・相談を受ける際の留意点
依頼者の意思確認・・・信託契約の締結に関する業務を受任した場合の依頼者。
依頼者は委託者。民事信託に関する相談は、依頼者は委託者の推定相続人(多くの場合は,受託者兼帰属権利者)から受けることが多い背景。
依頼者は委託者及び受託者と考えた場合の問題点・・・受託者も依頼者と考える場合には,受託者との間でも委任契約を締結しなければならず,受託者からも報酬を受領することになるか?・・・民法648条。
遺言の一種である遺言による信託の場合には、受託者兼推定相続人から依頼を受けることがないことと対比可能か?・・・依頼は受けないが、受託者就任の可否は遺言による信託の場合でも設定時に聴く。聴かない場合があるのは遺言と同じ。
受託者から依頼を受けて信託を設定して、受託者を監督する立場(信託監督人や受益者代理人)に就任することは、職務執行の公正を疑わせることになり、利益相反行為となるか?・・・外観上、職務執行の公正を保つのは難しいように思えます。
委託者から依頼を受けた場合は良いのか?・・・民事信託に関する相談は、依頼者は委託者の推定相続人(多くの場合は,受託者兼帰属権利者)から受けることが多い背景から考えると、当然に可能とすることは難しいと感じます。例えば裁量型信託(受託者の裁量が広く認められている場合)について、信託監督人や受益者代理人の権限が弱い場合。個別具体的な判断になると感じます。
具体的な対応
受託者の希望に応じて、委託者と受益者の合意による受託者の解任権(信託法58条1項)や委託者と受益者の合意による信託の終了権(信託法164条1項)を制限すべきではない。ただし,委託者との代理人として、受託者との間で、受託者の義務の程度や信託事務の内容を協議することは問題ないか?
・・・受託者の解任権を制限しない場合、当初委託者兼受益者は、(理由を問わず、1人の判断で)いつでも、その合意により、受託者を解任することができるので受託者は安心して職務を行うことが出来なくなる可能性があり、案件による。もし制限しない場合、受託者への損害賠償規定を詳しく定める必要があると考えます。委託者との代理人、というのはどのような地位で職務を指しているのか、分かりませんでした。
依頼者の意思確認の方法
委託者と面談し、委託者の意思能力及び信託設定意思を確認する。予防措置として、委託者が親族等から不当な影響を受けたと疑われるような状況を排除するために配慮する。委託者が親族に伴われて相談に来た時には、親族の同席なしに個別に意思確認をする機会を設けることなどを工夫する。
民事信託以外の選択肢(併用も含む)の検討
・どのような心配事があるか。解決したい課題は何か。
・相談者の判断能力に問題はないか→問題があるケースでは法定後見の利用を検討。
・財産管理の問題か。財産承継の問題か。 財産管理は任意後見、民事信託。財産承継は遺言、民事信託。
・身上保護の必要性はあるか。 必要性がない場合は民事信託可。必要性がある場合は、家族の支援を受けられるか検討
・・・身上監護の必要性がない場合、というのがどのような場合なのか分かりませんでした。
家族の支援を受けられるか。
受けられる場合は民事信託可。受けられない場合は、任意後見。・・・受けられない場合は、任意後見受任者には、専門職が就任することを想定しているのかなと思いました。
信託を予定する財産に農地、年金受給権、地主が譲渡承諾をしない借地権
などがあるか。
ない場合は民事信託可。ある場合は任意後見。
・・・年金受給権がないという方のみが民事信託可とすると、ほとんど使われない制度になるのかなと思います。
・財産の積極的活用を望むか。
望む場合は民事信託。望まない場合は任意後見。
・・・任意後見でも、あらかじめ活用方法が決まっている場合は代理権目録に記録することにより、目的を達成することも可能なのかなと感じます。積極的活用、の個別具体的な状況によると思いました。
・借入れを予定しているか。
予定している場合は民事信託。予定していない場合は。任意後見。
・・・借入れについては金融機関の裁量に拠るところが大きいので、はっきり分かりませんが、任意後見でも代理権目録に記録されている場合、借入れは出来ないのか、任意後見監督人の監督があるので、金融機関も民事信託より貸しやすい、ということはないのか、気になりました。
裁判所の監督を希望するか。
希望する場合は任意後見。希望しない場合は民事信託。
途中で利用を止める希望はあるか。
ある場合は民事信託。ない場合は任意後見。
数世代に渡る財産の承継を希望するか。
希望する場合は民事信託。希望しない場合は任意後見。
・・・希望しない場合は、遺言になるのかなと思います。
依頼者らに説明すべき事項
・依頼者(委託者)に説明すべき事項
法律効果
信託を設定することにより、いかなる財産が対象となるのか、その財産がいかなる目的で、誰によって、どのように管理又は処分されるのか、依頼者の推定相続人にどのように承継されるのかなど、いかなる法律効果が生じるのかについて説明。
・受託者に説明すべき事項
受託者の義務,信託事務
受益者に対し,受託者は各種の義務(善管注意義務,忠実義務など)を負っていること,受託者として行わなければならない信託事務の内容を説明。
・信託契約書等の作成手数料
適正金額の手数料
依頼者の無知に付け込み,過大な手数料を請求しない。非定型の契約書又は遺言の作成に準じるという基準。信託財産に属する財産の価額に対して〇%をかけていく。公正証書にする場合に加算。
・信託契約書作成の際の留意点
信託契約の条項検討
信託に関係する諸法令
信託法、信託法施行令、信託法施行規則、信託計算規則、信託業法のほか民法,不動産登記法に加えて税法(所得税法、相続税法、財産評価基本通達など)の枠組みの理解。
東京地判平成30年10月23日(金融法務事情2122号85頁)
委託者兼受益者である親と受託者である子との間の信託契約について、委託者兼受益者によって、詐欺取消、錯誤無効、債務不履行解除、信託目的の不達成又は委託者兼受益者の合意による信託終了の主張がなされたが、いずれも認められなかった事例。
信託条項の、受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更し、若しくは本件信託を一部解除し、又は本件信託を終了することができる。の解釈(信託法164条3項の「別段の定め」に該当し,同条1項に優先するか。)。
信託条項間において矛盾のあるもの。
受益者の死亡により受益権が消滅すると規定し、その受益権を遺産分割の対象としているケースなど。
・文例の利用
信託契約書を作成する際に、文例の利用は有用。参考資料として用いることは問題ない。事案の特徴を理解し文例を事案に当てはめる。
・遺留分への配慮
遺留分の規定適用
民法の遺留分に関する規定は強行規定であり,信託契約にも適用される。
・遺留分に配慮する必要性
遺留分を侵害する内容の信託契約締結した場合、遺留分侵害額請求の対象や効果が確定しておらず、仮に裁判なった場合は解決まで相当の時間が掛かること予想される。・・・信託設定時だけではなく、信託期中、信託終了時に渡って遺留分を侵害しないことが必要だと感じます。
東京地判平成30 年 9月 12 日(金融法務事情2104 号 78 頁)
推定法相続人である兄弟間で信託設定の効力が争われ、一部の信託設定が遺留分制度を潜脱する意図でなされたものであるとされ、公序良俗に反して無効であるとされた事例。
継続的支援
不祥事を許容するなら不要。許容しないなら必要。
・・・バランスの問題ではないかと思います。ゼロか1かで考えると、民事信託は一切利用することは出来ない、という結論に流れやすいと感じます。
信託監督人は使いやすい?・・・私は利用したことがないので、分かりませんでした。
信託監督人は、受託者と身分関係がある者は不適切?・・・個別具体的な事案によると思います。
依頼者があえて遺留分を侵害する内容の信託契約を締結することを希望する場合には,希望を実現することはあり得る。
任意後見契約の代理権目録に、受益者に関する項目を記録。
・コーディネーターとしての役割
・信託契約の締結に関与する専門職の役割
信託契約を締結する際には,公証人、金融機関、司法書士及び税理士などとの間で、コーディネーターとしての役割を果たすことが求められる。
・・・コーディネートとコンサルティングと支援業務に、違いがあるのか、分かりませんでした。
・信託契約書作成の手順
公証人との打ち合わせ
信託口口座開設予定の金融機関との打ち合わせ
東京地判令和3年9月17日(家庭の法と裁判35号135頁)
専門職が信託契約書の案文の作成等を受任したが、作成した信託契約書では信託口口座の開設や民事信託融資を受けられなかったことから、依頼者(委託者)が当該専門職を訴えた事例。当該専門職には,情報提供義務及びリスク説明義務違反があるとして不法行為責任が認められた。事後的に評価すると,専門職の説明提供義務及びリスク説明義務違反ということになるが、重要なことは信託契約書作成の手順を守ること。
司法書士との打ち合わせ
事前に、信託契約書のドラフトを送り,権利移転の登記及び信託の登記が可能か確認する。登録免許税、司法書士の手数料、本人確認等に必要な資料の確認を行う。
税理士との打合せ
必要に応じて,信託税制に詳しい税理士に相談する。
公正証書の作成
委託者及び受託者と共に公証役場へ赴き,公正証書の作成をサポートする。
・信託契約書の作成後の留意点
信託口口座の開設
受託者が信託財産に属する金銭を預金で管理する場合には,信託口口座を開設して管理するようにする(信託法34条1項2号ロに基づく「その計算を明らかにする方法」を,民事信託に適した分別管理方法に変更する)。受託者と共に金融機関に出向き,信託口口座の開設をサポートする。・・・信託契約書案の段階で関わることが必要だと思います。
・信託財産の対抗要件の具備等
財産の譲渡,担保権の設定その他の財産の処分
信託を設定するにあたり、委託者は、受託者に対し、財産の譲渡、担保権の設 定その他の財産の処分を行う(信託法3条。)。
・譲渡の対抗要件
財産の譲渡を第三者に対抗するには,民法等に定められた一般的な物権変動の対抗要件を具備する必要がある(民法177条等。)。
・信託の対抗要件
登記又は登録しなければ権利の得喪を第三者に対抗することができない財産 については,財産の譲渡の対抗要件に加え。譲渡された財産が信託財産に属することを公示するための対抗要件を具備する必要がある(信託法14条。)。不発行株式などは、登記又は登録しなければ権利の得喪を第三者に対抗することができない財産ではないが、信託を対抗するためには一定の公示を要求することが個別の法律で定められている(会社法154条の2第。)。
その他の財産は,信託財産であることを証明できれば,当該財産が信託財産に属する財産であることを第三者に対抗できる。
・分別管理義務との関係
会社法154の2
株式については、当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができない。
社債、株式等の振替に関する法律142条
振替株式については、第129条第3項第5号の規定により当該振替株式が信託財産に属する旨を振替口座簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。
受託者は,信託財産に属する財産と固有財産とを分別して管理する義務を負っている(信託法34条1項本文)。そして,上記信託の登記または登録をすることができる財産については,分別管理の方法として信託の登記または登録によらなければならない(同項1号)。
いわゆる「登記留保」の問題
登記又は登録しなければ権利の得喪を第三者に対抗することができない財産 については,信託法14条の信託の登記又は登録をする義務を免除することができない(信託法14条2項)。
信託運営中の留意点
専門職による継続的な関与の必要性
・基本的な考え方
継続的な財産管理を行う場合,第三者による適切な監督が行わなければ、一定数の不祥事が発生する。 このような一定数不祥事発生を許容するかどうかの価値判断。
・民事信託では委託者及び受益者による受託者の監督は期待できない
信託法では,受益者又は委託者が監督することを予定している。しかし、民事信託においては委託者や受益者は受託者の親族であることが一般的であり、また委託者や受益は高齢であることが多く、委託者や受益は高齢であることが多く、受託者に対する監督を期待できない。
・・・私は受託者を監督、という面と受益者が自身の権利を守ること両面を予定している、と読んでいます。
・民事信託で活用すべき監督機関
信託法は,受託者に対する監督機関として,信託監督人(信託法131条以下)又は受益者代理人(信託法138 条以下)を用意している。 民事信託と任意後見を併用する場合には,任意後見人による監督もあり得る(ただし、任意後見人と受託者が別である場合に限る。)。 併用する際には, 任意後見契約の代理権目録記載事項には注意を要する。
・民事信託における監督機関の適任者
民法850条は「後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹監督となることができない。」、任意後見法5条は、「任意後見受者又人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は任意後見監督人となるこができない。」と後見監督人及び任意後見監督人の欠格事由を定めている。
民事信託でも,受託者と一定の身分関係がある者による実効性ある監督は期待できないのではないか。監督業務及び法律に精通している専門職が受託者の監督に当たることが望ましい。・・・個別具体的な案件ごとに決めることが望ましいのではないかと思います。
・信託監督人及び受益者代理人への就任
受託者に対する監督の考え方
信託契約の締結に関する業務を受任した場合の依頼者は委託者であることを前提に、信託監督人又は受益者代理人に就任した場合には、委託者(兼受益者)が望んでいる信託を適切に運営し、委託者(兼受益者)の利益を保護するために、受託者を監督すると考える。
・信託法への精通と信託契約に対する正しい理解
受託者が信託法を遵守し、信託契約に従い適切に信託事務処理を行うことが必要であり、その受託者を監督する専門職も、信託法に精通し、信託契約の内容及び趣旨を十分に理解しておく必要がある。
・・・精通、というのがどの程度なのか分かりませんでしたが、信託の目的が達成できるくらい、と理解して良いのかなと思いました。
・民事信託における監督実務
信託監督人は,信託契約に別段の定めがある場合を除き,受託者の監督のための権利(信託法92条各号(17号,18号,21号及び23号を除く。)に掲げる権利)を行使する権限を有する(信託法132条1項)。
受益者代理人は,別段の定めがある場合を除き,受益者が有する信託法上の一切の権利(信託法42条に定める責任の免除に係るものを除く。)を行使する権限を有する(信託法139条1項)。善良な管理者の注意をもって,受益者のために誠実かつ公平に与えられた権限を行使しなければならない(信託法133条,140条)。民事信託実務において、受託者に対する監督方法に関して定まった考え方はないが、財産管理で共通する後見実務を参考に、適切な監督を実践していくことになる。・信託の変更
信託の変更に関与した場合には、その信託の変更が信託法の規定や別段の定めを規定している信託契約の条項に合致しているかを確認する。
・信託税務等
税務に関する基本的な知識の習得
・依頼者(委託者)に説明すべき事項
法律効果
信託を設定することにより,いかなる財産が対象となるのか,その財産がいかなる目的で,誰によって,どのように管理又は処分されるのか,依頼者の推定相続人にどのように承継されるのかなど,いかなる法律効果が生じるのかについて説明する。
・届出や申告等への助言
信託存続中の信託収益に関する所得税の申告や信託の終了時における相続税の申告など,受託者や受益者が適切に届出や申告等が行えるよう、助言することが望ましい。
・マネー・ロンダリング対策
FATF第4次対日相互審査報告書概要
「国内外の信託、特に会社よって設立されていない信託の透明性に関しては、課題がある。
FATF第4次対日相互審査報告書を受けた行動計画
信託会社に設定・管理されていない「民事信託」及び外国信託に関する実質的支配者情報を利用可能とし、その正確性を確保するための方策を検討し、実施する(時期:令和4年秋)。