「信託契約公正証書作成の留意点」

浅草公証役場公証人 澤野芳夫

 

家族信託実務ガイド[1]の記事からです。

公正証書作成件数推移の概況

以下、日本公証人連合会が正規に公表しているもの以外は概数で表示しています。

―略―

民事信託件数

平成30年1月~6月計 1000件

平成31(令和元)年1月~6月計 1200件

令和2年1月~6月計 1400件

日本公証人連合会が全国の民事信託件数の概数を把握していることに驚きました。

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私が平成31年に那覇公証センターに照会したときには、そのような調査はしていないという回答だったからです。数字をみると、現実的な数字かなと感じます。遺言公正証書の作成件数と比較すると約2%~3%ですが、決して少なくないという印象を私は持ちました。業界内で大きく取り上げてられている割に少ないというズレも何となく納得です。

信託契約公正証書作成の留意点

―略―

金銭の追加信託についても、例えば「信託口座への入金をもって信託財産の追加とみなす」という文言は、①委託者の意思能力がなくなった場合にも追加信託として認められるかという問題点や、②前記の学説のように追加信託も契約とみると、委託者、受託者の関与がない追加信託を認めて良いかという問題点があるので避けたほうがよいと思われます。

私が考え得る方法

方法1、信託法26条の範囲で、受託者から受益者に信託事務に必要な費用として金銭を信託財産に属する財産として追加してもらう構成にする。

 

方法2、信託法146条を利用して、委託者の地位を追加信託の権限に限定して受益者に移転する。受益者の意思能力がなくなった場合に備えて受益者代理人を選任しておく(または選任できる規定を定めておく。)。不動産の場合、信託法上は有効ですが、不動産登記法の構成上、登記が出来ません。

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(2)委託者の意思確認の重要性

―略―

この関係で、信託契約の中に終了事由として「受益者は、受託者の合意により、本件信託を終了することができる」との条項(以下、「本件条項」という)があった場合、それが上記別段の定めにあたるとして、委託者兼受益者が信託を終了するには、受託者との合意を要すると解される余地があるので注意を要します。(東京地裁平成30年10月23日判決金融法務事情2122号85頁参照)。本件条項は上記別段の定めにあたり、委託者兼受益者が信託を終了させるには、受託者との合意が必要となると解さざるを得ないと思いますが、そうすると、遺言では、遺言者の最終意思を尊重するということで撤回が自由とされている(民法1022条)のに、資産の承継という目的を有する点で遺言と同様の目的をも有する信託においては、委託者兼受益者が自由に撤回(終了)できなくなるのが妥当といえるのかという問題が生じます。

・上記別段の定めにあたるとして、委託者兼受益者が信託を終了するには、受託者との合意を要すると解される余地があるので注意を要します。(東京地裁平成30年10月23日判決金融法務事情2122号85頁参照)。について

「受益者は、受託者の合意により、本件信託を終了することができる」との条項を入れたとしても、「その他信託法で定める場合」と信託行為に定めている場合は信託法164条1項の委託者は単独で信託を終了することが出来ます。

 

・遺言では、遺言者の最終意思を尊重するということで撤回が自由とされている(民法1022条)のに、資産の承継という目的を有する点で遺言と同様の目的をも有する信託においては、委託者兼受益者が自由に撤回(終了)できなくなるのが妥当といえるのかという問題が生じます。について

委託者兼受益者が自由に撤回(終了)できる信託を設定すると、受託者に就任する人が少なくなると思われるので、避けたほうがよいのかなと感じます。本当に委託者や受益者と受託者の関係が悪くなった場合には、信託法163条1項1号か同法165条により信託を終了せざるを得ないのかなという印象を持ちました。

[blogcard url=”https://miyagi-office.info/%e4%bf%a1%e8%a8%97%e3%81%ae%e7%b5%82%e4%ba%86-2/”]

信託契約の条項において、「本信託は、委託者が事理を弁別し判断能力が不十分になったときに効力を発生する」(判断に客観性を持たせるために医師2名以上の診断書を必要とすることなどが考えられます)などとすることにより、―中略―停止条件付信託契約はこのような不都合を生じるおそれがありますので、注意をする必要があります。

信託契約ではなく自己信託にして、受託者が後継受託者を誰からみても正常な状態で指名しない限り信託が終了するような仕組みにすれば良いのではないかなと感じました。

(4)「受託者は、信託不動産の瑕疵及び瑕疵により生じた損害につき責任を負わない」という条項について

著者も民法上の責任を負うなど注意喚起していますが同意します。またこのような条項を入れることにより、受託者にとってより不都合な解釈がされるのでないかと思います(例えば、信託設定時から損害が生じることを知っていたのではないか、など)。

 

[1] 2021.2第20号P2~日本法令

「利益相反取引の容認条項」

家族信託実務ガイド[1]の記事からです。

 

利益相反行為のと事例

(1)略

(2)略

利益相反行為

(3)第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が第三者の代理人となって行うもの

具体的な事例

信託財産たるマンションを受託者が代表を務める会社に売却するケース

法的効果

有効!

⇒取引当事者である第三者が知っていた場合、または知らなかったことについき重大な過失があった場合は、取消可能

具体的事例の場合、知らないということは同一人物なのであり得ないと思います。有効、取消可能の両方のケースでも信託法40条が適用されることにも触れた方が良いのかなと感じました。

 (4)信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者またはその利害関係人と受益者との利益が相反することになるもの

具体的事例

受託者個人が借りている銀行のアパートローンの担保として、信託財産を担保提供するケース

法的効果

有効!

⇒取引当事者である第三者が知っていた場合、または知らなかったことについき重大な過失があった場合は、取消可能

 

銀行など金融機関が担保設定する場合に、信託財産であることを知らないということはほぼないのではないかと感じました。信託法40条の適用は(3)と同じです。

 

利益相反取引はその都度受益者の同意を得るのが原則

―略―

一つ目は、「受益者代理人」を置き、受益者に代わって受益者代理人がその都度承諾をするという方策です。

―略―

受益者代理人にも一定の同意要件を置く必要があるのかなと思いました。

利益相反行為はその都度受益者の同意を得るのが原則

―略―

利益相反取引については具体的に記載する

信託契約書の条項において、単に「受託者は利益相反行為(自己取引)をすることができる」旨だけを置くケースを見かけることが少なくありません。

地域性かもしれません。私は「受託者は利益相反行為(自己取引)をすることができる」という直球の条項をみたことがありません。怖くないのかな、委託者(兼)受益者に説明したときに理解を得られるのかなと思ってしまいます。

利益相反取引については、具体的に記載する

記載されている規定は省略します。信託行為で予め定める想定がされていますが、大枠だけ決めておいて(または決めずに)、取引の都度決めても良いのかなと感じます。

受益者に利益相反行為をしたことを報告するのが大原則

―略―ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによると定められているため、信託契約書に「信託法31条3項による受託者から受益者への通知は、要しないものとする」との条項を設ければ、受益者への通知を省略することが可能となります。

ここでいう報告、通知は、受託者から受益者への利益相反行為後の事後の報告、通知です。信託法31条3項但し書きを規定する場合(私はしませんが)に一本補助線を引く必要があると考えます。例えば、通知の対象となる利益相反行為が信託財産の大部分を占めるものではないこと、受託者の負担軽減になること、信託財産に損害がないこと、などになるのかなと思います。ただし、受託者の負担軽減になること、という要件は利益相反行為が頻繁にある信託であるということを意味するので、そのような信託類型は限定されて要件にはなり得ないのかもしれません。

[1] 2021.2第20号日本法令P63~

横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(7)」

登記情報[1]の記事からです。

 

1 受益者の変更と委託者の変更の登記申請の先後―略―以上のことから、どちらの登記を先に申請しても特段の問題はないものと考えます。

 委託者の変更登記を先に申請しても登記出来るのか、私には疑問でした。受益権の譲渡が委託者の地位移転の条件となっています。信託登記目録に委託者の地位移転条項が記録されている場合、登記原因証明情報に受益権の譲渡の事実が記載されてときについても、委託者の変更登記を受益者の変更登記より先に信託目録に記録することが出来るのだろうかと感じます。別件申請でも連件申請でも同じです。

2 委託者及び住所変更の一括登記申請の可否

 私も筆者と同じく一括登記申請は不可能だと考えます。「同一登記名義人」の要件を満たしていないからです。連件申請または別件申請で対応することになると思います。

例えば、信託法に定められている規定と同一の内容が確認的に契約書等に記載されている場合、これを重ねて登記する必要はないでしょうし、公序良俗や違法性のある登記事項、相互に矛盾する規定などをそのまま登記することは問題でしょう。

 信託法に定められている規定と同一の内容が確認的に契約書等に記載されている場合、これを重ねて登記する必要はないか、についてですが、場合によっては必要があると考えます。特に受託者の事務については、借入れや売買の予定がある場合には予め相手の基準に合わせる必要がある場合もあります。その他の信託条項の「何らかの公示のルール」に関しては、筆者も記載している通り何らかのルールが必要だと感じます。現在のルールだと、その他の信託条項が一番記載が多くなって当事者、第3者、登記官が読みにくいと思います。私なら、信託法97条1項の号数を増やして、その他の信託の条項の範囲を狭めます。

 

 

 

[1] 710号2021年1月金融財政事情研究会P14~

チェック方式の民事信託契約書2020

 意見の部分は私見である。本稿は、司法書士が司法書士法3条1項2号及び司法書士会員が服する規律[1][2]に基づき、権利義務に関する法律文書[3]である民事信託契約書を、個別的具体的な依頼に対する受託の範囲内[4]において、法律事件に関する法律事務[5]として作成する。上記をもって補うことの出来ない契約書の作成業務は、官公庁を間に交えた他士業間のガイドラインの作成、司法書士法、同施行令、施行規則、会則、報酬を含む執務基準、司法書士試験[6][7]、事務所毎の基準の順に改正又は創設を必要とする。司法書士法施行規則31条に基づかない。司法書士としての専門的知識を最大限に活かして市民の生活設計の一助となることを目的とし[8][9]、国語・金融教育の一環と位置付ける[10]

 その他のチェック方式の法律文書として、任意後見契約における代理権目録[11]、訴状[12]、答弁書、訴えの取下げ書などがあり、参考とする。チェック方式を採る場合の相談形態は、契約書作成者が先に質問を行うエスノグラフィー、半構造化インタビューに近づき[13]、包括受託型から個別受託型への転換を図る。民事信託契約書の作成は定型的となり[14]、現在の当事者の事実関係及びその将来における予測可能な法律関係に必要な法律判断を要する事務となる。法律相談は、司法書士法3条1項5号に基づいて行う。信託契約当事者と司法書士の間に組成、設計、スキームという語は出ない。司法書士の業務として財産管理という語は出ない。期中は司法書士関連法令に基づき、信託関係者との関与を継続する中で必要な書類の作成及び助言を行う。

 前文

 委託者【氏名】は、その所有する財産を信託財産とする信託契約を、受託者【氏名】と締結する(「以下、本信託」という)。本信託はこれにより効力を生じ、委託者は受託者に対して信託財産を引き渡す。

□契約に至った背景[15]【                           】

解説

 契約書に前文[16]を置く場合、契約の当事者及び法的性質を示すのが最低限の役割となる[17]。経緯・理念等が契約書本文の各条項を解釈適用する上で重要な意味を持つ場合は、その理由を付して契約書本文に条項として組み入れることを検討する必要がある。その他の場合は、和解契約における道義条項に類似するものとして、前文に記載するのが適当である[18]

 信託契約の成立には委託者による所有は要求されていないが、確実に信託財産に属する財産にするため所有を要件とする(信託法4条1項)。また信託財産の引渡しを受けなければ、受託者は信託行為に従って当該財産の管理、処分その他の必要な事務を行うことが出来ない可能性がある(信託法2条5項)。

第1章   総則
第〇条         (信託の目的)
□1   信託の目的は、次の各号に掲げるとおりとする。受託者は、信託の目的に従い信託財産を管理、運用、処分およびその他の目的達成のために必要な行為を行う。
□(1)受益者とその扶養義務者の安定した暮らし。
□(2)財産の円滑な管理および承継。
□(3)【                       
□(4)【                       
□2   信託目的の優先順位[19]                

解説

 信託の目的に関するリスクを一点挙げる[20]。信託の目的は、信託の変更及び終了(信託法149条、150条、163条)事由となり得る。明確ではない事由が起こった場合に信託の変更又は終了が信託内部の者の間でなされると、外部関係者が予期しない不利益を受ける可能性がある。対応として、信託行為において(1)信託法149条4項による定めを設ける、(2)信託法150条の申立てを行う場合又は信託法163条1項1号による終了による場合は、金融機関などへの事前報告義務を課することを定める、などが考え得る。

第〇条         (信託財産)

 1 本信託における財産は、次の第1号から第2号までとする。本信託の翌日以降に生じた第3号から第5号までの財産も、その種類に応じた信託財産に帰属する。

□(1)別紙記載の不動産(以下、「信託不動産」という。)[21]
□(2)別紙記載の金銭(以下、「信託金銭」という。)。
□(3)信託財産に属する財産の管理、運用、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産。
□(4)受益者が信託目的の達成のために行う、自己が所有する金銭、不動産、債権およびその他の財産を信託財産とする追加信託。
□(5)その他の信託財産より生じる全ての利益。
□2   委託者は、本信託について特別受益の持ち戻しを免除する[22]
□3   本信託設定日における信託財産責任負担債務は、別紙記載のとおりとする。
□4   【                  

解説

 本条1項では、民事信託契約時における信託財産及び契約後に信託財産に属する財産を確定する。

 追加信託の法的な構成は、新たな信託設定と信託の併合を同時に行うもの[23]、 信託法16条1項1号の「その他の事由により受託者が得た財産」も追加信託に含まれるもの[24]等の考えがある。2項は民法903条3項但し書の規定[25]である。特別受益については、死因贈与[26]、遺贈と生前贈与の中間であり、死因贈与に近いので、死因贈与に類する扱いをすることになる[27]、委託者の権利が制限されていない原則的な規律による遺言代用信託については、遺贈[28]などの見解がある。

 いずれの見解を採っても、遺留分減殺請求の順序には影響を及ぼすが特別受益となる。

第〇条         (受託者)
□1   当初受託者は、次の者とする。

  【住所】【氏名】【生年月日】【委託者との関係】

 □【本店】【商号】

□2   受託者の任務は、次の場合に終了する。

 □ただし、信託法58条1項は適用しない。

□(1)受託者の死亡。

□(2)受益者の同意を得て辞任したとき。

□(3)受託者に成年後見人または保佐人が就いたとき。

□(4)受託者が法人の場合、合併による場合を除いて解散したとき。

□(5)受託者が、受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合。

□(6)受益者と各受託者が合意したとき[29]

□(7)【受託者が○○歳になったとき・                

□(8)受託者が唯一の受益者となったとき。ただし、1年以内にその状態を変更したときを除く。

□(9)その他信託法で定める事由が生じたとき。

□3   受託者の任務が終了した場合、後任の受託者は次の者を予定する[30]

   【住所】【氏名】【生年月日】【委託者との関係】

 □(後任の)受託者の任務が終了した場合、新たな受託者を次の順位で予定する。

第1順位:任務終了前の受託者が、あらかじめ書面により指名した者。

第2順位:信託監督人が書面により指定した者。

第3順位:その他信託法に基づいて選任された者。

□4   任務が終了した受託者(その相続人のほか、信託財産を管理すべき者を含む。)は、後任の受託者が信託事務の処理を行うことができるようになるまで、受益者への通知、信託財産の保管その他の必要な事務を行う[31]
□5   受託者に指定された者が、本信託の利害関係人[32]による催告から1か月以内[33]に受託者に就任しない場合は、受益者は新たな受託者を定める。
□6   後任受託者は、前任の受託者から受託者としての権利義務を承継[34]し、次の各号に記載する必要な事務を行う。
□(1)債務の弁済、費用の清算[35]
□(2)前受託者の任務終了が辞任による場合を除いて、必要な場合の債務引受け。
□(3)その他の信託財産の引継ぎおよび信託事務を処理するための受託者の変更に伴う必要な手続。
□7   【                       

解説

 1項では、辞任及び解任も任務終了として扱う(信託法56条1項5号、6号)。

 信託法58条1項の規定が適用される場合において、自益信託の受益者が1人のとき、委託者兼当初受益者が単独で受託者を自由に解任できる。受託者は委託者及び受益者に対して損害の賠償請求が可能な場合がある[36]が、(1)受託者に不利な時期の判断、(2)賠償される損害の範囲及び(3)受託者を解任した者が損害賠償責任を免れるやむをえない事由の判断が明確でなく、民事信託の安定性確保のため選択肢に含める(信託法58条3項)。

2号では信託法57条1項本文から、委託者の権利を除外している。

8号は受託者が1年間唯一の受益者となったときを選択肢に掲げる。本来信託の終了事由(信託法163条1項2号)を定める条項であるが、専門家ではない受託者の注意を促す[37]

 受託者が受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合を、当然に任務が終了する事由としている。これは、信託法58条4号の受託者による任務違反、信託財産への著しい損害及びその他重要な事由があった場合の受託者解任の規定に対する基準としての例示列挙である(信託法29条、38条、56条1項7号。会社法433条、976条1項4号。)。受託者による情報開示がなければ、受益者は受託者の任務違反及び信託財産への損害等を判断することは不可能である。また受益者の報告請求及び請求に対する受託者の情報開示は、信託行為によって免除・軽減出来ない。民事信託においては、信託法38条2項の除外事由に該当することもほぼ無いと考えられ、明確な任務違反の1つとして選択肢に含める。

 後任受託者の特定や後任受託者の選任方法について、受託者が事故で急死した場合、信託監督人が就任していない場合などは、信託法の規定に沿って新受託者を選任する(信託法62条)。

第〇条       (受益者)
□1   本信託の第1順位の受益者は、次の者とする。

【住所】【氏名】【生年月日】

□2   受益者の死亡により受益権が消滅した場合、受益権を原始取得する者として次の者を指定する。

   第2順位

  【住所】【氏名】【生年月日】

 □【住所】【氏名】【生年月日】

 □ 第3順位

  【住所】【氏名】【生年月日】

 □【住所】【氏名】【生年月日】

□3   次の順位の者が既に亡くなっていたときは、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。
□4   受益権を原始取得した者は、委託者から移転を受けた権利義務について同意することができる[38]
□5   受益者に指定された者または受益権を原始取得した者が、受益権を放棄した場合には、さらに次の順位の者が受益権を原始取得する。
□6   受益者に指定された者が、指定を知ったとき又は受託者が通知を発してから1年以内に受益権を放棄しない場合には、受益権を原始取得したとみなす。
□7   【委託者氏名】は、【委託者以外の受益者氏名】が受益権を取得することを承認する。

解説

 1項における第1順位の受益者は委託者となる。

 2項には、新たな受益者が受益権を取得する場合、信託法90条1項1号、91条の要件によることを記載する。契約条項に定める際は、信託法90条1項1号により委託者の死亡の時に受益者となるべきものとして指定されたものが受益権を取得すること、及び信託法91条の定めにより受益者の死亡により受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得することの2つの内容を記載する必要がある。 

 3項は、現在の受益者が死亡した場合において次順位の者が死亡していたとき、その次の順位の者が受益権を原始取得して受益者となる定めである。原則として、委託者兼受益者の死亡により信託が終了することを想定しているが、残余財産の帰属権利者を信託終了時の受益者としていること、受益者は順番に亡くなるとは限らないこと、受託者を残余財産の帰属権利者とする場合があることから、第3順位まで定める。

 4項は、新たに受益権を取得した者は、前の受益者が委託者から移転を受けた権利義務を承継するのか否か、判断する規定である。移転を受けた委託者の個人的な権利義務(特に義務)に関しては、当然に新たに受益権を取得する者に負担させるのは酷であり、別途同意が必要である。

 6項は受益者となるべき者として指定された者が、受益権の取得又は放棄を判断する期間について制限を設ける(信託法99条。民法986条、987条)。受益者となるべき者として指定された者に不利益を与えないようにすることと、民事信託の安定性とのバランスが要請される。本稿では民法における遺贈の放棄を参考に1年としているが、その他の定め方はあり得る。

 7項は受益者(後順位の受益者、清算中の残余財産の帰属権利者等を含む)に受託者が指定されている場合、利益相反関係[39]を取り除くため委託者の許諾を求める(信託法29条、31条)。

第〇条    (受益権)
□1   次のものは、元本とする。
□(1)信託不動産。
□(2)信託金銭。
□(3)遺留分推定額。
□(4)【修繕積立金、敷金・保証金等返還準備金・        

□(5)上記各号に準ずる資産。

□2   次のものは、収益とする。
□(1)信託元本から発生した利益。
□(2)□【賃料・             
□3   元本又は収益のいずれか不明なものは,受託者がこれを判断する。
□4   受益者は、信託財産から経済的利益を受けることができる。
□5   【受益者氏名】は、【医療、入院、介護その他の福祉サービス利用に必要な費用の給付・生活費の給付・教育資金・      】を受けることができる。
□6   受益者は、事前に□【受託者・信託監督人】の書面による同意を得なければ、受益権の全部または一部を□【譲渡・質入れ・担保設定・その他の処分】することができない。ただし、受託者の書面による同意は、信託財産または受益権に金融機関による担保権が設定[40]されているときは、あらかじめ当該金融機関の承認を受ける[41]
□7   受益者は、遺留分請求があった場合は、受託者に事前に通知のうえ受益権(受益債権は金銭給付を目的とする。)を分割、併合および消滅させることができる[42]
□8   受益権は、受益権の額1円につき1個とする[43]
9   【任意後見人の事務について同意する事項(    )・        

解説

 1項、2項では受益権の元本及び収益を記載する。元本と収益を分けるのは、会計を可能な限り明確にするためであり、複層化信託を想定していない。遺留分推定額は、受益者の総財産及び推定相続人の人数により時間とともに変動し得るので、可能な限り把握するために毎期受益権の元本として計上する。4項、5項は受益者が、主に信託金銭をどのような目的で利用する権利を持っているのかを記載する。

 6項は受益権の譲渡に関する規定である(信託法94条2項。改正民法467条)。受益権に対する質入れ、担保設定は金融機関以外を想定しない。譲渡は親族への贈与・売買または第三者への売買を想定している。また譲受人保護に関して民法改正整備法により構成が変更となる[44]。受益者が持つ受益権を放棄する権利は、その性質が放棄を許さない場合及び第三者を害する場合を除いて制限することが出来ない。

 7項は、受益権の譲渡に関して具体的な場面を想定する(信託法96条から99条まで)。遺留分の請求を受けた者[45]が一括で支払うことが不可能な場合に分割で支払うときを想定する。遺留分請求については、対象となる者およびその効果について解釈が分かれているが、不当な請求でない限り支払うことを前提とする。また受益権のうち金銭給付のみを取り出して譲渡することは出来ないという解釈もあり得るが、受益権を信託設定当初から複数に分けていれば妨げられないと考える。

8項は受益権の数を定める。定めがない限り1個である。従って受益権の割合を定めた場合は共有となる。受益者間の公平及び計算の容易さから受益権の額1円につき1個とする。

第〇条         (受益者代理人など)
□1    
□(1)本信託の受益者【氏名】の代理人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・受益者に成年後見開始または成年後見監督人選任の審判が開始したとき・    】から就任する。
□(2)本信託の信託監督人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・           】から就任する。

  【住所】【氏名】【生年月日】【職業】

□2   受益者(受益者の判断能力が喪失している場合で、受益者代理人が就任していないときは受託者)は必要がある場合、受益者代理人、信託監督人を選任することができる。
□3   受益者代理人および信託監督人の変更に伴う権利義務の承継等は、その職務 に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。

 1項は信託契約締結時に特定の者を受益者代理人として定める。2項は信託監督人に関する事項であり、1項と同様の構成である。3項は、信託期中に受益者、受益者代理人又は受託者が、受益者代理人、信託監督人をそれぞれ選任することが可能にする定めである。

 4項は、受益者代理人及び信託監督人の変更(任務終了事由及び後任の指名方法)及び変更に伴って必要となる事務を、受託者と同様とするものである(信託法134条、135条、141条、142条)。ただし、受益者代理人及び信託監督人の職務に抵触することは出来ない。例えば、信託監督人は受託者を監督するための機関であるから、後任の信託監督人を選任する方法として任務終了前の受託者が、あらかじめ書面により指名する方法によることは出来ない。このような場合、信託法135条で準用する信託法62条1項、8項により受益者が選任する。

 司法書士が信託監督人及び受益者代理人に就任するには、司法書士法、政省令、会則又は執務基準の改正・創設が必要と考える。

第〇条         (委託者の地位)
□1   委託者は、次の各号の権利義務を受益者に移転する。
□(1)信託目的の達成のために追加信託をする権利義務。
□(2)受益権の放棄があった場合に、次の順位の受益者または残余財産の帰属権利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利。
□2   委託者は、受益者を変更する権利およびその他の権利を有しない。
□3   委託者の地位は、受益権を取得する受益者に順次帰属する。
□4   委託者が遺言によって受益者指定権を行使した場合、受託者がそのことを知らずに信託事務を行ったときは、新たに指定された受益者に対して責任を負わない。

 1項では、委託者の持つ権利義務のうち、一部を受益者に移転する。権利義務のうち一部を移転することは、(1)信託法に一部移転を制限する定めはなく、(2)受益者に不利益がないことを要件として可能である。1号は、委託者から受益者へ、信託目的の達成のために追加信託をする権利義務を移転する。追加信託を設定する義務は、信託法48条などを根拠として受益者に備わっているという考えも成り立つ。当初から受益者に追加信託設定の義務があるとしても、その権利義務は受託者が信託事務を行うために必要な財産を補うためのものに限られる可能性がある。受益者固有の余裕財産を信託財産に移す権利を排除しないために、委託者が信託当事者として持つ追加信託の権利を受益者に移転する。これにより受益者は、委託者から移転された権利及び受益者に備わっている義務を根拠に追加信託を設定することができる。

 2号では、委託者から受益者へ、受益権の放棄があった場合に次の順位の受益者または残余財産の帰属権利者がいないとき、新たな受益者を指定することができる権利を移転する(信託法89条)。本稿で想定する遺言代用信託(信託法90条1項1号)における委託者は、受益者変更権を有する(信託法90条1項本文)ので、利用できる場面を制限(信託法90条1項本文但し書)して民事信託の安定を図る。ただし、新たな受益者を指定する受益者(又は受益者代理人)が生存している場合に限り利用することができる権利であり、受益者が死亡した後に次の順位の受益者として指定されていたものが受益権を放棄した場合には利用することができない。

 2項では、委託者に信託設定後の権利を持たせないとする(信託法89条、90条など)。1項において受益者に移転した権利の他、委託者は信託設定によりその権利関係から外れる。

 3項は、信託財産に不動産がある場合における登録免許税を考慮した条項である[46]。また委託者の地位に関するリスクとして、委託者の地位が相続または第三者へ移転された場合、その地位(権利)の所在が不明となる可能性を取り除く。

 4項は受託者の免責事由を定める(信託法89条3項)。遺言は単独行為であり、信託契約において禁止・制限しても委託者が行うことは可能である。

第2章   受託者の信託事務

(信託財産の管理方法)

第○条

□1   受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。

□(1)所有権の移転登記と信託登記の申請。

□(2)本信託の変更により、信託不動産に関する変更が生じる場合の各種手続き。

□(3)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為。

□(4)信託財産責任負担債務の履行。

□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。

  □売買契約の締結および契約に付随する諸手続き。

  □賃貸借契約の締結、変更、終了、契約に付随する諸手続き及び契約から生じる

   債権の回収および債務の弁済。

  □使用貸借契約の締結、変更、終了および契約に付随する諸手続き。

  □保険契約の締結または契約内容の変更および解約。

  □保険金及び賠償金の請求及び受領。

  □リフォーム契約の締結。

  □境界の確定、分筆、合筆、地目変更、増築、建替え、新築。

  □その他の管理、運用、換価、交換などの処分。

  □【                  

  □ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・       

   から事前に書面(電磁的記録を含む。)による承認を得なければならない。

  □【                  

  □【                  

  □【                  

□(6)その他の信託目的を達成するために必要な事務。
□2   受託者は信託金銭について、次の信託事務を行う。
□(1)信託に必要な表示又は記録等[47]
□(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理[48]
□(3)信託財産責任負担債務の期限内返済および履行。
□(4)本信託の目的達成に必要な場合の、信託財産責任負担債務の債務引受[49]
□(5)受託者がその裁量において適当と認める方法、時期及び範囲で行う次の事務。

□受益者への定期的な生活費の給付、医療費、施設費などの受益者の生活に必要な費用の支払い。

□金融商品の購入、変更および解約。

□不動産の購入、賃借。

□受益者の送迎用車両その他の福祉用具の購入。

□受益者所有名義の不動産に対する擁壁の設置、工作物の撤去などの保存・管理に必要な事務。

 □【                            

 □その他の信託目的を達成するために必要な事務。

 □ただし、以下の事項については、□【受益者・信託監督人・       

   の書面(電磁的記録を含む。)による事前の承認を得なければならない。

  □【○○万円を超える支出・       

  □【                  

□3   受託者は、信託目的の達成のために必要があるときは、受益者の承諾を得て金銭を借入れることができる。受託者以外の者が債務者となるときは、金銭債務は信託財産責任負担債務とする[50]
□4   受託者は、受益者の承諾を得て信託財産に(根)抵当権、質権その他の担保権、用益権を(追加)設定し、登記申請を行うことができる。
□5   受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第三者へ委託することができる[51]
□6   受託者は、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合は、本信託の目的に従い受益者の承諾を得て、支出することができる[52]
□7   受託者は、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする合意をすることができる。ただし、受託者に就任して1年を経過した場合は合意があるものとみなす。
□8   受託者は、受益者(受益者代理人、信託監督人、法定代理人および任意後見人が就任している場合は、それらの者を含む。)から信託財産の管理状況について報告を求められたときは、1か月以内に報告しなければならない。
□9   受託者は、計算期間の末日における信託財産の状況を、信託財産に応じた方法によって受益者(受益者代理人、信託監督人、法定代理人、任意後見人が就任している場合は、それらの者を含む。)へ報告する。
□10     受託者は、受益者から追加信託の通知があった場合、その財産に信託の目的をはじめとした契約内容に適合しない財産がある場合は、追加信託の設定を拒否することができる。
□11   受益者に対して遺留分請求があった場合、遺留分の額が当事者間で確定しないときは、受託者は調停調書その他の権利義務が確定する書面を確認するまで、履行遅滞の責任を負わない[53]
□12   受託者は、善良な管理者の注意をもって、受益者のために忠実に職務を遂行する[54]
□13  受託者は、土地への工作物などの設置により他人に損害を与えることのないように管理する[55]
□14   受託者は、信託行為に記載のある事務および受益者の事前同意を得た事務に関して、信託期間中及び信託終了後、信託財産に関する瑕疵及び瑕疵により生じた損害について責任を負わない。
□15   本条項に記載のない事項は、信託法その他の法令に従う。

解説

 1項は、信託不動産に関する受託者の信託事務である。1号から4号までは、信託契約の効力発生以後に受託者が行うべき義務的な事務である(信託法29条1項、34条、不動産登記法97条、98条。)。4号の信託財産責任負担債務の履行とは、信託不動産を賃貸している場合の貸す債務(為す債務)などである[56]

 5号は、受託者の権利的な事務に関する定めである。まず受託者に対して与える信託事務の裁量を選択する。そのうえで、裁量に対する制限をどのように設けるかを選択する仕組みとする。

 2項は信託金銭に関する受託者の信託事務である。1号から3号までは、受託者が行うべき義務的な信託事務である(信託法29条1項、34条)。1号、2号における預貯金口座は名称を問わない。要件として、1受託者固有の口座が差押えを受けたとしても、信託専用の口座はその影響を受けないこと、2受託者が亡くなるなど任務終了した際、相続を証する書面等を不要として、前受託者の任務終了が確認できる書類と後任の受託者の就任承諾書の提出および身分証明書の提示により受託者の変更ができること、3新たな受益者が亡くなった際、相続を証する書面を不要として、受益者の死亡が確認できる書類と受益者の身分証明書の掲示をもって受益者の変更ができること、4キャッシュカードの発行、の全てを満たしている口座を作成する。現状[57]において、金融機関の信託口座に対する統一的な事務規定は公表されていないと思われるので、個別の対応を要する。なお4号は受託者の義務ではないが、信託契約前に予定されている場合もあり、受託者が次順位以降の受益者または残余財産の帰属権利者の場合もあるため義務的な事務に含める。

 5号は、1項と同様の仕組みである。

 3項は、金銭の借入れに関する定めである。受託者以外の者としては、受益者のみを想定する。

 7項は、信託契約の当事者(委託者)ではない受益者と、受託者との費用負担に関する定めである(信託法48条5項)。

 8項及び9項は、信託財産の情報開示に関する定めである。8項に期限を設けることにより、受託者の任務終了事由を明確にする(信託法37条1項、38条)。1か月という期間は、民法853条及び後見等開始後の実務における家庭裁判所への事務報告期間を参考にしているが、異なる期間を定めることも可能である。9項は、信託財産の報告の方法と対象者を定める[58]

 10項は、受託者が追加信託を拒否することができる場合を規定する。管理責任を負うことの出来ない財産を信託財産に属する財産とすることは、受託者(特に契約当事者ではない後任受託者など)の負担が重くなる(改正民法412条)。

第〇条         (信託事務処理に必要な費用)
□1   信託事務処理に必要な費用は次のとおりとし、受益者の負担により信託金銭から支払う。信託金銭で不足する場合には、受託者と受益者との個別合意により、その都度、又はあらかじめ受益者に請求することができる[59]
□(1)信託財産に対して課せられる公租公課[60]
□(2)信託不動産の維持、保全、修繕および改良に必要な費用。
□(3)損害保険料。

□(4)信託監督人、受益者代理人およびその他の財産管理者に対する報酬・手数料。

□(5)弁護士等の士業その他の第三者へ委託した場合の手数料又は報酬。
□(6)受託者が信託事務を処理するに当たり、過失なくして受けた損害の賠償。
□(7)その他の信託事務処理に必要な諸費用。
□(8)【                  
□2   受託者が信託事務の処理に必要な費用に関して、【金額】円を超える場合、事前に信託金銭の中から支払いまたは事後に信託金銭から償還を受けるときは、受益者に対してその額のみを通知する。ただし、算定根拠を明らかにすることを要しない。

解説

 信託事務処理に必要な費用の条項は、信託財産の管理方法と重複する部分があり不要と考えることもできる。本稿では、(1)信託事務処理に必要な費用が信託の終了事由にもなり得ること(信託法52条、54条など)、(2)受託者変更の際の事務引継ぎを円滑に進めるため、(3)受益者が変更となった場合、費用に関する合意を行うための明確な基準作りのため、の3つの理由から条項を設ける。

 1項各号は受益者にとって、公租公課など信託財産から支払うべき義務的な費用と、旅行費など権利的な費用に分ける。上記(1)から(3)までの機能を考慮する結果、本条項において記載すべきは主に義務的な費用となる。5号における司法書士報酬は、チェック方式で行う場合、法務局また地方法務局に提出する書類の作成及び裁判所への提出書類作成と同様の算定方法となる[61]。難易度に応じて報酬を加算することは妨げられない[62]。2項は、信託法48条3項の但し書を利用する。受託者は、受益者に対して算定根拠を通知することは不要だが、前払・事後償還を受ける額を通知する必要がある。

第3章   信託の終了と清算
第9条         (信託の終了)
□1   本信託は、次に掲げる各号のいずれかの場合に終了する。
□(1)【氏名】が亡くなったとき。
□(2)信託の目的に従って受益者と受託者の合意があったとき[63]
□(3)信託財産責任負担債務につき、期限の利益を喪失したとき[64][65][66]

□(4)受益者と受託者が、○○県弁護士会の裁判外紛争解決機関を利用したにも関わらず、和解不成立となったとき。ただし、当事者に法定代理人、保佐人、補助人または任意後見人がある場合で、その者が話し合いのあっせんに応じなかった場合を除く[67]

□(5)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。
□(6)受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき。
□(7)信託財産が無くなったとき。
□(8)その他信託法で定める事由が生じたとき。
□(9)【                       
□2   本信託において、信託法164条1項は適用しない[68]

解説

 1項は、信託が終了し清算手続きに入る要件を規定する[69]。1号を終了原因が明確であることを理由として信託の終了事由の原則とする。2号は信託法164条3項の定めであるが、信託法163条1項1号前段を準用し、受益者と受託者の合意によって終了を明確にする。2号は改正民法541条、542条を参考としている。

 2項は信託法164条の但し書の規定であり、民事信託の安定を図る。

第10条    (清算受託者及び手続)
□1   清算受託者は、本信託が終了したときの受託者とする。
□2   清算受託者は、本信託の受託者として行っている職務を終了し、次の清算手続きを行う。
□(1)信託財産に属する債権の回収および信託債権に係る債務の弁済。
□(2)受益債権に係る債務の弁済。ただし、残余財産の給付を内容とするものを除く。
□(3)清算手続きに必要がある場合、残余財産の帰属権利者に通知のうえ、財産の処分、担保設定および残余財産の帰属権利者による債務引受けの催告。ただし、債権者があるときはその承諾を必要する[70]
□(4)信託事務に関する最終の計算。
□3   残余財産の帰属権利者から最終計算の承認がされ、清算受託者が残余財産を帰属権利者に引き渡したとき(残余財産の帰属権利者による債務引受けが必要な場合は、事前に債務引受けを行うことを要する。)に清算手続きは終了し、信託財産の所有権は移転する。
□4   清算受託者は、清算結了時の現状有姿(債務引受けの状態を含む。)でもって残余財産を残余財産の帰属権利者に引き渡す。[71]
□5   清算受託者による登記、登録、届け出および通知が必要な残余財産がある場合は、その手続きを行う[72]
□6   清算受託者の変更に伴う権利義務の承継等は、本信託の受託者と同様とする。[73]

解説

 1項では清算受託者を特定する。2項では信託法177条を基準に、清算手続きの内容を示す。3項は清算の終了時期及び信託財産の所有権移転時期を定める[74]

第11条    (信託終了後の残余財産)
□1    本信託の終了に伴う残余財産の帰属権利者は、本信託の清算結了時の【受益者・受益者の相続人・【氏名】・        】とする[75]
□2   清算結了時に信託財産責任負担債務が存する場合で金融機関が求めるときは、合意により残余財産の帰属権利者は、当該債務を引き受ける[76]

 1項は、信託終了後の残余財産の帰属権利者を特定する。残余財産の受益者(信託法182条1項1号)は信託期中における利益相反関係に該当する可能性があるため利用しない。2項は金融機関が債権者である信託財産責任負担債務につき、信託終了後における取扱いを定める。

第4章   その他
第12条    (受益者の代理人が行使する権利)
□1   受益者代理人が就任している場合、受益者代理人は受益者のためにその権利を代理行使する[77]
□2   受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない。ただし、任意後見人、保佐人および補助人においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く[78]
□(1)受託者の辞任申し出に対する同意権[79]
□(2)受託者の任務終了に関する合意権[80]
□(3)後任受託者の指定権[81]
□(4)受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同意を求める権利。
□(5)受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。
□(6)受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾権[82]
□(7)受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)設定する際の承諾権[83]

□(8)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。

□(9)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権[84]
□(10)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権。
□(11)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権。
□(12)本信託の変更に関する合意権[85]
□(13)残余財産の帰属権利者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権[86]
□(14)本信託の終了に関する合意権[87]
□3   信託監督人が就任している場合、受益者の意思表示に当たっては事前に信託監督人との協議を要する。

 民法上の後見人等は、信託財産に対して介入することが出来ないのが原則である。しかし、後見人等の権利の範囲及び重複する財産について、後に疑義を生じないために本条を設ける。原則として成年後見人は信託上の受益者や委託者の権限(指図同意権を含む)の代理行使は不可能であり、例外として信託法が具体的な定めを置いている受益者等の監督権と、信託受益権の保存管理のための代理権である、との見解[88]もあるが、信託行為に代理権を持たない事項を定め民事信託の安定を図る。

 任意後見は本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録の活用によって、任意補助形に近い役割を果たす[89][90][91]。例えば、遺産分割と身上監護に関する事務は任意後見人に包括的な代理権を与える。他の事務は全て本人(受益者)の事前同意を要する。ただし、信託監督人が就任した場合は、信託監督人との事前協議を要する、と定めて、任意後見を発効する。その後、本人(受益者)の能力が衰えてきたときに、民事信託契約の変更により信託監督人を選任する、という方法を考えるができる。

 2項は信託法上の受益者代理人、後見人等及び任意後見人の間の権利関係を調整すし、受託者の信託事務処理を円滑にする。

第〇条    (信託の変更)

□1   本信託の変更は、次の各号に掲げる方法による。ただし、信託財産が金融機関に担保提供されている場合、受託者はあらかじめ当該金融機関の承認を受ける。

□(1)信託目的の範囲内において、受託者と受益者による合意[92]
□(2)その他信託法が定める場合。
□2   受益者が受益権を分割、併合および消滅させたときは、信託の変更とする。
□3   【                       

1項但し書きは、担保権者が不測の損害を受けないことを目的とする。2項は信託の変更に関するみなし規定である(信託法149条4項)。

第〇条    (信託の期間)

 本信託の期間は、契約日から本信託が終了した日までとする[93]

第〇条    (公租公課の精算)

 本信託の税金や保険料などは、本信託設定の前日までは委託者、以後は信託財産から支払う。

第〇条    (計算期間)
□1   本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。
□2   最初の計算期間は契約の日から12月31日までとし、最後の計算期間は1月1日から本信託の終了した日までとする【受益者が法人の場合は事業年度】。
第〇条    (契約に定めのない事項の処理)
□1   本信託の条項に定めのない事項は、信託法その他の法令に従い、受益者及び受託者の協議により処理する。
□2   受益者及び受託者のみでは協議が整わない場合で、意見の調整を図り信託の存続を希望するときは、○○県弁護士会の裁判外紛争解決手続を利用する。

□3   【                        

解説

信託の期間は、他に【氏名】の死亡などを定めることが出来る。

公租公課の精算条項では、いつから、誰が、どこから負担するのかを明確にする。計算期間は受益者が個人の場合、税務上の申告・届出が必要なときがあるという理由から、1月1日から12月31日を原則としている。

契約に定めのない事項の処理は、協議、裁判外紛争解決手続きの順で解決を図り、それでも困難な場合は信託を終了し、訴訟などの裁判手続きを行うことを想定する。

第〇条    (信託契約の前提)
□1      委託者および受託者は、信託契約を締結するうえで次の各号について説明を受けた上で確認、合意する。
□(1)私たちにとって家族信託を利用、併用することが、他の方法のみを利用することと比べて良い方法だと理解しました[94][95][96][97]
□(2)今回設定する信託の目的を確認しました[98][99][100]
□(3)委託者に債権者がある場合、信託を設定することによって損害を与えないことを確認しました。
□(4)受益者に債権者がある場合、追加信託の設定および受益権の譲渡をすることにより損害を与えないことを確認しました。
□(5)委託者および受託者は、信託財産に債権者がある場合、受益者の全部または一部を変更することによって損害を与えてはいけないことを確認しました。
□(6)委託者は、信託を設定することにより、その財産の名義が受託者に移転することを理解しました。
□(7)委託者は、信託設定日における信託財産に、契約不適合となるような欠陥などが見つかった場合、その欠陥などを修復する義務があることを確認しました。
□(8)受託者は、個人の財産と信託財産を分けて、信託目的のために事務を行うことを理解しました。
□(9)受託者は、信託財産に不動産がある場合、所有者または占有者として建物などの工作物に対する責任を負う可能性があることを確認しました。
□(10)受益者が亡くなった際、遺留分への対応方法を確認しました。[101]
□(11)信託の設定にかかる実費、金融機関への手数料、専門家報酬など費用負担について理解しました。[102]
□(12)信託目的を達成するために必要な信託財産は、充分であることを確認しました。[103]
□(13)金銭、不動産、自社株式、受益権の割合その他の本信託に関する所得税、消費税、相続税、贈与税、固定資産税、不動産所得税、譲渡取得税、登録免許税、印紙税などの税務について、専門家より説明を受け理解しました【専門家氏名】。[104]
□(14)信託財産に不動産がある場合、信託目録の記録事項について、専門家より説明を受け理解しました【専門家氏名】。

解説

 公正証書の作成を前提とする場合、民事信託契約の当事者による確認、合意についても公証機能を持たせる[105]。公証人は、法務大臣の任命を受けて(地方)法務局に属し、(地方)法務局の監督を受ける(公証人法10条、11条、74条)。信託契約当事者自身がチェックを入れることを想定する。

第19条    (金融機関の処理に対する合意)[106][107][108]
□1   委託者および受託者は、次の各号に掲げる金融機関の対応について説明を受けたうえで確認、合意する。
□(1)受託者の任務が終了したとき、後継受託者が存在する場合には、当行は、当該信託契約に基づき、当該預金を後継受託者の信託専用口座に変更します[109]
□(2)後継受託者は、名義変更手続きに当たり当行所定の書式により届けると共にもに、受託者が変更になったことを証明する書類を提示するものとします。[110]
□(3)信託が終了した場合は、信託契約に基づき、当行は信託された金銭を残余財産受益者または残余財産の帰属権利者に払い戻します。払い戻し手続に当たっては、信託契約終了の事由を証明する書類、本人であることを証明する書類を提示するものとします[111]
□(4)信託財産に当行に対する借入金等の債務がある場合において、当行が必要と認めるときは、後継受託者が当該債務の引受をすることを承認し、実際に債務引受が行われた時に、払戻しの手続を取ります[112]
□(5)信託財産に当行に対する借入金などの債務がある場合、当行は当該債務と相殺したうえで、払戻しの手続を取ることが出来るものとします[113]
□(6)信託契約が変更になった場合は、受託者、受益者(受益者代理が就任している場合は受益者代理人)は、2週間以内に、当行所定の書式により届けるとともに、変更契約書の原本を提示します[114]
□(7)委託者、受益者、受託者およびその他の当該信託契約の関係者は、住所、連絡先の変更、死亡または後見人等が就いた場合その他の信託契約にかかる重要な異動があった場合は、速やかに事実を証する書類を提示し、当行所定の書式により届け出るものとします。
□(8)当行所定の変更届を提出することを怠り関係者が損害を被った場合、当行はその責任を負いません。

    【説明・確認年月日】【説明・確認者氏名】

解説

 本条項は、民事信託契約当事者による表明保証及び専門家が関わる場合の説明責任を果たす役割を持たせるのが目的である。当事者がチェックを入れる。金融機関は民事信託契約書について、公正証書の作成に加え独自にリーガルチェックを行う場合が多い。金融機関の説明について信託契約当事者が合意したことも、可能であれば公証機能を持たせて民事信託の安定を図る。

特約

□1   【遺留分権者の確認                  
□2   【遺留分権者への対応                     
□3   【信託変更の場合の届出                    
□4   【受益者指定権者等の有無                   
□5   【委託者による購入済みの保険、投資信託、株式の確認と今後の対応[115]
□6   【受託者の報酬                        
□7   【受益者の指図権  無・有(                )】
□8   【受託者が指図に従わなくても良い場合[116]
□9   【法人がある場合の履歴事項証明書・規約・出資者名簿・     
□10  【受益者・推定相続人に外国籍、日本以外の住所、居所がある方がいる場合【国名】     
□11  【信託財産が日本以外にある場合【国名】  
□12   【準拠法の選択【日本】[117]             
□13   【任意後見人の事務について同意する事項(    )】

以上

解説

 民事信託契約の締結の際、定めていた方が良いと考えられる事項を例示列挙した。契約書と別に定める方法もあり得る。

以上

別紙

信託財産目録

第1 不動産【自宅・貸地・貸家・墓地・         】

所在 地番 地目 地積       

所在 家屋番号 種類 構造 床面積 

第2 金銭  

【金額】円

第3 その他

【仏壇・位牌・     

以上

別紙

信託財産責任負担債務目録

□ 1  金銭債務

    (連帯)債務者 【住所氏名】

     債権者    【金融機関本店】【金融機関名】【取扱店】

    【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て

    【当初金額】万円

    【利息】【損害金】

□2 保証債務

   (連帯)保証人 【住所氏名】

   (連帯)債務者 【住所氏名】

    債権者     【本店】【商号】【取扱店】

   【契約年月日・契約の種類】に基づく残債務の全て

   【当初金額】万円【利息】【損害金】

□3 担保権

(1)担保権者 【本店】【商号】【取扱店】

(2)【年月日】設定の【担保権の名称】

(3)登記 【法務局の名称】【年月日】【受付年月日・受付番号】

(4)被担保債権及び請求債権

   【年月日】付【契約名】に基づく残債務の全て

   【当初金額】万円 【利息】【損害金】

(5)(連帯)債務者 

   【住所】【氏名】

(6)不動産                                                               

   所在 地番 地目 地積 共同担保目録第【番号】号

   所在 家屋番号 種類 構造 床面積 共同担保目録第【番号】号

□4 その他の債務

  不動産の賃貸借契約にかかる債務[118]

  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み[119]

  【賃料】

  □【存続期間・支払時期】

  □【賃借権の譲渡許可・賃貸物の転貸許可】

  □【敷金】

  □【賃貸人が財産の処分につき行為能力の制限を受けた者・財産の処分の権限

    を有しない者】

   □【土地の賃借権設定の目的が建物の所有】

   □【土地の賃借権設定の目的が事業用建物の所有】

   □【借地借家法22条前段・23条1項・38条1項前段・39条1項・高

     齢者の居住の安定確保に関する法律52条・大規模な災害の被災地にお

     ける借地借家に関する特別措置法第7条1項】

 □地役権の目的となっている承役地[120]【所在 地番 地目 地積】

  【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み

  【要役地】【地役権設定の目的】

   □【地役権の付従性の制限】

   □【工作物の設置義務等】

   □【図面確認】

 □地上権の目的となっている土地

 【管轄法務局名・受付年月日・受付番号】登記済み

  【地上権設定の目的】【地代又は支払い時期の定め】□【存続期間・借地借家法

  22条前段の定期借地権・借地借家法第23条第1項の事業用借地権・大規模

  な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条2項】の定め

  □【地上権設定の目的が事業用】[121]

  地下又は空間を目的とする地上権の場合[122]□【地下の上限の範囲・空間の上下

  の範囲】□【土地への制限】

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各敷金返還債務[123]

□ 信託不動産の各賃貸借契約にかかる各保証金等の預り金についての返還債務

□【                        】

以上

信託目録[124]

1 委託者に関する事項□【住所】【氏名】
2 受託者に関する事項□【住所】【氏名】・【本店】【商号】
3 受益者に関する事項等□【住所】【氏名】 □【受益者氏名】の受益者代理人  【受益者代理人の住所・氏名】 □【受益者代理人の住所・氏名】 □【受益の指定に関する条件】 □【受益者を定める方法】
4 信託条項□ 【年月日】【公証人所属法務局名】公証人【公証人氏名】作成に係る信託契約公正証書(【年月日】第【○○】号) 【全部・第2次、第3次受益者のみ・     】   1信託の目的 □【信託契約書第   条   項   号 】   2信託財産の管理方法 □【信託契約書第   条   項   号 】   3信託の終了事由 □【信託契約書第   条   項   号 】   4その他信託条項 □【信託契約書第   条   項   号 】   その他の信託条項は、【年月日】付信託契約書及び変更契約書記載の通り。
備考□【受託者が法人であるので、法人の構成員全員の住所氏名と、不動産を売却するには全員の署名および実印がある承諾書(3か月以内の印鑑証明書添付)が必要なことを信託目録に記載する】   □【どの不動産が信託財産か分かるように、信託した他の不動産を信託目録に記録する。】   □【                          】

以上

本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録(任意後見契約公正証書)

別紙

本人又は第三者の同意(承諾)を要する旨の特約目録

(任意後見契約公正証書・附録第1号様式に基づく)

□1 代理権目録記載事項のうち、次の事項については【年月日】締結の民事信託契約に関連して、事前に□【受託者・受益者(受益者代理人)・信託監督人】の同意を得なければならない。

【A  B  C  D  E  F  G  H  I  J  K  L M  N  】

□2 代理権目録記載事項のうち、【年月日】締結の信託契約に関連して信託財産に属した財産は受益者代理人などの信託関係者が優先する。

【A  B  C  D  E  F  G  H  I  J  K  L M  N  】

以上

解説

 民事信託契約と併せて、任意後見契約が必要な場合、民事信託契約との整合性が必要となる。受託者が任意後見人となる場合は、任意後見監督人に対して権利関係を明らかにする。なお、チェックを入れた後は司法書士が代理権目録に沿って特約目録を作成する[125]

以上


[1] 「最決平成22年7月20日第一小法廷」『最高裁判所判例解説刑事編平成22年度』法曹会P155(注36)

[2] 最判昭和46年7月14日大法廷

[3] 行政書士法1条の2について、地方自治制度研究会「詳細行政書士法」2016ぎょうせいP26~、最判平成22年12月20日第一小法廷など。

[4] 昭和29年1月13日民事甲第2554号民事局長回答

[5] 法律事務の定義につき渋谷陽一郎「不動産登記代理委任と法令遵守各義認義務(8)」2012『市民と法』75P4を採る。

[6] 渋谷陽一郎「民事信託支援業務に未来はあるか(2)」2017『市民と法』106P10~P19

[7] 住吉博『新しい日本の法律家』1988テイハンP259~P263

[8] 松山地裁西条支判昭和52年1月18日

[9] 札幌地判昭和46年2月23日

[10] 新井紀子、尾崎幸謙「デジタライゼーション時代に求められる人材育成」2017国立情報学研究所

[11]任意後見契約に関する法律第3条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式、小林昭彦ほか『新しい成年後見制度の解説』2017きんざいP251(注2)

[12]裁判所HP「民事訴訟・少額訴訟で使う書式」

[13]エスノグラフィー、半構造化インタビューについては、野村康『社会科学の考え方―認識論、リサーチデザイン、手法―』2017名古屋大学出版会P183~

[14]高松高判昭和54年6月11日

[15]『国民性調査』「一番大切なもの」2013年統計数理研究所

[16]憲法及び法令の前文に関して『法律学小事典』2016有斐閣

[17]田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P342、『民事訴訟における事実認定』2008法曹会P210

[18]『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』2002法曹会P38

[19]優先順位、並列記載については、遠藤英嗣「信託の目的の定め方の相談に答える」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版。

[20]その他のリスクについて、道垣内弘人「信託法入門」2007 株)日本経済新聞社P57~P58。最判昭和36年3月14日、最判昭和42年5月23日、道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P67など

[21] 自社株式などを信託財産とする場合は、役員変更などの商業・法人登記申請を前提とする。

[22] 民法903条3項但し書。中田直茂「遺言代用信託の法務」『金融法務事情2074』2017金融財政事情研究会。

[23] 道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P398

[24] 遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P123

[25] 中田直茂「遺言代用信託の法務」『金融法務事情2074』2017金融財政事情研究会。

[26]道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P63

[27]能見喜久「財産承継的信託処分と遺留分減殺請求」『信託の理論的進化を求めて』2017トラスト未来フォーラム研究叢書P123

[28]岩瀬美智子「遺言代用信託についての遺留分に関する規律のあり方」『信託法研究41号』2016信託法学会P37

[29] 信託法56条1項7号。

[30] 信託法62条1項。

[31] 信託法76条1項、77条2項、78条。民法654条。

[32] 利害関係人には、法定後見人、保佐人、補助人、任意後見人を含む(信託法92条1項16号)。

[33] 参考として信託法77条3項、184条3項。

[34] 信託法75条1項2項、76条2項。

[35] 前受託者による費用請求について、山田誠一「受託者が費用の償還に関し信託財産に対して有する権利」『信託の理論的深化を求めて』2017(公財)トラスト未来フォーラム研究叢書)

[36]道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P377、民法651条2項

[37] 伊東大祐「信託契約締結上の留意点」『信託フォーラムvol.6』日本加除出版P26

[38] 信託法91条の読み方として、道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P385、道垣内弘人『条解信託法』2017弘文堂P476、477、法制執務委員会『ワークブック法制執務』2007ぎょうせいP642

[39] 西村志乃「民事信託と裁判上のリスク」『信託フォーラムvol.6』2016日本加除出版P33~は、利益相反状況と表現する。

[40] 「信託受益権担保」「質権と国税との優先関係」『金融機関の法務対策5000講Ⅳ』2017きんざい

[41] 不動産所有権について、伊藤眞ほか『不動産担保 下』2010金融財政事情研究会P131~。改正民法466条から468条まで。

[42]債権・動産担保について、伊藤眞ほか『債権・動産担保』2020金融財政事情研究会P78~85。株式会社の株式について会社法180条から182条の6、183条、184条。

[43] 村松秀樹他『概説新信託法』2008金融財政事情研究会P255。道垣内弘人『信託法』2017有斐閣P351。

[44] 民法改正整備法93条

[45] 遺留分減殺請求の対象者と効果については、道垣内弘人『条解信託法』2017弘文堂P473~P480

[46]信託法146条、登録免許税法7条2項東京国税局審理課長「信託契約の終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」2017年6月22日回答

[47]「倒産隔離」については、大垣尚司ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P255注18の見解を採り使用しない。貸金庫と銀行預金を例として説明するものとして、桐生幸之介『不動産の信託による都市創生』2017実務出版P231

[48] 信託法34条。

[49] 伊藤眞ほか『不動産担保 下』2010金融財政事情研究会P133~抵当権、P294~根抵当権。改正民法470条から472条の4まで。

[50]信託法21条1項5号、信託法52条

[51]信託法28条1項1号、35条

[52]信託法26条但し書

[53] 改正民法412条。

[54] 信託法29条、30条。

[55] 民法717条。詳細な分析として、秋山靖浩「受託者が土地工作物の所有者として責任を負う場合に関する一考察」『基礎法理からの信託分析』2012(公財)トラスト60研究叢書。

[56] 道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P119~P120

[57] 「取引の相手方等」「各種預金」「預金者の死亡と相続」『金融機関の法務対策5000講Ⅰ』2018きんざい

[58]信託法37条2項、92条、民法824条、859条、任意後見に関する法律2項1項1号。信託法施行規則33条1項1号、信託計算規則3条、4条、企業会計基準委員会「実務対応報告第23号信託の会計処理に関する実務上の取扱い」2007

[59] 信託法48条。

[60] 信託法21条1項9号。

[61] 最判平成28年6月27日第一小法廷、大阪高判平成26年5月29日、和歌山地判平成24年3月13日

[62] 日本司法書士会連合会『平成6年7月1日施行司法書士報酬便覧』P55難度の度合

[63] 信託法164条3項。

[64] 参考改正民法542条。

[65] 渋谷陽一郎『信託目録の理論と実務』2015民事法研究会P393~

[66] 中村克利ほか「不動産信託受益権質権実行に関する法律と実務」『事業再生と債権管理』2010きんざいP29~P38

[67] 信託法163条1項9号、166条、信託業法85条の7。

[68] 信託法164条1項但し書。

[69] 信託の併合及び信託財産の破産手続を除く(信託法175条)。

[70] 信託法178条。

[71] 信託法177条1項4号。重畳的債務引受について相続税法13条1項。

[72] 信託法26条、34条。

[73] 信託法176条。

[74] 信託法184条3項のみなし規定を利用することは妨げらない。

[75] 信託法182条、183条。

[76] 信託法181条。

[77] 信託法139条。

[78] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第P7。成年後見制度利用促進基本計画2017年、3成年後見制度の利用の促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策(4)制度の利用促進に向けて取り組むべきその他の事項①任意後見等の利用促進。

[79] 信託法57条1項但し書。委託者および受託者が本信託のために定めた条項であり、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見人の権限は及ばないと考えられる。

[80] 信託法56条1項7号。

[81] 信託法62条2項の新受託者への就任催告を行うことは出来る(信託法92条1項16号)。

[82] 受託者の行う借入れに対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[83] 受託者の行う担保設定に対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[84] 信託法48条5項。

[85] 合意が可能な見解として、遠藤英嗣『家族信託契約』P32

[86] (清算中の)信託財産の現状報告請求、書類の閲覧請求は可能(信託法92条1項7号、8号)。

[87] 信託法166条の利害関係人には、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見にも含まれると考える。

[88]遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P143~

[89]新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P81~

[90]任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式及び第2号様式の注4

[91] 小林昭彦ほか『新しい成年後見制度の解説』2017きんざいP251

[92] 信託法149条1項1号。

[93] 信託業法26条1項5項。

[94]大垣尚司『信託フォーラムvol4』2015日本加除出版P132

[95] 『信託フォーラムvol4』2015日本加除出版P6道垣内弘人

[96] 他の方法とは、現状維持、遺言の作成、任意後見契約の締結、委任契約の締結、信託会社・信託銀行の利用、法定後見制度、日常生活自立支援事業の利用を含む。

[97] 自社株式について、事業承継税制(非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度)の議論の状況説明を含む。

[98] 信託法2条1項

[99] 信託会社等に関する総合的な監督指針3-2-4人的構成に照らした業務遂行能力の審査(2)②ハc

[100] 「最決平成22年7月20日第一小法廷」『最高裁判所判例解説刑事編平成22年度』法曹会P148

[101] 法務省法制審議会民法(相続関係)部会「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(案)」第4遺留分制度に関する見直し

[102] 信託業法施行令12条の5、信託業法施行規則30条の17

[103] 信託業法25条

[104] 金融庁「金融仲介機能のベンチマーク」2016(10)外部専門家の活用

[105] 公証機能について、日本公証人連合会『公証人法』2012ぎょうせい

[106] 吉原毅「家族信託の発展と金融機関の対応について」『高齢社会における信託制度の理論と実務』2017日本加除出版P157。

[107]渋谷陽一郎『民事信託のための信託監督人の実務』2017日本加除出版P126

[108] 「民事信託(家族信託)」『金融機関の法務対策5000講Ⅱ』2017きんざいP1066「表明保証・コベナンツ」『同書Ⅲ』P56~P63

[109] 信託法56条、57条、58条、62条。

[110] 信託法62条、75条、77条。

[111] 信託法163条から166条まで。175条から184条まで。

[112] 『CSのための金融実務必携』2015金融財政事情研究会P673~債務承継手続きのあらまし。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P94~担保。

[113] 民法505条、506条、512条。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P151~相殺、払戻充当

[114]信託法149条、150条。天野佳洋監修『銀行取引約定書の解釈と実務』2014経済法令研究会P231~届出事項の変更

[115] 元本保証のある預金や金銭信託に置き換えるものとして、小林徹「家族信託と成年後見制度」新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版。

[116] 問題点の提供とその対処法について、白井正和「信託を用いた株式の議決権と経済的な持分の分離」『商事法・法人法の観点から見た信託』2016(公財)トラスト60研究叢書

[117]中田朋子ほか『国際相続とエステートプランニング』2017税務経理協会P58~P59、P317

[118] 賃借人に使用収益させる(改正民法601条)、修繕義務(改正民法606条本文)、必要費の償還(民法608条)、

[119] 民法177条、借地借家法10条。

[120] 民法210条、280条。

[121] 不動産登記法78条1項4号、借地借家法23条1項、2項。

[122] 民法262条の2

[123] 改正民法605条の2第4項

[124] 不動産登記法97条。

[125]任意後見契約に関する法律第3条の規定による証書の様式に関する省令附録第1号様式注4

合同会社の代表社員の退任(試訳)

総社員の同意書

1.社員【退社社員・氏名】は、その持分の全部である金【持分の価額】全部履行を【社員・氏名】に譲渡して本会社を退社する。

1.An employee [leaving employee / name] leaves the company by transferring all of the money [value of equity] of the entire equity to [employee / name].

1.僱員[離職僱員/姓名]通過將全部股權的所有資金[股權價值]轉移到[僱員/姓名]離開公司。

  • 定款第○条中、【退社社員A・氏名】に関する事項を削除する。
  • In Article ○ of the Articles of Incorporation, the matters related to [Employee, leaving the company] will be deleted.
  • 在公司章程的○條中,與[離職員工/姓名]相關的事項將被刪除。

1.定款第○条を次のとおり変更すること。

  第○条 社員【社員・氏名】及び【社員・氏名】は、業務執行社員とし、当会社の業務を執行するものとする。

  • Amend Article ○ of the Articles of Incorporation as follows.

Article ○. Employees [employees / names] and [employees / names] shall be executive employees and shall execute the business of the Company.

1.如下修改公司章程的第○條。

第○條僱員[僱員/名稱]和[僱員/名稱]應為業務執行僱員,並應執行公司的業務。

1.代表社員【退社社員・氏名】が退社により退任することとなるため、定款第○条を次のとおり変更すること。

  第○条 当会社の代表社員は、【社員・氏名】とする。

  ② 代表社員は社長とし、当会社を代表する。

  • Since the representative employee [leaving employee / name] will retire due to leaving the company, Article ○ of the Articles of Incorporation shall be changed as follows.

Article ○. The representative employee of this company shall be [employee / name].

② The representative employee is the president and represents the company.

1.由於代表僱員[離職僱員/姓名]將因離開公司而退休,因此,《公司章程》第○條應作如下更改。

條款○該公司的代表僱員應為[僱員/姓名]。

②代表員工為總裁,代表公司。

  上記に同意する。

I agree with the above.

我同意以上所述。

   【同意日付】

[Agreement date]

[協議日期]

     【商号】

[Company name]

[公司名]

               社  員  【退社社員・氏名】  (印)

Company employee [Leaving employee, name] (mark)

公司員工[離開員工/姓名](標記)

               社  員  【社員・氏名】    (印)

Company employee [Employee, name] (mark)

公司員工[員工,姓名](標記)

               社  員  【社員・氏名】  (印)

Company employee [Employee, name] (mark)

公司員工[員工,姓名](標記)

会社法

Companies Act.

第二節 持分の譲渡等

Section 2 Transfers of Equity Interests

(持分の譲渡)

(Transfers of Equity Interest)

第五百八十五条 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。

Article 585 (1) A member cannot transfer all or part of the member’s own equity interests to others without the approval of all other members.

2 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。

(2) Notwithstanding the provisions of the preceding paragraph, a member with limited liability who does not execute business may transfer some or all of the member’s own equity interests to others if the approval of all other members who execute the business is obtained.

3 第六百三十七条の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員の持分の譲渡に伴い定款の変更を生ずるときは、その持分の譲渡による定款の変更は、業務を執行する社員の全員の同意によってすることができる。

(3) Notwithstanding the provisions of Article 637, if a change in the articles of incorporation arises in conjunction with the transfer of equity interests of any member with limited liability who does not execute the business, the change in the articles of incorporation due to the transfer of that equity interest may be effected with the consent of all members who execute the business.

4 前三項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。

(4) The provisions of the preceding three paragraphs do not preclude the provisions to the contrary in the articles of incorporation.

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