信託の目的

信託法は目的規定を置いていません。

目的規定は、今ある法律の一部を改正する法律などを除いて、第1条にあるのが普通です。法律の達成しようとする目的の理解を助けること、他の条文の解釈にも役立たせるという意味があります。

信託法の第1条は趣旨規定となっています。趣旨規定は、法律で定めることの内容そのものを要約したものです。

信託法の第1条はこうなっています。

(趣旨)

第1条   信託の要件、効力等については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

立法担当者の説明を抜粋します。

 第1条は、信託法の趣旨を規定したものであり、信託法が信託に関する私法上の法律関係を定めた全てに通じる規定で基本となるも法律であることを明らかにしたもの。

信託の目的は、信託契約書などで起案し、利用するものです。なぜかというと、目的がないと信託にならないからです。信託法2条1項に信託の定義があります。

第二条  この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

「信託フォーラムvol.7」P115~P121に、弁護士の遠藤英嗣先生が信託の目的についての記事があります。

公証人からの質問、信託の目的は複数で並列にしていいのか→良い。当事者のニーズがあるから。

河合保弘『家族信託活用マニュアル』P284など→まとまりがないのも困る。前置き(単なる「願い」)が長く、情緒的で、重複気味のものも困りもの。「願い」と「目的」は明らかに違う。

信託の目的は、その信託で達成すべき目標であって、受託者が従うべき信託の指針であり、行動基準なのです(遠藤英嗣『新訂新しい家族信託』P90)。など遠藤先生自身の著書を基に例をひきながら解説されています。

国土交通省に公表されている管理型不動産管理処分信託契約書、運用型不動産管理処分信託契約書の信託の目的は次の通りです(国土交通省HP、2017年4月12日閲覧)。受託者は信託会社です。

第○条 本信託は、信託財産を受益者のために、管理・運用・処分することを目的とする。

まず考えたいのは、家族信託の受託者には信託業法の規制が及ばないということです。自由な反面、委託者は自身の判断能力が亡くなった場合にも信託の目的を達成したいため、信託の目的は委託者主導型で受託者の行動を縛るものになりがちです。

 委任契約など他の契約ではなく、信託でなければ出来ないことに対して、信託法は、信託の目的に対して財産的な独立性を与えるという形を採っているようにみえます。信託の目的がたくさんあったり、それが並列、優劣の関係を採ったりする場合は、その分だけ信託財産の独立性を高めて受託者の裁量を制限する必要があると思います。信託目的がシンプルであれば、信託財産の独立性をある程度に抑える、つまり受託者の裁量を大きくすることに繋がります。

 こうしてみると、遠藤先生とは考え方が逆のような気がします。河合先生への批判も当たらないのではないかと思ってしまいます。願いと目的の違いが分かりませんでした。

 受益者が何人もいる場合、著書のような定めをしておかないと、公平義務違反や善管注意義務違反を一方の受益者から申し立てがされるおそれがある、とあります。

 受託者に求められる善管注意義務は、個々の信託によって変わってきます。違反が問われるのは、商事信託や成年後見、委任契約などのケースを参照、比較しながらになるのではないでしょうか。

 公平義務に関しては、信託の目的だけで決まるわけではなく、遠藤先生の書かれているように、契約書の他の条項で受託者の裁量を狭くしたり受益権の内容を明確にしたりすることで対応することになると思います。

善管注意義務、公平義務違反に関して、損失があった場合は、それを埋める責任が課されています(信託法40条、44条)。

参考文献

『信託フォーラムvol.7』2017 日本加除出版(株)

能見善久、道垣内弘人編『信託法セミナー2』2014 (株)有斐閣

寺本昌広『逐条解説新しい信託法』2007 (株)商事法務

『信託法改正要綱試案と解説』2005(株)商事法務

母が息子に信託するのと、不動産会社に管理をお願いするのはどう違うか。

共通点・・・相手を信頼して目的の実現を依頼すること

相違点

信託の場合、不動産の名義が子供に移り、不動産は信託法により所有者から独立した地位を得る。

・契約の当事者

不動産会社と管理契約を結ぶのは、受託者としての息子となる。

不動産会社に管理をお願いする場合は、母が所有者として管理契約を結ぶ(委任契約)。

・契約後

信託した場合は、母の健康状態に関係なく契約は続く。母が亡くなっても次の受益者として娘がいる場合、信託は終了しない。息子の健康状態によって契約に影響が出る。息子は原則として受託者を勝手に辞めることはできない。

不動産会社に管理をお願いする場合は、母の認知症などによって契約の変更、新たな契約などが必要になる場合がある。母が亡くなることによって、契約は原則として終了する。母は原則として自由に不動産を管理する会社を変更することができる。

始期付の遺言と、始期付きの受益権取得の定めがある遺言信託では、税金が違うのか

始期は、現在3歳の孫が18歳になったら、などの期限です。

お金は1000万円を一括であげるとします。

始期付きの遺言では、孫が18歳になったら、孫に1000万円が渡ります。ゆいごんを書いたおばあさんが亡くなって、孫が18歳になるまで、遺言執行者がお金を保管します。

 始期付きの受益権取得の定めがある遺言信託では、孫が18歳になったら1000万円を受け取ります。おばあさんが亡くなって、孫が18歳になるまで受託者がお金を保管します。

効果はほぼ同じだと考えていました。

ただし、弁護士の遠藤英嗣先生より、税理士法人山田&パートナーズ・TMI総合法律事務所著『信託-実務のための法務と税務』(株)財務詳報社)100ページを根拠に、「税務上、受益者とみなされない可能性があります。」との指摘を受けました。

効果がほぼ同じなのに税金が違うこともあるのかと思って、考えてみます。

始期付きの遺言

 おばあさんが亡くなったときに、孫に相続税の課税(2割多く)。

始期付きの受益権取得の定めがある遺言信託

始期は、条件と異なり確実性の高いものなので、おばあさんが亡くなると同時に、孫に相続税(2割多く)の課税。

よって、税務上、変わらないというのが結論です。

民法135条

信託法88条

所得税法13条

法人税法2条29号の2ロ、12条2項

相続税法9条の2

喜多綾子「信託税制における受益者課税の問題」税法学568号

相続税法基本通達

(財産取得の時期の原則)

1の3・1の4共-8 相続若しくは遺贈又は贈与による財産取得の時期は、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次によるものとする。(昭38直審(資)4、昭57直資2-177、平15課資2-1、平17課資2-4改正)

(1) 相続又は遺贈の場合 相続の開始の時(失踪の宣告を相続開始原因とする相続については、民法第31条((失踪の宣告の効力))に規定する期間満了の時又は危難の去りたる時)

相続税法基本通達18-5

相続税法18、21の15、16

受託者の責任を軽くする定めについて

第○条 受託者は、本信託の本旨に従い、受益者の利益のために忠実に信託事務の処理その他の行為を行い、かつ、善良なる管理者の注意をもって信託事務を遂行するものとする。

 なお、この義務を怠らない限り、信託財産の価額の下落その他原因の如何にかかわらず、受益者又は信託財産に関して生じた一切の損害等について、委託者及び受益者に対して責任を負わない。

という文章があったとします。受託者が責任を負うのは、忠実に信託事務を処理しなかったとき、善良なる管理者の注意をもって信託事務を遂行しなかったときの2つです。

それ以外は、委託者、受益者に対しては責任を負いません、といっています。

 忠実に~怠ったとき、というのはどのような場合でしょうか。

 忠実義務は、受益者の利益のためにのみ行動することを求める原則を定めたものです。信託が始まると義務が発生します。

 2番目の善良な~を怠ったとき、というのは、どのような場合でしょうか。

 善良な管理者の注意義務は、その職業や地位に応じた管理をしてください、というようなものです。家族であれば、その時代の家族の形に応じた管理、仕事で忙しい場合は第3者へ委託する、報告は通帳のコピーなどで代用することになると考えられます。

 信託法にも記載があるので、私は原則として記載は不要かなと思いますが、あえて契約書に書くのは、受託者の立場を明確にするという意味があるのかと考えられます。

信託法29条、30条、40条

信託口口座が開設できない場合

金融機関において、信託専用の口座を作ることが出来ない場合、どのような方法があるでしょうか。

1、現金で家の金庫に入れておき、帳簿をつける。

2、金融機関の貸金庫に保管しておき、帳簿をつけ、1年に1度くらいまとめて取り出す。

3、受託者自身の口座とは分別できる受託者としての肩書をつけた専用口座を作ってもらう。例えば、委託者【氏名】受託者【氏名】

4、信託契約書の中で、「受託者は、本件信託財産たる金銭を預金保険制度の対象金融機関の決済性預金である受託者名義の下記口座に預け入れて管理するものとする。」など特定し、通帳に「委託者【氏名】信託口【受託者氏名】」と手書きで書いておく。

5、信託契約締結前に受託者の個人口座を1つか2つ新規で作成しておき、その口座の口座番号まで信託契約書に「信託専用口座」として記載する。

6、金融機関へ口座開設申し込みの際に、検討お願いする(要件を満たせば形は信託口、普通預金の特約付きを問わない)。

要件

(1) 受託者個人の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座は

   その影響を受けないこと

(2) 受託者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受託者

の死亡が分かる書類と就任承諾書の提出および身分証明書の提示で受託者の変更ができること

(3) 受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者

の死亡が分かる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更ができること

(4) キャッシュカードの発行

(5)通帳が受益者のお客様コードとも連動していること

1と2は直接的な保管の方法、3は屋号付きの口座、4と5は似ていて、後で証明できるように信託契約書に書いておく、6は信託の要件を満たす口座であれば何でも良いので公正証書作成までに回答をお願いするものです。

 受託者のお金とは分けて管理することが義務付けられているため、信託法の義務は果たしているといえます。また判例などの傾向をみても信託財産と認定してもらうことができそうです。

 3、4、5の場合、税務署からみると、このお金は誰のものと認定するのでしょうか。あとから説明をしたり、事前に報告しておくことで、このお金が信託財産だと納得してもらうことができると考えます。

6、は金融機関で検討してくれます。

 受託者の債権者からみて、このお金は誰のものとみるのでしょうか。受託者が親戚の連帯保証人になっていた場合、親戚の返済が滞ってくると、お金を貸した会社(人)は回収したいので、受託者の口座に仮差し押さえや差押えをするかもしれません。

 その時には、これは信託財産です、といって裁判所に対して反対することができます。この手続きには申立てしてから認められるまでどのくらいの時間がかかるのでしょうか。その間、信託はストップすることになるかもしれません。お金が止まると支払いなどで困ることがあるかもしれません。

現在とることができる方法で差押えがかからないように、名寄せにかからないようにするのが適切な管理方法だと私は考えます。

 私は、今のところはこの方法でやる方が良いのじゃないかというのがあるのですが、皆さんはどう思われますか。

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参考

信託法23条、34条

民事執行法38条

民事保全法45条

最判平成14年1月17日

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株式会社の場合はどうでしょうか。

設立の際ですが、会社法34条に1号後段に、「ただし、発起人の全員の同意があるときは、登記、登録、その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない」

お金を出した人全員が賛成した場合は、会社名義の通帳は会社が成立した後にしても良い、と書いています。

株式会社には法人格があるので、分けて管理するのは当たり前のことになっているのかもしれません。信託財産には法人格がありません。

取締役は報酬以外で会社のお金を勝手に、私的に使用すると、解任される原因になり、損害を賠償することになります。

会社法330条、339条、423条

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成年後見人の場合はどうでしょうか。

 民法859条1項に、「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」

 後見人は、本人の法定代理人なので、本人の代わりに財産を預かり、管理しています。

任意後見契約に関する法律第2条

民法703条、709条

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