『月刊登記情報2023年11月号(744号)』

司法書士 伊見真希「相続登記申請のための遺産分割協議促進の支援」

 法定相続人・法定相続分や相続財産である不動産の権利関係などの客観的な情報の説明などを通した支援が必要との指摘。

法務省大臣官房付・司法法制部付 奥村寿行「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」の概要等

https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00134.html

 報酬を得る目的、訴訟事件・・・その他一般の法律事件、鑑定・・・その他の法律事務の3点について、一般的な意義や要件該当性を判断する際に考慮すべきと考えられる要素、各要件に該当し得る例、該当しない例を示す、とする。

 間接的な利益供与、非定型的な内容、特定の条項についての個別の事案に応じた法的リスクなどについて、判断が難しいと感じました。これらはサービス提供前にグレーゾーン解消制度の利用、最終的には裁判所の判断を待つものと考えられます。

司法制度改革推進本部事務局「法曹制度検討会(第24回)議事録」平成15年12月8日より抜粋

https://lawcenter.ls.kagoshima-u.ac.jp/shihouseido_content/sihou_suishin/kentoukai/seido/dai24/24gijiroku.html

 実際の案件としては、類型ごとに一律に決まってくるものではなく、個別具体の事例において結論は異なろうかと思いますけれども、とりあえず類型に沿って説明をしたいと思います。

 まず①の契約関係事務は、紛争が生じてからの和解契約の締結等は別としまして、通常の業務に伴う契約の締結、これは法律上の権利義務に関しての具体化又は顕在化した争いや疑義があるとは言えないと考えられますので、このような契約の締結に向けての通常の話し合いや法的問題点の検討は「事件性」のない法律事務であると解されます。

 ②の法律相談は、例えば顧客との間で発生したトラブル等具体的な紛争を背景にしたものであれば、「事件性」のある法律事務であることが多いと解されます。

 ③の株式・社債関係事務は、例えば新株発行に際して行う法律事務は、一般的には事件性のない法律事務であると解されますが、他方、新株発行の適法性、有効性、名義書換等に関する具体的な紛争がある場合は「事件性」があることが多いと解されます。

 ④の株主総会関係事務は、例えば株主総会の開催について、商法等の関係法規との適合性を確保するための法律事務は一般的には「事件性」のない法律事務であると解されます。

 ⑤の訴訟等管理関係事務は、具体的な訴訟の存在を前提とするものですから、一般的には「事件性」があると解されるのではないかと思います。

一般社団法人AI・契約レビューテクノロジー協会事務局長、株式会社LegalOn Technologies企業法務グループディレクター、弁護士 春日 舞「法務省ガイドラインのポイントと士業者の受け止め」

 法務省ガイドラインが過去の法務省見解を踏襲しての公表であることにより、グレーの範囲が狭まり、利用しやすいものとなっているとの評価。

弁護士ドットコム株式会社管理部門担当取締役、経営企画室長 澤田将興、

弁護士ドットコム株式会社コーポレート推進部法務チーム マネージャー、 弁護士 佐竹 亮「法務省ガイドラインを踏まえたリーガルテックの展開」

 リーガルテック事業者からの法務省ガイドラインへの見解。弁護士法72条に関する考え方で整理された要件に該当しない、と示された機能に基づき具体的な6領域21ビジネスを提供していくこと。

弁護士渡部友一郎、司法書士隂山克典「司法書士業務におけるリーガルテックの展望」

 法務省ガイドラインについて。事件性の要件に踏み込んだ内容。弁護士がサービスを利用する場合には、通常違反しないという点が重要との感想。ガイドラインは、現時点での技術を前提としているので、今後どうなっていくのかに関心。

 司法書士業務について。事実の抽出について、司法書士しかできない。地方と都市部、若手とベテランとで姿勢の違い。経済産業省「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」、東京都デジタルサービス局「文章生成AI利活用ガイドライン」など参考になるテキストも公表されている。

法務省民事局商事課長 土手敏行「商業登記規則逐条解説 第11回」

 商業登記規則(登記事項証明書の有効期間)36条の2、(添付書面の特例)36条の3、(数個の同時申請)37条

『登記情報 653号』2016年4月P17~

大澤 玄瑞:法務省民事局総務課登記情報センター室登記情報第七係長(前法務省民事局商事課商業法人登記第一係長)「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」

宮崎 拓也:法務省民事局商事課長、福永 宏:法務省民事局付、南野 雅司:法務省民事局商事課法務専門官兼商業法人登記第一係長 改正商業登記法の解説『登記情報 700号』2020年3月P 27~

平成27年9月30日付け法務省民商第122号法務省民事局長通達「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」

 同時に数個の申請をする場合とは、連続した受付番号で受け付けられる場合。類似した条項として、不動産登記規則37条。

法務省民事局商事課補佐官 金森真吾「平成31年度から令和4年度までにおける供託関連主要通達等について⑹・完」

 令和5年3月27日付け法務省民商第67号民事局長通達「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う供託事務の取扱いについて」

 供託命令(非訟事件手続法88条2項、87条5項)に基づく供託は、申立人以外の共有不動産全体の譲渡を受ける第三者からも可能。

司法書士 末光祐一「犯罪収益移転防止法の大改正と司法書士の実務⑵」

 国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和4年11月24日)

https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/210/futai_ind.html

一 司法書士等、行政書士等、公認会計士等及び税理士等に対し、新たに取引時の確認事項として、取引を行う目的、職業又は事業の内容及び実質的支配者の本人特定事項が追加されることから、円滑に取引時確認が行われるよう、法改正の内容を国民に対して十分に周知・広報し、実効的なマネー・ローンダリング対策等の実現に万全を期すること。

・犯罪収益移転防止法改正の施行日・・・令和6年6月8日までの政令で定める日。

弁護士(認定心理士) 渡部友一郎「法律業務が楽になる心理学の基礎第2回 集団思考の罠」

 集団思考の特徴として、1,集団成員相互の同調圧力、2.自己検閲、3.逸脱意見から集団を防衛する人物の発生、4.表面上の意見の一致、5.無謬性の幻想、6.道徳性の幻想、7、外集団に対するゆがんだ認識、8。解決方略の拙さがあるとしています。私が所属している業界内部のことを指摘しているのかと思いました。集団思考の原因として、1.集団内での構成員同士のまとまりの強さ(集団疑集性)、2.外部からの批判が集団の構成員に不快感情を生み出し、批判を遮断しようとする感情的要因が挙げられています。

 予防方法や日々の業務への当てはめもされていますが、業界の構造が変わらない限り、無理だと思っている事柄です。

法務省民事局民事第二課地図企画官 楠野智之(日本土地家屋調査士会連合会業務部協力)目で見る筆界の調査・認定事例「第3回 隣接地の所有者不明土地について、土地管理者による立会いにより筆界を認定した事例」

 里道と一体として市が指導として管理している土地が、所有者不明土地の事例。市の道路管理者と立ち合い、筆界確認。

司法書士法人鈴木事務所司法書士 鈴木龍介「中小企業とともに歩む企業法務のピントとヒント第55話 中小企業だって組織再編~②会社分割」

 債権者意義申述手続が、必要な場合と不要な場合がある。

司法書士 小関 弾「成年後見人ノート ~成年後見業務における相続手続」

 補助人の同意行為目録、代理行為目録に遺産分割協議に参加する権限がない場合において、補助人が相続財産管理人として、本人(被補助人)とともに遺産分割協議にする場合に考えることについて

司法書士 本橋寛樹「税理士法人の吸収合併登記に関する備忘録」

 税理士法人には決算公告義務がないため、最終事業年度にかかる貸借対照表の要旨を官報に掲載する必要がない。

民法等の一部を改正する法律の施行に伴う供託事務の取扱いについて(令5・3・ 27民商第67号法務局長・地方法務局長宛て民事局長通達)・・・書式等。

『登記研究2023年10月908号』

『登記研究908号』2023年10月、テイハンからです。

https://www.teihan.co.jp/book/b10040217.html

法務省民事局付 森下宏輝、法務省大臣官房司法法制部審査監督課法務専門官(前法務省民事局民事第二課法務専門官)古田辰美、法務省民事局民事第二課企画係長兼所有者不明土地等対策推進第二係長 光木沙織「■民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(令和5年4月1日施行関係)」

第1 はじめに、第2 民法等の一部改正の趣旨、第3 改正法の概要、第4 施行通達

 令和5年3月28日付け法務省民二第538号法務省民事局長通達「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」(令和5年4月1日施行関係)、令和5年3月28日付け法務省民二第537号法務省民事局長通達の解説

 1 不登法改正関係

 改正不動産登記法63条第3項について、遺言執行者が指定されている場合には、共同申請となること。

 「登記義務者」から「共同して登記の抹消の申請をすべき者」への改正は、登記義務者に加えて、その相続人その他の一般承継人も含む、という意味。

 改正不動産登記規則第152条の2の規定による調査方法について、不在住証明証書、不在籍証明書の発行は、地方公共団体の裁量に委ねられているので、これらを取得できなかったとしても、調査として不十分であることにはならないこと。

 外国に住所を有する者についても通達の調査方法が適用される。

 改正不動産登記法70条2項について、既判力が生ずるものではないと考えられる。→登記義務者が反対する場合あり。登記義務者が法人の場合の趣旨は、法人としての実体が喪失していると、積極的に認定することができるケースについて、適用すると整理。

 改正不動産登記法70条の3の、30年の期間について。債権の消滅時効期間(民法166条)、解散した法人の清算手続きの期間を考慮した結果。

 改正不動産登記法70条の4について。住民基本台帳ネットワークシステムから情報を取得するためには、費用負担が生じる(住民基本台帳法30条の29)が固定資産課税台帳上の所有者に関する情報を取得するには費用負担はない。

 2 その他運用の見直し関係

 法定相続分による相続登記がされた後に相続人に対する遺贈があったことが判明した場合の更生登記について。遺産分割協議書などを添付、と記載があるが、戸籍などは記載されていない。法定相続分による登記で相続関係が判明している部分については、戸籍などの添付不要?

 法務省民事局民事第二課補佐官 三枝稔宗、法務省民事局民事第二課補佐官 河瀬貴之、法務省訟務局訟務調査室訟務企画課法務専門官(前法務省民事局民事第二課法務専門官)手塚久美子、法務省民事局民事第二課不動産登記第四係長 清水玖美■「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行に伴う相続土地国庫帰属手続に関する事務の取扱いについて(通達)」の解説(2)

第2 本要領の概要

 3 第3節 承認申請者、4 第4節 承認申請書類

 現状、書面申請に限られているので、印鑑証明書など添付書類の取り扱いについて記載。印鑑の届け出をしていない法人について、公証人の認証を受けた署名証明書でも良いのか、新しく印鑑届け出を行うのか、気になりました。

一般社団法人商業登記倶楽部代表理事・主宰者 神﨑満治郎「■商業登記倶楽部の実務相談室から見た商業・法人登記実務上の諸問題(第114回)235 理事会及び監事を設置しない一般社団法人の設立について」

 一人で一般社団法人を設立しようとしている依頼者に対して、設立時のみ妻などに依頼し社員になってもらい、設立後速やかに退社する、という方法を紹介。この方法が紙の専門雑誌に掲載されることに、どうなのだろう、と感じました。

(一社)テミス総合支援センター理事都城市代表監査委員 新井克美「■Q&A不動産表示登記(84)Q254  相接する既登記の2棟の建物の間を増築してその隔壁を除去し1棟の建物とした場合はどのような登記を申請するのか。」

 建物の合体の登記について。未だに実務で見たことはありません。平成5年法律第22号不動産登記法改正により、合体前の建物に抵当権等の登記があるときは、登記官は、職権で、抵当権などの登記を合体後の建物の登記用紙に移記するとされた。

 司法書士は、土地家屋調査士とともにする場合であれば、合体による登記などを申請する場合において、併せて所有権の登記を申請すべきときは、所有権の登記の申請手続をすることができる。2件目の所有権の登記は、共同代理申請になるのでしょうか。

 

司法書士鈴木龍介(司法書士法人鈴木事務所)「■商業登記の変遷(54)」

 登記簿の編成の変化。大福帳→バインダー→ファイル化→コンピュータ化(登記記録へ)。

渋谷陽一郎■民事信託の登記の諸問題(25)

登記研究編集室「会社法施行下で使える登記先例──実務の便覧──(1)」

 平成18年の会社法施行以降の、会社法や商業登記法及び商業登記規則の改正関連の主な先例とその概要の紹介。

【法 令】

所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和4年10月28日政令第334号)

 施行期日、令和4年11月1日

農地中間管理事業の推進に関する法律による不動産登記の特例に関する政令(令和4年12月23日政令第395号)

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和5年3月30日政令第97号)

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和5年3月30日法務省令第19号)

 審査手数料、施行日の記載。

民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和5年8月2日政令第251号)

 所有不動産記録証明制度(改正不動産登記法119条の2)の施行日、令和8年2月2日。住所変更登記などの申請義務化(改正不動産登記法76条の5,75条の6)の施行日、令和8年4月1日。

【訓令・通達・回答】

▽不動産登記関係

〔6209〕不動産登記規則等の一部改正に伴う不動産登記事項証明書等の交付事務の取扱いについて(令和5年3月23日付け法務省民二第506号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局長通達)

〔6210〕不動産登記規則等の一部改正に伴う不動産登記事項証明書等の交付事務の取扱いについて(令和5年3月23日付け法務省民二第507号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局民事第二課長依命通知)

 交付請求方法として、スマートフォンの記載。

〔6211〕民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の施行に関する登記嘱託書の様式について(令和5年3月24日付け法務省民二第518号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局民事第二課長依命通知)

 所有者不明土地管理命令に関連する登記嘱託書の様式について。

『月刊登記情報2023年10月号(743号)』

『月刊登記情報2023年10月号(743号)』(一社)金融財政事情研究会からです。

法務省民事局商事課長土手敏行「遺言書保管制度が更に便利に」

 令和4年1年間の自筆証書遺言書の保管申請件数は、1万6,802件とのこと。

日本司法書士会連合会会長小澤吉徳「さらに前へ! 変革の時代を支える法律家として」

 相続登記の申請義務化と、所有者不明不動産の発生予防に関する関連法令について。家事事件、倒産事件などの各種手続、公証手続のデジタル化法制の公布状況について。成年後見制度の時代に合わせた変化について。

日本土地家屋調査士会連合会会長 岡田潤一郎「制度環境の共有から調和を目指して」

 土地家屋調査士会でも、財産管理人養成講座を行っていることを初めて知りました。実務で、お金を預かったりする業務を行うのか、気になりました。

弁護士井奥圭介・土地家屋調査士山脇優子「境界紛争の解決手続における土地家屋調査士の役割第1回総論」

 境界紛争の原因として、所有権登記の錯誤等が挙げられており、分筆前、分筆後の土地の所有権移転に関しては、きちんと地図などで確認が必要だと感じました。

弁護士(認定心理士)渡部友一郎「法律業務が楽になる心理学の基礎第1回ストレス心理学」

 業務上のストレスに対して、上手く切り抜けられるか、の判断を二次的にしている、というところは納得でした。私も無意識に行っていると思います。

司法書士 末光祐一「犯罪収益移転防止法の大改正と司法書士の実務⑴」

 犯罪による収益移転防止に関する法律の制定、改正経緯について。国際的な取り組みに合わせるような改正。

法農林水産省法務支援室長(前法務省民事局参事官) 脇村真治

法務省民事局参事官(前法務省民事法制企画官) 波多野紀夫

法務省大臣官房国際課付(前法務省民事局付) 宮﨑文康

法務省民事局付 大庭陽子

法務省民事局付 森 香太

「民事執行・民事保全・倒産および家事事件等に関する手続のデジタル化―「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」の概要―」

 家事事件の手続における裁判所が行う公告について、裁判所近くの掲示板への紙での掲示と官報が、裁判所ホームページへの掲載に変わる可能性があることを知りました(家事事件手続規則4条)。

法務省民事局商事課長 土手敏行「商業登記規則逐条解説第10回」

 嘱託登記について、地方公共団体組織認証基盤(LGPKY)発行の職責証明書が法務省ホームページに掲載されているようです。嘱託登記もオンライン申請が可能な環境が整えられつつあると感じます(商業登記規則36条4項1号ハ)。

司法書士法人鈴木事務所 司法書士鈴木龍介「中小企業とともに歩む企業法務のピントとヒント第54話中小企業だって組織再編~①合併」

 主に公告スケジュールについて。合併期日から逆算して公告掲載の申込を行う必要がある、ということでした。参考:登記情報 642号 P86~  2015年5月1日 初瀬 智彦:司法書士、小口 文隆:司法書士、浦田 融:司法書士 「司法書士入門~いまさら聞けない登記実務~SeasonⅡ 第8回 吸収合併による変更登記」

子のいない夫婦が相次いで死去したが、各々生前に清算型遺贈の趣旨を含む遺言をしていた場合

遺言・相続実務問題研究会 (編集), 野口 大 (編集), 藤井 伸介 (編集)『実務家も迷う 遺言相続の難事件 事例式 解決への戦略的道しるべ』2021、新日本法規出版のCase24 子のいない夫婦が相次いで死去したが、各々生前に清算型遺贈の趣旨を含む遺言をしていた場合、からです。

・仮の日付

平成18年1月1日夫が、遺言書を作成

内容・甥姪5名に各自100万円を遺贈し、残額全部と不動産を妻に相続させる(予備的に、清算の上宗教法人に包括遺贈)

平成19年1月1日妻が、遺言書を作成

内容・全財産を換価し、清算後、宗教法人に遺贈する。

平成29年2月18日 夫死亡

平成29年4月18日 亡夫の遺言執行者として弁護士就任

平成29年5月3日  妻死亡

平成29年7月5日  亡妻の遺言執行者として夫と同じ弁護士就任

手続選択の視点

1、夫の遺言の解釈
㋐ 夫の相続財産には、甥姪5名各自に100万円を遺贈するだけの現金がない場合、預金等を解約できるか。
㋑ 夫の相続財産には、甥姪5名各自に100万円を遺贈するだけの現金も預金もない場合、不動産を売却できるか。
㋒ 『予備的に、清算の上宗教法人に包括遺贈』という部分はどう解釈するか。

2、妻の遺言に従って財産を換価する際の留意点
㋐ 不動産の登記手続はどうしたらよいか。妻の名義から、換価により不動産を取得した者の名義に登記を移転することはできるか。
㋑ 登記識別情報は誰に通知されるか。
㋒ 不動産譲渡で譲渡取得が発生する場合は、誰にどのような税金が発生するか。

3 相続税
 ㋐ 夫の相続について、誰が申告・納税義務を負うか。何か留意点はあるか。
 ㋑ 妻の相続について、相続税の負担はどうなるか。遺言執行者の対応で留意するべきことは何か。

4 不動産譲渡税
 ㋐ 不動産取得について、いつ、誰に課税されるか。
 ㋑ 遺言執行者の対応で留意するべきことは何か。
 ㋒ 妻が不動産をそのまま宗教法人に遺贈する場合の課税はどうなるか。

5 本Caseのような事案で遺言を作成する場合の留意点
 ㋐ 第三者への遺贈の遺言を書く場合の留意点は何か。
 ㋑ 法人に遺贈するような遺言を書く場合の留意点は何か。
 ㋒ 妻の相続人に迷惑をかけないよう工夫する点はあるか(税金や諸費用はすべて売却代金から控除することを明記した方がよいのか)。

手続選択の視点

1、夫の遺言の解釈
(1) 『甥姪5名各自に100万円を遺贈する』との文言
・・・遺産である現金や預金等のうちから、甥姪5名、各自100万円を取得させる意思、と書籍では解釈。

ア 遺贈する現金がない場合、預金等の解約の可否
 遺言者の意思の解釈・・・現存する現金残高が「各自100万円」取得させるに足りない場合に、他の財産を換価し取得させることも含まれる。

イ 不動産換価の可否・要否
 遺言執行者は、不動産などの遺産の換価も求められる。
 妻に不動産を「相続させる」旨の条項よりも、受遺者「各自100万円」を取得させる条項が優先し、不動産を換価する必要があると解釈。・妻が既に亡くなっているから(P293)妻に相続させる旨の条項よりも、甥姪への遺贈が優先。民法985条、同法998条が根拠?

・参考
遠藤俊英ほか『金融機関の法務対策5000講 1巻』金融財政事情研究会、2018、P1534~ 最判昭和49年4月26日民集第28巻3号503頁
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52045

<概要>
・法定相続人以外の者に承継させる遺贈の場合、遺贈義務者である相続人の署名を求めるこのが無難。
・遺言執行者が選任されている場合、トラブル防止の観点からは、その署名を得ておくことが望ましい。
・遺言書の規定振りから、自行の預金が承継の対象が明確になっているとはいえない場合、相続人全員の署名を取得すべき。

ウ 不動産売却を要する場合の遺言執行者の実務上の対応・配慮
 不動産売却の結果、妻が居住場所を失い、かつ、困窮する場合
(1)遺言執行者から各受遺者に、不足分について遺贈の放棄をしてもらうように説得、依頼。

・遺贈の放棄について説得・依頼するのは、遺言執行者の権限・義務でしょうか?

→民法987条、催告の程度。

(2)遺言執行者が妻に対し、妻固有の金融資産から、甥姪への遺贈義務を履行するように説得。遺贈義務履行と妻への所有権移転登記の申請が、同時に行われるように計らう。

(3)甥姪に対する遺贈義務を履行するための、妻の遺留分(2分の1)が侵害される結果となる場合
 妻から甥姪に対して、遺留分(減殺)侵害請求権を行使して、遺留分を確保するために必要となる範囲で、遺贈義務の履行を拒絶。

(4)「残額全部」を妻に「相続させる」旨の文言  遺産の中から、甥姪に各自100万円を取得させた後、残りを妻に対し相続させる意思と解釈  前提として、遺産の現金や預貯金残高の合計額が、「500万円」を超えること。

(5)『清算の上宗教法人に包括遺贈』する旨の予備的遺言  妻が夫よりも先に亡くなった場合の意思表示と解釈。

2 妻の遺言に従って財産を換価する際の留意点
(1)妻の遺言の法的性質
・清算型遺贈
(2)清算型遺贈における不動産の権利義務移転過程の登記名義の反映
・遺言執行者は、一旦、妻の相続人への相続登記申請を行い、その後、売買による買主への所有権移転登記の申請。

1、遺言執行者の単独申請により、被相続人名義から相続人名義への相続人名義への相続による所有権移転登記の申請(現行不動産登記法63条3項)。

2、遺言執行者と買主との共同申請により、売買を原因とする所有権移転登記の申請

・登記研究 277号 74頁 昭和45年10月5日 民事甲第4160号 民事局長回答 〔本誌第二七六号六一頁掲載の回答の解説〕◎四一〇九遺言による所有権移転登記について

・登研究 277号 74頁 昭和45年10月5日 民事甲第4160号 民事局長回答 〔本誌第二七六号六一頁掲載の回答の解説〕◎四一〇九遺言による所有権移転登記について

・登記研究 417号 63頁 昭和52年2月4日 法務省民三第773号 民事局第三課長回答 《四六七四》弁護士法第二十三条の二に基づく照会について(ドイツ連邦共和国(西独)人である被相続人の日本にある相続不動産を、遺言執行人が売却処分し、その売却金を受贈者に分配しようとする場合、右不動産についての登記手続について)

・登記研究 619号 219頁  1999年8月30日 【質疑応答】 〔七六九五〕相続人不存在の場合における清算型遺言による登記手続について

(3)登記識別情報を受ける権限

 遺言執行者に、登記識別情報が通知される(民法1015条。)

3 相続税

(1)夫の相続

ア 納税義務者

 妻、甥、姪ら。

イ 留意点

 特例の利用

(2)妻の相続

ア 妻の相続人には、納税義務が生じない(所得税法12条、法人税法11条等)。税務署に相談の上、対応。

イ 遺言執行者が留意すべき事項

 妻の相続について、所轄税務署に事前に説明。妻の相続人について、所轄税務署からお尋ね文書が届くことを知らせる。

ウ 宗教法人に対する非課税

 相続税法1条の3(相続税の納税義務者)、租税特別措置法40条(国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税)、法人税法別表第二の公益法人等の表。

(3)登記識別情報を受ける権限

 遺言執行者に、登記識別情報が通知される(民法1015条。)

3 相続税

(2)妻の相続

ア 妻の相続人には、納税義務が生じない(所得税法12条、法人税法11条等)。税務署に相談の上、対応。

イ 遺言執行者が留意すべき事項

 妻の相続について、所轄税務署に事前に説明。妻の相続人について、所轄税務署からお尋ね文書が届くことを知らせる。

ウ 宗教法人に対する非課税

 相続税法1条の3(相続税の納税義務者)、租税特別措置法40条(国等に対して財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税)、法人税法別表第二の公益法人等の表。

4、不動産譲渡税
(1)課税に関する検討の重要性
ア 一般的な留意事項
 不動産を売却して代金を受け取った場合、その代金が帰属する者には譲渡取得税と住民税が課され、納付義務を負う。

イ 清算型遺贈における留意点ー実質取得者課税の原則の適用
 本Caseでは、妻の相続人は実質的に利益を得ていないので、課税要件を欠く。個別案件ごとに所轄税務署へ確認。

ウ みなし譲渡取得課税が生じる場合
・妻が宗教法人に対して、不動産を遺贈する場合
妻の相続人・・・譲渡取得が認められれば、譲渡取得税課税。所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)、125条(年の中途で死亡した場合の確定申告)
 受贈者の宗教法人が、租税特別措置法上の公益法人等に該当し、他の要件も満たせば、妻の相続人は非課税。

5 本Caseのような事案で遺言を作成する場合の留意点
(1)第三者に遺贈をする場合
 予備的な遺言条項として、「遺言執行時に、甥姪5名、各自に100万円を遺贈するだけの現金も預貯金もない場合、現存する現金及び預貯金の範囲で甥姪に按分弁済する。」条項を設ける。妻に相続させる不動産を換価しないため。

(2)法人に遺贈をする場合
 受遺者となる法人の寄付金受取取扱規定、運用基準、遺贈による寄附受け入れの可否の事前確認。遺言の効力発生時にもう一度確認。

(3)妻の相続人に迷惑をかけないよう配慮すべき事項
 みなし譲渡課税の可能性がある場合、納税資金の確保について遺言に明記。不動産の売却代金から、税金を控除するなど。



不動産登記規則等の一部を改正する省令及び民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令

不動産登記規則等の一部を改正する省令及び民法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(2023年7月28日付閣議決定、8月2日付公布)

https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2023/kakugi-2023072801.html

〇法務省令第三十三号

民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)の一部の施行に伴い、並びに関係法令の規定に基づき、及び不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)を実施するため、不動産登記規則等の一部を改正する省令を次のように定める。

令和五年七月二十八日

(不動産登記規則の一部改正)

第一条不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)の一部を次のように改正する。

次の表により、改正前欄に掲げる規定の傍線を付した部分をこれに対応する改正後欄に掲げる規定の傍線を付した部分のように改め、改正後欄に掲げるその標記部分に二重傍線を付した規定を加える。

改正前

(裁判所への通知)

第百八十七条

登記官は、次の各号に掲げる場合には、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知しなければならない。

改正後

(裁判所への通知)

第百八十七条

登記官は、担保付社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)第七十条第十八号の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知しなければならない。

一 法第百六十四条の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったとき(登記官が法第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務に違反した者に対し相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催告したにもかかわらず、その期間内にその申請がされないときに限る。)。

二 担保付社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)第七十条第十八号の規定により過料に処せられるべき者があることを職務上知ったとき。

令和5年8月2日政令第251号

民法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令

 内閣は、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第1条第3号の規定に基づき、この政令を制定する。

 民法等の一部を改正する法律附則第1条第3号に揚げる規定の施行期日は、令和8年4月1日とする。ただし、同法第2条中不動産登記法(平成16年法律第123号)第119条の次に1条を加える改正規定及び同法第120条第3項の改正規定の施行期日は、令和8年2月2日とする。

法務大臣 齋藤健

内閣総理大臣 岸田文雄

民法等の一部を改正する法律附則第1条第3号に揚げる規定

附 則

  (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 一 第二条中不動産登記法第百三十一条第五項の改正規定及び附則第三十四条の規定 公布の日

 二 第二条中不動産登記法の目次の改正規定、同法第十六条第二項の改正規定、同法第四章第三節第二款中第七十四条の前に一条を加える改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の二及び第七十六条の三に係る部分に限る。)、同法第百十九条の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分を除く。)並びに附則第五条第四項から第六項まで、第六条、第二十二条及び第二十三条の規定 公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日

 三 第二条中不動産登記法第二十五条第七号の改正規定、同法第七十六条の次に五条を加える改正規定(第七十六条の四から第七十六条の六までに係る部分に限る。)、同法第百十九条の次に一条を加える改正規定、同法第百二十条第三項の改正規定及び同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分に限る。)並びに附則第五条第七項の規定 公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日

不動産登記法第二十五条第七号

(申請の却下)第二十五条

七 申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十六条の五、第七十七条、第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)、第九十三条(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。

不動産登記法(平成16年法律第123号)第119条の次に1条を加える改正規定

(所有不動産記録証明書の交付等)

第百十九条の二 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。

3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。

4 前条第三項及び第四項の規定は、所有不動産記録証明書の手数料について準用する。

第120条第3項の改正規定

(地図の写しの交付等)

第百二十条 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、地図、建物所在図又は地図に準ずる図面(以下この条において「地図等」という。)の全部又は一部の写し(地図等が電磁的記録に記録されているときは、当該記録された情報の内容を証明した書面)の交付を請求することができる。

2 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、地図等(地図等が電磁的記録に記録されているときは、当該記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧を請求することができる。

3 第百十九条第三項から第五項までの規定は、地図等について準用する。

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