地域共生社会はどうあるべきか―ーポストコロナの福祉ビジョン―

 市民と法[1]の宮本太郎中央大学教授「地域共生社会はどうあるべきか―ポストコロナの福祉ビジョン―」からです。

・重層的支援体制整備事業

社会福祉法の改正

厚生労働省 / MHLWchannel 「②社会福祉法の改正趣旨・改正概要について」

社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000045

(地域福祉の推進)

第四条 地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない。

・・・理念

(福祉サービスの提供体制の確保等に関する国及び地方公共団体の責務)

第六条 2 国及び地方公共団体は、地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備その他地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めるとともに、当該措置の推進に当たつては、保健医療、労働、教育、住まい及び地域再生に関する施策その他の関連施策との連携に配慮するよう努めなければならない。

・・・努力義務

(重層的支援体制整備事業)

第百六条の四 2 前項の「重層的支援体制整備事業」とは、次に掲げるこの法律に基づく事業及び他の法律に基づく事業を一体のものとして実施することにより、地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯に対する支援体制並びに地域住民等による地域福祉の推進のために必要な環境を一体的かつ重層的に整備する事業をいう。

一 地域生活課題を抱える地域住民及びその家族その他の関係者からの相談に包括的に応じ、利用可能な福祉サービスに関する情報の提供及び助言、支援関係機関との連絡調整並びに高齢者、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のための援助その他厚生労働省令で定める便宜の提供を行うため、次に掲げる全ての事業を一体的に行う事業

イ 介護保険法第百十五条の四十五第二項第一号から第三号までに掲げる事業

ロ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第七十七条第一項第三号に掲げる事業

ハ 子ども・子育て支援法第五十九条第一号に掲げる事業

ニ 生活困窮者自立支援法第三条第二項各号に掲げる事業

二 地域生活課題を抱える地域住民であつて、社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対し、支援関係機関と民間団体との連携による支援体制の下、活動の機会の提供、訪問による必要な情報の提供及び助言その他の社会参加のために必要な便宜の提供として厚生労働省令で定めるものを行う事業

三 地域住民が地域において自立した日常生活を営み、地域社会に参加する機会を確保するための支援並びに地域生活課題の発生の防止又は解決に係る体制の整備及び地域住民相互の交流を行う拠点の開設その他厚生労働省令で定める援助を行うため、次に掲げる全ての事業を一体的に行う事業

イ 介護保険法第百十五条の四十五第一項第二号に掲げる事業のうち厚生労働大臣が定めるもの

ロ 介護保険法第百十五条の四十五第二項第五号に掲げる事業

ハ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第七十七条第一項第九号に掲げる事業

ニ 子ども・子育て支援法第五十九条第九号に掲げる事業

四 地域社会からの孤立が長期にわたる者その他の継続的な支援を必要とする地域住民及びその世帯に対し、訪問により状況を把握した上で相談に応じ、利用可能な福祉サービスに関する情報の提供及び助言その他の厚生労働省令で定める便宜の提供を包括的かつ継続的に行う事業

・・・相談支援の包括化、地域づくり事業、前の2つを繋ぐ事業、アウトリーチ事業。

ユニバーサル就労(中間的就労)について、「職場で経験値が高い専門性を有しした人が引き受けている仕事を業務分解して、誰でもできる仕事を切り出していく。こうして、さまざまな困難を抱えた人々も携わることができる業務のパッケージをつくり出し、さらには人々の事情に合わせてカスタマイズする。このように、職場の効率を犠牲にすることなく、その間口を広げていくのがユニバーサル就労である。(P18)」

・・・「誰でもできる仕事」は、私なら利用者が出来る、嫌ではない仕事とします。

参考 ユニバーサル就労ネットワークちばHP「中間的就労とは?」

・・・利用の仕方次第なのかなと感じます。

”制度からの孤立”を防ぐために必要なこと-申請主義によって生じる課題に焦点をあてて-

tps://note.com/wish0517/n/n1bb074a9e690

富士市HP「富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例(平成29年4月1日施行)」

https://www.city.fuji.shizuoka.jp/kurashi/c0606/universal_work.html

・・・「市民の誰もが社会を構成する一員として活躍し、自立した生活を送ることができる社会を実現するためには、就労意欲のある全ての人に就労の機会が提供されるよう、環境を整備していかなければならない。」とありますが、これは自助ではないのかなと感じます。

独立行政法人福祉医療気候「コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」

地域の人材やシステムを活用して困っている人を支援する

https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/fukushiworkguide/jobguidejobtype/jobguide_job58.html

・・・人次第かなと思いました。

・2040年問題

参考 「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめ」について

令和元年6月12日 第118回社会保障審議会医療保険部会 資 料 2-1

厚生労働省保険局

・就職氷河期世代の方々の活躍の場を更に広げるための支援

・地域共生・地域の支え合い

「地域共生社会の形成には、相談支援と元気になる場、そしてこの二つをつなげる参加支援が重要であること、昨年の社会福祉法改正による重層的支援体制整備事業がこの3つのポイントを包括化していく取組みであることを示した。」

参考

令和3年3月 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

「重層的支援体制整備事業に関わることになった人に向けたガイドブック」

「「生きづらさ」を抱える住民を支える専門職や支援団体もまた、縦割りの制度や組織、支援の仕組みに、「支援しづらさ」を感じています。」

【支援関係者・専門職にとって】地域の支援関係者、専門職にとっては、利用者・対象者の抱える生活課題のすべてを一か所で抱え込む必要がなくなります。人的資源に限度がある以上、各分野の負担を軽減しながら支えていくことは考えるべき現実的な課題です。支援関係者や専門職の負担が軽減されることは、結局、最終的には生活課題を抱える地域全体のメリットになっていきます。

・・・担当者によって変わるのかなと感じました。イメージは生活保護担当者や、地方公共団体の職員の社会福祉士などです。ここまでやるのか、すごいなと思わせる方もいますし、んー、あまり希望してなかった課にふられてしまったんだなと思わせる方もいらっしゃいます。


[1]130号、2021年8月、P14~民事法研究会

「認知症や意思疎通が困難な人の新型コロナワクチン接種のための意思決定の手引き」を読みながら

日本臨床倫理学会 ワーキンググループ

http://square.umin.ac.jp/j-ethics/

1.意思決定能力が脆弱(十分でない)という理由で、ワクチン接種する機会が妨げられないようにすることは大切です。世界医師会リスボン宣言が「すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。」と明記しているように、予防接種の対象者は、誰であれ、ワクチンの利益を享受(きょうじゅ)する権利を有しています。

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日本医師会「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」

https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/lisbon.html

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2. 医療ケアチームは、新型コロナ感染症およびワクチンに関する医学的情報を、信頼のおける情報源から、事前に、十分、確認してください。

3. 本人に意思決定能力があれば、医療ケアの方針は、本人の意向(同意あるいは拒否)に沿って決定されるのが自律尊重の倫理原則です。特に、ワクチン接種は、予防的な医療という観点から、本人の同意が重要です。したがって、他からの圧力を受けることなく、自発的にワクチンの接種を選ぶ、ないし拒むことが認められる必要があります。

4. 「意思決定能力」を、先入観を持たずに適切に評価してください。意思決定能力は少しずつ低下していきます。本人の意思決定能力に応じて、方針決定に参加する機会を与えることは重要です。総合的に無能力としてはいけません。

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「機会は与えられるもの」なのか、分かりませんでした。

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5. 本人の意思決定能力や障害の特性に応じた、十分かつ分かりやすい説明に心掛けることが大切です。

6. 本人が自分で決定できないと適切に評価された場合には、本人をよく知る家族等による代理判断が行われます。代理判断とは、家族が家族の利害で判断するのではなく、患者に仮に今意思決定能力があるとするとどのような判断をするのかを、本人の価値等を踏まえて行われます。そのための代理判断においては以下の点に注意をします。

(1)代理判断;本人の新型コロナワクチンを含む予防接種(以下、予防接種という)に関する事前の意思表示があれば、尊重します。

(2)代理判断;(1)がなければ本人の意思を推定します。もし、本人に、以前のような意思決定能力が有れば、ワクチン接種を望んだであろうと推定できれば、同意と推定します。もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことが無ければ、「本人が予防接種を望むだろう」という推定をする参考になります。また、もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことがあれば、「本人が予防接種を望まないだろう」という推定をする参考になります。

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「もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことがあれば、「本人が予防接種を望まないだろう」という推定をする参考になります。」新型コロナに関するワクチン接種も参考になるのでしょうか。

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(3)代理判断;本人のこれまでの考え方・人生観・価値観や、予防接種の履歴、接種をした場合の社会的な参加の機会の有無などをもとに、本人にとっての最善の利益を考えます。

2認知症や意思疎通が困難な人の新型コロナワクチン接種のための意思決定の手引き

日本臨床倫理学会 ワーキンググループ

【趣旨】2021 年 4 月、COVID-19 パンデミックに対処する有用な方法としてコロナウイルスワクチンの接種が、高齢者施設において開始された。しかし、高齢者施設(障害者施設でも同様です)では、認知症をはじめとして、意思決定能力が低下して意思疎通が難しい入所者が多数おり、本人の意向を確認することが困難な状況が見受けられる。国は「医療行為には本人の同意が前提」との見解を示しているだけで、本人から有効な同意が取得できない入所者への対応は施設に任されているのが現状である。特に、家族がいない場合には、問題が複雑になり、施設関係者も困惑している現状がある。そこで、日本臨床倫理学会は、この倫理的問題の重要性に鑑み、会員から寄せられたパブリックコメントを基に、ワーキンググループでディスカッションを重ね、「認知症や意思疎通が困難な人の新型コロナワクチン接種のための意思決定の手引き」を出すことにした。施設関係者など、新型コロナワクチン接種に関わる人々の意思決定支援に役立つことを望んでいる。

  1. 新型コロナ感染症およびワクチンに関する最新の医学的事項を確認します

新型コロナ感染症の世界的拡大により、できる限り早くワクチン接種が薦められている現状があります。他方、新型コロナ感染症およびワクチンに関する医学的事項が次第に明らかになってきています。

① 高齢者の COVID-19 感染は予後不良で,しばしば致死的です。;要介護高齢者は、入院を要する重症者のハイリスクグループです。さまざまな基礎疾患を合併していることが多く、入院も長期化・重症化しやすく、死亡率が高くなっています。退院後も廃用萎縮による心身機能の低下に陥りやすくなります。

② COVID-19 に対する mRNA ワクチンは副反応を認めるものの,これまでの臨床試験でその副反応を大きく上回るメリットが証明されています。;ワクチンのベネフィットとして、95%の感染予防の有効性がいわれています。また、たとえ 1 回の接種でも抗体の獲得率(70~80%)が高く、もし罹患しても入院・重症化を抑制(80%)できるとの報告があります。ワクチンのリスクとしての副反応は、重篤なものは少ないといわれています。特に高齢者では軽いと言われています。

③副反応に関連して,ワクチン接種を禁忌(*)とする神経疾患は,認知症を含め基本的にないといわれています。(*)接種を控えるか,厳重な医療体制を敷いて行う場合年はアナフィラキーシーショックの既往歴,現時点での発熱疾患などと考えられています。

④施設内クラスター防止は感染対策上,重要な課題である;感染力の強い変異株の出現で,施設内での感染はより大規模なクラスターを引き起こすリスクがあります。もし、ある人がワクチン接種を受けず発症した場合、他のワクチン接種を受けた入所者の人々が「濃厚接触者」扱いになる可能性があります。

⑤認知症の人は十分な感染対策ができない;認知症の人はマスクの着用や、手指衛生などの感染対策が不十分になってしまいがちです。また、介護量も多いため医療ケア担当者も接触する頻度が多くなります。また、介護現場においては、ケアスタッフもPPE やゾーニングなどの隔離医療に慣れていないため、医療対応能力が脆弱です。上記のリスク-ベネフィットバランスにより、ワクチン接種することによる利益は、接種しないことで生じる不利益を上回ると考えられています。また、また、重篤な副反応が発生した場合や緊急時の対応がすぐに取れるように、事前に対応手順を取り決め、準備をしておくこと、スタッフの事前の教育も大切です。

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PPE・・・個人用防護具 personal protective equipment

職業感染制御研究会

https://www.safety.jrgoicp.org/ppe-2-what.html

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  • 認知症の人のための意思決定の基準として何が用いられるべきか?

本人の選択、②家族等による本人意思の推定、③本人の最善の利益、の順に考え、それらは、④公衆衛生上の視点とのバランスをとって考えることが重要です。

3.本人の選択(意思)について確認します医学的リスク-ベネフィットバランスにより、ワクチン投与が、本人の利益となると考えられる場合であっても、自動的にすべての認知症や意思疎通困難な人が、施設長や家族などの判断でワクチン接種をすべきという事にはなりません。まず、本人の選択(意思)について確認することが重要です。本人の意向を尊重することは重要です。

*本人に意思決定能力があれば、医療ケアの方針は、本人の意向(同意あるいは拒否)に沿って決定されるのが自律尊重の倫理原則です。

*ワクチン接種は、予防的な医療という観点から、特に、本人の同意が重要です。実際、国は「医療行為には本人の同意が前提」との見解を示しています。予防接種法 9 条において「予防接種の対象者は、臨時の予防接種を受けるよう努めなければならない(努力義務)」とされています。したがって、他からの圧力をうけることなく、自発的にワクチンの接種を選ぶことが認められる必要があります。

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予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)(予防接種を受ける努力義務)第九条 

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000068

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*また、患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言では、「a. すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。」「b.患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする」と明記されており、予防接種の対象者は、だれであれ、ワクチンの利益を享受する権利を有することも重要な視点です。

②意思決定能力について評価します。

*高齢者施設では、実際、インフォームドコンセントできない認知症や意思疎通困難な人が多くいます。

*しかし、高齢や認知症,意思疎通困難を理由に、「自分では決められないだろう」と先入観をもってはいけません。

*医療・ケアチームで「意思決定能力」を適切に評価してください。総合的に無能力としてはいけません。

*意思決定能力とは、自身が受ける医療ケアについて、説明を受けたうえで、自ら判断を下す能力を指します。具体的には、ワクチン接種の必要性や副反応について理解し、受けた場合と受けない場合には、それは、自分にとってどのような影響があるのかを認識できることです。

③意思決定能力は少しずつ低下していきます。「あり」「なし」とは決められません。

*意思決定能力は「あり」「なし」の二者択一ではありません。

*本人の意思決定能力に応じて、方針決定に参加する機会を与えることは重要です。

*意思決定能力がある場合は【consent 同意/refusal 拒否】⇒意思決定能力が境界領域の場合【assent 賛意/dissent 不賛意】⇒意思決定能力がない場合【代理判断】となりますが、実際、残存能力のある境界領域のケースが多くあります。

*特に、意思決定能力が境界領域の場合には、意思決定の共有・支援(Shared DecisionMaking/Supported Decision Making)をしてください。

*同意 consent できる能力から、賛意 assent 出来る能力への移行は漸減的であり、意思決定能力評価のゴールドスタンダードは存在しません。

④わかりやすい説明を心掛けます。

*本人の意思決定能力や障害の特性に応じた、十分かつ分かりやすい説明に心掛けることが大切です。イラストなどを用いた説明を丁寧に繰り返すことも意思決定支援に役立ちます。

⑤医療ケアチームは、認知症の人の意思決定支援をし、守らなければならない

*本人にとって自身の意向を尊重してもらえることは、本人の Well-being(身体的・精神的・社会的に良好な状態にある)の向上に寄与します。

*意思決定能力が脆弱という理由で、ワクチン接種する機会が妨げられないようにすることは大切です。

*本人が自身の意向をできるだけ表出できるように、意思決定支援にある程度時間をかけて、丁寧に関わっていくことが大切です。

*事前説明や実施に際して、ワクチン接種の不安を和らげるように、医療ケアチームの関わりを強化する必要があります。

*本人のした選択は、自身の最善の利益にかなうかどうかについて、検討してください。

*拒絶の意を示した場合、その理由に耳を傾け、真摯に接する必要があります。*一般的に、日本の高齢者は、注射という医療行為に明確な拒否を示すことは比較的少ないですが、実際の臨床現場では、認知症の人は、「注射をする=痛いことをされる、だから痛いことは嫌だ」という理由でワクチン接種を拒否する人がいます。

*本人が自身の最善の利益に、明らかに反すると思われる決定をした場合には、医療ケアチームは説得を試みる必要があります。ただし、認知症の人が、ある治療、例えば注射について嫌がったとしても、それは認知機能が正常で意思決定能力がある人の拒否と同等な倫理的効力がないこともありますので、医療・ケアチームでよく話し合ってください。

4.本人の意思が確認できない場合には、家族等が代理判断をします

本人が自分で決定できないと、適切に評価された場合には、家族等による代理判断が行われます。医療ケアチームは、代理判断者が判断するために必要な医療情報を伝えます。また、アドバイスをするために一緒に話し合いの席につくことが望まれます。本人が意思表明できないという理由で、ワクチン接種の機会が奪われないように配慮することが必要です。また、代理判断者が、「人が自分のために決める場合」と「他人のために決める場合」を区別することができるように支援します。

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少し大ざっぱな分け方かなと感じます。

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4-1;誰が本人のための意思決定をすべきか?

*家族等とは、家族をはじめ、本人が最も信頼する親戚、友人、親しい知人などを指します。

*成年後見人には医療の同意権はありませんが、本人の信頼する親しい知人の一人として代理判断者になることは可能です。

*もし、本人が自分の意思で指名した代理判断者がいればその人が最適ですが、いない場合には、話し合いの中心となるキーパーソンが代理判断者の役目を担います。

*代理判断者には、本人の性格や価値観を知り、病気や治療に関する情報をもち、本人のために真摯に考えることができる人が望まれます。

*話し合いの中心となる代理判断者がいても、可能であれば、本人を知る様々な立場の人も加えることが、かつてのその人の通常の日常環境に近づいた判断ができることになり、望ましいと云えます。

4-2;本人は、以前、予防接種について、何か意思表示をしていましたか?

*以前、意思決定能力があった時の意思表示を事前指示(事前の意思表示)といいます。事前指示を尊重することは、意思決定能力が正常だった「かつてのその人」の自己決定権を尊重することになります。

*かつての意思表示である事前指示を尊重することが、現在の本人にとって不利益にならないかを、適切に評価してください。

4-3;本人の意思を推定します

*事前指示がない場合には、ワクチン接種に関する本人の意思を推定します。

*家族や、本人と親しい人,可能ならば複数の人から,本人の価値観や健康観を踏まえた、本人の推定的意思について聞き取ります。

*もし、本人に、以前のような意思決定能力が有れば、コロナワクチン接種の必要性を理解・認識し、ワクチン接種を望んだであろうと推定できれば、同意と推定します。それには、過去の予防接種歴、例えば、インフルエンザワクチン接種などが参考になるでしょう。

*もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことが無ければ、「本人が予防接種を望むだろう」という推定をする参考になります。

*もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことがあれば、「本人が予防接種を望まないだろう」という推定をする参考になります。

4-4;本人にとっての最善の利益を考えます

*本人の事前指示がなく、かつ、本人の意思の推定さえもできない場合には、本人のこれまでの考え方・人生観・価値観や、予防接種の履歴などをもとに、本人にとって何が最善かを考えます。

*コロナワクチンは国民すべてが無償で接種でき、それは平等に与えられた権利です。認知症や意思疎通困難な人が、「同意できない」といった理由で、ワクチン接種対象者から除外される場合、それだけの理由で不利益(感染リスクや重症化による命の危険、その後の ADL や認知機能の低下)をこうむっている可能性があります。

*「本人にとって、何が最善の利益か?」を決めることは難しいことです。それは、本人の医学的利益だけでなく、倫理的価値に関する事項(本人の願望等)、さらには周囲の人々の利益(他の入所者やケアスタッフの感染リスクの低減)についても十分に配慮することが必要です。

*ワクチン接種による利益が、本当に負担(不利益)を上回っているかどうかを、共感をもって考えます。

*本人にとって、ワクチンを打つことによる不利益が、その利益を上回ることがないのであれば、あるいは、医学的に害とならなければ(無危害)、家族・医療ケアチームの判断を尊重してよいでしょう。

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特別な個室で対応可能な場合を除いて、医療・介護施設に入所している場合で、本人が身体的に耐えられるとき、ワクチンを打たないという選択事例があるのでしょうか。

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4-5;医療ケアチームも一緒に話し合いに参加し、家族に助言をします

*医療ケアチームは本人の最善の利益を守り、本人の Well-being のために行動する必要があります。

*家族等が、適切な代理判断ができるように、医療ケアチームは適切かつ十分な情報提供に努めます。

*医療ケアチームは、ワクチン接種の医学的情報(ベネフィットと副反応リスク)について、パンフレットなどを用いて、わかりやすく説明をします。

*感染した場合のデメリット(隔離する、Full PPE(個人防護具)での対応、家族と会えない、もし亡くなったときに死に目に会えないなど)も、必要に応じて伝えます。

*さらに、ワクチン接種の公共性(そのベネフィットが施設内・地域におよび((=道徳的には利他的な行動を採ること))、それは結果的に本人の利益ともなること)についても、説明します。

*家族が決定に悩んでいる場合には、医療・ケアチームは、本人にとって最善と思う方針を家族に薦め、家族が熟慮するのを支援します。

*代理判断の際に、家族に対して「接種しないなら施設を退所してほしい」などといった、不適切な条件を提示して、家族の判断にバイアスを生じさせてはならないのは当然のことです。

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「「接種しないなら施設を退所してほしい」などといった、不適切な条件を提示して、家族の判断にバイアスを生じさせてはならないのは当然のことです。」家族が自ら、そのように考えてしまうんじゃないかなと感じます。

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*家族の決定の適切性について評価します。家族は本人の最善の利益を守らなければなりません。もし、家族が本人の最善の利益にそぐわない決定をした場合には、医療・ケアチームは、説得するよう努めます。

*家族の裁量権は絶対的ではありません。本人の最善の利益にそぐわない、あるいは害になる決定をした場合には、その権限は制限されます。

*医療・ケアチームは、虐待やネグレクトなど、問題のある家族に対しても敬意をもって接し、支援する必要があります。

85.家族がいない場合には、医療ケアチームが多職種協働で話し合います

本人から有効な同意が取得できないにもかかわらず、方針を決定する「家族がいない」、「身寄りがない」「家族はいるが、連絡がつかない」場合には、今後の方針決定について、特に問題となります。「家族がいないから」といった理由でワクチン接種が受けられないことは公正ではありません。また、医療ケアチームは、本人の最善の利益と Well-being のために行動し、認知症や意思疎通困難な人を守る責務があります。施設長、担当医などの個人の独断ではなく、最終判断は本人を良く知る多職種協働チームで決定することが望まれます。

5-1;本人は、以前、予防接種について、何か意思表示をしていましたか?

*事前指示を尊重することは、意思決定能力が正常だった「かつてのその人」の自己決定権を尊重することになるという点は、家族等による代理判断と同様です。

*かつての意思表示である事前指示を尊重することが、現在の本人にとって不利益にならないかを、適切に評価してください

5-2;本人の意思を推定します

*事前指示がない場合には、ワクチン接種に関する本人の意思を推定します。

*医療ケアチーム内のさまざまな職種の人から、本人意思を推定するために有用な情報を聞き取ります。多職種から聞き取りをすることは、本人を多面的・総合的に見ることに役立ちます。

*もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことが無ければ、「本人が予防接種を望むだろう」という推定をする参考になります。*もし、本人が、これまでに「予防接種をしない」という意思表示をしたことがあれば、「本人が予防接種を望まないだろう」という推定をする参考になります。

5-3;本人にとっての最善の利益を考えます

*本人の事前指示がなく、かつ、本人の意思の推定さえもできない場合には、本人のこれまでの考え方・人生観・価値観や、予防接種の履歴などをもとに、本人にとって何が最善かを考えます。

*医療・ケアチームは本人の最善の利益を守るために行動する倫理的義務があります。ワクチン接種による利益が、本当に負担(不利益)を上回っているかどうかを、共感をもって考えてください。医学的側面、本人の価値観、周囲の状況など広い視点から熟慮してください。

5-4;第三者的・中立的視点を取り入れ、公正性に留意します

*医療ケアチームによる意思決定において、そのプロセスの適切性について確認します。

*さまざまな立場の多職種スタッフの意見を十分に聞き取りましたか? 意思決定は、独断にならず、関係者間のコミュニケーションを尽くすことが重要です。*密室の決定にならないように、透明性に配慮してください。そのためには、話し合いの経過・決定理由を適切に記録しておきます。*関係者間で意見がまとまらない場合には、施設内の医療ケアチームだけでなく、中立的第三者の意見を聞く必要があります。

*解決困難な事例の場合には、倫理カンファや倫理コンサルテーションに諮問するとよいでしょう。

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「第三者的・中立的」の的というのは、良い表現だなと思いました。第三者、中立な立場というのはあまりいないと思います。

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6.公衆衛生上・公共の福祉の視点

①ワクチン接種が、新型コロナウィルス感染から高齢者本人を守ることは勿論のこと、社会全体として感染拡大を抑制・収束させるという公衆衛生上の視点も考慮することは重要です。患者数の増加や、重症化の割合の増加は、病床逼迫や医療従事者の疲弊といった医療体制全般にも好ましくない影響を与えます。

②ワクチン接種のベネフィットは、感染対策として高齢者施設内だけでなく地域社会全体にもおよぶという利他性・公共性があります。また、それは結果として、本人がその施設やコミュニティに安心して継続的に所属でき、また、社会活動にも参加できるという意味で、本人の利益ともなります。

③ 高齢者施設という集団の生活の場における感染予防は、他の入所者への危害を防ぐために大切です。したがって、利用者の意思決定(特に拒否の意思決定)は「公共の福祉」によって制約される場合があります。施設で生活している認知症の人が、「意思表明できない」「家族がいない」ことを理由にワクチン接種が実施されなかった場合、感染拡大防止の観点から、本人の行動範囲が制限される可能性がでてきてしまいます。また、万一、感染し、その結果、施設内クラスターが発生した場合、ⅰ)本人は周囲の反感をかったり、非難されるという不利益を蒙る可能性があります。ⅱ)他の入所者がワクチン接種をしていても、濃厚接触者扱いになります、ⅲ)マスク着用ができないと、接触した人は「濃厚接触者」扱いになってしまいます、などのデメリットがあります。

④「個人のリスク-ベネフィットバランス」と「公共の福祉」の両者を総合的に考慮した場合、現時点の医学的事実からは、新型コロナワクチン接種は、正当性だけでなく、緊急性もあると思われます。ただし、施設の方針だとして一律に強制的に実施してはなりません。また、ワクチン接種をしていないからといって、福祉サービスなどを利用しにくくなるといった不利益を被ることの無いよう、関係各所において申し合わせしておく必要もあります。本人の意思の尊重をはじめ、適切な代理判断の手順を踏み、その実施について多職種で熟慮することが必要です。

7.合意が形成されない場合には、倫理コンサルテーションに相談します

一般的には、上記の1~6の手順を踏むことによって、ワクチン接種の方針が決定できることが多いでしょう。しかし、臨床現場には、さまざまな個別の特徴のあるケースが出てきて、医療・ケアチームを悩ませます。解決が難しいケースの場合には、倫理コンサルテーションに相談をしてください。日本臨床倫理学会は、その会員を通じて、倫理相談をする仕組みを構築しています。

11Q&A

Q1;私の働く施設には 100 人もの多くの利用者様がいます。どのように説明を行っていけばよいでしょうか?

A1; 『同じような理解度の利用者さんを少人数ずつに分けて、集団で説明会を行ってみてみましょう。その時、個々のマスク使用、充分なソーシャルディスタンスに注意を払ってください。』『説明に理解を示して頂ける様なら承諾のサインを利用者さんに頂いておきましょう。更に説明を行って承諾をいただいたことを記録に残してください。その後家族への伝達を行い、重ねて承諾を頂くのも良いでしょう。』『理解度が低くなるほど人数を減らし、1 回では理解していただけなければ日を変えて、数回に渡って行ってみましょう。』

Q2;難聴や視力障害のある利用者が多数います。

A2;『難聴がある人には絵やイラストを使って、視覚に訴えてみましょう!大きく書いた文字も付け足しておくと良いでしょう。説明時には、ゆっくり大きな声で話してみましょう。』『手話で話の理解できる利用者さんには手話のできるスタッフに説明してもらいましょう。』『説明を行う前に眼鏡が必要な利用者さんへの声掛けを行いましょう。』

12『補聴器が必要な方は補聴器を付けている事を確認しましょう。』

Q3; 理解度に波のある方がいます。どのように説明を行えばよいでしょうか?A3;『説明当日は調子が悪くて理解してもらえなかったとしても、時間を変えたり、日を変えると理解してもらえることがあります。根気強く説明を行ってください。』『特にその人が眠い時などは、いくら声掛けを行っても話が耳に入らないことがあります。本人が一番覚醒している時を選んで説明を行いましょう。』『長文で説明を行うのではなく、本人が理解できるぐらいの短文や、単語を使用すると理解度が上がることがあります。』

Q4;古い出来事は理解されますが、新しい事を理解することが苦手な利用者にはどのように説明を行ったらよいでしょうか?

A4;『コロナウイルス、と言ってもなじみが薄いので、新しい事を覚えられない人には理解することが困難です。そこで、インフルエンザやソ連風邪の様な人に伝染する病気と言った様な、昔から馴染んでいる言葉に置き換えてみてはどうでしょうか。』『さらに、ワクチン接種ではなく予防接種と言うと、イメージして頂けると思います。』『小学校の時に行った集団接種の思い出を、利用者さん皆で話しをしながら説明を進めると、ワクチン接種の必要性を思い出してくれるかもしれません。』

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毒性を弱めた病原体(ウイルスや細菌)や毒素を、前もって投与しておくことにより、その病気に罹りにくくすることを予防接種といい、投与するものをワクチンあるいはトキソイド(以下、ワクチン)といいます。

(公社)東京都医師会

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Q5;予防接種が大切な事までは理解してくださるのですが、「注射は痛いから嫌!」「怖いから嫌」と言い拒んでいます。どう対処したらいいでしょうか。

A5;予防接種の強制はできませんので、その理由をよく訊き、ワクチン接種に伴う不安や身体的苦痛を最小化する努力が前提となります。何のためのワクチン接種なのか、施設内では、他の人のためにも、接種が必要であることを、根気よく説明しましょう。その上で、一時の反応的行動だけではなく、その方の人生全般における価値観や姿勢から本人の意思を推定してください。事前指示の有無、認知症や意思疎通困難となる病気を発病する前は、インフルエンザ等の予防接種を受けていたのか等の情報を得るのも、判断材料の一つとして有効です。

Q6;ある入所者の方は、一日の大半をベッドで過ごし、覚醒状態が良い日でもご自身から話をされることがありません、話しかけても反応は殆ど見られません。

A6;かなり認知機能の低下が進行した方の場合、本人へ説明したとしても、その方からの返事を聞き取ることは不可能と考えられます。この様な場合、ご家族の方にワクチン接種の同意を求める事になりますが、スタッフより一言付け加えて頂きたい事があります。「ご本人ならこのような場合、どの様に考えられますか?本人の立場に立って考えてみてください。またご本人にとって、何が最善かを話し合ってください。」

Q.7 「5-2;本人の意思を推定します *医療ケアチーム内のさまざまな職種の人から、本人意思を推定するために有用な情報を聞き取ります。」とありますが、具体的にどのような情報を聞き取ればよいのでしょうか?

A 7;ワクチン接種や、病気予防に関連するこれまでのご本人の言動に関する情報です。過去にワクチン接種をどうしていたか(例:インフルエンザや肺炎球菌など)、健康を保ち病気を予防するための行動はどうしていたか(例:検診受診、健康行動など)、自分が感染症にかかることで周囲に及ぼす影響をどう考えていたか、などが参考になります。

Q8;高齢者施設には、意思疎通が難しい入所者が多数います。意思決定能力およびその評価において留意することは何ですか?

A8;意思決定能力の低下の程度は様々です。「あり」「なし」とは明確に決められないことがほとんどです(グレーゾーンが大きい)。また、意思決定能力の低下の度合いは一様ではなく、変化することもありますので、「この人は自分で決められないだろう」といった先入観を持たずに適切に評価をしてください。そして、本人の意思決定能力の程度に応じて、方針決定に参加する機会を与えることは重要です。総合的に無能力としてはいけません。

Q9;認知症の人へのコロナワクチン接種に関する海外の事情はどうなっていますか?

A9;ここでは、Dementia UK(英国の認知症 NPO 団体)の文献(ワクチン及びワクチン接種に関する Q&A)をご紹介しておきます。https://www.dementiauk.org/giving-covid-19-vaccine-to-someone-with-dementia/https://www.dementiauk.org/get-support/coronavirus-covid-19/questions-and-answers

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更新日が明示されている点が良いなと思いました。

https://www.nhs.uk/conditions/coronavirus-covid-19/coronavirus-vaccination/coronavirus-vaccine/?priority-taxon=774cee22-d896-44c1-a611-e3109cce8eae

ページの最終レビュー日:2021年8月12日

次のレビュー期限:2021年8月26日

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Q10;コロナワクチン接種は、任意接種ですか?

A10;ワクチン接種は、予防接種法 9 条において「予防接種の対象者は、臨時の予防接種を受けるよう努めなければならない」とされており接種は努力義務です。自発的にワクチンの接種を選ぶことが認められています。しかし、すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有していますので、「自分で同意できない」「同意する家族がいない」といった理由で、ワクチン接種が受けられないことは好ましくありません。

Q11;成年後見人は、ワクチン接種について同意できますか?

A11;一般的には、成年後見人には医療に関する同意権はないとされています。しかし、その成年後見人が、本人のことをよく知っており、本人の考え方を理解し、また、本人も信頼している親しい関係であれば、「本人が信頼している人」の一人として、医療に関する今後の方針決定の話し合いに参加できると考えられます。

Q12;「人が自分のために決める場合」と「他人のために決める場合」を区別するとは、どういうことですか?

A12;一般的に、自己決定とは、自分のことを、自分のために決めることです。しかし、意思決定能力が低下する等の事情で、本人が決めることができなくなった場合には、家族等が、本人に代わって決めることになります。その場合に、家族は「自分はこう考える」「自分はこう思う」といった家族自身の願望や都合、いわゆる「家族による自己決定」になってはいけないということです。「他人のために決める」場合には、家族等は、「本人ならこう考えるだろう」「本人ならこう望むだろう」といった本人意思を適切に推定し、本人にとって何が最もよいことなのかを考えることが大切です。

Q13;利用者さんが、その時は理解を示しても、直ぐに忘れてしまう場合や、言うことが変わってしまう場合にはどのように考えればいいですか。

A13;認知症の利用者さんには、短期記憶が困難な方もいらっしゃいますが、記憶障害のある場合でも、意思決定する間に記憶が保持できるのであれば意思決定は可能です。時間を空けて繰り返し説明する、人を代えて確認するなどを実施した際に、説明直後に本人の理解が十分にあり、かつ意向が一貫していれば、本人の意思である可能性が高いと推測できます。

「氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ(案)」について

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会第7回(令和3年7月28日開催)資料 7

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ(案 その2)
https://www.kinzai.or.jp/uploads/siryou7_kana.pdf

・「2024年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をローマ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。

・デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律附則第73条
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/204/pdf/s0802040282040.pdf

・例えば,①登記法令において,氏名が登記事項とされているところ,その読み仮名が登記されていないこと,②会社法令において,取締役の選任に関する議案を提出する場合には,候補者の氏名が株主総会参考書類の記載事項とされているところ,その読み仮名が記載されていないことは,いずれも不適法とはならない。

戸籍法施行規則
第六十条 戸籍法第五十条第二項の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
一 常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
二 別表第二に掲げる漢字
三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)

 

法務省 戸籍統一文字情報

http://houmukyoku.moj.go.jp/KOSEKIMOJIDB/M01.html

参考 法務省 出生届
手続根拠 戸籍法第49条,第52条
http://www.moj.go.jp/ONLINE/FAMILYREGISTER/5-1.html

・性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が,男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において,正当な事由があると認められると判断し,原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

・同一戸籍内においては,氏の読み仮名を異なるものとすることはできないとすることが考えられる。

・氏は戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載することとされているが,氏の読み仮名は,氏と同様に戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載する方法又は名の読み仮名とともに戸籍に記載されている者欄に記載する方法が考えられる。

・家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによる入籍が許容されるのか否かが問題となりうる。

・氏名の読み仮名の性質は、報告的届出。

・氏にあっては現に使用されている読み仮名,名にあっては命名された時に定められた読み仮名という既成の事実を届け出るものと整理するのが相当。

・【甲案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出義務を課す方法
【乙案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出を促す方法
【丙案】戸籍法第24条の戸籍訂正を活用する方法

・令和2年3月31日現在の本籍数は,約5千2百万戸籍,令和元年度の戸籍の届出数は,約4百万件。

・届出の方法としては,この他マイナポータルを活用すべきとの意見があった。

・原則として,氏名の読み仮名の届出に際し,これを証明する資料の添付を求めないが,氏名の読み仮名の許容性に疑義がある場合には,届出人に対し,氏名の読み仮名が通用して使用されていることを示す疎明資料の提示を求めるとすることも考えられる。

・氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法制化した後,氏名の読み仮名及び氏名のローマ字表記を戸籍に記載される氏名の読み仮名と整合させる。デジタル・ガバメント実行計画において,「在留カードとマイナンバーカードの一体化について,現在関係省庁等で検討を進めているところであり,(中略)2025年度(令和7年度)から一体化したカードの交付を開始する予定。

・参考「名前のヨミガナというパンドラの箱が開きかかっている」

https://note.com/hiramoto/n/nd48f230ff0e9

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第1 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

1 氏名の読み仮名やその法制化の必要性についての従来の検討

  戸籍に氏名の読み仮名を記載することに関しては,過去3回,当時の法務大臣の諮問機関であった民事行政審議会及び法務省民事局に設置された戸籍制度に関する研究会において検討されたものの,いずれも「今後の検討にまつべき」,「なお検討すべき余地が残されている」,「なお慎重に検討すべき」として,制度化は見送られてきた。

(補足説明)

1 民事行政審議会における検討

  「戸籍制度に関し当面改善を要する事項」に関する諮問に対する答申(昭和50年2月28日民事行政審議会答申)においては,「子の名に用いる漢字の問題に関連して,出生届等の際に,戸籍上の氏名にすべて「ふりがな」をつけることが望ましいという意見が提出された。しかし,この点について,多数意見は,戸籍上の氏名にふりがなをつければ,各人の氏名の読み方が客観的に明白となり,便利をもたらす面はあるが,漢字それ自体の読み方にそぐわないふりがなを付して届出がされた場合の処理や,後日におけるふりがなの訂正の方法などにつき,多くの実務上の問題が派生するので,この問題は,今後の検討にまつべきである。」とされた。

   戸籍法施行規則第60条の取扱いに関する諮問に対する答申(昭和56年5月14日民事行政審議会答申。以下「昭和56年答申」という。)においては,「出生の届出等に際しては,必ず名の読み方を記載すべきものとし,戸籍上にその読み方を登録記載するという制度を採用すれば,各人の名の読み方が客観的に明白となり,社会生活上便利である。しかし,無原則に読み方が登録されると,かえって混乱の生ずるおそれがあり,かつ,混乱を防ぐためにどの範囲の読み方が認められるかの基準を立てることは必ずしも容易ではなく,戸籍事務の管掌者においてその読み方の当否を適正に判断することには困難を伴うことが予想される。また,振り仮名の訂正又は変更をどのような手続で認めるかについても,なお検討すべき余地が残されている。これは,氏についても同様である。」とされた。

 

 2 戸籍制度に関する研究会における検討

    戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ(平成29年8月1日戸籍制度に関する研究会資料22)においては,①読み仮名の法的位置付けとして,氏や名の一部となるか,②漢字の音訓や字義に全く関係のない読み仮名の取扱い,③同じ氏の親子や兄弟について異なる氏の読み仮名が届け出られた場合の取扱い,④読み仮名の収集方法が主な問題点として挙げられた上,「これらの問題の解決は困難であり,戸籍実務上及び一般国民の社会生活上混乱を生じさせることになるものと考えられることから,戸籍に振り仮名を記載する取扱いとすることについては,その必要性や国民の意識も踏まえ,なお慎重に検討すべきである。」とされた。

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法務省

平成29年8月1日戸籍制度に関する研究会資料22

http://www.moj.go.jp/content/001236231.pdf

戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ

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2 本研究会における検討

 上記民事行政審議会及び戸籍制度に関する研究会における検討は,戸籍に氏名の読み仮名を記載することについて,いずれも,諮問事項や主たる検討事項には明示されず,審議・検討の過程で検討された。一方,本研究会においては,戸籍における氏名の読み仮名の法制化を前提に具体的な検討事項を明示して,全7回にわたり検討を行った。そして,第1の1の従来の検討並びに第1の3の法制化が必要な理由及び4の登録・公証される意義を踏まえて,第2のとおり,氏名の読み仮名の法制化事項を取りまとめた。

3 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

 氏名の読み仮名を法制化し,氏名が記載事項となっている戸籍などの公簿に氏名の読み仮名を一意のものとして登録・公証することが必要な実務上の理由は,以下のとおりと考えられる。

(1) 氏名の読み仮名を一意のものとして,これを官民の手続において利用可能とすることにより,氏名の読み仮名が個人を特定する情報の一部であるということを明確にし,情報システムにおける検索及び管理等の能率,更には各種サービスの質を向上させ,社会生活における国民の利便性を向上させるため。

(2) 氏名の読み仮名をマイナンバーカードなどの公的な身分証に記載し,本人確認資料として広く利用させ,これを客観的に明白にすることにより,正確に氏名を呼称することが可能となる場面が多くなり,国民の利便に資する上,氏名の読み仮名を本人確認事項の一つとすることを可能とすることによって,各種手続における不正防止を補完することが可能となるため。

(注1)氏名を平仮名又は片仮名をもって表記したものには,読み仮名,よみかた,ふりがななど様々な名称が付されているが,本研究会取りまとめにおいては,「氏名の読み仮名」という。

(注2)ここでの「一意」とは,一個人について,特定の時点における氏名の読み仮名を一つに特定することを意味する。

(注3)本文3(2)については,各種手続において,氏名の読み仮名を本人確認事項の一つとすることを義務付けるものではなく,そのような選択肢を設けるものである。

(補足説明)

1 登録・公証する公簿

 氏名の読み仮名の法制化をするに当たっては,氏名の読み仮名を登録し,公証する公簿として,戸籍ではなく,住民基本台帳も考えられるのではないかとの意見もあった。この点,氏名の読み仮名は氏名と密接な関係を有するものであり,氏名を初めて公簿に登録する場面である出生の届出等の際に,戸籍の届書の記載事項として収集することが最も適当と考えられる(第2の2(1)参照)。なお,現在も運用上,出生の届出の場面で,出生子の名の「よみかた」を収集し,住民基本台帳に登録しているところであるが,戸籍の届出の際に収集しつつ,あえて戸籍の記載事項としない理由はないものと考えられる。

 

2 諸外国の状況及び我が国における固有の事情

 他の漢字圏の国においては,一字一音の原則が採られているところ,我が国においては,一つの漢字に音読み及び訓読み等の複数の読み方があるものが多いという特徴がある。また,我が国においては,漢字のほか,平仮名,片仮名といった複数の文字種が併用されている。

 韓国においては,漢字及びハングルが併用されているところ,家族関係登録簿の特定登録事項のうち,姓名欄には,漢字で表記することができない場合を除き,ハングルと漢字を併記するとされている(大韓民国家族関係の登録等に関する規則第63条第2項第1号。柳淵馨「大韓民国における新しい家族関係登録制度の概要」(戸籍時報特別増刊号640号86頁))。

 なお,家族関係登録制度実施前の戸籍の取扱いについて,姓名欄は漢字で表記することができない場合を除き,漢字で記載するとされていたが(大韓民国戸籍法施行規則第70条第2項。柳光煕「韓国の戸籍実務」384頁),国語基本法の公文書ハングル化原則によって,姓名については,ハングルと漢字の両方を記載するようになったとのことである。

4 氏名の読み仮名が登録・公証される意義

 氏名の読み仮名の法制化が必要な実務上の理由は,第1の3本文のとおりであるが,これに加え,以下のとおり,より広範な意義も認められる。

 氏名の読み仮名が一意的に決まり,それを登録・公証すること自体に意義があると考えられる上,多くの日本人にとっては,氏名と同様その読み仮名にも強い愛着があるため,これが戸籍などの公簿に登録・公証されることにも意義があるものと考えられる。実際,社会生活において,氏名の読み仮名(音)のみにより相手を特定・認識する場面も多いと考えられる。こうした点に照らせば,我々が社会生活において「なまえ」として認識するものの中には,氏名の読み仮名(音)も含まれていると考えられるのであり,それを登録・公証することは,まさしく「なまえ」の登録・公証という点からも意義が認められるものと考えられる。

 さらに,幼少期など,漢字で表記された氏名を記載することはできないものの,その読み仮名を記載することはできる場面が想定されるため,戸籍などの公簿に登録・公証されたものを記載することができることにも意義があるものと考えられる。なお我が国の国際化の進展に伴い,例えば,まず,外来語又は外国の人名を子の名の読み仮名として定め,次に,その意味又は類似する音に相当する漢字を漢字で表記された名とする場合など,漢字で表記された名よりもその読み仮名により強い愛着がある者も少なくないものと考えられる。

 なお,上記のとおり,「なまえ」には,文字により認識される側面のほか,音により認識される側面もあるものと考えられる。後者を前提とする場合には,音に基づいて表記される氏名(なまえ)という位置付けになるものと考えられる。

(補足説明)

 社会保障・税・災害の分野に関し,個人を特定して正確かつ迅速に事務が処理されるようにするためには,個人番号を利用することが考えられるものの,個人番号は,半面において秘匿性の高い情報であり,官庁公署やその事務を委託される諸機関が広く取得することにはおのずと限界がある。他方,氏名の読み仮名は一般的にも広く利用されているものであり,官民の手続において,氏名そのもののほか,氏名の読み仮名を登録し,公証することには意義が認められると考えられる。

 例えば,情報処理技術を用いて五十音順で配列する名簿を作成するに当たり,漢字を含む氏名のみだとすれば,それを実現することができないのに対して,氏名の読み仮名を利用することでそれが可能となる。

 なお,これまで,大きな災害など社会的に異常な事態に際し,広く被災した国民に定額給付金ないしこれに類するものを迅速に支給するなどの機会において,氏名の読み仮名が登録・公証されていないことが支給の遅れの一因となったとの声があったところ,第204回通常国会に提出された公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案が令和3年5月12日成立し,同月19日公布されたことにより,特定公的給付の支給に係る情報について,個人番号を利用し管理することができることとなった。

5 そのほかの氏名の読み仮名を取り巻く状況

 令和2年12月11日に開催されたマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ(第6回)において,マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ報告「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」が取りまとめられた。

 デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日改定。同日閣議決定。)において,「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ報告」のとおり,「2024年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をローマ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。これにより,官民ともに,氏名について,読み仮名(カナ氏名)を活用することで,システム処理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができる。」とされた。

 また,令和3年2月9日,第204回通常国会に提出されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案は,同年5月12日成立し,同月19日公布されたところ,同法附則第73条において,「政府は,行政機関等に係る申請,届出,処分の通知その他の手続において,個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを利用して当該個人を識別できるようにするため,個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の記載事項とすることを含め,この法律の公布後一年以内を目途としてその具体的な方策について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定されている。

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デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律附則第73条

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/204/pdf/s0802040282040.pdf

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(補足説明)

1 本文のほか,氏名の読み仮名やその法制化の必要性に関しては,これまで,主に以下のとおり説明されている。

(1) 平成31年3月28日に漢字,代替文字,読み仮名,ローマ字等の文字情報の現状や導入方法に関するガイドとして策定された「文字環境導入実践ガイドブック」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)において,次のように記載されている。

 「行政機関では,行政運営上,本人確認等を厳格に行う場合や個人のアイデンティティに配慮する場合に,この膨大な文字を用いようとする傾向があります。その結果,外字をそれぞれのコンピュータに導入する方法や,当該文字のヨミガナを別途データとして管理する方法が採られてきました。」,「標準的な文字の取扱いにしても,約1万文字もあり,文字自体の読み方が分かりにくく,複数の文字の組み合わせによって読み方が特殊,難読又は複数になる場合があります。

 また,例えば氏名の並べ替え(ソート)をする場合,システムでは文字コードでソートされるため,表2-1のように,漢字によりソートした場合には人間が認識しにくい順番で並びますが,ヨミガナによりソートした場合には五十音順に並びますので,人間が認識しやすくなります。したがって,サービス・業務及び情報システムを設計していく上では,漢字と併せてヨミガナを取り扱うことができるようにすることを強く推奨します。」,「日本人にあっても外国人にあっても,同じ氏名であれば,複数のヨミガナを持つ可能性があり,近年は氏名からでは容易にわからないヨミガナも存在します。しかしながら,我が国の現行制度においては,氏名のヨミガナを規定する法令は明確でなく,ヨミガナは氏名の一部とされていないという課題があります。一方,氏名のヨミガナは,氏名と同様に,本人の人格を形成する要素の一部であって,他者と区別し本人を特定するものの一つとなっている実態があります。さらに,情報システムの構築及び管理においては,氏名のヨミガナがデータの検索キーや外部キーの重要な要素の一つとなっています。

 情報システムにおいては,清音と濁音のような小さな違いであっても,同一人物が異なる人物と特定されてしまう場合があり(「山崎」のヨミガナを「ヤマサキ」とデータベースに登録していた場合,「ヤマザキ」で検索しても特定できない等),デジタル技術を活用して適切に行政サービスを提供する上で問題が発生するおそれがあります。」

(2) 第204回国会 衆議院予算委員会(令和3年1月25日)において,「私の名前をどのように読むのかというのが,どこにも法的な位置づけがされていない。私の名前の片仮名表記あるいは平仮名表記というものを一つに整えていただき,曖昧性がなくなるようにしていただきたい。」という質問に対し,平井大臣(デジタル改革担当)から,「戸籍において個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを公証するということこそ,まさにデジタル社会の一つのインフラ,我々が整備しなきゃいけないベースレジストリの典型的なものだと思います。」と発言されている。

2 令和元年改正戸籍法

 令和5年度における改正戸籍法(令和元年法律第17号による改正後の戸籍法をいう。)の完全施行により,戸籍事務を扱う各市区町村と他の行政機関との連携及び各市区町村間の連携がより円滑に進み,行政サービスの質の向上が期待されるとともに,各種行政手続及び戸籍の届出における戸籍証明書等の添付省略等が可能となることから,国民の利便性が大幅に向上する。そして,氏名の読み仮名が戸籍の記載事項となることにより,将来的には,氏名の読み仮名を上記情報連携の対象として,各種行政手続において,公証された読み仮名の情報を利用し,手続をより円滑に進めることが可能となることが想定されるのであって,更なる国民の利便性の向上に資するものと考えられる。

 3 ローマ字による表記等

 第1回本研究会における議論を踏まえ,本研究会においては,まずは戸籍における氏名の読み仮名,具体的には片仮名による読み仮名の法制化について検討の対象とするが,マイナンバーカードや旅券その他ローマ字により氏名が表記され,又はされる予定の公的資料があり,戸籍の記載事項はこれらローマ字により氏名が表記される公的資料に一定の影響を及ぼすこととなるため,最終取りまとめまでのスケジュールも勘案の上,片仮名による読み仮名の法制化についての方針が固まり次第,これを踏まえたローマ字による氏名の表記についての考え方についても付言することを目指すこととされた。

第2 氏名の読み仮名の法制化事項

1 氏名の読み仮名の戸籍の記載事項化

(1) 氏名の読み仮名の名称

 氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法令に規定するに当たっての名称については,「氏名を平仮名で表記したもの」又は「氏名を片仮名で表記したもの」とすることが考えられる。

(補足説明)

1 本文の用例

 第1の5のとおり,デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律附則第73条においては,「個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したもの」と規定されており,本文の用例の参考としている。

2 表記する仮名

 本文のとおり,氏名の読み仮名を表記する仮名には,平仮名又は片仮名があるところ,市区町村等行政機関や金融機関等民間において利用している仮名は異なっており,平仮名と片仮名とでは,例えば長音の表記等,表記の方法が異なる場合があることから,表記する仮名を定めるに当たっては,これらの点を考慮する必要がある。

(2) 氏名の読み仮名の位置付け

以下の案のとおり,氏名の読み仮名を位置付け,法令に規定することが考えられる。

【甲案】氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として戸籍法第13条第1号に定める氏名の一部と位置付ける。

【乙案】氏名の読み仮名を戸籍法第13条第1号に定める氏名とは別個のものと位置付ける。

(補足説明)

1 【甲案】の問題

 本文【甲案】を採用した場合には,戸籍法第29条第4号の氏名又は同法第107条若しくは第107条の2に規定する氏若しくは名の変更の届出に関する規定など戸籍法に規定されている氏名に関する他の規定においても,同法第10条の2第3項に定める事件又は事務の依頼者や同法第49条第2項第3号などに定める父母の氏名,同法第50条に定める子の名に用いることのできる文字に関する規定など氏名の読み仮名が含まれないと解される規定を除き,氏名に氏名の読み仮名が含まれることになるものと考えられるが,そのことを明記する必要があるか否か,検討する必要がある。

 さらに,戸籍法第107条又は第107条の2に規定する氏又は名の変更の申立ては,氏又は名とこれらの読み仮名とのセットでなければすることができないのか,また,第2の1(3)により氏又は名の読み仮名の変更が許容されないものとなれば,氏又は名の変更も許容されないものとなるのかといった点も検討する必要がある。

 なお,他の法令に規定されている氏名に関する規定において,氏名に氏名の読み仮名が含まれるのか否か疑義が生じるおそれもある。この点,他の法令を所管する各府省部局において,そこで規定された「氏名」に氏名の読み仮名が含まれないと整理することができるかを検討する必要があり,含まれないと整理することができれば,例えば,①登記法令において,氏名が登記事項とされているところ,その読み仮名が登記されていないこと,②会社法令において,取締役の選任に関する議案を提出する場合には,候補者の氏名が株主総会参考書類の記載事項とされているところ,その読み仮名が記載されていないことは,いずれも不適法とはならない。他方で,例えば,氏名が法定記載事項である場合に,氏名に氏名の読み仮名が含まれると整理したとき,当然に氏名のみ又は氏名の読み仮名のみの記載は不適法となるのかについては,別途検討すべき問題となると考えられる。

2 【乙案】の問題

 本文【乙案】を採用した場合には,戸籍法に規定されている氏名に関する他の規定においても,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとするときは,当該他の規定にその旨を規定する必要があると考えられる。

3 傍訓の扱い

 平成6年12月1日まで申出により戸籍に記載することができると実務上扱われていた名の傍訓については,名の一部ではないかとの混乱があったことから,名の一部をなすものとは解されない旨法務省民事局長通達により取扱いが周知されていた(「戸籍上の名の傍訓について」(昭和50年7月17日民二第3742号法務省民事局長通達五))。同通達では,「傍訓が付されている場合には,漢字と傍訓とが一体となつて名を表示し,その名を表示するには常に傍訓を付さなければならないと考える向きがある。しかし,傍訓は単に名の読み方を明らかにするための措置として戸籍に記載するものであつて,名の一部をなすものとは解されない。したがつて,戸籍上名に傍訓が付されている者について,戸籍の届出,登記の申請,公正証書・私署証書の作成など各種の書面において名を表示するに当たり,常に傍訓を付すべき必要はないので,この趣旨を十分理解して事務処理に当たるとともに,戸籍の利用者に対しても必要に応じ適宜説明するものとする。」とされていた。

(3) 氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性及び氏名の読み仮名をめぐる許容性

 氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文【甲案】又は【乙案】参照)の受否又は戸籍法第24条の戸籍訂正(第2の2(2)本文【丙案】参照)に当たっては,以下の案のとおり,判断することが考えられる。なお,本案については,様々な意見があることが予想されるため,国民の意見を十分踏まえて検討する必要があるものと考えられる。

【甲案】私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理及び法の適用に関する通則法第3条の公序良俗の法理によるものとする。

【乙案】氏名の読み仮名は国字の音訓及び慣用により表音されるところのほか,字義との関連性が認められるものとする。

(補足説明)

1 【甲案】の参考例

 東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,「民法1条3項により,命名権の濫用と見られるようなその行使は許されない。」との判断を示しているところ,当該届出事案に係る先例の解説(戸籍610号75頁)では,「命名権を親権の一作用あるいは子のための代位行為とするとしても,これに行政がどの程度関与することができるか,あるいは根本的に関与することが妥当であるかとする問題が存在する。現行法上,これらに関する明文の規定は存在しないが,私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理の一適用場面であると考えられるほか,本件出生届が子の福祉を著しく害するものであると考えられること等を考慮すれば,あえて行政が関与することもやむを得ないものであり,この行政の関与は,社会的にも容認され得るものと思われる。」とされており,また,「民法典に規定されているが,法の一般原理を表現したものと解されるものとして,信義誠実の原則,権利濫用の禁止に関する規定がある」(塩野宏「行政法Ⅰ」[第五版補訂版]83頁)とされており,本文【甲案】の民法第1条第3項の権利の濫用の法理の参考としている。

 法の適用に関する通則法第3条の公序良俗の法理については,「本条の1つの整理としては,①法令においてその効力についての規定が設けられている慣習に関しては,法令の規定により認められたものとして,その法令の規定に従って法律と同一の効力を有するかどうかが判断され,②法令においてそのような規定が設けられていない慣習については,法令に規定のない事項に関する慣習に限り,法律と同一の効力が認められ」る(小出邦夫「逐条解説 法の適用に関する通則法」30頁)とされ,本条は,成文法に規定の存在しない事項についての補充的法源としての効力(補充的効力)を慣習に認める立場を基本的に採用したものと一般に解される(櫻田嘉章=道垣内正人「注釈国際私法第1巻」77頁)ところ,氏名の読み仮名の定め(氏又は名を定める際にその読み仮名を定める慣習。通常その後,戸籍の届出等において,届書に「よみかた」として記載している。)自体の効力は,法令に規定されていない事項に関するもので,公の秩序又は善良の風俗に反しないもののみ,法律と同一の効力を有するものと考えられるため,本文【甲案】の参考としている。

 なお,日本国憲法第12条が国民の権利濫用を禁止しているのは,行政機関に対する場合も念頭に置いており,国民に申請権が認められている場合であっても,申請が権利の濫用である場合には,当該申請は不適法な申請として,拒否処分を受けることになり,このことは,権利濫用が認められない旨の明文の規定の有無にかかわらない(宇賀克也「行政法概説Ⅰ行政法総論」[第6版]55頁)とされており,本文【甲案】の権利の濫用の法理について,憲法第12条を根拠とすることも考えられる。

2 【甲案】について法令に規定する場合の参考用例

 本文【甲案】については,権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合に該当するときを除くなどとして,法令に規定することも考えられる。少額領収書等の写しの開示請求について定める政治資金規正法第19条の16第5項において,「開示請求を受けた総務大臣又は都道府県の選挙管理委員会は,当該開示請求が権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合に該当するときを除き,当該開示請求があつた日から十日以内に,当該開示請求に係る国会議員関係政治団体の会計責任者に対し,当該開示請求に係る少額領収書等の写しの提出を命じなければならない。」と規定されており,上記の参考用例としている。

 また,商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号において,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており,上記の参考としている。なお,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として,特許庁ウェブサイトにおいて,「商標の構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音である場合。なお,非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは,特に,構成する文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音に係る歴史的背景,社会的影響等,多面的な視野から判断する。」と掲載されている。

3 【乙案】について法令に規定する場合の参考例

 本文【乙案】については,国字の音訓及び慣用により表音されるところ並びに字義との関連性が認められるものによるなどとして,法令に規定することも考えられる。旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては,旅券に記載するローマ字表記の氏名について,「法第6条第1項第2号の氏名は,戸籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによる。ただし,申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申し出た場合にあっては,公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事官が特に必要であると認めるときはこの限りではない。」と規定されており,上記の参考としている。

4 【乙案】の問題

 氏名の読み仮名については,慣用とされる範囲や判断基準を明確に決めることは困難であり,慣用によることを基準とすることについては消極的な意見があった。また,命名文化として,最初に誰かが名の読み仮名として考えた漢字の読みが広まって一般化することにより名乗り訓となるところ,本文【乙案】における「慣用」が既にあるものを意味するのであれば,新たな名乗り訓を認めないこととなり,これまでの命名文化・習慣が継承されないことになるので,反対である旨の意見があった。

5 氏の読み仮名と名の読み仮名の取扱い

 氏の読み仮名と名の読み仮名については,異なる基準により許容される範囲を画することとすることも考えられ,特に,氏の読み仮名が許容される範囲について検討するに当たっては,慣用にない氏の読み仮名も存在することを考慮すべきであるとの意見があった。なお,本文【乙案】を採用する場合,氏の読み仮名については,原則として慣用(通用)によりのみ認めることとする運用も考えられるとの意見があった。

6 現行の読み仮名の審査

 法務省民事局長通達に定める出生届等の標準様式には氏名の「よみかた」欄が付されているが,住民基本台帳事務処理上の利便のために設けられているもので,戸籍事務では使用しておらず,市区町村において,氏名の音訓や字義との関連性は審査されていない。

7 傍訓の例

 かつて申出により名に付することができた傍訓について,届出が認められたものとして,「刀(フネ)」,「登(ミノル)」,「秀和(ヒデマサ)」,「海(ヒロシ)」などがあり,届出が認められなかったものとして,「高(ヒクシ)」,「修(ナカ)」,「嗣(アキ)」,「十八公(マツオ)」がある(大森政輔「民事行政審議会答申及びその実施について(戸籍441号44頁))。

8 審判・民事行政審議会答申における名についての判断

 東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,「名は,氏と一体となって,個人を表象,特定し,他人と区別ないし識別する機能を有し,本人又は命名権者個人の利益のために存することは勿論であるが,そのためだけに存在するものではない。即ち,名は極めて社会的な働きをしており,公共の福祉にも係わるものである。従って,社会通念に照らして明白に不適当な名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は,戸籍法上使用を許されない場合があるというべきである。このことは,例えば,極めて珍奇な名や卑猥な名等を想起すれば容易に理解できるところである。」,「明文上,命名にあっては,「常用平易な文字の使用」との制限しかないが,改名,改氏については,家庭裁判所の許可が必要であり,許可の要件として,「正当な事由」(改名)「やむを得ない事由」(改氏)が求められている(戸籍法107条の2,107条)。そして,一般に,奇異な名や氏等一定の場合には改名,改氏が許可とされるのが例であり,逆に,現在の常識的な名から珍奇ないしは奇異な名への変更は許されないのが実務の取扱である。即ち,戸籍法自体が,命名(改名も命名を含んでいる)において,使用文字だけでなく,名の意味,内容を吟味する場合のあることを予想し,明定している。」との判断を示している。

 また,昭和56年答申においては,「子の名は,出生に際し,通常親によつて命名されるのであるが,ひとたび命名されると,子自身終生その名を用いなければならないのみならず,これと交渉を持つ他人もまた,日常の社会生活においてその名を読み書きしなければならない機会が多い。そこで,子の利益のために,子を悩ませるような書き難い漢字による命名を避けることが望ましいのみならず,日常の社会生活上の支障を生じさせないために,他人に誤りなく容易に読み書きでき,広く社会に通用する名の用いられることが必要である。」としている。

 これらは,本文各案のいずれを採用する場合にも参考となり得るものと考えられる。

9 周知すべき事項

 本文各案を採用した場合には当該基準に該当するものをできるだけ分かりやすく周知する必要があるものと考えられる。このうち,権利の濫用及び公序良俗の法理により認められないものは,特許庁ウェブサイトに掲載されている登録商標を受けることができない商標の例示(第2の1(3)(補足説明)2参照)が参考となり,この他氏名の読み仮名独自のものとして,例えば,氏が「鈴木」であるその読み仮名を「サトウ」として届け出るものについて許容すべきか否か,検討する必要がある。

 あわせて,届け出られた氏名の読み仮名の変更は,戸籍法第107条若しくは第107条の2又は第2の1(5)本文の手続による必要があり,必ずしも認められるわけではないこと及び本文【甲案】を採用した場合には,氏名の読み仮名が戸籍に記載されたことをもって,氏名の漢字部分の読み仮名が公認されたわけではないことも,十分周知する必要があるものと考えられる。

10 平仮名・片仮名部分の氏名の読み仮名

 本文【甲案】を採用した場合には,氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名で表記されているときも,漢字部分と同様に本文【甲案】によることが適当と考えられる。

11 不服申立て

 新たに法令に規定される氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文【甲案】又は【乙案】参照)を市区町村長が受理しない処分を不当とする者は,家庭裁判所に不服の申立てをすることができる(戸籍法第122条)。

 なお,第2の2(2)本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,短期間に市区町村に大量の届出がされ,これに比例して多数の受理しない処分及び不服申立てがなされることが想定される。戸籍事務の取扱いに関して疑義がある場合には,市区町村長は管轄法務局等に照会することができるところ(戸籍法第3条第3項),氏名の読み仮名の戸籍への記載を円滑に実施するため,例えば,市区町村長が本文各案を理由として受理しない処分をする場合には,当分の間,管轄法務局等に全て照会する運用をすることも考えられる。

(4) 戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲

 氏名の読み仮名として戸籍に記載することができる平仮名の範囲については,現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭和61年内閣訓令第1号)によることとし,氏名の読み仮名として戸籍に記載することができる片仮名の範囲については,これらに基づき,現代仮名遣い本文第1の直音(「あ」など),拗音(「きゃ」など),撥音(「ん」)及び促音(「っ」)を片仮名に変換したものとすることが考えられる。

 また,現代仮名遣いに含まれていないが,先例上,子の名として戸籍に記載することができるとされている「ゐ」・「ヰ」,「ゑ」・「ヱ」,「を」・「ヲ」,小書き(「ぁ」・「ァ」など)及び片仮名については,「ヴ」及び長音(ー)についても,範囲に含めることが考えられる(平成16年9月27日付け法務省民二第2664号法務省民事局長通達,昭和40年7月23日付け法務省民事局変更指示,外来語の表記(平成3年内閣告示第2号),「外来語の表記」の実施について(平成3年内閣訓令第1号))。

以上については,法令に規定することも考えられる。

(5) 氏名の読み仮名の変更

 氏名の読み仮名を氏名とは別個の新たな戸籍の記載事項と位置付けた上,氏又は名の変更を伴わない氏名の読み仮名の変更を認める規律としては,以下の案のとおり,法令に規定することが考えられる。

【甲案】氏又は名の読み仮名の変更については,氏又は名の変更(戸籍法第107条又は107条の2)と同様に「やむを得ない事由」,「正当な事由」を要件とする。

【乙案】相当の事由により氏又は名の読み仮名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるものとする。

【丙案】氏又は名の読み仮名の変更について,家庭裁判所の許可を不要とし,届け出ることのみでできるものとする。

(注1)氏又は名の読み仮名は,氏又は名を変更(婚姻,縁組によって氏を改めた場合,離婚,離縁等によって復氏した場合,氏の変更による入籍届,又は戸籍法第107条若しくは第107条の2の変更の届をした場合を含む。)すると,これに伴って変更すると考えられるため,この場合には,読み仮名の変更に関する特別な手続は必要ないと考えられる。

(注2)第2の1(2)本文【甲案】を採用した場合には,氏名の変更(戸籍法第107条,第107条の2)の規律に服することとなる(第2の1(2)(補足説明)1参照)。

(注3)第2の1(2)本文【乙案】を採用した場合であっても,氏名の変更(戸籍法第107条,第107条の2)の規律に服するとすることは可能である(第2の1(2)(補足説明)2参照)。

(補足説明)

1 固定化の必要性とその程度

 氏名の読み仮名については,第1の3本文(1)及び第1の4のとおり,情報システムにおける検索及び管理等の能率を向上させることが法制化が必要な理由の一つであるとともに,他者からは「なまえ」として個人を特定する情報の一部として認識されるものであるところ,以下の理由から,その変更を安易に認めることにより上記意義が損なわれるおそれがあるとの意見がある。

①氏名の読み仮名が変更されると,氏名の読み仮名を利用して検索等を行っている個人のデータベースとの照合等において情報の不一致を招き,円滑な本人特定を阻害するおそれがあること。

②氏の読み仮名は,配偶者の氏を称する婚姻などの身分変動や戸籍法第107条の氏の変更など氏の変動により従前のものと異なるものとなる可能性があるが,いずれも身分行為や家庭裁判所の許可などを要し,無制限に行われるものではなく,また,名の読み仮名は,戸籍法第107条の2の名の変更以外により従前のものと異なるものとなることはないところ,氏又は名の読み仮名のみの変更を特段の事由なく認めるとすると,円滑な本人特定を阻害するおそれがあること。

 他方で,上記各理由については,上記①につき,個人を特定するための他の情報(生年月日など)により照合することが可能であり,また,上記②につき,例えば,名簿の並べ替えなどは氏をキーとして行うのが通常であるところ,氏が従前のものと異なるものとなる可能性は決して少なくないとも考えられる。そして,氏名の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保されるため,氏又は名の読み仮名の変更については,氏又は名の変更よりも柔軟に認めること(本文【乙案】又は【丙案】)も考えられる。

 なお,仮に,氏名の読み仮名の変更を特段の事由なく認めるとするとしても(本文【丙】),第2の1(6)の同一戸籍内の規律は適用され,何度も変更を繰り返す場合には,権利の濫用の法理によりその届出を不受理とすることも考えられる。

2 【甲案】を採用した場合に届出が想定される場面

 本文【甲案】を採用した場合において変更の届出が想定される場面については,現在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。氏については,一定の事由によって氏を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て(ただし,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで),名については,正当な事由によって名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。

 このうち,戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人である父又は母の称している氏に変更しようとするものなどの要件あり)に規定する氏の変更については,やむを得ない事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。このやむを得ない事由に該当する事例としては,著しく珍奇なもの,甚だしく難解難読のものなど,本人や社会一般に著しい不利不便を生じている場合はこれに当たるであろうし,その他その氏の継続を強制することが,社会観念上甚だしく不当と認めるものなども,これを認めてよいと考えられている(青木義人=大森政輔全訂戸籍法439頁)。

 婚姻により夫の氏になったものの,その後離婚し,婚氏続称の届出をして,離婚後15年以上婚氏を称してきた女性が,婚姻前の氏に変更することの許可を申し立てた事案において,やむを得ない事由があると認められると判断し,申立てを却下した原審判を変更して,氏の変更を許可した事例(東京高裁平成26年10月2日決定(判例時報2278号66頁))もある。

 また,同法第107条の2に規定する名の変更については,正当な事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。この正当な事由の有無は一概に言い得ないが,営業上の目的から襲名の必要があること,同姓同名の者があって社会生活上支障があること,神官僧侶となり,又はこれをやめるため改名の必要があること,珍奇な名,異性と紛らわしい名,

 外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上の支障があること,帰化した者で日本風の名に改める必要があること等はこれに該当するであろうが,もとよりこれのみに限定するものではないと考えられており,また,戸籍上の名でないものを永年通名として使用していた場合に,その通名に改めることについては,個々の事案ごとに事情が異なるので,必ずしも取扱いは一定していないが,相当な事由があるものとして許可される場合が少なくないとされている(前掲全訂戸籍法442頁)。

 また,性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が,男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において,正当な事由があると認められると判断し,原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

 さらに,名の変更については,出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効であることを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。以上の例と読み仮名の特性に鑑みれば,氏の読み仮名にあっては,著しく珍奇なもの,永年使用しているもの,錯誤による届出によるものなどを理由とした届出が,名の読み仮名にあっては,珍奇なもの,永年使用しているもの,性自認(性同一性)と一致しないもの,錯誤による又は無効な届出によるものなどを理由とした届出などが考えられる。さらに,これらの届出のうち,実際に氏名の読み仮名のみの変更の届出が想定される場面は,極めて限定されるが,例えば,氏名の読み仮名の永年使用については,濁点の有無や音訓の読みの変化などが,氏の読み仮名のうち著しく珍奇なもの及び名の読み仮名のうち珍奇なものについては,①第2の1(3)によれば不受理とすべきものが誤って受理されたもの,又は②本人以外が届け出た氏名の読み仮名について,不受理事由はないが本人にとってなお著しく珍奇なもの若しくは珍奇なものの届出が考えられる。

 また,氏名の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保される。

3 新戸籍編製時の扱い

 新たに戸籍を編製する場合において,戸籍の筆頭に記載することとなる者の氏の読み仮名が戸籍に既に記載されているときは,新たな戸籍における氏の読み仮名は,原則として,従前の戸籍におけるものと同一のものとなる。

 他方で,新戸籍が編製されると,当該者が除籍された戸籍での同一氏の制約はなくなるところ,新戸籍が編製された場合であっても,氏の読み仮名の変更については,原則どおり家庭裁判所の許可を得て届け出る必要があるとする考え方のほか,新戸籍の編製を契機に氏の読み仮名の変更を届出のみで可能とする考え方がある。

 この点,①氏の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保されること,②新たな読み仮名についても第2の1(3)本文のとおり適切に判断されること,③氏の読み仮名は既成の事実と位置付けているものの,同籍者がいる場合には,当該者と他の同籍者が使用しているものが異なる場合も想定されるところ,新戸籍の編製により,氏の読み仮名を実際に使用しているものに整合させることが戸籍法第6条の規律との関係でも可能となることを考慮した上で,新戸籍編製の機会における変更に際し,濫用防止の観点から,家庭裁判所の許可を必要とするか否かが問題となる。なお,転籍については,上記③の必要性もないことから,その濫用を防止するため,家庭裁判所の許可を必要とすべきと考えられる。

(6) 同一戸籍内の規律

同一戸籍内においては,氏の読み仮名を異なるものとすることはできないとすることが考えられる。当該規律については,法令に規定することも考えられる。

(補足説明)

1 戸籍編製の規律

 戸籍は,一の夫婦及びその双方又は一方と氏を同じくする子ごとに編製するとされており(戸籍法第6条),同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっている。氏の読み仮名についても,氏と異なる取扱いをすべき特段の理由はないものと考えられる。また,現在,戸籍における氏については,戸籍法施行規則附録第6号のいわゆる紙戸籍の記載ひな形及び付録第24号様式のいわゆるコンピュータ戸籍の全部事項証明書のひな形等において,氏は戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載することとされているが,氏の読み仮名は,氏と同様に戸籍の筆頭者の氏名欄にのみ記載する方法又は名の読み仮名とともに戸籍に記載されている者欄に記載する方法が考えられる。

 なお,第2の1(2)【乙案】を採用した場合にも,本文の考えによると,戸籍法第6条の規定は氏の読み仮名にも適用(又は準用)されるとすることになる。また,戸籍を異にする同氏の子は,家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによって,父又は母と同籍する入籍が先例上認められているところ(昭和23年2月20日民事甲第87号法務庁民事局長回答,昭和33年12月27日民事甲第2673号法務省民事局長通達,昭和34年1月20日民事甲第82号法務省民事局長回答),本文の考えによると,この場合に,父又は母と子との間で氏の読み仮名が異なるときは,子の読み仮名の変更を要することとなるが,上記先例と同様に家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによる入籍が許容されるのか否かが問題となりうる。

2 同一戸籍内にない親族間の扱い

 戸籍を異にする親族間で氏の読み仮名が異なることは,氏が異なることがあるのと同様に,許容されるものと考えられる。なお,氏の異同は,夫婦,親子の関係を有する当事者間においてのみ生ずる問題であると考えられている(昭和31年12月28日付け民事甲第2930号法務省民事局長回答)。

2 氏名の読み仮名の収集方法

(1) 氏名の読み仮名の届出

 第2の1(2)【乙案】を採用した場合においては,戸籍法第13条第1号に定める氏又は名を初めて戸籍に記載することとなる以下の戸籍の届書(イにあっては調書)の記載事項として,法令に規定することが考えられる(以下の届書に併せて記載した出生子等以外の氏名の読み仮名の取扱いについては第2の2(2)(補足説明)4参照)。

ア 出生の届書(戸籍法第49条,55条,56条)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

イ 棄児発見調書(戸籍法第57条)(氏名の読み仮名)

ウ 国籍取得の届書(戸籍法第102条)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

エ 帰化の届書(戸籍法第102条の2)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

オ 氏の変更の届書(戸籍法第107条)(氏の読み仮名)

カ 名の変更の届書(戸籍法第107条の2)(名の読み仮名)

キ 就籍の届書(戸籍法第110条,111条)(名(新戸籍が編製されるときにあっては,氏名)の読み仮名)

(補足説明)

1 届出の原則

 戸籍制度においては,戸口調査により戸籍を編製した明治初期を除き,原則として届出によって戸籍に記載し,公証してきた。したがって,氏名の読み仮名を戸籍に記載するに当たっても,戸籍の届出によって記載するとすることが原則となる。

2 氏名の読み仮名の性質

 戸籍の届出は,報告的届出と創設的届出とに分類される。報告的届出は,既成の事実又は法律関係についての届出であり,原則として,届出義務者,届出期間についての定めがある。一方,創設的届出は,届出が受理されることによって身分関係の発生,変更,消滅の効果を生ずる届出である。

 なお,報告的届出と創設的届出の性質を併有するものとして,認知の効力を有する出生の届出,国籍留保の意思表示を伴う出生の届出,就籍の届出(本籍を定める届出の部分が創設的届出の性質を有する。),帰化の届出(新戸籍が編製される場合にあっては,本籍及び氏名を定める届出の部分が創設的届出の性質を有する。)等がある。

 氏名についてみると,例えば,出生の届出は,創設的届出の性質を併有するものがあるものの,民法第790条の規定により称するとされている氏及び命名された名という既成の事実を届け出るものであって,そのほとんどは報告的届出である。そして,氏名の読み仮名についても,同様に,氏にあっては現に使用されている読み仮名,名にあっては命名された時に定められた読み仮名という既成の事実を届け出るものと整理するのが相当と考えられる。

 

3 その他新たな氏を定めることができる場合の取扱い

 外国人が,日本人と婚姻後,日本人の氏を称して帰化し,その後離婚した場合には,復すべき氏はないが,その者の意思によって新たな氏を定めることができると扱われている(昭和23年10月16日付け民事甲第2648号法務庁民事局長回答)。この場合には,離婚届書に新たな氏の読み仮名を記載することができるとするのが相当と考えられる。

4 第2の1(2)【甲案】を採用した場合の取扱い

第2の1(2)【甲案】を採用した場合には,本文アからキまでの届書等の記載事項として,氏名とともに届出がされることとなる。

(2) 既に戸籍に記載されている者の氏名の読み仮名の収集方法

既に戸籍に戸籍法第13条第1号に定める氏名が記載されている者に係る氏名の読み仮名の収集方法として,以下の案が考えられる。

【甲案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出義務を課す方法

【乙案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人に一定の期間内の届出を促す方法

【丙案】戸籍法第24条の戸籍訂正を活用する方法

(補足説明)

1 届出又は職権記載申出の対象となる氏名の読み仮名

 初めて氏又は名を届け出るときのこれらの読み仮名の届出(第2の2(1)本文参照)は,氏又は名の読み仮名という既成の事実を届け出るものであり,その変更は,第2の2(1)本文オ若しくはカ又は第2の1(5)本文【甲案】,【乙案】若しくは【丙案】によって可能となるものと整理している。

 一方,既に氏又は名が戸籍に記載されているときのこれらの読み仮名の届出又は職権記載申出は(本文参照),初めて氏又は名が届け出られたときの読み仮名を既成の事実として届け出る又は職権記載申出をするのが原則とも考えられるが,便宜通用使用などにより既成の事実が変更していれば,変更後のものを既成の事実として届け出る又は職権記載申出をすることも可能と整理することが考えられる。ただし,旅券などの公簿に氏名の読み仮名又はこれらを元にしたローマ字が登録され,公証されている場合には,第2の1(3)本文各案いずれによっても,これに反するものを届け出る又は職権記載申出をすることはできないと整理することも考えられる。

2 届出人

 氏については,同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっており,氏の読み仮名についても同様に考えられるため(第2の1(6)本文参照),本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届の届出人は,同籍者全員とする必要があるかが問題となる。特に,DV(ドメスティック・バイオレンス)などにより離婚には至っていないが,別居状態にある者については,届出をすることが困難との意見もあった。

 なお,同籍者全員を届出人としない場合には,同籍者の一人が届け出た氏の読み仮名が,他の同籍者が認識しているものと異なることも想定される。この場合には,戸籍法第113条の「その記載に錯誤があることを発見した場合」に該当するとして,利害関係人である他の同籍者は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍訂正を申請することとなるものと考えられる。

3 届出期間

 本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,例えば,改正法令の施行日から一定期間内(当該者が届出人等となる戸籍の届出をする場合にあっては,当該届出の時まで)にしなければならない又はするものとする旨法令に規定することが考えられる。

 戸籍の届出については,戸籍法第137条において,正当な理由がなくて期間内にすべき届出をしない者は,過料に処するとされているところ,本文【甲案】において,定められた期間を経過した場合には,過料の対象となるため,当該期間が適切なものとなるよう検討するとともに,その効果的な周知方法についても検討する必要がある。

 また,戸籍法第44条第1項において,市区町村長は,届出を怠った者があることを知ったときは,相当の期間を定めて,届出義務者に対し,その期間内に届出をすべき旨を催告しなければならないとされている。本文【甲案】において,氏名の読み仮名の届が期間内にされなかったときは,同項が適用されるものと考えられる。なお,同条第2項において,当該期間内に届出をしなかったときは,市区町村長は,更に相当の期間を定めて,催告をすることができるとされ,同条第3項において,これらの催告をすることができないとき,又は催告をしても届出がないときは,市区町村長は,管轄法務局長の許可を得て,戸籍の記載をすることができるとされている。もっとも,同項の措置に関しては,(補足説明)4の氏名の読み仮名の届があったものとして取り扱うもの,(補足説明)9の資料又は氏名の読み仮名を職務上知った官庁等からの本籍地市区町村長への通知により市区町村長が届出の内容(当該者の氏名の読み仮名)を職務上知っていると評価することができなければ,戸籍の記載をすることはできないこととなる。

 なお,上記催告は,届出期間を経過した場合にしか行えないが,本文【甲案】において,届出期間経過前であっても,運用として,市区町村から氏名の読み仮名の届を促す案内を送付することなどは可能であると考えられる。

 他方,本文【乙案】及び【丙案】においては,届出義務が定められていないため,上記催告,職権記載等の対象とはならないが,運用として,市区町村から氏名の読み仮名の届又は職権記載の申出を促す案内を送付することなどは可能であると考えられる。

4 届出方式

 本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,他の戸籍の届出がされた場合についても,届出人等について記載された氏名の「読み仮名」をもって,氏名の読み仮名の届があったものとして取り扱うことも考えられる。また,この氏名の「読み仮名」は,本文【丙案】の戸籍訂正の資料とすることも考えられる。これらの場合には,その旨周知するとともに,届書の様式に注記することが適当であると考えられる。なお,令和2年3月31日現在の本籍数は,約5千2百万戸籍,令和元年度の戸籍の届出数は,約4百万件であり,仮に,上記のとおり他の戸籍の届出の際に氏名の読み仮名の届(本文【甲案】又は【乙案】)又は職権記載申出(本文【丙案】)があったものとして取り扱う場合には,単独の氏名の読み仮名の届(本文【甲案】又は【乙案】)又は職権記載申出(本文【丙案】)と併せて,年間数百万件以上の氏名の読み仮名の届又は職権記載申出が想定される。

 また,届出の方法としては,この他マイナポータルを活用すべきとの意見があった。

 5 届出時に疑義がある場合の疎明

 第2の1(3)本文【乙案】を採用する場合であって,本文【甲案】又は【乙案】を採用する場合においては,原則として,氏名の読み仮名の届出に際し,これを証明する資料の添付を求めないが,氏名の読み仮名の許容性に疑義がある場合には,届出人に対し,氏名の読み仮名が通用して使用されていることを示す疎明資料の提示を求めるとすることも考えられる

6 届出期間の定めのない報告的届出の例

 報告的届出については,原則として届出義務が課され,届出期間が定められているが,届出義務が課されておらず,届出期間が定められていない例として,法改正に伴う経過的な取扱いである外国の国籍の喪失の届出(昭和59年法律第45号附則第10条第2項)の例がある。これは,改正法により,重国籍者が併有する外国国籍を喪失したときは,その旨の届出義務が課されることとなったが,施行前にはそのような義務が課されていなかったので,施行前に外国国籍を喪失した場合については改正法を適用しないこととしつつ,戸籍記載上から重国籍が推定される者が法律上又は事実上権利制限や資格制限を受けるおそれもあり,重国籍状態を解消していることを明らかにすることについて本人も利益を有することから,施行前に外国国籍を喪失している旨の届出をする資格を本人に認め,その届出について,戸籍法第106条第2項の規定を準用することとされたものである(田中康久「改正戸籍法の概要」民事月報昭和59年号外81頁参照)。また,傍訓については,通達によって,記載の申出をすることができるとされていた。

7 承認の擬制

 本文【甲案】の氏名の読み仮名の届を前提としつつ,届出期間経過後,市区町村が保有する情報を基に,国民に戸籍に記載する氏名の読み仮名の通知を送付し,一定期間内に異議を述べなかったときは,同期間経過後に当該通知に係る氏名の読み仮名を承認したものとみな(擬制)し,市区町村長が職権により戸籍に氏名の読み仮名を記載する制度とすることも考えられる。

 なお,身分関係に関し,通知後,一定の期間の経過に一定の効力を持たせる制度として,昭和59年法律第45号により創設された国籍選択催告制度(国籍法第15条,戸籍法第105条)がある。これは,重国籍の日本国民が法定の期限までに日本国籍の選択をしない場合,法務大臣が書面により国籍の選択をすべきことを催告し,催告を受けた者が催告を受けた日から1月以内に日本国籍の選択をしなければ,原則としてその期間が経過した時に日本国籍を失う(擬制)というものである。ただし,国籍喪失後は,戸籍法第105条による法務局長等からの報告により,市区町村長は,職権で戸籍に国籍喪失の記載をし,除籍することとされているが,これまで法務大臣による国籍選択の催告がされたことはない。

 

8 戸籍訂正の考え方

 国民に届出義務を課さずに,氏名の読み仮名を戸籍に記載することができる本文【丙案】の戸籍訂正に関しては,氏名の読み仮名の届出義務はないものの,第2の1(2)により氏名の読み仮名が戸籍の記載事項として法令に規定されている以上,戸籍法第24条第1項の戸籍の記載に遺漏があると評価することができるため,当該戸籍に記載された者若しくはその法定代理人からの職権記載申出((補足説明)4の職権記載申出があったものとして取り扱うものを含む。),(補足説明)9の資料又は氏名の読み仮名を職務上知った官庁等からの本籍地市区町村長への通知があれば,同条第2項の戸籍訂正により市区町村長が氏名の読み仮名を記載することができると考えるものである。もっとも,これまでの戸籍訂正の運用に鑑みると,第2の2(2)(補足説明)4の資料がない限り,職権記載申出を促した上で,実際に申出があった場合にのみ戸籍訂正をする運用とするのが相当と考えられる。

9 戸籍訂正の資料

 法務省民事局長通達に定める婚姻届の標準様式には,「夫になる人」及び「妻になる人」の氏名欄に「よみかた」欄が付されている。仮に,本文【甲案】を採用し,戸籍法第44条第3項の規定により職権で氏名の読み仮名を戸籍に記載するとした場合又は本文【丙案】を採用し,戸籍法第24条第2項の規定により戸籍訂正する場合においては,,例えば,当該「よみかた」が記載され保管されている婚姻届を資料として,本籍地市区町村が戸籍に氏名の読み仮名を記載することが考えられる。

 第1の3(注1)のとおり,氏名を平仮名又は片仮名をもって表記したものには,読み仮名,よみかた,ふりがななど様々な名称が付されているものがあるが,いずれも,原則として(濁音が記載されない,小書きをしないなどのルールが定められているものを除く。)氏名の読み仮名として取り扱って差し支えないものと考えられる。なお,万一,本人が認識している氏名の読み仮名と異なっている場合には,戸籍法第107条若しくは第107条の2又は第2の1(5)の読み仮名の変更手続により対応することとなるものと考えられる。

10 戸籍訂正における配慮すべき事項

 謝罪広告等請求事件(最判昭和63年2月16日第三小法廷民集42巻2号27頁)判決において,氏名を正確に呼称される利益に関して,「氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであるから,人は,他人からその氏名を正確に呼称されることについて,不法行為法上の保護を受けうる人格的な利益を有するものというべきである。」,「我が国の場合,漢字によつて表記された氏名を正確に呼称することは,漢字の日本語音が複数存在しているため,必ずしも容易ではなく,不正確に呼称することも少なくないことなどを考えると,不正確な呼称が明らかな蔑称である場合はともかくとして,不正確に呼称したすべての行為が違法性のあるものとして不法行為を構成するというべきではなく,むしろ,不正確に呼称した行為であつても,当該個人の明示的な意思に反してことさらに不正確な呼称をしたか,又は害意をもつて不正確な呼称をしたなどの特段の事情がない限り,違法性のない行為として容認されるものというべきである。」との判断が示されている。

 これを踏まえると,氏名の読み仮名を仮に,本文【甲案】を採用し,戸籍法第44条第3項の規定により職権で氏名の読み仮名を戸籍に記載し,公証する又は本文【丙案】を採用し,戸籍法第24条第2項の規定により戸籍訂正し,公証するには,少なくとも本人の明示的な意思に反しないように配慮すべきと考えられる。

 

第3 ローマ字による表記等

 氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法制化した後,戸籍以外の公簿や各種証明書等に記載されている氏名の読み仮名及び氏名のローマ字表記を戸籍に記載される氏名の読み仮名と整合させる(氏名の読み仮名をヘボン式ローマ字等によって表記させる。)必要があると考えられるところ,これをどうやって確保するか,検討する必要があると考えられる。

なお,デジタル・ガバメント実行計画において,「在留カードとマイナンバーカードの一体化について,現在関係省庁等で検討を進めているところであり,(中略)2025年度(令和7年度)から一体化したカードの交付を開始する予定である。」とされているところ,この一体化したカードにおける氏名の表記方法についても,検討する必要があるとの意見があった。

 

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ(案)

https://www.kinzai.or.jp/uploads/siryou6_kana.pdf

 

第1 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

1 氏名の読み仮名やその法制化の必要性についての従来の検討

戸籍に氏名の読み仮名を記載することに関しては,過去3回,当時の法務大臣の諮

問機関であった民事行政審議会及び法務省民事局に設置された戸籍制度に関する研究

会において検討されたものの,いずれも「今後の検討にまつべき」,「なお検討すべ

き余地が残されている」,「なお慎重に検討すべき」として,制度化は見送られてき

た。

(補足説明)

1 民事行政審議会における検討

「戸籍制度に関し当面改善を要する事項」に関する諮問に対する答申(昭和50

年2月28日民事行政審議会答申)においては,「子の名に用いる漢字の問題に関

連して,出生届等の際に,戸籍上の氏名にすべて「ふりがな」をつけることが望ま

しいという意見が提出された。しかし,この点について,多数意見は,戸籍上の氏

名にふりがなをつければ,各人の氏名の読み方が客観的に明白となり,便利をもた

らす面はあるが,漢字それ自体の読み方にそぐわないふりがなを付して届出がされ

た場合の処理や,後日におけるふりがなの訂正の方法などにつき,多くの実務上の

問題が派生するので,この問題は,今後の検討にまつべきである。」とされた。

戸籍法施行規則第60条の取扱いに関する諮問に対する答申(昭和56年5月1

4日民事行政審議会答申。以下「昭和56年答申」という。)においては,「出生

の届出等に際しては,必ず名の読み方を記載すべきものとし,戸籍上にその読み方

を登録記載するという制度を採用すれば,各人の名の読み方が客観的に明白とな

り,社会生活上便利である。しかし,無原則に読み方が登録されると,かえって混

乱の生ずるおそれがあり,かつ,混乱を防ぐためにどの範囲の読み方が認められる

かの基準を立てることは必ずしも容易ではなく,戸籍事務の管掌者においてその読

み方の当否を適正に判断することには困難を伴うことが予想される。また,振り仮

名の訂正又は変更をどのような手続で認めるかについても,なお検討すべき余地が

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 2 –

残されている。これは,氏についても同様である。」とされた。

 2 戸籍制度に関する研究会における検討

戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ(平成29年8月1日戸籍制度に関する

研究会資料22)においては,「これらの問題の解決は困難であり,戸籍実務上及

び一般国民の社会生活上混乱を生じさせることになるものと考えられることから,

戸籍に振り仮名を記載する取扱いとすることについては,その必要性や国民の意識

も踏まえ,なお慎重に検討すべきである。」とされた。

2 本研究会における検討

上記民事行政審議会及び戸籍制度に関する研究会における検討は,戸籍に氏名の読

み仮名を記載することについて,いずれも,諮問事項や主たる検討事項とは別の問題

として検討され,制度化は先送りされたところ,本研究会においては,戸籍における

氏名の読み仮名の法制化自体を検討事項として,全○回にわたり検討を行った。

3 氏名の読み仮名の法制化が必要な理由

上記1を踏まえると,氏名の読み仮名を法制化し,氏名が記載事項となっている戸

籍などの公簿に氏名の読み仮名を一意のものとして登録・公証することが必要な理由

は,以下のとおりと考えられる。

(1) 氏名の読み仮名を一意のものとして,これを官民の手続において利用可能とする

ことにより,氏名の読み仮名が個人を特定する情報の一部であるということを明確

にし,情報システムにおける検索及び管理等の能率,更には各種サービスの質を向

上させ,社会生活における国民の利便性を向上させるため。

(2) 氏名の読み仮名をマイナンバーカードなどの公的な身分証に記載し,本人確認資

料として広く利用させ,これを客観的に明白にすることにより,正確に氏名を呼称

することが可能となる場面が多くなり,国民の利便に資する上,氏名の読み仮名を

本人確認事項の一つとすることを可能とすることによって,各種手続における不正

防止を補完することが可能となるため。

(注1)氏名を片仮名又は平仮名をもって表記したものには,読み仮名,よみかた,

ふりがな,片仮名など様々な名称が付されているが,本研究会取りまとめにおいて

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 3 –

は,「氏名の読み仮名」という。なお,氏名の読み仮名の定義や法制上の位置付け

を踏まえ,今後,適当な名称が定められるものと考えられる。

(注2)ここでの「一意」とは,一個人について,特定の時点における氏名の読み仮

名を一つに特定することを意味する。

(注3)他の漢字圏の国においては,一字一音の原則が採られているところ,我が国

においては,一つの漢字に音読み及び訓読み等の複数の読み方があるものが多いと

いう特徴がある。

(注4)本文3(2)については,各種手続において,氏名の読み仮名を本人確認事項の

一つとすることを義務付けるものではなく,そのような選択肢を設けるものであ

る。

(補足説明)

1 登録・公証する公簿

氏名の読み仮名の法制化をするに当たっては,氏名の読み仮名を登録し,公証す

る公簿として,戸籍ではなく,住民基本台帳も考えられるのではないかとの意見も

あった。この点,氏名の読み仮名は氏名と密接な関係を有するものであり,氏名を

初めて公簿に登録する場面である出生の届出等の際に,戸籍の届書の記載事項とし

て収集することが最も適当と考えられる(第2の2(1)参照)。なお,現在も運用

上,出生の届出の場面で,事件本人の「よみかた」を収集し,住民基本台帳に登録

しているところであるが,戸籍の届出の際に収集しつつ,あえて戸籍の記載事項と

しない理由はないものと考えられる。

2 氏名の読み仮名が登録・公証される意義

社会保障・税・災害の分野に関し,個人を特定して正確かつ迅速に事務が処理さ

れるようにするためには,個人番号を利用することが考えられるものの,個人番号

は,半面において秘匿性の高い情報であり,官庁公署やその事務を委託される諸機

関が広く取得することにはおのずと限界があり,また慎重であるべきである。他方,

氏名の読み仮名は一般的にも広く利用されているものであり,官民の手続において

氏名そのもののほか,氏名の読み仮名を登録し,公証することには意義が認められ

ると考えられる。例えば,情報処理技術を用いて五十音順で配列する名簿を作成す

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 4 –

るに当たり,漢字を含む氏名のみだとすれば,それを実現することができないのに

対して,公証された読み仮名を利用することでそれが可能となる。氏名の読み仮名

を登録・公証することによる実践的な意義は,大きな災害など社会的に異常な事態

に際し,広く被災した国民に定額給付金ないしこれに類するものを迅速に支給する

などの機会においても見出されると考えられる。

また,氏名の読み仮名が一意的に決まり,それを公証すること自体に意義がある

と考えられる上,多くの日本人にとっては,氏名と同様その読み仮名にも強い愛着

があるため,これが戸籍などの公簿に登録・公証されることにも意義があるものと

考えられる。実際,社会生活において,氏名の読み(読み仮名)のみにより相手を

特定・認識する場面も多いと考えられる。こうした点に照らせば,我々が日常生活

において「なまえ」として認識するものの中には,氏名の読み仮名(音)も含まれ

ていると考えられるのであり,それを公証することは,まさしく「なまえ」の公証

という点からも意義が認められるものと考えられる。

さらに,幼少期など,漢字で表記された氏名を表記することはできないものの,

その読み仮名を表記することはできる場面が想定されるため,戸籍などの公簿に登

録・公証されたものを表記することができることにも意義があるものと考えられ

る。なお,我が国の国際化の進展に伴い,例えば,まず,外来語又は外国の人名を

子の名の読み仮名として定め,次に,その意味又は類似する音に相当する漢字を名

とする場合など,漢字の名よりも名の読み仮名により強い愛着がある者も少なくな

いものと考えられる。

なお,上述のとおり,「なまえ」には,視覚により認識可能な表記の側面のほか,

聴覚により認識可能な音という側面もあるものと考えられる。前者を前提とする場

合には,氏名の読み仮名という位置付けになるが,後者を前提とする場合には,氏

名の読み仮名ではなく,音によって表記される氏名(なまえ)であるという位置付

けになるものと考えられる。

3 韓国における姓名の表記

韓国においては,家族関係登録簿の特定登録事項のうち,姓名欄には,漢字で表

記することができない場合を除き,ハングルと漢字を併記するとされている(大韓

民国家族関係の登録等に関する規則第63条第2項第1号。柳淵馨「大韓民国にお

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 5 –

ける新しい家族関係登録制度の概要」(戸籍時報特別増刊号640号86頁))。

なお,家族関係登録制度実施前の戸籍の取扱いについて,姓名欄は漢字で表記す

ることができない場合を除き,漢字で記載するとされていたが(大韓民国戸籍法施

行規則第70条第2項。柳光煕「韓国の戸籍実務」384頁),国語基本法の公文

書ハングル化原則によって,姓名については,ハングルと漢字の両方を記載するよ

うになったとのことである。

4 そのほかの氏名の読み仮名を取り巻く状況

令和2年12月11日に開催されたマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基

盤抜本改善ワーキンググループ(第6回)において,マイナンバー制度及び国と地方

のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ報告「マイナンバー制度及び国と地方の

デジタル基盤の抜本的な改善に向けて」が取りまとめられた。

デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日改定。同日閣議決定。)に

おいて,「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググルー

プ報告」のとおり,「2024年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ,

公証された氏名の読み仮名(カナ氏名)に基づき,マイナンバーカードに氏名をロー

マ字表記できるよう,迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図る。こ

れにより,官民ともに,氏名について,読み仮名(カナ氏名)を活用することで,シ

ステム処理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができる。」とされた。

また,令和3年2月9日,第204回通常国会に提出されたデジタル社会の形成を

図るための関係法律の整備に関する法律案は,同年5月12日成立し,同月19日公

布されたところ,同法附則第73条において,「政府は,行政機関等に係る申請,届

出,処分の通知その他の手続において,個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したも

のを利用して当該個人を識別できるようにするため,個人の氏名を平仮名又は片仮名

で表記したものを戸籍の記載事項とすることを含め,この法律の公布後一年以内を目

途としてその具体的な方策について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講

ずるものとする。」と規定されている。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 6 –

(補足説明)

1 本文のほか,氏名の読み仮名やその法制化の必要性に関しては,これまで,主に

以下のとおり説明されている。

(1) 平成31年3月28日に漢字,代替文字,読み仮名,ローマ字等の文字情報の

現状や導入方法に関するガイドとして策定された「文字環境導入実践ガイドブッ

ク」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)において,次のように記載さ

れている。

「行政機関では,行政運営上,本人確認等を厳格に行う場合や個人のアイデン

ティティに配慮する場合に,この膨大な文字を用いようとする傾向があります。

その結果,外字をそれぞれのコンピュータに導入する方法や,当該文字のヨミガ

ナを別途データとして管理する方法が採られてきました。」,「標準的な文字の

取扱いにしても,約1万文字もあり,文字自体の読み方が分かりにくく,複数の

文字の組み合わせによって読み方が特殊,難読又は複数になる場合があります。

また,例えば氏名の並べ替え(ソート)をする場合,システムでは文字コードで

ソートされるため,表2-1のように,漢字によりソートした場合には人間が認

識しにくい順番で並びますが,ヨミガナによりソートした場合には五十音順に並

びますので,人間が認識しやすくなります。したがって,サービス・業務及び情

報システムを設計していく上では,漢字と併せてヨミガナを取り扱うことができ

るようにすることを強く推奨します。」,「日本人にあっても外国人にあっても,

同じ氏名であれば,複数のヨミガナを持つ可能性があり,近年は氏名からでは容

易にわからないヨミガナも存在します。しかしながら,我が国の現行制度におい

ては,氏名のヨミガナを規定する法令は明確でなく,ヨミガナは氏名の一部とさ

れていないという課題があります。一方,氏名のヨミガナは,氏名と同様に,本

人の人格を形成する要素の一部であって,他者と区別し本人を特定するものの一

つとなっている実態があります。さらに,情報システムの構築及び管理において

は,氏名のヨミガナがデータの検索キーや外部キーの重要な要素の一つとなって

います。情報システムにおいては,清音と濁音のような小さな違いであっても,

同一人物が異なる人物と特定されてしまう場合があり(「山崎」のヨミガナを「ヤ

マサキ」とデータベースに登録していた場合,「ヤマザキ」で検索しても特定で

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 7 –

きない等),デジタル技術を活用して適切に行政サービスを提供する上で問題が

発生するおそれがあります。」

(2) 第204回国会 衆議院予算委員会(令和3年1月25日)において,「私の

名前をどのように読むのかというのが,どこにも法的な位置づけがされていな

い。私の名前の片仮名表記あるいは平仮名表記というものを一つに整えていただ

き,曖昧性がなくなるようにしていただきたい。」という質問に対し,平井大臣

(デジタル改革担当)から,「戸籍において個人の氏名を平仮名又は片仮名で表

記したものを公証するということこそ,まさにデジタル社会の一つのインフラ,

我々が整備しなきゃいけないベースレジストリの典型的なものだと思います。」

と発言されている。

2 令和元年改正戸籍法

令和5年度における改正戸籍法(令和元年法律第17号による改正後の戸籍法を

いう。)の完全施行により,戸籍事務を扱う各市区町村と他の行政機関との連携及

び各市区町村間の連携がより円滑に進むことが想定され,行政サービスの質の向上

が期待されるとともに,各種行政手続及び戸籍の届出における戸籍証明書等の添付

省略等が可能となることから,国民の利便性が大幅に向上する。そして,氏名の読

み仮名が戸籍の記載事項となることにより,将来的には,氏名の読み仮名を上記情

報連携の対象として,各種行政手続において,公証された読み仮名の情報を利用し,

手続をより円滑に進めることが可能となることが想定されるのであって,更なる国

民の利便性の向上に資するものと考えられる。

 3 ローマ字による表記等

第1回本研究会における議論を踏まえ,本研究会においては,まずは戸籍におけ

る氏名の読み仮名,具体的には片仮名による読み仮名の法制化について検討の対象

とするが,マイナンバーカードや旅券その他ローマ字により氏名が表記され,又は

される予定の公的資料があり,戸籍の記載事項はこれらローマ字により氏名が表記

される公的資料に一定の影響を及ぼすこととなるため,最終取りまとめまでのスケ

ジュールも勘案の上,片仮名による読み仮名の法制化についての方針が固まり次

第,これを踏まえたローマ字による氏名の表記についての考え方についても付言す

ることを目指すこととされた。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 8 –

第2 氏名の読み仮名の法制化事項

1 氏名の読み仮名の戸籍の記載事項化

(1) 氏名の読み仮名の定義

以下の案のとおり,氏名の読み仮名を定義し,戸籍の記載事項として法令に規定

することが考えられる。

【甲案】氏名を片仮名で表記したもの

【乙案】氏名について国字の音訓及び慣用により表音されるものを片仮名で表記し

たもの

(補足説明)

1 【甲案】の用例

令和3年2月9日,第204回通常国会に提出されたデジタル社会の形成を

図るための関係法律の整備に関する法律案は,同年5月12日成立し,同月1

9日公布されたところ,同法附則第73条においては,「個人の氏名を平仮名

又は片仮名で表記したもの」と規定されており,本文【甲案】の用例の参考と

している。

なお,本文【甲案】を採用するとした場合には,旅券の取扱いへの影響が想

定される。

2 【乙案】の用例

旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては,旅

券に記載するローマ字表記の氏名について,「戸籍に記載されている氏名(戸

籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び親権者が命名した名)につ

いて国字の音訓及び慣用により表音されるところによる。」と規定されており,

本文【乙案】の用例の参考としている。

なお,本文【乙案】を採用する場合には,第2の1(3)本文【丙案】を採用す

るのが自然である。

 3 【乙案】の問題

【乙案】については,命名文化として,最初に誰かが名の読み仮名として考え

た漢字の読みが広まって一般化することにより名乗り訓となるところ,【乙案】

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 9 –

における「慣用」が既にあるものを意味するのであれば,新たな名乗り訓を認め

ないこととなり,これまでの命名文化が崩れることになるので,反対である旨の

意見があった。

なお,【乙案】を採用する場合には,例外を認めるべきか否か,仮に例外を認

めるとすればその判断をどのようになすのかについても,検討する必要がある。

(2) 氏名の読み仮名の位置付け

以下の案のとおり,氏名の読み仮名を位置付け,法令に規定することが考えら

れる。

【甲案】氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として戸籍法第13条第1号に定める

氏名の一部と位置付ける。

【乙案】氏名の読み仮名を戸籍法第13条第1号に定める氏名とは別個のものと

位置付ける。

(補足説明)

1 【甲案】の問題

本文【甲案】を採用した場合には,戸籍法第107条又は第107条の2に

規定する氏又は名の変更の届出に関する規定など戸籍法に規定されている氏名

に関する他の規定においても,同法第10条の2第3項に定める事件又は事務

の依頼者や同法第49条第2項第3号などに定める父母の氏名,同法第50条

に定める子の名に用いることのできる文字に関する規定など氏名の読み仮名が

含まれないと解される規定を除き,氏名に氏名の読み仮名が含まれることにな

るものと考えられるが,そのことを明記する必要があるか否か,検討する必要

がある。

さらに,戸籍法第107条又は第107条の2に規定する氏又は名の変更の

申立ては,氏又は名とこれらの読み仮名とのセットでなければすることができ

ないのか,また,第2の1(3)により氏又は名の読み仮名の変更が不適法となれ

ば,氏又は名の変更も不適法となるのかといった点も検討する必要がある。

なお,他の法令に規定されている氏名に関する規定において,氏名に氏名の

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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読み仮名が含まれるのか否か疑義が生じるおそれもある。この点,他の法令を

所管する各府省部局において,そこで規定された「氏名」に氏名の読み仮名が

含まれないと整理することができるかを検討する必要があり,含まれないと整

理することができれば,例えば,①登記法令において,氏名が登記事項とされ

ているところ,その読み仮名が登記されていないこと,②会社法令において,

取締役の選任に関する議案を提出する場合には,候補者の氏名が株主総会参考

書類の記載事項とされているところ,その読み仮名が記載されていないことは,

いずれも不適法とはならない。他方で,例えば,氏名が法定記載事項である場

合に,氏名に氏名の読み仮名が含まれると整理したとき,当然に氏名のみ又は

氏名の読み仮名のみの記載は不適法となるのかについては,別途検討すべき問

題となると考えられる。

2 【乙案】の問題

本文【乙案】を採用した場合には,戸籍法に規定されている氏名に関する他の

規定においても,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとするときは,当該他の

規定にその旨を規定する必要があると考えられる。

3 傍訓の扱い

平成6年12月1日まで申出により戸籍に記載することができると実務上扱

われていた名の傍訓については,名の一部ではないかとの混乱があったことか

ら,名の一部をなすものとは解されない旨法務省民事局長通達により取扱いが周

知されていた(「戸籍上の名の傍訓について」(昭和50年7月17日民二第3

742号法務省民事局長通達五))。同通達では,「傍訓が付されている場合に

は,漢字と傍訓とが一体となつて名を表示し,その名を表示するには常に傍訓を

付さなければならないと考える向きがある。しかし,傍訓は単に名の読み方を明

らかにするための措置として戸籍に記載するものであつて,名の一部をなすもの

とは解されない。したがつて,戸籍上名に傍訓が付されている者について,戸籍

の届出,登記の申請,公正証書・私署証書の作成など各種の書面において名を表

示するに当たり,常に傍訓を付すべき必要はないので,この趣旨を十分理解して

事務処理に当たるとともに,戸籍の利用者に対しても必要に応じ適宜説明するも

のとする。」とされていた。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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(3) 氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性及び氏名の読み仮名をめぐる許容性

氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文参照)の受否又は戸籍法第

24条の戸籍訂正(第2の2(2)本文参照)に当たっては,以下の案のとおり,判

断することが考えられる。

【甲案】私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理及び法の適用

に関する通則法第3条の公序良俗の法理によるものとする。

【乙案】権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合に

該当するときを除くものとする。

【丙案】氏名の読み仮名は国字の音訓及び慣用により表音されるところによるもの

とする。なお,【甲案】又は【乙案】も適用するものとする。

なお,【甲案】及び【乙案】は,第2の1(1)【甲案】又は【乙案】いずれを採

用する場合においても,採用可能であり,【丙案】は,第2の1(1)【乙案】を採

用する場合はもとより,【甲案】を採用する場合においても,採用可能である。ま

た,【乙案】又は【丙案】を採用する場合には,法令に規定するものとすることが

考えられる。

(補足説明)

1 【甲案】の参考例

東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,

「民法1条3項により,命名権の濫用と見られるようなその行使は許されない。」

との判断を示しているところ,当該届出事案に係る先例の解説(戸籍610号7

5頁)では,「命名権を親権の一作用あるいは子のための代位行為とするとして

も,これに行政がどの程度関与することができるか,あるいは根本的に関与する

ことが妥当であるかとする問題が存在する。現行法上,これらに関する明文の規

定は存在しないが,私法の一般原則である民法第1条第3項の権利の濫用の法理

の一適用場面であると考えられるほか,本件出生届が子の福祉を著しく害するも

のであると考えられること等を考慮すれば,あえて行政が関与することもやむを

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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得ないものであり,この行政の関与は,社会的にも容認され得るものと思われ

る。」とされており,また,「民法典に規定されているが,法の一般原理を表現

したものと解されるものとして,信義誠実の原則,権利濫用の禁止に関する規定

がある」(塩野宏「行政法Ⅰ」[第五版補訂版]83頁)とされており,本文【甲

案】の民法第1条第3項の権利の濫用の法理の参考としている。

法の適用に関する通則法第3条の公序良俗の法理については,「本条の1つの

整理としては,①法令においてその効力についての規定が設けられている慣習に

関しては,法令の規定により認められたものとして,その法令の規定に従って法

律と同一の効力を有するかどうかが判断され,②法令においてそのような規定が

設けられていない慣習については,法令に規定のない事項に関する慣習に限り,

法律と同一の効力が認められ」る(小出邦夫「逐条解説 法の適用に関する通則

法」30頁)とされ,本条は,成文法に規定の存在しない事項についての補充的

法源としての効力(補充的効力)を慣習に認める立場を基本的に採用したものと

一般に解される(櫻田嘉章=道垣内正人「注釈国際私法第1巻」77頁)ところ,

氏名の読み仮名の定め(氏又は名を定める際にその読み仮名を定める慣習。通常,

その後,戸籍の届出等において,届書に「よみかた」として記載している。)自

体の効力は,法令に規定されていない事項に関するもので,公の秩序又は善良の

風俗に反しないもののみ,法律と同一の効力を有するものと考えられるため,本

文【甲案】の参考としている。

なお,日本国憲法第12条が国民の権利濫用を禁止しているのは,行政機関に

対する場合も念頭に置いており,国民に申請権が認められている場合であって

も,申請が権利の濫用である場合には,当該申請は不適法な申請として,拒否処

分を受けることになり,このことは,権利濫用が認められない旨の明文の規定の

有無にかかわらない(宇賀克也「行政法概説Ⅰ行政法総論」[第6版]55頁)と

されており,本文【甲案】の権利の濫用の法理について,憲法第12条を根拠と

することも考えられる。

2 【乙案】の参考用例

少額領収書等の写しの開示請求について定める政治資金規正法第19条の1

6第5項において,「開示請求を受けた総務大臣又は都道府県の選挙管理委員会

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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は,当該開示請求が権利の濫用又は公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認め

られる場合に該当するときを除き,当該開示請求があつた日から十日以内に,当

該開示請求に係る国会議員関係政治団体の会計責任者に対し,当該開示請求に係

る少額領収書等の写しの提出を命じなければならない。」と規定されており,本

文【乙案】の参考用例としている。

また,商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号にお

いて,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており,

本文【乙案】の参考としている。

なお,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として,特許

庁ウェブサイトにおいて,「商標の構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょ

う激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形,記号,立体的形状若

しくは色彩又はこれらの結合,音である場合。なお,非道徳的若しくは差別的又

は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは,特に,構成する文字,図形,

記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音に係る歴史的背景,社会的

影響等,多面的な視野から判断する。」と掲載されている。

3 【丙案】の参考用例

旅券法施行規則第5条第2項において,「法第6条第1項第2号の氏名は,戸

籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び

親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによ

る。ただし,申請者がその氏名について国字の音訓又は慣用によらない表音を申

し出た場合にあっては,公の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者に

より通常使用されているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事官

が特に必要であると認めるときはこの限りではない。」と規定されており,本文

【丙案】の用例の参考としている。

なお,本文【丙案】を採用した場合にも,氏名の読み仮名については,慣用と

される範囲や判断基準を明確に決めることは困難であり,慣用によることを基準

とすることについては消極的な意見があった。

4 現行の読み仮名の審査

法務省民事局長通達に定める出生届等の標準様式には氏名の「よみかた」欄が

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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付されているが,住民基本台帳事務処理上の利便のために設けられているもの

で,戸籍事務では使用しておらず,市区町村における現在の実務上,氏名の音訓

や字義との関連性は審査されていない。

5 傍訓の例

かつて申出により名に付することができた傍訓について,届出が認められたも

のとして,「刀(フネ)」,「登(ミノル)」,「秀和(ヒデマサ)」,「海(ヒ

ロシ)」などがあり,届出が認められなかったものとして,「高(ヒクシ)」,

「修(ナカ)」,「嗣(アキ)」,「十八公(マツオ)」がある(大森政輔「民

事行政審議会答申及びその実施について(戸籍441号44頁))。

6 審判・民事行政審議会答申における名についての判断

東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判(判例時報1486号56頁)は,

「名は,氏と一体となって,個人を表象,特定し,他人と区別ないし識別する機

能を有し,本人又は命名権者個人の利益のために存することは勿論であるが,そ

のためだけに存在するものではない。即ち,名は極めて社会的な働きをしており,

公共の福祉にも係わるものである。従って,社会通念に照らして明白に不適当な

名や一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は,戸籍法上使用を許されない

場合があるというべきである。このことは,例えば,極めて珍奇な名や卑猥な名

等を想起すれば容易に理解できるところである。」,「明文上,命名にあっては,

「常用平易な文字の使用」との制限しかないが,改名,改氏については,家庭裁

判所の許可が必要であり,許可の要件として,「正当な事由」(改名)「やむを

得ない事由」(改氏)が求められている(戸籍法107条の2,107条)。そ

して,一般に,奇異な名や氏等一定の場合には改名,改氏が許可とされるのが例

であり,逆に,現在の常識的な名から珍奇ないしは奇異な名への変更は許されな

いのが実務の取扱である。即ち,戸籍法自体が,命名(改名も命名を含んでいる)

において,使用文字だけでなく,名の意味,内容を吟味する場合のあることを予

想し,明定している。」との判断を示している。

また,昭和56年答申においては,「子の名は,出生に際し,通常親によつて

命名されるのであるが,ひとたび命名されると,子自身終生その名を用いなけれ

ばならないのみならず,これと交渉を持つ他人もまた,日常の社会生活において

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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その名を読み書きしなければならない機会が多い。そこで,子の利益のために,

子を悩ませるような書き難い漢字による命名を避けることが望ましいのみなら

ず,日常の社会生活上の支障を生じさせないために,他人に誤りなく容易に読み

書きでき,広く社会に通用する名の用いられることが必要である。」としている。

これらは,本文各案のいずれを採用する場合にも参考となり得るものと考えら

れる。

7 周知すべき事項

本文各案を採用した場合には当該基準に該当するものをできるだけ分かりや

すく周知する必要があるものと考えられる。このうち,権利濫用及び公序良俗の

法理により認められないものは,特許庁ウェブサイトに掲載されている登録商標

を受けることができない商標の例示(第2の1(3)(補足説明)2参照)が参考

となり,この他氏名の読み仮名独自のものとして,例えば,氏が「鈴木」である

その読み仮名を「サトウ」として届け出るものについて許容すべきか否か,検討

する必要がある。

あわせて,届け出られた氏名の読み仮名の変更は,戸籍法第107条若しくは

第107条の2又は第2の1(5)本文の手続により,必ずしも認められるわけで

はないこと及び本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,氏名の読み仮名

が戸籍に記載されたことをもって,氏名の漢字部分の読み仮名が公認されたわけ

ではないことも,十分周知する必要があるものと考えられる。

8 平仮名・片仮名部分の氏名の読み仮名

本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,氏又は名の全部又は一部が平

仮名又は片仮名で表記されているときも,漢字部分と同様に本文【甲案】又は【乙

案】によることが適当と考えられる。

9 不服申立て

新たに法令に規定される氏名の読み仮名の届出(第2の2(1)本文及び(2)本文

参照)を市区町村長が受理しない処分を不当とする者は,家庭裁判所に不服の申

立てをすることができる(戸籍法第122条)。

なお,第2の2(2)本文【甲案】又は【乙案】を採用した場合には,短期間に

市区町村に大量の届出がされ,これに比例して多数の受理しない処分及び不服申

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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立てがなされることが想定される。戸籍事務の取扱いに関して疑義がある場合に

は,市区町村長は管轄法務局等に照会することができるところ(戸籍法第3条第

3項),氏名の読み仮名の戸籍への記載を円滑に実施するため,例えば,市区町

村長が本文各案を理由として受理しない処分をする場合には,当分の間,管轄法

務局等に全て照会する運用をすることも考えられる。

(4) 戸籍に記載することができる片仮名の範囲

氏名の読み仮名として戸籍に記載することができる片仮名の範囲については,現

代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭

和61年内閣訓令第1号)に基づき,現代仮名遣い本文第1の直音(「あ」など),

拗音(「きゃ」など),撥音(「ん」)及び促音(「っ」)を片仮名に変換したも

のとすることが考えられる。

また,現代仮名遣いに含まれていないが,先例上,子の名として戸籍に記載する

ことができるとされている「ヰ」,「ヱ」,「ヲ」及び「ヴ」のほか,小書き(「ァ」

など)及び長音(ー)についても,範囲に含めることが考えられる(平成16年9

月27日付け法務省民二第2664号法務省民事局長通達,昭和40年7月23日

付け法務省民事局変更指示,外来語の表記(平成3年内閣告示第2号),「外来語

の表記」の実施について(平成3年内閣訓令第1号))。

以上については,法令に規定することも考えられる。

(5) 氏名の読み仮名の変更

氏名の読み仮名を氏名とは別個の新たな戸籍の記載事項と位置付けた上,氏又は

名の変更を伴わない氏名の読み仮名の変更を認める規律としては,戸籍法第107

条又は第107条の2に,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとする旨定める

か,以下の案のとおり,戸籍法第107条又は第107条の2の変更手続と別の規

律を法令に規定することが考えられる。

【甲案】氏又は名の読み仮名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,

届け出ることができるものとする。

【乙案】氏又は名の読み仮名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可を得る

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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必要があるとしつつ,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで,届け出る

ことができるものとする。

(注1)氏又は名の読み仮名は,氏又は名を変更(婚姻,縁組によって氏を改めた

場合,離婚,離縁等によって復氏した場合,氏の変更による入籍届,又は戸籍法

第107条若しくは第107条の2の変更の届をした場合を含む。)すると,こ

れに伴って変更すると考えられるため,この場合には,読み仮名の変更に関する

特別な手続は必要ないと考えられる(第2の2(1)オ及びカ参照)。

(注2)第2の1(2)本文【甲案】を採用した場合には,氏名の変更(戸籍法第1

07条,第107条の2)の規律に服することとなる(第2の1(2)(補足説明)

1参照)。ただし,この場合であっても,本文【乙案】と同様に,一定の場合に

は,家庭裁判所の許可を得ないで,届け出ることができるものとする規律を設け

ることも考えられる。

(注3)第2の1(2)本文【乙案】を採用した場合であっても,氏名の変更(戸籍

法第107条,第107条の2)の規律に服するとすることは可能である(第2

の1(2)(補足説明)2参照)。ただし,この場合であっても,本文【乙案】と

同様に,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで,届け出ることができる

ものとする規律を設けることも考えられる。

(注4)氏名の読み仮名を訂正する方法としては,戸籍訂正(戸籍法第24条第3

項)によることが考えられる。

(補足説明)

1 固定化の必要性とその程度

氏名の読み仮名については,第1の3(補足説明)2のとおり,他者からは「な

まえ」として個人を特定する情報の一部として認識されるものであるとともに,

情報システムにおける検索及び管理等の能率を向上させることが法制化の必要

な理由の一つであるところ,以下の理由から,その変更を安易に認めることによ

り上記意義が損なわれるおそれがあるとの意見がある。

①氏名の読み仮名が変更されると,氏名の読み仮名を利用して検索等を行って

いる個人のデータベースとの照合等において情報の不一致を招き,円滑な本人特

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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定を阻害するおそれがあること。

②氏の読み仮名は,配偶者の氏を称する婚姻などの身分変動や戸籍法第107

条の氏の変更など氏の変動により従前のものと異なるものとなる可能性がある

が,いずれも身分行為や家庭裁判所の許可などを要し,無制限に行われるもので

はなく,また,名の読み仮名は,戸籍法第107条の2の名の変更以外により従

前のものと異なるものとなることはないところ,氏又は名の読み仮名のみの変更

を無制限に認めると,円滑な本人特定を阻害するおそれがあること。

他方で,上記各理由については,上記①につき,個人を特定するための他の情

報(生年月日など)により照合することが可能であり,また,上記②につき,例

えば,名簿の並べ替えなどは氏をキーとして行うのが通常であるところ,氏が従

前のものと異なるものとなる可能性は決して少なくないので,いずれも円滑な本

人特定を阻害するおそれがあるとまでは言えないとも考えられる。そして,氏名

の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み仮名の法制化

が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3本文(1)参照)は確保されるため,

氏又は名の読み仮名の変更については,氏又は名の変更よりも柔軟に認める余地

があるとの意見もある。

なお,仮に,氏名の読み仮名の変更を無制限に認めるとしても,氏名の読み仮

名の変更の届を要することとなるが,この場合であっても,第2の1(6)の同一

戸籍内の規律は適用され,何度も変更を繰り返す場合には,権利の濫用の法理に

よりその届出を不受理とすることも考えられる。

2 変更できる場面

氏又は名の変更を伴わない読み仮名のみの変更を検討するに当たって,戸籍法

第107条又は第107条の2に,氏名の読み仮名を氏名と同様の取扱いとする

旨定める場合には,現在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。

氏については,一定の事由によって氏を変更しようとするときは,家庭裁判所

の許可を得て(ただし,一定の場合には,家庭裁判所の許可を得ないで),名に

ついては,正当な事由によって名を変更しようとするときは,家庭裁判所の許可

を得て,届け出ることができるとされている。

このうち,戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人である父又は母の称し

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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ている氏に変更しようとするものなどの要件あり)に規定する氏の変更について

は,やむを得ない事由がある場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることがで

きるとされている。

このやむを得ない事由に該当する事例としては,著しく珍奇なもの,甚だしく

難解難読のものなど,本人や社会一般に著しい不利不便を生じている場合はこれ

に当たるであろうし,その他その氏の継続を強制することが,社会観念上甚だし

く不当と認めるものなども,これを認めてよいと考えられている(青木義人=大

森政輔全訂戸籍法439頁)。

婚姻により夫の氏になったものの,その後離婚し,婚氏続称の届出をして,離

婚後15年以上婚氏を称してきた女性が,婚姻前の氏に変更することの許可を申

し立てた事案において,やむを得ない事由があると認められると判断し,申立て

を却下した原審判を変更して,氏の変更を許可した事例(東京高裁平成26年1

0月2日決定(判例時報2278号66頁))もある。

また,同法第107条の2に規定する名の変更については,正当な事由がある

場合に家庭裁判所の許可を得て,届け出ることができるとされている。

この正当な事由の有無は一概に言い得ないが,営業上の目的から襲名の必要が

あること,同姓同名の者があって社会生活上支障があること,神官僧侶となり,

又はこれをやめるため改名の必要があること,珍奇な名,異性と紛らわしい名,

外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上の支障があること,帰化し

た者で日本風の名に改める必要があること等はこれに該当するであろうが,もと

よりこれのみに限定するものではないと考えられており,また,戸籍上の名でな

いものを永年通名として使用していた場合に,その通名に改めることについて

は,個々の事案ごとに事情が異なるので,必ずしも取扱いは一定していないが,

相当な事由があるものとして許可される場合が少なくないとされている(前掲全

訂戸籍法442頁)。

また,性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が,男性名

から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において,正当な事由があると認

められると判断し,原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元

年9月18日決定(判例時報2448号3頁))もある。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

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さらに,名の変更については,出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効である

ことを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。

以上の例と読み仮名の特性に鑑みれば,氏の読み仮名にあっては,著しく珍奇

なもの,永年使用しているもの,錯誤による届出によるものなどを理由とした届

出が,名の読み仮名にあっては,珍奇なもの,永年使用しているもの,性自認(性

同一性)と一致しないもの,錯誤による又は無効な届出によるものなどを理由と

した届出などが考えられる。さらに,これらの届出のうち,実際に氏名の読み仮

名のみの変更の届出が想定される場面は,極めて限定されるが,例えば,氏名の

読み仮名の永年使用については,濁点の有無や音訓の読みの変化などが,氏の読

み仮名のうち著しく珍奇なもの及び名の読み仮名のうち珍奇なものについては,

①第2の1(3)によれば不受理とすべきものが誤って受理されたもの,又は②本

人以外が届け出た氏名の読み仮名について,不受理事由はないが本人にとってな

お著しく珍奇なもの若しくは珍奇なものの届出が考えられる。

また,氏名の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読み

仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3(1)参照)は確保され

る。

したがって,氏又は名の変更を伴わない読み仮名のみの変更の要件について

は,第2の1(5)(補足説明)1の氏名の読み仮名の固定化の必要性を踏まえ,

現行法の規律による上記のような整理とするのか,別の整理とするのか,検討す

る必要がある。

3 新戸籍編製時の扱い

新たに戸籍を編製する場合において,戸籍の筆頭に記載することとなる者の氏

の読み仮名が既に記載されているときは,新たな戸籍における氏の読み仮名は,

原則として,従前の戸籍におけるものと同一のものとなる。

他方で,新戸籍が編製されると,当該者が除籍された戸籍での同一氏の制約は

なくなるところ,新戸籍が編製された場合であっても,氏の読み仮名の変更につ

いては,原則どおり家庭裁判所の許可を得て届け出る必要があるとする考え方

(【甲案】)と,新戸籍の編製を契機に氏の読み仮名の変更を届出のみで可能と

する考え方(【乙案】)がある。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 21 –

この点,①氏の読み仮名の変更の履歴は戸籍に記載されることから,氏名の読

み仮名の法制化が必要な理由の中核をなす一意性(第1の3(1)参照)は確保さ

れること,②新たな読み仮名についても第2の1(3)本文のとおり適切に判断さ

れること,③氏の読み仮名は既成の事実と位置付けているものの,同籍者がいる

場合には,当該者と他の同籍者が使用しているものが異なる場合も想定されると

ころ,新戸籍の編製により,氏の読み仮名を実際に使用しているものに整合させ

ることが戸籍法第6条の規律との関係でも可能となることを考慮した上で,新戸

籍編製の機会における変更に際し,濫用防止の観点から,家庭裁判所の許可を必

要とするか否かが問題となる。

なお,転籍については,上記③の必要性もないことから,その濫用を防止する

ため,家庭裁判所の許可を必要とすべきと考えられる。

(6) 同一戸籍内の規律

同一戸籍内においては,氏の読み仮名を異なるものとすることはできないとする

ことが考えられる。

当該規律については,法令に規定することも考えられる。

(補足説明)

1 戸籍編製の規律

戸籍は,一の夫婦及びその双方又は一方と氏を同じくする子ごとに編製すると

されており(戸籍法第6条),同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっ

ている。氏の読み仮名についても,氏と異なる取扱いをすべき特段の理由はない

ものと考えられる。また,現在,戸籍における氏については,戸籍法施行規則附

録第6号のいわゆる紙戸籍の記載ひな形及び付録第24号様式のいわゆるコン

ピュータ戸籍の全部事項証明書のひな形等において,氏は戸籍の筆頭者の氏名欄

にのみ記載することとされているが,氏の読み仮名は,氏と同様に戸籍の筆頭者

の氏名欄にのみ記載する方法又は名の読み仮名とともに戸籍に記載されている

者欄に記載する方法が考えられる。

なお,第2の1(2)【乙案】を採用した場合にも,本文の考えによると,戸籍

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 22 –

法第6条の規定は氏の読み仮名にも適用(又は準用)されるとすることになる。

また,戸籍を異にする同氏の子は,家庭裁判所の許可を要することなく,届出

のみによって,父又は母と同籍する入籍が先例上認められているところ(昭和2

3年2月20日民事甲第87号法務庁民事局長回答,昭和33年12月27日民

事甲第2673号法務省民事局長通達,昭和34年1月20日民事甲第82号法

務省民事局長回答),本文の考えによると,この場合に,父又は母と子との間で

氏の読み仮名が異なるときは,子の読み仮名の変更を要することとなるが,上記

先例と同様に家庭裁判所の許可を要することなく,届出のみによる入籍が許容さ

れるのか否かが問題となりうる。

2 新戸籍編製時の扱い

本文によると,新たに戸籍を編製する場合(転籍,分籍,新戸籍が編製される

婚姻など)において,戸籍の筆頭に記載することとなる者の氏の読み仮名が既に

記載されているときは,原則として,新たな戸籍における氏の読み仮名は,従前

の戸籍におけるものと同一のものとなる。

3 同一戸籍内にない親族間の扱い

戸籍を異にする親族間で氏の読み仮名が異なることは,氏が異なることがある

のと同様に,許容されるものと考えられる。なお,氏の異同は,夫婦,親子の関

係を有する当事者間においてのみ生ずる問題であると考えられている(昭和31

年12月28日付け民事甲第2930号法務省民事局長回答)。

2 氏名の読み仮名の収集方法

(1) 氏名の読み仮名の届出

第2の1(2)【乙案】を採用した場合においては,戸籍法第13条第1号に定め

る氏又は名を初めて戸籍に記載することとなる以下の戸籍の届書(イにあっては調

書)の記載事項として,法令に規定することが考えられる(以下の届書に併せて記

載した事件本人以外の氏名の読み仮名の取扱いについては第2の2(2)(補足説明)

4参照)。

ア 出生の届書(戸籍法第49条,55条,56条)(名(新戸籍が編製されると

きにあっては,氏名)の読み仮名)

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 23 –

イ 棄児発見調書(戸籍法第57条)(氏名の読み仮名)

ウ 国籍取得の届書(戸籍法第102条)(名(新戸籍が編製されるときにあって

は,氏名)の読み仮名)

エ 帰化の届書(戸籍法第102条の2)(名(新戸籍が編製されるときにあって

は,氏名)の読み仮名)

オ 氏の変更の届書(戸籍法第107条)(氏の読み仮名)

カ 名の変更の届書(戸籍法第107条の2)(名の読み仮名)

キ 就籍の届書(戸籍法第110条,111条)(名(新戸籍が編製されるときに

あっては,氏名)の読み仮名)

(補足説明)

1 届出の原則

戸籍制度においては,戸口調査により戸籍を編製した明治初期を除き,原則と

して届出によって戸籍に記載し,公証してきた。

したがって,氏名の読み仮名を戸籍に記載するに当たっても,戸籍の届出によ

って記載するとすることが原則となる。

2 氏名の読み仮名の性質

戸籍の届出は,報告的届出と創設的届出とに分類される。報告的届出は,既成

の事実又は法律関係についての届出であり,原則として,届出義務者,届出期間

についての定めがある。一方,創設的届出は,届出が受理されることによって身

分関係の発生,変更,消滅の効果を生ずる届出である。

なお,報告的届出と創設的届出の性質を併有するものとして,認知の効力を有

する出生の届出,国籍留保の意思表示を伴う出生の届出,就籍の届出(本籍を定

める届出の部分が創設的届出の性質を有する。),帰化の届出(新戸籍が編製さ

れる場合にあっては,本籍及び氏名を定める届出の部分が創設的届出の性質を有

する。)等がある。

氏名についてみると,例えば,出生の届出は,創設的届出の性質を併有するも

のがあるものの,民法第790条の規定により称するとされている氏及び命名さ

れた名という既成の事実を届け出るものであって,そのほとんどは報告的届出で

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 24 –

ある。そして,氏名の読み仮名についても,同様に,氏にあっては現に使用され

ている読み仮名,名にあっては命名された時に定められた読み仮名という既成の

事実を届け出るものと整理するのが相当と考えられる。

報告的届出については,原則として届出義務が課され,届出期間が定められて

いるが,届出義務が課されておらず,届出期間が定められていない例として,法

改正に伴う経過的な取扱いである外国の国籍の喪失の届出(昭和59年法律第4

5号附則第10条第2項)の例がある。これは,改正法により,重国籍者が併有

する外国国籍を喪失したときは,その旨の届出義務が課されることとなったが,

施行前にはそのような義務が課されていなかったので,施行前に外国国籍を喪失

した場合については改正法を適用しないこととしつつ,戸籍記載上から重国籍が

推定される者が法律上又は事実上権利制限や資格制限を受けるおそれもあり,重

国籍状態を解消していることを明らかにすることについて本人も利益を有する

ことから,施行前に外国国籍を喪失している旨の届出をする資格を本人に認め,

その届出について,戸籍法第106条第2項の規定を準用することとされたもの

である(田中康久「改正戸籍法の概要」民事月報昭和59年号外81頁参照)。

また,傍訓については,通達によって,記載の申出をすることができるとされて

いた。

3 初めて氏又は名を届け出るときのこれらの読み仮名の届出(本文参照)は,氏

又は名の読み仮名という既成の事実を届け出るものであり,その変更は,本文オ

若しくはカ又は第2の1(5)本文【甲案】若しくは【乙案】によって可能となる

ものと整理している。

一方,既に氏又は名が戸籍に記載されているときのこれらの読み仮名の届出は

(第2の2(2)本文参照),初めて氏又は名が届け出られたときの読み仮名を既

成の事実として届け出るのが原則とも考えられるが,便宜通用使用などにより既

成の事実が変更していれば,変更後のものを既成の事実として届け出ることも可

能と整理することが考えられる。ただし,旅券などの公簿に氏名の読み仮名又は

これらを元にしたローマ字が登録され,公証されている場合には,第2の1(3)

本文各案いずれによっても,これに反するものを届け出ることはできないと整理

することも考えられる。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 25 –

4 復氏する者が新戸籍編製の申出をしたときの扱い

戸籍法第19条第1項の規定により,離婚,離縁又は婚姻若しくは縁組の取消

しによって復氏する者が新戸籍編製の申出をしたときは,新戸籍が編製される。

この場合には,婚姻又は縁組前の戸籍に入るわけではないため,氏の読み仮名が

婚姻又は縁組前の戸籍に記載されているものと異なることも許容されるところ

(第2の1(6)(補足説明)1参照),本文アからキまでの届出時に加え,新戸

籍編製の申出時に,家庭裁判所の許可を得ないで,氏の読み仮名を届け出るもの

とすることも考えられる。戸籍法第19条第2項において同条第1項の規定を準

用する場合も同様である。

なお,外国人が,日本人と婚姻後,日本人の氏を称して帰化し,その後離婚し

た場合には,復すべき氏はないが,その者の意思によって新たな氏を定めること

ができると扱われている(昭和23年10月16日付け民事甲第2648号法務

庁民事局長回答)。この場合には,離婚届書に新たな氏の読み仮名を記載するこ

とができるとするのが相当と考えられる。

5 第2の1(2)【甲案】を採用した場合の取扱い

第2の1(2)【甲案】を採用した場合には,本文アからキまでの届書等の記載

事項として,氏名とともに届出がされることとなる。

(2) 既に戸籍に記載されている者の氏名の読み仮名の収集方法

以下の案のとおり,既に戸籍に戸籍法第13条第1号に定める氏名が記載されて

いる者に係る氏名の読み仮名の収集方法として,法令に規定することが考えられ

る。

【甲案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人

に一定の期間内の届出義務を課す方法

【乙案】氏名の読み仮名の届を設け,戸籍に記載されている者又はその法定代理人

に一定の期間内の届出を促す方法

【丙案】戸籍法第24条の戸籍訂正を活用する方法

(補足説明)

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 26 –

1 届出義務

戸籍の届出については,戸籍法第137条において,正当な理由がなくて期間

内にすべき届出をしない者は,5万円以下の過料に処するとされているところ,

本文【甲案】の戸籍の記載事由の発生時期は,氏又は名を初めて戸籍に記載する

こととなる出生等の届出の時ではなく,新たな規律を定める法令の施行時と考え

られる。

戸籍法第44条第1項において,市区町村長は,届出を怠った者があることを

知ったときは,相当の期間を定めて,届出義務者に対し,その期間内に届出をす

べき旨を催告しなければならないとされている。本文【甲案】において,氏名の

読み仮名の届が期間内にされなかったときは,同項が適用されるものと考えられ

る。なお,同条第2項において,当該期間内に届出をしなかったときは,市区町

村長は,更に相当の期間を定めて,催告をすることができるとされ,同条第3項

において,これらの催告をすることができないとき,又は催告をしても届出がな

いときは,市区町村長は,管轄法務局長の許可を得て,戸籍の記載をすることが

できるとされている。もっとも,同項の措置に関しては,第2の2(2)(補足説

明)7の資料等により市区町村長が届出の内容(当該者の氏名の読み仮名)を職

務上知っていると評価することができなければ,戸籍の記載をすることはできな

いこととなる。また,同法第138条において,同法第44条第1項又は第2項

の規定によって,期間を定めて届出の催告をした場合に,正当な理由がなくてそ

の期間内に届出をしない者は,10万円以下の過料に処するとされている。

なお,上記催告は,届出期間を経過した場合にしか行えないが,本文【甲案】

において,届出期間経過前であっても,運用として,市区町村から氏名の読み仮

名の届を促す案内を送付することなどは可能であると考えられる。

他方,本文【乙案】及び【丙案】においては,届出義務が定められていないた

め,上記過料の制裁,催告,職権記載の対象とはならないが,運用として,市区

町村から氏名の読み仮名の届又は職権記載の申出を促す案内を送付することな

どは可能であると考えられる。

2 届出人

氏については,同一戸籍内の同籍者の氏は異ならないこととなっており,氏の

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 27 –

読み仮名についても,同様に考えられるため,本文【甲案】又は【乙案】の氏名

の読み仮名の届の届出人は,同籍者全員とする必要があるかが問題となる。特に,

DV(ドメスティック・バイオレンス)などにより離婚には至っていないが,別

居状態にある者については,届出をすることが困難との意見もあった。

なお,同籍者全員を届出人としない場合には,同籍者の一人が届け出た氏の読

み仮名が,他の同籍者が認識しているものと異なることも想定される。この場合

には,戸籍法第113条の戸籍訂正手続により対応することとなるものと考えら

れる。

3 届出期間

本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,例えば,改正法

令の施行日から一定期間内(当該者が事件本人又は届出人となる戸籍の届出をす

る場合にあっては,当該届出の時まで)にしなければならない又はするものとす

る旨法令に規定することが考えられる。

4 届出方式

本文【甲案】又は【乙案】の氏名の読み仮名の届については,他の戸籍の届出

がされた場合についても,事件本人又は届出人について記載された氏名の「読み

仮名」をもって,氏名の読み仮名の届があったものとして取り扱うことも考えら

れる。また,この氏名の「読み仮名」は,本文【丙案】の戸籍訂正の資料とする

ことも考えられる。これらの場合には,その旨周知するとともに,届書の様式に

注記することが適当であると考えられる。なお,令和2年3月31日現在の本籍

数は,約5千2百万戸籍,令和元年度の戸籍の届出数は,約4百万件であり,仮

に,他の戸籍の届出の際に氏名の読み仮名の届がされた場合には,単独の氏名の

読み仮名の届と併せて,年間数百万件以上の氏名の読み仮名の届がされることが

想定される。

また,届出の方法としては,この他マイナポータルを活用すべきとの意見があ

った。

5 通知に係る氏名の読み仮名の承認の擬制

本文【甲案】の氏名の読み仮名の届を前提としつつ,届出期間経過後,市区町

村が保有する情報を基に,国民に戸籍に記載する氏名の読み仮名の通知を送付

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 28 –

し,一定期間内に異議を述べなかったときは,同期間経過後に当該通知に係る氏

名の読み仮名を承認したものとみな(擬制)し,市区町村長が職権により戸籍に

氏名の読み仮名を記載する制度とすることも考えられる。

なお,身分関係に関し,通知後,一定の期間の経過に一定の効力を持たせる制

度として,昭和59年法律第45号により創設された国籍選択催告制度(国籍法

第15条,戸籍法第105条)がある。これは,重国籍の日本国民が法定の期限

までに日本国籍の選択をしない場合,法務大臣が書面により国籍の選択をすべき

ことを催告し,催告を受けた者が催告を受けた日から1月以内に日本国籍の選択

をしなければ,原則としてその期間が経過した時に日本国籍を失う(擬制)とい

うものである。ただし,国籍喪失後は,戸籍法第105条による法務局長等から

の報告により,市区町村長は,職権で戸籍に国籍喪失の記載をし,除籍すること

とされているが,これまで法務大臣による国籍選択の催告がされたことはない。

6 戸籍訂正の考え方

本文【丙案】の戸籍訂正に関しては,氏名の読み仮名の届出義務はないものの,

第2の1(2)により氏名の読み仮名が戸籍の記載事項として法令に規定されてい

る以上,戸籍法第24条第1項の戸籍の記載に遺漏があると評価することができ

るため,当該戸籍に記載された者若しくはその法定代理人からの職権記載申出,

第2の2(2)(補足説明)7の資料又は氏名の読み仮名を職務上知った官庁等か

らの本籍地市区町村長への通知があれば,同条第2項の戸籍訂正により市区町村

長が氏名の読み仮名を記載することができると考えるものである。もっとも,こ

れまでの戸籍訂正の運用に鑑みると,第2の2(2)(補足説明)4の資料がない

限り,職権記載申出を促した上で,実際に申出があった場合にのみ戸籍訂正をす

る運用とするのが相当と考えられる。

なお,氏名の読み仮名を職務上知った官庁等が通知するためには,本籍地市区

町村を把握している必要がある。

7 戸籍訂正の資料

法務省民事局長通達に定める婚姻届の標準様式には,「夫になる人」及び「妻

になる人」の氏名欄に「よみかた」欄が付されている。本文【丙案】の戸籍訂正

においては,例えば,当該「よみかた」が記載され保管されている婚姻届を資料

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 29 –

として,本籍地市区町村が戸籍法第24条第2項の規定により,戸籍に氏名の読

み仮名を記載することが考えられる。

第1の3(注1)のとおり,氏名を片仮名又は平仮名をもって表記したものに

は,読み仮名,よみかた,ふりがな,片仮名など様々な名称が付されているもの

があるが,いずれも,原則として(濁音が記載されない,小書きをしないなどの

ルールが定められているものを除く。)氏名の読み仮名として取り扱って差し支

えないものと考えられる。なお,万一,事件本人が認識している氏名の読み仮名

と異なっている場合には,戸籍法第107条若しくは第107条の2又は第2の

1(5)の読み仮名の変更手続により対応することとなるものと考えられる。

8 戸籍訂正における配慮すべき事項

謝罪広告等請求事件(最判昭和63年2月16日第三小法廷民集42巻2号2

7頁)判決において,氏名を正確に呼称される利益に関して,「氏名は,社会的

にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,

その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の

象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであるから,人は,他

人からその氏名を正確に呼称されることについて,不法行為法上の保護を受けう

る人格的な利益を有するものというべきである。」,「我が国の場合,漢字によ

つて表記された氏名を正確に呼称することは,漢字の日本語音が複数存在してい

るため,必ずしも容易ではなく,不正確に呼称することも少なくないことなどを

考えると,不正確な呼称が明らかな蔑称である場合はともかくとして,不正確に

呼称したすべての行為が違法性のあるものとして不法行為を構成するというべ

きではなく,むしろ,不正確に呼称した行為であつても,当該個人の明示的な意

思に反してことさらに不正確な呼称をしたか,又は害意をもつて不正確な呼称を

したなどの特段の事情がない限り,違法性のない行為として容認されるものとい

うべきである。」との判断が示されている。

これを踏まえると,氏名の読み仮名を本文【丙案】の戸籍法第24条の規定に

より職権により戸籍に記載し,公証するには,少なくとも本人の明示的な意思に

反しないことに配慮すべきと考えられる。

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会資料 6

– 30 –

第3 ローマ字による表記等

氏名の読み仮名を戸籍の記載事項として法制化した後,戸籍以外の公簿や各種証明書

等に記載されている氏名の読み仮名及び氏名のローマ字表記を戸籍に記載される氏名の

読み仮名と整合させる(氏名の読み仮名をヘボン式ローマ字等によって表記させる。)

必要があると考えられるところ,これをどうやって確保するか,検討する必要があると

考えられる。

なお,デジタル・ガバメント実行計画において,「在留カードとマイナンバーカード

の一体化について,現在関係省庁等で検討を進めているところであり,(中略)202

5年度(令和7年度)から一体化したカードの交付を開始する予定である。」とされて

いるところ,この一体化したカードにおける氏名の表記方法についても,検討する必要

があるとの意見があった。

 

 

 

 

 

 

氏名の読み仮名の法制化に関する研究会

 

https://www.kinzai.or.jp/legalization_kana.html

 

戸籍における氏名の読み仮名(カナ氏名)の法制化を迅速に図るための論点や考え方等を検討し、整理することを目的として、氏名の読み仮名の法制化に関する研究会(座長=窪田充見神戸大学大学院法学研究科教授)が発足し、令和3年1月28日に第1回会議が開催されました。

 

第1回(令和3年1月28日開催)抜粋

本日の議題(自由討議)

【本研究会の検討対象】

・ 本研究会の検討の対象は,仮名のみか。仮名表記とローマ字表記は1

対1の対応ではないので,ローマ字による表記についても議論の対象

とし,最初から議論の対象から外すとはしない方がいいのではないか。

【氏名の読み仮名の法制化の意義】

・ 漢字氏名の他,仮名氏名,ローマ字氏名というのを,個人として一

意なものとして定めていきたい。そうしないと,このデジタル化の社

会に対応出来ないと考えており,デジタル庁に向けては,そういった

形で,ベースレジストリを考えているところ。

・ 氏名だけで個人を一意に特定できるわけではないのに,氏名の読み

仮名を全員の戸籍に記載しなければならないというのは,システム処

理の正確性・迅速性・効率性を向上させることができるというところ

に飛躍してしまっているのではないか。システム処理の正確性・迅速

性・効率性を向上させるためにこれだけの大作業をするのであれば,

そこをきちんと丁寧に説明しないと,受け入れ難いとなりかねない。

システム処理を一番簡単にできるのはマイナンバーを使えるように

することなので,それはそれで正面からチャレンジすべきではないか。

2

【氏名の読み仮名の定義】

・ 研究会資料では,氏名を呼称する表音を片仮名で表記したものを氏名

の読み仮名と定義するとしているが,「表音」は一般的に言う「発音」

と理解し,今後「表音」という表現を法律用語のように一般の人たちに

も使っていくのか。

・ 「表音」という言葉,あるいは概念を用いるかは,これから本研究会

で考えていくべきであり,民事基本法制に本格的にこの概念が入る初

めての例になるので,旅券法施行規則の表音の例はそれとして,慎重

に検討しなければならない。

・ 商業登記における商号の扱いについて行政通達のレベルでは類似の

局面があるので,調べておく必要があるのではないか。

・ 氏名の読み仮名は氏名としてコントロールされている戸籍の記載事

項なのか,オプションとして戸籍に記載することも許される程度のも

のなのかについて検討する必要があり,それが収集方法にも関係して

くる。

・ 氏名の読み仮名を氏名の一部とせず,氏名とは別個の戸籍の記載事

項とすることに障害はないか。

・ 氏名の読み仮名を氏名の一部と位置付けるか,そうでない形で位置付

けるか双方の考え方があり得るという点は,双方の考えがあり得ると

してしばらく検討を続けるべきである。

・ 新たな届出にするか,住民登録などの情報に基づいて間違いないか確

認してもらうとか手段はいろいろあるが,今回新たにやろうとしてい

ることが,法律の根拠を付けて,本人に何らかの形で関与してもらい,

新たに読み仮名を戸籍に記載する制度を設けたいということであれば,

氏名の一部かどうかという二つの位置付けは,あまり変わらないので

はないか。むしろ,今回別個に戸籍の記載事項になったという方が明

確かと思う。

・ 読み仮名が氏名の一部かどうかという議論と切り分けた方がいいの

かもしれないが,氏名の読み仮名を任意的記載事項だとすると,全部

集めない,それが漏れていても正しい記載がされていないわけではな

いということになり,必要的記載事項だとすると,海外に行く予定が

なく,マイナンバーカードを使う予定もなくても,戸籍として正しい

情報が反映されていないので,読み仮名を収集しなければならないと

いう方向になると思う。

・ 片仮名の範囲は実ははっきりしていない。国語政策とJIS漢字とで

も範囲が違う。国語政策には現代仮名遣いがあって,これを片仮名に

3

置き換えれば,現代の日本語はほぼ書けることにはなる。帰化された

方などは,最初から片仮名で記載されていることもあり,外国語の発

音を片仮名に置き換えていることになるが,外来語の表記という内閣

告示・訓令では対応しきれないところもある。片仮名の範囲のほか運

用をどこまで認めるかという問題でもある。「ワ」に濁点のある片仮名

などをどこまで認めるかといったことも決めておかないと窓口等で混

乱が発生する。

・ 片仮名を1バイトとするかなども決めておかないと,それによって使

える文字が変わってくる。

・ 任意的記載事項にするのか,必要的記載事項にするのかを押さえる

必要がある。任意的記載事項とし,届出を要請するが,強制しないとい

うのであれば,法律上の根拠はあるけれども運用は今と同じである。

今の運用は,漢字との字義の関連性は厳格ではなく,自由に読み仮名

を設定しているが,それを認めて良いのかが問題となる。そして,現在

の運用をなるべく変えないとすると,読み仮名を変更する場合には,

裁判所の許可を得てやってくださいという運用も一つの方法だと思う。

それではまずい,変えないといけないというのであれば,その必要性

を議論することが大事なのだと思う。

・ 氏名の読み仮名をどう位置付けるかという問題,それが必要的記載

事項か,任意的記載事項かという問題と,収集の仕方が全部関わりあ

ってきているので,うまく整理して議論しないと,堂々巡りになるの

で,どういう順番で何を議論するかを検討する必要がある。

【氏名の漢字部分の音訓や字義との関連性】

・ 傍訓が設けられたのは,当時の識字の問題,難しい漢字が戸籍に記

載されると読めないという問題があったからである。字義については,

常用漢字表の音訓表や,漢和辞典の音訓,最近は名乗りの辞典もある

が,それ以外の読みも多い。例えば,「温心」で「ハート」と読むなど

あるが,そこまで何でもありとなると,一番大変なのは出生届の審査

で,窓口でトラブルが起こることもある。収集する以前の問題として,

新しい名前が出生届で届け出られたときの問題を検討する必要がある。

・ 漢字の字義と名乗りの発音との不一致に関して,「温心」と書いて,

「ハート」も当て字であるが,意味が合っている,字義が合っているで

はないかという話にもなりうる。100年,200年の歴史を持って

いる当て字もたくさんあって,誰かが客観的に判断するのは,裁判官

がするとしても相当大変なことになる。名乗り訓とされているものも

網羅された資料はなく,江戸時代になかったものが今では普通になっ

4

ているものもある。平和の「和」と書いて「カズ」と読むものさえ,実

は確実な根拠が見つかっていないとされる。足し算で和が数だからと

もいうが,それが理由なのかはまだ分かっていない。混沌とした世界

が漢字自体にあって,それが名前に持ち込まれて,名前でさらに拡張

している感がある。今回そこまで足を踏み入れると大変だろうと思う。

・ 漢字との関連性についてある程度自由に認めていかなければならな

いだろうが,勝手に全く関係ないものを好きに付ければいいのか,極

端に言えば,漢字と全く関係ないものが片仮名表記にあって,片仮名

表記とも違うローマ字表記があるということでいいのか,どこかで線

引きする必要がある。

・ 傍訓が戸籍に残っているもの(改製不適合戸籍)があれば,読み仮名

をそれと違うものとしていいのかという問題がある。

・ 例えば,名が「てふ」で,戦前に「テフ」と傍訓が記載されているよ

うな方の読み仮名を「チョウ」と変更することはできるか。また,方言

で仮に「チュウ」と呼んでいる場合に,「チュウ」と読み仮名を記載す

ることはできるか。さらに,実際に「子」を補って「チョウコ」と呼ん

でいる場合に,「チョウコ」と読み仮名を記載することができるか。本

欄のひらがなが本体なのか,読み仮名欄を含めて名前とするのか。こ

のような問題が今回表面化するだろう。

・ 上記の問題は,読み仮名を氏名の一部と位置付けるかにもかかわる深

刻な問題であり,丁寧に検討する必要がある。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 読み仮名を氏名の一部と位置付けると,裁判所の氏名の変更の手続が

使えるということは,メリットと言えるか。見方によってはデメリッ

トかもしれず,別の仕組みを工夫しなければならない可能性も大いに

想定しなければならないのではないか。

・ 現行の氏の変更は,やむを得ない事由,名の変更は,正当な事由が必

要であるが,読み仮名の変更もパラレルになると思う。

【氏名の読み仮名の収集方法】

・ 住民基本台帳には読み仮名があるのではないか。例えば,選挙で本人

確認をするときに読み仮名を発言させているなど,今ある読み仮名の

データとしては多分かなりあると思うが,法律上の根拠がなかったか

ら使えない,もう一回収集し直す必要があるということを前提に議論

しなければいけないのか。

・ 婚姻届には氏にもふりがなが付いている。現在は戸籍の記載事項では

ないが戸籍に登録されるための書類として書かれた点では,住民票と

5

は違うレベルのものとして位置付け,市区町村の戸籍事務と国の戸籍

事務(現在の婚姻届の保管事務)をうまく連携するなど工夫ができな

いか。

・ 届出錯誤になると戸籍法第113条の戸籍訂正の問題となるが,届

出のミスなのか審査ミスなのかよく考えないと大きな問題となるなど,

具体的に細かい点まで決めておかないと市区町村の窓口の担当者が大

変になる。

・ 住民記録システムのふりがなについては,当初本人に確認して入力し

ているものではなく,その後の異動時にも直したり,直していなかった

りという状況である。現在,ふりがなは,住民基本台帳法上も法令上の

記載事項とはされていないので,住民票のふりがなについても正しい

ものが入っているとは限らない前提のものであると思う。

・ 旅券は戸籍の氏名の表音をヘボン式ローマ字表記することを原則と

しているが,例外も認めている。有効旅券数は約 3,000 万冊あり,留意

が必要。

3 閉会

 

第2回(令和3年2月25日開催)

抜粋

2 本日の議題

【本研究会の検討対象】

・ 氏名の読み仮名やローマ字表記について,目的がはっきりしない。後

の手段がどうあるべきかの前提として,パスポートにしても住民票に

しても戸籍にしても,なぜこれを紐付けてどういうことをしようとし

ているのか。

・ ベースレジストリの中でしっかりと個人の氏名を位置付けたい。シス

テム処理,情報技術を使った処理になると,カタカナであったりロー

マ字であったり,しっかり処理できるようにする必要がある。本人を

特定する一意なものとして漢字氏名,カナ氏名,ローマ字氏名としっ

かり位置付けていく。デジタル社会の形成において,しっかり位置付

けないと,デジタル化の中で,いろんな障害を生じる。マイナンバーカ

ードの海外利用が目的ではない。個人を識別し,特定する身分証明書

としてマイナンバーカードを活用していくが,海外利用にあたっては

ローマ字表記がマストだが,現在では,何も公証されてないものを表

記することになる。

・ 「2024 年からのマイナンバーカードの海外利用開始に合わせ」てと

あるが,海外での利用と戸籍の読み仮名は,どう繋がるのか。

・ マイナンバーカードの海外利用になると海外の方々に認識してもら

わなければならないが,公証されていない平仮名に基づくローマ字表

記になる。また,ベースレジストリとして,個人や事業所がデータをし

っかり整備しようと検討を始めている中,個人を認識するものとして,

カナ氏名,ローマ字氏名も特定し,公証する必要がある。

・ 単に海外での利便性であれば,任意的記載で足り,必要な人がやれば

いいだけではないか。利便性だけの問題か,別な目的があるのか。

2

・ マイナンバーカードの海外利用というのは時期を特定するために書

かれているものであり,本人を一意として認めるために漢字氏名とカ

ナ氏名,ローマ字氏名を公証するのが一番の目的である。2024 年度か

らマイナンバーカードがローマ字表記になる期限として,検討し,実

施していくもの。マイナンバーカードのローマ字表記が目的ではなく

て,時期がそこになるという意味。

・ 「カナ氏名の法制化を図る」までと,その後の「これにより」の記載

が飛び過ぎていて,システム処理の正確性,迅速性,効率性が向上する

のかわからない。これをすることで,本当に正確性,迅速性,効率性が

上がることを示さないと,この大作業は,コストだけかかって,一体何

のためにやったんだとなりかねない。

・ 海外で身分を証明する場合には問題なくパスポート 1 択だと思うが,

マイナンバーカードはこれに並ぶ効力を持つということになるのか。

・ 書かれた漢字,文字が自分の名前の中心という意識の人と,文字を知

らない頃からの呼び名・発音こそが自分の名前の本体だという意識の

人とがいる。日本では千数百年前から卑弥呼のような名前があって,

我々は漢字が浮かぶが,卑弥呼自身は「ひみこ」のように言っても,漢

字は知らなかったと思われる。呼び名しかない音の世界で,中国の人

がそれに漢字を当てて記録がなされた。いつしか日本でその音と漢字

の位置関係が逆転し,漢字こそ名前の本体だ,公簿たる戸籍にはその

漢字だけ書けばいいという意識が明治時代には広まった。「イトウヒロ

ブミ」も,漢字を当てたことから「ハクブン」とも読まれるようになる。

自身でそのように言う人もいた。漢字が中心だからこそ,音読み,訓読

みと発音が自在にできる時代には戸籍に書かれている名前の本当の読

み方を本人も知らないということが,明治の頃の記録に現れている。

・ 日本では氏名の発音を書くときに,平仮名,片仮名やローマ字を使わ

ざるを得ないが,そのローマ字はパスポートはいわゆるヘボン式で,

「ち」が CHI になって「つ」が TSU になるが,国語政策としては訓

令式(日本式)が優先されている。目的によっては,ヘボン式に統一す

る明確な理由が求められる。訓令式が日本人の意識を代表するもので,

例えば全部Tで書いてこそ「た行」だという主張もある。本件がローマ

字に関わるのであれば,そういうことも問題として付随してくる。

・ 研究会の目的となると,日本人の名前における漢字と音の関係を見直

すというのをストレートにすることはできないのではないか。

3

【氏名の読み仮名の定義】

・ 戸籍の届出は原則義務が課されているとの記載について,義務が課さ

れているのは,出生届,死亡届,裁判離婚,裁判離縁など,結果が出て

いる報告的届出というもので,婚姻や養子縁組という創設的届出は義

務化されていない。名の変更なり氏の変更は,現在では義務が課され

ておらず,裁判所の許可があったとしても届出義務が課されず,創設

的届出であるので,そこをきちっと分けて考えた方がいい。

・ 一つの局面の例を挙げると,婚姻によって新戸籍を編製する場合に,

氏が変わらないケースもある。妻の氏を称する婚姻をする場合に,妻

となる人は氏が変わらなくても,新戸籍を編製する局面において,従

前その妻となる人がいた戸籍の氏の漢字の部分は,新戸籍にしても,

妻の氏を称する婚姻であれば同じであるが,チャンスという言い方が

いいのかわからないが,そのチャンスに,従前の読み仮名とは異なる

読み仮名を希望するのでそちらにしてくださいとなったときに,それ

はやめてくださいという話になるのか,それもあるという話になるの

か。そのどちらであるかをこの研究会で多数決で決める話ではなく,

今後この議論が社会に告知されていくにあたって,国民世論がこの読

み仮名というものを,どこまで堅苦しく,あるいは国が押しつけるよ

うな仕方でされるという感覚を持つのか,いやいや割とそのカチッと

機械的に決めていただくことで良いと感ずるかといったようなことを

見据えながら,考えていく必要がある論点だろう。氏の一部とすると,

従前の読み仮名とは違うものを選ぶというのは論理的に自動的に位置

付けられることになるが,氏の一部にならないとなると,今回新しく

仕組もうとしている考え方で,従前の読み仮名でオートマチックにや

っていただきますという戸籍事務の処理を法務省は考えているのかも

しれないが,世論の動向によっては違う仕組み方もあるかもしれず,

そちらの方がオープンな議論になる。

・ 「傍訓が付されている場合には,漢字と傍訓とが一体となって名を表

示し,その名を表示するには常に傍訓を付さなければならないと考え

る向きがある」という記載については,漢字である氏名を書くだけで

はなくて,常にふりがなを付けなければ完全な名前の表記ではないと

いうものに対して,そうではないという説明であり,この話と名前の

一部かどうかというのは,ずれがある。名前として書くのは,漢字を用

いていいが,ふりがなは別個にあるのではなく,最終的には人を特定

するための個人を識別するための名前の一部だという捉え方は,少し

4

議論のずれがあり,名前の一部かどうかということも複数の局面があ

る。

・ 金融機関は,本人確認資料として免許証やマイナンバーカードの提

示を受けて,実際に本人を確認して口座を作っている。氏名の一部に

なり公証されると,法的な本人確認資料を見ない限り,金融機関は受

け入れができないので,全部氏名と共に仮名氏名も表示されるとなら

ないと,実務上耐えられない。何らかの形でデータとしてもらえれば,

実務的に回るが,そうすると,戸籍と民間機関が持っている個人情報

とを紐付けるキーが必要で,片仮名の氏名はキーにならないので,マ

イナンバーカードの認証情報のようなものをくっつけてもらわない

限りできないことになる。本当に必要なもの以上にもどんどん義務付

けて,必要的記載事項として,義務としてやることが可能か。

・ それぞれの自治体と金融機関,企業体が機関を越えてマッチングする

ときには,漢字はコードとか,使っているシステムが違うケースも多

く,マッチングできないので,仮名でやる検索の方が合わせやすいと

いうことが一部にあるかもしれないが,大きな決め手になるものでは

ない。とりあえずそれが必要な人には全部振るという作業をして,縛

ってしまうことは,作業量も,いろんなコストも多く,デジタル処理

もある中でそこまでやらないといけない理由がわからない。

・ 仮名の方が検索の利便性が良いというのは,電子政府の事業に関わる

中で,学んでいる。

・ 銀行と顧客との取引時には,免許証等の公的本人確認書類を用いて,

「氏名」を確認することが税法又は犯罪収益移転防止法上,義務付け

られている。今回の検討で,読み仮名が氏名の一部と位置付けられた

場合,読み仮名を本人確認時の確認項目とすべきかどうかという論点

が生じると思っており,この点は実務への影響が大きい。また,もし

読み仮名を本人確認時の確認項目とするのであれば,どのような公的

本人確認書類に読み仮名が付され,これにより確認が可能となるのか

ということが明らかにされる必要があると考える。

・ 昭和 63 年判決の記載について,これを読むと確かに個人の意思に反

しないものの方がいいというのはわかるが,あの事件で問題になった

のは,母国語読みと日本語読みのどちらが正確な呼称なのかというこ

とであって,その主観的な正しさと一般的な正しさ,一般的な読み方

か,個人の主観的に思っている読み方とどっちが優先されるのかとい

う話の問題ではない。ここでこの判決を書くことによって,個人の思

5

っている呼称というのが尊重されるべきだということはわかるが,そ

の接続が必ずしもそうダイレクトにいくものではない。

・ 読み仮名の変更については,読み仮名も氏名の一部と考えると,漢字

の氏・名の変更をしたいとき,読み仮名も合わせて,セットとして申

し立て,判断しなければならないか。仮に,読み仮名が不適法で認め

られない場合には,漢字もあわせて変更が認められないか。読み仮名

の変更の可否をどうするかとは別に,漢字の氏・名の変更のあり方も

変わってくる可能性もある。

【現代仮名遣い】

・ 「いう」を「いふ」,「蝶」を「てふ」と書いたのは,平安時代の人々

の発音に基づくもので,かつての表音的な表記であった。発音は変化

するが,その変化に仮名表記をどう対応させるか,そのままにするか,

さまざまな議論と方法があった。戦後に簡単にしようとして,なるべ

く発音(音韻)のとおりに書くと決めたのが現代仮名遣いである。

・ 長音符「―」がないのが「現代仮名遣い」の特徴である。今回片仮

名表記をすると,帰化された方の名前を書くときにカナや記号が足り

なくなるが,かなりのところまでは,平仮名を片仮名に読み換えるこ

とでカバーできる。その他,「姉さん」は「ねいさん」ではなくて「ね

えさん」と,「父さん」は「とおさん」ではなくて「とうさん」と書く

といったことが決められている。これも歴史的仮名遣いを現代風に置

き換えるといったことを1つ1つ行った結果である。例えば助詞の

「は」は「は」と書くが,平安時代にそれを「ふぁ」と発音していた

からそのまま書いたもの。鎌倉時代頃に発音が「わ」と変わってしま

ったため,「わ」を書けばいいではないかというのが表音式の書き方で

ある。ところが,現代人にとって読みにくいので,助詞の「は」は「わ」

と読むけれど「は」と書くと決められた。これを名づけと関わらせる

と,「なほこ」と平仮名で書く人がいた場合に,「なおこ」と現在風に

読む方がいるので,この規定が少し関わってくる。

・ 例えば「かおり」さんがいるが,わ行で「かをり」と書く方もいる。

その人のふりがな欄を見ると,「かおり」になっている,つまり「お」

と現代仮名遣い式に置き換える人がいる。また,「かほり」さんと書く

「かおり」さんもいた。定家仮名遣いと言って,鎌倉時代以降にでき

た新しい仮名遣いだが,やはり「かおり」のほか「かほり」とふりが

なを付ける人がいる。現代仮名遣いの考え方からは逸脱している。そ

ういう意味で,本件は現代仮名遣い(固有名詞にすべて適用するもの

ではないとされる)の考え方をそのまま当てはめることはできない。

6

・ 会津さんの「津」は,「づ」,「ず」に分かれる。津は「つ」だから,「づ」

と思うが,昔から「ず」で書いていると主張するような人たちもいる。

【氏名の漢字部分の音訓や字義との関連性】

・ 「十八公」と書いてマツオという例が挙がっているが,マツと読ませ

るのには典拠があって,「十八」を組み合わせると「木」になり,隣に

「公」を持ってくると「松」になる。中国で千何百年前にそう考えた

人がいて,ある種の教養のある層では「十八公」は「マツ」と読むこ

とが楽しみながら共有されていた時代があった。現在では,むしろ常

識外れとされかねないが,本当に字義と関係がないと言い切れるかど

うか,個々の判断を誰がするかを考えると難しい問題である。

・ 「高」と書いて「ヒクシ」に関しては,中国古典における漢字の運用

法でいわゆる反訓,つまり反対の字義と称されるものさえあったこと

が想起される。「乱」と書いて「オサメル」と読むという例も漢籍など

に時々出ており,名付けに反訓という方法を利用していると命名者か

ら主張されたときには,反訓にも認められる範囲があると個別に判断

することになるのか。

・ 「和」は,平和の「和」や昭和の「和」で人気になった。そこで「カ

ズ」という読み・表記が一般に認められているのだが,実はその根拠

が明確ではない。このように,使用者が増えれば名乗り訓として認め

られるということを我々は経験しており,「和」で「カズ」という読み

がおかしくないと思うのは,テレビで見て,友達にいて,親がそうい

う名前でなどという接触頻度が常識を作っていることの表れである。

「月」と書いて「ルナ」ちゃんというのは,ラテン語みたいな読み方

をするのかと思うが,オリンピック代表選手などに次々に現れて,だ

んだん馴染みが生じてきた。おそらく 10 年,20 年後の世代だと,も

っとそういう意識が強まる。「月」と書いて「ルナ」というのは字義に

合っているとはいえる。数の論理や意識も言語においては重要で,ま

た身近に 1 人いるだけで馴染みが生まれることも経験するところであ

る。

・ 「海山」の読みを聞いたら,「ヒロタカ」で,海は広いなというところ

と山が高いということでそう読み,受け付けられているとのことであ

った。親が個性を考えて名前をつけて,育っていくと,本人も非常に

愛着を持っている。キラキラネームとかいろんな名前が出回っている

が,それをやりかえろということは,到底言えない。名前というのは,

よほど混乱させるとか,そういうものではない限り,基本的に認める

方向ではないか。

7

・ 漢字が読めるかの議論も非常に重要と思うが,デジタル化は,漢字氏

名で片仮名,平仮名も含めた仮名氏名とローマ氏名,これが本人を特

定するために一意になっていることが重要。漢字氏名をローマ字でも

表記し,そこが一つにまとまっている,ブレることなく,ちゃんと公

証した形で一意に定めていくことが非常に重要。海と書いて「マリン」

であったり,月と書いて「ルナ」というものは認めていき,社会通念

上非常におかしい,名前としてちょっとそぐわないというところ以外

は認めた上で,そこを一意として認めていく,さらには,変更が簡単

にできない形で家庭裁判所に行くことを仮名氏名,ローマ字氏名にも

適用していくことが重要。

・ 私の名前を,「ルートビッヒ」,「フランチェスカ」,「フランチェスコ」

でもいいか,そういうふりがなをつけたときに許容されるのか。全く

逆のものもありうるとすると,全く無関係で,どう考えてもない,「ダ

ビット」とか「デビット」と呼ばせるとかそんなものもありか。

・ 全く予想できない,説明できないものはやっぱりおかしい。やはり認

めるべきではない。判断基準は何だと言われるとなかなか難しいが。

・ パスポートは,漢字の音訓読みをヘボン式でローマ字表記することを

原則としており,他方で,海外渡航上,円滑にするために,外務大臣

が認めるときは,その限りでないという例外を設け,その中で海外渡

航上必要かどうかというものを申請者から疎明していただいている。

全く無関係ではなくて,音訓読みに近いような形で,あくまでも例外

だということで渡航上必要かどうかということを判断して認めてい

る。ただし,一旦決めて認めたものについて変更する場合は,基本的

に戸籍上の氏名が変わらない限りは認めないということで,変更につ

いては非常にハードルを高くしている。

・ ○○さんという人がどこに登録されても一意に登録されていなけれ

ばならないということはそのとおりで,きちんとそれを括るというこ

とは大事なこと。しかし,○○さんという人を名前だけで,不特定多

数からユニークにすることはできないので,それがユニークに振られ

たマイナンバーを活用して処理をするというのが基本。自分がどこに

登録されているものも一意であれば,読み仮名は,ある程度,自由度

が認められてもいいのではないか。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 比較的自由な読み方を認めるとした場合でも,後から変更も自由にで

きるというのは別の問題で,一意で決まるという観点からは,ある程

8

度,自由な読み方を認めるとしても,一方で本人を同定するためのも

のとして,そんなに簡単に変更は認めないという考え方もある。

・ 戸籍法107条1項と4項は家庭裁判所の許可を要する事案であり,

107条2項と3項は届出人の意思で,2項は外国人と婚姻した場合

の氏を使用する,3項は離婚したときに元の氏に戻るという届出であ

る。この場合に,107条2項,3項いずれの場合にも,ふりがなまで

名前に含めるとなると,107条2項,3 項の変更したものの変更をす

るときは,今度は家庭裁判所の許可を要するとなるのか。

【同一戸籍内の規律】

・ 同一戸籍内にとどまっている中で,お父さんは「スズキ」と読んで,

子供は「ススキ」というものが許されるのか。そこで読み仮名を変える

というのは,少なくとも戸籍制度を前提とする限りは難しい。

【氏名の読み仮名の届の届出人の範囲】

・ 同一戸籍内にある者全員が届出人になるという手続の記載について,

一つのありうる自然な解決かもしれないが,同時に心配になることと

して,典型的な局面を挙げると,配偶者から暴力を受け,又は受けるお

それがあるために住所又は居所を秘して生活をする者が,単に届出人

となる者との間で,社会的な接触を事実上強いられる事態は生じない

ように注意をしなければならない。同じ戸籍の中にある人はみんな仲

がいいという保証は,とりわけ現代社会においては全くないので,今

後の検討において留意する必要がある。

3 閉会

 

第3回(令和3年3月29日開催)

抜粋

2 本日の議題

【氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ 読み仮名の登録は必要だということであるが,それのために,せっか

く振ったマイナンバーがキーとして,活用されなくなるという動きに

ならないようにすべき。

・ 外国人については,戸籍はないが,在留証明,外国人証明とか,そこ

の読み仮名とか,そういうのはむしろ住民サービスと言うのだったら,

そっちの方も必要になるはずで,むしろ戸籍というよりも,住民サー

ビスという点からいうと,住民登録の方が強いのではないか。

・ 戸籍の方で扱う理由というのも,おそらく単純にデータをソートする

とか,特定するというだけであれば,住民票であろうがどこであろう

が,読み方が付いていればいいのだという扱いになると思うが,やは

りそれだけで済まないのが,おそらく名前の一部という性格があるの

ではないか。そうだとすると,単純に記号としても振り仮名がつけれ

ばいいと,ある意味で,本人関係なしに,記号として振り仮名をつけた

らソートできるわけであるが,そうではなくてやはり名前の一部とい

うふうに位置付けたときに,戸籍の問題になってくるのではないか。

・ 氏名には発音と表記がある,だからその氏名という定義というものに

二つの構成部分があるのだと,それで初めて氏名なのだという趣旨と

理解していたが,その中で今の制度では表記しかないので,むしろ今

回発音の部分を入れるということで,氏名の特定というものを明確に

するという,まさにその一意として明確にするというところに今回の

意義があるのだという具合に理解していたが,逆に言うと,そうなら,

外国の制度はその発音とかいうのは一体どうなっているのか。外国も

表記だけなのか,発音の部分もあるのか。

2

・ 一意ないし一意性というのが,氏名に読み仮名をつけようという法制

化,その法制化の施策の重要なバックボーンになっているので,「一意

のものとして」「一意性」というのが何を意味するのかというのは,研

究会資料のどこかの段階で示しておく必要がある。

・ マイナンバーカードが国内でも利用が拡大する中で,海外でも当然利

用拡大ということになってきて,普段使いのものとしてマイナンバー

カードも国内でも利用場面が増えてくる中で,海外でもそういった形

で身分証明書として使っていただくということが必要ではないか。

・ 一意性というものがあるタイミングで一対一対応になると,ある人に

とって読み仮名が一対一対応になるという意味だとすると,そのこと

と,当然に読み仮名が固定化されるのかというのは結びつかないので

はないか。一対一対応であることは変わらないが,後はその紐づけの

話のような気がする。

・ この時期においてこういう読み仮名をしたということが記録上残せ

れば,変更自体はある程度柔軟にしてもいいのではないか。

・ 一意性の範囲について,まず行政に登録されているものが,戸籍に読

み仮名を登録をしたら,それがどこにでもそうなっていますという,

そのどこというのは,住民票とかいろんなものがあるが,その範囲と,

それから,それはやはり戸籍に登録申請をしたら,その範囲において

はワンスオンリーでいかないと,それもまたみんなが戸籍の証明書を

持って範囲内のところに登録しに行かなければならないとなると大変

なことになるので,そこは考慮すべきと思う。

・ 今,マイナンバー関係やマイナンバーカードの関係では,基本 4 情報

として住所,氏名,生年月日と性別,これに氏名にカナ氏名,ローマ字

氏名が付け加わっていくのか,4情報とは別に基本5情報,6 情報にな

るのかというのは,今後の議論だと思う。カナ氏名,ローマ字氏名が紐

づけされることになっていくと,漢字氏名と同じように,いろんなと

ころと情報が連携されることになるものではないかと考えている。

【氏名の読み仮名の変更】

・ 登録した後に,その読み仮名を簡単には変更を認めないと,仮にそう

いう立場を取るとしたら,氏名の読み仮名について固定化する,ある

いは簡単に変更を認めない理由ないし必要性についても,やはり整理

ないし議論する必要があるのではないか。

3

・ 氏名の読み仮名を一義的に登録し,公証する必要があるということと,

一度登録した読み仮名について固定化することとは当然には結びつか

ないのではないか。

・ 読み仮名を変更したときは,戸籍上変更の履歴はすべて残るというこ

とでよいのか。そうであれば,変更自体は柔軟に考えるということも

ありうるのではないか。

・ 氏名の読み仮名は付加的な情報と位置付けることも考えられるとい

うようなご意見もあって,そうだとすると,なおさら,なぜ変更に厳し

い要件を課すのかということが問題になってくるのではないか。

・ 氏名の読み仮名の変更を簡単に認めない理由であったり,必要性の中

身によって,読み仮名の変更の当否の判断基準の内容にも影響がある

のではないか。この点について整理をしないと,仮に今後裁判所がそ

の変更の当否の判断をするとなった場合に,その解釈等に困難が生じ

るのではないか。

・ 漢字の変更と読み仮名の変更はやはり一緒かどうかなというと,やは

りもうちょっと緩くてもいいかという気さえする。

・ 氏名の変更に関しては,もう今まで実績というのがかなり積み重なっ

ていると思う。やはり,氏の場合と名の場合とで違うということは一

般的には言われており,教科書でも書かれていることなので,少し読

み仮名の問題の手がかりとして,漢字表記の氏名の変更に関するもの

も少し材料とすると,議論の手がかりになると思う。

・ 氏名の読み仮名の変更の要件に関する判断基準はできる限り明確に

すべきであるが,変更が認められる場合として,著しく珍奇な読み仮

名,又は長年使用していた読み仮名が挙げられているが,そもそもこ

の二つに限られるか。例えば,性同一性障害を理由に,読み仮名だけを

性自認に合わせて変更してほしいという申立てがあった場合にどう考

えるべきかということは,問題になるように思う。また,「著しく珍奇」

かどうかをどう判断すべきか,変更後の読み仮名について,最初の届

の場面と同じ程度の漢字部分の音訓・字義との関連性が要求されるの

か,例えば,音訓・字義との関連性のない読み仮名を永年使用している

場合どう考えるべきか,なども問題となる。

・ そもそも,この氏名の漢字の変更についてどういう基準で判断してい

るかということについて,現行法の下においては,氏名の漢字部分の

変更の可否については,現在の氏又は名が社会生活上支障を生じさせ

るか,あるいは著しい支障を生じさせるかという基準で判断している

と考えられるが,この基準が読み仮名の変更にも当てはまるのか,当

4

てはまる場合,この基準を満たすか否かを判断するための具体的な考

慮要素について,どのように考えるべきか。

【氏名の読み仮名の収集方法】

・ 収集方法について,全く新たに集め直すというのと,既に戸籍に何ら

かの記載がされている情報に基づいてそれを利用してというのとでは,

後者の方が断然使いやすい制度になるのだろうとは思う。

・ 変更については,研究会資料で挙げられている考慮要素はどのように

位置付けられるか,他に考えられる考慮要素はないかといった観点か

ら検討すべきではないか。また,「著しく珍奇」というのをどう判断す

ればいいのか。

【氏名の読み仮名の戸籍の記載事項化】

・ 長年使用しているうちに皆が受け入れているものはもう認められる。

一方,昨日今日出来たようなものは一概にキラキラネームだなどと言

って切り捨てるということが,本当に可能なのだろうか。

・ 読み仮名を法制化するのか,カナ氏名を法制化するのかは,何か違う

のではないか。

・ カナ氏名という言い方をすると,漢字との関連性が非常に薄くなるよ

うな気がする。

・ 民法上の氏にこの読み仮名を含むのかという議論をしたときに,い

くつか考えるべき問題があって,それは婚姻の際の氏の変動との関係

で,ちょっと論点を意識しながら考え込む議論があるだろうと思う。

また,戸籍法学上,特有の概念である呼称上の氏に読み仮名を含むの

かという議論との関係でも,離婚の際の復氏あるいは婚氏続称との関

係で,当事者の自由度をどこまで認めるのかということとの関係で検

討しておかなければならない局面があるだろう。

・ 表記上の氏,民法上の氏と呼称上の氏という言葉があり,表記上の

氏というのは,私が勝手に作った言葉であるが,表記上の氏に読み仮

名を含むのかという問題があって,例えば不動産登記法では氏名及び

住所を記録すると書いてあるが,もし表記する際に必ず読み仮名を書

かなければいけないという意味で,氏名に読み仮名を含むのだという

ことになると,登記法には漢字しか書いてない,読み仮名が書いてな

いではないか,違法ですよというような議論が,やや揚げ足取りのよ

うな感じであるが,出てきかねない。また,例えば株主総会にある人

を取締役にする議案を出すときに,漢字の氏名だけ出すと,これは不

5

適法な議案の提出で,その脇に平仮名で読み仮名を書いておかなけれ

ばいけないのではないか,というようなことを先々聞かれたりしたと

きに,いや常識で言ってそれはないでしょうという説明ではなくて,

いやいやその上で,氏に読み仮名を含むということは多義的なので,

一度研究会資料や部会資料で整理しています,それによると,私が仮

のニックネームをつけたことなんですが,表記上の氏には含まないと

いう運用を想定していますのでその心配は要りませんよというよう

な説明をして,きちっと明快に説明していくことが大事で,そういう

議論を重ねることによって,一般の取引の場面で人の名前を挙げると

きに,いちいち読み仮名を表記してないと,それはその違法な不十分

な文書の作成なのかというと,いやそういう国民生活の広範囲にわた

っての不便をお願いすることは考えてないんですよというような説

明をいよいよ整えていく,だんだんに整えていって,研究会資料にも,

皆さんのコンセンサスが得られる範囲で文章化していくということ

が大事だろう。

3 閉会

 

第4回(令和3年4月28日開催)

抜粋

2 本日の議題

【戸籍制度に関する研究会最終取りまとめに挙げられた問題点の整理】

・ 「漢字との関連性を考慮せず,届出のとおり戸籍に記載することとす

ると,漢字とその読み方を公の機関が公認したものと考えられること」

が問題点として書かれているが,どうやってもこの問題は残るので,

この関係での二案だというと,少し問題があると感じた。これは答え

がない,解決の方法がないと思う。

・ 第1の3(1)から(4)までは,むしろ各論のところでまとめ,まと

めのところをどう書くべきかという議論かと思う。

【氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ これまでの議論では,戸籍に振り仮名の記載をすることについて,そ

の必要性や国民の意識も踏まえてなお慎重に検討すべきであるという

ことだった。それが,政府や行政機関に係る申請届出処分の通知その

他手続においてひらがなで表記したものを利用して,そういう措置を

執る,この新しい法律案でそういうのが決まっているというが,具体

的にそのメリット,どういうことをやろうとしているのか,明示が必

要かと感じる。

・ 時代の流れを考えると,外国人の方が増えて,帰化する方も多いし,

他方で子供の権利が言われるようになっている。そういう状況を考え

たとき,例えば子供という視点から観たとき,子供は文字よりも音を

認識する方が先だと思うので,表音文字である仮名を自分を表象する

文字として公に書いてもらえるのは,それなりに意味があるかもしれ

ないし,概念的には意味があると思う。昔は帰化したときに漢字の名

前を付けなければならなかったので,漢字は表意文字であるが,自分

2

の意図しない漢字を当てざるを得なかったという方もいると思う。そ

ういう時に表音文字であるカタカナを正式な文字として書けるし,定

義できる,その方がより自分らしいと感じるというか,正確と感じる

というか,落ち着きが良いと感じるというか,色んな思いを持つ方が

いると思うので,そういった時代変化に合わせた外国人とかあるいは

子供という視点から何かよい書き方ができないか。

・ 韓国は昔は漢字が正式であったが,今はハングルが正式であり,漢字

というのを持たない方もいるが,読み仮名的なものとしてハングルを

例として記載するのは適切か。

・ 名前というものには、現在、読みと表記の二つの面,聴覚的な情報と

視覚的な情報とがあるということが、少なくとも言語の世界では前提

として認識されている。現状では、その表記だけが公簿である戸籍に

表示されているという状態であると理解される。

・ 氏名の読み仮名の社会的なニーズといったものを整理して研究会で

の議論の結果として含めるのが良いか。

・ 漢字圏では一字一音の原則があるが,日本はそれを大きく崩している。

日本の場合,変則的で,音読みもあり,訓読みもあり,それらの応用も

あり,ある意味で無秩序な状態にあるため,国語政策も名前の読み方

には関わらないとしてきたほどである。そういうこともあって,戸籍

のような公簿上の読み仮名は韓国くらいにしか見られず,日本では独

自の多様性といったものの現れとして読み仮名が必要だといった説明

もあり得るか。

・ 氏名の読み仮名を一意のものとして云々というのは,一つの読み方し

かあり得ないということで,不正利用のところまで入るということま

で含もうとしているのか,それともその後の国民の利便性の向上を図

るためだけなので,飽くまでもそういう観点での読み仮名であり,要

するに,行政サービスとかそういうものがちゃんと行き届いているか

どうか,あるいはチェックをするための読み仮名であるという位置付

けなのか,その点によってこの制度の建て方も大きく違ってくるし,

これからの利用についても変わってくるので,そこははっきりした方

がいい。

・ 通常,金融機関等は,基本 4 情報の提示を受けて,顔写真と本人との

確認を行うことによって本人確認をしている。それを強化するという

が,免許証とかマイナンバーカードとか,現物の提示を受けて本人確

認を行うということにおいては,強化ということはない。それイコー

ル本人確認そのものなので,読み仮名が加わったことによって,強化

3

が行われることはないと思う。ただし,その情報を元にコンピュータ

に登録して,その情報を使って,同じ人が取引をしたりするときに,漢

字の氏名がコンピュータのコードが違ったりして,一意にならなかっ

たりすることがあるので,その時には役に立つということはあり得る

話であり,補完的な話ではないか。

・ 今回の検討の主目的は,戸籍に氏名の読み仮名を振って,それを法制

化することというのが一番のトピックと思う。第2の2(注 2)の記述

は,現在行われている本人確認のあり方を変更するようにも受け止め

られると思っている。本人確認のあり方を変更するのは,元々の目的

とはちょっと違う。本人確認は金融機関その他の日本社会のいろんな

ところで実施されており,現行の本人確認のやり方を変更するとなる

と,結構影響も大きいので,慎重に検討しないといけない。例えば,金

融機関の本人確認において運転免許証を用いる場合,氏名と生年月日

と住所,顔写真,そういったものを見て,確認を行っているが,性別ま

では,運転免許証にはないので,金融機関では見ていない。民間で,性

別まで見る必要があるとなると,大変な部分があるかと思う。

・ 法制化が必要な理由について第2の2の(1)と(2)だけでは弱く,

もっと本質的な要素があるのかという気がだんだんしている。我々は,

氏名というと漢字で書いた氏名を念頭に置いて,それについての読み

仮名という捉え方をした上で,読み仮名についてどうするのか,とい

う議論をするが,例えば,お名前はと聞かれたときに,音としての名前

しかないわけで,音としての名前に対して漢字はどのように書くので

すかという形で聞いた場合は,むしろ名前というのは,音として認識

された上で,それにどういう漢字を当てるのかという捉え方もあり得

るだろう。別にどちらが正しいということではなくて,我々の日常生

活の中では当然のように音としての名前というのを使って,その音と

しての名前は必ずしも漢字の読み方ではなくて,やはりそれ自体が名

前なのかなという気もする。利便性とか,そういうもの以外に,もう少

しあるかと思った。以前の資料では人格とあったが,人格を持ち出さ

なくても,そもそも名前はそういうものだよねというのを,委員の中

である程度共有できるのであれば,それをむしろ,出していくという

のは,議論という点でも意味があると思う。

・ 言語は,大前提として音がまずある。言語によっては文字,表記を持

っている。音声だけの言語は,世界中にまだ多くあり,ローマ字表記さ

えも定まっていないというものがたくさんある。言語の本質は音だと

いう認識が漢字圏以外で広く見られ,明治以降,日本人の言語研究者

4

たちも西洋の言語を取り入れる中で,言語は音が中心と捉えるように

なる。それまでは漢字が中心とみる人が多かった。初め名前は互いに

呼び合ったもので,呼び名というものだった。いつしか逆転が起こっ

た。日本人と言っても漢字が書ける人も江戸時代にはそう多くなかっ

た。何とか左衛門と書いてもゼムなどと発音していたことも資料でわ

かっている。我々は漢字が中心だと認識しているが,それは識字率が

高まった現代ならではのことで,漢字があれば十分という意識が強ま

ったと感じている。どこまで書くかは別として,言語の世界では,音が

重要というのは共通した認識となっている。

【氏名の読み仮名の定義】

・ 第3の1(1)の「なお書き」については,なお書きで済む話ではない

と思う。読み仮名を氏名の一部にするかどうかの場合分けを踏まえて,

この後,こちらにした場合にはこうなるし,そうでない場合にはこう

なるという論理分析が続いていくものであって,報告書ができた時に

読んでもらう人にとっても,ここのところは非常に考え込まなければ

いけないことだということを明瞭に伝えるべく,論点として,今でも

可視化されているが,もっと可視的な記述にするのがよい。

・ 氏名の読み仮名の概念をどう考えるかは,第3の1(1)両案あると感

じるし,これは今後の議論でオープンに,どちらであるかを初めから

落としどころを決め付けるような仕方で議論していかない方がいいと

感じる。仮に【甲案】を採った時に旅券法施行規則が関係法制整備で改

正が避けられなくなると,旅券の事務は今まで長い蓄積があるところ

で運営されてきたので,そちらは今までの取組を可能な限り尊重され

なければならないと話が進んでいかなければならない。もっとも,そ

うは言っても,【甲案】を採ったから旅券法施行規則を変えなくてはい

けないという論理必然性の関係にはならないようにも感じる。

【氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性等】

・ 仮名の範囲については,現代仮名遣いでは文字種はひらがなしか示し

ていないので,それをカタカナに読み換えるという一言があると,親

切かと思う。仮に「てふてふ」と戸籍に書かれているけれど,振り仮名

欄は「チョウチョウ」とするというのは現代仮名遣いの考え方に沿っ

ているが,そういう話ではないと理解してよいか。また,外来語的な名

のカタカナをどこまで認めるかという部分は,ここに書いておかなけ

れば,後で混乱が生じかねない。

5

・ 第3の1(2)において,【甲案】,【乙案】の関係は,二者択一というよ

りも,【甲案】と【甲案】プラス【乙案】という趣旨かと思う。悪魔く

んとか,そういう名前については,【乙案】で言えば,漢字の読み方と

しては問題ない。しかし,公序良俗というのは同じように出てくるの

で,【甲案】は,音訓の読み仮名には縛りがない,縛りを付けようとし

てもできない,【乙案】は,ある程度それを縛って,今までのものはと

もかく,これから付ける名前については,多少縛っていこう,ただ公序

良俗や権利濫用というところについては同じように,両案ともに適用

する,そういうことかと思う。

・ 第3の1(2)の【甲案】,【乙案】については,対立よりは,それぞれ

の良いところを最終案にしていくというのがベストではないか。

・ 社会的な慣用とは,多くの人が現に使ってきたとか,あるいは典拠み

たいなものがあるということになるか。漢和辞典を引くと名乗り訓と

いうものが示されていて,平和の和にカズがあったり,朝という字に

頼朝のトモがあるが、実は明確な根拠が見つかっていないものである。

しかし,平安時代,鎌倉時代から,現代に至るまで使われている。新し

い名乗りはいつでも出て来て,そこそこ広まるものもある。月と書い

てルナというのは,平成期に広まった。漢和辞典の名乗り訓を,全て慣

用と認めた場合に,例えば一番規模の大きい漢和辞典である『大漢和

辞典』の中には,神様の神という字の名乗り欄にアホという読みが出

ている。神と書いてアホというのは典拠があったとしても名付けに使

うと物議を醸しかねず,複雑な議論になりかねない。

これは 100 年ぐらい前から漢和辞典で受け継がれてきたものだが,

公序良俗や,表現の自由などにも関わりそうである。漢和辞典もそうし

たものを含んでいる。

・ 不服申立てや読み仮名の変更などにおいても,判断基準が具体的にな

いと判断に混乱を来す。どのように読み仮名を収集するのかにもよる

が,親権の一作用で読み仮名を付けるという場面だけではない中で,

権利の濫用といったときの権利は何か,もう少し検討をする必要があ

る。もう少し,判断基準,判断に資するようなところがないと,なかな

か大変かと思う。

・ 第3の1(2)に【甲案】,【乙案】二つあるが,【乙案】の表現よりもも

う少しゆるい表現というのがあってもいい。

・ 家庭裁判所に不服申立てができるという点であるが,受理しないもの

をすぐに家庭裁判所というよりも,その前に法務省とかどこかの行政

官庁,上級官庁で判断をしてもらうという方が迅速ではないか。この

6

問題は早く迅速に受理するかどうかを決定する手続が必要で,全国各

地の受付を全部まとめて統一することは非常に難しいし,そういう意

味では,行政官庁のところで少しまとめ,受理についての不服を受け

付ける,そういうものがあった方がいい。

・ 悪魔ちゃん事件の場合には,子供の利益を加味した上で,親の命名権,

親権の濫用という枠組みが比較的立ちやすいが,例えば現時点であれ

ば本人自身が申請するという場合を考えると,権利濫用より本当は公

序良俗の方が本則かという気もする。だから公序良俗に変えてくれと

いうことではないが,ここの書き方のところで,権利濫用のことだけ

で書かれてしまうと,やはりちょっと違和感があり,かなり限定され

るのではないかと感じる。

・ 第3の1(2)の【甲案】,【乙案】のハイブリッドというか,中間とい

うか,そういうものを,今後の検討のために可視化しておくことには

賛成である。実際問題として考えたとき,中間的な第3の案を,純粋に

文章で書けるかという問題,それからそれが果たして現場でワークし

ていくのかということは,見通しは必ずしも楽観できないと感じるが,

今後の議論を,オープンにしてもらう観点からいうと,選択肢二つよ

りも,議論の成果として三つぐらいは示した方がいい。

・ 第3の1(2)の【甲案】に関して,八王子支部審判は,「命名権を親権

の一作用」と言った後で,「あるいは」として,「子のための代位行為と

する」と言っており,命名する行為が親権の一作用だと決め付けてい

るわけではないと思うので,学説上も,命名権は親権中に含まれるの

かそうではないのか,もう少し人格権的な,生まれてきたばかりの子

供本人が持っている人格権を代行するという理解も有力に採られてい

て,八王子支部審判は別にそこを何か決めようとしているのではない

として,「あるいは」と書いていると思う。権利濫用という【甲案】に

書いているところは親権だと決めつけて話が進むと,学説の議論との

関係で少し苦しくなってくるので,そこは今のような二つの理解がい

ずれかの権利の内容だと思う。しかし,そうは言っても,今回生まれて

きた人の読み仮名を付ける場面だけではなく,新しい制度施行後しば

らくは,既に成人して一定の社会生活を営んでいる人が私の読み仮名

をこれだと考えていますという届出が多いかもしれないが,それは別

に代行しているのでも何でもなくて,本人のこう読んでほしいという,

それこそ人格権的な権利となると思うので,これを防止する場面だと

思う。そうだとしても,濫用という考え方もあるのかもしれないが,い

やそれをもしかしたらあなたの権利かもしれないけれども,公序良俗

7

違反というふうなアプローチの方がしっくりくるかもしれない。だか

ら,【甲案】のところは,何か突然公序良俗しかないみたいに書かれて,

その権利が親権だと決めつけるようになるよりは権利の濫用や公序良

俗と書くということではどうか。また,理論的に考えると,悩ましく,

公序良俗というのが,民法 90 条に出てくる公序良俗だと法律行為が対

象であるので,公序良俗がもう少し広く使われている用例か何かで補

足説明する方がいい。

・ 悪魔ちゃん事件をここで書くのは適切なのかという問題意識である

が,公の目から見て人の名前としてそれが適切なのかという問題より

は,むしろ人が子供に付けるという命名権は親や祖父母だけの権利で

はなくて,人が子供に付ける名前として,それが適切なのかといった

観点からの審判例であるので,それをここで書くということは,人に

名付けとして適切なのかと,公から見て適切なのかを同視することに

なってしまわないか。

・ 漢字表記とその読み仮名は,一体となってその人の名前をなしている

のか,それともその読み仮名は補助的なものなのか。

・ 悪魔ちゃんと名付けたケースは公序良俗の面からも,命名権からも議

論があるが,例えば悪魔と書いてテンシとかエンジェルとか読み仮名

を付けたとし,それらを一体としてみると,実は悪い意味ばかりでも

ないのではという議論もでてくる可能性があり,問題は複雑になりそ

うだ。神と書いてアホと読み仮名を付けた場合もどちらが本体かなど,

議論の進む先が気になる。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 性同一性について書かれているが,第3の1(1)で【乙案】を採っ

た場合,かなり読み仮名の自由度の幅が狭くなるような気がするが,

男性から女性あるいは女性から男性への読み仮名の変更は問題ないと

いうことになり,自由度との関係でどうなのかという気がする。

・ 性同一性については,もう少し丁寧にそのバックグラウンドを説明す

る必要があるのではないか。

【同一戸籍内の規律】

・ 選択的夫婦別姓を否定するものではないことを,注意事項というよう

な形で一言触れてはどうか。

3 閉会

 

 

第5回(令和3年5月31日開催)

抜粋

2 本日の議題

【氏名の読み仮名の届出】

・ 日本人と婚姻した外国人配偶者が婚姻後,帰化し日本人配偶者の氏を

称して,日本人配偶者の戸籍に入ると,次に復氏の問題が生じてくる

が,この場合にも,氏を創設するということになり,氏の読み仮名も必

要になってくることも明記すべき。

【既に戸籍に記載されている者の氏名の読み仮名の収集方法】

・ 読み仮名の届出を権利としてできるという第3の2(2)【乙案】のよ

うなものであれば,みんなしなくていいとなり,法制化する意味があ

まりないことになる。他方,【甲案】のように義務付けるのかというと,

もし届けなかったら過料 5 万円が課されてくるのかという問題になる

が,義務にするが過料までは課さないというのがいいのではないか。

・ 読み仮名の届出を義務とするのか権利にとどめるのかという論点と,

戸籍法 24 条の戸籍訂正を活用するかどうかというのは違うベクトル

の問題だろう。

・ 読み仮名の届出を権利とするという第3の2(2)【乙案】では,今回

法制化する意味はほとんどない。ほとんど集まることもないし,こう

いう形でやるのであれば,実効性はほとんどないだろう。むしろ,義

務とするというよりも,擬制することが必要と思う。「住民基本台帳に

よれば,あなたの氏名はこういう読み仮名になっています。これにつ

いて異議がありますか。ある場合には,一定期間の間に届け出てくだ

さい。」そういうものを何らかの形で各所帯あたりその人の名前をこ

うなっていますというような形で通知して,異議がなければそれで進

2

めるという運用などをしない限りこれを集めることは実際難しいと

思う。

・ 今までの届出はベースとするのだろうが,マイナポータルとかデジ

タルのことをセットでやらないと,いちいち申込書をまた送るのかと

か,通知が封書で来て,これに対して,OK ですと書いて返すのかと

かいう,そういうルートしかないのかというのは,受け入れる人たち

が「えっ,今の時代にそうなの」となる気がするので,そういうこと

も含めて検討する必要がある。

・ 権利として集めるということをするであれば,戸籍の読み仮名の法

制化をすることの意義,今後のあり方についてもう少し,理解が得ら

れるようなものにする必要がある。義務にした場合は,それぞれが届

け出るというのは実質的に実現が難しいので,今届け出られているも

のについて,通知なりをして不同意の方については言っていただくと

いう形,ただその場合については職権でそこを記載することについて

の法制化なり,ある程度の具体的な要件は定めておく必要がある。

・ 第3の2(2)の【丙案】で,どれだけ戸籍訂正ができるのかというと

ころが問題だろう。現時点で読み仮名の届出があっても,読み仮名に

ついて法律の根拠がなかったので,戸籍法 24 条だけで訂正できない

のではないか。むしろ今回新たな立法が必要と思われる。今回の戸籍

に氏名の読み仮名を法制化するためには,一定期間,今のあなたの名

前の氏名の読み方はこういう形で住民基本台帳に記録されているこ

とを連絡し,それについて一定の訂正申出期間を経過をすると読み仮

名の届出があったものとみなす,そういう制度を設けて行うという必

要があるのではないか。

・ 令和 3 年法律第 24 号による不動産登記法の改正では,住所の変更

の登記について二つのルールが法制上盛り込まれていて,一方では登

記官が職権によって住民基本台帳ネットワークシステムにアクセス

して変えることができるという制度を入れると同時に,当事者に対し

ては 2 年以内に住所の変更の申請をしなければなりません,しないと

過料としますという罰則付きの規律を入れているので,実務上の運用

というか実際のことを考えると,やはり二つは,盛り込んでおいた方

がいい。法律事項となっていない段階で,戸籍法 24 条を発動するの

は非常に難しいのではないか。先にそこを決めておかないと,前に進

まないのでないか。読み仮名の届出というのはいったい何なのか,今

まで使っている読み仮名を届け出ろというのか,ここで全く新たに自

由に読み仮名は全くフリーに作っていいということなのかというと

3

ころがまず出発点として,整理しておく必要があると思う。今まで読

み仮名として使用していたものを届け出なさいということになれば,

今まで使用していた内容としては,出生届や婚姻届等が一つの資料で

はあるし,それらの読み仮名を今回読み仮名の届出があったとして擬

制し,それが違うというのであれば,連絡してくださいと,また,あ

るいは一緒であったとしてもこの際氏名の読み仮名を変更したいと

いうのであれば,もうそれは柔軟に全部認めますよというような発想

の制度でこれを制定するとかいうのがいいのではないか。

【ローマ字による表記】

・ 公証された読み仮名に基づいたローマ字氏名が,マイナンバーカード

に表記されたものとパスポートや接種証明などと違うとなると,何の

ためにこれやっているのかとなるので,そこの整合性を確保するとい

うことを検討する必要がある。

・ 在留外国人についての表記をどうするのか,ローマ字にとか,カタカ

ナにしても,現地読みにするのか,漢字読みにするのかなど,マイナン

バーカードの表記の仕方の問題も合わせて,やっておく必要があるか。

・ 一義的に固まった読み仮名とローマ字との関係について,ヘボン式

と訓令式があり,ヘボン式でも複数の方式があるので,そうなった時

に,例えば,パスポートとマイナンバーカードでずれがあるというの

は駄目だろうということはだれも異論がない。ただそれをどうやって

確保するのかというと,工夫をしなければならない。

【はじめに,氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ 第 1,第 2 はこれまでの経緯とか今まで議論した内容ということを整

理するという位置付けになるので,半分ぐらいに削るという姿勢が必

要ではないか。

・ 第 2 は,結構重要なのではないか。法制化が必要な理由は明らかにこ

の研究会で検討した成果なので,むしろもう少し強調すべきではない

か。

・ 検討開始の経緯というのは一定程度記載しなければならないので

はないか。今回が何のために立ち上がったのかっていうところの経緯

は必要。

・ 漢字の文字の問題については,戸籍のコンピュータ化の時に非常に

議論があったところで,衆参委員会からも文字に愛着があるというこ

4

とで,附帯決議までされているので,読み仮名を登録公証する時には,

しっかりとやっていかなければならない。

・ 日本ではそもそも音の方が文字よりも先に認識されており,現在で

も例えば電話をかけて,お名前と生年月日よろしいですかと言われる

が,漢字を教えてくださいとはなかなか言われないので,古来から日

本人は音で個人を識別すること文字より先にそれを行っていたとい

うこと,現在でも実務的には使われている古来からの日本の伝統なん

だということも含めて記載してはどうか。

・ 「表音」という用語がどうしても引っかかる。「国際的な表音の方法

(あるいは表音文字)によって」などとしないと,一般の人からする

と,何のことか分からなくなり,誤解を招きかねない。

・ 社会保障や税に関し,個人を特定して正確かつ迅速に事務が処理さ

れるようにするためには,普通個人番号が役立てられることがイメー

ジされるが,個人番号は半面において秘匿性の高い情報であり,官庁

公署はその事務を委託される諸機関が広く取得することにはおのず

と限界がある。関係機関が氏名そのものを取得するほか,公的に確か

められ,認められた読み仮名を取得することには,意義がある。例を

挙げると,多人数の人々について情報処理技術を用い,五十音順で配

列する名簿を作成するに当たっては,漢字を含む氏名しかないとそれ

を達することがかなわない。こうした意義は大きな災害など社会的に

異常な事態に際し,広く被災する国民に定額給付金ないしこれに類す

るものを迅速に支給するなどの機会においても見い出される。

【氏名の読み仮名の定義】

・ 「氏名についての国字の音訓及び慣用により表音されるものを片仮名

で表記したもの」との記述は旅券法施行規則の規定を用例として参考

にしているが,このうち「慣用」の内容がいかなるものか明確でないた

め適当ではないのではないか。

・ 旅券法施行規則第5条第2項は,氏名は,戸籍に記載されている氏

名(戸籍に記載される前の者にあっては,法律上の氏及び親権者が命

名した名)について国字の音訓及び慣用により表音されるところによ

る戸籍の漢字の音訓により表音されるところによる旨規定しており,

その音訓をヘボン式でローマ字表記することを大原則としている。他

方,旅券法施行規則第 5 条第 2 項但し書きは,申請者がその氏名の国

字の音訓又は慣行によらない表音を申し出た場合にあっては,公の機

関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用され

5

ているものであることが確認され,かつ,外務大臣又は領事官が特に

必要であると認めるときはこの限りではない旨規定し,例外を認めて

いる。例外としては,極端な例であるが,例えば,七音と書いてドレ

ミ(ローマ字ヘボン式表記で Doremi)と言う申請がある場合には公

の機関が発行した書類により当該表音が当該申請者により通常使用

されているものであることが確認され,かつ,特に必要であるときに

は認めている例がある。同様の例として,天に舞うと書いてヒラリ(ロ

ーマ字ヘボン式表記で Hirari)さんという,申請がある場合に認めら

れた例もある。いずれにせよ,旅券法施行規則第5条第 5 項は,旅券

面に記載されるローマ字表記は,外務大臣又は領事官が特に必要と認

める場合を除き変更することができない旨規定し,原則として,一度

決めたローマ字表記は戸籍氏名が変更しない限り変更はできないと

の極めて厳格な運用を行っている。

・ 音訓の慣用に関して,命名に際し,子のためになどとして漢字を学

び,今までそういう読み方はなかったが,例えば「朝」と書いて「ト

モ」と読もうとか,「和」と書いて「カズ」と読もうとかそういうもの

を誰かが最初に作り出してきた。それらの明確な根拠は見つかってな

いが,多くの日本の人々の心をとらえて命名習慣となり,いわゆる名

乗り訓になっている。そういう命名で新しい読み方を作るということ

も命名習慣,命名文化の一部として存在してきた。慣用の音訓という

と,それを受け次いでいるようにもみえるが,実は違うものであり,

そういう新作を排除する,要するに過去のものから選ぶだけで,良い

ものを生み出す可能性をゼロにしてしまう怖さが第3の1(1)の【乙案】

にはある。子などから憎悪を受けるような,公序良俗に反するような

ものが出てくることへの対処は,別に考える必要があるが,そういう

受け入れられるものも自然に広まって一般化してきたという名前の

漢字の歴史を見た場合に,新作の根を絶やすような【乙案】には,反

対せざるを得ない。

・ 第3の1(1)の【乙案】には反対,【甲案】には反対だという意見が

あるということも含めて,【甲案】と【乙案】を残したらいいのではな

いか。つまり名前というのを定義の仕方として二つ考えられて,【乙案】

を前提として第3の1(3)の問題を考えるのと,【甲案】を前提とし

て(3)の問題を考えるのでは重なってくる部分もあるが,違う形でも

説明できるので,ひな形としては,とりあえず残しておくというのも

あり得る。

6

【氏名の読み仮名の位置付け】

・ 氏名の一部と位置付けた場合,父母欄の父母の氏名等に全部振り仮

名をふるとしたら,非常に大変である。第3の1(2)の【甲案】の方は,

もう少し考え直した方がいい。【乙案】として戸籍法 13 条 1 項に定め

る氏名と別個のものという位置付けで,例えば戸籍法施行規則付録 24

号のひな形で示すこととしてはどうかを,今後検討していかなければ

ならない。

・ 氏名の一部と位置付ける第3の1(2)の【甲案】を前提とすると,他

の法令に規定されている氏名に関する規定において,氏名の読み仮名

が含まれるのか否かという疑義が生じるところは重要である。読み仮

名が氏名の一部であるとしたときに,読み仮名だけを書きましたとい

うときに,氏名ということで有効になるのかどうかと,逆の問題も生

じてくる。

【氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性や氏名の読み仮名の適法性】

・ 第3の1(3)のタイトルの氏名の読み仮名の適法性について,適法性

という表現が果たして妥当か。

・ 氏名の読み仮名を届け出ることと,読み仮名を自分に付けることは

別であるが,憲法 12 条が出てきているということは,読み仮名を付

けるのが国民の権利という発想か。第3の1(3)の【甲案】のよう

なものになると,権利性が非常に強くなるが,国に対する権利と考え

るのであれば,憲法 12 条が出てきておかしくないが,第3の1(1)

で【乙案】のようなものを採ったとき,憲法 12 条というのは,果たし

て,どうなのか。読み仮名というものが,読み仮名権という国民の国

に対する権利なのかという問題が,届出が義務か権利かと別にある。

読み仮名権というものが,権利として想定してもいいのか。今まで氏

名に関して問題になったのは,命名権であるが,命名権というのは,

人が人に名前をつけると,それがたとえ代理という形であっても,そ

ういうものであるが,今回初めて自分で自分の読み仮名を付けるとい

うのが問題になってくる場面であるので,今までには知らなかった概

念を我々は使わなければならない。

・ 第3の1(3)のタイトルである氏名の読み仮名の適法性というのは,

非常に挑発的な見出しという感じはする。本文の中で適法性について

記載することは構わないが,例えば氏名の読み仮名と音訓や字義との

関連性並びに氏名の読み仮名の許容性をめぐる問題などのタイトル

にすべきではないか。

7

【氏名に記載することができる片仮名の範囲】

・ 出生届のふりがな欄では,ひらがなで「よみかた」と書いているの

で,暗黙の了解としてひらがなでふりがなを書き込む人がほとんどだ

と思う。仮にこれをカタカナにそのまま置き換えるとすると,ひらが

なの体系とカタカナの体系とでは字や記号の運用の仕方に微妙なず

れが生じる。例えば,仮にカタカナで「マーヤ」と長音符が入るのが

本名という人がいるとして,そのふりがな欄には,ひらがなに長音符

は駄目なんだという出版界などの慣例に従って,「まあや」と振ったと

いうケースがあり得る。それを機械的にカタカナに変えると「マアヤ」

となってしまい,長音符「ー」と,振り仮名欄の「ア」とでずれが生

じる。つまり出生届のふりがなを,ひらがなからカタカナへ一括置換

をしてそのまま利用しようとすると,それらに関して一つ一つチェッ

クが必要ということになる。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 読み仮名は,固定化,つまり,変更しづらくすることが必要か,やむ

を得ない事由となり得るものでなければならないか,これだけ固定化

する,ハードルを上げることが求められているかなどについても一つ

の視点として,記載する必要があるのではないか。

3.閉会

 

第6回(令和3年6月30日開催)

抜粋

2 本日の議題

【氏名の読み仮名の法制化が必要な理由】

・ 日本は,漢字の文化圏ではあるが,日本の特殊性として,漢字が一つ

の音と対応しているわけではないことがある。

【氏名の読み仮名が登録・公証される意義】

・ 氏名の読み仮名が登録・公証される意義として補足説明に書いてある

内容は,かなり本質のこと。

・ 公的給付の迅速化のためにマイナンバーを使った施策が進んでいる

ので,読み仮名の登録・公証だけではなく,給付迅速化のための政策も

進んでいるということを示すべき。

・ マイナンバーは,社会保障,税,災害の分野で,逆に個人を特定する

ために作られているものなので,そこについて慎重にすべきであると

か,そういうことを書くのは,いかがか。

【氏名の読み仮名の定義における平仮名又は片仮名】

・ 読み仮名の定義という項目は,あった方がいいが,片仮名又は平仮名

で表記したものというような定義でも十分ではないか。

・ 第204回通常国会で成立したデジタル社会の形成を図るための関

係法律の整備に関する法律では,平仮名又は片仮名で表記したものと

規定されており,平仮名を落とす理由はあまりないのではないか。

・ 読み仮名というものの学問,法律的な定義概念や世の中一般で言われ

る読み仮名は何かの議論をしているのか,それとも戸籍法上の概念と

してどのように定義し,市区町村の役場の方がどういう事務をするか

2

ということをこの法律をもって指示するのかという局面は全く性質が

異なる。読み仮名の定義の議論を法制上法文に入れるのか,単にこの研

究会の整理の議論としているのかという区別も必要である。仮に市区

町村の役場の事務を指示するという役割を持つなら,平仮名,片仮名両

方入れておいた方が安心と言われても現場は不安になる。

・ 言語学,国語学の概念で読み仮名の定義を戸籍法の議論で決定したと

する必要はない。法制上必要であれば,意味を明確にした上で,市区町

村役場の現場では片仮名に慣れてきたということであれば,片仮名に

絞り,補足説明などで学問的な定義としての読み仮名で平仮名を排除

するのが一つのやり方。あるいは法制上置く必要がないのであれば,

様々議論したけれども参考になる議論として,純粋学問的,規範ではな

くて認識の問題として整理しておく方向のいずれかであって,どちら

にするかを明確にしておくべきではないか。

・ 戸籍システムの入力は全て片仮名で入力し,全部片仮名で処理してい

る。したがって,出生届に「よみかた」と平仮名で書かれているが,平

仮名で書かれていてもシステムでは,片仮名で入力して登録している。

実務上はほとんど片仮名で処理しているので,ここの定義の視点がど

こになるかによる。

・ 氏名を平仮名又は片仮名で表記したものとした上で,実際には銀行実

務あるいは戸籍のデータシステムにおいては片仮名が用いられていて,

法律上の運用としてはもっぱら片仮名ということを前提として議論し

ていく方向も考えられる。また,片仮名と平仮名において表記の音が違

う点もあるので,最終的にはそうした点についても検討する必要があ

る。

【氏名の読み仮名と音訓や字義との関連性及び氏名の読み仮名をめぐる

許容性】

・ 第2の1(3)の【丙案】について,国字の音訓及び慣用による表音だ

けではなく,字義との関連性が認められるもの,あるいはそれが認めら

れないもの,全く認められないものは駄目だという言葉があった方が

より広がるのではないか。音訓及び慣用という表現だけでは狭くなり

すぎるのではないか。

・ 字義との関連性を付け加えたところで,実際に運用するとなると非

常に大変な窓口の混乱が起きるということになる。そうなると,一般条

項だけがいいのか,一般条項以外に権利濫用とか,注釈として関連性が

全くないものというものは受理できない場合があるというような形で

 

の説明をする方がいいのか。戸籍の実務を聞いて,実際運用がどうかを

考えざるを得ないのではないか。

・ 出生届などを受理する際に「よみかた」についても,ある一定程度の

基準が示されると窓口では非常にやりやすい。ただ,基準に合致しない

ものがあったときに,各種行政サービス,児童手当といったものに影響

してくる。合致しないときに受理できないという場合もあるかもしれ

ないし,受理照会をして,法務局に委ねるというような場合もあるかも

しれない。受理照会をすると,住民票をその場で作ることができず,回

答待ちになり,行政サービスがその間受けられないということも生じ

てくるので,ある程度の基準といったものがあった方がいい。

・ 何らかの基準を示すことが考えられるところ,一般の方からの広い

意見なども踏まえて,基準としてまとめることが考えられる。

・ 「朝」と書いてトモのような,字義と関連が見つけにくい名乗訓がす

でに慣用となって,そういう慣用は今後も生まれていく可能性がある

ことをまた指摘しておきたい。氏名が 4000 万件入っている電話帳を

JIS 漢字の第 3,第4水準を作る委員会などで分析したが,名前でタカ

シと読む漢字だけで 570 種も出てきた。字義と関連なくてもタカシと

読ませるものもあった。ヨシと読むものも 474 種も出てきて,字義と

してはプラスかマイナスかで言えばプラスなので,ヨシと読ませると

いうケースが過去に多かった。これからもそういうことは現れうる。

例えば,曖昧の曖という字が 2004 年に人名用漢字に追加されたが,

ほとんど曖昧という用法しか辞書に載ってない。ぼんやりしていると

いう意味だが,日偏に愛情の愛で暖かさを感じる字だと名付け親がイ

メージして名付けに用いようとする現実があり,しかも曖昧としてよ

く使うために人名用漢字に入り,その後,常用漢字に追加され,自由

に使える状況が生まれた。曖昧という意味しかないが,その字面の雰

囲気で訓読みしようといったことが現実に起きている。人名用漢字の

規則を見ると字種についての制限ははっきりと法的にあるが,その読

み方と長さ,何文字連ねるか,ふりがなを何文字書いてよいかは自由

とも読み取れる。現状として,名前というものが体系性を持たない開

いた体系になっているうえに,日本の漢字もそういった性質を持ち,

さらに命名ではプラスアルファの性質を帯びることがある。そのため,

字義に関連させた読みかどうかという審査は,かなり難航しそうであ

る。ただし,公序良俗に反するかどうかという判定基準は,実績もあ

って効いてくるだろう。

 

・ 氏には一地方にしかない読み方の氏もあり,名の読み方とは異なり,

氏の読み方は音訓や字義との関連でどんな制約もかけられない面があ

るのではないか。

・ 慣用による表音も認められているから,氏は全部慣用によって認め

られるとしていいのではないか。

・ 公序良俗は理解できるが,読み仮名を規制する必要があるのか。規制

するという案とそういうものではないという案が併記できないか。

・ 第2の1(3)の【丙案】で全て考えようというのではなくて,【丙案】

は結構難しいかもしれないという意見が出つつ,案としては残してお

いて検討したらどうかという流れだろう。慣用という中に含まれるか

どうか自体が議論の余地としてあるのではないか。1 個しかない名前で

呼んできたことで,それも慣用でいいのではという見方もあるが,慣用

としては含まれないという見方もあるので,その点も含めてどこかで

は触れておく必要がある。

・ 親や祖先の名の1字とその読み方を子に受け継がせる行為は,日本

の命名文化として,1000 年以上前からあり慣習とも言える。これは中

国,韓国にほとんどなく,日本に顕著な命名の慣行であって,過去の 1

個の使用が後代に,未来に影響するということが,どうしても起こりう

る。

【氏名の読み仮名の変更の可否等】

・ 今までの議論は,読み仮名の変更について,氏名の変更よりも基準が

緩くていいかどうかであり,こちらの方を論点として残しておいたほ

うがいいのではないか。

・ 論理的には,氏名の読み仮名の変更について,現行の氏名の変更と同

じ規律とすること,現行の氏名の変更よりも緩やかな規律とすること,

家庭裁判所の許可を不要とし,届出のみで変更を可能な規律とするこ

との3つのパターンが考えられる。

【氏名の読み仮名の収集方法】

・ 第2の2(2)の【甲案】に過料が出てきて,従来の戸籍法制を運用し

ている人はそういうものかと思うが,一般の国民はドキっとするので,

あたかも読み仮名を届け出ないと片っ端から 5 万円取られると伝わっ

てはいけない。従前の扱いを見ても,戸籍も,不動産の表示に関する登

記も,商業法人登記もそんなにバッタバッタと過料を課してきたわけ

ではないので,そういう意味では運用は【甲案】と【乙案】でそんなに

 

隔たっているものではないということも,どこかで明らかにした方が

よい。

・ 第 2 の2(2)の【甲案】の義務が発生するのは法律の施行時としてい

るが,理論的にはもちろんそうであるが,あたかも新法施行と同時に,

直ちに 5 万円払えと言われるのかと思われるので,経過措置や周知期

間については適切に穏やかなものを平行して考えていかなければなら

ないというのも書いておいた方がよい。

・ 既に戸籍に登録している者が自らの読み仮名を届け出る際,本人から

疎明資料を求めることが必要かどうか,については今後の実装を考え

れば重要な論点ではないか。読み仮名は原則変更できないものである

以上,許容できない読み仮名が提出されるリスクは少ないと考え疎明

資料を求めないという考え方もある。一方で,読み仮名はこれまで日常

生活で使われてきたものであるということであれば,日常生活に使わ

れてきたことを証する資料を提出すべきという考え方もある。読み仮

名は読み仮名を付けた両親等の意思が重要であるならばそれを分かる

ような資料を提出すべきであるという考え方もある。疎明資料を求め

るとなると,実装においてかなりのコストになる。読み仮名とはそもそ

も何かということを踏まえて,既に戸籍に記載されている者の読み仮

名の収集方法について,論点とした方がいいのではないか。

・ 過料を課すのは,ものすごい反発があり,実際に課すことはほとんど

できないだろうし,そういう説明をしたら,つぶれてしまう。過料を実

際には課しませんと言ったら,届出はあまり集まらないが,課してもあ

まり集まらない。読み仮名は,住民票には記載してないが,住民基本台

帳にはおそらくほとんど記載されている。選挙人名簿,健康保険証にも

読み仮名が書いてあるケースが多いが,それは全部住民基本台帳の情

報から出ているはずである。せっかく今までの戸籍の実務で集めている実績があるので,それを使うというのが一番根拠になるのではないか。ただ,氏名の読み仮名として法的に根拠付けられていなかったから,それをすぐ読み仮名とはできない。そうすると,異議がなければそれを使うという制度で運用するのが一番ではないか。そういう意味で擬制をするのか,みなすのか,承認の擬制とかということが,選択肢にあるべきではないか。

3 閉会

「行政サービスにおけるデジタル格差に関する調査研究 報告書について」

close up photo of painting
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https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20210615/divide2020/

DIGITALDIVIDE

令和 3 年 3月31日一般社団法人 行政情報システム研究所

加工

CONTENTS

はじめに —本調査研究の背景と目的—

  1. 調査研究の全体像と調査方法
    1. 調査研究の流れ
  1. 課題類型の導出

1 – 3 – 1 課題類型の導出プロセス

1 – 3 – 2 課題類型の仮説設定

1 – 3 – 3 イギリスの事例からの課題抽出

1 – 3 – 4 デンマークの事例からの課題抽出

1 – 3 – 5 日本の事例からの課題抽出

1 – 3 – 6 課題類型の検証結果

1 調査研究のすすめ方

 2-1 自治体基礎調査から導出した課題認識

2 – 1 – 1 分析方法

2 – 1 – 2 分析結果

● 2-2 自治体首長の課題認識

2 – 2 – 1 調査対象・方法

2 – 2 – 2 調査結果

● 2-3 自治体職員の課題認識

2 – 3 – 1 調査対象・方法

2 – 3 – 2 インタビュー結果

● 2-4 まとめー自治体の課題認識

2 自治体の課題認識

CONTENTS

3 デジタル格差の課題の実態

 3-1 住民の課題認識

3 – 1 – 1 調査対象・方法

3 – 1 – 2 インタビュー結果

 3-2 専門家の課題認識

3 – 2 – 1 調査対象・方法

3 – 2 – 2 インタビュー結果

3-3 デンマーク政府の課題認識

3 – 3 – 1 調査対象・方法

3 – 3 – 2 インタビュー結果

3-4 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態とのギャップ

 3-5 本章のまとめ

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-1 自治体で実施済の施策(a)

4-2 自治体で未実施の施策(b)

4 – 2 – 1 未実施施策に係る課題の整理

4 – 2 – 2 未実施施策に係る課題のケース導出

4 – 2 – 3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

4-3 自治体が未認識の課題に係る施策(c)

4 – 3 – 1 未認識課題に係るケースの導出

4 – 3 – 2 未認識課題に係る解決策の導出

4-4 まとめ ― 自治体が講ずるべき施策

5 おわりに

調査協力先

はじめに

   はじめに ―本調査研究の背景と目的―

ー略ーそこで本調査研究では、我が国がこれからデジタル化を進めるうえで直面していくデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき対策の方向性を導出することを目的とする。なお、本調査研究は、ソシオメディア株式会社の協力を得つつ当研究所において実施した。

ー略ー

一般社団法人 行政情報システム研究所

主席研究員 狩野英司

主任研究員 平野隆朗

主任研究員 増田睦子

研究員 種田桂介

[協力]

ソシオメディア株式会社代表取締役 篠原稔和

田附克巳

白澤洋一

株式会社デジタル・アド・サービス代表取締役 村田尚武

COLOGUE 川田朋史

COLOGUE 明間隆

調査研究のすすめ方

1-2|調査研究の流れ

デジタル格差は目に見えない、捉えにくい課題である。本調査研究では、可能な限り具体的な事実に基づいて分析を行い、証拠に基づく推論を積み重ねることによって、自治体にとってのデジタル格差の課題を整理し、有効な対応策を導出していく。

1-3-1 課題類型の導出プロセス

本節では、デジタル格差の課題を性質に応じて分類するための課題類型を導出する。

まず、自治体基礎調査を通じて、自治体にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して整理し、課題類型を仮説として導出する。次に、行政デジタル化の先進国であるイギリスおよびデンマークと日本において、政府のデジタル格差に関する課題認識が示唆されている文献(以下「各国文献」)から格差課題を抽出し、上記の課題類型へのマッピングを行い、課題類型の過不足を検証する。これにより、デジタル格差として共通の課題類型を導出する。

[調査対象文献]イギリスの事例

Government Digital Inclusion Strategy(英国政府のデジタルインクルージョン戦略)、英国内閣府、2014

https://www.gov.uk/government/publications/government-digital-inclusion-strategy/government-digitalinclusion-strategy

デンマークの事例

デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み、行政情報システム研究所、行政&情報システム 2020年6月号

日本の事例

デジタル・ガバメント実行計画 2020年12月25日改定(閣議決定)(10.デジタルデバイド対策)

https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/2020_dg_all.pdf

デジタル活用支援推進事業、2021年2月17日 総務省 情報流通行政局

https://www.soumu.go.jp/main_content/000734080.pdf

1-3-2 課題類型の仮説設定

自治体の格差課題に関する課題認識を把握し、課題類型の仮説を導出するため、以下の手順により「自治体基礎調査」を実施した。

[調査対象]

ヒアリング対象自治体は、格差課題への認識が高い自治体から低い自治体まで偏りなく含まれるよう、図表1-9の考え方に基づいて選定を行った。また、選定結果を図表1-10に示す。

自治体名 人口規模

(ア)デジタル格差に対する課題認識が高い自治体

(イ)デジタル格差による課題が顕在化している自治体

(ウ)デジタル格差による課題が顕在化していない自治体

(エ)島しょ自治体

D市 中核市(50万人台) ◯

H市 都市(10万人台) ◯

C村 町村(約3千人) - 〇(高齢者が多い)

E市 都市(約1万人) - 〇(所得額が低い)

F村 町村(約2千人) - 〇(所得額が低い)

A市 都市(10万人台) - ◯

B市 都市(10万人台) - ◯

G村 町村(1千人未満) ◯

[ 図表1-10 ヒアリング対象自治体 ]

※1 日本の高齢者(65歳以上)人口の割合は、2020年9月15日現在で28.7%

https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf

・各自治体が制定している情報化推進計画等を確認し、デジタルデバイドに係る課題や施策について記載している自治体を「デジタル格差に対する課題意識が高い」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった2自治体を調査対象とした。→D市、H市

(イ)デジタル格差に対する課題認識が高いと認められない自治体については、デジタル格差による問題が顕在化している/していない自治体の両方を含めるようにした。デジタル格差による課題が顕在化している自治体は、以下の方法で分類した。・平均所得額が低い、もしくは高齢者率が高い地域はスマートフォンやPCの利用率も低い傾向にあることに着目し、上記いずれかの傾向が強い自治体を「デジタル格差による問題が顕在化している」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった3自治体を調査対象とした。→C村、E市、F村

(a)確認された格差課題への認識(抜粋) (b)導出された課題類型

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

 絶対的困難(深刻な身体障害)

中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感(B市)

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

 デジタル利用環境の不足(経済的、地理的制約)

高齢者がデジタルを使えない(B市)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

 身体/認知的ハンディキャップ(視覚障害、高齢、日本語が苦手)

使い方の格差、リテラシーの差(A市)

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

 デジタルへの抵抗感(例:スマホ・PC・インターネット利用のリテラシー不足)

能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人を分けて考えること(B市)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

 行政プロセスへの抵抗感・無関心(例:マイナポータルを理解できない、 知らない、興味がない)

[調査方法]

・対象自治体に関する基礎情報をデスクトップ調査で入手

・対象自治体の職員に対して、オンライン会議によるヒアリングを実施

・補足情報の入手や事実確認等のフォローアップ調査をメールなどで実施

[導出された課題類型の仮説]

1-3-3 イギリスの事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、イギリス政府のデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「Government Digital Inclusion Strategy」から格差課題の抽出を試みた。

本書は、2014年に策定された英国政府によるデジタルインクルージョン(社会的包摂)実践のための指針である。同指針ではユーザー調査とコンサルテーションを通じて、人々がオンラインにアクセスする際に直面する以下の4つの主な課題を特定することとされている。

・アクセス不全:様々な理由により自宅からインターネットに接続できないこと

・ スキル不足:インターネットを利用するためのスキルがないこと

・モチベーション不足:インターネットを利用することがなぜ良いことかを知らないこと

・ 不安:犯罪への不安や、どこから始めればいいのかわからないこと

同書で抽出された課題認識を、上記の分類に当てはめると[図表1-12]のとおり。

[ 図表1-12 英国政府の認識:オンラインにアクセスする際に直面する課題 ]

英国政府による課題認識

アクセス不全 スキル不足 モチベーション不足 不安

課題の詳細内容

アクセシビリティ不全:誰もが利用可能である状態でない

リテラシーに関するスキル不足:識字能力など読解に関わる能力不足

リスクへの恐れ:デジタル利用を恐れ、失敗することを心配する

認証の不安:個人情報の盗難を心配する

アクセス場所がない:インターネットにアクセスするために移動しなければならない

基本的なデジタルに関するスキル不足:ブラウジング、検索エンジンの使用、電子メールの使用など基本的なデジタル使用能力不足

必要性への疑問:デジタルでの手続きを「押し付けられた」と感じる

セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する

コスト負担できない:機器が高価格であり設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要

セキュリティに関するスキル不足:安全なオンライン利用の方法を知らない

金銭的なメリットへの理解不足:インターネットを利用することで、お金を節約することができると理解されていない

拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない

技術習得不足:インターネット技術は急速に変化しており、最新技術に対応することが必要

自信がない:複雑すぎると思われるテクノロジーの利用に自信を持てない

社会的利益への理解不足:インターネットが自分の特定の状況でどのように役立つかが理解されていない

信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない

インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する

健康や幸福のベネフィットへの理解不足:健康に関する情報を得たり、医療サービスを受けられることが理解されていない

説明言語が難解:インターネットにまつわる言葉が誰でもわかりやすいものになっていない

調査研究のすすめ方

1-3-4 デンマークの事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、デンマークのデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み」から格差課題の抽出を試みた。

デンマーク政府デジタル化庁によれば、デジタル化が浸透していない人々のセグメントとしては[図表1-13]左列が挙げられる。これらのセグメントの特徴やその出自背景に基づき同図右列のとおり格差課題を導出した。

[ 図表1-13 デジタル化が浸透していないセグメントから導出された格差課題 ]

デジタル化が浸透していないセグメント 導出された格差課題

デジタルにあまり精通していない高齢者 高齢者などによるデジタル技術への不慣れや操作知識の不足

行政から来る情報の重要性を理解していない若年層 若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足

西欧諸国以外から来る移民 移民などによる公用語を理解できない言葉の問題

さまざまな社会的に不利な条件を持っている人 肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

調査研究のすすめ方

1-3-5 日本の事例からの課題抽出

「各国文献」のうち、日本のデジタル格差に関する課題認識を示唆した文献「デジタル・ガバメント

実行計画」および「デジタル活用支援推進事業」で示された施策から[図表1-14]のとおり格差課題の抽出を試みた。

コスト負担できない:機器が高価格、設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要

インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する

各課題の詳細

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

イギリス

セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する◯

拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない ◯ ◯

信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない◯

デン マーク

高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 ◯

若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 ◯

移民などによる自国語を理解しない言葉の問題 ◯

肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 ◯ ◯

日本

デジタル機器に不慣れだと操作が困難 ◯

電子申請の使い方が複雑 ◯

外国人の中には申請画面の日本語が読めない方がいる ◯

視覚障がいなどのハンディキャップの存在 ◯

電子申請でできること自体を知らない ◯

以上の検証の結果を踏まえ、[図表1-16]に示した5つの項目をデジタル格差の「課題類型」として整理した。

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

2 自治体の課題認識

本章では、自治体基礎調査ならびに自治体の首長および職員へのインタビュー結果をもとに、自治体が認識している格差課題を抽出・整理する。

[分析プロセス]

1. 1章の自治体基礎調査の結果から抽出された格差課題を課題類型ごとに分類・整理し、傾向や特徴を分析する。

2. 首長の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。

3. 自治体職員の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の職員にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。

4. 以上を踏まえ、自治体全体としてのデジタル格差に関する課題認識の傾向や特徴を分析する。

(2)自治体による格差認識の差異の分析

自治体ごとの格差課題の認識を、①明示的に認識している、②黙示的に認識している、③認識していない、という3つに分類する。なお、分類は以下の方法で行う。

① 自治体の情報化推進計画やデータ活用推進計画等に「デジタル格差」の記載がある場合、明示的に認識しているものとする。

② 上記①の記載はないものの、自治体基礎調査の中で実施したヒアリングの内容に格差課題に関する回答がある場合、黙示的に認識しているものとする。

③ 上記①および②のいずれの記載もない場合に、認識していないものとする。

自治体の課題認識

2-1-2 分析結果

(1)自治体における課題類型の分析

分析の結果、各自治体について、図表2-2のとおり格差課題を示唆する内容とそれに対応する課題類型が導出された。

抽出された格差課題は、幅広い分野にわたり認識されているが、特に以下の点が特徴として挙げられる。

・「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に分類されたものが12件中8件と最も多かった。特に高齢者の苦手意識が大きな課題として認識されている。

・ ただし、リテラシーは、若年層も含め、利用できる/できない住民間での個人差が大きいのが実態。

・ ICTインフラの不備も依然として格差課題として認識されている。

・ 一部の住民に行政サービスが行き届かないことも課題として認識されている。その点、行政職員にも課題があると認識されている。

[ 図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識 ]

自治体 人口 格差課題を示唆する内容 課題認識度合 課題類型

D市 中核市(50万人台)

  1. 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である

 ①明示的に認識

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

A市 都市(10万人台)

使い方の格差、リテラシーの差が存在する

 ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある

 ②黙示的に認識 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない

 ②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市 都市(10万人台)

a)高齢者がデジタルを使えない ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある

 ②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

②黙示的に認識

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

②黙示的に認識

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

C村 町村(約3千人) a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

②黙示的に認識

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

E市 都市(約1万人) ③認識なし

F村 町村(約2千人) ③認識なし

G村 町村(1千人未満) ③認識なし

自治体の課題認識

(2)自治体による格差認識の差異の分析

格差課題への認識は、自治体の規模によって図表2-3のように分類された。概ね、

・ 大規模自治体:明示的に格差課題を認識している

・ 中規模自治体:黙示的に格差課題を認識している

・ 小規模自治体:格差課題を認識していない

という傾向がみられた。一般的に、大規模自治体ほどデジタル化が進んでいることから、この結果は、デジタル化が進展するほど格差課題への認識が高まる一方、デジタル化が進展していなければ格差課題は認識されにくいことを示唆する。

[ 図表2-3 自治体規模ごとの格差課題への認識の状況 ]

ヒアリング対象自治体 課題認識度合

D市:中核市(50万人台)

H市:都市(10万人台)

①明示的に認識

A市:都市(10万人台)

B市:都市(10万人台)

C村:町村(約3千人)

②黙示的に認識

E市:都市(約1万人)

F村:町村(約2千人)

G村:町村(1千人未満)

③認識なし

自治体の課題認識

2-2|自治体首長の課題認識

2-2-1 調査対象・方法

自治体首長の立場からのデジタル格差への課題認識およびその解消に向けた考え方を把握するた

め、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行う。

豊橋市 長岡市

a)デジタル化への意欲が高い自治体であること(デジタル格差は一定程度のデジタル化への認識がなければ顕在化しないため)

「市区町村の電子化推進度ランキング」(総務省、2020)にて10位にランクインしている「長岡版イノベーション」を全庁を挙げて推進している

b)産業構造として農業と工業が共存していること(デジタル格差の課題認識の多様性を確保するため、中山間地域なども含まれるようににした)

農業全国9位(産出額、2016年)・工業全国19位(出荷額、2016年)であり、山間部や沿岸部の防災に関する研究も行っている

農業全国78位(産出額、2016年)・工業全国105位(出荷額、2016年)、中山間地域住民への支援に取り組んでいる

c)自治体間の学際的交流関係が存在すること(学生とデジタル格差の関連を探るため) 豊橋技術科学大学を持ち、官学の交流がある 長岡技術科学大学を持ち、官学の交流がある

d)多国籍コミュニティが存在すること(外国人住民とデジタル格差の関係を探るため) 全体の5%にあたる18,000人の外国人が居住 「多文化共生」を目指した国際交流センター「地球広場」を設置している

[インタビュー実施時期]・2021年3月

[インタビュー方法]・オンラインもしくは対面によるインタビュー調査

[インタビュー項目]

(1)市におけるデジタル化の現状と、将来のデジタル化のビジョンについて

・貴市における行政のデジタル化で行なっている取り組みについて教えてください。

・将来(例えば5年後)に向けての貴市のデジタル化へのビジョンについて教えてください。

(2)現在、認識されているデジタル格差と、その対策について

・現在、住民のデジタル格差について問題と捉えていることを教えてください。

・上記の質問に関して、この対策について取り組んでいることを教えてください。

・将来(例えば5年後)に向けて、デジタル格差は、どのような状況になると予想されますか?

これに向けての対策について教えてください。

「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に分類された格差課題が5件中3件と最も多い。特に、地域にとってのソーシャルインクルージョンの重要性の観点から、高齢化や外国人の増加など社会の変化に伴い発生する社会的弱者への配慮が重視されているとみられる。

自治体 格差課題を示唆すると認識している内容 課題類型豊橋市 市長

a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない。

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

長岡市 市長

a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある。

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる。

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

豊橋市および長岡市の職員へのインタビューの結果、図表2-6のとおり格差課題を示唆する回答内容が得られた。

職員の格差課題に対する課題認識としては15件中「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する内容が6件、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に属する内容が10件を占めた。

既にデジタル化への取組みを進めている両市では、行政サービス提供や情報提供のデジタル化に関わる部分に課題認識の重点がシフトしていると考えられる。

内訳をみると、現場で住民と接する職員は、より先鋭に行政プロセスへの抵抗感や無関心を強く感じていることがうかがえる。特に、高齢者一般が感じている苦手意識を認識しつつも、個人間で格差があること、UIやUXもやはり重要であることなどが現場目線の課題として認識されている。また、職員の間での格差も課題として認識されている。

また、件数としては少ないが、長岡市職員のインタビュー回答「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にあるように、デジタル化を進めていくにあたっては、「家族同様に相談できるスタッフによる支援体制を作っていくことの必要性」が指摘されている点は注目される。

豊橋市 職員

a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である III 身体的・認知的ハンディキャップ

b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

長岡市 職員

そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分でなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった。

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

自治体の課題認識

2-4|まとめ―自治体の課題認識

2-2および2-3で導出した自治体首長および職員の課題認識とその課題類型の全体を整理したのが図表2-7である。同図表に基づき、(1)自治体全体としての課題認識の傾向と特徴を整理・分析する。また、首長と職員の間での課題認識の差異を分析する。

課題類型

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

豊橋市 市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である ○豊橋市 市長

b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない○豊橋市 市長

c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない○長岡市 市長

a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある

b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる○

豊橋市 職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である

b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

豊橋市 職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる

豊橋市 職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である

豊橋市 職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる

豊橋市 職員f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない

長岡市 職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

長岡市 職員b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない○

長岡市 職員

c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事○

長岡市 職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない ○

長岡市 職員

e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる○

長岡市 職員

f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた○

長岡市 職員

にインストールしたりするケースもあった○

長岡市 職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた ○

長岡市 職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

自治体の課題認識

(1)自治体全体としての課題認識の傾向

調査対象自治体では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の3類型が自治体の格差課題への課題認識の主要な位置を占めている。

インタビュー対象の自治体のハードウエア環境の整備については、かつて大きな課題と認識されていたインターネット自体が全く使えないといった根本的課題についてはある程度解決されつつあるが、現在実施しようとしている情報提供やオンライン手続きなどのデジタルサービス提供に必要な環境については、いまだ課題が残っていると考えられる。

さらに、自治体のなかでも首長と職員の間には、課題をどのように解決していくかのアプローチについての視点差がみられた。すなわち首長は「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」を、職員は「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に主要な視点を置いていると考えられる。

地域全体のソーシャルインクルージョンの視点で社会的弱者の格差課題を捉える首長と、業務の現場で行政のデジタル化推進にあたっての格差課題のハードルに直面している職員との間での視点の差異が反映されていると考えられる。

3 デジタル格差の課題の実態

第2章では、自治体におけるデジタル格差に対する課題認識を分析した。本章では、住民が実際に感じているデジタル格差の実態を把握するため、住民、デジタル格差に関連する分野の専門家および海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関(以下「住民・専門家等」という)が認識している格差課題を把握する。

具体的にはこれらの人々へのインタビューを通じて格差課題を抽出・整理し、課題類型によって分類することで、デジタル格差の実態を明らかにする。また、自治体が認識している格差課題と住民が実際に感じている格差課題の間のギャップを分析することで、自治体にとって未認識となっている格差課題(以下「未認識課題」という)を明らかにする。

自治体の課題認識と課題の実態のギャップ

(未認識課題)

3-1|住民の課題認識

3-1-1 調査対象・方法

豊橋市および長岡市在住の以下の属性をもつ住民を対象に、格差課題に関するインタビュー調査

を行なった。なお、各項目の末尾の括弧内の数値は、インタビュー実施件数である。

・【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)(4件)

・【属性②】三世代世帯(日本人)(4件)

・【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)(5件)

・【属性④】外国人(4件)

・【属性⑤】大学生(留学生含む)(6件)

属性ごとのインタビューの狙いは次のとおりである。

・【属性①】標準的な家族構成の住民が行政のデジタルサービスを活用する上での課題認識を把

握する。

・【属性②】【属性③】高齢者が行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。

・【属性④】外国人が日本の行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。

・【属性⑤】大学生が今後、ソーシャルインクルージョンに向けてデジタル格差解消に資する社会活動に参加する可能性を探る。

また、以下の2点は、行政のデジタルサービスの利用状況およびデジタル格差の状況を把握するために、属性を問わずインタビューの狙いとした。

・ デジタル化の取組が始まっている自治体の住民が、デジタル格差に関して、どのような課題認識を有しているのか把握する。

・ 行政のデジタルサービス利用への意欲の度合いを探る。

[ インタビュー実施時期 ]・2021年3月~4月

[ インタビュー方法 ]・オンラインまたは対面インタビュー

[ 写真1 住民へのインタビューの様子(1)] [ 写真2 住民へのインタビューの様子(2)]

デジタル格差の課題の実態

3-1-2 インタビュー結果

住民へのインタビュー結果から、住民が認識している格差課題を抽出・整理し、属性①~⑤ごとに課題類型によって図表3-2のように分類した。また、各格差課題の分布を課題類型ごとに集計すると図表3-3のとおりとなった。

[ 図表3-2 住民の課題認識 ]

属性 格差課題と認識している内容 課題類型

【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

【属性②】三世代世帯(日本人)

  1. パソコンの字が小さいため、目が疲れる

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしてもデータが消失している)) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

e)自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

居住者の可能性大)

a)英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自分が住む自治体の活動、行政などに興味が薄い

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

[ 図表3-3 住民が認識する格差課題の課題類型ごとの分布 ]

課題類型

Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル前提条件欠如

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心

ここから次の傾向が明らかになった。

・ 属性①~属性⑤いずれにおいても、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題が含まれており、格差課題全22項目中13項目を占めている(太字箇所を参照)。

・【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性④】外国人世帯では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者が属する【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)でのみ、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」の格差課題を認識している。

デジタル格差の課題の実態

3-2 専門家の課題認識

3-2-1 調査対象・方法

前節で抽出された格差課題は、あくまで限定されたサンプルの範囲内で認識されたものであり、実際には、様々な限界事例や、住民自身も認識していないような格差課題も存在する可能性がある。そこで、格差課題に関わるアクセシビリティやソーシャルインクルージョンなどの分野で専門的な知見を持つ団体に、こうした格差課題についてのインタビューを行った。インタビューを実施した団体名、およびインタビューの狙いおよびインタビュー項目の概要を図表3-4に示す。

社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)Good Job!センター香芝/森下静香 氏

障がい者との共創型のインクルーシブデザインアプローチの実践を行なっている団体から、インクルージョンも含めた共創を進める上での課題を聴取するとともに、高齢者や障害者の方達の声も反映したデジタル格差の解決策のヒントを探る

・ 障がいのある方とIoTやITなどのデジタル機器との関わりについて

・ Good Job! Projectの取り組みとデジタル格差やインクルージョンとの関わりについて

ウェブアクセシビリティ推進協会

(NTTクラルティ株式会社:ウェブアクセシビリティ推進協会 正会員)/田中章仁 氏

ウェブアクセシビリティの課題解決に専門的に取り組んでいる団体によるデジタル格差への対応事例などを聞くことで、デジタル格差の課題を把握するとともに、アクセシビリティ改善のヒントを探る

・ 視覚障がいや聴覚障がいの方にとってのウェブアクセシビリティの重要性について

・ 行政のデジタルサービスに関して、アクセシビリティ改善のためのアプローチについて

名古屋市 経済局イノベーション推進部スタートアップ支援室/小野寺光弘 氏

日本語の読めない外国人を対象とした行政窓口業務の改善の試みの事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル化に伴う来庁時の住民(外国人)・職員双方の窓口手続き時の負担軽減のヒントを探る

・ 実証実験における窓口での利用者の反応について

・ 実証実験を通じて、どのような課題解決のための改善の取り組みがあったのかについて

長岡市 地域振興戦略部中山間地域集落支援班

中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル格差を解消するための寄り添い方のヒントを探る

・ 中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例について

デジタル格差の課題の実態

3-2-2インタビュー結果

インタビュー結果から、専門家が認識している格差課題を抽出・整理し、課題類型ごとに[ 図表3-5 ]のとおり分類を行なった。

この結果、住民へのインタビューでは抽出できなかった様々な格差課題が抽出された。これらは大部分が「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の課題類型に分類されるものであった。なお、これらの専門家が認識している格差課題は、一般論としてのものであり、特定の自治体に向けてのものではない。

[ 図表3-5 専門家の課題認識 ]

団体 格差課題と認識している内容 課題類型

社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ウェブアクセシビリティ推進協会

a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない

c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない

イノベーション推進部

a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

長岡市 地域振興戦略部

  1. 自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デジタル格差の課題の実態

3-3 デンマーク政府の課題認識

3-3-1 調査対象・方法

デジタル格差は、デジタル化が進展してはじめて顕在化してくる課題である。しかしながら現状、日本の多くの自治体では、行政サービスのデジタル化は十分に進んでおらず、その結果、格差課題の存在自体認知していない自治体も多い。そこで、今後、デジタル化が進展した場合に発生し得る格差課題を把握するため、行政のデジタル化が日本と比較し先行しているデンマークにおいて、デジタル格差の課題に取り組むデジタル化庁の職員にインタビューを行なった。

インタビューは、2021年4月に、オンライン会議システム(Zoom)にてインタビューを行なった。また、2020年に別の目的で実施されたインタビュー結果(「行政&情報システム 2020年6月号」、行政情報システム研究所、2020)も参照している。2020年と2021年のインタビューの観点はそれぞれ次の通り。

・2020年:デジタル格差解消のための取り組み全般について

・2021年:デジタル格差解消に取り組む関連団体との協力状況について

[ インタビュー対象者 ]

・デンマーク政府デジタル化庁 デジタルインクルージョン部門 リーダー スザンヌ・ドゥース 氏

[ インタビュー実施時期 ]・2021年4月

[ インタビュー方法 ]・オンラインインタビュー

デジタル格差の課題の実態

3-3-2 インタビュー結果

デンマーク政府デジタル化庁職員へのインタビューの結果、明らかとなった格差課題を図表3-6に示す。課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的

ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にまたがる広範囲の課題への取り組みが行なわれている。

[ 図表3-6 デンマーク政府 デジタル化庁職員の課題認識 ]

格差課題 課題類型

a)若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)移民などによる公用語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

e)市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心

f)職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない

g)行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態

3-4|自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態とのギャップ

本節では、第2章で抽出・整理した自治体による課題認識と、本章で抽出・整理した住民にとっての課題の実態の間のギャップを分析する。

まず、前節までで行った住民・専門家等インタビューの結果、すなわち図表3-2 住民の課題認識、図表3-5 専門家の課題認識、および図表3-6 デンマーク政府 デジタル化庁職員の課題認識で示された格差課題を一つの表に再整理する。そのうえで、2章で整理した自治体の格差課題の認識([図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識および図表2-7 自治体首長および職員の課題認識])と前述の住民にとっての課題の実態を図表3-7のように 突き合わせ、両者の差分から、住民にとっての課題の実態として存在しているにもかかわらず、自治体で認識されていない格差課題(未認識課題)を図表3-8のとおり抽出した。なお、インタビュー後に別途、自治体で認識している旨が確認された項目については認識していると判断した。

自治体 人口 格差課題を示唆させる内容 課題類型

D市 中核市(50万人台)

  1. 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

(セキュリティなど)

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性

(市がサービスを提供するだけでは足りない)

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

A市 都市(10万人台)

  1. 使い方の格差、リテラシーの差が存在する

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市 都市(10万人台)

  1. 高齢者がデジタルを使えない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足、Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ、Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

  • デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足、Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

C村 町村(約3千人)

a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心

E市 都市(約1万人)

F村 町村(約2千人)

G村 町村(1千人未満)

自治体首長および職員の課題認識 自治体 役割 格差課題として認識している内容

豊橋市

市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である

○豊橋市

市長 b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない

○豊橋市

市長c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない

○長岡市

市長a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車も運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある

○長岡市

市長b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに、技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることできない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる

○豊橋市

職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である

○豊橋市

職員 b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

○豊橋市

職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる ○

豊橋市

職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

 ○ 豊橋市

職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる

○ 豊橋市

職員 f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない。

○ 長岡市

職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある

○長岡市

職員 b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない

○長岡市

職員c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事

○長岡市

職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない

○長岡市

職員 e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる

○長岡市

職員f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分ではなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少ないないと感じた

○長岡市

職員g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分ではなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった

○長岡市

職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた

○長岡市

職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援の不足が懸念される ○住民・専門家等の課題認識のまとめ

[ 図表3-7 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態の対応関係 ]

対象 格差課題と認識している内容 課題類型

住民:

【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)

a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 自分が住む自治体への帰属意識が薄い

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:たんぽぽの家

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

  1. 視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

  • 障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

専門家:名古屋市イノベーション推進部

  1. 日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

専門家:長岡市地域振興戦略部

a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

  • 高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デンマーク政府デジタル化庁

  1. 若年層による行政プロセスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

c)移民などによる自国語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

Ⅰ 貧困や深刻な障害によるデジタル

利用の前提条件欠如

  • 市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

  • 行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題

 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態

[ 図表3-8 自治体の課題認識と住民にとっての課題の実態のギャップ ]

対象 格差課題と認識している内容 課題類型

本調査における自治体の認識状況

住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

  1. デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)

a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

  • 自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

住民:【属性④】外国人世帯

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)

 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

  1. 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

c)自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)

  1. 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足している

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識

g)障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

専門家:名古屋市イノベーション推進部

 a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

専門家:長岡市 地域振興戦略部

a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

デンマーク政府デジタル化庁

a)若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

b)高齢者などによるデジタル技術への理解不足や操作知識の不足 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

c)移民などによる公用語を理解しない言葉の問題 Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

d)肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在 Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如 認識

e)市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

f)職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識

g)行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識

デジタル格差の課題の実態

以上の結果より、自治体にとっての未認識課題が7件抽出された。

このうち3件は課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属するものだった。

また、障がい者への連絡手段や方法について配慮が不足しているといった、課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属する課題も4件確認された。例えば、ウェブアクセシビリティ推進協会から挙げられた「公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している」および「視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない」といったものである。

デジタル格差の課題の実態

3-5|本章のまとめ

本章では、住民にとっての格差課題の実態を明らかにするため、住民、専門家等にインタビューを行い、デジタル格差の課題の実態を抽出・整理した[ 前掲図表3-8 ]。

その結果、以下のような傾向や特徴が明らかとなった。

(1)住民・専門家等における課題認識

〈住民〉

・ 住民全体としては、「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が多い。

・ 外国人世帯や留学生は、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者には「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。高齢者の中でもデジタル利用の必要性が低い方の場合には、この傾向が顕著だった。

〈デジタル格差に関連する分野の専門家〉

・ウェブアクセシビリティ専門家などは、住民への情報提供手段の問題など「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識している。

・ ウェブアクセシビリティ、高齢者対策、福祉などの専門家は「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題を認識している。

・ 高齢者対策に携わる職員は、高齢者にとっての「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関する格差課題を認識している。また、デジタル利用への対応が困難な方のためのアプローチの必要性についても認識している。

〈海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関〉

・ 課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識している。

・とくに、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強く認識している。

(2)自治体の未認識課題の抽出

前節で行った自治体の課題認識と住民にとっての格差課題の実態のギャップから、自治体の未認識課題を抽出したのが図表3-9である。この結果から未認識課題について次の傾向が確認された。

〈住民が認識している未認識課題〉

・ 未認識課題全4件の内、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が3件であり、大宗を占めた。

・ 外国人世帯から課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属するウェブアクセシビリティに関する格差課題が挙げられた。

〈専門家が認識している未認識課題〉

・ 障がい者へのアクセシリビリティ配慮不足に関する格差課題が3件指摘された。

デジタル格差の課題の実態

[ 図表3-9 自治体の未認識課題 ]

対象 自治体の未認識課題 課題類型

住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)

b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)

c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)

b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会

d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

デジタル格差に関する施策の充足状況

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

本章では、前章までで抽出・整理した格差課題に対し、自治体による格差解消のための施策がどの程度実施されているかを明らかにする。このため、前章までで抽出・整理した格差課題に対し求められる施策と、自治体で実際に実施されている施策とのギャップを分析する。その上で、既に調査対象自治体で実施されている施策も含め、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を整理する。

こうした施策のなかには、

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

が含まれる。

[分析プロセス]

1. 1章および2章のヒアリングを通じて確認された、調査対象の自治体によって実施済(予定含む)の格差課題を抽出・整理する。(「(a)実施済施策」)

2. 2章で抽出・整理した、自治体が認識している格差課題に対して実施すべき施策のうち、まだ実施されていない施策を抽出・整理する(「(b)未実施施策」)。

3. 3章で抽出・整理した、住民にとっての格差課題のうち、自治体がまだ認識していない格差課題(第3章の「未認識課題」)に対して実施すべき施策を抽出・整理する。(「(c)未認識施策」)4. 最後に、(a)~(c)をとりまとめ、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を整理する。

[ 図表4-1 本章の対象範囲 ]

(第4章) (第2章) (第3章)自治体の課題認識と課題の実態のギャップ

(未認識課題)

本来講ずるべき施策((c)未認識課題)自治体の施策と課題認識のギャップ

((b)未実施施策)(a)自治体の実施済施策

自治体の課題認識

首長の課題認識

職員の課題認識

デジタル格差の実態

住民の課題認識

専門家の課題認識

デンマーク政府の課題認識

赤字:本章の調査研究範囲

デジタル格差に関する施策の充足状況

4

4-1|自治体で実施済の施策(a)

1章の自治体基礎調査および2章の自治体インタビューの結果から、同章で対象とした自治体が格差課題に対して実施済または実施予定の施策を抽出・整理した[図表4-2]。

自治体 格差課題と認識している事項 課題類型 デジタル格差の解消施策(計画や将来目標を含む)

豊橋市

a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である Ⅲ 身体的、認知的ハンディキャップ ・Facebookでの外国人住民向けの情報

配信

e)庁内でも職員感のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・行政職員のデジタル格差解消に向けたデジタルリテラシー向上

長岡市

b)デジタル機器等が、デザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーから出てきた場合、人間が常にそのテクノロジーに合わせることになる。そうすると、高齢者は合わせることができない、使いこなせない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・職員への「デザイン思考」教育の実施

h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、機械に対する苦手意識がある。抵抗感を覚える高齢者もいる

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み

i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。スタッフの不足が懸念される Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

D市

a)高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上

・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施

・ユニバーサルデザインの重視

b)住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・個人情報がどのように保護されているかを丁寧に説明

A市 a)使い方の格差、リテラシーの差が存在する Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・LINEやインスタグラム等の講習

・スマートフォン操作講習

B市

b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備

[ 図表4-2 自治体が施策を実施済の格差課題(予定を含む)]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4

4-2|自治体で未実施の施策(b)

本節では、調査対象の自治体において、自治体で格差課題は認識しているものの、それに対して未実施の施策を導出する。具体的には、以下の手順で分析を行う。

[分析プロセス]

1. 格差課題は認識しているものの、それに対する解決策が未実施の課題を抽出・整理する。(4-2-1)

2. 上記により導出された課題に対して実施すべき施策を検討するため、具体的なケースを想定する。

(4-2-2)

3. 上記の各ケースに対して実施すべき施策を検討する。(4-2-3)

4-2-1 未実施施策に係る課題の整理

2章で整理した自治体の格差課題のうち、それに対する施策が未実施となっている課題を図表4-3に示す。なお、調査対象のいずれか1自治体でも未実施の場合、未実施として整理した。

自治体 格差課題と認識している事項 課題類型

豊橋市

a)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

長岡市

f)みまもりのプロヘクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じた

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足A市b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足B市

a)高齢者がデジタルを使えない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタル

サービスをスタートする機会を逸することは損失

Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

C村 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

[ 図表4-3 自治体が施策を未実施の格差課題 ]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4-2-2 未実施施策に係る課題のケース導出

前節で示した、調査対象の自治体が格差課題と認識しているが、それに対する施策は未実施の格差課題について、求められる施策を検討するため、対象となる格差課題を、具体的な施策実施の場面を想定して図表4-4のとおりケースとして整理した。

課題類型 格差課題 導出したケース

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・A市 d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない

① 自治体職員が住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

・豊橋市職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる

・長岡市職員 f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定→ 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じた

・B市 a)高齢者がデジタルを使えない

② デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

・A市 c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある

・C村 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

・豊橋市職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である

③ 行政情報に触れる機会がない・届かない住民がいる

④ 行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない

[ 図表4-4 未実施施策に係る格差課題のケース ]

デジタル格差に関する施策の充足状況

4-2-3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

前項で導出した未実施施策に係る課題のケースに対する解決策を、住民・専門家等インタビューの発言内容に基づき図表4-5のとおり導出した。また、解決のための具体的なアプローチの例を検討した。

[ 図表4-5 未実施課題に係る解決策とアプローチの具体例 ]

課題類型 ケース 解決策 アプローチの具体例

Ⅱ ICTインフラなどのデジタル

利用環境不足

ケース①:住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない

解決策①:住民の状況を知るところから始める

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)による住民への個別インタビューやグループでのインタビューを実施し、住民の声を聞く

Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

ケース②:デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる

解決策②:デジタル活用支援員の仕組みを活用する。その際、信頼感が低いと話を聞いてもらうことが難しいため住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機 器の利点を伝え興味を持ってもらう

・職員が直接ではなく、住民が参加している各コミュニティ(例えば、外国人世帯の場合、出身国のコミュニティ)の代表者の方を介して関係を構築する

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ケース③:行政情報に触れられない・届かない住民がいる

解決策③:行政情報の配信方法 を見 直 す 。住民の 状 況 によって 、LINE、Facebook、電子メール、手紙等の利用状況が異なるため配信方法は考慮する

・日本に在住する外国人のコミュニティによっては、Facebookグループが活用されているため、Facebookグループ内でシェアを行われることを想定した情報配信を行う

・視覚障がい者への手続きのための通知や情報配信は紙面ではなく電子メールで行う(電子メールであればテキスト読み上げツール等を活用して読み上げることができ、返信も音声によるテキスト入力ツール等を活用して対応可能であるため)

ケース④:行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない

解決策④:住民の状況を知るところから始める。提供する行政のデジタルサービスの利 用者になるであろう属性の住人へのインタビューや、普段使っているデジタルサービスの利用している様子を見せてもらう

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)を踏まえ、行政のデジタルサービスの利用者である住民がどのような状況で、提供サービスを利用するであろうか把握する

・上記の方法論や考え方として、人間中心デザイン、サービスデザイン、デザイン思考という名称で体系化されているため、必要に応じて参考にする

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-3 自治体が未認識の課題に係る施策

4-3-1 未認識課題に係るケースの導出

3章の図表3-9では、自治体が未認識の格差課題を整理した。これらの格差課題は、インタビュー対象2自治体以外においても認識されていない場合が多いと考えられる。自治体にあっては、まずこうした課題の存在自体を、第3章で実施したような住民や専門家へのインタビューを通じて認識することが求められる。そのうえで、次に、抽出・整理した課題に対して解決策を検討することが必要となる。

本項では、インタビュー対象2自治体を例にとり、未認識の課題に対して求められる施策を導出する。対象となる格差課題は、具体的な施策実施の場面を想定して図表4-6のとおりケースとして整理した。

[ 図表4-6 未認識課題に係る格差課題のケース ]

格差課題類型 格差課題 導出したケース

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない

・専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会 f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない

⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

・住民:【属性2】 g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある

⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない

・住民:【属性3】 c)行政手続きで間違ってしまってはいけないと捉えているため、PCで行政サービスを利用しない

⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない

・住民:【属性1】 a)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)

⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-3-2 未認識課題に係る解決策の導出

前項で導出した未認識課題のケースに対する解決策を、住民・専門家等インタビューの発言内容に基づき図表4-7のとおり導出した。また、そのためのアプローチの具体例を検討した。

[ 図表4-7 未認識課題に係る解決策とアプローチの具体例 ]

格差課題類型 ケース 解決策 アプローチの具体例

Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

ケース⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない

解決策⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮する

・障がい者への自治体のお知らせ:

・自治体Webサイトにて、お知らせの文書は、PDFをできるだけ使用せずに、テキスト読み上げツールが対応可能なHTMLで記載する

・Webサイトにおける画像の扱い:

・自治体Webサイトで用いられる画像の内容が、視覚障がいのある方に理解できるようにする。

・障がい者のデジタル機器やサービスの利用状況をインタビューの実施等を通じ把握した上で、上記を含めたアプローチを検討する

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ケース⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない

解決策⑥:住民が行政サービスの手続きイメージが得やすい環境をつくる

・住民が行政のデジタルサービスを利用する際、行政サービスの手続きイメージを持てるように、動画や図などで手続きイメージを伝える

・その際、住民に、このような情報が自治体Webサイトに掲載されていることを予め知ってもらうため、SNS(LINE、Facebook、Twitter等)で、自治体Webサイトに役立つ情報があることを日頃から伝えていく

・デジタル行政サービスを使用している様子を撮影した動画を動画共有サイト(YouTube等)で公開し、使い方について動画で実感できるようにする

ケース⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない

解決策⑦:住民がデジタル手続きを行う際、何か失敗しても問題はない感覚を持てるようにする

・デジタル行政サービスでは、住民が一人で手続きするため、入力やデータの間違いなどがあっても問題が発生しないようにフェールセーフ(誤操作があっても安全に制御すること)の仕組み、またはそもそも間違えようがないようなナビゲーションを用意する

・それでも、なにか問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意する

・その存在を住民に日頃からSNS等で伝えていく

ケース⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない

解決策⑧:住民がメリットが感じられるように、利用者の視点に立ってデジタル行政サービスを開発・改善した上で、住民にメリットを提示する

・   住民がデジタル行政サービスを使用する際、よりメリットを感じていただけるように、利用者の視点でデジタル行政サービスの開発・改善を継続的に行う

・ 職員自身がデジタル格差を解消した上で、提供するデジタル行政サービスに触れ、改善が必要な点とアピールすべきメリットを認識できるようにする

・ さらに、デジタル行政サービス利用のメリットを、より具体的に伝えていく(物品と交換可能なポイント取得や、自宅等で手続き可能等)

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

4-4 まとめ―自治体が講ずるべき施策

本章では、自治体のデジタル格差に対する施策の充足状況を明らかにするため、自治体が講じるべき施策を次の区分で明らかにしてきた。

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

前節までの分析の結果を、抽出・整理された施策を住民に対して講じるべき施策/職員に対して講じるべき施策に区分して整理すると図表4-8ないし4-10のとおりとなる。

[ 図表4-8 (a)実施済施策 ]

住民向け 職員向け

・SNS(Facebook等)での外国人住民向けの情報配信

・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み

・個人情報に対するセキュリティの確保(個人情報の取り扱いをより慎重にし、個人情報の保護に万全を期す)

・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上

・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施

・ユニバーサルデザインの重視

・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備

・行政職員のデジタル格差の解消

・職員への「デザイン思考」教育の実施

(a)実施済施策

[ 図表4-9 (b)未実施施策 ]

住民向け 職員向け

・住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機器の利点を提示

・デジタル利用支援員の仕組みの活用

・行政情報の配信方法の再確認

・住民のLINE、Facebook、電子メール等の利用状況を考慮した配信

・住民のデジタル利用状況の把握

・住民へのアンケート、インタビューの実施

・デジタル活用支援員によるデジタル機器・サービスの

利用状況把握

(b)未実施施策

[ 図表4-10 (c)未認識施策 ]

住民向け 職員向け

・障がい者への連絡手段や方法への配慮

・自治体Webサイトのお知らせ文書について、テキスト読み上げツールが対応可能な形式

(HTML等)での掲載

・自治体Webサイトで用いられる画像の代替えテキストの用意

・住民が行政サービスの手続きについて知識を持てるように配慮

・自治体Webサイトで、行政サービスの手続きイメージを動画や図を公開

・デジタル行政サービスの利用している様子の動画を動画共有サイトで公開

・SNSで、自治体Webサイトに役立つ情報が掲載されていることを日頃から住民に伝達

・住民がデジタル手続きを行う際に、何か失敗しても問題はない感覚を持てるように配慮

・デジタル行政サービスで、入力やデータの間違い等があっても問題が発生しないようにフェールセーフの仕組みを用意

・上記でも、問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意

・これらの存在を日頃からSNSで住民に伝達

・職員間のデジタル格差の解消

・職員がデジタルへの苦手意識を無くす取り組みの実施

・職員自らによるデジタル化された手続きの積極的利用推進

・職員たちによる自発的なデジタル格差解消のためのコミュニティづくり

・利用者の視点でのデジタル行政サービスの開発・改善

・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)でのデジタル行政サービスの開発・改善の実施

(c)未認識施策

4 デジタル格差に関する施策の充足状況

以上から、自治体が実施すべき施策のうち、インタビュー対象2自治体における充足状況としては、

(a)が既に充足されている施策

(b)は格差課題は認識されているが、まだ充足されていない施策

(c)は格差課題自体が認識されていない施策

と整理できる。

これらは対象2自治体を前提とした区分であり、他の自治体で必ずしも当てはまるものではない。ただし、これらの区分にかかわらず、本章で挙げた施策は、今後遅かれ早かれ、自治体での取り組みが求められることになってゆく。その際、4-2-3および4-3-2に示した「アプローチの具体例」は施策の立案・実践にあたっての直接的なヒントになると考えられる。

おわりに

5 おわりに

本調査研究は、我が国政府・自治体がこれからデジタル化を進めていくうえでのデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき施策の方向性を導出することを目的として実施した。その結果、以下が明らかになった。

〈2 章:自治体の課題認識〉

自治体が認識している格差課題を、自治体首長および職員の課題認識をもとに抽出した。また、その傾向や特徴を、自治体間や首長-職員間の比較等を通じて分析した。

格差課題の分布を課題類型ごとに分類したところ、「身体的・認知的ハンディキャップ」、「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」が自治体の格差課題への課題認識の主要な位置を占めていることがわかった。インタビュー対象の自治体のハードウエア環境の整備については、かつて大きな課題と認識されていたインターネット自体が全く使えないといった根本的課題についてはある程度解決されつつあるが、現在実施しようとしている情報提供やオンライン手続きなどのデジタルサービス提供に必要な環境については、いまだ課題が残っていると考えられる。

さらに、自治体のなかでも首長と職員の間には、課題をどのように解決していくかのアプローチについての視点差がみられた。すなわち首長は「身体的・認知的ハンディキャップ」を、職員は「行政プロセスへの抵抗感・無関心」「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に主要な視点を置いていると考えられる。地域全体としてのソーシャルインクルージョンの視点で社会的弱者の格差課題を捉える首長と、業務の現場で行政のデジタル化推進にあたっての格差課題のハードルに直面している職員との間での視点の差異が反映されていると考えられる。

〈3 章:デジタル格差の課題の実態〉

住民が実際に感じているデジタル格差の課題の実態を把握するため、住民、デジタル格差に関連する分野の専門家および海外でデジタル格差解消に取り組む機関が認識している格差課題の把握を行った。その結果、住民・専門家等は、自治体が認識していない未認識課題を認識していることが明らかとなった。具体的には、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題、および課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属する格差課題だった。

住民は一般に、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題を多く認識している。また、外国人世帯や留学生は、「身体的・認知的ハンディキャップ」を、高齢者は「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。

専門家は、住民への情報提供手段の問題など「身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識しているほか、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題も重要と認識している。

また、デンマーク政府デジタル化庁は、課題類型「貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「身体的・認知的ハンディキャップ」、「デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識しており、特に、「行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強調している。

おわりに

〈4 章:デジタル格差に関する施策の充足状況〉

自治体で認識されている格差課題に対し、格差解消のための施策がどの程度実施されているかを明らかにするため、格差課題に対し求められる施策と、自治体で実際に実施されている施策とのギャップを次の観点で分析し、今後他の自治体でも一般的に実施すべき施策を住民向けと職員向けに分けて、次のように整理した。

(a)調査対象の自治体で既に自治体で実施済みの施策(実施済施策)

(b)課題は認識されているものの未実施の施策(未実施施策)

(c)自治体で課題自体が認識されていない格差課題に対する施策(未認識施策)

これらは調査対象自治体を前提とした区分であり、他の自治体で必ずしも当てはまるものではないが、少なくとも、これらの区分にかかわらず、本章での施策は、今後遅かれ早かれ、自治体での取り組みが求められることになる可能性が高い。

本調査研究を通じて明らかになったことのひとつが、住民のデジタル格差の課題に取り組むためには、行政自らが組織内のデジタル格差に取り組む必要があることである。このため、本章では、自治体が実施すべき施策を住民向けと職員向けに分けて整理している。

また、(b)と(c)の施策については、まだ具体的な施策が講じられていないことから、インタビューを通じて得られた知見をもとに、具体的なケースの想定を立て、実践的な施策を「アプローチの具体例」として提案している。これらは今後の施策の立案・実践にあたっての直接的なヒントになると考えられる。

〈まとめ〉

本調査研究の結果、行政サービスにおけるデジタル格差に関して、次のような新たな知見が得られた。

・デジタル格差への課題認識は、自治体によってかなりの差がある。一般的には、デジタル化の進展に伴って課題認識は高まる。

・デジタル格差には様々な態様があり、それぞれ講ずべき施策も異なってくる。

・自治体職員には認識できないデジタル格差の課題が存在している。

・デジタル格差は、住民と職員の両方に存在しており、どちらも対応が必要である。

また、自治体のデジタル格差として、具体的にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して体系的に整理するとともに、それぞれに対して講ずべき施策を明らかにすることができた。

現状、デジタル格差はまだ多くの行政職員や住民にとって実感を伴う課題とは認識されていない。

しかし、今後、行政サービスのデジタル化が本格化していく中で、それによる便益を享受できる住民と享受できない住民の間の格差は顕在化していくと予想される。

デジタル格差の解消は、一朝一夕ではできない課題も多い。デジタル化に取り組む行政機関にあっては、施策立案の段階から、デジタル格差への考慮を中長期的視点に立って検討に組み込んでいくことが重要になる。

本調査研究で得られた知見は、そうした検討に直接・間接に寄与することになると考える。

調査協力先

 本調査報研究の実施にあたっては、以下の方々をはじめ多くの方々にご協力いただいた。

〈自治体インタビュー:愛知県豊橋市〉

・ 豊橋市 浅井由崇市長

・ 豊橋市 情報企画課

・ 国立大学法人 豊橋技術科学大学

・ 豊橋市 住民の皆さま

〈自治体インタビュー:新潟県長岡市〉

・ 長岡市 磯田達伸市長

・ 長岡市 イノベーション推進課

・ 長岡市 地域振興戦略部 中山間地域集落支援班

・ 国立大学法人 長岡技術科学大学

・ 長岡市 住民の皆さま

〈専門家インタビュー〉

・ 愛知県名古屋市 経済局イノベーション推進部 スタートアップ支援室

・ 特定非営利活動法人 ウェブアクセシビリティ推進協会

・ 社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家) Good Job!センター香芝

・ デンマーク政府デジタル化庁

〈自治体基礎調査〉

・インタビューにご協力いただいた全国8自治体

初版:2021年3月31日

一般社団法人 行政情報システム研究所

本冊子の利用ルールは「政府標準利用規約(第2.0版)」に準じるものとします。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kettei/gl2_betten_1.pdf

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」について

厚生労働省

改訂 平成30年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

1 人生の最終段階における医療・ケアの在り方

① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。

また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。

さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要」は、法律上の明示的な行為でなくても良いのだと思います。法律上の行為としては、任意代理契約、任意後見契約が挙げられます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

② 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。

③ 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 尊厳死宣言公正証書を作成するという方法があります。作成しない場合に比べて、本人の意思が尊重されると考えられます。

しかし、必ず全てが望んだ通りになるかは分かりません。医療・ケアチームや家族の判断が通る場合もあるのだと思います。一度点滴も拒否、注射も拒否などと記載する尊厳死宣言公正証書の案を作成したことがあります。私は内心やり過ぎじゃないかなと思っていました。点滴や注射が一切出来ない状況は難しいのかなと感じたりします。

たとえ望んだ通りにならなくても、御本人は元気なうちに意思表示出来たということでとても満足そうでした。それは確かに大事だなと、私も考えを少し改めました。

「尊厳死宣言公正証書」という名前はもう少し柔らかい名前に代えても良いのかなとも思います。

参考

日本公証人連合会

尊厳死宣言公正証書について

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 議論しない、という選択は有りだと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2 人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続

人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次によるものとする。

(1)本人の意思の確認ができる場合

① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医

療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。

そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。

②時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が

変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供

と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるよう

な支援が行われることが必要である。

この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。

③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくも

のとする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「多専門職種」の中に、任意後見人、成年後見人、保佐人、補助人が入ってくる場合があるのかもしれません。

「話し合いが繰り返し」というような表現が何度も出てきます。色々な家族があるので、繰り返し話し合える家族は限られてくるのかなと思います。私の家族は難しいような感じがします。

「文書」に関しては、テキスト、音声を含むデジタルデータが多くなっていくのかなと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)本人の意思の確認ができない場合

本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。

① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

(3)複数の専門家からなる話し合いの場の設置

上記(1)及び(2)の場合において、方針の決定に際し、・医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合

・本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

・家族等の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

等については、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチーム以外の者を加えて、方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 こういう場面が年間どのくらいの件数あるのか、気になります。私の仕事であれば、断るということが出来ます。しかし医療関係は報酬が保証されている代わりに断れない場合が多いんだろうなと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

解説編

人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会

改訂 平成30年3月

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197722.pdf

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編

【平成19年版ガイドライン作成の経緯】

人生の最終段階における治療の開始・不開始及び中止等の医療のあり方の問題は、従来から医療現場で重要な課題となってきました。厚生労働省においても、人生の最終段階における医療のあり方については、昭和62年以来4回にわたって検討会を開催し、継続的に検討を重ねてきたところです。その中で行ってきた意識調査などにより、人生の最終段階における医療に関する国民の意識にも変化が見られることと、誰でもが迎える人生の最終段階とはいいながらその態様や患者を取り巻く環境もさまざまなものがあることから、国が人生の最終段階における医療の内容について一律の定めを示すことが望ましいか否かについては慎重な態度がとられてきました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 私は慎重な態度がとられることに賛成です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかしながら、人生の最終段階における医療のあり方について、患者・医療従事者ともに広くコンセンサスが得られる基本的な点について確認をし、それをガイドラインとして示すことが、よりよき人生の最終段階における医療の実現に資するとして、厚生労働省において、初めてガイドラインが策定されました。

本解説編は、厚生労働省において策定されたガイドラインを、より広く国民、患者及び医療従事者に理解いただけるよう、「終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会」において議論された内容をとりまとめたものです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  どちらかというと、高齢社会における医療費(医療ケアにかかる時間)や介護サービス費(介護にかかる時間)を削減したいという目的が大きいのかなと思います。良い悪いは措きます。ガイドラインは指針にもなり、裁判手続きなどでもガイドラインに従ったかという点が評価される場面も出てくるのではないでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

国に対しては、本ガイドラインの普及を図るとともに、緩和ケアの充実など人生の最終段階を迎える患者及び家族を支えるため、その体制整備に積極的に取り組むことを要望します。

【平成30年版ガイドライン改訂の経緯】

平成27年3月には、「終末期医療に関する意識調査等検討会」において、最期まで本人の生き方(=人生)を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要であることから、「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ名称の変更を行いました。

今回の改訂は、ガイドライン策定から約10年の歳月を経た平成30年3月には、近年の高齢多死社会の進行に伴う在宅や施設における療養や看取りの需要の増大を背景に、地域包括ケアシステムの構築が進められていることを踏まえ、また、近年、諸外国で普及しつつあるACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス)の概念を盛り込み、医療・介護の現場における普及を図ることを目的に「人生の最終段階における医療の普及・啓発に関する検討会」において、次の1)から3)までの観点から、文言変更や解釈の追加を行いました。

1)本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すことが重要であることを強調すること。

2)本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、その場合に本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者も含めて、事前に繰り返し話し合っておくことが重要であること。

3)病院だけでなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう、配慮すること。

加えて、本ガイドラインについて、人生の最終段階における医療・ケアに従事する医療・介護従事者が、人生の最終段階を迎える本人及び家族等を支えるために活用するものであるという位置づけや、本人・家族等の意見を繰り返し聞きながら、本人の尊厳を追求し、自分らしく最期まで生き、より良い最期を迎えるために人生の最終段階における医療・ケアを進めていくことが重要であることを改めて確認しました。

国に対しては、医療・介護従事者が、丁寧に本人・家族等の意思をくみ取り、関係者と共有する取組が進むよう、また年齢や心身の状態にかかわらず、家族等との繰り返しの話し合いを通じて本人の意思を確認しておくことの重要性が、広く国民、本人、医療・介護従事者に理解されるよう、改訂された本ガイドラインの普及を図ることを要望します。

【基本的な考え方】

  • このガイドラインは、人生の最終段階を迎えた本人・家族等と医師をはじ

めとする医療・介護従事者が、最善の医療・ケアを作り上げるプロセスを示すガイドラインです。

2)そのためには担当の医師ばかりでなく、看護師やソーシャルワーカー、介護支援専門員等の介護従事者などの、医療・ケアチームで本人・家族等を支える体制を作ることが必要です。このことはいうまでもありませんが、特に人生の最終段階における医療・ケアにおいて重要なことです。

3)人生の最終段階における医療・ケアにおいては、できる限り早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要です。緩和が十分に行われた上で、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケアの内容の変更、医療・ケア行為の中止等については、最も重要な本人の意思を確認する必要があります。確認にあたっては、適切な情報に基づく本人による意思決定 (インフォームド・コンセント)が大切です。

4)人生の最終段階における医療・ケアの提供にあたって、医療・ケアチームは、本人の意思を尊重するため、本人のこれまでの人生観や価値観、どのような生き方を望むかを含め、できる限り把握することが必要です。また、本人の意思は変化しうるものであることや、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、本人が家族等の信頼できる者を含めて話し合いが繰り返し行われることが重要です。

5)本人の意思が明確でない場合には、家族等の役割がいっそう重要になります。特に、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めている場合は、その者から十分な情報を得たうえで、本人が何を望むか、本人にとって何が最善かを、医療・ケアチームとの間で話し合う必要があります。

6)本人、家族等、医療・ケアチームが合意に至るなら、それはその本人にとって最もよい人生の最終段階における医療・ケアだと考えられます。医療・ケアチームは、合意に基づく医療・ケアを実施しつつも、合意の根拠となった事実や状態の変化に応じて、本人の意思が変化しうるものであることを踏まえて、柔軟な姿勢で人生の最終段階における医療・ケアを継続すべきです。

7)本人、家族等、医療・ケアチームの間で、話し合いを繰り返し行った場合においても、合意に至らない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場を設置し、その助言により医療・ケアのあり方を見直し、合意形成に努めることが必要です。

8)このプロセスにおいて、話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくことが必要です。

1 人生の最終段階における医療・ケアの在り方

① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。

また、本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。

さらに、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。

この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めておくことも重要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 複数の専門家を交えても合意形成が出来ない場合は、どうするのか気になりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*注1 よりよい人生の最終段階における医療・ケアには、第一に十分な情報と説明(本人の心身の状態や社会的背景に鑑み、受ける医療・ケア、今後の心身の状態の変化の見通し、生活上の留意点等)を得たうえでの本人の決定こそが重要です。ただし、②で述べるように、人生の最終段階における医療・ケアとしての医学的妥当性・適切性が確保される必要のあることは当然です。

*注2 医療・ケアチームとはどのようなものかは、医療機関等の規模や人員によって変わり得るものです。一般的には、担当の医師と看護師及びそれ以外の医療・介護従事者というのが基本形ですが、例えばソーシャルワーカーなど社会的な側面に配慮する人が参加することも想定されます。また、在宅や施設においては、担当の医師と看護師のほか、本人の心身の状態や社会的背景に応じて、ケアに関わる介護支援専門員、介護福祉士等の介護従事者のほか、他の関係者が加わることも想定されます。

*注3 医療・ケアチームは、丁寧に、本人の意思をくみ取り、関係者と共有する取組を進めることが重要です。また、本人の意思は、時間の経過や心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、大きく変化する可能性があることから、繰り返し話し合いを行うことが、本人の意思の尊重につながります。

② 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。

*注4 人生の最終段階には、がんの末期のように、予後が数日から長くとも2-3ヶ月と予測が出来る場合、慢性疾患の急性増悪を繰り返し予後不良に陥る場合、脳血管疾患の後遺症や老衰など数ヶ月から数年にかけ死を迎える場合があります。どのような状態が人生の最終段階かは、本人の状態を踏まえて、医療・ケアチームの適切かつ妥当な判断によるべき事柄です。

また、チームを形成する時間のない緊急時には、生命の尊重を基本として、医師が医学的妥当性と適切性を基に判断するほかありませんが、その後、医療・ケアチームによって改めてそれ以後の適切な医療・ケアの検討がなされることになります。

*注5 医療・ケアチームについては2つの懸念が想定されます。1つは、結局、強い医師の考えを追認するだけのものになるという懸念、もう1つは、逆に、責任の所在が曖昧になるという懸念です。

しかし、前者に対しては、医療・介護従事者の協力関係のあり方が変化し、医師以外の医療・介護従事者がそれぞれの専門家として貢献することが認められるようになってきた現実をむしろ重視すること、後者に対しては、このガイドラインは、あくまでも人生の最終段階の本人に対し医療・ケアを行う立場から配慮するためのチーム形成を支援するためのものであり、それぞれが専門家としての責任を持って協力して支援する体制を作るためのものであることを理解してもらいたいと考えています。

特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面については、ガイドライン策定以降、このような側面から大きく報道されるような事態は生じていませんが、引き続き検討していく必要があります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「強い医師の考えを追認するだけのものになるという懸念」は、文面だけではなく、何となくそういう風になった感じがする、くらいの経験を持つ方は多いのかなと思います。ただ、介護専門職に対して敬意を持って接する医師が増えたというのは個人的な感触です。

「特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面」については、リスクを取らない方向にいくのは普通だと思います。

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③ 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要である。

*注6 緩和ケアの重要性に鑑み、2007年2月、厚生労働省は緩和ケアのための麻薬等の使用を従来よりも認める措置を行いました。

*注7 人が人生の最終段階を迎える際には、疼痛緩和ばかりでなく、他の種類の精神的・社会的問題も発生します。可能であれば、医療・ケアチームには、ソーシャルワーカーなど、社会的な側面に配慮する人やケアに関わる介護支援専門員などが参加することが望まれます。

④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。

*注8 疾患に伴う耐え難い苦痛は緩和ケアによって解決すべき課題です。積極的安楽死は判例その他で、きわめて限られた条件下で認めうる場合があるとされています。しかし、その前提には耐え難い肉体的苦痛が要件とされており、本ガイドラインでは、肉体的苦痛を緩和するケアの重要性を強調し、医療的な見地からは緩和ケアをいっそう充実させることが何よりも必要であるという立場をとっています。そのため、積極的安楽死とは何か、それが適法となる要件は何かという問題を、このガイドラインで明確にすることを目的としていません。

2 人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続

人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次によるものとする。

(1)本人の意思の確認ができる場合

① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。

そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏

まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。

② 時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。

③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

*注9 話し合った内容を文書にまとめるにあたっては、医療・介護従事者からの押しつけにならないように配慮し、医療・ケアについての本人の意思が十分に示された上で、話し合われた内容を文書として残しておくことが大切です。

*注10 よりよき人生の最終段階における医療・ケアの実現のためには、まず本人の意思が確認できる場合には本人の意思決定を基本とすべきこと、その際には十分な情報と説明が必要なこと、それが医療・ケアチームによる医学的妥当性・適切性の判断と一致したものであることが望ましく、そのためのプロセスを経ること、また合意が得られた場合でも、本人の意思が変化しうることを踏まえ、さらにそれを繰り返し行うことが重要だと考えられます。

*注11 話し合った内容については、文書にまとめておき、家族等と医療・ケアチームとの間で共有しておくことが、本人にとっての最善の医療・ケアの提供のためには重要です。

(2)本人の意思の確認ができない場合

本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。

  •  家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

*注12 家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます(このガイドラインの他の箇所で使われている意味も同様です)。

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 「親しい友人」も入ることは初めて知りました。

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*注13 本人の意思決定が確認できない場合には家族等の役割がいっそう重要になります。特に、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定め、その者を含めてこれまでの人生観や価値観、どのような生き方や医療・ケアを望むかを含め、日頃から繰り返し話し合っておくことにより、本人の意思が推定しやすくなります。その場合にも、本人が何を望むかを基本とし、それがどうしてもわからない場合には、本人の最善の利益が何であるかについて、家族等と医療・ケアチームが十分に話し合い、合意を形成することが必要です。

*注14 家族等がいない場合及び家族等が判断せず、決定を医療・ケアチームに委ねる場合には、医療・ケアチームが医療・ケアの妥当性・適切性を判断して、その本人にとって最善の医療・ケアを実施する必要があります。なお家族等が判断を委ねる場合にも、その決定内容を説明し十分に理解してもらうよう努める必要があります。

*注15 本人の意思が確認できない場合についても、本人の意思の推定や医療・ケアチームによる方針の決定がどのように行われたかのプロセスを文書にまとめておき、家族等と医療・ケアチームとの間で共有しておくことが、本人にとっての最善の医療・ケアの提供のためには重要です。

(3)複数の専門家からなる話し合いの場の設置

上記(1)及び(2)の場合において、方針の決定に際し、・医療・ケアチームの中で心身の状態等により医療・ケアの内容の決定が困難な場合

・本人と医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

・家族の中で意見がまとまらない場合や、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合

等については、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置し、医療・ケアチーム以外の者を加えて、方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。

*注16 別途設置される話し合いの場は、あくまでも、本人、家族等、医療・ケアチームの間で、人生の最終段階における医療・ケアのためのプロセスを経ても合意に至らない場合、例外的に必要とされるものです。第三者である専門家からの検討・助言を受けて、あらためて本人、家族等、医療・ケアチームにおいて、ケア方法などを改善することを通じて、合意形成に至る努力をすることが必要です。第三者である専門家とは、例えば、医療倫理に精通した専門家や、国が行う「本人の意向を尊重した意思決定のための研修会」の修了者が想定されますが、本人の心身の状態や社会的背景に応じて、担当の医師や看護師以外の医療・介護従事者によるカンファレンス等を活用することも考えられます。

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 調停委員のような役割を果たすのでしょうか。それとも話し合いを促すような役割(ファシリテーター?)を求められるのでしょうか。

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成年後見制度利用促進専門家会議第1回成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ議事録

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000796413.pdf

成年後見制度利用促進専門家会議

第1回成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ議事録

厚生労働省社会・援護局地域福祉課成年後見制度利用促進室

成 年 後 見 制 度 利 用 促 進 専 門 家 会 議第 1 回 成 年 後 見 制 度 の 運 用 改 善 等 に 関 す るワ ー キ ン グ ・ グ ル ー プ

議事次第 日 時:令和3年6月2日(水)14:00~16:00 場 所:オンライン会議

1.開会 2.議事

①有識者等による報告「意思決定支援ガイドライン」②意見交換

3.閉会

2021-6-2 成年後見制度利用促進専門家会議 第1回成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ

○新井主査 それでは、定刻となりましたので、ただいまから成年後見制度利用促進専門家会議 第1回「成年後見制度の運用改善等に関するワーキング・グループ」を開催いたします。

委員の皆様方におかれましては、大変お忙しいところをお集まりいただいて、誠にありがとうございます。

これまでのワーキングの司会をされていた上山先生からバトンタッチを受けまして、本日は新井が担当いたしますので、よろしくお願いします。少しPCに不慣れなところがありますけれども、一生懸命やりますので、よろしくお願いします。

なお、今日は、障害者権利条約の理念を尊重して、全員「さん」とお呼びしますので、あらかじめ御了承ください。

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 「障害者権利条約の理念を尊重して、全員「さん」とお呼びしますので」こういうところまで議事録に残るのは、面白いなと感じます。

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このワーキング・グループは、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、ウェブ会議システムを活用しての実施としております。

また、傍聴席は設けず、動画配信システムでのライブ配信により、一般公開する形としております。

まず、本日の委員の皆様の出席状況について、事務局から報告をお願いいたします。

○成年後見制度利用促進室長 厚生労働省成年後見制度利用促進室長の松﨑でございます。

それでは、本日の出席者等について、確認します。現在、御覧のとおりの出席となっています。なお、瀬戸委員に関しましては、先ほど欠席との御連絡がありましたので、この点、申し添えます。

続きまして、ウェブ会議における発言方法を確認します。発言される場合は、zoomの「手を挙げる」機能を使用ください。発言者は、主査から指名しますので、指名に基づき御発言をお願いします。

「手を挙げる」機能を使用しているにもかかわらず、発言希望の意思が会場に伝わっていないと思われる場合には、ウェブ会議システムの「チャット」機能等で会場へ御意思をお伝えいただくことも可能です。ただし、原則としては、zoomの「手を挙げる」機能の使用をお願いします。

なお、チャット機能等で御記入いただいた内容は、ウェブの画面及び配信画面においても表示されます。この点、御承知おきください。

よろしくお願いいたします。

○新井主査 ありがとうございました。

報道関係者の皆様におかれましては、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。

それでは、議題1「有識者等による報告」に入りたいと思います。

本日は「意思決定支援ガイドライン」に関して、3件の報告と質疑応答をして、その後に全体を通しての意見交換を行います。

本日の議題に入る前、事務局から、本日のワーキング・グループに関連する基本計画等の資料等の説明をお願いいたします。

○成年後見制度利用促進室長 事務局です。今回は、意思決定支援ガイドラインということで資料をまとめています。こちら、現行の基本計画のKPIということでございまして、意思決定支援に関係しましては、こちらに御覧のとおり、医療に係る意思決定が困難な人への円滑な医療・介護等の提供といった項目が掲げられているということです。

意思決定支援、実は今、御覧いただいたもの以外にも幾つかあります。1つ目が「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」です。こちらのガイドラインの趣旨ですけれども、障害者総合支援法においては、障害者が「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保」される旨を規定し、指定事業者や指定相談支援事業者に対し、「意思決定支援」を重要な取組として位置づけている。こういったことも受けまして、意思決定支援の定義や意義、標準的なプロセスや留意点をまとめたガイドラインを作成したということです。

内容としては、こちらの基本原則でまとめています。

1つ目は、本人への支援は、自己決定の尊重に基づき行うこと。

2つ目、職員等の価値観においては不合理と思われる決定でも、他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重するように努める姿勢が求められるということ。

そして、3つ目が、本人の自己決定や意思確認がどうしても困難な場合は、本人をよく知る関係者が集まって、様々な情報を把握し、根拠を明確にしながら意思及び選好を推定するといったことが原則として掲げられておりまして、こちらのガイドラインは平成28年にできたものですけれども、各種職員研修等でも活用されているということです。

次が高齢者ということでございまして、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」です。こちらのガイドラインの趣旨は、上に掲げております。

認知症の人に関わる人において行われる意思決定支援の基本的考え方や姿勢、方法、配慮すべき事柄等を整理して示して、これによって、認知症の人が、自らの意思に基づいた日常生活・社会生活を送れることを目指すものということです。

基本原則を書いております。認知症の人が、意思決定が困難と思われる場合であっても、意思決定しながら尊厳をもって暮らしていくことの重要性について認識することが必要。

そして、本人の示した意思は、それが他者を害する場合や本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合でない限り尊重される。また、意思決定支援に当たっては、身近な信頼できる関係者等がチームとなって必要な支援を行う体制(意思決定支援チーム)が必要であるといったことが基本原則です。

30年にできたガイドラインで、こちらも障害と同様に各種研修につなげられているということです。

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 おそらくガイドラインについて、見直しが行われるのだと思います。

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次が、最初に御紹介いたしました医療関係で、身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインということです。

背景は、実は成年後見以外にももう一つありまして、こちらです。「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」で、病院・福祉施設等が身元保証人等に求める役割等の実態を把握するということになります。

成年後見におきましても、被後見人に関連しまして、医療・介護等を受けるに当たり意思を決定することが困難な人が、円滑に必要な医療・介護等を受けられるようにするための支援の在り方と、その中における成年後見人等の事務の範囲について、具体的な検討を進め、必要な措置が講じられる必要があるといった記載があるということで、医療の現場における「身元保証・身元引受等」の役割や成年後見制度について、実態を把握する必要性があるといった流れがございまして、概要に入ります。

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おそらく身元保証についても、実体把握からガイドライン作成まで進むのではないかと思います。

沖縄県でも、徐々に体制が出来つつあります。

参考

主体は東京本社の企業ですが、運営は(株)琉球新報開発という新聞社関連の企業なので、一定の信頼はおけるのではないかと思います。http://pluslifesupport.or.jp/archives/2759

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これでガイドラインができたということでございまして、読み手は、当然医療機関に勤務する方々です。対象者が、身寄りがない人に加えまして、家族・親族に連絡がつかない人や、家族の支援が得られない人です。

医療機関が現行、どういったことを求めているかということですけれども、御覧のとおり、緊急の連絡先、入院計画書、入院中に必要な物品の準備等、ここに掲げられているものがございます。

ここで※印に書いていますけれども、「身元保証・身元引受等」に対して医療行為の同意をする役割を期待している事例もあるけれども、医療行為の同意については、本人の一身専属性が極めて強いものであって、「身元保証人・身元引受人等」の第三者に同意の権限はないと考えられるといった記載があります。

具体的には、こちらですけれども、判断能力が十分な方や、不十分で成年後見を利用している場合、利用していない場合に具体事例を示した上で、実際、こういった意思決定が困難な場合には、こちらにある、意思決定が求められる時点で本人の意思が確認できない場合には、関係者や医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要があるということです。

このときの考え方ですけれども、家族等が本人の意思を推定できる場合には、推定意思を尊重して、本人にとっての最善の方針を取ることを基本とする。

そして、家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し、本人にとっての最善の方針を取ることを基本とする。そして、時間の経過、心身の状態で変わり得るもので、このプロセスを繰り返し行っていくということです。

成年後見人等に期待される役割ということですけれども、本人の意思決定が困難な場合において、成年後見人等が以下の役割を果たすことで、円滑に必要な医療を受けられるようにすることが重要。契約の締結、身上保護、本人の意思の尊重、ここで掲げているような取組です。

次が、成年後見に関連いたしまして、意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインというものです。これは、本日のプレゼンテーションでもまた触れられますので、私のほうでごくごく簡単に触れておきたいと思います。

ガイドラインの趣旨ですけれども、ちょっと見にくくて申し訳ございません。後見人等を含め、本人に関わる支援者らが常に、全ての人には、自分のことを決める力があるといった前提に立って、後見人等に就任した者が、意思決定支援を踏まえた後見事務等を適切に行うことができるように、何が後見人等に求められているかの具体的なイメージを示すといったガイドラインです。

どういったときに後見人として意思決定支援を行うかということですけれども、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為、それに付随した事実行為です。

プロセスとしては、支援チームによる対応ということで、意思決定支援のための環境を整備していきましょう。そして、関係するチームを支援して、本人を交えたミーティングをして、意思が表明された場合にどうやって対応していくかといった所々で、後見人として必要なチェックを行っていくということです。

こちらが難しい場合には、代行決定のプロセスということです。ここに掲げておりますように、本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならないということで、極めて限定的な運用にされています。

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 後見等、後見人、成年後見人などの用語が使用されていますが、補助人、保佐人、任意後見人についても同じような考え方で良いのかなと思いました。

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こちらに掲げているのが具体的にということですけれども、そもそも意思決定や意思確認が困難と見られる局面と、本人にとって見過ごすことができない重大な影響が懸念される局面というところで、限定的にというお話です。

それ以降の資料は、今、紹介いたしました各ガイドラインを比較したものということです。

あと1点、資料を共有します。基本計画の関係です。実は、今回の資料はほとんど意思決定支援に関係するものばかりということで、重要となる1つのコアとなる概念だけ共有できればと思っています。意思決定に関係してですけれども、後見人は、本人の自己決定権の尊重を図りつつ、身上に配慮した後見事務を行うことが求められており、後見人が本人に代理して法律行為をする場合にも、本人の意思決定支援の観点から、できる限り本人の意思を尊重し、法律行為の内容にそれを反映させることが求められるといったことが掲げられているということです。

私からの説明は以上です。よろしくお願いいたします。

○新井主査 ありがとうございました。

それでは、有識者の報告に移ります。まずは、豊田市の加藤さんからお願いいたします。

よろしくお願いします。

○加藤参考人 それでは、豊田市の取組を発表させていただきます。

本日の話の内容ですが、意思決定支援に関することとしまして、特に3番にある豊田市意思決定支援ポイント集の作成を中心的に話していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

こちらのスライドは、豊田市の概要を示しております。面積がとても広くて、都市部と山間部との間で社会資源とかも違っていたり、私が日々支援の中で感じていることとしては、産業都市ということもあって、県外出身の方が多くいるというのも、うちの市の特徴ではないかなと感じています。

こちらのスライドは、豊田市の市全体の総合計画のスライドになります。豊田市全体として課題共有、施策推進を図っていくために、総合計画にも位置づけ、権利擁護の取組等を載せています。こうしたことをすることによって、企画政策部門とか財政部局といったところとも連携・合意が図りやすいという体制づくりを取っています。

続いてのスライドですけれども、ここから意思決定支援に関する部分に入っていきたいと思います。豊田市が意思決定支援に関する取組を進めるに至った背景についてのスライドになります。まずは、成年後見支援センターの実践からの気づきが1点目になります。

センターが中核機関として広報などに取り組んでいく中で、多くの方たちから、エンディングノートに絡めて出前講座をやってくれないかといった声を多くいただく形になりました。

また、後見支援センターは、法人後見の業務も行っております。その中で、余命宣告された方の在宅生活の支援に携わり、チームの一員としてサポートに加わっていきました。

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 法人後見については、収支をみたいと思います。

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在宅で亡くなることに不安を感じる大家さんといった方たちとの調整もずっと図りながら進めてきました。そういった大家さんであったり、チームのみんなといろいろと意見交換していく中でも、在宅、ここで住みたい、ここでみとりを受けたいといった意思決定支援はとても大事だねという意見がやり取りの中で共有され、その大切さから豊田市の成年後見制度利用促進計画にも事業として位置づけるという動きになっていきました。

こちらは、意思決定支援の取組を進めるに至った経緯の2つ目になります。医療や福祉の多職種の方と合同で、ACPのテーマで研修会を開催しております。その研修を通じて、自分とは違う職種の、ほかの職種の方を意識して、体制整備、環境づくり等をやっていく必要があるのではないかといった意見であったり、専門家も含めて、市民の方々にまだまだこの意思決定支援が知られていないねといった広報・啓発の大切さも、認識させていただきました。

今、触れた後見センターの実践を踏まえた形と、医療等の研修の場といった2つの背景を基に、豊田市で行う意思決定支援に関する取組の柱は、左にあります環境整備と普及啓発の2本にしていく形になりました。具体的な取組として、今日、中心的にお話ししていく意思決定支援ポイント集の作成であったり、その他、いろいろな事業に取り組んでいくことになりました。

先ほどのスライドに幾つかの取組の掲載がされていましたが、取組を進めていくに当たり、検討を行う場が必要ということで、ワーキング・グループを設置しました。メンバーは、こちらのスライドに載っているとおりですが、福祉だけでなく、在宅医療の関係者と一緒に考えていく体制というのを、ワーキングの中でも整えたというのが1つポイントかなと考えています。

また、意思決定支援をする役割を担う立場として、中核機関である成年後見支援センターであったり、市の総合相談課も、このワーキングには関わりを持って参加していくという形になりました。

ここから、先ほどのワーキングの取組の一つである意思決定支援ポイント集についての説明をさせていただきます。このスライドには、ポイント集の全体概要等が載せてあります。それから、事前に参考資料としても提示させていただきましたので、また詳しくはそちらのほうを見ていただければと思います。

まずは、このポイント集をつくるに至った背景を説明させていただきたいと思います。

1つは、先ほどの説明にもありましたけれども、厚労省から各種ガイドラインが出されているけれども、1人の人として考えたときに、どのガイドラインを使ったらいいのかというのが分からないといった現場の声。もう一つは、豊田市の考え方の基盤が、対象や世代を問わないという包括的支援を目指すものであり、この意思決定支援においても同様の取組をしていくといった考え方がベースになっています。

検討の結果、ポイント集は、意思決定支援をする上での心がけという形でまとめることになりました。こうしなさいというルールにしてしまうと、こういうときはどうすればいいのという声が挙がってしまうだろう。その声に個別に対応していくというのは、ちょっとしんどいなということで、どこに気をつけてほしいかという、職種が違ったとしても共通して押さえておいていただきたいポイントをまとめる。これが駄目ですといったような行動を制限したいというわけではなくて、本人の意思がしっかりと反映されて、こうしたいという思いの実現に近づけていくという市民サービスの向上といった面からも、ポイント集という形でまとめるのがいいのではないかということになりました。

ポイント集の作成では、多職種参加型でワークショップを実施しています。スライドにあるみたいに、非常に多くの職種の方に参加していただきながら、いろいろな意見を交わしました。そこで気づいたことになるのですけれども、意思決定支援と一言で言っても、それぞれの立場によって捉え方とかイメージするものが違っているというところです。

高齢者の支援とか医療の立場の人からは、人生の最期といったところもイメージするというのが非常に強く打ち出されてくるのですが、ふだんから知的障害、精神障害者などを支援している方たちになってくると、今日何が食べたい、今どうしたいという、今をイメージした捉え方になります。こういった捉え方の違いがあるのだとか、どうしても答えが欲しくなってしまうところだけれども、答えは出さないということも一つの選択で、これも支援のポイントじゃないか、答えを出さないということもあるという意見。こういったいろいろな意見が出て、ポイント集をまとめる上でのヒントとして、こうした多職種で一緒に話す場というのが非常に有効的であったと考えています。

このスライドには、取組を通じた気づきから、ポイント集の果たす役割をまとめてみました。

1つは、スキルを身につけるとともに、支援者自身が苦手とすることへの気づき。ここから人材育成につなげるといった質の向上。

2点目は、参考書として活用することで、本人や家族の意思を引き出す。そして、支援者同士が、何がいいのかといった検討を介してつながっていく。こういったきっかけの役割があるのではないか。そのために、ポイント集には、手にした人が発想を広げていけるように、事例紹介のページもたくさん取っていて、そこでは、こうした、その結果こうなったということだけではなくて、こういうところで苦労したということも掲載するようにしています。

3つ目の役割は、引き出せた意思を記録して、次の展開へとしっかりとつなぎ止めていくこと。この積み重ねるといったことが非常に大切なことなのではないかと考えています。

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 記録の方法が知りたいと思います。

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本人の意思は、時間の経過や、そのとき置かれている状況によって変わっていくものですし、その移り変わりの足跡もきっちりと共有していくことが大切なのではないかなと思います。そうしたことを繰り返していくことによって、単純に支援する側とされる側という関係だけじゃなくて、1人の人として、本人に興味がわくといったことから、知りたいと思う気持ちもわいてくるでしょうし、知ることができたということにもつながって、そのことがうれしいというお互いの関係性づくりにも役に立つのではないかという面でも、このポイント集の役割があるのかなと考えています。

取組のまとめになります。

まず、1人の人として見ていくのだから、共通の考え方が必要ではないかといったこと。

2つ目、これだといったルールを決めるのではなく、いろいろな発想につながるものが求められているのではないかということ。先ほども話したとおり、考え方や意思というのは人それぞれで変わっていくものだからこそ、ルールよりも自由な広がりといった捉え方のほうがしっくりくると思います。個別支援の場面において、こうしなければならないといった正解はなかなかないのかなと思いますし、原則がイコール正解でもない。こういったところは、しっかりと押さえておく必要があるのかなと思います。

3つ目、チームとして関わっていくからこそ、共通認識を持つこと。それぞれがしっかりと学んでいく機会が得られることが重要だと思います。先ほど、職種によって意思決定支援といったときのイメージ、今のことなのかとか、終末期のことなのかという話もしましたけれども、どちらが正解というわけでもなく、それぞれがそれぞれに合ったことをしっかりと学んでいく。そして、相手のことも知る、お互いを尊重していくといったところが大事だなと感じています。

4つ目、プロとしての支援者だけではなく、地域住民の巻き込みも行っていくところが大事ではないかなと考えています。これによって、支援に厚みも生まれてくると思いますし、支援が必要な人も含めて、あらゆる人の社会参加の糸口、つながりになってくるのではないかと考えています。

豊田市のポイント集作成の過程において、マニュアルではないですよということは繰り返し伝えてきました。それを繰り返し伝えてきたこと自体に意味があったのかなと思っています。この繰り返し伝えていくという中で、意思決定支援というものがメンバーみんなの中にしみわたっていくといったことが得られたのではないかということで、繰り返しの発信というのがとても大事だなと感じています。

では、最後に、今後について少し触れていきたいと思います。スライドのほうには、4点ほど記載してあります。記述のとおりですけれども、今後、取組を進めていく上で特に気にかけているのが、本人の参加、本人も交えてどう進めていくかという点になります。

昨年度、豊田市では、成年後見制度の利用促進計画、それから後見制度のパンフレットの分かりやすい版の作成をしました。

この作成の過程において、知的障害の当事者の方たちとワークショップをしながら作成したのですけれども、このときに成年後見のことを話すと、お金の管理って何というストレートな意見であったり、豊田市と分かるようなイラスト、豊田スタジアムをイラストとして書いてよ。そのほうが見たくなるというような意見を出してもらいました。なるほど、自分のこととして捉えるときに、そういったイラストを入れたりということもあるのだなとか、本当に素直な意見、捉え方も直接交えて聞けたということ自体に非常に意味があったと考えていますし、これからもこうした機会というのは、折を見ながら設けていけたら

なと考えております。

もう一つとして、4点目にも書いた、市民による意思決定支援といった部分になります。

ふだん、私自身も支援者側というか、市役所の職員として本人と対面しているのですけれども、この間、大勢の支援者に囲まれた本人がどんな気持ちなのかなというのを、ふと考えさせられるような場面がありました。もしかしたら、プロというか、専門家と言われる方たちに囲まれて、どきどきしてしまったり、自分はこんなことを思っているのだけれども、こんなことを言っていいのかなということを感じることはあるのではないかなと思います。

そんなときに、専門家と言われる人たちじゃなくて、普通の市民と言われるような、それに近い人たちが隣にいてくれると、それだけで安心するとか、あなた、自分の意見を言ってもいいんだよとか、ちょっと背を押してくれるといったことがあると、こういった意思決定支援がもう少しスムーズにいくのかなと。そういったところは、市民だからこそできることだと思うのですね。これから、市民だからこそというところにもう少し注目しながら、取組の検討とかが必要なのではないかというのを感じています。

ここまで、豊田市の取組のことを説明させていただきました。意思決定支援に関しては、取組を進めていく上でも正解というのが見つかったという形ではない。ただ、その分繰り返し学んでいく、みんなと意見を交わしていく、そのことが大事なのだというのが本当に身にしみるような感覚が持てたというところは、ほかの市町に発信していったり、これからも仲間と共有していきたいところかと思います。

豊田市の報告は以上になります。

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 良い事例集のような自治体の取組みを参考にしてガイドライン、ポイント集などが策定されていくのかもしれません。自治体によってかなり状況が違うので、計画を一切作っていない自治体の人を呼んでも良いのかなと思います。

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○新井主査 加藤さん、どうもありがとうございました。とりわけ、時間をきちんと守っていただいたことについては、感謝申し上げます。

それでは、質疑応答に移ります。質疑応答の時間は10分を予定しておりまして、画面にタイマーをセットします。また、できるだけ多くの方から質問をいただけるように、簡にして要を得た質問と回答をお願いいたします。

それでは、ただいまの報告に質問がある場合、zoomの「手を挙げる」機能で挙手をお願いいたします。いかがでしょうか。

では、青木さん、お願いします。

○青木委員 ありがとうございました。

このポイント集ですけれども、具体的にこれからどんな場面で活用されていくとか、あるいは配布、どれぐらい印刷するのか、データ上なのか分かりませんが、どのように普及していくか。実際、活用して好事例みたいなものがあったか、何かそういったことを御紹介いただければと思います。

○加藤参考人 実際に作成した冊子のほうは、昨年度はコロナの影響等もあって、思うように発信というよりは、中をもう一度見つめ直すという作業を進めていった形になるのですけれども、今年度からしっかり啓発や、周知というところで、研修会というのも考えています。そういうときには、先ほど触れたこともありますけれども、多職種参加型で、いろいろな人と交わりながらやっていくというところも大事だと思っています。

それから、これがルールブックでもないので、いろいろな使い方があるのかなと。意思決定支援に関わってきた人たちの経験値によって、まだまだこれからという人に関しては、先ほど言っていました研修みたいなものも有効になるでしょうし、経験豊富な方だと、自分がやった取組の振り返りで、より高めていってもらうというセルフチェックみたいな使い方もできるのかなと思っています。なので、ホームページとかにも掲載して、このことは広くお知らせしていって、各自入手しながら波及していっていただくといったことを想定しています。

○新井主査 ありがとうございました。

続いて、星野さん、お願いします。

○星野委員 社会福祉士会の星野です。本日は、ありがとうございました。

とりわけ専門職だけではなくて、市民の方が意思決定支援について深めていくということは、非常にすばらしい取組だなと思って聞いていました。御説明の中でも、市民後見人の養成講座の中で意思決定支援を学ぶ科目があるということだったのですが、具体的にどんな内容でやっていらっしゃるか。さらに、受任されない方でも市民目線で意思決定支援について理解していくために、具体的にどんなことをこれからやられるのか、教えていただければと思います。

以上です。

○加藤参考人 市民後見人の養成講座の中で話しているのは、まさにポイント集に書かれているようなことがメインなのですけれども、まずは、どんな方にでも意思というのがあるのだ。それをすっ飛ばして、第三者である誰か、ましてや後見人が決めていいことじゃ

ないのだということを、そこをまずしっかりと押さえていくこと。誰にでも意思があるのだといったところをしっかり押さえるというところは、講座の中でポイントとしてやっています。

市民後見人の活用というところは、まだ組織として具体的な話ができているわけではないので、個人的な意見にもなってしまうのですけれども、研修を修了しても受任待ちというか、実際に後見人として動いている人はまだごく一部で、そうでない方たちも大勢見えるのですね。そういった方たちに、訪問のときに一緒についてきてもらうとか、場合によっては、さっき言ったみたいに、この方たちだけがいて、市民感覚で触れ合うような場みたいなものを積み重ねていくというのは大事じゃないのかなと思っていまして、そういったところをちょっと考えていきたいなと思っております。

○新井主査 星野さん、よろしいですか。はい。

それでは、ほかに質問はいかがでしょうか。大丈夫ですか。

それでは、後の意見交換のところで時間を取るために、ここで第1の報告については終了といたします。加藤さん、どうもありがとうございました。

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 市民後見人については、養成講座にかかる費用と時間、市民後見人と後見センターとの関わり、市民後見人の報酬について知りたいと思いました。

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では、次に、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の高橋さんから報告をお願いいたします。

○高橋参考人 よろしくお願いいたします。

それでは、後見人等への意思決定支援研修の取組ということで、みずほリサーチ&テクノロジーズの高橋のほうから御報告させていただきたいと思います。

まず、弊社、4月1日に合併いたしまして、ちょっと長い名前に変わりましたので、まだ慣れていないところがありますが、変わったのだなということだけお見知りおきいただければと思います。

では、早速報告のほうをさせていただきたいと思います。

まず、背景及びこれまでの弊社取組ということで、背景につきましては、先生方、よく御承知のとおり、何よりも利用者がメリットを実感できるような制度・運用としていくことで、その中でも意思決定支援というものが大事だということが言われていると思います。

このような流れを受けまして、弊社では令和元年度に、下のほうになりますが、社会福祉推進事業「後見人等への意思決定支援研修の在り方検討」ということで、調査研究事業をさせていただきました。

また、同年、令和元年度、最高裁判所、厚生労働省及び専門職団体の皆様が集まられた、意思決定支援のガイドラインをつくるワーキング・グループへもオブザーバーということで参加させていただいて、上の調査研究事業の内容をワーキング・グループのほうに報告させていただきながら、ガイドラインの策定のほうにも少し関わらせていただきました。

それで、令和2年度には、厚生労働省の委託事業としまして、「後見人等への意思決定支援研修」を実施してまいりました。

今日は、こちらの一番上の社会福祉推進事業、調査研究事業のほうで、どんなことを課題として皆さんで議論してきたのかとか、また、昨年度、令和2年度、意思決定支援研修を実際やってきて、今、どんな課題があるのかについて、進捗を併せまして皆様に御報告させていただきたいと思ってございます。

では、次のスライドですが、まず、社会福祉推進事業で行いました在り方検討の調査研究事業のほうについて説明させていただきます。こちらは、検討委員会及びワーキングというものを立ち上げさせていただきまして、3つほど会議体をつくって、たくさんの有識者の方に集まっていただいて検討を行いました。また、専門職への全国的なアンケート調査であったり、ヒアリング調査といったものを行いながら、どのような研修をしていったらいいのかという研修プログラムを、皆様と知恵を絞りながらつくるといったことをやらせていただきました。

それで、検討委員会のほうは、本日主査を務められております新井先生のほうに、取りまとめの座長をお願いさせていただきまして、研修プログラムの検討及び承認の全体的なところを検討していただいております。

また、この検討委員会の下に後見事務ワーキングを設置させていただきまして、意思決定支援を踏まえた後見事務全般に関するワーキングということで、意思決定支援であったり、身上保護の側面を通して、どうやったら利用者がメリットを実感できる運用にいかにしていけるのか。そのためには、どういった研修が必要なのかということを、こちらのほうでは検討していただきました。こちらの取りまとめは上山先生にしていただいてございます。

もう一つが、財産管理ワーキングということで、本人の意思を尊重して、本人らしい生活を送るための財産活用。財産管理をどうしていくのか。身上保護以外の財産管理を、福祉的なところも重視した財産管理の運用ということについても検討させていただきました。

こちらのほうは、小賀野先生に座長、取りまとめをお願いしまして検討してきました。

では、ワーキングの中でどのような検討を行ってきたのかということを少し御紹介していきたいと思います。

まず、1つ目は、後見事務ワーキングというものでございます。これは、全5回開催しました。一番最初に、研修のあるべき姿、どういう問題意識があるのかというものを委員の先生から出していただきまして、前半の2回で研修の骨格について議論して、後半のほうには、研修の内容の具体化、どういったものを伝えていくべきなのかといったものについて検討した。こんな形でワーキングを進めさせていただきました。

特に、ワーキングの中で議論があった点を報告させていただきますと、意思決定支援に対する気づきというものが一番重要ではないかということで、意思決定支援の面白み、また、やりがいといったものを感じられるような研修内容にしたらいいのではないかといった御意見を先生方からいただきました。

一方で、意思決定支援というのは、実践ということが一番重要になりますので、座学ではなかなか伝わり切れないという御指摘。なので、こういったものを補っていくためにも、ビデオの活用とか参加型のワークショップみたいなものに取り組んで、研修を続けていったほうがいいといった御意見をいただきました。この辺りは、後半で御説明させていただくのですが、ビデオ教材というものを作ってワークショップをしていこうという先生方の御意見を取り入れて作ってきました。

あと、下のほうに、研修を行っていったときの目的に関係するところですが、この意思決定支援というのを地域で盛り上げていくためには、地域で担っていただけるリーダーを人材育成していく必要があるのではないかといった御意見がありました。あと、共通のガイドラインができるということもありまして、共通知識、きちんとした基礎を皆様で共有していくといった両方があるという議論がございました。

今回、国でやっていく事業もありますので、どちらかといえば②の共通知識の共有のところに集中していって、それをベースに、各専門職団体であったり、中核機関における研修事業のほうにつなげていくベースのものをつくり上げていこうといった議論が、後見事務ワーキングの中でございました。

こういった議論を踏まえて、シラバスというものを作成させていただきまして、研修の目的であったり、研修の目標、どういった内容をどういったスケジュールでやっていくのかということを決めさせていただきまして、ワーキングの中で、教材の中身であったり、そういったものも議論させていただきまして、調査研究の成果として検討委員会のほうでも承認したという経緯でございました。

もう一つ、財産管理ワーキングをさせていただいたのですが、こちらは全部で2回行いました。まず、財産管理というのは多種多様でございますので、第1回目では、どんな取組があるのかという全国的な取組事例を持ち寄って、先駆的な取組を皆で共有させていただきました。それを踏まえて、財産管理について、研修プログラムの中でメッセージをどのように発信していったらいいのかということを、各先生方からいろいろな御意見をいただいたといった形で、財産活用ワーキングのほうを行わせていただきました。

それで、10ページ目に財産活用ワーキングにおける研修に向けた議論の結果を載せておるのですが、実際には、ワーキングの中で、これが財産管理だといったものの結論が出たわけではございません。ただし、後見事務を行っていくに当たって、財産管理というのも本人の望む生活というものをいかに実現させていけるか。本人の状態であったり、本人の意思をしっかり酌み取って、本人の財産や資産状況に応じた後見事務を行っていくことが必要だろう。そのためには、どういった注意点があるのかといったものを各先生方から議論をいただきました。

ちょっとだけ御紹介させていただきますと、単年度の収支で考えがちなところではあるのですが、中長期の視点が一番大事であって、本人の状態が移り変わっていくというのも考慮しながら、中長期的に計画を立てていくことが一番重要じゃないか。

あと、その人の特徴に応じた財産管理というのをしていく必要があるだろう。

あと、そのためにはコミュニケーションというものが一番重要であったり、コミュニケーションをしながら、特に自由に使えるお金みたいなものを、本人といろいろ話し合っていくことも大事なのではないかといった議論をいたしました。

あと、生活基盤を支えるために最低限度のものは確保するなど、財産管理の意思決定支援では、メリットとリスクについてきちんと説明するというものが必要であるだろうということを、様々な御意見とか御指摘をいただきまして、こういったものをベースにしまして、エッセンスを研修の教材のほうに織り込んでいくという形で進めさせていただきました。今のような財産管理のところも結論が出ないままですが、注意点を少し教材に織り込ませていただいております。

それで、令和2年度の実際の後見人等への意思決定支援研修というものをどのようにやったのかというのを、ここから御説明させていただきたいと思います。こちらは、チームによる意思決定支援の下で後見事務を進めるための研修というものを、全国15か所で実施させていただきました。こちらの事業の進め方としまして、検討委員会、及び映像コンテンツを作るということがございましたので、作業部会というものをつくらせていただきまして、こちらのほうで映像コンテンツを作成させていただきまして、関係者へヒアリングを行い、内容を確認しながら、各委員会に承認いただいて研修をしたということでございます。

検討委員会のほうは、同じく新井先生に座長、取りまとめをお願いいたしまして、研修の事業全体の確認であったり、教材のチェック。最後に、事業の全体の評価と今後への課題の検討ということをしていただきました。

あと、作業部会のほうは、4回ありましたが、取りまとめを上山先生にお願いいたしまして、特に研修で使う映像教材について、ディスカッションしながら作り上げていきました。撮影のほうは、協働プラットフォーム様のほうにかなり御尽力いただいたので、感謝申し上げたいと思います。

では、実際の研修の実施内容について紹介したいと思います。

研修のプログラムですが、朝10時から始まって、夕方5時までということで、大変長い研修でございます。第1章は、意思決定支援と代行決定ということで講義形式。第2章は、後見事務における意思決定支援研修ということで、こちらも30分の講義形式でさせていただきまして、1時40分から第3章 意思決定ガイドラインということで、こちらが映像教材を使った演習でグループワークをしていただくという形で、講義と演習の丸1日で意思決定支援というものを学んでいただくプログラムになってございます。

次の15ページ目に移りますと、こちらの研修の教材ですが、調査研究等の御意見を踏まえて、参加者が気づきを得られるように、理論ではなくて、少し感覚的に意思決定支援というものを理解していただこうということで、イラストとかを多用しまして、内容について感覚的に分かるものを目指して資料を作らせていただきました。

次のページから6ページほど、演習教材の実際のスライドを入れさせていただいております。実際には、その中の第1章にあります、意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則ということで、原則、一番中心となるところでございます。こういったものを、説明のほうは省略させていただきたいのですが、感覚的に分かるように、1つ目は、意思決定能力というのは、個人の能力、プラス支援者の支援力で構成される。法律的な意思能力とは、また別の概念ですよみたいなことを御紹介させていただきながら、原則、本人に決める力があるという形の、ガイドラインに書かれている表記、プラスどんな内容なのかというのを、イラストと分かりやすい解説みたいなもので御紹介していくという形で、教材のほうをつくらせていただいてございます。

こちらは、後見事務のガイドラインに即したというよりも、ある程度一般的な意思決定支援に即した形に、それが理解できるように配慮して作らせていただいたものでございます。

少し説明のほうは割愛させていただきます。

25ページ目に進みまして、こちらの教材とビデオ教材のほうを御用意させていただきました。1つ目は、ロールプレイ教材としまして、受講者に、後見人に一方的に決めつけられたり、勝手に決められたらどんな気持ちになるのかというものを擬似体験していただこうといったプログラムを、1分、2分の簡単な教材を見て、自分が勝手に決められたら、こんな気持ちになるんだ、勝手に決められたら嫌だなということを感じていただく、まずトライアルして擬似体験していただく教材をつくってございます。

2つ目は、一方でよい事例ですが、ドラマ教材ということで、ドラマ仕立てでケースを取り上げさせていただきまして、どうやったら意思決定支援ができるのかというプロセスをドラマにして、受講者の皆様はそれを追体験しながらプロセスを学んでいただくという工夫をしまして、これを実際に演習の中で見ていただきながら、グループでディスカッションしていただいて、プロセスについて、より理解していただくという研修をいたしました。

特に意思決定支援で大事となる場面を抽出して、グループワークをしていただいたという形になってございます。

あと、今回、全国で15か所やりましたので、30名ぐらいの講師の先生方に御協力いただきました。ですので、講師の先生方には説明会に御参加いただきまして、どのように講習していったらいいかということも共有させていただいて、全国で講義・演習ができるようにということで支援させていただきました。

また、こちらは、全国の研修専用ホームページを作って、皆様のほうから申請していただいて、参加者を募集したということでございます。オンラインのグループワークの実習のために、定員がありましたので、上限を設定させていただきました。

こちらのほうが、昨年度、研修を実際行わせていただいた箇所でございますが、全国を15ブロックに分ける形になってございますので、各ブロックから幾つか都道府県を設定させていただきまして、昨年度は15か所、行わせていただいてございます。

あと、新型コロナによる緊急事態宣言も出されておりましたため、集合研修は中止させていただきまして、オンライン研修のみで実施したということでございます。実際には2800名ぐらい申込みをいただきまして、抽せんの結果とかもございましたので、2300名から2400名の方に受講していただきました。

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2300名は多いと感じます。

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結果ですが、参加者にこちらの研修の満足度及び研修の理解度というものをアンケートの中で取っているのですが、90%を超える参加者が「とても満足」プラス「まあまあ満足」というところでございますが、こういったものを合わせますと、90%を超える方に満足できた、研修内容を理解できたという御意見をいただくことができました。

あと、今後自らの後見活動に役立てたいことということで、いろいろな御意見もいただいておりまして、一番最後だけ御紹介させていただきますと、「『私のことは私とともに決めてほしい』、この当たり前のことだけれども、意外とできていないことを常に頭において活動したい」といった受講生の方の御意見をいただきまして、先生方からも好評いただいたところでございます。

あと、報告書や今回作りました教材、ビデオも含めまして、全て著作権とかは厚生労働省様に帰属のものでございますので、印刷して皆様に配布したり。あと、厚労省様の成年後見制度のポータルサイトというものがございますので、こちらのほうに全て公表させていただいておりますので、皆様に積極的に活用いただければと思ってございます。

最後ですが、今後の課題としまして、リモート研修であったため、長時間でかなり詰め込んでしまったということで、参加しやすさを工夫してほしいという御意見をいただきました。あと、できれば集合研修もしていただきたいということもいただいています。

あと、満足度が90%と大変高かったのですが、意思決定支援に関心のある方とか好意的な方が研修に参加されてしまっている傾向があるかもしれないということで、もっといろいろな方に周知して積極的に参加してもらうような工夫が必要ではないかという御指摘をいただいております。

あと、全体を通じて、1人で決めない、周りに聞いてみるということだけでも気づいてもらえるように、研修をブラッシュアップして継続してほしいというお声であったり、ちまたでは、共同決定や代行決定がベースであるにもかかわらず、意思決定支援と言っている間違ったものも少し散見される。なので、いたずらに本人が言っているからという誘導みたいなことで巧妙に悪用されてしまうのではないかということも危惧されるので、きちんとした意思決定支援を伝えていくことが必要ではないかという、今後の対策みたいなこともいただいていて、今後の課題かなと思ってございます。

以上、後見人等への意思決定支援の研修について発表とさせていただければと思います。

○新井主査 高橋さん、どうもありがとうございました。

ただいまの高橋さんの報告に質問があれば、zoomの「手を挙げる」機能で挙手をお願いします。質問と回答はできるだけ簡潔にお願いいたします。いかがでしょうか。どなたも手が挙がっていませんが、いかがですか。今まで手が挙がらなかったということはなかったのですが。先へ進んでよろしいですか。それとも私のほうで指名したほうがいいか、様子を見ているのですが。

そうしたら、後ほど意見表明のところでまとめてあれば、出していただくことにして、次の報告に移りたいと思います。高橋さん、ありがとうございました。

次の報告は、立教大学講師で弁護士の水島さんからお願いしたいと思います。では、水島さん、よろしくお願いいたします。

○水島委員 水島でございます。

今日は、委員の立場もございますけれども、研究者の立場ということで報告させていただきます。こちら、皆様御覧いただけますでしょうか。障害のある人の意思決定支援ということで、南オーストラリア、英国の事例について、かなり短時間ではございますけれども、御説明させていただきます。

最初に、国連の障害者権利条約12条について確認しておきたいと思います。特に、12条2項では、障害のある人が生活のあらゆる局面において、他の者との平等を基礎として法的能力を享有していくということが規定されています。

そのために、第3項において、必要とする支援にアクセスすることができるようにするための適切な措置を取ることが規定されています。これには意思決定支援も含みます。

そして、4項において、意思決定支援も含めて濫用を防止するための適切かつ効果的な保護を行う必要があり、かつ、その保護には障害のある人の権利、意思及び選好を尊重することが求められる、ということを確認しておきたいと思います。

私は、2014年から15年にかけて1年間、英国に客員研究員ということで留学いたしまして、その折に、南オーストラリアの支援付き意思決定のプロジェクトについても関与いたしました。その点についての御報告をさせていただきたいと思います。

まず、支援つき意思決定を最大化するためのチームモデルについて。先ほどの障害者権利条約が求めている意思決定支援あるいは支援付き意思決定を、実務上、どのように最大化していけるのかを検証するため、南オーストラリアでは、実践的意思決定支援ファシリテーター養成に関するパイロットプロジェクトが行われておりました。

こちらに書かれておりますとおり、ファシリテーターがこのチームを基本的にコーディネートしていくことになりますが、意思決定者である御本人、その御本人が選んだサポーター、そして様々な意思決定に関与する非公式ネットワーク、あるいはサービス提供事業者、あるいは地域でつながりのある人々、こういった人たちが少しずつ大きなチームとなっていって御本人の心からの希望を引き出し、また、御本人の意思決定を支えていくことになります。このようなチームを作る理由は、意思決定の過程においては、周囲がよかれと思って、最善の利益の観点から御本人を説得して自分たちの方に引っ張っていくことがどうしても行われがちですので、御本人の立場にとことん立つSDMチームを作ることで、両

者のバランスを取っていくことが重要であるから、だと理解しています。

詳細は省きますけれども、コアメンバーの一員であるファシリテーターは、トレーナーからの指導を受けながら御本人のチームをコーディネートしていくことになります。自ら希望し、自分のSDMチームをつくってみたいと希望された御本人が、意思決定者です。

御本人が選んだ、無償で御本人に寄り添うサポーターについては、御本人がどんな人に自分のサポーターとして協力してもらいたいかということを基点に選んでいくことになります。もちろん御本人、サポーターともに、合意が必要になります。特に親しい人がいない場合には、ボランティアなどが対応することもあります。

それ以外のメンバーは、このような形になっております。特に地域でつながりのある人々について御覧いただきますと、御本人が生活していく場面で、このようにいろいろな人に会う可能性があります。御本人の心からの希望を起点として、メンバーが個別にファシリテーター等から声をかけられ、可能な方にはチームミーティングに出席いただくことになります。御本人の行動範囲が広がっていけばいくほど、チームメンバーは増加していきますが、毎回全員が集うわけではなく、本人の心からの希望に基づく意思決定、希望に即した形で、メンバーをその都度編成していくという形になります。

ここでは、マイケルさんのSDMジャーニーと題して、お一人のケースを御紹介させていただきます。こちらはチーム・マイケルということで、マイケルさんが意思決定者、つまり障害のある御本人です。下の写真を見ていただきますと、いろいろな方がメンバーとして集まっています。

まず、マイケルさん御本人については、脳性まひがあって車椅子を利用しており、知的障害もある方です。とても明るい男性ですが、以前は怒りっぽい性格とも言われておりました。このマイケルさん、私もじかにお会いしてお話しをさせていただくわけですが、言葉としては非常に聞き取りづらいことはあるけれども、表情で豊かに語る方かなという印象がございました。御本人がSDMを経験して、「行き詰まっていた6か月前までの状況を変えることができた。」ということをお話しされておられます。

サポーターは、リチャードさん。マイケルさんのお父さんでございます。本人がお父さんを選んだということになります。これまではマイケルのお母さんが彼のお金を管理し、彼の生活や意思決定に非常に大きな影響を与えていたわけですね。お母さんは、このSDMへの参加については、危ないからやめておきなさいということで大反対されたようです。

しかしながら、リチャードさん、お父さんは、新しい試みだからやってみようということで、このプログラムに参加いたしました。「私は、いつも息子にとって一番よいと思われることを考え、行動してきたけれども、このSDMを経験して、私の期待ではなく、彼がやりたいことをやらせてみようというふうに考え方が変わってきた。今やビジネスパートナーだ。」とおっしゃっています。

ファシリテーターはデビーさんで、40年以上、障害者福祉に携われた方です。このプログラムに興味を持って参加されて、トレーニングを受けてファシリテーターになられた方でございます。SDMモデルへの評価としては、「意思決定者本人を解放する力を持っている。」とのことでした。

マイケルさんのSDMジャーニーの内容について少し御紹介しましょう。ここでは、何かサービスありきで物事が決まるということではなく、御本人が一体何を望んでいるのか、どんな夢があり、どんな暮らしをしていきたいのかということを、時間をかけて聞き取っていきます。その中で、彼はこのような希望を話されていました。①インターネットを使ってキャンドルを売るビジネスを始めたい。②障害のない人とももっと交流したい。③休日の旅行を楽しみたい。などの希望が出されたわけです。このような希望がファシリテーター、意思決定者、サポーター、サポーター間の合意文書にまとめられて、その後、チームをさらに大きくしていくことになります。

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参考

SDMジャーニーについて

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000790686.pdf

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チームメンバーとしては、これまでの彼のミーティングに関わった人を挙げれば、例えば「ビッグイシュー」という雑誌を売っていた障害のある若者が、そのビジネスの資金を確保したいという彼の希望について、例えば雑誌を販売するという方法があるよと自己の経験を語る。あるいは、インディペンダント・ホリデーの経験のある障害のある当事者の女性は、自分がどんなふうに余暇を計画し、楽しんだのかについての自己の経験を語る。

このような様々な情報がミーティングにおいて提供され、御本人がさらに関心を持てば、次のステップに進んでいきます。

このような形で、ミーティングは一、二週間に1回ほど定期的に開催されるのですが、写真にもあるように、和気あいあいな雰囲気で進んでいくという印象がございました。

その後、どのようにマイケルさんの生活が変わってきたかということですが、マイケルさんはもともとビジネスを始めたいと言っていた。このSDMジャーニーが始まる前は、彼の希望は一笑に付されていたといいますか、こんなことできるわけないと周りの人が言っていたわけですね。しかしながら、彼自身にはビジネスの才能があったのか、「ビッグイシュー」の販売を始めた折には、週に1000ドルを売り上げるトップセラーとなりまして、今は車も持たれているということです。

それから、キャンドルビジネスについても具体的な準備に入りまして、様々な仕組みの確保、自宅の改装や銀行口座の管理、名刺の作成といったことを一つ一つ、メンバーの皆さんの支援を受けながら、進めていったということになります。

さらに、パブに行ったり、フットボールクラブのサポーターになったりすることで、障害のない人との付き合いも増えました。いずれもSDMジャーニー以前には経験したことがなかった活動を、彼は行うことができたわけです。

さて、マイケルさんのSDMジャーニーを紹介させていただきましたが、全て順調だったわけではございません。大変だったこともあります。ただ、大変だったからこそこともあるということは、逆に言えば、チームメンバーの人たちに適切に意思決定支援、SDMの重要性等を学んでもらうことで、そのSDMのプログラムの後も関与したい、手伝いたいというメンバーが出てきたという意味では、よかったのかもしれません。

もちろん、うまくいかなかったこともあります。私たちも彼と同じように希望を全て実現できるということは通常はないと思います。しかしながら、それでもなお重要なことは、SDMチームは、障害のあるご本人が、自らの希望の実現に向けてチャレンジするための機会を提供していたということです。

このようなSDMの強みを生かし、最後のまとめの段階でもお話ししたいと思いますけれども、日本でも少しずつSDMの実践が始まっています。

それでは、次に、第2章英国の意思決定能力法についてのお話しをいたします。法律はこうですと申し上げるよりも、少しストーリーをお話ししたほうがよいかと思いまして、認知症80代後半の女性のケースからお話をさせていただきます。なお、このケース、一見すると日本のケースかなとも思われますが、これは英国のケースを取り上げております。

もっとも、日本でもよくありそうなケースでしたので、日本でもしこのMさんの支援を検討するとすれば、実際にはどうなるのだろうかということを知り合いのケースワーカーさん、ソーシャルワーカーさんと一緒に考えてみたことがありました。おそらく、こんな感じになるのではないでしょうか、ということです。

認知症で80代、家はごみ屋敷ということだと、家にいることは賢明な判断ではない。なので、空いている施設を探しましょう。判断能力もないということであれば、成年後見の申立をしましょう。お医者さんの診断書を取ればできますよ。分かりました。近所の人も本人が出すごみがすごく迷惑だったようなのです。では類型をどうしましょうか。後見人が動きやすいように「後見」類型で進められないでしょうか。ということで、最終的に入所契約を成年後見人が取り交わし、本人は施設に行った。これで穏やかに過ごせる・・・

例えば、このような流れになるのではないか、ということを話していました。

では、英国の場合ではどのようになるのだろうかということについて、お伝えしたいと思います。英国では、MCA2005(メンタルキャパシティアクト2005、意思決定能力法)という法律があります。なお、日本の各種意思決定支援ガイドラインは、基本的な考え方としてMCA2005を参考に作られているともいわれています。

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MCA2005

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2005/9/contents

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この法律は、2005年4月に成立し、イングランド、ウェールズ地方に住む16歳以上の全ての人に適用されています。人口規模からすると、英国は日本の約半分くらいのイメージを持っていただければと思います。この法律の特色としては、いわゆる本人の意思決定を支えるという意思決定支援の部分と、第三者が本人に代わって意思決定を行うという代行決定についての枠組みが両方含まれた形になっている点です。

さて、このMCA2005に基づく意思決定の枠組みということで、5大原則というものがございます。ここでは、本人自身が意思決定を行うに際しての支援者としての基本的な考え方、すなわち、どんな人でも意思決定能力があることが推定されるという第一原則から始まります。そして、本人による意思決定のために実行可能なあらゆる支援を尽くすという第二原則。そして、賢明でない判断であっても、それだけで意思決定能力に欠けているということは必ずしもいえないといった第三原則がございます。

意思決定支援における基本視点は、パーソンセンタード、本人中心主義ということで、支援者、被支援者というような何かの上下関係があるような関係性ではなく、対等なパートナーだということ。そして、意思決定の中心には、常に本人がいるということ。そして、支援者としては、本人が自分で意思を決定するための最適な環境を、下にあるような様々なことを考慮して提供していくことが求められていくということが、重要であると共有されています。

さて、次に進めていきましょう。御本人による意思決定だけで全て完結することができればよいのですが、どうしても決めなければならないときにおいても御本人の意思決定が困難な局面というものは存在します。そのような局面では、支援者により意思決定能力アセスメント及び代行決定への移行が検討されることになります。

ここでケースに戻ってみましょう。先ほどお伝えしたように、Mさんの意思決定がなかなか難しいのではないかという局面においては、意思決定能力アセスメントがなされます。

そして本人の意思決定がどうしても難しいということになれば、最終手段として最善の利益に基づく代行決定を行うために、最善の利益会議が開かれることがあります。このような会議の場面では、次のように、本人の意向を調査し、必要に応じて本人の意思を代弁する活動をおこなう法律上のアドボケイトであるIMCA(イムカ)が、MCA2005の原則に従って、関係者に次のような問いかけや注意喚起を行うような仕組みもあります。

ちょっと待ってください。今回の転居についてのMさんの意思決定能力が本当に欠けているのか、きちんとアセスメントしたのでしょうか。もし、明確な根拠をもってその意思決定能力を否定することができないのであれば、周りから見て賢明でない判断であったとしても、Mさん自身の意思決定が優先されるべきではないでしょうか。

ちなみに、アセスメントというと、従来は医師の診断書でその能力が判定されることが多かったかもしれません。いわゆる診断的アプローチと呼ばれています。しかし、英国の意思決定能力アセスメントは機能面、すなわち、本人が意思決定を行うための関連情報の理解、記憶、比較検討、表現といった要素(機能面)についてもアセスメントを行います。

さらには、Mさん自身が機能面の要素を満たすことができるように、様々な支援者ができる限りの支援を提供できたのかどうか、そのようなエビデンスも求められることになります。

英国ではこのような診断的アプローチ、機能的アプローチに基づく二重の意思決定能力アセスメントが行われ、御本人が決めなければならない時点において、特定の意思決定についての意思決定能力があると言えるかどうかが吟味されます。そして、意思決定能力が欠けると判断せざるを得ない場合には、最終手段として、このMCA2005では、本人にとっての最善の利益に基づく代行決定へのステージへと移行することになるわけです。

代行決定の場面では、本人にとっての最善の利益に基づく代行決定について定める第4原則、より制限的でない方法での実施を求める第5原則が存在します。

ここでIMCAに再登場してもらいましょう。仮にMさんがこの時点で当該意思決定能力が欠けていたとしても、Mさんの希望や価値観が最大限考慮された代行決定でなければならないのではないでしょうか。過去の看護・ケア記録や本人面談の結果、その他の証拠からは、Mさんは亡き夫と暮らしていた自宅を死んでも離れたくないとの確固たる意思をお持ちであるという事実が導かれます。このMさんの気持ちは、どこまで代行決定者が行う代行決定の内容に反映されていますか、といったことを指摘しています。

加えて、今回の代行決定が許容されるのは、あくまでもMさんの希望・価値観等を最も重要な要素として位置づけた上での、Mさんにとっての最善の利益にかなうときのみです。

第三者の意向に専ら影響されての施設移行は、MCAでは許容されません、ということも注意喚起しています。

この「最善の利益」に基づく代行決定については、2005MCAではあえて定義づけられていません。最善の利益の内容は、たとえ同じシチュエーションであっても、人ごとに変わるからです。したがって、「本人にとって」の最善の利益を追求していくことが必要です。

最後にIMCAは次のように指摘します。より制限的でない選択肢として、他の権利擁護支援を活用できる可能性も十分あるのではないでしょうか。さらに、Mさんの望む自宅での生活というものを試しに行う可能性はないでしょうか。保護裁判所の審判例を見ても、このような状況であれば、実際は自宅生活のトライアルを許容すべきであるという判断もあります、ということで、自宅生活を試してみることの提案をしているわけです。

最善の利益会議で検討した結果、英国では、日本での検討とは異なり、Mさんには自宅生活のトライアルが行われることになりました。ある日、支援者がMさんを訪問しますと「自宅で過ごせて満足している。死ぬまで自宅を離れたくない。」ということをおっしゃっていたとのことです。しかしながら、5か月後には本人が重度の貧血になって倒れてしまい、再度病院に搬送されてしまいました。最初から施設に行っておいた方がよかったのではないかと思われるかもしれませんが、私は、それでもなお、Mさんが自宅で過ごした5か月間は、Mさんにとって大きな意味があったのではないかと考えています。

さて、IMCAについて少し説明をします。IMCA(インディペンデント・メンタル・キャパシティ・アドボケイト、第三者意向代弁人)というのは、いわゆる法律上のアドボカシー、アドボケイトと言われており、一定の重大な意思決定について意思決定能力を欠くと判断された本人に適切な相談者がいない場合に、無償で本人の希望や価値観を代弁するための独立アドボケイトです。いわゆる有資格者で、City&Guilds(シティ・アンド・ギルズ)という民間資格付与団体が取りまとめた一定のカリキュラムを修了された方が、IMCAになれるということでございます。

このIMCAの特徴としては、あくまでもアドボケイトという立ち位置ですから、本人に代わって何かを決定するという権限はございません。あくまでも本人の声を届けるということを仕事としています。しかしながら、そのために必要とされる本人と1対1で会う権利や様々な情報へのアクセス権、あるいは、IMCAが提出した報告書の内容が最終決定において必ず考慮される権利、あるいは、MCAの趣旨に反する内容の決定がなされた場合の異議申立てとか、このようなことが法律上の権利としてMCA2005には明記されています。

加えて、2015年には、ケア法におけるアドボケイトの仕組みが新設され、その独立アドボカシーの範囲はますます拡大しているという状況でございます。

独立アドボカシーの立ち位置については、英国においては、こちらのメガホンのような役割をする人という位置づけになっています。すなわち、本人が自分で声が出せたとしても相手に届かない、あるいは取り上げてもらえないといった場面において、きちんとそれが取り上げてもらえるように働きかける役割。さらに、御本人が自ら声を出すことが難しい状況の場合には、声なき声を本人と一緒に届けていく役割を果たすと言われています。

独立アドボカシーに関しては、独立、本人中心、守秘義務、エンパワーメントといった要素があるとされております。独立アドボケイト、IMCAもそうですし、ケア法のアドボケイトもそうですが、基本的には本人の声を届ける、新たな選択肢がないのかを模索することが重要とされています。なんとなく支援者が誘導し、流れで決められていきそうな場面に待ったをかけて、もう一度適切な手続にのっとっているのかどうか、疑問提起をしていくことが重要となっています。もう一度強調しますが、本人に代わって意思決定を代行するという立場は、独立アドボケイトの役割とは異なるということは確認しておきましょう。

そして、英国の後見制度・監督の仕組みについても触れておきます。MCA2005に基づく仕組みとしては、後見庁がいわゆる後見の監督を行っており、後見人等から提出された報告書の確認をはじめ、心配なケースについては後見人等に連絡を取り、追加の書類等を求めていくことになります。そして、不正等が発覚した場合には、後見庁が保護裁判所に現在の後見人等の解任と新たな後見人等の選任を求めることになります。保護裁判所は、家庭裁判所の附属機関で、いわゆる決定機関となりますので、後見庁からの申立てを受けた上で審理を行い、例えば現在の後見人を解任して新たな後見人等を選任するなどの決定を行っていく。このような形で、いわゆる監督機関と決定機関が分離されているというのが英

国の特徴でございます。

最後のスライドは、私が考える課題と意見ということですので、簡単に御説明して終わりたいと思います。MCA・SDMから見た日本の成年後見制度の課題については、例えばチーム支援やコミュニケーションツールの活用、あるいは本人の意思・選好が最大限反映されるような仕組みができているのかどうか。さらには、支援者の免責規定が重要です。支援者が萎縮せずに、真摯に意思決定支援あるいは代行決定のプロセスを踏まえられるような環境が整備されているかどうかが意思決定支援の普及にとってはとても重要です。

代行決定の場面においても同じ話として申し上げられます。MCA2005の場合には、5条免責規定ということで、これは本来、代行決定の規定でもございますが、MCA2005の規定に沿って検討したということであれば、代行決定者はいわゆる決定責任の免責がなされることが明記されています。MCA2005に基づく実践行うことが、自分たちの身を守ることにもつながるため、支援のモチベーションにもなっているのではないかと思われます。

さて、次は日本でのSDMの活用可能性ということでございます。先ほどのSDMジャーニー、では、専門職以外にも様々な人たちがチームに関わっていました。日本でも、市民後見人の方や地域ボランティアの方、その他の方々がしっかりとSDMチームに関与していくことが必要ではないかなと思います。

さらに、IMCAの可能性ということも含めて考えますと、独立した第三者の立場で、必要に応じて、当事者団体や独立の専門職がアドボカシーを提供していくことが考えられます。

また、いわゆる後見庁のような外部機関をきちんと設けていく。このような取組が必要ではないかと思われますし、監督のための新たな権限付与といった法改正の観点も必要ではないかと思います。

長くなりましたが、以上でございます。

○新井主査 水島さん、ありがとうございました。

ただいまの報告に質問がある場合には、zoomの「手を挙げる」機能で挙手をお願いします。質問と回答は、できるだけ簡潔にお願いいたします。いかがでしょうか。

最初に、上山さん、お願いします。

○上山委員 ありがとうございました。

スライドの42、最後の部分の日本版IMCAの構想について、2つほどお伺いしたいと思います。

まず、大前提として、私としてもIMCAが持っている機能を日本に導入することは必須だと考えています。その上で2つお伺いしたいのですけれども、まず1点目として、IMCAの役割上、本人の機微情報、本人が最も知られたくない情報を詳細に取得する必要性があると思われます。この点について、現在の日本の個人情報保護法制の運用のレベルで対応できるか、それとも何らかの一定の法整備が必要なのかどうかという点について御意見を伺いたいと思います。

2点目ですけれども、日本の場合に、監督機関としての家庭裁判所と、後見人の支援機関としての中核機関という2つの公的な組織が既にあって、それに加えてIMCAという独立の機関を設けるというのは、予算面、人的な側面でもなかなか難しいところがあるかなという気もいたします。そうした中で、恐らく水島先生のお考えでは、当事者団体などが直接IMCAの役割を果たすということも想定されていると思うのですが、それと併せて、中核機関にIMCAの役割を担わせるという可能性があるのかということについて教えていただきたいと思います。

よろしくお願いします。

○水島委員 ありがとうございます。

まず、個人情報保護の関係についてのお話としては、個人的な見解ではございますけれども、現行の個人情報保護法制、特に個人情報の第三者への提供についての例外規定は、どうしても緊急的な対応が必要な場面において限定的に許容されていくという観点で構成されているように感じております。

しかしながら、英国では、IMCAには独立の調査権限があると法定されておりますし、かつ、本人の意思あるいは選好、価値観といったものを推定するための情報を提供するためには、より積極的かつ広範囲の情報収集というものを行っていく必要があります。そう考えますと、どうしても現行の個人情報保護法制だけでは限界があるのではないか。適切な調査権限、アドボカシー活動にとって必要不可欠な情報へのアクセス権を付与するための法整備が必要ではないかと考えております。

2番目の点に関して申し上げますと、後見人の活動をモニタリングするような独立の機関を新たに設置するというのは、予算の面からも非常に困難が予想されます。しかしながら、今回、成年後見制度のみならず、権利擁護支援全般を促進していく観点で捉えるならば、IMCAに限らず、ケア法におけるアドボケイトのような独立アドボカシーについて、高齢、障害、子ども、生活困窮者、様々な分野において活用できる体制を整えておくことが国民一人一人にとって必要ではないかと考えます。

なお、参考までに、英国においては、2015年の調査で、IMCAの予算はおよそ700万ポンド。

1ポンド155円であれば約11億円との説明を受けました。また、ケア法におけるアドボケイトの予算は1450万ポンド、すなわち約22.5億円の予算を計上しており、独立アドボカシーの充実が図られています。英国の人口が日本の人口の約半分ということを加味すると、英国では独立アドボカシーに対する国民的な理解を背景に、多くの予算が投入されていることがうかがわれます。

さらに、中核機関が一定程度、アドボカシーを担うという観点もあり得るのではないかと思われます。ただ、全ての中核機関において担えるのかどうかというと、地域の実情によって異なるのではないかと思われます。そのため、中核機関をさらに支援をするための仕組み、例えば都道府県あるいは国においてこのようなアドボカシー提供等について調整をする役割を持つ機関が必要とされるのではないかと思います。

以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

西川さん、お願いします。

○西川委員 西川です。よろしくお願いします。

私から3点ほど質問させていただきたいと思います。

最初の1点はIMCAに関してですけれども、IMCAは独立の調査権限を持つという話もお聞きしまして、そうしますと、かなり高度な訓練・トレーニングを受けているというのが英国のIMCAのイメージだと思います。私の調べたところでは、IMCAの関与が必須の場合と任意の場合があるということのようですけれども、日本にIMCAのような存在を導入する場合に、その関与が必須の事項、任意の事項みたいな、制度のデザインあるいは期待する役割の範囲について、水島先生の中ではどんなイメージなのでしょうか。英国では、医療の同意のような場面でよく使われるとも聞いています。それが必須なのか、任意なのか、分か

りませんけれども、本人の活動に全般的に関与するというのはちょっとイメージしにくいので、どんな場面で関与するというイメージなのか、水島先生の考え方をお聞きしたいというのが1点目です。

2点目ですけれども、お聞きしていますと、IMCAは成年後見制度の利用を前提としない仕組みであるかのように思えるのですけれども、実際には、成年後見制度を利用している場合でもIMCAの関与がある場合があるのか、あるとしてどの程度あるのか、その場合、どんな関与の仕方をしているのかという点が2点目です。

3点目は、権限監督が裁判所と後見庁に分かれている点について、それぞれの権限は法律レベルで定められていることなのか、どんな形ですみ分けといいますか、権限が分かれているのかということが分かれば教えてください。

よろしくお願いします。

○水島委員 御質問ありがとうございます。

まず、1点目についてです。IMCAを要請するのが必須である場合と任意の場合がございます。要請が必須の場合というのは、長期の居所移転、例えば、施設等への移転の場面です。また、重大な医療に関する意思決定の場面でも必須とされております。他方で、必要に応じて要請できるという任意的な場面としては、ケアプランの変更や虐待が絡むケースにおいて、地方自治体等が必要と判断した場合とされています。

IMCAをどのように導入していくかという点については、なかなか悩ましいところです。

予算と人員の関係等もあるかと思いますので、なかなか悩ましいところです。しかしながら、IMCA制度にしろ、ケア法のアドボケイトの制度にしろ、独立アドボカシーを拡大している英国の手法に倣うならば、特に重要な意思決定の場面、いったん決まってしまうと取り返しがつきにくい意思決定の場面、すなわち不可逆的な意思決定の場面や、当該意思決定が本人にとって非常に大きな影響を与えるような場面においては、法律上の独立アドボカシーの提供ができる体制を構築していく必要があるのではないかと感じます。

それから、2点目成年後見制度等の利用がある場合にIMCAの関与があり得るのかということでございます。こちらに関しては、英国ではdeputyとかLPAと言われますが、そういった人が関与している場合には、IMCAは原則としては関与しないとされています。なぜならば、適切に相談できる人がいるということに通常なるからですね。

しかしながら、2015年、英国で成立したいわゆるケア法においては、このような場合であっても、その者が本人に対してアドボカシーを提供する意思や能力が十分とはいえない場合には、ケア法におけるアドボケイトを、別途要請する義務があると規定されています。

例えば、本人に家族等がいる場合には、通常は相談できる者がいることになりますが、遠方にいて具体的な支援ができないとか、十分な意思決定支援を行うことが期待できないとか、利益相反性が強いような場面では、たとえ家族等がいたとしてもケア法におけるアドボケイトが要請されることもあります。任意後見人あるいは法定後見人がいる場合にどの程度、独立アドボケイトが要請されているかについての情報は持ち合わせておりませんが、アドボケイトの関与の余地はあり得るのではないかと思います。

最後に、監督機関である後見庁や決定機関である保護裁判所については、具体的にはMCA2005の45条以下に規定されております。また、先ほど申し上げたIMCAについてはMCA2005の35条から41条に規定されています。

後見庁の具体的な役割に関しては、一例としてモニタリングがございます。後見人等が報告書を遅延したり、内容に気になる点があったり、本人や家族からの苦情があるような場合には、後見人等に電話して詳細を聞き取る。あるいは保護裁判所の調査官に協力してもらい、直接面談してもらう。また、後見人支援として報告書の書き方をはじめとしたさまざまな問い合わせに応じていると聞いております。

以上でございます。

○新井主査 ありがとうございました。

それでは、質問に関して、手が挙がっている方がいらっしゃいませんので、議題2「意見交換」に移りたいと思います。本日は、意思決定支援ガイドラインに関する有識者からの報告や質疑応答の全体を通じて、委員の皆様全員から発言をいただきたいと思います。

時間の都合がありますので、お一人3分以内でお願いいたします。画面に残りの持ち時間が分かるタイマーをセットしています。これを確認いただきながら発言をお願いいたします。いかがでしょうか。全員にお願いしていますので、順番はあるかもしれませんけれど

も、どなたからでもよろしくお願いいたします。座長としては、指名ではなくて、手を挙げていただくのが大変うれしいのですが、いかがでしょうか。

上山さん、お願いします。

○上山委員 場つなぎに簡単なコメントをさせていただきたいと思います。

私からは、各種ガイドラインの整合性の担保について、お願いしたいと思います。意思決定支援については、関連する複数のガイドラインが並立するという現状があり、このことが現場に混乱を招いていることは、本日の御報告にもあったとおりです。既にこの対応として、厚生労働省から「意思決定支援等に係る各種ガイドラインの比較について」という文書が出されており、一定の改善は見られるわけですけれども、私としては、混乱を避けるために、もう一歩踏み込んだ対応を御検討願いたいと思います。具体的には、少なくとも全てのガイドラインの定義について、意思決定支援と代行決定による支援の区別を明確にすべきではないかと考えます。

各種ガイドラインは、支援の当事者や場面が異なりますので、完全に統一化することは難しいと思いますが、障害者権利条約の要請などを踏まえれば、意思決定支援と代行決定は峻別すべきですので、少なくともこの区別についてはそれぞれのガイドラインの定義の中で明らかに示すべきだと思います。必要に応じてガイドラインの改定を行ったり、あるいは少なくとも2つの概念の峻別について、付記・追記等を行うなど、何らかのご対応について御検討をいただければありがたく存じます。

私からは以上です。

○新井主査 貴重な御意見ありがとうございました。

続きまして、中村さん、お願いします。

○中村委員 今日は、3人の先生方、大変ありがとうございました。意思決定支援は、現場においても大変重要で、その前提・現状等々についても理解ができて、大変感謝したいと思います。現場としては、今回の意思決定支援に関わる現状と、それについてのお願い等を含めて発言させていただきたいと思います。

各市町村において、中核機関の設置や権利擁護体制の構築においては、担い手である専門職との連携というのは言うまでもないのですが、身上保護の重視を考えると、被後見人等への寄り添い支援や身近な住民相互の助け合いというのが、今後またポイントとなってくると思います。これはこの前までの地域連携ネットワークの中でもお話がありましたが、現状としては、法人後見の受任体制整備の状況とか、市民後見人の養成が十分でないという現状があります。

北海道においても、昨年度の道社協調べで、法人後見受任機関というのが各市町村で4割弱の整備。それと、市民後見人の養成が行われた市町村も3割弱という現状で、整備がまだまだという状況になっています。その中で、道社協としても、担い手の整備については道庁や家裁等と協力しなから取り組んできていますが、市民後見人の養成や法人後見受任体制整備については、手引きや研修会程度の実施です。

そして、市民後見人の養成研修については、道社協としては、国で示されている養成カリキュラムを参考に作成・実施していますが、今年度からは、意思決定支援についても科目として取り入れて実施しようということで今、進めていますが、意思決定支援については、重要なテーマとなりますので、養成研修以外にも別に研修会等を実施したいと検討しています。

もう一つですが、各市町村における法人後見受任体制については、国として法人後見実施機関のための養成カリキュラムが示されていないと思っていますので、道社協としても、先行事例や手引き等の提供程度となっていますので、都道府県において法人後見を進める上でも、国としての養成カリキュラム等をぜひ示していただいて、その中に意思決定支援というのも明確に入れ込んでいただきたいなと思います。

最後になりますが、北海道においても法人後見実施機関が整備されている市町村は4割弱という現状ですので、国において法人後見の実施状況について把握を進めていただいて、情報提供いただければ大変ありがたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

○新井主査 ありがとうございました。

次の御意見はいかがですか。

それでは、星野さん、住田さん、久保さんの順番でお願いします。星野さん。

○星野委員 今日は、ありがとうございました。

2点ほど、意見として申し上げたいと思います。

まず、1点目です。今日、豊田市のほうからの報告でありましたように、地域の方に意思決定支援ということについて啓発していくということは、非常に重要だと改めて思いました。市民後見人のなり手だけではなく、市民の方に意思決定支援を分かっていただくということにおいては、取りかかりとしては、市民後見人育成研修などが有効だと思います。

そういったところでは、先進的な取組をしている自治体も多いと思います。

東京都なども早い段階からやっておりますが、今、重要だと言われている身上保護とか意思決定支援についての内容が十分にプログラムに入っているのかというところに疑問があります。そういったところでは、カリキュラムの平準化というのが必要になるかなと思いますし、ブラッシュアップしていくために基準を示していくことが必要ではないかなと思います。

さらに、市民後見人の選任状況というのは、各家庭裁判所の運用に大分差があるように思います。そういったところでは、実態調査というか、市民後見人がどのように選任されているのか。それは、例えば単独なのか、専門職との複数なのか、監督人が選任されているのかなど、そういったところの実態を知ることで、どのような内容で研修していくことが必要なのかというところにもつながるのかなと思います。

それから、もう一点です。みずほの高橋さんの御報告がありましたけれども、国の研修は確かに関心のある人しか受講されていなかったのではないかと思うところが多々あります。特に社会福祉士は多く参加されたと報告を聞いたのですが、本当は聞いてほしいという方がなかなか受講できていない実態があり、そこを専門職団体として、これからどのように研修を組み立てていくかということが課題としてあると思っています。国研修の資料等は、公表されましたので、それを活用させていただいて、東京においては5月に国研修未受講の方を対象に約130名の方が申込みをされて、意思決定支援の研修を行うことができました。そういったところでは、今後さらに取組を進めていきたいなと改めて思った次第です。

以上です。今日は、ありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

続いて、住田さん、お願いします。

○住田委員 ありがとうございます。

意思決定支援に関連する、先ほどの第三者機関という点での意見を述べさせていただきます。中核機関として、候補者の調整では、意思決定支援の入り口として、本人と候補者との事前面談という形で行っています。制度利用のスタート時における、この取組は、本人や候補者の双方の安心感につながるという意見をいただいています。

しかしながら、後見活動の経過の中では、後見人に対する苦情が発生し、その後の対応が必要になっています。令和2年度は、専門職後見人に対する苦情は延べ166件、実人数としては7名でした。内容として、後見等による金銭管理や日常の後見業務の中で、本人とコミュニケーションがうまくいかずに、信頼関係が崩れて修復が難しいというケースや、後見人等がサービス事業所を独断で変更してしまうということがありました。これらの苦情に対して、中核機関としては、本人や関係機関、後見人からも聴き取りを行って、コミ

ュニケーション不足から生じていた誤解やそごの解消によるものは、役割分担などにより解決できる場合もあります。

しかし、居所の選択など重大な意思決定の場合には、ガイドラインに基づいて意思決定支援ミーティングを開催して対応する場合もありました。また、本人との関係においてどうしても修復不可能な場合には、後見人の交代の支援を行うこともあり、これらの課題への対応力や調整力が求められます。このような対応は、中核機関としても非常に困難であり、ヒアリングの訪問や会議の調整・開催などに時間もかかります。専門職の場合は、帰属団体に相談してバックアップしていただくこともありますし、家裁への報告や相談も行っています。しかし、今後、法人後見実施団体への苦情については、帰属する団体がなく、協力が得られないので、中核機関が調整を図るのはさらに難しいと考えられます。

また、苦情を調整する際に専門職後見人に聞き取りをすると、介入することに苦情を言われる場合もあり、その説明ややり取りでこちらがダメージを受けることもあります。最終的には裁判所の判断によりますけれども、介護保険制度のように苦情対応などを行う第三者による機関が設置されると、中核機関による負担が軽減されると思われます。その際、苦情の内容の根底には意思決定支援の課題があるため、第三者機関においても意思決定支援を踏まえた対応の考慮も必要と思っています。以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

次は、久保さんにお願いいたします。

○久保委員 ありがとうございます。

3人の方の御説明どうもありがとうございました。

私のほうからは、ちょっと感想のようなことになってしまいますけれども、豊田市の方の御説明は、家族としてはとてもよく理解できる、分かりやすいという感覚を持っておりましたけれども、意思決定支援ガイドラインというのがいろいろなところから出ているというのは、実際そうでして、家族としても、どれがどうなのというのがいろいろなところから聞こえてくる意見でございますので、少し整理していただく必要があるかなと思っています。

それと、意思決定支援の研修を繰り返しやることは大事だということもおっしゃいました。それはそうだろうなと思います。そして、意思決定支援の研修を受けても、実際に関与するときに、ちゃんと研修を生かしているかどうかということも重要になってくるので、こが分かるような方法というのはないのかなと。私たち家族としては、虐待防止の研修もたくさん受けていただくのですけれども、実際に虐待はたくさん起こっていて、どなたがというと、研修も受けている人がしているということが結果的にあることもあります。

そういう意味では、研修をどんどんやっていって、繰り返し受けていただくことは必要ですけれども、それを実際に活用していただくことをどうしていったらいいのかなということも、今、私自身が疑問に思っているところです。

それと、本人の意思を記録するツールというのは大切だと思っています。私ども育成会のほうでは、母子手帳の続きをずっと書いていくという手帳を、各育成会、それぞれで作っているというのがあるのですけれども、そこに本人の意思も書き加えていけるようなものをつけ加えて、1つのものにしていくのも必要かなと思っていますし、親が関与できなくなった後の成年後見を意識したツールみたいなものも必要かなと思っております。

それから、みずほさんのいろいろな試みをしていただいて、動画も作っていただいて、ありがとうございました。ただ、動画は知的障害の御本人にはまだまだ難しい。ですから、もう少し知的障害の方にも分かるような動画を、さらにもう一歩進めていただけたらありがたいなと思っています。親も後見人になっていくわけですので、私たちも研修を積み重ねていきたいと感じました。

ありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

続きまして、花俣さん、お願いします。

○花俣委員 ありがとうございます。

私も3つの報告を受けての感想ということになってしまいますけれども、今日の3つのお話を伺いまして、本人の意思決定支援というテーマというよりも、成年後見制度利用促進のためというところにとどまらない、人が人として生きる上で、意思の表出が難しい方を社会がどう支えるのかという大きな視点を、今日持つことができたかなと感じています。

個別に申し上げますと、豊田市さんの発表に関しましては、大変きめ細やかな当事者目線というのが随所に配慮されていて、たくさん同感できるところがありました。まさに、これが認知症になっても安心して暮らせる社会の実現につながる一助かなと感じました。

それから、みずほの高橋様のほうは、意思決定支援に関して、より理解しやすい様々な研修教材をお作りいただきまして、コロナ禍にもかかわらず研修を実施されたというのは大変ありがたいなと思っています。

水島先生のお話は、本当に初めて聞くような専門性の高いお話でした。SDMとかMCA、IMCAの取組、意思決定支援のための支援というよりも、意思決定と、そしてその意思実現の支援ということ、よく学ばせていただきました。

今日は、本当にありがとうございました。以上になります。

○新井主査 続きまして、新保さん、お願いします。

○新保委員 今日は、皆さん、どうもありがとうございました。とても貴重な意見で、参考になりました。私のほうも感想みたいになると思いますので、よろしくお願いします。

意思決定支援は、特に私たち、発達障害の子どもを持っていますと、とても悩ましくて、本人が「はい」と言うのは単なる「はい」であって、意思決定ではないし、意味を理解しながら次のステップへ行くということ。あと、それぞれの能力の幅が物すごく激し過ぎまして、そこをどうしようか。1つ気になったのは、IMCAの御説明がとても印象に残っていて、日本の場合、すぐ後見庁ができることはないと思うのですけれども、当事者団体がこの辺を少し担ってもいいのではないかなと思いました。

なので、コロナ禍で当事者団体がどういうふうに専門職の皆さんと参加できるかというのを考えていく必要を痛感したし、また、そういう部隊を我々の会の中でもつくって、いつでも参加できるようにしなければいけないかな、準備しようかなという心構えになったと思いますので、その辺、具体的にどう落とし込めるかというのをこれから考えていけたらいいかなと思っています。

あと、全てのことに言えると思うのですけれども、1回つくってからアップデートが必要なはずなので、そこを検証できるシステムを残していければ。今はここまでが精いっぱいということはあるのでしょうけれども、そこで決して終わることなく、ぜひアップデートすることをぜひ心がけて、これからこの会をやっていただければいいかなと思っていますので、感想みたいになりましたけれども、私のほうからはそんなことでお願いいたします。

今日は、お三方の先生、どうもありがとうございました。

○新井主査 大変ありがとうございました。

続きまして、櫻田さん、お願いします。

○櫻田委員 櫻田です。

私のほうも本当に感想のようなものになってしまうのですが、ちょっと意見を述べさせていただけたらと思います。

意思決定支援についてですけれども、皆さんおっしゃっていただいているとおり、御本人の意思をどこで、どのような形で示すかというのがすごく大事かなと思っておりまして、今回御報告にありました豊田市さんの「わたしのノート」の形は、すごくいいなと思いました。精神障害をお持ちの方とかは、言葉で自分の意思を話すことがちょっと苦手な方とかもいるので、こういうツールがあると、支援者の方と一緒に作成もできますし、御自分で書ける方とかも自分の意思を表明できる、しかも振り返ることができるツールとしては、すごくいいのかなと思いました。

今回、豊田市さんの例を御報告いただきましたけれども、形はどのような形でもいいのですが、御本人の意思が何か目に見える形で残せるようなツールが全国的に広がっていくといいのかなと、今回の御報告を聞いてすごく感じたところでありますので、ぜひこのような事例、全国的にいいなと思う事例をたくさんこれからもいろいろ教えていただけたらと思ったりしています。

研修に関しましても、続けていくことが大事ということをおっしゃっている委員の方もいらっしゃいましたけれども、それはすごく私も同意見でして、続けていくことによって研修を受ける人も増えていきますし、その同じ研修を受けた方たちが、逆に後見人になられた方が実際関わられたときに、困ったこととかを共有できるような何かがあるといいのかなと思っていました。事例という形になると思うのですけれども、こういうふうに自分が困っていて、何かいい方法はありませんかというつながりができるようなツールがある

と、より研修の内容とかも生きてくると思いますし、そういうものができてくると、支援者同士のつながりというところでも、よりいいのではないかと思いました。

すみません、以上になります。

○新井主査 ありがとうございました。

続きまして、青木さん、お願いいたします。

○青木委員 今日は、ありがとうございました。

全体的な感想というか、意思決定支援を今後、権利擁護のネットワークの中でどうしていくかという観点でお話ししたいと思いますけれども、権利擁護の中核になるのは、本人中心や意思決定支援だと思いますので、地域の連携ネットワークの中でも、全ての担い手が意思決定支援ということをしっかり意識しながら展開できる地域づくり、都市づくりということになるのではないかなと思っています。そういった意味で、1つは、今日の豊田市さんのような報告というのは、大変参考になるなと感想を持ちましたし、こういったことが全国的にも様々な形で展開できるような仕掛けづくりとかがどうしても必要になってくるのではないかと思っています。

また、その中でも非常に中心になる障害や医療、高齢の支援者の皆さんへの浸透というのが大きな課題だと思いますけれども、今の老健局ないしは障害福祉の関係の予定されているものが十分かという点は、抜本的な対応を研修も含めてお願いしたいなと思っているところです。

また、障害に関しては、障害福祉サービスに関わるガイドラインとなっている点が、果たしてそれでいいのか。障害の方は、高齢の方以上に生活範囲が広いわけですから、障害福祉サービスに限定したようなガイドラインは取りあえずおつくりになったと思いますが、今後はそれをさらに拡大していくという視点も必要でしょうし、上山先生が言ったような調整というのも必要かなと思っているところです。

また、現場の皆さんからすると、時間のかかる取組である中で、現場に対する様々なインセンティブとか人的配慮がない中で、ガイドラインを頑張ってくれと言うだけでは、実際上、難しいのではないかという声も聞きますので、医療・福祉関係の様々なインセンティブの検討というものが必要なのではないかと考えています。

次に、後見に限定して、さらにお話しをしますと、地域福祉と権利擁護という観点で言いますと、市民後見人の実践が意思決定支援においても非常に大きな役割を果たしているというのを、大阪の二百何十人の市民後見人の活動を見ていると非常に痛感します。今までも、職員の皆さんが1年も2年も一言も声を聞いたことがない人に、毎週訪問して関わりを続ける中で、半年後にようやく声が出て、1年後にコーヒーが好きだということが分かって、1年半後に一緒にコーヒーを飲みながら、いろいろな話ができるようになったという実践が少なからず報告されていますが、それは専門職後見人にできる話ではとてもなくて、まさに市民後見人が後見人という立場を超えてでも御本人の意思を引き出すという

実践を、本当に市民感覚でしていく。

それは、専門職の皆さんにもできない視点での関わりということで、これを見ている市民・地域の皆さんは、これから意思決定支援のときに学んで、それが地域福祉の中にさらに展開される大きなきっかけになると考えています。そういう意味で言いますと、市民後見人が老人福祉法にも規定されたのは平成24年でありますが、なお4分の1の自治体しか養成できていないという現状は、いろいろな方が申し上げていますが、非常に大きな課題だと思いまして、この点を抜本的に進めるというのを、老健局の皆さんには24年にもう一度立ち返っていただきたいなと思いますし、障害福祉のほうも、法人後見の中で市民後見人を活用していくということもうたわれています。

また、障害の方々は非常に息が長い支援ですから、法人後見を担う皆さんに意思決定支援を中心に活動するということも期待されていますので、こちらの法人後見の支援のほうも、先ほども御指摘があったように、抜本的な強化というのが望まれるのではないかと思っています。もちろん、専門職団体もこれから強化していきますが、さらにIMCA的な役割かどうかはともかく、様々な苦情の中で意思決定支援が中核になるときに、裁判所がそれについてしっかり関わって、裁判所が一定の方向性を出すということも、運用改善という意味では非常に大事だと思っていますので、裁判所の意思決定支援に関する機能強化もぜひ今後検討していきたいと思っています。

長くなりましたが、以上でございます。

○新井主査 ありがとうございました。

引き続きまして、西川さん、お願いします。

○西川委員 今日のお話は、意思決定支援という非常に重要なテーマについて、地域で、あるいは中核機関でどう取り入れていくのか、意識を共有していくのかということに関して、非常に重要な示唆をいただいたと思っております。

ちょっと感想めいたことをお話しさせていただければ、IMCAのお話をお聞きしたときに、市民後見人というより、むしろ日常生活自立支援事業の生活支援員が、かなり高度な訓練を受けて活動しているというイメージを受けました。そういったことを考えたときに、市民後見人の選任権限は裁判所にあるという前提で、現状ではどういった市民後見人像が求められているかということがはっきりしない状態のまま、市民後見人育成事業が各地で進んで、せっかく時間とお金をかけて候補者の育成をしても、十分に活動の場が与えられていないという状況になっているわけです。ですから、IMCAに相当するようなものを導入す

るとしても、もう少しその位置付けなり期待する役割なりについて焦点を絞るようにしないと、各地でいろいろな取組をしているけれども、なかなか実績が出ないことになってしまわないのかなという危惧も抱いたという次第です。

それから、IMCAの活動は、必ずしも後見制度を前提としないとのことでした。また、豊田市さんの御報告でも、後見制度を前提とせずに、意思決定支援について地域で意識を共有していくというお話でした。そうしますと、我々司法書士は、どうしても後見人としての本人の意思決定支援ということからまず入っていったわけですけれども、そうではない場面で、でも、多分我々専門職にもできることは何かあるだろうと思います。中核機関あるいは地域で後見制度を前提としない意思決定支援の実践が課題になってきたときに、専門職として、司法書士としてどんな活動ができるだろうか。まだ漠然としたものしか分からないのですけれども、何かあるはずなのではないかと感じました。

最後に、意思決定支援のガイドラインについて、いろいろなガイドラインを統一していくという方向は必要なのだろうなと、話を聞いていて思いました。ただ、逆に、先ほどの話とも関連するのですけれども、一後見人として後見事務と被後見人の意思決定支援に関わっている立場からすると、後見事務のガイドラインから入るから、まだ理解がしやすいのですけれども、これが後見事務に限らない一般的な本人の意思決定支援をテーマとして突きつけられると、ピンと来ない、よく分からないなということになってしまったかもしれない。という意味では、自身にとって身近な課題から入っていくということも必要なのだろうと思います。それが浸透したときに意思決定支援の統一的な概念がおのずとできていくという部分はあるのだろうなと、これは感想めいたものですけれども、思いました。

以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

続きまして、手嶋さん、お願いいたします。

○手嶋委員 最高裁家庭局の手嶋でございます。

今日は、3人の方のいずれも大変示唆に富む有益な御報告をどうもありがとうございました。

今、西川委員のお話にもありましたけれども、裁判所としてまず考えるのは、どうしても成年後見関係の意思決定支援ですが、花俣委員も御指摘されていたとおり、成年後見制度を超えて広がりのあるものなのだなと、そういった関連する取組の共通基盤になるようなものなのだなということを非常に強く感じながら、御報告を伺っておりました。また同時に、今、西川委員から御指摘がありましたけれども、視点の往復と申しましょうか、まずは身近なところからというのも大事かとも思いながら伺っていたところです。

まず、その身近なところ、裁判所として運用に関わります成年後見に関して申し上げたいと思っております。

まず、監督の関係でございます。裁判所としても、意思決定支援を踏まえた後見事務が広く実践されて実務に定着することが非常に重要であると考えているところですが、この具体的な在り方について、今後、今日の御報告や各専門職団体等の研修なども踏まえて、実務での積み重ね、意見交換の積み重ね、そうした蓄積を通じて、その在り方について具体的に共通認識が形成されていくことが重要だなと思っております。

裁判所としては、後見人等を監督する立場で意思決定支援を踏まえた後見事務をどう監督するかということが問題となりますが、この裁判所による監督というのは、基本的には後見人の裁量を前提としまして、その裁量権の行使に逸脱・濫用がないかというのを確認する観点から行われるべきものということになります。

その前提として、意思決定支援の標準的な在り方について、イメージが共有されていることが重要で、それがありませんと、裁判所の監督の視点もうまく定まりませんし、後見人において適切な意思決定支援を行うインセンティブを弱めることにもなってしまうと思っているところでございます。今後、専門職を中心に具体的な実践が積み重ねられて、共通認識が広く形成されていくことが期待されていると考えております。

なお、これがある意味表裏のところがございますが、裁判所では、裁判所の監督の前提となる定期報告に関しまして、身上保護や意思尊重義務の履行、意思決定支援を意識した報告書式の改訂作業を行っているところです。それも含めて、裁判所内部でも意思決定支援の実践の在り方に対する理解を深めながら検討を進めていく必要があると思っているところです。

もう一つは、報酬と意思決定支援の評価の在り方、報酬との関連でございますが、後見人等の報酬については、現在、裁判所において後見事務の内容や負担などを考慮して、報酬を算定する方向で検討を進めているところでございます。意思決定支援を踏まえた後見事務というものについても、併せて、その評価の在り方、その前提となる報告の在り方を検討しているところでございまして、先ほど申し上げました共通認識の形成に関する状況も踏まえながら、裁判所でも引き続き検討を進めることになるなと考えているところです。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の高橋様から御報告のありました研修の取組については、検討段階に最高裁としてもオブ参加させていただいたのですけれども、これがガイドラインの策定と並行して検討されたということもよかったのかなと思いまして、実務的にかゆいところに手が届く内容になっているのではないかと思っております。

裁判所では、監督という立場で関わるわけですけれども、運用に関わる裁判所職員が意思決定支援についても実質的に理解していることが大変重要と思っておりまして、この研修に関しては、家裁のみならず、高裁も含めて、大多数の庁で運用に携わる職員が傍聴させていただいております。各家裁内では、それを踏まえて、さらにそれを広く共有するという取組も行っているところと承知しておりまして、家庭局としても必要な支援をしていきたいと思っております。

○新井主査 多岐にわたって有益な論点を述べていただいて、ありがとうございました。

続きまして、山下さん、お願いします。

○山下委員 今日は、大変有益な御報告を3件聞かせていただいて、私も大変勉強になりました。

特に、最後の水島先生に事例を紹介していただいて、オーストラリアで障害のある方が自ら取引にも積極的に乗り出されるといったものは、まさにこういった意思決定支援の在り方の理想ではないかと感じた次第です。

他方で、そういった事例を見ていて非常に思ったのは、意思決定支援の問題というのは、取引が絡むと途端に難しくなる部分があるのではないかということでございます。取引というのは、どうしてもある程度のスパンを持って拘束力が発生するわけですし、当然長期の予測なども必要になってくる。また、取引相手にしてみると、こういった障害のある方とかと取引することに対して懸念を持たれる方もいるのではないかと思います。

そういった意味で、みずほの高橋さんが御紹介になっていますけれども、財産管理のときというのは中長期的な視点がどうしても必要になってくる。中長期的な視点が大事だということは、ある意味、その場、その場での意思決定というものを尊重するということとは相反する部分もございまして、その辺の調整というものが非常に難しいかなということを考えながら、今日の御報告を伺っておりました。

今、私に特に妙案があるわけではないのですが、取引の入り口での取引相手との十分な折衝とか、あるいは御本人の意思確認というものを十分しなければならず、そういう意味でも専門性のある方の関与というものが必須になってくるのではないか。場合によっては、金融機関等に意見を聞くといったことも含めた問題が関わってきて、意思決定支援に関わっている方以外の方にも、この意思決定支援の理念というものを十分生かしていただく必要が出てくるのではないかと思いまして、今日、皆様が取り組まれている、豊田市のガイドラインとかポイント集といったお話も含めて、社会全体が意思決定支援の理念を理解するための取組というものがさらに進むことが必要ではないかと感じた次第です。

以上です。

○新井主査 ありがとうございました。

オブザーバーではありますけれども、永田さんにも発言をお願いいたします。

○永田オブザーバー ありがとうございます。

今日はオブザーバーで参加させていただいているのですけれども、これまでのワーキング・グループとの関連を踏まえて感じることがございましたので、簡潔に2点だけ発言させていただければと思います。

まず、1点目ですけれども、今日のお話をお伺いして、改めて意思決定支援の重要性について学び、包括的な相談支援と権利擁護支援の関係を考えたときに、包括的な相談支援体制の基盤となる高齢者、障害者、子ども、生活困窮、それぞれに権利擁護支援の共通基盤である意思決定支援の考え方を位置づけていく必要があることを感じました。

御案内のとおり、成人の高齢者、障害者の方については、それぞれ意思決定支援のガイドラインがあるわけですけれども、生活困窮の部分でも、様々な背景や御事情から、御自身で思いを伝えることが難しかったり、伝え方が弱い方もいらっしゃいます。生活困窮者の支援においても、水島先生やみずほさんから今日御紹介いただいたような、意思決定支援に関する考え方を学ぶ機会や研修、それからガイドラインのようなものが必要ではないかと感じた次第です。

もちろん、上山先生や豊田市さんの御提起にあったように、それぞればらばらにつくっていくだけではなくて、共通の原則を示すということも並行して行うことで、相談支援の共通基盤に意思決定支援を位置づけていくことが重要だということを感じましたので、発言させていただきました。

2点目ですけれども、豊田市さんの意思決定支援への市民後見人の方への関与の御提起ですけれども、まだ具体的ではないと思いますし、軽々には申し上げられませんけれども、水島先生のIMCAの取組に通底するところがあって、これも市民後見人もしくはその候補者の方の活躍の場として、おもしろい御提案ではないかなと感じました。

あと、青木先生が述べられた市民後見人の意思決定支援への取組については、私も京都で市民後見人の方の支援に関わらせていただいて、強く感じているところです。共感しましたので、つけ加えさせていただきます。

以上になります。どうもありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

最後になりますか、山野目さん、お願いします。

○山野目委員 ありがとうございます。

本日は、3人の方の御報告を頂戴しまして大変勉強になりました。ありがとうございます。

大きく分けて2点申し上げます。

1点目は、本人と支援者の概念の相対化とでも申し上げたらよろしいでしょうか。当面、行政や司法における用語概念として、本人、支援者という言葉を用いていくということはあり得るとしても、実践の感覚において、本人と支援者というものを切り分けて考える発想を転換していくということが、意思決定支援の一つの大きな柱になるであろうと感じます。

豊田市のお話にあった、専門家というよりは、むしろ普通の市民として伴走する。水島委員の御報告にあった、マイケルさんのお父さんですけれども、サポーターというよりはビジネスパートナーというのは、良い意味でショックを受けてお話を伺いましたし、みずほリサーチ&テクノロジーの方のおっしゃった、勝手に決められたら嫌という、あの言葉もまた耳に残ります。

勝手に決められたら嫌ということは、考えてみると、別に成年後見の本人ではなくて、我々であってもいろいろな日常生活の場面で勝手に決められて、少しかちんときたという場面があるものでありまして、そのような通常の人の感覚をどういうふうに成年後見の場で活かしていくかということを、司法と福祉の連携のワーキングにおいても考えていかなければならないと感じました。

既に青木委員、西川委員からお話があったとおり、裁判所がどう受け止めるか、意思決定支援ないしその研修、それから報酬を関連させた側面について、裁判所にぜひ考えてほしいというお話はごもっとものことでございますし、先ほど手嶋委員からもそのような問題意識を持っているというお話もありましたから、それに勇気づけられつつ、司法と福祉のワーキングのことも考えていきたいと決意いたします。

もう一つは、中核機関という言葉ですが、何と言えばよいでしょうか。中核機関に、恐らく普通名詞の中核機関と固有名詞の中核機関があるのだろうという予感を抱きます。水島委員の最後の画面において、モニタリングする外部機関というものがイングランドにあって、良い働きをしているという例を御紹介いただき、これは日本にも要るぞというお話は、もう異論のないところであろうと考えます。こういったところを含めて、そういった様々な機能を公のミッションとして政府ないし関係機関が引き受けなければならないということは異論がないであろうと考えますけれども、それをリアルに存在している固有名詞としての中核機関に引き受けさせようと言っていくと、各地に様々な事情があり、まだ立

ち上がったばかりというところもあります。

むしろここでは、普通名詞としての中核機関というのがもう一つ概念として用意されてよいでしょう。それに当たるものというものは、まだ存在していない制度もあるかもしれません。そこを埋めていくものとして、どのようなアイデアとか仕組みとか制度を考えていったらいいかという点も、これも実は司法と福祉の連携のワーキングの宿題になってくるであろうと予想します。

手嶋委員から、監督に向き合っての裁判所の姿勢のお話をいただきましたけれども、裁判所の監督と中核機関の営みとの間の隙間の空間をどういう仕組みで埋めていくかという大きな宿題を、今日は最後の画面とともに頂戴したと感じています。

どうもありがとうございました。

○新井主査 ありがとうございました。

出席された方全員に発言いただきまして、時間的にもちょうどいいということで、進行に協力いただいたことに感謝いたします。

私、主査として、まとめる必要もないのですが、少し感じたことを申し上げたいと思います。

豊田市については、地域共生社会の実現に向けた包括的支援体制整備のための重層的支援体制整備事業を、成年後見制度利用促進と連携させている点は、高く評価できるものです。成年後見制度利用促進は、地域連携ネットワークの場において、行政、司法、裁判所、民間が協働していくことが必要なわけですが、行政が重層的支援体制を充実させ、民間が新しい担い手を生み出している中で、司法、裁判所のそれらの動向に呼応した対応が期待されると思います。

意思決定支援研修については、海外においてもこれだけの規模で研修を行ったことは、ほとんどないと私は思います。大きな成果であったと考えています。今後は、受講者の意見等も踏まえて内容をさらに充実させていくことが期待されます。生活困窮者と終末期医療を受けている患者の意思決定支援が充実することを期待します。現在の状況下では、生活困窮者支援でも意思決定支援のガイドラインや研修をしていくことが必要であることは、永田さんの指摘したとおりであります。

地域共生社会において、地域住民が広く理解し合える意思決定支援の基本的考え方を周知していくということも、大きな課題ではないでしょうか。そのことを考えると、家庭裁判所等、司法機関も広く意思決定支援を踏まえた後見を学ぶ、ガイドラインを学ぶことがより強く求められるというのは、青木さんの指摘したとおりではないかと思います。

本日は、いずれにしても、多様かつ有益な論点をいろいろ出していただきまして、今後のまとめにも大変有益ではなかったかと思います。皆様の御協力に感謝したいと思います。

それでは、本日の議事はここまでとします。

事務局から今後の予定等について連絡をお願いいたします。

○成年後見制度利用促進室長 事務局です。

本日御議論いただきました皆様の意見につきましては、事前に御連絡しておりましたと

おり、新井主査から次回の専門家会議に報告いたします。

次回は、ワーキング・グループではありませんで、専門家会議ということで、6月28日午後1時からの開催を予定しております。

また、本日の議事録につきましては、速記ができてきた後に、委員の皆様に御確認いただいた上で、ホームページに掲載いたします。

本日も積極的な御議論、ありがとうございました。

○新井主査 それでは、本日の議論は以上とさせていただきます。御多忙の中、参加いただいて、本当にどうもありがとうございました。