市民と法[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(11)―AI契約書審査に関する法務省回答の衝撃―」からです。
経済産業省 グレーゾーン解消制度の活用事例
・法曹無資格者による契約書等審査サービスの提供【回答日】令和4年7月8日
・AIによる契約書等審査サービスの提供【回答日】令和4年6月6日
おそらく記事執筆後の活用事例
・契約書レビューサービスの提供【回答日】令和4年10月14日
URLは上と同じです。
このAIによる有償契約書審査に対する回答では、弁護士法72条違反の構成要件該当性の基準が下げられているように感じられるが、読者は、どのように感じられるだろうか。
・契約書レビューサービスの提供【回答日】令和4年10月14日における回答書では、「弁護士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に該当するというためには、同条本文に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものであることが要求される。」と紛争性の有無に触れられています。また、「契約書のレビュー結果として表示される選択した立場に応じた法的リスクの判定結果、これに関する解説、修正例等は、いずれもレビュー対象契約書の条項等に係る法律効果について、法的観点から評価を加えた結果を表示するものであり、これらは法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べるものとして「鑑定」に当たると評価される可能性がある。」とされ、鑑定の評価基準についても触れられています。
「契約書のひな形との比較結果及び利用者が設定した留意事項の表示は、レビュー対象契約書の条項等のうち、あらかじめ登録した契約書のひな形の条項等と異なる部分がその字句の意味内容と無関係に強調して表示され、また、利用者が自ら入力した内容がその意味内容と無関係にそのまま機械的に表示されるにとどまるものである限り、「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難い。
本件サービスの提供の態様や比較対象とされた契約書の条項等の内容等の個別具体的な事情に照らし、比較対象となる契約書のひな形の条項等の選定が、単に言語的な意味内容の類似性を超えて法的効果の類似性を表示するものと評価される場合には、法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べるものとして「鑑定」に当たると評価される可能性がないとはいえない。」とされています。
あらかじめ登録した契約書のひな形の条項等と異なる部分がその字句の意味内容と無関係に強調して表示され、また、利用者が自ら入力した内容がその意味内容と無関係にそのまま機械的に表示されるにとどまるもの、と法的判断を伴わず法的効果の類似性を表示するもの、という留保を付けて、鑑定に該当しない場合に言及しています。
「また、類似度判定の結果は、レビュー対象契約書の条項等と契約書のひな形の条項等との言語的な意味の類似性の程度を表示するにとどまるものである限り、「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難いが、個別具体的な事情に照らし、単に言語的な意味の類似性を超えて法的効果の類似性の程度を表示するものと評価される場合には、法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べるものとして「鑑定」に当たると評価される可能性がないとはいえない。」として、レビュー対象契約書の条項等と契約書のひな形の条項等との言語的な意味の類似性の程度を表示するにとどまるものである限り、と鑑定に該当しない場合に言及しています。
これらは個別具体的なサービスに対する回答であり、鑑定に該当するか否かの基準の全てではありませんが、弁護士法72条違反の構成要件該当性の基準が下げられているようには感じませんでした。
これらは、契約書に対する有償サービスに対する回答であることから、有償による信託契約書の作成業務、そして、信託契約書の審査(チェック)業務、信託契約書の雛型提供業務などに対する弁護士法72条の適用の可能性の可否が心配となってくる。
有償による信託契約書の審査(チェック)業務、有償による信託契約書の雛型提供業務に関しては、弁護士法72条の適用可能性の可否について考える必要もあると思います。審査・提供を行った司法書士などに過誤があった場合、責任がない、という構成は難しいと感じます。
個人的見解ですが、のような留保を付けていたとしても、有償で専門士業等に対してサービスを提供しているということは、より高度な役務を業として行っていると考えられます。
審査を受けた司法書士が過誤を起こした場合や紛争になった場合に、何の責任も負わない、という可能性は低いと考えます。以前、日司連民事信託推進委員で信託の学校運営者の司法書士に質問してみましたが、関係がない、という回答でした。
今後どうなるのかは分かりません。
法的根拠論は多ければ多いほどよい。盾=防御は多いほどよいからだ。複数の法的根拠論は、原則として並存であり、非両立の関係にはない。法的観点は競合しうる。しかし、それらは、とにもかくにも説得的・理論的なものである必要がある。そうでなければ、司法書士実務家を守れないからだ。
司法書士法3条に基づく、司法書士法施行規則31条に基づく、司法書士法1条に基づく考え、司法書士法3条・司法書士法施行規則31条にも当てはまるものではなく、司法書士は時代に合わせて市民のために債務整理や震災被害者支援などプロボノ活動を行ってきたのであり、民事信託支援業務もその一環であるという考え、などが私の現在知っているものです。
プロボノ活動を行ってきたのであり、という主張は立法事実を作る、という考えも含まれているのかもしれません。令和3年9月17日東京地方裁判所判決平成31年(ワ)第11035号損害賠償請求事件の判決文において、司法書士、民事信託支援業務という記載があることも、事実を積み重ねるという意味があるのかなと思います。
有償の信託契約書の作成業務や審査業務について、仮にグレーゾーン解消制度を利用したとしたら、どのような回答が出てくるのだろうか。さらにはAIによる信託契約書の作成、あるいは、諸条件を入力することで信託契約書の雛型が提示されるなどのサービスはどうだろうか。やはり、弁護士法72条の適用の可能性は否定できない、と評価されるのかもしれない。
有償の信託契約書の作成業務や審査業務について、AIによる信託契約書の作成、あるいは、諸条件を入力することで信託契約書の雛型が提示されるなどのサービスについて、どちらも弁護士法72条の適用の可能性は否定できない、と評価されると思います。ただ、照会の書き方によって、基準が示される可能性が高いと思います。言語的な意味内容の表示をどの程度超えるか、が1つ論点としてあるのかなと思います。
信託法は、デフォルトルールと信託行為の別段の定めの選択という法技術的(柔軟)な構造でもって、信託契約を非定型な構造のものとしている。
利用者(委託者)が、あらかじめ準備されたデフォルトルールと別段の定めを選択できるのであれば、定型的に処理することも一定程度で可能だと思います。
どちらかというと、所轄庁がないことが民事信託支援業務における信託契約書の非定型化を招いている面が強いのかなと感じます。判例や、誰かが登記が完了したという経験を待ってから実務が少しずつ固まる形では、時間がかかります。
いずれにせよ、法3条と規則31条は、並存であり、共存であって、どちらかを選ぶというような択一的な関係にあるわけではない。一種の法的観点・請求権競合にある。
司法書士法という法律が上位で、司法書士法施行規則が法律の解釈を超えない政令としての意味で下位だと思います。
民事信託初体験の司法書士が法務局提出書類として作成した信託契約書を、民事信託のエキスパートを称する他の司法書士が有償で審査(チェック)する場合があると聞くが、そのような審査(チェック)業務も法3条1項2号に該当するものなのだろうか。
審査を受ける司法書士に対する報酬の額、業として行う程度によりますが、信託契約書案の作成・相談と比較して、鑑定と評価される可能性が高いではないかと考えます。
[1] №137、2022年10月、民事法研究会、P33~
参考
池尻範枝「隣接法律専門職の業務範囲と弁護士法七二条 : 行政書士による相続手続の事例」阪大法学71巻6号、2022-03
七戸克彦「司法書士の業務範囲(5) : 司法書士法3条以外の法令等に基づく業務(1)」『市民と法102号』民事法研究会、2016-12
小林昭彦・河合芳光・村松秀樹『注釈司法書士法(第四版)』テイハン、2022/06
経済産業省グレーゾーン解消制度の活用事例「利用者が本店移転登記手続に必要な書類を生成できるWEBサイトを通じたサービス等の提供について」【回答日】平成30年8月27日