『登記研究2023年10月908号』

『登記研究908号』2023年10月、テイハンからです。

https://www.teihan.co.jp/book/b10040217.html

法務省民事局付 森下宏輝、法務省大臣官房司法法制部審査監督課法務専門官(前法務省民事局民事第二課法務専門官)古田辰美、法務省民事局民事第二課企画係長兼所有者不明土地等対策推進第二係長 光木沙織「■民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(令和5年4月1日施行関係)」

第1 はじめに、第2 民法等の一部改正の趣旨、第3 改正法の概要、第4 施行通達

 令和5年3月28日付け法務省民二第538号法務省民事局長通達「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」(令和5年4月1日施行関係)、令和5年3月28日付け法務省民二第537号法務省民事局長通達の解説

 1 不登法改正関係

 改正不動産登記法63条第3項について、遺言執行者が指定されている場合には、共同申請となること。

 「登記義務者」から「共同して登記の抹消の申請をすべき者」への改正は、登記義務者に加えて、その相続人その他の一般承継人も含む、という意味。

 改正不動産登記規則第152条の2の規定による調査方法について、不在住証明証書、不在籍証明書の発行は、地方公共団体の裁量に委ねられているので、これらを取得できなかったとしても、調査として不十分であることにはならないこと。

 外国に住所を有する者についても通達の調査方法が適用される。

 改正不動産登記法70条2項について、既判力が生ずるものではないと考えられる。→登記義務者が反対する場合あり。登記義務者が法人の場合の趣旨は、法人としての実体が喪失していると、積極的に認定することができるケースについて、適用すると整理。

 改正不動産登記法70条の3の、30年の期間について。債権の消滅時効期間(民法166条)、解散した法人の清算手続きの期間を考慮した結果。

 改正不動産登記法70条の4について。住民基本台帳ネットワークシステムから情報を取得するためには、費用負担が生じる(住民基本台帳法30条の29)が固定資産課税台帳上の所有者に関する情報を取得するには費用負担はない。

 2 その他運用の見直し関係

 法定相続分による相続登記がされた後に相続人に対する遺贈があったことが判明した場合の更生登記について。遺産分割協議書などを添付、と記載があるが、戸籍などは記載されていない。法定相続分による登記で相続関係が判明している部分については、戸籍などの添付不要?

 法務省民事局民事第二課補佐官 三枝稔宗、法務省民事局民事第二課補佐官 河瀬貴之、法務省訟務局訟務調査室訟務企画課法務専門官(前法務省民事局民事第二課法務専門官)手塚久美子、法務省民事局民事第二課不動産登記第四係長 清水玖美■「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行に伴う相続土地国庫帰属手続に関する事務の取扱いについて(通達)」の解説(2)

第2 本要領の概要

 3 第3節 承認申請者、4 第4節 承認申請書類

 現状、書面申請に限られているので、印鑑証明書など添付書類の取り扱いについて記載。印鑑の届け出をしていない法人について、公証人の認証を受けた署名証明書でも良いのか、新しく印鑑届け出を行うのか、気になりました。

一般社団法人商業登記倶楽部代表理事・主宰者 神﨑満治郎「■商業登記倶楽部の実務相談室から見た商業・法人登記実務上の諸問題(第114回)235 理事会及び監事を設置しない一般社団法人の設立について」

 一人で一般社団法人を設立しようとしている依頼者に対して、設立時のみ妻などに依頼し社員になってもらい、設立後速やかに退社する、という方法を紹介。この方法が紙の専門雑誌に掲載されることに、どうなのだろう、と感じました。

(一社)テミス総合支援センター理事都城市代表監査委員 新井克美「■Q&A不動産表示登記(84)Q254  相接する既登記の2棟の建物の間を増築してその隔壁を除去し1棟の建物とした場合はどのような登記を申請するのか。」

 建物の合体の登記について。未だに実務で見たことはありません。平成5年法律第22号不動産登記法改正により、合体前の建物に抵当権等の登記があるときは、登記官は、職権で、抵当権などの登記を合体後の建物の登記用紙に移記するとされた。

 司法書士は、土地家屋調査士とともにする場合であれば、合体による登記などを申請する場合において、併せて所有権の登記を申請すべきときは、所有権の登記の申請手続をすることができる。2件目の所有権の登記は、共同代理申請になるのでしょうか。

 

司法書士鈴木龍介(司法書士法人鈴木事務所)「■商業登記の変遷(54)」

 登記簿の編成の変化。大福帳→バインダー→ファイル化→コンピュータ化(登記記録へ)。

渋谷陽一郎■民事信託の登記の諸問題(25)

登記研究編集室「会社法施行下で使える登記先例──実務の便覧──(1)」

 平成18年の会社法施行以降の、会社法や商業登記法及び商業登記規則の改正関連の主な先例とその概要の紹介。

【法 令】

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和4年10月28日政令第334号)

 施行期日、令和4年11月1日

農地中間管理事業の推進に関する法律による不動産登記の特例に関する政令(令和4年12月23日政令第395号)

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和5年3月30日政令第97号)

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和5年3月30日法務省令第19号)

 審査手数料、施行日の記載。

民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和5年8月2日政令第251号)

 所有不動産記録証明制度(改正不動産登記法119条の2)の施行日、令和8年2月2日。住所変更登記などの申請義務化(改正不動産登記法76条の5,75条の6)の施行日、令和8年4月1日。

【訓令・通達・回答】

▽不動産登記関係

〔6209〕不動産登記規則等の一部改正に伴う不動産登記事項証明書等の交付事務の取扱いについて(令和5年3月23日付け法務省民二第506号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局長通達)

〔6210〕不動産登記規則等の一部改正に伴う不動産登記事項証明書等の交付事務の取扱いについて(令和5年3月23日付け法務省民二第507号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局民事第二課長依命通知)

 交付請求方法として、スマートフォンの記載。

〔6211〕民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の施行に関する登記嘱託書の様式について(令和5年3月24日付け法務省民二第518号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局民事第二課長依命通知)

 所有者不明土地管理命令に関連する登記嘱託書の様式について。

『月刊登記情報2023年10月号(743号)』

『月刊登記情報2023年10月号(743号)』(一社)金融財政事情研究会からです。

法務省民事局商事課長土手敏行「遺言書保管制度が更に便利に」

 令和4年1年間の自筆証書遺言書の保管申請件数は、1万6,802件とのこと。

日本司法書士会連合会会長小澤吉徳「さらに前へ! 変革の時代を支える法律家として」

 相続登記の申請義務化と、所有者不明不動産の発生予防に関する関連法令について。家事事件、倒産事件などの各種手続、公証手続のデジタル化法制の公布状況について。成年後見制度の時代に合わせた変化について。

日本土地家屋調査士会連合会会長 岡田潤一郎「制度環境の共有から調和を目指して」

 土地家屋調査士会でも、財産管理人養成講座を行っていることを初めて知りました。実務で、お金を預かったりする業務を行うのか、気になりました。

弁護士井奥圭介・土地家屋調査士山脇優子「境界紛争の解決手続における土地家屋調査士の役割第1回総論」

 境界紛争の原因として、所有権登記の錯誤等が挙げられており、分筆前、分筆後の土地の所有権移転に関しては、きちんと地図などで確認が必要だと感じました。

弁護士(認定心理士)渡部友一郎「法律業務が楽になる心理学の基礎第1回ストレス心理学」

 業務上のストレスに対して、上手く切り抜けられるか、の判断を二次的にしている、というところは納得でした。私も無意識に行っていると思います。

司法書士 末光祐一「犯罪収益移転防止法の大改正と司法書士の実務⑴」

 犯罪による収益移転防止に関する法律の制定、改正経緯について。国際的な取り組みに合わせるような改正。

法農林水産省法務支援室長(前法務省民事局参事官) 脇村真治

法務省民事局参事官(前法務省民事法制企画官) 波多野紀夫

法務省大臣官房国際課付(前法務省民事局付) 宮﨑文康

法務省民事局付 大庭陽子

法務省民事局付 森 香太

「民事執行・民事保全・倒産および家事事件等に関する手続のデジタル化―「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」の概要―」

 家事事件の手続における裁判所が行う公告について、裁判所近くの掲示板への紙での掲示と官報が、裁判所ホームページへの掲載に変わる可能性があることを知りました(家事事件手続規則4条)。

法務省民事局商事課長 土手敏行「商業登記規則逐条解説第10回」

 嘱託登記について、地方公共団体組織認証基盤(LGPKY)発行の職責証明書が法務省ホームページに掲載されているようです。嘱託登記もオンライン申請が可能な環境が整えられつつあると感じます(商業登記規則36条4項1号ハ)。

司法書士法人鈴木事務所 司法書士鈴木龍介「中小企業とともに歩む企業法務のピントとヒント第54話中小企業だって組織再編~①合併」

 主に公告スケジュールについて。合併期日から逆算して公告掲載の申込を行う必要がある、ということでした。参考:登記情報 642号 P86~  2015年5月1日 初瀬 智彦:司法書士、小口 文隆:司法書士、浦田 融:司法書士 「司法書士入門~いまさら聞けない登記実務~SeasonⅡ 第8回 吸収合併による変更登記」

令和5年7月31日規制改革推進会議法人の実質的支配者情報に関するFATF勧告への対応及び定款認証の改善による起業家の負担軽減について

令和5年7月31日規制改革推進会議

規制改革推進会議 書面議決令和5年7月31日(月)決定(書面議決)

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/230731/agenda.html

( 議事 )

法人の実質的支配者情報に関するFATF勧告への対応及び定款認証の改善による起業家の負担軽減について

意見書

法人の実質的支配者情報に関するFATF勧告への対応及び起業家の負担軽減に向けた定款認証の見直しについて

令和5年7月31日

規制改革推進会議

1 法人の実質的支配者情報に関するFATF勧告への対応について

 経済・金融サービスのグローバル化、暗号資産の普及といった技術革新により、資金の流れが多様化し、国境を越える取引が容易になっている中で、犯罪によって得た収益の出所などを分からなくするマネー・ローンダリング(以下「マネロン」という。)等の手口が複雑化・高度化しており、その対策の重要性はこれまで以上に高まっている。

 その中で、国際的にマネロン等対策の中心的な役割を担っているFATF(Financial Action Task Forceの略称。以下「FATF」という。)の勧告24は、法人の実質的支配者情報の取得・把握の実効性を確保する措置を講ずるよう求めているが、令和3年8月に公表された第4次対日相互審査報告書において、我が国の評価は「一部適合」(Partially Compliant:4段階中下から2番目の評価、不合格水準)に留まっており、勧告に適合するために更なる措置が必要である。

令和3年8月30日 令和5年1月4日更新

金融庁

FATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査報告書の公表について

https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210830/20210830.html

 さらに、勧告24は、法人の悪用を防止する観点から、令和4年3月に改訂され、捜査当局によって、法人の実質的支配者をタイムリーに特定するメカニズムとして、

1)法人に対して実質的支配者情報の取得・保持の義務化(カンパニーアプローチ)、

2)公的組織(税当局、金融情報機関、登録機関等)による実質的支配者情報の保持(レジストリアプローチ)又はその代替的メカニズムの義務化

 などが求められることとなり、勧告事項が厳格化された。次の第5次対日相互審査では、改訂勧告に基づいて審査が行われるため、対応が必要である。

 これまで、我が国では、公証人による定款認証時における法人の実質的支配者の把握、商業登記所における株式会社の実質的支配者リストの保管等が行われているが、公証人には会社設立後の実質的支配者の把握に関与する仕組みがなく、実質的支配者リストも任意の仕組みであり、現時点では、我が国の国内法制度では、カンパニーアプローチ及びレジストリアプローチ又はその代替的メカニズムを満たすものは存在しておらず、法人の実質的支配者情報の一元的かつ継続的・正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備が必要である。

 海外の取組として、英国では、法人自身に対して実質的支配者名簿の作成と当該実質的支配者の政府の登録機関への登録を会社法で義務付けている。ドイツでは、法人自身に対して実質的支配者情報を取得等すること及び登録機関へ通知することを資金洗浄法(Geldwäschegesetz)で義務付けている。

Register an overseas entity and its beneficial owners

https://www.gov.uk/guidance/register-an-overseas-entity

 米国では、Corporate Transparency Actにおいて、法人に対して、自分の実質的支配者を政府の登録機関に報告することを義務付けている。カナダでは、会社法を改正し、法人に対する実質的支配者名簿の作成・保持を義務付けた上で、会社法において、法人に対し、当該実質的支配者の名簿の内容をカナダ企業庁に報告する義務を課す仕組みとしている。

 法務省からは、直接的な目的が公法上である場合は純粋な私法である会社法にはなじみにくいこと、実質的支配者情報については、会社法における解散命令のような抽象的なものではなく、極めて細かいルールになっているため、会社法制に組み込んでいくことは難しい面があること、例えば、市場規制に関する部分は金融商品取引法などに規定があるように、必ずしも会社に関する規定を会社法において一元的に規定されているわけではないこと、商業登記所が実質的支配者情報を登録する受け皿となることは考えられることなどの見解が示された。

 一方で、規制改革推進会議委員からは、FATFは国際的な枠組みであり、会社法は私法だからといっても国際的な理解は得られないこと、会社法には公益に反する場合の解散命令など公益目的の規定も存在し、実質的支配者情報の取得及び保持を全ての会社に義務化することがFATFより求められていることへの対応としては、本来、会社法の規定で行うべきと考えられること、会社という組織形態によって経済活動を行う場合に、適切な形で利用されていくことを確保することは会社法の目的又は目的の大前提に含まれていると考えられること、会社に対する一般的な信頼性を確保するために、実質的支配者の情報を収集することが会社法の目的に反するものとは考えられないことなどの意見が示された。

 規制改革推進会議としては、法務省は、令和5年中に、会社法又は商業登記法を根拠とする実質的支配者情報の取得及び保持並びにその商業登記所への登録を行う制度整備を検討し、結論を得るとともに、当該法務省の検討と並行して、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策関係府省庁(法人の実質的支配者情報に関する府省庁に限る。以下、同じ。)は、令和5年中に、会社法等に代替する方策も検討するべきと考える。

 その上で、警察庁、金融庁、法務省、財務省及び経済産業省(省庁の記載の順序は、建制順。以下、同じ。)は、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」(令和4年5月19日マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議決定)に基づき、令和5年度中に、法人の実質的支配者情報の一元的かつ継続的・正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進め、結論を得るべきである。

 日本の日程は決まっていないものの、FATFの第5次審査が令和7年から順次開始される中で、日本の第5次審査に間に合うようにカンパニーアプローチ及びレジストリアプローチ又はその代替的メカニズムを確立するためには、スピード感を持った取組が必要であることから、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策関係府省庁における迅速かつ前向きな検討を期待している。

 これらを踏まえて、下記の措置を講ずるべきである。この措置については、警察庁、金融庁、法務省、財務省及び経済産業省において結論を得る前に規制改革推進会議で議論等を行うことを予定している。

以上

 警察庁、金融庁、法務省、財務省及び経済産業省(※)は、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」(令和4年5月19日マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議決定)に基づき、令和5年度中に、法人の実質的支配者情報の一元的かつ継続的・正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進め、結論を得る。

※省庁の記載の順序は建制順

2 起業家の負担軽減に向けた定款認証の見直しについて

(1)政府における動き

 「規制改革推進に関する答申~転換期におけるイノベーション・成長の起点~」(令和5年6月1日規制改革推進会議決定)において、我が国の経済の持続的成長にとって、スタートアップは、イノベーションの担い手として、新たな需要・消費の創出とともに、大きな雇用を生み出す原動力となるものであり、「新しい資本主義」の実現に欠くことのできない要素であり、スタートアップフレンドリーな環境整備に向けた総合的な規制改革を、スピード感を持って進めていく必要があると述べた。

 「経済財政運営と改革の基本方針2023」(令和5年6月16日閣議決定)においても、GX・DXなど新たな産業構造への転換を進め、持続的な成長を確保していくため、新たな参入と再チャレンジの際の退出の障壁を低くし、スタートアップが成長できる環境の整備が不可欠であり、スタートアップ育成の観点から、規制改革の推進等に取り組むこととされるとともに、行政手続のデジタル完結を進めるとされ、マイナポータルの利便性向上に加えて、個人や法人の税務・社会保障を始めとする各種手続の負担軽減に向けた取組を進めるとされた。

さらに、令和5年6月21日の岸田内閣総理大臣の記者会見では、政権の優先課題として、デジタルの力をフルに活用した令和版デジタル行財政改革に挑戦していく、ユーザー視点に立って制度や組織を一体的に変える、こうした取組を進める上で大きな役割を担うのは、デジタル社会のパスポートであるマイナンバー、マイナンバーカードという旨の発言もあった。

(2)総論

経済界からは、以下の意見等が述べられた。

○ スタートアップ・エコシステムの形成は、各国で制度間競争になっており、日本が負けないように、世界最高水準のスタートアップフレンドリーな環境を構築することが喫緊の課題。

○ 定款認証の面前確認が、日本の法人設立手続の完全なワンストップ化、デジタル化の阻害要因。

→1のFATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査報告書によれば、規制を強くする方向に働くので、有効ではないかと感じるのですが、国際き手にはそうではないのか。

○ スタートアップの起業時はやるべきことが山積している中で、起業家にとって時間と費用双方の負担となっていることは極めて遺憾。

○ スタートアップの定款認証については、モデル定款とマイナンバーカードによる本人確認を活用して、デジタル完結可能な、ファストトラックの選択肢が強く要望される。

→デジタル完結には賛成ですが、モデル定款を活用するいは、起業家が定款がどのようなものか一定の理解をする必要があり、大きくスピードに関わるかというと分かりませんでした。

○ 令和4年度に法務省が実施した定款認証に係る公証実務に関する実態を把握するための調査の結果を見ても、公証人による面談と定款認証が必須であることを端的に示す結果は確認できず、むしろ、公証人の指摘事項を見ると、モデル定款のブラッシュアップ等で対応できるのではないか。

○ 公証人による面談、定款認証がなくても差し支えないことを示す結果が多く、モデル定款を修正・改善し、今後のモデル定款の活用方策を検討していく方法が良い。

○ スタートアップ振興の観点から、デジタル原則に照らした改革を是非進めるべき。

○ 一定の定款については公証人による認証を必要とすること自体をゼロベースで見直し、不要とすることを早期に実現していただきたい。

○ 法務省の調査でも発起人及び代理人の面前確認の時間はとても短いことが分かったが、実体験としても、非常に短時間でそれほど会話もなく終わっている。

○ 短時間の面談での実効的な人物評価や不正防止は不可能。こうした不正防止は一律に行う事前チェックではなく、リスクの高さに応じた事後チェックで行うべき。

→リスクの高さに応じた事後チェック、というのは、設立登記で実質的支配者情報を提出義務化し、実質的支配者が海外国籍だったり、法人だったりする場合に、公証人か登記官が面談確認を行う、というような方法なのか、気になりました。

○ デジタル臨時行政調査会で行われたデジタル原則に基づくアナログ規制の

見直しを公証人による定款認証にも適用すべき。

○ 民間のデジタル技術を活用した判断の標準化・自動化・無人化によって、公証人の定款認証の撤廃・任意化を行えないか。

委員からは、以下の意見等が述べられた。

○ 定款認証の目的として、①定款の内容が矛盾していないか、②会社法その他関係法令に違反していないかを確認すること、③定款作成の意思の真正性を確認すること、④不正な起業や会社設立を抑止すること、⑤実質的支配者を把握することがあげられているが、公証人による面前確認という手段には非常に大きな社会コストがかかっているが、他の手段が生まれ始めてきており、ゼロベースでどういうやり方が望ましいのか、制度目的を実現するために、公証人による定款認証が最適な手法であるのか、一番望ましい取るべき方法は何かを検討するべき。

○ 法務省の説明からは、デジタル臨時行政調査会で議論しているデジタル完結や自動化原則といったデジタル原則に沿った検討がなされていないように思われる。会社設立は一定の数がある手続であり、新規事業創出という意味でも極めて重要なものであり、しっかりと見直しを進めるべき。

公証人には、公正証書遺言など社会的な要請がこれから高まってくるような分野もあり、スタートアップという非常に時間と資金の制約に追われている方たちに対することは根本から問い直す必要がある。

→資金面では見直しが出来るなら、低額が望ましいと思います。その場合は、解散・清算する場合の費用も同じ程度の金額に見直して欲しいと思います。

○ FATF勧告で求められている、法人に対する実質的支配者情報の取得・保持の義務化及び公的組織(税当局、金融情報機関、登録機関等)による実質的支配者情報の保持又はその代替的メカニズムの義務化という手段が出てきた場合には、公証人による定款認証の果たす役割はかなり減っていくはず。

(3)モデル定款について

モデル定款に関して、法務省から、以下の意見等が述べられた。

○ 切り分け方として、明確にモデル定款と分かる仕組みがどのような形で担保できるのか。

○ 法制度としてどのような形になるのかわからず、法制的に難しい。

○ 会社法は機関設計だけでも 30~40通りといった様々なものがあり得て、利用者の方がそれを自由に選ぶという立て付け。デフォルトのルールがない中で何をモデルにするのかということが難しい。

現在提供されているサービスでは、システム的なチェックでもまだはじかれていないものがあり、自動化が現時点ではできていない。

→現状システムでは、こんなはずじゃなかった、と後で変更登記、となると余計に時間・金銭費用がかかる。

委員等からは、以下の意見等が述べられた。

○ 民間調査によれば、現在提供されているモデル定款を工夫して独自の内容を追加する必要がないという回答が約7割。

→モデル定款、というのは法務省のサイトにある定款ではないみたい。あとで、こんなはずじゃなかった、がない定款のことを指しているのかなと想像します。そういう定款は、現在思い付く限りではないんじゃないかと思います。

○ 大多数はシンプルな定款の構成。全ての会社形態をモデル定款でカバーする必要はなく、モデル定款の方と弁護士なども活用して独自の定款を作成する方とツートラックを設ければよい。

○ 定款自治の意義はやりたい人がいろいろと自由にできるということにあるのであってシンプルな定款で満足している者に複雑なアレンジをすることを積極的に推奨しなければならないわけではない。

○ 法務省の調査結果における公証人の指摘は、より良いモデル定款をつくったり、選択肢で記載する部分を増やしたりといった機械的なチェックをかけることで対応できそうなものが多い。例えば、違法性を示すようなキーワードをリストとして指定してしまえば、それをはじくこと自体は何ら難しくなく、最終的な人のチェックも、公証人ではなく、登記所で処理すればよい。

○ チェックすること自体を機械に任せた方が速いし、正確だということになっている中で、エラーがある言葉があればはじくという方がチェックのカバレッジ、正確性及び迅速性の観点で、より勝っている。

(4)公証人が面前確認を行っていない事例に関する報告

法務省及び民間の調査において、公証人が面前確認を行っていない事例が報告されたことに関して、法務省から、そのような実態があったかどうかを確認しているが、以下の点を踏まえて評価する必要があるという見解が述べられた。

○ 法務省調査ではそのような回答はごくわずかである。

○ ごく一部の役場を除いて全て面前確認を行っているという説明を受けており、その内容も不自然・不合理ではなく、回答の際に入力や操作ミスがあった可能性がある。

○ 必ずしも公証人が自ら公証人であることを明らかにせず事務的に手続を進め、応対した方が公証人であることを認識されなかったケースがあり、回答者の誤解に基づく回答がされた可能性がある。

これに対して、委員等からは、以下の意見等が述べられた。

○ 弁護士や司法書士などの専門家からの回答でも、公証人が面前確認していないという回答があり、それら全てが誤解といえるのかは疑問である。

○ 法務省の回答からは、公証人が面前確認しなかったという事実はあってはいけない、そういう回答があったのは、回答者の間違いだということにしようという意思が見られ、民間の調査結果を見れば、公証人が面前確認を行わなかったことが常態化していたのではないかと思われる。

○ バイアスをかけずに実態を正しく把握すべき。

○ 公証人が面前確認を行っていないことについて法務省が全体像をつかめないような状況になっており、ガバナンス不全となり、機能していない可能性がある。

○ 自ら規律を守れない公証人が一定数存在し、その改善策ができない中で公証人制度を続けていることができるのかについて疑問が大きい。

○ こうした点について、第三者委員会を設置するなどして、しっかりと調査をしていくことが重要である。

○ コンプライアンス・ガバナンスを欠くものだといわざるを得ず、公証人制度のみならず、我が国の司法や法務省の信用を失墜させる事態だと重く受け止めるべき。

(5)講ずるべき措置

 これらを踏まえて、下記の措置を講ずるべきである。この措置については、必要に応じて、法務省において結論を得る前に規制改革推進会議等で議論等を行うことを予定している。

 法務省は、公証実務に関する実態を把握するための調査の結果分析、定款認証が果たすべき機能・役割の評価及びその結果に基づく定款認証の改善に向けたデジタル完結・自動化原則などのデジタル原則を踏まえた上での面前での確認の在り方の見直しを含めた起業家の負担を軽減する方策の検討に当たっては、事実関係の確認において予断を排除すること、①内容の法令適合性等の確保、発起人の意思の真正等の確保、不正な起業抑止、実質的支配者の把握といった定款認証の機能に関し、それらの効果とリスクや負担・コストとの比較考慮を行い、その際には、デジタル技術の活用等を含め代替となり得る制度・手段についても検討すること。

→公証人による定款認証については、必要、不要、どちらでもなく決まったことに従います。起業に関しては、、FATF勧告に従うことが第1なのか分かりませんでした。金銭的な費用を抑えるよりも、時間や手続の工数を少なくする方向で出来ないかな、と思います。

加工法制審議会担保法制部会第35回会議

加工法制審議会担保法制部会第35回会議(令和5年7月11日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00205.html

担保法制部会資料 29-4

「担保法制の見直しに関する中間試案」に対して

寄せられた意見の概要(第16 から第22 まで)

○ 意見募集の結果、担保法制の見直しに関する中5 間試案(以下「試案」という。)に対し、合計73 通の意見が寄せられた。

意見を提出した団体の名称とこの資料中での略称は(意見提出団体とその略称対比表)のとおりであり、個人については単に「個人」と記載している。

○ この資料では、試案に掲げた個々の項目について寄せられた意見を【賛成】【反対】などの項目に整理し、意見を寄せた団体等の名称を紹介するとともに、理由等が付されているものについてはその関連部分の概要を紹介している。また、その他の意見については【その他の意見】などとしてその概要及び意見を寄せた団体の名称を紹介している。なお、寄せられた意見の中で、表現等が異なっても同趣旨の意見と判断されるものについては、同一の意見としてとりまとめた。また、意見は、団体、個人の順に掲載し、団体間及び個人間では五十音順(団体については、次の略称対比表記載の順)に掲載している。

(意見提出団体とその略称対比表)

団体名 略称

一般社団法人生命保険協会 生保協

一般社団法人全国銀行協会 全銀協

一般社団法人全国信用金庫協会 全信協

一般社団法人全国地方銀行協会 地銀協

一般社団法人日本自動車リース協会連合会 自動車リース協

一般社団法人流動化・証券化協議会 流動証券協

ABL協会 ABL協

大阪司法書士会 大阪司

大阪弁護士会 大阪弁

大沼労働組合 大沼労組

神奈川県弁護士会 神奈川弁

株式会社ミロク情報サービス 税経システム研究所 商事法研究会 ミロク

企業法実務研究会 企業法研

経営法友会 経営法友会

公益社団法人リース事業協会 リース事業協

最高裁判所 最高裁

札幌弁護士会 札幌弁

産業別労働組合 JAM JAM

静岡県司法書士会 静岡司

自動車販売金融会社協議会 販金協

全国中小企業団体中央会 全中

全国倒産処理弁護士ネットワーク 全倒ネット

全国労働組合総連合 全労連

専門店ユニオン連合会 専門店ユニオン

第一東京弁護士会 一弁

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第4章 担保権の倒産手続における取扱い

第16 別除権としての取扱い

破産手続及び再生手続において、新たな規定に係る担保権を有する者を別除権者(破産法第2条第10 項、民事再生法第53 条)として、更生手続において、新たな規定に係る担保権の被担保債権を有する者を更生担保権者(会社更生法第2条第11項)として、それぞれ扱うものとする。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、静岡司、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日司連、日弁連、研究者有志

・ 現行法の理解とも整合するものであり合理的。実務上も、破産・再生手続上は別除権者として、更生手続上は更生担保権者として処遇されており、また、判例でも、所有権留保について再生手続上別除権として扱われることを前提とした判断をしたもの(最判平成22 年6月4日民集64 巻4号1107 頁)や、譲渡担保権者が更生手続上更生担保権者として扱われるとしたもの(最判昭和41年4月28日民集20巻4号900頁)がある。

・ 新たな規定に係る担保権が担保権としての法的実質を持つ以上、新たな規定に係る担保権を有する者については、従前の如く、解釈・実務上の運用に委ねずに、明文規定をもって、破産手続・再生手続において別除権者、更生手続において更生担保権者としての地位を与えて、それぞれの規律に服させるのが相当。

・ 新たな規定に係る担保権について、担保権実行手続中止命令・禁止命令/担保権実行手続取消命令の各制度の対象とすることを予定する以上、その前提として定めておく必要がある。

・ 現行法における通説・判例を明文化するものであり、妥当。

・ 現行法における通説、実務においても別除権者として扱われており、これを整備して明文化すべき。

・ 実務上、譲渡担保権や所有権留保は、倒産手続において、別除権又は更生担保権の基礎となる担保権として扱われている。

・ 理論及び実務の観点から妥当。

・ 現行の判例、通説及び実務の多数において、譲渡担保権者及び留保所有権者は、破産及び民事再生手続上は別除権者として、更生手続上は更生担保権者と取り扱われており、規律として妥当。

・ 現在の判例・実務・通説の立場と整合的であり、「新たな規定に係る担保権」に関する実体法上の法的性質如何にかかわらず、この担保権者を別除権者または更生担保権者として処遇する旨の明文規定を置くことが望ましい。

【反対】

個人

・ 新たな規定に係る担保権の目的財産は、そもそも破産財団や再生債務者財産に属しないため、別除権とならないのではないか。

【その他の意見】

・ 「債権譲渡担保権」について、倒産前に債務者対抗要件、第三者対抗要件を具備した債権譲渡について、その譲渡された債権が「別除権」になるという判例は存在しないのではないか。(個人)

・ 一部につき反対。所有権留保及び譲渡担保のうち、占有改定を対抗要件として主張するものについては、優先弁済権を否定(対抗できないものと)して、一般債権者とし倒産手続に参加させるべきである。債務者の手元に直接占有が残る動産について、そこに優先弁済権の徴表がなんら見受けられないならば、それにつき優先担保を認めるのは破産者の一般債権者に対する騙し討ち以外の何物でもない。

新たな規定に係る担保権について別除権と承認されるのは、倒産手続の開始決定以前(及び支払不能等の危機時期以前)から、登記・登録がされ若しくは物に明認方法が施されるなど、担保物であると、一般債権者に予測可能な状態であった場合に限られる。

(個人)

第17 担保権実行手続中止命令に関する規律

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無

⑴ 新たな規定に係る担保権の実行手続(私的実行手続を含む。下記⑵において同じ。)を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同法第31 条)の対象とする。

⑵ 新たな規定に係る担保権の実行手続を会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令(会社更生法第24 条、会社法第516条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第27 条)の対象とする。

⑶ 債権質の実行手続(私的実行手続を含む。)を上記⑴及び⑵の手続の対象とする(注)。

(注)契約による質物の処分を可能とする場合には、当該処分を上記⑴及び⑵に規定する担保権実25 行手続中止命令の対象とするかも問題となる。

⑴から⑶までについて

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、静岡司、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日司連、日弁連、研究者有志

・ 別除権協定に向けた時間を確保するという担保権実行手続中止命令の趣旨は、新たな規定に係る担保権の実行方法を問わず、(再建型)倒産手続の種別を問わずに妥当する。また、債権譲渡担保権に類似する債権質権の実行手続にも上記の趣旨は妥当する。

・ 新たな規定に係る担保権、債権質権の双方に、民事再生法、会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令の趣旨があてはまるため妥当。

・ 新たな規定に係る担保権や債権質を別除権として取り扱うのであれば、他の別除権とされる担保権と同様に、倒産法上の中止命令の対象とすべき。

・ 新たな規定に係る担保権の実行手続についても中止命令の対象にすることが、会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく法律の趣旨に合致する。

・ 実務上、譲渡担保権について民事再生法上の担保権実行手続中止命令の対象とする運用がなされており、その他の新たな規定に係る担保権についても適用を認めるのが相当。また、会社更生法、会社法及び外国倒産処5 理手続の承認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令についても同様。債権質権についても同様の規律とすべき。

・ 理論及び実務の観点から妥当。

・ 担保権実行手続中止命令の趣旨は、新たな規定に係る担保権や所有権留保売買にも同様に当てはまるものであり、実務においても類推適用されている。

・ 従来の典型担保と同様に、新たな規定に係る担保権の実行手続についても、私的実行を含んだ上で広く中止命令制度の対象として捕捉する必要がある。

【⑶について反対】

個人

・ そもそも権利質に実行手続は存在しない。

【その他の意見】

・ 新たな規定に係る担保権の実行手続についての中止命令を認める必要性に関し、民事再生法上のものについての検討は十分に行われたと言えるが、それ以外の法律上のものについての検討は極めて不十分であった。(神奈川弁)

・ 将来債権を含む複数の債権を目的とする譲渡担保権において、債務者対抗要件の具備や取立権限の付与の解除も中止命令の対象とすべき。設定者が目的債権の取立権限を失うと、設定者は事業の維持や再生が困難になることが考えられる。中止命令が発令されたにもかかわらず、担保権者が設定者の取立権限を喪失させることができるとすると、民事再生法における中止命令の目的を達成することができなくなる場合が生ずる。(静岡司)

・ 中止命令の対象となる行為として、「債務者対抗要件具備行為」や「取立権限の喪失」を含むと解すべき。対抗要件具備行為や取立権限の喪失は、それらが実行されることによって取引の循環が絶たれ、事業の継続・再生に支障を来すことになって、中止命令の目的を達成できない。実務上もこれらの行為を禁止する中止命令の発令事例がある。また、所有権留保売買における「解除」は、特に倒産手続の場面では、実質的には担保実行そのものであり、実務上も、所有権留保売買について契約を解除する旨を通知することを禁止する中止命令の発令事例がある。(全倒ネット、一弁、日弁連)

注について

【契約による質物の処分を担保権実行手続中止命令の対象とすることに賛成】

大阪弁、東弁、担保研、研究者有志

・ 動産譲渡担保権に類似する契約による質物の処分の場合にも、担保権実行手続中止命令の趣旨は妥当する。

・ 契約による質物の処分も、私的実行に相当するものとして、対象とすべき。

【契約による質物の処分を担保権実行手続中止命令の対象とすることに反対】

神奈川弁、個人

・ 流質契約においても、質権設定者(管財人)が異議を申し立てる手続きが設けられ、そこで手続きはストップするであろうから、中止命令は必要ないのではないか。

【その他の意見】

・ 動産質の流質契約の有効性は反対する。仮に有効性が許容される場合には、当該契約による処分を中止命令の対象とすべき。

動産質において契約による質物の処分を可能とするならば、当該処分はすなわち担保権の実行であり、担保権実行手続中止命令の対象としない合理的な理由はない。(静岡司)

2 担保権実行手続禁止命令

⑴ 再生手続において、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を対象とする、実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の規定を設けるものとする(注1)。

⑵ 新たな規定に係る担保権についての再生手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。

⑶ 更生手続、特別清算手続及び承認援助手続において、上記⑴と同様に、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を対象とする、実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の規定を設けるものとする(注1)。

⑷ 新たな規定に係る担保権についての更生手続、特別清算手続及び承認援助手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。

⑸ 債権質の【実行手続/直接取立てによる実行】を上記⑴及び⑶の手続の対象とする(注2)。

(注1)担保権実行手続禁止命令の対象となる手続に関しては、担保権実行手続中止命令と担保権実行手続禁止命令とを区別しない形で法制化すべきという考え方がある。

(注2)契約による質物の処分を可能とする場合には、当該処分を上記⑴及び⑶に規定する担保権実行手続禁止命令の対象とするかも問題となる。

⑴から⑷までについて

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・ 既存の担保権実行手続中止命令制度は、担保権実行手続が開始された後に、これを中止し、以後の手続を進行させないようにする制度であるところ、担保権実行手続が開始される前の時点で、これを禁止し、手続の開始を阻止することが必要になる場合もある。

・ 新たな規定に係る動産担保権の実行は短期間で終了してしまうという問題があるため、その問題に対処すべく、規定を設ける必要がある。

・ 更生手続、特別清算手続及び承認援助手続においても、再生手続と平仄を合わせるべき。

・ 私的実行や契約による質物の処分は、その実行の着手から短期間に実行手続が完了することが多く、中止命令の実効性を確保するため、中止にとどまらず、実行前の禁止命令を認めることが不可欠である。また、禁止命令は実質的に中止命令と同じ効果を持つものであるから、その要件も中止命令と同じでよい。

・ 民事再生法上のものについては、手続が開始された後の中止だけでなく、手続が開始された前の禁止も認める必要性が特に大きい。更生手続、特別清算手続及び承認援助手続においては、担保権実行手続を中止させる必要性は、再生手続におけるほど大きくはないが、中止命令の対象とすることにしても、不都合はない。中止命令の対象とする以上は、禁止命令制度の対象とすることも要請される。

・ 中止命令は、既に継続し又は開始している担保権の実行手続を中止するもので、担保権の実行を事前に禁止する効力を有しない。新たな規定に係る担保権の実行は、実行の着手から短期間で終了するものであり、実行通知により担保目的物に関する設定者の処分権限が喪失されるとスムーズな事業活動が困難となるため、禁止命令を認めるべき。

・ 現行の譲渡担保権や所有権留保については、私的実行によって短期間で実行が終了してしまうため、実務上も、実行の着手前から中止命令が発令されている。禁止命令と中止命令との違いは、実行手続開始前に発令されるか、既に実行手続中である場合に発令されるかの違いだけであるから、実務上大きな変更を及ぼすものとは言い難く、また、再生手続の実効性を確保するためにも担保権実行手続禁止命令の規定を設けるべき。

・ 従来、裁判例において、集合債権譲渡担保の実行通知に関して、事実上、中止命令制度(民再31 条類推適用)の下、<事前の禁止命令>が発令されていたが、この運用を明文で規律することが求められる。

【その他の意見】

・ 会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律上の現行の中止命令は、民事再生法上の現行の担保権実行手続中止命令とでは、制度の目的・機能が明らかに異なる。更生手続、特別清算手続及び承認援助手続においては、担保権実行手続を中止命令を中止させる必要性は、再生手続におけるほど大きくはない。(神奈川弁)

・ 私的実行手続を対象とする担保権実行手続禁止命令については、禁止命令の対象をどのように特定するのか検討する必要があるとの指摘があった。(最高裁)

・ 「再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは」という要件を具体化すべき。(個人)

・ 担保権実行手続禁止命令を発したことによる競売申立人の遅延損害金は、一般の利益のために発生するものであるから共益債権とすべき。(個人)

・ 禁止命令が乱用される懸念は無いか。(個人)

⑸について

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・ 直接取立てによる実行によって短期間で5 実行が終了してしまう点、債権譲渡担保と同様である。

【反対】

神奈川弁

⑴、⑶及び⑸の隅付き括弧内について

【「実行手続」とすべきとする意見】

大阪弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連、研究者有志

・ 私的実行手続に関する禁止命令の発令後に競売手続が開始された場合に、中止命令の申立てを再度行うのは煩雑であるため、新たな規定に係る担保権の実行手続一般をその対象とすべき。

・ 競売による担保実行の場合は、中止命令を申し立てる時間的な猶予はあるが、競売による担保実行が禁止命令の対象とならないとすると、いったん私的実行についての禁止命令が発令された後、担保権者が競売を申し立てた場合には、設定者は新たに中止命令を申し立てる必要が生じ、無駄な時間とコストが発生する。また、少なくとも不当な損害が生じないことが要件とされる以上、担保権者の保護に特に欠けるということにはならない。

・ 禁止命令の規律は、基本的に中止命令の規律と平仄を合わせるのが整合的であり、広く担保権一般の実行手続を禁止命令の対象とした上で、実際の発令の是非は要件の判断に委ねればよい。

【⑴及び⑶につき「私的実行手続」、⑸につき「直接取立てによる実行」とすべきとする意見】

神奈川弁(⑴及び⑶のみ)、日司連

・ 中止命令に加えて、禁止命令まで必要とされるのは、新たな規定に係る担保権についての担保権実行手続としての私的実行手続が、開始されてからごく短期間のうちに終了することに基づくのであるから、禁止命令は、私的実行手続に限って、認めれば足り、競売による担保権実行の場合はそのような事情はないから、禁止命令まで認める必要はない。

・ いったん私的実行についての禁止命令が発令された後、担保権者が競売を申し立てた場合には、設定者は新たに中止命令を申し立てる必要が生じ、無駄な時間とコストが発生するとして競売による担保実行の場合にも、禁止命令を認めるべきであるとする考え方があるが、無駄な時間とコストが発生するのは、設定者の側だけであり、禁止命令まで認める合理性はない。

・ 他の担保権との均衡上、新たな規定に係る担保権の対象は、私的実行手続に限るべき。

注1について

【担保権実行手続中止命令と担保権実行手続禁止命令とを区別しない形で法制化すべきとする意見】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連

・ 禁止命令は実質的に中止命令と同じ効果を持つものであるから、その要件も中止命令と同じでよい。債務者としても、中止命令・禁止命令の申立てについては1つの手続でなしうるものとしておかないと、禁止命令申立後発令前に担保権者が実行に着手した場合(あるいは中止命令申立後発令前に担保権者が実行に着手していなかった場合)、債務者側が、再度の申立てや申立の趣旨の変更等の手続を行うことを強いられるが、これによって担保権者の利益が保護されるというものでもなく、不合理である。

・ 新たな規定に係る担保権の私的実行手続は、何をもって開始されたかが不明確であるため、中止と禁止とを厳密に区別することにすると、申立時に中止命令と禁止命令のどちらを申し立てるべきかの判断が困難となり、申立人が手続の選択に迷う事態が生じ得るから、発令要件を異なるものとするのは妥当でなく、法制化に際しては、申立に関しては、中止命令と禁止命令を区別しない形で規定すべきである。

・ 中止命令と禁止命令を別個の制度とすると煩雑であるから、区別することなく規定すべき。

・ 禁止命令と中止命令は、いずれにせよ実行の着手を止める手続であることに変わりはない。

注2について

【契約による質物の処分を担保権実行手続禁止命令の対象とすることに賛成】

大阪弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、研究者有志

・ 動産譲渡担保権に類似する契約による質物の処分の場合にも禁止命令を要する趣旨は同様に妥当する。

・ 新たな規定に係る担保権の実行と差異はなく、必要性が認められる。

【契約による質物の処分を担保権実行手続禁止命令の対象とすることに反対】

神奈川弁

・ 流質契約は、権利移転型担保の設定とは言い難い。したがって、流質契約による目的物の処分を新たな規定に係る担保権の私的実行手続と見ることはできない。

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期

担保権実行手続中止命令又は前記2に規定する担保権実行手続禁止命令のうち、新たな規定に係る担保権の私的実行に係るものについては、被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとする(注)。また、債権質の取立てに係る担保権実行手続中止命令又は前記2に規定する担保権実行手続禁止命令についても同様の規定を設けるものとする。

(注)新たな規定に係る動産担保権については、被担保債権に係る債務の消滅後も、担保目的動産が担保権者に引き渡されるまでの間設定者による担保目的動産の受戻しを認めつつ、被担保債権に係る債務の消滅時と担保目的動産の担保権者への引渡し時のいずれか遅い方を担保権実行手続中止命令等の終期とすべきという考え方がある。

【本文に賛成する意見】

ミロク、企業法研、札幌弁、長島・大野・常松有志、日司連、研究者有志

・ 担保権実行手続中止命令等は、担保権の実行手続の中止等を求める制度であるから。

債権質についても、同様の理由が妥当する。

・ 受戻権を認める必要はない。

・ 新たな規定に係る担保権の私的実行の終了の時期は、民事執行手続と異なり、必ずしも明らかではない。そのため、担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期を明文化すべきであるところ、被担保債権に係る債務が消滅すれば、当該発令の意義が失われるため、提案の規律は、妥当である。

また、債権質の取立に係る担保権実行手続も、上記と同様に考えるべき。

条件付きで賛成する意見

(【案8.2.1】及び【案15.2.1.1】を採用することを条件とする意見)

・ 中止命令または禁止命令の申立て・発令を実効的なものとするため、新たな規定に係る担保権の私的実行について(第8、2、第15、2)、【案8.2.1】及び【案15.2.1.1】を採用する(実行通知を必要とし、かつその通知から1 週間の猶予期間を設ける)ことを条件として賛成する。

【本文(後段)に反対する意見】

・ 債権質権の取立ては、事象としては債権譲渡担保の私的実行と類似するが、債権質権は他物権(制限物権)型の担保設定、債権譲渡担保は権利移転型の担保設定である。両社の法的性格の違いを無視して、実行方法の事象としての類似性から、債権質権についても、債権譲渡担保についての担保権実行手続中止命令・禁止命令と同様の規定を設けることには、疑問が残る。

【注に賛成する意見】

神奈川弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、淀屋橋・山上有志

・ 受戻権の消滅時期と被担保債権の消滅時期の一致を維持した上で、被担保債権の消滅時期について、担保権実行手続の終了後、一定の猶予期間を経た後の時点として、担保権実行手続の終了時=私的実行の通知(帰属清算の通知ないし処分清算の通知)時までは、受戻しは可能とするのが相当である。猶予期間についてどの程度の長さとするかについては、倒産実務家(主として再生手続における申立代理人となる弁護士)サイドから、受戻しを可能とすべき期間として、2~3週間が提唱されているのであれば、これに従うのが、相当である。

・ 別除権協定締結のための時間的猶予という趣旨からすれば、受戻権消滅時までは手続を中止・禁止できるべき。

・ 受戻権がいつ消滅するかについては、平場での実行行為の議論に委ねるが、(注)のように担保目的動産が担保権者に引き渡されるまでの間とするのが相当。

・ 受戻権消滅までは、設定者は受け戻すことができるのだから、担保権者は確定的な所有権を確保できていない。実務的に、動産の引揚げに最も時間とコストを要するのであって、担保権者としても、対象動産が設定者の手元に残っている状態においては、担保権実行手続中と考えているはずである。また、動産を引揚げることなく債権回収ができることは便宜であり、引き揚げ未了であれば、設定者との協議により受戻しを図ることに前向きと思われる。受戻権消滅まで、中止命令の余地を残す意味はある。

・ 部会資料では、「被担保債権額相当額の支払をして初めて受け戻すことができるとすれば十分であり、その支払がされていない段階で引渡しの請求を禁止するのは、担保権者の権利行使の過度な制約である」とも指摘されている。しかし、再生手続では、再生債務者は、担保権者との間で、担保目的物の評価額及び支払方法を交渉し、評価額をもって目的物を受戻すことで再生を果たすのであって、上記指摘は、実務感覚とそぐわない。

・ 担保権者の保護は、「不当な損害」の要件により図ることができ、また、今般の改正で、保全処分による簡易な引渡の制度導入されるのであれば、中止命令の範囲を広げないと、バランスを失する。

・ 担保権実行手続中止命令等は、被担保債権に係る債務の消滅時までではなく、私的実行の通知(帰属清算の通知ないし処分清算の通知)を要するとした上で、当該通知後少なくとも協議期間たる4週間を経過した時と担保目的物の担保権者または第三取得者への引渡し時のいずれか遅い時までは可能とすべき。

・ 民事再生手続では、別除権者(担保権者)と一般債権者の利益調整を適切に行いつつ、再生債務者の事業の再生を果たすことが重要である。この観点から、再生債務者は、適正な評価額をもって別除権の目的物を受け戻すべく、別除権者と交渉して目的物の評価の相当性や優先弁済の方法等について協議する。その結果、適正な評価額を前提とする受戻額と弁済方法等について合意できれば、受戻額が被担保債権額全額の弁済には不足する場合であっても、別除権者としても、目的物の価値を維持しつつ優先弁済権の実効性を確保でき、かつ、担保権実行による目的物の引揚げと換価という最も時間とコストを要する手続を省略して債権回収が可能となることから、メリットは大きい。また、目的物(すなわち別除権者の優先弁済権)が適正に評価されることで、一般債権者の利益も適切に保護される。そして何よりも、別除権協定が成立して目的物が受け戻されることによって、事業再生の実現可能性が高まり、弁済総額の増大も期待できる。

このように、債務者につき民事再生手続開始申立がなされた場合に、担保権実行手続中止命令等により別除権協定の機会を十分に確保することは極めて有益であり、そのためには同命令等が実際に利用でき、機能するに足る十分な準備期間(民事再生手続開始申立並びに同命令等の申立てとそれに先立つ準備に要する期間)が確保されなければならない。一方、被担保債権額相当額の支払いがされていない段階で担保権の実行を中止又は禁止したとしても、別除権協定の意義に鑑みれば、担保権者に「不当な損害」が生じなければ過度の制約とまではいえない。

・ 担保権がいつ確定的に消滅したとするかは制度設計の問題であり、通知のみで担保権が確定的に消滅して担保権実行手続が終了すると解さなければならない必然性はないし、そもそも、平時における受戻権の行使と、倒産時における別除権協定や担保権消滅許可手続とは、必ずしもその目的が同一とはいえないと考えられるので、平時における受戻権の消滅時期と、倒産時における担保権実行手続中止命令等の終期を必ずしも一致させる必要はない。したがって、民事再生手続の目的からすれば、平時の受戻権行使の終期が上記提案に係る期間より前に到来する場合であっても、担保権実行手続中止命令等を上記提案期間まで認めることも可能であり、それが必要。

・ 私的実行の通知(帰属清算の通知ないし処分清算の通知)を要するものとした上で、被担保債権の消滅時期を、通知後3ないし4週間の猶予期間(協議期間)を経過した時とすべき。

・ 担保目的物の評価の相当性や優先弁済のあり方について債務者と担保権者が協議をすることは、担保目的物の価値を維持して優先弁済価値の実効性を保つことになり、設定者と担保権者の双方の利益に繋がる。動産の引揚げという最も時間とコストを要する手続を省略して債権回収ができるのであれば、担保権者としても受戻しのための協議を前向きに検討するものと思われる。

【注に反対する意見】

・ 被担保債権に係る債務が消滅した場合には、担保権も消滅しており、それにも拘わらず、中止命令等の対象になるとするのは理論的に合理的な説明ができない。

【その他の意見】

・ ここで問われているのは受戻権行使の機会の保障であり、担保権実行手続中止命令制度の趣旨として、別除権協定締結のための時間の猶予を与えることのほか、受戻権行使の機会を保障することも加えることが必要。(神奈川弁)

・ 担保権実行の局面で、被担保債権に係る債務が消滅するということは殆どの場合、担保目的動産の処分によるものであると考えられ、その前提として目的動産も担保権者に引き渡されているように思われる。そうだとすると、(注)が機能する場面はあまり想定できないのではないか。(全銀協)

・ 第1文については注の方向性に対して基本的に賛成である。第2文については賛成する。なお、別除権協定締結のための時間の猶予という担保権実行手続中止命令の趣旨からすれば、受戻権の消滅時までは担保権実行手続を中止・禁止できてしかるべきであるとして、本文に反対したうえ(注)の考え方に賛成する意見もあった。

新たな規定に係る担保権実行手続は早期迅速に行うことのできる制度とされることが想定される。他方で、債務者に対しては、事業の維持継続に必要不可欠な担保目的物について、中止命令等を申し立てて受戻しに向けた協議を行う機会を確保すべきである。

処分清算の場合、目的物の現実の引渡前に担保権者が目的物を第三者に売却して代金決済を行うことは通常考えられず、受戻しを認めても担保権者の利益を害することはないと思われる。帰属清算の場合にも、現実の引渡前であれば受戻しを認めても、物の価値により弁済を受けるのか債務者から任意に弁済を受けるのかという違いが生じるに過ぎないから、担保権者にとっては支障がないはずである。

そのため、少なくとも担保権実行手続中止命令等の終期は、被担保債権に係る債務の消滅時と担保目的動産の担保権者への引渡し時のいずれか遅い方とすべきであるという注の方向性に基本的には賛成である。ただし、帰属清算の場合の受戻権消滅時期については、第9のとおり、帰属清算の通知等から4週間が経過したときまたは現実の引渡しがなされたいずれか遅いときまでとすべきというのが当会の意見であり、これを前提に、中止命令等の終期もそのときまでとすべきである。(大阪弁)

・ 「被担保債権に係る債務が消滅していないこと」を発令の要件とすると、同債務がなお存在しているかどうかを審理する必要が生じ、迅速な中止命令の発令が困難になるおそれがあることから、発令の要件ではなく、「被担保債権に係る債務が消滅したこと」を取消要件と定めることも考えられるのではないかとの指摘もあった。(最高裁)

・ 担保価値不足のために担保物を処分した後も債務が残っている場合を想定して、「被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならない」とあるのは「受戻権が消滅する時までにしなければならない」と修正すべきである。(個人)

4 担保権者の利益を保護するための手段

担保権実行手続中止命令及び前記2に規定する担保権実行手続禁止命令は、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる。

【賛成】

25 大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日司連、日弁連、研究者有志

・ 現行の実務でも条件が付されているところでありその裏付けを与えるものであり合理的である。

・ 条件を付すことで禁止命令・中止命令の発令を可能にすることは、債務者・設定者/担保権者双方の利益に適うことになる。

・ 担保権者が不当な損害を受けないようにするために、担保の目的財産の性質に沿って、細やかな対応ができるようにすべく、中止命令等の発令に必要な条件を付すことを認めるべき。

・ 従前、いわゆる集合物に対象を限定する案も示されていた。不当な損害を及ぼすことを防止する必要は、集合動産・債権譲渡担保の場合に限らず、中止命令、禁止命令の対象として、特定財産を対象とした担保に限定すべき理由はない。

・ 担保権実行手続の中止命令・禁止命令による不当な損害を及ぼすことを防止するために条件を付する必要が生じるのは、集合動産譲渡担保や将来債権譲渡担保に対する担保権実行中止命令・禁止命令の場合に限らないし、条件を付すことを可能とすることで担保権実行手続中止命令・禁止命令の発令を得やすくなる。また、実質的に条件を付するために再生債務者に上申書を提出させる現行実務では、これが遵守されなかった場合の取扱いが不明確であり、条件を付することの法的根拠を明確にすべき。

・ 担保目的物の性質によっては、価値の変動が激しいものや減価のリスクが高いものも存在する。そのため、担保権実行手続中止5 命令等については、必要な条件を付して発することができるとして、担保権者に不当な損害を及ぼさないようにすべき。

条件付きで賛成する意見

(申立人から具体的な条件を主張させることを求めるようにすべきとの意見)

・ 「不当な損害を及ぼすおそれ」の有無を判断するに際して、一定の条件を付すことを加味して実質的に判断することが可能となるという点で、積極的に評価することができる。一方で、簡易迅速な判断が求められる決定手続において、裁判所が不当な損害を及ぼす危険を防止しうるだけの具体的な条件を裁量的に判断させるのは難しいことも想定されるため、(補足説明)の脚注18 で示されているように、申立人から具体的な条件を主張させることを求めるようにすべき。

【反対】

個人

・ 仮差押えの担保命令のようなものをイメージしているのであろうが、裁判官や裁判所が主導して行うべきではない。担保権者の申立てにより担保命令の手続きを始め、担保権設定者の意見も聞いたうえで、裁判官や裁判所は中立的な立場から判定を下す制度にすべき。

【その他の意見】

・ 禁止命令・中止命令の発令後に、条件違反があった場合には、条件の遵守により担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがないことの要件が充足されるとする論理からは、発令後に、条件違反があれば、同要件を充足しない状態が生じたことになるので、発令は、当然、取り消されるべきである。

同様に、発令時には、担保権者に不当な損害を及ぼさないおそれがないことの要件を充足していたが、発令後、同要件を充足しない状況が生じたときにおいても発令は、当然、取り消されるべきである。(神奈川弁)

・ 「必要な条件」として様々なものが考えられるが、条件が相当かの判断は内容によっては困難になるので、担保を立てさせる方法などに限定してはどうかとの指摘があった。

(最高裁)

・ 賠償請求権の共益債権化の明文化について、部会資料でも指摘されているように、当該権利の実体法的な内容につき整理・検討する必要があり、一般債権者との公平性の問題等から、明文化しない方針に賛成する。(東弁、担保研)

5 審尋の要否

新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】(注1)に対する担保権実行手続中止命令及び前記2に規定する担保権実行手続禁止命令は、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなく発することができ、ただし、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなくこれらの命令を発したときは、裁判所は、発令の後5 に(注2)担保権者の意見を聴かなければならないものとする。

(注1)動産質及び債権質などの実行手続をも対象とすることが考えられる。

(注2)担保権者の意見を聴くべき時期の定め方(直ちに、速やかに、遅滞なくなど)については、引き続き検討する。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・ 実務の二段階発令方式を法制化するものであり賛成である。

・ 新たな規定に係る担保権は、私的実行が短期間に終了しうるところ、意見聴取を事前に実施した場合、中止命令・禁止命令の申立てがされたことを知った担保権者が、発令前に実行手続が終了させる可能性があるため。

・ 新たな規定に係る担保権の場合、私的実行手続がなされるか法的実行手続がなされるかは設定者側では不明であり、実行の手続が短期間に終了することがあり得るので、意見聴取を発令前に行うと、その発令前に実行手続が終了してしまう可能性があるため、担保権実行手続中止命令・禁止命令の実効性がなくなるおそれがある。

・ 動産譲渡担保等の私的実行は、短時間で終了することもあり、担保権実行手続中止命令等の発令に当たって事前の意見聴取の機会を必須とすると、当該発令前に担保権の実行手続が終了する可能性がある。

そこで、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなく、これらの命令を発することができるとしつつも、その場合には発令の後に担保権者の意見を聴かなければならないとして、担保権者と設定者との間の利害の調整を図るべき。

・ 実務上、集合債権譲渡担保等の事例において、東京地裁や大阪地裁において、1か月程度の短期間の中止命令を無審尋で発令し、その期間内に審尋期日を設けて譲渡担保権者に対する意見聴取を行うという、いわゆる二段階発令方式の運用が採られている。この現在の運用について、民再法31 条の条文上の規律との関係では疑義がないとは言い切れないため、この運用を明文化する方向性で検討すべき。

【その他の意見】

・ 事後の審尋で聴いたとき・聴かなかったときの実務的なルールはどうなるのか、また、事後の審尋を行えばよいだけなのか等、その後のルールを明示するべき。(企業法研)

・ 発令後に意見聴取をした結果、裁判所において中止命令を取り消す必要がないと判断した場合に裁判所として何も対応をしないということでよいのか(担保権者としては中止命令に対する即時抗告を行うことになるのか)との指摘があった。(最高裁)

隅付き括弧内について

【「実行手続」とすべきとする意見】

大阪弁、ミロク、札幌弁、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連、研究者有志

・ 禁止命令は、私的実行手続のみならず実行手続一般を対象とすべきとの立場から、事前の審尋は、実行手続一般について任意とすべき。

【「私的実行手続」とすべきとする意見】

神奈川弁、日司連

・ 開始されてからごく短期間のうちに終了するのは新たな規定に係る担保権の私的実行手続のみであるから、私的実行手続の場合に限るべき。

注1について

【動産質及び債権質などの実行手続を対象とすべきとする意見】

大阪弁、ミロク、札幌弁、一弁、日弁連、研究者有志

・ 譲渡担保と同様の機能を果たす動産質権及び債権質権についても同じ規律に服させるべき。

・ 新たな規定に係る担保権と同様の理由から、事前の審尋は任意とすべき。

【動産質及び債権質などの実行手続を対象とすべきではないとする意見】

神奈川弁

・ 法的性格が異なる担保権である動産質権及び債権質権などの実行手続について、動産譲渡担保及び債権譲渡担保の私的実行手続についての無審尋での中止命令・禁止命令の発令/発令後の審尋の規律を及ぼしてよいかは、疑問が残る。

注2について

「直ちに」とすべきとする意見】

神奈川弁

・ 禁止命令や中止命令がいったん発令されても、担保権者の意見に基づいて、実際には、要件を充足していないことが判明することも考えられる。その場合には、発令の取消しによって、担保権者は、担保権実行手続を開始又は続行することができるようになるのであるから、担保権者の保護のため、発令後直ちに担保権者の意見を聴くことが要請される。

意見聴取の方法について実務上の運用の余地を広く認めるために遅滞なくとすべきであるとする意見も見られるが、意味するところが明確でなく、どのようにしてその結論が導かれるのかも定かではない。

「遅滞なく」とすべきとする意見】

札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連

・ 意見聴取時期は、「遅滞なく」とし、事案ごとに個別事情を顧慮して運用することが、現在の実務に合致する。

・ 意見聴取の方法について実務上の運用の余地を広く認めるために「遅滞なく」とすべき。

【その他の意見】

・ 時期の定め方については引き続き検討することでよい(「遅滞なく」という程度で良いのではないか)。(大阪弁)

・ 担保権者の保護を図るために「直ちに」又は「速やかに」とすることに賛成する。(長島・大野・常松有志)

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力

債権譲渡担保権の実行に当たって担保権者が担保目的債権の取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は前記2に規定する担保権実行手続禁止命令が発令された場合の弁済の効力等に関して、次のいずれかの案によるものとする(注)。

【案17.6.1】担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合にも、第三債務者が担保権者に対して弁済することは妨げられないものとする。

【案17.6.2】担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合において、第三債務者が、これらが発令されたことを知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとする。この場合において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して、その債務を免れることができるものとする。

(注)債権質に基づき担保権者が担保目的債権の取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は前記2に規定する担保権実行手続禁止命令が発令された場合の弁済の効力等に関して規定を設ける必要があるかどうかについて、引き続き検討する。

【【案17.6.1】に賛成】

全銀協、神奈川弁、個人

・ 債権譲渡担保に関する負担やリスクは担保権者と設定者との間で分配・整理するべきであって第三債務者に負担をかける仕組みは望ましくない。

・ 第三債務者は、通知等を受けることが無いため、中止命令・禁止命令の発令を知らない結果、弁済すべき相手方は、担保権者であると考えているのが、通常である。したがって、第三債務者の担保権者に対する弁済は、有効として、第三債務者を保護することが要請される。

もっとも、中止命令・禁止命令については、設定者の取立権限・弁済受領権限が復活しないため、【案17.6.1】のように解するほかない。

設定者の受領権限が回復されるわけではないから、第三債務者は、設定者に対して弁済したとしても、債務を免れることができないことになる。そこで、第三債務者が弁済により債務を免れることができるようにするため、第三債務者に供託することを認める規定を設けるべき。

・ 第三債務者にリスクを負わせるものではない。債権質権の場合も同様。

 【【案17.6.1】に反対】

・ 【案17.6.1】では、第三債務者が中止命令等について悪意の場合にまで免責されることとなり妥当ではない。

・ 中止命令に反する第三債務者の弁済を常に有効とすると中止命令の効力が減殺される。

・ 【案17.6.1】を採用すると、中止命令が発令されているにもかかわらず、その効果が10 減殺されるのは設定者にとって不利になる。

・ 【案17.6.1】では、担保権実行手続中止命令等の実効性が確保できず、再生手続が頓挫することにもなりかねない。

【【案17.6.2】に賛成】 大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日商、日弁連、研究者有志、淀屋橋・山上有志

・ 中止命令又は禁止命令が発令されていることを知った第三債務者を保護する必要まではないはずであり、第三債務者には供託権を与えれば十分である。

・ 現在の実務では、再生債務者から第三債務者に対し中止命令の決定書を送付して担保権者への弁済をしないよう要請することが多く、それにより第三債務者を悪意とし、中止命令等の実効性を確保できる。

・ 悪意の第三債務者を保護する必要はない。

・ 担保権実行手続中止命令等の発令を知らないで担保権者へ弁済した第三債務者を保護する必要性もあること、また、現在の実務では再生債務者から第三債務者に対し担保権実行手続中止命令の決定書等を送付して担保権者への弁済をしないよう要請することがあることにも鑑み、悪意の第三債務者による担保権者への弁済は設定者(再生債務者)に対抗できないとする【案17.6.2】が妥当。担保権実行手続中止命令等が発令された後は、第三債務者の負担を軽減するために、第三債務者において弁済金を供託することを認めることにも賛成。

・ 担保の設定に関与していない第三債務者が二重払いのリスクを負うのは妥当ではないので、保護が必要。

取引の種類によって事業者は担保権者と第三債務者いずれの立場にもなり得ることを考慮すると【案17.6.2】が妥当。そのうえで、発令の事実を知らなかったことの証明は難しいため、第三債務者に対して確実に発令の事実が通知される制度設計が望まれる。

・ 中止命令等の発令について悪意の第三債務者まで保護する必要性はない。

【反対】

個人

・ そもそも、債権譲渡担保が担保権実行手続中止命令の対象になり得るかに疑義がある。

設備や機械などであれば、それが債務者の再建に必要で担保権実行手続中止命令等の対象になり得るが、債権については、債権自体が債務者の再建に必要なものであるとは考えられない。債権担保において、第三債務者に弁済を禁じたり、弁済を供託させたりする担保権実行手続中止命令等には全く意味が無く、このような制度を立法すべきではない。むしろ、金銭債権などについては、5 担保権実行手続中止命令等を禁止すべき。

【その他の意見】

・ 第三債務者に無過失まで要求することは酷である。(全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連)

・ 善意の第三債務者から担保権者に弁済がなされた場合には、設定者に対して返還する必要はなく、被担保債権に充当することが認められるべき。補足説明記載の通り、中止命令は担保権の実行手続を凍結するものに過ぎず、被担保債権の充当の禁止までするものではないからである。(長島・大野・常松有志)

注について

【注の場合にも規定を設けるべきとする意見】

大阪弁、全倒ネット、一弁、長島・大野・常松有志、日弁連

・ 債権譲渡担保権と同様の機能を果たす債権質権についても同様の規律を設けるべきである。

【注の場合には規定を設けるべきでないとする意見】

神奈川弁

・ 債権質権の取立ては、事象としては債権譲渡担保の私的実行と類似するが、債権質権は他物権(制限物権)型の担保設定、債権譲渡担保は権利移転型の担保設定である。両社の法的性格の違いを無視して、実行方法の事象としての類似性から、債権質権についても、債権譲渡担保についての担保権実行手続中止命令・禁止命令と同様の規定を設けることには、疑問が残る。

7 担保権実行手続取消命令

次のような担保権実行手続取消命令の規定を設けることについて、引き続き検討する。

⑴ 裁判所は、新たな規定に係る集合動産担保権の実行通知がされた場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない(注1、2)ときは、実行通知の効力を取り消すことができるものとすること(注3)

⑵ 裁判所は、集合債権を目的とする譲渡担保権が設定された場合における設定者に対する取立権限の付与が解除された場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない(注1、2)ときは、取立権限の付与の解除の効力を取り消すことができるものとすること(注3)

(注1)再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保を立てさせることなどをも要件とすべきという考え方がある。

(注2)担保権実行手続取消命令について、担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令に関する前記4と同様に、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができることとするかどうかについては、条件違反があった場合の効果などを踏まえて、引き続き検討する。

(注3)担保権実行手続取消命令が発令された場合にお5 ける第三債務者による弁済の効力に関して、前記6のような規律を設けるべきかについては、引き続き検討する。

⑴及び⑵について

【規定を設けることに賛成】

10 大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、淀屋橋・山上有志

・ 実行通知がされた場合、処分権限、取立権限を喪失してしまい、そのまま中止命令を得たとしても債務者は担保目的物の継続利用が不可能となり、事業継続が困難となる可能性がある。そのことは、別除権協定までの時間の猶予を与えるという中止命令の趣旨に反するため、処分権限、取立権限を回復させる取消命令の制度を設けることには賛成である。

・ 再生手続開始申立前に、担保権実行通知がされ、設定者が目的財産の処分・取立権限を喪失している場合において、中止命令と連動して機能することにより、事業継続が可能となる。

・ 担保権実行手続中止命令自体には、いったん失われた設定者の処分・取立権限を回復する効力まではないと解される。しかし、再生手続開始の申立て前に、設定者が目的財産の処分・取立権限を喪失してしまった場合、再生手続において事業の継続・再生の目的を達成する上で、担保権実行手続の中止のみならず設定者(再生債務者)の処分・取立権限を回復させて、目的財産を事業のために使用できるようにすることが必要な場合も大いにありうる。

・ 中止命令制度及び禁止命令制度とともに、別除権構成の下、事業の再生を目的とする再生手続の実効性を確保するため、①新たな規定に係る集合動産担保権の実行通知及び

②集合債権を目的とする譲渡担保権が設定された場合における設定者に対する取立権限付与の解除につき、それぞれの効力を取り消すことを可能とする制度を創設することを積極的に評価することができる。

・ 新たな規定に係る担保権は極めて迅速に実行ができ、かつ、いったん実行されたならば、担保権実行手続中止命令が発令されても、動産処分権限や取立権限が復活する訳ではないから、そのままでは、再生手続が頓挫することにもなりかねない。担保権実行手続中止命令の発令がわずかに実行に遅れた場合などを考えると、担保権実行手続取消命令の規定を設ける必要性が高いと考えられる。

【その他の意見】

・ 既往の担保権実行を、遡及効をもって「取り消す」までの必要はなく、正面から、担保権実行中止命令の期間に限って、処分権限又は取立権限を付与することをもって、規律の趣旨・目的は十分に達成される。

仮に既往の担保権実行を、遡及効をもって「取り消す」ものとした場合、担保権者がすでに実行により取得した動産・債権や、回収した金銭等についても、さかのぼって実行の効力を覆滅させることとなり、担保権者との間で、複雑な不当利得の返還の関係などが生ずることとなりかねないが、このよう5 な事態は、適法かつ正当な権限の行使として担保権実行手続を履践した担保権者にとってみれば、実際上は「不当な損害を及ぼす」ことがほぼ常態となると思われるし、再生手続に無用な混乱を招くことにもなって、意図したはずの別除権協定の締結も難航しかねず、穏当・適切な帰結が得られるものとは思われない。

むしろ、担保権実行通知や取立権限付与解除の後に、担保権実行中止命令が発令されたときは、すでにされた担保権実行の効果は、遡及効を伴う形で覆滅するのではなく、中止命令の期間中に限って、将来に向かって、一時的に担保権実行の効力が停止されるにとどまるものとし、あわせて設定者の処分権限及び取立権限が復活するものとする規律のほうが、担保権者に対して不当な損害を及ぼすおそれは低く、無用な手続の混乱も回避することができる。

以上を要するに、すでに発生した担保権実行の効果を遡及的に覆滅させる意味での取消命令制度の創設は回避すべきものであり、むしろ中止命令期間中の将来効にとどめて、その期間中の別除権協定の締結を促す制度として立案されることが望ましい。

債権譲渡担保権について、更生手続開始申立ての前に設定者の債務不履行によりその回収権限が失われていた事案においても、担保権実行手続禁止の保全処分や包括的禁止命令により担保権者による回収ができない場合には、その「反射」的効果として、設定者の保全管理人に回収権限が認められるものとして運用されており、再生手続においても、同様の取扱いをすれば足りる。(ABL 協)

・ 新たに取消命令制度を設けることの可否については、引き続き検討すべき。

禁止命令は、手続を開始させないようにし、中止命令は、既に開始された手続を中止させて、いずれも以後、手続を進めないようにするだけであるので、既に進行していた手続の効果を覆滅させるには、手続を取り消す「取消命令」の制度を認める必要がある。

ところが、取消命令は、それまでの手続の効果を覆滅させる点で、より強い効力を持ち、担保権者に損害を与える程度も大きい。このように重大な効果をもたらす取消命令に関しては、主として、(再生手続等の)倒産手続申立後未だ開始決定にも至っていない段階で、しかも、決定手続をもって、発令することを認めてよいのかについて、疑問が残る。(神奈川弁)

・ 目的財産の権利が第三者へ実体的に変動した場合にまでそれを遡及的に取り消すことは、取引安全の観点から、相当ではない。(全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連)

・ 担保権実行手続取消命令の発令ができる時期の終期は、担保権実行手続中止命令と同様、私的実行等の通知後4週間(協議期間)を経過した時と担保目的財産の担保権者ないし第三取得者への引渡時のいずれか遅い方までとすべき。(全倒ネット、一弁)

・ 担保権実行手続取消命令の発令ができる時期の終期は、担保権実行手続中止命令と同様、私的実行等の通知後2ないし3週間を経過した時と担保目的財産の担保権者ないし第三取得者への引渡時のいずれか遅い方までとすべき。(日弁連)

・ 現行の担保権実行手続中止命令(民事再生法第31 条)と、担保権実行手続取消命令は同じように見えるが、どこが違うのか。中止(復活ありうる)と取消し(復活は無い)の違いか。集合動産と集合債権に限定している意味は何か。(個人)

注1について

【賛成】

神奈川弁、長島・大野・常松有志、個人

・ 取消命令の発令要件は、中止命令・禁止命令のそれよりも、加重する必要があるし、担保権者の利益も、より手厚く保護する必要がある。

・ 担保権者に与える損害の度合いが大きいことから、(注1)記載の通り、再生債務者の事業のために特に必要があると認められることや立担保を要件とすべき。

・ 再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件は必要と考える。そうでなければ、担保権の意味が薄れる。

【反対】

ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連

・ 再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがないとの要件においても、担保権者にも一定程度配慮できる。

・ 要件が抽象的で実際の判断が困難であるし、(注2)にあるように担保権実行手続取消命令の発令に際して必要な条件を付すことができるようにした上で、不当な損害を及ぼすおそれがないという要件を充たしていれば、担保権者の保護にとくに欠けることはない。

・ 中止命令により、担保権者による取立が禁止され、第三債務者が供託することなく債権の存否を争う場合等、設定者及び担保権者のいずれもが請求できない事態を解消すべき事態が想定できる。

【その他の意見】

・ 取消命令は、中止命令や禁止命令と比べても担保権者の権利・利益に対する影響が大きいものになると考えられることから、発令の要件は(注1)の考え方を踏まえて慎重に検討していただきたい。(全銀協)

・ 「事業継続のために特に必要である」という要件を要求してもよいが(内容が抽象的であるとして、これも不要とする意見もあった。)、担保については「不当な損害を及さないために必要な条件」として検討すれば足りるため不要である。(大阪弁)

注2について

【必要な条件を付して発することができるとすべきという意見】

大阪弁、神奈川弁、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連

・ 中止命令ですら条件を付して発することができるとするなら、取消命令でも条件を付して発することができるとすることは必要である。

・ そのままでは要件を充たさないため、発令ができないが、担保権者に不当な損害を及ぼさないような条件を付すことによって、5 要件を充足するものとして扱い、取消命令の発令を可能にすることは、(債務者)設定者/担保権者双方の利益に適うことになる。

・ 条件に違反した場合には、いったん発令された取消命令が、取り消されることにならざるを得ないが、取消命令の発令から同発令の取消しまでに生じた第三者の保護について、検討を要する。

いったん発令された取消命令が取り消された場合、取消命令によって、それまでの手続の効果が覆滅させられることになるが、同命令が取り消されれば、その効果は、復活するに至る。担保権者には、実体的利益の変動(得喪)が生じるだけでなく、取消命令についての発令から同命令の取消までの間に生じた第三者の保護も、問われざるを得ない。

注3について

【第17、6と同様の規律を設けるべきという意見】

大阪弁、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連

・ 中止命令と同様に、第三債務者による弁済の効力に関する規律を設けておかないと、命令の効力が曖昧になりかねない。

・ 担保権実行手続取消命令の発令後の弁済の効力については、担保権実行手続中止命令等の発令後の弁済の効力と特に差を設ける必要はない。

【【案17.6.2】と同様の規律を設けるべきという意見】

神奈川弁

・ 取消命令が発令された場合には、設定者の取立権限・弁済受領権限は、復活することになり、担保権者は、取立権限・弁済受領権限を有しないことになる。それにもかかわらず、第三債務者が担保権者に対する弁済を行った場合の弁済の効力に関しては、発令についての「対第三債務者の通知等の手続」が整備されない限り、取消命令の実効性よりも、第三債務者の保護を優先すべきであり、第三債務者は、担保権者に対して弁済することは妨げられないとすべき。しかし、発令につき悪意の第三債務者が行った弁済は、設定者に対して対抗できないとすべき。

【その他の意見】

・ 補足説明において、債権譲渡担保の実行手続取消命令によって設定者は取立権限を回復するとの説明があるが、債権譲渡担保権が設定された場合、第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限されており(第2の2)、集合債権譲渡担保においても第3の4(注)の考え方を採れば同様となる。取消命令は、実行前の状況よりもさらに設定者に権利を付与するものではないと理解するが、そうだとすると、取消命令によって取立権限を回復することには必ずしもならないのではないか。(全銀協)

第18 倒産手続開始申立特約の効力

1 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に(注)新たな規定に係る担保権の目的物を設定者に属し5 ないものとし、又は属しないものとする権利を担保権者に与える契約条項(新たな規定に係る担保権の目的財産を設定者の責任財産から逸出させることになる契約条項)は、無効とする。

2 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に設定者が新たな規定に係る担保権の目的の範囲に存する動産の処分権限や債権の取立権限を喪失させる契約条項を無効とする旨の明文の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討する。

(注)再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立て以外を理由に前記1に規定する効果を発生させる契約条項を無効とする旨の規定を設けるべきかどうかについては、引き続き検討する。

1について

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、販金協、一弁、日司連、個人

・ 最高裁判例(最判昭和57 年3月30 日民集36 巻3号484 頁、最判平成20 年12 月16日民集62 巻10 号2561 頁)に照らした当然の帰結であって、担保取引に関する予見可能性を高める見地からも、かかる明文規定を設けることが必要かつ適切である。

・ このような条項を有効とすると、事業再生を阻害するおそれがある。

・ 判例法に沿うものである。

・ 破産手続に関しては、明文の規定を置かず、解釈に委ねるべきである。破産手続における申立特約の効力に関しては、議論が熟しているとはいえない。

・ 再生手続き及び更生手続きについては、事業の維持更生を図る観点で当該条項を無効と解することに相当の理由があるが、破産等の清算型の手続においては事業の維持更生等を考慮する必要性はなく、この場合にまで無効の範囲を拡大することは相当ではない。

なお、特約を有効とした場合に、目的物の管理義務を破産管財人が負担し、一般債権者の犠牲において担保権者を保護することになるという見解があるが、これについては破産管財人が管理義務に係るコストを含むリスクの分担について議論すれば足り、あえて特約を無効とする必要まではない。

・ 倒産開始申立特約の効力を認めると、担保の目的である財産を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、倒産手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、倒産手続の中で債務者の事業等における当該財産の必要性に応じた対応をする機会を失わせることとなり、事業の再生を図ろうとする倒産処理手続の趣旨や目的に反するおそれがある。

すなわち、倒産開始申立特約は、再生・更生手続を円滑に進めるという法の趣旨や目的、双方未履行契約の判断を再生債務者、更生管財人に委ねることが実務上の処理の観点で望ましいことなどに反する。

・ 倒産秩序の維持の観点から、倒産手続上の担保権の実行に対する制約を潜脱する合意が無効とされることは、多くの判例で明らかにされているところである。そうすると、設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に動産譲渡担保の目的物を設定者に属しないものとし、又は属しないものとする権利を担保権者に与える契約条項等は、効力を生じないとするのが妥当。

・ 対象は民事再生、会社更生のみとすべきである。破産などでは「破産財団に属するが別除権で処分する」とするのも「破産財団5 外で処分する」とするのも、効果はほぼ同じであり、当事者が合意したことを無効にしなければならない理由はない。

【破産手続開始の申立てを含めて規定すべきとする意見】

神奈川弁、全倒ネット、日弁連

・ 近年の実務においては、破産手続において事業譲渡を行う事例も存在するところ、清算型倒産手続開始の申立てを理由とする解除特約を認めると、営業継続の許可を得て、当面の事業を継続した上での事業譲渡をしようにも、事業を継続するために必要な財産が即時に奪われてしまい、当面の事業継続すら困難になり、破産手続の中で事業譲渡を実行することができなくなる。

・ 倒産開始申立特約の効力の問題は、再生手続や更生手続による事業継続の視点に限られるものではない。倒産開始申立特約の効力は事業の再生に必要な資産を逸出させる点に問題があるだけでなく、倒産開始申立特約という当事者間の合意に基づく解除によって売主に取戻権を発生させて特定債権者だけが完全な満足を受けるという不平等な事態を防止する必要があることや、契約を履行するかどうかに関する管財人等の選択権を確保して倒産手続を円滑に遂行する必要があることに照らせば、倒産開始申立特約の効力の問題は、破産手続を含めて管財人等による契約の履行選択権の付与の制度と整合的に理解するのが最も適している。

・ 破産手続開始の申立てを理由とする場合を明文化しないことは、破産手続の場合には倒産開始申立特約を有効とするものとして反対解釈を招くおそれがあるため反対。

【破産手続開始の申立て、特別清算手続開始の申立てを含めて規定すべきとする意見】

研究者有志

・ およそ倒産手続一般において、担保権目的財産は破産財団・再生債務者財産・更生会社財産を構成し、管財人等の管理処分権に服し、倒産手続の目的に応じて処遇される。

また、事業継続に必要な担保目的財産を確保すべき要請は、再建型倒産手続のみならず、破産手続等の清算型倒産手続においても、事業譲渡を通じて事業再生を実現する際には共通して妥当する。そのため、手続開始の申立てと同時に私的実行を完結させることを可能とする上記契約条項は、破産手続等との関係においても、その効力を認めるべきではない。以上の観点から、再建型倒産手続である更生手続及び再生手続に限らず、破産手続や特別清算手続を含む倒産手続一般との関係で、このような契約条項が無効である旨を規定すべき。

【私的整理、破産手続開始の申立てを含めて規定すべきとする意見】

東弁、担保研

・ 実務上、破産手続においても、事業譲渡や契約上の地位承継により、財団の増殖と利害関係人の利益調整が図られているのであって、契約の履行又は解除の選択は、管財人等に委ねるのが適切。近年の事業承継やM&Aの隆盛により、事業譲渡を目的や手段、前提とした事業継続型の破産手続も存在する。法的安定性の観点から、明文の規定を置くのが望ましい。

【反対】

経営法友会、個人

・ 具体的にどのような契約条項であれば無効となるのか不明確であり、実務担当者が強行法規違反となるか否かを判断・対応することが困難。

中間試案の補足説明(以下「補足説明」という)では、「飽くまで再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを直接の解除事由等とする条項を意図したものであり、例えば、それらの申立てを期限の利益喪失事由とし、それに伴う債務不履行を理由に解除等を行うことを妨げるものではない」とあるが、直接の解除事由にするか否かで契約条項が強行法規違反として効力を否定されるか否かは明らかでない。

また、対象を再生手続開始の申立ておよび更生手続開始の申立てに限定している点について、実務上は破産手続開始の申立ても同じ契約条項で定めることが多いところ、そのような場合に特約の効力はどうなるのか(同じ契約条項であっても無効とされる箇所と、そうでない箇所が生じるのかなど)が明らかでない。補足説明では「解釈に委ねる」とあるが、実務担当者には、強行法規違反となるか否かを判断して、将来の契約条項に入れない、過去の契約条項に基づく対応を差し控えるなどの検討・対応が必要となるため、予見可能性のない強行法規は円滑な実務を阻害する。

・ 結果的に再生等に必要な場合は無効止む無しかと思われるが、再生等に必要ではない物などは有効であるべきであり、一律で規定すべきではない。

【その他の意見】

・ 補足説明に記載されているとおり、一括清算法の改正等により、今回の立法が一括清算法の適用を制約するような形で影響を与えないことを明確化すべき。(全銀協)

・ 破産手続開始申立てを理由とするものについても無効とする旨の明文の規定を設ける方向で「引き続き検討する」ことに賛成する。なお、破産手続においても、破産管財人により事業を継続しながら目的財産を譲渡する必要性がある場合もあるとして、明文規定を設けるべきとの意見もあった。

倒産手続開始申立特約の効力の問題は、再生手続や更生手続による事業継続の場合に限られるものではない。倒産手続開始申立特約の効力については、①事業の継続又は再生に必要な資産を逸出させる点に問題があるだけでなく(なお、破産手続の場合にも、事業継続する場合[破産法第36 条]には、必要な資産が確保される必要がある。)、②当事者間の合意に基づく解除によって売主に取戻権を発生させて特定債権者だけが完全な満足を受けるという不平等な事態を防止する必要があることや、③契約を履行するかどうかに関する管財人等の選択権を確保して倒産手続を円滑に遂行する必要があることとの関係で問題があるといえる。これらに照らせば、破産手続の場合を含めて、契約条項の効力は否定されるべきであって、担保取引に関する予見可能性を高める見地からも、明文規定を設けることが必要かつ適切である。

なお、仮に再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立ての場合に限って明文規定が設けられることとなった場合には、その5 反対解釈によって破産手続開始申立てを理由とする契約条項が有効とされるものではなく、なお解釈に委ねる趣旨であることが、部会資料や部会での審議(議事録)その他の方法によって明確化される必要がある。(大阪弁)

・ 再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを、期限の利益喪失事由とした上で、期限の利益喪失に伴う債務不履行が発生したとして、これを理由に解除等を行うことは、妨げられないと解すべきであるし、これらの申立て以外の事由を理由にする契約条項に関しては、直ちに無効とすることはできない。(神奈川弁)

・ 国際金融の世界では倒産申立時に担保の自動清算を行うことは標準契約となっており、日本だけが「倒産申立時の担保の自動清算禁止」とすると日本の金融機関は国際金融からはじき出されてしまう。このため、現金担保、有価証券担保、金銭債権担保については適用外とし、機械担保、設備担保のみを対象とすべき。(個人)

・ 再生型倒産で、「企業継続に必要で残したい資産」がある反面、「早々に処分した方が良い資産」(生鮮品、季節品)も存在する。前者ばかりの気を取られ「倒産時の自動清算」を一律無効とすると、後者の処分が遅れ損害を被ることになる。(個人)

・ 「担保設定契約締結時において目的物を担保設定者に属しないとする契約」は有効であることを確認すべき。(個人)

2について

【規定を設けるべきとする意見】

神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、長島・大野・常松有志

・ このような条項を有効とすると、事業再生を阻害するおそれがある。

・ 統一的にルール化するものである。

・ 破産手続に関しては、明文の規定を置かず、解釈に委ねるべきである。破産手続における申立特約の効力に関しては、議論が熟しているとはいえない。

・ 担保目的物を設定者の責任財産から逸出させる特約だけを無効とし、担保の目的物の範囲に存する動産の処分権限や担保の目的物の範囲に存する債権の取立権限を喪失させる各条項を無効とする規定を欠いたなら、条文の反対解釈として、相手方当事者は、後者を有効とし、事業継続を目指す債務者からそれらの動産の処分権限やそれらの債権の取立権限を取り上げるおそれがある。そうなれば、債務者の信用は毀損され、円滑な事業再生の実現は図られない。

条件付きで規定を設けるべきとする意見

・ 第19、1において【案19.1.3】が採用されることを前提に、規定を設けることに賛成する。

【破産手続開始の申立てを含めて規定すべきという意見】

全倒ネット、神奈川弁、日弁連

・ 近年の実務においては、破産手続において事業譲渡を行う事例も存在するところ、清算型倒産手続開始の申立てを理由とする解5 除特約を認めると、営業継続の許可を得て、当面の事業を継続した上での事業譲渡をしようにも、事業を継続するために必要な財産が即時に奪われてしまい、当面の事業継続すら困難になり、破産手続の中で事業譲渡を実行することができなくなる。

・ 倒産開始申立特約の効力の問題は、再生手続や更生手続による事業継続の視点に限られるものではない。倒産開始申立特約の効力は事業の再生に必要な資産を逸出させる点に問題があるだけでなく、倒産開始申立特約という当事者間の合意に基づく解除によって売主に取戻権を発生させて特定債権者だけが完全な満足を受けるという不平等な事態を防止する必要があることや、契約を履行するかどうかに関する管財人等の選択権を確保して倒産手続を円滑に遂行する必要があることに照らせば、倒産開始申立特約の効力の問題は、破産手続を含めて管財人等による契約の履行選択権の付与の制度と整合的に理解するのが最も適していると言える。したがって、清算型手続開始の申立てをした場合についても、いわゆる倒産開始申立特約の効力は無効とする旨の明文の規定を設けるべきである。また、近年の実務においては、破産手続において事業譲渡を行う事例も存在するところ、破産手続開始の申し立てをした場合であっても、倒産開始申立特約の効力を認めると、事業を継続するために必要な資産・権利に対して制約が課されることになる結果、事業継続自体が困難になり、破産手続の中で事業譲渡を実行することができないという弊害が生ずる。

【破産手続開始の申立て、特別清算手続開始の申立てを含めて規定すべきとする意見】

 研究者有志

・ およそ倒産手続一般において、担保権目的財産は破産財団・再生債務者財産・更生会社財産を構成し、管財人等の管理処分権に服し、倒産手続の目的に応じて処遇される。

また、事業継続に必要な担保目的財産を確保すべき要請は、再建型倒産手続のみならず、破産手続等の清算方倒産手続においても、事業譲渡を通じて事業再生を実現する際には共通して妥当する。そのため、手続開始の申立てと同時に私的実行を完結させることを可能とする上記契約条項は、破産手続等との関係においても、その効力を認めるべきではない。以上の観点から、再建型倒産手続である更生手続及び再生手続に限らず、破産手続や特別清算手続を含む倒産手続一般との関係で、このような契約条項が無効である旨を規定すべき。

【私的整理、破産を含めて規定すべきとする意見】

東弁

・ 実務上、破産手続においても、事業譲渡や契約上の地位承継により、財団の増殖と利害関係人の利益調整が図られているのであって、契約の履行又は解除の選択は、管財人等に委ねるのが適切である。近年の事業承継やM&Aの隆盛により、事業譲渡を目的や手段、前提とした事業継続型の破産手続も存在する。法的安定性の観点から、明文の規定を置くのが望ましい。

・ 設定者の処分権限を喪失させる条項がある場合、担保権者が目的物の処分権を有しつつ、破産管財人が管理義務のみを負担して5 一般債権者の犠牲のもと担保権者を保護する事態が生じかねない。

【規定を設けるべきではないとする意見】

ABL 協、全銀協、地銀協、経営法友会、個人

 ・ 動産の処分権限の喪失や債権の取立権限の喪失は、担保権実行の効果としても通常生じるものであるところ、再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由にこれらの権限の喪失をさせる条項が無効とされると、担保権者の別除権者としての権利が不当に制約されることになるのではないか。倒産手続の開始は債権者にとって担保の効力を最も期待する局面であるから、この場面で現在の判例法理を超えて、必要以上に担保権の効力を一般的に制約する規定を設けることは慎重であるべき。

・ 設定者には、第17 にて提案されている担保権実行手続中止命令・禁止命令等といった担保権者への対抗手段も確保されているところ、第18、2で示されているような契約条項まで無効とするのは、担保権者の権利行使を過度に制限するものであると考えられるため、避けるべき。

・ 現在の実務上の取扱いは必ずしも確立しておらず、そのような状況下であえて立法を図ることは実務上の萎縮効果を招くおそれがあることから、時期尚早であり、不要。

・ 具体的にどのような契約条項であれば無効となるのか不明確であり、実務担当者が強行法規違反となるか否かを判断・対応することが困難。

1と異なり判例理も確立してない中で、特約をすべて強行法規違反として無効とする必要があるのか不明。

また、中間試案第17 にて述べられているとおり、倒産手続開始申立後は、私的実行を含めて、担保権実行手続中止命令、禁止命令に服させ、関係者の利害調整を図る立法の方向性に異議を述べるものではないが、これら命令が、債務者の申立てに基づき開始される手続であるところ、債務者としては、担保権者からの担保目的物の使用停止請求(集合動産の場合は、通常の事業遂行に際し認められていた処分権の剥奪)等の不都合があって、はじめて申し立てるものと推測される。したがって、債務者に、上記命令の申立てを促し、上記命令に基づく利害調整手続に入れるようにするためにも、私的実行の端緒と位置づけられる条項は、無効にするべきではない。

・ 多くの担保契約で記載されており、現行の担保の契約を無効化する内容と思われ賛同できない。一般の担保について、通常時は、設定者のコントロールに置くが、倒産の場面では、担保権者のコントロールに置くのが極めて一般的であり、これが無効化すると、担保そのものの有効性が著しく低下する。(中止命令等で対応するものと思う。)

(又、無いとは思うが、特に債権においては真正譲渡においても、本内容と同様に扱われるようなことがあると、大きな打撃となる。)

【その他の意見】

・ 明文の規定を設ける方向で「引き続き検討する」ことに賛成する。なお、民事再生等の手続による事業等の再生に支障を生じさせないよう明文規定を設けるべきとの意見もあった。(大阪弁)

・ 破産手続開始申立てを理由とするものについても無効とする旨の明文の規定を設ける方向で「引き続き検討する」ことに賛成する。なお、破産手続においても、破産管財人により事業を継続しながら目的財産を譲渡する必要性がある場合もあるとして、明文規定を設けるべきとの意見もあった。

倒産手続開始申立特約の効力の問題は、再生手続や更生手続による事業継続の場合に限られるものではない。倒産手続開始申立特約の効力については、①事業の継続又は再生に必要な資産を逸出させる点に問題があるだけでなく(なお、破産手続の場合にも、事業継続する場合[破産法第36 条]には、必要な資産が確保される必要がある。)、②当事者間の合意に基づく解除によって売主に取戻権を発生させて特定債権者だけが完全な満足を受けるという不平等な事態を防止する必要があることや、③契約を履行するかどうかに関する管財人等の選択権を確保して倒産 手続を円滑に遂行する必要があることとの関係で問題があるといえる。これらに照らせば、破産手続の場合を含めて、契約条項の効力は否定されるべきであって、担保取引に関する予見可能性を高める見地からも、明文規定を設けることが必要かつ適切である。

なお、仮に再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立ての場合に限って明文規定が設けられることとなった場合には、その反対解釈によって破産手続開始申立てを理由とする契約条項が有効とされるものではなく、なお解釈に委ねる趣旨であることが、部会資料や部会での審議(議事録)その他の方法によって明確化される必要がある。(大阪弁)

・ 実務上、航空機ファイナンス・リース、船舶リースなど、ボーダーレスの取引の場合ではイギリス法のように「契約」を重視する方向がある。日本法制を整備する際には、英米法のような国際法ルールとのハーモナイゼーションに留意すべき。(企業法研)

・ 提案の規定を設ける方向で引き続き検討することに賛成する。

1と同様の観点から、集合動産や集合債権についても、設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に担保権の目的物の範囲に存する動産を処分等する権限や債権を取立て等する権限を喪失させる契約条項等は、効力を生じないとする方向で検討すべき。破産手続開始の申立てをしたことを解除事由とする特約については、解釈が分かれるところであるものの、1と同様の観点から、効力を生じないとする方向で検討すべき。(日司連)

注について

【注記載の規定を必要とする意見】

東弁、担保研

・ 解除条項、手続開始の申立てを実行のトリガーとする条項、担保の実行を完了させ、又は容易にする条項、設定者の処分権限を喪失させる条項については無効とする旨の明文規定を設けるべき。(東弁、担保研)

【注記載の規定を不要とする意見】

全銀協、ABL協

・ 倒産手続の開始は債権者にとって担保の効力を最も期待する局面であるから、この場面で現在の判例法理を超えて、必要以上に担保権の効力を一般的に制約する規定を設けることは慎重であるべき。

・ 2と同様に立法化は時期尚早である。

【その他の意見】

・ 問題となる契約条項は、典型的に無効とされる条項から、そうでない条項に至るまで、多種多様である。典型的に無効とされる契約条項を列挙して明文で規定したところで、無効とされる条項のすべてを網羅し尽くすことは、到底不可能である。したがって、典型的に無効とされる契約条項を具体的に列挙して規定することには意義があるが、そこから漏れた契約条項に関しては、包括条項を置いて、無効とされる余地を留保することで、対応するほかない。(神奈川弁)

・ 条文の反対解釈として、私的整理手続(事業再生ADRや中小企業活性化協議会の再生支援手続等)の利用の申請を理由とする契約条項を有効とする余地があるならば、私 的整理に着手すると同時に、相手方当事者に契約を解除されかねず、事業継続に多大な支障があるため、そのような反対解釈がないことを明確にする必要がある。円滑な事業再生の実現は、取引債権者・従業員等の利害関係者にも利益をもたらすだけでなく、企業の事業構造改革を促進して、社会経済の発展に貢献するのだから、再生手続と同様、私的整理手続も債務調整手段として尊重されなければならない。(全倒ネット、一弁)

第19 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力

1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力

将来発生する債権を目的とする譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約上の地位に基づいて倒産手続開始後に発生した債権に及ぶか否かについては、次の4案のいずれかによるものとする(注)。

【案19.1.1】倒産手続が開始された後に発生した債権にも無制限に担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.2】倒産手続が開始された後に発生した債権には担保権の効力が及ぶが、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時に発生していた債権の評価額を限度とする(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.3】倒産手続が開始された後に発生した債権であっても、担保権者が担保権を実行するまでに発生したものには、担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。

【案19.1.4】倒産手続開始後に発生した債権には、担保権の効力は及ばない(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ既発生の債権について、倒産手続の開始によって取立権限を失う。)。

(注)目的債権の取立権限や目的債権の弁済又は対価5 として受けた金銭等の利用権限等何らかの基準によって場合分けをし、それぞれについて異なる規律を適用するという考え方がある。

【【案19.1.1】に賛成する意見】

全銀協、地銀協、札幌弁

・ 【案19.1.1】のような考え方に基づいて将来発生する債権を累積的に担保権の目的とすることにより、将来の一時点で存在するはずの将来債権の評価価値を上限とするのではなく、当該債権を発生させる事業の価値を見出して評価することによって多額の設備投資資金等の融資を可能とするファイナンス手法は現在もすでに存在している。現在の判例法理を基礎としてすでにこのような実務が定着している状況であるにもかかわらず、法改正によってこの考え方自体を変更するとなると、従前は調達できていた資金が改正法の施行後は調達できなくなるなど、事業者にとっても深刻な影響を及ぼしかねない。

・ 【案19.1.1】のような考え方は、債権者としても倒産手続が開始された設定者の事業継続に協力する動機付けにもなるため、長期的な目線で見た事業再生の目的にも適う(このような観点から、第20 の規律の導入にも賛成する。)。

・ 現行法下においても、将来債権譲渡担保権の設定者に倒産手続が開始した場合には、別除権協定の交渉等を通じて(、当該債権譲渡担保権がいわゆる循環型であるか累積型であるか、という点を含めて)事案に応じた妥当な解決が図られていると理解している。

このような解決は【案19.1.1】の考え方が有効とされているからこそ可能となる。

・ 事業から生ずるキャッシュフローに見合った与信を行っている現行のプロジェクトファイナンス等は、判例法理を前提とした【案19.1.1】の考え方に基づいているものと思われ、そのような考え方が認められないこととなると、プロジェクトファイナンス等の縮小につながることが懸念される。倒産手続開始後に生じた債権に対する担保権の効力については、以上のような現行実務へ与え得る影響に配慮いただきつつ、検討を進めることが望ましい。

・ ①民法466条の6との一貫性、②担保権の効力対象となる債権の範囲が明確であること、③新たな債権を発生させるためのコストを担保権者に負担させるなどの措置を講じることで、再生債務者の事業の再生も考慮可能であること。

【【案19.1.1】に反対する意見】

個人

・ 【案19.1.1.1】の考え方を何らの制限も加えずに貫徹するならば、広範な売掛金を担保に供していたような場合に、ひとたび担保権が実行されてしまうと、(担保権の実行が取り消され設定者の取立権が回復される仕組みが創設され、機能しない限り)設定者はその後にいかに事業努力によって売上を拡大し売掛金を発生させようとも、被担保債権を完済しない限り、これを取立てて事業資金に充てる途がなくなり、事業再建は事実上完全に不可能となってしまう。設定者について法的倒産手続が開始されているにもかかわらず、担保権の実行により事業再建の途がほぼ必然的に絶たれるとするならば、そのような担保権の効力は過大である。

・ 第20 の「目的債権を発生させる費用」の5 内容が明らかではない。この点、人件費や事務所賃料など目的債権を発生させるために間接的に必要となる費用については、破産財団等が負担することは相当でないものの、目的債権以外の債権を発生させることにも寄与している可能性があり、担保権者に負担させる割合を決定することが困難である。

・ 倒産手続開始後に担保権の目的となる債権を発生させるためのコストを倒産財団が負担することになるにもかかわらず、その結果生じた債権が担保権者の債権の弁済に充当されてしまい、事業再生を妨げる。

・ 事業再生の妨げとなり、妥当ではない。

・ 担保権者の利益のために、一般債権者の弁済の引当となるべき債務者財産から一時的にでも費用を負担するということは倒産法の基本原則(公序)に反すると言わざるを得ず、かかる案を採用した場合、再建型手続においても、債務者の事業の再生という倒産法の目的に対する阻害効果は著しい。

・ 手続開始後に財産を取得するための費用に関する特別の規定を設けるなどしても、そのような費用を合理的に算出し分配することは不可能。

・ 将来の一定期間に発生する債権を現在価値に割り引いた価格にてまとめて譲渡するような債権の真正譲渡の取引と異なり、多くのファイナンスにおける将来債権担保は、その時々に発生している債権を担保実行して回収することを意図して担保設定されることに鑑みると、【案19.1.1】の必要は必ずしもない。

・ 担保の目的財産について生じた費用について、当該目的債権の代価又は弁済として受けた金銭等から担保権者より先に費用償還させることを認める立法提案(第20 の提案)を採用することを想定した案であるが、償還を認める費用を合理的に算定することは極めて困難であり、その点において妥当でない。

・ ⑴事業継続を前提とした会社更生や民事再生などの手続きにおいて、将来債権を含めて包括的に担保権の効力が及ぶこととなれば、事業継続のための財産の散逸、または十分確保できない恐れがあること、⑵売掛債権のような労働者の労務の提供により生じる債権につき、将来債権を含めて広く担保権の効力が及べば、労働債権確保が一層困難になること、という2点から反対。

・ 従来の倒産法における議論を踏まえると、採用しえない。

・ 未発生の将来債権を発生させるためには、倒産財団が様々なコストを負担する必要があるから、倒産財団だけを引当とする一般倒産債権者の犠牲の下で、担保権者が利益を得るという問題を生じさせてしまう。

この点、設定者が倒産した場合に一般倒産債権者は個別の権利行使を禁止されることになるが、この正当化根拠は、担保権者を含めた倒産債権者全体の回収を実質的に平等に行うこと、また、再生型の倒産手続においては、一般倒産債権者全体の総回収額の極大化を目指すことに求められる。

そうすると、一般倒産債権者の犠牲の下で、担保権者が利益を得てしまうという上記の問題は、一般倒産債権者の個別の権利行使を禁止する正当化根拠を失わせるということを意味してしまう。特に、再生型の倒産手続の局面では、再生型の倒産手続を進めれば進めるほど、一般倒産債権者全体の総回収額が極大化しないため、再生型の倒産手続の支障になってしまう。

・ 未発生の将来債権を発生させるために必要となる費用を、倒産財団に償還させることができるのであれば、【案19.1.1】の問題を解消することができるが、未発生の将来債権を発生させるために必要な費用と、必要でない費用を、区別することは現実には困難である。

例えば、未発生の将来債権が、商品を売却したことによる売買代金債権である場合、当該商品の仕入代金が必要な費用となることは概ね問題がなくとも、当該商品を複数工程で加工していた場合の人件費、当該商品とそれ以外の商品を併せて倉庫で保管していた場合の保管料や、運送した場合の運送料などでは、必要な費用と、必要でない費用を区別することは現実には困難である。

・ 【案19.1.1】を採用しない場合、現行法における判例の見解は、倒産という局面では貫かれず、修正されるということになる。しかし、倒産手続は、倒産状態が生じてしまった事態において、倒産財団という限られたパイを、担保権者も含めた倒産債権者全体で平等に分配しようという現実主義に基づいているともいえるから、平時での理論が、倒産時に一定程度修正されるということは致し方ない。

 ・ 【案19.1.1】を採用しない場合、採用した場合に比して、設定者が倒産した際に、譲渡担保の対象債権が少なくなるから、その帰結として、多額の融資を行うことに支障が生じてしまうという指摘がありうる。

しかし、現実に生じる倒産手続のほとんどは清算型の破産手続である。この場合、破産手続開始決定時点で未発生の将来債権が、破産手続開始決定後に発生するということは通常は考えられないから、【案19.1.1】を採用した場合と、採用しない場合とで違いは生じない。そうすると、上記の指摘は、再生型の倒産手続の場合にしか妥当しないということになるが、再生型の倒産手続が稀にしか生じない現状を踏まえると、上記の指摘をもって【案19.1.1】を採用するのは相当ではない。

そもそも、債権譲渡担保は、担保権者と設定者との間の契約で成立し、第三債務者に確定日付ある通知さえ送れば、第三者との間でも対抗力を備えてしまうから、一般倒産債権者(となる予定の者)が認識し得ない間に対抗力を有することがある。これを前提とすると、一般倒産債権者に犠牲を強いてまで、担保権者に利益を得させることを正当化することは困難である。

もしも、上記のような支障を回避するというのであれば、債権譲渡担保という枠組みではなく、第5章で議論する事業担保権や、別途金融庁が立法化を目指している事業成長担保権の枠組みの中で、一般倒産債権者(となる予定の者)が認識し得ない間に対抗力を有してしまわないような公示方法に留意の上で、対処すべき。

・ 中間試案では、債権の担保権を債権譲渡担保権としているが、これは債権譲渡と同じ仕組みであるため、債権譲渡担保権が倒産手続き開始後にも及ぶとすれば、債権譲渡の効力も倒産手続き開始後にも及ぶこととなる。すると、例えば「将来の給与債権のうち毎月10 万円を今後20 年間債権譲渡し、その対価として2000 万円の一時金を受け取る。」という取引をした人が自己破産した場合、自己破産後も、また免責後も債権譲渡契約は有効で、給与債権から10 万円を取られ続けることになる。そうなれば、貸金業界では、金銭消費貸借は「将来債権の譲渡と一時金の受取」という法形式に置き換えられ、倒産法制の影響を受けなくなる。

【【案19.1.2】に賛成する意見】

日司連、淀屋橋・山上有志

・ 将来発生する債権を目的とする譲渡担保の効力は倒産手続後に発生した債権に及ぶとすることは現在の判例法理に即しており、また、担保権の優先権の行使を倒産手続開始時に発生していた債権の評価額を限度とすることで、担保取引に関する予見可能性を高めることができる。

・ 倒産手続開始時をもって担保権者の引当財産と一般債権者の責任財産とを線引きする点において【案19.1.4】と同様に衡平な規律であり、合理的な評価額の算定方法を定められるのであれば賛成できる。

・ 一般倒産債権者の犠牲の下で、担保権者が利益を得てしまうという問題は生じないし、設定者の取立権限を喪失させる必要もないということになる。その結果、再生型の倒産手続において、倒産債務者の事業継続と、担保権者を含めた倒産債権者全体の利害調整を行い易く、事業再生を円滑かつ迅速に行いやすくなるという利点がある。

・ 清算価値保障原則などの倒産手続の基本原則も、原則として倒産手続開始時を基準としているから、倒産手続の基本原則との整合性を図ることができるし、譲渡担保権者の実行時期の選択権を奪うことにもならないという利点もある。

・ 譲渡担保権者は、通常であれば、担保権設定時に、譲渡担保の対象債権を評価しており、担保権設定以降も、モニタリング等を通じて、譲渡担保権の対象債権を評価している。他方、譲渡担保権設定者も、譲渡担保の対象債権の債権者なのであるから、当然、評価を行うための情報を持っているはずである。つまり、譲渡担保権者も、譲渡担保権設定者も、倒産手続開始前から、債権を評価し、又は、債権を評価するために必要な情報を保有しているから、債権の評価が円滑に行われ得るのかという指摘は妥当しない。

そもそも、再生型の倒産手続では、財産評定で債権の評価が行われているし、別除権受戻しも行われている以上、【案19.1.2】を採用したからといって、債権の評価が円滑に行われなくなるという事情はない。

・ 「倒産手続開始時に発生している債権」の具体的な意味内容を明らかにする必要があるという指摘があり、この指摘自体は、その通りであるが、倒産手続では、倒産手続開始時点に発生している債務とは何かという倒産債権該当性の問題を処理することが多く、その際、納品(役務提供)基準説を採用することが実務的に多いと考えられる。上記の指摘は、倒産債権該当性の局面とは異なるものの、この議論を応用することによって、「倒産手続開始時に発生している債権」の具体的な意味内容を明らかにすることは難しくない。

【【案19.1.2】に反対する意見】

・ 再生手続を前提とする場合に、なにゆえ担保権者が把握できる担保価値が、再生手続開始時に発生していた債権に限定されるのかの理論的根拠が明らかでない。再生手続において担保権は別除権とされ、担5 保権者は、原則として、再生手続開始後も任意の時期に担保権を実行することが許容されており、再生手続開始後に債権残高が増加することが見込まれるときはその増加後に担保権実行をすることも倒産実体法的に可能である。にもかかわらず、担保権者の価値把握が、手続開始時に発生していた債権の評価額に限定されるのは整合性を欠く。また、更生手続においても、更生担保権者は、開始時における当該担保権の価額の限度で優先権が認められるはずである(会社更生法2条10 項)。集合債権を目的とする譲渡担保権の開始時の価額は、開始時に発生していた債権額にほぼ等しい場合が多い。しかし、開始後に債権残高が大きく増加することが相応に見込まれる場合等のように、開始時の価額を、開始時債権残高より高額に評価することが相当である場合も十分にありうる。よって、常に開始時債権残高をもって評価すべきものとすることはその根拠を欠く。

・ 倒産手続開始時に発生していた債権を迅速かつ適切に評価することは困難である。

・ 債権の評価額について争いがあるときに担保権の効力が及ぶ範囲が不明確になる。

・ 債権の評価額を決定する手続が不明であるものの、この手続が長期化した場合には民事再生手続等の迅速な進行が妨げられる懸念がある。

 ・ 手続開始時点の担保目的物の評価が円滑に行われ得るかが問題となり、評価を巡る争いにより担保権の実行に要するコストが増加したり、予見可能性が低くなったりするおそれがある。手続開始時に担保目的となる財産について、発生ないし取得していたかどうかという点も、必ずしも明確ではない。

・ 倒産手続開始後に債権を発生させるための費用を一般債権者への責任財産の負担とさ せないという趣旨で、評価対象となる財産は倒産手続開始時に現に発生していたものに限られるべきであり、担保権実行時に現に存在する財産によって回収できる金額が倒産手続開始時の評価額に満たない場合であっても、管財人等がこれを補填する義務を負わないことを明らかにすべき。

・ 優先権を行使しうる債権の評価と清算を具体的にどのような手続に従ってどのように行うかという点において、倒産法の基本原則に十分配慮し、一般債権者との間の衡平を害することなく、また債務者の事業の再生を妨げることがないよう十分に配慮しなければならない。

・ この規律にした場合、破産手続、再生手続においては別除権として本来自由に担保権の実行ができるにも拘わらず、担保対象物は担保実行の時期と関係なく倒産手続開始時点が確定されてしまうこととなり、担保権者の担保実行時期の選択権を実質的に奪うことになってしまうため、妥当でない。

・ 倒産手続開始時に発生していた債権の評価額の算定方法が不明であり(特に条件付き債権について)、合理的な評価が可能であるかという懸念がある。

【【案19.1.3】に賛成する意見】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、長島・大野・常松有志

・ 事業再建が不可能であるにもかかわらず、担保権実行後も継続して売掛金を発生させ続けるような債務者は通常は存在しないから、担保権者としても、担保権実行後に発生する債権に担保権の効力が及ぶことをもっ5 て得られる実際上のメリットはそれほど大きくなく、当該債権への担保権の効力制限は正当化しやすいものといえる。集合債権を目的とする担保権について、その効力に何らの制約も加えないことは再生手続・更生手続の趣旨目的に反する結果となる場合があり、かかる場合には当該担保権につき倒産法的公序に基づき、担保権実行後に発生する債権に原則として担保権の効力が及ばないものと解するのが妥当である。そして、立法に際してもその旨を明文化するのが望ましく 、立法論として【案19.1.1.3】の考え方が妥当である。

・ いかなる時点を「実行」とするかという問題は存在するものの、立法上の解決が可能である。例えば、【案15.2.1.1】を採用したうえで実行通知のときを基準とするなどの解決が考えられる。

・ 動産を目的とする場合と同様の規律とすることが可能となる。

・ 「実行」をどのように捉えるのかについての問題提起がなされているが、担保実行が担保権者による能動的な回収行為であることに鑑みると、第三債務者への請求をもって「実行」と解するのが妥当。

・ 手続外での担保権実行が認められない更生手続においてどのように規律するのか(具体的には将来債権担保に係る更生担保権をどのように評価するのか)については、別途検討をする必要がある。一つの割り切りとして、更生手続においては、手続開始決定以後は担保権実行ができなくなる以上、その時点で担保権者の担保権実行時期の選択権が失われると考えて、更生手続開始決定時点に発生済の債権のみが更生担保権の評価対象となると考える(いわゆる開始時残高限定説)のが妥当。

・ 倒産手続開始によって直ちに設定者が担保目的債権の取立権限を失わない点において、事業再生の円滑化を図る見地から妥当な面もある。

【【案19.1.3】に反対する意見】

・ 「実行」の時点を具体的にどのように捉えるか、また個別の財産ごとに実行の時点が異なり得るという問題がある。そもそも、倒産手続開始後担保権の実行までに時間を要する場合には設定者の負担が大きくなるおそれがあり、一般債権者との衡平及び債務者の事業の再生という観点から、担保権者が一方的に有利な時期に実行ができると解することは妥当ではなく、再生債務者や管財人等の側から担保権実行の時期及び担保権の効力が及ぶ範囲を主体的に選択できるような権限を創設することが必要である。

・ 倒産手続開始前に否認行使の対象となる範囲との平仄を合わせるために、倒産手続開始後に通常の事業の範囲を超えて発生した動産に対しては担保権の効力が及ばないとすべき。

・ 倒産手続開始後に、譲渡担保権の対象債権の評価額が増加した場合に、譲渡担保権者が実行すると、一般倒産債権者の犠牲の下で、譲渡担保権者が利益を得てしまうという問題が生じてしまうし、さらに、この場合、否認の問題をも生じさせることになる。

・ 民事再生法が別除権を認めた趣旨は、担保権を民事再生手続に組み込むと、手続が厳格になり、利用しにくい制度となるため、これを避けて、民事再生手続をできる限り簡素化するというものである。別除権者に担保権実行時期の選択権を積極的に保障する趣旨ではない。従って、均衡を保つために、担保目的物の内容如何を問わずに、全ての別除権者に、担保権実行時期の選択権を保障する必要はなく、むしろ、担保権者を含めた倒産債権者全体の平等を図るという民事再生法の目的から、担保目的物の内容に応じて、取扱いを相違させる方が相当である。

【【案19.1.4】に賛成する意見】

全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、連合

・ 設定者が譲渡することができるのは設定者が処分権を有する債権に限られるところ、倒産手続開始後に管財人等の下で発生した債権には設定者の処分権は及ばない。

・ 倒産法の目的は債権者への弁済の最大化・平等化及び債務者の事業又は経済生活の再 生の実現である。また、別除権の効力は、個別の権利行使が禁止される労働者や取引債権者を含む一般債権者と倒産手続によらないで別除権を行使することができる担保権者との衡平を図るという趣旨を踏まえて検討する必要がある(最判平成22 年6月4日民集64 巻4号1107 頁参照)。倒産法の目的及び趣旨に照らし、倒産手続開始後に存在する倒産財団は、基本的に一般債権者の引当財産となるものであって、債権を発生させるための費用を負担する等してこれを一部の債権者の利益のために費消することは倒産法の基本原則(公序)に反するというべき。

・ 倒産手続外で行使し得る別除権がいかなる範囲で成立するかは、倒産法の目的及び趣旨に照らして明確な基準をもって画されるべきであり、開始決定によってその範囲を決することが明確、公正かつ衡平である。

 担保権者が倒産手続開始後になって、自己に有利な任意の時期に権利行使を行うことにより担保権の効力の及ぶ範囲を決定することが可能となるのは、一般債権者との間で公平性を欠く。倒産手続開始後に発生した倒産財団には担保権の効力が及ばないという基準は明確であり、関係者の予測可能性に資する。また、倒産手続開始後、将来債権を利用したDIP ファイナンスを受けやすくするという効果が期待できる。

 ・ 通常の事業会社に対する将来債権担保融資において、累積的な評価をして融資枠を定める実務は、通常は認められない。これは、債務者が事業停止に至った場合、新たな債権は生み出されず、累積的な債権回収はできないことを当事者が認識しているからであって、倒産時のルールで、累積的な効力を認めたとしても、与信枠は広がることはない。

ストラクチャードファイナンス等、特殊な事例においては、累積的な評価による与信は認められるとしても、このような特殊なケースにおける保全は、倒産隔離されたスキーム選択をする等、実務的な対応は十分可能である。

キャッシュフローに着目した融資が行われているとしても、累積的な評価をもって与信枠を設定することは、医療機関向けに診療報酬債権を担保として融資する場合等に限定されており、通常の事業会社であれば、数ヶ月分の売掛金の残高に掛け目をかけて与信しているにすぎない。通常の中小企業に対する融資で、累積的な評価をもって融資枠を定めることは困難であり、これは、前述のとおり、債務者が事業停止に至った場合、新たな債権は生み出されないことに起因するのだから、倒産手続開始後にも効力が及ぶと立法したとしても与信枠は広がるものではない。

・ 米国連邦倒産法は552 条(a)において、倒5 産手続開始後に取得した財産には、開始前に債務者により締結された担保合意の効力が及ばないと明確に規定しており、2005 年に制定された「UNCITRAL Legislative Guide on Insolvency Law」のRecommendation35(b)も、倒産手続開始後に取得した財産は倒産財団を構成すると明確に規定している。

2010 年に制定された「UNCITRAL Legislative Guide on Secured Transactions」428頁記載のパラグラフ21及び22も、上記Recommendation 35(b)を参照しつつ、担保権者からの追加の資金供給がない限り、倒産財団に担保権が及ぶとすると他の債権者が不当に害されると端的に指摘する。そして、同ガイドのRecommendation 235 及び236は、開始決定時に存在した担保物から得られた収益でない限り、倒産手続開始後に取得した財産は開始前に債務者が設定した担保権の対象とならないと規定すべきであると指摘している。

以上のように、債務者の事業の再生といった倒産法の目的を達成するためには、倒産手続開始によって担保権の効力を制限することが必要であると多くの国で共通認識が存在する。にもかかわらず、我が国だけが倒産手続開始後の倒産財産に対して開始決定前に債務者が設定した担保権の効力を及ぼすと解する場合、例えば、倒産手続下にあるLBO ファイナンスを利用した国際企業に対してスポンサーとなろうとする企業や投資家の予測可能性を欠くことになる。また、外国で我が国の倒産手続の承認を求めるような事案において、将来債権譲渡担保が当該外国における公序に反し期待した担保権としての効力が認められないという事態を招くおそれもある。

・ 特に民事再生法における別除権は、手続を簡素化するために政策的に認められたものであるとされ、同法の立法当時、将来生じる債権や動産を担保にする、債務者の事業の再生に大きな影響を与える非典型担保が念頭に置かれていたものではない。そのため、倒産財団に効力が及ぶ可能性がある将来債権ないし集合動産を担保目的物とする非典型担保権の倒産手続における取扱いは、倒産法の基本原則(公序)に遡って検討されるべき。

 ・ 将来取得する財産に関する譲渡担保は、その性質上、設定契約上のコベナンツや担保権者によるモニタリングの存在が前提となるが、このようなコベナンツの効力が、倒産手続開始後に再生債務者や管財人等に対してそのまま及ぶと解することは妥当ではなく、実務上も、担保権者が、担保目的物の価値を随時把握するといった目的のために、倒産手続開始後も再生債務者や管財人等の行為に対してモニタリングを継続するということも想定し難い。

・ 担保権の効力が及ぶ財産の処分権限を失うことで事業の円滑な継続に支障が生じるような場合には、管財人等は当該財産に関する別除権協定を締結すれば足りる(上記のとおり、DIP ファイナンスを得ることも可能である)。担保権者にとっても、当該財産を自ら売却するよりも管財人等による処分に委ねることに経済合理性を有するのが通常であるから、別除権の締結に通常支障はない。

・ 倒産手続開始時に存在する売掛金等の担保目的債権について設定者が取立権限を失うことから、資金繰りに困窮するなど事業再生の支障となる懸念があるものの、理論的に、そもそも設定者が譲渡することができるのは設定者が処分権を有する財産に限られ、倒産手続開始後に発生ないし取得した財産に5 は設定者の処分権は及ばないと解されるばかりでなく、実質的にも、倒産手続下において担保権の効力が及ぶ範囲が明確であり、一般債権者の責任財産を衡平に確保し得るという観点から、倒産手続開始後の担保権の効力を制限することが妥当である。また、米国連邦倒産法等において、倒産手続開始後に取得した財産には開始前に締結された担保合意の効力が及ばない旨の規定が存するなど、その前提となる担保権の効力に関する制度的な相違はあるものの、事業の再生という倒産法の目的の達成の見地から担保権の効力を制約することが国際的にも是認されている。

・ 現行の一般先取特権が労働者保護の観点から十分でないという点を踏まえれば、一般債権者との公平性の観点から「倒産手続開始後に発生した債権には、担保権の効力は及ばない」とする【案19.1.4】が適当であり、担保権の効力が及ぶ範囲は限定すべき。

【【案19.1.4】に反対する意見】

流動証券協、経営法友会

・ 将来債権譲渡については真正譲渡取引・担保目的取引のいずれについても、倒産手続開始前に第三者対抗要件が具備されている限り、倒産手続開始によっては「固定」化せず、開始後に発生する債権に対しても、原則としてその効力が及ぶことを前提に組み立てられており、倒産実務上も、この点は原則としては尊重されている。このような考え方は、最判平成19 年2 月15 日民集61 巻1 号243 頁で示された判例の立場とも整合的と考えられる。

・ 【案19.1.4】が採用されると、更生手続においては、手続開始後に発生する債権の価値を更生担保権として評価することが許容されず、また、再生手続においては、手続開始後に発生する債権に対して、担保実行の対象としたり、別除権協定において評価に加えることも許容されない結果となる。しかし、実務上、ある一定の時点のみに存在する債権の残高のみを引当とするのではなく、それ以降に発生する債権をも約定された範囲で累積的に引当とすることを企図した取引類型も存在する。そのため、一律に倒産手続開始後の担保権の効力を否定すると、このような取引による資金調達の途を閉ざすことになる。

・ 仮に【案19.1.4】のような規律を原則とする場合においても、担保権者と事業再生との利益調整が可能となるような例外的な規律、たとえば倒産手続の趣旨・目的に反しない限りで、倒産手続開始後の取得財産に対しても担保権の効力が及ぶ旨の合意を認める35 といった規律を設けるべき。

・ 補足説明の「将来債権が真正譲渡された場合においては、譲渡人について倒産手続が開始されても、その後に譲渡の目的として特定された債権が発生すれば譲受人に移転するという理解が有力であり、倒産手続の開始の時点によって譲渡の効果の発生の有無が区別されておらず、【案19.1.4】と整合的でないように思われるためである」という説明は、真正譲渡取引として組成される証券化取引(将来債権を対象とするものを含む)との関係でも的確な指摘といえ、賛同する。

・ 【案19.1.1.4】の考え方は、譲渡担保権の目的債権を集合財産論によって捉えることとしたうえで、倒産手続開始時をもって集合動産が「固定化」すると解する場合と同様の結論となる(担保の範囲が倒産5 手続開始時において現存する債権に限定されると解する。)。有力説からは、設定者が譲渡することができるのは設定者が処分権を有する債権に限られるところ、管財人等は設定者とは別個の法的地位に立つから、倒産手続開始後に管財人等のもとで発生した債権には設定者の処分権は及んでおらず、したがって譲渡担保権も及ばないとの説明がなされている。しかし、管財人等の取引行為によって売掛債権が発生する場合は、事業譲受人の行為による場合等と異なり、当該売掛債権は、設定者(倒産者)に帰属するものとして発生するものと捉えざるを得ない。そして最判平成10 年2月15 日民集61 巻1号243 頁の立場からすると、管財人等の行為により発生し、同時に設定者に帰属した債権は、設定者の特段の行為を要することなく当然に担保権者に取得されるものであり、債権発生時点で設定者が設定者帰属財産全般について管理処分権を有していないことが、担保権者による当該債権の取得の障害になると見ることもできない。そうすると、管財人等が設定者と別個の法的地位に立つこと、および、管財人等のもとで発生した債権に設定者の処分権が及んでいないことを前提としても、管財人等の行為に基づき発生した債権に担保の効力が及ばないとの結論を導くことはできない。

・ 倒産手続開始決定により設定者が取立権を失うことから、債権回収を行って資金繰りに充てることができなくなり、事業継続を行うことが困難になるおそれがある。担保権者との交渉によって解決を図る余地はあるものの、プレパッケージ型の申立でない限り、倒産手続開始決定から合意までの間は入金が止まるおそれがあり、現実的な解決ではない。

・ 将来債権譲渡に関する現在の判例法理とは必ずしも整合しない。

・ 4案のうち、少なくとも【案19.1.4】には反対する。

倒産手続開始後に発生した債権には担保権の効力は及ばないとすると、担保権者の債権回収に対する期待が限定され、将来発生する債権を目的とする譲渡担保が実務で活用されにくくなる。

また、将来債権が真正譲渡された場合においては、譲渡人について倒産手続が開始されたとしても、その後に譲渡の対象とされた債権が発生すれば、倒産手続の開始の有無およびその時点に関係なく、譲受人に移転するという整理が一般的であり、そのことと整合性をとるべき。

・ 担保権者の保護に余りに欠ける。倒産手続に入った会社の事業再生に資することは間違いないが、そのような規律とした場合には、担保権者としては、倒産手続に入る前に担保実行をするインセンティブが強くなり、被担保債務者(借入人)が倒産手続に入らずに事業再生を行おうとしても、いつ倒産手続の申立があるかわからないということで、早めに担保実行に着手する担保権者が発生しやすく、そのような倒産手続前の事業再生が成立しにくくなるという逆説的な結果を導く虞もあり得る。

・ 倒産手続開始決定後すぐに、譲渡担保権者と別除権受戻しの合意ができる保障はないし、新たにDIP ファイナンスを受けることができる保障もない。再生型の倒産手続の遂行に支障が生じてしまう。

・ アメリカ連邦倒産法552 条(a)項が爾後取得財産に担保権の効力が及ばない旨を規定し、UNCITRAL も同様の規律を採用して5 いることから、倒産手続開始による固定化が国際的潮流であるとして【案19.1.4】を推す見解がある。しかし、アメリカ連邦倒産法552 条(b)項は、開始後に取得された財産が開始前の担保目的物のproceeds に当たる場合には、例外的に担保権の効力が及ぶと規定しており、UNCITRAL も同様である。従って、アメリカ等では、財産が入れ替わっても担保権が価値の枠として継続するに等しく、国際的調和の観点からは、むしろ【案19.1.2】が妥当である。

【その他の意見】

・ もし仮に【案19.1.1】以外の案が採用される場合においても、その場合の規律は担保取引の場合にのみ適用されるものであって真正譲渡のときには適用されるものではなく、真正譲渡の場合には、倒産手続開始後に発生する債権も当然に譲受人に移転することを明確化すべき。(全銀協)

・ 事業再生の要請と担保金融の要請をいかに調整するかの問題であって、いずれかの偏重は避ける必要があり、また、現実の担保金融取引には多種多様の類型があることに十分配慮して検討される必要がある。

 将来債権譲渡担保は、ニューマネーを伴わない保全強化の担保設定から、公共的・社会的なインフラのための巨額のニューマネーを伴うプロジェクト・ファイナンスまで、極めて広い射程を守備範囲とするものであり、これらの中間形態として、たとえば、ボロイングベースを伴ったAsset Based Lending(ABL)も含まれる。本来、ボロイングベース型のABL には【案19.1.3】が、典型的なプロジェクト・ファイナンス等の累積型担保には【案19.1.1】が、それぞれ、基本的には合致する。

現行実務では、こうした事案ごとの柔軟な対応を通じて、事業再生と担保金融とを両立させる和解的解決が可能なのであるが、今回の立法により、それができなくなるような一刀両断型の立案は避けられるべき。

将来十数年の長期にわたる累積的担保価値に基づくプロジェクト・ファイナンスの担保権の効力が、担保実行時や倒産手続開始時に現存する債権残高(高々1~2か月分)のみに限局されるものとすれば、プロジェクト・ファイナンスの促進に、きわめて重大な影響が生ずる結果となる。【案19.1.2】から【案19.1.4】までは、いずれもこの結果となるものであり、【案19.1.2】から【案19.1.4】までを、【案19.1.1】における「費用」のような調整弁のないものとして立案することは回避される必要が高い。

 集合債権譲渡担保については、担保価値の把握にさまざまな類型があることを前提として、設定者の事業再生の可能性に配慮しつつ、当該担保融資において正当に把握されていた担保価値の適正な実現を図ることが、事業再生・倒産実務上も、志向されてきた。

この問題については、将来の一定の時点に存在する債権の残高のみを担保価値として捉えた担保であるのか、将来の一定の期間に継続的に発生する債権の累積的価値を捉えた担保であるのか、あるいはこれらの中間的な形態であるのかなど、具体的事案における当該担保融資の客観的・経済的な実態を見極めた上で、そのいずれの場合であっても、適切な対処を図ることのできるような立案が採用されることが必要不可欠である。現在、資金調達取引において集合債権譲渡担保が果たしている役割は非常に大きく、今般の立法が、これに意図せざる急ブレーキを踏む5 結果となることは、何としても避けられなければならない。

「将来の一定の時点に存在する債権の残高のみを担保価値として捉えた担保」には、当該残高を担保価値として認めるのに対し、「将来の一定の期間に継続的に発生する債権の累積的価値を捉えた担保」には、少なくともその割引現在価値を担保価値として認めるなど、当該担保に見合った価値を、事業再生の可能性への配慮のもとで、裁判所が承認することのできる仕組み(そのような適正な担保価値を承認する内容の別除権協定の締結や更生担保権の合意、さらに価額決定等を可能とする仕組み)を導入すべき。

最終的な立法において、仮に、たとえば【案19.1.3】が採用される場合においても、例外的に、民事再生法・会社更生法・破産法の趣旨・目的に反しない限りで、裁判所が、担保権の効力が及ぶ範囲を決したり、当事者による別除権協定や更生担保権の合意をすることができる仕組みを「ただし書き」等として加えることにより、妥当な調整を可能としておくことが適切かつ必要。これにより、裁判所の関与のもとで、一方では設定者の資金繰りや再建可能性に配慮し、他方では当該取引で把握されていた担保価値を適正に検証して、妥当な解決を図ることが可能。

【案19.1.1】が採用される場合においても、第20による調整のほか、そもそも「将来の一定の時点に存在する債権の残高のみを担保価値として捉えた担保」については、例外的に、必ずしも第20 による調整によらずとも③案と同様の帰結となるような立案が求められる。

事業担保制度においては「倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産について、事業担保権の効力が及ぶものとする」(第26.3)とされ、【案19.1.1】に相当する案(ただし、注で【案19.1.2】も併記されている)が提案されているが、事業担保制度の行方や使い勝手の不透明性に照らすと、従来の将来債権譲渡担保が引き続き多用(又は併用)されることを念頭において検討する必要がある。(ABL 協)

・ 【案19.1.2】については、倒産手続開始時に発生していた債権の評価額をどのように算定するのかという問題はあるものの、設定者は、倒産手続開始によっては担保権の効力が及ぶ債権について取立権限を失わず、事業継続のための運転資金の確保が可能となり最も適当であるとして、賛成する意見もあった。(大阪弁)

・ 中間試案においては、倒産法に基づく担保権の効力制限ルールの適用の開始時期を倒産手続開始時とすることが前提になっているように思われるが、倒産手続開始申立後・手続開始までの間の担保権の効力について制限しなければ、倒産法上の公序に反する結果となるような場面も想定されるから、当該時期をもう少し前に設定すべきものと考えられる。この点については、倒産手続開始申立て後、あるいは申立てと同時に、保全処分や監督命令が発令され倒産申立ての取下げが制限される状況に至っていれば、債務者が、倒産法上の規制から容易に抜け出すことはできず、債務者の透明性が確保されることから、当該時点をもって担保権の効力制限ルール適用の開始時点とすることが適当であるものと考えられる。また、当該ルール適用の開始時点よりも前に、将来債権譲渡担保権が実行されている場合も、倒産手続開始等の時点以降は、倒産法的公序に基づく担保権の効力制限がなされるのが適当であると考えられるところ、かかる取扱いについて

も規定を設けて、規律5 を明確化するのが適当である。(大阪弁)

・ 譲渡担保権者が取立権限や弁済充当権を有する類型の債権譲渡担保については、倒産法の公序に反するとまではいえない類型もあることから、(注)に記載されているとおり、そのような類型に限って【案 19.1.1】が採用されることもあり得る。(大阪弁)

・ いずれの考え方もあり得るところなので、【案19.1.3】以外の案となることを否定するものではないが、本論点については、何らかのルールが明示されることこそが重要であると考えているので、検討いただいた結果、裁判所の解釈に委ねるというのではなく、今回を機に何らかのルールを明記いただきたい。(長島・大野・常松有志)

・ 【案19.1.4】に賛成するが、担保目的債権の評価額の合理的算定が可能であれば【案19.1.2】にも賛成できる。また、再生債務者や管財人等にも実行時期ないし担保権の効力が及ぶ範囲を確定させる権限を付与するのであれば【案19.1.3】も許容し得る。ただし、設定者に取立権限がない場合には、倒産手続開始後に発生した債権には担保権の効力は及ばないとすべきである。

もっとも、累積型担保において担保権実行後(又は手続開始後)に発生する債権について担保権の効力を及ぼすこととしても倒産法の趣旨・目的に反しない場合にはこの限りでないという、ただし書きを付すべきとの意見もある。(日弁連)

・ 【案19.1.1】では価値ある事業の再生を妨げる場合がある一方、【案19.1.4】では、担保権者のメリットが失われ、担保価値を下げてしまう可能性があると考えられることを十分に勘案、考慮のうえ、担保権者、担保設定者双方の保護のバランスの取れた制度設計が望まれる。(日商)

 ・ 今般の改正における立法化に反対。

現時点で4案((注)を含めると5案)が同列に併記されていることからも明らかなように、今回の改正で特定の案に基づく立法化をすることについては時期尚早であり、引き続き解釈に委ねておくべき。「将来発生する債権を目的とする譲渡担保権」が今回の担保法制の改正において最終的にどのように規律されるのかが確定した上で、あらためて立法化を検討すべき。(研究者有志)

・ 破産と再生型の民事再生、会社更生を分けて考えるべき。(個人)

・ 破産の場合、破産により設定者の代理権は消滅するため、取立権限を失わないとすることは不可能である。(個人)

・ 倒産した会社が担保権者のために債権回収を行うことについて、そのようなケースは極めて極めて特異なケースであり、そのような特異なケースのみを念頭に立法を行うべきではない。(個人)

・ 補足説明において、「担保目的債権を累積的に担保権の目的とすることにより事業から生ずるキャッシュ・フローの価値を把握する与信の類型」ということが繰り返し出てくるが、これは要するに「サラリーマンに対して、将来の月給を累積的に何年分も担保の目的として把握して行う与信」を念頭に置くものであり、将来債権の債権譲渡担保とすれば、債務者が自己破産しても将来債権の譲渡は有効で、債務者は免責されず、弁済は続くというものであり、極めて不適当。(個人)

・ 破産法上「破産手続き開始後に発生した債権」は、「破産手続き開始前に原因のある債権」と「それ以外の債権(新得債権)」に分5 けられ、「破産手続き開始前に原因のある債権」は破産財団に属し別除権の対象となるが、「それ以外の債権(新得債権)」は破産財団に属さないため別除権となることはなく、法律上の性質が異なるため、立法においては、別々に規定すべき。(個人)

・ 原則【案19.1.1】とし、案件毎に制限が判断されるべき。一律規定されるものではない。どのような債権、資金の提供方法かによって異なるべき。固定資産のレンタル的な賃貸で発生した債権で、将来債権する債権の場合もあろうかと思うが、そのような場合には将来に渡って及ぶべきケースもあると思う。取立権限としては、担保権者が取立権限を失わせた場合(回収委任解除時)に失うで良いのではないか。(個人)

注について

【反対】

全銀協、日弁連

・ 実務上、将来債権譲渡担保が設定される場合には、大多数のケースでは取立権限は引き続き設定者に留保され、対価として受けた金銭等は被担保債権の弁済の目的を含み、使途を制限することなく自由に利用することが可能とされている。このような運用は、担保権者に直接弁済をさせれば保全としては確実である反面、担保権設定者の風評悪化や、担保対象債権の弁済期と被担保債権の弁済期を一致させることが困難であることに起因した資金効率の悪化を回避するため、平常時であって担保権設定者の信用力に問題がない状態であれば、設定者が譲渡担保権の設定前と同様に弁済を受領して資金を利用することを許容していることによる。このように、取立権限や対価として受けた金銭の利用権限を設定者に認める運用は、極めて実務的な理由によって行われているものであり、設定者との交渉の結果として担保権者が有する権利を放棄することを企図して行われるものではない。

・ 新しい規定に係る担保権の設定がなされても、設定者は、別段の定めがない限り、通常の事業の範囲内で対象債権の取立等の権限を有しており、設定者が有する取立権限等を制限する合意は債権的な合意としてのみ効力を有し、倒産手続開始後は、かかる合意に関する担保権者の権利は倒産債権として評価し、取り扱われるものとすべきである。

したがって、目的債権の取立権限や目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限等によって場合分けをして、異なる規律を適用する必要は認められない。

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力

新たな規定に係る集合動産担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約に基づいて倒産手続開始後に取得した動産に及ぶか否かについては次の3案のいずれかによるものとする。

【案19.2.1】倒産手続が開始された後に取得した動産には担保権の効力が及ぶ(注)が、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時までに取得した動産の評価額を限度とする(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によっては、処分権限を失わない。)。

【案19.2.2】倒産手続が開始された後に取得した動産であっても、担保権者が担保権を実行するまで(実行通知が設定者に到達するまで)に取得したものには、担保権の効力が及ぶ

(注)(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によっては、処分権限を失わない。)。

【案19.2.3】倒産手続開始後に取得した動産には、担保権の効力は及ばない(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によって処分権限を失う。)。

(注)ここで「担保権の効力が及ぶ」とは、倒産手続が開始した後に取得した動産の換価価値から担保権者が優先弁済を受けることができるという趣旨であり、個別の動産が担保権の目的になることを必ずしも意味しない(集合物論を前提とすれば、倒産手続が開始した後に取得した動産を含む集合物が担保権の目的になると構成される。)。

【【案19.2.1】に賛成する意見】

日司連、淀屋橋・山上有志

・ 集合動産譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始した後に、設定者が取得した動産に担保権者の担保権が及ぶことを前提として、担保権の優先権の行使を倒産手続開始 時までに取得した動産の評価額を限度とすることは、前記第4章第 19 の1同様、担保取引に関する予見可能性を高めることができる。

・ 倒産手続開始時をもって担保権者の引当財産と一般債権者の責任財産とを線引きする点において【案19.2.3】と同様に衡平な規律であり、合理的な評価額の算定方法を定められるのであれば賛成できる。

・ 将来発生する債権を目的とする場合の譲渡担保権の効力と、集合物を目的とする譲渡担保権の効力とでは、集合概念を用いて固定化プロセスを必要とするか否かという点で違いはあるものの、両者で別異に考える必要はない。むしろ、譲渡担保権者が、設定者の在庫商品(集合物譲渡担保)と、在庫商品を売却した場合の売掛金債権(将来債権譲渡担保)を併せて譲渡担保に取る場合が想定される以上、両者の譲渡担保権の効力は平仄を合せることが望ましい。

【【案19.2.1】に反対する意見】

・ 集合動産譲渡担保の対象物は様々なものが想定され、担保権設定者の管理下にある期間中、価値の変動があまり想定されないものもあれば、季節要因で評価額が変動しうるもの、家畜のように費用を投下することによって価値を増殖でき、費用及び適切な利潤を担保権設定者に分配してもなお成長させて出荷するほうが担保権者の回収の極大化に資するものもあるなど個別性が強い。倒産手続開始時の評価額を限度とする【案19.2.1】は、担保権者としてできるだけ高値で担保目的動産を処分するインセンティブを失わせることになり、かえって一般債権者にも不利益となる可能性がある。

・ 手続開始時点での価値を迅速かつ適切に評価することが実務的に困難。

・ 動産の評価額について争いがあるときに担保権の効力が及ぶ範囲が不明確になる。

・ 動産の評価額を決定する手続が不明であるものの、この手続が長期化した場合には民事再生手続等の迅速な進行が妨げられる懸念がある。

・ 手続開始時点の担保目的物の評価が円滑5 に行われ得るかが問題となり、評価を巡る争いにより担保権の実行に要するコストが増加したり、予見可能性が低くなったりするおそれがある。また、手続開始時に担保目的となる財産について、発生ないし取得していたかどうかという点も、必ずしも明確ではない。

・ 倒産手続開始後に債権を発生させるための費用を一般債権者への責任財産の負担とさせないという趣旨で、評価対象となる財産は倒産手続開始時に現に発生していたものに限られるべきであり、担保権実行時に現に存在する財産によって回収できる金額が倒産手続開始時の評価額に満たない場合であっても、管財人等がこれを補填する義務を負わないことを明らかにすべき。

・ 優先権を行使しうる債権の評価と清算を具体的にどのような手続に従ってどのように行うかという点において、倒産法の基本原則に十分配慮し、一般債権者との間の衡平を害することなく、また債務者の事業の再生を妨げることがないよう十分に配慮しなければならない。

・ 平時における集合動産譲渡担保権の考え方と不整合であるし、担保権者の担保実行時期の選択権を実質的に奪うこととなるので、妥当でない。

・ 倒産手続開始時までに取得した動産の評価額の算定方法が不明であり、合理的な評価が可能であるかという懸念がある。

【【案19.2.2】に賛成する意見】

全銀協、大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、長島・大野・常松有志

・ 集合動産については、集合物論が支持されている背景から、平時において担保権実行後の新規加入物に担保権の効力は及ばないものと解されており、倒産手続開始後に担保権が実行された場合も同様に解される。そうすると、集合動産を目的とする担保権について、倒産手続開始後に担保権が実行された場面にフォーカスして、担保権実行後の新規加入物に担保権の効力が及ばない旨の規律を敢えて設けることについては、その必要性が高くないようにも思われる。しかし例えば、譲渡担保契約において再度実行を可能とするような条項が設けられた場合に平時において当然にこれを無効と解することはできないように思われる。倒産手続開始後の担保権実行に関わる規律が設けられると、かかる場合に平時とは別の取扱いを導く根拠となり得るところであり有用である。また、かかる規律を設けることにより、倒産手続開始後に取得した動産に対し担保権の効力が当然に及ばなくなるわけではないことが明確となる以上、今日の倒産実務において採られている、担保権者に対して担保権の実行を禁止し、設定者による通常の営業の範囲内での動産の搬出を認めて事業継続を図る運用の安定化にも資する。

・ 一般債権者の負担の下で別除権者が利得を得てしまうという問題については、担保権実行手続中止(禁止)命令、担保権消滅許可制度の活用などによって対処することが可能となっている。

・ 第19、1と平仄を合わせるため。

・ 倒産手続開始後の新規加入物にも担保権が及ぶ【案19.2.2】を採用し、新たな対象動産が発生するためのコストを担保権者に負担させるなどの措置を検討すべきである。

・ 平時における集合動産譲渡担保権の考え方と最5 も整合的なのが【案 19.2.2】であり、妥当。なお、将来債権担保における【案19.1.3】とも整合的。

・ 破産手続時の取扱について補足説明において問題提起されているが、補足説明記載の通り、事業譲渡のための事業継続型の破産手続もあり得ることから、担保実行がなされるまでは管財人に集合動産の構成物たる動産の処分権があると考えるのが妥当。

 ・ 【案19.1.3】の場合と同様に、手続外での担保権実行が認められない更生手続においてどのように規律するのか(具体的には将来債権担保に係る更生担保権をどのように評価するのか)については、別途検討をする必要があるが、【案19.1.3】と同様に、更生手続については、更生手続開始決定時点で集合動産が固定化すると考えるのが妥当。

・ 倒産手続開始によって直ちに設定者が担保目的債権の取立権限を失わない点において、事業再生の円滑化を図る見地から妥当な面もある。

【【案19.2.2】に反対する意見】

・ 「実行」の時点を具体的にどのように捉えるか、また個別の財産ごとに実行の時点が異なり得るという問題がある。そもそも、倒産手続開始後担保権の実行までに時間を要する場合には設定者の負担が大きくなるおそれがあり、一般債権者との衡平及び債務者の事業の再生という観点から、担保権者が一方的に有利な時期に実行ができると解することは妥当ではなく、再生債務者や管財人等の側から担保権実行の時期及び担保権の効力が及ぶ範囲を主体的に選択できるような権限を創設することが必要である。

・ 倒産手続開始前に否認行使の対象となる範囲との平仄を合わせるために、倒産手続開始後に通常の事業の範囲を超えて発生した動産に対しては担保権の効力が及ばないとすべき。

【【案19.2.3】に賛成する意見】

全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、連合、個人

・ 設定者が譲渡することができるのは設定者が処分権を有する動産に限られる。倒産手続開始後に管財人等の下で発生した動産には設定者の処分権は及ばない。

・ 倒産手続開始後に存在する倒産財団は、基本的に一般債権者の引当財産となるものであって、動産を発生させるための費用を負担する等してこれを一部の債権者の利益のために費消することは倒産法の基本原則(公序)に反する。

・ 倒産手続外で行使し得る別除権がいかなる範囲で成立するかは、倒産法の目的に照らして明確な基準をもって画されるべきであり、開始決定によってその範囲を決することが明確、公正かつ衡平である。にもかかわらず、担保権者が倒産手続開始後になって、自己に有利な任意の時期に権利行使を行うことにより担保権の効力の及ぶ範囲を決定することが可能となるのは、一般債権者との間で衡平性を欠く。この点、倒産手続開始後に発生した債務者財産には担保権の効力が及ばないという明確な規律を設けることで、将来取得する動産を利用したDIP ファイナンスを受けやすくするという効果が期待できる。

・ 集合動産譲渡担保は、集合物に対する担保という性質上、設定契約上のコベナンツと担保権者によるモニタリングの存在が前提5 となる。このようなコベナンツの効力が、倒産手続開始後に管財人等に対してそのまま及ぶと解することは妥当ではない。また、担保権者が、倒産手続開始後も引き続き、権利行使に適した時期を把握する等の目的のために管財人等の行為に対してモニタリングを継続するということも、実務上想定し難い。

・ 担保権の効力が及ぶ動産の処分権限を失うことで事業の円滑な継続に支障が生じる場合には、管財人等は当該動産に関する別除権協定を締結すれば足りる。担保権者にとっても、当該動産を自ら売却するよりも管財人等の処分に委ねることに経済合理性を有するのが通常であり、別除権の締結に通常支障はない。

・ 米国連邦倒産法は552 条(a)において、倒産手続開始後に取得した財産には、開始前に債務者により締結された担保合意の効力が及ばないと明確に規定しており、2005 年に制定された「UNCITRAL Legislative Guide on Insolvency Law」の 82 頁記載のRecommendation 35(b)も、倒産手続開始後に取得した財産は倒産財団を構成すると明確に規定しているように、債務者の事業の再生といった倒産法の目的を達成するためには、倒産手続開始によって担保権の効力を制限することが必要であると多くの国で共通認識が存在する。にもかかわらず、我が国だけが倒産手続開始後の倒産財産に対して開始決定前に債務者が設定した担保権の効力を及ぼすと解する場合、例えば、倒産手続下にあるLBO ファイナンスを利用した国際企業に対してスポンサーとなろうとする企業や投資家の予測可能性を欠くことになる。また、外国で我が国の倒産手続の承認を求めるような事案において、集合動産譲渡担保が当該外国における公序に反し期待した担保権としての効力が認められないという事態を招くおそれもある。

 ・ 特に民事再生法における別除権は、手続を簡素化するために政策的に認められたものであるとされ、同法の立法当時、将来生じる債権や動産を担保にする、債務者の事業の再生に大きな影響を与える非典型担保が念頭に置かれていたものではない。そのため、倒産財団に効力が及ぶ可能性がある将来債権ないし集合動産を担保目的物とする非典型担保権の倒産手続における取扱いは、倒産法の基本原則(公序)に遡って検討されるべき。

・ 将来取得する財産に関する譲渡担保は、その性質上、設定契約上のコベナンツや担保権者によるモニタリングの存在が前提となるが、このようなコベナンツの効力が、倒産手続開始後に再生債務者や管財人等に対してそのまま及ぶと解することは妥当ではなく、実務上も、担保権者が、担保目的物の価値を随時把握するといった目的のために、倒産手続開始後も再生債務者や管財人等の行為に対してモニタリングを継続するということも想定し難い。

・ 担保権の効力が及ぶ財産の処分権限を失うことで事業の円滑な継続に支障が生じるような場合には、管財人等は当該財産に関する別除権協定を締結すれば足りる(DIP ファイナンスを得ることも可能である)。担保権者にとっても、当該財産を自ら売却するよりも管財人等による処分に委ねることに経済合理性を有するのが通常であるから、別除権協定の締結に通常支障はない。

・ 倒産手続開始時に存在する在庫商品等の担保目的動産について設定者が処分権限を失うことから、資金繰りに困窮するなど事業再生の支障となる懸念があるものの、理論的に、そもそも設定者が譲渡することができる5 のは設定者が処分権を有する財産に限られ、倒産手続開始後に取得した財産には設定者の処分権は及ばないと解されるばかりでなく、実質的にも、倒産手続下において担保権の効力が及ぶ範囲が明確であり、一般債権者の責任財産を衡平に確保し得るという観点から、倒産手続開始後の担保権の効力を制限することが妥当である。また、米国連邦倒産法等において、倒産手続開始後に取得した財産には開始前に締結された担保合意の効力が及ばない旨の規定が存するなど、その前提となる担保権の効力に関する制度的な相違はあるものの、事業の再生という倒産法の目的の達成の見地から担保権の効力を制約することが国際的にも是認されている。

・ 労働債権確保の観点から、倒産手続開始後に取得した動産には、担保権の効力が及ばないとする【案19.2.3】が適当であり、担保権の効力が及ぶ範囲を限定することで債権と平仄を合わせるべき。

【【案19.2.3】に反対する意見】

・ 倒産手続開始後に取得した動産には担保権の効力が及ばないとする【案19.2.3】は、担保対象物を担保権者が自ら最適と考えるタイミングで捕捉できないため担保の評価額を低く見積もらざるを得なくなり、結果として債務者・担保権設定者が十分な資金調達ができなくなる可能性が生じる懸念が高い。

・ 倒産手続開始後に取得した動産に対し担保権の効力が及ばないものとする場合には、担保権者保護のバランスから必然的に、倒産手続開始をもって当然に設定者の通常の営業の範囲内での動産搬出権限が失われるものと取扱わざるを得ないことになるが、かかる搬出権限の喪失は、現状の再建型倒産実務のニーズに適合していない。今日の倒産実務においては、担保権者の利益に配慮しつつも、担保権実行手続中止命令制度の活用により、担保権者に対して担保権の実行を禁止し、設定者による通常の営業の範囲内での動産の搬出を認めて事業継続を図るアプローチがとられているからである。

・ 倒産手続上の事業継続を行うことが困難になるおそれがある。担保権者との交渉によって解決を図る余地はあるものの、プレパッケージ型の申立でない限り、倒産手続開始決定から合意までの間は入金が止まるおそれがあり、現実的な解決ではない。

・ 【案19.1.4】と同様に担保権者の保護に余りに欠けることになるし、また、倒産手続外での事業再生をしにくくするという逆説的な副作用が生じることとなるので、妥当でない。

【その他の意見】

・ 第19、1 に述べたのと同様の配慮が可能となるような仕組みが適切。(ABL 協)

・ 【案19.2.3】では、担保権者のメリットが失われ、担保価値を下げてしまう可能性があると考えられることを十分に勘案、考慮のうえ、担保権者、担保設定者双方の保護のバランスの取れた制度設計が望まれる。(日商)

・ 【案19.2.3】に賛成するが、担保目的動産の評価額の合理的算定が可能であれば【案19.2.1】にも賛成できる。また、再生債務者や管財人等にも実行時期ないし担保権の効力が及ぶ範囲を確定させる権限を付与するのであれば【案19.2.2】も許容し得る。ただし、設定者に処分権限がない場合には、倒5 産手続開始後に発生した動産には担保権の効力は及ばないとすべきである。(日弁連)

・ 今般の改正における立法化に反対。

1と同様に、現時点3案が同列に併記されていることからも明らかなように、今回の改正で特定の案に基づく立法化をすることについてはやはり時期尚早であり、引き続き解釈に委ねておくべき。「新たな規定に係る集合動産担保権」が今回の担保法制の改正において最終的にどのように規律されるのか(例えば、どのような形で集合物論が明文化されるのか等)が確定した上で、あらためて立法化を検討すべき。(研究者有志)

・ 破産と再生型の民事再生、会社更生を分けて考えるべき。(個人)

・ 破産法上「破産手続き開始後に取得した動産」は、「破産手続き開始前に取得の原因のある動産」と「それ以外の動産(新得財産)」に分けられ、「破産手続き開始前に取得の原因のある動産」は破産財団に属し別除権の対象となるが、「それ以外の動産(新得財産)」は破産財団に属さないため別除権となることはなく、法律上の性質が異なるため、立法においては、別々に規定すべき。(個人)

・ 一般債権者の立場からも検討すべき。(個人)

・ 「倒産後に集合担保の保管場所に搬入された動産については、担保の意図で搬入され、搬入した者に担保権設定の能力があり、その担保権を他の債権者に対抗しうる場合のみ担保権が及ぶ」とすべき。(個人)

・ 債権同様に案件毎に制限が判断されるべき。一律に規定されるものではない。どのような動産、資金の提供方法かによって、異なるべき。処分権限は、担保権者が処分禁止を行った場合に失うで良いのではないか。(個人)

第20 担保権の実行がされた担保目的財産に係る費用の負担

(本項は、前記第19、1において【案19.1.1】を採用した場合の試案である。)

将来発生する債権を目的とする譲渡担保権が設定されている場合において、設定者について倒産手続が開始された後に目的債権を発生させる費用(注)を設定者が支出し、当該担保権の実行が行われたときの規律については次の2案を引き続き検討する。

【案20.1】当該担保権が設定された債権のいずれかについて担保権の実行(担保権者による取立てを含む。)が行われた場合、当該債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。

【案 20.2】当該目的債権について担保権の実行(担保権者による取立てを含む。)が行われた場合、当該目的債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。

(注)目的債権を発生させる費用の内容については、引き続き検討する。

【【案20.1】に賛成する意見】

全銀協、神奈川弁、ミロク

・ 第19 の1において【案19.1.1】が採用されることを前提とすれば、担保権者、設定者の費用分担の公平性と回収の極大化の調和の観点から、このような規律を導入することに特に異論はない。特に多数の債権を集合5 債権譲渡担保として取得する場合には、個々の目的債権とそれを発生させる費用とを厳密に対応させることは困難を伴うと考えられることから、【案20.1】を採用することで差支えない。

・ 人件費、広告費など、債権を発生させるために必要ではあるものの、個別の債権との対応関係が明らかでない費用も存在する。それらについて、どの目的債権を発生させる費用であるか、あるいはどの程度の割合が当該目的債権を発生させる費用であるかを判断し、償還額を確定することは実務的に容易ではない。【案20.1】を採用したとしても、目的債権とその他の債権との間で同様の問題が生じる可能性が存在する。それでも、【案20.2】と比べれば、困難性は少ない。

・ 将来債権譲渡担保においては、多数の債権が担保権の目的となっている場合に要した費用がいずれの債権に係るものであるか判断することが煩瑣。

【【案20.2】に賛成する意見】

札幌弁

・ 当該債権との結び付きが明確な変動費(仕入等)はそのまま償還の対象とし、結び付きが明確でない固定費については、債権額に応じて配賦する等の方法により償還の額を算定する方法を検討すべき。

・ 他の債権を発生させた費用についてまで償還を認める必要はないことから、理論的には【案20.2】が望ましい。

 【反対】

大阪弁、全倒ネット、一弁、日弁連、個人

・ 【案19.1.1】を採用すべきでないので、反対する。

・ 仮に【案19.1.1】を採る場合には、費用償還(担保権者からすれば優先弁済権の実質的な縮減)は権利調整のために必要な事項である。また、その場合の「目的債権を発生させる費用」は、設定者の行う事業における実績を踏まえ、合理的な範囲又は割合を算定するほかないのではないかと思われるが、【案 20.1】は各債権と費用を紐づけしないもの、【案 20.2】は各債権と費用の紐づけを求めるものであるため、いずれを採っても実務上混乱を招く。

・ そもそも「設定者について倒産手続が開始された後に目的債権を発生させる費用」について、法律でその要件や基準を定めるのは極めて難しい。抽象的な要件や基準であれば、私的実行時に費用の額についての争いを生じさせることとなり、目的動産や目的債権が多様であることからすれば、法律において詳細な要件や基準を定めることは不可能。

・ 具体的に設定者(管財人又は再生債務者)が、どのように償還請求できるのかについても、「担保権者よりも先に」という意味が不明瞭であり、目的債権の第三債務者を償還請求の相手方とすることは、これらの第三者の負担を重くして適切ではない。担保権者が償還請求の相手方になる場合であっても、担保権者の信用リスクを設定者が負担することとなり適切ではない。

・ 「担保目的の将来債権譲渡」と「担保目的以外の将来債権譲渡」がある中で、譲渡の目的によって債権譲受人の権利が全く変わって5 しまうことを、どのように説明するのか。

・ 既に発生した債権か将来発生する債権かによって費用の負担が異なるのは不公平であり、差別的立法である。

・ 将来債権が売掛金のような場合、仕入れに必要な費用が償還されるのに対し、給与債権のような場合、何も償還されないのは不公平である。

・ 案件毎に制限が判断されるべき。一律規定されるものではない。どのような動産、資金の提供方法かによって異なるべきである。又、【案20.1】【案20.2】の違いが不明。

第21 否認

新たな規定に係る集合動産担保権又は集合債権を目的とする譲渡担保権において、個別の動産や債権が次のような態様で担保権の目的の範囲に加入した場合、これを偏頗行為否認の対象とすること(注1)について、引き続き検討する(注2、3)。

⑴ 通常の事業の範囲を超えるなど、客観的に異常な動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入

⑵ 専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われたなどの設定者の主観的要件を満たす

(注4)動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入

(注1)偏頗行為否認の対象とするのではなく、実体法上担保権の効力が及ばないこととすべきという考え方がある。

(注2)偏頗行為否認の対象とする場合に、設定者の支払不能等に関する担保権者の主観的要件を不要とすべきであるという考え方がある。

(注3)加入後に個別動産や個別債権の処分等が行われた場合に、それを否認の成否において勘案すべきかどうかについて、引き続き検討する。

(注4)設定者の主観的要件に加えて、担保権者の主観的事情を要件とすべきであるという考え方がある。

⑴及び⑵について

【⑴及び⑵の双方について規定を設けることに賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連、研究者有志

・ 債務者が危機時期に入った後に、設定者が担保権者に債権を回収させる目的で、あえて合理的な事業活動の範囲を超えて、個別の動産や債権を担保権の目的に加入させることなども考えられ、このような場合には、一般債権者の引当てとなるべき財産の負担において特定の債権者が利益を得る結果となり、不平等が生じうるから、否認の成立を認める必要がある。

部会資料17 において、⑴と⑵で否認の成否が異なる場面が挙げられているが、いずれの場合も本来であれば担保の目的とはならなかった財産であり、価値判断として否認の成立を認めるべきであると考えられるし、またそうしても、担保権者に不測の損害を与えることもない。

・ 実体としては、一般債権者に対する配当等となるべき財産が、特定の担保権者の満足に充てられるという事態は生じうるため、否5 認対象として規律すべきである。⑴⑵共に、特定の担保権者の満足に充てることが不当であり、かつ当該担保権者においても合理的期待がないと考えられる。

・ 危機時期以降に生じた新たな動産や債権の加入が全て否認されるとすれば、担保権者の合理的な期待に反するが、設定者が担保権者を利するなどの目的で、あえて合理的な事業遂行の範囲を超えて担保権の目的を増大させた場合などには、一般債権者が害されることになるから、否認の対象として、明文の規定を設けるべき。

・ 新たな規定に係る担保権の他の規定との平仄から、「通常の事業の範囲」で否認の可否を定めるのは魅力的である。また、「専ら担保権者に債権を回収させる目的」での否認は、他の制度(例えば、会社法710 条2項3号)における規定を参考に、立法できるのであれば、立法化すべき。

・ 集合動産譲渡担保設定行為が否認の対象とならない場合であっても、個別動産に担保の法的効力が及ぶのは、個別動産が担保の目的の範囲に加入した時点であると解されることから、一定の要件の下において個別動産の加入行為を否認することは可能であると考えるべき。債務者が支払不能になった後又は倒産手続開始の申立てがあった後から開始決定までの間(危機時期)において、不相当に個別動産を担保権の目的の範囲に加入させ、担保目的物を増大させる行為は、一般債権者の引当てとなるべき財産の負担において特定債権者が利益を得る結果となるから、悪質性の高い個別動産の加入行為は、偏頗行為否認の対象とする必要がある。

集合動産譲渡担保は、担保の対象が増減することが想定されているものであって(流動型担保)、危機時期であっても、担保目的物が固定(化)される前は、事業活動に伴って個別の動産が新たに担保の対象に加入し得るが、⑴のように通常の事業活動の範囲を超えた取引による客観的に異常な加入がなされた場合には悪質性の高い行為として偏頗行為否認の対象とするのが相当。「通常の事業の範囲」か否かの判断においては、過去の目的物増減の範囲のほか、目的物増加当時の事業の状況など多くの事情を考慮して判断すべき。

一方で、⑵のように、通常の事業の範囲内であっても、専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた加入行為である場合には、一般債権者の引当財産の確保の観点からすれば、否認の対象から外す必要はない。

・ 将来債権譲渡担保について、特段の付款の無い限り、目的債権は担保契約締結時に確定的に譲渡担保権者に譲渡されていると解される(最判平成 19 年2月 15 日民集第 61巻1号243 頁)としても、設定者が個別の債権の発生を恣意的に増減し得る以上、一般債権者の引当財産の負担の下に特定債権者を利する危険性があるという利害の状況に違いはなく、動産の場合と同様の要件により、偏頗行為否認の成立を認めるべき。

・ 譲渡担保設定契約が否認の対象とならない場合でも、危機時期等において不相当に個別動産を担保権の目的の範囲に加入させ、担保目的物を増大させる行為は、一般債権者の負担において特定債権者が利益を得る結果となるから、悪質性の高い加入行為は否認の対象とする必要がある。そして、集合動産譲渡担保は、担保の対象が増減することが想定されており、固定化されない限り、事業活動に伴って個別の動産が新たに担保の対象に加入し得ることからすれば、その想定5 の範囲を超える、すなわち、合理的な通常の事業活動の範囲を超えた取引による加入がなされた場合を否認の対象とするのが相当。

「通常の事業の範囲」か否かの判断について、過去の目的物増減の範囲のほか、目的物増加当時の事業の状況など多くの事情を考慮して要件充足性を判断するとすれば、柔軟な対応が可能。

・ 通常の事業の範囲内であっても、専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた加入行為であることが立証できるような場合には、一般債権者の引当財産保護の観点からすれば、否認の対象とすべき。

・ 流動性のある集合動産又は集合債権を目的とする担保権においては、常に担保目的の範囲から一定の動産が処分され、あるいは債権が取立てにより消滅するとともに、新たな動産や債権の担保目的範囲への加入が予定されている(第1章・第3、1、3及び4参照)。このように担保設定当初において予定されている循環関係を逸脱した動産又は債権の担保目的範囲への加入行為は、偏頗性という有害性が高く、従来の否認類型とは異なる対象として規律すべき。

【集合債権について反対、集合動産について⑴かつ⑵とすべき】

全銀協

・ 集合債権を目的とする譲渡担保権について、最判平成13 年11 月22 日民集55 巻6号1056 頁、最判平成19 年2 月15 日民集61 巻1号243 頁によれば、その目的債権は、譲渡担保権設定契約により確定的に譲渡されることとなる。そうである以上、偏頗行為にあたるか否かはあくまで譲渡担保権設定契約の時点において判断されるべきであり、その後の事情によって否認の対象となり得るのは、担保権者の合理的期待に反するため妥当でない。したがって、少なくとも集合債権を目的とする譲渡担保権については、偏頗行為否認の対象とすることに反対する。

・ 現実的にも債権の場合には、担保対象の債権を目的の範囲に加入させる行為として観念できるものは設定契約のみであり、動産のように、例えば特定の所在地に搬入するといった行為が介在する余地がない。なお、補足説明では、目的債権の発生に設定者の作為が介在する余地もあるとされているが、目的債権を発生させる商取引契約それ自体を否認の対象となる設定者の行為とすることは妥当でない。

・ 集合動産担保権について、⑴の類型は、危機時期において特定の担保権者の担保による回収額を増加させることとなる行為となるので、事実上⑵と重なることが多いのではないか。逆に、⑵のような意図なく担保権の目的の範囲へ動産を加入させることがあるとすれば、それは何等かの事業上の意図がある場合であるようにも思われる。そうすると、⑴と⑵を別個の類型とする必要は乏しく、⑴及び⑵を要件とする1 つの類型として整理することが合理的である。

【その他の意見】

・ 担保設定契約において、コベナンツとして、集合物の中で維持すべき在庫の数量を規定するような場合があるが、このようなコベナンツを順守するために在庫を一定の倉庫に集約するといった行為は否認の対象になら5 ないことを確認しておきたい。(全銀協)

・ 「通常の事業の範囲を超えるなど、客観的に異常」との定めでは不明確であり、安定的な裁判規範として機能しないとの意見があった。(最高裁)

・ 偏頗行為否認の対象とするにせよ、(注1)のとおり実体法上担保権の効力が及ばないとするにせよ、偏頗行為否認についての明文の規定を置くべき。(全倒ネット、一弁)

・ 倒産手続が近い会社の場合、実際のビジネスが上手く回っていない蓋然性が高く、そのような場合には、販売が停滞し、在庫が積み上がることも少なくないものと考えている。このような状態は意図的に担保権者を利するために行っているものではなく、ある種その時点における当該会社の「通常の事業」(但し、事業の調子が悪い)が行われていることに他ならないので、そのようなケースは⑴に該当しない(「通常の事業の範囲」内と整理する方法も、「客観的に異常な」場合でないと整理する方法もあるように思われる。)ことを条文上明確化するか、パブリックコメントの回答で明示するなどの対応をしていただきたい。(長島・大野・常松有志)

・ ⑴につき、提案の規定を設ける方向で引き続き検討することに賛成する。

集合動産担保権又は集合債権を目的とする譲渡担保権において、個別の動産や債権等が異常な状態で担保権の目的の範囲に加入した場合には、一般債権者が害されるおそれがある。

⑵につき、(注4)の担保権者の主観的事情を否認権行使の要件とする方向で引き続き検討することに賛成する。

集合動産担保権又は集合債権を目的とする譲渡担保権において、専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた悪質性の高い行為によって個別の動産や債権が担保権の目的の範囲に加入した場合には、一般債権者が害されるおそれがある。(日司連)

・ 倒産後の集合動産担保権、集合債権への加入は、全て否認の対象とすべきである。その上で、一般債権者に有利なものは否認権を行使しないことにより財団の増殖を行うべきである。(個人)

・ このような事例は稀と思われるが。被担保債権額などファイナンス全体との関係なども考慮すべきではないか。担保権者がグループ会社等の場合は偏頗行為否認の対象になることはあるのではないか。(個人)

注1について

【注1の考え方に基づくことでも良いとする意見】

大阪弁、全倒ネット、一弁、日弁連

・ 偏頗行為否認の対象とせず、そもそも担保権の効力の範囲外とする規律とすることも、規定を設けるべき趣旨に合致しているので賛成。

【集合債権について、注1の考え方に反対】

全銀協

・ 集合債権を目的とする譲渡担保権については、本文と同様の理由により反対する。

 注2について

【担保権者の主観的要件を不要とすべきとする意見】

大阪弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、淀屋橋・山上有志

・ 偏頗行為否認の場合、担保権者は弁済または担保の供与の相手方となっていて、弁済行為又は担保の供与行為があったことは、行為の時点で担保権者が認識しているのが通常である。その前提で債務者の支払不能等についての担保権者の悪意が要件とされているが、新たな規定にかかる担保権の目的物を増大させる行為は、担保権者の知らない間に設定者単独で行うことが可能であり、担保権者が否認対象行為の存在すら認識していない場合がありうる。それにもかかわらず債務者が危機時期にあることについての担保権者の悪意を要件とすることに合理性があるのか、疑問である。担保目的物を増大させる行為が、弁済ではなく、担保の新規設定でもなく、目的物の追加にとどまるものであり、支払不能等の後に問題となることをも考慮すれば、無償行為否認の類型に近いと整理するのが妥当である。

・ 担保権者の主観的要件を要求しない場合、担保権者の保護に欠けるのではないか、との疑問も生じる。しかし、偏頗行為否認において受益者である債権者の悪意を要件とする趣旨は、債務者の経済状況について善意の債権者に対する弁済等を保護し、取引の安定性を確保することにあるところ、担保目的物の増減は設定者の単独行為によって可能であり、担保権者が認識しない場合もあることを考えれば、必ずしも取引の安全を考慮する必要はない。担保権者が期待しているのは通常の取引の範囲内での「自然な」目的物の増減であり、それを超えたイレギュラーな増加について担保権者が期待する場面も考えにくいし、仮に期待したとしても、保護に値するとは言いがたい。客観的に支払不能の状態にあることは否認の前提とされており、また、担保権者としても通常の取引の範囲内であれば担保目的物は確保できる建て付けであり、担保権者の主観を不要としても担保権者に不測の損害を与えるものではない。

・ 個別動産や個別債権の担保目的の範囲への加入行為は、設定者のみで行うことができ、担保権者の主観的要件を課す場合、否認の対象が狭くなりすぎる。また、対象も悪質な加入行為に限定されており、担保権者の取引の安全を考慮する必要性は乏しい。

・ 個別動産や個別債権の担保目的の範囲への加入行為は、設定者が単独で行うことができるものであり、他方で、この偏頗行為否認によって集合動産・将来債権譲渡担保の設定自体の効力が否定されるわけではなく、追加加入された個別動産や個別債権についてのみ担保権の効力が否定されるにとどまる。このように、設定者が単独で行った個別動産や個別債権の悪質な加入について担保権者の期待を保護する必要はないといえるという点では、偏頗行為否認というよりも無償行為否認に近いと考えることもでき、また、担保権者の行為が存在しないにもかかわらず担保権者の主観を要件することは合理性を欠く。

・ 集合動産担保権や集合債権担保権については、担保権設定者は、担保権者の関与なしに、対象財産を増加させることができる。担保権者の行為がないのに、その悪意を要件とすることは理論的に疑問がある上、実務的にも否認が殆どできないこととなって妥当でない。

【担保権者の主観的要件を不要とする必要はないとする意見】

長島・大野・常松有志

・ 無担保債権者に対する担保供与よりも悪質性が高いものとは思われず、支払不能等に関する主観的要件を不要とする必要性はない。

【その他の意見】

・ 仮にこの否認の成立に主観的要件を必要とするとしても、目的物を増加させる行為は、無償行為否認と同類型とまでは言えないとしても、少なくとも非義務行為には該当するから、破産法162 条2項に準じ、担保権者の悪意は推定されるものとすべきである。(大阪弁)

・ 従来の否認類型との均衡を考慮しつつ検討すべき。(研究者有志)

注3について

【加入後の事情を勘案する必要があるとする意見】

全銀協

・ 仮に否認権の対象となる加入がなされたとしても、その後に担保権の目的の範囲からの処分等が行われた場合には、集合物全体として担保権者が偏頗的な担保取得をしているとは言えないので、否認の成否において当然に勘案すべき。

【加入後の事情を勘案する必要はないとする意見】

大阪弁、札幌弁、全倒ネット、東弁、担保研、日弁連、研究者有志

・ 行為後の事情で否認該当行為がそうでなくなるというのは相当ではないし、一般債権者の引当てが減少していることには変わりがないので、否認の成否において加入後の目的物の処分等の事情を勘案すべきではない。

・ 担保権の目的となった動産や債権が処分等された場合に、当該動産や債権の加入行為が偏頗行為否認の対象となるかどうかは、当該行為時点で判断することができるようにする必要があるから、事後の処分等の有無によって結果が異なるのは相当ではなく、仮に有害性がなければ偏頗行為否認の対象とはならないことを考えれば、加入後の処分等を斟酌すべきではない。

・ 本来、否認対象行為がなされた時点で否認権の成否が検討される以上、仮に加入行為の後で個別動産・個別債権の処分等が行われたとしても否認権の成否には原則として影響を及ぼすことはなく、例外的に否認権の一般的要件(有害性又は不当性)を欠くような事情があれば、そこで併せて勘案されうるに留めるべき。

【その他の意見】

・ 特段の定めは不要である。(一弁)

注4について

【担保権者の主観的5 事情を要件とする必要があるとする意見】

全銀協

・ 通常の偏頗行為否認の類型と異なり、この試案の場面では、対象行為がなされたこと自体を担保権者が認識できないことが通常と考えられる。担保権者がおよそ認識しない行為を後から否認権行使できるという仕組みは担保権者に不測の損害を与えることになり妥当ではない。また、担保権者が全く認識しない中で設定者が自発的にこのような行動をとることも想定し辛いと思われる。従って、(注4)の提案のとおり、担保権者が当該設定者の行為について知っている等の主観的事情、あるいは設定者による(2)の行為に対する担保権者の積極的な関与の存在を要件とすべき。

・ 担保権者の主観的事情については、偏頗行為否認の多くで課される要件であって、集合動産担保権又は集合債権担保について特別な扱いをする必要はない。

【担保権者の主観的事情を要件とする必要はないとする意見】

大阪弁、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連

・ 担保目的物を増加させる行為は担保権者が関与することなく設定者が単独で行えるものであることからすれば、担保権者の、債務者による目的物の増加行為の存在についての悪意が要件となれば、多くのケースが否認の対象外となってしまう。

・ 個別動産や個別債権の担保目的の範囲への加入行為は、設定者のみで行うことができ、担保権者の主観的事情を要件とした場合、否認の対象が狭くなりすぎる。また、担保権者の関与を要しない以上、善意の担保権者の取引の安全を考慮する必要性にも乏しい。

・ 個別動産や個別債権の担保目的の範囲への加入行為は、設定者が単独で行うことができるものであり、他方で、この偏頗行為否認によって集合動産・将来債権譲渡担保の設定自体の効力が否定されるわけではなく、追加加入された個別動産や個別債権についてのみ担保権の効力が否定されるにとどまる。このように、設定者が単独で行った個別動産や個別債権の悪質な加入について担保権者の期待を保護する必要はないといえるという点では、偏頗行為否認というよりも無償行為否認に近いと考えることもでき、また、担保権者の行為が存在しないにもかかわらず担保権者の主観を要件することは合理性を欠く。

・ 偏頗行為否認は危機時期以降の債権者の平等が趣旨であることに鑑みると、支払不能等についての主観的要件に加えて担保権者の主観的事情を要件とする必要は趣旨に鑑みてない。

【その他の意見】

・ (注4)について破産法との平仄から主観的要件を設けるのであれば、主観的要件に関する推定規定を設けることが望ましいとの指摘があった。(最高裁)

・ 従来の否認類型との均衡を考慮しつつ検討すべき。(研究者有志)

第22 担保権消滅許可制度の適用

1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用

⑴ 新たな規定に係る担保権について、破産5 法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

⑵ 担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」(破産法第187 条第1項)として、私的実行を認めるかどうかについて、次のいずれかの案によるものとする。

【案22.1.2.1】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認め、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額についての要件を課さない。

【案22.1.2.2】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額(注1)は、担保権消滅許可申立書に記載された売得金(破産法第186条第3項第2号)の額以上である必要があるとする。

【案22.1.2.3】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めない(担保権者は、競売手続の実行の申立てによるほか、買受けの申出(破産法第188 条第1項)により対抗することとする。)(注2)。

(注1)帰属清算方式及び処分清算方式のいずれの場合でも、清算金の発生又は被担保債権の消滅の効果は、担保目的物の客観的な価額を基準として生ずることになること等を踏まえ、帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額を基準とするかどうかについては、引き続き検討する。

(注2)対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額を、担保権消滅許可申立書に記載された売得金の額に5パーセントを加えた額以上である必要があるとするという考え方がある。

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・ 新たな規定に係る担保権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用対象としない理由がない。

・ 破産財団に属する財産を目的とする担保権を消滅させ、任意売却による迅速な換価と破産財団の拡充を図るという担保権消滅許可制度の目的は、新たな規定に係る担保権についても妥当する。

・ 従来の典型担保のみならず、非典型担保についても破産法上の担保権消滅許可制度の類推適用の可能性が論じられてきた。そこで、新たな規定に係る担保権を立法化するにあたり、これを破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする旨の明文を置くとともに、その規律を明確にしておく必要がある。

【反対】

個人

・ 破産の場合、何故5 、担保権消滅許可制度が必要なのか不明。

⑵について

【【案22.1.2.1】に賛成する意見】

全銀協

・ 担保権の消滅許可制度の利用が検討される局面は、倒産手続開始後で迅速性の求められる場合が通常と考えられるところ、私的実行という制度が用意されている中であえてこれを除外する必要性は乏しい。また、帰属清算、処分清算いずれにおいても、その制度設計の中で帰属または処分にかかる価格の妥当性を担保する仕組みは用意されている。

【【案22.1.2.1】に反対する意見】

・ 担保権者が売得金の額よりも低い金額で私的実行しうることになり、任意の交渉の場面でも、担保権者に過大な交渉力を与えることとなり、妥当でない。

・ 処分価額についての要件を設けないことによって、破産手続の迅速な進行が妨げられるおそれがある。

・ 破産管財人のイニシアティブによる任意売却の早期実現と破産財団の増殖という担保権消滅許可制度の趣旨を担保権者の側で容易に没却させてしまうことが可能となり、妥当ではない。

【【案22.1.2.2】に反対する意見】

・ 担保権者が破産管財人の申し出た財団組入額に承諾せず、かつ、破産管財人の申し出た売却相手方に対して処分清算方式で売却し、又は当該相手方への転売を見越して帰属算すること等により、財団組入れを容易にゼロとすることができてしまい、妥当ではない。

・ 実務上、動産の場合には財団組入れの割合が大きいことから、補足説明で指摘されているような弊害が特に大きい。

・ 破産管財人のイニシアティブによる任意売却の早期実現と破産財団の増殖という担保権消滅許可制度の趣旨を担保権者の側で容易に没却させてしまうことが可能となり、妥当ではない。

【【案22.1.2.3】に賛成する意見】

神奈川弁、ミロク、一弁、東弁、担保研、日弁連、研究者有志

・ 【案22.1.2.1】及び【案22.1.2.2】の弊害を防止できる。破産時において、担保権者の私的実行が一定程度制限されることになるが、競売手続でも自己競落が可能であることから、破産管財人の申し出た売得金及び財団組入に対する対抗策として妥当と考えられる。

【【案22.1.2.3】に反対する意見】

経営法友会

・ 例えば、動産譲渡担保権であれば、裁判5 上の手続きによらずに私的実行できる点がその本質ともいうべきものであるから、対抗手段としての私的実行も認められるべきである。

・ 買受けの申出(破産法第188 条第1項)は、売買契約の申込みとされており、担保権消滅請求の申立書が送達された日から1か月以内に、買受希望者の氏名・名称、買受希望者の申出の額などを書面に記載して行わなければならない。

よって、担保権者が、一定期間をかければより高く売却できる先を見つける見込みがあるときであっても、すぐに売却できる先を探すか競売を申し立てるほかなくなってしまい、不利益となる。なお、これに対しては、一定期間をかければより高く売却できる先を見つける見込みがある担保権者としては、そのことを見越して、担保権者自身が買受けの申出をして一旦高値で買い受け、時間をかけて第三者に売却するという選択肢があるから、【案22.1.2.3】を採用しても担保権者の利益保護に欠けるところはないとの反論も考えられる。しかし、担保権者によっては、担保目的物を一時的とはいえ自己の資産に計上することを好まない者(ないし、見込み違いにより売却損を発生させるリスクを一切許容しない者)も存在するところであり、担保権者自身が買受けの申出をする選択肢があるというだけでは保権者の利益保護に十分ではない。

・ 担保権者の私的実行による処分価額が、担保権消滅許可制度に基づく破産管財人の任意売却による処分価額を超える場合がないとはいえない。

・ 担保権者の対抗手段を買受けの申出に限定するほど厳しくする合理的理由は見出しがたい。

【注2の考え方に賛成する意見】

大阪弁、札幌弁、長島・大野・常松有志、日司連

・ 【案22.1.2.3】を採用する理由が、私的実行では適正価格を担保できないことにあるならば、私的実行を認めたうえで、評価額又は処分価額において売得金の額に5%を上乗せする(注2)によるべき。

・ 破産法上の担保権消滅制度について、破産債権者の利益の存在、担保権者の利益保障と調整の中で迅速な換価・破産財団の充実という政策目的が指摘されているところであり、(注2)のように、競売申立と買受けの申出以外の対抗手段として、担保権者に私的実行を認めて売却先を探す時間的猶予を与える代わりに、担保権者が私的実行を行う際にはその価額に制限を設けて、評価額又は処分価額において売得金の額に5%を上乗せした額以上とすべきであるとすることも、破産法の担保権消滅制度の制度設計として合理的である。

この点、(注2)の留意点としては、担保権者が管財人の見つけた売却先への売却代金額について異議はないが、財団組入額が高すぎるとして、それを争いたい場合に(管財人が見つけた売却先への売却代金>担保権者が見つけてきた売却先への売買代金額>売買代金額から財団組入額を控除した額)に争う術がない点が挙げられる。この点を考慮して、「売得金の額に5%を上乗せする」のではなく、「売得金から組入額を控除した額」に5%を上乗せした額以上である必要があるとする考え方もありうる。

・ 売得金以上の額での私的実行を禁止する5 理由に乏しく、売得金よりも一定額以上の額での私的実行であれば、破産管財人による財団組入れの問題も回避できる。ただし、5%という額が妥当かどうかは検討の余地がある。

・ 対抗手段として私的実行を認めることにより迅速な処理を可能としつつ、破産法第188 条第1項の買受けの申出がなされた場合との平仄を合わせる考え方であり、賛成することができる。

・ 買受けの申出の制度と平仄をあわせるべき。

・ 担保目的物の迅速かつ高額な処分を可能とするため、担保権消滅許可の申立て後においても、担保権者による私的実行を認めるべき。

もっとも、当該私的実行が倒産秩序を乱す可能性があるほか、倒産手続を円滑に実施するためには、破産財団への組入金を一定程度確保しなければならないため、担保権の円滑な私的実行と破産管財人の処分方針との間の利害を調整する必要がある。

そこで、担保権消滅許可の申立て後においても、担保権者による私的実行を認めつつも、その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額は、(注2)のとおり、担保権消滅許可申立書に記載された売得金の額に5パーセントを加えた額以上であることとすべき。このような取扱いは、任意売却可能な不動産につき破産法上の担保権消滅許可制度が適用されるときにも実務上行われるものであり、新たな規定に係る担保権の取扱いとしても妥当である。

【注2の考え方に反対する意見】

・ (注2)の提案の場合、売得金の額よりも高額だが5%以内の範囲内という買い手が現れた場合、担保権の実行による回収の極大化が図れるにもかかわらず、その選択肢が採れないことになり、このような提案は合理性に乏しい。なお、補足説明で紹介されているような、破産管財人が見つけた買受先に担保権者が売却交渉を行うといった懸念については、当初の買受人探索時に担保権者との接触をしないという契約上の義務を課して情報開示をすれば足りるのではないか。

・ 条件付きの私的実行を認めるものであり、対抗手段としての実行の申立てを「競売手続」に限定する【案22.1.2.3】とは異なる。

・ 現行の破産法において対抗手段としての買受け申出の金額が、売得金額にその5パーセントを加えた金額以上とされているのは、主に破産手続の実務において不動産の任意売却時における破産団組入額の割合を参考にしたものであり、これに対して動産の任意売却時又は破産管財人による債権回収行為における破産財団組入額の割合は、5パーセントよりもはるかに大きいのが実態である。(注2)の考え方に基づく私的実行を認めると、担保権者が売得額の5パーセントだけを自己負担とし、破産管財人の申し出た売却の相手方へ売得額と同額で転売することを予定して、その額に5パーセントを加えた評価額での帰属清算又はその額での処分清算をすることにより、差し引きで売得額のパーセントを回収することができることとなる。したがって、破産管財人は5パーセント以上の破産財団組入額の交渉が著しく困難となり、不当な結果をもたらす。

・ 新たな規定に係る担保権の(注2)の考え方に基づく私的実行は、買受けの申出(破産法188 条)と経済的な実質において重な5 っているため、買受け申出においても破産管財人の申し出た売却の相手方への転売を予定して行うことは不可能ではない。しかしながら、この場合には破産法上の手続を履践するとの制度上の制約があることなどから、弊害が生じる可能性は相当程度払拭されるものと考えられ、それでもなお残る可能性については買受け申出の制度に内在するもので、やむを得ないと評価すべき。

・ 5%という金額を一律に定めることは困難。

・ 破産法第188 条第1項の買受けの申出がなされた場合との平仄を合わせる形で対抗手段としての私的実行を認める考え方であるが、対抗手段としては買受け申出の制度があれば十分であり、あえて私的実行をも認める必要はない。

【その他の意見】

・ 【案22.1.2.3】に賛成する意見もあった。(大阪弁)

・ 仮に、【案22.1.2.1】が採用される場合であっても、担保権者の対抗手段としての「担権の実行の申立て」として私的実行を認める場合に、①集合動産を目的とする担保権に関する私的実行については、「担保権の実行の申立て」として実行開始通知がなされたのみでは足りず、担保目的物の占有移転への着手等の一定の行為を要求すべきである。または、②担保権実行から一定期間が経過する前に占有移転への着手等の一定の行為がなされない場合には、担保権実行証明文書が提出されなかったものとみなすものとすべきである。一定期間については、「1か月」とするのが妥当である。(大阪弁)

・ 【案22.1.2.2】又は【案22.1.2.3】にすべき。(企業法研)

 ・ 【案22.1.2.2】及び【案22.1.2.3】を採用した場合には、(注2)に記載されているような考え方をとるべきであるとの意見もあった。(最高裁)

・ 【案22.1.2.2】及び(注2)の考え方に賛成する意見と、【案22.1.2.3】に賛成し(注2)は反対する意見がある。(全倒ネット)

・ 破産管財実務上、動産の任意売却における財団組入の率は10%以上とすることが多数と思われるが、これは、動産の任意売却が不動産の任意売却に比して、多額の維持管理コストが破産財団に生じること、動産は買い手によって価格が大きく異なり、高額で買ってくれる相手を探し出すことのメリットが大きいことなどが理由である。かかる破産管財の実務は合理的であり、これを維持するためには、【案22.1.2.3】又は(注2)を採用した上で、動産担保については、破産法第188 条3項の「二十分の一」35 は「十分の一」とすべき。(淀屋橋・山上有志)

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用

新たな規定に係る担保権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とするものとする。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、札幌弁、企業法研、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日司連、日弁連、研究者有志

・ 現行法上、譲渡担保等の非典型担保も担5 保権消滅許可制度の対象となると解されていることを踏まえた提案であり、賛成である。

・ 譲渡担保権などの非典型担保も、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の対象となる担保権に含まれると解されている。

・ 民事再生法及び会社更生法に係る担保権消滅許可制度の目的は、譲渡担保や所有権留保等にも当てはまる。

・ 再建型倒産手続である再生手続及び更生手続において、その目的を達するためには、従来の典型担保と同様に、新たな規定に係る担保権についても消滅許可制度の対象として捕捉する必要がある。

 【その他の意見】

・ 評価方法については、担保権者の把握する価値は債務者の協力なしに実現できる価値であるから「早期処分価格」として評価するのが妥当である。(大阪弁)

・ 中間試案に賛成と反対の意見があった。(ミロク)

・ 消滅の対価の規定は必要と考える。(個人)

担保法制部会資料 32

担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討⑷

目次

第1 集合債権を目的とする譲渡担保権の実行 …………………………………………………………….3

第2 譲渡担保権等の別除権としての取扱い ………………………………………………………………..5 5

第3 担保権実行手続中止命令に関する規律 ………………………………………………………………..5

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無 ………………………………………………………………..5

2 担保権実行手続禁止命令 ………………………………………………………………………………….6

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期 ……………………………..7

4 担保権者の利益を保護するための手段 ………………………………………………………………..8

5 担保権者の意見聴取の要否 ……………………………………………………………………………….8

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力 …………………………………. 10

7 担保権実行手続取消命令(17-7) ………………………………………………………………… 11

第4 倒産手続開始申立特約の効力 …………………………………………………………………………. 14

 第5 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力 ………………………… 16

1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力 ……………………………………….. 16

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力 …………………………………….. 18

第6 否認 …………………………………………………………………………………………………………… 18

第7 担保権消滅許可制度の適用 …………………………………………………………………………….. 21 1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用 ……………………………………………………………… 21

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用 …………………………………. 23

第8 譲渡担保権設定者の処分権限等に関する規律 ……………………………………………………. 23

1 譲渡担保契約における設定者による目的である財産権の処分(総則的規律、部会資料28、

2-3関連) ………………………………………………………………………………………………….. 23

2 動産譲渡担保権設定者による所在場所の変更(部会資料28、3-5関連) …………… 24

3 集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲に属する動産の処分権限(部会資料28、4-

3関連) ………………………………………………………………………………………………………… 25

4 集合債権譲渡担保の目的である債権の取立権限・弁済受領権限の所在 ………………….. 27

第9 根譲渡担保権の極度額の定め及び根譲渡担保権の処分(部会資料28、2-6関連) . 30

第10 動産譲渡担保権が他の動産担保権と競合する場合の優劣 ……………………………………. 32

1 占有改定による隠れた動産譲渡担保権への対処方法(部会資料30、4-2関連) ….. 32

2 集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合の優劣(部会資料30、4-2

関連) …………………………………………………………………………………………………………… 33

3 牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の特別の優先ルール(部会資料30、4

35 -5関連) ……………………………………………………………………………………………………… 34

第11 留保所有権に関する規律内容(部会資料30、1-2関連) ………………………………… 36

第1 集合債権を目的とする譲渡担保権の実行

集合債権を目的とする譲渡担保権の実行について、次のいずれかの案によることとする。

【案1.1】

集合債権を目的とする譲渡担保権の私的実行については、特別な規定を設けないものとする。(15-7)

【案1.2】

⑴ 集合債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があった場合において、その債権譲渡担保権者が直接の取立てその他の方法による実行をしようとするときは、あらかじめ、その旨を債権譲渡担保権設定者に通知しなければならない。

⑵ ⑴の通知が債権譲渡担保権設定者に到達したときは、債権譲渡担保権設定者は、その時に特定範囲に属していた債権の取立て、譲渡及び相殺、免除その他の債権を消滅させる行為をする権利を失う。

【案1.3】

⑴ 【案1.2】⑴及び⑵と同じ。

 ⑵ 集合債権譲渡担保権(その集合債権譲渡担保権が他の集合債権譲渡担保権に優先する場合にあっては、当該他の集合債権譲渡担保権を含む。)は、【案1.2】⑴の通知が債権譲渡担保権設定者に到達した後にその通知をした者が有する集合債権譲渡担保権の特定範囲に属することとなった債権に及ばない。(注)

(注)一定の要件を満たす場合には、集合債権譲渡担保権がその通知の到達後にその特定範囲に属することとなった債権にも及ぶものとする考え方がある。

(説明)

【案1.1】について

【案1.1】は、中間試案第15、7のとおり、集合債権を目的とする譲渡担保は個別債権を目的とする譲渡担保の集積であるとの理解を前提として、集合債権を目的とする譲渡担保権の私的実行について特別な規定を設けないものとする考え方である。ただし、このような理解に基づくとしても、設定者が有していた取立権限を消滅させ、担保権者が取立権限を取得するために必要な行為等に関する規定等の要否について、後記第8、4参照。

なお、【案1.1】によれば、実行後に設定者が取得する債権に担保権の効力が及ぶか否かについては、集合債権を目的とする譲渡担保契約において特定範囲をどのように定めたか30 という合意の内容によることとなる。

2 【案1.2】について

集合債権譲渡担保においては、目的債権の取立権限は設定者にあるというルールを提案している(部会資料28 第6、1)。他方で担保権者にも取立権限があるかどうかについては考え方が分かれ得るが、担保権者が実行に着手するまでは取立権限を有しているのは設定者のみであり、担保権者はこれを有していないと考えると、集合債権譲渡担保の実行に当たっては、意思表示等の何らかの行為によって担保権者が目的債権の取立権限を取得する(その反面、設定者の取立権限を失わせる)ことが必要になる。そして、この取立権限の取得(及び設定者の取立権限の喪失)のための行為が取立委任の解除ではないとすると、どのような行為によって担保権者が取立権限を取得するかについて規定を設ける必要がある(この点について、後記第8、4参照)。

そこで、【案1.2】では、集合債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があった場合において、その債権譲渡担保権者が直接取立て又は帰属清算方式若しくは処分清算方式による実行をしようとするときは、あらかじめ、その旨を債権譲渡担保権設定者に通知しなければならないものとした上で、その通知が債権譲渡担保権設定者に到達したときは、債権譲渡担保権設定者は、その時に特定範囲に属していた債権の取立て、譲渡及び相殺、免除その他の債権を消滅させる行為をする権利を失うものとしている。

また、【案1.2】については、仮に実行通知が到達しない限り集合債権を目的とする譲渡担保権者は取立権限及び弁済受領権限を取得しないと解するとすれば、実行通知が到達したか否かは第三債務者にとって把握することが困難な事情であることから、第三債務者の10 利益の保護に欠ける事態が生ずるおそれがある。そのため、【案1.2】を採用する場合には、第三債務者の利益を保護するために、担保権者による取立権限の取得を第三債務者に対抗するためには第三債務者に対する通知等を要するものとすることや、第三債務者が実行通知が到達したことを知らなかったときに限り、設定者に対する債務消滅行為の効力を担保権者に対抗することができるものとすることなどが考えられる。

3 【案1.3】について

⑴ 集合動産譲渡担保権が実行通知の到達後に特定範囲に属することとなった動産に及ばないものとする実質的な理由は、①集合動産について一旦実行をすればその後の事業継続が事実上困難になることも多いため、その後に加入する構成部分を基礎として与信がされるということは想定し難いこと、②累積的な担保権設定を肯定した場合(いったん実行しても、その後に特定範囲に加入する動産に担保権が及ぶこととした場合)には、一般に、被担保債権の額を大きく超える動産に担保権が設定され、財産の処分や新たな資金調達が困難になる上、一般債権者に対する弁済の原資がなくなるといった問題が生じやすくなること、③再度実行を可能とするニーズは事業担保やプロジェクト・ファイナンスに限定されたものであって、集合動産担保一般に妥当するとはいえないことなどにある。これらの理由が集合債権譲渡担保についても妥当するものであるとすれば、集合動産譲渡担保権と同様に、実行後に発生した債権には担保の効力は及ばないものとすることが考えられる。

そこで、【案1.3】では、中間試案の【案19.1.3】(将来発生する債権を目的とする譲渡担保権の効力は、設定者について倒産手続が開始した後に発生した債権にも及ぶが、実行後に発生した債権には及ばないという考え方)を倒産手続開始時にのみ適用される規律ではなく一般的な規律として採用し、集合債権譲渡担保権は実行通知の到達後に特定範囲に属することとなった債権に及ばないものとすることを提案している。

⑵ 集合債権譲渡担保については、プロジェクト・ファイナンスなど一定のニーズがある場合には実行後に発生する債権についても担保の効力を及ぼすことを認めるべきとも考えられる。そこで、(注)では、このような考え方を取り上げている。この考え方を採る場合には、実行後に発生する債権についても担保の効力が及ぶ類型の集合債権譲渡担保権については【案1.2】が適用されることになり、及ばない類型の集合債権譲渡担保については、予測可能性を確保することができるような形で具体的な要件を設定することができるかが問題となる。

そのような要件としては、まず、当事者の合意によって選択できることとすること、例えば、実行通知後に発生した債権には担保権が及ばないことをデフォルト・ルールとした上で、当事者が特に合意した場合には、実行後に発生した債権には担保権が及ぶとすることが考えられる。しかし、集合債権譲渡担保において実行後に発生した債権に担保権が及ぶかどうかは、設定者だけでなく一般債権者の利害にも関わるため、担保権者と設定者の間の合意によって自由にその効果を選択することができるとするのは適切でないとも考えられる。

そこで、例えば、実行後に発生した債権に担保権が及ぶという類型を選択することができる場面を限定する(例えば、プロジェクト・ファイナンスの場面など、設定者が取得する債権を包括的に取得することに合理的な理由がある場面に限定するなど)ことや、実行後に発生した債権に担保権を及ぶという類型においては、担保権の効力を制限する(例えば、担保権が及ぶ債権の価値の一定割合については優先弁済権が及ばず、一般債権者等への弁済に充てられるなど)ことが考えられる。もっとも、前者についてはそのような場面を過不足なく抽出することができるか(この点について、詳しくは、第5、1を参照。)、後者についても具体的にどのような制限を設けるかなどの問題があると考えられる。

第2 譲渡担保権等の別除権としての取扱い

破産手続及び再生手続において、譲渡担保権及び留保所有権を有する者を別除権者(破産法第2条第10 項、民事再生法第53 条)として、更生手続において、譲渡担保権及び留保所有権の被担保債権を有する者を更生担保権者(会社更生法第2条第11項)として、それぞれ扱うものとする。(16)

(説明)

中間試案第16 から実質的な変更はない。

第3 担保権実行手続中止命令に関する規律

1 担保権実行手続中止命令の適用の有無

⑴ 譲渡担保権及び留保所有権の実行手続(私的実行手続を含む。下記⑵において同じ。)を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同法第31 条)の対象とする。(17ー1⑴)

⑵ 譲渡担保権及び留保所有権の実行手続を会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令(会社更生法第24条、会社法第516 条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第27 条)の対象とする。(17-1⑵)

⑶ 債権質の実行手続(私的実行手続を含む。)を上記⑴及び⑵の手続の対象とする。(17-1⑶)

⑷ (流質契約の効力を認める場合の問題として、)動産質に係る契約による質物の処分を上記⑴及び⑵の手続の対象とするかについて、どのように考えるか。(17-1⑶の(注))

(説明)

1 ⑴から⑶までについては、中間試案第17、1から実質的な変更はない。

2 ⑷については、中間試案第17、1の(注)において問題提起していた点である。仮に、動産譲渡担保権の私的実行に類似する契約による質物の処分(流質)を認める場合には、流質についても担保権実行手続中止命令の趣旨が妥当するとして、その対象とすべきであるという指摘がある。

他方で、動産質権が設定されている動産については担保権者に占有が属していることからすれば、そもそも流質を中止命令の対象とするニーズは乏しいのではないかという点が問題になる。また、流質があり得るのは不動5 産質権も同様であることからすれば、動産質権についてのみその流質を中止命令の対象とすることを明記することが妥当なのかという問題もある。

以上を踏まえて、動産質に係る契約による質物の処分を担保権実行手続中止命令の対象とすることについて、どのように考えるか。

2 担保権実行手続禁止命令

⑴ 再生手続において、譲渡担保権及び留保所有権の実行手続を対象とする、実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の規定を設けるものとする。(17-2⑴)

⑵ 譲渡担保権及び留保所有権についての再生手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。(17-2⑵)

⑶ 更生手続、特別清算手続及び承認援助手続において、上記⑴と同様に、譲渡担保権及び留保所有権の実行手続を対象とする、実行手続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の規定を設けるものとする。(17-2⑶)

⑷ 譲渡担保権及び留保所有権についての更生手続、特別清算手続及び承認援助手続における担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令と同様とする。(17-2⑷)

⑸ 債権質の実行手続を上記⑴及び⑶の手続の対象とする。(17-2⑸)

⑹ (流質契約の効力を認める場合には、)動産質の実行手続を上記⑴及び⑶に規定する担保権実行手続禁止命令の対象とするかについて、どのように考えるか。(17-2の(注2))

(説明)

1 ⑴から⑸までについては、⑴、⑶及び⑸に関する以下の点を除き、中間試案第17、2から実質的な変更はない。

⑴、⑶及び⑸については、担保権実行手続禁止命令の対象を実行手続一般とするか、私的実行手続(債権質については直接取立てによる実行)とするかについて両案を併記していた。

担保権実行手続禁止命令は私的実行手続に限って認めれば趣旨が達成されることや、他の担保権との均衡から、私的実行手続のみを対象とすべきとする指摘がある。

もっとも、私的実行手続のみを対象とすると、私的実行手続に関する担保権実行手続禁止命令の発令後に競売手続が開始された場合に再度担保権実行手続中止命令の発令を申し立てるための時間やコストが生じることや、適用の対象を実行一般に広げても、不当な損害が要件とされることによって担保権者の保護は図られていることなどに鑑みれば、実行手続一般を対象とすることが考えられる。

そこで、実行手続一般を対象とする提案としている。

2 ⑹については、中間試案第17、2の(注2)において問題提起していた点である。流質契約の効力を認める場合、流質契約の効力による目的物の処分と私的実行の実質的な類似性に鑑みて、流質契約による処分を担保権実行手続禁止命令の対象とすることが考えられる。この場合、前記の趣旨からすると、動産質権の実行手続について担保権実行手続禁止命令の対象とすべきであるとも考えられる。

3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期

⑴ 担保権実行手続中止命令又は前記2に規定する担保権実行手続禁止命令のうち、動産を目的とする譲渡担保権及び留保所有権の私的実行に係るものの終期については、次のいずれかの案によるものとする。

【案 3.3.1】実行により目的である財産の全部の価値が充当されて被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとする。(17-3)

【案3.3.2】(部会資料30 の第6、5において、受戻権に関する規定を設けることを前提として、)受戻権が消滅するまでにしなければならないものとする。(17-3の(注))

⑵ 担保権実行手続中止命令又は前記2に規定する担保権実行手続禁止命令のうち、債権を目的とする譲渡担保権の私的実行又は債権質の取立てに係るものについては、実行により目的である財産の全部の価値が充当されて被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとする。(17-3)

(説明)

1 中間試案第17、3において提案していた点である。

担保権の実行によって被担保債権が消滅するまでは、設定者は別除権協定を締結して担保目的財産を維持する余地がある一方、被担保債権に係る債務が消滅して担保権も消滅すると、別除権協定を締結する余地がなくなるため、中間試案第17、3においては、担保権実行手続中止命令等は被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならない、という提案としていた。⑴の【案3.3.1】及び⑵はこの考え方を踏襲するものである。

 他方で、中間試案において(注)で記載していたとおり、動産を目的とする譲渡担保権及び留保所有権については、被担保債権に係る債務が消滅したとしても担保目的動産が担保権者に引き渡されるまでは担保目的財産の受戻しを認め、担保権実行手続中止命令の対象とすべきという考え方がある。そこで、⑴において【案3.3.2】を併記している。

部会資料30 の第6、5において、受戻権に関する問題提起を行っているところ、仮に受戻権を認める場合には、この(注)の考え方を採るかどうかが問題となる。

2 受戻権は、担保権が実行された後に、債務者であった者に目的物の所有権を回復する特別な権限を与える制度である。譲渡担保権の目的物の換価価値が被担保債権に充当された後は、債務者であった者が受戻権を行使することができるとしても、その目的物の換価価値によって被担保債権の満足が図られるという関係にはなく、譲渡担保権者が有している

権利を担保権ということはできないと考えられる。このため、受戻権という制度を設けたとしても、帰属清算の通知がされた場合には受戻権の存続期間中に担保権実行手続中止命令を発令することはできないと考えられ、【案3.3.1】を採るのが自然である。

これに対しては、受戻権の行使を可能とする場合には、設定者及び担保権者の間で別除権協定(に類似する協定)を締結する余地はあると考えて、受戻権が消滅するまでは担保権実行手続中止命令等の対象とすべきであるという考え方も述べられた。このような結論を正当化するためには、例えば、帰属清算の通知や第三者への処分の効果(目的物の確定的な帰属や被担保債権の消滅)を差押債権者に対抗することができないというような規定を設けることなどが考えられるが、このような規定の合理性などについては更に慎重に検討する必要がある。

 他方で、再生手続においてそのように考え5 たとしても、更生手続においてどのように取り扱うべきであるのか(仮に、受戻権を行使することができる期間において担保権者が有する権利が取戻権として扱われるとすれば、特段の規定を設けない限り、当該権利の行使は制約されないこととなる。)なども踏まえ、慎重な検討が必要であるように思われる。

 4 担保権者の利益を保護するための手段

担保権実行手続中止命令及び前記2に規定する担保権実行手続禁止命令は、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる。(17-4)

(説明)

 中間試案第17、4から変更はない。想定される条件としては、代替担保の提供や、分別管理口座を開設した上で目的動産の処分代金や目的債権の取立てにより得た金銭を入金させ、預金債権に担保権設定をすることなどがあり、具体的場面によって異なり得るものであると考えられることから、付すことができる条件に特段の限定は付していない。

なお、ここで想定している「条件」とは、いわば発令後における遵守事項であり、発令条件(発令の前提となる条件)を意図しているものではない。

5 担保権者の意見聴取の要否

⑴ 譲渡担保権及び留保所有権の実行手続、債権質の実行手続【並びに動産質の実行手続】に対する担保権実行手続中止命令及び前記2に規定する担保権実行手続禁止命令は、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなく発することができ、ただし、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなくこれらの命令を発したときは、裁判所は、発令の後に担保権者の意見を聴かなければならないものとする。(17-5)

⑵ ⑴における担保権者の意見を聴くべき時期について、どのように考えるか。(17-5の(注2))

(説明)

1 ⑴のうち、譲渡担保権及び留保所有権に係る部分については、実行手続一般を対象とすることとした点を除いて、中間試案第17、5から実質的な変更はない。

 実行手続一般を対象とする提案としたのは、補足説明に記載したとおり、対象を私的実行手続のみとしてしまうと、前記2のとおり担保権実行手続禁止命令の対象を実行手続一般としたとしても、結局実行手続一般を対象とした担保権実行手続禁止命令の発令を一回ですることが困難になると考えられるためである。

 また、譲渡担保権及び留保所有権に加えて、前記1⑶及び2⑸のとおり、債権質について質権者が第三債務者から直接取り立てる方式による実行が認められていることから、債権質についても対象に加えている。さらに、動産質についても流質が可能であり、動産譲渡担保の私的実行と類似することからすれば、対象に加えることが考えられ、隅付き括弧を付して対象とする考え方を示している。

2 ⑵については、中間試案第17、5の(注2)として問題提起していた点である。実務上の運用の余地を広く認めるために「遅滞なく」とすべきという指摘がある一方で、担保権者の保護の観点から、「直ちに」又は5 「速やかに」とすべきという指摘もある。

 現行の民事再生法第31 条第2項が、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないか否かの判断のために担保権実行手続中止命令の発令に当たって競売申立人の意見聴取を求めている一方で、譲渡担保権及び留保所有権の私的実行は短時間で終了する場合もあることから、担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令の発令前に実行手続が終了してしまうことのないよう、必ずしも事前の意見聴取をしないで良いこととするのが、⑴の趣旨である。

 そうすると、一旦発令がされれば、担保権者の保護の観点から、可能な限り速やかに意見聴取を行うことが望ましいと考えられる。また、意見聴取の方法については、事案の性質に応じて適宜な方法によればよく、口頭によったり、意見書を提出させたりすることによって行うことが可能と考えられている。

以上からすれば、「遅滞なく」として運用の余地を広く認めるのではなく、担保権者の保護の観点から、「直ちに」又は「速やかに」とすることが考えられるが、どのように考えるか。

3 なお、裁判所が担保権実行手続中止命令等の発令後に担保権者の意見を聴いた結果、必要があれば、命令を変更し又は取り消すことが想定されるが、担保権者としては、現行の担保権実行手続中止命令と同様、即時抗告をすることも可能と考えられる。

即時抗告がされれば、原裁判所において裁判を更正することも可能であるから(民事再生法第18 条・民事訴訟法第333 条。いわゆる再度の考案)、即時抗告が認められている以上、担保権者は即時抗告において自らの主張をすれば足り、発令後に担保権者の意見を聴くこととする必要はないのではないかという指摘もあり得る。

この点については、この(説明)の前記2のとおり、意見聴取は適宜な方法により柔軟に実施することが可能であることからすれば、なお意見聴取を行うこととする意義はあるように思われるが、どのように考えるか。

 もっとも、意見聴取の結果裁判所が命令の変更や取消しの必要を認めない場合、特段の対応がされないこととなり、それに不服がある担保権者は、自分から担保権実行手続中止命令等に対する即時抗告を行う必要がある。これが、手続保障の観点から実際上問題がないかという点は検討の必要があるように思われる(ただ、例えば、担保権者の意見聴取を行うことなく発令をする場合には1週間や2週間などごく短期の期間を定めて担保権実行手続中止命令等を発令し、担保権者の意見聴取の結果、不当な損害を及ぼすおそれがないなど発令の要件を満たしていることが確認されれば期間の延長(担保権実行手続中止命令の変更)を行うこととし、不当な損害を及ぼすおそれがあるなど発令の要件を満たしていないことが判明した場合には期間の延長等を行わないという運用がされるのであれば、このような問題は生じにくいとも思われる。)。この点についてもどのように考えるか。

6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の弁済の効力

⑴ 債権譲渡担保権に関して担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合において、第三債務者がこれらが発令されたことを知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとする。(中間試案【案17.6.2】)

⑵ ⑴に規定する場合において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して、その債務を免れることができるものとする。(中間試案【案17.6.2】)

⑶ 債権質に関して担保権実行手続中止命令又は担保権実行手続禁止命令が発令された場合において、第三債務者がこれらが発令されたことを知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとする。(17-6の(注))

⑷ ⑶に規定する場合において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して、その債務を免れることができるものとする。この場合において、質権は、その供託金について存在する。

 (説明)

1 担保権者が担保権の実行に着手し、目的である債権の取立権限及び弁済受領権限が担保権者に移った後に担保権実行手続中止命令が発令されても、担保権者が取立権限及び弁済受領権限を取得したという効果自体は覆されない(もっとも、取立ては担保権実行手続中止命令によってすることができなくなる)という考え方を前提に(この点については、後記第8、4も参照)、中間試案第17、6においては、【案17.6.1】(担保権実行手続中止命令等が発令されても、第三債務者が担保権者に弁済することは妨げられないとする考え方)及び【案17.6.2】(担保権実行手続中止命令等が発令されたことを第三債務者が知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効力を対抗することができないものとする考え方)の両案を併記していた。⑴は、この点について、【案17.6.2】の内容を提案するものである。これは、【案 17.6.1】によると、第三債務者が中止命令等の発令を知っている場合でも担保権者に対する弁済の効力が否定されず、中止命令の効力が減殺されるおそれがあるため、本来であれば弁済受領権限を有する担保権者に対する弁済の効力を、第三債務者が悪意であることを要件として制限しようとするものである。

 しかし、そうすると、取立権限の付与が解除され、担保権者に取立権限がある場合において、第三債務者が中止命令等の発令を知っているときには、第三債務者が弁済により担保目的債権を消滅させることができなくなる。

 そこで、⑵において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して債務を免れることができることとしている。

 この場合、部会資料31 の第5、3と同様、債権譲渡担保権者を被供託者とし、債権譲渡担保権者が供託金還付請求権を有することとなることを前提に、⑷と異なり、担保権が供託金について存在するという規定は設けないことを提案している。

2 ⑶については、中間試案第17、6の(注)において問題提起していた点である。債権質について中止命令等が発令された場合でも、債権譲渡担保権の場合と同様に、質権者は目的債権の取立てをすることができなくなる一方で、第三債務者は、質権者に対して弁済すべきであると認識しているのが通常であるという問題がある。

 そこで、⑶では、債権譲渡担保権に関する⑴と同様の規定を債権質についても設けることを提案している。もっとも、この場合にも、第三債務者が中止命令等の発令を知っているときには、第三債務者が弁済により担保目的債権を消滅させることができなくなる。

 そこで、⑷において、第三債務者は、担保目的債権の全額に相当する金銭を供託して債務を免れることができることとし、供託金に5 ついて質権が存在することとすることを提案している。

7 担保権実行手続取消命令(17-7)

⑴ 集合動産譲渡担保権に係る実行通知の効力若しくは動産競売に係る差押え又は集合債権譲渡担保権に係る取立権限の付与の解除の効力を取り消す効果を有する担保権実行手続取消命令の規定を設けることについて、どのように考えるか。

⑵ 担保権実行手続取消命令の規定を設ける場合、以下のような規定としてはどうか。

① 担保権実行手続中止命令の要件と同様の要件に加え、再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保を立てさせることを担保権実行手続取消命令の要件とする。(17-7の(注1))

② 担保権実行手続取消命令は、将来に向かってのみ効力を有することとする。

③ 担保権実行手続取消命令のうち、私的実行に係るものについては、実行により目的である財産の全部の価値が充当されて被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとする。

 ④ 担保権実行手続取消命令について、担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令に関する前記4と異なり、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる旨の規定を設けないこととする。(17-7の(注2))

⑤ 集合債権譲渡担保権に関して担保権実行手続取消命令が発令された場合において、これが発令されたことを第三債務者が知らなかったときは、担保権者に対する債務消滅行為はその効力を有するものとする。(17-7の(注3))

(説明)

1 中間試案第17、7で問題提起していた点である。

⑴は、担保権実行手続取消命令の規定を設けることについて問題提起している。

 集合動産については、中間試案においては私的実行の場合を念頭に実行通知の効力を取り消すものとしていたが、私的実行に加えて競売により実行が行われることもあり得、競売の場合には差押えによっていわゆる固定化の効力が生ずることを提案していることを踏まえ(部会資料31 の第1、9)、動産競売に係る差押えをも取り消すことを提案している。

 また、集合債権については、取立権限の付与の解除(【案1.2】又は【案1.3】を採るのであれば、【案1.2】⑴の通知)の効力を取り消すことを想定している。

なお、集合債権に関する実行手続に関して特段の規定を設けない【案 1.1】を採るとすれば、「取立権限の付与の解除」についても特段法律上の規律が存在しないこととなる。その場合に、「取立権限の付与の解除」を対象として取消命令の規定を設けることが法制的な観点から可能かが問題となり、検討が必要である。

2 ⑵は、担保権実行手続取消命令の規定を設ける場合の規定内容に関する提案である。

 ⑴ 中間試案第17、7においては、担保権実行手続中止命令と同様の要件を本文に記載しつつ、(注1)において、再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保を立てさせることなどをも要件とすべきという考え方を示していた。これは、担保権実行手続取消命令は、担保権実行手続中止命令等とは異なり、既に行われた実行通知等の効力を取り消すものであるから、担保権者の保護の観点から、要件を加重すべきという考え方である。

 担保権者の保護に関しては、要件を加重しなくとも、「担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがない」という要件の充足の判断において、中止命令や禁止命令とは異なる効果を有することを踏まえた判断が可能であるとも考えられるが、競売による差押えを取り消す場合を想定すると、再生債権者の強制執行の取消しのために、再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや担保を立てさせることが要件とされていることとの平仄の観点からすれば、同様にこれらを要件とすべきと考えられる。

 そこで、①では、担保権実行手続中止命令の要件と同様の要件に加え、再生債務者の事業の継続のために特に必要があると認めることや、担保を立てさせることを提案している。

 ⑵ ②は、担保権実行手続取消命令の効果について提案するものである。既に行われた実行通知や取立権限の付与の解除の効力を取り消す場合に、遡及効を有することとすると、当該実行通知を前提としてされた処分清算や債権の取立ての効力が否定されることとなり、処分の相手方や第三債務者の利益を害するし、担保権実行手続取消命令は、部会資料31 の第1、5の実行通知の撤回とは異なり、担保権者が関与せずに行われるものであるところ、帰属清算が行われた場合など第三者が現れていない場合においても、担保権者の利益を保護する必要があると考えられる。

 そこで、担保権実行手続取消命令は将来に向かってのみ効力を有することとすることを提案している。具体的には、取消命令が発令されるまでに、実行通知や取立権限の付与の解除を前提としてされた担保権実行(帰属清算、処分清算、債権の取立て、競売)がされ、一部の動産について担保権者や第三者への確定的な所有権が移転したり、一部の債権について取立てが終了している場合には、所有権の移転という効果や弁済の効力が覆されることはない。また、実行通知や取立権限の付与の解除がされた後に特定範囲に加入した動産や債権について、これが担保権の目的になっていないことを前提として設定者がこれを処分したり取り立てたりした場合、その処分行為や取立ての効力も否定されない。これら以外の部分、すなわち、取消命令が発令された時点(取消命令が担保権者に送達された時点)で処分等がされず特定範囲に属したままの動産や債権について、設定者は通常の事業の範囲での処分権限や取立権限を回復することになり、また、その後に特定範囲に加入する動産や債権について、担保権者は担保権を取得し、設定者は通常の事業の範囲内での処分権限を取得することになる。

 なお、集合動産譲渡担保について、以上のように一部について既にされた実行の効力を否定しない場合、再度実行を許容しない趣旨から、その後流動性を回復した集合動産の全体に担保権が及ぶこととしてよいかが問題になる。再度実行を許容しないことを貫徹すれば、既に実行がされた部分に対応する部分については担保権が及ばないこととし、それ以外の部分について流動性を回復することが考えられるが、担保権者は必ずしも取消命令が発令することを予期して実行をしているわけではないから、既に実行がされた部分に対応する部分とそれ以外の部分を識別することは困難な場合が多いと考えられる。

 そこで、取消命令の発令前に一部実行がされていた場合でも、その後特定範囲に加入する集合動産全体に担保権が及び、担保権者はその全体から優先弁済を受けることができることとせざるを得ないと考えられる。また、担保権者の判断による一部実行と異なり、担保権実行手続取消命令の発令は裁判所の判断によるものであり、裁判所が取消命令を発令するに当たっては、このような効果が生じ得ることも念頭に置いた上で、再生債権者の一般の利益に適合するかどうかを判断することになるため、担保権者が不当に利益を得るというおそれも小さいと考えられる。この点についてどのように考えるか。

 以上は私的実行の効果を取り消す場合についてであるが、競売による差押えが取り消された場合の効果をどのように規律することとするかも、問題になる。この点については、強制執行の取消しの効力について特段規定が置かれていないこと(民事再生法第26条第3項)も踏まえて、更に検討が必要である。

⑶ ③は、担保権実行手続取消命令の終期を定めようとするものである。

 前記3においては、私的実行手続については終了時期が明らかでなく明確化の必要性が高いことから、担保権実行手続中止命令等の終期について問題提起をしている。

 実行により担保権の目的である財産の全部の換価価値が被担保債権に充当されてその価値に相当する被担保債権が消滅すれば、それによって担保権も消滅するため、担保権実行手続中止命令等に関する【案3.3.1】と同様に、担保権実行手続取消命令の発令もその時点までにしなければならないと考えられる。

 受戻権に関する規律を設ける場合、担保権実行手続中止命令については受戻権の消滅まで発令することができるという考え方(【案3.3.2】)がある。しかし、担保権実行手続取消命令は特定範囲に属する財産の処分権(取立権限)を設定者が回復することを目的として申し立てられるものであるところ、帰属清算の通知等がされ、又は第三者への処分がされた財産権について設定者が処分することはできないから、その後受戻権が存続しているとしても、担保権実行手続取消命令を発令する意味は乏しい。

 そこで、③では、担保権実行手続取消命令のうち、私的実行に係るものについては、私的実行により目的である財産の全部の価値が充当されて被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければならないものとすることを提案している。

 ⑷ ④は、中間試案第17、7の(注2)において問題提起していた点である。

 担保権実行手続取消命令による実行通知や取立権限の付与の解除の取消しは、その発令によって直ちに効力が生じるものであり、一定期間にわたって効力を有する担保権実行手続中止命令や担保権実行手続禁止命令とはその性質が異なる。

 担保権実行手続中止命令等の場合には、前記4のとおり、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発した上で(なお、ここでいう「条件」とは、前記4の(説明)のとおり、発令後の遵守事項を想定している。)、発令後に条件違反があり、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれが生じた場合には、命令を取り消すなどによって対応することが可能である(命令が取り消されれば、担保権者は担保権の実行手続を進行させることが可能となる。)。

 他方で、担保権実行手続取消命令の場合には、発令後に条件違反があり、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれが生じた場合でも、命令を取り消すなどによって対応することが困難であると考えられる(発令によって、実行通知等の効力が取り消され、それを前提に動産の処分や債権の取立てが行われると考えられるから、命令を遡及的に取り消した場合、設定者や第三者の利益を害する。)。

 また、担保権実行手続取消命令は、②の5 とおり将来に向かってのみ効力を有することが想定されており、また、担保権者が再度実行通知等をすることを禁止するものではないという点において、その効果を単独で発揮するものではなく、担保権実行手続禁止命令の発令を同時に受けることが想定されるところ、(前記4の提案を前提として)担保権実行手続禁止命令については、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することを可能である。

 そこで、担保権実行手続取消命令を発令するに当たって設定者に遵守させるべき事項は、同時に発令される担保権実行手続禁止命令の条件として定めることに委ね、担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止命令に関する前記4と異なり、担保権実行手続取消命令については担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる旨の規定を設けないことを提案している。

⑸ ⑤は、中間試案第17、7の(注3)において問題提起していた点である。

取立権限の付与の解除がされると、第三債務者は担保権者に対して弁済をすべきと認識しているのが通常であるが、担保権実行手続取消命令が発令されることにより取立権限の付与の解除が取り消されると、以後設定者が取立権限及び弁済受領権限を有することになる。この場合において、担保権者が取立権限及び弁済受領権限を有するかどうかについては、取立権限の付与の解除の前の平時において担保権者がそのような権限を有するかどうかの問題であるが、仮に担保権者が弁済受領権限を有しないとすると、第三債務者は担保権者に対して弁済をすることができず、第三債務者の保護を図る必要があると考えられる。

  そこで、債権譲渡担保権に関して担保権実行手続取消命令が発令された場合において第三債務者がこれらが発令されたことを知らなかったときは、担保権者に対する債務消滅行為はその効力を有するものとすることを提案している(他方で、担保権者が取立権限の付与の解除の前においても(設定者と並んで)弁済受領権限を有するとすれば、このような規定は不要となる。)。

 この場合、第三債務者が担保権実行手続取消命令の発令を知っているのであれば、設定者に対して弁済をすることが可能だから、前記6⑵と異なり、供託に関する規定を設けることは提案していない。

第4 倒産手続開始申立特約の効力

 1 次に掲げる事由を所有権留保売買契約の解除の事由とし、又は所有権留保売主等(所有権留保契約において目的である動産の所有権が留保された当事者をいう。)に対し、次に掲げる事由を理由とする所有権留保売買契約の解除権を付与する特約は、無効とする。(18-1)

① 所有権留保買主等(所有権留保売買契約において被担保債権の全部の履行がされた場合に目的である動産の所有権の移転を受ける当事者をいう。)についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てがあったこと

② 所有権留保買主等に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたこと

2 次に掲げる事由を設定者の動産の処分権限や設定者の債権の取立権限の喪失の事由とする特約を無効とする旨の明文の規定を設けるかどうかについて、どのように考えるか。(18-2)

① 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てがあったこと

② 設定者に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたこと

(説明)

1 中間試案第18、1では、設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に新たな規定に係る担保権の目的物を設定者に属しないものとし、又は属しないものとする権利を担保権者に与える契約条項を無効とすることを提案していた。

 もっとも、譲渡担保権及び留保所有権の実行手続については、部会資料30及び部会資料31のとおり、通知や清算金の提供などの一定のプロセスを経ることが定められており、少なくとも、当該プロセスを経ることなく担保目的物の確定的な所有権が担保権者に帰属することとなる条項は、強行規定違反となり、規定を置くまでもなく無効であると考えられる。

 そこで、1では、所有権留保契約の解除条項のみを対象とする形の提案としている。

 また、最判昭和57 年3月30 日民集36 巻3号484 頁は、所有権留保売買において買主に更生手続開始の申立ての原因となるべき事実が生じたことを売買契約の解除事由とする旨の特約がされていた事案において、このような特約を無効であるとしており、所有権留保買主等に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたことを解除事由等とする特約については、無効とするべきと考えられる。

 そこで、1では、所有権留保買主等に係る再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てに加えて、所有権留保買主等に係る再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実の発生を解除事由等とする特約を無効とすることを提案している。

2 中間試案第18、2では、設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に設定者が新たな規定に係る担保権の目的の範囲に存する動産の処分権限や債権の取立権限を喪失させる契約条項を無効とする旨の規定を設けるかどうかについて、引き続き検討することとしていた。

 この点については、1と異なり、判例法理や実務上の取扱いが確立していない状況において規律を設けるべきではないという指摘がある。

 他方で、2のような特約がされた場合、再生手続開始の申立て等がされた場合に自動的に設定者が処分権限や取立権限を喪失することとなり、前記第3、7の担保権実行手続取消命令に係る規定が設けられる場合でも、取消しの対象となる行為が存在しないこととなり、担保権実行手続取消命令による対応が困難であるようにも思われる。そうだとすれば、設定者に係る再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てや、設定者に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたことを処分権限又は取立権限の喪失事由とする特約を無効にすることに意義があるように思われるが、どのように考えるか。

第5 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力

1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力

 将来発生する債権を目的とする譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約上の地位に基づいて倒産手続開始後に発生した債権に及ぶか否かについて、中間試案の【案19.1.1】(中間試案の第20 の提案を含む。)、【案19.1.2】、【案19.1.3】及び【案19.1.4】の4案を踏まえ、どのように考えるか。(19-1、20)

 例えば、全ての将来債権譲渡担保について上記各案のいずれかを採用するのではなく、一定の要件を満たすものに限って中間試案の【案19.1.1】を採用し、その他のものについては【案19.1.2】から【案19.1.4】までのいずれかを採用するという考え方について、どのように考えるか。

(説明)

1 将来発生する債権を目的とする譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に当該担保権の効力が倒産手続開始後に発生した債権に及ぶか否かについては、中間試案の第19、1において、4つの案が提案されており、パブリック・コメントにおいては、いずれの案についても賛成する意見、反対する意見があったところである。

 まず、議論の前提として、現行法においてはこの問題について明文の規定が存在しないところ、何らかの規定を設けることによって、倒産手続開始時における法律関係の明確性を高めるとともに、予測可能性が高まる点において平時の取引にも好ましい影響があると考えられ、このことを確認することが有益と考えられる。

2 中間試案において提案された4つの案については、倒産手続開始後に発生した債権に対する担保権の効力について、制限を課さないか、何らかの制限を課すかという点において、【案19.1.1】と、それ以外の3つの案に分類することができる。

 中間試案の【案19.1.1】については、将来の一時点で存在するはずの将来債権の評価価値を上限とするのではなく、当該債権を発生させる事業の価値を見出して評価することによって多額の設備投資資金等の融資を可能とするファイナンス手法が存在すること、法改正によって従前は調達できていた資金が改正法の施行後は調達できなくなると現行実務に影響が生ずることなどを指摘して、これを支持する意見がある。

 他方で、将来の一定期間に発生する債権全体の価値を現在価値に割り引いた価格でまとめて譲渡するような債権の真正譲渡の取引と異なり、多くのファイナンスにおける将来債権担保は、その時々に発生している債権を担保実行して回収することを意図して担保設定35 されることに鑑みると、中間試案の【案19.1.1】を採る必要は必ずしもないという指摘もある。

 また、中間試案の【案19.1.1】を採ると、一般債権者の負担の下で担保権者が利益を得てしまい、事業の再生を妨げるという問題があり、再生債務者の事業の再生を可能とするための措置を講じることが必要となるが、中間試案第20 において提案された担保目的財産に係る費用の負担に関する規律については、そもそも対象となる費用について法律でその要件や基準を定めるのは極めて難しく、債権の発生のために必要となる費用と必要でない費用を区別することは困難であるという指摘がある。

3 このように、倒産手続開始後に発生した債権に対する担保権の効力についてどのような規定を設けるかについて検討を行うに当たっては、倒産手続開始後に一般債権者の負担の下で担保権者が利益を得てしまうという問題5 に対処しつつ、他方で、規定を設けることによってファイナンス手法が必要以上に制限され、資金調達に不当な悪影響が生じることも避けるべきであると考えられる。そうだとすれば、資金調達に悪影響を与え得るファイナンス手法を想定し、具体的にどのような悪影響が生じるのかを検討した上で、担保権の効力についてどのような規定を設けるべきかの議論に反映するのが有益と考えられる。

  例えば、プロジェクト・ファイナンスについては、キャッシュフローを生み出す事業の価値を評価することによって多額の融資が可能となっており、倒産手続開始後に発生した債権に対する担保権の効力が制限されるとすると、従前可能であった資金の調達が困難になるといった悪影響が生じ得るという指摘がある。他方で、倒産手続開始後における爾後取得財産への担保権の効力が否定されている米国においてもプロジェクト・ファイナンスが行われていることに鑑みて、わが国において生じ得る悪影響は、どのような点を原因として、どのように生じるのかを検討する必要があるように思われる。

 また、プロジェクト・ファイナンスにおいては、事業の維持継続に必要な費用を優先的に支払うことが前提とされており、担保目的財産に係る費用を倒産財団に押しつけ、担保権者がその成果から利益を受けるという問題が生じ難いことから、倒産手続開始後に発生した債権への担保権の効力を認めるべきという指摘がある。そうであるとすれば、プロジェクト・ファイナンスに限らず、そのような問題が生じ難い類型のみを適切に切り出すことが可能であれば、そのような類型に限って倒産手続開始後に発生した債権への担保権の効力を認めるという考え方があり得る。他方で、事業の維持継続に必要な費用を優先的に支払うことは、まさに事業担保制度において検討されている内容であり(中間試案第24、25 3など)、事業担保制度が何らかの形で法制化されるのであれば、その利用によって対応すべきではないかという考え方もあり得る

以上について、どのように考えるか。

4 前記の検討を踏まえて、一定の類型を切り出すことができれば、その類型については中間試案の【案19.1.1】を適用し、その余の類型については中間試案の【案19.1.2】から【案30 19.1.4】までのいずれかを採用することが考えられる。

 中間試案の【案19.1.2】から【案19.1.4】までは、流動性(設定者の取立権限、倒産手続開始後の債権への担保権の効力の有無)という観点からは、倒産手続開始後も流動性が維持されるもの(【案19.1.2】及び【案19.1.3】)と倒産手続開始によって流動性が失われるもの(【案19.1.4】)に分類され、担保権者が把握する価値という観点からは、倒産手続35 開始時を基準とするもの(【案19.1.2】及び【案19.1.4】)と実行開始時を基準とするもの(【案19.1.3】)に分類できる。

 このうち、流動性という観点は、特に民事再生手続において再生債務者が目的債権を取り立ててその後の事業に利用することができるかという点に影響し、再生に向けて事業の継続を図るのであれば、画一的に設定者の取立権限を失わせることは適当でないとも考えられるが、この点についてどのように考えるか。

 また、担保権者が把握する価値という観点からは、その基準となる時期を決定する権限を担保権者に与えるか(中間試案の【案19.1.3】)、倒産手続開始時点とするか(実質的には倒産手続の申立てをする債務者に与えるか)(中間試案の【案19.1.2】及び【案19.1.4】)が問題になる。集合債権譲渡担保においては担保目的財産の価値が一定程度変動することは予定されており、担保権の実行時期を判断する利益は基本的には担保権者に与えられていることからすると、倒産手続開始後も担保権者に判断を委ねるべきであるとも考えられる。ただし、中間試案の【案19.1.3】を採用するのであれば、集合債権譲渡担保を個別債権担保の単なる集積として捉えるのではなく(個別債権担保の集積と考えると、個別実行も可能になり、いわゆる固定化の時期を決定することができなくなる。)、集合的な処理をすることが必要になる(【案1.2】又は【案1.3】)。

 他方、平時においては担保権者が担保権実行の時期を選択する利益を有するとしても、倒産手続が開始された後は事業の再生等の各倒産法の趣旨に照らして政策的にこれを制約することはあり得、このような観点から倒産手続開始時の担保目的物の価値の限度で担保権者が優先弁済を受けられるとすることも考えられる。この場合、流動性を維持するか(中間試案の【案19.1.2】)、流動性を失わせるか(中間試案の【案19.1.4】)については、流動性を維持しつつその価値を適切に判断することができるかを考慮する必要がある。

  なお、中間試案第19、1においては、(注)として、目的債権の取立権限や目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限等によって場合分けをし、それぞれについて異なる規律を適用するという考え方を提案していたが、この考え方については、取立権限や対価として受けた金銭の利用権限を設定者に認める運用は、極めて実務的な理由によって行われているものであり、設定者との交渉の結果として担保権者が有する権利を放棄することを企図して行われるものではないなどとして、これに反対する指摘があった。

2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力

  集合動産譲渡担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、当該担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約に基づいて倒産手続開始後に取得した動産に及ぶか否かについて、中間試案の【案19.2.1】、【案19.2.2】及び【案19.2.3】の3案を踏まえ、どのように考えるか。(19-2)

(説明)

中間試案第19、2で問題提起した点である。

 債権に関する中間試案の【案19.1.1】のように、倒産手続開始後に取得した動産にも無制限に担保権の効力が及ぶ旨の案は提示していないが、中間試案の【案19.2.1】、【案19.2.2】及び【案19.2.3】はいずれも債権に関する中間試案の【案19.1.2】、【案19.1.3】及び【案19.1.4】と類似した考え方であり、債権に関する前記1とあわせて検討するのが適切であると考えられ、問題提起にとどめている。

第6 否認

1 破産法第162 条第1項柱書、民事再生法第127 条の3第1項柱書及び会社更生法第86 条の3第1項柱書に規定する「担保の供与」に、集合動産又は集合債権を目的とする譲渡担保権において、設定者が個別の動産や債権を次のような態様で担保権の目的の範囲に加入させる行為を含むこととする。(21)

① 通常の事業の範囲を超えて【P】動産又は債権を担保権の目的の範囲に加入させる行為

② 専ら担保権者に債権を回収させる目的で【P】動産又は債権を担保権の目的の範囲に加入させる行為

2 偏頗行為否認の対象とする場合に、設定者の支払不能等に関する担保権者の主観的要件を不要とすべきかどうかについて、どのように考えるか。(21 の(注2))また、前記1②の「専ら担保権者に債権を回収させる目的」を設定者が有していたことについて、担保権者が知っていることを要するかどうかについて、どのように考えるか。

3 否認により担保権が及ばないこととなる動産の特定の方法や、加入後に個別動産や個別債権の処分等が行われた場合の否認の効果についてどのように考えるか。(21 の(注3))

4 民法第424 条の3第1項柱書に規定する「担保の供与」に、集合動産又は集合債権を目的とする譲渡担保権において、設定者が個別の動産や債権を担保権の目的の範囲に加入させる行為を含むこととする。

(説明)

1 中間試案第21 において問題提起していた点である。

 中間試案第21 では、(注1)として、偏頗行為否認の対象とするのではなく、実体法上担保権の効力が及ばないこととすべきという考え方について注記していた。もっとも、実体法上効力が及ばないこととすると、平時を含め、否認権(や詐害行為取消権)の行使がない場合であっても、①や②の要件を満たす加入があった場合には担保権の効力が及ばないこととなり、担保権の効力の及ぶ範囲が不明確となって法的安定性を害するように思われる。

 そこで、1では、実体法上担保権の効力が及ばないとするのではなく、偏頗行為否認の対象とする形での問題提起としている(なお、破産法第162 条第1項第1号等の支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にしたという要件は必要であることを前提としている。)。

2 否認の対象については、①通常の事業の範囲を超える担保権の目的への加入及び②専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた担保権の目的への加入としている。①については、設定者の処分権限等(部会資料28 の第4、3及び第6、1)の規律を踏まえて検討が必要であり、【P】を付している。

また、②については、中間試案において、(注4)として、設定者の主観的要件に加えて担保権者の主観的事情を要件とすべきであるという考え方を注記していた。②を①と別個に規定する必要性があるとすれば、通常の事業の範囲を超えないが、専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた加入を否認の対象とするためであると考えられる。もっとも、通常の事業の範囲を超えていない以上、担保権者が担保権設定時に合理的に期待する範囲を超えていないとも言い得る。にもかかわらず、設定者が専ら担保権者に債権を回収させる目的であったことのみをもって否認の対象とすることが適当なのかという点が問題となり得る。この点を適当でないと考えれば、中間試案第21 の(注4)のとおり、担保権者の主観的事情を要件とすること(例えば、設定者と担保権者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたことなど)も考えられ、【P】を付しているが、どのように考えるか。

3⑴ 本文2は、中間試案第21 の(注2)において問題提起していた点である。偏頗行為否認に関する破産法第162 条第1項第1号において、破産者が支払不能であったこと等を債権者が知っていたことが要件とされていることを踏まえ、動産や債権の加入等を偏頗行為否認の対象とする場合に、このような5 債権者の主観を要件にするかどうかを問題提起している。

 確かに、加入行為は必ずしも担保権者の関与を要するものではなく、否認対象を悪質な加入行為に限定すれば、取引の安全を図る必要はないとも考えられるから、債権者の主観的要件を課す必要はないという考え方もあり得る。他方で、現行の偏頗行為否認の枠組みにおいては、担保の供与の否認一般の要件として、破産者が支払不能であったこと等を債権者が知っていたことが必要とされる。このことを踏まえると、集合物への加入についてのみ債権者の主観的要件を課さないとすることは均衡を欠くとも考えられるし、また、担保権者においても、その時々の加入を踏まえた担保目的財産の状況を踏まえて担保管理を行うものと考えられるから、担保の供与が新たに行われた場合に比べて、善意の担保権者の保護を図る必要性が低いとは必ずしもいえないとも思われる。

なお、このように考える場合でも、加入行為が設定者の義務に属しない行為であれば、債権者は設定者が支払不能であったこと等を知っていたものと推定されることとなる(破産法第162 条第2項等)。

⑵ 否認に関する設定者の主観的要件として、本文1の②の「専ら担保権者に債権を回収させる目的」を有していたことは設定者の主観的事情であり、担保権者が当然に認識しているとは限らない。そこで、このような目的でされた加入行為を否認するに当たって、担保権者がこの設定者の主観的事情について認識していたことを要件とするかどうかが問題になる。取引の安定性を確保するため、問題となる行為がされた時点でそれが否認の対象であることを担保権者が認識することができるようにすべきであると考えると、上記の設定者の主観的事情についても、担保権者が認識している(又は認識することができる)ことを要件とすべきであると考えられる。他方で、設定者がこのような目的で財産を特定範囲に加入させた場合には、そもそも担保権者を保護する必要はないところ、設定者の主観的事情について担保権者の認識(可能性)を要件とすれば、否認の対象が限定されてしまうおそれもある。以上を踏まえて、上記の点についてどのように考えるか。

4⑴ 3は、まず、否認により担保権が及ばないこととなる動産の特定の方法について問題提起している。

 本文による否認の対象は個別の動産・債権の担保権の目的の範囲への加入であり、否認の効果は当該動産・債権についての(担保権の目的の範囲への加入による)担保権の成立が否定されることであると考えられる。

 しかしながら、否認がされた後、否認対象である個別の動産の特定ができなければ、担保権の効力が及ぶ範囲が不明確となるという問題がある。例えば、A工場内のP商品が担保の目的とされ、80~120 個程度の水準が保たれて通常の事業が行われていたが、設定者が支払不能となった後、100 個だった在庫に一気に50 個の加入(通常の事業の範囲外の加入)があり、150個となったという事例において、加入した50個が既存の100個と分別されないと、その特定ができなくなるという問題がある。

 実行通知到達後の加入動産に対する集合動産譲渡担保権の効力については、原則として及ばないとしつつ、分別管理されていなかった場合にはこの限りでないとすることを提案しており(部会資料31 の第1、2)、これは分別管理が可能な設定者において、担保権の効力が及ぶ範囲を可能な限り小さく5 するインセンティブがあると考えられるためであるが、上記のケースにおいては、既に支払不能となっている以上分別管理が可能な設定者にインセンティブがないケースも多いと思われ、同様のルールによって解決することは困難と思われる。

⑵ また、この問題に加えて、加入時点では否認対象の財産の識別が可能だったとしても、すぐには否認がされず、その後さらに加入・処分があった場合、否認対象をどのように考えるかも問題となる。

 すなわち、(i)処分された動産が否認対象の動産かそれ以外の動産かが不明である場合、否認対象の動産を特定することができなくなるという問題、(ii)否認対象の動産(の一部)がその後処分された場合には、残った否認対象の動産のみが否認の対象と考えるのが自然であるが、適切かという問題がある。

(i)は、否認対象である個別の動産の特定ができないという点において、前記⑴と同様の問題であると考えられる。

(ii)について、これを適切でないと考えるのであれば、否認後に加入した動産を、異常な在庫量の維持に寄与したものとして否認することを可能にすることなども考えられるが、そのような規律が可能なのかという問題や、五月雨式に加入があった場合にその全ての加入行為を否認することが現実的に可能なのかという問題もある。

5 否認について規定を設けるとすると、詐害行為取消の範囲についても否認の範囲との整合性を考慮する必要がある。偏頗行為についての詐害行為取消請求の要件は、偏頗行為否認の要件に加え、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること(以下「通謀要件」という。)が必要である(民法第424 条の3第1項第2号)。このことからすると、本文1の①と②を否認の要件とするのであれば、詐害行為取消しの要件は、これらに加えて通謀要件を要するものとすることが考えられる。しかし、②の要件は、設定者が他の債権者を害する意図を有していることと実質的には同じであるから、通謀要件を包摂することになると考えられ、そうであるとすれば、通謀要件だけを要件とすれば足りることになる。このように、通謀要件が満たされれば詐害行為取消の対象になるとすると、これに加えて①の要件を問題にする必要はない。そこで、4では、個別の動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入を民法第424 条の3第1項柱書に規定する「担保の供与」に含むこととし、通謀要件を含む同条の要件の下で詐害行為取消請求をすることができるとすることを提案している。

第7 担保権消滅許可制度の適用

1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用

⑴ 譲渡担保権及び留保所有権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。(22-1⑴)

⑵ 担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」(破産法第187 条第1項)として私的実行を認めない(担保権者は、競売手続の実行の申立てによるほか、買受けの申出(破産法第188 条第1項)により対抗することとする。)。(【案22.1.2.3】)

5 (説明)

1 ⑴は、中間試案第22、1⑴から実質的な変更はない。

2 ⑵については、中間試案第22、1⑵において問題提起していた点である。

⑴ 担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」(破産法第187 条第1項)として私的実行を認め、特段要件を課さないこととすると、担保権消滅許可申立書に記載された売得金の額よりも低い金額で担保権者が私的実行を行うことが可能となり、任意の交渉の場面でも、担保権者に過大な交渉力を与えることになるのではないかという懸念がある。

 この懸念に対する対応として、中間試案の【案22.1.2.2】や(注2)では、帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額について、売得金以上の額(あるいはそれに5%を加えた額以上)である必要があるとすることが提案されており、部会資料30 の第6、3及び4に則すれば、帰属清算方式における動産の見積価額(部会資料30 の第6、3⑴イ)又は処分清算方式における処分価額若しくは見積価額(部会資料30 の第6、4⑵イ)を基準とすることが考えられる。

 もっとも、帰属清算における動産の見積価額は、暫定清算金の計算において用いられるにすぎず、それに基づいて被担保債権の消滅の効果が生じたり、最終清算金の計算が行われたりするわけではない。処分清算における見積価額についても同様であるし、処分価額についても、被担保債権の消滅の効果が生じたり、最終清算金の計算が行われたりするわけでない点は同様である。そうすると、これらを基準とすることは適切でないように思われる。

 また、被担保債権の消滅の効果や最終清算金の計算は、目的である動産の(客観的な)価額に基づいて行われるが、担保権実行の申立てをする時点において当該価額を知ることはできないから、これを基準とすることも困難である。

⑵ 他方で、中間試案の【案22.1.2.3】は、担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めないとする案であるが、この場合でも、担保権者は買受けの申出(破産法第188条第1項)をすることができ、この買受の申出においては、担保権者以外の者を買受希望者とすることも可能である。

 買受けの申出は担保権消滅許可の申立書が送達された日から1か月以内に、買受希望者の氏名・名称、買受希望者の申出の額などを書面に記載して行わなければならないが、破産管財人が売却の相手方との間で既に売買契約を締結していることからすれば、これに対抗するために、一定の制約を受けることはやむを得ないように思われる(なお、やむを得ない事由がある場合には、期間の伸長がされる可能性もある(同法第188 条第1項、第187 条第1項、第2項)。)。

 そこで、⑵は、中間試案の【案22.1.2.3】の考え方に従った提案をしている。

2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用

 譲渡担保権及び留保所有権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とするものとする。(22-2)

(説明)

中間5 試案第22、2から実質的な変更はない。

第8 譲渡担保権設定者の処分権限等に関する規律

1 譲渡担保契約における設定者による目的である財産権の処分(総則的規律、部会資料28、2-3関連)

  譲渡担保権設定者が譲渡担保権者の承諾を得ることなく目的である財産権を第三者に譲渡したときは、その譲渡は、担保のためにするものを除き、譲渡担保権者に対抗することができないものとすることについて、どのように考えるか。

(説明)

1 部会資料28 においては、設定者が目的である財産権を第三者に譲渡した場合においては、誰を相手方として実行手続を行うか、清算金の提供等を誰に対して行うかといった問題が生じ、手続の遂行に支障を来すおそれがあること等から、譲渡担保権者の承諾を得ない限り、後順位担保権を設定する場合を除き、設定者の真正譲渡を認めないとする提案をしたところである。

 これに対し、部会の議論では、譲渡担保権が設定された財産権について、設定者は、当該財産権の使用収益権限など一定の財産権を有しており、その譲渡を実体法上一律に無効なものとすることは、担保権者による目的財産の管理の便宜等の目的を達成するための効果として過剰ではないかなどの指摘があった。

2 本文の規律は、設定者が、後順位の譲渡担保権を設定する場合を除き、担保権者の承諾を得ることなく目的である財産権を真正譲渡するとしても、これを譲渡担保権者に対抗することができないとの規律を提案するものである。これは、担保権者の承諾なくされた譲渡も当事者間では有効とした上で、担保権者に対してはその効力を主張することができないとすることにより、必要な範囲に限って譲渡の効力を制限しようとするものである。これにより、設定者の真正譲渡を一律に無効なものとはしない一方で、譲渡担保権者としては、目的である財産権が担保権付きで変動していないものとして、取り扱うことができる。

 この提案は、飽くまで譲渡担保権者に対抗することができないという効果であるから、譲渡担保権者が譲渡を有効なものと取り扱うことは妨げられない。

3 当初の設定者Aが譲渡担保権者Bの譲渡担保権の目的財産をCに譲渡した場合、その譲渡も「動産に関する物権の譲渡」に当たり、対抗要件は民法第178 条により引渡しであると考えられる。Bの承諾なくされたAC間の譲渡について対抗要件が具備された場合、客観的にはAは無権利者になるから、例えばその後Aが更にDにこれを真正譲渡したり、後順位の譲渡担保権を設定したりしても、AD間の譲渡(譲渡担保権の設定)がBとの関係で有効になったり、Bがこれを有効なものと扱ったりすることができるわけではない(例えば、Bが実行し、Dが物上代位権の行使としてAのBに対する清算金請求権を差し押さえた場合、Bは差押命令に対して執行抗告をすることができる(民事執行法第145 条第6項)。)。

4 本文の提案によれば、承諾なく譲渡を受けた第三者が当初の設定者から引渡しを受けている場合には、譲渡担保権者は、無権利者が目的物を占有している場合と同様に、返還請求をすること(又は、当初の設定者に占有を戻すように請求すること)ができると考えられる。また、承諾なく譲渡を受けた者の債権者が目的物を差し押さえた場合には、譲渡担保権者は第三者異議の訴えを提起することが5 できる(当初の設定者の債権者が差し押さえた場合に譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起することができるのは無剰余の場合に限られるが、承諾なく譲渡を受けた者の債権者が差し押さえた場合には、無剰余の場合に限られないと考えるべきか。)。

 担保権の実行の段階では、例えば当初の設定者Aが譲渡担保権者Bの承諾なくCに対して目的財産を譲渡した場合、BはAを設定者と扱えばよいから、実行に当たって必要となる各種の通知や清算金の提供はAに対してすれば有効である。Cが更にEのために譲渡担保権を設定した場合、CのEに対する譲渡に係る譲渡登記をAのBに対する譲渡の関連登記目録に記載することができるかどうか、これを肯定する場合、Bによる実行に当たって実行する旨の通知をE に対してしなければならないかなどについては、更に検討を要する(Eがみえ物上代位としてAのBに対する清算金請求権を差し押さえた場合、これは裁判所の命令によるものであるから、BがCのEに対する譲渡の効力を承認していない場合でも、差押えの効力はBに及ぶと考えられる。また、Bが執行抗告をしてもその主張は認められないと考えられる。)。

5 Aが先順位譲渡担保権者B及び後順位譲渡担保権者Fのために譲渡担保権を設定している財産権をCに譲渡し、一部の譲渡担保権者はこれを承諾し、一部の譲渡担保権者が承諾していなかった場合、AC間の譲渡の効力は、B及びFとの間でそれぞれ別個に判断される(例えば、最先順位の譲渡担保権者が承諾していたからといって、全ての譲渡担保権者に対して譲渡の効力を対抗することができるわけではない。)。FがAC間の譲渡を承諾していた場合には、実行に当たって各種の通知や清算金の提供をCに対してする必要があり、Fが承諾していてもBが承諾していなかった場合には、BはAに対して通知等をすれば足りる。

2 動産譲渡担保権設定者による所在場所の変更(部会資料28、3-5関連)

 動産譲渡担保権設定者による目的である動産の所在場所の変更に関する規律に関する次の二案について、どのように考えるか。

【案8.2.1】

⑴ 譲渡担保権設定契約において目的である動産の保管場所を定めたときは、動産譲渡担保権設定者は、動産譲渡担保権者の承諾を得なければ、目的である動産の保管場所を変更してはならない。

 ⑵ 動産譲渡担保権設定者が前記⑴の義務に違反したときは、動産譲渡担保権者は、意思表示により、被担保債権の期限の利益を喪失させることができる。

【案8.2.2】

動産譲渡担保権設定者による所在場所の変更禁止の規律は設けないこととする。

(説明)

 部会資料28においては、設定者が、譲渡担保の目的である動産の保管場所を変更させた場合、譲渡担保権者にとって担保目的物の管理が困難になるとの指摘を受け、設定者は、

 譲渡担保権者の承諾を得なければ、目的である動産の保管場所を変更してはならない旨の規律を提案した。【案8.2.1】は実質的にこれと同様の規律である。

 もっとも、部会の議論においては、設定者は本来的に目的である動産を使用収益する権利を有しているとされることと、保管場所の5 変更を一律に禁止するとの規律は相反するように見える、違反の効果が期限の利益喪失であれば、当事者の約定で定めることが可能であり、規律として設ける必要性に疑問がある、といった指摘がされたところである。

 目的である動産の保管方法等については、目的である動産の性質等に応じて個別に契約等において定められると考えられることからすれば、保管場所の変更禁止に関する規律を明文で設ける必要性は必ずしも高いとはいえないとも考えられる。このような考え方からすれば、【案8.2.2】のように考えることも可能と考えられる。

3 集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲に属する動産の処分権限(部会資料28、4-3関連)

【案 8.3.1】 集合動産譲渡担保権設定者は、設定者の事業活動の態様、動産の補充の可能性及び取引上の社会通念に照らして定まる通常の事業の範囲内において、特定範囲に属する動産の処分をすることができる。ただし、集合動産譲渡担保契約に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

【案8.3.2】 「通常の事業の範囲」に代えて、例えば設定者がすることができない処分行為の客観的要件、主観的要件を検討する。

【案8.3.3】 設定者の処分権限に制約を設けず、担保権者の利益は担保価値維持義務によって図る。

(説明)

1 部会資料28、第4、3においては、集合動産譲渡担保の設定者は通常の事業の範囲内で集合動産の構成部分を処分することができる旨の規定を設けることを提案した。これに対しては、部会において、「通常の事業」の具体的な内容が明確でないとの意見もあった。このような意見を踏まえ、その内容を更に検討する必要がある。

 従来の部会資料において、集合動産の構成部分の処分権限を設定者に与えつつ、これを「通常の事業の範囲」に限定してきたのは、設定者に完全に自由な処分権限を与えると集合物の価値を大きく減殺するような処分がされ、その結果として担保権者が害されるおそれがあるからである。そこで通常の事業の範囲を超えるものとして想定されていたのは、例えば集合動産の大部分が処分され、残された集合物の価値が大幅に減少する場合や、不当に低い価格で譲渡される場合などであった。

 他方、学説には、①設定者の通常の営業の範囲を超える処分とは、集合動産譲渡担保権の優先弁済権を侵害するものをいい、それは、債務者の事業サイクルが回転せずに補充の見込みが全くないような場合であるとして、「通常の営業の範囲」を超える処分とは、集合動産譲渡担保に係る動産が将来的にも補充される可能性もなく、設定者がそれを認識してする処分をいうとするもの、②集合物を構成する動産が売却処分等によって離脱しても、その補充等がされ担保価値の維持が図られることが期待できないものについては、担保権者としてもこれを認めるわけにはいかないということになると考えられるから、このようにして担保権者が把握する担保価値が損なわれたかどうかにより、「通常の営業の範囲内」かどうかを判断すべきとするもの、③「通常の営業の範囲内」か否かは、譲渡担保契約の解釈、設定者の営業活動の態様、処分行為の反復継続性・目的物の補充可能性の有無、譲渡担保権者の優先権に対する侵害の有無などが考慮要素になるとしつつ、当初より補充の予定・見込みがなく、これにより譲渡担保権5 者の優先権を害するおそれがある場合には、「通常の営業の範囲」を超える不適正処分といえるとするもの、といった様々な見解が示されている。これらの見解に共通するものとして、特定範囲に属する動産の補充の予定や見込みの有無が重要な要素として挙げられていると考えられる。部会の従前の議論においても、特定範囲に属する動産の流出は、流入と併せて考えるべきであるとの意見等が出されてきたところである。

 以上を踏まえ、集合動産譲渡担保における設定者の処分権限の範囲については、①「通常の事業の範囲」という概念を引き続き用いるとともに、その判断に当たって考慮される要素をより具体的に記載すること、②「通常の事業の範囲」という概念を用いず、例えば設定者による処分が許されるための客観的な要件、設定者及び相手方の主観的要件などをより具体的に検討することなどが考えられる。

2 【案8.3.1】は、「通常の事業の範囲」の考慮要素を具体的に記載しようとするものである。前記のとおり、設定者が、およそ補充の見込みがないにもかかわらず、特定範囲に属する動産を処分することは、集合動産担保権として把握した価値を減少させるものであって、「通常の事業の範囲」を超えるものと考えられることから、考慮要素として、動産の補充の可能性を考慮要素として列挙することとしている。もっとも、その動産を処分するに当たり、後続の動産の補充の時期やその数量については、設定者の事業活動の形態によって様々であり、設定者の事業の形態等も踏まえた個別の判断になるものと考えられる。そこで、「設定者の事業活動の形態」を前提となる考慮要素として掲げることとしている。

 さらに、動産の取引の適正や合理性は、個々の動産取引ごとの社会通念によって定まる側面も有すると考えられることから、「取引上の社会通念」も考慮要素としている。学説上も、業界における取引慣行や取引通念が重要な要素として挙げられるとの指摘がある。

 通常の事業の範囲を超える処分か否かの判断に際し、譲渡担保契約の内容を考慮要素として列挙すべきか否かが問題となる。本文⑴は、同契約において設定者の処分権限が定められている場合は、その約定の内容それ自体によって処分権限の範囲が定まると考えるのが適当と考えられることから、ただし書きにおいてその旨を定めることとしている。このような規律としたとしても、譲渡担保契約の内容において設定者の処分権限が明示的に定められていない場合において、その契約の解釈が、通常の事業の範囲内か否かの考慮要素の判断において間接的に考慮され得ること自体が否定されるものではないと考えられる。

3 もっとも、考慮要素を付け加えても、「通常の事業の範囲」自体の内容は明らかにならず、これを明確にすべきであるとの指摘もあり得る。そこで、設定者の処分権限の内容について、その客観的な側面と主観的な側面(及びこれについての処分の相手方の認識)に分けて検討することが考えられる。【案8.3.2】は、このような考え方を採るものである。その具体的な内容として、集合動産の価値を継続的に維持していくことが重要であるとすると、処分された構成部分の価値を補充する能力が客観的に設定者に欠けていることを要件とすることが考えられる。しかし、設定者に処分の能力が欠けていることを具体的に立証することは困難であるし、例えば事業全体の今後の見通しを考慮して担保の目的となっている種類の動産についての取引を縮小していくことに合理性がある場合もあると考えられる。また、例えば季節の変動によって在庫の数量や価値が変動することもあり得、ある処分によって集合物の価値が減少するからといって直ちに設定者の処分権限を超えたということはできず、より長期的な価値の変動を5 考慮しなければならないとも考えられる。

 客観的な要件と合わせて、あるいは独立に、設定者の主観的な要件を必要とすることも考えられる。例えば、設定者が処分された構成部分に相当する価値を補充する意思がなかったことや、担保権者を害する意図をもって行ったことを要件とすることが考えられる。

 また、相手方の要件として、処分行為に関する客観的な要件や設定者の主観的要件についての認識(可能性)や、設定者と相手方の通謀を要件とすることも考えられる。

以上を含め、設定者の処分権限の範囲に関する要件について、どのように考えるか。

4 【案8.3.1】及び【案8.3.2】は、あくまで設定者の処分権限に一定の制約を課することとし、その基準を定めようとするものである。これは、この(説明)の前記1にあるように無制限の処分権限を設定者に与えることにより担保権者の利益が害されるおそれがあることを踏まえたものである。しかし、例えば在庫を保持しても今後より高い価格で売却することを期待することができない場合など、どのような分量、価格であっても処分した方が事業の継続にとって合理的な場合もある。また、設定者の処分権限を制限することの実質的な利点は、集合動産から処分の相手方の下に逸出した財産に引き続き担保権が及び、ここから優先弁済を受けることができる点にあるが、現実に現実に逸出した財産を対象として実行を行うのは困難であるとも考えられる。さらに、前記のとおり、設定者の処分権限を具体的に定めるのは困難であり、例えば上記のような事業継続にとっての合理性判断などによって主文行為の効力が左右されるとすることは相手方との関係でも取引の安定性を害するとも考えられる。これらの点からすれば、設定者の処分権限を制限するのではなく、設定者の処分権限は無制限に認めた上で、担保権者の利益は、担保価値維持義務を課することによって図ることも考えられる。【案8.3.3】は、このような考え方に基づくものである。

 このような考え方によれば、設定者の処分権限について当事者間で特段の合意がない場合にはその範囲が明確になり、処分の効力の安定にも資すると考えられる。他方で、担保権者の保護を担保価値維持義務によって図るとすれば、これに関する規定を設けることが重要になるが、担保の目的物の価値をどのようなレベルに維持しなければならないかについて、具体的で明確な基準を設けることができるかどうかが問題になる。また、当事者間で設定者の処分権限について何らかの特約をした場合に、それを債権的な合意に過ぎないと考えるか、あるいは、その特約によって設定者の処分権限が制約されるのか、仮に債権的な合意であるとすれば管財人との関係での効力をどのように考えるかなどの問題が生ずる。

4 集合債権譲渡担保の目的である債権の取立権限・弁済受領権限の所在

 集合債権譲渡担保の目的である債権の取立て及び弁済の受領について、担保権者はどの段階でどのような権限を有するかについて、どのように考えるか。

 (説明)

1 部会資料28 第6、1においては、集合債権譲渡担保においては、通常の事業の範囲内においては目的債権の取立権限が設定者にあるとすることを提案している。他方で、担保権者が、目的債権の取立てや債務者からの弁済の受領についてどの段階でどのような権限を有するかについても検討しておく必要がある。

2 最判平成13 年11 月22 日民集第55 巻6号1056 5 頁は、「甲が乙に対する金銭債務の担保として、発生原因となる取引の種類、発生期間等で特定される甲の丙に対する既に生じ、又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし、乙が丙に対し担保権実行として取立ての通知をするまでは、譲渡債権の取立てを甲に許諾し、甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないこととした甲、乙間の債権譲渡契約は、いわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約といわれるものの1つと解される。この場合は、既に生じ、又は将来生ずべき債権は、甲から乙に確定的に譲渡されており、ただ、甲、乙間において、乙に帰属した債権の一部について、甲に取立権限を付与し、取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきである。」と判示している。これを前提とすれば、設定者の取立権限は、債権譲渡担保の目的である債権を譲り受けてその取立権限を有する担保権者から委任を受けた結果であると説明される。

3 一般に、債権者がその債権の取立てを第三者に委任したとしても、債権者自身の取立権限や第三債務者による弁済を受領する権限が失われるわけではない。したがって、これと同様に考えれば、集合債権譲渡担保においては、設定者だけでなく担保権者も取立権限を有することになると考えられる。また、他人から債権の取立権限を付与された者は、通常は自己の名で債務の履行を求めて訴えを提起することはできないことからすると、集合債権譲渡担保の設定者が自己の名でその債権の回収をすることはできないとも考えられる。

 しかし、集合債権譲渡担保においては、設定者はその事業を遂行するために必要であることを理由に目的債権の取立権限を与えられているため、設定者の意思に反して担保権者が債権を取り立てることは、それが譲渡担保権設定契約上の担保権者の義務に反するものであり、債権的には担保権者が回収した金銭を設定者に交付しなければならないと解するとしても、適当ではないように思われる。また、目的債権の任意の履行が受けられない場合に、設定者が自らの名義で債務の履行を求めて訴えを提起することができないとすれば、設定者の事業の遂行に支障が生ずる上、担保権者の通常の意思にも合致しないと思われる。

 そうすると、目的債権の取立権限については、担保権者が実行に着手するまでは設定者のみが有しており、担保権者は有していないと考えるべきであるように思われる。

 そして、このように考えると、設定者の取立権限は担保権者に本来帰属する取立権限を委任によって移転したものではなく、担保目的で債権を譲渡するという譲渡担保契約の性質から設定者に残される権限であると考えるべきであるように思われる。そうすると、集合債権譲渡担保の実行において担保権者がどのように取立権限を取得するかについても更に検討が必要になる。前記第1の【案 1.1】は集合債権譲渡担保は個別債権譲渡担保の集積であるとして、集合債権譲渡担保の実行について特段の規定を設けないこととしていたが、これは、集合債権譲渡担保における設定者の取立権限は担保権者から委任を受けたものであることを前提に、実行に当たってこの取立委任を解除することによって担保権者が本来有していた取立権限を回復すると構成し、この委任の解除は契約一般の解除に関する規定に委ねることとして、特段の規定を設けないこととしたものであった。しかし、設定者の取立権限が委任によるものではないとすると取立委任の解除によって担保権者が取立権限を回復するとはいえず、意思表示等の何らかの行為によって設定者の取立権限が担保権者に移転するという条文上の根拠を設ける必要がある(【案1.2】又は【案1.3】)。そして、この行為は、設定者がそれまで有していた取立権限を失わせるものであるから、債務者に対するものではなく、設定者に対してすることが必要であると考えられる。さらに、これに加えて、第三債務者が取立てに応じてよいかどうかを判断することができるように、担保権者が取立権限を取得したことを第三債務者に主張するための要件として通知等の要件を要するかどうかが問題になる。

 また、関連する問題として、設定者の取立権限を担保権者に付与することができるかも問題になる。取立権限の所在について個別債権の譲渡担保と集合債権譲渡担保とで異なるデフォルト・ルールを設けるとしても、当事者の合意がある場合にまで担保権者の権限に差を設ける理由はないと考えられる。しかし、前記のとおり、債権の取立権を有する者がその取立てを第三者に委任したとしても、当該第三者は、自己の名で裁判上の請求をすることができるわけではない。したがって、通常の取立委任を超える権限を担保権者に認めるのであれば、その旨の条文上の根拠が必要となる。

4 弁済の受領権限(弁済を受領したときに、その債務が消滅するといえるための権限)については、原則として取立権者と一致させるのが合理的である。これによると、前記のとおり、実行に着手するまでは目的債権の受領権限は、別段の合意がなければ設定者のみに帰属することになると考えられる。しかし、譲渡担保の対抗要件として、単純に譲渡された旨の通知がされた場合(現在の提案では、これによっても譲渡担保の対抗要件を具備することができる。)、債務者は担保権者に弁済すれば足りると考えるのが通常である。したがって、債務者の保護という観点からは、取立権限と異なり受領権限は担保権者にも帰属するとすることも考えられる(もっとも、この場合、債務者は悪意であっても担保権者に弁済すれば常に免責されることになり、そのような保護まで必要かどうかが問題になり得る。)。

これと異なる考え方としては、受領権限は取立権者と一致するという原則どおり設定者のみに帰属するとした上で、例えば善意の債務者を保護する規定を設けるという考え方があり得る。また、債務者対抗要件としての通知において、集合債権を目的とする譲渡担保が行われたこと(あるいは、設定者に取立権限又は受領権限が留保されていること)を通知しておかなければ、設定者は取立権限や受領権限を債務者に対抗することができないという考え方もあり得るように思われる。

5 前記のとおり考えれば、集合債権譲渡担保においては、担保権者は、実行に着手するまでは取立権限を有せず、担保権の実行に着手するに当たっての意思表示等の行為により、取立権限を有することになる。他方、弁済受領権限については、取立権限と同様とする考え方と、実行に着手する前から、設定者だけでなく担保権者も有しているとする考え方がある。

 担保権者が取立権限(及び弁済受領権限)を取得した後で担保権実行手続中止命令が発令された場合、それ以後担保権者は取り立てることはできないが、弁済を受領するという消極的な行為は中止命令によって禁じられないとすると、受領権限は既に担保権者が取得しているから、債務者が担保権者に弁済すれば目的債権が消滅するのが原則である。しかし、それでは中止命令の効果が減殺されるため、債務者が悪意の場合には担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとすることを提案している(前記第3、6⑴)。これは、中止命令の実効性を確保するために、担保権者が弁済受領権限を有しているという原則を修正するものと位置づけられる。もっとも、仮に、実行着手前から担保権者が弁済受領権限を有しているという考え方を採る場合、前記第3、6⑴は、中止命令は単に手続の進行を止めるだけでなく、担保権者が実行前から有していた権限を制約することになるので、採り得ないように思われる。

 担保権実行手続取消命令が発令された場合、設定者の取立権限を失わせ、担保権者が取立権限を取得する行為の効力が取り消されるため、それがなかった状態に戻り、担保権者は取立権限を失う。他方、弁済受領権限については、担保権者が実行着手前に弁済受領権限を有していなかったという考え方によれば取消命令によってこの権限を失うが、実行着手前から有していたという考え方によると、引き続き弁済受領権限を有していることになる。いったん実行に着手がされて債務者が請求を既に受けていた場合、債務者は担保権者が受領権限を有していると認識しているのが通常であるから、担保権者の弁済受領権が失15 われるという考え方によれば、債務者の保護を図るため、債務者が担保権者に対して善意でした弁済を有効とすることを提案している(前記第3、7⑵⑤)。これに対し、担保権者が引き続き弁済受領権限を有するという考え方によれば、このような規定は不要となる。

第9 根譲渡担保権の極度額の定め及び根譲渡担保権の処分(部会資料28、2-6関連) 根譲渡担保権の極度額の定め及び根譲渡担保権の元本確定前の処分に関する規律内容を次のとおりとすることについて、どのように考えるか。

⑴ア 当事者は、根譲渡担保契約において極度額を任意に定めることができるものとし、根譲渡担保権者は、極度額を定めた場合には、極度額を限度として、その根譲渡担保権を行使することができるものとする。

イ 根譲渡担保権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができないこととする。

⑵ア 根譲渡担保権の全部譲渡を認めることとする。(注)

イ 根譲渡担保権の分割譲渡(根譲渡担保権を分割し、そのうちの一つを譲り渡すことをいう。)は、極度額の定めがある場合に限って認めることとする。(注)

ウ 根譲渡担保権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根譲渡担保権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。)は、認めないこととする。

(注)根譲渡担保権の全部譲渡又は分割譲渡に当たっては、譲渡担保権設定者の承諾を得なければならないものとする。

⑶ア 極度額の定めや根譲渡担保権の元本確定事由は、登記事項としないこととする。

イ 根譲渡担保権の全部譲渡と分割譲渡を登記できることとする。

(説明)

1 部会資料28 においては、元本の確定前の根譲渡担保権の処分(根譲渡担保権の全部譲渡、一部譲渡及び分割譲渡をいう。以下同じ。)に関する規律を設けないことを提案していたが、部会の審議やパブリック・コメントでは、これを認めるニーズがあるとして、導入を求める意見があったため、改めて提案を行うものである。

2 本文は、認めることとする根譲渡担保権の処分の範囲についての提案である。部会の審議やパブリック・コメントでは、追加融資等の場面で根譲渡担保権の分割譲渡(根譲渡担保権を分割して同順位の根譲渡担保権を創設し、これを第三者に譲渡すること)を認めるニーズが高いとの意見があった。また、根譲渡担保権の全部譲渡についても、同順位の他の根譲渡担保権者等の承諾を得ることなく行えるようにするニーズがあると考えられる。そこで、本文ア及びイでは、根譲渡担保権の分割譲渡と全部譲渡を認めることとしている。なお、根抵当権の場合と同様に、譲渡担保権設定者の承諾を要件とすることとしている。

 これに対し、根譲渡担保権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根譲渡担保権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。)については、動産を目的とする根譲渡担保権についてこれを認めるべきであるという強いニーズはないものと考えられる。そこで、本文⑵ウでは、根譲渡担保権の一部譲渡を認めないことを提案している。

 次に、根譲渡担保権の分割譲渡を認めた場合の規律について検討する。極度額の定めのない根譲渡担保権の分割譲渡を認めると、極度額の制限のない同順位の根譲渡担保権者が創出されることになり、競合する他の根譲渡担保権者等の利益を害する。そのため、根譲渡担保権の分割譲渡は、極度額の定めがある場合に限って認めることとしている(なお、根譲渡担保権の全部譲渡はこのような問題は生じないため、極度額の定めを要件とはしていない。)。

3 根譲渡担保権の分割譲渡を認めることとした場合には、極度額についての規律を設ける必要があり、本文でその規律内容を提案するものである。極度額を任意で定めることができることとした上で、極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができないこととしている。

4 本文⑶は、根譲渡担保権の極度額の定め並びに根譲渡担保権の全部譲渡及び分割譲渡の公示方法についての提案である。元本確定前の処分である根譲渡担保権の全部譲渡と分割譲渡については、登記できるとすることを提案している。これに対し、極度額の定めについては、譲渡担保権の被担保債権額が登記事項でないこととの整合性や、極度額を変更する場合の利害関係を有する者の範囲が登記記録上明らかでないことなどから、これを登記事項としないことを提案している。また、根譲渡担保権の全部譲渡や分割譲渡は、元本確定前にのみ認められるが、多様な元本確定事由を的確に登記に反映させることは困難であるため、元本確定事由は登記事項とはしないことを提案している。

5 これまでの案をまとめると、譲渡担保権及び元本確定前後の根譲渡担保権の処分等の可否については、以下の表のとおりとなる(○を付しているものは、登記も可能とする。)。

第10 動産譲渡担保権が他の動産担保権と競合する場合の優劣

1 占有改定による隠れた動産譲渡担保権への対処方法(部会資料30、4-2関連)

標記の対処方法である次の二案について、どのように考えるか。(注)

 【案10.1.1】対抗要件具備の前後にかかわらず、占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法(現実の引渡し、簡易の引渡し、指図による占有移転又は動産譲渡登記)により対抗要件を具備した動産譲渡担保権に劣後する(占有改定劣後ルール)。

【案10.1.2】対抗要件具備の前後にかかわらず、動産譲渡登記を備えた動産譲渡担保権は、動産譲渡登記以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権に優先する(完全登記優先ルール)。

(説明)

1 部会資料30 では、従来の登記優先ルールではいわゆる三すくみ問題を回避する方法を検討した。このような三すくみは、従来の登記優先ルール(占有改定と動産譲渡登記との間でのみ優先ルールを適用するもの)のように、登記と占有改定以外の方法による引渡しとの間、占有改定とそれ以外の方法による引渡しとの間には、それぞれ優劣がないのに、登記と占有改定との間でのみ優劣を設けることから生ずるものである。これを回避して譲渡担保権の順位を一義的に確定させるためには、対抗要件具備の方法を優先するものと劣後するものに明確にグループ分けする必要がある。このような観点から、部会資料30 では、占有改定劣後ルール(【案10.1.1】)を新たに提案した。【案10.1.1】は、登記及び占有改定以外の引渡しが優先する対抗要件のグループに属し、占有改定が劣後する対抗要件のグループに属することとするものである。

 これに対して、部会の審議では、占有改定劣後ルールに対比させる案として、動産譲渡登記を備えた者を、それ以外の方法により対抗要件を具備した者に優先させるルール(完全登記優先ルール)を提案する意見があったことから、これを【案10.1.2】として提案している。これは、登記のみが優先する対抗要件のグループに属し、引渡しは劣後する対抗要件のグループに属することとするものである。

 占有改定劣後ルールによると、譲渡担保権の順位を一義的に確定させることが可能であるものの、次のような事例で不都合が生じないかが問題となり得る。

①Xが所有する甲動産について、AがXから譲渡担保権の設定を受け、現実の引渡しにより対抗要件を具備した

②Aが甲動産の占有をXに戻した。

③甲動産の占有がXの下にあることを信頼したBは、甲動産についてXから譲渡担保権の設定を受け、5 動産譲渡登記により対抗要件を具備した。

 上記のような場合に、Bは、現実の引渡しにより先に対抗要件を具備していたAに劣後する(占有改定劣後ルールは適用されない)ことになり、不都合が生じるようにも思われる。この問題は、従前の登記優先ルール(占有改定と動産譲渡登記との間でのみ優先ルールを適用するもの)においても生じるものであり、上記の結論が不都合であると考えるのであれば、順位に関するルールを追加する必要がある。例えば、どのような方法で引渡しを受けたとしても、その後に登記を得た譲渡担保権者が現れた場合、その登記の時点で設定者が目的物を占有していた場合には、登記が優先するとすることも考えられる。しかし、ルールが複雑化する上、登記時点での占有の所在の立証など実務上の運用に困難が生ずる。また、一義的に優劣関係を確定させるルールを設けることができるかも疑わしい。

2 これに対し、完全登記優先ルールによれば、上記のような問題は生じない。もっとも、完全登記優先ルールによると、動産譲渡担保権の設定に当たり、動産譲渡登記が事実上強制される事態になりかねず、融資において登記に要するコストが上乗せされるなどの問題が生じ得る。部会の審議でも、このようなルールを設ける場合には、併せて簡易な 登記制度の在り方の検討が必要であるとの意見があった。

3 本文では【案10.1.1】と【案10.1.2】の2案を提案したが、この両者の間に、登記及び現実の引渡しをその他の方法による引渡しを優先させるという考え方もあり得る。

4 なお、部会の審議やパブリック・コメントでは、登記に要するコストに配慮して、集合動産譲渡担保権に限って登記優先ルールを適用すべきとの意見があった。しかし、相当程度高価な特定の動産が譲渡担保の目的になることもあり得、特定動産と集合動産とで規律内容を異にすることが適切といえるかには疑問もある。また、占有改定による隠れた動産譲渡担保権が多く残ってしまう問題もある。そのため、集合動産譲渡担保権に限って占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールを適用する案は、採用していない。

上記の各案について、どう考えるか。

2 集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合の優劣(部会資料30、4-2関連)

 集合動産譲渡担保権と、その構成部分である動産を目的とする個別動産譲渡担保権が競合する場合の優劣の基準は、次のとおりとしてはどうか。

 ⑴ 集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合において、前記1のルール

(占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルール)が適用される場合は、その優劣は当該ルールによる。

⑵ 集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合において、前記1のルール(占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルール)が適用されない場合には、その優劣は集合動産譲渡担保権の対抗要件具備時と個別動産が集合動産に加入した時のいずれか遅い時と、個別動産譲渡担保権の対抗要件が具備された時の前後による。

(説明)

 部会資料30 では、集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合の優劣について、いわゆる加入時説を提案していたが、その実質的内容が不明確であるとの指摘があった。そこで、優劣の基準の全体像を示すものである。

 本文⑴は、集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合において、占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールが適用されるときは、優劣はそのルールによることを注意的に記載するものである。例えば、集合動産譲渡担保権について動産譲渡登記が備えられている場合において、その集合動産に占有改定により対抗要件を備えた個別動産譲渡担保権の目的動産が加入したときは、(占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールの適用により)集合動産譲渡担保権が優先することになる。

 本文⑵は、占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールが適用されない場合には、いわゆる加入時説によって優劣を決することを提案するもので、部会資料30 から実質的変更はない。なお、部会資料30 の(説明)では、集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権の双方に動産譲渡登記が備えられている場合には、優劣は登記の先後によるとする加入時説の修正案も提案していたが、部会の審議では加入時説の考え方と一貫しないとの意見もあったため、この場合も一律に加入時説によって優劣を決することとしている。例えば、①集合動産譲渡担保権について動産譲渡登記が備えられている場合において、その集合動産に動産譲渡登記により対抗要件を備えた個別動産譲渡担保権の目的動産が加入したとき、 ②集合動産譲渡担保権について占有改定により対抗要件を具備している場合において、その集合動産に占有改定により対抗要件を備えた個別動産譲渡担保権の目的動産が加入したときに、⑵の基準(いわゆる加入時説)が適用されることになる。

3 牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の特別の優先ルール(部会資料30、425 -5関連)

⑴ 特別の優先ルールの対象となる譲渡担保権が担保する金銭債務(以下「牽連性のある金銭債務」という。)の範囲を次のとおりとすることについて、どのように考えるか。

ア 目的である動産の代金債務

イ 目的である動産の代金債務の債務者から委託を受けて当該代金債務を支払った金員の償還債務

⑵ 特別の優先ルールの効果に関する次の二案について、どのように考えるか。

【案10.3.1】譲渡担保権のうち、牽連性のある金銭債務を担保する部分は、競合する他の動産担保権に優先する。

【案10.3.2】譲渡担保権のうち、牽連性のある金銭債務を担保する部分は、前記1のルール(占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルール)の対象から除外する。

(説明)

1 牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の特別の優先ルールについて、優先ルールが適用される金銭債務の範囲と優先ルールの具体的効果を提案するものである。

2 本文⑴は、特別の優先ルールが適用される金銭債務の範囲を、①目的である動産の代金債務及び②目的である動産の代金債務の債務者から委託を受けて当該代金債務を支払った金員の償還債務に限定することを提案するものである。

②については、いわゆる三者間所有権留保契約における代金の立替金債務については、①の債務に準じた強度の牽連性があり、特別に優先させる必要があると考えられるため、これに対応して、譲渡担保権についても②の債務を担保する部分について特別の優先ルールの対象とするものである。部会の審議5 でも、優先ルールの適用を合理的かつ明確な範囲に限定するため、融資会社から債務者への責任財産の混入なく売主に動産の購入代金が支払われたことを要件に加えるべきとの意見があり、当該要件を加えても輸入ファイナンスにおけるユーザンスの局面には対応できるとの意見もあった。②はこれらの意見にも対応するものである。

 なお、部会資料30では、「目的である動産の代金の支払に充てるために負担した金銭債務」を優先ルールの対象とすることを隅付き括弧で提案していた。しかし、その外延不明確である上、二重に融資を受けた場合にどちらを優先させるかが判然としないなどの問題があるため、①及び②よりも優先ルールの適用の範囲を拡大する案は提案していない。

3 特別の優先ルールの効果について、部会資料30では、譲渡担保権のうち牽連性のある金銭債務を担保する部分を、競合する他の動産担保権に優先させる案を提案していた(【案10.3.1】)。これによれば、例えば、ある動産が所有権を留保することなく売買され、買主の事業の運転資金を担保するために設定されていた集合動産譲渡担保権の特定範囲に属した後、未払になっていた当該動産の売買代金債務を担保するために売主が当該動産を目的とする個別動産譲渡担保権の設定を受けた場合、売主の個別動産譲渡担保権が優先することになる。しかし、部会における議論では、このように事後的に設定された担保権が被担保債権の牽連性を理由として先行する担保権よりも優越することに反対する意見があった。なお、売主Aが所有権を留保した動産がその後Bの担保権の目的となり、その後保証人等であるCが売買代金をAに弁済した場合、Cは弁済による代位25 によってAが有していた担保権(留保所有権)を取得するので、【案 10.3.1】によってもBに優先することになる。

 【案10.3.1】の結論が不都合と考えるのであれば、譲渡担保権のうち、牽連性のある金銭債務を担保する部分は、本文1の占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールの適用対象から除外するという対応も考えられる(【案10.3.2】)。この案によると、集合動産譲渡担保権について動産譲渡登記が備えられており、その集合動産に牽連性のある金銭債務を担保する個別動産譲渡担保権が設定された動産が加入した場合には、本文2⑵の加入時説で優劣を判断することになる。しかし、集合動産譲渡担保権について動産譲渡登記をするに当たり、場所的方法によらない方法による特定を認める案を採用すると、その特定の在り方によっては、甲動産に対して牽連性のある金銭債務を担保するために個別動産譲渡担保権を設定した瞬間に、甲動産が競合する集合動産譲渡担保権の集合動産に加入し、個別動産譲渡担保権者が甲動産の集合動産への加入前に優先権を確保する手段が事実上存在しない場面が生じ得ることになると考えられる。

以上の点について、どう考えるか。

第11 留保所有権に関する規律内容(部会資料30、1-2関連)

留保所有権の実体的な効力に関する規律を、譲渡担保権に関する規律と同一としてはどうか。

(説明)

 動産譲渡担保と所有権留保は、いずれも動産5 を目的とする非占有型担保である点で共通しているため、両者の規律内容はできる限り同一とすることが望ましいと考えられる。部会の審議でも同旨の意見があった。そこで、留保所有権について、集合動産譲渡担保権、転担保、担保権の順位の変更等を含め、その実体的な効力に関する規律は、譲渡担保権の規律内容と同一とすることを提案している。

 なお、この考え方を押し進めると、狭義の留保所有権を第三者に対抗するために特別の要件を不要とするルールを、牽連性のある金銭債務を担保する譲渡担保権についても適用し、当該譲渡担保権については引渡しをすることなく第三者に対抗できるとすることもあり得るが、どう考えるか。

加工法制審議会担保法制部会第34回会議(令和5年6月13日開催)

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00201.html

委員等提出資料34-1 担保目録等の導入検討のためのイメージ図

資料

部会資料29-3 「担保法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要(第11から第15まで)

第3章担保権の実行

第11新たな規定に係る集合動産担保権の実行

1新たな規定に係る集合動産担保権の実行の手続

新たな規定に係る集合動産担保権の実行について、次の規定を設けるものとする。

⑴新たな規定に係る集合動産担保権の私的実行をしようとするときは、担保権者は、帰属清算の通知(担保権者が評価した目的物の価額が被担保債権額を超える場合にあっては、これに加えて清算金の提供等)又は第三者への目的物の処分に先立って、設定者に対し、担保を実行する旨を通知しなければならない。

⑵上記⑴の通知が設定者に到達した後に集合動産に加入した動産には、担保権の効力は及ばない。ただし、その動産が上記⑴の通知が到達した時点で集合動産の構成部分であった動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。

⑶上記⑴の通知が設定者に到達したときは、設定者は、その時点で集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失う。

⑷上記⑴の通知は、設定者の承諾を得なければ、撤回することができない。

⑸上記⑷の撤回は、上記⑴の通知の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

⑴から⑶までについて

【全体に関する意見】

・立法による明確化が望ましいという観点から、中間試案の提案を支持する。(企業法研)

・実行開始通知の到達の前後で担保の対象を明確に区分させるものであり、本提案に賛成する。実行通知の到達後の新規加入物には担保権が原則として及ばないこととなるものの、実行通知の到達から実行までの間に実行対象とはならない新規加入物が混入し、実行対象となる動産とならない動産を区別することができないために、いずれの動産に担保権が及んでいるかが不明確となり、実行手続に支障が生じるおそれがある。一読では、そのような事態を避けるために、設定者が新規加入物を実行通知の到達時に存在していた動産から区別している場合に限って、新規加入物を実行対象から除外すべきとの考え方が示されており、この点に配慮したものが提案⑵である。

 新規加入物と実行通知の到達時の構成部分を適切に区別することができるのは設定者であることを踏まえて、設定者が適切に区別しない場合には、例外的に区別されていない新規加入物に対しても担保権が及ぶこととされる。

 なお、本提案を採用した場合には、新規加入物が担保実行の対象に含まれ得ることから、評価の対象が問題となるが、設定者には新規加入物に担保権を及ぼさせないために適切に区別するインセンティブが働くことが期待され、担保権者としても適切な区分が行われて新規加入物が実行対象にはならない状態であることを合理的に期待できることから、評価に際しては原則として新規加入物を考慮する必要はないとの考え方が示されており、かかる考え方は、担保権者と設定者のバランスをとるものとして賛成できる。もっとも、設定者に課される受忍義務に基づく情報提供等によって担保権者が新規加入物の数量や状態等を合理的に把握できる場合には、例外的に新規加入物を考慮した上で担保評価するべきと考えられる。(東弁)

・実行通知によりいわゆる固定化が生じ、設定者の処分権限が失われ、一方でその後に加入する部分には担保権の効力が及ばないことは合理的である。また、その後に加入する部分に担保権の効力が及ばないようにする前提として、設定者に分別管理を求めることも合理的である。(担保研)

・実行にあたって、集合動産担保権の効力が及ぶ範囲を提案のような方法で確定させることは妥当なものと考える。なお、優先担保権の目的である集合動産に重なり合う集合動産を目的とする劣後担保権が存在する場合については、次のように考える。

 優先担保権の実行に際して固定化された範囲に含まれる動産については、劣後担保権の担保権者は、清算金請求権に対する物上代位を行使することのできる可能性を有するにとどまるものの、優先担保権の効力が及ばない新たな加入動産については、劣後担保権の効力もなお残存するものとしたうえで(かつ、実行された優先担保権が消滅したことに伴い順位が上昇する)、その効力をそのまま及ぼすことができるとするのが相当と考える。

 補足説明106頁2行目以下は、実行後の再度実行を否定するときは、優先担保権者が実行した後の新規加入物に劣後担保権の効力が及ぶことを否定するのが相当としているが、再度実行を否定して優先担保権者の担保権の効力が及ぶのを一定の範囲に限定したうえで、その後の加入動産に対する優先的地位を劣後担保権者に認めることは可能であり、集合動産に対して劣後担保権を設定することの意義をこの点に求めることは合理的なものであると考える。(研究者有志)

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・集合動産を目的とする担保権は、設定者に対し通常の営業の範囲における構成部分の処分を許すとともに、新規加入物もあるため日々その構成部分が変動していくことを特質とする。したがって、実行通知は、私的実行の対象となる動産の範囲の確定のために必要である。

・帰属清算の通知又は担保実行の通知を担保権者に行わせること自体は過大な負担ではなく、こうした通知を必要とすることは合理的である。

⑵について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日弁連、研究者有志

・新規加入物も私的実行の対象とすることを認めると、2の実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行を認めないことを潜脱する結果となるため、新規加入物に担保権の効力は及ばないとする本文に賛成である。ただし書については、実行通知の到達と実際の引渡し等との間にタイムラグがあり、新規加入物が混入して実行手続に支障が生じるという実務上生ずる問題に対する対応として有効であり、賛成である。

・執行対象を客観的に判断できるようにするため妥当。

・実行通知によって原則として固定化させることでよく、かつ分別管理されていない新規加入物には担保の効力が及ぶということでよい。引渡しの執行の場面(簡易な引渡方法の手続を含む。)を想定すると、現場で執行官がどの目的物が対象なのか判断できる必要がある。実行通知後の搬入かどうかを執行官が現場で判断することは困難であることを理由に執行不能となることは避けるべきであるから、分別管理の有無によって執行対象かどうかを判断するという形がよいといえる。この観点からは、帳簿上の分別管理だけで当然によいとまでは言いがたく、帳簿上の分別管理と物理的な分別管理の状況等から、執行官にとって対象かどうかが判断されることになると思われる。

・通知到達により、担保権が及ぶ範囲を固定化することに賛成である。⑵ただし書のとおり、分別管理がされていない場合には、通知到達後に新規に集合動産に加入したものにも担保権を及ぼすことも合理的であり、担保設定者はこうした事態を避けたければ分別管理をすればよい。執行の場面において執行官による判断が容易になるよう、その場に存在する集合動産が、通知到達前なのか、通知到達後なのか、執行官をもって判断できる程度に分別管理をする必要があると考える。

【反対】

個人

・中間試案第1、1担保権の効力の及ぶ範囲に従って決められるべきもので、相矛盾する規定を置くべきではない。

・集合動産と言っても、仕入・処分する回転型の在庫だけではなく、太陽光発電所などの固定資産もある。また、資金提供も、現に存在しているものを評価対象にしているのか、将来に及ぶ部分の資金提供を行っているなど、様々なケースが想定され、一概には決めるべきではない。

【ただし書に反対】

ミロク、日司連

・⑵について、構成部分であった動産と分別して管理されていない場合は担保権の効力が及ぶことになる。しかし、担保権の効力が及ぶかどうかは、担保権者にとって重要な事項であるからこれを設定者側の管理の方法次第で左右されるのは妥当ではない。分別して管理という文言についても、物理的に分別していれば足りるのか、帳簿上分別されていれば足りるのか、分別して管理の意義が不明確である。そこで、ただし書は削除すべきと考える。

・「分別して管理されていないとき」の解釈があいまいであり、これを拡大解釈すると、実質的に包括担保を許容することにもなりかねず、妥当でない。また、当該解釈の在り方次第で、設定者や動産を加入した第三者に対して不測の損害を与えかねない。分別管理を含めた目的物の管理の在り方については、担保権者による途上与信又は当事者間の債権的合意に基づいてこれを正すべきものであって、設定者に物権的な責任を負わせてまで解決すべき事柄ではない。

【その他の意見】

・実行開始通知が到達した日時が明確であれば、納品書や帳簿等により、それ以降に加入した動産を日付によって区別することは可能であり、「分別して管理」とは帳簿上分別されていれば足りることとすべきである。(連合)

⑶について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・実行通知は、私的実行の対象となる動産の範囲の確定のためにされるものであり、実行通知の効果として、それが設定者に到達したときは、設定者は集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失うとすることに賛成する。

⑷及び⑸について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・⑷について、設定者は、実行通知を受けたことにより、集合動産の構成部分であった動産の処分権限を失うとともに、新規加入物については分別管理により実行の対象外となるものと考えていたところ、担保権者による実行通知の一方的な撤回を認めると、その間、集合動産の構成部分であった動産の処分を制限されるとともに、分別管理していた新規加入物について、再度の実行通知により、担保権の効力が及ぼされるなど、不安定な立場に置かれることになる。他方、私的実行が一旦開始されると撤回の余地がないというのは、裁判所に対する各種担保権実行の申立てにおいて取下げが認められることと比べても硬直的にすぎ、設定者の意思にも必ずしも合致しないと考えられる。したがって、設定者の承諾があれば、担保権者は実行通知を撤回することができるという規律とすることに賛成する。

 もっとも、例えば、一部を既に実行完了した後に撤回できるとすると、設定者の承諾を得ているとしても、これを繰り返すと、後順位担保権者の利益を害することになる。そこで、実行のいかなる段階であれば撤回できるのかについても定めるべきである。

⑸について、設定者の承諾を得た実行通知の撤回を認めるとしても、新規加入物に対して新たに利害関係を有する第三者との間で複雑な法律関係が生じ得る。そのため、設定者の承諾による実行通知の撤回も、無制限に認めるべきではなく、第三者の権利を害することはできないとの規律を設けることに賛成する。

・通知の到達により設定者には集合動産の処分権限や管理につき変動が生じることから、⑷のとおり、通知の撤回には設定者の承諾を要することに賛成する。一方、通知を撤回するのであれば、第三者を害しない限り、通知がなかった状態に覆滅させることでよく⑸のような規律にも賛成である。

・実行通知を撤回し得るかが一応問題になるところ、実行開始通知の到達には、新規加入物に担保権が及ばなくなるという効果と設定者の処分権限の喪失という効果が結びついていることからすると、担保権者が一方的に撤回することは設定者の地位を著しく不安定にすることから認められないものとすべきであるが、担保権者と設定者の合意により実行通知により生じた効果を覆滅させる場合にはかかる不利益が生じる恐れが小さい。その際、第三者の取引の安全も考慮すべきと考えられることから、⑷及び⑸に賛成する。

・撤回によるいわゆる「固定化」の覆滅は、設定者及び第三者の利益を害すので、両者の保護を図る必要があるところ、本提案は、いずれについても配慮されており、実務上も異論がない。

2実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否

新たな規定に係る集合動産担保権の担保権者は、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行をした後に新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものとして再度の実行をすることはできないものとする(注)。

(注)プロジェクト・ファイナンス等の現在の実務に影響を与えることがないか、事業担保等の他の制度との関係にも留意しつつ、引き続き検討する。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日司連、日商、日弁連、研究者有志

・設定契約により定められた集合動産に担保権が設定されている場合、担保権者が担保権の範囲として期待すべきは設定者の通常の営業の範囲内で処分されて加入した結果存在する集合物であり、当該集合物が1度すべて実行された以上は、その後の新規加入物は、当初の担保権により想定された通常の営業の範囲を超えて加入してきたものといえ、担保の効力を及ぼすべきではない。

・一度実行された担保権はその範囲で消滅するはずであり、新たな加入物について引き30 続き集合動産担保として存続する理論的根拠が不明である。また、新たな加入物に集合動産担保が必要であれば、その時点で新たに集合譲渡担保契約を締結すれば足り、実行後に加入した動産に対する再度実行を認める必要性はないと考えられる。

・固定化を認める以上当然のこととして、本文の提案に賛成する。ただ、(注)につき、プロジェクト・ファイナンスにつき、契約等で十分に対応できるし、必要であれば特例35 法で対応すればよく、あえて民法典において特段の対応を定める必要がないという意見が強く出されたため、立案に際して検討されたい。

・プロジェクト・ファイナンスなどを除いた通常の融資においては、集合物1杯分(例えば倉庫に通常保管されている在庫総量)を担保価値として把握しているし、担保権者の保護としては1杯分で十分である。

・担保権者が当初想定していた担保価値に見合うものであり、違和感はない。

・①累積的な担保権設定を認めると担保権が強大になりすぎること、②担保権が一度実行されれば事業継続が困難となるのが通常であるとすると、実行後に新たに実行の対象となる目的物が発生することは期待できず、担保権者もそれを認識していることから、再度実行を認めることによって融資額が増えるとは考えにくいこと、③担保実行の段階に至ると事業継続が困難となるのが通常であり、再度実行まで認めるとすると設定者は対抗的に法的整理に入ることになると考えられるから、再度実行を認める実益に乏しいこと等から、本提案に賛成する。

・再度の実行ができるとすることは、いわゆる累積型を認めることになると考えられるところ、これが認められない旨を明示するものであり、妥当である。一度担保が実行されてしまえば、多くの場合に設定者の事業継続が困難になるから、実行後に新たに動産が加入する蓋然性は低く、よって、実務的な必要性は低い。また、累積型については、集合物概念から整合的に説明できるのかという理論的な問題も存在することからすれば、これをあえて認める必要はないからである。

・本提案に反して累積的な担保権の設定を許容すると、被担保債権の額を大きく超える動産に担保権が設定されかねず、この場合、財産の処分や新たな資金調達に支障を生じるほか、一般債権者に対する弁済原資がなくなる等の問題も生じかねない。

・再度実行をできないものとする提案については、事業継続の観点から賛成する。他方、集合動産の構成物は権利者にとってブラックボックスになっており、実行時の構成内容が不明である。そのため、権利者への権利保障が十分にないと、新たな制度が使われなくなる懸念もあるため、バランスの取れた権利保護の制度設計を図られたい。

・再度実行を認めることは過剰担保につながりかねないので、これを認めないとする提案に賛成する。実行後に加入した動産については、実行された担保権に劣後する担保権の効力が及ぶものとするのが相当と考える。

【反対】

全銀協、地銀協、長島・大野・常松有志

・補足説明で指摘されているニーズに加え、プロジェクト・ファイナンス等において、既に債務者が適切な行動をとることができないような状況の場合、担保権実行によって保有財産を第三者に移転させることにより事業を継続するケースが考えられる。このようなケースでは、実行の時点をもって一斉に納品先等を変更できればよいが、現実的にはすべての相手先においてこれを実現することは必ずしも容易ではなく、相手先の都合等で、その時点以降も従前の指定場所に納品を搬入されることなどが発生する可能性がある。この場合、債務者の自律的な行動は期待できない状況であり、かつプロジェクト・カンパニーの特性上倒産手続への移行による解決も現実的でないことから、担保権の実行として残置された動産を回収することが簡易かつ現実的であるが、再度実行が禁止されるとこのような対応ができないことになりかねない。再度実行を禁止するという考え方は、集合動産担保を一度実行してしまうと事実上事業の継続は困難となるため、特定範囲に加入した動産に対して複数回の実行を行うニーズを想定できないのではないかという経験則に基づいているとも考えられるが、実際の執行場面でのニーズは様々であり、一律禁止とすることによって、かえって個別具体的な場面での工夫による解決を妨げる可能性も否定できない。合理的なニーズがないとは言えない以上、再度の実行を禁止する必要性はないと考える。

(注)について、再度実行するためには事業担保を活用すればよいという考え方に対しては、事業担保は一部の事業に設定することはできないため、必ずしも事業担保が活用できる場面ではないと考える。

・再度実行が一切不可となると、担保権者の想定よりも在庫が少ないタイミングで実行することを余儀なくされるケース(在庫の搬入遅れがある場合、設定者が悪意を持って在庫を隠匿する場合等)や、在庫の搬入を待つことで価値を毀損するケース(季節商品等の売り時を逃す場合等)が発生する懸念等があることから、担保権者によっての予測可能性が下がり、結果として十分なファイナンスが実行されなくなる可能性がある。そのため、担保権者の期待を保護し、十分なファイナンスを実現させていく観点等から、一定範囲での再度実行を認める(例えば、第3の5の(注)に記載されている「通常の事業が継続されれば当該集合動産又は当該集合債権が有すると認められる価値」を満たすまでの再度実行等)ことを検討いただきたい。

・左記のようなルールを強行法規として定める必要はない。担保権者と設定者の間の合意に委ねれば足りる(この合意の効力が倒産手続において制約されることはあり得る。)。

【その他の意見】

・集合動産担保権の一部実行(第11、3)との関係、集合債権担保権との関係を含め、慎重な検討を要する問題である。

 集合動産担保権の一部実行がされた場合、その実行済みの範囲については再度実行が許容されないものとされる一方で、一部実行がされていない範囲(=残部)については実行が可能であると考えられるが(第11、3)、このような結論が、ここでの再度実行(第11、2)の問題ではないものと考えてよいかの確認が、まず必要である。

 また、「新たな規定に係る集合動産担保権の実行後に構成部分となった動産を含む集合動産になお担保権の実体的な効力が及ぶという意味での累積的な担保権設定」の合意について、そのような「累積的な担保権設定の合意の効力は認めないこととすることが相当」(補足説明106頁・108頁)とされているところ、集合債権については累積的担保の実務が現実に存在しており、これを正面から保護する高い必要性があることに照らすと、集合動産について、例外の余地を残さずにこのような担保権の合意の効力を一切否定しきることが適切であるか、また、その旨を、現時点であえて明文規定をもって規律しておく必要があるかについては疑問があり、(注)にも記載されているとおり、担保金融の類型や事業担保権制度との関係にも照らした入念な検討が必要と考えられる。また、動産については、その集積によって、新たに別の動産又は不動産が成立する場合や製造される場合があり(例:精密機械、自動車、船舶、建物等)、これは、一種の累積的な動産なのであるが、その製造過程において、設定者に当該動産の所有権が帰属していることを前提に、担保設定や真正譲渡によるファイナンスが行われることがあり得るところ、ここでの「集合動産」の意味・定義の如何によっては、このようなケースに対する影響の有無についても考慮が必要と思われる。

 また、累積的担保の問題を離れても、集合動産担保権の目的動産が、特定範囲の場所から、担保権者への報告や担保権者の同意なくして、担保設定者によって一時的に(例:展示販売)又は作為的に(例:詐害行為)搬出・移動されていたことにより、担保実行がいわゆる「空振り」となったような場合をも想定すると、再度、特定範囲の場所に戻されて原状に復した後に実行することができないとする結論がつねに適切であるかは、慎重に検討する必要がある問題と考えられる。したがって、仮に規定を設ける場合においても、合理的な範囲で相当と考えられる例外を設けることを含めて、引き続き検討されることが必要な問題であると考えられる。(ABL協)

・プロジェクト・ファイナンスにおいては、所定の事業を実施するために事業用の設備資金等をファイナンスし、事業の遂行に伴って生じるキャッシュフローで長期的に分割返済するものとされているところ、ファイナンス期間に渡って発生したり入れ替わったりする動産に対して継続して担保権が及ぶことが想定されているから、例えば、分割返済の資金が一時的に不足したときに、その埋め合わせのために集合動産のうちの一部のみを担保実行してその分割返済に充当するが、それ以外の集合動産は流動性を維持して事業及びファイナンスを継続し、のちに再度実行を行うことが認められるべきとの意見がある。しかし、上記意見はプロジェクト・ファイナンスなどに限定されたものであり、集合動産担保一般にそのようなニーズがあるのかは疑問であることからすると、実行時点で存在する動産全部について実行がされた後の再実行は許さないとする本提案が相当であるといえる。とはいえ、再実行を認めることで融資額が増えるとは考えにくいことが本提案の理由の一つであることからすると、上記のようなプロジェクト・ファイナンスは数百億円、数千億円規模に達するものであり、かかる規模のファイナンス組成の場合には担保設定者も担保権者と同等の交渉力を有し、濫用的な担保権者を懸念する必要性も低いと考えられることから、本提案が原則であるとしても、担保設定者の属性等を踏まえて例外的に本提案と異なる合意をすることが許容されるとすることが考えられる。(東弁)

・物権は物質が存在する場合にのみ発生し、物質がまだ存在しないのに発生することはない。また、物権の対抗要件は引渡しであるが、存在しない物質を引き渡すことはできない。この節で言っていることは、要するに、担保権設定契約の時に全く存在しない物質について担保物権の成立を認め、その対抗要件の発生を担保権設定契約の時に遡って認めるべきか、ということになるが、いずれも否定されるべきである。プロジェクト・ファイナンスなどで、現存しない物質について担保権設定契約をしたとしても、それは担保物権の予約と言うべきもので、担保物が発生した時に担保物権は発生し、それが引き渡された時に対抗要件を備えるとすべきである。もしプロジェクト・ファイナンスなどで必要であれば、「いつからいつまでに引き渡される物に対する担保権」「いつからいつまでに引き渡される物に対する担保権」などと担保権設定契約を行い、ただ担保権が具体的に対抗要件を伴って発生するのは引渡しを受けた時とすべきである。(個人)

・一概には決めるべきではない。なお、ABL等においても展示販売、外部委託等で一時的に搬出されている物などは複数回の実行が必要と考える。特に、保管場所に限らず「一切の在庫」が認められた場合、実行の手法、回数が増える可能性が高まると考える。また、設定者が詐害行為的な行動を行い、実態よりも在庫が少ないように見せかける場合などを救済する仕組みが必要と考える。また、事業担保が創設され、個別担保の実行が認められる場合、それとの整合性が必要になる。つまり、その観点からも、事業担保では複数回の実行が認められるならば、同様に認められるべきである。(個人)

3集合動産の一部について実行がされた場合に固定化が生ずる範囲

 前記1⑴の通知の到達による前記1⑵及び⑶の効果は、その集合動産全体について生ずるものとし、ただし、その通知において、【所在場所により特定された範囲/種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲】を実行の対象として指定したときは、この限りでないものとする。

本文について

【賛成】

全銀協、大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・担保動産の種類によっては、集合動産全体を一度に実行することができるわけではない。したがって、実務に支障が生じない形で一部実行が認められる制度にすべきであり、一部実行を可能とする提案に賛成する。

・仮に担保権者が担保の設定を受けた集合動産の一部についてのみ効果を持つような実行通知が可能であるとすると、残部について、なお流動性を残存させ、担保権者に有利な都合のよい時期に残部の実行通知による実行を認めることとなる。これは、再度実行を認めないことを潜脱する結果になりかねない。したがって、原則として、かかる集合動産の一部についてのみ効果を持つような実行通知は認めるべきではなく、前段に賛成する。

 なお、実行通知により、その集合動産全体について実行通知の効力が生じた場合であっても、その効力が生じる範囲とは別に、その集合動産の一部についてのみ私的実行することは、特段、妨げられないというべきである。被担保債権額を大幅に超過する動産が存在し、過剰執行になることが明らかなときに、かかる一部についてのみ私的実行をすることを許容することは、担保権者にとっても、設定者にとっても有益である。

 また、例えば、私的実行の途中に、見込んだ動産の量を超えたためにすべて搬出できない場合も考えられる。そして、この一部実行後の残部について、改めて実行できるか否かは、実行対象の特定の問題であり、残部について、それが実行通知による私的実行の対象となる動産であることを特定できる限りは、実行も可能であると考えられる。

・客観的に実行の対象内外を区分できるように指定されるのであれば、3の内容を認めることが当事者双方にとって便宜である。

・「固定化」についての明確な規制を定めるものとして、中間試案の提案に賛成する。

・1つの譲渡担保権設定契約にて複数の場所に保管されている動産を担保にとるときに、実行通知によって全ての固定化を生じさせる必要はなく、特定された場所ごとの実行を認める方が担保権者、設定者いずれにとっても便宜である。

・提案内容のように、実行通知に実行の対象を指定したときは、1⑵⑶の効果の及ぶ範囲を限定させることは合理的である。

・一部実行の容認は、担保権者としては担保実行の硬直化の回避の点から(常に全部実行する必要はない)、設定者としても事業継続の余地を残すことができる点から、担保権者及び設定者の双方にメリットがあると考えられるため、一部実行を認めることが必要である。もっとも、この場合にどの部分に1⑵及び⑶の効果が生じるのか(固定化を生じさせない部分があるのか)は別途検討が必要であるところ、本提案は、原則として全体について固定化が生じることとしつつ、実行対象が指定された場合には当該部分につ15 き1⑵及び⑶の効果が生じるものとする。担保権者が一部実行をしようとする場合には対象部分を特定することが実務上通例であることからすると、かかる実務に沿った規定であると考えられ、本提案に賛成する。

・対象が明確に特定されている限り、一部実行も認められると考える。

・固定化が生じる部分と固定化が生じない残部が明確に区別できるときには、一部実行も、許容の余地があるものと考えられる。もっとも、当該区別の在り方として、隅付き括弧内の基準では抽象的であるから、本提案に係る法令施行後は、当該区別に係る具体例の提示及びその周知を要すると考えられる。また、一部実行が可能となる担保権の公示の在り方並びに一部実行後の担保権の公示の変更又は抹消の可否及びその在り方も、併せて検討すべきである。

・担保目的とした集合動産の一部のみについて実行ができるものとすることに対しては、実務上の必要性も認められると思われる。

【その他の意見】

・一概には決めるべきではない。(個人)

隅付き括弧について

【所在場所により特定された範囲とする考え方に賛成】

・例えば、担保の目的物が地理的に離れている複数の保管場所に所在している場合、各保管場所について同時に実行することは事実上困難であるなど、一方の保管場所についてのみ実行を認める必要性は高い。この点、かかる場合は、契約の解釈又は担保権の成立の仕方として、流動性の単位ごとに複数の担保が設定され、そのうちの一つが全部実行されたと理解し、所在場所によって区別できる場合に関する規定を設ける必要性がないとの考え方もあり得るが、明らかに1つの設定契約において地理的に離れている複数の保管場所に所在している集合動産を担保目的物としている場合において、かかる解釈が可能であるのか疑問である。したがって、実行通知において、所在場所により特定された範囲を実行の対象として指定したときは、当該一部についてのみ実行通知の効力が生じるとする考え方に賛成する。

 これに対し、所在場所以外の要素によって他の部分と区別することができる場合にも残部の流動性が維持されるとの考え方も示されているが、反対する。この考え方は、例えば、優先担保権者が商品Aを、劣後担保権者が倉庫Bをそれぞれ担保の目的としている状況下で優先担保権者が実行した場合において、「倉庫B内の商品A」と「倉庫B内の商品A以外の物」を所在場所によって区別することはできないから、倉庫B全体について実行通知の効果が生じてしまうこととなるが、このような結論は劣後担保権者にとって不当であって、この場合には「倉庫B内の商品A」という担保の目的が重なり合っている範囲で実行通知の効果が生じるとするのが結論としては妥当であるとするものである。しかしながら、当該事例において、実行通知の効果が商品A以外の物も含めた倉庫B全体について生じてしまうことになるという前提が疑問である。優先担保権者が担保の目的としているのは倉庫B内にあるあくまでも商品Aであり、実行通知により、倉庫B内において流動性を失うのは商品Aのみであって、倉庫B内の商品A以外の物についてまで流動性を失わせる理由はない。むしろ、所在場所以外の要素によって他の部分と区別することができる場合にも残部の流動性が維持されるとの考え方を採った場合には、再度実行を認めないことを潜脱する結果になりかねない。また、上記事例で、固定化後にA商品が新規加入した場合には、さらに複雑な法律関係が生じることになりかねない。したがって、所在場所以外の要素によって他の部分と区別することができる場合にも残部の流動性が維持されるとの考え方には、反対である。(大阪弁)

【種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲とする考え方に賛成】25

神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、日弁連、研究者有志

・所在場所により特定された範囲であれば、一部の固定化ができるのであれば、一部実行の対象となる範囲を所在場所以外の要素によって他の部分と区別できる場合についても、他の部分は流動性を失わないとする規律を設けるべきと考える。担保権者にとってもすべてを固定化することは設定者の業務に支障が出る可能性があるため、これを避けたいという需要があり、一方で設定者にとっても一部であれば譲渡担保が実行されても営業が続けられるという需要があるといえるため、所在場所以外による一部の固定化を認めるべきと考える。所在場所による特定に限ってしまうと、中小企業のように十分な保管場所等を持っていない場合に一部の固定化が事実上できないこととなり、営業に問題が生じかねない。所在場所のみならず、種類、量的範囲等によって具体的に特定可能であるから、特定された一部にのみ固定化の効果が生じ、その余の部分には流動性が維持されるとすべきと思われる。

・実行の対象の特定方法としては、場所による方法だけに限られず、その動産を特定するのに適した方法でよいと考えるべきである。

・一部実行部分の区分方法については、動産の所在によって特定される範囲に限らず、動産の種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を含めることが考えられる。現行の集合動産譲渡担保の対抗要件は、実務上、動産譲渡登記によることが多いが、当該登記の記載事項については、動産の所在によって特定される場合(動5 産・債権譲渡登記規則第8条第1項第2号)と動産の特質によってされる場合(同条項第1号)とが認められており、所在で特定する登記も特質で特定する登記もいずれも実務上で用いられている。このような実務が存在すること、また、現行の動産譲渡登記制度が存続すること(又は担保ファイリング制度が導入された場合には、当該ファイリングの記載事項に現行の動産譲渡登記制度と同内容が要求されること)を前提にすれば、動産の所在によって特定される範囲のみを指定方法とすることは、担保の対象と対抗要件との間に差異が生じ得るため、整合性をとることが望ましいと考えられる。

・対象の特定方法については、所在場所以外の方法による特定も許容されると考える。ただし、「量的範囲の指定」の内容によっては、事実上、再度の実行を認めることになりかねないので注意が必要である。

 例えば、A倉庫内の商品在庫全部に担保設定、担保実行時にはシリアルナンバー1番~200番までが存在しており、シリアルナンバー1番~100番までが一部実行され、その後シリアルナンバー201番~300番が搬入されたと仮定する。この場合、中間試案の規定に従って考えると、シリアルナンバー1番~100番のみに固定化等の効力が生じ、シリアルナンバー101番~200番については設定者の処分権限が残り、シリアルナンバー201番~300番についても担保権の効力が及ぶと解釈する余地があると思われる。そして、その場合には、後日改めてシリアルナンバー101番~300番について担保実行することが可能となるが、それでは事実上再度の実行を認めることになりかねず、妥当ではない。

・特定の仕方は、場所が中心になるだろうが、客観的に特定される限り、場所に限定する必要はない。

・処分の準備が整った部分のみを対象として、順次、担保権を実行するような例を想定すると、所在場所を異にする場合のみならず、所在場所を同じくする場合であっても、対象範囲が具体的に特定できるのであれば、許容されてよいものと思われる。

第12新たな規定に係る動産担保権の競売手続による実行等

1新たな規定に係る動産担保権は、民事執行法第190条以下の規定に基づく競売によって実行することができるものとする。

2新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、設定者に対する他の債権者が申し立てた動産に対する強制執行手続及び他の担保権者が申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、配当要求をすることができるものとする。

3新たな規定に係る動産担保権の担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的物を差し押さえたときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができるものとし、ただし、目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるときは、この限りでないものとする(注)。

4【執行官/差押債権者又は担保権者】は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをしたときは、遅滞なく、その執行債務者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えている全ての者に対し、その旨を通知しなければならないものとする。この場合において、その通知は、通知を受ける者の【登記簿上の住所又は事務所/あらかじめ登記所に届け出た連絡先】に宛てて発すれば足りるものとする。

5強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る動産担保権の帰趨については、次のいずれかの案によるものとする。

【案12.5.1】強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る動産担保権は、売却により全て消滅するものとする。

【案12.5.2】強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする。

(注)劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分である動産を差し押さえた場合に、同様の規律を適用するかどうかについては、更に検討する。

【全体に関する意見】

・動産競売においても、目的物の価値の逓減や保管費用の過大、搬出困難ではあるが現場保管が相当ではない場合などのために、民事保全法49条3項の緊急換価類似(供託部分は除く)の売却手続を整備しておく必要があると考えられる。その場合には、配当要求終期、無剰余換価の禁止に関しても、合わせて検討を要する。

 現状の動産執行において、後行申立てにより配当加入できるのは、売却前までとされているが、これは無剰余や超過などの判断を行った上で売却するため、その時点で要弁済額や優先債権額を確定させる必要があるからである。新たな制度の下で、配当要求を認めるのであれば、緊急換価を行った場合、申立外の担保権者への通知を行うための登記事項の調査を行おうとしたときに登記中を理由にこれができない状況などに備え、売却後に配当要求終期を定める規律の例外を設けるか、さらには動産執行手続へこれを機会に緊急換価や配当要求終期の新たな規律を設けるなどの必要性が考えられる。

 また、この緊急換価の場合は殊にそうではあるが、これを行わない通常の場合でも、動産に関しては、無剰余換価の禁止を不適用とすることも検討されて良いと考えられる。動産の場合は時間の経過に伴う価値の逓減が通常であり、換価価値の将来の値上がりを想定して、換価時点を優先債権者に選択する権利を認める実益はない。無剰余換価の禁止は、動産の場合には価値がそれほど高くないため、手続進行の制約として働くことはしばしばあるところ、実際に換価すれば競り上がる可能性について取捨選択の余地がないため、手続の実効性を下げる要因になっている。また、手続の費用対効果を考えると費用回収は無益とは言い難いと考えられるからである。(執行官連盟)

・集合動産競売の執行官による差押えの局面で、執行官に目的動産特定のための資料の調査権限・探索権限を付与することで、対象動産特定の困難さを緩和する方策を用意することが相当である。

 集合動産の実行通知による固定化の時期と動産競売における執行官の差押えの時点との時間的ずれの関係では、その後、流出加入が行われる可能性が、特に事業が継続されていく場合には当然に想定されていることから、対象動産の特定には非常に困難が伴うと考えられる。設定者の協力が最も有益であるが、それを得るため、又それが得られない場合に、強制的に手続を進めていく上で、集合動産の目的物の特定・把握をするのに必要な資料に対する、執行官の調査権限、文書・帳簿等の探索・閲読、債務者・設定者の協力義務、提示義務、真実義務とそれを担保する一定の違反行為に対する罰則等を設けることが必要と考える。(執行官連盟)

・集合動産譲渡担保において、後順位担保権者が競売の申立てをして目的物が差し押えられたとしても、先順位担保権者は担保権実行時期利益があり、差押え後に加入した物も先順位担保権者との関係では担保の効力が及ぶべきであるから、固定化は生じないと解される。

 もっとも、配当要求をしたときには、被担保債権の弁済を求めるものであり、競売手続に参加しているのであるから、これによって先順位担保権の対象も固定化されるとするべきである。

 一方、第三者異議の訴えは、競売手続の排除を求めるものであるから、固定化は生じないと解するべきであり、これらを明らかにしておくのが簡明である。なお、根抵当権の被担保債権の確定と同様の規律を設け、第三者異議の訴えによって競売が取り消されたときには、被担保債権の確定も生じないとする必要がある(民法第398条の20第2項参照)。(神奈川弁、一弁、日弁連)

・新たな規定に係る担保権を担保物権として構成するならば、中間試案第2、1~3は、考え方としては適当だと考える。

 ただ、動産の強制競売や担保権の実行としての動産競売においては、短期間で売買されることや中古動産の市場がわが国では確立していないことから、目的動産がまともな価額では売却されないのが実情である。したがって、譲渡担保権設定者からすれば、帰属清算方式により目的動産の適正な評価額を基準として清算金の支払を受けた方が有利だということになるから(動産譲渡担保権の設定においては、債権者は実行により債権の確実な回収が図れるように被担保債権額の何倍もの価額を有する動産を担保に取っておくことが一般的だが、競売による実行の場合には、目的動産でもって被担保債権額全額が回収されないどころか、多額の残債権が生じかねない。)、譲渡担保権設定契約で帰属清算方式による実行が約定されていたときは、帰属清算方式により実行がなされるべきだと考える。

 また、動産譲渡担保権者が譲渡担保権の実行方法として民事執行法190条以下の規定に基づく競売を自由に選択できるとする(⑴)ならば、これに合わせて、動産がまともな価額で売却される市場を構築することが喫緊の課題になると考える。このようなバックグラウンドなしに、動産譲渡担保権者が民事執行法190条以下の規定に基づく競売を自由に選択できるとすることには賛成できない。

 悪質な金融業者が、身内や親しい者を通して目的動産を競売により二束三文で買い受けて、インターネット販売を含む中古市場において高値で売却することに利用されかねないと考える。(個人)

1について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、執行10 官連盟、日司連、日弁連、研究者有志

・法的実行は換価の公正さが担保されることから、一定のニーズが想定される。

・優先担保権者の同意を得られない劣後担保権者の私的実行の可否については、【案10.2.1】【案10.2.2】の両案があったところであるが、いずれも多かれ少なかれ効果には制約があり、動産競売手続を認める必要は高い。

・新たな規定に係る担保権に関して、現行の譲渡担保権等と同様に私的実行手続を認める旨の法改正が予定されているところであるが、裁判所の競売手続を利用することにつき実務上のニーズがあるとされており、その場合には民事執行法第190条以下の規定に基づく競売によって実行することとするものであり、本提案に賛成する。

・司法機関による強制手続を用意しておくことは、私的実行が困難だった場合の権利の実現を担保し、翻って私的実行を円滑に進める要因となることから、民事執行法第190条以下の規定に基づく競売を認めることが相当である。この手続は、現在において、執行官が行っている各種強制執行手続に類するものであるから、執行官に執行機関ないしは実施機関を担わせることが合理的である。

2について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・譲渡担保権者は実体法上の優先権を有しており、競売手続において優先弁済を受けられてしかるべきである。

・競売手続の申立を認める以上は、配当要求も当然に認められるべきであることから、本提案に賛成する。

・(そもそも後順位設定を認める場合)後順位のものは、配当請求可能とするべきであろう。

【その他の意見】

・現行法の枠組み(民事執行法133条)を維持することも可と考える。動産抵当権について登記・登録制度が導入されるのであるならば、手続参加について任意参加(配当要求・又は二重差押え)とした場合、仮に動産売却時の抵当権登記の抹消・(あるいは所有権移転等)を執行官が行うとする(民事執行法138条参照)ならば、それを行うための十分な登記・登録情報が執行官の元に集まらない(執行官がそれを行えない)懸念と、それに伴って、執行を終えた実体の無い登記の抜け殻ゴミが発生する懸念がある。権利や登記抹消を、電話加入権の強制競売の例のように、買受人に委ねる制度を採るならば、さらに、実体の無い登記の抜け殻ゴミが増殖する懸念がある。(個人)

3について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・現行判例上認められており、否定しなければならない理由はない。

・剰余がある限りは譲渡担保権者には配当要求を認めれば満足ができ、無剰余の場合に限って第三者異議の訴えを提起できるとすれば十分である。

・劣後担保権者にも原則として申立権を認めつつも、優先担保権者の被担保債権が物件の価値を上回っており、余剰分が存在しない場合には、担保権の実行を申し立てる実質的な利益を有しないとして、例外的に申立権を認めないという考え方に基づくものであり、最高裁判所の裁判例(最判昭和56年12月17日民集35巻9号1328頁、最判昭和58年2月24日判タ497号105頁)を踏まえた内容であり、本提案に賛成する。

・一般債権者や劣後担保権者による差押えに基づいて競売が開始された場合、担保権者としては、同手続で配当を受けられれば足りるのであって、第三者異議の訴えが認められるのは、剰余がない場合に限られるとすることで十分であると解される。第三者異議の訴えを争う差押債権者や劣後担保権者の側において剰余が生ずることを主張立証すべきものとする点も含め、提案に賛成する。

 なお、(注)に記載されている、集合動産につき別異に解すべきことの当否に関しては、一般債権者や劣後担保権者による差押えが、設定者の営業の継続を阻害する事態も想定できないではなく、営業継続を望む優先担保権者の利益を害するおそれがあることもふまえ、慎重な検討を要すべきものと考える。

【その他の意見】

・劣後する他の担保権者又は差押債権者は、実行できないものとすべきではないか。「目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超える」というのは、実行前に判断困難と考える。また、これら後順位の者が実行した後に、先順位者に誠実に配当するのは不確実ではないか(隠匿又は連鎖倒産等により)。(個人)

・第三者異議の提起を、新たな規定に係る動産担保権の担保権者が行えることに異論はない。ただし、上記の説明が、優先債権者の換価時期の選択権に基づいて不許を求めることを想定しているのであれば、不動産抵当権の場合には、そのような想定がないところ、動産抵当権と不動産抵当権において権利の内容の強弱に差を設けることになり、それなりの理由が提示されていなければ、不均衡な制度設計との誹りは免れない。上記の説明が無剰余の場合に、いちいち第三者異議訴訟を提起することを要求するのであれば、手続の選択としてはいささか重すぎる。執行官において無剰余取消(民事執行法129条2項)をすればよい話であるから、執行官の処分の是正を求める執行異議の方が妥当と思われる。上記の説明が、譲渡担保権者が自己の完全所有権を主張して強制執行の不許を求めて第三者異議の申立てを求めてきたケースを念頭に置いたものであるならば、担保化を狙いとする今回の検討とは立場を異にし、その扱いの変更を検討すべきである。今回の新たな動産担保権はその形式を問わず、担保として取り扱い、対抗要件の先占で統一的に優先弁済権の順序の問題の解決を図る構想を提示している。そうすると、強制執行は、単にその担保順位が低位にあるものによる申立てに過ぎず、手続の禁止・排除ではなく、手続を維持し優先弁済権の順位に従った配当を実施すればよいものと考える。(個人)

4本文について

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、研究者有志

・担保権者に対して通知を行い、配当に参加する機会を付与することは、3の劣後担保権者の申立権を認めることを実質面から基礎づけるものとして重要である。

【反対】

・賛同しかねる。担保権者に義務を負わせるのは難しいのではないか。(個人)

【その他の意見】

・強制執行手続において動産の差押えをしたときに、その執行債務者に対して担保権を有する旨の動産譲渡登記を備えているすべての者に対し、遅滞なく、その旨を通知することを求めることについては、動産執行手続の従前からの利用者が受ける支障を少なくするために、執行官が行う公告に代えることが考えられる。

 消除主義で売却できることが執行官の限定された売却方法においては有効と考えられ、その前提として配当要求を行う機会を保証することが必要であるということは理解ができる。しかしながら、他方で、これが現状行われている動産執行手続全体(令和4年度速報値全国新受件数12,133件)のうち債務者が法人である一定の事件数にまで同様の規律が及ぶとするならば、それらの手続が債権者にとって使いづらいものとなって実効性を損ね、これまで制度を利用してきた一般の債権者の権利保護に支障が生じるおそれがあると考えられる。今後、IT化により、公告はそれを見る場所が限定されない形にできることが想定され、公告をもって申立外の担保権者への告知としても、それらの者の一定の把握作業をもってすれば権利行使の機会を失することは回避できる。

 そこで、機会の保障が不可欠であるとするならば、公告という方法が、執行機関としては何ら問題がなく可能であり、現状の動産執行事件の利用者へ及ぶ影響をより少なくすることができることから、これを提案する。(執行官連盟)

・新たな規定に係る動産担保権の担保権者の手続参加の方法を配当要求(や二重開始)に限るのであれば、妥当な手順と考えられる。新たな規定に係る動産担保権の担保権者が、手続を待たずに、配当手続に参加する方式を採るならば、債権届出の催告が必要になる。(個人)

4の通知の主体及び通知方法等について

【通知の主体を執行官とする考え方に賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、一弁、執行官連盟、日司連、日弁連

・通知の主体について、執行官又は執行裁判所とすべきである。手続の安定を重視すべきである(不動産競売の場合は裁判所書記官が通知することも参照(民事執行法49条2項))。執行官又は執行裁判所を主体にしても、登記に従って形式的に通知を郵送するだけであり、過大な負担とはいえない。

 通知の時期について、申立て時点とすると執行妨害の可能性があることから、差押え後とすることに賛成する。

 通知の相手方について、登記上、目的物が共通する担保権を必ずしも特定することができず、また、関連担保目録において、その優劣が必ずしも明らかでないのであれば、全員に対して通知せざるを得ない。

 通知の送付先について、あらかじめ登記所に届け出た連絡先とすることに賛成する。手続上の負担を増大させるものでもなく、登記簿上の住所又は事務所に限定するよりも、20 担保権者にとって便宜であると考えられる。

・通知の主体を執行官とすることは、登記事項証明書又は登記事項概要証明書上の担保権者全員に対して機械的に行えば足り負担は大きくなく、執行機関は執行官であることから執行官とするのが妥当と考えられる。

・通知者としては、執行機関である執行官が行うのが相当である。

 不動産執行においては、執行裁判所の裁判所書記官が、差押え後に、配当要求終期を定める処分を行って、公告を行うと共に、不動産登記記録上の権利者に対して債権届け出の催告を行っている。そのような同種の法的手続との整合性の観点では、執行官とすることが適っている。また、通知事務は、差押えの直後に連動して行われるべきものであるから、差押えを行ったことを直接認識しうる執行機関が行うことが、迅速かつ洩れを防ぎ、担保権者の利益に最も資すると考えられる。これを逸した場合の損害賠償責任との関係で、債権者が行うとする考え方もある。

 申立債権者が担保権者であればともかく、一般債権者であれば、そのような負担を求めることは、権利実現の阻害要因となるし、危険を負担させることは相当でないと考えられる。弁護士を代理人に選任しない、本人申立ても多くある実情にも鑑みれば、洩れが生じることは予想でき、それは担保権者の不利益にもなりうることから、実務的には問題が多い。

通知を執行官が行う場合には、その事務を行うに相応な態勢整備・維持に努めたい。

 なお、登記簿上の記載に従って行うのが簡明であり、それによる不利益を担保権者が負うべき理由もある。この場合、登記中で登記情報を確認できない状況が生じうることから、その場合に、通知が後れることへの対処も考えておく必要がある。

・通知の主体につき、競売手続においてはなるべく画一的な処理を目して事務を遂行すべきである。

・他の担保権者(特に先順位担保権者)にとって通知が確実になされることが必要である。担保権者や差押債権者に通知義務を課したとしても、通知を怠ったことの効果を競売の無効としないのであれば、先順位担保権者にとって確実なものではない(損害賠償だけというのは保護に欠ける)。執行官において通知する方が、通知が確実になされると考えられる。

【通知の主体を差押債権者又は担保権者とする考え方に賛成】

札幌弁、研究者有志

・執行官の負担を考慮して、「差押債権者又は担保権者」を通知の主体とすべきである。

・通知をすべき者については、「執行官」とすることも大いにありうるが、補足説明にあるように、執行官に過大な負担が生じ手続に遅延が生じる事態も想定されるところ、それを避けるため、「差押債権者又は担保権者」とする案のほうがよいように思われる。

【その他の意見】

・通知の主体については、手続の適正性の観点から執行官とすべきであるという意見と、本通知が必要とされている趣旨に照らし、差押債権者又は担保権者とすべきであるという意見に分かれた。(最高裁)

・「登記等」の定義、申立者に課される添付書類の具体的内容、通知不到達の効果などについてより具体化された検討が必要と思われる。また、通知先や通知方法についても、検討が必要と思われる。

 通知主体については、自動的に通知を送付するシステムが構築されることを前提に執行官により行うことが検討されてきたが、かかるシステム構築が必ずしも明らかではないことも踏まえると、執行官に過大な負荷が生じ得ることを回避する観点から、差押債権者により行うしかないことも考えられる。もっとも、この場合には通知負担を差押債権者が負うこととなるが、その送付先は通知を受ける者の登記簿上の住所若しくは事務所又はあらかじめ登記所に届け出た連絡先にあてて発すれば足りることとされているため、一応のバランスは取れているものと思われるものの、その通知先や通知方法については、引き続き検討を要するものと考える。(東弁)

・第10、3の【案10.3.1】中の隅付き括弧に係る意見及び理由に同じ。(日司連)について【【案12.5.1】に賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、最高裁(多数)、札幌弁、東弁、日司連、淀屋橋・山上有志、研究者有志、個人

・【案12.5.1】(消除主義)に賛成する。優先担保権の負担付きの所有権しか取得できないとすれば買受人が現れなくなる。登記を備えている担保権者に対してその旨の通知がされるとすれば、登記を備えた優先担保権者が配当を受けるための機会等は原則として確保される。他方、登記を備えていない優先担保権者は、通知を受けられず、結果として配当を受けるための機会等が与えられないまま担保権を失うことも生じ得るが、登記を具備しなかった以上はやむを得ない(これにより登記の利用が促進されると考えられる。)

・案5について【案12.5.1】を採用し、主な対抗要件を登記に誘導し、案4の通知により担保権者の手続的保護をした上で、消除主義を認め制度を単純化する方が【案12.5.2】よりも、比較的低額から高額の物まで担保として活用しやすいのではないか。

・強制執行の円滑な実現の観点からすると、消除主義を採用する方が妥当。

抵当権と同様、消除主義とするのが妥当であり、【案12.5.1】に賛成する。

・【案12.5.2】を採用した場合には、実務上売却が困難となる事例が多くなるおそれがあること等から、【案12.5.1】に賛成する意見が多数であった。

・買受人に即時取得が必ず成立するとは限らないため、消除主義を採用しないと、買受人が現れなくなる懸念がある。他方で、登記を備えている担保権は、手続に参加する機会又は手続を排除する機会を与えられているから、消除主義を採用して差し支えない。

差押えがあったときは登記を備えている全ての担保権者に対して通知がされることを前提とすると、登記を備えている担保権者には手続に参加する機会又は手続を排除する機会が与えられていると評価することができることから、【案12.5.1】の消除主義を採用する考えで差支えないと思われる。

・競売による実行であっても、買受人の事情次第では即時取得が否定されるおそれが全くないとは言えない以上、端的に【案12.5.1】を採用した方が、競売手続の安定につながり、ひいては、実行に係る目的動産の劣化その他の価値減少の防止にもなる。

・動産競売市場の活性化のためには、消除主義である【案12.5.1】を採用することが望ましい。これに対し、競落人は即時取得制度で保護が図られるのであるから、消除主義を採る必要はないとの批判があるが、保護が図られるか否か不明確であることが買主候補者を委縮させるのであり、上記批判は正当ではない。また、優先担保権者は登記を具備することによって通知を受けることを確保できるのであり(特に、通知の主体を執行官とすれば通知がなされることは確実である。)、仮に、優先担保権者が通知を受けた後、競落までの間に対応しなかったことによって担保権が消滅しても、それは自己責任の範疇であるといえる。

・引受主義と消除主義のいずれを採用すべきという問題については、消除主義を採用すべきものと考える。買受人を見いだしやすくすることは重要であり、また、通知がされることによって担保権者に対する手続保障はいちおう図られているといえること等が理由である。

・負担付きの物の価格は大きく下落して、競売手続の阻害要因になることは、執行の長年の事例の積み重ねを振り返れば、明らかである。

【【案12.5.2】に賛成】

全銀協、一弁、日弁連

・何等かの事情で通知を受け取ることができずに動産競売手続が完了してしまうというケースを想定すると、配当要求ができなかった担保権者は損害賠償請求のみということになるため、必ずしも担保権者の保護が十分とは言えない。このようなリスクを考えると、【案12.5.2】のほうが適切と考える。

・強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する他の担保権につき、売却により全て消滅してしまうとするのは、先順位担保権者の利益をあまりに害することになるため適当ではない。

・消除主義をとるべきとする根拠は買受人の確保であるが、一般的に競売に参加して買い受ける人は無過失であると整理でき、即時取得が成立するから、買受人が現れなくなるという問題はそれほど起こらない。劣後担保権者の競売による実行は、先順位担保権者の同意がない限り私的実行ではできないはずのものであるから、優先担保権者の利益を害してまで競売手続を使い勝手のよいものにする必要はない。

第13質権の実行方法に関する見直しの要否

動産質について流質契約の有効性を認めるか否かについては、次のいずれかの案によるものとする。

【案13.1】目的物の価額が被担保債権額を超える場合にその差額を清算させるなどの設定者の利益を保護する措置を採るとともに、民法第349条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めるものとする。

【案13.2】動産質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持するものとする。

【【案13.1】に賛成】

神奈川弁、企業法研、札幌弁、東弁

・現に例外としては流質契約が認められているので、設定者の利益を保護する仕組みがあれば原則としても流質契約を認めてもよいのではないか。

・譲渡担保につき規制が整備された場合、民法349条の規制を維持する必要性はないと思われる。

・設定者の利益を保護する措置をとることを前提に、簡易迅速に質権を実行できるよう流質契約の有効性を認めるべきである。

・【案13.1】は、新たな規定に係る担保権において、私的実行が認められたことの均衡から、質権において流質契約を認める方向の提案である。

 動産質権に関しては、民法上、流質契約が否定される一方で(民法第349条)、商法上は、商行為によって生じた債権については流質契約が認められることとなっており(商法第515条)、その様な取扱いで一応の実務上の安定を見ているところであるが、民法上の全ての場合において、流質契約が無効であるかについては、学説上の議論が存在している。

 新たな規定に係る担保権との平仄をとるとすれば、清算金支払義務を課すことを前提に流質契約を認めることが考えられる。もっとも、現行法の譲渡担保権の場合には通常は設定者が目的物を占有しているのに対して、質権の場合には動産質権者が占有しているため、動産競売以外の方法においては設定者としては清算金請求権を確保する手段がない。また、このような現行法の譲渡担保権と質権との占有形態の違いから、設定者としては、清算金支払と目的物引渡しとの同時履行を確保することもできない。一律に流質契約を否定する【案13.2】とすることまでは必要ないとしても、質権設定者についても少なくとも新たな規定に係る担保権の設定者と同程度にはその利益の確保が担保されるべきであることから、その方策が採られることを前提にするのであれば、【案13.1】には賛成できるが、上記のような質権の特性を踏まえた要件の検討も必要と考える。

【【案13.2】に賛成】

大阪弁、ミロク、経営法友会、静岡司、一弁、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・譲渡担保の場合、通常設定者に占有があり、同時履行や留置権(あるいは簡易な引渡し手続に対する清算金見積額の供託)によって清算金の支払を確保できる。一方質権は占有が質権者にあり、設定者に清算金確保の手段がない。動産譲渡担保と同様に考えることはできないし、設定者保護の観点から流質を認める必要はない。

・質物は動産質権者が占有しているので、一般に設定者が目的物を占有している譲渡担保と同様に考えることはできないので、設定者が清算金を確保する手段がない。そこで、流質については有効性を否定する現行法を維持すべきと考える。

・【案13.2】によっても、事業会社間では商法515条が適用され、流質契約の有効性が認められているので、民法349条を維持しても特段問題ない。

・流質契約の有効性を認めることは、いわゆる偽装質屋などの質屋営業法の適用のない質権者が債務者の経済的な困窮に付け入って暴利を貪ることに法的な保護を与えかねないおそれがある。また、法改正後の新たな制度は主に事業者が利用することが想定されているところ、事業者が動産を質入れして貸付けを受ける場合には、民法第349条ではなく商法第515条が適用されると考えられる。したがって、新たな規定に係る担保権の私的実行の規律を整備するからといって、民法第349条の規律を見直す必要性が当然に導かれるものではないと考える。

・一般的には、与信を行う債権者の立場は、債務者に比べて強いことが多い。そうすると、債権者による融資後に債権者が流質契約を求めれば、債務者は、それを断りにくい立場に置かれることがほとんどである。また、暴利性の有無等の法的評価も短期間では行い得ないため、違法・不当な流質契約によって一旦目的物が第三者に流出してしまうと、それを取り戻すことは、実際にはかなり難しい。

 更に、動産質は、譲渡担保と異なり、担保の目的物が債権者の手元にあるため、債務者の側で目的物の客観的な価値を把握する手段がほぼ無く、流質契約後に清算金額その他清算の在り方の妥当性を判断することは、上記同様、実際には困難である。

 そもそも、流質契約を業として行う今の質屋営業自体、高利・過剰与信の問題をはらんでいるばかりでなく、消費者向け動産取引サイト・アプリの隆盛に端緒を発するフランチャイズ契約等の横行によって、業界自体が過当競争・不当な動産取引の温床となりつつある。このような状況下で流質契約を一般的に有効とした場合、譲渡担保権の私的実行の煩雑さを避けるための脱法手段として動産質権が用いられる危険もあり、【案13.1】によって社会的病理現象が拡大する懸念が拭えない。

 以上のことから、少なくとも動産質においては、現状以上に裁判所を介さない形での実行を認める理由がないと考えられるので、【案13.2】とすべきである。

・動産質において流質契約の有効性を認めるとした場合には、動産譲渡担保権の実行におけるのと同様、動産質権者による設定者への清算金の支払が確実に行われるようにするための施策を講じなければならない。今般の立法において動産譲渡担保権の私的実行の手続が規定されるのであれば、私的実行を企図した動産担保については、動産譲渡担保権を用いるべきこととし、動産質については、動産競売その他、裁判所がすすめる手続で実行される担保として位置づけておくのがよいように思われる。

・流質にせよ、仮登記担保法制定以前の所有権移転仮登記を用いた不動産譲渡担保にせよ、問題は暴利行為に及ぶことが容易な点にある。過去の仮登記担保法の制定の経緯を踏まえれば、安易な帰属清算方式の増殖は避けるべきと考える。清算金の支払を定めた上での帰属清算方式は、その財産価値の正しい見積が可能な場合に限って承認すべきである(例、債権者が、その物を業として取り扱い、適正価格を算定する技量を持っている等(ディーラー、営業質屋等))。

【その他の意見】

・質屋営業法においても流質契約が認められているが(同法第1条第1項)、これは商慣習を立法化したものとされている。民法第349条を動産質権について流質契約の有効性を認める方向で改正するのであれば、質屋営業法についても併せて改正することが考えられる。これについては、質屋営業法の立法趣旨や同法に基づく流質契約が認められることの弊害の有無等を踏まえて、検討することが必要と考える。(東弁)

第14所有権留保売買による留保所有権の実行

 所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、前記第8、3及び4の帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに前記第12の民事執行法の規定に基づく競売を認めるものとする。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、静岡司、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志

・動産譲渡担保権の実行と同様の規律とすることにより、ルールを明確化する方向をすることが望ましいといえる。なお、留保所有権が実質的には担保権であることを捉えると、留保所有権の実行には解除は不要であると解するべきである。

・所有権留保も譲渡担保と同様の性質を持つものであり、その実行方法も、新たな規定にかかわる動産担保権の実行方法と同様の規律を及ぼすべきである。

・現行法における所有権留保の実行については、被担保債権が債務不履行になった場合5 に、所有権留保売主は留保所有権に基づいて目的物を引き揚げ、換価するなどして、その被担保債権に充当することが予定されている。これを新たな規定に係る動産担保権の実行と同様の規律を適用するものとして整備し、明文化することは、所有権留保売買契約の当事者に資するものと考える。

・所有権留保売買についても、第14記載の実行方法を認めることが適当である。

・本提案を採用する場合には、目的物の評価及び清算金が発生しない旨の通知を要する点が現在の実務よりも実行手続として重たくなるのではないかとの指摘がされているところ、所有権留保売主にとって自ら売却した目的物を評価することがそれほど難しいこととは思われず、また、当該評価や清算金がない旨の通知は実行通知に追記するだけで足りることからすれば、現在の実務がそれほど重くなるものとは考えにくく、その他の特段の指摘がなされていない。また、所有権留保と現行の個別動産譲渡担保については多くの学説がパラレルにとらえているとされ、判例も、倒産手続下においては所有権留保と現行の個別動産譲渡担保をいずれも同様の取扱い(再生手続では別除権付債権、更生手続では更生担保権)としていることを踏まえると、所有権留保について、あえて別異の規定を置くことなく、新たな規定に係る担保権の実行方法と平仄をとるとする本提案に賛成する。

・留保所有権の実行の在り方として、第8の3及び同4の帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに第12の民事執行法の規定に基づく競売を認めることには、動産担保権の実行と同種のものであるので、実務上も相当である。もっとも、売買契約の解除と留保所有権の実行を異なる制度として併存する場合において、実行に伴う各種制約を回避するために売買契約の解除権の行使に及んだときは、設定者の保護に欠けるおそれがある。

 留保所有権の実行に係る各種制約の脱法手段として売買契約の解除が利用されるときは、将来的に、清算義務等、動産担保権の実行に係る規律を適用することも検討すべきである。

条件付賛成

・所有権留保の売主が売買契約を解除することは、留保所有権の実行の意味をもつものであり、解除と実行のいずれの方法を選択するかによって、清算金の支払の要否等に差異が生じることになるのは、妥当とはいえない。所有権留保という担保手段を用いることとした以上は、不履行時に売主が解除の方法を選択したとしても、目的物の評価額が被担保債権額を上回るときは清算金の支払を免れられないものとする等々、動産担保権における実行手続と同様の扱いがされるべきことを、明文をもって示すことが必要であると考える。

【その他の意見】

・売買契約の解除による目的物の取戻しは所有権留保の実行とは異なるものであり、新たな規定に係る担保権に関する規律が妥当しないことには留意が必要である。(全倒ネット、担保研)

・在庫の所有権留保の場合、帰属清算のイメージだが、それ以外の方法もありとするのか。(個人)

・狭義の所有権留保については、処分清算方式及び動産競売のみを承認すれば足りる。帰属清算は、物の売主にとって利がない。拡大された所有権留保については、帰属清算方式、処分清算方式及び動産競売の選択を許すのは妥当と考える。(個人)

第15債権譲渡担保権の実行

1債権譲渡担保権者による債権の取立て

債権譲渡担保権者は、その目的である債権を直接に取り立てることができるものとする。

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・実務上、債権譲渡担保においては、担保権者が直接取立てをすることが前提であることから、法制度としても直接取立てを認める必要がある。債権譲渡担保では、担保権者に債権が移転していることから、直接取立てを認めることに問題はない。

・現行実務どおりである。

・債権質と債権譲渡担保は、基本的にパラレルな規制とすべきである。

・現行法上も譲渡担保権者が第三債務者から取立てをすることは行われており、これと異なる扱いとする必要はない。

・債権について、直接の取立てを行うことは簡易かつ効果的な実行手段であり、形式上、債権を担保権者に譲渡するという債権譲渡担保の性質にも適合するものであるため、直接の取立てを認めることが望ましい。

・債権譲渡担保も目的が担保である以上、また、第三債務者に無用な混乱を来させないためにも、同様の機能を果たす債権質との相違は可能な限り縮減させるべきものと考える。もっとも、債権譲渡担保について債権執行による実行を認めることには課題も多く、こうした点も含めて完全に債権質と債権譲渡担保とを同一の規律にできるのかは、慎重な検討を要するものと考える。

2債権質権者及び債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否

⑴債権譲渡担保権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.1.1】

ア 債権譲渡担保権者が実行をしようとするときは、被担保債権について不履行があった日以後に、設定者に対し、担保権の実行をする旨及び被担保債権の額を通知しなければならないものとする。

イ 上記アの通知が設定者に到達した時から1週間が経過したときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする(注)。

(注)1週間の猶予期間を設けず、債権譲渡担保権者はアの通知が到達した時にその目的である債権の取立権限を取得するものとする考え方がある。

【案15.2.1.2】

 被担保債権について不履行があったときは、債権譲渡担保権者は、前記1に従ってその目的である債権を直接に取り立て、又は後記6に従って実行することができるものとする。

⑵債権質権者の取立権限及び実行通知の要否については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.2.2.1】上記⑴について【案15.2.1.1】を採用する場合には、これと同様とする。

【案15.2.2.2】上記⑴についていずれの案を採用するかにかかわらず、現在の規律を維持する。

⑴について

【【案15.2.1.1】に賛成】

ミロク、担保研、日司連、研究者有志

・【案8.2.1】に対応しており、また、設定者にとっても受戻しのニーズが存在しそれを保護する必要がある。

・第8の2の動産担保権について実行通知を要するとする【案8.2.1】に賛成したのと同様の理由により、債権譲渡担保権についても通知を要するとする【案15.2.1.1】に賛成する。また、動産譲渡担保権と異なり債権譲渡担保権では、事実上、実行手続が開始した後には、設定者が適切な対応(倒産手続及び担保権実行手続中止命令の申立など)を行う機会を確保することができないことから、1週間の猶予期間を設けるべきである。

・【案15.2.1.1】に賛成する。ただし、一律に1週間ではなく、例えば、相当の期間とする等して一定の要件のもとで幅を持たせることも検討すべきである。

2⑴につき、担保権者・設定者間の利害調整の観点を踏まえ、通知から私的実行までの間には、設定者の利益保護のために一定の期間を設けるべきである。特に、目的債権の額が被担保債権額よりも大きく、かつ、被担保債権の弁済期の到来時に目的債権の弁済期が未到来である場合、設定者に受戻しの最後の機会を与える期間として、一定の期間を置く必要性は高い。無論、倒産手続及び担保権実行手続中止命令等の申立ての機会を確保する必要性もある。もっとも、担保の目的となる債権の種類も千差万別であるので、上記の一定の期間は、一律に1週間とするのではなく、例えば、相当の期間とする等して、目的債権の種類その他の事情を鑑みた一定の要件のもとで幅を持たせるべきである。

・譲渡担保権の目的債権の債務者に対して譲渡担保権者が取立てをすることは、譲渡担保の設定者と目的債権の債務者との従前の関係に変化を生じさせることになる。そうした事態を避けるための対応をすることのできる期間を1週間程度、設定者に与えることは、望ましいことのように思われる。そのため、譲渡担保権者に実行通知をさせ、それが設定者に到達してから1週間は取立てに着手させないとする案に賛成したい。

【【案15.2.1.1】の(注)に賛成】

神奈川弁、淀屋橋・山上有志

・実行の開始時期を明確にするため通知は必要である。さらに猶予期間を設けて、債務者に受戻しを可能にする必要性は低い。

【【案15.2.1.2】に賛成】

全銀協、ABL協、大阪弁、企業法研、経営法友会、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日弁連、個人

・債権譲渡担保権についてもその実行に至るには担保権者、債務者間で相応の協議を経ていることが通常であり、債務不履行の発生後直ぐに担保権を実行するようなことは稀であるといえる。このような実情や補足説明で整理された事情からすれば、実行通知の後1週間の猶予期間を設定するといった措置は必要性に乏しいと考える。

 また、個別債権譲渡担保で債務者対抗要件が具備されたときには、第三債務者は設定者に対し弁済をすることが制限される(第2の2)のであるから、通知から取立てまでに1週間の経過を要するとする意味は乏しいのではないか。

 集合債権譲渡担保の場合についても、第3の4において(注)の規律を適切なものと理解するのであれば、上記の点は集合債権譲渡担保の場合にも妥当するものと考える。

以上から、【案15.2.1.2】が妥当と考える。また、もし仮に実行通知は必要となった場合であっても1週間の猶予期間を設けない【案15.2.1.1】の(注)の考え方を支持する。

・被担保債権について不履行があったときは、設定者に対する実行通知の到達や1週間の経過などは要せず、直ちに担保実行が可能であるとの規律を採用すべきものであり、【案15.2.1.2】を支持する。

債権譲渡担保においては、さらに、次の事情を加えることができる。

すなわち、現在の確立した実務においては、債権譲渡担保を実行する場合、第三債務者にまず通知を送付するのであり、担保設定者にまず通知した上で第三債務者に通知するという方法は行われていない。

 これは、担保設定者に先に通知してしまうと、担保実行の密行性が害され、事実上、担保設定者による回収や処分が行われてしまい、担保実行の実を挙げることができなくなるという事情によるものである。他の制度に目を転じてみても、現行の債権質の制度は、債務者の債務不履行により直ちに質権者が質権の目的である債権を直接に取り立てることができるものと解されており(民法366条1項)、これと債権譲渡担保との平仄を維持する必要がある。

 また、たとえば債権の仮差押えや差押えの局面においては、裁判所は、まず第三債務者に対して、仮差押命令や差押命令を送達し、その送達の時点で仮差押えや差押えの効力を生じさせた上で(民事保全法50条5項、民事執行法145条4項)、その後に債務者に命令を送達する実務が行われているが、これも、密行性の要請に鑑みて、債務者ではなく、まずは第三債務者に対して先に通知するわけであり、これが確立した実務である。

 密行性を要する事情は、債権仮差押え、債権差押え、債権譲渡担保、債権質のいずれにも共通するものであり、これらを整合的な制度として保っておく必要がある。

【案15.2.1.1】は、設定者に対する担保実行通知の到達から1週間を経過した後でなければ第三債務者に対する直接の取立てができないものとする規律であるが、これは、当該1週間の経過を要する点で適切でないのみならず、そもそも設定者に対する実行通知を必要とする点で、以上に述べたような現行実務との間で、きわめて大きな乖離が生じてしまう。したがって、【案15.2.1.2】が維持される必要が非常に高いものである。

・⑴について、債務者(設定者)は、既に債務不履行の状態であることから、さらに受戻しの機会を設けるために実行通知を要件とする必要はない。

 実務上は、既に債務不履行になっていたとしても、受戻しの可能性を踏まえて実行時期が判断されているので、実行通知を要件としなくても、不合理な結果になる可能性は低い。

 担保権者による実行を設定者が全く認識できない事態を避けることが望ましいことから、担保権者の設定者に対する情報提供義務として、実行通知を要するとするべきである。【案15.2.1.2】の(注)については、実行通知が到達した時点で初めて取立権限を有20 すると解する点で、賛成できない。

・動産譲渡担保につき通知を必要とする【案8.2.1】に賛成したが、債権譲渡担保では通知を不要とする【案15.2.1.2】に賛成する。そして債権質についても【案15.2.1.2】に従った規制にすべきと考える。

目的物の評価の問題が生じない債権譲渡担保・債権質の実行については、転付命令制度(民事執行法159条)との均衡からしても、迅速さが要求されるべきであり、動産譲渡担保の場合とパラレルに考える必要はない。

・【案15.2.1.2】に賛成する。なお、仮に【案15.2.1.1】とする場合、通知到達時から取立て・私的実行までの1週間の猶予期間を設けるべきでない。

 被担保債権について不履行があったとき、債権譲渡担保権者にすみやかに債権を取り30 立てる権限を認めなければ、債権譲渡担保が実務で活用しにくくなる。また、通知から取立て・私的実行までに1週間の猶予期間を設ければ、1週間以内に担保債権の満期が到来する場合は、取立て・私的実行ができなくなる。

 さらに、債務者または設定者の担保債権の受戻しの機会の確保という点では、被担保債務の不履行があるときは、担保権者が弁済の督促(または弁済に向けた協議)時に担保権の実行を予告することにより、債務者兼設定者に受戻しの機会を与えられ、債務者と設定者が異なる場合は、設定者に債務不履行の旨を通知し担保権実行の予告を行えば受戻しの機会を与えられ、1週間の猶予期間は不要としても不都合はない。

・受戻権を認める必要はなく、また、第三債務者の弁済が無効となる事態が発生し得るから、【案15.2.1.1】は適切ではない。

・債権譲渡担保権者が実行をしようとするときに、設定者に対して担保権の実行をする旨の通知等を必要とし、さらに1週間経過を必要とすると、第三債務者が支払をしてよいか判別できないという事態に陥るおそれがある。端的に、直接取立てをしてよいと考5 えるべきである。

・担保権設定者の受戻権は、尊重されるべきものであるが、担保権設定者による受戻しの期待を保護するために、どの程度の期間、実行を待つべきであるかに関しては、担保権設定者の資力、事業継続の可能性、担保権者との関係性、財産の隠匿の危険性等の事情に応じて個別具体的に定まるものであり、1週間という猶予期間を一律に設けることは適切でない。また、第三債務者の立場からも、1週間の猶予期間の間に担保権者に対して行った弁済が原則として無効となるなど、不測の損害を被る恐れが生じる。

したがって、特段の猶予期間を設けないとする【案15.2.1.2】が適切である。また、1週間の猶予期間を設けないことを前提とした場合には、譲渡担保の実行通知を取立権の実行の際に、実行の通知と分けて別途要求する実益はないため(注)にも反対する。

・【案15.2.1.1】を採用した場合、設定者によっては、アの通知を受けた時点で取り立てることが考えられる。また、第三債務者は設定者にいつ通知されたか分からないから担保権者の言葉に従って、1週間を経過しないうちに支払うことが起こりえる。その場合、権限のない者への支払いとなり、設定者に二重払いしなければならないことも起こりうる。これを避けるために第三債務者は設定者に確認するなど調査をしなければならず、第三債務者に余計な負担をかけることとなる。

【案15.2.1.1】をとる理由は、受戻しの機会を設定者に与えるためと思われるが、金銭債権の場合、受戻しにも同額の金銭の準備が必要であり、受け戻しても取り立てても設定者に大きな差はない。最も金銭債権以外の債権の場合には、差が生ずるが、その場合について特例を設けることでよい。

・実行通知したら即取立可とする。(1週間の猶予を置かない。債権の直接回収は時間との勝負である。回収期日間近であるなど、サイトが短い債権の場合は、時間的余裕はない、又、第三債務者にとっても早めに通知を受けたほうが手続しやすい。)

【その他の意見】

・債権については、設定者へ目的債権を受け戻すための機会等を与える意義に乏しい(金銭債権には個性がないため、受戻しを実現することで設定者が得られる利益が比較的小さい)ものと考えられる。

 また、現在の金融機関の実務(債務不履行後、直ちに担保権を実行するのではなく、事業継続の可能性等を十分に協議することが一般的)を踏まえても、【案15.2.1.2】又は35 【案15.2.1.1】(注)の考え方を採ることが望ましい。(地銀協)

・債権流動化のスキームの中には、被担保債権の債務不履行に関係なく、債権譲受人が取立を行い、担保権設定者の取立事務の負担軽減を行い、合わせて、取立委任された債権額の範囲内で融資も行うというものもある。このようなケースでは、債権譲受人が取立を行うのは「不履行があった場合」に限るべきではなく、中間試案の案はいずれも不適当である。取立てを誰が行うかは、様々なスキームがあり、そういったことは契約自由の原則で、当事者が決めれば良く、法定すべきものではない。(個人)

⑵について

【【案15.2.2.1】に賛成】

神奈川弁、ミロク、札幌弁、担保研、日司連、淀屋橋・山上有志、研究者有志

・債権質に関しても、債権譲渡担保と別異の取扱いとする理由はない。

・債務不履行に至った設定者に対して即時に私的実行を強行するような不誠実な担保権者を想定すると、一定の期間を設ける必要があると考えられるから、債権質についても、同様に一定の期間を設けるべきである。

【【案15.2.2.2】に賛成】

ABL協、大阪弁、企業法研、東弁、日弁連、個人15

・債権質についても、債権譲渡担保と同様に、【案15.2.2.2】による必要がある。

・債権質の実行にあたっては、実行通知は不要であると解されている。

【その他の意見】

・仮に【案15.2.1.1】を採用したとするならば【案15.2.2.1】を採用すべきである。(一弁、日弁連)

3債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲

⑴債権譲渡担保権者は、債権譲渡担保権の目的が金銭債権であるときは、その全額を取り立てることができるものとする。

⑵民法第366条第2項を改め、債権質権者についても、質権の目的が金銭債権である場合には、その全額を取り立てることができるものとする。

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・第三債務者は、被担保債権の額を正確に把握することは困難であるから、担保権者が被担保債権額の範囲内のみの直接取立てしかできないとすると、第三債務者が実際の被担保債権の額よりも多い金額を支払ってしまう事態が生じうる。この場合、第三債務者は、民法478条によって保護される場合もあるが、例えば、過失がある等して保護されない場合も生じうる。そこで、第三債務者保護の見地から、担保権者に担保債権全額の取り立てを認めるべきである。

担保権者が、一つの被担保債権の担保のために複数の債権について譲渡担保を設定している場合、被担保債権額の範囲内のみの直接取立てしかできないとすると、担保権者は複数の担保目的債権のうち、どの債権をいくら取り立てることが可能か分からなくなる。

担保権者に全額取立てを認めたとしても、担保権者が設定者に対する清算義務を負うのであれば、問題はない。

・第三債務者に被担保債権の額を把握する負担や二重払いのリスクを負わせるべきではない。

・第三債務者からすれば債権はすべて移転しており、全額を弁済すれば債務は免れると考えているのが通常であるし、被担保債権額も把握していないため(できないため)、二重払いの危険性がある。

・第三債務者の負担軽減のため。

・賛成する。ただし、集合債権譲渡担保との関係で留意すべき点がある。

 担保権者が取り立てできるのは、被担保債権の額の限度に限るとすると、第三債務者としては、被担保債権額を調査し、被担保債権額が債務額より少額の場合は、一部は担保権者に、残部は設定者に支払わなければならない。間違って、担保権者に多く支払った場合は、設定者から二重に支払いを求められることとなる。

 担保権者と設定者の間に被担保債権の額について争いがある場合、供託せざるを得なくなる。被担保債権額の調査は第三債務者にとって、余計な負担となる。被担保債権額が確定しても手払いしている第三債務者であれば分割支払いも面倒でないが、多くの取引先から仕入れし、コンピュータで口座管理し、ネットバンキングで支払いしているような第三債務者にとっては、分割払いは、余計な労力を必要とすることとなる(最も担保権者に支払うこと自体が余計な労力となる。)。

譲渡担保実行時には、設定者は危機的状態であるからこれに全額支払うことは考えられない。第三債務者に分割払いを求めるのは第三債務者の負担となる。そうすると担保権者に全額払うこととなる。被担保債権が担保債権より少額の場合、設定者からすると、第三債務者の支払い能力についての危険から担保権者の支払い能力の危険に危険が変わったこととなるがやむを得ないであろう。

 ただ、債権譲渡があった場合(真正譲渡か担保譲渡か第三債務者に分からないので真正譲渡も区別しないで)、譲り受け債権者は第三債務者に供託を請求できるだけと民法の債権譲渡制度を変更すると取り立て権限の範囲は考える必要がない。ただ、第三債務者が任意に支払わない場合、強制執行をどうするかが問題として残る。(もっとも三者が合意した場合は、譲受人が取り立てでき、第三債務者は譲受人に支払わなければならない。)。しかし、このような制度設計は困難なので、担保権者が全額取り立てできるとすべきである。

 ただし、集合債権譲渡担保の場合に、例えば、被担保債権が50万円であり、担保実行時に、担保目的債権として1本1万円の債権が100本あり、それらについて実行した場合(つまり設定者の取立権限を喪失させた場合)、たとえ100本のうち50本を回収し被担保債権全額回収完了した後も、残りの50本についてもいつまでも担保権者に取立権限があるとすると、後に担保権者が倒産した場合、設定者が担保権者から回収できなくなる可能性がある。

 そこで、集合債権譲渡担保の場合、被担保債権全額回収完了後には、残った債権について、可及的速やかに、再度設定者への債権譲渡につき第三者及び債務者対抗要件を具備させることを定めることが合理的と思われる。

・債権譲渡担保権の目的が金銭債権であるときに、債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲を限定すると第三債務者が不安定な地位に立たされるおそれがある。端的に、債権譲渡担保権の目的が金銭債権であるときは、その全額を取り立てることができるものと考えるべきである。1

・第三債務者に被担保債権額を確定させる負担を負わせるのは酷であるから、担保権者が全額を取り立てることができるとすることが合理的である。

・第三債務者の二重払いの危険を排除してその保護に資するものであり、妥当である。

・担保権者が取り立てできるのは、被担保債権の額の限度に限るとすると、第三債務者としては、被担保債権額を調査し、被担保債権額が債務額より少額の場合は、一部は担保権者に、残部は設定者に支払わなければならない。

 間違って、担保権者に多く支払った場合は、設定者から二重に支払いを求められることとなる。担保権者と設定者の間に被担保債権の額について争いがある場合、供託せざるを得なくなる。被担保債権額の調査は第三債務者にとって、余計な負担となる。被担保債権額が確定しても手払いしている第三債務者であれば分割支払いも面倒でないが、多くの取引先から仕入れし、コンピュータで口座を管理し、ネットバンキングで支払いをしているような第三債務者にとっては、分割払いは、余計な労力を必要とすることとなる(担保権者に支払うこと自体が余計な労力となる。)。

・補足説明にも示されているように、第三債務者としては被担保債権額を把握することに難が伴う以上、債権譲渡担保権者に目的債権の全額の取立権限を認めた上で、被担保債権額を超えた部分については設定者に対する清算によって対処するのがよい。

・債権譲渡担保権者の場合、債権全額が譲渡された場合は、債権全額の取り立てができるとすべきである。

【反対】

・債権譲渡担保権者が債権の全額を取り立てることができるとすることは、担保権者の無資力リスク、担保権者による財産隠匿の危険を担保権設定者が負うこととなり、担保権設定者の利益を害する。また、債権譲渡担保権はあくまで被担保債権の保全を目的として、対象債権を担保権者に帰属させる権利であり、被担保債権の範囲を超えて、譲渡担保権者に全額の取立てを認める必要はない上に、後順位の担保権が設定されている場合であっても、第1順位の担保権者と後順位の担保権者に協力関係があるときは、後順位の担保権者が第1順位の担保権者に取立委任をして、第1順位の担保権者が被担保債権相当額の全額を取り立てた上で、各順位の担保権者に分配することが可能であるため、担保権者に全額の取立権が認められないとしても、担保権者に過大な負担を課すものではない。

 また、民法上の他の制度との比較の観点からも、譲渡担保権と同様に債権者が債権の直接の取立てを行うことのできる債権者代位権(民法第423条)においては、被保全債権の範囲での行使が許容されている。

 したがって、譲渡担保権者による被担保債権を超えた全額の債権回収を認めるべきではない。(東弁)

【その他の意見】

・簡易な制度設計という観点から、中間試案の立場に賛成する立場がある一方、慎重な意見もあり、統一した意見を出すまでに至らなかった。(企業法研)

・自らの債務につき複数の債権譲渡担保権が設定され、担保権の実行が通知された場合、第三債務者は、第一順位の担保権者にのみ債務の全額を支払えば、債務を履行したことになるという理解でよいか確認したい(後順位担保権者との清算は第一順位の担保権者が行い、第三債務者は関与しないという理解でよいか)。また、第三債務者は、民法466条の2に従い弁済供託も選択できるという理解でよいか確認したい。

 第三債務者は、二重払いや債務不履行のリスクを回避したいと考えるのが通常である。また、複数の債権譲渡担保権が設定されたとき、第三債務者は、各担保権者の被担保債権額を正確に知りえず、各担保権者に被担保債権額どおりに適切に弁済できない。(経営法友会)

・第三債務者の保護のため、譲渡担保権者の順位の判断が困難であることを理由とする供託を認める旨の規定を設けるべきである。

 譲渡担保権者による被担保債権を超えた全額の債権回収を認めない見解には、第三債務者が担保権者の順位や債権額を判断することは困難であり、供託手続も負担となるため、かかる第三債務者保護の観点からすると、担保権者に全額取立を認め、第三債務者が全額を弁済できるようにすることで、複雑な法律関係から早期に離脱しうることとし、担保権者の債権額を超えて回収した分については、別途設定者及び担保権者間で精算処理を行うものとすべきであるとする批判が考えられるところである。そこでかかる批判を踏まえて、第三債務者を保護するために、担保権者の順位の判断が困難であることを理由とする供託を認める旨の規定を設けるべきである。(東弁)

・集合債権譲渡担保の場合、担保権者は、被担保債権全額の回収完了後、可及的速やかに設定者の取立権限の復活(債権譲渡)につき第三者及び債務者対抗要件を具備させなければならない旨の規定を設けるべきである。

集合債権譲渡担保の場合に、担保権者が被担保債権全額の回収を完了した後も担保権者に取立権限があるという外観を残しておくと設定者が担保権者からの回収リスクを負うことになってしまうことから、担保権者は、被担保債権全額の回収を完了した後には、可及的速やかに設定者の取立権限の復活(債権譲渡)につき第三者及び債務者対抗要件を具備させなければならない旨の規定を設けることが合理的と思われる。(担保研)

・3⑴及び⑵に関連して、取立てをする担保権者が第三債務者から支払を受ける額の制限(民事執行法第155条第1項ただし書き参照)、第三債務者がした支払の限度で弁済したものとみなす旨の規定(民事執行法第155条第3項参照)、いわゆる権利供託・義務供託に係る規定(民事執行法第156条第1項・同条第2項参照)等、債権者の取立てに応じた第三債務者の保護規定に関する規律の整備をすべきである。また、同様の規律を債権質にも整備すべきである。

及びに関連して、第三債務者の立場では、被担保債権の額のみならず、その詳細を把握することも困難である。そのため、当該困難な事情のもとで担保権者の取立てに応じて弁済をした場合には、民法第478条によって保護されず、二重払いを強いられる危険がある。

 そうすると、第三債務者の保護の観点からすれば、上記1の規律のみではその保護として不十分であり、取立てをする担保権者が第三債務者から支払を受ける額の制限(民事執行法第155条第1項ただし書参照)、第三債務者がした支払の限度で弁済したものとみなす旨の規定(民事執行法第155条第3項参照)、いわゆる権利供託・義務供託に係る規定(民事執行法第156条第1項・同条第2項参照)等、債権者の取立てに応じた第三債務者の保護規定に関する規律を整備すべきである。

同様の問題は、債権質においても生じ得るので、上記と同様の規律を整備すべきである。(日司連)

・後順位の債権譲渡担保権が設定された場合についても、先順位の債権譲渡担保権者は目的債権の全額を取り立てることができるものとする案に賛成する。

 後順位の譲渡担保権が設定された場合についても、補足説明に示されているとおり、第三債務者に不利益を生じさせることのないよう、先順位の担保権者が全額の取立てを20 できるものとしつつ、設定者の先順位担保権者に対する清算金請求権につき、後順位の担保権者が物上代位権を行使する方法によることが妥当と解される。(研究者有志)

⑵について

【賛成】

神奈川弁、ミロク、札幌弁、全倒ネット、一弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・第三債務者に被担保債権額を把握する負担や二重払いのリスクを負わせるべきではない。

・債権譲渡担保と権利質で取扱いを異にする必要はない。

【反対】

大阪弁、東弁、個人

・債権譲渡担保とは別に債権質を認めるのであれば、同じ規律にする必要はない。

・質権者については、債権譲渡担保権者とは事情が異なる。質権者にとって「自己が権利を有する部分」は「自己の債権額に対応する部分」(民法366条2項)であり、それ以外の部分は実質的にも形式的にも質権者に権利はなく、質権設定者の持分であるため、可分債権である金銭債権は「分割された債権」となり、質権者は「自己の債権額に対応する部分」のみ履行を請求でき、質権設定者はそれ以外の部分のみ履行を請求でき、バラバラに取り立てなければならない。

4債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、債権譲渡担保権者が請求することができる内容

⑴債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、債権譲渡担保権者が請求することができる内容については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.1.1】債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が到来したときは、債権譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期が到来する前であっても、目的債権を直接に取り立てることができるものとする(注)。

【案15.4.1.2】債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は、対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるものとする(注)。

⑵債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期よりも先に到来する場合に、債権質権者が請求することができる内容については、次のいずれかの案によるものとする。

【案15.4.2.1】上記⑴について【案15.4.1.1】を採用する場合には、民法第366条第3項20を改め、これと同様とする。

【案15.4.2.2】上記⑴について【案15.4.1.2】を採用する場合には、民法第366条第3項を改め、これと同様とする。

(注)第三債務者が債権譲渡担保権者に対して弁済した場合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き検討する。

⑴について

【【案15.4.1.1】に賛成】

全銀協、研究者有志、個人

・供託を前提とした制度設計は第三債務者に供託を行う負担を生じさせることとなるが、債権譲渡担保に関する負担やリスクは担保権者と設定者との間で分配・整理するべきであって第三債務者に負担をかける仕組みは望ましくないと考えられることから、【案15.4.1.1】を採用するべきと考える。

・債権譲渡担保が担保目的であることを踏まえれば、【案15.4.1.2】のように、債権質と同様、供託請求のみを認めるのが本来ではある。しかし、第三債務者が債権譲渡担保権者に弁済をしてしまう事態は生じうるのであって、その場合に債権譲渡担保権者が取り立てた金銭をどのように処遇するかは問題になる。供託請求のみを認めるとしたところで、債権譲渡担保権者が取り立てる可能性を排除できないとすれば、【案15.4.1.1】のとおり、はじめから債権譲渡担保権者の取立てを認めつつ、ただちに被担保債権へ充当することはできないという形で制度をたてたほうがよいように思われる。

・(どのようなケースを想定しているか確認は必要と考えるが)【15.4.1.1】弁済期前でも取立可とする。現状でもそのような回収を前提としているスキームは多い。例えば、もともと、紐付き回収スキームであるが、金銭債権の回収遅延時への対応や事務的な時間も考え、被担保債権の弁済期を一定期間後に設定しているケースがある。

 債権については、真正譲渡であっても担保目的であっても、また、債権と被担保債権の弁済期にはよらず直接回収ができ、それを回収委任するのは、案件の建付け(当事者の合意)によるものと考える。なお、【15.4.1.2】の供託させるようなスキームは、第三債務者にかなりの手続(迷惑)かかり、非現実的。

【【案15.4.1.2】に賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、札幌弁、一弁、東弁、日司連、日弁連

・1【案15.4.1.2】に賛成する理由

 担保という性質から、被担保債権の弁済期が到来していない段階では実行できないことを原則とすべきである。また、現行法上債権質について供託請求のみが認められているところ、この方法によれば担保権者に不利益を与えずに担保権の効力を維持することができる以上、債権を目的とする譲渡担保においても同様の規律を設ければ足りる。

 第三債務者との関係では、担保権者が真の債権者であると信じ、又は、被担保債権の弁済期が既に到来していて担保権者に取立権があると信じて、担保権者に弁済してしまう場合も想定しうるところ、第三債務者は担保権者と設定者との法律関係という無関係の事情に巻き込まれた立場にあることからすると、その主観的事情の主張立証を要せずに第三債務者を保護すべきと考えられる。

 そのため、第三債務者が、債務者対抗要件を具備する譲渡担保権者に目的債権を弁済した場合には、この弁済をもって設定者に対抗することができるとすることに支障はない。

2 【案15.4.1.1】に反対する理由

上記【案15.4.1.2】との違いは、①原則として供託させられるにすぎないか、②第三債務者が、債務者対抗要件を具備していない担保権者への直接弁済を認めるか、という点にあると考えられる。

【案15.4.1.1】のように原則として直接の取立てを認めることは、担保としての性質から逸脱し、理論的な説明が困難である。

 債権譲渡担保の目的債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、担保の目的物が滅失することを根拠として、担保権者が取り立てた金銭を弁済期到来前の被担保債権に充当することまで認めることは、担保の性質からの逸脱が大きいといえる。

 仮に第三債務者が担保権者に対して弁済した場合に、担保権の実効性確保の方策を検討したところで、担保権者にその金銭管理を委ねることになれば、相殺による事実上の優先弁済効を認める結果を招きうる。そうすれば、担保権者の保護に厚くなりすぎる。そもそも債務者対抗要件を具備しておらず、被担保債権の弁済期未到来の担保権者に対してまで直接の弁済を認める必要性はないと考えられる。

3 集合債権譲渡担保の場合

 集合債権譲渡担保が設定された場合、この規律の適用をどう考えるか。たとえば設定者が通常の営業の範囲で第三債務者から継続して支払いを受けていたが、目的債権の弁済期が到来した場合に、被担保債権の弁済期が到来していないにもかかわらず、譲渡担保権者による直接取立てまたは供託請求ができるとしてよいか、といった問題がある。

 集合債権を目的とする担保権は、①担保権者への債権譲渡がされた旨の第三債務者への通知を留保しておき、実行段階で通知をする類型(実行着手までは第三債務者に対する債務者対抗要件を具備しない/債務者対抗要件実行時具備型)と、②譲渡担保権設定契約と同時に、債権譲渡がされた旨の通知を行った上で、その取立権限を設定者に付与する類型(担保設定段階で第三債務者に対する債務者対抗要件を具備する。/債務者対抗要件先行具備型。なお、この場合には設定時に債権譲渡の通知とともに取立委任の通知をしておく。)があると考えられる。

  • この場合には、第三債務者は、設定者を債権者として認識している(担保権者を債権者として認識していない)以上、設定者による目的債権の取立てに応じるしかない。担保権者として、被担保債権の債務不履行後、第三債務者への通知によって債務者対抗要件を具備することによってはじめて、第三債務者は担保権者の存在を認識するに至り、また設定者は取立権を失って、担保権者が目的債権の取立権を有することになる。

②の場合には、第三債務者は、担保権者を債権者として認識しつつ、担保権者の設定者への取立権限付与を理由に、設定者による目的債権の取立てに応じることとなる。担保権者は、被担保債権の債務不履行後、設定者に対する取立委任を解除することによって、設定者から担保権者に取立権限が移ることとなり、その旨を第三債務者に通知することになる。上記いずれの類型でも、もとより担保権者が目的債権の弁済期の到来を所与の前提として、設定者による取立てを容認している以上、目的債権の弁済期が到来したという理由をもって、債務者対抗要件を具備する、あるいは、設定者への取立委任を解除する、といった事態は想定し難い。

そのため、集合債権譲渡担保の場合にも、特別な規律を設ける必要はない。

・取立て後の金銭を分別管理する仕組みもないので、担保権設定者の期限の利益を喪失させるような制度にはすべきでない。

・債権譲渡担保は担保目的で移転したものであるから、被担保債権について債務不履行が生じていない時点において担保の実行として目的債権を取り立てることはできないから。第三債務者が債権譲渡担保権者に支払ってしまった場合には、債務者対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対して第三債務者が目的債権の弁済をしたときは、この弁済を持って設定者に対抗できるとされており、第三債務者の保護にも欠けるところがない。

・債権譲渡担保権者の債権の弁済期が到来していないにもかかわらず、担保権者がその債権を取り立てることができるとすることは、担保権者に必要以上の保護を与えることとなり、担保権設定者の利益を害する。

・被担保債権の弁済期日よりも前に取立権を認めると、当該弁済期日よりも先に回収をすることができるようになってしまい、期限の利益を認めたことと矛盾してしまう。

・債権譲渡担保においては、担保目的としている債権が被担保債権に先立って、弁済期をむかえ、第三債務者によって、弁済されることにより、消滅してしまうという事態が起こりうる。したがって、被担保債権の弁済期が到来する前であっても、担保目的となっている債権が弁済期をむかえている場合には、何らかの形で、担保目的となっている債権の財産価値を保全しておく必要が存在する。一方で、債権譲渡担保権者の債権の弁済期が到来していないにもかかわらず、担保権者がその債権を取り立てることができるとすることは、担保権者に必要以上の保護を与えることとなり、担保権設定者の利益を害する。

したがって、【案15.4.1.2】に従い、債権譲渡担保権者には、第三債務者に供託を求める権利を認めるべきである。

・【案15.4.1.1】は、被担保債権について債務不履行が生じていないのに、あたかも担保権者による担保実行を許容する規律に読めると共に、第三債務者の立場では、被担保15 債権の詳細を把握することが困難であるため、その困難に乗じた回収に見える点、実務上の違和感が拭えない。

 また、担保実行の一環として誤って被担保債権の弁済期前に金銭を取り立ててその支払いを受けたのであれば、分別管理・充当を論じる以前の話として、担保権者の不当利得の問題にもなり得るところである。例えば、債務者からの返還請求については、民法第706条本文及びただし書きの適用の余地があり、この点においても、実務上の違和感が拭えない。他方、【案15.4.1.2】は、おおむね第三債務者の保護に資するものであり、規律として妥当である。

・担保権者に被担保債権の弁済期日前に取り立て権を認めると結局期日前弁済を強制することとなり、期限の利益を定めたことと矛盾することとなる。

 被担保債権について、それより早く期限を迎える債権に譲渡担保権を設定した場合、契約の解釈として、譲渡担保の目的となった債権の弁済期日を被担保債権の弁済期にしたと解釈し、譲渡担保債権者に取り立てを認めることが考えられる。

 しかし、そのような合意を認定できない場合、譲渡担保権者は債務者に被担保債権の弁済を強要する担保の目的債権の取り立てをできないと解すべきである。しかし、このように解すると、譲渡担保権の設定により、設定者にも取り立て権がないので、第三債務者が、弁済をしないこととなり、第三債務者の資力の悪化の危険を最終的には設定者に負わせることとなる。そこで、譲渡担保権者に第三債務者に対し供託を請求できるようにすべきである。これにより、設定者は第三債務者の資力の悪化の危険を負担しなくてよいこととなる。さらに、第三債務者も設定者、譲渡担保権者ともに取立てできないため、弁済できないことにより債務処理ができない負担から免れることができる。

 他方、第三債務者には、被担保債権の弁済期はわからない。そもそも債権譲渡が真正譲渡か、または担保譲渡のいずれか分からないことがある。譲渡担保権者あるいは、真正債権譲受人が請求してきた場合に、第三債務者としていちいち、真正債権譲渡か譲渡担保か、譲渡担保の場合に被担保債権の期日が来ているかを調査するのは面倒である。従って、第三債務者が譲渡担保権者の言を信じて譲渡担保権者に弁済したときは、保護される必要があり、ただし書の定めも合理的である。その場合、譲渡担保権者が受領した金銭については、さらに検討すべきである。

【その他の意見】

・簡易な制度設計という観点からいずれかの案に賛成する立場がある一方、慎重な意見もあり、統一した意見を出すまでに至らなかった。(企業法研)

・債権譲渡担保権者の場合、実際の債権流動化スキームでは、様々な方法が取られており、取立てた金額を債務者に引き渡すケース、弁済に充当するケース、特別な口座にためておくケースなどがあり、このため、契約自由の原則で、当事者が決めれば良く、法定すべきものではない。(個人)

・【案15.4.1.2】について、「第三債務者は、対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができる」とあるが、担保権者が対抗要件を具備しているのであれば、第三債務者は「設定者に債権がないこと」をもって設定者に抗弁すればよく、「弁済した」「債務を消滅させた」などを、無権利者である設定者に対し主張立証する必要はないと考えられる。(個人)

(注)に関する意見

・(注)について、引き続きの検討に賛成する。第三債務者が、債務者対抗要件を具備した担保権者に弁済した場合において、担保権者が弁済を受けた金銭の処理方法については、①被担保債権の弁済期前に取り立てた金銭を被担保債権に充当することはできない、②担保権者は取り立てた金銭を設定者に返還する義務を負う、③この返還義務の弁済期は、被担保債権の弁済期までは到来しない、④被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができる、といった方法を制度化して規律すべきである。

第15、1について【案15.4.1.2】によるとしても、第三債務者が対抗要件を具備した担保権者に対して譲渡担保の目的である金銭債権を弁済した場合に、担保権者が取り立てた金銭を弁済期到来前の被担保債権に充当できないとすれば、そこでの金銭の処理方法を検討する必要がある。

 この処理方法として、①被担保債権の弁済期前に取り立てた金銭を被担保債権に充当することはできない、②担保権者は取り立てた金銭を設定者に返還する義務を負う、③この返還義務の弁済期は、被担保債権の弁済期まで到来しない、④被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができる、といった規律が考えられる。(大阪弁)

・(注)につき、被担保債権の弁済期前に担保権者が金銭を取り立ててその支払を受けること自体、取引当事者の人的関係を不安定にして債務者や第三債務者に不測の損害を生じさせかねない。よって、当該支払を法的に積極評価しようとすること自体、実務上の違和感が拭えず、妥当ではない。(日司連)

・債権譲渡担保権者が取り立てた金銭を設定者に返還する義務の弁済期を被担保債権の弁済期まで到来しないものとする等とする案に賛成する。取り立てた金銭の処遇に関する(注)記載の問題については、補足意見に示されている「①充当は認めず、②設定者に返還義務を負うものとするが、③その弁済期は被担保債権の弁済期までは到来しない5 ものとし、④被担保債権の弁済期において充当ができるものとする」という案に賛成する。(研究者有志)

⑵について

【【案15.4.2.1】に賛成】

研究者有志、個人

【【案15.4.2.2】に賛成】

神奈川弁、ミロク、札幌弁、東弁、日司連、日弁連

・第三債務者を保護する必要性は、債権質においても変わりはないため債権質において15 も、【案15.4.1.2】と同様の規律を設けるべきであり、【案15.4.2.2】に賛成する。

【その他の意見】

・いずれの案にも反対する。民法366条3項の規律を維持すべきである。債権質については、譲渡担保と異なり、債務者対抗要件の通知において債権質であることが明らかにされれば、少なくとも真正譲渡と誤解するという事態は考え難い。第三債務者としては、弁済義務があるか供託義務があるかに留意して行動することが期待できると考えられる。そこで、第三債務者は、対抗要件を具備した担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるとの規律を設ける必要性はない。

 この点について、「第三債務者は、担保権者が真の債権者であると信じ、又は被担保債権の弁済期が既に到来していて担保権者に取立権があると信じて、担保権者に対する弁済をすることがあり得るところ、この場合の第三債務者の保護を無過失を要求する民法第478条のみに委ねるとすれば第三債務者の保護に欠ける」との指摘がある。しかし、上記のとおり、債権質の性質からすれば、「担保権者が真の債権者と信じる」、または、「担保権者に取立権があると信じる」ということはほとんど想定しえず、仮にあるとしても民法第478条の規律により保護することで足りる。(大阪弁)

・仮に、【案15.4.1.1】を採用したとするならば【案15.4.2.1】を採用すべきである。(神奈川弁、一弁、日弁連)

・質権者の場合は、質権が物権であるため当事者の自由度が低く、画一的に決めなければならない。質権については、現行の366条3項を維持すべきである。また、「補足説明」に、一般の人は質権者と債権譲受人を区別できないかのような記載があるが、そのような事実は聞いたことがない。(個人)

5債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法

 債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合に、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について【譲渡担保権(新たな規定に係る動産担保権)/動産質権】を有するものとする。

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、長島・大野・常松有志、日司連、研究者有志

・債権譲渡担保権について、直接取立てできることについては、金銭債権に限定する必要はないと考えられる。

・債権譲渡担保権の目的債権が金銭債権ではない場合にも、債権譲渡担保権者は、金銭以外の目的物を弁済として受けることができることになるが、債権譲渡担保権の目的は債権であるので、債権譲渡担保権者は、弁済として受領した物について当然に担保権を取得するものではない。

 よって、弁済として受領した物について、その目的物の性質に応じて、譲渡担保権または動産質権を取得すべきであると考えられる。

譲渡担保権(新たな規定に係る動産担保権)を有するものとすることに賛成

・規律を設けることに異論はない。

担保権者が弁済とした受けた物の性質について、動産質権につき、流質に関する規律を設けて処分を認めることにすれば、特に問題ないようにも思われる。しかし、そもそも動産質権につき流質に関する規律を設けるべきかどうかには疑問がある。

一方、「譲渡担保権(新たな規定に係る担保権)」を取得するとした場合には、担保権者に使用収益権原が認められるのかが問題となりうるが、この点については、設定者の使用収益権限を排除して、担保権者が引き続き受領した物を占有することができるとする規定を設けることで対応可能であると考えられる。

・非金銭債権を対象とする譲渡担保権を実行する際には、当該債権について、譲渡担保に関する規律を及ぼすのみでは不十分であり、非金銭債権を取り立てた後に、生じる弁済の目的物についても譲渡担保権の規律を及ぼすことが必要である。

・ 債権質に関する民法366条4項と同趣旨の規定が設けられることに賛成する。弁済を受けた物について有する権利について、案では、「譲渡担保権(新たな規定に係る動産担保権)」と「動産質権」の2つの可能性があるとされている。両者の相違については、非占有型か占有型かというより、私的実行を前提とした担保であるか否かという見地から把握することが重要と解される。そうであるとすれば、ここでの担保権については、設定者の使用収益権限を排除することを前提としたうえで、譲渡担保権として規律するのが適当と思われる。

動産質権を有するものとすることに賛成

・譲渡担保を取得するとした場合は、設定者が使用収益権を有することになるが、弁済として債権譲渡担保権者が一旦受けたものについて設定者が使用収益権を有するというのは現実的でなく、実態に合っている動産質権を有するとすべき。

【反対】

・債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合、その弁済が行われた場合にどうするかは、当然、担保設定契約に取り決められるであろうから、契約自由の原則で、当事者が決めれば良く、法定すべきものではない。債権譲渡担保権の目的が「大豆10トンの給付」である場合でも、被担保債権も「大豆10トンの給付」であれば、譲渡された債権の弁済によって被担保債権の弁済も行われると担保設定契約に取り決めるものであって、給付された「大豆10トン」に動産担保権を設定して、被担保債権である「大豆10トンの給付」の担保とするようなことを法定すべきではない。(個人)

【その他の意見】

・譲渡担保権者が、担保の目的債権の債務者から債権の目的物の弁済として引渡しを受け、その物を動産の譲渡担保の実行と同様に処分できるとすべきである。ただし、目的物の処分に当たってはあらかじめ債務者に通知し、通知が債務者に到達してから1週間を経過したのちでなければ処分することができないとすべきである。

 譲渡担保の実行と同様に、弁済を受けた物を評価し被担保債権の弁済に充てる手段を明確にすることが望ましいと考える。(神奈川弁)

・譲渡担保権者は、弁済として受けた物について、動産譲渡担保権の実行と同様に、帰属清算又は処分清算の方法により処分することができるとすべきである。譲渡担保権者が取得する権利の性質を決定する必要はない。(札幌弁)

・譲渡担保権者が、担保の目的債権の債務者から債権の目的物の弁済として引渡しを受け、その物を動産の譲渡担保の実行と同様に処分できるとすべきである。

 ただし、目的物の処分にあたってはあらかじめ債務者に通知し、通知が債務者に到達してから一定の期間(たとえば1週間)を経過したのちでなければ処分することができないとすべきである。

 債権譲渡担保について、譲渡担保権者に直接取り立てできる権利を認めた場合、特に、金銭債権に限定する必要はない。もっとも、被担保債権が金銭債権であることを前提としているので、担保債権の行使によって物を取得しただけでは意味はなく、これを金銭化し被担保債権に弁済に充当する必要がある。したがって、譲渡担保権者が取り立てた物を処分できることを明確に定めるべきである。取り立てたものに質権が成立するか譲渡担保権が成立するかの法性決定は、条文上は必要がない。

 また、担保債権の目的物の価値が被担保債権の額より大きくても目的物すべてを取り立てできるとすべきである(不可分債権であれば当然であるが、可分債権でも目的物の評価に争いが生ずるので、すべて取立て可能とすべきである。)。供託に不向きなので被担保債権の弁済期前に担保債権の弁済期が到来した場合は、譲渡担保権者は担保債権の目的物の取り立てができるとすべきである。取り立てた物は、金銭化しないと意味がないので、譲渡担保権者に処分権能を認めるべきである。処分したのちは、清算することとなる。

 ところで、目的物は設定者にとってぜひとも必要なことがある。そこで、動産の譲渡担保の実行と同様に、譲渡担保権者は、目的物を処分する前に設定者に通知し、受戻しの機会を与えるべきである(この場合は、目的物を譲渡担保権者が占有しているので通知して受戻しの機会を与えても設定者の隠匿行為等は考えられない。)。理論的には、取り立てた目的物の所有権は譲渡担保権者にあり、譲渡担保権者は処分清算義務を負っていると考える(譲渡担保権者が、売却したときは買主が目的物の所有権を取得する。設定者は、譲渡担保権者に対し受戻しの機会を与えられなかったことによる損害賠償、清算金請求権を有するだけ。)。(日弁連)

6直接の取立て以外の実行方法

⑴債権譲渡担保権者は、目的債権を直接取り立てる方法によるほか、帰属清算方式又は処分清算方式の私的実行をすることができるものとする。

⑵債権譲渡担保権を民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することができるものとするか否かについては、引き続き検討する。

⑴について

【賛成】

大阪弁、神奈川弁、ミロク、企業法研、札幌弁、全倒ネット、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、日弁連、研究者有志、個人

・特に私的実行を認める方向には賛成するが、それぞれの清算方法について検討する必要がある。

・被担保債権が弁済期未到来の場合などにおいて、債権譲渡担保権の実行の方法として直接取立ての他に帰属清算方式や処分清算方式の実行方法を認めることはニーズがある。

・賛成する。ただ、そこまで認める必要性が乏しいのではという意見があった。

・担保債権の弁済期が被担保債権の弁済期より遅い場合、担保債権の弁済が相当長期にわたる場合(例えば住宅ローンのような35年払いの債権を担保に取った場合)、被担保債権の回収方法として債権を取得する方法も認める必要がある。

・債権譲渡担保権者は、帰属清算又は処分清算方式のいずれの方式でも実行できると考えて差し支えない。

・債権譲渡担保において、直接の取立てのみでなく、帰属清算方式又は処分清算方式という多様な方法が認められると解されてきたことは、対抗要件、効果が類似する債権質と区別して、債権譲渡担保が利用されてきた意義であり、立法により否定すべきではない。

・選択肢を柔軟に認めることが合理的であるが、動産との差異を考慮する必要がある。債権についても帰属清算方式または処分清算方式による私的実行を認める場合、①清算金の支払と引き換えに担保権者が債権を取得する前に担保目的債権の弁済期が到来した場合、担保目的債権の債務者に供託させる必要がないか(債権は、動産と異なり、裁判所が関与しない手続(第三債務者に対する債権譲渡通知)で実行が可能であるため、清算金の支払が担保されていない。)、②①で供託させる必要があるのであれば、その実効性を確保するため、第三債務者に対し、誰が如何なる時点で如何なる通知をすべきか、といった問題があり、その点について考慮した規定を設ける必要がある。

・直接取立ての可否を除けば、動産担保と債権譲渡担保とで、私的実行の方法に相違を設ける必要はないと考えられる。

⑵について

【債権執行によって実行することができるものとする方向で検討することに賛成】

大阪弁、神奈川弁、一弁、日弁連

・仮に後順位債権譲渡担保の設定を可能とした場合には、民事執行法上の債権執行手続が配当手続の整備された手続であるから、劣後担保権者は優先担保権者の同意がなくとも同法上の債権執行手続による実行をすることができるという利点がある。また、動産について新たな規定に係る担保権の競売手続による実行を認めることからも、同法上の債権執行手続による実行を認めるのが整合的である。

この点について、後順位債権譲渡担保が設定された場合において、目的債権は優先債権譲渡担保権者に帰属していると考えるのであれば、やはり劣後債権譲渡担保権者は設定者を執行債務者として目的債権を差し押さえたとしても、いわゆる空振りとなり、執行手続を進行させることはできないとの考えもある。しかし、あくまで目的債権は担保の目的で優先債権譲渡担保権者に帰属するにすぎないとすれば、差押えが空振りになるとする必要性はないと考えられる。

ただし、第三債務者からすれば、真正譲渡と債権譲渡担保を的確に区別することは困難であるため、真正譲渡の場合には債権執行手続が空振りとなる一方、債権譲渡担保の場合には債権執行手続は空振りとならないということになれば、第三債務者の負担を増加させるともいえるが、この点については民事執行法上の執行手続において手当てされるべきである。

・債権譲渡担保権を債権執行によって実行することができるとするか引き続き検討する点についても異論はないが、民事執行法第193条の規定によって実行することを否定する必要はない。

・債権譲渡担保権を民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することを許容する方向で、引き続き検討することに賛成する。

・現実に使われる場面があまりないと考えるが、民事執行法第193条の規定によって実行することができるものとすることに賛成する。

【その他の意見】

・第三債務者に酷な結論が生じうるのではないかとの懸念が示された。(企業法研)

・第三債務者が目的債権の差押えに的確に対応することは困難であり、第三債務者の保護に欠ける事態が生じることが懸念されるため、取立てに応じるべき範囲や供託の根拠等の手続を明確化する必要があるとの指摘があった。(最高裁)

・債権譲渡担保を債権執行によって実行することが出来るものとするか否かについては、引き続きの検討が必要である。(東弁)

・規定を設けることを見送ることも含め、慎重な検討が必要である。債権譲渡担保について、担保が目的ではあるものの、一般債権者が目的債権を差し押さえることを阻止する効力をも認めるとするなら、真正譲渡に準じた法的構成をとることも大いにありうる。補足説明にあるように、担保譲渡と真正譲渡とを見分けることが第三債務者にとって困難であることからすれば、また、どれだけ債権執行による実行に実務上の要請があるかも定かでないことからすれば、あえて債権執行による実行を認める必要はないとも考えられる。(研究者有志)

7集合債権を目的とする譲渡担保権の実行

 集合債権を目的とする譲渡担保権の私的実行については、特別な規定を設けないものとする。

【賛成】

大阪弁、ミロク、企業法研、札幌弁、一弁、東弁、担保研、長島・大野・常松有志、日司連、個人

・現行法のいわゆる集合債権譲渡担保について、個々の債権が一物としての「集合債権」を介することなく直接譲渡の対象になるとの理解を前提に、集合債権が担保目的で譲渡された場合であっても、個々の債権について個別に直接取立てによる実行を行えば足りる。そのため、特別な規定を設けないとすることについて、特に異論はない。

・集合動産と異なり、集合債権という概念がないこと、個々の債権に対する規制で足りると考えられる。

・賛成する。ただ、金銭債権については中間試案の立場でよいとしても、暗号資産等につき債権の規定が類推される場面を想定した場合に何らかの手当てが必要なのではないかという指摘もあった。

・集合債権譲渡担保であっても、個々の債権譲渡の集合体であるから、個別の債権譲渡担保と別異に解する理由はない。集合債権譲渡担保特有の定めがないと資金計画に影響が生じる可能性があるという指摘があるが、金額の大きい債権が譲渡担保の目的となった場合でも生じ得る問題であって、集合債権譲渡担保を特別扱いする理由はない。

・集合債権を目的とする譲渡担保権の私的実行は、担保権者から第三債務者に対する取立てにすぎず、特別の規定を設ける必要はないと考えられる。

・目的である債権を範囲によって特定した債権譲渡担保の私的実行については、当事者間の合意にゆだねることが望ましい。

・集合債権譲渡担保の場合にのみ適用される特別な規定を設ける必要はない。

・集合債権を目的とする譲渡担保権の実行については、直接譲渡の対象となった個別の債権に対する担保実行の集積として理解することが整合的であり、集合債権が担保目的で譲渡された場合でも、個々の債権について個別に直接取立て等による実行を行えば足りる。

【反対】

全倒ネット、日弁連

・集合債権譲渡担保については、【案15.2.1.1】のア、イ及び(注)を採用すべきである。

 集合債権譲渡担保の場合も私的実行による取立ては、原則としては譲渡担保権者による第三債務者からの取立てである。これは集合債権譲渡担保、譲渡担保であれ変わりないので第三債務者との関係で特に何らかの定めを設ける必要はないといえる。

 他方で、債務者との関係を考えると、循環型の集合債権譲渡担保では、実行されるまでは、債務者が債権を回収し、営業資金として使用している。これが、債権譲渡担保と同様に突然実行されると資金計画が大きく狂うこととなる。これを防ぐために、債権譲渡担保にはない、集合債権譲渡担保特有の定め(例えば、債務者に通知)が考えられる。

また、集合債権譲渡担保が実行により確定する(実行後に発生した債権は担保債権とならない。)とすると、実行時を明確にする必要があり、この点からも(設定者への通知というような)特別規定が必要となる。その場合、譲渡担保権者が債務者に実行通知することなく第三債務者に請求し、第三債務者が弁済した場合は弁済をもって設定者に対抗できることにする必要がある。

【その他の意見】

・一般的な債権譲渡担保等の実行でも集合債権譲渡担保でも【案15.2.1.1】のア、イ(注)を採用すべきである。実行の開始時期を明確にするため通知を要することは、集合債権譲渡担保もそれ以外も同様である。(神奈川弁)

・集合債権譲渡担保においても、債権譲渡担保の実行に際して求められる設定者への通知等の手続が必要であり、また、その効力が及ぶ債権の範囲については当事者の合意に委ねられてよいことを前提とするならば、【案15.2.1.1】が採用されることを前提としつつ、格別の実行手続規範は不要とも考えられる。しかし、集合動産を目的とする場合について、再度実行を否定することが検討されている以上(第11、2)、集合債権についても同様に解すべきとすることも十分考えられる。この点につきなお慎重に検討をし、それに応じて特別の規定を設けることの要否を決する必要がある。(研究者有志)

部会資料31 担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討⑶

目次

第1集合動産譲渡担保権の実行……………………………………………………………………………2

第2動産譲渡担保権の競売手続による実行等………………………………………………………….85

第3質権の実行方法に関する見直しの要否…………………………………………………………..11

第4所有権留保売買による留保所有権の実行………………………………………………………..13

第5債権譲渡担保権の実行………………………………………………………………………………..13

1債権譲渡担保権者及び債権質権者の取立権限及び実行通知の要否………………13

2債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲…………………………………………………………………….14

3債権譲渡担保権又は債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、債権譲渡担保権者又は債権質権者が請求することができる内容………14

4債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法……………………..17

5直接の取立て以外の実行方法……………………………………….18

第1集合動産譲渡担保権の実行

1 集合動産譲渡担保権の担保する債権について不履行があった場合において、その動産譲渡担保権者が部会資料30の第6、3(帰属清算方式)又は4(処分清算方式)による実行をしようとするときは、あらかじめ、その旨を動産譲渡担保権設定者に通知しなければならない。(11-1⑴)

2 集合動産譲渡担保権(その集合動産譲渡担保権が他の集合動産譲渡担保権に優先する場合にあっては、当該他の集合動産譲渡担保権を含む。)は、1の通知が動産譲渡担保権設定者に到達した後にその通知をした者が有する集合動産譲渡担保権の特定範囲に属することとなった動産に及ばない。ただし、その動産が1の通知が到達した時にその特定範囲に属していた動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。(11-1⑵)

3 1の通知が動産譲渡担保権設定者に到達したときは、動産譲渡担保権設定者は、その時にその集合動産譲渡担保権の特定範囲に属していた動産の処分をする権利を失う。(11-1⑶)

4 1の通知は、その集合動産譲渡担保権の特定範囲に属する動産について帰属清算の通知等又は部会資料30の第6、4によるその動産の第三者への譲渡がされるまでは、動産譲渡担保権設定者の承諾を得て、撤回することができる。(11-1⑷)

5 4による1の通知の撤回は、その通知の到達の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。(11-1⑸)

6 2本文の規定に反する特約は、無効とする。(11-2)

7 動産譲渡担保権者が1の通知においてその集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定したときは、2及び3の効力はその範囲にのみ生ずる。(11-3)

8 1の通知をした集合動産譲渡担保権者が有する集合動産譲渡担保権に優先する集合動産譲渡担保権がある場合には、当該通知は、その優先する集合動産譲渡担保権を有する者の全員の同意を得たとき【(優先する集合動産譲渡担保権を有する者がその通知を追認したときを含む。)】に限り、その効力を生ずる。この場合における2の適用については、2中「優先する」とあるのは、「優先し又は劣後する」とする。

9 【2及び3/2、3及び7】の規定は、集合動産譲渡担保権の特定範囲に属する動産について、部会資料30の第7、2⑴による決定(イ又はウに掲げる保全処分及び公示保全処分を命ずるものに限る。)若しくは第7、3による決定の執行がされた場合又は動産競売若しくは動産執行に係る差押えがあった場合について準用する(この場合において、2中「優先する」とあるのは、「優先し又は劣後する」と読み替えるものとする)ものとし、ただし、その執行又は差押えが取り消されたときは、この限りでないものとすることについて、どのように考えるか。

(説明)

1 1について

中間試案第11、1⑴から実質的な変更はない。

2 2について

 本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲と他の集合動産譲渡担保権の特定範囲とが重なり合う場合には、本文6のとおり実行後の再度実行を認めないこととする趣旨に照らし、他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知が設定者に到達した後に当該通知をした者の担保権に係る特定範囲に属するに至った動産に及ばないものとすべきであると考えられる。

 そこで、本文2では、本文1の通知をした者が有する集合動産譲渡担保権に劣後する集合動産譲渡担保権及び優先する集合動産譲渡担保権(優先する集合動産譲渡担保権者の全員が実行に同意した場合。本文8参照)についても、本文2の効果が生ずるものとしている。

 このような考え方を採用する場合には、他の集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち、本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分についても、本文2の効果が生ずるか(他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知が設定者に到達した後に、その特定範囲のうち本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分に属するに至った動産にも及ばないこととなるか)が問題となる。この点について、本文1の通知は、本文4によってその集合動産譲渡担保権の特定範囲の一部を実行の対象として指定した場合を除き、当然にその特定範囲の限度で本文2及び3の効果を発生させる趣旨であると考えられる。そうすると、その通知によっては、その通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲を越えては本文2及び3の効果は生じないものと考えられるから、他の集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分については、本文2の効果は生じないと考えられる。そこで、本文2では、他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知の到達後は、その特定範囲ではなく、本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲に属することとなった動産には及ばないこととして、この趣旨を表している。

上記の点を除き、本文2について中間試案第11、1⑵から実質的な変更はない。

3について

 中間試案第11、1⑶から実質的な変更はない。なお、本文2の担保権の及ぶ範囲が担保権ごとに判断されるのに対し、本文3の設定者の処分権限は設定者の権限の問題であって担保権ごとに判断されるものではないと考えられるから、本文3においては、本文2と同様の括弧書きは設けていない。

4について

 中間試案第11、1⑷について、撤回が認められる終期を定めるべきとの意見がある。この点について、本文1の通知によって本文2及び3の効果が特定範囲全体に生じた後にその特定範囲に属する動産のうちの一部について実行がされた場合において、その通知の撤回によって特定範囲全体について本文2及び3の効果が遡って消滅するとすれば、結果として当該一部について再度の実行が認められることとなり、相当でない。そうすると、本文2及び3の効果が特定範囲全体に生じた後に担保権者がその特定範囲に属する動産のうちの一部についてでも実行をした場合には、その後の撤回は認めるべきでないと考えられる。そこで、本文4では、担保権者が特定範囲に属する動産について私的実行をした場合には、その私的実行が特定範囲に属する動産の全体を対象とするか一部を対象とするかにかかわらず、本文1の通知を撤回することができないものとしている。

上記の点を除き、本文4について中間試案第11、1⑷から実質的な変更はない。

5について

中間試案第11、1⑸から変更はない。

6について

 中間試案第11、2では、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行をした後に新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものとして再度の実行をすることはできないものとする考え方を提示した。この点は、集合動産譲渡担保権の実行後に特定範囲に属するに至った動産になお担保権の実体的な効力が及ぶ旨の特約が有効か否かという問題であると考えられる。そこで、本文6では、本文2に反する特約は無効である旨を示している。

7について

 中間試案第11、3では、集合動産の一部についてのみ固定化を生じさせるための要件について、所在場所により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とする考え方と種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とする考え方を隅付き括弧で併記していた。本文7では、集合動産の特定と同様の要件とすることが簡明であり、また、集合動産の一部のみの固定化、所在場所を指定した場合に限定する必要性は大きくないと考えられることから、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とすることとしている。

8について

 集合動産譲渡担保権の私的実行のためには本文1の通知が必要であるところ、部会資料30の第8、1のとおり、劣後担保権者による私的実行は全ての優先担保権者の同意を得た場合を除いてその効力を生じないから、劣後担保権者による本文1の通知についても、同様の規律とするのが相当であると考えられる。また、優先担保権者の同意がなくとも劣後担保権者による本文1の通知によって本文3の効果が生じるとすれば、それによって設定者の事業の継続が困難になるなど、優先担保権者の実行時期選択の利益や優先担保権者が把握していた担保価値が害されるおそれがある。そこで、本文8では、前記第8、1と同様に、劣後担保権者による本文1の通知は原則として効力を生じないものとした上で、全ての優先担保権者の同意を得た場合に限ってその効力を生ずるものとしている。なお、本文8後段では、劣後する集合動産担保権者が優先する集合動産担保権者の同意を得て本文1の通知をした場合には、その優先する集合動産担保権についても本文2の効果が生ずるものとしている。

 前記第8、1と同様に、優先担保権者の同意なくされた本文1の通知について、優先担保権者による追認を認めるか否かについても問題となる。優先担保権者に対して劣後担保権者による私的実行の追認を認めるのであれば、その私的実行の前提である本文1の通知についても追認を認める必要があるとも考えられる一方で、この追認が認められるとすれ35 ば、本文2及び3の効果の発生の有無が確定しない状態が継続することとなり、法律関係が不安定となる。

 そこで、本文8では、本文1の通知の追認を認める考え方に隅付き括弧を付しているが、この点についてどのように考えるか。

9について

⑴部会資料30の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令、後記第2の動産競売手続又は動産執行手続と集合動産の固定化の関係をどのように考えるか。固定化の時期、固定化の範囲及び劣後担保権者が各手続を申し立てた場合の固定化の有無がそれぞれ問題となる。

⑵固定化の時期については、各手続について、①先行して本文1の通知によって集合動5 産を固定化させておくことをこれらの手続の要件とする考え方、②先行して集合動産を固定化させておく必要はなく、これらの手続に係る決定の執行や差押えによって固定化が生ずるとする考え方、③これらの手続に係る決定の執行や差押えによっても固定化が生じないとする考え方があり得る。

 部会資料30の第7、2の保全処分については、密行性の要請があることから、先行して本文1の通知の送付を要求する上記①の考え方は相当でない。また、同第7、2⑴イ又はウの保全処分が執行された場合には、設定者は実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うこととなるから、このこととのバランスを考えると、その執行によっても本文2の効果が生じないとする上記③の考え方も相当でないと考えられる。

 そこで、上記②の考え方を採用し、同第7、2⑴イ又はウの保全処分の執行によって固定化が生ずるものとすることが考えられる。なお、同第7、2⑴アの保全処分については、その保全処分の内容にもよるものの、それによって設定者が実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うとは限らないことから、それによって固定化が生ずるものとする必要はないと考えられる。

 前記第7、3の実行のための引渡命令については、上記と同様に、強制執行がされた場合には設定者は実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うこととなるから、上記③の考え方は相当でないと考えられる。また、あらかじめ集合動産を固定化させておかなければ清算金の見積額を算定することが困難となるとすれば、上記①の考え方によることも考えられるが、ここで算定すべきなのは飽くまで見積額であるから、固定化していなくともその時点で特定範囲に属する動産の量等に基づいて算定すれば足りるとも考えられる(なお、上記②の考え方を採用するとしても、各手続の申立て前にあらかじめ本文1の通知を送付して集合動産の固定化を生じさせておくことは可能である。)。そうすると、他の手続と統一的な扱いをすることが簡明であることも踏まえ、ここでも上記②の考え方によることが考えられる。

 後記第2の動産競売手続又は動産執行手続については、本文6のとおり再度実行を禁止することを踏まえると、上記③の考え方は相当でないと考えられる。また、動産競売手続について上記①の考え方によるとすれば、劣後担保権者が動産競売の申立てをする際にも本文1の通知によって集合動産を固定化させておくことが必要となるが、本文8のとおり劣後担保権者による本文1の通知は原則として効力を生じないため、上記①の考え方によれば劣後担保権者が実質的に動産競売の申立てをすることができなくなってしまい、相当でないと考えられる。そうすると、上記②の考え方により、動産競売又は動産執行に係る差押えによって固定化が生ずるものとすることが考えられる。

 また、これらの手続に係る執行又は差押えが取り消されたときは、その実行が振り出しに戻ったこととなり、固定化の効力を維持する必要性が乏しいと考えられることから、その執行又は差押えによって生じた固定化が覆滅するものとするのが相当であると考えられる。

 以上によれば、いずれの手続についても上記②の考え方を採用することが考えられる。そこで、本文9では、部会資料30の第7、2⑴の保全処分(イ又はウの保全処分に限る。)及び3の実行のための引渡命令についてはその各決定の執行により、後記第2の動5 産競売手続については差押えにより本文2及び3の効果が生ずるものとした上で、その執行又は差押えが取り消されたときは、その固定化が覆滅するものとすることを提案しているが、この点についてどのように考えるか。

⑶固定化の範囲については、部会資料30の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令、後記第2の動産競売手続又は動産執行手続に係る決定の執行又は差押えによって10 固定化が生ずるものとする場合に、その固定化はその集合動産譲渡担保権の特定範囲の全体について生ずるのか、それともその特定範囲の一部について生ずるのかが問題となる。

 これらの手続に係る決定の執行や差押えの対象が種類、所在場所等によって特定されている場合には、本文7と同様に、集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち種類、所在場15 所等によって特定されている当該範囲に限って固定化が生ずるものとすることが考えられる。

 他方で、その執行や差押えの対象が常に本文7の要件を満たすような形で明確に特定されているとは限らないとすれば、本文7と同様の考え方を採用した場合には、固定化の範囲に疑義が生じ、予測可能性も害されるおそれがある。そうすると、その執行や差20 押えによる固定化は常に特定範囲全体に生ずるものとすることも考えられる。

 そこで、本文9では、本文7をも準用する考え方に隅付き括弧を付し、両論を併記しているが、この点についてどのように考えるか。

⑷優先担保権者が申し立てた部会資料30の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令又は後記第2の動産競売手続に係る決定の執行又は差押えがあった場合には、当該25 優先担保権及び劣後担保権のいずれについても固定化が生ずることとなると考えられる。これに対し、劣後担保権者又は一般債権者が申し立てたこれらの手続に係る決定の執行又は差押えによって、当該劣後担保権及び優先担保権について固定化が生ずるか否かが問題となる。

 後記第2の動産競売手続又は動産執行手続については、劣後担保権者又は一般債権者30 も申し立てることができる上に、再度実行を認めないものとする趣旨に照らし、差押えがあっても固定化が生じないものとすることは相当ではないと考えられる。そうすると、劣後担保権者が申し立てた動産競売又は一般債権者が申し立てた動産執行に係る差押えによって、劣後担保権に加えて優先担保権も固定化するものとした上で、その差押えが第三者異議の訴え又は無剰余取消しによって取り消された場合には、その固定化は覆滅35 するものとするのが相当であると考えられる。

 また、前記第7、2の保全処分及び3の実行のための引渡命令については、前記第7、2⒃及び3⑻のとおり、劣後担保権者は全ての優先担保権者の同意を得た場合に限って保全処分又は実行のための引渡命令の申立てをすることができるものとしたとしても、そのような同意なく保全処分又は実行のための引渡命令が発令及び執行される場合もあり得る。この場合には、同意が得られていない以上は、その執行によっても当該劣後担保権及び優先担保権の固定化は生じないものとすることも考えられるが、手続の明確性の観点からは、その執行によって当該劣後担保権及び優先担保権の固定化が一応生ずるものとした上で、その執行が不服申立て等によって取り消された場合に固定化が覆滅す5 るものとするのが相当であると考えられる。

 そこで、本文9では、前記第7、2の保全処分若しくは3の実行のための引渡命令の執行又は後記第2の動産競売手続若しくは動産執行手続の差押えがあったときは、それが優先担保権者、劣後担保権者又は一般債権者のいずれによるものであるかにかかわらず、優先担保権及び劣後担保権のいずれについても固定化が生ずるものとしているが、この点についてどのように考えるか。

10 時的要素による集合動産の範囲の特定の可否について

 部会では、時的要素によって時間的に区切って複数の集合動産譲渡担保権を設定することができるのであれば、事実上再度実行が可能となるとの指摘があった。この指摘は、本文7による一部実行の際の実行の対象となる範囲の特定についても、同様に当てはまると考えられる。そこで、そもそも時的要素による集合動産の範囲の特定が可能か(例えば「2023年6月30日までにA倉庫に入った在庫」という特定が可能か)が問題となる。

 本文7及び部会資料28の第4、1では、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法によって集合動産の範囲を特定しなければならないものとしているが、この範囲は担保権の効力が及ぶ範囲を確定するための概念であるから、時的要素によって担保権の効力が及ぶ範囲を確定することは当然可能であって、時的要素による集合動産の範囲の特定は許容されるとも考えられる。

 他方で、本文2では、集合動産譲渡担保権は本文1の通知が到達した後に特定範囲に属することとなった動産には及ばないものとしているところ、その通知の到達に先立って本文2の効果を生じさせる合意をすることは可能であると解される。このことを前提とすると、時的要素によって集合動産の範囲が契約上特定されている場合には、集合動産の範囲の定めのうち当該時的要素に係る部分は、集合動産の範囲の特定の要素ではなく、本文2の効果が生ずる時点についての特約と位置付けることもできるように思われる(上記の例では、集合動産の範囲は「A倉庫に入った在庫」として特定されており、2023年6月30日の経過時に本文2の効果が生ずる旨の特約があることになる。)。この考え方によれば、時的要素によって時間的に区切って複数の集合動産譲渡担保権を設定した場合には、当該複数の集合動産譲渡担保権は特定範囲が重なり合うこととなるため、一方の集合動産譲渡担保権の固定化によって他方の集合動産譲渡担保権も固定化することとなるし、また、一部実行に際して時的要素によって実行の対象を指定した場合には、本文7の要件を満たさないことから特定範囲全体が固定化することとなるため、上記の指摘のような問題は生じないと考えられる。

以上について、どのように考えるか。

第2動産譲渡担保権の競売手続による実行等

1 動産譲渡担保権は、民事執行法第190条以下の規定に基づく競売によって実行することができる。(12-1)

2 動産譲渡担保権者は、その目的である動産(集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産を含む。)に対する他の債権者が申し立てた強制執行手続及び他の担保権者が5 申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、配当要求をすることができる。(12-2)

3 動産譲渡担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的である動産(集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産を含む。)を差し押さえたときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。ただし、その動産の売得金の額が執行費用のうち共益費用であるもの、その動産譲渡担保権者の債権及びこれに優先する債権のうち配当要求があったものの額の合計額以上となる見込みがあるときは、この限りでない。(12-3)

4 執行官は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをしたときは、遅滞なく、その執行債務者を譲渡人とする動産譲渡登記において譲受人として登記されている全ての者に対し、その旨を通知しなければならない。この場合において、その通知は、通知を受ける者の動産譲渡登記ファイル上の【住所又は事務所/住所、事務所その他法務省令で定める連絡先】に宛てて発すれば足りる。(12-4)

5 動産譲渡担保権が設定されている動産につき強制執行又は担保権の実行としての競売が行われたときは、その動産譲渡担保権は、その動産の売却によって消滅する。(12-5の20 【案12.5.1】)

(説明)

1本文1及び2について

中間試案第12、1及び2から実質的な変更はない。なお、中間試案第12、2では、集合動産譲渡担保権者が配当要求をすることができるか否かを明示していなかったものの、本文2では、集合動産譲渡担保権者が配当要求をすることができる旨を明示している(第1、9により、集合動産は配当要求をする時点で既に固定化していることとなる。)。

2本文3について

次の点を除き、中間試案第12、3から実質的な修正はない。

  • 動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えの提起が否定される場合の要件について

 中間試案第12、3においては、「目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるとき」は、動産譲渡担保権者は第三者異議の訴えを提起することができないものとしていた。

 もっとも、動産執行及び動産競売においては、差押債権者又は担保権者の有する債権に優先する債権であっても、配当要求がない限り配当を受けられないところ(民事執行35 法第140条、第192条)、動産執行及び動産競売における無剰余取消しの判断については、同法第129条第2項の「差押債権者の債権に優先する債権」は配当要求のあった債権を指すと解されている上に、そもそも配当要求がない限り差押債権者又は担保権者の有する債権に優先する債権の額は明らかにならない。そこで、本文3の動産譲渡担保権者の債権に優先する債権については、配当要求のあったものに限定することとしている。

 なお、本文において並列関係にあるのは、①執行費用のうち共益費用であるもの、②その動産譲渡担保権者の債権、③これに優先する債権のうち配当要求があったものであって、第三者異議の訴えを提起した動産譲渡担保権者の債権については、配当要求をしていなくとも算定の基礎に含まれる。

 また、中間試案第12、3においては、「目的物の価額」を算定の基礎とすることとしていた。しかし、動産執行及び動産競売における無剰余取消しの判断については、同法第129条第2項は「差押物の売得金の額」を算定の基礎としているところ、無剰余取消しの基準と第三者異議の訴えの提起の可否の基準は一致させるのが相当であるし、動産執行及び動産競売においては目的物の価額は売得金として現実化することから、第三者異議の訴えの可否を判断する局面においても、売得金の見込額を基礎として剰余の有無を判断するのが相当である。そこで、本文3では、「目的物の価額」を「その動産の売得金の額」と修正している。

 なお、中間試案第12、3においては「合計額を超えるとき」としていたが、本文3では、同法第129条第2項と同様の基準とする観点から、「合計額以上となる見込みがあるとき」としている。

  • 集合動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えの提起の可否について
  • 中間試案第12、3の(注)では、劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分である動産を差し押さえた場合に、中間試案第12、3の本文と同様の規律を適用するかどうかについては、更に検討するものとしていた。

 この点については、中間試案第12の(補足説明)2⑷のとおり、劣後担保権者又は一般債権者による差押えは、設定者による営業上の判断が介在しない点や、換価された目的物の対価は設定者による事業の継続に充てられず債権者への弁済に充てられる点など、設定者による通常の事業の範囲内の処分・逸出とは大きく性質が異なるため、優先担保権者による第三者異議の訴えの提起を認めたとしても、設定者に通常の事業の範囲内で25 の個別動産の処分権限が認められていることとの均衡を欠くものとはいえないと考えられる。

また、昭和62年11月最判は、集合動産譲渡担保権と動産売買先取特権の関係が問題となった事案において、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者は、特段の事情のない限り、民法第333条所定の第三取得者に該当するものとして、第三者異議の訴えによって、動産売買先取特権者が当該集合物の構成部分となった動産についてした競売の不許を求めることができるとしており、判例も集合動産担保権者による第三者異議の訴えの提起を否定していない。

 そこで、本文3では、集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産が差し押さえられたときにおいても、集合動産譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起することができるものとしている。

3本文4について

 中間試案第12、4では、本文4の通知の主体について、執行官とする考え方と差押債権者又は担保権者とする考え方を隅付き括弧で併記していた。この点については、①不動産執行においては裁判所書記官が差押えの登記前に登記がされた担保権を有する者等に対して催告をするものとされているから(民事執行法第49条第2項第2号)、ここでも執行官を通知の主体とするのが整合的であること、②動産執行については、一般債権者に対して通知を義務付けることは相当でなく、また、本人申立ての場合も多いために通知漏れが生じやすいと考えられるが、その場合には担保権者に不利益が生ずること、③通知を怠った場合の効果を競売の無効ではなく損害賠償にとどめるのであれば、担保権者の保護の観点から、確実に通知が送付されるように執行官を通知の主体とすべきであることなどが指摘されている。

 また、本文5のとおり消除主義を採用するのであれば、確実な通知の送付を確保する必要性はより一層大きいと考えられる。通知の主体を執行官とする考え方については、執行官の事務負担が増大する結果として、通知に時間を要するおそれがあること等が問題となり得るものの、以上に述べたところによれば、差押債権者又は担保権者ではなく執行官を通知の主体とするのが相当であると考えられる。

 そこで、本文4では、執行官を通知の主体とすることとしている。なお、この通知については、私的実行の際の通知(部会資料30、第6、6⑵)と同様に、動産譲渡登記ファイル上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りるものとする案と、動産譲渡登記ファイル上の住所、事務所その他法務省令で定める連絡先に宛てて発すれば足りるものとする案を併記している。

4 本文5について

 中間試案第12、5では、消除主義を採用し、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係る動産担保権は、売却により全て消滅するものとする【案12.5.1】と、引受主義を採用し、その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担のある目的物の所有権を取得するものとする【案12.5.2】を併記していた。

 この点については、中間試案第12の(補足説明)4⑵のとおり、競売による目的物の売却を円滑に実現し、執行手続を実効的なものとする観点からは、政策判断として消除主義を採用するのが相当であること、本文4のとおり、動産譲渡担保権者は動産譲渡登記を備えている限り通知を受けられるものとするのであれば、動産譲渡担保権者に対する手続保障は図られていると評価することができることから、消除主義を採用するのが相当であると考えられる。

 これに対し、①消除主義を採用した場合において、本文4の通知を受けられなかった担保権者は損害賠償を請求できるにすぎないとすれば、担保権者の保護としては十分ではないこと、②一般に競売に参加して目的物を買い受ける者は無過失であって即時取得が成立するため、買受人が現れなくなるという問題はそれほど起こらないことから、引受主義を採用すべきとの意見もある。しかし、上記①については、本文4のとおり執行官を通知の主体とするのであれば、通知を怠ったために担保権者が通知を受けられないという事態は生じにくいと考えられるし、上記②についても、即時取得が成立するか否かが不明確であること自体が買受人候補者を萎縮させるとの指摘もある。

 そこで、本文5では、消除主義(【案12.5.1】)を採用し、動産譲渡担保権が設定されている動産につき強制執行又は担保権の実行としての競売が行われたときは、その動産譲渡担保権は、その動産の売却によって消滅するものとしている。

 なお、【案12.5.1】では、先取特権及び質権についても売却によって消滅するものとしていた。しかし、先取特権は、第三取得者に引き渡された後はその動産について行使することができないため(民法第333条)、売却により目的物が買受人に引き渡されることによ5 って消滅すると解される。また、質権についても、売却により目的物が買受人に引き渡されることによって、少なくとも対抗力を失うと考えられる(民法第352条)。このように、先取特権及び質権については、あえて売却によって消滅する旨を規定する必要性は乏しいことから、本文5では、消除の対象とはしないこととしている。

5私的実行と競売手続の関係について

 中間試案第12の(補足説明)5⑵では、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続において目的物が差し押さえられた場合において、その申立人に優先する担保権者は競売手続を排除して有効に私的実行をすることができるか否かを問題提起した。

 競売手続における差押えの効力は、一般に、執行債務者に対して及ぶものであって、真の権利者の処分権限を制限するものではないと解されているから、ここでも差押えによって動産譲渡担保権者の処分権限が制限されるものではないと考えることができる。

 また、対抗要件を具備した動産譲渡担保権者は動産譲渡担保権を第三者である差押債権者に対抗することができるから、この点からみても、差押えによって動産譲渡担保権者の権限が制限されるとみるのは相当でない。これを前提とすると、動産譲渡担保権者は、一般債権者による動産執行手続又は劣後担保権者による動産競売手続によって目的物が差し押さえられたとしても、動産譲渡担保権に基づく処分権限を行使して、私的実行を有効に行うことができることとなる。そして、その私的実行によって目的物の確定的な所有権を取得した動産譲渡担保権者又は第三者は、第三者異議の訴えによって競売手続を排除することができ、また、競売手続が排除されないまま買受人が代金の支払をした場合でも、即時取得が成立する場合を除き、買受人は目的物の所有権を取得することができないこととなる。

 この点については、私的実行が完了しているか否かは買受人にとって明らかであるとは限らないため、このように買受人が目的物の所有権を取得することができないおそれがあるとすれば、買受人が現れなくなり、目的物の売却の円滑な実現に支障が生じないかが問題となる。しかし、競売における買受人は原則として動産譲渡担保権者による私的実行の完了の有無を調査する義務を負うものではないと考えられるから、買受人において私的実行が既に行われたことを認識すべきような特別な事情がない限り、買受人は即時取得によって目的物の所有権を取得することができると考えられる。

 そうすると、上記の考え方について修正を加えなくとも、動産譲渡担保権者の利益と買受人の利益のバランスは図られているものということができる。

 以上のことから、本文では、私的実行と競売手続の関係について、何らかの特別な規定を置くことは提案していない。

第3質権の実行方法に関する見直しの要否

質権の実行方法に関する見直しの要否については、次のいずれかの案によることとする。

【案3.1】(13の【案13.1】)

1 動産質及び権利質について、民法第349条の適用を除外する。

2 動産質権者及び権利質権者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権設定者から弁済として質物の所有権又は質権の目的である財産権を取得し、その他法律に定める方法によらないでこれらを処分することができることを約した場合において、その取得5 又は処分の時の質物又は財産権の価額がその時の当該質権の担保する債権の額を超えるときは、その超える額に相当する金銭を質権設定者に支払わなければならない。

【案3.2】(13の【案13.2】)

動産質及び権利質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持する。

(説明)

 中間試案第13では、動産質の実行方法に関し、目的物の価額が被担保債権額を超える場合にその差額の支払をさせるなどの設定者の利益を保護する措置を採るとともに、民法第349条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めるものとする【案13.1】と、動産質について流質契約の有効性を否定する同条を維持するものとする【案13.2】を併記していた。

 動産譲渡担保権については明文で私的実行を認めることが予定されていること、動産競売によらない実行方法を認めるかどうかについては占有型の担保権か非占有型の担保権かの区別のみによって扱いを異にする理由はないとも考えられること、流質の禁止については現行法上もその範囲を限定しようとする見解が主張されていることからすれば、動産質についても、【案3.1】のとおり、同条を改正し、流質契約の有効性を認めるとともに、質権者が目的物の価額と被担保債権額の差額の支払義務を負うことを明確化することが考えられる。なお、この場合には権利質についても同様とすることが考えられる。

 これに対し、民法第349条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めることについては、次のような問題も指摘されている。すなわち、商法第515条においては、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権について流質契約の有効性が認められているところ、事業者が動産を質入れして貸付けを受ける場合には、民法第349条ではなく商法第515条が適用される場合が多いと考えられ、あえて民法第349条を改正して動産質一般について流質契約の有効性を認める具体的なニーズは指摘されていない。また、同条は事業者が貸付けを受ける場合よりもむしろ一般消費者が貸付けを受ける場合に主に適用されるとすれば、一般に流質契約の有効性を認めることが消費者被害の拡大等につながるおそれもある。さらに、動産質においては、設定者が目的物を占有していることが多い譲渡担保とは異なり、質権者が質物を占有しているため、同時履行の抗弁権又は留置権によって設定者に対する目的物の価額と被担保債権額の差額の支払を確保することができない上に、設定者が目的物の客観的な価値を把握して当該差額の妥当性を争うことも困難であるとの問題がある。

 このような指摘を踏まえると、【案3.2】のとおり、動産質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持することも考えられる。

 そこで、本文では、同条を改正して動産質について流質契約の有効性を認めるか否かについて、両案を併記しているが、この点についてどのように考えるか。

第4 所有権留保売買による留保所有権の実行

 留保所有権の実行については、部会資料30の第6から第8まで及び部会資料31の第2の動産譲渡担保権の実行に関する規律(その目的である動産の代金支払債務等のみを担保する留保所有権の実行にあっては、部会資料30の第6、6を除く。)を準用する。(14)

(説明)5

 中間試案第14では、留保所有権の実行と売買契約の解除を異なる制度として併存させることを前提として、所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、帰属清算方式及び処分清算方式による私的実行並びに民事執行法の規定に基づく競売を認めることを提案した。本文では、留保所有権の実行について、動産譲渡担保権の実行に関する規定を準用することとしており、中間試案第14から実質的な変更はない。

 その目的である動産の代金支払債務等のみを担保する所有権留保(狭義の所有権留保)については、動産譲渡担保権の実行に関する規律のうち、他の担保権者に対する通知の規律(部会資料30の第6、6)を適用すべきでないとの意見がある。狭義の所有権留保については、目的物の価額と被担保債権額が近接しており剰余が生じる可能性は小さいから、劣後担保権者の保護のために通知を要求する必要性は乏しいと考えられる。また、狭義の所有権留保は目的物との牽連性が強いことから他の担保権に当然に優先するとされている上に、売買契約の付款として簡易に設定できることも考慮すると、買主の登記を確認した上で通知を送付するという従前の実務では要求されていなかった負担を留保所有権者に負わせるのは相当とはいえないように思われる。そこで、本文では、狭義の所有権留保については、他の担保権者に対する通知に関する規律は準用しないこととしている。

第5債権譲渡担保権の実行

1債権譲渡担保権者及び債権質権者の取立権限及び実行通知の要否

⑴債権譲渡担保権者は、債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があったときは、その目的である債権を直接に取り立て、又は後記5に従って実行することができる。(125 5-2⑴の【案15.2.1.2】)

⑵債権質権者は、債権質権の担保する債権について不履行があったときは、その目的である債権を直接に取り立てることができる。(15-2⑵の【案15.2.2.2】)

(説明)

1本文⑴について

 中間試案第15、2⑴では、債権譲渡担保権者は目的債権の取立て又は帰属清算方式若しくは処分清算方式による私的実行に先立って実行通知を送付しなければならず、その到達から1週間の経過後にそれらの権限を取得するものとする【案15.2.1.1】、その到達の時にそれらの権限を取得するものとする【案15.2.1.1】の(注)、被担保債権の不履行によりそれらの権限を取得するものとする【案15.2.1.2】の3つの考え方を提示した。

 本文⑴では、【案15.2.1.2】を採用し、現行法上の扱いを踏襲して、債権譲渡担保権者は、債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があったときは、取立権限及び私的実行権限を取得するものとしている。動産譲渡担保権については、被担保債権の不履行があったときに動産譲渡担保権者が目的物の処分権限を取得するとの考え方を提案していること(部会資料30の第6、2)に加えて、債権を目的とする担保については、実行に密行性及び迅速性が要求される一方で、設定者において個性のない金銭債権を受け戻す利益は大きくないことなど、中間試案第15、2の(補足説明)に記載した事情を踏まえたものである。

 また、後記3⑴のとおり、債権譲渡担保権者は、目的債権の弁済期が到来した場合であっても、被担保債権の弁済期が到来していない限り、目的債権を取り立てることができないものとすることを前提とすると、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに目的債権の取立権限を取得することとなる。本文⑴は、この点を明確化することも意図したものであり、これに伴って内容が重複する中間試案第15、1の項目は削除している。

2本文⑵について

 本文⑴のとおり、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに取立権限及び私的実行権限を取得するものとするのであれば、債権質については、あえてこれと異なる規律を採用する必要性は乏しく、現行法上の扱いを踏襲すべきと考えられる。そこで、本文⑵では、債権質権者も、設定者の債務不履行により直ちに目的債権の取立権限を取得するものとしている。なお、本文⑴のとおり、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに目的債権を取り立てることができる旨の明文の規定を置くのであれば、債権質についても、民法第366条第1項を改正し、被担保債権の不履行があったときに目的債権を取り立てることができる旨を明確化することが考えられる。

2 債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることができる範囲

⑴債権の目的物が金銭であるときは、債権譲渡担保権者は、自己の債権額に対応する部分を超えて、これを取り立てることができる。(15-3⑴)

⑵民法第366条第2項を次のように改める。(15-3⑵)

債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分を超えて、これを取り立てることができる。

(説明)

中間試案第15、3から表現ぶりを修正しているものの、実質的な変更はない。

3 債権譲渡担保権又は債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に到来した場合に、債権譲渡担保権者又は債権質権者が請求することができる内容

  • ア 債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が債権譲渡担保権者の債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。(15-4⑴の【案15.4.1.2】)

イ アに規定する場合には、第三債務者は、民法第467条第1項に規定する対抗要件を35 備えた債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって債権譲渡担保権設定者に対抗することができる。(15-4⑴の【案15.4.1.2】)

ウ アによる供託又はイによる弁済を受けた債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その供託又は弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しない。この場合において、債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期が到来したときは、債権譲渡担保権設定者に対し、その供託又は弁済を受けた額【に利息を付した額】から自己の債権の額を控除した残額を返還しなければならない。(15-4⑴の(注))

⑵民法第366条に次の項を加える。

ア 民法第366条第3項に規定する場合には、第三債務者は、民法第467条第1項に規定する対抗要件を備えた質権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって質権設定者に対抗することができる。(15-4⑵の【案15.4.2.2】)

イ アにより弁済を受けた質権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、質権設定者に対し、その弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しない。この場合において、質権者は、自己の債権の弁済期が到来したときは、質権設定者に対し、その弁済を受けた額【に利息を付した額】から自己の債権の額を控除した残額を返還しなければならない。

(説明)

1本文⑴ア及びイについて

 中間試案第15、4⑴では、債権譲渡担保権の被担保債権の弁済期前に目的債権の弁済期が到来した場合について、債権譲渡担保権者は目的債権を直接に取り立てることができるものとする【案15.4.1.1】と、債権譲渡担保権者は第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができるものとする【案15.4.1.2】を併記していた。

 この点については、債権譲渡担保において、目的債権は担保の目的で債権譲渡担保権者に移転しているところ、債権譲渡担保権者に被担保債権の弁済期到来前に目的債権の取立てを認めることは、そのような担保の性質に反するものであること、【案15.4.1.1】によれば、第三債務者が債務者対抗要件を具備していない債権譲渡担保権者に対して目的債権を弁済した場合にもその弁済は有効となるが、そのような弁済を有効と認める必要はないことなどが指摘されている。

 前者の指摘のように債権譲渡担保において、目的債権は債権譲渡担保権者に帰属しているとの理解を前提としたとしても、その債権譲渡は担保を目的とするものであることから、債権譲渡担保権者の取立権限に一定の制約を加えることは可能であると考えられる。また、【案15.4.1.1】は、第三債務者保護のために債権譲渡担保30 権者に目的債権の取立権限を認めるものであるが、【案15.4.1.2】のとおり、第三債務者が対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対してした弁済を有効と認めるのであれば、第三債務者保護としては十分であり、これを超えて債権譲渡担保権者に目的債権の取立権限を認める必要はないと考えられる。

 そこで、本文⑴では、【案15.4.1.2】を採用し、債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が債権譲渡担保権者の債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務者は、債務者対抗要件を備えた債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって債権譲渡担保権設定者に対抗することができるものとしている。

 また、民法第366条第3項後段では、同項前段による供託がされたときは、質権はその供託金について存在するとされているところ、この供託については、質権者のために供託物そのものの保全を目的としてされる保管供託の一種であって、被供託者である設定者が供託金還付請求権を有しており、質権はその供託金還付請求権の上に存することになると解されている。

 これに対し、本文⑴アの供託については、債権譲渡担保においては債権質と異なり目的債権は債権譲渡担保権者に帰属しているとの理解を前提とするのであれば、債権譲渡担保権設定者を被供託者とするのではなく、債権譲渡担保権者を被供託者とし、債権譲渡担保権者が供託金還付請求権を有するものとすべきと考えられる。

 そこで、本文⑴アでは、供託がされたときに担保権がその供託金について存在するとの同項後段と同様の規律は設けないものとすることを提案している。

2本文⑴ウについて

 中間試案第15、4⑴の(注)では、第三債務者が債権譲渡担保権者に対して弁済した場合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き検討するものとしていた。

 この点については、中間試案第15、4の(補足説明)2⑶イに記載したように、債権譲15 渡担保権者は、被担保債権の弁済期前に弁済を受けた金銭を被担保債権に充当することはできないものの、被担保債権の弁済期まではその金銭を設定者に返還することを要せず、被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができるものとすることが考えられる。

 そこで、本文⑴ウでは、イにより弁済を受けた債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しないこととした上で、自己の債権の弁済期が到来したときは、当然に当該金銭が被担保債務に充当されることとし、その弁済を受けた額から自己の債権の額を控除した残額を債権譲渡担保権設定者に返還しなければならないものとすることを提案している。

 なお、前記(説明)1のとおり、本文⑴アの供託の被供託者を債権譲渡担保権者とするのであれば、この供託がされた場合には本文⑴イの弁済がされた場合と同様に扱うべきと考えられることから、この供託がされた場合にも本文⑴ウの規律が適用されるものとしている。

 この場合において、債権譲渡担保権者は弁済を受けた額に利息を付した額を債権譲渡担保権設定者に返還しなければならないものとするか否かが問題となる。敷金については、賃借人に返還する額に利息を付す必要はないとされているところ(民法第622条の2第130 項)、ここでも担保権者が担保のために一定額の金銭を保有している点は同様であることからすれば、利息を付した額を返還させる必要はないとも考えられる。他方で、債権譲渡担保権者が弁済を受けた金銭を利用すること自体は妨げられないことからすれば、債権譲渡担保権者にその利益を保持させる必要はなく、利息を付した額を返還しなければならないものとすることも考えられる。そこで、本文⑴ウでは、利息を付した額を充当するもの35 とするか否かについて、隅付き括弧で両案を併記している。

 また、本文⑴ウについては、当事者間でこれを異なる取扱いをする旨を合意することは妨げられないと解される。なお、集合債権を目的とする譲渡担保契約において、設定者に目的債権の取立権限及び取り立てた金銭を利用する権限が付与されている場合には、個別の合意の解釈の問題ではあるものの、設定者に取り立てた金銭の利用権限が付与されている趣旨に鑑み、債権譲渡担保権者は第三債務者から弁済を受けた金銭を設定者に引き渡さなければならないと解釈される場合もあり得るものと考えられる。

3本文⑵について

 中間試案第15、4⑵では、債権質の被担保債権の弁済期前に目的債権の弁済期が到来した場合について、債権譲渡担保について【案15.4.1.1】を採用する場合にはこれと同様とする【案15.4.2.1】と、債権譲渡担保について【案15.4.1.2】を採用する場合にはこれと同様とする【案15.4.2.2】を併記していた。

 本文⑵では、第三債務者は被担保債権の弁済期を容易に認識し得るとは限らず、被担保債権の弁済期前に目的債権を弁済した第三債務者を保護する必要があることは、債権譲渡担保と債権質で異ならないこと、債権質について債権譲渡担保と異なる取扱いをする必要はないと考えられることから、上記のとおり債権譲渡担保について【案15.4.1.2】を採用することを踏まえ、【案15.4.2.2】を採用することとし、民法第366条第3項に本文⑴イ及びウと同様の規律を設けることを提案している。

4債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法

 債権の目的物が金銭でないときは、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について【動産譲渡担保権/動産質権】を有する。(15-5)

(説明)

 中間試案第15、5では、民法第366条第4項を参考として、債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合に、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産譲渡担保権又は動産質権を取得するものとしていた。

 債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合には、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について、設定者に返還することなく私的実行をすることができるものとするのが相当であるとの前提に立ち、かつ、前記第3において【案3.2】を採用し、動産質について流質契約の有効性を否定する民法第349条を維持する場合には、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産譲渡担保権を有することとした上で、その物を設定者に引き渡すことを要しないものとすることが考えられる。

 もっとも、財産権を担保の目的で譲渡した場合の法律関係を規律するという方式で規律を設け、そのような譲渡を受けた者が譲渡によって得る権利を譲渡担保権と称していることからすると、譲渡されたわけではない物について譲渡担保権を有することになるのは不自然であるし、担保権者が占有する物について有する担保権を、原則として非占有型であることが想定される譲渡担保権とする必然性も乏しいと考えられる。

 そこで、前記第3において【案3.1】を採用し、動産質について流質契約の有効性を肯定するのであれば、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産質権を有することとした上で、流質契約をしたものとみなすことが考えられる。また、債権譲渡担保権者は自ら非金銭債権に担保を設定したものであって、弁済を受けた物に対する私的実行をあえて認める必要はないと考えるのであれば、弁済を受けた物について動産質権を有することとしたとしても、流質契約をしたものとみなす旨の規律を設ける必要はないとも考えられる。

そこで、本文では、両案を併記しているが、この点についてどのように考えるか。

5直接の取立て以外の実行方法

⑴部会資料30の第6、2から4まで及び7(3⑶及び4⑷を除く。)は、債権譲渡担保権について準用する。(15-6⑴)

⑵債権譲渡担保権を民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することができるものとすることは、見送ることとしてはどうか。(15-6⑵)

(説明)

1本文⑴について

 中間試案第15、6⑴では、債権譲渡担保権の実行方法として、目的債権を直接に取り立てる方法のほか、帰属清算方式及び処分清算方式の実行方法を認めることを提案した。本文では、その実質を実現するため、帰属清算方式及び処分清算方式による動産譲渡担保権の実行手続に関する規律のうち、部会資料30の第6、2から4まで及び7(3⑶及び4⑷を除く。)の規律を準用するものとしている。

 部会資料30の第6、3⑶、4⑷及び5は、清算金の支払と目的物の引渡しとの引換給付関係や目的物の引渡しまでの受戻権を定めたものであって、目的物の引渡しを観念することができることを前提とする規律であるが、債権譲渡担保については目的物の引渡しを観念することができないから、債権譲渡担保権の帰属清算方式及び処分清算方式による実行については、これらを準用しないこととしている。これを前提とすると、設定者は清算金が発生する場合には債権譲渡担保権者の無資力の危険を負担することになるものの、この点は前記2のとおり債権譲渡担保権者が自己の債権額に対応する部分を超えて目的債権を直接に取り立てる場合も同様であるから、このように動産譲渡担保権の私的実行とは異なる規律とすることが必ずしも均衡を欠くものではないと考えられる。

また、部会資料30の第6、6の他の担保権者に対する通知についても、債権譲渡担保権の帰属清算方式及び処分清算方式による実行については準用しないこととしている。債権譲渡担保については登記優先ルールが採用されず、民法第467条に基づく通知又は承諾が法改正後も対抗要件具備の方法として相応に利用されることが想定されることからすれば、登記されている譲受人に対してのみ通知を送付する仕組みを採用したとしても、全ての劣後担保権者が通知を受けられるとは限らず、劣後担保権者による清算金債権に対する物上30 代位の利益を保護するための実効的で負担の小さい通知の仕組みを設けることが困難なためである。

2本文⑵について

 債権譲渡担保権が設定された債権に対する一般債権者による差押えの効力については、第三債務者が差押債権者に対して弁済したとしても、債権譲渡担保権者はこれを無視して第三債務者に請求することができるとする見解が多数であるように思われる(森田修編『新注釈民法⑺物権⑷』(有斐閣、2019)599頁〔角紀代恵〕、柚木馨、高木多喜男編『新版注釈民法⑼物権⑷〔改訂版〕』(有斐閣、2015)733頁〔占部洋之〕、道垣内弘人『担保物権法〔第4版〕』(有斐閣、2017)352頁、田中康久『新民事執行法の解説〈増補改訂版〉』(金融財政事情研究会、1980)295頁)。

 また、債権質の目的債権に対する一般債権者による差押えの効力についても、これと同様に、第三債務者が差押債権者に対して弁済したとしても、質権者はこれを無視して第三債務者に請求することができると解されている。債権質については、このような考え方に立ちつつも質権者が民事執行法第193条の規定に基づく債権執行手続による実行をすることが認められていることからすれば、債権譲渡担保権についても、債権質と同様に、上記の見解を前提としつつ、同条に基づく債権執行手続による実行を認めることは可能であるとも考えられる。

 また、質権者が同条に基づく債権執行手続の申立てをして目的債権を差し押さえた場合において、質権者自身の有する実体法上の取立権限が失われるか否かについては、見解が分かれているが、失われないとの見解に立った場合には、他の債権者による差押えが競合しても質権者の取立権限は失われず、また、第三債務者は、質権者の同意がない限り供託によって免責されることはないし、差押えが競合した場合であっても供託義務を負わないこととなるとされている(田中康久『新民事執行法の解説〈増補改訂版〉』(金融財政事情研究会、1980)465、467頁、香川保一編『注釈民事執行法<第6巻>』(金融財政事情研究会、1995)930、931頁〔三村量一〕、鈴木忠一、三ヶ月章編『注解民事執行法(5)』(第一法規、1985)321頁〔渋川満〕)。

 仮に債権譲渡担保についてもこれと同様の見解に立つとすれば、第三債務者は、債権譲渡が真正債権譲渡であるか債権譲渡担保であるかにかかわらず、常に差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済すれば足りることとなるから、第三債務者の利益が害されることはないようにも思われる。

 しかし、上記のとおり、第三債務者は供託によっても免責されないために常に差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済するほかないのであれば、そもそも債権譲渡担保について同条に基づく債権執行手続による実行を認める意義は乏しい。

 これと異なり、例えば、第二順位の債権譲渡担保権者がした同条に基づく債権執行手続の申立てにより目的債権が差し押さえられた場合には第一順位の債権譲渡担保権者の取立権限が失われることとし、第三債務者に供託をさせた上でその金銭を配当するという仕組みを採用するのであれば、第三債務者は第一順位の譲受人に対する債権譲渡が真正債権譲渡と債権譲渡担保のいずれであるかによって異なる対応を求められることとなる(真正債権譲渡であれば差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済しなければならないが、債権譲渡担保であれば第一順位の譲受人に弁済してはならない)が、第三債務者が通知の内容によって真正債権譲渡と債権譲渡担保を区別することは困難な場合があることからすれば、このような仕組みも相当とはいえない。

 また、前記(説明)1のとおり、債権譲渡担保については実効的で負担の小さい通知の仕組みを設けることが難しく、優先し又は劣後する債権譲渡担保権者が手続を排除し又は手続に参加するための機会を確保することは困難である。

 さらに、質権の同条に基づく債権執行手続による実行については、目的債権が条件付等で取立てが困難であるために売却命令を得るべき場合などに実益があるとされているが、債権譲渡担保権については、そのような場合には帰属清算方式又は処分清算方式による実行をすれば足りるから、同条に基づく債権執行手続を認める必要性は乏しく、これを認める具体的な実務上のニーズも指摘されていない。

 以上のとおり、債権譲渡担保権については、第三債務者の利益を保護しつつ利害関係人の関与の機会を確保できるような形で同条に基づく債権執行手続を認める仕組みを構築することが容易ではなく、これを認める具体的なニーズも指摘されていないことから、本文では、債権譲渡担保権を同条に基づく債権執行によって実行することができるものとすることは見送ることを提案しているが、この点についてどのように考えるか。

 なお、中間試案第15、7(集合債権を目的とする譲渡担保権の実行)については、次回の部会資料で取り上げる予定である。

委員等提出資料34-2 集合動産を目的とする譲渡担保における目的財産の特定とその登記の在り方に関する検討メモ

1「動産の保管場所の所在地」の外延拡張の必要性

  • 登記実務上、動産・債権譲渡規則(以下、「規則」という。)8条1項二ロの「動産の保管場所の所在地」要件(以下、「上記要件」という。)を満たす場所的要素の特定の在り方が限定的であることに起因する困難事例が、まま見受けられる。

cf)民事実体法上の動産の特定<例1>担保権設定時における困難事例

①船舶や大型自動車内にある目的財産等、動産の保管場所の所在地自体が随時移動する場合

②番外地上や一定範囲の海域内又は一定範囲の空間内において管理される動産等、動産の保管場所の所在地自体に、地番等の一般的な特定要素が存在しない場合

<例2>担保権設定後に発生した事情による困難事例

動産の保管場所の所在地であるA倉庫が満杯となったためにB倉庫を搬入先として追加変更する場合や、後発的にA倉庫からB倉庫へ全在庫を移動する場合

2外延拡張の方向性(例)

(1) 規則8条1項二ロの「動産の保管場所の所在地」の定義のもとでも、「店舗」「倉庫」等、保管場所の所在地を構成する要素としては、不動産登記における建物の種類(不動産登記法44条1項3号)1同様に、当事者の主観を一定程度加味したものが、既に許容されている。

1 不動産登記における建物の特定要素である建物の種類(不動産登記法44条1項3号)は、当事者における主観的な建物利用の在り方を一定程度加味して定められる。

>∴規則8条1項二ロの「動産の保管場所の所在地」の定義として、当事者の主観的要素を加味する方向で外延を拡張することは、一定程度、許容され得る。

(+上記定義が条文文言としてわかりにくくなる点を問題とするなら、例えば、規則8条1項二ロを「動産の保管場所の所在地その他これに代わる特定事項」と改める等の対処も、検討の余地あり。)

(2) 上記1<例1>の解決の在り方として、例えば、次のようなものが考えられる。

・<例1>①の場合、例えば、大型自動車における車台番号等、他の特定要素による代替を許容するetc.

・<例1>②の場合、所在地に係る緯度・軽度や世界測地系座標等、地番同等に視覚的・客観的に認識可能な特定要素で区分してその設定の登記を行えば、現状でもある程度、対処可能である。

→他方、所在地の形状が複雑である場合等、当該認識可能な特定要素による特定をすることにつき当事者の負担が重いときには、例えば、「○○農場」「××発電所」といった当該所在地の名称等、他の特定要素による代替を許容するetc.

(3) 上記1<例2>の解決の在り方として、例えば、次のようなものが考えられる。

・<例2>の場合、動産の保管場所の所在地をB倉庫とする担保権の追加設定の登記を行えば、現状でもある程度、対処可能である。

→他方、保管場所が変更されるたびに追加設定の登記を都度行う当事者の負担が重いことを重視するなら、例えば、当初の担保権の設定時においてあらかじめ、動産の保管場所の所在地に代えて、「東京都千代田区麹町一丁目〇番地、・・・、及び譲渡人の所有権、賃借権等に基づき保管する場所」、「○○湾内における養殖場」、「工場(製造委託先を含む)」、「店舗(移動式店舗を含む)」等、必ずしも具体的な動産の保管場所の所在地によらない一定の評価的要素による特定を許容するetc.

以上

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