所在する場所を職務執行区域とする執行官に対して申立てを行い、株券が発行されていない場合には、相手方(所在不明株主)の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行うことになると考えられます。なお、人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まるものとされます(民事訴訟法第4条第2項)。

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に係る所在不明株主の株式の競売又は売却に関する特例に基づく異議申述の公告

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20221116追記

参考

登記情報2022年11月号(732号)、(一社)金融財事情研究会、司法書士酒井恒雄、司法書士野入美和子「登記から一歩先へ経営法務を深化させる実務家対談―株式管理編―第7回所有者不明株問題」

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