家族信託の相談会その52

お気軽にどうぞ。

2023年2月24日(金)14時~17時

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え

1組様 5000円

場所

司法書士宮城事務所(西原町)

要予約

司法書士宮城事務所 shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp

後援  (株)ラジオ沖縄

民事信託の登記の諸問題(17)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(17)」からです。

権利の帰属を示すという意味は、権利者が誰であるかを示すことである。所有権の信託であれば、所有権者が誰なのか、ということである。そして、これは、民法177条に基づく対抗要件としての権利の登記である。

 私なら、所有権者が誰なのか、の部分は、信託行為による制限を受けた所有権者は誰なのか、とすると思います。

この点、信託の内容の登記は、実体法の領域に一番近いような印象がある(例えば司法書士の民事信託支援業務の法的根拠としての信託目録という側面ではそうである)。しかし、実体法上の法的根拠に乏しいとすれば、信託の内容の登記は、むしろ、それは極めて手続法的な領域にある、という逆説が存在することになる。

 読み取りが難しかったです。信託の内容の登記、という用語を私が理解していないからかもしれません。信託の内容の登記の大部分は、信託目録の記録内容を、構成や文言を実体法に即して考える必要があるから、実体法の領域に一番近いような印象がある、というような意味なのかなと感じます。

信託は泣いているとして知られる裁判例(注256溜箭将之「信託が潜在能力を発揮するには」信託法研究45号6~7頁)であるが、本誌読者のなかにも、違和感を感じる人がいるかもしれない。かような違和感は、信託は契約という方法で設定されるが、その実質として信託は契約なのか否か、という視点に関わる問題でもある。

 信託法3条1項1号による信託行為は、契約です。実質がない条文だとすると、利用しない方がよい、廃止する方がよい、となるので、現在のところ、実質がある契約だと考えられます。契約は両当事者が対等とみるのが原則で(民法521条)、当事者の属性、契約締結時前後の状況、その他の事情によって、個別具体的に判断されるものだと思います。

 裁判例(東京地裁平成30年10月23日判決)に関しては、父親が信託行為をしたいと考えたとき、受託者に就任する人が二男しかいなかったという可能性もあり、判決文を読む限り、父親である委託者が一方的に不利だったのか、分かりませんでした。

信託の関係は、弱者と強者の関係であり、そこで、弱者に対する後見的役割を果たし、公的介入を行うのがエクイティ裁判所である(かような後見的役割の不在こそエクイティ裁判所の伝統がない日本における課題である)注260、樋口 範雄『入門・信託と信託法』2007、弘文堂P27、P52。

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

(受託者の権限違反行為の取消し)

第二十七条 受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するときは、受益者は、当該行為を取り消すことができる。

一 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと。

二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

2 前項の規定にかかわらず、受託者が信託財産に属する財産(第十四条の信託の登記又は登録をすることができるものに限る。)について権利を設定し又は移転した行為がその権限に属しない場合には、次のいずれにも該当するときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。

一 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について第十四条の信託の登記又は登録がされていたこと。

二 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと又は知らなかったことにつき重大な過失があったこと。

3項、4項略


[1] 899号、令和5年1月、テイハン、P93~

信託登記における錯誤・遺漏による更正登記リスク

家族信託実務ガイド[1]の記事、渋谷陽一郎「信託登記における錯誤・遺漏による更正登記リスク」からです。

それでは、登記官にとって信託法182条1項2号の特約が存在しないことになってしまうと、どうなるのでしょうか。登記手続上、同条2項の委託者または委託者の相続人が帰属権利者に指定する定めがあるものとみなすと、登記官に判断されてしまう可能性はないでしょうか。

 先例、通達、判例、裁判例が出ていない現状では、個々の登記官の判断に委ねられる可能性はあると考えます。

受託者の法務一郎が、後続の登記を申請する際に、当該特約(信託行為による定め)を称する登記原因証明情報として、信託設定時から存在している信託契約書を提供すれば足りる、と考えてもよいのでしょうか。

「・・・・登記原因証明情報として当該契約書を提供すれば足りると考えているようですが、このような取扱いは、信託目録の否定だけではなく、信託登記の公示制度の役割そのものを否定することになってしまいます。」(横山同書16頁)

 当該特約の登記がないにもかかわらず、信託契約書を提供することで、後続の登記の申請を行うようなことはできないということのようです。

 登記の申請構造としては納得できます。横山亘先生の見解が、そのまま全国共通の登記実務となるのか、結論付ける根拠でいいのか、位置付けが分かりませんでした。登記情報の連載が、「(元)登記官による~」などの書籍になると、根拠として扱っていいのか分かりません。

昭和41年5月16日付民事甲第1179号民事局長回答

信託の登記ある不動産についての抵当権設定登記申請の受理について

【要旨】受任者が第三者の債務の担保として信託財産に抵当権を設定しその登記の申請があった場合、委託者及び受益者の承諾があるときでもその申請は受理すべきでない。

この通達は、委託者と受益者が承諾した情報を添付することによって、受託者が登記義務者として、信託目録を変更更生せずに、抵当権設定登記の申請を行うことが出来るかを問うものであり、信託契約書が添付されている場合とは分けて考える必要があるのではないかと思います。

参考

登記研究554号P99~

カウンター相談43 信託原簿の受益者の記載の変更の申請書に添付すべき「変更を証する書面」について

問 不動産の管理を目的とする信託の登記がされ、代物弁済により質権者が受益権を取得したので、信託原簿の受益者の記載の変更の申請をしようと思いますが、申請書に添付すべき「変更の書面」がありません。この場合、申請書副本のみを添付すればよいでしょうか。

答 「変更を証する書面」をも添付する必要があります。

昭和27年8月23付民事甲第74号民事局長回答

甲が乙に売渡したる不動産の所有権移転登記を為さず死亡したので、乙が甲の相続人と共に右売買による所有権移転登記申請を為さんとするも相続人三名の内一名がその登記手続に応じない為め他の相続人と共に右登記申請を為したるとき受理して差支ありませんか。

回答

本月5日附日記第3434号をもって問い合わせのあった標記の件については、相続人全員が登記義務者として申請すべきものと考える。

任意後見契約が存在しないまま、委託者兼受益者が、認知症に罹患して、判断能力を喪失してしまえば、成年後見人の選任が求められるリスクはないでしょうか。もちろん、それは、登記官が、錯誤更生の申請時、更生を証する情報として、委託者兼受益者の名義関与を求めた場合の話です。

 成年後見人の選任が求められるのは、リスクなのか、分かりませんでした。当初から成年後見制度を利用しないための信託であれば、それはリスクかもしれません。

 登記に関係なく、認知症に罹患して福祉、医療、保険などの各種契約が求められる場面では成年後見人の選任が求められる可能性があります。記事に記載のあるように、民事信託支援業務に携わる士業の説明義務という点では同感です。


[1] 28号、2023年2月、P80~

民事信託の登記の諸問題(15)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(15)」からです。

受託者は、信託目的達成に必要な行為である処分しかできない、という内在的制約がある。しかしながら、受託者による当該処分が、信託目的達成のために必要な行為であるか否か、一義的な判断は難しい。登記の形式主義の下、いかにして当該処分の有効性を判定すればよいのだろうか。

 登記の形式主義というのは、必要な情報が提供されていれば、登記される、ということだという理解で進めてみたいと思います。登記申請の代理業務において、事実と実体法上の確認・判断は資格者代理人により行われ、登記された後で納得できない方には、権利行使の機会があるように設計されているのだと考えます(信託法8条、27条、40条、58条、92条に列挙されている事項、163条から166条、民法1条、90条、415条、709、858条から866条など)。

△整合性の解釈が難しい要約例

4信託条項

信託の目的 高齢者の生涯に亘る住居の安定的な提供

信託財産の管理方法

受託者の権限 高齢者の居住する信託不動産を売却することができる。

 特定の不動産を指しているわけではないので、新しい住居を用意した上での売却するであれば、問題にはならないのではないかと考えられます。

賃貸物件からの収益を受益債権として定期給付する信託目的に対して、その収益源である当該賃貸物件を売却することは、信託目的の達成に必要な行為とはならない、と評価できそうである。

 何十年という期間にわたり存続する可能性がある信託行為の目的で、生涯に亘る、などの用語の使うのは、難しいのではないかと感じます。ただし、委託者の意思が、生涯、が条件でありそれが達成できないのであれば、信託を終了する、という信託行為であれば良いのかなと思います。


[1] 令和4年11月、897号、テイハン、P51~

民事信託の登記の諸問題(16)

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(16)」からです。

信託法を審議した2006年の第165回国会では、次のような、民事信託支援業務に取り組む資格者代理人の人々が注意しておくべき参議院法務委員会の附帯決議が付されている。1つは、福祉型信託に関する附帯決議の抜粋である。

 高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託については、特にきめ細やかな支援の必要性が指摘されていることにも留意し・・・

「特にきめ細やかな支援の必要性」という表現に着目したい。信託条項の雛型や定型書式の盲目的な利用には注意しなければならない。

リンクを貼っておきます。

参議院

第165回国会 (平成18年9月26日~平成18年12月19日)

法務委員会

信託法案及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案に対する附帯決議 (平成18年12月7日)

https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/165/futai_ind.html

 特にきめ細やかな支援の必要性が指摘されていることにも留意、が信託条項の雛型や定型書式の盲目的な利用を指しているのか、分かりませんでした。

また、登記によって、実体法、手続法共に法的効果等を全く生じない無意味な情報などが過剰に並ぶ信託原簿が存在していた。

 受益者取消権(旧信託法31条)による、直接、受託者の権限外処分による取消権の対抗要件となる信託原簿から、一歩後退している信託目録になっていますが、現在の信託目録の方が記録として分かりやすくなっているのではないかと感じます。それは、信託目録の記録内容について、様々な情報があり議論がなされているからだと思います。私は信託原簿の時代に司法書士ではありませんでしたが、信託原簿が空洞化したのは、実務情報が公開されることが少なく、取り扱う専門家が一部であったことが原因なのかなと想像します。

むしろ、民事信託の登記の分野に限っていえば、従来の廃止論の経緯を忘却し、信託の専門家を称する資格者代理人の一部が「信託目録の作成は資格者代理人の腕の見せ所」や「創意工夫」などとして、法務局に対して、第三者のための公示ではなく、依頼者の利益代表としての過剰情報を提供する反面、必要情報が提供されないないなど、信託原簿時代以上に問題は深刻化しつつあるようだ(資格者代理人の法令実務精通義務違反を構成しよう)。過去の営業信託のために登記から生じた不幸が再現されないよう祈るほかない。

 法令実務精通義務違反は、司法書士法上、懲戒処分の対象となるので、もう少し明確な基準が必要じゃないかなと思います。例えば、過剰情報を提供する場合(親族など内部の個人情報に関わる。)と、必要情報が提供されない場合(第三者への公示としての登記が、意味をなさなくなる。)では、基準が異なってくるのではないかなと感じます。


[1] 898号、令和4年12月、テイハン、P134~

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