新保さゆり「株主名簿を整備しましょう!定款を見直しましょう!第2回」

株式の譲渡等による株主名簿の名義書換手続

月報司法書士[1]の記事からです。なお、譲渡制限株式の譲渡を前提としている記事です。

株券を発行していない株式会社の譲渡制限株式の譲渡の順番

1 株主から、会社に対する譲渡承認請求(会社法136条、137条)

2 譲渡承認機関における株式譲渡の承認(会社法139条1項)

3 会社から株主に対する譲渡承認の有無の通知(会社法139条2項)

4 株式譲渡の当事者から、会社に対して株主名簿の書換請求

 株式の信託(会社法154条の2)や、合同会社の持分譲渡(会社法585条)でも、同じような順序をたどります。株式、持分の譲渡当事者がお互いに会社の取締役、業務執行社員である場合には、準備をした後に1日で全て行うこともあります。信託の場合は、信託契約書を公証センター(公証人役場)で作成する際に、譲渡承認請求書、譲渡承認を証する書面(株主総会議事録など)、譲渡承認通知書に確定日付を付与してもらいます。

 まだ電子情報を用いて行ったことはありませんが、会社法に情報の形式について制約はないので、今後は電子上の情報(+電子署名)で株式の譲渡手続と株主名簿の書換手続が完結するようになってくるのかもしれません。ただし、定款で書面に限る、などと定めた場合は、定款に縛られます。電子情報を用いる場合は、請求、承認、通知などの日時が上の順序になっていることが望まれます。

参考

国税庁 No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7105.htm

中小 M&A ガイドライン―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2020/200331MA01.pdf

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/download/shoukei.pdf

中小企業庁 財務サポート 「事業承継」

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html

株式譲渡の承認機関

 取締役設置会社は原則として取締役会、取締役会を設置していない会社は株主総会が承認機関となり、定款で他の機関を定めることも出来ます(会社法139条)。

 株主構成が代表取締役70%、取締役A10%、取締役B10%、取締役C10%の場合、代表取締役の所有する株式全てを取締役Aに譲渡する際に、承認機関を代表取締役と変更しました。取締役Aは、代表取締役の子であり後継者候補でした。現在の経営者が代表取締役であるうちは、会社の株式を管理することが出来るようにという仕組みです。

 なお、私は利益相反を回避するため(会社法369条)、取締役会を設置している会社であっても承認機関を株主総会とすることが多いです。株式譲渡の効力発生日は、原則として株式譲渡の合意があった日です。会社に株主が変わったことを認定してもらうためには(議決権・基準日と関わってきます。)、株主名簿に記載・記録される必要があります。

 株券発行会社については、株券を発行していない会社と異なる手続きが定められています(会社法128条、130条2項、131条2項、133条2項、137条2項、215条。会社法施行規則22条2項、24条2項)。一度だけ、会社を設立した後、株券を発行する、という方がいましたが、今に至るまで発行していません。当時少し調べたのですが、株券用の型紙などがインターネットで販売されていました。新人研修で、一度見たことがあるような、ないような記憶があります。

 不動産の登記識別情報と性質は少し違いますが、個人的に株券は紙で作成する価値があると思います。


[1] 2021.3№589日本司法書士会連合会P55~

https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=788387&id=38399381

「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」を読んで

一般社団法人全国銀行協会

金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)

令和3年2月18日、一般社団法人全国銀行協会から、下の取りまとめが出されました。読みながら少し考えてみたいと思います。

https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/

Ⅰ.金融取引の代理等に関する考え方

1.銀行界を取り巻く現状(代理取引の課題)

銀行の預金は基本的には本人の資産であり、預金を払い出す場合には預金者本人の意思確認が必要となるため、家族といえども預金者の預金を払い出すことはできない。

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 基本的な考え方です。ATMを利用する場合は、現実として出来る状態になっています。私達も家族にキャッシュカード(と通帳)を渡して、5,000円下ろしてきて、とお願いしたりしているのではないでしょうか。

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銀行においては、認知判断能力が低下した顧客との取引をする場合、民法上の法定後見制度である補助人、保佐人の同意を確認のうえ本人との取引を行う、あるいは成年後見人や任意後見制度にもとづく任意後見人を介して、代理取引を行うのが一般的である。

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一般的な考え方です。ここでいう顧客とは、銀行に預金をしている人を指しています。認知判断能力というのはどのような能力でしょうか。

車の運転などで使われているようです。

高齢ドライバの認知判断能力測定システムの検討

https://ci.nii.ac.jp/naid/10018575546

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しかしながら、成年後見制度[1]の利用者総数は2018年12月末で約22万人にとどまっている[2]

銀行の実務においては、ご家族に成年後見制度の利用を促しても、月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感等を理由に制度を利用してもらえないケースがある一方、本人の医療費、施設入居費、生活費等の支払いに充当するため、親族等への預金の払出し(振込)を求められるケースも多々ある。

さらに、預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産が残っていない場合、親族等による金融商品の解約等(売却)を求められるケースも生じている。

本考え方は、銀行の窓口等において、高齢のお客さま(特に認知判断能力の低下した方)や代理の方と金融取引を行う際の参考となるよう取引のポイントや、好事例等を掲載している[3][4]

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ここでは、金融機関の困りごとが記載されています。

・成年後見制度の利用者数が少ないこと。

・利用者数が少ないから、親族等への預金の払出し、金融商品の解約等(売却)を求められても対応出来ない。

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2.状況別の対応の考え方

(1) 通常取引

 銀行での高齢顧客との取引において、本人に認知判断能力がある場合(取引

の有効性が確保できる場合)は、通常取引を行う。

(2) 認知判断能力が低下した顧客本人との取引

①認知判断能力が低下した顧客本人との取引

 認知判断能力の低下した本人との取引においては、顧客本人の財産保護の観点から、親族等に成年後見制度等の利用を促すのが一般的である。

 上記の手続きが完了するまでの間など、やむを得ず認知判断能力が低下した顧客本人との金融取引を行う場合は本人のための費用の支払いであることを確認するなどしたうえで対応することが望ましい[5]

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 「本人のための費用の支払い」がどこまで可能なのでしょうか。文面を読む限り、本人の意思による預金の払い出し(例えば孫の学費。入学金として50万円)は含まれないと考えられます。飲み会、ランチ、ご祝儀のために、とりあえず10万円引き出したいといった場合はどうでしょうか。預金残高や取引状況によりそうです。私の個人的な感覚ですが、預金残高の1%未満で、毎月預金残高の1%以上が入金されている顧客、借入れなどの付き合いがある顧客に関しては払い出しを行うのではないかと思います。

 一番は払い出しは一切しない、というのが銀行にとってはリスクがないと思いますが、出来ませんと言った場合に、何で○○と不満をぶつけられた場合に考えることになるのかなと思います。

 また、「確認」をどのように行うのかも気になります。請求書などを見せるのか、行員と面談を行い誓約書を書くことが出来れば良いのか、ケースバイケースなことが多いのでしょうが、どのような確認を行うのか気になります。

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②保佐人・補助人や任意後見人が指定された後の顧客本人による取引

 預金規定等の定めにもとづき保佐人・補助人の届出を受領している場合、保佐人・補助人の同意を確認するなど、各行の取引手順に則って対応する必要がある[6]

 任意後見契約が締結されている場合、本人の認知判断能力に問題がない時点においては、本人との取引が可能であり[7]、任意後見監督人の選任後は任意後見人と代理取引を行う。

(3) 法定代理人との取引

 法定代理人(成年後見人等)との取引は、法的な裏付けのある代理権者との取引となることから、法定代理人であることを確認のうえ、各行の取引手順に則って対応する。

(4) 任意代理人との取引

 本人から親族等への有効な代理権付与が行われ、銀行が親族等に代理権を付与する任意代理人の届出を受けている場合は、当該任意代理人と取引を行うことも可能(本人の認知判断能力に問題がない状況であれば、本人との取引が可能なケースもある)。

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 (1)から(3)までは通常の対応です。(4)については、予め届出をして可能と回答をもらっていたのに、任意代理契約公正証書を提出したら出来なかった、という経験を持っています。当行では対応していませんでした、と言われました。なので、届出をして銀行が受け付けたから大丈夫、ではなく通帳とキャッシュカードが出来上がるまでは安心することは出来ません。

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(5) 無権代理人との取引

 親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である。成年後見制度の利用を求めることが基本であり、成年後見人等が指定された後は、成年後見人等以外の親族等からの払出し(振込)依頼には応じず、成年後見人等からの払出し(振込)依頼を求めることが基本である。

 本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。対面での対応が難しい場合には、非対面ツールの活用等も想定される。

 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等[8]が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる[9][10]

 無権代理の親族等からの払出し依頼に応じることによるリスクは免れないものの、真に本人の利益のために行われていることを確認することなどにより、当該リスクを低減させることができる。

 預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産として残っていない顧客の医療費や施設入居費、生活費等の費用を支払うために、親族等から本人の保有する投資信託等の金融商品の解約等の依頼があり、やむを得ず対応する場合、基本的には上記の預金の払出し(振込)の考え方と同様であるが、投資信託等の金融商品は価格変動があることから、一旦、解約等を行った場合、預金と異なり、原状回復が困難である[11]。この点に鑑み、金融商品の解約等については、より慎重な対応が求められる。

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 要件としては、一度は成年後見制度の利用を求めることが挙げられています。それでも何らかの事情で制度利用をしない・出来ない場合です。

 本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等、複数行員による本人面談実施、医療介護費の内容等のエビデンス、非対面ツールの活用は、今までと同様の対応だと思います。

 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為などは、与信情報を持っている銀行ならではですが、これも今までもやっていたと思います。

 当初出てきた、「本人のための費用の支払い」と、今回の「本人の利益のために行われていることを確認」は同じ意味で使っているのか気になります。後者が別の意味で使われているなら、払い出しの用途の範囲は広がります。

 金融商品の解約については、成年後見制度の利用に限定するのではないかと思います。

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Ⅱ.銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方

(1) 地域における社会福祉関係機関

 地域社会においては、それぞれの地域の特性を踏まえ、地方公共団体、社会福祉関係機関および社会福祉関係者等(以下「社会福祉関係機関等」という。)が高齢者支援の仕組みを構築している。

 社会福祉関係機関としては、地域の高齢者等の保健医療・介護等に関する総合相談窓口である「地域包括支援センター」や、判断能力に不安のある方を対象に日常的な金銭の管理等をおこなう「日常生活自立支援事業」の実施主体である「社会福祉協議会」、「権利擁護支援の地域連携ネットワーク」の中核的役割を果たす「中核機関」等が代表例として挙げられる。

(2) 社会福祉関係機関等との連携

 厚生労働省は、「団塊の世代」が 75 歳以上となる 2025 年を目途に、社会構造の変化や高齢者のニーズに応えるため「地域包括ケアシステム」[12]の実現を目指すとしている。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性にもとづき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要であるとされていることに加え、地域によってその人口構成や有している資源も異なることから、各地域に設置されているそれぞれの社会福祉関係機関の役割や期待できる対応、適切な相談窓口は全国一律のものではないと考えられる。

 社会福祉関係機関等との連携に当たっては、地域福祉の枠組みがまちまちであること等も踏まえ、銀行においては、日常的に地域の社会福祉関係機関等との間で、相談しやすい関係を築くことが重要である。具体的には、以下のような対応が考えられる。

 当該地域における相談窓口や中核機関を担う組織を事前に確認[13]すること

 地域の社会福祉関係機関等の担当者との対話等を積み重ねることにより、当該地域における高齢者等への支援の仕組みがどのように構築されているのかを把握すること

 自らも地域の一員として、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)や地域ケア会議といった、地域の関係機関や関係者が集まる協議体等へ参加するなどし、日常的に地域の関係機関や関係者との関係性を強化すること

 自らも当該地域における高齢者の見守りを担う一員として、地域の社会福祉関係機関等とも協議のうえ、当該地域における連携の仕組みづくりを進めること

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 たしかに地域における会議などでは、必ずと言っていいほど金融機関の方が参加しています。これからもそのような連携を進めていくという方針なのだと考えられます。

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(3) 個人情報保護法上の留意点

 社会福祉関係機関等との連携に当たって、高齢の顧客の個人情報を提供することは必ずしも必要ではない[14]

 一方で、金融審議会市場ワーキング・グループ報告書にも記載されているとおり、「顧客に認知判断能力の低下があると思われるような兆候・行動が見られ、かつその状態を放置すれば顧客財産に重大な支障をきたすような場合で、緊急性が高いと思われる場合など、例外的ケースにおいては、個人情報保護法との関係においても家族や行政、福祉関係機関に顧客の必要情報(氏名、住所、症状等)を提供できる場合もある」と考えられる。

 個人データの提供は、個人情報保護法第23条第1項にもとづき本人からの同意を得ることが基本である。一方で、個人情報保護法第23条第1項各号[15]に該当する場合や、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第7条[16]および第9条第1項に該当すると考えられる場合であって、本人の同意を得ることが困難な場合は、それぞれの状況に応じた通報先や連携先へ個人データを提供することも認められると考えられる。

 このほか、銀行として、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)に参加することで、同協議会構成員間における個人情報提供の枠組みを活用することも考えられる[17]

 なお、家族や親族への連絡であっても、個人データを提供する際は本人の同意を得ることが基本である。ただし、個人情報保護法第23条第1項各号等に該当する場合であって、本人の同意を得ることが困難な場合は、個人データを提供することも認められると考えられる。

以 上

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 個人情報保護法、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律などを積極的に利用する方向に向かうのであれば、市区町村長申立てがこれから増えます。私は、この方向になると思います。


[1]成年後見制度は、法定後見制度(後見・保佐・補助)および任意後見制度の2つの制度で構成されている。

[2] 2012 年時点で 65 歳以上の高齢者のうち、認知症の方の数は約 462 万人と推計されている。なお、本統計は高齢者のみについての統計であり、65 歳未満(若年性認知症の方等)の数は含まれていないことについては留意が必要。

[3]なお、銀行としてより厳格な対応を行うケースや、取引のリスクが大きいと判断された場合に取引を謝絶するケースはあり得る。

[4] 法律構成や実務対応の考え方などは、日本金融ジェロントロジー協会の「法人特別会員ワーキング・グループ報告書」(2020 年 12 月 23 日)に依拠するところが大きい。

http://www.jfgi.jp/wp-content/uploads/2020/12/20201223【JFGI】法人特別会員 WG 報告書.pdf

[5]  医療費等で至急の支払いが必要な場合には審判前の保全処分を活用することも考えられる。

[6] 保佐人については、民法 13 条 1 項各号に規定された法律行為について、補助人については、その一部について同意権が設定されていることに留意。

[7] 任意後見監督人が選任される前であっても、任意後見人が顧客本人の預金取引を代理できるよう、任意後見契約とともに委任契約を締結している事例もある。その場合は、任意後見監督人が選任される前であっても委任契約の受任者である任意後見人との取引が可能。

[8] 「親族等」に銀行は含まれないことに留意する。

[9] あくまで無権代理におけるリスク許容の考え方の一例であり、無権代理の親族等からの払出依頼に応じることによるリスクは伴う。

[10] 日本金融ジェロントロジー協会の「法人特別会員ワーキング・グループ報告書」(2020年 12 月 23 日)において、金融資産の解約等について次のとおり整理されており、親族等による預金の払出し等についてもこれに準じた整理が可能と考えられる。「親族等が、本人の医療費等を支払うために、本人の金融資産を売却する行為は、他に容易に支払う方法が存在しない等、資金準備の方法として、最も本人の利益に適合するといえる場合には、本人との関係で、民法における事務管理が成立する可能性があるものと考えられる。事務管理が成立すれば、親族等は、本人に対する不法行為責任を負わないものと考えられる。」

http://www.jfgi.jp/wp-content/uploads/2020/12/20201223【JFGI】法人特別会員 WG 報告書.pdf

[11] 金融商品を解約等した後、原状回復を行う場合、簿価が書き換わることを含めた税制対応等が非常に複雑になる点に留意が必要である。

[12] 「地域包括ケアシステム」とは、地域の事情に応じて高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まいおよび自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制のことをいう。高齢化の進展のスピードや地域資源の状況などは地域によって異なるため、それぞれの地域の実情に応じた地域包括ケアシステムの構築を可能とすることが重要であるとされている。(出典:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-」)

[13] なお、地方自治体においては、「地域の高齢者等の保健医療・介護等に関する総合相談窓口である地域包括支援センター及び認知症疾患医療センターを含めた認知症に関する相談体制を地域ごとに整備し、ホームページ等を活用した窓口のアクセス手段についても総合的に整備する」(厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月))ことが期待されている。

[14] 例えば、社会福祉関係機関の担当者に、高齢の顧客の名前等の個人情報は伝えず、様子や状況等を具体的に伝えることで、対応方法に係るアドバイスを受けるケースや、社会福祉関係機関の担当者に直接店舗まで来て対応してもらうケースも考えられる。

[15] 個人情報保護法第 23 条第1項各号は、第三者への個人データの提供に当たり、本人の同意が不要である場合を定めている。特に、銀行においては、同項第2号が適用されるか否かの判断、つまりは当該事例が「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」と判断できるかという点が重要となる。

[16] 高齢顧客の様子から、養護者からの虐待を受けているおそれがあると思われる場合であって、生命または身体に重大な危険が生じているときには、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律により、市区町村への通報が義務付けられている点に留意が必要である。

[17] 一部の銀行においては、顧客の個人情報を社会福祉関係機関等に提供する可能性がある旨を、ポスター等で店内に掲示するといった取組みも行われている。掲示のみでは同意を得たことにはならないが、対外的に自らの対応を予め示しておくことで、トラブルの回避に繋がるケースもあると考えられる。

民事信託について、他の専門家に相談する場合など

・民事信託士が作成した信託契約書(公正証書)が、他の民事信託士に持ち込まれる場合はどのような場合か?

 民事信託士という民間資格があります。

(一社)民事信託士協会ホームページ

https://www.civiltrust.com/shintakushi/introduce/index.html#

民事信託士の能力担保について、ホームページから抜粋します。

Q7 民事信託士にはどのような能力担保を考えていますか

当協会では、以下のような体制によって民事信託士の能力を担保することとしました。

第1に、民事信託士検定を受けることです。検定を受けることができるのは、司法書士と、弁護士資格のある方です。研修プログラムを終了した後、合否の判定を経て「民事信託士」となる資格が付与されます。

第2に、民事信託士名簿の作成です。検定に合格した方は、当協会に入会していただくことで「民事信託士」の名称を使用することが可能となります。当協会は、民事信託士に関して「民事信託士名簿」を作成し管理します。民事信託士の資格は、3年で更新することを予定しております。 第3に、継続研修の実施です。民事信託士は、日々その研鑚を行い、能力の向上に努める必要があります。また、情報交換を行い、顔の見える関係をつくることが重要となります。そこで、義務研修を予定しております。この研修への参加は、3年毎の名簿更新の際の判断材料となります。

 費用は確実ではありませんが、(一社)民事信託推進センターに入会していること(24,000円/年)、民事信託士検定60,000円、民事信託士会員の入会金25,000円、民事信託士会員の会費年額(12000円/年)、民事信託士会員の更新登録料(10,000円/3年)というところです。月額最低4,000円というところでしょうか。

参考 (一社)民事信託士協会 入会金・会費規定

https://www.civiltrust.com/shintakushi/gaiyou/kitei.pdf

 民事信託士が作成した信託契約書について、他の民事信託士に持ち込まれる場合としては、委託者の親族、友人、勤務先などから「ちょっと他の専門家にみせた方が良いんじゃない?」と勧められる場合が考えられます。また委託者、受託者当人が、「こんなはずじゃなかったのに。」と考えて他の専門家の意見を聴きに行くということも考えられます。民事信託士協会のホームページには名簿があるので、どちらかというと他の専門家に相談したらたまたまその方が民事信託士だった、という可能性が高いような気がします。

 他の専門家に相談することは、信託当事者にとっては何も責められる行為ではありません。かえって現在依頼している民事信託士への信頼が深まる可能性もありますし、反対に相談した専門家に代えることで上手くいくならその方が良いと思います。最初に担当した民事信託士も、信託当事者のそのような行動に対しては歓迎する方の方が多いのではないかと思います。私も他の士業の話も聴いてみてくださいと相談の際などに言う事が多くあります。

・受託者が何でも出来る信託は有効か?

 裁量型信託のことだと思いますが、「何でも出来る」の定義によるのではないかと思います。所有者のように何でも出来る、のであれば信託の成立要件を欠く可能性が高いと思いますし(信託法2条1項)、信託法の範囲内で何でも出来る(信託法2条5項、信託法第三章受託者等)ということであれば、原則として有効といえるのではないかと考えます。また信託行為の記録と実際の行動・結果との差異も有効、無効の判断材料の一つになると感じます。

・公証人には、受託者に対して受託者の権利義務を説明する必要があるか?専門家が就いている場合とそうでない場合で違いはあるか?

 公証人は、法令に違反する契約などを認証することが出来ないこと、当事者の前で読み聞かせることが必要なことから、受託者はその範囲で縛られると思います。他に公証人法その他の関連法令を守っている限り、各公証人の独立した判断に任せられていると考えます。

1条ずつ、1項ずつ受託者に対して確認していく公証人は今までみたことがなく、どちらかというと委託者に時々話しかけるような方が多いと感じます。

公証人法26条 公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス

公証人法39条1項 公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス

・信託財産は、誰のものでもない財産か?

 信託法2条3項には、この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。とあります。信託法2条1項には、この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう、とあります。よって、信託財産は受託者に属する財産で、一定の目的に従い必要な行為をすべき財産である、ということが出来ます。

・信託法29条2項本文の「善管注意義務」を全く排除することは、信託設定意思はなく、そもそも信託ではないことになるか?軽減はどの程度許されるのか?信託口口座と損失補てん義務との関係は?

 信託法29条2項本文を読んでみます。受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする、とあります。    信託行為の別段の定めとして、善管注意義務を全て排除することは信託法の制度趣旨上、出来ません[1]。この場合、受託者が実際の信託事務で善管注意義務を果たしていると認められる場合はどうなるのでしょうか。そもそも信託の成立要件を欠くので、受託者が信託事務を行うことは不可能と考えることも出来るように思います。そうであれば、何らかの事情で善管注意義務を軽減したい場合は、信託行為に何も記録しない方が良いといえるのではないかと考えます。

 信託口口座を開設する際には、善管注意義務の定めが条文通りに記録されていないと開設出来ないという金融機関があります。金融機関としては、そのような姿勢にならざるを得ないと思います。

 受託者の損失補てん義務(信託法40条~)との関係については、受託者の行為時を基準とするので、信託行為時において善管注意義務を定めたから、自己の財産と同一の注意義務を定めたから、というのは私はあまり関係がないと考えています。それよりも、どれだけ損失・変更が生じたか、原状回復を行うか否かを計算する基準を設けることが委託者、受託者、受益者にとって信託を滞りなく進めていくために大切だと思います。

・何らの限定なく利益相反行為が可能な仕組みになっている場合には、受託者が自らの完全な所有物として、そこからの利益を受ける仕組みになっているというべきであり、委託者に信託設定意思はなく、信託ではないといえるか?

 信託法31条2項1号の定めがある信託行為のことを指しているのだと思います。私は原則として有効だと考えます。利益相反行為について、信託行為で事前承認を得ていると考えられるからです。利益相反行為が可能な仕組みになっているからといって、受託者が専ら利益を受けるわけではありません。受託者じゃないと買う人がいない不動産、受託者の所有にしないと利用できない不動産などはあるのではないかと思います。

・脳梗塞で3回以上倒れている方は、意思能力がないといえるのか?

 一概に決めることは出来ないと思いますが、受託者の任務終了事由や受益者代理人、信託監督人の就任要件として定めることは可能だと思います。

・家族民事信託とはなにか?家族民事信託と一般的な信託の要件に違いはあるか?

 家族信託や民事信託と呼ばれる信託を合わせて家族民事信託と呼んでいるのかなと思われます。一般的な信託は、信託法が定める要件を満たす信託のことだと思われます。私は違いはないと考えています。もし違いがあれば、家族民事信託は信託ではないということになります。

・委託者と受託者に信託契約を締結するという認識はない事例の場合にあっても、信託法3条1号によれば、信託契約は、委託者と受託者との間に、財産処分の合意と、受託者が一定の目的に従いその財産の管理処分等の行為をすべき旨の合意があるときに成立するのか?

 信託法3条1項1号では、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法、と記載されています。条文通り、当事者間では信託契約が成立していると考えることが出来ます。金融機関や親族をはじめとする第三者が、このような信託に対してどのような対応をするのかは別の問題です。


[1] 寺本昌広「逐条解説新しい信託法[補訂版]」平成20年商事法務P113

民事信託に関する指摘に対して

・信託事務を遂行しがたいと二次受託者が判断したとき、という定めは妥当か?

 受託者の任務終了事由として、「信託事務を遂行しがたいと二次受託者が判断したとき」という定めは妥当でしょうか。二次受託者の主観的な判断で決められてしまうのではないか、という懸念が残ります。法定事由以外では、受託者が、受益者からの報告請求に対して2回続けて報告を怠った場合、受託者が○○歳になったときなど具体的に定める必要があると思います。

関連

・法定されている事項(受託者の任務終了事由など)でも信託行為に記載する必要があるか?あるとすればどの程度か?

 理由としては、受託者は専門家ではないから、法定されているから書かなくても良いという事にはならない、ということのようです。少なくとも受託者の任務が終了する場合くらいは記載が必要ではないか、という指摘です。私は信託法56条1項、57条1項については、解任を除いて記載しています。

 その他に法定されている事項でも、信託行為に記載する必要があると感じるのでは、信託行為の効力発生時期、信託の変更、信託の終了などでしょうか。

・清算受託者に士業が就任することは可能か。

 ある信託銀行の方の指摘では、清算受託者に士業が就任することは不可能ということでした。指摘のとおり、清算受託者も受託者であり、信託業法2条に抵触すると考えられます。士業が参画するとすれば、第三者委託の受託者だと考えます。

・「残余財産の帰属権利者は令和○○年○○月○○日第○○号の公正証書遺言による。」という規定は有効か。

 規定自体は有効です(信託法182条)。信託口口座を開設する金融機関からすると、遺言をチェックしなければならず、このような規定がある信託契約書で信託口口座を作成するのは難しいとのことです。ただ、その前に金融機関はどのような根拠で残余財産の帰属権利者の特定をすることが認められているのかが分かりませんでした。私も信託契約書は公正証書にする前に金融機関のチェックを受けますが、信託契約書の中には長男、次男などの家族関係、所有不動産の詳細、第2次受益者の住所、氏名、生年月日などの個人情報が入っています。金融機関が信託口口座を開設する際にチェックする条項に、所有不動産の詳細、第2次受益者の住所、氏名、生年月日などが必要なのか疑問です。借入れの有無にもよりますが、原則として信託金銭の額、委託者・受託者・受益者の個人情報、信託の目的、信託の効力発生・変更・終了事由、受託者の任務終了事由と財産管理方法で良いのではないでしょうか。

 私はこのような規定は利用せず、信託財産については信託行為の中で全て完結するようにしています。当事者も分かりやすいと思います。

・法定代理人(成年後見人など)の権限を略奪するものは無効か。

 私は制限(略奪?)しています。例えば法定後見人は受託者の辞任申し出に対する同意をすることは出来ない、などです。何故制限しているのかというと、適切な判断が出来ず、成年後見人が困るのではないかと考えているからです。この場合、受益者が判断能力を喪失している場合は、受益者の同意を得ての辞任は出来ないことになり、他の任務終了事由で任務終了することになります。または受益者の成年後見人開始の審判が発効した場合に受益者代理人が就任するという条項にチェックを付けている場合は、受益者代理人の同意を得て辞任することになります。受益者代理人も法定代理人なので、成年後見制度と抵触することはなく、信託と成年後見、任意後見それぞれの制度趣旨とも合致すると考えています。

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・委託者名義の口座に入金された年金を、信託口口座に定期定額で送金(振替など)を行うことは可能か?

 可能という信託銀行はあります。この方法だと、追加信託を公正証書にするのは1回で良いという意味もあるのかもしれません。私は、受託者が定期定額で自動的に信託口口座に送金されるような仕組みを作るのは少し違うような気がします。身上監護を主とする成年後見制度と抵触すると考えるからです。やるとすれば、1年の終わりに1回、来年の身上監護にかかる費用も考えて、余裕のある金額を信託口口座に移す、という方法ではないかと思います。成年後見人等が就任している場合、家庭裁判所にもその方が理解が得られやすいのではないかと考えています。

・必要な財産(例:自宅のみ、老後のお金のみ)だけ信託する。その後、必要な度に(追加)信託するという紹介、営業方法は有効か?

 4,5年前から、自宅の他に、例えば葬儀費用のみ信託して、信託口口座だけまずは作ってみるというような紹介の方法はあったので、目新しいことはないと思います。

民事信託に関する問い

・受益者代理人と後見監督人の性質の違いはあるか?

受益者代理人は、受益者の代わりに受益者の権利をを行使します(信託法139条、140条)。信託監督人は、受益者とは独立した機関として受益者に認められている権利を行使します(信託法92条、132条、133条)。

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・受益者代理人の定めを設置しなければいけないことは流布されたのか?

 一時期、そのような記載がある書籍や勧める研修もありましたが、設置しなければならない、というような流布はなく、実務も専門家、案件それぞれの個別具体的な事情により設置したりしなかったりしていたのではないかというのが私の感覚です。

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・受益者代理人が就任すると、受益者の権限が制限されるのか?

 信託法139条4項で、原則として信託法92条に記載がある権利と信託行為において定めた権利を除いて、その権利を行使することができない、として受益者の権限を制限しています。ただし、信託行為に定めることで受益者の権限の制限を緩めたり、受益者代理人の権限を制限したりすることが出来ます。

・信託監督人に加えて、または信託監督人に代えて受益者代理人の設置を検討する場合とはどのような場合か?

 受益者代理人の設置が必須になる場合として、どのような場面が考えられるでしょうか。信託監督人という言葉に当事者が違和感を覚えてためらう場合、直ぐに成年後見制度を利用することを当事者が躊躇する場合、受益者の性格や年齢など、考えられることはありますが、必須とまではいえないなと感じます。

・会計法上の計算期間と税法上の計算期間の違いとはどのようなものか?

会計法上の計算期間・・・会社法431条、会社計算規則3条、法人税法22条4項。

税法上の計算期間・・・所得税法13条、所得税基本通達13-2。

 信託行為によって4月1日から3月末日までの計算期間としても、税法上は1月1日から12月末日となる。

・武田昌輔「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/03/25/ronsou.pdf

税法において明確な別段の定めのあるものについては、税法固有の目的から収益、損益について明確にされているので立法論の問題は別として、この公正処理基準の効力は及ばない。もっとも、別段の定めにおいても種々の会計的処理を定めているので、その処理について明確でない点は、この公正処理基準に従って計算すべきものと解される。

・法定調書とはどのようなものか?

所得税法227条、242条、信託受益権の譲渡の対価の支払調書(同合計表)、信託の計算書(同合計表)(所得税法227条)、信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)(相続税法59条3項)など。

・損益通算の規定とは何か?

規定を読んでいると、組合を参考にして信託に関しても定められているのかなと感じます。

国税庁タックスアンサー「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1391.htm

改正税法のすべて 平成19年版112~P115

租税特別措置法41条の4の2、同法施行令26の6の2、同法施行規則18条の24

・信託銀行で信託口口座を作成する場合に、士業が関わる意味は何か?

 信託銀行は信託のプロ、信託銀行から学ぶことは多い、と民事信託に関わった頃からあらゆる書籍、研修で言及され続けています。なのに、なぜ信託銀行で民事信託の信託口口座を作成する際に士業が関わる必要があるのでしょうか。信託銀行で全て支援を行えば良いのかなと思います。信託銀行としては、全て信託行為の設定から終了まで支援して報酬をいただくことも考えているようです(実際に実施している信託銀行もあるのかもしれません。)ただし、現在は第三者委託の受託者(信託法35条)としての業務を主に行っているようです。責任の重さと報酬額の釣り合い、紛争性の大きさ、未確定な部分の多さなど、規模が大きい企業だからこそ、色々と考慮することがあるんだなと感じました。

・信託監督人の適任は税理士か?

 私は税理士が適任だと思います。会社法における会計参与(会社法374条~)のような感じでしょうか。信託財産に不動産がある場合、不動産登記申請時に司法書士から信託監督人の氏名か名称の記録を求められる可能性が高いと思います。おそらく住所や事務所の所在地は抵抗があるのではないでしょうか。会社の場合は、1つの会社に対して、1回履歴事項全部証明書に記録されますが、信託監督人の場合は、信託財産である不動産全てに記録されることが違いなのかなと思います。税理士にとって、どのようなメリットがあるのかが私には分からないので、今のところ税理士さんに信託監督人への就任をお願いしたことはありません。

・認知症の疑いはないか、受託者主導ではないか?

 まず、医師から認知症の診断をされたことで、直ぐに信託設定は不可能と判断するのは少し違うのかなと思います。親族とは日常生活、財産管理についてやり取りが支障なく出来る方がいらっしゃるからです。金融機関などから借入れがあり、第三者が関わっているかなどによっても変わりますが、直ぐに信託設定は不可能と決めつけることは委託者本人の意思を摘むことになるのではないかと思います。

 受託者主導、というのがどのようなことを指しているのか。委託者の子供のうちの一人が自分が全ての財産を引き継ぎたいために、委託者を引っ張って信託行為を半ば無理やり設定させる、ということなのでしょうか。このような傾向は遺言でも任意後見(判断能力喪失後から亡くなるまでの財産管理について)でもあるのではないでしょうか。民事信託だけの問題ではないと思います。

 受託者主導だから紛争性がある、信託行為として問題がある、という考え方も専門家からの見方になっているような気がします。結果論ですが、紛争になるときは委託者主導でもなります。専門家の仕事は、誰が主導しているのかに関係なく、信託行為の内容を法令に従った内容にすること、個々の案件に応じて信託行為の内容を考えること(例えば裁量型信託にせず他の親族の同意などを必要とする条項を設ける。)、紛争性があるとして、その発生を抑えるようなアドバイスをすること(例えば法定相続分に関しては保険加入を検討する。)、紛争が起こっても早期に解決出来るような仕組みを作ること(例えば、ADR機関の利用を予め信託行為で定める。)だと思います。

・信託法164条について、日本の信託法において、原則として、受託者の合意だけで信託を終了することは出来ないのが前提か?

 元々委託者の財産について、受託者に所有権を移転し、管理運用を任せるのが信託とすれば、委託者と受益者が、この仕組みが必要なくなったと合意した場合に終了出来ることは、前提であり妥当だと思います。

参考

道垣内弘人編「条解信託法」弘文堂P701~702

・多様な信託形態は遺言代用信託の増加とは相反するか?

 遺言代用信託契約での記載内容は多種多様であり、金融実務、公証実務によって画一的にならざるを得ない面があるのではないか、というのが現在の私の考えです。自己信託の設定や信託契約書の内容について、根拠なく駄目だと言われることが何件かあります。

・監視・監督は必須なのか?信託監督人の利用が少ないのは課題か?

 必須とは言えないのではないかと思います。また監視・監督の関与の強弱によるのではないかと思います。監視されるのは嫌だという方もいると思います。何かあれば直ぐ3日以内に報告書を提出して下さい、と内容証明郵便が送られてくるような監視・監督であれば、受託者としても困ると思います。月に一度、年に2回など定期的に書類を提出しながら世間話でも出来る監視・監督であれば、委託者兼受益者も安心できるのではないかと思います。

・遺留分を侵害している民事信託の設定は、金融機関から信託口口座の開設を拒まれることがあるのか。

 そもそもですが、遺留分を侵害しているかを知るためには、委託者の家族関係を知ることが必要となります。金融機関にそのような権限があるのでしょうか。誰か知っていたら教えてください。

・信託の効力発生時期を財産権の移転を条件にする方がよいのか?

 信託財産目録に記載された金銭を信託口口座に入金し、不動産登記を申請したときを信託の効力発生時期とする、という方法は良いなと感じました。

・本人の意思能力低下後に追加信託を行うことは、禁止されるべきか?

 信託行為に不動産であれば具体的記載、金銭であれば金額か上限が記載されていれば可能だと考えます。ただし、不動産登記法の構造上、本人の判断能力がない場合には、追加信託を行うことが出来ません。

・追加信託は公正証書を必須とするべきか?

 当初の信託行為に記載があるのであれば、委託者と受益者の合意があれば必須とする必要はないと思います。ただし、案件によります。また公証実務の電子化の進み具合にもよります。

・終了時の規定として、一般承継人の協議はどうか。

 残余財産の帰属権利者は一般承継人の協議による、という定めを設けると、信託期中の財産管理について疑義が出たりする可能性が多いのかなと感じます。私は受益者を第2次、第3次まで定めておいて、信託終了時の受益者を残余財産の帰属権利者とすることが多いです。

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