「民事信託支援業務のための執務指針案100条(6)」について

「市民と法[1]」の渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執務指針案100条(6)」からです。

日本弁護士連合会の「信託口口座開設等に関するガイドライン」については、以前考えたのでリンクを貼っておきます。

これまでの司法書士制度の歴史を振り返ればわかるとおり、弁護士業務と司法書士業務が競合化した分野では、最終的に弁護士(弁護士会)との間で、司法書士(近年ではビジネス化し全国展開する司法書士)との間に軋轢を生じ、司法書士の業務範囲の問題が顕在化するに至ることがありうる。

 私自身は今までのところ、弁護士との競合は感じていませんが、可能性はあると思います。研修の際に、その業務を司法書士が可能とする法令上の根拠は何でしょうか?と質問しても、答えていただけませんでした。ただ競合とされて、対立が顕在化する場合の司法書士は、全国展開している司法書士(法人)ではなく、小さな事務所ではないかなと思っています。何故かというと、ある程度の規模がある司法書士事務所(法人)では、不動産関連事業者や金融機関との連携から、あまり対立のない民事信託の依頼が多いこと、複数の弁護士とも業務提携をしていることが多いからです。

日弁連ガイドライン公表から数か月遅れて、2020年11月、東京弁護士会が、直接、三井住友信託銀行との間で、民事信託の相談・利用の紹介に関して協定書を締結した。

三井住友信託銀行のホームページから、リンクを貼っておきます。

https://www.smtb.jp/personal/entrustment/introduction/civil.html

 東京弁護士会の活動は活発で、良かったんじゃないかなと思います。特に日本弁護士会連合会ではなく、東京弁護士会であるところが良いと思います。三井住友信託銀行に相談する方は、一定の資産を所有している方やその家族だと思われます。東京周辺は分かりませんが、多様な方と会うことの多い司法書士とは入り口が違い、競合は一定割合に留まるのではないかと思います。ただ、例えば沖縄県の地方銀行と沖縄県弁護士会が業務提携をすると、私の事務所経営に影響は出ると思うので、何かしら考えないといけません。地方銀行は地域の方や企業の口座を開設し、受信・与信業務を行っているので、どの程度の資産を持っているのかを知っていることから、民事信託の(与信業務と絡めた)提案がしやすい環境にあるからです。

 民事信託士協会は、十六銀行と業務提携をしていて、十六銀行は三井住友信託銀行と業務提携していて、複雑な関係にみえます。

https://www.juroku.co.jp/release/files/20190528_1.pdf

 相談内容に、民事信託に関わるセカンドオピニオンに関する相談、というのがどのような内容を指すのか少し気になります。

士業の中には、自分が民事信託の受託者ですと言ってくる人・・・清算受託者は受託者ではないと理解していた士業の方がおられました(八谷博喜「信託銀行からみた民事信託」公証191号95頁)。―中略―司法書士が委託者と受託者の代理人という双方代理ケースを見たことがあります・・・委託者も受託者も相当高齢だった(八谷前掲論文104頁)。

 ミスとしては大きいなと感じます。自分の目で、どのような記載なのか文言を読ませていただければもうちょっと判断がしやすいのではないかなと思います。

たとえば、日弁連信託センター長の伊庭弁護士は、次のように、民事信託の契約書作成にかかわる専門家責任を追及することを提唱している。

司法書士との関連でいえば、弁護士法違反と信託法その他の法令違反に分かれるのだと思います。このような場合、委託者の代理人となって責任追及することを提唱しているようです。

第76条 司法書士は、司法書士法上許容される適法な範囲において信託組成相談を受けた場合、当該信託を組成することで、将来の委託者の死亡時、委託者の推定相続人の遺留分を侵害するか否かを、現時点で可能な限り確認し、当初受益者のみならず、将来の受益者と指定される者が存在する場合、その相続関係における遺留分侵害の可能性という事実関係についても確認するものとする。

 遺留分侵害の可能性を事前に確認するというものです。遺留分侵害の可能性がある場合、信託財産に属する財産以外の換金可能性のある財産で遺留分の手当てが出来るのか考えます。生命保険などに入っているのかを聴くのはそのためです。

信託を組成したからといって、必ずしも、金融機関から信託貸付けの審査基準に適合した信託契約であり、信託の内容である必要がある。

 受託者が信託内借入れをすることが出来る、という条項の入った信託契約書の案を、事前に金融機関に提出している場合、金融機関の審査基準に適合しないという事態も想定されるのか、気になりました。借入れ申込み時の財産状況によることは措いて、事前に信託契約書とは別に、借入れ条項についても金融機関への問い合わせが必要でしょうか。私は否であって欲しいと思います。

信託財産の現所有者である委託者兼受益者による信託撤回を、可能とするか不可能とするかという選択は、大変重いものであり、委託者兼受益者の慎重な判断を要する。遺言の書換え競争の防止などというキャッチフレーズだけによって決定すべき問題ではない。

 委託者と受託者の関係、受託者と委託者の家族の関係をみながら定める、ということになると思います。受託者も委託者からいきなり信託法164条1項の通り、いきなり信託を終了されても困る場面が出てくると思います。

 遺言の書換え競争の防止、という言葉で思い出しましたが、少し話が逸れます。研修で岡根昇司法書士が、「民事信託設定により、遺言は、撤回したものとみなされるので、遺言を活かすことはできない。」としていたので、「民事信託設定により、遺言は、撤回したものとみなされる」については、信託財産に入っていない財産については遺言の効力は活きるのではないでしょうか(民法1023条)。と質問してみましたが、違うという回答でした。

また、認知症発症という曖昧な条件ではなく、より客観的な停止条件が選定され、付される場合もあろう。

 任意後見契約を締結して、任意後見監督人の選任を条件とすることが良いのかなと考えます。任意後見人の代理権目録に、所有権移転登記及び信託の登記申請を記録しておいてもよいと思います。


[1] №128 2021.民事法研究会P31~

信託内容の変更条項

家族信託実務ガイド[1]の宮田浩志「信託内容の変更条項」からです。

信託契約書において、信託内容の変更条項が盛り込まれているケースは多いです。この場合、「受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更することができる。」という条項が一般的です。

 

 「「受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更することができる。」という条項が一般的です。」。そうなんでしょうか。知りませんでした。信託法149条を根拠としているように記載されていますが、委託者が抜けています。また契約条項の記載方法は、改善の余地がある様に思います。

信託内容の変更ができなくなるリスクと信託法149条2項2号の趣旨も踏まえ、例えば、受益者との受託者の合意による変更を原則としつつも、「受託者が本件信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかであると判断したときは、受託者は単独で本件信託の内容を変更することができる。」という条項を置くことも良策となり得るでしょう。

 私は考え方が逆ではないかなと思いました。信託法149条を原則として(条項としては、「その他信託法の定めによる、など。」。)、例外を信託法149条4項で追加したり削ったりして構成していくものだと考えます。「本件信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかであると判断したとき」には、客観的な基準が必要だと考えます。

受託者単独で変更できる条項のニーズ

信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかである場合の典型的なケースとしては、信託内融資をうける(受託者が信託財産の維持・形成のために、信託財産責任負担債務として金融機関等から借入れをする)場合が考えられます。

 文章の意味が分かりませんでした。どうして信託内融資を受けるケースが、信託の目的に反しないことおよび受益者の利益に適合することが明らかである場合と結びつくのでしょうか。題目の、受託者単独で変更できる条項のニーズも含めて読むということなんでしょうか。また、金融機関の求めに応じて信託の変更を公正証書化する場合に実務的には大きな意味がある、というようなことが記載されていますが、信託内融資を受けるケースは信託の目的に反しないことと、受益者の利益に適合することが明らかであると判断できるのが前提なのでしょうか。よく分かりませんでした。もし不動産の信託目録に記録している場合、登記原因証明情報にどのような記載をするのか気になります。

軽微な変更は受託者単独でできるような規定を置くこと、あるいは信託監督人を置くケースでは、受託者と信託監督人の合意で変更出来るようにしておくことも検討すべきといえます。ただし、受益者代理人を置く場合は、受益者代理人は受益者本人と同等の権利行使が可能なので、大原則である受託者と受益者の合意で変更できる旨があれば、リスクは回避できる、という結論になります。

 「あるいは、」、「ただし、」、「結論になります。」がどのように繋がっているのか、私だけかもしれませんが分かりませんでした。記事全体に関しては、「一般的です。」「実は、」「実務的には大きな意味を持っています。」「後見人等に多数就任中」「全国からの相談が後を絶たない。」「先駆的な存在」「日本屈指」などはどのように読めばいいのか分かりませんでした。


[1] 2021年5月第21号日本法令P73~

民事信託・家族信託に関する記事より

(あるメールマガジンより)

・認知症になったら、なにができなくなるの?お答えしていきます。認知症になったらできなくなる主な行為は、・預金口座の解約、引出し、送金・不動産の売買や賃貸契約・遺言書の作成・養子縁組・生前贈与・生命保険の加入や保険金の請求・遺産分割協議・株主の場合は議決権の行使などがあげられます。

 

認知症になったら、というのは医師から認知症の診断を受けた場合のことを指しているのだと思います。認知症の診断を受けたから、上の行為が出来なくなると断言されるのには違和感があります。症状にも色々あり、法律行為を行う場面やそれまでの経緯にも私たちは目を配る必要があると考えるからです。反対に、医師から認知症と診断されていなくても、明らかに理解出来ない行為をしている場合は、他の医師か士業に交代した方が良いと思います。介護職の方なら頷いてくれると思うのですが、依頼者(利用者)との相性というものも、高齢者や障害を持つ方によってはあると考えるからです。

・『認知症になったら口座からお金をおろしたり解約したりできなくなくなるの?』ちょっと様子がおかしいな・・・かかりつけのお医者さまにみてもらったら少し認知症の症状がありますね。と診断されました。「すぐにお金が引き出せなくなるの?」と心配になりますよね。いいえ、すぐにお金が引き出せなくなる状態になる、ということではありません。どの様な段階でお金が引き出せなくなるのでしょうか。こんな『シチュエーション』が多いようです。親御さんが銀行に出向けなくなり、代わって身辺のお手伝いをするご子息や娘様がお金の引き出しに行く事が出てくると想定されます。普段はそれでやっていけるのですが(本来は良いとは言えませんが)カードの磁気不良などで窓口での手続きが必要になることがあります。その時に「口座名義ご本人様が窓口に来てください」となるわけです。ご本人の判断能力が問われ、意思確認ができないと判断された場合、お金がおろせなくなる、「口座凍結」となるのです。

 口座凍結になるのでしょうか。私は初めて聞きました。利用目的などを聞かれ、成年後見制度の利用を勧められ、キャッシュカードが発行出来なくなると思っていました。規模の大きい金融機関だとそのような対応になるのかもしれません。判断能力と意思確認は少し違うのではないかなと思います。

 クレジットカードの場合はどうでしょうか。家族がサポートセンターに連絡すると、本人様でしょうかと訊かれ、生年月日や住所を答えるように言われます。もし、家族が電話して本人の生年月日や住所を答えた場合はどうなるのでしょう。

オンラインでクレジットカードを無効化して、再発行することも可能なようです(法人カードは、窓口での受付が必要と記載がありました)。

https://www.smbc-card.com/mem/goriyo/lost.jsp

 私の利用しているクレジットカードは、サポートセンターに電話連絡しないとクレジットカードの無効化と再発行は出来ませんでした。既にキャッシュカードの再発行も、オンラインでの手続きが可能な金融機関があるのかもしれません。

最近では「オレオレ詐欺」の対策で「70歳以上、又は直近3年間振込をしていない、入出金がない場合はATMでの出金と振込の限度額が20万円となります。利用制限の対象となるお客さまで、ATMでのキャッシュカードによる「お振込」をご希望される場合は、お手数ですがキャッシュカード・ご本人さま確認資料(運転免許証・個人番号カードなど)をお持ちいただき、お近くの当行本支店窓口へご来店ください。」と案内されています。銀行により限度額金額は違ってはいるものの、70歳以上の方の出金、振込には制限が設定されています。お客様の実際のお話しです!!!お母さまの振込手続きを娘様がATMからしたところ、振込限度額制限で振込ができず、窓口で手続きをすることになりました。お母さま名義の口座からの振込でしたので、ご本人様が手続きできない理由などを問われ、次回はお母様(介護施設に入所中)をお連れください。と言われたそうです。

 初めて知りましたが、実際にありました。70歳以上の場合で、過去3年間ATMでのキャッシュカードによる振込みがない、または過去1年間、ATMで一度に20万円超のお引出しがないとき、に適用されるようです。

https://www.chibabank.co.jp/safety/attention/attention17.html

また、こんなお客様もいらっしゃいました。入院費用を払える様にと、限度額を毎日続けてキャッシュカードで出金したところ、数日で、「お手続きができません、窓口へお越しください」とATMでのキャッシュカードが使えなくなりました。窓口で本人確認を求められ、ご本人の判断能力がない、と判断された時には、お金がおろせない状態となるのです。もし、口座が凍結してしまった場合どうしたら良いのでしょう。ご本人様が認知症などで判断能力がない場合は、「成年後見人」をつけ、後見人に財産管理をしてもらうほかありません。(この制度については、ブログでお話しします)けれども予防策はあります!!『家族信託』を利用する。または、銀行で取り扱っている認知症に備える『代理出金機能付信託の商品』をつかう。などです。しかしながら、これらはお元気なうちにしかできない対策です。親のお金を親のために使えるようにするために。そのための方法として、「家族信託・実家信託」「任意後見契約」などを提案しています!!

 限度額を毎日引き落としていると、金融機関から連絡が来るだろうなというのは、想像が出来ます。口座引き落としか振込み、最近はクレジットカード決済対応の病院もあるので、そのようにした方が良かったのかなと思います。

(他のあるメールマガジンより)・■■ ローンが残る信託不動産 2つの質問

アパートの大家さんの認知症対策。それで、信託を活用することは良くありますよね。ところが、アパートの融資が残っていることも多いですよね。そこで、質問1つめこのアパートローン。信託を設定すると、受託者が当然に債務の返済義務を負うか?答え:No 信託された不動産のアパートローンって信託法21条の2号に該当するか3号に該当するかという問題です。ちょっと条文

信託法第21条次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

(1号 略)2号 信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利3号 信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの

あ、「信託財産責任負担債務」って、簡単にいうと受託者が信託された財産から履行する責任がある債務ってことです。もっともメインなものは、受益者に渡すお金とか。それって、受託者が自分の財布から渡すのではなく、信託されたお金から渡しますよね。話を元に戻します。このアパートローンって、21条2号に該当するなら、信託すれば当然に受託者は返済義務が生じます。3号なら、信託契約書にその旨記載しなければ、受託者に返済義務が生じません。それで答え。アパートローンは3号に該当です。理由は、アパートとこの融資は、直接は結びついていないから。

確かに、融資を受けたお金でアパートを建築したかもしれませんが、でも、融資をしたお金を別に使って、別なところからお金を持ってきて、アパートを建築することもできますよね。たまたま、結びついているように見えるだけ。抵当権もついていますが、それを持って、直接結びついているわけではありません。

2号に該当するものは、・敷金返還債務・マンションの滞納した管理料など

ちなみに、未払いの固定資産税は2号に該当せず3号のようです。理由は・・・すいません。よくわかりません。(苦笑)『条解 信託法』でそのような解説がありますが理由は書いてありません。(わかる人、教えて)と言うことで、アパートローンを受託者が返済できるようにするためには、信託契約書に、その旨記載しなければならないです。「そのローンは、信託財産責任財産とする」という感じで。

 「「信託財産責任負担債務」って、簡単にいうと受託者が信託された財産から履行する責任がある債務ってことです。」は誤りで、信託財産と受託者の財産から履行する責任がある債務です(信託法21条)。

 「ちなみに、未払いの固定資産税は2号に該当せず3号のようです。理由は・・・すいません。よくわかりません。(苦笑)」。未払いの固定資産税の債務者は、通常委託者(地方税法 第343条)です。信託の設定のために、不動産が委託者から受託者に移転されても滞納している固定資産税に関する徴収権が存続するのは、市区町村が滞納されている固定資産税の存在を受託者に対抗することができるからであり(地方税法 第373条)、また、徴収権が存在していたからといって受託者がその債務を負うわけではないからです。委託者が支払うか、信託法21条1項3号の要件を満たし、信託財産責任負担債務として支払うことになると考えます。

■■ 質問2つめ そのローンは、受託者の口座から返済する?委託者(受益者)の口座から返済する?

「返済は受託者がするのが当然!」と思うかもしれませんが、実は、単純じゃないんです。答え:債権者、つまり銀行と協議ですね。(笑)理由は、委託者と受託者の間では、信託財産責任負担債務となり、受託者が弁済の義務を負いますが、銀行とは、話しが違うからです。3号の場合は、銀行と協議して債務引受が必要です。つまり、受託者が債務引受をすれば、受託者が払い、債務引受をしなければ、これまでどおり、委託者(受益者)が払うことになります。債務引受をして、受託者が払うようにしたこともありますし、銀行と協議をした結果、委託者(受益者)が引き続き払うようにしたこともあります。ホント、銀行次第。

■■ アパートローンがあるときの注意点

委託者は任意後見を設定しておきましょう!これ超大事。なぜか?理由は2つ

理由1つめ

アパートローンって、10年固定金利とか、金利の切り替えがある契約のことが多いです。その時、委託者が認知症だとこの切り替えができなくなってしまいます。そうすると、金利がすごーく上がってしまうことも。これまずいですよね。『免責的』債務引受をしていればいいのですが、受託者だけで、切り替えができますが、それは少数派。通常は債務引受をしたとしても、『重畳的』になることが多いでしょう。そうすると切り替えのときに委託者のハンコが必要です。その時、委託者が認知症だと・・・・ほら、任意後見しておきたいでしょ?(笑)

理由2つめ

そもそも債務引受は不要、と銀行から言われたら、委託者がこれまでどおり返済します。それで委託者が認知症になったら・・・返済ができなくなる。ほら、やっぱり任意後見いるでしょう?(笑)

■■ 利益相反に注意

問題は、親と子で信託する場合で、子が一人のケース。子が受託者であり、任意後見の受任者になってしまいます。つまり利益相反。法的にはかなり問題がありますが、実務上はやらざるを得ないケースも多いです。子供が一人しかいなかったらしょうがない。その場合は、利益相反の規定(信託法31条や民法108条)に注意しながら、信託契約を作成してくださいね。今回は、信託の実務のお話しをしました。最近、試験に合格されて、このメルマガを読み始められた方もいると思います。このように、実務では条文は超重要!ですので、何かあったら条文に戻る癖をつけてくださいね。

 債権者からみた場合、受託者と債務者は違うということを考えると、理解しやすいのかなと感じます。

「そもそも債務引受は不要、と銀行から言われたら、委託者がこれまでどおり返済します。それで委託者が認知症になったら・・・返済ができなくなる。ほら、やっぱり任意後見いるでしょう?(笑)」。ここは私には良く分かりませんでした。

民事信託・家族信託への問い

・ある信託が、もっぱら受託者の利益を図る目的でなされているかどうかは、形式的に、受託者の行動を決定する基準としての「目的」が、自分自身の利益を図るべしとされているか否かではなく、その信託によって当事者が達成しようとした実質的な経済的効果に照らして判断されるべきことになるか?

 信託の成立要件(信託法2条1項)に関わる問いです。文献にも問いのような記載があります[1]。私も「その信託によって当事者が達成しようとした実質的な経済的効果に照らして判断される」のが適切だと考えています。信託、民事信託、そして福祉型信託と呼ばれる信託に対しても同じです。福祉型信託においても、直接の身上監護は出来ないので、あくまでも経済的な効果を通して受益者の生活の質の向上、維持を目指すのが信託の受託者の仕事であり、信託期中・信託終了後における信託の成立要件の評価基準であると考えています。

・福祉型信託において、受託者が、もっぱら信託財産で大型開発行為をする意図で、受託した場合はどうか。信託条項は簡単で、かかる開発行為には触れていない。信託は成立するか?

・信託の目的にある「受益者の幸福な生活と福祉を確保する目的」を実現する意思がない場合はどうか。

 この問いも信託の成立要件に関わるものです。福祉型信託であることと、受託者が大型開発行為を行う目的を持つことは、両立し得ると思います。委託者の信託行為時の意思がどのように担保されているのかが、評価の一つの基準になると思います。信託条項は簡単という記載は、あいまいで有効か否か分かりませんでした。信託行為で開発行為について触れていないからといって、信託が不成立になるわけではありません。開発行為における対価や利益が信託目的(民事信託の場合、多くは受益者のため。)のために使われていれば、信託は成立します。

 受託者に、「受益者の幸福な生活と福祉を確保する目的」を実現する意思がない場合には、最初の問いで記載のあった、「その信託によって当事者が達成しようとした実質的な経済的効果に照らして判断される」のが適切ではないかと思います。

・他の専門家が作成した信託行為の内容をほとんど全て変更する場合、新たな信託行為ではなく、「信託の変更」で対応可能なことがらは何か。受託者の解任。残余財産の帰属権利者の変更。信託事務等の変更。信託監督人の設置。受益者代理人の定めがない場合における同意権者の選任。

 受託者の解任は、信託法58条によって行います。信託監督人の設置は、信託法131条によって選任されます。残余財産の帰属権利者の変更、信託事務の変更、同意権者の選任は信託の変更(信託法149条、150条)に含まれると考えます。信託法に定めがある場合と、委託者、信託財産、信託の目的に反する、以外の事柄に関しては、変更の当事者、適切な利害関係人がいる限り、信託の変更で対応が可能だと考えます。

・公正証書による信託契約変更契約について、 同じ公証人であれば、受益者(受益権)は同じであり、変更公正証書の手数料は、算定不能(11、000円)となるか。

 信託行為時の手数料の4分の1の価格になるのではないかと思います。

参考 公証人手数料令

(算定不能の場合の給付の価額)第十四条、(法律行為の補充又は更正の特例)第二十四条、別表(第九条、第十七条、第十九条関係)

・新規の「信託口」口座開設に、 事前の信託契約変更契約書のリーガルチェックを受ける必要があるか。

 事前に口座開設している金融機関に、提出していた方が信託終了後などスムーズな事務手続きに繋がると思います。

・契約能力を計る基準として、年齢があるか。7歳というのはあるのか。

 成年年齢を18歳に引き下げることを内容とする「民法の一部を改正する法律」は,2022年4月1日から施行されます。

法務省HPに記載の考え方が適切だと感じます。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00238.html#:~:text=%EF%BC%A1%20%E6%B0%91%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%88%90%E5%B9%B4%E5%B9%B4%E9%BD%A2,%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

Q3 成年年齢の引き下げによって,18歳で何ができるようになるのですか?

A 民法の成年年齢には,一人で有効な契約をすることができる年齢という意味と,父母の親権に服さなくなる年齢という意味があります。

 成年年齢の引下げによって,18歳,19歳の方は,親の同意を得ずに,様々な契約をすることができるようになります。例えば,携帯電話を購入する,一人暮らしのためのアパートを借りる,クレジットカードを作成する(支払能力の審査の結果,クレジットカードの作成ができないことがあります。),ローンを組んで自動車を購入する(返済能力を超えるローン契約と認められる場合,契約できないこともあります。),といったことができるようになります。

  なお,2022年4月1日より前に18歳,19歳の方が親の同意を得ずに締結した契約は,施行後も引き続き,取り消すことができます。

  また,親権に服することがなくなる結果,自分の住む場所(居所)を自分の意思で決めたり,進学や就職などの進路決定についても,自分の意思で決めることができるようになります。もっとも,進路決定について,親や学校の先生の理解を得ることが大切なことに変わりはありません。  そのほか,10年有効パスポートの取得や,公認会計士や司法書士などの国家資格に基づく職業に就くこと(資格試験への合格等が必要です。),性別の取扱いの変更審判を受けることなどについても,18歳でできるようになります。

・聴力、画像診断など医師の判断で契約に関する判断能力を計ることが100%可能か。長谷川式テストとの関係ではどうか。

 100%可能というものはないのではないかと思いますが、専門外でもあるので、医師の判断を尊重しながら、司法書士としての疑問が湧けば質問をしたり、他の方法を探したりするのが良いのかなと感じています。

・残余財産の帰属権利者の変更は、信託の変更か?受益者変更権を利用するのがベストな選択肢か?

 残余財産の帰属権利者(信託法第182条2項)は、信託が終了するまで権利義務を持つことはないので、信託の変更で対応することになると考えます。受益者変更権(信託法第八十九条)は、残余財産の受益者(信託法第182条1項)の変更には利用できると考えますが、残余財産の帰属権利者には利用することが出来ないと考えられます。

・1年前に、不適切な信託契約書を作成した士業に損害賠償請求が出来るか?

 請求自体は可能だと思います。勝訴、回収まで出来るかは、士業の業法や民法上の定めなどにより、士業の資力も併せて考える必要があると考えます。


[1] 道垣内弘人「信託法 現代民法別巻」2017有斐閣P47~

民事信託について、他の専門家に相談する場合など

・民事信託士が作成した信託契約書(公正証書)が、他の民事信託士に持ち込まれる場合はどのような場合か?

 民事信託士という民間資格があります。

(一社)民事信託士協会ホームページ

https://www.civiltrust.com/shintakushi/introduce/index.html#

民事信託士の能力担保について、ホームページから抜粋します。

Q7 民事信託士にはどのような能力担保を考えていますか

当協会では、以下のような体制によって民事信託士の能力を担保することとしました。

第1に、民事信託士検定を受けることです。検定を受けることができるのは、司法書士と、弁護士資格のある方です。研修プログラムを終了した後、合否の判定を経て「民事信託士」となる資格が付与されます。

第2に、民事信託士名簿の作成です。検定に合格した方は、当協会に入会していただくことで「民事信託士」の名称を使用することが可能となります。当協会は、民事信託士に関して「民事信託士名簿」を作成し管理します。民事信託士の資格は、3年で更新することを予定しております。 第3に、継続研修の実施です。民事信託士は、日々その研鑚を行い、能力の向上に努める必要があります。また、情報交換を行い、顔の見える関係をつくることが重要となります。そこで、義務研修を予定しております。この研修への参加は、3年毎の名簿更新の際の判断材料となります。

 費用は確実ではありませんが、(一社)民事信託推進センターに入会していること(24,000円/年)、民事信託士検定60,000円、民事信託士会員の入会金25,000円、民事信託士会員の会費年額(12000円/年)、民事信託士会員の更新登録料(10,000円/3年)というところです。月額最低4,000円というところでしょうか。

参考 (一社)民事信託士協会 入会金・会費規定

https://www.civiltrust.com/shintakushi/gaiyou/kitei.pdf

 民事信託士が作成した信託契約書について、他の民事信託士に持ち込まれる場合としては、委託者の親族、友人、勤務先などから「ちょっと他の専門家にみせた方が良いんじゃない?」と勧められる場合が考えられます。また委託者、受託者当人が、「こんなはずじゃなかったのに。」と考えて他の専門家の意見を聴きに行くということも考えられます。民事信託士協会のホームページには名簿があるので、どちらかというと他の専門家に相談したらたまたまその方が民事信託士だった、という可能性が高いような気がします。

 他の専門家に相談することは、信託当事者にとっては何も責められる行為ではありません。かえって現在依頼している民事信託士への信頼が深まる可能性もありますし、反対に相談した専門家に代えることで上手くいくならその方が良いと思います。最初に担当した民事信託士も、信託当事者のそのような行動に対しては歓迎する方の方が多いのではないかと思います。私も他の士業の話も聴いてみてくださいと相談の際などに言う事が多くあります。

・受託者が何でも出来る信託は有効か?

 裁量型信託のことだと思いますが、「何でも出来る」の定義によるのではないかと思います。所有者のように何でも出来る、のであれば信託の成立要件を欠く可能性が高いと思いますし(信託法2条1項)、信託法の範囲内で何でも出来る(信託法2条5項、信託法第三章受託者等)ということであれば、原則として有効といえるのではないかと考えます。また信託行為の記録と実際の行動・結果との差異も有効、無効の判断材料の一つになると感じます。

・公証人には、受託者に対して受託者の権利義務を説明する必要があるか?専門家が就いている場合とそうでない場合で違いはあるか?

 公証人は、法令に違反する契約などを認証することが出来ないこと、当事者の前で読み聞かせることが必要なことから、受託者はその範囲で縛られると思います。他に公証人法その他の関連法令を守っている限り、各公証人の独立した判断に任せられていると考えます。

1条ずつ、1項ずつ受託者に対して確認していく公証人は今までみたことがなく、どちらかというと委託者に時々話しかけるような方が多いと感じます。

公証人法26条 公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス

公証人法39条1項 公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス

・信託財産は、誰のものでもない財産か?

 信託法2条3項には、この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。とあります。信託法2条1項には、この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう、とあります。よって、信託財産は受託者に属する財産で、一定の目的に従い必要な行為をすべき財産である、ということが出来ます。

・信託法29条2項本文の「善管注意義務」を全く排除することは、信託設定意思はなく、そもそも信託ではないことになるか?軽減はどの程度許されるのか?信託口口座と損失補てん義務との関係は?

 信託法29条2項本文を読んでみます。受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする、とあります。    信託行為の別段の定めとして、善管注意義務を全て排除することは信託法の制度趣旨上、出来ません[1]。この場合、受託者が実際の信託事務で善管注意義務を果たしていると認められる場合はどうなるのでしょうか。そもそも信託の成立要件を欠くので、受託者が信託事務を行うことは不可能と考えることも出来るように思います。そうであれば、何らかの事情で善管注意義務を軽減したい場合は、信託行為に何も記録しない方が良いといえるのではないかと考えます。

 信託口口座を開設する際には、善管注意義務の定めが条文通りに記録されていないと開設出来ないという金融機関があります。金融機関としては、そのような姿勢にならざるを得ないと思います。

 受託者の損失補てん義務(信託法40条~)との関係については、受託者の行為時を基準とするので、信託行為時において善管注意義務を定めたから、自己の財産と同一の注意義務を定めたから、というのは私はあまり関係がないと考えています。それよりも、どれだけ損失・変更が生じたか、原状回復を行うか否かを計算する基準を設けることが委託者、受託者、受益者にとって信託を滞りなく進めていくために大切だと思います。

・何らの限定なく利益相反行為が可能な仕組みになっている場合には、受託者が自らの完全な所有物として、そこからの利益を受ける仕組みになっているというべきであり、委託者に信託設定意思はなく、信託ではないといえるか?

 信託法31条2項1号の定めがある信託行為のことを指しているのだと思います。私は原則として有効だと考えます。利益相反行為について、信託行為で事前承認を得ていると考えられるからです。利益相反行為が可能な仕組みになっているからといって、受託者が専ら利益を受けるわけではありません。受託者じゃないと買う人がいない不動産、受託者の所有にしないと利用できない不動産などはあるのではないかと思います。

・脳梗塞で3回以上倒れている方は、意思能力がないといえるのか?

 一概に決めることは出来ないと思いますが、受託者の任務終了事由や受益者代理人、信託監督人の就任要件として定めることは可能だと思います。

・家族民事信託とはなにか?家族民事信託と一般的な信託の要件に違いはあるか?

 家族信託や民事信託と呼ばれる信託を合わせて家族民事信託と呼んでいるのかなと思われます。一般的な信託は、信託法が定める要件を満たす信託のことだと思われます。私は違いはないと考えています。もし違いがあれば、家族民事信託は信託ではないということになります。

・委託者と受託者に信託契約を締結するという認識はない事例の場合にあっても、信託法3条1号によれば、信託契約は、委託者と受託者との間に、財産処分の合意と、受託者が一定の目的に従いその財産の管理処分等の行為をすべき旨の合意があるときに成立するのか?

 信託法3条1項1号では、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法、と記載されています。条文通り、当事者間では信託契約が成立していると考えることが出来ます。金融機関や親族をはじめとする第三者が、このような信託に対してどのような対応をするのかは別の問題です。


[1] 寺本昌広「逐条解説新しい信託法[補訂版]」平成20年商事法務P113

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