加工 法制審議会担保法制部会第3回会議 議事録

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00070.html

部会資料2-2 部会資料2の補足(第2、5関係)【PDF】

https://www.moj.go.jp/content/001350529.pdf

部会資料3 担保法制の見直しに向けた検討(2)【PDF】

https://www.moj.go.jp/content/001350751.pdf

委員等提出資料3-1 担保法制の見直しに関する意見【PDF】(冨髙裕子委員提出)

https://www.moj.go.jp/content/001350527.pdf

第1 日 時  令和3年6月8日(火) 自 午後1時30分                    至 午後5時28分

第2 場 所  法務省第一会議室

第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(1),(2)

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第3回会議を開会いたします。

  本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

  配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。

○笹井幹事 新たにお送りしたものとしまして,部会資料2-2「部会資料2の補足(第2,5関係)」と部会資料3「担保法制の見直しに向けた検討(2)」がございます。これらにつきましては,後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。また,今回は,前回お配りした部会資料2「担保法制の見直しに向けた検討(1)」についても使用いたします。

  次に,事務当局から準備した部会資料のほか,委員等提出資料3-1として,「担保法制の見直しに関する意見」と題する一枚紙を配布しております。こちらは冨高委員から提出されたものでして,内容につきましては後ほど冨高会員から御紹介いただく予定です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。

  本日は前回の積み残しの物上代位のところからなのですけれども,委員等提出資料3-1というのが提出されております。冨高委員から提出していただいておりますけれども,全体に関わる事柄ですので,今日の個別的な問題に先立って御意見を伺えればと思います。冨高さん,お願いいたします。

○冨高委員 ありがとうございます。審議の冒頭,貴重なお時間を頂戴し,感謝申し上げます。本意見書は,既に基本的には今まで申し上げてきたことでございますが,この間,我々の傘下の組合などから懸念の声などもあることから,改めて意見書の形で提出させていただきました。

  まず,私ども,この部会に参加させていただく中で現場の声も聴いておりますが,実態として,特に中小企業が倒産する直前等においては動産や債権が譲渡担保として活用されており,在庫を処分することで労働者の賃金債権を確保するはずであったものが,担保とされてしまったために賃金債権回収がままならないといった事態が現場では多く起こっていると聞いております。

  1番に記載のとおり,2003年に成立しました「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」の衆参両院の附帯決議の中では,労働債権と他の債権との調整について,労働者の生活の保持に労働債権の確保が不可欠であることを踏まえて,検討して所要の見直しを行うことが決議されており,参議院の附帯決議にはILO173号条約の早期批准についても言及されています。

国際労働機関

1992年の労働者債権保護(使用者の支払不能)条約(第173号)

https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_239006/lang–ja/index.htm

先ほども述べたように,既にこの2回の部会でも述べておりますが,労働者の賃金債権は一般先取特権がありますけれども,担保や公課債権に劣後するので,賃金債権確保が容易でないことは先ほど申し上げたとおりでございます。したがって,この附帯決議に基づく見直しの検討は不可欠で,その議論を尽くした上で動産債権に対する担保権の設定に係る議論を行っていただきたく記載をしております。

  また,倒産等による未払賃金は,国の制度で未払賃金立替払事業もございます。しかし,この制度はあくまで国による賃金の立替え払いで,立て替えた後には当然のことながら国は使用者に対して求償を行いますが,実際には2019年の立替え払いの総額約86億4,000万円のうち求償によって回収された債権額は非常に低くなっております。これが今後,動産や債権にも担保権が設定されますと,さらに回収が難しくなり,この未払賃金立替払事業本体に与える影響も大きくなるのではないかと考えられます。既にご意見として出ておりますが,他の制度の波及,影響についても同時並行で検討していただきたく,改めて意見書として提出させていただいた次第です。ありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。冨高さんからの御説明につきまして御質問がございましたら,お願いいたします。

  差し当たってはよろしいでしょうか。全体に関わることであり,例えば,倒産のときの担保権の効力を弱めると,それは一般債権者のためであると言ったりすることがあったりするのですが,一般債権者との関係だけでなく,他の権利者ないしは先取特権者とのバランスをどういうふうにしてとっていくのかという問題です。それは,各担保権の実体的効力を考える際に極めて重要な点だろうと思います。そういう点を個別的な場面の議論において念頭に置きながら進めていければと思いますので,そのときにも冨高さんからも更に補足的な御意見を伺えればと思いますし,また,皆さんにおかれましても,それを踏まえて御議論をいただければと思います。

  それでは,そういうわけで,全体のこととして扱わせていただくことにいたしまして,部会に基づく議論に入りたいと思います。

  まず,前回からの積み残しとなっておりました部会資料2「担保法制の見直しに向けた検討(1)」について議論を行いたいと思います。

  まず,事務当局から部会資料2の「第2 個別動産を目的とする担保の実体的効力」の5と6と,それを補足する部会資料として2-2というものが今回出ておりますので,それを説明していただくことにしたいと思います。

  2-2について私から一言申し上げますと,前回,物上代位の話をするに当たって,物上代位というのは,例えば担保の目的物が売却されたり,あるいは滅失したり,いろいろな場面に問題になってくるわけですが,そうなりますと,担保の目的物について,そもそも例えば売却権限があるのかとか,ないのかとか,売却したときにはどういう法律関係になるのか,そういうことの決定ないし議論を抜きにして物上代位について独立に語るというのは難しいのではないかという御意見を頂いた次第です。それは誠にごもっともであるとは思うのですが,かといって,それを確定的に決めてしまうということが現段階でできるわけではなく,その前に,物上代位一般についても意見分布といいますか,皆さんの御意見を伺うことも重要かと思います。そこで,前回の御指摘を受けまして,例えばこういうふうな実体的な効力というのが考えられるだろうというところを示し,それを踏まえながら,それについても意見ももちろんあっていいわけですが,主にはそれを踏まえながら,物上代位の問題について少し,第一読会といいますか,最初の意見の分布といいますか,皆さんの御意見を伺うということにしたいと思いまして,部会資料2-2というのを,補足として今回,事務局の方から提出していただきました。それも含めまして,その御説明をお願いいたします。

○笹井幹事 部会資料2の18ページ「5 物上代位」につきましては,前回既に御説明したところですけれども,少し時間も経ちましたので,簡単に振り返りたいと思います。

  現在の譲渡担保の物上代位につきましては,売買代金債権や損害保険金請求権に物上代位権を行使することができるというような裁判例があることを踏まえ,部会資料の5の本文においては,動産を目的とする担保権について,物上代位に関する民法304条と同様の規定を設け,その手続として差押えを必要とする,という提案をしております。

  本文の(3)は,物上代位を認めた上で,目的物の代償物がほかの担保の目的財産となっていた場合に,当該ほかの担保と物上代位との優劣について取り上げたものです。同様の問題は先取特権と抵当権についても既にある問題で,それぞれ判例がありますけれども,そこで示された優劣の基準が先取特権と抵当権とで少し異なっているということもありまして,仮に動産を目的とする担保権に関して規定を設けるとすると,どちらの方に倣った規定とするのか,見解が分かれておりますので,両論併記の形でお示しをしております。

  以上が5でございまして,次に23ページの「6 被担保債権の範囲」につきましては,質権に関する規定に倣って,被担保債権の範囲に関する民法346条と同じような規定を設けることを提案したものでございます。

  以上が部会資料2ですけれども,これに加えまして,今,部会長から御紹介いただきましたが,部会資料2-2を準備いたしました。

  これは,前回の御指摘を受けまして,設定者がどんなことができるのかということを検討したものですけれども,考えられることといたしましては,目的物の真正譲渡,それから,物上代位とは直接関係ないかもしれませんけれども,後順位の担保権の設定が考えられるところかと思います。担保取引としての実質からすれば,設定者による真正譲渡でありますとか,あるいは後順位の担保権の設定を認めてもよいのではないかとも思われますけれども,特に,担保目的での所有権の移転ですとか留保に関して規律を設けるというようなタイプの規定の設け方を念頭に置いた場合には,最初に担保目的での譲渡がされ,これについて対抗要件も具備されたという状況の下で,なぜその後に設定者が重ねて真正譲渡をしたり,あるいは担保目的で譲渡したりすることができるのかについて理論的にどのように説明するのかが問題になると思います。

  このほか,真正譲渡,それから,重ねて担保権の設定ということに加えまして,賃貸をするとか,あるいは物権的請求権としての妨害排除なり返還請求なりをする,これも物上代位とは直接は関係ないかもしれませんけれども,そういった物権的請求権の行使,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求権などが問題になってくるかと思います。賃貸ですとか物権的請求権の行使,それから保険への加入などは,設定者がすることができるということでよいのではないかと思っておりますが,不法行為に基づく損害賠償については,御承知のように現在の譲渡担保について見解が分かれておりまして,特に担保目的での所有権の移転を規律するというタイプでの立法を考えた場合にどうなるのか,それは現在の譲渡担保と同様に考えるのではないかと思いますけれども,そこが現在,見解が分かれているという状況かなと考えております。

  私の方からは以上でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  それでは,今の御説明を踏まえまして,5,6の,あるいは補足資料についてでもよろしゅうございますけれども,御意見を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

○亀井幹事 中小企業庁の亀井です。御指名ありがとうございます。

  まず,この物上代位の問題というのは,第1の3で論点提供された,どのような担保に関する規定を設けるのか,ですとか,担保の目的財産の範囲と関わる問題として検討されるものでしょうか。例えば,動産,その代金債権,そしてその果実といったものも含めて,あらかじめ担保権に取ることができるという制度を採った場合,この場合でももちろん物上代位というのがあり得ることは否定しませんけれども,物上代位の問題は,担保権はどのように設定できるのか,担保権を設定できる目的財産は,種類等を含めどのような範囲で取れるのかという問題と絡めて検討する必要があるように思いました。

  あと,もう一つ,部会資料2-2の「担保権設定者による行為の効力」の「1 設定者による目的物の譲渡」について,(1)が新しい担保権を創設する方式を採った場合,(2)・(3)が担保目的取引規律型を採る場合のことを述べられていると理解をしておりますけれども,(3)については,この新しい担保物権を創設する方式を採った場合についても検討する必要がある論点のように思いました。具体的に言うと,この即時取得の適用の可能性について,譲受人が善意無過失である場合には即時取得できるのだと,取引をした方は,担保が付いていないものを取得できるのだというような御説明がありますけれども,これは中小企業庁の研究会でも議論になったテーマでして,事業の範囲外でお取引をした場合には,この譲受人が,登記なのかファイリングなのかは分かりませんけれども,この担保に取られているかどうかを確認しない場合には過失が推定されるというような制度にすべきではないかというような議論がありました。事業を担保に取った場合に,その担保権者を保護するという趣旨で,そういった制度を採用すべきではないかという議論がございましたので,是非そういった点についてもこの場で御検討いただけたらと思います。

  私からは以上です。ありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。2番目のところの御意見につきましては,処分の効力というのを考える際にもう一度検討したいと思います。前半におっしゃった事柄なのですけれども,それは,例えば,処分した売却代金債権でもいいですし,不法行為に基づく損害賠償債権でもいいですし,保険金請求権でもいいのですが,それについて担保を設定できるというふうにしたら,別段,物上代位は要らないのではないかということを示唆されている御見解なのでしょうか,それとも,そういうのもあるから,それとの関係を考えなければいけないよねというお話なのでしょうか。

○亀井幹事 ありがとうございます。前者か後者か,もちろん広い範囲で担保を設定できるようになれば,物上代位をするシチュエーションというのが想定されにくくなるということを申し上げたつもりですけれども,担保の設定の仕方によっては物上代位という場面も想定され得るとは思いますので,広く担保を設定できる制度を採ったから物上代位について検討する必要はないと申し上げたつもりはありません。

○道垣内部会長 分かりました。

  今,お手がもう一人上がっていたのですが,どなたでしたっけ,御発言いただければと思います。いや見間違いかもしれませんので,他の方でも御自由にお願いします。

○沖野委員 物上代位について3点を申し上げます。

  一つ目は,物上代位を認めるということ自体は,基本的にそれで結構だと思っております。二つ目ですけれども,(3)に関しまして,競合する場合に二つの考え方があり,いずれの考え方もあると思うのですけれども,さらに,その元物についての公示制度,特に登記ですとかファイリングということを想定したときに,それと債権を対象とする登記制度なりファイリングなり,あるいは優先関係の決定なりが同じもので行われるのか,それとも別の登記なりの制度になるのかということによっても違ってくるのではないかと考えられるように思います。

  両者がそれぞれ別であるときは,やはり公示力が抵当権の登記ほどにはないというのは,ここに書かれているとおりですし,そうしたときに自衛すればいいのだと考えるとすると,元の動産を取っているものが,それが代わりの債権になったときにそれにも及ぶという合意をし,それについて対抗要件等を備えるということと,これに対して,債権を取る者が,その債権の原因に遡って,その原因になり得るような関係を想定しつつ元の方も取っておくということと,どちらが期待できるのかということを考えると,前者の方ではないかと考えられますことから,格別の登記制度などであれば,【案2.2.5.1】の形がよろしいのではないかと考えておるのですけれども,これが同一の登記等の制度であるならば,債権を取ろうとする者はいずれにせよチェックする,もちろん取引前には自身では詳細までは分からないわけですが,譲渡を受けようというような場合については当然,設定者や債務者から具体的な情報を出してもらうことになりますので,それを通して詳細をチェックしてから,競合するものがないかというのを確認して取るということでしょうから,そうすると当然,その前にあるものが出てきますので,後から来る人は登記等でチェックできるはずだと考えれば,【案2.2.5.2】ということも十分あり得るのではないかと思ったところです。

  もう1点なのですけれども,これは細かいことですけれども,賃料について,賃料や収益にも掛かっていけるということで,これもよろしいのではないかと思っておるのですけれども,22ページのところに,本文(1)の賃貸というのが墨付きパーレンで入っている点についてです。これは賃料なり収益なりに掛かっていける,その根拠規定をいずれと考えるかによって違ってくるからだとされております。その限りではそうかなと思うのですけれども,最終的な形態を考えると,304条型の規律で,具体的には(2)の規律なども入ってくるとしますと,結局(2)の規律を導くためには,それに賃貸が入ってくるというようなことは書かざるを得ないのではないかと,そういう意味では(1)の,このような表現の中には結局,賃貸も入れることになるのではないかと思ったところです。

○道垣内部会長 ありがとうございました。最初におっしゃったのは,結局,同一のファイリングないしは登記のシステムだったならば,債務者を基準にして検索を掛けたら,こういったタイプの動産が担保に取られているというのが分かるので,それの売却代金債権についても及ぶのだということがわかる,つまり,債務者から検索をすれば分かるだろうと思われるが,それに対して,債権を担保に取ろうとか譲渡を受けようという人に対して,債権とは別個の動産のファイリングシステムまで検索しろというのには,多少やはり無理があるのではないかと,そういう話ですね。

○沖野委員 はい,そういうことです。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかには何か御意見はございますでしょうか。

○片山委員 片山でございます。貴重な時間をお与えいただいてありがとうございます。

  前回のときもお話ししたことと関係するのかもしれませんが,目的債権の処分との優劣関係の問題で,(3)の【案2.2.5.1】か【案2.2.5.2】かという話で,対抗要件具備といいますか,登記時が基準になるということなのですけれども,これは賃料債権への物上代位の平成10年判決が示しているものでありまして,原則として物上代位をすること自体は,差押えを要求しておりますので,その差押えが基準になると考えるべきではないかと私自身は思っております。要するに,物と違う債権について効力が及ぶというのは,これは物上代位をして始めて効力が及ぶということで,そのためには差押えが要件となっているということなのだと思います。

  それと反対に,賃料債権については,平成10年判決の段階ではまだ改正はなされていなかったわけですけれども,それを正当化できるとしたら,やはり371条が平成15年改正で導入されて,賃料にも抵当権の効力が及ぶということが大前提となるので,それが登記されているということであるならば,その登記時が基準になるということなのかと思っています。そういう意味で,物上代位が物以外の権利に広く及ぶということについて,公示がなされているので全て登記時基準にしてよいということにはならないのかなと考えているところでございます。

  仮にその果実について,賃料については担保権の効力が及ぶということが,明確に別な規定を設けて認められるということであるならば,それはまた別に考慮することができるかもしれないのですけれども,それでもなお差押えを基準とすべきだという考え方は十分に成り立つかとは思いますので,直ちに【案2.2.5.2】になる,対抗要件具備時を基準にできるということにはならないのではないかと考えている次第でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。片山さんの話を私の理解したところでまとめますと,例えば動産について担保権が設定されていると,それが公示されているというのが,それを売られたときの債権についても及んでいますよねという公示を直接に示していると考える,債権についても同一の登録制度にそれが載っているということになるならば,そういうふうに考える余地もあるということなのだろうと思うのですが,他方で,そうではなくて,これは飽くまで物上代位で,動産について設定されている担保権の効力が別のところにも及んでいくのだと考えたら,それはやはり差押えによって効力が,公示がなされるといいますか,ということになるので,差押えを基準に優劣を考えなければいけないということになるのだろうと思います。つまり,言い換えると,ここにいう物上代位というのが,いわゆる抵当権の物上代位と同じ話なのか,それとも,動産の担保権の効力がどこまで及ぶというふうなものとして構想していくという話なのかということにも関わっているのかなという気がいたしましたが,いずれにしても,それは議論のあるところだと思います。

○大澤委員 大澤でございます。先ほど沖野先生から,賃料の物上代位のお話が少し出ましたので,その観点で少しと思いました。

  担保法のレベルでいえば,収益との関係で賃料にも物上代位が及ぶというのは十分理解はできるかなと思っておるのですが,実際に今度は包括執行になった倒産の場面では,また別途の考え方が必要かなとも考えております。というのは,破産管財人等が担保権に基づく,抵当権その他ですけれども,物上代位で,賃料なり何なり,その収益を吸い上げられてしまっている一方で,一般債権者の負担において管理をしなければいけないというのは問題が生じるというのは,随分前から言われていることでございまして,この点は多分,別途,倒産法のお話が大分後ろで出てきますけれども,その際にその費用の問題として語られる場面でもあるかなと思ってはおるのですが,その費用の問題だけではなくて,そもそもそういった物上代位をいつまで認めるのかと,倒産法との関係で少し考えるべきではないかというふうに,今この資料の方を読んで,感じております。

  簡単ではございますが,以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  いろいろな方からも御意見いただきたいと思いますので,青木則幸さん,お願いいたします。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。1点気になっていることなのですが,こちらは物上代位の目的,客体なるものであっても,別途,将来債権の譲渡担保という形で取ることはでき,そのときの将来債権の譲渡担保の特定の中身が動産の物上代位の客体と全くかぶっていても,それは差し支えないということでよろしいのでしょうか。というのは,物上代位であれば差押えが必要だけれども,恐らく将来債権の譲渡担保であれば私的実行も可能ということになるのかと思いますので,この2つは両立する別の制度だということでよろしいのでしょうか。そうだとすると,包括担保というものが認められるということになった場合には,包括的な目的物なのだから,その将来債権の譲渡担保の部分を優先するという形に整理されていくことになるのでしょうか。この関係についてお伺いしたいと思います。

○道垣内部会長 お伺いしたいというよりは,青木さんがどのように考えるのかの方が重要だろうと思うのですけれども,先ほど私が申し上げた事柄になるのだろうと思うのですけれども,ここでいうかぎ括弧付きの物上代位の対象となる債権であっても,それについて譲渡をしたり,あるいは担保権をそれについて設定したりすることを禁ずるということはできないのだと思うのです。そうすると,後から担保に取ったり,後から譲渡を受けたりした人が負けるというのはあり得るだろうと思うので,それは,どちらですかというよりは,勝ち負けをどちらにしますかという問題に収斂されるのではないかと思いながら伺っていたのですが,それは青木さん,私の理解の誤りでしょうか。

○青木(則)幹事 すみません,「手を挙げる」のボタンを押したタイミングの問題でお話と重なってしまったように存じます。申し訳ありません。整理していただいたとおりかと存じます。ありがとうございます。

○道垣内部会長 どうお考えになりますか。

○青木(則)幹事 基本的には,包括担保の目的物の問題だと考えるべきではないかと思っておりました。物上代位の規定を強行法的な形で広げていくと,そちらに飲み込まれてしまうといいますか,一種の競合が生ずるのかなと思っております。個人的には,なるべく物上代位の方に飲み込まれない方向,特に売却代金債権については飲み込まれない方向が望ましいのではないかと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに御意見はございますでしょうか。

○藤澤幹事 前回の会議のときに,設定者の処分を取り上げた方がいいのではないですかとか言ってしまったような気がして,それで,すごく緻密な資料を頂いて,すごく申し訳ない気分になっております。すみませんでした。せっかく頂いたので,その資料2-2についてコメントを二つ考えてきました。

  物上代位とは関係なくなってしまうかもしれないのですが,一つ目が,設定者による処分行為の効力についてです。資料は,担保設定者が目的物を処分した場合には,処分の相手方に設定者留保権的なものが承継取得されることを前提にしているように読めましたが,その前提を確認しておく必要はないでしょうか。

  第1の確認事項は,処分行為の解釈です。担保目的物の完全な所有権を移転する目的で処分行為が行われた場合に,本当は完全な所有権がないにもかかわらず,設定者留保権的なものだけが当然に移転することになるのかという疑問を感じました。自分がどのように考えるか固まっているわけではないのですが,単なる無権限の処分行為であるとして,何も移転しないという考え方はあり得ると感じました。

  第2の確認事項は,今度は設定者留保権的なものだけを移転するという合意があった場合についてです。担保権者と設定者との間で,設定者留保権的なものを移転してはいけないという合意があった場合には,その合意に反した処分が無効なのか,それとも,その合意は債権的な効力しか持たず,処分が有効なのかというところをもう少し考えてみたいと思いました。

  それから,二つ目のコメントは物権的請求権についてです。資料2-2の3ページのところで,物権的請求権がどちらに帰属するのかという問題が提起されていまして,もちろんそれは重要な論点であると思ったのですが,所有権についても,それ以外の制限物権についても,民法には物権的請求権の規定はなくて,解釈に委ねられている状態だと思います。そうすると,今時の立法についてだけ物権的請求権を明文化するということは難しいような気がしました。

  他方で,賃貸借については債権法改正に際して605条の4の規定が設けられていて,賃借人として何ができるかということがはっきり書かれるようになりました。担保取引規律型を採る場合には,その権利の性質が物権なのか,どちらが所有権を持っているのかということに立ち入らないで,このように設定者ができること,つまり,結論だけを書いてしまうというのが,その立法の姿勢とも整合して,分かりやすいのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○阿部幹事 私も,藤澤先生の第1のコメントと少し関わるところで疑問を持ったのですけれども,資料2-2の1(2)の冒頭のところで,担保目的取引規律型を採るとしても,設定者が目的物の真正譲渡をする必要がある場合もあると考えられ,その余地を残しておくのが妥当であるように思われると書いてあるのですけれども,これが具体的にどういう場合なのかというのが私にはよく分かりませんでした。取り分け,ここで念頭に置かれているのは,はっきりとは書かれていないですけれども,設定者が担保権者に無断で目的物の真正譲渡をする必要がある場合だと思うのです。つまり,担保権者の合意を取った上で目的物を真正譲渡することができるというのは当たり前で,その場合に担保権が残るか残らないかというのも合意次第だと思うのですけれども,ここで念頭に置いているのは,そういう担保権者の合意を得て目的物を真正譲渡する場合ではなくて,設定者が自分の一存で何ができるか,そういう議論だと思うのですけれども,そのときに果たして無断譲渡する権限を設定者に認める必要があるのでしょうか。確かに抵当権の場合には,抵当不動産の言わば無断譲渡をする権限が設定者に認められているわけなのですけれども,こと動産の担保権設定者にそこまで認める必要が本当にあるのかどうか,実際にあるとすれば,それはどのような場合なのかを伺いたいと思いました。

○道垣内部会長 いや,結構なのですが,それについて,それは認めるべきではないというお考えならば,そう言っていただければ。

○阿部幹事 そうなのですけれども,ただ,資料ではその必要がある場合もあると書かれているので,それはどういう場合を念頭に置いているのかを伺いたく思いました。

○道垣内部会長 阿部さんはそれに反対だけれども,必要がある場合もあるというのはどういうことなのだろうということですね。

○阿部幹事 はい,そういうことです。

○道垣内部会長 事務局から何かありますか。

○笹井幹事 まず,阿部先生の御質問につきましては,例えば,非常に高価なもので,いろいろ資金繰りも悪くなってきたので,担保価値の余力がある部分に関してはお金に換えたいと,そういう場面があるのではないかとか,事業全体も譲渡することになったが,譲渡される財産の中に譲渡担保権が設定されていたものがあって,しかしもう自分としてはその事業から手を引くので,事業の譲受人に完全に譲り渡してしまいたい,ただ,担保権の負担はくっついていく形で譲り渡してしまいたいというような,そういうケースがあり得るのではないかと思った次第です。

  それから,藤澤先生の一つ目のコメントですけれども,完全な所有権として譲渡したつもりだったのだけれども,そのときに実は完全な所有権でなかった場合に,どの部分で移転するかというのは,これは結局,最終的にはその契約の解釈によってくるのかなと思いました。あるいは,所有権そのものと設定者留保権と呼ばれているものの同質性というか,それを全く違うものとして捉えるのかというところとも関わってくるかもしれません。いずれにしても,契約としては成立しているのだとした場合に,どういう契約が成立したかというと,それは完全な所有権を移転するという契約が成立していたのだと見た上で,しかし,譲渡した側がその履行をできなかった場合には,それは債務不履行として処理されていくのではないかと思います。それ以前の問題として,そもそもそれは契約として成立していないのだという立場もあるかもしれませんが,差し当たりは債務不履行として処理されていくのではないかと考えておりました。

  それから,二つ目の,設定者留保権を移転してはいけないという合意が仮にされていた場合のことですけれども,これは,今ここで考えたことですけれども,それは恐らく債権的な合意で,物権的なものとして設定者留保権を捉えるならば,その移転を禁ずることは債権的には有効であるとしても,それが第三者に譲渡されて対抗要件が具備された場合には,譲り受けた人に対しては対抗できないということになるのではないかと思います。

  全体の二つ目としてのコメントで,物権的請求権を明文化するのは難しいのではないかというのは,これは御指摘のとおりだと思います。2-2は設定者が何ができるかということを検討するに当たって全体的に考えてみたということで,そういう意味では頭の整理ということで,必ずしも明文化を意図してこれを作ったというわけではございません。

○道垣内部会長 よろしいでしょうか。

○佐久間委員 ありがとうございます。今,阿部さん,藤澤さんがおっしゃったことと,笹井さんがお答えになったことに関してなのですけれども,まず,阿部さんがおっしゃった2-2の1ページの(2)のところなのですけれども,私はこれは素朴に3行目の,設定者が担保所有権の負担のあるものとして目的物の真正譲渡をした場合というのは,担保所有権の負担のあるものとしての譲渡だから,今でいう,いわゆる設定者留保権をそれとして譲渡し,結局,この譲受人は第三取得者になっているという場面が想定されているのかなと思いました。そうだとすると,阿部さんは認める必要はないとおっしゃったのですけれども,どのぐらいニーズがあるのか私も分かりませんが,譲渡担保を例えば念頭に置きますと,譲渡担保権者は優先弁済の権能さえ確保されていればよろしいはずで,そうであるときに,誰の下に占有があるかとか,誰がどのように物を使うかということに関してまで介入できるようにする必要はないのではないかと思ったものですから,私は別にこれ自体としては認められてもよいのかな,繰り返しですけれども,担保所有権の負担のあるものとして譲渡しましたというときは,それはそれでいいのかなと思っておりました。

  しかし,そうではなくて,ここからが藤澤さんがおっしゃったことに笹井さんがお答えになったことに移るのですけれども,単純にこれは私が完全な所有者ですという形で物の譲渡が行われたというときには,それで本当に何か権利が移るのか,移らないのかというのは,いろいろな立場がやはりあり得るのだろうと思いました。そのときに,私は,それがいいと思っているわけではないのですけれども,立場によっては,藤澤さんがおっしゃったように何も権利は移らないということはやはりあり得るのではないかと。少し例は違いますけれども,地上権者が自分が所有者として土地を売買したというときに,では地上権だけ当然に相手方に移りますかというと,多分そうは考えていないのではないかと思うのです。所有権に負担が付いているというときに,所有権は取得できるけれども,負担がくっついていますということはありますけれども,全く別の権利が,所有権でない権利が売買によって相手方に取得されるということは考えられていないのではないかと思うのです。そうだとすると,ここの設定者留保権と今まで呼ばれてきたものが,例えば所有権の一種であると捉えようということになったのであれば,真正の売買の場合には,所有権自体が移り,しかし担保権の負担が付いていると整理はできると思うのですが,そういう整理をしないということになると,売買をしたって何の権利も移らないと考えることになるのではないかと。そうすると,笹井さんがおっしゃったことに関連するのですが,債務不履行の問題はもちろん起こるのですけれども,債務不履行の問題が起こるという前に,そもそも物権が何がしか相手方に移っているものがあるのかどうかということを考えなければいけなくて,それは結局のところ,譲渡担保が例えば設定された場合に,その設定者が持っている権利を,所有権と呼ぶかどうかはともかくとして,所有権と同じような権利を持っているのだと最終的に見るか見ないかというところで,結局変わってくるのかなと,そこを決めないといけないのではないかと思いました。

  もう1点ありまして,戻って申し訳ないですけれども,物上代位のところで,前回いろいろ発言したので,同じことを言おうとは思わないのですが,本日の物上代位に関して出てきた意見では,18ページの(3)のところで,【案2.2.5.1】と【案2.2.5.2】があるところ,どちらかというと【案2.2.5.1】の方が優先なのではないか,取り分け物の売却代金債権について,同じ債権を担保に取った人がいた場合には,シチュエーションを分けて御発言もありましたけれども,債権の譲渡の方が勝ってもいいのではないかという話がありました。飽くまでこれは登記の制度とかファイリングの制度がある程度できるということを前提としてなのですけれども,そのような制度ができた場合には,物の売却代金債権を担保に取ろうという人は,何が価値の源であるかということは認識しているはずであるので,その自分の債権の価値を生み出す元になる物に関して誰かが先に優先弁済の権能を押さえていないかどうかということを,登記とかファイリングを通して確認すべきだということは,私はあってもいいのではないかと,そのような立場を採ることがあってもいいのではないかと思っています。それでないと,先ほど道垣内先生がおっしゃったことですけれども,物を担保にせっかく取ったのに,債権を担保に取るという形で現れた人がいたら,結局物を担保に取ったということの意味がほとんどなくなってしまうおそれがあるのではないか。それが嫌ならば債権の方も一緒に取っておきなさいというのは,それは言うのは簡単ですけれども,全ての債権者にそこまでのことを簡単に期待できるかというと,なかなか難しい局面もあるのかなと思いましたので,私はそのように考えております。

  以上です。長くなりまして申し訳ありません。

○道垣内部会長 いえ,どうもありがとうございました。佐久間さんの話に一言だけ申し上げますと,占有がどこにあるのであっても優先弁済を確保できればいいと,それは違うのではないかと思います。抵当権の場合には占有が動かないですから,不動産登記簿提出して実行できるわけですけれども,動産の担保を実行するときに,所在がどこにあるのかというのが重要になり,所在場所が動いても実現できるということにはならないのではないかなと思います。そして,そうなると,阿部さんがおっしゃったように,処分自体がそもそも駄目だというのはあり得るのではないかなと思いながら伺いました。それと,そのときに後順位というものを認めるというのは多分に話が違って,後順位というのは占有が移っていかなくて,債務者にそのままある,設定者にそのままあるというのが前提になるので,処分と大分性格が違うのではないかという気がしましたが,そういう反対論もあり得るというだけで,別に私が今ここでそうだよと決め付けているつもりではありません。それでは,次に,阪口さん,お願いします。

○阪口幹事 阪口です。先ほど来出ている部会資料2-2のところに関して,設定者の権利については,設定者留保権とかいろいろな法律構成が言われているわけですけれども,実務的に考えると,やはりそれは,一言で言うと,申し訳ないけれども,所有権なのだと思うのです。譲渡担保権が最初から,担保構成なのか所有権構成なのかでずっと議論がされているわけですけれども,今回,担保目的取引規律型という法律構成で大きなスキームを立てるというのは,飽くまでキャッチオールするためであって,やはりそこは担保であるという性質は,どこまで行っても残っている筈です。ただ,その担保のために形式上の所有権が移っている。所有権は確かに移っているのだけれども,日弁連のバックアップ会議で出た表現だと,機能としての所有権は一部残っているということです。端的に言うと所有権は分属しているのだというのが実務的な感覚なのだと思うのです。

  ここは,担保権のことを考えているから,担保権者が何ができるかの局面を考えているけれども,譲渡担保って別に実行されなければ,対象物はずっとそのまま設定者に本来どおり残っているだけの話です。だから,設定者留保権とか,いろいろな議論はあるけれども,やはり設定者は所有権者でもある,その形式は移転しているのだけれども,実質としては所有権者であるというところは否定できないのではないかなと思います。そこを否定してしまうと,もう,まず実態に合わないというのが正直な感覚ですし,法律構成的にもかなりいろいろ難しくなってくるのではないのかと思っています。その結果,設定者は一切動かしては駄目ですよみたいな合意は,僕は債権的合意にすぎないだろうと思いますし,所有権者が真正譲渡したときに譲受人に何も移らないということは,法律論としてはあり得るかも分からないけれども,実態には合わないのではないのかなというのが実務家の感覚です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○井上委員 ありがとうございます。今,阪口幹事のおっしゃったことと余り変わらないのかもしれないのですけれども,2-2についてですが,担保目的取引規律型を考えるときは,担保目的で所有権を移転した場合には,その目的の限度で所有権が移転するというのでしたっけ,そういう発想になりますので,結局のところ,所有権の中に担保目的で移転する部分,これをA部分として,担保目的では移転できない,あるいはしない部分,設定者留保権と呼ばれたりする部分かもしれませんが,これをB部分とすると,1ページ目に書いてある,「設定者が担保所有権の負担のあるものとして目的物の真正譲渡をした場合」というのは,B部分の譲渡と考えるということだと思います。B部分も一種の所有権,負担付きの所有権であって,「場所を動かしてはいけないよ」とかいうのは,債権的には当然,担保権者として要求することだけれども,物権としては,設定者は所有権の一部分を持っていると考えるのかなという感じがします。他方で,後順位の担保権の設定が2ページに書いてあって,2ページの下の方に,設定者留保権というのですか,設定者に残されたものが後順位担保権者に移転すると考える場合の難しさが書いてあるのですけれども,私はむしろ,先ほどのB部分(設定者留保権)は担保目的で移転しない部分なのですから,後順位担保権者にもそこは移転しないものと,そこはずっと設定者に残って,むしろ担保目的で移転する部分ですね,担保の性格をまとった部分,すなわちA部分こそが,担保的な性格を持つわけですから,二重,三重に移転されると考えるのではないでしょうか。A部分は,担保的な性格をまとっているわけですから,最初に対抗要件を備えた人が全取りするのではなくて,対抗要件具備の順に順位が決まっていくという説明の方が分かりやすい気がします。つまり,第1順位の人に移転した残りの部分を第2順位の人に移転するというよりは,基本的には担保目的で移転できる部分が担保権者に行き,それが後順位担保権者にも二重,三重に担保目的で移転され,担保ですから,その対抗要件なり担保ファイリングの順に順位が決まると説明し,逆に,B部分,設定者留保権は,A部分に担保を何重に設定しても設定者が持ち続けて,それも一種の所有権であって,ただ担保の負担付で真正譲渡されることもあり得るというような,そんなイメージの方が分かりやすいように思いました。

  単なる説明の問題かもしれませんが,以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  佐久間さんからもう一度御意見いただいておりますので,お願いします。

○佐久間委員 度々すみません。今,阪口先生,井上先生がおっしゃって,私も実はそのように考えています。というのは,2-2の2ページのところで,担保目的取引規律型の場合に,例えば,実質的には第1順位の担保権者,第2順位の担保権者,第3順位の担保権者というようなものを,まず認めるか,認めるときにどういう理屈を採るかという話が出ているのですけれども,理屈は分かりません,分かりませんが,私は第1順位,第2順位,第3順位は,これは認める方がもう絶対いいと思っており,その認める際には,先ほど井上先生がおっしゃった,設定者留保権と呼んでいるけれども,実質上はやはりそれは所有権であって,担保目的の所有権として債権者に与えられるのは,担保目的取引規律型を採ると,所有権を移転する形式を採った契約をしていてということだから,所有権が移っているように見えるのだけれども,実際は担保権にすぎないという,そういう考え方で規定を設けていく方がいいのではないかと思います。

  そうすると,新たな担保物権を創設するのとどこが違うのだという話に,ひょっとしたら,なるかもしれないとは思うのですが,担保物権を新たに作って,債権者が取得するのはその担保ですというふうにやると,何度も繰り返し出てきている話ですけれども,それとは違う形式で契約をされたときに規律が及ばないということが起こり得るので,担保目的取引規律型を採りつつ,しかし,そこで移ることになると言われている担保目的の所有権は,やはり実質的には担保として処遇すれば十分なものなのであると。担保の目的でそれを処遇すれば十分なのだとすると,その所有権に当たる権利は,突き詰めて言えば,誰が持っているようにして制度を組んでいくのかというと,設定者がなお持っているということで制度を組んでいくということが,私はいいのではないかと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  物上代位の問題の前提として2-2というのをお配りしたつもりなのですが,2-2プロパーのことに議論が盛り上がってしまっております。ただ,片山さんからは既に挙手を頂いておりますので,片山さん,お願いいたします。

○片山委員 すみません,と言われながらも2-2の話で申し訳ないのですけれども,担保目的取引規律の基本的な考え方ということなのでしょうけれども,やはり新たな制限物権を作るということではなくして,所有権の移転を前提とする担保権を考えていくということですので,そこのやはり違いというものがあっていいのではないかとは思っています。というのは,やはり担保目的取引規律の場合は,当事者が所有権を移転させるという合意をしていることが大前提となっていて,それを前提として,どれだけ担保目的で規律できるかということですので,やはりその実際のニーズがきちんとあるということが大前提になるのだと思います。ですから,例えば後順位担保権の設定は認める必要があるということであるならば,それは法律構成の如何にかかわらずそれを認めていくという立法をすべきだということになると思います。ただ,担保目的ということによって全て制限物権と同じような効果が認められるということではなくして,やはり担保目的取引規律の出発点にあるのは,所有権を移転させるという当事者の合意が大前提としてあるということで,それを出発点として,制度設計化していくかということを議論していくということではないかと思っております。

○道垣内部会長 水津さん,手が挙がっておりますが,物上代位の話であるということを祈りながら,水津さんを当てたいと思います。水津さん,お願いいたします。

○水津幹事 物上代位の話です。これまでの議論で述べられた意見のうち,2点について意見を申し上げます。

  第1に,担保権者は,代位目的債権そのものについて,担保権の設定を受けることができる以上,物上代位の効力は,弱めてもよいという視点が示されました。しかし,これと同じことは,約定担保物権に基づく物上代位すべてについて,あてはまります。そのため,上述の視点を強調して,新たな担保権について物上代位の効力を弱めるルールを設けるときは,現行の約定担保物権に基づく物上代位の解釈についても,その影響が及ぶこととなりそうですので,注意をしたほうがよいように思いました。

  第2に,平成10年判決は,抵当権に基づく物上代位と債権譲渡との優劣について,代位目的債権が賃料債権であることに着目して,抵当権設定登記がされた時を基準としてその優劣を判断する考え方をとったものであるという理解が示されました。この理解によると,抵当権に基づく物上代位と債権譲渡との優劣について,代位目的債権が損害賠償請求権や保険金債権であるときは,物上代位による差押えがされた時を基準としてその優劣を判断する考え方がとられることとなりそうです。しかし,この考え方は,あまり一般的なものではないように思います。そのため,上述の理解を基礎として,新たな担保権に基づく物上代位についてルールを設けることには,慎重になったほうがよい気がいたしました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに御意見はございますでしょうか。

  いろいろ御意見いただきましたが,物上代位は否定すべきであるという意見そのものはなかったような気がいたします。ただ,事業担保との関係において,事業担保というものを重要であると考える,亀井さん,青木さんはそうなのかもしれませんが,そのような見解からしますと,事業担保として債権まで取得した人が物上代位の権利者に勝つというふうにしなければ,なかなか事業担保の方がうまくいかないのではないかという御意見が出されるとともに,他方では,取り分け同一のファイリングシステムにおいて公示されているということになれば,動産担保が先に設定され,対抗要件が具備されているならば,そちらの方が,例えば売却代金債権に対しても勝つということもあり得るだろうというのも一つの考え方として示されたかと思います。さらには,そのときに,動産担保の効力が当然に及んでいくのだとして,効力の当然拡大として物上代位目的債権についての効力を捉えるのか,それとも,やはり飽くまでそれは物上代位という特殊な,本来の目的物ではないものに対して特別に効力が及んでいると考えるのかという分かれ道があり,片山さんは,物上代位は物上代位だという前提の下に,やはり差押えがあって初めて地位が確保されるということではないかという御意見だったかと思います。これらを踏まえて更に整理をする必要があるのだと思いますけれども,何か本日のところで更に御発言がありましたらと思いますが。

  よろしいでしょうか。それでは,若干時間も超過しておりますので,続きまして,被担保債権の範囲について,何か御発言がありましたら,お願いします。

○鈴木委員 ありがとうございます。被担保債権の範囲で,少し事務局さんに確認をさせていただければと思うのですが,23ページの35行目,保存費用を被担保債権に含めないという提案について確認させていただきたいと思います。ここでの議論は飽くまで個別動産を対象としているケースであって,集合動産については別の提案があるのかという点です。

担保研究会の報告書では,集合動産についての被担保債権の範囲という見出しは見当たりませんでしたので,少し確認させていただければと思います。というのも,在庫担保などの集合動産においては,実務の中で保存費用のようなものが,立替えが発生したりするケースがしばしばあるように思いますので,債権者としては保存費用は被担保債権に含めたいということになります。民法上の保存費用がどこまで入るのかというのも含めてなのですが,例えば冷凍マグロを担保としている場合であれば,冷蔵倉庫の賃料とか電気代を立て替えて担保物権の価値を維持する,そんなケースもあるようには思うのですが,その辺りはいかがでございましょうか。

○道垣内部会長 笹井さんから何かお返事があれば。

○笹井幹事 実務的にどういったものがあるか教えていただければと思いますけれども,今おっしゃったような冷凍マグロの冷蔵庫の費用ということであれば,基本的には想定しておりましたのは,冷凍マグロは設定者がずっと保管していると,その際に,基本的にはその冷凍マグロの冷蔵庫の費用についても設定者が支出しているので,そういう意味で,債権債務関係が生ずることがあまりないのではないかと考えておりました。ただ,それが違っている,むしろ担保権者といいますか,譲渡を受けた側が費用を負担していることも結構あるということであれば,またそういった実務につきまして教えていただければと思います。

○道垣内部会長 これは抵当権の場合には,抵当権の目的物である土地が崩れそうで,したがって抵当権者の権利がそれによって台無しになる可能性があるということで,しかし債務者にはお金がない,そこで抵当権者がお金を払って土地の崩落を何とか防ぐという工事をしたとします。このとき,その費用は抵当権の被担保債権には入ってこないのですね。入るとするならば,それは保存費用の先取特権が別個にあるかという問題であって,しかるに,同じく非占有担保という形式のときに,こちらの方にはそれを含めるということが,実務的にそういう状況があるというのは分かりますけれども,どこまで正当化できるかということを更に考える必要があるのかなと思いますが,それは実務の状況も十分にお教えいただきながら,更に検討させていただければと思います。

○阪口幹事 阪口です。6番は被担保債権の範囲と書いてありますが,根担保の問題,被担保債権の根ですね,が書かれていないのです。第1回のときに配られた参考資料1-1のいわゆる研究会報告書では,この被担保債権の範囲の次の項目として,その他という形で根担保の問題が書かれていました。根担保の,特に確定のところは,特に集合動産をイメージした場合にはかなり重要な規定になるのだろうと思っています。ただ,それは多分,対抗要件制度とかとの兼ね合いがあるので,今の段階では,具体的に根担保,被担保債権の範囲が根になった場合の処理のことまでなかなか議論しにくいのだとは思うのだけれども,二読の段階では少しずつでも出していただかないと,そこが決まらないと,またほかのことも決まりにくいということもあるのではないかと思っていますので,よろしくお願いします。

○道垣内部会長 そういうふうな方向だろうと思います。

  ほかに御意見はございますでしょうか。

  それでは,申し訳ございませんが,先に進めさせていただきまして,部会資料2の「第3 債権を目的とする担保の実体的効力」というところの議論をお願いしたいと思います。

  事務局におきまして部会資料の説明をお願いいたします。

○笹井幹事 部会資料2の24ページを御覧ください。債権を目的とする担保の実体的効力の部分ですけれども,前回,動産につきまして御議論いただいたものと同じように,設定者の債権者が目的債権を差し押さえた場合にどういったことができるかという問題ですとか,担保権者が目的債権を処分することができるかといったような問題があるのではないかと思いましたので,そういった部分について言及をしております。ほかに,債権についてどういう規定を設ける必要があるのかを含めて御議論いただければと思っております。

○道垣内部会長 この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

○山本委員 設定者の債権者が差し押さえた場合とかにどういう対応をとるかというところで,基本的には今回は動産の担保と同じような規律,つまり第三者異議ができる,配当要求ができるということが提案されているのではないかと思います。そのこと自体,私は特に,それでもいいのではないかとは思っているのですが,一つ考えないといけないのは,債権質との関係だろうと思っておりまして,御承知のように債権質については現在,配当要求はできないという考え方だと思います。それは,質権については直接取立権が認められているので,配当要求,要するに質権者には差押えされても影響しないというところから,特段配当要求を認める必要はないという考え方に立っているのだと思うのですが,今回の新たな担保もその点においては同様のような気もするのですけれども,ここで配当要求を認めるということが債権質にどういう影響を及ぼすのか,債権質と何らかの形でディスティンギッシュできるのか,あるいは債権質にも配当要求を認めるという形で転換するのかといった辺りは問題になりそうな気がします。

Distinguish・・・異なるものの違いが分かる、異なるものを区別する。

https://eow.alc.co.jp/search?q=distinguish

  第三者異議については,現在も通説は,第三者異議を認めると,直接取立権に一定のやはり制約が掛かるので,第三者異議ができるという立場が多いのかなと思いますが,しかし,それについても最近,有力な疑問を唱える見解も出されているように思いますので,そういう意味では,債権質との関係を整理して,立法するのであれば立法するというふうに考えるのがいいのかなと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。検討しなければならない課題を的確に御指摘いただいたと思います。

  ほかに何か,こういう点も考えておくべきであるということはございますでしょうか。

○阪口幹事 何度もすみません。先ほど山本先生がおっしゃられた問題の大前提として,債権譲渡がされた後に一般債権者の差押えがあったときも,それは一応,ヒットしているというのが前提にあるということなのですか。第三債務者からしたら,債権譲渡がされていると思っているわけだから,裁判所に対して外れという答えをしてしまうと思うのですけれども,それでも,それは第三債務者の答えが間違っているだけで,差押えはヒットしているのだというのがまず大前提なのですか。観念的には当たっているような気もするのですけれども,真正譲渡と担保としての譲渡は第三債務者からは区別付かないので,そこはヒットしているのかどうか,まずそこが若干疑問ではあるのですけれども。

○道垣内部会長 なるほどと思いますが,山本さん,何か御意見ありますか。

○山本委員 今のあれは,真正譲渡の場合は当然,第三者異議もできるのだから,譲渡担保というか,今回の新しい担保でも第三者異議ができても当然ではないかというような御趣旨なのでしょうか。

○阪口幹事 阪口ですけれども,第三者異議ができるかできないかのもう一つ手前に,差押えが当たっているかどうかという質問です。

○山本委員 だから,設定者のところで差押えがそもそも,設定者を債務者として差押えができるのかという。

○阪口幹事 発令はもちろんできますけれども,発令しても実は空振っていないかということなのですけれども。

○山本委員 ですから,第三債務者は結局,差押債権者に支払っても二重に支払わなければいけないということですよね。

○阪口幹事 第三債務者は裁判所の陳述催告に対して,そんな債権はありませんと答えますよね,債権譲渡された後だったら。それでも,その答えが間違っているだけで,実は差押えが当たっているということになるのかどうかが,実は分かっていないのですけれども。

○山本委員 当たっているという言葉の意味が正確によく分からないのですが。

○阪口幹事 第三債務者の答えがどうあれ,差押えの効力は当該債権に発生しているのかという,例えば,取立権が本当にあるのですかとか。

○山本委員 差押えが有効であれば取立権はあるのではないでしょうか。

○阪口幹事 空振っていたら,ないですよね。

○山本委員 空振っているということの意味。空振っているということはないのではないでしょうか。第三債務者は支払う必要はないのではないですか。それは対抗要件優先しているわけですから,譲受けの担保権者が,そちらに本来は払うべきだというのはそのとおりだと思いますけれども。だから,第三者異議の必要もないといえばないというのは,そうなのだと思いますけれども。

○阪口幹事 理論的な説明ができないので,どなたか助けていただいたらという気がしますけれども,すみません。僕のイメージだと,第三債務者は,裁判所に対して,そもそも差押えは当たっていませんと答える。だから,例えば差押債権者が取立権を行使してきても,いや,元々そんな差押えの対象となった債権は移転して存在しないのだから,払うつもりは一切ありませんと答えることになります。しかし,それでも差押債権者があるに違いないと思って,仮に取立訴訟を起こしたという場面で,第三債務者は,債権譲渡がもうされているよということだけ抗弁として言えば,もう一切払わなくていいというのが,空振りの意味であり,他方,いやいや,差押えの後にでも譲渡担保の被担保債権が弁済されたら,復帰的に戻るのだ,その限度では差押えが当たっているのだ,だから何か一定の条件付か何か分かりませんけれども,取立権も本当はあるのだということなのかが,分からないということです。

○山本委員 転付命令とかが出た場合は,あれですよね,今,質権と同じだと考えれば,質権付きで転付命令がされたのと同じ状態になるというのが判例だと思うのですが,それと同じような状態になるのではないですか。

○阪口幹事 質権の場合は帰属は元の債権者にあって,質権という負担が付いているだけですよね。他方,債権譲渡がされていたら,もうそれは債権自身が元の債権者との関係ではないと,第三債務者から見れば,ないというふうに考えて,だから,転付命令をされたって結局,何もないということにならないかということなのです。

○山本委員 おっしゃるとおり,だからそれは真正譲渡に引き付けて考えるのか,質権に引き付けてこの担保を考えるのかという問題なのではないですか。

○阪口幹事 はい。それで,ここの第3,24ページの問題は,まずそこがはっきりしないと実は答えが出ないのではないのか,答えというのか,在るべきものが出てこないのではないのかと。動産の場合には占有は設定者のところにあります。したがって,設定者の一般債権者から差押えができます。だからこそ第三者異議とか配当要求とか,次の制度を考えなければいけない。他方,債権の場合は外れとなれば,そもそも何の手続も要らないということだってあり得るわけです。それはなぜかというと,債権の場合には,第三債務者という,動産の場合と違うプレーヤーが1人いるからです。しかも第三債務者の目から見て,いろいろなことを処理していくというのが現在の債権執行手続なので,そこが根本的に動産執行の場合と債権執行の場合で違うので,当たっているか当たっていないか問題を,どなたかが,回答はこれだよというのを言っていただいた上で議論していった方がいいのかなと思ったのです。

○道垣内部会長 青木さんから手が挙がりましたけれども,何かそれについて御発言がございますか。

○青木(哲)幹事 神戸大学の青木です。阪口幹事がおっしゃっている,当たっているかどうかというのは,恐らく,御説明されたとおり,担保目的取引規律型において,法形式ですよね,担保権者の方に既に移転していると考えるのか,そうすると,もう当たっていないということになるのだと思いますし,そうではなくて,担保の実質を重視して,担保権であると,だから形式的には移っているかもしれないけれども,まだ設定者に残っているということを前提に考えていくのかというところのお話かなと思いました。

  ただ,当たっているかどうかということについて,もう一つ申し上げると,動産執行では,いわゆる執行官が外形に基づいてその帰属を判断するということとの関係で,債務者が占有しているということで,その債務者への帰属を判断するということになるのに対して,債権執行においては,申立てにおいて債務者に帰属するという主張がされていれば,手続としては適法に差押え命令が発令されるということになり,しかし,実際には対象債権が設定者ではなくて担保権者に帰属しているのであれば,それは結局,阪口幹事がおっしゃったように,空振りに終わるということになるということ,その意味で空振りという言葉をお使いになったのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  結局,差押債権者が第三債務者に対して弁済を求めていくということをしたときの手続をどういうふうに考え,仕組んでいくのかということですね。第三債務者としては,いや,ほかの人に既に譲渡されているという通知を受けていますと言ったとき,何を差押債権者が主張立証していくことになるのか,そして,どこまでの実体的な権利があるということになるのかということを,そういうふうなことをプロセスの中で詰めていかなければいけないだろうとは思います。その辺はもっと丁寧にやっていく必要があろうかと思います。

○片山委員 貴重な時間,ありがとうございます。今,各委員の御発言と若干関連するのかもしれませんが,今回,担保目的取引規律型ということで,動産と債権を同じように取り扱っていくということのようなのですけれども,基本的に動産と債権でかなり違うとは感じております。動産に関しましては,これまでの議論からもありますとおり,後順位の担保権の設定もやはり広く認めるべきであるという意見が多数で,基本的には制限物権の担保とそれほど変わらない担保の設計を考えておられるように感じました。けれども,他方,やはり債権に関しては,排他的な効力を,より強く認めていく必要性が高いようにも思っております。それは特に,今の判例法でも,集合債権譲渡担保に取るということになりますと,対抗要件を具備してしまうと,事実上その債権者だけが独占してしまえるという状態になっているわけですね。これを,担保目的規律という形になると,そうはいっても,やはり後順位担保権の設定も可能になるというような形の議論をしていくということになると,今の実務でも認められている債権担保の排他的な効力を否定してしまうということにつながりかねないと思っております。そういう意味では,債権担保に関しては債権質という典型担保はあるのですけれども,それと違う効力が認められる所有権担保といいますか,債権譲渡担保の効力をきちんと区別をして,動産担保と差別化を図りながら議論していく必要があるのではないかと感じております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。先ほど来の対象債権の差押えの空振りの議論との関係で前提的な問題になるのかなと理解していた一方で,譲渡担保権の効力をどう捉えるのかにも関連するのかなというのを,今の片山委員のお話をお伺いして改めて感じたのですけれども,債権を目的とする担保の実体的な効力という論点について,先ほど山本委員も債権質について触れていらっしゃいましたが,債権質との比較において,譲渡担保権の設定によって,対象債権の第三債務者や設定者に対する制限的な効力を生じさせることについても,規律を明確化する必要がありそうなのかなと思っています。債権質の場合ですと,民法481条1項の類推とか,それから,民事執行法145条1項の類推とかという形で説明がされていると思うのですが,基本的に第三債務者は,設定者に対する弁済等を質権者に対抗できなくなるとされ,設定者は,放棄,免除,相殺,更改等対象債権を消滅,変更させる行為ができなくなるとされています。譲渡担保権が設定された債権についても,差押えの対象が何なのかというところもあると思うのですが,設定者が持っている対象債権に係る権利について対抗力ある譲渡担保権が設定された後に,当該対象債権に差押えがなされたということなのであれば,第三債務者として差押債権者に弁済することができなくなり,また,債権執行手続においても差押債権者は劣後することとなって,結局事実上空振りという帰結になりそうなのかなと思いました。

  申し上げたかったのは,譲渡担保権の効力の問題として,第三債務者についての弁済制限効というのが明確にされる必要がありそうなのかなという点と,併せまして,設定者の担保価値維持義務というふうに最高裁平成18年12月21日判決において述べられていますとおり,設定者に担保価値を維持する義務が生じ,その結果として対象債権の放棄だったり,免除だったり,相殺だったり,更改であったりという対象債権を消滅,変更させる行為ができなくなるという規律を明確化する必要がありそうなのかなと考えておりまして,その考えを述べさせていただきました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに何か,差し当たって債権の担保化について,こういうところは注意して今後やらなければいけないよという御指摘はございませんでしょうか。

○加藤幹事 ありがとうございます。必ずしも債権の担保化の話ではないのですけれども,担保目的取引規律型の担保の実体的効力に関する規定が,信託受益権や株式を担保とする取引に与える影響が気になります。例えば信託受益権や株式などは既に譲渡担保の対象とされておりますけれども,動産か債権かという類型に当てはまるわけではないと思います。こういった財産権も,担保目的取引規律型の担保の対象になると思うのですけれども,その場合の実体的効力をどのように考えればいいかということです。株式の譲渡担保については,株式質の効力を定める会社法151条が準用されるという解釈が有力ではないかと思うのですけれども,仮に担保目的取引規律型の担保として株式や信託受益権なども対象となると考える場合には,この信託法97条や会社法151条に相当する規定を新設する必要があるか等を整理する必要があるのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  整理しなければいけないところが多いような気もいたしますが,ほかに何か今の時点で御教示,御指摘がございますでしょうか。

  それでは,債権の方についてはまた包括的に検討しなければいけないと思いますので,今後も,その機会が回ってくるまでの間に,こんなこともきちんと考えなければいけないのではないかということがございましたら,事務局に,あるいは私にでも結構でございますけれども,いつでも頂ければと思いますので,よろしくお願いいたします。

  それでは,そういうことで,急ぐようで申し訳ございませんけれども,次の部会資料に入っていきたいと思います。

  今回新たに送付されました部会資料3に基づく議論でございますが,まず「第1 集合動産・集合債権の担保化」の「1 集合動産の担保目的での譲渡(集合動産に対する担保権の設定)の可能性」について御議論いただければと思います。

  事務当局において,部会資料の説明をまずお願いいたします。

○淺野関係官 それでは,部会資料3の「第1 集合動産・集合債権の担保化」のうち「1 集合動産の担保目的での譲渡(集合動産に対する担保権の設定)の可能性」の部分について,御説明いたします。

  現行法の集合動産譲渡担保について,判例は,いわゆる集合物論を採ることによって,個々の動産が集合物の範囲に流入した時期を当該動産についての担保設定時期とするのではなく,当初の担保設定時の集合物に担保が設定され,あとは集合物の内容が変動しているだけであるという評価を導いています。この点に関しましては,動産譲渡登記制度が導入されたことを契機として,集合物概念を介する必要はないという見解なども存在するところですが,将来動産を含め,設定時に何らかの形で対抗要件を具備することを可能とするための議論が蓄積されており,これが可能であることについての異論は少ないように思われます。

  そこで,本文は,集合動産の担保目的での譲渡が可能であり,ひいては将来動産を含む集合動産全体について対抗要件を具備することができることについて,明文上明らかにすることを御提案しております。【案2.1.3.2】に従って新たな担保物権を創設する場合にも,ただいま御説明しました議論が参考になるように思われまして,いずれにしましても,集合動産を目的財産として担保権を設定することができるということを明らかにしておくことが考えられます。

  その上で,集合動産として担保権の目的とするための要件についてですが,3ページの2にありますとおり,まず,担保の目的物の範囲が特定されているということが必要です。特定されているかどうかが問題になる場面として,「在庫一切」が担保の目的物とされていた場合が挙げられます。現行の動産・債権譲渡登記におきましては,対抗要件を具備するため,動産の特質によって特定をすることができない場合には所在場所を特定する必要がございます。しかし,在庫という文言から,いかなる動産が担保の目的物であるかということを理解することができるとも考えられまして,担保の効力の及ぶ客観的な範囲の特定としましては,在庫一切でも足りるようにも思われるところです。

  さらに,「設定者の所有に属する」という限定が付されている場合の取扱いにつきましても議論がございます。

 ここでは担保権の及ぶ客観的範囲の特定の問題を取り上げましたけれども,このような方法により特定された担保権について対抗要件を具備できるかという問題も別途ございますので,この点は対抗要件制度を検討する箇所でも検討が必要と考えております。

  4ページの3ですが,本文のようなルールを設ける場合に,個別動産と集合動産をどのように区別するかという点も問題になります。この点に関して,本文は,将来新たな構成部分がその範囲に加入する可能性があるかどうかで区別することとしております。

 また,それに加えて,5ページの4にありますように,伝統的には経済的一体性や取引上の一体性が必要であると考えられてまいりましたが,どのような場合に一体性があるのかは明確といえず,取引の不安定さをもたらすという批判もございます。

  そこで,本文においては経済的一体性等の要件を明示的には設けない提案としておりますが,集合物として扱われるために何らかの要件が必要であるという御見解もあると思いますので,御意見を賜りたいと思います。

  実務上,集合動産を目的とする担保としては譲渡担保が用いられることが多いかと思いますが,集合動産を目的とする所有権留保があり得るかどうかも問題になるように思われます。5ページの5で検討しております。例えば,Aという人が継続的にBという人に商品を売却している場合において,BがAから購入した物を含む在庫全体につきまして,金融機関Cのために譲渡担保を設定しようとしているとすれば,Cは集合動産譲渡担保の設定後,直ちに対抗要件の具備等を行うことができますが,集合動産所有権留保が認められないとすると,Cの対抗要件具備等の後にAがBに譲渡した動産については,AがCに優先する方法はなくなってしまうという問題が想定されるところです。仮に集合動産所有権留保を認めることができるとすれば,Aは所有権留保の合意時点において対抗要件の具備等を行うことにより,他の担保に優先することができるということになります。

  最後に,現在及び将来の債権を一括として担保の目的とする場合についてです。債権につきましては,未発生の債権を譲渡したり担保の目的財産にしたりすることが明文で可能とされておりますから,動産についての本文と同様の規定を置く必要性は乏しいと考えました。そのため,本文は複数の債権を一括して担保の目的とする場合についての規定を置くことを提案しておりません。

  私からは以上でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を頂ければと思います。

○山崎委員 どうも,山崎です。私からは,意見なのですけれども,3ページの20行目以降に述べられている在庫一切に関してなのですけれども,現行の手法に加えて追加的に,在庫一切を担保の目的物にすることを認めてもよいと思います。理由としましては二つございます。一つ目は,登記に記載されていない種類の在庫を仕入れたり保管場所を変更したりするたびに契約書や登記を変更することは,コストと手間が掛かると思われるからです。二つ目は,場所を移すことで担保権を外そうとする動機を設定者に与える可能性があるからです。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○井上委員 井上です。ありがとうございます。

  「設定者の所有に属する」というところですけれども,資料でいえば4ページですが,この限定は付されていようがいまいが同じことを意味するのではないかというのは,この資料に書いてあるとおりではないかと思います。集合動産の譲渡担保契約において,例えば「A倉庫内の在庫に担保を設定する」という合意をした場合も,その中に他人のものが交じっていれば,当然それは担保目的の範囲に入っていないはずなので,「設定者の所有に属する」というのは言わば枕詞のようなもので,常に付されているということと理解しております。ですから,そういう限定が付されていても特定されていると思いますし,逆にそういう限定が付されていない場合に,X倉庫内に他人のものが交じっていると,それで突然,特定が失われて担保の効力に悪影響が生ずることはないということを確認したいと思います。

  例えばですけれども,他人のものが少し交じっているということではなくて,狭義の所有権留保がなされた在庫が倉庫の中に相当程度交じっているというときもあり得ると思うのですが,そういう場合は,現在の判例によると,狭義の所有権留保の目的物は譲渡担保の目的には入っていないと考えるのではないかと思うのですが,この場合も,だからといって譲渡担保の目的物の特定が失われるというわけではないだろうと思います。ここで関心があるのは,その先の問題でして,所有権留保が狭義でなされている場合に,その所有権留保売主との特約で,代金を払うまで買主は目的物を一切転売するなという合意がなされ,それが守られていれば,問題が起こる場合は少ないのかもしれないですけれども,そうではなくて,通常の販売行為が認められている状況で,狭義の所有権留保ではあるけれども,売却したらそこで及ばなくなるという所有権留保合意がある場合に,所有権留保の目的となっている部品と,そうではない全く同一の部品が,同一の倉庫内に存在している場合の問題です。例えばAという所有権留保売主からX倉庫に搬入されるものと,Bという留保特約のない売主からX倉庫に搬入されるものがあり,きちんと物理的に区別されてX倉庫内にあれば問題は起きないのかもしれないですけれども,そうなっていない状況で,通常の販売行為がなされて,Aから買ったものかBから買ったものかを区別せずに随時搬出され処分されていく状況になっているときに,集合動産譲渡担保の対象がどういうふうに特定されるのかは,気になっているところです。それについてはどう考えるのでしょうか。

  例えば,民法の混和の規定の適用が仮にあるとして,主従の区別ができないと考えるならば,そのぐしゃぐしゃに混じっている同一の部品について共有状態が生ずるということかもしれないのですが,ではどういう割合で共有を考えるのかという問題が出てくるように思いまして,そういう場合には,どういうふうに実行するのかという問題も出てくるかもしれないと思います。他方で,先ほど申し上げたような状況にあるときに,そういう考え方ではなくて,例の乾燥ネギに関する判例のような問題として捉えるとすると,これは特定が失われるということになりかねず,それは大変困ったことになるし,結論としては妥当ではないように思われるので,今申し上げたような,つまり全く同一のものなのだけれども,設定者の所有に属するものと属さないものが集合動産の範囲の中で一緒になっている,典型的には一部に狭義の所有権留保が付されているというような場合に,譲渡担保の効力,あるいはその範囲をきちんとワークするように解するには,どういうルールがあるといいのだろうかと疑問に思っています。結論としては,できればそのときの事業サイクルに応じて,仕入れの状況に応じて按分するとか,何らかのルールを設けて割合的に物権的な効力を認められるようにした方がいいのではないかと考えます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。たくさんの手が挙がっているのですが,少し確認したいことがあります。今現在,例えば単純な所有権留保の目的物1個が,債務者といいますか,買主の財産の中に紛れ込んで,どれが所有権留保目的物か分からなくなったら,これはどうなのですか。これは主従があるので,混和してしまうということで,所有権留保の効力はなくなるのですか。

○井上委員 そうなのですか。

○道垣内部会長 なくならないですか。100対1だったときに。

○井上委員 その場合も,主従の区別ができると考えて,主の方に飲み込まれてしまうという結論はよくないように思っていて,そういう場合も,これはコシヒカリとササニシキが交じった場合ではないので,主従の区別はできないと考えて,割合的な共有状態になると考える方が結論としてはいいと思っているのですけれども,いずれにしても,集合物については,その応用問題ということになるのかも分からない。

○道垣内部会長 私も,井上さんのように考えることはあり得るのだろうとは思いながらも,しかし,それは今回発生する問題なのか,混和一般に存在している問題なのかというのが少し分からなくなったものですから,確認をいたしました。

○鈴木委員 ありがとうございます。千葉銀行の鈴木でございます。山崎委員に続きまして,在庫一切という捉え方につきましては,中小企業にとってもスムーズに,より大きなボリュームの資金を引き出しやすくなるものと考えられますので,我々としても歓迎したい議論でございます。金融機関はバランスシートの実績値から運転資金のサイズを把握していますけれども,店舗や倉庫が拡大されるような成長局面,右肩上がりの局面では,過去の実績値では十分でない場面が出てきます。現行の動産譲渡登記の枠組みですと,成長に伴う拠点の増加で店舗や倉庫が追加されますと,在庫の保管場所を都度登記しなければいけません。一方で,在庫一切と前広に捉えておけば,新たな登記等の手当てが不要なので,機動的な融資増額に応じやすくなるのではないかと考えられます。成長資金の出し手を後押しする,そういった設計として,在庫一切という考え方は取り入れられればと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。こちらの第1の1の規定でございますけれども,こちらは恐らく中心的なところは,集合動産を含む流動動産を譲渡担保の目的物にすることができて,ひいてはその時点で対抗要件を具備できるという点にあるかと思うのですが,問題はこれを集合物という考え方で説明するかどうかということなのかと思います。もし集合物という考え方を使って説明するのであれば,やはり定義が必要なのではないかということを感じており,そのとき考えなければいけないのは,同じ流動動産だけれども,集合動産として特定した場合とそれ以外の記述の方法で特定した場合で効力が違ってくる可能性があるかどうかということで,この点をかなり明確にしなければ,危ないのではないかと思っております。というのは,御承知のように集合動産譲渡担保と言ったときには,やはり集合動産のみと考える見解も有力でございますので,そういうふうなものとして捉えられる可能性がある。そうなってくると,単なる集合動産及びその構成部分に及ぶというような意味での流動動産とは違ってくるという可能性も出てまいります。これはひいては,ファイリングや何かのときの登記事項にも関わってくるようにも思いますので,その辺りの整理が必要かと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。そこら辺は難しいところなのですけれども,結局,集合物というのをどういうふうなものとして捉えるか,定義をどういうふうにするかということなのだろうと思いますが,続けて冨高さんの方からお願いいたします。

○冨高委員 ありがとうございます。先ほど何人かの方から,在庫一切という特定を認めるべきであるとの御発言もあったのですが,私としましては,冒頭申し上げたとおり,一般債権者の保護が十分に図られていない現状においては,広範な担保権の設定を認めるような考え方は極めて慎重で在るべきではないかと思いますので,御意見として申し上げます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。恐らく,在庫一切という特定の仕方が認められるかというのは,理論的にそれで特定しているのかという問題と,例えば公序良俗の観点からそのような包括的な特定の仕方を認めていいのかという問題と二つあるのだろうと思うのです。特定できますかということからすると,まあ特定できるのかなという気もするわけですけれども,後者の観点も結構重要だろうと思いますので,今御指摘いただいたと理解しております。

○佐久間委員 ありがとうございます。3点ございまして,一つは単なる言葉の問題なのですが,この3の資料では担保権と担保権者という言葉が出てきていて,担保所有権,担保所有権者という言葉にはなっていないのです。これは意味があるのかどうかということを確認で,あるのだったらどういう意味かということを,この集合動産の場合はそういうのだということなのかどうなのかというのは,後で教えてくださいというのが1点です。

  2点目は,特定の話でして,所有権が設定者の下にある,設定者が所有しているもの,設定者の所有に属するという限定が付いていた場合なのですけれども,担保の効力が及ぶ,及ばないという点では結論は一緒ではないかというのはそのとおりだと思うのです。つまり,設定者が所有していないものに担保の効力が及ぶなんていうことはないということなのですけれども,だから結論も一緒ですよねということでいいとは思うのですが,理屈としては多分これまではこうだったのではないかと思うのです。つまり,まずは契約において,その契約が何を客体としているか,目的物としているかということが決まり,その決まった中で,しかし,例えば設定者に権利がないから担保の効力が契約によっては及ばないということがあったのではないかと思うのです。そうだとすると,設定者の所有に属するものという限定を付けたら,これには及ぶのですか,及ばないのですかと言われたら,客観的,外形的にはそこは分からないという状態になってしまい,そうすると,当該契約の目的物はどれですか,特定されていますかという点において,それは特定できていませんということから,判例は契約成立自体が認められないのだということを多分,言っていたのではないかと思います。それを維持すべきだということでは全然ないのですけれども,結果一緒だからということだけでは済まないのかなと思いました。

  私の中ではそこからつながってくるのではないかと思うのですが,集合動産所有権留保のところについて,6ページに例として,当該売買基本契約に基づいて甲から乙に譲渡される商品のうちのうんぬんという部分については,こういう限定が付くと結局,客観的,外形的には,当該契約に基づいてその中の一つ一つの物が当該担保の目的となっているかどうかが外形的,客観的には分からないということになってしまう観点から,これは特定されていないということになってくるのだと思うのです。それが3点目です。ですから,2点目に申し上げたのは単に理屈の問題なので,そこはいちいち条文に,こういう限定が付いていたら駄目ですよなんていうことだとか,特定の方法についていちいち細かく書き込むことはないと思うのですが,3番目に申し上げた集合動産所有権留保について検討する必要があるかというと,この資料に書いてある限りでは,これは特定がおよそされているということにはならないので,有効なものとして認められることはないだろうと思いますし,ほかの特定の仕方で何かうまくいくということもなかなか思い付かないのではないか,だからそれは考える必要がないのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。佐久間さんのお話の前提は,例えばここに三つの時計があって,そのうちの1個が私の所有物であるというときに,佐久間さんと私との間で,この三つの時計のうちの道垣内所有のものを売却しますという契約を結んでも,いろいろ調べてみないとどれが道垣内の所有か分からないというふうなものであるときには,目的物が特定された形での売買契約というのは成立しているとはいえない。こういう考え方が前提になっているわけですか。

○佐久間委員 それはそうだと思いますけれども,特定物というか,一つ一つの物の売買の場合は,後で定まれば別にそれでよろしいという前提が採られているのに対し,今後も維持するかどうかはともかくとして,これまで集合物ということでくくってきたものについては,後から分かりますというのは排除しようという考え方が採られてきたのではないのかと思っているのです。今の道垣内先生の御質問に対するお答えになっているかどうか分かりませんけれども。

○道垣内部会長 いえ,集合物の特殊性として捉えるのか,それとも,およそ一般に三つのうちの一つというときに,しかしそれは客観的な指標で,選択債権ではなくて定まっている,だけれども外形的には分からないというときにどうなるのかという一般論と同じであるという話なのか,どうなのかというのを確認したかったというだけで,考えなければいけない問題だろうと思います。すみませんでした。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。先ほどの在庫一切の議論に関連してなのですけれども,山崎委員,それから鈴木委員がおっしゃったように,ファイナンスをさせていただく立場から,コストだったり手続だったりというものが低廉,簡便になるとか,それから,物の所在場所が移転してしまった結果として担保から外れてしまうことを回避できるという点等において利点があるというのは,御指摘のとおりなのかなと思っています。なお,現状も,例えば買収ファイナンスという企業を買収する場合における支援をさせていただくファイナンス等に際しまして,全資産担保を設定させていただいているという実務がございまして,そういうものへの利用可能性がありそうなのかなと感じているところはございます。

  一方で,冨高委員が一般債権者との間における調整の必要性を御指摘されたのですけれども,ファイナンスを行う与信者間においても調整が図られないといけない事象を生じさせやすくする可能性があるかもしれなくて,念のために幾つかの事例を御案内させていただければと思っています。まず,例えば甲,乙,丙という担保権者がおり,一方で担保対象としてA倉庫,B倉庫,C倉庫に所在する在庫がある,といった事例を想定した場合に,担保権者甲はA倉庫に所在する在庫一切を担保に取って,一方で担保権者乙は,その後に在庫一切を担保に取って,更にその後,担保権者丙がB倉庫に所在する在庫一切を担保に取りましたという場合に,A倉庫内にある在庫に関しては甲が第1順位で,仮に後順位譲渡担保権を認めるのであれば,乙が第2順位で譲渡担保権の設定を受けることになりそうです。一方でB倉庫にある在庫に関しましては,乙が第1順位,それから丙が第2順位という形になりそうです。一方でC倉庫内にある在庫に関しては,乙のみが担保権を有しているという状況になるのだと思うのですけれども,ここで担保権者間の競合が生じやすくなっているということと,それに伴いまして,この競合状態の取扱いに関するルールをどうやって整備していくのかということをきちんと考えないといけない度合いというのが広がりそうなのかなと考えております。

  また,別の例に関しまして,例えば信用状取引において,信用状発行銀行が輸入商品である付帯荷物に個別の動産譲渡担保権を設定させていただいているのですけれども,仮に商品一切について譲渡担保権が別途設定された場合に,信用状取引約定書に基づく輸入商品についての個別の動産譲渡担保権と商品一切を目的物とする集合動産譲渡担保権の設定の先後によって勝ち負けが決まりそうなのですけれども,実務にどのような影響が生じることになるか,どうやって実務的に調整を図るようにするのかというのは考えないといけないところがありそうかなと思っています。

  さらに,また別の例として,例えば財産抵当が設定されていて,その財団に属する機械設備等が財団抵当の目的物になっていた場合に,別途機械設備一切について集合動産譲渡担保権を設定する担保権者が現れた場合に,どういう競合関係,それから優先劣後等のルール設計をしていくことになりそうなのかということについても議論が必要になりそうなのかなと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○亀井幹事 ありがとうございます。中小企業庁としても意見を表明しておきたいと思います。

  まず,1の集合動産の担保目的での譲渡の規定を置くということについては賛成をしたいと思います。その上で,在庫一切というのも,私たちの研究会を開催したときには,そういう在庫一切という特定の仕方だと非常に融資が受けやすい,お金が借りやすいという御意見がございましたので,この線で考えていただけたらと思います。

  また,第1のタイトルが集合動産・集合債権の担保化ということで,この集合というのは動産と債権,それぞれの集合ということなのですけれども,例えば事業みたいなものを考えた場合には,動産債権が集合している財産ということは考えられないのでしょうか。ここでの検討の対象は,やはり集合物というのは,動産は動産の集合,債権は債権の集合というように,動産単位,債権単位ということを前提とされているのでしょうか。動産であったり債権であったり,そういったものが交ざった集合というのは考えられないのかということは,一つ問題提起をしていきたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。あとまだ何人かに御発言いただきたいのですが,「在庫一切」というのは認めるべきだという人がほとんどでございますので,亀井さんに代表していただいて,幾つか私の方から疑問を提起したいのですけれども,では「機械一切」でもいいのですか,皆さんは,「在庫」だからいいのですか,それとも「機械」でもいいのですか,さらには「動産」でもいいのですか。今,債権でもいいということになったら,「動産・債権一切」でもいいということでしょうか。「在庫」だからいいのかということなのですが,亀井さんは多分,何でもいいのですね。

○亀井幹事 おっしゃるとおりです。もちろん何らかの特定があるだろうというのは,そういうことだと思いますけれども,在庫だから特別に一切が認められるべきだということではないと私は考えています。

○道垣内部会長 ほかの在庫一切肯定派の方も同じようなお考えで,それは特定ができているのだからいいではないかということなのでしょうか。そういう感じですかね。いや,別にそれに反対するとかいう話ではなくて,少し確認をしておきたいと思っただけで。よろしゅうございますか。

○大澤委員 大澤でございます。今の在庫一切のところのお話でして,先ほど部会長がおっしゃられた,特定としていいのかという問題と,公序良俗違反等の二つに分かれますよねというようなお話がございました。部会資料4ページの冒頭の方にもありますけれども,公序良俗違反の方の懸念を考えた上で,在庫一切というのが認められるかどうかということもなお慎重に考えた方がよいのではないかと考えております。というのは,過剰担保になり得る土壌にはなるのだと思っております。一切,それが在庫一切なのか,機械一切なのか,動産一切なのかは別として,一切といった取り方で過剰担保にならないのか,あるいは,優越的地位の濫用ではないですけれども,そのような形で担保が過剰に取られてしまうというようなことを多少懸念しておりまして,そういった点についての検討を踏まえた上,なお在庫一切というものを特定として適切かどうかということを考えてはいかがかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○井上委員 今の点については,私はそもそも特定の問題を条文化するという観点でいうと,在庫一切はいいとか,いけないとかという条文にはなかなかならないと思うので,結局のところ何をもって特定として認めるかという議論としては,識別可能性の有無で切るということが分かりやすくてよいのではないか,そうするとかなり広く特定できるという結論になってもよいのではないかと考えています。その上で,一般債権者,あるいは取引債権者,あるいは労働債権者に残されるものが少なくなりすぎるかどうかという問題は,別の観点で規律するべきで,それは例えば公序良俗の問題もありますけれども,そこまで行かなくても,リファイナンスをしやすくする,あるいは後順位担保権を設定しやすくするといったような方法で過剰担保の問題を解消するとか,いろいろほかの手当てで考慮しなければいけないことはあると思うのですけれども,特定の問題としては,広くといいますか,識別可能かどうかで判断してもよいのではないかと思います。

  ところで,元々私が手を挙げていたのは,実は先ほどの「設定者の所有に属する」というところの関係なのですけれども,特定を比較的広く認めるとした場合でも,先ほどの「設定者の所有に属する」というのは書いても書かなくても当然に枕詞として常に入っているということだと思います。佐久間先生が先ほどおっしゃったことを私が誤解しているのかもしれませんけれども,「X倉庫内の在庫」に加えて,「設定者の所有に属する」という語句を加えると特定が失われてしまう,加えないと全体として特定されるということが本当にいいのかは,やや疑問に感じました。当事者の間で仮にそういう語句を担保設定契約に入れたとしても,やはりX倉庫内の在庫という範囲では特定していて,その中に他人物が交じっているという状況で,ぱっと見,どれが他人物か分からないという理由で特定性が失われることにはならないのではないかと思います。

  先ほど私は同一の部品について他人物が交じっている例を挙げて,混和のことを申し上げたのですけれども,これは(ぱっと見ではなく)どれだけ調べても区別できなくなる場合の問題なのですが,そうではなくて,もう少しシンプルに,α部品とβ部品があって,α部品は狭義の所有権留保が付いていない,でもβ部品は狭義の所有権留保が付いているという状況で,「X倉庫内の在庫」を対象に集合動産譲渡担保を設定した場合は,これはα部品全体について譲渡担保が有効に成立しているのではないか,所有権留保の付いたβ部品がX倉庫内に入っているという,それも在庫ではあるのですけれども,そういう理由で譲渡担保の特定性が失われると考える必要はないのではないかと考えます。

  そう考えると,今度は集合動産所有権留保の話になりますけれども,AとBの間で継続的売買が行われて,それで,留保売主であるAがBとの約定の中で,AがBに販売した在庫であって倉庫Xに保管されているものについて所有権を留保すると定めた場合に,AがBに販売する在庫部品を,A以外の人はBに売っていない,その倉庫の中においては混和の問題が生じないシンプルな例を考えると,その時々で,その倉庫内にある,かつ残っている部品について所有権留保ができるという規律自体はあってもおかしくなくて,あっていいかどうかという観点で言うと,集合動産譲渡担保について対抗要件が備えられてしまった後に,AとBの間で売買がなされて倉庫内に持ち込まれたものについて,所有権留保が集合動産譲渡担保に先立って合意されているにもかかわらず,狭義の所有権留保ではない場合,拡大された所有権留保の場合には,およそ後に設定された譲渡担保に負けてしまうという結論で本当にいいのかやや疑問に思っています。所有権留保についてどういう対抗要件制度を設けるかというのは,拡大された所有権留保について対抗要件が必要だという立場に立った場合には,考えなければいけない問題ですが,そういう対抗要件制度ができた場合,あるいは所有権留保についても譲渡登記制度を利用できることになった場合に,中身が将来入れ替わる集合動産について所有権留保を合意した段階でそれを備えて,その後の譲渡担保権者との関係で勝てるポジションを作ることが認められてもよいのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○亀井幹事 ありがとうございます。一つだけ,包括的な特定を認めると,濫用だとか過剰担保の問題があって心配だという御意見がございました。我々もその点は検討すべき課題だと思っています。ただ,一つ一つ財産を押さえていく形式にしておけば,過剰担保とか濫用といった問題が起きないかというと,それはそうではなく,制度を使いやすくすることと,それが濫用的に使われることというのは別の問題として考えていくべきだと考えております。過剰担保だったり乗っ取りだったり,そういった問題は,それはそれとして考えていくべき,検討すべき大事な課題だと考えておりますけれども,それとともに,制度はなるべく使いやすくというふうに考えているということを申し上げたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○大西委員 大西です。よろしくお願いします。いろいろ議論に挙がっている在庫一切につきまして,私も賛成でございます。やはり,先ほどお話もありましたとおり,買収ファイナンスで全資産担保というのもございますし,本項のテーマではないのかもしれませんが,いわゆる事業の担保というのも正に,在庫一切が特定できないのであれば事業はどうなのかという議論もあることからすると,やはり社会通念上,若しくは取引上,関係者が確認できるような内容であれば,これをもって特定できるものと取り扱ってよろしいのかなと思います。

  一方,御意見がありました過剰担保ですが,これは特定の問題ではなく評価の問題なのかと思います。要は,在庫をいろいろ担保として取得したにもかかわらず,それをほとんど担保として評価しないようなことがあると,やはり過剰担保の懸念があると思います。個別の動産や債権は比較的評価がしやすいのかもしれませんが,集合物動産若しくは今後議論になる事業については,きちんとした評価をして担保として取るという実務が定着することが重要だと思った次第でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○片山委員 片山です。貴重な時間,ありがとうございます。集合物とか集合動産という概念をどう考えるかということについて,定義を置くというのはなかなか難しいかもしれませんけれども,今回このペーパーを拝読しておりまして,従前のイメージですと,いわゆる在庫,流動資産の担保ということだけが念頭に置かれているのかと思っていたのですけれども,他方,4ページを見ますと什器備品一切というような例も出てきまして,決して流動資産に限らず,固定資産についても集合動産として把握することも想定されているのだなと思いました。さらに,8ページ,工場における設備機械というような記載もございました。そうしますと,単に流動資産ということだけではなくて,固定資産の集合ということもその集合動産の概念の中で把握できるということであるのならば,事業全体ということはなかなか難しいのかもしれません,動産以外のものも含まれるでしょうから。しかし,それに近いような収益を生み出すような固定資産の集合体,そういったものを集合動産,集合物として担保客体にできるということが示唆されているのかなとも思いました。

  そうしますと,一方では,流動資産の場合に関して言いますと,集合物概念の把握は,設定段階だけ把握していればいいということになるのかもしれません。実行段階では,固定化を前提として,個々の構成部分たる動産の売却を考えていくということで十分なのかもしれませんが,他方では,事業担保の実行のような形で丸ごと全ての財産を処分するという実行の仕方を想定しますと,実は集合物というものに関する権利変動関する一般のルール設定も必要になってくるのではないかという気もいたしました。ただ,そこまで議論する必要はない,それは事業担保の話で別にやればいいのだということになるのかも知れません。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  まだ1の問題については御議論があろうかと思います。経済的一体性というもの,皆さんの御意見全体としては不要であるという方向だろうと思うのですけれども,直接的にはまだ議論しておりませんし,集合動産の所有権留保についてももう少し議論をすべきなのかもしれないと思います。

  ただ,開始をいたしまして2時間20分を既に経過しておりますので,少し中途半端ではございますけれども,ここで一旦少し休憩を取らせていただければと思います。16時5分までですかね。

  ただし,休憩前に事務局の方から,質問にわたった事項については答えておきたいということでございますので,それを先にお願いいたします。

○笹井幹事 まず,「担保権」と「担保所有権」が使い分けられているのかという点ですけれども,一応の意図としては,担保目的での所有権の移転とか留保とかというタイプで行くのか,それとも新しい担保権を作るのかにかかわらず,妥当する記載については「担保権」というふうに記載しております。それに対して担保目的取引規律型を前提とした記載については,「担保所有権」というふうに書き分けたつもりです。そういうふうにしたつもりですが,もしかするときちんとそうなっていないところがあったら申し訳ありません。

  もう一つ,集合動産・集合債権というところで,それぞれ集合というのは動産ごとか債権ごとかという御質問がありましたけれども,部会資料3の中では動産は動産,債権は債権という形で分けております。これは,第1回目のときに少し御説明した中にもありますけれども,例えば実行するとかというときに,一つの担保権が債権も動産も入っているということになると,どう実行するのかという問題も出てきますし,対抗要件をどういうふうに具備するのかということについても,全部登記に一元化するとかという形にしなければ,別々に対抗要件を具備しないといけないので,そういったことを考えて,別途,取りあえずは動産は動産,債権は債権で考えていこうということです。

  ただ,何人かの方が言及されましたけれども,事業全体について担保化するというようなことを考えた場合には,それはまた別途,全体についての実行方法をどうするのか,あるいは対抗要件を全体としてどうするのか,また別の制度として考えていく余地はあるのかなと思っております。そういったものを含めて,全体を担保化するというニーズがあるとすれば,そちらの方で対応するということが考えられるのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  休憩時間の実質は短くなったのですが,ただ,少し押しておりますので,4時5分再開というのは動かさないままで,暫時休憩に入りたいと思います。4時5分にお戻りくださいませ。

          (休     憩)

○道垣内部会長 それでは,予定した時間になりましたので,再開をしたいと思います。

  先ほど,部会資料3の第1の1というのを扱っておりまして,いろいろ御意見を既に頂いておりますけれども,なおどこまで集合物として対抗要件の具備というのを最初の段階でできるという特典を与えるのかと,4の経済的一体性等の要否というのは,特典を与えるのに特定性以外の一定のハードルがないと,要件が具備されないと特典が与えられないというものだと思いますが,そういうふうに考えるべきなのか,さらには,集合動産所有権留保についてもなお考えるべき点があるということなのかもしれません。もちろん1から3までの間で,まだ御発言いただくべきことがあれば,御発言いただければよろしいのですけれども,取り分け残っている4,5の辺りも含めまして,いましばらくこの問題について御意見を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。

○藤澤幹事 藤澤です。よろしくお願いいたします。これまでの最高裁判例や下級審裁判例との関係で幾つかお伺いしたいことがあります。

  これまで最高裁判例や下級審裁判例は,動産譲渡担保の目的物の範囲について,特定性の要件と,それから集合物性の要件で一定の絞りというか,歯止めを掛けてきたと思います。特定性の要件に関しては,家財一切という特定をした場合について,何が家財か分からないから特定性がないと言って譲渡担保の成立を否定したものがあったと思います。集合物性に関しては,少し古い判例ですけれども,プロパンガスボンベが点在しているような場面について,これは集合物性がないから,やはり譲渡担保の対象にはならないとした下級審裁判例があったと思います。もし現状の判例のルールを明文化するというか,一定の特定性がある場合に限って集合物を担保の対象とすることができる,というふうに書いた場合には,こうした判例を参考に条文が解釈されることになるかとも思うのですけれども,これらをオーバーライドする趣旨なのかどうかということや,もしそれをオーバーライドするのだとすれば,何か別の文言を入れる必要はないのかということが気になりました。

  それから,佐久間先生が先ほど御発言された件と関わるのですけれども,これまで学説は,設定契約の時点で物がはっきり特定されているということを重視して特定性の要件を考えてきたと思うのですけれども,下級審裁判例の中には,単に「製品」と書かれた設定契約について,債務者の業態からすれば,その製品というのは時計や宝飾品に限られるから特定性が認められるとか,明細書を毎月差し入れていて,その明細書の中に物が書いてあるのだから特定性があるというようなことを認めたものもあります。そうすると,設定契約における特定と,その後,実行する時点で目的物が特定されているという評価とは,ずれていることもあって,ここでいう特定がどの時点のものを指しているのかということも少し検討する必要があると思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。前半の問題については,藤澤さんはどのようにお考えですか。

○藤澤幹事 私自身は,在庫一切とか家財一切といったものでも,実行の時点で何が対象になっているのか分かるのであれば,特定性ありとしてよいと考えました。下級審裁判例にあるように,事後的な資料も含めて,実行の時点で目的物を特定できるのであれば,担保設定契約だけを取り上げて,それを無効とする必要はなくて,実行対象の問題として捉えればいいと考えております。そうであるとすると,設定契約における特定性の要件は,現在の判例のルールよりは少し緩やかになるので,それが明らかになるような文言で条文を書く必要があると思います。集合物性についても,当事者が何らかの範囲の財産を担保の対象にするということであれば,それ以上の制限が必要である理由が良く分からないので,集合物という言葉は使わない方がいいのではないかと思っています。

○道垣内部会長 実行までにというときには,どの段階で設定されたと考えなのですか。どの段階で当該動産に効力が及んだとお考えなのですか。例えば,明細書を出すということをしたときに,それ以前の段階で,当該明細書に記載された動産について担保権の効力が及んでいるというのはとても考えにくいような気がするのですが,それはどういうふうにお考えですか。

○藤澤幹事 ある動産に担保の効力が及んでいるかどうかが問題になる段階というのは,第三者に譲渡される場合や,第三者が差押えをする場面や,それから,実行する場面だと思うので,その時点で第三者と争うとか,実行をするということになったときに,「この資料からこの動産には私の担保権が及んでいます」ということが証明できれば,それで足りると考えています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。そうすると,詐害行為とかいう話はまた別に出てくるかもしれないですね。

  ほかの方,どうぞ。

○片山委員 すみません,今,集合という概念も不要であるというお話があったのですけれども,どこまで認めるかという問題はあるかもしれませんが,例えば動産一切という形の集合動産が認められるのかというと,なかなか難しいかと思いまして,やはり経済的一体性というつもりはありませんけれども,集合というときには,今まで,やはり何らかの制約が含意されていたのだと思います。それは,在庫という意味では流動資産に限りますということでしょうし,その他,固定資産までということになると,何らかの形での経済的一体性が,例えば事業という形で要求されるのではないかと考えます。動産一切ということで,確かに特定性は確保されるわけですが,それを認めてよいかは議論が必要なのではないでしょうか。そういう意味で,集合という概念によって,何らかの制約はおのずとあるのではないかというふうな印象は持っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかに何か御意見はございますでしょうか。もちろん,それには既に反対の御意見も出ているわけですので,そのような意見でまとまったということは全く意味しておりませんけれども。

  もう一つ,集合動産所有権留保について,佐久間さんの方から,ここに書かれている例は特定性がないことが明らかなのでというふうなことをおっしゃったような気がしたのですが,その意味がよく分からなかったのですが。

○佐久間委員 特定性の意味を,外部的,客観的に識別可能であるということを,そのような意味でとった場合は,当該売買基本契約に基づいて甲から乙に譲渡される商品というのは,ある商品というか,A倉庫内にある1個の商品に当たるものを見たところで,それが売買契約に基づいてそもそも甲から乙に譲渡されたものであるかどうかは,当事者には分かるのでしょうけれども,他の人には分からないということから,これでは特定されていないのではないか。一つの動産について,それが集合動産譲渡担保の対象になりますか,なりませんかということについて,例えば契約内容に書き込まれたことを突き詰めて調べていけば,最終的にこれは属しますね,これは属しませんねという仕分ができることをもって識別可能というふうにこれから言いましょうというのだったら,それはもう,まあそうですかと私は申し上げますけれども,これまではそのような,仕分ければ分かりますよねということでは特定があったとは見てこなかったのではないかと思いましたので,先ほどそのような発言をいたしました。

○道垣内部会長 それは,個別の所有権留保が単発的に行われた場合とどう違うのですか。

○佐久間委員 それは,個別の場合については1個の物について,初めからこれが客体ですということが対象になっているのに対し,包括的に認めるということになる場合には,1つ1つの物についてそもそも支配が及んでいる,及んでいないということが,まずもって問題と今までされてきたのではないか。個々物についての取引の場合と集合体についての取引の場合とでは,そのように異なる考え方が採られてきたのではないでしょうかというのが私の認識です。

○道垣内部会長 分かりました。

  ほかには。さらに,6の集合債権担保のところについても余り御意見を頂いておりませんけれども,そこも含めまして,1のところはそろそろまとめに入りたいと思いますけれども,御意見はございませんでしょうか。

○阿部幹事 債権の方ではなくて,集合動産所有権留保の話なのですけれども,資料では,集合動産所有権留保を認めなければ,譲渡担保権者に所有権留保売主が優先する方法はない,と書かれていますけれども,これは必ずしもそうではないような気がします。個別のといいますか,目的物と被担保債権との間に一定の対応関係がある所有権留保であっても,将来にわたって包括的に所有権留保合意をすることによって,譲渡担保権者に優先するという余地は認められていて,実際,平成30年12月7日判決はそういう事案だったように思います。ただ,問題はその平成30年の事案の射程をどこまで拡張できるかという話でありますけれども,あの事件だと,1か月ごとに代金を決済するという話になっていて,その1回の決済ごとに目的物と被担保債権の対応を認め,集合動産所有権留保ではなくて,言わば特定動産所有権留保の延長として,しかも狭義の所有権留保としての効力が認められておりましたけれども,そういう形で譲渡担保権者に優先していくということは,集合動産所有権留保を設定するという以外にもあり得るのではないかということを思いました。

最高裁判所第二小法廷平成30年12月7日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88171

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  何か,優先する方法はないというふうなことについての事務局からの弁明ないし解説というのはありますか。

○笹井幹事 今,阿部先生がおっしゃったことにつきましては,そのとおりだと思います。私の理解としては,平成30年判決というのは,若干その対応関係というのが緩やかにはなっていますけれども,ただ,月の範囲内で対応しているという限度では被担保債権と目的物の対応を図っている,言わば狭義の所有権留保をやや広げてその枠内で取り扱ったものだと理解をしております。この判決のように,被担保債権と目的物の対応関係を若干緩めることによって実務上のニーズに対応することができれば,それは問題ないと思うのですけれども,ここではさらに,狭義の所有権留保とは到底いえないような拡大された所有権留保については譲渡担保との優劣関係が問題になってきて,その場合には,譲渡担保と所有権留保とで同じような扱いにしておく必要性があるのではないかということを検討したということです。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

○青木(則)幹事 ありがとうございます。債権担保の目的という機能で担保権概念を作るのに,あえて所有権留保という留保型のものを残すことの意味というのは,一定の場合に,優先することがあるということに尽きるのかなと個人的には思っております。現状の御提案ですと,狭義のものでないものは結局,優先できないわけですよね。そうすると,譲渡担保に吸収させてしまった方がすっきりするのではないかと思います。留保売主が,狭義なのか,それとも拡大された所有権留保なのか,どちらか区別が付きづらい状況で複数回の所有権留保売買をするということももちろんあるのだと思いますけれども,そのときも,全体を所有権留保で処理するとしても,所有権留保を複数契約することになるのか,それとも,拡大された所有権留保で契約しておけば,そのうちの牽連性が高いものについては狭義と認められて,それ以外のものについては拡大されたものということになるのかというようないろいろな問題が出てまいります。拡大された所有権留保を譲渡担保として構成しうること自体については,留保売主からの譲渡のような構成になるかと思いますけれども,現在でもコンセンサスがあるかと思いますので,そのような取引については,集合動産譲渡担保を取りつつ,なおかつ優先を期待できる場合には留保売買をするという方がすっきりするのではないかと思った次第です。

○道垣内部会長 同一債権者が,最初は所有権留保売主として売り,それが,例えば第1倉庫に搬入されて,その後もずっと継続的にそれをほかの債権,売買代金債権以外の担保にも使おうと思うならば,第1倉庫内にあるある一定のものについての集合動産譲渡担保を取得するというふうに,所有権留保に加えて別の担保設定を行うと考えた方がスムーズだよねということですね。分かりました。

  ほかに何か御意見はございませんでしょうか。

  集合債権はもう別に,将来債権の譲渡が民法上認められて,対抗要件の具備というのも,あらかじめ具備するということが,どの時点で発効するのかよく分かりませんが,認められているということであるならば,特に担保に関する条文は,もちろんそれを担保権だと見るという条文は必要かもしれませんが,集合債権としての条文が必要になるわけではないということで,それは皆さんよろしゅうございましょうか。

  もちろん本日の段階で全てが決まるわけではございませんので,いろいろな問題がございますので,少し先を急ぐようで申し訳ございませんけれども,いろいろなところについての最初の御意見を伺うという趣旨もありますものですから,先に進めさせていただければと思います。

  それでは,部会資料3の第1の2について,御説明を頂ければと思います。第1の2と3について,併せて御説明いただきまして,議論をさせていただければと思います。それでは,事務局からお願いいたします。

○淺野関係官 それでは,部会資料3の「第1 集合動産・集合債権の担保化」のうち,2及び3の部分について御説明をいたします。

  まず,7ページの「2 集合動産を目的とする担保を設定した設定者の権限」についてです。

 集合動産譲渡担保については,集合物の内容が設定者の活動により変動することが予定されております。判例も,このような譲渡担保権の設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的である集合物を構成する個別財産を処分する権限が付与されており,その権限内でされた処分の相手方は,当該個別動産について,譲渡担保の拘束を受けることのない完全な所有権を取得することができるとしております。

  在庫など,一定の範囲での入れ替わりが予定されている動産については,設定者に一定の範囲で個別動産の処分権が与えられているというルールが合理的であり,本文(1)では,このようなルールを,「担保権の目的物が範囲によって特定され,特定範囲に,設定者の所有に将来属すべきものを含む場合」と表現しています。また,判例では「通常の営業の範囲」という表現が用いられている設定者の権限の範囲につきましては,事業のために用いられない動産を担保の目的とする場合や,設定者が商人ではない場合などに適切ではないという批判があり得ます。そこで,本文(1)アでは,より一般化した表現として,「譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動の範囲内において」という代案を示しております。

  また,判例が「通常の営業の範囲内」で設定者に処分権限が与えられるとした根拠は,担保権者がその範囲内での処分を設定者に許諾していることにあると考えられ,そうだとすれば,設定者の処分権限について当事者間で異なる合意がされていた場合には,その合意に基づく処分権限が与えられると考えられます。ただし書はこの点を明示したものです。このような合意については,設定者に倒産手続を開始したときに,当該合意が管財人や再生債務者に対してどのような効力を有するのかという問題もあるところです。

  次に,設定者の有する処分権限を越えて個別動産が処分・逸失されるおそれがあるが,まだ現実にはそれが生じていない場合について,本文(1)イでは,個別動産が担保の目的の範囲にいまだ含まれていることから,担保権に基づく物権的請求として,その差止めを請求することができることとしております。さらに,本文(2)は,設定者の有する処分権限を越える個別動産の処分・逸失がされた場合についてでございます。11ページの3以降に記載をしておりますが,この場合の法律関係については,権限範囲を超えた処分,すなわち個別動産に関する権利変動を生じさせる法律行為,がされた場合にどのような権利変動が生ずるのか,そして,個別動産が特定範囲から逸失した場合に担保権やその対抗力がどうなるのか,の組合せによって検討することが考えられます。

  まず,権限範囲を超えた処分の効果については,三つの考え方ができるのではないかと思います。一つ目として,権限範囲を超えた処分であることから,相手方は何らの権利を取得しないというもの,二つ目として,相手方は言わば物上保証人としての地位に立つとするもの,三つ目として,相手方は負担のない所有権を取得するというものです。

  次に,事実行為として個別動産が特定範囲から逸失する場合についても,三つの考え方ができるのではないかと思います。一つ目として,実体法上も担保権の効力は及ばなくなるという考え方,二つ目として,実体法上の担保権は存続するが,対抗力はなくなるという考え方,三つ目として,即時取得がされるまでは実体法上の担保権も対抗力も存続するという考え方です。

  資料では,以上の考え方を踏まえ,処分がされたが物理的には特定範囲にとどまっている場合,処分がされその後逸失した場合,逸失の後処分がされた場合について場合分けして分析をしておりますが,このような分析方法の当否を含め,御議論いただきたいと考えております。

  また,以上では処分権限を越える個別動産の処分・逸出がされた場合等について,担保権者がとり得る手段について御説明をいたしましたが,14ページの4にもございますとおり,個別動産の処分が行われた場合の相手方など,第三者の保護も問題となります。この第三者の保護についてどのように考えるかも,権限範囲を超えた処分の効果について,先ほど御説明したうちいずれの考え方を採るのかに関係するところですが,現行の即時取得制度によって保護を図ることができると考えるかどうかが問題になると考えられます。

  次に,14ページの「3 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限」についてです。集合債権譲渡担保におきましても,設定者は,その構成部分である債権を回収し,回収した金銭をその後の営業等に使用することができます。もっとも,動産と異なり,通常の営業の範囲内であるかどうかを問わず,履行期が到来した債権の取立権限が付与されているとの考え方もあり得ます。

  他方で,取立てのみではなく,金銭を対価とした債権譲渡,和解や免除等が行われる可能性もあり,そのような処分について,動産と同様,権限範囲が問題になると考えられることから,本文では,設定者が権限範囲内において特定範囲に含まれる債権を処分し,弁済又は対価として受けた金銭等を利用する権限を有するとすることを提案しております。

  私からの御説明は以上です。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  それでは,どなたからでも結構でございますので,今の範囲で御意見を頂ければと存じます。よろしくお願いいたします。

○横山委員 京都大学の横山です。非常に初歩的なことで申し訳ないのですけれども,今の一番最初の2(1)のアというところで,設定行為に別段の定めがない限りは,通常の営業の範囲内で処分することができることが前提となっているのですけれども,集合物が目的であるということから直ちに処分権があるということが導かれるのだろうかというところが少し,分からなかったというところがあります。どういうことかといいますと,集合物の譲渡担保というのは何かというと,構成物が変更するものだと考えられていて,理論的には,例えば旅館のニシキゴイのように,ニシキゴイが生まれたり死んだりして内容物は変わるかもしれないけれども,そこにいるニシキゴイに譲渡担保を付けていると,そういう場合もあると思います。もちろん,現実に,ここで問題になっているのは,集合物の内容について設定者が処分することが予定されている場合がほとんどだと思うのですけれども,理論的には,構成部分の変動する集合動産譲渡担保は,そのような処分権が与えられたからこそ,処分できるのではないのかと思いまして。そうだとすると,書き方としては,別段の定めがない場合には常に集合物を目的とするときには処分ができますよとまで言い切ってしてしまうのか,それとも,特に何らの定めがなければ,通常の営業の範囲内で処分する権限を与えた合意があるものとみなす,あるいは推定するという方法もあるかと思います。そのようにすべきだというところまで申すつもりはないのですけれども,集合物であるというところから直ちに,通常の営業の範囲内について処分権があるとすることには,何か少し論理的に飛んでいる感じがしましたので,もう少し丁寧な説明は要らないのか,あるいはこれでもいいのかは,お考えいただければと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。それは多分,1のところから問題になっていることと密接に関係しているのだと思います。つまり,今までの議論が,通常の営業の範囲,さしあたって営業の範囲といいますが,その範囲で処分して内容が変わっていくようなものを念頭に置いていて,それを集合物と呼んでいたわけです。しかし,1のところでの議論で,特定があれば足りるだろうという話で,2の(1)のような書き方,これは非常に正確な書き方だと思いますけれども,こういうふうな書き方で,別段集合物概念は採らないとか,経済的一体性などというふうな話とか,流動性みたいなことは必ずしもそこでは書かなくて,特定という形での譲渡担保の設定の話ですと考えると,それは別に処分権限とは結び付かないでしょうという話に多分なるのだろうと思うのです。だから,そこはこの制度をどういうふうなものとして仕組んでいくのかというところと非常に密接に関係している重要な御指摘だろうと思います。旅館のニシキゴイという,久しぶりに聞く古典的な例が出てきまして,私も懐かしく感じましたけれども,青木さんお願いいたします。

○青木(則)幹事 同じく7ページの2(1)のアの,ただし設定行為に別段の定めがあるときは,その定めに従うという点について,全く違う観点から一点発言させていただきます。設定行為に別段の定めがあるときは,処分授権の推定が働かず,別段の定めのとおりになるということで,例えば権限外の処分になってしまうというときには,その処分の相手方である買主が保護される余地というのは,192条の要件を満たすときだけということになるのでしょうか。

  この点については,違和感を感じております。と申しますのは,営業ないし事業の通常の過程における買主保護に関しましては,アメリカ法にも類似の規定があるわけですが,アメリカ法の場合は,正に権限外の処分からの買主の保護の規定の一つの態様であって,権限外の処分の相手方の保護を,事業の通常の過程の場合(§9-320)と,そうでない場合(§9-317)に分けてあります。これと比較すると,営業をしている債務者からの買主の保護という意味では大分厳しくなってしまう。少なくとも,完全な所有権を取得するには192条の要件を全て満たすというのではかなり厳しいような気もいたしますので,それで足りるのかどうかということについて御検討いただければと思います。

○道垣内部会長 日本法の話をしますと,14ページのところに第三者の保護という話が書いてありまして,即時取得といっても,何を信頼するのが即時取得なのかという話で,例えば,通常の営業の範囲であると信じた場合には,即時取得の要件が,処分権限があると見るわけですから,それで即時取得が成立すると考えることもできるのではないかと話したのですが,こういうふうに考えても,やはり即時取得では足りないと考えるということなのでしょうか。これが,青木さんのお考えをもう少し明らかにするために伺いたいことの1点目です。2点目は,最初に事務局からお話があったときに,処分をするという法律行為の問題と搬出するという話を分けて考えると申し上げたのですが,搬出してしまうと,もはやもう及ばないというふうに搬出行為の方を捉えてしまいますと,処分が無権限処分であっても,搬出によって効力が及ばなくなるというのもあり得るという作りになっているのだと思うのです。そこは少し確認なのですが,前者の,即時取得ではすごく狭くなってしまう,アメリカよりも狭くなってしまうということについて,少し補足的に御説明いただければと思うのですが。

○青木(則)幹事 まず,御指摘いただきました2つ目の点とも関係するのかもしれませんが,特定の範囲からの搬出ということでも,即時取得でも,基本的に現実の引渡しを要件としているということになるかと思いますけれども,権限外の処分の相手方の保護の狭さという点では,そこが1点目の違いになるかと思っております。アメリカ法の場合は,事業の通常の過程でない権限外の処分のときには,現実の引渡しプラス善意が必要という要件があって,事業の通常の過程であるということになれば,その二つの要件は両方とも要りません。2点目の違いは,その善意要件の要否です。おっしゃるとおり,事業の通常の過程とは何かということで考えていくと,権限があると信じるのが一般的だという状況だろうと思いますので,そういう意味では,アメリカ法でも,通常人から見た主観みたいな話は要件に入っていると考えてもいいのかもしれませんけれども,いずれにしましても,当該相手方の主観,善意や過失は問わないということになっております。

○井上委員 ありがとうございます。井上です。3点ほど申し上げたいと思います。

  一つ目は,細かな点ですけれども,債権の方,14ページの3のところでは,設定者の権限として,特定範囲に含まれる債権を処分し,弁済又は対価として受けた金銭その他のものを利用する権限という書き方がしてあるのに対して,動産の方は7ページで,特定範囲に存する動産を処分し,その特定範囲から逸失させる権限とだけしか書いていないのですけれども,これは当然のこととお考えなのだろうとは思いますが,担保権者の代理人として処分したり逸失させる権限ではなくて,処分したり逸失した結果得られた,典型的には代金たる金銭を自分のものとして事業に利用できることを含意しているのだと思うので,集合債権について14ページに書かれたような表現をするのであれば,集合動産についても同じように,その対価を利用できることまで明らかにする方がバランスがとれているように思いました。どう書けばいいのかよく分かりませんけれども,一番短く,取りあえずの思い付きで言うと,この墨括弧の後に,「自らのために」というような言葉を入れてもいいのかなと思います。ここは,自らのために特定範囲に存する動産を処分し,特定範囲から逸失させる権限という意味合いだと理解しているということが1点目です。

  2点目は,この「通常の営業の範囲内で」あるいは「譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動の範囲内において」というところですけれども,これは設定者の処分,逸失あるいは搬出の基準として理解されているのだと思うのですが,判例法理上も恐らくそういうことだと思うのですけれども,本来はこの基準は,集合動産からの流出だけを見る基準ではないのではないかと考えています。むしろ流入と併せて,設定者の権限と義務の内容,担保権の内容を画する基準と考えるべきではないかと考えます。

  したがって,通常の販売行為で売れた分だけを搬出するのであれば常に設定者の権限範囲内と言えるわけではなくて,通常の販売行為で売れた分を搬出しているだけだけれども,一方で仕入れについて,X倉庫とは別に新たにY倉庫を借りて,新規仕入れ分はY倉庫に入れていくという場合は,通常の販売行為で売れた分だけの搬出行為自体も正当化されないのではないかと思っております。そういう状況を,補充義務の問題,担保価値維持義務の問題と評価して解決するという解決の仕方もあると思うのですけれども,「通常の営業の範囲」として設定者の権限に入るかどうかという問題としても捉えられるのではないかと思います。いずれにしても,この「通常の営業の範囲内」という基準が,流出といいますか,出るところだけを捉えると考えるのが本当にいいのだろうか,むしろ通常の営業の範囲でぐるぐる出入りすることが担保権の内容として了解され,そういうものとして担保権者は担保価値を把握していると考えると,当然一定の増減は許されるわけですけれども,その増減の範囲で代わりに入ってくることとセットになって出すことが許容されていると考えるべきではないかと思いました。

  この基準は,先ほどの経済的一体性の議論に少し近いのかもしれませんけれども,道垣内先生が先ほど特典とおっしゃいましたが,現時点の担保設定行為,処分行為と現時点の対抗要件具備によって,どうして将来の動産にまで担保権を及ぼせるのか,それは特典というよりはむしろ,その代わりに担保が及んでいるはずのものを設定者が担保の範囲から出してしまって,かつ,それを処分した代金を自分の懐に入れられることとセットになっているからこそ,将来の動産にも及ぶというのがバランスしているのではないかと思いましたので,そういう意味で,「通常の営業の範囲内」を入りと出を両方含めた概念として捉えて,まだ御説明いただいていないのですけれども,15ページの4とも併せて本来考えるべきことと理解してはどうかと考えております。

  そして,そのように考えるとすると,先ほどの横山委員の御発言にも関わってくるわけですけれども,やはり原則は,通常の営業の範囲内で出せる権限ありと考えるべきではないか,だからこそ入ったものに及ぶという,こちらがむしろ原則と考える,事務局の提案でいいのではないかと思います。池のコイは,通常の営業という言葉にはうまくフィットしないのですが,「譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動」という意味でいうと,池のニシキゴイはどのぐらいの変動が通常なのか,私にはよく分かりませんが,余りにも減ってきたら足すかというような話なのかもしれず,元々の担保設定合意において,担保の目的は「今あるコイ」ではなくて,「入れ替わればそれは含めるよ」という合意がなされているとすれば,その合意の評価として「通常の変動」をどのぶれで解釈するかによりますけれども,そのぶれの範囲で,やはり入替えが許容されているのが原則になるのかなと思いました。

  これが2点目ですが,3点目は,そうすると,このただし書をどう捉えるかですけれども,今のように考えると,当事者が合意すれば何でもできると考えていいかというのが,実はまだ考えがまとまっておりませんが,資料の説明にもあったかもしれませんが,極論すれば,処分をおよそ許さないことができるかが問題となります。処分をおよそ許さないというのは,在庫については事業活動として考えられないので,その意味するところは,在庫を処分した代金は全部担保権者に渡すということを意味するのだと思いますけれども,そういったことが単なる債権的合意ではなくて担保権の内容になり,第三者に対抗できるのかは,悩ましいといいますか,累積的な譲渡担保を許容することにつながり得ると思っているところですが,少なくともはっきりしているのは,それはさすがに倒産手続においては制約すべきであろうということです。平場で許容するかどうかについては考えが完全にはまとまっておりませんけれども,倒産手続になっても,ただし書のような合意に基づく担保権の内容をそのまま物権的に認めることは難しいでしょうから,やはりそこには制約原理を設けるべきであろうと思います。その制約原理の中身については,また倒産のところで議論するということかと思いますが,三つ目として,このただし書の意味について思ったところを申し上げました。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。事務局ないしは私の方で答えなくてはいけないこともあるのかもしれないのですが,多くのお手を頂いておりますので,いろいろな方の御意見をまずは伺うということにしたいと思います。

○尾﨑幹事 私の方は青木先生と具体的な内容は近いというか,ほぼ一緒ではないかと思うのですけれども,発言させていただきます。金融庁として,これまで様々な意見を申し上げておりますが,これまで一貫して軸に据えて考えております「事業を成長させる」という観点から,2点申し上げたいと思います。

  1点目は,9ページの20行目あたりで紹介されている判例にあるような,当事者間での別段の定めについてです。「事業を成長させる」という観点からは,こうした当事者間での別段の定めが,場合によっては足かせになり得るように思いますので,その指摘です。ある実務家の方から聞いた話ですが,売掛金を除いて在庫だけを担保にして融資をするときは,担保価値を維持してもらうために在庫を一定量確保してもらわないといけないそうで,そのせいで事業者が在庫の売り時を逃してしまうといったようなことが実際にあるということでした。これは,事業の一部を切り取って担保権が設定された場合に,設定者にとって,事業の成長のための合理的な行動を妨げられてしまうような定めがなされるおそれがあるということだと思います。これは,設定者だけでなく,取引の相手方にとっても問題です。在庫の売り時で,合理的な条件で,設定者にとってもよい取引だろうと思って契約をしても,後からその効力を否定される可能性があるということであれば,取引をとりやめるといった判断につながり得ると思います。事業の一部を切り取って担保権が設定される場合の問題点として,この点指摘させていただきます。

  2点目は,提案になりますが,こうした不都合を回避して事業の成長を促す制度とするためには,資料14ページの24行目で示唆されておりますような,第三者保護の規定が求められるべきはないかと考えております。

 この資料では,14ページで,3(1)②として,相手方が設定者としての地位を引き継ぎ,言わば物上保証人としての地位に立つという考え方を採ることで,善意無過失の商取引先を保護するという選択肢と,3(1)の③として,相手方は負担のない所有権を取得するという考え方を採ることで,悪意であっても保護する,という二つの選択肢が示されております。しかし,それぞれの選択肢について疑問がございます。

  まず,②の善意無過失の商取引先を保護するとの考え方を採った場合の帰結については,善意「有」過失の商取引先でも,「事業を成長させる」のであれば保護すべきではないか,ということです。資料には,結局のところ権限について無過失を求めるということが書かれておりますが,「事業を成長させる」商取引先であれば,権限を知ることについて過失が仮にあったとしても,保護するべきではないか,過失がないことを求めると商取引が萎縮してしまうのではないかと考えます。また,③の考え方を採った場合の帰結については,例えば,非常に低い価格で買い取るような詐害的な第三者についても保護することになってしまい得ますので,これでよいのか疑問を感じます。いずれの選択肢についても「帯に短し襷に長し」という感想を持ちました。

  そこで,むしろ保護に値する第三者,商取引先というのは何者であるのかということを正面から考えて,それに見合った保護規定を設けるべきではないかと考えております。特に,「事業を成長させる」という観点から考えますと,例えば,第三者が事業者の通常の商品を通常の取引条件で購入してくれるのであれば,恐らくその取引は「事業を成長させる」ものですので,保護すべきではないかと思います。仮にその担保権者と設定者の間に別段の定めがあったとしても,そして第三者にそれを知るべき過失があったとしても,「事業を成長させる」取引をするものとして,保護すべきであることは変わらないのではないかと考えております。青木先生も仰っておられましたが,アメリカでBuyers in the ordinary course of businessが保護されているのは,そのような趣旨があるのではないかと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○佐久間委員 ありがとうございます。私も7ページの2(1)のアについてなのですけれども,結論として井上さんがおっしゃったのと,この原案でいいのではないかということでは賛成です。どうしてかと申しますと,先ほど個別の譲渡担保のところで,所有権が担保のために利用されるということであっても,例えば実質は担保権にすぎないのではないかと見てもいいのではないかと私は申し上げたのですが,それを前提としたら当然,前提としなくても,集合動産の場合に,特にまだ現に設定者が所有するに至っていないものについても,最終的にその債権者が権利を得るとしても,それは所有権に近いというか,所有権に類する個々のものについて権利を有しているとまで考える必要はないのではないか。設定者の方に元々,結局,所有権そのものか,所有権に極めて近い権利がやはりまだ個々のものについては帰属しているというふうに考えることが適当ではないか。ただ,では全面的に何でもしていいのですかというと,井上さんがおっしゃったことだと思うのですけれども,担保権者を害するような行為,これはしてはいけなくて,だからこそ井上さんは,出だけではなくて入りも一緒に判断すればとおっしゃったのだと思うのです。そのような担保権者,債権者を害するような行為はできないということになるにしても,そうでない行為については特段の制限はないとすることが出発点であっていいのではないかと思っています。したがって,この本文ただし書はこの順でいいのではないかと思っています。

  その際に,井上さんがおっしゃったことについて次に申し上げたいのですが,出だけではなくて入りも見るべきだというのは,設定者の義務として見ればそうなのだろうと思うのです。しかし,権限として見た場合は,そもそも出た瞬間に,権限があって,法的に効力を妨げられることのない行為なのか,それとも,そもそも効力を認められるべきでないものなのかということが判断できないといけないと考えられるので,入ってくることが予定されているからこの出はオーケーですとか,入ってくることが予定されていなかったら,これは濫用的だということにはなるのだと思うのですけれども,後に補充があるかないかによって,既に出ている,先に行われている出の行為について権限を画するということは,適当ではないのではないかと思います。ただ,全体として義務に反する行為であるかどうかの判断は,出だけではなくて入りも含めて考慮するということは,それはまあそうなのかなと思っています。

  その上で,2(1)のアのただし書のところの別段の定めがあるときの,その別段の定めによる制約は,基本的には権限そのものを,これは広げたり,狭めたり,物権的にといいますか,権限そのものについて効力があるということで考えられるのだろうとは思いますけれども,所詮債権的な効力しかありませんという作りもおよそあり得ないわけではないのではないか,債権というか,義務レベルで従わなければいけませんという作りもあり得るのではないかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。多岐にわたっておりますが,もう少し皆さんの御意見を伺ってとしたいと思いますが,片山さん,続けてお願いします。

○片山委員 片山でございます。どうもありがとうございます。通常の営業の範囲かどうかという話なのですけれども,これは流動資産か固定資産かで全然違っておりまして,流動資産ですと売却を前提としている財産ですから,処分権があるのが当たり前ですけれども,固定資産に関して言いますと,処分できないというか,処分するのは基本的には担保権侵害になるというのが大原則ということになるかと思います。ですから,先ほどのコイの例も,庭の観賞用のコイということであれば,処分権は認められないのでしょうが,コイ屋さんでコイを商っているということであれば,通常の営業の範囲の処分権限が与えられているということになるのだと思います。ただ,そう考えた上で,固定資産に関してはやはり売れないのが大原則だということになるのでしたら,通常の営業の範囲ということで基準にはなっているかとは思います。

  ただ,通常の営業の範囲というときに,どちらがそれを主張立証するのかという話になりますと,流動資産に関して言いますと,やはり処分権限があることが前提で,売れるに越したことがないということですので,権限の範囲を超えたような一種の濫用的な処分であるということを担保権者の方で主張できなければ,基本的には有効な処分というふうに考えざるを得ないのではないかと思っております。その際に,井上委員からの指摘もございましたとおり,入替えの余地もありますので,補充義務はぜひ法定をしていただいて,均衡を図っていただければと思っております。

  それから,もう1点なのですけれども,権限外処分の効力の問題は,これは難問中の難問だと思いますので,果たして立法的な解決がどこまでできるのかというのは分からないところですけれども,11ページに挙がっている①,②,③ですが,これは通常の制限物権的に構成するということであれば,当然,所有権が残っているという前提ですので,少なくとも担保権の負担があっても,担保権負担付きのもので譲渡はできて,そして,ただ追及効を観念していくということになりますから,②ということになるのでしょうけれども,所有権担保であるということを大原則として考えますと,基本的に処分権は,もう所有権自体が移転していることを前提としますと,通常の営業範囲で処分権が与えられているときにだけ処分できるということですので,権限のない処分というのは,全く無権利者の処分ということにもなってしまうという整理になるように思われます。それを②の立場でここで考えるということになりますと,それは制限物権に近いものにならざるを得ないのではないかという気はいたしました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  いろいろな見解がありますが,大西さん,続けてお願いします。

○大西委員 大西です。よろしくお願いします。まず,通常の営業の範囲内と,スラッシュで,譲渡の対象の構成について通常の過程で生じ得る変動の範囲内においてという文言があるのですが,これはやはり通常の営業の範囲内というのが一般取引上よく使われているので,こちらの方がよろしいのかなと思っております。担保設定をしたとしても,設定者のビジネスは通常どおり行っていいのだということは,やはり明確にすべきということから,この文言がいいのかなと思います。

  それから,2点目は,権限の範囲の中で動産を処分し,また,特定範囲から逸失させるうんぬんという記述についてです。この中で,動産の処分については,在庫を売って,売掛金になって,回収してというサイクルになるので当然問題はないのですが,場所で特定されている集合物動産の場合に,場所を動かす方は問題があると思います。動産を動かす場合もいろいろあるかと思いますが,新しい倉庫を造る際に動かす場合もあれば,倉庫に雨漏りが生じて移さざるを得ないというようなケースもあります。こういう場合に,設定者の権限から外れてしまうのか,即ち,これが通常の営業の範囲内なのかどうかが問題となるのですが,この判断は多少ファジーなのかなと思っております。だからといって通常の営業の範囲内という文言がよろしくないという意味ではなくて,そこは何らかの形で通常の営業の範囲内での逸失にあたるのか否か判断基準を明確にした方がいいかなと思います。

  このように担保対象となる集合物動産の設置場所を移すものについては,担保対象から外れるのですが,先ほどの流動資産のサイクルからは外れるので,担保価値の維持の点から問題があると思います。一方で,在庫でも長期滞留在庫のように価値がないものであれば,これを廃棄する行為は価値が変わらないわけですから,そこは許されるものと思います。このように,価値がある在庫をそこの場所から何らかの形で移動させるということは,これを担保設定者の権限という視点でどのように捉えるのかについては,私も分からない点で多分にございます。

  3点目は,第三者であるいわゆる取引先からすると,やはり今のような不明確な部分もある点と,先ほどのただし書のように設定行為に別段の定めがあるというようなケースもあるので,第三者を保護するための条件として,即時取得における善意無過失まで求めることは厳しすぎるのではないかと思います。ここにおいては,無過失までを求めるべきではないと思っております。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  多々挙がっておりますが,阪口さん,続けてお願いします。

○阪口幹事 阪口です。大体議論が出ていると思いますけれども,通常の営業の範囲のところについては,まず,対抗要件制度とか公示制度の作り方によっても当然,ここの状況は変わるのだろうと思っています。例えば,先ほどの在庫一切で場所限定がなくなってしまえば,逸出という問題がかなりなくなってくるということになります。けれども,仮にここで現行法のスキームを前提にしたときに考えたときには,私はどちらかというと,集合動産というものについては,古典的によくいわれる集合動産というものが明確にあって,それは設定者が一定の範囲で処分できるということがもうデフォルトとして決まっているという,それが先に考えるべきことではないのかと思っていますので,別段の定めについても,一番端的には,債権的合意にすぎないとすべきですし,債権的合意でないとするのだったら第三者保護規定を別に設けて,善意無過失でない形で,単に善意であればいいとか,何かそんなのかも分かりませんけれども,そうしていかないとうまく回らないと思います。やはり商売というのは,後から文句を言われるのではないかと思っただけで商売が止まってしまう,やはりそこのファクターは大きいと思いますので,過失があったと後から言われるのではないか,きちんと調べないといけなかったと言われるのではないかと思ってしまうこと自身が,もう商売自身を毀損すると思います。

  あと,細かいことで,表現ですが,通常の営業の範囲内という言葉について,日弁連では通常の事業の範囲内という言葉が出たのと,大阪弁護士会では常務に属する範囲,よく倒産手続で監督委員の同意の要否などで常務に属するという言葉が使われることがあるので,そちらの方がいいのではないかという意見があったことを付言します。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  藤澤さん,お願いいたします。

○藤澤幹事 やはり同じところについてなのですけれども,大勢の先生方が御提案に賛成する中,あえて反対意見を言ってみようかなと思いました。先ほどの個別動産についての設定者による処分のところで,事務局からの御説明では,基本的には処分することができるのだけれども,担保権に追及効があるという御説明でした。これに対して,この集合動産の場面では,一定の場面では追及効がないのがデフォルトルールで,それを合意によってひっくり返すことができるというふうな御説明になっていて,追及効の有無について,個別動産なのか集合動産なのかによってルールが変わってくるということかと思います。

  しかし,従来,個別動産の譲渡担保として行われているものであっても,例えば信用状取引のように大量かつ債務者が将来取得する物を目的とする取引というのもありまして,一体どちらなのかでデフォルトルールが変わってくるというのは,線引きの問題を生じさせて面倒なのではないかと思いました。そこで,集合動産の場合でも,デフォルトは追及効ありで,処分権限がある場合には追及することができなくなるというルールでいいのではないかと思いました。

  他方,そうすると,取得者,第三者の保護が問題となってきますけれども,それについては青木則幸先生がおっしゃったことに賛成で,第三者保護のルールとして,通常の営業の範囲内で取得した第三者については,その主観を問わず,目的物を原始取得することができる,完全な所有権を取得することができるというルールを設ければいいのかなと思いました。

○道垣内部会長 何で原始取得なのですか。

○藤澤幹事 処分権限がないので,原始取得になると考えました。

○道垣内部会長 細かい点に突っ込んで申し訳ありませんが,承継取得だと思いますけれども,分かりませんが,沖野さん,お願いします。

○沖野委員 3項目について申し上げたいと思います。

  一つ目は,一番最初の横山委員から御指摘のあった処分権限そのものについてなのですけれども,個々の財産として特定してこの取引をするという場合と,範囲で特定するということでは,やはり類型が違うと見るということではないかと思います。更に言うと,ここでの処分権限というのは担保権を消すものですので入れ替わりと補充が想定される場合のことだと思います。これに通常の営業の範囲内でということが掛かってきますので,既に何人かの先生が繰り返しおっしゃっておられますように,旅館の鯉の,あるいは什器備品一切というときも,壊れたら入れ替えるわけですので,それをどんどん売ってしまうというのは,やはり通常の営業の範囲ではないということになりますので,これによって実は絞り込みが働いているのではないかと。ただ,通常ではない形で,例えばより慎重を期したい債権者が同意を必要とするというような範囲を絞り込むとか,それぞれ作り込むということは考えられていいのだろうと考えますので,したがいまして,(1)の規律の構成というのはこういう形でいいのではないかと思っております。

  その場合の第三者保護なのですけれども,当該取引類型といいますか,そこから当然にというか,デフォルトというか,本来こういうものであれば許されるであろうという客観的な性格から出てくるものと,それに対して作り込みの方は内部的な制約という形をとりますので,債権的効力かどうかという問題もありましたけれども,例えばですけれども,ただし書による場合には相手方の保護要件というのを無過失までは要らないと,善意で足りるというような形で段階を付けるということは考えられるのではないかと思いました。それに対して,別に善意かどうかも問わないという考え方も出されていたかとは思いますけれども,本文の場合とただし書の場合とで第三者保護の在り方が違うというのは,それは更にこれに組み合わせるということができるのではないかと思います。

  なお,通常の営業については,阪口委員が御指摘になりましたように,ここで書かれている問題点は主として営利性と結び付けられる2点の問題ということであるならば,事業といった表現に変えるということは十分考えられるのではないかと思います。

  最後に,権限外の処分がされたときの効力ですが,いずれの説明の仕方というか,考え方もあり得ると思いましたけれども,これはここに限定されるものではないのですが,これより前のところでも言われた片山委員のお考えが非常に私は気になっておりまして,すなわち所有権なり権利移転を使った取引なのであるということを非常に重く見,それがスタート点になるべきだというお考えですけれども,私は,担保目的で権利を移転しているということで,確かに権利移転という構成や所有権移転という構成を現在は使っていますけれども,そこではやはり担保のためにそれを使っている,そういう形式をとっているだけのことではないかと,私は個人的にはむしろ正面から担保権構成にしてしまって,担保だというふうに作り込んだ上で,それに対して,それと同様の取引,担保目的でされる権利移転の構成をとるような場合もそれに服するというような在り方も十分考えられると思っておりまして,仮に,担保権的に構成した,あるいは新しい担保物権なりで構成した場合と違わないではないかという疑問というか指摘に対しては,それで全く問題ないという,むしろそちらのスタンスで考えております。今回お伺いしていて,ここは非常に大きなスタンスの違いかなと思われ,それはいろいろなところに出てくるという気がいたしましたので,少しそのことを申し上げたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  最後の沖野さんのおっしゃったことに関連して申しますと,担保目的取引規律型の規律を結構説明していますが,なお担保権であるというふうな形で全体を作るという選択肢は全く排除されておりませんので,それは今後の議論だろうと思います。それで,そのときに,所有権移転だというふうに言った人のことをどうするのかという問題が先ほど沖野さんから,その場合も同様にするというふうな話で乗り切ることも可能だろうとおっしゃったのですが,それもそうかなと思います。とにもかくにも,そのところに関しまして,所有権移転をするというふうなものがもう今後の議論の前提になるとは考えないでいただければと思います。ただ,その可能性もあるわけですので,所有権移転の契約であって,それの効力を規律するのだというふうになったときには,考え方としてこうはなり得ないのではないかというふうな議論というのも十分にする必要があると思いますので,今後も両方とも並行してしばらくの間は進んでいきたいと思います。

○倉部委員 ありがとうございます。法政大学の倉部です。よろしくお願いいたします。

  10ページの(5)の別段の定めがある場合の倒産手続上の取扱いについてですけれども,この点もそうですし,あとは,今日はもう触れられないのかもしれませんけれども,後半の担保価値維持義務についてもそうなのですが,やはり倒産手続が開始して固定化が生ずるのかどうかというところが固まらないと,議論がなかなかしにくいなと感じております。

  本日扱われている10ページの(5)のところで申しますと,固定化が仮に生じて設定者の処分権が失われると考えるのであれば,あとはもう別除権協定の問題になってくるのだろうと考えています。従前の合意内容がそのまま手続開始後も維持されるのかどうかということを別除権者と再生債務者等との間で交渉して,維持するかどうかが判断される,あるいはもちろん合意内容によっては調整がされる可能性があるのかもしれませんけれども,そうなりますと,別除権協定が仮に担保権の目的である財産の受戻しという民事再生法の監督委員の同意事項だと考えられるのであれば,監督委員のモニタリングによってその内容がチェックされるということになるのかなと考えております。

  逆に,固定化が生じないと考えますと,設定者に処分権が残るわけですけれども,その場合も,従前の別段の定めの内容が,仮に事業の継続に大いに支障があるような内容で,それがどういう内容か今はぱっと浮かびませんけれども,民事再生の目的が実現できないと言われるような内容だということになれば,倒産法上の公序という話が出てくるのかなと今のところは少し思い付いておりますけれども,この点は後ほど詰めて考えていきたいと思っております。

  それから,10ページの20行目のところで,別段の定めの例で挙げられている内容が2点ほどありますけれども,例えば集合動産が一定量又は一定額を下回らないような範囲内で処分することができる,それから,一定の金額以上で処分しなければならないというのは,裏を返せば一定量又は一定額の集合動産を維持しておかなくてはならないということだと思いますし,一定金額以上で処分しなければならないということは,一定金額の流入も確保しなければならないということだと思いますので,こういった仮に別段の定めを検討するのであれば,やはり担保価値維持義務を倒産の場面でどう考えるのかというところも検討しないと,結論がなかなか導きにくいかなと今のところは考えております。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  なお一言申しますと,先ほど藤澤さんに,どうして原始取得なのかと申し上げましたが,藤澤さんの趣旨はその後,よく分かりました。すみませんでした。

  ほかに何かございませんでしょうか。

  議論はかなり分かれておりますが,今までの中で幾つか質問にわたる,質問にわたるところがあったかどうかも微妙なのですが,事務局の方で何かございましたら御発言いただければと思います。特にない。

○笹井幹事 様々な観点からの御指摘を頂きましたので,またよく咀嚼して考えてみたいと思います。

  幾つか申し上げるとすると,井上先生から,集合物への補充も検討すべきではないかという御指摘があり,そこは全く異存はありません。処分する場面についてはゴシックの2で扱い,補充のところをゴシックの4で扱いましたのは,これが全く別の問題であるという趣旨ではございませんで,それはもちろん表裏一体の関係にあるものだと理解はしておりましたけれども,ただ,局面として,処分それ自体が有効なのかどうかという問題と,補充の義務を負うかという問題は分けられるということなので,別々に議論したということです。ただ,それが相互に関連しているということはおっしゃるとおりだと思いますので,そういった点については全く異存はございません。

  あとは,通常の営業の範囲と呼ぶのか,事業の範囲と呼ぶのかと,あるいは全く別の発想で文言を作るのかというところはありますけれども,いずれにしましてもそういう評価的な要件は入れていかないといけないと思います。片山先生あるいは横山先生がおっしゃったような,比較的固定的な,余り日常的に変動していくというものではないのか,あるいは在庫のように毎日売られていくというものであるのかという違いについては,その評価的な要件への当てはめの範囲内である程度対応できるのかなとは思っておりましたけれども,その点につきましても本日様々な御議論を頂きましたので,またよく考えてみたいと思います。

○道垣内部会長 私の方からも一言申しますと,今日の前半からの皆様の御意見を総括いたしますと,集合物というものに対して何かの制約を課すというのではなくて,基本的に特定の仕方として,範囲とか場所とか,そういうところで特定が可能であるならば,別に全ての在庫商品であっても何でも,それは構わないのではないかという意見が強かったように思います。その上で,そういうふうな特定の方法にすぎないと見ると,それは個別動産の場合だって,あるいは個別債権の場合だって,特定の仕方というものはいろいろあり得るわけであって,そうなると,個別動産の場合は,例えば製品番号で特定するけれども,場合によっては場所と何とかで特定するという場合もあるものであって,それほど根本的に変わらないという話になってくる。そして,根本的に変わらないという話になってくると,特定動産の場合には処分が禁止されるというのだから,それ以外の範囲で特定した場合も処分が禁止されるというのがデフォルトになるはずである。しかし,それではもちろんその目的に反してきますので,相手方が通常の営業の範囲で取得をするということになると,それはその後の主観的な要件なんていうのを訴訟において自分で立証していかなければ保護されないというのではなくて,通常の営業の範囲だよねということさえ言えれば取得ができるというふうにすることによって,流動性というものを事実上持たせるということになるというのが,一つの極端な絵としては出てきたのかなという気がいたします。

  そのことを,最後の方のところを引っ張ってこられた青木さんと藤澤さんに伺いたいのですが,そうすると,個別動産のときも同じですか。つまり,買主としては分からないわけですよね,それが個別動産という形での譲渡担保に供されたのか,範囲の指定によって譲渡担保に供されたのかは分からない。ただ,その目的物を購入するというのが通常の営業の過程で普通の行為だよねという話になれば保護されるということになるので,別に集合物の問題ではないということになるということで,それでよろしいのでしょうか。

○青木(則)幹事 せっかくですので,一言よろしいでしょうか,すみません。おっしゃるとおりでけっこうかと思います。アメリカの教科書的な議論でも,レンタカー屋を兼ねた中古車ショップの在庫商品の担保化の事例みたいなものを出して,どう分けるのかみたいな議論がありますが,事業類型で分けることができるけれども,物としては区別していないという考え方をとっています。わが国でも同じように考えていけるのではないかと思っております。

○道垣内部会長 藤澤さんも異論はございませんが。

○藤澤幹事 はい,そのように考えます。

○道垣内部会長 分かりました。それを通常の営業の範囲とか,事業の範囲とか,常務だとかいうか,それとも契約条件というものを中心にして見るのか,尾﨑さんは,契約条件というものがオーディナリーなものであったらば,それはそれでいいのではないのかというふうな御意見を出されたと思いますが,それはいろいろな見解があろうかと思いますけれども,まあそういうところですかね,今のところの一つの案は。

  もう3もやらないということで,2のところまでなのですが,2のところまでで何か御発言はございませんでしょうか。

  それでは,ないようですので,本日の議論はこの辺りにさせていただければと思います。司会の不手際もございまして,なかなか予定したことは進みませんでしたが,私としては,非常に活発な御議論を頂いたので大変よかったと思っております。先に進めることが,それ自体が目的なわけではございませんので,今後とも様々に御議論いただければと思います。

  次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。

○笹井幹事 次回は令和3年7月13日火曜日,午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。

○道垣内部会長 これで第3回の担保法制部会の会議を閉会にさせていただきます。

  どうも本日も熱心に御議論いただきましてありがとうございました。では,7月によろしくお願いいたします。

-了-

【渉外司法書士協会研修】アジア新興国法務の基礎メモ

2021年11月6日森・濱田松本法律事務所臼井慶宜弁護士

1. アジア各国法令の特徴2. アジア各国の会社ガバナンスの比較3. アジア各国の外資規制の概要4. 【事例演習】アジアにおける販売契約及びライセンス契約5. アジア新興国の国民性(インド・ベトナム)

1.アジア各国法令の特徴

アジアにおいて、その法制度が安定的に運用されている国は少ない。安定的に運用されているか否かの判断のために、その国の法体系が、英米法(Common Law)か、大陸法(Civil Law)かを確認することは有益である。一般的には、 Common Lawの国の法制度の方が安定的に運用されているといえる。ただし、Common Lawならば確実に法制度が安定的に運用されているともいえず、「法運用の歴史」、「裁判官の質」、「裁判官及び行政府役人の腐敗の程度」を総合的に検討する必要がある。

国際協力銀行・海外事業展開アンケート結果(2020年度)

https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2020/0115-014188.html

中期的有望国順位 現地マーケット インフラ未整備 法制度の運用不透明

1 中国 2 インド 3 ベトナム 4 タイ5 米国 6 インドネシア7 フィリピン

8 マレーシア9 メキシコ 10 ミャンマー

各国の公務員贈賄リスク・ランキング(2020年版)

https://www.transparency.org/en/cpi/2020/index/nzl

3 シンガポール11 香港19 日本28 台湾33 韓国57 マレーシア

78 中国86 インド86 トルコ94 ブラジル104 タイ104 ベトナム102 インドネシア115 フィリピン134 ラオス137 ミャンマー160 カンボジア170 北朝鮮(最下位)ソマリア、南スーダン

アジアにおける裁判例の確認

アジアの多くの国において、裁判例を確認することが難しい場合がある。中国は、最高人民法院による指導判例がでていること、裁判例も比較的多く公開されていることから、リサーチがしやすく、判決の結果も予想しやすい。

http://wenshu.court.gov.cn/

https://www.itslaw.com/home

ベトナムも最高裁の指導判例はでているが限定的であり、また、公開されている裁判例も少ない。

ベトナム判例制度の実情及び展望

前JICA長期派遣専門家酒 井 直 樹,JICA長期派遣専門家鎌 田 咲 子

https://www.moj.go.jp/content/001246674.pdf

タイも最高裁の判例のみが、限定的に公開されている。

http://www.supremecourt.or.th/webportal/supremecourt/index.php?lang=th

インドネシア及びインドは、相当程度公開されている。

https://putusan.mahkamahagung.go.id/

インド

https://indiankanoon.org/?__cf_chl_jschl_tk__=wRW4KcLHpNzXv.6vB1jYh1CKl0.UHtMbA8_dkw7bOrE-1636178569-0-gaNycGzNCJE

アジアにおける法令・通知の確認方法

アジアの多くの国において、重要な法律は相当程度制定されている。また、各政府当局による施行細則、通知も多く公布されている。書面の法令等を確認することが重要である。但し、法令の内容が曖昧であったり、不明確な部分がある。 また、政府当局が法令解釈の裁量権を有しているので、運用が曖昧となりやすい。

現地における政府当局に対するヒアリングが重要

・ 現地弁護士により、電話等で政府当局に確認する。重要性が高い場合には、正式に政府当局担当者と面談して確認する。常に政府当局の担当者のコメントが正しい訳ではない。重要な論点については、複数のルートで(複数の都市でも)確認する。

アジア各国では外国直接投資を規制しており、投資を行う際に政府許認可必要。 外国投資会社は許認可証書に記載されている経営範囲の業務しかできず、特定する場合が多い。許認可証書に加えて特別認可(サブライセンス)やその他の認可が必要な場合もあることに留意必要。法律や規則の文言上からは差がわからない。

アジア各国における許認可の意義―アジアの適法性の考え方―

アジア各国の会社法における会社の種類

<インドネシア>  株式会社 ⇒非公開会社 ⇒公開会社

<インド> 株式有限責任会社 ⇒公開会社 ⇒みなし公開会社 ⇒非公開会社

<ベトナム> 2名以上有限責任会社 1名有限責任会社 株式会社

<タイ> 式会社 ⇒非公開会社 ⇒公開会社

公開会社と非公開会社の差のキーワード

株主数 式譲渡制限 株式の公募 自己株式保有

ガバナンスの内容―アジア各国の会社組織―

株主総会(社員総会)取締役・取締役会監査役・監査役会・コミサリス会・会計監査人会社・秘書役.

適用される項目

インドネシア(株式会社)

インド(非公開会社)原則挙手による1名1票。

ベトナム(株式会社)特別決議は65%以上の賛成。

ベトナム(2名以上有限責任会社)65%以上の出席。

タイ(非公開会社)4分の1以上の株主の出席。

ガバナンスにおける注意点

日本企業がアジア各国に進出した際に株主総会関連で注意すべきポイント

定足数の観点、合弁会社 開催の機動性/非機動性 株主1名ずつ、定款

決議要件の観点・・・普通決議 特別決議 特殊決議 日本との違い

取締役会の各国比較

インドネシア(株式会社)定足数 定款により規定。

インド(非公開会社)定足数 総数の1/3または2人のいずれか多い方。

ベトナム(株式会社)定足数 全取締役の4分の3以上の出席。

タイ(非公開会社)定足数 附属定款の定めによる。3名超の取締役会でかつ附属定款に定めがない場合は3名の出席。

日本企業がアジア各国に進出した際に取締役会関連で注意すべきポイント

定足数の観点・弁会社 開催の機動性/非機動性 取締役1名ずつ・定款

出席の観点・書面決議方式 電話会議方式 ビデオ会議方式・所在地の観点・日本在住 現地在住

インドで書面決議ができない一定の事項

株式の買い戻しの承認・株式・社債の発行・借金・会社資産の投資・融資の許可及び保証・担保の承認・決算書類・取締役会報告の承認・会社の事業の多様化・ 合併の承認・企業買収・他社の支配権獲得・主要役職員の指名・内部監査役・会社秘書役監査役の指名

インドでビデオ会議ができないとされていた一定の事項

決算書類の承認・取締役会報告の承認・目論見書の承認・会計検討のための監査委員会の会議・合併・買収の承認・コロナの感染拡大で2020年3月19日付通知により時限措置とて上記事項もビデオ会議方式で決議可能に

2021年6月15日付通知により決議禁止が完全に撤廃⇒インドのビデオ会議方式取締役会において決議禁止事項はなくなる

https://www.mca.gov.in/content/mca/global/en/home.html

https://www.mca.gov.in/bin/dms/getdocument?mds=zwpAcIfQhKOgB8vwf%252FztbA%253D%253D&type=open

改正前にタイで電話会議・ビデオ会議による株主総会・取締役会が適法かつ有効に成立したとみなされていた要件

少なくとも定足数の3分の1の人数については同一の開催場所において物理的に出席していること

すべての出席者がタイ国内にいること(物理的に出席している者・電子媒体を用いて出席している者を含む)

情報技術・通信省が定める基準に従った電話会議又はビデオ会議の方法(会議の全てについて録音又は録音録画等を行うこと等)で実施すること

これまで撤廃が議論されてきたが、コロナを機に改正の話が一気に進んで恒久的に要件撤廃の方向で改正

https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/04/d493b7ccfa3e1803.html

http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2563/A/030/T_0020.PDF

インドネシア 公開会社・非公開会社問わず会社法上居住要件なし。もっとも、銀行関連書類、月次税務申告書類、輸入関連書類について法令上居住者のサインが要されている場合があり、実務上は居住取締役が最低1名いることが望ましい。

インド居住取締役(1会計年度において182日以上インドに滞在していることが必要)が最低1名必要。

ベトナム2名以上有限責任会社も株式会社も法定代表者はベトナム居住者である必要。30日以上ベトナムを離れる場合は書面により他の者に法定代表者としての権利付与と義務履行の権限を与える必要。

タイ非公開会社は居住要件なし。公開会社は5名以上必要な取締役の半数以上はタイ国内居住者である必要。

インドネシアにおける会社(外国投資会社)設立手続

https://www.jetro.go.jp/world/asia/idn/invest_09.html

¨ 商号予約(公証人を介して法務人権省へ申請)

¨ 投資基本許可申請(投資調整庁へ申請)

¨ 設立証書(会社設立時定款)作成(公証人による公正証書化が必要)

¨ 会社所在地証明書申請(会社所在地の市役所等へ申請)

¨ 納税者番号申請(所轄の税務署へ申請)

¨ 会社設立登記申請(法務人権省へ申請)

法務人権省から法務人権大臣承認書(会社設立登記)を取得

インドにおける会社(外国投資会社)設立手続

¨ 電子署名認証(DSC:Digital Signature Certificate)取得(政府が認定した認証業者へ依頼)

¨ 取締役識別番号(DIN:Director Identification Number)取得(インド企業省へ申請)

¨ 商号の申請(会社登記局へ申請)

¨ 基本定款(MOA:Memorandum of Association。法定の会社の基本事項を規定)・附属定款(AOA:Articles of Association。会社運営に関する法廷記載事項を中心に規定)作成

¨ 会社設立申請(会社登記局へ申請)

会社登記局より設立証明書(Certificate of Incorporation)が発行されると設立手続完了

ベトナムにおける会社(外国投資会社)設立手続

https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/invest_09.html

外国投資家が会社を設立する場合、一定のプロジェクトを行うために会社を設立するものと扱われる

投資登録証(IRC:Investment Registration Certificate申請(計画投資局又は工業団地・輸出加工区・ハイテク地区・経済特区の管理委員会へ申請)

IRCの発行によって許認可を得たプロジェクトを行うために会社の設立手続を行う

企業登録証(Enterprise Registration Certificate=会社設立登記)発行申請(企業登記局へ申請)

タイにおける会社(外国投資会社)設立手続

https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/invest_09.html

¨ 商号予約(商務省へ申請)

¨ 発起人の選定

¨ 基本定款設立証書登録(商務省へ提出)

¨ 発起人による株式引受(発起人は1人最低1株の引受が必要)

¨ 設立株主総会の開催

¨ 資本金の払込み

¨ 会社設立登記申請(設立株主総会から3か月以内)

登記局によって申請が認められれば会社登記完了

インドネシア インド ベトナム タイ公証・認証

https://www.jetro.go.jp/world/asia/standards.html

インドネシアNotarisと呼ばれる公証人が存在。会社設立手続を含む法務人権省への通知・承諾はNotarisが行うことが要求される。その他不動産売買契約の作成等も担当する。日本における司法書士に近い立場。

インド法務省下にNotary Public(公証人)が所属。インドでの公証認証はこのNotaryPublic(公証人)によって行われる。オンラインでの申請も可能。様々な申請に公証が要求されるため、各所に公証役場が存在する。会社設立の面に限っても、登記簿謄本、監査済財務報告書・直近の納税証明書、企業の公証定款写し、代表者または署名権限者のパスポートの写し、事務所の賃貸契約書、事業登録証明書などに公証必要。

タイ公証役場はない。タイで公証人となれるのは、公証人認証ができる免許を取得した弁護士のみ。公正証書作成や公証認証は、この公証人認証ができる免許を取得した弁護士の所属する法律事務所に依頼する。

3.アジア各国の外資規制

アジアにおいて製造業に対する外資規制は限定的である。但し、販売業等のサービス業を営む場合には外資規制がある場合が多い。

雇用確保 技術確保 外貨確保

アセアン主要国で外資規制が最も緩和されているのは、ベトナム。それに対して、外資規制が厳しいのは、タイとインドネシア。

https://www.jetro.go.jp/world/asia/idn/invest_02.html

https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/invest_02.html

https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/invest_02.html

インドネシアは、2014年に販売業に関する外資規制を厳しくし、その後、少し規制緩和し、2021年に2014年当時の外資規制に戻した。但し、零細・中堅企業保護の観点は引き続き留保されており、ベトナムでもこの観点に基づく実務上の外資制限がある。

不動産保有

中国• 土地使用権• 工業団地については処分性に制限あることがある。

ベトナム• 土地使用権• 処分性に制限あり• 工業団地利用多い

タイ• 原則49%まで• 工業団地は100%可

インドネシア土地使用権• HGBは処分性制限なし• 工業団地利用多い

インドネシアの外資規制

インドネシアの外資規制は、全般を規律する投資法、及び、インドネシア投資

調整庁(BKPM)が公布するネガティブリストである。このネガティブリストについて、2021年3月4日施行の大統領令(2021年10号令)によって、大幅に規制緩和され、以下の通り、禁止業種とそれ以外とに分けられた。禁止業種の具体例、麻薬の栽培、化学兵器の原料の製造、賭博・カジノ、ワシントン条約禁止魚等の捕獲、サンゴの利用、オゾン層破壊物質製造業。

禁止業種以外の業種について、優先業種、中小規模等留保業種、条件付き投資業種、④上記以外制限業種に区分され、具体的には以下の業種について外資規制が撤廃された。但し、中小規模等留保はある点に留意が必要。

小売業・卸売販売業/広告業/倉庫業/建設業(同年2月2日付政令2021年5号令との矛盾及び特別法の規制問題残る)

金融庁(OJK)が管轄する金融・保険業については、ネガティブリストに拘わ

ず、別途、法令等で外資規制が定められる。

インドの外資規制

インド政府商工省内の産業政策促進局(Department of Industrial Policy

and Promotion)が公布している統合版FDIルール及び随時公表するプレスノート(Press Note)、そして、為替管理ルール(NDI Rules)とよばれる通達により、外資規制のルールを制定している。

https://www.khaitanco.com/thought-leaderships/NDI-Rules-amended-to-allow-74-foreign-investment-in-Indian-insurance-companies-Liberalisation-process-now-complete?utm_source=Mondaq&utm_medium=syndication&utm_campaign=LinkedIn-integration

外国直接投資が全面的に禁止される分野

政府の承認により所定の外資比率まで投資が許容される分野「政府ルート」とよばれる。

政府の承認を要さずに所定の外資比率まで投資が許容される分野「自動ルート」とよばれる。ネガティブリストに列挙されていない事業分野については100%まで自動ルートによる投資が可能

宝くじ事業、賭博業、タバコ産業、不動産売買

政府ルートの具体例

既存製薬業:74%までは政府の承認不要。74%を超えて100%までは政府の承認が条件。電気通信業:49%までは政府の承認不要。49%を超えて100%までは政府の承認が条件

複数ブランドの小売業:一定の条件満たした場合に政府の承認を条件として51%まで直接投資可能。複数ブランドの小売業のための条件

最低、1億USドルの少なくとも50%を3年以内に物流・倉庫等に投資すること、製品・加工品の調達額の最低30%はインド国内の小規模企業から調達すること、③店舗の設置は原則として人口100万人以上の都市に限ること

自動ルートの具体例

新規製薬業:100%まで政府の承認不要。単一ブランドの小売業: 100%まで政府の承認不要。従来は49%を超える投資は政府の承認必要。

マーケット・プレイス・ベースの電子商取引: 100%まで政府の承認不要。

ベトナムの外資規制

一定の麻薬物質、一定の化学物質・鉱物、絶滅動植物、売春、人身売買、無性生殖、爆竹に関する事業活動を禁止

重大プロジェクト

国防、国家の治安、社会秩序、安全、社会道徳、市民の健康を理由として、投資活動を実施するには一定の条件を満たさなければならない分野

ベトナムに対して特に影響の大きいプロジェクト(例: 原子力発電所の建設、

空港の建設、工業団地の開発、5兆ドン以上の投資規模を有するプロジェクト等)を対象として、国会、首相又は省級人民委員会の承認を取得する必要

通常プロジェクト

投資禁止分野、条件付投資分野、重大プロジェクトに該当しない分野

lほとんどの製造業が通常プロジェクトに該当

11のサービス分野(ビジネス、情報、建設・関連エンジニアリング、流通、教育、環境、金融、保険・社会、観光・旅行、娯楽・文化、運輸)に関する外資規制

段階的な外資規制の緩和により多くの分野で外資100%出資が認められるに至ったが、依然として一部の分野で規制が残る。

 一部の分野(放送・TV、石油・ガス採掘、土地所有等)以外の分野について、内国民待遇と最恵国待遇を定める条約

 WTOコミットメントにおいて外資への開放が明記されていない分野については、日越投資協定が適用される可能性

https://www.vn.emb-japan.go.jp/jp/relationship/relationship_2nitietsutoshikyotei_shomei.html

小売業• 外資100%出資可能、但し、2店舗目以降についてはENT(Economic Need Test)をクリアする必要あり。TPP協定の発効(2019年1月14日)から5年後にENTが撤廃される予定。

• 一定品目(タバコ・本・薬品等)の取扱禁止、飲食業 • 外資100%出資可能(従前の「ホテル建設投資等と並行」の要件は2015年撤廃)

• 一部の不動産事業(販売・賃貸用の建物建設、サブリース用の建物賃借、不動産サービス業等)について、外資100%出資可能

• 最低資本金(200億ドン以上)の要件あり、広告業 • ベトナム側パートナーとの合弁(出資比率制限なし)

道路運送業 • ベトナム側パートナーとの合弁(旅客運送: 49%以下、貨物運送: 51%以下)

銀行業• 外国投資家の出資比率合計: 30%以下、• 外国投資家単独の出資比率

個人: 5%以下、法人: 15%以下、「外国戦略投資家」: 20%以下

• 一定の要件の充足、ベトナム国家銀行の事前承認が必要となる場合あり

人材派遣業 • 外資100%出資可能• 預託金・資本金等の要件、目的・業種の制限あり

タイの外資規制

外国人事業法が外資規制を規定する、製造業には一般に規制なし、但し、サービス業に対する規制は広範、BOI(投資委員会)の投資奨励により免除され得る、 修理メンテナンス業についてはFBL(外国人事業ライセンス)の取得が必要となる

外国人の要件

タイ国籍を有しない個人(外国個人)、外国法人、株式資本の半数以上を外国個人又は外国法人が保有するタイ法人

【設定】問題 1~3共通

日本のアパレル企業であるCompany Yは、ベトナム企業であるCompany Xから繊維製品の購入を予定している。当該取引に際して、 Company Yは、Company Xとの間で、販売契約(基本契約)を締結する予定である。

問題 1 (販売契約における個別契約の成立)

Article ● Master agreement and Individual Agreements

1. This Agreement specifies the basic terms of the sales of the products of Company X, which apply to the individual transaction agreements entered into through consultation between the parties (the “Individual Agreements”), and Company X and Company Y shall comply with and perform in good faith both this Agreement and the Individual Agreements.

2. Company X and Company Y may, in the Individual Agreements, exclude some of the terms specified in this Agreement, or specific terms that differ from those of this agreement.

3. Company Y submits to Company X, at least 60 days in advance of Company Y’sdesired delivery date, an order form (in Company X’s designated format) specifying the order date, product name, unit price, order volume, delivery date, delivery location, method of payment and other details based on the inquiries by Company Y.However, Company X may refuse to accept an Individual Agreement submitted my order form at its own discretion based on its production status.

問題 1 (販売契約における個別契約の成立)

Company Yとして販売契約(基本契約)中の以下の個別契約の成立に関する条項をよりよいものにするにはどのようにしたらよいでしょうか?

Article ● Master agreement and Individual Agreements

1. This Agreement specifies the basic terms of the sales of the products of Company X, which apply to the individual transaction agreements entered into through consultation between the parties(the “Individual Agreements”), and Company X and Company Y shall comply with and perform in good faith both this Agreement and the Individual Agreements.

2. Company X and Company Y may, in the Individual Agreements, exclude some of the terms specified in this Agreement, or specific terms that differ from those of this Agreement. Where the terms of an Individual Agreement differ from those of this Agreement, the terms of the IndividualAgreement will prevail.

3. Individual Agreements will be executed upon Company X’s provision of an order receipt company Y following Company Y’s submission, [at least 60 days in advance of Company Y’sdesired delivery date, ]of an order form (in Company X’s designated format) specifying the order date, product name, specifications, unit price, order volume, delivery date, delivery location, method of payment and other details based on the inquiries by Company Y. [However, CompanyX may refuse to accept an Individual Agreement submitted my order form at its own discretion based on its production status.

問題 1 (販売契約における個別契約の成立)

基本契約と個別契約の優劣を明確にする、個別契約の成立タイミングを明確にする、個別契約では対象製品のスペックを必ず契約上明らかにしておく。

問題 2 (販売契約における検収)

Article ● Inspection and Acceptance

1. Company Y shall inspect the Products delivered by Company X (“Inspection”) without delay within ten days after delivery of the Products in accordance with Article.

2. Company Y shall send to Company X a receipt (for Products that pass the Inspection provided for in 1 of this Article) or a notice (regarding Products in which shortfall is discovered) within 2 business days after the delivery of the Products. However, if Company X does not receive such notice (regarding Products in which shortfall or the like is discovered) from Company Y within 2 business days after the delivery of the Products, then it will be deemed that all of the delivered Products passed the Inspection.

3. If a shortfall or surplus is discovered upon Inspection as provided for in 1 of this Article, Company X shall deliver the remaining Products or reclaim the surplus Products within the period specified by Company Y.

4. Company Y may accept delivery of Products that fail the Inspection provided for in 1 of this Article but that Company Y considers usable (“Special Acceptance”).

問題2 (販売契約における検収)

Company Yとして販売契約(基本契約)中の以下の検収に関する条項をよりよいものにするにはどのようにしたらよいでしょうか?

Article ● Inspection and Acceptance

1. Company Y shall inspect the Products delivered by Company X (“Inspection”) based on the criteria designated by Company Y, including determining whether the Products meet the quality criteria provided for in the Article without delay within ten days after delivery of the Products in accordance with Article.

2. Company Y shall send to Company X a receipt (for Products that pass the Inspection provided for in 1 of this Article) or a notice (regarding Products in which a defect, the shortfall is discovered) within 2 business days after the delivery of the Products. [However, if Company X does not receive such notice (regarding Products in which shortfall or the like is discovered) from Company Y within 2 business days after the delivery of the Products, then it will be deemed that all of the delivered Products passed the Inspection.]

3. If a shortfall or surplus is discovered upon Inspection as provided for in 1 of this Article, Company X shall deliver the remaining Products or reclaim the surplus Products within the period specified by Company Y; if a malfunction, defect, deterioration, or the like is discovered in the Products, COMPANY X shall repair or replace the Products at no cost to COMPANY Y within the period specified by COMPANY Y.

4. Company Y may accept delivery of Products that fail the Inspection provided for in 1 of this Article but that Company Y considers usable (“Special Acceptance”).

問題2 (販売契約における検収)

検収の基準について明示する。買う側の基準とすることが望ましいが、当事者間で書面で合意した基準、と言うところまでは譲歩可能、検収において明らかな欠陥についての処理についても規定することを忘れない。検収の結果欠陥が見つかった場合に売主に要請する対応(修理・交換)について明示することを忘れない。

問題3 (販売契約における瑕疵担保責任)

Article ●Liability for defects

1. If Company Y discovers that the Products delivered to it by Company X are soiled, broken, or otherwise defective, Company Y may request the following after notifying Company X of such defect, unless the Products have been damaged due to gross negligence on the part of Company Y after delivery:

(i) Sorting and repair of the defective Products Company Y may instruct Company X to sort and repair the defective Products.

(ii) Payment of sorting and repair expenses for the defective Products If Company Y sorts and repairs the defective Products itself or through a third party, Company Y may charge Company X for the parts, work, and other expenses necessary with respect thereto.

2. If Company X requests that the defective Products be returned, the parties shall consult regarding how to carry out such return.

問題 3 (販売契約における瑕疵担保責任)

 Company Yとして販売契約(基本契約)中の以下の瑕疵担保責任に関する条項をよりよいものにするにはどのようにしたらよいでしょうか?

Article ● Liability for defects

1. If Company Y discovers that the Products delivered to it by Company X are soiled, broken, or otherwise defective within the warranty period provided for in Article, Company Y may request the following after notifying Company X of such defect, unless the Products have been damaged due to gross negligence on the part of Company Y after delivery; if it is unclear to which of the parties the defect in the Products is attributable, the parties will determine liability through consultation:

(i) Delivery of replacements

Company Y may request that Company X deliver replacements for the defective Products

(ii) Sorting and repair of the defective Products

Company Y may instruct Company X to sort and repair the defective Products.

(iii) Payment of sorting and repair expenses for the defective Products

If Company Y sorts and repairs the defective Products itself or through a third party, Company Y may charge Company X for the parts, work, and other expenses necessary with respect thereto.

(iv) Reduction of price of the defective Products

Company Y may reduce the price of the defective Products in accordance with the written agreement with CompanyX.

2. Company X shall compensate Company Y for any damage incurred by Company Y due to a defect in the Products within the warranty period provided for in Article.

3. If Company X requests that the defective Products be returned, the parties shall consult regarding how to carry out such return.

問題 3 (販売契約における瑕疵担保責任)

 瑕疵担保の保証期間を明確にしておく。瑕疵の原因が当事者のいずれに帰責出来るかが不明な場合の処理を明示しておく。瑕疵担保責任の内容として代替品の提供や代金減額の規定を忘れずに入れ込んでおく。瑕疵担保責任の結果、買主が売主に対して損害賠償請求できる旨は明示的に規定しておく。

ライセンス契約における4大重要ポイント。ロイヤリティの計算方法。非独占的ライセンスか独占的ライセンスか。供与側の保証義務の範囲。改良技術の帰属。

【設定】問題 4~6共通

 日本の企業であるCompany Yは、精密機器の製造販売を業とする会社であるが、今般、中国企業であるCompany Xに対してCompany Y製の精密機器(Products)の製造に係る技術ノウハウ及び技術資料を提供するとともに、当該精密機器製造に必要な部品(Parts)を有償で提供することを予定している。Company YとCompany Xとの間の取引は今回が初めてである。Company Yは、Company Xとの間で、原料の有償供給を含めたライセンス契約の締結を予定している。

問題 4 (部品有償供給における支払)

Article ● Payment Terms

1. Company X shall pay for the Parts within 7 days after the Acceptance.

2. Company X shall make the payment for the Parts to Company X on a US dollar basis by T/T Remittance.

請負契約のようなイメージ。

問題 4 (部品有償供給における支払)

Company Yとして、Company Xへの部品の有償供給の支払方法に関するライセンス契約中の以下の条項をよりよいものにするにはどのようにしたらよいでしょうか?

Article ● Payment Terms

1. Company X shall pay for the Parts as follows:

a. Company X shall pay 20% of the total purchase price of the Parts in a Purchase Order, within 7 days from the acceptance of that Purchase Order by Company Y.

b. Company X shall pay 60% of the total purchase price of the Parts in a Purchase Order before the shipment of the Parts in a Purchase Order.

c. Company X shall pay the balance of the purchase price of those Pats within 7 days after the Acceptance.

2. Company X shall make the payment for the Parts to Company X on a US dollar basis by T/T Remittance.

問題 4 (部品有償供給における支払)

<ポイント>信頼関係の薄い相手方との間では代金は前払いや中間払いなど対象物を引き渡した後に全額の支払いをさせる、といった状況は避ける。

問題 5 (ライセンス契約における保証範囲)

Article ● Representations and warranties by Company Y represents and warrants that:

1. The manufacture of the Products does not infringe the rights, including patents, of any other person in any country within the;

2. Company Y or its contract manufacturer has all the approvals, licenses and permits from the Regulatory Authority in Japan required to manufacture the Products (Company Y and its contract manufacturer shall immediately discontinue the manufacture of the Products if any such approval, license, or permit is suspended, expired or withdrawn); and

3. The manufacturing facilities of Company Y or its contract manufacturer located at the site where the Products will be manufactured have all approvals required by the Regulatory Authorities for the manufacture of the Products and such manufacturing facilities and practices used in the facilities conform to, and shall continue, during the term of this Agreement, to conform to Laws of Japan.

問題 5 (ライセンス契約における保証範囲)

Company Yとしてライセンス契約中の以下の保証範囲に関する条項をよりよいものにするにはどのようにしたらよいでしょうか?

Article ● Representations and warranties by Company Y represents and warrants that:

1. To Company Y’s knowledge, The manufacture of the Products does not infringe the rights, including patents, of any other person in any country within the;

2. Company Y or its contract manufacturer has all the approvals, licenses, and permits from the Regulatory Authority in Japan required to manufacture the Products (Company Y and its contract manufacturer shall immediately discontinue the manufacture of the Products if any such approval, license, or permit is suspended, expired or withdrawn); and

3. The manufacturing facilities of Company Y or its contract manufacturer located at the site where the Products will be manufactured have all approvals required by the Regulatory Authorities for the manufacture of the Products and such manufacturing facilities and practices used in the

facilities conform to, and shall continue, during the term of this Agreement, to conform to Laws of Japan.

4. EXCEPT AS EXPRESSLY SET FORTH IN THE ARTICLE●, COMPANY Y MAKES NO WARRANTIES, INCLUDING THOSE OF MERCHANTABILITY OR FITNESS FOR ANY PARTICULAR PURPOSE OR SPECIAL CIRCUMSTANCE, NOR ANY OTHER WARRANTIES MADE EXPRESS OR IMPLIED. Company Y’s warranties under this Article are not applicable if the Products are modified, altered, or otherwise changed without the prior written consent of Company Y.

問題 5 (ライセンス契約における保証範囲)

<ポイント>

ライセンサーによる保証の範囲は可及的に限定する。とりわけ第三者の知的財産権の侵害の有無については調べ切ることが極めて困難なため、ライセンサーの「知る限りで」(あるいは「知り得る限りで」)として限定を行う。ライセンサーが保証を行わない範囲の明示も上記と同趣旨で重要となる。その他考えられる保証の限定としては、ライセンサーが指定した態様による仕様に限定したり、ライセンサーの損害賠償の範囲を既払ロイヤリティ額に限定したり、といった内容も考えられる。

問題 6 (ライセンス契約における改良技術)

Article ● Improvement

In the event that any development or improvement as to the Products, (“Improvement”) are made solely by Company X or jointly by Company X and Company Y hereto, Company X shall promptly disclose to Company Y such Improvement, together with any pertinent technical information and data.

問題 6 (ライセンス契約における改良技術)

Company Yとしてライセンス契約中の以下の改良技術に関する条項をよりよいものにするにはどのようにしたらよいでしょうか?

Article ● Improvement

In the event that any development or improvement as to the Products, (“Improvement”) are made solely by Company X or jointly by Company X and Company Y hereto, Company X shall promptly disclose to Company Y such Improvement, together with any pertinent technical information and data, and (i) grant to Company Y a royalty-free, non-exclusive, worldwide and perpetual right and license to utilize such Improvement, as applicable and (ii)

upon Company Y’s request, promptly assign and transfer to Company Y, with reasonable charge, the Improvement or Company X’s share in the Improvement. If Company Y makes any application for a patent and/or any intellectual property rights regarding such Improvement, Company X shall provide to Company Y such assistance as requested by Company Y at the cost of Company Y.

問題 6 (ライセンス契約における改良技術)

<ポイント>改良技術についてはライセンサーとしては少なくとも、ロイヤリティ・フリーで非独占的な使用権を取得できるようにする。さらに言えば、合理的な対価でのライセンサーへの改良技術の譲渡を、ライセンサーの要求をトリガーとして行える等にしておくことが望ましい。ライセンサーによる当該技術の特許出願等についてもライセンシーの協力を明文規定で取り付けておくことも円滑な特許申請のためには重要となる。

法人番号システム Web-API

 国税庁法人番号公表サイトの、法人番号システムWeb-APIを利用して法人名を入力すると法人番号、商号、本店所在地が出力されるようにならないかなと作ってみました。

国税庁法人番号公表サイト「法人番号システムWeb-API」

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/webapi/

アプリケーションIDの発行手続

https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/web-api/pre-reg

 Web-APIを利用するためには、国税庁が発行するアプリケーションIDが必要です(アプリケーションIDの発行は無料です。)。アプリケーションID発行届出はアプリケーションID発行届出フォームに必要事項を入力し、送信をすることにより行うことが可能です。

  アプリケーションID発行届出フォームへは仮登録後に国税庁から送信されるメールに記載されているURLからアクセスすることが可能です。なお、このサイトから取得したアプリケーションIDは「法人番号システムWeb-API」においても利用することが可能です。

 今回は、Excelで作ってみました。GoogleスプレッドシートのGoogle Apps Script(GAS)や、プログラム言語を書いて、WEB上で利用できるようにするコtも出来ると思います。

 最近は、まずExcelやワード等で使えないかなと考えてやってみて、可能なら他の方法でも出来るんじゃないかなと思っています。

 今回は個人でしか使わないこともあり、WEBサイト等を作成する必要もありません。既に国税庁、経済産業省にあります。

 まず、青い枠で囲っている箇所に法人名を入れてみます。

Web-API の利用手続について(共通編)-公表サイト-4.4 版 -

令和3年 10 月国税庁法人番号管理室

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/documents/k-web-api-tetuduki.pdf

法人名を入力した後、マクロというものを実行します。

マイクロソフトサポートセンター「マクロ記録で作業を自動化する」

https://support.microsoft.com/ja-jp/office/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E8%A8%98%E9%8C%B2%E3%81%A7%E4%BD%9C%E6%A5%AD%E3%82%92%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B-974ef220-f716-4e01-b015-3ea70e64937b

下のような言葉が、Excelのマクロという場所に入っています。

Option Explicit


Sub 法人番号()
'---------------------------------------
Dim CorpName As String
Dim i As Long
Dim arr As Variant
For i = 2 To ThisWorkbook.Sheets(2).Cells(Rows.Count, 2).End(xlUp).Row
CorpName = Cells(i, 2)
On Error Resume Next
arr = CorpCode(URL_Encode(CorpName))

Cells(i, 3) = arr(4)
Cells(i, 4) = arr(9)
Cells(i, 5) = arr(12)
Cells(i, 6) = arr(13)
Cells(i, 7) = arr(14)

Next i
End Sub

Function CorpCode(CorpName As String) As String()
Dim objXMLHttp As Object
Dim tmp
Set objXMLHttp = CreateObject("MSXML2.XMLHTTP")
    objXMLHttp.Open "GET", "https://api.houjin-bangou.nta.go.jp/4/name?id=KQTiv2Hfbj5kJ&type=02&mode=2&name=" & CorpName, False
    objXMLHttp.Send
    
    
    tmp = Split(Replace(objXMLHttp.responseText, """", ""), ",")
    CorpCode = tmp
'---------------------------------------
End Function

Function URL_Encode(ByVal strOrg As String) As String
  With CreateObject("ScriptControl")
    .Language = "JScript"
    URL_Encode = .CodeObject.encodeURI(strOrg)
  End With
End Function

マクロを実行すると、法人番号、商号、本店所在地が出力されました。おそらく、琉球銀行と入力したときにマクロが実行されるようにすることも出来ると思いますが、現在そこまで出来ていません。

 銀行などは、正確な情報が出てきましたが、法務省や沖縄県、商号が複数あるような法人は正確な情報が出てきません。法人名だけではなく、都道府県、知っていたら市区町村の情報まで含めて、国税庁の法人番号システムWeb-API機能に対して送ることが出来れば、もう少し正確な情報が出てくるのかなと思います。

なぜ、法人番号なのか。司法書士であれば、登記情報を取得する際に会社法人等番号を知ることが出来ます。登記情報のPDFファイルは、テキストのコピー&ペーストが可能な構造になっています。

法人番号と会社法人等番号の違いを教えてください。

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/shitsumon/shosai.html?selQaId=00128

 法人番号は、番号法に基づき、国税庁長官が指定する13桁の番号です。1法人に対し一つの番号が指定され、どなたでも自由に利用することができます。

 会社法人等番号は、商業登記法に基づき登記簿に記録される12桁の番号です。 

 (参考)

 外国法人は、「法律の規定により設立の登記をした法人」に当たらないため、日本国内に外国会社の登記をしても、自動的に法人番号は指定されません。外国法人に対する法人番号の指定については「外国法人に法人番号は指定されますか。」を参照願います。

外国法人に法人番号は指定されますか。

 外国に本店がある法人(以下「外国法人」といいます。)は、次のいずれかの場合に法人番号が指定されます。

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/shitsumon/shosai.html?selQaId=00089

 1. 税務署に、給与支払事務所等の開設届出書、法人設立届出書、外国普通法人となった旨の届出書、収益事業開始届出書、消費税課税事業者届出書、消費税の新設法人に該当する旨の届出書又は消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書を提出している場合

 2. 1以外の外国法人で、一定の要件に該当し、国税庁長官に届出書を提出した場合

(参考)

 外国法人は、国内事務所を支店登記しただけでは法人番号は指定されません。

 なお、外国法人に指定される法人番号は、12桁の会社法人等番号の前に1桁の数字を付した番号ではなく、国税庁長官が定めた会社法人等番号と重複することのない12桁の番号を基礎番号とし、その前に1桁の検査用数字を付した番号になります。

法人番号はどのように指定されますか(桁数)。

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/shitsumon/shosai.html?selQaId=00007

 法人番号は、12桁の基礎番号及びその前に付された1桁の検査用数字(チェックデジット)の数字のみで構成される13桁の番号になります。

 例えば、株式会社など、会社法等の規定により設立の登記をした法人(設立登記法人)の法人番号を構成する基礎番号は、法務省から提供を受ける商業登記法に基づく「会社法人等番号(12桁)」となります。

 また、設立登記法人以外の団体は、国税庁長官が会社法人等番号(12桁)と重複することのない12桁の基礎番号を定めます。

 この12桁の基礎番号の前に1桁の検査用数字を付した番号を法人番号として指定することになります。

 なお、一度指定された法人番号を変更することはできません。

(注) 検査用数字(チェックデジット)とは、法人番号をコンピューターに入力するときに誤りのないことを確認することを目的として、基礎番号を基礎として財務省令で定める算式により算出される一から九までの整数をいいます。

具体的な計算方法は「チェックデジットの計算」を参照してください。

行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律施行令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426CO0000000155

第七章 法人番号(法人番号の構成)第三十五条以下

 なぜ会社等法人番号を利用せずに、法人番号を利用するかというと一法人・団体に1つしかなく、国税庁法人番号システム、経済産業省ジービズインフォでも法人番号で検索可能な仕様になっているからです。私の利用用途としては、沖縄県や法務省が依頼者になることはないので、今のやり方より、会社法人等番号を法人番号に変換するような仕組みを作った方が良いのかもしれません。

 なぜ、ジービズインフォではなく、国税庁法人番号システムを利用したのか。経済産業省のジービズインフォでもAPIを提供しています。ジービズインフォは、アプリケーションIDの発行手続が不要で、法人の情報も国税庁法人番号システムより多いようです。

gBizINFO  API利用方法

https://info.gbiz.go.jp/api/index.html

 目的が法人番号の取得のみで、補助金や他の情報が不要だったので国税庁法人番号システムのAPIを利用しました。利用目的によっては、ジービズインフォのAPIを利用した方が良い場合もあると思います。

「基礎から学ぶ電子契約」研修メモ

令和3年度業務研修会(民事法分野)「基礎から学ぶ電子契約」

日本司法書士会連合会司法書士中央研修所

目 次

■第1講「司法書士実務における電子署名の留意点」 ······· 3

■第2講「電子契約とその法的裏付け」 ············ 57

■第3講「使ってみよう!電子契約システムや日司連公的個人認証有効性確認システム!~画面共有による電子契約ソフト及び日司連公的個人認証有効確認システムの実践~」 ······· 95

第1講

「司法書士実務における電子署名の留意点」

司法書士隂山克典

なぜ今電子署名か・・・?

書面・押印・対面原則の見直しにより、社会全体のデジタル化が進んでいる

電子契約を採用する企業の増加

証拠力の確保のための方策が必要

電子署名をはじめとしたデジタルトラストを再確認する必要がある

デジタル化に関する議論

世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画

成長戦略フォローアップ

規制改革実施計画

令和2年度革新的事業活動に関する実行計画

経済財政運営と改革の基本方針2020

事業環境改善に向けた取組について(改訂2020)

デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日閣議決定)

デジタル社会の実現に向けた重点計画

経済財政運営と改革の基本方針2021

規制改革推進に関する答申~デジタル社会に向けた規制改革の「実現」~

デジタル社会の実現に向けた重点計画

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20210615/siryou6.pdf

 マイナンバーカードの普及に加え、電子署名、電子委任状、商業登記電子証明書、法人共通認証基盤(GビズID)の普及に関する取組を更に強力に推進するとともに、確実な本人認証を実現するための技術動向を注視

 ID・認証の基盤として、電子署名等の普及を推進することや、新たな認証の仕組みの検討を進める必要があるとともに、社会における情報通信インフラの整備・維持・充実に取り組むべき

電子署名、電子委任状、商業登記電子証明書の普及

 電子署名、電子委任状、商業登記電子証明書については、今後、活用の機会が増加し、多様化すると考えられることから、普及を更に強力に推進する。

 商業登記電子証明書について、法人の本人確認をデジタル完結させる手段として一般的に利用されるよう広報活動を行う。令和3年度(2021年度)中に、利便性の向上策や無償化の可否を検討する。あわせて、クラウド化に向けた検討を行う。また、費用対効果も踏まえつつ、令和7年度(2025年度)までの可能な限り早期に新規システムの運用開始を目指す。

 マイナンバーカードの機能(電子証明書)のスマートフォンへの搭載については、令和3年度(2021年度)末までに技術検証・システム設計を行い、令和4年度(2022年度)中の実現を目指す。

 公的個人認証だけでなく、券面入力補助機能など、マイナンバーカードの持つ他の機能についても、優れたUI・UX を目指し、スマートフォンへの搭載方法を検討する。

共通的な認証・署名の利用

・個人の電子署名については、マイナンバーカードによる電子署名

・個人の電子認証については、マイナンバーカードによる電子利用者証明

・法人の電子署名については、商業登記電子証明書等

・法人の電子認証については、GビズID

電子署名と電子認証の違いは。

電子署名・・・電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること、当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであることのいずれも満たす署名。

電子認証・・・自らが行う電子署名についてその業務を利用する者(以下「利用者」という。)その他の者の求めに応じ、当該利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項が当該利用者に係るものであることを証明する業務をいう。

電子署名及び認証業務に関する法律2条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102

 公的個人認証サービスの民間利用の拡大を推進する。また、個人の署名・認証に利用するアプリケーションについては、独自構築による乱立を避けるため、マイナポータルAP(アプリケーション)の活用を原則とする。

デジタル社会の実現に向けた重点計画

マイナンバーカードの普及、マイナンバーの利活用促進

マイナンバーカードの健康保険証としての利用

 令和3年(2021年)3月から開始したプレ運用を継続し、遅くとも同年10月までに本格運用を開始する。令和4年度(2022年度)末までに概ね全ての医療機関等で健康保険証としての利用ができることを目指し、医療機関等での環境整備を推進する。

運転免許証との一体化

 令和6年度(2024年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する。これに先立ち、警察庁及び都道府県警察の運転免許の管理等を行うシステムを令和6年度(2024年度)末までに警察庁の共通基盤上に集約する。

運転免許証及び運転免許証作成システム等仕様書(仕様書バージョン番号:009) 警察庁丁運発第150号

令 和3年6月30 日警察庁交通局運転免許課長

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/menkyo/menkyo20210630_150.pdf

オンライン利用率を大胆に引き上げる取組

行政手続の100%オンライン利用

令和3年6月18日閣議決定

 法務省は、商業登記・不動産登記に係る手続について、オンライン利用率が中程度となっていることを踏まえ、まずは、オンライン利用の向上を図る。併せて、司法書士等による手続代行が多いことを踏まえ、デジタル化を抜本的に進める上で司法書士等の果たすべき役割について検討を行う。

電子署名に関する動向~リモート署名や事業者署名型電子署名について~

リモート署名や事業者署名型(立会人型)電子署名がなされた場合の添付情報

 法務省通知や、主務三省Q&Aにより、ローカル署名のみならず、リモート署名や事業者署名型電子署名の場合であっても、商業登記における添付情報の適格性が認められることがある

  今後、司法書士のもとに、事業者署名型電子署名がなされた情報にて登記申請をしてほしいという依頼が増加することも考えられる。商業登記のみならず、不動産登記にも波及する可能性もある。そのため、電子署名について、検討しておく必要がある。

押印と電子署名の比較

日本トラストテクノロジー協議会「リモート署名ガイドライン」

https://www.jnsa.org/result/jt2a/2020/index.html

リモート署名について

署名鍵は「署名者」が保管

署名鍵は「事業者」が保管

※ 署名者の指示に基づき電子署名を実施

事業者署名型電子署名について

ローカル署名とリモート署名を紙で考えると・・・

銀行が署名、銀行が印鑑証明書を発行、というのがよく分かりませんでした。

事業者署名型電子署名に関する行政解釈

令和2年7月17日付「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)」

https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei_qa.html

➢ 電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はBであると評価することができるものと考えられる。

・Aは、使者という構成なのでしょうか。

 このため、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。

 上記サービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には,これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、「当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること」という要件(電子署名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。

令和2年9月4日付「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」

https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei3_qa.html

 電子署名法第3条の規定は、電子文書(デジタル情報)について、本人すなわち当該電子文書の作成名義人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件?を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われていると認められる場合に、当該作成名義人が当該電子文書を作成したことが推定されることを定めるもの

この電子署名法第3条の規定が適用されるためには、次の要件が満たされる必要がある。

① 電子文書に電子署名法第3条に規定する電子署名が付されていること。

② 上記電子署名が本人(電子文書の作成名義人)の意思に基づき行われたものであること。

 電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するためには、同法第2条に規定する電子署名に該当するものであることに加え、「これ(その電子署名)を行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」に該当するものでなければならない。電子署名法第3条における「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」とは、どのようなものか。

電子署名及び認証業務に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

 電子署名法第3条に規定する電子署名について同法第2条に規定する電子署名よりもさらにその要件を加重しているのは、同法第3条が電子文書の成立の真正を推定するという効果を生じさせるものだからである。すなわち、このような効果を生じさせるためには、その前提として、暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められることが必要であり(以下では、この要件のことを「固有性の要件」などという。)、そのためには、当該電子署名について相応の技術的水準が要求されることになるものと考えられる。したがって、電子署名のうち、例えば、十分な暗号強度を有し他人が容易に同一の鍵を作成できないものである場合には、同条の推定規定が適用されることとなる

  電子署名法第3条において、電子署名が「本人による」ものであることを要件としているのは、電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたものであることを要求する趣旨

  電子署名法第3条が適用されるためには、同サービスが同条に規定する電子署名に該当すること及び当該電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたことが必要となる

 サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービスは、電子署名法第3条との関係では、どのように位置付けられるのか。

サービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するためには、その前提として、同法第2条第1項に規定する電子署名に該当する必要がある。この点については、第2条関係Q&Aにおいて、既に一定の考え方を示したとおり、同サービスの提供について、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されているものであり、かつサービス提供事業者が電子文書に行った措置について付随情報を含めて全体を1つの措置と捉え直すことによって、当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、同法第2条第1項に規定する電子署名に該当すると考えられる

 サービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するには、更に、当該サービスが本人でなければ行うことができないものでなければならないこととされている。そして、この要件を満たすためには、同条に規定する電子署名の要件が加重されている趣旨に照らし、当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要であると考えられる。

より具体的には、上記サービスが十分な水準の固有性を満たしていると認められるためには、利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス及び2.1における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセスのいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要があると考えられる

利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス・・・電子署名を付与することを許容する電子メールの送信など。

利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセス・・・電子署名の付与など。

  ①及び②のプロセスにおいて十分な水準の固有性を満たしているかについては、システムやサービス全体のセキュリティを評価して判断されることになると考えられるが、例えば、①のプロセスについては、利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合には、十分な水準の固有性が満たされていると認められ得ると考えられる。

 2要素による認証の例としては、利用者が、あらかじめ登録されたメールアドレス及びログインパスワードの入力に加え、スマートフォンへのSMS送信や手元にあるトークンの利用等当該メールアドレスの利用以外の手段により取得したワンタイム・パスワードの入力を行うことにより認証するものなどが挙げられる

 サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービスは、電子署名法第3条との関係では、どのように位置付けられるのか。

 2のプロセスについては、サービス提供事業者が当該事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う措置について、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み(例えばシステム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること)等に照らし、電子文書が利用者の作成に係るものであることを示すための措置として十分な水準の固有性が満たされていると評価できるものである場合には、固有性の要件を満たすものと考えられる

令和2年9月4日付「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」

https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei3_qa.html

 あるサービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するか否かは、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではあるものの、一般論として、上記サービスは、①及び②のプロセスのいずれについても十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当するものと認められることとなるものと考えられる。したがって、同条に規定する電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたと認められる場合には、電子署名法第3条の規定により、当該電子文書は真正に成立したものと推定されることとなると考えられる

Aさんの意思、Bさんの意思。Aさんの容貌、住所、氏名、生年月日などは担保しない。

取り扱うことの多い電子署名~PDFへの電子署名やXML形式の電子署名~

電子署名の形式

司法書士が取り扱う多くの電子署名は、PDFに対して付与されていると思われる

署名フィールド(可視署名の場合)

不可視署名の場合、印影のようなものは表示されない

このようなファイルを交付されたら・・・?    

電子署名の形式

申請用総合ソフトを活用した場合、XML形式の署名が付与されることも

XML形式

https://support.microsoft.com/ja-jp/office/%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%AE-xml-a87d234d-4c2e-4409-9cbc-45e4eb857d44

PDFに電子署名を付与する場合は埋め込むイメージ

XMLの場合は紐づくイメージ

XML形式の署名を受領した際の留意点

埋め込みをせず、署名データを生成しているため、元のデータに変更を加えると、検証不可となる→紐づかない

ファイル名を変更せず検証

https://helpx.adobe.com/jp/acrobat/using/validating-digital-signatures.html

PDFデータに変更を加えた場合は、改ざんされていると表示される

PDFへの電子署名の場合は、署名パネル上、改ざんが分かる

マイナンバーカードで電子署名を付与したいけど、有料のソフトが必要だと聞きました。設定も難しそうです。何かいい方法はありませんか?

法務省が提供している「申請用総合ソフト」を活用すれば、無料でマイナンバーカードによる電子署名を付与することができます(カードリーダーは必要です)

※ 申請用総合ソフトでは、ファイル添付する際、使用することのできない文字があるため、予め説明をしておく必要がある。

ファイル名が「211023 電子契約の基礎」とされている場合で、そのまま申請用総合ソフトにてXML形式の署名を付与すると、スペースがあるため添付不可となる。

https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/faq/faq_110.html

アラートが出るため、ファイル名変更後、電子署名を行う必要あり

電子署名の信頼性

どこから発行されている電子証明書による電子署名であるかを確認する必要がある

一般論として、認定認証事業者が発行しているものは、厳格な本人確認を実施している

特定認証事業者が発行しているものは、判子でいう「認印」相当であると整理されることが多い

事業者署名型電子署名の場合、どこの電子証明書が使用されているのかを確認する必要がある

Self-Signの場合、信頼性は皆無と言ってよい

司法書士の電子証明書

SECOM Trust.net Co.,Ltdが発行している

認定認証事業者一覧

https://esac.jipdec.or.jp/accreditedca-list.html

商業登記に基づく電子証明書

Registrar of Tokyo Legal Affairs Bureau

https://www.moj.go.jp/ONLINE/CERTIFICATION/

認定認証事業者であるセコムの電子証明書

セコムが確認した上で払い出された電子証明書・・・信頼できる

法務局の電子証明書

法務局が確認した上で払い出された企業の電子証明書・・・信頼できる

事業者署名型電子署名の電子証明書

最上位の電子証明書(ルート証明書)

中間証明書

電子署名を付した者

商業登記申請で許容されている電子証明書は頻繁に更新されるため、都度、確認が必要

Self-Signの電子証明書

「○○司法書士によって署名」「司法書士事務所司法書士○○」とあるため、何となく信頼できそうな気も・・・Self-Signの電子証明書・・・信頼?

セルフ電子署名でPDFが改ざんされていないことを証明する

https://ascii.jp/elem/000/004/019/4019405/

不動産登記と電子署名

売主法務太郎

買主乙野花子

仲介契約書、売買契約書、重要事項説明書etc金銭消費貸借契約書、抵当権設定契約書

不動産登記と電子署名

ITを活用した重要事項説明

eKYCによる本人確認

電子契約の採用

買主乙野花子

売主法務太郎

xID株式会社

個人情報保護委員会への当社xIDアプリの個人番号入力に関する説明について 2021.10.6

https://xid.inc/news/40/0

不動産登記と電子署名

クラウド上での抵当権設定契約書等作成

登記原因証明情報として活用できるか?

クラウド上での売買契約書作成

クラウド上で作成した売買契約書(クラウドサインを利用)

法務太郎の署名パネル

乙野花子の署名パネル

サイバートラスト社が発行する弁護士ドットコムの電子証明書

乙野花子の指示により、機械的に措置されたことを示す画面

不動産登記と電子署名

不動産登記令

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416CO0000000379

(電子署名)第十二条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請するときは、申請人又はその代表者若しくは代理人は、申請情報に電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子署名をいう。以下同じ。)を行わなければならない。

2 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合における添付情報は、作成者による電子署名が行われているものでなければならない。

(電子証明書の送信)第十四条 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合において、電子署名が行われている情報を送信するときは、電子証明書(電子署名を行った者を確認するために用いられる事項が当該者に係るものであることを証明するために作成された電磁的記録をいう。)であって法務省令で定めるものを併せて送信しなければならない。

不動産登記規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417M60000010018

(電子証明書)第四十三条 電子証明書は、第四十七条第三号イからニまでに掲げる者に該当する申請人又はその代表者若しくは代理人が申請情報又は委任による代理人の権限を証する情報に電子署名を行った場合にあっては、次に掲げる電子証明書とする。ただし、第三号に掲げる電子証明書については、第一号及び第二号に掲げる電子証明書を取得することができない場合に限る。

一 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第三条第一項の規定に基づき作成された署名用電子証明書(マイナンバーカードによる電子署名、電子証明書

二 電子署名を行った者が商業登記法第十二条の二(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する印鑑提出者であるときは、商業登記規則(昭和三十九年法務省令第二十三号)第三十三条の八第二項(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する電子証明書(商業登記に基づく電子署名、電子証明書

三電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第八条に規定する認定認証事業者が作成した電子証明書その他の電子証明書であって、氏名、住所、出生の年月日その他の事項により電子署名を行った者を確認することができるものとして法務大臣の定めるもの

四 官庁又は公署が嘱託する場合にあっては、官庁又は公署が作成した電子証明書であって、登記官が電子署名を行った者を確認することができるもの

2 前項本文に規定する場合以外の場合にあっては、令第十四条の法務省令で定める電子証明書は、同項各号に掲げる電子証明書又はこれに準ずる電子証明書として法務大臣の定めるものとする。

不動産登記申請につき、令和3年9月24日時点では、事業者署名型電子署名について、法務大臣が定めているものは見受けられない

この署名は、不可視署名であるため、印影のようなものは画面に現れない

マイナンバーカードにより署名されたものであるため、この署名が甲のものであれば、登記原因証明情報として利用可能であると思われる。署名プロパティを確認

署名プロパティを確認

最上位の電子証明書(ルート証明書)

電子署名を付した者は、公的個人認証(マイナンバーカード)による電子署名であることが分かる

AcrobatReader の場合、PDFから直ちに基本4情報を知ることはできない

※ 基本4情報

・氏名・住所・生年月日・性別

PDF のプロパティとメタデータ

https://helpx.adobe.com/jp/acrobat/using/pdf-properties-metadata.html

PDFファイルから基本4情報を確認する方法

署名パネルを開き、署名プロパティをクリック後、「署名者の証明書を表示」を選択「書き出し」を選択

任意の場所に保管

証明書ファイルを選択

PKI利用者ソフトを立ち上げる

ソフト

https://www.jpki.go.jp/download/

先ほど保存した電子証明書を選択

証明書を選択すると、基本4情報等が表示される

有効性確認のためにはパスワードの入力が必要

対面の場合、パスワードを入力してもらうことで、同時点の有効性検証はできる

当事者がマイナンバーカードを持参していれば、有効性検証ができる

スマホアプリで券面の確認も可能

その他にも・・・・マイナンバーカード・運転免許証・パスポート・在留カードの読取りが可能

買主乙野花子

売主法務太郎

システム構築前の不動産登記の現実的な完全オンライン申請の方法

登記原因証明情報や委任状等に電子署名

現場の確認

司法書士のPCやICカードリーダ等を活用

・対面取引における完全オンライン申請の一例

・公的個人認証に関しても、検証可能

完全オンライン申請

市町村から法務局への評価額通知のオンライン提供の拡大推進、登記手続等における固定資産税

※ 固定資産評価額の課税明細書はあらかじめ情報収集(現状の実務と変化なし)

※ 法務局における紙資料の保管については、別途規律が必要

失効確認の要求

失効確認の応答

地方公共団体情報システム機構(J-LIS)

第一段階

依頼者の署名用電子証明書について、有効性確認

有効性検証結果の確認

有効性検証要求電子署名

第二段階

第一段階①の署名用電子証明書から変更されていない旨の確認。パスワード入力不要

商業登記と電子署名

印鑑届出の任意化

会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号)により、商業登記法20条が削除

日本経済再生本部「法人設立手続のオンライン・ワンストップ化に向けて」9頁より

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/hojinsetsuritsu/index.html

物理的な会社実印を有していない法人が登場することとなる

商業法人登記のみならず、不動産登記や契約実務にも影響を与えることが考えられる

ハイブリッド型バーチャル株主総会

リアル株主総会

参加型出席型

・遠隔地であっても傍聴可能

・質問や動議は不可

・議決権の行使はできない

・遠隔地であっても出席可能

・質問や動議も可能

・議決権の行使もできる

どのような場合に決議取消事由にあたるか、経験則が不足

書面や電磁的記録による事前の議決権行使は可能

バーチャル株主総会

産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案の概要

上場会社が経産大臣及び法務大臣による確認を受けた場合は、バーチャルオンリー株主総会を実施できる特例を設ける

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000707.000006428.html

株主総会議事録や取締役会議事録のデジタル化は今後も進むと思われる

 商業登記に基づく電子署名のみではなく、公的個人認証に基づく電子署名や事業者署名型電子署名の場合であっても添付情報適格が認められることとなったため、様々な電子署名の類型を把握しておく必要がある

登記申請に利用できる電子証明書の追加

令和3年9月7日確認

商業登記と電子署名

(GMO電子印鑑Agree(GMOクラウド株式会社))のサービスを利用した辞任届

署名パネルに画像埋め込み

タイムスタンプも付与される不一致

令和3年1月6日に同様のサービスを利用※ 現時点では対応済み

※ 関係者が増えると署名のプロパティ確認も増えることとなる

※ 商業登記に基づく電子署名や公的個人認証による電子署名が求められる場合、サービスによっては、データをアップロードした段階でリセットされることがあるため、最後に署名を付与したほうが無難

長期署名(LTV)対応

事業者署名型電子署名公的個人認証による電子署名

長期署名(LTV)非対応

株主総会議事録の備置義務から、LTV対応の署名を付した後、登記用の電子署名を付すことも一案

Adobe AcrobatでのPDFデジタル署名の長期検証(LTV)

https://www.ssl.com/ja/%E6%96%B9%E6%B3%95/Adobe-Acrobat%E3%81%A7%E3%81%AEPDF%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E7%BD%B2%E5%90%8D%E3%81%AE%E9%95%B7%E6%9C%9F%E6%A4%9C%E8%A8%BCLTV/

裁判業務と電子署名

契約実務の変容と裁判のIT化

金銭消費貸借契約

金銭消費貸借契約書

甲は、乙に対し、金100万円を貸し渡した

金銭消費貸借契約で契約の成立を、印鑑証明書で乙野花子の意思に基づくことを立証するというプラクティス押印が認印によるものであったとしても、上記と同様成立を否認された場合は、他の間接事実から立証していくこととなる

公的個人認証による場合

電子署名生成プログラム

乙電子署名

実印相当と整理される

cf 認定認証事業者発行のものも実印相当と整理される。これに対し、特定認証事業者発行のものは認印と整理される

事業者署名型の場合

① 情報のアップロード

② 指定のアドレスへ通知

③ 内容確認、承諾④ 完了通知

乙の指示に基づき、事業者の意思を介在させず機械的に処理

署名のバージョンを比較すると、金額を改ざんしていることが明らかになる

何月何日、何時何分に、誰がどの書類を閲覧、署名したか、記録上明らかであると考えられる

否認された場合、履歴等を示すことで、一定程度の立証活動が可能となる

※ あくまでも、当該メールアドレスに送付されたリンクからのアクセスがあったことを示すのみであり、身元確認が適正になされているかは別問題・・・事業者には、そもそも意思確認のみで、身元確認は要求されていない。

※ この点は、メールのやり取りや名刺に記載されているメールアドレス等から立証していくことになると思われる

※ サービスによっては、身元確認を実施することもある

※ 履歴記載の時刻につき、どの時刻源を採用しているかは事業者に確認する必要がある

※ DocuSignの履歴画面

電子署名のトピック

令和3年1月21日付日本経済新聞「弁護士ドットコム、マイナンバー連動の電子署名」

各種契約書等をアップロード公的個人認証法に基づく電子署名

〇売買、遺産分割、抵当権設定、各種議事録、委任状etc

令和3年2月2日付内閣府規制改革推進室「会計手続におけるクラウド型電子署名サービスの活用に当たっての考え方」、同5日付「規制について規定する法律及び法律に基づく命令の解釈等に関する回答書」(20210105情第1号)国や地方公共団体の契約についても、事業者署名型電子署名が活用できることが明確に

https://www.gmosign.com/function/mynumber/

国や地方公共団体の契約が、事業者署名型電子署名を採用すると・・・民間でも事業者署名型電子署名に対する抵抗感が薄れることも・・・

先の公的個人認証法に基づく電子署名の取込み機能も相まって、事業者署名型電子署名との併用活用も考えられる・・・登記原因証明情報と委任状は公的認証局、特定認証業務。その他の添付情報は、認定認証業務による認証など。

登記や裁判関係業務、財産管理業務等にも影響が及ぶこととなり得る

第2講「電子契約とその法的裏付け」宮内宏弁護士

■著書:宮内編・著:「3訂版電子契約の教科書」日本法令,

■電子契約とは

●契約書を電子文書で,または注文書・請書を電子文書で作成し交付する契約。

■電子契約のメリット

●印紙代削減(電子文書には印紙が不要)

●作業効率の向上・文書関係費用の削減

●コンプライアンス向上

監査が容易。密行的な監査も可能。

●BCP(Business Continuity Plan)への貢献

ワークフローと紙文書

■社内はワークフローで電子化,しかし相手方との間は紙という現実!

●電子的な作成後,印刷・押印・封緘等して郵送。

●受取側では,紙の内容をコンピュータに入力。

電子契約ASP

ASPの機能を用いて電子文書作成、電子署名生成

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security_previous/kiso/k01_asp.htm

A社署名付電子契約書を格納

通知

閲覧

ASPの機能を用いて電子署名生成

電子契約書確認

両社の署名付電子契約書を格納

通知・閲覧

電子契約書確認

ASPタイプの電子契約システム

■ASPで電子契約ができるシステムが開発・利用されている。

電子契約の導入例① 建設業

■最初に電子契約が普及したのは建設業だった。

■国土交通省と財団法人建設業振興基金が中心となって,CI-NET(Construction Industry NETwork)を定めた。

https://www.kensetsu-kikin.or.jp/ci-net/cinet/teigi.html

●見積,購買・契約,請求・決済までの過程の帳票電子化の標準を規定。

●ASPの基準を策定(自社システム,ベンダーによるASPの双方について)

■いわば建設業のEDIの発展形として,業界では広く使われるようになった。

※ コンビニエンスストアチェーンによる建設工事の電子化も例がある。

電子契約の導入例 購買部門

■大企業の購買部門が,仕入先との間に電子契約を導入する例が多い。

■化学事業の企業の導入例

●取引先は2000社にのぼる

●請求書と検収明細の照合など,書類によるチェックが煩雑なため,金額相違などの問題が生じていた。

●検収明細兼請求書を電子文書で作成し,取引先に送付。取引先では電子署名を付して返送,というフローになった。

●照合の問題がなくなり,請求業務の迅速化を実現。

●導入後2年で,月1000件ほどの請求業務の75%が電子化できた。現在,子会社にも展開中。

電子契約の導入例  銀行

■融資の電子契約が広がりつつある。

●三井住友銀行(H27)

法人融資の電子契約(当座借越の極度契約,証書貸付の金銭消費貸借契約など)

●三菱東京UFJ銀行(H29年)

住宅ローンの電子化(マイナンバーカード利用)

●みずほ銀行(H29年)

みずほ電子契約サービス

■銀行でも導入しているという効果が,他の業種への電子契約普及を促進している。

電子契約の法的有効性

契約書は何のために作るか

■多くの契約は,口頭でも成立する

●契約は,申込と承諾により,合意されることにより成立する(民法522条1項)。

●契約書は,一般的には契約の要件ではない(民法522条2項)。ただし,後述のとおり例外はある。

●契約の成立や内容について争いが生じた場合には,証拠が必要となる。

■契約書等の文書は,訴訟において証拠となる。

●契約書の末尾には,「本契約の成立を証するため,本書2通を作成し,甲乙記名押印の上,各自1通を保存する」と書いてあることが多い。これは,証拠として作成するためのもの。

●証拠として提出するには一定の制限(後述)があるが,電子文書であっても提出可能。

民法522条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(契約の成立と方式)

第五百二十二条契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

紙の文書と電子文書

■法律で「書面」が要求されていることがある。この場合には,紙が原則である。

●一般論としては,電磁的記録(電子文書)は書面と認められていない

●書面が求められていても,電磁的記録を書面とみなす規定があれば電子化可能

民法446条2項:保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

同条3項:保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

■ほぼすべての契約書が電子化可能→契約情報という名前が出てくるかもしれません。

●書面を必要とする規定がないか,あっても電磁的記録(電子文書)で代えられる規定があれば電子化可能

●契約時に交付すべき書面について,紙が必要なものもある

紙が必要な契約類型など

■契約書に書面を要するものの例

●定期借地契約(借地借家法22条)・定期借家契約(同法38条)

※ いずれも「公正証書による等書面によって」契約することが求められている

■契約時に書面を交付する必要がある契約の例

●宅建法上の重要事項説明書(宅建法35条)

※書面を交付して説明することが求められている。

●訪問販売におけるクーリングオフの文書(特商法4条)

★借地借家法,宅建法,特商法の改正により,これらは電子化可能となる(施行は来年以降)。

■遺言書は書面(紙)しか認められていない

→遺言は契約ではない。単独行為でも契約と同じ対応は出来ると思います。

契約書の電子化の可否

■電子契約が可能な場合

●法令で「書面」に限定されていない場合

●法令で「書面」に限定されているが,電磁的記録(電子文書)で代えられる旨の規定がある場合

■電子契約ができない場合

●法令で「書面」に限定されており,電磁的記録で代えられる旨の規定がない場合

※ 契約時に書面を交付しなければならない契約類型がある。この点には注意が必要

■民事訴訟で文書に証拠力を持たせるためには,「真正な成立」を証明する必要がある。(民事訴訟法228条1項)

民事訴訟法(文書の成立)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=408AC0000000109

第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。

3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。

真正な成立とその推定

■真正な成立とは

●その文書の作成者とされる人(本人)が,本人の意思で作成したこと。いわば本人性のこと。

●例えば,借用証を証拠として提出する場合に,返済を請求される人が書いたものでなければ意味がない。したがって,本人(借用証の作成名義人)が作成したことを示す必要がある。

■真正な成立の推定(紙の場合)

●民事訴訟法228条4項

私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

署名・押印がされていれば,本人の意思に基づいて作成された文書であると,裁判上は扱う。これにより,同条1項の真正な成立の証明の要件を満たす。

電子署名法による真正な成立の推定(電子署名の推定効)

■電子文書については,一定の条件を満たす電子署名があれば,真正な成立が推定される(推定効)。

電子署名法3条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する

電子署名(デジタル署名)

•一見でたらめなデータ。

•IC-Card内の秘密情報がないと生成できない

•電子文書と密接な関係にある(他の電子文書に流用不可)

実世界の印鑑と対比して考えることができる。印影は、目視で「印影である」とわかるが、電子署名は一見でたらめなデータであり、検証プログラムを使わないと確認できない

RSAについて

https://www.rsa.com/ja-jp

ECDSAについて

https://esac.jipdec.or.jp/why-e-signature/public-key-cryptography.html

電子証明書

■印鑑証明書で実印による押印が確認するように,電子証明書により電子署名の正しさを検証する。

公開鍵=29859656・・・・・・

有効期限: 2022年1月31日

電子署名を検証するための情報

2021年2月1日

○×認証局の電子署名プログラムを使って検証

電子文書内の電子署名・・・本人の持つ秘密鍵を用いて,暗号的手法により作成される

電子署名の検証

電子証明書を用いると、「本人が署名したこと」、「文書が署名後、変更されていないこと」が確認できる(電子署名法2条1項記載の,電子署名の要件を満たす)。

正しい署名か否かの判定結果

確認内容

○○の秘密鍵を使って署名した(署名者の特定)

署名したときと内容が同じ(非改ざん性)。一対一に対応

民間認証局と公的認証局

■民間認証局

●特定認証業務(電子署名法2条3項)

電子証明書を発行する者であって,技術的要件を満たすもの

●認定認証業務(電子署名法4条以下)

電子署名及び認証業務に関する法律

第三章 特定認証業務の認定等 第一節 特定認証業務の認定(認定)

第四条 特定認証業務を行おうとする者は、主務大臣の認定を受けることができる。

2 前項の認定を受けようとする者は、主務省令で定めるところにより、次の事項を記載した申請書その他主務省令で定める書類を主務大臣に提出しなければならない。

一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名

二 申請に係る業務の用に供する設備の概要

三 申請に係る業務の実施の方法

3 主務大臣は、第一項の認定をしたときは、その旨を公示しなければならない。

特定認証業務であって,本人確認手続(戸籍・住民票+免許証等が必要)や発行手順,施設,管理などについて国の調査・認定を受けたもの

■公的認証局

●地方公共団体情報システム機構(J-LIS)

マイナンバーカード搭載の電子署名機能で用いる電子証明書の発行を行っている。公的個人認証基盤(JPKI)と呼ばれる

https://www.j-lis.go.jp/index.html

公開鍵認証基盤(PKI)の仕組み

●法務局

商業登記に基づいて,会社代表者等に電子証明書を発行代表取締役の登録印に相当する電子署名認証業務(電子証明書の発行主体)

■電子署名法3条の推定効を得るために,認証局の行うべき基準が法令で定められている(本人だけが電子署名をできるようにするための技術的基準)。

■法令上の技術的基準を満たす認証局を「特定認証業務」という(電子署名法2条3項・同施行規則2条)。

■特定認証局のうち,電子証明書発行のための本人確認手続,電子証明書作成手続・交付手順などの基準を満たしたものとして,主務大臣の認定を受けた認証局を「認定認証業務」という(電子署名法4条,6条,同施行規則4条~6条)。

電子署名及び認証業務に関する法律施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413M60000418002

※ 特定認証業務の中には,認定認証業務相当の処理を行っていると公表しているものもあるが,それは,いわば「自己申告」である(自主的に外部監査を受けているものもある)。

電子証明書の比較

JPKI(マイナンバーカード)

公的個人認証法3条地方公共団体情報システム機構(J-LIS)

当事者型電子署名(1): ローカル署名

■従来型の(本来の)署名方式

■リモート署名と対比して「ローカル署名」と呼ばれる。

■利用者が秘密鍵を管理するのは大変だし,安全性にも疑問がある。

当事者型電子署名(2): リモート署名

■リモート署名事業者は,署名者の秘密鍵を安全に保管し,署名者の指示に従ってのみ,署名者秘密鍵を用いた電子署名を行う。

※ HSM: Hardware Security Module

https://www.jnsa.org/seminar/skillup/150622/data/kameda.pdf

立会人(目撃証人)の電子署名

■AとBとが契約をする場合,Aの電子署名とBの電子署名を付けるのが自然な考え。(A,Bがそれぞれ押印するのと同様)

■最近,電子契約システムで,AやBは電子署名をしないで,A及びBの意思を確認したS(サーバ)が,このような確認の内容を記載した上でSの電子署名を付けるものが出てきている。

※ 立会人型電子署名,事業者型電子署名,第三者型電子署名などと呼ばれている。

サーバーによる電子署名、という表現がよく分かりませんでした。

当事者の電子署名と事業者の電子署名

■ローカル署名とリモート署名は,どちらも当事者の電子署名を付ける(当事者電子署名方式)

■事業者型電子署名方式では,当事者(AやB)の電子証明書はなく,サーバ(電子契約システム等)の証明書だけが使われる。

登録等指示

当事者型電子署名型利用者が,自分の鍵を自分で管理し,自分の手元で電子署名を生成利用者の鍵をサーバに預け,利用者の指示に従ってサーバで電子署名を生成

利用者の鍵はなく,サーバが立会人として,サーバの電子署名を生成

各方式の特徴

電子署名法3条の適用

事業者型電子署名方式と電子署名法

■2020年7月17日及び9月4日の政府見解により,事業者型電子署名であっても,電子署名法2条1項の電子署名に該当しうること,同法3条の推定が得られうることが示された(*)。

■推定効については,注意が必要。

① 事業者型電子署名であっても,システム利用者による電子署名(電子署名法2条1項)であると認められうる。

② 「本人による」ことを証明するためには,システム利用者=契約当事者だと証明する必要がある。システム登録時等の身元確認が簡易な場合には,訴訟当事者が,利用者=契約当事者だと証明する必要が生じうる。

③ 事業者型電子署名のプロセスの固有性について,具体的な要件は出そろっていない。

(*)利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A

https://www.soumu.go.jp/main_content/000697715.pdf

利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A (電子署名法第3条関係)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000705576.pdf

電子証明書及び電子署名方式の選択

本人性の確認レベル

■本人確認の厳格さ(訴訟における証明の容易さ)と,利用開始の容易さのトレードオフ=電子契約の重要性に合わせて選択

●電子証明書発行時/利用者登録時の本人確認が厳格であれば,訴訟における当事者の証明は容易になるが,利用開始時の手間は大きい。

●利用開始時の本人確認が簡易であれば,簡単に利用を開始できるが,訴訟における証明はやや難しくなる。➜署名対象文書の重要性等に合わせて,サービスを選択すべき

※一般的に,当事者電子署名方式(ローカル署名・リモート署名)のための電子証明書発行時の本人確認は厳格な者が多く,事業者型電子署名の利用開始時の本人確認は簡易なものが多い。

訴訟における証明のために

■訴訟では,当事者(とされる者)と電子署名の関係を証明する必要がある。

この関係は,電子証明書発行時の本人確認(ローカル署名,リモート署名の場合)や,システムへの登録時の本人確認(事業者型の場合)で確認される。(メールアドレスだけの確認の場合,メールアドレスと当事者の関係は,利用者において証明することになる。)

この関係は,署名生成の安全性により示される。

リモート署名や事業者型の場合には,システムの安全な構築・管理・運用や,記録(ログ)の保存等が確実に行われていたことが必要となる。

電子署名により,電子契約書等に係る真正な成立が推定される(電子署名法3条)

例: 123456@ggggg.com の管理者

例: 東京都新宿区・・・・・の

電子証明書・方式選択の例

■署名対象文書の重要性等に合わせて,電子証明書及びサービスを選択

■例えば,以下の対応が考えられる

●代表取締役の登録印を使用してきた文書➜代表取締役に法務局が発行した電子証明書に基づくローカル署名

●認印又は押印なしの文書➜簡便な本人確認に基づく事業者型電子署名

※これらはあくまでも例であり,このとおりにせよというものではない。各社の状況に合わせて選択すべきである。

タイムスタンプと電子文書の長期保存

電子証明書の有効期限

■電子証明書には有効期限がある。また,電子証明書は有効期限前に失効することもある。

●電子署名は,有効な電子証明書に基づいて行われなければならない。

●電子証明書の有効期限は長くても3年程度。

■有効期限までに作成された電子署名は,実体的には有効。ただし,訴訟においては,有効な期間に作成されたことの証明が必要。

●ただし,タイムスタンプにも有効期限はある

電子文書の保存期間について

■文書の必要な証明期間については,一般的な基準はない。

●行政法(例えば税法)では,多くの文書について保管義務を課し,その期間を定めている。

●しかし,民事訴訟においては,係争において文書の証明が必要となる期間は,一般的には決められない。

■時効との関係

●多くの請求権は最大10年で時効により消滅する(ただし,時効の起算点には注意が必要)。

●土地を購入した場合,購入が証明できなくても,20年占有していれば時効取得できる。

●土地の時効取得は,占有の開始が貸借の場合にはできない(借りているものは,何年たっても時効取得できない)。そうすると,土地を人に貸した場合に,相手に時効取得されないためには,貸借の証拠を20年以上にわたって保持し続けない可能性がある。

■結局,一般論としての保存期間を決めることはできない。通常の文書の保存期間と同様に,文書の重要性等に鑑みて決めることになる。

■タイムスタンプの検証により,タイムスタンプの時刻に,タイムスタンプに対応する電子文書が存在したことを示すことができる。

電子文書ハッシュ関数

ハッシュ関数: 任意の大きさの文字列を入力して,固定長(例えば256bit)を出力する関数。

逆関数の計算が困難に設計されており,ハッシュから文書は作れない。・・・絶対?

電子文書とタイムスタンプをペアで保存

後日,タイムスタンプの検証を行うことにより,当該電子文書が,タイムスタンプの時刻に存在したことを示せる。ハッシュ値だけを送信し本文は送らない

タイムススタンプの認定制度

■一般財団法人日本データ通信協会の認定制度

●技術基準,運用基準,ファシリティ基準,システム安定性基準などに基づいて認定する。( http://www.dekyo.or.jp/tb/index.html 参照)

日本データ通信協会タイムビジネス認定センター

「タイムビジネス信頼・安心認定制度運用規約」 (2021年10月1日改正)

https://www.dekyo.or.jp/tb/announce20210929.html

●電帳法施行規則3条5項2号ハ及び地方税法施行規則25条5項2号ハにて,電磁的記録に付すタイムスタンプには日本データ通信協会の認定を受けたものを使う旨が,指定されている。

■総務省告示により,国の認定制度となった(2021年7月31日施行)

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/ninshou-law/timestamp.html

●令和3年総務省告示146号

https://www.soumu.go.jp/main_content/000742664.pdf

■訴訟における取扱い

●利害関係のない第三者の証言は,訴訟において信用性が高い。法令により,公的に用いられていることもプラス要因。今後は国の制度になるので,信頼性はより高まる。

長期署名

■電子署名・タイムスタンプを組合せることにより,電子証明書の有効期間後における署名検証を可能にする。

■長期署名のフォーマットとして,CAdES形式,XAdES形式,PAdES形式などがある。

●電子署名とタイムスタンプを備える(PAdESは,タイムスタンプだけでも可能)

●タイムスタンプの対象として,検証情報(CRLなど)を含めることにより,タイムスタンプの有効期限までの検証が可能。※ 署名生成後に発行されたCRLを含めるために,数日を要することがある。

●タイムスタンプを一定期間ごとに重ねて付与することにより,有効期限の延長が可能となる。※ これらのフォーマットは,ISO, ETSI,JIS などで標準化されている。

■適切に管理し,期限の延長を行えば,長期にわたって証拠性を保てる。

■電子署名が行われた時刻を証明するタイムスタンプ(署名タイムスタンプ)

と,利用者電子署名及び署名タイムスタンプの検証に必要な電子証明書及びそれらの有効性確認情報をアーカイブして,タイムスタンプを施す。

■アーカイブタイムスタンプが有効な期間(通常,10年程度)にわたって,署名検証が可能となる。

各電子証明書に係る有効性確認情報(CRL 又はOCSP)

利用者電子署名・署名タイムスタンプを検証するために必要な電子証明書のセット

■アーカイブタイムスタンプが有効な間に,それを検証するために必要な電子証明書や有効性確認情報をアーカイブして,さらにタイムスタンプを施す。

■アーカイブタイムスタンプごとに,約10年の延長が可能となる。

裁判実務での取り扱い

■電子文書の真正な成立の争いは裁判例に乏しい

原告が,電子文書を証拠として提出

被告が真正成立を争うか

民事訴訟規則145条

特定認証業務の証明+本人性の証明

電子証明書に記載の本人性の証明+リモート署名プロセスの正当性の証明

電子文書プリントアウトして提出するのが一般的。

(電子署名・タイムスタンプの検証結果画面や電子証明書のプリントアウトを併せて提出することも考えられる)

リモート署名

本人の特定(当事者又は事業者)+事業者のプロセスの正当性の証明事業者型署名媒体等で,電子ファイルを証拠提出(裁判手続のIT化で,ファイルを直接送れるようになる見込)

本人性の証明と事業者の関与

■認定を受けていない特定認証業務

●電子証明書発行時の身元確認(認定されていなくても,相当の身元確認をしていることが多い)➜特定認証業務の協力により,本人性を証明

■リモート署名事業者

●利用登録時に,利用者と電子証明書記載の本人との同一性を確認➜電子証明書の本人性の証明に加えて,リモート署名事業者の協力により,本人性を証明

■事業者型電子署名事業者

●事業者によって異なるが,電子メールの到達性などの簡易な方法にとどまるものも多い。➜訴訟当事者において,署名者の特定のための証拠を確保する必要がでてくる可能性がある。

電子取引と税務

■法人等の事業者(個人事業主を含む)は,帳簿の作成,証憑書類の保存などが,税務上義務付けられている(通常は7年間の保存義務がある)

■従来は,全て紙で行われてきたが,一定の条件のもとで,電子的な保存が可能になっている。

■電子帳簿保存法による電子化

●税務署長の承認が必要なもの

帳簿の電子化

紙で受け取った書類をスキャンしたデータでの保存※2021年1月1日以降,承認は不要になる。

●税務署長の承認が不要なもの

電子取引のデータ(初めから電子データの授受による取引)※紙の契約書等には印紙税がかかるものがあるが,電子取引では印紙税不要

印紙税について

■契約書・領収書等には,(一定金額以上の場合に)収入印紙を貼らなければならない。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_ichiran.pdf

●売買契約書,土地の賃貸借契約書,消費貸借(借金等)契約書,運送契約書,請負契約書,基本契約書,領収書などに印紙が必要。

委任契約の場合は印紙不要

■電子契約の場合には印紙は不要

●国会答弁でも,電子契約の場合の印紙が不要であることが確認されている。(平成17年内閣参質162第9号)

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/162/touh/t162009.htm

電子帳簿保存法

■法人(企業など)では,取引に関係する書類(見積書,契約書,注文書,請書,送り状,領収書など)を7年間(場合によっては10年間)保存しなければならない。

●税務調査のときに,見せる必要がある。

■電子取引の場合には,取引情報を電子的に保存できる(10条)

●電子取引(2条6号)

取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。

●一定の条件下では,紙の書類をスキャナで取り込んで電子化したもので保存することも可能(4条3項)

電子的な保存方法

■電子取引の文書以外の書類・帳簿については,電子的な保存にあたって,税務署長の承認が必要。(改正法により,2022年1月1日より承認不要)

■電子取引の文書については,税務署長の承認は不要で

(1) 発信者によるタイムスタンプの付加

(2) 受信者によるタイムスタンプの付加

(3) 訂正・削除を行えないか又は訂正・削除を行った場合にその事実及び内容を確認できるシステムで保存

(4) 正当な理由のない訂正・削除を防止する事務処理規定の設置・運用のいずれかを行う必要がある。

●さらに,速やかな表示・印刷ができること,日付・金額等やその範囲・組み合わせによる検索ができることが要件

電子帳簿保存法改正(2022年1月1日施行)

電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410AC0000000025

電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410M50000040043

■税務署長による承認制度の廃止

●帳簿の電子保存,受領書面のスキャンデータでの保存などについて,税務署長の承認制度がなくなる。

■電子取引の取引情報の保存

●電子取引の取引情報について,現行法では印刷した紙による保存が可能だが,改正法では,電子的な保存に限られる。

●このため,保存要件・検索要件が必要になる。

●ただし,データを必要に応じてダウンロードできるようにしている場合には,検索要件は緩和される。さらに,売り上げが1000万円以下の事業者がダウンロード可能にしている場合は,検索要件が不要となる。

電子署名法の今後

デジタル庁創設(2021年5月12日成立・一部を除き9月1日施行)

■デジタル社会形成基本法

●「デジタル社会」を定義

●情報の円滑な流通,アクセシビリティ,人材育成,利便性向上,情報活用,サイバーセキュリティの確保,個人情報の保護などのための施策の基本方針

■デジタル庁設置法

●総務省,経済産業省などに分散していたIT関係の機能を集約し,政府のIT化の司令塔としての役割

●デジタル社会の形成のための施策に関する基本的な方針の企画立案・総合調整

●デジタル庁の主な所掌

マイナンバー,マイナンバーカードの利用関係,情報提供ネットワークシステムなどの設置・管理、本人確認,電子証明書,電子署名,電子委任状データの標準化,外部連携,ベース・レジストリ

デジタル庁整備法による主な法改正

法律名内容

民法弁済者は電子領収書を請求することができる(468条2項)

建設業法1)建設工事の見積書の電子交付可能(20条3項)

2)主任技術者の配置に係る合意に電子契約可能(26条の3第4項)

建築士法

管理建築士等は、建築主に対し設計受託契約又は工事監理受託契約の重要事項の説明をするときは、重要事項を記載した書面の交付に代えて、当該建築主の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子契約可能(24条の7第3項)

宅地建物取引法

1)媒介契約の契約時書面の電子化(34条の2)

2)重要事項説明書の電子化(35条)

3)宅建業者自身が行う不動産契約の契約時書面の電子化(37条)

建物の区分所有等に関する法律

マンションの建て替え買取につき、一部電子化(61条)

借地借家法

1)定期借地権設定契約の電子化を認める(22条)

2)定期建物賃借件設定契約の電子化を認める(38条)

3)取り壊し予定の建物の賃借権設定の電子化を認める(39条)

地方公共団体の特定の事務の郵便局における取扱いに関する法律

マイナンバーカードの電子証明書の発行事務を郵便局で行える(2条5項,6項)

電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(公的個人認証法)

マイナンバーカードの電子証明書に関する利便性改善(地方公共団体情報システム機構(J-LIS)による情報提供に関する改正)

マイナンバーカードの署名用電子証明書をスマホに搭載

個人情報保護法三法及び条例の一本化,学術研究目的における規制緩和など

施行時期・・・大部分は,令和三年九月一日から施行

・宅地建物取引業法,公的個人認証法,個人情報保護法等は,政令で定める日

から施行

■包括的データ戦略(案)を2021年5月に策定

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/data_strategy_tf/dai7/siryou8-1.pdf

包括的データ戦略(案): トラストの基盤の構築

①認定スキームの創設 【認定スキームの想定イメージ】

意思表示の証明、発行元証明、存在証明等に関するトラストサービスについて、

適合性評価機関が一定の基準に基づき評価し、クオリファイドサービス?として認定するスキームを創設

クオリファイドサービスについて

https://www.ipa.go.jp/security/pki/092.html

・適合性評価機関は、国又は民間主導の認定機関が認定

②トラスト基盤の創設

・国又は民間主導の認定機関及び適合性評価機関の役割の明確化及びトラストサービス事業者に対する認定・監督等の一般原則と共通要件を検討

③認定の効果

・クオリファイドサービスの認定の効果、特定サービスの効果を、官民間の公的手続きにおける許容性や民民間の書類やデータの流通性等のニーズを把握した上で検討

④認定基準

・トラストサービスの共通要件・個別要件、特定サービスの基準、クオリファイドサービスの認定基準を体系化することが必要(設備基準、技術基準、運用基準等)

・適合性評価機関の指定(認定)基準について、国際的な動向を踏まえることが必要

⑤クオリファイドサービスをトラステッドリストとして公表

・認定を受けたクオリファイドサービスを、トラストアンカー機能を有するものとして機械可読な形で公表し、利用者が自動的に検証できるようにすることが必要

⑥国際的な相互承認

・国際的な相互承認を得るためには、技術基準の整合性や監督・適合性評価のレベル、国内制度の整合性を確認することが必要

電子署名法や公的個人認証法など個別の制度構築がなされているが、データ社会全体を支える包括的なトラスト基盤が必要

意思表示の証明、発行元証明、存在証明等のトラストサービスに共通する水平横断的な一般原則と共通要件を整理し、認定スキームを創設することが必要

その際、国際的な同等性などを配慮した国際相互承認を念頭に置いて検討する。

国家監督機関掲載(又は、民間主導の認定機関)

トラストサービス(意思表示の証明、発行元証明、存在証明等)

トラステッドリスト

• クオリファイドサービスを機械可読な形で公表

• 現在のみならず過去に遡って確認可能

内閣官房HP

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/data_strategy_tf/dai7/siryou8-1.pdf

データ戦略タスクフォース配下のワーキングチーム

(10月からデータ戦略推進ワーキンググループ配下に同様な組織を設置予定)

1. ヒト・組織・モノを特定するIdentity(属性情報)を、電子証明書に記録する

仕組みの信頼性を確保する制度について、本ワーキングチームにて取り扱う。

(1) ヒトの意思表示の証明: 電子署名

(2) 組織・モノの発行元証明: eシール(いわば組織の署名)

(3) 情報の存在時刻の証明: タイムスタンプ

2. 様々な分野でのサービス提供の基盤となるトラスト制度の検討を行うため,データ戦略タスクフォースのもとにワーキングチームを設置

3. EU,アメリカ等のトラストサービスとの相互承認のための,制度の創設を目指す。

(トラストの枠組みに関するとりまとめ

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/trust_wt/dai3/shiryou3.pdf

1. 国連機関のUNCITRALや欧州のeIDAS規則はトラストサービスを包括した制度となっているが、日本におけるトラスト基盤の要件はどのように考えるべきか。

2. 各々のトラストサービスに共通する水平横断的な一般原則と共通要件を整理し、包括的な制度を定めることでステークホルダーにとって分かりやすく、DFFTの推進に寄与できるのではないか。

<トラストサービスの水平横断的な一般原則と共通要件>

責任;監督;国際連携;

適格サービス;トラステッドリスト;適格マーク;認定基準

意思表示の証明・発行元証明・存在証明

内閣官房HP

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/trust_wt/dai1/shiryou7.pdf

裁判IT化のプロセス

■e法廷は順次開始している

■e提出・e事件管理は,2022年以降の予定

全国の地裁等で運用中

法制審にて審議中→2022年度実施が目標

第3講「使ってみよう!電子契約システムや日司連公的個人認証有効性確認システム!~画面共有による電子契約ソフト及び日司連公的個人認証有効確認システムの実践~」

司法書士隂山 克典

本講義の目的

〇実際の電子契約システムの画面を見ることで、今後、電子契約を活用する際の参考となることを目的としている

〇特定の事業者の電子契約システムを推奨するものではない点にご注意を

実際の電子契約システム

ファイル選択またはファイルをドロップ

選択したファイルが表れているか確認

契約の相手方を入力

データの送付先を設定

送付先のアドレスを入力

送付相手の氏名を入力

事案に応じ、アクセスコードを入力

入力したデータが反映されているか確認

どのような入力を求めるか選択

アップしたPDFデータの内容が表示される

誰の入力等を求めるか選択

○○に割り当て

日本司法書士会連合会に割り当て

割り当てられた項目に対し、文字等を入力

割り当てられた項目への入力完了

プレビュー

送信順序

相手方への連絡文書

送信することで、「日本司法書士会連合会」に承諾要請

ステータス表示

「売買契約書」が「日本司法書士会連合会」に送信されていることを示している

事業者より、書類の確認依頼が届く

クリックすると、書類内容の確認ができる

クリック後、ブラウザに表示される画面

アクセスコードを設定している場合は、ここに入力

日本司法書士会連合会に割り当てられた項目

承諾してよければ割り当てられた項目に入力

同意して確認完了ボタンを押すと、手続完了

事業者より、書類の確認完了メールが届く

締結済みファイルや合意締結証明書をダウンロードできる

契約締結後の電子署名付きPDFファイル

タイムスタンプ

承認等に対応した事業者の電子署名

署名のプロパティ

商業登記で活用する際は証明書ビューアに表示される電子証明書が法務省ウェブページに掲載されているか否かを確認

書類ID

現行法では、登記原因証明情報の適格性として、作成者の電子署名(公的個人認証または商業登記に基づく電子署名)が必要とされている

新たに追加された電子署名

マイナンバーカードによる電子署名であることがわかる

検証を必要とするファイルをアップロード

電子証明書は有効であり、かつ、ファイルに付与された電子証明書と日司連公的個人認証有効性確認システムで確認した電子証明書は一致する

加工 法制審議会担保法制部会第2回会議 議事録

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00064.html

部会資料2 担保法制の見直しに向けた検討(1)

https://www.moj.go.jp/content/001348285.pdf

第1 日 時  令和3年5月11日(火) 自 午後1時31分                 至 午後5時32分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(1)

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○道垣内部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第2回会議を開会いたします。

  御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

  本日は沖野委員,衣斐幹事が御欠席と伺っております。また,大西委員,門田委員,青木則幸幹事,横山委員というのが途中で中座されるということを伺っておりまして,それは適宜お願いいたします。

  次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。

○笹井幹事 部会資料2「担保法制の見直しに向けた検討(1)」がございます。こちらにつきましては,後ほど,審議の中で,事務当局から御説明いたします。

○道垣内部会長 ありがとうございます。資料の方を御確認いただけましたでしょうか。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日は「担保法制の見直しに向けた検討(1)」という,担保法制部会資料2というものについて,一読目の検討をしたいと思います。まず事務当局から御説明いただくのですが,御一読いただいた方は既にお分かりだと思うのですが,本日準備した資料もかなり広範囲にわたっております。そんな勢いでどんどん審議をやって,内容を決めていくのかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが,そんなつもりはありませんで,あくまで一読ということです。ですので,今日この段階でそれぞれのところについて意見をまとめる必要はありませんけれども,どのようにそれぞれについてお考えかということについて皆さんの御意見をお伺いできればと思います。

  それでは,資料1の「第1 総論」について,まず説明をお願いいたします。

○笹井幹事 それでは,部会資料2の「第1 総論」のうち,1から3までの部分につきまして,まとめて御説明いたします。

  まず,1ページの「1 統一的な担保制度を設けることの是非」では,担保制度全体の設計として,動産か債権か,担保権者が目的物を占有するのか,設定者が占有するのかなどの態様に応じて複数の類型の担保制度を設けるのか,一つの統一的な担保制度を設けるのかという問題を取り上げました。日本法の既存の制度は,複数の類型の担保制度となっているわけですけれども,アメリカの統一商事法典を始め,これに倣った担保制度は,統一的な担保制度だと理解されていると思います。

 統一的な担保制度は,統一的な公示制度を設けるということとも結びつきやすく,対抗要件制度を含めた制度の単純化にもつながり得るともいえますし,また,その目的物の特定としてどの程度詳細なものを求めるかということにもよりますけれども,債務者の財産に包括的に担保を設定するという議論にも対応することができる可能性もあろうかと思います。もっとも,目的物の性質によって,例えば実体的な効力や実行方法など,設けるべき規定がかなり異なってくるとも思われますし,どれだけ意味のある共通の規定を設けられるかという疑問もあろうかと思います。

  なお,今御紹介いたしましたアメリカのUCCやUNCITRALのモデル法は統一的な担保制度だと申し上げましたけれども,目的物が動産である場合や債権である場合に特有の規定も設けておりますので,統一的な担保制度なのか,あるいは類型ごとの複数の制度なのかといいましても,結局は程度の問題だといえるかもしれません。

  また,具体的にどういう規定が必要なのかを個別に検討していくに当たって,まずは動産についてはどうなのか,債権についてはどうなのかというように,目的物の性質等に応じた検討を行わざるを得ないと思います。

  ただ,ここでは,分析の視点といいますか,理念型として,統一的な担保制度と,個別に必要に応じて一個一個制度を設けていくというモデルがあり得るのではないかと考えて,問題提起をいたしました。

  続きまして,3ページの「2 担保の類型」というところですけれども,これは,1において複数の類型の担保制度を設けるという考え方を採った場合に,現在の動産質や権利質に加えてどういった類型を設ける必要があるのかという問題提起をしたものでございます。

  まず,再三指摘されておりますとおり,現在は動産の非占有型の担保制度が存在しておりませんので,この類型については規定を設ける必要があるのではないかと思います。その際,集合動産についても検討の対象にする必要があるのではないかと考えております。

  また,債権につきましては,現行法上も債権質という典型担保権がございますけれども,実務的には債権譲渡担保が用いられることが多いという現状を踏まえますと,債権を移転する形式による担保制度についても併せて規定を設けることが考えられるかと思います。また,動産や債権以外のどのような財産について担保制度を設ける必要があるのか,そもそもそれ以外に設ける必要があるのかということにつきましても,御意見をいただければと思っております。

  「第1 総論」の最後,5ページの「3 担保制度の規定の設け方」につきましては,前回少し御紹介申し上げましたけれども,現在の譲渡担保や所有権留保の形式を踏襲して,当事者が担保目的で所有権その他の財産権を移転あるいは留保したというような場合の具体的な法律関係を規定するという方式と,あるいは一つの新しい典型担保権を設けるという方法とが考えられるかと思います。これにつきまして,3において問題提起をいたしました。

  第1につきまして,簡単ですけれども,私からは以上でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  お気付きかもしれませんけれども,UCCのように統一的な担保制度を設けるといったときに,いろいろなレベルというのがあるわけでして,完全に登録制度にして,登録を一本化するというのと,それは別に,概念的に一本化する,様々な担保手段を概念的に一つの担保権としてとらえるとか,いろいろあり得ます。そして,それが,どういうふうに結び付くか,UCCならUCCという制度を捉えて,日本の立法論とどのように結び付くかというのは,いろいろな結び付き方というのがあろうかと思います。そういう幾つかの分岐があることも踏まえまして,全体としてどういうふうなタイプの担保制度というのを目指すかということについて,ざっくばらんに御意見を伺えればという次第でございます。どなたからでも結構でございますので,御自由に御発言いただければと思います。

○鈴木委員 地方銀行協会,鈴木でございます。部会のゴールの一つは,法的な安定性確保にほかならないけれども,もう一つは,停滞するABLなどの融資形態の一層の普及と考えております。1ページの30行目のところですが,統一的な担保制度について,実務に大きな変革を迫るとか,導入するのであれば大きなメリットが必要とされていますけれども,一方で制度が単純化できるなどのメリットが示されています。今現在十分に普及していないABLなどの融資形態にインパクトをもたらす何らかの仕掛けは必要だと感じていまして,統一的な担保制度はその仕掛けになり得ないだろうかと,アナウンス効果が期待できるのではと考えております。

  金融機関としては,現行の譲渡担保で機能している担保に害が及ぶのは好ましくないので,各論としては保守的なポジショニングをとるわけですけれども,一方でABLの特徴としては,比較的足の短い貸出しであることが多いので,不動産担保よりは機動的にルール変更に対応できる面があるとは思っております。さらには,移行措置が確保されれば,そこの部分は問題にならないと考えております。飽くまで選択肢を増やすという目線であれば,使い勝手を追求していくこともできるのではないかと考えております。

  立法作業では多くの調整が必要ですし,実務の連続性を重視する点,そこは理解しておりますけれども,ユーザー目線で何かが変わったという出来栄えの部分も欲しいかなというところはお伝えしておきたいと思っております。これは何も統一的な担保制度であったりとか,新たな典型担保でなければいけないということではありませんけれども,議論のスタートですので,ここの部分は確認しておきたいと思いまして,手を挙げさせていただきました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○山崎委員 山崎金属産業の山崎です。今,総論の統一的担保制度を設けることの是非に関してなのですけれども,やはり我々中小企業の立場としては,統一的な担保制度が実現できればそれには越したことないのですが,ただ,種類ごとに担保を設定した方が立法化に掛かる時間や動産担保融資などの普及に掛かる時間が短くなるのであれば,そちらの方を肯定したいと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。先ほど鈴木委員から,統一的な担保制度を設けることについての意義に関するお話をいただいておりますが,私も同じく金融機関の立場からの意見として,目的物の種類ごと,それから占有権限の所在等の態様に応じて複数の類型の担保制度を設けるという方が実務にとっては望ましいのではないかということを申し述べたいと思います。

  部会資料においても言及されているのですけれども,仮に,統一的な担保制度を設けることの一環として,統一的な対抗要件具備制度を設けるということになりますと,それがいわゆる真正譲渡の場合の対抗要件制度と異なる制度として設計されるという場合には,例えば,ある譲渡行為として行われた取引が,事後的に,実は実態として担保設定行為であった,そして,その担保設定行為に関する対抗要件は具備されていなかったといった攻撃がなされ,結果として行為の効力が覆ってしまうということなりうるのだとすれば,慎重に検討する必要がありそうなのかなとは考えております。

  現状の実務上,例えば証券化・流動化取引という取引類型において,いわゆる真正譲渡性が大きな論点として慎重に検討されているところでございまして,真正譲渡性を確保するために,例えば契約中において真正な譲渡をする意図であるということを明記する等の契約上のアレンジメントを行っていたり,法律専門家から真正譲渡に関する御意見書をいただいたり,といった対応を行っているところがございまして,これが統一的な担保制度の導入と,それに伴う担保固有の統一的な対抗要件具備制度の導入に伴い,一般的な売買等の譲渡取引に関しても同じような配慮が求められるということになるのだとすると,取引に対する影響というのは必ずしも少なくはないだろうと考えているところではございます。

  ABLの話がございましたが,そういう取引を普及させていく際の起爆剤の一つとして,何らかの象徴的な取組があった方がよいというところはよく理解できるところではあるのですけれども,現場の意見を差し当たり拝聴している限りにおいては,例えば現状におけるような,個別の目的物ごとの担保権を積み上げることによっても大きな支障はないでしょうという見解も多く聞かれるところではございます。こうした意見も総合的に勘案させていただきながら,新制度の導入のされ方によるとは思うのですが,そのインパクトに鑑みた場合に,統一的な担保制度の導入のメリットをどこまで享受できるのかということについては,少し慎重に考える必要がありそうなのかなと考えているところでございます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○佐久間委員 私は実務のことは全然分かりませんので,実務について妨げになるようなことを改正でしてはいけないと思っているということを申し上げた上で,せっかく今回,立法することになるのですから,説明でいうと6ページの下の方にあります,実質的な担保取引なのだけれども,今回の改正を経ても結局適用する規定がない,そういう担保取引が存続する,ということを回避することがすごく大事なのではないかと思っています。その回避を図ることに当たっては,一つ一つの担保の積み上げというのはものすごくハードルが高くて,包括的というか網羅性のある担保制度,どのぐらい包括的かは分かりませんが,そういうことをした方がよろしいのではないかと思っています。

  そう思っているところ,先ほど本多委員が真正譲渡と担保取引とで真正譲渡の証明が要るようなことになると困るとおっしゃいました。それは正しくそうなのだろうと思うのですが,例えば,今日の後半の方で出てくることだと思うのですけれども,対抗要件の制度は,例えば現状のまま存置をして,しかし,担保取引の場合にはそのための特別のファイリングを求める,そのファイリングがされているものは担保として一定の処遇がされるけれども,そのようなファイリングがされていないものについては,対抗要件は具備しているけれども担保としての処遇はできないというようなことをすれば,例えば真正譲渡の証明が要る,対抗要件が欠けていて困るなんてことは起こらないと思います。何を申し上げたいかというと,必ずしも担保を個別に積み上げていかないと今までの実務を台無しにするようなおそれが強くなるとは限らないのではないかと思うということです。

  もう一つ,その関連で,実は資料でよく分からないので,説明をいただければと思うところがございます。それは,5ページの3のところなのです。【案2.1.3.1】と【案2.1.3.2】の違い,特に【案2.1.3.2】の意味だと思うのですが,新たな典型担保物権を設けるというときも,例えば次のような二つの設け方で全然イメージも違ってくるし,設けるべき内容も違ってくると思うんです。

  例えば,一つは,現状の譲渡担保を前提に考えますと,【案2.1.3.1】の①にあるような,債権を担保するため財産権を移転する契約というのがありますが,これに続けて,その「契約がされた場合に,その契約により債権者が取得する権利を譲渡担保権という。」,といってしまえば,これは一応,一つの典型担保権になるのではないかと思うのです。他方で,例えば今の抵当権の規定を模して,動産譲渡担保権というかどうか分かりませんが,例えば,「動産抵当権者は債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した動産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」と定めた場合も,これも新たな典型担保権だと思うのです。

  結局のところ,中身でどういう担保権,譲渡担保を包括的に全部捉えられるような【案2.1.3.1】の①型で組んでいくのか,そうではなくて,既存の典型担保権に極めて近い形で新たな担保権を設けていくのかで全然違うと思うのですが,【案2.1.3.2】ではどちらもあり得ることだと思うものですから,【案2.1.3.2】の心としてどうなのか,私が申し上げたのでいうと後者の方を基本的には念頭に置いておられるのか,資料においてですね,ということを伺えたら有り難いと思いました。

  私自身は,【案2.1.3.1】の①型でなるべくやっていって,あとほかの財産権についてもできるだけ漏れがないように,同じような規律を設けられるのだったら,というか,広く捉えられる規律を設けられるのだったら,そうしておいた方がいいのではないかと思っているということです。

○道垣内部会長 ありがとうございます。少し質問にわたる部分がございますので,何か笹井さんの方からお話があれば,お願いします。

○笹井幹事 今,佐久間先生の御指摘がございまして,もしかしたら【案2.1.3.1】も【案2.1.3.2】も程度問題という面があるのかもしれませんが,資料作成時に念頭に置いていたものとしましては,【案2.1.3.2】は佐久間先生がおっしゃったものでいいますと後者の方,現在の典型担保物権に非常に近いものを念頭に置いておりまして,【案2.1.3.1】の,譲渡担保権と名前を付けたら確かに一つの担保物権かもしれませんけれども,そこでは形式的には所有権が移転するという形を採る。所有権が移転したのであって,担保物権とは少し質的に違っているものだというふうに考えておりました。

○道垣内部会長 まだ幾人も手を挙げていただいておりますので,いろいろな御意見をまず伺いたいと思います。金融庁の尾﨑さんからお願いいたします。

○尾﨑幹事 統一的な担保制度を設けることの是非に関連して,3点ほど申し上げます。

1点目ですけれども,まず,現状の個別の動産や債権の担保実務について,正確に認識した上で議論する必要があると考えています。いただきました資料の2ページ目の(注5)に,「優先順位のルールを通じて最初の債権者が包括的に優先権を取得できる点も踏まえ,それがアメリカの融資実務を反映したものであること,これに対して日本においては融資額に見合った個別の動産や個別の債権に担保権の設定を受けるのが一般的な担保実務」といった記載があり,この注書きが付された,1ページ目の本文29行目には,米国の「UCC第9編のような統一的担保制度を導入することも考えられるが,これは実務に大きな変革を迫ることになる」といった記述がございます。こういった記述は,必ずしもそうした意図ではないのかもしれませんが,“米国では包括的な担保制度に則した融資実務があり,日本では個別担保制度に則した融資実務があり,それぞれの融資実務に沿った制度が既にあるのであるから,制度を変えることには慎重で在るべき”とも読めるように思います。

  しかしながら,日本の金融機関については,不動産ではなく,融資額に見合った個別の動産や個別の債権に担保権の設定を受けるといった実務は,太陽光発電事業や比較的規模の大きな事業再生案件を除いてほとんど普及しておらず,一般的とまでいえるような確立した実務はないと考えられます。もちろんそういった実務がないわけではないけれども,現状の実務を前提とすれば,制度の導入によって変革を迫られるものというのは融資実務全体からみるとかなり限定されたものではないかと考えております。

  加えまして,米国におきましても,事業全体の担保を活用して事業に必要な資金を丸抱えで融資する実務しかないわけではなく,融資額に見合った不動産や動産・債権を個別に担保として取るといった実務もございます。

 また,前回御説明しましたように,日本におきましても,事業の将来性を見た融資への取組が広がりつつあります。

 重要なのは,アメリカにおきましては事業者のニーズに応じた複数の制度オプションと,その制度に支えられた資金調達手段が用意されているのに対して,日本ではこれらの選択肢が少ない状態にあることだと考えております。例えば,前回申し上げたように,事業の将来性を見た融資を行うに際しても,事業そのものを担保にするということができないという状況にあります。

  担保制度を議論する場合においても,多様な金融ニーズに応じて,様々な使いやすい担保のオプションが用意されているという観点がまず重要であって,統一的な担保制度かどうかというは,どちらかというと形式的な話かと考えております。

  次に,2点目です。現状を理解した上で,今回の担保制度の改正によって後押しする実務をはっきり共有する必要があるのではないかと思います。実務を後押しするに当たって,法制度やその他の要素をどのように変える必要があるのか,借手や貸手双方のコストやリターンの関係を踏まえたロジックと,活用事例のイメージを共有することが重要だと思います。例えば,現在活用されているABLですけれども,これを,先ほど申し上げました太陽光発電関連事業や再生局面以外の場面で普及させようとするのであれば,何の課題を乗り越える必要があるのか,しっかり検討する必要があると考えています。

  特にABLの場合は,事業全体の評価やモニタリングだけでなくて,特定のアセットについての評価やモニタリング,万が一の場合の処分にコストが掛かることに注意が必要になってくると考えております。活用されるのは,こうしたコストを上回るリターンが確保される場合であり,かつ,それが事業者にとっても利益となる場合であって,多くは借入の規模が比較的大きい場合なのではないかと考えています。このような規模の比較的大きなABLを更に推進することを目的とするのか,あるいはもっと規模の小さいABLについても普及させたいと思うのか,また,再生局面以外にも普及させたいと思うのか,その目的によって,例えば対抗要件とか優先順位に関する制度を整備する際にどのような点を重視すべきなのかということが変わってくるのではないかと考えています。

  最後に,3点目ですけれども,これは後の会合で詳しく取り扱われる論点であると考えておりますが,統一的な担保制度について議論するこの機会に,統一的な担保権の優先関係や登記の制度について意見を申し上げたいと思います。結論から最初に申し上げますと,2ページの26行目以降に書かれているような,国連のモデル法のような方向性,つまり目的財産の種類にかかわらず利用することができる統一的な登記制度,あるいは登記ほどには詳細ではない統一的なプラットフォームなどを設けて,ここに情報を登録することを担保の第三者対抗要件とし,また,担保が競合した場合の優劣を判断するに当たっての基準とするといった方向を重点的に議論すべきではないかと考えています。

  今のように動産や債権で登記制度が分かれていて,それぞれ見に行かなければならない,しかも,登記を備えていない優先する担保権者がいるかもしれないといった状況は,個別動産の担保融資など一部の融資実務にとっては都合がよいという面もあるのかもしれませんが,それ以外の融資実務を不安定でコストの掛かるものとしてしまって,その発展を阻んでいる可能性があるのではないかと考えています。そのため,透明性の高いルールとプラットフォームを整備して,権利調査のコストや不意打ちのリスクを大きく下げることで,法律家でない一般の事業者や金融機関でも優先関係について理解でき,担保権を幅広く活用できるようにすることが望ましいと考えています。そうすることで様々な貸手が参入しやすくなり,競争が促されますので,事業者はよりよい貸手を選びやすくなると考えます。もちろん今まで占有改定によって登記をせずに対抗要件を備えられたのに,新たに登記を求められるようになると,負担が掛かってしまうという御意見もあると思います。しかし,登記優先ルールという形をとれば占有改定の実務が否定されるわけではありません。また,そういった限られた一部の実務が登記なく優先できることで,その他の実務,特に金融機関による融資のコストが大きく上がっており,そのリスクを負えないために融資に踏み出せない金融機関もいる,つまり,融資を受けられない事業者もいるという事実にも目を向ける必要があるのではないかと思います。日本経済,社会全体の利益を考えれば,全ての担保権について登記を優先させつつ,一つ一つの登記のコストを下げることを目指すべきであろうと考えています。

  もちろん,これまでの議論の中でも出ましたけれども,真正譲渡への影響を抑えるために,登記優先ルールの対象範囲など具体的な制度設計は問題になるかもしれません。しかし,一番重要なのは制度のユーザーの視点であります。結局,ユーザーに利用してもらえるものでなければ作っても残念ということになりますので,これを第一に考えていく必要があると考えています。個別に限界事例を考えれば様々な難問があると思いますけれども,日本経済,社会全体の利益を考えて,多くの真っ当なユーザーに利用してもらえるように検討していく必要があると考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○大西委員 大西です。よろしくお願いします。実務家の立場で申し上げますと,先ほどいろいろな方々の御意見も出たように,まず,やはりこの立法のスピードというのはそれなりに維持しなくてはいけない,一方で分かりやすい制度,それから使いやすい制度,そして,今の実務に弊害,悪影響を与えないような制度,そういうようないろいろな視点を踏まえたユーザー目線でそういう制度を作っていくべきなのかなと思います。

  そういう中で,私自身は立法に携わったわけではないのですが,統一的な担保制度での検討から出発して,それで,何らかの困難な事情があったときに別の個別制度に途中でスイッチするパターン,若しくは,逆に個別に考えていった上で共通項を見付けて,統一の担保制度になるパターンのように,検討の途中から法制度体系を変えることがもしできるのであれば,余りこの制度体系の議論をどちらかに決まるまでやる必要はないのかなと思いました。この場合やってはいけないことは,統一的な担保制度を作るという価値のために,実務に悪影響を及ぼすような制度になることも辞さずという考え方で進めることだと考えます。この点は,是非諸先生方のいろいろ御意見をいただきたいです。

  それから,2点目は,先ほど尾﨑さんの言われたとおり,ABLがどれほど普及しているか,ABLは実際今のニーズとしてあるのか,またはABLはもっと普及すべきなのか,それとも既に相応に普及していて充足しているのかどうかについて,事実関係を把握した上で対応した方がいいと思います。先ほどのお話にも出ました,事業の担保制度については,私は実務ニーズが相応にあると思っていますので,これは制度上きちんとカバーしていかなくてはいけないと考えています。ただ,その前提として,その辺の事業担保のニーズの把握ということも重要だと考えています。いずれにせよ,ユーザーにとって使いやすい担保制度という前提で方向性を決めていければと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○井上委員 ありがとうございます。最初のところの統一的な担保制度についてですけれども,統一的という用語の意味について,今,何人かの委員の方々の御発言を聞いていて,もしかすると理解が一致していないような気もしたので,そこを確認したいのですけれども,私自身の理解は,統一的な担保というのは,包括的な担保とは別のもので,包括的担保というのは,資料でいえば3ページの2の直前のところになお書きで書いてある,金融庁あるいは中小企業庁から御提案があったような担保のことだと思うのですけれども,ここで統一的な担保というのは,むしろ個別動産であれ,個別債権であれ,あるいは集合動産,集合債権であれ,あるいは知財であれ,「担保といえばこれ」という一つの担保を作るということかなと思っていまして,それがもちろん包括的な担保と重なる場合もあると思うのですけれども,財産の種類を問わず担保を一つのものにすると,もちろん特則はそれぞれ設けるのでしょうけれども,担保を統一するという意味の用語かなと考えています。そういう観点で申し上げると,包括的な担保については,前回議論されましたように,私は動産・債権等の担保とは別に検討すべきだと思いますけれども,統一的な担保に関していうと,メリットよりも,日本の現状を大きく変えるインパクトといいますか,ハードルが高すぎるような印象を現時点では持っております。

  例えば,一つの例を挙げれば,債権の担保については,将来債権譲渡担保は,現行法上の将来債権譲渡のルールをベースに,将来発生する債権を現時点で譲渡でき,対抗要件も現時点で備えられることを前提として成り立っていると思うのですけれども,それに比べると,動産の担保については,将来の動産を現時点で有効に譲渡できるという考え方をとらずに,集合物という概念を媒介にして,将来入ってくるものについても現時点の担保設定の効力を及ぼし,対抗要件も備えられると考えられているわけですけれども,こういったかなり基本的なところで将来債権と集合動産は違う構成によって担保が成り立っている中で,統一的な一つの担保で動産,債権,知財その他を規律するとなると,どちらかをどちらかに合わせることになるのか,よく分かりませんが,かなり根本的な,実体法上の効力も含めた説明の変革を要するような,現時点ではイメージを持っておりまして,少し難しいのではないかと考えます。その意味では,包括的な担保とは違って,統一的な担保のハードルはすごく大きくて,それを超えるメリットが今の時点では見いだせないという印象を持っております。これが1についてです。

  次に,続けて申し上げますと,5ページのところの3の担保制度の規定の設け方ですけれども,これについては1案と2案があるわけですが,私は,この二つの区別は,先ほどの事務局の御説明のように理解しておりました。ただ,事務局の説明の理解をベースにしながらも,6ページの35行目のところを見ますと,担保目的で所有権が移転された場合について,新たに設けた担保物権の設定契約であるとみなすことも一つのバリエーションとして書かれているわけです。ただ,これを担保物権創設型に入れるのは,個人的には少し不思議な感じがしていまして,不思議な感じというのは,ここの部分は,担保目的で財産権を移転する契約をした場合には,新たに設けた担保物権の設定契約であるとみなすということですから,「担保目的で財産を移転する契約をした場合にはこれこれという規律に服す」と定めるのと変わらないように思うのです。そうすると,これは担保物権創設型と担保目的取引規律型の中間といいますか,両方を立法するのにむしろ近いような印象を持っておりまして,その意味で,三つを比べる方がよいように思うのですが,比べるという意味でいうと,先ほど佐久間先生がおっしゃったように,狭義の,つまりみなしのない担保物権創設型は,隙間が残るという点で残りの二つと大きく違っていて,結局のところ,担保物権の創設をする際に合理的に見通しのよい非占有の動産担保制度を整備すると,見通しの悪い非典型担保,譲渡担保などは使われなくなって,新しい典型担保に収斂していくのだという考え方,そういう志向の立法をするということではないかと思うのですが,実際には,それほどうまくいくかというと,恐らくそんなこともなくて,例えば,非典型担保として残る譲渡担保の方が,新しく作った担保物権よりもレンダーに有利であるとか,あるいは,取引時点であまり違いをあらわにせずに問題を先送りして曖昧さを好むような当事者がいると,結局のところ新たに作った典型担保が使われなくなってしまうように思うので,私も佐久間先生がおっしゃるように,隙間がない方がいいのではないかと思います。

  そうすると,担保目的取引規律型か,あるいはみなし付きの中間型といいますか,どちらかにすべきではないかと思っておりまして,その二つにどういう違いがあるのかというのは現時点では十分に検討できていないのですが,この二つは果たして実質的な違いがあるのだろうかということについて,もし事務局の方でお考えのことがあれば,教えていただきたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  最後,質問が事務局に対してありましたが,全体に関わる事柄ですので,少しほかの方の御意見を伺ってから,場合によっては事務局に答えていただくことにしたいと思います。

○亀井幹事 ありがとうございます。中小企業庁としても,借手の中小企業の立場から,この制度をどう在るべきなのかということを考えさせていただいております。個々の資産の価値ではなくて,事業の価値を評価して融資を受けられるというようなインフラを是非作っていただきたいと考えております。また,作られるべき制度は分かりやすくてシンプルなもの,そういうものがよいとも考えております。そういうふうに考えると,個々の資産ごとに担保を押さえる制度のままでは動産とか債権とか,事業の中で形を変えていく資産をそれぞれおさえなければならず,複雑な仕組みが必要となります。そのため,個別の資産を区別せずに事業に用いられる資産を包括的に担保として設定できるような,そういう制度がよいのではなかろうかと思います。1の統一的な担保制度を設けることの是非というものについては,先ほどの金融庁さんが述べられた意見と同じく,区別をしないで統一的な担保制度を作るべきであろうと考えます。

  また,5ページの3の担保制度の規定の設け方については,こうした検討の結果新たな典型担保を設けるという必要があるのであれば,そうすべきなのだろうと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  それでは,冨高さんからも手が挙がっていますので,よろしくお願いいたします。

○冨高委員 担保制度を使いやすくすることは,労働者から見ると,資金調達が容易になり,事業が継続することによって雇用も継続する,という視点で,一定程度メリットがあると思います。しかし一方,倒産間際のケースで考えると,動産に担保が設定されていれば,未払賃金債権のような労働者の労働債権は担保に劣後することとなり,労働者に対する引当財産が減る懸念があります。担保制度の使いやすさと労働債権の保護とのバランスを慎重に考える必要があると思います。

  もう一点,5ページ12行目の契約上の地位には,使用者の地位や労働契約も含まれるようにも考えられます。その場合,事業譲渡に類するということであれば,事業譲渡においては,労働契約の承継について,労働者の同意が必要です。事業譲渡との兼ね合いについて考えなければならない点や,労働者保護の観点から,留意すべきことがあるか慎重に検討するべきだと考えます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  片山さん,さきほどは接続状態が悪かったようなので,再度お願いします。

○片山委員 片山ですが。

○道垣内部会長 大丈夫です。

○片山委員 よかったです。ありがとうございます。大変失礼いたしました。貴重な時間をお取りしてしまいまして。私の方からは,統一的な担保制度を設けることの是非と,それから担保の類型ということについて若干,コメントさせていただければと思います。

  まずは,井上委員からも御指摘がございましたように,包括的担保ということではなくして債権,物権,動産も含めて全て統一的な担保にするかどうかということですけれども,これはいろいろ御指摘もありましたとおり,仮に統一的な担保制度を設計するとしましても,ふたを開けてみると,やはり目的資産の類型に応じて個別の規定を設けざるを得ないという面はあるようですので,決して刻む担保がよいということではないでしょうけれども,やはり2番の担保の類型という点は意識せざるを得ないと考えております。

  特に,比較法的に見ますと,私が研究しております大陸法圏でも,UCCの影響を受けまして,1991年に抵当権の一元構成を採用したケベック法がございますし,それからUNCITRALのモデル法に準拠した2013年のベルギーの動産質権の一元構成というのもございますけれども,いずれも近時は債権担保については動産担保から切り離して例外的な取扱いをする傾向が強く見られているということでありますので,今日的には,動産も債権も含めた統一的な担保というのを模索するということ自体は余り意味があることではないのではないかと思っているところでございます。

  他方,包括的担保の必要性ということは,やはり当然あるでしょうから,担保の類型ということに関しまして,私が考えている点を2点ほど述べさせていただければと思います。それは,担保目的資産を分類するに際して,民法上の担保制度設計におきましても,やはり貸借対照表,バランスシートの固定資産,流動資産という区分,法令では会社計算規則の139条ということになりますけれども,その区分を意識しておく必要があるように思っております。固定資産につきましては,不動産を除いた資産として,設備とか機械などの有体動産だけでなく,知財等の無体資産,それから,のれんとか契約上の地位,そういったものについては収益を生み出す装置ということで,担保目的資産の集合的な把握を可能とする枠組みや概念が有用であるように思っています。

  一方では,事業とか事業財産という切り口で特別担保を制度化するという方向もあるわけですけれども,事業という単位の大風呂敷でなくても,というのは,事業と申しますと,やはり流動資産も含めた全ての資産ということを意識しておられる方が多いかと思いますが,そうではなくして,流動資産を切り離した固定資産の集合体,すなわち収益を生み出す装置という意味での集合的な把握を,例えば集合財産であるとか,あるいは集合物といった概念で導入していくということも一つの選択肢として考えていくべきではないかと思っております。その限りで,金融機関も収益装置としての固定資産を集合的に把握して,事業者と一体となったリレーションシップバンキングといったものが推進し得るのではないかと思っております。

  これに対して流動資産ですけれども,近時は流動資産担保ということがいわれてはおりますけれども,流動資産は基本的には設定者である事業者が次の事業の展開のために活用されるべきものでありまして,その間の事業活動を通じて関与する様々な利害関係人,すなわち事業債権者とか労働債権者などとの間での調整が必要になってくるものですので,本質的にその全てを金融機関が管理したり,独占的に排他的に支配を及ぼすということには一定程度,抑制的であること,換言すれば,いわゆる利害関係人の調整というものが必要になってくるのではないかと感じております。

  2番目に申し上げたいことは,担保目的財産としての動産と債権の本質的な差異があるということを,きちんと認識すべきではないかということでございます。動産というのは,そのままでは債権の満足に供することはできず,必ず換価というものを前提とします。債権者は動産自体が欲しいわけでは決してありませんし,その限りで動産に関しては,動産の所有権自体を担保権者に帰属させるということが本質的に過剰な効果であるということになるかと思います。担保の制度設計としては,債権者に換価処分権とか優先弁済権を付与する構成を基本とするということにそれなりの合理性があるのかと思っております。

  これに対して債権というのは,担保目的財産としてはやはり動産に勝るメリットがあります。それは,狭義でのいわゆる換価を必要としないという点です。債権自体を担保権者に直接排他的に帰属させるということは決して過剰な効果ではなく,既に取引社会において一定の合理性が認められるに至っていると思われます。その点では,比較法的に見ても,支配,コントロールということによる占有担保構成であるとか,ケベックとかベルギーですけれども,それから,債権譲渡担保などの枠組みと同じように所有権担保構成を,脱法的な担保形態ではなくして,排他的な担保として正面から容認する,フランスもそうでありますけれども,そういった立法動向によっても裏付けられていると考えられます。

  以上,担保類型ということに関しまして,異なる二つの視点,固定資産と流動資産という区分を民法の中でも用いることができないかと,それから,動産と債権の本質的な差異という点を指摘させていただきました。どうもありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○尾﨑幹事 井上先生から,統一的な担保制度と包括的な担保制度の間で少し誤解があるのではないかというお話もございましたので,私が申し上げたことについて,念のため確認させていただきたいと思います。

  まず,包括的な担保制度,事業全体に対する担保制度については,前回申し上げたように,是非御議論いただきたいと思っているものでございます。それに対して,統一的な担保制度に関しましては,先ほど申し上げたとおり,事業者の様々なニーズに応じて便利な担保制度がきちんと用意されていることの方が非常に重要であると思っています。他方で,それとは別に,対抗要件制度というか,担保権の間の優劣関係について,そういったものを明確にするための統一的な制度が在るべきだと申し上げました。先ほどの亀井幹事の御発言もそうした趣旨だと理解しております。統一的な担保制度というものがなければならないということを申し上げたものではございません。少し誤解があるといけないと思いましたので,確認のため,以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○横山委員 規定の仕方というところで,私も少し,どのような観点でこの二つ規定の仕方が対置されているかということについて教えていただければと思います。規定の仕方の違いについては,先ほど佐久間委員,それから井上委員からもご指摘がありました。井上委員からは3番目の方法というのもありましたけれども,最初,私は,部会資料を読んで,この2番目の,典型担保物権を設けるという規定の仕方は,譲渡担保が担保権であるという権利の法性決定から出発する考え方によるものだと思いました。それに対して,この【案2.1.3.1】は,言わば仮登記担保法と同じように,契約の効力という観点から立法して,それによって移転された,あるいは担保のために留保された権利の性質決定について考えることはしない,権利の性質決定は解釈に委ねるという,そういうスタンスが示されているのかと思いました。

  しかし,先ほどの笹井さんのご説明では,この【案2.1.3.1】というのは,形式的であれ所有権が債権者に移転する,権利の帰属が移転するということが前提になるということでした。資料の後の方の説明は,そのような前提で読めばよいのでしょうか。つまり,この【案2.1.3.1】は,担保の目的であるけれども,所有権あるいは権利の帰属が移転するという,法性決定はされていることを前提に理解していいのか,後のお答えのときに一緒に教えていただければと思います。

  それとの関係で,部会資料の中には,担保の範囲内で所有権が移転するという言い方と,担保の目的で所有権が移転するという表現があるのですけれども,この二つの意味は異なったものとして使い分けられているのかについても,併せて教えていただければと思います。何となく,感覚的には,「担保の範囲内で」所有権が移転するというと,設定者に何か残っているような感じもしますので,よろしくお願いいたします。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  御発言は,いかがでしょうか。

  別にまとめる必要はないかと思うのですが,少し感想めいた整理をいたします。

 今までいろいろな御発言をいただきましたが,横山さんの最後の質問についても,後で私ないし笹井さんの方から答えますけれども,統一的な制度にするといったときの意味とか,何のために統一的な制度にするのかという問題がまず提起されたように思います。「何のために」というのは,本当はよく分からないところがあるのですけれども,ただ,統一的な制度にするということが,別のところについての一定の判断に結び付きやすいという点が幾つかあるというのが,皆さんの御見解ではなかったのかと思います。つまり,統一的な担保概念を採用すると,登録制度を一元化して,それを対抗要件にするということと結び付きやすいというのがあるというわけです。ただ,担保権概念としては統一しても,個別的に登録制度を設ける,動産と債権は現在は違うわけですが,それを維持する,また,特許権の場合にはこういうふうにするのだということになる可能性もあります。ただ,統一的な登録制度の採用という判断に,結び付きやすいという考え方なのだろうと思います。

  ただ,そのときに,動産については占有改定で対抗要件を具備しているという現在の実務において,急に登録制度というものが全部に要求されるということになると,実務に結構負担なのではないかという話も出ていました。しかし,それに対しては,占有改定自体の効力は否定しないで,登記を優先させるというふうに考えるということも可能なのではないかというのが尾﨑さんから示された御意見だったように思いますし,また,佐久間さんの方から,対抗要件とは別個に担保ファイリングという制度を用意して,担保ファイリングをすることによって一定の効力を付与するという可能性について発言がありました。まあ,担保ファイリングをすると効力が限定されるというのでは,誰もしないと思うのですが,それを行っていると効力が拡大されるということになりますと,ある種の登記優先ルールということで,同じ方向なのかもしれません。

  また,亀井さんの方からは,一貫した,というか,単純な,というか,一個の登録制度にすることが,目的物がいろいろ変容したときに対抗要件の問題を捉えやすい,対抗要件が具備されているという状態を維持するというように考えやすいという御発言があったと認識しております。つまり,債権の登録制度と動産の登録制度が全然違いますと,動産が売られて債権に変わったといったときに,その債権について担保権は効力が及んでおり,対抗要件が具備されているとはいいにくいのに対して,同じ登録制度において,動産から債権に変容しても担保権の効力が及ぶというふうに登録をしておくと考えると,それの方が対抗要件具備ということの継続が言いやすいのではないかということかなと思いました。

  もう一つ大きな柱として出てまいりましたのが,オプションを増やすという言葉が何人かの方から出てきたのですけれども,選択肢でありますけれども,そこに実は大きく二つの考え方の対立といいますか,違いがあったような気がいたします。尾﨑さんの御発言というのは,どちらかといえば,どういったときにどういうふうなものが使えるというふうなことを根本から考え直して,きちんとした担保制度を作りましょうというお考えではなかったかと思います。それに対して,新たな担保制度を作ることによって現在のものは現在のままで,それにプラスして,オプションが増えるという御認識で発言された方もいらっしゃったかもしれません。つまり,現在,譲渡担保というものが存在し,その譲渡担保について判例法理が進展しているのですが,それはそれとして存続し,プラスして,登録型の担保制度というものもできる,というお考えなのかなという気もしました。ただ,一言だけ感想を述べますと,それは少し無理だろうと思います。譲渡担保について手付かずのまま,新たな登録型の担保制度を作るというのは難しいのではないかという気がいたしました。

  それとも関係しますが,横山さんやほかの方がおっしゃいましたが,担保権を創設するというのと,担保目的の契約についてその効力を定めるというものとの選択肢ということなのですけれども,私自身は,この資料とは立場が違うかもしれませんけれども,契約の効力を定めるといったときに,所有権の移転が原則になると考える必要はないのだろうと思うのです。横山さんがおっしゃったように,譲渡担保についての現在の判例法理にように,所有権が担保の範囲内で移転するという考え方は,そもそも,通常の売買における所有権の移転というのと,所有権という概念自体を変容させているわけです。それならば,それって何なのだろうか,所有権ダッシュなのという感じがしてきまして,そうすると,所有権が移転しているという言葉遣いをしたとしても,それがどういう意味を持つのかというのは変わってくるのだろうと思います。なお,「担保の範囲内で移転する」というのと「担保目的で移転する」という言葉は資料において使い分けているのかという質問もできましたが,笹井さんが使い分けているとおっしゃったら使い分けているのですけれども,私が思う限りは使い分けていないのではないかという気がいたします。

  もう一つ,労働債権の問題というのが出たわけでありまして,労働債権保護の問題というのは,労働債権の保護にとどまる問題ではなくて,担保制度が使いやすくなって担保権者の権利が強くなってきますと,例えば倒産の局面などで,被担保債権全額については行使できませんというふうに担保権の効力を縮減するといった制度設計というのはあり得るわけです。労働債権との関係を考えるというときにも,担保制度自体は使いやすくするのだけれども,最後,効力において,コンフリクトがあるときは縮減されるというふうな制度設計もあり得るのかなと思います。また,事業譲渡などの関係で労働者保護の問題というのが提起されましたが,これは前回,大西さんからも,事業譲渡的な形で事業全体を担保に取ったときには,会社法の規律との関係でいろいろな手当てが必要になるということをきちんと押さえるべきだという御意見がございました。それはそのとおりだろうと思います。

  それと,ユーザー目線という考え方が何人かから出てきたのですが,これは若干,皆さんがおっしゃっているのが同じなのかどうなのかというのがよく分からなくて,尾﨑さんは一番明快で,新たに全部の制度枠組みを作って,ユーザーに使いやすくするというふうな方向で出されたのに対して,現在がこうやっていると,それもまあ使いやすいので,余り急にそれを使えないようにするのはいかんのではないかという意見もあったと思います。そのときには,移行期間を置けば,それは何とかなるのではないかという御発言もどなたからかあったと思います。

 そんなところがいろいろ対立軸としてあったのかなという気がいたします。まとめについておかしいという御意見も後でいただければと思いますが,藤澤さんから更に御発言のお申出をいただいておりますので,藤澤さんからもお願いいたします。

○藤澤幹事 道垣内先生のお取りまとめの後に発言することになってしまい,大変申し訳ございません。2つコメントをさせていただければ幸いです。

  一つ目は,UCC第9編にいう「統一的な担保制度」とは何かということについてです。UCC第9編の「統一的」という言葉には二つの側面があると思います。一つは担保目的物に関するもので,不動産を除く財産,すなわち「パーソナルプロパティー」といわれるものについて,それが有体物であろうが無体物であろうが,それらを目的とする担保権全部を一つの法典にまとめたというところに「統一的」といわれる理由があります。特に,財産の種類を問わず一つのファイリング制度に服していることで,担保についての対抗要件具備のコストが下がったと同時に,第三者からすれば情報が得やすくなったというメリットがあります。

  もう一つの「統一的」な点は,当事者がどのような法形式を採ったかにかかわらず,それは担保権であると性質決定して,一定のルールに服させるという点だと思います。質権(プレッジ)のような担保権だったり,動産モーゲージのように,担保権か所有権か争いがあった権利だったり,それから,所有権留保のように明らかに所有権であるもの,それらを全部まとめて「担保権」であるとした上で,一定のルールに服させ,取引類型に応じて特別扱いが必要であれば例外ルールを置いていくというような法体系にした,そういう意味で「統一的」といわれる側面もあると思うのです。

  「統一的」な担保制度を日本で作るかどうか検討するときには,後者の側面についてどう考えるかということも重要なポイントかなと思っています。つまり,不動産ではそうなっているのですけれども,担保目的で抵当権という権利を設定することと,担保目的で譲渡する(所有権を移転する)こととが両立しているのだけれども,それで分かりやすいのか,大丈夫なのかという問題です。動産・債権について新たにルールを作るとすれば,この二つが併存するような形,例えば債権譲渡担保と債権質とが併存する形が望ましいのかということも議論する必要があるかなと思いました。以上が一つ目のコメントです。

  二つ目のコメントは,条文の作り方についてのコメントと質問です。これは,先ほどお話しした「統一的」という言葉の前者の意味に関するものです。取りあえず担保目的取引規律型の立法を選択して,かつその規定を民法の中に置くとしたら,という感じで仮定を置きながら質問をさせていただきたいと思うのですけれども,民法の第2編の中に規定されている先取特権や質権の規定ぶりを見ると,まず総則があって,それに続いて財産の種類に応じた規定が置かれるというような構造になっています。債権担保目的の財産権移転契約について条文を作るときにも,総則があって,それに続いて動産の節,債権の節が置かれることになるのでしょうか。その場合には,総則の部分は不動産譲渡担保にも適用されたり,不動産・動産・債権以外の財産にも適用されたりすることになるのでしょうか。総則を置くという選択をした場合には,財産の種類を問わず適用されるという意味で,「統一的」な担保のルールが譲渡担保についてはできるような気がしたのですけれども,これについては諮問の範囲を超えてしまうのかなというような懸念も感じております。その辺りについて少し方向感を教えていただければと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。方向感はここの会議体が作るものであって,方向感を聞くというよりは,藤澤さんはどのようにお考えになるかの方が重要だろうと思うのですが,ただ,おっしゃった中に,譲渡担保について総論部分というのを作ると,それが不動産について適用されないというのは少し変な感じがすると,そうしたときには,諮問として不動産担保を今回扱っていないというふうにすると,そういうふうな形は置きにくいのかなと,そういう御意見かなとは思いましたが,何か笹井さんの方でありましたら。

○笹井幹事 幾つか御質問もいただきましたのでまとめてお答えしたいと思います。

  まず,井上先生,それから横山先生からも関連で,5ページの3の【案2.1.3.1】と【案2.1.3.2】についての御質問がございました。実質的なルールとしてどういうものが妥当なのかということを考えていけば,結果的に形成されるべき法律関係というのは最終的には一致してくるのではないかと思います。そういう意味では,どちらを採ろうと,目指すべきものというのが,もしかすると全く一緒ではないかもしれませんけれども,どこかに収斂していくということになるのではないか。ただ,そのときに出発点として【案2.1.3.2】では,明らかに担保物権という形で出発をしますので,その出発点が少し違っていると。したがいまして,設けるべき規定の中身などが変わってくることがあり得るのではないかと思っています。

  例えば,この後また御議論いただく範囲内を少し先取りするような形になりますけれども,設定者の債権者が差し押さえた場合に,担保権者が担保物権を持っていると考えるのだとすると,あまり第三者異議の訴えを提起できるということにはならないのではないかとも考えられ,そういったところで,どちらかの形式を採った場合に問題になったり,ならなかったりというものが出てくるのではないか。あるいは,同じような例ですけれども,14ページの4で,担保権者による処分を取り上げていますが,あえてここで「担保所有権者」としたのは,担保物権者であるとすると,処分できないというのは当然出てくるので,【案2.1.3.2】の立場からすれば,この4についてはそもそも議論する必要がないのではないかというように思いました。

  そういう意味で,今,二つの例を挙げましたけれども,目指すべきものとしては最終的には収斂するかもしれないけれども,そこにたどり着くに当たって,どういう規定,どういう論点を考えないといけないかということがそれぞれの方式によって違ってくるのではないかと考えていたということでございます。

  その点で横山先生から,【案2.1.3.1】を採った場合における担保権者といいますか,債権者の取得した権利について,一定の法性決定がされているのかということですけれども,私自身は,その譲渡担保における今までの判例の考え方は,権利移転型と理解されてきたと思いましたので,そういう理解を前提に先ほど御説明申し上げましたけれども,それを理論的にどういうふうに考えるのか,それは所有権そのものではなくて,何か変容しているものであるという理解を否定する趣旨ではございませんでしたので,先ほど部会長がおっしゃったような理解というのは当然あり得るものと思っております。

  それに関連して,目的で移転したか範囲内で移転したかということですが,判例の表現としては,「譲渡担保における所有権移転の効力は担保目的を達成する範囲においてのみ生ずる」というものですので,できるだけそれに近付けようと思ったのですけれども,全部書くとやや長いということもありまして,簡略化している箇所もあります。また,そもそもその取引が何のために行われたのかということだけ書けばいい場面と,所有権移転の効力がどの範囲で生じているのかということが問題にされているのかというところで,若干ニュアンスがあるかもしれませんが,結論的には部会長がおっしゃられたとおり,厳密な使い分けはされていないという御理解でよろしいかと思います。

  それから,最後に藤澤先生からありました,そもそも民法に置くのか,民法に置くとして第2編でいいのかということについては,まだ決めたわけではございません。民法に置くとしても第2編は物権ですので,その中に契約の効力を書いていいのか,特に債権を目的とする担保について,担保物権という概念に含まれるのかという問題もあろうかと思いますので,そもそもここに入れるのかということ自体がまだ確定的にはいえないと思います。その上で,どこに置くにしても,譲渡担保を総則プラス各則という形で設けるということは十分あり得ると思っております。十分あり得ると申しますのは,少なくとも債権と動産で共通する部分をくくり出すということは十分あり得るのではないかと思っておりますけれども,その際に,不動産を含めた形で規定を設けるのかという問題はあろうかと思いますし,また,動産や債権以外のものを含むという前提で総則的な規定を設けるのかということも含めて,今後の検討課題かなと思っております。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  契約の効力の規律型と担保物権の創設型について,その二つは違うのか,という話がありまして,同じ,ないし,かなり近付くのではないかという話もあったわけですが,笹井さんがおっしゃったように,どういうふうな規律と親和性が高くなるのかということはあるのだろうと思います。ただ,私は,例えば担保物権であると性質決定しても,そうすると第三者異議は絶対に認められないのかというと,私はそうではなくて,それは当該担保物権の効力次第だろうと思うのですけれども,議論のやり方とか頭の中の整理の仕方というのが差し当たっては変わってきますし,最終的にはもちろんどういうふうな形の条文構造を採るのかというのでは大きく変わってくるだろうと思います。ただ,最初はどういうふうな内容にするのかというのを決めていくという方が大切だと思います。

○片山委員 すみません,少しお時間を頂戴できればと存じます。関連する点,すなわち,担保目的取引規律か担保物権創設型かという切り口ですが,煎じ詰めて言えば,所有権移転型の担保なのか,制限物権型の担保なのかと,そういう対比とも理解できるかとは思います。その点に関して申し上げますと,摺り合わせをすればどちらでも同じなのだということはあるのかもしれませんが,基本的な対立図式としては,やはり私的実行の問題をどう考えるのかという問題とか,あるいは排他的権利の付与をどこまで認めるのか,排他的担保をどこまで認めるのかという点で,少なくとも理念的には大きく対立しているということかと思います。私的実行については所有権移転型が認められやすいのでしょうが,立法するとなると執行裁判所の関与も認めなければいけないという意味では,私的実行だけというわけではないのかもしれませんし,逆に,典型担保であっても私的実行を広く認めていけば,それほど差はなくて,程度差ということになるのかも知れません。これに対して,排他的な担保としてどこまで認めていくかという問題はやはり重要な点で,後順位担保権者を排除していいのかどうかという点,それから,この後も議論される設定者の債権者の差押えの排除すべきかという点,それから,倒産手続における取戻権の行使がどこまで認められるのか,あるいは取立権の排他的な行使が認められるのかという点などについて,両構成の理念的な対立はあるのかなとは思っておりました。

  そして,それとの関連で申し上げますと,結局二者択一にしなければいけないという議論なのか,それとも,6ページのところを拝読しておりますと,いろいろバリエーションはあるのですよというようなことを書いておられまして,例えば債権については債権質という典型担保の規定の充実とともに,債権が担保目的で譲渡された場合に関する規律を設けるということも考えられるということを書いておられますし,他方,動産については非占有型の典型担保,債権については譲渡型という規律も考えられなくはないですというようなことを書いておられますので,是非,二者択一ではなくて,これらのバリエーションも検討していただければと切に思っている次第であります。

  と申しますのは,動産担保に関しましては現在,非占有担保としての典型担保がございませんので,実務上,所有権移転型の譲渡担保が使われているということではありますけれども,立法するときに,実務との連続性という意味では譲渡担保の立法化ということは一つ重要な点ではあるのですけれども,やはり財産権の移転というのは過剰な効果だという面はどうしてもあるかなと思っております。債権者側のニーズとしては,当然それはあるのでしょうけれども,設定者の方としては所有権を手放さずに担保設定したいということもあるでしょうし,それから,担保余力を広く活用したいということもあるかもしれません。その点からは,いわゆる非典型型の担保もまずは検討するし,それだけで足りず,権利移転型の担保もやはり重要である,ニーズがあるということであるならば,それを考慮した立法も併せて行うべきだという点からは,決してどちらか一方に限定した議論をするということではなくして,両方のバリエーションを考えた上での検討をしていただければと思った次第でございます。どうもお時間ありがとうございます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。さらに,何かございますでしょうか。

○本多委員 ありがとうございます。第1の議論が終了し切らないうちに幾つか申し上げておきたいところがございますので,発言させていただきます。

  まず,先ほど佐久間委員から,統一的な担保制度の一環としての統一的な担保登記制度を導入した場合の真正譲渡の影響に関する議論について,担保ファイリングによって克服できる可能性があるのではないかという御指摘をいただいていまして,私もそのとおりと考えられるところはあるのかなと思っております。そうであるとして,真正譲渡の場合と担保設定の場合の対抗要件は,現状のとおり統一的に維持した上で,担保ファイリングという別の制度を担保固有の制度として導入することになりますと,対抗要件制度と担保ファイリング制度という二元的な制度となると思うのですけれども,そうした場合に,担保ファイリングについてどのような機能を持たせるものとして設計するのか,現状の真正譲渡と担保設定の場合と共通している,例えば譲渡登記のようなものとの関係をどのように整理をしていくのかという議論が生じやすそうなのかなというところがございまして,念のために問題提起をさせていただきます。

  また,別の点ですけれども,部会資料の5ページ目の11行目に,預金債権,預金口座の担保化の要否についての御議論があるのですけれども,実務におきましては,例えば普通預金のような流動性の預金について,担保権を設定させていただくということは相応にございまして,この流動性預金についての担保権の有効性であるとか,それから,対抗要件具備の仕方であるといったことが明確化されるというのは相応に意義があると思っています。ちなみに,対抗要件具備に関しまして,現状の実務上,例えば,当初の1回限りの対抗要件具備によって,残高の異動にかかわらず対抗要件が維持されるという考え方がございます一方で,残高の異動のたびに対抗要件を取り直す必要がないか議論されることがあり,また,定期的に対抗要件を具備するといった実務も行われているところでございまして,この辺りが,例えば当初の1回の対抗要件具備によって有効な対抗要件となりますという規律が明確になりますと,実務にとって大変使い勝手が向上すると申し上げられると思っております。

  一方で,普通預金についての担保権の設定の有効性が認められる結果として,預貯金債権についての譲渡制限特約の有効性が揺らぐことになりますと,実務上の影響が大きいところがございまして,譲渡制限特約により預金者を固定することについての民法466条の5の規律は引き続き維持されるべき必要があると考えております。要は,質入制限特約の有効性と普通預金担保の有効性というのは同時に成り立つということを前提として,普通預金担保に関する規律の設計が必要という考え方でございます。

  それから,部会資料の7ページ目の29行目から30行目なのですけれども,先ほど片山委員からの御発言にもございましたが,担保目的取引規律型と担保物権創設型の差異によりまして,例えば後順位担保権の設定について影響が生じるかどうか,仮に排他的な権利性というものが担保目的取引規律型の方で強調される結果として,これが導入し難くなるかどうかという問題については慎重に検討する必要があると考えております。私の個人的な考えは,先ほど笹井幹事からもございましたとおり,この類型論によって結論として大きな差異が生じることはないと思っていまして,合理的に規律の検討ができまして,最終的に収斂する過程において,担保目的取引規律型が選択されたとしても,後順位担保権の有効性が認められる余地があると考えております。

  ちなみに,実務上は後順位担保権についての要望は大きいものがございまして,例えば,複数の与信者が単独の借入人に対して与信を行う際に優先劣後構造のトランチングが行われるということがございます。その際に,例えば動産や債権を目的とする担保につきまして後順位担保権の設定をするということについて,実務上のニーズは大きいものがございますが,現状はその有効性が必ずしも明確ではないことから,後順位担保権の設定を躊躇しており,その他の方法により優先劣後構造を実現するための工夫をさせていただいているというところがございます。この制度改正に際しまして後順位担保権の有効性が明確になるということは,ファイナンス実務を向上させる上で大変有意なのかなと考えています。

  もう一点だけ発言させていただきますと,担保権の処分に関しまして,この後また議論があると思っておりますが,転譲渡担保であるとか,譲渡担保権の譲渡又は放棄だったり,譲渡担保権の順位の譲渡又は放棄だったりということについて,複数の与信者間でファイナンスの組換えを行う際の対応方法の選択肢を広げられる点において実務の柔軟性を高められるとも思われ,導入可能性を検討させていただける余地がありそうなのかなと考えております。

  長くなりましたが,以上でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  いろいろな重要な点を御指摘いただいたと思います。水津さん,どうぞ。

○水津幹事 よろしくお願いいたします。

 部会資料では,担保目的取引規律型と担保物権創設型とが対置されています。もっとも,担保目的取引規律型は,担保に関する規定を設ける方法について,債権担保の目的でされた契約の効力等を定める方法をとるものです。これに対し,担保物権創設型は,債権者が取得する権利の捉え方について,これを新たに創設される典型担保物権と構成するものです。このように,担保目的取引規律型と担保物権創設型とでは,扱っている問題がややずれているように思いました。

  そして,部会資料では,担保目的取引規律型によると,債権者が取得する権利は,「担保所有権」という新たな概念によって捉えられるものとされています。新たに創設される典型担保物権が,抵当権のような制限物権型のものでなければならない理由はありません。そのため,担保目的取引規律型も,債権者が取得する権利を「担保所有権」という新たに創設される典型担保物権と構成するものであるといえそうです。そうであるとすると,担保目的取引規律型を担保物権創設型から区別する意味が,分かりにくくなる気がいたしました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  総論の議論をずっと続けてまいりましたが,もちろん今回でこのような議論が終わるわけではないのですが,本日のところでさらに何か御発言ございますでしょうか。

  それでは,その後にまた,お気付きになるということもあろうかと思いまして,そのときに,項目を遡って御発言されるというのが禁じられるわけではございませんで,一言断っていただければ御発言いただいて結構だろうと思いますので,議事自体は次のところに進んで,場合によっては1のところについての御発言もいただくというふうにさせていただければと思います。

  そこで,部会資料2の「第2 個別動産を目的とする担保の実体的効力」というところの1から3についての議論に入りたいと思います。

  それでは,事務当局におきまして部会資料の説明をお願いいたします。

○寺畑関係官 それでは,「第2 個別動産を目的とする担保の実体的効力」のうち1から3までの部分について御説明いたします。

  はじめに,この第2は個別動産を担保とするものを対象として御議論いただきたい内容であり,いわゆる集合動産については次回以降に扱う予定です。

  まず,8ページの「1 担保の効力が及ぶ範囲」についてです。本文の(1)では,担保の目的動産に附属させられた従物について,附属させられた時期が担保の設定前か後かにかかわらず担保の効力が及ぶものとすることを提案しております。設定前の従物に担保の効力が及ぶことには争いがないですが,設定後については見解が分かれております。【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を前提とする場合,担保目的物の所有権は担保権者に移転するため,設定者が従たる物を附属させても主物と所有者が異なり,従物の定義に該当しないこととなりますが,設定後であっても経済的に見て主物の効用を高めていることなどから,担保の効力が及ぶとする提案をしております。

  次に,本文の(2)では,担保目的物から生じた果実について,被担保債権に係る債務の不履行後に生じた果実に担保の効力が及ぶとして,抵当権に関する民法第371条と同様の規定を設けることを提案しております。なお,民法第371条については,不履行後に生じたという文言が適切ではないのではないかといった批判もございますが,いずれにしてもこの条文と整合的な考え方を採るべきではないかと考えております。

  なお,本文には記載しておりませんが,付合,混和の場合の付合物等にも担保の効力が及ぶということについては,民法第243条以下の規定によって導くことができるため,特段の規定を設ける必要はないのではないかと考えております。

  次に,11ページの2は,設定者の一般債権者が目的物を差し押さえた場合,担保権者に配当要求や第三者異議の訴えの提起を認めるかどうかについてです。【案2.1.3.2】のように新しく担保物権を作ることにした場合,その担保物権の内容をどのように設計するかにもよりますが,抵当権とのバランスを考えても,担保権者に第三者異議の訴えを認めることは困難だと思われます。これに対して,【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を前提とすると,担保権者は一応,所有権者となるため,配当要求に加えて第三者異議の訴えの提起をすることができるかが問題となります。

  本文の(1)では,担保権者は配当要求をすることができる旨を提案しております。現行の譲渡担保に関する判例では,担保権者は原則として第三者異議の訴えを提起することができるとされる一方,明文の規定のない配当要求はできませんが,ここでは譲渡担保の担保取引としての実質に照らして,配当要求を認める旨を提案しております。

  次に,本文の(2)では,担保権者は原則として第三者異議の訴えを提起することができますが,無剰余の場合はできないとする旨を提案しております。担保取引の実質を強調すると,配当要求だけを認めて第三者異議の訴えの提起は認めないとすることも考えられますが,現在の判例でも,特段の事情がない限りとして,剰余があって担保権者が満額の配当を受けられる場合を除いて第三者異議の訴えの提起を認めております。また,特に動産の場合,仮に配当要求だけを認めると,最終的に売却してみなければ無剰余になるかどうかが分からず,その間に価値が減少することもあるかもしれません。そういったことを踏まえて,第三者異議の訴えに伴う執行停止の利益が得られるような形にしておいた方がよいのではないかということで,第三者異議の訴えを認めることを提案しております。全体としては,第三者異議の訴えの提起については,現行の譲渡担保の規律を維持した上で,一般債権者が始めた手続に乗る形で配当要求ができるとして,担保権者の権能を一つ増やした提案をしております。

  次に,13ページの「3 設定者の使用収益権限」については,非占有型の担保制度を設けることの帰結として,設定者に目的物を占有し使用収益する権限があることを明らかにすることを提案しております。特約によって担保権者が使用収益をすることは妨げられませんが,担保権者は物権的には使用収益権限を持っていないため,第三者が登場した場合には,特約に基づく債権的な使用収益権限は第三者に対抗することができないこととしております。

  なお,本文には記載しておりませんが,設定者が目的物を占有し使用収益するに当たり,善管注意義務を課すかといった点も問題となり得ると思いますが,抵当権などについて規定が設けられていないことを考え,特段の規定を設けるといった提案はしておりません。

  以上の内容について,皆様に御議論いただきたいと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,以上の点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等をいただければと思います。

  私から最初に質問して申し訳ないのですが,附合物については243条か何かの規定があるので特段の規定は不要であるとおっしゃったのですが,抵当権に関する370条というのは,附合物も付加一体物に入る,逆に付加一体物は附合物だけだという見解があるぐらいで,そうすると,抵当権の効力が附合物に及ぶというのは370条で説明しているのではないですか。243条でうまくいきそうだと思うのは,どこかに所有権の移転構成というのを採っているというのがあるからなのかなという気がして,そうなのかなと思いながら伺っていて,そうすると,逆に第2の1というのは370条と同じように付加一体物に及ぶと書いた方が,いいのかなという気がしました。すみません,私から恐縮です。

○佐久間委員 ありがとうございます。今正に道垣内先生がおっしゃったことを申し上げようと思っていて,附合については別に243条でも私は処理できるのではないかと。附合物は所有権の客体の内容を構成することになるので,所有権に対して設定された権利だったら当然に及んでしまうということで,370条がなくても行けると思いますが,他方で370条の解釈として,附合物は問題ないよねということがあるので,そこをはっきりさせる必要はないと思うと同時に,ここからは部会長がおっしゃったことと変わらないのですけれども,現在の第2の1(1)の書きぶりだと,確かに従物は抵当権の場合に,抵当権設定後の従物についても効力が及ぶという見解が有力であると思いますけれども,例えば,元物の経済的効用を増すということでもってのみ従物を概念規定するといたしますと,その従物の経済的価値がものすごく実は高いのだというときも,本当に抵当権設定後にそのように飛び抜けて高い価値を持っている従物にも及ぶのかという議論はあると思うのです。今も。そういったことも踏まえると,第2の1(1)は,わざわざ従物についてのみ切り出して規定を設けようという方向よりは,370条とそろえておいて,その解釈と同じような解釈でもって目的物の範囲が定まるのですよ,としておく方が本当ではないかと思いました。

  それが1点で,続けて申し上げてよろしいですか。すみません。次に13ページの3の使用収益権限のところなのですが,これはもう決めを打つということなのかもしれませんけれども,一応,今の譲渡担保だと目的物の使用収益権を設定者に留めるのはもちろん構いませんが,別段,譲渡担保権者に使用収益権も与える,それが物権的なものであるというのは,所有権の内容を構成する権利の一つであると思うのです。それをわざわざ債権的な権利にとどまるのですということにする方がいいのかどうか,やや疑問に思うところがありました。

  例えば,組み方としましては,目的物の使用収益,特に収益を,譲渡担保権者というか担保所有権者が有することで収益を上げ,そこから,例えば,当然充当になるのかどうか分かりませんが,その被担保債権の弁済に充てることも妨げられないように思うのです。その場合は質を使えばいいではないかと言われれば,それはそのとおりだと思うのですけれども,例えば私的実行をこの担保所有権については広く認めるというようなことになったとすると,質を使えばいいというようなことで割り切って話をすることもできないと思うのです。

  だから,3のところについて,私は,契約の当事者がどちらに物権的な使用収益権があるかということを決めることができるということにして,もし担保所有権者に物権的な使用収益権があるということだとすると,そうなった場合は,設定者が仮に何らかの処分を当該目的物についてしても,使用収益権が担保所有権者から奪われることはないと。もちろん対抗要件が備わってとか,登録がされてとかいったことで担保権の主張ができる場合についてのことですが,その場合に奪われることはないと考えておく方がよろしいのではないか,少なくとも現行法からの乖離は少ないのではないかという気がいたしました。間違っているかもしれませんが。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  賛成かどうか,私はにわかに決められなかったのですが,藤澤さん,お願いいたします。

○藤澤幹事 私もこの部分について一つコメントをさせていただければと思います。特に,(注18)に書いてあることなのですが,担保目的物が担保所有権設定者の財産と附合混和する場合については,資料の御説明のとおりで理解することができました。他方,(注18)に登場する償金の負担者といった問題は,第三者の所有物と担保目的物とが附合混和する場合にも問題となりそうです。

  具体的には,第1に第三者が附合混和によって所有権を失った場合に,償金を負担するのはどちらかという問題,第2は,反対に担保目的物の所有権が第三者の所有権に吸収されることになった場合に,償金を請求することができるのはどちらかという問題です。特に,第2の問題の場合には,担保所有権者が当然償金を受け取ることができるのか,それとも物上代位の手続が必要かといった違いが出てきそうです。

  (注18)では,解釈に委ねるということが書かれていますけれども,他方で従物については,「形式的には所有権が担保所有権者にあるので」という理由で新たな条文を作るとすれば,このような場面でも条文を作る必要はないかというような疑問が出てきます。「この場面は,条文がないから形式どおり担保所有権者を所有者として解釈するべきだ」というような解釈を導かないかということを懸念しています。

 なお,こういった細かい問題が色々と考えられることから,条文の書き方としては,「民法の第何編第何節の規定については担保所有権設定者に所有権があるものとして適用します」みたいな条文の書き方はあり得ないかな,と考えました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。結論を書いた方がよさそうな感じがしますけれども。この場合には所有権がこちらにあるものとみなすと書いたら,書いていないときには全部逆なのかとか,逆にそれを根拠にして,全部あるということにするのかとか,いろいろな他の場面に波及することがあり得るのですが,ただ,償金について丁寧に考えるべきだとおっしゃるのは,そのとおりだと思います。

  ほかに御意見ございませんでしょうか。

○阿部幹事 すみません,今の話と違うところに行ってもよろしいでしょうか。

○道垣内部会長 はい,結構です。

○阿部幹事 資料の10ページ以下の設定者の債権者のために目的物が差し押さえられた場合における担保権者の権限について,配当要求を認めるほか,第三者異議も認めるけれども,剰余があるときに限るというのがこの資料の提案となっておりまして,ただ,これに関しては先ほど片山先生からも少し御指摘がありましたけれども,この担保所有権は,優先型とは異なる排他型の担保権なのだと考えれば,剰余の有無にかかわらず第三者異議を認めるといった方向性もあり得るのではないかと思いました。

  その上で,仮に第三者異議が一定の場合にしかできないとした場合には,配当要求の可否と第三者異議の訴えの可否以外にも,幾つか検討しておいた方がいいことがあるような気がします。一つは,設定者の債権者のために差押えがされたときに,それを無視して担保権者が私的実行すると,差押えと私的実行が競合する感じになると思うのですけれども,そのときにどちらがどうなるのかといったことを検討しておく必要があると思いました。もう一つは,特に根担保のときだと思うのですけれども,根抵当に関しては398条の20という規定があって,差押えがあった後も2週間はその元本を確定しないこととなっており,その趣旨は,その間に,例えば極度額に余裕があって,担保権者が追加融資して,それで執行債権を弁済して差押えを飛ばすことができるのであれば,追加融資をするなどの対抗手段をとる余地を認めるものであると説明されています。そういった形で強制執行を止めるための手段が,この場合の根担保においても認められるべきかどうか,ということを検討しておくとよいと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○横山委員 すみません,すごく細かいことなのですけれども,14ページで,設定者が使用収益するに当たって善良な管理者の注意による保管義務を課せられるかについては書かないということが書かれています。その理由として,抵当権について規定はないから要らないというように読めたのですけれども,先ほどのご説明により,財産権が担保権者に移転すると考えると,抵当権と同じように直ちにいえないのではないでしょうか。共有についても,共有者は共有物を善管注意義務をもって使用しなければいけないという民法改正もされていますし,保管義務が使用収益とどういう関係にあるのかもよく分からないところがあります。書かないなら書かないで,全然私は反対ではないですけれども,何か実質的な理由が要るのではないかと思いました。特に,共有の場合と違うことの説明は要るかもしれないと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。目的物自体に対する善良な管理者の注意の話というのか,それとも,債権者が持っている権利を保全するに当たっての善良な管理者の注意の問題なのかという問題も背後にあろうかと思いますが,それが法律構成とどういうふうに結び付くのかということになるのかなという気がいたします。どうもありがとうございました。

  多くのお手をいただいているのですが,山本和彦さん,お願いいたします。

○山本委員 2の差し押さえられた場合の話についてですけれども,2点コメントですけれども,第1に,基本的には私自身はこの提案に賛成です。やはり基本は,剰余がある場合には差押えに基づく換価を認めて,担保権者は100%弁済を受けるわけですから,その剰余部分は他の一般債権者の配当に委ねるというのが筋であり,他方,剰余がない場合には担保権者は優先するわけですから,その段階での執行を排除できるということにするのが筋だろう,要するに剰余主義という基本的な考え方が筋なのではないかと思っています。

  その上で,12ページの選択肢で,そうすると②か③ということで,私自身は個人的には③というのも,つまり配当要求だけを認めて執行手続上の無剰余措置,無剰余取消しに全面的に委ねるという考え方もあり得ないではないとは思っています。第三者異議に基づく執行停止についても,恐らく私の理解では,その場合も無剰余の疎明というのは必要になるのかな,執行手続を停止するについてですね,無剰余の疎明というのは必要になるのかなと思っていて,だから,執行官が無剰余を判断するのとどこまで違うのかというところはあるようには思っています。

  ただ,確かに判断主体が受訴裁判所になるのか執行官になるのかとか,判決手続でやるのか,決定手続でやるのかとか,違いはあることは確かにありますし,それから,何といっても現行法上,判例は当然,第三者異議を認めておりますので,ここで第三者異議を否定するというのは現行の取扱いからすると180度変えることになるので,そこまでラジカルにこの改正でやる必要があるのかという点からすれば,結論的には私はこの原案(1),(2)で配当要求を認めながら,剰余がない場合には第三者異議を認めるという規律でいいかなと思っています。それが第1点です。

  第2点のコメントは,その前提問題として,消除主義を採るのか引受け主義を採るのかという問題もあって,恐らく原案は消除主義,譲渡担保は差押え,換価に基づいて当然消えるという,だからこそ配当要求等を認めるという前提でできていると思っています。それは,私は,現行の動産執行手続からすれば素直な理解なのかなと思っているのですが,ただ,13ページの4のところで書かれているように,担保取引型でしたっけ,という考え方を採ったときには,結局,善意無過失であれば即時取得が成立する一方,そうでない場合には担保所有権が残るということになって,買受人が善意無過失であれば消除され,善意無過失でなければ,悪意等の場合には譲渡担保は残るということで,一種の,それによって消除か引受けかが分かれる規律に実質的にはなるのだろうと思っていまして,それは,私は政策的なあれからすれば,結論的にはそれなりに合理的な規律になるのかなと思っておりまして,その点も私自身は賛成です。

  ただ,やはり一つ問題は,買受人が善意無過失の場合には担保所有権が消えてしまいますので,担保所有権者に手続保障といいますか,何か差押えがあったということを知る機会というのがなくていいのかというところは問題としてはなお残るようには思います。この点は,担保所有権についてどのような対抗要件,登記等で,を認めるのかというようなところとも関係してくるところで,なかなか難しい,具体的に執行手続の中でどうするかというのは難しいところがあるようには思うのですけれども,今後,登記,対抗要件等も固まってくる中では,引き続き考えていくべき課題にはなるのかなという印象を持っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  まだたくさんのお手を挙げていただいているのですけれども,少し議論を整理したいと思います。まず,1の担保の効力が及ぶ範囲と,設定者の使用収益権限のところに関しましては,仮に条文を作るとしたときの条文の書き方等についてはいろいろ問題があるところかと思うのですが,実体的にはいかがなのでしょうか。実体的にも,ここについてもう少し考えるべき点があるということでしたらば,その点について御発言をいただいて,1,3の問題を片付けるといったら変ですけれども,まずお伺いしたいと思います。1,3についての御意見があられる方はいらっしゃいますか。手を挙げていらっしゃる方で,片山さん,阪口さんは1,3ですか,2ですか。

○阪口幹事 阪口は1のつもりですけれども。

○片山委員 私は両方なのですけれども,1,3だけで,まず。

○道垣内部会長 中村さん,お手を挙げていらっしゃいましたけれども,1,2,3とどれでしょうか。

○中村委員 2についてです。

○道垣内部会長 分かりました。青木哲さんも2ですか。

○青木(哲)幹事 2です。

○道垣内部会長 それでは,2を後回しにいたしまして,1,3を。両方についてご発言をされる方も,1,3についての発言を先にしていただければと思います。片山さん,お願いします。

○片山委員 1,3ということですので,まず1のところは,佐久間委員を始めほかの先生方からも御指摘があった点ですけれども,やはり主物,従物という切り口ですと,動産の場合,例の船とモーターの事件等もありますように,そもそもどちらが主物なのだという話になってしまうというところがありますし,不動産の場合につきましては,不動産という価値が高いものに動産が付加されますので,いいのかもしれませんが,動産の場合については,同様に論じて,いいのかどうかというのは,若干心配なところもございます。ですから,少なくとも設定後の従物についての効力は再度検討しておく必要があろうかと思いますので,表現としては付加一体物辺りが落ち着きどころなのかなという気がしております。これは繰り返しになるかと思います。

  次いで,3のところの設定者の使用収益権限の問題ですが,確定的な所有権取得までは設定者が使用収益することができるということで,原則としてそれでいいのかもしれないですけれども,他方,実行段階になり弁済期が到来すると担保権者に占有処分権が付与されるというのが判例法理ということになりますので,実行時の規律との整合性を意識した書きぶりが必要になるのではないかということでございます。

  最後に,3の設定者の保管義務,担保価値維持義務に関連するところに関して意見を述べさせていただければと存じます。設定者の保管義務については,それを設ける必要性が低いということですが,他方,担保価値維持義務という形で整理しておくことも考えられるという御指摘がなされています。いわゆる広義での担保価値維持義務に関しましては,御案内のとおり平成11年判決,18年判決を契機に判例,学説が大きく進展をしておりまして,私自身は現時点では三つの義務に整理できるのではないかと考えております。

  一つは,有体動産担保における占有に伴う保存義務で,これは占有担保については298条とか350条に既に規定がありますが,非占有担保にはないところをどうするかという問題。それから,もう一つは18年判決が提起した債権質等のいわゆる権利担保,財産権担保に関する設定者の拘束力の問題,これを18年判決は担保価値維持義務と呼んだわけです。それから,3つ目は,在庫担保等の流動動産担保における補充義務の問題です。これは通常の営業の範囲で処分権が与えられていることの裏返しとして,どこまで補充義務を負うかという問題で,近時はそれを担保価値維持義務の一典型例として位置付ける学説が有力に主張されています。

  立法に際しましては,この三つの義務をどのように整理して規定を設けるかという視点が必要かと思います。義務の本質からしますと,占有に伴う保存義務と,担保権が価値権だからということを理由に認められる担保価値維持義務というのは,かなり違ったものであります。もちろん占有に伴う保存義務を担保価値維持義務の概念で収斂して一元化するという立法も可能かとは思います。しかし,やはり立法としては目的物の種類,有体動産か,無体動産か,あるいは集合動産かに応じて,きめ細やかに効果を規律していくということが必要であってその統一的な把握とか理論的な把握は学説に委ねるということになるかとは思っております。

  そうしますと,効果という意味では,権利担保に関しては398条が規定しているような対抗不能という効果が中心になるのでしょうけれども,有体動産については一方で,既に規定のある137条で期限の利益の喪失という効果一本で済むかというと,それは担保関係を失わせる方向での効果ですから,逆に担保関係を維持する方向での代わり担保の請求であるとか,追加担保の請求といったことを認めるニーズがどこまであるのかということを考えていく必要があるのではないかと思います。動産担保については補充義務が不可欠ですけれども,個別動産についても,保存義務違反で期限の利益を失ってしまうというのは,債権者にとってもリスクということになりますので,融資を継続する方向での選択肢,具体的には担保の補充に関する効果を規定の上で設けていく必要があるのではないかと考えている次第でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  3もそう簡単ではないよということですが,阪口さんの方から1についてお話があるということですので,まず先にそれを伺いたいと思います。

○阪口幹事 阪口です。1のところについて,二つあります。一つは,担保所有権は私的実行が中心となる担保権ですので,効力が及ぶ範囲をできるだけ明確にしておく必要があるという点です。抵当権であれば裁判所が絡む手続なので,問題は比較的少ないですけれども,担保所有権については,効力とか範囲はできるだけ規定化しておく必要があるだろうというのが一つです。

  二つ目は,従物について効力が及ぶということについて,所有権留保はそれでいいのでしょうかという問題提起です。本文の方では,8ページから9ページにかけて,説明はどちらかというと譲渡担保を中心に書いてあるのだけれども,結論部分としては,所有権留保も含めて,従物に効力が及ぶという同じ結論が書かれています。動産の所有権留保で主物,従物というのはどんな場合かというのは,必ずしもよく分からないのだけれども,例えば車とスペアタイヤ,取り外し容易なカーナビ,愛車セットという,こういうのが仮に主物,従物の関係だとすれば,車を所有権留保で売ります,買った人,所有権留保買主がスペアタイヤなどを自分で付けました,期限の利益を失ったので売主の方が引き揚げます,スペアタイヤも,取り外し容易なカーナビも,愛車セットも全部持って帰りますという結論になりますが,譲渡担保のときと比べると違和感があるように思います。それは,先ほども申し上げたとおり,明確に規定化することが大事だというのも他方ではあるので,絶対おかしいとまでいえず,決めたらそれで実務が動くのかも分からないけれども,譲渡担保のときよりはかなり違和感があるというのが正直なところです。もしそういうふうにするのだったら,もう少し,こういう必然性があるといった御説明が要るのではないのかと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。所有権留保は動産売主の保護のために若干強い効力を認めている国が多いのですが,それが所有権留保売買後の従物までを対象とすることを正当化できるのか,そこまでほかの担保に関する優先権を拡大できるのかという問題があるのかもしれないと思いました。

  1,3についての御発言はほかにございませんでしょうか。

  2について,片山さんが残っていらっしゃいますし,青木さん,中村さんからもお手が既に挙がっていて,ほかの方もいらっしゃると思います。2については議論をもう少し深める必要があろうかと思います。

  しかるに,もう開始いたしまして2時間15分たっておりますので,皆さんそろそろお疲れのことと存じます。少し中途半端なところになるのですけれども,この辺りで15分間,休憩を入れさせていただきまして,16時から第三者異議等の問題,配当要求等の問題につきまして,議論を再開するということにさせていただいてよろしいでしょうか。

  それでは,そういうことで4時まで一旦休憩ということにさせていただきます。

          (休     憩)

○道垣内部会長 それでは,青木さんからお願いします。

○青木(哲)幹事 ありがとうございます。神戸大学の青木哲です。設定者の債権者による強制執行に対する担保権者の権限の問題について,意見を申し上げます。

  一般に担保権設定者の債権者による強制執行により,その目的物上の担保権者の利益が損なわれるべきではないので,担保所有権者に被担保債権の全額の弁済がされる見込みがない場合には強制執行は認められるべきではないということ,それから,担保所有権者が被担保債権の弁済を受ける機会がなく売却がされた場合には,買受人が即時取得をしない限り担保所有権は失われないということ,これらの基本的な考え方に賛成です。

  その上で,提案されている個々の内容のうち,第1に担保所有権者が強制執行手続に配当要求をすることを認めることに賛成です。ただし,部会資料11ページ32行目,下から3行目になりますが,一般債権者による差押えに基づいて開始された競売手続で配当を受ければ足りると担保権者が考える場合には,というのは,担保権者が配当要求をした被担保債権の全額の配当を受ければ足りると考える場合には,という趣旨だと理解しました。その上で,追加で提案をするとすれば,担保所有権者が同意をする場合には,担保所有権者が被担保債権の全額の弁済を受けられなくても,競売により売却する可能性を認めることも考えられます。

  第2に,第三者異議の訴えについてですが,担保権者が被担保債権額の全額の弁済を受けられる見込みがある場合を除き,第三者異議の訴えにより強制執行を排除することを認めるという提案に賛成です。確かに民事執行法129条2項において,手続費用と優先債権を考慮して剰余を生ずる見込みのない場合に,執行官が差押えを取り消す旨が規定されているので,担保権者が被担保債権全額の弁済を受けない限り売却されないという利益については,配当要求をすることで強制執行の手続内で保護が与えられます。しかし,例えば動産執行に対して第三者異議の訴えが提起され,原告が所有権の取得を主張したのに対して,被告差押債権者が原告の所有権の取得が担保目的であると主張して,その結果,真正譲渡か担保権かについて争いがあるという場面を想定すると,仮に担保権であると判断がされる場合であっても,剰余が生じる見込みがないのであれば,同じ第三者異議の訴えの手続において請求が認容されるということにした方がよいのではないかと考えます。

  第3に,担保権者が配当要求をすることなく売却がされた場合に,担保所有権が消滅しないということには基本的に賛成です。しかし,担保権者が配当要求をしない限り買受人が担保付きの不動産を取得するということになると,即時取得がされないような場合には事実上,買手が現れないというようなことになるかと思います。このことに対する対応として,担保権者の存在が判明している場合には,その担保権者に配当要求の機会を与えることで,担保権者が配当要求を実際にはしなかったとしても,目的物を競売により売却する際に担保権を消滅させるという仕組みを設けることが考えられるかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。第1のところでお伺いしたいのですが,配当要求して,全額の弁済を受けられないというようなときでもいいのではないかという話だったのですけれども,それって,私が民事執行法の手続が十分に理解できていないのかもしれないのですけれども,競売は続くのですか,つまり無剰余にならないのですか。

○青木(哲)幹事 無剰余ではあるけれども,優先債権者が同意をすれば,そのまま低い価額で売却してしまっても,優先債権者のために売却をすることになるかと思いますけれども,それで構わないのではないかという意見です。不動産執行については無剰余の措置のところで同じような趣旨の規定がありますので,それと同じように考えることができるのではないかということです。

○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございました。

○中村委員 東京地裁の中村でございます。

  配当要求に加えて,担保権者が第三者異議の訴えを提起することができるかどうかということについて,御提案内容は無剰余の場合に第三者異議を認めるというものですけれども,この点について若干疑問があるという意見を述べさせていただきたいと思います。

  まず,動産執行において担保権者から配当要求を受けますと,執行官が無剰余であるかどうかを判断しまして,無剰余があると判断して差押えを取り消しますと,差押えを取り消された設定者の債権者はこれに対して執行異議を申し立てることができることになります。また,執行官が無剰余であるとは認められないと判断して売却手続を実施しますと,担保権者の方が執行異議を申し立てることができることになります。これらの執行異議に対しては,執行裁判所において無剰余かどうかということを判断していくことになると思います。これに加えて,担保権者が無剰余であるとして第三者異議の訴えを提起することができるとしますと,第三者異議訴訟の受訴裁判所も無剰余であるか否かの判断をするということになりまして,そうしますと,これら二つの裁判所の判断が矛盾抵触するというおそれが生じてしまうと思います。このような事態というのは,担保権と所有権という異なる二つの性質に基づく配当要求と第三者異議という二つの制度を同一場面で利用することができるとすることによって生じてしまうものだと思われます。

  無剰余の場合に第三者異議の訴えを提起することができるものとするという見解を採る理由として,早期に執行停止の裁判を利用することができるとするのが妥当であるという点が挙げられておりますけれども,第三者異議の受訴裁判所も訴え提起があれば直ちに執行を停止するというものではなく,疎明の程度に応じて担保の要否や額などを検討しなければなりませんので,目的物の評価が困難な場合に,手続の違いによって判断の迅速性に有意な違いが生じるとは考えにくいのではないかと思っております。なお,第三者異議訴訟の提起に伴い,執行の停止のみならず取消しまで認めることはほとんどないといわれております。他方,動産執行の手続で,執行異議の申立てを受けた執行裁判所は,執行異議についての裁判の効力が生ずるまでの間,有担保若しくは無担保で執行手続の全部若しくは一部の停止を命じ,又は有担保で執行手続の続行を命ずることができるとされております。そして,この決定に対しては不服を申し立てることはできないという点は第三者異議訴訟の提起に伴う執行停止取消しの決定と同じです。また,執行官が剰余の有無の判断に時間を掛けすぎるような場合には,執行官の処分の遅怠に対しても執行異議を申し立てるという手続もございます。

  そうすると,配当要求を認めた上で別途,第三者異議を認めるという必要性は乏しいのではないか,かえって担保所有権者に担保権者として配当要求という新たな権利行使の方法を認めるということであれば,第三者異議による権利行使は認めず,動産執行手続内で無剰余の有無を判断するということに手続を一本化するのが相当ではないかと考えます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  山本和彦さんから,無剰余措置に一本化するというのも十分に考えられるけれども,なお第三者異議というものを認めるというのがいいのではないかと自分は判断したとおっしゃったのですが,今の中村さんの御見解との関係ではどのようにお考えになられますか。

○山本委員 そうですね,二つの理由を先ほどは申し上げました。第1の理由,無剰余で,今,執行異議というお話が出ましたけれども,そちらでの判断と,第三者異議に伴う執行停止の裁判との間の,迅速性とか,あるいはその判断の中身の違いというのが一定程度あるのではないかということを申し上げましたが,ここはかなり実務的なところなので,実務上はそこは完全に重なり合って,二つのルートを開いておく必要性はなく,かえって混乱するという,今,御趣旨だったように思いまして,もし実務上そういうことなのであれば,私の第1の理由はそれほど説得力はないということになるのだろうと思います。

  他方,第2の理由は,現在の制度との段差みたいな,ラジカルさみたいなことを申し上げて,現在は配当要求は基本的に認めず,第三者異議のルートだけで行くというのを,配当要求だけにして第三者異議を排除するというのは,制度構成としては素直なのだけれども,そこまでこの立法で飛ぶというのが果たしてどうなのだろうかということですけれども,これも,どちらかといえばそれほどロジカルな理由ではないところではあるので,私自身はそれほど固執するわけではなくて,もしそれは配当要求,無剰余というルートだけでも実務上はいいし,そちらの方がより妥当だということであれば,それについて反対するものでもありません。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  関連しているのだと思いますが,阪口さん,松下さんから手が挙がっておりますので,阪口さん,お願いいたします。

○阪口幹事 阪口です。実務的な観点で,執行異議と第三者異議の違いというと,ほとんどの場合は執行異議でカバーされるのはそのとおりだと思います。また執行異議,正確に言えば,まず執行官の職権発動による差押えの取消しを上申して,それでも取り消してもらえない場合には執行異議ということになるのだと思いますが,それでも執行異議の方が早いというのもそのとおりだと思います。ただ,被担保債権に争いがあるような場合などを考えたときには,やはり手続的には,第三者異議という判決手続で決着を付けるべきではないかと思います。そういう意味では,ある意味,最後の手段の確保ということかも分かりませんけれども,二本立てというのは実務的には必要ではないかと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○松下委員 松下です。

  無剰余取消しに対する執行異議と第三者異議の訴え,あるいはそちらの方の執行停止との間に重複や矛盾があるのではないかという御指摘は,なるほどと思いました。ただ,だから配当要求一本にそろえるというのは,少し違和感があります。譲渡担保権者に第三者異議の訴えを認めるというのは,やはり私的実行の機会を保障するというところに多分大きな意味があるのではないかと思います。第三者異議の訴えを封じてしまって,要するに優先回収できればいいのでしょうという形で配当要求に一本化するというのは,担保権者の私的実行の機会を奪うという点で,適切ではないのではないかと考えました。

○道垣内部会長 剰余があるときには第三者異議が否定されるということは構わないのですか。

○松下委員 ええ,資料第2の2の(2)は,本文の方では担保権者の私的実行の利益を優先し,ただし書の方は差押債権者が剰余を手にする機会を保障するというバランスだと私は思っていますので,これはこれで構わないと思っています。

○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございます。

  お待たせいたしました。片山さん,御発言をお願いできますか。

○片山委員 すみません,度々,少し調子が悪いもので。

  この点なのですけれども,先ほど私が発言した内容とも関連しますが,制限物権的な構成か所有権的な構成かということで,所有権的な構成をするときに,どこまで排他的な担保としての効力を認めるかという問題で,その際に,バリエーションといいますか,両方の担保の規定を設けていただくということも御検討いただきたいというお話をさせていただいたのですけれども,そうしますと,仮に動産抵当のような制限担保型の担保ができるということになれば,当然3で配当要求一本ということになるのかと思いますけれども,他方,それと併せて,所有権担保を認めるということであれば,何のために所有権担保を認めるのかというと,正しく排他性ある担保を認めるためだということになりますと,第三者異議が言えるという1の立場を採ることになると思います。所有権的構成からしますと,そもそも設定者は使用収益権限しかないわけですから,何故その財産を設定者の債権者が差し押さえられるのだという基本に帰ると,そういう結論になるのではないかとは思うわけです。

  ただ,今回の改正では,新しい担保は1個しか設けないということになりますと,そこでは折衷的な構成にならざるを得ないということでしょうから,2ですか,剰余がない場合に限って第三者異議を提起することができて,剰余があれば配当要求のみという,二面的な結論を支持するということになるのかとも思いました。

  ただ,ここでやはり所有権的構成に基づく譲渡担保のメリットが何かという話になったときに,私自身は教壇にしか立っていないので,よく分からないところですけれども,実務における譲渡担保のメリットは,後順位の利害関係人の排除ができる点にあるという説明を教壇ではしております。後順位担保権者の担保権の設定の可否の問題もそうですし,ここの設定者の債権者の差押えとの関係もそうですけれども,それらを排除できるというところに譲渡担保の魅力があると実務家の方々はニーズとして捉えていらっしゃるのかとも思っておりました。

  ただ,他方,先ほどの本多委員の御発言ですけれども,金融機関としてもやはり後順位担保権は重要であって,その法律関係の明確化ということが重要な問題点となるのだという御発言もありましたので,その辺りについて実務的なニーズを捉えておられるのかというところを私としても確認しておきたいと思ったところです。というのは,近時,収益型担保や管理型担保といわれているABL等に関していいますと,これは専ら第一順位の担保権者が排他的な支配をして担保を独占して利害関係人を排除するからこそ成り立つ担保であるということが言われてきていて,そのとおりだな,そういった担保が必要だなと考えてきていたわけですけれども,必ずしもそういうことではないのか,それとも,あるいは,今議論しているのが個別動産の担保の話をしているからそういう議論になるのであって,また集合動産とかABLだと違う話になるのかというような疑問が素朴に出て参りました。もしここで確認ができるようでしたら,実務家の方々にその辺りのニーズをどう捉えていらっしゃるのかという点を是非伺わせていただければと思った次第です。よろしくお願いいたします。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  何かその点について御発言はございますでしょうか。

○本多委員 三井住友銀行の本多でございます。片山先生,御案内ありがとうございます。先生が御指摘のとおり,場合によっては単独のABLのレンダーが対象の動産なり債権なりを独占的に掴取するということがファイナンスの設計上,求められることもあると思います。一方で,動産や債権を引当てとさせていただいて,そこから生じる事業キャッシュフローについて,複数の与信者間において,優先劣後構造を設けた上で,最先順位者の取り分と後順位者としての取り分とに区分けした上でファイナンスを取り組む場合もあります。これは,ファイナンスの規模だったり,与信者の意向だったり,といった事情によりますが,与信者の意向に関していえば,最先順位のポジションを確保した上でファイナンスをしたいという与信者もいれば,優先関係では多少劣るかもしれないのだけれども,例えば利率がより大きくなるメザニンといわれるポジションでファイナンスをしたいという与信者もいますので,そういう与信者ごとに順位の考え方,それからファイナンスの設計に関する考え方が異なるというのは実務上,生じるところではございまして,こうした点に鑑みますと,後順位担保権の設定が許容される方がよいのではないかと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。まっさらな状態でどのようなファイナンスのストラクチャーを作るかという場合と,実際に既に担保が設定されている後に出てくる債権者がどのようなニーズを有するのかというのは,また違う問題であり,また,そのニーズがあるということが,それが合理的だから認めるということに必ずしもつながらないということだろうとは思いますが,今は多分,まっさらな状態なところでストラクチャーを作るときにも後順位というのが必要であるという御発言ではなかったかと思います。

  ほかに,第三者異議等の問題につきまして,御意見はございますでしょうか。

○大塚関係官 先ほどの後順位担保権者との関係について,少し細かいことなのですけれども,2の(2)について,第三者異議ができる主体が担保権者となっているのですけれども,これだけ見ると,後順位担保権者も第三者異議の訴えが提起できると読むことができます。そうした場合,先順位担保権者が配当要求でよいと判断しているけれども,しかし後順位担保権が第三者異議ということをして,それが認められるという可能性は文言上は出てきそうな気はいたします。そのとき,この文言で行くかどうかというよりも,後順位担保権者にそういった権限を与えていいのかどうかということは議論,検討してもよろしいのではないかと思いました。これは,後に出てくる後順位担保権者による実行手続について,先順位担保権者がどういった請求ができるのかといった論点とも絡んでくる問題だと思います。

  それから,もう1点ですが,後順位担保権者がいる場合に,配当要求や第三者異議がされずに,買受人が現れたというとき,即時取得の成立可能性を担保権ごとに検討されるのでしょう,そういうことになるのかなと思いますけれども,そうすると,買受け後の法律関係がかなり複雑になってしまうおそれが,もしかしたらあるような気もいたしました,ということです。

○道垣内部会長 後半は差押えの関係の話ですか。

○大塚関係官 そうですね,差押え債権者,差押え手続がなされて,買受人が現れた場合に,買受人が即時取得できるかということですね。そのときに,先順位担保権については知っていたけれども,後順位担保権については善意無過失であったというような可能性は出てくると思うのです。

○道垣内部会長 それは,けれども,一般的な処分の場合も起こるわけですね。

○大塚関係官 そうですね,はい。

○道垣内部会長 大塚さんがおっしゃった問題は,後順位の権利者にどのような権利を与えるのかというのと,処分と差押えの関係で,担保権者ごとに話を考えるのかどうなのかという問題につながるのだろうと思います。

  ほかに何かございますでしょうか。

  大きな対立点としては,第三者異議を一定の場合には認めていいのではないかということと,無剰余措置で全てを処理すれば足りるのではないかということがあって,それに,更に最後,大塚さんがおっしゃったような後順位の問題,片山さん,本多さんがおっしゃった後順位の問題というのが絡んできて,どういうふうに考えるのかということがあろうかと思います。二読のときにはそれを更に詰めた形で検討をするということにさせていただきまして,次の問題に入ってもよろしいでしょうか。

  では,すみません,先を急ぐようで恐縮でございますけれども,部会資料2の第2の4についての議論に入りたいと思います。

  事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。

○寺畑関係官 14ページの「4 担保権者による処分」は,設定者の債務不履行前に担保権者側が目的物を処分することができるかどうかについてでございます。

 この論点は【案2.1.3.1】と【案2.1.3.2】のいずれかによって位置付けが変わってくるかと思います。【案2.1.3.2】のように新しく担保物権を作る場合,担保権者には所有権がないため,特段の規定を設けなくとも目的物を売ることはできないことになります。

 これに対して,【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を採る場合,担保権者は一応,所有権を取得しているので,目的物を処分することができるようにも思われます。しかし,これを認めるとすると,担保所有権と被担保債権が分離し法律関係が錯綜するため,設定者の債務不履行前には担保権者は目的物の処分権限を持たず,仮に処分をしたとしても無効であることを本文の(1)と(2)で提案しております。

 さらに,担保権者の債権者が目的物を差し押さえた場合にどうなるかということも問題となりますが,第三者異議の訴えに関する現行の民事執行法第38条の解釈によって対応できると考えられることから,本文の(3)では,これについて特段の規定を設けないことを提案しております。

 具体的には,債務不履行は設定者が被担保債権を弁済して目的物を受け戻す期待権が保護に値するとして第三者異議の訴えの提起を認める一方,債務不履行後には,そのような期待権は保護に値せず,第三者異議の訴えの提起を認めないということが民事執行法38条の解釈によって導かれると考えられます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  期待権という言葉は,またこれもドイツ法的にいろいろなことを含んでいますので,権という言葉を使ったのはどういう意味なのかが気になる方もいらっしゃるとは思いますが,聞かないようにしてください。余りそこは厳密には使っておりませんので。

  御自由に御議論いただければと思います。どなたからでも結構でございますので。

○阪口幹事 すみません,阪口です。4の,15ページの(注39)に関係するところについて,まず最初に確認をしたいと思っています。(注39)のところは,所有権留保のことを考えた場合にどうなるかということで,ここには,「他方,所有権留保売買においては,目的物の所有権のうち担保目的で留保された部分以外の部分は所有権留保買主に移転し,引渡しも完了しているため」と書かれていて,引渡しが完了して占有が完全に所有権留保買主に移っていることを前提にしているような記載になっています。しかし,差押えというのは担保権者側に占有がある局面のはずですから,ここの書き方は,いわゆる,占有改定で引き渡しているけれども担保権者に残っているというような局面を想定して書かれているのでしょうか。所有権留保という言葉の定義の問題かも分かりませんけれども,何らかの形で占有が移転し終わっていないと,もうそれは所有権留保と呼ばないという前提の記載のようにも読めます。

  一番単純な例としては,所有権留保特約付きで売買契約を結びました,まだ物も渡していません,占有改定も行っていません,さあ渡そうかなと思っているときに所有権留保売主の債権者が差押えしてきましたという,それがここで問題となる局面,つまり14ページの4の(3)ですね,担保所有権者の債権のために担保所有権の目的物が差し押さえられた場合を所有権留保に当てはめた場合というのは,むしろそういう,まだ何も渡していない局面での差押えを考えるように思ったのですけれども,ここでいう(注39)とか16,17ページの記載は,所有権留保というのは,一旦は完全に占有を渡し終わっていることを想定しているようにも読めて,ここら辺をどういうふうにお考えなのかをお教えいただけたらなというのが,まず質問です。

○道垣内部会長 何かありますでしょうか。笹井さんからお願いできますか。

○笹井幹事 ここは,引き渡していないと所有権留保とはいわないというような言葉遣いをしているわけではありませんで,売買契約において所有権,代金債務が完済されるまで所有権が買主に留保されるという場面を広く所有権留保といっております。確かに阪口先生がおっしゃったように,引き渡そうと思っていて,引き渡す前に差し押さえられたという場面ももちろんあるかもしれませんけれども,多くの場合,所有権留保の契約がされれば,もちろん多少のタイムラグがありますけれども,現実の占有が移転するということですので,そういう場面を念頭に置いて,ここは記載がされているということになります。おっしゃるように,その前に僅かなタイムラグのタイミングで差し押さえられたということであれば,(注39)の記載は妥当しないということになろうかと思いますので,その場合どういうふうに考えるのかというのはもう少し検討したいと思います。

○阪口幹事 ただ,担保権者の債権者による差押えや,(注39)が考えている担保権者による譲渡については,完全に所有権留保買主に行ったきりの局面と,直接占有が所有権留保売主に残っている局面,それが占有改定かどうかは別にしてですね,とは,かなり法律関係が違うように思われます。また,(注39)の後半に書かれている,担保所有権という統一概念で,譲渡担保権と同じようにしたらいいではないかという辺りの妥当性にもかなり差が出てくるようには思えたので,一定の局面ではこれでもいいことはあると思いますけれども,すべてがそこまで割り切れるのかなとは正直,思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。確かに少し言葉遣いが曖昧かもしれないと思うのは,ここにいう引渡しというのは何なのかということで,民法178条にいうところの引渡しを意味しているのか,物理的な意味にすぎない引渡しということで書いているのか,仮に所有権が移転していないということになりますと,178条にいう引渡しというのは存在し得ないとも考えられるわけであって,そこら辺も少し理論的に詰める必要があるかなとは確かに思います。ただ,誠に恐縮ではございますけれども,それらの問題をひとまず措きまして,担保権者の債権者が差し押さえられないということを前提にしていいかということで,それで一定の規律を置くかということについて御議論いただければと思います。所有権留保のときの現実の所在に応じて丁寧に考えなければいけないというのは,正にそのとおりだとは思いますけれども。

  ほかに何か御意見がございますでしょうか。

  本多さん,お願いします。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。今ほどの論点とはまた別のところになってしまうのですけれども,4の(2)のところ,(1)に反する譲渡は,その効力を有しないものとするということの意味なのですけれども,例えば譲渡担保を想定した場合の目的物について,担保権者が第三者に譲渡する,その譲渡行為につきまして,例えば,転譲渡担保のような処分行為の場合と,その目的物を所有権者として処分する場合とでは異なるのかなと思っております。この規律は基本的に後者の方を意味しているのだと思うのですが,転譲渡担保については許容される余地が残されているという理解でおります。その確認でございます。

○道垣内部会長 何かありますか。

○笹井幹事 はい,そこは御理解のとおりだと思います。

○道垣内部会長 残されているというのは,これが残るということを前提にした規律であるというわけではなくて,それをどう考えるのかということはまた別に考える,議論をしていくべき問題であるということだと思います。

○中村委員 中村でございます。担保所有権者の債権者が目的物を差し押さえた場合を想定した御説明がこちらにされているかと思いますが,非占有型の動産譲渡担保であれば設定者が動産を占有しているのが通常ですので,担保所有権者の債権者がその動産自体を差し押さえるということは通常は想定されないのではないかと思います。阪口弁護士がおっしゃられたように,動産の譲渡担保の設定者が当該動産を直接占有しているのか,あるいは担保権者の下にその動産があるのかというところで,差押えの仕方も違ってきますので,そこをきちんとそれぞれ分けた検討をしなければならないのではないかと思います。

  それで,御説明にある,動産の差押えがされる場合ということが,実際どのような場合があり得るかということを考えてみますと,既に弁済期が経過したとして担保所有権者がその動産の現実の引渡しを受けた場合か,あるいは設定者がその動産を第三者に占有させていて,その第三者において当該動産を提出したという場合が考えられるかと思いました。前者の場合には,設定者はその後,弁済をしても受け戻すことは認められないとすることで,もちろん差し支えないと思います。後者の場合は,弁済期前はなお設定者に所有権があるとして,第三者異議の訴えを提起することができると解するのも相当だと思います。ただ,それを譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者の解釈として導くとして,規定を置かないということについては,やや明確性を欠くのではないかと感じております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。特約で担保権者が占有を取得していたら,それは単純には担保権者が占有している状態というのが起きるわけですよね。そのときに,債権者というか担保権者が所有者ではないかというふうになると,その物件について差押えを排除するというのが難しくなるので,何らかの条文が必要だろうというのがここの趣旨であると思います。しかし,いずれにせよ,もう少し場面をきちんと分けて,所有権留保の場合も含めて検討して,それをまとめてみると単純なルールになるのかもしれませんけれども,もう少し丁寧に分解して考えなければいけないというのは,そのとおりかなと思います。

  ほかに何かございますでしょうか。藤澤さん,お願いします。

○藤澤幹事 すみません,この項目についての質問ということではないのですけれども,これまでの御議論に出てきましたように,担保所有権者による処分というのは考えづらい場面で,これに対して担保所有権設定者よる処分は頻繁に起こりそうな場面で,また,この後の物上代位の議論の前提となったりする問題のような気がするのですけれども,その項目がないのは何か理由があるのでしょうか。

○道垣内部会長 まだ書いていないだけだと思いますが,もしよろしければ,どうぞ。

○笹井幹事 書いていないといいますか,設定者による処分ということですので,どういう構成を採るのかにもよるかもしれませんけれども,設定者が,残った所有権といいますか,所有権設定者留保権のようなものを譲渡することができるかということですとか,あるいは重ねて担保権を設定することができるかというようなことが,先生がおっしゃるように,問題としては出てくるのだろうと思います。

  ただ,それを改めて条文として書く必要があるのかどうかということを少し検討したのですけれども,ここはいろいろ御議論があるかもしれないので,問題提起をした方がよかったのかもしれません。仮に担保物権を新たに設けるということになった場合には,今の抵当権に類似するわけですが,その場合に,設定者が残った所有権を譲渡することができると,その際に担保物権の負担付きの所有権を譲渡することができることとなります。あるいは,担保目的取引規律型と称しておりますけれども,所有権なのか財産権自体を担保目的で譲渡するということになった場合に,仮にここで理論的に設定者留保権という物権的なものが帰属しているとすると,設定者が自身に帰属している物権的な権利を譲渡することができること自体は,規定がなくてもよいのではないかということで,項目を設けていないということです。

 また,実行の箇所において,後順位,あるいは優先劣後する担保権が存在しているということが裏から規定されるということになりますので,そのような規定が設けられることになった場合には,そこから読み取るということもできるのかなということで,項目としては設けなかったということです。ただ,今後,規定の要否も含めて一度議論をした方がよいということでありましたら,その点も含めて一度検討させていただきたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。そういうふうな前提があるということですが,しかし,考えてみますと,片山さんが,担保価値維持のところで,かなり細かく分けて考えなければいけないとおっしゃったのですけれども,現行法のもとで譲渡担保設定している人が第三者に当該物件を占有移転したら駄目なのではないかと思うのです。債権者は実行がすごくやりにくくなりますよね。自分に物権が残っているというのと,それを処分できるのかというのは別問題であり,それが駄目だと考える余地は十分にあるような気がいたしますので,もう少し考える必要があろうかと思います。どうもありがとうございました。

○大塚関係官 一つコメントなのですけれども,資料15ページの22行目辺りから,被担保債権の債権者と担保所有権者との分離を認めることになって法律関係が錯綜するということを理由として,担保所有権の処分を禁ずるということが提案されておりますけれども,例えばセキュリティートラストのように,設定の段階では被担保債権の債権者と担保所有権者が分離するということが実務上,多くはないみたいですけれども,行われていると。この御提案は,それを禁ずるということが明文化されているわけではありませんが,しかし,その理由付けとして,そういった分離が余り望ましくない,そういうポジションを採るとすると,こういった担保所有権についてセキュリティートラストのような組み方をすることが解釈上否定されるという可能性は出てきてしまうのではないかと,無効にされるというリスクが生じると,セキュリティートラストのような組み方が実際上しづらくなってしまうのではないかという気がいたします。そうすると,こういった分離が望ましいのか,望ましくないのかという点を議論しておくということにも意味があるのではないかと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。それは重要な点だろうと思います。

○井上委員 今の点なのですが,セキュリティートラストがやりにくくなるということがもしあるとすると,実務的には問題だというのはおっしゃるとおりだと思うのですけれども,セキュリティートラストですとか,あとは転担保の話も先ほど少し出ましたが,元々の被担保債権との結び付きがきちんとできている範囲であれば,形式的な担保権者と,被担保債権者とがずれても構わないと思うのですが,ここで恐らく事務局資料が法律関係が錯綜するといって危惧している点は,分離それ自体を全て駄目といっているというよりは,無関係にずれてしまうとまずいのではないかということかなと思いますので,その意味では悪影響はないと私は考えたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。その点は明らかにしなければ危ないのではないかという意見も,もちろんあろうかと思います。

○阿部幹事 私も井上先生と同じようなことを感じたのですけれども,例えば抵当権のように,通常は被担保債権の債権者と担保権者とが分離しないものであっても,被担保債権者と担保権者とを分離できる,というのがセキュリティートラストだと思います。その意味では,ここで書かれている担保所有権も他の担保権とそれほど変わらないのではないかと思いますので,ここで,被担保債権の債権者と担保所有権者の分離を認めることで法律関係が錯綜する,といったからといって,そのことから,この担保所有権のセキュリティートラストもできない,というのは,少し飛躍しているのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかにはいかがでしょうか。

  残り時間では,この資料の最後まで行くとはとても思えませんけれども,少しでも議論を進めておきまして,細かな点について,1か月置くことによって,皆さんがお考えくださるところもあろうかと思いますので,物上代位のところにつきまして御説明をいただきまして,それで少し議論をしたいと思います。5,6ではなくて,5だけということでお願いします。

○寺畑関係官 18ページの「5 物上代位」について御説明いたします。現在の譲渡担保の物上代位については,様々な御議論があるところですが,判例には売買代金債権や損害保険金請求権に物上代位権を行使することができるとしたものがあります。

  本文の(1)と(2)では,先取特権の物上代位に関する民法第304条と同様の規定を設ける形で物上代位を認め,その手続として差押えを必要とする旨を提案しております。本文の(3)は,物上代位を認めた上で,目的物の代償物が他の担保の目的財産となっていた場合の優劣について御議論いただきたいというものです。同様の問題は先取特権と抵当権についてもあり,それぞれ判例がございますが,そこで示された優劣の基準は先取特権と抵当権とで異なっており,いずれに倣った規定を設けるべきかの見解が分かれているため,抵当権型とするものを【案2.2.5.1】,先取特権型とするものを【案2.2.5.2】として,両論併記の形でお示ししております。

  また,諸外国の制度を参考として物上代位の範囲を拡大したり,手続を簡易化したりすることも考えられます。日本法においては,担保物権に共通する制度として物上代位制度が設けられていることから,この動産の非占有型の担保だけでなく,先取特権や抵当権などとも整合的に検討すべきところ,実務上の影響の大きさを考えると慎重に検討する必要があるかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  5の(注)のところについて一言だけ説明をしておきますと,現在,新しい担保制度においてどのような対抗要件という制度を考えるかというのを議論はしていないわけです。仮にそこで,本日の前半で出ましたような統一的な登録制度,統一的でなくてもいいのですが,新たな登録制度を置くということになりますと,非占有型の動産担保についても,そういうふうな登録簿ないしは登記簿における公示というものがされているということになります。そうすると,(注)で,担保ファイリングがされているときのみ認めるという選択肢がとられることはないだろうと思うのです。この(注)が意味を有するのは,非占有型の動産担保制度については,少し佐久間さんがおっしゃった話ですけれども,占有改定で一応,対抗要件を具備することができることとし,しかし,いろいろな担保としての効力というものを是認してもらおうとするならば,一般的な対抗要件とは別個に,これは担保ですよという担保のファイリングという,担保登録みたいなものをするという制度を考えることができるのではないかというのを踏まえまして,対抗要件そのものは占有改定で大丈夫なのだけれども,そのときには担保ファイリングがないと物上代位ができないよということで,(注)があるのだろうと思います。混乱しそうなので,最初にこうではないかということを申しました。

  御自由に御議論いただければと思います。

○藤澤幹事 個別動産の売却代金に対する物上代位について,コメントというか質問があります。

  資料の中では,平成11年や平成29年の判例を参考にして,売却代金に対する物上代位を認めてもいいのではないかというようなことが書いてあったように理解したのですけれども,両方とも輸入の際の信用状取引に関係する判例で,譲渡担保権設定者に目的物の売却権限があるような場合,つまり譲渡担保権者が追及できない場合についての事例判断ではなかったかと記憶しております。このようなルールを一般化しても大丈夫なのかということが少し気になっています。また,平成11年や平成29年の判例の事案のような場合には,追及と物上代位とを併用するという問題が生じないので,難しい問題はないかと思うのですけれども,追及できる場面では少し面倒な問題が生じるのではないかと考えました。

  例えば,個別動産の担保所有権設定者が善意有過失の買主に物を売ったというような場合を考えてみたいと思います。先ほど質問したこととも関わるのですけれども,設定者が処分した場合には買主には設定者留保権が移転すると考えるとします。そうすると,完全な所有権を前提として売買代金が決まっていたような場合には,買主としてはやはり代金減額請求権を行使したいのではないかと考えられます。担保所有権者が売買代金を差し押さえたとしても,買主から代金減額の主張をされることがあり得て,そういう場合には担保権者と買主との間で減額をめぐって争うことになるのかという点が少し気になりました。それから,もし減額が認められた場合には,今度は目的物自体に対する担保権実行も認められないと,担保権者にとっては酷になるかなと思います。しかし,反対に代金減額請求権が行使されずに,担保権者が完全な所有権を前提とした売買代金全部を取り立てることに成功した場合には,担保目的物自体に対する実行は認めなくてもいいような気もするのです。このように,物上代位権の行使と追及効との関係をどう処理するか検討する必要がありそうです。ちなみに,アメリカでは,担保権者の保護になるから,両方取れていいではないかという考え方が採られているのですけれども,日本法でもそういう割り切りができるのでしょうか。

○道垣内部会長 ありがとうございます。抵当権でも何でも,売却のときの問題は複雑なのですが。

○佐久間委員 今,藤澤先生がおっしゃったことで気になることがございまして,設定者が処分した場合に即時取得が成立してしまうと,これはもう売買代金しか掛かっていくことができるものはないということになりますよね。そうであるところ,即時取得が成立しているかどうかなんていうのはすぐには分からないわけで,そうすると担保所有権者としては,即時取得が成立している場合に備えてといいますか,そういうことがあり得るので,売買代金債権に物上代位したいというニーズはあるのではないかと思うのです。差し押さえて,更に取立てまで行くということになれば,それはやはり,もし即時取得が成立しない場合であっても,譲渡担保権自体が消滅するという形で整理をすることの方がましなのではないかというふうに,お話を伺っていて,思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。ただ,抵当権の場合にも同じ問題があると思うのです。抵当権のところは仮に触らないで,ここについては触るということになると,動産のこういうシチュエーションの方がその問題が先鋭な形で生じるのであるということがいえないと,多分ここだけを触るということにはならないと思うのですが,その辺りはいかがなのでしょうか。

○佐久間委員 抵当権の場合は,一応,抵当権が公示されていて,所有権自体が移っても抵当権が,即時取得で消えるということはあるのですかね。私が心配しましたのは,動産の場合はそもそも即時取得されてしまうと譲渡担保権自体が飛んでしまうことになるという点で,僕,勘違いしているかな,何か違うのではないかと思ったのですけれども。

○道垣内部会長 その場合は違いますけれども,抵当権者が売買代金債権に物上代位権を行使したときに,それは抵当権の実行に当たって抵当権が消滅するというふうに,抵当権についても考えることが前提になるのでしょうか。しかし,それを根拠付ける条文はないわけですよね。

○佐久間委員 それはないですね。ないですが,被担保債権が全部回収されれば,少なくとも当然,抵当権もなくなるし,譲渡担保の方もそれでいいということになるのだろうと思うのですが,全額回収できなかったら,そこで,そうですね,先ほど申し上げたように,まだましかなと思ったということなので,これからもう少し私も考えます。

○道垣内部会長 すみません,誰にも答えられないような問題を佐久間さんに突っ込んでしまって,申し訳ございません。

  その点でも結構ですし,物上代位一般につきまして,更に御議論いただければと思いますが,いかがでしょうか。

○佐久間委員 たびたびすみません,賃料についても少し申し上げたいことがあります。まず債務不履行があった後の賃料については,取りあえずそれは物上代位の対象になり得るという前提を採った場合に,371条が根拠条文なのか,370条か304条かという,その議論があるということは踏まえつつも,371条が根拠条文だという考えが抵当権についてあったとしましても,担保所有権における物上代位について,371条と同じようなものなのだということが分かるような定め方というのは本当にできるのだろうかということが少し気になりました。何が言いたいかというと,仮に371条が抵当権の場合の賃料債権の物上代位の根拠だとしても,抵当権についても一応304条が準用されていて,賃料というのが入っているので,どちらか決めなくていいという形になっているのですね。そうだとすると,こちらもどちらか決めなくていいという形にする方が条文の作り方としては望ましいのではないか,すなわち,【 】のところはやはり入れておいた方がいいのではないかと私は思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  ほかに何かこの段階で御意見はございませんでしょうか。これは別にもうこういう感じでいいではないかということでしょうか。

  いろいろ本当は問題点が多分ありまして,(1),(2)に関しましては,そもそも物上代位というのが認められるのかという問題がございますけれども,(3)については,ある程度明らかにしなければならないだろうと,ルールが不明確だからということもあるのですけれども,抵当権先取特権等についてルールを明文化しないというときに,仮にそういうふうに仮定しまして,ここにいう非占有型の動産担保についてだけルールを明確化するというのが適当なのか,あるいは,それというのだったら,全体として民法304条についてルールを明確化しないとやはりおかしいのではないかとか,いろいろ御意見もあろうかと思うのですが,これはいかがでしょうか。

○水津幹事 座長が指摘された問題については,できればこの機会に,次のようにしたほうがよいのではないかと思います。すなわち,ここでいう非占有型の動産担保については,代位目的債権を目的とする担保との優劣関係のみならず,代位目的債権に対する差押えや代位目的債権の真正譲渡等との優劣関係についても,明確なルールを新たに設けることとする。他方,先取特権や抵当権等についても,これと同じように,代位目的債権を目的とする担保,代位目的債権に対する差押え,代位目的債権の真正譲渡等との優劣関係について,現行法の規定を改正して明確なルールを設けることとする。

○道垣内部会長 今,水津さんは,一般的な譲渡等も含めてとおっしゃったのですが,あるいは他の担保権との優劣ともあるのかもしれませんが,それ全体としてはどういうお考えでしょうか。それを譲渡などについても置く,そのときの内容で,それで抵当権についても置く,先取特権についても置くということになると,全体としてはどういう絵になるというお考えですか。

○水津幹事 判例法理を前提とするならば,動産先取特権と抵当権とで規定の内容を区別することとなるのではないかと思います。また,代替的物上代位と付加的物上代位とで規定の内容を区別すべきかどうかについても,検討する必要があるのではないでしょうか。

○道垣内部会長 分かりました。どうもすみません。

  ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいですか。大丈夫かな。

○井上委員 今の【案2.2.5.1】か【案2.2.5.2】かという観点なのですが,この点は【案2.2.5.1】というルールを採用する方がいいのではないかと私は考えています。その理由は,確かに今考えている担保権は,動産先取特権とは違って,追及効があるものを考えていますので,その点は抵当権に近いと思うのですけれども,ただ,もう一つ考えなければいけないのは,担保権がどの程度一般に公示されているかという点だと思っておりまして,その公示の程度を考えると,不動産登記による抵当権の周知度合いと比べて,今後動産担保についてどういう公示制度を作るかにもよりますけれども,なかなか抵当権と同じレベルの担保権の公示は難しいのではないかと感じるところがありますので,そうだとすると,担保権の設定によって,その後そこから発生する債権にまで権利が及んでいることを認めて,その債権自体を直接譲り受けたり,譲渡担保に取ったりしている人を負かせるといいますか,動産担保権について先に対抗力を備えれば勝たせるということには少し抵抗があります。

  ですので,そういう意味で不動産と違うルールを採用することになるとすると,それは何らかの形で明文化する必要があるのではないかというのは水津先生のおっしゃるとおりだと思っておりまして,その際に,それではやはり抵当権の方のルールも明文化するべきではないかということになりそうな気はしますが,どこまでどういうふうに規定を設ける必要があるかは少し措いて,【案2.2.5.1】と【案2.2.5.2】の間でどちらを採用すべきかと言えば,【案2.2.5.1】であり,そのためには,少なくともその点において明文化が必要なのではないかと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○佐久間委員 私は実務的な感覚はよく分からないので,井上さんが今おっしゃったことで大分自信がなくなったのですけれども,私は【案2.2.5.2】でもいいのかなと思っていました。というのは,動産先取特権の場合には,おっしゃったとおり公示が不十分というか,ないわけで,それに対してこちらも不十分,ないのに近いということだから,動産先取特権の場合と同じような並びで【案2.2.5.1】でどうかということはよく分かります。ただ,一応,動産先取特権の場合には,第三者に引渡しがされると先取特権自体がなくなるのだから,それとの関連も考慮してという理屈もあるとすると,動産担保所有権の場合は必ずしもそこは妥当しないし,ひょっとしたら担保ファイリングで,何でもすぐ分かりますということにはならないと思いますけれども,若干の公示というのはされるようになる可能性もあるということだとすると,【案2.2.5.2】でもいいのではないかと思っています。【案2.2.5.2】の方が絶対いいのだというほどではありませんが,それもあり得るのではないかと思っています。

  その上で,ここからは井上さんがおっしゃったのと同じか,よく似ていると思うのですが,【案2.2.5.2】を仮に採るといたしましても,やはりここはルールをはっきりさせて明文の規定を設ける方がいいと思っています。その上で,抵当権とか先取特権の場合について判例を基に明文の規定を起こすことにしてもいいとは思うのですが,仮にそれをしないとしても,どちらになるのか分からないということがこの場面では正に出てくるわけですから,抵当権と先取特権については判例法理に委ねておいた上でも,こちらはこうしますと,【案2.2.5.1】であれ,【案2.2.5.2】であれ,規定を設けることがすごく大事なのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○本多委員 ありがとうございます。今ほど佐久間先生がおっしゃったことに関し,追及効や公示制度があるものとそういうものが全くないものとの間において差はありそうなのかなという感覚は持っておりまして,そういう意味では【案2.2.5.2】の方が議論の出発点になりそうなのかなと考えておりました。

  一方で,これは井上先生も,それから佐久間先生も同じく御指摘になっているとおりなのですけれども,占有改定の場合の公示力というのがどれほどなのかというのは,いろいろなところで疑問視をされているところではありまして,一方で占有改定でも立派な公示といえるかはともかく,これにより対抗要件は具備できるところではございまして,その辺りを実務的にもう少し考えていかないといけないのかなとは思っております。その延長線上に担保ファイリングの議論があると考えているところではございまして,それが,先ほど申し上げました二元的な制度設計になるということの妥当性も含めて,改めて実務に落としていった場合にどのような影響があるのか,というのも併せて検証していかなければならないとは考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。一言申しますと,公示というのと対抗要件というのは意味が違うと思うのです。つまり,占有改定も立派な公示である,というのはあり得ない考え方ではないかと思います。立派な対抗要件であるというのはあり得るのですけれども。公示力はないのだけれども,対抗要件として認められているのだからいいではないかという議論はあると思うのですが,立派な公示だというのが実務の感覚だと言われますと,それは実務の感覚がおかしいのではないかと私は思いますけれども。また,実務が,そういう感覚かどうかも私は疑問ですし。

○藤澤幹事 【案2.2.5.1】についてコメントさせていただきます。実務のことが全然分からないので,こんなことをいってよいか分からないのですけれども,もし私が債権者だったら,【案2.2.5.1】のルールの下ではすごく心配なので,債権についても担保を取っておくという行動に出るのかなと思いました。そのときに,目的物が滅失したときの保険金とか,第三者から壊されてしまった場合の損害賠償金とか,いろいろなものについてまとめて債権譲渡担保の対抗要件を取れるみたいな,債権譲渡担保の制度の方で少し使いやすくしないと不便になってしまうのではないかという感触を持ちました。

○道垣内部会長 藤澤さん,どうしてその人に便利にしてあげなければいけないのでしょうか。つまり,不便なのではないかというのは分かるわけですが,片方で個別の担保を取る人がいるかもしれないのですよね。前の動産についてした人にだけ,なぜそれほど便利にしてあげなければいけないと藤澤さんはお考えになったのでしょうか。

○藤澤幹事 代替的物上代位についてなのですけれども,担保目的物の滅失のリスクに備えるのは担保権者として当然の行動だと思うのですが,それができないということになると,担保の価値を低く見積もらざるを得なくなって,そのことは債務者にとっても金融の便宜を損なうことにつながるのかなと思いました。

○道垣内部会長 よく分かりました。つまり,やはり代償物に対して及ぶということの当然性の評価というのが前提にあるわけですよね,多分。それで大変よく分かりました。批判したつもりは全然ありません。

○井上委員 ありがとうございます。今の点ですが,正に私は同じことを考えていて,だから【案2.2.5.1】を採るべきではないかと思っておりました。担保を取る段階で,こういうルールが明確になれば当然,心配でしょうから,レンダーとしてはそこから派生する債権についても担保に取ることになり,そういう実務が広がると比較的安定した担保融資になると思うのですけれども,そういうことをせずに動産だけを担保に取り,そこから生ずる債権については何ら手を打たないでおいて,それでその後,動産についてどのぐらいの公示が今後できるようになるかは,先ほど申し上げたとおりですが,幾らか調べてもすぐにはよく分からないという状況で,債権自体を買ったり,譲渡担保に取ったりした方をむしろ保護する方がいいのではないかと考えました。

  その意味では,ルールが決まれば融資行動が変わるのではないかということも含めて,【案2.2.5.1】のようなルールを採った上で,動産の担保を取ったときに,それ以外について担保に取らない人をそれほど保護しなくてもいいのではないか,あるいは,動産の担保を取った後にそれを知らずに債権を譲り受けた人のことを考えてもいいのではないかということです。

○道垣内部会長 ありがとうございます。価値判断はいろいろ分かれるところかもしれませんし,さらには目的債権を目的財産とする担保というのを取った人の,目的債権の特定性の度合いですかね,つまり,将来誰かに売った売買代金債権は全部担保になりますよというふうに1個設定しておけば,その人が絶対勝つのかというと,それでいいのかなという気もするのですが,それを細かく分けていくと大変なことになりそうなので,難しいところかもしれません。

○片山委員 どうもありがとうございます。今の【案2.2.5.1】と【案2.2.5.2】の話と関連するのですけれども,立法する際に類型論がどこまで可能かという点はございますが,物上代位に関しては,代替的物上代位と付加的物上代位の類型論はかなり定着をしておりまして,代替的物上代位の場合についていうと,本来的には抵当権が及んでいないものについて,物上代位によって抵当権を及ぼすというものなのでしょうが,付加的物上代位の場合は賃料債権への物上代位が基本的に念頭に置かれていて,これをどう捉えるかは別としまして,一つの学説ですと371条で果実に抵当権の効力が及ぶということを前提とした上で初めて認められる付加的物上代位だということになります。

  そうしますと,【案2.2.5.2】ルールですね,いわゆる登記時基準ルールというのは,基本的には賃料債権の物上代位に関する判例を基本として出てきたもので,それについては本来的に抵当権の効力が及んでおり,そのことが公示されているというのが理屈になっていたのだと思います。しかし,その他の代替的物上代位に関しては,本来的に担保権の効力が及んでいない,そういうものについて物上代位をしていくのだから,やはり差押え基準になるべきだと私自身は考えております。一般的には,類型論を前提とした立法は難しいとは思いますけれども,少なくとも371条に引っ掛ければ類型論も何とか可能ということになろうかと思いますので,371条に類する規定を設けるということであれば,いわゆる賃料等については【案2.2.5.2】ルール,その他の代替的物上代位については【案2.2.5.1】ルールというような考え方もできるのではないかと私自身は考えているところでございます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  もう一方ぐらい今日のうちにいただいてもいいかと思いますが,いかがでしょうか。

○水津幹事 片山委員から,付加的物上代位については,【案2.2.5.2】ルールによる一方,代替的物上代位については,【案2.2.5.1】ルールによるという意見が出されました。しかし,類型論をとるのであれば,これと逆のルールとすることも考えられます。すなわち,付加的物上代位では,担保権者は,元の財産について担保権の実行をすることができます。そのため,この意味では,物上代位は,担保権者にとって文字どおり付加的なものです。これに対し,代替的物上代位では,担保権者は,元の財産について担保権の実行をすることができません。そのため,この場合には,担保権者は,物上代位によるほかありません。このことに着目すれば,付加的物上代位については,【案2.2.5.1】ルールによる一方,代替的物上代位については,【案2.2.5.2】ルールによることとなりそうです。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  物上代位に関しましては,私の個人的な考え方かもしれませんけれども,今の範囲で議論を終結させるというわけにはいかないような気がいたします。藤澤さんだったと思いますが,処分権限の問題を明らかにしないままに,実は(1)の問題は語れないのではないか,そもそも売却することができるのかとか,できないのか,売却したときにどういうふうなルールになるのかという,善意無過失という話が出たりしましたけれども,そういうのが決まらないうちに本当は(1)の問題は分からないのではないかという話も早い時期に出ていたところだと思います。そういった観点からの整理も必要だと思います。もちろん1回で全ての整理が済むわけではありませんし,そういった処分に関しましては今後詰めていって,それとの関係でまた5の1に戻るということも必要かとも思いますけれども,もう少し皆さんが考える問題点ないしは考えるべき点だと思われる点につきまして,御意見が伺えればと思います。また,本日用意していただきました資料のうちの6については,まだ一切やっていないという状況にあります。しかし,時間が参りましたので,本日は5の途中まで行ったと考えて,5と6は次回,続けてやるとともに,次回はまた次回で御議論いただくべき点は多々あろうかと思いますけれども,時間でございますので,この辺りにさせていただければと思いますが,よろしいでしょうか。

  本日の段階で何か特に御発言というものがありましたら,お願いしたいと思いますが,よろしいですか,次回続けてということで。

 それでは,本日の審議はこの程度にさせていただくことにいたしまして,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。

○笹井幹事 本日もありがとうございました。

 次回日程ですけれども,6月8日火曜日,時間は同じく午後1時30分から午後5時30分までとなっております。

○道垣内部会長 それでは,法制審議会担保法制部会の第2回会議を閉会にさせていただきます。

  どうも熱心な御議論をありがとうございました。また次回もよろしくお願いいたします。

-了-

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