加工 法制審議会担保法制部会第2回会議 議事録

https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00064.html

部会資料2 担保法制の見直しに向けた検討(1)

https://www.moj.go.jp/content/001348285.pdf

第1 日 時  令和3年5月11日(火) 自 午後1時31分                 至 午後5時32分

第2 場 所  法務省大会議室

第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(1)

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○道垣内部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第2回会議を開会いたします。

  御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

  本日は沖野委員,衣斐幹事が御欠席と伺っております。また,大西委員,門田委員,青木則幸幹事,横山委員というのが途中で中座されるということを伺っておりまして,それは適宜お願いいたします。

  次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。

○笹井幹事 部会資料2「担保法制の見直しに向けた検討(1)」がございます。こちらにつきましては,後ほど,審議の中で,事務当局から御説明いたします。

○道垣内部会長 ありがとうございます。資料の方を御確認いただけましたでしょうか。

  それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日は「担保法制の見直しに向けた検討(1)」という,担保法制部会資料2というものについて,一読目の検討をしたいと思います。まず事務当局から御説明いただくのですが,御一読いただいた方は既にお分かりだと思うのですが,本日準備した資料もかなり広範囲にわたっております。そんな勢いでどんどん審議をやって,内容を決めていくのかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが,そんなつもりはありませんで,あくまで一読ということです。ですので,今日この段階でそれぞれのところについて意見をまとめる必要はありませんけれども,どのようにそれぞれについてお考えかということについて皆さんの御意見をお伺いできればと思います。

  それでは,資料1の「第1 総論」について,まず説明をお願いいたします。

○笹井幹事 それでは,部会資料2の「第1 総論」のうち,1から3までの部分につきまして,まとめて御説明いたします。

  まず,1ページの「1 統一的な担保制度を設けることの是非」では,担保制度全体の設計として,動産か債権か,担保権者が目的物を占有するのか,設定者が占有するのかなどの態様に応じて複数の類型の担保制度を設けるのか,一つの統一的な担保制度を設けるのかという問題を取り上げました。日本法の既存の制度は,複数の類型の担保制度となっているわけですけれども,アメリカの統一商事法典を始め,これに倣った担保制度は,統一的な担保制度だと理解されていると思います。

 統一的な担保制度は,統一的な公示制度を設けるということとも結びつきやすく,対抗要件制度を含めた制度の単純化にもつながり得るともいえますし,また,その目的物の特定としてどの程度詳細なものを求めるかということにもよりますけれども,債務者の財産に包括的に担保を設定するという議論にも対応することができる可能性もあろうかと思います。もっとも,目的物の性質によって,例えば実体的な効力や実行方法など,設けるべき規定がかなり異なってくるとも思われますし,どれだけ意味のある共通の規定を設けられるかという疑問もあろうかと思います。

  なお,今御紹介いたしましたアメリカのUCCやUNCITRALのモデル法は統一的な担保制度だと申し上げましたけれども,目的物が動産である場合や債権である場合に特有の規定も設けておりますので,統一的な担保制度なのか,あるいは類型ごとの複数の制度なのかといいましても,結局は程度の問題だといえるかもしれません。

  また,具体的にどういう規定が必要なのかを個別に検討していくに当たって,まずは動産についてはどうなのか,債権についてはどうなのかというように,目的物の性質等に応じた検討を行わざるを得ないと思います。

  ただ,ここでは,分析の視点といいますか,理念型として,統一的な担保制度と,個別に必要に応じて一個一個制度を設けていくというモデルがあり得るのではないかと考えて,問題提起をいたしました。

  続きまして,3ページの「2 担保の類型」というところですけれども,これは,1において複数の類型の担保制度を設けるという考え方を採った場合に,現在の動産質や権利質に加えてどういった類型を設ける必要があるのかという問題提起をしたものでございます。

  まず,再三指摘されておりますとおり,現在は動産の非占有型の担保制度が存在しておりませんので,この類型については規定を設ける必要があるのではないかと思います。その際,集合動産についても検討の対象にする必要があるのではないかと考えております。

  また,債権につきましては,現行法上も債権質という典型担保権がございますけれども,実務的には債権譲渡担保が用いられることが多いという現状を踏まえますと,債権を移転する形式による担保制度についても併せて規定を設けることが考えられるかと思います。また,動産や債権以外のどのような財産について担保制度を設ける必要があるのか,そもそもそれ以外に設ける必要があるのかということにつきましても,御意見をいただければと思っております。

  「第1 総論」の最後,5ページの「3 担保制度の規定の設け方」につきましては,前回少し御紹介申し上げましたけれども,現在の譲渡担保や所有権留保の形式を踏襲して,当事者が担保目的で所有権その他の財産権を移転あるいは留保したというような場合の具体的な法律関係を規定するという方式と,あるいは一つの新しい典型担保権を設けるという方法とが考えられるかと思います。これにつきまして,3において問題提起をいたしました。

  第1につきまして,簡単ですけれども,私からは以上でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  お気付きかもしれませんけれども,UCCのように統一的な担保制度を設けるといったときに,いろいろなレベルというのがあるわけでして,完全に登録制度にして,登録を一本化するというのと,それは別に,概念的に一本化する,様々な担保手段を概念的に一つの担保権としてとらえるとか,いろいろあり得ます。そして,それが,どういうふうに結び付くか,UCCならUCCという制度を捉えて,日本の立法論とどのように結び付くかというのは,いろいろな結び付き方というのがあろうかと思います。そういう幾つかの分岐があることも踏まえまして,全体としてどういうふうなタイプの担保制度というのを目指すかということについて,ざっくばらんに御意見を伺えればという次第でございます。どなたからでも結構でございますので,御自由に御発言いただければと思います。

○鈴木委員 地方銀行協会,鈴木でございます。部会のゴールの一つは,法的な安定性確保にほかならないけれども,もう一つは,停滞するABLなどの融資形態の一層の普及と考えております。1ページの30行目のところですが,統一的な担保制度について,実務に大きな変革を迫るとか,導入するのであれば大きなメリットが必要とされていますけれども,一方で制度が単純化できるなどのメリットが示されています。今現在十分に普及していないABLなどの融資形態にインパクトをもたらす何らかの仕掛けは必要だと感じていまして,統一的な担保制度はその仕掛けになり得ないだろうかと,アナウンス効果が期待できるのではと考えております。

  金融機関としては,現行の譲渡担保で機能している担保に害が及ぶのは好ましくないので,各論としては保守的なポジショニングをとるわけですけれども,一方でABLの特徴としては,比較的足の短い貸出しであることが多いので,不動産担保よりは機動的にルール変更に対応できる面があるとは思っております。さらには,移行措置が確保されれば,そこの部分は問題にならないと考えております。飽くまで選択肢を増やすという目線であれば,使い勝手を追求していくこともできるのではないかと考えております。

  立法作業では多くの調整が必要ですし,実務の連続性を重視する点,そこは理解しておりますけれども,ユーザー目線で何かが変わったという出来栄えの部分も欲しいかなというところはお伝えしておきたいと思っております。これは何も統一的な担保制度であったりとか,新たな典型担保でなければいけないということではありませんけれども,議論のスタートですので,ここの部分は確認しておきたいと思いまして,手を挙げさせていただきました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○山崎委員 山崎金属産業の山崎です。今,総論の統一的担保制度を設けることの是非に関してなのですけれども,やはり我々中小企業の立場としては,統一的な担保制度が実現できればそれには越したことないのですが,ただ,種類ごとに担保を設定した方が立法化に掛かる時間や動産担保融資などの普及に掛かる時間が短くなるのであれば,そちらの方を肯定したいと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。先ほど鈴木委員から,統一的な担保制度を設けることについての意義に関するお話をいただいておりますが,私も同じく金融機関の立場からの意見として,目的物の種類ごと,それから占有権限の所在等の態様に応じて複数の類型の担保制度を設けるという方が実務にとっては望ましいのではないかということを申し述べたいと思います。

  部会資料においても言及されているのですけれども,仮に,統一的な担保制度を設けることの一環として,統一的な対抗要件具備制度を設けるということになりますと,それがいわゆる真正譲渡の場合の対抗要件制度と異なる制度として設計されるという場合には,例えば,ある譲渡行為として行われた取引が,事後的に,実は実態として担保設定行為であった,そして,その担保設定行為に関する対抗要件は具備されていなかったといった攻撃がなされ,結果として行為の効力が覆ってしまうということなりうるのだとすれば,慎重に検討する必要がありそうなのかなとは考えております。

  現状の実務上,例えば証券化・流動化取引という取引類型において,いわゆる真正譲渡性が大きな論点として慎重に検討されているところでございまして,真正譲渡性を確保するために,例えば契約中において真正な譲渡をする意図であるということを明記する等の契約上のアレンジメントを行っていたり,法律専門家から真正譲渡に関する御意見書をいただいたり,といった対応を行っているところがございまして,これが統一的な担保制度の導入と,それに伴う担保固有の統一的な対抗要件具備制度の導入に伴い,一般的な売買等の譲渡取引に関しても同じような配慮が求められるということになるのだとすると,取引に対する影響というのは必ずしも少なくはないだろうと考えているところではございます。

  ABLの話がございましたが,そういう取引を普及させていく際の起爆剤の一つとして,何らかの象徴的な取組があった方がよいというところはよく理解できるところではあるのですけれども,現場の意見を差し当たり拝聴している限りにおいては,例えば現状におけるような,個別の目的物ごとの担保権を積み上げることによっても大きな支障はないでしょうという見解も多く聞かれるところではございます。こうした意見も総合的に勘案させていただきながら,新制度の導入のされ方によるとは思うのですが,そのインパクトに鑑みた場合に,統一的な担保制度の導入のメリットをどこまで享受できるのかということについては,少し慎重に考える必要がありそうなのかなと考えているところでございます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○佐久間委員 私は実務のことは全然分かりませんので,実務について妨げになるようなことを改正でしてはいけないと思っているということを申し上げた上で,せっかく今回,立法することになるのですから,説明でいうと6ページの下の方にあります,実質的な担保取引なのだけれども,今回の改正を経ても結局適用する規定がない,そういう担保取引が存続する,ということを回避することがすごく大事なのではないかと思っています。その回避を図ることに当たっては,一つ一つの担保の積み上げというのはものすごくハードルが高くて,包括的というか網羅性のある担保制度,どのぐらい包括的かは分かりませんが,そういうことをした方がよろしいのではないかと思っています。

  そう思っているところ,先ほど本多委員が真正譲渡と担保取引とで真正譲渡の証明が要るようなことになると困るとおっしゃいました。それは正しくそうなのだろうと思うのですが,例えば,今日の後半の方で出てくることだと思うのですけれども,対抗要件の制度は,例えば現状のまま存置をして,しかし,担保取引の場合にはそのための特別のファイリングを求める,そのファイリングがされているものは担保として一定の処遇がされるけれども,そのようなファイリングがされていないものについては,対抗要件は具備しているけれども担保としての処遇はできないというようなことをすれば,例えば真正譲渡の証明が要る,対抗要件が欠けていて困るなんてことは起こらないと思います。何を申し上げたいかというと,必ずしも担保を個別に積み上げていかないと今までの実務を台無しにするようなおそれが強くなるとは限らないのではないかと思うということです。

  もう一つ,その関連で,実は資料でよく分からないので,説明をいただければと思うところがございます。それは,5ページの3のところなのです。【案2.1.3.1】と【案2.1.3.2】の違い,特に【案2.1.3.2】の意味だと思うのですが,新たな典型担保物権を設けるというときも,例えば次のような二つの設け方で全然イメージも違ってくるし,設けるべき内容も違ってくると思うんです。

  例えば,一つは,現状の譲渡担保を前提に考えますと,【案2.1.3.1】の①にあるような,債権を担保するため財産権を移転する契約というのがありますが,これに続けて,その「契約がされた場合に,その契約により債権者が取得する権利を譲渡担保権という。」,といってしまえば,これは一応,一つの典型担保権になるのではないかと思うのです。他方で,例えば今の抵当権の規定を模して,動産譲渡担保権というかどうか分かりませんが,例えば,「動産抵当権者は債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した動産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」と定めた場合も,これも新たな典型担保権だと思うのです。

  結局のところ,中身でどういう担保権,譲渡担保を包括的に全部捉えられるような【案2.1.3.1】の①型で組んでいくのか,そうではなくて,既存の典型担保権に極めて近い形で新たな担保権を設けていくのかで全然違うと思うのですが,【案2.1.3.2】ではどちらもあり得ることだと思うものですから,【案2.1.3.2】の心としてどうなのか,私が申し上げたのでいうと後者の方を基本的には念頭に置いておられるのか,資料においてですね,ということを伺えたら有り難いと思いました。

  私自身は,【案2.1.3.1】の①型でなるべくやっていって,あとほかの財産権についてもできるだけ漏れがないように,同じような規律を設けられるのだったら,というか,広く捉えられる規律を設けられるのだったら,そうしておいた方がいいのではないかと思っているということです。

○道垣内部会長 ありがとうございます。少し質問にわたる部分がございますので,何か笹井さんの方からお話があれば,お願いします。

○笹井幹事 今,佐久間先生の御指摘がございまして,もしかしたら【案2.1.3.1】も【案2.1.3.2】も程度問題という面があるのかもしれませんが,資料作成時に念頭に置いていたものとしましては,【案2.1.3.2】は佐久間先生がおっしゃったものでいいますと後者の方,現在の典型担保物権に非常に近いものを念頭に置いておりまして,【案2.1.3.1】の,譲渡担保権と名前を付けたら確かに一つの担保物権かもしれませんけれども,そこでは形式的には所有権が移転するという形を採る。所有権が移転したのであって,担保物権とは少し質的に違っているものだというふうに考えておりました。

○道垣内部会長 まだ幾人も手を挙げていただいておりますので,いろいろな御意見をまず伺いたいと思います。金融庁の尾﨑さんからお願いいたします。

○尾﨑幹事 統一的な担保制度を設けることの是非に関連して,3点ほど申し上げます。

1点目ですけれども,まず,現状の個別の動産や債権の担保実務について,正確に認識した上で議論する必要があると考えています。いただきました資料の2ページ目の(注5)に,「優先順位のルールを通じて最初の債権者が包括的に優先権を取得できる点も踏まえ,それがアメリカの融資実務を反映したものであること,これに対して日本においては融資額に見合った個別の動産や個別の債権に担保権の設定を受けるのが一般的な担保実務」といった記載があり,この注書きが付された,1ページ目の本文29行目には,米国の「UCC第9編のような統一的担保制度を導入することも考えられるが,これは実務に大きな変革を迫ることになる」といった記述がございます。こういった記述は,必ずしもそうした意図ではないのかもしれませんが,“米国では包括的な担保制度に則した融資実務があり,日本では個別担保制度に則した融資実務があり,それぞれの融資実務に沿った制度が既にあるのであるから,制度を変えることには慎重で在るべき”とも読めるように思います。

  しかしながら,日本の金融機関については,不動産ではなく,融資額に見合った個別の動産や個別の債権に担保権の設定を受けるといった実務は,太陽光発電事業や比較的規模の大きな事業再生案件を除いてほとんど普及しておらず,一般的とまでいえるような確立した実務はないと考えられます。もちろんそういった実務がないわけではないけれども,現状の実務を前提とすれば,制度の導入によって変革を迫られるものというのは融資実務全体からみるとかなり限定されたものではないかと考えております。

  加えまして,米国におきましても,事業全体の担保を活用して事業に必要な資金を丸抱えで融資する実務しかないわけではなく,融資額に見合った不動産や動産・債権を個別に担保として取るといった実務もございます。

 また,前回御説明しましたように,日本におきましても,事業の将来性を見た融資への取組が広がりつつあります。

 重要なのは,アメリカにおきましては事業者のニーズに応じた複数の制度オプションと,その制度に支えられた資金調達手段が用意されているのに対して,日本ではこれらの選択肢が少ない状態にあることだと考えております。例えば,前回申し上げたように,事業の将来性を見た融資を行うに際しても,事業そのものを担保にするということができないという状況にあります。

  担保制度を議論する場合においても,多様な金融ニーズに応じて,様々な使いやすい担保のオプションが用意されているという観点がまず重要であって,統一的な担保制度かどうかというは,どちらかというと形式的な話かと考えております。

  次に,2点目です。現状を理解した上で,今回の担保制度の改正によって後押しする実務をはっきり共有する必要があるのではないかと思います。実務を後押しするに当たって,法制度やその他の要素をどのように変える必要があるのか,借手や貸手双方のコストやリターンの関係を踏まえたロジックと,活用事例のイメージを共有することが重要だと思います。例えば,現在活用されているABLですけれども,これを,先ほど申し上げました太陽光発電関連事業や再生局面以外の場面で普及させようとするのであれば,何の課題を乗り越える必要があるのか,しっかり検討する必要があると考えています。

  特にABLの場合は,事業全体の評価やモニタリングだけでなくて,特定のアセットについての評価やモニタリング,万が一の場合の処分にコストが掛かることに注意が必要になってくると考えております。活用されるのは,こうしたコストを上回るリターンが確保される場合であり,かつ,それが事業者にとっても利益となる場合であって,多くは借入の規模が比較的大きい場合なのではないかと考えています。このような規模の比較的大きなABLを更に推進することを目的とするのか,あるいはもっと規模の小さいABLについても普及させたいと思うのか,また,再生局面以外にも普及させたいと思うのか,その目的によって,例えば対抗要件とか優先順位に関する制度を整備する際にどのような点を重視すべきなのかということが変わってくるのではないかと考えています。

  最後に,3点目ですけれども,これは後の会合で詳しく取り扱われる論点であると考えておりますが,統一的な担保制度について議論するこの機会に,統一的な担保権の優先関係や登記の制度について意見を申し上げたいと思います。結論から最初に申し上げますと,2ページの26行目以降に書かれているような,国連のモデル法のような方向性,つまり目的財産の種類にかかわらず利用することができる統一的な登記制度,あるいは登記ほどには詳細ではない統一的なプラットフォームなどを設けて,ここに情報を登録することを担保の第三者対抗要件とし,また,担保が競合した場合の優劣を判断するに当たっての基準とするといった方向を重点的に議論すべきではないかと考えています。

  今のように動産や債権で登記制度が分かれていて,それぞれ見に行かなければならない,しかも,登記を備えていない優先する担保権者がいるかもしれないといった状況は,個別動産の担保融資など一部の融資実務にとっては都合がよいという面もあるのかもしれませんが,それ以外の融資実務を不安定でコストの掛かるものとしてしまって,その発展を阻んでいる可能性があるのではないかと考えています。そのため,透明性の高いルールとプラットフォームを整備して,権利調査のコストや不意打ちのリスクを大きく下げることで,法律家でない一般の事業者や金融機関でも優先関係について理解でき,担保権を幅広く活用できるようにすることが望ましいと考えています。そうすることで様々な貸手が参入しやすくなり,競争が促されますので,事業者はよりよい貸手を選びやすくなると考えます。もちろん今まで占有改定によって登記をせずに対抗要件を備えられたのに,新たに登記を求められるようになると,負担が掛かってしまうという御意見もあると思います。しかし,登記優先ルールという形をとれば占有改定の実務が否定されるわけではありません。また,そういった限られた一部の実務が登記なく優先できることで,その他の実務,特に金融機関による融資のコストが大きく上がっており,そのリスクを負えないために融資に踏み出せない金融機関もいる,つまり,融資を受けられない事業者もいるという事実にも目を向ける必要があるのではないかと思います。日本経済,社会全体の利益を考えれば,全ての担保権について登記を優先させつつ,一つ一つの登記のコストを下げることを目指すべきであろうと考えています。

  もちろん,これまでの議論の中でも出ましたけれども,真正譲渡への影響を抑えるために,登記優先ルールの対象範囲など具体的な制度設計は問題になるかもしれません。しかし,一番重要なのは制度のユーザーの視点であります。結局,ユーザーに利用してもらえるものでなければ作っても残念ということになりますので,これを第一に考えていく必要があると考えています。個別に限界事例を考えれば様々な難問があると思いますけれども,日本経済,社会全体の利益を考えて,多くの真っ当なユーザーに利用してもらえるように検討していく必要があると考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○大西委員 大西です。よろしくお願いします。実務家の立場で申し上げますと,先ほどいろいろな方々の御意見も出たように,まず,やはりこの立法のスピードというのはそれなりに維持しなくてはいけない,一方で分かりやすい制度,それから使いやすい制度,そして,今の実務に弊害,悪影響を与えないような制度,そういうようないろいろな視点を踏まえたユーザー目線でそういう制度を作っていくべきなのかなと思います。

  そういう中で,私自身は立法に携わったわけではないのですが,統一的な担保制度での検討から出発して,それで,何らかの困難な事情があったときに別の個別制度に途中でスイッチするパターン,若しくは,逆に個別に考えていった上で共通項を見付けて,統一の担保制度になるパターンのように,検討の途中から法制度体系を変えることがもしできるのであれば,余りこの制度体系の議論をどちらかに決まるまでやる必要はないのかなと思いました。この場合やってはいけないことは,統一的な担保制度を作るという価値のために,実務に悪影響を及ぼすような制度になることも辞さずという考え方で進めることだと考えます。この点は,是非諸先生方のいろいろ御意見をいただきたいです。

  それから,2点目は,先ほど尾﨑さんの言われたとおり,ABLがどれほど普及しているか,ABLは実際今のニーズとしてあるのか,またはABLはもっと普及すべきなのか,それとも既に相応に普及していて充足しているのかどうかについて,事実関係を把握した上で対応した方がいいと思います。先ほどのお話にも出ました,事業の担保制度については,私は実務ニーズが相応にあると思っていますので,これは制度上きちんとカバーしていかなくてはいけないと考えています。ただ,その前提として,その辺の事業担保のニーズの把握ということも重要だと考えています。いずれにせよ,ユーザーにとって使いやすい担保制度という前提で方向性を決めていければと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○井上委員 ありがとうございます。最初のところの統一的な担保制度についてですけれども,統一的という用語の意味について,今,何人かの委員の方々の御発言を聞いていて,もしかすると理解が一致していないような気もしたので,そこを確認したいのですけれども,私自身の理解は,統一的な担保というのは,包括的な担保とは別のもので,包括的担保というのは,資料でいえば3ページの2の直前のところになお書きで書いてある,金融庁あるいは中小企業庁から御提案があったような担保のことだと思うのですけれども,ここで統一的な担保というのは,むしろ個別動産であれ,個別債権であれ,あるいは集合動産,集合債権であれ,あるいは知財であれ,「担保といえばこれ」という一つの担保を作るということかなと思っていまして,それがもちろん包括的な担保と重なる場合もあると思うのですけれども,財産の種類を問わず担保を一つのものにすると,もちろん特則はそれぞれ設けるのでしょうけれども,担保を統一するという意味の用語かなと考えています。そういう観点で申し上げると,包括的な担保については,前回議論されましたように,私は動産・債権等の担保とは別に検討すべきだと思いますけれども,統一的な担保に関していうと,メリットよりも,日本の現状を大きく変えるインパクトといいますか,ハードルが高すぎるような印象を現時点では持っております。

  例えば,一つの例を挙げれば,債権の担保については,将来債権譲渡担保は,現行法上の将来債権譲渡のルールをベースに,将来発生する債権を現時点で譲渡でき,対抗要件も現時点で備えられることを前提として成り立っていると思うのですけれども,それに比べると,動産の担保については,将来の動産を現時点で有効に譲渡できるという考え方をとらずに,集合物という概念を媒介にして,将来入ってくるものについても現時点の担保設定の効力を及ぼし,対抗要件も備えられると考えられているわけですけれども,こういったかなり基本的なところで将来債権と集合動産は違う構成によって担保が成り立っている中で,統一的な一つの担保で動産,債権,知財その他を規律するとなると,どちらかをどちらかに合わせることになるのか,よく分かりませんが,かなり根本的な,実体法上の効力も含めた説明の変革を要するような,現時点ではイメージを持っておりまして,少し難しいのではないかと考えます。その意味では,包括的な担保とは違って,統一的な担保のハードルはすごく大きくて,それを超えるメリットが今の時点では見いだせないという印象を持っております。これが1についてです。

  次に,続けて申し上げますと,5ページのところの3の担保制度の規定の設け方ですけれども,これについては1案と2案があるわけですが,私は,この二つの区別は,先ほどの事務局の御説明のように理解しておりました。ただ,事務局の説明の理解をベースにしながらも,6ページの35行目のところを見ますと,担保目的で所有権が移転された場合について,新たに設けた担保物権の設定契約であるとみなすことも一つのバリエーションとして書かれているわけです。ただ,これを担保物権創設型に入れるのは,個人的には少し不思議な感じがしていまして,不思議な感じというのは,ここの部分は,担保目的で財産権を移転する契約をした場合には,新たに設けた担保物権の設定契約であるとみなすということですから,「担保目的で財産を移転する契約をした場合にはこれこれという規律に服す」と定めるのと変わらないように思うのです。そうすると,これは担保物権創設型と担保目的取引規律型の中間といいますか,両方を立法するのにむしろ近いような印象を持っておりまして,その意味で,三つを比べる方がよいように思うのですが,比べるという意味でいうと,先ほど佐久間先生がおっしゃったように,狭義の,つまりみなしのない担保物権創設型は,隙間が残るという点で残りの二つと大きく違っていて,結局のところ,担保物権の創設をする際に合理的に見通しのよい非占有の動産担保制度を整備すると,見通しの悪い非典型担保,譲渡担保などは使われなくなって,新しい典型担保に収斂していくのだという考え方,そういう志向の立法をするということではないかと思うのですが,実際には,それほどうまくいくかというと,恐らくそんなこともなくて,例えば,非典型担保として残る譲渡担保の方が,新しく作った担保物権よりもレンダーに有利であるとか,あるいは,取引時点であまり違いをあらわにせずに問題を先送りして曖昧さを好むような当事者がいると,結局のところ新たに作った典型担保が使われなくなってしまうように思うので,私も佐久間先生がおっしゃるように,隙間がない方がいいのではないかと思います。

  そうすると,担保目的取引規律型か,あるいはみなし付きの中間型といいますか,どちらかにすべきではないかと思っておりまして,その二つにどういう違いがあるのかというのは現時点では十分に検討できていないのですが,この二つは果たして実質的な違いがあるのだろうかということについて,もし事務局の方でお考えのことがあれば,教えていただきたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  最後,質問が事務局に対してありましたが,全体に関わる事柄ですので,少しほかの方の御意見を伺ってから,場合によっては事務局に答えていただくことにしたいと思います。

○亀井幹事 ありがとうございます。中小企業庁としても,借手の中小企業の立場から,この制度をどう在るべきなのかということを考えさせていただいております。個々の資産の価値ではなくて,事業の価値を評価して融資を受けられるというようなインフラを是非作っていただきたいと考えております。また,作られるべき制度は分かりやすくてシンプルなもの,そういうものがよいとも考えております。そういうふうに考えると,個々の資産ごとに担保を押さえる制度のままでは動産とか債権とか,事業の中で形を変えていく資産をそれぞれおさえなければならず,複雑な仕組みが必要となります。そのため,個別の資産を区別せずに事業に用いられる資産を包括的に担保として設定できるような,そういう制度がよいのではなかろうかと思います。1の統一的な担保制度を設けることの是非というものについては,先ほどの金融庁さんが述べられた意見と同じく,区別をしないで統一的な担保制度を作るべきであろうと考えます。

  また,5ページの3の担保制度の規定の設け方については,こうした検討の結果新たな典型担保を設けるという必要があるのであれば,そうすべきなのだろうと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  それでは,冨高さんからも手が挙がっていますので,よろしくお願いいたします。

○冨高委員 担保制度を使いやすくすることは,労働者から見ると,資金調達が容易になり,事業が継続することによって雇用も継続する,という視点で,一定程度メリットがあると思います。しかし一方,倒産間際のケースで考えると,動産に担保が設定されていれば,未払賃金債権のような労働者の労働債権は担保に劣後することとなり,労働者に対する引当財産が減る懸念があります。担保制度の使いやすさと労働債権の保護とのバランスを慎重に考える必要があると思います。

  もう一点,5ページ12行目の契約上の地位には,使用者の地位や労働契約も含まれるようにも考えられます。その場合,事業譲渡に類するということであれば,事業譲渡においては,労働契約の承継について,労働者の同意が必要です。事業譲渡との兼ね合いについて考えなければならない点や,労働者保護の観点から,留意すべきことがあるか慎重に検討するべきだと考えます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  片山さん,さきほどは接続状態が悪かったようなので,再度お願いします。

○片山委員 片山ですが。

○道垣内部会長 大丈夫です。

○片山委員 よかったです。ありがとうございます。大変失礼いたしました。貴重な時間をお取りしてしまいまして。私の方からは,統一的な担保制度を設けることの是非と,それから担保の類型ということについて若干,コメントさせていただければと思います。

  まずは,井上委員からも御指摘がございましたように,包括的担保ということではなくして債権,物権,動産も含めて全て統一的な担保にするかどうかということですけれども,これはいろいろ御指摘もありましたとおり,仮に統一的な担保制度を設計するとしましても,ふたを開けてみると,やはり目的資産の類型に応じて個別の規定を設けざるを得ないという面はあるようですので,決して刻む担保がよいということではないでしょうけれども,やはり2番の担保の類型という点は意識せざるを得ないと考えております。

  特に,比較法的に見ますと,私が研究しております大陸法圏でも,UCCの影響を受けまして,1991年に抵当権の一元構成を採用したケベック法がございますし,それからUNCITRALのモデル法に準拠した2013年のベルギーの動産質権の一元構成というのもございますけれども,いずれも近時は債権担保については動産担保から切り離して例外的な取扱いをする傾向が強く見られているということでありますので,今日的には,動産も債権も含めた統一的な担保というのを模索するということ自体は余り意味があることではないのではないかと思っているところでございます。

  他方,包括的担保の必要性ということは,やはり当然あるでしょうから,担保の類型ということに関しまして,私が考えている点を2点ほど述べさせていただければと思います。それは,担保目的資産を分類するに際して,民法上の担保制度設計におきましても,やはり貸借対照表,バランスシートの固定資産,流動資産という区分,法令では会社計算規則の139条ということになりますけれども,その区分を意識しておく必要があるように思っております。固定資産につきましては,不動産を除いた資産として,設備とか機械などの有体動産だけでなく,知財等の無体資産,それから,のれんとか契約上の地位,そういったものについては収益を生み出す装置ということで,担保目的資産の集合的な把握を可能とする枠組みや概念が有用であるように思っています。

  一方では,事業とか事業財産という切り口で特別担保を制度化するという方向もあるわけですけれども,事業という単位の大風呂敷でなくても,というのは,事業と申しますと,やはり流動資産も含めた全ての資産ということを意識しておられる方が多いかと思いますが,そうではなくして,流動資産を切り離した固定資産の集合体,すなわち収益を生み出す装置という意味での集合的な把握を,例えば集合財産であるとか,あるいは集合物といった概念で導入していくということも一つの選択肢として考えていくべきではないかと思っております。その限りで,金融機関も収益装置としての固定資産を集合的に把握して,事業者と一体となったリレーションシップバンキングといったものが推進し得るのではないかと思っております。

  これに対して流動資産ですけれども,近時は流動資産担保ということがいわれてはおりますけれども,流動資産は基本的には設定者である事業者が次の事業の展開のために活用されるべきものでありまして,その間の事業活動を通じて関与する様々な利害関係人,すなわち事業債権者とか労働債権者などとの間での調整が必要になってくるものですので,本質的にその全てを金融機関が管理したり,独占的に排他的に支配を及ぼすということには一定程度,抑制的であること,換言すれば,いわゆる利害関係人の調整というものが必要になってくるのではないかと感じております。

  2番目に申し上げたいことは,担保目的財産としての動産と債権の本質的な差異があるということを,きちんと認識すべきではないかということでございます。動産というのは,そのままでは債権の満足に供することはできず,必ず換価というものを前提とします。債権者は動産自体が欲しいわけでは決してありませんし,その限りで動産に関しては,動産の所有権自体を担保権者に帰属させるということが本質的に過剰な効果であるということになるかと思います。担保の制度設計としては,債権者に換価処分権とか優先弁済権を付与する構成を基本とするということにそれなりの合理性があるのかと思っております。

  これに対して債権というのは,担保目的財産としてはやはり動産に勝るメリットがあります。それは,狭義でのいわゆる換価を必要としないという点です。債権自体を担保権者に直接排他的に帰属させるということは決して過剰な効果ではなく,既に取引社会において一定の合理性が認められるに至っていると思われます。その点では,比較法的に見ても,支配,コントロールということによる占有担保構成であるとか,ケベックとかベルギーですけれども,それから,債権譲渡担保などの枠組みと同じように所有権担保構成を,脱法的な担保形態ではなくして,排他的な担保として正面から容認する,フランスもそうでありますけれども,そういった立法動向によっても裏付けられていると考えられます。

  以上,担保類型ということに関しまして,異なる二つの視点,固定資産と流動資産という区分を民法の中でも用いることができないかと,それから,動産と債権の本質的な差異という点を指摘させていただきました。どうもありがとうございました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○尾﨑幹事 井上先生から,統一的な担保制度と包括的な担保制度の間で少し誤解があるのではないかというお話もございましたので,私が申し上げたことについて,念のため確認させていただきたいと思います。

  まず,包括的な担保制度,事業全体に対する担保制度については,前回申し上げたように,是非御議論いただきたいと思っているものでございます。それに対して,統一的な担保制度に関しましては,先ほど申し上げたとおり,事業者の様々なニーズに応じて便利な担保制度がきちんと用意されていることの方が非常に重要であると思っています。他方で,それとは別に,対抗要件制度というか,担保権の間の優劣関係について,そういったものを明確にするための統一的な制度が在るべきだと申し上げました。先ほどの亀井幹事の御発言もそうした趣旨だと理解しております。統一的な担保制度というものがなければならないということを申し上げたものではございません。少し誤解があるといけないと思いましたので,確認のため,以上です。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○横山委員 規定の仕方というところで,私も少し,どのような観点でこの二つ規定の仕方が対置されているかということについて教えていただければと思います。規定の仕方の違いについては,先ほど佐久間委員,それから井上委員からもご指摘がありました。井上委員からは3番目の方法というのもありましたけれども,最初,私は,部会資料を読んで,この2番目の,典型担保物権を設けるという規定の仕方は,譲渡担保が担保権であるという権利の法性決定から出発する考え方によるものだと思いました。それに対して,この【案2.1.3.1】は,言わば仮登記担保法と同じように,契約の効力という観点から立法して,それによって移転された,あるいは担保のために留保された権利の性質決定について考えることはしない,権利の性質決定は解釈に委ねるという,そういうスタンスが示されているのかと思いました。

  しかし,先ほどの笹井さんのご説明では,この【案2.1.3.1】というのは,形式的であれ所有権が債権者に移転する,権利の帰属が移転するということが前提になるということでした。資料の後の方の説明は,そのような前提で読めばよいのでしょうか。つまり,この【案2.1.3.1】は,担保の目的であるけれども,所有権あるいは権利の帰属が移転するという,法性決定はされていることを前提に理解していいのか,後のお答えのときに一緒に教えていただければと思います。

  それとの関係で,部会資料の中には,担保の範囲内で所有権が移転するという言い方と,担保の目的で所有権が移転するという表現があるのですけれども,この二つの意味は異なったものとして使い分けられているのかについても,併せて教えていただければと思います。何となく,感覚的には,「担保の範囲内で」所有権が移転するというと,設定者に何か残っているような感じもしますので,よろしくお願いいたします。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  御発言は,いかがでしょうか。

  別にまとめる必要はないかと思うのですが,少し感想めいた整理をいたします。

 今までいろいろな御発言をいただきましたが,横山さんの最後の質問についても,後で私ないし笹井さんの方から答えますけれども,統一的な制度にするといったときの意味とか,何のために統一的な制度にするのかという問題がまず提起されたように思います。「何のために」というのは,本当はよく分からないところがあるのですけれども,ただ,統一的な制度にするということが,別のところについての一定の判断に結び付きやすいという点が幾つかあるというのが,皆さんの御見解ではなかったのかと思います。つまり,統一的な担保概念を採用すると,登録制度を一元化して,それを対抗要件にするということと結び付きやすいというのがあるというわけです。ただ,担保権概念としては統一しても,個別的に登録制度を設ける,動産と債権は現在は違うわけですが,それを維持する,また,特許権の場合にはこういうふうにするのだということになる可能性もあります。ただ,統一的な登録制度の採用という判断に,結び付きやすいという考え方なのだろうと思います。

  ただ,そのときに,動産については占有改定で対抗要件を具備しているという現在の実務において,急に登録制度というものが全部に要求されるということになると,実務に結構負担なのではないかという話も出ていました。しかし,それに対しては,占有改定自体の効力は否定しないで,登記を優先させるというふうに考えるということも可能なのではないかというのが尾﨑さんから示された御意見だったように思いますし,また,佐久間さんの方から,対抗要件とは別個に担保ファイリングという制度を用意して,担保ファイリングをすることによって一定の効力を付与するという可能性について発言がありました。まあ,担保ファイリングをすると効力が限定されるというのでは,誰もしないと思うのですが,それを行っていると効力が拡大されるということになりますと,ある種の登記優先ルールということで,同じ方向なのかもしれません。

  また,亀井さんの方からは,一貫した,というか,単純な,というか,一個の登録制度にすることが,目的物がいろいろ変容したときに対抗要件の問題を捉えやすい,対抗要件が具備されているという状態を維持するというように考えやすいという御発言があったと認識しております。つまり,債権の登録制度と動産の登録制度が全然違いますと,動産が売られて債権に変わったといったときに,その債権について担保権は効力が及んでおり,対抗要件が具備されているとはいいにくいのに対して,同じ登録制度において,動産から債権に変容しても担保権の効力が及ぶというふうに登録をしておくと考えると,それの方が対抗要件具備ということの継続が言いやすいのではないかということかなと思いました。

  もう一つ大きな柱として出てまいりましたのが,オプションを増やすという言葉が何人かの方から出てきたのですけれども,選択肢でありますけれども,そこに実は大きく二つの考え方の対立といいますか,違いがあったような気がいたします。尾﨑さんの御発言というのは,どちらかといえば,どういったときにどういうふうなものが使えるというふうなことを根本から考え直して,きちんとした担保制度を作りましょうというお考えではなかったかと思います。それに対して,新たな担保制度を作ることによって現在のものは現在のままで,それにプラスして,オプションが増えるという御認識で発言された方もいらっしゃったかもしれません。つまり,現在,譲渡担保というものが存在し,その譲渡担保について判例法理が進展しているのですが,それはそれとして存続し,プラスして,登録型の担保制度というものもできる,というお考えなのかなという気もしました。ただ,一言だけ感想を述べますと,それは少し無理だろうと思います。譲渡担保について手付かずのまま,新たな登録型の担保制度を作るというのは難しいのではないかという気がいたしました。

  それとも関係しますが,横山さんやほかの方がおっしゃいましたが,担保権を創設するというのと,担保目的の契約についてその効力を定めるというものとの選択肢ということなのですけれども,私自身は,この資料とは立場が違うかもしれませんけれども,契約の効力を定めるといったときに,所有権の移転が原則になると考える必要はないのだろうと思うのです。横山さんがおっしゃったように,譲渡担保についての現在の判例法理にように,所有権が担保の範囲内で移転するという考え方は,そもそも,通常の売買における所有権の移転というのと,所有権という概念自体を変容させているわけです。それならば,それって何なのだろうか,所有権ダッシュなのという感じがしてきまして,そうすると,所有権が移転しているという言葉遣いをしたとしても,それがどういう意味を持つのかというのは変わってくるのだろうと思います。なお,「担保の範囲内で移転する」というのと「担保目的で移転する」という言葉は資料において使い分けているのかという質問もできましたが,笹井さんが使い分けているとおっしゃったら使い分けているのですけれども,私が思う限りは使い分けていないのではないかという気がいたします。

  もう一つ,労働債権の問題というのが出たわけでありまして,労働債権保護の問題というのは,労働債権の保護にとどまる問題ではなくて,担保制度が使いやすくなって担保権者の権利が強くなってきますと,例えば倒産の局面などで,被担保債権全額については行使できませんというふうに担保権の効力を縮減するといった制度設計というのはあり得るわけです。労働債権との関係を考えるというときにも,担保制度自体は使いやすくするのだけれども,最後,効力において,コンフリクトがあるときは縮減されるというふうな制度設計もあり得るのかなと思います。また,事業譲渡などの関係で労働者保護の問題というのが提起されましたが,これは前回,大西さんからも,事業譲渡的な形で事業全体を担保に取ったときには,会社法の規律との関係でいろいろな手当てが必要になるということをきちんと押さえるべきだという御意見がございました。それはそのとおりだろうと思います。

  それと,ユーザー目線という考え方が何人かから出てきたのですが,これは若干,皆さんがおっしゃっているのが同じなのかどうなのかというのがよく分からなくて,尾﨑さんは一番明快で,新たに全部の制度枠組みを作って,ユーザーに使いやすくするというふうな方向で出されたのに対して,現在がこうやっていると,それもまあ使いやすいので,余り急にそれを使えないようにするのはいかんのではないかという意見もあったと思います。そのときには,移行期間を置けば,それは何とかなるのではないかという御発言もどなたからかあったと思います。

 そんなところがいろいろ対立軸としてあったのかなという気がいたします。まとめについておかしいという御意見も後でいただければと思いますが,藤澤さんから更に御発言のお申出をいただいておりますので,藤澤さんからもお願いいたします。

○藤澤幹事 道垣内先生のお取りまとめの後に発言することになってしまい,大変申し訳ございません。2つコメントをさせていただければ幸いです。

  一つ目は,UCC第9編にいう「統一的な担保制度」とは何かということについてです。UCC第9編の「統一的」という言葉には二つの側面があると思います。一つは担保目的物に関するもので,不動産を除く財産,すなわち「パーソナルプロパティー」といわれるものについて,それが有体物であろうが無体物であろうが,それらを目的とする担保権全部を一つの法典にまとめたというところに「統一的」といわれる理由があります。特に,財産の種類を問わず一つのファイリング制度に服していることで,担保についての対抗要件具備のコストが下がったと同時に,第三者からすれば情報が得やすくなったというメリットがあります。

  もう一つの「統一的」な点は,当事者がどのような法形式を採ったかにかかわらず,それは担保権であると性質決定して,一定のルールに服させるという点だと思います。質権(プレッジ)のような担保権だったり,動産モーゲージのように,担保権か所有権か争いがあった権利だったり,それから,所有権留保のように明らかに所有権であるもの,それらを全部まとめて「担保権」であるとした上で,一定のルールに服させ,取引類型に応じて特別扱いが必要であれば例外ルールを置いていくというような法体系にした,そういう意味で「統一的」といわれる側面もあると思うのです。

  「統一的」な担保制度を日本で作るかどうか検討するときには,後者の側面についてどう考えるかということも重要なポイントかなと思っています。つまり,不動産ではそうなっているのですけれども,担保目的で抵当権という権利を設定することと,担保目的で譲渡する(所有権を移転する)こととが両立しているのだけれども,それで分かりやすいのか,大丈夫なのかという問題です。動産・債権について新たにルールを作るとすれば,この二つが併存するような形,例えば債権譲渡担保と債権質とが併存する形が望ましいのかということも議論する必要があるかなと思いました。以上が一つ目のコメントです。

  二つ目のコメントは,条文の作り方についてのコメントと質問です。これは,先ほどお話しした「統一的」という言葉の前者の意味に関するものです。取りあえず担保目的取引規律型の立法を選択して,かつその規定を民法の中に置くとしたら,という感じで仮定を置きながら質問をさせていただきたいと思うのですけれども,民法の第2編の中に規定されている先取特権や質権の規定ぶりを見ると,まず総則があって,それに続いて財産の種類に応じた規定が置かれるというような構造になっています。債権担保目的の財産権移転契約について条文を作るときにも,総則があって,それに続いて動産の節,債権の節が置かれることになるのでしょうか。その場合には,総則の部分は不動産譲渡担保にも適用されたり,不動産・動産・債権以外の財産にも適用されたりすることになるのでしょうか。総則を置くという選択をした場合には,財産の種類を問わず適用されるという意味で,「統一的」な担保のルールが譲渡担保についてはできるような気がしたのですけれども,これについては諮問の範囲を超えてしまうのかなというような懸念も感じております。その辺りについて少し方向感を教えていただければと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。方向感はここの会議体が作るものであって,方向感を聞くというよりは,藤澤さんはどのようにお考えになるかの方が重要だろうと思うのですが,ただ,おっしゃった中に,譲渡担保について総論部分というのを作ると,それが不動産について適用されないというのは少し変な感じがすると,そうしたときには,諮問として不動産担保を今回扱っていないというふうにすると,そういうふうな形は置きにくいのかなと,そういう御意見かなとは思いましたが,何か笹井さんの方でありましたら。

○笹井幹事 幾つか御質問もいただきましたのでまとめてお答えしたいと思います。

  まず,井上先生,それから横山先生からも関連で,5ページの3の【案2.1.3.1】と【案2.1.3.2】についての御質問がございました。実質的なルールとしてどういうものが妥当なのかということを考えていけば,結果的に形成されるべき法律関係というのは最終的には一致してくるのではないかと思います。そういう意味では,どちらを採ろうと,目指すべきものというのが,もしかすると全く一緒ではないかもしれませんけれども,どこかに収斂していくということになるのではないか。ただ,そのときに出発点として【案2.1.3.2】では,明らかに担保物権という形で出発をしますので,その出発点が少し違っていると。したがいまして,設けるべき規定の中身などが変わってくることがあり得るのではないかと思っています。

  例えば,この後また御議論いただく範囲内を少し先取りするような形になりますけれども,設定者の債権者が差し押さえた場合に,担保権者が担保物権を持っていると考えるのだとすると,あまり第三者異議の訴えを提起できるということにはならないのではないかとも考えられ,そういったところで,どちらかの形式を採った場合に問題になったり,ならなかったりというものが出てくるのではないか。あるいは,同じような例ですけれども,14ページの4で,担保権者による処分を取り上げていますが,あえてここで「担保所有権者」としたのは,担保物権者であるとすると,処分できないというのは当然出てくるので,【案2.1.3.2】の立場からすれば,この4についてはそもそも議論する必要がないのではないかというように思いました。

  そういう意味で,今,二つの例を挙げましたけれども,目指すべきものとしては最終的には収斂するかもしれないけれども,そこにたどり着くに当たって,どういう規定,どういう論点を考えないといけないかということがそれぞれの方式によって違ってくるのではないかと考えていたということでございます。

  その点で横山先生から,【案2.1.3.1】を採った場合における担保権者といいますか,債権者の取得した権利について,一定の法性決定がされているのかということですけれども,私自身は,その譲渡担保における今までの判例の考え方は,権利移転型と理解されてきたと思いましたので,そういう理解を前提に先ほど御説明申し上げましたけれども,それを理論的にどういうふうに考えるのか,それは所有権そのものではなくて,何か変容しているものであるという理解を否定する趣旨ではございませんでしたので,先ほど部会長がおっしゃったような理解というのは当然あり得るものと思っております。

  それに関連して,目的で移転したか範囲内で移転したかということですが,判例の表現としては,「譲渡担保における所有権移転の効力は担保目的を達成する範囲においてのみ生ずる」というものですので,できるだけそれに近付けようと思ったのですけれども,全部書くとやや長いということもありまして,簡略化している箇所もあります。また,そもそもその取引が何のために行われたのかということだけ書けばいい場面と,所有権移転の効力がどの範囲で生じているのかということが問題にされているのかというところで,若干ニュアンスがあるかもしれませんが,結論的には部会長がおっしゃられたとおり,厳密な使い分けはされていないという御理解でよろしいかと思います。

  それから,最後に藤澤先生からありました,そもそも民法に置くのか,民法に置くとして第2編でいいのかということについては,まだ決めたわけではございません。民法に置くとしても第2編は物権ですので,その中に契約の効力を書いていいのか,特に債権を目的とする担保について,担保物権という概念に含まれるのかという問題もあろうかと思いますので,そもそもここに入れるのかということ自体がまだ確定的にはいえないと思います。その上で,どこに置くにしても,譲渡担保を総則プラス各則という形で設けるということは十分あり得ると思っております。十分あり得ると申しますのは,少なくとも債権と動産で共通する部分をくくり出すということは十分あり得るのではないかと思っておりますけれども,その際に,不動産を含めた形で規定を設けるのかという問題はあろうかと思いますし,また,動産や債権以外のものを含むという前提で総則的な規定を設けるのかということも含めて,今後の検討課題かなと思っております。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  契約の効力の規律型と担保物権の創設型について,その二つは違うのか,という話がありまして,同じ,ないし,かなり近付くのではないかという話もあったわけですが,笹井さんがおっしゃったように,どういうふうな規律と親和性が高くなるのかということはあるのだろうと思います。ただ,私は,例えば担保物権であると性質決定しても,そうすると第三者異議は絶対に認められないのかというと,私はそうではなくて,それは当該担保物権の効力次第だろうと思うのですけれども,議論のやり方とか頭の中の整理の仕方というのが差し当たっては変わってきますし,最終的にはもちろんどういうふうな形の条文構造を採るのかというのでは大きく変わってくるだろうと思います。ただ,最初はどういうふうな内容にするのかというのを決めていくという方が大切だと思います。

○片山委員 すみません,少しお時間を頂戴できればと存じます。関連する点,すなわち,担保目的取引規律か担保物権創設型かという切り口ですが,煎じ詰めて言えば,所有権移転型の担保なのか,制限物権型の担保なのかと,そういう対比とも理解できるかとは思います。その点に関して申し上げますと,摺り合わせをすればどちらでも同じなのだということはあるのかもしれませんが,基本的な対立図式としては,やはり私的実行の問題をどう考えるのかという問題とか,あるいは排他的権利の付与をどこまで認めるのか,排他的担保をどこまで認めるのかという点で,少なくとも理念的には大きく対立しているということかと思います。私的実行については所有権移転型が認められやすいのでしょうが,立法するとなると執行裁判所の関与も認めなければいけないという意味では,私的実行だけというわけではないのかもしれませんし,逆に,典型担保であっても私的実行を広く認めていけば,それほど差はなくて,程度差ということになるのかも知れません。これに対して,排他的な担保としてどこまで認めていくかという問題はやはり重要な点で,後順位担保権者を排除していいのかどうかという点,それから,この後も議論される設定者の債権者の差押えの排除すべきかという点,それから,倒産手続における取戻権の行使がどこまで認められるのか,あるいは取立権の排他的な行使が認められるのかという点などについて,両構成の理念的な対立はあるのかなとは思っておりました。

  そして,それとの関連で申し上げますと,結局二者択一にしなければいけないという議論なのか,それとも,6ページのところを拝読しておりますと,いろいろバリエーションはあるのですよというようなことを書いておられまして,例えば債権については債権質という典型担保の規定の充実とともに,債権が担保目的で譲渡された場合に関する規律を設けるということも考えられるということを書いておられますし,他方,動産については非占有型の典型担保,債権については譲渡型という規律も考えられなくはないですというようなことを書いておられますので,是非,二者択一ではなくて,これらのバリエーションも検討していただければと切に思っている次第であります。

  と申しますのは,動産担保に関しましては現在,非占有担保としての典型担保がございませんので,実務上,所有権移転型の譲渡担保が使われているということではありますけれども,立法するときに,実務との連続性という意味では譲渡担保の立法化ということは一つ重要な点ではあるのですけれども,やはり財産権の移転というのは過剰な効果だという面はどうしてもあるかなと思っております。債権者側のニーズとしては,当然それはあるのでしょうけれども,設定者の方としては所有権を手放さずに担保設定したいということもあるでしょうし,それから,担保余力を広く活用したいということもあるかもしれません。その点からは,いわゆる非典型型の担保もまずは検討するし,それだけで足りず,権利移転型の担保もやはり重要である,ニーズがあるということであるならば,それを考慮した立法も併せて行うべきだという点からは,決してどちらか一方に限定した議論をするということではなくして,両方のバリエーションを考えた上での検討をしていただければと思った次第でございます。どうもお時間ありがとうございます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。さらに,何かございますでしょうか。

○本多委員 ありがとうございます。第1の議論が終了し切らないうちに幾つか申し上げておきたいところがございますので,発言させていただきます。

  まず,先ほど佐久間委員から,統一的な担保制度の一環としての統一的な担保登記制度を導入した場合の真正譲渡の影響に関する議論について,担保ファイリングによって克服できる可能性があるのではないかという御指摘をいただいていまして,私もそのとおりと考えられるところはあるのかなと思っております。そうであるとして,真正譲渡の場合と担保設定の場合の対抗要件は,現状のとおり統一的に維持した上で,担保ファイリングという別の制度を担保固有の制度として導入することになりますと,対抗要件制度と担保ファイリング制度という二元的な制度となると思うのですけれども,そうした場合に,担保ファイリングについてどのような機能を持たせるものとして設計するのか,現状の真正譲渡と担保設定の場合と共通している,例えば譲渡登記のようなものとの関係をどのように整理をしていくのかという議論が生じやすそうなのかなというところがございまして,念のために問題提起をさせていただきます。

  また,別の点ですけれども,部会資料の5ページ目の11行目に,預金債権,預金口座の担保化の要否についての御議論があるのですけれども,実務におきましては,例えば普通預金のような流動性の預金について,担保権を設定させていただくということは相応にございまして,この流動性預金についての担保権の有効性であるとか,それから,対抗要件具備の仕方であるといったことが明確化されるというのは相応に意義があると思っています。ちなみに,対抗要件具備に関しまして,現状の実務上,例えば,当初の1回限りの対抗要件具備によって,残高の異動にかかわらず対抗要件が維持されるという考え方がございます一方で,残高の異動のたびに対抗要件を取り直す必要がないか議論されることがあり,また,定期的に対抗要件を具備するといった実務も行われているところでございまして,この辺りが,例えば当初の1回の対抗要件具備によって有効な対抗要件となりますという規律が明確になりますと,実務にとって大変使い勝手が向上すると申し上げられると思っております。

  一方で,普通預金についての担保権の設定の有効性が認められる結果として,預貯金債権についての譲渡制限特約の有効性が揺らぐことになりますと,実務上の影響が大きいところがございまして,譲渡制限特約により預金者を固定することについての民法466条の5の規律は引き続き維持されるべき必要があると考えております。要は,質入制限特約の有効性と普通預金担保の有効性というのは同時に成り立つということを前提として,普通預金担保に関する規律の設計が必要という考え方でございます。

  それから,部会資料の7ページ目の29行目から30行目なのですけれども,先ほど片山委員からの御発言にもございましたが,担保目的取引規律型と担保物権創設型の差異によりまして,例えば後順位担保権の設定について影響が生じるかどうか,仮に排他的な権利性というものが担保目的取引規律型の方で強調される結果として,これが導入し難くなるかどうかという問題については慎重に検討する必要があると考えております。私の個人的な考えは,先ほど笹井幹事からもございましたとおり,この類型論によって結論として大きな差異が生じることはないと思っていまして,合理的に規律の検討ができまして,最終的に収斂する過程において,担保目的取引規律型が選択されたとしても,後順位担保権の有効性が認められる余地があると考えております。

  ちなみに,実務上は後順位担保権についての要望は大きいものがございまして,例えば,複数の与信者が単独の借入人に対して与信を行う際に優先劣後構造のトランチングが行われるということがございます。その際に,例えば動産や債権を目的とする担保につきまして後順位担保権の設定をするということについて,実務上のニーズは大きいものがございますが,現状はその有効性が必ずしも明確ではないことから,後順位担保権の設定を躊躇しており,その他の方法により優先劣後構造を実現するための工夫をさせていただいているというところがございます。この制度改正に際しまして後順位担保権の有効性が明確になるということは,ファイナンス実務を向上させる上で大変有意なのかなと考えています。

  もう一点だけ発言させていただきますと,担保権の処分に関しまして,この後また議論があると思っておりますが,転譲渡担保であるとか,譲渡担保権の譲渡又は放棄だったり,譲渡担保権の順位の譲渡又は放棄だったりということについて,複数の与信者間でファイナンスの組換えを行う際の対応方法の選択肢を広げられる点において実務の柔軟性を高められるとも思われ,導入可能性を検討させていただける余地がありそうなのかなと考えております。

  長くなりましたが,以上でございます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  いろいろな重要な点を御指摘いただいたと思います。水津さん,どうぞ。

○水津幹事 よろしくお願いいたします。

 部会資料では,担保目的取引規律型と担保物権創設型とが対置されています。もっとも,担保目的取引規律型は,担保に関する規定を設ける方法について,債権担保の目的でされた契約の効力等を定める方法をとるものです。これに対し,担保物権創設型は,債権者が取得する権利の捉え方について,これを新たに創設される典型担保物権と構成するものです。このように,担保目的取引規律型と担保物権創設型とでは,扱っている問題がややずれているように思いました。

  そして,部会資料では,担保目的取引規律型によると,債権者が取得する権利は,「担保所有権」という新たな概念によって捉えられるものとされています。新たに創設される典型担保物権が,抵当権のような制限物権型のものでなければならない理由はありません。そのため,担保目的取引規律型も,債権者が取得する権利を「担保所有権」という新たに創設される典型担保物権と構成するものであるといえそうです。そうであるとすると,担保目的取引規律型を担保物権創設型から区別する意味が,分かりにくくなる気がいたしました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  総論の議論をずっと続けてまいりましたが,もちろん今回でこのような議論が終わるわけではないのですが,本日のところでさらに何か御発言ございますでしょうか。

  それでは,その後にまた,お気付きになるということもあろうかと思いまして,そのときに,項目を遡って御発言されるというのが禁じられるわけではございませんで,一言断っていただければ御発言いただいて結構だろうと思いますので,議事自体は次のところに進んで,場合によっては1のところについての御発言もいただくというふうにさせていただければと思います。

  そこで,部会資料2の「第2 個別動産を目的とする担保の実体的効力」というところの1から3についての議論に入りたいと思います。

  それでは,事務当局におきまして部会資料の説明をお願いいたします。

○寺畑関係官 それでは,「第2 個別動産を目的とする担保の実体的効力」のうち1から3までの部分について御説明いたします。

  はじめに,この第2は個別動産を担保とするものを対象として御議論いただきたい内容であり,いわゆる集合動産については次回以降に扱う予定です。

  まず,8ページの「1 担保の効力が及ぶ範囲」についてです。本文の(1)では,担保の目的動産に附属させられた従物について,附属させられた時期が担保の設定前か後かにかかわらず担保の効力が及ぶものとすることを提案しております。設定前の従物に担保の効力が及ぶことには争いがないですが,設定後については見解が分かれております。【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を前提とする場合,担保目的物の所有権は担保権者に移転するため,設定者が従たる物を附属させても主物と所有者が異なり,従物の定義に該当しないこととなりますが,設定後であっても経済的に見て主物の効用を高めていることなどから,担保の効力が及ぶとする提案をしております。

  次に,本文の(2)では,担保目的物から生じた果実について,被担保債権に係る債務の不履行後に生じた果実に担保の効力が及ぶとして,抵当権に関する民法第371条と同様の規定を設けることを提案しております。なお,民法第371条については,不履行後に生じたという文言が適切ではないのではないかといった批判もございますが,いずれにしてもこの条文と整合的な考え方を採るべきではないかと考えております。

  なお,本文には記載しておりませんが,付合,混和の場合の付合物等にも担保の効力が及ぶということについては,民法第243条以下の規定によって導くことができるため,特段の規定を設ける必要はないのではないかと考えております。

  次に,11ページの2は,設定者の一般債権者が目的物を差し押さえた場合,担保権者に配当要求や第三者異議の訴えの提起を認めるかどうかについてです。【案2.1.3.2】のように新しく担保物権を作ることにした場合,その担保物権の内容をどのように設計するかにもよりますが,抵当権とのバランスを考えても,担保権者に第三者異議の訴えを認めることは困難だと思われます。これに対して,【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を前提とすると,担保権者は一応,所有権者となるため,配当要求に加えて第三者異議の訴えの提起をすることができるかが問題となります。

  本文の(1)では,担保権者は配当要求をすることができる旨を提案しております。現行の譲渡担保に関する判例では,担保権者は原則として第三者異議の訴えを提起することができるとされる一方,明文の規定のない配当要求はできませんが,ここでは譲渡担保の担保取引としての実質に照らして,配当要求を認める旨を提案しております。

  次に,本文の(2)では,担保権者は原則として第三者異議の訴えを提起することができますが,無剰余の場合はできないとする旨を提案しております。担保取引の実質を強調すると,配当要求だけを認めて第三者異議の訴えの提起は認めないとすることも考えられますが,現在の判例でも,特段の事情がない限りとして,剰余があって担保権者が満額の配当を受けられる場合を除いて第三者異議の訴えの提起を認めております。また,特に動産の場合,仮に配当要求だけを認めると,最終的に売却してみなければ無剰余になるかどうかが分からず,その間に価値が減少することもあるかもしれません。そういったことを踏まえて,第三者異議の訴えに伴う執行停止の利益が得られるような形にしておいた方がよいのではないかということで,第三者異議の訴えを認めることを提案しております。全体としては,第三者異議の訴えの提起については,現行の譲渡担保の規律を維持した上で,一般債権者が始めた手続に乗る形で配当要求ができるとして,担保権者の権能を一つ増やした提案をしております。

  次に,13ページの「3 設定者の使用収益権限」については,非占有型の担保制度を設けることの帰結として,設定者に目的物を占有し使用収益する権限があることを明らかにすることを提案しております。特約によって担保権者が使用収益をすることは妨げられませんが,担保権者は物権的には使用収益権限を持っていないため,第三者が登場した場合には,特約に基づく債権的な使用収益権限は第三者に対抗することができないこととしております。

  なお,本文には記載しておりませんが,設定者が目的物を占有し使用収益するに当たり,善管注意義務を課すかといった点も問題となり得ると思いますが,抵当権などについて規定が設けられていないことを考え,特段の規定を設けるといった提案はしておりません。

  以上の内容について,皆様に御議論いただきたいと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  それでは,以上の点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等をいただければと思います。

  私から最初に質問して申し訳ないのですが,附合物については243条か何かの規定があるので特段の規定は不要であるとおっしゃったのですが,抵当権に関する370条というのは,附合物も付加一体物に入る,逆に付加一体物は附合物だけだという見解があるぐらいで,そうすると,抵当権の効力が附合物に及ぶというのは370条で説明しているのではないですか。243条でうまくいきそうだと思うのは,どこかに所有権の移転構成というのを採っているというのがあるからなのかなという気がして,そうなのかなと思いながら伺っていて,そうすると,逆に第2の1というのは370条と同じように付加一体物に及ぶと書いた方が,いいのかなという気がしました。すみません,私から恐縮です。

○佐久間委員 ありがとうございます。今正に道垣内先生がおっしゃったことを申し上げようと思っていて,附合については別に243条でも私は処理できるのではないかと。附合物は所有権の客体の内容を構成することになるので,所有権に対して設定された権利だったら当然に及んでしまうということで,370条がなくても行けると思いますが,他方で370条の解釈として,附合物は問題ないよねということがあるので,そこをはっきりさせる必要はないと思うと同時に,ここからは部会長がおっしゃったことと変わらないのですけれども,現在の第2の1(1)の書きぶりだと,確かに従物は抵当権の場合に,抵当権設定後の従物についても効力が及ぶという見解が有力であると思いますけれども,例えば,元物の経済的効用を増すということでもってのみ従物を概念規定するといたしますと,その従物の経済的価値がものすごく実は高いのだというときも,本当に抵当権設定後にそのように飛び抜けて高い価値を持っている従物にも及ぶのかという議論はあると思うのです。今も。そういったことも踏まえると,第2の1(1)は,わざわざ従物についてのみ切り出して規定を設けようという方向よりは,370条とそろえておいて,その解釈と同じような解釈でもって目的物の範囲が定まるのですよ,としておく方が本当ではないかと思いました。

  それが1点で,続けて申し上げてよろしいですか。すみません。次に13ページの3の使用収益権限のところなのですが,これはもう決めを打つということなのかもしれませんけれども,一応,今の譲渡担保だと目的物の使用収益権を設定者に留めるのはもちろん構いませんが,別段,譲渡担保権者に使用収益権も与える,それが物権的なものであるというのは,所有権の内容を構成する権利の一つであると思うのです。それをわざわざ債権的な権利にとどまるのですということにする方がいいのかどうか,やや疑問に思うところがありました。

  例えば,組み方としましては,目的物の使用収益,特に収益を,譲渡担保権者というか担保所有権者が有することで収益を上げ,そこから,例えば,当然充当になるのかどうか分かりませんが,その被担保債権の弁済に充てることも妨げられないように思うのです。その場合は質を使えばいいではないかと言われれば,それはそのとおりだと思うのですけれども,例えば私的実行をこの担保所有権については広く認めるというようなことになったとすると,質を使えばいいというようなことで割り切って話をすることもできないと思うのです。

  だから,3のところについて,私は,契約の当事者がどちらに物権的な使用収益権があるかということを決めることができるということにして,もし担保所有権者に物権的な使用収益権があるということだとすると,そうなった場合は,設定者が仮に何らかの処分を当該目的物についてしても,使用収益権が担保所有権者から奪われることはないと。もちろん対抗要件が備わってとか,登録がされてとかいったことで担保権の主張ができる場合についてのことですが,その場合に奪われることはないと考えておく方がよろしいのではないか,少なくとも現行法からの乖離は少ないのではないかという気がいたしました。間違っているかもしれませんが。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  賛成かどうか,私はにわかに決められなかったのですが,藤澤さん,お願いいたします。

○藤澤幹事 私もこの部分について一つコメントをさせていただければと思います。特に,(注18)に書いてあることなのですが,担保目的物が担保所有権設定者の財産と附合混和する場合については,資料の御説明のとおりで理解することができました。他方,(注18)に登場する償金の負担者といった問題は,第三者の所有物と担保目的物とが附合混和する場合にも問題となりそうです。

  具体的には,第1に第三者が附合混和によって所有権を失った場合に,償金を負担するのはどちらかという問題,第2は,反対に担保目的物の所有権が第三者の所有権に吸収されることになった場合に,償金を請求することができるのはどちらかという問題です。特に,第2の問題の場合には,担保所有権者が当然償金を受け取ることができるのか,それとも物上代位の手続が必要かといった違いが出てきそうです。

  (注18)では,解釈に委ねるということが書かれていますけれども,他方で従物については,「形式的には所有権が担保所有権者にあるので」という理由で新たな条文を作るとすれば,このような場面でも条文を作る必要はないかというような疑問が出てきます。「この場面は,条文がないから形式どおり担保所有権者を所有者として解釈するべきだ」というような解釈を導かないかということを懸念しています。

 なお,こういった細かい問題が色々と考えられることから,条文の書き方としては,「民法の第何編第何節の規定については担保所有権設定者に所有権があるものとして適用します」みたいな条文の書き方はあり得ないかな,と考えました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。結論を書いた方がよさそうな感じがしますけれども。この場合には所有権がこちらにあるものとみなすと書いたら,書いていないときには全部逆なのかとか,逆にそれを根拠にして,全部あるということにするのかとか,いろいろな他の場面に波及することがあり得るのですが,ただ,償金について丁寧に考えるべきだとおっしゃるのは,そのとおりだと思います。

  ほかに御意見ございませんでしょうか。

○阿部幹事 すみません,今の話と違うところに行ってもよろしいでしょうか。

○道垣内部会長 はい,結構です。

○阿部幹事 資料の10ページ以下の設定者の債権者のために目的物が差し押さえられた場合における担保権者の権限について,配当要求を認めるほか,第三者異議も認めるけれども,剰余があるときに限るというのがこの資料の提案となっておりまして,ただ,これに関しては先ほど片山先生からも少し御指摘がありましたけれども,この担保所有権は,優先型とは異なる排他型の担保権なのだと考えれば,剰余の有無にかかわらず第三者異議を認めるといった方向性もあり得るのではないかと思いました。

  その上で,仮に第三者異議が一定の場合にしかできないとした場合には,配当要求の可否と第三者異議の訴えの可否以外にも,幾つか検討しておいた方がいいことがあるような気がします。一つは,設定者の債権者のために差押えがされたときに,それを無視して担保権者が私的実行すると,差押えと私的実行が競合する感じになると思うのですけれども,そのときにどちらがどうなるのかといったことを検討しておく必要があると思いました。もう一つは,特に根担保のときだと思うのですけれども,根抵当に関しては398条の20という規定があって,差押えがあった後も2週間はその元本を確定しないこととなっており,その趣旨は,その間に,例えば極度額に余裕があって,担保権者が追加融資して,それで執行債権を弁済して差押えを飛ばすことができるのであれば,追加融資をするなどの対抗手段をとる余地を認めるものであると説明されています。そういった形で強制執行を止めるための手段が,この場合の根担保においても認められるべきかどうか,ということを検討しておくとよいと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○横山委員 すみません,すごく細かいことなのですけれども,14ページで,設定者が使用収益するに当たって善良な管理者の注意による保管義務を課せられるかについては書かないということが書かれています。その理由として,抵当権について規定はないから要らないというように読めたのですけれども,先ほどのご説明により,財産権が担保権者に移転すると考えると,抵当権と同じように直ちにいえないのではないでしょうか。共有についても,共有者は共有物を善管注意義務をもって使用しなければいけないという民法改正もされていますし,保管義務が使用収益とどういう関係にあるのかもよく分からないところがあります。書かないなら書かないで,全然私は反対ではないですけれども,何か実質的な理由が要るのではないかと思いました。特に,共有の場合と違うことの説明は要るかもしれないと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。目的物自体に対する善良な管理者の注意の話というのか,それとも,債権者が持っている権利を保全するに当たっての善良な管理者の注意の問題なのかという問題も背後にあろうかと思いますが,それが法律構成とどういうふうに結び付くのかということになるのかなという気がいたします。どうもありがとうございました。

  多くのお手をいただいているのですが,山本和彦さん,お願いいたします。

○山本委員 2の差し押さえられた場合の話についてですけれども,2点コメントですけれども,第1に,基本的には私自身はこの提案に賛成です。やはり基本は,剰余がある場合には差押えに基づく換価を認めて,担保権者は100%弁済を受けるわけですから,その剰余部分は他の一般債権者の配当に委ねるというのが筋であり,他方,剰余がない場合には担保権者は優先するわけですから,その段階での執行を排除できるということにするのが筋だろう,要するに剰余主義という基本的な考え方が筋なのではないかと思っています。

  その上で,12ページの選択肢で,そうすると②か③ということで,私自身は個人的には③というのも,つまり配当要求だけを認めて執行手続上の無剰余措置,無剰余取消しに全面的に委ねるという考え方もあり得ないではないとは思っています。第三者異議に基づく執行停止についても,恐らく私の理解では,その場合も無剰余の疎明というのは必要になるのかな,執行手続を停止するについてですね,無剰余の疎明というのは必要になるのかなと思っていて,だから,執行官が無剰余を判断するのとどこまで違うのかというところはあるようには思っています。

  ただ,確かに判断主体が受訴裁判所になるのか執行官になるのかとか,判決手続でやるのか,決定手続でやるのかとか,違いはあることは確かにありますし,それから,何といっても現行法上,判例は当然,第三者異議を認めておりますので,ここで第三者異議を否定するというのは現行の取扱いからすると180度変えることになるので,そこまでラジカルにこの改正でやる必要があるのかという点からすれば,結論的には私はこの原案(1),(2)で配当要求を認めながら,剰余がない場合には第三者異議を認めるという規律でいいかなと思っています。それが第1点です。

  第2点のコメントは,その前提問題として,消除主義を採るのか引受け主義を採るのかという問題もあって,恐らく原案は消除主義,譲渡担保は差押え,換価に基づいて当然消えるという,だからこそ配当要求等を認めるという前提でできていると思っています。それは,私は,現行の動産執行手続からすれば素直な理解なのかなと思っているのですが,ただ,13ページの4のところで書かれているように,担保取引型でしたっけ,という考え方を採ったときには,結局,善意無過失であれば即時取得が成立する一方,そうでない場合には担保所有権が残るということになって,買受人が善意無過失であれば消除され,善意無過失でなければ,悪意等の場合には譲渡担保は残るということで,一種の,それによって消除か引受けかが分かれる規律に実質的にはなるのだろうと思っていまして,それは,私は政策的なあれからすれば,結論的にはそれなりに合理的な規律になるのかなと思っておりまして,その点も私自身は賛成です。

  ただ,やはり一つ問題は,買受人が善意無過失の場合には担保所有権が消えてしまいますので,担保所有権者に手続保障といいますか,何か差押えがあったということを知る機会というのがなくていいのかというところは問題としてはなお残るようには思います。この点は,担保所有権についてどのような対抗要件,登記等で,を認めるのかというようなところとも関係してくるところで,なかなか難しい,具体的に執行手続の中でどうするかというのは難しいところがあるようには思うのですけれども,今後,登記,対抗要件等も固まってくる中では,引き続き考えていくべき課題にはなるのかなという印象を持っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  まだたくさんのお手を挙げていただいているのですけれども,少し議論を整理したいと思います。まず,1の担保の効力が及ぶ範囲と,設定者の使用収益権限のところに関しましては,仮に条文を作るとしたときの条文の書き方等についてはいろいろ問題があるところかと思うのですが,実体的にはいかがなのでしょうか。実体的にも,ここについてもう少し考えるべき点があるということでしたらば,その点について御発言をいただいて,1,3の問題を片付けるといったら変ですけれども,まずお伺いしたいと思います。1,3についての御意見があられる方はいらっしゃいますか。手を挙げていらっしゃる方で,片山さん,阪口さんは1,3ですか,2ですか。

○阪口幹事 阪口は1のつもりですけれども。

○片山委員 私は両方なのですけれども,1,3だけで,まず。

○道垣内部会長 中村さん,お手を挙げていらっしゃいましたけれども,1,2,3とどれでしょうか。

○中村委員 2についてです。

○道垣内部会長 分かりました。青木哲さんも2ですか。

○青木(哲)幹事 2です。

○道垣内部会長 それでは,2を後回しにいたしまして,1,3を。両方についてご発言をされる方も,1,3についての発言を先にしていただければと思います。片山さん,お願いします。

○片山委員 1,3ということですので,まず1のところは,佐久間委員を始めほかの先生方からも御指摘があった点ですけれども,やはり主物,従物という切り口ですと,動産の場合,例の船とモーターの事件等もありますように,そもそもどちらが主物なのだという話になってしまうというところがありますし,不動産の場合につきましては,不動産という価値が高いものに動産が付加されますので,いいのかもしれませんが,動産の場合については,同様に論じて,いいのかどうかというのは,若干心配なところもございます。ですから,少なくとも設定後の従物についての効力は再度検討しておく必要があろうかと思いますので,表現としては付加一体物辺りが落ち着きどころなのかなという気がしております。これは繰り返しになるかと思います。

  次いで,3のところの設定者の使用収益権限の問題ですが,確定的な所有権取得までは設定者が使用収益することができるということで,原則としてそれでいいのかもしれないですけれども,他方,実行段階になり弁済期が到来すると担保権者に占有処分権が付与されるというのが判例法理ということになりますので,実行時の規律との整合性を意識した書きぶりが必要になるのではないかということでございます。

  最後に,3の設定者の保管義務,担保価値維持義務に関連するところに関して意見を述べさせていただければと存じます。設定者の保管義務については,それを設ける必要性が低いということですが,他方,担保価値維持義務という形で整理しておくことも考えられるという御指摘がなされています。いわゆる広義での担保価値維持義務に関しましては,御案内のとおり平成11年判決,18年判決を契機に判例,学説が大きく進展をしておりまして,私自身は現時点では三つの義務に整理できるのではないかと考えております。

  一つは,有体動産担保における占有に伴う保存義務で,これは占有担保については298条とか350条に既に規定がありますが,非占有担保にはないところをどうするかという問題。それから,もう一つは18年判決が提起した債権質等のいわゆる権利担保,財産権担保に関する設定者の拘束力の問題,これを18年判決は担保価値維持義務と呼んだわけです。それから,3つ目は,在庫担保等の流動動産担保における補充義務の問題です。これは通常の営業の範囲で処分権が与えられていることの裏返しとして,どこまで補充義務を負うかという問題で,近時はそれを担保価値維持義務の一典型例として位置付ける学説が有力に主張されています。

  立法に際しましては,この三つの義務をどのように整理して規定を設けるかという視点が必要かと思います。義務の本質からしますと,占有に伴う保存義務と,担保権が価値権だからということを理由に認められる担保価値維持義務というのは,かなり違ったものであります。もちろん占有に伴う保存義務を担保価値維持義務の概念で収斂して一元化するという立法も可能かとは思います。しかし,やはり立法としては目的物の種類,有体動産か,無体動産か,あるいは集合動産かに応じて,きめ細やかに効果を規律していくということが必要であってその統一的な把握とか理論的な把握は学説に委ねるということになるかとは思っております。

  そうしますと,効果という意味では,権利担保に関しては398条が規定しているような対抗不能という効果が中心になるのでしょうけれども,有体動産については一方で,既に規定のある137条で期限の利益の喪失という効果一本で済むかというと,それは担保関係を失わせる方向での効果ですから,逆に担保関係を維持する方向での代わり担保の請求であるとか,追加担保の請求といったことを認めるニーズがどこまであるのかということを考えていく必要があるのではないかと思います。動産担保については補充義務が不可欠ですけれども,個別動産についても,保存義務違反で期限の利益を失ってしまうというのは,債権者にとってもリスクということになりますので,融資を継続する方向での選択肢,具体的には担保の補充に関する効果を規定の上で設けていく必要があるのではないかと考えている次第でございます。

○道垣内部会長 どうもありがとうございました。

  3もそう簡単ではないよということですが,阪口さんの方から1についてお話があるということですので,まず先にそれを伺いたいと思います。

○阪口幹事 阪口です。1のところについて,二つあります。一つは,担保所有権は私的実行が中心となる担保権ですので,効力が及ぶ範囲をできるだけ明確にしておく必要があるという点です。抵当権であれば裁判所が絡む手続なので,問題は比較的少ないですけれども,担保所有権については,効力とか範囲はできるだけ規定化しておく必要があるだろうというのが一つです。

  二つ目は,従物について効力が及ぶということについて,所有権留保はそれでいいのでしょうかという問題提起です。本文の方では,8ページから9ページにかけて,説明はどちらかというと譲渡担保を中心に書いてあるのだけれども,結論部分としては,所有権留保も含めて,従物に効力が及ぶという同じ結論が書かれています。動産の所有権留保で主物,従物というのはどんな場合かというのは,必ずしもよく分からないのだけれども,例えば車とスペアタイヤ,取り外し容易なカーナビ,愛車セットという,こういうのが仮に主物,従物の関係だとすれば,車を所有権留保で売ります,買った人,所有権留保買主がスペアタイヤなどを自分で付けました,期限の利益を失ったので売主の方が引き揚げます,スペアタイヤも,取り外し容易なカーナビも,愛車セットも全部持って帰りますという結論になりますが,譲渡担保のときと比べると違和感があるように思います。それは,先ほども申し上げたとおり,明確に規定化することが大事だというのも他方ではあるので,絶対おかしいとまでいえず,決めたらそれで実務が動くのかも分からないけれども,譲渡担保のときよりはかなり違和感があるというのが正直なところです。もしそういうふうにするのだったら,もう少し,こういう必然性があるといった御説明が要るのではないのかと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございました。所有権留保は動産売主の保護のために若干強い効力を認めている国が多いのですが,それが所有権留保売買後の従物までを対象とすることを正当化できるのか,そこまでほかの担保に関する優先権を拡大できるのかという問題があるのかもしれないと思いました。

  1,3についての御発言はほかにございませんでしょうか。

  2について,片山さんが残っていらっしゃいますし,青木さん,中村さんからもお手が既に挙がっていて,ほかの方もいらっしゃると思います。2については議論をもう少し深める必要があろうかと思います。

  しかるに,もう開始いたしまして2時間15分たっておりますので,皆さんそろそろお疲れのことと存じます。少し中途半端なところになるのですけれども,この辺りで15分間,休憩を入れさせていただきまして,16時から第三者異議等の問題,配当要求等の問題につきまして,議論を再開するということにさせていただいてよろしいでしょうか。

  それでは,そういうことで4時まで一旦休憩ということにさせていただきます。

          (休     憩)

○道垣内部会長 それでは,青木さんからお願いします。

○青木(哲)幹事 ありがとうございます。神戸大学の青木哲です。設定者の債権者による強制執行に対する担保権者の権限の問題について,意見を申し上げます。

  一般に担保権設定者の債権者による強制執行により,その目的物上の担保権者の利益が損なわれるべきではないので,担保所有権者に被担保債権の全額の弁済がされる見込みがない場合には強制執行は認められるべきではないということ,それから,担保所有権者が被担保債権の弁済を受ける機会がなく売却がされた場合には,買受人が即時取得をしない限り担保所有権は失われないということ,これらの基本的な考え方に賛成です。

  その上で,提案されている個々の内容のうち,第1に担保所有権者が強制執行手続に配当要求をすることを認めることに賛成です。ただし,部会資料11ページ32行目,下から3行目になりますが,一般債権者による差押えに基づいて開始された競売手続で配当を受ければ足りると担保権者が考える場合には,というのは,担保権者が配当要求をした被担保債権の全額の配当を受ければ足りると考える場合には,という趣旨だと理解しました。その上で,追加で提案をするとすれば,担保所有権者が同意をする場合には,担保所有権者が被担保債権の全額の弁済を受けられなくても,競売により売却する可能性を認めることも考えられます。

  第2に,第三者異議の訴えについてですが,担保権者が被担保債権額の全額の弁済を受けられる見込みがある場合を除き,第三者異議の訴えにより強制執行を排除することを認めるという提案に賛成です。確かに民事執行法129条2項において,手続費用と優先債権を考慮して剰余を生ずる見込みのない場合に,執行官が差押えを取り消す旨が規定されているので,担保権者が被担保債権全額の弁済を受けない限り売却されないという利益については,配当要求をすることで強制執行の手続内で保護が与えられます。しかし,例えば動産執行に対して第三者異議の訴えが提起され,原告が所有権の取得を主張したのに対して,被告差押債権者が原告の所有権の取得が担保目的であると主張して,その結果,真正譲渡か担保権かについて争いがあるという場面を想定すると,仮に担保権であると判断がされる場合であっても,剰余が生じる見込みがないのであれば,同じ第三者異議の訴えの手続において請求が認容されるということにした方がよいのではないかと考えます。

  第3に,担保権者が配当要求をすることなく売却がされた場合に,担保所有権が消滅しないということには基本的に賛成です。しかし,担保権者が配当要求をしない限り買受人が担保付きの不動産を取得するということになると,即時取得がされないような場合には事実上,買手が現れないというようなことになるかと思います。このことに対する対応として,担保権者の存在が判明している場合には,その担保権者に配当要求の機会を与えることで,担保権者が配当要求を実際にはしなかったとしても,目的物を競売により売却する際に担保権を消滅させるという仕組みを設けることが考えられるかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。第1のところでお伺いしたいのですが,配当要求して,全額の弁済を受けられないというようなときでもいいのではないかという話だったのですけれども,それって,私が民事執行法の手続が十分に理解できていないのかもしれないのですけれども,競売は続くのですか,つまり無剰余にならないのですか。

○青木(哲)幹事 無剰余ではあるけれども,優先債権者が同意をすれば,そのまま低い価額で売却してしまっても,優先債権者のために売却をすることになるかと思いますけれども,それで構わないのではないかという意見です。不動産執行については無剰余の措置のところで同じような趣旨の規定がありますので,それと同じように考えることができるのではないかということです。

○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございました。

○中村委員 東京地裁の中村でございます。

  配当要求に加えて,担保権者が第三者異議の訴えを提起することができるかどうかということについて,御提案内容は無剰余の場合に第三者異議を認めるというものですけれども,この点について若干疑問があるという意見を述べさせていただきたいと思います。

  まず,動産執行において担保権者から配当要求を受けますと,執行官が無剰余であるかどうかを判断しまして,無剰余があると判断して差押えを取り消しますと,差押えを取り消された設定者の債権者はこれに対して執行異議を申し立てることができることになります。また,執行官が無剰余であるとは認められないと判断して売却手続を実施しますと,担保権者の方が執行異議を申し立てることができることになります。これらの執行異議に対しては,執行裁判所において無剰余かどうかということを判断していくことになると思います。これに加えて,担保権者が無剰余であるとして第三者異議の訴えを提起することができるとしますと,第三者異議訴訟の受訴裁判所も無剰余であるか否かの判断をするということになりまして,そうしますと,これら二つの裁判所の判断が矛盾抵触するというおそれが生じてしまうと思います。このような事態というのは,担保権と所有権という異なる二つの性質に基づく配当要求と第三者異議という二つの制度を同一場面で利用することができるとすることによって生じてしまうものだと思われます。

  無剰余の場合に第三者異議の訴えを提起することができるものとするという見解を採る理由として,早期に執行停止の裁判を利用することができるとするのが妥当であるという点が挙げられておりますけれども,第三者異議の受訴裁判所も訴え提起があれば直ちに執行を停止するというものではなく,疎明の程度に応じて担保の要否や額などを検討しなければなりませんので,目的物の評価が困難な場合に,手続の違いによって判断の迅速性に有意な違いが生じるとは考えにくいのではないかと思っております。なお,第三者異議訴訟の提起に伴い,執行の停止のみならず取消しまで認めることはほとんどないといわれております。他方,動産執行の手続で,執行異議の申立てを受けた執行裁判所は,執行異議についての裁判の効力が生ずるまでの間,有担保若しくは無担保で執行手続の全部若しくは一部の停止を命じ,又は有担保で執行手続の続行を命ずることができるとされております。そして,この決定に対しては不服を申し立てることはできないという点は第三者異議訴訟の提起に伴う執行停止取消しの決定と同じです。また,執行官が剰余の有無の判断に時間を掛けすぎるような場合には,執行官の処分の遅怠に対しても執行異議を申し立てるという手続もございます。

  そうすると,配当要求を認めた上で別途,第三者異議を認めるという必要性は乏しいのではないか,かえって担保所有権者に担保権者として配当要求という新たな権利行使の方法を認めるということであれば,第三者異議による権利行使は認めず,動産執行手続内で無剰余の有無を判断するということに手続を一本化するのが相当ではないかと考えます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  山本和彦さんから,無剰余措置に一本化するというのも十分に考えられるけれども,なお第三者異議というものを認めるというのがいいのではないかと自分は判断したとおっしゃったのですが,今の中村さんの御見解との関係ではどのようにお考えになられますか。

○山本委員 そうですね,二つの理由を先ほどは申し上げました。第1の理由,無剰余で,今,執行異議というお話が出ましたけれども,そちらでの判断と,第三者異議に伴う執行停止の裁判との間の,迅速性とか,あるいはその判断の中身の違いというのが一定程度あるのではないかということを申し上げましたが,ここはかなり実務的なところなので,実務上はそこは完全に重なり合って,二つのルートを開いておく必要性はなく,かえって混乱するという,今,御趣旨だったように思いまして,もし実務上そういうことなのであれば,私の第1の理由はそれほど説得力はないということになるのだろうと思います。

  他方,第2の理由は,現在の制度との段差みたいな,ラジカルさみたいなことを申し上げて,現在は配当要求は基本的に認めず,第三者異議のルートだけで行くというのを,配当要求だけにして第三者異議を排除するというのは,制度構成としては素直なのだけれども,そこまでこの立法で飛ぶというのが果たしてどうなのだろうかということですけれども,これも,どちらかといえばそれほどロジカルな理由ではないところではあるので,私自身はそれほど固執するわけではなくて,もしそれは配当要求,無剰余というルートだけでも実務上はいいし,そちらの方がより妥当だということであれば,それについて反対するものでもありません。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  関連しているのだと思いますが,阪口さん,松下さんから手が挙がっておりますので,阪口さん,お願いいたします。

○阪口幹事 阪口です。実務的な観点で,執行異議と第三者異議の違いというと,ほとんどの場合は執行異議でカバーされるのはそのとおりだと思います。また執行異議,正確に言えば,まず執行官の職権発動による差押えの取消しを上申して,それでも取り消してもらえない場合には執行異議ということになるのだと思いますが,それでも執行異議の方が早いというのもそのとおりだと思います。ただ,被担保債権に争いがあるような場合などを考えたときには,やはり手続的には,第三者異議という判決手続で決着を付けるべきではないかと思います。そういう意味では,ある意味,最後の手段の確保ということかも分かりませんけれども,二本立てというのは実務的には必要ではないかと思っています。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○松下委員 松下です。

  無剰余取消しに対する執行異議と第三者異議の訴え,あるいはそちらの方の執行停止との間に重複や矛盾があるのではないかという御指摘は,なるほどと思いました。ただ,だから配当要求一本にそろえるというのは,少し違和感があります。譲渡担保権者に第三者異議の訴えを認めるというのは,やはり私的実行の機会を保障するというところに多分大きな意味があるのではないかと思います。第三者異議の訴えを封じてしまって,要するに優先回収できればいいのでしょうという形で配当要求に一本化するというのは,担保権者の私的実行の機会を奪うという点で,適切ではないのではないかと考えました。

○道垣内部会長 剰余があるときには第三者異議が否定されるということは構わないのですか。

○松下委員 ええ,資料第2の2の(2)は,本文の方では担保権者の私的実行の利益を優先し,ただし書の方は差押債権者が剰余を手にする機会を保障するというバランスだと私は思っていますので,これはこれで構わないと思っています。

○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございます。

  お待たせいたしました。片山さん,御発言をお願いできますか。

○片山委員 すみません,度々,少し調子が悪いもので。

  この点なのですけれども,先ほど私が発言した内容とも関連しますが,制限物権的な構成か所有権的な構成かということで,所有権的な構成をするときに,どこまで排他的な担保としての効力を認めるかという問題で,その際に,バリエーションといいますか,両方の担保の規定を設けていただくということも御検討いただきたいというお話をさせていただいたのですけれども,そうしますと,仮に動産抵当のような制限担保型の担保ができるということになれば,当然3で配当要求一本ということになるのかと思いますけれども,他方,それと併せて,所有権担保を認めるということであれば,何のために所有権担保を認めるのかというと,正しく排他性ある担保を認めるためだということになりますと,第三者異議が言えるという1の立場を採ることになると思います。所有権的構成からしますと,そもそも設定者は使用収益権限しかないわけですから,何故その財産を設定者の債権者が差し押さえられるのだという基本に帰ると,そういう結論になるのではないかとは思うわけです。

  ただ,今回の改正では,新しい担保は1個しか設けないということになりますと,そこでは折衷的な構成にならざるを得ないということでしょうから,2ですか,剰余がない場合に限って第三者異議を提起することができて,剰余があれば配当要求のみという,二面的な結論を支持するということになるのかとも思いました。

  ただ,ここでやはり所有権的構成に基づく譲渡担保のメリットが何かという話になったときに,私自身は教壇にしか立っていないので,よく分からないところですけれども,実務における譲渡担保のメリットは,後順位の利害関係人の排除ができる点にあるという説明を教壇ではしております。後順位担保権者の担保権の設定の可否の問題もそうですし,ここの設定者の債権者の差押えとの関係もそうですけれども,それらを排除できるというところに譲渡担保の魅力があると実務家の方々はニーズとして捉えていらっしゃるのかとも思っておりました。

  ただ,他方,先ほどの本多委員の御発言ですけれども,金融機関としてもやはり後順位担保権は重要であって,その法律関係の明確化ということが重要な問題点となるのだという御発言もありましたので,その辺りについて実務的なニーズを捉えておられるのかというところを私としても確認しておきたいと思ったところです。というのは,近時,収益型担保や管理型担保といわれているABL等に関していいますと,これは専ら第一順位の担保権者が排他的な支配をして担保を独占して利害関係人を排除するからこそ成り立つ担保であるということが言われてきていて,そのとおりだな,そういった担保が必要だなと考えてきていたわけですけれども,必ずしもそういうことではないのか,それとも,あるいは,今議論しているのが個別動産の担保の話をしているからそういう議論になるのであって,また集合動産とかABLだと違う話になるのかというような疑問が素朴に出て参りました。もしここで確認ができるようでしたら,実務家の方々にその辺りのニーズをどう捉えていらっしゃるのかという点を是非伺わせていただければと思った次第です。よろしくお願いいたします。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  何かその点について御発言はございますでしょうか。

○本多委員 三井住友銀行の本多でございます。片山先生,御案内ありがとうございます。先生が御指摘のとおり,場合によっては単独のABLのレンダーが対象の動産なり債権なりを独占的に掴取するということがファイナンスの設計上,求められることもあると思います。一方で,動産や債権を引当てとさせていただいて,そこから生じる事業キャッシュフローについて,複数の与信者間において,優先劣後構造を設けた上で,最先順位者の取り分と後順位者としての取り分とに区分けした上でファイナンスを取り組む場合もあります。これは,ファイナンスの規模だったり,与信者の意向だったり,といった事情によりますが,与信者の意向に関していえば,最先順位のポジションを確保した上でファイナンスをしたいという与信者もいれば,優先関係では多少劣るかもしれないのだけれども,例えば利率がより大きくなるメザニンといわれるポジションでファイナンスをしたいという与信者もいますので,そういう与信者ごとに順位の考え方,それからファイナンスの設計に関する考え方が異なるというのは実務上,生じるところではございまして,こうした点に鑑みますと,後順位担保権の設定が許容される方がよいのではないかと考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。まっさらな状態でどのようなファイナンスのストラクチャーを作るかという場合と,実際に既に担保が設定されている後に出てくる債権者がどのようなニーズを有するのかというのは,また違う問題であり,また,そのニーズがあるということが,それが合理的だから認めるということに必ずしもつながらないということだろうとは思いますが,今は多分,まっさらな状態なところでストラクチャーを作るときにも後順位というのが必要であるという御発言ではなかったかと思います。

  ほかに,第三者異議等の問題につきまして,御意見はございますでしょうか。

○大塚関係官 先ほどの後順位担保権者との関係について,少し細かいことなのですけれども,2の(2)について,第三者異議ができる主体が担保権者となっているのですけれども,これだけ見ると,後順位担保権者も第三者異議の訴えが提起できると読むことができます。そうした場合,先順位担保権者が配当要求でよいと判断しているけれども,しかし後順位担保権が第三者異議ということをして,それが認められるという可能性は文言上は出てきそうな気はいたします。そのとき,この文言で行くかどうかというよりも,後順位担保権者にそういった権限を与えていいのかどうかということは議論,検討してもよろしいのではないかと思いました。これは,後に出てくる後順位担保権者による実行手続について,先順位担保権者がどういった請求ができるのかといった論点とも絡んでくる問題だと思います。

  それから,もう1点ですが,後順位担保権者がいる場合に,配当要求や第三者異議がされずに,買受人が現れたというとき,即時取得の成立可能性を担保権ごとに検討されるのでしょう,そういうことになるのかなと思いますけれども,そうすると,買受け後の法律関係がかなり複雑になってしまうおそれが,もしかしたらあるような気もいたしました,ということです。

○道垣内部会長 後半は差押えの関係の話ですか。

○大塚関係官 そうですね,差押え債権者,差押え手続がなされて,買受人が現れた場合に,買受人が即時取得できるかということですね。そのときに,先順位担保権については知っていたけれども,後順位担保権については善意無過失であったというような可能性は出てくると思うのです。

○道垣内部会長 それは,けれども,一般的な処分の場合も起こるわけですね。

○大塚関係官 そうですね,はい。

○道垣内部会長 大塚さんがおっしゃった問題は,後順位の権利者にどのような権利を与えるのかというのと,処分と差押えの関係で,担保権者ごとに話を考えるのかどうなのかという問題につながるのだろうと思います。

  ほかに何かございますでしょうか。

  大きな対立点としては,第三者異議を一定の場合には認めていいのではないかということと,無剰余措置で全てを処理すれば足りるのではないかということがあって,それに,更に最後,大塚さんがおっしゃったような後順位の問題,片山さん,本多さんがおっしゃった後順位の問題というのが絡んできて,どういうふうに考えるのかということがあろうかと思います。二読のときにはそれを更に詰めた形で検討をするということにさせていただきまして,次の問題に入ってもよろしいでしょうか。

  では,すみません,先を急ぐようで恐縮でございますけれども,部会資料2の第2の4についての議論に入りたいと思います。

  事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。

○寺畑関係官 14ページの「4 担保権者による処分」は,設定者の債務不履行前に担保権者側が目的物を処分することができるかどうかについてでございます。

 この論点は【案2.1.3.1】と【案2.1.3.2】のいずれかによって位置付けが変わってくるかと思います。【案2.1.3.2】のように新しく担保物権を作る場合,担保権者には所有権がないため,特段の規定を設けなくとも目的物を売ることはできないことになります。

 これに対して,【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を採る場合,担保権者は一応,所有権を取得しているので,目的物を処分することができるようにも思われます。しかし,これを認めるとすると,担保所有権と被担保債権が分離し法律関係が錯綜するため,設定者の債務不履行前には担保権者は目的物の処分権限を持たず,仮に処分をしたとしても無効であることを本文の(1)と(2)で提案しております。

 さらに,担保権者の債権者が目的物を差し押さえた場合にどうなるかということも問題となりますが,第三者異議の訴えに関する現行の民事執行法第38条の解釈によって対応できると考えられることから,本文の(3)では,これについて特段の規定を設けないことを提案しております。

 具体的には,債務不履行は設定者が被担保債権を弁済して目的物を受け戻す期待権が保護に値するとして第三者異議の訴えの提起を認める一方,債務不履行後には,そのような期待権は保護に値せず,第三者異議の訴えの提起を認めないということが民事執行法38条の解釈によって導かれると考えられます。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  期待権という言葉は,またこれもドイツ法的にいろいろなことを含んでいますので,権という言葉を使ったのはどういう意味なのかが気になる方もいらっしゃるとは思いますが,聞かないようにしてください。余りそこは厳密には使っておりませんので。

  御自由に御議論いただければと思います。どなたからでも結構でございますので。

○阪口幹事 すみません,阪口です。4の,15ページの(注39)に関係するところについて,まず最初に確認をしたいと思っています。(注39)のところは,所有権留保のことを考えた場合にどうなるかということで,ここには,「他方,所有権留保売買においては,目的物の所有権のうち担保目的で留保された部分以外の部分は所有権留保買主に移転し,引渡しも完了しているため」と書かれていて,引渡しが完了して占有が完全に所有権留保買主に移っていることを前提にしているような記載になっています。しかし,差押えというのは担保権者側に占有がある局面のはずですから,ここの書き方は,いわゆる,占有改定で引き渡しているけれども担保権者に残っているというような局面を想定して書かれているのでしょうか。所有権留保という言葉の定義の問題かも分かりませんけれども,何らかの形で占有が移転し終わっていないと,もうそれは所有権留保と呼ばないという前提の記載のようにも読めます。

  一番単純な例としては,所有権留保特約付きで売買契約を結びました,まだ物も渡していません,占有改定も行っていません,さあ渡そうかなと思っているときに所有権留保売主の債権者が差押えしてきましたという,それがここで問題となる局面,つまり14ページの4の(3)ですね,担保所有権者の債権のために担保所有権の目的物が差し押さえられた場合を所有権留保に当てはめた場合というのは,むしろそういう,まだ何も渡していない局面での差押えを考えるように思ったのですけれども,ここでいう(注39)とか16,17ページの記載は,所有権留保というのは,一旦は完全に占有を渡し終わっていることを想定しているようにも読めて,ここら辺をどういうふうにお考えなのかをお教えいただけたらなというのが,まず質問です。

○道垣内部会長 何かありますでしょうか。笹井さんからお願いできますか。

○笹井幹事 ここは,引き渡していないと所有権留保とはいわないというような言葉遣いをしているわけではありませんで,売買契約において所有権,代金債務が完済されるまで所有権が買主に留保されるという場面を広く所有権留保といっております。確かに阪口先生がおっしゃったように,引き渡そうと思っていて,引き渡す前に差し押さえられたという場面ももちろんあるかもしれませんけれども,多くの場合,所有権留保の契約がされれば,もちろん多少のタイムラグがありますけれども,現実の占有が移転するということですので,そういう場面を念頭に置いて,ここは記載がされているということになります。おっしゃるように,その前に僅かなタイムラグのタイミングで差し押さえられたということであれば,(注39)の記載は妥当しないということになろうかと思いますので,その場合どういうふうに考えるのかというのはもう少し検討したいと思います。

○阪口幹事 ただ,担保権者の債権者による差押えや,(注39)が考えている担保権者による譲渡については,完全に所有権留保買主に行ったきりの局面と,直接占有が所有権留保売主に残っている局面,それが占有改定かどうかは別にしてですね,とは,かなり法律関係が違うように思われます。また,(注39)の後半に書かれている,担保所有権という統一概念で,譲渡担保権と同じようにしたらいいではないかという辺りの妥当性にもかなり差が出てくるようには思えたので,一定の局面ではこれでもいいことはあると思いますけれども,すべてがそこまで割り切れるのかなとは正直,思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。確かに少し言葉遣いが曖昧かもしれないと思うのは,ここにいう引渡しというのは何なのかということで,民法178条にいうところの引渡しを意味しているのか,物理的な意味にすぎない引渡しということで書いているのか,仮に所有権が移転していないということになりますと,178条にいう引渡しというのは存在し得ないとも考えられるわけであって,そこら辺も少し理論的に詰める必要があるかなとは確かに思います。ただ,誠に恐縮ではございますけれども,それらの問題をひとまず措きまして,担保権者の債権者が差し押さえられないということを前提にしていいかということで,それで一定の規律を置くかということについて御議論いただければと思います。所有権留保のときの現実の所在に応じて丁寧に考えなければいけないというのは,正にそのとおりだとは思いますけれども。

  ほかに何か御意見がございますでしょうか。

  本多さん,お願いします。

○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。今ほどの論点とはまた別のところになってしまうのですけれども,4の(2)のところ,(1)に反する譲渡は,その効力を有しないものとするということの意味なのですけれども,例えば譲渡担保を想定した場合の目的物について,担保権者が第三者に譲渡する,その譲渡行為につきまして,例えば,転譲渡担保のような処分行為の場合と,その目的物を所有権者として処分する場合とでは異なるのかなと思っております。この規律は基本的に後者の方を意味しているのだと思うのですが,転譲渡担保については許容される余地が残されているという理解でおります。その確認でございます。

○道垣内部会長 何かありますか。

○笹井幹事 はい,そこは御理解のとおりだと思います。

○道垣内部会長 残されているというのは,これが残るということを前提にした規律であるというわけではなくて,それをどう考えるのかということはまた別に考える,議論をしていくべき問題であるということだと思います。

○中村委員 中村でございます。担保所有権者の債権者が目的物を差し押さえた場合を想定した御説明がこちらにされているかと思いますが,非占有型の動産譲渡担保であれば設定者が動産を占有しているのが通常ですので,担保所有権者の債権者がその動産自体を差し押さえるということは通常は想定されないのではないかと思います。阪口弁護士がおっしゃられたように,動産の譲渡担保の設定者が当該動産を直接占有しているのか,あるいは担保権者の下にその動産があるのかというところで,差押えの仕方も違ってきますので,そこをきちんとそれぞれ分けた検討をしなければならないのではないかと思います。

  それで,御説明にある,動産の差押えがされる場合ということが,実際どのような場合があり得るかということを考えてみますと,既に弁済期が経過したとして担保所有権者がその動産の現実の引渡しを受けた場合か,あるいは設定者がその動産を第三者に占有させていて,その第三者において当該動産を提出したという場合が考えられるかと思いました。前者の場合には,設定者はその後,弁済をしても受け戻すことは認められないとすることで,もちろん差し支えないと思います。後者の場合は,弁済期前はなお設定者に所有権があるとして,第三者異議の訴えを提起することができると解するのも相当だと思います。ただ,それを譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者の解釈として導くとして,規定を置かないということについては,やや明確性を欠くのではないかと感じております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。特約で担保権者が占有を取得していたら,それは単純には担保権者が占有している状態というのが起きるわけですよね。そのときに,債権者というか担保権者が所有者ではないかというふうになると,その物件について差押えを排除するというのが難しくなるので,何らかの条文が必要だろうというのがここの趣旨であると思います。しかし,いずれにせよ,もう少し場面をきちんと分けて,所有権留保の場合も含めて検討して,それをまとめてみると単純なルールになるのかもしれませんけれども,もう少し丁寧に分解して考えなければいけないというのは,そのとおりかなと思います。

  ほかに何かございますでしょうか。藤澤さん,お願いします。

○藤澤幹事 すみません,この項目についての質問ということではないのですけれども,これまでの御議論に出てきましたように,担保所有権者による処分というのは考えづらい場面で,これに対して担保所有権設定者よる処分は頻繁に起こりそうな場面で,また,この後の物上代位の議論の前提となったりする問題のような気がするのですけれども,その項目がないのは何か理由があるのでしょうか。

○道垣内部会長 まだ書いていないだけだと思いますが,もしよろしければ,どうぞ。

○笹井幹事 書いていないといいますか,設定者による処分ということですので,どういう構成を採るのかにもよるかもしれませんけれども,設定者が,残った所有権といいますか,所有権設定者留保権のようなものを譲渡することができるかということですとか,あるいは重ねて担保権を設定することができるかというようなことが,先生がおっしゃるように,問題としては出てくるのだろうと思います。

  ただ,それを改めて条文として書く必要があるのかどうかということを少し検討したのですけれども,ここはいろいろ御議論があるかもしれないので,問題提起をした方がよかったのかもしれません。仮に担保物権を新たに設けるということになった場合には,今の抵当権に類似するわけですが,その場合に,設定者が残った所有権を譲渡することができると,その際に担保物権の負担付きの所有権を譲渡することができることとなります。あるいは,担保目的取引規律型と称しておりますけれども,所有権なのか財産権自体を担保目的で譲渡するということになった場合に,仮にここで理論的に設定者留保権という物権的なものが帰属しているとすると,設定者が自身に帰属している物権的な権利を譲渡することができること自体は,規定がなくてもよいのではないかということで,項目を設けていないということです。

 また,実行の箇所において,後順位,あるいは優先劣後する担保権が存在しているということが裏から規定されるということになりますので,そのような規定が設けられることになった場合には,そこから読み取るということもできるのかなということで,項目としては設けなかったということです。ただ,今後,規定の要否も含めて一度議論をした方がよいということでありましたら,その点も含めて一度検討させていただきたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。そういうふうな前提があるということですが,しかし,考えてみますと,片山さんが,担保価値維持のところで,かなり細かく分けて考えなければいけないとおっしゃったのですけれども,現行法のもとで譲渡担保設定している人が第三者に当該物件を占有移転したら駄目なのではないかと思うのです。債権者は実行がすごくやりにくくなりますよね。自分に物権が残っているというのと,それを処分できるのかというのは別問題であり,それが駄目だと考える余地は十分にあるような気がいたしますので,もう少し考える必要があろうかと思います。どうもありがとうございました。

○大塚関係官 一つコメントなのですけれども,資料15ページの22行目辺りから,被担保債権の債権者と担保所有権者との分離を認めることになって法律関係が錯綜するということを理由として,担保所有権の処分を禁ずるということが提案されておりますけれども,例えばセキュリティートラストのように,設定の段階では被担保債権の債権者と担保所有権者が分離するということが実務上,多くはないみたいですけれども,行われていると。この御提案は,それを禁ずるということが明文化されているわけではありませんが,しかし,その理由付けとして,そういった分離が余り望ましくない,そういうポジションを採るとすると,こういった担保所有権についてセキュリティートラストのような組み方をすることが解釈上否定されるという可能性は出てきてしまうのではないかと,無効にされるというリスクが生じると,セキュリティートラストのような組み方が実際上しづらくなってしまうのではないかという気がいたします。そうすると,こういった分離が望ましいのか,望ましくないのかという点を議論しておくということにも意味があるのではないかと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。それは重要な点だろうと思います。

○井上委員 今の点なのですが,セキュリティートラストがやりにくくなるということがもしあるとすると,実務的には問題だというのはおっしゃるとおりだと思うのですけれども,セキュリティートラストですとか,あとは転担保の話も先ほど少し出ましたが,元々の被担保債権との結び付きがきちんとできている範囲であれば,形式的な担保権者と,被担保債権者とがずれても構わないと思うのですが,ここで恐らく事務局資料が法律関係が錯綜するといって危惧している点は,分離それ自体を全て駄目といっているというよりは,無関係にずれてしまうとまずいのではないかということかなと思いますので,その意味では悪影響はないと私は考えたいと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございます。その点は明らかにしなければ危ないのではないかという意見も,もちろんあろうかと思います。

○阿部幹事 私も井上先生と同じようなことを感じたのですけれども,例えば抵当権のように,通常は被担保債権の債権者と担保権者とが分離しないものであっても,被担保債権者と担保権者とを分離できる,というのがセキュリティートラストだと思います。その意味では,ここで書かれている担保所有権も他の担保権とそれほど変わらないのではないかと思いますので,ここで,被担保債権の債権者と担保所有権者の分離を認めることで法律関係が錯綜する,といったからといって,そのことから,この担保所有権のセキュリティートラストもできない,というのは,少し飛躍しているのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  ほかにはいかがでしょうか。

  残り時間では,この資料の最後まで行くとはとても思えませんけれども,少しでも議論を進めておきまして,細かな点について,1か月置くことによって,皆さんがお考えくださるところもあろうかと思いますので,物上代位のところにつきまして御説明をいただきまして,それで少し議論をしたいと思います。5,6ではなくて,5だけということでお願いします。

○寺畑関係官 18ページの「5 物上代位」について御説明いたします。現在の譲渡担保の物上代位については,様々な御議論があるところですが,判例には売買代金債権や損害保険金請求権に物上代位権を行使することができるとしたものがあります。

  本文の(1)と(2)では,先取特権の物上代位に関する民法第304条と同様の規定を設ける形で物上代位を認め,その手続として差押えを必要とする旨を提案しております。本文の(3)は,物上代位を認めた上で,目的物の代償物が他の担保の目的財産となっていた場合の優劣について御議論いただきたいというものです。同様の問題は先取特権と抵当権についてもあり,それぞれ判例がございますが,そこで示された優劣の基準は先取特権と抵当権とで異なっており,いずれに倣った規定を設けるべきかの見解が分かれているため,抵当権型とするものを【案2.2.5.1】,先取特権型とするものを【案2.2.5.2】として,両論併記の形でお示ししております。

  また,諸外国の制度を参考として物上代位の範囲を拡大したり,手続を簡易化したりすることも考えられます。日本法においては,担保物権に共通する制度として物上代位制度が設けられていることから,この動産の非占有型の担保だけでなく,先取特権や抵当権などとも整合的に検討すべきところ,実務上の影響の大きさを考えると慎重に検討する必要があるかと思います。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

  5の(注)のところについて一言だけ説明をしておきますと,現在,新しい担保制度においてどのような対抗要件という制度を考えるかというのを議論はしていないわけです。仮にそこで,本日の前半で出ましたような統一的な登録制度,統一的でなくてもいいのですが,新たな登録制度を置くということになりますと,非占有型の動産担保についても,そういうふうな登録簿ないしは登記簿における公示というものがされているということになります。そうすると,(注)で,担保ファイリングがされているときのみ認めるという選択肢がとられることはないだろうと思うのです。この(注)が意味を有するのは,非占有型の動産担保制度については,少し佐久間さんがおっしゃった話ですけれども,占有改定で一応,対抗要件を具備することができることとし,しかし,いろいろな担保としての効力というものを是認してもらおうとするならば,一般的な対抗要件とは別個に,これは担保ですよという担保のファイリングという,担保登録みたいなものをするという制度を考えることができるのではないかというのを踏まえまして,対抗要件そのものは占有改定で大丈夫なのだけれども,そのときには担保ファイリングがないと物上代位ができないよということで,(注)があるのだろうと思います。混乱しそうなので,最初にこうではないかということを申しました。

  御自由に御議論いただければと思います。

○藤澤幹事 個別動産の売却代金に対する物上代位について,コメントというか質問があります。

  資料の中では,平成11年や平成29年の判例を参考にして,売却代金に対する物上代位を認めてもいいのではないかというようなことが書いてあったように理解したのですけれども,両方とも輸入の際の信用状取引に関係する判例で,譲渡担保権設定者に目的物の売却権限があるような場合,つまり譲渡担保権者が追及できない場合についての事例判断ではなかったかと記憶しております。このようなルールを一般化しても大丈夫なのかということが少し気になっています。また,平成11年や平成29年の判例の事案のような場合には,追及と物上代位とを併用するという問題が生じないので,難しい問題はないかと思うのですけれども,追及できる場面では少し面倒な問題が生じるのではないかと考えました。

  例えば,個別動産の担保所有権設定者が善意有過失の買主に物を売ったというような場合を考えてみたいと思います。先ほど質問したこととも関わるのですけれども,設定者が処分した場合には買主には設定者留保権が移転すると考えるとします。そうすると,完全な所有権を前提として売買代金が決まっていたような場合には,買主としてはやはり代金減額請求権を行使したいのではないかと考えられます。担保所有権者が売買代金を差し押さえたとしても,買主から代金減額の主張をされることがあり得て,そういう場合には担保権者と買主との間で減額をめぐって争うことになるのかという点が少し気になりました。それから,もし減額が認められた場合には,今度は目的物自体に対する担保権実行も認められないと,担保権者にとっては酷になるかなと思います。しかし,反対に代金減額請求権が行使されずに,担保権者が完全な所有権を前提とした売買代金全部を取り立てることに成功した場合には,担保目的物自体に対する実行は認めなくてもいいような気もするのです。このように,物上代位権の行使と追及効との関係をどう処理するか検討する必要がありそうです。ちなみに,アメリカでは,担保権者の保護になるから,両方取れていいではないかという考え方が採られているのですけれども,日本法でもそういう割り切りができるのでしょうか。

○道垣内部会長 ありがとうございます。抵当権でも何でも,売却のときの問題は複雑なのですが。

○佐久間委員 今,藤澤先生がおっしゃったことで気になることがございまして,設定者が処分した場合に即時取得が成立してしまうと,これはもう売買代金しか掛かっていくことができるものはないということになりますよね。そうであるところ,即時取得が成立しているかどうかなんていうのはすぐには分からないわけで,そうすると担保所有権者としては,即時取得が成立している場合に備えてといいますか,そういうことがあり得るので,売買代金債権に物上代位したいというニーズはあるのではないかと思うのです。差し押さえて,更に取立てまで行くということになれば,それはやはり,もし即時取得が成立しない場合であっても,譲渡担保権自体が消滅するという形で整理をすることの方がましなのではないかというふうに,お話を伺っていて,思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。ただ,抵当権の場合にも同じ問題があると思うのです。抵当権のところは仮に触らないで,ここについては触るということになると,動産のこういうシチュエーションの方がその問題が先鋭な形で生じるのであるということがいえないと,多分ここだけを触るということにはならないと思うのですが,その辺りはいかがなのでしょうか。

○佐久間委員 抵当権の場合は,一応,抵当権が公示されていて,所有権自体が移っても抵当権が,即時取得で消えるということはあるのですかね。私が心配しましたのは,動産の場合はそもそも即時取得されてしまうと譲渡担保権自体が飛んでしまうことになるという点で,僕,勘違いしているかな,何か違うのではないかと思ったのですけれども。

○道垣内部会長 その場合は違いますけれども,抵当権者が売買代金債権に物上代位権を行使したときに,それは抵当権の実行に当たって抵当権が消滅するというふうに,抵当権についても考えることが前提になるのでしょうか。しかし,それを根拠付ける条文はないわけですよね。

○佐久間委員 それはないですね。ないですが,被担保債権が全部回収されれば,少なくとも当然,抵当権もなくなるし,譲渡担保の方もそれでいいということになるのだろうと思うのですが,全額回収できなかったら,そこで,そうですね,先ほど申し上げたように,まだましかなと思ったということなので,これからもう少し私も考えます。

○道垣内部会長 すみません,誰にも答えられないような問題を佐久間さんに突っ込んでしまって,申し訳ございません。

  その点でも結構ですし,物上代位一般につきまして,更に御議論いただければと思いますが,いかがでしょうか。

○佐久間委員 たびたびすみません,賃料についても少し申し上げたいことがあります。まず債務不履行があった後の賃料については,取りあえずそれは物上代位の対象になり得るという前提を採った場合に,371条が根拠条文なのか,370条か304条かという,その議論があるということは踏まえつつも,371条が根拠条文だという考えが抵当権についてあったとしましても,担保所有権における物上代位について,371条と同じようなものなのだということが分かるような定め方というのは本当にできるのだろうかということが少し気になりました。何が言いたいかというと,仮に371条が抵当権の場合の賃料債権の物上代位の根拠だとしても,抵当権についても一応304条が準用されていて,賃料というのが入っているので,どちらか決めなくていいという形になっているのですね。そうだとすると,こちらもどちらか決めなくていいという形にする方が条文の作り方としては望ましいのではないか,すなわち,【 】のところはやはり入れておいた方がいいのではないかと私は思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  ほかに何かこの段階で御意見はございませんでしょうか。これは別にもうこういう感じでいいではないかということでしょうか。

  いろいろ本当は問題点が多分ありまして,(1),(2)に関しましては,そもそも物上代位というのが認められるのかという問題がございますけれども,(3)については,ある程度明らかにしなければならないだろうと,ルールが不明確だからということもあるのですけれども,抵当権先取特権等についてルールを明文化しないというときに,仮にそういうふうに仮定しまして,ここにいう非占有型の動産担保についてだけルールを明確化するというのが適当なのか,あるいは,それというのだったら,全体として民法304条についてルールを明確化しないとやはりおかしいのではないかとか,いろいろ御意見もあろうかと思うのですが,これはいかがでしょうか。

○水津幹事 座長が指摘された問題については,できればこの機会に,次のようにしたほうがよいのではないかと思います。すなわち,ここでいう非占有型の動産担保については,代位目的債権を目的とする担保との優劣関係のみならず,代位目的債権に対する差押えや代位目的債権の真正譲渡等との優劣関係についても,明確なルールを新たに設けることとする。他方,先取特権や抵当権等についても,これと同じように,代位目的債権を目的とする担保,代位目的債権に対する差押え,代位目的債権の真正譲渡等との優劣関係について,現行法の規定を改正して明確なルールを設けることとする。

○道垣内部会長 今,水津さんは,一般的な譲渡等も含めてとおっしゃったのですが,あるいは他の担保権との優劣ともあるのかもしれませんが,それ全体としてはどういうお考えでしょうか。それを譲渡などについても置く,そのときの内容で,それで抵当権についても置く,先取特権についても置くということになると,全体としてはどういう絵になるというお考えですか。

○水津幹事 判例法理を前提とするならば,動産先取特権と抵当権とで規定の内容を区別することとなるのではないかと思います。また,代替的物上代位と付加的物上代位とで規定の内容を区別すべきかどうかについても,検討する必要があるのではないでしょうか。

○道垣内部会長 分かりました。どうもすみません。

  ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいですか。大丈夫かな。

○井上委員 今の【案2.2.5.1】か【案2.2.5.2】かという観点なのですが,この点は【案2.2.5.1】というルールを採用する方がいいのではないかと私は考えています。その理由は,確かに今考えている担保権は,動産先取特権とは違って,追及効があるものを考えていますので,その点は抵当権に近いと思うのですけれども,ただ,もう一つ考えなければいけないのは,担保権がどの程度一般に公示されているかという点だと思っておりまして,その公示の程度を考えると,不動産登記による抵当権の周知度合いと比べて,今後動産担保についてどういう公示制度を作るかにもよりますけれども,なかなか抵当権と同じレベルの担保権の公示は難しいのではないかと感じるところがありますので,そうだとすると,担保権の設定によって,その後そこから発生する債権にまで権利が及んでいることを認めて,その債権自体を直接譲り受けたり,譲渡担保に取ったりしている人を負かせるといいますか,動産担保権について先に対抗力を備えれば勝たせるということには少し抵抗があります。

  ですので,そういう意味で不動産と違うルールを採用することになるとすると,それは何らかの形で明文化する必要があるのではないかというのは水津先生のおっしゃるとおりだと思っておりまして,その際に,それではやはり抵当権の方のルールも明文化するべきではないかということになりそうな気はしますが,どこまでどういうふうに規定を設ける必要があるかは少し措いて,【案2.2.5.1】と【案2.2.5.2】の間でどちらを採用すべきかと言えば,【案2.2.5.1】であり,そのためには,少なくともその点において明文化が必要なのではないかと思っております。

○道垣内部会長 ありがとうございました。

○佐久間委員 私は実務的な感覚はよく分からないので,井上さんが今おっしゃったことで大分自信がなくなったのですけれども,私は【案2.2.5.2】でもいいのかなと思っていました。というのは,動産先取特権の場合には,おっしゃったとおり公示が不十分というか,ないわけで,それに対してこちらも不十分,ないのに近いということだから,動産先取特権の場合と同じような並びで【案2.2.5.1】でどうかということはよく分かります。ただ,一応,動産先取特権の場合には,第三者に引渡しがされると先取特権自体がなくなるのだから,それとの関連も考慮してという理屈もあるとすると,動産担保所有権の場合は必ずしもそこは妥当しないし,ひょっとしたら担保ファイリングで,何でもすぐ分かりますということにはならないと思いますけれども,若干の公示というのはされるようになる可能性もあるということだとすると,【案2.2.5.2】でもいいのではないかと思っています。【案2.2.5.2】の方が絶対いいのだというほどではありませんが,それもあり得るのではないかと思っています。

  その上で,ここからは井上さんがおっしゃったのと同じか,よく似ていると思うのですが,【案2.2.5.2】を仮に採るといたしましても,やはりここはルールをはっきりさせて明文の規定を設ける方がいいと思っています。その上で,抵当権とか先取特権の場合について判例を基に明文の規定を起こすことにしてもいいとは思うのですが,仮にそれをしないとしても,どちらになるのか分からないということがこの場面では正に出てくるわけですから,抵当権と先取特権については判例法理に委ねておいた上でも,こちらはこうしますと,【案2.2.5.1】であれ,【案2.2.5.2】であれ,規定を設けることがすごく大事なのではないかと思いました。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

○本多委員 ありがとうございます。今ほど佐久間先生がおっしゃったことに関し,追及効や公示制度があるものとそういうものが全くないものとの間において差はありそうなのかなという感覚は持っておりまして,そういう意味では【案2.2.5.2】の方が議論の出発点になりそうなのかなと考えておりました。

  一方で,これは井上先生も,それから佐久間先生も同じく御指摘になっているとおりなのですけれども,占有改定の場合の公示力というのがどれほどなのかというのは,いろいろなところで疑問視をされているところではありまして,一方で占有改定でも立派な公示といえるかはともかく,これにより対抗要件は具備できるところではございまして,その辺りを実務的にもう少し考えていかないといけないのかなとは思っております。その延長線上に担保ファイリングの議論があると考えているところではございまして,それが,先ほど申し上げました二元的な制度設計になるということの妥当性も含めて,改めて実務に落としていった場合にどのような影響があるのか,というのも併せて検証していかなければならないとは考えております。

○道垣内部会長 ありがとうございます。一言申しますと,公示というのと対抗要件というのは意味が違うと思うのです。つまり,占有改定も立派な公示である,というのはあり得ない考え方ではないかと思います。立派な対抗要件であるというのはあり得るのですけれども。公示力はないのだけれども,対抗要件として認められているのだからいいではないかという議論はあると思うのですが,立派な公示だというのが実務の感覚だと言われますと,それは実務の感覚がおかしいのではないかと私は思いますけれども。また,実務が,そういう感覚かどうかも私は疑問ですし。

○藤澤幹事 【案2.2.5.1】についてコメントさせていただきます。実務のことが全然分からないので,こんなことをいってよいか分からないのですけれども,もし私が債権者だったら,【案2.2.5.1】のルールの下ではすごく心配なので,債権についても担保を取っておくという行動に出るのかなと思いました。そのときに,目的物が滅失したときの保険金とか,第三者から壊されてしまった場合の損害賠償金とか,いろいろなものについてまとめて債権譲渡担保の対抗要件を取れるみたいな,債権譲渡担保の制度の方で少し使いやすくしないと不便になってしまうのではないかという感触を持ちました。

○道垣内部会長 藤澤さん,どうしてその人に便利にしてあげなければいけないのでしょうか。つまり,不便なのではないかというのは分かるわけですが,片方で個別の担保を取る人がいるかもしれないのですよね。前の動産についてした人にだけ,なぜそれほど便利にしてあげなければいけないと藤澤さんはお考えになったのでしょうか。

○藤澤幹事 代替的物上代位についてなのですけれども,担保目的物の滅失のリスクに備えるのは担保権者として当然の行動だと思うのですが,それができないということになると,担保の価値を低く見積もらざるを得なくなって,そのことは債務者にとっても金融の便宜を損なうことにつながるのかなと思いました。

○道垣内部会長 よく分かりました。つまり,やはり代償物に対して及ぶということの当然性の評価というのが前提にあるわけですよね,多分。それで大変よく分かりました。批判したつもりは全然ありません。

○井上委員 ありがとうございます。今の点ですが,正に私は同じことを考えていて,だから【案2.2.5.1】を採るべきではないかと思っておりました。担保を取る段階で,こういうルールが明確になれば当然,心配でしょうから,レンダーとしてはそこから派生する債権についても担保に取ることになり,そういう実務が広がると比較的安定した担保融資になると思うのですけれども,そういうことをせずに動産だけを担保に取り,そこから生ずる債権については何ら手を打たないでおいて,それでその後,動産についてどのぐらいの公示が今後できるようになるかは,先ほど申し上げたとおりですが,幾らか調べてもすぐにはよく分からないという状況で,債権自体を買ったり,譲渡担保に取ったりした方をむしろ保護する方がいいのではないかと考えました。

  その意味では,ルールが決まれば融資行動が変わるのではないかということも含めて,【案2.2.5.1】のようなルールを採った上で,動産の担保を取ったときに,それ以外について担保に取らない人をそれほど保護しなくてもいいのではないか,あるいは,動産の担保を取った後にそれを知らずに債権を譲り受けた人のことを考えてもいいのではないかということです。

○道垣内部会長 ありがとうございます。価値判断はいろいろ分かれるところかもしれませんし,さらには目的債権を目的財産とする担保というのを取った人の,目的債権の特定性の度合いですかね,つまり,将来誰かに売った売買代金債権は全部担保になりますよというふうに1個設定しておけば,その人が絶対勝つのかというと,それでいいのかなという気もするのですが,それを細かく分けていくと大変なことになりそうなので,難しいところかもしれません。

○片山委員 どうもありがとうございます。今の【案2.2.5.1】と【案2.2.5.2】の話と関連するのですけれども,立法する際に類型論がどこまで可能かという点はございますが,物上代位に関しては,代替的物上代位と付加的物上代位の類型論はかなり定着をしておりまして,代替的物上代位の場合についていうと,本来的には抵当権が及んでいないものについて,物上代位によって抵当権を及ぼすというものなのでしょうが,付加的物上代位の場合は賃料債権への物上代位が基本的に念頭に置かれていて,これをどう捉えるかは別としまして,一つの学説ですと371条で果実に抵当権の効力が及ぶということを前提とした上で初めて認められる付加的物上代位だということになります。

  そうしますと,【案2.2.5.2】ルールですね,いわゆる登記時基準ルールというのは,基本的には賃料債権の物上代位に関する判例を基本として出てきたもので,それについては本来的に抵当権の効力が及んでおり,そのことが公示されているというのが理屈になっていたのだと思います。しかし,その他の代替的物上代位に関しては,本来的に担保権の効力が及んでいない,そういうものについて物上代位をしていくのだから,やはり差押え基準になるべきだと私自身は考えております。一般的には,類型論を前提とした立法は難しいとは思いますけれども,少なくとも371条に引っ掛ければ類型論も何とか可能ということになろうかと思いますので,371条に類する規定を設けるということであれば,いわゆる賃料等については【案2.2.5.2】ルール,その他の代替的物上代位については【案2.2.5.1】ルールというような考え方もできるのではないかと私自身は考えているところでございます。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  もう一方ぐらい今日のうちにいただいてもいいかと思いますが,いかがでしょうか。

○水津幹事 片山委員から,付加的物上代位については,【案2.2.5.2】ルールによる一方,代替的物上代位については,【案2.2.5.1】ルールによるという意見が出されました。しかし,類型論をとるのであれば,これと逆のルールとすることも考えられます。すなわち,付加的物上代位では,担保権者は,元の財産について担保権の実行をすることができます。そのため,この意味では,物上代位は,担保権者にとって文字どおり付加的なものです。これに対し,代替的物上代位では,担保権者は,元の財産について担保権の実行をすることができません。そのため,この場合には,担保権者は,物上代位によるほかありません。このことに着目すれば,付加的物上代位については,【案2.2.5.1】ルールによる一方,代替的物上代位については,【案2.2.5.2】ルールによることとなりそうです。

○道垣内部会長 ありがとうございます。

  物上代位に関しましては,私の個人的な考え方かもしれませんけれども,今の範囲で議論を終結させるというわけにはいかないような気がいたします。藤澤さんだったと思いますが,処分権限の問題を明らかにしないままに,実は(1)の問題は語れないのではないか,そもそも売却することができるのかとか,できないのか,売却したときにどういうふうなルールになるのかという,善意無過失という話が出たりしましたけれども,そういうのが決まらないうちに本当は(1)の問題は分からないのではないかという話も早い時期に出ていたところだと思います。そういった観点からの整理も必要だと思います。もちろん1回で全ての整理が済むわけではありませんし,そういった処分に関しましては今後詰めていって,それとの関係でまた5の1に戻るということも必要かとも思いますけれども,もう少し皆さんが考える問題点ないしは考えるべき点だと思われる点につきまして,御意見が伺えればと思います。また,本日用意していただきました資料のうちの6については,まだ一切やっていないという状況にあります。しかし,時間が参りましたので,本日は5の途中まで行ったと考えて,5と6は次回,続けてやるとともに,次回はまた次回で御議論いただくべき点は多々あろうかと思いますけれども,時間でございますので,この辺りにさせていただければと思いますが,よろしいでしょうか。

  本日の段階で何か特に御発言というものがありましたら,お願いしたいと思いますが,よろしいですか,次回続けてということで。

 それでは,本日の審議はこの程度にさせていただくことにいたしまして,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。

○笹井幹事 本日もありがとうございました。

 次回日程ですけれども,6月8日火曜日,時間は同じく午後1時30分から午後5時30分までとなっております。

○道垣内部会長 それでは,法制審議会担保法制部会の第2回会議を閉会にさせていただきます。

  どうも熱心な御議論をありがとうございました。また次回もよろしくお願いいたします。

-了-

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