民事信託の登記の諸問題5

登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(5)」から考えてみます。[1] 887号、令和4年1月号、テイハンP79~

信託財産を適正に管理・運用・処分して※申請構造の枠組み・「適正に」の意味と公示の効果は何か

 適正にの意味と公示の効果は、信託行為の当事者への明示以外に、あまりないのではないかなと思います。信託法(受託者の利益享受の禁止)第八条、(脱法信託の禁止)第九条、(訴訟信託の禁止)第十条、(受託者の権限の範囲)第二十六条、(受託者の権限違反行為の取消し)第二十七条、(忠実義務)第三十条など。

受益者の生涯にわたる安定した生活の支援と最善の福祉を確保する※「生涯にわたる安定した生活の支援」形容詞・福祉の公示するか


 形容詞・・・にわたる、副詞・・・安定した、かなと整理しましたが、公示してもしなくても、違いが出るとは思えませんでした。

信託財産をもって※条件節の意味上の主語

 条件節というのが分からなかったのですが、もし~ならば、のような使い方をする場合のようです。他の財産ではなくて、信託財産をもって、という意味で条件節、ということになるのかなと思いました。

受益者の※「目的」の具体化(達成方法)居住の維持費、医療費、看護療養費、施設利用費など各種費用の支払いに充てる※「居住の維持費」、「医療費」、「看護療養費」、「施設利用費」は申請情報か

 信託財産に属する金銭の用途についての記載なので、原則として不動産の信託目録の登記事項にはならないのではないかと思います。ただし、信託財産に属する不動産を売却し、金銭に換える場合の用途として定める場合、信託財産に属する不動産が収益不動産であり、賃料などが入ってくる場合で、他の収益不動産ではない信託財産に属する不動産には、信託目録に記録する事項に信託財産に属する金銭の用途についての記録がないときの意味は、少しあるのかなと思います。それでも私なら公示しない方向でまずは考えると思います。

受託者の裁量に基づき※条件か、受託者の権限なのか

 受託者の権限だと思います。信託法(定義)第二条、(受託者の権限違反行為の取消し)第二十七条。

受益者の生活状況に応じた生活費等を給付する※形容詞的か副詞的な条件なのか※財産の管理方法か受益債権か。

 形容詞的か副詞的な条件なのかについては、分かりませんでした。受益債権ではなく、財産の管理方法だと思います。信託法(定義)第二条第1項、第7項など。

その目的を達成する※述語動詞→目的=大目的。これら以外の一時的な多額の給付はしないものとする※信託規律→受託者権限の制約か※給付の制限→信託の安定性→認知症対策との明示はなし

する、が述語動詞なのでしょうか。分かりませんでした。受託者権限の制約に当たると思います。

なお、「信託財産の管理方法」欄には、受託者の「処分権限」が記される場合がある。この点、「処分権限」は信託に係る権利の登記の連続構造に関係するが、重畳的に「信託の目的」欄に「処分」の情報がない場合、どうなるのか。

 信託の目的欄に、処分の情報がない場合でも、信託財産の管理方法欄に記録された受託者の処分権限は活きることになります。信託法2条第1項、第5項。信託の目的欄に、処分は出来ない、処分しない、○○の場合には処分できない等と記録されている場合は、信託財産の管理方法に影響を与えます。

登記事項の記載として「財産」と「資産」という文言の違いは、何ならかの機能の際をもたらすのだろうか。

 財産と記録した場合、資産に加えて信託財産責任負担債務(信託法21条2項を含めて)も入るということを明示する記録なのかなと思います。資産と記録しても結果は同じだと思います。

「信託税務2つの事例の考察を中心として」

(一社)民事信託推進センターテーマ別勉強会「信託税務2つの事例の考察を中心として」

令和2年11月10日

研修の中から、民事信託・家族信託におけるお金(受益権を持つ受益者)の(暦年)贈与(譲渡・指定・設定・変更)について考えてみます[1][2]。私見です。税務についての最終確認は税理士さんにお願い致します。なお、司法書士法3条1項2号に基づく業務を前提としています。

・可能とした場合、信託目的の条項はどのような記載になるか。

財産の円滑な管理及び承継、で原則として足りると考えます。依頼者の要望を聞きながら、受益者の学資、社会人になってからの当面の生活費、受益者とその扶養親族の安定した暮らし、など

・民法上の贈与契約(民法549条)か。

信託法上の受益者の設定、指定、変更、または受益者からの受益権譲渡(信託法2条、89条、93条)にあたり、民法上の贈与契約とは異なります。税務上、贈与税の課税対象となります(相続税法9条の2)。

・受益権という権利を贈与する点(民法上の贈与契約では、財産とされるもの全て)

・書面によらない贈与の撤回(民法550条)が適用されない。例えば、受益者からの受益権の無償譲渡の場合、書面がなければ履行が終わっていない部分について、当事者のいずれも、いつでも撤回することが出来る。

・受益者が3歳として、受益者となること、受益者に指定されること、変更後の受益者となることが出来るか。また、受益権の譲渡について当事者となることが出来るか。

受益者となることは出来る。相続税法第9条の5は、胎児も受益者となることを認めている。受益者となることが出来るので、受益者にしていされること、変更後の受益者になることも出来る。受益権の譲渡については、契約を有効に締結する能力が求められるため、不可能と考えられます。状況として、お年玉をもらってありがとうと言うことが出来て、後で封筒を開けて金額を数えることが出来るくらいの能力は必要だと考えます。

・受益者であることの結果として110万円貰った場合、貯金してよいのか。

信託の目的(ここでは条項のみではなく信託行為全般を指します)、次第ですが、原則として禁止されていなければ、可能と考えます。

・受益者指定権・変更権により受益者となる場合、受益者となるための条件を付けなければいけないか(例えば、テストで50点以上取ったこと。)。

条件を義務付ければ連年贈与とみなされず、贈与税が課税されないという考えは、条件を付けなかった場合と比較してあまり変わらないのではないかというのが個人的な印象です。条件を義務付ける必要はないと考えます。

・受益者となった者は、お金を貰わないことも出来るのか。

受益権は権利(ここではお金を請求する権利と受益者が持つ権利一般)であり(信託法2条)、権利の行使は受益者に任させているので、お金を貰わないことも可能です。なお信託行為の当事者でない受益者は、受益権の放棄を行うことができます(信託法92条、99条)。

・受益者指定権・変更権により受益者となる場合、受益権の譲渡により受益者となる場合、受益権の分割が行われているのか。

私自身は、信託行為時に受益権の分割を行います。信託行為時に行わない場合は、分割の必要があると思います。100分の1などの単位の受益権を持つ受益者としていると、信託財産の増加、減少によって変わってきてしまうのではないかと考えます(特に2年目以降)。

参考

相続税法

第9条の2 贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利

信託(退職年金の支給を目的とする信託その他の信託で政令で定めるものを除く。以下同じ。)の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の受益者等(受益者としての権利を現に有する者及び特定委託者をいう。以下この節において同じ。)となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(当該委託者の死亡に基因して当該信託の効力が生じた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

2 受益者等の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たに当該信託の受益者等が存するに至つた場合(第4項の規定の適用がある場合を除く。)には、当該受益者等が存するに至つた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して受益者等が存するに至つた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

3 受益者等の存する信託について、当該信託の一部の受益者等が存しなくなつた場合において、適正な対価を負担せずに既に当該信託の受益者等である者が当該信託に関する権利について新たに利益を受けることとなるときは、当該信託の一部の受益者等が存しなくなつた時において、当該利益を受ける者は、当該利益を当該信託の一部の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して当該利益を受けた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

4 受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であつた場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

5 第1項の「特定委託者」とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除く。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)をいう。

6 第1項から第3項までの規定により贈与又は遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして、この法律(第41条第2項を除く。)の規定を適用する。ただし、法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第29号(定義)に規定する集団投資信託、同条第29号の2に規定する法人課税信託又は同法第12条第4項第1号(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する退職年金等信託の信託財産に属する資産及び負債については、この限りでない。

相続税法基本通達

9の2-4 信託に関する権利の一部について放棄又は消滅があった場合

受益者等の存する信託に関する権利の一部について放棄又は消滅があった場合には、原則として、当該放棄又は消滅後の当該信託の受益者等が、その有する信託に関する権利の割合に応じて、当該放棄又は消滅した信託に関する権利を取得したものとみなされることに留意する。


[1] 相続税法21条の5、29条11、租税特別措置法70条の2の4

[2] 笹島修平「信託を活用した新しい相続・贈与のすすめ」平成30年大蔵財務協会P206~

11月の相談会のお知らせ

お気軽にどうぞ。

□ 認知症や急な病気への備え
□ 次世代へ確実に引き継ぎたいものを持っている。
□ 家族・親族がお金や土地の話で仲悪くなるのは嫌。
□ 収益不動産オーナーの経営者としての信託 
□ ファミリー企業の事業の承継
その他:
・共有不動産の管理一本化・予防
・配偶者なき後、障がいを持つ子の親なき後への備え
後援(株)ラジオ沖縄 

日時:令和2年11月27日(金)14時~17時 (3組) 
場所: 司法書士宮城事務所(西原町)
要予約 電話・HP・メール
問い合わせ先:司法書士宮城事務所(098)945-9268、HP,メール【shi_sunao@salsa.ocn.ne.jp】
料金:1組5000円

ほっこり記事

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201103/k10012693431000.html

横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(5)」

登記情報[1]の記事です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1つの信託契約に属する信託受益権を量的に分割することを「受益権の分割」といい、受益権を分割して譲渡することを「受益権の分割譲渡」と呼ぶことがあります。

この場合でも、信託契約は、あくまでも1つでであり、受益者ごとに信託契約が複数存在するわけではありません。したがって、信託目録に記録される受益者は、信託契約上の受益者をすべて記録すべきであって、不動産ごとに割り当てられた(分割された)受益者のみが記録されるものではないと考えられます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「この場合でも、信託契約は、あくまでも1つでであり、受益者ごとに信託契約が複数存在するわけではありません。」から、「信託目録に記録される受益者は、信託契約上の受益者をすべて記録すべきであって、不動産ごとに割り当てられた(分割された)受益者のみが記録されるものではない」という結論が導かれるものではないと考えます。

信託行為における受益権の内容により、不動産ごとに受益権を割り当てることは可能ですし(信託法88条)、不動産登記法の技術上も可能です。また、受益権を持っていない不動産の信託目録に受益者として記録されると、税務上、実体と異なる解釈をされる可能性があります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

上記の事例で、A不動産につき信託を一部合意解除する場合には、一部合意解除の当事者は、受託者と受益者全員となるのであって、A不動産の信託受益権を享受しているaのみが当事者たる受益者となるものではないと解されます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一部合意解除、を信託の変更を読み替えます(信託法149条)。受託者と受益者全員となるかどうかは、信託行為の定めによります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しかしながら、何人も届出されすれば、自益者になることができるという①の解釈は、実際問題として考えにくいことから、②の解釈が相当と思われますが、さらにこの場合には、だれが指定権を有しているのかが判然としません。そこで、前後の文脈から、「所定の様式による届出書を受託者に提出することにより、(受託者が)指定することができる。」と解するのが妥当のように思われます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は、受益者の相続人全員が受益権を誰が取得するか協議して(遺産分割協議とは異なります。)受益権を取得するとされた者が受益者となる、と読みました。受託者が指定するとは読むことが出来ませんでした。

もし私にこのような定めのある信託目録が持ち込まれたら、信託行為と照合して、信託の変更で出来るのであれば信託の変更(信託目録のその他の事項欄の変更登記申請)と受益者の変更(登記申請)を行うと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

したがって、受益者の変更の登記原因証明情報については、その申請が単独申請であるにもかかわらず、別表に個別列挙されなかったことで、特別な配慮をする必要はなく、原則に従った登記原因証明情報を提供すれば足りるものと考えます。つまり、受益者の変更の登記の申請には、報告的な内容の登記原因証明情報が認められるべきであり、旧不動産登記法の申請書副本の提出の比較において、登記申請人が登記原因を確認した書面を作成するのであれば負担にはならないという点を考慮し、登記申請人である受託者がその作成者となり、登記の原因となる事実又は法律行為があったことを積極的に承認するというレベルまでの証明をすれば、最低限の目的を達すると考えられます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

受益者の変更の登記原因証明情報の作成は、受託者のみで報告的な内容の登記原因証明情報が認められる、の部分が何故なのか分かりませんでした。信託行為に、信託法149条2項2号について、具体的に「受益権の売買による受益者の変更」が記載されており、受託者の信託事務に、変更にかかる登記原因正目情報の単独作成が記載されていれば、可能かもしれません。

立会に関して触れられている箇所もありますが、登記されることとは別に、お金が動く場合は、新旧受益者の受益権売買契約に関して代金決済時の納得感が必要なのかなと感じます。


[1] 708号 2020年11月号 きんざいP58~

「信託口口座開設等に関するガイドライン」

日本弁護士連合会「信託口口座開設等に関するガイドライン」

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/civil/shintakukouza_guide.pdf

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1 対象とする信託

 民事信託とは,その原因となる経済行為は,長期の財産管理制度と組み合わせられた贈与であり,主として財産の管理・承継のために利用される信託をいう(神田秀樹・折原誠『信託法講義』5頁(弘文堂,2019))。

 また,家族信託とは,一般的に,委託者,受託者及び受益者等の信託の当事者ないし関係者が家族又は家族が運営に関与している法人により構成されている信託をいうとされている(なお,「家族信託」という名称は,一般社団法人家族信託普及協会が商標登録をしている。)。

 本ガイドラインでは,民事信託であり,かつ,信託当事者ないし関係者が家族,家族が運営に関与している法人又は知人等により構成されている信託を対象としている(以下,本ガイドラインでは,単に「民事信託」という。)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

民事信託について、経済からのみ定義する方法もあるのだなと感じました。金融機関向けだから、というわけではないと思います。

家族の定義についても、おそらく意図的に親族などの用語を使わずに幅を持たせているのかなと感じます。

私には、知人が構成員に入っている民事信託が思い浮かびませんでした。何らかの経済的な要因(例えば、企業の後継者)を理由として構成員に就任していると考えます。

私は民事信託というとき、新井誠、大垣尚司「民事信託の理論と実務」日本加除出版P2の定義を念頭に置いています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

信託をめぐる法律関係は未解明な点も多いため,信託契約書等は法律の専門家である弁護士の関与のもとで作成すべきである。

 3 公正証書

信託法上,信託行為は,公正証書によることは要件とされていないが(なお,自己信託は,公正証書その他の書面又は電磁的記録によってなされることが規定されている(信託法3条3号)。),信託の有効性を担保するとともに,後日の紛争を防止するため,信託行為は原則として公正証書によって行うべきである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このような書き方だと、弁護士は信託の有効性を担保しないのかな、後日の紛争を防止しないのかな、と読まれてしまわないかなと思います。

私なら、契約書が保管されること、公の機関による日付と内容の確認、公証人の面談(必要な場合には医師の判断を含む。)による契約当事者の判断能力の二重、三重の確認、のようなことを書くと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なお,受益者名を口座名義に入れた場合には,受益者の変更の際に口座名義を変更するかどうかを検討しなければならず,また,受益者が複数の場合に口座名義に全ての受益者名を入れることは事実上困難と考えられる。また,そもそも受託者が複数いる場合には,金融機関のシステム上の問題などから口座開設が認められないことがある点には留意する必要がある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は経験がありません。連名による預金取引、成年後見人が権利分掌せずに複数いる場合、地縁団体との取引、権利能力なき社団との取引に準じて、口座開設の可能性はあるのかなと考えます[1]

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

受託者の信託財産に属する預貯金の払戻権限

1 信託行為において,受託者の信託財産に属する預貯金の払戻権限に制約が加えられている場合もある。他方で,金融機関としては,預貯金の払戻しに際し,金融機関が免責されるかが重要な問題である。受託者による預貯金の払戻しの際に,金融機関に当該受託者に預貯金の払戻権限があるか否かのチェックを求めることは,金融機関に過度の負担を強いることになり,金融機関に信託口口座の開設をためらわせる原因となる。

 2 そのため,信託行為に,受託者の信託財産に属する預貯金の払戻権限を制約する条項や預貯金の払戻金額に上限を定める条項を設けることは望ましくない。仮に,信託行為に受託者の信託財産に属する預貯金の払戻権限を制約する条項や預貯金の払戻金額に上限を定める条項があるときには,金融機関から信託口口座の開設を拒絶される可能性や,相応の手数料を請求される可能性がより高くなることに留意が必要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

任意後見に倣って、信託監督人の同意を必要とする、などの制約を付けると金融機関の負担も少しは減るのかなと感じます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もっとも,債権差押命令を申し立てる場合,債権者には債権執行の目的である差押債権を特定することが要求されている(民事執行規則133条2項)。また,同条にいう特定の程度と,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,差押えの効力が差押命令送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別できるものでなければならないとされている(最決平成23年9月20日民集65巻6号2710頁)。かかる最高裁判例は信託口口座に係る預貯金債権を対象とする債権差押命令にも妥当するものと考えられる。そのため,信託財産を対象とする強制執行は例外的なものであることに鑑みれば,信託財産を差押えの対象とするのであれば,現行の最高裁判例や,現行執行実務の下においても,差押債権者においてそのように明記しなければ,第三債務者が速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別できるとはいえない。

すなわち,債権差押命令書において,差押債権目録において信託財産が差押対象に含まれることが記載されていない限り,当該差押命令は受託者の固有財産である預貯金のみを対象とするものと解すれば足りるとする考え方もある。この考え方による場合,仮に信託口口座から預貯金が流出した後に,差押債権者から当該差押命令は信託口口座の預貯金をその対象に含むとの主張があったとしても,第三債務者たる金融機関は,民法478条にいう無過失であるとして免責されるものと考えられる。

なお,このように考えても,通常は債務名義を取得し債権執行に至る過程において,債権者において自己の債権が信託財産責任負担債務に係る債権であることを知るのが通常であると考えられる。さらには,新民事執行法施行後は,債権差押命令申立てに先立ち,新民事執行法207条に基づき裁判所に対する預金債権等の情報取得手続を経て,当該金融機関における受託者名義の預金債権の存在及びその内容の情報を取得し得ることとなる。こうした観点からは,差押債権目録に差押対象として信託口口座の記載を求めたとしても,債権者に対して特段酷とは言えない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

実務がこうなって欲しいと思います。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

7 信託内借入に関連して,受託者の固有債務や第三者の債務のために信託財産へ担保設定(物上保証)をするようなケースも想定される。このときには,そうした物上保証を伴う当該信託内借入が信託の目的に合致していることやそのような借入が受託者の権限の範囲内であることなどを前提とした上で,それに加えて当該行為(特に受託者の固有債務や第三者の債務のために信託財産へ担保設定(物上保証)すること)が利益相反行為に当たらないことなどが必要である。

受託者が利益相反行為を行った場合には,当該行為は無効となったり,取り消されたりするリスクがある(信託法31条4項,6項,7項)。よって,弁護士としては受託者の利益相反行為に注意して信託契約書等を作成しなければならない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

たしかに信託行為に記載するだけではなく、こういう時に信託監督人、または任意後見監督人が必要なんだなと思いました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そのため,信託行為において任務終了事由から除外されている場合には,任務終了しないこととなるものの,受託者に後見・保佐が開始したときに金融機関としてどのように取り扱うことになるかは,個々の金融機関の判断によることとなると思われる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「受託者に後見・保佐が開始したときに金融機関としてどのように取り扱うことになるかは,個々の金融機関の判断によることとなると思われる。」は、私なら、成年後見人、保佐人との取引に準ずる判断によると思われる、と書きます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2 ただし,信託行為に別段の定めがある場合には,受託者に破産手続が開始したとしても任務終了はせず,従前同様,破産者が受託者としての業務を継続する(信託法56条4項)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おそらく金融機関は、信託法による対応はしないのではないかなと感じます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


[1] 「金融機関の法務対策5000講1巻」2018金融財政事情研究会P1028、P1052、P1146、P1147

PAGE TOP