「家族信託で出来ないこと」について

あるメールマガジンを少し加工しています。読みながら考えてみたいと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

意外と間違いやすい。信託契約でできないことがあるので、今日は紹介していきます!

家族信託でできないこと

(1)親名義の預金は下ろせない

(2)親名義の不動産も動かせない

(3)老人ホーム入居の契約はできない

(1)親名義の預金は下ろせない

「えっ、どういうこと!?」「親の預貯金を使えるように家族信託したいのに・・」

と思われた方もいるかもしれません!しっかり説明しますね(^^)家族信託で「親のお金を使える」ようにできます!しかし、「親の名義の預金は下ろせません」。大切なことは、「信託契約だけではダメ!」ということです。例えば、家族信託契約書を持って銀行に行き、親名義の預金を下ろしたいと言っても、銀行員は対応できません。親名義の口座からお金を下ろせるのは、親だけだからです!そのため、家族信託契約を結んだお客様には契約後に信託用の子供名義の口座を開設いただきます。そして、信託したお金を移動させるのです。子供名義の口座なので、子供の裁量で下ろしたり、振り込んだりできるのです。親の口座から、信託用の口座にお金を移すのは普通の銀行振込になります!そのため注意すべきは、親がまだ契約能力がある間でないとお金を移すことができないのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「契約後に信託用の子供名義の口座を開設いただきます。」は、おそらく「委託者【親氏名】受託者【子供氏名】信託口」というような名義の口座か信託専用の子供名義の口座を指しているのだと思います(信託法34条)。

 「子供名義の口座なので、子供の裁量で下ろしたり、振り込んだりできるのです。」は、信託行為の内容によります(信託法26条、29条、30条など)。

 「親の口座から、信託用の口座にお金を移すのは普通の銀行振込になります!そのため注意すべきは、親がまだ契約能力がある間でないとお金を移すことができないのです。」。もし信託契約を締結した後、金融機関で信託用の口座を作る前に親の契約能力というものが無くなった場合、お金を移すことは出来ないのでしょうか。私は経験がないのですが、金融機関で事前に信託契約書の内容について調整していることを前提として、お金を移すことは債務の履行のように構成出来ないのかなと考えています。また0円で信託用の口座を開設出来る場合、自益信託の信託契約書に、受益者代理人の定めがあるときは資金の移動が出来ると思われます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)親名義の不動産も動かせない

こちらも驚いたかもしれませんが、お金の場合とよく似ています!不動産も信託をしただけでは足りず、不動産の登記簿に信託した旨を載せる手続きをして、不動産の名義を子供に変更しないといけません!!不動産の登記簿を子供名義に変えるためにも親の契約能力が必要になります!そのため、信託契約だけしておいて後日に不動産の名義を変える場合に、注意が必要です。もしも、親の契約能力が無くなっていた場合には、成年後見制度を利用しないと不動産を動かすことができません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この部分に関しては、信託契約公正証書を作成する際に信託財産に属する財産となる不動産に関して登記申請の委任状にも一緒に署名押印しておけば、不動産登記申請自体は行うことが出来ます(不動産登記法17条)。ただし、印鑑証明書について3か月の有効期限があるので、その期間内の登記申請が必要です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(3)老人ホーム入居の契約はできない

家族信託契約をしていても、親に代わって老人ホームなどの入居契約をする権限は子供にはありません。家族信託契約は、信託された財産についての財産管理の契約になります!そのため、施設入居時に親の契約能力が無くなっていて、施設より後見人の利用を求められた場合、成年後見人の手続きをしないと入居契約は出来ません!!!そのため、信託契約と一緒に任意後見契約をして、子供が後見人なれるようにしておくことも合わせて提案をしています!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「施設入居時に親の契約能力が無くなっていて、施設より後見人の利用を求められた場合、成年後見人の手続きをしないと入居契約は出来ません。」の部分は契約能力というのがどのようなものか分からないのですが、その通りだと思います。

民事信託・家族信託に関する質問―時々作成―

・建築費の負債があっても小規模な「一般社団法人」(=受託者)設立が可能?

 負債(金融機関からの借り入れ)、法人の規模に関わらず、信託の効力発生要件、法人の成立要件を満たしている場合は可能です。

・第一次受益者(委託者本人)第二次受益者(妻70%、長男・次男・三男各10%)の遺言代用信託を設定することも有りか?

 税務上問題がないか、税理士の確認を取ってからになりますが、設定自体は可能です。

・委託者は所有権を失うことになる。固定資産税は?

 固定資産税は、固定資産の所有者である受託者の住所に納付書が届きます。信託財産に課された固定資産税は、信託財産に属するお金から払うことになります。

参考

地方税法(固定資産税の納税義務者等)

第三百四十三条1項

 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。

・一般社団法人が解散した場合の、保留利益は社員や設立者に帰属しないので相続税の対象外になるとは?

 相続税の関係については、最終的に税理士の判断を仰ぎます。一般社団法人が解散した後の残余財産の帰属先については、非営利型でない限り、解散後に清算法人の社員総会で定めることが出来ます。

参考  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(定款の記載又は記録事項)

第十一条 一般社団法人の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

一 ~七(略)

2 社員に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは、その効力を有しない。

第二百三十九条 残余財産の帰属は、定款で定めるところによる。

2 前項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、その帰属は、清算法人の社員総会又は評議員会の決議によって定める。

3 前二項の規定により帰属が定まらない残余財産は、国庫に帰属する。

・推定相続人全員が一般社団法人の理事になると、経費の発生が抑えられる。

 最終的には税理士の判断を仰ぎます。経費の発生は法人の活動次第で、理事の数とはあまり関係がないと思います。

・多額の借金(建築費)を含む複数不動産を信託財産とすることができる?

 1つの信託行為を設定するのか、不動産ごとに信託行為を設定するのかなど色々な方法がありますが、借入先が可能だと判断した場合は、複数不動産を信託財産に属する財産とすることができます。

・返済を計画的に行うための内容は誰が決め何かに記載する必要がある?

 不動産に担保権が設定されている場合、信託契約書の信託財産責任負担債務目録に記載する必要があります。今まで計画的に行ってきた返済を、信託口通帳で行うだけなので、あまり気にする必要はないのかなと思います。計画的に返済が出来ていない場合、金融機関も信託の設定に前向きな判断を行いにくいのではないかと思います。

参考 信託法(信託財産責任負担債務の範囲)

第二十一条 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

一 略

二 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利

三 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

・子の1人が大阪にいるが、一般社団法人の理事は、どのような会議にも参加する?

 理事会を設置する場合、参加することが望ましいです。物理的に集まる必要はないので、可能だと思います。

参考  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(業務の執行)

第七十六条 理事は、定款に別段の定めがある場合を除き、一般社団法人(理事会設置一般社団法人を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。

(忠実義務)

第八十三条 理事は、法令及び定款並びに社員総会の決議を遵守し、一般社団法人のため忠実にその職務を行わなければならない。

理事会については、第90条から第98条まで。

・理事や社員の意思が合わない際の意思決定権は誰がするか。定款で定めることが出来るか。

 定款でどのような事柄を理事の決定(理事会の決議)、社員総会の決議に分けているのかによると思います。定足数などを別に定めない限り、原則として過半数で決めると考えて良いと思います。

・遺留分に抵触するような信託受益権の設定は、信託財産からの清算が必要になる可能性があるとはどういうことか。当人が遺留分を請求しなければ清算しなくても良い?

 遺留分がある場合は、金銭債務として、信託財産を含む被相続人の財産の中から支払う必要があります。当人が遺留分を1年または10年請求しなかった場合は、遺留分を請求する権利が失われます。

民法(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

・信託期間は30年の制限があるとのこと?

 2021年1月1日に信託設定。2051年1月1月を経過。その後に子どもか孫かひ孫かが受益権を取得した場合は、その人が亡くなったら(または受益権が消滅したら)、信託は終了する、という意味です。

・信託財産の帰属者に名義変更がおこなわれた場合には、移転登録免許税、不動産所得税が課税されるとは?

 信託が終了した後の移転の登録免許税については、移転について原則2%、信託の登記の抹消が不動産1個につき1,000円となります。不動産取得税は、沖縄県では原則として3%です。

参考

登録免許税法7条、別表第一1(二)、(十)、(十五)。租税特別措置法第七十二条。

沖縄県「不動産取得税」

https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/somu/zeimu/kazei/5880.html

民事信託・家族信託の何だかんだの質問

・自己信託は他人のための公正証書?

 自己信託は、公正証書、公証人の認証を受けた書面(宣誓認証)、確定日付のある証書を受益者に通知による必要があります(いずれもデジタルデータによることが可能)。他人のため、とは限らず、自身の含む誰か(受益者)のため、ということが出来ます。自己信託の設定方法によります。

信託法4条

(信託の効力の発生)

第四条 前条第一号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。

2 前条第二号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。

3 前条第三号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。

一 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成

二 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が二人以上ある場合にあっては、その一人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知

4 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

・遺言代用信託は、本人が委託者兼受益者となり、死亡後に受益権が移転する方法がベスト?

ベストなことが多い、といって良いと思います。なお、遺言代用信託は、遺言のように使える、というニュアンスで使われることが多いように思います。法令に遺言代用信託という言葉はありません。私は、信託法89条から91条までを何となくまとめて、遺言代用信託と使っています。実際に相談を受けたときは、図を書きながら、口頭で説明しながら、○○さんが亡くなった場合には、こうなります、○○さんが先に亡くなった場合は○○に受益権を取得させる契約内容にすることも可能です、というような説明を行っています。

法制審議会信託法部会第6回~第25回の中で、遺言代用信託という用語が使用されています。

(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)

第九十条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託

二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

2 前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)

第九十一条 受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

・遺言代用信託と任意後見契約の併用もありえる?

禁止する規定はなく、それぞれの役割が違うので、併用はあり得ます。お話を聴く中で、併用を決める方が多いというのが私の印象です。

・家賃の中から毎月定額を渡す方法がある?

信託契約の中で定めることが出来ます。定額を渡すことが出来ないも出てくるかもしれません。契約の定め方として、受託者の財産の管理方法で「毎月○○万円を受益者へ給付する。変更する場合は、〇日前に受益者に通知する。」、受益権の条項で、「毎月○○万円を受け取ること。」などと定めることが考えられます。

・妻の居住する自宅(土地と建物、夫婦で持分2分の1づつ所有、住宅ローン返済済)も信託不動産になる?

信託契約の中で、信託財産に属する財産に含めることは出来ます。この場合は、委託者の持分2分の1を信託財産に含めることになります。また、妻の所有する持分2分の1についても別途信託契約またはその他の方法を選択するのか検討が必要ではないかなということをお伝えさせていただきます。

・自宅だけを信託する場合、現金は信託できる?

 現金を信託財産に属する財産とすることは可能です。固定資産税やペンキの塗り替え・リフォームなどに使うことが出来るようになります。

・アパートの借入れ負債がある際、借入先の銀行は信託を快く思わない?

 銀行によって異なると思いますが、一般的に快く思わない、ということはないのではないか、とお伝えしています。もし私たちが銀行員なら、修繕や建て替えで貸付を行う際に、所有者の判断能力に疑問があったり、まだ20代前半で良く分かっていなかったりするよりは、隣で観てきた配偶者などが契約の相手だった方が安心できるのではないか、と伝えます。

・信託口座は何のために必要?沖縄県で信託口座を開設している銀行名は?

 信託口座は、財産の所有者の口座と分けるために必要です。沖縄県の金融機関で信託業務を行うことが可能な金融機関は信託口座を作成することが出来ます。

・信託会社の報酬の割合(料金)はどの程度?

 各社のホームページをみて、載っていない場合はそれぞれ問い合わせてみるしかありません。今検索をかけて気になったページを載せておきます。デジタル遺品の消去、ペットのことまでと、色々なサービスがまとまっているようです。

三井住友信託銀行 おひとりさま信託(特約付合同運用指定金銭信託)

https://www.smtb.jp/personal/entrustment/succession/after/

業務提携先?

一般社団法人 安心サポートセンター

財産管理・身元保証人・死後事務・後見・遺言・相続・見守り・日常生活支援

・買い物支援・代行・よろず屋相談(リフォーム・掃除・家屋や庭の管理・ペットに関する相談)・不動産売買・賃貸など・施設の紹介や現代の葬儀・納骨・自然葬(海洋葬・樹木葬)の紹介・諸手続き代行・税務の申告・年金や公共料金等の申請代行など・連帯保証

https://www.annshinn-sc.jp/%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%A6%82%E8%A6%81/

横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(9)」

登記情報[1]の記事からです。

第三者の範囲には、観念的な公益の代表としての登記官も含まれており、この問題は、後続の登記と登記官の審査との関係でも決定的な欠陥を露呈します。

 第三者について、大きな範囲でいうと当事者に対する語(当事者以外)。ある法律関係又は事柄について直接関与するものを当事者といい、それ以外の者を第三者といいます[2]。不動産登記法には、第三者という語が25個使用されています。第五条、第四十条、第五十条、第五十五条、第五十八条、第六十六条、第六十七条、第六十八条、第七十一条、第七十二条、第八十一条の二、第百九条、第百四十一条です。

不動産登記法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000123

民法177条で使用されている第三者は、当事者および包括承継人以外のすべての第三者(無制限説)ではなく、登記欠缺(けんけつ)を主張することに正当な利益を有する第三者でなければならない(制限説)とされています(大連判明41.12.5)。

不動産登記法の目的をみてみます。

(目的)

第一条 この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。

次に、不動産登記法の登記官の条文をみてみます。

(登記官)

第九条 登記所における事務は、登記官(登記所に勤務する法務事務官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者をいう。以下同じ。)が取り扱う[3]

 条文を読む限り、観念的な公益の代表とは何か、法務大臣の監督の下にある登記官が観念的な公益の代表としての第三者に含まれるのか、私には分かりませんでした。また、登記官が登記欠缺(けんけつ)を主張することに正当な利益を有する第三者に含まれるのかについては、登記官が原則として持っている実質的審査権の限りにおいては含まれる可能性はありますが、その範囲に留まるのではないかと思います。

(信託目録の「その他の信託の条項」に)「平成29年4月20日付金銭・不動産管理処分信託契約証書及びこれに付随する変更契約書記載のとおり。」と登記することは認められないものと考えます。

 前提として、私は引用のような登記申請を行ったことはありません。なぜ行わないかというと、記録する意味がないと考えるからです。後続登記を申請する際に、平成29年4月20日付金銭・不動産管理処分信託契約証書や、これに付随する変更契約書を登記原因証明情報を提供すれば足ります。

 実務家による書籍では、認めるものしか探すことは出来ませんでした[4]。登記官と登記申請を行う側の認識が逆になっています。

 申請(代理)する側からは、認める理由としては様式が定まっていないから、という理由が多いように感じます。委託者と受託者など当事者の側からは、第2次・第3次受益者、建物の滅失登記が可能(受託者の権限で取り壊し可能。)、(根)抵当権の設定登記申請が可能(受託者の権限で借入れ可能)、のような記録を、親族を始めとして誰でも取得することが出きる登記記録に掲載するのは躊躇するということがあると思います。

 結論としては、現状の不動産登記制度において引用のような登記申請がされた場合、登記官が認めることが出来ない(却下)ということは不可能ではないかと思います。記事からも根拠法令の記載を探すことは出来ませんでした。ただ、記事でも触れられていますが、書くと余計な混乱を招きかねない可能性もあると思います。信託契約書をどこかに隠しているのではないか、知らない間に変更されているのではないか、など余計な印象を親族をはじめとした第三者に与えてしまうのではないかと思います。すると不動産登記法の目的は果たせなくなります。このような記録から訴訟等が増えたり登記官への問い合わせが増えたりすると、引用のように、近い将来認められなく可能性はあるのではないかと考えます。

法定終了事由は、信託法に規定されている周知の事項であることから、ことさら、「信託の終了の事由(10号)」として登記をする必要性はないと考えています。

 登記申請を行う側からは、とても良い判断をいただいたと思います。全ての法定終了事由に関しては、登記を記録しなくても信託の終了の登記と附随する登記申請を行うことが出来るようになります。また、認めないではなく必要性はないという判断なので、依頼者が忘れないように、安心できるように記録しておくことは認められます。自由度の高い設計が可能となります。

用語の定義や信託不動産目録等が、当然のように登記されています。

 初めて知りました。用語の定義については、どのような記録の仕方なのか分かりませんが、気を付けたいところです。信託不動産目録については、どうにかして同一の信託行為にかかる不動産(例えば土地とその上の建物など。)は、登記記録で管理したい、というのは、私もやったことはありませんが思います。難しいところですが、現状は登記申請を行う側で受付番号と信託目録番号で管理していくしかないのかなと感じます。イメージとしては共同担保目録ではなく株主名簿です。

受益権者甲某に相続が開始したからといって、相続を原因としてその他の信託の条項の内容が直ちに変更される性質のものではなく、信託当事者による信託契約の内容が変更されてはじめて、変更の登記の可否が問題になると考えられます。

 記事に記載の通り、その他の信託の条項の内容が自動的に変更されることはありません。私は、「信託契約の内容が変更されてはじめて」という部分が分かりませんでした。信託契約書の内容によりますが、契約内容を変更しなくても、信託契約書と変更の事実を証する情報を提供し、登記申請においてその他の信託の条項の変更を行えば、信託契約の内容の変更は必要がないと考えます。なお、受益権持分(割合)については以前記事で書いた通り私は利用できないと考えるので使いません。


[1] 712号 2021.3 きんざい P14~

[2] 法令用語研究会編「法律用語辞典第4版」2012有斐閣

[3] 七戸克彦監修「条解不動産登記法」2013弘文堂P62~P84

[4] (一社)民事信託推進センター編集協力「民事信託実務ハンドブック」2016日本法令P185~P186。遠藤英嗣「家族信託契約」平成29年日本加除出版P171~P172など。

PAGE TOP